遊戯王ARC―V TAG FORCE VS (鉄豆腐)
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プロローグ

何もかも初めてです。頑張ります。


何故こんな事になったのだろう? トレードマークの赤帽子を被り直し、少年は左腕に嵌めた"デュエルディスク"を構える。年は15といったところか、汗が頬を伝う。焦ってはいない、むしろ口角を吊り上げ楽しんでいる様子が見てとれる。そんな彼の上空を爆音が駆ける。真紅のバイク。いやバイクと融合した"デュエルディスク"、"Dーホイール"その主である青年は赤帽子を視界に入れた途端、急ブレーキし対面するように停止する。

 

「……」

 

ヘルメットの奥に隠れた瞳が赤帽子をとらえる。言葉は交わさない、両者共、言葉より深く語り合えるものがある。

 

「――飛翔せよ――」

 

青年の背後に美しき白の竜が現れる。煌めく両翼を広げ咆哮する。

 

――キュオオオオオ――

 

竜の雄叫びには今凛々しさはない。そこにあるのは赤帽子と青年の対立への悲痛の音。

 

「…ッ!シューティング・ソニック!!」

 

それを察したのか青年は唇を噛み締め、振り払うように命を下す。風が集束され竜より放たれる。空気が熱を帯び赤帽子に迫る。絶体絶命、しかし。

 

「!?」

 

竜のブレスは光の壁に阻まれる。何をした――青年が思考し赤帽子の前に現れた悪魔を捉える。

 

「クリボー…」

 

赤帽子を救ったのは毛むくじゃらの小さな悪魔。その手により危機を防いだ赤帽子は今度は此方の番だとばかりにデッキに右手を添え、1枚のカードを引き抜こうとした――その時。

 

「ネオスを召喚!!」

 

一筋の光が赤帽子の側を通る。赤帽子は後方へ飛び光をかわす。その身に纏う光を散らし、姿を現したのは白銀の英雄、勇猛さ、力強さを感じさせる戦士は赤帽子の頭上をくるりと舞い、その主の傍に降り立つ。栗色の髪をし赤い制服を纏った快活さを感じさせる少年。彼は赤帽子と目を合わせ顔を悲痛に歪める。

 

「悪ぃけど」

 

本当に申し訳なさそうに。

 

「お前を倒す」

 

ドウッと少年の戦士が地を蹴り、赤帽子にむかい手刀を下ろす。上等だ。そう言わんばかりに赤帽子は口角を吊り上げ伏せていたカードを発動する。

 

「ッ!?それは!?」

 

少年が驚愕する中、そのカードの名を口にする。

 

――『超融合』――

 

赤帽子の背後の空間がひび割れ、光の渦が発生する。渦の圧倒的な力を前に竜と戦士は容易く呑まれてしまう。渦より暴風が吹き荒れ、青年と少年はその風の前に顔をしかめる。風の英雄が生まれし、その時。

 

「ホープ剣スラッシュ!!」

 

『この瞬間、速攻魔法『虚栄巨影』を発動!』

 

英雄が切り裂かれた。

 

――!?――

 

赤帽子が初めてその顔を驚愕に染める。現れし乱入者は2人と1体、1人は海老のような髪型をした片目に特徴的なバイザーを着けた少年、その顔はしてやったりと口元が弧を描いている。

 

もう1人は人の形をした人と言えるのかと怪しい者。肌はクリアブルー、金と透明のオッドアイ、身体中謎の紋様、果てはフワフワと少年の周りを浮いている。宇宙人や幽霊と言った方が納得出来るであろう者、少年同様その顔はどこか得意気だ。

 

そんな彼等が繰り出す者は機械的な翼を広げた白と金の腰に二刀を携えた皇。左肩に描かれた紋様は39と見える。

 

――3体1…いや4体1か――

 

そんな圧倒的不利の中でさえ赤帽子はどこか楽しげだ。彼は考える、こんなにも楽しいデュエルはいつ以来か。

 

―大人へと成長しだした少年と共にこの世の闇と闘った時か、それとも闇となり少年と闘った時か―

 

―絆を信じるDーホイーラーと未来をかけ英雄と闘った時か、それとも英雄の隣でDーホイーラーと闘った時か―

 

―どんな時でも挑戦し続けた少年とその魂の片割れと共に異世界の皇と闘った時か、それとも皇となり2人と闘った時か―

 

今までのどのデュエルも色褪せてしまう程のデュエルに興奮を隠せず、勢いよくドローする。

 

――永続罠発動『呪縛牢』――

 

音速で彼の前に現れるF1カーを思わせるモンスター、そして。

 

――『死者蘇生』――

 

死より蘇りしは先程青年が使役した白き竜、その竜は今は赤帽子の背後に顕現する。しかしそれだけでは終わらない。

 

――アクセル…シンクロ――

 

瞬間、彼とモンスター達の姿が消え、そして、キィィィィン、飛行機のような音が鳴り、赤帽子を背に乗せた竜が降り立つ。その姿は先程の竜に酷似しているがその存在感は増している。白と言うよりプラチナのような輝きを放つ体躯、戦闘機のような音速での飛行を可能とした翼、ヘルメットともとれる頭部、先程の竜が星屑とすればこちらは流星。背に乗った赤帽子が地に降り「効果発動」と呟く。

 

――1枚目、チューナーモンスター『ジャンク・シンクロン』、2枚目、チューナーモンスター『エフェクト・ヴェーラー』、3枚目、チューナーモンスター『クイック・シンクロン』、4枚目、チューナーモンスター『カメンレオン』、5枚目、チューナーモンスター『アンノウン・シンクロン』――

 

淡々と、機械的にデッキの上の5枚を捲る赤帽子。知る者からすればその光景はとんでもなくおかしいが、少年はさも当然のようにそれをやって見せた。

 

――スターダスト・ミラージュ――

 

無慈悲にも指示が下される。竜は天高く飛翔しその勢いのまま皇へとダイブする。瞬間、竜は輝き、五体に分身する。様々な色合いはまるでオーロラ、襲い来る流星は希望を砕かんとする。

 

「ORUを1つ使い効果発動!!」

 

『ムーンバリア!』

 

皇の周りを衛星のように囲んでいた光の1つが弾け飛ぶ。それと同時に皇は自ら翼を盾にし竜を防ぎ、竜の幻影は盾に当たると崩れ霧散する。だがこの程度では終わらない、襲い来る2体目の蜃気楼、しかし希望はまだ残っている。

 

「まだだ!もう1つのORUも使う!」

 

再び光が弾け、皇の翼が蜃気楼を霧散させる。残り3体。皇に迫る流星、光なき希望にそれを防ぐ術はなく、竜の滑空する衝撃で崩れ落ちる。希望は続かない、その時。

 

「罠発動!『くず鉄のかかし』!」

 

青年の声が響き、その名の通りのボロボロの屑鉄で作られたかかしが2人を守る。残り2体。先程までより強力な存在感を放つ分身が弾丸のようにその身を撃ち出す、初めてその攻撃が命中し2人のデュエリストの身を焦がす。

 

「ぐぅっ…!あっ!!」

 

『くっぅぅ…!!』

 

そして最後の一撃、これまでの幻とは違い本物の一撃。今、白銀の流星が希望を消し去る。

 

「まだだ!まだ終わってねぇ!かっとビングだ!俺!」

 

『罠発動!『エクシーズ・リボーン』!』

 

絶望より帰還せし希望の皇、1つの光を纏い再び竜の眼前に立ちはだかる。

 

「ムーンバリア!」

 

皇の白き両翼が竜を拒絶する。これで全ての攻撃は防がれた。

 

――速攻魔法発動――

 

かに思われた。

 

――『ダブルアップ・チャンス』――

 

彼の手より1枚のカードが発動される。皮肉にもそれは皇を、2人を何度も救ってきたカード。皇の翼により停止していた竜が身を震わせ動き出し、更に力を増した竜を前にひび割れ砕け散る皇、今、正に2人のライフが尽きようとした時、それは現れた。

 

『クリクリ~』

 

その場には似つかわしくない、可愛らしい鳴き声、その正体はすぐにわかった。先程赤帽子を守ったモンスター。

 

――『クリボー』…――

 

赤帽子がほうと息を吐く、続いて白き竜に異常が起こる。突如空間が歪み竜を呑み込む。赤帽子が後ろを振り向く。そこには学生服をマントのように羽織った少年と黒き魔導師がいた。少年から放たれしはまるで王のようなプレッシャーと高貴さ、そして、傍らの魔導師より攻撃が放たれる。

 

「黒―魔導!」

 

それを最後に少年は意識を手放した――。

 

 

 




小説って難しい。今回、デュエリスト、モンスターの名前を伏せていたりするのは仕様です。


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第1章 THE DUELIST ADVENT
第1話 Believe×Believe


ちょっと文章が長くなったので前後に分けます。
サブタイはネタにしようか迷ったけど、せっかくの1話目なんで。
自分的には『新しい朝』が好きです。


時は夕方、景色は山吹色に染まりまるで海に沈むような夕陽が幻想的で美しい。海に面した倉庫、薄暗い中に高く積まれた荷物の上で『彼』は目を覚ました。

 

年は中学生程度、トレードマークの赤帽子を目深に被りその上にゴーグルを装着し首にはチョーカーをつけ、赤のジャケットを着ている。左腕には相棒である金色のデュエルディスク、『彼』は周囲を確認するようにキョロキョロと首を動かす。どうやら知らぬ間にここに来ていたようだ。しばらくしてポン、と手を合わせる。

 

――何だ、何時もの事か――。

 

少年を知らぬ者からすれば、それはどうなんだ。とツッコミたくなる、いや知っている者からしてもツッコミたくなるが、少年にとってこの程度、なんて事は無い。何せ今までもモンスターがうようよいる世界や知らぬ間に知らぬ地に来ていた事が過去にある少年である。元々マイペースで1つの事柄以外無頓着な彼、異次元に飛ばされようと好きな事ができればそれでいい。

 

ふと、足元より声が聞こえた。何やら少年と同じ年頃の男四人と1人の女の子が言い争っているようだ。状況を考えるに少年達が悪さをしていたのであろう。リアルファイトも仕方ないと溜め息を吐き助太刀しようとした時『デュエル』という単語が耳に入る。気がつけば少年は彼等の間に飛び降りていた。

 

「っ!?あなたは!?」

 

濃いピンク色の髪をツインテールにした少女が驚きの声を上げる。どうやら派手な登場をしたせいでこの場全員の注目を浴びてしまったようだ。

 

「あぁん?誰だテメェ!」

 

黄色い前髪と茶髪が混じった少年が眉をひそめ問う、そんな彼とは対照的に赤帽子の少年は口角を吊り上げワクワクといった様子だ。

 

「名前はコナミ―――おい」

 

「あん?」

 

――デュエルしろよ――

 

途端その場に緊張が走る。少年、コナミの放つ独特の空気がそうさせる。本人はちゃんと質問には答えた。どこかの質問を無視しデュエルしろよだけ言う蟹頭のDーホイーラーとは違うのだと得意気だが実際はそう変わらない。その緊張からいち早く抜け出したのは黄色い前髪の少年、コナミに対してニヤリと笑う。

 

「デュエルぅ?このネオ沢渡シンゴに挑もうとは…上等じゃねぇか赤帽子!」

 

そう言ってネオ沢渡は腕に装着したデュエルディスクを展開させる。

 

「ちょっ、ちょっとあなた大丈夫なの!?」

 

ツインテールの少女がコナミを止めようとする。だがコナミは止まらない。目の前にデュエルがぶら下がっているのだ、逃すわけにはいかない。大丈夫だ、と言わんばかりに金色のデュエルディスクより光のプレートを展開する。

 

「ああっもう!なんなのよぉ!?」

 

少女がまるで意味が分からんぞ!?とばかりに頭をおさえる、そして――。

 

「「デュエル!!」」

 

コナミの闘いの幕が上がった。デュエルディスクにランプが灯る、どうやら先攻はコナミのようだ。しかし、コナミは自らの手札を信じられないものを見るように見つめている。それもそのはず。

 

……なぁにこれぇ?

 

そのデッキはコナミの知らない、組んだ覚えのないデッキなのだ。だが…コナミにはそんな物関係ない、効果さえ分かればそれでいい。今は目の前のデュエルが先だ、とデュエルを再開する。

 

「……『ゴブリンドバーグ』を召喚」

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

現れたのは小さな飛行機に乗ったゴブリン。飛行機には大型のコンテナが吊るされている。

 

「『ゴブリンドバーグ』の効果発動、手札のレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚し守備表示となる。現れろ『E・HEROシャドー・ミスト』。」

 

コンテナより黒い人形が着地する。黒い軽装に身を包み、美しい青の長髪を靡かせている。

 

E・HEROシャドー・ミスト 攻撃力1000

 

「シャドー・ミストの効果発動、デッキから『チェンジ』速攻魔法を手札に加える。『マスク・チェンジ』を手札に」

 

黒い霧が1枚のカードをコナミの手に誘い込む、そして。

 

「2体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築」

 

コナミの背後に星が散りばめられた。渦が現れ、『ゴブリンドバーグ』と『E・HEROシャドー・ミスト』が中に吸い込まれる。

 

――我が戦いはここから始まる、白き翼に望みを託せ、現れろNo.39――

 

コナミの口より詩が紡がれ、渦より光の柱が下りる。光が晴れ現れたるは1体の皇。白を基調とし、金の装飾が施された傷ひとつない鎧、腰に二刀を携え、雄々しき両翼を広げると同時に右肩に39の紋様が走る。一筋の希望、異世界の2人の決闘者の絆の証、諦めず挑戦し続ける心の在り方、『かっとビング』を持つ、その名は。

 

「エクシーズ召喚!!希望皇ホープ!!」

 

瞬間、世界は震撼した。

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

雄々しき叫び声を上げる希望の皇、その声はどこか喜びに溢れていた。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド。」

 

コナミ LP4000

フィールド 『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

セット1

手札3

 

――皇を傍らに連れ、口元に弧を描く、赤帽子のデュエリスト、この場にいる全員が彼のデュエルに呑まれる。しかしまだコナミのデュエルは始まったばかり――。




茄子「貴重な出番が盗られたんだけど」

融合「気にすんなって!(使用カード大量OCG化されながら)」


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第2話 まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ!

前回のあらすじ
レベル4のモンスターが2体……来たぞ遊馬!ほらほら私の言う通りだろう!?(大歓喜)


圧倒的な存在感は放つコナミのモンスター『No.39希望皇ホープ』腕を組み、コナミの傍らに控えるその姿はまるで誇り高き騎士。全員が唾を飲み込む中少女はコナミとホープに向けて驚愕の表情を見せる。

 

「エクシーズ……召喚……」

 

驚くのは無理もない、コナミが先程行ったエクシーズ召喚、それは基本同じレベルのモンスターを2体以上並べ、重ねる事による成立する召喚方法だ。シンプルであるからこそ強く、その強力な効果を使うには基本的に素材となったモンスターを墓地に送らねばならず、数回限りとなる。

 

しかし、驚くべきはこの舞網市においてエクシーズ召喚はあまり流通しておらず、使い手は大半がレオ・デュエル・スクール通称LDSに所属している。

 

因みにコナミの対戦相手であるネオ沢渡、彼もLDS所属である。そのネオ沢渡と敵対しているという事はコナミはLDS所属ではなく、にも関わらずエクシーズ召喚を使用したという事になり、当然警戒されるのだ。

 

「希望皇ホープぅ?見た事ねぇカードだな、まぁ興味ねぇけど」

 

しかしこの男、ネオ沢渡には大したことではない、何故ならば彼の興味を引くのは魔術の如くモンスターを呼び出す召喚法、世界でたった1人が扱う、新たなる召喚法のみ。コナミのエクシーズ召喚を興味ねぇの一言で切り捨て、デッキよりカードをドローする。

 

「へっ今度はこっちの番だなぁ?『太陽風帆船』を特殊召喚!!」

 

太陽風帆船 守備力1200

 

ネオ沢渡の場に現れたのは巨大な帆を張った船、効果により守備力が下がるが、特殊召喚できるというのは優秀ではある。

 

「まだまだぁ!!『太陽風帆船』をリリースし『氷帝メビウス』をアドバンス召喚だ!!」

 

氷帝メビウス 攻撃力2400

 

帆船と入れ替わって現れたのは銀色の鎧を纏い、青い外套を靡かせた氷の帝。彼の登場と共に倉庫の気温が下がり、地面が凍って行く。

 

「メビウスの効果発動!!アドバンス召喚に成功した時、フィールドの魔法、罠を2枚まで破壊する!」

 

ネオ沢渡の宣言と共にメビウスの足元より氷が走る、氷の線はコナミのセットカードを侵食し砕け散らした。

 

「フリーズ・バースト!まっ、1枚だけだがなぁ」

 

「「「さすがっス!ネオ沢渡さぁーん!」」」

 

得意気に前髪をかきあげ、取り巻きのエールを受け入れるネオ沢渡、コナミもほうと息をついている。

 

「バトルだ!メビウスでホープに攻撃!アイスランス!!」

 

「なっ、攻撃力はホープが上なのに!?」

 

ネオ沢渡が宣言すると同時に少女が戸惑いの声を上げる。無論ネオ沢渡とて何も考えていない訳ではない。

 

「この瞬間速攻魔法『禁じられた聖杯』を発動!メビウスの効果を無効にし攻撃力を400ポイントアップさせる!」

 

聖女の杯がメビウスに禁じられた力を授ける。だがしかし、ネオ沢渡はメビウスの効果を使った事により高揚していたのであろう。今ここで、このカードを使うべきではなかった。

 

「希望皇ホープの効果発動」

 

少年の命を受け、皇は翼を主の前に展開し、盾とする。白き盾を前にあれほど猛威を奮っていた氷の槍が打ち砕かれてしまう。

 

「ムーンバリア」

 

「何ィ!?」

 

「希望皇ホープはORUを1つ使う事でモンスター1体の攻撃を無効とする」

 

「チィッ!カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

ネオ沢渡 LP4000

フィールド 『氷帝メビウス』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

皇と帝を名に冠するモンスターによる激しい攻防、それを見守る少女は不安そうにコナミの表情を見る。コナミの様子はというと。

 

(笑ってる……?)

 

嬉しそうにその口元は弧を描き、赤帽子の奥に潜む瞳は真紅の闘志を見せている。気がつけば此方まで笑ってしまうほどに彼の横顔は輝いていた。ふとその顔が一人の少年と重なる。

 

(遊矢……?)

 

「どうしたぁ!?さっさとドローしねぇか!!」

 

急かすようなネオ沢渡の台詞にハッと我に返り、頭をふるふると左右に振る少女、ふとコナミを見ると何故だろう、コナミがドローするのを躊躇っている。そして、コナミはその笑みを更に深め答える。

 

――いや――

 

コナミが自然にデッキの上に手を差し出す。その姿にこの場にいる全員が見とれる。まるで時が止まったかのような感覚。

 

――このターンで終わると思ったら寂しいだろう?――

 

コナミの右手に赤き閃光が走る。彼は引き抜いた一枚のカードを見もせず、光のプレートに叩きつけた。

 

「『カメンレオン』召喚!!」

 

カメンレオン 攻撃力1600

 

現れたのは仮面のような顔をしたカメレオン、『カメンレオン』は地面に渦を作りその中へ自身の長い舌を突き刺す。

 

「『カメンレオン』は召喚成功時、墓地の守備力0のモンスター1体を特殊召喚する、来い『ゴブリンドバーグ』!」

 

舌に吊るされて出て来たのは先のターンもコナミのフィールドを旋回した、小さな飛行機に乗ったゴブリン、俺の出番か、とばかりににやけている。

 

「ハッ!またエクシーズ召喚かぁ?それにこのターンで俺様を倒すだぁ?やれるもんならやってみな!」

 

「お前の言う通り、エクシーズ召喚は同じ星のモンスターを揃える事で条件を満たす召喚法だ」

 

「エクシーズの講義はいいよ、興味ないんでね」

 

「いや、今は……」

 

「?」

 

――シンクロの講義だ――

 

突如『カメンレオン』の体が光の輪となって弾ける。

 

「チューナーモンスター……!?」

 

少女が驚愕の声をもらす、チューナーモンスター、そう呼ばれるモンスターは多くのものが低いステータス、星を特徴としている。だがそれでいい、何故ならば彼等は他のモンスターと力を合わせる事で新たな可能性を生み出すのだから。

 

一人の青年が言った。シンクロは俺達の絆の証なのだと、その信条は遠く離れたコナミにも引き継がれている。離れていても、仲間だとどこかにいる彼に応えるように、コナミは示す。

 

「レベル4の『ゴブリンドバーグ』にレベル4のチューナーモンスター『カメンレオン』をチューニング」

 

飛行機がプロペラを回し光の輪をくぐり抜け、光を受けた飛行機は輝き、その姿を変えていく。

 

――星海を切り裂く一筋の閃光よ!!魂を震わし世界に轟け!!――

 

光の輪より生まれしは白く輝く星屑の竜。

 

「シンクロ召喚!!」

 

その竜の名は。

 

「『閃光竜スターダスト!』」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500 ※『こう』が変換できないので『光』で代用

 

竜の咆哮と共に煌々と雪のように星屑が舞い落ち、暗い倉庫を照らし消えていく。

 

「……綺麗……」

 

少女がほうと息を吐く倉庫内に降り立った光の竜は幻想的でここにいる誰もが見惚れてしまっていた。それは主たるコナミも同じ事である。赤帽子の奥に隠れた瞳は細められ、どこか憂いを帯びている。もっともその内容もふつくしい…と褒めているのか分からないが。

 

「魔法カード『カップ・オブ・エース』発動、コイントスを行い、表ならオレが裏ならお前が2枚ドローする」

 

「ふぅん運頼みか、上手くいくかねぇ」

 

コナミがポケットより1枚のコインを取りだし、不敵に笑う。

 

「悪いが」

 

ピンとコナミの手よりコインが弾かれる。地面に落ちたコインは数回カラカラと回った後ピタリと止まる。……結果は……表。

 

「運は良い方だ。」

 

効果により2枚のカードをドローするコナミ、全ての準備が整った。

 

「魔法カード『融合』発動」

 

「融合まで!?」

 

「手札の『E・HEROオーシャン』と『E・HEROフォレストマン』を融合、現れろ」

 

地に亀裂が走る、氷はひび割れ、地より吹く熱により溶けていく。マグマより現れたるはコナミの新たなるモンスター。頭頂部、両肩に紫色の球体状の物体が嵌め込まれた全身白の英雄、胸の赤き宝石は彼の命の胎動を全身に伝えている。

 

「『E・HEROジ・アース』」

 

E・HEROジ・アース 攻撃力2500

 

コナミのフィールドを融合、シンクロ、エクシーズの三色のモンスターが降り立つ。彼の腕前にネオ沢渡でさえ冷や汗をかく。成る程、躊躇なく決闘を挑むだけはある。そんな彼を知ってか知らずかコナミは片手を突き出し、モンスターに命を下す。

 

「バトルだ、希望皇ホープで『氷帝メビウス』に攻撃!ホープ剣スラッシュ!!」

 

腕を組み少年の傍らでたたずんでいた皇が腰の二刀を抜き放ち氷帝を切り裂かんと駆ける。だがネオ沢渡にはその程度の攻撃は届かない。

 

「あめぇよ!罠発動!『次元幽閉』!!ホープには退場を願うぜ!」

 

勇猛なる皇は突然発生した次元の狭間に呑まれいく。

 

「ORUとなっていた『E・HEROシャドー・ミスト』の効果、墓地に送られた場合デッキより『HERO』モンスターを手札に加える。『E・HEROブレイズマン』を手札に加える」

 

皇は自らが呑まれる前にシャドー・ミストの力と思われる黒い霧を操り、1枚のカードをコナミに渡す。

 

「『閃光竜スターダスト』で『氷帝メビウス』に攻撃、流星突撃(シューティング・アサルト)!!」

 

その身を弾丸として撃ち出す竜、白い線が真っ直ぐにメビウスに向かう。

 

「まだだ!罠発動!!『サンダー・ブレイク』!手札を1枚捨て、『閃光竜スターダスト』を破壊するぜ!」

 

ネオ沢渡が口角を吊り上げ光の竜を指差す、それに呼応するかのようにメビウスが指を突き出し稲妻を放つ。コナミはネオ沢渡の背後で『雷帝ザボルグ』が泣いている幻覚が見えた気がしたが今は無視した。

 

「スターダストの効果発動、1ターンに1度自分フィールド上のカードを選択しそのカードに戦闘、効果破壊耐性を付与する。当然選択するのは『閃光竜スターダスト』自身、波動音壁(ソニック・バリア)」

 

しかし無駄、閃光の前に稲妻は弾け飛ぶ。ネオ沢渡の背後のザボルグはメビウスを鼻で笑っていた。

 

「チィッ!!」

 

ネオ沢渡 LP4000→LP3900

 

「ジ・アースでダイレクト・アタック!アース・コンバスション」

 

『E・HEROジ・アース』の胸のコアよりビームが放たれる。ネオ沢渡にそのビームを防ぐ術はなくまともに受けてしまう。

 

「ぐぁっ!!」

 

ネオ沢渡 LP3900→LP1400

 

ビームにより爆煙が吹き荒れ、倉庫内を覆う。

 

「ぐっ…!だがこれでお前のモンスターは全て攻撃を終えた!このターンで俺を倒す事は……」

 

――何勘違いしてやがる……?――

 

「ひょ?」

 

カッと2つの光が煙の中より跳躍する。――一体何が――

視界の端の銀の光を目で追う、それは光輝くジ・アースとスターダスト。

 

――まだオレのバトルフェイズは終了してないぜ?――

 

2つの影は重なり合い姿を変えていく、白のスーツに金の線が走る。背には太陽を型どった金色の翼。

 

「速攻魔法発動『瞬間融合』『E・HEROジ・アース』と『閃光竜スターダスト』を融合、融合召喚『E・HEROTheシャイニング』」

 

E・HEROTheシャイニング 攻撃力2600

 

まばゆき光を放ちながら現れし、このデュエル最後の審判者。光の英雄は組んでいた腕を解き、両腕をネオ沢渡へ突き出す。

 

「Theシャイニングでダイレクト・アタック!オプティカル・ストーム!」

 

光輝く嵐がネオ沢渡を襲った。

 

「うっそぉぉぉぉぉぉん!?」

 

ネオ沢渡LP1400→LP0

 

――――――――――

 

「何?強力な召喚反応エネルギー?」

 

レオ・コーポレーションの社長室、そこにはレオ・コーポレーションの若き社長、赤馬零児が椅子に腰掛け専属補佐である中島の報告を受けていた。

 

「エクシーズ、シンクロ、それに融合まで……か……場所は……?」

 

中島より受け取ったPCを片手で操作し召喚反応エネルギーであろうグラフを見つめながら問う赤馬。

 

「ここより南東の倉庫……ですね」

 

それに……と中島が奥歯に何が詰まったかのように言いよどむ、果たして『彼』は本当に起こった事なのだろうかと中島自身も疑心暗鬼で赤馬に報告していいものかと戸惑う。

 

「?まだ何かあるのか?」

 

「……ええ、ちょうどその倉庫の逆の方角、信じられない事ですが――」

 

今までのどのエネルギーよりも強大な、エクシーズ反応が確認されました――

 

――――――――

 

心地よいさざ波の音が耳に伝わって来る。舞網市のとある海岸、「彼」はそこにいた。

 

「ぐっうう――!?」

 

LP800→LP0

 

白を基調とし金の装飾に彩られた皇が片刃の剣を振るう、相対する者はその無慈悲なる一刀により斬り伏せられる。

 

「ぐぅっ……うう……!」

 

気がつけば何人ものデュエリストが「彼」の足元に転がっている。これで後1人か――。

 

「ひっひぃっ!?」

 

くるりと最後の相手に向き合う、これで終わるのか、と「彼」の顔はどこか残念そうだ。しかし「彼」の理不尽なまでの力を近く見ていた少年は逃げ出してしまう。

 

(いやだ……!いやだいやだっ!!)

 

ガキンと鉄の音がした。それを理解すると同時に左腕が重くなりバランスを崩し倒れてしまう。

 

「ぎっ!」

 

倒れてながらも恐る恐る左腕を見る。自らの愛用するデュエルディスク、それに伸びる冷たい鉄の鎖、そしてその先には「彼」の金色に輝くデュエルディスク、言葉が出ない。

 

「……あっ……あっ……!」

 

何とか後ずさるも足に上手く力が入らない、その間にも死神が近づいてくる。星がプリントされたTシャツ、黒いジャケットにジーパン、首には重々しいヘッドフォンがかけられている。何よりも目を引くのは目深に被られた『黒い帽子』その奥には爛々と輝く肉食獣のような瞳。

 

「――デュエル――」

 

死神の鎌が降り下ろされた――。

 

 




おまけ

茄子「すまない、トイレに行ってくる。少し待っててくれ」

クロワッサン「わかった」

黒いの「(こくり)」

数分後

茄子「…………どこ行ったあいつ等?」


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第3話 命より大切なデッキ

短い上、デュエルなし、非力な私を許してくれ……
次回もデュエルが無さそう、今回、次回はメインキャラとコナミの出会い編になりそうです。すいません。


「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「何か喋りなさいよ!」

 

舞網市にある一件のカードショップ、赤帽子ことコナミとツインテールの少女はそのデュエルスペースの一角で対面していた。

 

「…………?」

 

テーブルをバンと強く叩き立ち上がった少女に対して、話を聞いていなかったコナミは首を傾げる。彼の手には60枚の枚数限界のデッキが握られている。そんなデッキでネオ沢渡に勝利したのだからコナミの腕は確かなのだろう。

 

ネオ沢渡とのデュエル後、こんなんじゃ満足できねぇコナミは追加攻撃と言わんばかりにネオ沢渡の取り巻き達にもデュエルを挑もうとしたが、コナミの肉食獣のような獰猛な笑みに怯えた取り巻き達は気絶したネオ沢渡を素早く回収し逃げ出した。

しかし相手はコナミ、デュエリスト特有の身体能力で追おうとしたのだが、それを見ていた少女に、もうやめて!ネオ沢渡達のライフは0よ!と羽交い締めにされてしまう、Ha☆Na☆Se☆と振り払おうとしたが、キレてストロングになった少女に無言で腹パンをいくつかもらい、大人しく連行、途中でコナミがカードショップを見つけ、ここに至る訳である。

 

「はぁ……あなた、えっと、コナミだったかしら」

 

こくりと自分のデッキを見ながら頷くコナミ、どうやらデッキから手を放す気はないようだ。少女はそんなコナミの様子に呆れながら言葉を紡ぐ。

 

「えっ……と、私は柊 柚子、遊勝塾の生徒をやっているの、それでえーっと……」

 

言い淀む柚子、果たしてこれは聞いて良い部類に入るのだろうかと迷っているようだ。因みにこの間にもコナミは自分のデッキを見ている。どうやらコナミの方は常識が迷子のようである。しかしコナミのこの礼を欠いた行動には理由がある。何せデュエリストにとって命よりも大切なデッキの内容が何時の間にか書き換えられていたのだ。人が人なら、絶対に許さねぇぞ!ドン・サウザンドォ!!と叫ぶ処だが基本的にコナミにとってバリアン世界の神であろうと、ロットンタウンのリアリストであろうと、ネオスペースのキモイルカであろうと等しくデュエルができる遊び相手だ、と中々に思考がかっとビングしている。

 

話を元に戻すと、このコナミのデッキ、コナミ自身も知らないカードが大量にあるのだ。デュエリストであるコナミは新しいカードへの興味で手を放す事が出来ない。もはや本能と言っていいであろう、本来ならこんな事をしない、教養の良い子なのである。

 

「さっきのデュエル……最後の攻撃、ダメージが実体化していたみたいなんだけど……気のせいかしら?」

 

ピタリとコナミの手が止まる、そう先程のデュエル、最後の攻撃どころか、所々ソリッドビジョンのモンスター達や攻撃が実体化していたのだ。原因は勿論この赤帽子にある。知らないデッキでデュエルし、楽しくて興奮の余り、魔力(ヘカ)やシグナーやダークシグナーの力やサイコパワーが漏れだしたのだ。幸いなのはネオ沢渡が多少の負傷と気絶で済んだ事か、兎も角どう説明したのか良いか悩んだ挙げ句。

 

「ちょっと、張り切り過ぎた」

 

この一言で済まそうとするのは如何なものか、コナミは口が上手い方ではないのだ。

 

「(沢渡が)張り切り過ぎたのなら仕方ないわね」

 

「ああ」

 

何を勘違いしたのか、納得してしまう柚子、しかしデュエリストの皆さんは話が噛み合わない事がよくある。デュエリストにはよくある事、それで良いのかデュエリスト。

 

「ねぇさっき融合、シンクロ、エクシーズ、三つの召喚法を使ってたわよね?」

 

疑問が晴れたのなら残るのはコナミに対する興味、コナミは見た目からしてミステリアスなため余計興味が沸く。

 

「ああ」

 

再びデッキに目を戻しながら答えるコナミ、そんなコナミの態度も気にせず、興味津々といった様子でコナミに詰め寄る。

 

「融合とシンクロならまだ分かるけどエクシーズまで何処で、あなた何処の塾の生徒なの?」

 

「……塾?」

 

舞網市では基本、デュエリストは自分に合ったデュエル塾に入る。そうした方が公式の大会へ出場する機会が増え、様々な召喚法、戦法が学べるからである。

当然舞網市どころかこの世界出身ではないコナミが塾に入っている筈がないその事を伝えると柚子は目を輝かせ。

 

「遊勝塾に入りましょう」

 

勧誘してきた。流石は塾長の一人娘と言ったところか、確かにコナミほどの人材、放っておくのは惜しい、何より他の塾に入り、敵になる方が恐ろしい。その為色々誘い文句を用意する。

 

「勿論ただとは言わないわ、今なら」

 

「分かった」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

のだが、見返りを用意するまでもなく了承するコナミ、元々この赤帽子、見返りや報酬を求めない、誘われたのならついていくし、助けてくれと言うなら助ける、人によっては無償で働くヒーローに見えるだろう、ダークロウよりヤバいHEROがいるものである。そう言った点では此処で誘えたのは良かったのかもしれない。此処で逃せばコナミの実力を見た何処かの塾が勧誘するであろう、勿論この赤帽子は二つ返事で入塾する。

 

「……いいの?わっ私の塾、大したこと教えられないけど」

 

「……?別にいい」

 

コナミが即答した途端、罪悪感で弱気になる柚子、良い子である。

 

「……生徒も少ないよ?」

 

「気にしない」

 

「……塾長、暑苦しいよ……?」

 

「構わない」

 

良い子……である……?

 

「……他にも大きいデュエル塾なんて沢山あるし……」

 

「それがどうした?」

 

「いいの?」

 

「ああ」

 

コナミの言葉に俯く柚子、少しだけだがしゃくりあげるような声が聞こえる。待つこと暫く、先程まで顔中に不安を張り付けていた少女は。

 

「ありがとうっ」

 

花が咲いたような笑顔を見せてくれた。目尻には涙を浮かべているも、その煌々と輝く笑顔に口元を緩めるコナミ。デュエルスペースにいる他の利用者からすれば、甘い雰囲気を出しているカップルに見えるだろう、その証拠にコナミと柚子の二人を見て、舌打ちをする孤独なデュエリスト達、話の内容は塾の勧誘であるが。

 

コナミは先程通り、デッキに目を通す。この男にとっては色気より闘気、

と言っても多くのデュエリストがそれに入るだろうが、しかしデュエルを優先しながらフラグを回収する彼は一体何なのだろう?

柚子はと言うとコナミに(入塾の)OKを貰った事によりニコニコと笑っている。

 

(えっへへー、なんかドキドキするなぁ、うん……?ドキドキ?)

 

トクトクと心臓が波打つ、何処かで味わったかのような甘酸っぱい種類の気持ちが心を満たしていく、自分自身、この気持ちが何なのかは今は分からない、だけど。

 

「……」

 

カードを見つめるコナミを見て、きっと悪くないものなのだろうと、そう思った。

 

「あっ、そうだコナミ――」

 

柚子が質問しようとしたその時、その場に間の抜けた電子音が鳴り響く。その発生源は柚子、彼女は慌ててデュエルディスクを取り出す、どうやら着信音のようだ。彼女はデュエルディスクのディスプレイを細い指で操作し、そのままデュエルディスクを耳に当てる。

 

「っとはいっ!もしもしっ……ってアユちゃん?……ああっ!忘れてた!ごっごめん……うん……うん」

 

どうやら通話が終わったらしい、その様子を眺めていると柚子がその身を乗り出す。

 

「えっ……と、折角だし、塾によってく?」

 

コナミの返事は聞くまでもないであろう。

 

 




おまけ

茄子「あいつ等、一体何処に……?」

あざといロリ「……」

茄子「……」←マスク被った状態

あざといロリ「……ふぇっ……ふっ不審者……?」

茄子「ちっ違っ」

あざといロリ「遊矢お兄ちゃーん!助けてぇー!」

茄子「くっ……!てっ撤退だ!!」


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第4話 こいつは下端のコナミ

色々あって遅れました。今回もデュエルなし期待してくれた人はすいません。



日も大きく傾き、辺りが暗くなって来る頃、河川敷に近くに位置する遊勝塾に1人のデュエリストが来訪していた。赤いジャケットをマントのように羽織り、トレードマークの赤帽子の上にゴーグルを装着した少年、コナミである。彼は柚子に連れられこの遊勝塾の一室に備え付けられたソファーに座っている。

 

「ええっと、俺は榊 遊矢、よろしくな」

 

テーブルを挟んで対面したソファーに座った少年、榊 遊矢がぎこちない笑みで話し掛けて来る。対するコナミはと言うと。

 

「……コナミだ」

 

デュエル時とは打って変わって、どこかボーッとした様子で名乗るコナミ、これには遊矢も苦笑いだ。

 

「(なぁ柚子、俺嫌われてるのかな?)」

 

「(大丈夫じゃない?私にもこんな感じだったし……口数が少ないタイプなのよきっと)」

 

微妙な空気に堪えられず隣に座る柚子に小声で話す遊矢、こういった自分と同い年の者、しかも初対面の――に対してあまり得意ではないのは年相応の反応と言えよう、しかも遊矢にとってこの手のタイプの人間は初めてである。掴み所が無い奴だなぁと思いながらコナミを見る、赤い帽子を目深に被った自身と同年代の少年、何処にでも居そうで何処にも居ない、そんな不思議な存在感が彼にはある。

 

「柚子を助けてくれたんだってな、ありがとう」

 

「大した事はしていない」

 

「それでもありがとな」

 

「……そうか……」

 

ふっと頬を緩ませるコナミ、それを見た遊矢は何だかコナミとは仲良くなれそうな気がした。

 

(柚子の言ってる通り、無口だけど良い奴だな)

 

目を細めコナミと同じように微笑む遊矢そんな二人を優しく見守る柚子、そこへ。

 

「コナミ君っ!娘を助けてくれてほんっとうっにありがとうっ!!」

 

ガッと力強くコナミの両肩を掴みガクガクと揺するジャージを着たキリッとした眉の男性、喋るまでもなく、彼の人間性と言うか性格が伝わってくる。気のせいか、部屋の温度が上がった気がする。

 

「いやっ、別にっ、大したっ、事はっ、してないっ」

 

体を揺すられて首がカックンカックンと上下に動き、言葉を区切る形となってしまうコナミ、こんな中でも動揺一つ見せないのは数々の心理フェイズを経験した賜物であろうか。

 

「ちょっ!ちょっとお父さん落ち着いて!コナミがカックンカックンしてる!」

 

慌てて止めに入る柚子と遊矢。

 

「ああっ!?すまないコナミ君!悪いなついこう熱くなると周りが見えなくなって」

 

ぱっと手を放し、はははと困ったように眉を八の字にし苦笑いする男性、ぐらつくコナミを大丈夫かと男性と同じく苦笑いして支える遊矢。

 

「紹介が遅れたな、俺はこの遊勝塾の塾長をやっている柊 修造だ」

 

「私のお父さんでもあるのよ」

 

白い歯を見せ、気持ちの良い笑顔で右手を差し出す修造。コナミも頬を緩め握手を交わす。

 

「……コナミだ、呼び捨てで構わない」

 

「それでねお父さんコナミをこの遊勝塾に迎えようと思うの、どうかしら?」

 

「本当か!?此方からお願いしたい位だ!!よろしく頼むコナミ!」

 

「ああっ」

 

「これでこれからコナミも仲間だな」

 

よろしくなと笑い、コナミの背を軽く叩く遊矢。

 

「ああ、よろしく頼む」

 

そう答え、遊矢に握り拳を差し出すコナミ。その行動に意外そうに目を丸める遊矢、だがしばらくして口元に弧を描き、拳を差し出し

軽くぶつけ合った。

 

――――――

 

「話は終わったのか?」

 

部屋を出た所で声を掛けられる。特徴的な下駄の音を鳴らし、コナミの前に仁王立ちしたのはリーゼントや学ランと少し古風な大男、とは言っても嫌な悪感情は感じない、漢らしい男と言う雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。

 

「権現坂!どうしたんだ、こんな時間まで?」

 

コナミの後ろからひょっこりと遊矢が顔を出す。どうやら二人は知り合いのようだ。

 

「うむ、柚子の恩人と聞いてな、友の恩人は俺にとっても恩人、俺も挨拶を、と思ったのだ」

 

「……コナミだ、たった今、遊勝塾のメンバーになった」

 

「権現坂道場の権現坂 昇だ。柚子の友として助けてくれた事、この男権現坂、深く感謝する」

 

ガシッと手を取り合う2人のデュエリスト、そんな権現坂の脇から3人の子供達が顔を覗かせる。1人は聡明さを感じさせる少年、もう1人は可愛らしい少女、3人目は元気そうな少年だ。

 

「遊矢兄ちゃん、この帽子の兄ちゃん誰だ?」

 

小太りの元気そうな少年が近寄る、どうやら初対面のコナミに興味津々のようだ。

 

「ああ、このお兄さんはコナミって言って、遊勝塾の新しいメンバーだよ」

 

コナミの肩に手を乗せ子供達に紹介する遊矢。

 

「コナミお兄ちゃんだね!私は鮎川アユ!よろしくね!」

 

周りに花が見えるような無邪気な笑顔を見せる少女、コナミはいつも通り無言で頷く。

 

「何だか無口な人だね、僕は山城タツヤです。よろしくお願いします」

 

見た目や雰囲気通り、礼儀正しく頭を下げる少年、この位の年でここまでできた子供はそうはいないだろう、コナミも感心しながら、こくりと頷く。

 

「俺!原田フトシ!コナミ兄ちゃんが遊勝塾に入るなら俺、先輩になるのかな?」

 

元気いっぱいといった様子でコナミの手をくいくいと引っ張るフトシ、その少しお調子者と言った態度にコナミは1人の少年の姿を重ねる。何時もは子供っぽくて、お調子者で、それでも妹を守るためなら絶望の中でも立ち上がれる、小さな勇者。昔の友を思い出し頬を緩めるコナミ。

 

「……そうなるな……よろしく頼む先輩」

 

「……!へへっ!分かった!」

 

「むぅ、フトシ君ずるい……」

 

笑うフトシと頬を膨らませむくれるアユ、対照的な2人に苦笑しながらコナミはぽんとアユとタツヤの頭に手を乗せる。

 

「これから世話になる……先輩」

 

「えっ……えっへへぇー、しょーがないなぁーもうっ!コナミお兄ちゃんはー!まぁ任せてよ!!なんてったって私、コナミお兄ちゃんの先輩だからね!」

 

「そっそんな!先輩だなんて!此方こそよろしくお願いします!」

 

得意気に小さな胸を張るアユと年上に先輩呼ばわりされたせいか、慌てて畏まるタツヤ。とは言ってもタツヤも満更でもなさそうだ。その証拠に口元がにやけている。

 

「……ん?」

 

ふと自分に向けられる視線を感じ、顔を上げるコナミ。するとコナミ達の様子を観察するように廊下の壁にもたれかかり、ペロペロキャンディーを舐める髪を後ろで一くくりにした少年がそこにいた。

 

「……お前は――」

 

「……ふーん、『あいつ』に似てるけど……ここにいるわけないか」

 

コナミをジッと見つめながらブツブツと独りごちる少年、次の瞬間にはピンと背を伸ばし、笑みを浮かべコナミの方へ歩み寄ってきた。

 

「僕は紫雲院 素良!よろしくね!こーはい君」

 

「……ああ……分かった。」

 

「自己紹介は終わったわね、もう遅いし、皆帰らないと」

 

手を2回ほど叩き視線を集める柚子、彼女の言う通り辺りはすっかり暗くなり、時計も7時を回っている。

 

「本当だ!早く帰らないと!」

 

アユの言葉を皮切りに慌てて帰る準備を始める子供達。

 

「コナミも帰らないと」

 

「……?」

 

柚子の言葉に首を傾げるコナミ。何かがおかしい、嫌な予感がした遊矢は頬に汗を垂らしながら、指を差しコナミに問う。

 

「……コナミ、お前家は何処なんだ?」

 

傾げていた首を戻し、ぽんと納得したかのように両手を合わせる赤帽子。

 

「……家は無い」

 

全員の口元がひきつる、家なき子、コナミ。家がなくてもこの男は生きていけそうだが、遊勝塾の心優しい面々は少年を放って置けなかった。

 

――――――

 

暗い闇が空を覆い、皆が寝静まる頃、コナミは柊家の一室でベッドに腰掛けていた。責任感のある大人、修造と父に似て世話好きな柚子が説得した結果である。コナミも肩を揺すられながら了承した。

 

「……」

 

灯りも点けず、コナミはベッドの上で1枚のカードを見つめていた。60枚のデッキに入っていたカードの1つ、コナミがどのカードよりも興味を示したカードだ。

 

「……何故」

 

カードに描かれたモンスター、そのカードには特別な力なんてない、神の力も、正しき闇の力も、赤き竜の力も、世界を作り上げる力も何も無い……筈だった。

 

「……」

 

ジッとそのカードを見つめるコナミその瞳は帽子に隠れて、どのような感情が籠っているかわからない、しかし――。

 

「……」

 

そのカードはコナミにとって――。




ヤリザ「拙者の出番か……」

スクラップ・コング「俺に決まってるウホ」

ハングリー・バーガー「おいおい俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」

モリンフェン「下がっていな」


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第5話 デュエルの匂い

漫画版ARC-V見ました。
ユート君が相変わらず胃痛そうでニッコリ。
やはり奴はナストラル……エリファスさん呼ばなきゃ(使命感)


「コナミお兄ちゃーん、この問題教えてー!」

 

「……ここは……こうして、こう」

 

コナミの入塾より数日がたったある日、遊勝塾の一室でコナミが子供達に勉強を教えていた。意外と言うかやはりと言うか、彼は頭が良い。しかも教え方が上手いので遊勝塾の子供達はすぐ彼になついた。

 

「へー、何だか意外ねぇ、一度寝ると起こすまで寝てるのに」

 

「それはどうなんだろう……?」

 

感心した様にほう、と口を開ける柚子とコナミの普段の生活に呆れるタツヤ。一方遊矢はと言うとそわそわと落ち着きなくコナミ達の様子を見ている。

 

「?遊矢、どうしたの?」

 

「コッコナミ!!俺の宿題も手伝ってくれ!!」

 

「あんたもかい!!」

 

宿題と思われるプリントの束を両手に掴み、笑顔でコナミにすり寄る遊矢。エンタメデュエリストとは思えない悪い笑みである。

 

「数学か……方程式さえ分かれば後は自分でも解ける筈だ。」

 

「サンキュー!コナミ!!」

 

そう言って肝心な所だけ遊矢に教え、あくまで遊矢自身の力で解かせていく。分からない所はいくつかのヒントを出すのみに留める。宿題を教えるコナミに成程と頷く遊矢、2人の様子はまるで仲の良い兄弟のようで自然と柚子の口元も緩む。

 

「おーいコナミ!投影装置の様子がおかしいんだ、ちょっと見てくれないか?」

 

「お父さんまで!?大体そんな事コナミに分かるわけ……」

 

「……簡単な造りだから、何とかなりそうだが……」

 

「うそぉ!?」

 

決してソリッドビジョン投影装置は簡単な造りで出来ていないのだが、そこはコナミ。メ蟹ックに匹敵する技術を持つ彼にとってこの手の物は得意中の得意分野である。流石オゾンより上でも問題ない問題だらけの空飛ぶ巨大Dーホイールを自作した男である。何故飛行機能を付けた。

 

「……私も勉強教えてもらおうかな……?」

 

着実に遊勝塾の面々を攻略する赤帽子の男、本人にその気があるのかは疑問ではあるが。そんな、穏やかで暖かい日常、その危機はすぐ傍まで迫っていた。

 

――――――

 

食事を済ませ昼を過ぎた頃、コナミは遊勝塾の子供達と買い出しに出掛けていた。コナミの肩には肩車をせがんだフトシが乗っている。

 

「すっげぇー!高ーい!!」

 

「次っ!次、私だからねっ!コナミお兄ちゃん!」

 

タツヤ、フトシ、アユの順番で肩車するコナミ。最初は遠慮していたタツヤもコナミが強引に乗せると静かになった。フトシを下ろし、アユを肩車して遊勝塾まで歩いて行く4人、すると。

 

「あれ?何だあの車?」

 

見慣れた遊勝塾の前に黒塗りの高級車が止まっている。客人だろうか?

 

「……デュエルの匂いがする」

 

「えっ?」

 

理解不能な言葉を呟いた後、アユを下ろし歩を早めるコナミ。そんな彼の後ろ姿を子供達は不安を抱きながら追う。

 

――――――

 

LDS、レオ・デュエル・スクール、大企業レオ・コーポレーションが経営する世界最大規模を誇るデュエル塾である。今日の昼頃、ちょうどコナミ達が買い出しに出掛けた後、レオ・コーポレーション社長、赤馬零児の母赤馬日美香の率いるLDSのエクシーズ、融合、シンクロのトップエリート達が乗っ取りの為遊勝塾に乗り込んだのだ。

 

その原因はコナミにある。彼はLDSの生徒である沢渡シンゴを故意ではないが負傷に追い込み、更にLDSの中でもエリートである制服組20人が帽子の少年に襲われたと証言した。その少年がややこしい事にコナミと酷似していたのだ。レオ・コーポレーションは直ちにコナミの居場所を探しだし、特定した。そう、遊勝塾である。これを榊 遊矢の操る新たな召喚法を手にする好機と考えた赤馬日美香。勿論沢渡シンゴ襲撃を見ていた柚子はコナミを庇い、制服組の件についても遊勝塾の面々は否定した。議論の結果、遊勝塾の経営を賭けた決闘三本勝負が行われた。

 

一戦目はジュニアユースエクシーズコース所属、志島 北斗対榊 遊矢 星座をモチーフとした『セイクリッド』モンスターを操り、エースカードであるエクシーズ・モンスター『セイクリッド・プレアデス』のバウンス効果により、得意のペンデュラム召喚の1ターンに1度しか使えないという弱点をつかれ、苦戦する遊矢であったが相手がエクシーズでありレベルを持たない事を逆手にとった遊矢の機転により見事逆転を果たした。

 

続いて二戦目、ジュニアユース融合コース所属、光津 真澄対柊 柚子 宝石の輝きを放つ『ジェムナイト』達を次々と展開する真澄に対して音楽をモチーフとした『幻奏』モンスターで反撃の手をとる柚子、しかし真澄は奥の手である融合モンスター『ジェムナイトマスター・ダイヤ』の強力な効果により敗北してしまう。

 

残る三戦目、ジュニアユースシンクロコース所属、刀堂 刃対権現坂 昇 本来なら遊勝塾所属の生徒が出るべきであったが、コナミと子供達は買い出し、残る素良は気が乗らずその場に居合わせた権現坂が助太刀したいと言いこのような形となった。内容は引き分け。圧倒的な展開力を持つ刃の『Xセイバー』とデッキ全てがモンスターカードの所謂『フルモン』かつ守備表示で戦闘を行う『超重武者』という珍しいカテゴリを使う権現坂の戦いは熾烈を極め最終的に『超重武者装留ビッグバン』の効果によりこの結果となった。

 

そして勝負はもつれ込み赤馬日美香が四戦目を提案したその時、LDSは最強の刺客を放った。レオ・コーポレーションの若き社長にして天才デュエリスト、赤馬零児、彼に対抗する為遊矢が名乗り出ようとしたその時。

 

「――何を――している?――」

 

遊勝塾最凶の化物が帰還した。

 

――――――

 

「コナミ――?」

 

子供達を引き連れ戻って来た赤帽子の少年、この短い間で遊矢にとって親友とも言える程親しくなった彼の声に反射的に振り返る。

 

「……君が、コナミか?」

 

赤馬零児がコナミに振り返る。だが今の遊矢には周りが見えない。何故ならコナミの様子がおかしかった。一見すると何時もの口数も少なく大人しいコナミだろう、だが何かが違う。彼が纏う空気と言うのだろうか、それがおかしい、まるで――。

 

(怒ってる……?)

 

「今、君が原因で遊勝塾の経営を賭けたデュエルが行われている。四戦目で相手は私、赤馬零児だ。君はどうする?」

 

零児の言葉にピクリと動き、遊矢に視線を合わせるコナミ。

 

「……遊矢、オレに任せて貰っていいか?」

 

「あっああ、……ははっ、心配かけたくなかったんだけどな……」

 

目を伏せ、自嘲する様に笑う遊矢の頭をポンと優しく叩き、デュエルフィールドへ降りるコナミ、早くしろとばかりに零児を顎で急かす。その様子を見ていた遊矢は違和感を覚える。

 

「何だか……コナミらしくないな……」

 

「彼、大丈夫かしらね?」

 

挑発する様に笑みを浮かべる真澄、しかし。

 

「負けないわ」

 

その言葉を否定したのは柚子。成程、彼女ならコナミの実力を知っている。

 

「どうかなぁ、相手は天才デュエリストだぜ?」

 

先程まで膝を抱え落ち込んでいた北斗が真澄の言葉に便乗するような形で会話に混ざる。

 

「……何でかは分からないけど」

 

「?」

 

遊矢の言葉にLDSの三人組が首を傾げる。

 

「コナミは、負けない気がする。」

 

根拠はない、コナミのデュエルは一度も見た事がない、だけど――

――それでもコナミの負ける姿が想像出来なかった。

 

――――――

 

「塾長、デュエルフィールドを」

 

「あっ、ああ」

 

コナミが修造を促す。勿論コナミはアクション・デュエルはやった事はない、彼の得意とするフィールドが分からない修造はフィールドをランダム設定とする。様々なパネルが光り、やがてパネルがあるフィールドで止まる。

 

「っ!?これは……!?」

 

フィールドに次々とビルが立ち並び空を閉ざしていく、味気ない夜の街にネオンの光が照らされる。まさに摩天楼、そのフィールドはかつて榊 遊勝が得意とした奇跡の街。

 

「『マジカル・ブロードウェイ』……!?」

 

――――――

 

「先攻は譲ってやる。」

 

「……何?」

 

コナミらしからぬ上からの物言いに眉をひそめる零児。しかしそんな彼の背筋を気味の悪い感覚が襲う、まるで得体の知れない怪物にその身が掴まれたような吐き気すら覚える、不快感。

 

「勝ちはオレが貰う。」

 

その正体は眼前で光のプレートを展開する赤帽子の少年。珍しく頬に冷や汗を垂らす零児、全身が警報を鳴らす。だが逃げる訳にはいかない。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「!?」

 

急に修造が叫んだ事により驚くコナミ。無理もない彼はアクション・デュエルは初めてなのだ。その様子を見ていた零児は先程までの緊張を解く。

 

「気にするな、様式美のようなものだ。」

 

「……そうか」

 

「モンスターと地を蹴り、宙を舞い!」

 

続くように口を開いたのは赤馬日美香、意外にノリノリである。しかし彼女の事を知らないコナミは頭の上に幾つもの?マークを浮かべている。

 

「私の母だ」

 

「……そうか」

 

何故だろうか先程と同じ台詞なのに哀れのようなものを感じる。

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

初めて聞くアクション・デュエルの口上だがライディング・デュエルの時と同じようなものか、と一人で納得しうんうんと頷くコナミ。良く聞くと良いじゃないか、決闘の最強進化形、楽しみだ。と結構気に入っている様だ。

 

「「アクショーン!!」」

 

「「デュエル……!」」

 

ノリノリで口上を紡ぐ2人とは対照的な二人のデュエリストは静かに、戦いの火蓋を切った。

 

「私のターン、永続魔法『地獄門の契約書』を発動し、効果により、『DD』モンスター1体をデッキより手札に加える。……スタンバイフェイズに1000のダメージを受けるがね、私は『DD魔導賢者ケプラー』を手札に加え、召喚する」

 

DD魔導賢者ケプラー 攻撃力0

 

現れたのは機械の身体を持つ青い賢者。所々内部の機械が剥き出しになっており何処か不気味さを感じさせる。コナミはこのカードに他とは違った違和感を感じるが……気のせいかと頭を振る。

 

「『DD魔導賢者ケプラー』の効果、召喚成功時、2つの効果の内、1つを発動する。私は2つ目のデッキより『契約書』を手札に加える効果を選ぶ、私は『魔神王の契約書』を加え、発動。このカードは1ターンに1度、手札、フィールドの悪魔族のモンスターを素材とし融合召喚が出来る。これもスタンバイフェイズに1000のダメージを受ける。」

 

淡々と丁寧にカードの説明をする零児、後ろで色々と喋っている面々とは違いコナミは無感情に零児の一挙一動を観察する。それがどうにも零児には気持ち悪さを感じさせられる。

 

「っ!私はフィールドの『DD魔導賢者ケプラー』と『DDパンドラ』で融合!融合召喚!!出でよ!神の威光伝えし王『DDD神託王ダルク』!」

 

賢者は災いの壺と重なりその姿を大きく変える。悪魔の翼を広げ、天空より舞いしは鎧を纏った闇の聖女。自らの身体の前に剣を構え、零児の傍に降り立った。

 

DDD神託王ダルク 攻撃力2800

 

「カードを1枚伏せターンエンド、さぁ君の番だ」

 

赤馬零児 LP4000

フィールド『神託王ダルク』(攻撃表示)

『地獄門の契約書』 『魔神王の契約書』 セット1

手札2

 

零児のターンが終了する。コナミはカードを1枚引き、状況を整理する。

 

(相手の場には攻撃力2800の『DDD神託王ダルク』、そして1ターンに1度『DD』モンスターを制限無しでサーチする『地獄門の契約書』、悪魔族専用の融合魔法『魔神王の契約書』、そしてセットカードが1枚、ケプラーや『地獄門の契約書』と言ったサーチで堅実に場を固めて来た事を考えればダメージ回避のカードか……)

 

相手の出方を分析しセットカードを警戒するコナミ。『契約書』カードには決して軽くないデメリットが約束されている。ならばそれをカバーする手は既に打たれているとコナミは考えたのだ。

 

「……オレは魔法カード『ギャラクシー・サイクロン』を発動。お前のセットカードを破壊する。」

 

「っ!罠発動『契約洗浄』、契約書を破壊しその数だけドローし、更にドローした数だけ1000ポイントライフを回復する!」

 

赤馬零児 手札2→4 LP4000→6000

 

コナミの目の付け所は悪くはなかった。その証拠に零児は僅かながらだがコナミの打った手に目を見開く。しかし選択したカードは所謂フリーチェーンのカード、破壊はされども効果は発動されてしまう。軽く眉をひそめながらもバックを気にしなくても良くなったのはまだマシかと持ち直す。

 

「魔法カード『調律』を発動、デッキより『ジェット・シンクロン』を手札に加えデッキトップを墓地に送り、『E・HEROブレイズマン』を召喚」

 

火柱を上げ、登場したのは炎の鬣を持つ赤の戦士。攻撃力は低いがその効果は実に優秀。

 

「ブレイズマンの効果、デッキから『融合』を手札に加え、発動。手札の『デブリ・ドラゴン』とフィールドの『E・HEROブレイズマン』を融合、吹き荒れろ『E・HEROGreat TORNADO』」

 

炎の戦士と小さなドラゴンが融合し、暴風を纏いて現れしは黒き外套を纏った風の英雄。その力は豪快にして強力。

 

「Great TORNADOの効果、融合召喚時、お前のフィールドのモンスターの攻撃力、守備力を半分にする。タウン・バースト」

 

吹き荒れし嵐によりダルクの翼はボロボロになっていく、まるで天空に存在せしは自らのみと誇示するように。

 

『DDD神託王ダルク』攻撃力2800→1400

 

「バトル、Great TORNADOで『DDD神託王ダルク』を攻撃、スーパーセル」

 

雷雲が発生し、大量の竜巻をダルクに向かい発射する。余りの突風に零児は眉をひそめながらも風に吹き飛ばされたカードを拾い上げる。

 

「アクションマジック『回避』、モンスターの攻撃を無効とする!」

 

自然に害され、自然に救われる。ほっと息をつき安心するのも束の間。

 

「速攻魔法『ダブル・アップ・チャンス』、攻撃が無効にされた時、そのモンスターの攻撃力を倍にして、もう1度攻撃する」

 

その程度では天災は止まらない、竜巻は幾重にも重なり巨大化し襲い来る。その様はまるで竜、その無条理なる顎が異次元の王を噛み砕いた。

 

「ぬっうぐっ!?」

 

赤馬零児 LP6000→1800

 

吹き飛ばされた身体を翻し何とか着地する零児。恨めしげにコナミを睨めつけるが、彼は帽子を被り直し無感情に零児を見るのみ。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

コナミ LP4000 フィールド『E・HEROGreat TORNADO』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

視線を交わす二人のデュエリスト、彼等が何を思っているのかは分からない、しかしまだ戦いは始まったばかり――。




いよいよデュエル回、しかし書いた後思った。
タッグフォースなのにタッグデュエルしてない。
このままじゃタイトル詐欺になる。
VS零児が終わったらタッグデュエルやる筈(震え声)


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第6話 悪の召喚法

もうライフ計算の間違いはしたくない……
アクションマジックって便利って言う話。
あんまり頼りたくはないけど。


LDSジュニアユース融合コース所属、光津 真澄はその美貌に驚愕を貼り付けていた。原因は言わずもがな、今現在赤馬 零児と相対する赤帽子の少年、コナミだ。彼の赤馬 零児に匹敵する実力を見て、ではない。確かにコナミは強い。たった3ターンで分かってしまう程に、しかし融合召喚においては自分が上だ……うん上だ。と自分に言い聞かせる。多少は認めてやってもいいだろう。話が逸れた。彼女が驚いた訳は。

 

「目に……一点の曇りがない……」

 

そう、コナミの赤帽子に隠された眼、そこには何のくすみも汚れもない、だからこそ怖い。普通、人とはどんな事をしていても雑念の1つや2つ現れる筈だ。だが彼にはそれがない。そんなデュエルが自分にできるだろうか?あんな輝きを放てるだろうか?彼の思考が読めない眼が怖い、だけど――。

 

「どうした?真澄?」

 

「ーっ!?」

 

不意に背後の北斗から声を掛けられる。彼は眉を八の字にして真澄の顔色を伺っている。心配してくれたのだろう、何故かそれが気に喰わなくて何時ものムスッとした顔で辛辣な言葉を吐いてやる。

 

「別に何でもないわ。貴方こそ負けたばかりなんだからあのデュエルを見て勉強したらどう?」

 

真澄の毒の入った言葉に涙を目尻に溜め「どうせ僕は……」と地面に「の」の字を書き始める北斗。そんな彼を面倒くさそうな表情で励ます刃、昔から刃は世話好きと言うかフォローが上手い、北斗の事は彼に任せようと再びデュエルに集中する。

 

確かに――コナミは怖い、だけど何故だろう?彼が――羨ましい――。

 

――――――

 

「どうした?お前のターンだぞ?」

 

光り輝く夜の街『マジカル・ブロードウェイ』にコナミの声が響く。煽っている訳ではない真剣で無機質なコナミらしい声音である。そんな彼の言葉に眼鏡をかけ直しながら口元に笑みを作り、零児も答える。

 

「何――君の実力に少々驚いただけだ。侮っていた訳ではないが――私も本腰を入れよう」

 

そう言ってデッキトップのカードを手札に加える零児。

 

「私は再び魔神王の契約書を発動し、墓地の『DDD神託王ダルク』と『DDパンドラ』を除外し、融合召喚!」

 

「墓地融合!?」

 

遊矢達が墓地での融合に目を見開く。一方でコナミは成程そういった効果か、と舌を巻く。

 

「神の威光伝えし王よ!災い封じ込めし坩堝に融け込み今一つとなりて新たな王を生み出さん!融合召喚!生誕せよ!『DDD烈火王テムジン』!」

 

DDD烈火王テムジン 攻撃力2000

 

聖女の名を持つ王と災いの壺が融合し、生まれたるは真紅の炎を纏う剣と盾を持つ鍜冶師を思わせる王、しかしこれ程の気を放つ王も零児にとっては通過点に過ぎない。

 

「更に私は『DDバフォメット』を召喚」

 

DDバフォメット 攻撃力1400

 

零児が場に呼び込んだのは山羊の角、獅子の鬣、白と黒の羽を持つ三本腕の異形、異形は不気味に蠢きテムジンを指差す。

 

「『DDバフォメット』は一ターンに一度、他の『DD』モンスターのレベルを1~8の任意のレベルに変更できる。私はテムジンのレベルを4に変更する。」

 

DDD烈火王テムジン レベル6→4

 

テムジンの体にまとわりつく炎の勢いが減っていく。恐らく星が落ちた影響だろう。

 

「レベル4のモンスターが2体……」

 

「ほう、この召喚方法にも精通しているか」

 

視線を交錯させる零児とコナミ、コナミが僅かばかりだが目を見開く。もしや――と1つの考えがよぎる。

 

「2体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築」

 

零児の背後に黒き渦が現れ、炎の王と異形を一つにする。そして。

 

「この世の全てを統べるため、今世界の頂に降臨せよ!エクシーズ召喚!生誕せよ!『DDD怒濤王シーザー』!」

 

DDD怒濤王シーザー 攻撃力2400

 

フィールドに押し寄せる波、丸いフォルムの所々に刺々しい鎧を纏い巨大な剣を構える水の王。しかしまだ風の英雄には及ばない、天空に座す者に届かないと言うならば――。

 

「アクションマジック『ティンクル・コメット』発動!GreatTORNADOの攻撃力を1000ポイントダウンさせ、500ポイントのダメージを与える!」

 

打ち落とせばいい。赤い彗星が英雄を天空から地に落とす。いかに自然の力を操ろうとも相手の規模は更に上、容易く英雄から飛行能力を奪い去る。

 

E・HEROGreatTORNADO 攻撃力2800→1800

 

コナミ LP4000→3500

 

「怒濤王シーザーでGreatTORNADOを攻撃、斬刑に処す」

 

シーザーの巨大な剣により風の英雄の体は2つに別たれる。そのスプラッターな光景に子供達は悲鳴を上げ、他の者も顔を歪める。

 

コナミ LP3500→2900

 

「ターンエンド」

 

赤馬 零児 LP1800

フィールド 『DDD怒濤王シーザー』(攻撃表示) 手札3

 

まさに一進一退、激しい攻防に観戦する遊矢達も息を飲む。当のコナミはと言うと。

 

「……面白いッ!」

 

口を弧に吊り上げ笑う。赤帽子の奥に潜む闘志に烈火の如く火が灯り、燃える。やがてコナミが左手をデッキに添え――赤き閃光を走らせた――。

 

「ドローッ!!」

 

珍しく大きな声を上げ、この状況を打破できる可能性を持つカードに目を向ける。引いたカードは『カメンレオン』。墓地の守備力0のモンスターを釣り上げるモンスターだ。瞬時にそのカードを叩きつける。

 

「『カメンレオン』を召喚し効果発動!」

 

カメンレオン 攻撃力1600

 

「君の墓地に守備力0のモンスターは……まさかっ!?」

 

零児が先程のコナミのターンを思い返す。そう見つけたのだ。1度だけ守備力0のモンスターが墓地に送られる可能性を。

 

「『調律』……ッ!」

 

『カメンレオン』が渦を作り出し、その長い舌で掴んだものを引き上げる。出てきたのはおもちゃの飛行機に乗ったゴブリン。ニヤリと笑いながら夜の街を旋回する。

 

「『ゴブリンドバーグ』を特殊召喚!」

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

「どう出てくる……?」

 

「オレは『ゴブリンドバーグ』に『カメンレオン』をチューニング!」

 

「そう来るか……!」

 

『カメンレオン』の体が弾けリングへと変わる。『ゴブリンドバーグ』が光のリングをくぐり抜け姿を変えていく。

 

「星海を切り裂く一筋の閃光よ!!魂を震わし世界に轟け!!シンクロ召喚!!『閃光竜スターダスト』!!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

星屑の竜はその雄々しき翼を広げ、自らの主に寄り添う。

 

「バトルだ『閃光竜スターダスト』で怒濤王シーザーに攻撃!流星閃撃(シューティング・ブラスト)!!」

 

スターダストの光のブレスが水の王へと迫る。そうはさせまいと零児はその場を跳躍し、フィールドに浮かぶカードを拾いデュエルディスクに叩きつける。

 

「アクションマジック『ハイダイブ』!『DDD怒濤王シーザー』の攻撃力を1000ポイントアップする!」

 

DDD怒濤王シーザー 攻撃力2400→3400

 

一瞬で攻撃力が逆転し、竜のブレスを剣で迎え撃とうとする王、しかし。

 

「アクションマジック『ハイダイブ』!スターダストの攻撃力を1000アップする!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500→3500

 

「ッ!?」

 

コナミの手により威力を増したブレスがシーザーを呑み込む、いかに押し寄せる波であろうと竜の放つ光の波には抗えず王は消え去る。

 

赤馬 零児 LP1800→1700

 

「……アクションデュエルは初めてなのでは?」

 

「二回も見れば充分だ」

 

口を一文字に引き締め零児が不満気な視線をコナミにぶつける。が、コナミは零児の行動を絶えず観察していた。1度目は突風でうまく見えなかったが2度目ははっきりと見た。零児がフィールドに散らばるカードを拾うのを、見ればできる。揺るぎなき境地や荒ぶる魂で通った道だ。加えてカードを拾うのには慣れている。

 

「……私は『DDD怒濤王シーザー』の効果によりデッキより『地獄門の契約書』を手札に加える」

 

「メインフェイズ2に入り墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外し効果発動『魔神王の契約書』を破壊しターンエンド」

 

コナミ LP2900

フィールド 『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

「私のターン、ドロー、私は『DDナイト・ハウリング』を召喚」

 

DDナイト・ハウリング 攻撃力300

 

零児の前に鋭い牙を見せる巨大な顎が現れる。その不気味な悪魔にコナミが警戒を示す。

 

「『DDナイト・ハウリング』の効果発動、墓地の『DD』モンスターを攻撃力、守備力を0にして特殊召喚する。私が選択するのは『DDバフォメット』」

 

再び零児の前に異形の悪魔が現れる。

 

DDバフォメット 攻撃力1400→0

 

「『DDバフォメット』の効果を使いランク4のエクシーズを……?」

 

「それもいいがね、折角君が2つの召喚法を見せてくれたのだ。私も見せるべきだろう」

 

そう言うと巨大な顎が弾き飛び三つのリングとなる。

 

「シンクロ召喚を!」

 

コナミが、いやこの場にいる全員が息を飲む、コナミとしては先程のターンで頭をよぎった事が的中した。と言った所であろう。

 

「やはりそう言うカテゴリか」

 

「ほう、見抜いていたか、君の思う通り私の『DD』は異次元を意味し、『DDD』は異次元を支配せし王!融合もエクシーズも、シンクロさえも!」

 

零児がそう言った途端、三つのリングに異形が飛び込む。

 

「『DDバフォメット』に『DDナイト・ハウリング』をチューニング、闇を切り裂く咆哮よ。疾風の速さを得て新たな王の産声となれ!シンクロ召喚!生誕せよ!『DDD疾風王アレクサンダー』!」

 

DDD疾風王アレクサンダー 攻撃力2500

 

風が吹き荒れ銀の輝きが切り裂く。現れたのは翡翠の宝玉があしらわれた銀の鎧を身につけ緑のマントをなびかせ、風の王が現れた。

 

「バトルだ『DDD疾風王アレクサンダー』で『閃光竜スターダスト』に攻撃」

 

「相討ち狙いか『閃光竜スターダスト』の効果1ターンに1度自分フィールドのカード1枚に破壊耐性を与える。スターダストを選択、波動音壁(ソニック・バリア)!」

 

竜の周りに球体状のバリアが出現する。しかし――。

 

「相討ち?違うな、アクションマジック『エクストリーム・ソード』!アレクサンダーの攻撃力を1000ポイントアップする!」

 

DDD疾風王アレクサンダー 攻撃力2500→3500

 

「ッ!スターダストは効果により破壊を免れる!」

 

「だが切れ味は受けてもらう」

 

アレクサンダーの放った風の剣閃が音の壁の僅かな隙間を切り裂く、しかしすかさず両翼を盾のようにする事で身を守る白き竜。

 

コナミ LP2900→1900

 

コナミのライフが確実に削られていく。ソリッドビジョンによる刺すような痛みに顔をしかめるコナミ。しかし同時に互いを削り合う攻防に思わず笑ってしまう。成程、アクションデュエル、悪くない。

 

「私はこれでターンエンド、さぁ君も見せてくれ」

 

赤馬 零児 LP1700 フィールド『DDD疾風王アレクサンダー』手札3

 

「オレのターン、ドロー……勝負に出るか『閃光竜スターダスト』の効果スターダスト自身に耐性を与え、バトル『DDD疾風王アレクサンダー』を攻撃、流星突撃(シューティング・アサルト)」

 

翼を折り畳み疾風の王へと矢のごとく突撃する竜。バリアを纏い、フィールドを一直線に突き進む竜はまさしく流星。王も自らの剣技を放つがその剣はバリアを切り裂いたのみ、竜には、届かない。

 

「ッ!ぐっ!」

 

「メインフェイズ2魔法発動『シンクロキャンセル』『閃光竜スターダスト』をエクストラデッキに戻し、シンクロ召喚に使用したシンクロ素材一組を特殊召喚する。来い『カメンレオン』、『ゴブリンドバーグ』」

 

カメンレオン 攻撃力1600

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

竜が光となって弾け、2体のモンスターへと姿を変える。

 

「やはり君も私と同じか」

 

「そのようだな、オレは2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、我が戦いはここから始まる、白き翼に望みを託せ、現れろNo.39、エクシーズ召喚!希望皇ホープ!!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

零児とコナミが視線を交わすと同時にコナミの背後に黒き渦が発生し、2体のモンスターを取り込む、そして渦よりいでしは白き身体、黄金の装飾の希望の皇、純白の翼を広げコナミの前に見参した。

 

「モンスターをセットしターンエンド」

 

コナミ LP1900 フィールド 『No.39希望皇ホープ』 セットモンスター セット1 手札1

 

「私のターン、ドロー……私と同じ三つの召喚法を自在に操る君に敬意を表して面白いものを見せよう」

 

「……面白いもの?」

 

零児の言葉にピクリとコナミが反応する。コナミが感じた零児の印象は堅実で冗談など言いそうにない自分と似たような人間と言った所だ。そんな彼が面白いもの、衝撃の真実でも明かされるのだろうか、と少し身構える。

 

「魔法カード発動『貪欲な壺』墓地の『DDD怒濤王シーザー』、『DDD疾風王アレクサンダー』、『DDD烈火王テムジン』、『DDナイト・ハウリング』、『DDバフォメット』をデッキに戻し二枚ドロー」

 

赤馬 零児 手札3→5

 

「永続魔法『地獄門の契約書』を発動し、『DD魔導賢者ガリレイ』を手札に加え……そうだな、アクションカードをセット……さて準備は整った。私はスケール1の『DD魔導賢者ガリレイ』とスケール10の『DD魔導賢者ケプラー』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

零児のデュエルディスクの両端に2枚のカードが設置され、2人の賢者が天空に浮かび上がる。その光景を見てコナミが激しく狼狽する。

 

「ッ!?ペン……デュラム……!?」

 

スケールと言う聞き慣れない言葉、そしてデュエルディスクの両端に存在するペンデュラムスケール、そこに設置された効果モンスターと魔法カードが合わさったようなカード、2枚の内の1枚は1ターン目に零児が召喚したカードだがあの時はよく見えなかった。

 

「これでレベル2からレベル9のモンスターが同時に召喚可能」

 

零児のこの行動に驚いたのはコナミだけではない。

 

「ペン……デュラム……?」

 

その中でも特に驚いたのは榊 遊矢。目は大きく見開かれ額から汗が伝う、開いた口が塞がらない声がかすれ呼吸が荒くなる。心臓が早鐘を打つ。

 

「遊矢……」

 

そんな彼を心配そうに表情を曇らせる柚子、そんな彼等を一瞥し、零児は新たなる王を呼ぶ。

 

「我が魂を揺らす大いなる力よ、この身に宿りて闇を引き裂く新たな光となれ!ペンデュラム召喚!」

 

瞬間、空に光の渦が発生し閃光が闇夜の街を引き裂いた。黒き巨体がコンクリートの地に降り立ち凄まじき地響きを轟かせる。漆黒の翼を広げ、鋭き牙が並ぶ顎を開き雄叫びを上げるのは龍、狂喜を宿らせた赤き目を輝かせ龍が喉を鳴らす。

 

「『DDD覇龍王ペンドラゴン』!」

 

DDD覇龍王ペンドラゴン 攻撃力2600

 

龍とは逆にふわりと体を浮かせ現れたのはねじ曲がった曲刀を持つ、異国の戦士を思わせる銀の王、真紅の外套を風になびかせ静かに地に降りる。

 

「『DDD制覇王カイゼル』!」

 

DDD制覇王カイゼル 攻撃力2800

 

そして龍よりも巨大な手足のない、振り子を模したような姿のモンスター、圧倒的な存在感を放ちながら、それは零児の背後に浮遊した。

 

「全ての王をも統べる超越神!『DDD死偉王ヘル・アーマゲドン』!」

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン 攻撃力3000

 

コナミの眼前立ち塞がる3体の魔王、そしてそれを従えしペンデュラム召喚の担い手赤馬 零児、強大な敵を前にコナミは――笑っていた――。




次回で赤馬戦は終了です。コナミ君のエースカードも出るよ!



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第7話 限界バトル

これから忙しくなりそうなので投稿が遅くなってしまう可能性があります。
楽しみに待ってくださってる人はすいません。ただ、できる限りは週一投稿をしたいと思ってます。後ごめんユート君。先に謝っておく。君の扱いだけは変えない。それが俺のプライド!(王様


「決まりましたわね」

 

今までコナミと零児の試合を見守っていた赤馬 日美香が口を開く。確かにあの赤帽子の少年は強い。LDS最強のデュエリストを前にここまで食い下がり、テスト段階のペンデュラムまで引き出したのだから。もしもペンデュラムがなければ負けていたかもしれないと考えるとゾッとするが。

 

「まっまだ終わってないよ!」

 

そんな彼女に声を出して食って掛かったのは遊勝塾の少年、フトシだ。彼は両手を強く握り日美香を睨み付ける。

 

「まだデュエルは終わってない!コナミ兄ちゃんは絶対に勝つ!」

 

唇を噛み締め、日美香の言葉を否定する。まだデュエルは終わってない。まだ可能性は残っている。とその瞳は物語っている。

 

「いいえ、無理よ。零児さんのモンスターはどれもあの少年のモンスターの攻撃力を上回っていて、ペンデュラム召喚した制覇王カイゼルの効果で彼のモンスターの効果は無効化し、しかも制覇王カイゼルは最大3回の攻撃を可能とするモンスター効果まである。それでも希望があると?」

 

「あるよ!」

 

日美香の説明を聞いても尚フトシは諦めない。いや、フトシだけじゃない。

 

「コナミお兄ちゃんは勝つよ!」

 

声を上げたのはアユ、彼女の目にも絶望の色はない。

 

「コナミお兄ちゃんは負けない!私の後輩は負けない!」

 

「話しにならないわね。何を根拠に……」

 

やれやれと溜め息を吐く日美香。そんな彼女に

 

「コナミは勝つ」

 

ペンデュラム召喚の祖である榊 遊矢は異を唱える。目をキッと吊り上げ、両の拳を握りしめ、彼は言う。

 

「俺はまだアイツとは知り合ってばかりでアイツの事は何も知らない。だけど、アイツが任せろって言ったんだ。口数が少ない、大人しいアイツが。だから――俺はアイツを信じる」

 

何故、こんなにも彼等は希望を捨てないのだろう?何故、彼を信じられるのだろう?

 

「いいでしょう。なら見るといいわ。彼が惨めに負ける姿を」

 

そうすれば彼等も諦めるだろうと日美香は考える。

 

(どうしてこんな逆境なのに安心出来るんだろうな)

 

何故、これ程までコナミが負ける姿が想像できないのだろうと考えコナミに視線を移す。答えはすぐにわかった。

 

(あ……)

 

答えは簡単な事だった。何故気付かなかったと笑ってしまいたい程に、シンプルで遊矢が最も信じる事。

 

(泣きたい時は笑え……そうだったな……父さん)

 

こんな逆境でも苦しい顔一つせず、むしろ口の端を吊り上げ不敵に笑うコナミ。その姿が、その背中が、どうしようもなく父と似ていた。

 

――――――

 

「『DDD制覇王カイゼル』はペンデュラム召喚に成功した場合、相手フィールド上の表側表示のカードの効果を無効化する。そして『DDD制覇王カイゼル』の更なる効果!魔法、罠ゾーンの『地獄門の契約書』とセットしたアクションカードを破壊し、3回の攻撃を可能とする!バトルだ!『DDD制覇王カイゼル』で希望皇ホープに攻撃!」

 

凄まじい速度で希望皇ホープの懐まで肉薄し、その曲刀を振るう制覇王カイゼル。ホープは自らの翼を盾にしようとするも、黒き雷が展開を阻み、砕け散る。

 

コナミ LP1900→1600

 

「2回目の攻撃!セットモンスターを破壊しろ!」

 

再び曲刀を構え、コナミの前に浮遊する黒き球体に向け容赦なき斬撃が繰り出される。破壊されたモンスターは『ジェット・シンクロン』。

 

「止めだ!3回目の攻撃!制覇王カイゼルでダイレクト・アタック!」

 

瞬時にコナミの眼前に移動し、2体のモンスターを葬った鈍く輝く曲刀がコナミに降り下ろされる。

 

「ッ!アクションマジック『回避』!攻撃を無効にする!」

 

傍に浮遊するカードを掴み、すかさずプレートに叩きつけるコナミ。間一髪。しかしまだバトルは終わってない。

 

「『DDD覇龍王ペンドラゴン』で攻撃!」

 

すぐさま零児の指令が飛ぶ。黒き体躯の龍王が翼を広げコナミの前に現れ、丸太のような太い剛腕を、鋭い爪を降り下ろす。

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にして1枚ドロー!」

 

龍王の強大な力をコナミの前に現れたバリアが防ぐ。まだ希望は残っている。

 

「……君なら防ぐと思っていた。だが!これで終わりだ!行けッ!『DDD死偉王ヘル・アーマゲドン』!!ダイレクト・アタック!」

 

巨大な悪魔がコナミに向かって振り子の軌道を描き迫る。その姿はまるで希望を根こそぎ刈り取るギロチン。風を切り、空気を引き裂き、ブオンッと音を刈り取りながらコナミに迫る。これで全てが終わる。そして――直撃した。

 

激しい破壊音が辺りに響く。ビルが破壊され、ガラガラと崩れていく。土煙が上がり、晴れたその先には――――無傷のコナミが立っていた――――。

 

「馬鹿な……ッ!」

 

両の眼を見開き、今まで以上に激しく動揺する零児。

 

「オレは手札より『クリボー』の効果を発動していた」

 

コナミが墓地より一枚のカードを見せる。毛むくじゃらの小さな悪魔の姿が描かれたモンスターカード。1度だけ、たった1度だけ戦闘ダメージを0にするカード。そのカードがコナミを救った。

 

「『ガード・ブロック』の時に引いたのか……っ」

 

つくづく運の良い奴だ。いやここまで来ると実力か。だが結果は変わらない。次のターンに全てが終わる。そう考え、冷静さを取り戻す。

 

「ターンエンドだ」

 

赤馬 零児 LP1700

フィールド 『DDD死偉王ヘル・アーマゲドン』(攻撃表示) 『DDD制覇王カイゼル』(攻撃表示) 『DDD覇龍王ペンドラゴン』(攻撃表示)

Pゾーン『DD魔導賢者ガリレイ』 『DD魔導賢者ケプラー』

手札0

 

ピンチを逃れはしたが圧倒的不利は変わらない。それどころかこのターンで何とかしなければ、次のターン再びあの圧倒的な力を誇る王達が牙を剥き、敗北してしまうだろう。しかし現在、コナミの手札は1枚、フィールドはがら空き。正真正銘ラストターン。だと言うのに、口がにやける。武者震いが止まらない。これ以上なく心臓がドクドクと脈打つ。楽しい――だけどまだ足りない。もっと、もっとだ。この状況から1枚のドローで逆転してみろ。そう考えるとコナミは楽しくて堪らない。そんな中――

 

「コナミ!」

 

観客席から声が上がる。ふと視線を動かすとそこには遊勝塾の面々がコナミに向かいエールを送る。

 

「負けるなー!!コナミ兄ちゃああああん!!」

 

子供達が。

 

「男を見せる時だコナミ!」

 

権現坂が。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!勝てぇぇぇぇ!!コナミぃぃぃぃ!!」

 

塾長が。

 

「勝って!コナミ!!」

 

柚子が。

 

「コナミ!」

 

そして遊矢が。

 

「任せた!!」

 

皆それぞれが声を上げ、コナミに声援を送る。こんな状況でも誰一人コナミの勝利を疑わない。何故だか分からないが、胸がどうしようもなく熱くなる。負けられない、負けたくない。――だから――未来を信じてドローした。

 

「任せろ!!」

 

ドローしたカードに視線を移す。それは確かに勝利へのピース。だがこれだけじゃ足りない。そう思い、ビルとビルの間を蹴り、空中に浮かぶカードを手に取る。これで――。

 

「勝利の方程式は完成した」

 

「何?」

 

コナミの勝利宣言に目を吊り上げる零児。それもそのはず。この圧倒的不利を覆すと言うなら正しく奇跡なのだから。だがこのデュエリストは。

 

「手札を1枚捨て、魔法発動」

 

容易く奇跡を起こす。

 

「『ペンデュラム・コール』!!」

 

「何!?」

 

コナミが発動したカード。『ペンデュラム』の名を持つそのカードに驚愕の声を上げる零児。まさかこの男は、と脳裏にある光景が過る。

 

「オレも、オレと同じく3つの召喚法を操るお前に面白い物を見せてやる」

 

先程の零児の焼き回しのような台詞に眉をひそめ、歯を食い縛る零児。

 

「カード名が異なる2体の『魔術師』モンスターを手札に加える!オレは『竜脈の魔術師』と『竜穴の魔術師』を手札に加える!」

 

コナミの手札に通常モンスターと魔法カードが合わさったようなカードが加えられる。それは正しくペンデュラムカード。コナミが興味を示したコナミも知らないカード。だからこそ、使い方が分からなかった。

 

「お前のお陰で使い方は分かった」

 

「ッ!!」

 

見れば、できる。

 

「オレはスケール1の『竜脈の魔術師』とスケール8の『竜穴の魔術師』でペンデュラムスケールにセッティング!!」

 

2枚のカードが光のプレートの両端に叩きつけられ、デュエルディスクが七色に光る。

 

「お前の先程の言葉を聞く限り、スケールとスケールの間のレベルのモンスターが特殊召喚できるようだ。つまり俺が召喚できるのはレベル2からレベル7までのモンスター」

 

ならば手札のこのモンスターは召喚できる。

 

「揺れろ光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!」

 

夜空に巨大な光の魔方陣が現れ、一筋の閃光がコナミの前に降り立つ。その姿は竜、赤と緑のオッドアイを輝かせ、胸に青の球体を抱く真紅の竜。背の二本角を唸らせ咆哮する、その竜の名は。

 

「世にも珍しい二色の目を持つ龍!『オッドアイズ・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

コナミの前に現れた真紅の竜、その存在にこの場全員が驚愕し注目する。しかし。

 

「『オッドアイズ・ドラゴン』……?残念ながらそのモンスターでは私のモンスターを倒す事など」

 

「倒せないなら、届かせる」

 

その言葉に誰よりも早く反応したのは榊 遊矢、かつてこの竜を使役した少年。

 

「『オッドアイズ・ドラゴン』の効果は相手のモンスターを破壊し、墓地に送った場合、その攻撃力の半分のダメージを与える。でも……」

 

「『オッドアイズ・ドラゴン』の攻撃力は2500……これでは……」

 

遊矢に続くように言葉を紡ぐ権現坂。そんな彼等に。

 

「1つだけあるわ」

 

柚子が1つの可能性を見つけ出す。

 

「だが、どうやって!?」

 

「あるじゃない!一発逆転の、この逆境を覆すそんなカードが!アクションマジックが!」

 

そう、アクションデュエルだけの、デュエリストの希望とも取れる可能性のカード。もしもそのカードを見つけ出し使う事が出来たなら。

 

「攻撃力を500、500だけ上げれば」

 

「ペンドラゴンを破壊し、戦闘ダメージと合わせて1700のダメージを与え勝利できる……!」

 

コナミが掴み取った一発逆転の可能性、勝利の方程式に色めき立つ遊勝塾。彼等の期待に応えるべく、コナミは真紅の竜に跨がり移動を始める。

 

「くっ!させるか!」

 

そんな彼の邪魔をするべく、漆黒の龍の背に乗りコナミを追う零児。彼等の前には1枚のカード。あと10㎝

 

「いっけー!コナミお兄さーん!!」

 

あと7㎝

 

「零児さんっ!!」

 

あと5㎝

 

「コナミ!頑張って!」

 

あと3㎝

 

「コナミ!」

 

あと1㎝、コナミがカードを掴もうとしたその時。

 

 

 

 

 

カードが光となって消えた。いやカードだけじゃない『マジカル・ブロードウェイ』が、零児の王達が、『オッドアイズ・ドラゴン』が光となって消えていく。

 

「これは……一体……?」

 

目の前で起こる出来事に目を瞬かせ、動揺するコナミ。その原因は直ぐに分かった。

 

「うおおおぉぉぉぉ!?ソリッドビジョン投影装置が煙を上げてるぅ!?」

 

ソリッドビジョン投影装置の故障。それによりデュエルが中断されたのだ。ならば普通のスタンティングデュエルで決着を着けよう、そうコナミが考えた時。

 

「なんですって!?」

 

観客席の日美香が声を上げる。どうやら通信機器で連絡を取っているようだが、それにしては様子がおかしい。

 

「零児さん!!」

 

日美香の呼び掛けに軽く頷く零児。彼はコナミと遊矢を一瞥した後。

 

「決着は舞網チャンピオンシップでつける」

 

そう言って踵を返し、マフラーをふわりと靡かせ帰っていく。しかしふと何を思ったのか立ち止まり。

 

「その時には君達のペンデュラムのその先を、見たいものだ」

 

その言葉を最後に零児は、LDSは遊勝塾を立ち去った。彼の言うペンデュラムのその先が何なのかは今は分からない。ただ、今は遊勝塾の皆と仲間と危機が去った事を喜びたいと思った。

――ただ2人、コナミを観察するかのような紫雲院 素良と複雑な表情をした遊矢を除いて――

 

――――――

 

「終わったか……」

 

コンテナが並ぶ湾岸、男はそこにいた。口元にスカーフを巻きサングラスで自らの鋭き目を隠し、コートを着た男。男の周りには何人ものデュエリスト達が呻き声を上げながら伏せていく。正に死屍累々と言ったところか。男はサングラスを外し、その猛禽類のごとき眼でデュエリスト達を一瞥し、相棒に語りかける。

 

「何故、カード化しない」

 

男の視線の先にはコンテナの上でカチャカチャと自分のデュエルディスクをいじる、重々しいヘッドフォンを首に下げた黒い帽子の少年が座り込んでいる。

 

「……そんな事をやってみろ、もう、そいつ等とデュエルができない」

 

男の方を見向きもせず答える黒帽子の少年。少年にとってデュエルこそが全て、そう言うように。

 

「……甘いな……しかしユートの奴め……あれ程単独行動は控えろと言っておいて……」

 

「全くだ」

 

眉をひそめ苦々しい顔で舌打ちする男、黒帽子の少年も表情こそ変えないが同意する。

 

「さて……次はどうする?」

 

――コナミ――

 

 




と言う訳でコナミ君のエースカードはオッ素です。書き換える可能性はなきにしもあらず。

オッ素「えっ」

リミテッド・バリアンズ・フォース「俺で慣れておけ……」

ドン千「書き換える?書き換えちゃう?」うずうず


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第8話 こんなんじゃ満足できねぇぜ

私が投稿したのは第8話!これで週一更新ができ……ハッ!(まだプロット段階の第9話を見て


LDS襲撃事件より暫くたったある日。コナミは遊勝塾のソファで死体のようにぐったりとしていた。ぴくりとも動く気配が無い。

 

「どうしたんだ?コナミ……?」

 

そんな彼を心配そうに覗き込むのはコナミと同じ遊勝塾の生徒、遊矢だ。彼もあの後自分の、自分だけの力であるペンデュラムをコナミと零児が使用した事により傷心し塞ぎ込んでしまったが、彼を心配した塾長、修造との熱血デュエルを通し迷いを振り切った。

 

「舞網チャンピオンシップの出場条件よ」

 

「へ?」

 

「コナミ、チャンピオンシップの出場条件を満たしてないの……」

 

コナミを心配し、おろおろと忙しなくする遊矢に柚子が答える。そう、赤馬 零児との再戦を誓った舞網チャンピオンシップ。コナミとしてもデュエルの大会に参加できると言うなら嬉々として飛び込むだろう。そう、参加できると言うなら……。実はこの舞網チャンピオンシップ、参加するにも条件がある。その条件とは40戦近くの公式戦をこなし、かつ公式戦勝率6割以上である。因みにコナミはこの舞網市に来たばかり。勝ち星もネオ沢渡戦の1回、それも野良試合であるため公式戦に入らない。

 

はっきり言って今から40戦以上の公式戦を組むなど不可能である。つまりコナミは舞網チャンピオンシップには参加出来ない。そのためこうして死体と成り果てているのである。

 

「ああ……うん、成程。何とも間抜けな話だなぁ再戦を誓ったのに参加条件すら満たしてないなんて」

 

無意識に毒を吐く遊矢に珍しくぐぬぅとコナミが情けない声を漏らす。デュエルしたいのにできない。コナミにとって生き地獄である。こんなんじゃ満足できねぇぜ……。こうなったら乱入して満足するしかねぇ、とかつての満足同盟のファッションリーダーのように不穏な事を考えていると遊矢が声を掛ける。

 

「コナミ」

 

先程の苦笑いとは打って変わって真剣な表情で語りかける。その真剣さを感じたのかコナミも姿勢を正し、顔を合わせる。

 

「俺さ、お前に嫉妬してた」

 

「遊矢……?」

 

「あのデュエル、赤馬 零児とお前は融合やシンクロ、エクシーズを自在に操り、そしてペンデュラムまで繰り出した。……正直、悔しかったよ。ペンデュラムは俺だけの物なのにって」

 

「……そうか。お前もペンデュラムを……」

 

「ああ、でも塾長に目を覚ましてもらった」

 

視線を自らの掌に落とす遊矢。その表情は重い荷物を下ろしたかのようにスッキリとしている。

 

「ペンデュラムが他の人達にも使われるって言うならそれでも良い。俺は、俺だけのペンデュラムでエンタメってやる」

 

グッと力強く握り拳を作る遊矢。そんな彼の言葉に首を傾げるコナミ。

 

「……エンタメ……?」

 

「ああ、観客も相手も笑顔にする。俺の信じるデュエルさ!」

 

遊矢の脳裏に浮かび上がるのは父親の姿。沸き上がる歓声、人々の笑顔。自身の憧れる最高のショー。

 

「そこに、お前はいるのか?」

 

「――え?――」

 

「見てる人々を、相手を楽しませたいのなら、笑顔にしたいなら、何よりも、誰よりも」

 

――自分が楽しめ――

 

「お前の信じるデュエルは苦難の道だ。だから――泣きたい時こそ笑え――」

 

ふとコナミの姿が自らの父と、榊 遊勝と重なる。やはりこの少年は

 

「ああ!」

 

俺の理想だ、と。

 

「だから誓うよ。コナミ。お前が舞網チャンピオンシップに出るって言うなら、その舞台でお前と闘って俺のエンタメデュエルを見せてやる!とびきりの笑顔にしてみせる!俺はお前を超えたいんだ!!」

 

それは誓い。榊 遊矢がコナミと言うデュエリストに憧れを抱き、彼のようなデュエリストに、華々しいエンタメデュエルをしたいと思い、胸に刻んだ約束。彼のようなデュエリストになりたい。例え、逆境でもデュエルを楽しみ、真摯に向き合う、本物のデュエリストに。

 

「為らば誓おう」

 

その誓いに応えるべく、コナミは立ち上がる。目の前の少年に、1人のデュエリストの覚悟に向き合う為に。

 

「オレは舞網チャンピオンシップに出場してみせる。お前とのデュエルで観客よりも、お前よりも、誰よりも楽しんでやる。オレが一番、デュエルを楽しんでやる」

 

自らの胸に親指を突き立て、不敵に笑うコナミ。だが遊矢とて黙っていない。

 

「いいや」

 

コナミに対抗するように立ち上がり、満面の笑みで向き合う遊矢。

 

「俺の方が楽しんでやる!」

 

その笑顔に対抗意識を燃やし、「いいやオレが」とコナミが言い返すとムッと眉をひそめて「いやいや俺が」と同じようなやり取りを繰り返す。やがてその事が可笑しくなり、声を出して笑い合う。遊矢も、コナミも、そして柚子も。そんな中、遊矢は思いを馳せる。

 

――きっとコナミとのデュエルは、笑っちゃうほど楽しいだろうな――

 

何時かその時が来るまでもっともっと強くなろう。お互いに全力を出して、笑い合って、観客も遊勝塾の皆も楽しんで、何よりも、自分とコナミが楽しむ最高のデュエル。それはきっと父さんのエンタメデュエルも超えるだろうな。と思い誓いをより強固な物とする。

 

 

 

 

 

「でも、どうするの?コナミ?」

 

「……知らん。オレの管轄外だ」

 

そんな楽しげな空気も柚子の一声で全て壊すんだ!される。しかし本当にどうすればいいか分からない。思わずどこぞのナンバーズハンターのような台詞で答えてしまうコナミ。そんな彼を見かねて溜め息をつき、1枚のポスターを差し出す柚子。どうやら舞網チャンピオンシップのポスターのようだ。柚子はポスターに書かれた小さな文字を指差す。

 

「成程。6連勝か」

 

「そうよ。舞網市に来たばかりの人は公式戦で6連勝すれば出場条件は満たされる」

 

柚子が提案したのは唯一の例外。例え40戦以上の公式戦をこなし、6割以上の勝利を得なくとも、6連勝さえすれば出場出来る。一種の救済処置だろう。そうと決まればコナミの行動は早い。くるりと踵を返しデュエリストを狩るために部屋を出ようとする。――が――

 

がっちりと柚子に腕を掴まれた。その華奢な体の何処にこんな力を隠していたのだろう。コナミを掴んだ腕はびくともしない。女とてデュエリスト。柚子の中に眠るストロングにコナミは軽く戦慄する。

 

「何処に行くの?」

 

「デュエルを……デュエルを……」

 

冷や汗を垂らしながら、まるで壊れた機械のように……いや飢えた獣のように「デュエルを……」と繰り返すコナミとその獣のリードを握る柚子(飼い主)。

 

「今日はもう遅いわよ」

 

コナミの頭を掴み、窓の方向へ動かす。もう暗くなってしまった外の様子を見せる。

 

「……デュエル……」

 

「帰って夕飯にしましょう?コナミの好きなもの作ってあげるから、ね?」

 

言い訳の聞かない子供に接するように優しく微笑む柚子。流石のコナミも仕方なく折れる。

 

「……プリン……」

 

「プッ、プリンね。う、うん作った事無いけど、やってみるわ。ええ」

 

まさかのプリンに苦笑いし、しかし約束なのだから頑張って作ろう。後でレシピ本と材料を買おうと誓う柚子。対するコナミはこんなんじゃ満足できねぇぜと項垂れるのであった。

 

――――――

 

その夜。柚子の作った不恰好なプリンを平らげたコナミは1人、部屋で思考していた。考えるのはただ1つ。舞網チャンピオンシップである。チャンピオンシップの出場するには6連勝、しかも公式戦でなければならない。しかしコナミには公式戦まで辿り着く人脈はコナミにはない。そんなコナミがアポ無しで公式戦までこぎ着ける方法。色々な事を考えた。塾長に頼む。プロデューサーを探す。だが何れも時間が掛かる。そんな中、コナミが出した1つの答え。たった1つの冴えた方法、それは――

 

――道場破りで……満足するしかねぇ!――




と言う訳でコナミ君には遊矢君のライバルになって貰いました。社長?どうみてもライバルっぽくないんだけど……どっちかと言うと中ボス……
次回からはコナミ君の6連戦タッグデュエルです。シリアスも少なくなる……筈。


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第9話 おい看板賭けろよ

活動報告にて番外編についてのアンケート実施中です。興味のある人はご意見ください。
それはそうと今月のVジャンが売り切れとは……漫画ARC-V見たかったのに……こんな事が本当にあるとは……俺には鉄の意思も鋼の強さもなかった……!


「コナミー?朝よーって……ええ!?」

 

小気味の良いノック音がドアを叩き、部屋の主たるコナミが返事を返す前にこの家の主の娘である柚子が入室する。あまり誉められた行為ではないが、最早毎朝の作業と化しているため遠慮は必要ない。コナミは起こすまで寝る。某居眠りポケモン並みに眠るコナミの生活を正すために柚子は彼の部屋まで赴いているのだ。今日もぐっすり寝ているだろうと思ったのだが――その予想は裏切られた。

 

なんとコナミが起きているのだ。デュエルするか寝るかが主な行動のコナミが。素良に「デュエルおばけ」と言われる程のあのコナミが。慌てて柚子は片膝を立てて座るコナミの前に座り彼の額に手を当てる。

 

「……どうした?」

 

「熱は……ないわね……じゃあどうして……?」

 

「……今日は急ぎの用があるから早起きしただけだ。夢の中だけ満足しても意味がないからな」

 

「え?」

 

柚子の困惑した表情に見向きもせず、床に置かれたカードをデュエルディスクに設置しツカツカと部屋を出る。その前に。

 

「……道場破りに行く。昼頃には帰ってくる」

 

バン、とまるで犯罪者を刑務所まで連れていくトラックのドアが閉まるような音と共にコナミは家を出た。

 

「…………えっ」

 

後に残された柚子は間の抜けた声を上げる他なかった。

 

――――――

 

舞網市B地区。裏通りから続くその道には一軒の道場が存在する。厳かで神聖な雰囲気を醸し出すその道場の前で2人の少年が言い争ったていた。

 

「いい加減にしやがれ黒門!なんであんな馬鹿な事やってんだ!」

 

1人は竹刀を持った背丈の低い少年。鋭い目付きに無造作に伸びた髪。快活で人付き合いの良さそうな印象を見受ける。そんな彼が表情を険しくし、目の前の少年を睨めつける。今にも飛び掛かりそうな光景である。

 

「はんっ!テメェにゃあ関係ねぇだろ!裏切り者の刃君よぉ!?」

 

もう1人は緑の髪に大きなヘッドバンド、幾つものピアスに鼻の頭に貼られた絆創膏。此処の物と思われる黒い道着を着崩した如何にも不良と言ったような特徴の少年だ。彼は顎を反らし、刃と呼んだ少年に向かい不快そうな表情を隠しもせず挑発する。

 

「ッ!裏切り者だぁ!?ふざけんな!俺が何時裏切ったってんだ!?」

 

少年の言葉で頭に血が上ったのか、犬歯を剥き出しにして黒門と呼んだ少年に掴み掛かる刃。本人も気がつかず息が荒々しくなる。

 

「ああ!?テメェが俺達に何の相談もせずLDSに移籍したからだろうが!?」

 

「ッ!?それは!?」

 

「今更どうでも良い!テメェはもうこの道場にとって部外者なんだ!俺達の事も放って置いて貰おうか!!」

 

「そう言うわけには……!」

 

額を擦り付け合い、今にも殴り合に発展しそうな険悪な雰囲気を出す2人の少年。そんな彼等の耳に。

 

――――――

 

「……何だこの音?」

 

「ああ!?誤魔化す気かテメェ!」

 

「いや……待て黒門。何か聞こえねぇか?」

 

――――――

 

「…………何だこの音?」

 

その場に響き渡る音色に奇しくも先程の刃と同じ反応を返す黒門。

 

「……ハーモニカ……?」

 

そう彼等の耳に届いたのは間違いない。ハーモニカの音色。たがしかし、その音色を運ぶ者の影はない。一体何処から。と二人の少年が首を傾げた時。

 

――――――

 

「……おい、ありゃあ……」

 

彼は現れた。朝陽を背にハーモニカを吹きながら此方に静かに、ゆっくりと近付く人影。2人の少年は目を凝らしその人影を注視する。眩き光を背負う人物の正体。段々とその姿が見えてくる。右腕には黄金に輝くデュエルディスク。鍛えられた腕を剥き出しにした野性的なノースリーブのジャケット。そしてトレードマークの赤い帽子。そう、コナミである。

 

「…………」

 

「…………」

 

赤帽子の少年の登場に口を開き唖然とする黒門と刃。それもそうだろう。いきなり見知らぬ人物が朝陽をバックにハーモニカを流暢に吹きながら悠然と此方に歩んで来るのである。シュールを通り越してホラーである。何よりも二人の思考を支配する物は。

 

((ジャケット糞ダセェ))

 

ノースリーブのジャケットである。もうハーモニカとか、目の前の少年の正体とかどうでも良かった。2人の頭の中はジャケットで一杯である。なんでノースリーブ?それどこで売ってるの?もしかして手作り?なんか此方が恥ずかしいからジャケットだけでも脱ごうか?口に出したいが少年の発する謎の威圧感が二人の口を縫い付けるように閉ざす。と言うか関わりたくない。そんな彼等の考えは。

 

「……お前は……確かLDSの……」

 

全て壊すんだ!彼等の祈りも虚しく書き消される。声を掛けられた刃はビクリと肩を揺らす。傍に立つ黒門は先程の口喧嘩の時よりも激しく刃を睨み付ける。「お前コイツの知り合いかよ」と鋭い目で刃を責める。そんな黒門の無言の圧力から目を反らし、冷や汗をダラダラと垂らしながらコナミに返事を返す。

 

「……そう言うお前は遊勝塾の……」

 

「コナミだ」

 

「……ああ、そうだったな……」

 

コナミの簡潔な自己紹介に力なく返事を返す刃。一方コナミはキョロキョロと道場を見渡し、最後に黒門をジッと見つめる。ビクリと肩を揺らす黒門。

 

「……お前は此処の門下生か……?」

 

「おっおおう……何だテメェコラ!」

 

コナミの観察するような視線に気を削がれながらチンピラのような言葉を放つ。気のせいか声に勢いがないが。

 

「道場破りに来た」

 

黒門の攻撃的な視線をかわし、まるでコンビニで「それチンして」と言った風な軽く重大な事を言い放つ。コナミの宣言に何を言っているのか分からないと言った様子で目を瞬かせる黒門。しかしすぐに理解する。この男は本気で言っている。と。

 

「ッ!ふざけんな!何を馬鹿な事言ってんだテメェ!」

 

息を荒げ、青筋を浮かべコナミを睨む黒門。しかし傍に立つ刃はニヤリと口を歪め、ポンと黒門の肩を叩く。

 

「いいじゃねぇか黒門。看板賭けろよ」

 

「はぁ!?テメェ……!他人事だと思って」

 

「いいのか黒門?コイツは強いぜ。コイツならお前も満足できると思うぜ」

 

「……コイツが……?」

 

何やら言い出したコナミを放って話が進んでいく。そんなコナミが目に入ったのか刃はコナミを手招きし、小声で喋りかける。

 

「あー……コナミ、俺は刀堂 刃。LDSシンクロコースに所属している。ちょっとすまねぇけど協力してくれ」

 

「頼む!」と両手を合わせて頭を下げる刃。

 

「……何があった?」

 

「俺は元々この二階堂道場に通っててよ。LDSからスカウトが来て移籍したんだが、その時にそこの黒門 暗次が裏切り者呼ばわりしてきてな。俺が道場から離れて競争相手が居なくなったのかデビルズ・ゲートとか言う不良グループを作って見境なくデュエルするようになった……。強い奴を探してな。このままじゃあいつがダメになっちまいそうでよ……頼む協力してくれ……!」

 

眉を八の字にしてコナミに頼み込む刃。本来なら敵である遊勝塾所属のコナミにあたまを下げると言うのは相当の事なのだろう。コナミは成程、刀堂 刃(シンクロ)のせいなのねと思いながらポンと手を合わせる。そう言う事なら渡りに船だ。

 

「おい黒門」

 

「ああ?」

 

「この道場の看板を賭けてオレ達と公式戦の、タッグデュエルをしろ」

 

「……テメェ……」

 

歯を食い縛り、目を剥く黒門。そんな彼に間髪入れず言い放つ。

 

「恐いのか?」

 

「上等だゴラァ!」

 

言っては悪いが見た目通り粗暴で単純な人物のようだ。ドカドカと大股で道場に入り、「こっち来いやぁ!」と青筋を立てる黒門に案内される。外は和風で神聖な空気を醸し出しいたが中は意外にも広く機械的である。よく見れば其処らに木刀やらバイクっぽい乗り物が不規則に置かれている。

 

「光焔!ちょっと来い!」

 

「はっはいぃっ!」

 

苛立ちを含んだ怒鳴り声に道場の隅で体育座りをしていた女の子がビクリと肩を揺らし立ち上がる。どうやらここの門下生のようだ。黒門と同じ黒い道着に袴を彼とは違いキッチリと着こなした茶髪のおどおどとした少女。彼女はあわあわと忙しなく駆け寄ってくる。

 

「タッグデュエルだろ?俺はこの光焔 ねねとタッグを組むぜ」

 

「タッ、タッグデュエルですかぁ?聞いてませ……」

 

「文句あっか?」

 

「あ……ありませぇん……」

 

犬歯を剥き出しにし、ギロリとねねを睨み付ける。脅しである。見た目通り弱気な彼女は頭を守るように抑えて涙目でコクコクと何度も頷く。まるで肉食動物と小動物である。気のせいか黒門の後ろに虎が、ねねの後ろにリスが見える。

 

「帝野ぉ!アクションフィールドを展開しろぉ!!」

 

道場の奥に居座る帽子を被った少年へ大声で怒鳴りつける。同じく道着を着ている彼も門下生だろう。帝野と呼ばれた少年は「へいへい」と呟きながらアクションフィールドを展開する。光の粒子と共にフィールドが姿を変えていく。足元は地面に変わり、ひび割れ、崩れていく。まるで海底のごとき暗い崖が出現し、巨大で禍々しい門がそびえ立つ。

 

「ハハハッ!最ッ高だぜ!!なぁ刀堂!?」

 

「チッ『暗黒界の門』かよ……」

 

「成程……。奴のデッキは『暗黒界』か……」

 

口を歪め、笑い声を上げる黒門と苦々しい顔で歯ぎしりをする刃。コナミは2人のやり取りで察した。黒門のデッキの正体を。『暗黒界』とは手札から墓地へ『捨てられる』事により様々な効果を発揮する悪魔族のモンスターで構成されたカード軍である。手札交換を行いながら強力なモンスターを展開し、攻めていく。安定性もあるため使い手によっては脅威を増す。コナミも『暗黒界』に関する知識を持つため警戒を示す。

 

「……コナミ」

 

「……なんだ?」

 

そんな彼に話し掛ける刃。申し訳なさそうに眉を伏せ、唇を噛む。

 

「俺はお前と知り合ってばかりでしかも敵同士だ。そんなお前を頼るのは間違っている。だけど……だけどあいつは」

 

「やめろ」

 

「ッ!?」

 

刃の言葉を遮るようにデュエルディスクを構え光のプレートを展開するコナミ。別に刃の言葉が気に障った。等と言う事はない。ただ思ったのだ。

 

「その先の言葉は……オレに向ける言葉じゃない筈だ」

 

「……へっ!そうだな!」

 

「くっちゃべってねぇで始めるぞ!」

 

痺れを切らしたのか黒門が不快そうな顔色を隠しもせず、地面をガンッと強く蹴る。どうやら相手は既に準備が出来ているようだ。展開されたプレートが物語っている。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

答えるようにデュエルディスクを構え口上を放ったのは刃。彼はニヤリと黒門を挑発するように笑う。ならば、とコナミが身を乗り出し刃に続く。

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

 

彼等の挑発的な態度に苛立ちを覚えた黒門は歯を食い縛り、対抗するように吠える。

 

「フィールド内を駆け巡るゥ!!」

 

その鬼気迫る表情に隣で小さく身を縮ませるねねが「ぴぃっ」と怯え両手で頭を抑える。……あのタッグは大丈夫だろうか?

 

「みっ、見よぅ、これぞデュエルの最強進化形ぃぃ……!」

 

あんな状態でも口上を言うあたり大丈夫なようだ。隣の鬼に怯え震えながらもまるで生まれたての小鹿のように頑張っている。

 

「「「「アクショーン!!」」」」

 

そして。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

其々の譲れないものを賭けてデュエルが始まる。

 

「まずは俺だぁ!俺のターン!」

 

山札より力強く5枚のカードを引き抜き、自らのターンを宣言したのは黒門。彼は自らの手札を見てニヤリと笑う。何を引いた――コナミが思考したその時。

 

「さぁいくぜ!魔法カード発動!!『手札抹殺』ゥ!!お互いに手札を捨てようぜぇ!刀堂ぉ!俺は4枚、お前は5枚だ!」

 

口角を吊り上げ、此方を嘲笑うかのように声を上げる黒門。『手札抹殺』。その効果は手札を全て捨て、その数だけドローする。強力な手札交換、墓地肥やしのカード。制限カードの名に相応しい効果であろう。そしてこのカードは『暗黒界』において凶悪なカードとなる。

 

「さぁショーの始まりだぁ!!手札から捨てられた『暗黒界の狩人ブラウ』、『暗黒界の術師スノウ』、『暗黒界の武神ゴルド』の効果発動ぉ!!まずはゴルドの効果ぁ!効果によって手札から墓地に捨てられた場合特殊召喚するぜぇ!」

 

暗黒界の武神ゴルド 攻撃力2300→2600

 

暗き谷底より這い上がりしは巨大な黄金の悪魔。巨体を覆うほどの翼を広げ、その刺々しいフォルムを、屈強な肉体を誇示するかのように地に降り立つ。武神。その名に相応しき片刃の斧を自らの前に構え、紅く輝く眼でコナミ達を睨み付ける。門の力を帯びた強力な気迫に当てられたのか刃は一筋の汗を垂らし、後退りしてしまう。

 

「まだまだぁ!スノウの効果!効果によって手札から捨てられた場合、デッキの『暗黒界』カードを手札に加える!俺が手札に加えるのは『暗黒界の取引』!そして『暗黒界の狩人ブラウ』の効果ぁ!1枚ドロー!まだまだ行くぜぇ?さっき手札に加えた『暗黒界の取引』発動。1枚ドローして1枚捨てるぅ!」

 

黒門 暗次 手札4→5→6→7→6

 

「さらにぃ!アクションフィールド『暗黒界の門』の効果。墓地の『暗黒界の狩人ブラウ』を除外し、手札の『暗黒界の龍神グラファ』を捨て1枚ドロー!」

 

黒門 暗次 手札6→5→6

 

「ソリティアやめやがれ!」

 

「テメェに言われたかねぇ!」

 

余りにも長い動作に竹刀を振り回し、黒門に怒りの矛先を向ける刃。しかし刃のデュエルを知っている黒門にとっては正にお前が言うな。と言った処である。そんな事を知らないコナミはどっかの蟹よりマシ、と暢気にアクションカードを拾っている。抜け目のない男である。

 

「まぁいい。これで終わりだ。『暗黒界の尖兵ベージ』を召喚」

 

暗黒界の尖兵ベージ 攻撃力1600→1900

 

現れたのは槍を手に持った悪魔。骨の鎧を纏ったその姿は不気味という他ない。

 

「そしてベージを手札に戻し、墓地の『暗黒界の龍神グラファ』を特殊召喚する!!」

 

暗黒界の龍神グラファ 攻撃力2700→3000

 

尖兵を押し退け、フィールドに現れたのは『暗黒界』最強のカード。恐竜の頭蓋のような恐ろしき頭に3本の山羊のような角がうねり、肉食恐竜の骨が兜のように装飾されている。首から下は先の武神、ゴルドよりも刺々しい肉体を持ち、肘や膝には頭の角と同じものが生え、凶悪さを更に増している。正に龍の神。暗黒界の頂点を統べる悪魔がその巨大な翼から紫電を放ち、顕現した。

 

「カードを3枚伏せてターンエンドだ。さぁテメェの番だ。赤いの。満足させてくれよ?」

 

黒門 暗次&光焔 ねね LP4000

フィールド 『暗黒界の龍神グラファ』(攻撃表示) 『暗黒界の武神ゴルド』(攻撃表示)

セット3

手札3(黒門) 手札5(ねね)

 

2体の2500オーバーのモンスターを場に揃え、磐石の布陣を引いた黒門。大口を叩くだけあって実力も確かなようだ。一方、挑発された当のコナミはと言うと。

 

(どうして……D-ホイールと合体しないんだ……)

 

フィールドの外で転がっているバイクのような乗り物に視線を移し、どうでもいい事を考えていた。因みにコナミの見つめるそれは当然、D-ホイールではなく、バイクのような乗り物である。バイクでもD-ホイールでもない。例えD-ホイールであったとしても何故合体する事が前提なのか小一時間問い詰めたい処である。

 

「……オレのターン、ドロー。俺は手札のアクションマジック『回避』を捨て、『ペンデュラム・コール』発動。デッキより『竜脈の魔術師』と『竜穴の魔術師』を手札に加え、スケール1の『竜脈の魔術師』とスケール8の『竜穴の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング」

 

2枚のペンデュラムカードがコナミのデュエルディスクの両端に設置され、その間に七色の光が灯る。2体の魔術師が光の柱となって、暗き闇が支配する渓谷を照らしていく。

 

「ペンデュラム!?ありゃあ榊 遊矢とか言う奴だけが使うんじゃ……!?」

 

「はぁ~……綺麗ですぅ」

 

コナミが繰り出すペンデュラムに驚愕と感嘆の声を漏らす2人組。それもそのはず、今現在、ペンデュラム召喚を操る者はペンデュラムを産み出した榊 遊矢のみとされているのだから。だが実際にペンデュラム召喚を使うデュエリストは3人。ペンデュラムの開祖、榊 遊矢。LDS最強のデュエリスト、赤馬 零児。そして赤帽子のデュエリスト、コナミ。しかし世間で知られているのは榊 遊矢だけ。驚くのは無理もない。と言っても3人のデュエリストを知る刃は驚いてなどいないが。寧ろ黒門の間抜け面を見られて得意気にニヤけている。

 

「これでレベル2からレベル7のモンスターを同時に召喚可能。揺れろ光のペンデュラム、虚空に描け魂のアーク、ペンデュラム召喚!」

 

光の渦が発生し、中より2体のモンスターが現れる。1体は眩き光を放つ、水晶で作られた多面体の戦士。もう1体は炎の鬣を持つ荒々しさと力強さを感じさせる炎の戦士。2体の戦士はコナミの前を交差するように降り立ち前方の悪魔を見据える。その光景はまるで特撮ヒーローのワンシーン。悪の怪物と正義のヒーローを思い浮かべるような何とも少年心を擽る光景である。

 

「『E・HEROプリズマー』、『E・HEROブレイズマン』を特殊召喚」

 

E・HEROプリズマー 攻撃力1700

 

E・HEROブレイズマン 攻撃力1200

 

「そしてブレイズマンの効果によりデッキから『融合』を手札に加える。更にプリズマーの効果エクストラデッキの『E・HEROジ・アース』を公開し、ジ・アースの融合素材である『E・HEROオーシャン』をデッキから墓地に送る事でプリズマーをこのターン中『E・HEROオーシャン』として扱う。リフレクト・チェンジ」

 

プリズマーの体が虹色に輝き、みるみる内に姿を変えていく。頭部は鮫やイルカを思わせるヒレのついた青いマスクに、体の色も青に変わり、筋肉質なものに、右手には赤と緑の宝玉が装飾された杖が握られている。その姿は正真正銘『E・HEROオーシャン』そのもの。多面体の戦士は一瞬で海の戦士へと姿を変えたのだ。

 

「『融合』を発動。手札の『E・HEROフォレストマン』とフィールドの『E・HEROオーシャン』となったプリズマーを融合、融合召喚。現れろ『E・HEROジ・アース』」

 

E・HEROジ・アース 攻撃力2500

 

自然の力を宿した樹海の戦士と大海原の戦士が渦となり、新たな戦士へと姿を変える。頭頂部は紫、その全身は純白。胸に輝くは真紅のコア。地球の名を冠する英雄が灼熱の大気を帯びて現れる。

 

「さらに魔法カード『ミラクル・フュージョン』発動。墓地の『E・HEROオーシャン』とフィールドの『E・HEROブレイズマン』を除外し、融合召喚。現れろ『E・HEROアブソルートZero』」

 

E・HEROアブソルートZero 攻撃力2500

 

熱された大気を凍らせ地に立ったのは白銀の英雄。肩部は氷柱の様に尖り、腕も鋭角にカーブしたパーツが取り付けられており、攻撃的な外見をしている。それでも気品を感じさせるのは美しき純白のマントを靡かせているからか、それとも純粋にその姿が幻想的だからか。

 

「『E・HEROジ・アース』の効果『E・HEROアブソルートZero』をリリースし、その攻撃力を吸収する」

 

E・HEROジ・アース 攻撃力2500→5000

 

「攻撃力5000!?」

 

ジ・アースの体が熱を纏い、真紅に染まる。更に両手に赤きマグマが噴出した剣が握られる。これこそが『E・HEROジ・アース』の真の姿。地球灼熱(ジ・アースマグマ)。

 

「そしてフィールドを離れた『E・HEROアブソルートZero』の効果によりお前達のフィールド上のモンスターを全て破壊する。凍てつけ」

 

「なっ!?」

 

黒門達の場の悪魔が凍りついていく。自らを覆う氷を何とかしようともがく龍神と武神。しかしもがけばもがくほどボロボロと体は崩れていく。

 

「モンスターまで……!」

 

「バトルだ『E・HEROジ・アース』で攻撃。地球灼熱斬(アース・マグナ・スラッシュ)!」

 

ジ・アースが灼熱の双剣を構え、黒門へと肉薄する。たった2ターン。これで全てが終わる。

 

「アクションマジック発動!!」

 

そう、思われた。




今回登場した黒門、ねね、帝野は激突DC及びTFSPのキャラです。刃が元々別の塾の塾生。と言うのはオリジナル設定。ほらデュエルが上品なやり方じゃないのは元々LDSじゃないから(震え声
兎に角、漸くタッグデュエルが出来ました。
……ん?タッグデュエルじゃないくてアクションタッグデュエル?
…………勘の良いガキは嫌いだよ。


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第10話 全て受け止める

今回、半オリジナルアクションカードが登場します。
今回限りで二度と登場しないので安心してください。
そんな事より瑠璃かわいいよ、瑠璃。


「はぁ……」

 

コナミが道場破りに出掛けて暫くたった頃、遊勝塾にて柚子が溜め息を吐いていた。原因は言わずもがな、遊勝塾の塾生、赤帽子のコナミである。彼は道場破りに行くと言った切り帰って来ない。昼には帰って来ると言っていたがその時に何処かの道場の看板を引っ提げて戻って来ないか不安である。勿論、冗談の類いかと最初は思った。いや思いたかった。頼むから思わせてくれと天に祈った位だ。コナミは冗談を言う性格ではない。天然で凄い事を然も当然のようにやり遂げる人物なのだ。何時もなら頼もしいがこの時程コナミの凄さを恐れたのは初めてである。

 

「柚子ー、今何時ー?」

 

柚子が頭を抱え唸っている処に、遊矢が声を掛けてくる。正直この暢気さに少しイラッとしたが遊矢は関係ない、と気を落ち着かせる。

 

「はぁ……一大事――」

 

――――――――

 

「『ジ・エンド・オブ・ストーム』!!」

 

「ッ!?」

 

黒門がカードを発動した途端、凄まじい爆風が発生し、『E・HEROジ・アース』が弾け飛ぶ。

 

「MATTE!?そりゃあ出現率658008分の1の『ジ・エンド・オブ・ストーム』じゃねぇか!?」

 

「ヒャハハハ!そうだぜぇ?こいつは相手フィールド上のモンスター全てを破壊し、1体につき300ポイントのダメージを与える!」

 

コナミ&刀堂 刃 LP4000→3700

 

「くっ……!カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

コナミ&刀堂 刃 LP3700

フィールド セット1

Pゾーン 『竜脈の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札0(コナミ) 手札5(刃)

 

「わっ私のターンですっ、ドロー!」

 

コナミのターンの終了と同時に少女はその細腕をぷるぷると動かし、恐る恐ると言った様子でカードを引き抜く。

 

「うぅん……、使うべきかなぁ?でっでもぉ」

 

「さっさとしろ。このノロマッ!!」

 

「はっはいぃ!」

 

カードを使うべきか否か迷っているのだろう、ウジウジと長考する少女を隣の黒門が一喝する。短気な彼には長考と言うものが不快なのだろう。そのこめかみがビキビキと怒りを溜め込んでいる。

 

「魔法カードぉ『影依融合』発動しますぅ。手札の『シャドール・ビースト』ちゃんと『シャドール・リザード』ちゃんを融合!融合召喚!『エルシャドール・ミドラーシュ』ちゃん!」

 

エルシャドール・ミドラーシュ 攻撃力2200

 

現れたのはギョロギョロと巨大な眼を不気味に動かす竜と緑色のポニーテールの少女の人形。使い手と同じく薄暗い雰囲気を醸し出しており、何故かねねが使う事に違和感としっくり来ると言った真逆のフレーズが頭に浮かぶ。

 

「墓地に送られた『シャドール・ビースト』ちゃんと『シャドール・リザード』ちゃんの効果発動。『シャドール・リザード』ちゃんの効果によりデッキの『シャドール・ヘッジホッグ』ちゃんを墓地に送り『シャドール・ヘッジホッグ』ちゃんの効果で2枚目の『シャドール・リザード』ちゃんを手札に加えます。そして『シャドール・ビースト』ちゃんの効果で1枚ドロー」

 

光焔 ねね 手札3→5

 

ねねの足元より影が伸び、人形達が力を与えていく。意外にもねねは蠢く人形達を怖がる事なく「ありがとうね」と笑顔で人形達を一撫でする。やはり自分のデッキのモンスターだけあって愛着があるのだろう。人形達も何処か嬉しそうである。

 

「バトルですぅ『エルシャドール・ミドラーシュ』ちゃんでダイレクトアタック!」

 

少女の命令と共に手元の杖をクルクルと回し、此方に向ける。すると杖の水晶より黒き球体が出現し、蛇のように地面を這い、コナミ達に迫る。

 

「罠発動。『ピンポイント・ガード』。墓地の『E・HEROブレイズマン』を守備表示で特殊召喚し、破壊耐性を与える!」

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

しかしその黒球も場に降り、膝をついたブレイズマンの前に生えた巨大な手により阻まれる。

 

「更にブレイズマンの効果でデッキより融合を手札に加える」

 

「ふぇぇぇん……。失敗しましたぁ。モンスターをセットしてターンエンドですぅ」

 

「何やってんだ阿呆がっ!」

 

「おっ怒らないでくださいよぉ……」

 

黒門 暗次&光焔 ねね LP4000

フィールド 『エルシャドール・ミドラーシュ』(攻撃表示) セットモンスター セット3

手札3(黒門) 手札5(ねね)

 

目の前でコントのようなやり取りをする二人組、この二人、本当に大丈夫だろうか?敵である此方が不安になってくる。

 

「俺のターンだな!ドロー!」

 

漸く自分の出番だと言わんばかりに笑い、自らのデッキから1枚のカードを引き抜く刃。だが引いたカードが悪かったのか、少し眉根を寄せ、「むっ」と唸る。

 

「悪くはねぇが……ミドラーシュがいるからな」

 

呟き、頭を掻きながらねねの前で飛行する人形を苛立ちを含んだ瞳で睨み付ける刃。隣で彼の呟きを聞いていたコナミは頭に?マークを浮かべている。あのモンスターは何か強力な効果を持っているのだろうか?と『エルシャドール・ミドラーシュ』の事を知らないコナミとしては俄然興味が湧いてくる。いや、それよりもねねの操る『シャドール』モンスター自体に興味がある。コナミは幼子のように目をキラキラと輝かせる。

 

「俺は『XX―セイバーボガーナイト』を召喚するぜ!」

 

XX―セイバーボガーナイト 攻撃力1900

 

赤い外套を翻し、荒々しさを感じさせる獣の戦士が現れる。その出で立ちは騎士と言うより傭兵と言った方が納得がいく姿をしている。

 

「ボガーナイトの効果、このカードが召喚に成功した時、手札より星4以下の『X―セイバー』モンスターを特殊召喚出来る!俺は『XX―セイバーフラムナイト』を特殊召喚!」

 

XX―セイバーフラムナイト 攻撃力1300

 

ボガーナイトの赤いマントより飛び出したのは美しい金髪の少年戦士。彼は右手の剣をまるで鞭のようにしならせニタリと笑う。

 

「『エルシャドール・ミドラーシュ』ちゃんがいる限り、お互いに特殊召喚は1ターンに1度しか行えませんよぉ?刀堂さんはシンクロ召喚の使い手。特殊召喚を制限すれば苦しい筈。それにミドラーシュちゃんは効果破壊の耐性を持っています」

 

先程まで頭を抱えぷるぷると震えていたねねがミドラーシュについて饒舌に語る。何処か誇らしげなのはやはり自分のモンスターだからだろう。あんな内気な少女にこのような一面が有るとは少し驚きである。

 

「俺まで制限喰らうじゃねぇか!このポンコツ!」

 

「くっ黒門さんはグラファさんをポンポン出せるじゃないですかぁっ!?」

 

「俺はソリティアがしてぇんだよ!!」

 

自分達が有利だと言うのに理不尽な理由で怒り狂う黒門。先程まで誇らしげだったねねが怒りにあてられ、また涙目になって震える。可哀想である。

 

「はんっ!安心しろよ!すぐに制限を解いてやるぜ!バトルだ!『XX―セイバーボガーナイト』で『エルシャドール・ミドラーシュ』に攻撃!」

 

「ええっ!?攻撃力はミドラーシュちゃんが上なのにっ!?」

 

「アクションマジックに決まってんだろ!」

 

そう言うと同時に2人がフィールドを駆ける。地面に落ちたカードを自らの竹刀で掬い上げ、決闘盤に叩きつける刃。

 

「その通り!アクションマジック『エクストリーム・ソード』!ボガーナイトの攻撃力を1000上げるぜ!」

 

XX―セイバーボガーナイト 攻撃力1900→2900

 

ボガーナイトの剣が巨大化し、少女と竜の人形へと迫る。そこに待ったを掛けたのは黒門だ。彼は1枚のカードを拾い上げ、此方へ見せる。

 

「甘いんだよ!アクションマジック『エクストリーム・ソード』!此方も1000アップだ!」

 

黒門の手から刃と同じカードがデュエルディスクのプレートに叩きつけられようとする。してやったりと言わんばかりの獰猛な笑顔。しかし。

 

「アクションマジック『コスモ・アロー』。相手がドロー以外で魔法カードを手札に加えた時、そのカードを破壊する」

 

コナミの手より矢が放たれる。高速で飛来する矢は黒門の手の剣を貫き、発動を封じた。

 

「サンキュー、コナミ!」

 

黒門の助けも虚しく、ボガーナイトの凶刃が少女と竜の人形を切り裂く。まるで大木が伐採されるような鈍い音が辺りに響き、人形が葬られる。

 

黒門 暗次&光焔 ねね LP4000→3300

 

しかし人形の影がズルズルと這い、自らの主の元へと逃げるように動き回る。一体何が――?コナミが其処まで思考し気づく。成程。あのカードには破壊された後の効果もあるのか。と。

 

「ミドラーシュちゃんの最後の効果。墓地に送られた場合、墓地から『シャドール』魔法、罠カードを手札に加えますぅ。私は『影依融合』を手札に加えます。ごめんねミドラーシュちゃん」

 

光焔 ねね 手札5→6

 

申し訳なさそうにミドラーシュの影に謝罪するねね。しかし何が気に入らなかったのか、人形の影はツンッとそっぽを向き、地面へ潜っていった。彼女が何をしたと言うのだろう?相方にイジメられ、モンスターに冷たくされ、またもや涙目になっている。その様子は保護欲を擽られる小動物のようである。

 

「フラムナイトでセットモンスターを攻撃!」

 

フラムナイトの刃が蛇のようにしなり黒い球体状となったモンスターを襲う。セットモンスターは『シャドール・ハウンド』その守備力はフラムナイトの攻撃力には及ばない。

 

「『シャドール・ハウンド』ちゃんの効果で墓地の『シャドール・ビースト』ちゃんを手札に加えます」

 

「フラムナイトが守備表示のモンスターを破壊した事により、墓地の『XX―セイバーガルセム』を特殊召喚!」

 

XX―セイバーガルセム 攻撃力1400→2000

 

「ガルセムでダイレクトアタック!」

 

「っ!アクションマジック『回避』!」

 

自身に迫る剣を防ぐねね。正しく危機一髪。ガルセムの攻撃に驚いたのかびくびくと震えている。

 

「メインフェイズ2『XX―セイバーフォルトロール』を特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400

 

現れる赤の鎧を纏い大剣を振るう巨人。『X―セイバー』のキーカードであり、このカードを如何に速く出せるかが『X―セイバー』の肝となるだろう。

 

「そして!レベル4のボガーナイトにレベル3のフラムナイトをチューニング!光差する刃持ち屍の山を踏み越えろ!シンクロ召喚!出でよ!『X―セイバーソウザ』!」

 

X―セイバーソウザ 攻撃力2500

 

金髪の少年が光の輪となり、獣の戦士がその中を潜り抜ける。光が晴れ、その先に現れたのは二刀の剣を交差し、人の道を外れたような薄気味悪い笑みを浮かべる壮年の大男。

 

「更にフォルトロールの効果、墓地のフラムナイトを特殊召喚するぜ!」

 

巨大な剣を地面に突き刺す大男。次の瞬間、地面が爆発し、まるでマジックショーの如く金髪の少年が舞い戻る。

 

「レベル6のフォルトロールにレベル3のフラムナイトをチューニング!白銀の鎧輝かせ刃向かう者の希望を砕け!シンクロ召喚!出でよ!『XX―セイバーガトムズ』!」

 

XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100

 

再び輪となり、大男を包み込む金髪の少年。大男の体に次々と白銀の鎧が、籠手が、兜が取り付けられ、真紅のマントが伸びていく。そして最後には巨大な剣がひび割れ、中より輝く二又の剣が現れる。二又の剣の柄を力強く握り一振りする剣士。ブオンッと風を斬る音が此方まで聞こえてくる。正しく彼が『X―セイバー』の切り札。刀堂 刃の最強の剣。そう思わせる程に、雄々しく、凛々しい。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ。かかってきやがれ黒門ぉ!」

 

コナミ&刀堂 刃 LP3700

フィールド 『XX―セイバーガトムズ』(攻撃表示) 『X―セイバーソウザ』(攻撃表示) 『XX―セイバーガルセム』(攻撃表示) 『E・HEROブレイズマン』(守備表示) セット1

Pゾーン『竜脈の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札2(刃) 手札1(コナミ)

 

刃が前方に構えた右手を空気を引き裂くように振り、黒門に向かって好戦的な笑みを浮かべる。どんな方法を取ってきてもお前には負けないと意志の強い瞳で雄々しく吠える。

 

「上等だ刀堂ぉ!俺のターン、ドローぉ!!来たぜぇ!『魔轟神レイヴン』召喚!」

 

魔轟神レイヴン 攻撃力1300→1600

 

現れたのはカラスのようなマスクに腕に赤黒い羽根を生やした神の名を持つ光の悪魔。

 

「『魔轟神』!?そんなカード、昔はっ!?」

 

「ハハハハッ!昔のままだと思うなよぉ!?刃くぅぅん!レイヴンの効果手札の『暗黒界の尖兵ベージ』、『暗黒界の軍神シルバ』を手札から捨て、レイヴンのレベルを2つ上げ、攻撃力をアップする!」

 

黒門 暗次 手札3→1

 

魔轟神レイヴン レベル2→4 攻撃力1600→2400

 

「更にこの瞬間、永続罠発動ぉ!『強制接収』!有り金全部置いてけよぉ!?そして『暗黒界の尖兵ベージ』と『暗黒界の軍神シルバ』の効果により2体を特殊召喚する!」

 

暗黒界の尖兵ベージ 攻撃力1600→1900

 

暗黒界の軍神シルバ 攻撃力2300→2600

 

尖兵を引き連れた銀の悪魔が崖より帰還する。その姿は黄金の悪魔程荒々しいものではない。だが抜き身の刀のような鋭さを感じさせる。

 

「シルバを手札に戻し、墓地のグラファを特殊召喚する!」

 

暗黒界の龍神グラファ 攻撃力2700→3000

 

刀は鞘に納められ再び戦場に舞い戻る龍の神。これこそが『暗黒界』の真価。『暗黒界』の切り札であるグラファの戦線維持の容易さ。墓地に有る限り、何度でも、何度でも蘇る悪魔に相応しき力。このカードを何とかしない限り、コナミ達の勝利は難しい。

 

「そしてレベル4のベージにレベル4のレイヴンをチューニング!シンクロ召喚!出でよ!『魔轟神ヴァルキュルス』!」

 

魔轟神ヴァルキュルス 攻撃力2900→3200

 

尖兵をカラスの神が光となって包み込む。尖兵の姿が星となり、天空より黒き光が差し込む。激しい地響きを轟かせ、異界の神が地に降り立つ。漆黒の翼を雄々しく広げ、赤と黒の鎧を纏った悪魔が不気味に赤の瞳を輝かせた。

 

「……やっぱりシンクロか……!」

 

「おうよ、昔は確かに只の『暗黒界』だったが今は『魔轟神』を取り入れたんだ。昔のままだと嘗めてたら痛い目見るぜぇ?」

 

まるで新しい玩具を自慢するかの如く自身の神を誇る黒門。

 

「さぁて後はテメェの手札掻っ払うかぁ!罠発動!『光の招集』、手札を全て捨て、墓地の光属性モンスターを捨てた数だけ手札に加える!俺が捨てたのは1枚、墓地のレイヴンを手札に加える!だが狙いは其処じゃねぇ!『強制接収』の効果により、テメェの手札も1枚捨てられる!ほらほらジャンプしてみろよぉ!」

 

「チッ!調子に乗りやがって!」

 

刀堂 刃 手札2→1

 

「まぁだまだ!言ったよなぁ!?有り金全部ってよぉ!?『暗黒界の門』の効果、墓地のシルバを除外し、手札のレイヴンを捨てドロー!さぁテメェも捨てようぜぇ?平等じゃなきゃなぁ?刀堂ぉ?」

 

口を歪め、目を細くして、此方を嘲笑う黒門。最悪だ。このコンボのせいで相手は容易に展開し、此方は手札をボロボロにさせられる。このままではと刃は冷や汗を垂らす。

 

「ふざけやがって…!この俺がハンデスさせられるなんてな……」

 

刀堂 刃 手札1→0

 

ついに刃の手札が0となる。手札とは可能性。しかしその可能性が全て奪われた。このままでは刃のモンスターが破壊され、次のターン、自分の逆転が難しくなるだろう。だがこんな時にふと、ある事が気になったコナミは黒門に話し掛ける。

 

「黒門……と言ったな」

 

「ああ!?何だテメェ!?今いいとこだろうが!」

 

「何故其処まで刀堂 刃を恨む」

 

そう、黒門は刃に対して並々ならぬ恨みを抱いている。裏切り者。そこまで言う理由はどこにあるのか、と気になったのだ。

 

「……いいぜ。教えてやるよ。元々この道場は俺達3人だけだった。俺と光焔、そして刀堂のな」

 

どうせ此方が勝つのだ。その位教えてやろうと、黒門は語り始める。何故、刃を恨むのか、何故仲間だった者を拒むのか。その理由を。その怒りを。

 

「俺達は何時も一緒だった。道場でも学校でも、笑って泣いて、苦しい時も悲しい時も楽しい時も嬉しい時も、この道場で何度もデュエルした。勝っても負けても楽しくて……」

 

目を細め、昔の思い出を懐かしむように、いや、実際に懐かしんでいるのだろう。思い出を語る黒門の瞳は先程とは打って変わって、柔らかく、優しげだ。

 

「ある日誓い合った。この3人でこの道場を一番強くしようと、互いに競いあって、最高のタッグを組もうと」

 

だがそれも束の間。

 

「だが!刀堂は裏切った!俺達を!俺達の誓いを裏切ったんだ!より強いLDSに目が眩んでなぁ!」

 

赤の瞳を見開き、歯を剥き出し、怒りを露にする。彼にとってそれ程、共にあり、共に強くなると言う事は大事なのだろう。親友と共に育った場所を一番にする事が夢だったのだろう。

 

「……オレにはそう思えんな」

 

そんな彼の叫びをまるで馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに溜め息を吐き、吐き捨てるコナミ。

 

「……何?テメェに何が分かる!?関係者でもねぇテメェがよぉ!?」

 

「刀堂 刃が強さに目が眩んだのなら、何故お前を助けようとする?」

 

「……何を……」

 

「強さに目が眩んでいるなら、何故力を振るい、暴れるお前を止めようとした。何故お前の事が目に入った?」

 

「そんなもの――!」

 

「お前が刀堂 刃を裏切り者と吐き捨てようと刀堂 刃はお前を友達と思っている。蔑まれようが、罵られようが、仲間を助けようとする男が本当に裏切り者なのか?」

 

そう。どれだけ彼に裏切り者と言われながらも刃は彼を救おうとした。仲間に辛く当たられようともその手を取ろうとした。コナミにはそんな彼が裏切り者だと言われる事が納得できない。信じられないのだ。

 

「コナミ……」

 

「オレはこの男を信じる。嘗ての仲間を裏切り者と蔑み、更にパートナーに自らのストレスをぶつけるお前より、そんなお前を仲間と思い、救おうとする男。どちらを信じると言うなら、オレは刃を信じる」

 

コナミには深い事は分からない。刃とは知り合ったばかりで黒門達とて同じだ。だが刃は言った。協力してくれ、と。敵である自分に頭を下げたのだ。恥を捨てて、自分の友達を助けて欲しいと。多くの者を知るコナミにとって彼は悪人の中には入らない。寧ろその言動は、その研ぎ澄まされた剣のような意思は、絆を何よりも大事にしたデュエリストに似ている。

 

「『暗黒界の龍神グラファ』は、部下を気にかけ、自らが戦場に立つモンスターだ。どれだけ倒されようが、蘇り、仲間を守ろうとする。強き者だ」

 

目の前の巨大な悪魔と少年を見比べる。多くのデュエリストにとって自らの切り札は分身も当然。だが目の前の少年はどうだ。

 

「お前は仲間を信じようとしたか?そのモンスターのようにパートナーを気にかけ、手を取り合おうとしたか?」

 

「ぐっ…… 」

 

コナミの真剣な眼差しに呻き、後ずさる黒門。

 

「光焔 ねね、何故お前は黒門の言いなりになっている?」

 

「えっ?」

 

不意にコナミの視線がねねに移る。コナミと黒門の会話に夢中になっていたねねは思わず、間の抜けた声を出してしまう。

 

「『エルシャドール・ミドラーシュ』……捜し求める者……お前は何かを自分の意思でしようとしたか?お前は人形じゃない。何故黒門の言いなりになる?」

 

コナミが感じた違和感。それは黒門の事だけではない。あれ程カードを想うねねがミドラーシュだけ明確な拒絶を受けた。それは主に対するメッセージだ。何故、人形 ではないのに、ねねを操る糸はないのに意思を持たないのか。何故、自分の意思を捜そうともしないのか。ミドラーシュは心配していたのだ。主の事を。

 

「……るせぇ……うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ!訳分かんねぇ事言ってんじゃねぇ!バトルだ!踊れ刀堂ぉ!死のダンスを!『暗黒界の龍神グラファ』で『X―セイバーソウザ』を攻撃!」

 

怒りに身を任せるように、駄々を捏ねる子供のように吠え、命を下す黒門。グラファは一瞬主を一瞥した後、夜のような黒き翼を広げ、双剣の戦士へとその牙を突き立てる。

 

コナミ&刀堂 刃 LP3700→3200

 

「まだだ!ヴァルキュルスで『XX―セイバーガトムズ』を攻撃!」

 

武骨な鎧を纏った黒き神が剣を持った白銀の戦士に襲いかかる。地面スレスレな飛行を繰り返し、その野太い剛腕で大地を抉り取っていく。そして白銀の鎧までも。

 

「罠発動!『幻獣の角』!発動後、獣族、獣戦士族1体の攻撃力を800上げる装備カードとなる!『XX―セイバーガトムズ』に装備!」

 

XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100→3900

 

「何っ!?」

 

それは一瞬の出来事。ガトムズの握る二又の剣はその鋭さを増し、1本の光の剣となる。光の太刀は神の剛腕を切り裂き、その強固なる鎧までも貫いた。

 

黒門 暗次&光焔 ねね LP3300→2600

 

「『幻獣の角』の効果で1枚ドロー!」

 

刀堂 刃 手札0→1

 

「クソッ!カードをセットしてターンエンドだ!!」

 

黒門 暗次&光焔 ねね LP2600

フィールド『暗黒界の龍神グラファ』(攻撃表示)

『強制接収 』 セット2

手札0(黒門) 手札7(ねね)

 

上手くいかない。そんな思いが黒門の中でぐるぐると気持ち悪く渦巻く。舌打ちを一つ鳴らし、俺は悪くない『筈だ』と自分に言い聞かせる。自分自身でもどうすれば良いのか分からないのだ。目の前にいる『暗黒界の龍神グラファ』の背を見つめるも彼は何も答えてくれない。

 

「オレのターン、ドロー」

 

そんな中、暗い渓谷にコナミの声が響く。

 

「オレは『召喚僧サモンプリースト』を召喚し、効果により守備表示に」

 

召喚僧サモンプリースト 守備力1600

 

「サモンプリーストの効果、手札の『融合』を捨て、デッキより『カメンレオン』を特殊召喚」

 

カメンレオン 攻撃力1600

 

魔法使いの老人がその場に現れ、黒き球体を発生させる。中より現れたのはコナミのお気に入りのカードである『カメンレオン』。

 

「レベル4の『召喚僧サモンプリースト』にレベル4の『カメンレオン』をチューニング。星海を切り裂く一筋の閃光よ!!魂を震わし世界に轟け!!シンクロ召喚!!『閃光竜スターダスト』!!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

『カメンレオン』が光の輪となりサモンプリーストが潜り抜け8つの星となる。星はまるで星座のように並び、その姿を竜へと変える。煌々と美しき星を白き体躯に散りばめた、光輝く星の竜。ある青年が使役した星屑の竜と似た守護の力を持つモンスターが顕現する。

 

「……迷うならカードを取れ。悩むからこそデュエルに臨め。カードは何時も答えを出してくれる。お前達の想いを全て受け止めてやる」

 

それは遠くにいる彼の真似。デュエルを通して答えを見つけ出して来た。絆を信じたデュエリストの真似事。自分には過ぎた事かもしれない。彼のように上手くいかないかもしれない。それでもコナミは信じる。

 

――オレに出来なくとも、隣にはパートナーがいる。奴等の友がいる。何よりデュエルはきっと――オレ達に答えを出してくれる。




何やらSEKKYOO臭くなってしまったかもしれん。自分はデュエリストとモンスターが一体となっているシーンがすごく好きです。遊戯王の面白いところですよね。次回で刃編は終了、遊矢の視点に切り替わってそれが終わり次第番外編に移りたいと思っています。……ところで皆覚えてる?コナミ君、満足ジャケット着たままだよ?


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第11話 アリガトウオレノデッキ

アニメが新OP、EDに変わりましたね。
自分の好みにストライク・バーストです。
そしてバレットさん復活……バレットが大活躍。ですなプロフェッサー?


「コナミが道場破りに?」

 

コナミが舞網チャンピオンシップの出場を賭け、道場破りと言う色々間違った手段を取っている頃、遊勝塾では遊矢が柚子の説明を受けていた。朝のトレーニングの後と言う事であり、遊矢の手には冷えたスポーツドリンクが握られている。

 

「まっさかぁ!コナミお兄ちゃんがそんな事する訳……あるかもしれない」

 

この場に居合わせたアユが自身の後輩であるコナミをフォローしようと……した。一応。アユも途中から自信が無くなったのだろう。確かにコナミならやりかねない。と。実際、今この時にコナミはソリティア野郎と共にソリティア野郎達に挑んでいた。

 

「…………不安だな…………」

 

「ええ……そうだ!遊矢お願いっ!コナミを探してきて!」

 

両手を合わせ、遊矢に頼み込む柚子。一方で遊矢は明らかに困った顔をしている。

 

「ええぇー……、コナミの行動範囲なんて謎過ぎるからなぁ」

 

「どうせ今日は試合ないから良いじゃない。私はお昼ご飯作らなきゃいけないし……」

 

「あー……分かったよ。流石に看板持ってきたらマズイからなぁ」

 

頬を掻き、仕方ないか、と項垂れる遊矢。果たしてコナミを見つけ出す事は出来るのだろうか?現在、コナミが満足ジャケットを着ている事を考えれば、見つけない方が幸せなのではないだろうか?

 

――――――――

 

「俺達の想いを受け止めるぅ?」

 

時は戻り、コナミと刃。黒門とねねによるアクションタッグデュエルは佳境に入っていた。黒門達の場には『暗黒界の門』によって攻撃力3000となった『暗黒界の龍神グラファ』が1体、コナミ達の場には『幻獣の角』により攻撃力を増した『XX-セイバーガトムズ』が光の剣を地面に突き刺して仁王立ちし、その両隣には『XX-セイバーガルセム』と『E・HEROブレイズマン』が存在し、暗き渓谷の上空には星屑を散りばめながら『閃光竜スターダスト』が舞っている。圧倒的な不利。そう自覚したからこそ唇を噛み、コナミを睨めつける。確かに不利な状況だ。だが戦況の方は今は置いてもいい。

 

今はこの男が何を言っているのか聞かねばなるまい。コナミと名乗り、自分達の縄張りに、道場破りを宣言した赤帽子の男。憎き刃の手を取り、自分達と対峙する男。この男は宣言した。

迷うならカードを取れ――俺は迷ってなどいない。

悩むからこそデュエルに臨め――俺は悩んでなどいない。

カードが答えを出してくれる――答えなんて望んじゃいねぇ。

俺が欲しいのは――、欲しい、ものは――、一体、何だ――?

そこまで思考し、頭を振る。違う。奴の言葉に惑わされるな。何が全て受け止める。だ。

 

「ふざけんな……!やってみやがれ!出来るもんならなぁ!」

 

黒門の口より無意識に言葉が放たれる。それはまるで、何かに切望しているような、すがっているような声だった。

 

「バトルだ。ガトムズでグラファに攻撃!」

 

人並み外れた脚力で地を蹴り、闇のように暗い崖を跳躍する白銀の剣士。その勢いを利用し、光の太刀が振るわれる。それを迎え撃とうとグラファが地を蹴り、翼を広げ飛行する。

 

「罠発動!『ヘイト・バスター』!自分フィールドの悪魔族モンスターが攻撃対象となった時、攻撃モンスターと共に破壊し、攻撃モンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

「スターダストの効果、発動!自分フィールドのカード1枚に破壊耐性を与え――」

 

「させるか!リバースカード、オープン!『禁じられた聖杯』!モンスターの効果を無効にし、攻撃力を400ポイント上げる!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500→2900

 

剣は確かに悪魔の体を貫く。しかし最期の足掻きか、悪魔は凄まじい遠吠えと共に剣士を抱き、暗き谷底に堕ちていく。そして姿が見えなくなった時、轟音と共に爆発し、熱風がコナミ達の頬を撫でる。

 

コナミ&刀堂 刃 LP3700→600

 

「くっ!スターダストで攻撃!流星閃撃(シューティング・ブラスト)!」

竜よりブレスが放たれる。星の光を凝縮したようなそれは速度を高め、黒門に迫る。

 

「クソッ!アクションカードは……!」

 

焦燥し、何処かにカードは落ちていないかと、辺りを見渡す黒門。無い。カードが何処にも無い。ここで終わるのか?竜のブレスが目の前まで迫ったその時。

 

「アクションマジック!『ブラインド・ブリザード』!バトルフェイズを終了させます!」

 

少女の声が暗き渓谷に響き渡る。それと同時に黒門の前を吹雪が駆け、閃光を遮った。

 

「……光……焔……?」

 

即座に背後を振り返り、自分を助けたであろう少女を見る。本当に先程までの少女と同一人物なのだろうか?目を疑うのも無理は無い。背を縮こまらせ、震えていた彼女はピン、と背を伸ばしており、弱々しく涙目だった顔は眉を吊り上げ凛々しいものとなっている。あれは誰だ――?少なくとも自らの知る少女ではない。今までの光焔 ねねではない。

 

「覚悟は決まったか――オレはターンエンドだ」

 

コナミ&刀堂 刃 LP600

フィールド 『閃光竜スターダスト』(攻撃表示) 『E・HEROブレイズマン』(守備表示) 『XX-セイバーガルセム』(攻撃表示)

Pゾーン 『竜脈の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札0(コナミ) 手札1(刃)

 

口元を緩め、少女を見るコナミ。少女はコナミに答えるように胸元に手を当て、言葉を放つ。

 

「私は――私は迷ってました。本当に刀堂さんが裏切ったのか――?でも迷うだけで答えを捜そうとはしませんでした」

ゆっくりと唇を動かし、自分のデュエルディスクに目を落とす。恐らくあの主に素直ではないカードの事を思っているのだろう。その表情は自嘲気味なものだ。

 

「私は悩んでました。昔は仲の良かった3人が何でこんなにいがみ合っているんだろう。って、でもそれが何故か。なんて求めようともしなかった」

 

伏せられた瞳が前を向く。今までとは違う、自らの道を見据えた眼。陰を作り、迷い、悩んだ少女はもう、そこにはいない。そこにあるものは日溜まりのような穏やかな笑顔。少女は自らに課した糸を見事、断ち切った。

 

「答えを出します。受け止めてくださいっ!コナミさん!ドロー!」

 

影が伸び、光が導く。

 

「速攻魔法!『神の写し身との接触』を発動します!手札の『デーモン・イーター』ちゃんと『シャドール・ビースト』ちゃんを融合!融合召喚!『エルシャドール・シェキナーガ』さん!」

 

エルシャドール・シェキナーガ 攻撃力2600

 

キリキリと壊れた時計のような音を立て、聖樹の玉座に腰掛けた巨大な修道女が大地に降り立つ。『暗黒界の門』を優に超える機械仕掛けの女神にコナミ達が息を飲む。

 

「『シャドール・ビースト』ちゃんの効果で1枚ドロー!」

 

光焔 ねね 手札4→5

 

「『シャドール・リザード』ちゃんを召喚し、装備魔法『魂写しの同化』を装備!」

 

シャドール・リザード 攻撃力1800

 

「『魂写しの同化』の効果!装備モンスターである『シャドール・リザード』ちゃんと手札の『稲荷火』ちゃんで融合!融合召喚!『エルシャドール・エグリスタ』さん!」

 

エルシャドール・エグリスタ 攻撃力2450

 

暗き渓谷が真紅に染まる。現れたのは先の『エルシャドール・シェキナーガ』にも劣らぬ巨体を誇る紅蓮の騎士。頭部には金色の竜が吠え、背の影糸が真紅に燃え、まるで蝶の羽根のごとき美しさを感じさせる。

 

「『シャドール・リザード』ちゃんの効果でデッキの『シャドール・ハウンド』ちゃんを墓地に送ります。ハウンドちゃんの効果でブレイズマンさんを攻撃表示に、更に『影依融合』を発動し、この瞬間『連続魔法』を発動!手札のアクションカードを捨てて、『連続魔法』の効果は『影依融合』と同じになります!そして相手フィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターがいる場合、『影依融合』の素材にデッキのカードを含む事ができます!デッキの『デブリ・ドラゴン』ちゃんと『シャドール・ヘッジホッグ』ちゃんを融合!融合召喚!『エルシャドール・ウェンディゴ』ちゃん!」

 

エルシャドール・ウェンディゴ 守備力2800

 

影より跳ね出たのは装飾が施された、禍々しいイルカとイルカに乗った少女の人形。影の中をまるで海原と同じように泳ぐ姿はどこか不気味である。

 

「『シャドール・ヘッジホッグ』ちゃんの効果で『シャドール・ファルコン』ちゃんを手札に加えます!そしてデッキの『ギゴバイト』さんと『シャドール・ヘッジホッグ』ちゃんを融合!融合召喚!『エルシャドール・アノマリリス』さん!」

 

エルシャドール・アノマリリス 攻撃力2700

 

最後に登場したのはシェキナーガやエグリスタと並ぶ巨体を持つ、影の花。シェキナーガの修道女と同じ顔をした人形が氷の羽衣を纏い、影糸を伸ばしながら地に降り立つ。

 

ねねの周囲に並び立つ4体の融合モンスター。たった1ターンで4体ものエルシャドールを出して見せた。これが彼女の、光焔 ねねの全力。しかし、ここの道場の門下生は全員、ソリティアが好きなのだろうか?

 

「バトルです!『エルシャドール・アノマリリス』さんで『閃光竜スターダスト』さんに攻撃!」

 

宙を漂う影の花が閃光の竜に迫る。体格差は歴然。アノマリリスは両手より幾重もの影糸を伸ばし、閃光を貫かんとする。

 

「墓地の『超電磁タートル』を除外しバトルフェイズを終了させる!」

 

しかし、突如来襲する甲羅により影糸は屈折し思いもよらぬ方向へ直撃し、岩雪崩を起こす。

 

「ーっ!そんなカード、何時ー!?」

 

「へっ!最初の『手札抹殺』の時に俺が落として、温存しておいたのさ!」

 

「……あの時に……ふふっ、私はターンエンドです」

 

黒門 暗次&光焔 ねね LP2600

フィールド 『エルシャドール・アノマリリス』(攻撃表示) 『エルシャドール・シェキナーガ』(攻撃表示) 『エルシャドール・エグリスタ』(攻撃表示) 『エルシャドール・ウェンディゴ』(守備表示)

『強制接収』

手札0(黒門) 手札1(ねね)

 

「全く……ここの奴等はどいつもこいつもやりたい放題デュエルして、上品になんてできやしねぇ……でもまぁ、こんなもんか。我儘で貪欲で、泥臭くって、諦めの悪ぃ奴等ばっか!こんなところで終われっかよ!負けねぇぜ!暗次!ねね!」

 

皮肉気に呟き、それでも誇らしげに胸を張る刃。やはり、この少年はこの道場を裏切ってなどいない。この少年は自分の育ち、ライバルと研鑽した道場を愛しているのだろう。負けず嫌いな表情を見せ、大胆に宣言する。

 

「ドローッ!」

 

伝家の宝刀は、引き抜かれた。

 

「いっくぜぇ!『XX-セイバーフラムナイト』を召喚!」

 

XX-セイバーフラムナイト 攻撃力1300

 

「チューナーモンスター……!だけど『エルシャドール・エグリスタ』さんは1ターンに1度、特殊召喚を無効にできます!」

 

「そんなモン、ぶったぎってやるぜ!魔法カード『セイバースラッシュ』!自分フィールドの表側攻撃表示の『X-セイバー』モンスターの数だけ、フィールド上の表側表示のカードを破壊する!俺の場にいる『X-セイバー』は2体!お前の『エルシャドール・シェキナーガ』と『エルシャドール・アノマリリス』を破壊する!」

 

二刀を持つガゼルの剣士が、金髪の少年戦士が剣を煌めかせ、巨大な修道女を切り刻む。正にジャイアント・キリング。小さな剣士達がその冴え渡る剣技をもって、影の人形を打破した。

 

「アノマリリスさんとシェキナーガさんの効果!墓地の『シャドール』魔法、罠カードを手札に加えます!私は『影依融合』と『神の写し身との接触』を手札に加えます!」

 

「まだまだぁ!バトルだ!『閃光竜スターダスト』で『エルシャドール・エグリスタ』を攻撃!」

 

「ッ!『エルシャドール・ウェンディゴ』ちゃんの効果!自分フィールドのモンスター1体を特殊召喚されたモンスターとの戦闘による破壊から守る!私は『エルシャドール・エグリスタ』さんを選択!」

 

閃光竜の息吹が真紅の騎士へと襲いかかる。強大な光の奔流は炎の人形を飲み込み、その身を焦がす。しかし騎士の影より跳ね出たイルカに乗った少女が杖を振るい、光を払う。

 

黒門 暗次&光焔 ねね LP2600→2550

 

「ちぃっ!肝心な奴が残っちまったか……!メインフェイズ2に移行し、レベル4の『XX-セイバーガルセム』にレベル3の『XX-セイバーフラムナイト』をチューニング!シンクロ召喚!『X-セイバーウルベルム』!」

 

X-セイバーウルベルム 攻撃力2200

 

現れたるは牛のような角を唸らせたマスクを被った荒々しき戦士。

 

「『エルシャドール・エグリスタ』さんの効果!特殊召喚を無効にし破壊します!」

 

しかし、エグリスタの背より伸びる影糸が戦士を雁字絡めにし、引き裂いてしまう。

 

「その後、手札の『シャドール』カードを墓地へ送ります。私は『シャドール・ファルコン』ちゃんを墓地へ送り、『シャドール・ファルコン』ちゃんの効果で自身をセットします。……何故シンクロ召喚を……?」

 

「LPが少ないのに、低攻撃力のモンスターを晒す奴がいるかよ」

 

「成程……」

 

「俺はブレイズマンを守備表示に、これでターンエンドだ。さぁ、お前の番だぜ?黒門」

 

コナミ&刀堂 刃 LP600

フィールド 『閃光竜スターダスト』(攻撃表示) 『E・HEROブレイズマン』(守備表示)

Pゾーン 『竜脈の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札0(コナミ) 手札0(刃)

 

黒門に向けて真剣な表情で語りかける刃。しかし、黒門は目を伏せ、微動だにしない。ただジッと地面を見つめ何かを考えている。

 

(俺は……、何がしたかったんだろうな……)

 

どうしてこうなってしまったのだろうと自嘲気な表情で薄く笑う。その顔に浮かぶのは後悔か、自責か。

 

(忘れちまってたぜ……ハッ!過去にすがった俺が昔の刃達の思い出を忘れるなんてな……そうだ、刃は裏切るような奴じゃねぇ……俺は馬鹿だな……だけど、だけどよ、刃)

 

少年の目から憎悪の色が消える。そこにあるのは紅蓮に燃え盛る激しき闘志。

 

「だからって負けられっかよ!俺だって負けず嫌いだ!勝って満足するしかねぇ!答えろ!答えてみろ!俺のカード!ドロー!!」

 

一陣の風が吹く。熱き闘志が左手に宿る。口の端を吊り上げ、高らかに、ドローした。

 

「最ッ高だぜ!俺達のデュエルはこれからだ!俺は『暗黒界の門』の効果で墓地のレイヴンを除外、ベージを捨てて1枚ドロー!」

 

黒門 暗次 手札0→1

 

「手札から捨てたベージの効果でこいつ自身を特殊召喚!」

 

暗黒界の尖兵ベージ 攻撃力1600→1900

 

「そして!ベージを手札に戻し、墓地より『暗黒界の龍神グラファ』を特殊召喚!」

 

暗黒界の龍神グラファ 攻撃力2700→3000

 

少年の想いに答えるように、谷底より黒き龍が旋回し、帰還する。肉食恐竜の頭蓋の兜、3本のうねる角、刺々しい肉体、そして、頼もしき背中。漆黒の翼を広げ、主と門を背に、雄々しき叫びを上げる。

 

「……俺は……馬鹿だ。仲間を信じようとしなかった。憎しみで目が眩んでいたのは俺の方だ。それどころかねねにまで当たって……すまなかったな、ねね」

 

頬を掻き、恥ずかしそうに謝罪する黒門。その顔にはもう何の陰りも無い。あるのは晴れやかな、荷を下ろしたような少年の顔。

 

「私こそすいません。暗次君も、刃君も……」

 

「そうだな……刃、すまなかった。そして、グラファ……」

 

自分の仲間に向かい謝罪し、自らの分身へとへと向き直る黒門。

 

「俺はもう、仲間を見捨てない。お前のように、全力で仲間を守って見せる。1度は間違った俺だけど、共に、闘ってくれ!」

 

口元を緩め、真剣に語りかける黒門。ソリッドビジョンに何を--?と彼の行動を馬鹿にするような人物は此処には一人もいない。何故なら。

 

--オオオオォォォォ!!--

 

彼に応えるように、黒き龍が遠吠えを上げたからだ。地が響き、天が震えるような激しくも、優しい音。それだけで、少年は救われた。

 

「もう、迷いも、悩みもない。カードが答えてくれたから、だから全てを出す。受け止めて貰うぜ?刃、コナミ」

 

「へっ!かかってこい!暗次!」

 

「バトルだ!『暗黒界の龍神グラファ』で『閃光竜スターダスト』に攻撃!」

 

黒き翼を翻し、滑空するように、地面を抉り取りながら進む龍神。野太い腕を伸ばし、白き竜の脚を鷲掴みにし、牙を突き立てる。

 

「『閃光竜スターダスト』の効果により、自身に1ターンに1度の破壊耐性を与える!」

 

白き竜に薄い膜状のバリアが張られ、龍神に対抗するようにブレスを放つ。竜と龍の対決は遥か上空にまで上り、互いに身を削り合う。グラファが爪を振るえば、スターダストが翼を刃のように使い切り裂き、スターダストがブレスを放てば、グラファがその身を弾丸のように撃ち出す。そしてグラファの刺々しい尾が振るわれ、強烈な打撃音と共にスターダストが渓谷にぶつかり、岩雪崩にその身が埋もれてしまう。

 

コナミ&刀堂 刃 LP600→100

 

「更に『エルシャドール・エグリスタ』で『E・HEROブレイズマン』を攻撃!」

 

エグリスタの背の影糸がまるで矢の雨の如くブレイズマンに降り注ぎ、身を焦がす。これでコナミ達の場に残るモンスターは『閃光竜スターダスト』のみとなった。

 

「俺はこれでターンエンド。さぁ、今度はテメェの番だ。コナミ!お前の全力!受け止めてやるぜ!」

 

黒門 暗次&光焔 ねね LP2550

フィールド『暗黒界の龍神グラファ』(攻撃表示) 『エルシャドール・エグリスタ』(攻撃表示) 『エルシャドール・ウェンディゴ』(守備表示) セットモンスター

『強制接収』

手札2(黒門) 手札1(ねね)

 

楽しそうに笑い、コナミを見据える黒門。黒門だけではない。ねねが、刃が、期待を含んだ瞳でコナミを見つめる。ならば答えて見せよう。そう示すようにデッキに手を置き、勢い良くドローする。

 

「オレのっ、ターンッ!」

 

その瞬間、瓦礫より光が弾け、『閃光竜スターダスト』が復活する。まだ闘える。そう言わんばかりの咆哮を受け、コナミが指示を飛ばす。

 

「バトル!『閃光竜スターダスト』で『暗黒界の龍神グラファ』に攻撃!」

 

「なっ!?」

 

コナミの台詞にその場全員が目を見開く。コナミ達のライフはたった100。そんな状態なのに攻撃力で勝っているグラファに攻撃を仕掛けてきた。--何かある--この攻撃で終わらせる気だ--!そう感じ、瞬時にすぐ傍で輝くアクションカードに飛びかかり、光のプレートに叩きつける黒門。負けられない。デュエリストとしての本能が危機を感じたのだ。

 

「アクションマジック!『回避』!攻撃を無効にする!」

 

これで此方に突撃する流星は止まる--筈だった。

 

「信じていた。お前なら止めるだろうと。賭けだったが--オレ達の勝ちだ!速攻魔法!『ダブル・アップ・チャンス』!攻撃が無効となった時、そのモンスターの攻撃力を倍にし、もう一度攻撃出来る!更に墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、スターダストの攻撃力を800ポイントアップする!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500→3300→6600

 

「流星不死鳥突撃(シューティング・フェニックス・アサルト)!!」

 

スターダストの翼が紅蓮の焔を帯び、その軌跡は赤き尾を作り上げる。その姿はまるで不死鳥。太陽の如き輝きを放つ竜は黒き龍神へ突撃し、減速する事なく背後の巨大な門を破壊する。

 

黒門 暗次&光焔 ねね LP2550→0

 

デュエル終了のブザーが鳴り響く。門より漏れし光は暖かく、優しいものだった--。

 

「……あー、負けちまったかぁ……」

 

フィールドが消え、木造の道場へと戻る。黒門はその場に仰向けに倒れ、悔しげな声を漏らす。そんな中、彼に手を伸ばす者が1人。

 

「俺達の勝ちだな。黒門」

 

刀堂 刃だ。彼は人懐っこい笑顔を親友に向け、勝利を誇る。そんな彼の手を拒まず、手を取り、立ち上がる。

 

「……なぁ、刃。何であの時、LDSに渡ったんだ?」

 

「あー……なんつーか……あの時、この道場、貧乏で潰れちまいそうでよ。LDSに移籍すりゃあ、出来る限りの願いを聞いてくれるっつーから……な」

 

恥ずかしそうに頬を掻きながら黒門の疑問に答える刃。そんな彼に黒門は「ハハッ」と笑い。

 

「お節介が」

 

「うるせぇ」

 

笑い合う2人。もう2人には、何の禍根も残ってない。昔のような、軽口を言い合える友達。そんな彼等を暖かく見つめるねね。そんな中、刃はふと思い立つ。

 

(コナミに、礼を言わなくちゃな)

 

そう思い、コナミの方へ笑顔で振り返り、固まった。

 

「ちょっ!やめてください!コナミさん!」

 

「何を言っている?元々こう言う約束だろう?」

 

そこには二階堂道場の看板を本気で、一点の曇りもなく、外しにかかるコナミとそれを止めようとする帝野がいた。

 

「話聞いてたのか、お前!?俺は道場を守ろうとしたんだぞ!?何で潰しにかかってんだ。コナミ!!」

 

「刃よ、オレは最初から道場破りに来たと言っていただろう?」

 

「言ってたけど、空気読め!丸く収まりかけてんのに、何でまた問題起こしてんだ!?」

 

目の前の異様な光景に思わず突っ込む刃。この赤帽子には情けも容赦もないのか。何故こんな奴に背中を預けたのかを疑問を抱いてしまう程だ。取り敢えず、何としてもコナミを止めようとした時、背後より黒門とねねが刃を制す。共にコナミを止めてくれるのか--刃が再び友情を感じたその時。

 

「コナミ、いや!コナミの兄貴!俺達を兄貴の子分にしてください!」

 

「お願いします!コナミさん!」

 

勢い良く頭を下げる2人の親友。刃がその言葉を理解するまで、数分の時間を要した。

 

------

 

時はコナミのデュエル中に遡る。柚子よりコナミの捜索を依頼された遊矢は裏通りで、漸くコナミを発見した。--発見したはいいのだが--。

 

「今度は逃がさないぞ、ユーリ。私とデュエルしてもらおう。瑠璃を、返せ」

 

(なんか……黒い……)

 




裏サイバー流「道場破りとか最低やな」

サイコ流「せやな」


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第12話 瑠璃ィィィィイイイイイイイイ!!!

少しタグを改めました。しかしアニメは凄い事になってますね。
今回あれを出すのに少し複雑な気持ちになりました。


物語はコナミが暗次達とデュエルしていた頃に遡る。舞網市の裏通り、細く人通りの少ない道。榊 遊矢は肩を落とし、暗い表情でその道を歩んでいた。足取りは重く、エンタメデュエルの時の笑顔も陰り、何時もならピンとくの字に立ったアホ毛も今は萎びており、遊矢は今にでも頭に着けたゴーグルを被りたかった。

 

「コナミー、何処だぁー。出てこないと柚子が恐いぞぉー。ハリセンだぞぉー」

 

まるで迷い猫でも捜すかのように、口に両手でメガホンを作り、棒読みで猫よりも生息地が不明な生物を捜す遊矢。コナミの捜索、それが遊矢が柚子より頼まれた依頼である。道場破りに出掛けたと言う事で、目立つ場所ではなく、尚且つデュエル塾のある道を選んだのだが、一向に見つからない。

 

因みに遊矢がコナミを捜すこの時に、コナミはとある幸薄系少女に捜し求める者が何たるかを説いていたのは皮肉な話である。捜し求める者、遊矢。求めている者がレア過ぎて見つかるかは別であるが。

 

「そう言えば、何でコナミって遊勝塾に入ったんだろ?」

 

ふと思う。彼程の実力者ならば、他にも引く手数多であろうに、それこそ、LDSでも上位に入り込み、チャンピオンシップの資格を取るのは楽になる筈だ。自分がペンデュラムを使うから?……いや、彼は自分がペンデュラムを使う事も知らなかった筈だ。

 

「はぁ……まぁいいか、正直、コナミが居て助かるし、な~んか同い年の兄貴がいる気分だよなぁ」

 

これまでのコナミと過ごした日常を思い返す。勉強を皆に教えてくれた事、機械の修理をしてくれた事、遊勝塾の為、闘ってくれた事、そして、チャンピオンシップで闘おうと誓った事。口数の少ない何でもできる、デュエルが好きな赤帽子の少年。彼が遊勝塾に来てくれて、本当に助かった。だがもしも。

 

「もしも……コナミが敵だったら、どうなってたんだろうな……」

 

その「もしも」は直ぐに叶えられる。

 

「久し振りだな」

 

「!?」

 

声が、響く。透明感のある、聞き覚えのある声。遊矢が捜していた、少年の声。声がした方向に振り向くと共に、ガチリ、と腕に装着したデュエルディスクに鎖が繋がれる。

 

「--え--?うおぉっ!?」

 

それと同時に、人並み外れた力で体が引っ張られ、重心が傾く。この裏通りより更に細く、狭い道に連れ込まれる。だが余りの急な展開に、遊矢の思考は追いつかない。何とか鎖の先を見て、ビルの上でこの鎖の主と思われる者が駆けている事だけが分かる。尋常ではない身体能力。一体、誰が--?其処まで考えた、瞬間。

 

遊矢の身体が、宙を飛んでいた。

 

「うぁっ、うわぁぁぁぁああああっ!??」

 

「喋るな、舌を噛むぞ」

 

遊矢の真上から声が響き、影が差す。先程の声の主であろう。しかし、その人物を確かめる余裕は今の遊矢にはない。現在、遊矢の頭の中には、走馬灯のように様々な事が駆け巡り、他の行動が起こせない。宙に浮いている時間が長く感じられる。そして、地面が見えてきた処で。

 

(あ……死ぬかも)

 

14歳の少年の脳裏に、明確でリアルな死が浮かぶ。まだやりたい事があるのに、父さんのようなエンタメデュエリストになって、コナミとの誓いを果たさなくてはならないのに--!

 

「ふっ!」

 

そこで鎖が手繰り寄せられ、ガッチリと胴を掴まれる。声の人物は鎖をロープのように廃墟となったビルの尖った部分に引っ掛け、衝撃を抑えて着地する。それと同時に、遊矢の身体が放り投げられる。

 

「あだっ!?」

 

思わず声を上げてしまう遊矢。だが予想していたような痛みはない。何故だろうか?

 

「……やはり、こうして見るとユートに似ているな」

 

遊矢の先で独り言を呟く人物。やはりその声は、遊矢にとって聞き覚えのあるものだ。流石に友人であろうと頭にキて苛立ちを含んだ声を上げる。

 

「何するんだよコナミ!死ぬかと思ったじゃない……か?」

 

しかし、遊矢の目の前に立つ少年は何時もと何処か違う。声も、顔立ちも、背格好も、遊矢の知る彼と酷似している。だが。

 

「……ん?ああ、前にお前の隣にいたアイツと勘違いしているのか?確かに名前は同じだが--ああ、いや、どう違うなんて私にも分からないが、少なくとも私はお前の知るアイツではない」

 

そう言って、やれやれと頭を振る目の前の少年、『コナミ』は左腕に嵌めた黄金の輝きを放つデュエルディスクを構え、薄く笑う。

 

「今度は逃がさないぞ、ユーリ。私とデュエルしてもらおう。瑠璃を、返せ」

 

(なんか……黒い……)

 

確かに目の前にいる『コナミ』は遊矢の知る『コナミ』と酷似している。だが、違うのだ。赤い帽子は黒の帽子に、マントのように羽織られたジャケットは黒のジャケットに、帽子の上に装着されていたゴーグルは消え、代わりのように首に重々しいヘッドフォンが掛けられている。全体的に黒を基調とした、赤い『コナミ』とは対照的な『コナミ』。

 

それだけなら遊矢の知る『コナミ』が服装を一新しただけ、と思い、辿り着くだろう。だがそんな事はない。何故だか分からないが、確信があるのだ。目の前の彼は『コナミ』であっても、遊矢の知る『コナミ』ではない、と。

 

仮にこの目の前の『コナミ』を黒コナミとしておこう。コナミと黒コナミが思想や性格、特技や趣味が同じだとしても、目の前の少年は遊矢達と過ごしたコナミではない。そんな、理屈ではない感情が遊矢を確信付ける。

 

だとしたら、この黒コナミは、自分に何のようがあるのだろう?黒コナミは遊矢の事をユーリと呼び、瑠璃を返せと言った。自分はユーリではないし、瑠璃が何なのかは分からない。ただの勘違いなら、直ぐに解こう。そう思い、手をつき、立ち上がろうとした時。その手に、嫌な感触が伝わる。

 

「ッ!?これはっ!?」

 

視線の先に、遊矢の後ろにあったものは大勢のデュエリスト。20人はいるであろう彼等は倒れ伏し、小さく呻き声を上げている。遊矢が黒コナミに放り投げられた時、彼等がクッションとなって、痛みを減らしてくれたのだろう。一体、誰がこんな事を--?など思うまでもない。

 

「--ああ、そいつ等なら、私を捕縛しようとデュエルを挑んで、返り討ちにした。中々楽しかったな」

 

何事もないように、軽々しく言葉を放つ黒コナミ。それが遊矢の癪に触った。

 

--ここまでする必要はあるのか?--コナミはこんな事はしない--!

 

「……いい顔になったな、ユーリ。だが、自分の事を棚に上げるなよ」

 

「俺はユーリとか言う奴じゃない!何を勘違いしているか知らないけど、それ以上コナミの姿で、顔で、声で、その手で誰かを傷つけようと言うなら、俺はお前を許さない!」

 

「ユーリじゃない?それが信じられると?お前こそ、その姿で好き勝手されては困る」

 

互いにデュエルディスクを構え、睨み合う2人のデュエリスト。基本、人畜無害でエンターテイナーを目指す遊矢にしては珍しい事である。黒いコナミも表面上では落ち着き払っているが、その奥に何を秘めているかは分からない。そして。

 

「「デュエル!!」」

 

互いに忘れられないであろう、デュエルが今、始まった。

 

「私のターンだ。私は手札の『ゴゴゴゴーレム』を墓地に送り、魔法カード『オノマト連携』を発動。デッキより、『ガガガマジシャン』と『ゴゴゴジャイアント』を手札に加え、『ガガガマジシャン』を召喚」

 

ガガガマジシャン 攻撃力1500

 

「ガガガッ」と声を上げ、現れたのは全体的にだらり、と気を抜いた姿をし、チェーンを巻いた不良魔術師。レベルの変動においては代表的なモンスターである。

 

「更に私は『ガガガキッド』を特殊召喚する」

 

ガガガキッド 攻撃力800

 

『ガガガマジシャン』の隣に現れた『ガガガマジシャン』を小さくしたような少年魔術師。彼は手に持ったアイスバーを口に含み、半眼で遊矢にガンを飛ばす。

 

「そして、『ガガガキッド』のレベルは『ガガガマジシャン』と同じレベル4となる」

 

ガガガキッド レベル2→4

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築」

 

直後、黒コナミの背に、輝く星々が浮かぶ渦が巻き起こる。2体のモンスターは渦に吸い込まれ、そして--黄金の装飾を纏う白き塔が立つ。

 

「エクシーズ召喚!現れよNo.39!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!光の使者、希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

『ホォォォォォプ!!』

 

塔が音をたてて変形し、戦士の姿となり咆哮する。腰に携えた2刀、黄金の装飾、雄々しき白の翼。そして--右肩に浮かぶ39の赤き紋様。『No.39希望皇ホープ』。遊矢がこのモンスターを目にするのは2度目である。1度目はコナミ、そして2度目は、この黒コナミの手より繰り出された。あの時は零児のペンデュラム召喚した『DDD制覇王カイゼル』の力により、その効果が無効化されていた為、遊矢にはその効果は分からない。あのコナミが操っていたモンスターだ。警戒をより一層高いものに引き上げる。

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP4000

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

目の前に立ち塞がる希望の翼を広げる皇。このモンスターより伝わる圧倒的な覇気に思わず退きそうになる遊矢。だが--逃げるわけにはいかない--!

 

「俺のターン!俺は、『時読みの魔術師』をペンデュラムスケールにセットし、『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

ポン、と星を散らし、華麗に参上したのは仮面を被った道化。彼は怪しく笑いながらステップを刻む。

 

「ドクロバット・ジョーカーの効果!召喚に成功した時、デッキから、このモンスター以外の『EM』、『魔術師』ペンデュラム、『オッドアイズ』モンスターの内、1体を手札に加える!俺は『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を手札に加える!」

 

ドクロバット・ジョーカーがシルクハットから数枚のトランプを取り出し、自らの主である私の遊矢に向かい投げつける。その中から遊矢は1枚のカードを掴み取り、全てのトランプが小さな煙を起こし消える。残ったのは遊矢の手の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』。ドクロバット・ジョーカーのトランプが姿を変えたのだろう。何とも凝った演出である。

 

「俺は、スケール4の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』既にセットされたスケール8の『時読みの魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル5から7のモンスターを同時に召喚可能!」

 

遊矢のデュエルディスクの両端に2枚のカードが設置され、七色の光を放つ。続いて上空に光の柱が伸び、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『時読みの魔術師』が現れ、幾重もの線が結ばれ巨大な魔方陣を描く。

 

「……ペンデュラム……!?」

 

ここで黒コナミが初めてその表情を驚愕に変える。どうやら彼はペンデュラムの事を知らないようだ。だが彼がコナミと同じくこの街の者ではないならそれも納得できるか、と遊矢は考える。尤もコナミのようにペンデュラムを持っていれば遊矢としては堪ったものではないが。

 

「揺れろ!魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!」

 

魔方陣の中心が開き、2つの閃光が遊矢の前に降り注ぎ、地響きを起こす。

 

「『EMカレイドスコーピオン』!」

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

遊矢の前に両腕の盾を構えた、万華鏡の尾を持つ真紅の蠍が現れる。お世辞にも高いステータスを持っているとは言えないが、懸命に主を守ろうとする姿は可愛らしい。

 

「『EM』の重鎮。地響きとともにただいま降臨!『EMハンマーマンモ』!」

 

カレイドスコーピオンの隣に並ぶのは、シルクハットを被り、玩具のハンマーを鼻に着けた巨大な象。その姿は何処か愛嬌がある。

 

「バトルだ!『EMハンマーマンモ』で希望皇ホープに攻撃!ここでハンマーマンモの効果発動!相手フィールド上の魔法、罠カードを全て手札に戻す!」

 

ハンマーマンモのハンマーが地を叩き、黒コナミのセットカードを手札に戻す。

 

「いたたぎマンモー!」

 

気の抜けた攻撃名と共に再びハンマーが振られ、希望の皇へと迫る。しかしこの程度の攻撃で怯む程、黒コナミとこのモンスターは甘くはない。

 

「希望皇ホープのORUを1つ取り除き、効果発動。モンスターの攻撃を無効にする。ムーンバリア」

 

ホープが翼の1つを前方に展開し、ハンマーマンモの攻撃を防ぐ。攻撃無効効果。目の前に立ち塞がる皇の力に無意識に舌を巻く遊矢。合計2回の攻撃を無効にされるのは厄介なものだ、と。

 

「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ。ここで『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』のペンデュラム効果発動!このカードを破壊し、デッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスター1体を手札に加える!俺が手札に加えるのは『EMペンデュラム・マジシャン』だ」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMハンマーマンモ』(攻撃表示) 『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示) 『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)

セット2

Pゾーン 『時読みの魔術師』

手札1

 

3体ものモンスターを展開し、次のターンの準備も整えた遊矢。一方の黒コナミは遊矢のプレイングに感心し、見た事もないペンデュラムカードに目を輝かせ、興奮を隠しきれない様子だ。その姿に遊矢は思わずコナミの姿を重ねてしまう。2人が酷似している為、イメージに拍車がかかる。しかし、遊矢の感情がそれを拒絶する。目の前の『敵』は決してコナミではない。奴はこの場にいるデュエリスト達を傷付けたのだと、そんな奴が自らの友と同じ筈がない。

 

「ペンデュラム……面白いものを使うなユーリ?アカデミアで作ったものか?」

 

口元を歪め、遊矢へと語りかける黒コナミ。未だに遊矢の事を『ユーリ』なる人物と勘違いしているようだ。

 

「だから!俺はユーリじゃない!遊矢だ!」

 

「どうだかな?その顔、その目、その声。それがお前がユーリだと物語っている」

 

バッと右腕を差し出し、遊矢を指差す黒コナミ。その黒帽子の奥底に眠る瞳にはギラギラと肉食獣のような獰猛な輝きが宿っており、見るだけで背筋を寒気が襲う。

 

「あの時、私が『奴』に足止めされなければ瑠璃を守る事が出来た……!すまない瑠璃……!瑠璃ィィィィイイイイイイイイ!!!」

 

天に向い激しい咆哮を上げる黒コナミ。彼の並々ならぬプレッシャーを間近で受けた遊矢は思わず尻餅をついてしまう。それと同時に驚愕する。別人とは言え、コナミと同じ顔をした人物がこうまで感情を露にするのか、と。

 

「……このような感情はデュエルに持ち込むべきではないな……、デュエルを続けよう。私のターン、ドロー」

 

先程までの興奮を内に秘め、落ち着き払い、デッキの上のカードを引き抜く黒コナミ。

 

「私は永続魔法『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』を発動。『希望皇ホープ』モンスターがエクシーズ召喚された時、500LPを払う事で、1枚ドローする事ができる。私は『No.39希望皇ホープ』でオーバーレイ・ネットワークを再構築、カオスエクシーズ・チェンジ!現れよCNo.39!混沌を光に変える使者!希望皇ホープレイ!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ 攻撃力2500

 

希望皇ホープが塔の姿に戻り、渦に飲み込まれる。そして、次の瞬間、塔は更なる変形を見せ、希望皇ホープの新たな姿となる。白く輝く皇は漆黒に染まり、そのフェイスも厳ついものへ、純白の翼は烏のような黒く攻撃的なものに変わり、2振りの剣とは別に、背に1本の大剣が背負われる。右肩の39の紋様は左翼に移り、赤き輝きを放った。

 

「カオス……ナンバーズ……?」

 

目の前で起こった皇の変貌に動揺する遊矢。エクシーズ・チェンジは見た事がある。LDS襲撃の際に、エクシーズコースの志島 北斗が見せた戦術だ。だがあの時と今では明らかに違う。希望皇ホープは目の前で明確な進化を遂げた。

 

それに『CNo.』、そもそも『No.』と言うモンスター自体、遊矢には聞き覚えがない。39と言う事は他にも『No.』と名のつくモンスターがいるのだろうか?そしてその数は?数次第ではとんでもない脅威になる。

 

「500LPを払い、『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果、発動。デッキからカードを1枚ドロー」

 

黒コナミ LP4000→3500 手札3→4

 

黒コナミの発言により、ハッと我に返る遊矢。そうだ今はそんな事を気にしている場合じゃない。今はデュエルに集中しなければ、と黒コナミを見据える。すると彼は先程引いたカードを見て、ニヤリと笑っている。ゾクリと遊矢の背に寒気が走る。

 

「いいカードを引いた。私は友情の証、『RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース』を発動!自分フィールドのランク4のモンスターをランクが1つ高い『CNo.』モンスターにランクアップする!」

 

「ランク……アップ……!?」

 

ヤバい。あのカードはヤバい。遊矢の全身が警報を鳴らす。これから出るカードは今まで自分が見てきたどのようにカードよりもヤバいと。体が震える。嫌な汗が止まらない。だがそんな事、黒コナミには関係ない。

 

「ランク4の希望皇ホープレイでオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオスエクシーズ・チェンジ!」

 

ホープレイの装甲が赤の力を纏い、刺々しく鋭角的な鎧へと変わり、深紅に染まる。腰の2刀は1つに合わされ、まるで薙刀のような曲刀へと変わっていく。

 

「出てよ、CNo.39!混沌を統べる赤き覇王。悠久の戒め解き放ち赫焉となりて闇を打ち払え!」

 

フェイスは獣のような凶悪なものになり、その姿は皇と言うには邪悪で、暴君と言った方が正しい。赤き両肩、銀のヘルム、どす黒い翼。そして今までよりも赤く輝く39の紋様が左肩に宿る。その皇の名は。

 

「降臨せよ、希望皇ホープレイV!」

 

CNo.39希望皇ホープレイV 攻撃力2600

 

遊矢の眼前に、儚き希望の光が今、降り立った。

 




おまけ

クロワッサン「くっ!コナミとはぐれてしまった……!」

――瑠璃ィィィィイイイイイイイイ!!!――

カン☆コーン!

クロワッサン「瑠璃!?どこだ瑠璃!?瑠璃ィィィィイイイイイイイイ!!!」(共鳴)

――――――

――瑠璃ィィィィイイイイイイイイ!!!――

カン☆コーン!

茄子「……やっと見つけたぞぉ……!コナミィ!!」(狂化)

おまけのおまけ

破壊皇セールゲイV(ヴォルコフ)「その足掻きは美しい……だが見苦しい!」(ブイブレードシュート)


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第13話 だが奴は……弾けた

遅くなりましたが先週、急激に評価が増え、ランキング入りまでしました。これも読んでくださる皆様のお陰です。ありがとうございます。これからも全力を尽くして頑張ります。やっぱ皆不憫な茄子が好きなのかな(困惑)
あ、後、次回を投稿次第、番外編のアンケートを終了しますので、これが見たい!という方は活動報告にて。


気がつけば、彼は瓦礫の山の上で眠っていた。辺りは暗く、冷たい風が吹く最中、彼は思う。

 

――ここは――何処だ――?

 

記憶喪失――ではない。自分の名前も、出身も、今まで蓄えてきた知恵もある。だが、先程まで何をしていたかも、今の時間も、此処がどこなのかも分からない。これではまるで酔っ払いではないか。……いや、たった今だが、此処が何処なのかは分かった。ボロボロにひび割れ、崩れて煙を上げる、紛争地帯のような街並みを見て分かった。少年が知る景色とは変わり果ててしまったが、恐らく間違いないだろう。

 

「……ハート……ランドか……?」

 

パチパチと火を上げる大地を見渡し、血生臭い薫りを吸い込み、首を傾げる。果たして自分の知るこの街はこれ程まで荒れていただろうか?と。余りにも凄惨な光景に疑問が浮かぶ。

 

「……これではサテライトと言われた方が納得ができる」

 

鼻を鳴らし、皮肉気な笑みを浮かべる少年。寝転んでいたお陰でついてしまった埃を両手で払う……のだが、どこか違和感を感じる。一体何故――?

 

「ん……?ジャケットが黒い?」

 

その正体は自らの身につける衣類、だがそれだけではない。

 

「……帽子も黒いな……」

 

チラリと頭に被った帽子を見て、溜め息を吐く。どういうカラクリかは知らないが少年の着ている服装はほぼ黒一色。元の色の欠片も残ってはいない。唯一変わってないのは左腕に嵌めた黄金のデュエルディスクと首に掛けた重々しいヘッドフォン位か。

 

「……赤、好きだったんだがな……」

 

何時もとは違う黒の帽子を被り直しながら、再び溜め息を吐く。今度は先程よりも重いものだ。と、そんな所に声が掛けられる。此方を心配するような、少女の声。

 

「……お前は?」

 

少年の視線の先にいたのは瑠璃色の髪を羽の髪留めで一結びした、どこか気品を感じさせる大人びた少女。彼女は少年の憮然とした態度にムッときたのか頬を膨らまし、腰に手を当て少年を叱りつける。

 

「ああ悪かった。名を聞くなら自分から、だな。分かったからそう怒るな。美人が台無しだ」

 

少女の指摘に参ったとばかりに両手を上げて苦笑する黒帽子の少年。少女の方はと言うと、少年の「美人」と言う言葉に気を良くしたのか頬を桜色に染め、照れている。その仕草もお嬢様然としており、誰もが見惚れてしまう事に違いないだろう。この黒帽子以外は。

 

「それで?名前だったな?私の名は――」

 

そこで言葉が途切れる。私?自分は一人称にそんな言葉を使っていたか?そもそも自分の一人称は何だったか、うんうんと唸って考える少年に、少女のジトッとした視線が突き刺さる。まぁ……今はそんな事は置いておこう。早く名乗らなければ、目の前のお姫様が拗ねてしまいそうだ。

 

「私の名は――」

 

「何をしている」

 

そこに、新たな介入が加わる。少女の背後より土を鳴らしながら歩んで来る男は少女と似た顔立ちの赤いスカーフを巻き、コートを羽織った、猛禽類の如き眼光の少年。どうやら少女の兄のようだ。彼はその鋭い視線を黒帽子の少年に移し、睨めつける。

 

「貴様、アカデミアか!ならばデュエルだ!」

 

何やら一方的な勘違いを受けているらしい。彼はデュエルディスクを構え、青く光るプレートを展開する。少女が猛抗議を訴えているが、聞く耳持たずだ。

 

「貴様がアカデミアかどうか、俺が見極めてやる!」

 

鼻息荒く、黒帽子の少年へ敵対の意志を燃やす男。少女も何とか言ってと黒帽子の少年に訴えかけるが、少年の答えは彼よりデュエルを挑まれた時より決まっている。男と同じく左腕のデュエルディスクを構え、光のプレートを展開し、男に劣らぬ獰猛な笑みを浮かべ。

 

「――私の名はコナミ、人は私をデュエリストと呼ぶ――」

 

こうして黒コナミこと『コナミ』と『レジスタンス』の兄妹は邂逅し、何だかんだと一悶着終え黒コナミは『レジスタンス』期待のハリキリ☆ボーイとなるのだが――それはまた別の話。そしてこの何だかんだで彼等が戻るのが遅くなった事と黒コナミが『レジスタンス』入りして、とある少年の胃痛が加速したのも別の話になる。また兄妹の妹の方が黒コナミになつき、兄より兄っぽくなって、兄がショックを受けるのは割りとどうでもいい話。

 

――――――――

 

「希望皇……ホープレイ……V……」

 

自らの眼前で眠るように俯き、だらりと力なく両手を垂らす赤き覇王を見て、遊矢は無意識にモンスターの名を呟く。あれ程まで脱力していると言うのに、かの皇から感じる力は余りにも強力で濃密だ。例えるなら、赤黒く漂う濃霧。その存在は圧倒的ではあるが、どこか掴み所がない。しかし、分かる事が1つだけある。目の前の皇は強い。自分の場に攻撃力が同じである『EMハンマーマンモ』がいるのにも関わらず、胸中の不安は募るばかりで、霧は消えてくれそうにない。

 

「500LP払い、『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果により1枚ドロー」

 

黒コナミ LP3500→3000 手札3→4

 

そんな遊矢とは逆に、平坦な声音でデッキのカードを引き抜く黒コナミ。その手札はターン開始より変わらず、それも遊矢の不安を煽る。

 

「『CNo.39希望皇ホープレイV』のCORUを1つ取り除き、『EMハンマーマンモ』に対して効果発動!ハンマーマンモを破壊し、攻撃力分のダメージを与える!狩らせてもらおうか!魂ごと!Vブレードシュート!」

 

ホープレイVの周囲に浮かぶ菱形のCORUが弾け、途端に皇は獣のようなフェイスを上げ、両の眼を紅く輝かせる。スイッチが入れられたように両手を広げ、曲刀をクルクルとバトンのように回し、ハンマーマンモに向かい投げつける。そのVの字の軌跡はハンマーマンモを切り裂き、2振りの剣となって皇の元へと戻る。

 

「ぐっ!あああぁぁぁ!?」

 

榊 遊矢 LP4000→1400

 

身体を焦がすような痛みに思わず絶叫を上げる遊矢。何時ものソリッドビジョンによる刺すような小さい痛みではない。灼熱の炎のような、熱く、焼かれるような激痛。一体何故、こんな――?

 

「ダメージの実体化など初めてではないだろう?死なない程度には加減しているが……『No.』は加減が難しいな。『CNo.』なら尚更か」

 

どういう理屈かは分からないが、目の前のモンスターがこの痛みを作り出しているらしい。その事に軽い恐怖を覚えるが。

 

(逃げて……たまるかっ!)

 

敢えて身を乗り出す事で自分に檄を入れ、闘志に火を灯す。どういう理屈かは分からない――だが1度始めたデュエルだ。身体を動かすだけで痛みが走るが、それがどうした。逃げる訳にはいかない。それに遊矢の周りのデュエリストはこの程度では逃げないだろう。権現坂ならこの程度、ものともせずに不動のデュエルを貫き、柚子も芯の強い女性だ。ボロボロになったとしても立ち上がるだろう。何よりコナミなら、笑みを浮かべて、嬉々として闘う筈だ。

 

(……俺は……間違ってたな……、こんな気持ちでデュエルしたら……、コナミ達に、父さんに見せる顔がない……、泣きたい時こそ笑え!信じて進む!俺のエンタメデュエルを!)

 

「Ledies and Gentlemen!!ここからが本番、私のエンタメデュエルを、ご覧あれ!」

 

先程の暗い顔より一変、口の端を吊り上げ、ニヤリと笑い、自分に喝を入れる。遊矢の突如の変化に流石の黒コナミも戸惑いを隠せない。

 

「……エンタメ……デュエル……?」

 

「貴方の場にいる『CNo.39希望皇ホープレイV』の強力な効果により、私の『EMハンマーマンモ』は破壊されてしまいましたが、ご安心を!見事、この逆境を乗り越え、大逆転の開幕です!」

 

「面白い……私は『ゴゴゴジャイアント』を召喚!」

 

ゴゴゴジャイアント 攻撃力2000

 

新たに黒コナミの前に登場したモンスターは巨大な塔が人型になったようなモンスター。その攻撃力は下級モンスターにしては高い。

 

「『ゴゴゴジャイアント』の効果!墓地の『ゴゴゴゴーレム』を守備表示で特殊召喚する!」

 

ゴゴゴゴーレム 守備力1500

 

墓地と思わしき渦が現れ、中より丸い体に不釣り合いな豪腕を持つ、命ある岩石。『ゴゴゴゴーレム』は黒コナミを守るように両腕を交差し、防御体制を取る。

 

「その後、『ゴゴゴジャイアント』は守備表示となる」

 

『ゴゴゴゴーレム』に倣うように『ゴゴゴジャイアント』も膝をつき、両腕を交差する。これで黒コナミの場に再びレベル4のモンスターが2体揃った。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『ガガガザムライ』!」

 

ガガガザムライ 攻撃力1900

 

黒コナミの場に新たなエクシーズモンスターが姿を見せる。長いマフラーを靡かせ、赤の着物の上に学ランと一風変わった侍。彼は腰の2刀を引き抜き、自身の前で輝く刃を交差させる。攻撃力は先の巨人の方が上、しかし遊矢は油断など、馬鹿な真似はしない。相対するのは今まで自分が闘って来た中で間違いなく最強のデュエリスト。

 

「魔法カード、『エクシーズ・トレジャー』!フィールドのエクシーズモンスターの数だけドローする!」

 

黒コナミ 手札2→4

 

「更に魔法カード、『エクシーズ・ギフト』を発動!ホープレイVと『ガガガザムライ』のORUを1つずつ取り除き、2枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札3→5

 

「『ガガガザムライ』のORUを1つ使い、効果発動、フィールドの『ガガガ』モンスターに2回攻撃を付与する。当然、対象は『ガガガザムライ』自身。さぁ行くぞ、希望皇ホープレイVで『EMカレイドスコーピオン』を攻撃、ホープ剣・Vの字斬り!」

 

ホープレイVにまとわりつく赤黒い霧が2振りの曲刀に宿り、その凶悪さを増す。そのまま黒き翼を広げ、驚異的な速度で万華鏡の蠍に迫り、V状に切り裂いた。

 

「ッ!永続罠、『臨時収入』!自分のエクストラデッキにカードが加わる度に、このカードに魔力カウンターを1つ置きます!」

 

「……何?だがそんなカード、今は――」

 

「お答えしましょう!フィールド上のペンデュラムモンスターは墓地に送られる事なく、エクストラデッキに加わるのです!よって『EMカレイドスコーピオン』はエクストラデッキに表側表示で加えられ、『臨時収入』に魔力カウンターが置かれます!」

 

臨時収入 魔力カウンター0→1

 

「成程、面白いカードだ。だが、手は緩めん!『ガガガザムライ』で『EMドクロバット・ジョーカー』に攻撃!」

 

2刀を構えた侍が道化に肉薄し、斬りかかる。道化は懐から数枚のトランプを取りだし、手裏剣のように投げつける。刃物のような硬度を誇るトランプを切り裂きながら駆ける『ガガガザムライ』。剣術と奇術。まるで物語の中の異世界の闘いのように次々と披露される2人の攻防。これでは埒が空かないと思ったのだろう。『ガガガザムライ』は刀を1本投擲する。ビュオッと風を引き裂きながら、迫り来る刀を道化は上半身をスウェーする事でかわす、が。その隙を突き、接近した『ガガガザムライ』の必殺の剣技によって遂に倒される。

 

榊 遊矢 LP1400→1300

 

たった100、100のダメージが遊矢の全身を駆け巡る。黒コナミのモンスターによる斬撃が遊矢を切り裂き、擦り傷や切り傷、火傷を作る。だけど、だけども。

 

「罠発動!『EMリバイバル』!自分フィールド上のモンスターが戦闘、効果で破壊された場合に発動でき、手札、墓地の『EM』1体を特殊召喚する!さぁ再び舞台へ!『EMハンマーマンモ』!更に!エクストラデッキに『EMドクロバット・ジョーカー』が加わった事で『臨時収入』に2個目のカウンターが置かれます!」

 

EMハンマーマンモ 攻撃力2600

 

臨時収入 魔力カウンター1→2

 

遊矢は止まらない。歯を食い縛り、踏み留まる。その口元は弧を描いており、何事にも動じぬ意志が宿る。そんな彼に応えるように再び『EM』の重鎮がハンマーの鼻を掲げ、遊矢を激励するように鳴く。まだまだここからが本番、デッキが、カードが諦めてないなら、座長である自分が諦めて堪るものか。と力を振り絞る。

 

「……面白い……!私はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP3000

フィールド『CNo.39希望皇ホープレイV』(攻撃表示) 『ガガガザムライ』(攻撃表示)

『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』 セット2

手札3

 

黒コナミの激しい攻撃が漸く終わる。だが安心などしてられない。焦ってもいけない。心は冷静に、闘志を燃やし、顔には笑顔を。ショーはまだ始まってもいないのだ。ここで終わってはエンターテイナーの名が廃る。

 

――俺は――エンタメデュエリストだっ!!――

 

「お楽しみはっ!これからだ!!」

 

逆境なんて、鼻で笑え。

 

「俺は!『星読みの魔術師』をペンデュラムスケールにセッティング!今1度揺れろ魂のペンデュラム!ペンデュラム召喚!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!『EMドクロバット・ジョーカー』!『EMカレイドスコーピオン』!『EMペンデュラム・マジシャン』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

再び天空に描かれた魔方陣より4つの閃光が大地を抉る。まるでサーカス集団のような個性的で華々しいモンスター達がこのデュエルの真の幕を上げる。先程のターンにも姿を見せた、シルクハットを被った黒き道化と万華鏡の蠍。その隣で振り子を揺らす赤き衣装を纏ったマジシャン。そして遊矢のエースにして二色の眼、オッドアイを持つこのデッキの目玉、赤き体躯に、青い宝玉を胸に抱き、頭の2本角と赤と翡翠の宝玉が嵌め込まれた背の2本角を唸らせるのはコナミの『オッドアイズ・ドラゴン』と似た竜、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』。

 

「まずは『EMペンデュラム・マジシャン』の効果により、このカードと『EMドクロバット・ジョーカー』を破壊し、ペンデュラム・マジシャン以外の2枚の『EM』を手札に加えます!勿論、『臨時収入』の効果をお忘れなく!と言ってもカウンターは3つまでしか乗りませんが」

 

臨時収入 魔力カウンター2→3

 

2体の魔法使いがシルクハットを手に礼をし、ポン、と音を鳴らし、消える。代わりに遊矢の手に2枚のカードが加えられる。

 

「私が手札に加えるのは『EMモンキーボード』と『EMヘイタイガー』!更に!カウンターが3つ乗った『臨時収入』を墓地に送り、カードを2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

ペンデュラム召喚により0だった遊矢の手札が嘘のように回復する。それなのにフィールドは先のターンより増えているのだから不思議だ。正しく魔術のような召喚法。黒コナミもサーカスを見に来た子供のように、帽子の奥の瞳を輝かせる。

 

「『EMハンマーマンモ』を対象に、『EMカレイドスコーピオン』の効果発動!このターン、ハンマーマンモは貴方の特殊召喚されたモンスター全てに攻撃できます!さぁバトル!ハンマーマンモで『ガガガザムライ』に攻撃!そしてこの瞬間、貴方の魔法、罠カードを手札に戻します!」

 

「ッ!罠発動、『攻撃の無敵化』!このバトルフェイズ中、戦闘ダメージを0にする!」

 

ハンマーマンモの攻撃により、砕け散る『ガガガザムライ』、戦闘ダメージは0になるが、モンスターは別だ。

 

「ハンマーマンモで希望皇ホープレイVに攻撃!」

 

赤黒いオーラを纏いホープレイVはハンマーマンモを迎撃する。しかし、『EM』の重鎮たるハンマーマンモも負けてはいない。去り際に皇の身体を鼻で拘束し、共に消えていく。

 

「……希望皇ホープレイVの効果により、墓地の『CNo.39希望皇ホープレイ』をエクストラデッキに戻す」

 

「私はカードを1枚セットしターンエンドです」

 

榊 遊矢 LP1300

フィールド 『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示) 『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)

セット3

Pゾーン『時読みの魔術師』『星読みの魔術師』

手札3

 

「私のターン、ドロー!」

 

「カウンター罠、『強烈なはたき落とし』!今加えたカードを捨てさせる!」

 

先程とは打って変わって、今度は遊矢が有利な状況になった。流石の黒コナミもこれはショックだったのか顔を俯かせ、小刻みに震えている。

 

「……クッフッククッ……」

 

「おっおい、大丈夫か?」

 

そんな彼の様子に思わず眉を八の字にして心配し、声を掛ける遊矢。しかし。

 

「クッハハッハハッ、ハハハハハッ!ハーハッハッ!!面白いっ!最高だ!これだからデュエルはやめられない!ならば私も見せてやろうか?もっと面白いものを!!!」

 

 

口を歪め、天に向かい、高らかに笑う黒コナミ。『コナミ』が大声を上げ、笑うと言う異様な光景に思わず目を丸くする遊矢。だが、それだけではない。

 

「うっ……ぐぅっ!?」

 

ズキリ、と胸が激しく痛む。心臓がドクドクと脈打ち、熱い血流が全身を駆け巡る。まるで“自分が自分でなくなってしまうような痛み”に顔を苦痛で歪める。そんな中、コナミが天に向かい、右手を翳す。一体何を――?と思った時、眩き黄金の光が黒コナミの右腕に集束する。目の前で起こる現実離れした光景。一体これは――?

 

「魔法カード――『ガガガドロー』!墓地の『ガガガ』モンスターを3体除外し、2枚ドローする!さぁ行くぞ!最強デュエリストのデュエルはすべて必然!ドローカードでさえもデュエリストが創造する!」

 

圧倒的な力の奔流。その全てが今、黒コナミのデッキを包み込む。

 

「全ての光よ!力よ!我が右腕に宿り、希望の光を照らせ!」

 

ズキズキと痛みが更に激しくなる。心臓が早鐘を鳴らす。意識が、遠くなる。

 

「シャイニングドロー!!」

 

視界が黄金の光に包まれた瞬間、遊矢の意識は暗い闇に堕ちた。

 

 

 




コナミ「看板奪うンゴ」

黒コナミ「魂狩るンゴ」

ぶれない。


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第14話 イラッとくるぜ!

【土曜だヨ!確実に存在する……漫才次元も……!】

遊矢「コナミって結構謎が多いよな?」

コナミ「そうか?いい機会だ。聞きたい事があるなら答えよう」

遊矢「あっじゃあその帽子――」

柚子「コナミ!ベッドの下のこれ何よ!」

ボッキン☆パラダイス「僕だ!」

コナミ「……時間のようだ」

遊矢「ちょっ!?」


漫才次元キャスト
コナミ……エロとボケを兼ねた赤帽子、ストライクゾーンはネオスペースのように広い。
遊矢……ボケとツッコミのエンターテイナー、この後、コナミからボッキン☆パラダイスを借りた。
遊矢「ベッドの下に隠すんだ!」
流れ星ヨーコ「見つけたわ!」
柚子……ツッコミ担当、ボッキン☆パラダイスを見つけた後、興味本位で赤面しつつ二回は読んだ。かわいい


「あちゃあ……やっぱ、こうなっちまったか……」

 

黒コナミと遊矢がデュエルする最中、その男は見晴らしのいいビルの屋上で胡座をかいていた。とはいっても充分に距離は離れてはいるが。

 

「ここからじゃないと気づかれるってどんな超人だよ。あの黒いの……」

 

灰色のローブに身を包み、黒い仮面、口元のスカーフなど男は自身の正体を徹底的に隠している。

そんな彼は深々と溜め息を吐き、再び、彼等のデュエルを見守る。

 

「……取り合えず、何時でも止められるように、覚悟だけはしておくか……」

 

風に靡くフードを手で抑える男。先程よりも大きな溜め息と共に、男の呟きは太陽が輝く晴れた青空に消えていった。

 

――――――

 

その変化は目を見張るものがあった。光輝くカードを手に黒帽子を目深に被った少年、黒コナミは目の前の少年に、強い警戒心を示す。

先の笑顔が嘘のように彼は顔を俯かせ、両腕をだらりと力なく垂らしており、まるでその様は糸が切れた人形のようである。足取りもフラフラと落ち着かず、非常に危うい。

それなのに、何故こうまで肌がピリピリとして、あの少年より大きな力の波が感じられるのか。これはまるで――。

 

「…………ッ!」

 

ガバッと勢い良く、目の前の少年、黒コナミの敵である『ユーリ』の顔が上がる。その瞬間、黒コナミの全身に電撃が走る。頭から爪先まで、一瞬で駆け抜ける衝撃。

――――目の前の『奴』は『誰』だ――?

髪は逆立ち、瞳は元の赤よりも更に深い深紅に見開かれており、口元には先程までの笑顔とは確実に毛色の違う、歪んだ笑みが刻まれている。数秒前の少年とは思えない程の変貌。

黒コナミの右手に握られた、黄金の光を放つカードとは真逆に目の前の少年はどす黒い瘴気を纏う『彼』は何者か?

 

「随分とつれないな、折角、人が奥の手を見せたと言うのに……闇堕ちとは……少しイラッときたぞ」

 

唇を尖らせ、拗ねたように呟く黒コナミ。彼としては「どういう……ことだ……!?」や「カードを創造しただとぉ!?」と言った台詞が返ってくると期待していたのだが、闇堕ちして返事もないとは、あんまりである。

ついでにインパクトも薄まった。これにはカードも不満があるらしく黒コナミの手元でピカピカと壊れた蛍光灯のように光っている。

 

「……まぁいい……『Vサラマンダー』を召喚」

 

Vサラマンダー 攻撃力1500

 

爆炎を上げ、4つの首をうねらせた真紅の火蜥蜴が姿を見せる。もっとも、その姿は蜥蜴と言うより翼を広げた竜にしか見えないが。

 

「『Vサラマンダー』が召喚に成功した時、墓地より、『希望皇ホープ』モンスター1体を特殊召喚する。再び私の前に、希望皇ホープレイV」

 

CNo.39希望皇ホープレイV 攻撃力2600

 

突如、火柱が黒コナミの前に上がり、赤黒い濃霧がその場に舞い上がる。

鈍い輝きを放つ2刀で赤と黒を引き裂き、現れたものは、黒コナミの希望、遊矢にとっての絶望の光。

 

「更に!『Vサラマンダー』は希望皇ホープレイVに装備カードとして装備が出来る!サラマンダー・クロス!」

 

四つ首の火蜥蜴が雄叫びを上げ、ホープレイVの鎧となる。灼熱の炎を纏い、その姿は更に深く、より凶悪で攻撃的な紅へと染まる。最早、元の雄々しい白の翼も、輝く金色の鎧の影も存在しない。

そこにあるのは業火を背負う、悪鬼の姿。どす黒い翼と真紅の翼、4つの翼を広げ、儚き希望が火蜥蜴と共に、亡者の如く唸り声を上げる。

 

「仕上げにかかる。魔法カード『オーバーレイ・リジェネート』。フィールドの『CNo.39希望皇ホープレイV』を選択し、このカードをCORUとする」

 

黒コナミのデュエルディスクに1枚のカードが差し込まれ、ソリッドビジョンによって、ホープレイVの元へ飛び込み、紫の光を放つ黄色い菱形のCORUとなる。

 

「……」

 

しかし、そんな黒コナミのプレイングにも眉1つ動かさず、禍々しき笑みを浮かべたままの遊矢。

確かにホープレイVの強力な効果は進化前である希望皇ホープからランクアップしなければ使用できず、不完全なものとなる。それこそが理不尽なまでの効果に課せられた唯一の制限なのだ。

しかし、その理不尽も霞む程の理不尽を今の皇は持っている。

 

「『Vサラマンダー』が装備されている場合、装備モンスターのORUを1つ取り除く事により、装備モンスターの効果を無効にし、お前のフィールドのモンスターを全て破壊し、破壊したモンスター1体につき、1000ポイントのダメージを与える!Vサラマンダー・インフェルノ!!」

 

CORUがホープレイVの2振りの曲刀に吸収される。曲刀は1つに繋げられ、薙刀のような形となり、炎を纏う。ホープレイVは灼熱の業火を纏うそれを遊矢の場に存在する2体のモンスターへと投擲する。

この効果が通れば、遊矢の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMカレイド・スコーピオン』が破壊され、2000ものバーンダメージにより、敗北が確定してしまう。仮にダメージは防げても、破壊されれば、攻撃力2600のホープレイVのダイレクトアタックが待ち受けてる。

 

「――手札の『EMレインゴート』を捨て、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を対象として、効果発動。このターン『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』は戦闘、効果では破壊されない」

 

遊矢の手札よりレインコートを纏った山羊が蹄を鳴らし、降り立つ。バサリと翻された星が散りばめられたレインコートにより、二色の眼を持つ竜は灼熱の雨を防いだ。

 

榊 遊矢 LP1300→300

 

然れど、そのレインコートはあくまで1人専用。万華鏡の蠍は赤き雨に打たれ、その身を散らす。

その熱は遊矢の身体にも降り注ぎ、焦がし、火傷を負う。

 

「そうでなければな、墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『Vサラマンダー』を戻してドロー!」

 

黒コナミ 手札2→3

 

「魔法カード、『手札抹殺』。手札を入れ替え、速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!手札を1枚捨て、ペンデュラムを破壊!そのカードは魔法扱いだろう?さて、準備は済んだ。希望皇ホープレイVで『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』へ攻撃!ホープ剣・Vの字斬り!!」

 

曲刀が2振りへと戻り、ホープレイVの両手に握られる。天高く跳躍したホープレイVは曲刀を構え、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をV字状に切り裂く。

 

榊 遊矢 LP300→200

 

「ッ!!レインゴートの効果により『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』は破壊されないッ!」

 

激しい衝撃が遊矢とその相棒を襲う。主同様に傷だらけの姿となる『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』。頭から生えた角は折れ、胸に抱いた青の輝きを放つ宝玉はひび割れて、痛々しい姿と成り果てる。

それでも自らの主である遊矢を守るように前に立つ。その身に檄を入れ、決して膝を地面に着かせはしない。

そんな相棒を気にも止めず、遊矢はその邪悪な笑みをより好戦的なものへと変える。何時もと明らかに違う、真逆と言っていい程のその表情。だがそんな事を知りもしない黒コナミは遊矢に似た歪んだ笑みをその顔に貼り付ける。

 

「仕留め損なったか……まぁいい。私はこれでターンエンドだ」

 

黒コナミ LP3000

フィールド『CNo.39希望皇ホープレイV』(攻撃表示)

『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』

手札0

 

圧倒的なまでの力の差。遊矢と黒コナミのLPの差がそれを物語っている。

事実、黒コナミのLPが減少しているのも、彼自身のカード『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』によるものである。遊矢の手によっては1ポイントたりとも傷つけられてはいない。だと言うのに、遊矢の残るライフはたった200。正にデッドゾーン。敗北までに両足がどっぷりと浸かった状態。しかし、彼は退かない。

その姿勢は先程のターンの彼と同様だが、その理由は余りにも違う。果たして今の彼は『榊 遊矢』であるのか?

 

「……俺のターンッ!」

 

その答えは誰も知らない。

彼の手より一陣の風が吹き荒れる。黒コナミのシャイニングドローには劣るものの、黒き輝きを放つ、熱風を纏った強大な力の奔流。その衝撃により、空気は震え、周りに立つ廃ビルが嫌な音を鳴らし、ガラスにひびが走る。

 

「魔法カード、『EMキャスト・チェンジ』!手札の『EM』をデッキに戻し、その数+1枚ドロー!『EMオッドアイズ・ユニコーン』と『EMエクストラ・シューター』をセッティング!揺れろ!魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!」

 

3度、天空の振り子が光の軌跡を描く。空中に作り出した輝く魔方陣より出でたるは一筋の光、激しく明滅するその影は遊矢の背後に強烈な音を響き渡らせる。

 

「いでよ、絶望の暗闇に差し込む、眩き救いの光!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

白銀の剣を煌めかせ、鎧を纏った光の竜がその雄々しい姿を見せる。その輝く剣は正しく、目の前の希望と言う名の絶望を切り裂く救いの剣。逆転のカードが今、整った。

 

「バトルだ!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』で『CNo.39希望皇ホープレイV』に攻撃!」

 

剣の竜がその腮より光の咆哮を放つ。眩き輝きを持つその光線は皇をも蝕んでいく。

 

「墓地の罠カード、『仁王立ち』を除外し、ホープレイVへと攻撃を絞る!」

 

黒コナミ LP3000→2800

 

ここで、初めて黒コナミのライフにダメージが入る。小さくも、確かな傷。それはホープレイVの攻撃同様に現実化し、黒コナミの頬を撫で、右腕に浅い傷を作り、黒い帽子のつばをほんの小さくだが欠けさせる。

 

「……ッ!ホープレイVの効果により、墓地の『No.39希望皇ホープ』をエクストラデッキに戻す!」

 

それは黒コナミの顔色を変えさせるには充分なものであったようだ。帽子の奥に隠された瞳は今正に、丸く見開かれている事であろう。口をポカンと開き、目の前で相対す遊矢を見つめている。

彼は暫く放心したかのように動きを止めた後、口元に深い弧を描き、獰猛な笑みを作った。

 

「……このスタンダート次元に来て、私にダメージを与えたのはお前だけだぞ……!」

 

言葉とは裏腹に嬉しそうに笑い、遊矢を繁々と観察する黒コナミ。先程までの敵意に興味の色が加えられる。

 

「……!ターンエンドだ……」

 

榊 遊矢 LP200

フィールド『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)

Pゾーン 『EMオッドアイズ・ユニコーン』 『EMエクストラ・シューター』

手札0

 

再び形勢は逆転し、遊矢の優勢となった。2体の大型の竜を従えているにも関わらず遊矢は警戒を解こうともせず、目の前の黒帽子を被った少年を睨めつける。黒コナミの場にはモンスターも存在せず、手札はない。だと言うのに――希望が見えない――。

 

「こう言う逆境を求めていたのだ。勝つか負けるか分からない。たった1枚のドローで未来が別たれるギリギリの攻防。このドローで“次”を引かなければ、私は負ける。だが恐れなどない、恐れては勿体無い。さぁ挑戦しようか!この逆境に!かっとビングだ!私!」

 

――かっとビング――とある少年の挑戦への希望が作り出した、不屈の意志。傷ついても、倒れても、どんなに絶望的な状況下でも、あの少年は希望への道筋を切り開いてきた。

その少年と同じく、黒コナミの瞳には絶望は宿ってはいない。そこにあるのはただ純粋な挑戦の闘志。

 

「さぁいくぞユーリ!いや!榊 遊矢ぁ!!」

 

己の前に立つ少年が自らの求める敵ではないと気づいたのだろう。それでもデュエルは止めない。例え目の前の少年が『ユーリ』でなくても……自らの闘志を震え上がらせるデュエリストには違いないのだから。

そして希望が、遊矢にとっての絶望が今、黒コナミの手に渡った。

 

「お前は面白い!エンタメデュエルとやらをやっていたお前より、今の闘志を剥き出しにしたお前の方が私を楽しませる!私は『ゴゴゴジャイアント』を召喚!」

 

ゴゴゴジャイアント 攻撃力2000

 

「その効果により、『ゴゴゴゴーレム』蘇生!」

 

ゴゴゴゴーレム 守備力1500

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!再び現れよNo.39!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!光の使者!希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

コナミの背に渦が巻き起こり、『ゴゴゴジャイアント』と『ゴゴゴゴーレム』が螺旋状の軌道を描き、吸い込まれ、白き塔を生み出す。塔は音を立てて変形し、黄金の鎧を纏う白き皇となる。

 

「ライフを500払い、『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果により、1枚ドローする!さぁいくぞ!シャイニングドロー!」

 

黒コナミ LP2800→2300 手札0→1

 

皇の登場と共に黒コナミが右腕を輝かせ、黄金の光を放つカードを引き抜く。2度目となるカードの創造。1度目より一際、輝きを増したそれは遊矢を戦慄させるには充分なものだった。

 

「さぁバトルだ!希望皇ホープで『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を攻撃!」

 

剣の竜へ向かい白き翼を広げ、希望の皇が腰の剣を引き抜く。攻撃力は『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』が上。だが既に勝利の方程式は完成している。

 

「ORUを1つ使い、希望皇ホープの攻撃を無効にする!ムーンバリア!!」

 

希望皇ホープの周囲を回転していた光が1つ弾け飛び、それに合わせて希望皇ホープは自らの翼を『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の前へと差し出す。これにより剣の竜より放たれた迎撃の光線は消滅する。

 

「勝利の方程式は完成した。速攻魔法!『ダブル・アップ・チャンス』!!ホープの攻撃を倍にして、もう1度戦闘を行う!いけ!希望皇ホープ!ホープ剣・Wスラッシュ!!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→5000

 

希望皇ホープが残る1刀を腰より引き抜き、火花を散らす。続いてその両翼を広げ、天高く上昇し、光を纏った剣を構え、剣の竜へと突き立てた。

 

榊 遊矢 LP200→0

 

「ぐうっ!あぁぁぁぁぁ!!」

 

その衝撃により、デュエル終了のブザーと共に遊矢の身体が吹き飛んだ。

 

「……」

 

そんな遊矢に対し、ゆっくりと歩みかかる黒コナミ。その、瞬間。

遊矢と黒コナミのデュエルディスクを繋ぐ鎖がガキン、と鈍い音と共に、破壊される。

 

「ッ!?」

 

黒コナミは目を見開き、鎖を破壊したであろうカードを見つめ、ガバリと、天に向かって顔を上げる。上空より現れた第3者の存在。

灰色のローブ、黒き仮面、まるでファンタジーアニメに出てきそうな魔術師のような装いをしたその人物は黒コナミを驚愕させるには充分な存在であった。

 

「アムナエル……ッ!」

 

唇を噛み締め、自らの邪魔をしたであろう男の名を呼ぶ。一体、何故この男が?この場にいる魔術師のような格好をした彼はもう、――消滅したと言うのに――。

確かに彼の魂はまだ現世に存在した。だが錬金術師の名を冠する彼の肉体は既にこの世には存在しない筈なのだ。ならば目の前で自らのカードを引き抜く男は一体、誰だ――?

 

「……」

 

アムナエルが黒コナミに対してデュエルディスクをチラリと見せ、顎で促した後、その場をビルを駆け上がり離れる。挑発するかのような態度。

 

「……誘っているのか……いいだろう。その仮面、剥がしてやろう」

 

黒コナミもまた、アムナエルが去ったであろう方向へ向かい、ビルを駆け上がる。最後に遊矢を一瞥して――。

 

――――――――――

 

――い――ぉい――

 

誰かの声が聞こえる。聞き覚えのない、少年の声。一体誰が?そもそも自分は何をして――瞬間、遊矢の脳裏に記憶が駆け巡る。黄金の鎧を纏う白き皇。そして――傍らにたたずむ黒い帽子を目深に被った少年。

――そうだ俺はっ――と目を覚まし、カバリと勢いよく上体を起こす。

 

「あだっ!?」

 

ゴチリ、と額に鈍い衝撃が伝わる。固いものにぶつかった感触。その、正体は――。

 

「~~~っ!……起き……たか……」

 

遊矢の顔が驚きに染まる。それもそうだろう。遊矢の目の前にいる2人の少年。1人は猛禽類の如く、鋭い視線を此方へ向けるコートを着た男。もう1人は――額を抑えた自分とそっくりな顔立ちをした少年だったのだから。

 




と言う訳で黒いのは遊矢を逆鱗にしてくるお邪魔虫。ユートがいないけどなんか別の人が逆鱗にしてるんでしょ(適当)。偽アムナエルはオリキャラじゃないよ!
そう言えば最近デート・ア・ライブの最新刊買ったけど、相変わらず設定がどことなく、まどマギに似ているのは気のせいだろうか?ファントムちゃんがQBとか悪夢すぎる。


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番外編1 ぎゃっきょうぐらし!

初めての日記形式、ウイング・レイダーズがそろそろ発売だし、話のタイミング的にもバッチリ。
本編の前日譚みたいなもの、ストレスによるキャラ崩壊注意です。
アンケート結果が驚く程、少なかったのは内緒だゾ☆


☆月A日 晴れ

 

誕生日と言う事で、瑠璃にプレゼントとして、日記帳を貰った。

折角なので、今日から付けていこうと思う。しかし、街が半壊状態だと言うのに、プレゼントを用意してくれるとは思わなかった。相変わらず優しい娘だ。因みに隼からは最新型のデュエルディスクを貰った。丁度、古くなっていたし、欲しかった物なので素直に嬉しい。しかし、隼が俺の欲しい物を当てるとは……と思いきや、瑠璃が選んでくれたようだ。まぁ当然か。変なゴーグル付きのマスクを俺に寄越すような奴だ、逆に隼は何をプレゼントするつもりだったのか聞いた処、8分の1スケールのライズ・ファルコンプラモだとか……手作りらしい。

 

 

 

☆月B日 晴れ

 

日記を付けるのは存外、楽しい。状況の整理も出来るし、心に幾分かの余裕が出来ている気がする。

アカデミアとの戦いせいで、此処のところ気が立っていたからな……後、隼の暴走を止めたり。

早くアカデミアを倒し、ハートランドを復興させよう。その時はレジスタンスの皆と一緒に、デュエル大会にでも出たいものだ。

 

 

 

☆月C日 曇り

 

……ちょっと色々混乱している。取り敢えず状況を整理したいと思う。

今日は俺の隊はアジトの見張りと物資の点検、隼と瑠璃の隊がパトロール、瑠那の隊が食事の準備と言った感じで、役割を振った。

俺は性格上、細かい作業が向いているし、フォローなら慣れている。隼はジッとしている事が苦手でデュエルの腕も確かだ。瑠璃は隼のお目付け役、それに一緒にすると隼がやる気になるためだ。瑠那は料理や家事などの全般が得意なので、そう言った事は任せている。

 

皆それぞれで行動していたのだが……今日に限って隼達の帰りが遅かった。こう言う時の為に瑠璃をつけていたのだが、何があったのかと心配していた。……この時点で胃がキリキリしていたのは、この先の出来事を暗示していたのだろうな。

そろそろ様子を見に行こうと俺の隊の者を集めようとした処でボロボロの隼と瑠璃が帰って来た……なんか黒いのを連れて。黒い帽子にジャケット、重々しいヘッドフォン、左腕に嵌めた黄金のデュエルディスク、コナミ。それが隼が連れて来た少年の名だ。

 

最初は難民でも連れて来たのかと思ったが、帰って来た隼は開口一番に「こいつをレジスタンスに入隊させる」とぬかしたのだ。……何を言っているんだろうな、このクロワッサンは。瑠璃に視線を移した処、苦笑いが帰って来た。反対はしないと言う事は隼が見込んだ、鉄の意志、鋼の強さを持つデュエリストなのだろうか?

そう思って、聞いたのだが、「それはない」と言う返答が返ってきた。ええ……まるで意味が分からなくて、聞いたのだが、彼はあくまで“遊び”の範疇のデュエルで圧倒的な力を見せ、隼に勝利したのだとか。……正直、驚いた。隼はレジスタンスの中でも、1、2を争う実力だと言うのに、その彼に勝ったと言うのだ。しかも、その後に隼の隊の全員と連戦したらしい、全勝で。なんやコイツ。

 

アカデミアじゃないかと疑ったのだが、隼は「こいつはアカデミアではない」と言った。隼がそう言うなら安心だろう。黒咲レーダーは高性能なのだ。

そんな会話をして、隼とコナミは肩を組んで、風呂に入っていった。背中の流し合いでもするか、とか言いながら。どんだけ仲好くなってるんだ。

隼が瑠璃を誘っていたが、断られていた。当たり前だから愕然とするな。

因みに隼がボロボロになっていたのは瑠璃が制止したにも関わらず、コナミにデュエルを吹っ掛けたから、デュエル後に瑠璃が腹パンしたからだとか。……瑠璃をからかうのは止めておこう。

 

 

 

☆月D日 晴れ

 

今日はコナミの入隊を記念して、ささやかながら、パーティーを開いた。

しかし、一番楽しんでいたのは隼だったな。瑠璃の作った料理を独り占めし、奪おうとする者がいるなり、デュエルを始めていた。最終的にコナミに負けたが。

すごいデュエルだった。しかし『No.』と言う何処かで聞き覚えのあるカードに、希望皇ホープ……何故ああまで殺意が迸っているんだ。

兎に角、コナミが勝ち、瑠璃が作ったおにぎりを美味そうに食べていた。何故かおにぎりの事をデュエル飯と言っていたが……デュエル飯、悪くはない響きだ。ただ、何でもかんでも、デュエルをつければ良いってものじゃないぞ?何だ。デュエル唐揚げにデュエル汁って。

 

そして、食事が終われば、デュエル大会。レジスタンスらしいやり方だ。コナミが纏めて10人位相手しているのは驚いた。

確か彼等は瑠璃の隊の者達……瑠璃の手料理を食べたコナミが憎いんだろうな。まぁもっと凄い殺意で返り討ちにされていたが。

最終的に俺とコナミで決勝を行う事になった、結果は俺の負け。後1歩だったのだが……まぁ言い訳か。カオスエクシーズチェンジしたホープレイの殺意溢れる効果により、ダークリベリオンを破壊された。

まさか自分が同じような効果で負けるとはな……だが成程、隼が彼がアカデミアではないと言った理由が分かった。

 

彼は、コナミは、本当にデュエルが好きで、楽しんでいるのだろう。俺もこんなに熱くなったデュエルは久し振りだ。

それに“かっとビング”勇気を持って、1歩踏み出す事、どんなピンチでも決して諦めない事、あらゆる困難にチャレンジする事。

良い言葉だ。今のレジスタンスが一番求められるものは、かっとビングなのかもしれない。

俺も、アカデミアを倒す為に、ハートランドを復興する為に、皆に笑顔を取り戻す為に、勇気を持って踏み出し、決して諦めず、挑戦し続けよう。

かっとビングだ!俺!!

 

 

 

☆月E日 晴れ

 

久し振りに気分が良く、朝を迎えられた。外でストレッチでもしようと出てみると、コナミと隼がデュエルをしていた。その近くには瑠璃と瑠那が眠そうな目で腰かけて見ていた。

本当にこの2人はデュエルが好きだな。俺も混ぜて貰おうと声を掛けると、半分位LPが削られた。

 

何だ、乱入ペナルティって。昨日、俺が寝ている間に、コナミがデュエルディスクに取り付けておいた?何で、味方にデメリットつけているんだ、と言ったらコナミと隼がハッとなっていた。

バカか。取り消せ、取り消せ。文句を言いながら、デュエルを中断するコナミと隼。暫くコナミが俺のデュエルディスクをいじっていたのだが、なんで機能が増えているんだ。

何だ、デュエルアンカーって。

 

無理矢理デュエルに持ち込んで、勝ったら相手のデュエルディスクを破壊する爆弾付き?なにそれ怖い。

そして、「俺もつけてもらったぞ!」と俺に向けてデュエルアンカーを射出する隼。おいバカやめろ、しかも乱入ペナルティでライフが減っているから……爆発した。

隼の奴、ダークリベリオンのコントロールを奪って、最終的にレヴォリューション・ファルコンにランクアップさせやがった……!何でお前まで殺意迸らせているんだ。絶対許さねぇぞ!お前等ぁ!

そしてなんで面白そうと食いつくんだ瑠璃と瑠那は。おいバカやめろ、もう俺のライフは0だ。爆発した。

 

 

 

☆月F日 雨

 

全身が痛い。それと言うのも、コナミの作った爆弾のせいだ。取り敢えず、嬉しそうに新しい玩具を貰った子供のように敵味方関係なく、デュエルアンカーを射出する隼には爆発禁止令を出した。当たり前だ。

その後はコナミを説得して、爆弾にはオン、オフ機能をつけた。

頑なに爆弾を取り除く事はしなかったから、これでも頑張った方だ。しかし、今更ながら、あんな短時間でこんな新機能を付けるなんてコナミは機械面に関しても明るいのか……一体何者なんだコナミは……。

 

 

 

☆月G日 曇り

 

今日はアカデミアの連中が攻めて来た。少人数だが、かなりのやり手だったな。やはり、集団で動くだけあって、奴等の連携は厄介だ。

早速だが、コナミには隼と共に切り込んで貰った。俺は後詰めだ。しかし、その必要は無かったのか、次々と敵を爆発していく2人。

デュエルアンカーが役立つ時が来るとは……隼も爆発解禁と言う事で楽しそうだ。

 

そんな2人の手から逃れたのか2人のデュエリストが俺の前まで来た。

他の奴等とは明らかに違う、闘志を纏った2人組、正直、苦戦した。2対1の上、かなりの実力者で連携も上手い。今まで闘ってきたアカデミアの連中の中で間違いなく一番の強敵だ。

 

しかし、一段落終えたコナミが前線を隼に任せて、此方に来てくれた。

これで2対2のタッグデュエル。ここを通す訳にはいかない。ここが突破されれば難民キャンプが襲われる。

コナミとのタッグは初めてだったが上手くいった。何故だかコナミと共に闘うと普段以上の力が出せたのだ。

2人組はリーダー格だったのだろう、撃破した事によって他の連中も散々に去っていった。

 

隼が追い討ちをかけて、連中をカード化しようとしたが、コナミがそれを止めた。曰く、そんな事をすれば、もう奴等とはデュエルが出来なくなる、とか。……全く、呆れた奴だ。どれだけデュエルが好きなんだ彼は。

隼の奴も最初は反論したが、コナミに叱られて、渋々納得した。

……確かにそんな事をすれば、俺達は奴等と同じ外道になるだろう。今回はそれを改めて理解でき、反省した。

今日は彼と共に闘い、本当の仲間になれた気がする。これからもよろしく頼む、コナミ。……処でカード化はダメで爆発はいいのか?デュエリストは頑丈?やかましいわ。

 

 

 

☆月H日 晴れ

 

コナミが戦場で活躍したからか、彼の周りに人だかりが出来ていた。随分と現金な奴等だ。

しかし、瑠璃と瑠那がコナミに弟子入りするとは驚いた。瑠那は滅多にデュエルをしないからな。瑠璃も強くなりたいと言っていた。

隼が「俺もいるぞ瑠璃!」と言ったが無視され、ショックを受けていた。良い機会だ、これを機に少しは妹離れしろ。

そして、特訓と称して俺にデュエルアンカーを射出するのはやめろ。しかも2対1って……爆発した。なんでオフにしていないんだ!……胃が痛い。

 

 

 

☆月I日 雨

 

コナミが瑠璃から特訓の礼と言う事でプリンを作って貰っていた。案外舌は子供なんだな……しかし仲好くなったものだ。

まるで兄妹のようだ。いや、餌付けされているペットと飼い主か?

兄妹みたいだな、と呟いたら、隼が柱の影からコナミを猛禽類のような目で睨んでいた。お前……アカデミアの連中を相手にしている時より凄い殺意だぞ。

やめろ隼、デュエルアンカーを射出しようとするな。なんで俺が止めなきゃいけないんだ……。

瑠那から胃薬を貰った。思わず泣いた。

 

 

 

☆月J日 曇り

 

目が覚めたら拉致られていた。椅子に縄で縛られた状態だ。アカデミアの仕業と思ったのは仕方ないだろう。確か昨夜、部屋に誰かが飛び込んで来て、腹パンされ、気絶させられたんだ。

正体は隼だったが。何が「起きたか」だ。正直、腹は止めて欲しかった。最近、胃痛が酷いのだ。そう言う話じゃないか。

 

何故か作戦会議室にコナミと瑠那以外の全員が揃っていたのだ。

まさかアカデミアが!?と思った俺は悪くない筈だ。内容は酷いものだったが。

……何が瑠璃ファンクラブだ。隼が会長?そして俺が名誉会員だと?

いや、先ず入会した覚えがないんだが。何が「さっすがユートさんと黒咲さんっスよぉ!」だ。前から思ってたけど、その取り巻き3人組は何なんだ。

デュエルしている所を見た事がないぞ。何?料理担当?ああそう(半ギレ)。

 

何でも会議の議題は『俺の妹がコナミに寝取られるわけがない』とか。

長いわ。そして過保護か。別に仲好くなっても問題ないじゃないか、と言ったら全員に睨まれた。何なんだ一体……「あんな鉄の意志も、鋼の強さもない奴に瑠璃はやれん。何より、瑠璃はお兄ちゃんのお嫁さんになるって言ったもん!」とか何とか。

だから妹離れしろと……キャラ変わってるし、キモいわ。何年前の話だ。

結局、全員でコナミをデュエルでボコボコにしようと言う話になり、部屋に入ってきた瑠璃に叱られた。隼とは暫く口を聞かないそうだ。いい気味だ、少しは反省しろ。

何故か俺まで怒られたが。……胃薬が美味しくなってきた。

 

 

 

☆月K日 雨

 

今日は妙な人物に出会った。黒いフードつきの外套を纏った、奇妙な男。背格好は俺やコナミと同じ程度か。

彼は帽子の男はどうしている?など聞いてきた。アカデミアではないようだし、帽子の男、コナミの知り合いだろうか?

名前を聞いた処、少し言い淀んだ後、「バリアン」と答えた。丁度コナミが来て知り合いなら会いたいだろうと思った処で奴は消えた。

1枚のカードを残して。今は会いたくない、と言う事だろうか?帽子の男といるなら覚悟しておけ?兎に角、奇妙な奴だった。

 

 

 

☆月L日 晴れ

 

「バリアン」と名乗る男が残していったカード、やはり、俺が持つべきではないだろう。コナミに渡した方が良い。コナミと知り合いのようだし、何よりコナミには助けて貰った恩もある。

そうして友情の証として受け取ってくれと言って、例のカードを渡したのだが、受け取った瞬間、表情が変わって「騙されないぞ!バリアン世界の悪者めッ!」と言われて、思いっきり脛を蹴られた。

何か悪い事をしただろうか?衝撃の事実なんだけど。

……ああ、日記を書いてる今でも痛い。どれだけ力を込めたんだコナミは?ついでに胃も痛くなってきた。

 

 

 

☆月M日 曇り

 

コナミが昨日の事を謝ってきた。流石にやり過ぎたと反省したのだろう、まぁ許したが。……まだ痛いけど。

そしてこのカードを何処で手に入れたのか?と聞かれた。2日前の出来事を話すとあからさまに顔をしかめた。会いたくない人物だったのだろうか?

知り合いか?と聞けば、一応、友人だ。と言った。どう言う関係なのだろうか?それ以上は不躾かと思い、聞かなかったが。

何にせよこれからは俺との友情の証として使うと言っていた。

そしてお礼と言う事で俺もカードを1枚受け取った。

大切に使うと返したら、再び顔をしかめられた。

 

 

 

☆月N日 晴れ

 

今日は良い天気なので皆で日向ぼっこをした。瑠璃と瑠那がコナミの傍で寝て、隼がショックを受けていたのが印象的だった。

その後は皆で弁当を食べた。瑠璃と瑠那が作った手料理だ。相変わらず、美味い。

これからもこんな日々を過ごしていきたい。

瑠璃や瑠那が料理を作って、それを皆で食べて、コナミが2人にデュエルを教え、隼が嫉妬して――たまには胃痛も悪くないかもしれない。胃が痛いのなんて些細な事だ。

その為に、アカデミアを倒そう。元通りの美しいハートランドの街並みをコナミに紹介してやるのだ。その時は笑顔でいられるだろう。

俺達のかっとビングで皆に笑顔を――。

 

 

 

 

 

◇月O日 雨

 

やられた……瑠璃がアカデミアに拐われた。昨夜、何者かが、瑠璃を難民キャンプから連れ出したらしい。それを見たコナミが急いで守ろうとしたが……敵は2人いたらしい。

俺に似た顔をした男、そしてもう1人は言おうとしなかったが、コナミ自身が決着をつけると言っていた。

恐らく、その男がコナミと闘い、その間に俺に似た男が瑠璃を拐ったのだろう。

隼が苛立っていた。勿論コナミも、瑠那も――そして、俺もだ。他の仲間達も皆、アカデミアにやられた。だが、俺達が奴等のように、次元を越えない限り、どうしようもない。

今日は何時も以上に胃がキリキリと痛む。胃薬も効かない。

クソッ!日記を書いても苛立ちが抑えられない!瑠璃……無事でいてくれ……!

 

 

 

◇月P日 曇り

 

奴にあった。俺と似た顔立ちの男。バイクに乗った、シンクロ召喚とやらを使う男。

恐らく存在するのだろう、シンクロ次元も……そして、奴は融合次元に加担し、瑠璃を拐ったのだろう。

捕らえて瑠璃の居場所を吐かせようと思い、デュエルを挑んだが、奴の竜とダークリベリオンが光ったと思ったら奴は消えていた。

クソッ!これじゃ振り出しだ……!

 

 

 

◇月Q日 晴れ

 

何とかなるかもしれない。と言うのも、何とコナミがアカデミアの連中のデュエルディスクを解析し、一晩で次元移動装置を作ったのだ。瑠那も手伝ってくれたらしい。目の下に隈が出来ていた。

兎に角、これでアカデミアのアジトに乗り込める、と意気込んだは良いのだが、瑠那から待ったが掛かった。

このまま攻め込んでも、兵力差は歴然、しかも奴等には瑠璃と言う人質がいる。ならこちらも人質を取ろう、と。

 

何でも奴等の親玉、赤馬零王の息子がスタンダード次元と言う所にいるとか、アカデミアが話していた処を聞いた事があるとか、考える事がえげつないな、瑠那は。

そうして次元を越え、今、俺達はスタンダード次元にいる。これからは俺とコナミ、隼で行動し、瑠那には少し面倒な事をして貰う為、単独行動を取って貰う事になった。

……待っていろ、瑠璃……必ず、君を助ける。……あれ?そう言えばこれって、俺が問題児2人のフォローをしなければならないのか?

……瑠那に新しい胃薬を貰った方が良かったな。

 

 

 

 

 

 




超量やファントムナイツが早く組みたい。特に超量にはネオス(ウルトラマン)とM・HERO(仮面ライダー)とタキオン(キングギドラ)と機皇帝をぶち込むつもり。事故率?その話はやめようか。来年には怪獣も入れてやらぁ。
12月にはDDストラクとメダロットの新作が出るし、サイフポイントがピンチ。


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第15話 彼はLDSではない(無言の腹パン)

あれおかしいな……格好いい黒咲さんを書きたかったのに、何だこのコンビ芸人は……いや、黒いのを合わせるとトリオか……。


「おい、デュエルしろよ」

 

遊矢が黒き地のデュエリストと邂逅していた頃、赤い帽子を目深に被り、ゴーグルを着用した少年、コナミは遊勝塾に帰る道すがら、手当たり次第に野良デュエルを挑んでいた。

勿論、満足ジャケットを身に付けて、である。ある意味で正しい使用方法と言えよう。今のコナミはデュエルギャングそのものなのだから。その証拠に声を掛けられた少年は酷く怯えており、対するコナミは獲物を狙う肉食獣のように目を輝かせている。しかしそんな猛獣に近づく影が1つ。

 

「ああ、もう!やめろっつってんだろ!!」

 

バシリと硬い竹刀による打撃音がコナミの脳髄に響く。茶髪を無造作に伸ばした少年、彼はコナミを打ったであろう竹刀を振り回し、八重歯を剥き出しにして、コナミを睨めつける。如何にも不機嫌と言った様子の彼の名は、LDSシンクロコース所属、刀堂 刃。コナミの敵……であった。

 

「さっきから、目が合った奴に片っ端からデュエル挑みがって!何回目だと思ってやがんだテメェ!!」

 

肩をワナワナと震わせ、青筋を立てつつ、白目を剥いてコナミに怒りの矛先を向ける刃。そもそも何故、LDS所属である自分が、本来、敵である遊勝塾の問題児の世話をしなけばならないのか?

かと言って、他に彼を止められる者がいない以上、放って置く訳にもいかない。放って置いたら、この赤いのは何を仕出かすか分からないのだ。この時ばかりは自分の世話焼きな性分が恨めしく思える。

せめて遊勝塾(犬小屋)に戻すまでは目を離す訳にもいかないだろう。

 

「……4回位か?」

 

「13回目だ、このヤロォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

瞬間、14歳の少年の怒りが爆発した。最早、我慢の限界だった。それもそうであろう、13回もコナミの暴走を止め、それでも、止まらず、挙げ句の果てには、ストレスの原因である本人が首を傾げるのである。

可愛げなくて憎さ千倍である。コナミの肩に爪を食い込ませ、ガクガクと揺する刃。そんな彼の肩を掴む者が1人。

 

「テメェ、刃!兄貴に何してんだ!その手を離しやがれ!」

 

「何で、お前はこのアホを庇ってんだ暗次ぃ!?」

 

大きな黒のヘアバンドで緑の髪を止め、鼻に絆創膏、耳にピアスをつけた、目付きの悪い、黒の道着を気崩した少年、刃の親友である、黒門 暗次だ。

彼はルビーのような赤の瞳をクワッ、と力強く見開き、刃の胸ぐらを掴み、睨めつける。何とも不良と言うか、チンピラ染みた行動である。彼がコナミ同様、デュエルギャングになる日も近いかもしれない。

 

「おい、ねね!お前からも何とか言ってくれ!このアホ共、ダメだ!コイツに関しては不良グループのリーダーだったわ!」

 

「がんばれー、コナミさーん!」

 

「そう言えば、お前もグループのメンバーだったなぁ!?」

 

救いを求める刃の視線の先にいるのは、暗次同様、黒の道着を細い身体に纏った、茶髪の少女、光焔 ねね。

彼女は口元に両手でメガホンを作り、目の前でデュエルに臨むコナミを応援していた。味方1人いない、あんまりにもあんまりな光景に、刃がツッコミを入れる。どうしてこうなった。刃の脳内にはその言葉がグルグルと渦巻き、埋めつくされていた。

そもそも、事の発端はデュエル後のこのアホっ子2人による、子分にしてください宣言である。コナミが迷っていた時に、道を示してくれた事に、感動したのか、彼等は恩義を感じ、自分達を売り込んだのだ。

対するコナミの反応はと言うと。

 

「構わん、好きにすると良い」

 

と言った簡素過ぎるものであった。彼らしいと言えば、彼らしいと言えるかもしれない。そんな無機質な台詞にも2人は歓喜し、はしゃいでいたが。

刃としては頭が痛い。因みに看板の件については刃が何とか諦めて貰った。刃は頑張った、超頑張った。

 

「兄貴、すげぇ…!」

 

「これで私達の分を含めて14勝ですね!内、13戦は公式戦じゃないですけど!」

 

気がつけば、先程まで刃の胸ぐらを掴んでいた暗次まで応援していた。しかも何時の間にかデュエルまで終わっている始末である。

得意気に微笑を浮かべ、暗次とねねとハイタッチをするコナミが何とも腹立たしい。イエーイじゃない。

 

「刃……」

 

「……何だ……?コナミ?」

 

口元を思いっきり引き吊らし、ひくひくと動かす刃。まるで張り詰めた弦のように必死に我慢している。少しの衝撃で激昂し、手元の竹刀は振り回されるであろう。

 

「イエーイ」

 

無情にも、コナミが手を天に向かって上げ、刃にハイタッチを要求してきた。これをアホと言わず何をアホと言おうか、その証拠にプツンッ、と刃の中で何かが切れた。

 

「イエーイじゃねぇよ!このアホ!今何回目だと思ってやがる!!」

 

「……3回目?」

 

「減ってんじゃねぇよ、このバカ!何時になったら遊勝塾に辿り着けるんだよバーカ!!」

 

額に幾つもの青筋を浮かべ、右手に握られた竹刀をブンブンと振り回す刃。

憎たらしい事に、コナミはひょいひょいとその攻撃をかわしつつ、右手を上げて、ハイタッチを迫っている。はっきり言って、ウザい、これ以上なくウザい。余りにも自由すぎる動きに、逆に振り回され、息を切らす刃。

 

「イエーイ」

 

「……ハァッ……!……ゼェッ……ゼェッ……ウブッ!……ゴフッ、ヒュー……ヒュー……!」

 

全身から滝の如く汗を流し、息切れを起こす、最早グロッキー状態の刃。彼は体力が少ない方ではない。むしろLDSのカリキュラムを受けている彼は人一倍、体力が多い方だ。今回は相手が悪かった。

その原因たるコナミは汗1滴垂らさず、ペチンと刃の掌に自らの掌をぶつける始末である。

もう刃が対抗できる手段はありったけの憎悪を込めた視線をコナミにぶつけるのみ、しかし、視線は物理的干渉能力を持っていない為、全て無駄になる。

勿論、コナミはその視線にすら気づいていないが。

人生とは理不尽なものである。14の少年が知るには早すぎた。

 

「凄かったなぁ、ねね!」

 

「はいっ!やっぱり、コナミさんは強いです!」

 

視線をふと、2人へと移す。自分の親友である黒門 暗次と光焔 ねね。

コナミの世話は酷く面倒だ。それでも、それでも、前のように彼等の暗い表情を見るよりかはマシなのだろう。

元通りの、親友として笑い合えるなら、この程度の代償、安いものかもしれない。

結局、刃もコナミの事を心から憎んでいる訳ではないのだ。むしろ好ましくさえある。敵であるにも関わらず、自分を、その親友を助けてくれた、赤帽子の少年。

彼の言葉に救われたのは暗次とねねだけではない。自分だってそうだ。迷って、捜し求めた答え。その答えを導き出せたのは彼のお蔭だ。

コナミだって刃にとって友達だ。世話を焼くのは面倒だが――友達なのだ。この程度、焼いてやろう。そう決意を新たに、胸を張り、前を見据える。

 

「おい、デュエルしろよ」

 

「目指せ20勝!いや、100勝だぜ!兄貴!」

 

「がんばれー!」

 

「何でだよコンチクショォォォォォォォォ!!?」

 

前言撤回、誰か、助けてください。そう、心から叫びたい、LDSシンクロコース所属、刀堂 刃であった。

 

――――――

 

「あちこちに怪我を負っているが……大丈夫か?」

 

「あ……ああ……」

 

コナミが14戦目の野良デュエルに臨んでいる一方で、遊矢は2人の少年を前に、動揺していた。原因は遠巻きに鋭い目付きで遊矢を睨めつけるコートを羽織った少年――ではなく、目の前で遊矢を心配する、黒きマントを羽織り、前髪を跳ねさせた、“自分と似た顔立ちの”少年。

正直、夢でも見ているんだろうか、と自身に疑いを抱いてしまう。それもそうであろう、先程、コナミと似た少年にあったばかりなのだ。今度は自分と似た少年とは、悪い夢か質の悪い冗談としか思えない。

取り敢えず、立ち上がろうと身を起こすも、黒コナミとのデュエルで受けた傷のせいか、直ぐによろめいてしまう。あわや地面にぶつかろうとした時、遊矢の身体を支える者が1人、遊矢に似た少年である。

 

「無理に動かない方が良い、手遅れになってからじゃ目も当てられない。身体は大事にするんだ」

 

「あ……ああ、ありがとう」

 

少年の真剣な表情に思わず首を縦に振る遊矢。何故だろうか?彼の言葉には妙な説得力がある。本当に聞いておかなければ、自分がダメになりそうで怖い。そう思える程に彼からは哀愁が漂っている。本当に同じ年頃であろうか?

 

「そんな話はどうだっていい!こいつが奴やお前が言っていたアカデミアの手先じゃないのか!」

 

遊矢が将来の事を心配していた時、その隣より、コートの男の横槍が入る。まるで何かに追われているかのような男の表情に遊矢にも緊張が走る。

今にも遊矢に飛びかかり、胸ぐらに掴みかからんであろう勢いである。しかし、鬼気迫る彼に少年の待ったがかかる。

 

「待つんだ隼!何時も思うがお前は話を良く聞いた方が良い。彼の服装を見るにスタンダードの人間だろう。融合ではない」

 

左手で隼と呼ばれた男を制し、遊矢に向き直る少年。しかし、隼は一層、鼻息を荒くし、鋭い眼光で遊矢を睨む。まるでその姿は獲物を見つけた大型の猛禽類のようですらある。

 

「成程、分かったぞユート」

 

先の様子より一変し、スッと目を伏せ、穏やかな表情で口元に薄い笑みを作る隼。その表情を見た、遊矢に似た少年、ユートはほっと安堵した表情を作り、胸を撫で下ろす。が、次の瞬間、再び隼がカッ、と目を見開き、右腕を突きだし、遊矢を指差す。

 

「貴様、LDSだな!」

 

「彼はLDSでもない!」

 

漫画ならばバァーン!と派手な擬音がつき、果ては集中線までかかっているであろう隼の行動を見かね、その鳩尾に鋭いストレートを抉り込ませるユート。コントである。その一連の流れを苦笑いで見ていた遊矢は隼と言う男の印象を大幅に変える。目付きの悪い怖そうな男から、アホっぽい男へと。そんな失礼な事を考えている間にユートが遊矢へと向き直る。

 

「すまないな、本当はこんな奴じゃないんだが、ここの所ポンコツでな、叩いておいたから直るだろう」

 

「そんなステレオタイプのテレビじゃないんだから……」

 

腹を抑え、地面に蹲る隼を横目で見ながら、ユートの突然のお婆ちゃんの知恵袋披露に呆れ返る遊矢。このユートと言う少年も疲れているのかもしれない。眼にうっすらとだが、隈が見える。

ユートは必死に呻き声を上げる隼を無視し、会話を続ける。

 

「俺の名はユート。あれは黒咲 隼と言う。君の名前を聞いていいか?」

 

「あっああ、俺は榊 遊矢だけど」

 

「遊矢、ここで何があったか聞いてもいいか?そこで倒れ伏せているLDSの連中と言い、建物の不自然な傷の事と言い、気になる事がある。もしかしたらアカデミアの仕業かもしれないしな」

 

最後の台詞は小声で遊矢には聞き取れなかったが、まぁいいかと持ち直す、彼は見た目こそ怪しいものの、その態度はとても真摯なものだ。

それに遊矢としても、自分と似たユートを放って置けない、できる限りならば力になりたい。

 

「えっと……最初は知り合いを捜してて、この裏通りに入ったんだけど……突然なんかこう……黒いのに襲われて……」

 

流石にその知り合いに似た少年に教われたなどと言えないし、コナミの名を出すのも気が引けて、その事は伏せて話す遊矢。

一方で、ユートは何か思うところがあるのか、「黒いの……いやまさかな」などぶつぶつと呟いている。

隼にいたってはぐったりとしている。当然のようにユートは気にした素振りを見せないが。こちらも気にしない方が良いのだろうな、と遊矢は言葉を続ける。

 

「この広場に出たと思ったら、そこに今みたいにLDSの人達が倒れていて、その原因が黒いのって分かったら、許せなくて、デュエルを挑んだんだ」

 

「……許せない……か……」

 

遊矢の発言に目を伏せ、自嘲気な、しかし嬉しそうに口元に薄い笑みを描くユート。その表情にどんな意味が隠されているかな分からない。遊矢はその表情に気づかず話を続ける。

 

「俺は……デュエルは、皆を笑顔にする為にあるって信じてる。見てる人を楽しませるものだって思ってる。だから……人を傷つけるデュエルをするあいつが許せなくて……分かって貰おうと、俺のエンタメデュエルで闘ったんだけど……負けちゃったみたいだな」

 

「……エンタメ……デュエル……」

 

自嘲気に笑顔を作り、弱気な自分を隠す遊矢。しかし、隠していても何かを察したのだろう、ユートの表情は真剣そのものである。そんな遊矢へと思わぬ一言が投げ掛けられる。

 

「くだらん」

 

その正体は倒れ伏していた筈の隼のものだ。未だにダメージが抜け切らないのか、壁にもたれ掛かりながら、よろよろとその身体を何とか立ち上がらせる。そんな彼の台詞が癪に触ったのだろう、遊矢はむっとした表情となり、反論をする。

 

「何が……!何が下らないって言うんだ!エンタメデュエルは!父さんのデュエルは下らなくないんかない!」

 

「そんなものは所詮、綺麗事だ。デュエルを……人を傷つけるための手段としか思わん奴等には通用しない!」

 

「ッ!」

 

隼の言葉には確かな重みがある。彼自身、そんな人物に心当たりがあるのだろう。そして遊矢も先程、デュエルした少年の事を思っていた。

果たして彼を、黒いコナミを自分のエンタメデュエルで笑顔に出来るのか、とデュエルで誰かを傷つける彼には夢見事でしかないのかもしれない。それでも。

 

「それでも……それでも、俺は……諦めたくない、俺は、エンタメデュエリストだから」

 

遊矢は信じる、信じたいのだ。自分の憧れた父親が人々を魅せた。奇跡とも言えるあの光景を、依存なのかもしれない、切望なのかもしれない。それでも、一筋でも希望があるなら、それに賭けてみたい。

それがデュエリストと言う者なのではないだろうか。

 

「……鉄の意志とは言えんが……銅(あかがね)の意志と言ったところか」

 

「隼、そこまでにしておけ、彼の信念は決して、下らないものではないだろう」

 

「……どうだかな、それよりユート、思ったより痛みが酷いんだが、ちょっと強く殴り過ぎでは――」

 

「少なくとも俺は、君の信念を否定などしない、その思い、大切にするんだ」

 

脂汗をかく隼の言葉を途中で遮るユート、何故だろうか?彼は少々隼に対して冷たい気がする。彼等の関係を知るよしもない遊矢には、首を傾げるしかない。

 

「兎に角、ここにいる怪我人は……遊矢、連絡か何かを入れて、俺達は離れよう。君も怪我をしているからな、俺が送ろう。隼はどうする?」

 

「……俺はいい」

 

「そうか、なら連絡だけでも寄越してくれ。何処にいるか分からないんじゃ、合流の仕様がない」

 

「分かった……榊 遊矢と言ったな」

 

その場を離れようとした隼が遊矢に対して声を掛ける。その意外な行動に驚いたのか、遊矢はびくりと肩を揺らす。

 

「……その思いを貫きたいなら、力をつけろ。力なき信念など、誰の胸にも届きはしないのだから」

 

そう言って踵を返し、コートを風に靡かせながら、隼はその場を後にする。その言葉の真意は何なのだろうか?と遊矢は首を傾げる。

 

「……彼なりのエールだろう。彼も、プロデュエリストを目指した身だ、君の信念を無視はできないのだろうな」

 

ユートの言葉にハッとする。そうか、彼は不器用ながらも、ほんの少しだが、遊矢を応援してくれたのだろう。初対面で彼の事は良く知らない。だけど、その思いには応えてみせたいと、遊矢は思った。

 

「さぁここを離れよう。何時までもここにいては、俺達が犯人だと思われてもおかしくはない」

 

「あ……ああ」

 

確かにそうだ。この前のLDS襲撃のような事があってもおかしくはない。倒れ伏したLDSのデュエリストを一瞥した後、後ろ髪を引かれる思いで、遊矢は自らと似た顔立ちの少年、ユートと共に、その場を後にするのであった。

 

――――――

 

ユートは考える。自分と似た顔をした少年、榊 遊矢、彼の信じると言ったデュエル、人々を笑顔にするエンタメデュエル。それはもしかすれば、自分が長い戦いの中で諦めてしまっていたデュエルではないのか?もう1度、取り戻したいものではないだろうか?

彼は言った。諦めたくない、と、例え人を傷つける者にも――デュエルの楽しみを――。彼は、遊矢は信用できる人物なのだろう。彼ならば――自分達の力になってくれるかもしれない、でも。

 

「イテテ……?どうかしたのか?」

 

「……いや、何でもない」

 

寂しげに口元を緩めるユート。きっと助けを求めれば、この少年は2つ返事で頷いてくれるかもしれない。信頼出来る仲間になってくれるだろう。だけど、だからこそ、彼を巻き込む訳にはいかない。

彼のデュエルは誰かを笑顔にする為にあるべきだ。自分達の戦いに巻き込めば、彼の平和は壊れてしまう、その信念は曲がってしまう可能性がある。

 

「あ!見えてきた!あれが遊勝塾だ!」

 

「……遊勝塾……」

 

遊矢が指差す方向を見る。河川敷近くに位置する独創的な建物、遊勝塾。遊矢が通い、学ぶ場所に自然とユートの興味も沸く。

しかし、その次の瞬間にはユートの顔は驚愕に変わる。その原因は建物の入り口付近に佇む人物。舞網市立第二中学特有の脇をざっくりと開いた、女子制服、ピンク色の髪をツインテールに纏め、右手首にブレスレットを嵌めた、その少女の顔立ちは――。

 

「瑠……璃……?」

 

驚く程、ユートの知る少女に、そっくりだった。

 

「……?遊矢……きゃっ!?」

 

彼女が2人の少年を視界に入れたと同時に、少女の右手首のブレスレットが眩き輝きを放ち、ユートの身体が淡く光る。

 

「っ!?ユート!?」

 

遊矢が必死に手を伸ばすも、ユートの姿は光の粒子となって消え去ってしまう。まるで夢でも見ているかのような、現実離れしたその光景に、遊矢と少女、柚子は目を丸くする。一体何が起こっているのか、理解が追い付かない。

 

「えっ……と、さっき、遊矢にそっくりな人がいたような……?」

 

「あ、ああ」

 

小走りで駆け寄る柚子に、気の抜けたような、心ここにあらずと言った様子で、返事を返してしまう。遊矢とて訳が分からないのだ。

自分そっくりな少年に助けられ、その少年が突然、目の前で消えた。まるで意味が分からない。幻覚か何かでも見ているのだろうか?

いや、確かに彼は、ユートは存在したのだ。とそんなところで。

 

「腹が減ったな……」

 

「刃ぁ!兄貴が腹を空かせているぞ!」

 

「ああもう!飴でも食っとけ!」

 

「あっ、私も欲しいです!」

 

「ああ、ほらよぉ!」

 

「刃ぁ!俺の分はねぇのかぁ!?」

 

「うるせぇバカ!お前は飴って顔じゃねぇだろ!」

 

騒がしいお供を連れて、遊勝塾の問題児が頬袋に飴を詰めて帰った来た。彼の傍には、2人の少年と1人の少女、その内1人は、遊矢と柚子の知る、LDSシンクロコース所属の刀堂 刃。残る2人は黒い道着を纏った、緑髪の不良らしき少年と顔色の悪い茶髪の少女。しかし、2人の目を引いたのは彼等ではない。2人の視線の先には。

 

「……コナミ、何だ、その格好」

 

満足ジャケット着用の、コナミがいた。

 

 




刃がユートの仲間になりそう、いや、もうなってるか。つまり刃は遊矢シリーズだった……?
そう言えばシンクロ次元には苦労してそうな名前の人がいましたねぇ(ゲス顔)


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第16話 何!?海老フライと海老天は同じじゃないのか!?

ウィング・レイダーズを6箱買った結果、何時の間にかRR組んでた。あれぇ幻影騎士団はぁ?黒咲さんの意地でもRR組まそうとする鉄の意志を感じる……ストリクス5枚もいらねぇから後1枚だけでもライガーとブーツ下さい!
超量が思ったより回る。初手で合体ロボ出るとか鬼畜過ぎるぜ!


遊勝塾の塾生、榊 遊矢は目の前のテーブルに盛り付けられた一口カツを咀嚼しながら自身の置かれている状況について悩んでいた。あの時、コナミが帰ってきた時に彼が腹を鳴らし、揚げ物が食べたいと言ったからだろうか。正直、あれ程激しいデュエルを行った後だ。油っぽい食べ物は避けたかったが……違う、そうじゃない。

自身で自身の思考にノリツッコミを入れながら、苦々しい表情でダン、とテーブルに音を響かせ、右手に持った柚子風味のぽん酢を自分の小皿の横に置く。改めて、今の状況を再確認すべきだ。

 

「……遊矢……食事中に激しい音を立てるのは、余り気分が良い行為ではないぞ?」

 

テーブルを挟み、目の前のソファに対面するように座した赤帽子の上にゴーグルを着けた少年、コナミが右手に箸を、左手に茶碗を持ち、遊矢に注意を促す。因みに先程までのノースリーブのジャケットから、何時もの赤いジャケットを肩に掛け、落ち着いている。遊矢としては先程までのジャケットは見ている方が恥ずかしいものがあった為、助かっている。

そこまでは良いだろう。彼は自分にとっての友達で、遊勝塾の仲間なのだから、この遊勝塾に居ても可笑しくはない。問題は彼側のソファに座る3人の人物だ。

 

「遊矢さん、大丈夫スか?もしかして揚げ物嫌いだとか?」

 

「成程、それならカリカリするのも仕方ない。揚げ物だけに、な」

 

「ハハッ、そりゃあお手揚げだ!」

 

HAHAHA!と海外ドラマのような笑い声が目の前で響く。茶番である。揚げ物だけに、は堪えられたのに、そこでお手揚げが来るなんてズル過ぎる、ちょっとクスッと来てしまったではないか。抗議の視線を送るも、目の前のコナミと少年の2人は気にする素振りを見せず、肩を組んで、HAHAHAと笑い合う、お手揚げである。

 

そもそもこの緑髪の少年は誰だ。いや、遊勝塾に揚がる……いや、上がる前に自己紹介は行ったが。

確か名前は黒門 暗次。緑色の髪を大きなバンドで止め、鼻に絆創膏を貼り、耳に幾つものピアスを着けた、黒い道着の少年、見た目こそ不良だが中身は気さくなようである。何故かコナミを兄貴と慕い、遊矢にさん付け、柚子の事を姉御と呼んでいるが、何でも、兄貴の友達なら尊敬すべき人だとか。

コナミとは逆の、隣に座る少年はその範囲外らしいが。

 

「いや何でだよ!」

 

とそこでその少年がテーブルをダン、と強く叩き、立ち上がる。茶髪を無造作に伸ばし、頬をひきつらせるその少年は、遊矢にとっても見覚えのある人物である。

刀堂 刃。遊矢達、遊勝塾を乗っ取ろうとし、襲撃をかけたLDSの生徒であり、シンクロ召喚を使いこなす、自分達にとって、当面の敵……だった筈である。いや何でだよ!と叫びたいのは遊矢の方である。

 

「刃……さっき、兄貴が言ったばっかだろ?激しい音を立てるなって」

 

「カリカリしてるのか?」

 

「お手揚げですぜ兄k」

 

「おいマジそれやめろウザいから、上手いと思ってんのか」

 

再び茶番を始めた2人に、刃の慈悲の欠片もない視線が突き刺さる。流石に懲りたのか、2人は黙りこくって、茄子の天ぷらを頬張っている。

 

「茄子術も無い、か」

 

「お手揚げですぜ兄貴」

 

違った。新しい駄洒落を考えているだけだった。もう何なのコイツ等と項垂れ、両手で顔を覆い、しくしくと泣く刃。最早、刃にもお手揚げである。そんな刃の姿に目を丸くし、驚愕する遊矢。あの刀堂 刃がここまで折れるとは、流石に心配になって声をかける。

 

「えっと……大丈夫か?刀堂?なんか、コナミの道場破りを止めてくれたらしいな、ありがとう」

 

そう、目の前のソファに膝を抱えて座り、しくしくと涙を流しているこの刀堂 刃こそ、コナミの暴走を止めてくれたらしいのだ。まさか敵側の彼がそんな事をしてくれるなんて、と驚きと共に、感謝の言葉を送る。

この少年がいなかったら今頃、コナミが看板を担いで帰ってきたかもしれないのだから、彼には感謝してもし切れない。

 

「別に良い、こっちもコナミのお蔭で助かった事もあるしな」

 

「?」

 

膝を抱え、唇を尖らせ、呟く刃に、首を傾げる遊矢。一体、どう言う事だろうか?と遊矢の頭の周りには幾つもの疑問符が飛び交っている。

まさか道場破りついでに喧嘩していた親友達の仲を取り持っていたとは考えもつかないだろう。

実際に、今の駄洒落を連発するコナミを見て、そのような考えに至る者はいないだろう。

 

「この天ぷら、美味しいですっ!」

 

箸でかぼちゃの天ぷらを摘まみ、目を輝かせ、感嘆の声を漏らしたのは、コナミの左隣で座る少女、名前は光焔 ねね。

茶髪の少し顔色が悪い少女である。この小動物を思わせる少女が暗次と同じ道場の門下生で、刃と暗次の親友だと言うのだから、人と言うのは分からない。

 

「ありがとう。作った甲斐があったわ。ところで、うちのコナミが迷惑掛けてない?」

 

口に手を当て、小さく微笑むのは遊矢の隣に座った柚子。ここ最近、料理の腕が上がったのは、美味しいと言ってくれる人が増えたからであり、その腕を存分に奮えて、結構、楽し気であったりする。

 

「いえ、そんな事ないですよ!?むしろ……コナミさんのお蔭で私達は前に進む事が出来ました」

 

「そうですよ柚子の姉御!燻っていた俺達に、前を進む切欠をくれたのは、コナミの兄貴なんですから!」

 

「コナミが……?」

 

恥ずかしそうに両手を振るねねと、テーブルから身を乗り出す暗次。正直に言うと遊矢と柚子は驚いた。まさか道場破りに出掛けた筈が、苦悩している少年、少女を救っていたとは思いもしなかった。

今、2人の視界に映る、黙々と海老フライを食べるコナミを見ても想像がつかない。

因みにコナミが頬張っている海老フライ、刃の皿に乗っていたものである。刃がコナミの頬をつねる中、部屋の扉から、コンコンコン、と3つのノック音が響く。来客だろうか。

 

「はーい、どうぞー」

 

口を開き、間延びした声を上げたのは柚子だ。彼女は手に持っていた小皿をテーブルに置き、扉に視線を移す。「失礼する」と前置きをして部屋に入って来たのは、白い学ランに袖を通し、髪をリーゼントに固め、真っ赤な鉢巻きを巻いた大男。

 

「権現坂!どうしたんだ?」

 

下駄を鳴らし、現れた親友の姿にパッと顔を明るくする遊矢。遊矢にとって、彼は最も信頼する付き合いの長い男友達であり、今まで幾度となく自分を救ってくれた彼の訪問は歓迎すべきものだ。

権現坂もそんな彼の様子に顔を綻ばせ、うむ、と頷き返す。

 

「突然の訪問、すまない。今日はコナミに折り入って頼みがあるのだが……刀堂 刃!?それにその2人は……?」

 

男らしい眉を引き締め、コナミの座るソファに視線を移す権現坂、そうすればコナミ側のソファに共に座る、刃と暗次、ねねが視界に入るのは必然で――、LDSに所属する刃に驚愕し、警戒するのも当然であろう。先述した通り、彼は最近、この塾を襲撃したばかりなのだから。

そんな関係とも露知らず、暗次は人懐っこい笑顔を、ねねははにかみながら権現坂に向けて立ち上がる。

 

「初めまして!俺はコナミの兄貴の子分で、黒門 暗次って言います!兄貴のお友達の方ですよね?よろしくお願いしまっス!」

 

「おっ同じく光焔 ねねです!よっよろしくお願いしましゅっ権現坂さん!……ぁぅ、噛んじゃった……」

 

ピシリとまるで敬礼するかのように、身体の芯から背筋を伸ばし、勢い良く頭を下げる子分2人。その元気一杯と言った様子に少し気圧されたのか、権現坂は一歩退き、目をパチクリと瞬かせる。しかし、次の瞬間には顔を引き締め、2人に向かって手を差し出す。

 

「顔を上げてくれ、俺の名は権現坂 昇と言う。黒門、光焔、こちらこそよろしく頼む」

 

そう言って、気持ちの良い笑顔を向けて、頭を下げる権現坂、2人は彼の手を取り、3人は自己紹介を終える。すると、やるべき事は終えたと言わんばかりに、その表情を険しくし、刃を睨みつける権現坂。

 

「それで、お前は何故ここにいる?返答次第では、この男、権現坂、容赦はせんぞ?」

 

再び警戒の色を示し、右腕に嵌めたデュエルディスクを身体の前に差し出し、刃に向かって闘志の籠った視線をぶつける権現坂。

彼とて、彼とのデュエルの結果に完全に納得している訳ではないのだ。むしろ、助太刀したにも関わらず、刃を倒せなかった事を悔いている。

刃の事は認めている。だからこその警戒だ。しかし、刃の方はと言うと、顔に疲労の色を見せ、面倒そうな顔で、片手をひらひらと振る。

 

「まぁお前と決着を着けるってのも良いが、今回はそんな事をしに来た訳じゃねー、と言うか、そんな元気残ってねーよ。ダチのいる塾を乗っ取ろうなんて思わねーし、そんな事より、この赤いのに用事があんだろ?」

 

「ダチ……?ああ、そうだ。コナミに用があったのだ。それでコナミ、頼みがあるのだが」

 

「?」

 

一先ず、刃から視線を外し、コナミに向かい、頭を下げる権現坂。何事も礼を怠らないその態度にも、コナミは何時も通りの様子でししゃもを食べている。

 

「何でも良い、どれか1つだけでいい、俺に、融合やシンクロ、エクシーズを教えてくれ!」

 

膝をつき、額を地に擦り付け、必死に懇願する権現坂。何が彼をそうさせるのか、コナミはどうしても気になり、聞く。何故そこまで教えを乞うのか、と。

 

「……力が、欲しいのだ。俺はLDS襲撃の際、遊勝塾を守ろうと、友を守ろうと助太刀したにも関わらず、引き分けとなってしまった。いや、引き分けに持ち込むので精一杯だった。今のままではダメなのだ。不甲斐ない自分でいたくない、俺の考える不動は、決して今の実力に胡座をかく事ではない!」

 

「……権現坂……」

 

不動、彼のデュエルはどんな状況でも退かぬ、誇り高きもの、大樹のように、山のように構え、あらゆる攻撃をものともせず、跳ね返す。不退の覚悟を持つ、漢のデュエル。

しかし、彼はそのデュエルに変化を望んだ。何時までも、保守的なままでは、本当に大事なものを守れないから、進化せねばならない。新たな不動の境地へと、まだ見ぬカードの荒野へと。そんな彼の決意に感銘を受け、1人のデュエリストが立ち上がる。

 

「俺が教えてやるよ」

 

刀堂 刃だ。彼は短い言葉と共にニヤリとした笑みを権現坂に向ける。その意外な台詞に目を丸める一堂。その間にコナミは刃の皿から海老フライを奪い、暗次とねねは当然のような顔をしている。2人は知っているのだろう、刀堂 刃が彼を助ける理由を、立ち上がった訳を。

 

「どう言うつもりだ?何故、敵であるお前が」

 

「簡単な事だ。俺はお前の心意気に惚れた!何より俺も誰かを導いてやれるようなデュエリストになりてぇ、お前とのデュエルは楽しかったしな」

 

疑いの視線を送る権現坂に対し、チラリとコナミを見た後、邪気の無い笑顔を見せる刃。それは本心だった。世話好きな刃は自分の認めたデュエリストである権現坂を放っては置けなかったのだ。それに、彼のデュエルを側で見た後だ。迷う誰かを見捨ててはいられない。だからこそ刃は教えを買って出たのだ。

 

「……感謝する。刀堂、いや刃殿!俺を鍛えて欲しい!よろしく頼む!」

 

自らの師となる刃に改めて向き直り、頭を下げる権現坂、それを見た刃は。

 

「おう!ビシバシいくから覚悟しろよ!」

 

屈託のない笑顔で頷いたのだった。

 

「ね、ねぇもし良ければ、私も――」

 

そんな彼等のやり取りを傍で見て、立ち上がったのは柚子。親友である権現坂が変化を望んだ事に焦りを覚えたのか、自分も教えを乞い、強くなろうと考えたのだが。

 

「じゃあ柚子には僕が教えて上げるよ」

 

柚子の台詞を遮り、ひょっこりと扉から顔を出したのは、遊勝塾の生徒である紫雲院 素良だ。彼はとてとてと遊矢達が座るソファに歩み寄り、刃の皿からかぼちゃの天ぷらをひょいと摘まんで、口に含む。

 

「素良?」

 

「やっぱり尊い融合を教えて上げないとね。ソリティアばっかりでつまんないシンクロより、ずっと楽しいよ?」

 

「おい、いきなり出てきて何だちっこいの、融合だってソリティアするぞ、後それ俺のかぼちゃ」

 

突然出てきて、刃を挑発するような言動を取る素良に対し、ねねを横目で見ながら、八重歯を見せる。遊矢と柚子、権現坂がハラハラと見守る中、ソファに座るコナミと暗次は刃の皿から次々とおかずを奪っていく。本当に刃に対して容赦のない2人である。

 

「なら賭けようか、僕が融合を教えた柚子と君がシンクロを教えた権ちゃん、どっちがより強くなれるか」

 

「上等ぉ!遊勝塾の摘まみ食い野郎共には負けるか!ほら行くぞ権現坂!こうなりゃ時間が惜しい、揚げ物食ってる場合じゃねぇ!」

 

「そうこなくっちゃね!いくよ柚子!融合召喚を教えるくらい、アイスクリームの天ぷらを食べながらだって出来る!」

 

「ええ!?」

 

「刃殿!?」

 

そうこうしている内に話が纏まり、混乱する2人の腕をぐいぐいと引っ張り、慌ただしく部屋を出ていく2人の師匠。

彼等を最後まで見守っていた遊矢としては呆然とするしかない。そんな中、食事を終えたコナミが立ち上がる。

 

「コッ、コナミ……?」

 

「道場破りしてくる」

 

「ついていきますぜ、兄貴!」

 

「張り切っていきましょー」

 

2人の愉快なお供を引き連れ、スタスタと部屋を出るコナミ。遊矢はそんなコナミの背中を見送るしかなかった。

部屋に残ったのは遊矢1人、誰もいなくなった部屋で、遊矢は自分の掌に視線を落とす。

 

「……皆、前に進んでいる。新しい何かを得ようとしている」

 

形は違えど、目指すものは違えど、彼等は望んだ。新たな力を、守る為の力を遊矢の脳裏にある人物の台詞が過る。

 

『その時には、君達のペンデュラムのその先を、見たいものだ』

 

浮かぶのはLDS最強のデュエリスト、赤馬 零児の姿。融合、シンクロ、エクシーズ、そしてペンデュラムを使い、コナミを追い詰めた強敵。

 

「――俺も立ち止まってはいられない……!見つけ出すんだ!ペンデュラムのその先を!」

 

それぞれに歩み出した、成長の道。置いていかれるのはイヤだ。自分も皆のように進もう。決意を新たに、遊矢はご飯を口に掻きこみ、デュエルディスクを手に、部屋を飛び出す。目指すは次なるステージ、ペンデュラムのその先を、導き出す為に。

 

――――――

 

「それで、次は何処に行きますか?兄貴?」

 

「……決めてないな」

 

遊勝塾を後にして、コナミ達は街の大通りに出ていた。多くの塾が建ち並ぶここなら、相手には困らないと思ったのだ。しかしどれもコナミには魅力的で選ぶに選べない。なんなら、片っ端から殴り込もうとした所で、暗次が1つの案を出す。

 

「でしたら、兄貴が満足出来そうな強敵がいる塾を紹介しますぜ!こっちです!」

 

ニカッと眩しい笑顔を見せ、駆け出す暗次、コナミもねねも彼に習い駆け出す。一体どう言った塾なのだろうか?期待を胸に膨らませ、口元に笑みを作り、暗次の後を追うコナミ。

やがて辿り着いたのは大通りの中心に構えられた中華風の巨大な建物。成程、確かにここなら、まだ見ぬ強敵がいるだろう。そんな厳かな雰囲気を肌で感じ取れる。

 

「あれ?先客ですかね?入り口の前に誰かいますよ」

 

ねねが呟く、確かに巨大な門の前には、1人の少年が佇んでいる。紫色の癖のある髪、中華風の鎧を思わせる服装。鋭い視線を門に向ける少年はその口を開く。

 

「たのもー!道場破りに参った!梁山泊塾の勝鬨 勇雄だ!門を開けてもらおうか!」

 

巨大な門へ向けて名乗りを上げる少年、勝鬨。そこへコナミが。

 

「オレもいいか?」

 

と名乗りを上げる。こうして、ルールを知らない非常識な少年と、ルールに厳しい非常識な少年は出会う。歯車は狂う。それが、良い方向なのか、悪い方向なのかは、まだ誰も――知らない――。

因みに、少しして、彼等の名乗りに苦笑いする塾の講師が現れるのは聞くまでもないだろう。

 




Q何!?刃の次は真澄んか北斗ー君じゃないのか!?
K何!?自分では不服なのか!?


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第17話 デュエルガ デキテ タノシイナ♪

サブタイで察した人はピカーリの神にソイヤッ!!ソイヤッ!!されます。


漢達が己の精神と肉体と野球とデュエルを極限まで鍛え上げる地上最強の場所、そこが少森寺塾である!

 

舞網市の大通りの中心部に構えられた中華風の巨大な建物、少森寺塾の石畳で作られた廊下を、1人の男性と3人の少年、1人の少女が靴を鳴らし、歩んでいた。壁などで外の景色が遮断されていない為、外からの日差しが眩しく、暖かい。青空に照り輝く太陽の光を左手で防ぎながら目を慣らすコナミ。

そんな彼の隣で歩く中華風の服装をした、癖の強い髪の毛の少年、梁山泊塾所属の勝鬨 勇雄が声を掛けてくる。

 

「貴様……コナミと言ったな、言っておくが道場破りは自分が先に申し込んだのだ。貴様は後だ」

 

「む……オレとて先にデュエルがしたいぞ」

 

コナミを睨みつけ、威嚇する勝鬨と、それに対して唇を尖らせ、反論するコナミ。何時もなら流されるように二つ返事で頷くコナミだが、それがデュエルとなれば別だ。コナミは妙なところで頑固者なのだ。口数が少ないながらも、その瞳は雄弁に火花を散らす。

 

「兄貴、こいつやっちゃいます?」

 

「だっダメですよう、暗次君」

 

そんなコナミに良かれと思い、袖を捲り、コキコキと肩を鳴らす暗次と、暗次を止めようともう片方の袖を引っ張るねね。

勝鬨が拳を構え、リアルファイトまで発展しようとした時、一筋の風が2人の間を舞い、ゴガガガガと激しい破壊音と共に、石畳の廊下を削る。余りにも現実離れした光景に、ポカンと口を開く4人。

 

何と言う事でしょう、あんなに整然とし、美しかった石畳の廊下が一瞬の内に災害にでも見舞われたかの如く、崩壊しているではありませんか。

風の通った方向を辿ると、そこにはニコニコと笑顔でコナミ達を見る、整った顔立ちをした講師の姿が。これぞ匠の技でしょうか?

 

女性に見間違えられそうなその顔つきや、柔らかい雰囲気からは想像も出来ないであろう。と言うか到底人間に出来る事ではない。彼の何事も無かったような笑顔を見て、コナミ以外の3人はサァーと表情から血の気が引く。

あのコナミですら「やっべぇ……」と声を漏らしている。

 

「申し遅れました。私はこの少森寺塾で講師をしている巫 紅虎と言う者です。話し合いをするのは構いませんが、喧嘩などで騒ぐと、次は本気で当てますよ?」

 

何と言う事でしょう、今の廊下を破壊した技は本気では無かったのです。その化け物染みた宣言に、口元を引き吊らせる一堂。

大人しく従っておこう。問題児達が一致団結した奇跡の瞬間であった。一瞬で皆、無言となり、靴が石畳を叩く音のみが辺りに響く。

 

「着きましたよ、ここが対決房です」

 

ホンフーが口を開く事によってビクリと肩を震わせる4人、着いた場所は柱が幾つも並び、中心部が大きく開いた部屋。どうやらここでデュエルを行うようだ。

 

「天月君、札田君、こちらへ」

 

ホンフーが対決房でデュエルを行っている2人の少年を呼ぶ、が、何やら変だ。2人がコナミ達に近付くにつれて、その違和感は大きなものへとなっていく。彼等がコナミ達の目の前に立った途端、その違和感は確信へと変わった。

 

「何だ、この……何なのだこれは!?」

 

勝鬨が理解不能と言った様子で叫ぶ。それもそうであろう、目の前の彼等は言葉では言い表せない程に“変”なのだから。

赤いつばの白の野球帽とそれに合わせた紅白のユニフォームを着た少年……。少年なのだろうか?

 

その頭は饅頭のような形となっており、顔の大半を占める大きな瞳以外は器官は見受けられないそれだけには留まらず、身体は円錐のようになっており、手は丸く、足に置いては身体と繋がってすらいない。

果たしてこれは人間なのだろうか。人と種別するには余りにも珍妙過ぎて、勝鬨が勝鬨る。それは暗次とねねとて同じである。唯、ねねに至っては「意外と可愛いかもしれません……」と呟いているが。

 

「ホンフーさん、どうしたんですか?彼等は?」

 

口を開い……いや、口など何処にも無いが、喋ったのは天月と呼ばれた少年、彼は怪しいものを見るような目付きでコナミ達を見る。

怪しいのは天月と札田の方である。

 

「話を進めるのか……」

 

「彼等は道場破りに来た、他塾の者です。帽子の彼が遊勝塾のコナミ、癖毛の彼が梁山泊塾の勝鬨君、黒の道着の2人は男の子が黒門君、女の子が光焔さんです」

 

「なんで道場破りを入れているのでやんすか……」

 

ホンフーの余りの無警戒さに札田と呼ばれた眼鏡の少年が呆れ返る。当然の反応である。普通、道場破りと名乗る怪しい者など、門前払いするに限る。

ましてや大手の塾なのだ、そんな有象無象など無視して当たり前、にも関わらず、ホンフーはニコニコと友好的にもてなしてすらいる……。

 

多少の例外はあったが、それでも道場破り自体を許可するなど余程の愚か者か、懐が広いのか……何か考えがあるのか。その笑みの裏にはとんでもない化け物を飼っているのか、と疑ってしまう。

 

「では天月君、札田君、彼等の相手をしてあげてください。タッグデュエルです」

 

「何!?デュエルと言えばアクションデュエルではないのか!?」

 

ホンフーが手をパン、と合わせ、視線を集める。そしてその口から飛び出たのは今回行うデュエルのルール。てっきり1対1のアクションデュエルを行うと思っていた勝鬨はまたもや勝鬨る。随分と忙しない少年である。しかし、これは当然とも言える。

 

「まぁ勿論、アクションタッグデュエルですけどね、こちらがルールを決めるのは当然でしょう?ここは私達の塾で、貴方達はアポも取らずに挑みに来たんですから、しかも道場破り、あー怖い!怖くてつい有利なルールに運んでしまいます」

 

「ぐっ……!」

 

実に正論である。むしろまだ良心的と言えよう。何せ彼等は伝統ある塾の看板を賭けているのだ。道場破りで勝ち星を稼ごうとするコナミとは、失う物が余りにも違い過ぎる。

しかし、彼等もまた、何らかのハンデを背負っていないとは限らない。

 

「ホンフー先生、無理でやんす!天月君の肩はまだ、治っていない筈でやんす!だから今もリハビリを!」

 

「札田君、殴りますよ?」

 

「何時も思うけど、ホンフー先生はオイラに対して厳しいでやんすよ……ホンフー先生に殴られたら、オイラ死んじゃうでやんす……」

 

ホンフーの笑顔による脅迫に眉を伏せ、たじろぐ札田。確かにあの大地を抉る竜巻のような拳を受ければデュエリストとは言え、唯ではすまないだろう。と言うか最悪死ぬ。

 

札田が本気で命の危機を感じている中、くるりとホンフーが天月へと振り返る。先程までのニコニコとした人当たりの良い笑顔はなりを潜め、真剣な表情となっている。天月の方はと言うと、苦々しい表情で俯いている。

 

「……俺は……」

 

「知っていますよ、もう、怪我は治っていると。進藤先生から聞きましたから」

 

「!」

 

「もし貴方が断るなら、この塾の未来は札田君に掛かっています。それでもいいんですか?」

 

「どう言う意味でやんすか……」

 

「分かり……ました」

 

渋々と言った様子で頷く天月。余程、札田だけでは不安なのだろう。天月が承諾した事に笑顔で頷くホンフー。そこへ無遠慮な勝鬨の声が響く。

 

「話は終わったか?ならとっとと始めて貰おうか」

 

「もう、空気を読まない人ですねぇ、分かりましたよ。では貴方達はコナミ君と勝鬨君、こちらは天月君と札田君でアクションタッグデュエルを始めましょう」

 

その一言を切欠に4人が指定の位置へ、暗次とねね、ホンフーはフィールド外へと出る。フィールド内へ残され、隣り合い並ぶコナミと勝鬨。

意外にも、先に口を開いたのは勝鬨であった。

彼はギン、と鋭い視線を一際細め、コナミを睨みつける。

 

「タッグを組む以上、足は引っ張るな、分かったか?」

 

当然と言うか予想通りと言える、突き放した台詞が飛ぶ。知り合いでもない2人だ。仕方無いのかもしれない。

コナミとしてもこう言ったタッグパートナーは初めてではない為、帽子のつばを抑え、何時も通りの返事を返す。

 

「ああ、全力を尽くそう」

 

左腕に金色に輝くデュエルディスクを装着するコナミ。それを切欠に、残る3人のデュエリストがデュエルディスクを次々と装着する。

それと同時に、デュエルフィールドが大きく姿を変える。柱は消え去り、華々しい近未来のスポーツのスタジアムへ。

 

「『U.A.スタジアム』か……」

 

そして、アクションデュエル恒例の口上が光輝くスタジアムに響き渡る。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

口火を切ったのは勝鬨、彼はつまらなそうに鼻を鳴らし、腕を組んで、堂々とした様で仁王立ちする。

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

 

次に無い口を開いたのは札田だ。特徴的な丸い手を突き出し、怪しく眼鏡を光らせる。

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

コナミが口元に笑みを作り、更なる口上を紡ぐ、デュエルディスクより、光輝くプレートが展開され、戦いの渦へと飛び込む。

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形」

 

3人とは別に、溜め息を溢しながら、デュエルディスクを構える天月、その態度はとてもやる気があるようには見えない。

 

「「「「アクショーン!!」」」」

 

更なるデュエルを求める為に、自らの渇きを潤す為に、その場凌ぎの為に、支える為に。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

デュエルは始まる。何かを得る為に。

 

「……俺のターンか」

 

デュエルディスクのランプが赤く輝く。先攻は少森寺塾組の天月。

彼は先程よりも重々しい溜め息を吐きながら、デッキよりカードを5枚引き抜く。

 

「俺は『U.A.ファンタジスタ』を召喚」

 

U.A.ファンタジスタ 攻撃力1200

 

選手入場の入り口より、激しい駆動音が駆け抜ける。クラッカーの花吹雪を浴び、現れたのは緑の輝くラインが走ったメカメカしいユニフォームに身を包んだ、電光のサッカー選手。

ファンタジスタの名に恥じぬ足捌きで巧みに雷を纏うサッカーボールを弄ぶ。余りにも速いそのプレイングは音を残し、光の軌跡を描いていく。

とんだ超次元サッカーである。

 

「更に、アクションフィールド『U.A.スタジアム』の効果、自分フィールドに『U.A.』モンスターが召喚された場合、デッキから『U.A.』モンスター1体を手札に加える。俺は……『U.A.パーフェクトエース』を手札に加える」

 

天月 手札4→5

 

一瞬、彼がその手を止めたのは何故だろうか?彼は迷いを振り払うかのように1枚のカードを手に取り、その効果を発動させる。

 

「早速だが、選手交代だ。手札の『U.A.パーフェクトエース』の効果、『U.A.パーフェクトエース』以外の『U.A.』モンスターを手札に戻し、このカードを特殊召喚する。俺は『U.A.ファンタジスタ』を手札に戻し、『U.A.パーフェクトエース』を特殊召喚!」

 

U.A.パーフェクトエース 守備力2500

 

ファンタジスタの退場と共に入場したのは青い機械の翼を生やした野球選手。彼は天高く飛翔した後、自らの指定席、ピッチャーマウンドに登板する。

その堂々たる姿、威圧感溢れる姿は正しくその名の通り、完全無欠のエースピッチャー。

 

「『U.A.スタジアム』の第2の効果、1ターンに1度、自分フィールドに『U.A.』モンスターが特殊召喚した場合、自分フィールド上のモンスターの攻撃力を500ポイントアップする。……守備表示だから関係ないがな、カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

天月&札田 LP4000

フィールド 『U.A.パーフェクトエース』(守備表示)

セット1

手札4(天月) 手札5(札田)

 

天月のターンが終了する。短いながらも彼は強力な壁モンスターを召喚して見せた。パーフェクトエースより発せられる気迫はまごうことなく本物、あのエースをマウンドから引き摺り降ろすのは骨が折れそうだ。

コナミは右肩をこきりと鳴らし、笑みを浮かべる。

 

「プレイボールだ、オレのターン、ドロー」

 

コナミの手よりカードの軌跡が描かれる。チラリと目を配らせたカードは期待通りの1枚。早速、コナミはそのカードをデュエルディスクに差し込む。

 

「手札を1枚捨て、魔法カード『ペンデュラム・コール』を発動。デッキからカード名の異なる『魔術師』ペンデュラムモンスターを2体、手札に加える」

 

これにより、デッキの『竜穴の魔術師』と『竜脈の魔術師』を手札に加え、自らの武器であるペンデュラム召喚を決め、パーフェクトエースを降板させる……筈であった。

 

「っ!?」

 

ゴウッと土煙を纏った剛球がコナミのバットである『ペンデュラム・コール』を貫く。背後を振り返れば、そこにはプスプスと灰色の煙を上げ、ボロボロになった野球ボールが壁にめり込んでいる。

そう、コナミのカードを貫いた正体は、ピッチャーマウンドに立つ、パーフェクトエース。彼とコナミの距離は200メートル以上離れており、コナミはスタジアムの真上に浮かぶ光のプレートの上に立っていると言うのに、その球速は凄まじいものがあり、そのコントロールは驚異的なものがある。これには流石のコナミも顔を青くする。

 

「……デッドボール寸前だぞ、審判を呼んで欲しいものだな」

 

冷や汗を浮かべながら皮肉るコナミ。そもそも一体、どう言う原理や効果で自分の『ペンデュラム・コール』が破壊されたのか、気になるところである。しかもデュエルディスクの反応を見る限り、効果まで無効にされたようだ。

 

「『U.A.パーフェクトエース』の第2の効果、相手ターンに1度、魔法、罠、モンスターの効果が発動された時、手札を1枚捨て、発動できる。その効果を無効にし、破壊する」

 

そのカラクリは単純。不動のエースは天月の与えたボールにより、カードの真価を封殺したのだ。その強力な効果に観客席の暗次とねねが抗議の声を上げる。

 

「なんだそりゃあ!?インチキ効果も大概にしやがれ!手札を捨てるんだったら俺も欲しいです!」

 

「私の『シャドール』にも使えるじゃないですかぁ!?シェキナーガさんの素材にも是非!」

 

ただ単に羨んでいるだけであった。因みに前者は『暗黒界』の効果は発動できないので無意味である。きっと捨てると言う言葉に過剰反応してしまったのだろう。

 

「正しくエースか、ならこちらも1番バッターを打席に立てよう、来い、『カメンレオン』」

 

カメンレオン 攻撃力1600

 

『1番、『カメンレオン』』

 

スタジアムにウグイス嬢の声が響く。赤いヘルメットを被り、その長い舌でバットを握り、パーフェクトエースに対峙するようにバッターボックスに『カメンレオン』が現れる。

動物は選手として扱われるのか、仮面を被っているのはルール上良いのか、などは問い詰めてはいけない。前者は擬人化すれば、後者は変身ヒーローが打席に立った前例がある。きっと大丈夫である。

 

「『カメンレオン』の効果、このカードが召喚に成功した時、墓地の守備力0のモンスター1体を選択して守備表示で特殊召喚する。但し、この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。オレは『ゴブリンドバーグ』を特殊召喚」

 

ゴブリンドバーグ 守備力0

 

『2番、『ゴブリンドバーグ』』

 

ウグイス嬢の呼び声と共に、『カメンレオン』が地面に黒い渦を作り出し、バットごと舌を突き刺す。バットにしがみつき、現れたのは、同じく赤いヘルメットを被った『ゴブリンドバーグ』。

『ゴブリンドバーグ』はバットを手に持ち、上空を旋回し、左側のバッターボックスに降り立つ。

 

「さて、3番バッターの登場だ。オレは2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

バッターボックスの後方に、輝く星が浮かぶ幻想的な渦が巻き起こり、その渦の中へと『カメンレオン』と『ゴブリンドバーグ』が螺旋状の光を描き、吸い込まれる。

 

「我が戦いはここから始まる、白き翼に望みを託せ、現れろNo.39、エクシーズ召喚!希望皇ホープ!!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

渦から手が伸び、バットを掴む。手に持ったバットが黄金に輝き、渦を引き裂く。バッターボックスに立つは、純白の翼を広げ、腰に2刀を携えた、黄金の鎧を纏った皇の姿。右肩に浮かぶ39の文様、その圧倒的な威圧感はパーフェクトエースに劣らない。

彼は踵をトントンと慣らした後、残された赤のヘルメットを被り、バットを構える。

 

『3番、『No.39希望皇ホープ』』

 

背番号ならぬ肩番号39、脅威の強打者がパーフェクトエースを鋭い眼光で睨み付ける。

 

「プレイボール!あっ、間違えた……バトル!希望皇ホープで『U.A.パーフェクトエース』に攻撃!ホープけ、何?今はバット?……ホープバットバッティング!」

 

ホープがふるふるとコナミのサインを拒否する。攻撃名が決まった事により、野球好きの皇が再びバットを構え、パーフェクトエースがその鉄腕から剛球を放つ。オーバースローで投げられたその球はホープの目の前で急激に伸び、稲妻の如き爆発的な速度で電光を散らす。

 

「アクションマジック!『エクストリーム・ソード』!ホープの攻撃力を1000アップする!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→3500

 

ホープのバットが更なる光を放つ。俺のバットが火を吹くぜ。そう言わんばかりの強烈な音を発し、風を引き裂き、パーフェクトエースの剛球の真芯を捉える。凄まじい打撃音、先ずは1点先取、コナミが最早、野球にシフトしかけた時。

 

「アクションマジック『ティンクル・コメット』!『No.39希望皇ホープ』の攻撃力を1000ダウンさせ、お前に500ポイントのダメージを与える」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力3500→2500

 

コナミ&勝鬨 勇雄 LP4000→3500

 

パーフェクトエースの剛球が更に加速し、バットに食らいつき、彗星の如き、重い球になる。ミシリ、嫌な音を立て、ホープのバットが砕け散る。まるで地球に落下するかのような鋭角に落ちるフォークボール。

思わずホープはバットをその手から落とす。見事、そう言う他ないだろう。

黄金のバットは魔球の前に敗れた。

 

「……3者凡退……フッ、カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

コナミ&勝鬨 勇雄 LP3500

フィールド 『No.39希望皇ホープ』

セット1

手札2(コナミ) 手札5(勝鬨)

 

清々しい笑みを浮かべ、1枚のカードをデュエルディスクにセットするコナミ。まだまだ1回の裏が終わったばかり、スコアボードが0を描いたその時。

 

「……何!?これはデュエルではないのか!?」

 

勝鬨が尤もな事で勝鬨た。




趣味に走り過ぎて最後に自分も勝鬨った。今週のアニメよりカオスではないと思いたい。勝鬨君が空気になってしまっている。……野球次元恐るべし。


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第18話 暴力はいけません

今回も野きゅ、勝鬨回。やりたい事多すぎて4話に別れるかもしれない、多くてもデュエルは3話で纏めたいなと思ってます。


『少森寺塾、2回表の攻撃です』

 

「何時までこの茶番は続くのだ!?」

 

ウグイス嬢の澄んだ声が近未来のスタジアムに響き渡る。それと同時に勝鬨がまたもや勝鬨る。これで5回目の勝鬨、イエローカードならばもう退場しているところだろう。ここまで来ればこのデュエル中、何回勝鬨るのか見物である。

そんな勝鬨を無視し、少森寺塾所属の少年、札田が手札から1枚のカードをデュエルディスクのバット型のプレートに叩きつける。

 

「グフフッ、漸くオイラのターンでやんす!オイラは『ビクトリー・バイパーXX03』を召喚するでやんす!」

 

ビクトリー・バイパーXX03 攻撃力1200

 

暗く閉ざされた天空より飛行音が響く、雲を貫きスタジアムに現れたのは本来よりも一回り程小さい戦闘機。かなり抑え目とは言え、その巨大な姿には目を見張るものがある。とても下級モンスターとは思えない程の存在感である。

 

『3番、『ビクトリー・バイパーXX03』』

 

「あれも選手として数えるのか!?よく見れば操縦士がヘルメットを被っている……!芸が細かすぎるぞ!」

 

ウグイス嬢の音声に6回目の勝鬨を見せる勝鬨、しかしそのデュエリスト特有の動体視力は素晴らしいものがある。何せ宙に浮かぶ高性能戦闘機のコックピットにまで目が届いたのだ、その目敏さにコナミがほう、と息を吐く。

その僅かな間に札田が身を翻し、戦闘機の上に降り立つ。

 

「さぁ、アクションマジックを使って大活躍でやんす!」

 

高速でスタジアム中を飛行するビクトリー・バイパーにすがりつきながらアクションマジックを探す札田。彼の乗るモンスター、『ビクトリー・バイパーXX03』には3つの効果がある。しかしその効果には発動条件がある、その条件とは“戦闘によってモンスターを破壊”する事、だがビクトリー・バイパー自体の攻撃力は極めて低い。

その為に攻撃力を上げようと札田は動きを見せたのだ。その目論見通り、札田がスタジアム外観に浮かぶカードを手に取ろうとした時。

 

「やらせはしない」

 

ドスッ、と強烈な肘打ちが札田の胸を突く。

 

「グォゥフッ!?」

 

間抜けな声を漏らし、ドサリとビクトリー・バイパーの上に崩れ落ちる札田、それでも落ちはしないのは鍛えているからか。誰もが呆気に取られる中、犯人である少年、勝鬨がまるで何事も無かったかのように札田の眼前で仁王立ちする。何時の間にビクトリー・バイパーに飛び乗っただろうなんて最早、この場にいる者達にとってどうでもいい。そんな事より大事な事がある。

 

彼はデュエル中にも関わらず、対戦相手である札田に暴力を振るったのだ。

 

「お前っ……!何をしているんだ!」

 

天月が叫ぶ。友人である札田が傷つけられたのだ、無理もない上に明らかに故意があるとしか思えないラフプレー、とてもではないが見過ごせるものではない。

 

しかし、そんな叫びなどどうでもいいかのように鼻を鳴らし、つまらないものを見るかの如く天月を一瞥する勝鬨。その口元には薄く笑みが作られており、明確な悪意を感じさせられる。

 

「何を?自分は唯、アクションカードを取ろうとしたから妨害したまでだが?」

 

「ふざけるな!そんな事、認められる訳ないだろ!」

 

さらりと何の問題も無いと言わんばかりに両手を広げる勝鬨と、それに対し激昂する天月、話がまるで噛み合わない。勝鬨がそれが当然と思っている限り、彼自身の考えは変わらないだろう。

 

「……確かに、ルール上、暴力を振るってはいけないなんて何処にもありませんねぇ、一般常識なら兎も角、モンスターを使っての妨害はありですし」

 

そんな中、観客席のホンフーが起爆剤を投下する。アクションデュエルのルール上、召喚したモンスターによる相手の行動の妨害は認められている。ならば、リアルファイトによる妨害は有りなのか?答えは“調整中”である。明確に禁じられてない以上、そう言った行為は出来てしまう。

 

「ふざけんなテメェ!そんなっ、そんな事してまで勝って嬉しいのかよ!それでもデュエリストか!!」

 

観客席に座っていた暗次が立ち上がり、青筋を立てて勝鬨を責める。今まで友人を傷つけていた彼でも、不良と呼ばれる彼でもそんなデュエルを汚すような事はしなかった。隣に座るねねも勝鬨に対し、厳しい顔を向ける。それでも。

 

「デュエリストだ」

 

何の迷いもなく、間髪入れずに答える勝鬨、それでも彼にとってはこれがデュエルなのだ。幼き頃より親元を離れ、友人と呼べるものなどいない環境で、梁山泊塾の塾長に教え込まれた。これがデュエルだと、どんなに汚い事をしてでも勝利を求めろと。

 

味方1人いない、塾内でも孤立していた彼にとって、塾長の教えは全てだった。幼い彼はそれがデュエルだと思い込んでしまったのだ。

生まれたばかりの雛鳥が初めて見るものを親だと思うように、彼もまた刷り込まれたのだ。その根は深く、彼の心まで蝕んでいる。加えて、このデュエルで敗北など数える程でしかなかった。ならばこれが正しいのだ。とどんどん負のスパイラルに巻き込まれていく、そんな中。

 

「アホか」

 

カクンと、勝鬨の膝が落ちる。一瞬の出来事。明らかに張りつめた空気が音を立てて崩れ去る。再びポカンとその場にいる全員が大口を開ける、勝鬨に膝カックンをしたコナミ以外は。

 

「何をする貴様!」

 

いきなり自分に膝を落としたコナミに向かい立ち上がり、胸ぐらを掴む勝鬨。

 

「お前のそれもデュエルなのだろう、否定はしないし、する気もない。ただ――」

 

「?」

 

その先のコナミの台詞は。

 

「そんな笑えもしないデュエルで、満足できるのか?」

 

勝鬨 勇雄と言う少年の14年間を否定するには充分過ぎる程、残酷だった。

 

「っ!何を!!」

 

「来い、オレがお前の新しい、面白いデュエルを共に見つけてやる」

 

胸ぐらを掴む腕を振り払い、勝鬨の襟首を強引に掴み、ニヤリと悪戯を思いついた子供のように笑い掛けるコナミ。勝鬨が不意を突かれ、目を丸くした瞬間。

 

2人がビクトリー・バイパーの上から消え、宙を飛んだ。

 

「ヌッ、ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!?」

 

「暴れるな着地点がずれる」

 

コナミが理不尽な要求を飛ばすも、勝鬨には聞こえない。ひゅうひゅうと風を切る音が耳に届き、不安がどんどん大きくなる。走馬灯のように様々な事が頭の中を駆け巡る中、勝鬨の脳裏に浮かんだ事は。

 

(こんなところで死ねるか!自分にはやるべき事が――)

 

しかし。

 

(……あれ?自分のやるべき事は、やりたい事は、何だ?)

 

導き出されたものは答えではなく疑問。何故、今までデュエルをしてきたのだろう。何の為にデュエルに勝利してきたのだろう。強くなって、再び両親と会う為?自分のデュエルは――その為に、必要な事なのか?

初めて少年が疑問を抱いた時、コナミ達が真っ直ぐな雷となって、スタジアムの1角へと強烈な破壊音と共に落ちた。

 

「さて、タイムは終了だ」

 

パラパラと天井が崩れ、土煙が起こる中、勝鬨が起き上がり、ジャケットを地面に引き摺り、逆さまの姿勢になったコナミを視界におさめる。

どうやらこの少年のお陰か、幸いな事に怪我は無いようだ。そもそもこんな事になったのはこの赤帽子が発端だが。そう考えると怒りが沸いてくる。

 

「貴っ様ぁ……!……ここは……ベンチ?」

 

「勝鬨」

 

「?」

 

選手控え、監督が指示を飛ばすベンチで、コナミが立ち上がり、パンパンと埃を払いながらニヤリとコナミが笑い掛ける。

まただ。先程と同じ、悪戯を思いついた子供のような笑顔、その笑顔を見てビクリと肩を震わせる。今度は一体何を――?

 

「楽しかったか?」

 

「そんな訳あるか!!」

 

邪気の欠片も無く訪ねるコナミに対し、当然ながら否定の叫びを上げる勝鬨。一体この少年は何を考えているのだ。いや、むしろ何も考えていないのかもしれない。そっちの方が頷ける。

 

一方で勝鬨の叫びを受けたコナミはうーんと唸りながら頭を捻る。一体何なんだこの少年は、あんなふざけた事をしておいて楽しかったか?だと?

そんな筈は無い。むしろあれのどこに楽しさを見いだしたら良いのか聞きたい位である。

 

「よし、バカな事をやるぞ」

 

「は?」

 

突然の宣言に固まる勝鬨、コナミはベンチを出て、心配そうに大声を張る暗次とねねに手を振る。

こいつは今、何と言った?何をするとほざいたのだ?バカをやる?

 

「おい眼鏡、お前のターンの途中だぞ」

「はっ!そうだったでやんす!オイラはカードを2枚伏せてターンエンドでやんす!」

 

天月&札田 LP4000

フィールド『U.A.パーフェクトエース』(守備表示) 『ビクトリー・バイパーXX03』(攻撃表示)

セット3

手札3(天月) 手札3(札田)

 

アクションカードを取り損ねた為か、手札よりカードをデュエルディスクにセットするだけでターンを終了する札田。

勝鬨に肘打ちされた事と言い、良いとこ無しで散々である。

 

『道場破り、2回裏の攻撃です』

 

「……」

 

ベンチより勝鬨が姿を見せる。気を引き締め、デッキより1枚のカードを引き抜く。

 

「かっとばせ、勝鬨」

 

「黙れ」

 

背後のコナミの口を全力で閉ざしながら。

 

「自分の邪魔をするな、自分は『融合賢者』を発動、デッキより『融合』を手札に加え、発動」

 

「手札を1枚捨て、パーフェクトエースの効果発動でやんす!」

 

「無駄だ!速攻魔法『禁じられた聖杯』!パーフェクトエースの効果を無効にする」

 

パーフェクトエースがボールを投げようとするも、観客席の聖女が聖杯を投げつける。嫌なファンである。

 

「手札の『地翔星ハヤテ』と『天昇星テンマ』で融合!天駆ける星、地を飛び…今1つとなって悠久の覇者たる星と輝け!融合召喚!!こい!『覇翔星イダテン』!!」

 

覇翔星イダテン 攻撃力3000

 

青き渦より現れたるは紫の兜と甲冑を纏い、深紅の外套を風に靡かせた覇を突き進む者。黒き槍をバットに持ち替え、打席に立つ姿は正に異様、今ここに4番バッターがパーフェクトエースの前に立ちふさがる。

 

『4番、『覇翔星イダテン』』

 

「……」

 

「かっとばせー、イ、ダ、テ、ン」

 

「黙れぇっ!」

 

イダテンに声援を贈るコナミに対し、幾つもの正拳突きを放つ勝鬨。しかし、コナミの方はひょいひょいとかわしている。

 

「ええい、もういい!バトルだ『覇翔星イダテン』で『U.A.パーフェクトエース』に攻撃!」

 

再びパーフェクトエースの手により、球が投げられる。その気迫、その威圧感は既に聖杯の力で薄れていると言うのに、投げられた球は全く衰えを見せず、雷の如く内角低めへと駆け抜ける。

 

だが、イダテンの眼はそれをも捉える。伊達に韋駄天の名を冠している訳ではないのだ。そのバットは確かにボールを捉える……筈であった。

 

「アクションマジック!『回避』!その攻撃を無効にするでやんす!」

 

突如、イダテンの眼前まで迫っていたボールが姿を消す。まるで最初から無かったかのような、陽炎のようにそのボールは消失したのだ。思わずイダテンがバットを振った時には、既に遅く、パァッンと言う音と共に、ボールはキャチャーミットにおさめられていた。

 

消える魔球。物語の中にしかない空想の存在がイダテンを封じ込めた。

 

「くっまだだ!希望皇ホープでビクトリー・バイパーを攻撃!」

 

「ホープはさっき打席に立ったぞ」

 

「黙れっ!」

 

コナミの呼び掛けを無視し、無理矢理ホープを打席に立たせる勝鬨。ホープの方も少し不満そうである。しかし、打席に立てば話は別、気を引き締め、ビクトリー・バイパーを睨めつける。そして次の瞬間、ビクトリー・バイパーの砲門より高速で野球ボールが発射される。

 

まさかのピッチャー交代、パーフェクトエースには劣るが、その球は充分に速い。しかしこの野球皇には無意味、バットを短く持ち替え、その真紅の眼光で狙いを見定める。球種は……スライダー。

バットから逃げるように大きく真横に球筋が伸びる。白の軌跡に赤の結び目が獣のように走る。

 

外角から内角へ抉り込むようなその球を、ガキィィィィィィンッ、甲高い炸裂音。手応えあり、振られたバットより伸びるようにボールは放物線を描きながらスタンドへ向かう、だが。

 

「罠カード発動!『光子化』!相手モンスターの攻撃を無効にし、ホープの攻撃力2500を次の自分のターン終了時まで加えるでやんす!」

 

ビクトリー・バイパーXX03 攻撃力1200→3700

 

電光石火。そう言わんばかりの速さで真横に移動し、そのアーチを破壊する。インチキ染みたスーパーキャッチ、ホームラン間違いなしの球がビクトリー・バイパーの巨大なミットで封じ込めた。

 

「おまっ、それってズルじゃん!」

 

「本当にこれ、野球なんですかぁ?」

 

デュエルである。とは言え暗次とねねが不満を持つのも無理はない。何せチート染み球を投げられ、それを打っても天空に座すビクトリー・バイパーに捕球されてしまうのだ、一体どうすればいいのだ。勝鬨が冷や汗をかく。

 

「諦めたらデュエル終了だ」

 

コナミが背後から声を掛ける。正直意味が分からないが気が軽くなるのを感じる。意味が分からないが。

 

「貴様……策はあるのか?」

 

「ない」

 

ガッカリである。期待した自分がバカであったと勝鬨は溜め息を吐く。焦りを抱く勝鬨とは真逆に、どこからそんな余裕が沸いてくるのか、その顔には笑みが貼り付けられており、勝鬨を苛つかせる。

 

「そんなつまらなそうな顔をするな、デュエルは楽しむものだ」

 

「……デュエルは勝つ為のものだ」

 

意味が分からない。デュエルを楽しむ?そんな筈はないのだ。デュエルに楽しさなんていらない。デュエルは――。

 

「なら――お前のデュエルは、何の為にある?」

 

デュエルは――、何の為に?

 

「……うるさい、うるさいうるさいっ!自分はっ!ターンエンドだ!」

 

コナミ&勝鬨 勇雄 LP3500

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示) 『覇翔星イダテン』(攻撃表示)

セット1

手札3(コナミ) 手札2(勝鬨)

 

「俺のターン、ドロー、俺は『U.A.ファンタジスタ』を召喚!」

 

U.A.ファンタジスタ 攻撃力1200

 

再びフィールドに電光のファンタジスタが駆ける。しかしあくまでこれは後続に繋ぐ為。

 

「『U.A.スタジアム』の効果!デッキから『U.A.マイティースラッガー』を手札に加える!」

 

天月 手札3→4

 

「更に、ファンタジスタを手札に戻し、来い『U.A.マイティースラッガー』!」

 

U.A.マイティースラッガー 攻撃力2300

 

『4番、『U.A.マイティースラッガー』』

 

打席に立つのは最強の4番バッター、赤きラインが流れる白いユニフォームと共に闘気を纏い、神速で現れたその存在感は見るだけで力が奪われるかのようだ。

 

「『U.A.スタジアム』の効果!自分フィールド上のモンスターの攻撃力を500アップ!」

 

U.A.マイティースラッガー 攻撃力2300→2800

 

U.A.パーフェクトエース 攻撃力1800→2300

 

ビクトリー・バイパーXX03 攻撃力3700→4200

 

「更に、装備魔法『U.A.パワードギプス』発動!マイティースラッガーに装備する事で攻撃力は1000アップし、相手モンスターと戦闘する場合、ダメージを倍に、更に、装備モンスターが戦闘によってモンスターを破壊した時、もう1度だけ攻撃できる!」

 

U.A.マイティースラッガー 攻撃力2800→3800

 

マイティースラッガーのメカメカしいユニフォームが大きく変化する。肩部分より、赤いランプが飛び出し、胸部が輝く。

肩、腕、腰を繋ぐ赤いばねは動きを制限するものだろうか?手に持ったレーザー光を放つバットはバチバチと黒き雷を纏いながら今か今かと出番を急いている。

 

「勝鬨、念の為、セットカードを使え」

 

「むっ、……リバースカードオープン『燃える闘志』。発動後、希望皇ホープに装備する」

 

勝鬨が伏せられたカードを発動する。その瞬間、燃え盛る炎がホープを覆い、その右手に黄金のグローブが装着される。

それを見た天月は一瞬だが、眉をひそめる。

 

「っ!バトル!『U.A.マイティースラッガー』で『覇翔星イダテン』を攻撃!」

 

先程とは変わり、イダテンがその手よりボールを投げる。疾風の如き高速のストレート、狙いは、ど真ん中。

 

「『覇翔星イダテン』は自分より星の低いモンスターと戦闘を行う時、そのモンスターの攻撃力を0にする!」

 

「無駄なんだよ、どんな球を投げようが、本物のスラッガーには勝てない!『U.A.マイティースラッガー』が攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで、モンスター効果を発動出来ない!」

 

「なら!アクションマジックで!」

 

「無駄だ!変化球も!ストレートも無駄だったんだよ!魔法も、罠も発動出来ない!」

 

まるで自分に言い聞かせるような悲痛な叫びがこだまする。それと同時に響くは絶望の炸裂音、ボールは黒き雷を纏い、イダテンの身体を巻き込んで、スタンドへ一直線に進む。バキィィィィィィッ、スコアボードに突き刺さり、ホームランの余波がコナミと勝鬨を襲う。

 

コナミ&勝鬨 LP3500→1900

 

「ビクトリー・バイパーを守備表示に変更し、ターンエンドだ!」

 

天月&札田 LP4000

フィールド『U.A.パーフェクトエース』(守備表示) 『U.A.マイティースラッガー』(攻撃表示) 『ビクトリー・バイパーXX03』(守備表示)

『U.A.パワードギプス』セット2

手札3(天月) 手札2(札田)

 

ホープを睨みつけ、攻撃の手を止める天月、『燃える闘志』を見た時から途端に人が変わったようにその手を小刻みに震える。一体何があるのだろうか?

 

「どうだ、楽しいだろう」

 

「……今のは褒めてやる、だが楽しくなどない!」

 

ニヤリと口角を吊り上げ、語り合うコナミと勝鬨、天月の胸がチクリと痛む。

何なんだこいつは、何故こうまで。

 

「何で……何で諦めない」

 

天月の口より悲壮感の篭った声が漏れる。何故だ?何故こうまで逆境に晒されても折れない。状況は絶望的なのに、負けるかもしれないのに、何故こんな――。

 

「笑ってられるんだ……!?」

 

「デュエリストだからだ」

 

間髪入れずにコナミが答える。迷いのない、たった1つの答えが天月の胸に突き刺さる。

 

「分からないなら教えてやる、俺も一緒に見つけてやる。1人だから分からない事も、1人だから楽しくない事も、全部変えてやる。折れても、挫けても、その先には楽しい事が待っている。このドローにはワクワクが詰まってる。最後まで全力で楽しんで、希望を信じる」

まるで詠うように、心の底から笑うように、言葉は紡がれていく。だってそれがきっと――。

 

「それが、デュエリストと言う生き物だ、それが――」

 

――かっとビングだ――。

 

 

 

 

 




地翔星ハヤテ、天昇星テンマ、覇翔星イダテンはアニメオリカ、特にイダテンはランクの犠牲者です。
バトルステップ関係は間違っているかもしれない、俺は間違っているのか、答えろルドガー!


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第19話 先生でも何にも知らない

ちょっと無理矢理纏めた感がある19話。
暇潰しにでも楽しんでいただければありがたいです。


天月と言う少年は俗に言う、天才ピッチャーであった。プロ野球選手である父を持ち、天賦の才に加え、日々の厳しいトレーニング、そして果てには超人揃いの少森寺塾での修行、小学生時代では負けなし、中学に入ってからは大きな期待を受けた。

 

それも当然であろう。この時には既に彼の野球能力は並の高校生を優に超えていたのだから。

しかし、彼の栄光への道は早くも壊される。県大会決勝、彼はそれまでの全ての試合で先発を努めてきた。そうして、彼は気づかぬ内に疲労しきっていたのだ。

いくら恵まれた能力を持つとは言え、所詮中学生、その上彼の前に立ち塞がったのは名門中学の化け物染みた選手達。

 

キレの無くなった変化球、普段ならば重いストレートも通用せず、全力を出し切った過去最高速度の球でさえ、スタンドへ叩きつけられた。

そして彼はこれまでの無理がたたり、右肩が……壊れた。

それ以来、彼はボールを投げる事に恐怖を覚え、肩が完治した今でもボールに触れていない。

 

野球をやる楽しさも、逆境の中で燃える闘志も、見る影も無くなった。そして、自らを見失い、悪戯に時間を使う中、彼は出会う。昔の自分そっくりに笑う、赤帽子の少年に。

 

 

 

勝鬨 勇雄と言う少年はどうしようもなく不器用だ。それは彼の暮らしている環境に問題がある。

梁山泊塾、塾長、郷田川の指導方針は絶対的な勝利にある。勝利以外の結果を是とせず、勝利のみを求め、手段を問わないデュエル。楽しさ等を無駄と笑し、汚い方法を有用とする闇のデュエル。

 

彼はそれを学んだ。それが強くなれると信じて、今では顔も朧気な両親に会えると信じて、だけど分からない、分からなくなってしまったのだ。

コナミの言葉を聞いて、自分が何をしたいのか、このデュエルは正しいのか、両親が自分のデュエルを見て、笑ってくれるのか。

 

昔、公園で見た親子のデュエル、あんなデュエルが出来るのかと、あの時、光輝いて見えた少年のゴーグルがコナミのゴーグルと重なる。胸がどうしようもなく締め付けられる。

 

――お前は本当に、見つけてくれるのか?――楽しい、あの親子のようなデュエルを――

 

――――――

 

「さぁ、オレのターンだ」

 

皆が息を飲み、その一挙一動に注目する中、コナミが口元に弧を描きながらその右手をデッキトップに翳す。

 

「……」

 

「……」

 

「何が来るのかドキドキハラハラするな」

 

「いいからさっさと引け!」

 

「そう急かずとも……ドロー!」

 

勝鬨の叱咤を受けつつ、カードを引き抜くコナミ、一堂が汗を垂らし、生唾を飲み込む、誰もが緊張した雰囲気を発する中――コナミが薄く笑った――。

 

「これだから、デュエルはやめられないんだ」

 

途端、勝鬨と天月に電撃が駆け抜ける。味わいたい、分かってしまう。そのドキドキが、そのワクワクが。

 

(ああ――そうか、デュエルをするのは――それが知りたいから――)

 

(そうだ――同じなんだ。デュエルも――野球も――良いカードを引いた時の嬉しさ、良い球を投げた時の喜び――)

 

自然とその視線はデッキへと移る。あの時見た親子の笑顔、デュエルの楽しさ。

あの時失った胸の高鳴り、逆境への挑戦。求めていたものは、欲しかったものは、すぐ近くにあった。

気づかなかったもの、忘れてしまっていたものが2人のぽっかりと空いた心にパズルのようにカチリと嵌まる。

 

「魔法発動!『ギャラクシー・サイクロン』。セットされたカードを破壊する!」

 

「ーっ!させるか!手札を1枚捨て、パーフェクトエースの効果で無効にし、破壊する!」

 

星を散りばめた竜巻はパーフェクトエースの鉄腕から放たれる球によって掻き消される。効果は不発、だが、これこそがコナミの狙い。

 

「道は開いた、魔法カード『調律』。デッキより『ジェット・シンクロン』を手札に加え、デッキトップを墓地に送る。そして『ゴブリンドバーグ』を召喚!」

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

コナミの手札より現れたのは1ターン目でも姿を見せた玩具の飛行機に乗ったゴブリン。その飛行機からはコンテナが吊るされており、中よりキィィィィィィィィンと耳鳴りが聞こえてくる。

 

「『ゴブリンドバーグ』の効果、手札より『ジェット・シンクロン』を特殊召喚し、このカードを守備表示にする!」

 

ジェット・シンクロン 守備力0

 

『5番、『ジェット・シンクロン』』

 

火炎を上げ、コンテナより飛び出たのは青と白のカラーリングの愛らしいジェットエンジンを思わせるモンスター。

 

「星4の『ゴブリンドバーグ』に星1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!!『ジェット・ウォリアー』!!」

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力2100

 

『6番、『ジェット・ウォリアー』』

 

背のエンジンより火を吹かせ、ジェット推進により高速度でバッターボックスに降り立つは、その名の通り、ジェット機を思わせる機械戦士。

彼が刃の如き足で降り立った地は一部だけ抉り取られた形になっている。

 

「『ジェット・ウォリアー』がシンクロ召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を対象に発動する!俺が対象とするのは……『U.A.パーフェクトエース』!そのカードを手札に戻す!さぁ、降板して貰うぞ!」

 

「っ!?罠発動!『スキル・プリズナー』!パーフェクトエースを選択し、対象として発動したモンスター効果を無効にする!」

 

「そう来るか……バトル!『ジェット・ウォリアー』でビクトリー・バイパーを攻撃!」

 

ビクトリー・バイパーの砲門より、野球ボールが発射され、『ジェット・ウォリアー』に迫る。天より降る高速のボール、そのボールを打とうと、『ジェット・ウォリアー』がバットを振るう、しかし。

 

「ッ!ホップした!?」

 

突然、そのボールがまるで段差を上がるかのように1段上へホップする。その様は獲物を狙う。

 

「クックック、行くでやんす!ハブボール!」

 

時既に遅し、『ジェット・ウォリアー』はバットを振ってしまった――。しかし、背のエンジンより炎が噴射し、その体勢は大きく変わる。バッターボックスを1回転し、バットはボールの前へ、クリーンヒット、甲高い音を鳴らし、ボールは高速でビクトリー・バイパーへ迫り、槍の如くその翼を貫く。

 

「いや……攻撃力は上だし、これはデュエルだ」

 

打ち落とされるビクトリー・バイパー。スタンドへは運べなかったが、『ジェット・ウォリアー』は既に三塁へ。

 

「だがまぁ……デュエルも野球も、楽しんで諦めなければ、道は開けるかもな」

 

「ッ!」

 

コナミの視線が天月へとぶつかる。目は口程にものを語る。全くその通りだと天月は苦笑する。

 

「希望皇ホープでマイティースラッガーを攻撃!」

 

スラッガーの手よりボールが投げられる。やはり、パーフェクトエースには劣るが、充分に速い、だが、この皇に膝をつかせられるのは青きエースのみ、皇の背後に燃え盛る炎が舞い、黄金のバットは灼熱を纏い、更なる輝きを放つ。

 

「元々の攻撃力よりも攻撃力の高いモンスターが相手フィールドに存在する場合、『燃える闘志』を装備したモンスターの攻撃力はダメージステップの間、元々の攻撃力の倍となる!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→5000

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターン、自分が受ける全てのダメージを半分にする!」

 

更に速度を増すボール、しかしまだだ。まだ皇の足元にも及ばない。確かに重いストレート、だが甘い。皇は金色のバットを振り、真芯で捉える。

風を引き裂き、強烈な打撃音がスタジアムに響き渡る。バットに当たったボールには熱が移り、爆発を起こす。ボールは更に加速し、マイティースラッガーごとスタンドへ運ぶ。特に意味は無いがスポーツではよくある事。マイティースラッガーはスコアボードにぶつかり、その軌跡は見事なアーチを描いた。圧倒的ホームラン。その余波は天月達を襲う。

 

天月&札田 LP4000→3400

 

「オレはカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

コナミ&勝鬨 勇雄 LP1900

フィールド 『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示) 『ジェット・ウォリアー』(攻撃表示)

『燃える闘志』セット1

手札0(コナミ) 手札2(勝鬨)

 

「オイラのターン、ドロー!カードを2枚セットして、ターンエンドでやんす……天月君、頼んだでやんすよ」

 

天月&札田 LP3400

フィールド『U.A.パーフェクトエース』

セット2

手札2(天月) 手札1(札田)

 

天月に向かい、目を配らせる札田、その視線にどのような意図があるかは分からない。だがその眼鏡の奥の瞳には信頼が見て取れる。

 

「……自分のターン……」

 

勝鬨がその手をデッキの上に翳す。怖い、今更になって恐怖が沸いてくる。こんな自分がデュエルを楽しんでいいのか?デッキは応えてくれるのか?――デュエルを、楽しめるのか――?

 

「勝鬨」

 

そんな中、コナミが勝鬨に向かい、声を掛ける。優しげで暖かい声音、コナミは勝鬨に向かい、拳を突き出し、笑う。

 

「かっとビングだ」

 

「かっと……ビング……?」

 

「勇気を持って一歩踏み出せ、諦めずに困難にぶつかれ、目の前のワクワクを躊躇ったら、勿体無い、確かに失敗するのは怖いかもしれない。だけど挑戦しなければお前は今のお前のままだ」

 

勝鬨の凍てついた心がまるで雪解けのように溶けていく。それでも怖い、今でもカタカタと勝鬨の右手は震え続けて止まらない。

 

「それでも怖いなら――、オレも共に、挑戦しよう。言っただろう?共に見つけると」

 

コナミの右手が勝鬨の右手と重なる。――もう、震えは止まった――、むしろ早くカードを引きたいと言う気持ちが心の底から込み上げてくる。そうだ、このデッキの中には、このドローには、ありったけの希望が詰まっている。

だからこそ、最初の挑戦は、この戦友と共に引き抜こう。顔がニヤける、鼓動が高鳴る。ふと、あの時公園で見た親子の姿が頭を過る。

ああ――そうか、これが――楽しいって事なんだ――。

 

「「かっとビングだ!!自分(オレ)達のターン!ドロー!!」」

 

光の線が走る、引いたカードを見て、勝鬨が笑う。応えよう、今までの人生に、デッキに。

 

「魔法カード『死者蘇生』!!墓地より、『覇翔星イダテン』を特殊召喚する!!」

 

「手札を1枚捨てて、パーフェクトエースの効果により、無効にするでやんす!」

 

札田の渡したカードが野球ボールに変化し、パーフェクトエースの手により投げられた球は勝鬨の『死者蘇生』を貫く。だがまだだ、まだその瞳は諦めてはいない。

 

「装備魔法!『再融合』!800LPを払い、墓地のイダテンを特殊召喚し、このカードを装備する!」

 

コナミ&勝鬨 勇雄 LP1900→1100

 

覇翔星イダテン 攻撃力3000

 

バッターボックスに立つのは勝鬨の切り札、紫の兜と甲冑を纏った誇り高き武人。今、勝鬨の想いに応えるべく、フィールドに顕現する。

 

「バトルだ!希望皇ホープでパーフェクトエースを攻撃!パーフェクトエースの攻撃力がアップしている為、『燃える闘志』の効果が適用される!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→5000

 

対峙する黄金のバッターと青きエース。飛び散る火花、今、互いの誇りを賭け、2度目の対決が始まる。まるで呪縛の如く絡みつく緊張感、その糸を断つように、パーフェクトエースの鉄腕より、剛球が放たれる。

肉眼では捉えきれないであろう、稲妻が走るような球、それはホープの目の前で急激な伸びを見せる。正に光速、しかし、皇も負けてばかりではいない。その身に纏う炎を更に燃やし、バットが更なる光を放つ。球種は……ストレート。赤き眼を見開き、バットを振るう、スタジアム中に響く炸裂音、ボールは真っ直ぐにパーフェクトエースに向かい、その右肩を貫く。

 

「っ!」

 

その光景に思わず顔を歪める天月、それはまるであの時のような出来事。

 

「『覇翔星イダテン』で攻撃!」

 

漆黒の槍を構え、目にも止まらぬ突きを放つイダテン、その槍は札田達のライフを大きく削り取る。

 

天月&札田 LP3400→400

 

「くっ……うっ!」

 

「『ジェット・ウォリアー』でダイレクト・アタック!とどめだぁっ!」

 

背部のエンジンが唸り声を上げる、火炎を背に、凄まじきスピードで札田に迫り、その黒き拳でこのデュエルに鉄槌を下そうとする。

 

「罠カード『奇跡の残照』!このターン、戦闘で破壊された『U.A.パーフェクトエース』を特殊召喚するでやんす!」

 

U.A.パーフェクトエース 守備力2500

 

しかし、後一歩と言うところで再び、マウンドに守護神が青き翼を翻し、降り立つ。その手には『ジェット・ウォリアー』の拳が握られており、何が何でもこの場を退かぬ気迫を感じさせられる。

 

「くっ、バトルを中断する!メインフェイズ2に移行し、カードを1枚を伏せ、ターンエンドだ」

 

コナミ&勝鬨 勇雄 LP1900

フィールド 『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示) 『覇翔星イダテン』(攻撃表示) 『ジェット・ウォリアー』(攻撃表示)

『燃える闘志』セット2

手札0(コナミ) 手札0(勝鬨)

 

天月達の前に並び立つは紫、白、黒と3種のモンスター、種類の違うモンスターがここまで揃うなど壮観と言えよう。今まで天月達がデュエルを続けてきて、ここまでの光景が眼前に広がるのは初めてなのだから。

今すぐにでも膝をつき、デッキの上に手を置き、サレンダーをすれば楽になれる。

そう、今までの彼ならば考えていただろう。だが、天月の心には絶望は無い、あるのは唯、燃え盛り、暴れ狂うような挑戦の意志。

 

コナミが笑った。楽しいからデュエルはやめられない、と。知っている忘れていたあの感覚を味わいたくて堪らない。

勝鬨が見せた。恐怖を打ち払い、新たな道へと、足を踏み入れた。負けていられない、自分も自分自身の可能性に賭けてみたい、弱い自分を乗り越えて、もう1度あのワクワクを手にして見せる。

そして札田が、親友が託したのだ。こんな弱い自分に、情けないこの身に、1人じゃない、皆が見ている。

 

マウンドに立つエースは1人、だけど、ボールを投げた先には彼がいてくれた。何時だって、どんなボールだって受け止めてくれた。背後にも同じチームの皆がいた。1人じゃない、1人だけで闘ってきた訳じゃない。確かに、状況は最悪だ。まるであの時のような満塁状態で笑えてくる。こんな絶望的なのに、勝ちたくて、勝ちたくて仕方無い。

 

「俺のっ、ターンッ!!」

 

楽しくて、笑ってしまう。

 

「手札を1枚捨て、『ライトニング・ボルテックス』発動!相手フィールド上の表側表示のモンスターを全て破壊する!」

 

轟雷がコナミ達のモンスターを貫く。焼け焦げた跡や匂いが辺りに立ち込め、コナミの顔が歪む。

 

「『U.A.ファンタジスタ』を召喚!」

 

U.A.ファンタジスタ 攻撃力1200

 

3度、電光を散らし、フィールドに現れるファンタジスタ、まだだ、勝利へのピースはまだ足りない。

 

「『U.A.スタジアム』の効果により、『U.A.マイティースラッガー』を手札に加え、選手交代!ファンタジスタを手札に戻し、マイティースラッガーを特殊召喚!」

 

U.A.マイティースラッガー 攻撃力2300

 

「っ!自分は罠カード『エクシーズ・リボーン』を発動!希望皇ホープを特殊召喚し、このカードをORUとする!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

並び立つ両雄、白き翼を広げ、金色の鎧を纏いし希望の皇がその右手に野球ボールを握り、必殺の強打者を睨みつける。

対する4番打者、マイティースラッガーは光放つバットを握りしめ、バッターボックスに立つ。火蓋は切って下ろされる。

 

「アクションマジック!『ハイダイブ』!希望皇ホープの攻撃力を1000アップする!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→3500

 

フィールドを駆け、コナミがアクションカードを拾い上げ、自らのデュエルディスクに叩きつける。何かの拍子でマイティースラッガーの攻撃力が上がった時の為だろう。あのモンスターの前では、ホープの効果も無意味なのだから。だが、強敵だからこそ、燃え上がる。

 

「バトル!マイティースラッガーでホープを攻撃!」

 

こんなところで止まってられない。熱き炎が闘志に宿る。大丈夫だ、恐れる事は無い、自分には――。

 

「罠発動!『燃える闘志』!」

 

託してくれる仲間がいる。

 

U.A.マイティースラッガー 攻撃力2300→4600

 

ホープが投げた球が打ち砕かれる。熱風が天月の頬を撫でる。心地良い感覚、ああ、何故こんな楽しさを忘れてしまっいたのだろう。思わず頬が緩むのを感じる。勝ちたい、彼等に、仲間と共に。

 

コナミ&勝鬨 勇雄 LP1900→1000

 

「ターンエンド!さぁ、かかって来い!」

 

天月&札田 LP400

フィールド 『U.A.パーフェクトエース』(守備表示) 『U.A.マイティースラッガー』(攻撃表示)

『燃える闘志』

手札1(天月) 手札0(札田)

 

形勢逆転、あそこまで有利な状況が見事ひっくり返される。何が起こるか分からない、何が起こってもおかしくない。互いに笑顔を貼り付け、その熱く燃え上がる闘志に、更なる炎を灯す。

 

「オレのターンッ!!」

 

勢い良くデッキトップよりカードを引き抜くコナミ。引いたカードは逆転の一手。

 

「魔法カード『死者蘇生』!墓地より希望皇ホープを特殊召喚する!」

 

「甘い!忘れたか!パーフェクトエースの効果!手札を1枚捨て、その効果を無効にし、破壊する!」

 

パーフェクトエースの剛球がコナミに迫り来る。確かに、コナミらしからぬプレイングミス、そう、考えるだろう。

 

「いや、信じてたのさ」

 

ニヤリと笑うコナミ、その背後より、1つの影が出現し、ボールを蹴り上げた――。

 

「アクションマジック『ヒートアップ・サウンド』その効果を無効にする」

 

その正体こそ、コナミのパートナー、勝鬨 勇雄。彼は自らの身体能力を活かし、物理的な意味でも天月の妨害を防いで見せた。これこそが勝鬨にしか出来ないデュエル、モンスターと闘う、妨害を妨害するデュエル。

成程、確かにこれが彼らしいデュエルなのだろうと、コナミは苦笑し、ホープを召喚する。

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

傷つき、倒れながらも立ち上がる皇。倒れる訳にはいかない、自分の握るバットこそが、彼のエースの全力を打ち破り、自らの主に勝利をもたらすのだとその身を奮い立たせる。

身に纏う気迫は先のターン、『燃える闘志』を装備していた時より変わらない。いや、むしろ今までのものを超えているように見える。彼の皇の狙うは唯1人、完全無欠のエースのみ、コナミもそれを分かっているのだろう。皇に最後の指示を飛ばす。

 

「希望皇ホープでパーフェクトエースを攻撃!」

 

右手に持ったバットをパーフェクトエースへ、スタンドへ向けてホームラン予告をするホープ。対するパーフェクトエースは獰猛な笑みを浮かべ、投球フォームを構える。

そして――刹那、雷が駆け抜ける。電光をバチバチと散らし、今までの球速を遥かに超える青き稲妻、それを見てホープもバットを短く持ち替える。眼前に迫る雷は急激に伸び、光となる。だが。

 

「罠カード!『ストライク・ショット』!ホープの攻撃力を700上げ、守備表示のモンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与える!」

 

勝鬨が託したカードが発動される。光を打ち砕くはもう1つの光、バットに希望の光が集束し、振り抜かれる。食らいつく光速のストレート。

だが折れない。その意志は、その闘志はひび1つ入らない。

ガキィィィィィィィィンッ、甲高い音が響き、光が今、スタンドへ叩きつけられる。

 

「ホープ剣・逆転満塁ホームラン!!」

 

天月&札田 LP400→0

 

ゲームセット、デュエル終了のブザーが今、鳴り響いた。

 

「……負け、たか……」

 

「……天月君……」

 

「何でだろうな、負けたのに、悔しいのに、今すぐ練習したい、野球がしたくて堪らないんだ!」

 

「天月君っ!」

 

清々しい笑みを浮かべ、札田へ振り返る天月、その瞳にはもう、迷いは無い。

 

「どうだ、勝鬨?」

 

「……コナミか……ふん、こんなにもデュエルは楽しいのだな……悪くない」

 

肩に手を置くコナミに対し、憑き物が落ちたような笑顔で返す勝鬨、そこへ。

 

「どうです?勝鬨君、もし良ければこの塾へ入りませんか?」

 

観客席で座っていたホンフーがニコニコと笑い、誘う。しかし勝鬨は苦笑を1つ浮かべ、ふるふると首を横に振る。

 

「申し出はありがたいが……それは自分が自分に決着をつけてからにするとしよう」

 

「……そうですか、――そうそう、善人は悪い事をしてはいけませんが――悪人は善い事をしても良いらしいですよ?大人からの忠告です♪」

 

勝鬨と同じように苦笑し、その場を離れるホンフー達、一方で勝鬨はコナミに向き直り、真剣な面差しをする。

 

「コナミ、自分は1度、梁山泊塾に戻り、今までの自分と決別しようと思う」

 

「……そうか、助けは必要か?」

 

「いや、大丈夫だ。塾長は確かに厳しい人だ。だけど自分にとって父親も同然なんだ、だから、お前と見つけたデュエルで、親子水要らずで楽しいデュエルをしたい、塾長にも知って欲しいんだ。デュエルは――」

 

――楽しいものだと――。

 

――――――

 

「いやー、良かったッスねぇ、2人共迷いを振り切ったみたいで、流石兄貴っッスよぉ!」

 

「格好良かったです!コナミさん!」

 

時は過ぎ、遊勝塾へ戻る道すがら、暗次とねねはコナミを褒め称えていた。コナミとしてはくすぐったいのか、それでも満更でもないのか、苦笑している。

 

「看板を取れなかったのは惜しいがな――ん?あれは――」

 

そんな中、何かに気づいたコナミが早足で駆け、後を2人が追う。その先にあったもの、いたものは。

 

「……柚子――と、猿?」

 

倒れ伏し、目を回すポニーテールの少女とデュエルディスクを背に背負った猿であった。

 

「うぐっ……腹が減った……バレットとははぐれたし……むっ?先生!?何故先生がここに!?まさか自力で起床を!?」

 

「キッ!?キキー!?」

 

コナミを視界に収めた途端、ガバリと身を起こし、顔を輝かせ、抱きつく少女と猿。コナミとしては意味が分からず、頭に幾つもの?マークを浮かべてしまう。

 

「待てっ、柚子、何を」

 

慌てて少女を引き剥がし、少女を見つめるコナミ。紫色の髪を黄色のリボンで後ろで1括りし、所謂ポニーテールで纏め、赤い上着とスカートを履いた少女。

その顔立ちはコナミの知る少女、柚子と酷似しており、見間違えるのも無理はないだろう。少女は名を間違えられた事に苛立ったのか、ムッと眉を寄せ、発育の良い胸に手を当て、コナミに自慢げな顔を向ける。

 

「酷いぞ先生!忘れたのか!私は先生の1番の教え子、セレナだ!!」

 

カチリ、――また、歯車の狂う音がどこかで響いた――。

 




と言う事で勝鬨君はモンスターと闘うアクションデュエル(物理)に目覚めました。いいよね!別に!(錯乱)
次回は番外編を予定してます。
セレナ……一体何サーの姫なんだ……?



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番外編2 電波生徒

姫のキャラが分からない。今まで書いた中で一番難しかった(小並感)。
ほのぼの、アカデミアなのにほのぼのとはこれ一体……?
もうアカデミアのやつらは愛されるバカでいいや(適当)


◇月A日 晴れだ!

 

今日、プロフェッサーからの宿題としてバレットが日記ちょーを持って来た。私をバカにしてるのかと思い、バレットのすねをけってしまった。ついでに私のかたに乗っていたSALがバレットの顔につばをはいていた。あい変わらずSALはバレットがきらいだな、まぁ、これはSALのバナナをつまみ食いしたバレットが悪い。私でさえもらえないのだ、バレットがもらえるはずがない。

 

話はもどって日記の事だが、どうやら先生がてーあんした宿題らしい、何故それをさっさと言わない、先生にキラわれちゃうかもしれないだろう!だからバレットはダメなんだ。

午後には黒いトゲトゲしたかっちゅうを着た先生が食事と宿題を持って来た。あい変わらず先生のかっちゅうはカッコイイ。

私も何かそーちゃくするべきだろうか?そうすれば先生とおそろいでうれしい。

 

今日の授業は国語とふどーせいそりぃてぃありろんとやらだった。

ごはんはハンバーグだった。ちゃんとピーマンを食べたから頭をなでてもらえた。えらいぞ、私!

 

 

 

◇月B日 晴れだ!

 

今日はSALとデュエルをした。結果は私の勝ちだ!その後ははんせい会、勝ったとは言えあぶなかった。最近はようやく勝てるようになってきたが昔は負けっぱなしだったのだ、先生がデュエルを教えたのだから当然と言えば当然か。おそらくSALに勝てるやつは先生の生徒ぐらいだろうな、オベリスクフォースの連中でも強いやつじゃないと歯が立たないと先生が言っていた。

 

それにしても何故SALは『スクラップ・コング』をデッキに入れているのだ。SALのデッキではかくじつに、じこよーいんだと言うのに……午後から授業があり、先生が説明してくれた。SALにとってゴリラはふぇいばりっとカードなのだと、お気に入りのカードなら仕方ない、私にもどーしてもデッキから外せないカードならある。

だからと言ってゴリラがウホッとなきながら、じかいするのはしゅーるなものがあるが。

 

今日のごはんはサラダが多かった、少しSALにやったら怒られた。先生、ごめんなさい。

 

 

 

◇月C日 雨などに私はくっしない!

 

今日の授業は道徳だった。むずかしいないようだったが、負かした相手をカード化するのはやめておきなさいと言っていた。

そんな事をすればその人とはデュエルが出来なくなるからだとか、良く分からなかったけど、先生がやめなさいと言うなら私はそんな事はしない。そう言うと先生は今はそれで良いと言っていた。

いっしょに授業を受けていたSALが頭をなでてくれた。うむ!

 

今日のごはんはポテトサラダだった。これなら私も食べられるだろうと先生がしょくどーの人に言ってくれたのだとか、ありがとう先生。

 

 

 

◇月D日 くもり さっさと晴れろ!

 

今日は先生から作文を書くように、と言われた。テーマは自分のほごしゃについて、先生の事なら任せろ!いっぱい書けるぞ!と言ったら、先生じゃなくバレットとプロフェッサーの事を書けと言われた。つまらん、プロフェッサーはともかくバレットは私のお目つけやくだろう、プロフェッサーの事も良く分からん。

 

そう言えばプロフェッサーには子供がいたな、たしか名前はれーじ。

あいつもしょうらい、プロフェッサーのようにハゲるのだろうか?顔が良いだけにかわいそうだ。

そう言えば先生はハゲてないのだろうか?かっちゅう姿しか見た事がないから、生えていないのか分からない。聞いてみたらちゃんとフサフサだと言っていた。ついでに下も、下って何だ?先生がSALに叩かれていた。

あんなに先生になついているSALが先生を叩くなんてめずらしい。

 

今日のごはんはカレーだった、3杯食べた。何故カレーはこんなにおいしいんだ?

 

 

 

◇月E日 ハ、晴れだ!

 

今日はバレットとプロフェッサーが来た。授業さんかんらしい。昨日書いた作文を2人の前で読むらしい。

まずはバレット、取りあえずつまみ食いはやめておけと戦場での話はけっこう面白い、何だかんだで世話になっている、ありがとう。と言った作文を読み上げたら泣かれた。

お腹が痛いのか?と聞いても大丈夫ですと言って泣き止まない。

 

その後にプロフェッサーについての作文を読んだ。

早く私を戦場に立たせろ、そんなんだからハゲなんだ、髪はもっと大切にしろ。

無言で泣かれた。お腹痛いのか?と聞いたら心が痛いと言っていた。

先生は私の書いた作文に感動しているんだろうと言っていた。何故かぼー読みで、とにかく私はすごいって事だな!

夜になって先生とバレットが泣いていた。きゅーりょーが下がったらしい。バレットはともかく先生のきゅーりょーを下げるとは……そんなんだからハゲなんだ。

 

今日のごはんは昨日のカレーを使ったカレーうどんだった。

 

 

 

◇月F日 晴れだ!

 

今日は先生とデュエルをした!久しぶりで楽しかった。あい変わらず先生のモンスターはカッコイイ、でもあのイルカみたいなやつと鳥っぽいのはダメだ、気持ち悪い。思わず口に出したらイルカと鳥がひざをついていた。と言うかしゃべっていた。

何やらカードのせいれいが見えるようになったか、と先生が言っていた。先生が言うにはカードにはせいれいがついていて、カードを大切にあつかうものにはドローする時などにはカードがこたえてくれるのだとか。

あんな気持ち悪いやつを大切にするなんて先生はさすがだな!私も先生を見習ってもっとカードを大切にしようと思う。

 

今日のごはんはかぼちゃのスープだった。甘くておいしい。

 

 

 

◇月G日 雨

 

SALとケンカをしてしまった。あんまりにもお腹が減っていたからバナナを食べてしまったのだ。申し訳ない事をしてしまった。はんせいしている。

どうしたら仲直りできるのだろう?先生に聞いたら協力はするけど、どうすれば良いかは自分で考えてみなさいと言われた。

 

今日のごはんはサンドイッチだった。

 

 

 

◇月H日 晴れだ!

 

SALと仲直りした!考えて考えてデュエルディスクをプレゼントする事にした。先生といっしょに作った。物でつるのはあんちょくだが、SALがよろこぶように、黄色いカラーリングのバナナの形をしたプレートのデュエルディスク、背負えるように私のよびのリボンを使った。

 

デュエルディスクをプレゼントしてごめんなさいをすると許してくれた。さらに私にけづくろいをしてくれるようになった!今まで先生にしかしてなかったらしいからうれしい。

私を真の仲間とみとめたのだろうと先生は言っていた。今日はSALといっしょにバナナを食べた。SALがゆずってくれたのだ、おいしい!

 

 

 

◇月I日 晴れだ!

 

今日は数学とデュエルとーいつりろんを学んだ。数学は得意だ!攻撃力、守備力、LPの計算とデュエリストにはかかせないものだからな!小テストをやってみたところ、100点が取れた!SALは87点、中々やる。

先生にほめられた!先生の手は大きくてあたたかい、先生の手で髪をくしゃくしゃー!ってなでてもらうのが好きだ。

 

今日はごほうびにサンマの塩焼きが出た!魚は好物だ!

 

 

 

◇日J日 くもり 晴れろ!

 

今日は社会科見学をした。アカデミア内を見て回り、作文を書くのだとか、先生と手をつないで回った。

トレーニングルームではオベリスクフォースのやつらが訓練をしていて、私もさんかした。デュエルもして私が勝った。

 

それは良いのだが、その後、オベリスクフォースをひきいていると言う2人組がなんくせをつけてきて負けてしまった。私にデュエルを教えてくれている先生をバカにしてきてくやしかった。でも怒った先生が私とタッグを組んでタッグデュエルをした。あんなに強いやつを倒してすごかった。

 

やっぱり私の先生はすごい!私ももっともっと強くなって先生といっしょに戦場に立ちたい!きっと先生のやくに立って見せる!

 

今日のごはんはカツ丼だった。

 

 

 

◇月K日 晴れだ!

 

今日は理科とちょー融合りろんを学んだ。理科は苦手だ……そう言えばプロフェッサーは何故世界を融合させようと考えているのだろう?

バレットや先生でも何にも知らないらしい。

 

その後は先生達の戦場でのかつやくを聞いた。何でもバレットがバクダンでケガをしたのに、先生はむきずだったとか、エクシーズ次元のやつらに、はおーとよばれているのだとか、……はおー……カッコイイな……私も先生みたいな異名がほしい、何が良いだろうか?と2人に聞くとバレットは異名よりくんしょーがほしいと言っていた。くんしょーはいらない。

 

先生の知り合いにはサンダーとかヘルカイザーとかキングとか白き盾とよばれる者がいるらしい。どれもしっくりこないが、白き盾だけはないなと思った。先生は私にはお姫様が似合っていると言っていたが、私は先生を守れる戦士の方が良い。

 

今日のごはんは野菜のいためものだった。

 

 

 

◇月L日 くもり 晴れろ!

 

今日は英語と特殊カード変しつりろんを受けた。カードが変しつするとはどう言う事だろう?そんな事があるのかと先生に聞けばあるのだとか、それが出来れば負けなしだな。と思ったけどそうでもないらしい。デュエルはむずかしいのだな。

今日はSALにけづくろいをしてもらった。そろそろ自分でリボンをむすべるようになるべきだろうか?いつも先生かSALにむすんでもらっている。

 

今日のごはんはオムライスだった。

 

 

 

◇月M日 晴れだ!

 

先生の1番弟子を名乗るやつが来た。先生の1番の教え子は私だバーカ!先生の1番弟子をかけてデュエルした。負けてしまったが今日は運が悪かっただけだバーカ!あの男ニヤニヤと笑ってムカつくやつだった。

だけど中々強かったから私のライバルにしてやった。こーえいに思えバーカ!デュエルの後は先生とSALとバカと4人ではんせい会をした。バカにカードをもらった、これを使って強くなれと言っていた。バカのくせにいっぱいカードを持っていた。次は私が勝つ!

 

今日のごはんは巻きずしだった。

 

 

 

◇月N日 くもり

 

先生が女をつれてきた。何だあの女、先生とベタベタくっついて!先生も先生だ!ふりほどかずに好きにさせて!女は先生の生徒と言っていたが、だからと言ってくっついて良いと思うな!

デュエルを挑んだが負けてしまった。……あれ?最近の私、負けっぱなしじゃないか?最後にあんまりボサッとしていると先生を取ると言って帰っていった。

 

先生がさみしそうな声を出していたからすねをけって、だきついてやった。先生は私の先生だ!だきついたら先生のかっちゅうのトゲトゲが当たってちょっと痛かった。次は負けるものか、名前は覚えた、首を洗って待っていろよ、ユキノ!

 

今日のごはんはおにぎりだった。うめぼしとはすっぱいものだな。

 

 

 

◇月O日 雨 さっさと晴れろ!

 

バカが来た。ひまなやつだ、近い内にオベリスクフォースへのしょーかくしけんがあるらしい、しかもぶたいちょーだとか。まずバカがオベリスクフォースじゃないの事におどろいた。デッキのちょうせいにつき合ってやった。5回デュエルして2回勝った。

 

バカがころころデッキを変えるからだ!バカのくせに器用なやつめ、その後は先生の作ったひっきのテストを受けた。私は92点、SALは89点、バカは74点、何で80点以上が取れないんだ!先生の授業をちゃんと聞いてないからだバーカ!

 

バカが落ち込んでいた。私とSALに負けたのがそんなにくやしいのか、よしゅう、ふくしゅうをしないからこうなるんだろうな。

それでもしけんに受かるための点数は70点以上らしい。もしかしたらオベリスクフォースのやつら大した事ないんじゃないか?

 

今日のごはんはまーぼーどうふだった。舌がピリピリする。そう言えばこんばん、先生が出かけるらしい、おみやげはあるだろうか?

 

 

 

◇月P日 晴れだ!

 

先生が帰って来た!やけにうれしそうだったが何があったんだろうか?面白いものを見つけたと言っていた。バレットに聞くとケガをしたらしい、そう言えばかっちゅうにひびが入っていた気がする。

ケガは大丈夫かと聞いたら、1時間もしたら治ったらしい。やっぱり先生はすごい!バレットは先生がケガをするなんてあり得ないと言っていた。バレットも先生を見習え。

 

今日のごはんは赤飯だった。

 

 

 

◇月Q日 晴れだ!

 

先生とデュエルをした!負けてしまったけど私を一流のデュエリストとみとめてくれた!かっちゅうのなかを初めて見た。

そして私をみとめてくれた証として、ガッチャと言う言葉を送ってくれた。良いデュエル、楽しいデュエルをした相手へのれいぎのようなものらしい。私も使ってみよう。

 

今日のごはんは納豆だった。ネバネバする。

 

 

 

◇月R日 晴れ

 

授業の後、先生にひざまくらをしてもらった。先生のひざやなでてくれる手はあったかい。

今日はいっぱい昔話をした、最初は先生を他のやつらと同じと思ってキラっていた事、何かあるたびに先生にかみついてしまった事、何も知らない私に色んな事を教えてくれた事、デュエルの楽しさを教えてくれた事、そして、女の子らしくしなさいとリボンをもらった事。

 

このリボンは私の宝物だ。あの時、だれも私の事を1人のデュエリストと見てくれなかった頃、先生は私を見てくれた。難しい問題をといた時、いっしょに喜んでほめてくれた事、バレットにイタズラをした時、私を怒っていっしょにあやまってくれた事、雷がなる夜がこわくてねむれない私といっしょにねむってくれた事、1人でさみしい私に友達としてSALをつれてきた事、少しの時間だけど外に出してくれるようにプロフェッサーをせっとくしてくれた事。

 

楽しくて、うれしくて、やさしい毎日、いつまでも先生とすごしていたい、先生といっしょにもっといっぱい色んな事が知りたい。……だからこそ、私はアカデミアを脱走する。

 

 

 

◇月S日 晴れ

 

スタンダート次元とやらに来た、バレットが手伝ってくれたおかげだ。先生に怒られるだろうな、でもいつまでも先生に甘えていられない、私とて戦士だ。バレットの言うエクシーズのざんとうをつかまえよう、大丈夫だ、私は先生にみとめてもらったんだ。

 

取りあえずアジトを探そう。金も私の今までのちょ金とバレットのものもあるがこころもとない、そう言うとバレットが働き先を見つけると言った。SALも自分が芸をしてかせぐと言ってくれた。2人共、ありがとう。

 

今日のごはんはこんびにとやらで買ったパンだ。……先生がいないとさみしいな、今頃何をしているだろう?

 

 

 

◇月T日 晴れ

 

バレットの働き先が見つかったようだ。がんばれバレット。私はエクシーズのざんとうを探そう、それにしても私は何も出来ていない、リボンもSALにむすんでもらっているし……さみしいけどがんばろう。先生、心配しているだろうか?

 




槍姫「私のカードがついにおーしーじー化するぞ!キャトダンサーの③のバーン効果もいつかあって良かったと思える日が来るな!」

融合「ダイクロイックミラー!!」

槍姫「……」

先生「……何?あのバナナがいじめる?ちょっと待ってなさい」


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第20話 彼はもう終わりですね

今回、視点がころころと変わります。
前半ブラック、後半はホットチョコレートだよ、ハルト。


それは自らの心に向き合い、己の穢れを見つめ直し、浄化する神聖なる儀式、男はそう教えられた。最初はこんな事に何を、と馬鹿にしていたが、成程、そう考えれば美しく尊いものだ。やりがいも見つかってくる。

研ぎ澄ます、己が魂を、ここは戦場、常に気を張れ、隙を消し、その業を磨き上げろ。息を吐き、右手を動かす。男の心に油断は無く、落ち着き払っている。

 

不動、騒ぎ立てず、静寂に、愚直なまでに基本を極める。こうして見ると自分が基本を忘れていた事を感じる。どれだけ応用を覚えようとその根幹である基本を蔑ろにしていては応用の真価は発揮出来ないのだ。無駄を省き、研磨する事こそ至高。

 

「……ふむ……」

 

手を止め、眼光を鋭くし、見つめる。これならば師も納得するであろう、男は満足気な笑みを薄く浮かべ、その場を立つ。

外を見てみれば随分と遅くなってしまったようだ。あれ程青く、晴れやかな空が今では夕日の光によって綺麗な山吹色へと顔を変えている。

 

「……ほう、終わったようだな……」

 

「師父……いらっしゃったなら声を掛けてくれれば良いものを……」

 

汗を拭う男の元へ静かに歩み寄る初老の男、キリッとした眉、立派な髭、オールバックの髪の男はその厳格そうな面からは想像もつかない人の良い笑みを浮かべている。

この初老の男性こそ男の師。男に基本を思い出させてくれた、心の師、男はその教えに心を打たれ、今ここにいる。

 

「何……君の仕事ぶりに感動して、声を掛けるのを躊躇ってしまっただけだよ、バレット君」

 

「お世辞を……私は唯、師父の教えに従い、自らを極めていただけです。権現坂さん」

 

蒼の髪をオールバックで流し、左目に眼帯、胸に大きな傷を負った男、バレットはふと頬を緩め、手に持った窓拭き用の雑巾をバケツにかけ、道着を着た初老の男、権現坂に答える。

思えば数日前、働き先の宛もないバレットを見かね、彼が声を掛けてくれたのが切欠だったか。彼とのデュエルを通し、バレットは考えたのだ。ここで働きたい、と。

 

彼の見せる不動のデュエル、その志はバレットの胸を打った。少しでも良い、その鋼の意志が、この身に宿るならば雑用でも何でもしよう、と。働く中で、彼の一言一言が胸に染みる。バレットの血肉となり、強固な骨格となる。

 

権現坂もまた、バレットを認めている。自分の課した雑用を無言でこなし、自分の言葉に応えてくれる。打てば響くとは正にこの事だろう。

バレットのデッキでは不動を極めるのは不可能かもしれない。だが自分の言葉が、心が彼の役に立てるなら、それで良い。

 

「どうかねバレット君、今日は遅いし、ご飯でも?」

 

右手で箸を持ち、左手で茶碗を持つような仕草でバレットを誘う。しかしバレットは頬を掻きながら苦笑する。

 

「ありがたいお誘いですが……家で待ってくれている者がいるので……」

 

「ほぉ……奥方かね?」

 

権現坂の問いに困り果てたような笑みを見せ、逡巡する素振りをするバレット。果たして自分は彼女の“何”なのだろう?と。

 

初めは随分と自分が嫌っていたものだ。何故このような者のお守りなど……。彼女もそれを察していたのだろう、猫が毛を逆立て、警戒するかのように自分を嫌っていた。

だが、“彼”がそれを変えた。彼は時間を要したが、彼女の警戒を解き、自分と彼女の橋渡しまでして見せた。皮肉なものでそうして見れば彼女が可愛く思えてくる。

 

彼女はずっと孤独だったのだ。まだ幼い彼女は人の温もりを欲していた。それに気づかず、あまつさえ自分の置かれている処遇に拗ねていたのだ。全く子供はどっちだとあの時の自分を殴り付けたい。

彼には、友には感謝しても仕切れない。正しく勲章ものだろう。

 

彼女の読み上げた自分についての作文でありがとうと言われた時は、胸から暖かなものが込み上げ、涙してしまった。あの時、全てが分かったのだ。この娘を守りたい、守らねば、と。

尤も、その後、拗ねた上司に友と一緒に減給され、別の涙を流したが。友と飲みに行って愚痴ったのは良い思い出だ。

現金なものだと笑われても良い、それでも戦士かと蔑まれても良い。これこそが戦場を失った戦士の最後の任務、彼女の戦士でいられるなら全てを失っても良いとまでバレットは思っている。

 

友の側で笑う彼女は輝きに溢れている。そう、バレットにとっての彼女は--。

 

「娘が、いるもので」

 

大切な大切な、宝物なのだ。

 

「……そうか……ならば仕方無い、私にも息子がいてな、誰に似たのか頑固者だが、やはり、子は可愛いものだよ」

 

「それは……さぞ立派な子でしょう。私の娘は自由奔放と言うか、何を仕出かすか危うい子でして……」

 

「ガハハハハ!なぁに、元気が1番よな!」

 

道場を出て、笑い合う2人の漢、あの子は今頃どこで何をしているか、心配を夕焼け色の空に追いやり、娘の待つ家へと帰る、子煩悩の男、バレット。家に着き、娘とお供がいない事に気づき、不動の意志を忘れ、あたふたと慌てる元軍人がいた事は内緒の話である。

 

------

 

一方その頃、バレットの大切な大切な宝物はと言うと。

 

「へっくし!……むぅ……風邪か……?」

 

「……どうでも良いが、顔にかけるのだけは止めてくれ」

 

「すっ、すまない先生。SAL、ハンカチを」

 

3人と1匹の愉快な仲間達と行動を共にしていた。

バレットの宝物、セレナは黄色のリボンで結われたポニーテールを忙しなく揺らしながら隣で歩く赤帽子の少年、コナミに肩車をしてもらっている友、小猿のSALへと視線を移す。するとSALは背に負ったデュエルディスク、それを繋ぐセレナとお揃いの黄色のリボンからハンカチを取り出し、コナミの顔を拭き始める。

 

フキフキ、フキフキ。フキフキ、フキフキ。

 

「……どう言う反応が正解なのだろうな……」

 

「あっ、あの兄貴が戸惑っていらっしゃる……!タダ者じゃねぇぜ、この女とエテ公……!」

 

「はー、お利口さんですねぇ、このお猿さん」

 

余りにもシュールな光景に流石のコナミも戸惑いを覚え、子分である暗次とねねはセレナとSALに対し、戦慄する。唯、ねねに至ってはSALの可愛らしさに目を奪われているだけかもしれないが。

そもそもどうしてこんな摩訶不思議な状況になったのか、コナミは目の前で自らを心配そうに覗き込む少女、セレナを見つめる。

 

「?どうした先生?」

 

紫色の髪を黄色いリボンでポニーテールに纏め、赤いジャケットとスカートをベルトで止め、スパッツを履き、右手首にブレスレットを巻いた活発そうな少女。

その容姿は異なるが、彼女の顔はコナミが現在、居候している柊家の1人娘、柊 柚子と酷似しており、大いにコナミ達を戸惑わせた。軽い勝鬨状態に陥った程である。

 

しかもややこしい事にセレナとSALもまた、コナミの事を『先生』なる人物と勘違いしているのである。その証拠にセレナはコナミを先生と呼び、SALはコナミに肩車をされた状態で帽子の間から出る髪を毛繕いする始末。

 

「……申し訳ないがオレはお前の言う先生ではない」

 

「むっ……そう言えば背が縮んでいるような……いや、しかし匂いは同じだし、SALもこんなに懐いているし……む、むぅー?」

 

コナミの指摘を受け、僅かな違いに気づいたのか頭を抱え、うんうんと唸り声を上げるセレナ。実に分かりやすい反応である。

やがて疑惑が核心へと変わったのか「ああっ!?」と大きな声を上げ、嬉しそうな笑顔でコナミを指差す。

 

「ジャケットの色、同じだな!お揃いだぞ、お揃い!」

 

その瞬間、コナミ達のセレナを見る目が哀れみと言うか、小さな子を見つめるような優しいものへと変わる。胸に宿ったのは保護欲か、取り敢えずこの危うい少女を放っておく事が出来ず、遊勝塾に連れて帰るしかなかった。

 

------

 

「……ふぅー……もうこんな時間か……」

 

遊勝塾、トレーニングルームにて塾生である榊 遊矢は我武者羅に練習していた。目指すはペンデュラムの先、しかしそれが分からない今、無意味に頭を悩ませ、時間を無駄にする事を嫌い、ペンデュラムのその先を考えながらも身体を動かしていたのだ。

 

デュエリストにとって強靭な肉体は必要なものであり、アクションデュエルなら尚更である。そのルール上、フィールドに散らばるカードを見極める観察眼、どんな場所にも落ちてあるカードを拾い上げられるような身体能力、アクションデュエルに最も重視される能力を鍛えながらも、遊矢は自らの意志も磨いていた。

 

健全なる精神は健全なる肉体にこそ宿る。しかしどうにもペンデュラムのその先が見えてこない、遊矢の中に僅かな焦りが生まれ、どうするべきか悩む中。

 

「ただいまーッス!」

 

玄関より声が響く、明るく活発さを感じさせる少年の声、恐らく暗次だろう。今、遊勝塾に居るのは遊矢1人、玄関のロックを開ける為、片手のタオルで汗を拭き、もう一方の手で持ったスポーツドリンクを飲みながら廊下を歩く。

 

「はいはい、今開けますよっと」

 

騒がしい友人達を迎えようと簡素なタッチパネルを操作し、スライド式のドアを開く。と、ここでコナミ達を驚かしてやろうと遊矢の中で少しばかりの悪戯心、もとい、エンタメの性が疼く。

大きな声を出してビックリさせてやろう、そう思い、ドアの前へと立ち、笑いを押し殺す。ドアを開き、遊矢の目に飛び込んで来たのは--。

 

「キー」

 

コナミに肩車されているSALの顔だった。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」

 

予想だにしなかった光景に逆に驚き、声を上げて尻餅をつく遊矢。当然と言えば当然である。友人を迎え入れようとしたら、知らない猿の顔がひょこっと出て来たのである。何で猿?コナミが退化した?などと余りにも突然過ぎる展開に遊矢の思考が明後日の方向へとかっとビングする。

 

これだけ聞けばコナミも馬鹿にしているようにしか聞こえないが、本人は至って真面目、やろうと思えば出来そうなのがコナミの意味不明なところである。コナミだから仕方ねぇや、コナミだもんな、が当たり前になって来ている遊勝塾。それはどうなんだと言いたいが、ツッコミ出したらキリが無いのがこの世界の条理である。

 

「……急に大声を出すな……びっくりしたぞ」

 

「むっ?このトマトみたいな頭をした奴は誰だ?先、コナミ」

 

一応、遊矢の思惑通り、驚いた--と言うものの何時もと変わらぬ顔をしたコナミとセレナが横からひょっこりと顔を出す。結局あの後改めて自己紹介し、コナミが『先生』なる人物ではないと渋々納得したセレナ。渋々である。

 

「あれ?柚子もいたのか?ってトマト……!?」

 

「またか!私はゆじゅ?とか言う奴ではない!絶対にだ!いいな!」

 

コナミ達と同じくセレナを柚子と見間違う遊矢、それと同時にトマトと呼ばれショックを受ける。小学生時代1時期いじられた事があるのだ。尤も、遊矢とは別にセレナも名前を間違われた事により額に青筋を浮かべ遊矢の額を小突く。

 

「私にはセレナと言う名前がある!分かったな!?」

 

「あ、はい、すいません」

 

その並々ならぬ気迫に反射的に返事をしてしまう遊矢、やっぱり柚子と同じストロングじゃないか。と思った事は内緒である。

 

「うむ!分かれば良い!あー……」

 

途端に機嫌を直し、笑顔を見せるセレナ。一瞬その眩しい笑顔に気を取られるも何とか持ち直す遊矢、ズボンについた埃を払いながら立ち上がり、セレナに向かい、手を差し伸べる。

 

「俺は榊 遊矢。よろしくな、セレナ」

 

「ああ」

 

互いに握手を交わす遊矢とセレナ、女性らしい柔らかくもデュエリストらしいマメだらけの掌、少々勝ち気な性格であるが悪い娘ではなさそうだ。

しかし一体何を思ったのかセレナはペタペタと遊矢の右手を触っている。

 

「えーっと……セレナ?」

 

「中々鍛えてあるな……ナヨナヨしている奴だと思ったがデュエリストらしいじゃないか」

 

「あ、ありがとう?」

 

「キー」

 

どうやらこちらも値踏みされていたらしい、その事に苦笑し、頭を掻いていると、コナミに肩車をされていたSALがセレナの肩へと跳び移り、遊矢へと手を差し伸べる。

 

「……えっと……?」

 

「こいつはSALだ。よろしくと言っているぞ」

 

「よ、よろしくSAL」

 

「ウキッ」

 

手を差し伸べるとSALは小さな手で遊矢の指をにぎにぎと握る。小さな赤子のような手で握られるくすぐったい感触に再び苦笑する遊矢。暫くして満足したのか、1鳴きした後、コナミの頭へと跳び移る。

 

「それで、どうしてセレナはここに?」

 

「ん?それは--」

 

「ただいまー……って、ええ!?」

 

セレナの言葉を遮り、遊勝塾へと2つの影が現れる。1人は髪を後ろで一括りにした小柄な少年。もう1人は舞網市立第二中学の制服を身に纏い、右手首にブレスレットを巻いたツインテールの少女。

背後から現れた人物に振り返るセレナ、やがてその視線は少女とぶつかり--。

 

「ちょっと素良、待って……え?」

 

「……わ……私がいる……!?」

 

大いに困惑する事になったのだ。

 

------

 

「はー、ほー、……ううむ……」

 

「ちょっ、ちょっとセレナ、気持ちは分かるけど見過ぎよ」

 

あの後、更に買い出しより戻って来た塾長、修造を含め、混乱しつつも互いに自己紹介を終えた一堂は事務室のソファに座っていた。

その中でもセレナは対面に座した自分に似た顔の少女、柚子を気に入り、時々謎の相槌を打ちながら穴が空くかと言う程観察している。流石に視線が痛いのか、柚子はどうにも苦い顔である。

 

「しかし、今日は凄い日だなぁ、これだけでも珍しい事なのに、俺今日だけで俺に似た奴とセレナ、それにコ--いや、何でもない」

 

思い返せばどうにも濃い1日だ。コナミの方もLDSの少年と友人になったり、子分を2人増やしたり、野球をしたりと意味不明な1日であったと言うのに、遊矢の方もコナミのそっくりさんとデュエルし、記憶には無いが闇堕ちしたり、自分のそっくりさんと会ったりと偶然と言うには余りにも奇妙な1日だ。

 

しかし、どうにもコナミを見るとあの黒帽子の少年の事を語るのは躊躇われ、その口を閉ざす。ユートと違ってあの少年には明確な敵意があったのだ、皆を巻き込みたくは無い。

すると遊矢の発言を気にしてか、素良が茶化すように笑う。

 

「柚子だけじゃなくて遊矢に似た奴ねぇ……夢でも見たんじゃないの~?」

 

「そっ、そんな事無いって!柚子も見ただろ!ユートの事!」

 

「えっ?ええ、見たけど……直ぐ消えたような……」

 

遊矢が証人である柚子に語り掛けるが柚子は生返事だ。それも当然、柚子はユートを見た。と言ってもほんの一瞬の出来事、目が合ったと思ったら眩き光と共にユートは消えたのだ。

夢見事と思っても不思議ではない。そんな中、暗次と談笑していたコナミが視線を感じ、振り向く。

 

「……」

 

「……どうした、セレナ?」

 

その視線の正体はセレナ、彼女はエメラルドの瞳でじっ、とコナミの顔を覗いている。先程まで柚子を見ていた興味を含んだものとは色合いの違う、無言で唯、コナミを試すような眼、一体どう言うつもりだろうか?コナミとしては訳が分からず首を傾げてしまう。

 

「……何でもない」

 

ムスリと頬を膨らませ、視線を外すセレナ。一体何だったのか、打って変わって再び柚子の観察を続けるセレナ。よっぽど柚子の事を気に入ったようだ。

 

「そう言えばセレナ、家は何処なの?もう遅い時間だし、今日のところは帰った方が良いと思うけど……」

 

「ん、そうだな……あっ」

 

柚子の質問に頷きながらも不意に何かを思い出したかのように頭を上げるセレナ。黄色のリボンで結ばれたポニーテールがその拍子に大きく揺れる。しかしその後に続く言葉は全くの真逆。

 

「……帰り道、忘れた……」

 

「キー……」

 

助けを求めるように肩に乗ったSALに眼差しを送るも、頭を振るSAL、どうやらコナミの頭で夢中で毛繕いしていた為か道を覚えていないようだ。

便りの綱のデュエルディスクの通話機能も誰も登録していない為、飾りと化す。こうして柊家に新たな居候が増えた。

 

------

 

空は既に闇に染まり、皆が寝静まる頃、コナミは自らの部屋で今日の事を思い返していた。朝から道場破りに出掛け、刃や暗次、ねねと出会った事、勝鬨と出会い、セレナと出会った事。

夕食時にはセレナが柚子の料理に舌鼓を打ち、3杯程おかわりをして、SALは柚子の頭を撫でていた。どうにもその時の光景が思い出され、笑いが堪えきれない。そうしている内に4つのノック音が部屋へと響き渡る。こんな夜中に一体誰であろうか?

 

「入っていいぞ」

 

「キー」

 

コナミが入室を促した後、ドアを開け、足を踏み入れたのは背のデュエルディスクを下ろし、唯の猿と成り果てたSAL、しかしノックをし、ドアノブを掴んで回すと言う何気に高度な事を行っている辺り、このSALの知性は侮れない。

 

「ん?SALか……どうし--」

 

「私もいるぞ!」

 

「……セレナもか……」

 

SALの後ろ、ドアの隙間から顔を覗かせたのはセレナ。彼女は先程までと違い、髪を下ろし、柚子のパジャマを着て堂々とコナミの前に仁王立ちする。長い髪が靡き、風呂上がりなのかシャンプーの良い匂いがする。口元には弧が描かれ、随分と得意気な顔で豊かな胸を張っているが何故だろうか、色気を感じない。

まるで近所の子供の成長を見ている気分である。

 

「……それで、こんな夜中に一体何の用--」

 

「私とデュエルしろ!」

 

「分かった」

 

自らのデッキを突き出し、ドヤ顔をするセレナと間髪入れずに了承するコナミ。何かがおかしい気がするが気のせいである。

少なくも、ここに細かい事を気にする者はいなかった。

 

------

 

「オレはこれでターンエンドだ、さて、どう出る?」

 

コナミ LP5000

 

フィールド 『E・HEROアブソルートZero』(攻撃表示) 『E・HEROGreatTORNADO』(攻撃表示)

手札0

 

何時もとは違い、デュエルディスクを使わぬフローリングでのデュエル。こんな夜中だ、確かにデュエルディスクを使えばデュエル中の処理は楽な上、臨場感もある。だが騒がしい音を出せば迷惑だ。

こんなデュエルもいいだろう、とセレナが切り出したのだ。コナミもデュエルが出来るなら構わないと頷き、互いに電卓を取り出し、今に至る。

 

状況はコナミの優勢、場には2体の融合モンスターが揃い、アブソルートZeroには場を離れると相手モンスターを全て破壊する『サンダーボルト』効果がある。

対してセレナの場にはGreatTORNADOの効果によって攻撃力、守備力が半分となった『月光舞猫姫』が1体、装備カードとなった罠カード『幻獣の角』、序盤、このカードと『月光舞猫姫』のコンボにより、『融合』による手札消費を取り戻し、8000もあったLPが5000まで削られた。

だが今ではセレナのLPは500、手札は1枚、正に風前の灯火。しかし。

 

「ふふっ」

 

「……?」

 

セレナは笑う。目を細め、口元をキュウッと引き締め、花のような笑顔が咲き誇る。突然の笑みに顔を覗かせるコナミ。彼に気づいたのか、途端にセレナが頬を赤く染め、わたわたと手を振る。

 

「あっああ、すまない、何だか先生とデュエルをしているみたいで、楽しくてな」

 

「……オレはお前の言う先生ではない……残念だがな……」

 

「そのようだ。お前のデュエルは先生に似ているようで違う。使うデッキも、『HERO』も見た事の無いカードが沢山ある」

 

寂しそうな顔で俯き、手を止めるセレナ。肩に乗ったSALが悲し気に鳴きながらセレナの頭を撫でる。励ましているのだろう。それでも空気は重く、肌を冷ます。

 

「……お前のターンだ」

 

「……ああ」

 

「……何があったのかは知らないが……」

 

「?」

 

ふ、と軽い溜め息を吐きながら帽子のつばを抑えるコナミ。そんなコナミを今度はセレナが覗き込む。

 

「取り敢えず、デュエルを楽しもう。カードがお前を、呼んでいる」

 

「……!ふふっ……!そうだな。見ていろ?私の華麗な逆転を見せてやる」

 

「むっ、面白いな……!」

 

「私のターン、ドロー!」

 

セレナのデッキより1枚のカードが引き抜かれる。デュエルディスクもソリッドビジョンも無いと言うのに妙な緊張感が空気を支配し、息を飲む。

 

「来た!」

 

セレナの脳内でカードが線を結び、一筋の方程式となる。引いたカードは、逆転への一手。

 

「私は永続魔法、『炎舞―「天キ」』を発動!デッキより『月光黒羊』を手札に加え、場の獣戦士族モンスターの攻撃力を100アップする!」

 

月光舞猫姫 攻撃力1600→1700

 

「そして魔法カード、『融合』場の『月光舞猫姫』と手札の『月光黒羊』で融合、漆黒の闇に潜む獣よ!月明かりに舞い踊る美しき野獣よ!月の引力により渦巻きて新たな力と生まれ変わらん!融合召喚!現れ出でよ!月光の原野で舞い踊るしなやかなる野獣!『月光舞豹姫』!」

 

月光舞豹姫 攻撃力2800→2900

 

「……セレナ……別に口上を言うのは良いが、柚子に怒られるから静かにな?」

 

「む、あっああ、そうだな、つい熱くなってな。私は『月光黒羊』の効果発動。このカードが融合素材となって墓地に送られた場合、墓地より『ムーンライト』モンスター1体を手札に加える。私は『月光紫蝶』を手札に加え、『月光紫蝶』の効果、このカードを墓地に送り、『月光舞豹姫』の攻撃力を1000アップする」

 

月光舞豹姫 攻撃力2900→3900

 

次々とカードの効果が発動され、フィールドの獣の攻撃力が上がる。その攻撃力はコナミの場の『HERO』を優に越え、これにはコナミも冷や汗をかく。

 

「更に、『月光舞豹姫』の効果発動、このターン、お前のモンスターは1度だけ戦闘では破壊されず、このカードは全ての相手モンスターに2回攻撃が出来る。バトルだ。『月光舞豹姫』で『E・HEROアブソルートZero』を攻撃!」

 

コナミ LP5000→3600

 

「2回目の攻撃だ!」

 

コナミ LP3600→2200

 

パンサー・ダンサーの強力な効果と攻撃により、コナミのLPが半分以下まで削り取られる。正に切り札級の力、しかしコナミとて負けてはいられない。

 

「ふ、だがアブソルートZeroが場を離れた時、お前の場のモンスターは破壊される」

 

「残念だったな、パンサー・ダンサーは相手の効果では破壊されず、戦闘で相手モンスターを破壊した時、攻撃力を200上げる」

 

月光舞豹姫 3900→4100

 

「……えっ」

 

口元を緩め、勝ち誇った顔をしていたコナミの顔色が青くなる。コナミとは真逆にセレナはふん、と息を吐き、見事なまでのドヤ顔を披露する。

 

「ちょっ、まっ」

 

「パンサー・ダンサーで攻撃!ヨンレンダァ!」

 

コナミ LP2200→900→0

 

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぞ!」

 

勝者セレナ、何時振りか分からないような黒星と言う結果は、どうにも納得の出来無いものだったが、楽しかったし、次勝てばいいか。と無理矢理納得するコナミであった。

 

「--やはり……お前は先生ではないな……」

 

寂し気な笑みを浮かべ、部屋を出るセレナの顔は、暫く頭に残って離れなかった。

 

------

 

燃える燃える、ゴウゴウと火を上げ、パチパチと嫌な臭いを立ち込めながら、自らの住んでいたマンションが真紅の炎に包まれている。

理由は良く分からないが、娘が家に不在でおろおろしていた時、お隣が騒がしかった事を男は覚えている。幸いにして怪我人はいなかったらしい。

 

しかし男にはこのマンション以外に安い賃貸に宛は無く、渇いた笑いが込み上げてくる。そう言えば、と思い立ち、男は手元のデュエルディスクのディスプレイを操作し、ある人物へと通話を試みる。

娘と番号を交換するのを忘れていたが、彼は別だ。何とも厚かましいが、今はこうする他に手段は無い。流石にホームレスは勘弁したい。

 

「夜分遅くにすいません、権現坂さんですか?バレットですが--住み込みって、大丈夫ですか?」

 

男の背中には哀愁が漂っていた。




コナミ君の実力に疑問が残るかもしれませんが、今のコナミ君はシンクロ次元に入る前の黒咲さんと対等に渡り合う位です。
それにコナミ君デッキは打点不足、脳筋ムーンライトとは相性が悪いんだよ……社長と対等な戦いをした?あれは本当に運が良かっただけとアクションカードがあったから。今やったらファンサービスされる。
因みに蛇足になりますが、現在本編に出ているキャラで最強は黒コナミ。殺意おさめろ。


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第21話 イヤッッホォォォオオォオウ!

今回、コナミ君がやりたい放題やります。何時もの事?そうだね。
良い子も悪い子も真似しちゃダメだぞ!


ギャリギャリと激しいタイヤの擦れる音が辺りに響き渡り、長き廊下を駆け抜ける。地に落ちた幾つもの硝子片をかわしながら真っ直ぐに突き進む。

そんな彼をこれ以上通すまいと何人もの警備員が駆けつけ、力づくで止めようとするも、遅い。

少年の乗るマシンはその重厚なボディに似合わぬ速さ、そして操縦者の繊細なテクニックにより誰1人触れる事も出来ず、髪1本すら触れずに警備員達を無視し、駆ける。

その様はまるで蜃気楼か亡霊、誰も彼を追う事すら許されない。その圧倒的な速度に、誰もが戦意を喪失する。

 

「誰かっ!奴を捕らえろ!」

 

何とかして力を振り絞り、警備員の1人が立ち上がり、彼の背に向かって叫ぶも無意味、左右から襲い来る警備員の間を縫うようにジグザグの線を描き、マシンはギャリギャリとまるで獣のような雄叫びを上げ、進む。

弄ばされている。赤子の手を捻るように、誰もが彼の手の上で踊らされている。

 

だが、それでも、警備員として、プロとしてのプライドが彼等の膝を着かせる事を許さない。

 

「くっ、クソッタレがぁぁぁぁ!!」

 

1人が声を張り上げ、それに呼応するかのように警備員達が奮い立ち、少年の後を追う。そして少年の前に山のような巨体を誇る警備員が立ちふさがる。

 

「ウー!ハー!」

 

窓が震え、蛍光灯にひびが走る程の雄叫び。その力強さを感じる存在に初めて少年の顔色が変わる。しかしそれは陰りを感じさせないもの。無機質だった表情は、口の端を吊り上げ、この状況を楽しむような笑み。

 

「奴をっ、赤帽子を止めろぉぉぉぉっ!!」

 

「イヤッホォォォオオォオウ!」

 

赤帽子を目深に被り、ゴーグルを装着したコナミがバイクのような乗り物を乗りこなし、マントの如く肩に掛けた赤のジャケットが風に靡く。その車体を廊下から壁へ、壁から天井へとタイヤの足場を変える。

余りにもアクロバティックで強引な突破に巨漢も止められず、その丸太のような腕が空振りする。

混乱した状況、負けちまったぜと清々しい笑みをコナミの背に向けるLDS精鋭の警備員達。気持ちの良い奇声を発するコナミ。

 

どうしてこうなった。その疑問の答えを導く為、数時間程前に遡る。

 

------

 

「……ん……おぐぅっ!?」

 

外より朝日の光がカーテン越しに部屋に差し込み、鳥の囀ずりを子守唄に、コナミが眠り続ける。勿論、トレードマークの赤帽子着用で。

しかし、暢気に眠りこける彼の腹に重いものが勢い良くのしかかり、間抜けな声を上げてしまう。

 

「コナミ!朝だぞ!お前が起きないと、柚子のご飯が食べられないんだ!起きろ!」

 

「ウッキー!キキー!」

 

その正体はセレナとSALだ。ご丁寧にも定位置であるセレナの肩からSALが離れ、セレナと仲良くコナミの腹にのしかかっている。

昨夜のあの寂しそうな表情は何処に行ったのか、口をまるでVの字のように吊り上げ、得意気な笑みを作ってコナミを揺する。しかし相手はコナミ。

デュエルする以外は奇行に走るか寝るかが主なこの生き物はこの程度では起きず、布団を被り直す始末である。

 

「……あと……5分……」

 

果てにはこの台詞である。最近は柚子がハリセンで起こしていたからか、耐性が上がっているのかもしれない。そんなコナミの様子にセレナは頬を膨らませ、ぷりぷりと怒り始める。

 

「ダぁメだ!先生もその手を使っていたから分かる!そう言って15分は稼ごうったって、そうはいかないぞ!起きろ!何でこう言う所も似ているんだ!」

 

歯を食い縛り、黄色のリボンで結ばれたポニーテールを揺らしながら強引に布団を剥がそうとするセレナ。コナミも負けまいと全力で布団を掴んで放さない。完全にダメ人間のソレである。

 

「オレは諦めない……!布団を被り眠るヌクヌクも……!布団との絆も……!夢へとダイブするかっとビングも……!」

 

「カッコイイ事を言っても無駄だ!布団を放せ!」

 

今までの仲間達の顔を思い返し、彼等の力を得て、更に力を増すコナミ。仲間達にとってはこんなどうでも良い争いに使われて良い迷惑である。

こうして、コナミとセレナによるどうでも良い2戦目は泥沼と化し、痺れを切らした柚子がハリセンで起こすまで続いた。

 

------

 

「そんで、詫びとしてそこのセレナにおかずの唐揚げが1つ取られたって訳か、ざまぁねぇな、コナミ」

 

「うるせぇぞ刃!兄貴がしょんぼりしてんのに言う事がそれか!」

 

「朝は何だかうとうとして、布団を放そうとしても放せないんですよねー」

 

昼食を終え、場所は変わって遊勝塾の事務室。そこには遊矢と柚子と素良以外の遊勝塾のメンバーと、コナミを迎えに来た子分2人と権現坂と刃の師弟がいた。

遊矢が不在なのはチャンピオンシップに出場する為のデュエルの2戦目に出掛けているからである。因みに柚子と素良は融合召喚のトレーニングに出掛けている。

無論、セレナの紹介を終えた後だ。権現坂と子供達は声を上げる程驚いていたが、刃はどうでも良さそうに「よろしく」と返すのみ、彼らしいと言えば彼らしいか。現在、話題のセレナと言うと子供達に懐かれ、狼狽えている。

 

「ねぇねぇ!セレナお姉ちゃん!私とデュエルしよー!」

 

「むっ、むう……!分かったから袖を引っ張るな、伸びてしまう」

 

「あっ、ごめんなさい……」

 

「そっ、そんな顔をするな!怒ってないから気にするな、取り敢えず今は遊矢の応援に行くぞ!デュエルはその後してやる!」

 

トタトタと慌ただしく部屋から出て行くセレナとその後をカルガモの子供のように追いかける遊勝塾のジュニア3人組。

そんな彼女達を権現坂と修造が優し気な笑みで見送る。

 

「……顔は似ているが……柚子とはまた違う優しさを持つ少女だな」

 

「柚子に妹が出来たみたいで俺は嬉しいぞ!うぉぉぉぉー!」

 

慈悲の眼差しを向ける権現坂と感動し、涙を流す修造。何とも保護者染みている2人である。修造は兎も角権現坂は14歳でこの達観した精神は如何なものか。まぁこの山のような安心感が彼の長所なのだろう。

 

「……ジジ臭いなぁ……」

 

そんな2人に呆れを含んだ視線を向ける刃。そう言う彼も「よっこらせ」と中年のようなかけ声と共に立ち上がる辺り何ともアレなのだが、本人としては良いのだろうか。ソファに立て掛けていた竹刀を肩にかけ直し、権現坂を顎で指す。

 

「おら、修行の続きに行こうぜ。ああ塾長さん、お茶、ありがとな」

 

部屋から出て行く2人を尻目に暗次とねねがズイッとコナミを覗き込む。2人の様子から何かを感じ取ったのか、飲んでいた麦茶をテーブルへと置く。

 

「兄貴!今日は何処へ乗り込みますか!」

 

「何処までもついて行きますよぉ」

 

ニカッ、と最初に会った時では予想もしなかっただろう、気持ちの良い笑顔をコナミへと向ける2人。ふと、そんな彼等の間から刃の背がチラリと見える。

そう言えば--コナミはLDSの事を良く知らない。

 

------

 

「ダメです、只今取り込み中の為、LDS関係者以外、立ち入り禁止です」

 

「どうするよ兄貴?これじゃデュエルどころか中にも入れないぜ?」

 

暫くして、LDSの入り口、そこには堂々と正面から入ろうとするコナミ達がいた。

しかし、どう言う訳か、LDSの周りには慌ただしく駆け回る警備員がいて入る事が出来ない。見学と言っても取り合ってすら貰えない。しかし、コナミはそんな事、予想通りと言うように2人を連れ、その場を離れる。

 

「暗次、言った通り、D-ホイールを持って来たな?」

 

「ん?ああ、言われた通り、ナンバーも隠したぜ。後兄貴、これD-ホイールとか言うもんじゃねぇんだけど」

 

覆い被さっていた布を取り払い、中より黒を基調とした重厚なボディが姿を現す。赤の線が2本走ったそのマシンはまるでバイクのようだが、そうではない。これはあくまで、中学生でも扱えるように安全性を考慮され作られた「バイクのような乗り物」なのだ。

 

「……ふむ、良いD-ホイールだ。だが何か足りないな、ここに角をつけたらどうだ?」

 

「いやだからD-ホイールじゃないんだけど……でも良いッスね。グラファみたいにします?」

 

バイクのような乗り物の前輪部分のフレームを指で差しながら意味の分からぬ事を言い始めるコナミとそれに乗っかる暗次。

男同士の独特の会話にねねはついていけず、頭に?マークを浮かべている。

 

「まぁその話は今度にしよう、少し借りるぞ。お前達はついてくるな、離れていろ」

 

そう言ってバイクのような乗り物に跨がり、スロットルをかけ、エンジンを吹かす。

激しい駆動音を響かせ、機体は高速でLDSへと向かい……突撃した。

 

「何だっ!?何だこの赤帽子はぁ!?」

 

「いきなり突撃して来たぞ!?狂ってやがる!」

 

その後は正に阿鼻叫喚の地獄絵図。遠くで叫び声を上げる警備員と暴走するコナミを見続ける2人。

 

「……」

 

「……」

 

「……兄貴……一体何処を目指してんですか?」

 

「すごいねぇ……」

 

2人の呟きは、虚空へと消えていった。

 

------

 

こうして、アホな事を仕出かし、現在へと至る。

 

「……久し振りだな、この風を切るような感覚。ん……?話し声、こっちか」

 

ハンドルを固く握り締め、LDSの廊下を奔放に走り回るコナミ。傍迷惑極まりない彼の耳に聞き慣れない声が届き、機体を反転させ進む。やがてコナミの目に入って来たその教室のプレートは……融合コース。

 

「……ぜですか!?どうして私の眼がくすんでると言うんです!?」

 

「落ち着くんだ真澄ん。最近のユーはらしくないよ?それでも融合コースのトップかい?」

 

聞こえて来るのは声変わりしたばかりの少女の勝ち気そうな台詞と独特の言葉使いをした男性の声。

緩やかにスピードを落とし、ブレーキを踏み、機体を止める。

 

「ここか……」

 

ゴーグルを外し、その反動でずれてしまった赤の帽子を被り直す。さて、今日はどんなデュエリストとどんなデュエルが出来るのだろうか?ワクワクと込み上げる期待を胸の内に追いやり、教室へと足を踏み入れる。

 

「当然です!貴方が私を鍛えたのでしょう!?マルコ先生!」

 

肩を怒らせ、男性に詰め寄る少女。濡れ羽色の長い髪はルビーのような瞳の上で切り揃えられており、清潔さを感じさせる。健康的な褐色の肌を動きやすい軽装で隠し、腰にはデッキケースが付属されたベルトが巻かれている。

 

その何処かで見た事のある姿にコナミは思わず首を傾げる。整った顔立ちを怒りに染め、強気な態度を見せる少女を男性は胡散臭く、のらりくらりとかわす。

茶と黄の混じった髪をリーゼントのように整え、フリルのついた洋風の服装に身を包んだ美男子。

爽やかな笑顔で薔薇をくわえる彼は一体何者であろうか。

 

「おやん?僕に気づかれず入室するとは……ユーは何者だい?ジャパニーズニンジャかな?」

 

教室の後方から歩み寄るコナミに気づいたのか、口元に弧を描き、目を細める男、マルコ。どこかその台詞は芝居がかっており、その瞳の妖しい輝きと言い、冗談染みた言動とは裏腹に強者の風格を感じさせる。

マルコの台詞を聞き、少女がコナミへと振り返る。彼女は紅玉の瞳を大きく見開き、驚愕しながらも警戒の意志をコナミへと向ける。

 

「あんたは……コナミ!」

 

「……?何故オレの名を知っている。真澄ん」

 

「あんたに真澄ん呼ばわりされる謂れは無いんだけどっ!?」

 

見ず知らずの少女に名を呼ばれ、思わず立ち聞きした少女の名を呼ぶコナミ。しかし“真澄ん”と言うのは愛称だったのだろう。初対面で軽々しく愛称で語り掛けるコナミに、顔をその瞳と同じく赤に染め、怒りを乗せて叫ぶ少女、真澄ん。

そんな2人のやり取りをニコニコと笑顔で観察するマルコ。

 

「真澄んのボーイフレンドかい?」

 

「ぼっ……!違います!コイツは敵!遊勝塾所属の敵です!」

 

マルコの投下した爆弾発言に忙しなく手を動かしながらコナミを指差す真澄ん。ギロリと顔を険しくし、コナミを睨み、あんたも何とか言いなさいよ。と目で語り掛ける。しかしコナミはどこ吹く風、真澄んの槍のような視線を華麗にスルーしながらマルコへと帽子の奥に潜んだ眼光を移す。

 

「それで?遊勝塾所属のユーがどうしてここにいるのかな?LDS以外の者は立ち入り禁止の筈だけど?」

 

口の端を吊り上げ、愉快なものを見るように眼を細めるマルコ。その瞳の奥には一切の敵意を感じないものの、こちらを値踏みするような色が感じられる。言葉を間違えればこちらを本気で排除しようとするだろう。

期待を含んだそれを気にする素振りもせず、腰よりデュエルディスクを取り出し、右腕に嵌め、三日月のような笑みを向けるコナミ。

 

さて――どんな台詞を吐くか――

 

マルコがコナミを試す中、コナミが静寂を打ち破る。

 

「分かりきっている。デュエルをする為だ。アクションデュエルだ、相手はお前か?それとも真澄んか?」

 

笑みを深め、帽子より僅かに覗く瞳をギラギラと輝かせるコナミ。自分を急かし、早くデュエルをしたいと、子供のような無邪気な答えは予想外だったのか、目を丸くして呆ける真澄んとマルコ。

即座に気を取り戻し、堪えきれないようにマルコが口元に手を当てる。

 

「……プッ、ククク……アハハハハ!そう来たか!それもそうだよね!ユーはデュエリストなんだからデュエルをしたいと思うのは当然だ!OK、僕が相手になるよ!」

 

「先生!?」

 

腹を抱え、大声で笑いながらもコナミの挑戦を了承するマルコ。単純明快な答えを出したコナミを気に入ったのか、コナミの肩を軽く叩きながら紫色のデュエルディスクを取り出し、腕に装着する。

そんなマルコの反応は予想外だったのか、側で固まっていた真澄んが悲鳴にも似た声を上げる。

 

「ただし、条件がある。ここは僕達のホームグラウンドなんだ。構わないよね、赤帽子君?」

 

「デュエル出来るなら構わない」

 

「決まりだね!さぁさぁ、デュエルコートに急ごう!ほら真澄んも早く!この時間なら彼もいるし!」

 

満面の笑みをその美貌に貼り付けてコナミと真澄んの肩を押すマルコ。一体何を考えているのだろうか?その笑みの裏にどんな企みを隠しているのか、計り知れない。

真澄んに至っては頬を膨らませ、口をへの字に曲げてコナミを睨む。

 

「全く……!何なのあんた……!後、私は真澄んじゃなくて光津 真澄!気安く真澄んなんて呼ばないでくれる!?」

 

マルコに背中を押されながらも、コナミに向かってビシリと指を差す真澄。

良く知りもしない男に愛称で呼ばれるのはやはり嫌だったのだろう。顔を険しくし、ムスリとした表情で鼻を鳴らす。

その態度にコナミは何を思ったか顎に手を当て、考え込んだ後。

 

「分かった、真澄ん」

 

「ちょっと!?」

 

ふ、と口元を緩め、痛烈なジョークを飛ばすコナミ。彼とって真澄の呼ぶな、はフリにしか聞こえなかったのだろう。彼等の会話にアッハッハー!と笑いを飛ばすマルコ。

真澄としては不快でしかなかった。

 

------

 

「――と言う訳で協力してくれないかな?沢渡ンゴ君」

 

「何がと言う訳なんだよ!?って言うかそこの赤帽子!テメェ何で居やがる!?」

 

LDSデュエルコート、最先端の技術が集結し、優れたデュエリスト達がその腕を磨き上げる為に使用される場であり、世界広しであれと言えど、アクションデュエルにスタンティングデュエル、様々な状況下で対応出来るのはここ位であろう。コナミはこのデュエルコートに連れられ、意外な人物と再会していた。

 

茶髪に黄色い前髪が特徴的な遊矢と同じ舞網第2中学の制服を身に纏った、整った顔立ちの少年と、彼を囲むように並び立つ3人の少年。

 

「ん、誰かと思えばネオ沢渡じゃないか、久し振りだな」

 

「何だ沢渡か、先生、こんな奴に協力なんて何考えてるんです?って言うかあんた沢渡と友達だったの?付き合い考えた方が良いわよ?」

 

そう、その人物とはコナミがここ、舞網市へと来て、最初にデュエルをした少年、ネオ沢渡。突然マルコに協力を要請された彼は何故自分が、と声を上げる。大体マルコの説明不足のせいである。

マルコは何故彼に協力を求めたのだろうか?コナミと言えば彼に再会したからか嬉しそうに手を振り、真澄は辛辣な言葉を吐く。

 

「友達じゃねぇし、そりゃどう言う意味だ光津!?それに今の俺は沢渡じゃねぇ!今の俺はそう!」

 

「ネオ沢渡」

 

「イエース!ってお前が言ってんじゃねぇよ!?柿本、大伴、山部ぇ!ボーッとしてないでお前等もちゃんとリアクションしろ!」

 

「いやでもその赤帽子、反応が早すぎッスよぉ!」

 

真澄の台詞にツッコミを入れ、コナミに柿本達の台詞を取られた事により、顔を真っ赤にして柿本達を責めるネオ沢渡、愛故にである。

しかしコナミの理不尽極まりない反射速度に文句を垂れる大伴。それを見てか「仕方ねぇなぁ」と溜め息を吐き、優しい眼差しを3人に向けるネオ沢渡。

 

「懐の広い俺様がもう1度チャンスをやるよ」

 

「「「沢渡さん……!(なんて偉そうなんだこの人……!)」」」

 

ネオ沢渡の傲慢且つ、優しい台詞に2つの意味で感動を覚える山部達、こうまで親しまれるのはこの謎のカリスマのお陰か。ネオ沢渡は右手を天高く広げ、左手を腰に当てる。

 

「ノンノン、言っているだろう、俺は沢渡じゃなくて――」

 

「沢渡ンゴ」

 

「ンゴゴゴゴwwwwって違う!アンタまで邪魔してんじゃねぇ!一応教師だろうが!?」

 

天丼である。空気を察したのか、それとも読んでないのか、恐らく前者なのだろう。再びネタをやり出したネオ沢渡にマルコが茶々を入れる。それに対し、即興であるが完成度の高いノリツッコミをするネオ沢渡。逸材である。

 

「一体何の用があるんだよアンタは!?おちょくってるだけなら帰るぞ!」

 

「そーんな事言わないでくれよぅ、沢渡ンゴ。ユーの実力を見込んでお願いがあるんだよ~頼むよ~、エリートのユーにしか出来ないんだよ~」

 

「ふ、ふーん?そこまで言うなら仕方ねぇなぁ!言ってみろよ、エリートのこの、俺が!協力してやるよ!マルコ先生!」

 

「チョロいなぁ(チョロいなぁ)」

 

「なめてんのかっ!?何で本音と建前が一緒なんだよっ!?せめて建前だけでも頑張ってくれよぉ!こんなんじゃ俺、協力する気無くなっちまうよ……!」

 

漫才である。本音も建前もクソもないマルコのどうでも良い態度に思わず吠えかかり、最後にはいじけて、アトリームの新人防衛隊員のような台詞を吐くネオ沢渡。尤もである。上げてから下げる、何とも彼の意地の悪さが見えてくる。

ここまで来れば少々ネオ沢渡が可哀想になってくる。

 

「ソーリー、沢渡ンゴ。拗ねないでくれよ、君に頼みと言うのはね――」

 

ふ、と口元を緩め、鋭い目付きをコナミと真澄へと向ける。サファイアのような輝きを放つ瞳が2人を捉え、まるで獲物を狙う鷹のように細められ、思わず真澄は動きを止め、生唾を飲み込む。

 

「僕とタッグを組んで、この2人を叩き潰して欲しいんだ」

 

口の端を歪め、ネオ沢渡の肩に手を乗せ、2人へと敵意を向けるマルコ。その恐るべき、こちらを刺すような視線に真澄は心の臓を握り締められたような感覚に陥り、コナミはデュエルの気配を感じ、笑みを浮かべる。

ネオ沢渡と取り巻き達は状況を掴めず、首を傾げている。

 

「ん、んん?いや待てよ、ちょうど良い機会だ!前の借りを返してやるぜ、赤帽子ぃ!乗ってやるよこの勝負!」

 

「せっ先生、何で!?どうして私がこいつと組んで、よりにもよって沢渡なんかとデュエルを!?」

 

「光津ぅ!師弟揃って失礼だぞテメェ等!」

 

コナミに雪辱を晴らすチャンスだと意気込むネオ沢渡と隣で笑うコナミを指差す真澄。その見下した言い様に目に涙を溜めて精一杯の反論を返すネオ沢渡。後ろにいる山部達もネオ沢渡を擁護するが鼻で笑われる始末。

真澄の中のネオ沢渡の評価はとことん低いようだ。

 

「何で、か――昔のユーならそんな事、すぐ見抜けただろう?今のユーは弱い。沢渡ンゴよりも、ね」

 

「っ!?何をっ!?」

 

やれやれと首を振り、わざとらしく手を上げ、溜め息を溢すマルコ。その仕草を交えた台詞にかあっ、と顔を赤くして掴みかかる勢いで近づこうとするも、マルコの射抜くような、心の内を見透かすような視線を受け、気を削がれ、たじろぐ真澄。

そんな真澄に対し、前髪をかきあげ、右腕のデュエルディスクを構え、光り輝くプレートを展開するマルコ。

これ以上の言葉は不要、そう言わんばかりの動作を見て、真澄が益々畏縮する。

 

「ユーの眼、くすんでるよ」

 

「ッ!!」

 

言葉の刃が真澄の胸を貫く。今まで信じ、ついてきた師の突き放した言葉に息が苦しくなり、動悸が早まる。何故師が自分にそんな言葉を吐くのか、真澄の頭は混乱し、パンク寸前状態となる。そのルビーの瞳は焦点を見失い、揺れ動く。

身体の震えが止まらない、足下が崩れるような感覚がじわじわと心を蝕んでいく。そんな中。

 

「ならばデュエルだ」

 

空気を読まぬ、コナミの台詞がデュエルコート全体へと響き渡る。どこまでも澄んだ、淀み1つ無い言葉が真澄の震えを止める。

馬鹿らしい、真っ直ぐで簡潔な意味の分からない言葉。その主はその場にいる全員の訝し気な視線など、これっぽっちも気にした様子も無く、笑う。

 

「光津、お前の眼がくすんでると言うならデュエルで打ち払え、見せてやろう、その輝きを」

 

ニィッと笑い、その右腕に光り輝く黄金のデュエルディスクを構え、前に立つマルコを見据えるコナミ。

真澄はそんな彼の態度にむぅ、と頬を膨らませ、2人と同じようにデュエルディスクを構える。

 

「……ふんっ、言われなくったって、やって見せるわ。私の眼はくすんでなんかいないって、証明して見せる……!」

 

その目付きを鋭くし、マルコ達を睨みつける真澄。――覚悟は決まった。

 

「いいねぇ、そうこなくっちゃ!柿もっちー、大伴ん、山部え、アクションフィールドの準備を!」

 

「「「はっはいぃ!!」」」

 

「あっ、こら!何、俺の子分使ってんだ!お前等も返事してんじゃねぇ!」

 

マルコが指示を飛ばし、慌ただしく柿本達が走り出す。やがて、デュエルコートが光に包まれ、淡い輝きを放つ粒子と共にその姿を大きく変える。

渦巻く地平、規則的に網目が並んだ何とも不気味なフィールド。

 

「『フュージョン・ゲート』……!面白いじゃない……!」

 

舞台は揃った。後は戦うのみ。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

口火を切ったのはマルコ。口元に笑みを貼りつけ、まるで試すかのような視線をコナミ達へ投げ掛ける。

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

 

師の言葉に応えるように真澄が前へ出る。自分の覚悟を見せる為に。

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

次に声を上げたのはネオ沢渡、その瞳の奥にはコナミに対する敵意がギラギラと光り、燃えている。

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

最後の口上を上げたのはコナミ。子供のような無邪気な笑顔でマルコ達を迎え撃つ。

 

「「「「アクショーン!!」」」」

 

彼等の瞳は。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

何を見るのか。

 

 

 

 

 




マルコ先生はアニメキャラですが、回想のみ、更に一言も喋った事が無い為、オリキャラ状態、ジムと吹雪さんを足して2で割った感じ。
何か最後の方ディケイドみたいになったけど、ともあれ今年の投稿はこれで終了です。皆さん、良いお年を。


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第22話 悔しいでしょうねぇ

遅くなりましたが明けましておめでとうございます。
一週間遅れて申し訳ないです。今年もこの作品をよろしくお願いいたします。
さて、今回はあのキャラが出てきます。どう変化させようかと思ったんですがいっその事突っ切ってしまった方がいいんじゃね?と思いました。



「フッハハハハハァ……悔しいでしょうねぇ」

 

「ぐっ……!」

 

舞網市の中でも有名な進学塾、名を明晰塾。榊 遊矢はその敵地で1人のデュエリストと対決していた。

相手はキング・オブ・クイズと呼ばれる強敵、その至高の頭脳を持つ頭にはまるでQの字を象ったメッシュが冠のように輝いており、小柄ながらもその身体からは賢者を思わせるような知性が迸っている。

九庵堂 栄太。それが此方を嘲笑う彼の名だ。

 

「何をしている遊矢ッ!!今のはどう考えても3番だろう!テレフォンを使えテレフォンを!」

 

観客席で子供達と共にポテチをバリバリと食べながらセレナが檄を飛ばす。20分程前から此方に着き、明晰塾の皆さんの紳士的な対応により最前席に座り、ポテチまでご馳走になっているのだ。

遊矢がクイズに答え、不正解を放つ度にこの調子である。流石にテレフォンを使っていないので答えを言うまでは黙っているが。因みにセレナ、全問正解だったりする。

 

「さぁ皆さんもご一緒に!悔しいでしょうねぇ」

 

『悔しいでしょうねぇ』

 

「ぐぬぬぬぬ……!」

 

アクションフィールド、クイズ・フロンティアに明晰塾の塾生達の声が響き渡る。その圧倒的な一致団結に歯を食い縛り、悔しがる遊矢。

何なのだこれは、何故こうまでボロ雑巾のようになってまで笑われなければいけないのだ。確かに彼の『クイズーモンキー』と『スフィンクイズー』によるコンボは恐ろしい。アクションマジックが味方をしてくれない事も大きいだろう、勉強不足も否めない。だからと言ってどうして晒し者にならなくてはならないのだ。滑稽にも程がある。

 

「見ててくれているかい?コナミ君。君に教えて貰った心理フェイズとやらが役に立っているよ……」

 

ふと、天を仰ぎ、爽やかな笑顔で呟く九庵堂。その口より知った友の名が聞こえ、目を丸くし、あんぐりと口を開く。瞬間、全てを察した遊矢の身体が震え出す。

無論、怒りで。

 

「コぉぉぉぉぉナぁぁぁぁぁミぃぃぃぃぃ!!!」

 

遊矢の遠吠えは天高く舞った。それこそ、闇堕ちしそうな位に。

 

------

 

「僕のターンだね」

 

マルコが爽やかな笑みを浮かべ、デッキより5枚のカードを引き抜く。大袈裟で何ともリアクションに困る動作、自らの口でキラリ☆と言う辺り遊び感覚なのか、師の言動に調子を狂わされる真澄。

 

「おっと良い手札だ。僕は『フュージョン・ゲート』の効果により、手札の『ダーク・ヒーローゾンバイア』と『魔力吸収球体』で融合!融合召喚!『異星の最終戦士』!」

 

異星の最終戦士 攻撃力2350

 

マルコの手札より2体のモンスターが『フュージョン・ゲート』の渦に飛び込む。次の瞬間、天より光の柱が伸び、フィールドを震撼させる。流星の如く大地に降り立つは狂気を孕んだ眼を輝かせた黄金の肉体を持つ戦士。

 

筋肉はまるで風船のように膨らんでおり、肩部分の装甲が今にも破壊されようとしている。何より目を引くのは異常に発達したその右腕。背より伸びた青いチューブが絡みつき、その形状を異形のものへと変えている。

ドクドクと不気味な程に脈打つ強靭な筋肉、ギラギラと黒光りする攻撃的な爪。その姿は見る者に恐怖を植えつける程である。

 

「さぁ、みんな大好き『異星の最終戦士』の効果説明だ!このカードが特殊召喚に成功した時、このカード以外の自分フィールド上のモンスター全てを破壊する――は、他のモンスターがいないから不発だねっ!テヘペロぉ!」

 

「……絶妙にウザいな……」

 

コナミの小声で発せられた台詞に隣にいた真澄がカアッと顔を赤くし、小刻みに震える。恐らく師の行動が台詞通りで弟子である自分も恥ずかしいのだろう。

尤も、その通りすぎて言い返せもしないが。しかしここまで奇行を晒しているのにマルコからは爽やかさが全く消える気配が無いのは何故であろう。

 

「まぁ、これはオマケみたいな効果だね。このカードの真の恐るべき所はこのカードがフィールド上で表側表示で存在する限り、お互いのモンスターの召喚、反転召喚、特殊召喚を封じる事かな?僕はこれでターンエンドだ」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『異星の最終戦士』(攻撃表示)

手札3(マルコ) 手札5(沢渡)

 

「私のターン!ドロー!」

 

マルコのターン終了と同時に真澄のデュエルディスクにランプが灯る。師とは違い、無駄が無く、少ない動作でデッキよりカードをドローする。こうして見るだけでも両極端な2人である。にも拘わらず、どうして師弟を組んでいるのだろうか?2人を見る限り、とても相性の良い性格をしているとは思えないが。

 

「私は速攻魔法、『禁じられた聖杯』を発動、『異星の最終戦士』の効果を無効化し、攻撃力を400ポイント上げる!」

 

異星の最終戦士 攻撃力2350→2750

 

「ありゃ、そう来たか。だけどこの攻撃力、君のカードで突破出来るかな?」

 

「充分です。私は手札より『ジェムナイト・フュージョン』を発動します!手札の『ジェムナイト・ラズリー』と『ジェムナイト・ガネット』を融合!碧き秘石よ、紅の真実よ、光渦巻きて、新たな輝きと共に一つとならん!融合召喚!現れよ!幻惑の輝き『ジェムナイト・ジルコニア』!!」

 

ジェムナイト・ジルコニア 攻撃力2900

 

大地を揺るがし、剛腕を振るい、現れたるは偽物の光を放つ宝石の騎士。例えその光が幻だとしても紫のマントをたなびかせ、堂々と立つ姿は正に誇り高き騎士その者。

自らの身体よりも巨大な両腕、銀色の輝きを放つ鎧、威厳を感じさせるマント。

その姿にデュエルを観戦する山部達が息を飲む。

 

「いきなり攻撃力を超えて来たぞ……!?」

 

取り巻き達のざわつく声に真澄がふん、と得意気な顔で鼻を鳴らし、右腕をマルコ達へと向け、指示を飛ばす。

 

「『ジェムナイト・ラズリー』の効果で墓地の『ジェムナイト・ガネット』を手札に加えるわ。さぁ、バトルよ!『ジェムナイト・ジルコニア』で『異星の最終戦士』へ攻撃!」

 

『フュージョン・ゲート』がジルコニアが駆けた事により大きく波打つ。ジルコニアの剛腕が白銀の輝きを放ち、『異星の最終戦士』へと迫る。それに対抗してか、『異星の最終戦士』も自らの膨れ上がった右腕を振るう。

しかし理性無き一撃はジルコニアの右腕が凌ぎ、フリーになった左腕が戦士の身体を貫く。

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP4000→3850

 

微々たる衝撃がマルコの頬を撫でる。ダメージは少ない、だが、これで制限は解かれた。

 

「私は墓地の『ジェムナイト・ラズリー』を除外して墓地の『ジェムナイト・フュージョン』を手札に加えるわ。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

コナミ&光津 真澄 LP4000

フィールド『ジェムナイト・ジルコニア』(攻撃表示)

セット2

手札5(コナミ) 手札3(真澄)

 

「俺様のターンだ!ドロー!」

 

デュエルディスクのランプが真澄から沢渡へと移り、同時に沢渡がデッキより1枚のカードを引き抜く。横目で確認したそのカードは良いカードだったのか、彼は得意気な笑みを作り、わざとらしく頭を抑えて声高々に叫ぶ。

 

「やっぱ俺、カードに選ばれすぎィ!『天帝従騎イデア』を召喚!」

 

天帝従騎イデア 攻撃力800

 

天より降り立つは金の装飾を散りばめた白銀の鎧の騎士。羽衣を風に靡かせ、一礼した後、イデアはその場に膝をつく。その姿はまるで主人の帰りを待つ従者のようである。

 

「さ、ら、に!イデアが召喚に成功した場合、デッキよりイデア以外の攻撃力が800で守備力が1000のモンスター1体を特殊召喚する!現れろ!『冥帝従騎エイドス』!こいつが特殊召喚に成功した場合、俺はもう1度だけアドバンス召喚が出来る!」

 

冥帝従騎エイドス 守備力1000

 

イデアの影が伸び、並び立つように1人の騎士甲冑を纏った男が姿を現す。赤き眼を光らせ、刺々しい黒の鎧から闇で作られた外套を羽織った漆黒の従騎。

イデアとは対照的でありながら2体で1つのオセロの石のような表裏一体の2体。まるで彼等が膝をつき、並ぶ姿は何か強大なる存在に頭を垂れているようで――。

 

「まだまだぁ!俺様の新たな切り札を見せてやる!イデアとエイドスをリリースし、アドバンス召喚!『冥帝エレボス』!!」

 

冥帝エレボス 攻撃力2800

 

従騎2体がその身を生け贄に捧げ、その場に巨大な闇の柱が立つ。黒き闇を弾けさせ、現れたるは『帝王』。

 

山羊のようにねじ曲がった角、深紅に光る、此方を虫けらを見るように蔑む眼、肩に生えた3本の紫の角、エイドスと同種の、しかし、比べ物にならない程の強固な鎧、背で鈍く輝く日輪のような装飾。

全てを見下す最上の『帝王』が玉座に腰掛けてフィールドに顕現した。

 

「エレボスの効果ぁ!このカードがアドバンス召喚に成功した場合、デッキより2種類の『帝王』魔法、罠カードを墓地へ送り、お前の手札、フィールド、墓地からカードを1枚選びデッキへ戻す!俺はデッキより『帝王の凍気』と『帝王の溶撃』を墓地へ送り、右のセットカードをデッキへ戻す!」

 

エレボスがその紅き眼光を鋭くし、ジルコニアを睨みつける。たったそれだけの事でジルコニアの周りの重力が激しく彼を責めたて、彼の膝をつかせる。何人足りとも『帝王』には逆らえず、従わざるを得ない圧迫感、それを感じているのはジルコニアだけではない。

睨まれていないコナミや真澄でさえ、気を抜くと倒れてしまいそうになる。

 

「ぐぅっ……!」

 

『帝王』の力を前に得意気な笑みを作り、沢渡が次の布石を打つ。

 

「墓地の『帝王の凍気』と『帝王の溶撃』を除外し、お前の場のセットカードを対象にし、発動!そのカードを破壊する!」

 

先程のエレボスの効果により既に送られていたのだろう、コストとして使ったカードを見事、利用し真澄のセットカードを破壊する沢渡。伊達にLDSのエリートを名乗るだけにそのプレイングには無駄が無く、洗練されている。その事に真澄は不快そうに眉を寄せ、ムッと頬を膨らませるが、気にした素振りを見せずに「バトルだ!」と声を張り上げる。

 

「『冥帝エレボス』でジルコニアを攻撃!余り使いたくは無かったが……アクションマジック!『フレイム・チェーン』!!ジルコニアの攻撃力を400下げる!効果で除去出来無いなら、バトルで破壊してやるよ!」

 

ジェムナイト・ジルコニア 攻撃力2900→2500

 

炎の鎖がジルコニアを縛りつけ、その輝きが失われる。降り下ろされるは巨大な足による踏みつけ、『帝王』をその玉座から立ち上がる事無く、手で顎を支えながら最小限の動きのみでジルコニアがひび割れ、破壊される。しかし衝撃はそれだけに収まらず、真澄達へと降りかかる。

 

コナミ&光津 真澄 LP4000→3700

 

「~~~っ!沢渡のくせに……!」

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3850

フィールド『冥帝エレボス』(攻撃表示)

セット1

手札3(マルコ) 手札3(沢渡)

 

「……漸く、オレのターンか、待ちわびたぞ、ドロー」

 

やれやれと頭を振り、デッキよりカードを引き抜くコナミ。彼は手札を全て確認した後、ふむ、と頷き、2枚のカードをマルコ達へと見せつけるように突き出す。

 

「オレは魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』を発動。カードを2枚ドローし、ペンデュラムモンスターを手札に。2枚ともペンデュラムモンスターだ」

 

コナミ 手札4→6

 

「えっ」

 

「手札の『竜穴の魔術師』と『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?ペッ、ペンデュラムゥ!?何でテメェがそのカードを!?」

 

コナミがデュエルディスクの両端にセットしたカードを見て、悲鳴にも似た声を上げる沢渡。

ペンデュラムカード、それは沢渡にとって喉から手が出る程欲している特別なカード、それを目の前の少年が使用したのだ、大声で叫んでも無理は無いだろう。

 

「ああ、そう言えばお前と前回デュエルした時にはどう使えば良いか分からなかったから使えなかったな」

 

沢渡の顔を見てポン、と手を合わせるコナミ。何気無いようにうんうんと頷くが彼はペンデュラムカードの貴重さを分かっているのだろうか?恐らくは分かっておらず、普通のカードとして扱っているのだろうが。

 

「このままペンデュラム召喚、といきたいがその前に『慧眼の魔術師』のペンデュラム効果、発動。もう片方のペンデュラムゾーンに『魔術師』カードが存在する場合、このカードを破壊し、デッキから『慧眼の魔術師』以外の『魔術師』ペンデュラムモンスター1体を選び、自分のペンデュラムゾーンに置く。オレが選ぶのは『法眼の魔術師』」

 

天空へ伸びた光の柱、その柱の中で立つ『慧眼の魔術師』が屈強な肉体を持つ『魔術師』へと姿を変える。その衣や銀に輝く髪は『慧眼の魔術師』に通ずるものがあるが先の『魔術師』が知ならば此方は力、溢れ出る黄金の光を背にしながら杖を構える『竜穴の魔術師』に並び立つ。

 

「これで、レベル3から7のモンスターが同時に召喚可能、揺れろ光のペンデュラム、虚空に描け魂のアーク!」

 

天空に巨大な魔方陣が描かれ、光で作られた振り子が左右に揺れる。幻想的な光景に真澄と沢渡が感嘆の声を漏らし、マルコが笑みを浮かべる。振り子の軌跡が止まると同時に、コナミは右腕を魔方陣の中心へと掲げる。

 

「ペンデュラム召喚!!」

 

彼の雄叫びに応えるように、魔方陣の中心が開き、3本の光がコナミの傍へと降り立つ。光の粉を散らし、『フュージョン・ゲート』を震わせ、中よりコナミのモンスター達がその姿を見せる。

 

「エクストラデッキより『慧眼の魔術師』!手札より『E・HEROオーシャン』!そして世にも珍しい二色の目を持つ龍!『オッドアイズ・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

E・HEROオーシャン 守備力1200

 

コナミの右隣に先程、姿を見せた銀髪の『魔術師』が片目を伏せ、秤を持ち膝をつく。額に輝く金の飾り、両肩、手の甲と節々に瑠璃の珠を纏い、目の前で座す『帝王』を見据える。

左隣に降り立つは青き肉体を誇る半魚人。頭部には鮫やイルカを思わせるヒレがついており、その手には赤と緑の宝石が嵌め込まれた杖を持っている。

 

そしてコナミの背で唸り声を上げるのは真紅の竜。赤と緑と両の色の違う、所謂オッドアイを光らせ、巨大な『帝王』へ向かい、力強い雄叫びを上げる。空気を震わせる、『帝王』の放つプレッシャーを壊すかのような凛々しい音、それに鼓舞されたのかコナミが嬉々とした表情で更なる手を打つ。

 

「『フュージョン・ゲート』の効果を利用し、場のオーシャンと『慧眼の魔術師』を除外し、融合!融合召喚!『E・HERO Theシャイニング』!!」

 

E・HERO Theシャイニング 攻撃力2600→2900

 

その慧眼を見開き、『魔術師』が突如発生した渦へ飛び込み、負けじとオーシャンもその渦へと身を投げ出す。渦が輝き、黄金の光と共に腕を組んで現れたのは太陽を思わせるオブジェクトを背にした白のスーツの英雄。

その姿には溢れ出る威厳を感じさせ、流石のマルコも唾を飲む。沢渡にとってもこのモンスターは自らに止めを刺した憎き相手だ、顔を歪め、舌打ちを鳴らす。

 

「『E・HERO Theシャイニング』の攻撃力は除外されている『E・HERO』モンスター1体につき300ポイントアップする!バトルだ!Theシャイニングでエレボスを攻撃!オプティカル・ストーム!」

 

Theシャイニングが宙を飛行し、光の嵐をエレボスへとたたきつける。流石のエレボスもこれには堪えられなかったのか、呻き声を上げ、玉座ごとその姿を消す。

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3850→3750

 

「『オッドアイズ・ドラゴン』で攻撃!スパイラルフレイム!」

 

真紅の竜がドタドタとフィールドを駆け、沢渡へと向かい、渦巻く炎を放つ。螺旋状の軌跡を描きながら、炎は沢渡へと襲いかかる。

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3750→1250

 

「チィッ……!うざってぇ……!」

 

「オレはカードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

コナミ&光津 真澄 LP3700

フィールド『オッドアイズ・ドラゴン』(攻撃表示) 『E・HERO Theシャイニング』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』 『法眼の魔術師』

手札1(コナミ) 手札3(真澄)

 

各自のターンが終了する。それぞれのデュエルを見終えたマルコはその美貌に妖しい笑みを貼りつけて一堂を見渡す。最後に真澄をジッと見つめ。

 

「うん、やっぱりユーは弱くなっているね、真澄ん」

 

「っ!?」

 

その台詞に真澄が息を飲む。何故、何故師は自らを弱いと評すのか、真澄には何一つ理解が出来ず、反論も返せない。

 

「僕のターン、ドロー。……見せて上げるよ真澄ん、ユーのそのくすんだ眼に何故君が弱くなっているのか――尤も、今のユーじゃ分からないかな?」

 

目を細め、先程の笑みをスッ、と奥に潜め、真澄をただ見つめるマルコ。

 

「僕は手札より、永続魔法『魂吸収』を発動。これにより僕はカードが除外される度に1枚につき500ポイント回復する。更に、永続魔法『ブリリアント・フュージョン』を発動するよ。デッキより『ジェムナイト・ラズリー』と『ジェムナイト・アイオーラ』そして『ジェムナイト・クリスタ』を墓地に送り、融合召喚を行う!光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!融合召喚!輝きの淑女!『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』!!」

 

ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ 攻撃力3400→0

 

菫青石の騎士が、瑠璃の少女が、水晶の騎士が1つとなりて新たな光となる。そして次の瞬間、巨大なダイヤモンドが出現し、縦、横、両斜めと4本の線が走り、砕け散るダイヤより見参する美しきダイヤモンドの女騎士。

随所に輝くダイヤは最上の輝きを放ち、その冴え渡る剣技に真澄はほう、と息をつく。

 

「『ブリリアント・フュージョン』によって融合召喚されたモンスターは攻守が0になる。そして『ジェムナイト・ラズリー』は効果により墓地に送られた場合、墓地の通常モンスターを手札に加える。僕は『ジェムナイト・アイオーラ』を手札に加えるよ。このカードはデュアルモンスターだから墓地に存在する時は通常モンスターとして扱うんだ。更に『ゴブリンドバーグ』を召喚」

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

「そして『ゴブリンドバーグ』の効果により『ジェムナイト・アイオーラ』を特殊召喚」

 

ジェムナイト・アイオーラ 攻撃力1300

 

マルコの手によりコナミも使用する『ゴブリンドバーグ』が飛び出し、吊るされたコンテナより菫青石の騎士が現れる。

 

「更に、『ゴブリンドバーグ』と『ジェムナイト・アイオーラ』でオーバーレイ!」

 

「なっ!?」

 

マルコの背後より黒き渦が現れ、『ゴブリンドバーグ』と『ジェムナイト・アイオーラ』が吸い込まれていく。その光景は融合召喚の際の光景と似通うものがあるが、違う。

これより現れたるは黒いフレームに縁取られた『融合』とは異なるランクの戦士。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

 

風が吹き荒れる。渦より手を伸ばし、翠玉の騎士がその雄々しき姿を見せる。

 

「『ダイガスタ・エメラル』!!」

 

ダイガスタ・エメラル 攻撃力1800

 

美しく輝く翼を広げ、両手に盾を装着したエメラルドの騎士が静かに舞い降りる。そのモンスターを眼に入れた真澄が大きく驚愕する。瞳は揺れ、頭の中が真っ白となる。『ダイガスタ・エメラル』。ランクは4、紛うことなく、そのモンスターは――エクシーズモンスターであった。




Q庵堂君は結構好きなキャラだったりします。なのでコナミ君に心理フェイズを鍛えられ、魔改造。ベクター並みにごりごりと精神を削ってきます。ですが明晰塾の塾生含め、デュエルが終わればかなり紳士的、なんだ!Q庵堂って良い奴じゃん!
どこで出会ったの?と言うのは実は15話の14連勝でちゃっかりデュエルしてたりします。


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第23話 あの時のお前の眼はもっと輝いていたぞ!

色々頑張ったら一万文字に達した、やったぜ。


「何?侵入者?」

 

世界に名を馳せる大企業、レオ・コーポレーションの社長室、そのデスクの上でレオ・コーポレーションの社長である赤馬 零児は両手を目の前で組み、専属補佐である中島の報告を受けていた。予想外の悪いニュースを耳に挟んだ為か、眉を寄せ、少しばかり不快そうだ。

 

大企業の社長として激務に勤しんでいるが彼はまだ若い。たまには羽を伸ばし、デュエルでもしたいものだ、と心の中で溜め息を吐くが顔には出さない。

と、そこでコンコンコン、と扉よりノック音が響く。この忙しい時に一体誰であろうか?零児は扉に目もくれず「入れ」と言い放つ。暫くして「失礼するわ」と台詞と共に扉が開き、1人の女性が姿を見せる。

 

艶やかなピンクの髪は首より下から紫へと変色し、女性の端整な顔立ちに良く似合っている。切れ長の眼、エメラルドの瞳、スッと通った鼻筋は美女と言っても良いであろう。

その身体も女性らしい曲線美を描き、特にその豊満な胸は同性であろうと羨むに違いない。白を基調とし、脇をざっくりと開いた一風変わった衣装を身に纏っている。

 

「……君は確か……最近入って来た、そう、瑠那だったか」

 

「ええ、それで社長、このシンクロ反応なのですが--」

 

「少し待ってくれ、今は侵入者の確認が先だ」

 

「侵入者、ですか?」

 

PCを起動し、カメラの確認を始める零児に対し、侵入者についての話を聞いていない瑠那は首を傾げる。やがてPCのモニターにLDSのデュエルコートの景色が写る。どうやらデュエルを行っているようだ。数は4人、背が高い、茶髪をリーゼントのような形にした男性はLDSの融合コースの講師、マルコ。彼の腕は零児も認めている。性格には少々難があるが講師の中でも1、2を争い、講師で無ければプロの道を進んでいたであろう人物だ。

彼の生徒は優秀な成績を修め、LDSに大きく貢献してくれている。最近ではグレート・モスを究極完全態まで進化させる生徒を育てたとか。……融合関係なくね?と言うのは藪蛇だろう。

 

彼の隣に立つのはLDS総合コースに所属する沢渡 シンゴの姿。此方も性格に難があるが実力は高く、様々なデッキを使いこなすマルチデッカーだ。その腕には零児も感心している。

様子を見るにタッグデュエルだろう、この2人が手を組むとは一体相手は誰なのだろうか?と零児の中で少しばかりの興味が沸く。

 

対面するのは光津 真澄。LDSジュニアユース融合コース所属トップの少女だ。マルコの弟子でもあり、彼女の実力も評価している。

しかしどこか様子がおかしい。親しい師とのデュエルだと言うのに彼女の顔は優れない。沢渡がいるから?それなら仕方無いと頷けるが違うようだ。

 

カメラをズームアウトし、彼女とペアを組むパートナーへと目を配らせる。そこには見覚えのある赤帽子の少年がデュエルディスクのプレートを展開して立っていた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

横目でPC画面を覗いていた瑠那が零児の耳元で大声で叫ぶ。キーンと頭の中まで響き渡る衝撃に眉を寄せる零児。

 

「貴様っ!社長に何を!」

 

「中島、お前も充分に五月蝿い。少し落ち着け」

 

「もっ、申し訳ございません社長ッ!!!」

 

「……」

 

話を聞いているのかいないのか、先程よりも大きな声で頭を下げる中島を無視し、瑠那へと向き直る。

 

「知り合いかね?」

 

と瑠那へと先程の反応を追求する零児。彼のジッ、とただ此方を伺うような視線を受け、澄まし顔をしていた瑠那が右へ左へまるで振り子のように忙しなく泳がせながら両手の指先をツンツンとつつく。明らかに動揺している。瑠那は滝の如く脂汗を浮かべながらもその口を開く。

 

「ホ……ホホホホッ……何を一体……?わ、ワタクシはただ、こっこの帽子の男、驚く程バカっぽいなーって思っただけですのことよ?ほっほうらアホ面!デュエルばかりやってそうなアホ面ですわ!」

 

余りにもアレな言い訳にこれ以上問い詰める気が削がれ、「そうか」と憐憫の籠った眼で返す零児。気のせいか、零児の言葉を受けた瑠那が目の端に涙を浮かべているように見える。

 

「確かこの男は、コナミとか言う--デュエルを中止させますか?」

 

「……いや、このまま続けさせよう。少し、彼のデュエルに興味がある」

 

眼鏡のフレームを指で抑え、中島に答える零児。さて、どんなデュエルをするか--。珍しく期待を胸に秘め、PCのモニターへと向き直る。このデュエルで彼について何かが得られるなら善し、コナミについては不明瞭な部分が多い。だからこそ零児はコナミを警戒している。果たして--彼は味方なのか、と。

 

------

 

「……エクシーズ……モンスター……」

 

ルビーの瞳を驚愕に揺らし、真澄は渇いた唇で目の前で翼を広げ、羽ばたくモンスターの種類を絞り出すように呟く。

エクシーズモンスター。それは基本、同じ星のモンスターを2体以上フィールドに揃え、そのモンスターを素材にし、上に重ねる事でエクストラデッキからエクシーズモンスターをエクシーズ召喚し、多くのものは素材となったモンスター、所謂オーバーレイ・ユニットを使用する事で効果を発揮するモンスターだ。簡易に出せ、強力な効果を持つが代わりとして制限を設けている。

 

問題はそのエクシーズモンスターを融合コースの講師であるマルコが使用した事だ。真澄は確かに他の召喚法も尊重しているが、師が教えてくれた融合こそが偉大であると信じている。それなのに何故、どうしてマルコはエクシーズを--?

 

「アッハーッハァッ!驚いたかい?真澄ん。成長するのが子供だけの権利だと思ったら大間違いだよ、真澄ん。『ジェムナイト』だってほぅら、エクシーズを得て進化している」

 

バッ、と大袈裟に両手を広げ、自らのモンスターを披露するマルコ。彼にしては珍しく本気で自分のモンスターを自慢しているようだ。その口には楽しそうな笑みを浮かべている。

 

「さぁて気になるエメラルさんの効果!オーバーレイ・ユニットを1つ使い、墓地の効果モンスター以外のモンスター1体を特殊召喚する!僕が選択するのはジェムナイトのリーダー、『ジェムナイト・クリスタ』さんさ!キラッ☆」

 

ジェムナイト・クリスタ 攻撃力2450

 

ダイガスタ・エメラルが両の手から淡い光の球を作り上げ、クリスタルの英雄が戦場へと復活を遂げる。

西洋風の兜と騎士甲冑、その両肩には水晶が山のようにそびえ立ち、美しき白の輝きを放っている。

 

「更に!『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』の効果発動!『ジェムナイト・クリスタ』を墓地へ送り、エクストラデッキから『ジェムナイト』融合モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する!グラインド・フュージョン!『ジェムナイトレディ・ラピスラズリ』!」

 

ジェムナイトレディ・ラピスラズリ 攻撃力2400

 

『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』が剣を振るうと同時に『ジェムナイト・クリスタ』がその身よりも巨大なダイヤモンドの殻へと閉じ込められる。ダイヤモンドの殻が眩き光へ包まれ、ブリリアント・ダイヤの剣線が走る。バキリ、殻がひび割れ、ガラスの破裂音のような音と共に紫電が迸る。

 

殻より新生するは瑠璃色の巫女。女性らしきシルエットに着物を纏ったような姿、つぶらな眼を輝かせたモンスターだ。

 

「『ジェムナイトレディ・ラピスラズリ』の効果発動!デッキから『ジェムナイト・ラズリー』を墓地に送り、フィールドの特殊召喚されたモンスター×500のダメージを与える!」

 

ラピスラズリが自身の周囲に存在するモンスターからエネルギーを吸収し、球体状におさめ、息を吹きかける。すると球体が吹雪のように空中を飛び、コナミへと迫る。

 

「させん!罠発動!『ピケルの魔法陣』!効果ダメージを0に!」

 

「ふぅん?ラズリーの効果で『ジェムナイト・アイオーラ』回収!墓地の『ジェムナイト・ラズリー』を除外し、墓地の『ジェムナイト・フュージョン』を回収!『魂吸収』の効果で500ポイント回復ぅ!」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP1250→1750

 

「そして発動!ダイガスタ・エメラルとアイオーラで融合!光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!融合召喚!現れよ!幻惑の輝き、『ジェムナイト・ジルコニア』!」

 

ジェムナイト・ジルコニア 攻撃力2900

 

更に展開、追い打ちをかけるように現れたのは真澄も使用したモンスター。効果は持たないものの、『ジェムナイト』では出しやすく、高い攻撃力を有したカードだ。

 

「墓地のアイオーラを除外、『ジェムナイト・フュージョン』回収、ライフを回復」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP1750→2250

 

「そして手札の『ジェムナイト・フュージョン』を捨てる事で『ブリリアント・フュージョン』の効果発動!『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』の攻守を元々の数値分アップする!」

 

ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ 攻撃力0→3400

 

ブリリアント・ダイヤが本来の眩い輝きを取り戻す。攻撃力3400。その攻撃力を見て真澄が冷や汗を垂らす。デッキ融合を行ってデメリット有りかと思いきやこれである。頬は引き吊り、ルビーの眼は「インチキ効果も大概にしろ!」と雄弁に語っている。

 

「ちょっ、あんた大丈夫なの!?このままじゃ負けちゃうわ……!」

 

目を丸くし、わたわたと焦る様子でコナミを問い詰める真澄。しかしコナミは何時も通りの無表情で真澄へと向き直る。

 

「落ち着け真澄ん。つい最近デメリットも何もないデッキ融合と当たったばかりだ。それにある時はカード2枚で攻撃力5000を2体並べられた事がある。少し前のカードプールで試してみたが……あれは悪い事をした……」

 

「こっ……攻撃力5000……」

 

そう言ってあの時の出来事を思い返すコナミ。知り合いのドラゴン使いを喜ばせようと思い、禁止制限など無視して作ったデッキで「んほぉ!しゅごいのぉ!」と言わせたかったのだが、場をドラゴンが覆いつくし、その知り合いが「おお……!おお……!?」と壊れたスピーカーのように同じ台詞を繰り返したのは良い思い出である。征竜、ダメ、絶対。

 

帽子を深く被り、反省するコナミ。一方で攻撃力5000と言う冗談染みた数値に顔を青くし、コナミを見つめる真澄。余りのショックに真澄ん呼びにも気づかない。

 

「更に墓地の『ジェムナイト・クリスタ』さんを除外して『ジェムナイト・フュージョン』を回収、『魂吸収』の効果で500ポイント回復するよー!」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP2250→2750

 

「さぁ、バトルだ!『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』でシャイニングを攻撃!」

 

ブリリアント・ダイヤがその手に持つ剣を握りしめ、ダン、と地を蹴り、シャイニングへと肉薄する。冴え渡る剣技、一瞬の内に剣は煌めき、シャイニングを細切れにし、コナミにダメージを与える。

 

コナミ&光津 真澄 LP3700→3200

 

「シャイニングの効果で除外されているオーシャンを手札に戻す!」

 

「さぁ、次だ『ジェムナイト・ジルコニア』で『オッドアイズ・ドラゴン』を攻撃!」

 

模造ダイヤの騎士が雄叫びを放ち、白煙を吹いて巨腕を振り上げ、凄まじい速度でコナミに接近、風切り音を鳴らして『オッドアイズ・ドラゴン』へと振り抜く。

 

コナミ&真澄 LP3200→2800

 

「ラピスラズリでダイレクトアタック!」

 

ラピスラズリが再びエネルギーを集め、球体状に構成して吹雪を放つ。これを食らえば一巻の終わり、その寸前。

 

「手札の『速攻のかかし』を捨てバトルフェイズを終了させる!」

 

キィンッと甲高い音を鳴らし、両手のY字に別れた木の棒を胸の前でクロスさせたかかしがその攻撃を防ぐ。くたびれた三角帽子、無造作に伸びた緑の髪を揺らし、ジェット噴射で現れたニヒルに笑うかかし。

優秀な手札誘発の効果を持つカードだ。コナミもこのカードを頼りにしているのか、「かかし先生、がんば」と相変わらずのテンションのエールを送っている。

 

「ターンエンド」

 

「罠カード『裁きの天秤』を発動、お前のフィールドのカードと俺のフィールド、手札の差分、4枚をドローする」

 

コナミ 手札1→5

 

たった1枚となったコナミの手札が5枚まで回復する。攻撃を凌ぎ、次の布石を用意するプレイングにマルコがほう、と息をつく。

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP2750

フィールド 『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』(攻撃表示) 『ジェムナイトレディ・ラピスラズリ』(攻撃表示)『ジェムナイト・ジルコニア』(攻撃表示)

『ブリリアント・フュージョン』『魂吸収』 セット1

手札1(マルコ) 手札3(沢渡)

 

「私のターン、ドロー」

 

「さて、真澄ん、今の君には足りないものは分かったかな?」

 

デッキより1枚のカードを引き抜く真澄に対し、マルコが目を細めて質問する。その表情はあくまで試すような教師としての顔。決して答えだけを与えず、ヒントを与えて生徒自らの手で答えを導かせようとしている。だが。

 

「……分かりません、どうすれば良いのか……だけど……」

 

「うん?」

 

俯き、項垂れる真澄。その顔には影が差し、長い黒髪で瞳は隠れ、表情は窺い知れない。彼女からか細い呟きが漏れ、マルコがその顔を覗き込む。瞬間、真澄が気丈さを取り戻した顔を持ち上げ、鋭い視線をマルコへとぶつける。

 

「分からないまま、終わりたくはありません」

 

気の強い眼、弟子の闘志を見てか、マルコも爽やかな笑みを向ける。

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を交換!私は既にセッティングされたペンデュラムスケールでペンデュラム召喚!『ジェムナイト・アンバー』!『ジェムナイト・ガネット』!」

 

ジェムナイト・アンバー 攻撃力1600

 

ジェムナイト・ガネット 攻撃力1900

 

コナミの設置したペンデュラムカードを利用し、手札から宝石の騎士達を呼び起こす真澄。1体は琥珀の騎士。もう1体は柘榴石の騎士。彼等は真澄につき従うように膝をつく。

 

「私は、『ジェムナイト・アンバー』を再度召喚!手札の『ジェムナイト・フュージョン』を墓地に送り、効果発動!除外されている『ジェムナイト・ラズリー』を手札に戻す!墓地の『ジェムナイト・ジルコニア』を除外して『ジェムナイト・フュージョン』を手札に!」

 

「ならこっちは『魂吸収』の効果で500回復だ」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP2750→3250

 

「『ジェムナイト・フュージョン』を発動!『ジェムナイト・アンバー』と『ジェムナイト・ラズリー』を融合!光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!融合召喚!現れよ!『ジェムナイト・プリズムオーラ』!」

 

ジェムナイト・プリズムオーラ 攻撃力2450

 

真澄の背後に渦が巻き起こり、その中へと2体の騎士が飛び込む。次の瞬間、渦は爆発を起こし、新たな騎士が姿を現す。ダイヤのレイピアと盾を持ち、角を伸ばした鬼のような出で立ちの騎士。

その手に握るレイピアを振るい、マントが揺れる。攻撃力ではマルコのフィールドのモンスターが明らかに上、しけしこのカードには優秀な効果がある、と真澄はその右腕を突き出す。

 

「『ジェムナイト・ラズリー』の効果で墓地の『ジェムナイト・アンバー』を手札に加えるわ。そして墓地の『ジェムナイト・ラズリー』を除外、『ジェムナイト・フュージョン』を手札に」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3250→3750

 

「そして『ジェムナイト・フュージョン』をコストにプリズムオーラの効果発動!ブリリアント・ダイヤを破壊!」

 

プリズムオーラのレイピアと雷が落ち、そのまま纏ってブリリアント・ダイヤを切り裂く。これで強力なモンスターを打ち倒した。

 

「バトル!『ジェムナイト・プリズムオーラ』で『ジェムナイトレディ・ラピスラズリ』を攻撃!」

 

火花を散らし、『ジェムナイト・プリズムオーラ』がフィールドを駆ける。正に電光石火、光を纏い、一瞬の内にして瑠璃色の巫女の眼前にオーラクリスタルの白騎士が迫る。

降り下ろされるレイピア、瑠璃の巫女が反撃しようとするも、既に遅く、砕け散る。

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3750→3700

 

「くっ、やるねぇ……!」

 

「ガネットでダイレクトアタック!」

 

「アクションマジック、『回避』!悪いけど防がせてもらうよ!」

 

「ターンエンド!」

 

コナミ&光津 真澄 LP2800

フィールド『ジェムナイト・プリズムオーラ』(攻撃表示)『ジェムナイト・ガネット』(攻撃表示)

Pゾーン 『竜穴の魔術師』 『法眼の魔術師』

手札4(コナミ) 手札1(真澄)

 

「俺様のターンだぁっ!ドロー!俺は手札の『進撃の帝王』を墓地に送り、『汎神の帝王』を発動!2枚ドロー!更に!墓地の『汎神の帝王』を除外し、デッキより『帝王』魔法、罠カードを3枚見せ、相手が選んだ1枚を手札に加える!さぁ、どれにするぅ?光津ぅ!」

 

「どれも同じじゃない!ふざけんじゃないわよ!この萎びたバナナ頭!真ん中よバーカ!」

 

「し、萎びたバナナ……、俺は『帝王の深怨』を手札にぃ……!この怨みぃ!深いぞ光津ぅ……!『魂吸収』効果で回復!」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3700→4200

 

「手札の『天帝アイテール』を公開し、『帝王の深怨』発動!デッキより『汎神の帝王』を手札に!手札の『連撃の帝王』を墓地に送り、2枚目の『汎神の帝王』だ!2枚ドロー!」

 

真澄が妙に的を得た罵倒を吐き、沢渡の表情が憎悪に染まる。確かに彼の前髪がそう見えない事もない。怒りに火がついた沢渡が今の彼に相応しい名のカードを発動し、2度の手札交換をする。

 

「更に永続罠『始源の帝王』!発動後、攻撃力1000守備力2400、宣言した属性のモンスターとなり、同属性のモンスターをアドバンス召喚をする場合、2体分のリリース要員となる!俺が宣言するのは光だ!」

 

始源の帝王 守備力2400

 

「『始源の帝王』をリリースし、『天帝アイテール』をアドバンス召喚!!」

 

天帝アイテール 攻撃力2800

 

エレボスの影が大きく姿を変える。光の柱がスポットライトのように何本も走り、真源たる『帝王』が降臨する。

イデアと同じ金色の装飾が見受けられる白銀の『帝王』。背より伸びた数本の羽衣がキラキラと光を反射し、風を受ける。カツリ、と金の鳥を模した杖を鳴らし、玉座に座す巨大なるモンスター。その威圧感は『冥帝エレボス』に劣らない。

 

「アイテールの効果発動!手札の『真源の帝王』とデッキの『帝王の凍気』を墓地に送り、デッキより攻撃力2400守備力1000のモンスターを特殊召喚する!『光帝クライス』!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

アイテールの杖から放たれる光に導かれ、黄金の『帝王』が降り立つ。『帝王』をも統べるアイテールの力、次々と出現するモンスターに真澄がその額に汗を垂らす。

 

「お前の場の『竜穴の魔術師』と『ジェムナイト・プリズムオーラ』を対象として発動!そのカードを破壊し、その枚数分、相手はドローする!」

 

光津 真澄 手札1→3

 

「ジルコニアでガネットへ攻撃!」

 

コナミ&光津 真澄 LP2800→1800

 

「『天帝アイテール』でダイレクトアタック!」

 

黄金の杖から眩き光が放たれる。眼前を覆い尽くす強大な波。真澄の手に反撃のカードは――無い。これで終わりか、諦めかけたその時。

 

「諦めるな!こんな所で満足して堪るか、アクションマジック!『回避』!」

 

コナミの叱咤が響き渡り、真澄を光の壁が守る。終わってない、その事実に、声の主へと振り返る。その表情は気のせいか、少しばかりの怒りを含んでいるように見える。

一体どうしたのか、そんな事を考える内に、コナミはつかつかと真澄に歩み寄り、何を思ったか真澄の両頬を掴み、ジッ、と真澄の瞳を見つめる。

 

「……え?ちょっ……!あんた何を!?近っ、近い――」

 

「くすんでるな」

 

「……は?」

 

顔を真っ赤に燃やし、ばたばたと焦る真澄。そんな彼女を真剣な面で見つめながら、マルコと同じような台詞を吐くコナミ。

その突然の言葉に顔から赤みは一瞬で引き、固まる。

 

「――何をっ!?」

 

「何故、先程諦めた?」

 

「ッ!?」

 

グサリ、ナイフのような鋭いコナミの言葉が真澄の胸に突き刺さる。眉を吊り上げ、強気を取り繕い、コナミを睨む。

 

「だって、あんなのどうしたって――」

 

言い訳染みた言葉が喉で止まる。どうしたって負けるじゃない。小さな子供のような思考、何故、どうしてそんな台詞が頭に浮かんだ?

こんなの何時も自分じゃない、どうしてそんな言葉が出てこようとするのだ。訳が分からない、落ち着いて、深呼吸をしても頭から雑念が消えてくれない。

 

負ける?どうして?諦めたから――?どうして、諦めた――?

 

「……成程な、確かにくすんでいる。おい、光津」

 

「っ!!なにっ、何、よ」

 

何とか力を振り絞って喉の奥から声を出す。からからに渇いた嗚咽にも似たそれ、何とも不様な姿を見せてしまい、真澄は顔を真っ赤にしながらコナミを睨む。これ以上見るなと言わんばかりの視線を受け、コナミが薄く笑う。

 

「お前はどうして、マルコに弟子入りした?」

 

「――え――?」

 

不意の質問に声を漏らす真澄。そんな彼女に言いたい事は言ったとその手を放し、改めてマルコ達に向き直るコナミ。

左腕に嵌めたデュエルディスクを構え、背中越しに語りかける。

 

「こんなところで満足されて堪るか、最初にオレに食ってかかっていたお前の眼の方が輝いていた」

 

「だけど、だけどどうしたら……!」

 

頭を振り、すがりつくかのような眼をコナミの背に向ける真澄。弱々しく、彼女らしくもない態度、それを見てか、コナミは人差し指を立て、笑う。

 

「答えならデュエルの中にある筈だ。お前は奴の生徒だろう?知恵を絞れ、案外、簡単な事だ」

 

頼もしい背中、真澄はその背を見て目を見開く、まるでその姿は、授業を行うマルコのようだ、と。

答えは分からない。だけど彼が言うのだ、簡単な事だと、ならばLDS融合コースのトップである自分が解けない筈が無い。そんな恥ずかしい真似が出来るものか。

 

ルビーの瞳が燃える、負けて堪るか、少しでもその力をものにして見せる。弱気を吹き飛ばし、強い意志を瞳に宿す。

 

「話は終わったか?カードを1枚伏せてターンエンドだ。『光帝クライス』はアイテールの効果で手札に戻るぜ」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP4200

フィールド『天帝アイテール』(攻撃表示) 『ジェムナイト・ジルコニア』(攻撃表示)

『ブリリアント・フュージョン』 『魂吸収』 セット1

手札1(マルコ) 手札4(沢渡)

 

沢渡のターンが終了し、コナミが自らのデッキに手を添える。瞬間、コナミの右腕を電撃が駆ける。

 

「――ッ!来たか……!暴れ馬め……!」

 

腕が焼かれるような激しい痛みにコナミが顔をしかめる。気を抜くと此方が食われるような激痛を堪え、震える手に力を入れ、カードを手に取る。その間にもそのカードは暴れ、コナミに牙を剥く。

他のカードは大人しいと言うのに、このカードだけはコナミに反抗的だ。手を離したい衝動を抑えつけ、勢い良くドローする。

 

頭を過るのは触れるもの全てを切り裂く獰猛な竜の姿。

 

「ド……!ロォォォォォ!」

 

引き抜かれるは正しく切り札。口角を吊り上げ、竜が姿を見せるに相応しい舞台を整える。

急げ――この暴れ竜は、待ってはくれない――。

1枚のカードに注意しながら手札よりカードをディスクに乗せる。

 

「オレはっ!手札を1枚捨て、『ペンデュラム・コール』を発動!デッキから『竜穴の魔術師』と『竜脈の魔術師』を手札に加え、『竜穴の魔術師』をセッティング!」

 

2枚のペンデュラムカードが揃い、コナミのデュエルディスクのプレートが七色に光輝く。

空に光の柱が2本伸び、輝く魔方陣が描かれる。

右腕に走る激痛、着実に此方の喉笛を狙う竜に苦笑いし、頬を汗が伝う。

 

「さぁいくぞ!揺れろ光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!」

 

光の振り子が揺れ動き、魔方陣に巨大な穴が空く。流星の如く3本の柱が地を響かせ、モンスター達がその姿を見せる。

 

「ペンデュラム召喚!!『E・HEROオーシャン』!『竜脈の魔術師』!」

 

E・HEROオーシャン 攻撃力1500

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

降り立つ2体のモンスター、その光景は奇しくも先程のコナミのターンと同様に英雄と『魔術師』が並ぶ形となる。

青き体躯の『HERO』と両方に刃を持つ秤を手にした、白いコートを羽織った三つ編みの『魔術師』。

 

「力を貸してくれ遊矢!いでよ、絶望の暗闇に差し込む、眩き救いの光!」

 

そう、先のターンと同じ光景。コナミの背後に地響きを轟かせ、降り立つは、白銀の鎧を纏い、金色の剣を翼のように背に広げた、刃のような鋭い赤い眼の竜。

 

「『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

その竜の眼は、剣の如き意志を秘めていた――。

 

 




少し真澄んがくすみんになってるけど許してくれ……!
瑠那さんの事が知りたい人は漫画ゼアルを見よう!おっぱいが大きいぞ!
三好先生、ユニちゃんとコンちゃんを出してくれてありがとうございます!良いおっぱいでしたありがとうございます。


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第24話 先生の目、くすんでるわ

嘘劇場版予告

「さらばだ歴戦の満足達よ」

――突如、鬼柳の前に現れた謎のデュエリスト、NOサティスファクション――

「鬼柳京介、貴様のトリシューラは頂いていく」

――奪われたトリシューラ――

「ヒァッハー!満足させてもらおうかぁ!」

「ここで満足するしかねぇ!」

――サティスファクションリーダー、ダークシグナー、町長、3人の鬼柳が集う――

「NOサティスファクション!デュエルだ!満足させてもらうぜ!」

――世界中の満足を救う為、立ち向かう――

「俺達の満足をお前の好きにはさせない!」

――そして、NOサティスファクションの正体とは――

「俺は――フィール次元のお前だ――」

――破壊神より放たれし聖なる槍よ、今こそ魔の都を貫け――

「シンクロ召喚!『氷結界の龍トリシューラ』!!」

「強脱で」

「おかえり」

劇場版遊戯王サティスファクション~超満足!時空を越えたリーダー~

もれなく入場者限定 暗闇で光る鬼柳シールプレゼント



カッとなってやった。満足はしている。反省も後悔もしてない。


「コナミ」

 

それは昨日の出来事、セレナが柊家に居候する事が決まり、皆が帰宅しようと準備を始めている時、コナミの背に遊矢が話しかける。

何やら浮かない顔をしているがどうしたのだろうか?

 

「……どうした、遊矢?」

 

その真剣な表情から何かを察したのだろう。コナミは赤い帽子を被り直し、遊矢に身体ごと向き直る。すると俯いていた遊矢が顔を上げ、どこかすがりつくような眼でコナミを見つめる。

 

「……えっ……とさ、コナミって、兄弟とかいるのか?」

 

一呼吸置き、意を決したような顔でコナミに問いかける遊矢。良く分からない質問だ。コナミも首を傾げ、うぅむと顎に手を当て唸る。

 

兄弟、そのような存在なら覚えはある。

何時も自分を慕ってくれ、子供っぽい言動が目立つが妹を、仲間を守る為に絶望の中から希望を見いだした小さな勇者。

そしてその妹、気が弱い所もあるが小さくともしっかりとした少しおませな女の子。

最近では暗次やねねが兄弟みたいなものか。2人はコナミの子分を名乗っているが、コナミとしては年の近い弟や妹と言った方がしっくり来る。だがこの場合遊矢が聞きたい事はそう言う事ではないだろう。

 

「……いない……と思うが」

 

そもそも肉親がいる事でさえ定かではないのだ。余り興味が無いし、気にした事も無い。コナミの答えを聞いた遊矢はほっと安堵した表情を浮かべる。

 

「そっか……あっ、そう言えばさ……!」

 

何かを思い出したように腰のデッキケースからデッキを取り出し、遊矢が1枚のカードをコナミへと差し出す。白銀の鎧を纏い、剣を身に宿した竜の描かれたカード。何か大きな力を放っているのか、コナミが「む」と小さく呟く。

 

「このカード、何時の間にかデッキに入ってたんだけど……俺は『オッドアイズ・ドラゴン』はもう持ってないから、良かったらコナミが受け取ってくれないか?何だかコナミが持っていた方が良いと思ってさ」

 

そう言って苦笑いする遊矢。特別なカードのようだが良いのだろうか?しかしカードをくれると言うのは有難い、どうやらコナミのエースカードである『オッドアイズ・ドラゴン』に関する能力を持っているようだ。好意を無下にするのも気が引けるのでカードを受け取ろうと手を差し出す。

 

「ありがとう遊矢。大切に――」

 

と、そこでコナミの手が止まる。そこから先の言葉を口にするのはどうかと思ったのだ。この台詞を言ってしまえば折角の遊矢の優しさが台無しになってしまうかもしれない。最近はそうでも無い事もあるが、態々フラグを立てるのは間抜けだろうと考え、咳払いを1つし、もう1度手を差し出す。

 

「ありがとう遊矢。取り敢えず使わせて貰う」

 

「何か含みがあるな!?」

 

こうして、2人の友情のカードがコナミの手に渡る。この余計な言葉が原因で、1枚のカードの逆鱗に触れた事は、言うまでもないだろう。

 

――――――

 

「……綺麗……」

 

煌々と光輝く粒を雪のように散らして現れたる剣の竜。その雄々しくも美しい姿を見、真澄が感嘆の声を漏らす。それは沢渡も、そしてマルコとて同じだ。誰もがこの洗練された剣のような竜に見惚れ、まるで時が止まったかのような錯覚に陥っている。

 

「漸く会えたな、オットセイ」

 

そう言って妙な渾名で竜を呼び、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の顎を撫でるコナミ。先日の事が原因なのか、それとも渾名が不服なのか、実に不快そうに「グルル……」と喉を鳴らす。何にせよ、竜の喉に触れてはいけない。

 

「む……どうしたオットセイ。急に尻尾を巻きつけて……締め付けるな、背の剣で刺すな、くすぐったいぞ」

 

竜の喉、顎には触れてはいけない逆鱗が存在する。コナミは馴れ馴れしくそれにベタベタと触れたのだ。

それに怒りを覚えたのか、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』がその刺々しい尾でコナミを普通の人間なら骨が砕け散る程の力で締め付け、その背の大剣で刺している。

どう言う訳か刃が通らないが。実にシュールな光景である。先の感動はどこへやら、今度はコナミの人間離れした身体に戦慄を覚える真澄。

 

「……人から貰ったカードはバッジが一定数にならねば言う事を聞いて貰えないと言う事か……仕方無い、オレはアクションフィールド『フュージョン・ゲート』の効果により、『E・HEROオーシャン』と『竜脈の魔術師』を除外し、融合召喚!『E・HEROガイア』!」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200

 

胴体を尾に巻かれながらコナミが次なるモンスターを呼び起こす。水の『HERO』と地の『魔術師』が融け合い、出でたるは黒い鎧を纏った巨人。その巨体が大地を砕き現れる光景は圧倒と言えよう。

 

「『魂吸収』の効果で1000ポイント回復するぜ」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP4200→5200

 

ついに沢渡達のLPが初期値を超える。早めにLPを削りきるか、何らかの対処をしなければ更に差が開くだろう。コナミがその手により一層の力を込め、指示を飛ばす。

 

「『E・HEROガイア』の効果!『天帝アイテール』の攻撃力を半分にし、その攻撃力分、ガイアの攻撃力をアップする!」

 

天帝アイテール 攻撃力2800→1400

 

E・HEROガイア 攻撃力2200→3600

 

「バトルだ!オットセイ、君に決めた!『天帝アイテール』を攻げっ」

 

言い終える前に、コナミの身体が竜の尾によって投げ飛ばされる。一直線に赤の軌跡を描き、風を切り裂いてアイテールへと駆ける。

唖然とする一堂。アイテールがコナミに貫かれる前に。

 

「違う、そうじゃない」

 

コナミの憮然とした否定が響く。直後アイテールが砕け散り、勢いを殺されたコナミが空から堕ち、沢渡とぶつかる。

 

「罠発動、『ダメージ・ダイエット』!ってぬがぁっ!?」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP5200→4500

 

勢いを殺されているとは言え、コナミとぶつかった事で頭に大きな瘤を作り、悶える沢渡。対するコナミはケロリとしている。一体この男は何でできているのだろうか。

痛みが漸く引いたのか、沢渡が勢い良く立ち上がり、コナミを睨み、その胸ぐらを乱暴に掴む。

 

「テッメェ……!ふざけてんじゃねぇぞ赤帽子ぃ……!」

 

「違う、オットセイが勝手に」

 

ガクガクと揺する沢渡と無機質に答えるコナミ。今回ばかりはコナミも被害者と言えるだろう。彼等の後ろでは原因たる『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』が暢気に欠伸をしている。勝手に居眠りを始める辺り、やはりジムバッジが足りないようである。

 

そんな混沌とする中、更なる変化が起こる。――ジルコニアの胸に、金色の剣が刺さっているのだ。

 

「っ!?ジルコニアが!?」

 

「え、あ、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』が戦闘でモンスターを破壊し、墓地に送った時、相手フィールド上のモンスター1体を選んで破壊する……オットセイが勝手に」

 

どう言う事か、コナミも知らずの内に効果が発動し、デュエルディスクが処理していたらしい。何やら不可思議であるが、ただ1つ分かる事は、この『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』がただのカードでは無い、と言う位か。兎も角気を取り戻し、コナミが更なる追撃をかける。

 

「『E・HEROガイア』でダイレクトアタック!コンチネンタルハンマー!」

 

大地の英雄が沢渡の眼前へと移動し、その両腕を合わせ叩きつける。地を揺るがす重き一撃、決して軽くはないダメージが身体の芯まで響く。

 

「ぐうっ!」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP4500→2700

 

「魔法カード、『一時休戦』を発動。互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0に」

 

コナミ 手札0→1

 

沢渡 シンゴ 手札4→5

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

コナミ&光津 真澄 LP1800

フィールド『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示) 『E・HEROガイア』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン 『竜穴の魔術師』 『法眼の魔術師』

手札0(コナミ) 手札3(真澄)

 

またもや形勢は逆転、デュエルは更なる展開を見せ、ターンはマルコへと渡る。手札は1枚、こんな逆境だと言うのにその顔には余裕が見てとれる。

その表情に笑みを貼り付けたまま――華麗な動作で、ドローした――。

 

「――ねぇ真澄ん。沢渡ンゴはね、とっても努力家なんだ」

 

「ブッ!!なななっ!?おいマルコ先生、急に何言ってんだアンタはっ!?」

 

目を細め、真澄を見つめながら急に沢渡を持ち上げ始めるマルコ。突然自分の名が上がった事により、沢渡は目を丸くして動揺する。

そんな中でも真澄は鼻で笑う事もせず、真剣に耳を貸す。

 

「彼、榊 遊矢に負けてからペンデュラムに有用な手を必死に探してね」

 

「わー!わー!わー!言うんじゃねぇ!俺別にそんな事してねぇし!?努力とかダセェ真似してねぇし!?才能とフィーリングだし!?」

 

静かに言葉を紡ぐマルコとは対照的に、顔を赤くしてマルコの口を塞ごうと慌てふためく沢渡。

 

「色々なデッキを山部ぇ達を相手に何度も試して、漸く今の帝デッキに辿り着いて、それからもデッキ構築を怠らない……最近ではデッキに向かって良く応えてくれたなと言う位だ」

 

「最高ッスよぉ!沢渡さん!」

 

「やーめーろーよー!本当そんなんじゃねぇからぁ!このデッキだって適当に作っただけだからぁ!」

 

何とも微笑ましい話にその場に倒れ込み、羞恥に染まった顔を両手で抑え、ジタバタと悶える沢渡。一応褒めているのだが沢渡の反応を見る限り公開処刑だったようである。

努力している自分を見られる事が余程嫌なのか「あー、あー」と言葉にならない叫びを上げている。

 

「彼は決して弱くない、僕だって彼の姿を見て強くなろうと思い、エクシーズを会得したんだ。こんな所で諦めたら、努力を裏切ってしまう、僕は!『貪欲な壺』を発動!墓地の『異星の最終戦士』、『天帝従騎イデア』、『冥帝従騎エイドス』、『冥帝エレボス』、『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

マルコ 手札1→3

 

「『召喚僧サモンプリースト』を召喚、効果により、守備表示に!」

 

召喚僧サモンプリースト 守備力1600

 

マルコの場に現れる魔法使いの翁。その効果は実に優秀、このLDSにおいてシンクロ、エクシーズで重宝されるモンスターだ。逆に魔法カードを捨てる効果は融合コースで敬遠されがちである。

しかしマルコはエクシーズを会得しており、墓地からの回収が容易である『ジェムナイト・フュージョン』が手札にある事を真澄は覚えている。

 

「手札の『ジェムナイト・フュージョン』を捨て、サモンプリーストの効果により、デッキから『ジェムナイト・ルマリン』を特殊召喚!」

 

ジェムナイト・ルマリン 攻撃力1600

 

サモンプリーストが呪文を呟き、黒き球体を作り出す。電撃が走り、球体を裂くように現れたのは全身を黄色の鎧で覆ったかのような電気石の戦士。

 

「――トルマリンの宝石言葉は健やかな愛、落ち着き、開眼。そろそろユー本来の輝きは取り戻せたかな?僕は!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『暗遷士カンゴルゴーム』!!」

 

暗遷士カンゴルゴーム 攻撃力2450

 

黒き渦が巻き起こり、2体のモンスターが吸い込まれ、巨大な腕が現れる。ボロボロになった暗い、光を失ったダイヤが埋め込まれたそれ。

『ジェムナイト・ジルコニア』の腕だ。渦を払い、その全貌が明らかとなる。全体は別のモンスターだが、その右肩、そして後頭部でうねる金の髪は『ジェムナイト・クリスタ』に近い。

鈍い黒の鎧、ズタズタに破れたマント、何より不気味なのはひび割れた兜から覗く赤い眼。

ギョロギョロと動き回り、焦点が定まらないそれは恐怖を煽る。

 

「……『ジェムナイトマスター・ダイヤ』……!?」

 

真澄が驚愕の声を漏らす。そう、このモンスターは真澄のエースカードに驚く程似ているのだ。まるで暗黒面へと堕ちた黒騎士、いや、バーサーカーの姿を見て動揺を隠せないのは無理もないだろう。

 

「まだまだ!手札より2枚目の『ブリリアント・フュージョン』を発動!デッキより『ジェムナイト・アレキサンド』、『ジェムナイト・エメラル』、『ジェムナイト・サフィア』を融合!昼と夜の顔を持つ魔石よ!幸運を呼ぶ緑の輝きよ!堅牢なる蒼き意志よ!光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!融合召喚!輝きの淑女!『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』!!」

 

ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ 攻撃力3400→0

 

今再び現れる輝きの淑女。攻撃力は0になってしまったが、先のターンで触れた通り、それには何の意味も無い。

 

「墓地の『ジェムナイト・アレキサンド』を除外し、『ジェムナイト・フュージョン』を回収!この時、『魂吸収』の効果発動!」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP2700→3200

 

「そして『ジェムナイト・フュージョン』を捨て、『ブリリアント・フュージョン』の効果でブリリアント・ダイヤの攻撃力をアップ!」

 

ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ 攻撃力0→3400

 

「念の為、墓地からの『ジェムナイト・エメラル』を除外して『ジェムナイト・フュージョン』を回収、500LP回復するよ」

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3200→3700

 

「さぁ、バトルだ!『暗遷士カンゴルゴーム』で『E・HEROガイア』を攻撃!」

 

マルコが指示を飛ばすと同時に、カンゴルゴームが姿を消す。一体何処に――?コナミ達が考える前に、『E・HEROガイア』の背後にカンゴルゴームが現れ、巨大な右腕でガイアの身体が砕かれる。圧倒的、黒き狂戦士の速度に反応すら出来ず、コナミの『E・HEROガイア』は破壊される。

 

「続けて『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』で『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を攻撃!」

 

ブリリアント・ダイヤの手に握られた白刃が光輝く。流麗なる動作でフィールドを駆け、互いのモンスターが対峙する。

『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』もその重たい身体を起こし、ブリリアント・ダイヤを睨みつける。一触即発の空気、先に動いたのは意外にも竜の方であった。ドタドタとフィールドを揺るがし、背の剣でブリリアント・ダイヤを切り裂こうと動く。ブオンッと空気を引き裂く。ブリリアント・ダイヤは剣へと飛び乗り、何度も『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を斬る、斬る、斬る。

 

カチャリ、その刃が振るわれ、地を刺した所で、竜は雄叫びを上げて散った。

 

「僕はこれでターンエンドだ」

 

「エンドフェイズ『リビングデッドの呼び声』を発動、再び出でよ『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

再びフィールドに現れる剣の竜。叩き起こされた事に怒っているのか、それとも細切れにされた事を恨んでいるのか、その眼が鈍い輝きを放ち、その雄叫びは空気を震撼させる。

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3700

フィールド 『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』(攻撃表示) 『暗遷士カンゴルゴーム』(攻撃表示)

『ブリリアント・フュージョン』×2 『魂吸収』

手札0(マルコ) 手札5(沢渡)

 

マルコのターンが終了する。場に出揃ったのは融合とエクシーズ、2色のカード、マルコの切り札。

狂気の黒騎士と華麗なる白騎士、強力なモンスターを前に真澄がたじろぐ。削りきれないLP、何度も出現する大型モンスター。だけど諦めはしない。

 

諦めればそこで――強くなりたいと言う心は、死んでしまう――。

 

「――あ――」

 

小さな吐息が、呟きが溢れる。隣に立つコナミにしか聞こえない程の小さなそれ。自然と真澄の顔はコナミへと振り向く。

 

「……漸く見つけたか……俺好みの眼だ」

 

「どうしたんだい真澄ん?怖じ気づいたのかな?」

 

マルコの挑発が飛ぶ。しかし今の真澄にはそんなものは通じない。答えは出た、揺るぎない、これ以上無い答え。全てが分かった今では馬鹿馬鹿しいものだ。

だが頷けるものがある。確かに、自分は見失っていた。気づかせてくれたのはマルコだけではない、コナミも、あの沢渡もだ。

 

――お前はどうして、マルコに弟子入りした?――

 

最早、その紅玉の瞳に迷いは無い、あるのは確固たる決意。

 

「先生の目、くすんでるわ」

 

強くなりたいから。それが、答え。それを忘れ、今の実力に満足していたのだ。強くなったと勘違いして、胡座をかいていた。偽りの強さを振りかざし、強くなろうと努力する沢渡を馬鹿にしていた。本当に、馬鹿はどちらだと笑ってしまう。

 

もう1度戻ろう、初心に帰ろう、強さを求める、1人のデュエリストに。

 

「私の輝きを見せる!ドロー!」

 

「……ああ、やっぱりユーは、自慢の生徒だ」

 

マルコが蒼の眼を細める。柔らかく、優しい教師の眼、彼女の成長を誰よりも喜び、誇る。

 

「私は!魔法カード『ジェムナイト・フュージョン』を発動!『ジェムナイト・クリスタ』、『ジェムナイト・サフィア』、『ジェムナイト・アンバー』の3体で融合!光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!融合召喚!」

 

真澄の背後に渦が広がり、その中心へと『ジェムナイト・クリスタ』が立つ。

水晶の戦士の両隣に立つは蒼玉の戦士と琥珀の戦士。いや、それだけではない、『ジェムナイト・クリスタ』の周囲に宝石の騎士達が次々と並んでいく。眩き輝きがフィールドを照らす。

『ジェムナイト』の力が、絆が、1人の聖騎士を生み出す。

 

2本の角を持つ鉄仮面、胸、拳、随所で輝くダイヤモンド、頑強な鎧、背に伸びたマント、そしてその手に持つは赤や青、黄色、様々な色彩を放つ核石が埋め込まれたダイヤの大剣。

 

「現れよ!全てを照らす至上の輝き!『ジェムナイトマスター・ダイヤ』!!」

 

ジェムナイトマスター・ダイヤ 攻撃力2900→3500

 

聖騎士の身体が七色の輝きを見せる。最強の『ジェムナイト』であるブリリアント・ダイヤにも劣らぬ光、真澄の切り札がその雄々しき姿を誇る。

 

「バトルよ!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』で『暗遷士カンゴルゴーム』を攻撃!」

 

『ジェムナイトマスター・ダイヤ』が『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の背に跨がる。あれ程粗暴だった竜も空気を読んだのだろう、不満そうに喉を鳴らすだけで振り落とそうとはせず、騎士を背に乗せ、フィールドを駆ける。

『ジェムナイトマスター・ダイヤ』が見据えるのは結束の力を失い、暴れ狂うだけと化した黒騎士。未来の自分。

鉄仮面の奥の瞳が決意に揺れる。自分だからこそ許せない、容赦は無用、その意志を汲み取り、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』が背の黄金の剣を振るう。

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3700→3350

 

「『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の効果!『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』を破壊!」

 

先程自分を破壊したブリリアント・ダイヤに何か思う所があるのだろう、赤の眼光を白騎士に向け、竜が吠える。次の瞬間、背に跨がった『ジェムナイトマスター・ダイヤ』が竜の背より伸びた剣を引き抜き、『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』へと振るう。

 

ガキィィィィィンッ!甲高い音が辺りに響き渡る。激しい鍔迫り合い、剣戟が紡がれる。技術は互角、しかし手に持つ武器は違う、ブリリアント・ダイヤの白刃がひび割れ、金色の牙がダイヤモンドをも食らう。

 

「これでとどめです!『ジェムナイトマスター・ダイヤ』で攻撃!」

 

ダイヤの大剣と黄金の剣が合わさり、巨大な光の剣が眩き輝きを放つ。神々しいとも言える程の刃、このデュエル、最後の一撃が今、振るわれる。

 

「ああ、チクショウ、こんなに早く越えられるとはねぇ……嬉しいけど、悔しいよ」

 

「認めねぇ……、認めねぇぞ赤帽子!次は絶対勝ってやる!覚えてろよこのやろぉ!」

 

口元に弧を描き、笑みを浮かべるマルコ。その表情は悔し気ではあるが、納得をしている顔だ。彼とは逆に、顔を歪め、憎々し気に吠える沢渡。

彼はまだ上を目指すつもりなのだろう、コナミは彼に対し、グッと親指を立て、何時でもかかって来いと言わんばかりの闘志を剥き出しにする。

 

かくして――デュエルは決着する、それぞれの胸にあるものは――更なる高みへの意志。

 

マルコ&沢渡 シンゴ LP3350→0

 

デュエル終了のブザーが鳴り響く。結果はコナミ達の勝利、これで残るは後3勝。漸く半分、胸に確かな手応えを感じるコナミへと真澄が近づく。

 

「……その……ありがと、コナミ。助かったわ、貴方の言葉で目が覚めた。……言っとくけどちょっとだけだからね!ちょっとだけ感謝してる!」

 

そわそわと落ち着きなく目を泳がせ、照れながらも感謝の意を述べ、そっぽを向く真澄。素直ではない彼女の反応にコナミが困惑し、ずいっと近づき、真澄の瞳を覗き込む。

 

「?お前……また目がくすんでるぞ」

 

「近っ!近いってば!くすんでないわよバーカ!バーカ!」

 

「くすんでるぞ。明らかに先のお前の目の方が綺麗で俺好みだった」

 

「ぬぁっ!?~~~うっあ、ひぃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

ドン、と力強くコナミを突き飛ばしそそくさと風のように去っていく真澄。耳まで真っ赤にして、目をぐるぐると回す彼女にマルコが声をかける。

 

「真澄ん、良かったらこれ」

 

「えっあ、うう?『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』!?良いんですか!?」

 

差し出されたのはマルコの切り札の1枚『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』。いきなりそのカードを渡された事により、顔から赤みが引き、またもや困惑する。

 

「うん、君の更なる成長を願って……ああ、後これ、マラカイト」

 

ガサゴソとポケットから緑色に光る小さな宝石を真澄の手に持たせるマルコ。マラカイト、孔雀の羽の模様にも似ている為、孔雀石とも呼ばれるそれ。

何故マラカイト?と疑問を覚える真澄だが、流石は宝石商の娘、瞬時に理解し、ハッと目を見開く。

 

「ちがっ、違います!先生の目くすんでますぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

再び顔を赤くし、駆けていく真澄。それを茫然と眺めるコナミ達であったが、コナミはそんな場合では無かった。

 

「いたぞ!赤帽子だ!捕らえろぉぉぉぉ!」

 

「やべっ」

 

ぞろぞろとデュエルコートに集まる警備員達に小さく舌打ちをし、コナミが逃げる。その速さは、真澄のそれに劣らなかった。

 

――――――

 

「コロンビア!!」

 

ガッ、と両腕を天高く上げ、遊矢が叫び、正解音が響く。同時にフィールドに顕現した『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』がブレスを放つ。圧倒的な力の奔流、効果により5000まで膨れ上がったダメージが九庵堂を貫く。

 

九庵堂 栄太 LP4500→0

 

「フッ、僕の負けか……覚えてろよ遊矢君。これで勝ったと思ったら大間違いだぁ!」

 

強烈な顔芸と共に不吉な事を言い残し、九庵堂が倒れ伏す。遊矢の額に汗が伝うが、気にしない、気にしないったら気にしないのだ。今は勝利を喜ぼう、そう、遊矢が思った時。

 

「遊矢」

 

彼の背後にセレナが現れる。勝利した事を喜んでくれるのか、と思うも様子がおかしい。肩が小刻みに震え、ゆらりと頭の後ろで結われたポニーテールが揺れる。

瞬時に遊矢は理解する。あ、これ柚子が怒る時と似ている、と。

 

「問題を間違い過ぎだ!来い!私が叩き直す!勉強会を開く!」

 

「キッ、キー!」

 

強引に遊矢の襟首を掴み、ズルズルと引きずるセレナ。まだ闘いは終わってなかった。むしろここからが本番、お楽しみなど欠片もないが。

 

「また来てねークイーン」

 

「何時でも歓迎しますよー」

 

「うむっ!」

 

何時の間にかクイズサークルの女王と化したセレナに手を振る明晰塾の一堂。しかし遊矢の耳にはそんな事は入ってこない。

ふと、顔を上げると九庵堂の顔が目に止まる。ニヤニヤと得意気な笑顔で彼はやれやれと頭を左右に振り。

 

「悔しいでしょうねぇ」

 

「うるさいよ!」

 

遊矢は泣いた。




ヒロイン(失笑)爆誕。
最近忙しくて次週の更新は休むかも、もしそうなったらすいません。
後次回の番外編はシンジの予定でしたが変更します。楽しみにしていた人は申し訳ないです。


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番外編3 遊戯王5D's 俺好みの味

久し振りの更新。思いっきり思いつきのネタ、何時もよりキレが悪いかも知れない。
やっぱり本家は凄いと思いました(小並み感)



20XX年、シティはモーメントの暴走に包まれた!!

人々はトップスとサテライトに別れ、サテライトのクズ野郎は絶望したかに見えた……。

だが意外と元気だったし、現代の若者に心配されるバイタリティに満ち溢れまくっていた。特に満足同盟とか。

サテライトには便利なものは少なかったけど、大丈夫だった。主に満足同盟が。

カードは貴重で、拾ったものでデッキを組んでるけど、仕方がないので頑張ります。

 

――――――

 

「デュエルだ。プラシド!」

 

「フハハハハ!良いだろう不動 遊星!虫ケラの分際で俺に勝負を挑んだ事、後悔するが良いわ!」

 

ネオドミノシティ、ハイウェイ。スピードワールド2の発動によりレーンが変更されたそこで2人の青年がデュエルを行っていた。

 

1人は赤いヘルメットを被り、紅白のD-ホイールを飛ばしているD-ホイーラー。不動 遊星。この街の英雄にして現キングの称号を持ち、赤き竜の痣を右腕に宿したシグナーの1人である。

もう1人はどう言う訳か胴体とD-ホイールがドッキングしている銀髪の青年。イリアステルの三皇帝、プラシド。

D-ホイールと合体して何が変わったの?と聞かれても分からない。強いて言うなら突然蜂の踊りについて語りだす辺り、豆知識的な何かが増えるのかもしれない。後、妙にテンションがウザくなる。

 

互いのマシンを駆けさせ、対峙する2人。遊星の背後には戦闘機のような白き竜、アクセルシンクロモンスター、『シューティングスター・ドラゴン』が。

プラシドの背後には純白のボディを輝かせる巨大な合体ロボ『機皇帝ワイゼル∞』が火花を散らしている。

 

「スターダスト・ミラージュ!」

 

遊星が指示を飛ばすと同時に背後の竜が5体に分身し、様々な色彩を放ちながらプラシドのモンスター、ワイゼルへと突撃し、破壊による衝撃がプラシドの身体を貫く。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

5回もの連続攻撃を受け、プラシドの上半身がもげかける。だが、プラシドは何を思ったかおもむろに絆創膏を取り出し、もげかけた上半身と下半身を繋ぎ止める。

 

「これで大丈夫!みたいな!?」

 

「何!?」

 

何が大丈夫なのだろうか?プラシドはニィッ、と口の端を歪め、愉快気な笑みを遊星へと向ける。プラシドの突然の奇行に驚愕する遊星。

絆創膏を貼った胴体がガタガタギィギィと悲鳴を上げているのはご愛嬌である。

 

「ここで絆創膏!?未来のテクノロジーとか、もっとあったんじゃないのかプラシド!?」

 

「遊星、もういいからとどめを刺すのよー!!」

 

彼等の闘いを見守っていた兄妹、龍亜と龍可が叫ぶと共にプラシドの哄笑がハイウェイに響き渡る。

許して欲しい、彼は不器用なのだ。

 

「フハハハハー!今度はこちらの番だ。不動 遊星!俺は『スクラップ・コング』を召喚!」

 

「!?」

 

「ウホッ」と鳴き声を上げて、現れたのは廃棄物で作られたゴリラ。登場時、散々ネタにされ、今でもネタにされるカードである。だが、問題はそこではない。

重要なのは、プラシドが機皇帝以外のモンスターを使い、そのモンスターが自壊に関する効果を持つ事。ゴリラの登場にまさか、と遊星は眼を見開く。

 

「あいつ……まさか、OCG版のワイゼルを使う気じゃ……!?」

 

「買ったの!?ジャンプを買ったの!?」

 

「フハハハハ!俺はVジャン派だ!一応、その号は3冊押さえたがな!罠発動!『エンペラー・オーダー』!『カゲトカゲ』!効果を無効にゴリラの宝札!」

 

「ネタを潰しやがったぜアイツ!」

 

「ええ、そして自分と関係無いネタをやり出したわ!」

 

まさかの展開に戦慄する龍亜と龍可。対するプラシドは「フハハハハー!」と顔を抑えて、してやったりと哄笑を上げる。胴体がギィギィと悲鳴を上げているが大丈夫なのだろうか?

 

「ククク、まだまだお楽しみはこれからだよ遊星、ん?」

 

「どう言う事だ、プラシド!」

 

口元を歪め、遊星へと不敵な笑みを向けるプラシド。その絶妙に神経を逆撫でする態度に堪らず叫ぶ遊星。しかし、プラシドは全く悪びれずに左腕を天高く掲げる。

 

「俺は『二重召喚』を発動し、2体目のゴリラを召喚!ゴリラの宝札!そして2体のゴリラでオーバーレイッ!」

 

「!?」

 

プラシドの背後に黒き渦が巻き起こり、2体のゴリラが「ウホッ」と鳴き声を上げて吸収される。続いて現れたるは、この世界には決して存在しえないモンスター。

 

「エクシーズ召喚!現れよNo.39!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!光の使者、希望皇ホープ!」

 

白き塔が立ち、カタカタと音を立てて変形し、戦士の姿へとなる。腰に携えた2刀、黄金の鎧、純白の翼、右肩に輝く、39の紋章、皇は今、顕現した。

 

「いやそれ、お前が一番使っちゃいけないカードだろ!?」

 

「こっちもクェーサーを立てるのよ遊星ぇー!」

 

やりたい放題の皇帝に思わず罵声を浴びせる龍亜と龍可。一体、どうしてこの面倒臭い男が絶望したのか気になる所である。

 

「神宣で」

 

「えっ……えっ?」

 

無情にも、遊星の場に伏せられていたカードが裏返る。それによってホープが雷に打たれ、破壊される。崩れ落ちるホープを横目に呆然とするプラシド。間抜け面を晒す彼を何時も通りの平坦な表情を保ち、無言を続ける遊星。ガチなやつである。

 

「……おこなの?」

 

その顔から感情を無くし、間の抜けた表情で遊星に問い掛けるプラシド。答えは返ってこない、激おこである。その証明として、次のターン、プラシドはクェーサー2体を立てられ、シューティングスターと共に怒涛の9連打を受けたのだった。

 

――――――

 

「これよりダークシグナー会議を始めたいと思います。進行は私、ディマクが勤めます」

 

篝火のみが照らす暗き部屋、長いテーブルに肘をつき、黒き外套を纏った7人のデュエリストが椅子に腰掛けていた。その中の1人、黄色の紋様が外套を走り、フードの奥から覗く褐色の肌が特徴的な男。ディマクが進行役として立ち上がる。

 

「ぬぅ……鬼柳はどうした?」

 

テーブルの最奥で、赤い紋様が走った外套の男が、重々しい声音で、空席となった椅子を見詰める。

 

「また奴は不在か!?ルドガー兄さん!いい加減、説得に迎いましょう!」

 

「落ち着けレクス!奴は今、自分自身のキャラの方向性を探っている中なのだ!もう少し様子を見るべきだ!」

 

「そんな転校生みたいなかんじっ!?」

 

7人の中でただ1人、外套を纏っておらず、いや、上半身に衣服を身につけてすらいない、銀の長髪を流した筋肉質な男。レクス・ゴドウィンがその表情を怒りに染め立ち上がる。

しかし、赤き紋様の男、兄であるルドガーによってそれを制される。

 

そんな彼等を遠巻きに観察しながら隣り合った緑とオレンジの線が縁取られたフードを被った女性、ミスティとカーリーが言葉を交わす。

 

「……ねぇ、ミスティ」

 

「何かしらカーリー」

 

チラリ、とミスティ、いや、ミスティの隣で1枚のカードを手に取り、ブツブツと呟く紫のフードの巨漢を半眼で一瞥した後、溜め息を吐くカーリー。

 

「どうしてこう……ここの男ってムキムキムキムキ……濃い奴等ばかりなのかしら」

 

「頭にいく栄養が全部筋肉になってるんじゃない?」

 

酷い言い様である。もう少しオブラートに包む気は無かったのか。カーリーも成程と頷いて良いのだろうか?割りと大きな声で話し込んでいる為か、レクスとルドガー、ディマクは汗を垂らし苦い顔をしている。しかしミスティの隣の筋肉は聞こえて無かったのか、先程同様1枚のカードを見詰めている。

 

「『ダーク・ダイブ・ボンバー』……何故こんな効果に……」

 

そのカードは昔、鬼畜な効果を持つ猫と共に猛威を振るったシンクロモンスター。しかし現在エラッタされ、禁止カードから無制限へと一気に釈放されたが。

要するにこの男、ボマーは弱体化された自身のカードである『ダーク・ダイブ・ボンバー』に不満があるのだ。我慢して欲しい。

 

そんな混沌とする中、部屋のドアが破られ、1人の男が侵入する。

左眼を冷たい金属で隠した銀髪の青年。一風変わった服装に身を包んだ彼は吊りがちな赤い眼で部屋中を見渡した後、顔に手を当て、高らかに笑い声を上げる。

 

「フハハハハ!虫ケラの皆さん、こんにちは!羽虫共がお揃いで何をしているのかな?ん?」

 

ドカドカと音を立てて歩み、これまた大きな音を立て椅子に座る皇帝プラシド。実に自分勝手に振る舞うプラシドを見て頭を抑えるダークシグナー達。

 

(((((また面倒な奴が来た……)))))

 

そう考えるのも無理は無いだろう。実際このドヤ顔をしているプラシド、拗らせた男子中学生並みに相手をするのが面倒臭い。とても面倒臭い。

ダークシグナー達も苦虫を噛み潰した表情でプラシドを睨んでいる。本人は意に介さずに「フハハハハー!」と笑っているが。

 

「あの……プラシド……さん?何の御用で?」

 

満を持してディマクがプラシドへと声を掛ける。その顔は実に困惑しており、嫌々と言った様子である。

 

「ん」

 

「……は?」

 

ディマクの質問に短い言葉で答えるプラシド。いや、答えにもなっていないそれにディマクも眉をひそめる。眉は無いが。

 

「ん、茶はまだかな?」

 

「兄さん、塩はどこだ!」

 

「落ち着けレクス!適当に相手して早めに帰らせるのだ!」

 

早く早くと机を叩き、茶を要求するプラシドの態度が癪に触ったのか、レクスが額に青筋を浮かべ、ルドガーへと振り返る。しかし塩を撒けばかえって面倒な事になりかねないと察したのだろう。ならば適当に相手をして満足させようとルドガーはレクスを制する。

 

「フフフ……」

 

「ッ!?何がおかしい!プラシド!」

 

彼等のやり取りを見ていたプラシドが笑みを溢す。その不気味な笑いに怒りを覚えたレクスはプラシドを指差し問い詰める。

しかし、プラシドは余裕のある表情を見せながらディマクの出した麦茶を受け取り、一口飲んだ後、その鋭い視線をレクスへと向ける。炎のように赤い眼に思わず怯むレクス。それを見てか、更にプラシドが笑みを深める。

 

「フフッ、裸……なんで上半身裸なの貴様……寒くないかそれ」

 

「ぐぅっ!!」

 

「待てレクス!それは私も思っていた!」

 

顔に手を当て哄笑するプラシド。これは仕方無いと言えよう。むしろ上半身裸の筋肉質な男を見て何かを心配しない方がおかしい。兄であるルドガーでさえ心配する始末である。

 

「後、ここにはロン毛しかいないのか?そこの黄色いのもハゲだし」

 

「ぬふぅ!?」

 

んん?とドヤ顔を見せるプラシド。一体ロン毛に何の恨みがあるのか、そしてハゲに至っては未来の自分を見て言って欲しい。壮大なブーメランである。

と、そんなアホなやり取りをしている内にプラシドが1人の人物に目をつける。真っ黒、何色の線も描かれていない無地のフードを被った、この中では背の低い、細身の人物。一言も言葉を発していない人物を見てプラシドが眉をひそめる。

 

「ところで……そこの虫ケラは何だ?ダークシグナーは全員で7人、青い虫ケラとも違うようだが?」

 

「ふっ、その男は私が連れて来たのでございますよ」

 

プラシドの質問に答えたのはディマクだ。彼は口元を持ち上げ、不敵な笑みを見せる。

 

「ボマーでは山のフドウ的なポジションにはなれなかったのでね、ポジション的にはぴったりの人物を探したのですよ」

 

「この虫ケラが山のフドウ?バカな、貴様よりも背の低い、筋肉質でもない男が?やはりハゲか」

 

またもやブーメランを投げるプラシドに対し、頬を引き吊らせるディマク。咳払いを一つし、気を取り直し、謎の人物へ視線を移す。

 

「さぁ、紹介してやれ!お前の正体を!」

 

口元に三日月のような弧を描くディマク。同時に男は立ち上がり、自らの被った外套を脱ぎ捨てる。バサリ、音を立てて宙を舞う外套、その先に待っていたのは予想外の人物。

 

その男は猛禽類を思わせる眼をカッ!と見開き、今まで閉ざしていた口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瑠璃ィィィィィィィィィィィィ!!!」

 

「貴様、本気か!?」

 

黒咲だった。プラシドが動揺するのも無理は無い。ホープを使用した彼に怒る権利は無いが。しかしARC-Vでもないのにシリーズを超えてのキャラの使用と言う暴挙にディマク以外のダークシグナーが憤慨する。連れて来た理由もどうでも良いものだから当然か。

 

「ディマク!流石にこれは私もどうかと思うぞ!?と言うか黒咲!お前も納得したのか!?」

 

「瑠璃!」

 

「ダメです兄さん!話が通じない!」

 

「くそぅ、ディマク。余計な者を連れて来おって……何とかしろ!」

 

「まさかこんなに批評を買うとは……この猿のディマクの目を持ってしても見抜けなかった……」

 

「ハゲのディマクに改名したらどうかしら?」

 

瑠璃、瑠璃、としか発しない黒咲を見てディマクを罵倒するルドガー。しかし当のディマクは妙に気取った態度で責任を逃れようとしている。そんな彼にミスティが厳しい一言を投げるのも無理は無いだろう。グサリ、と矢のような一言に崩れ落ちるディマク。

混沌とする場、そんな中、プラシドが「とうっ!」と声を上げ、宙に身を投げ出し、自らのD-ホイールとドッキングする。

 

「フハハハハ!青天につき、ツーリング日和だな!」

 

「クソッ!奴め、場を乱すだけ乱しておいてトンズラし始めたぞ!」

 

「何しに来たんだ、あいつは!?」

 

ニヤリ、と笑みを浮かべその場から消えるプラシド。そしてそんな彼に悪態をつくゴドウィン兄弟。瑠璃、瑠璃と叫ぶ黒咲。プラシドのせいでカオスに陥れられるダークシグナー達であった。

 

――――――

 

「うん?」

 

時は過ぎ、サテライトのある一角、雲が空を覆い、暗くなった広場で1人の男と2人の男が向かい合い、対峙していた。2人の男の方は先程の会議に出席していた蜘蛛の地縛神、Uruを使役するルドガー・ゴドウィン。そしてもう1人は最じゃ、最強の地縛神、WiraqochaRascaを持つ半裸、レクス・ゴドウィン。

 

ダークシグナーの中でも優れた力を持つ彼等が態々足を運んだのには理由がある。そう、彼等と向き合う男、鬼柳 京介を説得する事である。

 

「だから何度も言っているだろう!貴様が『満足』と言う唯一のキャラクター性を持つ以上、欠席して満足しようとしないのはマズイ!」

 

「欠席して満足?」

 

「そんなんで満足されてたまるか!お前はハイテンションキャラだろう!少しは出席して場を盛り上げようとは思わんのか!?」

 

「誰かの為の満足なんて満足じゃないぜ!」

 

「それこそ自己満足だろう!!」

 

話が通じない。ディマクがアホな事を仕出かした以上、鬼柳 京介と言う強力な戦力を何とかものにしようとする2人だが、流石は遊星とカップルの喧嘩のようなやり取りを繰り広げた男。

こちらの話を全く受け入れない。このままではまたプラシドが来訪した時に互角に渡り合う人物がいないではないか。この状況を何とかしようとルドガーが1人の男を呼び出す。

 

「貴様が出席しないと言うなら、こちらにも考えがある!来い!」

 

ザッ、と土を鳴らし、1人の男が姿を現す。青みがかった白い髪、頭に巻かれた紫のバンダナ、手に着用された黒の穴空きグローブ、そして、その身に纏ったノースリーブのジャケット、通称、満足ジャケット。

 

「サティスファークショーン」

 

「見よ!満足時代のお前を!」

 

チームサティスファクション時代の鬼柳だった。彼はドヤ顔で鬼柳(ダークシグナー)へとデュエルディスクを構え、ニタニタと笑っている。と言うかどこから連れて来た。

 

「エメループ?アイドラループ?トリシューラループ!」

 

嫌な鳴き声(?)である。彼の満足に満ち溢れた眼や仕草を見て、ダークシグナーである鬼柳は警戒に目を光らせるのであった。

 

「いいぞ鬼柳!鬼柳はビビって何も言えないようだ!」

 

「兄さん!今の鬼柳って、どっちの鬼柳!?」

 

「そりゃお前、レクス、サティスファクションの方の鬼柳……ん?んっ?」

 

「ん?」

 

続かない。

 

 

 

 

 

 

 

 




赤帽子のお師様「出番まだかな……?」

極神聖帝「出番まだかな……?」


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第25話 ユーゴじゃねぇ!融合だ!

何か早めに書き上げた。本当、暗次とセレナちゃんを書くのが楽しい。


河川敷沿いに位置する独創的な建物、遊勝塾。少女はその入り口前の柱から顔を覗かせていた。

濡羽色の長髪、健康的な褐色の肌、それを隠すように動きやすさを重視した衣を纏い、腰にはデッキケースを付属したベルトを巻いている。特徴的な紅玉の瞳を不安そうに忙しなく動かし、耳につけたマラカイトのイヤリングに触れる姿は小動物のようだ。

重大な決心をしたのか、目をキッ、と吊り上げ、何度目か分からない深呼吸をしようと息を大きく吸い込み。

 

「……何やってんだ?真澄?」

 

「ぶふぉぉっ!?」

 

盛大にむせた。

 

「くぅっ、く……や、刃?なな何であんたがここに?」

 

ゆっくりと息を整え、背後から声を掛けてきた少年へと振り向く真澄。その額には汗が滲んでおり、顔には若干の赤みが差している。

対する少年、刃はトレーニングの後なのか、権現坂を連れており、2人共肩にタオルを掛けている。意外な人物を意外な場所で発見した為か、刃と権現坂は目を丸くし、パチクリと瞬かせる。

 

「何でって……そりゃこっちの台詞だぜ?俺達は休憩がてら寄っただけだ」

 

「だから!何であんたが遊勝塾で休憩するのよ!後ろの奴も敵でしょ!?」

 

刃の何気無く放った返事に質問を繰り返す真澄。普段の冷静さを失っているのか、自分にも当てはまる事を言っているが大丈夫なのだろうか?

 

「いや、それお前にも当てはまるんじゃね?俺は権現坂の師匠みたいなもんだし、ここのコナミ達とは友達だしな。今更敵とかねぇよ」

 

軽く真澄にツッコミを入れながらも答える刃。後ろに立つ権現坂も「うむ、うむ」と頷いている。しかし何がショックだったのか、雷が走ったように目を大きく見開き、その場に崩れ落ち、膝をつく真澄。

ただならぬ様子に焦りを覚えた刃と権現坂は慌てて真澄へと近寄る。

 

「だっ、大丈夫か光津!?どこか具合が悪いのか!?」

 

「……ち……じゃない……」

 

「うん?」

 

蚊の鳴くような声で小さく呟く真澄に対し、刃は眉を寄せながら耳に手を当てて真澄の様子を見る。

しかし、次の瞬間、真澄はガッ、と力強く刃の肩を掴み、爪を食い込ませ、必死の形相で叫ぶ。

 

「あんたコナミの友達なの!?私、友達じゃない!!ズルい!!」

 

「……え、ええー……?」

 

戸惑い、口元をひくひくと動かす刃の肩をガクガクと揺すり、「ズルい、ズルい!」とまるで駄々をこねる子供のように何度も叫ぶ真澄。

長い事友達をやっているが、彼女のこんな姿は見た事が無く、どうしたら良いのかと、うーんと唸るフォローの刃。フォローに長けている事で有名な彼でも分からないようだ。

権現坂はと言うと、真澄の余りにも必死の形相に「う、うぅむ……」と若干引いている。

 

そして、そんな彼等へと自動ドアを開き、現れる者が2人。

 

「フッ……何やらお困りのようだな刃!」

 

「また面倒なのが来やがった……!」

 

ドアに背を預け、こちらを呼び掛けるのは緑の髪をバンドで纏め、鼻に絆創膏、耳にピアスをつけた少年、コナミの子分であり、刃の親友でもある黒門 暗次だ。

学校帰りなのか何時もの黒い道着では無く、舞網第3中のものである学ランを着用しており、その下には迷彩柄のシャツを着ている。

何故か頭に瘤を作り、ドヤ顔を見せつける彼の背後では顔色の悪い茶髪の少女、同じくコナミの子分兼、刃の親友である光焔 ねねが黒いセーラー服と丈の長いスカートを履いて苦笑いしている。

 

「……悪いけど困ってるからこそ、お前には引っ込んでて欲しいんだけど。つーか何でお前ここに?コナミは?」

 

眉間を手でこねながら暗次を面倒臭そうなものを見るかの如く冷たい態度を取る刃。親友にしては余りにも突き放した態度だが、実際面倒なのだから仕方無い。大体兄貴分であるコナミのせいである。

それにこのようなやり取りが出来るからこそ親友なのだ。その証拠に暗次は気にした素振りを一つも見せず、フッ、と彼らしく無く気障に笑い。

 

「兄貴なら素良先輩と柚子の姉御、アユ先輩と一緒に特訓だ!因みに俺は他塾の者だから覗くなって言われて覗こうとしたら門番のセレナにボコられたぜ!」

 

「何で誇らし気なんだテメェは!?」

 

胸を反り、ドヤァと笑みを深める暗次。そう、彼はセレナとのデュエルに敗れ、瘤を作ったのだ。強力な『暗黒界』使いである暗次だが打点を上げて物理で殴ってついでに殴る。と言ったセレナの単純且つ豪快な戦法を前にボコられたのだった。

 

「転校生の子にも負けちゃったし今日は良いとこ無しだねー」

 

「あれは良い所までいったと思うんだけどなー。次は負けねぇぜ!」

 

「かっとビングだぜ!」と満面の笑みで叫ぶ暗次と「あはは」と微笑むねね。頭が痛い、と言う様子で溜め息を吐く。

そんな彼等のやり取りを近くで見ていた真澄はきょとんとした顔で刃に向かって口を開く。

 

「刃、誰よこいつ等、知り合い?」

 

「ん、ああ、こいつ等は俺の親友で、男の方が黒門 暗次。女の方が光焔 ねね。何をどう間違えたのか、2人共コナミの子分になってる」

 

面倒臭そうに半眼で2人を紹介する刃と、元気一杯と言った様子で「よろしくね!!」と挨拶する暗次とねね。しかし何を思ったのか、2人の紹介を受けた真澄はハッ、と目を見開き、鬼気迫る表情でねねに詰め寄る。

 

「コナミの子分……くっ……!絶対負けないんだからねっ!」

 

ズビシ、と音がつきそうな位、勢い良く暗次達を指差す真澄。一体何が彼女をそうさせるのか、暴走する真澄の挑戦に目をパチクリと瞬かせる子分2人。

彼等の様子を見ていた刃は「ああ、またアホが増えるのか……」と眉根を下げ、腹部を抑える。そんな彼を心配そうに介抱する権現坂。

 

混沌とした状況で真澄は更なる行動へと移る為、凄まじいスピードで暗次とねねの間を駆け、遊勝塾へと足を踏み入れる。

 

「うおっ!?えっと……光津?一体何なんだ!?」

 

「え?あの人LDSの人じゃ!?」

 

「本当だ、でも刃兄ちゃんも良く来るし今更じゃね?」

 

「……それもそうか」

 

思わず声を上げる暗次に反応し、ソファで休憩していたタツヤとフトシが驚愕するも、直ぐに持ち直す。何だかんだで部外者が来訪する事に慣れてしまったのだ。子供の順応性と言うのは目を見張るものがある。

一方、真澄はと言うと彼等に反応すらも見せずに真っ直ぐに突き進み、遊勝塾のデュエルフィールドへと通じるドアの前で急ブレーキする。

 

目の前に立ち塞がるは、1人の少女。紫色の髪を黄色のリボンで結び、ジャケットとスカートをベルトで止め、肩に猿を乗せた彼女に真澄が一瞬の動揺を見せる。

 

「むっ、何だお前は、ここから先は誰1人通すなと柚子に言われているんだ。デュエルが終わるまで待っていろ」

 

「柊 柚子?中にいる筈じゃ……まぁ、今はそんな事どうでも良いわ!そこを退きなさい!」

 

「私はセレナだ!ここを通りたくば私をデュエルで倒せ!」

 

「キキー!」

 

鋭い視線を投げ掛け、息巻く真澄。柚子と間違えられた事により、セレナが怒りを見せ、ポニーテールを揺らし、SALと共に叫ぶ。正に一触即発。剣呑な空気に痺れを切らせたのか、真澄がデュエルディスクを取り出し、その左腕に嵌め、前へ突き出すように構える。

 

「退いて、コナミと友達になれない」

 

「?知った事か、私はただ、ここを守るだけだ!」

 

真剣な表情で光のプレートを出現させる真澄に対し、闘争心が刺激されたのか、笑みを深めるセレナ。斯くして、決闘の火蓋は切って下ろされる。

 

「「デュエル!!」」

 

その内容が重要な事なのかは、本人達にしか分からないが。

 

――――――

 

「んー?何だか外が騒がしいねぇ」

 

場所は少しばかり変わり、扉の先のデュエルフィールド。水色の髪を後頭部で一括りにした少年、紫雲院 素良は闘いが起こっている扉の先を半眼で見つめている。その口元には彼の好物であるキャンディーがくわえられており、先についた棒がピョコピョコと上下に動いている。

 

「……デュエルの匂いがするな」

 

素良に答える形で言葉を紡いだのは遊勝塾1の問題児、コナミである。彼はトレードマークである赤帽子を深く被り直し、スンスンと鼻先で何か常人では分からないものを嗅いでいる。

相変わらず奇妙な事を言う彼に対し、呆れた顔を見せる素良。まぁ、いいや。と何時も通りの事だと判断し、改めて今回の対戦相手となる2人を見据える。

 

視線の先には2人の少女。ピンク色のツインテールを揺らす、制服を纏った柚子とジュニアコースで学ぶアユだ。女の子同志と言う事もあってか、2人は姉妹のように仲が良い。今現在も楽しそうに談笑している。

 

「じゃあ、そろそろ始めよっか。準備は良い?柚子、アユ」

 

「オレは何時でも構わんぞ」

 

「君には聞いてないよ……」

 

柚子とアユに対し放った質問に隣に立つコナミがやる気満々、も言った様子で答える。どうしてこう、口数は少ないのにデュエルバカなのか、扉を守る少女のように、ふんすと鼻息の荒いパートナーに口をヘの字にして呆れ返る素良。こんな相棒で大丈夫か?と一抹の不安を覚えながらももう1度デュエルの説明を行う。

 

「いいかい、こーはい君。今回のデュエルは柚子に『融合』を教えるのが目的なんだ。君も融合モンスターしか使っちゃダメ、シンクロとエクシーズは封印。特にエクシーズは使っちゃダメだよ」

 

「マジか」

 

「マジだよ。ややこしい事したく無いしね。『融合』に集中して欲しいし」

 

口からキャンディーを離し、ゴリゴリと噛み砕く音と共にコナミをキャンディーで指す素良。それならば仕方無いか、と無理矢理納得するコナミ。

ホープやスターダストと使い勝手の良いカードが使用できないのは痛いが、世話になっている柚子の為だ。本来なら素良の相方はセレナやねねのような生粋の融合使いが好ましいのだろうが、彼女等は遊勝塾の塾生ではない。

 

それに素良に頼まれたのだ。「君の力が見てみたい」と、上目遣いでキラキラと目を輝かされたら流石のコナミも「おk」と即答する他ないだろう。訂正、誰に対しても、どんな頼みだろうと了承していた。

 

「こっちは準備OKだよー!」

 

2人が話し込んでいる内に対面で立つアユが頭の上で丸を作る。何故彼女が柚子のパートナーになったのか、と言うのは遊勝塾の塾生であり、柚子と相性が良いと言う所か。

遊矢は4連戦の為、不在である事も要因だ。アクションフィールドもジュニア用に設定してある。

ただ、ジュニアクラスと思って侮るなかれ、彼女を含め、ジュニア組はコナミやセレナによる教育により、腕を磨き、油断できない力を持っている。意外にも、セレナには教育者の才能があったと言う事か。ただ、遊矢に対してはスパルタである。

 

「よし!じゃあ始めよう!戦いの殿堂に集いしデュエリエト達が!」

 

アユの返事に素良が頷き返し、再びキャンディーを口に含み、口上を叫ぶ素良。遊勝塾の生徒の為か、随分とエンタメに積極的だ。ウインクを飛ばし、デュエルディスクを構える。

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

 

素良の台詞を紡いだのは柚子だ。特徴的なピンクのツインテールを揺らし、踊るように身体を動かす。

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

更に口上を放ったのはコナミだ。帽子のつばを抑え、赤いジャケットをはためかせ、嬉々としてデュエルへ臨む。もう5度目となるアクションデュエルだ。口上にも慣れたものだ。

 

「見よ、これぞデュエルの最終進化形!」

 

最後に声を張り上げたのはアユだ。彼女の言葉と共にフィールドを光り、その姿を大きく変えていく。

 

「「「「アクショーン!!」」」」

 

空よりは雨が降り注ぎ、地よりはぼうぼうとアユの背丈程はある草が生い茂る。アクションフィールド『湿地草原』。水族、水属性のレベル2以下のモンスターの攻撃力を1200と大幅にアップする強力なフィールドだ。低レベルである『ガエル』デッキではその真価を発揮する。――他にもアユのデッキには相性が良いか。何にせよ、今回のデュエルもそう簡単にはいかないか。とコナミは気を引き締める。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

コナミは期待を、闘争心を胸に抱きながら光のプレートを出現させる。ランプが指し示したのは素良だ。淡い光が灯ると共に素良はディスクに設置されたデッキより5枚のカードをドローする。

 

「さぁて、僕のターンだ!まずはお手本を見せて上げるよ!手札から『ファーニマル・オウル』を召喚するよ!」

 

ファーニマル・オウル 攻撃力1000

 

ポン、と小さな爆発を起こし、パタパタと翼を動かし、鼻眼鏡をつけた可愛らしい小さな梟が姿を見せる。そのぬいぐるみの愛らしい姿にコナミが「おお」と言葉を漏らす。……コナミは素良の持つ『ファーニマル』について良く知らない為か、これから起こるファンサービスなど想像も出来ないだろう。

世の中には知らない方が幸せな事もあると言う事か。梟は素良の周りを一回転した後、その腕に止まり、コンコンとデュエルディスクをつつく。

 

「『ファーニマル・オウル』が手札から召喚された時、デッキから『融合』を手札に加えるよ!」

 

『ファーニマル・オウル』がその嘴で素良のデッキから1枚のカードを引き抜き、主へと渡す。随分と愛嬌のあるモンスターだ。融合使いにとってキーカードである『融合』をサーチする効果も心強い。

素良は早速、手札に加えた『融合』をデュエルディスクへと差し込む。

 

「お待ちかねの『融合』発動っ。手札の『エッジインプ・チェーン』と『ファーニマル・オウル』で融合!融合召喚!現れ出ちゃえ!全てを封じる鎖の獣、『デストーイ・チェーン・シープ』!」

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000

 

青き渦が巻き起こり、素良の手札よりジャラジャラと鎖を鳴らし、赤き双桙を光らせた悪魔が出現し、梟をズタズタに引き裂き、締め上げていく。やがてそこに現れたのは不気味に蠢く眼を飛び出させ、鎖で真綿を締め上げられた趣味の悪い羊。

可愛らしいぬいぐるみからの変貌に柚子とアユは顔を青くし、コナミも「お……おお……」としか言えない。

 

「『エッジインプ・チェーン』が手札、フィールドから墓地に送られた場合、デッキから『デストーイ』カードを手札に加えるよ。僕は『魔玩具融合』を手札に加えるよー」

 

次々とモンスターの効果を行い、手札の補強を行う素良。抜け目の無いプレイングにコナミがほう、と息をつく。

 

「どうかな柚子?ここまでのプレイングで気づいた事はないかな?」

 

キャンディーの棒をピコピコと上下に動かしながら柚子へと『融合』の事を教える為に質問を投げ掛ける素良。

対する柚子は?マークを頭に浮かべながらも素良の質問の意味を考え込む。

 

「……どうっ……て、『融合』を手札に加えて融合召喚……デッキからまた『融合』を……手札が減ってない……!?」

 

「正解!『融合』を使えばどうしてもカードの消費が多くなるんだ。それにキーカードである『融合』を手札に引き込まないと始まらないからね!サーチは元よりサルベージは大事だよ」

 

ピン、と人差し指を立て、説明する素良。その表情は真剣そのものだ。これこそが融合使いの悲しい運命だろう。

シンクロもエクシーズも、儀式も、そしてペンデュラムも、アドバンス召喚でさえ基本、2枚のカードが必要なのだ。特に『融合』ならば『融合』を内蔵したモンスターやデッキ融合で無い限り、正規『融合』ならば素材となるモンスター2体、『融合』魔法。計3枚のカードが必要なのだ。大型になれば3体以上にもなりかねない。つまる所、手札の消費が激しいのだ。

その為、折角出したモンスターがあっさりと除去されれば次のターンの動きも鈍くなってしまう。

それにその3枚が手札に揃ってなければ始まる事すら出来ない。カードの消費を抑え、新たなカードを呼び込む事、回収する事が重要なのだ。

 

「成程……ただ出せば良いって訳じゃないのね……」

 

「そうだね。ちょっと難しい所だね。僕はカードを2枚伏せてターンエンド!」

 

コナミ&紫雲院 素良 LP4000

フィールド『デストーイ・チェーン・シープ』(攻撃表示)

セット2

手札5(コナミ) 手札2(素良)

 

素良が盤石の布陣を敷き、柚子へとターンを渡す。今までにも素良に『融合』についての教導を受けてきたが、実戦で使用するのは初めてだ。上手くいくかは分からない。生唾を飲み込みながらも柚子は覚悟を決めドローする。

 

「私のターン!私は『幻奏の歌姫ソロ』を特殊召喚!このカードは相手フィールド上にだけモンスターが存在する時、手札から特殊召喚が出来る!」

 

幻奏の歌姫ソロ 攻撃力1600

 

「ラララ」と歌声を上げて登場したのは召喚条件の緩い、下級の天使族。このような特殊召喚の効果を持つカードはとても重宝される。

 

「更に私は、『幻奏の歌姫ソプラノ』を召喚!」

 

幻奏の歌姫ソプラノ 攻撃力1400

 

次なるモンスターは癖のある赤毛を揺らした歌姫。美しい音色が響き渡る中、柚子は次の布石を打つ。

 

「私は『幻奏の歌姫ソプラノ』の効果を発動!『幻奏』融合モンスターによって決められた、このカードを含む素材モンスターをフィールドから墓地に送り、融合召喚を行うわ!」

 

「へぇ、『融合』を内蔵したモンスターか……これなら確かに、カードの消費を押さえられるね」

 

単純ではあるが1枚の消費を押さえる効果に舌を巻く素良。弟子の成長を、自らの問題に対する答えに喜んでいるのか、どこかその顔は嬉しそうだ。

 

「天使の羽ばたきよ!天使の囀りよ!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台へ!『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400

 

柚子の初めての融合召喚が炸裂する。青き渦より大きな爆発のエフェクトがフィールドを包み込み、現れるのは山吹色の長髪を風に靡かせ、刃を持ったタクトを握り、黄金の仮面を被った音姫。

 

「や、やった……!成功した!」

 

初めて自分が行った融合召喚に高揚を隠せずに両手を合わせる柚子。その顔色は喜びに満ち溢れており、今にも感動の涙を流しそうだ。

 

「やったね柚子お姉ちゃん!これが柚子お姉ちゃんの融合モンスターかぁ……!綺麗だねぇ!」

 

まるで自分の事のように喜びの声を上げ、ぴょんぴょんと飛び跳ねるアユ。

 

「えっと……そろそろ良いかな?一応、デュエル中なんだけど」

 

頬をポリポリと掻き、苦笑いする素良。尤もである。コナミも早くデュエルの続きがしたいのか、何度も大きく頷いている。残像が作られる位に速い。必死か。

 

「ああっ!うん、ごめんなさい、続けましょう。マイスタリン・シューベルトの効果発動!素良の墓地の『ファーニマル・オウル』、『エッジインプ・チェーン』、『融合』を除外し、攻撃力を除外した数200アップするわ!」

 

「流石にマズイかな!罠発動!『融合準備』!エクストラデッキの『デストーイ・シザー・ベア』を公開して素材の『エッジインプ・シザー』をデッキから手札に加え、墓地の『融合』を手札に加える!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト攻撃力2400→2800

 

紫雲院 素良 手札2→4

 

「私はマイスタリン・シューベルトで攻撃!ウェーブ・オブ・ザ・グレイト!」

 

マイスタリン・シューベルトの持つタクトが振るわれ、音符が波打ち、チェーン・シープを破壊する。

 

コナミ&紫雲院 素良 LP4000→3200

 

「『デストーイ・チェーン・シープ』の効果!戦闘、効果で破壊された場合、特殊召喚する!」

 

しかし、これでは終わらない。チェーン・シープはズタズタに引き裂かれた自らの身体を縫合し、もう1度場へと復帰しようともがく。

 

「この効果で特殊召喚したチェーン・シープは攻撃力を800アップするよ」

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→2800

 

「アクションマジック!『セカンド・アタック』!マイスタリン・シューベルトはもう1度攻撃できる!追撃よ!」

 

「さらに!私がアクションマジック『エクストリーム・ソード』発動!これで柚子お姉ちゃんのモンスターの攻撃力は1000ポイントアップ!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2800→3800

 

2度目の刃が振るわれ、デストーイ・チェーン・シープが復活できぬ程にグズグズに引き裂かれる。破壊されれば1ターンに1度復活する為、ここで封じたのは大きい。何とも厄介な連携だ。

 

コナミ&紫雲院 素良 LP3200→2200

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド!」

 

柊 柚子&鮎川 アユ LP4000

フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)

セット2

手札2(柚子) 手札5(アユ)

 

ターンがコナミへと渡る。正直、コナミとしては意外であった。素良が強いデュエリストと言うのは自身の嗅覚で感じていたが、柚子がここまでとは思っても見なかったからだ。灯台もと暗し、と言う事か。それとも、隣の少年が育て上げたのか、どちらにしろ、予想以上に面白いデュエルになりそうだ。と口元に笑みを作り、大きくドローする。

 

「オレのターン……!」

 

コナミは知らない、このデュエルで、竜の鎖が一つ、外れる事を。新たな力が目覚めようとしている事を。そして――その竜は、別の場所でも喉を鳴らしていた――。

 

――――――

 

遊勝塾のデュエルフィールド。その光景を見張る者が1人。真っ白の外套に身を包み、何も描かれていない仮面を被った男。その仮面より覗く眼は紅く彩られ、蛇のように獲物を睨みつけるものだ。その視線の先には赤い帽子を被ったデュエリスト。そして仮面の男の手には1枚のカード。

 

「……ふぅん、彼がアムナエルの言っていた――」

 

ギラリ、男の仮面の奥に潜んだ瞳が輝く。それに呼応するかのように手元のカードが淡い輝きを見せる。

 

「……赤帽子。君の力は――」

 

世界を、変えられるのか――。

 

その呟きに込められていたのは――確かに、切望だった――。

 

 

 

 

 

 




NGシーン

素良「エクシーズだけは使うなよ?」

コナミ「了解!エクシーズ!」

素良「待てや」


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第26話 女ストロング

バレンタインの小ネタ

真澄「こっ、コナミこれ!チョコ!かか勘違いしないでよねっ!?義理チョコよ!義理チョコ!」

コナミ「む、ありがとう」トゥルン↑

真澄「……んん?今の音何?」

コナミ「?気のせいだろう?」

刃「おーい、コナミ!ちょっとパック買いすぎてさ、一個やるよ」

コナミ「ああ、ありがとう」トゥルルルン↑↑

真澄「刃ぁ!あんたには負けないわよ!!」

刃「えっ、何?何で俺お前に掴みかかられてんの?ちょっホントやめ!あっ、アッーーー!!!」


「……何で……?どうして、どうして諦めないのっ!?」

 

舞網市にある海野占い塾。占いの名を冠するだけあり、不気味な洋館のような見た目をした建物内にて、榊 遊矢は3連戦目のデュエルを行っていた。

相手はふわり、と柔らかい赤毛を揺らし、手に林檎の形を模した水晶を持った少女、方中ミエル。

2人のデュエルはミエルの思い通り、いや、ミエルの占い通りに運んでおり、遊矢の防戦一方、アクションカードにも恵まれない始末である。なのに、だと、言うのに。

 

「何で……笑ってるの!?」

 

ミエルの大きな目が見開かれる。そうだ、ミエルの言う通り、デュエルが上手くいかないのに、危険に晒されていると言うのに、彼の眼は決して光を失わず、その意志は全く折れない。

何故?どうして?彼が口元に浮かべる笑みに疑問が飛ぶ。その疑問に答えたのは無論、目の前のデュエリスト。榊 遊矢だ。

 

彼はニィッと口角を持ち上げ、デュエルディスクを構えたままミエルへと笑いかける。ボロボロの姿とは対照的に輝く笑顔。その笑顔を見たミエルは頬を赤らめ、息を詰まらせる。

 

「確かに……運命は決まっているのかもしれない。でもさ、俺は占い師じゃない。……デュエリストなんだ。君の占いは凄いよ……だけど、俺が信じるのは自分のデッキだ。自分自身だ!どんな逆境だろうと立ち向かうって思って作った俺のデッキなんだ!」

 

決して折れない、決して逃げない。胸に秘めたるはあの日の父の姿。――泣きたい時こそ笑え――。焼きついた言葉が遊矢の闘志に火を灯す。

心に刻んだのはライバルとの約束。――オレが一番楽しんでやる――。輝いた誓いが闘志を燃え上がらせる。

 

――いいや、楽しむのは――俺だ――!

 

「俺はエンタメデュエリストだ!まだデュエルは始まったばかり!運命の女神だって笑顔にして、華麗なる逆転劇をお見せしましょう!」

 

ビシリ、右手の人差し指がミエルへと向けられる。勝てないなんて諦めは、デュエルが終わってみないと分からない。分からないこそ、デュエルは楽しい。まるで幼子のような無邪気な笑顔を貼り付けて、未熟なエンタメデュエリストはその翼を広げる。

 

まだ小さな小さな、見えない程の翼。だけど彼は成長している。一歩ずつ、確実に。アクションフィールド『フォーチュン・テラー』の階段を上がっていく。コツ、コツ、と小さくも重々しい音が響く。

 

「ーっ!なら、ミエルが見せてあげる!運命には逆らえないって事を!」

 

迷いを振り払うかのように吠えるミエル。だが、言葉とは裏腹に、ミエルの胸はトクトクと脈打っていた。抱いたものは期待か、羨望か、それとも――。

2人のデュエリストは火花を散らし、更なる闘いの中へと身を投じる。そんな中、遊矢はこのデュエルで、大きな何かを感じ取る。頭に浮かぶは、真紅の体躯を持つ、巨大な竜。その遠吠えは確かに、遊矢の耳へ届いた――。

 

(そんなに急かさなくても――お前の出番は、もうすぐだっ!)

 

自然とその足は駆け足となり、ミエルの待つ頂上へと向かっていく。バサバサと靡く学生服、キラリと光るゴーグル、首から掛けた振り子が揺れる。力が溢れる、笑いが止まらない。

そんな彼に負けまいと、ミエルもまた笑みを溢す。

 

「お楽しみはっ!これからだ!」

 

闘いはまだ、始まったばかり――。

 

――――――

 

「オレは手札より『E・HEROブレイズマン』を召喚」

 

E・HEROブレイズマン 攻撃力1200

 

コナミの場に現れたのは炎の鬣を持つ『HERO』。コナミの扱う『融合』にとって命綱とも言えるモンスターだ。その効果は実に優秀。召喚時、デッキより『融合』をサーチする、素良にとっての『ファーニマル・オウル』と同質のもの。初手で引き込めたのは大きいだろう。

 

「ブレイズマンの召喚時効果により、『融合』を手札に加え、発動。場のブレイズマンと手札の『竜脈の魔術師』で融合!融合召喚!『E・HEROガイア』!」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200

 

地を引き裂き、黒き巨人が姿を見せる。その巨体に柚子が緊張するも、攻撃力が自らのモンスターに届かない事を踏んだのだろう。直ぐに安堵した表情となる。確かに攻撃力は低い。だが、コナミの操る『E・HERO』にはそれを打破する能力があるのだ。

 

「『E・HEROガイア』の効果。『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』の攻撃力を半分にし、その数値分、このカードの攻撃力をアップする」

 

「そんなっ!?」

 

『フォース』内蔵効果。単純ながらも強力な効果に柚子はその目を見開く。コナミの実力を侮っていた訳では無い。だが、こうも早く攻略されるなど思いもしなかったのだ。

 

E・HEROガイア 攻撃力2200→3600

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2800→1400

 

「さぁ、バトルだ。ガイアでマイスタリン・シューベルトに攻撃!コンチネンタルハンマー!」

 

ガイアの発する重力にマイスタリン・シューベルトが地に膝をつく。空中へと逃げようとするも無意味。力を吸収し、加速したガイアがその剛腕を振るう。

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にして、1枚ドローする!」

 

柊 柚子 手札2→3

 

「成程……手札を確保したか。俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

コナミ&紫雲院 素良 LP2200

フィールド『E・HEROガイア』(攻撃表示)

セット2

手札3(コナミ) 手札4(素良)

 

コナミのターンが終了すると同時にアユのデュエルディスクにランプが灯る。自分のターンが来た事により、満面の笑みを見せる。

 

「私のターン、ドロー!」

 

明るく、活発な笑顔を見せ、デッキより1枚のカードを引き抜くアユ。この遊勝塾の塾生の為か、随分と楽しそうにデュエルをする彼女を柚子は暖かい眼差しで見守っている。

 

「行くよ!私は手札から『アクアアクトレス・グッピー』を召喚!」

 

アクアアクトレス・グッピー 攻撃力600→1800

 

現れたのは帽子にリボン、手にステッキを持った可愛らしい魚。遊矢の『EM』にも似たそのモンスターは身の丈以上の尾びれをひらひらと宙に靡かせ、アユの周りを泳ぐ。

 

「『アクアアクトレス・グッピー』の効果発動!手札の『アクアアクトレス』モンスターを特殊召喚するよ!私が特殊召喚するのは『アクアアクトレス・アロワナ』!」

 

アクアアクトレス・アロワナ 攻撃力2000

 

グッピーの導きにより現れたのは何とも豪華な衣装を纏った巨大な魚の婦人。手に持ったパイプからはプクプクと泡が立っている。

攻撃力は2000。上級にしては低く、ガイアを破壊する事が出来ない。が、『アクアアクトレス』の恐るべき力は個々の力では無く、サポートカードによって発生する力。

 

「『アクアアクトレス・アロワナ』の効果!デッキから『アクアアクトレス』モンスターを手札に加えるよ!デッキから『アクアアクトレス・テトラ』を手札に!更に『二重召喚』を発動!『アクアアクトレス・テトラ』を召喚!」

 

アクアアクトレス・テトラ 攻撃力300→1500

 

3体目の『アクアアクトレス』がフィールドに跳ねる。ネオンテトラをモチーフとしたモンスターは青と赤の身体を漂わせ、グッピーと共にアユの傍を泳ぐ。

 

「更に行くよ!『アクアアクトレス・テトラ』の効果でデッキから『アクアリウム』カードを手札に!私が加えるのは『水照明』!そのまま発動!」

 

フィールドへ泡に包まれた光が幾つも下りていく。このカードの発動により、コナミが少しばかり顔を青くする。彼はセレナと共にアユの教育を行っていた為、知っているのだろう。彼女の戦術を。

 

「まだまだ行くよ!永続魔法『水舞台』。このカードの効果で私のフィールドの『アクアアクトレス』は水属性モンスター以外の戦闘では破壊されず、相手モンスターの効果を受けない!」

 

続けてフィールドを侵食するのは、煌びやかな珊瑚礁や水草、大磯砂。『アクアリウム』の名の通り、『アクアアクトレス』にとって住みやすい環境が次々と揃えられていく。

 

「最後はこれっ!永続魔法『水舞台装置』っ!水属性モンスターの攻撃力を300ポイントアップ!更に『アクアアクトレス』モンスターの攻撃力を300ポイントアップするよ!」

 

アクアアクトレス・アロワナ 攻撃力2000→2600

 

アクアアクトレス・グッピー 攻撃力1800→2400

 

アクアアクトレス・テトラ 攻撃力1500→2100

 

フルコンボである。最後に発動したカードによってフィールドに小さな城が立ち、雅な水車や貝などが散らばっていく。全ての『アクアリウム』が合わされた光景は幻想的で美しい。まるで御伽噺に出てくる竜宮城である。

 

しかし、見とれてはいられない。アクションフィールド『湿地草原』の効果も合わさり、アユのモンスターは万全たる強化を受けたのだ。しかしこうまで打点が上げられるのは、やはり師であるセレナの影響か。

気のせいか、得意気に胸を張り、むふんと息をつく姿がセレナと被る。このままではあの可愛らしいモンスター達に1キルされかねない。

 

「『アクアアクトレス・アロワナ』で『E・HEROガイア』を攻撃!『水照明』の効果!『アクアアクトレス』モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時、アロワナの攻撃力を倍にする!」

 

アクアアクトレス・アロワナ 攻撃力2600→5200

 

驚異の攻撃力5000超え、あの『F・G・D』をも超えるその攻撃力がコナミに迫る。だが、それだけでコナミは負ける程、安くはない。

 

「手札から『クリボー』の効果!戦闘ダメージを0にする!」

 

突如、毛むくじゃらの悪魔が現れ、コナミをダメージから守る。『速攻のかかし』には劣るかもしれないが、この状況ではこのカードの方が有能だろう。しかし、危機は去った訳ではない。むしろここからが本番。

 

「『アクアアクトレス・グッピー』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地の『竜脈の魔術師』を守備表示で特殊召喚!」

 

竜脈の魔術師 守備力900

 

コナミの場に膝をつくのは白いコートを羽織った『魔術師』。『ピンポイント・ガード』の恩恵を受けている為、このターンの攻撃を防げる。

 

「やっぱり、そう簡単にはいかせてくれないか。私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

柊 柚子&鮎川 アユ LP4000

フィールド『アクアアクトレス・アロワナ』(攻撃表示) 『アクアアクトレス・グッピー』(攻撃表示) 『アクアアクトレス・テトラ』(攻撃表示)

『水照明』 『水舞台』 『水舞台装置』 セット2

手札3(柚子) 手札0(アユ)

 

アユの圧倒的なエンタメ(脳筋)を無事、凌ぎきったようだ。内心、コナミは自分自身でも良く防げたなと思う。しかし依然、危機は去っていない。だがコナミも素良もその眼に諦めは無い。それどころか、どう攻略してやろうかと探っているようだ。

 

「僕のターン、ドロー!僕は魔法カード『ワン・フォー・ワン』を発動!手札のモンスターを捨て、デッキから『ファーニマル・マウス』を召喚!」

 

現れたのは小さな身体でドーナツを持った緑と白のカラーリングの鼠。良く見ると頬っぺたがハートの形になっていたり、羽をパタパタと動かす辺り、何とも珍妙な生物だ。

 

「いっくよー!『ファーニマル・マウス』の効果発動!デッキから『ファーニマル・マウス』を2体特殊召喚!」

 

ファーニマル・マウス 攻撃力100×2

 

ポンポン、と小さな爆発と共に新たな『ファーニマル・マウス』が現れる。良く見るとデザインが異なるようだ。

2匹目は真っ白の身体に青いリボンを2つ結び、おさげのようにしている。手に持っているのはオールド・ファッション。

3匹目は随分と容姿が異なる。太い眉毛に口を覆う黒の模様、頭に被った安全ヘルメット。右手にはスコップを握り、左手にはポ○デリ○グ……いや、良く見ると違う。ポン○ライ○ンの首である。どこから狩ってきた。

 

「更に魔法カード『融合』発動!フィールドの『ファーニマル・マウス』3体と手札の『エッジインプ・シザー』で融合!悪魔の爪よ!鋭い牙よ!神秘の渦で1つになりて、新たな力と姿を見せよ!融合召喚!現れ出ちゃえ!全てを引き裂く密林の魔獣!『デストーイ・シザー・タイガー』!」

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力1900→2200

 

3体の鼠が鋏を束ねた悪魔に引き裂かれ、次々と縫われていく。現れたのは緑の毛並みをし、胴体を巨大な鋏で支えた虎。その身体は所々綻びを見せ、鋭い牙の間からは不気味な赤眼が覗いている。

素材を4体も要求したモンスターだ。それに『融合』の欠点を説いた素良のものと来れば、強力なものに違いない。柚子のその予想は的中する。

 

「『デストーイ・シザー・タイガー』の効果!このカードが融合召喚に成功した時、融合素材としたモンスターの数までフィールドのカードを破壊するよ!」

 

「と言う事は……4枚も破壊!?」

 

「と言っても『水舞台』の効果でモンスターは対象に出来ないけどね!『アクアリウム』3枚!右の伏せカードを破壊!」

 

「なら永続罠!『安全地帯』!『デストーイ・シザー・タイガー』を選択!そしてこのカードが破壊された時、選択したシザー・タイガーを破壊するよ!」

 

カードの特性を考えた上での発動だろう。『安全地帯』によって選択されたモンスターは戦闘や効果では破壊されない一種の無敵状態となる。しかしデメリットとして直接攻撃出来ず、このカードが破壊されてしまえば選択したモンスターも破壊される。

効果を逆手に取り、見事シザー・タイガーを撃破した。だがその代償として『アクアアクトレス』の強化は『湿地草原』のみ。

 

アクアアクトレス・アロワナ 攻撃力2600→2000

 

アクアアクトレス・グッピー 攻撃力2400→1800

 

アクアアクトレス・テトラ 攻撃力2100→1500

 

「やるねぇ……!魔法カード!『魔玩具融合』発動!フィールド、墓地のモンスターを素材に『デストーイ』モンスターを融合召喚する!『エッジインプ・シザー』と『ファーニマル・マウス』2体で融合召喚!『デストーイ・シザー・ウルフ』!!」

 

デストーイ・シザー・ウルフ 攻撃力2000

 

今度は3体の素材を使っての融合モンスターが登場する。青い毛並み、鋏で足を支え、牙の間に潜んだ眼光を唸らせた狼。

攻撃力は低いがこのモンスターより放たれるプレッシャーはシザー・タイガーにも劣らない。ズラリと並んだ牙はガチガチと鈍い音を立て、今にも飛び出しそうだ。

 

「シザー・ウルフは融合素材としたモンスターの数まで攻撃できる。素材は3体!よって3回の攻撃を可能!『竜脈の魔術師』を攻撃表示に変更し、バトルだ!シザー・ウルフで『アクアアクトレス・テトラ』を攻撃!」

 

青狼が駆け、その大口を開き、熱帯魚を食らう。中で嫌な音が響き、それに怯えたアユが涙目となる。

 

柊 柚子&鮎川 アユ LP4000→3500

 

「まだまだぁ!シザー・ウルフで『アクアアクトレス・グッピー』を攻撃ィ!」

 

2度目の攻撃、青狼は隣で漂うグッピーを赤き眼で睨めつける。それに怯えたグッピーが逃げようと宙を泳ぐが、やはりその真価を発揮するのは水中のみ。『アクアリウム』を失った事により、失速したグッピーはバタバタと駆ける狼に丸呑みにされてしまう。

 

柊 柚子&鮎川 アユ LP3500→3300

 

「さぁ最後だ!シザー・ウルフで『アクアアクトレス・アロワナ』を攻撃!」

 

「相打ち!?」

 

最後の攻撃は相打ち狙いの自爆特攻。それも仕方無いだろう。本来ならシザー・タイガーの強化効果により攻撃力を増したウルフで3回攻撃とシザー・タイガーの攻撃でLPを削ろうと想定していたのだが、まさかアユが反撃をするとは思ってなかったのだ。

だが例え相打ちでも素良の場にはまだ『竜脈の魔術師』が存在する。ここは思い切ろうと考えたのだ。

ウルフは牙をアロワナに突き立て、アロワナも長い尾でウルフへ反撃した後、どちらも消滅した。

 

「『竜脈の魔術師』でダイレクトアタック!」

 

柊 柚子&鮎川 アユ LP3300→1500

 

ここに来て初めての大ダメージがアユ達を襲う。あの『アクアアクトレス』のフルコンボが1ターンで巻き返されたのだ。やはりこの少年は只者ではない。

 

「僕はこれでターンエンド。さぁ、どう出るかな?」

 

コナミ&紫雲院 素良 LP2200

フィールド『竜脈の魔術師』(攻撃表示)

セット1

手札2(コナミ) 手札0(素良)

 

強い。柚子は目の前のタッグを見据え、確信する。いや、今まで疑っていた訳じゃない。だがどうにもこうして闘ってみないと実感出来なかったのだ。何時も遅くまで寝ているコナミとお菓子ばかり食べている素良の姿を見ていると想像が出来ないのだ。

 

今では分かる。目の前の2人の力が。だが負けてはいられない。遊矢だって、権現坂だって前に進んでいる。強くなるまで待っていて、など自分らしくない台詞なんて言えるものか。同じ舞台に立つのだ。遊矢とコナミは約束した。闘おうと、誓ったのだ。自分だってその舞台に立ちたい。せめて、置いていかれないように――。

 

「Ledies and Gentlemen!!お楽しみは、これからよ!!」

 

だから笑おう。自分だって、遊勝塾の生徒だ。エンタメデュエルは何も遊矢だけの真骨頂ではない。コナミや素良、アユの顔が、何より柚子の顔に笑みが咲き誇る。

 

「私のターン、ドロー!さぁいくわよ?魔法カード、『融合』!手札の『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』と『幻奏の音女カノン』で融合!至高の天才よ!気高き共鳴よ!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!」

 

『融合』の渦が巻き起こり、柚子のモンスターが吸い込まれる。その先に現れたのは、美しき花弁。

その中より可愛らしい青い眼の乙女が咲き誇り、花吹雪に羽衣が揺れる。コナミが見てきた中でも幻想的なモンスターだ。その華麗な姿にこの場にいる全員が見とれる。そのモンスターの名は。

 

「今こそ舞台に勝利の歌を!『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』!!」

 

今正に、柚子の切り札が開花した。

 

「さぁ、ストロング柚子のエンタメ劇場、開幕よ!」

 

柚子がウインクを飛ばし、その左腕の指でピン、とコナミ達を差し、ブレスレットが揺れる。

気は抜けない、だが――思わずコナミ達は、その顔中に笑みを貼り付ける。ああ、間違いなく、目の前の少女は――“強さ”を、持っていた――。

 

 

 




取り敢えず遊矢君を格好良く書けてたら満足。この遊矢君は間違いなくち○ちん生えてますわ。
え?アニメの遊矢君にもちん○ん生えてる?…………え?




え?


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第27話 ペンデュラムのその先

今回文章が読みづらいかもしれません。どうしてもアニメのようにスピード感が欲しかったもので同時進行的な形に。申し訳ないです。ただ今回ばかりなので許しておくれ。


ドクン、ドクン。胸がどうしようも無く熱く脈打つ。コナミは感じ取っていた、そのカードの鼓動を。遊矢は聞こえていた、そのカードの遠吠えを。

頭から爪先まで熱く、暴れ狂うかのような、身を焦がすかのような熱。今それが、コナミの、遊矢の身体中を駆け巡る。決して不愉快なものではない、むしろ心地好いものだ。

コナミ/遊矢の前には強力な力を放つモンスターが宙に浮いている。花弁より咲き誇る歌姫、『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』。6本の腕を持つ、ローブを纏った占い師、『聖占術姫タロットレイ』。その神々しい気を身に受けるもコナミ/遊矢は畏縮などしない。

沸き上がるものは刺激的な闘争心。それが好戦的な笑みとして浮かび上がる。早く早くと急かすような、幼子のような気持ちを必死で抑え、これ以上身体が勝手に動かないように自らの前にデュエルディスクを構える。

 

「さぁ、バトルよ!『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』で『竜脈の魔術師』を攻撃!」

 

「バトル!『聖占術姫タロットレイ』で『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を攻撃!」

 

華歌聖がフィールドを飛び回り、『竜脈の魔術師』の元へと迫る。羽衣を揺らし、花びらを纏う姿はまるで妖精のようだ。

聖占術姫が宙を漂いながら真紅の竜の眼前へと躍り出る。6本の腕を胸の前へと突き出し、光の球を作り出す。

 

「ブルーム・ディーヴァの効果!このカードは戦闘、効果では破壊されず、このカードの戦闘によって発生する自分へのダメージは0になる!更にこのカードが特殊召喚されたモンスターとの戦闘を行ったダメージ計算後、このモンスターの元々の攻撃力の差分のダメージを与え、相手モンスターを破壊する!リフレクト・シャウト!」

 

「罠発動!『ブレイクスルー・スキル』!ブルーム・ディーヴァを対象に、効果を無効に――」

 

「甘いわ!罠発動、『幻奏のイリュージョン』!ブルーム・ディーヴァを対象に、このターン、ブルーム・ディーヴァは相手の魔法、罠の効果を受けず、2回攻撃ができる!」

 

素良の反撃をものともせず、ブルーム・ディーヴァに更なる力を与える柚子。完全にしてやられた事に小さく舌打ちを鳴らしながらも、こちらの上をいく柚子の成長に笑みを浮かべ、喜ぶ素良。

その間にもブルーム・ディーヴァは『竜脈の魔術師』の反撃を防ぎ、その攻撃を跳ね返す。

 

コナミ&紫雲院 素良 LP2200→1400

 

『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』へと胸の前で集束した球体を打ち出すタロットレイ。爆発による熱風が遊矢の頬を撫でる。

強い――。心の内で感じ取りながらも尚、遊矢はその笑みを深める。

 

榊 遊矢 LP900→700

 

「2回目の攻撃よ!」

 

ブルーム・ディーヴァが身の周りに浮かぶ花びらをピタリと停止させ、まるで弾丸のように打ち出す。刃の如く硬化した花びらがコナミと素良に襲いかかる。

 

コナミ&紫雲院 素良 LP1400→400

 

ついにコナミ達のLPが1000を切る。正にデッドゾーン、だが、コナミにとってそんな事は関係ない。LPがまだ残っているなら、まだ負けていないなら、彼にとってLPが4000でも100でも同じに等しい。だから諦めない。まだ勝敗は決まっていない、この程度で折れる程、コナミの心は繊細では無いのだ。

 

「ミエルはこれでターンエンド。タロットレイの効果により、墓地のリバースモンスター、『禁忌の壺』をセット状態で特殊召喚するわ」

 

タロットレイの力により、墓地から禁止カード達の効果を集めたようなリバースモンスターがにやけ面で裏返る。あのカードには散々苦しめられたのだ。遊矢は思わず苦笑いする。

 

「私は手札を1枚伏せ、ターンエンド」

 

柊 柚子&鮎川 アユ LP1500

フィールド『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』(攻撃表示)

セット1

手札0(柚子)手札0(アユ)

 

方中 ミエル LP2500

フィールド『聖占術姫タロットレイ』(攻撃表示) 『占術姫ウィジャモリガン』(攻撃表示) セットモンスター

手札0

 

LPはギリギリ、相手の場には強力な切り札足り得るモンスター。今の手札では勝てない。全く、最高の状況ではないか。

竜の鼓動が速くなる。遠吠えが更なる凄みを纏う。苦笑いを一つ溢し、デッキトップへ手を置く。熱い、カードから発せられるものではない。自身の興奮から来るものだ。頭を左右に振り、冷静さを取り戻す。――さぁ、覚悟は決まった――。望むは力、掴むは勝利。コナミ/遊矢は勢いをつけて、そのドローでアークを描く。

 

「「俺/オレのターンッ!ドロォォォォォォ!!」」

 

視線をカードへと移す。引いたカードは緑のフレーム、渦が描かれたカード。自らの手札、デッキを見るに明らかに手札事故だ、だがコナミ/遊矢は感じ取る。直感にも似た何かが脳に訴えかける。このカードが、逆転へのカードだ――と。

 

「オレは『竜脈の魔術師』を召喚!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

コナミの場に現れたるは白き衣を纏った『魔術師』モンスターだ。主を仰ぐように膝をつく。

 

「俺は、既に設置したスケール2の『EMドラミングコング』とスケール8の『EMドクロバット・ジョーカー』でペンデュラム召喚!『星読みの魔術師』!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

星読みの魔術師 守備力2400

 

現れたのは遊矢のエースカード、真紅の体躯、背に三日月の角を持ち、胸と背の角、額に青、赤、緑の宝玉を散りばめた赤と緑のオッドアイを輝かせた竜。天を震わせるような咆哮を上げ、喉を唸らせる。

そして竜に付き従うのは、三角帽と烏帽子を合わせたようなものを被り、白き衣の上に黒い鎧と紫のマントを羽織、手にホロスコープを模した武器を持った長髪の『魔術師』。

これで準備は整った――。コナミ/遊矢は手札より1枚のカードを翳し、デュエルディスクから展開された光のプレートへと叩きつける。

 

「「魔法カード!『融合』!!」」

 

竜が歓喜の咆哮を上げる。フィールドに渦が発生し、真紅の竜と『魔術師』が身を投じる。今までの融合召喚では比較にならない程のエネルギー。紫電が渦より飛び散り、バチバチと火花が地面を伝う。

 

「オレは手札の『オッドアイズ・ドラゴン』とフィールドの『竜脈の魔術師』を融合!」

 

「神秘の力操りし者、眩き光となりて龍の眼に今宿らん!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

「融合召喚!『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』ッ!!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力2500

 

ミエルの眼前で咆哮を放ちしは赤よりも深い真紅の竜。右目を金属で覆い、首や背に金色の円を背負った魔術の竜。降り立った震動で煙が上がり、竜の威容を際立たせる。

運命が変わった――。その事実に生唾を飲み込み、遊矢を見据える。

 

柚子達の前で飛翔せしは雷纏いし嵐の竜。4枚2対の翼を広げ、雷を模したような棘を緑の鎧に装飾し、鳥の嘴のような口よりズラリと並んだ牙を輝かせる。

初めて見るモンスター。強大な存在を前に、柚子達は緊張を走らせる。

 

「『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』の効果!特殊召喚に成功した時、相手フィールドの表側攻撃表示のモンスター1体を対象として、そのモンスターを手札に戻す。俺が対象にするのはブルーム・ディーヴァ!!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!ブルーム・ディーヴァを選択し、選択したモンスターを対象としたモンスター効果を無効にする!」

 

「ならば墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、ブルーム・ディーヴァの効果を無効にする!」

 

カードの応酬が飛び交う。互いに全てを出し尽くした――。このままでは負ける、そう思った柚子はアクションカードを探す為、フィールドを駆ける。

 

「バトルだ!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』で『占術姫ウィジャモリガン』へ攻撃!」

 

魔天の龍がウィジャモリガンに狙いを定め、宙を飛ぶ。しかし如何に強力なモンスターを出そうとタロットレイの効果で防げると思い至ったのだろう。ミエルは腕を伸ばし、自らの切り札に指示を飛ばす。

 

「バカね!攻撃に入る前に、タロットレイの効果発動!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を裏側守備表示にする!フルスリープ!」

 

「『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』はペンデュラム召喚されたモンスターを素材として融合召喚に成功したターン、相手の効果を受けない!更に!『EMドラミングコング』のペンデュラム効果発動!自分のモンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時、『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を対象に攻撃力を600ポイント上げる!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→3600

 

「そんなっ!?」

 

「シャイニーバースト!!」

 

バチバチとルーンアイズの背のリングから稲妻が迸る。全部で3つ、三角形に繋がり、右下に溜まった球体より光線が放たれる。一瞬の出来事、光線はウィジャモリガンを貫き、蒸発させる。

 

方中 ミエル LP2500→200

 

「くっ――!だけどこれで攻撃は終わったわ!次のミエルのターン、『禁忌の壺』をリバースすれば――!」

 

「ルーンアイズは融合素材として、星5以上の魔法使い族モンスターが使用された場合、モンスターへ3回攻撃が可能となる!セットモンスターを攻撃!」

 

「なっ!?『禁忌の壺』のリバース効果!フィールドの魔法罠を手札に戻す!」

 

「これで――とどめだ!」

 

「『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』でブルーム・ディーヴァを攻撃!」

 

コナミが竜へと指示を飛ばす。しかし柚子も負けてはいない。アクションカードを拾い上げ、デュエルディスクへと叩きつける。

 

「アクションマジック!『回避』!」

 

「『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』の効果!このカード以外のモンスター、魔法、罠が発動した時、エクストラデッキの『竜脈の魔術師』をデッキに戻し、発動を無効にして、破壊する!」

 

竜が天高く飛翔し、雄々しき翼を広げる。紫電が走り、嘴に空気で作られた球体が発生し、竜の咆哮と共に雷を纏った竜巻のブレスが放たれる。ゴウッ、凄まじい空気を切り裂く音を響かせ、ブルーム・ディーヴァを貫く。

 

「連撃のシャイニーバースト!!」

 

方中 ミエル 200→0

 

柊 柚子&鮎川 アユ 1500→0

 

デュエル終了のブザーが鳴り響く。竜を操りし者は見事――勝利した――。

 

――――――

 

「……こんな所にいたのか……どうしたんだボス?」

 

デュエルを見守っていた白き外套の男へと語りかける人物が1人、黒いローブを纏い、仮面をつけた男、――アムナエルだ。彼はボスと呼んだ男へと近づき、溜め息を一つ吐く。どうやらかなり疲労を溜め込んでいるようだ。身に纏ったローブもくたびれているように見える。

 

「――アムナエルか。少しデュエルの見物にね、最近見かけなかったけど、何してたんだい?」

 

顔だけを振り向かせ、アムナエルへと首を傾げる男。アムナエルは相当参っているのか、肩を落としながらも答える。

 

「あー、黒帽子に追いかけられてな。あいつさぁ!人が飯食ってたり、寝てたり、トイレに籠っている時まで追っかけてくんだぞ!?デュエル、デュエルってニヤニヤしながら!ホラーだよ!?お陰でローブにちょっとひっかかっちまった……!おい待て、何で距離とってんの?」

 

「いや汚いなぁって……まぁ極力『彼等』とはデュエルは避けなきゃね。ところでどうやって逃げたの?」

 

仮面に顔を覆われているのに表情豊かに愚痴を溢すアムナエルに対して距離を開きながらも質問を続ける男。対するアムナエルは頬をポリポリと掻きながらも言い淀む。

 

「えっと、な、カードを海に向かって投げたら飛び込んでいった。わーいって言いながら」

 

予想外の答えだ。男はその光景を想像したのか、仮面の奥で苦い顔をする。

 

「計画にもしもの事があったらどうするの?『彼等』の力が必要だって言うのに……まぁ、その程度で死ぬとは思えないけど」

 

「仕方無いだろ。で、赤い方のデュエルはどうだったんだ?」

 

許してくれ、と手を振りながらも問いかけるアムナエル。その瞳は少々の興味を抱いている。

 

「――ダメだね、話にならない。期待はしてなかったけどね。やはり彼は――」

 

その言葉をアムナエルに告げ、2人は遊勝塾より姿を消した――。まるでそこには最初から、誰もいなかったように――。

 

――――――

 

場所は変わり、舞網市、沿岸。多くのコンテナが置かれたそのエリアで、1人の少年がとぼとぼと重々しい足取りで歩んでいた。その表情は浮かないものだ。

少年は年齢にしてはやけに大きく溜め息をつきながらも左腕に嵌めたデュエルディスクに目を配らせる。

 

「はぁ……コナミは見つからないし、隼は連絡を寄越せと言ったのに一向に来ないし、瑠璃と思った子は瑠璃じゃないし……俺は何をしにスタンダート次元にきたのだろうな?」

 

「瑠那……こんな時に君がいてくれれば……」と渇いた笑みを貼りつけながらがっくりと項垂れる少年。跳ねた前髪、くたびれたシャツとネクタイ、ボロボロに擦り切れた黒いマント、遊矢と似た顔立ちをした少年、ユートだ。

遊矢と別れた後でも苦労をしているらしい。もう何度目か分からない溜め息が溢れようとした時。

 

「「はぁ……」」

 

溜め息が重なる。誰のものだとユートが顔を上げ、視線を向ける。そこには溜め息の主と思わしき人物が1人。ジャケットとズボン、軍人のような装いをしたその男は随分と大柄だ。

彼も今こちらに気がついたのか、目を丸くしてこちらを見つめている。

 

蒼の髪をオールバックで流し、左目に眼帯、胸に大きな傷を負ったその姿は歴戦の猛者を思わせる。彼は整った顔で苦笑を溢し、ユートへと歩み寄る。

 

「どうした少年。若いのにそのような暗い顔で、幸せが逃げてしまうぞ」

 

「フフッ、その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。随分と疲れているようですが、大丈夫ですか?」

 

ユートの返答が意外だったのか、目を丸くして「む」と言葉を詰まらせる男。良く見るとその目の下には隈が見てとれる。この男も苦労しているのだろう。その考えると何だか可笑しくて、親近感が沸いてくる。

 

「……実は娘が行方不明でね、こうして仕事を早めに切り上げて、あちこちを探しているのだが一向に見つからなくてな。君くらいの年頃で、黄色いリボンとポニーテール、猿を連れているのだが……知らないか?」

 

先程とは打って変わり、真剣な表情で語りかける男。娘が大事なのだろう、男の思いが自然と伝わってくる。知っているなら協力できただろうが、生憎ユートには心当たりが無い。

 

「すいません、俺には何も」

 

「……そうか……すまないね、変な事を言って」

 

「いえ……ああ、実は俺も仲間を探していて――黒い帽子とジャケットにヘッドフォンを首から下げた俺ぐらいの男と、赤いスカーフを巻いたコートの男なんですが、知りませんか?」

 

「……帽子、か。すまない、見かけてないな」

 

どうやら知らないようだ。ユートの問いにも親身になって答える男。自分の事のように眉を伏せてくれる彼に、良い人もいるものだ、と思いながらも薄く笑う。

 

「そうだね、これも何かの縁だ。互いに連絡先を交換して、協力しないかい?」

 

「そうですね、是非」

 

良い味方を見つけた。とデュエルディスクを互いに取り出し、操作する。とそこで。

 

「「?そのデュエルディスクどこかで――」」

 

見た事があるような。と言葉を紡ごうとした時、予期せぬ介入が加わる。

 

「久し振りだね、ユート」

 

「!?」

 

ユートの頭上より、声が届く。まだ声変わりしたばかりの少年の声。ユートにとって聞き覚えのある声だ。声のするコンテナの上へと目を配らせる。そこにいたのは1人の少年。

美しい銀髪は天に向かって逆立ち、額には緑のメッシュが垂れている。細身の体には緑のジャケットとブーツを纏っている。獲物を狙うかのような眼を輝かせ、歪んだ笑みを向けるその少年は――。

 

「八雲……興司……!?」

 

ユート達にとって――裏切り者と呼ばれる人物だった――。

 




次回は番外編を予定してます。ちゃんと本編と関係あるからね。プラシドはいないからね。
そう言えば最近ブラマジの新規が出たり、EMの程好い(ここ重要)新規が来たりしてますね。
オッドアイズ魔術師ブラマジでも作ろうか。自分的にはビーストボーグが作りたいです。
アニメも愉快な事になってるな……セルゲイはランサーズに入るのだろうか。


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番外編4 Qこれはデュエリストですか? Aいいや、リアリストだぁ!

タイトルで分かる人は分かったと思う、彼のメイン回。


「はぁ……暇だな……。仕方ねぇ、柿本達とデュエルでもするか」

 

それはとある早朝の事、LDS総合コースに所属する沢渡 シンゴは自宅のベッドに腰掛け、暇を持ち余していた。手に持った漫画本を本棚に戻し、カーテンを開く。

折角良い天気なのだ、自らを慕う子分達に1つデュエルの享受をしてやろうか。そう思い立てば即行動、重い腰を持ち上げ、ベッドがギィと音を立てる。

 

「よっ……と……なんか急に便意が湧いてきたな……トイレ、トイレ」

 

ギュルギュルと腹が嫌な音を鳴らし、沢渡が早足で階段を下がっていく。これは結構大きいやつだな、などと考えながらも、まだ波は小さな事に安心する。

 

「おーい、シンゴー。友達が来とるぞー」

 

「ちょっと待ってるように言っといてー」

 

居間にいる父から声をかけられ、直ぐ様返事をする。恐らく柿本達だろう。迎えに来るなど殊勝な事だ。フッと笑みを溢し、自らのカリスマ性に酔いながらトイレのドアノブを掴む。

そのまま開こうとするが、ガチャガチャ、鍵がかかっているのか、押しても引いても開かない。

 

「友達がトイレを借りると言っていたぞー」

 

「……マジかよ」

 

そう言う事は早めに言っておいて欲しかった。殊勝なんてものじゃない。前言撤回だ、俺様が催しているのに先にトイレに入るなどとどう言う了見だ。と苦い顔で声を苛立たせる。

 

「おいこら柿本!山部か!?分かった大伴だな!?さっさと開けろ!俺様の家だぞ!?」

 

「まだ4合目」

 

「長いわバカ!まだっつった!?まだって何!?後何合なの!?後誰!?」

 

ダンダンダンッ!と、けたたましいノックを何度も響かせながら猛抗議を上げる。何やらこうして待たされると便意が大きくなるものだ。ギュルギュルと鳴る腹を抑えながらも必死で我慢する。

 

「後4合」

 

「半分!?どんだけ人の家の便所酷使するつもりなの!?早く捻り出せよマジで!後誰!?」

 

ドンドンドンッ!激しいドアを叩く音が沢渡家を駆け抜ける。先程よりも強いものだ。早くしてくれと思いながらもドアを叩く手を緩めない。

漏らす、漏らさないかの瀬戸際なのだ。顔を出そうとするものを必死の形相で押さえつける。自然と鼻息が荒くなり、歯を食い縛る顔は元が良いだけに非常に残念だ。

 

「あ、紙切れた」

 

「後ろの棚!開けたらすぐだから!マジ早くしろ!!変な汗出てきたから!!ねぇマジでお願い何でもするから!!後誰!?」

 

「ん?今何でもするって言ったよね?」

 

「する!すりゅから早きゅぅ!!ひぃぅん、頭が出てきてりゅぅぅぅぅ!!後誰ぇ!?」

 

ガンガンガンッ!ドアを破るかのごとく何度も叩き、懇願する。ヒューヒューと息を切らしながら青い顔でドアにすがりつく。

内股になって堪えるが、妙に冷たい汗が額を伝う。しかし状況が状況の為、拭う事も出来ず、眼に入る事も無視する。と、ここで神に祈りが通じたのか、水の流れる音が聞こえてくる。

 

やった!踊り出しそうな気持ちを押さえつけ、ドアが開かれるのを待つ。そこに待っていたのは――。

 

「じゃあ、クイズ大会にご招待だ」

 

赤帽子を被り、ズボンを上げ、こちらに笑いかける――コナミの姿だった――。

 

「……引っ込んだわ」

 

沢渡は腹パンされた。

 

――――――

 

場所は変わり、遊勝塾。コナミ達が学ぶデュエル塾の前で柚子達、遊勝塾の塾生。権現坂、コナミの子分であるねね、そして刃と真澄が立っていた。

ここまでの人数が同時に会するのは珍しい事だ。遊勝塾で集う事はあれども、玄関で会うなどまずない。と言うのも彼等がここに集まったのは理由がある。

 

「コナミったら……朝早くに呼び出して、何の用かしら……皆は聞いてない?」

 

「いや、俺は特には」

 

「私は別に……コナミが呼んだから来ただけよ。忙しいけど仕方無くよ、仕方無く!」

 

柚子の問いかけに答えたのは権現坂と真澄だ。権現坂は何時も通り腕を組んで、真澄は頬を赤らめながら。忙しいとは言っているが、特に用はなく、コナミからメールが来た時には本当にメールが来たのか、5回は見直したのは内緒である。

 

「まぁ、良いわ。入りましょうか」

 

話を切り上げ、遊勝塾へと入っていく一堂。明かりもついておらず、随分と真っ暗だ。闇の中を進み、コナミが集まるように言っていたデュエルフィールドへの扉を開ける。

そこに待っていたものは、意外なものだった。

 

「!?遊矢!?それにセレナ!!」

 

「あっ、暗次君と勝鬨君もいます!」

 

「後沢渡がいるわね。どうでも良いけど」

 

「なんか俺の扱い雑っ!?光津、お前あの時本当に反省したのか!?」

 

そこにいたのはカラフルな机や椅子に縛られた遊矢達の姿。彼等は暗闇の中、スポットライトに照らされぐったりとしている。ただ、セレナだけはふんすと眉を吊り上げ、得意気な表情で座っているが。

 

バラエティ番組、主にクイズに使われるような装飾をされた机や椅子。机の隅には赤いランプが覗いており、その隣にはボタンのようなものが見える。

 

と、全員が驚愕を露にしたところで部屋中に明かりがつき、全貌が明らかとなる。何ともカラフルに装飾を施された部屋、その奥には大きなモニターが置かれ、その隣には遊矢達の物とは違うテーブルがある。

テーブルにいるのは2人の少年。その内の1人が立ち上がり、柚子達へと顔芸を披露する。

 

「さぁ、始まりました。おバカな彼等を導くクイズ大会!クイズ!Q&K!司会はこの私、九庵堂 栄太と!」

 

「コナミです」

 

「何してんの!?」

 

「フッハハハァ……」と笑う九庵堂へ遊矢が悲鳴にも似た声を上げる。それもその筈、彼は、いや彼等は皆、コナミに腹パンで気絶され、ここまで連れてこられたのだ。

尤も、セレナはコナミが「クイズやるけど、来る?」と言うと「やる、やる!」と手を上げてついてきたのだが。

 

「言ったろう遊矢くぅん?覚えていろよ、と」

 

「後遊矢、洋子ママンが言っていたぞ。セレナやオレがいないと余り勉強をしないと」

 

「うぐっ……確かに言ったし、その通りだけどさぁ……」

 

「ちょっと待て!じゃあ何で俺をつれてきた!?」

 

「「バカだからぁ」」

 

「ふざけんなぁ!!」

 

沢渡が食いつくも、即答される。しかも2人揃ってである。このクイズ大会、実はセレナ以外はバカそうな奴が集められたのである。実際、沢渡は兎も角、暗次と勝鬨はバカであった。

 

「では第1問!」

 

「話を聞けぇ!」

 

「鎌倉時代に始まり、室町時代に広まった米の裏作に麦を栽培する農業は」

 

と、ここで九庵堂の台詞を遮り、沢渡が自らの手を滑らせ、手元のボタンを押す。こんなバカな大会に付き合ってられるか、と汗を浮かべる。

ピンポン、軽快な音と共に机より身を乗り出す。

 

「それなら簡単だ!答えは二毛作!」

 

ブッブー。

 

「へ?なっ、何でダダダダダダァッ!?」

 

天より不正解を伝える音が鳴り響く。同時に沢渡の全身に強力な電流が走る。

どうやら椅子に仕掛けがあるようだ。沢渡が悲鳴を上げ、痺れる中、原因であるコナミと九庵堂は真顔でそれを眺め、遊矢達は沢渡の様子に歯をガチガチと鳴らして恐怖する。

 

電流がおさまり、ぷすぷすと黒い煙を放つ沢渡が勢いよく顔を上げ、怒りに染める。

 

「何でだよ!今のは二毛作だろ!?」

 

「鎌倉時代に始まり、室町時代に広まった米の裏作に麦を栽培する農業は二毛作」

 

「聞けよ!なんか俺の扱い雑すぎるだろ!連れて来といてこれなの!?後答えあってるよねぇ!?」

 

「ですが、4(3x-1)-4=7-(2x+1) この方程式の答えは何でしょう?」

 

「まさかの数学問題っ!?」

 

「はい!」

 

「黒門君、答えを言う前にボタンを押すように」

 

ここで暗次が元気良く手を上げ、問題に答えようとする。だがボタンを押してなかったらしい。暗次は慌てて手元のボタンを押し、先程と同じく元気良く声を上げる。

そんな彼の残念な姿に九庵堂は優しい顔を見せ、可哀想なものを見るような目で暗次を見つめる。

 

「はい黒門君、答えは幾つですかー?」

 

「たくさん!」

 

ブッブー。

 

「アバババババ!!」

 

「暗次君、勉強しよう!?掛け算だけじゃ通用しないから!」

 

当然不正解である。中学生なのだからせめてちゃんと数学をして欲しい。ぷすぷすと煙を上げる暗次にねねが助け船を出す。あれな子を見る目で見ながら、遊矢は手元にあった小さなホワイトボードを使いせっせと式を書く。

 

と、ここでピンポン、と音が鳴る。ボタンを押したのはセレナだ。彼女は先程までの電撃を見ていなかったように何の躊躇いもなく答えを言い放つ。

 

「答えはx=1だ」

 

「キッキー!」

 

「正解!いやぁ、簡単すぎましたかねぇ?遊矢くぅん?」

 

「うっ、うん簡単だったね!でもね、暗次が難しそうだからもっとレベルを下げても良いんだよ?俺は簡単だったけどね!うん!」

 

九庵堂の煽るようなゲスい顔芸に苦笑いしながら答える遊矢。ぶっちゃけ解けたには解けたが、如何せん時間がかかったのだ。どうにも敗北感は否めない。

 

「では第2問!1個100円のリンゴ4個と、1個120円の梨を何個か買ったら、代金が1000円だった。さて、梨は何個買ったのでしょう?」

 

「はいっ!」

 

「勝鬨君、勢いをつけすぎてボタンを壊すのはやめてください」

 

問題が出された途端、勝鬨が目にも止まらぬ速さでボタンに瓦割りの要領で手刀を下す。ズドバァンッ!と激しい破壊音が響き、ボタンは粉々に砕け散る。

因みに、ここで目を覚ました時、勝鬨や暗次、沢渡は互いに自己紹介を果たしている。とは言っても、遊矢達は勝鬨がこんなにもリアルファイターなのは知らなかったが。

唖然とする皆を無視し、勝鬨がフッ、と不敵に笑う。

 

「答えは0だ!自分が全部食べるからな!無論リンゴもだ!!」

 

ブッブー。

 

「グゥッ!?い、意外と……き、効くものだな……!」

 

「あの勝鬨って人も相当じゃない!?」

 

「かっ、勝鬨くぅーん!」

当然不正解である。やはりコナミと勝鬨の目に狂いは無かったと言う事か。集められたバカは期待を裏切らない。デュエルやリアルファイトの特訓ばかりで勉強など二の次だったのだ。

しかし身体を鍛えてきた為か、電流を何とか堪えている。

 

「貴様っ!ちゃんと皆で分け合いっこして食べろ!」

 

勝鬨の謎の大食いアピールに激昂するセレナ。果たしてそこは怒るところなのか、とここでセレナがボタンを押して問題に答える。

 

「答えは5個だ!私がリンゴ1個と梨が2個!遊矢と暗次と勝鬨がリンゴと梨1個ずつだ!」

 

「キッキー!」

 

「俺は!?俺の分のリンゴと梨はないっアダダダダダァ!?何で今電流流したぁ!?」

 

正解音と共に沢渡の悲鳴がこだまする。梨を1個多めに持っていく辺り、セレナも食いしん坊なのかもしれない。いや、SALの分と信じよう。

一方、沢渡は意味も無く電流を流された事により、原因足るコナミをキッ、と睨む。

 

「気分?」

 

「気分で!?頭おかしいんじゃねぇのお前!?」

 

コナミが何言ってるんだコイツは?と言いたげな顔で首を傾げ、返答する。その馬鹿げた答えに沢渡が白目を剥き、怒りを露にするのも無理は無いだろう。そんな横暴で気紛れで理不尽な理由で身体に電流を流されるなんて堪ったものではない。

 

ギャーギャーとうるさくコナミを罵倒する沢渡。しかしコナミの相方である九庵堂もコナミを擁護するべく夢に出てきそうな顔芸を披露しながら沢渡に反論する。

 

「おやおやぁ~ん?僕とした事が言ってませんでしたねぇ?この電流、不正解した者に流すのでは無く、コナミ君の気分で流すのですよぉ。すまんの、沢渡ンゴ」

 

「ンゴゴゴゴwwwwじゃねぇよバカ!理不尽すぎねぇ!?後何で馴れ馴れしいんだよ!?一番イラッとしたわ!」

 

聞きたくなかった事実である。これでは避けようにも、どう避けて良いのか分からない。しかも相手はあのコナミである。何処に地雷が存在するのか分からない。遊矢達の顔が青ざめ、カタカタと震え出す。

 

「では第3問!」

 

「話が通じない!」

 

「溜まっていた電気が流れ出したり、電気が空間を移動する現象を何と言うか」

 

瞬間、セレナの右腕が消える。いや、消えたかに見える程の神速。空気をも引き裂き、右手はボタンへと届く。ピンポン、心地好い音が響き、コナミ達の座るテーブルに目を配らせる。

 

「放電!!」

 

「正解!実証しましょう!」

 

「あいあいさー」

 

「イダダダダダダァッ!?だから何で俺っ!?問題出された時から嫌な予感してたんだよクソッタレ!」

 

最早グルなんじゃないかと思い、セレナを横目で見る沢渡。しかし「次は何だ!?」と目をキラキラと輝かせ、ふんすと鼻を鳴らす、犬ならば今頃ぶんぶんと尻尾が千切れんばかりに振られているような彼女を見て、確証する。

 

ああ、コイツ、バカじゃないけどポンコツなんだな。と残念なものを見るような目で見ながら早く終わってくれ、と祈りを捧げるように願う。本当に、コナミが関わるとロクな事にならない。

 

「では第4問!室町時代に将軍の補佐役として置かれた役職を答えよ」

 

問題が出題された途端、回復したのか、暗次がガバリと顔を上げてボタンを押す。随分と得意気な表情だ。今度ばかりは大丈夫なのだろうか。

 

「副将軍!」

 

「フフ、違います」

 

「アアイダァダダダァ!?」

 

残念な子を見るような優しい目で暗次に答えた後、九庵堂はコナミへと視線を移す。コナミもこれはどうかと思ったのだろう。溜め息をつき、頷いた後、直後に暗次の座る椅子に電流を走らせる。途端に暗次は痺れ、黒い煙を上げてバタリと倒れる。

 

(副将軍じゃなかったのか……)

 

ぷすぷすと煙を上げる暗次をチラリと見て、危ねぇ危ねぇと内心冷や汗ダラダラなバカ2号、勝鬨。因みに言わずとも分かるだろうが1号は、塵と化した暗次である。彼の犠牲は無駄では無かった。彼が身を挺して間違えくれたお蔭で勝鬨は電撃を受けずに済んだ。合掌。

そして勝鬨は手元のボタンを押して答えを言い放つ。

 

「サブ将軍!」

 

「バカ将軍ですねぇ」

 

「グァァァァァァッ!?何かさっきより強くなってる!?」

 

「答えは管領だ!」

 

ピンポン。セレナの答えに正解音が鳴る。これで4連続正解。そろそろヤバイな、と遊矢達も本腰を入れてクイズに望む。

 

――――――

 

「いやぁ、ハッハッハ……皆さん悔しいでしょうねぇ」

 

「悔しいでしょうねぇ」

 

無理だった。遊矢も何とか問題を解いたのは解いたのだが、早押しと言うルール上、どうしてもセレナに遅れをとってしまう。沢渡は解いても解けなくても電流を流されていた。暗次と勝鬨は言うまでもないだろう、黒焦げである。

現状はセレナの大量リード。何とか一泡吹かせたい、と遊矢は意気込む。

 

「では最終問題!0.3x-1.2=-0.2x-1.3 この方程式を答えなさい」

 

瞬間、遊矢の全身に電撃が駆け抜ける。まるでデュエルの時、逆転の1手を引いたような感覚。ああ、この問題は――セレナゼミで習った所だ!

遊矢は自然とボタンを押していた。本人でさえ自覚してないものだ。数秒遅れ、慌てた遊矢が答えを放つ。

 

「えっ……と、x=-1/5?」

 

ピン、ポーン。正解音が会場に響き渡る。正解、そう、正解だ。その事実に目が見開かれ、頬が緩む。やった。やったのだ。

 

「……い、よっ……しゃぁぁぁぁぁ!!」

 

顔中に笑みを浮かべ、身体を縮ませてありったけの喜びを表すようにガッツポーズを取る。そんな彼の様子に九庵堂は随分と面白く無さそうに唇を尖らせる。

 

「……ふん、クイズで笑顔を……飽きちゃったよ、僕は帰るよ。コナミ君、またね」

 

つまらなそうに鼻を鳴らし、椅子から腰を上げて遊矢達に背を向ける。コツコツと静かに去ろうとする彼を見て、椅子より解放された遊矢が九庵堂に向かって駆ける。

 

「九庵堂!」

 

遊矢の声に背を向けたまま立ち止まる九庵堂。遊矢も足を止め、九庵堂に向かい、クイズの時には曇っていた笑顔を浮かべる。

 

「色々あったけど……楽しかった!次はデュエルで勝負しようぜ!」

 

「……フッ、安心するのはまだ早いよ!次こそはリベンジだ!君が泣く程難しいクイズで成績アップに貢献してやるよ!」

 

ニヤリ、口元を歪め、強烈な笑顔を残して去っていく九庵堂。悪いやつではないのだろう。このクイズを通し、確かな絆を感じ取った遊矢。

次は――デュエルで――きっとその時も互いに笑えるように。

 

「痺れる~!」

 

「アダダダダダァ!?おいこらクソガキッ!それをこっちに寄越せっ!後何で俺だけ椅子に縛られたままなんだ!?」

 

「フトシ、そっちのレバーを上げたら強になるぞ」

 

さて、次はどうやってこの場に収集をつけようか、新たに発生した問題に、頭を悩ませる遊矢であった。

 

「遊矢、お前は勉強会だ」

 

「キキッ」

 

「あ、やっぱりそうなります?」

 

遊矢の肩に爪を食い込ませ、ちょっとこっちに来いと顎で扉の先を差すセレナ先生。ただ教材をやるだけでは頭は良くならない。セレナゼミと書かれた教材を片手に持ち、遊矢の首根っこをつかんで引き摺るセレナ。

何時かきっと、セレナゼミのお蔭で部活も勉強もデュエルの腕も上がって、彼女も出来ました!と言える日がくるのだろうか、と妄想しながら項垂れる遊矢。

 

「暗次、勝鬨、お前達もコナミゼミにご招待だ」

 

「「マジすか」」

 

口元に弧を描き、懐からセレナゼミのパチモンのような教材を取り出して2人を引き摺るコナミ。どうにも不安が煽られる赤帽子先生である。逃げる事も出来ず、遊矢と同じように引き摺られる2人のバカ。そんな彼等につられて皆もぞろぞろとその場から離れていく。

 

「……俺はぁ!?」

 

「痺れる~!」

 

「アバババババァッ!?」

 

明かりが消された部屋でフトシに電流を流され、悲鳴を上げる沢渡を置いて。

 

 

 

 




沢渡さんはバカではないと思う。ただ弄られキャラなだけ。
問題は中学生の頃の教科書を引っ張り出して考えました。意外と解けて満足。
次回は茄子と勲章おじさんのターン、どっちも好きなキャラなんで頑張ります。


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第28話 No.はNo.以外の戦闘では破壊されない(大嘘)

ポケモン サンとムーンが出るみたいですね。ソルロックとルナトーンも出世したなぁ(遠い目)


「随分と暗い顔だね。もしかして最近寝てないのかい?」

 

コンテナの上に立った少年、八雲が旧友に再会したかのようにユートへと声を投げかける。目を細め、口元を三日月のように持ち上げられた幼子を思わせる笑みだ。対するユートはと言うと先程より微動だにしない。

呆然と八雲を見上げるのみ、まるで亡霊にでも相対したかのような、蜘蛛の巣に張りつけられた感覚。鳶が上空に旋回し、船の汽笛が吹き、冷たい海風が頬を撫でる。

 

「無視とは酷いなぁ。ああ、隼や瑠璃、瑠那は元気かな?」

 

やれやれ、と芝居がかった仕草で頭を振る八雲。絶えずユートに話しかける。巣にかかった獲物にジリジリと迫るような口調だ。表面上は笑顔を浮かべているが内心では何を考えているのか分からない。

 

「……ふぅ、ここに来てまでだんまりか……感動の再会なのにねぇ」

 

「……にが……」

 

呆れた顔を見せる八雲に対し、漸くユートが変化を見せる。奥歯に力を入れ、キュッ、と口元が引き締められる。その顔色は上空で飛ぶ鳶の影が差し込み、伺い知れない。

だが八雲には手に取るように理解できる。これから先の展開を予測し、笑みを浮かべる。

 

「何が、感動の再会だッ!!お前が裏切ったから……俺達は多くの仲間を失ったと言うのに……!」

 

激昂。ギリッ、と奥歯を噛み締め、冷静沈着を心掛けていたユートが怒りを見せる。裏切り者、目の前の少年をそう評し、ユートが左腕のデュエルディスクを構える。

そんな彼を制したのは意外な人物だった。

 

「待て、少年。奴には私も思うところがある」

 

先程ユートと話をしていた男だ。彼はユート程激昂してはいないが、温和で人が良さそうな表情から一転、真剣な顔つきで眉根を寄せ、八雲を睨んでいる。

 

「……ん?ああ、何処かで見覚えがあると思えば……確かバレットさんでしたっけ?傷は大丈夫ですか?」

 

柔らかい態度で男、バレットへと好青年のような笑みを向ける八雲。どうやらユートだけでなく、バレットとも面識があるようだ。惚けるような言葉に一瞬ではあるが眉をぴくりと動かせる。

 

「お陰様でな……貴様とこうして会うとどうしても自分が戦士である事を自覚させられる」

 

皮肉気に一笑し、デュエルディスクを構えるバレット。好戦的な2人のデュエリストに八雲は頬を掻き、参ったな、と苦笑する。

 

「やれやれ、本当はどちらか1人とデュエルをしたい所だけどね……そうだ!タッグデュエルにしようか!」

 

「……タッグデュエルだと……?お前にはパートナーがいないようだが……?」

 

「やだなぁ、ユート。デュエルするのは僕じゃないさ」

 

妙に芝居がかった口調で指を鳴らす八雲。それに答えるように八雲の背後より2つの影が飛び出し、ユート達の眼前に降り立つ。

 

「人の心に淀む影を照らす」

 

1人は随分と大柄で太った男だ。モヒカンに上半身裸の上にマント、顔の左半分を機械で覆った奇抜な姿、額と腹部には星のマークが描かれている。

 

「眩き光」

 

もう1人も個性的な衣装を纏っている。羽織に袴、顔には夜叉の面の下半分を模した飾り、切れ長の瞳と長髪と美丈夫な男。

 

「「人は我等を、ナンバーズハンターと呼ぶ」」

 

デュエルディスクを構え、ユート達に敵意を見せる2人のナンバーズハンターを名乗るデュエリスト。その顔には見覚えがある。

 

「お前達は……料理担当のイビルーダーと飛車角!?」

 

やはりユートの知り合いのようだ。しかしその顔は驚愕に染まっている。まるで、いるはずの無い人物を目にしているように。

 

「さぁ、君達の相手はこの2人だ。折角の感動の再会、感謝してくれよ?ユート」

 

「八雲……!2人に何をした!?」

 

「なぁに、少し洗脳のようなものをね」

 

面白いだろう?と冗談染みた口調でユートを煽る八雲。その非道な行いにユートは怒りを燃やし、拳を握り締める。

 

「……すまないバレットさん、力を貸してくれ……!」

 

たったさっき知り合ったばかりのバレットへ振り向き、頭を下げるユート。無礼は重々承知している。だがそれでも、目の前の八雲の行いを許せない、仲間を救いたい。ユートの意志の籠った瞳を見て、バレットも頷く。

 

「元よりそのつもりだ。ここで会ったのも何かの縁、共に闘おう」

 

「話は終わったかい?なら――」

 

八雲が早く早く、と急かすと共にナンバーズハンターが虚ろな目でデュエルディスクより光のプレートを展開する。ユートとバレットも無言で光のプレートを展開する。

斯くして、本来敵である2人は手を組み、闘いに望む。まだ――2人はその事を知らずに――。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

先攻を取ったのはユートだ。デュエルとなれば冷静さを取り戻し、場を固めようとモンスターを召喚する。

 

「俺のターン、俺は『幻影騎士団ラギッドグローブ』を召喚」

 

幻影騎士団ラギッドグローブ 攻撃力1000

 

現れたのは青い手甲を纏わせた巨大な腕が特徴的なモンスターだ。下半身は青白い炎が吹き出し、上半身はデッサン人形のような形をしている。

 

「更に、自分フィールドに『幻影騎士団』モンスターが存在する場合、『幻影騎士団サイレントブーツ』は手札より特殊召喚できる」

 

幻影騎士団サイレントブーツ 守備力1200

 

雷より駆け抜けるのはボロ切れとも言って良い程のローブを纏ったブーツだ。首に当たる部位には重々しい首輪が嵌められており、両腕の手錠と鎖で繋がれている。これでレベル3のモンスターが2体、どちらかがチューナーでは無い事を考えれば次の手も限られるだろう。

 

「俺は、2体のモンスターでオーバレイ・ネットワークを構築!戦場に倒れし騎士達の魂よ。今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ!エクシーズ召喚!現れろ!『幻影騎士団ブレイクソード』!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000→3000

 

ユートの場に来るは鎧の黒馬と一体化した首なしの騎士。左手にはその名の由来であろう壊れた剣を持っており、鎧の隙間からは青い炎が上がっている。

 

「……エクシーズモンスターか……」

 

ユートの隣に立つバレットが一瞬、眉をひそめる。本当に一瞬の事だ、ユートはそれを見逃し、デュエルを続行する。

 

「ラギッドグローブが闇属性エクシーズモンスターの素材となった事により、ブレイクソードは攻撃力を1000アップする効果を得る。俺はカードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

ユート&バレットLP4000

フィールド 『幻影騎士団ブレイクソード』(攻撃表示)

セット2

手札1(ユート) 手札5(バレット)

 

これでユートの場には攻撃力が3000と化したブレイクソードが1体、バックのカードは2枚。まずまずの出だしと言ったところか。ユートに続き、ターンを引き継いだのは太った男、イビルーダーだ。彼はその巨体とは裏腹に、静かな動作でドローする。

 

「私のターン、ドロー。相手フィールド上にエクシーズモンスターが存在する場合、『スターシップ・スパイ・プレーン』は手札から特殊召喚できる」

 

スターシップ・スパイ・プレーン 攻撃力1100

 

上空に旋回したるは丸い円盤状のモンスターだ。その姿は巨大、思わずユートはそのモンスターを見上げ、眉を寄せる。

 

「このカードが手札からの特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法、罠カードを1枚選択して持ち主の手札に戻す。右の伏せカードを戻そう」

 

「くっ……!」

 

「更に私は手札より『スターシップ・アジャスト・プレーン』を召喚」

 

スターシップ・アジャスト・プレーン 攻撃力500

 

「『スターシップ・アジャスト・プレーン』の効果により、スパイ・プレーンとこのカードのレベルはレベルの合計、7となる」

 

スターシップ・スパイ・プレーン レベル4→7

 

スターシップ・アジャスト・プレーン レベル3→7

 

これでレベル7のモンスターが2体、ユートはその顔に警戒を示す。イビルーダーのデュエルは見た事が無いが自分と同郷の者だ、狙ってくるだろう。そして恐らく、パートナーである飛車角も。

 

「私は2体のモンスターでオーバレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!発進せよ!!No.42!!スターシップ・ギャラクシー・トマホーク!!」

 

No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク 守備力3000

 

上空より激しい耳鳴りが響く。その主はイビルーダーの召喚したエクシーズモンスターだ。

圧倒的な巨体を誇る機体。その登場にユート達は驚愕し、目を見開く。ステルス攻撃機特有のエイのような形状、尾のようなパーツも相まって良く似ている。そして機体の前方、左翼部分には42の赤き紋様が鈍く、禍々しい輝きを見せている。

 

「ナン……バーズ……!?」

 

そう、『No.』その名には聞き覚えがある。自分の仲間である黒帽子の少年が扱うモンスターと同じだ。眼前で異様な程の力を放つモンスター、そのプレッシャーに膝をつきそうになるが何とか持ちこたえる。

 

「私はカードを3枚伏せ、ターンエンド」

 

イビルーダー&飛車角 LP4000

フィールド 『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』(守備表示)

セット3

手札1(イビルーダー) 手札5(飛車角)

 

ターンがバレットへと回る。目の前の巨大なモンスターを前にしても彼の表情は変わらない。ただ坦々と観察をし、どう手を打つか思考しているようだ。

 

「私のターン、ドロー。……ふむ……私は『キャリア・センチネル』を召喚」

 

キャリア・センチネル 攻撃力1000

 

フィールドへライトを光らせ、現れたのは小さなトラックのようなモンスターだ。隣に立つユートは見慣れないカードに興味を示す。

 

「『キャリア・センチネル』の召喚時効果により、デッキから獣戦士族モンスター、『漆黒のワーウルフ』を手札に加え、魔法カード、『融合』を発動。牙剥く戦場の狼よ、歴戦の番兵と一つになりて、新たなる雄叫びを上げよ!融合召喚!現れ出でよ!『獣闘機パンサー・プレデター』!!」

 

獣闘機パンサー・プレデター 攻撃力1600

 

渦を背にし、バレットがその手を合わせる。現れたのは半身を機械に改造され、火花を散らす鋭い眼光の黒豹の戦士。

 

「……『融合』……」

 

登場したモンスターを見て、ユートが顔をしかめる。彼にとって『融合』は並々ならぬ因縁があるが、今は味方と踏んだのだろう。何とか持ち直す。

 

「パンサー・プレデターの効果、1ターンに1度、このカードの攻撃力の半分のダメージを与える。正攻法は嫌いではないが……私はこう言った戦法が性に合っていてね」

 

イビルーダー&飛車角 LP4000→3200

 

「永続罠、『幻影剣』を発動。『幻影騎士団ブレイクソード』の攻撃力を800ポイントアップする」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力3000→3800

 

ブレイクソードの持つ剣、その折れた刃先が紫色に光り、強化される。これで敵のモンスターの守備力を上回った。伏せカードが気になる所だが、攻められる時に攻めるべきだろう。

幸い、『幻影剣』には対象となったモンスターの破壊を肩代わりする効果がある。バレットは覚悟を決め、戦闘に移る。

 

「バトルだ。ブレイクソードでスターシップ・ギャラクシー・トマホークへ攻撃」

 

黒馬が蹄を鳴らし、大きく跳躍する。まるで鳥類の飛翔のようなそれ。ブレイクソードはギャラクシー・トマホークの左翼に飛び乗り、自らの刃を赤い紋様目掛けて突き立てようとする。

 

「無駄だ。永続罠、『ナンバーズ・ウォール』!このカードがフィールドに存在する限り、『No.』と名のついたモンスターはカードの効果では破壊されず、『No.』は『No.』との戦闘以外では破壊されない!」

 

だが、無意味。ギャラクシー・トマホークの紋様が輝き、ブレイクソードの足元へ巨大化して浮かび上がる。剣は紋様によって防がれ、反発してブレイクソードが振り落とされる。

 

「……随分と面倒なものを……メインフェイズ2に入り、ブレイクソードのORUを1つ使う。私の場の『幻影剣』と貴様の場の『ナンバーズ・ウォール』を対象とし、破壊する」

 

バレット達の場に存在する『幻影剣』がブレイクソードの折れた刃先に吸収され、剣の形を取り戻す。そしてその刃先を衝撃波とし飛ばし、イビルーダーの場に存在する『ナンバーズ・ウォール』を真っ二つに切り裂いた。

パリン、硝子の割れるような音と共に砕け散る『ナンバーズ・ウォール』。これで耐性は無くなった。

 

「私はカードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

ユート&バレット LP4000

フィールド 『幻影騎士団ブレイクソード』(攻撃表示) 『獣闘機パンサー・プレデター』(攻撃表示)

セット2

手札1(ユート) 手札2(バレット)

 

「オレのターン、ドロー。オレは『ラインモンスターKホース』を召喚」

 

ラインモンスターKホース 攻撃力800

 

飛車角が召喚したのは将棋の駒の桂馬を頭部に貼り付け、上半身が鎧武者、下半身が馬のモンスターだ。攻撃力は低く、心許ない。

 

「Kホースが召喚に成功した時、相手の魔法、罠ゾーンにセットされているカード1枚を選択し、確認して罠カードであった場合、そのカードを破壊する!左のカードを見せてもらおう」

 

バレットが舌打ちを鳴らし、左に伏せられたカードがオープンされる。確認したカードは『業火のバリア-ファイヤー・フォース』、罠カードだ。Kホースは一足飛びに駆け、手に持った斬馬刀で切り裂く。

 

「更に、この効果で罠カードを破壊した時、手札から地属性、レベル3モンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する!来い!『ラインモンスタースピア・ホイール』!」

 

ラインモンスタースピア・ホイール 守備表示500

 

2体目のラインモンスターが飛車角の元へ躍り出る。次なるカードは黒い輪の中心に香車の駒をつけ、周りに槍を刺したモンスターだ。随分と変わったカードを使う、バレットは感心にも似た表情を見せ、観察を続ける。

 

「スピア・ホイールの効果!このカード以外の自分フィールド上の獣戦士族、レベル3のモンスター1体を選択し、選択したモンスターとこのカードのレベルはそれぞれの星を合計した数値となる!」

 

ラインモンスターKホース レベル3→6

 

ラインモンスタースピア・ホイール レベル3→6

 

これでレベル6のモンスターが2体フィールドに揃った。手際の良いものだ。本当にこいつ等料理担当か?ユートは感心するよりも呆れてしまう。

 

「オレは、2体のモンスターでオーバレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!現れろ!『No.72ラインモンスターチャリオッツ・飛車』!!」

 

No.72ラインモンスターチャリオッツ・飛車 攻撃力2500

 

現れたのは先の2体よりも奇妙なモンスター、塔のような姿をし、胸部に当たる部分は右は赤、左は黄色になっており、特徴である72の紋様が刻まれている。

下半身はまるで昆虫のような4本脚となっており、周囲に飛車の駒に突起物をつけたリングを合成した物を浮かべている。

 

「……また『No.』か……!」

 

2体目となる『No.』の登場にユートが唇を噛む。1体でも持て余しているようなものなのに2体目だ。正直勘弁願いたい。

 

「永続罠、『鉄鎖の獣闘機勲章』発動。相手フィールドにモンスターが特殊召喚された場合、この効果を1度だけ発動できる。このカードが存在する限り、そのモンスターは攻撃できず、表示形式の変更もできない」

 

バレットの発動したカードより頑強な鎖が伸び、チャリオッツ・飛車を絡めとる。しかし、飛車角は読んでいたとばかりに左手を突き出す。

 

「その一手は読んでいた!チャリオッツ・飛車のORUを2つ取り除き、『幻影騎士団ブレイクソード』と『鉄鎖の獣闘機勲章』を選択し、発動!選択したカードを破壊する!……この効果を発動したターン、お前が受けるダメージは0になるがな」

 

チャリオッツ・飛車の周囲のORUが弾け飛び、2つの車輪が回転し、鎖を砕き、勢いを増してブレイクソードに迫る。ブレイクソードも手に持った剣で防ぐが、高速回転する車輪により破壊されてしまう。

 

「ブレイクソードの効果!エクシーズ召喚されたこのカードが破壊された場合、自分の墓地の同じレベルの『幻影騎士団』モンスター2体を対象とし、レベルを1つ上げて特殊召喚する!」

 

幻影騎士団ラギッドグローブ 守備力500 レベル3→4

 

幻影騎士団サイレントブーツ 守備力1200 レベル3→4

 

ユートが手を翳すと共に、フィールドに2体の『幻影騎士団』が復活する。カードを破壊されても後続のエクシーズモンスターに繋げられる効果、優秀な効果に飛車角は舌打ちを鳴らす。

 

「ギャラクシー・トマホークのORUを2つ取り除き、効果発動!自分フィールド上に『バトル・イーグル・トークン』を可能な限り特殊召喚する!この効果を発動したターン、お前が受けるダメージが0になるが……些細な事だ」

 

バトル・イーグル・トークン 攻撃力2000×3

 

ギャラクシー・トマホークの中より3機のステルス機が姿を見せる。ダメージが無いとは言え、強力だ。後続が残せない事にユートが歯軋りする。

 

「安心しろ少年。1体位なら後続を残そう」

 

隣に立うバレットがユートを安心させるように微笑む。どうやら八雲を前に彼本来の冷静さを失っていたようだ。

ポン、と背中を押してくれたバレットを見て、心を落ち着かせる。頼もしい背中だ。彼は常に冷静にデュエルを行っている。自分も見習わねば、とユートは気を引き締める。

 

「更に永続罠『暴走闘君』!このカードが存在する限り、自分フィールド上のトークンの攻撃力は1000アップし、戦闘では破壊されない!」

 

バトル・イーグル・トークン 攻撃力2000→3000×3

 

「さぁバトルだ!チャリオッツ・飛車でラギッドグローブを攻撃!」

 

チャリオッツ・飛車の車輪が回転し、ラギッドグローブの手甲を砕く。砕け散った手甲の欠片がユート達へ襲いかかり、肌を傷つける。

ダメージがない筈なのに、痛みが現実を侵食している――。別段おかしな事ではない。今までユートは何度も経験してきた事、しかし、その痛みの強さが違う。恐らくは――『No.』の影響か――。

 

「『バトル・イーグル・トークン』でサイレントブーツを攻撃!」

 

『バトル・イーグル・トークン』が低空飛行でサイレントブーツへ迫る。

下腹部に当たる部分よりガトリング砲が展開され、銃弾の雨が降り注ぐ。

 

「2体目の『バトル・イーグル・トークン』でパンサー・プレデターを攻撃!」

 

続けて2体目の『バトル・イーグル・トークン』が両翼よりレーザーを発射し、パンサー・プレデターの身体を溶かしていく。ダメージが無いとは言え、その余波は強大だ。舞い上がる土煙にユートとバレットは苦い顔を見せる。

 

「これでお前達の駒は全て無くなった――」

 

フッ、と飛車角が仮面の下で笑う。だがしかし、バレットは微動だにせず、余裕を見せる。そう、土煙が上がったそこには――2体のモンスターが存在していた――。

 

「何ぃ!?」

 

「パンサー・プレデターが戦闘によって破壊された場合、融合素材となったモンスター1組を特殊召喚する」

 

漆黒の戦士 ワーウルフ 攻撃力1600

 

キャリア・センチネル 守備力1600

 

バレットのフィールドに現れたのは黒い毛並みの狼男とトラックのようなモンスター。

 

「チィッ!3体目の『バトル・イーグル・トークン』で『漆黒の戦士ワーウルフ』を攻撃!」

 

最後の攻撃がバレットのモンスターへ襲い来る。戦艦の強力な力により、『キャリア・センチネル』以外のモンスターが全て消滅した――。

 

「1体残ったか……オレはカードを2枚伏せ、ターンエンドだ。この瞬間、『バトル・イーグル・トークン』は母艦へと帰る」

 

イビルーダー&飛車角 LP3200

フィールド『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』(守備表示) 『No.72ラインモンスターチャリオッツ・飛車』(攻撃表示)

『暴走闘君』セット2

手札1(イビルーダー) 手札2(飛車角)

 

これで互いの最初のターンが終了する。敵の場には2体の『No.』。さぁ、どう攻略するか――。ユートは眼をキッと吊り上げ、デッキの上へと手を置く――。




八雲とイビルーダーと飛車角は漫画ゼアルのオリキャラです。
スターシップ・アジャスト・プレーンは漫画オリカ、バレットさんの獣闘機はアニメオリカ。
ユートとバレットさんは今の所、互いが敵と言う事に気づいてません。大体寝不足のせい。
料理担当班は意外と強かったりします。でも表で働きたくない。ユート達のデュエルに沢渡さんの子分のごとく茶々を入れるだけ。


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第29話 刃のような鋭さも、バレットのごとき威力も感じられない

ふと閃いた。決闘少女ストロング☆柚子なんてどうだろう?妖精枠はモリンフェンとゴリラとバーガーとヤリザ殿、四人の少女がハゲに立ち向かう話。一番キャラが変わるのはクロワッサンと勲章おじさん。
暇ができ、気分が乗れば書くかもしれない、書かないかもしれない。多分忙しくなりそうだから無理。これも一週間更新が続くかどうか……。


「くぁぁっ!?」

 

光津 真澄 LP1400→0

 

ドサァッ、と廊下に投げ出されるような形で真澄が倒れる。これで4回目の敗北、公式戦であれば勝率がだだ下がりだろう。

デュエルディスクのプレートが光を失って消滅し、設置されていたカードがバラバラに床に散らばる。

 

「ふん!私の勝ちだな!だが今のは中々良い線だったぞ、真澄ん!」

 

「うぐ……ま、真澄んって言うなし……!」

 

床に倒れた真澄んこと真澄へと、このデュエルの勝者であるセレナがドヤ顔で語りかける。互いに融合使いだからか、デュエルを通す内に仲が良くなっていた。最早友人と言っても良いだろう。

しかしあくまで真澄はコナミと友達になる為にここにいるのだ。床に落ちたカードをデッキに戻し、再びデュエルディスクを構える。

 

「もう1度よ。今度こそここを通して貰うわ」

 

「その意気や善し!私も全力で迎え撃つ!」

 

「私だって負けないわ!マルコ先生の弟子だもの!これ以上先生の名に泥は塗れない!」

 

「ほう、真澄んにも先生がいるのか!」

 

意気込む真澄へとセレナが目を丸くし、感心めいた声を上げる。上機嫌な彼女の様子を見て、真澄も伺うように疑問の声を放つ。

 

「貴方にも師がいるの?」

 

「ああ、2人な!」

 

ニコリ、花が咲き誇るような満面の笑みで答えるセレナ。彼女がこんなにも楽しそうに語る師に真澄も自然と興味が沸く。

これ程までに強いセレナを育てたデュエリストはどれ程の腕なのか、と。

 

「1人は優しくて強い人だ……私は先生から色んな事を学んだ。そしてもう1人は不器用で、口下手で、SALのバナナを良く摘まみ食いする……だけど」

 

「?」

 

「私は、バレットが……父が先生以外に負けた所を見た事が無い」

 

口元に弧を描いて答えるセレナ。その瞳には確かに、信頼の色が見える。同時に真澄も笑みを浮かべる。ああ――目の前の少女も――良い師に、恵まれたのだろう。

 

「……何してるんだ?」

 

と、ここでセレナの背後のドアが開き、コナミが遠慮がちに顔を見せる。突然コナミが現れたせいか、真澄は狼狽え、目的のコナミと友達になる、と言うのは記憶の彼方へと消えていくのであった――。

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

場所は変わり、舞網市の沿岸。そこではユートとバレット、そしてナンバーズハンター2人のデュエルが続けられていた。

イビルーダーと飛車角のフィールドには2体の『No.』。将棋の駒をモチーフとした『No.72ラインモンスターチャリオッツ・飛車』。そして強力なトークンを生成する高守備力の巨大母艦、『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』が存在している。

ユートは2体のモンスターをジッと睨む。どちらも厄介な効果を持つがORUは既に尽きている。焦らずに各個撃破が望ましいだろう。

 

「『終末の騎士』を召喚」

 

終末の騎士 攻撃力1400

 

現れたのはボロボロに傷つき、錆びついた鎧を纏った騎士。まるで砂漠を渡るかのようなゴーグルとスカーフを身につけ、その手にはサーベルを持っている。闇属性モンスターを使う者にとっては優秀な1枚だ。

 

「召喚時効果により、デッキから闇属性モンスター、『幻影騎士団ダスティローブ』を墓地に送る。更にダスティローブを墓地から除外し、デッキから『幻影騎士団サイレントブーツ』を手札に加える。準備は整ったか……墓地の『幻影剣』を除外し、墓地の『幻影騎士団ラギッドグローブ』を特殊召喚」

 

幻影騎士団ラギッドグローブ 攻撃力1000

 

「まだだ。手札より『幻影騎士団サイレントブーツ』を特殊召喚」

 

幻影騎士団サイレントブーツ 守備力1200

 

次々と動きを見せるユート。手札が少なくとも、墓地から真価を発揮するのが彼のカードだ。そして、これでレベル3、4のモンスターが2体となった。

 

「俺は2体のモンスターでオーバレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!再びフィールドへ現れろ!『幻影騎士団ブレイクソード』!!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000→3000

 

2体目のブレイクソードがフィールドを駆け抜ける。このカードがユートのデッキにとってキーカードなのだろう。実際ユートにとっては裏のエースと言って良い程信頼を寄せている。

 

「墓地のサイレントブーツを除外し、デッキより『幻影霧剣』を手札に加える」

 

「さぁて、残るはレベル4のモンスターが2体……来るかい?ユート?」

 

コンテナの上に座り込んだ八雲が目を皿のようにし、手で顎を支えながら笑う。完全に読まれている。焦る気持ちを抑え、冷静に頭を動かせる。読まれていたとしてもこの手しかない。敵の思い通りだろうと言葉に振り回されずに自分がやりたいようにやるべきだろう。

 

しかし、どうにも融合素材となっていたモンスターを使うのは気が引ける。これも彼の経験のせいか、だが、力には罪は無い。バレットも頼れる男だ。深呼吸を一つし、気を引き締める。

 

「俺は!2体のモンスターでオーバレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!」

 

黒き渦が発生し、中より霧が広がっていく。その中で巨大な尾が振るわれ、鋭い翼が羽ばたき、霧を散らす。これより現れたるはユートのエースカード。長き戦いを共にして来た、反逆の黒き力。

 

「エクシーズ召喚!現れろ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

紫の体躯からバチバチと赤い雷を放電し、刃物のような鈍い輝きを放つ翼、角、腕、尾を持つ竜。何よりも目を引くのはその竜の顎であろう鋭く、見る者を吸い込みそうな妖しい光のあるそれ。

正しく闇の逆鱗。『No.』にも匹敵する力が今、解き放たれた。

 

「来たか……ダーク・リベリオン……!」

 

八雲がこれまでに無い喜びに満ちた表情を見せる。子供のような邪気の欠片も無い妖しい笑み。それを見てユートがまるで死神の鎌を喉に突きつけられたかのような錯覚に陥る。だがそれも一瞬の事、直ぐに振り払い、左手を前に出す。

 

「ダーク・リベリオンのORUを2つ取り除き、チャリオッツ・飛車を対象とし、効果発動!チャリオッツ・飛車の攻撃力を半分にし、その数値分、このカードの攻撃力をアップする!トリーズン・ディスチャージ!」

 

No.72ラインモンスターチャリオッツ・飛車 攻撃力2500→1250

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→3750

 

ダーク・リベリオンのORUが弾け、咆哮する。空気を震わせるようなプレッシャーを前にチャリオッツ・飛車がガクリと前に倒れ、竜の両翼の宝玉へと力が吸収されていく。『フォース』を内蔵した優秀な効果、攻撃力増加が永続と言うのも強力だ。

 

「さぁ、バトルだ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』でギャラクシー・トマホークを攻撃!反逆のライトニング・ディスオベイ!!」

 

赤き雷が宙を舞い、竜もその体躯を空中で翻す。地面へ牙を突き立て、引き摺るようにギャラクシー・トマホークへ向かって進んでいく。ゴガガガガッ、激しい音を立て、コンクリートをも砕く竜のアギトが迫る。

 

「永続罠『ナンバーズ・ウォール』!」

 

「ッ!またそれか……!」

 

しかし、後一歩と言う所でまたしても『No.』の文字が浮かび上がり、障壁となって牙を防ぐ。先程のターンの繰り返しの光景にユートが苛立つ。

 

「ならばブレイクソードでチャリオッツ・飛車に攻撃!」

 

ダメージは防げないと考えたのだろう。ダーク・リベリオンの効果で弱体化したチャリオッツ・飛車へとユートの剣が駆け、その錆びついた刃を突き立てる。

 

イビルーダー&飛車角 LP3200→1450

 

「メインフェイズ2、カードを2枚伏せ、ブレイクソードのORUを1つ使い、俺の場の伏せカードと『ナンバーズ・ウォール』を対象とし、破壊。俺はこれでターンエンドだ」

 

ユート&バレット LP4000

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示) 『幻影騎士団ブレイクソード』(攻撃表示)

セット1

手札0(ユート) 手札2(バレット)

 

「私のターン、ドロー。この瞬間、罠カード、『ナンバーズ・オーバーレイ・ブースト』発動!自分フィールド上のORUの無い『No.』と名のついたエクシーズモンスター1体を選択し、自分の手札のモンスター2体をORUとする!私はチャリオッツ・飛車を選択!」

 

「徹底的に『No.』で戦う気か……!」

 

「エースカードを活かしているだけさ」

 

「クックック」と笑い声を噛み殺し、八雲が嘲笑う。これで効果を使う為のORUが補填された。

 

「チャリオッツ・飛車のORUを2つ取り除き、ダーク・リベリオンと伏せカードを破壊する!」

 

「永続罠!『幻影霧剣』!チャリオッツ・飛車の効果を無効にし、攻撃を封じる!」

 

「『トラップ・スタン』発動!このターン中、このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする!お前の戦略など見抜いているわ!」

 

流石は仲間と言う事か。永続罠を主体とした戦略は見抜かれているらしい。やりにくい敵だ。エースカードを活かし、且つ此方の思い通りにはさせてくれない。

 

弱体化しても尚、『No.』の力は健在と言う事か、車輪がこれまでに無い程の回転を見せ、ダーク・リベリオンへと襲いかかる。竜が羽ばたき、飛翔する。しかし高速で動き回り、車輪をかわす竜も上空に座したギャラクシー・トマホークに打ち落とされ、待ち構えた車輪によって潰される。

 

「チャリオッツ・飛車を守備表示に変更し、魔法カード、『一時休戦』発動!次のターン終了まで互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0に!」

 

飛車角 手札1→2

 

ユート 手札0→1

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

イビルーダー&飛車角 LP1450

フィールド『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』(守備表示) 『No.72ラインモンスターチャリオッツ・飛車』(守備表示)

『暴走闘君』セット1

手札0(イビルーダー) 手札1(飛車角)

 

「私のターン、ドロー。『キャリア・センチネル』を召喚」

 

キャリア・センチネル 攻撃力1000

 

「効果でパンサー・ウォリアーをサーチし、魔法カード『融合』発動。手札の『漆黒の豹戦士パンサーウォリアー』と『キャリア・センチネル』を融合、獰猛なる黒豹よ、聖なる闇の番人と混じり合いて新たなる雄叫びを上げよ!融合召喚!現れ出でよ、『獣闘機パンサー・プレデター』!!」

 

獣闘機パンサー・プレデター 攻撃力1600

 

「ブレイクソードのORUを取り除き、パンサー・プレデターとギャラクシー・トマホークを破壊する」

 

「速攻魔法、『神秘の中華なべ』!ギャラクシー・トマホークをリリースし、守備力3000をLPに変換!」

 

イビルーダー&飛車角 LP1450→4450

 

その言葉と同時にユートがその表情を驚愕の色に染める。ユートの見立て通りならパンサー・プレデターはバレットのエースカードの筈だ。それなのに彼はユートのモンスターでは無く、自分のモンスターを犠牲にした。一体何故?

 

「……同僚が言っていてね、確かにエースカードは大事だが……私にはもっと大事な、守るべきものがある。私はどちらも取るなんて器用な真似は出来ない。大切な者を守る為なら、私は魂など惜しくない」

 

ギン、バレットの左目が熱い闘志を見せる。冷静ながらも決して曲がる事の無い信念を抱いた眼だ。正直、ユートは彼のその覚悟に気圧されていた。勿論眼前のナンバーズハンターも。そして、あの八雲でさえ。

ユート自身も大切な者を取り戻そうとしている。決して生半可な覚悟では無い。だが、もしも自らの魂を捨てろと言われれば、彼のように即答出来るだろうか?

 

ユートの口元が緩む。ああ――スタンダード次元に来て良かった――。誰かを笑顔にしようと闘う少年と出会えた。誰かを守ろうとする男に出会えた。

例え、それが――融合次元の人間でも。融合次元にも、分かり合える者がいる。

“デュエリスト”がいる。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のパンサー・プレデター2体、パンサー・ウォリアー、ワーウルフ、キャリア・センチネルを回収し、2枚ドロー!」

 

バレット 手札0→2

 

「ブレイクソードでチャリオッツ・飛車を攻撃!」

 

バチィッ、ブレイクソードの折れた剣を舐めるように紫電が纏われ、矢の如くチャリオッツ・飛車へと飛ぶ。激しい雷がチャリオッツ・飛車の車輪を穿ち、黒焦げに変わり、霧散される。

残るは本体のみ、黒馬を駆けさせ、地面を蹴り、宙を舞う。頭部から足にかけ、ブレイクソードの刃が通り、真っ二つに切り裂く。

 

「私はカードを2枚セットし、ターンエンド」

 

ユート&バレット LP4000

フィールド『幻影騎士団ブレイクソード』(攻撃表示)

セット2

手札1(ユート) 手札0(バレット)

 

「オレのターン!オレは魔法カード『貪欲な壺』を発動!墓地の『ラインモンスターKホース』、『ラインモンスタースピア・ホイール』、『スターシップ・アジャスト・プレーン』、『スターシップ・スパイ・プレーン』2体を回収し、2枚ドロー!」

 

飛車角 手札1→3

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『暴走闘君』をコストに2枚ドロー!」

 

飛車角 手札2→4

 

「魔法カード『死者蘇生』!墓地より蘇れ!チャリオッツ・飛車!」

 

No.72ラインモンスターチャリオッツ・飛車 攻撃力2500

 

再びフィールドに『No.』が顕現する。ORUが無いものの良い加減にして欲しいものだ。

 

「まだまだ!魔法カード『ブラック・コア』!手札を1枚捨て、ブレイクソードを除外する!」

 

「ッ!しまった!」

 

これもユートに対する策の1つか、驚くのも束の間、ブレイクソードが黒き孔に飲み込まれ、朽ち果てる。ブレイクソードが素材を蘇生させるのは破壊された場合のみ、除外では効果が使えず、ユート達のフィールドが丸裸となる。

 

「クッフフフフ!詰みだ!チャリオッツ・飛車でダイレクトアタック!」

 

ユート&バレット LP4000→1500

 

チャリオッツ・飛車の車輪がユートとバレットに襲いかかる。身体を焼かれるような痛みが駆け巡る。目の前が真っ白に染まり、ボタボタと吐血する。だが、ユートは膝をつかない。無論、バレットもだ。こんなデュエルなど慣れている。そう言わんばかりに2人は無言で強引に足を立たせる。

 

「ふん……何時まで続くかな……俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

イビルーダー&飛車角 LP4450

フィールド『No.72ラインモンスターチャリオッツ・飛車』(攻撃表示)

セット1

手札0(イビルーダー) 手札0(飛車角)

 

「何時まで……?このターンで、終わりだ……!」

 

ユートの瞳に闘志が宿り、燃え上がる。こんな逆境、何度だって味わってきた。劣勢だろうと闘うしかない。彼が見てきた地獄はこんなものでは生温い。負けてなるものか、バレットは言った、大切な者を守る為なら、魂も惜しくない。ならば自分も賭けよう、仲間を救う為に、笑顔を取り戻す為に。

 

「さぁ、引き抜け。エクシーズ次元の少年よ」

 

バレットが呟く。彼も気づいていたのだろう。ユートの事に、だが、だからと言って彼は手など抜かなかった。ならばただ――感謝を――。

 

「イビルーダー、飛車角、お前達には刃のような鋭さも、弾丸のごとき威力も感じられない。俺が教えよう……八雲、お前も見ていろ」

 

指を差し、睨む。八雲もまた歪んだ笑みを向ける。

 

「ドローッ!」

 

引いたカードは逆転の一手とは言えない。が、逆転へと繋ぐカード。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『幻影騎士団ブレイクソード』、を2体、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』、『終末の騎士』、『ダーク・センチネル』を回収して2枚ドロー!墓地のサイレントブーツを除外し、『幻影剣』を手札に加え、『手札抹殺』!」

 

ユート 手札1→3→4→3

 

「魔法カード『強欲で貪欲な壺』を発動し、2枚ドロー!」

 

ユート 手札2→4

 

「永続魔法、『王家の神殿』を発動!カードを1枚セットし、リバースカードオープン!『デスメテオ』!速攻魔法、『連鎖爆撃』!1800のダメージを与える!」

 

イビルーダー&飛車角 LP4450→2650

 

「『終末の騎士』を召喚!」

 

終末の騎士 攻撃力1400

 

現れたのは文字通りこのデュエルに終末を告げるモンスター。このカードが、ユートの勝利への方程式を紡ぐ。

 

「効果により、デッキから『幻影騎士団フラジャイルアーマー』を墓地に送り、墓地のラギッドグローブを除外し、デッキの『幻影翼』を墓地へ送り、そのまま除外し、フラジャイルアーマー、特殊召喚!」

 

幻影騎士団フラジャイルアーマー 守備力2000

 

姿を見せたのは骨で作られた鎧を纏い、青い炎を吹き出した首なしの騎士。レベル4のモンスターが2体、これで――勝利は見えた。

 

「2体のモンスターでオーバレイ・ネットワークを構築!再び現れよ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

黒き竜がフィールドに舞い戻る。天高く飛翔し、スパークする雷が雲を引き裂き、地鳴りにも似た咆哮が響く。

このデュエル、最後の刺客が放たれた。

 

「ORUを2つ取り除き、攻撃力を吸収する!トリーズン・ディスチャージ!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!ダーク・リベリオンから攻撃権と効果を奪い取る!」

 

ダーク・リベリオンから雷が嘶いたその時、異次元に繋がる渦が発生し、中から鎖が飛び出て翼を拘束しようとダーク・リベリオンに襲いかかる。

 

「いいや!もう何も奪わせない!勝利も!仲間も!罠発動!『荒野の大竜巻』!」

 

しかし――ダーク・リベリオンの翼に竜巻が発生し、雷と重なり、鎖を砕いて破壊する。

 

No.72ラインモンスターチャリオッツ・飛車 攻撃力2500→1250

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→3750

 

「まだまだ!墓地の『幻影霧剣』を除外し、墓地の『幻影騎士団フラジャイルアーマー』を特殊召喚!」

 

幻影騎士団フラジャイルアーマー 攻撃力1000

 

「さぁ、バトルだ!ダーク・リベリオンでチャリオッツ・飛車を攻撃!反逆の!ライトニング・ディスオベイ!!」

 

上空より猛スピードで降下し、海面スレスレの所を滑空しながら竜は突き進む。その後についてくるのは水面に写った竜の影法師。水切り石のようにその身を弾かせながら牙をコンクリートに食い込ませ、破壊音を響かせる。

ズガガガガッ!地面をめくり上げ、イルカのジャンプを思わせるかの如く跳ねる。

 

「無駄だぁ!墓地より『タスケルトン』を除外し、その攻撃を無効にする!」

 

突如発生した障壁が竜のアギトを受け止める。バチバチと火花を上げ、ぶつかり合う障壁とアギト。その光景を見て、八雲が薄く笑う。

 

「「これで――詰みだ――」」

 

ビクリ、ユートと言葉が重なった事で八雲が目を見開く。馬鹿な――もう竜の攻撃は終わっていると言うのに――。八雲に答えるようにユートが1枚のカードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「まだ――ダーク・リベリオンの牙は折れていない――!八雲!お前に見せてやる!お前の知らない、仲間の力!かっとビングだ!俺!速攻魔法――、『ダブル・アップ・チャンス』!!ダーク・リベリオンの攻撃力を倍にし、もう1度攻撃する!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力3750 →7500

 

竜が怒りを見せるかのように咆哮し、牙が輝き、障壁を打ち破る。決着は――ユート達の、勝利――。

 

イビルーダー&飛車角 LP2650→0

 

「……ふぅん……『No.』を破ったか――」

 

八雲が立ち上がり、目を皿のように細める。随分と面白く無さそうだ。そんな彼に対し、次はお前だとばかりにユートとバレットが構える。しかし。

 

「今日はやめておくよ。ああ――これは預かっておくよ」

 

無言で睨む彼等に無邪気な笑みを見せながら、八雲がデュエルディスクを取り出し、画面を操作する。

 

「――ッ!?まさかっ!?」

 

直後、辺り一面を光が包み込む。光が消え、ユートが眼前に目を配らせる。先程まで倒れ伏したイビルーダーと飛車角が姿を消した――。いや、消されたのだ。正確には、八雲の手元へと。その証拠として、彼の手には2枚のカード。苦しむイビルーダーと飛車角の姿が描かれたカードがある。

そう、彼等は八雲によってカード化されたのだ。

 

「じゃあね。ユート」

 

その言葉と共に八雲が淡い光に包まれ、姿を消す。後に残されたのは、歯軋りをするユートとバレットのみ。

 

「ユート」

 

バレットが声をかける。少年では無く、ユートを名指しで呼んだのだ。ユートは彼に振り返る。その表情はどちらも真剣そのものだ。

 

「……今の私は戦士では無いし君の事情は良く知らん。だからと言って――私を恨むななどとは言わん。だが願わくば――」

 

その言葉を紡ぐ前に、バレットは背を向ける。ユートも、彼の言いたい事を察したのだろう。くるりと反転して、互いに別方向に歩み出す。足音も立たぬように、静かに、静かに。

 

「次に会う時は――敵では無く、またもう1度、共に闘いたいものだ――。ガッチャ、勲章もののデュエルだった――」

 

「――俺もです」

 

互いに背を向けている為、その表情は分からない。だが、きっと――笑顔で、あるように――。

 

――――――

 

「さて、次はどこを探すか……」

 

太陽が照り、眩しい日差しが襲う中、ユートは右手で頭を庇いながら再び沿岸付近を歩んでいた。

目的は勿論、仲間の捜索。気合いを入れ直し、晴れやかな気分で意気込んだ所で、ザッパァァァァッ、と海面が波打ち、大きな影がユートの頭上を超え、打ち付けられる。

ドスゥゥゥゥンッ!重量感たっぷりの音を響かせ、コンクリートにひびが走る。

 

ユートそれに目を配らせ、頬を引き吊らせる。鮫だ。それもとてつもなく巨大な、15メートルを優に超えるかと思われる巨体。口の中で不気味に生え揃った鋭い歯。ユート1人位なら丸呑みされそうだ。鮫と言うには余りにもバカでかい生物。ユートには見覚えがあった。尤も、図鑑の中で、だが。

 

「……メ、メガロドン……?」

 

太古の世界に存在した鮫、メガロドンだ。まさか生きているとは……いや、死んでいるが、この時代に目にするとは思わなかった。

余りにも現実離れした光景に呆けるユート。果たしてこれは夢ではないのか。とまたもや海面が大きく波打ち、人影が現れる。

黒いジャケット、肩にかけられたヘッドフォン、そして――つばの欠けた黒い帽子――。

 

「む、ユート。見ろ、なんか深海でデカい鮫を捕らえた。今晩はフカヒレスープだ」

 

「……ああ、うん」

 

今回使用されたメガロドンは、黒コナミが美味しく頂きましたとさ。




コナミを書けば途端にギャグになる。何故に。

おまけ

満族の饗宴レベル5

黒いの「ほぅらユート温かいフカヒレスープだよ」

茄子「……ああ……うん」

釣り吉「なんやあれ……不審者やん、関わらんとこ……」


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第30話 どういう…ことだ…

禁止制限が一新され、環境が落ち着いてるこの頃。この作品では取り敢えず本編の34話?が終わるまで今の禁止制限でいきたいと思います。
猿ゥ!を入れたまま遊矢君のデュエルを書いちゃったので。と言う訳で今回、次回のコナミのデュエルが終われば遊矢君のターンに移ります。
何故か遊矢君のデュエル書くの楽しいんだ。


「あれ?兄貴、何してるんスか?」

 

柚子達とのデュエルを終えた次の日の午後。遊勝塾の客間にあるテーブルの上でコナミが自らのデッキを広げていた。そんな彼を見て、たった今来訪したばかりのコナミの子分の1人、黒門 暗次が声をかける。ガラス張りのテーブルの上で投げ出された60枚と言う枚数制限ギリギリの束。今更だが良くこんなデッキで強敵と渡り合えるな、と暗次とねねは感心する。

 

「……暗次とねねか……いや、デッキの調整ついでに少しあるカードが気になってな」

 

そう言って60枚の束と別に置かれたカードの1枚を手に取り、暗次とねねに向かってチラリと翳すコナミ。

紫のフレームにおさめられた、緑の体躯の竜。その眼は赤と青の対極の色彩を放ち、広げられた翼からは紫電が走っている。躍動感溢れる竜の姿が描かれたカードを見て、ねねがその名を呟く。

 

「『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』……融合モンスターですね」

 

「かっこ良いッスねぇ。見た事が無いカードですけど、このカードがどうしたんスか?」

 

「……いや、このカード、妙な力を感じてな……まぁ、そうは言ったらこのカードもなんだがな」

 

今度は60枚の中より1枚のカードを抜き取るコナミ。手にした瞬間、ビリッと静電気が走るが予期していた事だ。唇を噛み締め、何とか堪える。手に持ったカードはまたもや竜が描かれたカード。赤にも見える茶色のフレームの中で金と銀の剣の鎧を纏った竜。

今にもイラストが現実となり、雄叫びを上げそうな1枚だ。

 

「こっちは『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』……これって遊矢さんから貰ったカードでしたっけ?」

 

「名前も姿も似てますね」

 

「ああ……昔からデッキに入れてないカードが創造されたりはするが……どうにもこの2枚のカードには違和感を感じる」

 

「……?まぁ、難しい話は置いといて、今日は何処に行きます?」

 

「む、そうだな……」

 

暗次の問いにテーブルの上に広げたカードをまとめながら天井を見つめ、考え込むコナミ。正直言って宛は無い。まぁ、道場破りだ、ブラブラと街を歩きながら気に入った塾に乗り込むか、と物騒な事を考え、デッキをケースにおさめる。

そうしてソファより立ち上がろうとした時、カン☆コーン!と玄関からチャイムの音が鳴る。何とも妙な音だが少し前に調子が悪かったのでコナミが面白半分に改造したのだ。

 

「来客か、オレが出よう」

 

スタスタと扉へ向かっていくコナミ。ふと床に目を移し、床が少し汚れているからスリッパを買うべきだろうか、とどうでも良い事を思う。ここも色々な者が立ち寄るようになったものだ。今日も真澄か刃だろうと予測して鍵を開ける。プシュ、と空気の抜けるような音と共に扉がスライドする。

しかして現れたのはどちらでもなくコナミの知らない人物だった。後ろに反り返った紫の髪、額につけられた北斗七星を型どった飾り。初対面の少年を見て、思わず眉をひそめるコナミ。

 

「えっと……コナミ、だったよな……?僕は志島 北斗。単刀直入に頼むけど――僕と、デュエルして欲しい」

 

「おk」

 

「そうだよな。やっぱり敵である僕の頼みなんか聞いてくれる訳――えっ」

 

「えっ」

 

――――――

 

「実は、スランプなんだ」

 

あれから数分、コナミの返答に動揺した北斗を落ち着かせ、コナミが先程座っていたソファと対面したソファに座らせ、事情を聞いていた。

最初は難しい顔で黙り込み、ねねが淹れたコーヒーをちびちびと飲んでいたが、意を決したらしい。『キラー・トマト』が描かれたコップを置き、顔を伏せたまま、ぽつぽつと喋りだす。

 

「この塾に襲撃した際、僕は榊 遊矢とデュエルして、負けた……そのショックからか、最近、負けっぱなしなんだ。デッキを調整したり、気分転換しても上手くいかなくて……そんな内に、真澄と刃から聞いたんだ。君とデュエルして悩みが吹っ飛んだって」

 

顔を上げ、すがりつくような眼差しでコナミを見つめる北斗。そんな彼の話を黙って聞いていたコナミが口を開くその前に。

 

「「話は聞いたぜ(わ)!」」

 

ガララッ、と窓が開き、真澄と刃が不法侵入してくる。何故そこから出てきたのか、余りに常識を無視した入室に驚きを通り越し、ポカンと呆ける北斗。

コナミ達はと言うとそれが当たり前のように受け入れている。こんな事は日常茶飯事と言わんばかりである。何なんだこの塾。

 

「真澄?刃?何で窓から入ってきたんだ?不法侵入じゃないか?」

 

「すまねぇな北斗。友達のお前がこんなに悩んでいるのに気づかなくて」

 

「うん、話を聞いて欲しいな」

 

「大丈夫よ北斗。私達も協力するわ」

 

「理解が追いつかないんだが僕がおかしいのか?」

 

北斗の言葉を無視し、優しい表情で肩に手を乗せる真澄と刃。そんな彼等に倣うようにコナミが立ち上がる。

 

「スランプなんてプロになってから言うものだ。そして人は何かで悩んだ時、その何かでしか本質的な解決は出来ない」

 

そう言って3人は北斗を囲むように位置し、デュエルディスクを腕に嵌め、胸元で構える。続いて光輝くプレートを展開し、右手で北斗を指差す。

 

「「「ならばデュエルだ!」」」

 

「何これ!?宗教!?」

 

3人の息の揃った言動に戦慄しながら、尤もな事でツッコむ北斗。そのままジリジリと距離を詰められ、3人によってデュエルフィールドまで連行されるのだった。

 

――――――

 

遊勝塾、デュエルフィールド。LDSの設備には劣るがコナミの入念なチェックや改造により一流とも言って良い利便さを持っている。最新のデュエルフィールドが自動でインストールされる為、練習にも秀でており、最近ではソリッドビジョン投影装置に興味を示したコナミが新しい装置の開発を行っている。そんなデュエルフィールドにて、コナミと北斗、そして真澄と刃が相対していた。

 

「な、なんか予想以上に急展開になってきたな……」

 

「それ程お前の事を心配しているんだろう」

 

頭を抱え、蹲る北斗。元々自信家な彼だが、ここまで弱気になる程追い詰められているのだろう。そんな彼に対し、笑みを浮かべ肩に手を置くコナミ。そんなものなのだろうか?と考えながら立ち上がり、覚悟を決める。まだ不安は拭えないが彼等が協力してくれるのだ。上手くやらなければいけない。

 

「暗次、ねね、デュエルフィールドの変更を」

 

「りょーかいッス!」

 

管制室で見守る2人へ声をかけるコナミ。暗次はニッ、と笑い、デュエルフィールドを選択するパネルを操作する。

キィィィィとまるで飛行機が飛び立つような音が鳴り響き、光の粒子が天井に向かって上昇する。フィールド全体が眩き光に包まれ、晴れた先にあったのは幻想的な空間に損壊した船が浮かぶ、まるで船の墓場とも言えるフィールド。

 

「何だか見た事が無いフィールドだな」

 

「……サルガッソか……」

 

北斗がキョロキョロと辺りを見渡す。こんな印象的なフィールドがあるのなら覚えていても良いのだが、彼には見慣れないフィールドだ。

対するコナミはううむと唸っている。コナミにとっては見慣れたフィールドだ。実はこのフィールド、コナミが九庵堂と“友情ごっこ”なるものを遊び感覚で味わう為に作ったフィールドなのだがこのタイミングで引くとは思っても見なかった。LDS3人組の友情に亀裂が走ったらどうしよう。などと不穏な事を考えるコナミ。

 

この場合、相手が「楽しかったぜ~」と言うのを待つか、それとも自分が「お菓子食って腹痛い~」とウィットにジョークを飛ばす方が良いのだろうか。コナミとしては迷う所である。

 

「……今回はやめておこう」

 

「?何がだ?」

 

「何でもない。さぁ、口上を上げろ」

 

「あ、ああ……戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

お決まりの台詞がフィールドに響き渡る。今回の相手は共に闘った事があるデュエリストだ。背中を預けたその力は良く知っている。それが正面からぶつかってくる。そう考えると楽しみで笑ってしまう。4人はデュエルディスクを構え、デュエルへ望む。

 

「「「「アクショーン!!」」」」

 

その先に何があるなんて分からない。だが、北斗は隣に立つコナミを見て考える。真澄と刃が彼と共に闘い成長した。ならば彼にはそうさせる何があるのだと、それを見極める意味でも、この泥沼から抜け出す意味でも――全力を出し切る。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

1ターン目のプレイヤーは北斗だ。自らの手札を見て、どうしようかと顎に手を当て考え込む。彼のデッキやデュエルを知っている真澄や刃からすれば「どうせあれ出すんでしょ?」としか思えず、例のあれを何とか除去できるカードが無いか手元にあるカードに目を移す。

だが――それが出来れば、負け続けてはいない。

 

「僕は永続魔法『セイクリッドの星痕』を発動。そして手札より『セイクリッド・ポルクス』を召喚する!」

 

セイクリッド・ポルクス 攻撃力1700

 

現れたるは仮面を被り、右のみに角を生やし、金色の鎧を纏った騎士。身体の左側はまるで色素が抜かれたように白くなっており、左右非対称の姿をしている。唯一対称なのはマント位のものか。その手には二又の剣を持っており、柄は煌めく星の形状をしている。本来ならもう1体存在する双子座をモチーフにしたモンスターだ。

 

「『セイクリッド・ポルクス』が召喚したターン、自分は通常召喚に加え、1度だけ『セイクリッド』モンスターを召喚できる!僕が召喚するのは『セイクリッド・アクベス』」

 

セイクリッド・アクベス 攻撃力800

 

ポルクスの導きにより、船の甲板に蟹座の戦士が降り立つ。輝く重量感のあるメタリックな身体、両腕に取りつけられた鋏は黄色い光を放っており、足はがに股に開かれている。隣に立つポルクスとは違い、機械的で堅い巨体を誇るモンスターがポルクスの横に並び立つ。

 

「『セイクリッド・アクベス』が召喚に成功した時、自分フィールド上の全ての『セイクリッド』モンスターの攻撃力を500アップする!」

 

セイクリッド・ポルクス 攻撃力1700→2200

 

セイクリッド・アクベス 攻撃力800→1300

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『セイクリッド・ビーハイブ』!」

 

セイクリッド・ビーハイブ 攻撃力2400

 

黒き渦より再誕したる者はアクベスが進化したエクシーズモンスター。肩が盛り上がり、両腕の鋏は金色に輝き、身につけた鎧の細部にも金が施されている。マントの裏地は星が散りばめられたような美しさを醸し出している。

北斗のフィールドに現れたモンスター。その姿に真澄と刃は驚愕する。

 

「「どう言う……事だ……!?」」

 

まるでこんな事が有り得て良いのか、太陽が東から昇っていくのを目にしてかのような驚愕だ。目の前に出てきたモンスターと北斗で何度も視線を移動させ、夢では無いのかと目をごしごしと擦り、パチパチと瞬かせる。

別段おかしくは無いのだが……志島 北斗と言うデュエリストを知っている者ならば、この光景は有り得なかった。

 

「「先攻絶対プレアデス立てるマンの北斗が……プレアデスを立てない……!?」」

 

「君達は僕を何だと思っているんだ」

 

そう、LDSでエクシーズコースに通っている者なら誰もが耳にする渾名、それが先攻絶対プレアデス立てるマン、すなわち北斗なのだ。

その異名は伊達ではなく、志島 北斗には先攻を譲ってはならないと言う暗黙のルールが存在する。

逆に先攻を取られれば、はいはいプレアデス、プレアデス。と鼻くそをほじくってターンを待つのが恒例となっている。そんな彼がプレアデス以外のエクシーズモンスターを立てたのだ。驚くのは無理もない。

 

「僕は『セイクリッドの星痕』の効果で1枚ドロ……ォッ……!?」

 

コナミ&志島 北斗 LP4000→3500

 

志島 北斗 手札2→3

 

星痕の効果でドローしようと北斗がデッキに手をかけた瞬間、北斗の身体に赤い電流が走る。突如襲いかかる痛みに顔をしかめ、間の抜けた表情でジッ、とデュエルディスクを見つめる北斗。

LPが減少している。一体どう言う事であろうか。

 

「アクションフィールド……『異次元の古戦場-サルガッソ』の効果だ。エクシーズ召喚する度にプレイヤーに500ポイントのダメージを与え、エクシーズモンスターが存在する限り、自分のエンドフェイズに500ポイントのダメージを受ける」

 

「そんなっ!?」

 

コナミの説明に激しく狼狽する北斗。無理もないだろう、彼の戦術はエクシーズモンスターを主軸としたものだ。これでは動きが制限されてしまう。加えて現状の手札では対処できない。

つまりはこのターン、1000ポイントのLPを消費するのだ。やはり今回も負けてしまうのか、と一抹の不安が過る。

 

「……くっ……!僕はカードを2枚伏せてターンエンドだ……!」

 

コナミ&志島 北斗 LP3500→3000

 

この瞬間、赤い電流が北斗のデュエルディスクから放出し、北斗達のLPを蝕む。このターンで1000ポイントのライフを失った。早い内に何とかしたい所だ。北斗にとってこのフィールドは足枷でしか無い。LPを回復するカードはあるにはあるが……今の自分で引き込むのは一苦労するだろうと歯噛みする。

 

コナミ&志島 北斗 LP3000

フィールド『セイクリッド・ビーハイブ』(攻撃表示)

『セイクリッドの星痕』セット2

手札5(コナミ) 手札1(北斗)

 

「俺のターン、ドローだっ!……なんか有利なフィールドになっちまったようだが……手加減する気は毛頭ねぇ!『XX―セイバーボガーナイト』を召喚するぜ!」

 

XX―セイバーボガーナイト 攻撃力1900

 

刃が召喚したのは『X―セイバー』の切り込み隊長。筋肉質な肉体を金と銀のプロテクターで守り、頭には前方、横、後頭部と4つの捻れた角をつけた兜を被っている。背から伸びたのは真っ赤なマント、右手に光を放つレイピアを持っており、口元には野性的な笑みを浮かべている。

 

「ボガーナイトの召喚時効果!手札から星4以下の『X―セイバー』モンスター1体を特殊召喚するぜ!俺が特殊召喚するのは『XX―セイバーフラムナイト』だ!」

 

XX―セイバーフラムナイト 攻撃力1300

 

続いて登場したのは刃を電流で繋げ、鞭のようにしなられた金髪の少年剣士。『X―セイバー』デッキにとっては好調の出だしと言えよう。

 

「まだまだぁ!飛ばしていくぜっ!『X―セイバー』が2体揃った事で、手札から『XX―セイバーフォルトロール』を特殊召喚するぜっ!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400

 

赤き鎧を纏い、背に身の丈程の大剣を負った巨人が現れる。理想的な初動だ。

 

「出た!刃の二階堂流積み込みだ!」

 

「ちょっと引きます……」

 

「お前等が言うな!」

 

余りにも上手い動きに同門であった暗次とねねが茶々を入れる。しかし彼等もソリティアをたしなむデュエリストだ。同族に指南され苛立ち、吠える刃。

 

「後で覚えてろよっ……!俺はレベル6のフォルトロールにレベル3のフラムナイトをチューニング!白銀の鎧輝かせ、刃向かう者の希望を砕け!シンクロ召喚!出でよ!『XX―セイバーガトムズ』!」

 

XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100

 

少年剣士の姿が弾け、3つのライトグリーンのリングとなり、フォルトロールを包み込む。フォルトロールもそれに呼応するかのように全身が緑色に発行し、6つの星となり、一筋の閃光が星を貫き、刃のフィールドに降り立つ。

二又の剣を煌めかせ、現れたのは白銀の鎧を纏い、その背に真紅のマントを靡かせた大男。圧倒的な威圧感、総司令たるモンスター、そして刃の切り札がその剣を振るい、風を切る。

 

「ガトムズの効果!ボガーナイトをリリースし、相手の手札を1枚、ランダムに捨てる!」

 

「ぐぅっ!」

 

志島 北斗 手札1→0

 

ガトムズの斬撃が飛び、北斗の手札を切り裂く。ソリッドビジョンとは言え、自分のカードが真っ二つに斬られるのは良い気分ではない。北斗は唇を噛み締め、刃を睨む。

 

「魔法カード!『地砕き』!『セイクリッド・ビーハイブ』を破壊!」

 

天より何者かの拳が振るわれ、ビーハイブの巨大な鋏を起点に砕け散る。しかし幾ら不調だろうと北斗はエクシーズコースのトップ。対処は出来なくとも保険はかけている。

 

「罠カード『エクシーズ・リボーン』!墓地の『セイクリッド・ビーハイブ』を特殊召喚し、このカードをORUとする!」

 

セイクリッド・ビーハイブ 攻撃力2400

 

再び現れるビーハイブ。更に『エクシーズ・リボーン』が淡い光となってビーハイブの元へと滑り込む。これで弾丸も補填され、ガトムズの攻撃も凌げるようになった。

 

「星痕の効果でドロー!」

 

志島 北斗 手札0→1

 

「チィッ!ならアクションマジック『エクストリーム・ソード』!これでガトムズの攻撃力を1000アップする!バトルだ!ガトムズでビーハイブを攻撃!」

 

XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100→4100

 

ガトムズの二又の剣が眩き輝きを放つ。続いて船の甲板を蹴り、ビーハイブの立つ船へと飛び乗ると同時に一足で踏み込み距離を詰め、刃を振るう。ブォンッ!風を引き裂く剣閃がビーハイブに迫る。

 

「ッ!ビーハイブのORUを1つ取り除き、ビーハイブの攻撃力を1000アップする!」

 

セイクリッド・ビーハイブ 攻撃力2400→3400

 

ビーハイブが自らの周りで回転するORUを右腕の鋏で食らい、金色の光を纏わせる。そのまま鋏で剣を食い止め、砕こうと力を込める。足を開き、甲板にひびが走る程に踏ん張りを効かせる。

それはガトムズも同じ、まるで相撲のような押し問答。だが攻撃力はガトムズが上、鋏を破壊し、その刃がビーハイブの喉元へと届く。ドゴォォォォォォンッ!その威力は留まる事を知らず、船すらも崩壊させる。

 

コナミ&志島 北斗 LP3000→2300

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

光津 真澄&刀堂 刃 LP4000

フィールド『XX―セイバーガトムズ』(攻撃表示)

セット1

手札5(真澄) 手札1(刃)

 

1ターン目から激しい攻防、制したのは刃だ。流れを持っていかれたが――。これ以上リードを渡す訳にはいかない。隣で不安そうな表情をする北斗を何とかする為にも――コナミは1歩踏み込み、大きくドローする。敵の実力は良く知っている。だからと言って――退く理由にはならない。

 

「オレのターン、ドロー!」

 

反撃の狼煙が今、上がる。

 

――――――

 

――その頃、権現坂道場、遊矢のチャンピオンシップ出場の資格を賭け、火花散らす権現坂とのデュエル。その裏側では。

 

「おお!バレット!久し振りだな!」

 

「キー!」

 

「セレッ……セレレレレッ!セレナ様ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「え!?知り合い!?ちょっ!取り敢えずその人黙らせてッ!遊矢にバレるッ!」

 

バレットが男泣きしていたのだった。

 

 

 

 




刃「なんかツッコむの疲れてさ」

バレット「セレナ様、見つかっちゃった」

茄子「この裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


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第31話 諦めたら人の心は死んじゃうんだよ!

良く考えたら13歳が言う台詞じゃないと思う程格好いい遊馬先生。サブタイに対する返事はイラッとするぜ!でOK


「オレはスケール2の『賤竜の魔術師』とスケール8の『竜穴の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング」

 

コナミの手札より2枚のカードがデュエルディスクの両端に置かれ、同時に異次元の空に光の魔方陣が描かれる。準備は整った――。コナミは右手を掲げ、上空の振り子を揺らす。

 

「揺れろ、光のペンデュラム。虚空に描け魂のアーク」

 

ピタリ、振り子の軌道が止まり、コナミが右腕を下ろす。地面を差したそれに呼応するように穴は開き、1本の輝く柱が凄まじい勢いでコナミの前方の船を震わせる。

現れたのは白い衣を纏った若い『魔術師』。

 

「ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

コナミの手より繰り出されたのは攻撃力の高い下級モンスターだ。あくまで高いと言っても下級、しかし刃の目には油断などない。

相手はコナミだ。何かしらの手を取ってこちらに反撃してくる筈だ。その証拠としてコナミの顔には不安の欠片もない。

 

「手札より『ジェット・シンクロン』を召喚」

 

ジェット・シンクロン 攻撃力500

 

青と白のカラーリングのジェットエンジンを模したモンスターが火炎を上げてコナミの前に降り立つ。随分と小さく愛らしいモンスターだ。

その能力は低い、だからこそ刃は『ジェット・シンクロン』の正体を見抜く。

 

「……チューナーモンスターか……!」

 

「ご明察だな。オレはレベル4の『竜脈の魔術師』にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『ジェット・ウォリアー』!」

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力2100

 

『ジェット・シンクロン』が1つのリングとなって弾け、『竜脈の魔術師』がその中をくぐり抜ける。その姿は『魔術師』から戦士へと。

黒いボディーを輝かせ、背のエンジンを吹かせ、空より流星のように船の甲板を抉るのはジェット機を思わせる機械の戦士。ウィンッと独特の機械音を鳴らし、空中でターンして拳を突き出す。

 

「『ジェット・シンクロン』の効果で『ジャンク・シンクロン』をサーチ、『ジェット・ウォリアー』がシンクロ召喚に成功した場合、相手フィールド上のカード1枚を対象にし、そのカードを手札に戻す。俺が対象にするのは『XX―セイバーガトムズ』だ」

 

「罠発動!『ガトムズの緊急指令』!『フィールドにX―セイバー』モンスターが存在する場合、墓地の『X―セイバー』モンスター、ボガーナイトとフラムナイトを対象にし、特殊召喚する!」

 

XX―セイバーボガーナイト 守備表示1000

 

XX―セイバーフラムナイト 守備表示1000

 

『ジェット・ウォリアー』の拳圧により風が吹き荒び、火の粉を織り混ぜた烈風がガトムズの巨体を飛ばし、光となって刃のエクストラデッキに戻る。しかし刃もただでは転ばない。直ぐ様リバースカードをオープンし、壁を用意する。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

コナミ&志島 北斗 LP2300

フィールド『ジェット・ウォリアー』(攻撃表示)

『セイクリッドの星痕』セット3

Pゾーン『賤竜の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札1(コナミ) 手札1(北斗)

 

「ペンデュラム……そう言えば初めて相手するのかしら。私のターン、ドロー。魔法カード、『吸光融合』発動!デッキより『ジェムナイト・ラピス』を手札に加え、このカードと手札の『ジェムナイト・ガネット』を除外し、融合!神秘の力秘めし碧き石よ。今光となりて現れよ!融合召喚!『ジェムナイトレディ・ラピスラズリ』!」

 

ジェムナイトレディ・ラピスラズリ 攻撃力2400

 

オレンジと青の渦が真澄の背後で発生し、その中へと宝玉の少女と赤い騎士が吸い込まれていく。真澄が両手を合わせると同時に姿を見せたのは瑠璃色の巫女。首に鏡をかけ、遥か昔の装束に身を包んだ、ナイトと言うには余りにも華麗なモンスターだ。

 

「『ジェムナイトレディ・ラピスラズリ』の効果発動!デッキから『ジェムナイト・アイオーラ』を墓地に送り、フィールドに特殊召喚されたモンスターの数×500のダメージを与える!」

 

「速攻魔法、『神秘の中華なべ』。『ジェット・ウォリアー』をリリースし、攻撃力2100ポイント、ライフを回復する!」

 

コナミ&志島 北斗 LP2300→4400→2900

 

コナミが即座に『ジェット・ウォリアー』を中華鍋に捧げ、調理する事によってダメージを減少させる。だが依然ピンチなのには変わらない。真澄は2体の『X―セイバー』を攻撃表示に変更し、バトルへと移る。

 

「『ジェムナイトレディ・ラピスラズリ』で攻撃!」

 

「罠発動!『ピンポイント・ガード』!『セイクリッド・アクベス』を蘇生!」

 

セイクリッド・アクベス 守備力2000

 

これだ。どうにものらりくらりとかわされ、決定打を入れる事が出来ない。マルコや沢渡はこんなデュエリストを相手にしていたのかと改めて実感する。

何とも敵に回すと厄介だ。期を待つだけでは勝てない。多少、いや、どんなに強引だろうと、リスクを背負っても勝負に出るべきだろう。

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

光津 真澄&刀堂 刃 LP4000

フィールド『ジェムナイトレディ・ラピスラズリ』(攻撃表示) 『XX―セイバーボガーナイト』(攻撃表示) 『XX―セイバーフラムナイト』(攻撃表示)

セット1

手札3(真澄) 手札1(刃)

 

「僕のターン、ドロー。魔法カード、『暗黒界の取引』を発動し、手札を入れ替える……」

 

北斗が緊張で固くなりながらもデッキよりカードを引き抜く。無理もない、実質このドローに全てがかかっているようなものだ。加えて今の北斗は不調、自分自身に疑心暗鬼になっているのだ。果たして勝てるのだろうか?と。

そんな彼をつまらないものを見るように唇を尖らせるコナミ。

 

「……もう少し胸を張ったらどうだ?今のお前は見えもしないものに怯えているように見える」

 

「……見えないから怖いんだろう?」

 

「せめて見えてから怯えろ。見えもしない内にあーだこーだと決めつけると疲れて損をするだけだ」

 

疲れて損をする。確かにコナミの言う通りだ。全てが納得出来る訳でも無いが、荷物が軽くなったようにしっくり来る。

今までは負けてきた。だが今は負けていない。自然と落ちていた肩を鳴らし、胸を張る。見えないものより今は見えるものを。

 

「お前は沢渡と似ていると思ったが……似ていないな、あいつは負けようが直ぐ次に進む。立ち直るんじゃ無い、膝をついて無いんだ。お前ももう少しバカになってみろ。自信を持て、先攻プレアデス立てられなかったマン」

 

「傷を抉るな!僕を立ち直らせたいのか、そうじゃないのか!?」

 

プスー、と口元に手を当てて此方を笑うコナミに対し、怒り、歯軋りをする北斗。この少年は一体何なのだろう?折角感謝しようと思ったのにこれでは台無しだ。

 

はぁ、と呆れを含んだ溜め息をつき、引いたカードに目を配らせる。レベル5のモンスター、攻撃力もラピスラズリより低く、どうしたものかと思い悩む。と、そこでふと上を見上げる。

見えないものより見えるもの。ああ、忘れていた――。これなら、何とかなる。

 

「僕は、スケール2の『賤竜の魔術師』とスケール8の『竜穴の魔術師』でペンデュラム召喚!『セイクリッド・エスカ』!」

 

セイクリッド・エスカ 攻撃力2100

 

北斗がペンデュラム召喚によってフィールドに繰り出したものは天秤を模したモンスターだ。線が細く、腕や爪は随分と長い。手に当たる部位には手甲のように秤がついており、中には翡翠の宝玉が嵌め込まれている。

 

「このカードが特殊召喚に成功した時、デッキから『セイクリッド』モンスターを手札に加える!僕は『セイクリッド・ソンブレス』を手札に加え、召喚!」

 

セイクリッド・ソンブレス 攻撃力1550

 

天空から姿を見せたのは『セイクリッド』の起点となるカードだ。山羊のように捻れた角、蝙蝠の羽に蝶の模様を足したような翼、周りには仲間の武器を浮かせ、その手には強大な力を持つ短剣が握られている。

 

「ソンブレスの効果!墓地の『セイクリッド・スピカ』を除外し、墓地の『セイクリッド・スピカ』を手札に加える。更にこの効果を適用したターン、ソンブレスのもう1つの効果発動!『セイクリッド』モンスター1体を召喚する!『セイクリッド・アクベス』をリリースし、『セイクリッド・スピカ』を召喚!」

 

セイクリッド・スピカ 攻撃力2300

 

次なる『セイクリッド』は乙女座だ。白地の鎧に金の装飾の他よりも豪奢なものを纏い、背には1対の翼を浮かべている。これでレベル5のモンスターが2体、汚名を返上する時が来た、と北斗は不敵に笑い、左手を突き出す。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!星々の光よ!今大地を震わせ降臨せよ!エクシーズ召喚!『セイクリッド・プレアデス』!」

 

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500

 

星々を散りばめた黒き渦が広がり、2体の『セイクリッド』が飛び込んでいく。次の瞬間、渦は収束し、爆発が轟く。

現れたのは北斗のエースカードである白騎士。フルフェイスの兜で顔を隠し、肩や肘には牡牛の角のような金色のパーツを持っている。胸に刻まれたのは『セイクリッド』の紋章。左手には大剣を握り、背には『セイクリッド』エクシーズモンスター特有の銀河を思わせるマントを靡かせている。

 

「『セイクリッドの星痕』の効果で1枚ドロー!サルガッソの効果でダメージを受ける!」

 

コナミ&志島 北斗 LP2900→2400

 

志島 北斗 手札0→1

 

「『セイクリッド・プレアデス』のORUを1つ取り除き、フラムナイトを対象として発動!手札に戻す!」

 

プレアデスが自らの周囲で回転するORUを握り潰し、左手に持った剣を振るい、斬撃を飛ばす。鋭い衝撃は少年剣士の鳩尾に直撃し、苦悶の表情を見せ、カードは真澄の元へと跳ねる。これで攻撃無効は消えた。後は厄介なバーン効果だ。

 

「さぁ、バトルだ!『セイクリッド・プレアデス』で『ジェムナイトレディ・ラピスラズリ』を攻撃!」

 

ダンッ、と力強く船の甲板を蹴り、瑠璃の巫女へ向かって駆ける騎士。手に持った大剣が振るわれ、その胸を穿つ。その、寸前。

 

「罠発動『輝石融合』!フィールドのラピスラズリと手札の『ジェムナイト・エメラル』で融合!神秘の力秘めし碧き石よ!幸運を呼ぶ緑の輝きよ!光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!融合召喚!現れよ!幻惑の輝き、『ジェムナイト・ジルコニア』!」

 

ジェムナイト・ジルコニア 攻撃力2900

 

『ジェムナイト・ラピスラズリ』がいる空間がグニャリと歪む。まるで水面に剣を刺したかのような不気味な感触。プレアデスは思わず剣をぬるりと抜き、瞬間、瑠璃の少女は模造ダイヤの大男となる。

攻撃対象となったモンスターを失った事で攻撃は巻き戻る。

 

「残念だったね!罠発動!『エクシーズ・リボーン』!効果は知ってるね?墓地のビーハイブを蘇生する!」

 

セイクリッド・ビーハイブ 攻撃力2400

 

再びフィールドに舞い戻る蟹座を司る『セイクリッド』。右腕の鋏をガチガチと鳴らし、ジルコニアを威嚇するようにプレアデスの隣に並び立つ。その効果は新たに現れたモンスターを打破するには充分なものだ。

 

「『セイクリッド・プレアデス』で『ジェムナイト・ジルコニア』を攻撃!この瞬間!ビーハイブのORUを1つ取り除き、プレアデスの攻撃力を1000上げる!」

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500→3500

 

ビーハイブのORUがプレアデスへと譲渡される。光輝く星はプレアデスの大剣へと宿り、光を纏った刃はダイヤモンドをも砕く。

 

光津 真澄&刀堂 刃 LP4000→3400

 

「まだだ!ビーハイブでボガーナイトを攻撃!」

 

北斗の指示を受け、ビーハイブがボガーナイトの真横へと瞬時に移動する。ボガーナイトも手に持ったレイピアで刺突を繰り出し応戦するも、ビーハイブの堅い鎧には傷一つつける事は許されず、右腕の重々しい殴打によって地面を突き破り、異次元の海へと叩き落とされる。

バキィィィィィィッ!激しい音を立て、船にぽっかりと穴が空く程の衝撃。

 

光津 真澄&刀堂 刃 LP3400→3100

 

「ソンブレスで攻撃!」

 

「ッ!アクションマジック、『回避』!」

 

「くっ……魔法カード、『名推理』」

 

「レベル4を選択だ」

 

「1、2……『エフェクト・ヴェーラー』を特殊召喚」

 

エフェクト・ヴェーラー 守備力0

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、ビーハイブを戻してドロー」

 

志島 北斗 手札0→1

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動。僕はこれでターンエンド……サルガッソの効果で500のダメージを受ける」

 

コナミ&志島 北斗 LP2400→1900

 

またもや電流による痛みが北斗を襲う。まだ余裕があるがかなり痛い出費だ。短期決戦を望みたいが、この2人を前に上手くいくか。

 

コナミ&志島 北斗 LP1900

フィールド『セイクリッド・プレアデス』(攻撃表示) 『セイクリッド・ソンブレス』(攻撃表示)『エフェクト・ヴェーラー』(守備表示)

『セイクリッドの星痕』『補給部隊』

Pゾーン 『賤竜の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札1(コナミ) 手札0(北斗)

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!ガトムズ、ボガーナイト、フラムナイト、フォルトロール、アイオーラを戻し、2枚ドロー!」

 

刀堂 刃 手札1→3

 

「魔法カード、『ブラック・ホール』発動!フィールド上の全てのモンスターを破壊する!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

志島 北斗 手札0→1

 

刃の手より発動されたのはフィールドのモンスターを一掃する協力な制限カード。異次元の古戦場に巨大なブラックホールが発生し、星の騎士を吸い込み、粉々に砕く。いくら星々を司る者達であろうと相手はその星をも食らい尽くす宇宙の魔王だ。何の抵抗も出来ずにモンスターを失う。

 

「『XX―セイバーエマーズブレイド』を召喚!」

 

XX―セイバーエマーズブレイド 攻撃力1300

 

羽音を立てて現れたのは鎧を纏ったイナゴのモンスター。脚につけた羽が刃のように鋭く研ぎ澄まされており、口元からはキチキチと昆虫特有の不気味な鳴き声を立てている。また、首には真紅のマントが伸びていて、自身が昆虫である事もあいまってヒーローにも見える。

 

「装備魔法、『パワー・ピカクス』!テメェの墓地から『ジェット・シンクロン』を除外し、攻撃力を500アップ!」

 

XX―セイバーエマーズブレイド 攻撃力1300→1800

 

「バトル!エマーズブレイドでダイレクトアタック!」

 

エマーズブレイドがその脚を振るい、4刀流の刃が北斗へと突き刺さる。ザンッ、傷口を広げるように刺突からの薙ぎ払いが北斗の身体を撫でる。ソリッドビジョン特有の痛みが駆け抜け、堪らず膝をつく。

 

コナミ&志島 北斗 LP1900→100

 

「これでエクシーズは封じたぜターンエンドだ」

 

光津 真澄&刀堂 刃 LP3100

フィールド『XX―セイバーエマーズブレイド』(攻撃表示)

『パワー・ピカクス』

手札3(真澄) 手札0(刃)

 

LPの差は2500。エクシーズ召喚は封じられ、動く事もままならない。また負けてしまうのか――?ギリッ、歯を食い縛り、拳を握り締める。

どうしてだ。どうして自分はこんなにも落ちぶれたのだ。LDSエクシーズコース、トップクラスであり、華々しい勝利の道を刻んできたのに。悔しくて堪らない。友達は前に進んでいると言うのに、どうして自分は――。

 

「考えすぎるなと言っただろう」

 

「――え?」

 

「負けたから何だ。次は勝とうと気概を見せろ。それにまだ負けてないぞ。考えるなら負ける事より、この盤面をどう引っくり返すか、勝つ事を考えろ。受け売りだがな、諦めると人の心は死んでしまうんだ」

 

あの時、少年の全てが始める日に少年が放った台詞だ。どこまでも前向きで、何度だって立ち上がってきた彼らしい力強い言葉が北斗の背中を押す。諦めると人の心は死ぬ。

ポチャリと水滴が落ち、波紋が広がるような衝撃が北斗の淀んだ心を浄化し、満たしていく。

 

そうか――ならば、自分は死んでいたんだろうと、苦笑を溢し、憑き物が落ちた表情で正面を見る。ここから先は――新たな自分が生まれるのだろう。

 

「コナミ」

 

「……どう勝つ?」

 

「僕のターンまで、回してくれ。絶対に、勝つから」

 

北斗はその口元に笑みを浮かべ、コナミを見つめる。彼本来の不遜で、自信過剰な笑顔だ。だが、それ以上に頼もしい。

コナミもニィッ、と口の端を吊り上げ、不敵とも言える笑みで答える。男が覚悟が決めたのだ。コナミも、その道を開く。

 

「構わんが――別に倒してしまっても、問題なかろう?」

 

「やっちゃって!と言いたいけど、それは困るな」

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を入れ替え、魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『セイクリッド・ポルクス』、『ジェット・ウォリアー』、『セイクリッド・プレアデス』、『セイクリッド・スピカ』、『エフェクト・ヴェーラー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札0→2

 

「ここへ来てドローブーストかよ……!」

 

「ペンデュラム召喚!エクストラデッキから『竜脈の魔術師』!手札より『E・HEROブレイズマン』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

E・HEROブレイズマン 攻撃力1200

 

コナミの場に2体のモンスターが降り立つ。1体はペンデュラムモンスターである『魔術師』。もう1体は炎の鬣を伸ばした赤い『HERO』だ。どちらもコナミのデッキでは優秀なモンスターと言えよう。

 

「『E・HEROブレイズマン』の召喚時効果により、デッキから『融合』を手札に加え、発動!場のブレイズマンと『竜脈の魔術師』で融合!融合召喚!『E・HEROガイア』!」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200

 

異次元の古戦場に融合の渦が発生し、英雄と『魔術師』の姿が重なる。コナミが両手を合わせると共に土煙が舞い、竜巻を起こす。ブオンッ、中より黒き巨腕が砂嵐を払う。

フィールドに顕現したのは黒い巨人。コナミの融合モンスターが今、戦場に立つ。

 

「『E・HEROガイア』の効果!『XX―セイバーエマーズブレイド』の攻撃力を半分にし、このターン中、その数値分、ガイアの攻撃力をアップする!」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200→2850

 

XX―セイバーエマーズブレイド 攻撃力1300→650

 

「バトルに移る!ガイアでエマーズブレイドに攻撃!コンチネンタルハンマー!」

 

『E・HEROガイア』はコナミの指示を受けると共にその巨体に似合わぬ速度でエマーズブレイドの元へと移動する。頭上に影が差した事で危機を察したのか、4枚の羽を重ね、防御体制を取るエマーズブレイド。

しかしその防壁は余りにも薄い。両手を合わせ、猛スピードで振り下ろす大地の英雄。ブチィ、と嫌な音を鳴らし、容易くエマーズブレイドを叩き潰す。

 

光津 真澄&刀堂 刃 LP3100→900

 

「エマーズブレイドが戦闘破壊され、墓地に送られた時、デッキから星4以下の『X―セイバー』モンスターを特殊召喚する!現れな!エマーズブレイド!」

 

XX―セイバーエマーズブレイド 守備力800

 

再びフィールドに飛翔するイナゴのモンスター。コナミとしては予測していた事だがやはりリクルーターとは厄介なものだ。

眉をピクリと動かしながらもバトルフェイズを終了する。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

コナミ&志島 北斗 LP100

フィールド『E・HEROガイア』(攻撃表示)

『セイクリッドの星痕』 『補給部隊』セット1

Pゾーン 『賤竜の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札0(コナミ) 手札1(北斗)

 

「私のターン、ドロー!私は魔法カード『ジェムナイト・フュージョン』を発動!手札の『ジェムナイト・アンバー』と『ジェムナイト・クリスタ』で融合!融合召喚!現れよ!『ジェムナイト・プリズムオーラ』!」

 

ジェムナイト・プリズムオーラ 攻撃力2450

 

雷と共にフィールドへ姿を見せたのはオーラクリスタルの騎士だ。メイルから伸びたクリスタルの角と刀身を持つレイピア。

もう1つの手には強固な盾を握り、背からは赤いマントが風に吹かれている。

 

「墓地の『ジェムナイト・アンバー』を除外し、『ジェムナイト・フュージョン』を加えるわ。続いて『ジェムナイト・フュージョン』を墓地に送り、『E・HEROガイア』を対象として『ジェムナイト・プリズムオーラ』の効果発動!破壊する!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

コナミ 手札0→1

 

プリズムオーラのレイピアより紫電が迸り、ガイアの黒く厚い鎧を砕く。胸にぽっかりと巨大な孔を空け、その場に崩れ落ちるガイア。

これでフィールドはがら空き、真澄は更なる追撃をかける為、行動に移る。

 

「私は『XX―セイバーフラムナイト』を召喚!」

 

XX―セイバーフラムナイト 攻撃力1300

 

「バトルよ!プリズムオーラで攻撃!」

 

「罠発動!『ピンポイント・ガード』!『セイクリッド・ソンブレス』を蘇生!」

 

セイクリッド・ソンブレス 守備力1600

 

「くっ……!ターンエンドよ」

 

光津 真澄&刀堂 刃 LP900

フィールド『ジェムナイト・プリズムオーラ』(攻撃表示) 『XX―セイバーフラムナイト』(攻撃表示) 『XX―セイバーエマーズブレイド』(守備表示)

手札0(真澄) 手札0(刃)

 

何とか猛攻を凌ぎ切った――。コナミは安堵の息をつく。北斗にあれだけ言っておいて自分のせいで負けました。等とは情けないだろう。

しかしこれでコナミは確信する。この勝負、勝ち以外無いと。それは北斗とて同じだ。

確かに、状況は絶体絶命。しかし、“あのカード”を引けば、勝つ。確率は低い、だが、引く。引けるか引けないかじゃない。引く。絶対に、何としても、何故ならば――それが志島 北斗なのだがら。

 

「僕のターン!ドロォォォォ!」

 

渾身の力を振り絞り、勢い良くドローする。負けられないのだ。ここまでしてくれたコナミや刃、真澄の為だけではない。自分の為だ。自分のプライドの為だ。

友は先に進んでいる――置いていかれる訳にはいかない。ありったけのプライドが、今の北斗を支えている。諦めずに、生きている。だからこそ――デッキは、応える。

 

「ッ!来た!僕は『セイクリッド・カウスト』を召喚!」

 

セイクリッド・カウスト 攻撃力1800

 

北斗のフィールドに射手座の『セイクリッド』が現れる。これでレベル4のモンスターが2体。だが足りない。これだけでは北斗は満足できない。

 

「『セイクリッド・カウスト』の効果により、自身とソンブレスのレベルを1つずつ上げる!」

 

セイクリッド・ソンブレス レベル4→5

 

セイクリッド・カウスト レベル4→5

 

「この状況でやるつもりか!?」

 

「やらなきゃ!僕じゃない!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『セイクリッド・プレアデス』!!」

 

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500

 

今再び、北斗のエースカードが現れる。牡牛座を司る『セイクリッド』エクシーズモンスター。しかし、エクシーズ召喚によってサルガッソが反応し、異次元の赤き雷が北斗に向かって襲いかかる。

 

「僕に――触れるなぁ!手札の『ハネワタ』を捨て、このターン、自分が受けるダメージを0にする!」

 

だが振り払う。勝利に向かって、手を伸ばす。闇雲に、我武者羅に。

 

「星痕の効果で1枚ドロー!そして!プレアデスのORUを1つ取り除き、フラムナイトを手札に戻す!まだだ!『セイクリッド・プレアデス』でオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ!エクシーズチェンジ!『セイクリッド・トレミスM7』!!」

 

セイクリッド・トレミスM7 攻撃力2700

 

プレアデスが黄金の機竜へと姿を変える。頭上に生えた蝙蝠のような翼を広げ、竜が歓喜の咆哮を上げる。

 

「バトル!『セイクリッド・トレミスM7』でプリズムオーラを攻撃!」

 

機竜が海を飛翔し、プリズムオーラに向かって吠え、その爪を振り上げる。だがプリズムオーラもその盾で防ぎ、右手で持ったレイピアでプレアデスに反撃する。

ガギィ!金属がぶつかり合う音が響く。

 

「アクションマジック!『ハイダイブ』!これでプリズムオーラの攻撃力を1000アップする!」

 

真澄が反撃のアクションマジックをデュエルディスクに差し込むも――既に、勝利は約束されている。

 

「速攻魔法!『禁じられた聖槍』!プリズムオーラの攻撃力を800ダウンし、このカード以外の魔法、罠を受けつけさせない!」

 

ジェムナイト・プリズムオーラ 攻撃力2450→1650

 

槍がプリズムオーラの胸を穿ち、機竜がその口より光線を放つ。これで――全てが終わりを迎える。

 

光津 真澄&刀堂 刃 LP900→0

 

デュエル終了のブザーが響き渡る。勝利は――北斗達の、手の中に。

 

――――――

 

「あー、負けたー!」

 

「ま、次は勝つけどね。ん、ちょっと待って、メールが……」

 

デュエルが終了し、遊勝塾のソファに座り込み、談笑するコナミ達。そんな中、真澄がデュエルディスクを取り出してディスプレイを操作する。

 

「――え?」

 

思わず、メールの文面に声を漏らす真澄。他のメンバーも気になり、覗いたそこには――。

 

To 真澄ん

From マルコ

件名 クロワッサンギザ強ス

 

入院した。全治3日位の怪我だったんだけど、ナースさんのスカート覗こうとしたら全治1ヶ月に増えたでござる。

 

「……ドンマイ真澄ん」

 

「……うん」

 

ポン、と真澄の肩に手を置き、励ますコナミ。皆、暖かい眼差しを真澄へ向けている。

だからこそ、真澄はどうしたら良いか分からなかった。

 

 




北斗ー君はどことなくワカメっぽい。これから彼は初期のシゲルみたいな沢渡さんとは別方向の面白ライバルにする予定。
マルコ先生……一体何咲さんにやられたんだ……(棒)
融合「女性のスカート覗くとか人間性を疑いますね」


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第32話 程遠いんだよねぇ!

今回と次回を合わせ、禁止制限は以前のものを使用します。
まぁ、モンキーボードはOPにも出てるし問題ない……何で出てきてんだろうね。憎しみをどう消せと。
しかしローラースケートが気になります。似合ってるなぁあれ。


「『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の効果!戦闘によってモンスターを破壊した場合、このカードの融合素材となった獣族モンスターの元々の攻撃力分、つまり『EMシルバー・クロウ』の攻撃力1800のダメージを与える!」

 

権現坂 昇 LP1400→0

 

コナミ達のデュエルに決着がついた頃、同じく権現坂道場にて、遊矢と権現坂のデュエルが終局を迎えていた。

遊矢の新たなる融合モンスター、『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』。獣の骨を纏い、巨大な角を唸らせる竜により、権現坂が刃との修業の末に導き出したシンクロモンスター、『超重荒神スサノ―O』を打ち砕き、勝利したのだ。

 

ソリッドビジョンによって発生したアクションフィールドが消滅していく中、デュエルで高揚し、乱れた息を整える遊矢。これで遊矢は舞網チャンピオンシップに出場する資格を得た。だが喜ぶのはまだだ。まずはデュエル相手である権現坂に感謝の言葉を。

 

「権現坂……ありがとな」

 

敗北しても堂々と仁王立ちする親友に向かい、手を差し伸べる遊矢。感謝の言葉はスッと出てくる。親友だから、だけと言う理由ではない。

遊矢自身の実直さもあるだろう。彼の眩しい笑顔に権現坂もまた「うむ」と頷き、笑って手を取る。

 

「俺も必ず、チャンピオンシップへ出場する」

 

「ああ!」

 

握手の形を崩し、互いに拳同士でコツン、とぶつけ合う。約束した以上、権現坂は必ず果たすだろう。男らしく真面目な性格は昔から良く知っている。

と、そんな彼等へバタバタと慌ただしい音を響かせ、見慣れた仲間達が姿を現す。

 

「遊矢!おめでとう!」

 

「痺れるデュエルだったぜぇ!」

 

「おめでとう!」

 

「2人共凄かったよー!」

 

「ぺんでゅらむもしんくろも面白いな!」

 

「キッ、キキー!」

 

「うぉぉぉぉぉ!2人共最高だぁぁぁぁぁっ!!」

 

上から柚子、フトシ、タツヤ、アユ、セレナとSALに修造と随分と大所帯で遊矢と権現坂を囲む。皆見ていたのか、と驚きながら受け入れる遊矢。

不意に気づく。皆、笑顔だ。遊矢と権現坂のデュエルを見て、あれやこれやと笑い合っている。それが何だか嬉しくて――頬に力を入れないと、変にニヤけてしまう。

 

「……君達のデュエル、見せてもらった」

 

「――え?」

 

笑い合う遊矢へと語りかける者が1人。蒼の髪をオールバックで流し、左目に眼帯をつけ、胸に傷を負った大柄の男。見慣れない人物だ。

権現坂道場の者だろうか、傍に権現坂の父が控えている。

 

「む、どうしたバレット?」

 

「バレット殿、見ていたのですか?」

 

大柄の男へ話しかけるセレナと権現坂。2人の知り合いだろうか?セレナの方は保護者だろうと推測する。

バレットと呼ばれた男は遊矢へ向かって人の好い笑みを浮かべる。

 

「ふむ……似ているな……」

 

「え?」

 

「いや、何でもない。エンタメデュエル、素晴らしかった。勲章ものだ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

目を細め、遊矢を褒め称えるバレット。知らない人物だがどこか父に似たその笑みにむず痒さを感じ、照れて鼻頭を掻く。だが――。

 

「だが」

 

「?」

 

キュッ、と口を引き締め、先程とは打って変わって厳しい顔つきで遊矢と目を合わせる。一気に空気が変わり、歴戦の軍人を思わせる雰囲気を放つバレットを見て、遊矢が唾を飲み込む。

 

「まだ、君の目指す、皆を笑顔にするデュエルには、程遠い」

 

「ッ!?」

 

鋭き言葉の刃が遊矢の胸を貫く。不安そうに瞳を揺らす遊矢を見て、バレットは静かにデュエルディスクを腕に嵌め、デュエルフィールドへと足を踏み入れる。そして彼は重々しく閉ざされた唇を開く。

 

「デュエルだ少年、それに昇さん。2人纏めてかかって来なさい」

 

「「なっ!?」」

 

名を呼ばれた遊矢と権現坂が驚愕する。それもそうだろう、目の前の男は2人を相手にたった1人でデュエルを挑むと言うのだ。

遊矢自身、自惚れている訳ではないがここ数戦での成長で自分は強くなっていると感じている。そして権現坂も先程のデュエルを通して改めてその強さを実感したのだ。

 

だが同時にこの男は2人がかりでも勝てるのかと言う疑問が沸く。それ程までに彼の纏う“それ”が違う。

だが、遊矢は知っている。本物の化物を、それを考えれば恐れる事などない。

それに彼は――自分の力となってくれる。遊矢は覚悟を決め、フィールドに踏み込む。

 

「遊矢……?」

 

「行こう、権現坂」

 

「遊矢君、本気ですか?」

 

フィールドへ向かう遊矢に対し、彼の4連戦を組んだ敏腕マネージャーであるニコが声をかける。彼の言いたい事は分かる。

折角、チャンピオンシップ出場の資格を勝ち取ったのにここで敗れれば水の泡となってしまう。闘わずに大人しくしていれば安心なのだ。だが、それでも――動かなければ、振り子は揺れない。勇気を持って、一歩踏み出す。

 

「ごめん。でも、俺はエンタメデュエリストだから」

 

「……それでこそ、私の見込んだデュエリストです」

 

逃げるのはもう、充分だから。きっと遊矢の望むものは、進んだ先にあるから。

 

「……そこまで言うなら、俺も共に闘おう」

 

「ありがとう、権現坂。正直1人じゃ不安でさ」

 

ニッ、と笑い、自らの背中を預ける親友へと拳を合わせる。彼がいてくれるなら、これ以上に頼もしい事はない。

 

「覚悟は決まったか……ルールは私はシングル、君達はLP、フィールド、墓地を共有するタッグフォースルールだ。それでも良いか?」

 

「「はい!」」

 

バレットの問いかけに勢い良く返事をする2人。このルール上、遊矢達にデメリットはあるが、同時にメリットもある。2人が如何にして戦術を合わせられるかが重要となるだろう。それを試す為にも、バレットは権現坂を引き込んだのだ。

 

「さぁいくぞ!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「モンスターと地を蹴り、宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

バレット、遊矢、権現坂、バレットの順で口上を紡ぎ、その最中にフィールドが光を纏い、姿を変えていく。先程のデュエルでも使用された『剣の墓場』だ。荒野の中、無数の剣が突き刺さった光景は正に墓場と言う他ないだろう。

 

「「「アクショーン!!」」」

 

このデュエルで、大事な何かが見つけられる。

 

「「「デュエル!!」」」

 

そんな気が、遊矢にはした。

 

「先んずれば人を制す。私のターン、私は永続魔法、『補給部隊』発動。1ターンに1度、自分フィールド上のモンスターが戦闘、効果で破壊された場合、デッキから1枚ドローする」

 

まずは下準備から、2人を相手するのだ。カードの消費を抑える為にこのようなカードを使うのは定石と言える。

ただ、彼の戦法からして、リカバリー手段を置きたいと言う理由もあるが。

 

「『キャリア・センチネル』を召喚」

 

キャリア・センチネル 攻撃力1000

 

バレットの場に現れたのはトラックを模したようなモンスターだ。ライトをチカチカと怪しく輝かせる。このモンスターこそ、バレットのデッキにとって起点となるカードだ。

 

「『キャリア・センチネル』の召喚時効果、デッキより『漆黒の豹戦士パンサーウォリアー』を手札に加え、魔法カード、『融合』を発動。フィールドの『キャリア・センチネル』と手札の『漆黒の豹戦士パンサーウォリアー』で融合。獰猛なる黒豹よ、歴戦の番兵と混じり合いて、新たなる雄叫びを上げよ!融合召喚!現れ出でよ!『獣闘機パンサー・プレデター』!」

 

獣闘機パンサー・プレデター 守備力2000

 

火花を散らし、バレットのエースカードが雄叫びを上げる。身体の左半分を機械化した黒豹。その手には鋭い剣が握られており、背には緑のマントと戦闘機の翼が伸びている。融合素材となったパンサーウォリアーの攻守が反転したステータスだ。

 

「パンサー・プレデターの効果、1ターンに1度、このモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える」

 

榊 遊矢&権現坂 昇 LP4000→3200

 

パンサー・プレデターの左半身よりバルカン砲が出現し、猛スピードで弾丸が遊矢達へ襲いかかり、身を焦がす。ツン、と硝煙の独特の匂いが立ち込め、思わず顔をしかめる2人。

ダメージは少ない。しかしLPの5分の1が削られたと思えば痛手だ。

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

バレット LP4000

フィールド『獣闘機パンサー・プレデター』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

バレットの1ターン目が終わる。別段おかしな所など無い1ターンだ。だが遊矢はどこか違和感を覚える。バレットの発する強者特有の気配がそうさせるのか、何とも不気味だ。

 

「権現坂……俺が先で良いか?」

 

「む?ああ、構わんが……」

 

「……っし、俺のターン!」

 

考えていて分からないものは分からない。見て分からないなら手探りを入れるまで。遊矢は深呼吸をした後、デッキよりカードを引き抜く。良い手札だ、顔を綻ばせ、メインフェイズに移る。

 

「俺は手札の『EMオッドアイズ・ユニコーン』と『EMモンキーボード』でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!」

 

まずはお得意のペンデュラムだ。デュエルディスクに2枚のペンデュラムカードが設置され、2体の『EM』が光の柱となって空を上る。続いて上空に巨大な魔方陣が描かれ、振り子が右へ左へと揺れる。だがまだだ。まだ仕込みは終わってない。

 

「俺はモンキーボードのペンデュラム効果発動!デッキからレベル4以下の『EM』モンスター1体を手札に加える。俺が手札に加えるのは『EMドクロバット・ジョーカー』!そのまま召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

遊矢のフィールドでステップを刻むのはボロボロのハットに黒い仮面、トランプのスペード、ハート、ダイヤ、クラブが随所に散りばめられた燕尾服を着用したおどけた姿の道化師。

しかし見た目とは裏腹にその能力は実に優秀だ。遊矢もこのカードには信頼を寄せている。

 

「ドクロバット・ジョーカーが召喚に成功した時、デッキからこのカード以外の『EM』モンスター、『魔術師』ペンデュラムモンスター、『オッドアイズ』モンスターの中から1体を手札に加える!俺が手札に加えるのは『EMペンデュラム・マジシャン』!」

 

ドクロバット・ジョーカー がハットより鳩を取り出し、遊矢へと飛ばす。嘴の先には1枚のカード。鳩は遊矢の肩に止まり、カードを差し出すがその枠内には何も描かれてはいない。と、思いきや鳩がポン、と煙を上げ、次の瞬間にはあら不思議、枠内にはペンデュラム・マジシャンのイラストが。

 

鳩がペンデュラム・マジシャンに姿を変えたのだろう。前回と違う手品を繰り出したのは本人のポリシーか。人差し指を口の前に持ち、歯を見せてクツクツと主人へ向け、笑みを溢す。団員はやる気マンマン、団長の遊矢はそれに応えるべく魔方陣へ手を翳す。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMシルバー・クロウ』!『EMウィム・ウィッチ』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

EMウィム・ウィッチ 守備力800

 

赤、銀、ピンクと3色の光の柱が地鳴りを響かせ、遊矢の元へと落ちる。現れたのは3体のモンスター。

1体目はシルクハットを被り、振り子を手にしたマジシャン。2体目は名の通り、美しき銀の毛並みを持ち、鋭い爪を地に食い込ませた吠える狼。ピンクの猫型の魔法使い。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果!このカードとウィム・ウィッチを破壊し、デッキより2枚の『EM』モンスターを手札に加える!」

 

「させん!罠カード、『奈落の落とし穴』!特殊召喚された攻撃力1500以上のモンスターを破壊し、除外する!」

 

「だが!ウィム・ウィッチはペンデュラム・マジシャンの効果で破壊される為、デッキより『EMスライハンド・マジシャン』を手札に加える!」

 

これでペンデュラム召喚したモンスターは全滅し、遊矢のフィールドにはドクロバット・ジョーカーのみが残った。しかもシルバー・クロウとペンデュラム・マジシャンは除外された為、エクストラデッキからのペンデュラム召喚も狙えない。かなりの痛手だ。幸いなのはペンデュラムスケールを破壊しなかった事か。これで権現坂のサポートが出来れば良いが。

 

「俺はカードを……っと、やっぱりこのままターンエンドだ」

 

榊 遊矢&権現坂 昇 LP3200

フィールド『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』 『EMモンキーボード』

手札3(遊矢) 手札5(権現坂)

 

罠を伏せようとするが思い止まる。このデュエルでは遊矢と権現坂はフィールド、墓地を共有する。魔法や罠を使えばフルモン使いである権現坂がその実力を発揮できないのだ。足を引っ張る訳にはいかない。

 

「……すまん、遊矢」

 

そんな遊矢の行動を察し、顔を俯かせる権現坂。

 

「いいって、何時もは俺の方が助けられてるんだ。権現坂に自分の信念は曲げて欲しくないし、気にするなって」

 

そんな権現坂に笑みで答える遊矢。そうだ、何時も助けられているのだ。今回は自分が助ける番だと意気込む。

 

「私のターン、ドローだ。手札の『サンダー・ドラゴン』を捨て、同名モンスターを2体サーチ、加えて『手札断札』で捨て、2枚ドロー!パンサー・プレデターの効果で800のダメージを与える」

 

榊 遊矢&権現坂 昇 LP3200→2400

 

「更に私は『幻獣機テザーウルフ』を召喚」

 

幻獣機テザーウルフ 攻撃力1700

 

現れたのは狼を模したヘリコプター。先程までとは全く毛色が違うモンスターに遊矢がピクリと反応する。

 

「テザーウルフが召喚に成功した時、『幻獣機トークン』を特殊召喚する。更にこのカードのレベルは『幻獣機トークン』のレベルの合計分だけ上がる」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

幻獣機テザーウルフ レベル4→7

 

「私はパンサー・プレデターを攻撃表示に変更し、バトルだ!パンサー・プレデターでドクロバット・ジョーカーへ攻撃!」

 

「ッ!バトルフェイズに入る前に手札から『EMレインゴート』を捨てる!」

 

バレットがパンサー・プレデターへと指示を飛ばし、それに応じるように『剣の墓場』を駆け抜け、地面から1本の刀を引き抜き、自前の剣との二刀流でドクロバット・ジョーカーへと斬りかかる。

しかしドクロバット・ジョーカーが地面に突き刺さった刀を引き抜き、投擲する事により刀は弾かれ、その喉へと突き刺さる。

 

「パンサー・プレデターが戦闘によって破壊された場合、融合素材となったモンスター一組を墓地より特殊召喚する。更に『補給部隊』の効果で1枚のドロー」

 

バレット 手札1→2

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー攻撃力2000

 

キャリア・センチネル 攻撃力1000

 

一瞬の爆発の後、パンサー・プレデターは2体のモンスターへと生まれ変わる。テザーウルフも合わせれば合計攻撃力は4700。このままでは負けてしまうが……手は打ってある。

 

「まずはテザーウルフでドクロバット・ジョーカーを攻撃!この瞬間、『幻獣機トークン』をリリースする事によりテザーウルフの攻撃力を800アップする!」

 

幻獣機テザーウルフ 攻撃力1700→2500

 

テザーウルフの腹部よりガトリング砲が出現し火を吹く。パンサー・プレデターに猛威を振るっていたドクロバット・ジョーカーも更なる強者の前では無力だ。

 

榊 遊矢&権現坂 昇 LP2400→1700

 

「『EMレインゴート』の効果によりこのターン中、ドクロバット・ジョーカーは破壊されない!」

 

「ならばパンサーウォリアーでドクロバット・ジョーカーへ攻撃!この時!パンサーウォリアーの効果により『キャリア・センチネル』をリリースする!」

 

先程の怨みを晴らすように剣を叩きつけるパンサーウォリアー。対するドクロバット・ジョーカーは手に持ったレインコートを闘牛士のように操り、ひらりひらりとかわす。

 

榊 遊矢&権現坂 昇 LP1700→1500

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動。デッキの10枚を除外し、2枚ドロー」

 

バレット 手札1→3

 

「カードをセットして、ターンエンドだ」

 

バレット LP3800

フィールド『漆黒の豹戦士パンサーウォリアー』(攻撃表示) 『幻獣機テザーウルフ』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「私はここで手札の『増殖するG』を切る」

 

「俺の墓地に魔法、罠カードが存在しない場合、超重武者ヌス―10を特殊召喚!」

 

超重武者ヌス―10 攻撃力1000

 

バレット 手札1→2

 

「ヌス―10をリリースし、相手の魔法、罠カードを破壊し、そのカードをセットする!俺はセットカードを奪う!そして、使わせてもらうぞ遊矢!俺は既にセッティングされたペンデュラムスケールでペンデュラム召喚!現れよ!『超重武者ホラガ―E』!『超重武者ビッグワラ―G』!」

 

超重武者ホラガ―E 守備力600

 

超重武者ビッグワラ―G 守備力1800

 

バレット 手札2→3

 

フィールドに現れる2体のモンスター。権現坂のデッキは全てがモンスターで構成されたフルモンだ。魔法や罠を使わない代わりとしてペンデュラムとはすこぶる相性が良い。

 

「ビッグワラ―Gをリリースし!アドバンス召喚!『超重武者ビッグベン―K』!」

 

超重武者ビッグベン―K 攻撃力1000

 

権現坂のエースカードが姿を見せる。機械的なマスクを被り、頑強な鎧を纏った武骨なモンスター。守備力は圧倒的とも言える3500の数値。相棒である遊矢もこのモンスターの登場に笑みを浮かべる。

 

「召喚後、守備表示に変更、更に!俺はレベル8の『超重武者ビッグベン―K』にレベル2の『超重武者ホラガ―E』をチューニング!荒ぶる神よ、千の刃の咆哮と共に砂塵渦巻く戦場に現れよ!シンクロ召喚!いざ出陣!『超重荒神スサノ―O』!」

 

超重荒神スサノ―O 守備力3800

 

バレット 手札3→4

 

ホラガ―Eが弾け、3つのリングとなり、ビッグベン―Kを包み込む。光が満ち溢れ、晴れたそこには緑の装甲に黒の鎧を身につけ、鬼のような面をした武神が胡座をかいて座していた。

星10、守備力3800。先程のビッグベン―Kを超える力に流石のバレットも息を飲む。

 

「そして!スサノ―Oの効果発動!1ターンに1度、自分の墓地に魔法、罠カードが存在しない場合、相手の墓地の魔法、罠を1枚対象として自分のフィールドにセットする!『奈落の落とし穴』を頂こう!」

 

「ほう……」

 

中々良いチームワークだ、と、感心めいた態度で遊矢達を観察するバレット。流石は親友と言ったところか。

遊矢がペンデュラムで権現坂のフルモンを活かし、権現坂がスサノ-Oで遊矢の次の展開を支える。大量展開と圧倒的防御による布陣、並みのデュエリストなら突破は難しいだろう、そう、並みのデュエリストなら。

 

「バトル!スサノ―Oでパンサーウォリアーに攻撃!このカードは守備表示のまま、守備力を攻撃力として扱い、攻撃できる!クサナギソード・斬!」

 

バレット LP3800→2000

 

武神の放つ斬撃により黒豹の戦士が悲鳴を上げて吹き飛ぶ。舞い上がる土煙に顔をしかめながらもバレットは手を動かせる。

 

「『補給部隊』の効果で1枚ドロー!」

 

バレット 手札4→5

 

「ドクロバット・ジョーカーでテザーウルフへ攻撃!」

 

「させん!アクションマジック!『回避』!攻撃を無効に!」

 

「むぅ……俺は墓地の『ADチェンジャー』を除外、ドクロバット・ジョーカーを守備表示に変更、これでターンエンドだ」

 

榊 遊矢&権現坂 昇 LP1500

フィールド『超重荒神スサノ―O』(守備表示) 『EMドクロバット・ジョーカー』(守備表示)

セット2

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』 『EMモンキーボード』

手札3(遊矢) 手札2(権現坂)

 

互いのLPが並ぶ。しかし油断は出来ない。バレットはまだ何かを隠していると、遊矢は感じ取っていた。

 

「私のターン、ドロー!速攻魔法『手札断殺』を発動!互いに手札を2枚交換!更に魔法カード、『暗黒界の取引』を発動、手札を交換、2枚の速攻魔法、『サイクロン』でセットカードを破壊し、2体目の『幻獣機テザーウルフ』を召喚」

 

幻獣機テザーウルフ 攻撃力1700

 

バレットの手札よりもう1体のテザーウルフが姿を見せる。スサノ―Oを前に果たしてどんな戦術を取るのか、遊矢と権現坂は緊張を走らせる。

 

「テザーウルフの効果、『幻獣機トークン』を生成、同時に2体のテザーウルフはレベル7となる」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

幻獣機テザーウルフ レベル4→7×2

 

「これで……レベル7のモンスターが2体と言う訳だ」

 

「ッ!まさか!?」

 

権現坂の表情が驚愕に染まる。今のバレットの言葉の意図を考えれば自ずと答えが分かるだろう。権現坂の、そして遊矢の推理が正しいなら、彼は今――。エクシーズモンスターを出そうとしている――。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

見事予測は的中し、バレットの言葉と共に背後に星空を思わせる幻想的な渦が巻き起こり、2体のテザーウルフが飛び込み、1つとなる。

そして渦の中より禍々しい赤き輝きが遊矢の眼に焼きつく。赤よりも深い、真紅の光。それを見た途端、2人の背筋に寒気が走る。

 

「エクシーズ召喚!発進せよ!『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』!!」

 

No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク 守備力3000

 

バレットの右手の甲に42の紋様が浮かび上がる。同時に『剣の墓場』の夕空に巨大な黒き機体が姿を見せる。途方もなく巨大な戦艦。海に漂うエイを思わせるステルス機特有の形状をしたモンスターに遊矢達は戦慄する。

 

「ナン……バーズ……!?」

 

遊矢が今までにない程顔を強張らせ、息を飲む。コナミの使うモンスターと同じ『No.』を冠するモンスター。そう、あの黒い帽子の少年が扱うモンスターと同質の力を放つ、遊矢が敗北を喫した、赤き呪いを宿したカードが眼前に現れたのだ。

あの時の事はうろ覚えだと言うのに震えが止まらない。じわじわと恐怖が遊矢の身体を侵食していく。

 

「ッ!こちらの自由を奪おうとするか……!舐められたものだ……これしきで屈する程老いてはおらん……!」

 

対するバレットはその額から大粒の汗を流しながら右手の甲を抑え、ブツブツと呟いている。一体どうしたと言うのだろうか?

 

「……ふぅ……私はギャラクシー・トマホークのORUを2つ取り除き。効果発動!自分フィールド上に可能な限り『バトル・イーグル・トークン』を特殊召喚する!この効果を使用したターン、相手が受けるダメージは0となる」

 

バトル・イーグル・トークン 攻撃力2000×3

 

「攻撃力2000が3体だと!?」

 

母艦より次々と現れるトークンに権現坂が狼狽える。だがまだだ。まだバレットは止まらない。左手を突き出し、次なる手へ移る。

 

「魔法カード、『龍の鏡』!フィールドの『幻獣機トークン』と『バトル・イーグル・トークン』を融合!融合召喚!『始祖竜ワイアーム』!!」

 

始祖竜ワイアーム 攻撃力2700

 

ここに来て大型の竜がフィールドに登場する。青の体躯を飛翔させ、体中に刺々しく、攻撃的な角や棘を持った四肢のない雄々しい竜。

 

「まだ行くぞ。墓地のチューナーモンスター『グローアップ・バルブ』の効果発動!デッキの1番上のカードを墓地に送り、特殊召喚する!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

ここで現れたのはチューナーモンスター。植物に目が生えた不気味なモンスターに一瞬びくりとするが、これからバレットが行おうとする事に気づいたのか権現坂がその目を見開く。

 

「まさかっ!?」

 

「そのまさかだ。私はレベル6の『バトル・イーグル・トークン』にレベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!シンクロ召喚!『幻獣機コンコルーダ』!!」

 

幻獣機コンコルーダ 攻撃力2400

 

黄金のボディを煌めかせ、ガルーダを模した『幻獣機』が空を旋回する。これで融合、シンクロ、エクシーズ、3色のモンスターがバレットのフィールドに揃った。それでも何とか膝をつかずにいられるのはコナミと赤馬 零児のデュエルを見ていたからだ。

これからが本番、遊矢と権現坂は気を引き締め、更なる闘いへと身を投じる。




バレットさん強化回。ヴォルカニックと迷ったけどギャラクシー・トマホークもあるので幻獣機に。ビーストボークとの混合型にしてみました。


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第33話 全て壊すんだ

昨日ハンバーグを作ろうとしたら、そぼろ丼になっていた。解せぬ。



「ワイアームは通常モンスター以外のモンスターとの戦闘では破壊されず、コンコルーダが存在する限りトークンは戦闘及び効果では破壊されない。『バトル・イーグル・トークン』は特殊召喚したエンドフェイズに自壊するが……これでデメリットは帳消しだ」

 

何とも面倒な布陣を敷かれたものだ。正しく難攻不落と言っても良い。だが隙が無い訳では無い。焦らずに心を落ち着かせるべきだ。

しかし、トークンが通常モンスターとして扱われる事を活かした融合召喚に『バトル・イーグル・トークン』のデメリットを消すモンスターの用意とバレットの実力は本物だ。3種の召喚とその特性を充分に発揮させている。

 

「墓地の『ADチェンジャー』を除外し、スサノ―Oを攻撃表示に変更する!」

 

「むう!?」

 

スサノ―Oが攻撃表示となった事で権現坂が唸る。スサノ―Oが不動の切り札たる最大の要因は高い守備力を使った攻撃だ。こうして攻撃表示になってしまえば武器を失い、丸裸になったも当然。

 

「ダメージは無いがモンスターは別だ。ワイアームでスサノ―Oを攻撃!」

 

「スサノ―Oの効果により、『強欲で貪欲な壺』を奪う!」

 

バサァッ!始祖竜はその巨大な翼を翻し機械の武神に食らいつく。スサノ―Oもその手に持った刀で竜の大顎を塞ぐが無意味。バキィィィィィッと刀身を砕き、スサノ―Oは粉々に粉砕される。竜殺しの神をも破壊する竜、その存在は強大だ。

 

「更にコンコルーダでドクロバット・ジョーカーを攻撃!」

 

黄金の機械鳥がドクロバット・ジョーカーを大空に拐い、引き摺り回した後放り投げる。いくら多芸な奇術師であろうと不安定な空ではその真価は発揮できなかったのか、無惨に破壊される。

 

「これで私はターンエンドだ。さぁ、この程度の危機、乗り越えて見せろ若きデュエリストよ!」

 

バレットLP2000

フィールド『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』(守備表示) 『始祖竜ワイアーム』(攻撃表示) 『幻獣機コンコルーダ』(攻撃表示) 『バトル・イーグル・トークン』(攻撃表示)

『補給部隊』

手札0

 

まるで要塞の相手をしている気分だ。遊矢は苦笑いを浮かべデッキに手を置く。だがこの状況をひっくり返してこそのエンタメデュエル。華々しい逆転劇の引き金に今、手をかける。

 

「お得意のエンタメデュエルか」

 

「ッ!?」

 

そこでバレットが声をかける。まるで幼子を諭すような声音に遊矢の身体がびくりと跳ねる。思わずその手を放し、バレットの顔を覗き込む。

 

「私はエンタメデュエルは素晴らしいと感じた。だが、いつかきっとそのデュエルを受け入れぬ者が、否定する者が現れる。その時、君はどうする?それでも父のデュエルにすがりつくか、諦めて、捨てるか。人の琴線は千差万別だ。そんな時、君はどうする?榊 遊勝では無く、君はどうする?榊 遊矢のデュエルは、どうする?」

 

「俺……が……?」

 

静かに、しかし叱りつけるようにバレットが次々と言葉を投げかける。

考えた事が無い訳じゃない。父が臆病者と呼ばれ、自身が臆病者の息子と蔑まれた時から分かっていた。分かっていて、目を逸らしてきた問題だ。

 

人の心は移り変わりやすい。それでも、父が本当は偉大なデュエリストだと知って欲しくて、分かって欲しくて、父の真似事を続けてきた。

受け入れぬ者も、否定する者もいるだろう。人なのだから、だけど、だけども。

 

「……分からないけど、理解したい、見つけたい。諦めたくない……!笑って欲しいから!例え借り物の言葉でも、俺のこの想いだけは!本物なんだ!」

 

俯いていた顔が上がる。分からないなら考えろ。扉が閉じたならこじ開けろ。答えはきっとデュエルの中にあるから。

一挙一動で、噛み締めろ。

 

「俺のターンッ!ドロー!」

 

デッキより1枚のカードを引き抜く。工夫しろ、自分のエンタメを昇華し、その身に宿せ。

 

「『強欲で貪欲な壺』を発動!」

 

榊 遊矢 手札4→6

 

「ワイアームをリリースし、『サタンクロース』を特殊召喚!」

 

サタンクロース 守備力2500 

 

まずは厄介な竜の退場を。ワイアームはフルモンの権現坂に対処は厳しいと思っての行動だ。

 

「俺は既に設置されたペンデュラムスケールでペンデュラム召喚!現れろ!エクストラデッキから『EMウィム・ウィッチ』!手札から『EMスライハンド・マジシャン』!『EMボットアイズ・リザード』!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500

 

EMボッドアイズ・リザード 攻撃力1600

 

EMウィム・ウィッチ 守備力800

 

遊矢のフィールドに3本の光の柱が降り、土煙と共に轟音を鳴らす。

登場したのは先のターンも猫の魔法使い。赤を基調とした衣装に身を包み、振り子を模した下半身をしたマジシャン。義眼をつけ、クルクルとステッキを回す紫のリザード。

 

「『EMスライハンド・マジシャン』の効果!手札を捨て、『補給部隊』を対象として発動!破壊する!『EMボッドアイズ・リザード』の効果!デッキより『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を墓地に送り、その名を得る!墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『EMスライハンド・マジシャン』をデッキに戻し、ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「そして魔法カード、『置換融合』!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMウィム・ウィッチ』を融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

魔導の力を内包した真紅の竜が天を駆ける。

このターン、ルーンアイズは効果を受けず、2回攻撃を可能とする。これで勝利へ突き進みたいが……そう簡単にいかせてくれるか。

 

「ルーンアイズで『バトル・イーグル・トークン』を攻撃!シャイニーバースト!」

 

魔天の竜が背負ったリングより雷球が発生し、『バトル・イーグル・トークン』へと一直線に光線を放つ。コンコルーダが存在する限りトークンを破壊する事が出来ない。それを逆利用してサンドバッグにして戦闘ダメージで勝とうと言うつもりなのだろう。

しかし、キィィィィィンッ、突如バレットの前に現れたバリアによって防がれる。

 

「墓地より『超電磁タートル』を除外する事でバトルフェイズを終了する」

 

「やっぱ簡単にはいかないな……!ターンエンドだ。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を除外」

 

「私は『サタンクロース』の効果でドロー」

 

バレット 手札0→1

 

榊 遊矢&権現坂 昇 LP1500

フィールド『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』 『EMモンキーボード』

手札1(遊矢) 手札2(権現坂)

 

「私のターン、ドロー!速攻魔法、『魔力の泉』!2枚ドローし、1枚を捨てる!」

 

バレット 手札1→3→2

 

「『シャッフル・リボーン』を除外し、『サタンクロース』をデッキに、1枚ドロー!」

 

バレット 手札2→3

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動。私はギャラクシー・トマホークと『バトル・イーグル・トークン』をリリースし、『幻獣機グリーフィン』をアドバンス召喚!」

 

幻獣機グリーフィン 攻撃力1000

 

「更に!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『幻獣機ドラゴサック』!」

 

幻獣機ドラゴサック 攻撃力2600

 

ここで現れたのは新たなエクシーズモンスター。最強の生物と謳われるドラゴンと超大型輸送機を合成したであろうモンスターだ。

 

「ドラゴサックのORUを1つ取り除き、2体の『幻獣機トークン』を特殊召喚する!」

 

幻獣機トークン 守備力0×2

 

「そして『幻獣機トークン』をリリースし、『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を破壊!」

 

「ルーンアイズッ!?」

 

『幻獣機トークン』を弾丸として発射する事によりルーンアイズの胸の宝玉が撃ち抜かれ、破壊される。こうも早く対処されるとは思ってみなかった。遊矢の額より汗が伝う。

 

「私は『一時休戦』を発動し、1枚ドロー」

 

バレット 手札0→1

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「カードをセットし、ターンエンド。さぁ、君達の力!見せてもらおうか!」

 

バレットLP2000

フィールド『幻獣機ドラゴサック』(攻撃表示) 『幻獣機トークン』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

バレットのターンが終了し、権現坂へと移る。今までにない強敵、しかし遊矢は諦めるつもりなど毛頭ない。

デュエルも、エンタメも――相手より学び、吸収する為に――。

 

榊 遊矢には憧れる者達がいる。道を示してくれた大人達、共に歩んできた仲間達。何時だって貰ってばかりで返そうと思っても、また貰ってしまう。

貰った何かは遊矢を成長させてくれた。だからせめて、見せるのだ。成長した姿を、貴方のお陰で強くなれました。君と一緒に成長できたと言う証を。このデュエルで、笑い合えるように。

 

「俺のターン、ドロー」

 

権現坂がデッキより1枚のカードを手に取る。相手の場にはトークン生成効果と破壊効果を合わせ持つエクシーズモンスター、『幻獣機ドラゴサック』が赤に染まった空を旋回し、こちらの動向を伺っている。

 

2対1だと言うのにどうにも決定打に入れる事を出来ずやっと渡り合えるレベルだ。だが、だからと言って諦める訳にはいかない。これからも遊矢とタッグを組む事はあるだろう。その度に彼の足を引っ張るなど御免被る。

 

それに、彼等と共に闘う為に、自分の目指す不動のデュエルの為に、後悔しない為に刃に弟子入りし、この力を得たのだ。

 

「負ける訳にはいかんのだ……!墓地の『置換融合』を除外、ルーンアイズをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

権現坂 手札2→3

 

「俺は既に設置されたスケールでペンデュラム召喚!エクストラデッキより『EMドクロバット・ジョーカー』!手札より『超重武者ジジャ―Q』!『超重武者ワカ―02』!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

超重武者ジジャ―Q 守備力1900

 

超重武者ワカ―02 守備力2000

 

「更にチューナーモンスター、『超重武者ツヅ―3』召喚!」

 

超重武者ツヅ―3

 

ペンデュラムの特性を活かし、モンスターゾーンが埋まる。流石はフルモン構成と言った所か。大量の素材を扱うシンクロには打ってつけなのかもしれない。

 

「いくぞ!レベル4のワカ―02とジジャ―Qにレベル1のツヅ―3をチューニング!動かざる事連山の如し。大岩に宿りし魂、今、そびえ立つ砦となれ!シンクロ召喚!出でよ!『超重魔獣キュウ―B』!!」

 

超重魔獣キュウ―B 守備力2500→4300

 

裂帛の気合いと共に権現坂のフィールドに9つの炎を尾のように靡かせた白い獣機が現れる。その姿はまるでケンタウルスのように上半身が人型、下半身が4足となっている。

頭部からは獣の耳のように炎が上がっており、その手には黒い杖状の武器を持っている。

 

「キュウ―Bは守備表示のまま攻撃でき、またこのカードの守備力は相手フィールド上の特殊召喚されたモンスターの数×900ポイントアップする!」

 

守備力4300。切り札のスサノ―Oを超える恐るべき数値を前にしてもバレットの眉は動かない。

何かがある。そう分かっていても退く訳にはいかない。権現坂は手を挙げ、声を張り上げる。

 

「バトルだ!『超重魔獣キュウ―B』で『幻獣機ドラゴサック』を攻撃!」

 

白き魔獣はその手に持った杖をぐるりと回し、天に浮かぶ機竜へと向ける。キィィィィィンッ、激しい耳鳴りと共に杖の砲門が輝き、極太のビームが撃たれる。

 

「甘い!速攻魔法!『リミッター解除』!自分フィールド上の機械族モンスターの攻撃力を倍とする!」

 

幻獣機ドラゴサック 攻撃力2600→5200

 

突如、ドラゴサックの全身より赤い雷が迸り、急激に加速する。金色に輝くビームをスレスレでかわし、ジグザクの線の軌道を描き、ドラゴサックは弾丸をばら撒く。

高速回転する弾は白き魔獣の装甲を貫き、カランと音を立て地面に落ちる。

 

「くっ……!ならばドクロバット・ジョーカーで『幻獣機トークン』を攻撃!」

 

「『補給部隊』の効果で1枚ドロー!」

 

バレット 手札0→1

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

「エンドフェイズ、『リミッター解除』の効果を受けたドラゴサックは破壊される」

 

榊 遊矢&権現坂 昇 LP1500

フィールド『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)

Pゾーン『オッドアイズ・ユニコーン』『EMモンキーボード』

手札2(遊矢) 手札1(権現坂)

 

「私のターン、ドロー。私は『キャリア・センチネル』を召喚!」

 

キャリア・センチネル 攻撃力1000

 

「『キャリア・センチネル』の効果!デッキより『漆黒の豹戦士パンサーウォリアー』を手札に加え、魔法カード、『融合』!」

 

3度行われる融合召喚。毎ターン、エクストラデッキよりモンスターを特殊召喚するバレットの手腕に遊矢は恐ろしさと共に感心する。

 

「獰猛なる黒豹よ、歴戦の番兵と混じり合いて、新たなる雄叫びを上げよ!融合召喚!現れ出でよ、『獣闘機パンサー・プレデター』!」

 

獣闘機パンサー・プレデター 守備力2000

 

再びバレットのフィールドに火花を散らし、獰猛なる獣機が吠える。その効果は既に知っている。だからこそ遊矢の顔に焦燥が浮かぶ。

 

「パンサー・プレデターの効果発動!攻撃力の半分、800ポイントのダメージを与える!」

 

榊 遊矢&権現坂 昇 LP1500→700

 

パンサー・プレデターが銃弾を飛ばし、遊矢達に向かい、一直線に進んでいく。息を飲む遊矢。しかし、そんな彼を傷つけまいと権現坂が前に出て防ぐ。

 

「権現坂っ!?」

 

「掠り傷だ……!お前はバレット殿に自分の答えを見せる事に集中しろ……!」

 

権現坂が苦しそうに眉をひそめながらも平気だと言わんばかりに歯を見せて笑う。

榊 遊矢には憧れる人達がいる。権現坂もその1人だ。何時もこの背中に守られてきた。貰ってばかりいた。

 

遊矢の口がキュッと引き締められる。憧れるのはもうやめだ。背中を見るだけじゃ嫌だ。隣に立って、共に闘うのだ。

遊矢は勇気を振り絞り、一歩前進する。

 

「……遊矢……?」

 

「……ほう、答えは見えたか……私はこれでターンエンドだ」

 

バレット LP2000

フィールド『獣闘機パンサー・プレデター』(守備表示)

『補給部隊』

手札0

 

グッ、と唇を噛み締める遊矢。始まりは何時だったか、幼き頃、父のデュエルに憧れ、その言葉に胸を打たれた時か。

泣きたいときこそ笑え。悲しい事があっても、挫けずに勇気を持って前に進めば楽しい事がある。あの時全てが始まった。

 

ペンデュラム召喚。ストロング石島とのデュエルにより発現した遊矢の力。ゴーグルを被り、弱い自分から逃げていた遊矢が勇気を持って前に出た事でそれは生まれ、波乱の日々が幕を開けた。

 

コナミとの出会いと誓い。明確に遊矢にとっての目標が出来た瞬間だった。

 

そして――今、また新しい榊 遊矢が生まれる日、エンタメデュエルを否定する者、受け入れぬ者が現れる。甘んじて受け入れよう。観客の期待に応えるのがエンタメだ。だからと言って諦めるつもりは毛頭ない。

 

学ぶのだ、全てから、今まで自分が貰ってきた全てを出して。

デュエルは振り子、相手の投げた問題を、試練を返す。1人じゃできない。人にはそれぞれ性格がある。だから――変える。変幻自在の、千変万化の形へと。

 

「スゥー……ハァー……」

 

まずは深呼吸、初めての事だ。緊張するが――同時に試したくて堪らない。――さぁ、覚悟は決まった。ガッ、両足を開き、左手を前方へ、右手を顔の傍へ持っていく。その姿は、まるで歌舞伎の見栄のようだ。

 

「さぁ、さぁ、お立ち合い!これより榊 遊矢による、不動のエンタメ劇場の大盤振る舞い!刮目せよ!」

 

「遊矢!?」

 

「……ククク……ハハハハハ!そう来たか!!」

 

遊矢の突然の変貌に権現坂が驚愕し、バレットが目を見開き、らしくない獰猛な笑みを作る。

これこそが榊 遊矢の答え。今まで貰ってきたものを吸収し、エンタメデュエルと合体させる事によって自分独自の、新たなエンタメデュエルへと変える。

 

そして遊矢が実行するのは言わばエンタメデュエルversion不動。権現坂の不動のデュエルに触発されたものだ。上手くいかないかもしれないが――そんな事は試してみないと分からない。

 

「お楽しみは!あ、これからぁ、だぁ!」

 

遊矢のドローが空にアークを描き、激しい突風を巻き起こす。まるで権現坂のような力強いそれ。塾長の指導を受け、柚子達、遊勝塾のメンバーと共に素振りをして、コナミのアドバイス。

皆の力があったからこそ出来たドローだ。今まで培ってきたものは遊矢に答えてくれる。引いたカードは――即座に遊矢の脳裏にカードが線で結ばれていき、方程式が浮かぶ。

 

「俺は『金華猫』を召喚!」

 

金華猫 攻撃力400

 

「『金華猫』の効果により墓地よりレベル1モンスター、『超重武者ツヅ―3』を特殊召喚!」

 

超重武者ツヅ―3 守備力300

 

遊矢のフィールドに現れたのは2体のレベル1モンスターだ。1体は権現坂のチューナーモンスターのようだが。

 

「遊矢?まさかシンクロを……!?」

 

「違うよ権現坂。ツヅ―3には――この状況を引っくり返す効果がある」

 

権現坂の言葉をやんわりと否定し、上空に手を翳す遊矢。そう、ツヅ―3にはこの状況を打破する効果がある。しかしそれは受動的なものだ。

だが――不動とは、ただじっと待つ事ではない。

 

「俺は既にセッティングされたスケールでペンデュラム召喚!現れろ!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMウィム・ウィッチ』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMウィム・ウィッチ 守備力800

 

振り子の軌道でフィールドに降り立ったのは赤い衣装を身に纏ったマジシャンと猫の魔法使いのモンスターだ。遊矢のカードと権現坂のカード、その力が一つになる事で更なる可能性を生み出す。

遊矢1人では出来なかった事、権現坂1人では出来なかった事。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』が特殊召喚に成功した場合、自分フィールド上のカードを対象として発動する!俺はツヅ―3とモンキーボードを対象とし、破壊する事でデッキから『EM』モンスターを手札に加える!そして同時にツヅ―3の効果!このカードが破壊され、墓地に送られた場合、ツヅ―3以外の墓地の『超重武者』モンスターを対象として特殊召喚する!俺が特殊召喚するのは『超重荒神スサノ―O』!!手札に加えるのは『EMディスカバー・ヒッポ』と『EMドラミング・コング』!」

 

超重荒神スサノ―O 守備力3800

 

『剣の墓場』の地面が盛り上がり、荒ぶる神が再び顕現する。次々と放たれるモンスターによる見るも楽しいコンボ。だがこれだけでは終わらない。

 

「ドラミング・コングをセッティング!まだまだぁ!スサノ―Oの効果!相手の墓地の魔法、罠カードを頂戴する!俺が対象とするのは……『龍の鏡』!」

 

「っ!やってくれる……!」

 

相手の武器を盗み、自分のものへとするスサノ―Oの効果。その効果は今の遊矢に良く似合う。遊矢はしっかりと見ていたのだ。

相手の使うカードの1枚、1枚を、相手の顔色を伺ってきた過去の事も武器にして、更に相手の長所を自分のものとする未熟者であるからこその特権。それを見てバレットは舌を巻く。

叶うものなら、自分が教導したいものだと。

 

「更に!『龍の鏡』を発動!手札での融合召喚は出来ないけど……代わりとしてこのカードの素材の範囲は墓地にも及ぶ!俺は墓地の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』とフィールドの『金華猫』を融合!」

 

遊矢の背後に巨大な鏡が出現し、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『金華猫』の姿を写し込む。次の瞬間、鏡は暗い闇を写し、黄と緑、そして金色の色彩を放つ。

まるでそれは――何かの眼だ。そしてバリィィィィィンッ!鏡が中より割れ、激しい音と共に巨大なモンスターが現れる。

 

「融合召喚!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

今までの遊矢とそれを写し込んだ鏡を全て壊し、2度目の産声を放つ竜。

獣の骨格を纏ったような姿、青い体毛、雄々しき角と鋭い2本の牙、そして黄と緑と額に輝く金色の眼。それは確かに、これからの未来を見据えていた。

 

「……予想以上の答えだ……!さぁ、来い!少年、いや!榊 遊矢ぁ!」

 

ニィッ、と口の端を持ち上げ、今までになく楽しそうにバレットが笑う。

ペンデュラム、シンクロ、融合。遊矢と、そして権現坂の全力が今、眼前にある。

 

「いきます!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』でパンサー・プレデターを攻撃!ヘルダイブバーストッ!」

 

辺りの空気を吸い込み、爆炎を放つ遊矢の竜。歴戦の戦士であるパンサー・プレデターもその咆哮を受けてはただでは済まない――が、土煙が晴れたそこには、2体のモンスター。

 

「パンサー・プレデターが戦闘によって破壊された事により、素材であるパンサーウォリアーと『キャリア・センチネル』を特殊召喚する!」

 

「だけど!ビーストアイズの効果で『金華猫』の攻撃力、400のダメージを与える!」

 

バレット LP2000→1600

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー 守備力1600

 

キャリア・センチネル 守備力1600

 

「ドクロバット・ジョーカーでパンサーウォリアーを!ペンデュラム・マジシャンで『キャリア・センチネル』を攻撃!ペンデュラム・マジシャンの攻撃宣言時、ドラミング・コングのペンデュラム効果により、攻撃力を600アップ!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500→2100

 

2体の奇術師の華々しいマジックによりバレットのフィールドががら空きとなる。道は拓いた。後は――突き進むのみ。

 

「『超重荒神スサノ―O』でダイレクトアタック!」

 

武神がビーストアイズへと股がる。ビーストアイズは喉を鳴らし、スサノ―Oのおもむくままに『剣の墓場』を駆け出す。

ガンッ、と大きく跳躍し、スサノ―Oはビーストアイズの尾に手をかけ、スッと引き抜く。

妖しい輝きを放つ美しい剣を手に取り、二刀の剣でバレットを引き裂く。

 

「クサナギソード・斬ッ!!」

 

バレット LP1600→0

 

新たな道は――切り開かれた――。

 

――――――

 

「素晴らしいデュエルだった……いや」

 

デュエルが終了した後、バレットは満足気な表情を浮かべ2人に話しかけてきた。遊矢のその場に立ち止まり、バレットの先の言葉を伺う。

 

「?どうしたんですか?」

 

「楽しいデュエルをした後には、こう言うべき、と友人に教わっていてな。ガッ――」

 

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぞ!3人共!」

 

と、そこでタタタッ、とセレナが駆け寄り、興奮気味に人差し指と中指を突き出し、バレットの言葉を遮る。

突如の乱入に3人は面食らうが、バレットだけは優しい笑みを浮かべ、セレナの頭に手を乗せる。まるで――父娘のように。

 

「そう、ガッチャ。勲章もののデュエルだった」

 

「む?勲章はいらんぞ。捨てろ」

 

「……コホンッ、私の友が、そのまた友に教わった言葉でな、その男は少年のように笑い、デュエルが終わった後にそう言ったらしい。中々良い台詞だろう?」

 

わざとらしく咳をし、遊矢達へと笑いかけるバレット。

ガッチャ、ガッチャ、と胸の奥でその言葉を反芻しながらもくすぐったさを覚える遊矢。

やがて権現坂と顔を合わせ、頷き合った後、2人で人差し指と中指を突き出す。

また――貰ったな、何て思いながら。

 

「「ガッチャ!楽しいデュエルでした!」」

 

2人の顔は――その言葉の主のように――輝きに満ち溢れていた――。

 

 

 

 




カバは添えるだけ。

と言う訳で遊矢君は闘ってきたデュエリストのスタイルを得てパワーアップする王道主人公に。シンクロ次元でハーモニカ吹いたり、エクシーズ次元でファンサービスしたりするかもしれない。
しかし見事にシリアスと言うか真面目な話やってるなーと思う。いや熱い話が書きたいんだけどね、勝手に手がネタを挟もうとするの。俺は熱い話が書きたいんだ……!


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第34話 アイエエエエ!

遊矢「コナミ?どうしたんだ!?何で泣いてるんだ!?」

コナミ「……えぐっ……!うぐぅっ……ごれぇ……!」

遊矢「えっと……これ確か新しく出るって言う遊戯王のゲーム……あ、主人公、コナミじゃない……」

コナミ「……おれぇ……ずっと楽しみに待ってたのにぃ……!誰だよこいつぅ……!」

遊矢「えっと……残念だったな……」

コナミ「あなたには……分からないでしょうねぇ……!現行主人公のあなたにはぁ……!でもぉ……それゲームオリジナルキャラが多くてぇ……遊矢も出るか分かんないんだぞぉ……!」

遊矢「」











?「我が書き換えたのだ」


「さぁ、6連戦、最後のデュエルッスよぉ!」

 

舞網市の大通りにて、コナミの子分である暗次が意気揚々と右腕を振り上げ、大股で歩んでいた。その後をついていくのは赤帽子ことコナミと暗次の友人、ねねだ。

そう、これまでコナミは舞網チャンピオンシップの出場資格を賭け様々なデュエリスト達と激闘を繰り広げてきた。どのデュエリストも実力者揃いだがコナミはパートナーと共に勝利を掴み取り、残るは後1勝のみ。

最後の対戦相手を探すべく街へと出掛けたのだ。

 

「……ん?あれは権現坂じゃないか」

 

と、そこでコナミは大きなデュエル塾の前で立つ権現坂を見つける。この雑踏の中でも彼は良く目立つ。向こうもこちらに気づいたようだ。コナミ達は権現坂へと歩み寄る。

 

「おお、コナミか。どうした?こんな場所で会うとは珍しいな」

 

「兄貴は道場やっんが!?」

 

柔らかい表情でコナミに話しかける権現坂に、暗次が正直に道場破りだと言おうとした所で、コナミが鳩尾に鋭いストレートを叩き込み、遮る。

ここまで1秒もかかっていない。恐るべき身体能力である。子分であろうと容赦などない。

 

「(権現坂は真面目だ。下手な事を言うな)」

 

「(あ、あいあいさー……)」

 

「?ど、どうした?急に倒れたように見えたが……」

 

「さぁ?オレはチャンピオンシップに出場する為、対戦相手を探している。権現坂は?」

 

思いっきり白を切るコナミ。決して嘘はついていない。ただオブラートに包み込んでいるだけだ。まぁ、正直に言えば「けしからん!」と怒り狂い、ここで正座をさせられ説教をされるだろうが。

 

「俺もチャンピオンシップの為に試合を挑もうと思ってな」

 

そう言って正面の大きなデュエル塾を見つめる権現坂。少森寺塾と似ているがこちらは和風の建物だ。規則的に並んだ瓦に立派な鯱。最早塾と言うより城と言うべきか。そびえ立つ建物の看板を呟くコナミ。

 

「風魔……デュエル塾?」

 

「何でも親父殿の友人が経営する塾らしくてな。デュエルをするなら、ここに行けと言われた。お前もどうだ?」

 

「良いのか?」

 

「何、お前には色々と恩があるからな」

 

フッと笑みを浮かべる権現坂。しかしコナミとしては恩を売った覚えはまるでない。それもそうだろう、権現坂は柚子を助けてくれた事、LDS襲撃の際、赤馬 零児と闘ってくれた事と専ら“自分以外の事”に恩を感じているのだ。

彼にとっては自分より、大切な友人の力になってくれた事が嬉しいのだろう。出来た人間である。どこぞの赤帽子とは違う。

 

「さぁ、行こうか。頼もう!」

 

門を開き、堂々と声を上げる権現坂。彼に倣い、3人も声を上げ中へと入っていく。

チャンピオンシップ出場を賭けた最後のデュエル。相手が誰であろうと――コナミは負けるつもりなど、毛頭ない。

 

――――――

 

「貴殿等が対戦を申し込んできた権現坂殿とコナミ殿か。拙者は風魔 日影と言う」

 

コナミ達を迎えたのは髪を後ろで一括りにし、額に鉢金、首に赤いマフラー、見た目だけではなく雰囲気からしても忍者と呼べる者だった。

 

「忍者だ!すげぇ!」

 

「ふぉぉぉぉ……」

 

その姿に思わず暗次とねねは目を輝かせ、歓喜を含んだ声を出す。コナミもまさか忍者が出てくるとは思わなかったのか、ほうほうと頷いている。

やはり男の子と言う訳か。彼等の嬉しそうな態度に気恥ずかしさを覚えたのか、満更でもないのか苦笑して頬を掻く日影。

 

「本来なら断る所なのだが……我々も事情が変わった。それに権現坂道場の者の頼みを無下にする事も出来ぬ。ついてこられよ」

 

「すまない、恩に着る」

 

デュエルを承諾してくれた日影に頭を下げ、感謝の意を述べる権現坂。しかし何故だろうか、日影がコナミを見る目は、どこか観察しているようなものを感じる。

 

「……」

 

まぁ、考えても仕方無いだろう。コナミは帽子を被り直し、日影の案内を元にデュエルフィールドへ向かう。随分と雰囲気の良い日本庭園を模したフィールドだ。

「む、兄者、その者は確か……」

 

と、そこで日影と似た、しかし全体的に暗い寒色系の装束に身を包んだ少年が現れ、コナミを見つめる。

 

「ブンシンノ=ジツだ!ブンシンノ=ジツッスよ!兄貴!」

 

「落ち着け暗次。これは格ゲーで言う所の2Pキャラだろう」

 

突如現れたもう1人の忍者にはしゃぐ暗次とホラを吹き込むコナミ。どうにも阿呆なやり取りをする2人を横目に日影は態とらしく咳払いをする。

 

「ンンッ……!こちらは拙者の弟の月影。月影、彼等は対戦を申し込んできた権現坂殿とコナミ殿。そして観戦者の黒門殿と光焔殿だ」

 

「ふむ……そうでござったか。拙者は風魔 月影。紹介されたように兄、日影の弟でござる」

 

「オレは波影。よろしく頼む」

 

「あっ!兄貴ずりぃ!俺、暗影!」

 

「クラ(カ)ゲとな」

 

「じゃあ私はねね影ですね」

 

密かに忍者に憧れを持っていたのだろう。コナミが忍者的な名乗りをすると同時に子分2人も騒ぎ立てる。特に暗次は顔中に笑みを浮かべ、俺も、俺もとはしゃぐ。

刃がこの場にいれば「お前そんなキャラだっけ」と初期の暗次と比べるだろう。

 

「お前達……少しは静かにしたらどうだ?相手方に迷惑だろう」

 

「いや、まぁ……憧れてくれるのは悪い気はしないので……」

 

そんな彼等に権現坂が口をヘの字にして注意をするのは当然と言えよう。忍者兄弟は照れて苦笑しているが。

 

「まぁ、デュエルを始めようか。ルールは2対2のアクションタッグデュエルでよろしいか?」

 

「俺は構わん」

 

「オレも構わない。早く始めよう」

 

デュエルと言う単語を聞いた途端、左腕のデュエルディスクを構えるコナミ。日影達も対面に位置し、ザッ、と土を鳴らす。どうやら向こうも準備は整っているようだ。

 

「では、アクションフィールド発動!」

 

日影が手を振り上げると同時に周囲が光の粒子に包まれ、歯車が回る音が響き渡る。

一体何事だ――?思考する前に、権現坂とコナミが突如現れた壁で分断される。変化はそれだけには留まらない。コナミの下の床が抜け、落ちる。

 

「何やて」

 

何故か関西弁で驚愕するのも束の間、曲がりくねった細い道を滑り、訳も分からずにポイッ、と別の部屋に放り出される。どうやら畳部屋のようだが……理解が追いつかない。

 

「アクションフィールド、『風雲カラクリ城』。このフィールドでは4人のデュエリストが分断され、目で会話する事も許されない。さて、語ろうには共有するフィールドのみ、どこに仕掛けがあるかも分からない。そんな状況で貴殿等はどうする?」

 

コナミの前にモニターが現れ、日影が説明する。どうやらこの塾自体がアクションフィールドの影響を受けているらしい。

先にパートナーを探せば優位に立てると言う事か、面白い。コナミは口元に弧を描き、デュエルに臨む。

 

「さぁ、参ろうか!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

モニター越しに日影がポーズを取り、口上を述べる。

 

「モンスターと地を蹴り、宙を舞い!」

 

続いてモニターが半分となり、権現坂が姿を見せる。彼も覚悟を決めたようだ。何時も通りの頼れる表情で日影の口上を紡ぐ。

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

モニターが3つに割れ、月影が現れる。こうして見ると本当に日影とそっくりだ。

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

最後はコナミだ。モニターが4つに割れ、自分の姿が写る事に「おおっ」と謎の感心を覚える。

 

「「「「アクショーン!!」」」」

 

チャンピオンシップ出場の資格を賭け、今、コナミの6連戦、最後のデュエルが始まる。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

勝利を手繰り寄せる鍵、絆を巡り、コナミはカラクリの城を手探りに駆け抜ける。

 

「拙者のターン、拙者は『強欲で貪欲な壺』を発動。デッキトップから10枚のカードを除外、2枚ドロー!」

 

風魔 日影 手札4→6

 

「『忍者マスターHANZO』を召喚」

 

忍者マスターHANZO 攻撃力1800

 

先攻は日影。彼は手札より黒い衣を纏った『忍者』モンスターを召喚する。『忍者』デッキにおいて優秀なモンスターだ。

 

「『忍者マスターHANZO』の効果発動。このカードが召喚に成功した時、デッキより『忍法』カードを手札に加える!拙者が手札に加えるのは『忍法 超変化の術』。拙者はカードを4枚伏せ、ターンエンド」

 

風魔 日影&風魔 月影 LP4000

フィールド 『忍者マスターHANZO』(攻撃表示)

セット4

手札2(日影) 手札5(月影)

 

「オレのターン、ドロー!オレは魔法カード、『ギャラクシー・サイクロン』を発動。左のセットカードを破壊する」

 

コナミの手より星を散りばめた竜巻が起こる。選択としては間違ってないが……そのカードに権現坂が苦い顔をする。だが、モニター越しでは余り効果が無く、コナミも見逃してしまう。

 

「破壊されたのは『リ・バウンド』!効果で1枚ドロー!」

 

風魔 日影 手札2→3

 

「魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』!カードを2枚ドロー!」

 

コナミ 手札4→6

 

「その後、ドローカードからペンデュラムモンスター以外のカードを墓地へ。1枚捨て、オレは『慧眼の魔術師』と『賎竜の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!更に『慧眼の魔術師』の効果発動!このカードを破壊し、デッキから『竜穴の魔術師』をペンデュラムゾーンへ置く!これでレベル3から7のモンスターが同時に召喚可能!揺れろ、光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!」

 

コナミの前方に何時もより小さな魔方陣が出現し、2つの光が障子を突き破り、外の庭園へと飛び出す。内心「これ弁償になんのかな」と少し心配しながらコナミも身を乗り出し、自らのモンスターの名を呼ぶ。

 

「『慧眼の魔術師』!『聖鳥クレイン』!」

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

聖鳥クレイン 攻撃力1600

 

日本庭園に膝をつき、姿を見せたのは随所に瑠璃の珠を嵌め込んだ衣装をし、手に秤を持った銀髪の『魔術師』と白き翼の鳥。

 

「クレインの効果で1枚ドロー」

 

「HANZOと『聖鳥クレイン』を選択し、永続罠、『忍法 超変化の術』を発動!チェーンして罠発動、『重力解除』!更にチェーン!罠発動、『積み上げる幸福』!まず2枚ドロー!」

 

風魔 日影 手札3→5

 

「そしてフィールドのモンスターの表示形式を変更!最後に選択したモンスターを墓地へ送り、デッキより『白竜の忍者』を特殊召喚!」

 

白竜の忍者 攻撃力2700

 

コナミ 手札2→3

 

しかし、コナミがペンデュラム召喚を行った瞬間、『聖鳥クレイン』が庭園に設置された池へと吸い込まれ、水が逆巻いて中より日影と白い竜を連れた『忍者』モンスターが飛び出す。

こんなに近くにいるとは。仲間と合流する前にお互い敵に遭遇してしまった。

 

「『刻剣の魔術師』を召喚!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

コナミが呼び出された『白竜の忍者』を見て、手札より黒衣を纏った少年剣士を呼び出す。剣を握ってはいるものの、このカードも『魔術師』の仲間だ。

 

「残念だったな。『白竜の忍者』を対象として『刻剣の魔術師』の効果発動!『白竜の忍者』と『刻剣の魔術師』を除外する!」

 

お互いのモンスターが異次元の彼方へと消え、フィールドががら空きとなる。

 

「さぁ、バトルだ!『慧眼の魔術師』でダイレクトアタック!」

 

『慧眼の魔術師』が手に持った秤をくるりと回し、小さな魔方陣を描く。その中より押し出すように光の球が放たれ、日影へと向かう。

だが日影もその身体能力を活かし、バック転を繰り返し、宙に浮いたカードを拾い上げ、膝をついてデュエルディスクに差し込む。

 

「アクションマジック!『回避』!」

 

光の弾丸が日影の発動したカードによって発生した障壁に弾かれる。そう簡単にはいかせてくれないらしい。恐らくこのアクションフィールドは彼等にとって慣れたものなのだろう。

 

「オレはカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

コナミ&権現坂 昇 LP4000

フィールド『慧眼の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『賎竜の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札1(コナミ) 手札5(権現坂)

 

「むっ?うぉ!?」

 

コナミのターンが終了すると同時にまたもや歯車がガコンと動く音が響き、フィールドが変形していく。コナミは天井へと落ち、視界がぐるりと回転し、新たな部屋に放り出される。

忙しないフィールドだ。文句の1つも言いたくなってくる。

 

「拙者のターン、ドロー」

 

そんなコナミの前に現れたるは月影。何故か逆さに立っているが、違った。逆はコナミだった。それに気づいたコナミは立ち上がり、月影を見据える。ギシリ、下手に動けば床が抜けてしまいそうな狭い廊下だ。月影は良く音も立てずに歩めるものだと感心する。

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『忍法 超変化の術』をコストに2枚ドロー!」

 

風魔 月影 手札5→7

 

「手札の『サンダー・ドラゴン』の効果発動!このカードを捨て、2枚に分身!魔法カード、『手札抹殺』!手札から墓地へ送られた『深淵の暗殺者』の効果により、リバースモンスター、『赤い忍者』を墓地から回収!魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換、拙者は『黄昏の忍者―シンゲツ』を召喚!」

 

黄昏の忍者―シンゲツ 攻撃力1500

 

「シンゲツ……!?生きていたのか……!」

 

天井に貼りついて参上したのは青いマントを羽織った4本腕の『忍者』。その名に思わずコナミは「良かれと思って!」と敬礼する少年の顔を思い浮かべるが関係ない。

 

「更に装備魔法『メタルシルバー・アーマー』と『風魔手裏剣』をシンゲツに装備!このカードを装備したモンスターは攻撃力が700ポイントアップする!」

 

黄昏の忍者―シンゲツ 攻撃力1500→2200

 

月影の手札より白銀の鎧と2つ手裏剣が飛び、シンゲツが装着、更に刀が剣へと変化し、空いた手で手裏剣を受け取る。これで剣が2本、手裏剣が2本、4刀流となった。

まるでその姿は阿修羅。紅い左目を輝かせ、『慧眼の魔術師』を睨む。

 

「バトル!『黄昏の忍者―シンゲツ』で『慧眼の魔術師』を攻撃!」

 

シンゲツが手に持った手裏剣を投擲し、『慧眼の魔術師』に牽制をかける。『慧眼の魔術師』も秤を使い、魔方陣を描き、幾つもの光球を発射して応戦する。

しかしシンゲツは3体に分身する事で手数を増やし、追撃をかける。12本の、剣と手裏剣による剣舞によって『慧眼の魔術師』の防壁も崩れ去る。

 

コナミ&権現坂 昇 LP4000→3300

 

「カードを3枚伏せ、ターンエンド」

 

風魔 日影&風魔 月影 LP4000

フィールド『黄昏の忍者―シンゲツ』(攻撃表示)

『風魔手裏剣』『メタルシルバー・アーマー』セット3

手札5(日影) 手札1(月影)

 

ガコン、またもや歯車の回る音と共にコナミと月影が分断され、フィールドが回転する。流石に今度ばかりは警戒もしていた為、転ぶ事は無い。しかし何とも迷惑なフィールドだ。どうやって権現坂と合流しようかと考えながら、コナミはフィールドの探索を開始する。

恐らくは――権現坂は、月影と対面している筈だ。

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

そして一方の権現坂は、コナミの読み通り、狭い廊下で月影と対峙していた。相手のフィールドには攻撃力2200となったシンゲツとたった今フィールドに帰還した『白竜の忍者』。

そして権現坂の墓地には魔法カードが存在している。権現坂のデッキはフルモン構築を前提としている為、墓地にモンスター以外のカードが存在すると真価が発揮できないのだ。

 

コナミはその事を知らない為、何時も通り魔法カードを使ってしまったのだろう。別段コナミを責めている訳でも遠慮して欲しい訳でもないが、遊矢の様に上手くいかないものだ。

 

「スタンバイフェイズ、『刻剣の魔術師』が帰還し、このカードとシンゲツを除外!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外、シンゲツを対象とするモンスター効果を無効に!チェーンして永続罠、『安全地帯』と罠カード、『積み上げる幸福』を発動!白竜を守り、カードを2枚ドロー!」

 

風魔 月影 手札1→3

 

「俺は既に設置したペンデュラムスケールでペンデュラム召喚!『超重武者ビッグワラ―G』!『超重武者ココロガマ―A』!」

 

超重武者ビッグワラ―G 守備力1800

 

超重武者ココロガマ―A 守備力2100

 

権現坂の場に2体の『超重武者』が見参する。2足の草鞋が合わさり、頭部が生えたようなモンスターと緑の体躯のモンスターだ。どちらも重量級のモンスターの為か、床が抜けてしまいそうになる。

 

「ビッグワラ―Gは機械族モンスターをアドバンス召喚する場合、2体分のリリース要因となる!ビッグワラ―Gをリリースし、『超重武者ビッグベン―K』を召喚!」

 

超重武者ビッグベン―K 攻撃力1000

 

ビッグワラ―Gが分裂し、権現坂のエースカードであるビッグベン―Kがその上に降り立つ。しかし流石に重量オーバーか、床が軋み、バキィッ、と派手な音を立てて崩れる。

 

「ぬぅっ!?ビッグベン―Kの効果発動!召喚に成功した時、表示形式を変更する!」

 

しかしビッグベン―Kはその腕で権現坂を抱え込み、衝撃から守る。どうやら下は道場のような作りとなっているようだ。畳が敷かれた奥には立派な甲冑と刀が飾られている。

権現坂が辺りを観察する間にも月影が音もなく降り立ち、交戦の意思をデュエルディスクを構えて示す。

 

「『刻剣の魔術師』を守備表示に変更、バトル!ビッグベン―Kでシンゲツに攻撃!」

 

「シンゲツをリリースし、永続罠、『忍法 影縫いの術』を発動!『超重武者ビッグベン―K』を除外し、『風魔手裏剣』の効果で相手に700ポイントのダメージを与える!」

 

コナミ&権現坂 昇 LP3300→2600

 

シンゲツが権現坂に向かい手裏剣を投げた後、影に潜り込み、ビッグベン―Kを後ろから羽交い締めにする。ずるりと影の中へと引き込まれるビッグベン―K。エースカードが封じられ、権現坂が苦い顔を浮かべる。

 

「ターンエンドだ」

 

コナミ&権現坂 昇 LP2600

フィールド『刻剣の魔術師』(守備表示)『超重武者ココロガマ―A』(守備表示)

セット1

Pゾーン 『賎竜の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札1(コナミ) 手札3(権現坂)

 

権現坂がターンの終了を宣言した瞬間、フィールドがまたもや変形する。膝をつき、床に貼りつく事で転ばずには済んだが――。と、ここでキョロキョロと辺りを見渡す。

畳が敷かれているのは変わらないが、どうやら今度は道場ではなく客間らしい。

 

「拙者のターン、ドロー。魔法カード、『月の書』、白竜をセットし、魔法カード、『マジック・プランター』!『安全地帯』をコストにドロー!」

 

風魔 日影 手札4→6

 

「手札の『サンダー・ドラゴン』を分身させ、魔法カード、『手札抹殺』!手札を交換、魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスターを5体デッキに戻し、2枚ドロー!」

 

風魔 日影 手札5→7

 

「フィールド魔法、『破邪の魔法壁』を発動!自分モンスターの攻撃力を自分ターンの間300アップし、相手ターンの間、守備力を300アップする!拙者は『忍者マスターSASUKE』を召喚」

 

忍者マスターSASUKE 攻撃力1800→2100

 

権現坂の背後より日影とそのモンスターである銀色に輝く『忍者』が現れる。その派手な装束は忍ぶ気など更々ないのかと疑いたくなる。

 

「白竜を反転召喚し、『忍者マスターSASUKE』で刻剣を攻撃!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外、攻撃をココロガマ―Aに絞る!」

 

「ココロガマ―Aを攻撃!そして、SASUKEが表側守備表示のモンスターに攻撃する場合、ダメージ計算前に破壊する!」

 

「ぬうっ!?」

「拙者はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

風魔 日影&風魔 月影 LP4000

フィールド『白竜の忍者』(攻撃表示)『忍者マスターSASUKE』(攻撃表示)

『忍法 影縫いの術』セット2

『破邪の魔法壁』

手札3(日影) 手札3(月影)

 

ガコン。最早恒例となった部屋の大回転が行われる。日影は忙しなく移動する事で対戦相手を見つけようとするが……いない。キョロキョロと辺りを見渡しても、いない。

一体どう言う事だ――。と、その瞬間。

 

「成程、常に天井に貼りつく事で上から見渡している訳か」

 

「ッ!?」

 

背後より透明感のある声が届く。反射的に距離を取りながら振り返る日影。予想通りそこには自分と同じく天井に足を吸い付かせたコナミの姿。――馬鹿な――一体どうやって、自分に気配を悟られる事なく近づいたと言うのだ。

自身の顔が強張る事を自覚しながら奇怪なものを見るかの如くコナミを睨む。なんて醜態、忍者が隙をつかれるとはあってはならないと言うのに、この男は容易く気配を遮断してやってのけた。

 

「――さて、ここから先、お前達の思い通りに進むと思うなよ?」

 

見事に平衡感覚を保ちながらコナミは帽子の奥に潜む双眸を爛々と輝かせる。勝利の女神が微笑むのは――どちらか。




デニスと組ませようと思ったけどメインパーツが禁止カードで断念。そういや権ちゃんとはあんまり絡まなかったのでここで組ませました。
実は柚子がコナミを遊勝塾に誘わなかったら一番入塾の可能性が高いのは忍者だったり、波影として活躍してたかもしれない。

夏に出ると言う3DSのゲーム……どうして配信なんだ……パッケージ組の自分としては絶望が……コナミ君もいないって事はデュエルカーニバルでは無理矢理入り込んだんだなぁって思う。


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第35話 FREEDOM

刻剣の効果を忘れたり日影と月影を間違えたりして何回か書き直した回。何とか修正しました。



「オレのターン、ドロー。刻剣の効果発動!白竜を除外!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外、白竜をモンスター効果から守る!」

 

「魔法カード、『モンスター・ゲート』!刻剣をリリース、通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキトップからカードを墓地へ送り、出たモンスターを特殊召喚する!7枚のカードを墓地へ送り、『E・HEROフォレストマン』を特殊召喚!」

 

E・HEROフォレストマン 守備力2000

 

「ペンデュラム召喚!『慧眼の魔術師』!『刻剣の魔術師』!」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』!白竜の効果を無効にし、攻撃力を400アップ!」

 

白竜の忍者 攻撃力2700→3100

 

「墓地より『ギャラクシー・サイクロン』を除外、影縫いの術を破壊!これでビッグベン―Kは戻って来る!」

 

だがこれだけでは終わらない。コナミは右手を天、いや、床へと翳し、背後に宇宙を凝縮させた渦を出現させる。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる!白き翼に望みを託せ、現れろ!No.39!エクシーズ召喚!希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

雄々しき咆哮を上げ、金色の鎧を纏った白き皇が現れる。腰より引き抜かれる二刀、肩に描かれた39の紋様。異色のエクシーズモンスター。

この舞網市ではLDSでもなければ扱う者がいない稀少なモンスターに月影は警戒を深める。コナミの場には2体の強力なモンスター。そして厄介な効果を持つ『刻剣の魔術師』。だが日影は焦る様子など全く見せず、此方の様子を伺っている。

 

「バトルだ!ビッグベン―Kで『白竜の忍者』を攻撃!」

 

「『白竜の忍者』をリリースし、永続罠、『忍法 分身の術』を発動!デッキより『渋い忍者』と『赤い忍者』を裏側守備表示で特殊召喚する!」

 

「分身の術にチェーンして『増殖するG』を切る!」

 

渋い忍者 守備力2200→2500

 

赤い忍者 守備力300→600

 

コナミ 手札0→1

 

ボフンッ、と『白竜の忍者』が姿を消すと同時に銀と赤の強烈な色彩を放つ『忍者』が見参し、木目のある隠れ蓑で姿を隠す。ピタッ、と貼りついた簑は壁と一体化し、本当にいるのかどうか疑ってしまう。

 

「セット状態の『渋い忍者』へ攻撃する!」

 

「『渋い忍者』がリバースした時、手札、墓地より『忍者』モンスターを任意の数だけ裏側守備表示で特殊召喚する!拙者はシンゲツとHANZOをセットする!」

 

黄昏の忍者―シンゲツ 守備力100→400

 

忍者マスターHANZO 守備力1000→1300

 

コナミ 手札1→2

 

ボフン、またもや煙がモクモクと立ち上がり、新たな『忍者』が天井や畳へと隠れていく。次々と芋づる式に現れるモンスターにコナミは渋い顔を見せる。

 

「希望皇ホープでSASUKEに、『刻剣の魔術師』で『赤い忍者』へ攻撃!」

 

風魔 日影&風魔 月影 LP4000→3300

 

白刃を輝かせ、皇と『魔術師』が日影のモンスターを切り裂く。これでもまだ相手フィールドにモンスターが存在するのだから面倒だ。

 

「メインフェイズ2、『刻剣の魔術師』とシンゲツを除外する。道連れになってやるよぉ!」

 

「『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、刻剣の効果を無効!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外、刻剣を対象にするその効果を無効!」

 

一体何のスイッチが入ったのか、コナミが口の端を持ち上げ、らしからぬ顔芸を見せると同時にシンゲツが異次元に穴に落ち、それを守るように『刻剣の魔術師』が手を掴み、共に落ちていく。

 

「オレはカードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

コナミ&権現坂 昇 LP2600

フィールド『超重武者ビッグベン―K』(守備表示) 『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『賤竜の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札0(コナミ)手札3(権現坂)

 

コナミのターンが終了すると同時に再びフィールドが変形する。壁に隔てられ、日影が移動しようと踵を返したその時。

ズガァァァァァンッ!と激しい轟音と共に壁が破壊され塵埃が舞う。誰もが予期できないだろう突然の出来事に唖然とした表情をその場にいた月影も合わせて壁に向ける。

 

「言っただろう。ここから先は思い通りにはならないと」

 

憮然とした顔で瓦礫を足で退かしながら現れたのはコナミだ。右手を強く握っているが拳で砕いたのだろうか。圧倒的な身体能力に忍者である2人ですら戦慄する。

マスクで隠された口がピクピクと動き、「うそやろ……?」と驚愕しているようにも見える。

 

「そして……修理代は払わない……!」

 

屑である。絶対に払わないと確固たる意志を持つその瞳はどこぞの元キングに似ている。苦労するのはM字デコの箒頭である。

 

「これから先、オレはこのフィールドを壊して壊して壊しまくる。モンスターと共に地を蹴り砕き、宙を舞い踊り、フィールド内を粉砕する。これがアクションデュエルだ」

 

「その理屈はおかしい」

 

アクションデュエル(物理)の開始を宣言するコナミに思わず日影がツッコミを入れる。だが成程、これより先は忍者の力を全力で行使せねばならないようだ。

 

「拙者のターン、ドロー!」

 

「罠発動、『貪欲な瓶』!墓地のカードを5枚デッキに戻し、ドロー!」

 

コナミ 手札0→1

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『破邪の魔法壁』をデッキに戻し、ドロー!」

 

風魔 月影 手札4→5

 

「拙者は『忍者マスターHANZO』を反転召喚」

 

忍者マスターHANZO 攻撃力1800

 

「速攻魔法、『捕違い』発動!このターン、互いにドロー以外の方法でデッキからカードを手札に加えられない!」

 

「くっ、ならば魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!」

 

風魔 月影 手札4→6

 

「このカードは『忍者』モンスター1体をリリースしてアドバンス召喚できる!HANZOをリリースし、アドバンス召喚!『黄昏の忍者将軍―ゲツガ』!!」

 

黄昏の忍者将軍―ゲツガ 攻撃力2000

 

月影がタンッと後ろに跳び障子を破る。どうやら外は最初に対面した時の庭園のようだ。月影の背後より三日月を2つ重ねた兜を被り、背に太陽と月、そして雲を象ったような紋様が描かれた旗を差した3つ腕の『忍者』が矛を手にして現れる。

 

「墓地のSASUKEとHANZOを対象としてゲツガの効果発動!このカードを守備表示に変更し、対象のモンスターを特殊召喚する!」

 

忍者マスターSASUKE 攻撃力1800

 

忍者マスターHANZO 攻撃力1800

 

「そして魔法カード、『モンスター・ゲート』!HANZOをリリースし、デッキトップから通常召喚可能なモンスターが出るまでカードを墓地に送り、モンスターならば特殊召喚する!1、2『黄昏の中忍―ニチリン』を特殊召喚する!」

 

黄昏の中忍―ニチリン 攻撃力2300

 

HANZOが太陽を背に煙となって消える。そして巨体を誇る『忍者』へと変化する。日輪を模した仮面、赤いマフラー、膨れ上がった筋肉を持つ新たな『忍者』の登場にコナミはデュエルディスクを構え直す。

 

「バトル!ニチリンで攻撃!この瞬間、手札から『ジュラゲド』を特殊召喚!」

 

ジュラゲド 攻撃力1700

 

「効果でLPを1000回復!」

 

風魔 日影&風魔 月影 LP3300→4300

 

「攻撃続行!ニチリンでホープへ!」

 

「希望皇ホープのORUを1つ取り除き、攻撃を無効にする!ムーンバリア!」

 

「続けてSASUKEでビッグベン―Kへ攻撃!」

 

「ホープの効果発動!」

 

SASUKEが幾つものクナイや手裏剣を投擲し、ビッグベン―Kを破壊しようとする。しかしビッグベン―Kの前にホープが現れ、自らの翼を盾として差し出す。

金属がぶつかり合う音が響き、クナイや手裏剣がカランと音を立てて落ちる。

これで攻撃は凌いだが、同時にホープのORUが無くなった。

 

「『ジュラゲド』でホープを攻撃!」

 

「ORUのないホープが攻撃対象となった事で破壊される……!」

 

「メインフェイズ2、カードをセットし、リバースカード、オープン!魔法カード、『エクスチェンジ』を発動!互いの手札を1枚交換する!拙者は『モンスター・ゲート』を奪い、発動!SASUKEをリリースし、1、2、3、4……来い、『霞の谷の巨神鳥』!」

 

霞の谷の巨神鳥 攻撃力2700

 

SASUKEが煙に包まれ、中より金色の翼が伸びる。羽ばたきと共に煙は晴れ、SASUKEの姿の代わりにそこにはオレンジ色の鶏冠を持つ金色の怪鳥の姿。

金切り声の如く高く張りつめた鳴き声を天へと放ち、コナミを睨む。

 

「ターンエンド。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を1枚除外」

 

風魔 日影&風魔 月影 LP4300

フィールド『黄昏の忍者将軍―ゲツガ』(守備表示) 『黄昏の中忍―ニチリン』(攻撃表示) 『霞の谷の巨神鳥』(攻撃表示)『ジュラゲド』(攻撃表示)

『忍法 分身の術』

手札2(日影) 手札1(月影)

 

再びフィールドが変形する為に壁が現れ、3人を分断しようとする。しかし今のコナミには無駄。壁に向かって駆け、握り締めた拳を振り抜く。

ズガァッシャァァァァァッ!と激しい破壊音が響き、新たなフィールドに足を踏み入れる。

 

「……漸く合えたな……権現坂」

 

「……お前も無茶をするな」

 

「男なら無茶の1つもする」

 

ガラガラと崩れる壁を尻目に木造の道場へと降りるコナミ。そんなコナミに苦笑いを溢し、呆れた様子を見せる権現坂。

これで漸く2対2のタッグデュエルらしくなってきた。

 

「後、すまんが俺のデッキはフルモンでな。モンスター以外を墓地に送られては少し困る。申し訳ないが」

 

「む、気をつけておこう」

 

並び立つコナミと権現坂。2人はその口元に笑みを描き、拳をぶつけ合う。コツン、その動作だけで2人は友達の友達から、ただの友達になれた気がした。

 

「さて、俺のターン、ドローッ!」

 

ゴウッ、権現坂が眉根を上げ、キリッとした表情で勢い良くドローする。烈風を引き起こすそれは塵埃を巻き上げ、フィールドを晴らしていく。

 

「スタンバイフェイズ、刻剣とシンゲツが戻る。刻剣と巨神鳥を除外!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し防ごう!」

 

「ペンデュラム召喚!『カードガンナー』!」

 

カードガンナー 攻撃力400

 

「効果発動!デッキトップから3枚のカードを墓地に送り、攻撃力1500アップ!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『カードガンナー』を戻してドロー!」

 

権現坂 昇 手札3→4

 

「俺は『超重武者タマ―C』を召喚!」

 

超重武者タマ―C 攻撃力100

 

「俺はレベル8の『超重武者ビッグベン―K』にレベル2の『超重武者タマ―C』をチューニング!荒ぶる神よ、千の刃の咆哮と共に砂塵渦巻く戦場に現れよ!シンクロ召喚!いざ出陣!『超重荒神スサノ―O』!」

 

超重荒神スサノ―O 守備力3800

 

木造の道場に翡翠の武神が姿を見せる。守備力3800。その圧倒的な数値に日影達も動揺を示す。

 

「俺は手札の『超重武者装留ダブル・ホーン』を2回攻撃の装備カードとしてスサノ―Oに装備する!バトルだ!スサノ―Oでゲツガと巨神鳥へ攻撃!クサナギソード・斬!」

 

巨大な角の装飾がついた鎧を纏い、スサノ―Oが自慢の太刀を振るう。鋭き斬撃は怪鳥を真っ二つに裂き、更にはゲツガの喉元へ届こうとする。

 

「手札の『青い忍者』を捨て、ニチリンのもう1つの効果発動!このターン、自分フィールド上の『忍者』モンスターと忍法カードは破壊されない!」

 

風魔 日影&風魔 月影 LP4300→3200

 

しかしゲツガの前に日輪を模した障壁が発生し、スサノ―Oの刀を防ぐ。まさか2つの効果を有していると思わなかったのか、権現坂は苦い顔を見せる。

 

「メインフェイズ2、『刻剣の魔術師』を守備表示に。これで俺はターンエンドだ。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を1枚除外」

 

コナミ&権現坂 LP2600

フィールド『超重荒神スサノ―O』(守備表示) 『刻剣の魔術師』(守備表示)

『超重武者装留ダブル・ホーン』

Pゾーン 『賤竜の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札1(コナミ) 手札1(権現坂)

 

ガコン、またもフィールドが変形しようとするも無意味。コナミが隔てられようとする壁を掴み、強引にこじ開ける。ミシミシと壁に亀裂を走らせ、悲鳴が上がる。

その驚異的な握力を前にして忍者兄弟は冷や汗を垂らす。

 

「どうした?お前のターンだろう。日影」

 

「ッ!拙者のターン、ドロー!シンゲツを反転召喚!魔法カード、『マジック・プランター』!分身の術をコストにドロー!」 

 

風魔 日影 手札2→4

 

「速攻魔法、『魔力の泉』!3枚ドローし、1枚捨てる!」

 

風魔 日影 手札3→6→5

 

「ゲツガを攻撃表示にし、効果発動!HANZOとSASUKEを蘇生!」

 

「手札の『D.D.クロウ』を捨て、HANZOを除外!」

 

忍者マスターSASUKE 攻撃力1800

 

「ぬぅっ、3枚の永続魔法、『冥界の宝札』を発動。ゲツガと『ジュラゲド』をリリース!アドバンス召喚!『黒竜の忍者』!」

 

黒竜の忍者 攻撃力2800

 

日影のフィールドに新たなる『忍者』モンスターが姿を見せる。黒い装束に身を包み、恐ろしい竜の姿をした影を這わせた青年型のモンスター。その不気味な姿に権現坂のフィールドに座すスサノ―Oが刀に手をかける。

 

「『冥界の宝札』の効果により、計6枚のカードをドロー!」

 

風魔 日影 手札1→7

 

「フィールド魔法、『チキンレース』!LPを1000払い、1枚ドロー!」

 

風魔 日影&風魔 月影 LP3200→2200

 

風魔 日影 手札6→7

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスターを5体デッキに戻し、2枚ドロー!」

 

風魔 日影 手札6→8

 

「手札の『機甲忍者アクア』と『機甲忍法ゴールド・コンバーション 』を墓地へ送り、スサノ―Oを対象として『黒竜の忍者』の効果発動!対象としたモンスターを除外する!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外してスサノ―Oを対象とする黒竜の効果を無効!」

 

「させぬ!速攻魔法、『禁じられた聖槍』!黒竜の攻撃力を800ダウンし、魔法、罠への耐性を与える!」

 

黒竜の忍者 攻撃力2800→2000

 

「この効果は黒竜がフィールドより離れれば元に戻るが……構わない。さぁ、バトルだ!シンゲツで刻剣へ攻撃!」

 

「墓地の『超電磁タートル』を除外、バトルフェイズを終了!」

 

「カードを2枚セット、ターンエンド」

 

風魔 日影&風魔 月影 LP2200

『黄昏の中忍―ニチリン』(攻撃表示)『黒竜の忍者』(攻撃表示) 『黄昏の忍者―シンゲツ』(攻撃表示)『忍者マスターSASUKE』(攻撃表示)

『冥界の宝札』×3セット2

『チキンレース』

手札3(日影) 手札0(月影)

 

最早、聞き慣れた歯車の音が響き、フィールドが回転する。窓を突き破る日影と月影を追い、コナミ達が出たそこはーー城の外。瓦が敷き詰められた屋根だ。ガシャガシャと音を鳴らし、コナミは青い空を仰ぐ。

 

「ーー空は広いな」

 

「……コナミ?」

 

バサバサとジャケットを風に靡かせ、コナミはゴーグルごと赤い帽子を抑えて呟く。

視線の先には流れいく白い雲。そして広く澄みきった青い空。輝く太陽を見上げ、コナミは手を翳す。まるで、掴み取るように。

 

「世界は広い。オレの見てきたものはまだまだ狭いものだったと思い知らされる。見た事の無いカード、闘った事の無いデュエリスト。想像するだけでワクワクが止まらない!閉じた世界でなんてジッとしていられない!」

 

ニィッと満面の笑みを貼りつけ、コナミは両腕を広げる。こんな場所では危険な行為だが持ち前の平衡感覚がコナミを支える。

そして他の3人、いや、デュエルを見守る暗次やねねも観戦室でその晴れやかな笑顔に見とれて言葉が出ない。

 

「舞網チャンピオンシップーーそこへ行けば、これ以上のワクワクを味わえるのか?」

 

口元に弧を描き、日影と月影の2人へ問いかけるコナミ。2人はフッ、と呆れたように溜め息を吐き、真剣な表情でコナミに答える。

 

「それはーー自分の目で確かめてみよ」

 

「……フッ、その為に、勝利を頂こう!オレのッ、ターン!!」

 

そのドローは、虹色のアークを空に描く。まるでそれは、コナミの行く先を祝福するかのように眩き光に満ち溢れていた。

 

「黒竜の効果発動!手札の『忍者』と『忍法』を墓地へ送り、刻剣を除外!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外、黒竜の効果を無効にする!」

 

「まだだ!速攻魔法、『禁じられた聖槍』!黒竜の攻撃力を800ダウンし、耐性を与える!」

 

「ならこっちはアクションマジック、『透明』を発動し、刻剣を守る!」

 

「ぬぅっ!永続罠、『スピリット・バリア』!モンスターがいる限り、戦闘ダメージを0に!」

 

黒竜の忍者 攻撃力2800→2000

 

「『チキンレース』の効果でドロー!」

 

コナミ&権現坂 昇 LP2600→1600

 

コナミ 手札2→3

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!」

 

コナミ 手札2→4

 

「永続魔法、『闇の護封剣』相手の場全てのモンスターをセット!」

 

「ニチリンの効果をチェーン!『忍者』を手札から捨て、『忍者』に戦闘耐性を与える!」

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『闇の護封剣』を戻してドロー!」

 

コナミ 手札3→4

 

「『刻剣の魔術師』の効果でシンゲツと共に除外!更にニチリンと黒竜をリリースし、お前達のフィールドに『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』を特殊召喚!」

 

溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 守備力2500

 

「『黒竜の忍者』はフィールドを離れ、スサノ―Oが特殊召喚される!」

 

超重荒神スサノ―O 攻撃力2400

 

コナミの鮮やかなプレイによってスサノ―Oがフィールドに舞い戻る。だがまだだ。まだコナミが勝利するには、まだ一手足りない。

だから呼ぶのだ。自身が信頼するカードを。

 

「揺れろ!光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!」

 

コナミのペンデュラムゾーンに存在する『魔術師』が広大なる青空に光の魔方陣を作り出し、振り子を揺らす。右へ左へ、左へ右へ。赤、青、黄、七色の色彩を放ち、天空より2体の竜がその雄叫びを大気に震わせて現れ出でる。

 

「出でよ、絶望の暗闇に差し込む、眩き救いの光!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!世にも珍しい二色の目を持つ龍!『オッドアイズ・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

出でたるは主にそっぽを向く白銀の鎧を纏い、金色の剣を背負った竜と赤と緑、2色の眼を宿し、胸に宝玉を抱いた真紅の竜。まるで惹かれ合うように共鳴し、雄々しい咆哮を上げる。

 

「さぁ、バトルだ!オットセイでラヴァ・ゴーレムへ攻撃!効果により、SASUKEを破壊!」

 

コナミが右手を突き出し、指示を飛ばすと同時『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』が斬撃を放つ。その鋭い刃はラヴァ・ゴーレムとSASUKE、2体のモンスターを容易く薙ぎ倒す。

 

「スサノ―Oでダイレクトアタック!」

 

「墓地のアクアを除外、攻撃を無効に!」

 

「これでーー終わりだ!『オッドアイズ・ドラゴン』!ダイレクトアタック!スパイラルーーフレイムッ!!」

 

風魔 日影&風魔 月影 LP2200→0

 

真紅の炎が渦巻き、日影達の視界を焦がす。光の粒子が舞い散り、空に赤き竜の咆哮が響き渡る。権現坂、そしてコナミは今、舞網チャンピオンシップへの出場資格をーーその手に、掴んだ。

 

ーーーーーー

 

舞網市のある一角、そこでは4人のデュエリストが対峙し、互いの想いをぶつけ合っていた。4人の内、3人はLDSの各コーストップの3人組、光津 真澄。刀堂 刃。志島 北斗。

そして反対方向で立つ男はーー赤いスカーフを巻き、草臥れたコートを纏い、猛禽類のような目付きをした男ーー黒咲 隼。

 

「成程。確かに貴様等は今までの奴等とは違い、少しは骨があるようだーーだが」

 

黒咲がその手をデッキへと翳し、スッ、と目を細める。3人のフィールドには『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』。『XX―セイバーガドムズ』。『セイクリッド・トレミスM7』。それぞれの切り札が集い、黒咲のエクシーズモンスター、『RRライズ・ファルコン』を打ち砕いた。しかし、その程度では黒咲に敗北など欠片もない。そんな時。

 

『乱入ペナルティ、2000ポイントダメージ』

 

不意に、ノイズがかった音声が響き渡る。その音声に黒咲が一早く反応し背後を振り返る。

太陽を背にし、つばの欠けた黒い帽子を被り、首に重々しいヘッドフォンをかけた少年。その傍らには白い装甲を纏い、金色に光輝く翼を広げた自身の4本の腕と6本の攻撃的な爪が伸びた腕を持つ皇。

 

「……なん……で……?」

 

真澄の口より、掠れた声が漏れる。黒い、死神。その姿を確認すると同時にーー3人の意識が、途切れた。




と言う訳で6連戦決着。最後の方は3人組が強化されてるし多少はね……?返しのターンでソウルシェイブフォースでレヴォリューションされますが。
黒いの「来ちゃった☆」
茄子「もう……勝手に離れるのやめてクレメンス……」
と言う感じ。デュエル終了後、黒いのはまた別行動して黒咲さんは原作通りにLDSに入り、3人組は記憶を消されました。怖いね。
次回はデュエル無し回です。


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第36話 あれが未来のデュエルディスク?

6連勝ボーナスステージ突入。


この世には――出会ってはならない者がいる。明確に言えば巡り会ってはならない者か。

顔を合わせれば、どちらかが消えるまで存在意義を賭けて争う、生物の枠組みを外れた化物同士の戦争。その決闘――世界と言う箱庭は、余りにも小さい。

 

――――――

 

「――よし、完成だ」

 

「おぉー、カッケェ!」

 

遊勝塾の玄関前にて、7人と1匹の少年少女がある物を囲んで話し合っていた。遊勝塾メンバーである赤帽子とゴーグルを着用し、赤いジャケットをマントのように羽織った少年、コナミ。赤と緑のカラフルな髪にゴーグルを着用し、舞網第2中学の制服を羽織い、カーゴパンツと動きやすい姿をした少年、遊矢。同じく舞網第2中学特有の脇がざっくりと開いた制服を着た少女、柚子。

LDSの一員、黒蜜の髪を流し、アクションデュエルに適した動きやすい衣装に身を包んだ少女、真澄。

二階堂道場の門下生、緑の髪をバンドで止め、鼻に絆創膏耳にピアスをつけ、黒い道着をはだけさせ、さらしを巻いた暗次と茶髪のボブカット、きっちりと道着を着たねね。そして黄色いリボンでポニーテールを結び、コナミと同じように赤いジャケットを着た少女、セレナとその肩に乗っているのは黄色いリボンでデュエルディスクを背に負った小猿、SALだ。

 

「おお!何だコレは!?角が生えてるぞ!角が!」

 

「キー?」

 

セレナが興奮気味にポニーテールを揺らし、目を輝かせ、ぺたぺたとある物に生えた山羊の角のような物に触れる。肩に乗っていたSALも興味があるのか、ある物に飛び乗り、ペシペシと小さな手で叩いている。

 

「バイク……?でも何でデュエルディスクがついてるんだ?」

 

遊矢がカチャカチャとデュエルディスクのパネルを操作するコナミに話しかける。コナミの作成したそれ。と言っても暗次の持つ乗り物を改造したものだ。

黒い重厚なボディを持ちながらも流線状の美しいフォルムを保ったそれ。一般的にバイクと呼ばれる物のようだがハンドル付近にデュエルディスクがついている。

 

「これはD-ホイールだ」

 

「D-ホイール?」

 

前髪をいじりながら真澄がコナミの作ったD-ホイールを覗き込む。成程、デュエルの頭文字を取ってD-ホイールなのか、と納得する。決して大好きブルーノちゃんのDではない。

 

「これに乗って、スピードと一体化したデュエル、ライディングデュエルに命を賭ける者を、人々は5D'sと呼びますん」

 

「どっちだよ」

 

言いながらコナミはD-ホイールに跨がってハンドルを握っては放す。最終チェックをしているのだろう。ふざけた口調とは裏腹にその表情は随分と真剣なものだ。機械をいじる時には真面目なのだろうと柚子は考える。こう言ったデュエルに関した機械には詳しく、並々ならぬ手腕を持つコナミだ。

 

「でも危なくない?」

 

「アクションデュエルもそんなものだろう。それにデュエルに危険なんて付き物だ。……よし、少し街を走ってくる」

 

「夕飯には帰ってきてね」

 

「兄貴!ヘルメット!」

 

「そんなものより帽子の方が頑丈だ」

 

ブロロロロ、とエンジン音を響かせて走り去るコナミ。一体どんな素材で作られてんだよ。と暗次はコナミの帽子について考えながらその背を見送る。

コナミの背が見えなくなった所で6人は遊勝塾の中へと入っていく。と、ここで不意に真澄が柚子とセレナに視線を移す。

 

「……そう言えばあんた達、本当に似てるわね」

 

「む?真澄んも良く見れば遊矢と似ているな」

 

セレナが遊矢と真澄の顔を交互に見ながら答える。確かに目などは似ている。遊矢が中性的な顔つきをしている事もあるか。

 

「でも突然どうした?」

 

「……うーん、何て言うか、昨日夢を見たのよ」

 

「夢?どんな?」

 

うーん、と頭を抱え、目を閉じる真澄。一体どのような夢なのだろうか。皆が興味を示し真澄の顔を覗き込む。一拍の呼吸を置いた後、真澄は神妙な顔つきになり、それを言う。

 

「コナミに似ている奴に襲われる夢」

 

――――――

 

一方、D-ホイールの試運転に出かけたコナミは舞網市を外周していた。位置的には湾岸エリアに属するか。

目の保護の為に何時もは帽子の上にあるゴーグルも今は装着し、バサバサと赤いジャケットを風に靡かせている。

 

「……この街に来てからそんなに経っていないと言うのに……色々な事があったな」

 

フッ、と独りごち、薄い笑みを浮かべる。思い返せば色々な人と会い、色々な事をして、今の自分があるのだろうと苦笑する。

始まりはあの倉庫だったか。何時の間にかあそこで寝ていたんだよな。と倉庫があるであろう方角に思いを馳せる。

 

柚子と出会い、沢渡とデュエルをして、遊勝塾に入って――赤馬 零児と対決し、遊矢と誓い合った。チャンピオンシップに出場する為に荒っぽい事もした。

暗次やねね、刃、不器用な彼等のすれ違いを直す為にデュエルしたり――勝鬨と天月、好きなものを楽しいと感じられない彼等と楽しい事を掴み取って。真澄とマルコの師弟の形を見て。柚子の覚悟を試したり、北斗のスランプを脱出したり。日影と月影と闘い、新しいデュエリストやカードとの出会いに焦がれた。

 

「……ククッ、こんなにも充実しているのは何時ぶりだろうな……」

 

太陽が輝く、晴れた青空を仰ぎ見る。楽しい、そう、楽しいのだ。学生時代のような波乱に満ちた青春のように。スピードの世界で未来を開いた時のように。未知のカードを求め、挑戦し続いた頃みたいに。あの頃の相棒は何をしているだろうか、なんてニヤケながら。

 

「……もう、1人じゃない」

 

ギュッ、とハンドルを握り締める。不安を隠すかのように、固く、固く。前を見据えて、安心する。もう、あの■■た■■じゃない。

■い、■の■■ない、■■■■だけのあの頃とは違う。も■■ても、■■いても■も■■時とは違う。

 

「……そうだ。もう、あんな事はない。奴が言っていたじゃないか……」

 

唇を噛み締める。恐怖を忘れ去ろうとするように、きつく、きつく。不意に声が漏れる。それは――無意識に近かった。

 

「――待て……“奴”って、誰だ――?」

 

頭の中で、ノイズがかかる。モザイクがかかる。思い出せない。待て、そもそも何故気づけなかった。おかしいと思わなかった。何時も通りとは言え、あの倉庫にいた事を。自分は何をしていた、あの倉庫で寝ている前に。

 

「……思い……出せない……!」

 

何とも歯痒い。それだけではない。おかしい点はまだある。ガリガリと帽子の上から頭を掻き、口を真一文字に結ぶ。

 

「――オレは――“オレ”か――?」

 

何故、今まで気づけなかったのだろう。自分の間抜けさに嫌が差す。そうだ。確かに“オレ”は“オレ”であるのかもしれない。だが――果たして、自分は、“コナミ”なのか――?

 

「善悪の区別もある。喜怒哀楽も示せる。だが――“コナミ”は――」

 

――相変わらずお前は■■だな――

 

「ッ!?」

 

相棒達の声が脳裏に響く。まるで電流が走ったかのような衝撃に機体をふらつかせてしまう。気づいてしまった。自分が“コナミ”であって、“コナミ”ではない事に。

思い出した。■■であった理由も、■■■■■しない訳も。ついでに■■なのも。

 

「だが何故、“オレ”になった――?」

 

はぁ、と溜め息を溢す。思い出したのはあくまで“コナミ”の事のみ。基本的な事だけだ。肝心の部分が靄がかかったように、鍵をつけられたかのようになっている。どうにも気持ちが悪い。

 

「……ペンデュラム……」

 

ジッ、と視線をD-ホイールのハンドル部分と連結したデュエルディスク、その中のデッキへと移す。関係あるとしたらこれ位か。コナミも知らなかった未知の力。そして――。

 

「……『オッドアイズ』……か」

 

コナミにも分からない力を持つ、竜のカード。

 

「……はぁ……考えても仕方無いか……」

 

今日は溜め息ばかり溢れる。別段支障は無い訳だし、このままでも問題ない。デュエル、そう、デュエルが出来ればそれで構わない。新たなカードとの出会いがあればそれで良い。

 

「……いずれ分かるさ、いずれな」

 

思い出せないなら気にせず、放っておこう。何かの拍子に思い出すその日が来るまで。それまで今の暖かい日々に身を預けたままで良いのだろう。存外、コナミは今の日常を気に入っている。

 

「フフ……あの時のアイツもこんな気分だったのかもな……」

 

何もない虚空へと呟く。茶目っ気があるのに冷静で、仲間なのに敵だった二律背反な彼。今頃彼は何をしているのだろう。いや、野暮はよそう。デュエルを続けているなら、何時かきっと、何処かで会える。

 

「……ふむ。そう言えば良いエネルギー源はフォーチュンがあったか」

 

と、思い返す。このD-ホイールのエネルギーはモーメントではなくコナミの力を使っている。金はかからないしエコなのだがこれでは定期的にエネルギーを供給しなければいけないし、コナミ以外には使えない。後で変えておくべきだろう。

 

「……後はそう、飛行機能が欲しいな。これでは物足りない」

 

何やらどんどんおかしな方向に進んでいるが大丈夫なのだろうか?

 

「余り馬力が強すぎるとまた封印するし、連結した時ぶっ壊してしまうからな」

 

あの時は良かれと思って!封印を解いて協力したのだが結果的に悪い事をしてしまったな。と反省する。パワーが弱いのも、強すぎるのも困る。悩みものだ。

だが完成すればアクションデュエルにも使えるかもしれない。何しろ刃の竹刀がOKなのだ。未来のデュエルディスク位大丈夫やろ。と楽観的に考える。

 

「そうすると昔作ったD-ホイールが欲しくなるな。設計図でも良いんだが……ノリで色々機能増やしたからな」

 

飛行機能は勿論、潜水機能、レーザー発射やステルス、ドリルやらびっくりどっきりメカ、変型してロボ形態からのロケットパンチ、キャストオフにクロックアップと思い出せるだけの機能を頭の中で並べる。

何やら違和感が半端ないが全てD-ホイールの機能である。しゅごい。

 

「ドリルとロボ形態からのロケットパンチだけは何としてもつけておきたい所だ」

 

職人としてのこだわりがある。帽子の奥の瞳を輝かせ不敵に笑う。あれもこれもやりたい事を全部詰め込みたくなってしまうのはデッキを作る時も同じだ。

 

「デッキもチャンピオンシップまでには調整しておくか……40枚には絞り込みたいが……」

 

考え出すと止まらない。今から帰って思いつく限りの事をやりたくなる。時間が幾らあっても足りない。

毎日に色々な変化があって、飽きる事さえ許してくれない。充実した毎日、この先の未来に期待せずにはいられない。

 

「ん?何時の間にかこんな所まで来ていたのか……」

 

ハッ、と我に返って辺りを見渡す。海がすぐ側にあり、周りには複数のコンテナや倉庫、コナミが寝ていた場所だ。しかしどうにも違和感がある。前に見た時は目の前に白い壁など無かった筈だが。

 

「……待て、これは……壁か?」

 

「――俺のD-ホイールに、何の用だ――?」

 

「ッ!?」

 

不意に、声が降りかかる。恐ろしいまでに透明感のある、聞き慣れたその声に、コナミはまるで心臓を握り締められたかのような錯覚に陥る。

バクバクと鳴り響く鼓動。全身を焦がすように血流が早くなる。身体が熱い。対照的に冷たい汗を額から流しながら、コナミは焦点の定まらぬ瞳で、目の前を見上げる。ぼやけた視界に写るは真っ白な壁、いや、違う。これは――。

 

「……D-ホ……イール……」

 

それもとてつもなく巨大な、まるで戦闘機のような形の。白とライトグリーンを基調とし、先端が左右に分かれた独特の形状。それなのにコナミがこの機体がD-ホイールだと理解できたのは――見慣れて、いるから。

 

「……封印、した筈だが……」

 

何故これがここに、今だにぼやけた視界を更に上へと移す。慎重に、数ミリずつ。その度に胸が張り裂けそうな位に鼓動が早まる。それでも、抗うようにコナミはそれを視界におさめる。

太陽を背後にした人。ぼやけた視界と陽光が認識しようとするコナミの意志に邪魔をする。まるで、拒絶するように。

 

「――ほう――」

 

人より興味を含んだような声音が響く。やはりそれは聞き慣れた声――。“自分の声”だ。そう、そこに、コナミの前にいたのは――。

 

「――初めまして、コナミ」

 

それはどちらが言ったのか。白い帽子、白いジャケット、首からアクセサリーを下げ、穴空きグローブを着用した、その青年は――。コナミと、同じ姿を、していた。

 

「……」

 

コナミの開いた口が白いコナミを認識すると同時に、形を変えていく。口端が持ち上げられ、渇いた声にならぬ声が漏れていく。互いに言葉は無く、両者は白と黒のD-ホイールのハンドルを握る。そう言えば――。

 

「「ライディングデュエル……」」

 

自分と闘った事は――無かったな――。

 

「「アクセラレーションッ!!」」

 




デュエル無し回(ライディングデュエルをしないとは言ってない)。
漸くここまで来た感じ。元々コナミ君を入れたARC-Vを書こうと思って全体的なプロットを練ってたんですが、でもそうするとコナミ君が無双しちゃうし緊張感無いから敵にもコナミ君を使いました。……あれ?結局無双やん?


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第37話 走れないD-ホイーラーにターンは来ない

自分が本格的に遊戯王を始めたのは5D'sでした。遊星デッキ格好いいなーとか思いながら友達と始めて、当時は余りデッキ構築を考えずにアニメ通りにスピードウォリアーとか入れたり、お金が少なくて調律が入ってなかったり、今でもそのデッキは宝物です。


ドッペルゲンガーと言うものがある。doppel、ドイツ語で2重、分身と言う意味なのだがこの単語を含む通り、自分そっくりの者が現れる現象の事だ。

特徴としては多くは動かない。全身像は少なく、顔、頭部、上半身などの部分像が多い。黒、灰、白などのモノトーンである事が多い。必ずしも似ていると言う訳では無く、表情が異なったり衣服が異なったり、若かったり老けて見える事がある。

本人と関係のある場所に出現する。そして――最大の特徴は――ドッペルゲンガーに会えば、本物は死ぬ。

 

――――――

 

「先攻は俺だ」

 

先攻を取ったのは白いコナミだ。D-ホイールを使用するライディングデュエルでは文字通り先行したホイーラーに初手が渡る。しかしこれは予測していた事、白いコナミが搭乗する機体は見た目通り高速で飛行し、圧倒的な馬力でスピードの世界を支配する。

 

対するコナミの機体、グラファ号は魔改造を施しているものの白いコナミの機体の性能とは雲泥の差がある。しかも相手はまだ手加減して飛行しているのである。本気を出せば遥か遠くまで離れてしまう。尤もそうなってはデュエルにならないが。

 

「俺は魔法カード『調律』を発動。デッキより『クイック・シンクロン』を手札に加え、デッキトップを墓地へ送る」

 

白コナミが手札より1枚のカードを発動する。その一手だけでコナミは理解する。白コナミの、デッキを。

 

「手札より『レベル・スティーラー』を墓地へ送り、『クイック・シンクロン』を特殊召喚」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

白コナミの手札のカードを撃ち抜きながらテンガロンハットを被ったガンマン人形が現れる。赤いマントや玩具のピストルなどその姿には何処か愛嬌がある。

しかし油断は大敵、このモンスターこそ、このデッキで重要なチューナーモンスターなのだから。

 

「『ジャンク・シンクロン』を召喚」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

2体目のチューナーモンスターが姿を見せる。バーニアを背負ったオレンジ色のオンボロのモンスター。『ジャンク』の名を持つがその性能は決して最新のものにひけを取らない。

 

「『ジャンク・シンクロン』の効果により墓地から『チューニング・サポーター』を特殊召喚する」

 

チューニング・サポーター 守備力300

 

分厚い中華鍋を頭に被った小さなモンスターが特殊召喚される。レベル、攻撃力と低いがシンクロ召喚においてこのカード以上に適した素材は無い。

 

「更に俺は魔法カード、『機械複製術』を『チューニング・サポーター』を選択して発動!同名モンスターを2体デッキより呼び出す!」

 

チューニング・サポーター 守備力300×2

 

ついに白コナミのモンスターゾーンが埋まる。とんでもない爆発力だ。低レベルモンスターと言えど侮る事は出来ない。非常に不味い流れにコナミが冷や汗を垂らす。

 

「『チューニング・サポーター』をシンクロ素材とする場合、レベル2としても扱う事ができる。俺はレベル2とレベル1の『チューニング・サポーター』に『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし希望が新たな地平へ誘う。光差す道となれ!シンクロ召喚!駆け抜けろ!『ロード・ウォリアー』!」

 

ロード・ウォリアー 攻撃力3000

 

2体の『チューニング・サポーター』を『クイック・シンクロン』が弾けた事で現れた光のリングが包み込み、爆発を起こす。光が晴れたそこに現れたのは白き王を思わせるような煌びやかな戦士。

 

「素材となった『チューニング・サポーター』の効果で2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札1→3

 

「更に俺はレベル1の『チューニング・サポーター』にレベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『アームズ・エイド』!」

 

アームズ・エイド 攻撃力1800

 

赤い爪を輝かせた腕の形のシンクロモンスターが噴射しながらフィールドに登場する。2回目のシンクロ召喚。だがこれでも終わらない。むしろここからが始まりだ。

 

「『チューニング・サポーター』の効果でドロー!」

 

白コナミ 手札3→4

 

ついには白コナミの手札が4枚まで回復する。あれ程モンスターを召喚しておきながらデュエル開始と比べ1枚しか減っていないのだから恐ろしい。

 

「『ロード・ウォリアー』の効果でデッキから『ニトロ・シンクロン』を特殊召喚!」

 

ニトロ・シンクロン 守備力100

 

未だに加速する白コナミのターン、3体目の『シンクロン』モンスターが『ロード・ウォリアー』の光の導きにより現れる。

 

「『ロード・ウォリアー』のレベルを1つ下げ、墓地より『レベル・スティーラー』を特殊召喚!」

 

レベル・スティーラー 守備力0

 

ロード・ウォリアー レベル8→7

 

続いて『ロード・ウォリアー』のレベルをかじりながら天道虫が羽ばたく。『ロード・ウォリアー』のレベルを盗んだ為か、何もなかった背中に星が浮かび上がる。

その手軽な蘇生効果を持つ為、アドバンス召喚などを主軸にしたデッキでも優秀な1枚だ。

 

「俺はレベル4の『アームズ・エイド』とレベル1の『レベル・スティーラー』にレベル2の『ニトロ・シンクロン』をチューニング!集いし思いがここに新たな力となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!燃え上がれ!『ニトロ・ウォリアー』!」

 

ニトロ・ウォリアー 攻撃力2800

 

緑色の体躯をし、2本の角や巨大な尾を持つ戦士が登場する。その姿は戦士と言うには余りにも人とかけ離れており、まるで異星人のようだ。

 

「『ニトロ・シンクロン』の効果で1枚ドロー!」

 

白コナミ 手札4→5

 

更にドローブーストが加速する。この展開力と驚異的な手札補充を両一した戦術こそが白コナミのデッキの真骨頂であり最大の武器。加えて言えばまだこれはその一端でしかない上にまだ終わってすらいない。

 

「更に手札の『グローアップ・バルブ』を墓地に送り2体目の『クイック・シンクロン』を特殊召喚する!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

再び現れるガンマン人形。銃声を轟かせ、ヒラヒラと白コナミの墓地へモンスターを送りながら銃口の煙をフッ、と吹く姿は様になっている。

 

「もう1度墓地の『レベル・スティーラー』の効果発動!『ロード・ウォリアー』のレベルを1つ下げ特殊召喚!」

 

レベル・スティーラー 守備力0

 

ロード・ウォリアー レベル7→6

 

「まだ満足は出来ない!レベル1の『レベル・スティーラー』にレベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!疾風の使者に鋼の願いが集う時、その願いは鉄壁の盾となる、光差す道となれ!シンクロ召喚!現れよ、『ジャンク・ガードナー』!」

 

ジャンク・ガードナー 守備力2600

 

4体目のシンクロモンスターがコナミの眼前に膝をつき、思わずコナミはブレーキとアクセルを即座に使い分ける事で滑らかにかわす。巨大な手甲を纏った見るからに堅牢そうなモンスターだ。

 

「3度目だ。墓地の『レベル・スティーラー』を『ロード・ウォリアー』のレベルを下げる事で特殊召喚する!」

 

レベル・スティーラー 守備力0

 

ロード・ウォリアー レベル6→5

 

またしてもフィールドに羽ばたく天道虫。レベルを3つも食われた『ロード・ウォリアー』としては良い加減にして欲しいものである。と言っても何度も蘇生する『レベル・スティーラー』も疲れた様子だが。

 

「墓地の『グローアップ・バルブ』の効果、デッキトップを墓地へ送り、特殊召喚する!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

植物に目が生えたような不気味なモンスターが現れる事により、またもやモンスターゾーンが埋まる。そしてこのモンスターはチューナーモンスター。先の展開への布石だ。

 

「俺はレベル1の『レベル・スティーラー』にレベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!集いし願いが新たな速度の地平へ誘う。光差す道となれ!シンクロ召喚!希望の力、シンクロチューナー、『フォーミュラ・シンクロン』!」

 

フォーミュラ・シンクロン 守備力1500

 

眩い光を炸裂させて白コナミのフィールドに5体目のシンクロモンスターが駆け抜ける。小さき身体に強大な可能性、シンクロモンスターでありながらチューナーモンスターと言う異端の存在であるF1カーが白コナミに並走する。

 

「『フォーミュラ・シンクロン』がシンクロ召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドローする!」

 

白コナミ 手札3→4

 

「カードを3枚伏せ、ターンエンド」

 

白コナミ LP4000

フィールド『ロード・ウォリアー』(攻撃表示) 『ニトロ・ウォリアー』(攻撃表示) 『ジャンク・ガードナー』(守備表示) 『フォーミュラ・シンクロン』(守備表示)

セット3

手札1

 

酷いソリティアを見た。思わずコナミは苦い顔で溜め息を吐き出す。だが漸くコナミのターンが渡ったのだ。気を取り直してデュエルに望む。

あれだけ動いて相手のフィールドに“あのモンスター”がいない事に少々疑問があるが考えても仕方無いし無いなら此方が助かる。

 

「オレのターン、ドロー。魔法カード『ブラック・ホール』を発動!」

 

コナミが発動したのは強力な効果を持つカードだ。その効果は単純にして大胆。フィールドの全てのモンスターを破壊する、と言う制限カードに相応しい内容だ。これで白コナミのシンクロモンスターを一掃出来る――のだが。

 

「罠カード、『スターライト・ロード』発動」

 

そうは問屋が下ろさない。白コナミが機体をコナミに向かって反転すると同時にその背後から閃光が上がり、『ブラック・ホール』を掻き消す。

続いて強烈な突風がコナミへと襲いかかり、グラファ号がクルクルと回転する。

 

「『スターライト・ロード』は自分フィールドのカードを2枚以上破壊する魔法、罠、モンスターの効果を無効にし、破壊する。そして――あるモンスターをエクストラデッキより特殊召喚する」

 

クルクル、ビュウビュウ、ヒュルヒュル、風が吹く。舞網市全体に、竜の唸り声のような風切り音が、静かに、だが確かに、響いていく。その音に誰もが立ち止まり、誰もが空を仰ぐ。

雪、いや、白き星屑が、舞網市へと散っていく。

 

「集いし願いが新たに輝く星となる。光差す道となれ――飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』ッ!!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

それは、未来を照らす絆の証。その白く巨大な翼は闇をも晴らす守護の風を纏い。その逞しい筋肉と鋭い爪は降りかかる脅威を切り裂き。その咆哮は、皆を奮い立たせる。

『スターダスト・ドラゴン』。嘗て、未来を救った英雄と共にあった、赤き竜の力の一端、それが今――コナミの敵として、立ち塞がった。

 

「……そのカードを見るのも、懐かしく感じる。オレは『ゴブリンドバーグ』を召喚」

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

コナミの呼び出しに応え、上空よりコンテナを吊るした玩具の飛行機が現れる。ニヤリと搭乗したゴブリンが笑うが白コナミのD-ホイールを目に入れた途端にビクリと背筋を伸ばす。

 

「『ゴブリンドバーグ』の効果により手札から『ジェット・シンクロン』を特殊召喚し、このカードを守備表示に変更する」

 

ジェット・シンクロン 守備力0

 

コンテナを破って飛び出して来たのは青と白のカラーリングをしたジェットエンジンを模したモンスター。白コナミの扱う『シンクロン』とはまた別のものだ。相手の盤面は厄介なものが多い上、『ブラック・ホール』は無効化された。

1つずつ、敵の武器を削る。

 

「俺の知らない『シンクロン』モンスターか……楽しませて貰おうか」

 

ギィッ、口端を吊り上げ獰猛な笑みを向け、帽子の奥より爛々と眼を輝かせる白コナミ。ゾッとするような表情だ。背筋が凍りつきそうになるがそれを振り払い、右手を突き出す。

 

「オレはレベル4の『ゴブリンドバーグ』にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『ジェット・ウォリアー』!」

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力2100

 

『ジェット・シンクロン』が光となって弾け、ライトグリーンのリングとなって『ゴブリンドバーグ』を包み込む。『ゴブリンドバーグ』もそれに呼応するように色素が無くなり、緑色に発光した後、新たに出現した光がリングごと貫く。

光が晴れ、現れ出たのは黒い重厚なボディを持った戦闘機のようなモンスター。

 

「『ジェット・ウォリアー』がシンクロ召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動!対象のカードを手札に戻す!オレは『ジャンク・ガードナー』をバウンスする!」

 

背のエンジンを吹かせ、『ジェット・ウォリアー』が『ジャンク・ガードナー』へ向かって拳を振り上げる。攻撃力の高い『ロード・ウォリアー』や『ニトロ・ウォリアー』を選ばなかったのはこの『ジャンク・ガードナー』がこの状況において1番厄介なモンスターだからだ。

 

その効果は1ターンに1度のモンスターの表示形式変更。しかも相手ターンでも発動可能なのだ。『ジェット・ウォリアー』の表示形式は変更されるだろうが、この相手を前に多少のリスクなど構わない。が――。

 

「罠発動!『もの忘れ』!『ジェット・ウォリアー』の効果を無効にし、守備表示にする!」

 

相手がリスクを犯すとは限らない。『ジャンク・ガードナー』の周りに障壁が発生し、『ジェット・ウォリアー』の拳を防ぐ。『ブラック・ホール』の無効に加え、『ジェット・ウォリアー』での攻略も無効化された。

だがまだだ。まだコナミは諦めてなどいない。

 

「手札を1枚墓地に送り、墓地の『ジェット・シンクロン』の効果発動!『ジェット・シンクロン』を特殊召喚!」

 

ジェット・シンクロン 守備力0

 

再びフィールドに『ジェット・シンクロン』が現れる。これでコナミのフィールドにはチューナーと非チューナーが揃った。合計レベルは……6。

 

「墓地に送られた『E・HEROシャドー・ミスト』の効果によりデッキから『E・HEROエアーマン』を手札に加え、レベル5の『ジェット・ウォリアー』にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!星雨を束ねし聖翼よ!!魂を風に乗せ世界を巡れ!!『スターダスト・チャージ・ウォリアー』、シンクロ召喚!!」

 

スターダスト・チャージ・ウォリアー 攻撃力2000

 

風を吹き荒らし、腰に6本の刃を携えた白い戦士が姿を見せる。まるで白コナミの場で飛翔する『スターダスト・ドラゴン』を模したような兜と鎧を身につけたそのモンスターに呼び出したコナミ自身が驚いた表情をする。

 

「ッ!?オレは……『グラヴィティ・ウォリアー』を召喚しようと思って……!こんなカード、エクストラデッキには……くっ、オレは『スターダスト・チャージ・ウォリアー』の効果発動!このカードがシンクロ召喚に成功した時、デッキから1枚ドローする!」

 

コナミ 手札3→4

 

「更に魔法カード、『ミラクル・フュージョン』発動!墓地の『E・HEROシャドー・ミスト』と『ゴブリンドバーグ』を除外し、融合召喚!『E・HEROガイア』!」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200

 

コンクリートの大地を裂いて黒き巨人が『ロード・ウォリアー』をその手に掴んで現れる。まさか融合召喚まで使うとは思っても見なかったのだろう。白コナミが驚いた表情を見せる。

 

「『E・HEROガイア』が融合召喚に成功した事により、『ロード・ウォリアー』の攻撃力を半分にし、その数値分、このカードの攻撃力をアップする!」

 

ロード・ウォリアー 攻撃力3000→1500

 

E・HEROガイア 攻撃力2200→3700

『ロード・ウォリアー』を力を吸い取る事によりその力を増す巨人。これで活路を開く。コナミはD-ホイールのアクセルを踏み、猛スピードで海の上で飛翔するコナミの機体に並走し、指を突きつける。

 

「バトルフェイズ!」

 

「甘い!バトルフェイズに入る前に、『フォーミュラ・シンクロン』の効果発動!このカードを素材として、シンクロ召喚を行う!」

 

「ッ!」

 

カッ、と『フォーミュラ・シンクロン』が輝き、巨大な2つのリングとなって弾ける。相手ターンでのシンクロ召喚。しかもこれは――ただの召喚ではない。

シンクロの更にその先、揺るぎ無き自我を保つ、境地に入った者だけに許されるシンクロ召喚。

 

「クリアマインド!」

 

白コナミのD-ホイールが風を受け、光のリングの中を潜り抜ける。加速、加速、加速。その速度は留まる事など知らずに進化を続ける。

 

「俺はレベル8の『スターダスト・ドラゴン』にレベル2の『フォーミュラ・シンクロン』をチューニング!集いし夢の結晶が、新たな進化の扉を開く!光差す道となれ!アァクセルシンクロォォォォォッ!!」

 

雄々しき叫びが天へと響く。烈帛の気合いと共に白コナミと『スターダスト・ドラゴン』は最後のリングを抜け――。

 

「消えたっ……!」

 

まるで溶けるように、そこに最初から何も無かったかのように姿が消える。分かっていた事だ。しかし、コナミとしては呟かざるを得ない。そして、背後より、白が加速する。

 

「生来せよ!『シューティング・スター・ドラゴン』ッ!!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

1つの閃光が飛び出し、雲を突き抜け、晴らす。そこにあるのは、雲1つない美しい青空と――コナミがその姿を認識する前に、激しい衝撃が機体を襲う。

 

「がっ……!?」

 

ガシャァァァァァッ!耳をつんざくような音が響く。白コナミの機体だ。背後より加速しながら現れた事により、その巨大な翼がコナミの機体とぶつかったのだ。

当然、その衝撃にコナミのD-ホイールは堪えられる訳も無く、ひしゃげたグラファ号と共に吹き飛ばされ、先にあった倉庫の壁へと――。

 

投げ出される中、コナミが見たものは――眩き陽光を背に受け、王者の如く空より此方を睥睨する――白亜の竜だった――。

 

――――――

 

その男は“そこ”にいた。コナミと白コナミが闘う中、その男は“空”で彼等を見つめていたのだ。白いマントを纏い、その顔に被られたのは何も描かれていない無地の仮面。

 

「……始まったか……俺達の計画の為に――食らい合え――」

 

風が吹き、マントが靡く。ドッペルゲンガーと言うものがある。会えば本物は消えるが――果たして、本物は、どちらなのだろうか――?




白いの「勝った!第1章完!」

赤いの「ちょおまっw」


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第38話 ふざけやがって!

前回のアニメはエドが出たりレクイエムが出たり瑠璃が喋ったりと色々ありましたね。瑠璃が喋ったお陰で二次創作が書きやすくなったイメージ、所でラウンチに幻影騎士団って書いてるけど新規期待していいんですかね(ゲス顔)。
ナストラルが悪霊になってるけど今まで出てこれずストレス溜まってたんだなと思いました(小並感)。


レオ・コーポレーション社長室。そこでは若き社長である赤馬 零児が椅子に腰掛け――いや、今現在においては勢い良く立った為椅子は倒れ、零児は背後の窓ガラスへと振り返り驚愕の表情を向けている。

 

「なんだ……あれは……!?」

 

普段冷静沈着である彼がここまで動揺するのは珍しい。

その理由は視線の先、雲1つ無き遠き空でありありとその存在を示す白亜の竜。戦闘機のように速さを追求した翼、空気抵抗を防ぐ為ヘルメットのようになった頭部、力強い胸筋や肩、膝より伸びた四肢。星屑を纏い天空に座すその竜は神々しささえ感じさせる。

 

「……中島……あれが先程発生したシンクロ反応の正体か……?」

 

あくまで竜より目を離さず、いや、離す事が出来ずに展開したモニター内の中島へと問いかける零児。それ程までにあの見た事も無い白亜の竜は零児を魅了し、内に眠らせていたデュエリストの好奇心を刺激している。

そう、彼等は途方も無く巨大な、まるで前回のエクシーズ反応の時のようなシンクロ反応の居場所を探っていたのだが――そんな中、天が晴れ、あの竜が姿を見せたのだ。

 

『……シンクロ反応……測定不能……まるで先日のように……いえ、これは……!』

 

「どうしたと言うのだ」

 

必死で機器を復旧させる中島。そして彼はある事に気づく。今は少しでも情報が欲しい、零児は中島達を急かす。

しかしその先の言葉は――余りにも荒唐無稽であった。

 

『それが……数日前のエクシーズ反応とあの竜が現れる前のシンクロ反応を見たところ……波長が、余りにも良く似ているのです』

 

「――何――?」

 

またもや頭を殴り付けられたような衝撃が零児を襲う。一体この街で何が起こっていると言うのか、思わず溜め息を吐き、視線を下へと向ける。

だが――何があっても、この街を守らなければならない。再び瞳に決意を宿し白亜の竜を睨む。

 

「お前は――お前達は、何者だ――?」

 

どれだけ呟こうと答えは帰ってこない。それでも零児は感じ取る。自分の中で、強敵がいなかった事で眠っていたデュエリストの闘志が、ふつふつと燃え上がっている事に。

 

――――――

 

「……この程度か……」

 

一方、流星を従えし白帽子のデュエリストはどうしようもなく落胆していた。理由は自分が闘っていたデュエリストが自らの放ったフィール(物理)によって吹き飛ばされ、こちらへ来ない事だ。

ガラガラと崩壊し、塵埃が舞う倉庫、その傍にはそのデュエリストの乗っていたD-ホイールが半壊して横たわっており、更に落胆させる。走れないD-ホイーラーにターンはやって来ない。あの顔を見かけた時より期待していたのだが――過度な期待だったか。溜め息を吐き出し、帽子を被り直す。

 

「これならタクシーに乗らずにリーダーの所に行くか、ユーゴを探すべきだったな」

 

ふよふよとD-ホイールを宙に浮かばせたまま停止する。と言う何とも器用な事をしながら思考する白コナミ。その、瞬間。

 

「デュエルはまだ!終わってない!!」

 

声が、響き渡る。透明感のある、しかし確かに檄の籠った鋭い声。その声が耳に届くと同時に白コナミは口元に弧を描き、無言でD-ホイールのアクセルを踏み、宙を疾駆させる。

D-ホイールは未だに倒れている。にも関わらず彼の気配は近づいている。一体何故か、何てどうでも良い。今はただデュエルを続けるのだ。しかし妙だ、音がおかしい。

 

先程までのタイヤが回るような音では無く、コツコツと地面を叩くような音が近づいている。コツコツ?違う、これは――瞬間、白コナミの視界に浸入してきたのは、白、雪のような美しい純白。

 

「何――?」

 

それは、鉄の塊などでは無かった。駆ける度に揺れ動く白い毛並み、面長い顔に堅い蹄、風に靡く尾、首輪につけられた名は、「ぱかーでぃ・はいねん」と言う文字、その獣は――。

 

「馬に乗ってライディングデュエルだと!?ふざけやがって!」

 

太陽の光を受け毛並みを輝かせる白馬。その上にはデュエルディスクを構える赤帽子の姿。成程、倒れたD-ホイールを見るとデュエルディスクが外されている。吹き飛ばされる瞬間即座に手に取ったと言うのなら大したものだ。

何でこんな所に馬がいるの?とか聞いてはいけない。倉庫内で「拾ってください」と書かれたダンボールの中に居たのだ。

 

「バトルだ!『スターダスト・チャージ・ウォリアー』で『ロード・ウォリアー』へ攻撃!流星乱射!」

 

コナミの指示を受けて『スターダスト・チャージ・ウォリアー』が弱体化した『ロード・ウォリアー』へと刃を飛ばす。しかし、傍で控えていた『ジャンク・ガードナー』の砲撃が『スターダスト・チャージ・ウォリアー』を撃ち、その膝をつかせる。

 

「『ジャンク・ガードナー』の効果、相手モンスターの表示形式を変更する!」

 

「ならば『E・HEROガイア』で『シューティング・スター・ドラゴン』を攻撃!コンチネンタルハンマー!」

 

「無駄だ!シューティング・スターを除外してその攻撃を無効にする!」

 

「ッ……!カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

「エンドフェイズ、『シューティング・スター・ドラゴン』が帰還する!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

コナミ LP4000

フィールド『スターダスト・チャージ・ウォリアー』(守備表示) 『E・HEROガイア』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー。そうだ……もっと足掻け!俺を楽しませろ!俺はシューティングスターの効果を発動!デッキの上から5枚をめくり、チューナーの数だけ攻撃回数を得る!」

 

最大5回にも及ぶ効果。普通であれば2回、3回も増やす事が出来れば上々と言った所だが……それは常識の範囲。

この化物には通用などしない。カードに選ばれし者は、容易く奇跡の引き金を引く。

 

「1枚目、『アンノウン・シンクロン』!2枚目、『幽鬼兎』!3枚目、『エフェクト・ヴェーラー』!4枚目、『クイック・シンクロン』!5枚目、『ジャンク・シンクロン』!当然全てチューナー!合計5回の攻撃権を得た!」

 

圧倒的、圧倒的な豪運。まるで嘲笑うように、捩じ伏せるように5回攻撃の権限を示す白コナミ。余りにも馬鹿げた光景、コナミやそれに比肩する実力者でなければ「いやこれそう言うゲームじゃねぇからぁ!」とツッコんでいる所だろう。

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキから10枚を除外、2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札2→4

 

「バトルだ!『ニトロ・ウォリアー』でガイアに攻撃!更に破壊した事で『スターダスト・チャージ・ウォリアー』を攻撃表示にし、再度攻撃!」

 

コナミ LP4000→2600

 

「シューティング・スターで攻撃!スターダストミラージュ!」

 

白コナミの指示を受け、『シューティング・スター・ドラゴン』が更に天高く上昇し、勢いをつけて降下する。そして赤、青、緑、5色のオーロラのように分裂し、青と緑の竜がコナミへと流星群の如く降り注ぐ。

コナミは白馬の腹を蹴り、かわす指示を飛ばす。白馬も危機を察知したのだろう。天から襲い来る弾丸の間を縫うようにかわし、流星は地面に激突して巨大な穴を作る。

更に追撃を撃ち出し、コナミの身体を貫き焦がさんとする。

絶体絶命、圧倒的強者が食らいつく。瞬間、激しき轟音が地面へと激突し、爆炎を上げる。これで終わりか――その思いごと、駆け抜け道を拓く。

 

「手札の『速攻のかかし』を捨て、バトルフェイズを終了する!」

 

コナミの手より1枚のカードが捨てられる。成程、これならどれだけ連撃をかけようとバトルフェイズを終了する為意味は無い。白コナミはその獰猛な笑みを深める。

 

「メインフェイズ2、『ロード・ウォリアー』の効果でデッキより『ソニック・ウォリアー』を特殊召喚」

 

ソニック・ウォリアー 守備力0

 

現れたのは彼を今まで支えて来たであろう緑色の戦士。これで再びフィールドが埋まった。

これこそがコナミの狙い。だがまだだ。まだ動く時ではない。コナミは白馬の手綱を握り締め、白コナミの喉元へ食らいつく牙を隠す。

 

「俺はカードを3枚伏せ、ターンエンド」

 

「ッ!この瞬間、罠カード、『裁きの天秤』発動!相手フィールド上のカードが自分の手札、フィールドのカードの合計より多い場合、その差の数だけドローする!」

 

「何――?」

 

これこそがコナミの狙い。彼のデッキは白コナミのデッキのように安定したドローターボは無い。あるのはこの、不安定だが爆発力のあるドローカード。コナミと白コナミのカードの差は6。よって6枚のドロー。

 

コナミ 手札1→7

 

これで反撃の準備は整った。一気にドローした事による気持ち良さは噛み締めながらもコナミは戦略を立てる。

 

白コナミ LP4000

フィールド『シューティング・スター・ドラゴン』(攻撃表示) 『ロード・ウォリアー』(攻撃表示) 『ニトロ・ウォリアー』(攻撃表示) 『ジャンク・ガードナー』(守備表示) 『ソニック・ウォリアー』(守備表示)

セット3

手札1

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『打ち出の小槌』、手札を入れ替える。手札を1枚捨て、魔法カード、『ペンデュラム・コール』発動!デッキから『竜穴の魔術師』と『賤竜の魔術師』を手札に加え、墓地に送られた『ダンディライオン』の効果で『綿毛トークン』を特殊召喚し、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

綿毛トークン 守備力0

 

天空へ光の柱が2つ伸び、中に2体の『魔術師』が現れる。更に光のペンデュラムが揺れ、青い空に輝く魔方陣が出現する。変化は何もそれだけではない。コナミのデュエルディスク、両端に置かれたカードを起点とし、その間に虹色の文字が浮かび上がる。

流石の白コナミもこれは未知の領域なのか、明らかに動揺した表情でコナミを見据える。

 

「ペンデュラム……!?」

 

「これでレベル3からレベル7のモンスターを同時に召喚可能!揺れろ!光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!『E・HEROエアーマン』!『E・HEROブレイズマン』!『刻剣の魔術師』!」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

振り子が右へ左へ揺れ、コナミが天へ手を翳すと共にピタリと止まり、魔方陣に孔が空き、中より3本の光がフィールドに降り立つ。

現れたのはファンを背負った青い『HERO』と炎の鬣を持った赤い『HERO』。そして剣を煌めかせた少年『魔術師』。これでコナミのモンスターゾーンも埋まった。

 

「……ペンデュラム召喚……!面白い……!」

 

「オレはエアーマンとブレイズマンの召喚時効果発動!デッキより『E・HEROオーシャン』と『融合』を手札に加え、魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキから10枚を除外、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札3→5

 

「『刻剣の魔術師』の効果発動!『ジャンク・ガードナー』とこのカードを除外する!」

 

「ッ!『ジャンク・ガードナー』の効果でエアーマンを守備表示に変更!」

 

「関係無いな!『融合』を発動!手札のオーシャンと『綿毛トークン』を融合!『E・HERO GreatTORNADO』!」

 

E・HERO GreatTORNADO 攻撃力2800

 

コナミの背で青とオレンジの渦が発生し、オーシャンと『綿毛トークン』を吸い込んだ後、一陣の風を吹き出す。黒いマントを翻し現れたのは竜巻を従えし英雄。敵が多い今、その能力は更に活かされる。

 

「GreatTORNADOが融合召喚に成功した事により、相手モンスター全ての攻守を半分にする!タウン・バースト!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300 →1650

 

ロード・ウォリアー 攻撃力3000→1500

 

ニトロ・ウォリアー 攻撃力2800→1400

 

「ほう……!」

 

圧倒的な暴風が吹き荒れ、白コナミのモンスターの力を削ぐ。その力は白コナミの機体をふらつかせ、今までの憂さ晴らしのように思えてくる。

 

「まだだ!レベル4のモンスター2体でオーバーレイ!オーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!現れろNo.39!エクシーズ召喚!希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

純白の翼を広げ、黄金の鎧を纏った皇が雄叫びを上げる。彼の持つ唯一のエクシーズモンスターだ。一気に畳み掛けるつもりなのだろう。彼の手はこれだけでは止まらない。

 

「次だ!魔法カード、『死者蘇生』!墓地から『スターダスト・チャージ・ウォリアー』を特殊召喚!」

 

スターダスト・チャージ・ウォリアー 攻撃力2000

 

これでコナミのフィールドには融合、シンクロ、エクシーズ、3色のモンスターが出揃った。その光景に思わず白コナミが喜色に溢れた笑みを浮かべる。彼にとってはこの逆境も楽しむものらしい。

 

「『スターダスト・チャージ・ウォリアー』は特殊召喚された相手モンスター全てに一回ずつ攻撃が出来る。バトルだ!『スターダスト・チャージ・ウォリアー』でシューティング・スターへ攻撃!流星乱射第1打ぁ!」

 

「ッ!シューティング・スターの効果!このモンスターを除外し、その攻撃を無効にする!」

 

「分かっていたさ!だがこれで終わった訳じゃない!流星乱射!第2、第3、第4打ぁ!!」

 

白コナミ LP4000→3500→2900

 

『スターダスト・チャージ・ウォリアー』の刃が交錯し、全てのモンスターを切り裂く。これでフィールドはがら空き、残るは本丸のみ。

 

「止めといこう!2体のモンスターでダイレクトアタック!」

 

風の英雄と希望の皇が白コナミへと飛翔し、ニ刀の剣と風の弾丸、互いの武器をもってして主の敵へと止めを刺そうとする。しかしまだ――届かない。

 

「手札より『速攻のかかし』を捨て、効果発動!バトルフェイズを終了する!」

 

「なっ……に……!?」

 

コナミが先程窮地より救われたカード、それが今、敵となって防壁を作り上げる。草臥れた三角帽にサングラス、ボロボロのかかしだと言うのにこのモンスターが生み出す障壁は何者をも通さない。

 

「くっ……オレはカードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

「その前に!罠発動!『裁きの天秤』!」

 

「なっ!?」

 

まるで先のターンの焼き回し、鏡写しの意趣返しがコナミの眼前で繰り広げられる。発動された正に“罠”その効果により白コナミの手札とフィールドのカードとコナミのフィールドの差、5枚が白コナミの手に渡る。

 

白コナミ 手札0→5

 

「そしてエンドフェイズ、シューティング・スターが帰還する」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

コナミ LP2600

フィールド『E・HERO GreatTORNADO』(攻撃表示) 『スターダスト・チャージ・ウォリアー』(攻撃表示) 『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示) 『綿毛トークン』(守備表示)

セット1

Pゾーン『賤竜の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札1

 

皮肉にも、LPまで並んでしまったようだ。似た者同士もここまで来れば運命を感じざるを得ない。

そう、潰し合い、食らい合う運命に。もしも神がいるならば――力を持て余す魔物を対決させ、どちらかが消えるのを望んでいるのだろうか。相討ちになれば儲けものだとか企みながら。

神など信じぬし、そんな誰かの策に乗るのは癪だが――今だけは乗ってやろう。白コナミは眼前のデュエリストへと牙を剥く。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

但し、彼が信じるのは姿を見せぬ神などではなく、己自身、己と闘うこのカード達。神など頼らない、道を拓くのは自分自身、彼等はあの時、そう悟ったのだから。

 

「「――づぁっ!?」」

 

瞬間、白コナミとコナミの脳裏に電流が走り、同時に頭を抱え込む。今のは何だ――暗い、闇の世界で何かが――。

いや、今はデュエルに集中すべきだろう。頭を振り、2人はデュエルに臨む。

 

「魔法カード、『成金ゴブリン』を発動!1枚ドローし、貴様に1000のLPを与える!」

 

白コナミ 手札5→6

 

コナミ LP2600→3600

 

「俺は『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

「ッ!手札より『増殖するG』を墓地に送り、オレはこのターン、お前が特殊召喚する度にドローする!」

 

「構わん!『ジャンク・シンクロン』の召喚時効果により、墓地から『チューニング・サポーター』特殊召喚!」

 

チューニング・サポーター 守備力300

 

コナミ 手札0→1

 

白コナミの場に丸眼鏡をかけ、マフラーを靡かせたオレンジのモンスターと中華鍋を被ったモンスターが現れる。無論これだけの展開で済む筈が無い。

自分のフィールドをジッ、と確認した後、コナミは舌打ちを鳴らす。これでは――メインデッキから特殊召喚出来ない。

 

「速攻魔法発動!『地獄の暴走召喚』!」

 

「――やはりか!」

 

どうやら彼の予想は的中したようだ。拙い事になったが早々に手札の『増殖するG』の効果を発動して良かったと息を漏らすコナミ。

 

「自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚に成功した時、その同名モンスターを手札、デッキ、墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する!また――相手は自分のモンスターを1体選択し同じように同名モンスターを特殊召喚できるが――」

 

「オレのモンスターは、トークンとエクストラデッキのモンスターのみ……!」

 

「よって!俺の場にのみモンスターは特殊召喚される!」

 

チューニング・サポーター 攻撃力100×2

 

コナミ 手札1→2

 

たった2枚のカードが白コナミのデュエルを更に加速させる。彼のモンスターはどれも低いステータスのモンスターだが――だからこそ、力を合わせ、1つの強固なカードへと生まれ変われる可能性がある。

 

「俺はレベル2の『チューニング・サポーター』2体とレベル1の『チューニング・サポーター』1体にレベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!集いし闘志が怒号の魔神を呼び覚ます。光差す道となれ!シンクロ召喚!粉砕せよ!『ジャンク・デストロイヤー』!」

 

ジャンク・デストロイヤー 攻撃力2600

 

海中よりザバァッと波を立たせ巨大なロボが現れる。額で輝く黄金の角と側頭部の角、合わせて5本の角が天に反り立ち、胸にはオレンジと緑の珠が嵌め込まれている。その巨腕は4本あり、背にはX字の白い翼が広がっている。

その効果は見た目と同じく豪快。この状勢を一気に破壊する。

 

「『ジャンク・デストロイヤー』がシンクロ召喚に成功した時、このカードの素材となったチューナー以外のモンスターの数までフィールド上のカードを破壊する!そして墓地の『チューニング・サポーター』の効果で3枚ドローする!」

 

「オレも『増殖するG』の効果でドローする!」

 

コナミ 手札2→3

 

白コナミ 手札4→7

 

「そしてデストロイヤーの効果でお前の伏せカードとホープ、そしてGreatTORNADOを破壊する!」

 

「罠発動!『サンダー・ブレイク』!手札を1枚捨て、シューティング・スターを破壊!」

 

「無駄だ!シューティング・スターの効果で破壊効果を無効にする!」

 

「罠の効果が無効になった時、『曲芸の魔術師』を特殊召喚!更に墓地に送った2枚目の『ダンディライオン』の効果発動!」

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

綿毛トークン 守備力0×2

 

「笑わせるなぁ!魔法カード、『アドバンスドロー』!デストロイヤーをリリースし、2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札6→8

 

「更に魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキから10枚を除外、2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札7→9

 

「手札の『ダンディライオン』を墓地に送り、『クイック・シンクロン』を特殊召喚!同じく『綿毛トークン』が特殊召喚される!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

綿毛トークン 守備力0×2

 

コナミ 手札1→2→3

 

「ハハハハハッ!2枚目の『地獄の暴走召喚』発動!墓地より『クイック・シンクロン』を特殊召喚だ!」

 

「ここまで来ると呆れるな……!」

 

クイック・シンクロン 攻撃力700

 

コナミ 手札3→4

 

馬鹿げている。そう言う他ない展開力。常識の枠を大きく逸脱した白コナミの力に冷や汗を垂らしながら笑うコナミ。

互いに既に限界を振り切っている。それでもまだ乗り越える。デュエリストに諦めなどない。今ここで限界は破壊しなければ食われるのは分かっている。

 

「レベル1の『綿毛トークン』にレベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし力が大地を貫く槍となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!砕け!『ドリル・ウォリアー』!」

 

ドリル・ウォリアー 攻撃力2400

 

ドリルを唸らせ、コンクリートの大地を砕いて茶色の戦士が姿を見せる。右腕に取りつけられたドリル、両肩、足と計5つのドリルが回転し、黄色いマフラーが風に吹かれる。

 

「『増殖するG』の効果でドロー!」

 

コナミ 手札5→6

 

コナミの手札が7枚まで膨れ上がる。これだけあれば次のターン巻き返す事が出来るだろう。次のターンが来るならば、だが。

それ程までに白コナミの実力が高まっていく。だが。負ける訳にはいかない。コナミは白馬に鞭を打ち、更に加速する。

 

「『ドリル・ウォリアー』のレベルを下げ、墓地よりスティーラー蘇生!」

 

ドリル・ウォリアー レベル6→5

 

レベル・スティーラー 守備力0

 

コナミ 手札6→7

 

「レベル1の『レベル・スティーラー』と『綿毛トークン』にレベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし叫びが木霊の矢となり空を裂く!光差す道となれ!シンクロ召喚!出でよ!『ジャンク・アーチャー』!」

 

ジャンク・アーチャー 攻撃力2300

 

コナミ 手札7→8

 

鳥帽子を模した頭部をしたオレンジ色の弓兵が弓を引いて現れる。

 

「『ジャンク・アーチャー』の効果!『綿毛トークン』を除外する……トークンは破壊されるがな。更に魔法カード、『シンクロ・チェンジ』発動!『ジャンク・アーチャー』を除外し、エクストラデッキより同じレベルのシンクロモンスターを特殊召喚する!集いし怒りが忘我の戦士に鬼神を宿す!光差す道となれ!吠えろ!『ジャンク・バーサーカー』!」

 

ジャンク・バーサーカー 攻撃力2700

 

『ジャンク・アーチャー』が7つの星となって散り、並列を変えて新たなシンクロモンスターとなる。耳が裂けるような雄叫びを上げてフィールドに現れたのは燃えているかの如く真っ赤な鎧を纏い、巨大な斧を手にした狂戦士。

 

「『増殖するG』の効果で1枚ドロー!」

 

コナミ 手札8→9

 

「『ジャンク・バーサーカー』のレベルを1つ下げ、『レベル・スティーラー』を特殊召喚!更に永続罠、『リミット・リバース』!墓地の『クイック・シンクロン』蘇生!」

 

ジャンク・バーサーカー レベル7→6

 

レベル・スティーラー 守備力0

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

コナミ 手札9→10→11

 

「レベル1の『レベル・スティーラー』にレベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし絆が更なる力を紡ぎ出す。光差す道となれ!シンクロ召喚!轟け、『ターボ・ウォリアー』!」

 

ターボ・ウォリアー 攻撃力2500

 

コナミ 手札12→13

 

白コナミの導きの元に現れたのは胸に車の意匠を加え、腰にタイヤなどを取りつけ、車が変形したかのように思える真っ赤な機械戦士。頭部はリーゼントのようになっており、その攻撃的な爪と言い、派手なモンスターだ。

 

最早2人のライディングデュエルは公道へと入り、文字通り新たなステージへと突入した。ここから先は迷いは禁物、2人のデュエリストは既に――覚悟は完了している。




デッキ枚数wってなったら負け。


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第39話 ずっと支え続けてきた

支え続けてきた(初回)。


「はぁ~、今日は大漁やったなぁ。おとん」

 

「ッタリ目ぇよぉ!コンコンチキめぃ!こちとらぁ、海の男よぉバッキャローが!」

 

舞網市のとある公道。近くに海を隣した道のりを親子を乗せた軽トラが走っていた。釣りをした帰りなのか、その荷台には釣竿やクーラーボックスが置かれている。何とも個性的な親子である。

 

「ん?んん?」

 

「どうしたんでいバカ息子ぉ!屁でも出そうなのか?ガハハハハ!」

 

「ちゃうって、おとん。何や後ろから変なん来とるで?」

 

「ケツから変なのぉ?テメェまさか実ぃ出そうっつーんじゃねぇだろうなコンチキショーめ!」

 

「ちゃう言うとるやろクソ親父!」

 

「あ?俺ぁ、テメェと違って屁しかこいてねーよクソッタレ!」

 

「くっさ!最悪や、このおっさん!」

 

ドタバタと下らない話をし、息子である少年が中で汚染された空気から逃れ、外の空気を求める為に「ブハァッ!」と顔を出す。

犯人である父親は「ガハハハハ!」と豪快に笑い飛ばす始末である。

 

「俺のオナラはフルーティーなんだよべらんめぇい!」

 

そんな事はない。明らかに嘘である事を声高々に叫びながら運転を続ける父親。

そんな中、軽トラの横に白い何かに乗った赤いものが並走して現れる。父親は息子の方へ向いている為気づいてないが、その姿に息子はぎょっと目を見開く。

 

「それはどうかな?」

 

「何ぃ!?」

 

突如現れ、当然の事ながら自分の言葉を否定したものへと振り返る父親。そこにいたのは――雪のように美しい、純白の毛並みを持つ白馬とそれに騎乗した赤帽子の少年。

その目にはゴーグルがかかっており、肩からはバサバサと赤いジャケットがマントの如く風に靡いている。

 

「お、オメェは一体……!?」

 

「お前の屁は独り善がりだ」

 

「何ぃ!?」

 

更に逆の方向より声が響き、反射的にそちらへ振り返る父親。そこにいたのは白い戦闘機のような物に乗った、白帽子の青年。まるで赤帽子の少年が成長したような姿だ。

そのとんでもない乗り物に親子はあんぐりと口を開き、その間に2人は軽トラの横を通りすぎていく。白帽子の方は機体が巨大すぎるせいか、通りすぎる際に翼が当り、ミラーをぶっ壊していった。

 

「……な、何やったんやあれ……?なぁおと――くっさ!」

 

「……へへ……ちょっとヒビってよぉ……やっこさんが、顔出しちまったようだ……」

 

「このクソ親父!」

 

――――――

 

「シューティング・スターの効果発動!1枚目!『ハイパー・シンクロン』!2枚目!『幽鬼うさぎ』!3枚目!『ロード・シンクロン』!4枚目!『チューニング・ガム』!5枚目!『ブライ・シンクロン』!」

 

無論全てチューナー。当然5回攻撃。怒濤のチューナーラッシュに最早見飽きたのか赤帽子は無言だ。それとも万策尽きたのか。

いずれにせよ逆境である事には変わらない。しかし眼前で先行する男が手加減などする筈が無い。

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『リミット・リバース』をコストに2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札4→6

 

「さぁ、バトルといこうか!俺は『ターボ・ウォリアー』で『スターダスト・チャージ・ウォリアー』を攻撃!『ターボ・ウォリアー』がレベル6以上のシンクロモンスターを攻撃対象とした攻撃宣言時、攻撃対象モンスターの攻撃力は半分となる!ハイレート・パワー!」

 

スターダスト・チャージ・ウォリアー 攻撃力2000→1000

 

「アクセル・スラッシュ!」

 

ドスリ。『ターボ・ウォリアー』の効果により弱体化した『スターダスト・チャージ・ウォリアー』がその鋭き爪で胸を穿たれる。まずは1体、白コナミは獰猛な笑みを深めながら道路に下り、その行く先を妨害する。

 

コナミ LP3600→2100

 

「次!『ドリル・ウォリアー』で『曲芸の魔術師』を攻撃!ドリル・ランサー!」

 

『ドリル・ウォリアー』がその右腕のドリルを猛回転させ、『曲芸の魔術師』を狙い襲い来る。キィィィィィンッと嫌悪感たっぷりの音色を奏でた槍撃、この一撃を食らえば『曲芸の魔術師』は砕け散ってしまう。

壁モンスターが存在する内に――コナミは手札を切っておく。

 

「手札の『工作列車シグナル・レッド』の効果発動!このカードを特殊召喚し、攻撃対象を移し変え、ダメージ計算を行う!そしてこのカードはその戦闘では破壊されない!」

 

工作列車シグナル・レッド 守備力1300

 

現れたのは赤いランプを輝かせたオレンジ色の列車。空中に線路を敷き、『ドリル・ウォリアー』の眼前を走る事でその攻撃を遮る。

 

「かわしたか……!『ジャンク・バーサーカー』で『曲芸の魔術師』を攻撃!」

 

赤き狂戦士が空気を震わせるような雄叫びを上げ、目にも止まらぬ速度で白馬に接近し、『曲芸の魔術師』へとその巨大な斧を振るう。

ブォォォォォンッ!風を引き裂き、『曲芸の魔術師』を地面へと叩き伏せ、勢い余って公道に亀裂を走らせ、穴を空ける。

 

「漸く出番だ。シューティング・スター!お前の力を見せてやれ!『綿毛トークン』2体とシグナル・レッドを攻撃!スターダスト・ミラージュ!」

 

待ちわびたと言わんばかりに白亜の竜が天に向かって咆哮し、その体躯に纏わせた星屑を散らす。そして舞散る星屑はシューティング・スターの周りでそれぞれ4つの影を作り出し、竜の姿を模倣する。

 

正しく蜃気楼。オーロラのような光景にコナミは逆境である事を忘れほう、と息をつくが色鮮やかな竜がコナミのモンスターに襲いかかり、爆炎を上げる。

 

「ぐぅ――!」

 

轟く爆音と舞い上がる塵埃。そして竜の力によって発生した鈍い痛みを受け、コナミが歯を食い縛って呻く。それは彼を乗せた白馬も同じ。この超常の力に鳴き声を上げる。

思えば良く初対面の自分を乗せここまで付き合ってくれたものだ。と今更ながら感謝してその肌触りの良い毛並みを撫で、首に顎を乗せる。

 

「……すまないな……もう少し、もう少しだけ付き合ってくれ。友よ……!」

 

静かに、そして真摯な想いを乗せて呟く。その言葉は確かに白馬に届く。任せておけと言わんばかりに喉を鳴らしコナミにチラリと視線を寄越す。

今までより速く加速し、爆煙の嵐を駆け抜ける。その先に待ち構えるは白亜の竜。

 

「待たせたな。さぁ散れ!『シューティング・スター・ドラゴン』!ダイレクトアタック!」

 

白き機体に搭乗した白コナミの指示を受け、一筋の流星がコナミの眼前に迫る。だが――まだ、その意志は折れない。

 

「手札の『護封剣の剣士』を特殊召喚!」

 

護封剣の剣士 守備力2400

 

彼の目の前に青い鎧を纏い、光の剣を持った戦士が膝をついて現れる。しかし竜の振るう猛威の前に砕け散る。

これで残るは1回の攻撃。だがコナミのフィールドには壁など存在しない。

 

「どこまでも俺のファンサービスを拒否りやがって……!良い加減倒れろ!『シューティングスター・ドラゴン』ッ!」

 

空をぐるりと旋回し、またしても流星が青空を疾走る。正真正銘最後の一撃。その閃光がコナミへと迫り来る。

 

「悪いが……断る!手札の『クリボー』を捨て、ダメージを0にする!」

 

彼の眼前に毛むくじゃらのモンスターが可愛らしい鳴き声を上げ、巨大化してその一撃を防ぐ。

馬鹿な――。白コナミが帽子の奥に潜んだ目を見開き、その口角をニヤリと上げる。

 

「……やってくれる……!俺はカードを3枚伏せターンエンド!」

 

白コナミ LP2900

フィールド『シューティング・スター・ドラゴン』(攻撃表示) 『ターボ・ウォリアー』(攻撃表示) 『ドリル・ウォリアー』(攻撃表示) 『ジャンク・バーサーカー』(攻撃表示)

セット3

手札3

 

漸く白コナミのターンが終わる。長い長い1ターン、コナミは全ての攻撃を全力を持って凌ぎ、希望を掴み取った。

相手は確かに強い。今の彼の力では間違いなく敗北する。ならば、今までの自分を越えるまで。勝ちたい。ただ1つの明確な意志を右手に宿し、デッキの上へと触れる。

勝ちたいなら――全てを、なぎ払うまで。限界を壊し、今、そのドローは天にアークを描く。

 

「オレのッ!タァァァァァンッ!!」

 

更に、加速する。

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップから10枚を除外、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札13→15

 

「スタンバイフェイズ、刻剣と『ジャンク・ガードナー』は帰還する。刻剣の効果を使い、『ジャンク・ガードナー』を除外する!」

 

まずは露払いを。『ジャンク・ガードナー』は厄介だ。出来ればシューティング・スターも除去したいがそれ以上に真正面から倒したい。

 

「魔法カード、『ギャラクシー・サイクロン』!真ん中のセットカードを破壊!」

 

「チェーンして速攻魔法、『禁じられた聖衣』を発動!このターン、シューティング・スターは攻撃が600ダウンし、効果の対象とならず、効果破壊されない!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300→2700

 

「2枚目『ギャラクシー・サイクロン』!左のセットカードを破壊する!」

 

「シューティング・スターの効果発動!」

 

「手札の『竜脈の魔術師』を捨て、『竜穴の魔術師』のペンデュラム効果発動!もう1度セットカードを対象として破壊する!」

 

「『くず鉄の像』の効果により逆に破壊する!」

 

「ならばもう1度竜穴をセッティング!手札の『慧眼の魔術師』を捨て像を破壊!」

 

「像の効果!墓地の『ジャンク・シンクロン』を蘇生!」

 

ジャンク・シンクロン 守備力500

 

「行くぞ!揺れろ!光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!エクストラデッキより『曲芸の魔術師』!手札より『チューン・ウォリアー』!出でよ、絶望の暗闇に差し込む眩き救いの光!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!世にも珍しい二色の目を持つ龍!『オッドアイズ・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

チューン・ウォリアー 攻撃力1600

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

コナミが上空の魔方陣に手を翳し、それに呼応するように4つの柱が彼の周囲へ降り立ち、光の粉を散らし、中よりモンスターが姿を見せる。

現れたのは主人にそっぽを向く白銀の鎧を纏った剣の竜。彼の隣でドタドタと走るオッドアイの赤い竜。宙に浮かぶのは赤い戦士型のモンスターと先のターン、彼を守った派手な衣装の『魔術師』。

その中でも白コナミが反応を示したのは『オッドアイズ・ドラゴン』。有り得ないものを見るかのように驚愕を露にし、動揺している。

 

「オッドアイズ……ドラゴン……!?」

 

「そしてオレは!『オッドアイズ・ドラゴン』を対象として手札の『貴竜の魔術師』の効果発動!対象のモンスターのレベルを3つ下げ、このカードを特殊召喚する!」

 

オッドアイズ・ドラゴン レベル7→4

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

フィールドに舞うように飛び出したのは白く高貴な衣服を纏った幼い顔立ちの『魔術師』。その手には奇妙な形の杖を握っており、杖の珠へと『オッドアイズ・ドラゴン』のレベルを吸収している。

 

「行くぞ!レベル4となった『オッドアイズ・ドラゴン』にレベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』ッ!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

『貴竜の魔術師』が輝くリングとなり、『オッドアイズ・ドラゴン』を包み込む。そしてコナミのエクストラデッキより黄金に光るカードが排出され、彼が掴み取ると共に白い枠が溢れるように出現する。

 

その何も描かれていないカードに竜の姿が浮かび上がる。間髪入れずにカードをデュエルディスクに叩きつけ、火の粉を舞い上げ、火花を散らすその竜の名を呼ぶ。

 

「赤い……竜……!?」

 

「まだだ!レベル5の『曲芸の魔術師』にレベル3の『チューン・ウォリアー』をチューニング!星海を切り裂く一筋の閃光よ!!魂を震わし世界に轟け!!シンクロ召喚!!『閃光竜スターダスト』!!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

更に天空よりその両翼を羽ばたかせ、星屑を纏った白き竜が閃光と共にその姿を見せる。

白コナミはまたもやその登場に驚愕する。何故ならその竜が、自身の使う『スターダスト・ドラゴン』と酷似していたからだ。いや、存在自体は知らなかった訳ではない。だが、自分の前で出されるとは思っても見なかったのだ。

 

「ここでオレは『ゴブリンドバーグ』を召喚!」

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

「『ゴブリンドバーグ』の効果発動!手札から『グローアップ・バルブ』を特殊召喚し、守備表示となる!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

「レベル4の『ゴブリンドバーグ』にレベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!シンクロ召喚!」

 

合計レベルは5。コナミは自らの腕に宿る力を全て込め、エクストラデッキよりこの逆境を覆す力を“創造”し、その手に掴み取る。何も描かれていない白紙のカード、ありったけの力で染め上げる。

 

「シンクロ召喚!シンクロチューナー!『アクセル・シンクロン』!」

 

アクセル・シンクロン 守備力2100

 

燃えるような真紅のボディを煌めかせ、現れたのはバイク、いや、D-ホイールを模したモンスター。コナミが創り上げた新たな力。シンクロチューナー、『アクセル・シンクロン』はホイールを回転させ、主人の隣を疾駆する。

 

「魔法カード、『龍の鏡』を発動!墓地の『オッドアイズ・ドラゴン』と『竜脈の魔術師』を除外し、融合召喚!『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力2500

 

天を雷鳴で轟かせ、4枚の翼を広げた緑の竜が吠える。次々とフィールドに現れる竜達は共鳴するように喉を鳴らし、白コナミのフィールドでその存在を示す白亜の竜を睨む。

 

「『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』の効果で『ターボ・ウォリアー』をバウンス!そして『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を選択し、『閃光竜スターダスト』の効果発動!1ターンに1度の破壊耐性を与える!そしてオレは『アクセル・シンクロン』の効果発動!デッキから『ジャンク・シンクロン』を墓地へ送り、このカードのレベルを『ジャンク・シンクロン』のレベル分下げる!」

 

アクセル・シンクロン レベル5→2

 

「オレは!レベル8のスターダストに!レベル2となった『アクセル・シンクロン』をチューニング!」

 

『アクセル・シンクロン』が空中で弾け、スターダストの身体を包み込む。更に白馬とコナミは風を受け、加速していく。

シンクロモンスターとシンクロチューナーによるシンクロ召喚の高み、アクセルシンクロ。今、彼はそれを行おうと疾走し、スピードの壁を突き破り、姿を――。

 

「消え……ない……っ!?」

 

2人が目をパチクリと瞬かせ、状況を掴めないと言った様子で呆ける。そう、姿が消えない。いくら待っても、どれだけ加速しようがその姿が消失する事なく、アクセルシンクロモンスターが現れない。

それどころかスターダストを包み込むリングが弾け、『アクセル・シンクロン』へと戻る。一体何故、何が足りない。コナミが焦りを見せ、自分の身体を探る。ふと、視線を落とした時。

 

「……馬っ!」

 

雪のような白い毛並み、逞しく力強い脚部、風に靡く鬣。まさか――乗っているものがD-ホイールではなく馬だから――?ハッ、と今更ながら気づき、頭を抱えるコナミ。

馬では、アクセルシンクロが出来ない。

 

「くっ……!ならばこのままバトルだ!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』で『シューティング・スター・ドラゴン』へ攻撃!」

 

気を取り直し、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』へと指示を出す。剣の竜は不服そうに喉を鳴らすも渋々と言った様子で白亜の竜へと熱線を撃つ。その圧倒的な力の奔流は大地を焦がし、流星を討つ。

 

「罠発動!『くず鉄のかかし』!その攻撃を無効に――」

 

「させる……かっ!『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』の第2の効果!エクストラデッキより『曲芸の魔術師』をデッキに戻し、その発動を無効にして破壊する!」

 

「ならばシューティング・スターで!」

 

「『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』がモンスターゾーンに存在する限り、バトルフェイズ中、モンスターの効果を発動できない!」

 

「なんだと!?くっ、罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分……ぐぅぅぅぅぅっ!?」

 

白コナミ LP2900→2850

 

「更に追加ボーナスだ!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』が戦闘でモンスターを破壊し、墓地に送った場合、お前のモンスターを破壊する!『ジャンク・バーサーカー』を破壊!」

 

まるで雪崩れるように『オッドアイズ』3体の強力な効果が炸裂する。

ボルテックスが雷で『くず鉄のかかし』を串刺しにし、メテオバーストが大地を踏み砕き、炎を流し込み、シューティング・スターの下へと走らせて燃える鎖で封じ込め、セイバーが背の2本の剣でシューティングスターと『ジャンク・バーサーカー』を切り裂く。

 

「シューティング・スターを破壊するとは……面白い……!」

 

圧倒的な力を受け、機体を傾けながらも白コナミは今までになく笑みを深める。切り札が真正面から破壊されたと言うのにショックは無く、それどころか嬉しそうだ。

 

「ボルテックスで『ジャンク・シンクロン』を!メテオバーストで『ドリル・ウォリアー』を攻撃!」

 

白コナミ LP2850→2800

 

まだ攻撃は続く。ボルテックスが周囲に漂う風を巻き上げ、竜巻のブレスを放つと同時にメテオバーストが灼熱のブレスを合わせ、2つのブレスが重なり、火の粉を散らす熱風が2体のモンスターを包み込む。

その余波はプレイヤーである白コナミをも襲い、数地上では微々たるものだと言うのに巨大な機体が吹き飛ばされる程だ。

 

「ぬぅ……!」

 

「『閃光竜スターダスト』でダイレクトアタック!流星閃撃!」

 

白コナミ LP2800→1550

 

スターダストが光を集束し、ブレスを放つ。その光線は白コナミに直撃し、機体がくるくると規則的に回転する。

 

「オレはこれでターンエンドだ」

 

コナミ LP2100

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示) 『アクセル・シンクロン』(守備表示) 『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示) 『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』(攻撃表示) 『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』(攻撃表示)

Pゾーン『賤竜の魔術師』 『竜穴の魔術師』

手札0

 

一気に優勢に立ったコナミ。フィールドには5体のモンスター、強力な効果を持つ3体の『オッドアイズ』。そして破壊を防ぐ『閃光竜スターダスト』。切り札足る『シューティング・スター・ドラゴン』は倒した。

だが、それこそが大いなる過ち。一見正解に見えた答えも、災いとなって降りかかる。彼が起こした過ち、それは――この帽子の男を、逆境に立たせた事。

 

「俺のターン、ドロォォォォォッ!!」

 

吹き荒れる風を受け、白い機体が火炎を吹かし飛翔する。更にくるりと反転し、コナミを迎え撃つかのような体制を取る。

そして彼はその手より1枚のカードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「魔法カード、『ブラック・ホール』!フィールドの全てのモンスターを破壊する!さぁ、どうする!?」

 

「無効にするに決まっている!『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』の効果により、エクストラデッキの『貴竜の魔術師』をデッキに戻し、その発動を無効にする!」

 

「……失望したぞ。貴様のデュエルはその程度か!魔法カード、『調律』を発動!デッキより『ジャンク・シンクロン』を手札に加え、デッキトップを墓地へ!更に墓地へ送られた『リミッター・ブレイク』の効果でデッキから『スピード・ウォリアー』を特殊召喚!」

 

スピード・ウォリアー 守備力400

 

「手札の『ボルト・ヘッジホッグ』を墓地へ送り、魔法カード、『ワン・フォー・ワン』を発動!デッキよりレベル1モンスター『ロード・ランナー』を特殊召喚!」

 

ロード・ランナー 守備力300

 

知っている。この光景を。今でも鮮明に、瞼に焼きついた思い出が目の前で繰り返される。

コナミはその光景をスローモーションのように感じていた。

 

「そして『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

そう、今まで彼が繰り出してきたシンクロモンスター、その中にあのモンスターの姿は無かった。このデッキの代名詞と言って良いあのモンスターが。

 

「『ジャンク・シンクロン』の効果発動!墓地より『ソニック・ウォリアー』を特殊召喚する!」

 

ソニック・ウォリアー 守備力0

 

「そしてチューナーがフィールドに存在する事により、墓地の『ボルト・ヘッジホッグ』を特殊召喚!」

 

ボルト・ヘッジホッグ 守備力800

 

フィールドに集う5体のモンスター。低いレベル、決して強いとは言えないステータス。何の変哲も無いカード達。

それでも、彼が、英雄が使い続けて来た、英雄を支えて来たモンスター。その勇姿にコナミは帽子の奥の目を丸くして呆ける。

 

何故なら――白コナミの姿が、あの時の相棒の姿に、重なって見えたから。

 

「レベル2の『ソニック・ウォリアー』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!」

 

『ジャンク・シンクロン』が弾け、3つの光のリングとなって『ソニック・ウォリアー』を包み込み、閃光と共に姿を変える。

 

「集いし星が、新たな力を呼び起こす!光差す道となれ!」

 

赤く輝くツインアイ、首に巻かれた白いマフラー、光を反射する青いボディ、足は鋭利な刃状となっており、右手にはナックル・ダスターが嵌められている。

背のバーニアに火を灯し、宙でくるりと回転して足を開き、右腕を突き出したシンクロモンスター。その、名は。

 

「シンクロ召喚!出でよ!『ジャンク・ウォリアー』!!」

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300

 

最後を飾るに相応しい、絆を象徴とした戦士が現れる。攻撃力は2300。このままではコナミのモンスターは倒せないが――何も、このカードは、1人で闘って来た訳では無い。

 

「『ジャンク・ウォリアー』の効果!このカードがシンクロ召喚に成功した時、このカードの攻撃力は自分フィールド上に存在するレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分アップする!更に墓地よりチェーンして『ソニック・ウォリアー』の効果発動!このカードが墓地に送られた時、フィールド上に存在するレベル2以下のモンスターの攻撃力は500アップする!」

 

スピード・ウォリアー 攻撃力900→1400

 

ロード・ランナー 攻撃力300→800

 

ボルト・ヘッジホッグ 攻撃力800→1300

 

『ソニック・ウォリアー』によりモンスター達の攻撃力が僅かながら上昇していく。しかし、その僅かな力が、小さな力が英雄に託され、その想いが拳に宿っていく。

天に突き出された『ジャンク・ウォリアー』の右腕を目刺し、光が集束し、どんどん巨大化していく。合計攻撃力は――。

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300→5800

 

「……攻撃力……5800……!」

 

「驚く事は無い。俺達の間では、小さなものだろう?」

 

「――!」

 

「だが、その小さなものに――お前は倒される」

 

眩き太陽を背に、天空に『ジャンク・ウォリアー』が飛翔し、巨大化した右腕を振り抜く。

ゴォォォォォッ!激しい風を切る音を感じながらもコナミはただ、呆然とするのみ。

 

「『ジャンク・ウォリアー』で、『閃光竜スターダスト』に攻撃」

 

激闘に、終止符が打たれる。

 

「スクラップ・フィスト――!」

 

その、時だった。

 

「「ッ!?」」

 

両者の間に巨大な赤き竜が現れ、とぐろを巻くようにして白コナミと『ジャンク・ウォリアー』を包み込み、光を放つ。

突然の来訪者に2人は驚愕と戸惑いを見せ、白コナミはその手を伸ばし、コナミを睨み付け、咆哮する。

 

「タクシー……!邪魔を……!ッ!赤帽子ィ!いずれお前を倒す……!それまで精々力をつけろ!弱きお前では満足など出来ん!」

 

その言葉と共に、閃光が場を覆い、白コナミは赤き竜と共に姿を消す。残ったのはコナミと白馬のみ。

 

圧倒的な実力、こちらの全ての上をいく戦略と豪運。今まで闘って来た中で間違いなく最強のデュエリスト。

彼に負けていればどうなっていたのだろうと考えれば恐怖が背筋を這う。

 

「……消えていた……」

 

負けていれば、消されていた。同じ者は、太陽は同じ空で2つも輝けないのだから。

 

「……オレは……弱い」

 

ぐらり、激闘の後のせいか、コナミの視界が霞む。身体中にのしかかる疲労を感じながら、コナミは瞼を閉じ、夢の世界へと堕ちていく。

今はまだ弱い。だけど今は休もう。強く、なる為に――。

 

――――――

 

「……チッ、あのタクシーめ……邪魔しやがって……!」

 

コナミが眠りについたその時、白い仮面の男は公道の近くにそびえ立つ鉄塔に立ち、彼等を見下ろしていた。

 

「……まぁ、良い。次がある。舞網チャンピオンシップ……覇王の、凱旋だ……!」

 

企む者、闘う者、様々な者の想いが交錯する。その舞台を次へと移し、物語は進んでいく。

舞網チャンピオンシップ、その開幕まで――後、2日。

 

――――――

 

カン☆コーン!遊勝塾の玄関よりコナミが改造したチャイムの音が鳴り響く。遊矢はその音に飲んでいたコーラを吹き出す。何だか大変な事が起こった気がしてこの音はどうにも慣れない。心配してくれた柚子が持った来てくれたタオルを「ありがとう」と言って受け取りテーブルを拭く。

 

その間にセレナの肩からSALが遊矢の肩へと移り、どこからか出したハンカチで口元を拭ってくれる。

 

「あ、ありがとうSAL」

 

「キキー」

 

「何してんのよ」

 

「良い加減慣れろよ」

 

「それより僕の顔にコーラがかかったんだけど」

 

遊矢の前方に座ったLDSの3人組が呆れた顔で遊矢に向かい溜め息をつく。この3人は逆に遊勝塾に慣れすぎである。

ボリボリと煎餅をかじる真澄と刃に「ごめん」と返す。1人だけ被害を被った者がいるが。

 

「僕は?」

 

「わ、悪い」

 

どうやら意図的に無視した事に怒ったようだ。北斗が物凄い形相で睨むので謝る。

悪気があった訳では無い。ただここボケるべきじゃね?と思ったのである。

 

「ちょっと俺行ってくる。多分コナミだろうし」

 

そう言って席を外し、玄関へと小走りで向かう。電子ロックのドアを開いたそこには。

 

「ブルルルルゥ……」

 

眠るコナミを背に抱えた、白馬がいた。




と言う訳でデュエル中断。まぁ決着はついてるようなものですが、コナミの負けです。
ジャンク・ウォリアーは本当にティンと来たひらめき。色々とご都合主義がありましたが創作なんだし、と流して頂ければ。
次回で1章は終幕です。


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第40話 One step

割りと日常回が好きなのかもしれない。アホなやり取りをするキャラが大好きです。
今回下ネタ注意です。


「ダメよ」

 

それは舞網チャンピオンシップが翌日に迫った日の出来事、遊勝塾の玄関前にて、コナミが柚子に向かって土下座していた。手と背筋はピン、と伸ばされており、額はこれでもかと言う位地面に擦り付けられている。物凄い綺麗な土下座である。

 

一体何があったのか、この場に現れたLDSの3人組はポカンと呆け、視線をコナミと柚子の間を行ったり来たりしている。

 

「毎日餌やりするから……!世話もちゃんとするからどうか、UMAを飼わせてくれ……!」

 

「ダメって言ってるでしょ。ちゃんと元居た場所に帰してきなさい」

 

「良いではないか柚子。私も面倒見るからな?それに此奴、サラマンダーより、ずっとはやい!!」

 

「うわぁぁぁぁぁっ!!やめてくれセレナ!その台詞は俺に効く!」

 

「セレナ!そう言って馬に乗らないの!遊矢もヨヨの事は忘れなさい!」

 

どうやらコナミが昨日拾って来た、いや、拾われて来た馬を飼うか飼わないか揉めているらしい。近くではセレナが白馬に乗って駆けながらコナミの味方をするがサラマンダーを引き合いに出した事により遊矢の古傷を抉ってしまったらしい。

 

その場に崩れ落ちて地面を拳で殴り始める。それはもう号泣しながら。コナミも共感できるのか、「分かる。分かるぞ遊矢」と肩をガシッと抱き、慰めている。

 

「あんな事なら……!あんな事なら名前変更なんてするんじゃ無かった……!」

 

「もういい……!もういいんだ遊矢……!」

 

遊矢はヒロインを好きな子の名前にしてプレイする子だったらしい。幼い頃の彼にはダメージがデカ過ぎてトラウマになっているレベルである。

何ともカオスな雰囲気に包まれて来た。その中で真澄が話が見えてこず、頭の上に?マークを浮かべている。一体どう言う事なのか、刃と北斗に聞こうと声をかけようとしたその時、彼等は目から血涙を流し、手から流血する程、力強く握り締め。

 

「「パルパレオス絶対許さねぇ……!」」

 

「パルパ……何……?知らないの私だけ!?」

 

後日、コナミのアレを借りた真澄は見事に主人公の名前を真澄、ヒロインの名前をコナミに変更し、号泣するのだった。

名前逆じゃね?と言うのは言って良い問題なのだろうか?因みに、コナミが拾われて来たUMAこと馬は結局遊勝塾の皆で飼う事になった。

 

――――――

 

パカラッ、パカラッ、小気味良い蹄の音を鳴らしながらアユとセレナとSALを背に乗せ、白馬は商店街を歩んでいた。その横ではコナミと遊矢、タツヤとフトシが一緒に歩いている。

商店街の皆様方もこれにはびっくりである。ザワザワと馬を見て話している。

 

「うむ。買い出しはこれ位か。UMAがいると荷物が多く運べるから助かるな!」

 

「キッキキー!」

 

「ブルルルルゥ……」

 

「ふむ。ユニコーンは処――」

 

「こんな往来で何を言おうとしてるんだお前は」

 

コナミが危うい言葉を吐こうとした所を遊矢が止める。自由なのは良いがもう少し弁えて欲しい。商店街の皆様方の視線をヒシヒシと感じながら遊矢は溜め息を吐く。

ここに来たのは先程セレナが言った通り買い出しの為である。最初はセレナと子供達に行かせようと頼んだのだがそこにコナミとUMAが参戦し、このメンバーでは危ういと感じ、遊矢も名乗り出たのだ。

 

「はぁ、まさか馬を連れて来るなんて……」

 

「ちょいと、そこのあんた」

 

「え?」

 

突然背後から声をかけられ、遊矢は反射的に振り向く。そこにいたのは八百屋のおばちゃんだ。何時も母が世話になっているらしいが、遊矢にはそれ程面識が無く戸惑う。

一体何の用だろうか?そうしている内におばちゃんがパァッと顔を明るくし、笑顔になる。

 

「ああ、やっぱり。あんた遊矢君だよね?榊 遊矢君」

 

「は、はい、そうですけど」

 

「あんた見たよぉ、ストロング石島を倒した所。ぺんでゅらむ召喚だっけ?ちっちゃい頃ここら辺を泣きじゃくって歩いていたあんたが……立派になったねぇ」

 

「おっ、俺、もうそんなにちっちゃくないですから!」

 

どうにも気恥ずかしくなって、いやいやと手を振る。しかし見ていてくれた事は嬉しくもあり、少し胸が熱くなる。

おばちゃんはそうそうとポン、と手を打ち、奥へと引っ込む。一体何だろうか?遊矢がコナミ達と顔を見合わす間におばちゃんは戻ってきて手に持ったそれを遊矢へと渡す。緑と黒の縞模様をしたその玉は。

 

「スイカ?」

 

「勝利記念だよ。持っていきな」

 

「えっ、で、でも……」

 

「良いじゃないかい。あたしゃ嬉しいんだよ。ちっちゃい頃クソガキに苛められてたあんたがさ。泣きじゃくって権ちゃんと一緒にここら辺歩いて、心配したあたし達がキュウリやコロッケとか食べさせてたあんたが、笑って、楽しそうにデュエルして、チャンピオンに勝ったんだ。あの時は本当に良かったと思ったよ。お父さんの事は大変だけどね。たまにはここにも顔を出しなよ。あたし達は応援してるよ!」

 

言われて気づく。遊矢がまだ小さな頃、学校で父の事を馬鹿にされ、苛められていたあの頃、帰り道のこの商店街の人達は「大丈夫?」と声をかけて、泣き止むまで話を聞いてくれた。

時には売れ残りのコロッケとか貰ったりして、大きくなるにつれ忘れてしまっていた大事な事。支えてくれた人達がいる。

 

「ありがとうございます!俺……頑張ります!」

 

「おい遊矢!こっちも忘れんなよ!」

 

またも声をかけられ振り返る。と、投げられた物を鍛えた身体能力でキャッチする。

袋に入ったコロッケだ。できたてのものらしく、熱く湯気が立っている。反対方向にあるコロッケ屋が投げてくれたらしい。ニカッ、と笑う人の良さそうな青年の顔には覚えがある。

 

「舞網チャンピオンシップ出るんだろ!?商店街の皆でファンクラブ作ったからよ!頑張れよな!」

 

「ッ!はいッ!」

 

胸が熱くなる。今までの努力は無駄じゃなかった。見ていてくれる人達がいる。応援してくれる人達がいる。

それだけで遊矢は強くなれる。闘える。前に進める。それが嬉しくて、涙が出てしまう。

 

「お?ハハッ!でっかくなっても泣き虫は変わらねーな!」

 

「ッ!そっそんな事ないさ……!俺は、笑えるから!」

 

ゴシゴシと腕で目を擦り、心からの笑顔を作る。昔は泣いてばかりで、無理して作り笑いをしていたけれど、今は違う。

ゴーグルなんかを着けずに、自分の目で今を見ていたい。心から笑って、この人達の期待に応えたい。

エンタメデュエリストとして、そして何より、榊 遊矢として。

 

「もう我慢できねぇ!遊矢!ウチの肉も持ってけ!」

 

「てやんでいっ!俺の魚が先だッ!」

 

「屁ぇこいてばっかの店の臭い魚なんて遊矢君にあげられる訳ないでしょ!遊矢君!私の花も持っていって!」

 

「アユちゃん達も応援するぜ!ついでにコナミもな!」

 

痺れを切らしたように見守っていた商店街の人達が遊矢に次々と自らの店の品を分けていく。もみくちゃになりながらも、戸惑いながらも遊矢も感謝を述べて受け取る。

どうにも嬉しくて、断るのも気が引ける。手に余す程の物を受け取った後、UMAがいて良かったと思う遊矢だった。

 

――――――

 

「スイカ割り?」

 

「川上から流れてきてな」

 

「嘘はやめよう。八百屋の人に貰ったんだよ。他にも色々あるけど……スイカは折角だしね」

 

そう言ってゴロゴロと5玉程スイカをテーブルへ置く遊矢。あれから八百屋のおばちゃんがこれもこれもと無理矢理持たせてくれたのだ。もらった肉や魚はコナミが備え付けられた冷蔵庫へと収納している。

 

「うわ凄いね。どうしたのこんなに?」

 

コナミの後ろより素良がひょっこりと顔を出す。言葉通りに驚き、スイカをこれでもかと言う程見つめている。それは隣に立つ権現坂も同じだ。顎に手を当てほうほうと頷いている。

 

「そうと決まったら皆も呼ぼうか。色々ある事だしBBQなんてどうだ?」

 

「マジッスか兄貴!?俺ちょっと帝野と勝鬨呼んできます!」

 

「ならば俺は日影殿と月影殿を呼ぼう」

 

「俺はミッチーと九庵堂とミエルとニコに電話かけてくる」

 

「バレット☆召喚」

 

「沢渡は……良いや別に」

 

コナミの言葉を皮切りに皆それぞれこの短い間、デュエルを通じ、知り合った友人へと連絡を取っていく。中々大所帯になりそうだ。

楽しそうに笑う皆を見て、コナミはフッ、と笑う。全くどうして、これだからデュエルは止められない。思い出すのは白帽子の男。

昨日は負けた。だが――次は勝つ。決意を胸に、愛しいものを見るかのように辺りを見渡す。

 

「コナミ、ありがとう」

 

「ん、塾長?」

 

そんなコナミに塾長である修造が声をかける。暖かな父親の眼差し、それをコナミへと向け、ポン、とコナミの帽子越しに頭を撫でる。

一体何がありがとうなのか、コナミとしては首を傾げざるを得ない。自分は特に何もしていない筈だ。

 

「お前が来てから、遊矢や柚子、皆が強くなった気がするんだ」

 

「……そんな事は無い。オレがいなくとも、自然とあいつ達は強くなっていたよ」

 

「確かにそうかもしれない。だけど、今の皆はお前の影響で強くなったんだ。何より、お前がいなかったら遊勝塾はこんなに騒がしくなかった」

 

そう言って修造は暗次や真澄達へと視線を移す。彼等は遊勝塾とは別の、特にLDSの3人組は敵対していた者だ。それがこんなにも自然に、友達として溶け込んでいる。

彼等もまた、遊勝塾の空気を作っている。この暖かい家族のような居心地の良い雰囲気を。

繋がっているのだ、この場にいる全員が。その中心にいるのは間違いなく――。

 

「コナミ、お前だよ。遊矢は前に、皆の道標になるとしたら、お前は皆の背中を押して、支えている。踏み出させている」

 

「……」

 

驚いた。そう言わんばかりにコナミは帽子の奥の目を見開き、言葉を詰まらせる。修造は予想以上にコナミを、いや、皆を見ている。ちゃんと大人をしている。

熱いばかりじゃなく、冷静に見ていたのだ。修造はニカッ、と白い歯を見せ、乱暴にコナミの頭を撫でる。コナミは帽子が落ちそうになった所を慌てて直す。

 

「お前も遊勝塾の一員で、家族だ。ほら、皆が待ってるぞ!子供は子供らしく、思いっきり遊べ!」

 

ポン、とコナミの背を押す修造。まるで背中を押すのは大人の仕事だと言っているようだ。

ふと、視線を前へと戻す。そこには遊矢や柚子達、皆の姿。苦笑、微笑、形は違うが、皆笑ってコナミを待っている。

 

この塾は全く、居心地が良い。コナミも笑顔で、皆の元へと駆ける。

 

「にぎや蟹なって来たな!」

 

――――――

 

「フゥー☆この俺が来てやったぜ!精々感謝しろよな!」

 

「「「呼ばれてないのに来るとか流石ッスよ沢渡さぁーん!」」」

 

「えっ、あの……どちら様ですか?」

 

「光津ぅ!それリアルに落ち込むからやめろぉ!」

 

舞網市の砂浜にて、様々な者達が集う中、そこには呼ばれていない筈の沢渡の姿もあった。案の定、真澄に毒を吐かれているが一体何処から嗅ぎ付けて来たのだろうか。

刃と北斗が首を傾げている所、スイカの準備をしていたコナミがやって来る。まさかコナミが呼んだのだろうか。

 

「オレが呼んだ。柿本と山部と大伴をな」

 

ピンポイントで沢渡だけ外していた。かなり悪質である。

 

「何で俺だけ呼ばねぇんだよ!ねぇイジメ!?これイジメだよなぁ!?」

 

「やはりオレの見込んだ通りだ。今のお前は輝いている」

 

「嬉しくねぇ!」

 

沢渡の肩にポン、と手を置き、帽子の奥に潜んだ目を輝かせるコナミ。対する沢渡は怒り心頭と言った様子でコナミに食ってかかる。まるで漫才のようなやり取りである。

実はこの2人、相性が良いのではないだろうか?沢渡の子分達は苦笑いして見守っている。

 

「久しいなコナミ」

 

「クイズ大会以来ですねぇ。ん?それってちょっと前の気が」

 

と、コナミが沢渡にガクガクと肩を掴まれ揺すられている中、少年達の声がかかる。どうやら勝鬨と九庵堂のようだ。

揺らされながらも声のする方に振り向くと……そこには熊を1頭伏せてターンエンドしている勝鬨がいた。

 

「あ?お前等この前の……ってギャー!熊!?何で熊!?」

 

「うむ。手ぶらでは何だと思ってな。ホンフー先生が稽古をつけてくれたお陰でこの程度は片手で出来る。美味いぞ、熊肉」

 

そう、実はこの勝鬨、コナミと共闘した後、梁山泊塾の塾長である郷田川と1対1のデュエルを通し、和解した。そして真のデュエルを知った郷田川は梁山泊塾を解散させ、旅に出た。

その後勝鬨は少森寺塾へと移籍した訳である。今ではホンフーを始めとした人外達に鍛えられ、デュエル、武力、野球において成長したと言う訳である。

 

「コナミ殿、今日はお呼び頂き感謝する」

 

「む、日影と月影か。権現坂にはもう会ったのか?」

 

「うむ。権現坂殿には先程挨拶をした」

 

次に現れたのは日影と月影の風魔兄弟だ。相変わらず昼間では目立つ忍装束に身を包んでおり、砂浜だと言うのに足音も残ってはいない。コナミの傍にいる沢渡は「熊の次は忍者かよ……!」と口元をひくひくと引き吊らせ、勝鬨は「……隙がないな」と何故か臨戦体制に入っている。

そんな中、ヒュッ、と言う風を切る音と共にコナミの腰へと小さな影が突撃する。

 

「ダァーリィィィィィンッ!」

 

「コフッ!?」

 

その正体はふんわりとパーマがかかった赤毛を揺らした小柄な少女だ。彼女はコナミの腰に抱きつき、パァッと明るい笑顔をコナミへ向け……真顔に戻った。

 

「誰よアンタ」

 

「オレはコナミだ。よろしくハニー」

 

「フラッシュ!」

 

「どえひぃ!」

 

ズビシッ!コナミがふざけると少女は音速で右手をチョキにしてコナミの帽子の奥に隠れた目を突く。良い子はやってはいけない。尤もコナミはこの程度痛くもないが。

赤毛の少女はフッ、と鼻で笑った後、髪をファサッと掻き上げ、コナミへと冷たい視線を向ける。

 

「ごめんあそばせ、人違いでしたわ。ミエルの名前は方中 ミエル。榊 遊矢の恋……言わせんな恥ずかしい」

 

「ほう。お前が遊矢にとってのヨヨだったのか」

 

「パルパレオス絶対許さねぇ……!で、ダーリンはどこ?」

 

「遊矢の事ならばあっちの方、柚子の事ならばその隣だ」

 

色々とツッコミ所のある台詞と共に遊矢のいる場所を指差すコナミ。ミエルは後半部分を無視し、「ありがとう」と言って遊矢の元へと飛んでいった。

 

スパンッ!とハリセンの音がした所を察すると遊矢は帰らぬ人となったらしい。コナミは手を合わせ「哀れ」と黙祷する。モテる男は辛い。

 

「君がコナミ君かい?」

 

と、またもコナミの元へと新たな来客が現れる。山吹色の髪に赤いメッシュを入れた細目とそばかすが特徴的な少年。ミエルと同じくコナミには面識の無い人物だ。

先程と同じく遊矢の知り合いだろうか?少年は人の良さそうな笑みを浮かべ、コナミを伺っている。

 

「そうだ、オレはコナミ。お前は?」

 

「僕は茂古田 未知夫。気軽にミッチーと呼んでよ」

 

「分かったヨシリン」

 

「君の性格が大体分かったよ」

 

何ともアホな返しをするコナミに苦笑しながら握手を交わすミッチー。実は此方に来る前に遊矢から変わった奴だと聞いていたのだがその通りだと思い知らされる。

何はともあれミッチーは此方へ来た訳を右手に持ったアタッシュケースを開いてコナミに見せる。

 

「料理をするんだろう?それなら僕に任せてよ。得意なんだ」

 

「む、そうか。こう言った事は余り得意では無いのでな。オレはBBQの方を担当するから他は頼んでいいか?」

 

「OK、うわっ!熊!?こんなものまで用意しているとは……腕が鳴るね」

 

そう言って次々と調理の準備をしていくミッチー。随分と手際の良い所を見ると本当に料理が得意らしい。コナミも何か思い立ったのか、次々と白米の上におかずを置き、ミッチーへと見せる。

 

「元キング発案、シンクロ弁当だ」

 

「そこそこ美味そうなのが腹立つな」

 

「刃か」

 

ここで刃を含め、LDSの3人組と子分2人が現れる。どうやらこのイベントをそれなりに楽しんでいるらしい。違和感無く溶け込んでいる辺り、本当に仲良くなったものである。

コンロに火を通し、具材に串を刺していくのを暗次とねねに手伝って貰いながら談笑する。

 

「失礼、君がコナミか」

 

どうやらまた来客のようだ。今日は良くものを訪ねられる日だな。と苦笑しながら声をかけたであろう人物へと目を移す。

オールバックの髪に眼帯、胸に傷を負った大柄の男。見慣れない人物だ。何処かで会った事があるだろうかと首を傾げながらも男の問いに二つ返事で答える。

 

「そうだ。あんたは?」

 

「そうかそうか、貴様がコナミか。奴に良く似ている。私はバレット……セレナ様の保護者だ」

 

「あっ……(察し)」

 

ガシッ、確認と共にバレットは笑顔でコナミの肩を掴み物凄い力を込めるが……コナミの何をしたらそうなるんだと言いたくなるような硬度に舌打ちを鳴らし、ギンッ、と冷徹な瞳で睨み、底冷えするような、地の底から響くような声音で脅迫する。

 

「セレナ様と1つ屋根の下で暮らしているようだが……変な気を起こしたら……分かってるな?」

 

「それはどうかな?」

 

「懺悔の用意は出来ているか」

 

カチャリ、両者共に懐からデュエルディスクを取り出し、一触即発の空気を醸し出す。コナミ達の周辺の全員がゴクリと唾を飲み込み見守る中、勝鬨だけは「何!?そこの肉はそろそろ引っくり返すのではないのか!?」と空気の読めぬ事をほざいている。

何にせよ、デュエルが始まる。誰もがそう思った時、風を裂き、SALがバレットの頬に飛び蹴りを叩き込んだ。

 

「キッキーッ!!ウキャッキィッ!!」

 

「ゴフッ!ヌフゥッ!サッ、やめっ!痛っ!」

 

「ダメではないかバレット!ちゃんとコナミと仲好くしろ!」

 

そこにセレナが腰に手を当てふんすと鼻を鳴らして現れる。その間にもSALによる容赦なき拳打がバレットの顔面に鈍い音と共に炸裂していく。バレットがタップしても無視である。

 

「もういいぞ。控えろSAL」

 

「ウキッ!」

 

最後に一殴り止めを刺してバレットより離れ、唾を吐きかける。最早バレットは虫の息である。憐れバレット。

 

「すまんなコナミ。バレットが迷惑をかけた」

 

「それは別にいいが……大丈夫なのか?ボッコボコだが」

 

「この程度では死なん」

 

「いや虫の息なのだが」

 

「それ……は……っ!ど……う、かな?」

 

「おっさん無理すんな」

 

途切れ途切れに台詞を放ち、ボトボトと流血しながらも立ち上がるバレット。そんな彼を見かねた暗次が心配して声をかけるがバレットは意固地になってデュエルディスクを構える。

するとそこに、ヒュッ、と風を切り、またもやSALの飛び蹴りがバレットの頬に命中し、マウントを取ったSALが殴打していく。

 

「グホッ!サッ、やめっ!本とっ死っ!」

 

「そろそろ止めたらどうだ?」

 

「うむ。SAL、もう良――」

 

「セレナー!スイカの準備出来たぞー!」

 

「本当か!?今行く!」

 

「ちょっ!?セレナ様先にSALを止めグボォッ!?」

 

コナミの言葉を受けセレナはSALを止めようとする。が、間が悪かったのか遊矢のスイカ割りOKの声がそれを遮り、SALを止めずに行ってしまう。

 

このままではバレットが死んでしまう。皆の思いが一致し、何とか荒ぶるSALを止めようとした時、これ以上は命に関わると考えたのか、それとも飽きたのか、不意にバレットより離れ、唾を吐きかけ、SALはセレナの元へと帰っていった。

 

「……取り敢えず応急手当だけはしておこう」

 

「その程度で大丈夫なんスか?おっさんの顔モザイクかかってますよ?」

 

「デュエリストはこの程度では死なんし、SALも手加減している。それに……」

 

「どう見てもガチで殴ってたんスけど……それに何スか?」

 

「ギャグシーンだしギャグ補正がかかってんじゃね?的な」

 

「なーる、ほどっ☆」

 

こうして、応急手当を済ませ、コナミ達は皆でワイワイ、スイカ割りにBBQにと楽しみましたとさ。

因みに終始その間、おっさんは気絶していたそうな。

 

――――――

 

「ハッ!私は何を……?」

 

「漸く起きたか」

 

時は過ぎ、日が沈み、空に暗い闇の帳が下ろされた頃、バレットは失っていた意識を戻した。痛む顔を抑えながら起き上がり、その拍子に顔にかかっていたモザイクが落ち、暗次が「これ物体なのかよ……」と呟く。

 

「ここは……」

 

「銭湯だ。折角皆揃っているからな。あ、お前の分の食べ物はタッパーに詰めておいた。また明日にでも食べると良い」

 

そう言ってバレットにタッパーを渡し、服を脱いで目の前の籠に入れていくコナミ。どうやら脱衣場までバレットを引き摺って来たらしい。こう言った気遣いと言い、心根の優しい人物なのかもしれない。

セレナと一緒に住んでいると言うので警戒していたのだが……どうやらその必要はないのかもしれない。一言謝ろうと顔を上げた時。

 

「ブハハハハハッ!あにっ、兄貴っ!それやめっ!苦し……!」

 

「やはりモザイクはここに無いとしっくり来んな」

 

先程までバレットの顔にかかっていたモザイクで股間を隠しているコナミがいた。何ともアホな事をしている。

こんなのに謝ろうと一瞬でも思った自分が恥ずかくなり、溜め息を吐くバレット。

 

「あれ?コナミ、そう言えばSALはどこに行ったんだ?」

 

キョロキョロと辺りを見渡す北斗。確かにSALの姿が見えない。何時もセレナかコナミの傍にいるのだが、皆も同じように辺りを見るがその中でバレットだけが何を言っているんだと呆れた表情を作る。

 

「SALは雌だ」

 

「……は?」

 

今明かされる衝撃の真実。今日一番の爆弾発言に刃を始めとした皆が固まる。SALの性別は、おにゃのこでした。

言葉は伝わったものの頭で理解が出来ない。誰かが「え」と溢した瞬間。

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』

 

全員の叫びが、揃って木霊した。

 

「こっ、今年一番の驚きなんだけど……」

 

「ペンデュラムとかどうでも良くなってきた」

 

「ちょっとそれはやめて欲しい」

 

「言われてみればメスの顔をしている」

 

「その言い方はどうでござろうか」

 

皆が目を見開いてザワザワと矢継ぎ早に騒ぎ立てる。知らない者からすればたかがSALの性別だろうと切り捨てられるが下手に知ってしまっている為か今更なこの話題の衝撃は大きい。

 

「あー、なんか今のでドッと疲れた。さっさと湯に浸かろうぜ北斗、暗次」

 

「そうだな……プクッ……クヒュッ……ハハハハハ!コナミやめろ!良い加減モザイク外せ!」

 

「ハッ!自分のモノに自信がねぇから隠すんだろ。男なら俺みてぇにどーんと構えろよ!」

 

「その『プチモス』しまえよ」

 

「プププ『プチモス』ちゃうわ!」

 

どうやら今度は下の話のようである。こう言う所はやはり男の子と言う訳か、沢渡が自身のそれをブランと右へ左へ揺らしペンデュラム召喚するがスケールが小さかったらしい、低レベルのそれを見てフッ、と鼻で笑うコナミ。

それに対し沢渡は顔を真っ赤にして否定するが全員に鼻で笑われる。

 

「見ろ。まだ大伴の方がデカいぞ」

 

「大伴テメェ!裏切ったのか!?売ったのか俺を!?」

 

「ちっ、違うんスよ沢渡さぁん!」

 

ファサ、ボロン。コナミが大伴の股間付近に巻かれたタオルを剥がし、大伴のエースカードがリバースする。

確かに沢渡よりデカい(確信)。思わず沢渡は某満足同盟のファッションリーダーの如く表情を険しくして叫ぶ。だがここでハッと電流が走る。

 

コナミは言った。“まだ”大伴の方がデカい。“まだ”と言う事はつまり。

沢渡は緊張した面で振り返る。視線の先には――大伴と同じく、自分の子分である柿本と山部。彼等は気まずそうに目を逸らしている。

まさか。イチモツの、いや、一抹の、いや、大きな不安が頭の中に過る。

 

「嘘だろ……なぁ、柿本……山部……俺達仲間だろ……?」

 

「「……」」

 

チン黙。投げ出された問いに答えは返って来ない。しかしそれは、何よりも事実を告げる答えに等しい。

まさか、そんな、だって。沢渡の顔が悲痛に歪む。だがまだだ。まだ決まった訳じゃない。沢渡は口端を無理矢理吊り上げて2人に笑いかける。

 

「なぁ……そうだよな……?昔から俺達は一緒だったよな?……何で……何で答えねぇんだよ……えぇカキモォヤマベェ!!」

 

「お、俺達は……さ、沢渡さんの子分ッスよ……」

 

「うるせぇ!なら見せてみろ!絆の証をぉ!」

 

ファサ、自棄になった沢渡が2人の股間に巻かれたタオルを掴み、力づくで剥がす。そこにあったものは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボロンッ、ボロンッ、――残酷なる現実だった――。

 

「「沢渡さん……第二次成長期ッスよ……」」

 

「この裏切り者ォォォォォォォォォォ!!!」

 

「遊矢、そろそろ湯に浸かろう」

 

「えっ、あ、うん。帽子被ったまま?」

 

「ちょっとは心配しろよぉぉぉぉぉ!!」

 

叫ぶ沢渡を無視し脱衣場から出て暖簾を潜るコナミ達。無論帽子は被ったままである。

 

「……遊矢、女湯覗くぞ」

 

「えぇ!?ダッダメだって!」

 

「そんな事言ってお前もトマ棒を『キラー・トマト』に『レベルアップ!』したいだろ?」

 

「上手い事言ったつもりか」

 

「此方ズネーク、状況を開始する」

 

「ズネークダメだ!踏み止まるんだ!」

 

コナミがアホな事をぬかしながら壁に耳を貼りつけ、コンコンと手の甲で叩く。ガチなやつである。

流石に不味いと思ったのか、常識なのだが遊矢は止めようとする。ちょっと見たいと思ったのはやはり男の子だからか。

 

「……何をしている」

 

「ああ権現坂……さん。コナミを止めるのを手伝ってくれないでしょうか」

 

と、そこで真面目一徹な権現坂……さんが通りかかった事で遊矢は安堵する。何故さん付け及び敬語になってしまったのかは察して欲しい。

こうして、権現坂によりコナミの企みは阻止され、皆仲好く湯船に浸かるのだった。

 

――――――

 

時は少し過ぎ、榊家。遊矢の自室では泊まり込みに来たコナミの姿があった。

今は遊矢と共にお互いのデッキを組み直している最中だ。2人のデッキには共通したテーマもある為、時折カードのトレードも行っている。

 

「今日は楽しかったな」

 

「ああ」

 

交わす言葉は少ないが、これは遊矢がコナミに合わせての事だ。静かな空間でカードを地面に置く音だけが響く。だが自然と遊矢はこの時間を楽しんでいた。思えばコナミとこうして話すのはあの誓いの日以来か。

 

「……なぁ、コナミ、覚えてるか?」

 

「……ああ」

 

何が?なんて言葉は言わない。コナミも覚えているし分かっている。それ以上追求するのは野暮と言うものだ。フッ、と笑みを浮かべ、作業を再開する。

意外にも、口を開いたのはコナミだった。

 

「いよいよ明日だ」

 

そう、この夜が明ければ、待ちに待った舞網チャンピオンシップが開催される。

これまでの全てを見せる、一大イベントが始まる。

今日笑い合った友も、明日からは敵となる。無論、コナミも、遊矢も。

 

「どうだ?遊矢。感想は?」

 

「……そんなもの――」

 

――楽しみに、決まっている――

 

こうして夜はふけていく。月が浮かぶ空を見上げ、数多の星達は思いを馳せる。まだ見ぬ強敵、胸踊るデュエル。

 

さぁ、闘えデュエリスト達よ。最後に輝くのは――誰か。

 

 

 

第1章 THE DUELIST ADVENT 完

 

 

 

 

 




これにて第1章完結です。次回からなのですがタイトル変更とタグにオリ主を追加しようかと思います。
タイトルはこれでは少し簡素でオリジナリティが無いので少しだけいじり、タグについてはコナミ君がこれだけ喋っているし本作オリジナル要素が彼にはあるので仕方無くと言った具合です。
色々面倒をかけてすいません。
次回からのチャンピオンシップはコナミ君以外のキャラにもスポットを当て、これまでよりも遊矢を中心的にW主人公の面を押し出したいと思います。
根本的な部分は原作に沿いつつ様々なキャラ、原作では無かった対戦の予定なのでお楽しみに。

では、ここまで読んでくださった読者様、感想、お気に入り、評価をくださった皆様方に感謝を。
ありがとうございます。


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第2章 DIMENSION OF CHAOS
第41話 確実に存在する……暗黒寺ゲンも……!


デッドプール見たいけど時間と金がないと言う。
所でグレースちゃん可愛かったね!グロリア姉さん?う、うん……うん。


眩き日輪が青く澄み渡った上空を照らす。眼前にはソリッドビジョンによって投影された崩壊した遺跡、古びているのに厳かで神聖な雰囲気を醸し出しており、本物に退けを取らず、何故か遊矢は懐かしいと感じてしまう。

その砂上の遺跡に立つのは遊矢が現在闘っているデュエリスト。草臥れ、ボロボロに擦り切れたコート、首に巻いた赤いスカーフ、特徴的な猛禽を思わせる鋭い黄金の眼。

 

彼は遊矢に明確な敵意を見せている。その証拠として天空に座す彼の使いの3羽の黒き鳥が遊矢を睨む。

背に日輪を模したような黄金の翼を広げた漆黒の猛禽。その存在から放たれる威圧感は並のものではない。

 

それでも尚、遊矢の顔に浮かぶのは怯えではなく、純粋にこの状況を楽しむ闘志。男とはまた違った不屈の魂。

遊矢は闘う、勇気を胸に、そして――それに応えるかのように、デュエルディスクのエクストラデッキが輝いていた――。

 

――――――

 

強い。コナミはそのデュエリストを前に、息を切らし、膝を着いていた。辺りは大量のビル群が覆い尽くし、相手の姿にまで影が差してその表情が伺えない。

闇夜の街のフィールドはコナミが最初にアクションデュエルを体験したフィールド、『マジカル・ブロードウェイ』に酷似しているが、正確には違う。

 

『マジカル・ブロードウェイ』はマジシャンがショーを披露する街、そしてこの街は――ヒーローが飛び交い、活躍する舞台。

闇夜の空に光のスポットが走り、Hの文字が浮かび上がる。その下に登場したるは異形の英雄。

 

アメコミのヒーローのような、ヴィランにも似た長く尖った耳、美しく割れた腹筋や整った肉体、左腕は鋭利な鉤爪となっており、肩からは純白の翼が生えている。腰からは赤い尾が伸び、何より目を引くのは竜の頭部が生えた赤き右腕。

 

「……アカデミアの、正義の名の下に――」

 

スッ、と影より抜け出るデュエリスト。コナミはその姿に重々しい溜め息を溢す。その原因は相手のデュエリストの姿だ。

 

セレナに良く似た、紫と白のジャケット、そして――紫の、帽子――。

 

「僕の前で、散れ」

 

――スカイスクレイパー・シュート――

 

正義のヒーローが、夜の街で飛翔する。

 

第2章 DIMENSION OF CHAOS

 

――質量を持ったソリッドビジョンの実現により生まれたアクションデュエル。フィールド、モンスター、そしてデュエリストが一体となったこのデュエルは、人々を熱狂の渦に巻き込んだ――。

 

――――――

 

カンカンカッカン☆コーン!カンカンカッ☆コーン!

それは早朝の出来事、まだ遊矢が眠りについている所に、目覚まし時計が今までとは全く違った音を鳴り響かせた事で榊 遊矢は吹き出しながら飛び起きた。

目覚まし時計としては効果は抜群である。

 

「え?あ……えっ?なん……にこれ?……えっ?」

 

どうやらまだ寝惚けているようだ。頭に幾つもの?マークを浮かべ、起きてない頭で何が起こったのか辺りを見渡しながら確認する。

そして漸く目覚まし時計の音だと理解し、慌てて止める。勢い良く押してしまったが音は鳴り止んだ。

 

ハァ、と大きく溜め息を溢し、目覚まし時計から妙な音が鳴るように改造したであろう人物に目を移す。そこにいたのは赤い帽子を被り、床に敷いた布団で静かに寝息を立てるコナミの姿。

寝る時まで帽子を被っているんだな、と呆れながらも起こす為に遊矢はコナミを揺する。

 

「おいコナミ、起きろ。目覚まし時計改造しただろお前!」

 

「んむ……代……それオレのシャケ……」

 

「痛い痛い痛い!俺ダイじゃないから!腕掴むのやめて!何だこいつ握力凄い!」

 

寝惚けているのかコナミは寝言を言いながら遊矢の腕を掴み、ギチギチと力を込める。どこからそんな馬鹿力を出しているのか、遊矢は余りの痛さに目に涙を溜めてバンバンとコナミの背をタップする。

 

「ちょっとうるさいよ遊矢。ふぁ~あ……僕先に行くからね」

 

「ちょっ!素良待って!助けイダダダダ!折れる!折れるからぁ!」

 

そんな彼等に素良が目を擦りながら苦言を漏らし、部屋を出て行く。遊矢が助けを求め呼び止めようとするも既に姿は無い。

結局、コナミを起こすのに時間がかかり、その上朝食をゆっくり食べた為、2人は遅れて出る羽目になるのだった。

 

――――――

 

「あーもう!コナミがおかわりするせいで遅刻するかもしれないじゃないか!」

 

「そんなに言うな。今度エロ本貸してやるから」

 

「うるさいよ!ありがとう!」

 

舞網市にある長い上り坂、2人は会場までのその道を走っていた。大会の受付時間終了まで後10分を切ってしまった。このままでは出場する事も出来なくなってしまう。そんな時、コナミは最終手段を取る。

 

「仕方あるまい……来たれ!UMA!フスー」

 

「指笛吹けてない!」

 

「ヒヒィィィィィンッ!」

 

「来たよ!」

 

コナミが指笛を吹けずにフスーと抜けた音を放つと同時に太陽を背にUMAが跳躍し、駆けつける。何とも現実離れした光景ではあるが長々とツッコんでいる場合じゃない。

2人は急いでUMAの背に跨がり、コナミはUMAの手綱を握り、声をかける。

 

「待っていろナッシュ……今行くぞ!」

 

「誰だよ」

 

先程までとは比較にならない程の速度で坂を上るUMA。これなら何とか間に合いそうだ。遊矢が安堵の息を漏らし、胸を撫で下ろした時、今度は別の問題が発生する。

そう、坂を上ったと言う事はつまり、次は下りになると言う事だ。

 

「ちょっ!怖っ!もっとスピード落としてくれ!下り怖っ!UMA速っ!コナミ本当やめて!一生のお願いだから!死ぬ!下手したら死ぬ!」

 

「もっと速く疾走れー!!」

 

「やめろぉぉぉぉぉっ!!」

 

遊矢が制止の声を送るが時既に遅し。コナミは口元を歪ませ、強烈な顔芸を浮かべながらUMAの腹を蹴り、更に加速を促す。それを受けたUMAは任せろと言わんばかりに一鳴きし、下り坂を駆け抜ける。

その速度、恐怖は1種のアトラクション、気分はまるでジェットコースターである。安全装置もヘルメットも何も無いからその上を行くか。油断すると失禁しそうで堪ったもんじゃない。

 

「あ……ははははは。ディスカバー・ヒッポより……ずっと速い……」

 

何かが音を立てて崩れていくのを感じながら遊矢は呟く。目を見開き、口からは変な汁が飛び出したアレな状態。遊矢が正気に戻ったのは、会場について暫く経った後だった。

 

――――――

 

「遊矢、大丈夫か?『ウォーター・スピリット』みたいに顔が青いぞ」

 

「何故そのモンスターを引き合いに出したし……ウップ……もうジェットコースターとか怖くないな……」

 

「良かったな」

 

「うるさいよ!」

 

会場に着いた後、遊矢は真っ青な表情で吐き気を堪え、コナミに肩を貸してもらいながら歩いていた。何にせよ、間に合った。

受付のテーブルに肘をつき、呼吸を整えながらコナミに話を通してもらうように目で訴える。

 

「大会に出場したい。2人だ」

 

「は、はい。あの……そちらの方は大丈夫ですか?」

 

「だい……じょぶでふ……!」

 

「らしいよ」

 

受付の女性が心配そうな表情で遊矢の顔を伺う。遊矢はゼェゼェと息を整えながらも大丈夫と言うがどう見ても全然大丈夫じゃない。

女性は余り喋らせるのは不味いしここまで急いだのだから応えるべきだろうと思い、慌てて用紙を取り出す。

 

「こっこちらに名前と所属塾を書いてください」

 

「遊矢、お前の分だ。ボールペンここに置いておくぞ?」

 

「お……おう……!」

 

漸く落ち着いたようだ。用紙に名前と所属塾を書き、コナミと遊矢はデュエルディスクのパネルを操作し、対戦記録を女性へ見せる。これで――。

 

「はい、コナミさんと榊 遊矢さんですね。登録しました! 」

 

「いよっ……しゃぁぁぁぁぁっ!」

 

2人は舞網チャンピオンシップの出場資格を得た。ここまで短いようで長く、険しい獣道だった。それでも2人は闘い、勝利を掴み取ってきた。その努力が今報われた。

そして、闘いは新たなステージへ。

 

「ふふっ、ではもう少しで開会式なので、時間にはスタジアムに集まってください」

 

「はい!」

 

遊矢の嬉しそうな様子に苦笑しながら連絡事項を伝える女性。遊矢も元気一杯と言った様子で返事をし、その場を離れる。

次は遊勝塾のメンバーを探さなければいけない。そう思考した所で、丁度柚子がこちらに駆けてくる姿が目に入り、遊矢は手を振る。が、しかし。

 

「おーい柚子ー!こっちぐべぇっ!」

 

「ぐもふっ」

 

コナミと共々ハリセンで床に叩き伏せられ蛙が潰れたような声を出してしまう。痛い。

一体何なのだ、柚子の顔を伺うように見上げたそこには……修羅がいた。

 

「……遅刻した上に連絡の1つも寄越さないなんてね……!」

 

「あ、えっとその……」

 

どうしたものか、確かに報告、連絡、相談の報連相を1つも送らなかったのは失態だった。何とかこの場を逃れようと助けを求めるような視線をコナミに送るも無理なようだ。

その証拠に伏せたままこの場から逃げようとゴキブリの如くカサカサと少しずつ動いている。

ダメだこいつ宛になんねぇ。遊矢は自分を置いて逃げようとするコナミのジャケットをグッと握り、覚悟を決める。これしかない。

 

「さぁ?言い訳は?」

 

「「こいつが悪い」」

 

「ギルティ」

 

瞬間、2人はまたも叩き伏せられた。

 

「ぬぉぉぉぉぉ……!」

 

「反省しなさい。全く……心配したのよ?」

 

「悪かったよ……次からは気をつけます」

 

「ごめんなさい」

 

痛む頭を抑えながら立ち上がり、2人して頭を下げる。2人共ちゃんと反省はしているのだ。ただここはボケなきゃダメかなと思って互いに指を差して罪を擦り付けたのだ。

決して本当に仲が悪い事は無い……筈である。

 

と、そんな所に第3者が現れる。随分と体格の良い男だ。学生服を着、赤いソフトモヒカンと太い眉毛が特徴的な少年。

その姿に遊矢は見覚えがあった。悪い意味でだが。

 

「あれぇ?誰かと思えば臆病者の息子じゃないかぁ?」

 

「お前は……暗黒寺 ゲン……!」

 

暗黒寺 ゲン。遊矢にとって少なからず因縁の相手だ。ニヤニヤとこちらを馬鹿にするような表情を見れば過去の思い出が蘇る。

昔は泣かされてばかりだったが――今は、違う。遊矢は強くなった。権現坂の背に守られなくとも、立ち向かえる。

今度はこちらが、笑わせてやる番だ。

 

「今の俺は昔の俺とは違うぞ」

 

「はっ!どうかな?俺と当たっても泣いて逃げるなよ?」

 

「それはどうかな?」

 

「ッ!?誰だ!?」

 

更に現れる来訪者の声に暗黒寺が振り返る。そこにいたのは紫の癖毛が特徴的な少年。

その身には三国志にでも出てきそうな中華風の鎧を思わせる服を着ており、所々破け、生傷が見えている。また鼻の頭に一文字に結ばれた傷を始め、獣の爪痕のような傷もあり、中学生とは思えぬ風格を醸し出している。

常人でも一目見ただけで達人と理解できる彼の名は――。

 

「自分は勝鬨 勇雄。何、貴様と同じく、1度は闇に生きた者だ」

 

勝鬨 勇雄。少し前までは今は解散した梁山泊塾に籍を置き、そして現在は変人揃いの、いや、達人揃いの少森寺塾に通い、業を磨く少年であり、コナミ達の悪友だ。

その名を聞いた暗黒寺は何だとと目を見開くが無理もない。この勝鬨、実は昨年のチャンピオンシップでは準優勝を成し遂げたちょっとした有名人なのだ。尤も、彼は卑劣な手で得た勝利を恥ずべき行為と認め、今となっては黒歴史となっているが。

 

「馬鹿な真似をした先輩として忠告してやろう。もう少し肩の力を抜く事だ」

 

「……チッ、昔のお前の方が見応えあったんだがな……白けちまったぜ」

 

そう捨て台詞を吐き、その場を去っていく暗黒寺。その肩を怒らせた背中に勝鬨はフッと苦笑と溜め息を溢し、彼の姿を見送る。

空気気味だったコナミもそれに追従し、勝鬨と同じく視線を向け、その口よりポツリと呟く。

 

「「……ネタキャラになる未来しか見えない……」」

 

暗黒寺の明日はどっちだ。哀れみを含んだ瞳で暗黒寺の姿が見えなくなるまで、2人は視線を離さなかった。勝鬨が言う分、その台詞には妙な説得力がある。

 

「ありがとう勝鬨」

 

「礼はいらない。お前には昔、光を見せてくれた恩がある」

 

「えっ?」

 

「そろそろ時間だ。スタジアムに行こう」

 

そう言えばそろそろ集合の時間となるようだ。顎でスタジアムを差す勝鬨に従い、3人はスタジアムに向かって歩く。

その先に楽しいデュエルがあると信じて――尚、待っていたのは訳も分からぬままに立たされた選手宣誓だとは、この時の遊矢は思いもしなかった。

 

――――――

 

「くくっ……せんちぇー!だってお」

 

「やめろよ刃ぁ!皆もクスクス笑うなよぉ!」

 

舞網チャンピオンシップ開始の宣言を受けた会場にて、遊矢達は他塾の者達も交えて談笑していた。肴は遊矢の選手宣誓である。

内容は見事なものだったが始めに緊張の余り噛んでしまった事が失態だった。今はその事をいじり倒され、皆でウェイウェイウェイウェイとアホな大学生の如く楽しんでいる。

 

「笑えよ遊矢。皆がお前のお陰で笑ってるゾ」

 

「笑わせるのと笑われるのは天と地程の差があるんだよぉ!」

 

コナミが遊矢の肩にポンと手を置き慰めるが逆効果だったようだ。遊矢は権現坂の言葉を借りてやめてよ、やめてよーと頭を振ってどうにか沈静化を計る。しかし悲しいかな、この場にいる者達は中々イイ性格をしている。

 

「そっ、そうだ!皆の対戦相手は誰だったんだ!?」

 

「話を逸らしたか……俺は権現坂とだ」

 

「うむ。師弟対決だな」

 

「私は真澄とね」

 

「オレは北斗とか。遊矢は?」

 

「俺は第5試合で沢渡。って遊勝塾対LDSって感じだな」

 

「そうだねー。僕も……LDSの黒咲って奴だし」

 

チラリ、素良がキャンディーを口に含みながら笑った目を対戦相手へと向ける。そこにいたのはまるで瞑想するかのように瞼を閉じ、仁王立ちする男の姿。

赤いスカーフに草臥れたコートを羽織ったその男に遊矢と柚子は見覚えがあった。

黒咲 隼。遊矢にとっては自分にアドバイスをくれた恩人?であり、柚子にとっては別人に間違えられ、暴走した所をユートに腹パンされた男だ。彼を視界におさめた遊矢は笑みを浮かべて近づいていく。

 

「おーい、黒咲!お前もこの大会に出てたんだな!」

 

「……お前は確か……榊 遊矢、だったか……」

 

「ああ、黒咲も出てたんだな。対戦する事になったらよろしくな!」

 

そう言ってスッ、と右手を差し出す遊矢。握手をしたいと言う事だろう、しかし黒咲はそれを一瞥するだけで踵を返してその場を立ち去る。

後に残されたのは目をパチクリと瞬かせる遊矢のみだ。

 

「……知り合いか?遊矢」

 

「ああ、仲好くしたいんだけどな……」

 

「……強いな……奴に認められたいなら、恐らく実力で認めさせないと無理だろう」

 

コナミが素直に強いと認める程の男、黒咲 隼。闘うならば一筋縄ではいかないだろう。それでも――遊矢はその鉄仮面の奥に眠る笑顔を、見たいと思った。本人も気づかない内に、エンタメデュエリストの血が、そう言っているのだ。

 

「そう言えば、勝鬨の対戦相手は誰だった?」

 

遊矢は沢渡と。コナミは北斗と。柚子は真澄と。権現坂は刃と。素良は黒咲と。ならば勝鬨は一体誰と闘うのだろうかとふと興味が沸き尋ねる遊矢。

勝鬨は腕を組み、フッ、と笑った後、電光掲示板の対戦カードへと視線を移す。するとそこに、パッ、と1回戦のカードが出現する。

 

『さぁー、記念すべき1回戦!第1試合は――少森寺塾所属、勝鬨 勇雄選手対!暗黒寺 ゲン選手!』

 

1時間後に迫る第1試合、対戦者は――互いに、甘くはない。

 

――――――

 

「来たか……」

 

ある次元、ある空間、ある所にて、その者達は集った。本来ならあるべきではない存在達が、顔を会わす筈が無い者達が、1つの目的の為、一堂に会している。

中心に立った白いマントに身を包み、無地の仮面で自らの存在を覆った男。その背後に現れるのは3つの者達、黒いローブに身を包み、漆黒の仮面を着けた魔術師のような男、アムナエル。白いケープを被り、腰に剣を差した男、フードに鉤爪のようなモノが入ったマントを羽織った男。

 

「……後少し、後少しでこの街は戦場と化す。私達の、“笑顔”を取り戻す為に――」

 

それは、祈りか願いか、彼等は皆、自らの未来を望む。

 

「――デュエルを、始めよう――」

 

 




人物紹介 デュエリスト名鑑

榊 遊矢
所属 遊勝塾
この物語の主人公。ペンデュラム召喚を使うエンタメデュエリスト。
コナミとの出会い、数多くのデュエルを通し、本人も気づかない内にデュエルバカになっている。デュエル面でのメンタルはかなり強く、その観察眼で他のデュエリストのデュエルスタイルを自分のエンタメに取り入れる事が出来る。しかし人間的な精神は少年らしく未だに未熟であり、2クール通して信頼した仲間に裏切られると多分メンタルが死ぬ。
ツッコミ役も出来るが実はボケもこなせる。
デッキは『オッドアイズEM魔術師』、エースカードは『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』。

コナミ
所属 遊勝塾
もう1人の主人公であり、遊矢のライバル。赤帽子のデュエリスト。モデルはTFSPの主人公。
気がついたら舞網市にいた。常識外れであり、度々問題を起こすトラブルメーカーである。また、デュエルに関しては一流で、運と戦術、直感を頼りしている。が、何故か全盛期より腕は大きく落ちており、化物の枠には入れていない。
デュエル以外でも多芸であり、コミュ力とユーモアに富んでいる。コナミが本名かは不明である。現在はセレナとSALと共に柊家に居候、遊勝塾に所属、中々気に入っている。
また、舞網市に来るまでの記憶が抜け落ちており、喋る。本作独自設定もあるのでご注意を。
デッキは『漫画主人公オッドアイズ魔術師』と言った所か。エースカードは『オッドアイズ・ドラゴン』。






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第42話 ルールを守って楽しくデュエル!

プレデタープランツを使えばオベリオン君も活躍できるかもしれない、そうじゃないかもしれない。



「ハッ、まさかテメェと当たるなんてな」

 

「……」

 

歓声沸き起こるスタジアム、その中心にて、2人のデュエリストが対峙していた。1人は癖毛が特徴的な格闘少年、勝鬨 勇雄。

対するはどの塾にも所属していない暗黒寺 ゲンだ。暗黒寺はハン、と鼻を鳴らし勝鬨を挑発するが柳に風、勝鬨は瞼を閉じ、集中している。

 

「だんまりか……いいぜ、俺がテメェを以前までの勝鬨に戻してやろうじゃねぇか」

 

「フ、態々弱くなってどうする」

 

ヴォン、互いにデュエルディスクを構え、光輝くソリッドビジョンのプレートを展開する。暗黒寺も挑発してその手を鈍らせるのは無理だと理解したのだろう。つまらなそうな舌打ちを鳴らしながら勝鬨を睨む。

まぁ良い、こちらが焦る事はしない。暗黒寺は狡猾に、そして冷静に策を立てる。勝鬨のデッキは融合召喚を軸としたもの、切り札のイダテンさえ封じれば勝てない相手では無い。

 

『では!皆様お待たせしました!これより1回戦第1試合、勝鬨 勇雄選手対暗黒寺 ゲン選手のデュエルを始めます!アクションフィールド、発動!』

 

司会であるニコ・スマイリーが指を弾くと共にフィールドが光の粒子に包まれ、その姿を変えていく。

渦巻く荒波、その力強い自然に削られた断崖絶壁、険しい岩礁が切り立った絶海の孤島。まるで外からの助けなど一切遮断し、受け付けないと言わんばかりのフィールドだ。

 

「アクションフィールド、『絶海の孤島』か……ここがお前の墓場だ!」

 

「この程度の環境でくたばるのなら自分はここにはいない」

 

火花を散らす2人の視線。勝鬨にとってこの程度の獣道など話にならない。彼は少森寺塾の化物講師達に鍛え抜かれているのだ。あの地獄に比べれば笑ってしまう。

彼が往くのは修羅の道、何故か野球が上手くなってしまったがあくまでオマケだ。

 

「さぁ、行くぜ!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

アクションデュエル恒例の口上がスタジアム内で飛び交い、2人は互いにポージングを取っていく。何も知らない者からすると何ともシュールな光景だ。

 

「「アクショーン……デュエル!!」」

 

こうして、デュエルは始まる。果たして勝利の女神が微笑むのはどちらか。先行を取った勝鬨はデッキより加えた5枚の手札に視線を移し、その中より1枚のカードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「自分は『微炎星―リュウシシン』を召喚!」

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1800

 

現れたのは黄金色に輝く小さな龍を何体も連れた武人。攻撃力は1800、別段驚く事は無い数値だが……このモンスターの登場に暗黒寺は動揺し、目を見開く。

 

「『炎星』だと……!?馬鹿な!お前のデッキにはそんなカード……!」

 

「勘違いしているようだから教えてやる。このデッキは自分の師、郷田川が旅に出る時に譲り受けたもの……昔のものとは大きく違う!」

 

そう、勝鬨は元梁山泊塾塾長である郷田川に勝利した際、成長の証として、彼のデッキを貰ったのだ。

同じ中国の伝奇歴史水説、水滸伝をモチーフとしているが嘗てのデッキとは戦略性が全く違う。暗黒寺はてっきり融合召喚が主軸のデッキで闘う事を想定していた為、策が無駄となってしまった。

 

「永続魔法、『炎舞―「天枢」』発動!このカードがフィールド上に存在する限り、メインフェイズに1度だけ通常召喚に加え、獣戦士族モンスターを召喚でき、自分フィールド上の獣戦士族モンスターの攻撃力は100ポイントアップする!」

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1800→1900

 

「リュウシシンの効果でデッキより『炎舞―「天セン」』をセット、『殺炎星―ブルキ』を召喚」

 

殺炎星―ブルキ 攻撃力1700→1800

 

闘牛の姿をした青い炎を従えた武人がリュウシシンへと並び立つ。これでレベル4のモンスターが2体、準備は整った。勝鬨は新たに会得した力を行使する為に右腕を天へと掲げ、背後に黒き渦を出現させる。

 

「自分は2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『魁炎星―ソウコ』!」

 

魁炎星―ソウコ 攻撃力2200→2300

 

勝鬨の導きの元、黒き渦より飛び出したのは白炎の猛虎を背負い、金色の鎧を纏った武人。このカードこそ『炎星』デッキの主軸となるカード。猛虎が雄々しく吠え、暗黒寺へと威嚇し、暗黒寺はその気迫に思わず後ずさる。

 

まさかのエクシーズモンスターの登場に会場が沸き上がる。エクシーズモンスターはLDSに所属したデュエリスト位しか使用しない為、彼が使うなどと思って見なかったのだろう。

実は勝鬨も最近になってその仕組みを理解したばかり、郷田川と対戦した時は色々と酷かったのだ。

 

「ソウコがエクシーズ召喚した時、デッキより『炎舞』魔法、罠カード1枚をフィールドにセットする!自分は『炎舞―「天キ」』をセットし、オープン!その効果により、デッキからレベル4以下の獣戦士族モンスター、『立炎星―トウケイ』を手札に加える。更にこのカードがフィールド上に存在する限り、自分フィールド上の獣戦士族モンスターの攻撃力は100アップする!」

 

魁炎星―ソウコ 攻撃力2300→2400

 

『炎舞』カードの効果によりソウコの攻撃力が2400、所謂帝ラインまで上がる。永続魔法を組み込んだカテゴリ、ソウコのテキストを見るに永続罠も中心になっているのかもしれないと暗黒寺は推測する。こう見えてこの男、頭が回るのだ。

 

「自分はカードを1枚セットしてターンエンド」

 

勝鬨 勇雄 LP4000

フィールド『魁炎星―ソウコ』(攻撃表示)

『炎舞―「天枢」』 『炎舞―「天キ」』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!俺は『バーバリアン3号』を召喚!」

 

バーバリアン3号 攻撃力1000

 

「『バーバリアン3号』の効果!このカードの召喚成功時、手札より『バーバリアン4号』を特殊召喚!」

 

バーバリアン4号 守備力1200

 

「速攻魔法発動!『地獄の暴走召喚』!攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚に成功した時、同名モンスターを手札、デッキ、墓地より特殊召喚する!相手も特殊召喚出来るが……テメェのモンスターはエクストラデッキのモンスター!よって俺のフィールドにのみモンスターが特殊召喚される!」

 

バーバリアン4号 攻撃力1200×2

 

暗黒寺の場に4体の『バーバリアン』モンスターが揃う。低攻撃力である事を逆手に取った大量展開、しかも厄介なのは『バーバリアン4号』だ。

このモンスターは1ターンに1度『バーバリアン』モンスターへの攻撃を無効にする。つまり3回も攻撃を防がれる訳だ。壁は厚い。

 

「ハッ!4号の効果が邪魔って顔だなぁ?安心しろよ、あくまでこいつ等はリリース要因だ」

 

「何?」

 

「焦るなよ!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップから10枚のカードを除外し、2枚ドロー!」

 

暗黒寺 ゲン 手札2→4

 

「いくぜ!『バーバリアン3号』と『バーバリアン4号』2体をリリースし、手札より『バーバリアン・マッド・シャーマン』を特殊召喚する!」

 

バーバリアン・マッド・シャーマン 攻撃力2000

 

3体もの『バーバリアン』を糧として新たな『バーバリアン』が現れる。

本来力強く、筋肉質なフォルムとは違いしなやかで白い不気味なフォルム、 首に巻かれたボロボロのマント、顔、そして両腕に肉食恐竜の頭蓋を纏わせ、両腕のそれからは血を思わせるような赤い刃が伸びている。

攻撃力2000、大量のモンスターを失ってまで釣り合う数値では無い。であるならば――警戒するべきは、その効果。勝鬨は眉を吊り上げ、デュエルディスクを構える。

 

「ハハッ!危機感知能力は獣染みてるなぁ!『バーバリアン・マッド・シャーマン』の効果!ソウコを対象としてコントロールを得る!」

 

「コントロール奪取効果か……!永続罠、『炎舞―「天権」』!発動時ソウコを選択し、このカードを発動したメインフェイズ1の間だけソウコの効果は無効となり、このカード以外の効果を受けない!更にこのカードがフィールドに存在する限り、獣戦士族モンスターの攻撃力は300アップする!」

 

魁炎星―ソウコ 攻撃力2200→2500

 

「チッ、獣の癖に対策札まで用意してやがったか……!なら永続魔法、『一族の結束』!墓地のモンスターの種族が1種のみの場合、自分フィールド上のその種族のモンスターの攻撃力を800アップする!」

 

バーバリアン・マッド・シャーマン 攻撃力2000→2800

 

バーバリアン4号 攻撃力1200→2000

 

「さぁ、バトルと行こうぜ!『バーバリアン・マッド・シャーマン』で『魁炎星―ソウコ』へ攻撃!」

 

勝鬨 勇雄 LP4000→3700

 

『バーバリアン・マッド・シャーマン』の腕の赤き刃がソウコの金色の鎧を砕き、その破片が勝鬨に襲いかかる……が、その超人的な身体能力を活かし、拳と蹴りをもって全ての破片を砕く!……デュエルなのでダメージは受けるが。

 

「ソウコがフィールドより墓地に送られた時、フィールドの『炎舞』魔法、罠カード3枚を墓地へ送る事で同じ攻撃力を持つレベル4以下の獣戦士族モンスターをデッキより守備表示で特殊召喚する!現れろ!『英炎星―ホークエイ』!『捷炎星―セイヴン』!」

 

英炎星―ホークエイ 守備力1500

 

捷炎星―セイヴン 守備力1500

 

現れたのは金色に燃える鷹と烏を連れた2人の武人。本来なら後続のエクシーズモンスターを出す為の効果なのだろう。尤も壁モンスターとしても厄介だが。

 

「面倒な事を……!俺は『バーバリアン4号』でセイヴンを攻撃!」

 

「セイヴンがフィールドより墓地へ送られた場合、デッキから『炎舞』魔法カード1枚を選んでフィールドにセットする!『炎舞―「天キ」』をセット!」

 

「サーチカードか……!俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

暗黒寺 ゲン LP4000

フィールド『バーバリアン・マッド・シャーマン』(攻撃表示) 『バーバリアン4号』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「自分のターン、ドロー!自分は『炎舞―「天キ」』を発動!デッキより『暗炎星―ユウシ』を手札に加える。更にホークエイと『炎舞』カードが存在する場合、『炎星』モンスターの攻撃力は500アップする!そして自分は『立炎星―トウケイ』を召喚!」

 

立炎星―トウケイ 攻撃力1500→2100

 

英炎星―ホークエイ 守備力1500→2000

 

3羽目の鳥がフィールドを駆ける。現れたのは紫の鶏を肩に止まらせた槍を持つ武人。『炎星』モンスターの中で要となる1枚だ。

 

「『炎舞―「天キ」』を墓地へ送り、トウケイの効果発動!デッキより『炎舞―「天枢」』をセット、オープン!『暗炎星―ユウシ』を召喚!」

 

暗炎星―ユウシ 攻撃力1600→2200

 

太陽のように山吹色に燃える熊を連れた顔に傷のある武人がフィールドに見参する。これで勝鬨の場には3体のモンスター、充分に動ける範囲だ。

勝鬨を孤島の中を駆けながら更に手を打つ。

 

「『炎舞―「天枢」』を墓地に送り、ユウシの効果発動!『バーバリアン・マッド・シャーマン』を破壊する!」

 

「だがこれでホークエイの効果は消える!」

 

「充分だ。自分はレベル3のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『炎星皇―チョウライオ』!」

 

炎星皇―チョウライオ 攻撃力2200

 

腹部と炎に守の文字を持ち、獅子を従えたエクシーズモンスターが姿を見せる。ホークエイの強化が消えたのなら元から高い攻撃力のモンスターを出せば良いだけ。

『一族の結束』によって高い攻撃力を得た『バーバリアン・マッド・シャーマン』は破壊した。次は残っているモンスターだ。

 

「チョウライオのORUを1つ取り除き、効果発動!墓地のリュウシシンを手札に加える。バトルだ!チョウライオで『バーバリアン4号』を攻撃!」

 

「『バーバリアン4号』の効果でその攻撃を無効!」

 

「ならば『暗炎星―ユウシ』で攻撃!」

 

「ッ!アクションマジックか!」

 

「その通りだ!アクションマジック、『オーバー・ソード』!ユウシの攻撃力を500アップする!」

 

暗炎星―ユウシ 攻撃力1600→2100

 

暗黒寺 ゲン LP4000→3900

 

「自分はこれでターンエンドだ」

 

勝鬨 勇雄 LP3700

フィールド『炎星皇―チョウライオ』(攻撃表示) 『暗炎星―ユウシ』(攻撃表示)

セット1

手札3

 

「俺のターン、ドロー!永続罠、『リビングデッドの呼び声』!墓地の『バーバリアン・マッド・シャーマン』を蘇生する!」

 

バーバリアン・マッド・シャーマン 攻撃力2000→2800

 

「何!?『バーバリアン・マッド・シャーマン』は自身の効果以外では召喚できないのでは無いのか!?」

 

「残念だったな!こいつは普通にアドバンス召喚できるし、蘇生もできるんだよ!」

 

あのような召喚を見た為、勘違いした勝鬨がぎょっ、と目を見開き、勝鬨る。コントロール奪取と言う強力な効果を持つ割には緩過ぎる。

どこぞの紙のカードとは違う。しかし成長しても想定外の事が起こった時、勝鬨る癖は抜けてないようだ。

 

「マッド・シャーマンの効果!チョウライオのコントロールは頂くぜ!」

 

「くっ、さそうおどりだと!?ああっチョウライオがふしぎなおどりを!?」

 

『バーバリアン・マッド・シャーマン』が自身の効果により奇妙な踊りを踊り出し、それに連れられたチョウライオがまたもや奇妙な踊りを踊りながら暗黒寺のフィールドに誘われていく。

これには暗黒寺も口元を引き吊らせる。

 

「な、なんか違うがまぁ、良い、マッド・シャーマンでユウシを攻撃!」

 

「アクションマジック!『回避』!」

 

「アクションマジック『ノーアクション』!アクションマジックの発動を無効にし破壊する!」

 

「なっ!?ぐぅっ……!」

 

勝鬨 勇雄 LP3700→2500

 

マッド・シャーマンの攻撃が勝鬨へ襲いかかる。その強力な鉄拳を勝鬨は腕をクロスさせる事で防ぐがLPへのダメージは防ぎ切れない。

『回避』を使わずに罠カードを使うべきだったか、いや、『バーバリアン・マッド・シャーマン』を倒す為に温存すべきだと切り変える。

 

「チョウライオでダイレクトアタック!」

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!戦闘ダメージを0に!」

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!リビングデッドをコストに2枚ドロー!」

 

暗黒寺 ゲン 手札1→3

 

「俺は魔法カード、『光の護封剣』を発動し、カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

暗黒寺 ゲン LP3900

フィールド『炎星皇―チョウライオ』(攻撃表示)

『一族の結束』『光の護封剣』セット1

手札1

 

「どうしたぁ!?これで終わりかぁ!?」

 

「終わりだと?ここからが面白い所だろう!」

 

「何……!?」

 

暗黒寺が勝鬨が苦戦する姿を見て嘲笑する。こんなものか、と。やはり昔の、荒々しい妨害をしていた彼こそが本物の勝鬨なのだと。

しかし勝鬨はその挑発を鼻で笑う。そんなものが無くても闘える。そんなものが無いからこそ闘い続けられる。この未知なる楽しさを味わえる。デュエルができる。

 

「自分のターン、ドロー!『微炎星―リュウシシン』を召喚!」

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1800

 

「手札より『炎舞―「玉衝」』を発動!お前のセットしたカードの発動を封じる!更に共通効果によりリュウシシンの攻撃力を上げる!」

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1800→1900

 

「自分が『炎舞』カードを発動した事により、リュウシシンの効果発動!デッキより『炎舞―「天権」』をセット!更に永続罠、『炎舞―「天セン」』を発動!リュウシシンの攻撃力を700アップ!共通効果により300アップ!」

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1900→2900

 

「まだだ!天センを墓地に送り、『マジック・プランター』発動!2枚ドロー!」

 

勝鬨 勇雄 手札2→4

 

「馬鹿が!折角チョウライオの攻撃力を上回っていたのによ!」

 

「馬鹿を舐めて貰っては困る!3枚目の天キを発動!デッキから『雄炎星―スネイリン』を手札に加え、2枚の『炎舞』カードを墓地へ送り、リュウシシンの効果発動!墓地より『立炎星―トウケイ』を特殊召喚!」

 

立炎星―トウケイ 攻撃力1500

 

「トウケイの効果発動!このカードが『炎星』モンスターの効果で特殊召喚された時、デッキから『炎星』モンスターを手札に加える!『孤炎星―ロシシン』を手札に加え、『炎舞―「天枢」』発動!」

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1500→1600

 

立炎星―トウケイ 攻撃力1500→1600

 

「『雄炎星―スネイリン』を召喚!」

 

雄炎星―スネイリン 攻撃力1800→1900

 

「レベル4のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『間炎星―コウカンショウ』!」

 

間炎星―コウカンショウ 攻撃力1800→1900

 

勝鬨がエクストラデッキから排出されたカードを掴み、モンスターゾーンへ叩きつける。現れたのは白い鎧と剣を持ち、立派な髭をたくわえた道士。その背後では青い炎の翼を翻した紅冠鳥が金切り声の如く高く張りつめた鳴き声を上げる。

攻撃力は僅か1800。『炎舞』カードの効果を受けても1900だ。その点では先程のリュウシシンの方が上、態々2体のモンスターを使ってまで召喚するモンスターではない。

 

暗黒寺はニヤリと馬鹿にするように笑みを歪めるが――このモンスターの恐るべき力はその効果、『バーバリアン・マッド・シャーマン』と同じだ。

 

「コウカンショウのORUを2つ取り除き、効果発動!自分の墓地の天キと天枢、お前のフィールドのチョウライオと『光の護封剣』をデッキへ戻す!」

 

「チッ、速攻魔法発動!『エネミーコントローラー』!チョウライオをリリースし、コウカンショウのコントロールを得る!」

 

「『炎舞―「天枢」』を墓地へ送り、トウケイの効果発動!デッキより『炎舞―「揺光」』をセット、オープン!発動時、コウカンショウを選択!手札の『孤炎星―ロシシン』を捨て、コウカンショウを破壊する!」

 

「何!?」

 

トウケイの肩に止まった炎の鶏が羽ばたき、コウカンショウを撃ち抜く。有無を言わさぬ洗練されたプレイング、それによって暗黒寺のフィールドががら空きとなった。

 

「トウケイでダイレクトアタック!」

 

暗黒寺 ゲン LP3900→2300

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

勝鬨 勇雄 LP2500

フィールド『立炎星―トウケイ』(攻撃表示)

『炎舞―「揺光」』セット2

手札1

 

飛び交うカードの応酬、激しい攻防に観客達が沸き立つ。勝鬨は今までのデュエルでは味わえなかった快感を改めて実感する。

だが自分の力はまだまだこんなものではない。勿論それは暗黒寺もそうだろう。ここからが本番、見せようではないか、デュエルと言う演舞、いや、熱く燃え上がるような『炎舞』を。

 

「何笑ってやがる……?」

 

未だダメージが抜け切っていないのか、暗黒寺が膝の埃を払いながら立ち上がる。その表情は勝鬨とは違い、怒りに染まり、肩を震わせている。

 

「もう勝った気か……舐めるなぁ!勝って最後に笑うのは俺だぁ!」

 

「今笑えぬ者が最後に笑えるかぁ!」

 

ゴウッ、闘志を剥き出しにした一喝に勝鬨を中心として風が舞い、木の葉を散らす。ビリビリと空気を震わせるそれに暗黒寺が思わず後ずさる。

ボロボロの姿、押せば倒れる程しかないライフなのに呑まれているのは暗黒寺の方だ。それでもその闘気をプライドで振り払い、デッキに手を翳す。

 

「うるせぇ……!どいつもこいつも甘ったるい事言ってんじゃねぇよ!勝てば正義だ!勝てば強者だ!俺のターン、ドロー!」

 

来た。この状況を引っくり返す1枚のカードにニヤリとほくそ笑む暗黒寺。だが――それを見てまた、勝鬨もまた、笑みを溢す。

 

「ふん、何だ。お前もデュエルを楽しんでるじゃないか」

 

「なっ!?何言ってんだテメェ!」

 

クックッと笑い声を漏らす勝鬨の台詞を聞いて、慌てたように顔を赤くして目を見開く暗黒寺。誰得である。

 

「自分の知恵を絞り、作ったデッキ、信頼するカード達だ。こんな逆境でデッキが応えてくれたからこそお前は笑った。フッ、自分なんかより余程デュエルを楽しんでいると見た」

 

「違う、違う、違う!俺はテメェを叩き潰せると思って!」

 

「デッキを信頼する点は否定しないのか?」

 

「ッ!」

 

ドヤァ、図星だと分かったのか、勝鬨が口角を持ち上げてこれ以上ない位ウザいドヤ顔を披露する。

結局の所、暗黒寺もデュエリストなのだ。カードを集め、考え抜き、作り上げたデッキ。究極的に言えば昔の勝鬨のような事情が無ければデュエリストは皆、デュエルを楽しんでいるのだ。

どれだけ悩もうとも、どれだけ心ない事を言っても、“デュエル”をしている時点で、心の底では楽しんでいる。分かり合える。

 

「~~ッ!俺はッ!魔法カード、『死者蘇生』を発動!墓地の『バーバリアン・マッド・シャーマン』を特殊召喚!」

 

バーバリアン・マッド・シャーマン 攻撃力2000→2800

 

蘇るは『バーバリアン』の降霊術師。暗黒寺の切り札が3度フィールドに踊り出る。制限のないコントロール奪取に加え、『一族の結束』の効果で最上級モンスターに相応しい攻撃力を得ている。

 

「マッド・シャーマンの効果ぁ!トウケイのコントロールを奪う!」

 

「永続罠、『炎舞―「天権」』!トウケイはこのターン、このカード以外の効果を受けない!」

 

立炎星―トウケイ 攻撃力1500→1800

 

だがこれでも足りない。先程からフィールドを駆けているもののアクションカードが見当たらない――あった、しかし場所は遥か上空、今から木々を登ってジャンプしても間に合わないが――これはアクションデュエル。モンスターと共に宙を舞う。

 

「トウケイ!」

 

勝鬨がトウケイに目配せし、トウケイも察したのか静かに頷き、背後で羽ばたく炎の鶏を勝鬨の元へ向かわせる。

鶏はその脚で勝鬨の肩を掴んで空へと飛翔する。が――そう簡単にはいかない。全てを察した暗黒寺もまたモンスターへと指示を出す。

 

「させるか!マッド・シャーマン!攻撃ついでに邪魔をしろ!問題ねぇよなぁ!何たってモンスターを使っての妨害はありなんだからよぉ!」

 

そう、デュエリスト自身が妨害をするのはグレーゾーンだがモンスターを使っての妨害はルール上有効だ。それを理由にマッド・シャーマンへと指示を出し、それを受けたマッド・シャーマンがモンスター特有の脚力で地を蹴り、勝鬨の前に現れ、血色の刃で襲いかかる。

 

このままではその凶刃によって切り裂かれる――が、彼は勝鬨 勇雄。リアルファイトに置いては引けを取らない。

例えそれが――攻撃力2800のモンスターでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少森寺拳法――『ゴギガ・ガガギゴ』突き!!」

 

ギュルリ、ドリルのように手刀を半回転し、その勢いを殺さずに槍の如く鋭い突きを常人離れした速度でマッド・シャーマンの赤き刃へ向けて放つ。

ガキィィィィィンッ!金属がぶつかり合うような甲高い音が響き渡る。そして――バキリ、威力で負けた刃は折れ、宙を舞い、カランと落ちる。

 

「アクションマジック――『回避』(物理)!」

 

頭がおかしい。ちょっと本気で頭をノックしたいと思ってしまう程に今の勝鬨は色々おかしかった。

その証拠に対戦相手である暗黒寺は勿論、会場の全員が静まり返っている。が、流石と言うかプロであるニコはいち早く我に返り、マイクに向かってコメントを放つ。

 

『な、な、なぁぁぁぁぁんとっ!?勝鬨選手っ!モンスターの妨害をものともせず!むしろ『バーバリアン・マッド・シャーマン』の刃を砕いてしまったぁぁぁぁぁっ!!これぞアクションデュエリストォォォォォッ!!』

 

「コナミ、あれって大丈夫なのか?」

 

「いいんでね?頭は手遅れだけど」

 

お前が言うな。

 

「なっ、は、はぁぁぁぁぁっ!?そっそんなんありかよっ!?」

 

「今の師は言っていた。努力せずに出来るのが天才ではない、人に出来ぬ事を成し遂げるのが天才だと」

 

「バカと天才は紙一重だわ!!クソッ!ターンエンド!」

 

暗黒寺 ゲン LP2300

フィールド『バーバリアン・マッド・シャーマン』(攻撃表示)

『一族の結束』

手札1

 

フッ、と鼻で笑い、ドヤ顔を見せる勝鬨とその奔放さに思わずヤケクソ気味に吐き捨てる暗黒寺。

それも仕方無いだろう。それ程までに目の前の少年は破天荒だ。

 

「自分のターン、ドロー!行こうか!『炎舞―「天権」』を墓地へ送り、『マジック・プランター』!2枚ドロー!」

 

勝鬨 勇雄 手札1→3

 

「墓地の『炎舞―「天キ」』、天枢2枚、天権2枚、玉衝、天セン、合計7枚の『炎舞』を除外し、罠発動!『極炎舞―「星斗」』を発動!墓地より『炎星』モンスターを可能な限り特殊召喚する!」

 

「ッ!手札の『増殖するG』の効果発動!」

 

「構わん!来い!ユウシ、ロシシン、リュウシシン、スネイリン!」

 

暗炎星―ユウシ 攻撃力1600→1700

 

孤炎星―ロシシン 守備力1400

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1800→1900

 

雄炎星―スネイリン 攻撃力1800→1900

 

暗黒寺 ゲン 手札0→1

 

「そして特殊召喚したモンスターの数だけデッキから『炎舞』をセットする!自分は天キ、天枢、天センをセットし、揺光を墓地へ送り、ユウシの効果によってマッド・シャーマンを破壊する!」

 

「アクションマジック、『透明』!『バーバリアン・マッド・シャーマン』に耐性を与える!」

 

ユウシの背の熊が雄叫びを上げてマッド・シャーマンに飛びかかる。しかし暗黒寺によるサポートでマッド・シャーマンの姿が消え、破壊をかわす。

 

「スネイリンの効果発動!1ターンに1度、『炎舞』カードがフィールドより墓地へ送られた場合、デッキから『炎舞』罠カードをセットする!『炎舞―「開陽」』セット!更に永続魔法、ダブルオープン!天キ!天枢!天キの効果でデッキから『勇炎星―エンショウ』を手札に加え、スネイリンの効果で天キと天枢を墓地に送り、1枚ドロー!」

 

勝鬨 勇雄 手札4→5

 

「ユウシとスネイリンでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『間炎星―コウカンショウ』!」

 

間炎星―コウカンショウ 守備力2200

 

暗黒寺 ゲン 手札1→2

 

再びフィールドに現れた強力な力を宿した道士。だが今のマッド・シャーマンは相手の効果を受けない。いくらデッキへと戻すと言う高いレベルの除去能力を有していようと無駄になる。

 

「コウカンショウのORUを2つ取り除き、効果発動!自分の墓地の天キと天枢、お前の墓地の『バーバリアン4号』2体をデッキに戻す!」

 

「墓地までもかよ……!」

 

「更に『勇炎星―エンショウ』召喚!」

 

勇炎星―エンショウ 攻撃力1600

 

「レベル4エンショウにレベル4のロシシンをチューニング!シンクロ召喚!『コウ炎星―リシュンキ』!」

 

コウ炎星―リシュンキ 攻撃力2000

 

暗黒寺 ゲン 手札2→3

 

光輪を弾かせ、堂々たる姿を見せたのは華美な衣装を纏った商人。その周りには伝説の中でも最上級の力を持つ麒麟を象った黒い炎が漂っている。

 

「シンクロ召喚まで……!」

 

「リシュンキがシンクロ召喚に成功した時、デッキから『炎舞』カードをセットする!天枢をセット!オープン!」

 

間炎星―コウカンショウ 攻撃力1800→1900

 

コウ炎星―リシュンキ 攻撃力2000→2100

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1800→1900

 

立炎星―トウケイ 攻撃力1500→1600

 

「天枢の効果で『猛炎星―テンレイ』を召喚!」

 

猛炎星―テンレイ 攻撃力1100→1200

 

「テンレイとリュウシシンでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『魁炎星―ソウコ』!」

 

魁炎星―ソウコ 攻撃力2200→2300

 

暗黒寺 ゲン 手札3→4

 

「ソウコがエクシーズ召喚に成功した事で天キをセット、オープン!魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地のソウコ、コウカンショウ、チョウライオ、ロシシン、エンショウをデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

勝鬨 勇雄 手札2→3

 

「魔法カード、『死者蘇生』を発動!墓地より『英炎星―ホークエイ』を特殊召喚!」

 

英炎星―ホークエイ 守備力1500→2000

 

魁炎星―ソウコ 攻撃力2300→2900

 

間炎星―コウカンショウ 攻撃力1900→2500

 

コウ炎星―リシュンキ 攻撃力2100→2700

 

立炎星―トウケイ1600→2200

 

暗黒寺 ゲン 手札4→5

 

「さぁ、バトルだ!ソウコで『バーバリアン・マッド・シャーマン』へ攻撃!」

 

「ぐっ、アクションマジック、『奇跡』!このターン、マッド・シャーマンは戦闘で破壊されず、ダメージは半分になる!」

 

暗黒寺 ゲン LP2300→1850

 

「リシュンキで追撃!」

 

「うぐっ……!アクションマジック、『大脱出』!バトルを終了する!」

 

このまま『バーバリアン・マッド・シャーマン』が破壊され、フィールドががら空きにされては集中攻撃を受け、敗北してしまう。燃え盛る火の手から逃れる為、暗黒寺は走行途中掴み取っていたアクションマジックで難を逃れる。

 

しかし最早ボロボロの姿となったエースカードを見て、暗黒寺が眉を吊り上げる。

このターンの攻撃は凌いだが相手フィールドには5体ものモンスター。敗北の色は濃厚だ。LPが少なくとも勝てる気がしない。絶望しかない。

 

「自分はトウケイは守備表示に変更し、カードを1枚セットしてターンエンド」

 

勝鬨 勇雄 LP2500

フィールド『魁炎星―ソウコ』(攻撃表示)『間炎星―コウカンショウ』(守備表示)『コウ炎星―リシュンキ』(攻撃表示)『立炎星―トウケイ』(守備表示)『英炎星―ホークエイ』(守備表示)

『炎舞―「天キ」』『炎舞―「天枢」』セット3

手札1

 

右手がガチガチと情けなく震える。何だこれは、あれだけ相手を馬鹿にした結果がこれか。回ってきたツケがこれか。

もう何もかもが馬鹿らしくなってきた。溜め息を吐き出し、つまらなそうな顔でフィールドの『バーバリアン・マッド・シャーマン』を見据える。ボロボロで、これ以上なくみっともない自分が一番大嫌いな姿。

これ以上エースカードのそんな姿を見たくない。そう思い、自らのデッキの上へと、手を翳す。

 

「あーあ、もうつまんねーわ。負けだ負け。サレンダーだ」

 

サレンダー。それは自らの敗北を認める行為であり、同時にデュエリストとしての死を意味する。

勝鬨としても勝利できるのだからこれ以上ない事だろう。そう、思っていたのだが―― 。

 

「サレンダーは許サレンダー」

 

「……は?」

 

彼はそれを、拒絶する。何もおかしい事ではない。サレンダーは相手が承諾しなければ通らない。それに――。

 

「デュエルをしているなら、それも通そう。だが自分はまだ、本当のお前とデュエルしていない。心の底からデュエルを楽しむ暗黒寺 ゲンとデュエルをしていない」

 

「……んだそれは……ウザいんだよ!目障りなんだよ!お前達のそう言う一々がよぉ!」

 

ギリィッ、歯軋りの音を響かせ、暗黒寺は咆哮する。そんな綺麗事で止めようとするのかと思うと腸が煮えくり返る。

だが――そんな彼よりも、怒りを露にするものが1人――会場中に響き渡るように叫ぶ。

 

「ふざけるなっ!!!」

 

歓声を裂くように、少年の悲痛な、澄んだ声が木霊する。一体誰だ――。

暗黒寺は視線を観客席に移し、目を見開く。今にもフィールドに降り立とうと歯を剥き出しにし、鉄の棒を強く握り締めた少年――榊 遊矢の姿を見て。

 

「お前……!あれだけ父さんを臆病者って言っておいて、自分が逃げるのか!?勝負はまだついてないのに諦めるのか!?お前こそ臆病者じゃないか!お前の憧れるストロング石島はこんな事で逃げたりしないぞ!俺も逃げない!最後までデュエルから、自分から逃げない!このっ……臆病者ぉぉぉぉぉっ!!!」

 

魂から引き出すような熱い感情の発露。幼い子供のような言葉が暗黒寺に向けられる。臆病者?自分が?逃げている?自分が?

自分の憧れたストロング石島は――逃げない――。そこまで至り、ハッとなる。そうだ、今の自分は、奴の言う通り臆病者ではないか。そう気づくと腹が立つ。ふざけるな――俺はそんなものではない――。

 

「俺はっ、俺は臆病者なんかじゃねぇ!勝手な事言ってんじゃねぇ!サレンダーなんてしてやらねぇ!テメェ等後悔すんなよ!本当の俺様の実力を、今見せてやる!俺のターン、ドロォォォォォッ!!」

 

腹が立つ、苛々する。今まで見下していた者に気づかされた。発破をかけられた。見下していた奴が、自分なんかより余程強かった。

臆病者と嘲笑っていた奴が本当は強くて――自分の方が臆病者だった。こんな様ではもう――馬鹿には出来無いではないか――。

 

「楽しめってか!?ああ楽しんでやるよぉ!その代わり負けても恨むんじゃねぇぞ!『バーバリアン・マッド・シャーマン』の効果ぁ!リシュンキのコントロールを奪い、2体をリリース!密林の奥から巨木を薙ぎ倒し、現れるがいい。未開の王国に君臨する蛮族の王。『バーバリアン・キング』!!」

 

バーバリアン・キング 攻撃力3000

 

現れたのは憧れたデュエリストのカード。自分がデュエルの楽しさを知り、あのようになりたいとデッキを作り、デュエリストになった切欠のカード。

紫の鎧を纏い、巨大な金棒を手にした赤い鬼。三メートルはあろうかと思われる巨体が今――遠吠えを放つ。

 

「魔法カード、『手札抹殺』!互いの手札を捨て、その数だけドローする!更に魔法カード、『二重召喚』!もう1度得た召喚権で『バーバリアン3号』を召喚!」

 

バーバリアン3号 攻撃力1000

 

「効果により『バーバリアン4号』を特殊召喚!」

 

バーバリアン4号 攻撃力1200

 

「魔法カード、『蛮族の狂宴LV5』!墓地より効果とこのターン中の攻撃権を剥奪し、『バーバリアン1号』と『バーバリアン2号』を特殊召喚!」

 

バーバリアン1号 攻撃力1550

 

バーバリアン2号 攻撃力1800

 

暗黒寺のフィールドに揃う5体の『バーバリアン』。色とりどりの蛮族が集う光景は正に圧巻 。まるで戦隊ヒーローと巨大ロボのようである。容姿は悪役怪人だが。

その見事なプレイングに観客席は沸き立ち、勝鬨もまた笑う。

 

「どうだぁ!テメェの歓声、奪ってやるぜ!1号、2号、3号、4号をリリースし、『バーバリアン・キング』の効果発動!このターン中、『バーバリアン・キング』はリリースしたモンスターの数だけ攻撃回数を増やす!リリースしたのは4体!よって通常の攻撃も加え、5回の攻撃を可能とする!」

 

4体の『バーバリアン』達が赤、緑、青、オレンジとそれぞれ自分と同じ色の光となって『バーバリアン・キング』の胸の宝玉へ吸収され、その鎧が刺々しく変化し、更に巨大化する。

 

「5回攻撃……!?」

 

「うっ、腹筋が……」

 

攻撃力3000オーバーによる5回攻撃。その状況に遊矢が笑いながらも驚くと言う複雑の表情を見せ、隣のコナミは最近あった事を思い出し、腹を抱える。

 

「さぁ、バトルだ!ホークエイ、トウケイ、コウカンショウ、そしてソウコへ攻撃ィ!」

 

4体の『炎星』に襲い来る金棒の連打。激しい風切り音と破壊音を響かせ、3体を破壊し、最後に残ったソウコへと伸びていく。

 

「永続罠、ダブルオープン!『炎舞―「天セン」』!『炎舞―「開陽」』!この効果により、ソウコの攻撃力を1300アップする!」

 

「アクションマジック、『ハイダイブ』!『バーバリアン・キング』の攻撃力を1000アップ!」

 

バーバリアン・キング 攻撃力3000→4000

 

魁炎星―ソウコ 攻撃力2400→3700

 

勝鬨 勇雄 LP2500→2300

 

蛮族の王の金棒が『炎星』の王へと直撃し、破壊する。ダメージを減らす事は出来たが――後1度の攻撃が残っている。

 

「止めといこうか!『バーバリアン・キング』でダイレクトアタック!俺のっ、勝ちだぁぁぁぁぁっ!!」

 

ドゴォォォォォッ!重々しい打撃音がフィールドに響く。孤島の木々を薙ぎ倒し、へし折る音と共に煙が舞い上がる。これを受けては流石の勝鬨も無事ではすまないだろう。暗黒寺は勝利を確信する。

しかし――煙が晴れたそこには――ボロボロの姿になりつつも、『バーバリアン・キング』の金棒を片手で防ぐ勝鬨が立っていた――。

 

「な……に……!?」

 

「自分は罠カード、『ガード・ブロック』を発動していた――」

 

勝鬨 勇雄 手札1→2

 

「そう言う問題じゃねぇ!お前人間じゃねぇ!」

 

「自分は――デュエリストだ!」

 

間髪入れずに答える勝鬨。卑劣な手を使って勝利を奪い取って来た過去、その時の彼はそれがデュエリストだと思っていた。

だが今は違うと言える。そんなものはデュエリストではない。今、ここにいる自分が、堂々と闘う自分こそがデュエリストなのだと胸を張って言える。

その晴れやかな表情を見て、暗黒寺が呆気に取られ――笑った――。

 

「……何だそりゃあ、訳分かんねぇ……!分かんねぇけど、格好良いじゃねぇか!そこまで言って負けたらダッセェぞ!俺はこれでターンエンド!かかって来いよぉ、デュエリストォ!」

 

暗黒寺 ゲン LP1850

フィールド『バーバリアン・キング』(攻撃表示)

『一族の結束』

手札0

 

暗黒寺のフィールドに存在し、勝鬨へ立ち塞がる巨大な壁、『バーバリアン・キング』。攻撃力は3000。今の勝鬨の手札のカードでは歯が立たず、このままでは無意味なものだ。

 

しかし――デッキに残る1枚のカードを引けば一転して2枚のカードは生まれ変わる。今までの自分ならデッキを信じるなど思いもしなかっただろう。

今は違う。だって――ここで逆転すれば、どうしようも無く面白い。

 

「かっとビングだ!自分!ドロォォォォォッ!!」

 

希望の光が引き抜かれ、それを見た勝鬨の表情が明るく輝く。

 

「来たか!自分は魔法カード、『融合』を発動!手札の『輪廻天狗』と『沼地の魔神王』を融合!天駆ける星、地を飛び……今1つとなって悠久の覇者たる星と輝け!融合召喚!来い!『覇翔星イダテン』!!」

 

覇翔星イダテン 攻撃力3000

 

青き渦より現れる紫の兜と甲冑を纏い、深紅の外套を靡かせた武人。黒き槍を手に持ち、このデュエルに終止符を打つ。

 

「バトル!イダテンで『バーバリアン・キング』へ攻撃!」

 

「……イダテンの効果は自身のレベル以下のモンスターと戦闘を行うダメージ計算時、相手のモンスターの攻撃力を0にする……」

 

「そうだ。この勝負――」

 

イダテンが地を駆け、天へと飛翔する。そして手に持った黒い三ツ又の槍を『バーバリアン・キング』の胸の宝玉めがけ――振り抜く――。

 

バーバリアン・キング 攻撃力3000→0

 

暗黒寺 ゲン LP1850→0

 

舞網チャンピオンシップ、1回戦第1試合。2回戦へと駒を進めたのは――少森寺塾所属、勝鬨 勇雄――。

 

――――――

 

「悪かったな。権現坂、榊」

 

試合が終わり、スタジアムのロビーにて、暗黒寺は権現坂と遊矢に向かい、頭を下げていた。勝鬨とのデュエル、そして遊矢の言葉を受け、心を改めた、いや、デュエリストに戻ったのだろう。

憑き物が落ちたようにさっぱりとした表情だ。彼のしてきた事は決して許される事ではないのかもしれないが――2人は何時までも昔の事を持ち出す性格ではない。

 

「「別に良いけど、サレンダーは許サレンダー」」

 

「プフッ……いやこっちは真面目に謝ってるんでそう言うのやめっ……!」

 

だがサレンダーは許されない。

 

「もう気にしてないよ。あんな楽しいデュエルを見せてくれたんだ、それにもう誰も傷つける気なんてないだろ?」

 

「お、おう」

 

「遊矢がこう言っているのだ。お前も反省しているなら俺も何も言わん。まぁ、たまには権現坂道場に顔を出せ」

 

「お前等……心の友よぉ!」

 

ガバァッ、感極まった暗黒寺が2人の肩を抱き寄せる。現金な奴である。遊矢と権現坂は苦笑するが――それを見て、1人の少女がカメラを手に鼻血を垂らしながらハァハァと興奮してシャッターを切る。

 

「ハァ……ハァ……ダーリンダメよ……男同士なんてそんな……!あっ、でも手が勝手に……!ダーリンはい!アへ顔Wピーッス!」

 

「するかっ!」

 

「俺の事嫌いなのかよぉ、榊ぃ!」

 

バタバタと忙しなく駆け回る遊矢達。取り敢えず、事態の収集と暗黒寺のホモ疑惑解消まで、30分はかかった。

 

――――――

 

「はぁ、もうこんな時間か……後少しで柚子の試合が始まるじゃないか」

 

溜め息を吐き出し観客席へと戻ろうと足を進める遊矢。本当に、どうしてこんなに自分の周りは騒がしいのか、まぁ、楽しいから良いか――と、視線を上げる。

瞬間――遊矢の表情が驚愕へと変わる。何故なら長い廊下の壁、そこに背を預けていた来客がいたから――そして、その男は。

 

「君の周りは騒がしいんだな――遊矢」

 

跳ねた前髪、草臥れたシャツとネクタイ、そしてボロボロに擦り切れた黒いマント。何より――遊矢と驚く程似た顔立ちの少年は――。

 

「ユート……」

 

「少し、話をしないか?」




人物紹介2

勝鬨 勇雄
所属 少森寺塾
攻撃力2950、守備力3800な少年。コナミと出会う前はアニメ通りのリアルファイターだったがコナミと出会い、郷田川とのデュエル、少森寺塾での修行を通し、デュエリストとして覚醒。アホみたいな修行によって更に身体能力に磨きをかけた。
デュエルスタイルは自身の身体能力で相手の妨害を防ぎ、アクションカードを積極的に取っていくもの。正直アクションデュエルに置いては最強かもしれない。
コナミ達の悪友で暗次やねねとは良く遊んでいる。
鍛えてはいるものの、予想外の事を目にすると勝鬨る癖は治ってない。
デッキは郷田川から譲り受けた『炎星』。エースカードは『覇翔星イダテン』。何気に融合、シンクロ、エクシーズと3種の召喚法を操る数少ないデュエリストである。『炎星』は書きにくかったです(半ギレ)

暗黒寺 ゲン
所属 フリー(後に権現坂道場に戻る)
ストロング石島に憧れるデュエリスト。元々権現坂道場に通っていたが様々ないざこざがあり破門、アニメでは権現坂と闘い、遊矢にちょっかいかけたりしたがそこら辺を入れたらもっと長くなっちゃうので割愛。
勝鬨とのデュエル、遊矢の叱咤で綺麗な暗黒寺になる。暗黒界も驚きの白さである。
これを機に権現坂道場に戻り、厳しくも実のある修行に励む。
遊矢と権現坂、勝鬨に関しては友情と恩を感じている。決してホモではない……遊矢ぁ、お前本当に可愛いなぁ。
デッキは『バーバリアン』。エースカードは『バーバリアン・マッド・シャーマン』。因みに『バーバリアン・キング』はストロング石島のサイン入り。バーバリアン戦隊は書いてて楽しかったです(小並感)


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第43話 ミルクでも貰おうか

書いてて楽しいカードはドクロバット・ジョーカー。毎回どんな手品にしようかと頭をひねりますがそれも楽しいので。次点でDDD覇龍王ペンドラゴン。これは何となく。何でだろ?最下位はバオッキーです。




「飲み物、何が良い?」

 

「ミルクでも貰おうか」

 

スタジアム外の整備された空間。遊矢とユートはベンチに座り込み話していた。話をするに当たってユートが場所を移したいと切り出したのだ。

遊矢は飲み物が必要だと思い、自動販売機に200円を投入し、自分のお気に入りのスポーツドリンクと牛乳パックのボタンを押し、取り出し口の牛乳を拾ってユートへと渡す。

 

「ありがとう」

 

「いいさ、再会出来た記念に乾杯ってね」

 

「……フッ、そうだな」

 

ニカッと爽やかな笑みを向ける遊矢に頬を緩めるユート。案外気配りが出来、茶目っ気もある少年だ。自分の周りのバカにも見習って欲しいな。と考える。

どうしてこう周りの事を考えず、話を聞かずに進んでいくのか、常々彼等には頭を悩まされている。

 

「それで、話って何?俺に出来る事なら協力するけど」

 

悟い。ユートは少しばかり驚く。まだ何も話し込んで無いのに、詳しい事は分かってないのだろうが“そう言う話”と気づいているのだろう。

実際、遊矢は昔から他人の顔色を見て来た為、表情を見ただけで察し、気遣いが出来る少年だ。大雑把に言うと空気を読む事には長けている。

 

「……そうだな、単刀直入に言おうか」

 

余り遊矢の時間を取るのも気が引ける。遊矢は選手としてのこの大会に出場しているのだ。ユートは立ち上がり、決心した表情で切り出す。

 

「遊矢。俺とデュエルして欲しい」

 

――-―――

 

「ここで良いか……始めようか、遊矢」

 

「本当にやるのか?」

 

少しばかり歩き、2人は立派な時計台のある広場へと来ていた。チャンピオンシップを見に行っているのか、人っ子1人いない。

デュエルをするには丁度良い。ユートは爪先で煉瓦を軽く叩きながらデュエルディスクを構える。

 

「ああ、君の実力を見てみたい」

 

「……分かった。試合まで時間はあるし、良いよ、やろう。デュエルを挑まれたら断れないしね」

 

そう言って遊矢もデュエルディスクを構える。準備は万端。2人は互いに闘志を燃やし、デュエルへ臨もうとする――その、時だった。

頭上の時計台より影が差し込み、その男が姿を見せたのは。

 

「面白そうだね、僕も混ぜてよ。ユート」

 

その場に介入する第3者の声。無邪気な笑みを掲げ、時計台より降り立つ少年。思わずハッとなり彼へと振り向く。

天に逆立つような銀髪に緑のメッシュ、細身の身体に緑のジャケットとブーツ、そう、その男は、ユートにとっての因縁の相手――八雲 興司。

 

「八雲……!」

 

「やぁ、ユート。元気そうで何よりだ」

 

「……知り合いか?」

 

「……敵だ」

 

遊矢が神妙な顔つきでユートに問いかける。それに対してユートは厳しい表情を保ったまま答える。

どうやら何か複雑な事情があるのだろう、遊矢はその答えに黙り込む。当の八雲は肩をすくめ、おどけた態度で苦笑いし流暢に喋り出す。

 

「冷たいなぁ、友達じゃないか」

 

「よくもぬけぬけと……!」

 

何とも不快感を拭えない言葉遣いと態度だ。ヘラヘラと笑いながらも微量の闘気が溢れている。そのチグハグな様子に遊矢は思わず顔を険しくする。

一体何者なのか、何が目的なのか、遊矢はその秀でた観察眼でじっくりと八雲を見る。と、そこで――目が合った――。

遊矢の事を視界におさめた途端に八雲は目を大きく見開いてニヤリと醜悪な笑みを浮かべ、眼前まで近づく。

 

「っ、遊矢!」

 

「君が遊矢、ねぇ……うん、確かに彼の言った通り、ユートやユーリに良く似ている」

 

「ユー……リ……?」

 

何処かで聞いた事があるような――遊矢がそう思った瞬間、八雲はタンッ、と後ろに飛んで距離を取り、その左腕にデュエルディスクをセットし、ディスクから伸びるソリッドビジョンのリングが巻きつく。そして左腕を振るうと共にソリッドビジョンで作られた光のプレートを出現させ、構える。

 

「遊矢、デュエルをしようか」

 

「え――?」

 

「待て八雲!彼を巻き込むな!デュエルなら俺が相手になる!」

 

「はは、混ぜてって言っただろう?当然君の相手もしてやるよ。あ、後」

 

ビュンッ、八雲のデュエルディスクより蜘蛛の糸のようなワイヤーが2本伸び、遊矢とユートのデュエルディスクへと絡みつく。

突然の事に驚き、ブンブンとディスクを嵌めた腕を振る遊矢だが見た目以上に頑丈なようだ。千切れない処かうんともすんとも言わない。

仕掛けた八雲は目を皿のように細め、その口元に弧を描く。

 

「君達2人に拒否権は無いよ」

 

「……!どう言うつもりだ……!」

 

「面倒だからね。2人纏めてデュエルだ。ルールはバトルロイヤル、その方が面白そうだ」

 

「いいよユート」

 

「遊矢……!?」

 

意外にも、闘志を剥き出しにして即答したのは遊矢だ。彼は状況が分かっているのかいないのか、目を吊り上げてニンマリと笑う。

その身を乗り出すような様子にユートは動揺して遊矢の名を呼ぶ。

 

「良く分からないけど、挑まれたデュエルは断れないって言ったろ?どんなデュエルでも、俺は逃げないよ」

 

「……分かった。すまないな遊矢、巻き込む形になって」

 

「最初からデュエルはする予定だったんだ。1人増えただけだろ?それにショーを見せるんだったら観客は多い方が良いってね」

 

堂々とディスクを構える遊矢を見てユートは苦笑する。どうやら彼も親友と同じデュエルバカらしい。早くデュエルしたいとウズウズしているのが見てとれる。

だからこそ――心がズキリと痛む。そんな彼を巻き込みたく無かった。だがこうなっては仕方無い。ユートもディスクを構え、眼前の八雲を射抜くように睨む。

どうやら相手も待っていたようだ。悠々とディスクを構えて此方を伺っている。

 

「準備は出来たようだね。それじゃあ――」

 

斯くして――決闘の火蓋が、切って下ろされる。

 

「「「デュエル!!」」」

 

3人は互いにデッキより5枚のカードを引き抜く。バトルロイヤルルールではどのプレイヤーも最初は攻撃が不可能な為、出来る事は限られる。

それでも、先攻は有利だ。それを取った八雲はニヤリと笑い、1枚のカードをディスクへ置く。

 

「僕は魔法カード、『手札抹殺』を発動。全てのプレイヤーは手札を捨て、その数だけドローする」

 

新たに引かれた4枚のカード。遊矢達もいきなりの『手札抹殺』に警戒しながらも手札を交換する。特にユートに対してはこのカードを安易に使用する事は危険だが――八雲が知らない筈がない。何のつもりだとユートは眉を寄せる。

 

「よい手札だ。僕は『コアキメイル・ビートル』を召喚」

 

コアキメイル・ビートル 攻撃力1900

 

現れたのは鋼核をその身に宿したカブトムシだ。巨大な角を持つ甲虫の姿を見てユートの顔が歪む。

彼のデッキにとっては厄介なモンスターだ。八雲もユートの苦虫を噛み潰したかのような表情を見て口端を吊り上げる。

 

「どうしたんだいユート?あぁそっかぁ、君のデッキは闇属性モンスター中心だっけぇ。ビートルがいると君のモンスターは守備表示になっちゃうねぇ」

 

「良く言う……!」

 

「そう睨むなよ。僕は永続魔法、『大樹海』発動。カードを1枚セットしてターンエンド。そしてこの時、『コアキメイル・ビートル』を維持するコストとして、手札の昆虫族モンスター1体を公開する。良い手札は自慢したくなっちゃうねぇ」

 

そう言って八雲は残る1枚の手札を翳し、ユートに見せびらかすように公開する。確かに昆虫族モンスター、しかしそのカードを見た瞬間、またもユートが歯軋りをする。

何故ならそのカードも、ユートの動きを封じるカードだったからだ。

 

「『飛翔するG』」

 

「君のターン、君はレベル3の『幻影騎士団』と特殊召喚可能なサイレントブーツを揃え、ランク3のブレイクソードをエクシーズ召喚するつもりだったんだろう?例え守備表示になってもブレイクソードはORUを1つ取り除いて互いのカードを破壊する効果を持つ。ブレイクソードとビートルを破壊、ブレイクソードの第2の効果によって2体のレベル4となった『幻影騎士団』でダーク・リベリオンを出すって所かな?友達相手にそのガチッぷりは引いちゃうなぁ」

 

クックッと笑いながらユートを煽る八雲。完全に自分の手を読んだ戦法にユートはどうすれば良いのかと自分の手札を見て考え込む。

特殊召喚した光と闇属性モンスターを守備表示にする『コアキメイル・ビートル』に此方が召喚した時にユートのフィールドに送り込まれるだろうエクシーズ召喚を封じ込める『飛翔するG』。2段構えの手、ユートのデッキでは対応は難しい。

 

八雲 興司 LP4000

フィールド『コアキメイル・ビートル』(攻撃表示)

『大樹海』セット1

手札1

 

八雲のターンが終了し、遊矢へと渡る。何やら2人の間には並々ならぬ確執があるようだ。友達ならば何とか取り持ちたいが……こうも事情が分からないと。

仕方無い、ここは何時も通り、自分らしくデュエルを楽しもうと意気込む。

 

「俺のターン、ドロー!ユート、俺の力を見せてやるぜ!俺は手札を1枚捨て、魔法カード、『ペンデュラム・コール』を発動!デッキから2体の『魔術師』ペンデュラムモンスターを手札に加える!時読みと星読みを手札に!」

 

「ペンデュラム……!?」

 

遊矢が発動したのはコナミから貰ったカードの1枚。その効果により彼にとっての始まりのペンデュラムモンスターをその手に掴む。

一方のユートは遊矢が手札に加えた聞き慣れぬペンデュラムに驚愕とデュエリストとしての興味の視線を送る。一体どんな戦術を披露するのか、八雲もその身を乗り出す。

 

「俺はスケール8の『時読みの魔術師』とスケール1の『星読みの魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル2から7のモンスターを同時に召喚可能!」

 

黒と白、2体の『魔術師』を包んだ光の柱が遊矢のフィールドから天に向かって伸びていく。更に空に光の線が結ばれていき、魔方陣と振り子が揺れる。その派手で華やかな演出は2人の度肝を抜く。

だが遊矢のデュエルはここからが本番、ペンデュラムの使い手は右手を魔方陣へと翳す。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMキングベアー』!『EMギッタンバッタ』!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

遊矢のフィールドに2本の光が降り立ち、光の粉を散らしてその姿を見せる。1体は上級モンスターである王冠を被り、マントを靡かせた王者の気風を感じさせる大熊。もう1体は2つの顔を持つバッタだ。

 

「これがペンデュラム……!」

 

「……ふぅん、これが彼の言っていたペンデュラムか……面白いね……!」

 

「へへっ!まだまだショーは始まったばかり、俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMキングベアー』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

セット1

Pゾーン『時読みの魔術師』『星読みの魔術師』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

ターンプレイヤーがユートへと渡る。エクシーズ召喚に繋げたい所だが八雲は『飛翔するG』を握っている。『コアキメイル・ビートル』だけなら何とかなったが……ニヤニヤと笑みと共に1枚の手札をチラチラ見せつける顔にグーで殴りたい気持ちを沈め、深呼吸をする。

やれる事をやるしかない。決心をし、行動を開始する。

 

「俺は墓地の『幻影剣』を除外し、墓地の『幻影騎士団ダスティローブ』を特殊召喚」

 

幻影騎士団ダスティローブ 守備力1000

 

「相手がモンスターの召喚、特殊召喚に成功した時、手札の『飛翔するG』をユートのフィールドに守備表示で特殊召喚する!ランク3を作るんだろ?手伝ってあげるよ、出来るものならね」

 

飛翔するG 守備力700

 

現れたる司祭のローブを纏った浮遊霊とぶんぶんカサカサと飛び回り、ダスティローブにピタリと止まる黒光りする虫。確かにレベル3だがこのモンスターがいる限りエクシーズ召喚が出来ない。一体どうすれば良い、そう考えた時。

 

「罠発動!『EMショーダウン』!自分フィールド上の表側表示の魔法の数まで相手フィールド上のモンスターを裏側守備表示にする!ペンデュラムカードはペンデュラムゾーンに存在する時、魔法として扱う!よって俺は八雲の『コアキメイル・ビートル』とユートのフィールドの『飛翔するG』の2枚を裏側守備表示にする!」

 

パタン、と音を立ててカブトムシとGが裏返る。その正体は遊矢の発動した1枚のカード。バトルロイヤルルールである以上3人は互いにとって相手として扱う。今回遊矢はそれを逆に利用したのだ。

突然のフォローにユートは思わず遊矢へと視線を送る。そこには「やってやったぜ」とウインクする遊矢。ありがたい手助け、タクティクス性の高いプレイングにユートは舌を巻く。

 

「残念ながら八雲!お前の茶番は幕を閉じたようだな!ここから先は俺のショーだ!自分フィールド上に『幻影騎士団』モンスターが存在する場合、手札の『幻影騎士団サイレントブーツ』は特殊召喚出来る!」

 

幻影騎士団サイレントブーツ 守備力1200

 

これでユートのフィールドには司祭を思わせるローブを纏った浮遊霊とボロボロの衣装を纏い、ブーツより雷を放つ戦士の魂が揃った。どちらもレベル3、今度は遊矢にユートの力を見せる時だろう。

 

「ペンデュラム召喚を見せて貰った礼だ、遊矢!君に本場のエクシーズ召喚を見せよう!」

 

「本場……?」

 

「行くぞ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!戦場に倒れし騎士達の魂よ。今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ!エクシーズ召喚!現れろ!『幻影騎士団ブレイクソード』!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000

 

2つの戦士の魂が共鳴し、戦場に新たな騎士が駆け抜ける。黒鉄の黒馬と一体化した下半身、漆黒の鎧を纏い、首の無い隙間より青白い炎が燃え上がる上半身、そして右手に持ったその名の由来となった壊れた剣が鏡面のような妖しい輝きを放っている。

まるでその姿は空想上の死神、デュラハンだ。

 

「ブレイクソードのORUを1つ取り除き、俺のフィールドにセットされている『飛翔するG』と八雲のフィールドにセットされた『コアキメイル・ビートル』を対象として効果発動!対象としたカードを破壊する!セット状態で効果破壊する為、『大樹海』の効果はチェーン出来ない!」

 

ブレイクソードの周囲で回転するORUと『飛翔するG』が弾け、光となってその剣に集まり、元の形を取り戻す。

そしてブレイクソードは斬撃と共に戻った刃を飛ばし、『コアキメイル・ビートル』を切り裂く。

 

「クッ……!『大樹海』の効果を発動させない事まで見透かせてセット状態にしたのなら大したものだね……!」

 

(……知らなかった事は黙ってよう……)

 

「フッ、全くだ。遊矢、大した奴だよ君は」

 

「お、お褒めに預かり光栄です」

 

何やら遊矢の評価が勝手に上がっているが態々茶々を入れる事は無いだろう。彼は空気の読める男だ。エンタメ時の口調で恭しく礼をする。

 

「俺は『クリバンデッド』を召喚、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

「おっと、『クリバンデッド』をリリースする前に罠発動!『裁きの天秤』!相手フィールドのカードと僕のフィールドと手札の差分ドローする!この場合相手は君達2人!よって合計の6枚ドロー!」

 

八雲 興司 手札0→6

 

「っ、このエンドフェイズ、『クリバンデッド』をリリースし、デッキの上から5枚を捲り、その中から魔法、罠を1枚手札に加える。『ダーク・バースト』を手札に、それ以外を墓地へ」

 

八雲もバトルロイヤルルールを利用しての大量ドローをし、0枚の手札が初期値の5枚を越える。そのとんでもないプレイングに2人は目を見開く。

 

そしてユートの操る『幻影騎士団』は墓地から除外し、様々なアドバンテージを稼ぐカテゴリだ。

デュエルモンスターズにおいて墓地は第2の手札と言われる事があるがユートのデッキに関しては墓地が第1の手札とも言っていい。八雲の発動した『手札抹殺』や今発動した『クリバンデッド』の効果で大量の手札を手にした。

 

この事を警戒して八雲はメタとなるカードを投入したのだが……それは遊矢によって防がれた。しかし八雲も負けてはいない。

 

ユートLP4000

フィールド『幻影騎士団ブレイクソード』(攻撃表示)

セット2

手札3

 

「僕のターン、ドロー!僕は『電子光虫―センチビット』を召喚!」

 

電子光虫センチビット 攻撃力1500

 

八雲のフィールドに現れたのは基盤を繋げた機械のムカデ。漸く登場した八雲本来のモンスターにユートはデュエルディスクを構え直す。

 

「更に昆虫族モンスターがフィールドに存在する事で手札から『夢蝉スイミンミン』を特殊召喚!」

 

夢蝉スイミンミン 攻撃力300

 

「スイミンミンがこの効果で特殊召喚した時、自分フィールドの昆虫族モンスターを守備表示にする。センチビットを守備表示にし、センチビット自身の効果発動!このカードが攻撃表示から守備表示になった時、デッキからレベル3、光属性の昆虫族モンスター、『電子光虫―ウェブソルダー』を特殊召喚!」

 

現れるのは眠りに誘う唄を歌う捻れた角を持つ蝉と蜘蛛型のウイルス。次々と現れる虫達、その大量展開にペンデュラムの使い手である遊矢も目を見開く。

 

「まだまだこんなもんじゃないよ。スイミンミンを対象としてウェブソルダーの効果発動!スイミンミンを守備表示に変更し、手札の『電子光虫―コクーンデンサ』を特殊召喚!」

 

電子光虫―コクーンデンサ 守備力2000

 

次なる電子光虫はコンデンサの繭だ。これで4体のレベル3モンスターが出揃った。エクシーズ召喚の準備は万端、八雲は天に右腕を翳す。

 

「僕はスイミンミン以外の3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『電子光虫―スカラジエータ』!」

 

電子光虫―スカラジエータ 攻撃力1800

 

3体の電子光虫が突如発生した星の渦に呑み込まれ、爆発を起こす。閃光が晴れたそこには放熱装置である輪を回す緑のスカラベ。

 

「ウェブソルダーを素材としてエクシーズ召喚に成功した場合、相手フィールドの表側表示のモンスターは全て守備力が0となり、守備表示になる!」

 

EMキングベアー 守備力1000→0

 

EMギッタンバッタ 守備力1200→0

 

幻影騎士団ブレイクソード 守備力1000→0

 

「バトルだ!スカラジエータでブレイクソードを攻撃!」

 

「罠発動……出来ない……!?」

 

「コクーンデンサを素材としてエクシーズ召喚したモンスターが守備表示のモンスターに攻撃する場合、君達はダメージステップ終了時まで魔法、罠、モンスター効果は発動できず、センチビットを素材としている場合、このカードは全ての守備モンスターに1回ずつ攻撃出来る!」

 

「何だって!?」

 

「ブレイクソードはダメージステップ中にその効果を発動する。残念だったねぇユート」

 

ニヤニヤと見下すようにユートを煽る八雲。これではブレイクソードで素材を展開し、壁や次のエクシーズをする事も許されない。厄介なものだ。

 

「さぁスカラジエータ!残るモンスターも破壊しろ!」

 

「ギッタンバッタは特殊召喚された場合、破壊されない!」

 

スカラジエータの力によりユートのモンスターゾーンががら空きとなる。強力な表示形式を操るカードと全体攻撃、そして効果を封じる効果。恐ろしいものだ。

 

「僕はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

八雲興司 LP4000

フィールド『電子光虫―スカラジエータ』(攻撃表示)『夢蝉スイミンミン』(守備表示)

『大樹海』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!2人を相手にこの強さ……面白いじゃないか!」

 

「遊矢……?」

 

2人のデュエリストを相手に優勢に立つ八雲のデュエルタクティクスを味わっても尚、その笑みを崩さず、むしろ深める遊矢。

その能天気さにユートは何を言っているんだと眉をひそめる。

 

「俺は既にセッティング済みのスケールでペンデュラム召喚!『EMキングベアー』!『EMペンデュラム・マジシャン』!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

「これは……破壊されたペンデュラムモンスター……!?」

 

「ペンデュラムモンスターはフィールドから墓地に送られる場合、エクストラデッキへと送られる!そしてエクストラデッキのモンスターもペンデュラム召喚出来るのさ!さぁ行くぜ!ペンデュラム召喚された『ペンデュラム・マジシャン』の効果発動!ペンデュラムゾーンの星読みと時読みを破壊し、デッキより『EMギタートル』と『EMドクロバット・ジョーカー』を手札に加える!そして手札に加えたドクロバット・ジョーカーを召喚!」

 

ドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

遊矢のフィールドにサーカスの劇団のように次々とモンスターが現れる。大熊とバッタ、マジシャンに奇術師と色とりどりの団員がデュエルを盛り上げる。

 

「ドクロバット・ジョーカーが召喚に成功した時、デッキから『EMリザードロー』を手札に加える!」

 

フィールドに躍り出るドクロバット・ジョーカーがニヤリと笑い、自分の影へと手を伸ばす。

ズブリ、まるで水面に手を突っ込んだかのように波紋が波立ち、引き抜いたその手にはジタバタと尻尾を握られもがくリザードロー。ドクロバット・ジョーカーはリザードローを手に持ったトランプに無理矢理押し込んでそのカードを主へと投げる。

随分とコミカルでシュールな光景である。カードを受け取った遊矢も苦笑する。

 

「『EMギタートル』と『EMリザードロー』でペンデュラムスケールをセッティング!ギタートルのペンデュラム効果で1枚ドロー!リザードローの効果でこのカードを破壊し、更にドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

次々と発動する『EM』の効果。それによって遊矢のフィールドと手札が騒がしくなっていく。

 

「さぁ、バトルだ!キングベアーでスカラジエータを攻撃!キングベアーの攻撃力はバトルフェイズの間、自分フィールド上の『EM』カード×100アップする!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200→2700

 

「通さないよ。スカラジエータのORUを2つ取り除き、キングベアーを守備表示に変更する!」

 

「ならドクロバット・ジョーカーで攻撃!」

 

相討ち狙い、いや、ペンデュラムモンスターはエクストラデッキに送られ、何度でも舞い戻る為、一概にはそう言えないだろう。

 

「『ペンデュラム・マジシャン』でスイミンミンを攻撃!」

 

「『大樹海』の効果で『電子光虫―コクーンデンサ』を手札に加える!」

 

「俺は『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をペンデュラムゾーンへセット。カードを1枚セットしてターンエンド。この時、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を破壊してデッキより『EMドラネコ』を手札に加える」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMキングベアー』(守備表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)『EMペンデュラム・マジシャン』(攻撃表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMドラネコ』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、僕は『増殖するG』を捨てる」

 

「そう来るか、俺は『幻影騎士団クラックヘルム』を召喚!」

 

幻影騎士団クラックヘルム 攻撃力1500

 

「墓地の『幻影翼』を除外し、墓地の『幻影騎士団フラジャイルアーマー』を特殊召喚する!」

 

幻影騎士団フラジャイルアーマー 守備力2000

 

八雲 興司 手札2→3

 

ユートのフィールドに揃う兜と手のみのモンスターと鎧のみのモンスター。どちらもレベル4で狙いすましたかのような組み合わせだ。

 

「更に墓地の『幻影騎士団ダスティローブ』を除外し、デッキより『幻影霧剣』を手札に!そして永続罠、『闇次元の解放』によってダスティローブを特殊召喚!」

 

幻影騎士団ダスティローブ 攻撃力800

 

八雲 興司 手札3→4

 

「魔法発動!『ダーク・バースト』!墓地のサイレントブーツを回収し、特殊召喚!」

 

幻影騎士団サイレントブーツ 守備力1200

 

八雲 興司 手札4→5

 

これでユートのフィールドにはレベル3とレベル4が2体ずつ揃った。一気に勝負を決める。そう意気込み、ユートは自らの背後に星空を出現させる。

呼び出すのは自らのエース、自身の分身。反逆の黒竜。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!」

 

星の渦より濃密な霧が広がっていく。その中で巨大で滑らかな尾が振るわれ、鋭い翼が羽ばたいて霧を晴らす。

荒々しき反逆の雄叫びを上げる黒き竜の登場にユートと遊矢の血流が駆け、鼓動が跳ねる。まるで竜と2人が、共鳴するように。

 

「ッ!エクシーズ召喚!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』ッ!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

八雲 興司 手札5→6

 

紫の体躯からバチバチと赤き雷をスパークさせ、刃物のような独特の形状をした両翼、角、腕、尾を唸らせる竜。アギトより見るものを吸い込みそうな妖しい輝きを放ち、解き放たれた竜は天に向かって咆哮する。

 

大気が震える程のそれは遊矢とユートの心の臓を焦がすような、何か超常の力を纏っている。

 

「ダーク・リベリオン……!これを待っていた……!」

 

「あ……ぐぅ……!?この、竜は……!?」

 

「俺、は……っ、ダーク・リベリオンを対象とし、ダスティローブの効果発動……!ダスティローブを守備表示に変更し、ダーク・リベリオンの攻撃力を……800アップする!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→3300

 

「更に……2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!2体目のブレイクソードッ!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000

 

八雲 興司 手札6→7

 

「ブレイクソードのORUを1つ取り除き、『闇次元の解放』と左のセットカードを破壊する!」

 

「こっちを選んじゃうかぁ、運が悪いねぇ。罠発動!『進入禁止!No Entry!!』。攻撃表示のモンスターを守備表示に!友達だろうと線は引かないとね。デリカシー無いなぁ、ユートは」

 

突如現れた幾つものテープが2人のモンスターを縛りつけ、無理矢理に叩き伏せる。フリーチェーンの上に彼の戦術に合った優秀なカードだ。

蜘蛛の巣のように動きを封じるカードと八雲の芝居がかった口調がユートの神経を逆撫でる。逆鱗に触れられているのにその牙は未だ届かない。

 

「くっ……!俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「あ、もう一方のカードも教えて上げるよ。罠発動、『デビル・コメディアン』。どっちにしろフリーチェーンのカードだねぇ」

 

「なっ!そのカードは!?外れればどうなるか分かっているのか!?」

 

八雲の発動した罠カード、『デビル・コメディアン』。それはタロット……では無く、コイントスをし、当たれば相手の墓地のカードを全て除外すると言うユートの『幻影騎士団』にとっては天敵とも言えるカード。

だが外れれば相手の墓地の枚数分、自分のデッキを墓地へ送る何処かの裏の流儀がデッキを撒き散らしそうなカードだ。ハズレの場合も大量に墓地を肥やせる可能性があるものの、ユートのデッキは逆に言えば大量のカードを墓地に送るデッキ。

諸刃の剣である。しかもこのデュエルはバトルロイヤルルール、遊矢も相手として扱うのだ。正気の沙汰とは思えない。

 

「当てれば良いんだよ。例え確立半々でも、50%で君が嫌な思いをするなら僕は躊躇わない。あ、表を宣言するねー」

 

「動機は不純だけどエンタメってるなぁ」

 

『デビル・コメディアン』のカードよりソリッドビジョンのコインが出現し、弾かれて宙を舞う。重力によって落下したコインはカラカラと回り、パタンと音を立てて倒れる。結果は――表。

 

「ははっ!これで君達の墓地は全て除外される!1から頑張ってねユート!」

 

2人の墓地のカードが全て失われる。こんな事ならダスティローブ等の効果を発動すべきだったと後悔するユート。勿論遊矢も『EMジンライノ』等のカードを失って痛手を負った。

 

ユート LP4000

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(守備表示)『幻影騎士団ブレイクソード』(守備表示)

セット2

手札1

 

次々と自身に襲い来る蜘蛛の糸に雁字がらめに取られ、歯噛みするユート。1つを突破してもまた1つ、これではきりが無い。

このままでは反逆の牙まで錆びてしまいかねない。そんな彼とは裏腹に、この状況で笑みを崩さぬ者が1人。その名は――榊 遊矢。

 

「へへへ……!」

 

屈託の無いその笑いにユートは反応する。この逆境でおかしくなったか――いや、違う。

彼の目にはまだ燃え尽きぬ、この状況で燃え上がる闘志が宿っている。眩しく照らす太陽のような明るさが輝いている。その折れない心に八雲は訝しむように鼻を鳴らす。

 

「へぇ、随分余裕だねぇ、遊矢。君、この状況分かってる?」

 

「分かってるさ、だからこそ楽しいんだ!」

 

「……はぁ?」

 

答えにならぬ答えが八雲を混乱させる。一体この状況に、何処に楽しい要素があるのか。

 

「次々とこっちの上を行く戦術、2人を相手にしてこの強さ!どれも面白くてワクワクする!だけど、それを越えるともっと楽しいだろ!?」

 

ニィッ、口の端を吊り上げ、笑う遊矢。ユートはその笑みを見てフッと笑う。呆れる程のデュエルバカ。

だからこそ、この少年ならと期待できる。やはり、自分の目は狂って無かった。これこそがエンタメデュエリスト。これこそが榊 遊矢。

自分と似た顔を見て、ユートも闘志を燃やす。負けてられない。どうやら自分も――デュエルバカのようだから――。

 

 

 

 

 

 




人物紹介3

ユート
所属 レジスタンス
不屈の闘志を持つデュエリスト。エクシーズ次元にてアカデミアと激闘を繰り広げ、瑠璃を拐われた事により、アカデミアに対抗するべくスタンダード次元へ来た(詳しくはアニメかぎゃっきょうぐらし!にて)。
エクシーズ次元に居た頃も気苦労が絶えない日々が続き、黒いのによって更に叩き落とされた今作一番の被害者。スタンダードで行動する今も2人の黒に悩まされている(むしろ酷くなっている)。ユートは泣いて良い。
だがそれでも2人の事も大事な仲間と思っており、心配しているレジスタンスのオカンにしてぐう聖。
遊戯王作品でもちゃんと話を聞く常識人枠であり、余程の事情が無い限り親切に接する。黒いの達はもうちょっと労ってあげるべきである(他人事)。
因みにチャンピンオンシップに出場する黒咲さんのお弁当を作っている。
デッキは墓地発動主軸の9期らしい『幻影騎士団』。エースカードは『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』。



と言う訳で今回はバトルロイヤル。柚子対真澄についてはアニメ通りの展開をやるのもあれなので省きます。少しでも展開を早くしたいので。
だから魔界劇団がデュエル出来る位公開されない限り出番無いよ沢渡さん。




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第44話 邪魔しに参った

何時もよりちょっと早いですが、土日が忙しくなりそうなので暇なこの日の内に更新。最近三者三葉のopを流しながら作業してます。


気に入らない。八雲は複雑そうな表情をして心の中で舌打ちを鳴らす。それもこれも目の前で場違いにも笑っている奴等のせいだ。

榊 遊矢、ユートと似た顔をした、彼が警戒しろと言っていたデュエリスト。確かに厄介だ、こんな状況でもデュエルを楽しむ精神のお陰で冷静さを失っていたユートまで笑っている。

全くもって気分が悪い。だが依然として自分の有利は変わらない。相手のペースを乱すつもりで自分のペースが乱されてしまっては元も子も無いと不快感を振り払う。

 

「その余裕がどこまで続くかな?僕のターン、ドロー!」

 

これで手札が8枚まで膨れ上がった。フィールドのカードはほぼ失っているが充分に巻き返せる。強力な効果を持つダーク・リベリオンも今は守備表示、牙を抜かれたも当然、ORUも使えないなら宝の持ち腐れだ。

 

「僕は魔法カード、『シャッフル・リボーン』発動!墓地の『サクリファイス・スパイダー』を特殊召喚!」

 

サクリファイス・スパイダー 守備力500

 

現れたのは黄金色に輝く球体を背負った小蜘蛛。チカチカと点滅するその珠はまるで――爆弾だ。

 

「『サクリファイス・スパイダー』はリリースして効果発動!君達のフィールド上の表側守備表示のモンスターを全て破壊する!この効果は墓地で発動する効果!『幻影霧剣』でも止められない!」

 

「罠発動!『幻影翼』!遊矢の『EMギッタンバッタ』に1ターンに1度の破壊耐性を与える!更にブレイクソードの効果により、フラジャイルアーマーとクラックヘルムのレベルを1つ上げ、特殊召喚する!」

 

「サンキュー、ユート!」

 

幻影騎士団フラジャイルアーマー 守備力2000 レベル4→5

 

幻影騎士団クラックヘルム 攻撃力1500 レベル4→5

 

幻影の翼を得て、爆発を回避するギッタンバッタとブレイクソードの魂より生まれたる騎士達。ダーク・リベリオンを失ってしまったが今はパートナーの方が優先だ。己の魂より大事なものがあるとユートはあの男に教わったのだ。

 

「『幻影騎士団』は倒れない!」

 

「格好良い事言ってる所悪いけど、そのモンスター利用させて貰おうか!『EMギッタンバッタ』と『幻影騎士団フラジャイルアーマー』を墓地へ送り、手札の『マザー・スパイダー』を特殊召喚!」

 

マザー・スパイダー 攻撃力2300

 

ギッタンバッタとフラジャイルアーマーが蜘蛛の糸に捕らえられ、2体を生け贄に巨大な女郎蜘蛛が現れる。紫の体躯に身体を支える8本の脚は刃物のように鋭利で攻撃的だ。

 

「更に魔法カード、『ワン・フォー・ワン』!手札のモンスターを墓地へ送り、デッキのレベル1モンスター、『ハチビー』を特殊召喚!」

 

ハチビー 守備力400

 

フィールドに現れたのは槍を手に持った小さな蜂型のモンスター。

 

「『ハチビー』と『マザー・スパイダー』をリリースし、2枚ドロー!」

 

八雲 興司 手札4→6

 

「更に『死者蘇生』を発動!墓地の『電子光虫―センチビット』を特殊召喚!」

 

電子光虫―センチビット 攻撃力1500

 

「『電子光虫―コクーンデンサ』を召喚!」

 

電子光虫―コクーンデンサ 攻撃力0

 

「墓地のウェブソルダーを対象にコクーンデンサの効果発動!このカードを守備表示に変更し、対象としたモンスターを蘇生する!」

 

電子光虫―ウェブソルダー 守備力1500

 

フィールドに芋蔓式に並ぶ3体の電子光虫。虫、そしてバグの名を持つに相応しい繁殖力だ。しかしまだ――終わりではない。

 

「センチビットを対象にウェブソルダーの効果発動!センチビットを守備表示に変更し、手札の『バチバチバチ』を特殊召喚!更にセンチビットの表示形式が攻撃表示から守備表示に変更された時、デッキからレベル3の昆虫族を特殊召喚する!2体目のセンチビットを特殊召喚だ!」

 

バチバチバチ 守備力800

 

電子光虫―センチビット 守備力500

 

ついに八雲のフィールドに5体のモンスターが揃う。ペンデュラム召喚も使ってないのにこの展開力は恐ろしいものがある。しかもユートに対するメタを入れながら、である。

遊矢が今まで闘ってきた中で1番の強敵は黒コナミだ。しかし彼のデュエルスタイルはカードのパワーを活かす荒々しく力任せなデュエル。

そして八雲はその反対に1つずつカードの効果を繋げていくコンボ重視、メタ中心のテクニカルで緻密に練り上げた策のデュエル。

 

「5体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『電子光虫―スカラジエータ』!」

 

電子光虫―スカラジエータ 攻撃力1800

 

「複数体の素材でもエクシーズ召喚可能なモンスターか……!」

 

「さぁ、守備表示になって貰うよ!」

 

幻影騎士団クラックヘルム 守備力500→0

 

「更に!スカラジエータのORUを2つ取り除き、ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!エクシーズ召喚!『電子光虫―コアベージ』!」

 

電子光虫コアベージ 攻撃力2200

 

スカラジエータの背中が青白く輝き、蛹のようにひび割れ、開いた中より機械の蝶が羽ばたく。その雷を帯びた羽が光り、ボルトの眼がユート達を捉える。

 

「ランクアップまで……!」

 

「まだ終わってないよ!コアベージのORUを2つ取り除き、ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!エクシーズ召喚!『電子光虫―ライノセバス』!」

 

電子光虫―ライノセバス 攻撃力2600

 

地で伏せていたスカラジエータの甲殻が再びコアベージの身を包み、変形していく。電光を纏い、生まれたのは4枚の羽、2本の雄々しき大角を唸らせた最強の電子光虫。

2回連続のランクアップ、その豪快な登場を見て遊矢は目を輝かせる。

 

「すげぇ……!」

 

「ここで止める!永続魔法、『幻影霧剣』!これで――」

 

「速攻魔法、『コズミック・サイクロン』!対策は取ってるんだよ!1000LPを払い、『幻影霧剣』を除外する!」

 

八雲 興司 LP4000→3000

 

「バトルだ!ライノセバスでクラックヘルムを攻撃!そしてライノセバスは守備表示モンスターを攻撃する場合、貫通ダメージを与える!」

 

ユート LP4000→1400

 

「ぐっ、う――!」

 

雷を帯びた角がクラックヘルムを砕き、ユートをも貫く。ソリッドビジョンでも無いのに実体化した痛みが駆け抜け、思わず膝をつくユート。

これこそが自分達が味わってきた戦い。冷たい脂汗が額を伝い、地面に落ちる。そのただならぬ様子に遊矢はハッとなり、ユートを心配する。考えてなかった訳ではないが、やはりこれは――ダメージが実体化するデュエル――。

 

「ユート!大丈夫か!?」

 

「……安心しろ……この程度でくたばる程やわじゃない……!」

 

ぐっ、と腹に力を入れて立ち上がる。痛みは治まった。まだ闘える。まだデュエルは出来る。レジスタンスの名は伊達ではない。

気を引き締め、再びデュエルディスクを構える。ここで折れては、デュエリストではない。

 

「どこまでもつかな?僕は墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、1枚ドロー!」

 

八雲 興司 手札3→4

 

「フィールド魔法、『光虫基盤』を発動!自分フィールド上の昆虫族モンスターの攻守は300上がる!」

 

電子光虫―ライノセバス 攻撃力2600→2900

 

時計台のある広場が一瞬で電子回路が張り巡らされた機械的なフィールドに変わり、光が蜘蛛の巣のように伸びていく。

随分派手な演出だが攻撃力の上昇値は僅か300。彼がそれだけのフィールド魔法を使うとは思えない。と、言う事はつまり、まだ効果はある。

 

「ライノセバスを対象に『光虫基盤』の効果発動、手札の『レベル・スティーラー』をORUとする!僕はカードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

八雲 興司 LP3000

フィールド『電子光虫―ライノセバス』(攻撃表示)

セット2

『光虫基盤』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『EMドラネコ』をセッティング!『EMギタートル』のペンデュラム効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「いくぞ!ペンデュラム召喚!『EMドクロバット・ジョーカー』!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMリザードロー』!『EMオオヤヤドカリ』!『時読みの魔術師』!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMリザードロー 守備力600

 

EMオオヤヤドカリ 守備力2500

 

時読みの魔術師 守備力600

 

天空に再び出現した魔方陣より紫、赤、オレンジ、緑、黄の色とりどりの光が発生し、混ざり合って1本の柱となってフィールドに轟音と共に降り立つ。

5体同時召喚。八雲に負けず劣らずの展開力がユートと八雲、2人の眼前を覆う。そのモンスターも奇術師、マジシャン、派手な衣装に身を包んだ蜥蜴、宿である貝に5つの部屋を持つヤドカリ、そして黒い『魔術師』と見ていて飽きない。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果!ギタートルと時読みを破壊し、デッキより『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』と『EMオッドアイズ・ユニコーン』を手札に!更にドクロバット・ジョーカーを対象にオオヤヤドカリの効果発動!ドクロバット・ジョーカーの攻撃力はフィールドの『EM』の数×300アップする!」

 

「甘いよ遊矢!その効果にチェーンしてライノセバスのORUを1つ取り除き、効果発動!相手フィールドの守備力が1番高いモンスターを破壊する!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800→2700

 

ライノセバスの効果によりオオヤヤドカリが破壊され、攻撃力の上昇値が900ポイントにダウンする。僅か200の差が溝を開き、遊矢の攻撃の手を止める。

シンプルながら今の盤面では効果的だ。しかし、この程度では遊矢の歩みを止める事は出来ない。打点を上げて届かないなら、届くまで上げれば良い。持ち前のエンタメを今、ここで披露する。

 

「Ledies and Gentlemen!ここからが本番!私、榊 遊矢のエンタメデュエルをご覧差し上げましょう!」

 

「……これが君のデュエル……見せてもらうぞ、遊矢……!」

 

「エンタメデュエル……彼から気をつけるように言われているが……面白そうじゃないか……!」

 

遊矢の突然の口上に2人のデュエリストが興味を示すように釣られる。掴みは上々と言ったところか、ならば冷めない内に次へと繋ぐ。エンタメは鮮度が大事なのだ、大仰な仕草でフィールドのドクロバット・ジョーカーを指差す。

 

「オオヤヤドカリの効果でドクロバット・ジョーカーの攻撃力を上げても未だにその差は埋まらず、その差は僅か200!しかし、この状況を打破する種は既に仕込んであります!さあ、ペンデュラム・マジシャンをリリースし、不死鳥となって蘇れ、アドバンス召喚!『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』!」

 

EMオッドアイズ・ライトフェニックス 攻撃力2100

 

フィールドのペンデュラム・マジシャンがボックスに閉じ込められ、ドクロバット・ジョーカーが次々とボックスに剣を刺していく。全ての剣を刺し終え、誰もが助からないと思ったその時、ボックスが開き、そこにはペンデュラム・マジシャンの姿は無く、代わりとして赤き不死鳥が上空へと羽ばたく。

 

「さぁてお次はこの効果!攻撃力を上げても届かないなら、届くまで上げるまで!ライトフェニックスを、リリースし、ドクロバット・ジョーカーの攻撃力を1000アップする!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力2700→3700

 

「バトル!ドクロバット・ジョーカーでライノセバスに攻撃!」

 

八雲 興司 LP3000→2200

 

「ぐうっ……!」

 

赤き不死鳥の翼が奇術師に宿り、炎の輪を潜り抜けてその輪を使ってライノセバスの身を燃やす。機械の身体を持つカブトムシは液体状となって溶け、電子のフィールドに消えていく。

これで八雲のフィールドはがら空きとなった。今までダメージを与えられなかったLPを削ったのも大きいだろう。遊矢とユートの士気も大きく上がった筈だ。

 

「俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMリザードロー』(守備表示)

セット2

Pゾーン『EMドラネコ』

手札2

 

「フッ、良いデュエルだ……俺も続こう!俺のターン、ドロー!俺は墓地のフラジャイルアーマーを除外し、手札の『幻影騎士団ラギッドグローブ』を捨て、1枚ドロー!」

 

ユート 手札1→2

 

「俺は『クレーンクレーン』を召喚!」

 

クレーンクレーン 攻撃力300

 

「『クレーンクレーン』の召喚時効果により、墓地のレベル3モンスター、ラギッドグローブを特殊召喚する!」

 

幻影騎士団ラギッドグローブ 守備力500

 

鶴の形をしたクレーンが現れ、墓地に繋がる渦を作り出し、青いデッサン人形のようなモンスターを吊り上げる。

これでユートのフィールドにレベル3のモンスターが2体揃った。ユートも遊矢に負けじと声を張り上げ、電子の空へと手を翳す。

 

「俺は2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!3体目のブレイクソードッ!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000→3000

 

黒馬を駆けさせ、現れたる首無しの黒騎士。折れた剣を振るい、主人を守るように前に出る。これで全てのブレイクソードを使いきった。早めにケリをつけたい所だ。

 

「ラギッドグローブを素材としたエクシーズモンスターは攻撃力が1000アップ効果を得る。更に墓地の『幻影翼』を除外し、同じく墓地のブレイクソードを特殊召喚する!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000

 

「何度も何度もブレイクソードばかり……他の芸が無いのかい?」

 

「何、お前程器用では無いが……今回は自信があるぞ?俺はブレイクソードのORUを1つ取り除き、素材が無いブレイクソードと右のセットカードを破壊する!」

 

「馬鹿の1つ覚えだなぁ!君が対象としたカードは『エクシーズ・リボーン』!フリーチェーンの罠カードだ!墓地のライノセバスを特殊召喚し、このカードをORUにする!君を相手取るのに不発になるような罠を積む訳が無いだろう!?」

 

電子光虫―ライノセバス 守備力1800→2100

 

再びフィールドに舞い戻るカブトムシ。ここまでは八雲の読み通り、どんなに攻撃力を上げようとユートのモンスターは1体、ライノセバスの効果でブレイクソードは破壊され、墓地に適したカードがない以上、ユートのフィールドはがら空きになる――筈だった――。

 

「馬鹿を舐めるな!俺のデュエルは不屈のデュエル!今こそ立ち上がれ!その牙で圧政を断ち切れ!墓地で眠るダーク・リベリオンを選択し、魔法カード、『エクシーズ・リベンジ』発動!相手フィールドにORUを持ったエクシーズモンスターが存在する場合、選択したモンスターを特殊召喚し、相手フィールドのORUをダーク・リベリオンのものとする!」

 

ユートのデュエルはその先へと往く。おかしな話では無い。八雲がユートのデュエルを知っていても、完全に封じられる訳ではない。

それにこれこそがユート本来の力、どれだけ圧政を敷いても、仲間達と共に反逆する不屈のデュエル。

 

「ッ!ライノセバスのORUを使い、ブレイクソードを破壊する!」

 

「だが『エクシーズ・リベンジ』は特殊召喚を行った後にORUを奪う効果!よって特殊召喚自体は出来る!降臨せよ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

反撃の狼煙と共に、暗き闇より飛翔する漆黒の竜。闇をも引き裂く咆哮が響き、電子のフィールドに雷が走る。期は熟した、今こそ反逆の時。ユートは八雲を出し抜いた事で皮肉気な笑みを見せ、遊矢はその姿に心を震わせる。

 

「不屈のデュエル……!これがお前のデュエルか、ユート!」

 

「そうだ。これが俺の、レジスタンスのデュエル!かっとビングだ!」

 

「かっとビング……勝鬨が言っていた……」

 

「勇気を持って、挑戦し続ける不屈の精神!受けてみろ八雲!ダーク・リベリオンでライノセバスへ攻撃!反逆のライトニング・ディスオベイッ!!」

 

ユートの指示を受け、ダーク・リベリオンがその体躯を空中で翻し、その鋭いアギトで電子のフィールドを抉り抜く。様々な部品が飛び散り、激しい火花を上げ、ダーク・リベリオンはバネの如くジャンプしてライノセバスを貫く。バギィィィィィッ!耳をつんざくような破壊音、赤き電光が八雲のモンスターを切り裂いた。

 

「ッ……!ユートォ……!」

 

ギリッ、ここに来て始めて八雲の顔色が変わる。先程までの余裕のある表情ではなく、苦虫を噛み潰したような険しい目付きでユートを睨み、ギリギリと歯軋りをしている。それ程までにユートの手が八雲の上を行っていたと言う事だろう。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

「罠発動!『光虫異変』!墓地のウェブソルダーとコクーンデンサの効果を無効化し、特殊召喚する!」

 

電子光虫―ウェブソルダー 守備力1500→1800

 

電子光虫―コクーンデンサ 守備力2000→2300

 

八雲のフィールドに現れる2体の昆虫族モンスター。これで再びレベル3のモンスターが揃った。

 

ユート LP1400

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)

手札0

 

「僕のターン、ドロー!上等じゃないか、叩き潰してあげるよ……!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『ハチビー』、『バチバチバチ』、『増殖するG』、『飛翔するG』、『夢蝉スイミンミン』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

八雲 興司 手札0→2

 

「『ハチビー』を召喚」

 

ハチビー 攻撃力500→800

 

「『ハチビー』とコクーンデンサをリリースし、2枚ドロー!」

 

八雲 興司 手札1→3

 

「更に僕はウェブソルダーを選択し、魔法カード、『サザンクロス』を発動!ウェブソルダーのレベルを10にする!」

 

電子光虫―ウェブソルダー レベル3→10

 

「コクーンデンサのレベルを1つ下げ、墓地の『レベル・スティーラー』を特殊召喚する!」

 

電子光虫―ウェブソルダー レベル10→9

 

レベル・スティーラー 守備力0→300

 

ウェブソルダーのレベルを1つ奪い、フィールドに現れたのは天道虫。奪った星をかじり、その背中に浮き上がる。

 

「更に魔法カード、『タンホイザーゲート』により、2体のレベルは合計のレベル10となる!」

 

電子光虫―ウェブソルダー レベル9→10

 

レベル・スティーラー レベル1→10

 

「レベル10が2体……!?」

 

八雲のフィールドに揃うのはレベル10、最上級のモンスター。それを素材に要求する大型のエクシーズモンスターが今、呼び出される。八雲は背後に星の渦を作り出し、翳した手の甲に35の紋様が焼きつくように走る。

 

「2体のモンスターがオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.35ラベノス・タランチュラ』!!」

 

No.35ラベノス・タランチュラ 攻撃力0→3500

 

『光虫基盤』に青白い光の線が何本も走り、蜘蛛の巣を作り上げる。その上にズゥゥゥゥゥンッ!と黒い渦より這い出た巨大な何かが重々しい轟音と土煙を上げて登場する。

一体何だ――2人が目を凝らしたそこには不気味に蠢く毛の生えた何か。本能的にゾワリと背筋に冷たいものが駆ける。

 

脚だ。巨大な昆虫の脚、それが素早く動き、オレンジの体躯が現れ――ギョロリ、翡翠の1つ眼が、ユート達の目と合う。まるで蛇に睨まれた蛙。いや――蜘蛛の巣に捕らえられた蝶。2人の眼前に、巨大なタランチュラが姿を見せた――。

 

「攻撃力――3500……!」

 

「ラベノス・タランチュラがいる限り、僕のモンスター全てのステータスは僕と君達のLPの差分アップする!これはバトルロイヤル、『裁きの天秤』と同じく、君達のLPを合計したものとする。更にORUとなったウェブソルダーの効果で君達のモンスターは守備表示になり、守備力は0になる!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 守備力100→0

 

EMリザードロー 守備力600→0

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 守備力2000→0

 

「ここで僕は『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキの10枚を除外し、2枚ドロー!」

 

八雲 興司 手札0→2

 

「魔法カード、『モンスター・スロット』を発動!墓地のウェブソルダーを除外し、ドローする。そしてそのカードが除外したモンスターと同じレベルの場合、特殊召喚する。ドローしたカードはコクーンデンサ、よって特殊召喚する!」

 

電子光虫―コクーンデンサ 攻撃力0→3500

 

「更に墓地のセンチビットを対象とし、コクーンデンサを守備表示に変更する事で対象としたセンチビットを特殊召喚する!」

 

電子光虫―センチビット 守備力500→4000

 

「更に墓地の『光虫異変』とライノセバスを除外し、効果発動!このターン、僕の電子光虫のレベルは除外したライノセバスに対応する!ライノセバスのランクは7!よって全ての電子光虫のレベルは7となる!」

 

電子光虫―コクーンデンサ レベル3→7

 

電子光虫―センチビット レベル3→7

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『電子光虫―ライノセバス』!」

 

電子光虫―ライノセバス 攻撃力2600→6100

 

八雲のフィールドに再び羽ばたく白銀のカブトムシ。2体の大型エクシーズモンスターが遊矢とユート、それぞれを捉えて獰猛に唸る。状況は最悪。それでも、諦める訳にはいかない。燃え盛る闘志が2人が膝をつく事を許さない。

 

「これなら『No.』を出すまでも無かったかな。これで終わりだよ。ユート、遊矢」

 

「まだだ……!まだ終わってない……!俺はまだ、諦めない!」

 

拳を強く握り締め、遊矢は八雲に向かって咆哮する。尽きぬ闘志、折れない心。このどうしようも無い逆境でも遊矢は笑顔を崩さない。自分のエンタメデュエルを、諦めない。

 

「なら!この状況で何が出来るか見せて貰おうか!ライノセバス!全てのモンスターへ攻撃し、2人に止めを刺せぇ!」

 

八雲の指示を受け、2人に襲いかかる電子光虫の王者。しかし、これに対抗する手段は無い。今のライノセバスにはモンスター、魔法、罠の効果を封じる効果がある。それでも――2人の闘志は消えない。

 

そして――その闘志が、不屈のデュエリストを、呼び起こす。

 

「ちょぉぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁっ!墓地の『仁王立ち』を除外し、そのラウンド、俺が貰うぜぇ!」

 

『乱入ペナルティ、2000ポイントダメージ』

 

LP4000→2000

 

「「「な――」」」

 

突如、騒がしい声と共に現れた乱入者より待ったがかかる。バチバチと電撃が迸り、見えないバリアが遊矢達とライノセバスの間に割り込み、遊矢達を守る。3人は驚愕の声を漏らし、電子の空を割り、その場に降り立った乱入者へと視線を向ける。

 

浅黒く健康的な肌、右目を隠し、跳ねた髪、舞網第3中学の学ランに炎の刺繍が走った赤いシャツ、左手にはボクシング等で使われるバンテージが巻かれ、右手の指には3つのリングを嵌めている。

熱い意志を感じさせる翡翠の左目を遊矢へと向け、ニッ、とあどけない笑みを浮かべる少年と、首枷で拘束され、ジャラジャラと鎖を引き摺った拳闘士は――。

 

「へへっ、お前の熱い想い、確かに俺に届いたぜ!マイエンジェル!」

 

「……君は――?」

 

「ははっ、ワリィワリィ、紹介が遅れたな。ボクシングデュエルジム所属、アリト!榊 遊矢!お前のファンさ!」

 

この場を引っくり返せる程の闘気を纏った、皇の力を持つデュエリスト。遊矢のファンを名乗る少年、アリトが、激闘の渦に参戦する。

遊矢、ユート、アリト、八雲、1人が増え、4人となったこのデュエルの結末は――まだ、どうなるか分からない。

 

「さぁ、最終ラウンド、始めようぜ!」

 

「……誰だか分からないけど、邪魔をするなら、君も倒す!」

 

ゴングが今、鳴り響く。




と言うわけでアリト参戦。先にモンスターとか展開してるけどデュエルチェイサーよりマシな筈……あんまりやりたくないんですけどここで登場させとかないとタイミングが無いので。許しておくれ……。


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第45話 いずれ分かるさ、いずれな

コナミ「……そろそろ出番欲しいなぁ!主人公なのになぁ!」


それは八雲が『No.』を召喚した直後の事だ。アリトは自分の試合が来るまでの時間を持て余し、フラフラと辺りを歩いていたのだが、突然彼の頭に沈痛が走り、本能的なものが何かの出現を感じ取ったのだ。

ボーッとしていた顔も険しいものへと変わり、アリトは気配のする方向へと振り向く。

 

「……何だ今のは――?……俺の試合はまだか……何だか分かんねぇが、ちょっくら確かめに行くか――!」

 

獣染みた直感を便りに、アリトは覚悟を決めて走り出す――。

胸が騒ぐような何か宿敵を見つけたような、本能が自然と闘志を剥き出しにする感覚。まるで何処かで味わった事があるような感覚だ。

もしかしたら、アリトはニヤリと口角を上げる。

 

「もしかしたら……記憶を取り戻す切欠になるかもしれねぇな……!」

 

記憶喪失。それが今のアリトの状態だ。気がついたらこの舞網市で倒れ、現在所属しているボクシングデュエルジムの会長に保護されたのだ。

学校まで通わせてくれた会長への恩返しとして潰れかけたジムを有名にしようと6連勝し、この大会に出場したのだが――同時に、記憶も取り戻さなければと思っている。

現状は楽しいが、何時までも会長に世話をしてもらうばかりではいけないだろう。

 

「っと、ここか……何だぁ?誰かがデュエルしてやがる……ん、んん?ありゃあ榊 遊矢じゃねぇか!」

 

考え事をしている内に大きな時計台のある広場へ出た。その中心ではフィールド魔法の影響だろう、電子板が光を放ち、黒いドーム状の結界が張られている。

中では3人のデュエリストがいるが――アリトはその内の1人を見て、目を見開く。

 

榊 遊矢。彼が舞網市で目覚めた時、ジムのテレビ越しに見たデュエリストだ。

彼の扱うペンデュラム召喚、そしてエンタメデュエル。それは記憶を失ったアリトでも深い感動を受けた素晴らしいものだった。

画面越しに映る彼がアリトの目には純白の翼を広げた天使に見え、地球の上で彼の顔をした朝日が昇る錯覚まで見た。

 

率直に言うと一目惚れ。アリトは彼のエンタメデュエルに魅了され、ファンになってしまったのだ。

 

「Oh……天使……!」

 

アリトの口から感動の吐息が漏れる。初めて生で見る遊矢。必死にデュエルをし、眩しい笑顔を見せる彼がアリトの目には輝きに満ち溢れ、その背中に天使の両翼が見える。

控え目に言って馬鹿である。そんな彼の視界に異物が入り込む。何だよ邪魔すんじゃねぇよと念じる彼の瞳が捉えたのは、オレンジと紫の極彩色の巨大な蜘蛛。

 

そう、八雲の『No.』、35の称号を持つラベノス・タランチュラである。その強大な存在を認めた途端、アリトの胸がドクンと高鳴る。

あれだ、あれが、自分の記憶の欠片に違いない。実際は別の人の記憶なのだがアリトはそう確信し、ずんぐりとした巨体を、静かに、不気味に呼吸し上下するラベノス・タランチュラを睨む。その時。

 

「まだだ……!まだ終わってない……!俺はまだ、諦めない……!」

 

遊矢より、熱い想いが籠った叫びがアリトの耳に入り、そして胸を打つ。届いた闘志にニヤリとあどけない笑みを浮かべ、アリトはその腕にデュエルディスクを装着し、デッキから5枚のカードをドローして駆け出す。

 

「よし、これなら……!」

 

天使がピンチなら助ける。3対1でも味方したい方に味方する。熱い意志を宿し、アリトは大きく跳躍して黒いドームの壁を蹴り破る。口に出すのは、記憶を失っていても尚、覚えていた誰かの言葉。

 

「かっとビングだ……俺ぇ!」

 

斯くして――神をも砕く拳が、物語へと参戦する――。

 

――――――

 

「アリト、だっけ?いきなりやって来た割には『仁王立ち』を墓地に送っているなんて姑息だねぇ君ぃ」

 

「へっ悪かったな。別にサシでやってやっても良いんだぜ!」

 

「まぁ、いいよ。どうせ結果は変わらないからね」

 

「何だとコイツゥ!」

 

突如現れ、遊矢達の窮地を救ったアリト。八雲は自分の邪魔をしたその少年へ苛立ちを覚え、ネチネチと煽る。当然と言えば当然か。あと少しで止めを刺せると言う所で邪魔をされたのだ。不機嫌にもなる。

そんな彼等のやり取りをポカンと眺める遊矢とユート。

 

「……えっと、アリト?」

 

「おう!何だ天使!」

 

「天使……?いや、えーっと、色々言いたいけど、助かったよ。ありがとな」

 

未だに混乱している遊矢だが何とか言わねばならない言葉を絞り出す。正直に言えばあの状況、本当に打つ手が無く、どちらかが敗れる所だったのだ。

アリトが助けてくれたお陰で何とかなった。

 

「俺からも礼を言う。恥ずかしながら2人でも苦戦していた所だ」

 

「良いって事よ!ん?天使が2人いる……!?」

 

遊矢とユートを交互に見て動揺するアリト。同じ顔の人間を見れば少しばかり驚くのは無理も無いが彼の場合は何か違う。

 

「そんな事はどうでも良いんだよ!早く『仁王立ち』の対象モンスターを選んで貰おうか!」

 

と、ここで呑気に話し合う3人にとうとう痺れを切らしたのか八雲が右腕をバッ、と振り、急かす。

そう、今はあくまでデュエルの最中、ただでさえ乱入されたのだ。遅延行為までされては堪ったものじゃない、と青筋を立ててこめかみをピクピクと動かせる。

敵である人物にルールにうるさくされるとどうにもいたたまれなくなる。

 

「おう!俺が『仁王立ち』の対象にするのはエクシーズモンスター、『BK拘束蛮兵リードブロー』だ!これでお前はこいつしか攻撃出来ねぇ!」

 

「攻撃力2200ねぇ……大丈夫かい?そんなモンスターで。言っておくが君が増えたお陰で僕のラベノス・タランチュラの攻撃力も上がるよ」

 

No.35ラベノス・タランチュラ 攻撃力3500→5500

 

電子光虫―ライノセバス 攻撃力6100→8100

 

八雲がアリトのフィールドに存在するエクシーズモンスター、『BK拘束蛮兵リードブロー』を見て鼻で笑う。

その姿は首枷等で身動きを拘束されており、お世辞でも『No.』に対抗できるとは思えない。しかもアリトが参戦した事で八雲のモンスター達の攻撃力まで上昇してしまった。

 

「はっ!俺のリードブローはそう簡単にダウンしねぇぜ!」

 

「……言うじゃないか。なら君から倒してあげるよ!ライノセバス!その趣味の悪いモンスターを破壊しろ!」

 

「させない!俺は速攻魔法、『禁じられた聖杯』を発動!ラベノス・タランチュラの効果を無効とし、攻撃力を400アップする!」

 

「ナイスだぜ天使!更に『BK』が破壊される時、代わりとしてリードブローのORUを取り除く!そしてリードブローのORUが取り除かれた時、攻撃力を800アップする!」

 

No.35ラベノス・タランチュラ 攻撃力5500→700

 

電子光虫―ライノセバス 攻撃力8100→3200

 

アリト LP2000→1000

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3000

 

リードブローが攻撃表示の為にライノセバスの効果封殺が消え、遊矢がすかさず隙を突く。それによりラベノス・タランチュラの全体強化も消え、八雲のモンスターの攻撃力が大幅に減少する。しかもリードブローが拘束具を盾とした事で1つ枷が破壊され、その攻撃力を増した。

2回の破壊無効に決して少なくない攻撃力の上昇。厄介な効果だ。何より面倒なのは効果での破壊にも対応し、自分以外でも『BK』と言うカテゴリなら条件を満たす事。デッキによっては詰みかけないだろう。だがそれよりも八雲が苛立つ理由は――。

 

「榊……遊矢ぁ……!」

 

そう、強力なサポーター、榊 遊矢。彼の手により八雲の策は打破された。アリトもそうだが遊矢の行動は読めないにも程がある。彼の存在が八雲を苦戦させる。

 

「そんな顔するなよ、デュエルは楽しむものだぜ!」

 

「……その笑顔、何時までもつかな?僕は魔法カード、『エクシーズ・ギフト』によりラベノス・タランチュラのORUを2つ取り除き、2枚ドロー!」

 

八雲 興司 手札0→2

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

八雲 興司 LP2200

フィールド『No.35ラベノス・タランチュラ』(攻撃表示) 『電子光虫―ライノセバス』(攻撃表示)

セット2

『光虫基盤』

手札0

 

「俺のターンはここに来るまでに終わってる。天使!お前のターンだ!」

 

「ああ!お楽しみはまだ終わらない!かっとビングだ、俺!」

 

アリトの激励を受け、遊矢が勢い良くドローしてアークを描く。相手のフィールドには強力な効果を持つ『No.』とその強化を受けたライノセバス。

中々お目にかかれない逆境だ。だからこそ――エンタメデュエリストの本能が、燃えると言うものだ――!

 

「まずは魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動し、2枚ドロー!『EMオッドアイズ・ユニコーン』をセッティング!さぁ、揺れろ!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMオオヤヤドカリ』!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

「無駄だよ!カウンター罠、『神の警告』!2000ポイントのライフを払い、その特殊召喚を無効にする!」

 

八雲 興司 LP2200→200

 

No.35ラベノス・タランチュラ 攻撃力2500→4500

 

電子光虫―ライノセバス 攻撃力7100→9100

 

特殊召喚を無効にされた上にラベノス・タランチュラの効果でモンスターが強化される。だがまだまだ。遊矢のエンタメデュエルは終わっていない。

 

「通らないか――なら!さぁさぁご注目!取り出したるは1枚のカード、このカードで電子の世界に魔法を見せましょう!」

 

「おおっ、エンタメデュエルか!どうするんだ!?」

 

遊矢のエンタメデュエルに驚く程食いつくアリト。実に見せがいのある客だ。ユートもフッ、と薄く笑い、八雲も訝しげだが興味はあるようだ。

 

「ではご期待に応えましょう!魔法カード、『オッドアイズ・フュージョン』!エクストラデッキのオッドアイズとドクロバット・ジョーカーを融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

暗き電子の空を、魔術の力を秘めた深紅の竜が駆け、咆哮する。右目を金属で覆い、背に金色に輝くリングを負った遊矢の切り札とも言えるモンスターが今、顕現した。

 

「ライノセバスのORUを取り除き、ルーンアイズを破壊する!」

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』を発動!効果は知ってるな!?ライノセバスの効果を無効とし、攻撃力を400上げる!」

 

電子光虫―ライノセバス 攻撃力9100→9500

 

「チッ、だがどうするつもりだい?ルーンアイズの攻撃力は3000。僕のモンスターには届かない!」

 

「どうするつもりだって――?こうするのさ!ルーンアイズ!ライノセバスを攻撃!」

 

煽る八雲に笑みを見せ、遊矢はルーンアイズに指示を飛ばす。それを受けたルーンアイズは主を疑いもせずに宙を飛び、背のリングより光線をライノセバスに向かって放つ。

無謀、無茶、無理――誰もがそう思うだろう、しかし、それを覆してこそ、エンタメデュエリストと言うもの。

 

「速攻魔法、『決闘融合―バトル・フュージョン』!その効果により、ルーンアイズの攻撃力はライノセバスの攻撃力9500分アップする!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→12500

 

「攻撃力12500……!?くっ……!罠発動!『攻撃の無敵化』!このバトルフェイズ中、戦闘ダメージを0にする!」

 

「だけどこれでライノセバスは破壊される!シャイニーバースト!」

 

迸る3つの電撃が膨れ上がり、重なって1つの極太の線となりライノセバスの頑強な鋼の甲殻を穿ち、貫く。

これで厄介なモンスターは破壊した。後は、ユートが八雲を、『No.』を破壊するのみ。

 

「俺はこれでターンエンド。さぁ、では本日の主役にこのデュエルの幕を下ろして貰いましょう!」

 

榊 遊矢 LP2200

フィールド『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMリザードロー』(守備表示)

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMドラネコ』

手札0

 

バッ、と手を広げ、ユートを指差しウィンクする遊矢。その様子にユートは目を見開く。そう、会って間もないユートの事を、信頼しているのだ。

だからこそユートにターンを回し、主役を譲った。このデュエルに決着をつけるのはユートだと、ならば――その信頼に、応えねばなるまい。

このターンで勝たねば負けるのはこちら、全く、危ない橋を渡る。ユートはニィッと笑みを浮かべ、デッキより1枚のカードを引き抜く。

 

「お楽しみは、これからだ!!」

 

互いの言葉を交換し、その想いに応え、勝利を導く。3人の力は集束し――光輝く、眩き明日を、シャイニング・ドローを創造する。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地のブレイクソード2体、クラックヘルム、ラギッドグローブ、『クレーンクレーン』をデッキに戻し2枚ドロー!墓地のサイレントブーツを除外し、デッキから『幻影剣』を手札に加え、魔法カード、『手札抹殺』!手札を捨て、2枚ドロー!更に墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、ダーク・リベリオンをエクストラデッキへ戻しドロー!」

 

ユート 手札0→2→3→2→3

 

「さぁ、勝利の方程式は整った!俺は『終末の騎士』を召喚!」

 

終末の騎士 攻撃力1400

 

召喚されたのは闇属性のモンスターを扱うデッキにとっては必須と言えるモンスター、ゴーグルを装着し、錆び付いた鎧とボロボロのマフラーを靡かせた黒い騎士だ。

 

「召喚時効果によりデッキのクラックヘルムを墓地へ送り、墓地の『幻影剣』を除外して特殊召喚!」

 

幻影騎士団クラックヘルム 攻撃力1500

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

雷鳴を轟かせ、漆黒の竜が闇より尾を振るい登場する。ユートのエースモンスターにしてこのデュエルに反逆の狼煙を上げるカードの咆哮を受け、遊矢とアリトはニィッ、笑みを見せる。

 

「ダーク・リベリオンの効果!ORUを2つ取り除き、ラベノス・タランチュラの攻撃力を半分にし、その数値分攻撃力をアップする!トリーズン・ディスチャージ!」

 

「だがラベノス・タランチュラの攻撃力アップは永続効果!攻撃力は元に戻る!」

 

No.35ラベノス・タランチュラ 攻撃力4500→2250→4500

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→4750

 

紫電が駆け抜け、ラベノス・タランチュラの力を自身の翼へと吸収するダーク・リベリオン。しかしラベノス・タランチュラの食欲は旺盛だ。

奪った力を大気中より吸い込み、再び『No.』たらしめる力を取り戻す。

だが、これで充分。

 

「……馬鹿な……!?」

 

「反逆の!ライトニング・ディスオベイッ!!」

 

ダーク・リベリオンが天高く飛翔し、赤い雷が暗闇にスパークする。ド派手な応酬、シンプルで豪快な戦略、見るものの目を奪い、心を踊らせるユートのエンタメデュエル。

深紅の雷が闇を引き裂き、地面へダイブ、抉る牙が激しい轟音を響かせ――その鋭きアギトが――強大な『No.』を今、貫く。

地へ降り立つ黒竜。その背では巨大な蜘蛛が膨れ上がり、爆発が電子の世界を砕く。勝者は、決した。

 

八雲 興司 LP200→0

 

砕け、眩い光の粒子となって散るフィールド。その中で八雲は崩れ落ち、倒れ、デュエルディスクからラベノス・タランチュラがユートの手に渡ろうと飛んだ瞬間――。

 

パシッ、乾いた音と共に、ラベノス・タランチュラのカードを手に取り、八雲を支える男が、現れる。

 

「……」

 

白い、真っ白な何も描かれていない、目出し穴のみがくり抜かれた仮面を被り、同じく白いフードつきのマントを羽織った男。背丈は遊矢達と同じ位か――。

音もなく忍び寄った彼。その登場に驚くのも束の間、男を視界に入れた途端、遊矢とユートの胸の奥からズキリ、と激しい痛みが駆け、身体中が熱く燃え上がる感覚が襲い、思わずよろめいてしまう。

一体、この男は――。

 

「ッ……!何……者だ……!貴様は――!」

 

遊矢の瞳に赤い波紋が広がり、ドスがかかった、彼のものとは思えない声が漏れる。その急激な変貌にアリトが声を詰まらせるが男の方は何処吹く風だ。

予測していたかのように溜め息を吐き、遊矢を、ユートを見据える。

 

「――悪いが、“お前の方”には興味が無い。しかし、その顔――余り、見たくないものだ。嫌な事を思い出す」

 

「……何を……ッ!貴様……!」

 

トンッ、男が遊矢の、いや、何者かの胸を人差し指で押す。瞬間、彼の周りに漂う威圧感が弾け、霧散する。

そして遊矢が意識を取り戻して息を切らし、たたらを踏んでしまう。異様な光景、その中でユートは警戒心を上げ、男を睨む。

 

「お前は……何者だ……!」

 

「……何者か……いずれ分かる、いずれな……」

 

「何を言って――!」

 

「ぐっ、う……君か……すまない、手間をかけて……」

 

「計画に支障が出るからこう言った事はやめて欲しいんだが――まぁ、上手くいったようだ。今回だけは不問にしてやる」

 

と、ここで八雲の意識が戻る。やはりと言うか、仲間だったらしい。男は八雲に溜め息を吐きながら支える手を離す。

 

「まさか、七皇が出てくるとは思わなかったが――」

 

「ッ!?お前、俺の事を知ってるのか!?」

 

男がアリトをチラリと見て呟いた途端、アリトが目を見開いて食いつく。当然だろう、彼は記憶喪失、そして記憶の手懸かりが掴めると言うのだ。

しかし男はアリトの様子を訝しみ、1人でうんうんと頷き、答えを出す。

 

「そう、そうか……まさかその事まで忘れるとは――無理も無いか、奴等もあの状態――しかしお前がいると言う事は――チッ、後6人いるか、まぁ良い」

 

「何1人で言ってんだテメェ!一体俺の何を知ってんだ!」

 

「フン、知るか。八雲」

 

アリトを一瞥し、八雲を顎で急かせる男。八雲はそれで察したのか、デュエルディスクのパネルを操作し、ボタンを押す。

その行動にユートはしまったとばかりに駆け出し、2人を止めようとするが――遅い。2人は光の粒子に包まれ――。

 

「――だからお前は、何も守れないんだ」

 

フッ、男の言葉を最後に、2人の姿が溶けるように消失し、ユートの右手が空を切る。後に残ったのは、勝利の余韻から到底かけ離れた、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられた不快感。

行き場所を無くした右手を握り締め、ユートは歯軋りする。耳に残る、男の言葉。

 

「……ッ!奴は……何を知っている……!?」

 

「ユート……?」

 

「ッ!……遊矢か……すまない」

 

そんなユートを見かね、アリトに支えられた遊矢が心配そうに眉を伏せ、声をかける。

始めは彼とデュエルをするだけの筈だったのに、妙な事に巻き込んでしまった。申し訳なさと感謝と複雑な気持ちが混ざり、ユートもまた眉を伏せて向き合う。

 

「何で謝るんだよ!色々あったけど……すっげー熱くて、面白いデュエルだった!アリトもありがとな!お前がいなきゃ負けてたよ!」

 

「俺はちょっと出ばっただけだ。それより、お前等2人の真っ向からぶつかるデュエル、見ていて楽しかったぜ!」

 

しかし、目の前の2人はそんな事気にしていないとばかりに子供のような眩しく無邪気な笑顔で讃え合う。

その様子にユートは毒気を抜かれ、苦笑する。やはり――遊矢なら、いや、アリトも加わってくれればと思ってしまう。

だけどそれはダメなのだ。確かに遊矢はどんな状況でも折れぬ芯を持っているのかもしれないが――それでも、危険な目に合わせる訳にはいかない。

だが、せめて友人ではいたいとは思う。

 

「……遊矢、もし、君が良ければ――友達になってくれないか?」

 

あわよくば、もし良いのなら、僅かな希望を抱いて右手を差し出し、握手を求めるユートに、遊矢とアリトはポカンと呆ける。何か不味い事を言っただろうか?ユートは仕方無いかと手を下ろそうとするが――。

 

「ははっ、俺もう友達だと思ってたよ。友達だから信頼したんだぜ?案外抜けてるなぁ、ユートって」

 

「デュエルすれば皆友達ってな!あの八雲とか言う奴も友達になってやっても良いぜ!」

 

ガシッ、それを遮り、2人が笑いながらユートの手を取る。今度はユートが呆気に取られてしまった。悪戯が成功したように笑う2人を見て、ユートもまた満面の笑みになる。

 

「デュエルすれば友達!良いなそれ!」

 

「だろ?俺ってば良い事言うなー」

 

「ははっ、確かにな。受け売りっぽいが」

 

「何だとう!?」

 

笑い合って、喧嘩をして、デュエルをして、何処までも普通な彼等のやり取り、まだ見ぬ敵は確かにいるのだろう。

それでも、ユートはこの瞬間を大切に思う。昔、目付きの悪い少年やその妹、姉のような存在と日常を過ごしたかのように、きっと何時か――その日常を取り戻し、その中に――黒い帽子の少年と、八雲がいたら良いなと思いながら。

 

「そうだユート」

 

「ん?」

 

突然、思い出したように遊矢が声をかけ、右手を突き出し、人差し指と中指をこちらへと向け、太陽のように暖かい笑みを浮かべる。

 

「良いデュエル、楽しいデュエルをした後にさ、こう言うんだ。ガッチャ!良いデュエルだったぜ!」

 

――ガッチャ、勲章もののデュエルだった――。

 

その言葉を受け、呆気に取られるユート。頭に過るのは、強く、大切な事を教えてくれた、尊敬すべき男の背中。

ユートは薄い笑みを口元に描き、目を細め、遊矢に倣うように右手の人差し指と中指を突き出す。

 

「ああ――ガッチャ、良いデュエルだった――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっとアリトの出番が少ないけどVs八雲終了。アリト君の出番はこれから出していきたいと思います。彼もランサーズに入る予定なので。
次回は権ちゃんと刃のデュエルの予定です。主人公は座っててね。


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第46話 2人でやってるよ~

勝鬨「自分、人気過ぎてオファー来てさ。新しい切り札も貰えるらしいんだよ」

九庵堂・暗黒寺「「へ、へぇ…」」


遊矢達のデュエルに決着がついた頃、スタジアムでは第3試合の対戦者が向かい合い、火花を散らしていた。

1人はリーゼントを固め、襷を巻き、白い学ランに鉄下駄と応援団スタイルの漢。キリリと太い眉を吊り上げた体格の良いその少年の名は権現坂 昇。権現坂道場にて不動のデュエルを極める遊矢の親友である。

そんな彼に相対するは権現坂とは対称的に小柄で髪を無造作に伸ばした、八重歯が特徴的な少年。権現坂の師にしてLDSシンクロコース所属、刀堂 刃。正に夢の師弟対決と言う訳である。

 

「へっ、この時を待っていたぜ……!俺様が手塩にかけて育てたお前を、完膚無きまでにぶっ倒す時をよぉ!」

 

「それは俺とて同じ!お前との特訓、いや、俺の全てを出し、師を越えるこの時を、今か今かと待ちわびていた!」

 

師弟であるからこその対抗心、互いを良く知っているからこそ燃え上がる。ライバル、今の2人に相応しい関係はこれに限るだろう。

互いに白い歯と不快ではない敵対心を惜し気も無く剥き出しにして、左腕に嵌めたデュエルディスクをカチリとぶつけ合う。

これは2人にとってデュエルの合図のようなものだ。鞘を合わせ、カードと言う名の刀で斬り合う。それこそが彼等のデュエル。

準備は整った。デュエルディスクより光輝くソリッドビジョンのプレートを出現させる彼等を見て、司会進行役のニコがマイクを手に取る。

 

『お待たせしましたぁ!これより第3試合、権現坂道場所属、権現坂 昇選手対LDS所属、刀堂 刃選手を始めます!この2人、師弟関係との事!一体どのような試合を見せてくれるのでしょうか!アクションフィールド――発動!』

 

スタジアム内が光の粒子に包まれ、石畳が侵食していく。眩き厳かな納骨所が創造され、中心に巨大な台座が出現し、空から光の剣が突き刺さる。

アクションフィールド、『セイバー・ヴォールト』。『X―セイバー』モンスターの攻撃力をレベル×100アップし、逆に守備力をダウンする。刃にとって有利になってしまうフィールドだ。

 

「俺にとって有利になったが……容赦はしねぇ!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

2人の師弟によって紡がれるアクションデュエルの口上、デュエルディスクから出現したプレートで斬り結び、赤い火花を散らす。その様はまるで――剣舞を繰り広げる、剣士のようだ。

 

「「アクショーン……デュエル!!」」

 

始まるデュエル。互いにデッキより5枚のカードを引き抜き、デュエルディスクのランプを確認する。先行は刃だ。刃はニヤリと意地の悪い笑みを見せ、早速手札を切る。

 

「さぁ行くぜ!まずは勝鬨も使ったこのカード!永続魔法、『炎舞―「天キ」』!発動時、『XX―セイバーボガーナイト』を手札に加え、そのまま召喚!」

 

XX―セイバーボガーナイト 攻撃力1900→2400

 

フィールドに飛び出す『X―セイバー』の切り込み役。荒くれ者と言った風貌の捻れた角が生えた兜やマント、その手には妖しい輝きを放つ剣を持っている。

その攻撃力は『セイバー・ヴォールト』と天キの効果によって帝ラインまで引き上げられる。

 

「手早く行こうかぁ!ボガーナイトの召喚時、手札よりレベル4以下の『X―セイバー』を特殊召喚する!来い、チューナーモンスター、『X―セイバーエアベルン』!」

 

X―セイバーエアベルン 攻撃力1600→1900

 

2体目の『X―セイバー』は金色の鬣を靡かせた獅子の頭持つ兵士。その両手にはフック状になった3本の鉤爪が伸びた手甲を纏っている。

これで刃のフィールドにチューナーと非チューナーが揃った。だがまだまだ一休みとはいかない。刃は3本目の剣を抜き出す。

 

「さぁさぁお次はこいつだ!フィールドに2体の『X―セイバー』が存在する事で手札の『XX―セイバーフォルトロール』を特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400→3000

 

ついに現れる『X―セイバー』のキーカード。真紅の鎧とマントを纏い、地より大剣を引き抜き振り回す単眼の巨人。

このカードこそが『X―セイバー』の大量展開と高速化を可能とする。そのステータスもフィールド魔法の影響を受け、単体でも充分戦えるものとなる。

 

「巻いて行こうか!レベル4のボガーナイトにレベル3のエアベルンをチューニング!光差する刃持ち屍の山を踏み越えろ!シンクロ召喚!出でよ!『X―セイバーソウザ』!」

 

X―セイバーソウザ 攻撃力2500→3200

 

シンクロ召喚。刃の背後のエアベルンが弾け、3つのライトグリーンのリングとなる。そしてその中をボガーナイトが跳躍して潜り抜け、色素を失った後、7つの星が一直線に並ぶ。更に白き光がそれを撃ち抜き、フィールド上を照らす。

光が晴れたそこに立っていたのは2本の剣を交差し、ボロボロのマントを纏った狂人。

ここからが刀堂 刃の本領発揮。すかさず次の手へと移る。

 

「フォルトロールの効果ぁ!墓地よりレベル4以下の『X―セイバー』を特殊召喚する!再びフィールドに舞い戻れ、エアベルン!」

 

X―セイバーエアベルン 攻撃力1600→1900

 

「レベル6のフォルトロールにレベル3のエアベルンをチューニング!白銀の鎧輝かせ刃向かう者の希望を砕け!シンクロ召喚!出でよ!『XX―セイバーガトムズ』!」

 

XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100→4100

 

リングを潜り抜けた巨人の身体に、白銀の兜と鎧が装着され、フィールドに降り立つ。鎧の中より青白い光が伸び、真紅のマントが風に吹かれる。手に持った大剣が中心で割れ、二又の剣となって振るわれる。

このモンスターこそが刀堂 刃の切り札にして代名詞。攻撃力4100。脅威の数値が立ち塞がる。

 

「次ィ!魔法カード、『ガトムズの非常召集』!自分フィールド上に『X―セイバー』モンスターが存在する場合、墓地の2体の『X―セイバー』を対象として発動!攻撃力を0にして特殊召喚する!そしてこのカードを発動したターン、バトルフェイズを行えず特殊召喚したモンスターは破壊される!俺はボガーナイトとエアベルンを特殊召喚!」

 

XX―セイバーボガーナイト 攻撃力1900→500

 

X―エアベルン 攻撃力1600→300

 

「エンジン全開!アクセル踏み切るぜぇ!魔法カード、『戦士の生還』!墓地の戦士族モンスター、フォルトロールを手札に戻してそのまま特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400→3000

 

これで刃のモンスターゾーンが埋まり、手札も使い切り満足状態に入った。有無を言わさぬソリティアに権現坂が目付きを鋭くし、表情が険しいものへと変わる。短い間の付き合いだがここより先の事など容易に想像できる。切れ味の高い名刀で――希望が切り裂かれる。

 

「満足させてやるぜ!フィールド上のソウザ、ボガーナイト、エアベルンをリリースし、ガトムズの効果発動!お前の手札をランダムに3枚捨てる!」

 

権現坂 昇 手札5→2

 

3体の『X―セイバー』が光となってガトムズの剣に吸収され、その剣を振るった事で発生した斬撃が権現坂の手札を切り裂く。

少し前までは苦悶の表情も見せただろう。しかし今の権現坂は眉1つ動かさない。この程度で驚くならば師弟などやっていられない。そして権現坂は不動の志を持つデュエリストだ。微動だにしない。

 

「フォルトロールの効果により墓地のエアベルンを特殊召喚!」

 

X―セイバーエアベルン 攻撃力1600→1900

 

「全弾発射!フォルトロールとエアベルンをリリースし、残りの2枚もぶった切れ!」

 

権現坂 昇 手札2→0

 

ついに両者の手札が満足する。これで権現坂は次のターン、手札1枚の状態から始める事になってしまった。しかも刃のフィールドには攻撃力4100のガトムズ。逆転は難しいだろう。それでも、権現坂は焦らない。そんな彼とは対照的に観客席の者達が口元を引き吊らせる。

 

「うっわ……えげつねぇ……友達やめようかな俺」

 

「刃君には血が通ってないんじゃないでしょうか……?」

 

「あいつ僕の事言えないだろ」

 

「クソ外道ね」

 

「満・足!満・足!」

 

「聞こえてっぞお前等ぁ!後そこの赤いのそのダセェジャケット脱げ!」

 

上から暗次、ねね、北斗、真澄、コナミが口々に喋る。コナミは何故か満足ジャケットを着用してサイリウムを振っている。そんな彼等の台詞が耳に届いたのか、刃が竹刀をぶんぶん振り回して吠える。

 

「チッ、後で覚えてろよ……!俺はこれでターンエンド。さぁ、テメェのターンだ」

 

刀堂 刃 LP4000

フィールド『XX―セイバーガトムズ』(攻撃表示)

『炎舞―「天キ」』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

大きな挙動と共に引き抜かれる1枚のカード。風を逆巻いてドローしたそのカードに権現坂はチラリと一瞥し、迷う事なくデュエルディスクへと叩きつける。

 

「モンスターをセット。ターンエンドだ」

 

『おぉーっと、権現坂選手早くもターンを終了したーっ!やはりこの状況は厳しいかぁー!?』

 

「無理もねぇ……刃のクソ外道ソリティアコンボをモロに食らったんだ……モンスターをセット出来ただけ儲けもんだ」

 

「権現坂のデッキはフルモン、モンスターは必ず引けるが、特殊召喚出来ない上級が来れば腐るからな。全く、何てクソ外道ソリティアコンボだ……」

 

刃とは違い権現坂の短いターンが終了した。ニコの司会を耳に入れながら暗次とコナミが冷静に戦況を観察する。若干刃の事を貶しているが言う事は的を得ている。

問題はここからどうするか、刃がどう動くか、だ。

 

権現坂 昇

フィールド セットモンスター

手札0

 

「だから聞こえてるっつーの……さぁて、何か肩透かしなターンだったが……これで終わる訳ねぇよなぁ。俺のターン、ドローだ!バトルに移る!ガトムズでセットモンスターを攻撃!」

 

「セットモンスターは『超重武者ツヅ―3』!フィールドのこのカードが破壊され、墓地へ送られた場合、ツヅ―3以外の墓地の『超重武者』を対象として発動!そのカードを蘇生する!『超重武者―テンB―N』を特殊召喚!」

 

超重武者―テンB―N 守備力1800

 

ガトムズが権現坂のフィールドまで接近し、青い球体状となっているセットモンスターを切り裂く。セットモンスターが裏返り、現れたのは真っ二つに切られた鼓。その音色に誘われて天秤を担いだ深緑の武者が飛び上がる。

 

「テンB―Nが召喚、特殊召喚に成功した場合、テンB―N以外の墓地のレベル4以下の『超重武者』を対象として発動し、守備表示で特殊召喚する!俺が対象とするのは先程墓地へ送られたチューナーモンスター、ツヅ―3!」

 

超重武者ツヅ―3 守備力300

 

テンB―Nが肩に担いだ秤を墓地と思われる渦へと浸し、その中へズシリと何かが乗る。すかさずテンB―Nは釣り上げるように秤を素早く傾け、中に乗ったものを上へと放り投げる。クルクルと回りながら出てきたのは先程破壊されたばかりのツヅ―3。テンB―Nは落ちて来るそのモンスターをもう片方の秤でキャッチする。

 

「へっ、ここからが本番って訳か。俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

刀堂 刃 LP4000

フィールド『XX―セイバーガトムズ』(攻撃表示)

『炎舞―「天キ」』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!往くぞ!レベル4のテンB―Nにレベル1のツヅ―3をチューニング!シンクロ召喚!『超重剣聖ムサ―C』!」

 

超重剣聖ムサ―C 守備力2300

 

権現坂が手を翳し、ツヅ―3が弾け飛び1つのリングとなる。テンB―Nが潜り抜け、現れたのは髷や道着を模した赤と黒、金色のチューブを纏わせた2本のメカメカしい刀を持った、正しく剣聖の名に相応しいモンスター。

その名の由来は格好や2刀流を見ると宮本武蔵か。ジェット推進で地を削り、停止するムサ―Cを見て刃は漸くかと言った様子でニヤリと笑う。

 

「待たせたようだな」

 

「全く、弟子が師匠を待たせるもんじゃねぇぞ」

 

「フ、意地の悪い師匠のせいで遅れてな」

 

皮肉気に意地の悪い事を言う刃と軽口で答える権現坂。それを見てまたもや観客席が騒がしくなる。

 

「何かあれっスね、自分が無理難題ふっかけたのに、今更それ終わったの?って言う無能上司みたいな」

 

「クソだな」

 

「権ちゃぁぁぁぁぁん!そんなクソ野郎に負けるなぁー!」

 

「ただいまー、試合どうなってる?何か暗黒寺が凄い応援してるんだけど。コナミ、今北産業」

 

上から暗次、コナミ、暗黒寺、そして帰ってきた遊矢だ。暗次とコナミは相変わらず好き勝手に言いたい放題刃を罵倒し、暗黒寺は権現坂と同じ服装で太鼓を片手に応援している。何時の間にか権ちゃん呼び、驚きの白さである。そんな異様な光景に遊矢がコナミに尋ねる。

 

「刃がクソ外道

権現坂不動

暗黒寺はホモ」

 

「成る程、刃がクソ外道な事は分かった。暗黒寺は分かりたくない」

 

「何も分かってねぇ!アホ共の言う事を真に受けんな遊矢!」

 

ラップ調で答えるコナミに頷く遊矢。そんな彼等に刃がまたも竹刀をぶんぶん回して吠える。

 

「何やら騒がしいが……俺はムサ―Cの効果発動!このカードがシンクロ召喚に成功した時、墓地の機械族モンスター1体を手札に加える!俺はテンB―N手札に加え、そのまま召喚!」

 

超重武者テンB―N 攻撃力800

 

「効果によりツヅ―3を特殊召喚!」

 

超重武者ツヅ―3 守備力300

 

再び現れるテンB―Nとツヅ―3。この2体が揃ったと言う事は導き出される答えはまた――。

 

「俺はレベル4のテンB―Nにレベル1のツヅ―3をチューニング!シンクロ召喚!『超重剣聖ムサ―C』!」

 

超重剣聖 守備力2300

 

フィールドに揃う2体のムサ―C。2刀流が2つ、冴え渡る。

 

「ムサ―Cの効果により、墓地の『超重武者装留バスター・ガントレット』を手札へ!バトルだ!ムサ―Cは守備表示のまま守備力を攻撃力として扱い、攻撃出来る!俺は勿論、ガトムズを攻撃!」

 

「墓地のボガーナイトとソウザを対象として、罠発動、『ガトムズの緊急指令』!フィールドに『X―セイバー』モンスターが存在する場合、対象の2体を特殊召喚する!テメェの魂胆なんて分かってんだよ!」

 

XX―セイバーボガーナイト 攻撃力1900→2400

 

X―セイバーソウザ 攻撃力2500→3200

 

「やはり分かっていたか!手札のバスター・ガントレットを墓地へ送り、効果発動!戦闘を行うムサ―Cの守備力を元々の数値の倍とする!」

 

超重剣聖ムサ―C 守備力2300→4600

 

刀堂 刃 LP4000→3500

 

権現坂の手札からバスター・ガントレットが飛び出し、ムサ―Cの腕へと装着される。ジェット噴射で一直線に進み、高速の突きをガトムズへと放つ。

ガトムズも剣で防ぐが突きは剣を砕き、頑強な白銀の鎧をも貫く。これで刃の切り札を倒した。追撃はかけられないが得たものは大きい。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

権現坂 昇 LP4000

フィールド『超重剣聖ムサ―C』(守備表示)×2

手札1

 

「面白くなって来やがったぜ!俺のターン、ドロー!『XX―セイバーレイジグラ』を召喚!」

 

XX―セイバーレイジグラ 攻撃力200→400

 

小さな人型をしたカメレオンがフィールドに現れる。その手には2本の短刀を握っており、身体をすっぽりと覆う赤のマントも相まって暗殺者のような風貌だ。

 

「レイジグラの召喚成功時、墓地の『X―セイバー』モンスターを手札に戻す!俺はフォルトロールを手札に加え、そのまま特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400→3000

 

再びフィールドに帰還する赤き巨人。戦士族の『X―セイバー』であるフォルトロールはサルベージがとても用意であり、強みの1つと言える。

 

「フォルトロールの効果!墓地のエアベルンを特殊召喚!」

 

X―セイバーエアベルン 攻撃力1600→1900

 

「レベル6のフォルトロールにレベル3のエアベルンをチューニング!シンクロ召喚!『XX―セイバーガトムズ』!」

 

XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100→4100

 

刃のエクストラデッキより2枚目の剣が抜き放たれる。折角倒したと思ったのにまさかの2枚目の登場。この調子では3枚目も有り得るだろう。

 

「置いてけ手札ぁ!レイジグラをリリースし、その手札を捨ててもらう!」

 

権現坂 昇 手札1→0

 

ハンドレス以外は許さない。そんな確固たる意志で権現坂の手札を切り刻む刃とガトムズ。これで再び2人は満足。刃の猛攻が権現坂へと降り注ぐ。

 

「ガンガン行くぜ!ボガーナイトで1体目のムサ―Cを攻撃!」

 

「墓地の『超電磁タートル』を除外し、バトルフェイズを終了する!」

 

しかし権現坂のフィールドへクルクルと円盤状のものが回転してボガーナイトの剣を防ぐ。円盤より赤と青の電流が迸り、発生した磁場が丸いドームを作り出し権現坂のフィールドにバリアが完成する。

流石にバトルフェイズを終了されては攻め続ける事は出来ない、刃は舌打ちを鳴らす。

 

「チッ、このヤロー……前の攻撃はツヅ―3の効果の為に温存してやがったな……!だけどこれで使わせてやった、次はねぇ。ターンエンドだ」

 

刀堂 刃LP3500

フィールド『XX―セイバーガトムズ』(攻撃表示)『X―セイバーソウザ』(攻撃表示)『XX―セイバーボガーナイト』(攻撃表示)

『炎舞―「天キ」』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!俺はチューナーモンスター、『超重武者タマ―C』を召喚!」

 

超重武者タマ―C 攻撃力100

 

権現坂の召喚したチューナーはバレーボールのような大きさと形をした鎧武者。短い手にはこれまた短い槍を持っており、何処か愛嬌のあるカードだ。

そのレベルは2、『超重武者』にはレベル7から12のシンクロモンスターは無い筈だが、このモンスターとシンクロを行うモンスターは、少し範囲が広い。刃はタマ―Cを見て、しまったと息を詰まらせる。

 

「『X―セイバーソウザ』を対象としてタマ―Cの効果発動!ソウザとタマ―Cを墓地に送り、2体のレベルの合計となる『超重武者』をシンクロ召喚する!レベル7のソウザにレベル2のタマ―Cをチューニング!動かざること連山の如し。大岩に宿りし魂、今、そびえ立つ砦となれ!シンクロ召喚!出でよ!『超重魔獣キュウ―B』!」

 

超重魔獣キュウ―B 守備力2500→4300

 

裂帛の気合いと共に重量感のある地鳴りがフィールドに響く。土煙を巻き上げ、顕現したのは9つの炎の尾を伸ばした白い獣機。

人馬のような姿をし、頭部から獣の耳を模した炎がゴウゴウと燃え、その手には黒い杖状の銃器が握られている。

 

「キュウ―Bも同じく守備表示のまま攻撃可能、そしてこのカードの攻撃力は相手モンスターの数×900アップする!バトル!キュウ―Bでガトムズを攻撃!」

 

刀堂 刃LP3500→3300

 

超重魔獣キュウ―B 守備力4300→3400

 

キュウ―Bが杖をくるりと回し、その砲門をガトムズへと向け、エネルギーを集束させる。オレンジ色の光が点滅し、激しい耳鳴りが響き渡る。そして――耳鳴りが止むと同時に、極太のビームがガトムズを呑み込んだ――。

その余波によるダメージが刃へと襲いかかり、LPを削り取る。これで2体目のガトムズは倒した。しかも刃が再びガトムズを出しても2体以上のモンスターを扱うならばキュウ―Bは倒せないと言うおまけつきだ。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

権現坂 昇 LP4000

フィールド『超重魔獣キュウ―B』(守備表示)『超重剣聖ムサ―C』(守備表示)×2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ボガーナイトでムサ―Cを攻撃!」

 

権現坂 昇 LP4000→3900

 

ここでついに権現坂のLPにダメージが与えられる。ボガーナイトの見た目に反した流麗とも言える剣技がムサ―Cの2刀流を翻弄し、高速と化した突きが胸部を貫く。

 

「ちと賭けだが……メインフェイズ2に入り、魔法カード、『命削りの宝札』を発動!手札が3枚になるようにドローする!」

 

刀堂 刃 手札0→3

 

強力なドローソースである宝札が発動される。最大3枚のドローを行えるカードだが3つもの制限があり、特殊召喚が出来ないと言う厳しい誓約効果。発動した後のダメージが0となる効果は先にバトルを行った為逃れたが、エンドフェイズに全ての手札を墓地へ送る効果が残っている。

 

「うし、モンスターをセット、カードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

刀堂 刃 LP3300

フィールド『XX―セイバーボガーナイト』(攻撃表示)セットモンスター

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!来たか、俺は2体目のテンB―Nを召喚!」

 

超重武者テンB―N 攻撃力800

 

「効果によりツヅ―3を特殊召喚!」

 

超重武者ツヅ―3 守備力300

 

フィールドに揃うテンB―Nとツヅ―3の過労死コンビ。両者モンスターを蘇生しまくり過労死させている。これこそがシンクロ使いと言えよう。シンクロは過労死させてからが本番なのである。

 

「俺はレベル5のムサ―Cとレベル4のテンB―Nにレベル1のツヅ―3をチューニング!荒ぶる神よ、千の刃の咆哮と共に砂塵渦巻く戦場に現れよ!シンクロ召喚!いざ出陣!『超重荒神スサノ―O』!!」

 

超重荒神スサノ―O 守備力3800

 

ツヅ―3が1つの巨大な光輪と化し、ムサ―CとテンB―Nの2体を包み込む。満ち溢れた光が弾け、フィールドへと轟きと共に降り立つは深緑の装甲に黒い鎧を纏い、鬼の面をした武神。

クルクルと薙刀を回し、構え直し、威厳溢れる姿で仁王立ちする。

このモンスターこそ権現坂の最初のシンクロモンスターにして切り札だ。

 

「スサノ―Oの効果発動!相手の墓地の魔法、罠カードを自分フィールドにセットする!『ガトムズの緊急指令』をいただく!」

 

「チッ、面倒くせぇ!」

 

スサノ―Oの効果により刃の墓地の『ガトムズの緊急指令』が権現坂のフィールドへと渡る。その行動に観客席の遊矢は首を傾げ、コナミに問いかける。

 

「なぁ、コナミ。何で権現坂はあのカードをセットしたんだ?あのカードは『X―セイバー』の専用カードだろ?」

 

「……まぁ、そうだが、鋭すぎる刃は諸刃の剣となると言う事だ。あのカードの発動条件はフィールド上に『X―セイバー』が存在する事、つまり自分の場にいなくても構わないし、その効果範囲は自分と相手の墓地」

 

「そうか……!サポートカードであると同時にメタカードでもあるのか……!権現坂はそれを狙って!」

 

「ああ、師弟ならば知っているだろう。そしてスサノ―Oは刃の教えで得たカード、『X―セイバー』と『XX―セイバー』は決して仲間と言えない点と言い、運命的なものを感じさせてくれる」

 

正しく天敵。互いを良く知っているからこそそれが武器となる。2人の師弟、ライバルは互いにニヤリと好戦的な笑みを見せ、更に闘気を増していく。

 

「バトルだ!キュウ―Bでボガーナイトへ攻撃!」

 

「そう来ると思ったぜ!罠カード、『幻獣の角』!発動後ボガーナイトの装備カードとなり、その攻撃力を800アップする!」

 

「だがそれでも!足りん!」

 

キュウ―Bへ指示を飛ばし、ボガーナイトへとビーム砲を放たせる。刃も罠カードで応戦し、攻撃力をアップするがその数値は3200。後僅か200足りない。しかし、刃は更に笑みを深め、その言葉を待っていたとばかりに手を打つ。

 

「誰が1枚って言ったよ!ダブルオープン!『幻獣の角』ォ!」

 

XX―セイバーボガーナイト 攻撃力2400→4000

 

「そう来るか!」

 

放たれる2振りの懐刀。刃のフィールドで2枚の『幻獣の角』が表となり、ボガーナイトの兜の側頭部に生えた2本の角が黄金色に輝き、更に攻撃的なものへと変化する。獣のような遠吠えを上げ、ボガーナイトは手に持った剣を角と同じく金色に輝かせ、ビームを打ち返す。極太のビームはそのままキュウ―Bへと向かい、その巨体を呑み込み、消し炭すら残さず消滅させる。

 

権現坂 昇 LP3900→3300

 

「更に『幻獣の角』の装備モンスターが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った時、デッキからドローする!2枚あるから2枚ドローだ!」

 

刀堂 刃 手札0→2

 

これで両者のLPが並んだ。キュウ―Bを倒したのもかなり大きい収穫だろう。ボガーナイトの攻撃力はスサノ―Oの守備力も上回っている。

 

「ならばスサノ―Oでセットモンスターを攻撃!クサナギソード・斬!」

 

「セットモンスターは『XX―セイバーダークソウル』!破壊はされるが、エンドフェイズにデッキから『X―セイバー』1体を手札に加える!」

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

「ダークソウルの効果でフォルトロールを手札に加える」

 

権現坂 昇 LP3300

フィールド『超重荒神スサノ―O』(守備表示)

セット1

手札0

 

一進一退、互いに譲れぬ勝負を繰り広げるデュエルに会場がヒートアップする。それは選手である2人も同じ。身を焦がすような、燃え上がるような激闘に刃はこれ以上なく笑う。

これだ、全力で全力を迎え撃つ剣戟の如く火花を散らす、一瞬たりとも気が抜けないデュエル。これこそが刃が求めていたもの。熱に浮かされたように汗を振り落とし、彼は全力で弟子を潰す。

 

「俺のターン、ドロー!生意気だぜ、師匠にさっさと勝利を譲らねぇなんてなぁ!俺は2枚目の天キを発動!デッキよりレイジグラを手札に加える!」

 

XX―セイバーボガーナイト 攻撃力4000→4100

 

「更にレイジグラを召喚!」

 

XX―セイバーレイジグラ 攻撃力200→500

 

「召喚時効果でフォルトロールを手札に加え、そのまま特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400→3000

 

「この瞬間、俺は『ガトムズの緊急指令』を発動!相手の墓地からガトムズとエアベルンを特殊召喚する!」

 

XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100→4000

 

X―セイバーエアベルン 守備力200→0

 

権現坂のフィールドへ渡るガトムズとエアベルン。主力であるモンスターとチューナーを奪う事でこのターン中の刃のシンクロ召喚は封じた。

だが刃とて負けていない。その手札より対抗策を打つ。

 

「手札のモンスターを墓地へ送り、魔法カード、『ワン・フォー・ワン』!デッキよりレベル1チューナー、『X―セイバーパロムロ』を特殊召喚!」

 

X―セイバーパロムロ 守備力300→0

 

刃のフィールドに蜥蜴の姿をした剣が現れる。レベル1チューナー、どうやら刃は多少強引な切り口でもシンクロ召喚を行うらしい。

 

「フォルトロールの効果により墓地のダークソウルを特殊召喚!」

 

XX―セイバーダークソウル 守備力100→0

「レベル6のフォルトロールにレベル1のパロムロをチューニング!シンクロ召喚!『X―セイバーソウザ』!」

 

X―セイバーソウザ 攻撃力2500→3200

 

再び刃の場に2刀流のシンクロモンスターが登場する。展開に次ぐ展開、怒濤の剣技が冴え渡る。だがまだまだ、上昇するボルテージと共に更に加速していく。

 

「ソウザの効果!レイジグラとダークソウルをリリースし、このターン中、ソウザは戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずモンスターを破壊する効果と罠カードの効果では破壊されない効果を得る!そして手札のフォルトロールを特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400→3000

 

「フォルトロールの効果ぁ!墓地のレイジグラを特殊召喚!」

 

XX―セイバーレイジグラ 守備力1000→900

 

権現坂に対抗するようにフォルトロールとレイジグラの過労死コンビを過労させる刃。しかもこれはただの過労死ではない。その恐るべき事実に観客席のコナミとねねが戦慄する。

 

「これは……!?あのクソ外、刃の奴、何て事を……!」

 

「コナミ教授、これは一体!」

 

「それは私が答えましょう……刃君は今、過労死フォルトロールループを行おうとしているのです……!」

 

「フォルトロールでレイジグラを蘇生し、レイジグラでフォルトロールを回収する。言わばシフト制の仕事で「遊矢君、7時~15時までね、15時~22時は遊矢君に交代してもらうから、22時~7時は……遊矢君か」みたいな感じ……!」

 

「笑顔を売るだけの簡単な仕事です」

 

「エガオヲ……エガオヲ……!」

 

恐ろしい仕事である。親友の暗次のデッキはホワイトなのにブラック過ぎる刃の手口に遊矢が天に向かってブツブツと呟く人形と化す。

この刃ボロクソに罵る事も1つのループと言えよう。無限ループって怖くね?

 

「社長の影響かしらね。LDSが頭おかしいと思われたら堪ったものじゃないわ」

 

「『星邪の侵食』と『魂吸収』を積んだ君が言うの?」

 

これぞ不動性ソリティア理論の賜物である。

 

「外野うるせぇ!俺はレイジグラの効果でフォルトロールを回収!更に墓地の『グローアップ・バルブ』の効果でデッキトップを墓地へ送り、自身を特殊召喚!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

刃のフィールドに次なるソリティアループの使者が送り込まれる。植物に目が生えたようなモンスターはチューナーモンスター、シンクロへの布石である。

 

「レベル6のフォルトロールにレベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!3体目ぇ!『X―セイバーソウザ』!」

 

X―セイバーソウザ 攻撃力2500→3200

 

「ソウザの効果でレイジグラをリリースし、1つの目の効果を得る!そしてフォルトロールを特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400→3000

 

「フォルトロールの効果!レイジグラ蘇生!」

 

XX―セイバーレイジグラ 攻撃力200→500

 

「レイジグラの効果でフォルトロール回収、特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400→3000

 

「バトルに入るぜ!2体のソウザでガトムズとエアベルンを攻撃!」

 

2体のソウザの2刀流、計4刀の刃の閃き、仲間であるガトムズとエアベルンを切り裂く。前任の司令と現在の司令との剣戟、制したのは嘗ての司令であるソウザだ。

 

「次!ボガーナイトでスサノ―Oを攻撃!」

 

ボガーナイトが刃の指示を受け、瞬時にスサノ―Oに肉薄する。スサノ―Oが防御をしようとするが時既に遅し、幻獣の力を得たボガーナイトの高速の剣線が幾重も走り、結ばれる。一撃で倒せないなら二撃三撃、数え切れぬ剣戟が鎧を切り裂き、機神の命をも葬る。

 

権現坂 昇 LP3300→3100

 

「『幻獣の角』の重複効果で2枚ドロー!」

 

刀堂 刃 手札1→3

 

更にドローブースト。止まらぬ加速、刃は更にアクセルを踏み込む。

 

「フォルトロールでダイレクトアタック!」

 

「まだだ!墓地の『クリアクリボー』を除外し1枚ドロー!そしてそのカードがモンスターの場合、特殊召喚し、攻撃対象に移し変える!往くぞ!これが俺の、ドローッ!!」

 

権現坂のドローが土煙を巻き上げ、突風を巻き起こす。吹き荒れる砂塵の中、フォルトロールは気配のする方向に大剣を振るう。

斬っ、確かに切り裂く感覚、砂煙が晴れ、破壊されたモンスターは――。

 

超重武者ツヅ―3 守備力300

 

逆転への引き金だった――。

 

「まじかよ……!?」

 

「ツヅ―3の効果!墓地より『超重荒神スサノ―O』、再び出陣!」

 

超重荒神スサノ―O 守備力3800

 

小さな悪魔の導き、それが黄泉の国より武神を呼び戻す。メタリックな深緑のボディが光で反射し、振るわれる薙刀の刃先が刃へと向けられる。

 

「ハッ、やるじゃねぇか……!だが何故キュウ―Bを蘇生しなかった?」

 

「その答えはこれだ!スサノ―Oの効果発動!『グローアップ・バルブ』の効果のコストとして墓地へ送られた『ガトムズの緊急指令』をセットする!」

 

「ッ!見抜いてやがったか……嫌な弟子だよ全く……!俺はレイジグラをリリースし、ソウザに罠耐性を与える!カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

刀堂 刃 LP3300

フィールド『X―セイバーソウザ』(攻撃表示)×2『XX―セイバーフォルトロール』(攻撃表示)×2『X―セイバーボガーナイト』(攻撃表示)

『炎舞―「天キ」』×2『幻獣の角』×2セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!俺は2体目の『超重武者タマ―C』を召喚!」

 

超重武者タマ―C 攻撃力100

 

「チッ、キュウ―Bか!」

 

「違うな!俺が素材とするのは――レベル4!ボガーナイト!」

 

「ッ!」

 

「レベル4のボガーナイトにレベル2のタマ―Cをチューニング!雄叫び上げよ。神々しき鬼よ!見参せよ。悪の蔓延る戦場に!シンクロ召喚!いざ出陣!『超重神鬼シュテンドウ―G』!」

 

超重神鬼シュテンドウ―G 守備力2500

 

地響きと共に赤き装甲をした鬼が降り立つ。側頭部には天に反り立つ2本の角、胸には青白い宝石が埋められており、肩には黄色いユニットが装着されている。そして腰からは左右4本、合計8本の吹奏楽器のようなものが伸びており、右手には巨大な金棒を持っている。正しく赤鬼、酒天童子が現代に蘇る。

 

「シュテンドウ―Gがシンクロ召喚に成功した時、相手フィールドの魔法、罠カード全てを破壊する!」

 

「チッ、ダーク・フォースが……!」

 

「全く、抜け目ない師だ!俺はシュテンドウ―Gでボガーナイトを攻撃!」

 

刀堂 刃 LP3300→3100

 

シュテンドウ―Gが金棒で大地を砕き、激しい破壊と共に地割れを起こしたコンクリートがボガーナイトへ突き刺さる。更に地の底から2つの影が飛び出し、フィールドを駆ける。

白銀の鎧を纏い、真紅のマントを靡かせたその剣士は――。

 

「この瞬間、罠発動!墓地の2体のガトムズを蘇生!2体でソウザを攻撃!」

 

XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100→4000

 

その正体は『XX―セイバー』の総司令、ガトムズだ。それぞれ二又の剣を煌めかせ、刃を合わせ、前任の司令、2体のソウザへと大剣を振るう。ソウザも2刀の剣をクロスさせて防ぐが――バキィィィィィンッ!力強い剣技は2刀の剣を粉々に砕き、その喉元を切り裂く。

 

刀堂 刃 LP3300→2500→1700

 

「スサノ―Oでフォルトロールを攻撃!クサナギソード・斬!」

 

刀堂 刃 LP1700→900

 

更にガトムズの背後よりスサノ―Oが飛び出す。振るわれる薙刀による斬撃がフォルトロールの赤い鎧を切り裂く。

 

「この瞬間、LPを500払い、墓地のパロムロを蘇生!」

 

刀堂 刃 LP900→400

 

X―セイバーパロムロ 守備力300→0

 

「クククッ、ハハハッ!やっぱこうでなきゃな!サイコーだぜ!お前とのデュエルは!」

 

「俺もだ!俺はガトムズ自身をリリースし、相手の手札を捨てる!」

 

刀堂 刃 手札1→0

 

「スサノ―0の効果で『幻獣の角』をセットし、ターンエンドだ」

 

権現坂 昇 LP3100

フィールド『超重荒神スサノ―O』(守備表示)『超重神鬼シュテンドウ―G』(守備表示)『XX―セイバーガトムズ』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!俺はフォルトロールの効果でレイジグラ蘇生!」

 

XX―セイバーレイジグラ 守備力1000→900

 

「レイジグラの効果でフォルトロール回収!そして魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地のソウザ3体とガトムズ、そしてボガーナイトをデッキに戻し2枚ドロー!」

 

刀堂 刃 手札1→3

 

ここに来てドローカードとループの為のソウザの回収を行う刃。

 

「レベル6のフォルトロールにレベル1のパロムロをチューニング!シンクロ召喚!『X―セイバーソウザ』!」

 

X―セイバーソウザ 攻撃力2500→3200

 

「フォルトロールを特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400→3000

 

「レイジグラをリリースし、ソウザにソウザに1つ目の効果を与え、フォルトロールでレイジグラ特殊召喚!」

 

XX―セイバーレイジグラ 守備力1000→900

 

「レイジグラの効果でフォルトロールを回収!更にチューナーモンスター、『チューニングガム』を召喚!」

 

チューニングガム 攻撃力400

 

刃が召喚したのはスティック状のガムの包装紙から飛び出す緑色のガム。空中で粘土のように顔が作られるが――その顔は無駄にリアルでキモい。

 

「レイジグラを対象に『チューニングガム』の効果発動!レイジグラはこのターン、チューナーとなる!そしてレベル6のフォルトロールにレベル1のレイジグラをチューニング!シンクロ召喚!2体目!『X―セイバーソウザ』!」

 

X―セイバーソウザ 攻撃力2500→3200

 

「フォルトロールを特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400→3000

 

「フォルトロールの効果でレイジグラ蘇生!」

 

XX―セイバーレイジグラ 守備力1000→900

 

「レイジグラの効果でフォルトロール回収!レベル6のフォルトロールにレベル1の『チューニングガム』をチューニング!シンクロ召喚!3体目!『X―セイバーソウザ』!」

 

X―セイバーソウザ 攻撃力2500→3200

 

「レイジグラをリリースし、2体目のソウザに1つ目の効果を与え、手札のフォルトロールを特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400→3000

 

「フォルトロールの効果でエアベルン蘇生!」

 

X―セイバーエアベルン 攻撃力1600→1900

 

「レベル6のフォルトロールにレベル3のエアベルンをチューニング!白銀の鎧輝かせ刃向かう者の希望を砕け!シンクロ召喚!出でよ!『XX―セイバーガトムズ』!!」

 

XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100→4000

 

刃のフィールドに揃う4体のシンクロ『X―セイバー』モンスター。そのとんでもないソリティアループにより繰り出される展開力はLDSの中でも1、2を争うだろう。しかもこの中の2体のソウザは戦闘を介さずに相手モンスターを破壊する効果を得ている。

 

「最後に手札より3枚目のフォルトロールを特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400→3000

 

「バトルだ!ガトムズでシュテンドウ―Gを攻撃!」

 

権現坂 昇 LP3100→1600

 

ガトムズが二又の剣を振るい、シュテンドウ―Gの金棒ごとその厚い装甲を容易く切り裂く。シュテンドウ―Gは爆発し、爆風が権現坂の頬を撫でるが――それでも不動。権現坂は狼狽える事無く、仁王立ちして期を待つ。

 

「2体のソウザでガトムズとスサノ―Oを攻撃!この瞬間、ソウザの効果を発動する!」

 

戦闘を介さない効果破壊、それによりスサノ―O達が切り裂かれ、3体目のソウザの刃が権現坂の喉元へ届こうとする――その、瞬間。

 

「それを――待っていた!相手がバトルフェイズ中に魔法、罠、モンスターの効果を発動した時、墓地より『超重武者装留ビッグバン』を除外してその効果を発動!」

 

「その、カードはッ!?」

 

「そう、俺達の最初の闘い、ガトムズによって手札から捨てられ、勝負を引き分けにしたカード!それが今、この激闘に決着をつける!ソウザの効果を無効にし、破壊。そしてその後――フィールドのモンスターを全て破壊し、お互いのプレイヤーは1000のダメージを受ける!」

 

「ッ、ハハッ最高、最高、最高だ!やっぱデュエルは楽しいなぁ!昇!」

 

「あぁ、俺もそう思う。刃――!」

 

権現坂の墓地より青いフレームに覆われ、中に黄色く輝く球体状のエネルギーを抱いたモンスターが登場し、その懐かしい姿に刃が笑い、それにつられ、権現坂も笑みを浮かべる。

そして――ビッグバンのエネルギーが激しく点滅し、膨れ上がり――超爆発が、フィールドに震撼する。崩れ行くフィールド、轟音に巻き込まれていく互いのモンスター。塵埃が立ち込める中――最後に、立っていたデュエリストは――。

 

権現坂 昇 LP1600→600

 

刀堂 刃 LP400→0

 

『激闘、決着ゥー!第1回戦、第3試合を制したのは――権現坂道場所属、権現坂 昇選手ゥゥゥゥゥ!!』

 

弟子は今――師を越えた――。

 

――――――

 

「刃、これは返しておこう」

 

デュエルが終わり、ロビーにて、権現坂は1枚のカードを刃へと差し出していた。そのカードは『XX―セイバーガトムズ』。刃の切り札であり、先程のデュエルで権現坂のフィールドへ渡っていたモンスターだ。デュエルディスクにそのままだったので返そうとしたのだが――刃はニヤリと悪戯っ子のような笑みを浮かべ、竹刀を両肩に担いだままヒラヒラと右手を振る。

 

「次の勝負までとっときな。その時は俺が勝って返してもらうからよ」

 

「……!フ、ならばこのカードは一生俺のものだな」

 

「何だとぅ!最後まで生意気な弟子だな、こんにゃろぉ!」

 

笑い合い、掴み合う2人のライバル師弟。何時かまた、闘う時へと向い――そして、ここにもまた、火花を散らすデュエリストが2人。

 

「次は僕達のデュエルだ。真澄と刃のようにはいかないよ――?」

 

「――漸く、オレのターンか――」

 

迫る第4試合、対戦カードは――遊勝塾所属、コナミ対、LDS所属、志島 北斗――。

 

 




人物紹介4

権現坂 昇
所属 権現坂道場
不動のデュエルを志すデュエリスト。アクションデュエルの時代、動かずに自分のデッキのみを信じ、フルモンで構成されたデッキで闘う。
遊矢や柚子とは幼なじみであり、刃とは師弟関係。男と言うより漢。
デッキは『超重武者』、エースカードは『超重荒神スサノ―O』。

刀堂 刃
所属 LDS
ソリティアとループをたしなむシンクロ使い。
権現坂の師であり、この作品では二階堂道場の元塾生。暗次とねねとは幼なじみで親友。
案外コナミと一番相性の良い奴であり、コナミが無茶苦茶やっても止めたり、友達でいてくれる人。
デッキは『X―セイバー』、エースカードは『XXセイバーガトムズ』。1枚は権現坂に託された。


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第47話 来るぞ北斗!

サブタイが思いつかなかったり、どうにも難しかったこの一戦、もちっとだけでいいからデュエルスフィンクスが欲しい。


権現坂対刃の師弟デュエルに決着がつき、第4試合が始まろうとしていた。対戦カードはコナミと北斗。

本日2度目の遊勝塾対LDS、更にこの後遊矢と沢渡のデュエルがあると言うのだから仕組まれているのでは?と思ってしまう。権現坂と刃も遊勝塾絡みで因縁があった為、これが3度目とも言える。

尤も柚子と真澄、権現坂と刃とは違って2人がこうして闘うのは初めてだが。だからと言って互いのプレイングスタイルやデッキを知らない訳では無い。

コナミに至ってはLDS3人組の方がその実力を知っていると言う奇妙なものだ。

 

「助けて貰って悪いけど、手加減はしないよ」

 

「構わない。全力で来い、そして全力で負けてくれればそれで良い」

 

デュエルディスクを装着、ソリッドビジョンのプレートでコナミを差す北斗に対し、コナミはトレードマークの赤帽子をキュッ、と深く被り直し、その上に装着したゴーグルの紐を指で引っ張り、バチンと引き締める。

存外引っ張り過ぎたのか、イテテと頭を抑えて痛がっているが。何とも締まらない男である。本当にデュエル時とは打って変わって緩々な少年だと北斗は思う。

こんな少年がデュエルとなれば驚異的な実力を引き出すとは誰が思うのだろうか。相手にすると恐るべきプレイングセンスと逆転劇を見せるコナミ。

だが決して――絶望的なまでに差は開いてはいない。

 

『ではこれより第4試合、遊勝塾所属、コナミ選手対LDS所属、志島 北斗選手のデュエルを始めます!アクションフィールド、発動!』

 

ニコの声の下、コナミ達が立つフィールドが光に覆われ、コナミ達が立っている足場が浮上、いや、隆起するように押し出される。

その正体は円盤型の足場を伸ばした鉄塔。その出現と共に鉄塔周りの地面が工場内のように機械に覆われ、スモークが上がる。更に円の周りにガシャガシャとクレーンが合体、結合する。

アクションフィールド、『エクシーズ・オーバーライド』。1ターンに1度、エクシーズモンスターのORUを手札1枚を除外する事で代用出来るフィールドだ。何時もの運のツケなのか、コナミはこう言う所でツイてないらしい。

 

「さぁいこうか!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

2人の口上を観客達もなぞっていく。これがコナミの、舞網チャンピオンシップ最初の試合。次のデュエルに進む為に、今のデュエルを勝ち抜く。

大した目標なんて無いが、1つでも多くデュエルを、少しでも長くデュエルを、この楽しさを味わう為に――そして、彼を待つ為に、コナミは勝利を目指す。

 

「「アクショーン……デュエル!!」」

 

その先に、デュエルがあると信じて、互いにデッキより5枚を引き抜く。先攻は北斗だ。彼が先攻を取った瞬間、観客席のLDS生徒達が沸き立ち、右手の指で鼻くそをほじり始める。

そう、これは――先攻絶対プレアデス立てるマン、北斗が先攻プレアデスを立てるのを待つ、1種の儀式。

それに応える為では無いが、北斗は全力でプレアデスを立てる。

 

「まずはこれだ!永続魔法、ダブル発動!『セイクリッドの星痕』!『補給部隊』!そして『セイクリッド・ポルクス』を召喚!」

 

セイクリッド・ポルクス 攻撃力1700

 

先手で召喚したのは双子座の名を冠したモンスター。右半身が金と銀の鎧、左半身は真っ白になっている奇妙なモンスターだ。

その手には二又の刃を持つ剣を握っている。

 

「ポルクスの召喚成功時、僕は通常召喚に加え、『セイクリッド』モンスター1体を召喚出来る!来い、『セイクリッド・グレディ』!」

 

セイクリッド・グレディ 攻撃力1600

 

次のモンスターは山羊座のモンスターだ。白い鎧、そして兜には山羊座を冠するだけあって捻れた角が見てとれ、その手には1本の杖を握っている。

 

「グレディの召喚成功時、手札よりレベル4『セイクリッド』モンスターを特殊召喚出来る!『セイクリッド・カウスト』を特殊召喚!」

 

セイクリッド・カウスト 攻撃力1800

 

3体目は射手座の『セイクリッド』。身軽そうな鎧を纏い、その手には金色に輝く弓を持っている。彼は光の矢を2本生成し、宙に向かって放つ。

その矢の先に狙いを定められたのは――グレディと、カウスト自身。

 

「カウストの効果発動!フィールドの『セイクリッド』モンスターのレベルを1つ上げる!この効果は1ターンに2度まで使用可能。僕はグレディとカウストのレベルを1つずつ上げる!」

 

セイクリッド・グレディ レベル4→5

 

セイクリッド・カウスト レベル4→5

 

「これでレベル5のモンスターが2体、僕は2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!星々の光よ!今大地を震わせ降臨せよ!エクシーズ召喚!『セイクリッド・プレアデス』!」

 

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500

 

北斗の背後に宇宙を思わせる渦が広がり、2体の『セイクリッド』が光となってその中に飛び込んでいく。渦は凝縮して爆発を起こし、星の輝きを持つ戦士を生み出す。

銀河が流れるマントを広げ、天より地へ降り立つは牡牛座の上級『セイクリッド』。白銀の鎧に金に輝く装飾をあしらえ、柄が半円となった剣を振るう、このエクシーズモンスターこそ北斗のエースカード。

 

「自分フィールドに『セイクリッド』エクシーズモンスターが特殊召喚された時、『セイクリッドの星痕』の効果で1枚ドロー!」

 

志島 北斗 手札0→1

 

「更に、プレアデスのORUを1つ取り除き、効果発動!『セイクリッドの星痕』を手札に戻し、もう1度発動!そして魔法カード、『死者蘇生』発動!墓地のカウストを特殊召喚!」

 

セイクリッド・カウスト 攻撃力1800

 

「カウストの効果でポルクスとカウストのレベルを上げる!」

 

セイクリッド・ポルクス レベル4→5

 

セイクリッド・カウスト レベル4→5

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!2体目!『セイクリッド・プレアデス』!」

 

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500

 

「星痕の効果でドロー!」

 

志島 北斗 手札0→1

 

「2体目のプレアデスのORUを1つ取り除き、星痕バウンス、そのまま発動!更に2枚目の星痕発動!2体目のプレアデスでオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランク・アップ・エクシーズ・チェンジ!眩き光もて降り注げ!エクシーズ召喚!『セイクリッド・トレミスM7』!」

 

セイクリッド・トレミスM7 攻撃力2700

 

プレアデスの足下に渦が広がり、吸い込まれていく。続いてその渦から1つの光が上り、空気を裂くような雄叫びを上げるのは頭から2枚の巨大な翼を広げた、金と銀の機竜。

他の『セイクリッド』と同じく、その姿には高貴さを感じさせられる。北斗は直ぐ様、機竜の頭に飛び乗り、フィールドを飛翔する。

 

「星痕の2重効果により2枚ドロー!」

 

志島 北斗 手札0→2

 

「魔法カード、『エクシーズ・ギフト』発動!トレミスのORUを2つ取り除き、2枚ドロー!」

 

志島 北斗 手札1→3

 

「更に魔法カード、『セイクリッドの超新星』を発動。墓地の『セイクリッド』モンスター2体を手札に加える。ポルクスとカウストを手札に加える!カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

志島 北斗LD4000

フィールド『セイクリッド・プレアデス』(攻撃表示)『セイクリッド・トレミスM7』(攻撃表示)

『セイクリッドの星痕』×2『補給部隊』セット1

手札3

 

「これがお前本来のデュエルか……!オレのターン、ドロー!」

 

「この瞬間、罠発動!『エクシーズ・リボーン』!墓地のプレアデスを蘇生し、このカードをORUにする!」

 

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500

 

「何か後攻のこっちのターンにもプレアデス立てて来た……」

 

「星痕の効果で2枚ドロー!」

 

志島 北斗 手札3→5

 

「オレは『慧眼の魔術師』と『竜穴の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

コナミの手札より出るモンスターと魔法カードを組み合わせたかのような2枚のカード。ペンデュラムカードがディスクのプレートの両端に設置される。

そして2枚のカードを起点として虹彩の輝きがディスクに浮かび上がり、同時にコナミの背後に2本の光の柱が伸びる。その中に現れたのは瑠璃の珠を両肩、手の甲、腹部に散らし、美しい銀髪と秤を持った細身の『魔術師』と、錫杖のような物を持った熟練の腕を感じさせる『魔術師』。

彼等が秤と杖を振るい、上空に巨大な魔方陣を作り出すと共に、会場内がザワザワと騒ぎ立つ。

 

『な、な、なぁーんとっ!?コナミ選手!榊 遊矢選手のみが使用すると言われていたペンデュラムカードを発動したぁぁぁぁぁっ!!まさかまさか、あのペンデュラムが見られるのかぁぁぁぁぁっ!?』

 

ニコの言葉が広がり、観客達が一斉に盛り上がる。それもその筈、今までコナミは特に何の感慨も無くペンデュラムを使って来たが、これは本来ならば榊 遊矢が扉を開いたもの。

もう1人のペンデュラムの担い手である赤馬 零児も公にはしていないのだ。

榊 遊矢以外が扱うペンデュラム、それを期待して観客達がペンデュラムの音頭を取る。

 

「ああ、そう言えばこうなるよなぁ。ほらコナミ、皆が期待しているぜ?応えてやれよ」

 

「そんな事言ってツイツイとか打ったらボコボコにするからな」

 

「しないよ!」

 

「フ、冗談だ!さて、まずは慧眼のペンデュラム効果を発動!このままではペンデュラムは出来ないからな!このカードを破壊し、デッキより『竜脈の魔術師』をセッティング!竜脈のペンデュラム効果で手札の『刻剣の魔術師』を捨て、2体目のプレアデスを破壊!」

 

まずは露払いを。如何にペンデュラム召喚を行ってもバウンス効果を持つプレアデスが2体もいればペンデュラム召喚したモンスターがすぐに舞台から下ろされてしまう。

光の柱の中の『竜脈の魔術師』が手に持った刀を回し、雷をプレアデスへと降らせる。音の壁を突き破って放たれる雷は見事プレアデスへと命中し、その身を焦がす。

 

「さぁ、お待ちかねだ。揺れろ、光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

魔方陣に孔が開き、その中より赤と緑、瑠璃の3本の柱がフィールドに落ちる。コナミのフィールドに現れたのは翠玉をあしらえた服装をした柄の悪い、扇のような物を手にした『魔術師』と先程姿を見せた『魔術師』。そして炎の鬣を伸ばした『HERO』。

そのアメコミの世界から飛び出したような姿に観客の一部が盛り上がる。

その間にも北斗はコナミを観察しつつ、アクションカードを拾おうとトレミスに乗ってフィールドを駆け回るが――。

 

「『賤竜の魔術師』が特殊召喚に成功した場合、墓地の『魔術師』を回収する!刻剣を手札に加え、ブレイズマンが特殊召喚に成功した場合、デッキから『融合』として扱う『置換融合』を手札に加える!そして発動!」

 

「プレアデスのORUを取り除き賤竜をバウンス!」

 

「アクションマジック、『透明』!賤竜に耐性を与える!フィールドの賤竜とブレイズマンを融合!融合召喚!『E・HERO Great TORNADO』!」

 

E・HERO Great TORNADO 攻撃力2800

 

吹き荒れる暴風。その中心で立つのは黒いマントを翻した風の『HERO』だ。突如現れた彼は竜巻を束ね、ビュウビュウと唸り声を上げる風の竜を作り出し、竜の顎は星の戦士を呑み込む。

 

「Great TORNADOの融合召喚成功時、相手モンスター全ての好守は半分になる!タウン・バースト!」

 

「くっ……!」

 

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500→1250

 

セイクリッド・トレミスM7 攻撃力2700→1350

 

「まだ通常召喚権はある!『刻剣の魔術師』を召喚!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

次なる『魔術師』は剣を手にした少年『魔術師』。幼い姿だがその効果は優秀だ。

 

「バトル!刻剣でプレアデスに攻撃!」

 

志島 北斗 LP4000→3850

 

「『補給部隊』の効果!自分モンスターが破壊された事で1枚ドロー!」

 

志島 北斗 手札5→6

 

刻剣の剣が弱体化したプレアデスを切り裂く。微々たるダメージに顔をしかめながら北斗は次のターンに備えて手札補充を行う。

これで北斗の手札は6枚、初期値を越えてしまった。

 

「慧眼でトレミスを攻撃!」

 

志島 北斗 LP3850→3700

 

次なる慧眼の攻撃、北斗は流石に危ないと感じたのか機竜から飛び降り、鉄塔の上に転がり込む。瞬間、慧眼の作り出した魔方陣より光の球が放たれ、トレミスを撃ち落とす。

 

「TORNADOでダイレクトアタック!」

 

「アクションマジック、『回避』!」

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド。さぁ、来い北斗!」

 

コナミ LP4000

フィールド『E・HERO GreatTORNADO』(攻撃表示)『慧眼の魔術師』(攻撃表示)『刻剣の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札0

 

「面白いじゃないか、行くぞコナミ!僕のターン、ドロー!相手フィールド上にのみモンスターが存在する場合、『セイクリッド・シェアト』を特殊召喚!」

 

セイクリッド・シェアト 守備力1600

 

北斗が手札から特殊召喚したカードは水瓶座に位置するモンスターだ。他の『セイクリッド』とは違い、小柄なマスコットのような見た目で瓶を小脇に抱え込んでいる。

所謂、相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に特殊召喚出来る優秀なカードだ。

 

「更に『セイクリッド・ポルクス』召喚!」

 

セイクリッド・ポルクス 攻撃力1700

 

「ポルクスの効果でもう1度得た召喚権でグレディを召喚!」

 

セイクリッド・グレディ 攻撃力1600

 

「次!グレディの召喚成功時、手札のレベル4、『セイクリッド・ソンブレス』を特殊召喚!」

 

セイクリッド・ソンブレス 守備力1600

 

現れるのは『セイクリッド』のキーカード、山羊のように捻れた角、蝙蝠の羽に蝶の模様を足した翼、女性的な身体の周りには星座が浮かんだライトグリーンのリングと仲間達の武器が回転している。

更に手にしたのはある者から受け取った短剣、その刃からは並々ならぬ力が放たれている。

 

「ソンブレスの効果発動!墓地のグレディを除外し、同じく墓地のプレアデスをエクストラデッキに戻す。そして魔法カード、『救援光』!800LP払い、除外された光属性モンスター、グレディを手札に加える!」

 

志島 北斗 LP3850→3050

 

「ここで僕はポルクスとグレディの2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『セイクリッド・オメガ』!」

 

セイクリッド・オメガ 攻撃力2400

 

人馬一体、下半身が機械の馬のものとなった射手座の上級、『セイクリッド』。宇宙を描いたマントも翼のようになっており、胸には神星騎兵のシンボルが刻まれている。

 

「星痕の2重効果で2枚ドロー!」

 

志島 北斗 手札3→5

 

「そしてソンブレスの効果を適用したメインフェイズ、続く効果を発動する!『セイクリッド』モンスター、グレディを召喚!」

 

セイクリッド・グレディ 攻撃力1600

 

「グレディの効果でレベル4、『セイクリッド・カウスト』を特殊召喚!」

 

セイクリッド・カウスト 攻撃力1800

 

これぞエクシーズコースのトップ。そう見せつけるかのようにモンスターを展開し、ついに北斗のモンスターゾーンが埋まる。

だがこんなものはあくまで力の一端、彼の本領発揮はまだまだこれからだ。

 

「カウストの効果発動!カウストとグレディのレベルを1つ上げる!」

 

セイクリッド・カウスト レベル4→5

 

セイクリッド・グレディ レベル4→5

 

「これでレベル5のモンスターが2体!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『セイクリッド・プレアデス』!」

 

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500

 

再びフィールドに舞い降りる北斗の代名詞。剣を地に突き立て、左手をコナミへと翳す『セイクリッド』の騎士。

その厳格な雰囲気は見るだけで身震いしそうになる程だ。

 

「そしてプレアデスのORUを1つ取り除き、星痕の1枚を戻し、再び発動。そしてシェアトの効果発動!フィールド、墓地の『セイクリッド』1体のレベルをコピーする!ソンブレスのレベル4をコピー!そして2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『セイクリッド・ビーハイブ』!」

 

セイクリッド・ビーハイブ 攻撃力2400

 

3体目のエクシーズモンスター、蟹座の上級、『セイクリッド』だ。肩がもり上がり、両腕の鋏は金色に輝き、身につけた鎧の細部も金が施されている。マントの裏地も他のエクシーズと同じ星を散りばめたような美しさを醸し出している。

 

「星痕の効果で1枚ドロー!」

 

志島 北斗 手札4→5

 

「オメガのORUを1つ取り除き、効果発動。このターン、この時点でフィールドに存在する僕の『セイクリッド』モンスターは魔法、罠の効果を受けない。バトルだ!オメガで『慧眼の魔術師』を攻撃!僕の推測が正しければそのカードはミラーフォース等の攻撃反応型!だけどオメガの効果を受けた『セイクリッド』達には通用しない!」

 

「フ、流石だが――一歩及ばなかったな!罠発動!『マジカルシルクハット』!」

 

「何!?」

 

コナミが発動したのは確かに攻撃反応型に近いカードだ。しかしこのカードはミラーフォース等とは違い、自分のモンスターに効果を及ぼした上で相手の攻撃を防ぐカード。

『マジカルシルクハット』のカードの中からソリッドビジョンで作り出されたシルクハットが3つ飛び出し、その内の1つが『慧眼の魔術師』の身体を包むように被さり、その姿を隠す。

 

「このカードはデッキからモンスター以外のカードを2枚選択し、自分フィールドのモンスター1体と合わせてシャッフルし、セットするカード。勿論この効果でセットされたカードはモンスター扱いだ。2枚のカードはバトルフェイズ終了時に破壊されるが――逆に言えば、お前が当たりを引いても、バトルフェイズが終了するまでセットされたままだ」

 

「全く、予想外のカードを使うね。君には驚かされるよ」

 

「昔はそこまで強く無かったが――オレのデッキは墓地で発動するカードを投入してある。それでもバトルフェイズにしか発動出来ないから遅いがな。プレアデスでバウンスされたらどうするかとヒヤヒヤした」

 

ニヤリ、悪戯が成功した子供のように笑みを深めるコナミ。彼は白コナミとの一戦以来、デッキ構築を遊矢と共に一から考え直した。課題はあの『シューティングスター・ドラゴン』や様々なシンクロモンスターの連続攻撃を防げる盾。この考えで『速攻のかかし』等の手札誘発カードを複数枚積んだ。

そしてこのカードは防御から次の展開へ繋ぐもの。臨機応変、状況にあったカードを落とし、デッキの圧縮も出来る。

後は遊矢が言っていた、見ていてドキドキワクワクするカード、その条件に合うのがこのカードだった訳だ。

 

「さぁ、ここに3つのシルクハットがあるじゃろ?」

 

「僕はフシギダネ派だ!シルクハットを選ぶ前に、刻剣へ攻撃!この瞬間、ビーハイブの効果を発動!ORUを使い、オメガの攻撃力を1000アップ!」

 

セイクリッド・オメガ 攻撃力2400→3400

 

コナミ LP4000→2000

 

『セイクリッド・オメガ』が光の弓矢を作り出し、矢をつがいて刻剣を射抜く。まずは見えないシルクハットより見えるもの。

目の前の彼に教えられた事を反芻するように攻撃対象を変更する。

 

「わしにしねと言うのか……?」

 

「死ねとは言わんが負けてもらう!ビーハイブでGreatTORNADOを攻撃!アクションマジック、『ハイダイブ』攻撃力を1000アップ!」

 

セイクリッド・ビーハイブ 攻撃力2400→3400

 

コナミ LP2000→1400

 

「僕は魔法カード、『ジェネレーション・フォース』を発動!エクシーズモンスターが存在する場合、デッキから『エクシーズ』カードを手札に加える!『エクシーズ・リボーン』を手札に加え、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

志島 北斗 LP3050

フィールド『セイクリッド・プレアデス』(攻撃表示)『セイクリッド・オメガ』(攻撃表示)『セイクリッド・ビーハイブ』(攻撃表示)

『セイクリッドの星痕』×2『補給部隊』セット1

手札4

 

「オレのターン、ドロー!」

 

「罠カード、『エクシーズ・リボーン』!墓地のプレアデスを蘇生!星痕でドロー!」

 

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500

 

志島 北斗 手札4→6

 

「面白くなってきた……!行くぞ!墓地の『置換融合』を除外し、GreatTORNADOをデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

コナミ 手札1→2

 

「『ギャラクシー・サイクロン』を除外し、星痕を破壊!手札の『貴竜の魔術師』を捨て、竜穴のペンデュラム効果で2枚目の星痕破壊!準備は整った!ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『刻剣の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

舞い戻る2体の振り子の『魔術師』。これこそがペンデュラムモンスターの大きなメリットだろう。墓地へは行かず、エクストラデッキへ身を潜め、スケールがある限り何度でも特殊召喚される。

先程までモンスターが存在しなかったコナミのフィールドに不意打ちのように現れるペンデュラムモンスターを見て、北斗が歯噛みする。

 

「賤竜の効果で墓地の『貴竜の魔術師』を回収し、ブレイズマンで『置換融合』をサーチ!2体目のプレアデスの対象として刻剣の効果発動!このカードとプレアデスを除外する!」

 

「ならば先に効果を使う!『賤竜の魔術師』をバウンスする!」

 

「チューナーモンスター、『貴竜の魔術師』を召喚!」

 

貴竜の魔術師 攻撃力700

 

「ペンデュラムチューナー……!?プレアデスでバウンスだ!」

 

「させん!アクションマジック、『透明』!貴竜に完全耐性を与える!」

 

コナミが召喚したこのモンスターはペンデュラムモンスターでありながらチューナーと言う異色のモンスター。

紅玉を散りばめた高貴な出で立ち、音叉のような杖を持った幼き『魔術師』に北斗は驚愕と警戒を示す。

 

「『貴竜の魔術師』はドラゴン族シンクロモンスターの素材にしか使えず、他の素材に『オッドアイズ』モンスターを使った場合、デッキの一番下に戻るが……使用は出来る。慧眼をリバースし、オレはレベル4の『慧眼の魔術師』にレベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

鉄塔の一部を溶かし、火の粉を舞い上げ、火花を散らしながら、灼熱の竜がフィールドに現れる。

大地を焦がす赤き竜。このモンスターこそ流星を破壊するべく生まれた『オッドアイズ』シンクロモンスター。

故に、メテオバースト。その災禍の力が北斗の星を砕く。

 

「メテオバーストの効果発動!このカードが特殊召喚に成功した場合、ペンデュラムゾーンのカード1枚を特殊召喚する!『竜穴の魔術師』を特殊召喚!」

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

メテオバーストがスモークが渦巻く空に向かい、雄叫びを上げると同時に『竜穴の魔術師』がいた光の柱が火炎に包まれ、メテオバーストの背へとワープする。

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールド上のブレイズマンと竜穴で融合!融合召喚!『E・HEROアブソルートZero』!」

 

E・HEROアブソルート Zero 攻撃力2500

 

英雄と『魔術師』が混じり合い、氷河を渡る戦士となってフィールドを凍てつかせる。肩は氷柱のように尖り、腕も鋭角にカーブしたパーツが生えており、美しき純白のマントを靡かせた白銀の英雄。

その幻想的で高貴な姿に北斗を始め、観客達も感嘆の息を漏らす。

 

「バトル!アブソルートZeroでプレアデスを攻撃!瞬間氷結!」

 

アブソルートZeroがコナミの指示を受け、足元を凍てつかせ、スケートのように滑りながらプレアデスへと駆ける。その両腕を氷の刃へと変え、プレアデスへと切りかかる。

氷の軌跡が煌々と宙を舞い、白い雪を散らしながらそれはプレアデスと剣戟を繰り広げる。威力はプレアデスの大剣が上、されど手数はアブソルートZeroが勝っている。

星の光、粉雪を散らし、両者の剣は空気を走り、首元へと突き立てられる。

相討ち――しかし、首を貫かれたアブソルートZeroは凍りつき、自身の身体から氷柱がフィールドへ広がり、『セイクリッド・オメガ』と『セイクリッド・ビーハイブ』の胸元を貫く。

 

「これは――!?ビーハイブの効果も使えない……!?」

 

「メテオバーストがモンスターゾーンに存在する限り、相手はバトルフェイズ中にモンスター効果を使えず、アブソルートZeroがフィールドを離れた場合、相手モンスターを全て破壊する」

 

「『サンダーボルト』効果とはね……だが、僕は『補給部隊』の効果でドローするよ」

 

志島 北斗 手札5→6

 

「メテオバーストが自身の効果でペンデュラムモンスターを特殊召喚したターン、こいつは攻撃出来ない。オレは墓地の『置換融合』を除外し、アブソルートZeroをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー」

 

コナミ 手札0→1

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

コナミLP1000

フィールド『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『竜脈の魔術師』

手札0

 

「参ったね、あの布陣を崩すなんて。でもこうでなくっちゃ面白くない!そんな君を倒してこそ、僕は誇れるのさ!僕のターン、ドロー!」

 

獰猛な笑みを浮かべ、北斗はデッキよりカードを引き抜く。コナミの実力は良く分かっている。油断も、慢心も無い。あるのは勝利へのビジョン。確証もない強き自信。熱きプライドの全てを賭け、眼前の好敵手へ挑戦状を叩きつける。

 

「君に勝つ!僕の全てを賭け、君と遊矢を!」

 

「残念ながらオレが先約を入れている!あいつとデュエルするのはオレだ!」

 

「そう言うのはフラグって言って、ダークホースに倒されるのだよ!そしてそれは僕だ!魔法カード、『手札抹殺』!アクションマジックも合わせ、手札を交換!『セイクリッド・シェアト』を特殊召喚!」

 

セイクリッド・シェアト 守備力1600

 

「『セイクリッド・ポルクス』を召喚!」

 

セイクリッド・ポルクス 攻撃力1700

 

「ポルクスの効果で得た召喚権で『セイクリッド・グレディ』を特殊召喚!」

 

セイクリッド・グレディ 攻撃力1600

 

「グレディの効果により『セイクリッド・ソンブレス』特殊召喚!」

 

セイクリッド・ソンブレス 守備力1600

 

「ソンブレスの効果により墓地のカウストを除外し、グレディを手札に加える!そしてポルクスとグレディの2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『セイクリッド・オメガ』!」

 

セイクリッド・オメガ 攻撃力2400

 

まるで先程のターンの焼き回し、再生されるその光景にコナミは苦笑いする。同じ事の繰り返しだが、逆に言えばあの鉄壁の布陣を何度も敷く事が出来ると言う事だ。

 

「魔法カード、『救援光』!800LP払い、カウストを手札に!」

 

志島 北斗 LP3050→2250

 

「ソンブレスの効果でグレディ召喚!」

 

セイクリッド・グレディ 攻撃力1600

 

「グレディの効果でカウストを特殊召喚!」

 

セイクリッド・カウスト 攻撃力1800

 

「……一芸も極めれば立派な技と言う事か」

 

「さぁ?どうだろうね。僕はシェアトの効果を使い、グレディのレベルをコピーする!」

 

セイクリッド・シェアト レベル1→4

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『セイクリッド・ビーハイブ』!」

 

セイクリッド・ビーハイブ 攻撃力2400

 

「次だ!カウストの効果を使い、ソンブレスとカウストのレベルを1つずつ上げる!」

 

セイクリッド・カウスト レベル4→5

 

セイクリッド・ソンブレス レベル4→5

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!星々の光よ!今大地を震わせ降臨せよ!エクシーズ召喚!『セイクリッド・プレアデス』!」

 

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500

 

フィールドに集う3体の上級『セイクリッド』。牡牛座の星騎士、プレアデス。

星の加護により仲間を守る、射手座の神星騎兵、オメガ。

蜂を連れた騎士団、ビーハイブ。

それぞれ異なり、だからこそ互いの力を引き出せる3連星。先程コナミに突破されたが鉄壁の布陣。そして彼等の頭上に、新たな光が集束する。

 

「見せてあげるよ。これが僕の君の対策として選んだ切り札!『ライトレイディアボロス』!」

 

ライトレイディアボロス 攻撃力2800

 

光輝く粒子を纏い、日輪のように眩く、空のように青い翼を広げた魔王竜がフィールドに降り立つ。

光の洗礼を受け、吸収し、純白となった鱗。青い輝きを放つ身体中に走る光のライン。その雄々しく、気高い魔王の咆哮を前にコナミも退く。

 

「『ライトレイディアボロス』……!こんな隠し玉を持っていたとはな……!」

 

「このカードは自分の墓地に5種類以上の光属性が存在する場合、特殊召喚出来る。そして『ライトレイディアボロス』の効果発動!墓地のプレアデスを除外し、相手フィールドにセットされたカードを1枚選択して確認、デッキの上か下にバウンスする!」

 

「通せないな!発動される前に罠カード、『針虫の巣窟』!デッキの上から5枚を墓地へ送る!」

 

「ここで攻撃反応型を落とす所は流石としか言えないね!僕は永続魔法、『セイクリッド・テンペスト』発動!プレアデスのORUを取り除き、メテオバーストをバウンス!バトルだ!プレアデスでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『超電磁タートル』を除外し、バトルフェイズを終了させる!」

 

コナミのフィールドに円盤状のものが飛来し、赤と青、2色の電流が迸り、磁力のバリアがプレアデスの大剣を弾く。

この状況で適したカードを引き込む豪運。これこそがコナミの一番恐るべき所だろう。だからこそドローを封じるディアボロスを採用したのだが――墓地発動を大量に投入したコナミには1歩及ばなかったか。北斗は舌打ちを鳴らし、次の行動に出る。

 

「僕はオメガとビーハイブのオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!眩き光もて降り注げ!エクシーズ召喚!『セイクリッド・トレミスM7』!」

 

セイクリッド・トレミスM7 攻撃力2700×2

 

天空に舞う2体の機竜。頭上の翼を広げ、七星を紡ぎて神星なる領域から来訪するモンスター。蠍座を司る『セイクリッド』は魔王竜と共に天を駆り、コナミを威嚇するように咆哮する。

 

「僕はカードをセットしてターンエンド。そしてこの瞬間、2体のトレミスのORUを全て取り除き、君のLPを半分にする!」

 

コナミLP1000→500

 

志島 北斗 LP2250

フィールド『セイクリッド・プレアデス』(攻撃表示)『セイクリッド・トレミスM7』(攻撃表示)×2『ライトレイディアボロス』(攻撃表示)

『補給部隊』『セイクリッド・テンペスト』セット2

手札0

 

「フィールド0、手札0か……!厳しい状況だが……ここで逆転させてもらう!」

 

負ける気なんて更々ない。そう言わんばかりに2人は白い歯を剥き出しにして笑う。折れぬ闘志、尽きない探求心が血流のように熱く燃え上がる。

そして――コナミはデッキへと手を翳し――そのドローで、アークを描く。

 

「オレのターン、ドロォォォォォッ!!」

 

来る。研がれた牙が剥き出しになり、突き立てられるような感覚。身震いを武者震いに変え、警戒心を胸に抱き、北斗は魔王竜に飛び乗る。

 

「罠発動!『チェーン・ブラスト』!これで終わりだ!君に500のダメージを与える!」

 

「墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、効果ダメージを半分に!」

 

コナミ LP500→250

 

「スタンバイフェイズ、刻剣は帰還、そのままORUを持つプレアデスと共に除外する!」

 

「カウンター罠、『エクシーズ・ブロック』!プレアデスのORUを取り除き、その効果を無効にし、破壊する!」

 

「上等だ。墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外し、ペンデュラムゾーンの『竜脈の魔術師』を破壊!」

 

「何……!?」

 

自らペンデュラムスケールを崩す行動に北斗を含め、会場の誰もが動揺する。それもそうだろう、片方しか残っていないとは言え、コナミにとってペンデュラムは扉を開く鍵。だがペンデュラムがあればコナミの手札のカードは真価を発揮しないのだ。

フィールドに何もない状況でこそ、このカードは輝く。数多のデュエルで、逆転の引き金になって来たこのカード、通称――。

 

「手札がコイツ1枚の時、コイツは特殊召喚出来る。来い!『E・HEROバブルマン』!」

 

E・HEROバブルマン 守備力1200

 

強欲なバブルマン。

 

「そしてバブルマンの効果!自分の手札、フィールドにバブルマン以外のカードが存在しない場合、2枚ドローする!」

 

「そんな限定的な条件、君以外に誰が使うんだ!」

 

コナミ 手札0→2

 

「さてな、オレは更に、『竜脈の魔術師』を召喚!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

「レベル4が2体……来るか、君のエクシーズモンスター!」

 

「ペンデュラム、融合、シンクロ、ここまで来たんだ……全開で往く!オレは2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる、白き翼に望みを託せ、現れろ!No.39!エクシーズ召喚!希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

力強い咆哮を上げ、会場を震撼させ、主の元へと見参する希望の皇。白き両翼に黄金に輝く鎧、左肩に赤い39の紋章が浮かび上がり、腰より2刀の剣を引き抜くコナミの『No.』。

 

「ホープでプレアデスに攻撃!この瞬間、希望皇ホープのORUを1つ使い、攻撃を無効にする!ムーンバリア!」

 

ホープが駆け、自らの翼をプレアデスの眼前で広げる事でブラインドに使う。突き出された翼は白から黄へと変わり――背後より、皇が強襲する。

 

「速攻魔法!『ダブル・アップ・チャンス』!ホープの攻撃力を倍にしてもう1度攻撃する!ホープ剣・Wスラッシュ!!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→5000

 

プレアデスが反応するよりも早く、速く、疾く、ホープの2刀が凄まじい速度で剣撃を走らせる。白き閃光が軌跡となり、勝利への、ウイニングロードを切り開く。

 

「……僕は、負けたのか……」

 

「あぁ、オレの――勝ちだ!」

 

カチャリ、ホープの最後の剣撃が振るわれ、クルリと反転する。瞬間、北斗のLPがみるみる内に減少していく。だがそれでも、北斗もプレアデスも、崩れ落ちる事なく、倒れずに勝者へと視線を移し、讃え――託す。

 

志島 北斗 LP2250→0

 

勝者――遊勝塾所属、コナミ――。




【次回予告】

やめて!『クリアウイング・シンクロ・ドラゴン』の特殊効果で、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を切り裂かれたら、謎設定でモンスターと繋がってるユートの精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでユート!あなたが今ここで倒れたら、黒コナミや黒咲の手綱はどうなっちゃうの?ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、ユーゴに勝てるんだから!
次回「ユート死す」。お楽しみは、これからよ!


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第48話 ユート死す!

堕天使良いなぁ、欲しいなぁ。


時は進み、コナミと北斗のデュエルによって会場が暖まり、遊矢と沢渡のエンタメデュエル合戦によって会場は更にヒートアップした。

2人のデュエルの内容は何と、沢渡がネオ・ニュー沢渡に進化し、ペンデュラムカードを扱うと言う、夢のようなペンデュラム対決。華々しいペンデュラムのぶつかり合いに会場の選手、観客達の誰もが魅了され、正しく遊矢の目指すエンタメデュエルの体現であった。

着実に成長する自分を噛み締める遊矢。彼は更なる高みを望み、他の選手達のデュエルスタイルを研究し、吸収すべく、次なる試合を観戦するのだが――。

 

「……何だよ……これ……?こんなものが……これが、デュエルだって言うのかよ!?」

 

今、遊矢の眼前で繰り広げられる血で血を洗うような凄惨な光景。崩壊した未来都市を舞台に、互いのデュエリストの怒りが、憎悪が、嫌悪が、悲痛が、悲哀が――剥き出しの獣となって、空を紅に染め上げる。

空襲の如く炸裂する焦げ臭い火薬の匂いが立ち込め、絹を裂いて牙を剥く刃が突き立てられ、不快な音色を奏でる。

何より遊矢の耳に届くのは――幼き子供達の、悲鳴のような泣き声、そんな子供達の目を覆う、女性達の悲痛の声、デュエルを観戦する男性の、こんなものを見たいんじゃないと言う、後悔の声。

 

「……こんなの、まるで……」

 

ギリッ、奥歯を強く噛み締め、観客席とフィールドを隔てる鉄の棒を強く握る遊矢。どうしてこんな事になる。拭えない疑惑の感情が、床に落ちた染みのように広がり、聞き慣れた少年のあどけない声が、心の底で残っている男のドスの効いた声が、頭の中を過る。

 

――君のデュエル面白いね!ね、ししょーって呼んで良い?――

 

――くだらん――

 

――凄いね遊矢!何時の間に融合が使えるようになったの!?――

 

――そんなものは所詮、綺麗事だ。デュエルを……人を傷つける為の手段としか使わない奴等には通用しない!――

 

――どうして遊矢は、エンタメデュエルをしたいって思ったの?――

 

――……鉄の意志とは言えんが……銅の意志と言った所か――

 

じくり、胸の奥で僅かな痛みが広がっていく。2人のデュエリストを睨むように目を鋭くし、唇を噛む。拳を血が出そうな位強く握り、胸の奥に、遊矢が抱いたものは――悲しみと、確かな怒り。

 

その矛先は――紫雲院 素良と、黒咲 隼。融合次元のアカデミアの兵士と、エクシーズ次元のレジスタンスの生き残り。

2人のデュエル、いや、戦争を見て、遊矢はブチギレていた。ハンティングゲームだとか、戦争だとか、そんな2人の事情は、どうでも良い。そんな彼等の事情は、知った事では無い。2人の間で何があったなんかは知らないが、遊矢にははっきりと分かる。

 

2人は間違っていると。自分が正しいなんて言えないが、絶対に2人は間違っている。これだけは譲らないし、譲るつもりが無い。

何故なら彼等は――自分が大好きなデュエルを、踏みにじったから。友達だから許せないし、そんな事をして欲しく無い。

 

「デュエルは戦争なんかじゃない……!復讐の道具でも無い……!」

 

2人のデュエルに決着がついたその時、素良へと歩み寄る黒咲を見て、堪え切れないように遊矢がその身を乗り出し、2人の間に割って入るように現れる。

 

「ッ!……お前は……」

 

「……ゆ、う――や?」

 

「……」

 

突然目の前に現れた遊矢に、目を見開いてその手を止める黒咲と、虚ろな視線を向け、意識を手放す素良。

会場の観客も、司会のニコでさえも、遊矢と黒咲の動向を伺い、時が止まったかのように静まり返り、唾を飲み込む。

 

「邪魔だ、そこを退け」

 

「嫌だ」

 

「そいつは俺の故郷を、仲間を奪い去った」

 

「だからって同じように奪うのか?素良は俺の友達だ……!絶対に奪わせない……!」

 

「そいつはアカデミアの手先、何を守る必要がある!」

 

「確かに素良は悪い事をしたのかもしれない、だけど友達なんだ!守らない理由が何処にある!」

 

ギンッ、赤と金の鋭き眼が視線を交わし合い、火花を散らす。押し問答のように言葉の刃をぶつけ合う2人、黒咲の悲痛と憎悪が籠った言葉と、冷徹な視線を受けて尚、遊矢は退く事をしない。

それ所か、食って掛かるように前に出る遊矢が押しているようにも見える。

 

「何も分からないからそう言える!お前の前に、そいつが敵として現れた時、お前は本当にそいつが友だと言えるか!?」

 

「分かってないのはそっちだ!仲間だろうと敵だろうと、友達をやめる理由にはならない!友達じゃ無くなった時は、自分からやめた時だろ!?俺は絶対にそんな事しない!」

 

「綺麗事を……」

 

「そっちが汚い事に逃げてるんだろ!?」

 

「ッ!?」

 

「何が力をつけろだ!怒りに任せて簡単な方向に逃げて!俺は絶対に負けない!勝負だ黒咲!お前に本物のデュエルを教えてやる!」

 

互いに譲れぬ想い、確固たる意志をぶつけながらも次第に遊矢が押している。子供のような、分からないからこそ真理を突くような鋭い言葉、遊矢のその銅の意志を前に、思わずあの黒咲も押し黙る。

だがそれでも遊矢の怒りはおさまらず、腰元よりデュエルディスクを取り出し、その右腕にジャキリと音を立てて装着する。

 

「素良が悪い事をしたのは分かる!だけどそれがデュエルでやり返して良い理由にはならない!何よりデュエルをお前達の戦争ごっこに使うんじゃない!!」

 

「戦争ごっこだと……!?俺達の誇りを!戦いを戦争ごっこと言ったのか貴様は!?」

 

「戦争ごっこだろ!デュエルで傷つけ合って、見てる人が悲しくなるようなものが誇り?笑わせんな!そんな事ばっかして何になる!?」

 

「失った仲間達の仇を取って何が悪い!?」

 

「お前の頭が悪いんだよ!自分がされて嫌な事をするな!」

 

止まらない、止まる事の無い、感情の発露。鼻息を荒くして睨み合う2人のデュエリスト。今にもデュエルを始めようと2人がデュエルディスクからソリッドビジョンのプレートを展開したその時。

ガシリ、2人が振り上げた腕を止める者が現れる。

 

「止まれ遊矢!お前が熱くなってどうする!?」

 

「貴方もよ隼。あまり私の手を煩わせないでくれるかしら?」

 

仲裁に入ったのは、遊矢の親友である権現坂と、白いマントに身を包んだ、桃色と毛先が紫に変わった髪の美女だ。

彼等は遊矢達の口喧嘩を見かね、飛び出したのだ。

 

「放せよ権現坂!この馬鹿一回ガツンとやってやらないと分からないんだよ!」

 

「馬鹿はお前だ!今のお前は感情的になり過ぎている!怒りに任せるなと言ったのはお前だぞ!それに素良を医務室に運ばねばならん!」

 

「放せ瑠那!邪魔をするなら貴様も倒す!」

 

「どうしてあいつと貴方は暴走するの!止める身にもなりなさい!そのせいで死にそうな奴もいるってのに!」

 

1人で突っ走り、暴れる2人を必死で押さえつける権現坂と瑠那。闘争心を剥き出しにして火花を散らす2人に溜め息を吐き出し、2人は仕方無いと言った様子で互いの身内を引き摺る。

と、そこで、ギャーギャーとうるさく騒ぎ立てる2人の口を抑えながら、2人の保護者は振り向き――。

 

「黒咲、と言ったな。確かに、遊矢も感情的になって正しいとは言えんが――それは、お前にも言える事だ」

 

「榊君、どうしてもこの馬鹿に言う事を聞かせたいなら、貴方のデュエルで隼を倒して見せなさい」

 

その言葉を最後に、2人は押し黙り、幕を閉ざす。その瞳に、闘志を宿しながら――。

 

――――――

 

「……何だ、デュエルしないのか……」

 

遊矢と黒咲が権現坂と瑠那に引き摺られる中、観客席で一部始終を見ていたコナミは、つまらなそうにひとりごち、席を立つ。

その表情は目深に被られた赤帽子で良く見えないが、残念そうな、落胆して見える。

そんなコナミの背をキョトンと見つめる暗次の肩を、刃が軽く揺する。

 

「おい暗次。今日の試合は終わったぞ、帰ろうぜ」

 

「ん、ああ……でも兄貴の様子が何か……」

 

「何だよ。あいつがおかしいのは何時もの事だろ」

 

「いや、そうなんだけどさ」

 

何を言っているんだとばかりに目を細め、怪訝な眼差しを向ける刃と、首を傾げ、うぅむと唸る暗次。

確かに、彼は見たような気がしたのだ。素良と黒咲が激闘を繰り広げる中――歪んだ笑みを向ける、コナミの横顔が――。

 

「……何でもねぇ。きっと気のせいだろ」

 

そうだ。彼が、自分達を救ってくれた恩人が、あの憎悪に彩られたデュエルを見て、楽しそうに笑う訳が無い。

頭を左右に振り、その場を立ち上がる暗次。そう、彼は自分の尊敬する兄貴分で、この場にいる皆の助けになった凄い人なんだと、暗次は信じる。

 

――誰もがそう思い、そう信じる。――それが――間違いだと、知らずに。

 

――――――

 

舞網チャンピオンシップ、一回戦前半が終了し、日が暮れ、空に闇の帳が下りた後、更なる嵐が舞網市に吹き抜ける。

 

ギャリギャリと獣の唸り声のような音色を奏で、駆け回る白いバイク――いや、デュエルディスクと一体化したバイク、D-ホイールに跨がる、遊矢と似た顔立ちの少年、シンクロ次元からのアカデミアの手先、ユーゴ。

そしてエクシーズ次元のレジスタンスの一員、遊矢とそっくりの少年、ユート。

暗き闇夜で紅い血流を妖しく輝かせる『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』と、薄いミントグリーンの両翼を翻した青と白、空色の竜、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』の、2人と2竜の激突。

 

事の発端は素良の医務室からの脱走だった。エクシーズ次元のデュエリスト、黒咲に敗れた事でプライドを大きく傷つけられた彼は、リベンジを果たすべく、同じくエクシーズ次元の人間、ユートにデュエルを挑んだのだが、そこに元々先の試合の事で苛々していた遊矢が参戦し、ブチギレながらも2人を止めようとするが、突如素良の姿が消え、ユートに融合次元、エクシーズ次元、シンクロ次元、そしてスタンダード次元の事、彼等の身に何があったのかを聞かされる。

ユート曰く、平和に過ごしていたエクシーズ次元に、突如として融合次元のアカデミアが攻め込み、街を、人々を傷つけられ、それに立ち向かうべく、レジスタンスを結成し、アカデミアに対抗する為にスタンダード次元に来た、と。

 

そんな中、素良と入れ替わり現れたユーゴがユートに敵意を見せ、デュエルが始まったのだ。

互いの竜を召喚した2人は、我を忘れたかのように共鳴し、獣の如く理性を無くし、デュエルを続け――不意に、ユートの意識が戻った、その瞬間。

 

「『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』の効果ァ!『SRシェイブー・メラン』の効果を無効にして破壊ィ!そしてその攻撃力をクリアウィングに加える!ダイクロイック・ミラー!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

三日月のような刃を持つ、ブーメラン型の『SR』モンスター、シェイブー・メランの輝きを翼に吸収し、クリアウィングの翼に基盤のような紋様が走り、より一層その輝きを増す。

対効果モンスター、そしてモンスターに対して発動する効果を無効化する強固な耐性が攻撃に転じる。

そう、ユートの意識は戻ったが――ユーゴは未だに、その戦意を失わない。

 

「戻ってない……!?ユート、危ない!」

 

ヤバい、いち早く危険を察知した遊矢は直ぐ様駆け、ユートの元へと急ぐ。早く、速く、疾くしなければ――友達が危険なのだ。

助けなきゃ守らなきゃとそれだけを一心に走る。間に合え、間に合う――その右手を伸ばし、ユートの手を掴むも――トンッ、その手は空を切り、ユートは遊矢を巻き込むまいと、突き放した――。

 

「ユート――」

 

「ありがとう――遊矢――」

 

「旋風のォ、ヘルダイブスラッシャーッ!!」

 

遊矢が名を呼ぶも――既に遅く、彼本来の優しい笑顔を浮かべ――ユートとダーク・リベリオンは、ミントグリーンの翼で、風を逆巻くクリアウィングの前に――敗れた――。

 

ユート LP1200→0

 

「ユートォォォォォッ!!」

 

伸ばした手は、届かずに、それでも、諦めたく無くて、認めたく無くて、歯を食い縛り、急いで立ち上がり、ユートへと駆ける。

そんな中、ユーゴは意識を取り戻したのか、キョロキョロと辺りを見回したと思いきや――不意にその姿を消す。

だが今の遊矢にはそんな事関係無い。今は友達の方が優先だ。遊矢はユートを抱き起こし、必死にその名を呼びかける。

 

「ユート!大丈夫かユート!?」

 

「遊矢――君を、巻き込んですまない……」

 

「そんな事構わない!友達なんだから迷惑かけてくれて良いんだ!」

 

力無く倒れるユートを担ぎ、ズルズルと足取り重く歩き始める遊矢。早く治療をしなければ、焦る気持ちを抑え切れず、それでも自分に出来る事をしようとする遊矢を見て、ユートはフッと薄い笑みを浮かべ、自らのデッキより2枚のカードを取り出し、遊矢へ差し出す。

 

「君に、頼みがある」

 

「何だよ、今会場に向かうからな、あそこならここから近いし、設備も揃ってる……!」

 

「君は言った。誰もが笑顔になれるデュエルがしたいと、君なら出来ると、俺は信じている。だから――俺の故郷にも――エクシーズ次元にも――」

 

「それ位やってやるさ!だけど、そこにお前がいなきゃ、意味が無いだろ!?」

 

「……俺は良いんだ。君のデュエルで――皆に、笑顔を――」

 

その言葉に、遊矢は思わずハッとなる。だってその言葉は――父の、教えであったから。次第にユートの身体は透明になり、その重さも軽くなっていく。

明らかに異常で、手の出しようが無い状態、遊矢は自分の無力さに歯軋りを鳴らし――悲痛を隠さずに、ユートから2枚のカードを受け取る。

 

1枚は『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』、そしてもう1枚は――。遊矢は2枚を強く握り締め、ユートへ誓いを立てる。

 

「約束する。絶対に、絶対にこんな馬鹿げた事を止めてやる。皆を――笑顔にして見せる」

 

もう誰も、デュエルで傷つけさせない。消え行く友の願いを胸に抱き、遊矢は決心する。その言葉を聞いたユートは、満足したのか、安心した表情で白い光となって消えていく。涙は――流さなかった。

 

――――――

 

少年、桜樹 ユウは自らの所属するLDSから帰路へつく道筋を歩いていた。先程までLDSにて社長である赤馬 零児から次元戦争の事やアカデミアに対抗する為の勢力結成の説明を受け、遅くなってしまった。

疑っている訳では無いが、この話が本当ならば、確かに大変な事になりかねない。少しでも腕を磨かねばならないだろう。

何せ敵の実力は未知数、自分が昨年の舞網チャンピオンシップの優勝者だとしても油断は禁物だ。

 

少し前までならば慢心していただろうか、とふと苦笑する。自分がここまで力に貪欲になったのは何時以来だろう。昨年のチャンピオンシップは何とか優勝しようと努力を惜しまなかったが、優勝してからは目標を無くし、デッキ構築も怠っていたと考える。

それが変わったのは本当に最近、突然家に居候する事になった者の影響だ。

 

彼は類稀なデュエルセンスと直感的なプレイングを駆使し、桜樹をいとも容易く下したのだ。それが悔しくて、何度もリベンジを挑み、敗北してはまたデッキを見直すと言う事を続けている。それ程に彼は強く、それに楽しそうにデュエルをする。そうだ、彼に協力してもらえないだろうかと思い至り、急いで自宅の鍵を刺してドアノブを回し、扉を開く。そこには――。

 

「あ……お、おかえり……ユウ……」

 

家の中である筈なのに、白いバイクに跨がり、ヘルメットからバイザーを伸ばし、白を基調としたライダースーツに身を包んだ少年――ユーゴが気不味気に苦笑いし、パッシングしていた――。

 

「お前家から出てけ」

 

「MA☆TTE!」

 

急激に冷めていく桜樹の視線と態度を見て、何とか抵抗しようとチカチカとデュエルディスクとバイクが一体化したD-ホイール、そのライトを点滅する居候、ユーゴ。

逆効果では無いだろうか。何とか家に居座る為に、ユーゴは必死に弁明を始める。

 

「いや違うんだよ!何かドライブしてたらクリアウィングが急に光って俺そっくりの奴と遭遇して、そんで気を失って、そっくりな奴が消えてると思ったら俺も消えてここに居て……ああ良く分かんねぇ!それもこれもクリアウイングって奴のせいなんだ!フフ、コイツメ☆」

 

「荷物はそれだけだよな」

 

「ちょっと本当に待ってゴメン俺にも良く分かんないんだって!ここ追い出されたら美味い飯にありつけないんだよ!エアコンあるし卵焼き美味いし……ん?エアコン……あっ」

 

「おいちょっと待て、まさかエアコンつけっぱなしって事は……」

 

最早子供の言い訳となって来たユーゴに対し、D-ホイールをジッ、と冷たい目で見つめる桜樹。

それに対しユーゴは更に食い下がり、捲し立てるが――途中である事に気づき、ダラダラと脂汗を流す。

そんなユーゴを見て、何かを察した桜樹は背筋に冷たい汗を垂らしながら、急いで家に上がり、自分の部屋の扉を開く。

そして、視線の先には――緑色のランプを光らせ、冷たい風を吹かせるエアコン。桜樹はカッ、と見開いた目をユーゴに向け、対するユーゴは、デッキから1枚のカードを取り出し。

 

「コイツメ☆」

 

「ユーゴォォォォォォォォォォッ!!」

 

「融合じゃねぇ!ユーゴだ!」

 

「うるせぇ!」

 

そのまま取っ組み合いの喧嘩となり、「表に出ろテメェ!」の声を皮切りにデュエルを始める2人の少年。

桜樹家は今日も平和である。――因みに、仲直りをした後、家に戻り、エアコンを消して無かった事を思い出し、再びデュエルを始めるのは1時間後の事であり、これこそが恐るべきエアコンループの始まりであった――。

 

――――

 

ユートの消失から2日後――舞網チャンピオンシップの第1回戦全ての試合が終了した。今日からは2回戦が始まり、3回戦へのふるい落としがかけられる。

ここで勝たねば進めない、ユートの仲間である黒咲とも闘えない。遊矢は気を引き締め、会場へと続く選手入り口の道を進む。

2回戦第1試合、相手のデュエリストは強敵だ。だがそれで引き下がる遊矢では無いし、むしろ望む所、暗い道を歩み、光差す方向へと遊矢は進む。そして――。

 

『さぁ、ペンデュラム召喚の使い手、榊 遊矢選手の入場です!』

 

ニコの声と共に、会場中の観客が沸き立ち、遊矢はその歓声の嵐を身に受ける。どうやら予想以上に期待してくれているようだ。全霊を持って応えようと笑みを深め、意気込む。

そんな遊矢の眼前にいるのは、浅黒い肌に学ランを纏い、左手にバンテージ、右手に3つのリングを嵌めた、好戦的な笑みを向ける少年――。

 

「へへ、待ってたぜ!遊矢!」

 

「俺もだ!アリト!」

 

ボクシングデュエルジム所属、アリト。つい最近遊矢と知り合い、友人となった快活な少年だ。まさかこんなにも早く彼とデュエルをするとは思って見なかった遊矢だが、同時に彼と闘いたくもあった。

熱い闘志を互いに剥き出しにし、デュエルディスクからソリッドビジョンのプレートを展開する。

 

『では2回戦第1試合、遊勝塾所属、榊 遊矢選手対ボクシングデュエルジム所属、アリト選手のデュエルを始めます!アクションフィールド、発動!』

 

淡き光に侵食されるスタジアム、濃密な闘気が空を閉ざし、観客席が近代のものから古く原始的なコロッセオに剥がれ落ちるように変化し、歓声が雨の如く降り注ぎ、2人の身体を焦がさんばかりに熱を抱かせる。

この場にいるのはデュエリストと言う名のカードの拳で凌ぎを削る拳闘士。2人は熱に浮かされながら『サベージ・コロシアム』にて口上を紡ぐ。

 

「さぁ、行くぜ遊矢!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

さぁ、往こう。まだ見ぬデュエルの地平線、未だに終わらぬその道を、追い求める答えを、遊矢が自身に課したエンタメデュエルのその先を見る為に。

望むのは戦争では無く決闘。ドクドクと脈打つ血流、高鳴る鼓動に身体を委ね、2人は互いに駆け出す。

 

「「アクショーン……デュエル!!」」

 

2人の表情は、天上に輝かしい光を照らす太陽のように、光に満ちていた。

 

 




人物紹介5

志島 北斗
所属 LDS
LDSエクシーズコースに所属する優秀なデュエリスト。1度は遊矢に敗北する事でスランプに陥ったが、黒咲さんと真澄と刃、ついでにコナミの助けにより、前回以上の実力を手に入れる。
多くの連勝記録を築いて来ただけあり、その実力は高く、LDSの模範となっており、先攻プレアデス絶対立てるマンの通り名をものにしている。
因みに名づけたのはマルコ先生と黒咲さん。
黒咲さんの事をエクシーズコースの先輩として尊敬しており、彼にランクアップを教わったりした。LDSに入ったのも黒咲さんに憧れて、それ所かデュエリストになった切欠も黒咲さんだったりする。
使用デッキは『セイクリッド』、エースカードは『セイクリッド・プレアデス』。


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第49話 勝つぞ、遊矢

早いものでこの作品を書き始めて一年、文字数は増えたが語彙力も文章力も上がったと感じない。そんなこんなでヌルリと一周年を迎えました。……迎え……たよね?


始まった舞網チャンピオンシップ、2回戦、期待と興奮が混じった観客達の眼差しの中で、ただ1人、冷静にコロッセオの中心にいる2人のデュエリストを観察する者がいた。

腕を組み、静かに思考を続けるその少年、トレードマークの赤帽子にゴーグルを装着したその少年の名は--コナミ。

彼は選手入口よりアリトが出現した途端に帽子の奥の眼を瞠目し、今のようにただひたすらに無言を貫いている。一体アリトの何がそうさせるのかは分からない。

だがそんな彼の様子を気にした素振りもせずにコナミの子分である暗次が「兄貴兄貴」と嬉しそうに肩を揺する。それは隣の席に座ったねねも同じだ。

 

「あいつッスよ!俺のガッコーに転校して来た奴って言うのは!アリトのヤロー、大会に出てやがったのかぁ……」

 

「暗次君もコナミさんも昨日の試合見てなかったもんねぇ」

 

そう、実はアリトこそが暗次がボッコボコにやられたと言うデュエリストだったのだ。成程、確かに暗次達と同じ学校の制服を着ている。と言うか面白い位に似合っている。

河原で不良と喧嘩して友情を育んでそうだ。相手は暗次か暗黒寺か。コナミは嬉しそうに話をする2人に「ほう」と頷きながらもその視線を外す事はしない。

まぁ教えられなくとも--知っている、と言う事もあるが。

 

「……この勝負、今の遊矢には重いかもしれんな--」

 

静かに、目を細め冷静に分析するコナミ。明らかに遊矢の実力を上回る対戦者の登場。“あのカード”の気配は感じないが、アリトは強敵だ。

だがそれでも--このデュエルの勝負の行方は分からない。それこそがデュエルの醍醐味。

はてさて遊矢はこの試練、どう乗り越えるか。いずれにせよ目が離せない試合になりそうだ。コナミも期待に胸を膨らませ、このデュエルを見物する。

 

先攻はアリトだ。彼は手札より1枚のカードを取り出し、不敵に笑う。

 

「行くぜ!『BKヘッドギア』を召喚!」

 

BKヘッドギア 攻撃力1000

 

アリトが召喚したのはその名の通り頭にヘッドギアを装着した青い肉体のボクサー。その引き締まった肉体からは紫のオーラが流れている。

『BK』。八雲戦でも見たカテゴリだが、その前までは見る所か聞いた事すらないカードだ。その名や見た目から想像するにボクサー等をモチーフにしているようだが遊矢にはどう言った戦術が飛び出るか分からない。

だが見逃すつもりは無い。遊矢はクレバーにアリトの動向を観察する。

 

「ヘッドギアの召喚成功時、デッキから『BK』1体を墓地へ送る!『BKグラスジョー』を送り、続いて『BKスパー』を特殊召喚するぜ!」

 

BKスパー 攻撃力1200

 

途切れる事無く次の手へ、まるでワンツーの如く繰り出される2体目のモンスターは両腕を巨大なミットで覆った練習台となる『BK』。

ヘッドギアの拳をミットで防ぎながらコンビネーションが繋がれる。これでレベル4のモンスターが2体。遊矢の勘が正しいなら恐らくアリトが次に繰り出すのは威力のあるブローの筈だ。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!魂に秘めた炎を、拳に宿せ!『BK拘束蛮兵リードブロー』!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200

 

やはり、遊矢の思った通り、眼前に登場したのはリードブロー、ジャブと言うには強力な効果を有したフィニッシュブローとなり得るモンスターだ。

その効果は八雲戦で見た通り、ORUを使っての広い破壊耐性と攻撃力を上げる2重効果。巨大な首枷を嵌めているからと侮るなかれ、その鈍重な姿は力を抑える為の拘束なのだ。

 

「まだまだ畳み掛けるぜっ!俺はリードブローのORUを1つ取り除き、『BKシャドー』を特殊召喚!そしてリードブローのORUが取り除かれた事で攻撃力アップ!」

 

BKシャドー 攻撃力1800

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3000

 

リードブローの枷が1つ取り除かれ、伸びた影が逆巻いて人の形を作る。ファイティングポーズを取って現れたのは黒い拳闘士。

首に巻かれたマフラーがジャブによって発生した風で靡き、フワフワと漂う。

だがまだまだ、アリトの連打は続く。

 

「闘魂注入!魔法カード、『バーニングナックル・スピリッツ』発動!デッキトップを墓地へ送り、墓地から『BKグラスジョー』を守備表示で特殊召喚!」

 

BKグラスジョー 守備力0

 

巨大な拳を合わせて入場したのはガッシリとした力強さを感じさせる肉体を持つボクサー。超人染みた緑色の肌や筋肉とは裏腹に、ガラスの顎を持ってしまったモンスターだ。

だがサポーターであるアリトが有効に扱う事でその弱点も良い方向へと働く。何してもこれで再びレベル4のモンスターが2体、少々、いや、かなり面倒な事になった。

 

「おらおらぁ!次行くぜ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『BK拘束蛮兵リードブロー』!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200

 

またもや現れるアリトの左腕。拘束番兵リードブロー、2体目の入場により更に突破が困難になった。これで計3回の破壊耐性、全て取り除いてもその先には攻撃力3800のモンスターが2体揃う事になる。

遊矢は冷や汗を掻きながらもどう突破しようかと策を練る。残念な事に彼のデッキには攻撃力3800を越えるモンスターは存在しない。『EM』は打点を上げる事には長けているが、破壊耐性が厄介だ。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド!この時、『サベージ・コロシアム』の効果でリードブローを破壊する代わりにORUを取り除く。さぁかかって来いよ遊矢!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3000→3800

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3000

 

アリト LP4000

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「面白いじゃないか……!俺のターン、ドロー!俺は『EMギタートル』と『EMラディッシュ・ホース』でペンデュラムスケールをセッティング!ギタートルの効果により1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→5

 

2枚のカードが遊矢のデュエルディスクの両端に設置され、光のプレートが虹彩色に輝く。更にコロッセオの上空に魔方陣が描かれ、振り子が揺れる。

準備は上々、遊矢は不敵に笑い、手札を広げる。対するアリトは初めて相手取るペンデュラムに感動を覚えたのか、キョロキョロと空を見渡し、目を輝かせている。

 

「これがペンデュラム……!へへ、面白くなって来た……!」

 

「たっぷりと体験してくれよ!これが俺の得意のブロー、振り子の力をご覧あれ!揺れろ、魂のペンデュラム、天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMウィップ・バイパー』!『EMシルバー・クロウ』!」

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

フィールドに降り立つ2本の柱。コロッセオをエンターテイメントに彩るのは銀の毛並みの狼と毒々しい紫色の蛇。その姿は何処か愛嬌がある。

 

「まだまだ!『EMチアモール』を召喚!」

 

EMチアモール 攻撃力600

 

続いて現れたのはポンポンを手に2体を応援するモグラのチア。これでフィールドに3体のモンスターが集った。

遊矢は次なる手を打つ為にアリトのフィールドに立つリードブローを指差す。

 

「俺は1体目のリードブローを対象としてウィップ・バイパーの効果発動!その攻守を入れ替える!」

 

「脇が甘いぜ、カウンター罠、『エクシーズ・ブロック』!2体目のORUを1つ取り除き、モンスター効果を無効にし、破壊する!更にリードブローの効果により攻撃力アップ!墓地に送られたグラスジョーの効果で墓地のヘッドギアを手札に加える!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3000→3800

 

だがそれは届かない。遮るようにオープンされたカウンターがウィップ・バイパーの頬に吸い込まれるように捩じ込まれ、ウィップ・バイパーを墓地へと叩きつける。

強い、だがそれでも遊矢は歩みを止めない。たたらを踏みながらも爪先に力を込め、地を踏みしめる。こんな所でダウンはしない。

 

「効かないな!俺はシルバー・クロウと1体目のリードブローを対象としてラディッシュ・ホースのペンデュラム効果発動!リードブローの攻撃力をシルバー・クロウの攻撃力1800分、ダウンする!更にチアモールの効果により1000ポイントダウン!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3800→2000→1000

 

遊矢が拳を握り、左、右とワンツーのコンビネーションで振り抜く。それにシンクロするように遊矢の『EM』がリードブローへと襲いかかり、リードブローの攻撃力をダウンする。息を飲むカード効果の応酬。互いに譲るつもりなど毛頭無い。

 

「上等ぉ!だけどそんなテレフォンパンチで倒れるかよ!」

 

「そうでなくっちゃ困るぜ!バトルだ!シルバー・クロウでリードブローへ攻撃!この瞬間、シルバー・クロウの効果でフィールドの『EM』の攻撃力は300アップ!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→2100

 

EMチアモール 攻撃力600→900

 

更に追い込みをかける。ロープ間際に追い込まれたも同然のリードブローへとシルバー・クロウの鋭い鉤爪が炸裂し、アリトが土を抉りながら退く。

 

アリト LP4000→2900

 

榊 遊矢 LP4000→4300

 

「効いたぜ今の……!だけど『サベージ・コロシアム』の効果でお前は可能な限り攻撃しなければならない。残るチアモールの攻撃力は900!リードブローに攻撃して、2900のカウンターダメージを食らいやがれ!」

 

アリトの言葉通り、コロッセオの熱気に当てられたチアモールが飛び出して無謀にもリードブローに攻撃にかかる。だがそんな事を見逃す遊矢ではない。瞬時に手札に加えていたアクションカードをデュエルディスクに叩きつけ、ガードする。

 

「アクションマジック!『回避』!その攻撃を無効にする!」

 

「ッ!何時の間に……!?そうか、あのワンツーの時……!」

 

そう、先程、ラディッシュ・ホースとチアモールの効果を使用した時、遊矢は拳を振り抜くと共にアクションカードを掴み取っていたのだ。

何と言う抜け目の無さ、そして手の早さにアリトが舌を巻く。流石はエンタメデュエリストと言うことか、何時の間にかタネを仕込んでいる。

 

「俺は『サベージ・コロシアム』の効果で回復する」

 

榊 遊矢 LP4300→4600

 

「カードを1枚伏せてターンエンド。第1ラウンドは俺が制したぜ!」

 

榊 遊矢 LP4600

フィールド『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)『EMチアモール』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMラディッシュ・ホース』

手札0

 

「抜かしたな!俺のターン、ドロー!俺は『BKスイッチヒッター』を召喚!」

 

BKスイッチヒッター 攻撃力1500

 

新たに現れたのは右と左を交互に切り替える技巧派のボクサー。フードを被り、シャドーボクシングに徹する姿は正にプロと言える。

 

「スイッチヒッターの召喚時、墓地の『BKグラスジョー』を特殊召喚する!」

 

BKグラスジョー 攻撃力2000

 

「レベル4が2体……!」

 

「行くぞ遊矢!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『BK拘束蛮兵リードブロー』!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200

 

またしても姿を見せるアリトのエクシーズモンスター。鎖をジャラジャラと引き摺って首枷を嵌めた拳闘士が入場する。

厄介なモンスターがフィールドに召喚された。しかもチアモールは低い攻撃力を晒してしまっている。このままでは危険だ。遊矢はシルバー・クロウに騎乗してフィールドを駆ける。

 

「1体目のリードブローでチアモールを攻撃!」

 

「罠発動!『EMショーダウン』!2体のリードブローを裏側守備表示に変更する!」

 

リードブローがチアモールに接近し、殴りかかろうするも、すすんでの所でペンデュラムゾーンのギタートルとラディッシュ・ホースが割って入り、ゴングを鳴らす。それによってバトルは幕引き、アリトは息をつきニヤリと笑う。

 

「ゴングに救われたな、遊矢。俺はこのままターンエンドだ」

 

アリト LP2900

フィールド セットモンスター×2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!チアモールを守備表示に変更し、バトル!シルバー・クロウでORUを失ったリードブローを攻撃!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→2100

 

EMチアモール 攻撃力600→900

 

榊 遊矢 LP4600→4900

 

シルバー・クロウの鉤爪が守備表示のリードブローへと炸裂する。これで残るリードブローは1体。順調に破壊出来ている。

とは言え油断は禁物だ。2体のリードブローを破壊しても、アリトの表情は陰る事無く、余裕を持っているのだから。まだ何か隠していると遊矢の嗅覚が反応している。ここからどう出るかが問題だ。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP4900

フィールド『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)『EMチアモール』(守備表示)

セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMラディッシュ・ホース』

手札0

 

「これで終わりか!?もっと楽しもうぜ!俺のターン、ドロー!リードブローを反転召喚!そしてヘッドギアを召喚!」

 

BKヘッドギア 攻撃力1000

 

「ヘッドギアの効果でデッキのグラスジョーを墓地へ、グラスジョーの効果で墓地のシャドーを回収、リードブローのORUを1つ取り除き、特殊召喚!取り除いたグラスジョーの効果で墓地のヘッドギアを手札に!」

 

BKシャドー 攻撃力1800

 

「お次はこいつだ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!現れろ、No.80!猛りし魂にとりつく、呪縛の鎧!狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク!」

 

No.80狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク 守備力1200

 

次に登場したのは何と『No.』。巨腕を構え、紫の外套を揺らす漆黒の覇王。襟部分には自身の数字である80の赤き刻印が輝いており、本物の『No.』である事を物語っている。

まさかアリトが『No.』の所持者である事を知らなかったのだろう、遊矢は目を見開いて息を飲んでいる。

 

「『No.』……!」

 

「魔法カード、『エクシーズ・ギフト』!ラプソディ・イン・バーサークのORUを2つ取り除き、2枚ドローする!」

 

アリト 手札0→2

 

「更にラプソディ・イン・バーサークの効果!このカードを攻撃力1200アップの装備カードとしてリードブローに装備する!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3000→4200

 

ラプソディ・イン・バーサークが音を響かせて変形し、リードブローに漆黒の鎧となって纏われる。堅牢なる鎧と巨大な腕、そして溢れ出る闘気がリードブローを更に強化する。

攻撃力4200、余りにも高い壁が遊矢の前に立ち塞がる。だが八雲の『No.』を見た後だ。この程度の数値では遊矢は諦めない。

 

「更に魔法カード、『鬼神の連撃』!リードブローのORUを全て取り除き、2回攻撃を得る!更にリードブローは自身の効果で攻撃力アップ!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力4200→5000

 

「攻撃力5000……!」

 

「リードブローで2体へ攻撃!」

 

枷を全て外しリードブローは目にも止まらぬ速度でシルバー・クロウへ接近し、高速の連打を叩き込む。力強い巨腕は鋭い風切り音を鳴らし、2体を遊矢のエクストラデッキへと送り込む。

だが遊矢もただでは倒れない。少しでも反撃の準備を整えようとリバースカードをオープンする。

 

「永続罠、『臨時収入』!モンスターがエクストラデッキに加わる度にこのカードに魔力カウンターを乗せる!」

 

榊 遊矢 LP4900→1700

 

臨時収入 魔力カウンター0→1→2

 

アリト LP2900→3200

 

シルバー・クロウが消えた事で騎乗していた遊矢はクルリと回転して着地する。激しいダメージを負ったがまだLPが尽きた訳では無い。額から伝う汗を右手で払いながら何とか立ち上がる。

強い相手だ、思わず遊矢はニヤリと笑みを作る。

 

「俺はカードを伏せてターンエンド」

 

アリト LP3200

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)

『No.80狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク』セット1

手札1

 

「盛り上がって来たな!俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMシルバー・クロウ』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

EMシルバー・クロウ 守備力700

 

遊矢がペンデュラム召喚したのは振り子を持った赤いマジシャンと鋭き鉤爪を地に食い込ませた銀狼。これで逆境を砕き、新たな道を切り拓く。まずはペンデュラム・マジシャンのサーチ効果、手札に加えるものは――。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果!ギタートルとラディッシュ・ホースを破壊し、デッキから『EMドクロバット・ジョーカー』と『EMリザードロー』を手札に!」

 

臨時収入 魔力カウンター2→3

 

「更にドクロバット・ジョーカーを召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

ステップを刻みながらコロッセオに踏み入ったのはギターを手にした奇術師だ。彼は手にしたギターをくるくると回転させる。

すると不思議な事にギターに穴が見え、その中より亀が四肢と頭を出す。

 

「ドクロバット・ジョーカーの召喚時、デッキからギタートルを手札に加え、リザードローと共にペンデュラムスケールをセッティング!ギタートルの効果で1枚ドロー!そしてリザードローを破壊し、更に1枚、臨時収入を墓地へ送り2枚、合計4枚のドローだ!」

 

榊 遊矢 手札0→1→2→4

 

大量のドローブーストをかける遊矢。0になっていた手札が4枚に回復すると言うまるでマジックのような光景に観客達が盛大な拍手を送る。

ここからが本番、エンターテイナーの腕の見せ所だ。

 

「とは言ってもちょっとヤバいな……!永続魔法、『補給部隊』を発動し、ドクロバット・ジョーカーでリードブローを攻撃!この際、手札の『EMバリアバルーンバク』を捨て、ダメージを0にする!『補給部隊』の効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3 LP1700→2000

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

榊 遊矢 LP2000

フィールド『EMペンデュラム・マジシャン』(守備表示)『EMシルバー・クロウ』(守備表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMギタートル』

手札3

 

「防戦一方か!?俺のターン、ドロー!バトル!リードブローでシルバー・クロウへ攻撃!」

 

アリト LP3200→3500

 

アリトの指示を受け、リードブローが瞬時にシルバー・クロウへ肉薄する。その巨腕より激しい拳打の嵐がシルバー・クロウに襲いかかり、その余波として土煙がモウモウと上がり、地面が捲れ上がる。

とんでも無い攻撃だ。モンスターが攻撃表示だった場合、もろに食らっていたと考えるとゾッとしない。だが遊矢も一方的に負けてはいない。その手を突き出し、反撃の準備を整える。

 

「速攻魔法発動!『イリュージョン・バルーン』!デッキの上から5枚をめくり、その中から『EM』モンスター1体を特殊召喚する!」

 

「通すかよ!カウンター罠、『ジョルト・カウンター』!その発動を無効にする!」

 

「くっ……『補給部隊』の効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

しかしどうにも反撃の機会を許してくれないらしい。こちらのタイミングを完全に読み切り、カウンターで返される。

遊矢と同じく優れた観察眼、そして嗅覚。それによって好機を感じ取ったのだろう。それを可能とするのは恐らく多大なる戦闘からなる経験。

歴戦の猛者だけが持つ後天的なものだ。

 

「俺はカードを1枚伏せターンエンド。もっと燃えさせてくれよ!」

 

アリト LP3500

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)

『No.80狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク』セット1

手札1

 

「勿論さ!まだまだ闘える!もっともっと熱くなれる!俺のターン、ドロー!」

 

引き抜いたカードにチラリと目を配らせる遊矢。これならばこの状況を覆せる。遊矢は1人で頷きながら反撃の狼煙を上げる。まずは――このカードだ。

 

「押してもダメならもっと押す!『EMゴムゴムートン』をペンデュラムスケールにセッティング!これでレベル2から5までのモンスターを同時に召喚可能!そしてギタートルの効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→5

 

「ペンデュラム召喚!『EMラディッシュ・ホース』!『EMチアモール』!『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』!『EMロングフォーン・ブル』!」

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力500

 

EMチアモール 守備力1000

 

EMオッドアイズ・ライトフェニックス 攻撃力2100

 

EMロングフォーン・ブル 攻撃力1600

 

遊矢の周囲に緑、ピンク、赤、青の4色に光輝く柱が降り立ち、地響きを轟かせる。光がまるで雨のように降り注ぎ、晴れたそこには大根の角を生やした馬とモグラのチアガール、炎の翼を広げた2色の虹彩の不死鳥に電話を頭にかけた牛のモンスター達と見ていて飽きない。

はてさてどんな演目を披露するのか、サーカス劇団のようなモンスターにアリトと観客達は目を輝かせ座長である遊矢の動向を見張る。

 

「まずはロングフォーン・ブルの特殊召喚時効果!デッキよりペンデュラムモンスター以外の『EM』を手札に加える!『EMスライハンド・マジシャン』を手札に加え、ロングフォーン・ブルをリリースして特殊召喚!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500

 

ロングフォーン・ブルが頭にかけた電話を手に取り、『EM』を手札に呼び出す。応じたのは赤い派手な衣装に身を包み、白い仮面を被ったマジシャン。

右手には手品用の4つのボール、左手にはステッキを構え、下半身は青い水晶の振り子となっており、純白の翼が優しく包み込んでいる。

 

「手札の『EMジンライノ』を捨て、リードブローを対象にスライハンド・マジシャンの効果発動!対象のモンスターを破壊する!」

 

「絶好の餌食だな!お待ちかねの、カウンター罠、『エクシーズ・リフレクト』!エクシーズモンスターを対象とする効果を無効にし、破壊、そして800のダメージを与える!」

 

榊 遊矢 LP2000→1200

 

振り抜く豪腕。リードブローのカウンターがスライハンド・マジシャンの顎を狙い打つ。放たれた宝刀は吸い込まれるように、快音を響かせ、仮面を砕き、白い破片が飛び散って遊矢にダメージを与える。

やはりそう簡単に通してくれないらしい。だがこれは予想していた事だ。ここからが本番、効果での破壊が出来ないなら、戦闘による破壊を目指すのみ。攻撃力5000を――越える。

 

「まずはオッドアイズ・ライトフェニックスをリリースし、ラディッシュ・ホースの攻撃力を1000アップ!」

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力500→1500

 

第1段階、オッドアイズ・ライトフェニックスが炎となって消え、残った炎はラディッシュ・ホースを包み込み、その背より赤い翼が1対伸びる。紅蓮の両翼を得た天馬は蹄を鳴らして空を駆け、リードブローを睨み付ける。

 

「次!チアモールの効果でラディッシュ・ホースの攻撃力を更に1000アップする!」

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力1500→2500

 

第2段階、炎の翼を広げるラディッシュ・ホースへと地よりチアモールがポンポンを振り、両足を上げて応援し、鼓舞する。これでラディッシュ・ホースの攻撃力は2500、リードブローの半分となった。

 

「そしてラディッシュ・ホース自身の効果!このカードとリードブローを対象として発動!リードブローの攻撃力をラディッシュ・ホースの攻撃力分ダウンし、ラディッシュ・ホースは自身の攻撃力分アップする!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力5000→2500

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力2500→5000

 

最終段階、ラディッシュ・ホースは自らの角を飛ばして爆発、四散した欠片がリードブローとラディッシュ・ホースへと降り注ぎ、リードブローの弱体化と自身の強化を促す。

くしくも両者の攻撃力が入れ替わる形となった。今度は5000の暴力的な数値がアリトの前に立ち塞がる。

その鮮やかなコンボに観客達は歓声を上げ、アリトも冷や汗を掻きながら信じられないものを見るように渇いた笑みを浮かべる。

 

「真正面から来やがった――!」

 

「ペンデュラム・マジシャンを攻撃表示に変更し、バトルだ!ラディッシュ・ホースでリードブローに攻撃!」

 

アリト LP3500→1000

 

遊矢 LP1200→1500

 

ラディッシュ・ホースが天を駆り、上空より勢い良く降下してリードブローを漆黒の鎧ごと貫く。

見事な突破の手を緩めず、遊矢はペンデュラム・マジシャンへと指示を飛ばす。

 

「ペンデュラム・マジシャン!ダイレクトアタック!」

 

「させるかよ!アクションマジック、『回避』!」

 

だがこれで終わらせてくれるような相手では無いらしい。アリトは手元よりアクションカードをディスクに叩きつけ、発生したバリアでその攻撃を防ぐ。

後少しで勝てたと考え、残念に思う遊矢もいるが――それ以上に、彼とのデュエルをまだまだ続けたい、この一瞬を少しでも長く味わいたいと楽しんでいる遊矢がいる。そして――それはきっと、アリトも同じ。

 

「もっともっと楽しもうぜ遊矢!まだ限界じゃないだろう!?」

 

「当然!俺はラディッシュ・ホースをリリースし、モンスターをセット!カードをセットしてターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP1500

フィールド『EMペンデュラム・マジシャン』(攻撃表示)『EMチアモール』(守備表示)セットモンスター

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMゴムゴムートン』

手札1

 

「全開で行くぜ!俺なターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『BK拘束蛮兵リードブロー』3体、『No.80狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク』、『BKグラスジョー』をデッキに戻し2枚ドロー!」

 

アリト 手札1→3

 

「うっし行くぜ!魔法カード、『バーニングナックル・スピリッツ』!デッキトップをコストに、墓地のグラスジョーを特殊召喚!」

 

BKグラスジョー 守備力0

 

「そして『BKヘッドギア』を召喚!」

 

BKヘッドギア 攻撃力1000

 

「ヘッドギアの効果でデッキからグラスジョーを墓地へ、グラスジョーの効果でスイッチヒッターを手札に加え、2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.79BK新星のカイザー』!」

 

No.79BK新星のカイザー 攻撃力2300→2500

 

現れたのは2体目の『No.』。真っ赤に燃える鎧を纏い、王者の気風を感じさせる金を施し、背より4枚の翼が伸びたユニットを負い、拳にカイザーナックルを嵌めた、何処かヒーロー然としたモンスター。

左の脇腹に描かれたる赤き紋章は79、先程の『No.』より1つ下の数値を持っている。

 

「新星のカイザーはORU×100攻撃力をアップする!そして新星のカイザーの効果発動!墓地の『BKスパー』をORUとする!」

 

No.79BK新星のカイザー 攻撃力2500→2600

 

「そして魔法カード、『ハーピィの羽帚』を発動!これでペンデュラムは出来ないぜ!バトル!新星のカイザーでチアモールを攻撃!」

 

アリト LP1000→1300

 

襲いかかるカイザーの拳を受け、チアモールが破壊される。これでカイザーの攻撃力を大きく下げるモンスターは消えた。ペンデュラムも崩れた今、ラディッシュ・ホースによる突破も難しい。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

アリト LP1300

フィールド『No.79BK新星のカイザー』(攻撃表示)

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『金満の壺』を発動!エクストラデッキの『EMドクロバット・ジョーカー』と『EMギタートル』、『EMリザードロー』をデッキに加え、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「よし、『EMモモンカーペット』と『EMビッグバイトタートル』をセッティング!これでレベル6から4のモンスターを同時に召喚可能!ビッグバイトタートルのペンデュラム効果で手札の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』のレベルを1つ下げ、ペンデュラム召喚!『EMラディッシュ・ホース』!『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMオッドアイズ・ライトフェニックス 攻撃力2100

 

EMラディッシュ・ホース 守備力2000

 

上空の魔方陣より振り子が揺れ、3本の柱がコロッセオの中心に降り注ぐ。並び立つのは赤い馬と不死鳥、そして遊矢のエースモンスターである2色の眼を宿し、背に三日月を負った真紅の竜。

倒されても舞い戻る、振り子の軌道を描くモンスター達。その登場に会場が拍手喝采で受け入れ、遊矢が檄を飛ばす。

 

「オッドアイズ・ライトフェニックスをリリースし、ラディッシュ・ホースの攻撃力を1000アップ!」

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力500→1500

 

「そしてラディッシュ・ホースの攻撃力分、新星のカイザーの攻撃力をダウンし、『オッドアイズ』の攻撃力を上げる!」

 

No.79新星のカイザー 攻撃力2600→1100

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→4000

 

「バトル!『オッドアイズ』でカイザーを攻撃!螺旋のストライク・バーストッ!!」

 

遊矢が『オッドアイズ』の背に飛び乗り、跨がってドタドタと慌ただしい音を響かせて駆けさせる。

真紅の竜は雄々しい遠吠えを上げ、嘴のようなアギトに大気を集束、火炎へと変化させてカイザーへと吐き出す。

ボウボウと燃え上がる火の手より逃れる為、アリトは手を打つ。

 

「墓地の『ネクロ・ガードナー』を除外し、その攻撃を無効にする!」

 

恐らく『バーニングナックル・スピリッツ』のコストとして落ちていたのだろう。突如カイザーの前が陽炎の如く揺らめき、火炎に掻き消される。

どれだけ強大な力を向けようとこれでは無意味だ。遊矢は苦笑を溢して次の指示を飛ばす。

 

「ペンデュラム・マジシャンでカイザーを攻撃!」

 

アリト LP1300→900

 

榊 遊矢 LP1500→1800

 

ペンデュラム・マジシャンがその手に持った振り子を巨大化させ、鞭のようにしならせカイザーの鎧を砕く。強烈な打撃を受け、カイザーはコロッセオの後方に吹き飛ばされ塵埃を上げる。

これでアリトのモンスターを倒した――だと言うのに、彼はニヤリと口端を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべる。

ああ、これは何かある。遊矢が危機を察知して息を詰まらせる。モウモウと立ち上がる煙の中に3つの影、やはり、予感は的中する。土煙が晴れ、そこに存在したのはカイザーの姿では無く、3体のモンスター。

 

BKグラスジョー 攻撃力2000

 

BKヘッドギア1000

 

BKスパー 攻撃力1200

 

「新星のカイザーが破壊された時、その時に持っていたORUの数まで、レベル4以下の『BK』を特殊召喚する!まだまだ俺の闘志は尽きないぜ!」

 

「……ははっ……!そう来なくっちゃな!俺はこれでターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP1800

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMペンデュラム・マジシャン』(守備表示)『EMラディッシュ・ホース』(守備表示)セットモンスター

Pゾーン『EMモモンカーペット』『EMビッグバイトタートル』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『BKスイッチヒッター』を召喚!」

 

BKスイッチヒッター 攻撃力1500

 

「スイッチヒッターの効果!墓地の『BKシャドー』を特殊召喚!」

 

これでアリトのフィールドに5体もの『BK』が揃う。どれもレベル4、ともすれば答えは明確、あの3体は既にアリトのエクストラデッキに戻っているのだから。

 

「まずはグラスジョーとヘッドギアの2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!魂に秘めた炎を拳に宿せ!『BK拘束蛮兵リードブロー』!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200

 

再び闘技場に鎖のジャラジャラとした引き摺る音を鳴らし、首枷を嵌めた拳闘士が入場する。アリトの扱う『BK』の中でもエース級の力を秘めたモンスター、その耐性は厄介と言う他無いだろう。

しかもこれで終わりではない、レベル4の『BK』はまだ3体いる。

 

「俺はスパーとスイッチヒッターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『BK拘束蛮兵リードブロー』!2体目!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200

 

現れる2体目のリードブロー。これで更に布陣が堅くなり、突破は難しいものとなった。鉄壁のガードに強烈なカウンター。性格に反してクレバーな戦術、それこそがアリトの最大の武器なのだろう。

苛烈な攻めはそのおまけに過ぎない。こちらの武器をへし折る事がアリトのデュエルスタイルなのだ。

 

「魔法カード、『エクシーズ・ギフト』!リードブロー2体のORUを1つずつ取り除き、2枚ドロー!そしてリードブローの攻撃力はアップし、グラスジョーの効果でシャドーを手札に!」

 

アリト 手札1→3

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3000×2

 

「更に1体目のリードブローのORUを取り除き、特殊召喚!リードブローの攻撃力は更にアップ!」

 

BKシャドー 攻撃力1800

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3000→3800

 

「そしてヘッドギアとシャドーでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『BK拘束番兵リードブロー』。3体目!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200

 

3体目、最後のリードブローがコロッセオに入場し並び立つ。正に圧巻と言うしかない光景に観客達は興奮し、アリトに対してエールを送り、遊矢へこの状況をどう切り抜けるかと目を向ける。

その様子に遊矢は気づく事なく眼前のデュエルに無我夢中と言った表情でひたすら笑う。

楽しい、こんな状況でさえ、こんな逆境でさえ、デュエルが楽しくて楽しくて仕方無い。この胸の熱い鼓動が、激しく脈打つ血流が、自分がデュエリストである事を自覚させる。

 

「行くぜ遊矢ぁ!1体目のリードブローで『オッドアイズ』を攻撃!」

 

「来いアリトぉ!モモンカーペットがペンデュラムゾーンに存在する限り、俺の受ける戦闘ダメージは半分になる!」

 

榊 遊矢 LP1800→1150

 

アリト LP900→1200

 

一撃、閃光のような煌めきの後に渇いた音が襲来して『オッドアイズ』の胸の宝玉を穿ち、飛び散る破片が遊矢のLPを削っていく。

ペンデュラムゾーンのモモンカーペットが遊矢の前にひらりと舞い、破片を受け止めるも全ては防ぎ切れない。

 

「次!2体目のリードブローでセットモンスターを攻撃!」

 

「ッ!セットモンスターは『EMカレイドスコーピオン』、破壊される……!」

 

アリトLP1200→1800

 

二撃、疾風の如くリードブローが駆け、その拳を持ってセットモンスターの球体へと殴りかかる。

大地を砕きひひが走るそれを受け、セットモンスターがパタリと音を立てて表となれば、万華鏡の尾を持った蠍の姿。

 

「最後だ!3体目のリードブローでペンデュラム・マジシャンを攻撃!」

 

榊 遊矢 LP1150→800

 

アリト 1500→1800

 

三撃、枷をつけたリードブローはそれを利用して鎖をペンデュラム・マジシャンへと投げ、動きを封じる。ジャラジャラと重い鎖から逃れようとするペンデュラム・マジシャン。だが遅い、リードブローの鉄拳が鳩尾に抉り込み、ぐったりと力無く倒れる。

 

「カードを2枚セットしてターンエンド!さぁ来いよ遊矢ぁ!」

 

アリト LP1800

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)×3

セット2

手札0

 

アリトから遊矢へとターンが回る。アリトのフィールドにはエクシーズモンスターが3体、3回の破壊耐性を持つリードブロー達。

それだけではない、アリトのフィールドに伏せられたセットカード、恐らくはカウンター罠の類いだろう。正しく鉄壁の布陣。

だがどんなピンチだろうと遊矢は諦めない。むしろこの状況の方が――。

 

『ワクワクする、か?』

 

「ッ!お前は――」

 

それは本当に、突然の事だった。デュエルディスクを構える遊矢の傍に、音も無く現れた新たなデュエリスト。

跳ねた前髪、草臥れたシャツとネクタイ、ボロボロに擦り切れたマントを羽織り、遊矢と良く似た顔立ちの、半透明のその少年は――。

 

『フ、やはり君は、デュエル馬鹿だ』

 

「ユート……何で……?」

 

ユート。エクシーズ次元から来た、レジスタンスに所属するデュエリスト。

決して折れない不屈の闘志を持った遊矢の友人。しかし彼は、ユーゴに敗北して消滅した筈、何故ここにいるのか分からない。そんな動揺を隠せずに慌てふためる遊矢。するとユートは苦笑を溢して説明を始める。

 

『やれやれ、俺もあの時漸く休めると思ってな。君の中の炬燵に入ってみかんを食べたりゴロゴロしていたんだが、家賃を払えぬ者は居させてくれないらしい。……先約が居たのか追い出され、表面に出てきたと言う訳だ』

 

「ええ……」

 

『そんな事よりアリトとデュエルらしい、しかも中々のピンチだ。だが――既に勝利の方程式は完成している。勝つぞ……遊矢』

 

フワフワと風船のように宙を漂いながら腕を組み、戸惑う遊矢へと笑みを浮かべるユート。

そんな彼の言葉に豆鉄砲を食らった鳩の如く呆けた顔で目を瞬かせる遊矢だが――暫くして、意味を飲み込んだらしい、遊矢もまた、不敵に笑う。

 

「当然!行くぜ!これが運命のラストドロー!」

 

遊矢とユート、2人がデッキトップへと手をかけ、勢い良く引き抜く。

 

「『かっとビングだ!俺達!!』」

 

口ずさむのは何時か何処かで闘った少年の台詞。胸に抱くのは自分だけの、デュエリストとしての闘志。

熱き火花が迸り、赤いアークの軌跡描く。舞台は終幕、ド派手な演出でこのスタジアムに、ここにいるもの全ての記憶に刻みつけるよう、遊矢は両手を翳す。

 

「Ledies and Gentlemen!お楽しみは、これからだ!!」

 

「……来たか……!エンタメデュエル!」

 

榊 遊矢のエンタメデュエル。その登場に待ってましたとばかりに会場が沸き立ち、期待を抱く。対戦相手であるアリトですら拳を握り締め、今か今かと興奮した様子ではしゃぐ。

その光景に遊矢は得意気な笑みを作り、ユートは苦笑する。準備は万端、見せようではないか、2人の力を合わせたデュエルを。

 

「さぁさぁまずは榊 遊矢の真骨頂!ペンデュラムをご覧あれ!揺れろ、魂のペンデュラム!」

 

『天空に描け光のアーク!』

 

「ペンデュラム召喚!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMオッドアイズ・ライトフェニックス 攻撃力2100

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

2人の声が重なり、魔方陣より4つの柱が流れ落ちる。この4本の柱とフィールドのラディッシュ・ホース、そして手札のこのカードこそが勝利へ繋ぐ方程式。

全てを出し切り、アリトを倒す。今出来る全てで限界を越える。その為に――はじめの一歩を踏み出す。

 

「まずはペンデュラム・マジシャンの効果発動!」

 

「させるかよ!カウンター罠、『エクシーズ・ブロック』!3体目のリードブローのORUを1つ取り除き、無効にして破壊!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3000

 

「ならオッドアイズ・ライトフェニックスをリリースし、ラディッシュ・ホースの攻撃力を上げる!」

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力500→1500

 

「シルバー・クロウと2体目のリードブローを対象にラディッシュ・ホースの効果発動!」

 

「無駄無駄ぁ!カウンター罠、『天罰』!手札のアクションカードを捨て、無効にして破壊!」

 

互いに譲らぬカード効果の応酬、返される拳にたたらを踏みながらも遊矢は進む。まだ武器は残っている。必殺のフィニッシュブローは死んではいない。その瞳に赤い闘志の火種を宿し、燃え上がらせる。

 

「まだ終わってないぜ!『EMヘルプリンセス』を召喚!」

 

EMヘルプリンセス 攻撃力1200

 

登場したのは紫のツインテールを流し、マジックハンドとステッキを合わせたものと電話の受話器を持った美少女。

 

「さぁさぁご注目!これより出るのは俺の新たな仲間!ニューホープの登場です!」

 

『フ……』

 

「行くぜ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!」

 

「今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!」

 

『「『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」』

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

遊矢の背後に星空が広がり、中より黒き霧が立ち込める。鋭き尾、刃のような両翼を翻して、暗雲を切り裂き、赤き雷が激しくスパークする。

雄々しき咆哮を上げ、飛び出したのは漆黒の竜。遊矢にとって友から譲り受けた初めてのエクシーズモンスター。ユートにとってのエースカードが今、反逆の牙を研ぐ。

 

「そのモンスター……って何でユートがいるんだ……!?」

 

「『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』のORUを2つ取り除き、1体目のリードブローの攻撃力を半分にし、その数値分、このモンスターの攻撃力をアップする!」

 

『トリーズン・ディスチャージ!!』

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3800→1900

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→4400

 

ダーク・リベリオンの両翼に嵌め込まれた宝玉より赤き雷が四散し、リードブローより力を権奪する。より一層力を増したダーク・リベリオン。

しかしこれではアリトは倒せない。

 

「俺の墓地には『BKカウンターブロー』がいる!ダメージステップ時にこいつを除外する事で、リードブローの攻撃力は1000上がるぜ!」

 

「カウンターはもう出来ないさ!カレイドスコーピオンの効果!このターン、ダーク・リベリオンは特殊召喚されたモンスター全てに攻撃出来る!」

 

バチバチと火花と雷を迸らせ、ダーク・リベリオンが地を蹴り砕き、天を駆る。更に勢い良く降下してそのアギトで大地を抉りながら3体のリードブローに狙いをすます。

激しき轟音、飛び散る黒い炎、反逆の牙がコロッセオへと突き立てられる。

 

『「反逆の!ライトニング・ディスオベイッ!!」』

 

アリトLP1800→0

 

「……燃え尽きたぜ……真っ白な……灰のように……」

 

激闘に今、幕が下がる。




ナストラル『休めないの?』

黒いの「エクシーズ次元だけにブラックってか」

ナストラル『ぶん殴るぞお前』


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第50話 融合……!

今回はこの作品で若干空気気味の2人のデュエルです。
今回みたいに出番作りたいなと思ったり。


「……」

 

『……』

 

「……」

 

遊矢とアリトの試合の後、遊矢は観客席の遊勝塾メンバーの元へと足早に帰って来た。のは良いのだが……何故かコナミが帽子の奥の双眸をジッ、と遊矢、いや、半透明の姿でフワフワと浮いているユートへと向けている。

ユートを睨み、微動だにしない。まるで蛙を睨む蛇……を品定めするベルツノガエルの如く何を考えているのか分からない視線に遊矢とユートは戸惑いを覚え顔を見合わせる。まさか……。

 

『俺が見えているのか……!?と言うか君はコナミ……!?』

 

「えぇっ!?」

 

ユートが両の眼を見開いてコナミを見つめる。そう、見えている。本人である遊矢と、何故かアリトの2人にしか目視できないユートの存在が、ハッキリと彼の目に見えている。凝視しまくっている。

その事にユートと2人で驚愕する遊矢。尤もユートは他の事も含めて驚いているが、コナミは別段狼狽える事無くコクリと小さく頷く。

 

「うっそだろお前!信じらんねぇ!」

 

『と言うか、君の顔を見ていると胃がキリキリするな……』

 

「初対面で中々失礼な奴だな」

 

『初対面……そうか、やはりか。あいつと同じ顔がいると思うと吐血しそうだ』

 

ハァと深い溜め息を漏らし、目を伏せ右手で頭を抑えるユート。半透明の浮遊霊状態の彼が言うと冗談にしか聞こえない。

そんな彼等の様子を頭に疑問符を浮かべながら見つめる友人達。当然彼等にはユートの姿どころか台詞も聞こえない為、首を傾げざるを得ない。

まぁ何時ものコナミかと思いながらも電波系に入り込んだ遊矢へと憐憫の眼差しを向ける。あんまりである。

 

『俺の名はユートだ』

 

「オレはコナミだ。よろしくナストラル」

 

『今程実体があればと悔しい事は無い』

 

コナミの痛快なデュエリストジョークに激しい苛立ちを覚え、触れられないが差し出した手を強く握り締めるナストラル。

今まで次元戦争で疲弊し、友人に振り回され、ユーゴに消滅させられ、やっと休めると思ったら、目の前で暫く忘れたい顔がジョークを飛ばしてくる。

もうそろそろ堪忍袋の緒が切れてもおかしくない頃だ。

 

「おっ、落ち着いてくれユート!ほっほら!次は俺の友達の柚子の試合なんだ!対戦者は……」

 

「ねねだな。融合対決と言う訳だ」

 

『……』

 

「暴れんなよ…暴れんなよ…」

 

融合と言う言葉を聞いてプルプルと震え出すユート。そんなユートの様子を伺うように落ち着け落ち着け、と宥める遊矢。

最早猛獣扱いである。そんな彼を無視し、第2試合が今、始まろうとしていた。実況席よりかかるニコの声を合図に、スタジアムに2人のデュエリストが入場する。

 

『これより2回戦第2試合、遊勝塾所属、柊 柚子選手対、二階堂道場所属、光焔 ねね選手の試合を始めます!』

 

ザッ、と土を鳴らして腰元よりデュエルディスクを取り出し、左腕に装着する2人の少女。

1人は舞網市立第2中学特有の脇をざっくりと開いた女子制服に身を包み、ピンク色の髪をツインテールに纏め、右手首にブレスレットを嵌めた少女。

もう1人は二階堂道場の黒い道着を着こなした茶髪のボブカット、どこか影が差した顔立ちの少女。

 

「1回戦、柚子さんの融合、拝見しました。胸を借りる気持ちで挑ませて貰います!」

 

「それはこっちの台詞。同じ融合使いとして勝たせて貰うわ!ねね!」

 

ブオン、デュエルディスクより光輝くプレートを展開し、互いに融合使いとして挑戦状を叩きつける。

融合を覚えて間もない柚子だが、譲れないプライドは師匠譲りと言う事か。

 

『では、アクションフィールド……発動!』

 

ニコの宣言と共にフィールド上に光が満ち溢れ、広大な大地とそれを覆い尽くすような黒い影が侵食していく。

アクションフィールド、『影牢の呪縛』。ねねの操る『シャドール』モンスターに関する効果を持つカードだ。戦況は有利になるだろうが、それでも安心出来る相手では無い。

2人はフィールドを駆け出し、口上を紡ぐ。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

互いにデッキから5枚カードを引き、ズザザとブレーキをかけて相対する。今ここに、舞網チャンピオンシップ、2回目の融合対決が火蓋を切る。

 

「「アクショーン……デュエル!!」」

 

勝つのは、どちらか。先攻は柚子だ。彼女は手札を見た後、1枚のカードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「私は永続魔法、『神の居城-ヴァルハラ』を発動!自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、手札の天使族モンスター1体を特殊召喚する!『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』!」

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600

 

いきなり飛び出す最上級の天使族モンスター。タクトを手に美しき音色を運ぶハープの翼を広げ、赤いドレスをヒラヒラと風に靡かせるモンスターは柚子の『幻奏』デッキにとってエースとなるカード。融合モンスターを手に入れた今でもその力は充分強力だ。

 

「プロディジー・モーツァルトの効果発動!手札の光属性の天使族モンスター、『光神テテュス』を特殊召喚!」

 

光神テテュス 攻撃力2400

 

タクトの導きの下に光が集い、現れたるは穢れ1つ無き純白の翼を広げ、銀髪を流した上級天使。

天使族モンスターを扱うデッキにとって有力なドローソースとなるモンスターだ。

 

「そして魔法カード、『トレード・イン』!手札の2枚目のプロディジー・モーツァルトを捨て、2枚ドロー!2枚目にドローしたカードは天使族モンスター、『幻奏の歌姫ソロ』!公開する事でテテュスの効果で1枚ドロー!ドローカードは『幻奏の音女ソナタ』!1枚ドロー!『幻奏の音女カノン』!1枚ドロー!『幻奏の音女タムタム』!1枚ドロー!ここまでね」

 

柊 柚子 手札0→6

 

息もつかせぬ大量ドロー。手札0の状況から一気に6枚まで盛り返した。その内4枚は公開されたカードとは言え、このアドバンテージは凄まじい。

 

「私は『幻奏の音女ソナタ』と『幻奏のカノン』を特殊召喚!このカード達は自分フィールド上に『幻奏』モンスターが存在する場合、特殊召喚出来るわ!」

 

幻奏の音女ソナタ 攻撃力1200→1700

 

幻奏の音女カノン 攻撃力1400→1900

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600→3100

 

光神テテュス 攻撃力2400→2900

 

美しき音色を響かせ、青いドレスを纏った緑の髪の音女と青い髪を逆立たせ、奇妙な眼鏡をかけた音女がフィールドに登場する。

恐るべき展開スピード、まるで水を得た魚のような大量召喚とドロー。これが元来ある『幻奏』デッキの真髄。これで通常召喚を使っていないのだから驚きだ。

 

「永続魔法、『天空の泉』を発動。モンスターとカードを1枚伏せ、ターンエンドよ」

 

柊 柚子 LP4000

フィールド『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』(攻撃表示)『幻奏の音女ソナタ』(攻撃表示)『幻奏の音女カノン』(攻撃表示)『光神テテュス』セットモンスター

『神の居城-ヴァルハラ』『天空の泉』セット1

手札1

 

1ターン目と言う序盤中の序盤から強力な布陣を敷いた柚子。その見事な腕前にねねはクスリと艶のある笑みを溢す。

中々のソリティアだ。二階堂道場のソリティア3人衆に退けを取らない。

 

「私のターン、ドロー!行きます!魔法カード、『影依融合』を発動します!手札の『シャドール・リザード』ちゃんと『シャドール・ファルコン』ちゃんを融合!融合召喚!『エルシャドール・ミドラーシュ』!」

 

エルシャドール・ミドラーシュ 攻撃力2200

 

大地へ影が堕ち、影が立体化して大地に浮き出る。影は粘土のように形を変え、少女と竜の形となり、更に絵具が水に落ちたかのように色がつき始め、緑色のポニーテールを流した魔法使いの少女とギョロギョロと焦点の合わぬ目玉を持つ竜がフィールドに羽ばたく。

 

「そして効果で墓地へ送った『シャドール・ファルコン』ちゃんの効果で自身を特殊召喚、『シャドール・リザード』ちゃんの効果でデッキより『シャドール・ビースト』ちゃんを墓地へ送り、ビーストちゃんの効果で1枚ドロー!更にアクションフィールド『影牢の呪縛』に3つの魔石カウンターが置かれ、互いのモンスターは相手のターン中、カウンターの数×100攻撃力がダウンします!……アクションフィールドだから私も効いちゃうんですよね……」

 

光焔 ねね 手札3→4

 

影牢の呪縛 魔石カウンター0→3

 

エルシャドール・ミドラーシュ 攻撃力2200→1900

 

ズズズとねねの周囲に影が這いずり回り、次々とねねの手助けをする。唯一想定外だったのはフィールド魔法が共有だったと言う事か。

苦い顔を見せるねねにミドラーシュがやれやれと首を左右に振る。

ねねはミドラーシュの竜へと飛び乗り、アクションカードを探すべく飛翔を促す。

 

「装備魔法、『ワンショット・ワンド』をミドラーシュちゃんに装備!攻撃力を800上げます!」

 

エルシャドール・ミドラーシュ 攻撃力1900→2700

 

「バトル!ミドラーシュちゃんで『幻奏の音女ソナタ』を攻撃!」

 

柊 柚子 LP4000→2900

 

ミドラーシュがねねから受け取ったワンドを手に黒き球を作り出し、ソナタへ向かって放つ。まずは厄介な強化効果の排除と考えたのだろう。500と言う数値は見逃せるものではない。

 

「永続魔法、『天空の泉』の効果発動!戦闘によって破壊された『幻奏の音女ソナタ』を除外し、ソナタの攻撃力1200分、回復する!」

 

柊 柚子 LP2900→4100

 

『天空の泉』によるライフゲイン効果で柚子のLPが元に戻る。この永続魔法がある限り柚子のLPを削り切る事は難しいだろう。

墓地アドバンテージは失われるが光属性や天使族にはそれを補って余りあるサポートカードが存在する。北斗の使った『救援光』等が良い例だろう。

LPを払い除外された光属性モンスターを手札に加えるあのカードとこのLPを回復するカードは相性が良い。

 

「メインフェイズ2、モンスターをセット、ターンエンドです」

 

光焔 ねね LP4000

フィールド『エルシャドール・ミドラーシュ』(攻撃表示)セットモンスター×2

『ワンショット・ワンド』セット1

手札3

 

「私のターン、ドロー!ドローカードは『幻奏の歌姫ソプラノ』!テテュスの効果でドロー!更にドローしたカードは『幻奏の音姫ローリイット・フランソワ』!ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!カードを捨ててドロー!プロディジー・モーツァルトの効果で『幻奏の音女タムタム』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女タムタム 守備力2000

 

巨大なマラカスを持って登場したのは音女と言うには幼い少女のモンスター。素良から教わった事、融合に必要なものを揃える為のモンスターだ。その効果で手札にするのは。

 

「タムタムが特殊召喚し、フィールドに他の『幻奏』モンスターが存在する場合、デッキから『融合』を手札に加えるわ!私はルール上『融合』として扱う『置換融合』を手札に!」

 

「ですがミドラーシュちゃんがいる限り特殊召喚は1ターンに一度までです!」

 

「しかも『影牢の呪縛』で弱体化した私のモンスターじゃミドラーシュを突破出来ないのね……!ならセットモンスターを攻撃するわ!まずはテテュスでファルコンを攻撃!」

 

「ファルコンちゃんのリバース効果で墓地の『シャドール・ビースト』ちゃんをセット状態で蘇生します!」

 

地上より表に返り、羽ばたく『シャドール・ファルコン』だが、テテュスから放たれる光の球を受け、ズルリと影となって地上に落ちる。

しかし影は粘土のように形を変え、4足の獣となって咆哮した後、パタリと裏返って球状になる。

 

「ならプロディジー・モーツァルトで『シャドール・ビースト』を攻撃するわ!」

 

「ビーストちゃんのリバース効果で2枚ドローして1枚捨てます!更に今捨てた『シャドール・ドラゴン』ちゃんの効果で『天空の泉』を破壊します!」

 

光焔 ねね 手札3→5→4

 

4足の獣の人形が遠吠えを上げ、それに呼び起こされた東洋と西洋、両の特徴を持った竜の人形が泉を口から吐いた黒い炎で蒸発させる。

 

「更に『影牢の呪縛』に1つカウンターが乗ります」

 

影牢の呪縛 魔石カウンター3→4

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2300→2200

 

幻奏の音女カノン 攻撃力1100→1000

 

幻奏の音女タムタム 攻撃力700→600

 

光神テテュス 攻撃力1900→1800

 

「私はカノンを守備表示に変更してカードをセット、ターンエンドよ」

 

柊 柚子 LP4000

フィールド『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』(攻撃表示)『幻奏の音女カノン』(守備表示)『幻奏の音女タムタム』(守備表示)『光神テテュス』(攻撃表示)セットモンスター

『神の居城-ヴァルハラ』セット2

手札2

 

「私のターン、ドロー!バトルに入ります!ミドラーシュちゃんでテテュスを攻撃!」

 

ミドラーシュが三日月の形状を模したワンドを振るい、空中に魔方陣を描く。紫の光を放つ魔方陣より黒い球が5つ放たれ、銀髪の天使へと向かっていく。

テテュスも光輝く球で応戦するもねねの助力を受けたミドラーシュの球の威力には及ばなかったらしい。徐々にテテュスが押され、黒球に呑み込まれてしまう。

 

柊 柚子 LP4100→3900

 

「この瞬間、『ワンショット・ワンド』を破壊し1枚ドローします!」

 

光焔 ねね 手札5→6

 

「『影依融合』を発動!手札の『シャドール・ヘッジホッグ』ちゃんと『ギゴバイト』さんを融合!融合召喚!『エルシャドール・アノマリリス』!」

 

エルシャドール・アノマリリス 攻撃力2700→2200

 

影牢の呪縛 魔石カウンター4→5

 

エルシャドール・ミドラーシュ 攻撃力1800→1700

 

ねねのフィールドに巨大な影が差し込み、その中から溢れる水と共に巨大な修道女が躍り出る。

美しき氷の羽衣を広げ、その両手から妖しく光る影糸を伸ばす水属性のエルシャドール。その不気味に蠢く巨体に柚子を含めて会場の全員が度肝を抜かれる。

 

「墓地に送られたヘッジホッグちゃんの効果でデッキの『シャドール・リザード』ちゃんを手札に加え、モンスターとカードをセットしてターンエンドです!」

 

光焔 ねね LP4000

フィールド『エルシャドール・ミドラーシュ』(攻撃表示)『エルシャドール・アノマリリス』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

手札2

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『置換融合』発動!フィールドの『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』と『幻奏の音女タムタム』を融合!至高の天才よ!魂の響きよ!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台に勝利の歌を!『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』!!」

 

幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ 攻撃力1000→500

 

柚子のフィールドに舞い降りる美しき花弁、その蕾が今、花開き中心より青い目の少女が咲き誇る。

花びらが歌声に合わせて踊り、羽衣が風に揺れる。この1輪の少女こそ柚子の新たなエースカード。

この状況に尤も適したモンスターだ。ブルーム・ディーヴァの登場にねねが息を詰まらせる。

 

「そのモンスターは真澄さんとの対決でフィニッシャーとなった融合モンスターですね。確かに、そのモンスターはこの状況では能力を発揮できますが……簡単には通しませんよ……!」

 

「言ったわね……!良いわ、まずは融合素材となったタムタムの効果!ブルーム・ディーヴァの攻撃力を500ダウンし、貴方に500ポイントのダメージを与える!」

 

幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ 攻撃力500→0

 

光焔 ねね LP4000→3500

 

「ブルーム・ディーヴァは戦闘、効果で破壊されず、このカードの戦闘で発生する自分へのダメージを0にとなり、特殊召喚されたモンスターと戦闘を行ったダメージ計算後、このカードと相手モンスターとの攻撃力の差分のダメージを与え、相手モンスターを破壊する!ミドラーシュへ攻撃!リフレクト・シャウト!」

 

ブルーム・ディーヴァの美しき歌声が波紋となって広がり、空気の震動がミドラーシュへと襲いかかる。これを通せば召喚制限は無くなり、2200のダメージがねねのLPを削る。

特殊召喚を多用する『幻奏』相手にミドラーシュを破壊される訳にはいかない。ねねは伏せられていたリバースカードをオープンする。

 

「罠カード、『ブレイクスルー・スキル』!ブルーム・ディーヴァの効果を無効にします!」

 

「罠発動!『幻奏のイリュージョン』!このターン、ブルーム・ディーヴァは相手の魔法、罠の効果を受けず、2回攻撃が出来る!更に罠カード、『ブレイクスルー・スキル』発動!ミドラーシュの効果を無効に!」

 

しかし投げられた聖杯はブルーム・ディーヴァの幻影を裂くのみ。背後より強襲するブルーム・ディーヴァのリフレクト・シャウトがミドラーシュの糸を引き裂く。

 

光焔 ねね LP3500→1300

 

「くっ……ミドラーシュちゃんが墓地へ送られた場合、墓地の『影依融合』を手札に加えます。っと」

 

ミドラーシュが自身が破壊される前に影を操り、アノマリリスの肩まで主を運ぶ。しかもねねの助けとなる為、“2枚”のカードを持たせて、だ。

 

「更に効果で破壊された為、魔石カウンターが乗ります」

 

影牢の呪縛 魔石カウンター5→6

 

幻奏の音女カノン 攻撃力900→800

 

「だけどブルーム・ディーヴァにとってはメリットにしかならないわ!2回目の攻撃!『エルシャドール・アノマリリス』へ攻撃よ!」

 

「アクションマジック、『大脱出』!このバトルフェイズを終了させます!」

 

止めを刺そうとする柚子に待ったをかけたのはミドラーシュより受け取ったアクションカードを発動させるねねだ。

その効果は回避の上位互換。手に入れる前にミドラーシュが破壊されてしまったが仕方無いだろう。

 

「やるわね……!私はこれでターンエンドよ!」

 

柊 柚子 LP3900

フィールド『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』(攻撃表示)『幻奏の音女カノン』(守備表示)セットモンスター

『神の居城-ヴァルハラ』

手札2

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『影依融合』!相手フィールド上にエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合、このカードの素材としてデッキのモンスターも使用できます!」

 

「デッキ融合……!?」

 

これこそがねねの扱う『シャドール』デッキの恐るべき力。少ない消費、そして『シャドール』モンスターの効果で融合召喚をした上で手数を増やすと言う光景が当たり前になるのだ。

 

「私はデッキの『シャドール・リザード』ちゃんと地属性モンスター、『カードガンナー』さんを墓地へ送り、融合召喚!『エルシャドール・シェキナーガ』!」

 

エルシャドール・シェキナーガ 攻撃力2600→1900

 

影牢の呪縛 魔石カウンター6→7

 

エルシャドール・アノマリリス 攻撃力1600→1500

 

ゴゴゴと地響きを鳴らし、アノマリリスの影が裂け、アノマリリスと瓜二つの修道女が巨大な蜘蛛のような形をした台座に腰かけて現れる。

その巨大さはアノマリリスに退けを取らない。だがどれだけ強力なモンスターを出してもブルーム・ディーヴァの反射効果の前では無意味。柚子はホッと胸を撫で下ろすが――このモンスターこそ、ブルーム・ディーヴァの天敵となるモンスター。

 

「墓地に送られたリザードちゃんの効果によりデッキの『シャドール・ハウンド』ちゃんを墓地へ、その効果で『幻奏の音女カノン』を攻撃表示に変更!カウンターも乗ります!」

 

影牢の呪縛 魔石カウンター7→8

 

エルシャドール・シェキナーガ 攻撃力1900→1800

 

エルシャドール・アノマリリス 攻撃力2000→1900

 

「バトル!シェキナーガさんでカノンを攻撃!」

 

柊 柚子 LP3900→3500

 

シェキナーガがその手より伸ばした影糸でカノンを絡め取り、腕を交差させて引き裂く。音女の悲痛な叫びが木霊するもねねはその手を止める事無くアノマリリスへと指示を飛ばす。

 

「アノマリリスさんでブルーム・ディーヴァへ攻撃!」

 

「この瞬間、ブルーム・ディーヴァの効果発動!」

 

「無駄です!特殊召喚されたモンスターが発動した時、シェキナーガさんの効果発動!その発動を無効にし、破壊します!」

 

ねねが右腕を突き出すと同時に咆哮を上げようとしたブルーム・ディーヴァの口元をシェキナーガが操る影糸がブルーム・ディーヴァの姿を模し、雁字絡めにする。

それによって無力化されたブルーム・ディーヴァは妖しく笑う自身の影に飲み込まれ、シェキナーガの元へと帰っていく。

たった1ターンでブルーム・ディーヴァが攻略されてしまった。その事実に柚子が悔しさと感嘆が混ざった複雑な溜め息を漏らす。

 

「この効果を使った後、私は手札の『シャドール・ドラゴン』ちゃんを捨て、ヴァルハラを破壊します」

 

影牢の呪縛 魔石カウンター8→9

 

エルシャドール・シェキナーガ 攻撃力1800→1700

 

エルシャドール・アノマリリス 攻撃力1900→1800

 

「手札を1枚伏せ、ターンエンドです」

 

光焔 ねね LP1300

フィールド『エルシャドール・シェキナーガ』(攻撃表示)『エルシャドール・アノマリリス』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

手札1

 

「私のターン、ドロー!『影牢の呪縛』のせいで上手く動けない……!私は墓地の『置換融合』を除外し、ブルーム・ディーヴァをデッキに戻して1枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札3→4

 

「『幻奏の歌姫ソプラノ』を召喚!」

 

幻奏の歌姫ソプラノ 攻撃力1400

 

柚子が手札より召喚したのは赤毛を揺らし、青いドレスを纏った歌姫。その歌声は名を示す通り美しきソプラノボイス。

このモンスターもまた、柚子の融合を手助けをする1枚だ。

 

「ソプラノは『融合』を内蔵したモンスター!このカードとセット状態のソロを融合!天使の囀りよ!天使の羽ばたきよ!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台へ!『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400→1500

 

山吹色の髪をふわりと靡かせ、黄金の仮面を被り、赤いドレスを纏った音姫が刃を持ったタクトを振るう。このカードは柚子にとって初めての融合モンスターとも言えるカードだ。

ブルーム・ディーヴァ等が持つ反射効果は無いが、その代わりとして素材は『幻奏』モンスター2体と軽いものだ。

 

「更に永続魔法、『フォルテッシモ』を2枚発動!マイスタリン・シューベルトの攻撃力を1600アップ!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力1500→3100

 

2枚の『フォルテッシモ』による強化がマイスタリン・シューベルトに注がれ、その攻撃力を2倍近く上げる。その数値は3100、『影牢の呪縛』を受けても尚、ねねのモンスターを上回るものだ。

 

「バトル!マイスタリン・シューベルトでシェキナーガを攻撃!ウェーブ・オブ・ザ・グレイト!」

 

マイスタリン・シューベルトがタクトを振るい、その美声を放つ。瞬間、宙に漂う大気が震え、水面の波紋のように広がってシェキナーガをギシギシと歯軋りの如く不快な音を奏で、その台座や修道女の顔にひびが走る。バキリと台座の脚が折れるのは切欠として次々とシェキナーガの身体が破壊され、轟音と共に砕け散る。

バキィィィィィッ!土煙を上げ、飛び散る破片から身を守りながらねねは苦い顔をする。

 

光焔 ねねLP1300→800

 

「シェキナーガさんが墓地へ送られた事で墓地の『影依融合』を回収します」

 

「私はこれでターンエンドよ!」

 

柊 柚子 LP3500

フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)

『フォルテッシモ』×2

手札1

 

「私のターン、ドロー!『影依融合』を発動!デッキの『シャドール・ハウンド』ちゃんと『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』さんを融合!融合召喚!『エルシャドール・エグリスタ』!」

 

エルシャドール・エグリスタ 攻撃力2450→1450

 

影牢の呪縛 魔石カウンター9→10

 

エルシャドール・アノマリリス 攻撃力1800→1700

 

「『シャドール・ハウンド』ちゃんの効果でマイスタリン・シューベルトを守備表示に!そして『シャドール・リザード』ちゃんを召喚!」

 

シャドール・リザード 攻撃力1800→800

 

ズルリと異音を奏で、影が棒状となって大地に浮き上がる。そして影に枷でも着けるかのように鈍い輝きを放つ金具が影を覆い、まるで蜥蜴を模したかのような姿を形成し、影糸が蜥蜴を吊し上げる。

不気味に体内の闇を蠢かせ、おぞましい鳴き声で喉をうがいでもするかのように鳴らすのは『シャドール』のキーカード、これで3枚目の使用となる。

 

「更に装備魔法、『ワンダー・ワンド』をリザードちゃんに装備します!」

 

シャドール・リザード 攻撃力800→1300

 

「そして『ワンダー・ワンド』とリザードちゃんを墓地へ送り、2枚ドロー!更に『強欲で貪欲な壺』を発動して2枚ドロー!」

 

光焔 ねね 手札0→2→3

 

「負けられません!私は、自分の手で、強くなりたい!この子達に応えてあげたい!」

 

沸き上がる強い向上心。過去の光焔 ねねならば流されるままに従い、臆病風を吹かせて、焦りを見せて勝機を逃していただろう。

いや、それどころか試合に出ていなかったかもしれない。だが今の彼女は昔のままでは無い。コナミと出会い、刃とのデュエルを通し、暗次と共に自身を縛っていた糸を引き裂いた。

そしてねねはこの大会で強くなり、新しい自分を手にする為にこの場に立っている。目指すのはコナミとの最戦。

刃ともカードを交えたかったが強くなった自分をコナミに見せたい。その想いが彼女をより一層強くする。

 

「装備魔法、『幻惑の巻物』をマイスタリン・シューベルトに装備!その属性を地属性に変更します!そして同じく装備魔法、『魂写しの同化』をアノマリリスさんに装備!このカードは装備モンスターを含むフィールド、手札のモンスターを墓地に送り、融合が出来ます!そして『影牢の呪縛』のカウンターを3つ取り除き、マイスタリン・シューベルトを融合素材にします!」

 

影牢の呪縛 魔石カウンター10→7

 

「私のモンスターを素材に!?」

 

「融合召喚!『エルシャドール・シェキナーガ』!」

 

エルシャドール・シェキナーガ 攻撃力2600→1900

 

柚子のマイスタリン・シューベルトがアノマリリスの影糸に絡め取られ、アノマリリスと共に影に染まり、同化する。フィールドを無数の影糸が蹂躙し、巨大な影が出現してボコボコと不気味に泡立つ。まるでマグマのように熱を放ちながら現れるのはアノマリリスと同じ顔をした『シャドール』の融合体、『エルシャドール・シェキナーガ』。

 

「アノマリリスが墓地に送られた為、『影依融合』を回収、魔石カウンターが乗ります!」

 

影牢の呪縛 魔石カウンター7→8

 

エルシャドール・シェキナーガ 攻撃力1900→1800

 

エルシャドール・エグリスタ 攻撃力1750→1650

 

「バトル!エグリスタさんでダイレクトアタック!」

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!戦闘ダメージを0に!」

 

深紅の巨人が背より伸びた影糸を操り、柚子へと降り注がせる。大地が割れ、引き裂かれる程の一撃。しかしその風圧によって運ばれたアクションカードを拾い上げ、柚子はデュエルディスクへと差し込む。

 

「アクションマジック『回避』!」

 

「私はこれでターンエンドです」

 

光焔 ねね LP800

フィールド『エルシャドール・シェキナーガ』(攻撃表示)『エルシャドール・エグリスタ』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

手札1

 

「私のターン、ドロー!私は『幻奏の歌姫ソロ』を特殊召喚!」

 

幻奏の歌姫ソロ 守備力1000

 

「そして魔法カード、『同胞の絆』を発動!2000LPを払い、ソロと同じ種族、属性、レベルで名前が異なる2体をデッキから特殊召喚する!『幻奏の音女アリア』と『幻奏の音女タムタム』を特殊召喚!」

 

柊 柚子 LP3500→1500

 

幻奏の音女アリア 守備力1200

 

幻奏の音女タムタム 守備力2000

 

大量のLPを払って、柚子が3体のモンスターを展開する。ハープの片翼を持つアリアとマラカスを鳴らすタムタム。その中心をソロがくるくると躍り出る。

『幻奏』の特殊召喚した場合の効果と同じステータスである事を活かしたプレイングだ、本来ならばライフコストも『天空の泉』で帳消しに出来たのだろうが流石に相手が相手。そこまで上手く事を運ばせてくれない。

 

「タムタムの特殊召喚時効果によりデッキから『置換融合』をサーチ!」

 

「させません!シェキナーガさんの効果で無効にします!」

 

「分かってる!だからこれを使うわ!アクションマジック、『イルミネーション』!その効果を無効にする!よってタムタムの効果は通るわ!私はこれでターンエンド!」

 

柊 柚子 LP50

フィールド『幻奏の歌姫ソロ』(守備表示)『幻奏の音女アリア』(守備表示)『幻奏の音女タムタム』(守備表示)

『フォルテッシモ』×2

手札1

 

「私のターン、ドロー!フフッ、面白くなって来ましたね!私は魔法カード、『アームズ・ホール』を発動!デッキトップをコストに墓地の装備魔法、『幻惑の巻物』を手札に加えます!」

 

恐らく『ワンダー・ワンド』等のドローソースを内蔵したカードをデッキに入れているから採用したであろうカードだ。これにより再び『幻惑の巻物』がねねの手に渡った。

 

「『幻惑の巻物』をアリアに装備!属性を闇に変え、セットされたドラゴンちゃんと融合!融合召喚!『エルシャドール・ミドラーシュ』!」

 

影牢の呪縛 魔石カウンター8→5→6

 

エルシャドール・ミドラーシュ 攻撃力2200→1600

 

エルシャドール・シェキナーガ 攻撃力1900→2100

 

エルシャドール・エグリスタ 攻撃力1650→1850

 

ねねのフィールドに集う3体のエルシャドール。影仕掛けの神達の威圧感が柚子へと襲いかかる。

これで柚子は特殊召喚が1ターンに1度までしか行えない。『幻奏』デッキにとっては痛いところを突かれたものだ。

 

「ドラゴンちゃんの効果で『フォルテッシモ』破壊、シェキナーガさんとエグリスタさんでタムタムとソロを攻撃!」

 

ねねが指示を出すと同時にシェキナーガとエグリスタがそれぞれの影糸を伸ばし、タムタムとソロを貫く。淡い輝きを放つ影糸の刺突を受け、タムタムとソロは光の粒子となって消滅する。これでミドラーシュの攻撃が通ればねねの勝利だが――そう簡単にはいかない。

 

「ソロの効果!デッキより『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』を特殊召喚!」

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600

 

天より音色を運び、降臨したのはハープの翼を広げた『幻奏』の名作曲家。その眩き光を持ってミドラーシュの妨げとなり、主である柚子を守る。

 

「ッ!バトルを終了し、ターンエンドです」

 

光焔 ねね LP800

フィールド『エルシャドール・ミドラーシュ』(攻撃表示)『エルシャドール・シェキナーガ』(攻撃表示)『エルシャドール・エグリスタ』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

互いに一進一退の熱い攻防。激しい戦略がぶつかり合い、その中で2人の少女は笑う。それはデュエルが楽しくて仕方無いと言った様子だ。

ねねはコナミと刃、暗次に自分の成長を見せる為に、そして柚子は――柚子の、目的は――遊矢とコナミ、2人を倒す事。

柚子にとって、この舞網チャンピオンシップでの当初の目的は真澄へのリベンジを果たす事だった。それが果たされたあの日、柚子は次に目標にするのは素良だった。

師匠である素良に勝利する事が彼への一番の恩返しだと思ったのだ。しかしそれも彼が敗れ、アカデミアに帰還した今は出来ない。

 

ならば、と柚子が思い出したのは、遊矢とコナミの誓い。あの時は同じ舞台に立ちたいとだけ思ったいたが――今はもう、そんな事では満足出来ない。

その舞台で、彼等と闘う。それが柚子の目標。その為に――誰よりも強く、誰よりも最高の――エンタメデュエリストになる。

覚悟を決め、目一杯息を吸い込み、両手を広げる。この、青い大空へと。

 

「Ledies and Gentlemen!お楽しみは、これからよ!」

 

歌うように、紡ぐように、少女が叫ぶ。柚子の顔に満面の笑顔が咲き誇り、そのドローは譜面のように音符が走ったアークを描く。

運命を別つディスティニードロー。その軌跡に、デッキは確かに答えを見せる。引き抜かれしは、友の導。

 

「『クリスタル・ローズ』を召喚!」

 

クリスタル・ローズ 攻撃力500

 

朽ちた大地に咲き誇る一輪の薔薇。水晶の煌めきを放つこのカードは真澄より受け取った友情の証。

遊矢が多くのデュエリストと闘い、成長するように、彼女もまた同じように成長している。

それはやはり、エンタメデュエリストだからだろう。楽しく面白く、笑って闘い、デュエルに誰よりも真剣に向き合う。そんな彼等だからこそ、誰もが力を貸したくなる。

 

「『クリスタル・ローズ』の効果!デッキの『幻奏の音姫ローリイット・フランソワ』を墓地に送り、その名前をコピーする!そして魔法カード、『置換融合』を発動!フィールドのプロディジー・モーツァルトとローリイット・フランソワとなった『クリスタル・ローズ』を融合!融合召喚!今こそ舞台に情熱の歌を!『幻奏の華歌聖ブルーム・プリマ』!!」

 

幻奏の華歌聖ブルーム・プリマ 攻撃力1900→2500→1900

 

薔薇の花がその色を柔らかく、優しい白へと変わり、中心より可愛らしい少女が咲く。勝利の聖歌を歌い、美しい音色を運ぶ精霊。

これが柚子の最後の切り札。白き華が今、朽ちた大地に満面に咲き乱れる。

 

「墓地の『置換融合』を除外し、マイスタリン・シューベルトをエクストラデッキに戻して1枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札0→1

 

「来た!まずは『フォルテッシモ』の効果でブルーム・プリマの攻撃力をアップするわ!」

 

「速攻魔法、『禁じられた聖槍』!ブルーム・プリマの攻撃力を800ダウンし、このカード以外の魔法、罠カードの効果を受けつけさせません!」

 

幻奏の華歌聖ブルーム・プリマ 攻撃力1900→1100

 

「それでも、負けない!ブルーム・プリマでミドラーシュに攻撃!」

 

「向かい撃って!ミドラーシュちゃん!」

 

少女達の指示を受け、聖歌を歌う華の少女と竜を連れた影人形がフィールド中央で激突する。白と黒の対決、熱き火花を咲かせる少女達の激闘に、最後の終止符が今、打たれる。

 

「手札の『幻奏の音女スコア』を墓地に送り、ミドラーシュの攻撃力を0にする!これで、私の勝ちよ!」

 

エルシャドール・ミドラーシュ 攻撃力2200→0

 

光焔 ねねLP800→0

 

勝利の歌が、美しき花園に響き渡る。勝者――遊勝塾所属、柊 柚子――。

 

 




人物紹介6

柊 柚子
所属 遊勝塾
遊矢やコナミと同じく遊勝塾に所属するエンタメデュエリスト。
ぶっちゃけ遊戯王キャラの中でも最高にストロングな少女。シャークさんも見習って欲しい。
居候にコナミとセレナを抱えており、2人の姉のような立場、遊勝塾に来る他塾の人間にも普通に対応している辺り大物。
デッキは『幻奏』。エースカードは『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』

光焔 ねね
所属 二階堂道場
暗次と共に元のキャラがほぼ消えている女の子。本当は臆病な性格なんだけど普通の女の子になっている。
コナミの子分であるが、ぶっちゃけ暗次のキャラの強さに隠れがちであり、いまいち空気な少女。変人で無いだけ幸せかもしれない。ただソリティアが大好きだが。
所属する二階堂道場は元々剣道場であり、道場主の美人女剣士が「デュエル?良かろう、野球と共に道場に取り入れよう」と男前な事を言ってデュエルにシフトしたとか。その結果一部で恐れられるソリティア道場が誕生した。
現在は野球選手の旦那さんと共に旅行中である。
デッキは『シャドール』。エースカードはネフィリムさんが煉獄ってるので『エルシャドール・ミドラーシュ』。作中の描写を見て察した人もいらっしゃるだろう、精霊つきだったりする。


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第51話 月からの使者

おっぱい回。


ハイレベルな闘いが繰り広げられ、様々な戦略渦巻く舞網チャンピオンシップ2回戦。過去の大会を見ても、最高レベルと言って良いこの激闘も、いよいよ最終戦に突入する。

3回戦への出場資格を賭け、2回戦最後の試合が今、始まろうとしていた。

 

1人は見るもの全てを楽しませるエンタメデュエルを信条とした遊勝塾に所属する1番の問題児、3倍速の赤い悪魔こと、コナミ。

今日も今日とてトレードマークの赤い帽子を目深に被り、その上に装着されたゴーグルが太陽の光を反射する。肩にかけた赤のジャケットが風に靡き、鍛えられた両腕をだらりと力なく垂らしている。

緊張の欠片も見当たらない自然体、そんなコナミの正面で頭を抱えているのは1人の美女。

 

「……何でアンタまでいるのよ……隼だけでも驚きなのに……!」

 

腰まで伸ばされた桃色の長髪は首から下は紫に変色しているが、地毛なのだろう。無理して染め上げたかのような下品さは見受けられない。逆に彼女の大人びた、艶のある雰囲気に良く似合っている。

首元からは黒い外套を纏い、その両手にはすっぽりと肩までを覆うロンググローブを着けている。それ程露出が無い服装なのに色気を醸し出しているのは彼女の豊かな胸部のせいか、女性でも羨む程に均整の取れたプロポーションだ。

LDSエクシーズコースに所属する彼女の名は、瑠那。先程コナミの存在を目に止めてからずっとこの様子である。

 

「今日は知らん奴から失礼な態度を取られる日だな」

 

「知らない……?何よ、貴方まさか記憶喪失にでもなったって言うの?私の事を忘れたの?」

 

「いや、記憶は確かに曖昧な所はあるが……お前のようなおっぱいは知らん」

 

「ぬぁっ!?お、おぱっ……」

 

コナミに呆れたような態度を見せる瑠那に対し、コナミもまた首を傾げ、キッパリと告げる。コナミとしては瑠那のような立派に主張する2対のロケットを1度でも見れば2度と忘れる事は無いと断言出来るのだが……残念ながら瑠那のおっぱいとは初対面である。

ただコナミは小さい大きいで差別する気は無い、大は小を兼ねると言う言葉もあるだけだ。つまり、コナミはおっぱい星人である。

 

「良いわ……思い出させてあげる!この月からの使者の事を!」

 

「それは思い出させない方が良いのでは……?」

 

「う、うるさいわね!月に代わって成敗よ!」

 

「上等だ。ここで会ったのも月の光に導かれ、何度も巡り合ってミラクル、ロマンスだ!」

 

『な、何だか妙な雰囲気になって参りましたがデュエルを始めましょう!アクションフィールド、発動!』

 

剣呑な空気で馬鹿馬鹿しいやり取りを繰り広げる2人の対戦者に気圧されながらも、自らの仕事を果たす為にアクションフィールド発動のスイッチを押すニコ。

こんな変人とおっぱいを前にしても気を取り直して仕事をする姿は正にプロである。カチリとスイッチが押される音と同時にフィールドが緑生い茂る森に包まれ、空中に幾つもの光輝く6角形の結界が構成される。

アクションフィールド、『星守る結界』。瑠那の扱うエクシーズに関する効果を持ったフィールドだ。このカードの登場に、観客席で座る遊矢、の隣でフワフワと浮くユートが顎に手を当て、ふむ、と頷く。

 

『どうやらこのデュエルは瑠那の有利だな。彼がどう立ち向かうか……悪いが遊矢、俺は瑠那の応援をさせて貰う。コナミ負けろ……負けちまえ……!』

 

「お、おう。でもコナミだって負けないぜ!」

 

ぶつぶつと呪詛の如くコナミを睨んで呟くユートを視界に捉えながらも同じ仲間として、ライバルとしてコナミを応援する遊矢。

そんな彼等の様子を知らずに、コナミと瑠那はアクションデュエルの口上を紡ぐ。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

互いにデュエルディスクを取り出し、その左腕に装着するコナミと瑠那。フィールド内を駆け、デュエルディスクよりソリッドビジョンで構成されたプレートを閃かせ、デュエルの火花を散らす。

 

「「アクショーン……デュエル!!」」

 

先攻はコナミだ。デッキより5枚のカードと言う名の剣を手に、頭の中で戦略を駆け巡らせる。この場に最も合った手はどれか、2秒で決定する。

 

「まずはこれだ。手札を1枚捨て、『ペンデュラム・コール』を発動!デッキより『魔術師』ペンデュラムモンスター2体を手札に加える。オレは『慧眼の魔術師』と『刻剣の魔術師』を手札に加え、墓地に送った『妖刀竹光』の効果により、デッキから『黄金色の竹光』を手札に!そして慧眼と刻剣でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

初っぱなからのペンデュラム。コナミのデュエルディスクに虹色の輝きが灯り、左右に『魔術師』を内包した光の柱が上り、天空に魔方陣が描かれる。

最初から全開、サービス満載のプレイングを見て、観客達が最早聞き慣れたペンデュラムコールを上げる。正に魔法、『ペンデュラム・コール』と言った所か。

 

「これがペンデュラム……!」

 

「揺れろ、光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚ッ!『E・HEROエアーマン』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

コナミのフィールドに登場したのは背にファンの翼を生やした青い『HERO』と炎の鬣を伸ばした赤い『HERO』。それぞれ対照的な2体だがその役割は似通っている。

 

「『HERO』……!」

 

「エアーマンの効果で『E・HEROシャドー・ミスト』を、ブレイズマンの効果で『置換融合』を手札に加える!更に装備魔法、『妖刀竹光』をエアーマンに装備し、『黄金色の竹光』を発動!フィールド上に『竹光』カードが存在する場合2枚ドロー!ドローした中にもう1枚だ。発動して2枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→4→5

 

『HERO』モンスターを見て、憎々し気に目を鋭くして唇を噛む瑠那を無視し、急激なサーチとドローターボにより手札を増やすコナミ。

この『妖刀竹光』を利用したドローならば『マジカルシルクハット』による恩恵も受けられる。その為に採用されたカードだ。ビックリ箱のようなデッキだが、考え込まれて作成されている。

 

「オレは『E・HEROシャドー・ミスト』を召喚!」

 

E・HEROシャドー・ミスト 攻撃力1000

 

召喚されし3体目の『HERO』。エアーマンとブレイズマンの影から霧がモウモウと立ち上がり、美しい艶を放つ青髪が靡く。黒い鎧を線の細い身体に身に纏った闇属性の英雄が現れる。

 

「オレは2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる!白き翼に望みを託せ、現れろ!No.39!エクシーズ召喚!希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

コナミの背後に星の浮かぶ渦が巻き起こり、デュエルディスクから排出された黒枠のカードを掴み取ってプレートに叩きつける。

瞬間、フィールドに希望の咆哮を上げ、純白の翼を広げた皇が現れる。希望皇ホープ。

コナミの持つエクシーズモンスターにして『No.』の名を持つこのカードの登場に瑠那が下唇を噛み締める。

 

「出て来たわね……!貴方のエースモンスター……!」

 

「『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ、オレはカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

コナミ LP4000

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『E・HEROブレイズマン』(守備表示)

セット2

Pゾーン『慧眼の魔術師』『刻剣の魔術師』

手札3

 

フィールドには攻撃を2回まで封じるホープにセットカードが2枚、そして残る手札も3枚。上々たる出だしだ。この布陣をどう突破するか、コナミは警戒と興味を抱きながら瑠那を観察する。その際、胸に目がいってしまうのはどうしようも無い。

 

「私のターン、ドロー!私は『星因士ウヌク』を召喚!」

 

星因士ウヌク 攻撃力1800

 

瑠那が召喚したのは白い鎧に金色の装飾を施した星の騎士。その腰からは蛇の尾のようなものが伸びており、見た目やそのモチーフは北斗の扱う『セイクリッド』モンスターと似通う点がある。

 

「ウヌクの召喚時効果により、デッキからウヌク以外の『テラナイト』を墓地に送る。私は『星因士デネブ』を墓地に送る。そして速攻魔法、『天架ける星因士』を発動!ウヌクを対象に、デッキから対象とカード名の異なる『テラナイト』を特殊召喚する!来て!『星因士ベガ』!」

 

星因士ベガ 守備力1600

 

次に瑠那が特殊召喚したカードはこと座の『テラナイト』。七夕の織姫を現すかの如くその姿には女性的なしなやかさがある。

 

「そして対象になったウヌクをデッキに戻し、特殊召喚したベガの効果!手札からベガ以外の『テラナイト』を特殊召喚する!『星因士アルタイル』を特殊召喚!」

 

星因士アルタイル 攻撃力1700

 

光輝く青き翼を広げ、わし座の『テラナイト』が上空を飛翔する。織姫星の導きにより現れる彦星。となると次に登場する『テラナイト』は当然決まっている。

瑠那はその形の良い唇で薄い笑みを作り、右手を振るう。

 

「アルタイルが特殊召喚した場合、墓地のアルタイル以外の『テラナイト』を守備表示で特殊召喚する!『星因士デネブ』!」

 

星因士デネブ 攻撃力1500

 

織姫、彦星が登場したならばその星を紡ぐのははくちょう座の『テラナイト』。真っ白な身体に白と金の鎧兜を纏い、右手で振るいしは螺旋の刃持つレイピア。8枚4対の翼を広げ、今、3体で夏の大三角形を構成する。

 

「デネブの特殊召喚時効果により、デッキの『星因士アルタイル』をサーチするわ。そして3体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『星輝士デルタテロス』!」

 

星輝士デルタテロス 攻撃力2500→3100

 

瑠那の背後に銀河を散りばめた渦が広がり、デネブ、アルタイル、ベガが三角形の配置となって飛び込む。金色に光る三角形のゲートより飛び出したのは3体の力を合わせ、新たな力を持った『テラナイト』。

左腕にはデネブ、アルタイル、ベガの周りを回転していたリング、右腕には剣を持ち、背には黄金色の翼が輝き、尾のように広がった羽の3つで逆三角を作り上げている。

 

「ORUを持ったこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、私がモンスターを召喚、特殊召喚した時、貴方はモンスター、魔法、罠の効果を発動出来無いわ。更にアクションフィールド、『星守る結界』は『テラナイト』エクシーズモンスターの攻守をORUの数×200アップさせる!これでデルタテロスの攻撃力は3100、そしてデルタテロスのORUを1つ取り除き、ホープを対象として破壊する!」

 

「ッ!墓地に送られたシャドー・ミストの効果により、デッキから『E・HEROプリズマー』をサーチ!」

 

デルタテロスが剣を振るうと同時にホープの足場に三角形の結界が現れ、そこから上る光がホープを貫き、破壊する。

しかしホープの影がコナミへと伸び、黒い霧がコナミのデッキから1枚のカードを渡す。フィールドのカードを破壊する効果。成程、単純ながらも強力だ。戦闘では滅法強いホープも効果で処理されては堪らない。

 

「さぁ、バトルよ!デルタテロスでブレイズマンを攻撃!」

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!デッキのモンスター以外をセットして特殊召喚!ブレイズマンもセット状態となり、シャッフルする!」

 

ここで発動されたのはコナミの新たなる武器。彼の戦略の幅を大きく広げる1枚の罠。その発動と共にコナミのフィールドにシルクハットが3つ現れ、ブレイズマンをすっぽり覆ってシャッフルする。運任せだが攻防自在に変化するコナミのデュエルにぴったりのカード。その登場に瑠那は迷う事無くデルタテロスに指示を出す。

 

「右のシルクハットよ!」

 

「残念、破壊されたのは『光の護封霊剣』だ」

 

しかし、シルクハットの中身は金色に輝く3本の剣。外れを引いた事でブレイズマンは無事となる。しかも『光の護封霊剣』は墓地から除外する事で相手のダイレクトアタックから身を守る効果がある。

 

「くっ……流石と言った所かしら……私はカードを3枚伏せてターンエンド!」

 

瑠那 LP4000

フィールド『星輝士デルタテロス』(攻撃表示)

セット3

手札1

 

「オレのターン、ドロー!勘違いしたままか、ならばデュエルで証明しようか。『慧眼の魔術師』を破壊し、『竜穴の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『E・HEROプリズマー』!『慧眼の魔術師』!」

 

E・HEROプリズマー 攻撃力1700

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

振り子の軌道を描き、水晶の輝きを放つ多面体の戦士が登場する。『HERO』デッキの他、融合を軸とするデッキでも役立つカードだ。プリズマーは自らの鏡面を閃かせ、淡い光に包まれる。

 

「プリズマーの効果!エクストラデッキの『E・HEROジ・アース』を公開し、素材である『E・HEROオーシャン』を墓地に送り、その名を得る!リフレクト・チェンジ!更にブレイズマンの効果でデッキの『E・HEROフォレストマン』を墓地に送り、属性と好守を得る!」

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800→2000

 

度重なる墓地肥やし、デッキ圧縮が冴え渡る。一見無茶苦茶に詰め込んだ化のようなデッキだが充分に実戦レベル。そしてコナミが扱う事によってそのレベルは格段に跳ね上がる。

 

「さぁお次はこれだ!魔法カード、『置換融合』!」

 

「『融合』……!何故貴方が……!」

 

コナミが発動したこのカードはルール上『融合』として扱うカードだ。その範囲はフィールド内と狭くなっているもののペンデュラムとは相性が良く、墓地から除外、同じく墓地の融合モンスターをエクストラデッキに戻し、1枚ドローする、コナミ向きのカードと言える。

『E・HERO』の融合体は融合召喚でしか召喚出来無い為、エクストラデッキに戻すのも頷ける。この『融合』の発動に瑠那は苦虫を噛み潰したかのような表情でコナミを睨む。一体どうしたと言うのだろうか、疑問に思うコナミだが今はデュエルの最中、その答えはデュエルを通して見つけるのみ。

 

「オーシャンと化したプリズマーと地属性のブレイズマン融合!融合召喚!『E・HEROガイア』!」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200

 

大地を裂いて現れたるは地属性を司る漆黒の巨人。身体中に散りばめた紅玉が鈍い光を放ち、デルタテロスよりその黄金の輝きを奪う。

 

「ガイアの融合召喚成功時、デルタテロスを対象とし、その効果を発動!デルタテロスの攻撃力を半分にし、その数値をガイアに加える!」

 

「無駄よ!デルタテロスを墓地へ送り、カウンター罠発動!『神星なる因子』!その発動を無効にして破壊!更に私は1枚ドローする!」

 

瑠那 手札1→2

 

「そしてデルタテロスの第3の効果を発動!フィールドから墓地へ送られた場合、デッキから『星因士デネブ』を特殊召喚!」

 

星因士デネブ 攻撃力1500

 

「デネブの効果でデッキから『星因士ウヌク』をサーチ!」

 

「こちらの手を防いだ上で手数を増やすか……!ならばオレも墓地の『置換融合』を除外し、ガイアをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

コナミ 手札3→4

 

ガイアの効果を無効にした上で代わりのモンスターを特殊召喚し、サーチまで行う瑠那。しかしコナミも負ける訳にはいかない。同じく手数を増やし、次に備える。

 

「バトル!『慧眼の魔術師』で攻撃!」

 

「罠発動!『フローラル・シールド』!攻撃を無効にし、1枚ドロー!」

 

瑠那 手札3→4

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

コナミ LP4000

フィールド『慧眼の魔術師』(攻撃表示)

セット3

Pゾーン『竜穴の魔術師』『刻剣の魔術師』

手札2

 

「生温い……以前の貴方ならば無理矢理にでもデルタテロスを破壊してバーンダメージを与えた上で複数のエクシーズモンスターを並べて攻撃した筈でしょう!」

 

「何それ怖い」

 

「スタンダード次元に来て腑抜けてしまった。記憶の失ってからの貴方はまるで別人よ!」

 

「オレは悪くねぇっ!」

 

真剣である筈のやり取りなのにコナミの受け答えのせいでシュールと化す会話。酷い温度差である。首を左右に振って叫ぶ瑠那を見て、観客席のユートは『腑抜けた方が平和な気がする』と天を仰ぐ。果たして瑠那の言うコナミはどれ程の殺意の塊なのだろうか。少し気になる所である。

 

「私のターン、ドロー!貴方に教わったデュエルで目を覚ましてあげるわ!永続罠、『神星なる波動』を発動!その効果により、手札のアルタイルを特殊召喚するわ!」

 

「ならば手札の『増殖するG』を切る!」

 

星因士アルタイル 攻撃力1700

 

コナミ 手札1→2

 

『テラナイト』の高速展開に対抗して強力なドローソースを発動するコナミ。『増殖するG』は手札から捨てる事で相手が特殊召喚に成功する度にドローする効果を持っている。

これにより瑠那が展開すればする程コナミは大量のドローカードを得られると言う事だ。

コナミのドロー運はとんでもなく高い。確実に目的とするカード、或いはこちらの布陣を崩すカードを引き抜くだろう。だが瑠那とて譲る訳にはいかない。崩せぬ布陣を敷くまでだ。

 

「アルタイルの効果で墓地のデネブ蘇生!」

 

星因士デネブ 守備力1000

 

コナミ 手札2→3

 

「デネブの効果でベガサーチ!そして3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『星輝士トライヴェール』!」

 

星輝士トライヴェール 攻撃力2100→2700

 

コナミ 手札3→4

 

3体の『テラナイト』が三角形を描き、1体の『ステラナイト』となってフィールドに顕現する。左手に光の剣を握り、右手に3つのリングを重ね、線を繋ぐ事で盾を構成したデルタテロスと似たエクシーズモンスター。

 

「トライヴェールがエクシーズ召喚に成功した場合、このカード以外のフィールドのカード全てを持ち主の手札に戻す!」

 

「ッ!全てだと……!?インチキ効果め……!」

 

コナミ 手札4→10

 

「貴方に言われたく無いわね!トライヴェールのORUを1つ取り除き、貴方の手札をランダムに捨てるわ!」

 

「刻剣が……!」

 

全体バウンスに加えハンデス効果。凶悪な効果を内蔵したエクシーズモンスターの登場に思わず戦慄するコナミ。一応トライヴェールにはエクシーズ召喚したターン、プレイヤーは『テラナイト』モンスター以外の特殊召喚を封じるのだがそんなものはデメリットには入らない。

しかも優秀な効果を持つ『刻剣の魔術師』が墓地に送られてしまった。

 

コナミ 手札10→9

 

「まだよ!私はまだ通常召喚を行っていない!『星因士ベガ』を召喚!」

 

星因士ベガ 攻撃力1200

 

「ベガの効果!手札の『星因士ウヌク』を特殊召喚!」

 

星因士ウヌク 攻撃力1800

 

コナミ 手札9→10

 

「ウヌクの効果で『星因士シリウス』を墓地に送り、2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『煉獄の騎士ヴァトライムス』!」

 

煉獄の騎士ヴァトライムス 攻撃2600→3000

 

コナミ 手札10→11

 

星の渦より現れたるは光を飲み込む闇の騎士。下半身は黒く重厚な鉄の馬のもの、身体中から薄紫の羽を何枚も伸ばし、その顔は騎士と言うより修道女。ねねの扱う『エルシャドール・シェキナーガ』やアノマリリスと同じものとなっている。

今までの『テラナイト』とは完全に方向性が違い、まるでキメラのように継ぎ接ぎで禍々しく、不気味なモンスターが現れた。

 

「魔法カード、『エクシーズ・トレジャー』!2枚ドロー!」

 

瑠那 手札3→5

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』を発動。1枚ドローし、1枚捨てる。さぁ、バトルといきましょう!ヴァトライムスでダイレクトアタック!」

 

「防がせてもらう!墓地の『光の護封霊剣』を除外し、効果発動!このターン、相手モンスターは直接攻撃出来ない!」

 

闇の騎士が駆け、呪詛を呟き、暗黒を濃縮した球を撃つも、コナミの墓地より浮上した黄金の煌めきを見せる剣が防ぐ。防御される事は分かっていたが、使わせなければ前に進めない。

 

「メインフェイズ2、私はトライヴェールでオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!エクシーズ召喚!『星輝士セイクリッド・ダイヤ』!!」

 

星輝士セイクリッド・ダイヤ 攻撃力2700→3300

 

コナミ 手札11→12

 

次なるエクシーズは星の渦に6つの点が出現し、光の線が結ばれていき、巨大な6角形のダイヤモンドを形成する。そしてその中より通り抜けたのは白亜の体躯を煌めかせ、銀河を散りばめた夜色の翼を翻した幻竜。

その気高き咆哮は天を震わせ、周りの木々を揺らす。その姿、そしてその名は北斗の操る切り札、『セイクリッド・トレミスM7』と幾つも相似点が見受けられる。

 

「私はカードを3枚伏せ、ターンエンド。こうなったら私の全てを出し切って貴方を倒す。荒っぽいけど、それが私達レジスタンスのデュエルでしょう?」

 

瑠那 LP4000

フィールド『星輝士セイクリッド・ダイヤ』(攻撃表示)『煉獄の騎士ヴァトライムス』(攻撃表示)

セット3

手札1

 

「ならばオレもデュエルで応えよう。オレのターン、ドロー!魔法カード、『暗黒界の取引』!魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を交換。オレは『竜穴の魔術師』と『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!そして慧眼の効果で自身を破壊し、デッキの『曲芸の魔術師』をセッティング!これでレベル7から3のモンスターが同時に召喚可能!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!『賤竜の魔術師』!『慧眼の魔術師』!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

コナミのフィールドを震撼させ、現れたる3体のモンスター。剣を背に負った白銀の竜。そしてその傍に仕える2体の『魔術師』モンスター。

先程までの『HERO』とは異なった空気を醸し出す3体に瑠那が警戒を深める。一体どう出て来るのか、見定めているようだ。

 

「まずは『賤竜の魔術師』の効果により、墓地の刻剣を手札に戻す!」

 

自身と相手モンスターを除外する効果を持つ『刻剣の魔術師』はどんなに強力なモンスターも対処出来る小回りの効くカードだ。

その効果によってセイクリッド・ダイヤを除外し、残るヴァトライムスに集中しようと思ったのだが……突如サルベージした刻剣が渦を巻いて消滅する。一体何が――?呆然とするコナミを尻目に、瑠那がクスリと艶のある笑みを溢す。

 

「残念だったわね。ORUを持つセイクリッド・ダイヤがモンスターゾーンに存在する限り、互いのプレイヤーはデッキからカードを墓地へは送れず、墓地から手札に戻るカードは除外されるわ」

 

「成程……これでは『E・HEROフォレストマン』も危険か……オレは『ジェット・シンクロン』を召喚!」

 

ジェット・シンクロン 攻撃力500

 

次にコナミが召喚したのは青と白のカラーリングが特徴的なエンジンを模したモンスター。背部から火を吹いて推進し、レベル1のチューナーが降り立つ。

 

「レベル4の『慧眼の魔術師』にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『ジェット・ウォリアー』!」

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力2100

 

空気を引き裂くような激しい音を響かせ、黒い戦闘機が木々を倒し、コナミのフィールドに着陸する。その際に空中で変形を繰り広げ、人型の機械戦士となってその鋭き刃のような脚で土を抉り取る。

重厚な黒のボディに似通わない軽快さを感じさせるシンクロモンスターだ。その効果も実に強力、コナミはその力によって逆転を狙う。

 

「シンクロ素材となった『ジェット・シンクロン』の効果でデッキから『ジャンク・コレクター』をサーチ!そして『ジェット・ウォリアー』の効果でセイクリッド・ダイヤをバウンス!」

 

「闇属性モンスターが効果を発動した時、セイクリッド・ダイヤのORUを1つ取り除き、その効果を無効にして破壊する!」

 

「闇属性……!?馬鹿な――!何を……っ!?」

 

『ジェット・ウォリアー』の属性は炎、セイクリッド・ダイヤの効果に適用する事は無いとコナミが動揺するがそれも束の間、突如『ジェット・ウォリアー』の影が這いだし『ジェット・ウォリアー』を飲み込んだのだ。これはつまり『ジェット・ウォリアー』の効果が無効化されたと言う事だろう。あり得ない展開に流石のコナミも勝鬨る。

 

「フフ、何が起こっているのか分からないって顔ね。貴方のそんな顔が見れるなんて思わなかったわ。答えてあげる。ヴァトライムスがモンスターゾーンに存在する限り、フィールド上の表側表示のモンスターの属性は闇に染まる!」

 

「何――!?つまりセイクリッド・ダイヤとヴァトライムスが存在する限り、オレのモンスターの効果は無効化されると言う事か……!?」

 

「そう言う事、ただしORUがある限りだけどね。攻撃力もダウンするわ」

 

星輝士セイクリッド・ダイヤ 攻撃力3300→3100

 

フィールド上のモンスター全てを闇属性に変化させるヴァトライムスと闇属性モンスターの効果を無効化するセイクリッド・ダイヤ。2体の『テラナイト』エクシーズによる強力なコンボによって次々とコナミの目論見が看破される。だがまだまだ、コナミの戦術は終わってなどいない。

 

「バトルで切り開く!」

 

「なら私は墓地の『仁王立ち』を除外し、攻撃をダイヤに絞るわ」

 

「誘っているのか?良いだろう!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』でセイクリッド・ダイヤへ攻撃!」

 

「向かえ撃つ!行くわよ!セイクリッド・ダイヤ!」

 

互いに自らの竜に飛び乗り、騎乗するコナミと瑠那。とは言っても『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』は未だにコナミに心を開いていないのか、不服そうに喉を鳴らしているが。攻撃力はセイクリッド・ダイヤが上、無論コナミは無策では無い。両翼を広げ、天からこちらへと向かう竜へと迎撃の意志を現す。

 

「墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の攻撃力を800アップする!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800→3600

 

「こっちも罠発動!『鎖付き爆弾』!セイクリッド・ダイヤに装備し、攻撃力を500アップする!」

 

星輝士セイクリッド・ダイヤ 攻撃力3100→3600

 

「互角……!?ぐうっ……!?」

 

セイクリッド・ダイヤと『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』が大気を震わす熱戦を放ち、空中でせめぎ合って弾け飛ぶ。その威力を丸々内包したかのような余波が波紋となって広がって木々をなぎ倒し、結界を破壊して両者をも吹き飛ばす。互角の攻防、ダメージは入らないがその威力は凄まじい。

瑠那はリゲルによって守られていたが『オッドアイズ』に乗っていたコナミは大木にその身を打ち付けられてしまった。幸い大した怪我は無いみたいだが、無事に無言で立ち上がるこの男は一体何なのだろうか。

 

「流石ね。隼なら倒れていたわ」

 

「お前こそ相討ちに持ち込んでくれるとはな。オレはカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

コナミ LP4000

フィールド『賤竜の魔術師』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『曲芸の魔術師』

手札5

 

未だに両者のLPは4000のまま、手に汗握る激しい闘い。LPに一切のダメージが入っていないと言うのに会場は火を灯したかのように盛り上がっている。

この状況を破るのは一体どちらか。観客は固唾を呑んで見守る。

 

「私のターン、ドロー!永続罠、『神星なる波動』を発動!効果で『星因士ベテルギウス』特殊召喚!」

 

星因士ベテルギウス 守備力1900

 

瑠那が特殊召喚した『テラナイト』はリゲルを鏡写しにしたかのようなモンスターだ。それも当然、このモンスターもリゲルと同じオリオン座の『テラナイト』なのだ。

 

「ベテルギウスの効果で自身を墓地に送り、墓地のデネブを手札に!そして『神星なる波動』を墓地へ送り、魔法カード、『マジック・プランター』発動!2枚ドローするわ!」

 

瑠那 手札1→3

 

「憶さず攻める!デネブを召喚!」

 

星因士デネブ 攻撃力1500

 

「この召喚時、手札から『幻蝶の刺客オオルリ』を特殊召喚!」

 

幻蝶の刺客オオルリ 守備力1700

 

「デネブの効果で3枚目のアルタイルをサーチ!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!」

 

瑠那 手札1→3

 

「そして2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『カチコチドラゴン』!」

 

カチコチドラゴン 攻撃力2100

 

大地を隆起させ、ダイヤモンドの身体を持つ竜が咆哮する。白銀の光沢を放つ『カチコチドラゴン』。その効果はモンスターを破壊した際、ORUを使い、追撃をかけるものだ。しかしコナミのモンスターは『賤竜の魔術師』。攻撃力は同じであり、相手はペンデュラムモンスター、墓地に送られない為、効果は発動出来ない。

 

「アクションマジック、『オーバー・ソード』!その効果により『カチコチドラゴン』の攻撃力を500上げる!」

 

カチコチドラゴン 攻撃力2100→2600

 

「バトルよ!『カチコチドラゴン』で『賤竜の魔術師』を攻撃!」

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!」

 

「またそれ――!?速攻魔法、『魔力の泉』!3枚ドローし、1枚捨てる!」

 

瑠那 手札2→5→4

 

「攻撃を中断し、メインフェイズ2、魔法カード、『精神操作』!賤竜のコントロールを奪い、墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、賤竜をデッキへ戻してドロー!」

 

瑠那 手札3→4

 

「カードを1枚伏せターンエンドよ!『シャッフル・リボーン』の効果で手札を除外」

 

瑠那 LP4000

フィールド『煉獄の騎士ヴァトライムス』(攻撃表示)『カチコチドラゴン』(守備表示)

セット2

手札2

 

「フ、面白くなって来た!オレのターン、ドロー!魔法カード、『暗黒界の取引』!そしてペンデュラム召喚!『慧眼の魔術師』!『竜穴の魔術師』!『ジャンク・コレクター』!」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

ジャンク・コレクター 守備力2200

 

強力無比なペンデュラム召喚。大量に特殊召喚されるモンスターを見て、瑠那はすかさず右腕を突き出し、その対策を披露する。

 

「この瞬間、ヴァトライムスのORU1つと手札1枚を捨て、その効果を発動!エクストラデッキのトライヴェールをヴァトライムスに重ね、エクシーズ召喚する!」

 

「相手ターンでの全体バウンスか!だがオレの方が1枚上手だったようだな!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、ヴァトライムスの効果を無効にする!」

 

「――ッ!『マジカルシルクハット』の時ね!」

 

ヴァトライムスの再構築効果は墓地に7種の『テラナイト』があれば相手ターンでも発動出来るものだ。それを使ってエクシーズ召喚すればペンデュラム召喚を行った後のコナミには甚大な被害だっただろう。しかしコナミとてそう簡単には通さない。『マジカルシルクハット』で墓地に送った『ブレイクスルー・スキル』で見事回避した。

 

「やっぱり強い――!けど、倒せない程じゃない……!」

 

「言ってくれる。手札のアクションカードを捨て、『ジェット・シンクロン』を特殊召喚!」

 

ジェット・シンクロン 守備力0

 

「レベル7の『竜穴の魔術師』にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!星海を切り裂く一筋の閃光よ!!魂を震わし世界に轟け!!シンクロ召喚!!『閃光竜スターダスト』!!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

『ジェット・シンクロン』の身体が弾け飛び、1つのリングとなって『竜穴の魔術師』を包み込み、共に8つの星に変化して竜の星座を空に描く。星座は黄金の光を灯して浮かび上がり、煌々と輝く星屑を纏う竜を生み出す。歓喜の咆哮を上げる竜の登場に会場の全員が言葉を無くし、その美しい姿に見惚れる。

 

「そして『刻剣の魔術師』を召喚!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

フィールドに見参する片刃の剣を持った少年『魔術師』。その剣で刻むものは時、時間を操るその力は使い勝手も良く強力だ。火力が多いとは言えないコナミのデッキでは頼りになるモンスターだ。

 

「刻剣の効果発動!ヴァトライムスとこのカードを除外!」

 

「罠カード、『もの忘れ』!その効果を無効にし、守備表示にする!そんな半端なものじゃ揺るがない!」

 

「半端なもので倒せないなら、豪快にいかせて貰おう!墓地の通常罠と『ジャンク・コレクター』を除外し、その効果を発動する!オレが発動するのものは――『エレメンタルバースト』ッ!!」

 

「な――、そうか……!発動するだけだからコストは支払わないのね……!ならチェーンして罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

「ぶち撒けろ!バーストッ!!」

 

圧倒的火力。大地が捲れ上がり、噴出した火炎を帯びた岩石が豪風と落雷と共に瑠那のフィールドに降りかかる。激しい轟音を立てる天災はヴァトライムスと『カチコチドラゴン』を粉砕し、破壊の限りを尽くす。

これこそがコナミの新たなる武器。『エレメンタルバースト』。その効果は火、水、風、地属性のモンスターを1体ずつリリースして相手フィールドのカードを全て破壊すると言う。『サンダーボルト』と『ハーピィの羽帚』を合わせたような豪快なカードだ。

確かに属性多彩な『E・HERO』と『魔術師』を合わせたコナミのデッキなら正規発動も出来る。ペンデュラムによってリカバリーも効く。

だがコナミの狙いしロマンはこれ。『マジカルシルクハット』で落とし、『ジャンク・コレクター』でぶち撒ける。それによって自身のデッキの火力の低さを補おうと考えたのだ。

 

「粉砕!玉砕!大喝采!カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

コナミ LP4000

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『慧眼の魔術師』(攻撃表示)『刻剣の魔術師』(守備表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『曲芸の魔術師』

手札1

 

「くっ!私のターン、ドロー!こんなデュエル……!」

 

知らない。心からそう叫びたい気持ちを抑え、歯軋りを鳴らす瑠那。彼女の知っているコナミとは似ているようで全く違うデュエル。

瑠那の知るコナミのデュエルは大胆にして豪快。レジスタンスと同じく、ギリギリまで諦めず、堪えて堪えて、圧倒的逆境から全てを破壊し、喰らい尽くす不屈のデュエル。突然にして死神の鎌が首に当てられている不気味な現象が起こるのだ。最初から殺意全開、火力全開で1ターンキルしてくる事も多々あるが。

しかし彼は似通っているものの、変幻自在、予想もつかぬビックリ箱のようなデュエル。何が起こるか分からない。そんなドキドキ、ハラハラ感がある。

次は何が来るのか、どんなカードが登場するかと驚きの連続だ。

気がつけば――彼女はそんな彼のデュエルに、飲まれていた――。

 

「フフッ、良いわ!なら私も全力で、貴方を倒す!見せて上げる!私のデュエルを!」

 

「2回戦でこれを使うとは思っても無かったな……!オレも全開でいく!」

 

「さぁ、行くわ!かっとビングよ!私!『星因士アルタイル』を召喚!」

 

星因士アルタイル 攻撃力1700

 

「アルタイルの効果でベガ蘇生!」

 

星因士ベガ 守備力1600

 

「ベガの効果!手札の『星因士シャム』を特殊召喚!」

 

星因士シャム 守備力1800

 

フィールドに集うわし座、こと座、矢座の3体の『テラナイト』。金色の輝きを放ち、白銀の鎧を纏いし高貴なモンスターをここまで扱うのは流石と言えよう。3角形の位置する因子を束ね、瑠那は一筋の輝士を放つ。

 

「シャムの効果!相手に1000ダメージを与える!」

 

コナミ LP4000→3000

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『星輝士トライヴェール』!」

 

星輝士トライヴェール 攻撃力2100→2700

 

3体のモンスターを素材に現れるトライヴェール。その効果によりコナミのフィールドのカードが全て弾き飛ばされる。コナミの扱った『エレメンタルバースト』のバウンス版、再利用を許す事になるが『閃光竜スターダスト』を有するコナミには実に効果的だ。なす術も無く流れを奪われてしまう。

 

「バトルよ!トライヴェールでダイレクトアタック!」

 

コナミ LP3000→300

 

3本の光がコナミの周囲で回転し、トライヴェールが剣を振るった瞬間に光が上り、コナミの全身を焦がす。多大なるダメージを受けたコナミは苦悶の表情で声を抑え、フラフラと千鳥足で何とか踏み止まる。

残るLPは300。1ターンで一気に追い込まれたが何――まだ負けた訳では無い。

 

「私はトライヴェールのORUを1つ取り除き、貴方の手札を1枚捨てる」

 

コナミ 手札6→5

 

「私はこれでターンエンド。どう来るかしら?」

 

瑠那 LP4000

フィールド『星輝士トライヴェール』(攻撃表示)

手札0

 

強い。コナミは感嘆の息を漏らし、薄い笑みを浮かべながらも率直にそう思う。

チャンピオンシップに出る前の彼なら負けていただろう。だがコナミは成長した。この大会に向け、何人ものデュエリストと出会い、闘い、その想いに触れてきた。その度にもっともっとデュエルをしたいと奮起したものである。

やはり、この大会に出場して良かった。今、この瞬間にもデュエルをして、強くなっていく。楽しくて堪らない。だからこそ、このデュエルに決着をつけよう。

新たなデュエルと出会う為に――まだ見ぬ強敵と、闘う為に。

 

「負けられないな!限界を越える!かっとビングだ!オレ!ドロー!」

 

引き抜かれるカード。虹色に描くアーク。未だ終わらぬ挑戦を続け、コナミは未来を切り開く。

 

「オレは魔法カード、『暗黒界の取引』!手札を交換し、『竜穴の魔術師』と『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!慧眼を破壊し、『竜脈の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『曲芸の魔術師』!『竜穴の魔術師』!『刻剣の魔術師』!『慧眼の魔術師』!世にも珍しい二色の眼を持つ龍!『オッドアイズ・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

5体同時召喚。色鮮やかな5本の光がスタジアム全体を包み込み、コナミのモンスターである『オッドアイズ・ドラゴン』とそれを囲むように4体の個性豊かな『魔術師』が集う。

このカード達が今のコナミを明確に現すモンスターと言えよう。ペンデュラムモンスター、倒されても倒されても舞い戻る、振り子のようなモンスター達。どれだけ打ちのめされても、どれだけ逆境に陥っても、笑みを引き連れ立ち上がる。それがコナミのデュエルだ。

 

「……気をつけなさい。隼は、私よりもずっと強い」

 

「……黒咲 隼、か……いずれ奴とも闘いたいが――それは、オレの役目じゃない」

 

「……榊 遊矢君の事?確かに彼は強いけど、隼には――」

 

「黒咲に伝えておけ、遊矢は、面白い」

 

不意を突かれるような言葉。確かに黒咲 隼は強い。この大会でトップレベル、いや、最強ともいって良い。瑠那は良く知っているし、コナミとてそうだろう。

“強さ”では、榊 遊矢は黒咲 隼に劣るかもしれない。だが、デュエルと言うのは“強さ”だけで決まる単純なものでは無い。だからこそ面白くて、そしてそんな遊矢なら――。

 

「あぁ、だから私は負けたのね――」

 

「幸せだと思う事が幸せのように、負けると思った瞬間、負けるんだ。勝つと言うならかかって来い。オレは何時でも受けて立つ」

 

「フフ、本当に、あの人みたい――」

 

「――終わらせようか、刻剣とトライヴェールを除外し、バトル!全てのモンスターで攻撃!スパイラル――フレイムッ!!」

 

瑠那 LP4000→0

 

巨大な炎が渦巻き、瑠那を飲み込む。2回戦、最終試合――勝者は、コナミ。

 

――――――

 

「待っていた。まずは3回戦出場おめでとうと言うべきかな?」

 

選手入場入口にて、デュエルを終え、遊矢達の元へと帰ろうとするコナミへと語りかける男が1人、壁に背を預けていた。

鮮やかな銀髪に赤いフレームの眼鏡の奥に潜む鋭い眼。首に巻かれた赤のマフラーはユラユラと風に揺れている。

赤馬 零児。レオ・コーポレーションの若き社長にして、LDS最強のデュエリストが今再び、コナミの前に現れた。

 

「赤馬か……」

 

突然目の前に登場した珍しき訪問者を前にして、コナミは静かに、だが嬉しそうに呟く。それもその筈、コナミがこの大会に出場した理由には、この天才デュエリストとの再戦も含まれているのだ。

前回の中断では2人とも納得は出来ていない。ここで決着をつけるのかと、コナミがデュエルディスクを起動しようとするが。

 

「言っておくが、私はこの大会に出場しない」

 

「何……だと……!?」

 

降りかかる衝撃の事実、再戦と言う希望を与えられ、それを奪われると言うファンサービスを受けてコナミは愕然とした表情で絶望する。

 

「決着は舞網チャンピオンシップって言ったじゃないですかやだー」

 

「あれは嘘だ」

 

それでも納得出来ないコナミは零児の肩を掴んでガクガクと揺するが無情にも切り捨てられる。

嘘だとしたらどれだけ時間を置いているのだろう。完全に踊らされている。

 

「フ、悔しいだろうな。まぁ本当は忙しくて出られなくなってしまったと言う訳だ。一応私もプロだからな、それでお詫びとしてこれを渡しに来た」

 

「これは……カードか……許してくださいってかぁ?許してやるよぉ!」

 

零児より差し出される2枚のカードを受け取り、新たな、見た事も無いカードを手に入れた事により「わーい、わーい!」と幼い子供のようにはしゃぐコナミ。

現金な奴である。強い力を放つカードをデッキに組み込み、コナミはキリッとした表情で零児に向き合う。

 

「返さないよ?」

 

「随分と現金だな、まぁ良い、塩は送った。それで本題だが――」

 

「ほう、赤馬 零児もいるのか――」

 

「「――!?」」

 

それは、突然の事だった。コナミの背後に、まるで空間と言う名の壁を裂くように、白いフードとマントを羽織り、白い仮面を被った少年が現れ、零児の言葉を遮る。

音も気配も無く、そして何よりコナミに気づかれずに突如として現れた謎の男。その第3者による介入にコナミと零児が思わず振り返り、両者共に警戒を露にしてデュエルディスクを構える。一触即発の緊張感を走らせる2人を見て、やれやれと肩を竦める男。

どうやら闘志は無いようだが――それでも、薄気味の悪いこの男に対し、警戒は解けない。

何よりコナミのデュエリストとしての本能が危険信号を鳴らしている。もしかしたらこの男は、あの白コナミよりも――。

 

「何者だ。アカデミアの手の者か?何の用だ?」

 

そこで零児が漸くと言った様子で声を絞り出す。見れば彼の額からも大粒の汗が伝っている。あの赤馬 零児ですらも焦りを覚える事なのだ。そうさせるのはこの男の存在か――。

男は零児の問いかけにフ、と笑い。

 

「お前でも焦るか、まぁ良い。何者かは言えないが――そうだな、確かにアカデミアの者と言えばそうなる。何の用か、と言うのは知らせに来ただけだよ」

 

「……何をだ……?」

 

「舞網チャンピオンシップ――ルール変更のお知らせだ」

 

「何――!?」

 

「ルール変更点は単純、大会が暫く経ったその時、私達アカデミアより参加者を送ろう。そのデュエリストを倒せば君達の勝ち、逆に君達が倒れれば負け、そう、この街は――」

 

「戦場となる……!」

 

現れた謎の男から送られるルール変更。その挑戦状とも言える知らせに零児は内心で舌打ちを鳴らしながらも冷静を装う。少し不味い事になった。そもそもこの大会、アカデミアに対抗する戦力を選別する為に開かれたものだ。

だがその前に狙い済ましたかのように先手を打たれた。

だが今からでも遅くは無い。この男を捕らえ、情報を引き出せば――。

 

「さて、私は帰るとしよう」

 

「させるとでも?」

 

「……出来ないさ、今のお前達では、束になっても我等には勝てん」

 

ぐにゃり、男の言葉と共に背後に黒い渦が突如発生し、男の身体をすっぽりと覆い尽くす。先程の登場もこのせいだろう。コナミと零児が目を見開き、動揺した瞬間を狙い、男はフ、と小さな冷笑を放ちながらその場から溶けるように消えていく。

 

「さらばだ赤馬 零児そして――コナミ」

 

「ッ!?」

 

その言葉を最後に、男は消える。後に残されたのは拭えぬ不快感。そしてコナミは、仮面の男に言いしれぬ感覚を抱く。

怒りとも、悲しみとも異なる感覚。まるで喉に魚の骨が刺さったような気持ち悪さ。それでも――コナミは歩みを止めない。まだ見ぬ強敵を思い浮かべ――闘い続ける。

 

「所で、この間、君がLDSにやって来た時に割ったガラス代等だが――」

 

コナミは逃げた。

 

 




人物紹介7

瑠那
所属 レジスタンス
ユートや黒咲さんと共にエクシーズ次元出身のレジスタンスのデュエリスト。
漫画ZEXALのオリジナルキャラでおっぱいが大きい。本来はデュエルは得意分野では無く、レジスタンスでは主に機械類の開発を行っていた。
LDSでは潜入調査と社長を誘拐しようとしたが、ある日、黒咲さんが社長に連れられLDSに来て「わり、バレちったわ」的な事を言ったので頓挫。その後黒咲さんは腹パンされた。
ユートと同じくレジスタンス内では比較的常識人だが、玉にボケるので侮れない。
自ら月からの使者を名乗るロマンチスト。ユートがいない今、黒咲さんの暴走に頭を悩ませている。因みに黒いのは行方不明。逆に怖い。
使用デッキは『テラナイト』。エースカードは『カチコチドラゴン』。


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第52話 今すっごくワクワクしてる

お待たせして申し訳ありません。言い訳がましいですが、少しばかり風邪をひいてしまってスマホを持つのも辛かった次第です。
皆様も風や熱中症にはお気をつけて下さい。


舞網チャンピオンシップ、3回戦。1回戦、2回戦とは違い、そのルールは大きく異なる。まずはその舞台。

3回戦はスタジアム内では無く、このスタジアム周辺の市街がデュエルフィールドとなる。当然、アクションフィールドを展開して、だ。

使用されるアクションフィールドは『ワンダー・カルテット』。火山、氷山、遺跡、密林の4つの領域を持つフィールドだ。このフィールドで散布されるのはアクションカードだけでは無い。

何と、LDSが独自に開発したペンデュラムカードも含まれていると言うのだ。参加者はこのペンデュラムカードを最低2枚所持せねばデュエルを行えず、また、このカードを賭けてのアンティデュエルをする。

負けた者も再び2枚拾えばデュエルが可能となり、制限時間までにより多くのペンデュラムカードを奪い取った上位の者達のみが4回戦に進む。

ルールはバトルロイヤル、これは同塾の者も同じだ。既に行われているデュエルに乱入すれば、ハンディとして乱入ペナルティ、つまり2000ポイントのダメージを受ける。

制限時間は24時間、何と1日丸々使っての大混戦である。

 

「赤馬の奴がこんな無茶苦茶な事を考えるとはな」

 

「面白いじゃないか、俺、今すっごいワクワクしてるよ」

 

『何、君達より無茶苦茶ではないだろう』

 

デュエルフィールド、火山に面した選手入口にて、2人、いや、3人のデュエリストがデュエル開始の宣言を今か今かと待ちわびていた。

彼等の所属する塾は見る者全てを魅了し、笑顔にさせるエンターテイメントを信条とする、エンタメデュエルを学ぶ遊勝塾。尤も、1人は塾に所属していないが。

星のマークを描いたゴーグルを頭に装着し、舞網第2中学の制服を肩にかけ、カーゴパンツと動きやすさを重視した姿で屈伸するのは榊 遊矢。この大会で注目されている期待のデュエリストだ。

その隣で薄く笑い、「そうだな」と返事する少年はコナミ。赤い帽子とその上に装着したゴーグルがトレードマークであり、遊矢と同じく肩から赤いジャケットをかけている。

同門であり彼等は友達であり、ライバルでもある。だが彼等の胸中には今すぐ闘おうとする剣呑な空気は無い。

そして遊矢の隣でフワフワと浮かぶ、跳ねた前髪にボロボロに草臥れたシャツとネクタイ、黒いマントを纏い、半透明になっている、遊矢と似た顔立ちの少年はユート。エクシーズ次元のレジスタンスに所属するデュエリストだ。

 

「コナミは何処へ行く?俺はまず火山エリアを回ってから遺跡エリアに行こうと思ってるんだけど」

 

「オレは氷山エリアだな、他の場所は今まで行った事がある。遊矢は遺跡エリアか……多分7枚のペンデュラムカードが眠ってるぞ、あそこには」

 

『願いを叶えるドラゴンが出そうだな』

 

熱いマグマを噴出させる火山とは対照的に、落ち着き払い談笑する3人。もうすぐ試合が始まると言うのに、緊張感は無く、極めて自然体だ。

他の出場者が敵意の視線を送ってもお構い無し、ただ純粋に、デュエルの事だけを考えている。

そんな彼等の待つ入口に設置されたスピーカーより、ニコ・スマイリーの声が放たれる。

 

『お待たせしました!これより舞網チャンピオンシップ3回戦!バトルロイヤルを始めます!さぁ、皆様方、口上を謳い上げましょう!』

 

ニコの司会と共に、スタジアム内で見守る観客達、そして密林エリアの入口で勝鬨や暗次達が勢い良く口上を言い放つ。

 

『戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!』

 

次に口上を紡ぐのは氷山エリアの入口にて、右腕を天へ突き上げる、柚子や権現坂、日影や月影達。

 

『モンスターと地を蹴り、宙を舞い!』

 

お次は遺跡エリアのデュエリスト。目を閉じ、静かに待つ黒咲以外の全員、九庵堂達が高らかに口上を謳う。

 

『フィールド内を駆け巡る!』

 

そして最後は火山エリアで沸々と闘志を燃やすデュエリスト。コナミと遊矢が先頭に立って、ニヤリと笑い、躍り出る。

 

『見よ、これぞデュエルの最強進化形!』

 

『アクショーン……』

 

『デュエルッ!!』

 

ニコに続く形で会場の観客達、そして選手達が一体となってデュエル開始の宣言を上げる。入口より雪崩のようにフィールドへ流れ込むデュエリスト達。

光漏れる道へと駆けていく中--最後まで入口に残っているのは、遊矢とコナミだ。

試合が始まったと言うのに、微動だにせずに立っている。しかし、全ての参加者が入場した事を確認した後、コナミが遊矢へと拳を向ける。遊矢の隣のユートは空気を読んだのか、フッ、と薄く笑い、背を向ける。

 

「……勝ち上がるぞ」

 

「……ああ!」

 

拳をぶつけ合い、2方向へ別れて駆け出すコナミと遊矢。闘うのは今では無い。2人は誓いを胸に--それぞれの闘う道へと足を踏み入れる。

さぁ--デュエルを始めよう。

 

------

 

「いよいよ始まったなぁ、さぁ賭けようか、俺は昇に1000円だ」

 

「乗った!僕は勝鬨と黒咲さんに1000円!」

 

「テメ、勝鬨はずりぃだろ!黒咲さんもランクがちげぇよ!真澄は……どうせコナミか」

 

「ははははぁ!?急に何言ってんのよ!バッカじゃないの!?バッカじゃないの!?」

 

場所は先程とは変わってスタジアム内の観客席、そこでは遊勝塾のメンバーと共に、一体誰が一番多くペンデュラムカードを手に入れるかで賭けを始めていた。

刃は当然、弟子である権現坂に1000円賭け、北斗は優勝候補と名高い勝鬨と黒咲にそれぞれ1000円賭ける。真澄はどうせコナミに賭けるだろうと2人はやれやれとシラケるが、そんな彼等に真澄が顔を茹で蛸のように真っ赤にして、動揺しながら叫ぶ。

 

「いやだって……」

 

「気づかれないと思ってたのかよ」

 

「な、何よ。別にコナミとは友達……あれ?そう言えば私、友達になってって言って無い……あれぇ?」

 

「「……」」

 

どうやら地雷を踏んでしまったようだ。今更ながらにコナミと友達であるかと自問自答し、思わず涙目になってしまう真澄。残念な子である。

デュエル時とは打って変わってくすむ真澄へと2人は同情、そしてやっちまったと後悔の視線を送る。

しかしそこはフォローの刃。良からぬ空気を何とかしようとすかさずフォローを入れる。

 

「な、何言ってんだよ真澄ん。きっとコナミはお前の事、大事な友達と思ってるって!こんなに可愛い友達を持ってコナミは幸せな奴だなぁ!なぁ北斗!そうだよな!?なっ!?」

 

「あっ、ああ!そうだな!真澄ん可愛いよ真澄ん!」

 

落ち込む真澄んをどうにか励まそうと、北斗に「お前も協力しろ」と目で語り、タッグを組んで普段絶対言わないような事を言う刃と北斗。

そんな彼等の言葉に気を良くしたのか、真澄んはぐすぐすと目尻の涙を拭う。

 

「そっ、そうかなぁ……?」

 

「ほらあいつ口下手と言うか一々そんな事言う性格じゃないだろ!?」

 

「でもきっと心の中ではコナミと真澄んゎ……ズッ友だょ……!!」

 

北斗が最高に輝いた瞬間である。これなるいける!良くやった北斗!でも気持ち悪っ!と罵りながらも北斗のアシストに心の底で拍手を送る刃。

そしてズッ友宣言に心を打たれたのか、真澄んは目を見開き、何度も反芻する。そして漸く機嫌を良くしたのか、頬を桜色に染め、上気させながらも「ふーん」と唇を尖らせながら、耳につけたイヤリングをいじる。

 

「ふ、ふーん……?ま、まぁそうよね!別にコナミの事なんて何とも……思ってるちゃ、まぁ、思ってるけど……私とコナミは友達!ズッ友よね!」

 

「でも刃君と志島君、この前真澄んちゃんはキツい性格してて友達出来ないって言ってましたよね?」

 

ピキリ、ねねが突然放った爆弾発言により、真澄達が時間が止まったかのように凍りつく。ねねも言い終わって後で気づいたのか、あ、やっちまったと口に手を当て、気まずそうに目をそらす。

時既に遅し、真澄んはじわじわと目尻に涙を溜め、一気に決壊させる。その様はまるで流れ落ちる滝のようだ。

 

「ぶぇぇぇぇぇっ!!分かってたしぃ……!ぶぇっ、でもぉ……頑張ってもぉ……ぶぇっ、ダメだもんぅ……!」

 

「お前と言うのは!お前と言うのは!見ろ!真澄んがカバみたいに泣いてるだろ!キャラ崩れちまってるだろ!」

 

「頑張ってるんだよ!?友達の作り方とか言う本とか買ったんだぞ!真澄んは毒を吐くけど吐かれると弱い子なんだよっ!」

 

「ごっ、ごめんなさぁぁぁぁぁいっ!!違うんですぅ!たっ、確かに真澄んちゃんはちょっとキツいかもしれないけど、コナミさんはそっちの方が相性が良いかもしれませんよ!?ほらあの人デュエルで逆境に追い込まれると凄い笑顔ですし!」

 

カバのように「ぶぇぇぇぇぇっ!!」と泣き崩れる真澄んを指差し、自分達の事を全力で棚上げしながらバシバシともう片方の手で持った竹刀で床を叩く刃と、真澄んの両肩を掴み、慰める北斗。

一部残念過ぎる個人情報が漏れているが。そんな涙ぐましい真澄んの努力を聞いて、居たたまれなくなったねねはぶわりと涙を溢れさせ、真澄んへと謝罪し、全力でフォローする。何やらコナミがMの人みたいになっているがあながち間違いとは言えないのがコナミだ。

 

「良く気をつけたまえよっ!取り扱い注意なんだよ真澄んはっ!」

 

「ひぐっ……ぶぇっ……真澄んって言うなしぃ……!」

 

何とも混沌としている。そんな彼等の何時も通りの馬鹿馬鹿しいやり取りを隣で見ていたアユは溜め息をつきながらもある事に気づく。

 

「あれ--そう言えば、セレナお姉ちゃんは?」

 

------

 

『さて、遊矢。まずはペンデュラムカードを探さないといけないが、ここは俺に任せてくれないか?』

 

「?何か妙案があるのか、ユート?」

 

火山エリア付近にて、遊矢はデュエルを行うにあたって条件であるペンデュラムカードを探すべく、フィールド内を駆け回っていた。だが1枚も見つからない。

まぁ、まだ始まったばかりと言う事もあるが、そんな遊矢へと、先程までずっと無言を貫いていたユートがスッ、と遊矢を制する。一体どのようなアイデアがあるのだろうか。

 

『俺が空から探そう。幸い俺の声はお前とコナミ、アリトしか聞こえないからな、安心してナビゲート出来る』

 

「飛行、ゴーストタイプか」

 

『雑用要員にするな』

 

どうやら浮く事を利用して空からカードを探そうと言う事らしい。何だかポケモンみたいだな、と思い呟く遊矢に対し、「空から探してくれ!」と常に雑用係になっている彼等を思い浮かべ、やめてくれと何とも微妙な顔をするユート。

ともあれ作戦としては良い案だ。遊矢は頼んだぞ!とその背を見送り、ユートは「やめてくれ」とぼやきながらもカードを探索する事に徹する。

 

「……遠くから見ると凄いシュールだな……」

 

まるでスーパーマンのようにマントを靡かせ、飛行するユートを遠目に見物しながら呟く遊矢。本当に一般人には見られなくて良かった。もしそうなっていたらSNS等で拡散されていただろう。コラに使われでもしたら遊矢の腹筋が堪えられそうに無い。

今彼の事を表すとしたら、名前はナストラマンユートだろうか。と本人の背を見ながら呆ける遊矢。

おっと、そろそろ彼を追わねばなるまい。そうしなければまたも彼に文句を言われるかもしれない。ユートは普段は心優しい少年なのだが、コナミ関係で荒む事もあるのだ。

待たせるのも気が退ける。遊矢は急いで彼を追う。

 

『あったぞ遊矢。こっちに丁度2枚、岩の間に隠れていた』

 

「凄い視力だな。ともあれこれで2枚ゲットだ!サンキューユート!」

 

ユートの言われるままに、岩場の影に隠れていた2枚のペンデュラムカードを手に取る遊矢。これでデュエルをするにあたっての準備は整った。

と、早速遊矢の元に、2人のデュエリストが登場する。

 

「俺の名は竹田!」

 

「俺の名は梅杉!」

 

「へぇ、待っててくれたって訳か……!良いぜ、デュエルしよう!」

 

『2対1、いや、闘う事は出来ないが俺もいる、存分にやれ遊矢!』

 

2対1の圧倒的不利な状況から始まるデュエル。だが遊矢もユートも臆す事等しない。3回戦最初のデュエルなのだ。幸先良く、彼等を思う存分に笑わせて、勝利を飾ろうでは無いか。ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、遊矢はデュエルへ臨む。

 

「「「デュエル!!」」」

 

------

 

「さて、2枚揃ったが--相手はお前で良いのか?」

 

場所は変わり、火山エリアと遺跡エリア、その間に面するフィールドにて、コナミは2枚のペンデュラムカードを手にし、1人のデュエリストと対峙していた。

岩の影よりスッ、と現れ、意地の悪そうな笑みと共にデュエルディスクを構えるのは、コナミも良く知るデュエリスト。

頭に輝くQの字を模した黄金のメッシュ、小柄な身体ながらも、溢れんばかりの知性を纏うその少年の名は--。

 

「正解だよコナミ君。僕が君の一問目、難関だよ」

 

「上等だ、勝負といこうか、栄太」

 

九庵堂 栄太。本来有名な進学塾、明晰塾に所属する、キング・オブ・クイズの通り名を持つ強敵だ。

そう、彼も3回戦へ駒を進めていたのである。因みに対戦者達は口を揃えて「デュエル中はイライラして集中出来なかったけど、終わったら気味が悪い程紳士だった」と語っている。歩くストレス、九庵堂が最近新たに呼ばれ始めている通り名である。

それを聞いた本人はと言うと、「僕がイライラしてるみたいですねぇ、そんな事も考えずに呼ぶなんて、思考停止したお馬鹿さんかな?脳ミソつまってますぅ?」と一笑にふしている。

ともあれコナミの最初の相手は彼なのだ。コナミより心理フェイズを教わった彼は鬼に金棒、コナミも余計な事をしたものだ。だが相手にとって不足は無い。

 

「難関問題でも、突破するまでだ」

 

「そう言うと思ってたよ」

 

ガシャリ、互いにデュエルディスクを構え、ソリッドビジョンで構成された光のプレートを展開する2人。

やる気は充分、沸々と闘志を燃やす。

 

「「デュエル!!」」

 

始まるデュエル、先攻はコナミだ。デッキより5枚のカードを引き抜き、即座に2枚のカードを胸の前で翳す。

 

「オレは『慧眼の魔術師』と『曲芸の魔術師』でペンデュラムスケールにセッティングし、慧眼のペンデュラム効果により自身を破壊し、デッキの『竜穴の魔術師』を設置、揺れろ、光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!『刻剣の魔術師』!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400→2800

 

1ターン目から飛ばしてペンデュラム召喚。今回は1体のみの登場だ。召喚されたのは『刻剣の魔術師』。フィールドのモンスターと自身を除外する事が出来る、コナミも重宝している優れた除去能力を持つモンスター。

そして実はこのモンスターにはもう1つ効果がある。それは手札からこのカードのみがペンデュラム召喚された場合、攻撃力が倍となる自己強化効果。

条件は厳しいものの、攻撃力2800はやはり頼れる数値だ。『賎竜の魔術師』を使えば再利用も可能となる。

 

「デッキトップをコストに、魔法カード、『アームズ・ホール』を発動。デッキから装備魔法、『妖刀竹光』をサーチ!カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

コナミ LP4000

フィールド『刻剣の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『曲芸の魔術師』

手札1

 

「それで終わりかい?僕のターン、ドロー!さぁ僕も始めようか!『ブンボーグ005』と『ブンボーグ006』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

「早速か!」

 

九庵堂が2枚ペンデュラムカードを翳し、デュエルディスクの両端にセッティングする。それによりディスクが虹色の輝きを放ち、天に2柱のモンスターが上る。

肩と両の手首にテープを巻きつけ、糊を装備したSDのロボットと輪ゴム鉄砲を構え、フテープラーの翼を広げたSDロボット。『ブンボーグ』が立ち塞がる。

 

「ペンデュラム召喚!『ブンボーグ002』!『ブンボーグ004』!」

 

ブンボーグ002 攻撃力500

 

ブンボーグ004 攻撃力500→1000

 

九庵堂の振り子の元に、2体の『ブンボーグ』が姿を見せる。

緑のボディを持ち、修正液の銃と消しゴムの剣を両腕に装備した小さなロボットと、カラーペンの光線銃と水彩道具の剣を構えた、これまた小型のロボット。両者とも攻守が低いが、油断は出来ない。

 

「『ブンボーグ002』が特殊召喚した場合、デッキから『ブンボーグ』カードをサーチ!『ブンボーグ003』を手札に!更に魔法カード、『機械複製術』!デッキから2体の『ブンボーグ002』を特殊召喚!」

 

ブンボーグ002 攻撃力500→1500×3

 

ブンボーグ004 攻撃力1000→2000

 

「効果で『ブンボーグ001』と『ブンボーグ・ベース』をサーチ!」

 

「ターン1制限が無いのか……!?」

 

更なる手札増強により九庵堂の手札が5枚となる。何よりコナミが驚愕したのは『ブンボーグ002』の効果が名指しでターン1制限されて無い上、同名がサーチ出来ると言う縛りの無さだ。

特殊召喚でしか効果を発揮できないとは言え、強力な効果だ。間違いなくデッキの核はこのカードだろう。

 

「良く分かったねぇ?そして002が存在する限り、このカード以外の『ブンボーグ』の攻守は500上がるのさ!僕は更に、『ブンボーグ001』を召喚!」

 

ブンボーグ001 攻撃力500→4500

 

お次は鉛筆のビームサーベルとシャープペンシルのトンファーを武器にした青い『ブンボーグ』。召喚時は攻撃力500だったが……次の瞬間、爆発的に攻撃力がアップし、コナミがぎょっ、とする。

レベル1モンスターにしては驚異的な数値だ。

 

「001は自分フィールドの機械族モンスターの数×500、攻守を上げる!そしてフィールド魔法、『ブンボーグ・ベース』を発動!『ブンボーグ』の攻守を500アップ!」

 

ブンボーグ001 攻撃力4500→5000

 

ブンボーグ002 攻撃力1500→2000×3

 

ブンボーグ004 攻撃力2000→2500

 

合計攻撃力13500。LPが2倍あろうと軽く吹き飛ばす数値だ。機械族である事と良い、コナミの脳裏にどこぞの流派が過る。

もしくは自身の持つ絶望を与える希望皇か。どちらにせよ並みの相手では叩き出せない攻撃力と言えよう。

 

「さぁ、バトルだぁ!『ブンボーグ001』で刻剣を攻撃ィ!」

 

「ッ!罠発動!『マジカルシルクハット』!お前の得意なクイズだ!当ててみろ!」

 

コナミがデッキより2枚のカードを引き抜き、突如白煙を上げ、現れたシルクハットに『刻剣の魔術師』と共に投げ込む。目にも止まらぬ速さでシャッフルされるシルクハット。到底常人には見抜けぬ速度だが--コナミが相手にしているのはキング・オブ・クイズ。

この程度の3択問題、大した問題では無い。

 

「フフ、僕に問題かい?乗ってあげるよ!『ブンボーグ001』で左のシルクハットを攻撃ィ!」

 

001がその手に持ったビーム鉛筆で左のシルクハットを貫く。ドスリとシルクハットに穴が空き、ハットが破け散ったそこには--見事正解、『刻剣の魔術師』が苦し気な顔で倒れる。

 

「ッ!キングだからか!?」

 

「キングだからだ!お次は残りのシルクハット!2体の002で『ブレイクスルー・スキル』と『妖刀竹光』に攻撃ィ!」

 

「何--!?」

 

シルクハットの中身のカードを一瞬で見抜き、『ブンボーグ』達へと指示を飛ばす九庵堂。修正液の白い弾丸がシルクハットを撃ち抜き、銃声が木霊する。

ハットの中身は答え通りの正解、良くコナミがハットに投げた瞬間に理解したものだ。

 

「……オレは墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ……良く分かったな、キングだからか?」

 

「キングだからだ!さっきのターン、『妖刀竹光』を手札に加えていたからねぇ、それに効果で攻守を上げる『ブンボーグ』に対抗するには無効化するしかないだろぉ?想像力が足りないよ」

 

やれやれ、とどこぞの民のように頭と両手を上げ、ひらひらと振る九庵堂。中々にイラッとする態度だ。少しずつストレスを蓄積させようとするその戦術は流石と言う他ないだろう。正に相手にしたくないデュエリストだ。

 

「……『光の護封霊剣』と言う考えは無かったのか……?」

 

「とぼけるなよ、知ってるんだぜ?2体でダイレクトアタック!」

 

九庵堂がガバッと手を突き出すと共に、その傍に控えていた『ブンボーグ』がその小さな身体を飛行させ、コナミへと迫る。

絶体絶命、しかしその場に光の剣が突き刺さり、『ブンボーグ』の行く手を遮る。

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ……キングだからか?」

 

「キングだからだ!さっきのターン、『アームズ・ホール』のコストで送ってたろう?運が良いねぇ、僕にも少し分けて貰いたいよ。カードを1枚伏せ、ターンエンド。精々頑張ってくれよ?コナミくぅん?」

 

九庵堂 栄太 LP4000

フィールド『ブンボーグ001』(攻撃表示)『ブンボーグ002』(攻撃表示)×3『ブンボーグ004』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『ブンボーグ005』『ブンボーグ006』

『ブンボーグ・ベース』

手札3

 

立ち塞がる知性の王、九庵堂 栄太。その鋭い観察眼と推理力、そして煽りを受けてコナミは果たしてどうのような手を取るのか、そして、このデュエルの果てに待つのは、リアルファイトなのだろうか--そうならない事を、祈るばかりである。




人物紹介8

光津 真澄
所属 LDS
LDS融合コースに所属する少女。宝石商の娘らしく、その手のものには詳しい。
キツめで男勝りの性格ながら、実はロマンチスト。この作品では残念な子となっており、そこら辺は師匠譲りなのかもしれない。
最近は友達作りや友達との遊び方等と言う本を見て頑張っているらしいが、どう見ても空回りしている。あだ名は真澄ん。これは主に、残念モードに陥った時の事を指す。
デュエリストとしては成長したものの、そっち方面ではくすみっ放しである。
アニメでは百合になったりとネタに事欠かなく、作者としては興味深いが、そっちは絶対に報われないと思う。多分こっちも無理。
使用デッキは『ジェムナイト』。エースカードは『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』。


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第53話 ぜ……ぜん…め…めつめつめつ…

NGシーン ペンデュラムカードは拾った。

★コナミの場合

コナミ「よし、ペンデュラムカードゲットだ、このカードは……」

EMモンキーボード・Emヒグルミ「よろしくニキーwww」

★遊矢の場合

ユート「あったぞ遊矢!」

遊矢「サンキューユート」

竜剣士ラスターP「共に平和を守ろうぜ!」

竜魔王ベクターP「良かれと思ってwww」




火花を散らすコナミ対九庵堂。煽りに煽る九庵堂に対し、コナミは苦笑いを浮かべながらデッキより1枚のカードを引き抜く。

 

「オレのターン、ドロー!言ってくれる……!ペンデュラム召喚!『刻剣の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『E・HEROエアーマン』!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

コナミのフィールドに現れる3体のモンスター。剣を手に持ち、空気を裂く少年『魔術師』。秤を手にした、衣服に瑠璃の珠を散りばめた銀髪の『魔術師』。そして風を操る青い『HERO』。

 

「エアーマンの効果で『E・HEROシャドー・ミスト』サーチ!そして墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、002の効果を無効にする!」

 

ブンボーグ001 攻撃力5000→4500

 

ブンボーグ002 攻撃力2000→1500×2

 

ブンボーグ004 攻撃力2500→2000

 

1体の002の効果が無効になる事で九庵堂のフィールドの『ブンボーグ』達の攻撃力が減少する。微々たるものだが九庵堂はその小さな強化を積み重ねたのだ。

こちらも少しずつ相手の武器を減らす事で芋蔓式に叩いていく。それがコンボ重視のデッキを相手にする際に効果的な手段と言えよう。

 

「シャドー・ミストを召喚!」

 

E・HEROシャドー・ミスト 攻撃力1000

 

「これで届く。エアーマンで『ブンボーグ002』を攻撃!」

 

九庵堂 栄太 LP4000→3700

 

「効かないんだなぁ、これが」

 

「だがこれでお前のモンスターの攻守は更に落ちる」

 

ブンボーグ001 攻撃力4500→3500

 

ブンボーグ002 攻撃力2000→1500

 

ブンボーグ002 攻撃力1500→1000

 

ブンボーグ004 攻撃力2000→1500

 

1体を無力化、2体目を破壊する事で一気にその牙城を崩す。これで001は1500、他の『ブンボーグ』は1000の攻撃力を失った。だがまだまだ。コナミの快進撃は止まらない。

 

「次だ。慧眼で攻撃力1000となった002を攻撃!」

 

九庵堂 栄太 LP3700→3200

 

ブンボーグ001 攻撃力3500→2500

 

ブンボーグ002 攻撃力1500→1000

 

ブンボーグ004 攻撃力1500→1000

 

「『刻剣の魔術師』で3体目の002を攻撃!」

 

九庵堂 栄太 LP3200→2800

 

ブンボーグ001 攻撃力2500→2000

 

あれだけ攻撃力を増加した『ブンボーグ』の攻守がみるみる内に下がっていく。あの攻撃力5000と『F・G・D』にも並ぶ攻撃力を得ていた001でさえ、そのステータスが半分以下に落ちている始末だ。

まるで積み木を崩すかのような光景。しかし九庵堂はピクリとも動揺する事無く、意地の悪い笑みを崩さない。少々不気味だが--ここで止める訳にはいかない。コナミは更にモンスターへと指示を出す。

 

「これで最後だ、シャドー・ミストで004に攻撃!」

 

「甘いんだなぁ、それが。『ブンボーグ004』の効果発動!デッキから『ブンボーグ009』を墓地に送り、このカードの攻守をそのレベル×500アップする!問題!009のレベルはぁー?」

 

「009……レベル9か!」

 

「正解だ!よって004の攻撃力は--」

 

ブンボーグ004 攻撃力500→5000

 

「--!」

 

攻撃力5000。先程の001と同じく恐るべき数値が加わり、爆発的な攻撃力がコナミへと牙を剥く。完全なる失態だ。

この攻撃で自身のLPが大幅に削られるのだろうと覚悟するコナミ。しかしそんなにも簡単にはいかない。

九庵堂はニヤリと笑い、左手の甲を返し、人差し指でコナミを差す。

 

「安心したまえ、この効果の発動後、ターン終了時まで君が受けるダメージは0となる。非常に残念で仕方無いなぁ!」

 

どうやらデメリットに救われたらしい。ニヤニヤと笑う九庵堂が腹立たしいが、ここはホッと胸を撫で下ろす。

だがまだだ。まだ『ブンボーグ004』の効果は終わっていない。

 

「シャドー・ミストの効果でブレイズマンサーチ!」

 

「そして004が戦闘でモンスターを破壊した場合、手札、墓地よりレベルの異なる『ブンボーグ』2体を守備表示で特殊召喚する!『ブンボーグ002』と『ブンボーグ009』を特殊召喚!」

 

ブンボーグ002 守備力500→1000

 

ブンボーグ009 守備力500→1500

 

ブンボーグ001 攻撃力2000→3500

 

ブンボーグ004 攻撃力1000→1500

 

一気に2体の特殊召喚。現れたのは強力なサーチ能力を有する002と『ブンボーグ』の最終兵器であるモンスター。

その手にビームの刃を持つ鋏と筆のガトリング砲を持ち、肩にステープラーとコンパス、両足にカラーペンを装備し、フェイスにかかったテープは勝利を表すVの字に貼られている。

 

「002の効果でデッキから『ブンボーグ003』をサーチ!」

 

「くっ、オレは刻剣と『ブンボーグ002』を除外!」

 

ブンボーグ001 攻撃力3500→2500

 

ブンボーグ004 攻撃力1500→1000

 

ブンボーグ009 守備力1500→1000

 

「意外と冷静だねぇ、てっきり001か009を除外すると思ったけど」

 

「さぁな、自分でもこれが正解か分からん、オレは慧眼とエアーマンの2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる!白き翼に望みを託せ!No.39!エクシーズ召喚!希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

コナミのフィールドに見参するのは純白の両翼を広げ、希望の咆哮を放つ騎士皇。

目には目を、歯に歯を、殺意には殺意を。尤も、今のこのカードは防御に秀でたカードだが。相手が強力な打点を出すとなればこのカードを出す事で2回まで耐えられる。悪くない手だろう。

 

「更にホープに『妖刀竹光』を装備し、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札1→3

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

コナミ LP4000

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

『妖刀竹光』セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『曲芸の魔術師』

手札1

 

「僕のターン、ドロー!『ブンボーグ003』を召喚!」

 

ブンボーグ003 攻撃力500→1000

 

ブンボーグ001 攻撃力2500→3000

 

九庵堂が召喚したのは右手にコンパス、左手に定規のビームサーベルを展開し、メジャーを身体の芯と脚部に合成したイエローカラーの『ブンボーグ』。

コナミは002こそが『ブンボーグ』の核となるモンスターと予想したが、このカードもまた、『ブンボーグ』の主要カードなのだ。

 

「003の召喚時効果発動!デッキから003以外の『ブンボーグ』を特殊召喚する!僕は『ブンボーグ005』を特殊召喚!」

 

ブンボーグ005 守備力500→1000

 

ブンボーグ001 攻撃力3000→3500

 

次に展開したのはペンデュラムモンスターである005。両の手首にテープを嵌め、左肩と右の腰には緑と黄のスティック糊をキャノンのように吊るしている。

 

「005の効果発動!このカードが召喚、特殊召喚に成功した場合、フィールドの魔法、罠カードを1枚破壊する!」

 

「ならば発動!罠カード、『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分にする!」

 

「ふぅん?僕は『ブンボーグ001』を対象とし、『ブンボーグ003』の効果発動!001の攻撃力はターン終了時までフィールドの『ブンボーグ』カード×500アップする!分かるかい?『ブンボーグ』モンスターでは無く、カード!つまりペンデュラムスケールとフィールド魔法も含める!僕のフィールドの『ブンボーグ』カードは8枚!」

 

「4000のアップだと……!?」

 

ブンボーグ001 攻撃力3500→7500

 

「まだまだ!『ブンボーグ009』の効果発動!ターン終了時までこのカードの攻撃力を他の『ブンボーグ』の攻撃力の合計分、アップする!」

 

ブンボーグ009 攻撃力1000→10500

 

「攻撃力10500……!」

 

脅威の一万越え、『ブンボーグ』達の力が009へと集い、瞬間的にその攻撃力を増す。圧倒的な力の暴力、『ダメージ・ダイエット』の効果を受けても尚--襲いかかるダメージは4000。

丁度LPが削り取られてしまう。だがそれでもホープには攻撃無効の効果がある。そう思っていたのだが--。

 

「ホープの効果で攻撃無効……出来ないんだよねぇ!009は戦闘を行う場合、魔法、罠、モンスター。効果の発動を封じる!悔しいでしょうねぇ」

 

「ッ!」

 

「009を攻撃表示に変更!バトルといこうか!」

 

「ならばこの瞬間、罠発動!『マジカルシルクハット』!そしてホープが裏側守備表示になった事で破壊された『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』を手札に加える!」

 

「だけどORUでホープの位置がバレバレなんだよねぇ!009でホープを攻撃!」

 

何とか難は逃れたが圧倒的な攻撃力による衝撃がコナミを貫く。まるでガスバーナーで全身を炙られるような火力だ。

つくづくダメージが無くて良かったと心から安堵する。だがエクシーズモンスターはORUが有る限り位置はバレる。例えセット状態になってもORUは失われないのだ。

 

「メインフェイズ2、レベル9の『ブンボーグ009』に『ブンボーグ001』をチューニング!シンクロ召喚!『ブンボーグ・ジェット』!」

 

ブンボーグ・ジェット 守備力500→4000

 

メインフェイズ2に入り、九庵堂が新たに会得した力、シンクロ召喚を披露する。ジェット噴射で現れたのは『ブンボーグ』達の移動要塞。筆箱のモンスターだ。

九庵堂の『ブンボーグ』達がその中へと搭乗し、筆箱を操縦して飛翔させる。フィールド魔法であるランドセルと言い、個性的なカードだ。

 

「僕はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

九庵堂 栄太 LP2800

フィールド『ブンボーグ・ジェット』(守備表示)『ブンボーグ003』(攻撃表示)『ブンボーグ004』(攻撃表示)『ブンボーグ005』(守備表示)

セット2

Pゾーン『ブンボーグ005』『ブンボーグ006』

『ブンボーグ・ベース』

手札3

 

「オレのターン、ドロー!この瞬間、刻剣と002はフィールドに戻る」

 

ブンボーグ002 守備力500→1000

 

ブンボーグ・ジェット 守備力4000→5000

 

ブンボーグ003 攻撃力1000→1500

 

ブンボーグ004 攻撃力1000→1500

 

ブンボーグ005 守備力1000→1500

 

「オレは『妖刀竹光』を刻剣に装備!『黄金色の竹光』で2枚ドロー!もう1枚だ、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札1→3→4

 

「速攻魔法、『揺れる眼差し』!互いのペンデュラムスケールを破壊し、その数だけ効果を適用する!まず1枚!お前に500のダメージを与える!」

 

九庵堂 栄太 LP2800→2300

 

「2枚目!デッキからペンデュラムカード1枚を手札に加える!オレは『賤竜の魔術師』をサーチ!3枚目フィールドのカード1枚を除外!『ブンボーグ002』を除外!」

 

ブンボーグ・ジェット 守備力5000→4000

 

ブンボーグ003 攻撃力1500→1000

 

ブンボーグ004 攻撃力1500→1000

 

ブンボーグ005 守備力1500→2000

 

「005と006の効果!ペンデュラムゾーンで破壊された場合、墓地の『ブンボーグ』1枚を手札に加える!『ブンボーグ002』2枚を回収!」

 

「リカバリーも充分か、ならばこちらも魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』発動!エクストラデッキから『竜穴の魔術師』と『曲芸の魔術師』を回収!そのままセッティング!ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

「賤竜の効果で墓地の慧眼を、ブレイズマンの効果でデッキから『置換融合』を手札に加える!そのまま発動!賤竜とブレイズマンを素材に、融合召喚!『E・HERO Great TORNADO』!」

 

E・HERO Great TORNADO 攻撃力2800

 

吹き荒れる大嵐を引き連れ、強大な風の英雄がフィールドに現れる。その効果は正しく天災、戦場で飛行する『ブンボーグ・ジェット』が風に見舞われ、その装甲が傷ついていく。

 

「Great TORNADOの効果!相手フィールドのモンスターの攻守を半減する!タウン・バーストッ!!」

 

ブンボーグ・ジェット 守備力4000→2000

 

ブンボーグ003 攻撃力1000→500

 

ブンボーグ004 攻撃力1000→500

 

ブンボーグ005 守備力2000→1000

 

「更にオレは『クリバンデッド』を召喚!」

 

クリバンデッド 攻撃力1000

 

その手より召喚されたのは『クリボー』に良く似た毛むくじゃらの悪魔。頭に黄色いスカーフを被り、鋭くなった独眼で九庵堂の『ブンボーグ』を睨む。

まるで盗賊になった『クリボー』モンスターだ。他の『クリボー』系列と違い、ステータスや効果の方向性も違い、カテゴリにも入らないが。

 

「バトル!Great TORNADOで『ブンボーグ・ジェット』を、刻剣で005を、『クリバンデッド』で003を攻撃!」

 

九庵堂 栄太 LP2300→1800

 

畳み掛ける連続攻撃、コナミの手によって3体のモンスターが撃破される。上々な出来だ。コナミは更に続けるように行動に出る。

 

「メインフェイズ2、刻剣とブンボーグ004を除外、カードを1枚伏せ、ターンエンド。この瞬間、『クリバンデッド』をリリースし、デッキの上から5枚を捲り、1枚の魔法、罠を手札に加える」

 

コナミ LP4000

フィールド『E・HERO Great TORNADO』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『曲芸の魔術師』

手札2

 

「僕のターン、ドロー!随分やってくれるじゃないか、だけど勝つのは僕だ!『ブンボーグ007』と『ブンボーグ008』でペンデュラムスケールをセッティング!ペンデュラム召喚!『ブンボーグ002』2体!」

 

ブンボーグ002 攻撃力500→1500×2

 

「002の効果で2枚の004を手札に、そしてフィールドに2体同時に機械族が特殊召喚した事で墓地の『ブンボーグ001』特殊召喚!」

 

ブンボーグ001 攻撃力500→3500

 

「更に003を召喚!」

 

ブンボーグ003 攻撃力500→2000

 

ブンボーグ001 攻撃力3500→4000

 

「効果でデッキの『ブンボーグ009』特殊召喚!」

 

ブンボーグ009 攻撃力500→2000

 

ブンボーグ001 攻撃力4000→4500

 

ゼロだったフィールドが高速の大量展開により、一気に盛り上がる。凶悪なフィニッシャー足り得る009。攻撃力が4500となった001。1体1体では大した事が無いカード達の連携により、圧倒的な布陣が組上がる。

これには流石のコナミも冷や汗を垂らす。

 

「更に『ブンボーグ003』の効果で001の攻撃力をアップ!」

 

ブンボーグ001 攻撃力4500→8500

 

「そして速攻魔法、『リミッター解除』!全ての機械族の攻撃力を倍にする!」

 

ブンボーグ001 攻撃力8500→17000

 

ブンボーグ002 攻撃力1500→3000×2

 

ブンボーグ003 攻撃力2000→4000

 

ブンボーグ009 攻撃力2000→4000

 

「もう一手間さ、魔法カード、『魔法石の採掘』!手札の2枚を捨て、『リミッター解除』を回収して発動!」

 

ブンボーグ001 攻撃力17000→34000

 

ブンボーグ002 攻撃力3000→6000×2

 

ブンボーグ003 攻撃力4000→8000

 

ブンボーグ009 攻撃力4000→8000

 

「止めに009の効果ぁ!攻撃力を集束する!」

 

ブンボーグ009 攻撃力8000→62000

 

攻撃力62000。化物染みた、暴力的な数値が009の小さな身体に集束し、天を突くような黄金のオーラが弾け飛ぶ。こんな攻撃力を前にどう対処すれば良いのだろうか。

眼前の光景にひくひくと頬を引き吊らせ、まだ二十万より低いと呟くコナミ。前代未聞の攻撃力に言葉を忘れ、ポカンと呆ける観客達。最初の一戦からクライマックスである。

 

「フッハハハハァ、メインキャラでも無いのにこの攻撃力ゥ……悔しいでしょうねぇ。さぁ、バトル!」

 

「墓地の『超電磁タートル』を除外し、バトルフェイズを終了する。おやおや、どうかしたのかなぁ?」

 

だがそれでも届かない。コナミが発動した効果により赤と青の稲妻が迸り、バリアを作り出す。

 

「ぐぬぬ。やりますねぇ……!良いでしょう!メインフェイズ2、レベル9の009に001をチューニング!シンクロ召喚!『ブンボーグ・ジェット』!」

 

ブンボーグ・ジェット 守備力500→5500

 

「ターンエンド、『リミッター解除』によりジェット以外の機械族は破壊されます」

 

九庵堂 栄太 LP1800

フィールド『ブンボーグ・ジェット』(守備表示)

セット2

Pゾーン『ブンボーグ007』『ブンボーグ008』

『ブンボーグ・ベース』

手札0

 

「オレのターン、ドロー!」

 

「この瞬間、永続罠、『リミット・リバース』発動!墓地の『ブンボーグ001』を蘇生し、速攻魔法、『地獄の暴走召喚』!同名を特殊召喚!」

 

ブンボーグ001 攻撃力500→3000×3

 

ブンボーグ・ジェット 守備力3000→4500

 

集う3体の001。攻撃力3000越え、だがそれでも先程の倍々ゲームを味わっていれば大した数値にならないのだがら恐ろしい。

強固な布陣だが――コナミとて、数多の修羅場を潜ってきた。

 

「刻剣と004がフィールドに戻り、オレはまず、墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、竜穴をデッキに戻して1枚ドロー!」

 

コナミ 手札3→4

 

「慧眼をセッティングし、ペンデュラム効果により破壊して『竜穴の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『E・HEROオーシャン』!」

 

E・HERO オーシャン 攻撃力1500

 

現れる大海の英雄。その舞台を海原から火山に変え、そのたくましい身体で宝玉をあしらえた杖を振るい、コナミのフィールドへと降り立つ。

 

「魔法発動!『置換融合』!TORNADOとオーシャンを融合!融合召喚!『E・HEROアブソルートZero』!」

 

E・HEROアブソルートZero 攻撃力2500

 

フィールドを氷で凍てつかせ、スケートのように滑り駆けたるは絶対零度の凍気を放つ銀の英雄。美しき雪の結晶をマントで払い、マグマ煮えたぎる火山のフィールドを氷柱がそびえ立つ銀世界へと変える。

 

「そして魔法カード、『ミラクル・フュージョン』!墓地の『E・HEROフォレストマン』と『E・HEROオーシャン』を除外し、融合!融合召喚!『E・HEROジ・アース』!」

 

E・HEROジ・アース 攻撃力2500

 

大地に巨大な亀裂が走り、火山まで稲妻のような割れ目を描いていく。バキリと快音を放ち、噴火口が轟音を鳴らし、爆裂する。天を突き刺すようにマグマが止めどなく溢れ、真紅に彩られた火炎より岩石と共に、星の名を持つ英雄が氷のフィールドに降り立つ。

瞬間、ジ・アースから放たれる熱気によって氷は溶け、白煙が大地より上がる。プラネットシリーズの1枚が今、コナミのフィールドに降臨した――。

 

「攻撃力2500ぅ?そんな数値で何を……」

 

「こうするのさ!アブソルートZeroをリリースし、ジ・アースの攻撃力を2500アップする!地球灼熱!」

 

E・HEROジ・アース 攻撃力2500→5000

 

アブソルートが雪解けのような消えていき、そのエネルギーがジ・アースへと吸収される。更にジ・アースの身体が真紅へと染め上がり、その両手からマグマを噴出させた剣が伸びていく。

 

「アブソルートZeroの効果により、お前のフィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

バキリ、フィールド上が銀色の氷柱に覆い尽くされ、鋭き刃が九庵堂の『ブンボーグ』達を穿ち、貫く。これで壁モンスターも一掃した。余りの力業に九庵堂の顔が強張り、脂汗を浮かばせながらブツブツと呟く。

 

「ぼ……僕のモンスターがぁぁぁぁぁ…ぜ……ぜん…め…めつめつめつ…」

 

ノリノリである。

 

「止めだ!地球灼熱斬ッ!!」

 

九庵堂 栄太 LP1800→0

 

「フ――やっぱり、悔しいなぁ……!」

 

「悔しいと思えるなら、まだ強くなれる。何時でもかかって来い――!」

 

吹き飛ばされ、倒れる九庵堂に視線を移さず、言葉を残し駆けていくコナミ。目指すは次のデュエル、その先は――氷山エリア。

 

――――――

 

「あら、ここにいたの?」

 

「……ああ」

 

時を同じくして、舞網市、郊外。高くそびえ立つビル群の屋上で、2人の少年と少女が立っていた。

1人は紫色の髪をツインテールに束ね、青い軍服を纏った少女。あどけない顔立ちをしているが、何処か大人びた色気が漂っており、その紅玉の眼は獲物を狙う鳶のようだ。その左腕には盾の形状をしたデュエルディスクを装着している。

もう1人は、掴み所の無い空気のような男。紫色をした学生服に袖を通し、その頭には同じ色の帽子を目深に被っている。男の視線の先には――騒がしく沸き立つ、舞網チャンピオンシップの会場――遺跡エリアで対峙する、黒咲と――セレナの姿――。

 

「……さぁ、授業を始めようか――」

 

 




人物紹介Q

九庵堂 栄太
所属 明晰塾
コナミの手により心理フェイズを学び、更にウザさを増したデュエリスト。とは言ってもウザいのは主にデュエル中のみであり、遊矢と沢渡さん以外の者に対しては普段は紳士的。
観察力、推理力、そして煽り力がずば抜けて高く、デュエル中はそれらを活かして相手のペースを崩し、自分のペースに引き込もうとする。修行を重ねればベクタークラスになると思われる。多分この作品で一番変化した人。意外にも勝鬨とは相性が良く、逆に沢渡とは馬が合わない。遊矢に対して何故か厳しいが、互いに友人だと思っている。
使用デッキは『ブンボーグ』。エースカードは『ブンボーグ009』。頭脳派なのだが脳筋デッキである。

ぶっちゃけ強化し過ぎた感がある九庵堂君。マジでコナミ君が勝つのに苦労した。
次回からは話が大きく動き始めます。


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第54話 自力で脱出を!?

原作黒咲さん→面白いイケメン。

この作品の黒咲さん→サスケェ並みに面倒臭いクロワッサン。


「見つけたぞ黒咲」

 

遊矢やコナミ達がデュエルを行う中、その少女もまた、遺跡エリアにて優勝候補の一角である黒咲と対峙していた。いや、正確に言えば少女と、その肩に乗った猿が、か。

紫色の髪を黄色いリボンで一括りにして纏め、赤いジャケットとスカートをベルトで留めた、活発な印象を受ける少女と、デュエルディスクを少女と同じ黄色いリボンで背に負った小猿。セレナとSALだ。

彼女達は自分達の本来の目的を果たすべく、会場から外に出たのだ。

 

「瑠……璃……!?瑠璃が何故ここに……!?まさか自力で脱出を!?」

 

対する遺跡の上で佇んでいた黒咲は今までの無表情がまるで嘘だったかのように顔中を強張らせ、目を見開いて動揺している。その様は亡霊でも見たようにありえなぁいと震えている。

セレナは黒咲の言動に怪訝そうに眉をひそめ、苛立ちを抑え切れずに叫ぶ。

 

「瑠璃……?貴様何を……?いや、そんな事は良い!貴様がエクシーズの残党だな!私がやっつけてやる!」

 

「瑠璃!お兄ちゃん、そんな乱暴な言葉遣い教えた覚え無いぞ!」

 

セレナの強気な返答に黒咲が最早キャラ崩壊を起こして「やめなさい!」と叫ぶ。どうやら瑠璃とは黒咲の妹のようだ。

当然、黒咲とセレナは生き別れた兄妹等では無いし、セレナが記憶喪失の可能性も無い。

何故ならセレナは幼き頃から〝ある場所〟で箱入り娘のような生活をし、英才教育を受けて来たのだ。時間的に兄妹と言うには確固たる理由が無い。

 

「私にお兄ちゃんはいない!いたとしても絶対にお前では無い!あの人の方が良い!」

 

「あの人!?誰だ瑠璃!?さてはあの真っ黒黒助だな!お兄ちゃん許さないぞ、あんな鉄の意志も鋼の強さも無い奴!」

 

「何ぃ!?確かに黒いが、あの人を馬鹿にするな!鉄とか鋼より遥かに頑丈だ!」

 

何やら酷い勘違いを交えている気がする。互いに妙な場所で歯車が噛み合ってしまったのか、歯を剥き出しにして唸る2人。暫くして当初の目的を思い出したのか、セレナは腰元から盾型のデュエルディスクを取り出し、その左腕にベルトを巻きつける。そしてデュエルディスクから青く輝く剣の形状をしたプレートを展開し、黒咲に向かって構える。

そのデュエルディスクの形状を見て黒咲がハッ、と息を詰まらせる。何故ならセレナの持つデュエルディスク、それは彼が憎悪を向ける者達の特徴の1つなのだ。

黒咲も何かに気づいたかのように唇を噛み締め、同じようにデュエルディスクを構える。

 

「おのれアカデミア……!瑠璃を洗脳して俺に差し向けるとは……!しかも俺の事を忘れ、あの黒いのの事を覚えているだと……?良いだろう!このデュエルで俺やレジスタンスの事を思い出させてやる!かかって来い、瑠璃!」

 

「だから私は瑠璃では無い!だが上等だ!貴様を倒し、私はアカデミアに戻る!」

 

こうして、若干の勘違いを含みながら、エクシーズ次元のレジスタンス所属、黒咲 隼と、今明かされた少女の出身、融合次元のアカデミアに所属するセレナの対決が切って下ろされる。

そして――このデュエルこそが、スタンダード次元を巻き込んだ、各次元を交えてのチャンピオンシップの始まりとは――誰も思わなかった。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻は黒咲だ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、瞬時にその中の1枚をデュエルディスクのプレートへと叩きつける。

 

「俺は魔法カード、『強欲で貪欲な壺』発動!」

 

黒咲 隼 手札4→6

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を交換、『RR-バニシング・レイニアス』を召喚!」

 

RR-バニシング・レイニアス 攻撃力1300

 

黒咲が召喚したのは緑色の持つ、機械鳥。猛禽類を思わせるデザインだ。一体どのような戦法を取るのか、セレナは警戒しながらも観察を行う。

 

「バニシング・レイニアスが召喚したターンのメインフェイズ、俺は手札のレベル4以下の『RR』モンスター1体を特殊召喚する。来い、『RR-トリビュート・レイニアス』!」

 

RR-トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

バニシング・レイニアスの囀りを元に、黒咲の手より新たな猛禽が羽ばたく。飛び出したのは青き機械鳥。ブースターより青白い炎を吹かせ、その周囲には6機ものレーザービットを浮かばせている。

 

「トリビュート・レイニアスが召喚に成功したターンのメインフェイズ、デッキから『RR』カード1枚を墓地へ送る。俺は『RR-ミミクリー・レイニアス』を墓地へ送り、除外する事で効果発動。デッキから『RR-レディネス』を手札に加える。そして魔法カード、『RR-コール』を発動!バニシング・レイニアスの同名モンスターをデッキから特殊召喚!」

 

RR-バニシング・レイニアス 守備力1600

 

「そして俺は1体目のバニシング・レイニアスとトリビュート・レイニアスでオーバーレイ・ネットワークを構築!冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実を暴き、鋭い鉤爪で栄光をもぎ取れ!エクシーズ召喚!飛来せよ!『RR-フォース・ストリクス』!」

 

RR-フォース・ストリクス 守備力2000→2500

 

鋭き鉤爪を閃かせ、暗き遺跡の中より1羽の梟が飛翔する。現れた黒咲のエクシーズモンスター、このカードこそ、彼のデッキの要となるカード。

群れの仲間を呼び覚ます囀りが今、木霊する。

 

「フォース・ストリクスのORUを1つ取り除き、デッキからレベル4、闇属性、鳥獣族モンスター、『RR-ファジー・レイニアス』を手札に加え、バニシング・レイニアスの効果で特殊召喚!」

 

RR-ファジー・レイニアス 守備力1500

 

フィールドに飛び立つ、モズをモチーフにしたような新たな『RR』モンスター。紫のボディを持ち、その胸部には深緑の珠を抱いている。これで再びレベル4のモンスターが2体揃った。

 

「俺は2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RR-フォース・ストリクス』!」

 

RR-フォース・ストリクス 守備力2000→2500

 

「まだ行くぞ!2体目のフォース・ストリクスのORUを1つ取り除き、デッキから『RR-シンギング・レイニアス』をサーチ!そして墓地に送られた『RR-ファジー・レイニアス』の効果で同名モンスターをサーチ!ファジー・レイニアスは同名以外の『RR』モンスターが存在する場合、手札から特殊召喚出来る!」

 

RR-ファジー・レイニアス 守備力1500

 

RR-フォース・ストリクス 守備力2500→3000×2

 

「そしてシンギング・レイニアスは自分フィールドにエクシーズモンスターが存在する場合、特殊召喚出来る!」

 

RR-シンギング・レイニアス 守備力100

 

RR-フォース・ストリクス 守備力3000→3500×2

 

次に現れたのは同じくモズがモチーフとなった『RR』。これでまたレベル4のモンスターが2体、とんでもない展開力だ。これで手札消費も僅かしかない。

しかも当然、次に呼び出されるエクシーズモンスターも。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RR-フォース・ストリクス』!」

 

RR-フォース・ストリクス 守備力2000→3000

 

フィールドに集う3体のフォース・ストリクス。強力なサーチ能力を持つエクシーズが群れをなして黒咲のフィールドを飛び交い、セレナを威嚇する。

これが本場エクシーズ次元の力と言う事か、隙の無い布陣だ。

 

「そして3体目のORUを1つ取り除き、ミミクリー・レイニアスをサーチ!カードを3枚伏せ、ターンエンドだ。どうだ瑠璃、これがレジスタンスの結束、思い出せ!」

 

黒咲 隼 LP4000

フィールド『RR-フォース・ストリクス』(守備表示)×3

セット3

手札1

 

「人の話を聞かん奴だ……私のターン、ドロー!私も魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!」

 

セレナ 手札5→7

 

「魔法カード、『エクシーズ・トレジャー』!フィールドのエクシーズモンスターの数だけドローする!貴様のモンスターを利用させてもらおう!」

 

セレナ 手札6→9

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を交換し、私は永続魔法、『炎舞-「天キ」』を発動!デッキから『月光白兎』をサーチ!そして手札の『月光黒羊』を捨て、デッキから『融合』をサーチ!そして『月光白兎』を召喚!」

 

月光白兎 攻撃力800→900

 

セレナのモンスターは三日月型の仮面を装着し、白い槌を手にした兎の獣人だ。見慣れぬ、自身の妹が使う事の無いカードを目にし、黒咲はその目付きをより鋭くする。

 

「白兎の召喚時、墓地のこのカード以外の『ムーンライト』モンスターを守備表示で特殊召喚する!『月光黒羊』を特殊召喚!」

 

月光黒羊 守備力600

 

2体目は先程自身の効果で墓地へ送られた羊の獣人だ。白兎と同じく三日月の仮面を被り、両肩からは捻れた角が伸びている。身につけた衣装は羊とかけているのか、執事を思わせる燕尾服。

 

「更に白兎の効果発動!このカード以外の『ムーンライト』カードの数まで相手フィールドの魔法、罠をバウンスする!」

 

「構わん」

 

「そして魔法カード、『融合』を発動!フィールドの白兎と黒羊を融合!月光に映え躍動する兎よ!漆黒の闇に潜む獣よ!月の引力により渦巻きて新たなる力と生まれ変わらん!融合召喚!現れ出でよ!月明かりに舞い踊る美しき野獣!『月光舞猫姫』!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400→2500

 

月明かりをバックに赤い毛を揺らした猫の獣人。まるで踊り子のような艶やかな衣装に身を包み、2刀のナイフを輝かせ、フィールドに降り立つ。

この融合モンスターの登場に黒咲はギン、と親の仇を目にするかの如く睨み付け、舌打ちを鳴らす。

 

「融合素材として墓地に送られた黒羊の効果で墓地の『月光白兎』を回収!更に手札の『月光紫蝶』を墓地へ送り、『月光舞猫姫』の攻撃力を1000アップする!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2500→3000

 

「まだだ!墓地の『月光紫蝶』を対象に魔法カード、『月光香』を発動!対象のモンスターを特殊召喚する!」

 

月光紫蝶 攻撃力1000→1100

 

美しき羽を広げ、蝶と人が合わさったかのようなモンスターが姿を見せる。これでもう1度強化を行えるが、セレナの目的はそちらでは無い。

 

「私は紫蝶をリリースし、舞猫姫の効果発動!このターン、お前のモンスターはそれぞれ1度だけ戦闘では破壊されず、このモンスターは全ての相手モンスターに2回ずつ攻撃出来る!バトルだ!舞猫姫で1体目のフォース・ストリクスに攻撃!」

 

「罠発動!『RR-レディネス』!このターン、『RR』は戦闘破壊されない!」

 

「だが舞猫姫の攻撃宣言時、相手に100ダメージを与える!」

 

黒咲 隼 LP4000→3900

 

舞猫姫が厳かなフィールドで踊り、ナイフを投擲して黒咲のライフを削る。このターンの破壊を逃れる上に随分と少量のダメージだが気を抜けない。何故なら舞猫姫自身の複数回攻撃が他のカードとは比較にはならないからだ。

 

「もう1度攻撃!2体目に2回、3体目に2回攻撃だ!」

 

「キッキキー!」

 

黒咲 隼 LP3900→3800→3700→3600→3500→3400

 

合計6回、600のダメージ、もしも黒咲のフィールドに後2体モンスターが存在したならば1000のダメージを受けていただろう。充分に警戒すべき効果だ。

 

「私は永続魔法、『暗黒の扉』を発動。カードを3枚伏せ、ターンエンドだ。逃げても無駄だ、私は必ずお前を倒す!」

 

セレナ LP4000

フィールド『月光舞猫姫』(攻撃表示)

『炎舞-「天キ」』『暗黒の扉』セット3

手札1

 

「俺のターン、ドロー!必ずお前を取り戻す!俺は3体のフォース・ストリクスのORUを使い、デッキより『RR-トリビュート・レイニアス』、バニシング・レイニアス、シンギング・レイニアスをサーチ!墓地に送られたファジー・レイニアスの効果で3体目を手札に加える!魔法カード、『闇の誘惑』を発動!」

 

「罠発動、『撹乱作戦』!貴様の手札を入れ換える!」

 

「チッ、俺は『ダーク・クリエイター』を除外!」

 

黒咲 隼 手札6→8→7

 

「更に速攻魔法、『RUM-レヴォリューション・フォース』を発動!フォース・ストリクスを対象に、ランクが1つ高い『RR』モンスター1体を重ねてエクシーズ召喚する!」

 

黒咲が発動した『RUM』、その効果によりフォース・ストリクスが天へと上り、雄々しく翼を広げて光輝く。エクシーズモンスターを素材とし、ランクを上げるエクシーズ召喚。その類稀なる力にセレナは唇を噛み締める。

 

「ランクアップ……!」

 

「これがレジスタンスの力!フォース・ストリクス1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!獰猛なるハヤブサよ。激戦を切り抜けしその翼翻し、寄せ来る敵を打ち破れ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR-ブレイズ・ファルコン』!」

 

RR-ブレイズ・ファルコン 攻撃力1000

 

黒咲のコートが舞い上がり、天に輝くフォース・ストリクスの身体が赤く燃え上がり、そのボディは紅蓮に染まる。怒りの火炎を纏いて新たなエクシーズモンスター。その姿にセレナはデュエルディスクを構え直し、肩に乗ったSALは低い唸り声を上げる。

 

「ブレイズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター全てを破壊し、その数×500のダメージを与える!」

 

「得策だな!舞猫姫は戦闘では破壊されん!だが甘い!速攻魔法、『禁じられた聖衣』!舞猫姫の攻撃力を600下げ、このターン中効果破壊耐性を与える!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2500→1900

 

「ならば『RR-ネクロ・ヴァルチャー』を召喚!」

 

RR-ネクロ・ヴァルチャー 攻撃力1000

 

RR-フォース・ストリクス 守備力3000→3500×2

 

現れたのは暗黒の障気を放つ猛禽。その効果により、黒咲は追い撃ちをかける。

 

「ネクロ・ヴァルチャーをリリースし、墓地の『RUM-レヴォリューション・フォース』を手札に戻し、発動!ブレイズ・ファルコン1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!誇り高きハヤブサよ。英雄の血潮に染まる翼翻し革命の道を突き進め!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR-レヴォリューション・ファルコン』ッ!!」

 

RR-レヴォリューション・ファルコン 攻撃力2000

 

強大な力を灯し、この状況を覆すべく真紅の機械鳥が灰に染まる。翻すは雄々しき翼、撃ち抜くは少女の背後で嘲笑う憎き敵。今ここに、黒咲 隼を表す気高き猛禽が天へと叫ぶ。

 

「2回連続ランクアップ……!」

 

「思い出せ瑠璃!レヴォリューション・ファルコンで舞猫姫に攻撃!レヴォリューショナル・エアレイド!」

 

「くっ、だが、ダメージは微々たるもの!」

 

「レヴォリューション・ファルコンが特殊召喚された表側表示モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時、その相手モンスターの攻守を0にする!」

 

「何だと――!?」

 

月光舞猫姫 攻撃力1900 →0

 

レヴォリューション・ファルコンの両翼より大量の爆弾が投げ出され、その炎が舞猫姫とセレナに襲いかかる。余りにも強力な効果だ。モンスターを特殊召喚する事が多い今、この効果は数多のデュエリストにとって脅威となる。

 

セレナ LP4000→2000

 

「ぐううっ――!……だが、舞猫姫は戦闘では破壊されないっ!」

 

「帰って来い瑠璃!ゲーム感覚で多くの人々をカード化するアカデミアに騙されるな!」

 

「ゲーム感覚……?何を言って……」

 

「まだダメか……俺はこれでターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP3400

フィールド『RR-レヴォリューション・ファルコン』(攻撃表示)『RR-フォース・ストリクス』(守備表示)×2

セット1

手札5

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『暗黒界の取引』を発動!互いに1枚ドローし、1枚捨てる。そして墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『暗黒の扉』をデッキに送り、1枚ドロー!」

 

セレナ 手札1→2

 

「魔法カード、『融合回収』を発動!墓地の『融合』と『月光黒羊』を手札に戻し、墓地の『月光香』を除外し、手札を1枚捨て、効果発動!デッキより『月光紅狐』をサーチ!『融合』を発動!フィールドの舞猫姫と手札の『月光紅狐』を融合!融合召喚!現れ出でよ!月光の原野で舞い踊るしなやかなる野獣!『月光舞豹姫』!」

 

月光舞豹姫 攻撃力2800→2900

 

融合モンスターを使っての融合。黒咲に対抗するようにセレナもまた融合のその先を見せる。艶のある黒い髪は目を隠しているが、綺麗に切り揃えられており、その上には獣耳が生えている。肘からは三日月を思わせる黄金の刃が伸び、手首では同じように三日月と鈴のブレスレットが回転し、その手、足等は太く、力強い豹のものになっている。

『月光舞豹姫』。舞猫姫の進化形が美しく、しなやかな踊りを見せる。

 

「墓地に送られた『月光紅狐』の効果発動!レヴォリューション・ファルコンの攻撃力を0にする!」

 

RR-レヴォリューション・ファルコン 攻撃力2000→0

 

「そして『月光白兎』を召喚!」

 

月光白兎 攻撃力800→900

 

「白兎の召喚時効果で墓地の『月光黒羊』を特殊召喚!」

 

月光黒羊 守備力600

 

「『月光舞豹姫』の効果発動!このターン、お前のモンスターはそれぞれ1度だけ戦闘では破壊されず、このカードは全ての相手モンスターに2回ずつ攻撃が出来る!そして白兎の効果により、伏せカードをバウンス!」

 

「く――!」

 

黒咲がセットしたカードはフリーチェーンのカードではない為、発動される事無くバウンスされる。多少制限はあるが打点を上げて闘う、ビートダウン志向の『ムーンライト』デッキにおいて利便性の高い効果であり、厄介な効果だ。

 

「バトルだ!『白兎』でレヴォリューション・ファルコンを攻撃!」

 

槌を持った白兎が無力化したレヴォリューション・ファルコンへ振りかぶって殴り付ける。その攻撃をまともに受けた機械鳥の装甲はひしゃげ、ひびが走り砕け散る。

駆け抜ける破壊音と灰色の破片、レヴォリューション・ファルコンは特殊召喚されたモンスターしか攻撃力をダウン出来ない。強力な効果だが自身の攻撃力は低い為、帝等には弱いのだ。だがセレナはレヴォリューション・ファルコンを弱体化する事で攻略して見せた。

 

黒咲 隼 LP3400→2500

 

「更に舞豹姫で1体目のフォース・ストリクスを2回攻撃!」

 

しなやかなる野獣がその力強い腕を振るい、鋭い爪で冥府の梟を切り刻む。その様は華麗にして流麗、こちらが狩られる立場だと言うのに危うく魅了されてしまいそうになる。

 

「舞豹姫が戦闘で相手モンスターを破壊した場合、バトルフェイズ終了まで攻撃力を200上げる!」

 

月光舞豹姫 攻撃力2900→3100

 

「もう1体も狩る!2回攻撃!」

 

月光舞豹姫 攻撃力3100→3300

 

これで黒咲のモンスターは全て破壊された。やはり全体攻撃を有するモンスターは戦況を一変する力を持っている。だが黒咲の闘志はこの程度で尽きない。

それ所か激しく燃え盛り、憎悪の黒と怒りの赤が混じり合い、赤黒の翼となって今にも飛び立とうとしている。

その根源は狂いそうになる程、憎いアカデミアへの憤怒。自らの妹を洗脳し、その牙で自身を切り裂こうと高笑いするアカデミアへの負の感情。何故兄妹で傷つけ合わねばならないのか、何故救おうとした者に刃を向けられねばならないのか、どうにかなってしまいそうになる。

 

「瑠璃……!」

 

「私はこれでターンエンドだ。さぁ来い、黒咲 隼!」

 

セレナ LP2000

フィールド『月光舞豹姫』(攻撃表示)『月光白兎』(攻撃表示)『月光黒羊』(守備表示)

『炎舞-「天キ」』セット1

手札0

 

「おのれ……アカデミアぁ……!俺のターン、ドロー!魔法カード、『闇の誘惑』!2枚ドローし、手札の闇属性モンスター、シンギング・レイニアスを除外。バニシング・レイニアスを召喚!」

 

RR-バニシング・レイニアス 攻撃力1300

 

「バニシング・レイニアスの効果で手札のトリビュート・レイニアスを特殊召喚!」

 

RR-トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

「トリビュート・レイニアスの効果でデッキのミミクリー・レイニアスを墓地に送り、除外!『RR-レディネス』をサーチ!ファジー・レイニアスを特殊召喚!」

 

RR-ファジー・レイニアス 守備力1500

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!雌伏のハヤブサよ。逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ!エクシーズ召喚!現れろ!『RR-ライズ・ファルコン』!」

 

RR-ライズ・ファルコン 攻撃力100

 

4枚の青き翼を翻し、次なるエクシーズモンスターが天空に羽ばたく。メカメカしい身体の中、一際目を引くのはその発達した脚の爪だ。翼と共に身体の半分を占める程の巨大なそれは舞豹姫の野太い腕を優に越えている。

だがそれに見合わず攻撃力はたったの100。3体のモンスターを使用したのにも関わらずである。それでもセレナは決して侮る事をせず、より一層警戒を深める。何故なら自らが先生と慕う者が「攻撃力が低いモンスターを舐めてかかるのは負けフラグ」と何度も注意されて来たからだ。

何かある――肩に乗るSALも野生の勘で何かを感じ取っているのか、低く唸っている。

 

「ライズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、舞豹姫を対象として効果発動!ライズ・ファルコンの攻撃力を舞豹姫の攻撃力分アップする!」

 

「墓地の『月光紅狐』を除外し、その発動を無効にしてLPを互いに1000回復する!」

 

セレナ LP2000→3000

 

黒咲 隼 LP2500→3500

 

「なら速攻魔法、『ビッグ・リターン』を使い、ライズ・ファルコンの効果を再び発動!」

 

RR-ライズ・ファルコン 攻撃力100→3000

 

舞豹姫の力を吸収し、更に飛翔するライズ・ファルコン。墓地の『月光紅狐』を除外すれば『ムーンライト』モンスターを対象とする魔法、罠、モンスターの発動を無効に出来るが、効果は無効に出来ず破壊も出来ない。黒咲はライズ・ファルコンの効果をもう1度発動可能にし、危機を防ぐ。それでもセレナが効果を使ったのはLPの回復の為、それ程までに相手が悪い。

 

「ライズ・ファルコンは特殊召喚されたモンスター全てに攻撃出来る!まずは舞豹姫に攻撃!ブレイククローレヴォリューション!」

 

僅か100の差、しかし舞豹姫の攻撃力を越えたライズ・ファルコンの鉤爪が舞豹姫を切り裂き、破壊する。舞豹姫は舞猫姫とは逆に効果では破壊される事は無いが、戦闘破壊耐性は失われている。

黒咲の突破の方法は真っ当と言える。

 

セレナ LP3000→2900

 

「罠発動!『月光輪廻舞踊』!自分フィールド上のモンスターが戦闘、効果で破壊された場合、デッキから『ムーンライト』モンスター2体をサーチする!」

 

「融合素材の補充か、ならばライズ・ファルコンで『月光黒羊』を攻撃!ブレイククローレヴォリューション!」

 

続いて黒羊が切り裂かれ、破壊される。融合素材となった時、モンスターの回収を行える黒咲が破壊された事はかなり痛手だ。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ。必ず取り戻す……!」

 

黒咲 隼 LP3500

フィールド『RR-ライズ・ファルコン』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「私のターン、ドロー!これを拾っておいて良かった。私は『月光虎』と『月光狼』でペンデュラムスケールをセッティング!そして『月光狼』のペンデュラム効果発動!墓地の『ムーンライト』融合モンスターによって決められたモンスターを除外し、融合召喚を行う!私が素材に選ぶのは『月光舞豹姫』と『月光舞猫姫』、そして『月光紫蝶』だ!月光の原野で舞い踊るしなやかなる野獣よ!月明かりに舞い踊る美しき野獣よ!紫の毒持つ蝶よ!月の引力によりて渦巻きて新たなる力に生まれ変わらん!融合召喚!現れ出でよ!月光の原野の頂点に立って舞う百獣の王!『月光舞獅子姫』!!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500→3600

 

ついにフィールドに舞い降りるセレナの切り札。装着した月の仮面がバキリとひび割れて、その美しくも凛々しい顔が露となる。逆立つ白い鬣、左の耳から伸びる三日月の飾り、それは左腕にも装備されている。右手には妖しい輝きを放つ剣が閃き、腰の赤布が長い尾と共にゆらりと揺らめく。『月光舞獅子姫』、満月の使者が今、降臨した。

 

「更にセッティングしたペンデュラムスケールでペンデュラム召喚!『月光蒼猫』!」

 

月光蒼猫 守備力1200

 

セレナの手は止まらない。新たに登場したのは蒼い毛並みを持つ、猫の獣人。しなやかな動きで舞獅子姫の隣へと躍り出て、その支援を行う。

 

「蒼猫が特殊召喚に成功した場合、このカード以外の『ムーンライト』モンスター1体の攻撃力を元々の倍にする!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3600→7000

 

攻撃力7000、ライズ・ファルコンの2倍以上を誇る攻撃力が黒咲の眼前に立ち塞がる。だが黒咲はそれでも顔色1つ変えない。どれだけ攻撃力を上げようと彼の扱う『RR』は反逆の翼を翻して来た。

この状況を覆す手段もある。慢心や油断している訳ではない、それだけの実力が彼にはある。

 

「そして白兎の効果でお前の伏せカードをバウンスする!」

 

「罠発動!『RR-レディネス』!このターン、『RR』は戦闘破壊されない!」

 

「チッ、バトルだ!『月光舞獅子姫』でライズ・ファルコンを攻撃!」

 

迫る斬撃、鋭き白刃がライズ・ファルコンの装甲とぶつかり合い、火花を散らす。ライズ・ファルコンの翼がその剣撃により砕け散るが戦闘破壊は出来ない。但し、ダメージは別である。

 

「墓地の『RR-レディネス』を除外し、このターン中のダメージを0にする!」

 

「だが!舞獅子姫が攻撃したダメージステップ終了時、お前のフィールドに特殊召喚されたモンスター全てを破壊する!これでライズ・ファルコンでの再逆転は出来ん!」

 

舞獅子姫の苛烈なる猛攻が戦闘破壊耐性を与えられた筈のライズ・ファルコンをも切り刻み、爆発を起こす。溢れ出すように舞い上がる黒煙がフィールドを侵食し、衝撃が砂塵を吹き荒し、ビリビリと古びた遺跡が震える。

これで黒咲のモンスターは0、ライズ・ファルコンを失った今、果たしてどう切り抜けるのか。

 

「私は白兎を守備表示に変更し、ターンエンドだ」

 

セレナ LP2900

フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)『月光蒼猫』(守備表示)『月光白兎』(守備表示)

『炎舞-「天キ」』

Pゾーン『月光虎』『月光狼』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『成金ゴブリン』を発動!相手にLPを1000回復させる代わりとして1枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札2→3

 

セレナ LP2900→3900

 

続く黒咲のターン、彼はセレナに対して違和感を覚えていた。何かがおかしい。始めにそう感じたのは、セレナが『月光舞豹姫』を融合召喚した時、あの時は自らの妹が憎悪の対象である融合を使いこなすのを目にし、それ所では無かったが、『月光舞獅子姫』の登場で違和感が膨れ上がった。

何故、エクシーズ次元の出身である筈の瑠璃がここまで融合を使いこなせているのか、適正があったか、アカデミアの指導力が優れているか、そうでないと辻褄が合わない。

拐われ、捕らわれた時間だけでは初めて扱う融合をここまで使いこなせる訳が無い。洗脳の期間などを加味すればもっとだろう。付け焼き刃の戦術で黒咲をここまで追い詰める事は出来ない。ならば――。

 

「試してみるか……!『RR-ラスト・ストリクス』を召喚!」

 

RR-ラスト・ストリクス 攻撃力100

 

黒咲の手札より現れたのは小さな梟のモンスター。このちっぽけなモンスターこそ、黒咲の切り札を呼び起こす引き金となる。

 

「ラスト・ストリクスをリリースし、効果発動!エクストラデッキの『RR』エクシーズ1体を守備表示で特殊召喚する!勇猛果敢なるハヤブサよ。怒りの炎を巻き上げ、大地をも焼き尽くす閃光となれ!飛翔しろ!『RR-サテライト・キャノン・ファルコン』!」

 

RR-サテライト・キャノン・ファルコン 守備力2000

 

ラスト・ストリクスが白き閃光と共にその姿を大きく変化させる。純白の装甲を基調とし、今までの『RR』とは異なる配色のボディを輝かせ、胸、翼、脚と思われるパーツが翡翠に光る。天高く飛翔し、その砲門をセレナへと向ける姿は正しくサテライト。だがこれ程のモンスターでも舞獅子姫を越える事は出来ない。

 

「俺は『RUM-スキップ・フォース』を発動!サテライト・キャノン・ファルコンを素材とし、ランクが2つ高い『RR』をエクシーズ召喚する!サテライト・キャノン・ファルコンでオーバーレイ・ネットワークを再構築!究極至高のハヤブサよ。数多なる盟友の遺志を継ぎ、勝利の天空へ羽ばたけ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR-アルティメット・ファルコン』!!」

 

RR-アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

天高く飛び立つ、黒咲の最強の切り札。重厚な漆黒のボディを煌めかせ、黄金に輝く翼が光を反射させながら羽ばたく。何より目を引くのは、その背に閃く日輪を模したかのような黄金の翼。

その姿はまるで、導きの神にして太陽の化身、ヤタガラス。究極の名を持つモンスターが今――飛翔する。

 

「アルティメット・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!このターン、相手フィールドのモンスターの攻撃力を1000下げ、カード効果の発動を封じる!」

 

「何――!?」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3600→2600

 

月光蒼猫 攻撃力1700→700

 

月光白兎 攻撃力900→0

 

攻撃力の大幅なダウンに加え、カードの効果を封じる強力な効果、正しく究極に相応しい効果がフィールドを照らす。これでは蒼猫の破壊された場合、デッキから『ムーンライト』モンスターを呼び出す効果も発動出来ない。

 

「まだだ!俺はLPを半分払い、墓地のライズ・ファルコンを対象に『RUM-ソウル・シェイブ・フォース』を発動!ライズ・ファルコンのランクより2つ高いエクシーズモンスターを重ねてエクシーズ召喚する!オーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR-レヴォリューション・ファルコン』!」

 

黒咲 隼 LP3500→1750

 

RR-レヴォリューション・ファルコン 攻撃力2000

 

「レヴォリューション・ファルコンのORUを1つ取り除き、『月光蒼猫』を破壊し、その攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

セレナ LP3900→3550

 

互いに死力を尽くした攻防、レヴォリューション・ファルコンにより革命の炎が放たれ、セレナのLPを焦がす。

 

「ラスト・ストリクスの効果を適用したターン、相手は戦闘ダメージは受けないが、モンスターは別だ!手札の『オーバーレイ・リジェネート』でレヴォリューション・ファルコンの素材を補充し、取り除く事でレヴォリューション・ファルコンは全ての特殊召喚されたモンスターに攻撃出来る!殲滅せよ!レヴォリューショナル・エアレイドォッ!」

 

上空よりばら撒かれる爆弾により、セレナのモンスター達が焼き尽くされ、砂塵と黒煙が宙を舞う。ツン、とした焦げ臭い匂いにセレナは顔をしかめ、ゲホゲホと咳を漏らす。

強い、素良との闘いを見ていた為、侮っていた訳では無いが、まだ実力を隠しているとは思いもしなかった。

これが――エクシーズ次元で残った強者。

 

「……アカデミアは敵だ……突如として俺達の故郷に現れ、奴等は全てを奪っていった。デュエリストだけでは無い。何の力も無い女も、子供も、奴等は嘲笑いながら、俺達の大切なものを壊していった……!」

 

「……何を、言っている……!?」

 

聞こえる。激しく鳴り響く轟音が、失われていく者達の声が、何の力も持たない女性や幼い子供達の悲鳴が。それを嘲笑う、姿の見えない笑い声が。

セレナは思わず両手で耳を抑え、動揺でその身体を震わせる。

 

「平和だった筈の街が、崩壊して、辺り一面が黒煙に包まれていく、赤黒い炎が全て燃やしていく……!」

 

「……違う……私の信じるアカデミアは……!」

 

匂う。パチパチと火花が散り、燃え上がる紅蓮と黒煙のツン、とした嫌な臭い。嫌悪感のあるそれがセレナの鼻腔に入り、吐き気がセレナを襲う。口を抑え、堪えるものの、たたらを踏み、激しく狼狽する。

 

「俺は許さない……アカデミアを……友を、妹を奪った奴等を……!」

 

「違う、違う、違う!」

 

見える。崩壊した街並みが、逃げ惑う人々が、炎に包まれる大地、全てを砕く青き巨人が。カード化される人々が、それを嘲笑う――アカデミアの兵士達の姿が――。

目を閉じ、違うと否定して頭を振るも、瞼に焼き付いた悲劇が鮮明に写り込む。これが真実。セレナが信じていた誇り高きアカデミアの正体。

 

「俺はこれでターンエンド……やはり、貴様は瑠璃では無かったか……」

 

黒咲 隼 LP1750

フィールド『RR-アルティメット・ファルコン』(攻撃表示)『RR-レヴォリューション・ファルコン』(攻撃表示)

手札0

 

太陽を背に遺跡の上空に2羽の猛禽が両翼を広げ、旋回する。最早、セレナの身体からは欠片の闘気さえも感じられない。

何も知らない、理想だけを抱いた少女だったか。黒咲は静かに瞼を閉じ、デュエルディスクを下ろそうとした時――。

 

「……私の……ターン……!」

 

セレナが残る力を振り絞るように、デッキから1枚のカードを引き抜く。その痛々しい光景にSALが心配して鳴き、黒咲は信じられないものを見かの如く大きく目を見開く。

確かに、セレナの信じる、誇り高きアカデミアの姿は幻想だった。だけど、セレナの記憶の中心である、大切な思い出の中にある、先生やバレットは間違いなく、誇り高きデュエリストなのだ。

例え、アカデミアが間違っていても、セレナが誇り高いデュエリストじゃなくなった訳じゃない。それに先生が間違っていても、セレナが正せば良いだけだ。

大好きな人達を、彼やバレットの事を嫌いになる事は決して無い。

 

「私は速攻魔法、『異次元からの埋葬』を発動……!墓地の『月光舞豹姫』と『月光舞猫姫』、『月光紫蝶』を墓地に戻す!そして『月光狼』のペンデュラム効果で墓地の『月光舞豹姫』と『月光白兎』、『月光黒羊』を融合!融合召喚!『月光舞獅子姫』!!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500→3600

 

再び現れるセレナの切り札。条件が厳しい融合モンスターなのだが、それを連続で呼び出すセレナの手腕は流石としか言えないだろう。

フィールドに姿を見せた舞獅子姫は主人を心配そうに一瞥した後、敵である黒咲を射抜くように睨む。

 

「まだ、だ……!墓地の『月光紫蝶』を対象に『月光虎』のペンデュラム効果を発動!対象のモンスターを特殊召喚する!」

 

月光紫蝶 攻撃力1000

 

「更に『月光紫蝶』を墓地に送り、舞獅子姫の攻撃力を、1000上げる!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3600→4600

 

これで互角だった舞獅子姫とアルティメット・ファルコンの攻撃力に差が開いた。まだ闘える、振り絞った力に火を灯し、セレナは自らの右腕を黒咲に向かって突き出す。ここで――終わらせる。

 

「私は!舞獅子姫でアルティメット・ファルコンを攻撃!」

 

「……墓地のレディネスを除外し、ダメージを0にする」

 

「だが!舞獅子姫の効果でレヴォリューション・ファルコンは破壊される!」

 

火花を散らし、爆発する黒咲のモンスター達。これで状況は一変、切り札を失った黒咲の不利となった。どちらもLPが多く残っている今、この有無は大きいだろう。

 

「私はこれでターンエンドだ!アカデミアが間違っていると言うなら私が変えて見せる!」

 

セレナ LP3550

フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)

『炎舞-「天キ」』

Pゾーン『月光虎』『月光狼』

手札0

 

強い少女だ。1度は完全に心が折れたと言うのに、気力で立ち上がった。だが――それでも、黒咲は負けない。

 

「俺のターン、ドロー!墓地の『RUM-スキップ・フォース』と『RR-レヴォリューション・ファルコン』を除外し、墓地のアルティメット・ファルコンを蘇生する!」

 

RR-アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

再び現れる黒鳥。余りにも早く、簡単な蘇生にセレナの表情が歪む。彼女の持つ舞獅子姫はこんなさも当然のように復帰させる事が出来ないのだ。

切り札の性能の差はそこまで開いてなかった。だがこの簡易過ぎる戦線復帰が大きい強みとなる。

 

「更に、LPを半分払い、墓地のサテライト・キャノン・ファルコンを対象に『RUM-ソウル・シェイブ・フォース』発動!オーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR-アルティメット・ファルコン』ッ!!」

 

黒咲 隼 LP1750→875

 

RR-アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

2体目、たった1枚のカードによって現れる黒鳥が更に状況を覆す。これで相討ちも出来なくなってしまった。空を駆ける圧倒的な威圧感に、セレナは思わず膝が折れそうになる。

 

「アルティメット・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3600→2600

 

「終わりだ。2体のアルティメット・ファルコンで、舞獅子姫とプレイヤーに攻撃、ファイナル・グロリアス・ブライト――!」

 

セレナ LP3550→2650→0

 

バチバチと雷がアルティメット・ファルコンの胸部に集束し、漆黒の球体が構成される。闇色の光を放つそれ、それは2つ重なり、セレナを呑み込む。激しき轟音、幾重もの光の柱は砂粒を撒き散らし――爆風が、セレナの身体を吹き飛ばす。

 

「ぐっ――う――ッ!!」

 

「キッ、ウキャッ!」

 

遺跡の壁に身体を打ち付けられ、苦痛が駆け抜け、ゴホゴホと咳が溢れる。負けた――ぼうっ、と呆けた眼でセレナは上空から消え行く黒鳥を眺める。そんなセレナへと、黒咲は静かに、デュエルディスクを構えたまま歩み寄る。

 

「……」

 

勝利を得たと言うのに、黒咲の顔色は変わらない。張りつめたような表情でセレナを見つめ、微動だにしない。

そんな彼からセレナを守るように、SALは立ち上がってセレナの前に出て、庇うように両手を広げ、歯を剥き出しにして威嚇する。

 

「……」

 

敵は憎きアカデミア。これが何時も通り、こちらを嘲笑う者だったらどれだけ楽だったろう。黒咲はデュエルディスクのパネルに存在する一点に指を歩ませ――瞬時に、大切な妹の顔が、セレナと重なる。

 

「――ッ!」

 

一瞬、ほんの一瞬だけ、黒咲の表情が悲痛に歪む。そして黒咲は構えたデュエルディスクを下ろし、セレナに背を向け、無言でその場から離れていく。

聞きたい事は幾つもある。だが――そんな気には、到底なれなかった。

後に残されたのは、たった一欠片しか残っていない心を抱く少女と、その友のみ。

 

「……行くぞ……SAL……」

 

「キー?」

 

それでも、セレナは倒れる事を拒み、フラフラと危うい足取りで立ち上がり、身体を引き摺りながらも歩を進める。

しかし、彼女の目があるものを捉える。冷気を漂わせる、氷山エリアの高くそびえる氷柱の中――青い仮面を被り、軍服に身を包んだ、アカデミアの使者の姿を。




人物紹介10

セレナ
所属 アカデミア
スタンダード次元に来るまでアカデミアで箱入り生活を行っていた柚子のそっくりさん。
そのせいか世間知らずで常識に疎い面があるが、とても良い子。ポンコツ気味だが、覇王と呼ばれる先生による英才教育を受け、頭は良い。
先生には色々お世話になったせいか、とてもなついており、バレットの事は口には出さないが父親と思っている。
黄色いリボンは先生から貰った宝物であり、スペアはSALが風呂敷としても使用している。
SALとは友達であり、仲が良く言葉が分かる。
ぶっちゃけ黒咲のデュエルを見るまで当初の目的を忘れていた。遊勝塾の生活が余程楽しかったのだろう。
使用デッキは『ムーンライト』。エースカードは『月光舞獅子姫』。


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第55話 ワンターンスリーキルゥ……

少し忙しくなりそうなので今の内に更新、次の更新は19日以降になりそうです。

遊矢「主人公って何さ」

コナミ「躊躇わない事さ」


黒咲とセレナの激闘に決着がついた頃、コナミは氷山エリアにて、その者達と対峙していた。巨人を模した仮面を被り、青い軍服に身を包んだ3人組のデュエリスト。コナミの姿を視界に収めた後、激しく狼狽える彼等を見て、コナミは小首を傾げた後、ポン、と手を打つ。

 

「あぁ、あの仮面が言っていた刺客」

 

「な、何故貴方がここに……!」

 

「い、いや待て!もしかしたら、あの殺意溢れる黒いのが赤に機種変したのかもしれん!」

 

「黒いのは嫌だ、黒いのは嫌だ、黒いのは嫌だ……!」

 

それぞれ反応は違うが、コナミに怯えているのは共通している。一体何があったのか、トラウマを掘り起こされたかのように、小刻みに震える仮面の男達。

しかしコナミにはそんな事は関係無い。彼は知った事かと言わんばかりに左腕に装着した黄金色のデュエルディスクを構え、光のプレートを展開する。その流れるような素早い動作に3人組は「ひぃ」と小さな悲鳴を上げ、後退りする。

 

「く、黒い方だ……」

 

「少なくともこっちでは無いな」

 

「黒いのは嫌だぁー!」

 

最早プライドをかなぐり捨て、吠える3人組。だが彼等は皆、デュエルに勝利すべく訓練を受けた戦士達。

恐怖心を振り払い、闘争心を振り絞って、盾型のデュエルディスクを構え、剣の形状をしたプレートを展開する。

 

「我等はアカデミアの精鋭、オベリスク・フォース……!エクシーズ次元の残党等には屈しない!」

 

「凄いなお前……」

 

「よし、ここはお前に任せて先に行く!」

 

「待ってぇ!1人にしないでぇ!誰か手ぇ握っててぇ!」

 

まるで漫才である。闘おうとする1人に怯え腰の2人。だが1人では荷が重いと思ったのだろう、1人目が2人を引き留める。「ええー」と語気を伸ばし、嫌々と言った風に並び立つ。

 

「俺……帰ったら好きな子に告白するんだ……」

 

「俺、ここに来る前に妹と喧嘩しちゃってさ……仲直りしねぇとな……」

 

「やる気あんの!?お前等真面目にやる気あんの!?生まれる時は違えど死ぬ時は一緒って言ったじゃん!」

 

死亡フラグを重ねる同僚の態度に青筋を浮かべ1人目が声を荒げて叱りつける。意外と余裕があるのでは無いだろうか?3人は何とか気を引き締め、眼前でスタンバイする赤帽子へと臨戦態勢を取る。

 

「準備は良いか――往くぞ!」

 

斯くして始まる。コナミとアカデミアの闘い。冷たき氷山がそびえ立つ中、熱き決闘の火蓋が今――切って下ろされる。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

先攻はコナミだ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、その中の2枚をオベリスク・フォース達に見せるように翳した後、デュエルディスクに叩きつける。

 

「オレは『曲芸の魔術師』と『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!更に慧眼を破壊する事でデッキの『賤竜の魔術師』をセッティング!そして賤竜のペンデュラム効果でエクストラデッキの慧眼を回収!」

 

「ペンデュラム……!?」

 

天に2つの光の柱が伸び、上空に魔方陣が輝く。その幻想的な光景、見た事も無いカード達にオベリスク・フォースが仮面の奥の瞳を見開き、ざわざわと動揺する。

 

「速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムスケールを破壊し、その枚数の数だけ効果を適用する!1つ目!相手に500のダメージ!」

 

オベリスク・フォースA LP4000→3500

 

オベリスク・フォースB LP4000→3500

 

オベリスク・フォースC LP4000→3500

 

「2つ目!デッキからペンデュラムモンスター、『刻剣の魔術師』を手札に加え、手札の慧眼と共にセッティング!慧眼を破壊し、『竜穴の魔術師』をセッティング!これでレベル3から7のモンスターを同時に召喚可能!揺れろ、光のペンデュラム。虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!『慧眼の魔術師』!『曲芸の魔術師』!『賤竜の魔術師』!『貴竜の魔術師』!」

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

虹色の輝きに導かれ、次々とコナミの『魔術師』モンスターがフィールドに降り立っていく。正しく魔術のような召喚法、融合次元のデュエリストを前に、振り子が揺れる。

 

「さぁ、次だ!レベル5の『曲芸の魔術師』にレベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!星海を切り裂く一筋の閃光よ!魂を震わし世界に轟け!!シンクロ召喚!!『閃光竜スターダスト』!!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

7つの星が空に並び、竜の形となって凍てつく大地へと咆哮を上げて降り立つ。雪のように白く眩い星屑を纏う、白銀の竜。

シンクロモンスター、これも彼等にとっては見慣れぬモンスター、召喚法だ。驚愕を浮かべるも、逆にそれが彼等に余裕を取り戻させる。

 

「エクシーズしない……黒いのじゃないのか……!?」

 

「殺意が来ない……い、生きてるんだ!」

 

「ゆ、油断するな!希望を抱かせ、それを奪う、それが奴のデュエルだ!」

 

言いたい放題である。本当に彼等はどんなデュエルを経験して来たのだろうか?

 

「オレは『クリバンデット』を召喚し、ターンエンド。この瞬間、『クリバンデット』をリリースし、デッキの上から5枚を捲り、魔法、罠カード1枚を手札に加える。オレは『アームズ・ホール』を手札に加え、墓地に送られた『E・HEROシャドー・ミスト』の効果で『E・HEROブレイズマン』を、『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』を手札に加える」

 

コナミ LP4000

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『慧眼の魔術師』(守備表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)

Pゾーン『竜穴の魔術師』『刻剣の魔術師』

手札3

 

「俺のターン、ドロー!よ、よし、やるぞ……!俺はカードを魔法カード、『打出の小槌』により、手札を2枚交換、2枚セットし、フィールド魔法、『歯車街』を発動!」

 

オベリスク・フォースAが発動したカード、そのフィールド魔法の影響により、氷の大地が割れ、クレバスから古びた歯車の音が響く街並みが浮上していく。

『歯車街』、コナミも良く知っているカードだ。妙な言葉遣いの恩師が使っていた、『アンティーク・ギア』と言うカテゴリにおいて必須とも言えるカード。コナミはこの古びた街並みを見て、故郷を思い返すように目を細め、感傷に浸る。

 

「そして自分フィールドにモンスターが存在しない場合、自分フィールドの表側表示で存在する『歯車街』を対象として、魔法カード、『古代の機械射出機』を発動!対象のカードを破壊し、デッキから『古代の機械飛竜』を召喚条件を無視して特殊召喚する!」

 

古代の機械飛竜 攻撃力1700

 

轟音を立て、崩れ行く歯車の街、氷上のフィールドに錆びたついた銅の身体を持つ機械の飛竜が現れる。

血色に輝く眼、身体の歯車を回転させながら、不気味な音を鳴らす古びたワイバーン。

しかしまだ歯車は回る。崩れ行く街の中、バチバチと桃色の雷が桜のように舞い散り、恐竜のような恐ろしい咆哮が響く。

 

「飛竜の効果で『古代の機械巨人』をサーチ、そして破壊された『歯車街』の効果により、デッキから『古代の機械熱核竜』を特殊召喚する!」

 

古代の機械熱核竜 攻撃力3000

 

ギシギシと破れ、ひびが走った翼を広げ、機械竜が上空に飛翔する。胸に熱を帯びたコアを埋め込み、妖しく輝く針のような脚を持つ古代の機竜。その背には金色のリングがバチバチと火花を上げている。これで攻撃力3000が2体並んだ。

 

「……知らないカードだな……」

 

「更に『古代の機械猟犬』を召喚!」

 

古代の機械猟犬 攻撃力1000

 

次に召喚されたのは今までとは一風変わった『アンティーク・ギア』モンスター、錆びる事無く、青銅の輝きを放つ、太い牙を持った猟犬型のモンスター、これもコナミの知らないカードだ。一体どのような効果を有しているのだろうか。

 

「効果で相手に600ダメージを与える!」

 

コナミ LP4000→3400

 

オベリスク・フォースB LP3500→2900

 

オベリスク・フォースC LP3500→2900

 

「そして自分フィールドにこのカード以外の『アンティーク・ギア』モンスターが存在する場合、『古代の機械猟犬』の効果発動!このカードを含む融合素材を手札、フィールドから墓地に送り、融合召喚を行う!俺はフィールドの『古代の機械飛竜』と『古代の機械猟犬』、そして手札の『古代の機械巨人』を融合!融合召喚!『古代の機械究極巨人』!!」

 

古代の機械究極巨人 攻撃力4400

 

巨人と猟犬、そして騎士が混じり合いて、脚部が4つ足となった巨人がフィールドを震撼させる。紅蓮に染まったモノアイ、研ぎ澄ました爪を装備した腕、究極を名を有するモンスターがこの序盤に登場する。

 

「……まさかあの人以外のデュエルでこいつを見れるとは……融合軸の『アンティーク・ギア』か……」

 

「ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォースA LP3500

フィールド『古代の機械究極巨人』(攻撃表示)『古代の機械熱核竜』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

続く2人目のオベリスク・フォースのターン、一体どのような戦術を取って来るのかとコナミは期待を寄せる。何せ1ターン目からロマンカードを出した上で攻撃力3000のモンスターを隣に並べるようなデュエリストが相手だ。同じ姿をしている2人目の、3人目も見た事が無いカードを扱うに違いない。

 

「俺は魔法カード、『古代の機械双造』を発動!自分、相手の墓地から『アンティーク・ギア』モンスター2体を対象とし、効果を無効にして特殊召喚する!このデュエルはバトルロイヤルルール!仲間も相手として数える!墓地の『古代の機械猟犬』と『古代の機械飛竜』を蘇生!」

 

古代の機械猟犬 攻撃力1000

 

古代の機械飛竜 攻撃力1700

 

1枚のカードから2体のモンスターの蘇生、単純ながら強力な効果だ。例えアドバンス召喚を軸にしていても対応出来る。その効果により、猟犬と飛竜、デザインが異なる2種の『アンティーク・ギア』が復活する。

 

「そして『古代の機械飛竜』を対象とし、魔法カード、『融合識別』を発動!エクストラデッキの『古代の機械参頭猟犬』を公開し、このターン、対象のモンスターを融合素材にする場合、公開したカードの同名モンスターとして扱う!そして魔法カード、『融合』!フィールドの『古代の機械参頭猟犬』となった飛竜と猟犬を融合!融合召喚!『古代の機械究極猟犬』!」

 

古代の機械究極猟犬 攻撃力2800

 

現れる2体目の究極。胸に巨大な顎を開き、3つの頭を持つケルベロス。背には6本の骨が飛び出し、3つの尾を伸ばしたワインレッドのボディの猟犬。

本来なら5枚ものカードを使用してやっと登場するモンスターなのだが、『沼地の魔神王』等の融合代用系のカードを使う事で一気に簡略化出来る。そしてその効果は『アンティーク・ギア』の中でも特に豪快。

 

「『古代の機械究極猟犬』が融合召喚に成功した場合、相手のLPを半分にする!」

 

コナミ LP3400→1700

 

オベリスク・フォースA LP3500→1750

 

オベリスク・フォースC LP2900→1450

 

「……おい」

 

「……バトルロイヤルルールだからね、仕方無いね」

 

その効果は確かに凶悪だった。何せ自分以外のLPを見境なく半分にするのだから。デュエルがバトルロイヤルルールと言う都合上、当然、相手の中には自分以外の全てのプレイヤーが含まれる。その結果がこのシュールな光景と言う訳である。実はこの3人組、ただの漫才トリオでは無いだろうか。

 

「……いやマジごめん、こうなるとは思って無くてさ」

 

「気をつけろよお前マジで、相手が相手だぞ」

 

「やめようぜ、ほらそのモンスター3回攻撃出来るしさ」

 

ついには敵を前にして慰め合う始末、真面目にやっているのだろうが、どうにも面白い。

 

「俺は『トロイホース』を召喚!」

 

トロイホース 攻撃力1600

 

次に現れたのは地属性専用のダブルコストモンスター。巨大な木馬だ。

 

「魔法カード、『二重召喚』発動、『トロイホース』をリリースし、アドバンス召喚!『古代の機械熱核竜』!」

 

古代の機械熱核竜 攻撃力3000

 

「ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォースB LP2900

フィールド『古代の機械究極猟犬』(攻撃表示)『古代の機械熱核竜』(攻撃表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!手札を全て捨て、5枚ドロー!次は魔法カード、『暗黒界の取引』!1枚ドローし、1枚捨てる。そして魔法カード、『シャッフル・リボーン』発動!墓地の『トロイホース』を蘇生!」

 

トロイホース 攻撃力1600

 

「『トロイホース』をリリースし、アドバンス召喚!『古代の機械熱核竜』!」

 

古代の機械熱核竜 攻撃力3000

 

「俺は永続魔法『王家の神殿』を発動!カードをセット、永続罠発動!『リビングデッドの呼び声』!墓地の『古代の機械巨竜』を特殊召喚!」

 

古代の機械巨竜 攻撃力3000

 

天空に舞う2体の古代機竜。雄々しく翼を広げる巨大な竜、獰猛な唸り声を鳴らす狂犬、錆びた歯車を回転させる巨人。集う大型モンスター達を前に、コナミはゴクリと喉を鳴らす。

 

「ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォースC LP1450

フィールド『古代の機械熱核竜』(攻撃表示)『古代の機械巨竜』(攻撃表示)

『王家の神殿』『リビングデッドの呼び声』

手札0

 

「オレのターン、ドロー!面白いじゃないか……魔法カード、『アームズ・ホール』を発動!デッキトップを墓地へ送り、装備魔法、『妖刀竹光』をサーチ!スターダストに装備し、魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→4

 

「そして儀式魔法、『オッドアイズ・アドベント』を発動!」

 

「儀式だと!?」

 

コナミが発動したカードは儀式魔法、儀式モンスターを召喚する為のカードだ。この舞網市では使い手が限られており、扱いが難しいカードとされている。

その理由は儀式モンスターがエクストラデッキのモンスターでは無く、メインデッキに入るモンスターと言うのが大きいだろう。

強力なモンスターでは無く、扱いやすく、召喚が容易いモンスターこそが求められているのだ。重要なのは汎用性の高さと言った所か。コナミには関係無い事であるが、このカードこそが赤馬 零児から受け取ったカードの1枚だ。

 

「フィールドのペンデュラムモンスター、慧眼と賤竜をリリースし、墓地のドラゴン族儀式モンスター、『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』を儀式召喚!」

 

オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン 攻撃力2800

 

今顕現し、氷のフィールドで咆哮を上げる大地の竜。重々しい轟音を鳴り響かせ、その2色の双眸を輝かせる。背に黒き大山を伸ばした巨大な儀式竜。

このカードこそが、赤馬 零児から受け取ったカードの2枚目。新たなる『オッドアイズ』の背に跨がり、コナミは更なる手を打つ。

 

「『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』が特殊召喚に成功した場合、相手の魔法、罠カードを全て手札に戻す!」

 

「くっ、ならば発動――出来ない――!?」

 

「残念だったな、この効果に対し、魔法、罠、モンスターの効果は発動出来ない」

 

禁止カードに指定されている『ハリケーン』を強化して内蔵した効果。その強力な地鳴らしがオベリスク・フォースのカードを弾き飛ばす。

だがこれだけでは勝利は遠い。何せ攻撃力3000以上のモンスターが4体も存在しているのだ。グラビティ・ドラゴンだけでは荷が重い。

 

「ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『曲芸の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

続いて振り子の軌道で現れる3体のモンスター、『魔術師』と『HERO』、コナミのデッキの2本柱がフィールドに集い、大地の竜が吠える。まだまだ終わらぬコナミの手、休まる事無く展開されていく。

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』サーチ!そのまま発動!フィールドの風属性モンスター、『賤竜の魔術師』と『E・HEROブレイズマン』を融合!融合召喚!『E・HERO Great TORNADO』!」

 

E・HERO Great TORNADO 攻撃力2800

 

吹き荒れる風は冷気を帯、猛吹雪となりてフィールドに舞い降りる。烈風を司る英雄。コナミが属性『HERO』の中でも頻繁に扱うモンスターだ。対戦相手達が大量の大型モンスターを使う為だろう。

英雄は周囲に竜巻を発生させ、まるで弾丸の如く『アンティーク・ギア』へと撃ち出す。

 

「Great TORNADOの効果により、相手フィールドのモンスター全ての攻守を半減する!タウンバーストッ!」

 

古代の機械究極巨人 攻撃力4400→2200

 

古代の機械究極猟犬 攻撃力2800→1400

 

古代の機械熱核竜 攻撃力3000→1500×3

 

これで対処出来る範囲に収まった。だがそれでもモンスターの数が足りず、総攻撃力も心もとない。何せここまで大型を簡単に出す者達だ。取り零せばコナミの身が危うい。

しかしコナミはこのターンで相手のLPを全て削り切るつもりなのだ。それだけの手数は揃っている。

 

「オレは手札を1枚捨て、墓地の『ジェット・シンクロン』を特殊召喚」

 

ジェット・シンクロン 守備力0

 

次なるモンスターはジェットエンジンを模した、青と白のカラーリングが特徴的な『シンクロン』モンスター。その名の通り、チューナーモンスターをカテゴリとした1枚だ。

レベル1で自己蘇生が可能なチューナーと言うだけでその優秀さが分かるだろう。そしてこれからコナミが行うのは勿論――シンクロ召喚――。

 

「オレはレベル5の『曲芸の魔術師』にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!星雨を束ねし聖翼よ!!魂を風に乗せ世界を巡れ!!『スターダスト・チャージ・ウォリアー』、シンクロ召喚!!」

 

スターダスト・チャージ・ウォリアー 攻撃力2000

 

星屑の雪が舞い散り、風が運んでいく。コナミのフィールドの閃光竜が咆哮すると共に星屑は人の形を作り、自身の分身であり、仕える従者が構成されていく。

竜と同じ頭部を模した兜と鎧、腰より伸びた左右合計6本の刃、コナミが白コナミとの戦いの中で発現したモンスターが今、竜へと頭を垂れて現れる。

 

「『スターダスト・チャージ・ウォリアー』がシンクロ召喚した時、デッキから1枚ドローする!」

 

コナミ 手札1→2

 

「そして魔法カード、『ミラクル・フュージョン』を発動!墓地の『E・HEROシャドー・ミスト』と『クリバンデット』を除外し、融合!融合召喚!『E・HEROエスクリダオ』!」

 

E・HEROエスクリダオ 攻撃力2500→2700

 

ドプリ、地面に水面のような漆黒の影が波打ち、人の形を作り出す。現れたのは正に闇の英雄。左腕は鋏のような鋭い刃、右腕は鈍い輝きを放つ鉤爪、腰からは曲刀が伸びており、全体的に鋭利なフォルムのモンスターだ。

 

「エスクリダオの攻撃力は墓地の『E・HERO』モンスターの数×100アップする。ダークコンセントレイション」

 

「馬鹿な……!」

 

「確かに奴とは違う……だが……!」

 

「やはり、強い……!」

 

集う5体のモンスター。その強力な布陣を見て思わず後退るオベリスク・フォース達。ペンデュラムに儀式、シンクロに融合と一見して纏まりの無いカードを束ねたデッキ。

だがそれこそがコナミの強み。状況に応じたカードを使いこなす事で、その可能性は大きく広がる。その事実が――オベリスク・フォースの眼前に立ち塞がる。

 

「墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、『スターダスト・チャージ・ウォリアー』の攻撃力を800アップする。そしてこのカードは特殊召喚された全てのモンスターに攻撃出来る」

 

スターダスト・チャージ・ウォリアー 攻撃力2000→2800

 

追い撃ちをかけるように明かされるその効果に、オベリスク・フォース達の顔色が絶望に染まる。魔法も罠も失われ、自慢のモンスターも弱体化された今――彼等に、勝機は無い。

 

「バトル――『スターダスト・チャージ・ウォリアー』で1人目の熱核竜に攻撃――流星乱射!」

 

「がふっ……!?」

 

オベリスク・フォースA LP1750→450

 

襲い来る刃の嵐、斬撃が竜の歯車を砕き、崩れ落ちる。一瞬の出来事、まるで悪夢のような光景が彼の目に焼きつく。あれだけ強力なモンスターがいとも容易く破壊されたのだ。

 

「2人目に攻撃」

 

「ぐっおぉぉぉぉっ!?」

 

オベリスク・フォースB LP2900→1500

 

「最初はお前か……TORNADOで3人目の熱核竜を攻撃、この瞬間、速攻魔法、『禁じられた聖杯』を発動。攻撃力を400アップ」

 

E・HERO GreatTORNADO 攻撃力2800→3200

 

「スーパーセル」

 

「がっ、あぁぁぁぁっ!」

 

オベリスク・フォースC LP1450→0

 

下される攻撃が3人目のオベリスク・フォースを襲い、その刃が全てを切り裂く。ズザザと冷気が上がり、1人目の脱落者が倒れ伏す。

倒れた彼は残った意識でふるふると小刻みに手を震わせながら、その口元に薄い笑みを描き――。

 

「へ……へ……!妹に……謝りたかったなぁ……」

 

ガクリ、その言葉を最後に、意識を手放す3人目のオベリスク・フォース。無惨に散る仲間の姿を目に、2人のオベリスク・フォースは唖然とした顔で呆ける。倒れた彼から目を離せず、彼等の脳裏に3人で過ごした思い出が、走馬灯のように流れていく。

3人でアカデミアに入学し、勉強にデュエルと励んだ日々。共に協力し、リレーで1位を取った体育祭。赤馬ランドで様々なアトラクションを楽しみ、プロフェッサーの像をハゲと小馬鹿にした修学旅行。皆で準備して、成功させた学園祭。色々な思い出が、シャボン玉のように浮かんでは消えていく。

 

「お、おい、しっかりしろ!おい、嘘だろ……?オベリスク・フォースC!Cィィィィィッ!」

 

「何でだよ……!お前、ここに来る前は元気に妹への土産を買ってたじゃないか!妹にちゃんと届けろよ!」

 

彼等にも、今までに過ごして来た日常や背景、熱いドラマがあるのだろう、友の倒れる姿に涙を流し、何度も呼びかけるオベリスク・フォースAとオベリスク・フォースB。

こんなふざけた事があって良いのかと運命を呪う2人。だが――そんな事、コナミに関係無い。

 

「次は、お前だ」

 

「ひ、ひぃ――!」

 

静かに右腕を上げ、その指先で次なる死刑宣告をオベリスク・フォースBに下す。その無情なる様は正に悪魔。血色に彩られたマントを翻した悪魔が、冷徹に鎌を降り下ろす。

 

「エスクリダオと『スターダスト』で攻撃――Darkdiffusion、流星閃撃」

 

オベリスク・フォースB LP1500→300→0

 

「告白……出来なかったぜ……」

 

「オベリスク・フォースBィィィィィッ!」

 

黒き影が魔物を生み出し、3つ首の竜を模したそれは『スターダスト』と共にBのフィールドのモンスターを食らい尽くし、鋭い牙がBのLPに突き立てられる。

何故、あんなにも一途な彼がこんな理不尽な目に合わなければならないのか、ドサリと倒れるBに駆け寄り、抱き起こすA。その仮面の赤い目からは熱い涙が溢れ、頬を伝う。

 

「チクショウ……!死亡フラグなんて立てるからそうなるんだ……お前が朝食ったおにぎりが鮭だったからチクショウ!」

 

「バトル」

 

まだ攻撃は終わってない。膝を落とし、Bを抱き起こすAへと、赤い悪魔が追撃をかける。その背には――大山を背負った2色の眼の竜。

絶対的な存在を目にし、Aはその闘志を粉々に砕かれる。

勝てる訳が無い。こんな化物を相手に、挑んだ事が間違いだったのだ。

ああ、きっとこれは天罰なのだろう。今までエクシーズ次元を襲い、人々をカード化して来た報い。彼等もきっと、今の自分のように、絶望したに違いない。叶うならば、彼等に、贖罪をしたかった。

 

「グラビティで、攻撃――!」

 

オベリスク・フォース LP450→0

 

カラン、究極巨人と共に、仮面が砕け、氷上へと落ちる。勝者はコナミ。3人の勇者は健闘空しく――敗北を喫した――だが。

 

「良い、デュエルだった――」

 

ヒーローは遅れてやって来る。

崩れ落ちるオベリスク・フォースの身体を受け止め、新たなるデュエリストがその場に姿を見せる。音も気配の一切も無く現れたその男の姿に、コナミは帽子の奥の目を見開き、呼吸をする事さえ忘れ呆然と立ち尽くす。

その原因は勿論、今登場したデュエリスト。紫のジャケットを纏い、左腕に巻かれている黄金のデュエルディスクが光を反射する。迸らんばかりの闘志をその身から放つその男の頭上には、紫色の、帽子。

 

「〝K〟……!」

 

「仇は取る」

 

ボロボロに傷ついたオベリスク・フォースを優しく地面に寝かせ、Kと呼ばれた男はコナミへとデュエルディスクを構え、剣型のプレートを展開する。

コナミもその口元に笑みを描き、対抗するように左腕のデュエルディスクを振るい、空気を裂く。

 

「「デュエル――!」」

 

今ここに、激闘の火蓋が、切って下ろされる。交錯する赤と紫、勝者は――どちらか。

 

――――――

 

時は少し前に遡る。コナミがオベリスク・フォースとデュエルを繰り広げる中、LDSに所属するエンタメデュエリスト、デニス・マックフィールドの助力を得て、竹田と梅杉を退けた遊矢もまた、遺跡エリアにて、同じ仮面をつけたオベリスク・フォース達とデュエルを行い、勝利したのだが――遊矢は現在、黒い霧を漂わせ、もがき苦しむように叫び続けていた。

 

「あがっ……ぐぅ、おおおおおっ!デュエル!デュエルデュエルデュエルゥゥゥゥゥッ!!」

 

「落ち着け遊矢!遊矢!」

 

権現坂が後ろから羽交い締めにし、何度も呼びかけるも、遊矢には届かず、両の眼を血のような紅に染め、暴れ狂う。

理由は不明だが、原因はオベリスク・フォースとのデュエルだろう。彼等とのデュエルの途中、遊矢の隣にいたユートが怒りを露にし、それが伝染したかのように遊矢の意識を乗っ取ったのだ。だが一概にユートのせいとは言えない。何故ならばユートも何者かに取り憑かれたように姿を消してしまったからだ。

そしてデュエルの最中、遊矢の手に2体の新しい『魔術師』モンスターが発現し、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』が共鳴、そして2体は新たなる存在へとランクアップを果たしたのだ。

怒りの黒に染まり、逆鱗に触れられたように暴れる竜と共に暴走する遊矢。

どうするべきか――権現坂が思案に駆られた時、その場に力強い仲間が姿を見せる。

 

「退け、権現坂。自分が目を覚ましてやる」

 

その男の登場に、権現坂は目を見開き、良く来てくれたと口端を持ち上げる。

紫の癖毛に鋭い目付き、引き締まり、生傷が絶えない肉体には中華風の衣装と闘気を纏ったその男は――。

 

「勝鬨!」

 

来る友の救援に、顔を綻ばせる権現坂。この窮地に現れた、頼れる背中を持つ少年の登場だ。喜ばずにはいられない。遊矢も勝鬨の身体から溢れる闘気を察知し、行き場を無くした怒りの矛先を勝鬨へと向ける。

 

「勝鬨……来てくれたのか」

 

「無論だ、この自分のデュエルで、遊矢!お前の闇をなぎ払う!」

 

権現坂の手より抜け出し、勝鬨へとデュエルディスクと闘争の意志を向ける遊矢。それを受けて勝鬨もまた、デュエルディスクを構える。覇王と覇者、2人の覇気が今、ぶつかり、火花を散らす。

闇に生きた者と、闇に堕ちた者のデュエル。勝鬨は遊矢に、あの時の光を取り戻させる為、その拳とカードを振るう。

 

「よし、ならば俺も……」

 

「……いや、ここは自分1人に任せてくれ」

 

同じくデュエルディスクを取り出す権現坂を一瞥し、勝鬨はそれを拒む。一体何故――権現坂が視線を向け、勝鬨が答える。

 

「これはきっと、自分が越えなければいけない事だ。自分がやらなけばならない事だ」

 

「……」

 

その瞳に覚悟を宿し、権現坂に語りかける勝鬨。それを見て権現坂は――。

 

「……遊矢を頼む」

 

静かに語りかける権現坂。彼も本当は遊矢を救いたいのだろう。しかし、勝鬨の覚悟を前に、その意志を汲み取る。勝鬨は無言で頷き、遊矢へと向き直る。

相手の準備は万端、互いに闘志を放ち、ぶつかり合う。

 

「「デュエル!!」」

 

果たして、その想いは、闇の中に届くのか――。

 

 

 

 

 




アホデミアの精鋭、オベリスク・フォース敗れる。
遊矢を救うデュエルは権ちゃんにしようと思ったけどダイジェストで闘ってるので断念、彼にはこれからも主役回がありそうなので、次があるか分からない勝鬨君にしました。1度は闇に生きてますし。

では次回、勝鬨君の勇気が遊矢を救うと信じて!


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第56話 邪悪な竜

オッドアイズ・レイジング・ドラゴン「チィーッス、センパァーイwww」

オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン「」

ろくな活躍がなかったオベリオン君、ついに互換が出る。
バーンに3回攻撃が出来るとは言え、格下しか破壊出来ないから架空デュエルで使いにくい。
オベリオンのお墓を立てるウラ……。


「俺のタァァァァンッ!!」

 

開始された遊矢対勝鬨のデュエル。先攻は遊矢だ。彼はその身に纏ったどす黒い瘴気を右腕に集わせ、デッキから5枚のカードを引き抜く。

普段の遊矢よりも荒々しさを増したような挙動だ。思わず勝鬨は額から汗を伝わせる。一体どんなカードで攻めて来るのか分からない。それこそが遊矢の恐ろしい所だろう、対策しようにも、予想だにしていない手を隠している。

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキトップから10枚を除外し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→6

 

「魔法カード、『手札断殺』!互いに2枚の手札を入れ替える」

 

「ならば自分は手札の1枚をアクションカードで代用しよう」

 

「俺は『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMインコーラス』でペンデュラムスケールをセッティング!インコーラスのペンデュラム効果を発動!このカードのスケールを7に変更、これでレベル5から6のモンスターが同時に召喚可能!」

 

天上に伸びる2つの柱、その中に遊矢のエースモンスターである真紅の体躯にオッドアイを輝かせ、その胸に宝玉を抱き、三日月を背負った竜、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』とエンターテイナーである遊矢を表す『EM』モンスターの1体、色彩が派手な3羽のインコが並んだカード、『EMインコーラス』が現れる。更に晴れた青空に光の線が幾重にも結ばれ、巨大な魔方陣が描かれる。そして――。

 

「揺れろ魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!出でよ、我が僕のモンスター!『EMキングベアー』!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200

 

魔方陣に孔が開き、輝く柱がフィールドに落ちる。瞬間、纏われた光は粉となって霧散し、中よりモンスターが姿を見せる。

その巨躯に見合わぬ小さな王冠を頭に被り、威風溢れるマントを靡かせた大熊の『EM』。その爪を振るい、獰猛に吠える。

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド。この瞬間、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』のペンデュラム効果を発動!このカードを破壊し、デッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスター、『EMペンデュラム・マジシャン』をサーチする!」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMキングベアー』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMインコーラス』

手札2

 

「自分のターン、ドロー!随分と大人しい出だしだな、自分としてはもっと暴れてくれても構わないがな……!自分は2枚の永続魔法、『炎舞―「天枢」』を発動し、『暗炎星―ユウシ』を召喚!」

 

暗炎星―ユウシ 攻撃力1600→1800

 

勝鬨が召喚したのは山吹色に燃える熊を従えた勇猛な武人。熊には熊をと言う事なのか、その効果もキングベアーに通じるものだ。狙い澄ましたようなカードの登場、その主である勝鬨は不敵に笑う。

 

「キングベアーは攻撃表示の場合、魔法、罠では破壊されない……しかし、モンスター効果は別だ。ユウシはフィールドの『炎舞』カードをコストにモンスターを破壊する。そしてその前に、天枢の効果で『勇炎星―エンショウ』を召喚!」

 

勇炎星―エンショウ 攻撃力1600→1800

 

2体目の『炎星』モンスターはユウシと同じく、夕日のように燃え盛る大猿を背負った武人。このカードはユウシと対になるカードだ。『炎舞』カードをコストに、魔法、罠を破壊する効果を持つ。

 

「エンショウの効果を使い、『炎舞―「天枢」』をコストに『EMインコーラス』を破壊!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、『EMインコーラス』をモンスター効果から守る」

 

「さて、ユウシの効果発動!『炎舞―「天枢」』を墓地に送り、キングベアーを破壊する!バトルだ!ユウシでダイレクトアタック!」

 

熊の形をした炎がキングベアーへと襲いかかり、その巨躯を焼き尽くす。同じ熊でもユウシの熊は動物が最も恐れる炎だ。如何に王者の名を冠していてもそれは変わらず、破壊され、追撃の火の粉が遊矢へと降りかかる。

だがこの程度の火の粉を浴びる程、遊矢は甘くは無い。王者が倒れようと、覇王は決して屈する事なく、逆に食らいつく。

 

「永続罠発動――『EMピンチヘルパー』!1ターンに1度、相手の直接攻撃を無効にし、デッキから効果を無効にして『EM』モンスターを特殊召喚する!俺は『EMジンライノ』を特殊召喚する!」

 

EMジンライノ 守備力1800

 

ユウシの攻撃を無効にし、遊矢が壁として呼び出したのは鋼鉄の肉体を持つ犀のモンスターだ。

守備力は1800、勝鬨のモンスターを上回っており、後の展開の布石となる効果を有したカード、その登場に勝鬨は「ほう」と小さく呟く。

 

「ならばメインフェイズ2に移行し、2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『魁炎星王―ソウコ』!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2200

 

次なる手はエクシーズ、勝鬨は2体の獣戦士族を素材に、炎の白虎を纏った『炎星』の王を召喚する。その溢れんばかりの闘気はその場全員の肌をピリピリと緊張させ、虎の咆哮は空気を震撼させる。

 

「ソウコがエクシーズ召喚した時、デッキから『炎舞』魔法、罠カードをセットする!『炎舞―「天キ」』をセットし、オープン!デッキのレベル4以下の獣戦士族モンスター、『立炎星―トウケイ』をサーチし、獣戦士族モンスターの攻撃力を100アップする!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2200→2300

 

「カードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

勝鬨 勇雄 LP4000

フィールド『魁炎星王―ソウコ』(攻撃表示)

『炎舞―「天キ」』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!俺は『EMラクダウン』をペンデュラムスケールにセッティングし、インコーラスのスケールを7に変更、ペンデュラム召喚!『EMキングベアー』!『EMペンデュラム・マジシャン』!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

現れたる2体の『EM』モンスター。1体は先程のターンに姿を見せた熊の王者、キングベアー。もう1体は『EM』のキーカードとなる厄介なモンスター、派手な赤の衣装に身を包み、振り子を手にしたマジシャン、『EMペンデュラム・マジシャン』だ。

このカードが登場すれば『EM』達は右へ左へと駆け回る大忙しのサーカス団となる。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果!特殊召喚時、自分のフィールドのカードを2枚まで破壊し、デッキから『EM』を破壊したカードの数だけサーチする!俺はペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、『EMドクロバット・ジョーカー』と『EMギタートル』を加える!そして『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

ステップを刻み、ペンデュラム・マジシャンと並ぶ『EM』の大役者が姿を見せる。トランプのマークを衣装に散りばめ、黒い仮面とシルクハットを被った道化のカード。

彼はその腕にボロボロのデュエルディスクらしいものをポン、と煙を上げて出現させ、デッキトップを黄金色に輝かせ、そのカードをドローして遊矢に投げる。

 

「ドクロバット・ジョーカーの召喚時、デッキから『EMリザードロー』をサーチし、ギタートルと共にセッティング!ギタートルの効果で1枚ドロー!更にリザードローを破壊し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2→3

 

この流れこそ遊矢の『EM』デッキの特徴、ペンデュラム・マジシャンでカードをサーチし、サーチしたカードで更に手札を増やす。これによりフィールドのカードを増やしながら手札は減っていないと言う結果が生まれるのだ。『EM』には優秀なサーチが揃っており、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』のペンデュラム効果が加わる事によってその確率は更に高まる。

 

「ペンデュラム・マジシャンとドクロバット・ジョーカーの2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』ッ!!」

 

そして2体のレベル4モンスターを束ね、反逆の逆鱗を唸らせる漆黒の竜がフィールドに降り立つ。鋭利な刃物となった両翼と尾を振るい、霧を晴らし、身体中に走る真紅の紋様を妖しく輝かせる。何より目を引くのは顎より伸びた牙。赤き雷を迸らせ、ユートの竜が今、降臨した。

 

「『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』のORUを2つ取り除き、ソウコを対象として効果発動!ソウコの攻撃力を半分にし、その数値をダーク・リベリオンに加える!トリーズン・ディスチャージ!」

 

「させん!永続罠、『炎舞―「天権」』を発動!メインフェイズ1の間、ソウコの効果は無効となり、このカード以外の効果を受けない!そして共通効果により、攻撃力を300上げる!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2200→2500

 

ダーク・リベリオンの両翼の宝玉より赤き雷が駆け抜け、ソウコへと襲いかかる。『フォース』を内蔵した強力で汎用性の高い効果だ。

しかし勝鬨とて負けてはいない。直ぐ様永続罠を使う事で、ソウコの周囲に緑色の炎が吹き出し、雷を防ぐ。同時に攻撃力の強化を行う事で、ダーク・リベリオンと並ばせた。

 

「バトル!キングベアーの効果を発動し、フィールドの『EM』カードの数×100攻撃力をアップする!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200→2600

 

フィールドに存在する『EM』はモンスターゾーンのキングベアー自身とジンライノ、魔法、罠ゾーンの『EMピンチヘルパー』とペンデュラムゾーンの『EMギタートル』の4枚。よって上昇値は400、ソウコの攻撃力と並んだ。

 

「ソウコを攻撃!」

 

「アクションマジック、『ティンクル・コメット』!キングベアーの攻撃力を1000ダウンし、500のダメージを与える!」

 

EMキングベアー 攻撃力2600→1600

 

榊 遊矢 LP4000→3500

 

ここで勝鬨が反撃の手を打つ。これでキングベアーの攻撃力が1000ダウンし、ソウコの攻撃力が上回る。打点勝負においては勝鬨が上なのか、ソウコのカウンターが炸裂し、火炎が遊矢を襲う。

 

榊 遊矢 LP3000→2500

 

「……俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP2500

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)『EMジンライノ』(守備表示)

『EMピンチヘルパー』セット1

Pゾーン『EMギタートル』

手札2

 

エクストラデッキや手札のカードを補充し、アドバンテージを稼ぐ遊矢とモンスターの攻撃力を上げる事で迎撃し、ペースを自分のものとする勝鬨。

手数を増やし、一気に仕掛けて来た所で流れを変えられたのは大きいだろう。流石は優勝候補の1人と言えよう。

 

「自分のターン、ドロー!その邪悪な竜が原因か?何故か見ていると酷く落ち着かん。自分は天権を墓地に送り、魔法カード、『マジック・プランター』を発動!デッキから2枚ドローする!」

 

勝鬨 勇雄 手札2→4

 

「そして永続魔法、『炎舞―「揺光」』を発動!手札のトウケイを捨て、表側表示で存在する『EMピンチヘルパー』を破壊し、獣戦士族モンスターの攻撃力を100アップする!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2200→2300

 

ソウコの背後で燃える虎が吠え、遊矢のフィールドの永続罠、『EMピンチヘルパー』を割る。攻撃無効に加え、デッキから『EM』をリクルートするカードだ。2回攻撃を防ぐ事が出来るこのカードは早めに処理しておきたい。

 

「まだ行くぞ!チューナーモンスター、『炎星師―チョウテン』を召喚!」

 

炎星師―チョウテン 攻撃力500→600

 

フィールドに現れる『炎星』達を導く轟炎導師。他の『炎星』とは違い、動物の形をした炎を伴わず、自身が炎の精霊となっている。

 

「チョウテンの召喚時効果により、墓地の守備力200以下の炎属性、レベル3モンスター、『立炎星―トウケイ』を守備表示で特殊召喚!」

 

立炎星―トウケイ 守備力100

 

チョウテンの導きを受け、紫色の炎の鶏がフィールドを飛翔し、2振りの短槍を肩に担いだ武将が姿を見せる。

 

「トウケイが炎星モンスターの効果で特殊召喚に成功した時、デッキから『炎星』モンスター1体を手札に加える!自分がサーチするのは『勇炎星―エンショウ』!そして揺光を墓地へ送り、デッキの『炎星―「天枢」』をセット、オープン!新たに得た召喚権でエンショウを召喚!」

 

勇炎星―エンショウ 攻撃力1600→1800

 

「そしてエンショウの効果で天キを墓地へ送り、そのセットカードを破壊する!」

 

エンショウの効果を使い、遊矢の防御壁を破壊する勝鬨。伏せられていたカードは『臨時収入』。ドローソースだ。

 

「レベル3のトウケイにレベル3のチョウテンをチューニング!シンクロ召喚!『炎星候―ホウシン』!」

 

炎星候―ホウシン 攻撃力2200→2300

 

エクシーズに続き、シンクロ召喚、星を繋ぐ召喚法により、炎の馬に跨がった武人が駆け抜ける。攻撃力は2200。決して高い数値とは言えないが、『炎舞』カードのサポートで400ポイント引き上げられる。

 

「ホウシンがシンクロ召喚した時、デッキから炎属性、レベル3モンスター、『英炎星―ホークエイ』を特殊召喚!」

 

英炎星―ホークエイ 守備力1500→2000

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2600→2800

 

炎星候―ホウシン 攻撃力2600→2800

 

勇炎星―エンショウ 攻撃力2100→2300

 

ホウシンの効果により、黄金の鷹の形をした炎を連れた弓の武人がフィールドに降り立つ。その効果は『炎舞』が存在する場合、『炎星』達の攻守を500アップする戦闘補助。これで更にモンスターが強化される。

 

「バトル!エンショウで『EMジンライノ』を攻撃!」

 

エンショウの攻撃により、鉄壁の硬度を持つ犀が砕かれる。そしてモンスターを破壊した事により、エンショウの効果が発動される。

 

「エンショウが戦闘によってモンスターを破壊し、墓地に送った時、デッキから『炎舞』魔法カードをセットする。『炎舞―「天キ」』をセット!そしてホウシンでダーク・リベリオンを攻撃!この瞬間、永続罠、『炎舞―「天セン」』を発動!ホウシンの攻撃力を700アップ!共通効果で全体を300アップ!」

 

炎星候ホウシン 攻撃力2800→3800

 

魁炎星王ソウコ 攻撃力2800→3100

 

勇炎星エンショウ 攻撃力2300→2600

 

英炎星ホークエイ 攻撃力1000→1300

 

「手札の『EMバリアバルーンバク』を捨て、戦闘ダメージを0にする」

 

ホウシンが炎の馬を駆り、赤き稲妻走らせる邪悪な竜を打ち倒す。断末魔の咆哮を上げ、フィールドから散る竜を確認し、これで遊矢の呪縛も解けるかと勝鬨は無言で視線を運ぶが――。

 

「まだ、のようだな」

 

相も変わらず、遊矢の顔つきは険しいまま、それ所か先程よりも身に纏う闇の瘴気が濃くなっている。真紅の眼は血を思わせるものになっており、勝鬨を射抜かんばかりに睨んでいる。一応言葉は通じるようだが、やはり遊矢では無い。人間離れした何かの気配をひしひしと勝鬨は感じ取る。

 

「遊矢……!こうなっては俺も……!」

 

「待て権現坂。ここは最後まで自分が闘おう。自分の男としての覚悟を通させてくれ」

 

様子の変わらない遊矢を見て、我慢の限界だと言わんばかりに権現坂がデュエルディスクを構えるが、勝鬨がそれを制する。これは1対1のデュエル、確かに2人で遊矢を止める事は正解だろう。しかし、それは勝鬨の意地が許さない。闇に生きた者にしか分からない事もある。勝鬨の覚悟が籠った目を見て、権現坂が引き下がる。

 

「……分かった……だがもしもお前でも止められない場合は――」

 

「分かっている。自分もそこまで馬鹿ではない」

 

「……」

 

「おい、何だその、いや、馬鹿じゃね?と言う目は。まぁ良い。ソウコでダイレクトアタック!」

 

続く猛虎の炎撃、白き炎を吹き上げ、地中を通して激しい火柱が遊矢へと駆け抜け襲いかかる。

これが通れば勝鬨の勝利、しかしそう簡単にいくなら遊矢はここまで勝ち上がっていない。この程度、遊矢にとって逆境でも何でも無いのだ。

 

「手札の『EMギッタンバッタ』を捨て、墓地の『EMバリアバルーンバク』の効果発動!守備表示で蘇生する!」

 

EMバリアバルーンバク 守備力2000

 

先程遊矢をダメージから守った風船のように丸いバクが墓地より浮かび上がり、炎を受け止め、弾け飛ぶ。これでこのターンの攻撃を防ぎ、ダメージも0、しかもこの効果で蘇生したバリアバルーンバクは除外されない為、手札にコストさえあれば直接攻撃を1回は防ぐ事が出来ると言う訳だ。

手札を増す事が容易な『EM』では条件は揃えやすいだろう。

 

「フ、やはり手強いな……メインフェイズ2に入り、天キをオープンし、チョウテンをサーチ、獣戦士族モンスターの攻撃力をアップする」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力3100→3200

 

炎星候―ホウシン 攻撃力3800→3900

 

勇炎星―エンショウ 攻撃力2600→2700

 

英炎星―ホークエイ 攻撃力1100→1200

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ。さて、邪悪な竜が消えた今、どう出る……?」

 

勝鬨 勇雄 LP4000

フィールド『魁炎星王―ソウコ』(攻撃表示)『炎星候―ホウシン』(攻撃表示)『勇炎星―エンショウ』(攻撃表示)『英炎星―ホークエイ』(守備表示)

『炎舞―「天枢」』『炎舞―「天キ」』『炎舞―「天セン」』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『金満な壺』を発動!エクストラデッキのリザードローと墓地のドクロバット・ジョーカー、ペンデュラム・マジシャンの3体のペンデュラムモンスターをデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

「そして『EMペンデュラム・マジシャン』をスケールにセッティング!ギタートルの効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「そして『EMヘイタイガー』を召喚!」

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700

 

遊矢が召喚したのは赤い軍服を着用した虎の兵士。戦闘で相手モンスターを破壊した上で墓地に送る事で『EM』をサーチする効果を持ち、ドクロバット・ジョーカー等の登場で価値は下がったものの、それでも充分な効果だ。

 

「ペンデュラム召喚!『EMインコーラス』!『EMラクダウン』!」

 

EMインコーラス 守備力500

 

EMラクダウン 守備力1800

 

次に振り子の召喚でフィールドに現れたのは色鮮やかな3羽のインコとシルクハットを被ったラクダのモンスター。低いステータスであり、守備表示と戦闘に介する事は無いだろうが、遊矢の狙いはそこではない。

ペンデュラム召喚自体がこの状況に亀裂を入れる。

 

「この瞬間、ペンデュラム・マジシャンの効果により、『EM』モンスターの攻撃力を1000アップする!」

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700→2700

 

EMインコーラス 攻撃力500→1500

 

EMラクダウン 攻撃力800→1800

 

そう、フィールドに『EM』モンスターがペンデュラム召喚された場合、ペンデュラム・マジシャンには『EM』モンスターの攻撃力を1000アップする効果がある。この効果を使い、ヘイタイガーの打点を上げたのだ。

 

「バトル!ヘイタイガーでホークエイを攻撃!」

 

「ホークエイが相手に破壊された場合、デッキの『炎舞』魔法カードをセットする!天キをセット!」

 

「ヘイタイガーの効果で『EMドクロバット・ジョーカー』をサーチ!カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP2500

フィールド『EMヘイタイガー』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)『EMラクダウン』(守備表示)

セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMペンデュラム・マジシャン』

手札1

 

「自分のターン、ドロー!天キをオープンし、『微炎星―リュウシシン』をサーチ!」

 

魁炎星―ソウコ 攻撃力2700→2800

 

炎星候―ホウシン 攻撃力2700→2800

 

勇炎星―エンショウ 攻撃力2200→2300

 

「天キを墓地へ送り、エンショウの効果でギタートル破壊!そしてリュウシシンを召喚!」

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1800→2300

 

フィールドに現れる山吹色の火竜を何体も引き連れた武人。流れるような展開、迷う事無き動作が遊矢を追い詰める。

 

「フィールドの天キと天センを墓地へ送り、リュウシシンの効果発動!墓地のトウケイを蘇生する!」

 

立炎星―トウケイ 攻撃力1500→1600

 

「トウケイの効果で『炎星師―チョウテン』をサーチ!そしてエンショウとリュウシシンでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『間炎星―コウカンショウ』!」

 

間炎星―コウカンショウ 攻撃力1800→1900

 

2度目のエクシーズ、紅冠鳥を肩に乗せた大導士が姿を見せる。攻撃力は低いが、その効果は強力。暗黒寺とのデュエルでも大きく貢献した。それが今、遊矢へと向かう。

 

「そしてトウケイの効果で天枢とデッキの『炎舞―「玉衝」』を交換する!」

 

「ッ!罠発動!『エンタメ・フラッシュ』!相手フィールド上の攻撃表示モンスター全てを守備表示にする!」

 

玉衝はセットされた魔法、罠の発動を封じるカード、遊矢は本能でその危険性を感じ取り、先手を打つ。これで勝鬨のモンスターはこのターン、遊矢を攻撃出来なくなった。しかし効果は無効化されていない。勝鬨は即座に切り替え、コウカンショウの周囲で回転するORUを弾け飛ばせる。

 

「コウカンショウのORUを2つ取り除き、自分の墓地の天キと天枢と、お前の墓地の『EMジンライノ』とフィールドの『EMペンデュラム・マジシャン』をデッキにバウンスする!自分はこれでターンエンドだ」

 

勝鬨 勇雄 LP4000

フィールド『魁炎星王―ソウコ』(守備表示)『間炎星―コウカンショウ』(守備表示)『炎星候―ホウシン』(守備表示)『立炎星―トウケイ』(守備表示)

セット2

手札3

 

「ドクロバット・ジョーカーを召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

「召喚時効果でリザードローをサーチ、ギタートルとセッティングして破壊!ギタートルと合わせて2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1→2

 

「魔法カード、『ペンデュラム・コール』を発動!デッキの『相克の魔術師』と『相生の魔術師』をサーチ!墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、ギタートルをデッキに戻して1枚ドロー!そして『強欲で貪欲な壺』を発動!」

 

榊 遊矢 手札2→3→4

 

苛烈でありながら鮮やかなタクティクス。研ぎ澄まされた本能が理性をも支配し、遊矢のデュエルを加速させる。惜しむらくは相手が本物の榊 遊矢では無い事か、見事な手管も闇に堕ちていなければ素直に称賛出来ただろう。そして今、2体の『魔術師』が遊矢のフィールドに柱となって伸びていく。

 

「『相克の魔術師』と『相生の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル3から7のモンスターを同時に召喚可能!ペンデュラム召喚!雄々しくも美しく輝く2色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

真紅と翡翠の眼を輝かせ、燃えるような赤の体躯を震わせる遊矢のエースカード。その背に三日月を負い、胸に青き宝玉を抱いた竜。雄々しい遠吠えが大気を震撼させ、勝鬨がおもわず後ずさる。

 

「手札のアクションカードを1枚墓地へ送り、魔法カード、『カード・フリッパー』発動!相手モンスター全ての表示形式を変更する!更にフィールドの『オッドアイズ』とラクダウンをリリース!灼熱の地より生還せし獣よ!龍の眼と一つとなりて新たな力を生み出さん!出でよ!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』ッ!!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

勝鬨のエクシーズ、シンクロモンスターに対抗し、遊矢が両手を合わせ、融合モンスターを特殊召喚する。青い毛並みを伸ばし、獣の骨を身体に纏った野生の竜。その額では黄金の眼が開き、敵と見定めた獣戦士を睨む。

 

「バトル!ヘイタイガーでトウケイを、ドクロバット・ジョーカーでコウカンショウを攻撃!」

 

勝鬨 勇雄 LP4000→3900

 

虎の兵士と道化師による双撃がトウケイとコウカンショウに炸裂し、2体を破壊する。ドクロバット・ジョーカーは相討ちだが、ペンデュラムモンスターの為、そう簡単な話では無いだろう。

 

「ヘイタイガーの効果でEMカレイドスコーピオンをサーチし、ビーストアイズでソウコを攻撃!ヘルダイブバーストッ!!」

 

獣の眼が見開き、ビーストアイズはそのアギトより獄炎を放つ。強大な炎の波はソウコの白虎をも呑み込み、炎が相手でも焼き尽くす。

ソウコの効果は『炎舞』カードを3枚墓地に送らなければ使用できない。魔法、罠カードのスペースを空けたいが為とは言え、迂闊だったと勝鬨は舌打ちを鳴らす。

 

勝鬨 勇雄 LP3900→3800

 

「更にビーストアイズの効果により、素材となったラクダウンの攻撃力800のダメージを与える!」

 

勝鬨 勇雄 LP3100→2300

 

ビーストアイズの攻撃が実体化し、火の手が勝鬨を焦がさんばかりに燃え盛る。合計1600のダメージ。しかしLPよりも身体へのダメージが大きく、あの勝鬨さえも苦悶の表情を作り、息を切らす。土を鳴らしながら後退り、足跡の形が抉れていく。たたらを踏みながらも倒れる事が無いのは流石と言うべきか。

 

「……ッ!効かないな……笑えもしないぞ、今のお前の攻撃ではな……!」

 

ニヤリと口角を吊り上げ、その額から冷や汗を垂らしながら必死に強がる勝鬨。だがあながち、これは嘘では無い。

勝鬨にとって本当に笑えるデュエルは遊矢本来のエンタメデュエル。闇に堕ちた彼は見ているだけで黒歴史を掘り起こされて苦笑いしかでない。

 

「ッ!カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP2500

フィールド『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMヘイタイガー』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)

セット1

Pゾーン『相克の魔術師』『相生の魔術師』

手札1

 

「自分のターン、ドロー!リバースカードオープン!『炎舞―「玉衝」』!セットカードの発動を封じ、獣戦士族モンスターの攻撃力を100アップ!そしてホウシンを攻撃表示に!」

 

炎星候―ホウシン 攻撃力2200→2300

 

「『炎星師―チョウテン』を召喚!」

 

炎星師―チョウテン 攻撃力500→600

 

「チョウテンの効果で墓地のトウケイを蘇生する!」

 

立炎星―トウケイ 守備力100

 

「トウケイの効果で『暗炎星―ユウシ』をサーチ!そして玉衝を墓地に送り、3枚目の天枢をセット、オープン!効果でユウシを追加召喚!」

 

暗炎星―ユウシ 攻撃力1600→1700

 

「天枢を墓地に送り、ユウシの効果でビーストアイズ破壊!」

 

山吹色に燃える炎を操り、ユウシがビーストアイズを撃破する。これで難関を突破した。残るモンスターはヘイタイガーとインコーラス、厄介なのはインコーラスか。

このモンスターは戦闘で破壊されればペンデュラムモンスター以外の『EM』の呼び出す。バリアバルーンバクを呼ばれれば手こずる上に手札のカレイドスコーピオンを捨てて蘇生されてしまう。だが――それでも、進むしかない。

 

「更にレベル3のトウケイにレベル3のチョウテンをチューニング!シンクロ召喚!『炎星候―ホウシン』!」

 

炎星候―ホウシン 攻撃力2200

 

「ホウシンの効果でデッキの『英炎星―ホークエイ』を特殊召喚!」

 

英炎星―ホークエイ 守備力1500

 

「バトルだ!ホウシンでヘイタイガーを攻撃!」

 

「罠発動――『幻獣の角』!発動後、ヘイタイガーの装備カードとなり、攻撃力を800アップする!」

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700→2500

 

ホウシンがヘイタイガーに向かい、破壊を試みるも届かない。遊矢の発動したカードにより、ヘイタイガーの頭に2本の角が生え、両手の爪が禍々しさを得て伸びていく。兵士から猛虎へと変わったヘイタイガーが逆にホウシンを切り裂く。

 

勝鬨 勇雄 LP2300→2000

 

「ヘイタイガーの効果で『EMペンデュラム・マジシャン』をサーチ!『幻獣の角』の効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「チッ、面倒な……!ユウシでインコーラスを攻撃!」

 

「インコーラスの効果で『EMロングフォーン・ブル』を特殊召喚!」

 

EMロングフォーン・ブル 守備力1200

 

インコーラスが破壊される間際、美しい音色を運び、それに応えるべく、角にかけた電話を鳴らしながら牡牛のモンスターが姿を見せる。

 

「ロングフォーン・ブルが特殊召喚に成功した場合、デッキからペンデュラムモンスター以外の『EM』を手札に加える!『EMバリアバルーンバク』を手札に!」

 

「ホウシンでロングフォーン・ブルを攻撃!」

 

勝鬨のモンスターによる攻撃と遊矢のカード効果による応酬が火花を散らす。結果的にヘイタイガー以外のモンスターを制したものの、状況は遊矢の方が有利だ。

優勝候補と互角以上の闘いを繰り広げる素晴らしい成長振りだが喜ぶ事は出来ない。戦術は遊矢のものであっても、デュエルをしているのは遊矢では無いからだ。むしろ勝手に遊矢の戦法を、カードを使う何者かの存在が苛立たしい。

 

「自分はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

勝鬨 勇雄 LP2000

フィールド『炎星候―ホウシン』(攻撃表示)『暗炎星―ユウシ』(攻撃表示)『立炎星―トウケイ』(守備表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『EMカレイドスコーピオン』!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMラクダウン』!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMラクダウン 守備力1800

 

フィールドに集う4体のモンスター、『オッドアイズ』と『EM』。雄々しき竜と愉快なカード達がデュエルを更に加速させる。特にペンデュラム・マジシャンの厄介さは最早言うまでも無いだろう。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果でペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、『EMオッドアイズ・ユニコーン』と『EMマンモスプラッシュ』を手札に加える!そのままセッティングし、魔法カード、『置換融合』を発動!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMペンデュラム・マジシャン』を融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』ッ!!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

魔天の龍が宙を駆る。背の三日月を、満月を思わせる金色のリングへと変え、左目を金属で覆った真紅の竜。遊矢のデッキではビーストアイズと共に最高の攻撃力を有するモンスターだ。

その効果も強力無比、フィニッシャーに相応しい性能だ。

 

「この瞬間、マンモスプラッシュのペンデュラム効果発動!エクストラデッキから『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を特殊召喚!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

更にマンモスプラッシュの効果を使い、たった今エクストラデッキに送られたばかりの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』がフィールドに戻る。だがまだまだ、遊矢の手は止まらない。

 

「墓地の『置換融合』を除外し、墓地の融合モンスター、『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「フィールドの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』とラクダウンをリリースし、『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を特殊召喚!!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

再びフィールドに現れ、魔天の竜の隣に並ぶ獣の眼。知性と野生、2つの相反する力を宿したオッドアイの竜、その双眸と獰猛なる咆哮が勝鬨に吹き荒れる。

紫雲院 素良の影響を受け、発現した融合の力、強力な切り札が今、フィールドに顕現する。

 

「更にヘイタイガーを対象にカレイドスコーピオンの効果発動!このターン、ヘイタイガーは特殊召喚された全てのモンスターに攻撃出来る!やれ!ヘイタイガー!」

 

勝鬨 勇雄 LP2000→1700→800

 

「ヘイタイガーと『幻獣の角』の効果発動!『EMシール・ウール』をサーチし、3枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→6

 

カレイドスコーピオンの全体攻撃とヘイタイガーのサーチ効果、『幻獣の角』のドロー効果を合わせた強力なコンボ、それにより大量の手札が遊矢へと渡る。合計手札6枚、ここまで展開しておいて尽きる所か増えている。

 

「この瞬間を待っていた!罠発動!『裁きの天秤』!お前のフィールドと自分のフィールドと手札の差、4枚をドローする!」

 

勝鬨 勇雄 手札1→5

 

しかし勝鬨も反撃の手を取る。『炎星』デッキには相性が良いとは言えないが、この状況では強力なドローソースだ。

 

「止めだ!ルーンアイズ、ビーストアイズで攻撃!」

 

「手札の『バトルフェーダー』を特殊召喚し、バトルフェイズを終了する!」

 

バトルフェーダー 守備力0

 

勝鬨が手札からデュエルディスクに差し込んだのはバトルフェイズ自体を終了させる最上級の防御札。これならばルーンアイズの効果を受けない効果もすり抜ける事が出来る。

小さな悪魔のモンスターが鐘を鳴らし、バトルフェイズを終了する。

 

「俺はカードを3枚伏せ、ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP2500

フィールド『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMヘイタイガー』(攻撃表示)『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)

『幻獣の角』セット3

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMマンモスプラッシュ』

手札3

 

互いに凌ぎを削る熱きデュエル。次第に遊矢が押していく中、それでも勝鬨は諦めない。どれだけ傷つこうと、肩で息を切らしながらもその瞳からは闘志は消えない。

闇の中は暗く、冷たく、何より、寂しい。苦しみもがく友を見捨てる事等、彼には出来ない。彼が自分を救ってくれた時のように、勝鬨もまた、救いの手を差し伸べる。闇の瘴気に包まれ、血色の眼を向ける遊矢。そんな彼は、勝鬨の知る遊矢ではない。彼の知る遊矢は――。

 

「……遊矢――自分は――」

 

不意にその口元に薄い笑みを描き、目を細める勝鬨。思い起こすのは、昔、自分が梁山泊塾へと入る前の記憶。

とぼとぼと歩む彼の目に、河川敷でデュエルする親子の輝く笑顔が写り込む。その眩い笑顔は、夕日に映え、彼には何よりも暖かいものに見えて――。

 

「お前に、憧れていたんだ――!」

 

蘇るありし日の記憶。ぽつぽつと呟き始める勝鬨に、遊矢は答えない。だが――闇に堕ちた今の彼に、勝鬨は光を見出だす。

その光は――昔見た、夕日の暖かさと、似ていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ロジェ長官のカードのOCG化やレベステの禁止とアニメで超融合が出たりと最近色々衝撃を受ける中、一番驚いたのはコナミ君がデュエルリンクスでメタルスライム扱いで登場するらしいと聞いた事です。良かったねコナミ君。
ところでタッグフォースはまだです?デュエルリンクスのモブ可愛いから攻略したいんですけど。SP?まずブルーアイズをリリースしてブルーアイズを出すのをやめてね、攻略キャラも少ないし、早くバレットさんとデュエルしたい。


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第57話 レベルが無いと言う事は、レベル0と言う事だ!

やっぱり少森寺塾の塾生って凄い、そう思いました。


勝鬨 勇雄は幼き頃より闇の中で生きて来た。親元を離れ、勝利を全てとした梁山泊塾に所属し、塾長や塾生と共に、厳しい修行に身を置いて来たのだ。

地獄のような閉ざした空間、同じ塾生でさえ敵として見なければならない、閉鎖的で暗い日々は次第に勝鬨の精神を腐敗させ、それが常だと刷り込ませていった。

力こそ全て、勝利こそ正義、闘い、戦う、修羅の道を進み、何が目標かさえ分からない中、勝鬨の前に、彼が現れた。

 

赤い帽子を目深に被り、ジャケットを纏った不思議な少年。彼と闘う中、勝鬨は本当のデュエルを知った。

全力で互いの信念をぶつけ合い、分かり合い、笑い合うデュエル。それは勝鬨のデュエリストとしての魂を震わせた。

 

自分のデュエルでも、誰かを笑顔に出来るのだろうか?その問いを胸に、勝鬨は塾長である郷田川とデュエルを通じ、分かり合えた。1度は闇に生きた彼だからこそ、真に分かる事の出来る苦悩、勝鬨はそれを知り、決心したのだ。

自分のように本当のデュエルを知らず、闇の中で苦しむ者を救う事を。そして今――勝鬨 勇雄のルーツが、目の前で立ち塞がる。

 

榊 遊矢。彼の姿は幼き頃より勝鬨の目に焼きついている。暗く沈んだ彼の底無し沼のような眼に、彼とその父、榊 遊勝が山吹色に燃える夕日を背に、眩い笑顔でデュエルを行う光景が。

そんな彼が、憎くて憎くて仕方無かった。何故自分が暗がりにいるのに、あの少年は日向にいるのだろうと。今思えば本当に醜い嫉妬、八つ当たりである。

 

そんな彼が今、闇に堕ち、何者かに乗っ取られ、苦しみもがいている。昔の自分ならどう思うだろうか?

ざまぁ見ろと鼻で笑う?分からないが――今は、彼を見ると、苦しくて胸が引き裂かれそうになる。

 

「自分は昔……お前に嫉妬していた……。何故自分がこんなにも苦しんで、お前は笑っているのか、その差が嫌で仕方無かった……!お前のように、誰でも良い!笑い合ってデュエルをしたかった!独りでいるのが嫌だったんだ!」

 

「勝鬨……!」

 

勝鬨の悲痛な叫びが木霊する。胸元を握り締め、吐き出すように語る彼の姿を見て、権現坂は思わずその名を呼ぶ。遊矢はそんな勝鬨に答えない、それでも勝鬨の言葉は止まらない。

 

「だけどそれはお前も一緒だったんだろう!?権現坂や柚子から聞いた!父が行方不明となり、お前は周りから虐げられた!そんなお前の事情も知らずに、自分はお前がのうのうと生きている奴と決めつけてたんだ!だが違う!お前は強い奴だ!どんな時でも笑顔で、皆を笑顔にする凄い奴だ!だけど今は嫉妬しない、何故だか分かるか!?」

 

止まらない、勝鬨の感情の発露が降り注ぐ。苦しみも悲しみも、全てを宿したそれは、遊矢の心に向かい、必死に動かそうと、彼を取り戻そうと手を差し伸べていく。それでも――遊矢の顔色は、変わらない。

 

「独りじゃないからだ!お前が友達だからだ!お前のように強くなりたいと思っても、負けられないと思っても、むしろ誇らしい!自分の友は凄い奴だと胸を張れる!強くなれる!だからこそお前が昔の自分のように、苦しんでいると自分も苦しい!嫌なんだ!お前のデュエルは、こんなものじゃないだろう!」

 

孤独を知り、そうでは無くなったからこそ、分かった事、大切な友を得たからこそ気づいた事。

何もかも、楽しい事は全て、友が教えてくれた。気づかせてくれたのだ。だからこそ、勝鬨もまた、その手を友へと伸ばす。

独りは寂しい。暗い闇の中で闘う彼に、届くまで何度でも手を伸ばす。どれだけ傷つこうと、どれだけ苦しもうと、友を失う痛みに比べれば大したものではない。

 

「手を伸ばせ!自分が必ず、掴み取ってやる!お前を絶対に独りにはしない!かっとビングだ!遊矢ぁっ!!」

 

熱く、想いの籠った叫びが右腕へと炎を灯し、その紅蓮の闘志が、デッキより1枚のカードを引き抜く。天空に描く炎のアーク、その軌跡が、遊矢の瞳に鮮明に写る。

 

「魔法カード、『手札抹殺』を発動し、手札を交換!そして墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『バトルフェーダー』を戻し、1枚ドロー!永続魔法、『炎舞―「天キ」』発動!デッキより『輪廻天狗』を手札に加え、魔法カード、『融合』を発動!手札の『輪廻天狗』と『沼地の魔神王』を融合!天駆ける星、地を飛び……今1つとなって悠久の覇者たる星と輝け!融合召喚!来い!『覇翔星イダテン』!!」

 

覇翔星イダテン 攻撃力3000

 

ついに現れる勝鬨のエースカード。紫の兜と甲冑を纏い、真紅の外套を靡かせた天地の覇者。黒き槍を構え、今友の闇を貫かんと吠える。

 

「更に魔法カード、『アームズ・ホール』を発動!デッキトップを墓地に送り、デッキより装備魔法、『アサルト・アーマー』をサーチし、イダテンに装備!」

 

覇翔星イダテン 攻撃力3000→3300

 

「そして『アサルト・アーマー』を墓地へ送り、このターン、イダテンは2回攻撃が可能となる!更に墓地の天キ1枚、天枢2枚、天権1枚、天セン1枚、揺光1枚、玉衝1枚、合計7枚の『炎舞』を除外し、罠発動!『極炎舞―「星斗」』!墓地の『暗炎星―ユウシ』、『微炎星―リュウシシン』、『勇炎星―エンショウ』2体を特殊召喚!!」

 

暗炎星―ユウシ 攻撃力1600→1700

 

勇炎星―エンショウ 攻撃力1600→1700×2

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1800→1900

 

「まだだ!その後デッキより4枚の『炎舞』をセットする!天権と揺光、そして玉衝2枚をセット!そして揺光と玉衝をオープン!そのセットカードを封じる!」

 

暗炎星―ユウシ 攻撃力1700→2000

 

勇炎星―エンショウ 攻撃力1700→2000×2

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1900→2100

 

「玉衝を墓地へ送り、エンショウの効果でセットカード破壊!もう1枚の玉衝も墓地へ送り、セットカード破壊!ユウシの効果でヘイタイガー破壊!届かせる!この拳を!」

 

破壊、破壊、破壊。エンショウの効果を使い、遊矢のフィールドのカードを次々と破壊し、着実に道を切り開いていく勝鬨。

少しずつ、だが確実に、不器用ながらも遊矢の心まで歩んでいく。その手が届くまで、手を伸ばす。

 

「2体のエンショウでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『魁炎星王―ソウコ』!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2200→2300

 

「ソウコの効果!デッキより天枢をセット!オープン!リュウシシンの効果で天センセット!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2300→2400

 

暗炎星―ユウシ 攻撃力1700→1800

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1900→2000

 

「リュウシシンの効果を使い、天キと天枢を墓地へ送り、墓地のソウコを特殊召喚!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2200

 

「まだまだぁ!リュウシシンとユウシでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『間炎星―コウカンショウ』!」

 

間炎星―コウカンショウ 攻撃力1800

 

「コウカンショウのORUを2つ取り除き、墓地の天キと天枢、お前のフィールドのルーンアイズとカレイドスコーピオンをバウンスする!残るはビーストアイズのみ!バトルだ!イダテンでビーストアイズに攻撃!この瞬間、イダテンと戦闘を行うビーストアイズの攻撃力を0にする!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→0

 

「……手札のバリアバルーンバクを捨て、ダメージを0にする」

 

決死を賭けたエースカードのぶつかり合い。火花を散らし、爆風を吹き荒らす激突は、ビーストアイズを呑み込み、遊矢にも牙を剥く。しかし遊矢の手にはモンスター同士の戦闘ダメージを0にするバリアバルーンバクが握られている。直ぐ様手札から切り、勝鬨の攻撃を防ぐ。

 

「まだ終わらん!イダテン、ダイレクトアタック!」

 

「永続罠、『強化蘇生』発動!墓地のギッタンバッタを蘇生し、レベルを1つ上げ、攻守を100アップする!」

 

EMギッタンバッタ 守備力1200→1300 レベル4→5

 

イダテンの黒槍を防ぎ切ったのはシーソーのように上下するバッタのモンスターだ。息もつかせぬ攻防、押しては返すカード達の波が荒波に変わっていく。見ている権現坂でさえ緊張の余り、言葉が出ない。

 

「ならばイダテンで攻撃!」

 

「特殊召喚されたギッタンバッタは1ターンに1度戦闘では破壊されない!」

 

「ッ!コウカンショウで攻撃!ソウコでダイレクトアタック!」

 

「手札の『EMシール・イール』を捨て、バリアバルーンバク蘇生――!」

 

EMバリアバルーンバク 守備力2000

 

ビーストアイズ、ギッタンバッタ、バリアバルーンと3体のモンスターが立ち塞がる。何度も殴っても遊矢の壁が現れ、勝鬨の拳が届かない。これが遊矢の心の闇、それでも勝鬨は止まらない。友の笑顔を取り戻す為、その拳を振り上げる。ソウコでバリアバルーンバクを破壊――壁は全て、砕く。

 

「ソウコでダイレクトアタック――!」

 

榊 遊矢 LP2500→300

 

「ぐっう――!」

 

「遊矢ぁっ!戻って来い!」

 

全ての力を振り絞り、全ての壁を打ち砕く。傷ついても、倒れても、それでも勝鬨は立ち上がる。傷つく事は怖くない。倒れる事を恐れない。本当に嫌な事は、大切な友を失う事。

握り締めた拳を掌に変え、勝鬨は遊矢へとその手を差し伸べる。そんな彼に対し、遊矢は――。

 

「勝……鬨……ッ!」

 

息を切らし、肩を震わせ上げられた顔、右の眼は血色に彩られた、遊矢のものではない、何者かの瞳。しかし左眼は――燃える炎を思わせる、遊矢本来の真紅の瞳。

途切れながらも遊矢は勝鬨の名を呼び、その手を伸ばす。届いた――。勝鬨の想いが壁を壊し、遊矢の心まで辿り着いたのだ。その事実に、親友である権現坂は表情を緩める。

 

「遊矢――!」

 

「お前も、闘っているのだな……!必ず、救ってやる!自分はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

勝鬨 勇雄 LP800

フィールド『覇翔星イダテン』(攻撃表示)『魁炎星王―ソウコ』(攻撃表示)×2『間炎星―コウカンショウ』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

あと少しあと少しで遊矢の手を掴める。うっすらとだが意識を取り戻した遊矢を確認し、安堵する勝鬨。だが油断は出来ない。

ここからが本番、最後の勝負なのだ。遊矢を乗っ取った何者かが確実に動きを見せる時だ。勝鬨もこのターンに全てを賭ける。

 

「俺の……ターン……ドロォォォォォッ!!」

 

運命を賭けたラストターン、遊矢は右腕に全ての闇の瘴気を集わせ、暗黒のアークを描く。漆黒の軌跡が宙を舞い、激しい突風が追随する。砂を巻き上げ、煙を散らす。来る、邪悪な力が遊矢を包み、その力を解き放つ。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』と『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『EMヘイタイガー』、『EMギッタンバッタ』、『EMバリアバルーンバク』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムゾーンのカードを破壊する!そしてお前に500のダメージを与える!」

 

「させん!アクションマジック、『フレイム・ガード』!ダメージを0に!」

 

「更にデッキからペンデュラムモンスター、『EMシルバー・クロウ』をサーチ!魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』発動!エクストラデッキの『相克の魔術師』と『相生の魔術師』を手札に加え、セッティング!」

 

再び遊矢のフィールドに揺れるペンデュラム。2体の『魔術師』が光の柱として空に伸び、巨大な魔方陣が浮かび上がる。

 

「ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!『EMシルバー・クロウ』!『EMドクロバット・ジョーカー』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

振り子の軌道で現れる3体のモンスター。異なる双眸を持つ真紅の竜、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と鋭い鉤爪を地に抉り込ませた銀狼、『EMシルバー・クロウ』、そして黒い仮面の道化師、『EMドクロバット・ジョーカー』、2体のレベル4モンスターが揃う。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

今再びフィールドに降臨する、鋭きアギトを閃かせた漆黒の竜。しかも今度はそれだけではない、遊矢の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』とユートの『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』、2体の竜が激しく、そして雄々しく咆哮し、まるで共鳴するかのように天が泣き、地が震える。大気がミシミシと圧迫されているかのような異音が奏でられ、耳元を蹂躙するかの如く鳴り響く。

明らかに異様でおぞましさすら覚える光景に勝鬨と権現坂がその額に冷たい脂汗を浮かべ、瞠目する。一体何が起こっているのか、そんな言葉さえ喉から出ぬ中、遊矢がその鮮血を浴びたような右眼を見開き、爛々と輝かせる。

 

「ダーク・リベリオンのORUを2つ取り除き、イダテンを対象に効果発動ぉ!攻撃力を半分にし、その数値を奪う!トリーズン・ディスチャージ!」

 

覇翔星イダテン 攻撃力3000→1500

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→4000

 

ダーク・リベリオンから黒雲が発生し、バチバチと鳥が囀ずるような音と共に真紅の雷が迸り、大気を駆け抜け、イダテンに降り注ぐ。

爆音が轟き、イダテンの身体に熱が這い回る。一直線に落ちる赤のラインは地をも焦がし、黒煙と異臭を撒き散らす。余りに現実よりかけ離れ、ソリッドビジョンを越えた威力。だがそれでも勝鬨は怯む事無く、待っていたとばかりに右腕を突き出す。

 

「自分フィールド上の融合モンスターの攻撃力がダウンした場合、墓地の『天融星カイキ』を特殊召喚する!」

 

天融星カイキ 守備力2100

 

勝鬨がフィールドに召喚したのは『アームズ・ホール』のコストによって落としていたモンスターだ。鬼の角を伸ばした兜を被り、その胸から腹部にかけては鬼そのものの顔が浮かび上がっている。

 

「Ledies and Gentlemen!さぁ、お楽しみはこれからだ!カイキが特殊召喚した時、500LP払い、効果発動!手札、フィールドのモンスターを墓地に送り、融合召喚を行う!」

 

勝鬨 勇雄 LP800→300

 

瞬間、勝鬨の身体に激痛が走り、その頬、そして両腕に極彩色の紋様が浮かび上がる。蝶の羽の描かれている模様にも似たそれはどう見ても彼の傷を癒すものではない。

むしろ今以上に彼に痛みをもたらす戦化粧、新たな力を行使する代償なのだ。苦痛を無理矢理抑え込むような勝鬨の表情を見て、権現坂が心配の声を上げる。

 

「勝鬨……それは……!?」

 

「狼狽えるな!例え、修羅に堕ちようと、自分はデュエリストで在り続ける!フィールドのイダテンとカイキを融合!天に融けし者よ、悠久の覇者よ!重ねし力で天下を取らん!融合召喚!来い!『覇道星シュラ』!!」

 

覇道星シュラ 攻撃力0

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2200→0

 

間炎星―コウカンショウ 攻撃力1800→0

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→0

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力4000→0

 

全ての力を注ぎ、遊矢のエンタメデュエルを再現するかの如く手を合わせ、自らの切り札を呼び起こす。天に漂う雲が閃き、黒雲を貫いて轟音と共に地へ降り立つ。

新たに現れる覇者のモンスター、人と獣、そして鬼の3つの顔を持ち、4本の腕で長い棍と赤く輝く闇の光球を掴んだ融合カード、『覇道星シュラ』。

今勝鬨は、修羅に堕ちても友を救おうとする。

 

「シュラがフィールドに存在する限り、フィールドの全てのモンスターは攻撃力0になる……!」

 

「『相生の魔術師』のペンデュラム効果発動!自分フィールド上のエクシーズモンスター、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』とレベル5以上のモンスター、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を対象にし、エクシーズモンスターのランクを対象のモンスターのレベルと同じ数値にする!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ランク4→7

 

「ランクを……変える……?」

 

遊矢が発動した『相生の魔術師』。そのペンデュラム効果により、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』のランクが『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』に呼応し、7へと変わる。

しかしどれだけランクとレベルを合わせてもその2つではエクシーズ出来ない。攻撃力はシュラによって0になっており、エクシーズモンスターはシュラの力で無力化するからだ。

しかし、勝鬨はこの先、信じられないものを目撃する。

 

「更に『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を対象に、『相克の魔術師』のペンデュラム効果発動!このターン、対象のモンスターは、そのランクと同じ数値のレベルのモンスターとしてエクシーズ召喚の素材に出来る!」

 

「!?!??!??!?!?」

 

ペンデュラムモンスターとエクシーズモンスターを使用してのエクシーズ。その有り得ない、馬鹿げた召喚を実現する効果に勝鬨が今までに無く、いや、これまでの人生の中で最も激しく勝鬨る。頭がパンクし、湯気が出そうになる程の光景だ。立っているだけでも奇跡と言える。

 

「俺はレベル7の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』とランク7の『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』でオーバーレイ・ネットワークを構築!二色の眼の龍よ!その黒き逆鱗を震わせ、刃向かう敵を殲滅せよ!エクシーズ召喚!出でよ、怒りの眼輝けし龍!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→0

 

共鳴する眼の竜と牙の竜。2体が赤と黒の光となり、天上で交差し、超新星爆発を引き起こす。爆煙が風に流され、晴れたそこには――1体の、竜。

右が純白、左が漆黒の顔を持ち、深紅と翡翠の眼を煌めかせ、その額には青い宝玉が輝いている。下顎からは2本の妖しく光る鋭い牙が伸び、胸部は竜の顔を模している。首元では2本の角が宝玉を嵌め込まれた上で伸びており、腕から生えた指は工具のようになっている。

何より眼を引くのはその背に伸びた、巨大な翼。機械的なそれは複雑な構造をしており、8枚4対の眩く輝く剣の如き形で展開している。

 

美しくも、禍々しい覇王竜。周囲に『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の星を回転させたその竜は、雄々しき咆哮を覇者へと放つ。

 

「エクシーズ……ペンデュラムモンスターだと……!?」

 

そのカードの上半分は黒く、下は緑、エクシーズモンスターでありながら、ペンデュラムモンスター。その相反する二律を持って生まれたかのような歪なカード。

体験した事が無い存在に勝鬨と権現坂が勝鬨る。特に先程まで勝鬨っ放しの勝鬨には追い討ちとなる存在だ。カイキの呪いも合わせるとダメージが酷い。

 

「バトルだ!いけ!オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン」

 

「残念だったな!シュラにはモンスターの戦闘を行うダメージ計算時、互いのモンスターの攻撃力はそれぞれのレベル×200アップする!だがエクシーズモンスターにレベルは無い!つまりレベル0と言う事だ!」

 

勝鬨が微妙に間違った事をぬかしながらシュラの効果を説明する。そもそも攻撃力0のモンスター同士ではどちらも破壊されない。何故遊矢が攻撃を行ったのか――それは、瞬時に理解する事となる。

 

「ならば速攻魔法――『月の書』!これでシュラをセット状態にする!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力0→2200×2

 

間炎星―コウカンショウ 攻撃力0→1800

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力0→3000

 

「そしてソウコに攻撃!反旗の逆鱗!ストライク・ディスオベイ!!」

 

形勢逆転、この状況を作り出すシュラをセットする事で全てのモンスターの攻撃力を取り戻す遊矢。

オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンが翼を翻し、大地をその2本の牙で抉りながら轟音を放ち、突き進む。そして一気に上昇し、ソウコへと牙を突き立てようとした時――。

 

「フン、貴様――遊矢とは違い、駆け引きは苦手なようだな――」

 

「ッ!?」

 

「ソウコを対象に――罠カード、『破壊指輪』発動!」

 

ガシャン、反旗を上げるオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンの眼前に立つソウコの指に、勝鬨が発動した『破壊指輪』が嵌められる。このカードの効果は単純明快、対象のモンスターを破壊し――自分と相手に1000ダメージを与える――。

 

「今回の所は引き分けにしておいてやる――」

 

瞬間、指輪は膨張して赤く発光しながら爆発を起こし、粉塵を舞い上がらせる。爆風が2人の身体を吹き飛ばし、2人のLPを削っていく。

 

勝鬨 勇雄 LP300→0

 

榊 遊矢 LP300→0

 

「遊矢!勝鬨!」

 

ドサリ、音を立てて倒れる2人を心配して、権現坂が駆け寄る。どうやら2人とも傷ついてはいるものの大丈夫らしい。比較的ダメージが少ない遊矢が「イテテ……」と呟いて頭を掻きながら立ち上がる。

 

「遊矢!正気に戻ったのか!?」

 

「ああ……届いてたぜ……勝鬨、いや、勇雄の手……本当に、ありがとう」

 

「フ、そうか……」

 

やはり勝鬨の方がダメージが大きいのか、権現坂に肩を借りながら遊矢の元に歩み寄り、苦笑を溢す。何にせよ、自分がすべき事は成し遂げた。

次は――遊矢の番だろう

 

「……行け、遊矢。この先に――奴がいるのだろう?」

 

「勇雄……だけどお前……」

 

「自分なら大丈夫だ。伊達に鍛えてはいない、少し寝て、休むだけだ」

 

「安心しろ、その間は俺が見張っていよう。今度は俺が守る番だ」

 

何かを躊躇う遊矢を見て、勝鬨がその背を押す。遊矢には遊矢のやるべき事がある。勝鬨は眠た気な眼でどこからともなくナイトキャップを取り出し、その場に仰向けになって被る。

その間オベリスク・フォースが来ても大丈夫なように権現坂が見張ると言う事らしい。自分の背を後押ししてくれる2人に遊矢は深く頷く。

 

「黒咲と言う男も、大切なものを失ってしまっている……救ってやってくれ……お前なら出来る」

 

「ああ――ありがとう、2人共――!」

 

勝鬨の言葉を受け取り、感謝の意を述べ、遊矢と、そしてユートは駆け出す。闇に堕ちたからこそ、遊矢にも分かる。

勝鬨の言うように、黒咲もまた、大事なものを失ってしまっている。デュエリストとしての、大切なものを、それを伝えられるのは――1度自分を失い、ユートの意志を継ぎ――そしてエンタメデュエルを行う、遊矢のみ。

誰でも無い、榊 遊矢こそが、黒咲 隼に手を差し伸べられるのだ。コナミが勝鬨を救ったように――その頼れる背を見て、勝鬨は微笑む。

 

「あれなら大丈夫だろう――さて、権現坂。こう言った状況ではあれだろ?自分の好きな子とか言い合ったりするんだろ?」

 

「……お前、実は元気なんじゃないか?」

 

ワクワクと期待に胸を膨らませ、布団を被り、修学旅行に来た中学生のような事を言い出す勝鬨。今まで梁山泊塾で修行ばかりして、皆でそんな事を経験する事が無かった世間知らずな彼は、凄く楽しそうだった。

 

――――――

 

走る、走る。背中を押してくれた友の為、託してくれた者の為、そして何より、自分自身の目指すものの為に。

砂漠を駆け、遺跡を進む。今まで様々な試練とぶつかって来た。いずれも厳しく、簡単なものでは無かったし、躓き、倒れる事もあった。だけど遊矢はそれでも立ち上がって来た。皆に助けられ、背を押して貰いながら、遊矢は笑顔で乗り越えて来た。

だから――今度も、笑顔で進もう。

 

「黒咲……!俺とデュエルしろぉぉぉぉぉっ!!」

 

燦々と輝く太陽を背にし、遊矢は遺跡の前で立つ黒咲に向かって吠える。突然の背後からの来訪者の叫び。

黒咲はそれを受け、静かに遊矢へと振り向く。

 

「――貴様は……良いだろう、俺も貴様には用がある」

 

互いに闘うべき理由がある。戦意も充分、2人はデュエルディスクを構え、光輝くソリッドビジョンのプレートを展開しながらその場を駆ける。

対決する、この大会最大の優勝候補とダークホース。黒咲は確かに強敵だ。圧倒的な戦術、そして意志。今の遊矢では勝率は低い。

だがそれでも、遊矢は諦めない。成長を続ける彼のデュエルは上空で飛翔するハヤブサに届くのか、いずれにせよ、勝負の行方は分からない。

だってそれが――デュエルの面白い所なのだから。

 

『行くぞ――遊矢!』

 

「ああ……ユート」

 

遊矢の背後に浮かぶユートが檄を飛ばし、遊矢も応える。ユートも、親友を救いたいのだろう、確かに、遊矢1人では荷が重いかもしれない。

だが、何も遊矢1人が手を伸ばす訳では無い。遊矢とユート、そしてその背には遊矢が今まで闘って来た者達の想いが乗せられている。

だからこそ、遊矢は闘えるのだ。

 

「「デュエル!!」」

 

始まるデュエル。榊 遊矢対黒咲 隼。そして今、この瞬間、別の場所では――赤帽子のデュエリストと、紫帽子のデュエリストが、デュエル開始の宣言を上げていた――。

 

 

 

 

 

 




と言う事で次回はコナミ君のデュエル、それが終わり次第、遊矢君のデュエルになります。中断とか乱入は無いのでそこら辺はご安心を。
このデュエルを通し、遊矢君の成長や黒咲さんの心情を描写したいなと思います。


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第58話 マイ・フェイバリット

最近の遊戯王は脳に虫とか何処か攻め過ぎている。瑠璃ちゃんやっと登場したのに怖い顔し過ぎでしょ。もっとリンちゃんみたいにエロい顔して欲しいです←


氷山エリア、凍りつき、白い冷気を放つ氷山が高くそびえ立つそのエリアの一角にて、色は違えども、ほぼ同じ姿をした2人のデュエリストが対峙していた。

1人はこの大会の参加者であり、遊勝塾に所属する、赤い帽子の上にゴーグルを装着したデュエリスト、コナミ。

もう1人は紫色の帽子を目深に被り、同色の制服を纏ったアカデミアのデュエリスト、Kだ。

先攻はコナミ、彼は目の前のデュエリストに僅かな違和感を抱きながら、5枚の手札の中から3枚をデュエルディスクに叩きつける。

 

「オレはモンスターを1体セット、カードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

コナミ LP4000

フィールド セットモンスター

セット2

手札2

 

コナミにしては随分と消極的なターンだ。それだけ相手を警戒していると言う事なのか、それとも手札が悪かったのか。3枚のカードをセットしてターンを終了してしまった。

相手のKも訝しむ始末だ。しかし何時までも動かないと言う訳にもいかない。彼もデッキから1枚のカードを引き抜き、行動に移す。

 

「僕のターン、ドロー。魔法カード、『カップ・オブ・エース』コイントスを行い、表なら僕が、裏ならお前がドローする。……表だ、2枚ドロー」

 

K 手札5→7

 

「『クリッター』を召喚」

 

クリッター 攻撃力1000

 

フィールドに現れたのは『クリボー』のような1頭身に3つ目を持った悪魔だ。

 

「魔法カード、『モンスターゲート』、『クリッター』をリリースし、通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキを捲り、通常召喚可能なモンスターを特殊召喚する……おっと、いきなり当たりだ、『E・HEROプリズマー』」

 

E・HEROプリズマー 攻撃力1700

 

Kが召喚したモンスターはコナミも1枚だけデッキに採用している『E・HERO』モンスターだ。

鏡面のように光を反射し、眩き輝きを放つプリズムには他のモンスターを写し込む力を秘めている。融合を使うならば利便性の高いカード、逆に言えばこのカードが登場したと言う事は、融合を扱うと言う事だ。

 

「『クリッター』の効果で『増殖するG』をサーチ、エクストラデッキの融合モンスター、『E・HEROダーク・ブライトマン』を公開し、プリズマーの効果発動。デッキよりダーク・ブライトマンの融合素材である『E・HEROネクロダークマン』を墓地へ送り、プリズマーの名を墓地へ送ったモンスターとして扱う。そして手札の『沼地の魔神王』を捨て、デッキの『融合』を手札に加え、発動。手札の『E・HEROスパークマン』とフィールドの『E・HEROネクロダークマン』となったプリズマーを融合!融合召喚!『E・HEROダーク・ブライトマン』!」

 

E・HEROダーク・ブライトマン 攻撃力2000

 

Kの背後に青とオレンジ、2色の渦が広がり、その中へと近未来的な鎧を纏った青い電気の『HERO』と、髑髏を思わせるような恐ろしい風貌の赤い『HERO』が飛び込み、混ざり合う。

2体の力を1つに合わせ、現れたのは黄金の翼を伸ばした鎧を纏い、赤いバイザーを装着した漆黒の『HERO』。

氷山の上で腕を組み、コナミを睥睨する姿は正にダーク・ヒーローと言った所か。まるでアメコミのような光景だ。

 

「『E・HERO』か……」

 

「ダーク・ブライトマンでセットモンスターを攻撃、そしてこのモンスターが守備表示のモンスターを攻撃する際、貫通ダメージを与える。ダークフラッシュ!」

 

ダーク・ブライトマンがその掌の赤い宝石より黒い雷を走らせ、コナミのセットモンスターを貫こうとする。貫通効果を帯びた一撃。それを防ごうとリバースカードをオープンする。

 

「罠発動!『ブレイクスルー・スキル』!ダーク・ブライトマンの効果を無効にする!」

 

コナミのオープンした罠カードからオレンジ色の光が放たれ、ダーク・ブライトマンから効果を奪う。これでダーク・ブライトマンから効果は失われた。

だが攻撃は続いている。雷がセットモンスターに降り注ぎ、黒い球体を破壊する。その正体は――『ジェット・シンクロン』。成程、守備力0のこのカードを破壊されれば、2000のダメージを受け、LPを半分まで削られてしまう所だった。

 

「ほう……僕は永続魔法、『ブランチ』とカードを2枚伏せてターンエンド」

 

K LP4000

フィールド『E・HEROダーク・ブライトマン』(攻撃表示)

『ブランチ』セット2

手札1

 

「オレのターン、ドロー!オレは手札を1枚捨て、墓地のチューナーモンスター、『ジェット・シンクロン』を特殊召喚する!」

 

「『増殖するG』を捨てる」

 

K 手札0→1

 

コナミのフィールドに火炎を吹かし、ジェット・エンジンを模した、青と白のカラーリングかを特徴的な小型のチューナーモンスターが降下する。自己蘇生可能なレベル1チューナー、これだけでも充分に優秀さを感じられるカードだ。

 

「墓地へ送られた『E・HEROシャドー・ミスト』の効果でデッキの『E・HEROエアーマン』を手札に加え、そのまま召喚!」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

現れたのは背からファンの翼を伸ばした青い『HERO』モンスター。優秀なサーチ効果を持つカードだ。その効果からか、長い間制限カードに位置するモンスターである。

 

「エアーマンの効果でデッキから『E・HEROブレイズマン』を手札に加える。そしてレベル4のエアーマンにレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『ジェット・ウォリアー』!」

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力2100

 

K 手札1→2

 

重厚な黒のボディを煌めかせ、背のジェットエンジンより炎を噴出する機械戦士が地へ降り立つ。その鋭利な刃となっている足によって氷がガリガリと削り取られる。

コナミが持つシンクロ『ウォリアー』モンスター、その中でも汎用性が高く、使用度の多いモンスターだ。

 

「『ジェット・ウォリアー』のシンクロ召喚成功時、ダーク・ブレイズマンを対象にバウンスする!」

 

「させん!罠発動、『ブレイクスルー・スキル』!『ジェット・ウォリアー』の効果を無効にする!」

 

「ならばバトルで倒すまで!『ジェット・ウォリアー』でダーク・ブライトマンを攻撃!」

 

K LP4000→3900

 

『ジェット・ウォリアー』が背から火炎を吹き出し、爆発させる事で急加速してその鉄拳を突き出す。ゴウッ、と風を切り、漆黒の線がダーク・ブライトマンまで伸びて貫く。瞬間、ダーク・ブライトマンの纏う黄金の鎧がひび割れ、バタリと音を立てて膝をつく。

しかしダーク・ブライトマンもただでは倒れない。チラリと背後を振り向き、その掌から黒き雷を見せる。

そう、既に手は打たれている。拳を構えていた『ジェット・ウォリアー』の身体に雷がバチバチと鳴り響き、両者共に倒れ伏す。

 

「ダーク・ブライトマンが破壊された時、『ジェット・ウォリアー』を破壊する。更に融合モンスターが破壊された時、『ブランチ』の効果で融合素材となったプリズマーを特殊召喚する」

 

E・HEROプリズマー 攻撃力1700

 

「カードの消費をリカバリーする為に『ブランチ』か、オレはこれでターンエンドだ」

 

コナミ LP4000

フィールド

セット1

手札3

 

「同じ顔の癖に消極的だな。僕のターン、ドロー。罠発動、『融合準備』。エクストラデッキの『E・HEROワイルドジャギーマン』を公開し、素材である『E・HEROエッジマン』をデッキから『融合』を墓地から手札に加える。更にもう1度ワイルドジャギーマンを公開し、プリズマーの名前を『E・HEROワイルドマン』に変更する。墓地の『E・HEROネクロダークマン』の効果を適用、レベル5以上の『E・HERO』をリリース無しで召喚する!来い、『E・HEROエッジマン』!」

 

E・HEROエッジマン 攻撃力2600

 

墓地のネクロダークマンの屍を越え、全身が黄金に包まれた『HERO』が姿を見せる。その頭からは2本の角が伸び、闘牛のような面をしており、胸と腹部には翡翠の宝玉が、両腕には美しく輝く刃が伸びており、背には戦闘機のような翼が広がっている。

並び立つのは筋骨隆々、身体中に刺繍を描き、髪を一括りし、背に鉈を負った大自然の英雄、『E・HEROワイルドマン』となったプリズマー。

 

「バトルだ、2体でダイレクトアタック!」

 

「永続罠発動!『光の護封霊剣』!LPを2000払い、2体の攻撃を防ぐ!」

 

コナミ LP4000→3000→2000

 

2体の攻撃がコナミに襲いかかろうとしたその瞬間、コナミがセットしていたカードが発動し、上空から黄金の光を放つ巨大な剣が2本降り注ぎ、その行く手を遮る。

本来ならば墓地での効果が本命となるカードだが、この状況ならば仕方無い。LPが半分になってしまったが、負けるよりはマシだろう。

 

「そうで無くちゃ面白く無い。僕は永続魔法、『補給部隊』を発動し、ターンエンドだ」

 

K LP3900

フィールド『E・HEROプリズマー』(攻撃表示)『E・HEROエッジマン』(攻撃表示)

『ブランチ』『補給部隊』

手札3

 

「オレのターン、ドロー!オレは『賤竜の魔術師』と『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!慧眼のペンデュラム効果でこのカードを破壊し、デッキの『竜穴の魔術師』をセッティング!」

 

コナミのフィールドに伸びる、2本の柱、その中へと『魔術師』が出現して扇と錫杖を振るい、上空に光の線を幾重も結び、魔方陣を描き出す。

右へ左へ揺れる振り子。その幻想的な光景を見て、Kがその表情を初めて驚愕に染める。

 

「ペンデュラム……!?」

 

「これでレベル3から7のモンスターを同時に特殊召喚可能!揺れろ、光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!『E・HEROブレイズマン』!『慧眼の魔術師』!」

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

現れる炎の鬣を燃やす真紅の『HERO』。コナミのデッキにおいて、エアーマン、シャドー・ミストと並び、頻繁に利用される3大『HERO』の1体だ。

プリズマーと対になるモンスターの登場にKは警戒を示す。もう1体は瑠璃の珠を衣装に散りばめた銀髪の『魔術師』だ。

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』を手札に加え、『クリバンデット』を召喚!」

 

クリバンデット 攻撃力1000

 

次に現れたのはコナミのデッキにおいて鍵となる『クリボー』系列のモンスター。残念ながらカテゴリには入っていないが、一時期制限カードにされていた事からその強力さが伝わるだろう。

可愛らしい姿をしているが、頭に巻いたバンダナや眼帯、鋭い目付きを見ると攻撃的だ。

 

「そして2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる!白き翼に望みを託せ、現れろNo.39!エクシーズ召喚!希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

2体のモンスターがコナミの背後に発生し、渦巻く星空に飛び込み、爆発を起こす。爆風を切り裂き、姿を見せたのは黄金の鎧を纏った希望の皇。その背に純白の翼を広げ、両手に2刀の片刃の剣を構えた皇は、天を震わすように咆哮を上げる。

 

「シンクロ、ペンデュラム、エクシーズ……!そして手札に『置換融合』を加えたと言う事は融合もか……随分とまとまりが無いように見えるが、成程、墓地発動を中心にする事でカードの消費を抑えているのか」

 

「聡明だな、だがそれだけでこのデッキの全てが見えるかな?バトルだ、希望皇ホープでプリズマーを攻撃!ホープ剣・スラッシュ!」

 

K LP3900→3100

 

ホープがその手に持った剣を振るい、プリズマーの多面体の身体を紙のようにいとも容易く切り裂く。プリズマーは鏡面のように輝く身体を散らし、その破片がKのLPを削る。

 

「『補給部隊』の効果で1枚ドロー!」

 

K 手札3→4

 

「オレはこれでターンエンド。この瞬間、『クリバンデット』をリリースし、効果発動!デッキの上から5枚を捲り、魔法、罠1枚を手札に加える。オレは『マジカルシルクハット』を手札に加え、墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をデッキからサーチする!」

 

コナミ LP2000

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

『光の護封霊剣』

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札3

 

「僕のターン、ドロー!やるな……!僕は魔法カード、『O―オーバーソウル』を発動!墓地の『E・HEROスパークマン』を特殊召喚!」

 

E・HEROスパークマン 攻撃力1600

 

黄金の鎧を纏い、肩にパネルの翼を伸ばし、青いバイザーとスーツを装着した下級『HERO』が登場する。雷を掌から迸らせる姿は正にスパークマンの名に相応しい。

融合体が優秀な能力を持つ『HERO』でもあり、頼りになる1枚と言える。

 

「そして魔法カード、『置換融合』を発動!フィールドのスパークマンとエッジマンを融合!融合召喚!『E・HEROプラズマヴァイスマン』!」

 

E・HEROプラズマヴァイスマン 攻撃力2600

 

フィールドに雷が舞い踊り、エッジマンの黄金の鎧と巨大な手甲を身につけたスパークマンが降り立つ。攻撃力はエッジマンと変わらないが、その効果は見た目の武骨さとは裏腹に小回りが効く。

 

「更に墓地の『置換融合』を除外し、同じく墓地のダーク・ブライトマンをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

K 手札2→3

 

「ホープの効果は既にアカデミアに知れ渡っている!手札を1枚捨て、プラズマヴァイスマンの効果により、ホープを破壊!」

 

雷が金の手甲を駆け回り、プラズマヴァイスマンの掌へと集まっていく。そして電気がバチバチと鳥の囀りの如く鳴り響いた後、バチンッ、とゴムの切れるような音を放ち、超電磁の極太の線がホープを飲み込む。氷面に舞う電気が蒸発して白煙を上げ、その威力の跡を残す。

 

「壁は無くなった、バトルだ。プラズマヴァイスマンでダイレクトアタック!プラズマ・パルサーション!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

「『クリバンデット』の時か……!」

 

続くプラズマヴァイスマンの攻撃、その身体中から電撃を放射線状に解き放ち、1本の雷として落とすも、コナミが『クリバンデット』の効果で墓地に落としていた『光の護封霊剣』が地面の氷を突き破り、コナミの手に渡り、雷撃を切り裂く。

既にフィールドに合ったもので防げるとは言え、LPは温存しておきたい、落ちていたのは幸運と言えよう。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

K LP3100

フィールド『E・HEROプラズマヴァイスマン』(攻撃表示)

『ブランチ』『補給部隊』セット1

手札1

 

「オレのターン、ドロー!オレは墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『光の護封霊剣』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

コナミ 手札4→5

 

「そして速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムゾーンのカードを破壊し、お前に500ダメージを与え、デッキのペンデュラムモンスター、『EMドクロバット・ジョーカー』をサーチ!」

 

「カウンター罠、『強烈なはたき落とし』!お前が手札に加えたカードを捨てさせる!」

 

K LP3100→2600

 

「くっ、魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップから10枚を裏側で除外し、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札4→6

 

「『相生の魔術師』と『曲芸の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『竜穴の魔術師』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

ペンデュラム召喚により、振り子の軌道で姿を見せたのは、浅黒い肌に鋭い目付き、翠玉をあしらえた服装に身を包んだ、扇を振るう『賤竜の魔術師』と先端が円となった杖を構える熟練の腕持つ『竜穴の魔術師』だ。

ペンデュラムモンスターの帰還、その事実にKはその目深に被った帽子の奥の瞳を僅かに瞠目させる。

 

「これは……成程、破壊されたペンデュラムモンスターはどう言う訳か、ペンデュラム召喚で復活するのか……場所は……墓地に『慧眼の魔術師』がいる……つまり墓地じゃないか……エクストラデッキ……!」

 

「ご明察だな、そして賤竜の効果により、墓地の『慧眼の魔術師』を手札に戻し、バトルだ!賤竜でプラズマヴァイスマンを攻撃!」

 

攻撃力2100の『賤竜の魔術師』で攻撃力2600のプラズマヴァイスマンへの攻撃、一見して自爆特攻に見える行動だ。しかしコナミの墓地に落ちていたのだ。墓地で効果を発揮し、モンスターの攻撃力を上げるカードが。

 

「墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、賤竜の攻撃力を800アップする!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100→2900

 

K LP2600→2300

 

『賤竜の魔術師』が赤いオーラに包まれ、左手に持った扇が硬化して鋭い刃となる。何枚もの刃を持つ扇を振るうと同時にプラズマヴァイスマンの鎧が切り裂かれ、その姿が見る見る内に変わっていく。

 

「く――!『ブランチ』の効果で『E・HEROエッジマン』を特殊召喚し、『補給部隊』の効果で1枚ドロー!」

 

E・HEROエッジマン 攻撃力2600

 

K 手札1→2

 

「魔法カード、『一時休戦』を発動」

 

コナミ 手札3→4

 

K 手札2→3

 

「モンスター1体とカードを3枚セットし、ターンエンドだ」

 

コナミ LP2000

フィールド『賤竜の魔術師』(攻撃表示)『竜穴の魔術師』(守備表示)セットモンスター

セット3

Pゾーン『相生の魔術師』『曲芸の魔術師』

手札0

 

「僕のターン、ドロー!良い手札だ、僕は魔法カード、『ミラクル・フュージョン』を発動!墓地のワイルドマンと『沼地の魔神王』を融合、融合召喚!『E・HEROワイルドジャギーマン』!」

 

E・HEROワイルドジャギーマン 攻撃力2600

 

青とオレンジの渦より新たに融合モンスターが登場する。背に大剣を負い、金の兜と左腕に刃を持つ手甲を纏った浅黒い肌の『HERO』。

大自然と科学の融合を体現したモンスターだ。その力は『E・HERO』の中でもトップクラスと言える。

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!ワイルドジャギーマンをリリースし、2枚ドロー!」

 

K 手札2→4

 

「僕は墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『ブランチ』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

K 手札4→5

 

「モンスター1体とカード4枚をセットしてターンエンド!」

 

K LP2300

フィールド『E・HEROエッジマン』(攻撃表示)セットモンスター

『補給部隊』セット4

手札0

 

「オレのターン、ドロー! 」

 

「罠発動!2枚の『強欲な瓶』!2枚ドロー!」

 

K 手札0→2

 

「魔法カード、『アームズ・ホール』を発動し、デッキトップを墓地に送り、装備魔法、『妖刀竹光』をサーチ!『竜穴の魔術師』に装備し、リバースカードオープン!『黄金色の竹光』!2枚ドロー!もう1枚発動だ!」

 

コナミ 手札0→2→3

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』発動!互いにドローし、1枚捨てる。よし、ペンデュラム召喚!『刻剣の魔術師』!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

現れたのは剣を手に持ち、時を刻む少年『魔術師』。手札より1体だけペンデュラム召喚した事で攻撃力が倍となるのだが――。

 

「刻剣の効果で攻撃力を倍に――」

 

「罠発動!『ヒーロー・ブラスト』!墓地の『E・HEROスパークマン』を回収し、その攻撃力以下の刻剣を破壊!」

 

「くっ、オレはカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

コナミ LP2000

フィールド『賤竜の魔術師』(攻撃表示)『竜穴の魔術師』(守備表示)セットモンスター

『妖刀竹光』セット3

Pゾーン『相生の魔術師』『曲芸の魔術師』

手札0

 

「僕のターン、ドロー!リバースカードオープン!『融合』!手札の『E・HEROスパークマン』と『E・HEROクレイマン』を融合!融合召喚!『E・HEROサンダー・ジャイアント』!」

 

E・HEROサンダー・ジャイアント 攻撃力2400

 

4度目の融合召喚。雷を纏う頑強な鎧に身を包んだ巨人の出現にコナミは顔を強張らせる。想定する融合モンスターの中で、この状況を覆してしまう1枚だからだ。

 

「魔法カード、『地割れ』!『竜穴の魔術師』を破壊し、サンダー・ジャイアントの効果で手札を1枚捨て、賤竜を破壊!」

 

「チッ、だが『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチし、自分フィールドのモンスター、『賤竜の魔術師』が破壊された事でペンデュラムゾーンの『曲芸の魔術師』を特殊召喚!」

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

Kのサンダー・ジャイアントの掌から雷が迸り、球体状の弾丸となって撃ち出され、コナミのモンスターを焦がし尽くす。しかしそこで現れたのは派手な衣装の曲芸師。コナミを守るように前に出る。

 

「バトル!エッジマンで曲芸に攻撃!」

 

「罠発動!『仁王立ち』!『曲芸の魔術師』の守備力を倍にする!」

 

曲芸の魔術師 守備力2300→4600

 

「何――!ぐうぅっ!?」

 

K LP2300→300

 

コナミの発動した『仁王立ち』。その効果により2000ポイントのダメージを与え、LPが3桁となった。あと少し、あと少しで勝利が見える。

 

「くっ、僕は墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『補給部隊』を戻して1枚ドロー!」

 

K 手札0→1

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壷』を発動し、2枚ドロー!」

 

K 手札0→2

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

K LP300

フィールド『E・HEROサンダー・ジャイアント』(攻撃表示)『E・HEROエッジマン』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

手札0

 

「オレのターン、ドロー!」

 

「罠発動!『強欲な瓶』!1枚ドロー!」

 

K 手札0→1

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『ジェット・ウォリアー』、『E・HEROエアーマン』、『E・HEROブレイズマン』、『E・HEROシャドー・ミスト』、『EMドクロバット・ジョーカー』を回収し、ドロー!」

 

コナミ 手札1→3

 

「魔法カード、『アームズ・ホール』!デッキトップをコストに『妖刀竹光』をサーチ、曲芸に装備し、魔法カード、『黄金色の竹光』!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札1→3

 

「墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外し、『相生の魔術師』を破壊!魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』発動!エクストラデッキの賤竜と慧眼を手札に加え、スケールをセッティング!慧眼を破壊し、『貴竜の魔術師』をセット!ペンデュラム召喚!『刻剣の魔術師』!『相生の魔術師』!『貴竜の魔術師』!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

相生の魔術師 攻撃力500

 

貴竜の魔術師 攻撃力700

 

「セットモンスター、『慧眼の魔術師』を反転召喚。刻剣の効果を使い、セットモンスターと共に除外!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、セットモンスターをモンスター効果から守る!」

 

「速攻魔法、『移り気な仕立て屋』!『竹光』を相生に装備。オレはレベル4の『慧眼の魔術師』にレベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

裂帛の気合い、手を上空に翳すと共にコナミの背後の『貴竜の魔術師』が3つのライトグリーンのリングとなり、その中を『慧眼の魔術師』が突き抜ける。リングの中を光が包み込み、火花が舞い散る。

そして輝きが晴れたそこには、紅蓮に燃える赤き竜の姿。氷上を脚で砕き、溶かし蒸発させて白い煙が立ち込める。

冷たき氷のフィールドに現れる炎を纏った星の竜。その咆哮は天に轟き、雄々しさを示す。

 

「メテオバーストの効果により、ペンデュラムゾーンの『貴竜の魔術師』を特殊召喚!」

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

「レベル5の『曲芸の魔術師』にレベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!星海を切り裂く一筋の閃光よ!魂を震わし世界に轟け!!シンクロ召喚!!『閃光竜スターダスト』!!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

フィールドに降臨する2体目の竜。その白き翼を翻し、星屑の雨を降らせる閃光の竜。白と赤が舞い散り、フィールドを幻想的な光で照らす。

 

「まだだ!リバースカードオープン!『置換融合』!フィールドの『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』と『刻剣の魔術師』で融合!融合召喚!『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力2500

 

深緑の体躯に雷の翼を4枚広げ、嵐を起こす。2色の虹彩の竜。天候を司る翼は風を運び、稲妻を迸らせる。シンクロモンスターを使っての融合。その強大なエネルギーが今、羽ばたく。

 

「ボルテックスの特殊召喚時、エッジマンを対象に取り、バウンスする!」

 

「速攻魔法、『エネミーコントローラー』!エッジマンをリリースし、『閃光竜スターダスト』のコントロールを奪う!」

 

「ボルテックスの効果!エクストラデッキの『竜穴の魔術師』をデッキに戻し、その効果を無効にし、破壊する!」

 

Kのフィールドに幾つかのボタンを持ったゲームコントローラーのようなものが浮かび上がるが、コナミが直ぐ様ボルテックスに指示を出し、雷がコントローラーをショートさせる。

 

「オレは『相生の魔術師』の効果発動!このカードの攻撃力をボルテックスと同じ2500にする!」

 

相生の魔術師 攻撃力500→2500

 

「バトルだ!スターダストでサンダー・ジャイアントを!相生でセットモンスターを攻撃!」

 

K LP300→200

 

「手札の『D.D.クロウ』を捨て、お前の墓地の『仁王立ち』を除外。セットモンスターは『幻影の魔術士』!効果でデッキより『E・HEROバブルマン』を特殊召喚する!」

 

E・HEROバブルマン 守備力1200

 

赤黒い外套を纏った仮面の魔術士が身を翻し、水色の科学的なスーツを纏ったバブルマンへと変身する。不味い状況だ。

敵のフィールドにはバブルマン以外のカードが存在しない。

 

「バブルマンの効果で2枚ドロー!」

 

K 手札0→2

 

「くっ、ボルテックスでバブルマンを攻撃!」

 

破壊されるバブルマン。しかし役目は果たした。回復した手札でどう動くか、コナミは焦りを覚える。何より残るLPが不味い。

普通ならばたった3桁と一笑にふす所だが――3桁は、逆転の引き金なのだ。

 

「ターンエンドだ」

 

コナミ LP2000

フィールド『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』(攻撃表示)『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『相生の魔術師』(攻撃表示)

『妖刀竹光』セット1

Pゾーン『賤竜の魔術師』

手札1

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』!ドローし、手札を捨てる!速攻魔法、『融合解除』を発動!ボルテックスをバウンス!」

 

「ボルテックスの効果で『貴竜の魔術師』をデッキに戻し、無効にする!」

 

「使ったな?ならこれでどうだ!魔法カード、『ホープ・オブ・フィフス』!」

 

「ッ!そのカードは!?」

 

『融合解除』を無効化され、Kに残った手札は1枚、そのたった1枚が彼の窮地を救う。この状況でこのカードに選ばれた『HERO』のような、劣勢で輝くその運命にコナミが息を呑む。

 

「墓地の『E・HERO』5枚、ワイルドジャギーマンとプラズマヴァイスマン、サンダー・ジャイアントとネクロダークマン、そしてエッジマンをデッキに戻し、2枚ドロー!更に自分フィールド上にこのカード以外のカードが存在しない場合、追加で1枚ドロー!」

 

K 手札0→3

 

一気に3枚まで回復する手札、『E・HERO』に限定された『貪欲な壷』と言って良いカードだ。追加で1枚ドロー出来る状況はバブルマン同様に限られるが、極限まで運命力とドロー力を引き上げれば造作も無い事だ。

『ブランチ』や『補給部隊』等、フィールドに残りやすいカードは『シャッフル・リボーン』でデッキに戻しているのだろう。抜け目の無い戦術だ。そう見てみるとコナミの構築と似通うものがある。

 

「魔法カード、『名推理』!レベルを選べ」

 

「……4だ」

 

「1、2、3枚目、残念、レベル3『カードガンナー』だ。特殊召喚!」

 

カードガンナー 攻撃力400

 

現れたのは赤と青、そして頭を覆うガラスが特徴的なおもちゃのようなロボット。頼りない姿だが、制限カードになっていただけあり、優秀なモンスターだ。だがLPが100の状況でこのカードを出す等、自殺行為に等しい。

「『レスキューラビット』を召喚!」

 

レスキューラビット 攻撃力300

 

次に現れたのは安全ヘルメットを被った可愛らしいウサギのモンスターだ。

 

「除外し、『E・HEROバーストレディ』を2体特殊召喚!」

 

E・HEROバーストレディ 攻撃力1200×2

 

「魔法カード、『馬の骨の対価』。バーストレディを墓地に送り、2枚ドロー!もう1枚だ。2枚ドロー!」

 

K 手札0→2→3

 

「永続魔法、『炎舞-「玉衝」』!セットカードを封じ、デッキの上から3枚カードを墓地に送り、『カードガンナー』の効果発動!送ったカード1枚につき、攻撃力を500アップする!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

「更に魔法カード、『一時休戦』を発動!互いに1枚ドローし、次の相手ターン終了時まで互いに受けるダメージを0にする!」

 

K 手札2→3

 

コナミ 手札1→2

 

これで『カードガンナー』を立たせるリスクも無くなった。次のターンで止めもさせなくなってしまったのだ。これは非常に不味い状況と言える。

200ポイント、たった200ポイントのLPが削り切れない。その事がどんなに恐ろしい事か、コナミは良く知っている。

 

「2枚目だ!『ミラクル・フュージョン』!墓地の『E・HEROバーストレディ』と『E・HEROバブルマン』を融合!融合召喚!『E・HEROスチーム・ヒーラー』!」

 

E・HEROスチーム・ヒーラー 攻撃力1800

 

何度目かの融合召喚、赤と青、バーストレディとバブルマンが混じり合って紫とピンクのビビットカラーのボディに幾つものパイプを繋ぎ、白い蒸気を放つ癒しの『HERO』が現れる。

 

「装備魔法、『フュージョン・ウェポン』をスチーム・ヒーラーに装備!攻守を1500アップする!」

 

E・HEROスチーム・ヒーラー 攻撃力1800→3300

 

「バトルだ!スチーム・ヒーラーで『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』を攻撃!スチーム・ブラスト!」

 

スチーム・ヒーラーがアームの中心に空いた穴から高速で蒸気を放ち、白煙がボルテックス・ドラゴンの翼を濡らす。自身が翼に纏った雷が身体中を焦がし、天上の竜を撃ち落とす。それだけではない。スチーム・ヒーラーがもう1つのアームを構え、ボルテックス・ドラゴンからエネルギーを奪おうとする。

 

「『閃光竜スターダスト』の効果でボルテックスに1ターンに1度の破壊耐性を与える!波動音壁!」

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、その効果を無効にし、スチーム・ヒーラーがモンスターを戦闘破壊した事で『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』の攻撃力分、LPを回復する!」

 

K LP200→2700

 

戦闘破壊を通してのLPの回復、元々の攻撃力が低い為、発動が厳しいが、『E・HERO』の融合体はレベル6以下のものが多い。それを活かし、『フュージョン・ウェポン』で強化する事で半分以上までLPを回復するK。早めに何とかしなければ更に差が開くだろう。

 

「まだだ、『カードガンナー』でスターダストに攻撃し、破壊された『カードガンナー』の効果で1枚ドロー!」

 

K 手札0→1

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

K LP2700

フィールド『E・HEROスチーム・ヒーラー』(攻撃表示)

『フュージョン・ウェポン』『炎舞-「玉衝」』セット1

手札0

 

「オレのターン、ドロー!墓地の『置換融合』を除外、ボルテックスを戻しドロー!」

 

コナミ 手札2→3

 

「墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外し、玉衝破壊。『EMドクロバット・ジョーカー』をセッティングし、ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

「『E・HEROブレイズマン』を召喚!」

 

EMブレイズマン 攻撃力1200

 

現れたのは短刀を持った若き『魔術師』と炎の鬣を揺らめかせた『HERO』モンスターだ、この状況でこの2枚、コナミの運も負けてはいない。

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ!そして発動!フィールドの『竜脈の魔術師』と『E・HEROブレイズマン』で融合!融合召喚!『E・HEROガイア』!」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200

 

黒い巨体を輝かせ、大地を司る『HERO』が氷上を砕いて誕生する。属性『HERO』の中でも数多のモンスターを有する地属性を要求しており、素材、そして効果において使いやすく、強力なカードだ。

 

「ガイアの効果!スチーム・ヒーラーの攻撃力を半分にし、その数値をガイアに加える!」

 

E・HEROスチーム・ヒーラー 攻撃力3300→1650

 

E・HEROガイア 攻撃力2200→3850

 

『フォース』を内蔵した『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』と同じ効果、単純ながらもだからこそ使いやすく、汎用性の高い効果だ。戦闘面ではこのカードと風属性の『E・HERO Great TORNADO』が頼りになる。

 

「バトル!ガイアでスチーム・ヒーラーを攻撃!コンチネンタルハンマー!」

 

巨人の腕がスチーム・ヒーラーのビビットカラーの装甲を砕き、破片が散っていく。重く強烈な一撃。如何に『フュージョン・ウェポン』で強化を受けていても更に上から強化を施したガイアには届かない。鈍重な外見からは想像出来ない速度で放たれた拳は、見事敵を倒した。

 

「相生を守備表示に変更し、カードを1枚セット、ターンエンドだ。さぁ、どう出る?」

 

「こう出る。罠カード、『裁きの天秤』!お前のフィールドと、僕のフィールド、手札の差、7枚をドローする!」

 

K 手札0→7

 

手札0枚からの華麗なる逆転、状況を公平にする為に天秤がKに大きく傾き、デッキから7枚ものカードをその手札とする。凄まじい回復力、そしてドロー。とんでもない相手だ。コナミは額に汗を伝わせ、下唇を噛む。

 

コナミ LP2000

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『E・HEROガイア』(攻撃表示)『相生の魔術師』(守備表示)

『妖刀竹光』セット2

Pゾーン『EMドクロバット・ジョーカー』『賤竜の魔術師』

手札0

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『ゴブリンのやりくり上手』墓地には2枚のやりくり上手だ!3枚ドローし、1枚をデッキボトムへ!」

 

コナミ 手札0→3→2

 

「まずは魔法カード、『闇の量産工場』!墓地の『E・HEROフェザーマン』と『E・HEROバーストレディ』を回収、魔法カード、『手札抹殺』で手札を入れ替え、『暗黒界の取引』発動。互いにドローし、1枚捨てる。魔法カード、『融合回収』!『融合』とクレイマンを回収、召喚!」

 

E・HEROクレイマン 攻撃力800

 

「魔法カード、『馬の骨の対価』!クレイマンを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

K 手札7→9

 

「魔法カード、『ハンマーシュート』!フィールドの攻撃力が一番高いモンスターを破壊!」

 

「スターダストの効果を発動!破壊を防ぐ!」

 

「魔法カード、『闇の量産工場』!フェザーマンとバーストレディを回収!そして『融合』を発動!手札の『E・HEROフェザーマン』と『E・HEROバーストレディ』を融合!融合召喚!マイ・フェイバリット!『E・HEROフレイム・ウィングマン』!!」

 

E・HEROフレイム・ウィングマン 攻撃力2100

 

高くそびえ立つ氷山の頂に、その『HERO』は純白の片翼を翻して降り立つ。悪魔のような、アメリカンヒーローを思わせる顔立ちに、緑色の常人離れした体躯。

左腕は鋭い鉤爪となっており、腰からは赤い尾が伸びている。そして目を引くのはその右腕、右の胸からかけて赤に染まっており、その先にあるのは、竜のアギト。

喉を大きく開き、獲物に食らいつこうとする赤い竜の頭が生えている。異形の『HERO』。

そして――コナミの親友の、フェイバリットカード。

 

「……十……代……」

 

ポツリと、『HERO』の姿を見て、溢れ出る懐かしさを堪え切れず、コナミは呟く。

遠く離れた地で、太陽のような笑顔でデュエルをして来た彼の名を。学生時代の青春を、共に過ごした相棒の名を。

そんなコナミを気にも止めず、Kがその手より、1枚のカードをデュエルディスクに差し込む。

 

「『HERO』には『HERO』に相応しい、戦う舞台と言うものがある。フィールド魔法――『摩天楼―スカイスクレイパー』!」

 

冷たい冷気を放つ氷山エリアが、見る見る内にその姿を変えていく。冷気は光輝くスポットライトに、フレイム・ウィングマンも立つ高い氷山は夜の摩天楼のビル群へと。その舞台をアメコミヒーローに相応しいものへと変える。そして――闇夜の空に、光のスポットが走り、Hの文字が浮かび上がる。その下に照らされたのは――英雄。

 

「……アカデミアの、正義の名の下に――」

 

スッ、と影より抜け出る紫帽子のデュエリスト。全く、何故こうなった。コナミは重々しい溜め息を溢す。

 

「僕の前で、散れ」

 

――スカイスクレイパー・シュート――

 

――――――

 

そして、コナミとKのデュエルが続く中、彼女はその摩天楼に足を踏み入れる。肩にSALを乗せた、髪を黄色いリボンでポニーテールに結び、赤いジャケットを着た少女。

セレナだ。彼女の目は大きく見開かれており、驚愕を示している。その視線の先には――紫色の帽子の、デュエリスト。

震える唇で、セレナは呟く。

 

「あれは――誰だ……!?」

 

あんな奴知らない。そう思考するセレナに、忍び寄る影が1つ。

 

「あら、久し振りねぇ、セレナちゃん」

 

呼び掛けられる声に、セレナは思わず振り向く。そこにいたのは、青い軍服と軍帽を浅く被った、紫色のツインテールに赤い瞳、どこか大人びた色気のある少女。

 

「雪……乃……?」

 

――――――

 

時は同じくして、火山エリアのある一角、熱気を放つその地帯にて、また2人の男が来訪していた。

1人は白いマントを羽織り、無地の仮面を着けた、遊矢やコナミ達の前に現れたあの男。

そしてその隣に立つのは、男よりも異様な風貌の、刺々しく、重々しい、黒い甲冑をその身に纏い、深紅の外套をはためかせた、覇王。

 

「往こうか――覇王」

 

「……ああ――」

 

激化し、混沌と化す舞網チャンピオンシップ。果たしてその先に待つのは――一体、どのような結末か。




純HEROでデュエルするの超難しい(小並感)。何これ、めっちゃ苦行なんだけど、誰だよこんなデッキにした奴!←


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第59話 とんだロマンチストだな

殺伐としたアニメARC-Vにオッ素が!(AA以下略
果たしてオッ素はアニメに出演出来るのか、頑張れオッ素。(書き換えに)負けるなオッ素。


プスプスと黒煙が辺りに蔓延し、そこから放射状に炎が爪痕のような傷を地面に刻み、ユラユラと陽炎の如く燃える中、青年はふと闇色に染まった空を見上げる。

周囲は高く天を目指し伸びているビル群に覆い尽くされ、光輝くスポットライトが走っている。

――これで終わりか、いや、それは無い。自身が相手取っているのは間違いなく一流のデュエリストだ。この程度で倒れるならばアカデミアの精鋭であるオベリスク・フォースを3人纏めて倒すと言う芸当が出来る筈が無い。

紫色の帽子を目深に被り直し、奥底に潜むその眼で黒煙を睨む。そして黒煙が晴れたそこには、やはりと言うか予想通り、傷1つ負わず、金色に輝くデュエルディスクを構え、真っ赤に燃える帽子を被ったデュエリストが立っていた――。

 

「……『仁王立ち』と『シールド・ウォリアー』だな」

 

「その通りだ。『仁王立ち』で攻撃を相生に絞り、『シールド・ウォリアー』で破壊を防いだ」

 

そう、先の紫帽子によるフレイム・ウィングマンの攻撃。コナミは即座に『仁王立ち』で攻撃を制限し、同じく墓地の『シールド・ウォリアー』の効果で破壊を防いだのだ。

そうしなければスカイスクレイパーの効果で攻撃力を上昇させたフレイム・ウィングマンでスターダストを破壊され、効果によるダメージがコナミのLPを焼き払っていただろう。

 

「フン……僕はモンスター1体とカード3枚をセットしてターンエンドだ」

 

K LP2700

フィールド『E・HEROフレイム・ウィングマン』(攻撃表示)

セット3

『摩天楼スカイスクレイパー』

手札0

 

「オレのターン、ドロー!……『E・HEROフレイム・ウィングマン』……『古代の機械巨人』と言い、今日は懐かしいカードを敵に回す日だな……!魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を入れ替え、ペンデュラム召喚!『刻剣の魔術師』!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

「刻剣の効果!こいつとセットモンスターを除外する!」

 

「チッ……!」

 

「バトルだ!スターダストでフレイム・ウィングマンを攻撃!墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、攻撃力アップ!流星閃撃!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500→3300

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!」

K 手札0→1

 

スターダストがその流線状の体躯に煌めく星屑を纏い、フレイム・ウィングマンに光のブレスを放つ。フレイム・ウィングマンも右腕で喉を鳴らす竜のアギトから炎弾を撃ち出すも、力の差は歴然。本物の竜の前に敗れ、翼をもがれて地に落ちる。

 

「ガイアで攻撃!」

 

「もう1枚だ。『ガード・ブロック』!ダメージを0にして1枚ドロー!」

 

K 手札1→2

 

「ターンエンドだ」

 

コナミ LP2000

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『E・HEROガイア』(攻撃表示)『相生の魔術師』(守備表示)

『妖刀竹光』セット1

Pゾーン『EMドクロバット・ジョーカー』『賤竜の魔術師』

手札2

 

「僕のターン、ドロー!罠発動、『融合準備』。エクストラデッキの『E・HEROエリクシーラー』を公開し、デッキから『E・HEROバブルマン』を!墓地から『融合』を回収!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『E・HEROプリズマー』、『増殖するG』、『D.D.クロウ』、『幻影の魔術師』、『カードガンナー』を戻してドロー!」

 

K 手札4→6

 

「更に魔法カード、『暗黒界の取引』を発動し、魔法カード、『闇の量産工場』を発動!墓地のフェザーマンとバーストレディを回収し、『融合』を発動!手札の『E・HEROフェザーマン』、『E・HEROバーストレディ』、『E・HEROバブルマン』、『E・HEROクレイマン』、4属性の『HERO』を融合!融合召喚!『E・HEROエリクシーラー』!!」

 

E・HEROエリクシーラー 攻撃力2900→3800

 

突風が吹き荒れ、マグマが燃え上がり、大地が隆起して激流が逆巻く。4つのエレメントをその身に宿し、黄金の輝きを放つ肉体を持つ究極の『HERO』が摩天楼に降り立つ。

圧倒的なエネルギーを内包したその『HERO』の登場にコナミでさえ言葉を忘れ、ポカンと口を開けて呆ける。それもそうだろう、4体もの素材を要求する融合モンスター、それを手札融合したのだから。

 

「クク……ハハハハハ!自分でも驚いたよ!ここまで上手くいくとは!これが、これこそがあの人の見る景色!さて、エリクシーラーの効果で互いに除外したカードをデッキに戻そうか……!」

 

「とんだロマンチストだな……!」

 

「さぁ、バトルだ!エリクシーラーで『E・HEROガイア』を攻撃!フュージョニスト・マジスタリー!」

 

「罠発動、『マジカルシルクハット』!」

 

コナミが発動した罠カード、その効果により、デッキの魔法、罠カード2枚、そしてガイアがシルクハットに覆われ、シャッフルされる。

これで戦闘ダメージを防げ、ガイアを守れる。だが相手が相手だ。Kはその恐るべき観察眼でガイアの入ったシルクハットを見抜く。

 

「左のシルクハットだ!僕を舐めてくれるなよ!」

 

眩き閃光がシルクハットを貫き、熱が焦がす。瞬間、シルクハットに身を隠していたガイアが悲痛な咆哮を上げ、輝く粒子と共に消滅する。

これならばスターダストの効果を使用すれば良かったか。まぁ、充分に維持出来た方だ。

 

「僕はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

K LP2700

フィールド『E・HEROエリクシーラー』(攻撃表示)

セット1

『摩天楼スカイスクレイパー』

手札0

 

「オレのターン、ドロー!墓地の『置換融合』を除外し、ガイアをエクストラデッキに戻してドロー!」

 

コナミ 手札2→3

 

「魔法カード『金満な壺』を発動。墓地、エクストラデッキの『曲芸の魔術師』、『貴竜の魔術師』、『慧眼の魔術師』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→4

 

「ペンデュラム召喚!『相克の魔術師』!『刻剣の魔術師』!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

コナミの前に現れたる新たな『魔術師』モンスター、大剣を手にしたそのモンスターは『魔術師』の中では最高の打点を誇るカードだ。隣で弓を持つ『相生の魔術師』の相棒とも言える。

相生と共にコナミのデッキに何時の間にか入っていたカードだ。コナミとしては何時も事なので余り気にしていないが。

 

「刻剣でエリクシーラーを除外し、相克でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地の『E・HEROスパークマン』を特殊召喚!」

 

E・HEROスパークマン 守備力1400

 

相克の剣がKを貫こうとした瞬間、発動された罠カードが墓地より『HERO』を呼び起こし、攻撃を防ぐ。純構築の『E・HERO』で良くここまで闘えるものだ。

 

「ターンエンドだ。さて、次はどう出る?」

 

コナミ LP2000

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)『相生の魔術師』(守備表示)

『妖刀竹光』

Pゾーン『EMドクロバット・ジョーカー』『賤竜の魔術師』

手札3

 

「僕のターン、ドロー!『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキの上から10枚を除外し、2枚ドローする。」

 

K 手札0→2

 

「魔法カード、『ミラクルフュージョン』!フィールドのスパークマンと墓地のフレイム・ウィングマンを融合!融合召喚!『E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン』!!」

 

E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン 攻撃力2500→5500

 

『HERO』達の絆が1つとなり、墓地に眠る『E・HEROフレイム・ウィングマン』へと光が集束していく。光は白銀の兜に、鎧に、手甲に、そして雄々しき翼となって身体に宿る。

深紅に燃える炎が黄金に輝く焔となり、光の勇者が今、天空に飛翔する。

少年の永遠のフェイバリットカードが、最高のエースカードに進化したのだ。

 

「シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は墓地の『E・HERO』カードの数×300アップする。これで終わりにしてやる!散れ!シャイニング・フレア・ウィングマンで『閃光竜スターダスト』を攻撃!究極の輝きを放て!シャイニング・シュート!」

 

身体中から眩き光を放ち、白銀の両翼を広げたシャイニング・フレア・ウィングマンがスターダストへと突き進む。一直線に描かれる白の軌跡、ぶつかり合う閃光が熱を持って燃え上がる。

 

「『相克の魔術師』の効果発動!光属性モンスター1体の効果を無効にする!そして『閃光竜スターダスト』の効果で破壊を無効にする!」

 

「無駄だ!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、相克の効果を無効にする!」

 

「っ、手札の『クリボー』を捨て、ダメージを0にする!」

 

相次ぐカードの応酬。切り結ぶかのように繰り広げられるそれは苛烈になっていく。シャイニング・フレア・ウィングマンの効果は無効に出来ず、攻撃力を下げられなかったが――幸い、ダメージは抑えられた。

 

「僕はモンスターをセットしてターンエンドだ」

 

K LP2700

フィールド『E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

『摩天楼―スカイスクレイパー―』

手札0

 

「オレのターン、ドロー!そろそろ終わりにしてやろう。フィールドに刻剣とエリクシーラーが戻り、刻剣の効果で再び除外、更に相克の効果でシャイニング・フレア・ウィングマンの効果を無効に!」

 

E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン 攻撃力5500→2500

 

「『アームズ・ホール』を発動!墓地の『妖刀竹光』を回収し、ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!『賤竜の魔術師』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

「さて――このカードの出番だ――」

 

スッ、とコナミが手札に残る1枚のカードを翳す。何の変哲も無い普通のカードだ、しかしこの1枚、このたった1枚のカードこそが、コナミが強敵と相応しいデュエリストと対決する為にデッキに投入した奥の手。

 

『マジカルシルクハット』も、『ジャンク・コレクター』も、あの『エレメンタルバースト』でさえ、コナミにとってこのカードを効果的に発揮させる布石でしかない。

何時か再び闘うであろう、白コナミとの対決を想定して隠していた懐刀。

 

このカードの前では、どれ程強力なデュエリストだろうとその力を封じられる。

その1枚に、Kは息を呑む。

 

ヒントは最初からあった。今、この瞬間も、布石は打たれていたのだ。どうしてこの瞬間まで気づかなかったと後悔が浮かび上がる。

早く気づいていれば――。

 

「永続魔法発動――」

 

こんな事には、ならなかったのに――。

 

「『魂を吸う竹光』――!」

 

発動される、最後のカード。抜き放たれた禍々しい輝きを閃かせる伝家の宝刀。

その発動と共に、『相生の魔術師』が手に持った『妖刀竹光』が鈍く光り、黒い怨念が吹き出ていく。デュエリストの魂を吸う、最悪の効果。

その殺意の刃がKの喉元に突き立てられる。

 

「『相生の魔術師』は戦闘ダメージを与えられんからな、もう1枚の『妖刀竹光』を慧眼に装備する。更に竜脈に装備した『妖刀竹光』の効果で相生に装備した『竹光』を手札に戻し、賤竜に装備する。さぁ、バトルだ。まずはスターダストでシャイニング・フレア・ウィングマンに攻撃――この瞬間、スターダストに破壊耐性を与える!」

 

闇夜に染まる天空を舞う、閃光の竜と陽光の英雄。星屑を眩い炎が溶かし、雪のように煌めいて散っていく。幻想的な光景の中、激しい火花が飛び交い、スターダストのブレスがシャイニング・フレア・ウィングマンを地に落とす。

能力を失った今、英雄に勝利する術は無い。摩天楼の空に英雄が粒子となって散る。

 

「次だ、相克でセットモンスターを攻撃!」

 

迫る死神の鎌。相克がその手に持った剣を力強く握り締め、球体が浮かぶセットモンスターへと刃を突き立てる。セットモンスターは『ネクロガードナー』。墓地から除外する事で相手の攻撃を1度だけ無効にするカードだ。

だがこの状況ではたった1度切りの防御等、何の役にも立たない。

 

「2体の『魔術師』でダイレクトアタック」

 

「墓地の『ネクロガードナー』を除外し、『賤竜の魔術師』の攻撃を無効に!ぐぅ――!」

 

K LP2700→1200

 

賤竜の攻撃を『ネクロガードナー』で防ぐが、竜脈による攻撃が残っている。黒く禍々しい怨念が籠った妖刀を闇夜に閃かせ、KのLPを切り裂く。

瞬間、彼が被っていた帽子も真っ二つに切り裂かれ、その隠れていた顔が明らかになる。

逆立った茶髪に、何処か見た事があるような鋭い目付きに整った顔立ち。この、少年は――。

 

「やはり、そう言う事か――神楽坂――」

 

「何故、俺の名を知っている……!」

 

神楽坂。昔、コナミも通っていた学園では同級生であり、他者のコピーデッキを使用していたデュエリスト。一時はデュエルキングと呼ばれる、コナミも知る中で最強のデュエリストのデッキの力を、充分に引き出した男だ。

コナミもその実力を知っている筈だったが――今の彼は、記憶の中の神楽坂よりも、遥かに強い。しかも何故自分と同じ姿で、〝彼〟のコピーデッキを使っているのか、一体どう言う事なのか。

 

そう思っているのは何もコナミだけでは無いらしい。目の前の神楽坂もまた、コナミの事をまるで最初から知らなかったように、文字通り敵を見る表情でコナミを睨んでいる。

 

「俺は今日が初陣、しかも先生のコピーをしていた筈だが――アカデミアから情報が漏れた……?スパイ……まさかセレナか!?あのポンコツめ、余計な事を……!」

 

早口で捲し立てる神楽坂。そのただならぬ様子にコナミの頭上に幾つもの?マークが浮かぶ。

アカデミア、そう言えば、素良も黒咲も、零児もあの、仮面の男もアカデミア、と言うものを口にしていた。

コナミは余り気にしていなかったが、その名称には心当たりがある。神楽坂がいるのだから尚更だ。話を纏めると素良もセレナもアカデミアに所属、そして神楽坂も――と言う事になるのだが、少しおかしい。

 

神楽坂は既にあの学園を卒業している筈だ。先生のコピーと言う言葉が出るならば教師をしていると言う訳でも無さそうだ。まさか留年したのか?と失礼な事を考えた所である言葉を思い出す。

 

黒咲と素良のデュエルの最中、飛び交っていた、融合次元、エクシーズ次元と言う単語。白コナミの存在。ユートや瑠那が言っていた〝コナミ〟。そしてセレナと神楽坂、素良とバレットの言っていた〝先生〟や〝アイツ〟。

何故、そこまで考えなかったのか、ここに辿り着かなかったのか、白コナミの存在から、ヒントはあったと言うのに――。

コナミの口から渇いた笑いが溢れ、思わず天を仰ぐ。この考えが正しいならば――。

 

「計画は、成功していた――」

 

瞬間、コナミの頭中に沈痛が走る。計画?成功?自分は何を言っているのだ。頭が痛い、忘れていた記憶の一部が、ノイズがかけられ、モザイクがかかった状態で再生されていく。

音もない、暗い暗い、恐ろしい闇の世界。その男は現れる。極太のマジックで塗り潰された何も分からない顔に、白いマントを纏ったその男は、コナミに語りかける。

 

――マタ、アシタ――

 

まるで複数の声が混ざり合ったかのような声を放ち――その台詞を最後に、コナミの記憶は途切れ、フッ、と糸が切れたように、コナミは倒れそうになってたたらを踏む。

今のは、何だ――?何か、大事なものを忘れているような――大粒の汗を額から流し、頭を抑えるコナミ。だが今は、デュエル中だ。直ぐ様振り払い、デュエルを続行させる。

 

「ッ!『魂を吸う竹光』の効果!『竹光』カードを装備したモンスターがダメージを与えた場合、次の相手のドローフェイズをスキップする」

 

ドローフェイズのスキップ。ドローロックとも言えるその強力な効果が神楽坂のデッキを蝕み、黒い怨念が流れ込む。デュエリスト最大の可能性、ドローを封じる悪魔の効果。

ドローロックを持つカードが長い間禁止にされている事を考えればその凶悪さが分かるだろう。

しかも神楽坂のフィールドには何もない。手札も0、この状況を覆す可能性のある『シャッフル・リボーン』や『置換融合』も墓地には無い。完全な、詰みの状態――。

 

「……本物は、何処だ」

 

「……何?」

 

ここで、コナミが静かに、しかしドスの効いた声で神楽坂に問いただす。本物、恐らく彼が聞きたいのは、神楽坂がコピーしていた、紫帽子のデュエリストの居場所――。

 

「……良いだろう、お前は既に勝者だ。ならば然るべき報酬がある。……火山がそびていた場所に、先生はいる」

 

「……そうか、オレはこれでターンエンドだ」

 

コナミ LP1400

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)『相生の魔術師』(守備表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)『竜脈の魔術師』(攻撃表示)

『妖刀竹光』×2『魂を吸う竹光』

Pゾーン『EMドクロバット・ジョーカー』『賤竜の魔術師』

手札0

 

圧倒的に不利、逆転さえも許されない最悪の状況、神楽坂の頼みの綱であるドロー運まで断たれてしまった。

最早後は、敗北を待つのみ。そんな状況でも、神楽坂は――折れない。確かに、もう勝負はついている。だがそれでも神楽坂は最後までデュエルを続ける。

それが、デュエリストとしての礼儀、師の教えなのだ。

 

「俺のターン……ターン、エンドだ」

 

神楽坂 LP1200

フィールド

『摩天楼―スカイスクレイパー』

手札0

 

「最後まで続けるか――見事だ。オレのターン、ドロー!フィールドにエリクシーラーが戻る。終わりにしよう、フィールドの『魂を吸う竹光』を手札に戻し、竜脈の直接攻撃を可能に、バトルだ。竜脈でダイレクトアタック――!」

 

神楽坂 LP1200→0

 

デュエリストの魂を封じる妖刀を持つ『慧眼の魔術師』による、最後の攻撃。鋭き斬撃が神楽坂のLPを削り、彼はその場に倒れ伏す。

闇夜が支配する摩天楼の中――その中で、黄金の『HERO』は薄く笑う。それはまるで――主人を認めたかのような、清々しい笑みだった――。

――――――

 

時は遡り、コナミと正体を隠していた神楽坂がデュエルを始めた時、砂塵舞う遺跡エリアにて、2人のデュエリストが対峙していた。

1人はエンタメデュエルを目指す遊勝塾に所属する少年、榊 遊矢。そしてもう1人は――エクシーズ次元にて、レジスタンスに所属する、黒咲 隼。

この大会最大の目玉とも言えるデュエリスト同士のぶつかり合い――火花を散らし、想いをぶつけ合うその熱きデュエルの終点に、一体何が待ち受けているのか――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




人物紹介11

神楽坂
所属 アカデミア
融合次元のアカデミアに所属する高い実力を持ったデュエリスト。
様々なコピーデッキを自分が扱いやすいようにアレンジし、コピー先のデュエリストのタクティクスを自分のものにする観察眼を持つ。遊矢のエンタメデュエルの派生系とも言える。
元々はただコピーデッキを使う、と言う凡庸なデュエリストだったのだが、先生なる人物が彼の内に眠る才能を見抜き、一流のデュエリストとして育て上げた。その為、先生を尊敬しており、急スピードで成長、オベリスク・フォースの部隊長となった。
Kはその際貰ったコードネーム。しかし皆大好き雪のんと組んでいる為か、部下のオベリスク・フォースには妬まれ、爆発しろと言われる始末。
セレナとは犬猿の仲であるが、互いに実力は認めている。番外編でセレナが言っていたバカはこいつ。頭が悪い訳では無い。
本来実力を発揮するのは2戦目、これは前回対戦した相手のプレイングや癖を見抜き、メタとなるカードを積む為である。
現在は主に先生から昇格祝いに貰ったデッキを使っている。
使用デッキは純構築の『E・HERO』。エースカードは『E・HEROフレイム・ウィングマン』。

と言う訳でコナミ君の奥の手登場、Kの正体と色々あった回。
奥の手に関してはドロー運が高い相手程刺さります。主人公が使うカードじゃねぇ。でも墓地発動が多い今、そこまで脅威的じゃないと言う。
ナストラル「なんと言う効果だ……!」
烏「やる事が汚ぇぞ!」


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第60話 お前、弱いだろ

アニメでオッドアイズ・ドラゴンが大活躍して作者もニッコリ、スタンダード最強(笑)とか言われてるけどこの作品内では主人公のエースカードにしてるから愛着があるのです。
今まで隠れてた伏線やら真実も分かって来たから多少書きやすくもなりました。ただ明らかにこの作品の覇王先生がハゲの命令違反してカード化とかしてないと言う。設定は生やすもの(震え声)。
そして今回、黒咲さんはこんなキャラじゃない!って感じの描写があります(今までもあれだけど)。黒咲さんファンの方には申し訳ありません。ですが、私としてはこの作品では黒咲さんはこう言う心情をしていた、と言う事は貫きます。あくまでこの作品の黒咲さんとして見ていただければ。



始まる榊 遊矢対黒咲 隼の次元を越えたデュエル。先攻は黒咲だ。彼はデッキより5枚のカードを引き抜き、猛禽類を思わせる鋭い目付きで遊矢を睨み、手札を切る。

 

「甘ったれた貴様に見せてやる、レジスタンスのデュエルを!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』発動!」

 

黒咲 隼 手札4→6

 

「俺は手札から『RR―バニシング・レイニアス』を召喚!」

 

RR―バニシング・レイニアス 攻撃力1300

 

登場したのは深緑に染まった機械の猛禽。甲高い囀りを天へと響かせ飛翔する。『RR』専用の『切り込み隊長』と言えるカードであり、このカード無しでは『RR』は上手く機能しないだろう。

 

「そしてバニシング・レイニアスの効果発動!手札よりもう1体のバニシング・レイニアスを特殊召喚する!」

 

RR―バニシング・レイニアス 攻撃力1300

 

『レベル4が2体……気をつけろ遊矢!隼のペースだ、『RR』の高速展開が来る!』

 

2体目のバニシング・レイニアスの登場、レベル4のモンスターが並ぶと共に、遊矢の傍にいたユートが注意を促す。歯痒い事に彼の姿に黒咲には見えていない。

友の暴走を自身で止められないからこそ、少しでも遊矢の助けとなって黒咲を救おうとしているのだろう。遊矢も黒咲のデュエルは素良との試合で知っているが、全てを理解している訳じゃない。ユートの言葉に小さく、だが重く頷く。

 

「まだ行くぞ!俺は永続魔法、『RR―ネスト』発動!『RR』が2体以上フィールドに存在する場合、デッキより『RR』をサーチする!俺は3体目のバニシング・レイニアスをサーチし、2体目のバニシング・レイニアスの効果で特殊召喚!」

 

RR―バニシング・レイニアス 攻撃力1300

 

日差しが熱く照らす砂漠の上空に、3羽の猛禽が舞う。同名モンスターの連続召喚、群れなして飛翔するその姿は確かに鳥類らしい。

 

「同じモンスターが3体……もっとサービスして欲しいぜ……!」

 

『真っ先にそんな言葉が出る辺り、君は本当にエンタメ馬鹿だな』

 

「そんなに見たいのか?地獄を!3体目のバニシング・レイニアスの効果で『RR―トリビュート・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RR―トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

皮肉を飛ばす遊矢に対し、黒咲がカッ、と目を見開きながら右手を振るい、デュエルディスクに1枚のカードを叩きつける。

ソリッドビジョンによって淡い光の粒子が集束し、青い機械鳥が羽ばたく。青白い火を吹かせ、6機のレーザービットを浮かせたモンスターの登場に遊矢は口元に笑みを描く。

 

「トリビュート・レイニアスの効果発動!このカードが召喚、特殊召喚したターンのメインフェイズ、デッキの『RR』カード1枚を墓地へ送る。俺は『RR―ミミクリー・レイニアス』を墓地に送り、除外してその効果発動!デッキの『RR―レディネス』をサーチ!さぁ、行くぞ!2体のバニシング・レイニアスでオーバーレイ・ネットワークを構築!冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実を暴き、鋭い鉤爪で栄光をもぎ取れ!エクシーズ召喚!飛来せよ!『RR―フォース・ストリクス』!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000→3000

 

鋭い鉤爪を閃かせ、薄暗い遺跡の中より眼が妖しく光り、1羽の梟が飛翔する。ついに現れた黒咲のエクシーズモンスター、小さくも存在感を放つその姿に遊矢の額から汗が伝う。

 

『あれが隼の『RR』デッキの要となるエクシーズモンスターだ。早々に除去しなければ厄介な事になるぞ……!』

 

「フォース・ストリクスのORUを1つ取り除き、効果発動!デッキからレベル4、闇属性、鳥獣族モンスター、『RR―ファジー・レイニアス』をサーチ!更にバニシング・レイニアスとトリビュート・レイニアスでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RR―フォース・ストリクス』!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000→2500×2

 

現れる2体目のフォース・ストリクス。成程、サーチ効果を有しているのなら確かに手早く除去しておきたいモンスターだ。見逃していると次のターンもサーチされ、除去しても補充した手札で直ぐにリカバリーされるだろう。

 

「2体目のフォース・ストリクスのORUを1つ取り除き、『RR―シンギング・レイニアス』をサーチ!そしてこのカードはフィールドにエクシーズモンスターが存在する場合、特殊召喚出来る!」

 

RR―シンギング・レイニアス 守備力100

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2500→3000×2

 

次々と現れる『RR』モンスター、漆黒の身体を持つ小さな猛禽の登場に、流石の遊矢も焦りを覚える。

 

「まだだ!フィールドに『RR』モンスターが存在する場合、手札の『RR―ファジー・レイニアス』を特殊召喚する!」

 

RR―ファジー・レイニアス 守備力1500

 

RR―フォース・ストリクス 守備力3000→3500×2

 

紫の翼を翻し、次の『RR』が姿を見せる。またもレベル4のモンスターが2体、ここまで来れば次の展開も手に取るように分かると言うものだ。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RR―フォース・ストリクス』!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000→3000×3

 

3体目のフォース・ストリクスの登場。最早笑いしかない布陣が遊矢の前で敷かれる。サーチ効果を持ったモンスターが3体等、乾いた笑いしか出ない。しかも『RR―ネスト』まであるのだ。とんでもないの一言に尽きる。

 

「おいおいマジかよ……」

 

『相当恨まれているようだな』

 

「他人事かよ……」

 

「3体目のフォース・ストリクスのORUを使い、デッキの『RR―ミミクリー・レイニアス』をサーチ!更に墓地に送られたファジー・レイニアスの効果発動!同名カードをサーチする!俺はカードを2枚セットし、ターンエンド。さぁ、貴様のデュエルで崩せるものなら崩してみろ!」

 

黒咲 隼 LP4000

フィールド『RR―フォース・ストリクス』(守備表示)×3

『RR―ネスト』セット2

手札3

 

とんでもない回転ぶりだ。5枚の手札からモンスター3体、魔法、罠が3枚、手札が3枚も残っているのだからおかしいにも程がある。数があってない。

正しく大会出場者最強に相応しい実力。だがこの程度で遊矢は折れる程、やわじゃない。不利な状況、磐石の布陣、何度も覆して来た。

その経験は確かに遊矢の力となり、血肉となり、自信と余裕に繋がっている。さぁ、見せようではないか、黒咲 隼に、榊 遊矢と言うデュエリストを。

 

「俺のターン、ドロー!『王立魔法図書館』を召喚!」

 

王立魔法図書館 攻撃力0

 

「今度はこっちが見せてやるぜ!エンタメデュエリストのデュエルを!魔法カード、『カップ・オブ・エース』!コイントスは……表だ、2枚ドロー!更に『王立魔法図書館』に魔力カウンターが1つ乗る!」

 

王立魔法図書館 魔力カウンター0→1

 

榊 遊矢 手札4→6

 

「速攻魔法、『魔力の泉』!1枚ドローし、1枚捨てる!」

 

王立魔法図書館 魔力カウンター1→2

 

榊 遊矢 手札5→6→5

 

「魔法カード、『モンスター・スロット』!フィールドの『王立魔法図書館』を選択、墓地の同じレベル4モンスターを除外、カードを1枚ドロー!」

 

王立魔法図書館 魔力カウンター2→3

 

榊 遊矢 手札4→5

 

「引いたカードはレベル4!特殊召喚出来る!来い、『召喚僧サモンプリースト』!」

 

召喚僧サモンプリースト 守備力1600

 

遊矢のフィールドに現れたのは魔法使いの翁。ローブに身を包み、威厳溢れるこのカードはコナミから譲り受けたカードだ。優秀な効果を持つ為、多くのデッキで採用されている。

 

「『王立魔法図書館』の効果発動!3つの魔力カウンターを取り除き、1枚ドロー!」

 

王立魔法図書館 魔力カウンター3→0

 

榊 遊矢 手札4→5

 

「手札の魔法カードを捨て、サモンプリーストの効果発動!デッキの『EMペンデュラム・マジシャン』を特殊召喚する!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

サモンプリーストが魔方陣を描き、開いた瞬間に中より飛び出す赤いマジシャン。振り子を手にし、シルクハットを被り直すこのモンスターこそ、遊矢の『EM』のキーカード。黒咲のフォース・ストリクスとなるカードだ。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果発動!このカードとサモンプリーストを破壊する事でデッキの『EMギタートル』と『EMリザードロー』を手札に!そして2体でペンデュラムスケールをセッティング!ギタートルの効果で1枚ドロー!そしてリザードローを破壊し、もう1枚ドロー!」

 

王立魔法図書館 魔力カウンター0→1→2

 

榊 遊矢 手札4→5→6

 

「そして『EMラクダウン』をセッティング!」

 

王立魔法図書館 魔力カウンター2→3

 

「カウンターを取り除き、ドロー!」

 

王立魔法図書館 魔力カウンター3→0

 

榊 遊矢 手札5→6

 

「揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMボットアイズ・リザード』!『EMリザードロー』!『曲芸の魔術師』!」

 

EMボットアイズ・リザード 攻撃力1600

 

EMリザードロー 攻撃力1200

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

遊矢のフィールドに降り注ぐ3つの光の柱、紫、オレンジ、赤とカラフルな色彩を放つそれは地に落ちた瞬間に霧散する。

登場したのはシルクハットを被り、義眼をつけたおどけた蜥蜴とカードの襟巻きを巻いたオレンジの蜥蜴。そして派手な衣装の『魔術師』だ。

 

「まずはボットアイズ・リザードの効果!デッキの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を墓地に送り、このターン、ボットアイズ・リザードは『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』として扱う!そして俺は魔法カード、『置換融合』を発動!」

 

「『融合』……ッ!」

 

王立魔法図書館 魔力カウンター0→1

 

遊矢の発動した魔法カード、黒咲にとっての因縁の『融合』がデュエルディスクのプレートに乗る。そのカードに黒咲は目付きを更に鋭くし、唇を噛み締める。

だが遊矢は何も挑発している訳ではない。確かに彼にとって『融合』は仲間達の仇かもしれないが、遊矢にとって『融合』は素良や柚子との絆の証なのだ。

力自体に罪は無い。その事を知って欲しいからこそ、敢えて遊矢は『融合』を使う。

 

「フィールドの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』となったボットアイズ・リザードと『曲芸の魔術師』を融合!融合召喚!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

上空に巨大な魔方陣が浮かび上がり、その中より甲高い咆哮と共に深紅の竜が姿を見せる。背に満月の黄金の輝きを放つリングを負い、隠れた片目に魔力を封じた竜。

その胸に抱いた青の宝玉が陽光を反射し、眩い光を閃かせる。

 

「ルーンアイズはペンデュラム召喚したモンスターを素材として融合召喚したターン、相手の効果を受けず、レベル5以上の魔法使い族モンスターを素材とした為、3回攻撃を得る!」

 

「だが俺のフォース・ストリクスの守備力は自分以外の鳥獣族モンスターの数×500アップし、3000!その融合モンスターでは倒せない!」

 

「なら次はモンスターの効果を融合させる!ルーンアイズを対象に、『EMラクダウン』のペンデュラム効果発動!相手フィールド上のモンスター全ての守備力を800ダウンし、ルーンアイズに貫通効果を与える!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力3000→2200×3

 

『上手い……これならフォース・ストリクスを破壊し、ダメージを与える事が出来る。だが――』

 

黒咲の強固な要塞とも言える布陣に対し、正解と思える手段で立ち向かう遊矢。その大胆にして豪快な戦術にあのユートでさえ舌を巻く。

だが――ユートは知っている。この正解でも、黒咲のLPには届かない事を。

 

「バトル!ルーンアイズで3体のフォース・ストリクスに攻撃!連撃のシャイニーバーストッ!」

 

「その程度で勝ったつもりか!罠発動!『RR―レディネス』!このターン、『RR』は戦闘破壊されない!」

 

「だがダメージは――」

 

「受けない!墓地のレディネスを除外し、ダメージも0にする!」

 

そう、このカードこそが黒咲 隼、最強の防御札。その効果によってフォース・ストリクスは戦闘破壊を逃れるが、それはあくまでおまけに過ぎないだろう。

墓地で発動する、ダメージを0にする強力な効果。しかも『RR』の名を冠している事でサーチ手段もある。このレディネスをどうにかしなければ、遊矢の意志は黒咲には届かない。

 

『これが隼の力だ。レディネスでフォース・ストリクスを守る事で、サーチを確実なものにしている』

 

「……ならレディネスが尽きるまで攻めるだけだ。面白くなって来たじゃないか……!」

 

『そう言うと思っていた。俺もサポートする。必ず届かせるぞ、遊矢』

 

黒咲の力を前にしても、前向きに闘おうとする遊矢に対し、ユートもまた、フ、と溜め息にも似た笑みを溢し、両腕を組む。有難い申し出だ。

遊矢は頷き、デュエルディスクを構え直す。

 

「魔法カード、『一時休戦』を発動!互いにドローし、次のターン終了までダメージを0に!」

 

王立魔法図書館 魔力カウンター1→2

 

榊 遊矢 手札2→3

 

黒咲 隼 手札3→4

 

「装備魔法、『ワンダー・ワンド』を図書館に装備!」

 

王立魔法図書館 魔力カウンター2→3

 

「図書館の効果でドロー!」

 

王立魔法図書館 魔力カウンター3→0

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「『ワンダー・ワンド』と図書館を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→5

 

『残る手札は5枚、ここは5枚全てセットしよう。あいつに対して有効なカードもある。使わない手はない』

 

「ああ!俺はカードを5枚セットし、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMリザードロー』(攻撃表示)

セット5

Pゾーン『EMギタートル』『EMラクダウン』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『貪欲な瓶』!墓地のカードを5枚戻し、ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「そう来たか……フォース・ストリクスの効果発動!」

 

「永続罠、『手違い』!互いにドロー以外でカードを手札に加えられない!更にチェーンして罠発動、『撹乱作戦』!お前の手札を入れ換える!」

 

「チッ、魔法カード、『エクシーズ・ギフト』!残る場のORUを2つ取り除き、2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札4→6

 

「魔法カード、『エクシーズ・トレジャー』!3枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札5→8

 

「魔法カード、『ポルターガイスト』!『手違い』をバウンスする!そしてネストの効果でトリビュート・レイニアスをサーチ!」

 

「速攻魔法、『相乗り』発動!このターン、相手がサーチ、サルベージをする度にデッキから1枚ドローする!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

遊矢の発動したカード、『相乗り』を視界に入れ、舌打ちを鳴らす黒咲。それもその筈、主にサーチをして戦術を整える『RR』にとって、このカードは天敵とも言えるカードだからだ。完璧に見えるが、つけ入る隙は充分にある。遊矢はデッキからカードを手札に加え、新たに戦術を練り始める。

 

「チッ、トリビュート・レイニアスを召喚!」

 

RR―トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

RR―フォース・ストリクス 守備力3000→3500

 

「効果でミミクリー・レイニアスを墓地に送り、除外してレディネスサーチ」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「1体のフォース・ストリクスを対象に『RUM―スキップ・フォース』を発動!フォース・ストリクスよりランクが2つ高い『RR』を上に重ね、エクシーズ召喚する!」

 

「ランクアップ……!」

 

『来るぞ遊矢!』

 

ついにデュエルディスクに叩きつけられる、黒咲 隼の真骨頂、『RUM』により、その背後に星が浮かぶ渦が広がり、冥府の梟が囀りを響かせ突入する。

進化する猛禽、新たに現れる黒き影はその両翼を翻し、空高く飛翔する。

 

「1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!誇り高きハヤブサよ。英雄の血潮に染まる翼翻し革命の道を突き進め!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR―レヴォリューション・ファルコン』ッ!!」

 

RR―レヴォリューション・ファルコン 攻撃力2000

 

炎が燃え上がり、灰となって降り注ぐ。雄々しき翼を広げ、気高き猛禽が姿を見せる。革命の名を持つモンスター。素良とのデュエルでフィニッシャーとなったモンスターだ。

当然、遊矢は警戒を示し、気を引き締める。

 

『気をつけろ、あのモンスターでも、まだ黒咲 隼と言う男の通過点に過ぎない』

 

「……上等だ……!」

 

「バトル!レヴォリューション・ファルコンで『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を攻撃!特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う場合、その相手モンスターの攻撃力を0にする!レヴォリューショナル・エアレイドォ!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→0

 

黒咲の怒号と共に、レヴォリューション・ファルコンがその両翼から爆弾を投下する。流星の如く降り注ぐ爆撃、現代の兵器が魔術の竜に襲いかかる。

だが遊矢も負けてはいない。手札より1枚のカードを突き出す。

 

「『一時休戦』でダメージは0に……!」

 

「防いでいられるのも今の内だ。トリビュート・レイニアスでリザードローを攻撃!そしてメインフェイズ2、トリビュート・レイニアスの効果で速攻魔法の『RUM』カード、『RUM―デス・ダブル・フォース』をサーチ!」

 

「『相乗り』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→5

 

「カードを3枚セットし、ターンエンドだ!」

 

「罠発動!『デビル・コメディアン』!コイントスをし、効果を適用……裏だ、俺はお前の墓地のカードと同数のカードをデッキから墓地に送る……!」

 

黒咲 隼 LP4000

フィールド『RR―レヴォリューション・ファルコン』(攻撃表示)『RR―フォース・ストリクス』(守備表示)×2『RR―トリビュート・レイニアス』(攻撃表示)

『RR―ネスト』セット4

手札5

 

「俺のターン、ドロー!手札の『サンダー・ドラゴン』を捨て、同名カードを2枚サーチ!速攻魔法、『リロード』!アクションカードと共に手札を入れ換える!墓地の『置換融合』を除外、『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をエクストラデッキに戻して1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札7→8

 

「ペンデュラム召喚!『EMロングフォーン・ブル』!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMカレイドスコーピオン』!『EMヘイタイガー』!」

 

EMロングフォーン・ブル 攻撃力1600

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700

 

振り子の軌道を描き、4体のモンスターが姿を見せる。深い青色に染まり、角に電話をかけた牛のモンスターに、赤い衣装の振り子のマジシャン。

そして万華鏡の尾を持つ蠍のモンスターとデフォルメされた虎の兵士。見るも鮮やかなモンスター達が、このデュエルを更に盛り上げようと奮起する。

 

「ロングフォーン・ブルの特殊召喚時効果で『EMスライハンド・マジシャン』を、ペンデュラム・マジシャンの効果でこのカードとペンデュラムゾーンのラクダウンを破壊して『EMシール・イール』と『EMドクロバット・ジョーカー』をサーチ!そして『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

遊矢の手より現れるのは、ペンデュラム・マジシャンと共に『EM』の重役を担うモンスター。継ぎ接ぎだらけのシルクハットを被り、黒いマスクにトランプのマークを散りばめた燕尾服を纏った道化師は、その指で不格好な魔方陣を描き、中より1枚のカードを取り出す。

 

「ドクロバット・ジョーカーの効果でデッキの『EMジンライノ』をサーチ!そして『EMシール・イール』をセッティングしてギタートルの効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札8→9

 

次々と遊矢のフィールドで繰り広げられるカード効果。それでも遊矢の手札は一向に減らず、フィールドのカードだけが増え続けると言う、マジックのような信じられない光景が見える。

 

「まだまだ行くぜ!俺はロングフォーン・ブルをリリースし、『EMスライハンド・マジシャン』を特殊召喚!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500

 

次に現れたのは『EM』の最上級モンスター、真紅の衣装に身を包み、白い仮面を被ったマジシャン。

左手にはステッキ、右手には4つのボールを掴み、下半身は青の輝きを放つ水晶になっており、純白の翼が優しく包んでいる。

 

「手札を1枚捨て、レヴォリューション・ファルコンを対象にスライハンド・マジシャンの効果発動!対象のモンスターを破壊する!そしてシール・イールの効果で1体目のフォース・ストリクスの効果を無効に!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力3500→3000

 

RR―フォース・ストリクス 守備力3500→2000

 

『サンダー・ブレイク』を内蔵したモンスター。その効果に革命のハヤブサが撃ち抜かれ、墜落する。厄介なモンスターは倒した。効果破壊である為、『RR―レディネス』の効果も及ばない。後は強固な壁であるフォース・ストリクスも除去しておきたい所だ。

 

「俺はスライハンド・マジシャンを対象にカレイドスコーピオンの効果発動!このターン、スライハンド・マジシャンは相手フィールド上に特殊召喚されたモンスター全てに攻撃出来る!カードを1枚セット!バトルだ!ヘイタイガーでトリビュート・レイニアスを攻撃!この瞬間、アクションマジック『オーバー・ソード』によりその攻撃力を500アップ!」

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700→2200

 

「――通す」

 

『何――?』

 

黒咲 隼 LP4000→3600

 

RR―フォース・ストリクス 守備力3000→2500

 

「ヘイタイガーの効果で『EMオッドアイズ・ユニコーン』をサーチ!」

 

レディネスを使用せずに遊矢の攻撃を受ける黒咲。吹き荒れる風にバサバサとスカーフとコートを靡かせ、仁王立ちする黒咲の姿に違和感を感じるユート。しかし遊矢は好機と取り、その攻撃の手を進める。

 

「よし、効果を無効にしたフォース・ストリクスにスライハンド・マジシャンで追撃だ!そしてそのまま2体目も攻撃!」

 

『待て、遊矢それは――』

 

ユートが注意を飛ばすももう遅い。遊矢の宣言を受けたスライハンド・マジシャンがその身を翻し、ステッキから光線を放ち、2体のフォース・ストリクスを破壊する。そしてその、瞬間――。

 

「速攻魔法――『デス・ダブル・フォース』発動!戦闘破壊されたフォース・ストリクスを特殊召喚し、その倍のランクのエクシーズモンスター1体へとランクアップさせる!」

 

「倍だって!?」

 

『くっ……!』

 

黒咲のフィールドにセットされていたカードがオープンし、フォース・ストリクスが蘇って天高く舞い上がる。更なる高みを目指し進化する猛禽。

レヴォリューション・ファルコンを越えるランクのエクシーズモンスターが今、砂漠の上空に姿を見せる。

 

「1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!勇猛果敢なるハヤブサよ。怒りの炎を巻き上げ、大地をも焼き尽くす閃光となれ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!飛翔しろ!『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』!」

 

サテライト・キャノン・ファルコン 攻撃力3000

 

現れたのは今までの『RR』とは全く異なった、純白の翼を持つ鳥獣。炎の赤が燃え上がり、翡翠の輝きが随所で光る。

 

「サテライト・キャノン・ファルコンがエクシーズ召喚に成功した場合、相手フィールドの魔法、罠を全て破壊する!」

 

「――!」

 

青白い炎が遊矢のフィールドを焦土と化す。チェーン発動を許さない『ハーピィの羽箒』。その強力な効果はペンデュラムゾーンのカードさえ焼き払う。

迂闊だった。黒咲 隼程のデュエリストがレディネスを使わないには訳がある。まんまと罠に誘い込まれ、飛び込んでしまったのだ。遊矢は眉根を伏せ、歯を食い縛って猛省する。

 

「悪いユート……俺があの時、お前の言葉を聞いていれば」

 

『反省するのは後だ。まだ負けた訳じゃない、君らしく無いぞ』

 

「そうだな……っし!破壊された『リ・バウンド』の効果でドローする!」

 

榊 遊矢 手札7→8

 

「俺は『EMキャストチェンジ』により、手札を交換し、1枚ドロー!『星読みの魔術師』と『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!慧眼を破壊し、デッキより時読みをセッティング!カードを5枚セットし、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMスライハンド・マジシャン』(攻撃表示)『EMヘイタイガー』(攻撃表示)『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)

セット5

Pゾーン『時読みの魔術師』『星読みの魔術師』

手札1

 

ユートの叱咤の台詞に両手で頬をパンッ、と叩き、ジンジンと熱を抱いて気を取り直す遊矢。彼の言う通りだ。まだデュエルは終わってない。失敗したのなら次に取り返せば良い。

 

「さっきから何を……まぁ良い、俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満な壺』を発動!エクストラデッキから6体のモンスターを除外し、2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札5→7

 

「ファジー・レイニアスを特殊召喚!」

 

RR―ファジー・レイニアス 守備力1500

 

「速攻魔法、『地獄の暴走召喚』!特殊召喚されたファジー・レイニアスをデッキ、手札、墓地から可能な限り特殊召喚する!」

 

「俺のモンスターは1枚ずつ……よって特殊召喚はしない」

 

RR―ファジー・レイニアス 攻撃力500×2

 

「『RR―ネスト』の効果でミミクリー・レイニアスをサーチ!」

 

「速攻魔法、『捕違い』!ターン終了まで互いにドロー以外でデッキからカードを手札に加えられない!」

 

これで再びレベル4のモンスターが3体、しかし既にフォース・ストリクスは使い切った。となると、次の手は――。

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!雌伏のハヤブサよ。逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ!エクシーズ召喚!現れろ!『RR―ライズ・ファルコン』!」

 

RR―ライズ・ファルコン 攻撃力100

 

3体のモンスターを素材に現れたのは、攻撃力がたった100のモンスター。4枚の翼を広げ、大きく発達した脚の爪を遊矢へと向ける。

これ程の威圧感を放ち、攻撃力がたった100。しかし遊矢は既に素良との試合を見て、このカードの脅威を知っている。

 

「ライズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、スライハンド・マジシャンを対象に効果発動!ライズ・ファルコンの攻撃力を対象のモンスターの攻撃力分アップする!」

 

「罠カード、『デストラクト・ポーション』!」

 

「カウンター罠!『ギャクタン』!その効果を無効にしてデッキへ戻す!」

 

RR―ライズ・ファルコン 攻撃力100→2600

 

ライズ・ファルコンの周囲で回転するORUが1つ弾け飛び、スライハンド・マジシャンより力を奪う。

 

「サテライト・キャノン・ファルコンのORUを1つ取り除き、スライハンド・マジシャンの攻撃力を自分の墓地の『RR』モンスターの数×800ダウンする!これがレジスタンスの力だ!散り行く仲間達の想いを背負った俺は、負ける訳には行かない!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500→0

 

サテライト・キャノン・ファルコンの背後に黒咲の墓地に眠る『RR』達が羽ばたき、弾となって装填され、スライハンド・マジシャンを何度も、何度も撃ち抜く。

怒りが、悲痛が籠ったそれは遊矢のフィールドに降り注ぎ、大地を焼き焦がす。思いの丈をぶつける黒咲、そんな彼の一撃に、遊矢は唇を噛み締め、眉をひそめる。

 

「これが黒咲の想い……だけどこんな事続けたら、何時かお前、壊れちまうよ……!そんなの誰も救われない、仲間達だってそんな事望んでる筈がない!」

 

『遊矢……』

 

「知った風な口を利くな!お前に俺達の何が分かる!」

 

「だってデュエルが泣いてる!お前のデュエル、ちっとも笑ってないんだ!」

 

「デュエルが……泣いている……?」

 

訳が分からない。黒咲を心配し、痛む胸を掴んで叫ぶ遊矢に対し、黒咲が動揺する。デュエルが泣いている。遊矢にはそうとしか考えられないのだ。

本当に凄くて、上手いプレイングなのに、カード達の力を引き出しているのに、そのカード達が辛そうに見えるのだ。ずっと黒咲の周りで土砂降りの雨が降り注ぎ、傘もささずに打たれているように見えて、胸が張り裂けそうになる。

 

「お前、本当はデュエルが大好きなんだろ!?考え込まれて作ったデッキ、凄いプレイング、誰だって分かる!だけど、だけど何で笑ってないんだよ!」

 

「――ッ!!」

 

遊矢の想いが、砂塵舞う遺跡に木霊する。遊矢には分かっているのだ。黒咲が自分なんかよりずっと強い事に、だけど、だからこそ大好きなデュエルに怒りや憎悪を乗せる黒咲の姿が嫌なのだ。

遊矢にとってデュエルはデュエリスト同士の対話。それが想いのぶつけ合いなら納得も出来る。だけど遊矢には黒咲が無理をしているように見えて、目の前の自分に想いをぶつけているようには思えないのだ。

好き好んで怒りや憎悪する人間には見えない。だからこそ、今の彼の姿は見るに堪えない。

 

「『融合』の時だってそうだ!確かにアカデミアは間違ってるんだろう!だけど力には、カードには何の罪もない!デュエリストがカードに憎しみを抱くなんて、そんなの絶対におかしい!」

 

「俺は……」

 

遊矢だってデュエルと言うものが大好きだ。だからこそ同じくデュエルが大好きな黒咲の現状に手を伸ばす。

そう、遊矢には重なって見えるのだ。昔、臆病者の息子と呼ばれ、蔑まれた自分と、今の黒咲が、そう思ったのは、気づいてしまったから。

 

黒咲と言う男が本当は誰よりも――誰よりも弱くて、優しい事を。

 

「お前、本当は弱いんだろ!?優しいからそうやって自分が何とかしなきゃって辛い事を我慢して、背負い込んでいる!だけどそんなの間違ってる!」

 

「今更……今更戻れるかぁっ!傷つくのはもう俺1人で良い!汚れるのは、もう俺だけで充分だ!仲間を救う為なら、俺は――修羅にもなる!」

 

まるで、勝鬨のような台詞。だけど遊矢には分かる。彼と黒咲には、大きく違う点がある。1つは勝鬨は例え修羅になろうと、デュエルを嫌いになる事だけは絶対にしない事、そしてもう1つは――遊矢はそれは伝える為、強さを履き違えた彼を救う為に、デュエルを続ける。

果たして――遊矢のデュエルは、彼の心に届くのか――。




速報 黒咲さん、弱かった。
他の作品では黒咲さんは精神的に強い人になっているものが多いので、本作品では真逆のアプローチを取ってみました。
元々皆を楽しませるプロデュエリストを目指していたと言われていたので、次元戦争でそれが変わらざるを得なかった、みたいな感じです。
そして思った以上に文字数が多くなってしまったので3つに話を分けます。次回はちょっと文字数が少なくなりそうですが許しておくれ。


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第61話 鉄の意志、鋼の強さ

次元箱の予約を……予約を……出来ない……だと……!?


榊 遊矢対黒咲 隼のデュエルはまだまだ続く。心の底より溢れ出る想いを吐露し、その上で遊矢を拒否する隼、彼は遊矢を突き放すように、自らのモンスター達に指示を出し、遊矢へと攻める。

 

「バトル!ライズ・ファルコンは特殊召喚されたモンスター全てに攻撃出来る!ブレイククローレヴォリューション!」

 

『遊矢!』

 

「スライハンドとの戦闘時、罠発動!『ガード・ブロック』!」

 

榊 遊矢 LP4000→3100 手札1→2

 

「サテライト・キャノン・ファルコンでドクロバット・ジョーカーに攻撃!エターナル・アベンジッ!」

 

榊 遊矢 LP3100→1900

 

サテライト・キャノン・ファルコンが天高く、大気圏をも突き抜け、その翼を翻す。更にその背より赤き火炎を吹かせ、Rの文字を2つ、鏡合わせに対にしたかのような翼を伸ばし、その砲門を地上の遊矢に向け、青白く輝く光線を放つ。

降りかかる熱の雨は遊矢を焦がそうとする。

これで遊矢のモンスターは全滅してしまったが――何とか黒咲の攻撃を堪えた。

 

「……俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP3800

フィールド『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』(攻撃表示)『RR―ライズ・ファルコン』(攻撃表示)

『RR―ネスト』セット4

手札3

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『カップ・オブ・エース』!表だ!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「罠発動!『ペンデュラム・リボーン』!墓地のペンデュラムモンスター、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を特殊召喚する!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

現れたのは遊矢のデッキ、永遠のエースカード。その胸に青い宝玉を抱き、背に三日月を負ったオッドアイの真紅の竜。その美しい眼の輝きが黒咲のフィールドのモンスターを射抜く。

 

「ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMカレイドスコーピオン』!『EMドクロバット・ジョーカー』!『曲芸の魔術師』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMドクロバット・ジョーカー 守備力100

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』に続き、4体のモンスターがペンデュラム召喚される。だがまだ黒咲のモンスターには届かない。ペンデュラムのその先を目指し、遊矢は手を打つ。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果発動!ペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、『EMオッドアイズ・ユニコーン』と『EMラディッシュ・ホース』をサーチ、セッティング!そしてサテライト・キャノン・ファルコンとドクロバット・ジョーカーを対象にラディッシュ・ホースのペンデュラム効果発動!ドクロバット・ジョーカーの攻撃力分、サテライト・キャノン・ファルコンの攻撃力をダウンする!」

 

RR―サテライト・キャノン・ファルコン 攻撃力3000→1200

 

「バトル!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』でライズ・ファルコンを攻撃!そしてこの瞬間、オッドアイズ・ユニコーンのペンデュラム効果発動!ドクロバット・ジョーカーの攻撃力を『オッドアイズ』に加える!その二色の眼で捉えた全てを焼き払え!螺旋のストライク・バーストッ!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→4300

 

『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』がその嘴のように尖った口に大気を集束させ、灼熱の炎を撃ち出す。これが通れば自身の効果でダメージが倍となり、9600のダメージで黒咲を倒せる。だが遊矢とて分かっている。これでもまだ――黒咲には届かない。

 

「罠発動!『RR―レディネス』!更に除外してダメージを0に!」

 

「俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP1900

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMペンデュラム・マジシャン』(守備表示)『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(守備表示)『曲芸の魔術師』(守備表示)

セット3

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMラディッシュ・ホース』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!どうした!?それで終わりか!手札の『サンダー・ドラゴン』を捨て、同名2体をサーチ!魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を交換!ライズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の攻撃力を吸収!」

 

RR―ライズ・ファルコン 攻撃力2600→5100

 

「『RR―ネスト』で墓地のトリビュート・レイニアス回収!召喚!」

 

RR―トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

「効果でミミクリー・レイニアスを落とし、除外してレディネスサーチ!バトルだ!」

 

「その前に!罠発動!『針虫の巣窟』!デッキから5枚のカードを墓地へ!」

 

「無駄な足掻きだ!ライズ・ファルコンで全てのモンスターに攻撃!引き裂けぇ!」

 

「『オッドアイズ』との戦闘時、罠発動!『ガード・ブロック』!ぐっがぁぁぁぁぁっ!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

激しい攻撃を受け、ダメージを防いでいるにも関わらず、遊矢の身体が吹き飛び、遺跡の壁へと打ち付けられる。強い、これが黒咲 隼。圧倒的な攻撃力に全体除去、大量展開にサーチ、サルベージ、そして防御と隙がない。

目の前にそびえ立つ、2人を隔てる高い壁。改めて実感する遊矢に、ユートが心配の声をかける。

 

『大丈夫か遊矢!?』

 

「あ、ああ……すげぇ、凄いよあいつ。強いなんてもんじゃない……!だけど負ける気なんて更々無いぞ!来いよ黒咲!お前じゃ俺を倒せない!」

 

「黙れぇ!トリビュート・レイニアスで攻撃!これで終わりだぁっ!」

 

「まだ終わりじゃない!永続罠発動!『EMピンチヘルパー』!直接攻撃を無効にし、デッキから『EMインコーラス』を特殊召喚!」

 

EMインコーラス 守備力500

 

死力を尽くした攻防、遊矢はセットしたカードをオープンし、黒咲の攻撃を防ぐ。機械的な猛禽の前に現れたのは、3羽のカラフルなインコだ。遊矢の右腕に並び、超音波の壁を奏で、主を守る。

まだデュエルは終わってない、決して諦めぬ闘志を示す遊矢に、流石の黒咲も動揺する。

 

「ッ!ならば、ならばリバースカードオープン!『RUM-レヴォリューション・フォース』!ライズ・ファルコンを対象とし、ランクの1つ高いモンスターをエクシーズ召喚する!オーバーレイ・ネットワークを再構築!獰猛なるハヤブサよ。激戦を切り抜けしその翼翻し寄せ来る敵を打ち破れ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR―ブレイズ・ファルコン』!」

 

RR―ブレイズ・ファルコン 攻撃力1000

 

上空で炎に包まれ、甲高い囀りを響かせるライズ・ファルコン。炎の赤が翼を舐めるように染め上げ、火花を散らす。3回目のランクアップ、止まる事の無い昇華により、姿を見せたのは深紅の猛禽だ。

 

「ORUを持つブレイズ・ファルコンは直接攻撃が可能!行けぇ!迅雷のラプターズ・ブレイク!」

 

赤い両翼を翻し、稲妻状のビームを放つブレイズ・ファルコン。高速で描かれる雷の軌道は遊矢へと命中し、LPを焦がす。

 

「ご、ぉっ……!」

 

榊 遊矢 LP1900→900

 

「ブレイズ・ファルコンの効果発動!『EMインコーラス』を破壊する!」

 

『遊矢!墓地だ!墓地を見ろ!』

 

「俺はっ、墓地の『EMジンライノ』を除外し、インコーラスの破壊を防ぐ!」

 

ブレイズ・ファルコンよりまたも稲妻が走り、空を飛ぶ小さな鳥を食らおうとする。しかし雷は突如その軌道を変え、地へと落ちる。地に埋まった巨大な角、『EMジンライノ』が避雷針となって遊矢の危機を救ったのだ。

 

「ぐ――サテライト・キャノン・ファルコンでインコーラスを攻撃!」

 

「インコーラスの効果!デッキから『EMセカンドンキー』を特殊召喚ッ!」

 

EMセカンドンキー 守備力2000

 

次々と破壊されては、遊矢の危機に現れる頼れる仲間、『EM』達。負けられない、負けたくないと必死で食らいつく遊矢に応える為に、何度も何度も駆けつけていく。

友の想いを、声を聞き、その助けになろうと1枚1枚のカードが、宿る魂が遊矢を導いているのだ。

 

「セカンドンキーの効果!デッキの『EMモモンカーペット』をサーチ!どうだ黒咲!俺は負けてない!デュエルはまだ、終わらない!」

 

「……ッ!それが、それがどうしたぁ!俺はブレイズ・ファルコンのもう1つの効果発動!ORU」を取り除き、セカンドンキーを破壊し、500のダメージを与える!」

 

榊 遊矢 LP900→400

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

黒咲 隼 LP3600

フィールド『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』(攻撃表示)『RR―ブレイズ・ファルコン』(攻撃表示)

『RR―ネスト』セット4

手札3

 

ぶつかり合う意地と意地、信念と信念。熱き火花を散らし、デュエルは更なる展開を繰り広げていく。息も絶え絶え、劣勢の状況。だけど遊矢は、そしてユートは諦めない。

想いはきっと届く、届かせてみせる。その瞳に燃える意志を宿し、遊矢は闘う。笑って欲しいから、本当のデュエルを思い出して欲しいから。ただそれだけの為に、何度も何度も手を伸ばす。勝つのは鋼の意志か、それとも――。

 

突然であるが、黒咲 隼はエクシーズ次元の出身である。まだ故郷が平和であった頃、彼等にとってデュエルは華々しく、熱く、手に汗握る最高のエンターテイメントだった。

プロデュエリストが魅せる見事なプレイングを見て、彼もまた例外無く憧れ、デュエリスト養成学校で多くの友と切磋琢磨したものだ。

親友であるユート、妹の瑠璃もこの中に入っている。他にも個性豊かな仲間達と出会い、このまま自身が人々を笑顔にする、プロデュエリストになってやると努力を続けた。彼の類稀なるデュエルタクティクスの下地は、思えばこの時点で構成されていたのだろう。

 

しかし、悲劇は訪れた。ある日突如、街に現れ、襲撃をかけた融合次元からの刺客、アカデミア。軍隊のように同じ姿をして、統率のとれた彼等はデュエルにより、故郷を火の海に、血生臭い黒煙が舞う戦場へと変えた。

訳も分からず逃げ惑う人々、恐怖に凍りついたエクシーズ次元の住人は彼等のデュエルによってカードと言う牢獄に閉じ込められた。

 

何だこれは、疑惑の感情が心を覆い尽くす。何故こんな事になる?唇を血が流れる程噛み締め、顔が悲痛に歪む。デュエルとは、何だ――。

瞬間、黒咲は決意した。奴等がデュエルをハンティングゲームだとするならば、こちらもそれに乗ってやろう。黒咲の目が猛禽のようにキュッ、と細められ、隠された爪が剥き出しとなる。

狩ってやる――デュエルが狩りと言うのなら、狩られる側の想いを、思う存分理解させてやる。革命の時は来た。

 

残ったデュエリスト達は黒咲とユートを中心とし、アカデミアへの反抗勢力、レジスタンスを結成した。彼等は破竹の勢いでアカデミアを迎撃するが、それも長く続かない。

 

一騎当千の兵より、教育を受けた多くの兵が勝ったと言う訳だ。一向に数が減らないアカデミアとは違い、レジスタンスは数もそれ程多くなく、実力もバラバラ、しかも裏切り者が出る事もあった。

 

屈辱だった。消え行く仲間達を目にして何も出来ない自分が。

この頃にはもう、黒咲のデュエルは復讐の為の道具でしか無かったのだろう。消えていく仲間達を見て、そうならざるを得なかった。疲弊し、擦り切れていく中、黒咲は出会った。

 

黒い帽子を被った、最強のデュエリストに。しかし、そんな彼も、黒咲の心には届かない。確かにアカデミアの刺客をカード化するのは止めたが、それでも憎悪が消えた訳ではない。

 

そんな彼がスタンダード次元に赴き、出会った1人のデュエリスト。デュエルをエンターテイメントとして考え、楽しもうとする少年、榊 遊矢はかつての自身と重なって、苛立ってしまった。

やめろ。黒咲の中にある何かが、遊矢を拒絶しようとする。そんなデュエルは、アカデミアには通じない。それはきっと、嫉妬だったのだろう。

彼が折れてくれなければ、黒咲の〝諦め〟が無駄となってしまう。彼が続ける限り、黒咲がデュエルの楽しさを捨ててしまった事が、無駄の泡となってしまう。

彼のデュエルを見る度に、彼の笑顔を見る度に人々の笑顔が咲く度に、黒咲は恐怖した。眩しく輝いて見えて、思わず目を背けていたのだ。

 

そんな中、黒咲の中にある黒く濁った感情が囁くのだ。どうせアカデミアと対峙すれば、奴も諦める。そうすれば――仲間達の犠牲が、無駄にならない。

今更戻れないのだ、戻ってしまうと、散っていった仲間達を裏切ってしまう。自分だけが楽しんで良い筈が無い。

 

だから黒咲は――すがりつくように、遊矢に向かって叫ぶ。

 

「どうせ……どうせお前もっ、アカデミアと対峙すれば諦める!エンタメデュエルなど、楽しさなど、奴等には通じないと諦める!」

 

心からの叫び。絞り出すような言葉が遊矢の手を止める。彼の傍で浮いているユートも、黒咲の悲痛な叫びを耳に入れ、目を伏せる。だが、遊矢は――。

彼はこれ以上なく真剣な表情で、それを否定する。

 

「俺は諦めない!自分にだけは負けない!教えてやる黒咲!その力は誰かを救える筈の、誰かを笑顔に出来る力だ!争う為の力じゃない!思い出せ黒咲!光が教えてくれた気持ちを!」

 

『遊矢……』

 

確かに、力は大事なものだ。だがそれ以上に、失ってはいけないものを遊矢は知っている。失う事の怖さを、遊矢は分かっているのだ。

遊矢の進む道は果てしなく茨の道なのかもしれない。だが――それがどうした。遊矢はその程度では歩みを止めない。

 

「俺はこの力で、お前に手を伸ばす!この、ユートから受け取った力で!かっとビングだ!俺!」

 

引き抜かれる1枚のカード、それを見て、遊矢は目を細める。遊矢の勇気にデッキが応えてくれたのだ。気にせず進めと背を押すそのカードを見て、遊矢はフッ、と笑みを浮かべる。

 

「ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMドクロバット・ジョーカー』!『EMカレイドスコーピオン』!『慧眼の魔術師』!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

「まずはペンデュラム・マジシャンの効果により、このカードと『EMピンチヘルパー』を破壊し、『EMドラネコ』と『EMギッタンバッタ』をサーチ!更に『EMラディッシュ・ホース』のペンデュラム効果でドクロバット・ジョーカーの攻撃力分、ブレイズ・ファルコンの攻撃力をダウンする!」

 

RR―ブレイズ・ファルコン 攻撃力1000→0

 

「そして墓地の『EMスプリングース』を除外し、効果発動!フィールドの『EMオッドアイズ・ユニコーン』と『EMラディッシュ・ホース』を手札に戻し、『EMオッドアイズ・ユニコーン』を召喚!」

 

EMオッドアイズ・ユニコーン 攻撃力100

 

ここで現れたのは赤と青、2色の虹彩を輝かせた一角獣だ。美しい毛並みを持つユニコーンはその角から光を放ち、主人を癒す。

 

「オッドアイズ・ユニコーンの効果により、墓地のスライハンド・マジシャンの攻撃力分、LPを回復する!」

 

榊 遊矢 LP400→2900

 

「往くぞ黒咲!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

『漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!』

 

「今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!」

 

『「『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』ッ!!」』

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

2人の少年が声を合わせ、友情のエースカードをエクストラデッキから引き抜き、デュエルディスクに叩きつける。瞬間、遊矢の背後に星を散りばめたような渦が発生し、その中へと2体のモンスターが光の線となって飛び込む。圧縮した渦は爆発を起こし、黒い霧を生み出す。

そして中より鋭い刃物のような両翼と尾を振るい、赤き稲妻が駆け抜ける。雄々しき咆哮が黒雲を引き裂き、その姿を見せたるは漆黒の竜。

赤い光の血流を輝かせ、神聖な空気が漂う遺跡に降臨する、その鋭いアギトを閃かせ、遊矢のフィールドに舞い降りる『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の姿を見て、黒咲がギリッ、と歯軋りする。

 

「やはり貴様が持っていたか……!2回戦でも見たが、何故貴様がそのカードを持っている!?」

 

「このカードはユートから譲り受けただけだ!あいつが戻って来る時まで、俺はユートの想いも背負って闘う!」

 

「ユートが……!?お前が奪ったのでは無いのか!?」

 

「違う!ユートはユーゴって言うシンクロ次元のデュエリストに倒されて消えた!でも今ユートは俺の隣にいる!コナミやアリトしか見えないけど、確かにいる!そしてユートもお前を救おうとしているんだ!本当はお前がダーク・リベリオンを持つべきかもしれない、だけどこのカードは誰にも譲れない!ユートが戻って来るまで、俺はユートの想いと共に借り受ける!」

 

『……人々を笑顔にしたい、そんな君だからこそ渡したんだ。確かに隼の方がダーク・リベリオンを使いこなせるだろう。だけど俺は君の可能性に賭けた!俺のカードが笑える未来を作り出す所を見てみたいんだ!』

 

ユートから受け取った想い、託された希望。それは確かに遊矢に向けられたものだ。確かに本来ならば、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』は、親友である黒咲に渡されるべきカードなのかもしれない。だけどそれでも、ユートは遊矢に賭けたのだ。

その想いを踏みにじる等、遊矢には出来ない。それでも――黒咲には、そんな荒唐無稽な話は信じられない。ならばとダーク・リベリオンを指差して叫ぶ。

 

「ならば見せてみろ!お前がダーク・リベリオンに相応しいかどうかを!」

 

「ああ!認めさせてやるさ!ダーク・リベリオンの事もっ!そしてお前自身も!」

 

「ッ!何を――!」

 

「『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』のORUを2つ取り除き、サテライト・キャノン・ファルコンを対象に効果発動!攻撃力を半分にし、その数値分、攻撃力を上げる!」

 

『トリーズン・ディスチャージ!』

 

ダーク・リベリオンの周囲で回転するORUが弾け飛び、翼の紅玉より雷が走り、力を奪い取る。攻撃力の補食、生物に最も隙が生まれる瞬間、その好機を黒咲は見逃さない。

 

「速攻魔法発動!『RUM-レヴォリューション・フォース』!このカードは発動するターンによって効果が変わる!相手ターンに発動した場合、相手のORUが無いエクシーズモンスターのコントロールを奪い、ランクが1つ高い『RR』へと進化させる!」

 

「ダーク・リベリオンがっ!?」

 

『しまった、2枚目があったとは……!』

 

コントロール奪取からのランクアップ。おおよそ最悪に近い形の除去方法に遊矢とユートが驚愕する。遊矢も知らなかった訳ではない。素良との闘いで目にしたカードなのだ。しかし先のターンの1枚目の発動が2枚目と言う思考を鈍らせた。

 

「ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR―ブレイズ・ファルコン』!」

 

RR―ブレイズ・ファルコン 守備力2000

 

「くっ、だがまだだ!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を対象にカレイドスコーピオンの効果発動!このターン、『オッドアイズ』は全ての特殊召喚されたモンスターに攻撃出来る!バトルだ!行け!『オッドアイズ』!」

 

「やらせん!罠発動!『RR―レディネス』!除外する事でダメージも0にする!」

 

『だがこれで3枚目を使わせた!』

 

「次のターンの攻撃は防がせない!」

 

度重なる遊矢の猛攻。決して見逃せないそれは黒咲に防御の手を取らせ続け、ついに盾を砕いた。勝負は次のターン、その為に、何としても堪えねばならない。

 

「俺は『EMモモンカーペット』と『EMドラネコ』をセッティング!カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP2900

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)『EMオッドアイズ・ユニコーン』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMモモンカーペット』『EMドラネコ』

手札4

 

息をする事も忘れてしまうそうな程緊迫した熱きデュエル。その緊張を破ったのは間違いなく遊矢だ。全ての盾を失った黒咲へと、遊矢とユートは全力の一撃を叩き込む準備にかかる。

デュエルは終盤、黒咲のターンに渡り、彼は遊矢を向かい撃つ。

 

「次のターン等、来ない――!」

 

お楽しみは、まだまだこれから――。




次回、激闘決着。


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第62話 アーティスト

コナミ「……黒咲がオレよりライバルやってんだけど」

零児「私のライバルっぽい出番、零!」


遊矢と黒咲によるデュエル、それは今正に佳境を迎えていた。数多くの壁を突破し、黒咲の心に辿り着く遊矢に対し、黒咲が拒絶するようにデッキより1枚のカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』を発動!アクションカードと共に手札を交換!まずは露払いだ!ブレイズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、貴様のフィールドのモンスターを全て破壊し、その数×500のダメージを与える!」

 

榊 遊矢 LP2900→1900

 

「がふっ――!」

 

ブレイズ・ファルコンによる強力な全体除去、バーンも備えたそれは遊矢のLPを削り取る。これで壁モンスターまで破壊されてしまった。頼りになるのはペンデュラムゾーンに置かれた2枚のカードだ。だがそれも、彼の前ではどこまで通用するか。

 

「残りLP1900、全力で削り取る!『RUM-スキップ・フォース』!サテライト・キャノン・ファルコンを対象に、ランクが2つ上の『RR』へとランクアップさせる!」

 

『来る……!隼の切り札が……!』

 

引き抜かれる伝家の宝刀。黒咲 隼の真骨頂、『RUM』。エクシーズモンスターのランクを次々と上昇させ、高位の存在へと進化させるその戦術は彼が持つ最大の武器だ。その終点とも言える、ランク10の登場。強大な力が集束する光景を見て、遊矢は息を呑む。

 

「これで終わりだ、榊 遊矢ぁ!貴様の戯れ言も今ここで終わる!1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!究極至高のハヤブサよ!数多なる盟友の遺志を継ぎ、勝利の天空へ飛び立て!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR―アルティメット・ファルコン』ッ!!」

 

RR―アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

今天空へと飛翔する最強の『RR』。重厚な漆黒のボディを煌めかせ、黄金に輝く翼が光を反射する。目を引くのはその背で閃く、日輪を模した黄金の翼。まるで太陽の化身と思える程の圧倒的な存在、究極が今、遊矢の前に立ち塞がる。

 

「これが――黒咲の切り札――!」

 

「アルティメット・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!相手フィールド上のモンスター全ての攻撃力を1000ダウンし、このターン、相手は効果を使えない!」

 

「なっ――!罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

全ての効果発動を封じる強力な効果。これを何もせずに通してしまえば遊矢のLPが大量に削られてしまう。それを見逃す遊矢ではない。直ぐ様リバースカードをオープンし、このターンの攻撃を防ぐ。

 

「ッ!どこまでも――!俺は『RR―ネスト』の効果で墓地の『RR―フォース・ストリクス』をエクストラデッキに戻し、ブレイズ・ファルコンを守備表示に変更、カードをセットし、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP3700

フィールド『RR―アルティメット・ファルコン』(攻撃表示)『RR―ブレイズ・ファルコン』(守備表示)×2

『RR―ネスト』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

『アルティメット・ファルコンは効果を受けないモンスターだ。攻撃力で上回るしかない』

 

「大丈夫さ、乗り越える……!魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『召喚僧サモンプリースト』、『EMヘイタイガー』、『EMスライハンド・マジシャン』、『EMドクロバット・ジョーカー』、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』をデッキに戻し、2枚ドロー!良し!魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!エクストラデッキに表側表示のペンデュラムモンスターが3体以上いる事で2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→6→7

 

「更に魔法カード、『ペンデュラム・ストーム』を発動!ペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、セットカードを1枚破壊!マンモスプラッシュとドクロバット・ジョーカーでペンデュラムスケールをセッティング!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『降竜の魔術師』!『EMカレイドスコーピオン』!『EMドラミング・コング』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMドラミング・コング 守備力900

 

何度も何度も蘇り、黒咲の行く手を遮る遊矢のモンスター。その光景、その諦めの悪さに黒咲は1人の少年を遊矢へと重ねる。そう、これは――まるで――。

 

「俺のモンスターは倒れない!」

 

ユートの『幻影騎士団』だと。

 

「行くぞ黒咲!俺の全開、全力をぶつける!まずは素良との絆!フィールドの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMオッドアイズ・ユニコーン』をリリース!出でよ!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

鋭く輝く野獣の眼光。3つの眼が大空に飛翔する黄金鳥を射抜き、狙いを定める。雄々しい遠吠えを放ち、獣の骨格を纏った竜が姿を見せる。

素良との絆、融合の力を取り入れ、進化した『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』だ。

 

「融合モンスター……!」

 

「そうだ!だけど結んだ絆はこれだけじゃない!『EMマンモスプラッシュ』のペンデュラム効果発動!融合モンスターが特殊召喚された場合、エクストラデッキの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を特殊召喚する!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

再び現れる2色の虹彩。この『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、遊矢のエースカードこそが絆を結ぶカード。結ばれた糸を手繰り寄せるかのように、遊矢はマンモスプラッシュの効果を使い、特殊召喚する。そして次に引き寄せる絆は――。

 

「これで……レベル7のモンスターが2体……!」

 

「ッ!まさかっ!?」

 

『あのモンスターを出す気か遊矢!?』

 

並び立つ『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『降竜の魔術師』。レベル7のモンスター。その2枚に黒咲とユートが顔中に驚愕を貼りつける。黒咲は遊矢が『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』以外のそれを持っている事に対して。ユートは遊矢が召喚しようとしているモンスターに気づいて。

 

「全力で闘わなきゃ勝てない!俺は俺の中の誰かも、笑顔にしてみせる!力を重ねるぞユート!『降竜の魔術師』の効果でこのカードの種族をドラゴンに変える!」

 

『仕方無いか……!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!』

 

重ねる力、遊矢とユートは共に手を翳し、空中で発生した孔へと2体のモンスターを閃光へ変化させ、飛び込ませる。瞬間、孔は集束して爆発を起こし、突風が頬を撫でる。凄まじき轟音、孔の奥から2色の光が閃き、遊矢の虹彩もまた、赤と、灰色に染まる。

 

「二色の眼の龍よ!その黒き逆鱗を震わせ」

 

『刃向かう敵を殲滅せよ!エクシーズ召喚!』

 

フィールドに震撼する雄々しき竜の遠吠え。2人の口上が重なり、漆黒の覇王を呼び覚ます。遊矢とユート、いや、1人のデュエリストの下へと――。

 

『「出でよ、怒りの眼輝けし龍!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』ッ!!」』

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

巻き上がる白煙、それを突き破るように、妖しく輝く鋭いアギトが貫き出る。右が白、左が黒の頭部、真紅と翡翠の眼を煌めかせた覇王竜。

胸部は竜の頭を模しており、腕から伸びた工具のような指が開く。その背で激しい駆動音を響かせるのは巨大な翼。8枚4対の剣の形をしたそれは桜色の光を放っている。

 

「この……モンスターは……!?」

 

「このカードが俺とユートの絆のカード、重ねる力と」

 

『振り子のように何度も立ち上がる力を合わせ持つモンスター』

 

「ッ!ユー……ト……!?」

 

遊矢の口から放たれるユートの声。その聞き慣れた響きに黒咲は思わず遊矢へと顔を向け、動揺を走らせる。そこにいたのは、確かに遊矢の姿。

しかし彼の左目はユートと同じ灰色の光を閃かせており、奥に潜む意志もまた――同じ。

まるでフィールドで雄叫びを上げる竜と同じ、オッドアイ。2色の虹彩の前に、黒咲が息を詰まらせる。

 

『忘れたのか――?この名誉会員の事を。全く、俺の目が離れた隙に好き勝手やっている。手がかかる奴だ』

 

「馬鹿な……!本当にユートなのか……!?だが……例えお前が相手でも、俺は止まらない!」

 

「お前を止めるのは、笑わせるのは俺達だ!行くぞユート!」

 

『ああ!ビーストアイズを対象にカレイドスコーピオンの効果発動!このターン、ビーストアイズは特殊召喚した全てのモンスターに攻撃可能!』

 

「バトルだ!ビーストアイズでアルティメット・ファルコンに攻撃!」

 

『この瞬間、『EMドラミング・コング』の効果で攻撃力を600アップ!』

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→3600

 

ドラミング・コングが胸のシンバルを叩いて打ち鳴らし、獣の眼を輝かせる竜を鼓舞する。甲高い音を浴び、赤いオーラを迸らせるビーストアイズ。攻撃力3600、アルティメット・ファルコンの攻撃力を僅か100上回る数値。ゴウゴウと燃え盛る熱線が究極のハヤブサを撃ち落とす。

 

「ヘルダイブバーストッ!!」

 

黒咲 隼 LP3700→3600

 

「ぐっうぉ――!」

 

「ビーストアイズの効果発動!」

 

『モンスターを戦闘破壊した際、素材となったオッドアイズ・ユニコーンの攻撃力分のダメージを与える!』

 

黒咲 隼 LP3600→3500

 

たった100、僅か100の微量な数値だが、着実に黒咲にダメージを与えていく。今はこれしかない、これが遊矢の、ユートの全力。小さくとも確実に歩んでいく。それが遊矢のデュエル。

 

「まだだっ!ビーストアイズで2体のブレイズ・ファルコンを攻撃!」

 

続く攻撃、ビーストアイズのアギトより放たれる熱線が遺跡を破壊し、轟音を響かせる。爆風が遊矢の頬を撫で、天空の赤いハヤブサが灰色に燃え尽きて地に落ちる。

 

「ビーストアイズの効果発動!」

 

黒咲 隼 LP3500→3400→3300

 

「オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンで攻撃!反旗の逆鱗!」

 

『ストライク・ディスオベイ!』

 

8枚の翼を広げ、その巨体を翻し、妖しく輝く2本の牙を地へ突き立てる覇王竜。強き者への下克上、歩みを止めない遊矢のように、何度も立ち上がるユートのように、白と黒の線が破壊音を辺りに響かせ突き進む。赤い稲妻がバチバチと鳥の囀りのように迸って散り、黒咲へと進撃する。届け。全ての力を振り絞った一撃。だがそれも――。

 

「速攻魔法発動――」

 

黒咲には、届かない。

 

「『RUM-デス・ダブル・フォース』ッ!!」

 

オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンがその牙を黒咲へと突き立てようとした瞬間、突如地を伏せていたブレイズ・ファルコンの身体を閃光が包み込み、光輝く柱が空へと昇る。

この状況からのまさかの反撃。油断は無かった、だが完全に意識して無かった事だ。遊矢は色彩が異なる両の眼を見開き、動揺を走らせる。そう、光が晴れたそこには――。

 

「ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR―アルティメット・ファルコン』ッ!!」

 

RR―アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

今倒したばかりの、漆黒のハヤブサが、黄金の翼を広げていたのだから。蘇る黒咲の切り札、2枚目のアルティメット・ファルコンの登場に遊矢はその表情に緊張を浮かべる。これでは追撃をかける事は不可能だ。

遊矢は苦笑いしながらその手を切り替える。

 

「俺は墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、マンモスプラッシュをデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

『魔法カード、『一時休戦』を発動。互いに1枚ドロー』

 

榊 遊矢 手札1→2

 

黒咲 隼 手札2→3

 

『カードを2枚伏せ、ターンエンドだ』

 

榊 遊矢 LP1900

フィールド『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』(攻撃表示)『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)『EMドラミング・コング』(守備表示)

セット2

Pゾーン『EMドクロバット・ジョーカー』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!これが俺の怒りだ!俺の力だ!未だ燃え続ける炎!分かるか榊 遊矢!消えていく仲間達、伸ばした手が空を切る無力感が!……お前の言う通りだ。俺は弱い、誰も救えない……!そんな俺が笑って良い筈が無いんだ……!だから頼む……これ以上手を伸ばすなぁっ!アルティメット・ファルコンのORUを1つ取り除き、お前のモンスター全ての攻撃力を1000ダウンし、このターンの効果を封じる!」

 

「うるさい!知った事じゃないぞ、このバーカ!お前がどれだけ拒もうと、俺は手を伸ばす!お前を笑顔にしてみせる!」

 

『止められると思うな隼!このバカは諦めが悪いんだ!』

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→2000

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→2000

 

EMカレイドスコーピオン 攻撃力100→0

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→600

 

ぶつかり合う3人の想い、譲れぬ覚悟がカードの応酬に表れる。黒咲がどれだけ拒もうと、遊矢は折れる事無く、真っ直ぐに突き進む。

 

「ッ!折れろぉ!速攻魔法、『サイクロン』!セットカードを破壊!墓地の『RUM-スキップ・フォース』と『RR―ブレイズ・ファルコン』を除外し、蘇れ!『RR―アルティメット・ファルコン』ッ!!」

 

RR―アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

地を突き破り、2体目の猛禽が天空に飛翔する。並び立つアルティメット・ファルコン。黄金の翼が太陽の光を反射し、煌めきを見せる。かつて無いような危機的な状況、それでも遊矢の顔に浮かぶのは――デュエルを楽しもうとする、輝く笑み。

 

「『ネクロフェイス』を召喚!」

 

ネクロフェイス 攻撃力1200

 

「召喚時、除外されたカードをデッキへ戻す!そしてその数×100攻撃力アップ!」

 

ネクロフェイス 攻撃力1200→3900

 

「手札のモンスターを捨て、魔法カード、『ワン・フォー・ワン』!デッキの『RR―ラスト・ストリクス』を特殊召喚!」

 

RR―ラスト・ストリクス 攻撃力100

 

「ラスト・ストリクスをリリースし、エクストラデッキのサテライト・キャノン・ファルコンを特殊召喚!」

 

RR―サテライト・キャノン・ファルコン 守備力2000

 

「まだだぁっ!魔法カード、『RUM―スキップ・フォース』!サテライト・キャノン・ファルコン1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR―アルティメット・ファルコン』!!」

 

RR―アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

3体目、天空に舞い上がる漆黒のハヤブサ。黄金の翼を広げる切り札を見て、遊矢が浮かべるのは――。

 

「すげぇ……!」

 

デュエルを楽しむ、純粋な笑み。

 

「ネストの効果発動!」

 

「速攻魔法、『魔法効果の矢』!ネストを破壊!」

 

「ッ!バトルだ!『ネクロフェイス』でドラミング・コングに攻撃!」

 

「くっ――!」

 

「3体のアルティメット・ファルコンでオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンと『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『EMカレイドスコーピオン』を攻撃ィ!ファイナル・グロリアス・ブライトォッ!!」

 

アルティメット・ファルコンの胸部に黒き稲妻がバチバチと迸り集束し、球体状のエネルギーを構成する。圧倒的な力、アルティメット・ファルコンはそれを撃ち出し、遊矢のフィールドの2体の竜と蠍を焦がす。吹き荒れる砂塵。

だけどまだ、遊矢の気力は尽きていない。ボロボロに傷付いても、その闘志は燃え続ける。まるで――レジスタンスのように。

 

「どう……したぁ……!それで終わりか!良い加減認めろ黒咲ィ!」

 

「何を……俺はお前の事など……!」

 

「違う!お前が認めるのは、許すのは――お前自身だ――!」

 

「ッ!?」

 

息を切らし、よろめきながらも遊矢は明確な強さを瞳に宿し、黒咲を指差す。その口から飛び出したのは遊矢と、そして、ユートの想い。

自分を追い込み、仲間達に負い目を感じる余り、デュエルの楽しさを忘れてしまった黒咲。そんな彼が救われないなんて間違っている。デュエルが大好きな彼が笑えないなんて――遊矢には、許せない。

 

『隼、お前はレジスタンスの皆を仲間だと思っているんだろう?そんな彼等が、お前に笑うなと言う筈が無い。1人で背負うな、痛みは半分に、楽しさは2倍に、それが仲間だろう?』

 

「……俺は――」

 

目を伏せ、胸元を握り締める黒咲。迷い、沸き上がるものを必死で抑えるようにして、黒咲は――。

 

――お前だけ、笑うのか――?

 

「それでも、俺は――!」

 

呪縛は、解けない。

 

「……分からないんだ……あいつ等はそんな事を言う筈が無いのに、デュエルを楽しもうとすれば、頭の中であいつ等の苦しむ顔が過って、俺に言う、お前だけ笑うのか?と。それが怖くて堪らない、俺は――笑えない」

 

暗い絶望の中、黒咲の耳に、目に届くのだ。仲間達が、言う筈の無い怨嗟の声が。それが黒咲を縛りつける。翼に絡みつき、眩しい空へと飛ぶ事を許さない。

ならば飛ばなければ良い。諦めるしか、黒咲の手は無い。

 

「俺は墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『ネクロフェイス』を戻してドロー」

 

黒咲 隼 手札0→1

 

「魔法カード、『闇の誘惑』を発動。2枚ドローし、闇属性モンスター、『ネクロフェイス』を除外、その効果で互いのデッキトップから5枚のカードを除外。永続魔法、『暗黒の扉』を発動し、ターンエンド……」

 

黒咲 隼 LP3300

フィールド『RR―アルティメット・ファルコン』(攻撃表示)×3

『暗黒の扉』

手札0

 

青く澄み渡った上空を、眩き日輪が照らす。崩壊した遺跡、その上空に座す、3体の黒鳥、アルティメット・ファルコンがその太陽を模した翼を広げ、遊矢を睨む。

圧倒的逆境。それでも、遊矢の顔に浮かぶのは――デュエルを楽しむ、熱き闘志。怯えなど欠片も無い。あるものは榊 遊矢の武器、勇気。

そして――それに応えるかのように、遊矢のエクストラデッキが、淡い光を灯していた――。

 

『遊矢……』

 

「ああ、あいつは迷っている、揺れているんだ。このペンデュラムのように……だから、俺のエンタメデュエルで勇気を与える!一歩踏み出す勇気、皆から貰ったものを、今度は俺が与える番だ!」

 

今の自分を変える事は、とてつもなく不安なのかもしれない。呪縛に囚われた黒咲にはより一層の筈だ。

だけど、遊矢は踏み出す勇気を皆から貰って来た。恐怖を打ち破って来た。だから今は、遊矢が黒咲へと、勇気を渡す番。彼の恐怖を払うのだ。

その笑顔の為に――遊矢はその手でデッキトップを引き抜き――そのドローで眩い虹色のアークを描く。

 

『「Ledies and Gentlemen!お楽しみは、これからだぁっ!!」』

 

榊 遊矢の真骨頂、エンタメデュエルの幕が上がる。どれだけボロボロに傷付いても、彼の笑顔は曇らない。天空に座す、黒鳥よりもその笑顔は太陽の如く輝き続ける。

 

「俺は魔法カード、『金満な壺』を発動!墓地の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『降竜の魔術師』、そしてエクストラデッキの『EMギタートル』をデッキに戻し、2枚目ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

『来たか!』

 

「応えてくれる!俺は『相克の魔術師』をペンデュラムスケールにセッティング!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMドラミング・コング』!『EMリザードロー』!『EMカレイドスコーピオン』!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMリザードロー 攻撃力1200

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMドラミング・コング 守備力900

 

「オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン……そのカードはエクシーズモンスターの筈……!?」

 

『いや、エクシーズペンデュラムモンスターだ!レベル7がペンデュラム召喚可能な場合、エクストラデッキで表側表示のこのカードはペンデュラム召喚によって復活する!』

 

そう、オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンはエクシーズとペンデュラム、2つの特性を持つモンスター。エクシーズによって登場し、ペンデュラムによって何度も蘇るカードなのだ。

不屈の魂は遊矢へと引き継がれている。直ぐ様遊矢は竜に飛び乗り、スタリと着地する。

 

「そしてペンデュラム・マジシャンの効果で自身とリザードローを破壊し、デッキから『EMディスカバー・ヒッポ』と『EMオールカバー・ヒッポ』をサーチし、魔法カード、『手札抹殺』により手札を交換!そしてカレイドスコーピオンの効果発動!このターン、オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンは特殊召喚されたモンスター全てに攻撃可能!バトルだ!オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンでアルティメット・ファルコンを攻撃!」

 

『この瞬間、ドラミング・コングによりオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンの攻撃力を600アップする!』

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→3600

 

反逆の覇王黒竜がくるりと宙を舞い、その鋭き牙を地面に突き立てる。ミシリと音を立て遺跡に亀裂が走るも、黒竜は気にする事も無く、翼を広げ、凄まじい速度で地を削り進む。響き渡る快音、黒竜は飛翔して曲線を描き、アギトで黄金の翼を引き裂く。

 

『反旗の逆鱗!』

 

「ストライク・ディスオベイッ!!」

 

黒咲 隼 LP3300→3200

 

翼を破壊され、地へと落ちていくアルティメット・ファルコン。1体目――まだ終わっていない。黒咲の心へと届くまで、何度だって手を伸ばす。

 

「2回目の攻撃!」

 

黒咲 隼 LP3200→3100

 

2体目への攻撃、宙で再びその身を翻し、8枚の翼から火炎を吹かせ、妖しく光る牙が閃光となって黒鳥を食らう。残るは1体、遊矢は更に手を伸ばす。

 

「まだまだぁ!」

 

『3回目の攻撃!』

 

黒咲 隼 LP3100→3000

 

切り裂く牙、その攻撃は見事3体のアルティメット・ファルコンを破壊し、黒咲へと届く。遊矢は何も、3つの太陽を破壊しただけでは無い。

彼は黒咲にかかっていた呪縛をも引き裂いたのだ。

目を見開き、空を見上げる黒咲。身体が軽く感じる。空が広く感じる。切り札が破壊されたと言うのに――馬鹿らしく思う。今までの自分が、ここまでお節介を焼く遊矢が、おかしくておかしくて堪らない。

何だこの男は、どうしてここまで他人の事に首を突っ込む。どうしてこんなに――誰かの為に、必死になれる。

ああ、もうダメだ。我慢が出来ない。今まで堪えて来たものが溢れ出るように、黒咲の口から「ぷ」と張りつめていた空気が漏れる。そうなってしまっては、もう決壊するしか無かった。

 

「ぷっ、ははは……!お前と言う奴は、どこまで……!ははははは!どこまで諦めが悪いんだっ、ぶはっ、はははははっ!!げほっ、おぅえっ」

 

自然と口元が弧を描き、腹を抱えて笑う。こんなに笑うのは何時振りだろうか、だがどうしたって笑いが止まらない。

苦しくて息が切れても、面白くて面白くて仕方無い。目尻に涙を溜め、大口を開いて馬鹿笑いする黒咲。その明らかなキャラ崩壊に遊矢とユートが目を丸くして、間の抜けた表情となる。

だが数拍置いた後、遊矢の口元がニンマリと笑みを描き、黒咲と同じように笑う。

 

「ははっ!お前こそどんだけ面倒なんだよ!暗くてジメジメしてて鬱陶しいったらありゃしない!」

 

『くくっ、確かにな……!だけどだけどと女々しい奴だ!』

 

「げほっ、げほっ!何を……!お前こそとことんお節介だろう!母親か!ぶふっ、わはははは!」

 

互いに罵倒が飛び交うも、その表情には澄み切った笑顔が貼りついている。まるで幼い子供の口喧嘩。

ああ、何だろうか、漸く、漸く本当の黒咲 隼が顔を見せてくれた。それも飛びっきりの笑顔を。

そう思うと、遊矢は嬉しくて嬉しくて堪らない。楽しくて楽しくて仕方無い。こうなったらとことん続けよう、この――友とのデュエルを。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド!さぁ来いよ!隼!デュエルだ!」

 

榊 遊矢 LP1900

フィールド『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』(攻撃表示)『EMドラミング・コング』(守備表示)『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)

セット1

Pゾーン『EMドクロバット・ジョーカー』『相克の魔術師』

手札0

 

静かに目を伏せ、今までの自分を振り返る黒咲。自分はアカデミアとの闘いで大好きなデュエルを裏切り、憎悪だけで進んできた。仲間を奪われ、妹まで奪われた。

だけどそれでも、黒咲には残っているものがあった。手を伸ばしてくれる友が。彼等の想いに応えたい。

だがそんな黒咲の足元に、ぬるりと黒い何かが絡み付く。

 

――お前だけ――

 

「俺はもう、逃げない」

 

―― ――

 

口元に笑みを浮かべながら、何かに向かい、確かに意志を、覚悟を宿して語りかける黒咲。鉄の意志、鋼の強さ。本当の意味でそれを手にした黒咲に、最早迷いは無い。彼の強さに言葉を失い、何かがその絡み付く手を止める。

 

「すまないな、皆。俺は今までお前達に逃げていた。だけどもう、大丈夫だよ。見ていてくれ、俺の――デュエルを」

 

優しく、どこまでも青い空のような澄み切った想い。デュエリストとして、完全復活を果たした黒咲の背に、黒い何かは姿を変えて、翼となってその背を押す。

 

――勝てよ、隼――

 

「――ッ!ああ!行くぞ遊矢ぁ!かっとビングだ!俺ぇっ!」

 

それはもしかしたら、幻なのかもしれない。だけどそれでも、聞こえる仲間達の激励の声、眩しい笑顔。その全てを噛み締め、黒咲は勇気を持って、一歩踏み出す。

引き抜く1枚のカード。光の翼が右手を包み込み、絆のアークを青空に描く。

 

来た、待っていてくれた、こんな自分を。応えてくれた、1度は裏切った自分を。デッキが――嬉しくて、笑ってしまう。

 

「速攻魔法、『魔力の泉』!2枚ドローし、2枚捨てる!更に墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『暗黒の扉』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札0→1

 

「墓地の『RUM-スキップ・フォース』2枚と『RR―バニシング・レイニアス』2体を除外し、墓地の『RR―アルティメット・ファルコン』2体を特殊召喚!!」

 

RR―アルティメット・ファルコン 攻撃力3500×2

 

再び天へと昇る2つの太陽。眩き輝きを放ち、群れなして現れる『RR』。更に――。

 

「魔法カード、『エクシーズ・トレジャー』!場のエクシーズモンスターの数だけドロー!」

 

黒咲 隼 手札0→3

 

「LPを半分払い、『RUM―ソウル・シェイブ・フォース!』墓地のフォース・ストリクスを蘇生し、2つランクが上のエクシーズへとランクアップする!オーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR―レヴォリューション・ファルコン』!!」

 

黒咲 隼 LP3000→1500

 

RR―レヴォリューション・ファルコン 攻撃力2000

 

現れる黒咲 隼、最後のモンスター。両翼を広げ、青く広い大空へとハヤブサは飛び立つ。この逆境でこのカード、どこまでも強いデュエリストだ。

 

『ははっ、なんて奴だ……!』

 

「レヴォリューション・ファルコンのORUを1つ取り除き、このターン、このカードは特殊召喚されたモンスター全てに攻撃可能!バトルだ!レヴォリューション・ファルコンでオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンに攻撃!」

 

「させるか!永続罠、『六芒星の呪縛』!レヴォリューション・ファルコンの攻撃を封じる!」

 

「ならばアルティメット・ファルコンでドラミング・コングに攻撃!」

 

「ッ!」

 

「2体目のアルティメット・ファルコンでオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンを攻撃!」

 

榊 遊矢 LP1900→1400

 

遊矢がリバースカードをオープンし、レヴォリューション・ファルコンの身体に魔方陣が描かれて浮かび上がり、拘束するも、その程度で黒咲は止まらない。アルティメット・ファルコンによる攻撃が黒竜を破壊する。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ、『シャッフル・リボーン』の効果で手札の1枚を除外。さぁ来い!遊矢!」

 

黒咲 隼 LP1500

フィールド『RR―アルティメット・ファルコン』(攻撃表示)×2『RR―レヴォリューション・ファルコン』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

止まらないワクワク、脈を打つドキドキ、デュエリストの熱き魂が血流となって遊矢の身体を駆け巡る。だがこのデュエルにも終わりが来る。

楽しいデュエルを勝利で飾るのは譲れない。この激闘に、決着をつける為に――遊矢はデッキトップを勢い良く引き抜く。

 

「俺のターン!」

 

『ドローッ!!』

 

「俺は魔法カード、『マジック・プランター』を発動!『六芒星の呪縛』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

引き抜かれる2枚のカード、だがまだ足りない。勝利へ届かせる為に、後、1枚が――。

 

「ペンデュラム召喚!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMドラミング・コング』!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600

 

ラストターン、遊矢がペンデュラム召喚したのは自身と同じく、オッドアイの輝きを放つ2体の竜とマジシャン、そして森の賢者。

エースカードである、真紅の体躯を唸らせ、気高き咆哮を放つ『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』。そしてもう1体は黒白の逆鱗を震わせる切り札、『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』。

だがこれも通過点、自らを呼ぶカードの声を手繰り寄せ、遊矢は更なる道を拓く。黒咲だって限界を越えた。次は遊矢が振り切った限界を、再び超える番だ。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果でこのカードを破壊し、『EM』をサーチ!」

 

「カウンター罠、『無償交換』!その発動を無効にし、破壊!」

 

「そっちから、来てくれるとはなっ!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

黒咲が発動したカードを見て、逆に目を輝かせる遊矢。熱き火花が迸り、天空に虹色のアークが描かれる。このデュエル、最後のディステニードロー。引き抜いたカードにチラリと目を配らせる。来た、最後のピースが。

 

「ペンデュラムゾーンの『相克の魔術師』の効果発動!その効果により、このターン、オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンをレベル7のエクシーズ素材とする!」

 

「エクシーズモンスターとペンデュラムモンスターによるエクシーズ……!楽しませてくれる!」

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

呼んでいる、遊矢を。まだ名も知れぬカードが。遊矢の中にある何かが脈打つようにドクドクと音を鳴らす。今までとは全く違う感覚、まるで記憶の奥底に眠るものを引き上げるかの如く――エクストラデッキから白紙のカードが取り出され、真っ黒に染まる。

 

『エクシーズ召喚!』

 

「『幻想の黒魔導師』!!」

 

幻想の黒魔導師 攻撃力2500

 

遺跡の中より、光と闇が集束し、遊矢のフィールドで形を作る。紫に彩られた三角帽と風に靡くローブを纏い、浅黒い肌をした古の魔法使い。

真紅の眼に意志を宿すそのモンスターは、モンスターと言う枠を超えていると思える程、神々しい。

その姿はかつて王と呼ばれた最強のデュエリストが最も信頼を寄せた相棒に良く似ている。

 

「……この、モンスターは……!?」

 

「『幻想の黒魔導師』のORUを1つ取り除き、効果発動!デッキから魔法使い族の通常モンスターを特殊召喚する!待たせたな――『ブラック・マジシャン』!!」

 

ブラック・マジシャン 攻撃力2500

 

そして現れる、幻想でも幻影でもない、王の相棒。伝説を纏う、黒き魔法使い。歴戦のデュエリストと共にあったモンスターを今――遊矢のフィールドに蘇る。

瞬間、遊矢の脳裏にある光景が過る。それは、このカードの記憶、信頼すべき、王と共に闘った黄金の日々。

 

「……力を貸してくれ!魔法カード、『死者蘇生』!墓地のオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンを特殊召喚!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

並び立つ5体のモンスター。2体の魔法使いと、2体の『EM』、逆鱗を震わせ、咆哮する覇王竜。これが遊矢の全力、全てを出し切った全開。限界を越えた限界で立ち向かう。

 

「更にオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンを対象に、カレイドスコーピオンの効果発動!バトルだ!『ブラック・マジシャン』でレヴォリューション・ファルコンを攻撃!黒・魔・導!」

 

「レヴォリューション・ファルコンが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う際、そのモンスターの攻撃力を0にする!」

 

「『幻想の黒魔導師』の効果発動!『ブラック・マジシャン』の攻撃時、レヴォリューション・ファルコンを除外する!」

 

「何っ!?」

 

『ブラック・マジシャン』による魔術、杖の先端に魔力を集め、黒球を生み出す所に、『幻想の黒魔導師』が更に魔力を重ね、レヴォリューション・ファルコンへと撃ち出す。これにはレヴォリューション・ファルコンの鋼のボディも堪えられず、消滅する。

 

「そしてオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンに攻撃を切り替える!2体を攻撃!」

 

『ドラミング・コングで攻撃力をアップ!』

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→3600

 

黒咲 隼 LP1500→1400→1300

 

黒竜のアギトが再び太陽を砕き、爆風を吹かせる。黒煙が晴れたそこには、黒球を杖の先端に集束する魔法使い。

しかしまだ、黒咲は諦めない。ここまで来たのだ。もう2度と諦める気にはなれない。

 

「いけ!『幻想の黒魔導師』!」

 

「やらせるかぁ!アクションマジック、『回避』!」

 

だがそれは――遊矢も同じ。既に勝利の方程式は完成している。最後のピースを翳し、デュエルディスクに叩きつける。

 

『速攻魔法発動!』

 

「『ダブル・アップ・チャンス』ッ!!」

 

幻想の魔導師 攻撃力2500→5000

 

デュエルは、終わりを迎える。

 

黒咲 隼 LP1300→0

 

互いに死力を尽くした激闘、勝者は、榊 遊矢。瞬間、彼のデュエルディスクの『ブラック・マジシャン』が光となって消え、『幻想の黒魔導師』もまた、白紙に戻る。

そして限界を越え続けたせいか、2人も糸が切れたようにドサリとその場に倒れる。

 

「――勝っ、た――!」

 

両の眼が赤へと戻り、満面の笑みを浮かべながら達成感を噛み締める遊矢。誰よりもその必死さを知るユートもまた、クスリと笑い、腕を組む。

黒咲も馬鹿笑いをしながら遊矢を認める。

 

「クク、ハハハハハッ!まさかお前のような奴に負けるとはな――いや、当然か、それだけ、お前が――デュエルが好きだったからか」

 

「……なぁ、黒咲、結局、銅の意志って何なんだ?」

 

空で輝く太陽を見上げ、疑問に思っていた事を問いかける遊矢。

銅の意志、それは遊矢を例えた黒咲の台詞だ。その意味は、ボロボロになりながらも、鈍く輝き続ける――赤く燃える意志なのだが――。

 

「……教えてやらん」

 

負け惜しみか、言う気にはなれず、悪戯染みた笑みを浮かべる黒咲だった――。




人物紹介12

黒咲 隼
所属 レジスタンス
エクシーズ次元のレジスタンスに所属する凄腕のデュエリスト。アニメでは登場する度にネタを提供する人であるが、多分本人は至って真面目。
本作品では逆に次元戦争によってデュエルの楽しさを封じ込め、非情に徹していた。要するに強がっている人。しかし遊矢とユートが何度も手を伸ばし、自分が馬鹿らしく思い、本来の自分を取り戻した。
本当は誰よりも優しさを秘めている。これからは年相応に柔らかくなると思われ、今までの罪を可能な限り償うつもりである。
また、妹の瑠璃に対しては超がつく程シスコン。本人には適当にあしらわれている。
気に入った者はどこまでも大切にし、過保護。また稀に友人に対し自分の趣味を押しつける面があり、そこら辺はコミュニケーションに向いていない。
使用デッキは『RR』、エースカードは『RR―アルティメット・ファルコン』。

今回登場した遊矢君の白紙のカードはデュエルの度に書き換わります。
今のところ遊矢とユートが合体したサトシゲッコガ的な状態でしか使えませんが。
と言う訳でやっとこさ黒咲さんが救われました。ここまで長かった……。

勝鬨「こちら側へ」
暗黒寺「ようこそ」
九庵堂「悔しいでしょうねぇ」

黒咲さん「やめろ」

尚、これからハジケる事は逃れられない模様。


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第63話 やっつけてやる!

何となくこの作品の今までの遊矢君を振り返ってみると色んなキャラを攻略してて笑った。特に男からの信頼が熱い事。
権ちゃんに黒咲さん、沢渡さん、ユート、アリト、勝鬨、九庵堂、暗黒寺、素良、コナミ、黒コナミ。女性では柚子ちゃんにミエルちゃんとまだ正確には攻略してないキャラもいるもののファンの多さと濃さときたら。なぁにこれぇ。
アニメも遊矢君に頑張って欲しいなぁ、と思っては中断やらでメンタルが……うごごごご。
デュエルがもういらないものになってるのが悲しいです。

まぁ、私情は置いといて、今回からは遊矢君とコナミ君以外のキャラの活躍が多くなります。つーか思った以上に2章が長い。



時は少し遡る。コナミと神楽坂、遊矢と隼の激闘が続く中、赤馬 零児はスタジアムへと足を運び、観客達を守る為、外から襲い来るアカデミアと闘い続けていた。

彼としても遊矢達、参加者と共に闘いたいし、あの場に現れたセレナの事も気にかかる。しかし、これも立派な闘い。仕方無いと溜め息を吐き、零児は耳につけたインカムで通信室の中島へと連絡を取る。

 

「中島、彼等を会場へ向かわせろ――」

 

――――――

 

一方、白い冷気が漂う氷山エリアにて、2人の少女が対峙していた。

1人は紫の髪を黄色いリボンでポニーテールに括り、赤いジャケットを纏い、肩に猿を乗せた少女、セレナ。

彼女の勝ち気な、猫科の動物を思わせるような眼の先で佇む少女は、セレナとはまた違った、色素の薄い紫の髪を2つのリングでツインテールに結んでいる。アカデミアの軍服を纏い、タイトスカートにストッキングと堅めの服装に身を包んでいると言うのに、どこか色気を放つ彼女は頭に被った軍帽を押さえつけながら、その鳶色の眼でセレナと視線を交差させ、クスリと艶のある笑みを向ける。

 

「全くイケない子ねぇ、セレナちゃん。アカデミアを脱走するなんて、お仕置きが必要かしら?」

 

「ふん!おおおお仕置きなんて怖くないが、何故スタンダード次元に貴様等がいる!私とバレットを連れ戻す為か!雪乃!」

 

黒い革手袋に包んだ右手の人差し指を形の良い唇に当て、微笑を溢す少女、藤原 雪乃。彼女はお仕置きと聞いて激しく動揺するセレナを見て、更にその笑みを深める。

 

「ウフフ、それもあるんだけどね。でもやっぱり、そっちに勲章おじ様がいるのね。先生がいて良かったわ、もし敵対したら、あの人位じゃなきゃ勝てないもの」

 

「先生……!?だ、だが今、コナミと闘っているのは偽物だろう!奴は誰だ!?」

 

「キキー!」

 

バッ、とデュエルディスクを装着した左腕を振るい、その指先で眼下にいるコナミ達を差すセレナ。促した場にはデュエルを行うコナミと、そしてコナミと同じ姿をした紫帽子のデュエリスト。

雪乃がセレナの指先をなぞるように視線を移し、「ああ」と頷き、ニコリと微笑む。

 

「気づくなんて、流石ね。ええそうよ、彼は先生じゃない。神楽坂の坊やよ」

 

「……は?神楽坂って、あのバカか!何であいつが先生の格好を……バカなのか!?」

 

「彼はコピーデッキの使い手、コピー先であるデュエリストと同じ姿になる事でその戦術をトレースする……らしいわ。……ごめんなさい、私にも良く分からないわ、うん」

 

「ふん、やはりバカか!」

 

正直に頷けない理由に対し、一笑にふすセレナ。だが実際の所、これによって実力が上がっているのだから仕方無い。

形から入る男、神楽坂。一見あれだが、今の彼はアカデミアの中でも高い実力を持ち、コピーデッキや戦術に独自の視点を加える事でオベリスク・フォースの部隊長にまで昇格したのだ。

だが彼の恐るべき所は2戦目にある。1戦目で負けはしても、即座に相手のデュエルを吸収し、対策を取る。優れた観察眼、そしてコピーデュエリストだからこそ出来る芸当である。

 

「さて、お喋りはここまで。アカデミアに戻って貰うわ」

 

「……それは……出来ん」

 

「……何故かしら?」

 

アカデミアへの帰還、それをセレナは断る。目を伏せ、ギュッ、と胸元を掴む。それは、知ってしまったから。アカデミアの実態を、その恐るべき行いを。もう無知な自分じゃない、だからこそ立ち向かう、立ち向かわなければいけない。大切な人を守る為に、この次元で共に過ごした大好きなものを守る為に、セレナは誇り高きデュエリストとなる。もう2度と、間違わない。

 

「私は知った、本当に悪いのはアカデミアだと、だからもう、アカデミアには戻らん、ここで出来た仲間が私の力になってくれるかは分からない。だけど私は、皆と一緒に、アカデミアを変えて見せる!私1人じゃ無理だが、皆と一緒なら出来る筈だ!お前も……私と来てくれないか?」

 

「それこそ無理ね。確かに、アカデミアは間違っているのかもしれない。だけど、間違いの先にも答えはある!」

 

大切なものがあり、間違ったものを変えたい。そんなセレナの想いは尊重されるべきものなのだろう。だがそれでも、雪乃は退かない、互いに譲れないものがある。ならば――。

 

「平行線か……ならデュエルで想いをぶつけるまでだっ!」

 

「そのようね!」

 

互いに盾型のデュエルディスクより剣型のプレートを展開し、胸の前に構える。今までセレナは雪乃に負け越している。だが可能性は0じゃない。今までの自分の全て、そしてスタンダード次元で得た想いを抱き、セレナは闘う。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻はセレナだ。彼女はデッキから5枚のカードを引き抜き、1枚のカードを翳す。

 

「私は手札の『月光黒羊』を捨て、デッキから『融合』をサーチ!そして魔法カード、『ダーク・バースト』を発動し、墓地の『月光黒羊』を回収!ここで魔法カード、『融合』!手札の『月光黒羊』と『月光紫蝶』で融合!漆黒の闇に潜む獣よ!紫の毒持つ蝶よ!月の引力により渦巻きて新たなる力と生まれ変わらん!融合召喚!現れ出でよ!月明かりに舞い踊る美しき野獣!『月光舞猫姫』!!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400

 

現れたのは月をバックに赤い毛を揺らした猫の獣人。踊り子のような艶やかな衣装で舞い、ナイフを両手にくるくると回る。早速姿を見せたセレナのエースモンスター。その登場に雪乃はクスリと笑う。

 

「融合素材となった黒羊の効果で紫蝶を回収!そしてカードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

セレナ LP4000

フィールド『月光舞猫姫』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「私のターン、ドロー。私は手札の『ヴィジョン・リチュア』と『シャドウ・リチュア』を捨て、デッキから儀式モンスター、『イビリチュア・ソウルオーガ』と儀式魔法、『リチュアの儀水鏡』をサーチ!そして魔法カード、『サルベージ』により、墓地の『ヴィジョン・リチュア』と『シャドウ・リチュア』を回収、もう1度捨て、デッキからソウルオーガと儀水鏡をサーチ。そして『リチュアの儀水鏡』発動!手札のソウルオーガをリリースし、儀式召喚!『イビリチュア・ソウルオーガ』!」

 

イビリチュア・ソウルオーガ 攻撃力2800

 

儀式召喚。スタンダード次元において、方中 ミエルも操る召喚法を使い、雪乃は最上級モンスターを降臨させる。

魚を思わせる顔に屈強な肉体、水掻きを持った手に、堅牢な鱗、ヒレを伸ばした長い尾を振るい、その脚は鳥類を連想させる程力強い。

フィールドに現れた大海獰猛者。喉を唸らせ、セレナの舞猫姫に狙いを定める。

 

「さぁ、その効果を見せなさい、手札の『リチュア・マーカー』を墓地に送り、『イビリチュア・ソウルオーガ』の効果発動!舞猫姫をデッキにバウンスする!」

 

「させるか!罠発動!『ブレイクスルー・スキル』!ソウルオーガの効果を無効にする!」

 

「ふぅん、対策は取ってるのね。ならバトルといきましょう。ソウルオーガで舞猫姫を攻撃!」

 

「甘い!罠発動!『幻獣の角』!舞猫姫へ攻撃力800アップの装備カードとして装備する!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400→3200

 

藤原 雪乃 LP4000→3600

 

『イビリチュア・ソウルオーガ』が舞猫姫目掛けて襲いかかる。その野太い腕を振るうも、舞猫姫の額から鋭い角が伸び、同時に両手に持っていたナイフが淡い輝きを放ち、捻れた刃を伸ばす。

形勢逆転、攻撃力で上回った舞猫姫はソウルオーガの顎を蹴り上げ、ナイフを振るい、連撃を畳み掛ける。

 

「あらら、セットカードはそれだったのね……」

 

「『幻獣の角』の効果で1枚ドロー!」

 

セレナ 手札1→2

 

「なら私はモンスターとカードを1枚伏せ、ターンエンド。ふふっ、楽しめそうね」

 

藤原 雪乃 LP3600

フィールド セットモンスター

セット1

手札1

 

「私のターン、ドロー!バトルだ!舞猫姫でセットモンスターに攻撃!この瞬間、舞猫姫の効果で100ダメージを与える!」

 

藤原 雪乃 LP3600→3500

 

「『リチュア・エリアル』のリバース効果発動。デッキから『ヴィジョン・リチュア』をサーチ!」

 

「だが私も『幻獣の角』の効果で1枚ドロー!」

 

セレナ 手札3→4

 

「モンスター1体とカード1枚を伏せてターンエンドだ」

 

セレナ LP4000

フィールド『月光舞猫姫』(攻撃表示) セットモンスター

『幻獣の角』セット1

手札1

 

「私のターン、ドロー!墓地の儀水鏡をデッキに戻し、墓地のソウルオーガを回収、そして魔法カード、『トレード・イン』を発動し、ソウルオーガを捨て、2枚ドロー!」

 

藤原 雪乃 手札2→4

 

「更に罠カード、『儀水鏡の瞑想術』を発動!手札の儀水鏡を公開し、墓地の『ヴィジョン・リチュア』と『シャドウ・リチュア』を回収!『ヴィジョン・リチュア』を捨て、デッキの『イビリチュア・ジールギガス』サーチ!そして『リチュアの儀水鏡』を発動!手札の『シャドウ・リチュア』をリリースし、儀式召喚!『イビリチュア・ジールギガス』!!」

 

イビリチュア・ジールギガス 攻撃力3200

 

2回目の儀式召喚。雪乃がその手札より降臨させたのは『リチュア』モンスターの中でも最も高い攻撃力を持った1枚だ。

悪魔のような顔をし、その額と後頭部からカブトムシを思わせる角が伸び、両肩からもクワガタの角が赤い血色の輝きを見せている。更にはこれも甲虫をイメージしたのか、4本の野太く、屈強な腕、背からは頑強な羽が生えている。鎧を身に包んだ甲虫の悪魔。強化した舞猫姫に並ぶ強力なモンスターだ。

 

「『リチュア・チェイン』を召喚!」

 

リチュア・チェイン 攻撃力1800

 

雪乃の更なる手が打たれる。現れたのはペンデュラムを手にした海竜。このモンスターが雪乃の戦術を盤石なものとする。

 

「『リチュア・チェイン』の召喚時、デッキの上から3枚を確認し、儀式モンスター、または儀式魔法1枚を手札に加える。私は儀式魔法、『リチュアに伝わりし禁断の秘術』を手札に、残りの2枚を好きな順番で戻し、LPを1000払い、ジールギガスの効果発動!1枚ドローし、そのカードが『リチュア』モンスターの場合、フィールドのモンスター1体をデッキバウンスする!」

 

藤原 雪乃 LP3500→2500

 

運に任せた強力な効果。しかし雪乃は既に『リチュア・チェイン』によってデッキの操作を行っている。必ず成功しない限り、こんなリスキーな事はしないだろう。

つまりはこの効果は――成功を約束されている。

 

「当然引いたモンスターは『リチュア』モンスター、リヴァイアニマ!よって舞猫姫をバウンス!」

 

舞猫姫の耐性は戦闘での破壊のみだ。モンスター効果を受けない等の耐性では無い以上、容易く突破されてしまう。しかもこれで『幻獣の角』と合わせた大量ドローも狙えない。

 

「さぁ、バトルよ。『リチュア・チェイン』でセットモンスターを攻撃!」

 

「セットモンスターは『月光蒼猫』!破壊された事でデッキから『月光虎』を特殊召喚し、罠カード、『月光輪廻舞踊』を発動!デッキから『月光黒羊』と『月光狼』をサーチ!」

 

月光虎 守備力800

 

セレナを守るべく現れたのは小柄な体躯の虎の獣人。氷のフィールドで跳躍し、片膝をつき、両腕をクロスさせてジールギガスの前に降りる。

セレナがこのフィールドで手にしたペンデュラムモンスターの1体、その効果も折紙つきだ。

 

「ならジールギガスで『月光虎』を攻撃!」

 

「『月光虎』の効果で墓地の『月光黒羊』を蘇生!」

 

月光黒羊 守備力600

 

更に登場する新たな壁。漆黒の燕尾服に身を包み、両肩に捻れた角を伸ばしたモンスター、『月光黒羊』がフィールドに蘇る。融合素材となった場合、直ぐ様次の手を補充出来る優秀なカードだ。

 

「成長したみたいね、次の素材を用意した上、手札も補充するなんて。私はカードを2枚伏せ、ターンエンドよ」

 

藤原 雪乃 LP2500

フィールド『イビリチュア・ジールギガス』(攻撃表示)『リチュア・チェイン』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「私のターン、ドロー!手札の『月光黒羊』を捨て、『置換融合』を手札に!そして魔法カード、『月光香』を発動!墓地の『月光黒羊』を蘇生!」

 

月光黒羊 守備力600

 

「魔法カード、『置換融合』を発動!黒羊2体を融合!融合召喚!『月光舞猫姫』!!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400

 

「そして黒羊の効果でエクストラデッキの『月光虎』と『月光蒼猫』を回収!」

 

「エクストラデッキ……?」

 

「まだ行くぞ!私は『月光虎』と『月光狼』でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル2から4のモンスターが同時に召喚可能!」

 

セレナのデュエルディスク、剣型のプレートの両端に2枚のカードが設置され、中心に向かって虹色の光が放たれる。瞬間、彼女の背後に2本の柱が天へと伸び、その中に『月光虎』と『月光狼』が姿を見せ、天空に輝く線が結ばれ、巨大な魔方陣が描かれる。美しき振り子の軌跡、初めて見る幻想的な光景に雪乃は両目を見開く。

 

「ペンデュラム……!?」

 

「墓地の『月光香』を除外し、手札の『月光紫蝶』を捨て、デッキから『月光紅狐』をサーチ!更に魔法カード、『融合回収』を発動!墓地の『融合』と『月光黒羊』を回収!『融合』を発動!フィールドの舞猫姫と手札の黒羊を融合!月明かりに舞い踊る美しき野獣よ!漆黒の闇に潜む獣よ!月の引力により渦巻きて新たなる力と生まれ変わらん!融合召喚!現れ出でよ!月光の原野で舞い踊るしなやかなる野獣!『月光舞豹姫』!!」

 

月光舞豹姫 攻撃力2800

 

現れたのは『月光舞猫姫』の進化形、目が隠れる程度に切り揃えられた艶のある黒髪には豹の獣耳が生えており、肘からは黄金の刃が伸びている。手首では三日月と鈴が鳴り、その手、そして足に伸びた猛獣の野太い腕がこのモンスターの強力さを物語っている。

 

「黒羊の効果で紫蝶回収!まだだ!『月光狼』のペンデュラム効果発動!墓地の『月光黒羊』2体で融合!融合召喚!『月光舞猫姫』!!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400

 

更なる融合召喚。2体目の舞豹姫も出す事は出来るが、この2枚は互いに耐性が異なる。舞豹姫は効果破壊耐性を、舞猫姫は戦闘破壊耐性を持っている。

攻撃、効果で1度に破壊される事を警戒しての手だ。尤も、バウンス等では効果は無いが。切り札も出す事は出来たが、今はまだ温存するべきと判断してだ。

 

「墓地の『置換融合』を除外し、同じく墓地の『月光舞猫姫』をエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

セレナ 手札3→4

 

「そしてこれが私の新しい力!ペンデュラム召喚!『月光蒼猫』!」

 

月光蒼猫 守備力1200

 

振り子の軌道を描き、セレナのフィールドに青い毛並みの猫の獣人が現れる。これで準備は万端、ジールギガスを真正面から打ち破る。

 

「蒼猫が特殊召喚に成功した事で、舞豹姫の攻撃力を倍にする!」

 

月光舞豹姫 攻撃力2800→5600

 

攻撃力5600、『リチュア・チェイン』を攻撃すれば一気に勝負が決まる射程範囲だ。ペンデュラム召喚を得た事で『月光蒼猫』の効果を以前よりも使いこなせている。

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』発動。舞豹姫の攻撃の効果を封じるわ」

 

しかしそうは問屋が下ろさない。雪乃とてアカデミアの中でも高い実力を誇るデュエリスト。神楽坂同様、部下の指揮を取る女性だ。

仕掛けた罠に飛び込んだ獣目掛けて鎖を射出し、その腕ごと胴体を縛り付ける。舞豹姫も何とかしようともがくが、動く度に逆に鎖が身体を締め上げる。

どう言う事か、この世界ではモンスターとは言え、女性が拘束プレイされる事は稀有である。

 

「ッ!なら手札の『月光紫蝶』を墓地に送り、舞猫姫の攻撃力を1000アップ!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400→3400

 

「あら、早まったかしら……!」

 

「バトル!舞猫姫でジールギガスを攻撃!」

 

藤原 雪乃 LP2500→2400→2200

 

ジールギガス撃破。貴重な戦力である舞豹姫の自由を奪われた事は大きいが、それで黙るセレナでは無い。ならばこちらも相手の戦力を削ぐまで。これで強力なデッキバウンスを封じた。

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

セレナ LP4000

フィールド『月光舞豹姫』(攻撃表示)『月光舞猫姫』(攻撃表示)『月光蒼猫』(守備表示)

セット1

Pゾーン『月光虎』『月光狼』

手札1

 

「私のターン、ドロー!『デモンズ・チェーン』を墓地に送り、魔法カード、『マジック・プランター』発動。2枚ドロー!」

 

藤原 雪乃 手札2→4

 

「私は儀式魔法、『リチュアに伝わりし禁断の秘術』を発動。貴方のフィールドの『月光舞豹姫』をリリースして儀式召喚を行う!」

 

「何っ!?」

 

雪乃が発動したのは相手フィールドのモンスターをリリースすると言う異色の儀式魔法。正しくその名の通り、禁断の秘術と言えよう。

儀水鏡がセレナのフィールドの『月光舞豹姫』を写し、鏡の中へと吸収する。効果破壊耐性を持っていても、リリースされては敵わない。

 

「儀式召喚!『イビリチュア・リヴァイアニマ』!」

 

イビリチュア・リヴァイアニマ 守備力1500

 

最悪の儀式を経て現れたのは赤髪を風に靡かせ、ヒレのような翼を広げた恐ろしい竜。その手に剣を持った竜は儀式元であった人間の理性を失い、本能に任せて暴れ狂う。

 

「ただし、この儀式を行えば儀式モンスターの攻撃力は半分になって、このターン、私は攻撃出来ないわ。私は罠カード、『儀水鏡の反魂術』を発動。『イビリチュア・リヴァイアニマ』をデッキに戻し、墓地の『ヴィジョン・リチュア』と『シャドウ・リチュア』を回収。更に魔法カード、『儀式の準備』発動。デッキのレベル7以下の儀式モンスター、『イビリチュア・マインドオーガス』と墓地の儀式魔法、『リチュアの儀水鏡』を回収。そのまま発動!手札の『シャドウ・リチュア』をリリースし、儀式召喚!『イビリチュア・マインドオーガス』!」

 

イビリチュア・マインドオーガス 攻撃力2500

 

このデュエル4回目の儀式。現れたのは下半身が昆虫のような脚を持ち、蝶の如くヒレを広げた恐ろしい魚となった『リチュア・エリアル』の姿。

正しく異形の怪物と化した少女は儀水鏡の杖を振るう。

 

「マインドオーガスの儀式召喚時、互いの墓地のカードを合計5枚までデッキに戻す。私は私の墓地の『デモンズ・チェーン』と『儀水鏡の反魂術』、そして『儀水鏡の瞑想術』と貴女の墓地の『ブレイクスルー・スキル』、『月光舞豹姫』を回収!そして『リチュア・ビースト』を召喚!」

 

リチュア・ビースト 攻撃力1500

 

雪乃の手はまだ終わらない。その手より放たれたのは緑の体躯を持った禍々しい獣。その額より二股に別れた角と鬣を伸ばしている。それはグルルと唸り、雄々しい遠吠えを放つ。

 

「『リチュア・ビースト』の効果発動!墓地の『リチュア・マーカー』を特殊召喚!」

 

リチュア・マーカー 攻撃力1600

 

次に登場したのは頭がタコになっている魚人だ。8本の足で槍やカットラスを掴み、ビーストの遠吠えに応えるべく降り立つ。

 

「『リチュア・マーカー』の効果で墓地の『リチュアの儀水鏡』を回収。はい、これでレベル4のモンスターが2体」

 

「ッ、何――!?」

 

『リチュア・マーカー』を特殊召喚した雪乃はその鳶色の目を細め、クスリと革手袋に包まれた指先を唇に当て、妖艶に微笑む。

レベル4のモンスターが2体、まさか――セレナは両の眼を見開き、警戒心を引き上げる。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『フレシアの蟲惑魔』!!」

 

フレシアの蟲惑魔 守備力2500

 

突如雪乃の背後の空間が引き裂かれ、宇宙を凝縮したかのような渦が発生する。2体の『リチュア』モンスターはその身体を光へと変え、流れて渦の中へと飛び込む。

瞬間、激しき閃光が爆音と共に響き渡る。超新星爆発を背に、雪乃の、アカデミアの操るエクシーズモンスターが誕生する。

桜色の長髪をラフレシアのカチューシャで留め、トロンと溶けるような、それでいて吸い込まれてしまいそうな眼をした少女。露出度の高いドレスを纏ったその幼い少女は妖しく、その身に似合わぬ妖しき色気を纏い、巨大なラフレシアの花の上で静かに眠る。

 

「エクシーズモンスター……!そんなモンスター、前にデュエルした時には……」

 

「フフ、可愛いでしょう?貴女がペンデュラムを得たように、私もエクシーズを身につけただけよ」

 

そう、このエクシーズはセレナがアカデミアから去った後、雪乃が新たに得た力。しかしセレナがアカデミアを出てからそこまで日は経っていない、この短い間にエクシーズを習得したと言うのだ。何と言う学習能力の高さだろうか。やはり、一筋縄ではいかない。

 

「手札の『ヴィジョン・リチュア』を捨て、デッキの『イビリチュア・ガストクラーケ』をサーチ!そして『リチュアの儀水鏡』を発動!フィールドのマインドオーガスをリリースし、儀式召喚!『イビリチュア・ガストクラーケ』!」

 

イビリチュア・ガストクラーケ 攻撃力2400

 

マインドオーガスと入れ替わるように姿を見せたのは下半身が黒いタコになった赤毛の少女。その額に赤い線を走らせ、人外となった彼女は脚の1本をセレナに向け、滑るように突き出す。

 

「ガストクラーケの効果!貴女の手札の『月光紅狐』をデッキに戻す!」

 

「ぐっ!」

 

デッキに戻すハンデス効果。これでは紅狐の効果も使えない。正確で素早い対処だ。思わずセレナは舌を巻く。

 

「更に『フレシアの蟲惑魔』のORUを1つ取り除き、効果発動!デッキの『狡猾な落とし穴』を墓地に送り、その効果を使う。貴女のフィールドのモンスター、『月光舞猫姫』と『月光蒼猫』を破壊!」

 

「く――『月光蒼猫』の効果発動!デッキから『月光虎』を特殊召喚!」

 

月光虎 守備力800

 

「私はこれでターンエンドよ」

 

藤原 雪乃 LP2200

フィールド『イビリチュア・ガストクラーケ』(攻撃表示)『フレシアの蟲惑魔』(守備表示)

手札0

 

デッキから『落とし穴』を墓地に送り、その効果をコピーする効果。『狡猾な落とし穴』は『落とし穴』カードの中でも特に強力な効果を持っている。発動の代償として、墓地に罠カードが存在しない事が条件だが、その為にマインドオーガスで罠を回収したのだろう。

『リチュア』と『蟲惑魔』を合わせたデッキ、彼女の武器と彼女のキャラクターを表したようなカテゴリの合成は思った以上に厄介だ。

手札0、しかしフィールドにはモンスターと蘇生効果、そして融合効果を持つペンデュラムカードがある。まだ巻き返す事は充分可能だ。

 

「私のターン、ドロー!『月光狼』のペンデュラム効果発動!墓地の『月光舞猫姫』と『月光紫蝶』を融合!融合召喚!『月光舞豹姫』!!」

 

月光舞豹姫 攻撃力2800

 

「甘いわね、『フレシアの蟲惑魔』のORUを取り除き、デッキの『深黒の落とし穴』を墓地に送り、コピーするわ。レベル5以上のモンスターの特殊召喚時、そのモンスターを除外!」

 

「ッ、私はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

セレナ LP4000

フィールド『月光虎』(守備表示)

セット2

Pゾーン『月光虎』『月光狼』

手札0

 

「私のターン、ドロー。フフ、もう終わりかしら?私は魔法カード、『サルベージ』を発動。墓地の『ヴィジョン・リチュア』と『シャドウ・リチュア』を回収、墓地の儀水鏡をデッキに戻し、イビリチュア・ジールギガスを回収。更に『ヴィジョン・リチュア』と『シャドウ・リチュア』を捨て、ジールギガスと儀水鏡をサーチ。そして発動。手札のジールギガスをリリースし、儀式召喚!『イビリチュア・ジールギガス』!!」

 

イビリチュア・ジールギガス 攻撃力3200

 

この逆境に更なる大型モンスターが姿を見せる。『イビリチュア・ジールギガス』、最上級の『リチュア』モンスターがフィールドに舞い戻り、再びセレナに牙を剥く。

 

「LPを1000払い、ジールギガスの効果発動!」

 

藤原 雪乃 LP2200→1200 手札0→1

 

ジールギガスのデッキバウンス。その決定を別つ審判が下される。もしもこれが決まれば、セレナのフィールドの『月光虎』がデッキにバウンスされ、壁モンスターも打ち砕かれる。ゴクリと息を呑むセレナ、下された判決は――。

 

「残念、『リチュア・ビースト』よ」

 

「――!」

 

最悪の答え。雪乃の手札に死神が宿り、セレナのフィールドの『月光虎』に鎌を振り下ろす。これでセレナのフィールドはがら空き、頼れるカードは2枚のセットカードのみ。

しかも雪乃が手札に加えたのは更なる展開の布石。

 

「『リチュア・ビースト』を召喚!」

 

リチュア・ビースト 攻撃力1500

 

「効果で『リチュア・マーカー』を蘇生!」

 

リチュア・マーカー 攻撃力1600

 

再び揃うレベル4のモンスター、並ぶ2体の魚人にセレナはその額から一筋の汗を垂らし、唇を噛み締める。最悪、最悪の展開だ。

 

「『リチュア・マーカー』の効果で墓地の『リチュアの儀水鏡』回収。そして2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『フレシアの蟲惑魔』!!」

 

フレシアの蟲惑魔 守備力2500

 

2体目のフレシア。罠が見えてもその中身まで見えないカードが仕掛けられる。『落とし穴』カードは多く存在し、その効果も多岐に渡る。効果破壊も通さない『深黒の落とし穴』等は特にセレナの天敵だ。例えこのターンを乗り切っても、その先まで見据えた対策をする彼女の手腕は見事としか言えない。

 

「さぁ、バトルよ!『イビリチュア・ジールギガス』で攻撃!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にして1枚ドロー!」

 

セレナ 手札0→1

 

「『イビリチュア・ガストクラーケ』でダイレクトアタック!」

 

「永続罠、『闇次元の解放』!除外されている『月光舞猫姫』を特殊召喚!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400

 

「ッ、ターンエンドよ」

 

藤原 雪乃 LP1200

フィールド『イビリチュア・ジールギガス』(攻撃表示)『イビリチュア・ガストクラーケ』(攻撃表示)『フレシアの蟲惑魔』(守備表示)×2

手札1

 

激しい猛攻を何とか堪え抜いたセレナ。『リチュア』で攻め、『蟲惑魔』で守る。単純ながらも効果的な戦略。だがこれを越えなければ勝利は不可能。何より――ここで躓いていては、アカデミアを変える等、笑われるだろう。

笑われる、違う、笑わせるのだ。今までセレナは、それを身近で見てきた。

遊勝塾のエンタメデュエル。コナミの何が起こるか分からない、ドキドキワクワクのデュエルを。遊矢のどんな逆境でも楽しむデュエルを。柚子の一途に突き進むデュエルを。

今までセレナは、スタンダード次元で様々なデュエリストのデュエルを見てきた。その度に彼等は笑い、楽しそうにデュエルをするのだ。

頭の中で駆け巡る大事な仲間達のデュエル、そして笑顔。セレナはそれを守りたい。かけがえのない日常を守りたい。胸に抱いた小さな想い、皆と育んだこの想いを守りたい。皆と一緒に笑っていたい。だからセレナは諦めない。この想いを、アカデミアの皆にも知って欲しいから、師に教わったデュエル、その楽しさを纏い、セレナは進む。

 

「Ledies and Gentlemen!お楽しみは、これからだ!」

 

両手を咲き誇る花のように広げ、セレナは笑う。遊勝塾所属、セレナのエンタメデュエル。その初舞台の幕が上がる。

 

「何を……」

 

「ふふん、見せてやろう!エンタメデュエルを!」

 

「エンタメ……?」

 

腰に手を当て、得意気な表情で胸をそらせるセレナ。そのどこか可愛らしい姿にポカンと呆ける雪乃。一体何を始めようと言うのだろうかと疑問を浮かべる。

 

「このどうしようも無い逆境、私のドローで覆す!私のターン、ドローッ!!」

 

火花舞い散るセレナのドロー。空を裂くその光景は煌々と光を降らせ、まるで三日月のようなアークを描く。

 

「まずは速攻魔法、『月の書』を発動!私は舞猫姫を裏側守備表示に!」

 

「自分のモンスターを……!?」

 

「これで『闇次元の解放』のデメリットは無くなった。魔法カード、『マジック・プランター』!『闇次元の解放』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

セレナ 手札0→2

 

「速攻魔法、『異次元の埋葬』!除外されている舞豹姫と紫蝶、そして黒羊を墓地に戻し、『月光狼』のペンデュラム効果でフィールドの舞猫姫と墓地の舞豹姫、そして紫蝶で融合!月光の原野で舞い踊るしなやかなる野獣よ!月明かりに舞い踊る美しき野獣よ!紫の毒持つ蝶よ!月の引力によりて渦巻きて新たなる力に生まれ変わらん!融合召喚!現れ出でよ!月光の原野の頂点に立って舞う百獣の王!『月光舞獅子姫』!!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500

 

フィールドに舞う、セレナの切り札。装着した仮面を砕き、その美貌を露にした百獣の女王。白い鬣を靡かせ、左腕に三日月を装着し、右手に妖しき閃きを放つ剣を握ったそのモンスターは、デュエルに決着をつけるべく、降臨する。

 

「出て来たわね。貴女の切り札……でも残念だけど、退場して貰うわ!『フレシアの蟲惑魔』のORUを1つ取り除き、『深黒の落とし穴』をコピー!」

 

『月光獅子姫』は相手の効果の対象にならず、効果破壊への耐性を持つが、『落とし穴』カードの多くは対象を取る効果では無い。加えて『深黒の落とし穴』は破壊を介さず除外する。しかし、セレナはそれを飛び越える。

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』!『フレシアの蟲惑魔』の効果を無効にし、攻撃力を400アップする!」

 

フレシアの蟲惑魔 守備力2500

 

そう、いくら強力な『落とし穴』をコピーしても、その効果は『フレシアの蟲惑魔』、つまりモンスターによる効果だ。で、あるならば、対策は容易い。先のターン、『イビリチュア・マインドオーガス』でセレナの墓地より『ブレイクスルー・スキル』を回収したのが証拠だ。

 

「これで決める!舞獅子姫で『イビリチュア・ジールギガス』を攻撃!」

 

藤原 雪乃 LP1200→900

 

舞獅子姫が手に持った剣を煌めかせ、目にも止まらぬ速度で剣閃を走らせる。空を裂き、鋭い刃がジールギガスの強固な甲殻を突き破り、赤く迸る爆発が巻き起こって、雪乃のフィールドのモンスターに降りかかる。

 

「舞獅子姫の効果により、お前のモンスターは全て破壊され、そして――舞獅子姫は2回攻撃が出来る。」

 

カチャリ、その刃を雪乃の喉元に突き立て、静かに主の命を待つ月光の王者。その美しくも凛々しい剣士の姿を視界におさめ、雪乃は目を見開いた後、薄い笑みを浮かべる。

 

「聞かせてもらおうか、アカデミアの、目的を」

 

「……貴女を連れ戻す事、そして――貴女と似た少女、柊 柚子を拐う事よ。……強く、なったわね」

 

「……そうか、……友がいてくれたからな」

 

まるで姉妹のように互いを認め、笑う2人、勝敗は決まった。セレナは自らの切り札に命を下し、舞獅子姫はその剣を振るう。

 

藤原 雪乃 LP900→0

 

デュエルディスクの強制帰還機能が作動し、光の粒子となってアカデミアへと消える雪乃。

勝者、セレナ。その結果は、少女の成長を表していた。

 

 

 

 

 




人物紹介13

藤原 雪乃
所属 アカデミア
TFシリーズから参戦。皆大好きゆきのん。エロい。
神楽坂と同じく、アカデミアに所属し、オベリスク・フォースを指揮する部隊長。エロい。
神楽坂やセレナと同じ先生の下で教育を受け、高い実力を誇る。エロい。
セレナの事は実の妹のように可愛がっており、からかっている。何だかんだでセレナの方も雪乃の事を慕っており、ライバル視している。エロい。
あとエロい。
使用デッキは『蟲惑魔リチュア』。何とかして蟲惑魔を使わせたくて探したらこのデッキがあってびっくりした。エースカードは『フレシアの蟲惑魔』。



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第64話 ここは氷河期か……?

彼岸島を見ていたら明さんならアクションデュエルなんて余裕じゃね?と思うこの頃。きっと隠しデュエルディスクとワイヤー、丸太を駆使して動きまくる。デッキは勿論彼岸。レジスタンスの救世主としてスゲェスゲェ言われまくるに違いない。誰か書いてもいいのよ?


混乱極まる舞網チャンピオンシップ3回戦。コナミは更なる強敵を求め、火山エリアに、セレナは雪乃からアカデミアの目的が自分と柚子である事を知り、柚子を探し求めていた。

 

そんな中、氷山エリアの一角にて、更に別次元よりの来訪者が、白いボディより翡翠の輝きを放つマシン、D-ホイールに搭乗して現れた。

その名をユーゴ。シンクロ次元の、遊矢に似た顔立ちの少年である。

 

何故彼がここにいるのか、それにはやはり理由がある。同居人である桜樹 ユウから、大会があると聞いたのだ。外出禁止を言い渡されたユーゴだが、お祭り事が好きな彼はそれで止まらない。

直ぐ様自らのD-ホイールに飛び乗り、こうして会場にやって来たのは良いのだが、そこで問題が起こった。

 

「ここは氷河期か……?」と呟く彼の下に、2人のデュエリストがやって来てデュエルを挑んで来たのだ。「リベンジだ!」やら、「何時でも来いって言ったダロォ!?」やらうるさく騒ぎ立てる2人、何やらユーゴの事を遊矢なる少年と勘違いしている2人に対し、ユーゴは「遊矢じゃねぇ、融合……あっ違っ、ユーゴだ!」と怒りながらも挑戦を受け、返り討ちにしたのだ。

 

しかし、そこで更なる問題がやって来る。ユーゴの背後に高くそびえる氷山より、氷を削った事による冷気の白い煙を尾のように吹かせながら、重厚な黒のボディを煌めかせ、山羊のような捻れた角を伸ばしたD-ホイールが飛び、ユーゴの眼前に登場し、ギャリギャリと氷を削って着地する。

こんな滑りやすい氷の上なのにスリップ1つしないとは見事な腕前だ。D-ホイールと同じく捻れた角を持つヘルメットを被り、黒い道着を片腕だけはだけさせた、腹にさらしを巻いた少年。

D-ホイールに乗っているのに道着?とか、このクソ寒い中、何故はだけているの?とか色々あるが、目を見開くユーゴを知ってか知らずか、少年はヘルメットのバイザーを上げ、赤い眼でユーゴを睨む。

 

「オウオウオウオウ!イェイイェイイェイイェイ!チェケチェケチェケチェケラァ!この黒門 暗次君14歳を前に弱いものいじめたぁイケねぇ……あれ?遊矢さんじゃないっスかぁ!どうしたんスか?って言うかここなんか寒くね?まっいっかぁ!」

 

バカである。色々と言いたい事はあるがバカである。このクソ寒い中、上着をはだけているにも関わらず、意にも介していない。バカは風邪を引かないと言うが、まず気づけていないのである。そんな黒門 暗次14歳を前にユーゴはと言うと――

 

「遊矢じゃねぇ、ユーゴだ!」

 

こっちもバカである。

 

「融合……?さっきの変な仮面の仲間か!テメェ遊矢さんの格好で悪事を働こうってか!そうはさせねぇ!おい融合!デュエルだ!テメェの野望、俺とこのグラファ号Rがぶっ潰してやんよ!」

 

「ユーゴだっつってんだろ!ああ腹立って来た!上等だテメェ!」

 

頭の足りていない子同士の会話が飛び交い、どちらも喧嘩腰でD-ホイールのライトをパッシングし、威嚇し合う。互いに犬歯を剥き出しにし、事の発端である竹田と梅杉を置き去りにしてD-ホイールのタイヤを回転させ、キィィィィンッと甲高い音を響かせ光を纏ったタイヤを駆けさせる。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーションッ!!」」

 

始まる2人のライディングデュエル。何故暗次が知っているのかは分からないが、恐らくコナミにでも聞いたのだろう。互いのD-ホイールを疾駆させ、先攻を取ったのはユーゴ。

やはり経験者が有利と言う事か、ユーゴはデッキから5枚のカードを手にし、その中の1枚をハンドル部分に展開されたプレートに叩きつける。

 

「先手必勝!魔法カード、『スピードロー』!2枚ドローして手札の『SR電々大公』を捨てる!自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札の『SRベイゴマックス』は特殊召喚が出来る!」

 

SRベイゴマックス 守備力600

 

現れたのは赤いメタリックボディを持つベイゴマを何個も繋げ、鞭のようにしならせたモンスター。このカードがユーゴのデッキのキーカード、初手で引き込めたのは大きいだろう。

 

「ベイゴマックスが召喚、特殊召喚した時、デッキからこいつ以外の『スピードロイド』をサーチする!俺は『SRタケトンボーグ』をサーチ!」

 

「自分を特殊召喚出来てサーチまで……!?」

 

「更に手札に加えたタケトンボーグは自分フィールドに風属性モンスターが存在する場合、特殊召喚出来る!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

次に登場したのは竹トンボから変形し、青いロボットとなったモンスター。蜻蛉ともかけているのか、その目は昆虫の複眼のようだ。

 

「タケトンボーグをリリースし、デッキの『スピードロイド』チューナー、『SR三つ目のダイス』を特殊召喚!」

 

SR三つ目のダイス 守備力1500

 

次々と展開されるモンスター、次は一般的なサイコロとは違い、正4面体のサイコロ。1つの目より火炎を吹かせ、ユーゴのD-ホイールに並走する。

 

「また展開にリクルート効果……!」

 

「まだ行くぜ!魔法カード、『機械複製術』!デッキから三つ目のダイスを2体特殊召喚!」

 

SR三つ目のダイス 守備力1500×2

 

「レベル3のベイゴマックスにレベル3の三つ目のダイスをチューニング!十文字の姿持つ魔剣よ。その力で全ての敵を切り裂け!シンクロ召喚!現れろ、『HSR魔剣ダーマ』!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200

 

三つ目のダイスが光となって弾け飛び、目がミントグリーンのリングとなってベイゴマックスを包み込む。本場シンクロ次元のシンクロ召喚。光がリングを貫き、魔剣となり引き抜かれる。豪奢な装飾を施した剣を振るうその姿は、何処か懐かしい玩具にも見える。

 

「ガンガン行くぜっ!『SRダブルヨーヨー』を召喚!」

 

SRダブルヨーヨー 攻撃力1400

 

漸く通常召喚権の使用で登場したのはその名の通り、ヨーヨーのモンスター。ユーゴの『スピードロイド』の展開を支えるカードだ。

 

「ダブルヨーヨーの召喚時、墓地のベイゴマックスを特殊召喚!」

 

ベイゴマックス 守備力600

 

「レベル3のベイゴマックスにレベル3の三つ目のダイスをチューニング!シンクロ召喚!『HSR魔剣ダーマ』!2体目ぇっ!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200

 

「お次はこいつだ!レベル4のダブルヨーヨーにレベル3の三つ目のダイスをチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!現れろ、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

3回連続シンクロ、最後に現れたのはユーゴのエースカード。ミントグリーンの薄い両翼を広げ、白く輝く体躯を唸らせる竜。

遊矢の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』にも似たその竜は天へと向かって咆哮し、ユーゴのD-ホイールへと並ぶ。美しく光輝くその姿に、暗次も一瞬だけ見とれる。

 

「俺はこれでターンエンドだ!」

 

融合 LP4000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『HSR魔剣ダーマ』(攻撃表示)×2

手札2

 

「名前表記ィ!」

 

相手フィールドには3体のシンクロモンスター。攻撃力2200の魔剣ダーマが2体、攻撃力2500の『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』が1体。

これだけのモンスターを出したにも関わらず、残る手札は2枚、実質3枚の消費だ。しかも墓地も充分肥えた。顔だけでは無く、遊矢に勝る実力者。だが暗次とて負けはしない、彼本来の好戦的な笑みを剥き出しにして、デッキからカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドローだ!早速行くぜ、魔法カード、『手札抹殺』!互いの手札を全て捨て、その数だけドローする!」

 

「ッ!思い切った戦法だな、嫌いじゃねぇぜ!」

 

「新たに5枚ドロー!そして手札から捨てた『暗黒界の狩人ブラウ』『暗黒界の術師スノウ』、『暗黒界の尖兵ベージ』の効果発動!まずはベージを特殊召喚!」

 

暗黒界の尖兵ベージ 攻撃力1600

 

これぞ暗次の扱う『暗黒界』の真骨頂、手札より捨てられた悪魔達はそれぞれ墓地より這い出て効果を使う。まずは尖兵、ベージュ色の骨格を纏い、槍を持った彼はグラファ号Rの後部座席に立ち、ケタケタと歯を揺らす。

 

「スノウの効果でデッキの『暗黒界の門』をサーチ、ブラウの効果でドロー!」

 

黒門 暗次 手札5→6

 

スノウとブラウが黒い瘴気を発生させ、中より2枚のカードを暗次の手札へと運ぶ。

 

「更に『暗黒界の門』を発動!悪魔族の攻撃力を300アップ!」

暗黒界の尖兵ベージ 攻撃力1600→1900

 

ゴゴン、氷の下より音を響かせ、食い破るように砕き、巨大な門が出現する。禍々しい紋様を描いた門、その出現にユーゴが目を見開き、思わず「うおっ」と叫ぶ。

 

「門の効果で墓地のスノウを除外し、『暗黒界の龍神グラファ』を捨て、1枚ドロー!更にグラファの効果で『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』を破壊!」

 

黒門 暗次 手札4→5

 

突如現れたグラファが指先から雷を竜へと走らせる。

しかしユーゴはD-ホイールからギャリギャリと音を響かせ、反転させ持ち前の腕でスリップを防ぎながら反撃する。

 

「無駄だ!クリアウィングの効果!レベル5以上を対象として発動したモンスター効果を無効にし、破壊する!ダイクロイックミラー!」

 

クリアウィングのミントグリーンの双翼に基盤のような紋様が走り、グラファの雷を吸収する。本来ならば破壊したモンスターの攻撃力までも吸収するが、グラファの破壊効果は墓地で発生したものだ。よって破壊は出来ず、攻撃力も上がらない。

 

「ならもう1枚の門を発動!墓地の悪魔族モンスター、ブラウを除外し、手札の『暗黒界の狩人ブラウ』を捨て、1枚ドロー!そしてブラウの効果でもう1枚ドロー!」

 

黒門 暗次 手札3→4→5

 

次々と手札を交換し、墓地を肥やしていく暗次。闇属性モンスターは基本、墓地にモンスターを増やす事で実力を発揮する。その為に暗次は墓地に溜め込んでいるのだ。

だがそれもユーゴも同じ、彼の扱う『スピードロイド』もまた、墓地での活動が基本となっている。

 

「フィールドのベージを手札に戻し、墓地の『暗黒界の龍神グラファ』を特殊召喚!!」

 

暗黒界の龍神グラファ 攻撃力2700→3000

 

氷の大地を砕き、黒い翼が天へと飛翔する。恐竜の頭蓋のような頭部に3本の山羊の角がうねり、刺々しい肉体、肘や膝にも角を生やした龍の神。

巨大な翼から紫電を放ち、暗次のエースカードが姿を見せる。

 

「攻撃力3000をこんな簡単に……テメェの方こそとんでもねぇぞ!」

 

「ハッハー!まだまだよぉ!俺は魔法カード、『暗黒界の取引』発動!互いに1枚ドローし、1枚捨てる!捨てたベージの効果で特殊召喚!」

 

暗黒界の尖兵ベージ 攻撃力1600→1900

 

「チューナーモンスター、『魔轟神レイヴン』を召喚!」

 

魔轟神レイヴン 攻撃力1200→1500

 

ここで登場したのは暗次のチューナーモンスター、『魔轟神』の名を持つ、光属性、悪魔族と言う、何処かちぐはぐなモンスターだ。両腕に赤黒い羽を伸ばし、烏の仮面を被っている。

 

「チューナー……つー事はお前も……!」

 

「まずはレイヴンの効果で手札を2枚捨て、レベルを2つ、攻撃力を800アップする!」

 

魔轟神レイヴン 攻撃力1500→2300 レベル2→4

 

「捨てられた『暗黒界の軍神シルバ』を特殊召喚!」

 

暗黒界の軍神シルバ 攻撃力2300→2600

 

ユーゴに勝る程の展開力、次に現れたのは銀色の鎧を纏う細身の悪魔だ。鋭き刃を手に、ユーゴのモンスターを狙う。

 

「レベル4のベージに、レベル4となったレイヴンをチューニング!シンクロ召喚!『魔轟神ヴァルキュルス』!」

 

魔轟神ヴァルキュルス 攻撃力2900→3200

 

真紅の鎧を纏い、黒い両翼を広げた魔神が現れ、上空を飛翔する。睨み合うユーゴと暗次のシンクロモンスター、攻撃力では暗次のモンスター達が勝っているが……。

 

「バトル!グラファで『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』を攻撃ィ!」

 

「墓地の『SR三つ目のダイス』を除外し、攻撃を無効にする!」

 

「ならヴァルキュルスとシルバで追撃!」

 

「ッ!三つ目のダイスを2枚除外!」

 

襲い来る悪魔の手、息もつかせぬ連撃を防ぐべく、ユーゴは三つ目のダイスを使用し、火を吹かせたダイスが並び、線を結んで3角形のバリアを張る。

 

「これで次のターンは防げねぇ!カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

黒門 暗次 LP4000

フィールド『暗黒界の龍神グラファ』(攻撃表示)『魔轟神ヴァルキュルス』(攻撃表示)『暗黒界の軍神シルバ』(攻撃表示)

セット1

『暗黒界の門』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!墓地の魔法カード、『スピードリバース』を除外し、墓地のベイゴマックスを回収!そしてバンブー・ホースを除外してデッキの『SR赤目のダイス』を墓地に!ここで『SRベイゴマックス』を召喚!」

 

SRベイゴマックス 攻撃力1200

 

「ベイゴマックスの効果で『SRタケトンボーグ』をサーチ!次はこいつだ!墓地の『SR電々大公』を除外し、墓地の『SR赤目のダイス』を蘇生!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

『手札抹殺』によって墓地に送られたであろうカードの効果を活かし、手数を増やしながらもフィールドにモンスターを展開していくユーゴ。

これこそが『スピードロイド』の強み、手札1枚の状況でも加速していくのだ。ギアを上げていく彼を止める事など、今の暗次には不可能に近い。フィールドに出た赤目のサイコロはその目より光線を放ち、ベイゴマックスを照らす。

 

「赤目のダイスの効果!ベイゴマックスのレベルを4にする!レベル4のベイゴマックスにレベル1の赤目のダイスをチューニング!その躍動感溢れる剣劇の魂、出でよ!『HSRチャンバライダー』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

登場したのはレベル5のシンクロモンスター、刀の形をしたバイクに乗った剣士だ。しかしその攻撃力は2000、暗次のモンスターには届かない。

 

「もう一丁!手札の『SRタケトンボーグ』を特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

「タケトンボーグをリリースし、デッキから赤目のダイスを特殊召喚!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

「その効果でダーマのレベルを3に変更!」

 

HSR魔剣ダーマ レベル6→3

 

「墓地のタケトンボーグを除外し、ダーマの効果で500ポイントダメージを与える!」

 

黒門 暗次 LP4000→3500

 

「そしてレベル3となったダーマにレベル1の赤目のダイスをチューニング!幾千の顔を持つ迷宮の影よ、その鋭き刃で混沌の闇を切り裂け!シンクロ召喚!『HSR快刀乱破ズール』!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300

 

5体目のシンクロモンスター、まるでバラバラのパズルを組み合わせたようなモンスターはその手の刃を振るい、暗次のフィールドへと向ける。レベル4のシンクロモンスターにしても攻撃力1300と言うのは低い、何か特別な効果があるのだろう。

 

「ズール……何だか見所のある名前だぜ……!」

 

「バトルだ!チャンバライダーでシルバに攻撃!」

 

「何ッ!?」

 

攻撃力の低いモンスターでシルバを狙うユーゴに対し、暗次が思わず驚愕の声を上げる。一体どうして、その疑問はユーゴのデュエルスタイルにある。

彼のプレイングは常にエースカードを活かすものだ。

 

「チャンバライダーは攻撃時、攻撃力を200上げる!そしてレベル5以上のモンスターの効果が発動した場合、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』の効果で無効にし、破壊する!ダイクロイックミラー!」

 

「自分のモンスターを!?」

 

『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』の両翼に再び基盤のような光輝く紋様が走り、チャンバライダーを突き刺し、エネルギーを奪い取る。態々シンクロしたモンスターを破壊するそのプレイングに暗次は更に驚きを重ねる。

 

「そしてクリアウィングの効果でモンスターを破壊した場合、そのモンスターの攻撃力分だけクリアウィングの攻撃力をアップする!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

「ッ!攻撃力4500……!」

 

「墓地に送られたチャンバライダーの効果で除外された『SRバンブー・ホース』を回収、続けてズールでシルバに攻撃!ズールが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う際、攻撃力は倍となる!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2600

 

ズールの攻撃力が倍となり、その加速したスピードで撹乱してシルバを切り裂く。しかしシルバも軍神の名を持つモンスター、相手の動きを予測し、自身の胸に突き立てられた刃を掴み、右手の刃でズールの首を飛ばす。結果は相打ち。レベル4のモンスターにしては上出来と言えよう。

 

「クリアウィングでヴァルキュルスを攻撃!旋風のヘルダイブスラッシャーッ!!」

 

ミントグリーンの双翼に風が逆巻き、纏われる。正しく召喚口上の美しくも雄々しい翼を体現し、天に向かって咆哮、光の速さで飛翔して真紅の鎧を紙のように容易く切り裂く。

砕け散った鎧の嵐を掻い潜り、暗次はアクセルを踏み込む。

 

黒門 暗次 LP3500→2200

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド、この瞬間、墓地に送られたズールの効果で墓地のベイゴマックスを回収!」

 

ユーゴ LP4000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『HSR魔剣ダーマ』(攻撃表示)

セット2

手札3

 

「俺のターン、ドロー!罠発動!『暗黒よりの軍勢』!墓地の『暗黒界の軍神シルバ』と『暗黒界の狩人ブラウ』を手札に、門の効果でレイヴンを除外し、ブラウを捨てドロー!」

 

黒門 暗次 手札3→4→5

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』!捨てたシルバを特殊召喚!」

 

暗黒界の軍神シルバ 攻撃力2300→2600

 

「バトルだ!シルバでダーマを攻撃!」

 

ユーゴ LP4000→3600

 

シルバの斬撃がダーマの刃を切り裂く。如何に魔剣と言えども、相手は魔、そのものである『暗黒界』の住人、彼等にとっては特異でも無く、砕かれる。

強い、ユーゴはそのバイザーの奥の目を細め、舌打ちを鳴らす。

 

「グラファでクリアウィングを攻撃!」

 

「甘いぜ!永続罠、『追走の翼』!クリアウィングを対象として発動!対象のモンスターは戦闘及び効果では破壊されず、レベル5以上のモンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時、そのモンスターを破壊し、攻撃力を吸収する!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→5500

 

「やるじゃねぇか……!シルバを手札に戻し、グラファ復活!」

 

暗黒界の龍神グラファ 攻撃力2700→3000

 

「モンスター1体とカードを3枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

黒門 暗次 LP2200

フィールド『暗黒界の龍神グラファ』(攻撃表示)セットモンスター

セット3

『暗黒界の門』

手札1

 

互いに譲らぬプレイング、普段の彼等では到底思い浮かばないであろう戦術が鬩ぎ合い、火花を散らす。2人共頭の使い所を全てデュエルに注ぎ込んでいるのだろう、凄まじい集中力だ。

しかしそんな彼等の前に、巨大な氷の壁が立ち塞がる。一面氷、進路を断たれた状態、そんな中、暗次がアクセルを踏み込み、グラファ号Rのスピードを上げてユーゴを抜く。

一体何を――ユーゴが瞠目し、その背を見つめる。すると暗次はハンドルを力強く握り、グラファ号Rの角を唸らせる。

 

「行くぜグラファ号R!この立派な角の力ぁ!見せてやれ!」

 

バキィィィィィッ!鋭き角が氷の壁にぶつかり、ひびを走らせ粉々に砕く。圧倒的な馬力と破壊力、流石はコナミがグラファ号を回収し、改修した機体。以前よりもその角も冴え渡っている。氷を砕き、火山エリアに突き進む暗次の後を追い、ユーゴがその目を輝かせる。

 

(なんて角だ……さっきから格好良いと思ってはいたがスゲェ!俺も欲しいぜ!)

 

「さぁ、テメェのターンだ!」

 

「……へっ、面白いじゃねぇか!俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間!グラファをリリースし、罠発動!『魔のデッキ破壊ウイルス』!相手フィールド、手札、そして3ターンの間にドローしたカードを全て確認し、攻撃力1500以下のモンスターを破壊する!」

 

「やっぱ入ってやがったか……ウイルスカード!手札のベイゴマックス、バンブー・ホース、そして『SRオハジキッド』が破壊される……バトルだ!クリアウィングでセットモンスターに攻撃!」

 

闇属性モンスターをリリースして発動されるウイルスカード。それぞれ強力な効果を持つものの中より、暗次が発動したカードは魔の印を持つウイルス。その範囲は攻撃力1500以下のモンスターだ。シンクロ等の低ステータスで特殊召喚を軸としたデッキには天敵だろう。低ステータスのモンスターが見直されている今、真価を発揮するカードだ。

しかしユーゴのクリアウィングはそのウイルスには侵食されない。美しき翼でセットモンスターを狙い……フィールドに禍々しく笑う壺が出現する。

 

「セットモンスターは『メタモルポット』!互いに手札を捨て、5枚ドローする!」

 

「何ッ!?」

 

黒門 暗次 手札1→5

 

ユーゴ 手札1→5

 

ここに来て強力な手札増強カード、しかしユーゴにはウイルスがばら撒かれている。即座に2枚のカードがガラスの割れるような音を響かせ、破壊されてしまう。

 

「そして捨てられたシルバを特殊召喚!」

 

暗黒界の軍神シルバ 攻撃力2300→2600

 

「そしてシルバをリリースし、罠発動!『闇のデッキ破壊ウイルス』!今度は罠を破壊だ!」

 

「2枚目のウイルスカード……!?」

 

次に散布されたのは罠を破壊するウイルスカード。その効果によりユーゴのフィールドの『追走の翼』と手札が1枚破壊される。これでユーゴが3ターンの間、手札に加えられるカードは攻撃力1600以上のモンスターと魔法カードのみとなった。『メタモルポット』による手札増強も痛手しかない。

 

「やってくれるぜ……!俺は魔法カード、『カップ・オブ・エース』を発動!表だ!2枚ドロー!破壊はされねぇ」

 

ユーゴ 手札2→4

 

「魔法カード、『エクスチェンジ』!俺とお前の手札を1枚交換する!『安全地帯』を貰うぜ!カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP3600

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!これが二階堂流ハンデスよぉ!俺は門の効果発動!墓地のヴァルキュルスを除外し、スノウを捨てドロー!そしてスノウの効果で『暗黒界の取引』サーチ!」

 

黒門 暗次 手札5→6→7

 

「そして取引発動!手札のグラファを捨て、ドロー!さぁ、ドローカードを確認!グラファの効果でセットカード破壊だぁ!」

 

「手札のカードは魔法カード、『スピードリバース』!よって破壊されない!そしてセットカードに対し、墓地の『スキル・プリズナー』を除外して防ぐ!」

 

「やるじゃねぇか……!だがこれで終わると思うなよ!魔法カード、『トレード・イン』発動!グラファを捨て、2枚ドロー!」

 

黒門 暗次 手札4→6

 

「魔法カード、『カップ・オブ・エース』!2枚ドロー!」

 

黒門 暗次 手札5→7

 

「ここで俺は『暗黒界の術師スノウ』を召喚!」

 

暗黒界の術師スノウ 攻撃力1700→2000

 

暗次が召喚したのは雪のように白い身体を持つ、杖を握った『暗黒界』の知恵者、スノウ。『暗黒界』デッキでは強力なサーチカードであるモンスターだ。フィールドに出す事は使用方法としては違うが、グラファによって直ぐに戻り、手早く交換出来るのも強みだろう。

 

「スノウを手札に戻し、墓地のグラファを特殊召喚!!」

 

暗黒界の龍神グラファ 攻撃力2700→3000

 

再びフィールドに舞い上がる漆黒の龍神。仲間を安全圏に移し、自らが戦線に立つ『暗黒界』の長。最上級のモンスターがこうもポンポンと復活されては堪ったものではない。

 

「バトルだ!グラファでクリアウィングを攻撃!」

 

「永続罠、『安全地帯』発動!その効果で破壊されない!」

 

「だが切れ味は受けてもらうぜ!」

 

ユーゴ LP3600→3100

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

黒門 暗次 LP2200

フィールド『暗黒界の龍神グラファ』(攻撃表示)

セット2

『暗黒界の門』

手札6

 

「俺のターン、ドロー!」

 

続くユーゴのターン、デュエルディスクのデッキより大きく引き抜くも、パリンと鏡の割れるような音と共にカードが砕け散る。貴重なドローが消費されてしまった。ユーゴは目を細め、小さく舌打ちを鳴らす。

彼のデッキはシンクロが軸となっている。低攻撃力のモンスターを大量に扱うシンクロは正にウイルスカードの格好の標的だろう。罠カードを失う事も痛い。幸いなのは彼の扱うカードの多くが墓地発動を持っている事か。

 

「クリアウィングを守備表示に変更し、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP3100

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(守備表示)

『安全地帯』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!俺は『魔轟神レイヴン』召喚!」

 

魔轟神レイヴン 攻撃力1200→1500

 

「手札を4枚捨て、レベルを4つ上げる!」

 

魔轟神レイヴン 攻撃力1500→3100 レベル2→6

 

「捨てた内の2枚はベージ!特殊召喚だ!」

 

暗黒界の尖兵ベージ 攻撃力1600→1900×2

 

「2体を手札に戻し、墓地より2体の『暗黒界の龍神グラファ』を特殊召喚!」

 

暗黒界の龍神グラファ 攻撃力2700→3000×2

 

暗次のフィールドに集い、天に飛翔する3体のグラファ。その圧倒的な威圧感を放つ龍神に、ユーゴが額から汗を伝わせる。ここに来て大型モンスターを並べる等、とんでもないにも程がある。しかも手札消費はあってないものだ。

 

「門の効果!墓地のベージを除外し、手札を捨て、ドロー!捨てたベージを特殊召喚!」

 

暗黒界の尖兵ベージ 攻撃力1600→1900

 

「さぁ、行くぜ!レベル4のベージにレベル6のレイヴンをチューニング!シンクロ召喚!『魔轟神レヴュアタン』!!」

 

魔轟神レヴュアタン 攻撃力3000→3300

 

天よりかかる深紅のカーテン、血のように真っ赤に塗り潰された赤より現れたのは、緋い髪、朱い鎧、紅い翼を広げた、『魔轟神』最強のモンスター。

フィールドに神の名を持つ悪魔が降臨した瞬間、暗次のD-ホイール、グラファ号Rの後部座席に白銀の玉座が出現し、レヴュアタンが静かに座す。まるで世紀末バイクのようになったグラファ号Rは玉座よりエネルギーを供給され、更に加速する。

 

「ハッハー!ここで俺は罠カード、『ブラック・アロー』を発動!レヴュアタンの攻撃力を500ダウンし、貫通効果を与える!」

 

魔轟神レヴュアタン 攻撃力3300→2800

 

「バトルだ!レヴュアタンでクリアウィングに攻撃!」

 

ユーゴ LP3100→1300

 

レヴュアタンは面倒そうにその態度を隠しもせずに溜め息をついた後、罠カードより出現した黒い弓矢を手にし、コキコキと肩を鳴らす。そして玉座に腰かけたまま弓を構え、弓をつがえてユーゴのフィールド、その上空でミントグリーンの翼を翻して飛翔する竜を狙い、矢に赤き稲妻を纏わせて撃ち抜く。

真っ直ぐに突き進む矢はその中で粉々に砕かれ、赤い雨となって鋭き破片がクリアウィングに降り注ぐ。神の力が宿った矢だ。破片と言えどその体躯に突き刺さり、その中に抱いた熱は身体中を焦がし、竜は悲痛の咆哮を放つ。

戦闘では破壊されないが、そのダメージはユーゴに襲いかかる。

 

「ぐっ――!」

 

「ターンエンド!」

 

黒門 暗次 LP2200

フィールド『暗黒界の龍神グラファ』(攻撃表示)×3『魔轟神レヴュアタン』(攻撃表示)

セット1

手札4

 

フィールドに出揃う攻撃力3000越えのモンスター。しかも頼みの綱のドローもかなりの確率で破壊されてしまう。このままではウイルスから解放される前に勝負が決まってしまう事も充分に有り得る。かつてない強敵、その原因はやはりウイルスカード。このような切り口で挑む相手は今までいなかった。

だがそれが諦める理由にはならない。彼は無類の負けず嫌いなのだ。ここで終わる等、納得いかない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

デッキより勢い良く引き抜かれた1枚のカード、ウイルスには感染しない。貴重なドローを何とか確保する事が出来た。その事実に安堵し、思考を巡らせる。どうするべきか――こう言った時、彼の思考は普段よりも冴えるのだ。

 

「俺は『SRシェイブー・メラン』を召喚!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

ユーゴが召喚したのはその名の通り、ブーメラン型のモンスター。空中でくるくると回転しながら変形し、3つの刃を閃かせたロボットとなる。彼の持つ下級モンスターの中で最も攻撃力の高いモンスターだ。レベル4モンスターの中でも2000と言う破格のラインを有している。

 

「魔法カード、『スピードリバース』を発動!墓地のチャンバライダーを特殊召喚!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

「まずはレヴュアタンを対象に、シェイブー・メランの効果発動!攻撃力を800下げる!そしてこの効果をクリアウィングで無効!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

「クリアウィングを攻撃表示に変更し、バトルだ!チャンバライダーでレヴュアタンに攻撃!」

 

「ッ!まさか!?」

 

「そのまさかだ!この瞬間、チャンバライダーの強制効果が発動!そしてクリアウィングの効果で無効にする!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力4500→6500

 

これがユーゴの最後の手、次々と持てるカードの効果を駆使して自らのエースカードであるクリアウィングを活かす事で逆境を覆す。それこそがユーゴのデュエルスタイルにして勝利への黄金パターンなのだ。これで終わらせる。歯を食い縛ってハンドルを握り締め、アクセルを踏み込んでフィールを纏う。

 

「バトルだ!クリアウィングでレヴュアタンに攻撃!」

 

ミントグリーンの両翼に風が逆巻き火花を散らす。全力全開、全てを賭けた一撃。だが暗次とて負けてはいない。直ぐ様リバースカードを使い、ユーゴの手を止める。

 

「罠発動!『神風のバリア-エアー・フォース』!お前のクリアウィングをエクストラデッキに戻す!」

 

襲いかかる風、凄まじい突風がフィールドに舞い、ユーゴが思わず機体をよろめかせるが――その時、不思議な事が起こった。

あわやスピンして転倒してしまいそうになるかと思われた瞬間、クリアウィングが天へと咆哮し、ユーゴは風の音を耳に入れる。聞いた、確かに聞いた、風の声を、クリアウィングの声を。ユーゴはそのまま力を抜き、神風に身を預ける。

するとどう言う訳か、物質として存在しない筈の風のコースに、ユーゴのD-ホイールが降り立つ。

 

「乗るしかねぇ!このビッグウェーブに!速攻魔法、『禁じられた聖槍』!クリアウィングの攻撃力を800ダウンし、このカード以外の魔法、罠の効果を受けない!」

 

「なっ――!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力6500→5700

 

「神風の、ヘルダイブスラッシャァァァッ!!」

 

黒門 暗次 LP2200→0

 

切り裂く神風、その何よりも鋭い刃を受け、暗次の機体が回転し、白煙を上げて停止する。

勝者、ユーゴ。暗次はニヤリと口角を上げて苦笑し、勝者を讃える。

 

「……やるじゃねぇか……融合!」

 

「融合じゃねぇ!ユーゴだ!……まぁ、楽しかったぜ!お前とのデュエル!」

 

こんなにも楽しいデュエルを繰り広げる少年が悪い筈が無い。暗次は溜め息を溢し、D-ホイールに背を預ける。それはユーゴとて同じ、ニカッと爽やかな笑みを浮かべ――ユーゴは進む。火山エリアの最奥へと。その先に、友がいると信じて。

 

――――――

 

その頃、遺跡エリアでは、激しい攻防を繰り広げた影響か、遊矢と隼が未だに倒れ伏し、立ち上がれずにいた。互いに全力を尽くし、疲れ切った状態、しかし敵は彼等の回復を待ってくれない。ザッ、と土を鳴らし、彼等の下に3人のデュエリストが笑みを貼りつけ忍び寄る。

アカデミアの精鋭部隊、オベリスク・フォース。その存在を視界におさめ、遊矢と隼が目を見開き、渋面を作る。

最悪だ、こんな状態でデュエルを挑まれては大した反撃も出来ない。全開ならまだしも、彼等とて精鋭なのだ。このままではカード化されてしまう。

 

『オベリスク・フォース……!遊矢、動けるか!』

 

「無理」

 

「遊矢……貴様さっきの威勢はどうした!立て!」

 

「いやそんな生まれたての小鹿みたいにプルプルと震えた足で言われても……」

 

しかし、危機がそこまで追っていると言うのに、遊矢は地面に突っ伏したままで立ち上がろうともしない。先程のデュエル時とは180度違ってやる気0である。

そんな彼を隼が叱咤するも、彼もまた満身創痍。不味い、焦る隼とユート、しかし遊矢はその反対に、余裕を持って落ち着けよと溜め息を吐きながら隼のプルプルと震える足をゲシゲシと蹴る。

 

「やめっ、やめんか馬鹿!何故お前はそこまで余裕なんだ!?」

 

「何でってそりゃ、頼れる仲間がいるからだけど。なぁ――アリト」

 

瞬間、天がキラリと閃き、1つの影が遊矢達の前に降り立つ。現れたる第3者、跳ねた前髪は右目を隠し、浅黒い健康的な肌と対照的に翡翠の眼が光る。その身体に漆黒の学ランを纏い、炎の刺繍を描いた真っ赤なシャツが中から覗く。左手にバンテージ、右手に3つのリングを嵌めた少年――アリトが遊矢の声に応える。

 

「応!任せとけ!」

 

敗者復活、アリト参戦――。

 

 

 

 

 

 

 




人物紹介14

黒門 暗次
所属 二階堂道場
激突DC、TFSPより参戦。
ねねと同じソリティアやハンデスで有名な二階堂道場に所属しており、コナミの子分。
元は多分クールで格好いいキャラなのだが、この作品では最早アホの子と化している。
喧嘩っ早くて直情的、何を間違ったかコナミの事を慕っている。もしかしたらこの作品のヒロインはこいつかもしれない。真澄ん?彼女はゆるキャラだから。
色々と勘違いがあり、親友である刃を憎んでいたが、コナミの協力の下、和解。仲間想いの少年へと戻った。初期の彼とは最早別人である。
アホの勝鬨とは良く刃やねねと4人で遊んでおり、仲が良い。最近はアリトとも学校でアホをやっている。
意外と礼儀には厳しく、コナミの同門の者や権ちゃんには年下であろうと敬語で接する。遊矢と権ちゃんはさんづけ、柚子は姉御、フトシ達には先輩がつく。
使用デッキは『暗黒界魔轟神』。エースカードは『暗黒界の龍神グラファ』。



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第65話 歴史は繰り返す

親父のデュエルを見て長いけど結構面白かったと思いました。良いぞ親父!(手のひら返し)。
でもユーリ君の謎ビームとホモホモしい発言で腹筋が崩壊しました。ビームいらんやろ、リアルファイトすんなし。ねっとりとした発言は完全に狙ってる(確信)。
期待不安の未来が待っているため、私は再び手のひらをセットしてターンエンドだ。カウンター罠、中断はやめてくれ(震え声)。


遊矢と隼の危機に現れた救世主、アリト。好戦的な笑みを浮かべ、両手を合わせてポキポキと骨を鳴らす彼の登場に、遊矢は思わず表情を綻ばせる。それはユートも同じだ。

絶体絶命、そんな時に颯爽と見参した彼は正に救いのヒーロー。粋な事をしてくれる。彼と最初に会ったのもこんな状況だったか。

 

目を細める遊矢の隣でポカンと呆ける隼。当然だろう、彼は遊矢とアリトのデュエルを見ているとは言え、アリトとは知り合いでは無いのだから。遊矢とデュエルを行う前ならば、何故敵であった彼が遊矢を助けるのか、と疑問に思っていただろう。

 

しかし、今なら分かる。これが榊 遊矢 の持つ力、彼の魅力なのだと。彼とデュエルをしたからこそ、彼の人となりを知っているからこそ、助けたいと思い、助けようとするのだ。デュエルで繋ぐ絆、これこそがデュエルが本来持つ力だろう。

 

『しかし、良く彼が来ると分かったものだな』

 

「ん、ああ……なんか、カードがそう言ってる気がしてさ……」

 

「カードが……?……しかし、大丈夫なのか?認めたく無いが、オベリスク・フォースの実力は本物だ。奴1人で3人を相手に……」

 

「大丈夫」

 

隼の疑問も尤もだろう。彼は敵であるからこそ、オベリスク・フォースの高水準に纏められた実力を知っている。精鋭部隊の名は伊達では無いのだ。

いくらアリトが強いとは言え、それを3人も――と言葉を続けようとする隼を遮り、遊矢はやんわりと否定する。大丈夫、この一言だけは、何よりも確かに、有無を言わさぬ強さが、アリトに対する信頼が見てとれる。

 

「大丈夫……」

 

だから隼は信じる事にした。遊矢の信じるアリトを。信頼出来る友が信頼する友を。信じる力、それが遊矢の強さの1つなのだとしたら――隼もまた、その力を身につけようと。

 

「俺達はまぁ、ゴロゴロして休もうぜ?たまには力を抜いた方が良いだろ?今は休む事が先決だ、とっとと回復して、今度はアリトを助けよう」

 

「……フ、そうだな」

 

「へっ、お茶でも飲んでゆっくりしてな!ここは俺が何とかするさ!」

 

敵を眼前にして、完全にリラックスする遊矢。そんな彼を見ていると、隼は気を張り詰める事が馬鹿らしくなって力を抜く。確かに、自分は力を抜くべきなのだろう。

ここは信頼出来る仲間が何とかしてくれる。そう思えば無理をする必要もない。

 

「寝坊してコンビニに飯買いに行ってたらこんな事になってんだもんなぁ、相変わらずお前の周りは騒がしいぜ、遊矢」

 

そう言って右腕に下げていたレジ袋を地面に下ろすアリト。中からは食欲をそそる焼肉のタレ独特の濃い匂いが、白い煙と共に遊矢達の鼻腔に運ばれ、思わず2人はじゅるりと涎を垂らす。そう言えば、昼以降は何も食べていなかった、と腹の虫が鳴り響く。

 

「おい隼、焼肉弁当入ってるぞ」

 

「腹が減っては何とやらだ、奴も俺達の為に持って来たのだろう、食ってやらねばな」

 

『遊矢、俺にも供え物で良いから』

 

「おいそれ俺のぉ!」

 

ガサガサとアリトの許可なく勝手にレジ袋を漁り、ハイエナの如く弁当を囲む遊矢と隼。気のせいか隼は早口な上、言葉が多くなっている。

「7:3な」とか、「ふざけるな、俺の方が腹が減ってる。俺が6でお前が4だ」やら、「供えろ、たたるぞ」と騒ぐ彼等に対し、所有権を主張するアリト。彼等の前にレジ袋を置いたのが運のツキである。

遊矢と隼の魔の手を止めようとするも、痺れを切らしたオベリスク・フォース達がそれを遮る。

 

「良い加減にしろ!貴様1人で我等を相手取るとほざいたと思いきや……!」

 

「ちょっと待って!?今マジでヤバイから!」

 

「待たん!我等が待つのは身内の危機とトイレの時のみだ!」

 

「貴様を倒し、エクシーズ次元の残党、黒咲 隼を始末する!」

 

まさかの横槍、仮面の奥の表情を怒りに染め、デュエルディスクを構えるオベリスク・フォース達をアリトが何とか宥めようとするも無意味。

隼はと言うと自分の名を呼ばれた事に反応し、焼肉を頬張りながらも「呼んだ?」と呑気に顔を上げている。

アリトとしては知らない奴に自分の飯を食われているのだ。その間の抜けた顔に右ストレートを食らわせたかった。だが残酷な事に、それは叶わない。アリトは「ああもう仕方ねぇ!」と声を張り上げ、自棄気味にデュエルディスクを構える。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

先攻はアリトだ。早くデュエルを終わらせなければと焦りを浮かべながらも5枚の手札に目を通す。良い引きだ、これならば何とかなるかもしれないと口元を緩める。

 

「俺は『BKヘッドギア』を召喚!」

 

BKヘッドギア 攻撃力1000

 

アリトが召喚したのは『おろかな埋葬』を内蔵した『BK』だ。その名の通り、頭にヘッドギアを装着し、青く鍛え抜かれた肉体を持ったボクサーの入場だ。

 

「ヘッドギアの効果でデッキの『BKグラスジョー』を墓地に送る!そして魔法カード、『バーニングナックル・スピリッツ』により、デッキトップをコストに蘇生!」

 

BKグラスジョー 守備力0

 

次に入場したのは緑の肉体を持つ巨漢だ。高い攻撃力を有しているものの、打たれ弱いガラスの顎、しかし『BK』では必須と言えるカードだ。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!魂に秘めた炎を、拳に宿せ!『BK拘束蛮兵リードブロー』!!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200

 

早速彼の扱うエクシーズモンスター、リードブローの登場、素早い展開に隼も「ほう」と感心する。その口元には焼肉のタレがついているが。

首枷をつけ、鎖をジャラジャラと引き摺る拳闘士。初手としては良い手だ。その効果を知らないオベリスク・フォースは低い攻撃力を嘲笑う――事無く、僅かに警戒している。流石はアカデミアの精鋭と言う事か、油断はしてくれない。

 

「リードブローのORUを1つ取り除き、『BKシャドー』を特殊召喚!」

 

BKシャドー 攻撃力1800

 

リードブローの周囲で回転するORUが弾け、枷が外れる。そして枷の影が蠢き、新たなボクサーとなる。

シャドーボクシング、リードブローの型を模倣するように、影の拳闘士が現れる。だがそれだけではない。リードブローの枷が外れ、ORUとなっていたグラスジョーもまた墓地に送られたのだ。そのジャブは止まらない。

 

「ORUを失った事でリードブローの攻撃力が800アップ!そしてグラスジョーの効果で墓地の『BKスパー』を回収!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3000

 

「そしてフィールドに『BK』が存在する事で『BKスパー』を特殊召喚!」

 

BKスパー 攻撃力1200

 

次なる『BK』は両腕にミットを装着した『BK』のサポーター、軽い召喚条件を持ちながらも、その後に続くのはバトルフェイズを封じる誓約だ。使い所は限られる。

だが先攻1ターン目なら苦にならない。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『BK拘束蛮兵リードブロー』!!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200

 

2体目のリードブローの登場、これで3回までの破壊耐性を得た。3人を相手にしても充分に防げる布陣だ。これがアリトの恐ろしい所だろう。攻撃を防ぎ、次のカウンターに繋ぐ。長期戦に対するスタミナもある。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

アリト LP4000

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)×2

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!俺はフィールド魔法、『歯車街』を発動!そして魔法カード、『融合』を発動!手札の『古代の機械猟犬』2体を融合!融合召喚!『古代の機械双頭猟犬』!」

 

古代の機械双頭猟犬 攻撃力1400

 

現れたのは猟犬をグレードアップした双頭の猟犬。その青錆を纏ったモンスターの攻撃力は僅か1400、少ないが、『簡易融合』等で召喚出来るとなれば上等だろう。

 

「まだだ!俺は魔法カード、『二重召喚』を発動!このターン、俺は2回の召喚権を得る!まずは『古代の歯車機械』を召喚!」

 

古代の歯車機械 攻撃力500

 

続けるようにオベリスク・フォースの手札から歯車を背負った小さなモンスターが現れる。ボルトやモーターを組み込んだ下級モンスター。攻撃力は低いももの、その効果はコンボ性に富んでいる。

逆に攻撃力が低いからこそ、下級として活かす事が出来る。デュエリストの腕が試されるカードだ。

 

「そして『古代の歯車機械』をリリースし、手札から『古代の機械合成竜』をアドバンス召喚!」

 

古代の機械合成竜 攻撃力2700

 

『古代の歯車機械』がバラバラに解体され、『歯車街』からパーツ現れ、次々と組み合わされていく。キリキリと機械が擦れ合う音が鳴り、新たに生まれたモンスターは3つ首、いや、尾も合わせ4つ首の合成機竜。歪な姿をした竜が、それぞれの首を唸らせ、翼を広げてアリトを睨む。

 

「こいつは『ガジェット』モンスターをリリースした事で相手モンスター全てに攻撃が可能となり、『アンティーク・ギア』モンスターをリリースした事で戦闘破壊出来ないモンスターも除外する!」

 

「チッ、リードブローのカウンターもすり抜けるって訳か……」

 

全体攻撃に加え、破壊出来ないモンスターも除外する効果、何の因果か、アリトが展開したリードブローの天敵と言える効果だ。厄介な事この上無い。得意のカウンターも4つの首で封じられてしまう。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

オベリスク・フォースD LP4000

フィールド『古代の機械双頭猟犬』(攻撃表示)『古代の機械合成竜』(攻撃表示)

『歯車街』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!まだ地獄は始まったばかりだ。俺は魔法カード、『古代の機械双造』発動!墓地の『古代の機械猟犬』2体を効果を無効に特殊召喚!」

 

古代の機械猟犬 攻撃力1000×2

 

「そして魔法カード、『融合』を発動!フィールドの2体の猟犬を融合!融合召喚!『古代の機械双頭猟犬』!」

 

古代の機械双頭猟犬 攻撃力1400

 

「またそいつか……」

 

「歴史は繰り返すってな。『古代の機械猟犬』を召喚!」

 

古代の機械猟犬 攻撃力1000

 

「召喚時、相手に600のダメージを与える」

 

アリト LP4000→3400

 

オベリスク・フォースD LP4000→3400

 

オベリスク・フォースF LP4000→3400

 

微々たるダメージが彼以外のLPを襲う。バトルロイヤルルールなので同じオベリスク・フォースである2人も巻き込んでしまうが、こればかりは仕方無いだろう。何より3対1のこの状況、味方を巻き込もうと、アリトさえ倒せば彼等の勝利となるのだ。

 

「そして猟犬の効果でフィールドの2体の猟犬を融合!古の魂受け継がれし機械仕掛けの猟犬達よ、群れなして混じり合い、新たなる力と共に生まれ変わらん!融合召喚!『古代の機械参頭猟犬』!」

 

古代の機械参頭猟犬 攻撃力1800

 

次に登場したのは『古代の機械双頭猟犬』の進化形態。深緑に染まった体躯は鉄となり、歯車を背負った3つ首の猟犬。

仲間を呼び合うかのような遠吠えを放つ獣機達の存在にアリトを警戒を示す。

 

「フィールド魔法、『歯車街』を発動する。このカードは破壊された時、デッキから『アンティーク・ギア』を特殊召喚する。」

 

厳かな遺跡がキリキリと歯車が回転する街へと姿を変えていく。中々味のある街だ。尤も住民に破壊されるが。

 

「そして速攻魔法、『サイクロン』を発動する事で破壊!破壊された『歯車街』の効果でデッキより『古代の機械熱核竜』を特殊召喚!」

 

古代の機械熱核竜 攻撃力3000

 

ギシギシと縄が締まるような音が響く。巨大な歯車の街がガラガラと崩れ落ち、核になっていたモンスターが空へと飛翔する。ギシギシと鳴り響くのは――翼だ。桜色のエネルギーを胸に抱いた、3つ目の機竜の羽音、ボロボロに虫食い穴が空いた翼を翻し、錆びたアンティークの竜がフィールドに降り立つ。

 

「ターンエンド」

 

オベリスク・フォースE LP4000

フィールド『古代の機械参頭猟犬』(攻撃表示)『古代の機械熱核竜』(攻撃表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『融合』を発動!手札の3枚の『古代の機械猟犬』を融合!融合召喚!『古代の機械参頭猟犬』!」

 

古代の機械参頭猟犬 攻撃力1800

 

「魔法カード、『融合回収』!墓地の猟犬と『融合』を回収、そのまま召喚!」

 

古代の機械猟犬 攻撃力1000

 

「効果で相手にダメージを与える!」

 

アリト LP3400→2800

 

オベリスク・フォース D LP3400→2800

 

オベリスク・フォース E LP4000→3400

 

「効果でフィールドの『古代の機械参頭猟犬』と『古代の機械猟犬』を融合!融合召喚!『古代の機械究極猟犬』!」

 

古代の機械究極猟犬 攻撃力2800

 

ついに現れる多頭を伸ばし、胸にアギトを持ち、背に刺を、そして3本の尾を振るう、ワインレッドの狂犬。究極の名を刻んだカード、並び立つ2頭、3頭、そして多頭の姿は正に圧巻。

部隊だけあってそのチームワークは凄まじいものがある。間違いなく強敵、遊矢はワクワクと言った様子で目を輝かせ、隼は「俺にもあれ位出来る」と謎の対抗意識を燃やし、当の本人であるアリトは「ふぅん」と鼻を鳴らし、闘志を剥き出しにしている。

 

「効果で自分以外のLPを半分に!」

 

アリト LP3400→1700

 

オベリスク・フォースD LP3400→1700

 

オベリスク・フォースE LP3400→1700

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、罠発動!『裁きの天秤』!俺のフィールド、手札のカードとお前達のフィールドのカードの差分ドローする!」

 

「……成程、多対1を活かしたか」

 

アリト 手札0→4

 

オベリスク・フォースF LP3400

フィールド『古代の機械究極猟犬』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「3対1だってのにこれだけとはシケてやがんぜ!俺のターン、ドロー!魔法カード、『エクシーズ・ギフト』!リードブローからそれぞれ1つORUを取り除き、2枚ドロー!」

 

アリト 手札4→6

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3000→3800

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3000

 

「更に魔法カード、『エクシーズ・トレジャー』発動!2枚ドロー!」

 

アリト 手札5→7

 

「さぁ、行くぜ!魔法カード、『バーニングナックル・スピリッツ』を発動!デッキトップを墓地へ送り、グラスジョーを特殊召喚!」

 

BKグラスジョー 守備力0

 

バトルが許された、勝負となる2ターン目、アリトは拘束を解かれたようにギアを上げ、カードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「『BKビッグバンテージ』を召喚!」

 

BKビッグバンテージ 攻撃力1100

 

「ビッグバンテージの効果で『BK』のレベルを墓地のシャドーと同じ4に変更!」

 

BKビッグバンテージ レベル2→4

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『BK拘束蛮兵リードブロー』!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200

 

リングに降り立つ3体目のリードブロー。これでリードブローは全て使い切った。強力で場持ちの良いモンスターであり、アリトの左腕とも言えるカードだけある。

だがまだまだ、アリトは止まる事なく次の手に出る。

 

「3体目のリードブローからORUを1つ取り除き、『BKシャドー』を特殊召喚!」

 

BKシャドー 攻撃力1800

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3000

 

「効果で墓地に送られた『BKグラスジョー』により、墓地の『BKシャドー』回収!」

 

繰り返されるアリトのワンツー、右左とリズムを刻むように手を突き出しては戻す。単調と言えば単調だが、洗練されたそれは黄金のパターンと化す。手札を減らさずフィールドを増やす。見本のようなプレイングだ。

 

「もう一撃!2体目のリードブローのORUを1つ取り除き、『BKシャドー』を特殊召喚!」

 

BKシャドー 攻撃力1800

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3000→3800

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!現れろNo.80!猛りし魂にとりつく、呪縛の鎧!狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク!」

 

No.80狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク 守備力1200

 

お次はアリトが持つ『No.』の1枚。巨腕を構え、紫の外套を揺らす漆黒の覇王。自身の刻印である80の赤き紋様は襟に描かれており、その身に纏う気迫の後押しをしている。

 

「更に魔法カード、『RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース』発動!」

 

「うええ!?」

 

「ランクアップ……!?馬鹿な、あれはエクシーズ次元の限られた者にしか開発出来ない筈……しかもリミテッド・バリアンズ・フォースだと!?」

 

怒濤の展開、アリトの放つ新たなカード、『RUM』にその目を見張る遊矢とユート、隼。遊矢は彼の扱う『RUM』が黒コナミと同じものだと驚愕し、隼はそれに加え、何故彼が『RUM』を持っているのかと息を詰まらせる。

 

「1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!CNo.80!魂を鎮める旋律が、十全たる神の世界を修復する!我にすがれ、葬装覇王レクイエム・イン・バーサーク!」

 

CNo.80葬装覇王レクイエム・イン・バーサーク 守備力2000

 

黒金から白金へ、ワインレッドの輝きを放ち、覇王はその身を変化させる。狂気を葬り、その気迫を更に増し、鉄をも砕く鋼の拳を振るう、アリトの『CNo.』。迸る闘志を纏ったこのカードこそ、全てを葬るアリトのグローブ。

 

「『CNo.』……奴は何者だ……!」

 

『……アリト……』

 

その表情を強張らせ、激しく動揺するユートと隼。遊矢とて驚いている。だが――アリトの信頼が無くなった訳では無い。彼が何者だろうと、遊矢に口にすべき答えは決まっている。

 

「何者かって……?あいつは俺の――友達だ……!」

 

「行くぜ!レクイエム・イン・バーサークのORUを3つ取り除き――『古代の機械究極猟犬』と、『古代の機械双頭猟犬』、そして『古代の機械合成竜』を除外!」

 

「何――!?」

 

ターン1制限の無い除外効果、素材にラプソディ・イン・バーサークが存在し、ORUが有る限り暴虐を尽くす強力無比な効果、レクイエム・インバーサークの背より紫の光が降り注ぎ、オベリスク・フォース達のモンスターを異次元へと誘う。

 

「更にレクイエム・イン・バーサークを攻撃力2000アップの装備カードとして、3体目のリードブローに装備!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3000→5000

 

白金の覇王が変形し、その鎧と巨腕をリードブローへ装着させる。素材が無くなっても味方モンスターの強化へと繋がると言うのは有り難い。

 

「そして3体目のORUを全て取り除き、魔法カード、『鬼神の連撃』発動!このターン、対象のモンスターは2回攻撃が出来る!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力5000→5800

 

「さぁ、バトルだ!1体目のリードブローで3人目に攻撃!」

 

「ッ、ハッ!馬鹿め!どれだけ攻撃力を上げても無駄だ!罠発動!『聖なるバリア-ミラーフォース』!」

 

リードブローがその拳を振るうも、3人目のオベリスク・フォースが発動したカード、最強の攻撃反応系と名高いミラーフォースが拳を防ぐ。

アリトのリードブロー達は既にORUが尽きている。このままではカウンターでアリトのモンスターが破壊されるだろうが――遊矢にはわかる。これは、アリトの思い通りだ。

 

「待ってましたぁ!カウンター罠、『ジョルト・カウンター』!その効果を無効にして破壊!」

 

引き抜かれし伝家の宝刀、アリトの十八番、カウンターが炸裂する。雷神が放つ、稲妻の如き一撃。拘束より解かれたリードブローの右ストレートがオベリスク・フォースの頬を抉り、軽々とその身体を吹き飛ばす。

 

オベリスク・フォースF LP3400→0

 

「がはぁっ……!?」

 

「2体目のリードブローの攻撃!がら空きのお前にダイレクトアタック!」

 

返しの左、軸足に力を入れて踏み込み、溜めに溜めた一撃をがら空きの腹へと叩き込む。ボッ、まるで腹部が円を描いて刈り取られたような錯覚が1人目のオベリスク・フォースに襲いかかり、ぐったりと力なく倒れる。

 

オベリスク・フォース LP1700→0

 

「ぐぼっ……!」

 

「フィニッシュブロー!3体目のリードブローで『古代の機械熱核竜』に攻撃!上乗せだ!手札の『BKカウンターブロー』を除外し、攻撃力を1000アップ!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力5800→6800

 

長く続いた猛攻もこれで終焉、ありったけの全てをたたみかけ、拘束から光速に変化したリードブローの拳が熱を帯び、赤き火炎を発火させて『アンティーク・ギア』最強級のモンスターに向かう。

巨竜も迎撃すべく歯車を回転させ、迎え撃つ。ガンッ!鈍い音が激しい衝撃と共に響き渡り、火花が散る。

刹那――ミシミシと頭部からひびが走り、鉄をも砕く拳が全てを貫く。

 

オベリスク・フォース LP1700→0

 

「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」

 

振り抜かれた怪腕、勝者、アリト。2ラウンドKO勝ち。しかし何もこれだけでは終わらない。3人のオベリスク・フォースを倒した直後、更に時を狙い澄ましたかのように、次々とオベリスク・フォースが規則正しく軍隊らしく地を踏み鳴らし、アリトへ歩み寄る。これではキリが無い。

だがそれでも――アリトはここから一歩も退かない。その背には守るべき友、アリトは再びカードを振るう為、両の拳を顔の側まで上げ、構える。

 

「お楽しみは、まだまだこれからってか……!」

 

タオルは投げない。リングに上がるチャレンジャーを迎え撃つ為、王者はその熱き闘志を拳に宿す。

 

――――――

 

一方、火山エリアのとある一角、ここでもまた、アカデミアからの刺客、オベリスク・フォース達を迎撃すべく、闘う者達がいた。LDSより集結された、ユースで名を馳せる強者達、しかしそんな彼等でも、倒しても倒しても次々と現れるオベリスク・フォース達とのデュエルの連続で疲弊し、立ち向かう者はたった1人。

息を切らし、デュエルディスクを構える彼は、倒れた仲間達を守るように前に立つ。その勇者の名は、桜樹 ユウ。前回の舞網チャンピオンシップの優勝者である。

 

「桜樹……もう言い!俺達の事なんて見捨てて逃げろ!いくらお前でもこんなボロボロで多数の相手に敵う筈が無いだろ!」

 

「馬鹿言うな……グレートモスを出すような才能溢れる奴を置いて逃げたら、社長にドヤされちまうぜ……!」

 

桜樹の背後で倒れるデュエリスト達は逃げるように促すが、桜樹はその顔に不敵な表情を貼りつけたまま微動だにしない。否、動けないのだ。

彼のプライドが、仲間達を置いて自分1人だけ逃げる事を許さない。例え自身がどうなろうと、それだけは出来ない。それに――。

 

(それに……そんな事をしたら、あいつに顔向け出来ないぜ……!)

 

朦朧とする意識、靄がかかったように曇る視界。限界を越えて尚、彼は立つ。笑う膝を叱りつけ、闘志を燃やす、正に勇者の姿。

だが敵は待ってはくれない。ニヤリと残酷な笑みと共に歩み寄るアカデミア。

 

ここまでか――諦めが脳裏に過った瞬間――ドシュン――!空より降り立つ、白きボディを煌めかせた機体――キィィィィンッ、とタイヤの駆動音を響かせ、桜樹の前に姿を見せたその背は――見慣れたもの。

現れた彼は、バイザー越しでも充分に伝わる程の怒気を放ち、仮面の男達を睨み付ける。

 

「……テメェ等……それ以上俺のダチに近づいてみろ……アンティークなんて言えねぇ程スクラップにしてやる……ッ!」

 

朦朧とする意識、靄がかかった視界、全てが晴れていく。目覚めた彼の眼が捉えたものは――友の、背中。

 

 

 




最近ピンチの時に仲間が現れる描写が多い気がする。もうちょっと工夫せねば。次回は桜樹君が大活躍します。


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第66話 融合?仲間か!

ユーゴ君がいらない子な今回、桜樹君を強くし過ぎた感がある。


「立てるか?ユウ」

 

迫り来るアカデミアの魔の手、圧倒的な窮地の桜樹の前に、突然として現れた戦友、ユーゴがD-ホイールを傾け、手を差し伸べる。

何と言う事だ。桜樹は喜びと安堵が混ざった複雑な表情で渇いた笑みを放ち、その手を取る。夢や幻では無い。確かな暖かさがその手に伝わる。

ユーゴが桜樹を「よっと」呟いて立ち上がらせ、互いの視線が同じ高さとなり、交差する。ニィッと不敵に白い歯を剥き出しにするユーゴに対し、桜樹も自然と口元を吊り上げる。

 

「おま……お前何でここにいるんだよ……!?」

 

「ん、あー、お前がこんな風になってないか心配でな!来てやったぜ!」

 

「……嘘つけ……」

 

こんな状況だと言うのに、何時もの彼等の下らない言い合いが交わされる。それが桜樹には何とも嬉しく思える。馬鹿馬鹿しいけど止まらない。馬鹿馬鹿しいから、止められない。彼はここにいるのは気になるが、そんな事さえどうでも良いと思えてしまう。

 

「桜樹……そいつは……?」

 

桜樹の背後で守られていた同じユースのデュエリストが、突然現れたユーゴを見て、指を差す。彼等はユーゴを知らないのだ、それも仕方無いだろう。桜樹はふふんと鼻を鳴らし、誇らし気にユーゴに手を翳す。

 

「ああ、こいつはユーゴって言って――」

 

「融合?仲間か!」

 

「融合じゃねぇ!ユーゴ――」

 

ユーゴの名を聞いて、勘違いしたのか眼前のオベリスク・フォースが食い気味に問いただす。そして名を間違えられてはユーゴは表情を周りのマグマの如く怒りに染め、訂正すべくお決まりの持ちネタを口にしようとするのだが――今回はそれを桜樹が制し、前に出てオベリスク・フォースに向かって指をピッ、と差す。

彼が一体誰なのか、そんな事は分かりきっている。

 

「融合じゃねぇ!俺のダチだ!」

 

お決まりの台詞を自分なりにアレンジし、声高々に桜樹は叫ぶ。彼が何者かなんてこれだけで充分だ。呆気に取られるユーゴだが、桜樹の不敵な笑みを見て、ニィッと口角を吊り上げ、彼に並び立つ。バイザーを上げ、ヘルメットを外し、D-ホイールからデュエルディスクを装着し、ユーゴはオベリスク・フォース達に視線を移す。

 

「へっ、そう言うこった!悪いな、テメェ等のお仲間なんて願い下げだぜ!」

 

仮面の男達に向かい、盛大に啖呵を切るユーゴ。ここまで言われれば分かるだろう、オベリスク・フォースはデュエルディスクを構え、剣型のプレートを展開する。

 

「相手は2人、丁度良いな。やるぞ、ユーゴ」

 

「おいおいそんな状態で大丈夫かよ、なんなら俺1人で構わねぇけど?」

 

「お前みたいな馬鹿1人に任せておけるか、俺を誰だと思ってる?ユースクラス最強、桜樹 ユウだぜ?」

 

「ユースだかソースだか知らねぇが、俺にとってはヘッポコユウだぜ!」

 

「何ぃ!エアコンやらで散々迷惑かけて良く言ったなテメェ!」

 

「エアコン……あっ……」

 

「え、お前まさか……マジふざけんなよおい、ユーゴさん?ねぇちょっとユーゴさん!?」

 

「……」

 

「急に黙るなよ!」

 

敵を前に強気である事を示す為、軽口を交わすユーゴと桜樹。しかし段々とそれは普通の口喧嘩となっていき、更にユーゴの沈黙によって不穏な雰囲気となる。蘇るのは2回戦前の悪夢。「こいつマジかよ」とダラダラと冷たい汗を流す桜樹と「やっべ、まじやっべ(語彙力不足)」と同じく汗を垂らすユーゴ。こんな状況でアホなやり取りをする2人に、ユースのデュエリスト達は呆然と口を開け、オベリスク・フォースの2人組は痺れを切らしてツッコみを入れる。

 

「良い加減にしろ!どうでも良いから早くしろ!」

 

しかし、その言葉が地雷を踏んだ。

 

「どうでも良い……?上等だ。ユーゴ、お前は後回しだ!こいつ等ぶっ倒して財布撒き上げッゾ!」

 

「応よ!やったぜ!説教無しだ!」

 

「ちょっ、そんな事が許されると――」

 

オベリスク・フォース達が狼狽え、彼等のカツアゲをやめさせようと否定するも、最早時既に遅し。ユーゴと桜樹はその血走った眼をギラギラと怪しく輝かせ、ユラユラと幽鬼の如く不気味に立ち、デュエルディスクを構える。

そして2人は夢に出てきそうな程強烈な顔芸を披露し、オベリスク・フォースが「ひぃっ」と小さく叫ぶ。その姿は鬼か悪魔か。少なくとも人とは思えない。

 

「どうでも良いんダロォ!?その位の出費はよぉ!?」

 

「これだからトップスはぁ……!コモンズの侘しさを少しは味わえぇ!」

 

ヤバい、本当にこれはヤバい。死ぬ気で反撃しなければ髪の毛1本程度でも毟り取られる。雑草の1本も地に残さず刈り取られる。本能的な恐怖が身体を動かせ、デュエルディスクを構え直す。殺らなければ殺られる。正しくハンティング。4人は互いに色々と譲れぬものを賭け――闘いの火蓋を切って下ろす。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

1対1対1対1の不規則なバトルロイヤル、実質は2対2だが。先攻を取ったのは桜樹だ。今回はユーゴの得意なライディングデュエルでは無い為、ランダムとなる。

 

「俺は魔法カード、『魔導書廊クレッセン』を発動!デッキから3種類の『魔導書』と名のついた魔法カードを相手に見せ、相手はその中からランダムに1枚選び、俺の手札に加える。次のターンプレイヤーに選んでもらおうか、さぁ、どれを選ぶ?」

 

「……左だ」

 

「手札に加えたのは『グリモの魔導書』。発動し、デッキから『魔導書士バテル』をサーチして召喚」

 

魔導書士バテル 攻撃力500

 

現れたのは青い法衣に身を包み、眠た気に欠伸を押し殺し、紫色の『魔導書』をペラペラと捲る少年。桜樹のデッキは魔導デッキ、魔法使い族モンスターと『魔導書』カードを中心とし、サーチカードに富んだカテゴリだ。その強力さ故に、キーカード、いや、切り札と言えるカードが禁止カードとなってしまったが、それでも充分闘えるデッキだ。

 

「バテルの効果でデッキの『セフェルの魔導書』をサーチ、手札の『魔導書院ラメイソン』を公開し、墓地の『グリモの魔導書』を選択して発動。その効果を適用する。2枚目のセフェルをサーチ。そして手札の『ゲーテの魔導書』、ラメイソン、セフェルの3枚の『魔導書』を公開し、手札から『魔導法士ジュノン』を特殊召喚!」

 

魔導法士ジュノン 攻撃力2500

 

いきなりの大型の登場。純白の法衣を纏い、桃色の髪を靡かせ、『魔導書』を手にした理知的な女性のモンスターがフィールドに降り立つ。一見厳しい条件に見えるが、手札に『魔導書』をサーチする事が常なこのデッキでは扱いやすく、強力な効果を持ったエース級のカードと言える。

 

「フィールド魔法、『魔導書院ラメイソン』を発動!」

 

マグマ流れる赤い火山が、青い光の結界に覆われた白銀の塔へと姿を変える。公開したカードを直ぐ様発動する事で情報の損失を防いだ。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

桜樹 ユウ LP4000

フィールド『魔導法士ジュノン』(攻撃表示)『魔導書士バテル』(攻撃表示)

セット1

『魔導書院ラメイソン』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『テラ・フォーミング』により、フィールド魔法、『歯車街』をサーチし、発動!」

 

桜樹のフィールドが科学的で近未来的なラメイソンに対し、オベリスク・フォースのフィールドが古めかしい赤錆を帯びた歯車が回転する街へと変わる。未来と古代、全く異なる対極のフィールドが向かい合う。

『歯車街』は『アンティーク・ギア』モンスターのリリースを軽減するが、それはあくまでおまけ。このカードは破壊される事で、デッキの『アンティーク・ギア』を特殊召喚する。『アンティーク・ギア』にとって必須となるカードだ。

 

「更に永続魔法、『古代の機械要塞』を発動。そして魔法カード、『古代の機械射出機』により、破壊!そして射出機の効果でデッキから『古代の機械巨人』を特殊召喚!」

 

古代の機械巨人 攻撃力3000

 

要塞がガラガラと轟音を立てて砕け散り、中より2つの影が姿を見せる。1体は3メートル程の巨体を持つ、赤きモノアイを輝かせる銅の巨人。『アンティーク・ギア』のエースを担うモンスターだ。そしてもう1体は――。

 

「俺は要塞の効果で手札の『古代の歯車機械』を特殊召喚する!」

 

古代の歯車機械 守備力2000

 

巨人の肩にちょこんと乗る、小さな歯車を背負った玩具のようなモンスターが姿を見せる。『アンティーク・ギア』と『ガジェット』、2つのカテゴリを持ち、その架け橋となるモンスターだ。下級が心許ない『アンティーク・ギア』では頼れる1枚であり、上級へのリリース要員となれる。

 

「そして『古代の歯車機械』の効果発動。このカードのカード名を『グリーン・ガジェット』に変更!そして『グリーン・ガジェット』となった『古代の歯車機械』を対象に魔法カード、『機械複製術』を発動!対象の同名カードを2体まで特殊召喚する!」

 

グリーン・ガジェット 守備力1200×2

 

他の『ガジェット』に名前を変更する効果、そして変更されるのはカード名のみ。攻守は変わらないので『機械複製術』の効果範囲に収まり、2体の歯車がデッキから登場する。

 

「『グリーン・ガジェット』の効果でデッキより『レッド・ガジェット』をサーチ、そして魔法カード、『手札抹殺』発動!これで手札を入れ替えた……『古代の歯車機械』をリリースし、『古代の機械合成竜』をアドバンス召喚!」

 

古代の機械合成竜 攻撃力2700

 

古びた街の上空に、4つ首のキメラが錆びた歯車を回転させ、翼を広げて飛翔する。これで彼のフィールドに上級モンスターが2体、下級モンスターが2体と充分な展開を見せた。

やはり今回も強敵だ、と桜樹は改めて気を引き締める。自分がユーゴより弱い事は自覚している。だからこそ彼の足を引っ張る事無く、むしろ助けとならなければならない。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォースG LP4000

フィールド『古代の機械巨人』(攻撃表示)『古代の機械合成竜』(攻撃表示)『グリーン・ガジェット』(守備表示)×2

セット1

『歯車街』

手札0

 

「へっ、やっと俺のターンか、ドロー!俺は墓地の『スピード・リバース』を除外し、墓地の『SRベイゴマックス』を回収し、特殊召喚する!」

 

SRベイゴマックス 守備力600

 

待ってましたと言わんばかりにデッキからカードを引き抜き、『手札抹殺』によって墓地に送られたカードを早速活用するユーゴ。彼のデッキは墓地発動が多い為、『手札抹殺』の効果はむしろ渡りに船だったと言う訳だ。墓地に『スピード・リバース』が無ければ折角のベイゴマックスを失っていたが。そうして現れたのは赤いベイゴマを幾つも繋げたモンスター、『スピードロイド』のキーカードだ。

 

「ベイゴマックスの効果で『SRタケトンボーグ』をサーチ!特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

ユーゴのフィールドに竹トンボが飛び、空中で変形して小型のロボットとなる。緩い条件を持つが、それだけに1ターンに1度しか特殊召喚出来ないのが欠点だ。

 

「タケトンボーグをリリースし、デッキからチューナーモンスター、『SR赤目のダイス』を特殊召喚!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

現れたのはその名の通り、赤い1の目を輝かせたサイコロのモンスター。本来ならば墓地発動のチューナーを出す所だが、相手は2人、焦ってしまう事は避けるべきだろう。それに暗次とのデュエルで『SR三つ目のダイス』を1ターンで攻略された事を反省しているのだ。実際、モンスター効果の発動は合成竜によって封じられている為、間違いでは無いだろう。

 

「赤目のダイスの効果でベイゴマックスのレベルを6に変更!」

 

SRベイゴマックス レベル3→6

 

「いけ!ユーゴ!」

 

「応!レベル6となったベイゴマックスにレベル1の赤目のダイスをチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!現れろ!『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

ミントグリーンの透明感溢れる翼を広げ、青と白のカラーリングに彩られた美しい竜が空に舞う。幻想的で、尚且つ力強さを感じさせるその竜の姿に、敵である筈のオベリスク・フォースまで見とれて息をつく。これこそがユーゴのエースカード。

ユーゴはこのモンスターを最も信頼し、憧れるデュエリストのプレイングを模倣し、守り続けている。今までこのモンスターが破壊された事など、数える程しか無いと言う事実が物語っている。

 

「そして『SRパチンゴーカート』を召喚!」

 

SRパチンゴーカート 攻撃力1800

 

ここでユーゴが召喚したのはパチンコとゴーカートを合わせた青い機械族のモンスター。『スピードロイド』の中では高い攻撃力を持ち、優秀な効果を内蔵したカードだ。

 

「手札の『SR電々大公』を捨て、パチンゴーカートの効果発動!『古代の機械巨人』を破壊!そして墓地の『SR電々大公』を除外し、墓地の赤目のダイスを特殊召喚する!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

「そしてレベル4のパチンゴーカートにレベル1の赤目のダイスをチューニング!双翼抱く煌めくボディー、その翼で天空に跳ね上がれ!シンクロ召喚!現れろ!『HSRマッハゴー・イータ』!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000

 

ユーゴが新たにシンクロ召喚したモンスターは派手なピンクのボディーを持つ羽子板だ。クリアウィングと共にユーゴの隣に並び立つ。これでシンクロモンスターが2体、上々な出たしと言った所か。

 

「墓地の『SRバンブー・ホース』を除外し、デッキから『SR三つ目のダイス』を墓地へ、カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP4000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『HSRマッハゴー・イータ』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!俺は魔法カード、『死者蘇生』発動!墓地の『古代の歯車機械』を特殊召喚する!歯車機械の効果を発動!罠カードを宣言し、封じる!」

 

古代の歯車機械 守備力2000

 

「そして速攻魔法、『地獄の暴走召喚』を発動!デッキから2体の歯車を特殊召喚する!更に速攻魔法、『サモン・チェーン』により、このターン、俺は3回まで召喚が可能!」

 

「暴走召喚の効果で俺は『古代の機械合成竜』を特殊召喚する!」

 

「……なら俺はジュノンを特殊召喚する」

 

古代の歯車機械 攻撃力500×2

 

古代の機械合成竜 攻撃力2700×2

 

魔導法士ジュノン 攻撃力2500×2

 

バトルロイヤルルールを活かし、自分のモンスターを増やしつつ、味方のモンスターを増やす見事な連携、だがこれで桜樹のモンスターも増えた。ユーゴのモンスターはエクストラデッキのモンスターの為、特殊召喚が出来ないが、それでも充分に巻き返せる。

 

「そしてフィールド魔法、『歯車街』を発動し、1体目の歯車をリリースし、『古代の機械巨人』をアドバンス召喚!」

 

古代の機械巨人 攻撃力3000

 

「続いて2体目の歯車をリリースし、『古代の機械熱核竜』をアドバンス召喚!」

 

古代の機械熱核竜 攻撃力3000

 

巨人の次は胸に桜色に輝くコアを抱く翼竜が『歯車街』の空に飛翔する。3つの目を光らせ、ギシギシと古びた体躯を唸らせる巨竜。リリースしたモンスターが『アンティーク・ギア』と『ガジェット』の名を持つ為、完全な姿を取り戻した。

 

「そして3体目の名を『グリーン・ガジェット』に変更し、リリース!『古代の機械巨竜』をアドバンス召喚!」

 

古代の機械巨竜 攻撃力3000

 

3度の召喚権を全て使い、オベリスク・フォースのフィールドに熱核竜とは異なる巨大な翼竜が舞う。これで最上級モンスターがフィールドに3体揃った。総攻撃力は9000、壮観と言える布陣だ。

 

「ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォースH LP4000

フィールド『古代の機械巨人』(攻撃表示)『古代の機械熱核竜』(攻撃表示)『古代の機械巨竜』(攻撃表示)

『歯車街』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ラメイソンの効果で墓地の『セフェルの魔導書』をデッキの一番下に戻し、1枚ドロー!」

 

桜樹 ユウ 手札3→4

 

「装備魔法、『ワンダー・ワンド』をバテルに装備!攻撃力を500アップ!」

 

魔導書士バテル 攻撃力500→1000

 

「バテルと『ワンダー・ワンド』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

桜樹 ユウ 手札3→5

 

「俺はジュノンの効果発動!墓地の『魔導書』魔法カード1枚を除外し、フィールドのカード1枚を破壊する!3体のジュノンの効果で墓地のセフェル、グリモ、クレッセンを除外し、3体の『古代の機械合成竜』を破壊!」

 

3体のジュノンが手元の『魔導書』をペラペラと捲り、早口で呪文を詠唱する。すると天空がゴロゴロと不気味な音を鳴らす黒雲に覆われ、青い雷が3体のキメラを貫き、黒焦げにする。これこそがジュノンの持つ強力な効果。『ダーク・アームド・ドラゴン』を専用に調整した効果にオベリスク・フォースのモンスターは容易く散る。

 

「ぐっ……!」

 

「そして2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『魔導法皇ハイロン』!!」

 

魔導法皇ハイロン 攻撃力2700

 

星を散りばめた渦が発生し、2本の光が飛び込んだ途端、凝縮して爆発が起きる。中より白煙を引き裂き、現れたのは桜樹のエースカード。黒い法衣に身を包み、華美な装飾を施した杖を振る男。彼はその杖をスッ、と構え、英知の輝きを放つ。

 

「ハイロンのORUを1つ取り除き、効果発動!墓地の『魔導書』カードの数まで相手フィールドの魔法、罠カードを破壊する!オベリスク・フォースのセットカードを破壊!」

 

「何っ!?」

 

破壊されたカードは『聖なるバリア-ミラーフォース』。本当に仕事をしない。

 

「そして『召喚僧サモンプリースト』を召喚!守備表示に!」

 

召喚僧サモンプリースト 守備力1600

 

桜樹の手は止まらない。その手より召喚されたのは黒いローブに身を包んだ魔法使いの翁。このカードの登場と共に桜樹はユーゴに目を配らせ、ユーゴも何かを察したように頷く。

 

「魔法カードを捨て、サモンプリーストの効果発動!『魔導剣士シャリオ』を特殊召喚する!」

 

魔導剣士シャリオ 攻撃力1800

 

サモンプリーストが呪文を呟き、黒い球体を発生させる。そして球体にピシリとひびが走り、中より飛び出したのは白馬に跨がる青年剣士。

 

「更に墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、ラメイソンをデッキに戻してドロー!」

 

このカードの登場を見て、ユーゴがマッハゴー・イータの効果を使う。

 

「マッハゴー・イータをリリースし、効果発動!フィールドの全てのモンスターのレベルを1つ上げる!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7→8

 

魔導法士ジュノン レベル7→8

 

魔導剣士シャリオ レベル4→5

 

召喚僧サモンプリースト レベル4→5

 

グリーン・ガジェット レベル4→5×2

 

古代の機械巨人 レベル8→9

 

古代の機械熱核竜 レベル9→10

 

古代の機械巨竜 レベル8→9

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『魔導皇聖トリス』!」

 

魔導皇聖トリス 攻撃力2000→3200

 

2回目のエクシーズ召喚。レベル5となった2体の魔法使いを素材として召喚されたのは純白の法衣を纏い、巨大な盾と杖を持った美しき女性のモンスターだ。ユーゴのマッハゴー・イータがあったからこそ召喚出来たモンスター、その効果も強力だ。

 

「トリスのORUを1つ取り除き、効果発動!デッキをシャッフルし、5枚を捲り、その中の『魔導書』の数までフィールドのモンスターを破壊する!めくった中にあった『魔導書』は4枚!よって巨人と熱核竜、そして巨竜と『グリーン・ガジェット』を破壊する!」

 

魔導皇聖トリス 攻撃力3200→2900

 

トリスが杖から淡い光を放ち、それを受けた『アンティーク・ギア』モンスターが次々と崩れていく。あれだけ並べられていたオベリスク・フォースのモンスターも残り1体。とんでもないタクティクスだ。

 

「まだ残ってるじゃないか、ちゃんと掃除しないとね!魔法カード、『ワン・フォー・ワン』!手札のモンスターを捨て、デッキのレベル1モンスター、『エフェクト・ヴェーラー』を特殊召喚!」

 

エフェクト・ヴェーラー 守備力0

 

桜樹のターンはまだまだ終わらない。全ての手札を使い切り、彼が召喚したのはステータスの低いチューナーモンスター。白い翼を持つ天使のような小人だが、その種族は魔法使い、優秀な効果もあって新たに採用した1枚だ。

 

「魔法カード、『死者蘇生』!墓地の『魔導皇士アンブール』を特殊召喚!」

 

魔導皇士アンブール 攻撃力2300

 

「レベル5のアンブールにレベル1の『エフェクト・ヴェーラー』をチューニング!シンクロ召喚!『エクスプローシブ・マジシャン』!」

 

エクスプローシブ・マジシャン 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、ユーゴとの交流を得て、桜樹が会得した新たな力が火炎を纏い、その純白の姿を見せる。だがまだまだ、桜樹はこれだけでは満足しない。彼はユーゴを越える為、更なる高みへ手を伸ばしたのだ。

 

「リバースカードオープン!魔法カード、『ミラクルシンクロフュージョン』!フィールドの『エクスプローシブ・マジシャン』と墓地のシャリオを除外し、融合!融合召喚!『覇魔導士アーカナイト・マジシャン』!!」

 

覇魔導士アーカナイト・マジシャン 攻撃力1400→3400 魔力カウンター0→2

 

シンクロモンスターを素材とした融合召喚、圧倒的なエネルギーの奔流をその身に宿し、桜樹のフィールドに現れる漆黒の鎧から青い光を放つ魔導士。

これこそが桜樹の奥の手、エクシーズ、シンクロ、融合の3つの召喚法をマスターした男の実力。正しくユースクラス最強に相応しい実力だ。

 

「……おいおい……こりゃ俺がいなくても良かったんじゃねーか?」

 

「そんな事無いさ、お前がいなかったら、俺はここまで強くなってない。見せてやるよユーゴ!俺の力を!『覇魔導士アーカナイト・マジシャン』の魔力カウンターを1つ使い、『グリーン・ガジェット』を破壊!」

 

覇魔導士アーカナイト・マジシャン 攻撃力3400→2400 魔力カウンター2→1

 

ついにオベリスク・フォースのモンスター達が全て破壊される。破壊されたカードは合計9枚、まるで嵐のように吹き荒れる魔法を受け、オベリスク・フォースの表情が歪む。

 

「これで終わりだ!ハイロンとトリスで1人目に、『覇魔導士アーカナイト・マジシャン』とジュノンで2人目にダイレクトアタック!」

 

オベリスク・フォースG LP4000→0

 

オベリスク・フォースH LP4000→0

 

激闘を制したのはユーゴと桜樹、次元を越えた絆の力は、アカデミアのコンビネーションをも越え、見事勝利をもぎ取った。

 

――――――

 

「良いのか?俺が離れてよ」

 

「あぁ、頼む。この大会には俺なんかより守らなきゃいけない子達がいるんだ。だから――」

 

「助けになってやってくれ、だろ?分かったよ、だけどお前達も無理すんなよ?」

 

「あぁ、早く帰って、エアコンの電源をOFFにしないとな」

 

「うぐっ」

 

オベリスク・フォースを退けたユーゴと桜樹。状況が漸く落ち着いた桜樹はユーゴと共に仲間達を外へと運び、ユーゴに頼みがあると切り出した。

その内容はこの会場で今尚闘う、ジュニアユースの選手達をアカデミアより守る事、自分よりもずっと実力が高いユーゴならと思って彼に依頼したのだ。ユーゴも桜樹の頼みならと快く引き受けた。

 

「まぁ、任せとけって!俺が何とかしてやるからよ!」

 

「お前も気をつけてくれよ。頼みはしたけど、ちゃんと無事で戻って来い」

 

「当然!じゃあ気をつけろよ!」

 

互いに信頼を含んだ言葉を交わし、ユーゴは白いD-ホイールに跨がり、火山エリアを駆けていく。その先に見据えたのは氷山エリア。親友の頼みを受け、ユーゴは突き進む。

だが彼は気づかない。道中――黒い甲冑を纏った男と入れ違った事を。

 

――――――

 

一方、氷山エリアでは、何とか柚子と合流したセレナが互いの衣服と髪型をチェンジしていた。事の発端は柚子の言葉だった。彼女はどうせ狙われているなら、と相手を混乱させる為、見た目を交換しようと切り出したのだ。

そうして黄色いリボンで何時ものポニーテールをツインテールに結び、舞網第2中学の衣装を纏ったセレナはSALと他のエリアを目指し駆け、ツインテールをポニーテールに結び直し、セレナの赤いジャケットを纏った柚子は遊矢達の下へ急ごうと思ったのだが――その時、彼女の前に現れた者は――。

 

「遊……矢……?」

 

アカデミアのものであろう、紫色の軍服に身を包み、獲物を狙うように紅の目を細める少年。その顔つきは幼なじみである柚子がほんの一瞬であるが遊矢に見間違う程に似通っているが、その口元には遊矢のものとは全く異なる歪んだ笑みが描かれている。

左腕に巻かれたデュエルディスクの形状は盾、それを視界におさめた柚子は直ぐ様デュエルディスクを構える。

 

「……君、本当にセレナかい?何だか賢そうに見えるんだけど」

 

「しっ、しつれーな!私はセレナだ!や、やっつけるぞぉ、きさま!」

 

「あはは、その平仮名っぽい感じ、セレナだ」

 

柚子とセレナの少しの顔つきを察してか、顎に手を当てうーむと唸る少年。不味い、柚子は直ぐ様眉を無理矢理吊り上げ、口調もセレナに似せる事でバレる事を防ぐ。

腹を抱えて笑う少年を見て、心の中でトホホと涙し、照れたのは内緒である。

 

「あの猿がいないのは気になるけど――まぁ、良いや、アカデミアに戻って貰うよ。力づくでね」

 

やはりアカデミアの敵らしい。恐らくはこの少年が遊矢の言っていた融合と言う少年だろうと思い、柚子はゴクリと喉を鳴らす。彼を迎え撃とうとしたその時――。

 

「見つけたぞ、ユーリ」

 

不意に透明感のある声が波紋のようにその場に響き渡る。どこかで聞いた事がある声、その出所を探し、少年と柚子は空を見上げる。

そこにはふわりと白いフードつきのマントを揺らし、鉄の仮面を被った男が跳び、トンと氷面に降り立つ。この男は確か――ナイト・オブ・デュエルの――柚子がそこまで考えた時、少年が眉をひそめ、不快そうに男を睨む。

 

「何?君、邪魔だよ。カードにされたいの?」

 

「邪魔しに来てやった」

 

少年、ユーリの言葉を受け、フンと鼻を鳴らし、皮肉で答える男。柚子はそんな彼に対し、どこか違和感、いや、むしろ慣れた感覚を覚える。

この透き通った声も、皮肉屋な所も、まるで――何故か男の背を心配そうに見つめる柚子に対し、男は少し顔を振り向かせ、ポツリと呟く。

 

「……瑠璃……いや……別人か、下がっていろ、君を傷つけたくない」

 

「え?貴方、瑠璃を知って――」

 

まるで、ユートのような台詞を放つ男。男の瑠璃と言う言葉に反応し、柚子が手を伸ばした瞬間、バサリ、男が纏ったマントを放り投げ、仮面と共に宙へと捨てる。後ろにいた柚子は彼が投げたマントを風によって被ってしまい、「わぷっ」と間の抜けた声を漏らす。

視界は真っ白、急いで柚子がもがく中、ユーリは紅の眼を見開き、「へぇ……!」と喜色を含んだ声を三日月のように吊り上げた口から放つ。

一体何が――漸くマントを脱ぎ捨て、「ぷはっ」と息を吐き出した柚子の眼前に存在したのは――。

 

「忘れたとは言わせんぞ――この顔を――!」

 

黒いジャケットを纏った背、肩にかけられた大きなヘッドフォン、黄金のデュエルディスクを左腕に嵌め、つばの欠けた黒い帽子を被ったその少年は――。

 

「コナ……ミ……?」

 

彼女の家で住む、居候と似ていた――。




人物紹介15

桜樹 ユウ
所属 LDS
昨年のチャンピオンシップの覇者。どうやって勝鬨君に勝ったのかは分からないが覇者ったら覇者。多分神判が制限とかだったんじゃないかなと思われる。後、勝鬨君が勝鬨ったのか。
覇者になってからは天狗になり、努力を余りしていなかったが、ユーゴを拾い、居候となってからはテーブルデュエルでユーゴにボッコボコにされ、リベンジを果たすべく努力を始める。そんな彼に影響され、ユースの皆も一層努力したとか。
今では融合、シンクロ、エクシーズを会得し、自他共にユース最強となる。
ユーゴとは息がぴったり合った親友であり、ライバル。因みにグレートモス使いの彼とは仲が良い。
使用デッキは『魔導』。エースカードは『魔導法皇ハイロン』。

おまけ

ナイト・オブ・デュエルの人「3回戦まで進んだか……試合前にウ○コしとくか……」ガチャ
黒いの「(デュエルを)やらないか」
ナイト・オブ・デュエルの人「」
この後めちゃくちゃデュエルをして仮面とマントを奪ったとか。因みに黒咲さんと同じ入り口で待機して遊矢君を探してたら眉毛の方を見つけたとか。赤いのについては知りません。


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第67話 本気、出しちゃおっかなぁ?

今回と次回とですが、この話、結構前に完成していた為、残念ながら融合SPからのカードは余り出ていません。その為、ユーリ君のデッキがただの植物デッキ状態。関係ない融合モンスターが出ます。せめてこれを書いた頃にドラゴタスペリアが判明していれば……!


スタンダード、融合、シンクロ、エクシーズ、4つの次元のデュエリストが激突する舞網チャンピオンシップ3回戦。天に闇の帳が下り、星が輝くその下で、白い冷気漂う氷山エリアの一角にて、2人のデュエリストが対峙していた。

 

1人は融合次元、アカデミアで最強格とされる少年、遊矢と似た顔立ちながら、その口元に歪んだ笑みを浮かべるユーリと名乗る者だ。

獲物を狙う獣のように、爛々と輝く紅の眼を細め、相も変わらず妖しい笑みを描いている。

 

その眼前に立ち塞がり、本人にその気はあるのか分からないが――背後の柚子を守るようにデュエルディスクを構える少年もまた、最強の肩書きを持つデュエリスト。

つばの欠けた黒い帽子を右手で抑え、バサバサと漆黒のジャケットが風に靡く。首に掛けた大きなヘッドフォンが目を引く彼は、エクシーズ次元のレジスタンス所属、名は――コナミ。

 

「覚えてるか、だってぇ?ごめん、忘れちゃったよ。君、誰だっけぇ?」

 

忘れたとは言わせない。そう言い放つ黒いコナミに対し、ニヤニヤと底意地の悪い笑みを作り、態とらしく手をひらひらと振り、煽るユーリ。勿論本当は忘れてはいない。ユーリは黒コナミと初めて会った時の事を今でも鮮明に覚えている。

 

あれはユーリがエクシーズ次元にやって来た時だろう、彼はアカデミアのプロフェッサー、赤馬 零王の指示を受け、ある男と瑠璃と言う少女を拐おうとした時、彼が立ち塞がったのだ。

この顔を見た時は今のユーリからは想像がつかないだろうが、激しく動揺したものだ。

 

しかし、ユーリにはその時、相方がいた。黒コナミの事は彼に足止めさせ、その間に瑠璃を拐ったのだ。その事を思い返すユーリ。

対する黒コナミはユーリの白々しい態度に「ほう」と口を開き、デュエルディスクよりワイヤーを発射し、ユーリのデュエルディスクに巻きつける。

 

「ッ!何のつもりかな?僕、忙しいんだけど」

 

「つれない事を言うな、私はずっとこの時を待っていたんだ。忘れていると言うなら思い出させてやる……嫌と言う程、その身に刻め、この希望を」

 

ズルリ、瞬間、ユーリは得体の知れない化け物に身体を鷲掴みにされたような錯覚に陥る。冷たいものが身体の表面で這いずり回り、足下が底無し沼になったかのような感触。端的に言えば、気持ち悪い。込み上げる吐き気を右手で抑え、ユーリは眼前の少年を睨み付ける。

 

「……良いよ、さくっと倒してカードにしてあげるよ……!」

 

斯くして始まるのは、おぞましく、恐怖に満ちた黒と紫の劇場。観客は1人の少女。まるで物語のように、輝かしい希望渦巻くデュエルを――ご覧あれ。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻は黒コナミだ。彼は黄金のデュエルディスクにセットしたデッキより、5枚のカードを引き抜き、その中より1枚のカードを翳す。

 

「私のターン、私は『サンダー・ドラゴン』を捨て、同名2枚をサーチ、そして『カップ・オブ・エース』を発動。当然正位置ぃ!」

 

黒コナミ 手札5→7

 

「『ガガガシスター』を召喚」

 

ガガガシスター 攻撃力200

 

黒コナミが召喚したモンスターは白いとんがり帽子を被った小さな魔法使いの少女。幼い姿をした彼女は手に持ったステッキを振るい、主人のデッキから1枚のカードを差し出す。

淡い粒子に包まれた1枚、黒コナミは即座に受け取り、手札に加える。

 

「『ガガガシスター』の召喚時効果発動。デッキから『ガガガ』魔法、罠カード1枚をデッキから手札に加える。私は『ガガガリベンジ』をサーチし、『ガガガクラーク』を特殊召喚する」

 

ガガガクラーク 守備力800

 

続けて黒コナミがその手より切ったのは薄い朱い髪の少女。その身体にはゆったりとした白衣を纏い、小さなメモ帳とシャープペンシルを手にした『ガガガ』学園生徒会で書記を務める品行方正なモンスターだ。

黒コナミのような真面目と言えない少年が使うには首を傾げざるを得ないカードだが。

 

「そして『ガガガクラーク』を対象として『ガガガシスター』の効果発動。このカードと対象のレベルはそれぞれの数値を合計したものとなる」

 

ガガガシスター レベル2→4

 

ガガガクラーク レベル2→4

 

『ガガガシスター』がステッキの先端に光を集束し、円を描くようにくるりと回転させる。するとステッキより4つの星が放たれ、『ガガガシスター』と『ガガガクラーク』のそれぞれに2つずつ降り注ぐ。これで2体のレベルは4、彼のエースカードを出すに相応しい舞台が整った。

 

「永続魔法、『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』とフィールド魔法、『希望郷―オノマトピア』を発動。そして2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!現れよNo.39!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!光の使者、希望皇ホープ!!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

直後、コナミの背に輝く星々が浮かぶ渦が巻き起こる。2体のモンスターは光となって渦に吸い込まれ、黄金の装飾を纏う白い塔が立つ。カタカタと塔は音を立てて変形し、翼を広げる戦士の姿となって咆哮する。

腰に携えた2刀の片刃の剣、黄金の鎧に白い身体、右肩に浮かぶ39の紋様。『No.39希望皇ホープ』、遥か遠くの次元で存在する、最強デュエリストの魂が今、凍える大地に降臨する。

 

「希望皇ホープ……やっぱり、コナミと同じ……」

 

「『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果、『希望皇ホープ』モンスターがエクシーズ召喚された時、500LP払い、1枚ドローする。更にホープが特殊召喚された事でオノマトピアにかっとビングカウンターを置く」

 

黒コナミ LP4000→3500 手札4→5

 

希望郷―オノマトピア かっとビングカウンター0→1

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→2700

 

希望の理想郷に光が走る。オノマトピアには『希望皇ホープ』モンスターが特殊召喚される度にかっとビングカウンターが乗り、その数×200、自分のモンスターの攻守をアップする効果がある。序盤からホープを召喚する黒コナミの戦術からして『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』と共に初手に引き込めたのは大きいだろう。

 

「『No.』ねぇ……面白いじゃないか、君に勝ったらそれ、貰おうかな」

 

「面白い冗談だな、誰も私には勝てん、カード2枚をセットし、ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP3500

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』セット2

『希望郷―オノマトピア』

手札3

 

「言うじゃないか、楽しませてよね。僕のターン、ドロー!」

 

「永続罠、『融合禁止エリア』を発動!」

 

「ふぅん?対策はしてるって訳?なら魔法カード、『魔力の泉』発動!3枚ドローし、1枚捨てる」

 

ユーリ 手札5→8→7

 

「『ローンファイア・ブロッサム』を召喚」

 

ローンファイア・ブロッサム 攻撃力500

 

ユーリが召喚したのは炎のように燃える花。花火のようにバチバチと火花を散らす花を開く植物族のモンスターだ。植物族を扱うならば必須と言える程に強力な1枚であり、その登場に黒コナミが警戒する。

 

「『ローンファイア・ブロッサム』をリリースし、効果発動。デッキから植物族モンスターを特殊召喚する。僕は2体目の『ローンファイア・ブロッサム』を特殊召喚する!」

 

ローンファイア・ブロッサム 守備力1400

 

「その瞬間、速攻魔法、『地獄の暴走召喚』発動!残念だけど君のモンスターは特殊召喚されないよ」

 

「構わん、元々1枚しか入っていない」

 

「あっそ、でも僕は遠慮なく2体を特殊召喚しちゃうよ!」

 

ローンファイア・ブロッサム 攻撃力500×2

 

これでユーリのフィールドに3体の『ローンファイア・ブロッサム』が並んだ。随分と面倒な事になった。しかし黒コナミはフンと鼻を鳴らすだけで一向に焦りを見せない。

当然その微動だにしない態度に面白くないユーリ。ならば変えてやろうとニヤリと口端を持ち上げ、更なる展開に繋げる。

 

「『ローンファイア・ブロッサム』をリリースし、デッキから『ボタニティ・ガール』を特殊召喚!」

 

ボタニティ・ガール 守備力1100

 

次にユーリが召喚したのは後頭部に花びらを開き、ずしりと重いウツボカヅラを垂らした女性のモンスター。

 

「あのカード……ターン1制限が無いの……!?」

 

「これが植物族の厄介な所だな……サポートカードの強力さは1、2を争う」

 

「さぁて次に行こうか!2体目をリリースし、『ギガプラント』を特殊召喚!」

 

ギガプラント 攻撃力2400

 

ゴゴゴ、と地鳴りが響き渡り、氷のフィールドにひびが走る。クレバスより木の根が蛇のようにうねり這い回り、獣のような形となる。大口を開けたワニのような赤い頭を持つ、巨大な樹のモンスター。

植物の化物がおぞましい咆哮を上げ、空気がビリビリと震える。その巨体に柚子が思わず目を丸め、あわわあわわと慌てふためき走り回る。

 

「魔法カード、『フレグランス・ストーム』!『ボタニティ・ガール』を破壊し、1枚ドロー!『ボタニティ・ガール』の効果でデッキから『イービルソーン』をサーチ!」

 

ユーリ 手札4→6

 

「さぁて、3体目だ!リリースし、特殊召喚するのは『桜姫タレイア』!」

 

桜姫タレイア 攻撃力2800→3000

 

美しい花弁が『ギガプラント』の隣でくるりと回転しながら咲き誇り、花びらが開いて艶やかな黒蜜を思わせる黒髪の少女が現れる。桜の着物を纏ったこのカード、触れれば折れてしまいそうな華奢な美少女だが、その攻撃力は『ギガプラント』よりも遥かに上だ。桜の花を模してはいるがその性質は全く逆、その美しき花は永遠に人の手で摘まれる事は無い。

まるで自身の持つブルーム・ディーヴァのようなモンスターの登場に柚子が呆然とする。

 

「攻撃力3000……」

 

「タレイアはフィールドの植物族モンスターの数だけ攻撃力を100上げる。これだけじゃ終わらないよ!僕は永続魔法、『スーペルヴィス』を『ギガプラント』に装備、これで『ギガプラント』は再度召喚状態となり、効果モンスターになる!そして気になるその効果発動!墓地の植物族モンスター、『ローンファイア・ブロッサム』を特殊召喚!」

 

ローンファイア・ブロッサム 守備力1400

 

桜姫タレイア 攻撃力3000→3100

 

「またあのモンスター……!?」

 

「良い反応だねぇ、君も見習ったら?『ローンファイア・ブロッサム』をリリースし、デッキから『捕食植物モーレイ・ネペンテス』を特殊召喚!」

 

捕食植物モーレイ・ネペンテス 攻撃力1600

 

現れたるはウツボカヅラを模した食虫植物のモンスター。人のように茎や蔦をうねうねと振る姿はどこか愛嬌がある。しかしその大きさは成人男性程あり、食するものが虫以外にもありそうで恐ろしい。総じて不気味さが目立つカードと言える。

 

「バトル!タレイアでホープを攻撃!」

 

「ホープのORUを1つ取り除き、効果発動!その攻撃を無効にする!ムーンバリア!」

 

ホープがその純白の翼を1枚自身の前に突き出し、タレイアの攻撃を防ぐ盾とする。攻撃無効効果、2回もの攻撃を防ぐ優秀な防御の前には、どれだけ高い攻撃力を持ったモンスターだろうと届かない。

 

「『ギガプラント』でホープを攻撃!」

 

「ホープのORUを1つ取り除き、攻撃を無効に……」

 

続くユーリの攻撃、攻撃力の低い『ギガプラント』による攻撃だが、黒コナミは瞬時に危機を察知し、ホープの効果を発動する。ブラフの可能性もあるだろうが、こう言った時、彼の勘は恐ろしいまで当たるのだ。

 

「ふぅん?ならモーレイ・ネペンテスで攻撃!」

 

「ORUが無いホープが攻撃対象になった時、このカードは自壊する」

 

「モーレイ・ネペンテスでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『エクシーズ・リボーン』!墓地のホープを蘇生し、このカードをORUとする!」

 

No.39希望皇ホープ 守備力2000→2400

 

希望郷―オノマトピア かっとビングカウンター1→2

 

2回の攻撃を防ぎ、星の輝きを失ったホープが自壊するも、直ぐ様舞い戻る。今度は守備表示、これはもしも自分の勘が正しかった時の保険の為だが――果たしてどうか。

 

「モーレイ・ネペンテスでホープを攻撃!」

 

「……!」

 

「この瞬間、速攻魔法、『狂植物の氾濫』!僕のフィールドの植物族モンスターは墓地の植物族×300攻撃力を上げる!エンドフェイズに破壊されるけどね、墓地には5体!よって1500アップだ!」

 

捕食植物モーレイ・ネペンテス 攻撃力1600→3100

 

桜姫タレイア 攻撃力3100→4600

 

ギガプラント 攻撃力2400→3900

 

ユーリが手に握っていたのは上昇値こそ墓地に依存するも、植物版、『リミッター解除』と言ったカードだ。

それによってモーレイ・ネペンテス達が狂ったように禍々しく成長し、その蔦をホープに巻きつけ、大口を開け、呑み込み、バキバキと嫌な音を立てて咀嚼する。

 

「そしてモーレイ・ネペンテスは戦闘破壊したモンスターを装備カードにする!」

 

「これ程の屈辱は味わった事が無い……!」

 

エースカードの装備カード化、その屈辱的な光景に黒コナミがどこかのドラゴン使いのように歯を食い縛り、ギリッ、と歯軋りする。『狂植物の氾濫』を使ってまで攻撃を続けたのはこの意図あってのものだったらしい。

 

「更にモーレイ・ネペンテスの効果で装備したカードを破壊してその攻撃力分LPを回復する!」

 

ユーリ LP4000→6500

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド。この瞬間、『狂植物の氾濫』で僕のモンスターは破壊されるんだけど――残念ながらタレイアが存在する限り、このカード以外の植物族はカードの効果で破壊されないんだよねぇ、期待させちゃった?ごめんねぇ?」

 

「そんな……!?」

 

そう、ユーリが自壊する事を知って尚、『狂植物の氾濫』を使用したのは『桜姫タレイア』の効果もあっての事だったのだ。

その事実に柚子が動揺するも、黒コナミは知っていたのか何1つ反応を見せず、無言を貫く。

しかし厄介なタレイアは破壊された。ユーリのフィールドには2体のモンスターが残っているものの、充分に巻き返せる。

 

ユーリ LP6500

フィールド『捕食植物モーレイ・ネペンテス』(攻撃表示)『ギガプラント』(攻撃表示)

『スーペルヴィス』セット2

手札2

 

「私のターン、ドロー!」

 

「僕は永続罠、『最終突撃命令』を発動。さぁ、サレンダーするなら今の内だよ」

 

「まだデュエルは始まったばかりなのに随分と余裕だな。魔法カード、『マジック・プランター』を発動、『融合禁止エリア』をコストに2枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札3→5

 

「私は手札を1枚墓地に送り、魔法カード、『オノマト連携』発動!『ガガガマジシャン』と『ゴゴゴゴーレム』をサーチし、魔法カード、『手札抹殺』によってドロー!そしてオノマトピアのかっとビングカウンターを2つ取り除き、デッキから『ゴゴゴゴースト』を特殊召喚!」

 

ゴゴゴゴースト 攻撃力1900

 

黒コナミがデッキからリクルートしたモンスターは赤い鎧を纏い、黄金の兜を被った『ゴゴゴ』モンスター。青白い炎の姿をした亡霊はその手に持った剣をカチャリと鳴らし、単眼を妖しく光らせる。

 

「ゴーストが特殊召喚した場合、墓地の『ゴゴゴゴーレム』を守備表示で特殊召喚する」

 

ゴゴゴゴースト 守備力1500

 

現れたのは卵のように丸い身体に似合わぬ程の巨大な腕と短い足を持った岩石族のモンスター。数少ない岩石族でカテゴリを成すモンスター群の主軸であり、展開やサポートに優れた1枚だ。

 

「そして『ガガガマンサー』を召喚!」

 

ガガガマンサー 攻撃力100

 

次々と現れる黒コナミのモンスター、3体目は『ガガガ』モンスターの死霊使い、包帯を巻きつけた女性と思わしきカードだ。魂を操るその効果はやはり、蘇生効果。そして蘇生する対象は『ゴゴゴゴーレム』と共に先程手札から捨てられたカード。

 

「『ガガガマンサー』の効果で墓地の『ガガガマジシャン』を特殊召喚!」

 

ガガガマジシャン 攻撃力1500

 

魔法使いの三角帽子を被り、その隙間からやる気の無い半眼を飛ばすのは『ガガガ』学園の改造ローブを纏い、チェーンをジャラジャラと巻きつけた不良魔法使い。

レベル変動効果を持つ『ガガガ』モンスターの核とも言えるカードだ。シンクロ素材には使用出来ないが、黒コナミの操るエクシーズでは一役買ってくれる。

 

「さぁ、行くぞ、『ガガガマジシャン』と『ガガガマンサー』の2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!高貴なる戦士!『ガガガザムライ』!」

 

ガガガザムライ 攻撃力1900

 

2体の『ガガガ』モンスターを素材に、独眼の侍が2刀を構え、希望郷に舞い降りる。燃えるような赤い着物を纏い、鋭い眼光をユーリのフィールドのモンスターへと飛ばす。

 

「更に『ゴゴゴゴーレム』と『ゴゴゴゴースト』の2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!全てを捕えろ!『ガガガガンマン』!」

 

ガガガガンマン 攻撃力1500

 

2体目の『ガガガ』エクシーズ、カウボーイハットを被り、マントを靡かせた男は2丁の拳銃より発砲し、くるくると指先で回転させ、ガンホルダーに戻す。刀と銃、東洋と西洋の両極に位置する2体だ。しかしその効果は恐ろしい程噛み合っており、2体を並べる事で強力なコンビネーションを発揮する。

 

「何だ、『No.』じゃなくて良いのぉ?」

 

「充分だ。『ガガガザムライ』のORUを1つ取り除き、『ガガガガンマン』を対象として効果発動!このターン、『ガガガガンマン』は2回攻撃が出来る。そして『ガガガマンサー』がORUとして取り除かれた事で『ガガガガンマン』の攻撃力を500アップする」

 

ガガガガンマン 攻撃力1500→2000

 

これで『ガガガガンマン』の攻撃力がマシになった。続け様に左腕を突き出し、残るエクシーズモンスター、『ガガガガンマン』の効果を発動させる。

 

「『ガガガガンマン』のORUを1つ取り除き、効果発動!このターン、このカードが相手モンスターを攻撃するダメージステップの間、このカードの攻撃力を1000アップし、相手モンスターの攻撃力を500ダウンする!」

 

「つまり、攻撃力3000まで破壊出来るモンスター……!」

 

そう、柚子の言葉の通り、最大攻撃力が3000まで対応出来るモンスター。それこそがこの凄腕のガンマンなのだ。レベル4モンスター2体でエクシーズ召喚可能な所も手軽であり、『ガガガザムライ』の力を合わせる事で2回効果を発揮出来るのだ。

 

「ッ!成程、大口を叩くだけはあるみたいだねぇ」

 

「魔法カード、『エクシーズ・ギフト』を発動!2体のエクシーズモンスターのORUを1つずつ取り除き、2枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札2→4

 

「カードを1枚伏せ、魔法カード、『エクスチェンジ』!互いに手札を1枚交換する」

 

「なぁんで君なんかと仲良くカードを交換しなきゃいけないんだか『クリッター』を貰うよ」

 

「『DNA移植手術』を貰う。バトル!『ガガガガンマン』で『ギガプラント』を攻撃!」

 

ガガガガンマン 攻撃力2000→3000

 

ギガプラント 攻撃力2400→1900

 

『ガガガガンマン』が2丁の拳銃をガンホルダーから引き抜き、乾いた音を撃ち鳴らす。1つ目の弾丸は氷上で跳ね返って2つ目の弾丸を押し出すようにぶつかり、その勢いを更に加速させ、火花を散らして『ギガプラント』の眉間を貫く。

 

ユーリ LP6500→5400

 

「装備された『スーペルヴィス』が墓地へ送られた為、墓地の通常モンスターとして扱うデュアルモンスター、『ギガプラント』を特殊召喚!」

 

ギガプラント 攻撃力2400

 

だがユーリとて負けてはいない。破壊された『ギガプラント』の効果を犠牲にする事で再び墓地より特殊召喚し、壁とする。息もつかせぬ2人の攻防、柚子はゴクリと喉を鳴らして食い入るように目を離さない。

 

「ならば『ガガガガンマン』で再び攻撃!」

 

ガガガガンマン 攻撃力2000→3000

 

ギガプラント 攻撃力2400→1900

 

ユーリ LP5400→4300

 

蘇るなら、再びその弾丸で破壊するまで。『ガガガザムライ』によって2回攻撃を得た『ガガガガンマン』はその2丁拳銃より更に発砲し、『ギガプラント』を撃ち倒す。これで残るモンスターは1体、モーレイ・ネペンテスのみだ。

 

「『ガガガザムライ』でモーレイ・ネペンテスを攻撃!」

 

ユーリ LP4300→4000

 

「くっ――!」

 

続く『ガガガザムライ』の攻撃、ホープの仇と言わんばかりに眼光を鋭くし、2振りの刀を下ろし、モーレイ・ネペンテスを袈裟斬りにし、真っ二つに切り裂く。これでユーリのモンスターは全滅、だがそのLPはモーレイ・ネペンテスの恩恵もあって初期値より下がってはいない。

黒コナミは思ったよりも長引きそうだな、とニヤリと笑う。長引く分には構わない。強者とのデュエル、それは少しでも長く味わいたいものなのだから。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP3500

フィールド『ガガガガンマン』(攻撃表示)『ガガガザムライ』(攻撃表示)

『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』セット2

『希望郷―オノマトピア』

手札1

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「永続罠、『DNA移植手術』を発動。光属性を選択」

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『最終突撃命令』をコストに2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札2→4

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』を発動し、手札を交換。魔法カード、『闇の誘惑』で2枚ドローし、『クリッター』を除外、永続罠、『アイヴィ・シャックル』!その効果により僕のターンの間、君のモンスターは植物族モンスターとなる!」

 

「?何でそんな事――」

 

発動された永続罠により、氷の下から無数の蔦が飛び出し、黒コナミのフィールドに存在する2体の『ガガガ』エクシーズモンスターに絡みつき、養分を吸いとって成長する。身体より不気味な色をした花を咲かせたその姿は正に植物状態。

柚子は何故そんなカードを使ったのかと疑問を溢し、黒コナミは「何故男の束縛なんて見なきゃいかんのだ」と小さく呟く。恒例行事である。慣れて欲しい。

 

「こうする為さ!魔法カード、『フレグランス・ストーム』!このカードは敵味方関係無く、フィールド上で表側表示で存在する植物族を破壊し、ドローするカード!僕が破壊するのは『ガガガザムライ』!1枚ドロー!おっと、引いたカードは植物族モンスター、『返り咲く薔薇の大輪』だ。よってもう1枚ドロー!」

 

ユーリ 手札2→3→4

 

『アイヴィ・シャックル』と『フレグランス・ストーム』を合わせた凶悪極まりないコンボ。それによって相手モンスターを破壊した上で確率ではあるが『強欲な壺』と同じく2枚ドローするカードへと生まれ変わるのだ。アドバンテージしか取ってない。

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!永続罠、『アイヴィ・シャックル』を墓地へ送り、2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札4→5

 

「手札が悪いなぁ……交換しようか、魔法カード、『手札抹殺』!手札を捨ててドロー!」

 

「……何?」

 

ユーリの行動を見て、黒コナミがピクリと反応する。それは手札が悪い、と言う言葉に対してのものでは無い。正確に言えば、ユーリの行動と言うより、彼の手によって捨てられたカードを見て、だ。先程手札に加えられた『返り咲く薔薇の大輪』は良い。だが他のカードが問題だ。

『古代の機械飛竜』、『古代の機械猟犬』が2枚。植物族が主軸のデッキならば手札事故が起こるのも頷けるカード群だ。一体何故――そこまで思考し、1つの解答に至る。まさか、あのカードを出す為の出張要員――。

 

「悪いね、君の事を舐めている訳じゃ無いんだ。ほら、エクシーズ次元の奴を相手取るならこのカードを使えば動揺してくれるだろうし――お仲間と同じように、このカードでカード化されるなら本望でしょ?魔法カード、『オーバーロード・フュージョン』発動!」

 

ニヤリと背筋が凍るような笑みを浮かべ、1枚のカードをデュエルディスクに叩きつけるユーリ。フィールドでソリッドビジョンによってその緑色のカードが出現し、どこまでも深い漆黒の渦が巻き起こる。

闇属性、機械族を融合召喚する為の専用融合。その範囲はフィールドと墓地、素材となるのは黒コナミとユーリの『手札抹殺』で捨てられた4体の『アンティーク・ギア』モンスター。そこから導き出される融合モンスターは――。

 

「融合召喚!現れろ!この世の全てを形無き混沌に帰す究極破壊神!『古代の機械混沌巨人』!」

 

古代の機械混沌巨人 攻撃力4500

 

現れたる『アンティーク・ギア』、最凶の切り札。身体中に青き猟犬の首を模したボディを淡く輝かせ、深紅に濡れた単眼がギョロリと黒コナミのフィールドを睨み、ズシィィィィィンッ、と激しい轟音を放ち、氷のフィールドに君臨する。

空を突き破るような巨体、その雄大な姿に黒コナミが「ほう」と呟き、柚子が両手で口を覆い、目を見開く。

 

「今回は入れて良かったかもねぇ、幾ら君でも、このカードは早々倒せないだろう?」

 

「構わんさ、負けた時の言い訳にしなければな」

 

「その生意気な減らず口、直ぐに黙らせてあげるよ!バトル!『古代の機械混沌巨人』で『ガガガガンマン』に攻撃!クラッシュ・オブ・ダークネス!」

 

「罠カード発動!『ガード・ブロック』!戦闘ダメージを0にしてドロー!」

 

黒コナミ 手札1→2

 

黒コナミの周囲に薄い膜状のバリアが発生し、ダメージを防ぐ。しかしモンスターは別だ、『古代の機械混沌巨人』がその犬の形をした腕で『ガガガガンマン』を掴み、地面に叩きつける。余りの力強さに氷が砕け、突き破って水中に沈む『ガガガガンマン』。形勢逆転、状況は更に一転してユーリのペースとなった。

 

「カードを2枚セットしてターンエンドだ。もっと楽しませてよ、ほらほらぁ!」

 

ユーリ LP4000

フィールド『古代の機械混沌巨人』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「私のターン、ドロー!言われずとも存分に味わえ!私の希望を!『Vサラマンダー』を召喚!」

 

Vサラマンダー 攻撃力1500

 

黒コナミが手札より切り、召喚したのは炎に包まれた4つ首の蜥蜴。その姿はまるで深紅の鎧であり、驚く事に種族は魔法使いだ。

 

「召喚時効果により、墓地の『希望皇ホープ』を特殊召喚!!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→2700

 

希望郷―オノマトピア かっとビングカウンター0→1

 

Vサラマンダー 攻撃力1500→1700

 

勝利を目指す呼び声に応え、深海で眠っていたホープが先程『ガガガガンマン』が沈んだ穴よりザパァァァァンッ、と波打ち、天空に飛翔する。

 

「装備魔法、『ワンダー・ワンド』を『Vサラマンダー』に装備!」

 

Vサラマンダー 攻撃力1700→2200

 

「そして装備モンスターとこのカードを墓地に送り、2枚ドローする。往くぞ!最強デュエリストのデュエルは全て必然!ドローカードさえもデュエリストが創造する!」

 

黒コナミが突然その右腕を天へと翳し、眩き黄金の光が右腕目掛けて集束し、淡い輝きがフィールドを照らす。現実離れした超常の光景、その光を見て、柚子は勿論、ユーリも何が起こっているのかと目を見開き、口を開いて呆然とする事しか出来ない。

しかし黒コナミは違う、彼はこんなもの当たり前だとばかりに光を帯びた右腕をデッキトップに翳し、それに伝波したかのように輝きに包み込まれた黄金のカードを引き抜く。

 

「全ての光よ!力よ!我が右腕に宿り、希望の光を照らせ!シャイニングドローッ!!」

 

黒コナミ 手札1→3

 

圧倒的な力の奔流、それが今波紋となって広がり、空間そのものを震撼させる。運命をもねじ曲げ、幾重にも別れた可能性を1本に束ね、希望の未来へと変革する荒業、その力により、2枚のカードが黒コナミの手に渡る。

 

「カードを……創造した……!?」

 

「どう言う……事……!?」

 

「ふっ、やはりこうで無くてはな!魔法カード、『RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース』を発動!ホープを素材に、ランクが1つ高いエクシーズモンスターへとランクアップさせる!オーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!出でよ!CNo.39!混沌を統べる赤き覇王。悠久の戒め解き放ち赫焉となりて闇を打ち払え!」

 

呆然とする2人を一瞥し、黒コナミはホープを新たな姿へとランクアップさせる。赤き大地に立つ扉の鎖を解き、開いてその先の力を引き抜く。バキリ、金属音が響くと同時にホープの身体が今までとは違い、刺々しく鋭利なフォルムへと変化し、深紅に染まる。腰の2刀もその形を変え、曲刀となって握られる。

 

「降臨せよ!希望皇ホープレイV!!」

 

CNo.39希望皇ホープレイV 攻撃力2600→3000

 

希望郷―オノマトピア かっとビングカウンター1→2

 

フェイスは獣のような凶悪なものになり、その姿は皇と言うには余りに邪悪、正しく暴君。赤き両肩、銀のヘルム、ドス黒い翼。そして今までよりも赤く輝く39の数字が右肩に焼きつくかの如く宿る。鋭き眼光を巨人へと向ける儚き希望が、理想郷に降り立つ。

 

「『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果発動!」

 

黒コナミ LP3500→3000 手札2→3

 

「フ、ハハハハハッ!まさかカードを創造するなんてねぇっ!良いね君!でもそのモンスターじゃ僕のモンスターには届かない!」

 

「届かせる必要も無い!儚く散れ!ホープレイVのCORUを1つ取り除き、『古代の機械混沌巨人』を破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!Vブレードシュート!」

 

「ユーリのLPは4000――これなら!」

 

CORUを弾き飛ばし、ホープレイVは両手に握った2刀の剣を合わせ、薙刀のような形とし、ブーメランのように巨人へと投擲する。これが通れば勝ち。柚子は思わず声を弾ませるが――。

 

「甘いよ!罠発動!『レインボー・ライフ』!手札を1枚捨て、このターン、発生するダメージは全て回復となる!」

 

「そんなっ――!」

 

ユーリ LP4000→8500

 

ユーリが発動した罠カードによって虹色に輝くバリアが発生し、ホープレイVの効果で破壊された『古代の機械混沌巨人』の破片がオーロラのカーテンを通り、傷を癒す光の粒子へと変化する。ゴウゴウと蔓延する黒煙さえも届かない。これでユーリのLPは8500。倍以上となったLPに柚子が表情を曇らせるのも無理は無い。

 

「ほう……カードを1枚セットしてターンエンド。次はどう出る?」

 

黒コナミ LP3000

フィールド『CNo.39希望皇ホープレイV』(攻撃表示)

『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』『DNA移植手術』セット1

『希望郷―オノマトピア』

手札2

 

「僕のターン、ドロー!僕は魔法カード、『命削りの宝札』を発動!手札が3枚になるまでドローする!」

 

ユーリ 手札0→3

 

「モンスターをセット、カードを1枚伏せ、ターンエンド。残る手札は宝札の効果で捨てる」

 

ユーリ LP8500

フィールド セットモンスター

セット2

手札0

 

「私のターン、ドロー!それで終わりか?罠発動!『罪鍵の法―シン・キー・ロウ』!ホープレイVを選択し、同じ攻撃力を持つ『アンブラル・ミラージュ・トークン』を特殊召喚する!」

 

アンブラル・ミラージュ・トークン 攻撃力3000→3400×3

 

黒コナミのフィールドに3つの鍵が出現し、ホープレイVの姿を模す。たった1枚から攻撃力3000オーバーのモンスターが3体、尤もこのトークンは直接攻撃出来ない為、そう簡単な話では無いが。

 

「『アンブラル・ミラージュ・トークン』でセットモンスターを攻撃!」

 

「破壊された『プチトマボー』の効果でデッキから『プチトマボー』2体を特殊召喚!」

 

プチトマボー 守備力400×2

 

ユーリが召喚したモンスターは何とも言いがたい、腐った目で虚空を見つめるトマト頭のモンスター。面倒な事になった。これではユーリのLPに届かない。

 

「ならば2体の『アンブラル・ミラージュ・トークン』で『プチトマボー』を攻撃!」

 

「『プチトマボー』の効果でデッキから『トマボー』3体を特殊召喚!」

 

トマボー 守備力800×3

 

「ホープレイVで『トマボー』を攻撃!」

 

最後の攻撃が1体の『トマボー』に炸裂する。2振りの曲刀で『トマボー』を切り裂き、3枚に下ろされる『トマボー』。どう言う訳か、黒コナミのモンスターが4体となって攻撃したにも関わらず、ユーリのモンスターも1体から2体に増えている。

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

黒コナミ LP3000

フィールド『CNo.39希望皇ホープレイV』(攻撃表示)『アンブラル・ミラージュ・トークン』(攻撃表示)×3

『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』『DNA移植手術』セット1

『希望郷―オノマトピア』

手札2

 

「僕のターン、ドロー!僕は永続罠、『リビングデッドの呼び声』と『オーバー・デッド・ライン』を発動!『ギガプラント』を蘇生し、攻撃力を1000アップする!」

 

ギガプラント 攻撃力2400→3400

 

「そして『ギガプラント』を再度召喚!効果で『ローンファイア・ブロッサム』を蘇生!」

 

ローンファイア・ブロッサム 守備力1400

 

「『トマボー』をリリースし、『ローンファイア・ブロッサム』の効果で『捕食植物スキッド・ドロセーラ』を特殊召喚!」

 

捕食植物スキッド・ドロセーラ 守備力400

 

更なるユーリの手がフィールドを侵食する。現れたのは顎のように鋭い歯が伸びた葉を蓄えた、ギョロギョロと不気味な目を蠢かせる植物。モーレイ・ネペンテスに続き、2枚目の『捕食植物』の登場に黒コナミは警戒を示す。

 

「『ギガプラント』でホープレイVを攻撃!」

 

「ッ!破壊されたホープレイVの効果で墓地のホープをエクストラデッキに戻す!そしてコピー元を失った事でトークンは破壊される……!」

 

黒コナミ LP3000→2600

 

「僕は『オーバー・デッド・ライン』を墓地に送り、『マジック・プランター』発動。2枚ドローする」

 

ユーリ 手札0→2

 

「カードを2枚セットしてターンエンド」

 

ユーリ LP8500

フィールド『ギガプラント』(攻撃表示)『捕食植物スキッド・ドロセーラ』(守備表示)『ローンファイア・ブロッサム』(守備表示)『トマボー』(守備表示)

『リビングデッドの呼び声』セット2

手札0

 

「私のターン、ドロー!『ゴゴゴジャイアント』を召喚!」

 

ゴゴゴジャイアント 攻撃力2000→2400

 

「『ゴゴゴジャイアント』の効果により、墓地の『ゴゴゴゴースト』を特殊召喚!」

 

ゴゴゴゴースト 守備力0→400

 

『ゴゴゴ』モンスターの蘇生、この効果により、『ゴゴゴジャイアント』は膝を落とし、両腕をクロスさせて守備表示となるが、エクシーズに繋げるならば大した問題ではない。

 

「ゴーストの効果で『ゴゴゴゴーレム』蘇生!」

 

ゴゴゴゴーレム 守備力1500→1900

 

「行くぞ『ゴゴゴジャイアント』と『ゴゴゴゴースト』の2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.39希望皇ホープ』!!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→3100

 

希望郷―オノマトピア かっとビングカウンター2→3

 

ゴゴゴゴーレム 守備力1900→2100

 

「またホープかぁ……ワンパターンだねぇ」

 

「何とでも言え、『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果発動!」

 

黒コナミ LP2600→2100 手札2→3

 

「リバースカードオープン!速攻魔法、『RUM-クイック・カオス』!オーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!現れろ、CNo.39!未来に輝く勝利を掴め。重なる思い、繋がる心が世界を変える!希望皇ホープレイ・ヴィクトリー!!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー 攻撃力2800→3600

 

希望郷―オノマトピア かっとビングカウンター3→4

 

ゴゴゴゴーレム 守備力2100→2300

 

『希望皇ホープ』が新たに白を基調とし、赤、青、黄、と様々なカラーリングの装甲を纏っていく。4枚の黄金の翼、4本の赤腕に剣を手にし、ホープレイVが真なる姿となった勝利への希望。凄まじきオーラを迸らせ、黒コナミのフィールドに降り立ち、左肩に39の赤い紋様が煌めく。

 

「『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果でシャイニングドロー!!」

 

黒コナミ LP2100→1600 手札3→4

 

このデュエル、2回目のカードの創造が放たれ、空中に、光の軌跡が描かれる。美しき放物線で黒コナミの手に渡る1枚のカード。これで手札は4枚、充分に動ける枚数だ。

 

「かっとビングカウンターを2つ取り除き、デッキから『ガガガカイザー』を特殊召喚!」

 

ガガガカイザー 攻撃力1800→2200

 

「その効果で墓地の『Vサラマンダー』を除外し、レベルをコピー!」

 

ガガガカイザー レベル3→4

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『交響魔人マエストローク』!」

 

交響魔人マエストローク 攻撃力1800→2200

 

このターン、3回目のエクシーズ召喚、音楽隊を思わせる羽根つき帽子と黒い礼装を纏い、白く輝くレイピアを持った『魔人』が姿を見せる。

 

「私は更に『ZW―阿修羅副腕』と『ZW―極星神馬聖鎧』をホープレイ・ヴィクトリーに装備する!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー 攻撃力3200→5200

 

黒コナミが2度のシャイングドローによってその手札に加えた2枚の『ZW』、ホープの神器が装備される。真紅の神馬に跨がり、修羅の腕を得たホープレイ・ヴィクトリーはその攻撃力を大きく跳ね上がる。

 

「魔法カード、『エクシーズ・ギフト』を発動し、ヴィクトリーとマエストロークのORUを1つずつ取り除き、2枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札1→3

 

「さぁバトルだ!」

 

「この瞬間、罠発動!『攻撃の無敵化』!このターン、僕が受けるダメージは0になる!」

 

「だが阿修羅副腕を装備したモンスターは全てのモンスターに攻撃出来る!殲滅しろ!ホープ剣・ダブル・ヴィクトリー・スラッシュッ!」

 

神馬を駆り、複数の腕で持った剣を振るい、ユーリのモンスター全てを切り裂くホープレイ・ヴィクトリー。その姿は正しく修羅。一騎当千の刃が炸裂し、草の根1つ残らぬ焼け野原にする。

 

「スキッド・ドロセーラが離れた事で君のモンスターに捕食カウンターを乗せる」

 

CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー 捕食カウンター0→1

 

交響魔人マエストローク 捕食カウンター0→1

 

「良いだろう、カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

「この瞬間、罠発動!『裁きの天秤』!7枚ドロー!」

 

ユーリ 手札0→7

 

黒コナミ LP1600

フィールド『CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』(攻撃表示)『交響魔人マエストローク』(攻撃表示)

『ZW―阿修羅副腕』『ZW―極星神馬聖鎧』『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』『DNA移植手術』セット1

『希望郷―オノマトピア』

手札2

 

「……凄い……!」

 

互いに一歩も譲らぬ激しい攻防が続く中、不意に柚子が感嘆の声を呟く。一瞬たりとも目を離せない、一歩たりともこの場から動く事が出来ない。

一進一退、手に汗握る熱いデュエルに言葉も忘れ見入ってしまう。一体どちらが勝つのか何て予想もつかない。胸を握り締め、その額から汗が伝う中、ユーリは――。

 

「さぁて、そろそろ本気、出しちゃおっかなぁ……!」

 

口元を吊り上げ、笑う彼、それは更なる闘いの激化を物語っていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回 キボウノヒカリ


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第68話 キボウノヒカリ

希望の光とかプラスのイメージがつく言葉を片仮名や平仮名で書くとちょっとホラーっぽくなると思うのは僕だけでしょうか。そんな回。


激しい攻防が続く黒コナミとユーリ、レジスタンスとアカデミア、最強格同士の一騎討ち。黒コナミの嵐のような攻撃を防ぎ、ユーリがデッキより1枚のカードを引き抜く。

 

「僕のターン、ドロー!僕は魔法カード、『サイクロン』を発動し、『DNA移植手術』を破壊、そして魔法カード、『シャッフル・リボーン』を発動し、墓地の『捕食植物スキッド・ドロセーラ』を特殊召喚!」

 

捕食植物スキッド・ドロセーラ 守備力400

 

「そして魔法カード、『融合』を発動!フィールドのスキッド・ドロセーラと手札の『捕食植物フライ・ヘル』を融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

ついに姿を見せる、ユーリ本来が持つ『捕食植物』の融合モンスター。悪臭を放つ毒々しい赤の花弁を咲かせるラフレシアが牙を剥き、蔦より生えたハエトリグサのような不気味な顎がグルルと唸る。氷上に咲き誇る巨大な花を前に、柚子が僅かな怯えを見せる。

 

「何……あのモンスター……!?」

 

「まだだよ、永続魔法、『プレデター・プランター』を発動し、墓地のモーレイ・ネペンテスを特殊召喚」

 

捕食植物モーレイ・ネペンテス 攻撃力1600

 

「魔法カード、『融合回収』を発動し、『融合』とスキッド・ドロセーラを手札に加え、再び発動!手札のスキッド・ドロセーラとフィールドのモーレイ・ネペンテスで融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「2体目か……!」

 

「まだまだ!もう1枚『融合回収』を発動!スキッド・ドロセーラと『融合』を回収し、発動!フィールドの2体のキメラフレシアを融合!魅惑の香りで虫を誘う二輪の美しき花よ!今一つとなりて、その花弁の奥の地獄から、新たな脅威を生み出せ!融合召喚!現れろ!飢えた牙持つ毒龍。『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』ッ!!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800

 

天が裂け、雷が大地を焦がす。2輪の『捕食植物』を糧とし、おぞましき竜がその目を覚ます。額、肩、首、腰、そして尾には赤く輝く宝玉を。腕、指、脚には黄色い宝玉を抱き、巨大な角を唸らせ、背より2つの大口を開き、グチャリと獲物を狙い、唾液を垂らす。

紫の体躯持つ飢えた竜。その美しくも恐ろしい姿に、黒コナミと柚子が息を飲む。これが――ユーリの切り札。最強の僕となるカード。

 

「それがお前の切り札か……!」

 

ニヤリ、ユーリの持つ竜が現れた事により、黒コナミが獰猛な笑みを描く。この時を待っていたとばかりに笑みを深める彼に対し、ユーリは自慢するように醜悪に笑う。

 

「そう、これが僕の切り札!『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』の効果!融合召喚に成功した場合、相手フィールド上のモンスター1体を選び、その攻撃力をターン終了時までこのカードに加える!僕はホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力を奪う!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800→8000

 

スターヴ・ヴェノムが背より根を伸ばし、天空に赤い実が輝く。攻撃力8000、LPが初期値でも2倍となる凄まじい数値だ。

 

「攻撃力8000……!?」

 

「どうだい?かぁっこ良いだろぉ?僕のドラゴンは!」

 

「優れているのはデザインだけか?その程度の攻撃力で私を倒せると思っているなら舐められたものだ」

 

「……君、ほぉんと生意気だよね。ノリが悪いって言うか。もう良いよ、終わらせてあげるから!」

 

芝居がかった口調でスターヴ・ヴェノムを披露するユーリに対し、ただ淡々と皮肉気に答える黒コナミ。

全くもって癪に触る。苛立ちしか覚えない、ユーリは眉根を上げ、唇を噛んでつまらないと舌打ちを鳴らす。だがそれもこれで終わり、デュエルは中々楽しめたよ、と呟き、ユーリは切り札に命を下す。

 

「手札のスキッド・ドロセーラを墓地に送り、効果発動!このターン、スターヴ・ヴェノムは捕食カウンターが置かれたモンスター全てに攻撃出来る!やれ!スターヴ・ヴェノム!ホープを攻撃ィ!」

 

「罠発動!『聖なる鎧―ミラーメール―』!ホープの攻撃力を攻撃モンスターと同じ数値にする!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー 攻撃力5200→8000

 

「なっ――!」

 

スターヴ・ヴェノムがその翼を広げ、桜色に輝く光線を放った瞬間、突如ホープの身体に眩い光を照らす鎧が纏われ、その光線を跳ね返す。しかし光線の威力も高かったのか、スターヴ・ヴェノムが光に貫かれ、断末魔を上げると同時にホープの鎧が砕け散り、その装甲がボロボロと崩壊する。

相撃ち、切り札同士のぶつかり合いは意外な形で幕を下ろした。

 

「スターヴ・ヴェノムの効果により、フィールドに特殊召喚されたモンスター全てを破壊!」

 

「破壊された『ZW―極星神馬聖鎧』の効果により、墓地の『希望皇ホープ』を蘇生!マエストロークはORUを取り除く事で破壊されない!」

 

「ッ――!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→3100

 

希望郷―オノマトピア― かっとビングカウンター2→3

 

交響魔人マエストローク 攻撃力2200→2400

 

あっと言う間に形勢逆転。スターヴ・ヴェノムの最後の効果もホープを破壊するだけとなり、黒コナミのフィールドだけにモンスターが残る事になった。

正に油断大敵、己の無警戒さを呪いながら、ユーリは黒コナミを睨む。今更ながら自分が相手をしているデュエリストの実力を認め、ユーリは次の行動に移る。

 

「僕は魔法カード、『一時休戦』を発動し、1枚ドローする」

 

ユーリ 手札0→1

 

黒コナミ 手札2→3

 

「そして『シャッフル・リボーン』を墓地から除外し、『プレデター・プランター』をデッキに戻し、1枚ドロー」

 

ユーリ 手札1→2

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

ユーリ LP8500

フィールド

セット2

手札0

 

「私のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、キメラフレシアの効果で『再融合』を2枚サーチ!」

 

「もっとだ、もっと私を楽しませろ!この1秒1秒毎に私は強くなる、どうしようも無い程の逆境が進化を促す!私は魔法カード、『死者蘇生』を発動!来い、ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→3300

 

希望郷-オノマトピア- かっとビングカウンター3→4

 

「魔法カード、『エクシーズ・トレジャー』発動!場のエクシーズモンスターの数だけドロー!」

 

黒コナミ 手札2→4

 

「この瞬間、永続罠、『便乗』を発動!」

 

「『ZW―荒鷲激神爪』を特殊召喚!」

 

ZW―荒鷲激神爪 攻撃力2000→2800

 

雄々しき魂の叫びが木霊する。更に高みへ、限界を突き破る道を。求道者の如き言葉を放ち、黒コナミがその手札よりホープの新たな神器、2頭の荒鷲を天へと飛翔させる。だがまだまだ、黒コナミの手は尽きない。

 

「マエストロークをリリースし、『ZW―風神雲龍剣』をアドバンス召喚!」

 

ZW―風神雲龍剣 攻撃力1300→2100

 

更なる『ZW』が夜空を昇る。赤い東洋の龍の姿をしたそのモンスターはホープの剣となるカードだ。だが黒コナミの狙いはこのカード達をホープに装備する事では無い。狙いはレベル5のモンスターを2体揃える事――次のエクシーズだ。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『ZW―獣王獅子武装』!」

 

ZW―獣王獅子武装 攻撃力3000→3800

 

鋭き爪が大地を駆る。雄々しい遠吠えが天を裂く。黄金の鬣を伸ばし、白と赤の体躯を見せるのは『ZW』、最強の王。百獣を統べし獅子の姿をしたエクシーズモンスターが今、フィールドに降臨する。

 

「獣王獅子武装のORUを1つ取り除き、デッキから『ZW―阿修羅副腕』をサーチ!更にホープ1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!現れよ、CNo.39、混沌を光に変える使者!希望皇ホープレイ!!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ 攻撃力2500→3500

 

希望郷―オノマトピア― かっとビングカウンター4→5

 

ZW―獣王獅子武装 攻撃力3800→4000

 

ホープがカタカタと音を立て、塔の形へと変形し、突如発生した星空を思わせる渦に吸い込まれ、その中で更に姿を変えていく。

金の鎧を漆黒に、その翼も烏の羽のように黒く、鋭利なものへと。丸みのあったパーツも攻撃的に変化し、黒騎士皇へと進化する。

希望皇ホープレイ、光の使者が咆哮し、フィールドに降り立つ。

 

「『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果発動!」

 

黒コナミ LP1600→1100 手札3→4

 

「『便乗』の効果でドロー!」

 

ユーリ 手札2→4

 

「そして3枚目の『エクシーズ・ギフト』発動!2体のエクシーズモンスターからORUを2つ取り除き、2枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札3→5

 

ユーリ 手札4→6

 

連続エクシーズからの連続ドロー。強力なモンスターを召喚した上で黒コナミは更に手札を増やす。手札は5枚、見事なプレイングだ。

 

「そして獣王獅子武装の効果発動!ホープレイへと装備する!闘志が纏いし、その衣。轟く咆哮、大地を揺るがし。たばしる迅雷、神をも打ち砕く!獣装合体ライオ・ホープレイ!!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ 攻撃力3500→6500

 

ガキィィィィンッ、甲高い鉄の音が響き渡る。獅子の身体が変形し、次々とパーツがホープレイへと重なっていく。真紅の鎧に巨大な手甲、光輝く黄金の翼が背より伸び、3倍近く巨体を誇るライオ・ホープレイが闇夜を照らす太陽と化す。

 

「が、合体ロボ……!?」

 

先程のターンのホープレイ・ヴィクトリーもそうだが、このホープを見てしまえば最早そうとしか思えない。メカメカしい男のロマンを詰め込んだようなライオ・ホープレイを見て、柚子が呆れたように呟く。

 

「カードを3枚伏せ、ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP1100

フィールド『CNo.39希望皇ホープレイ』(攻撃表示)

『ZW―獣王獅子武装』『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』セット3

『希望郷―オノマトピア―』

手札2

 

「僕のターン、ドロー!手札の『黄金の天道虫』を公開し、LPを500回復」

 

ユーリ LP8500→9000

 

「罠カード、『貪欲な瓶』を発動!墓地の『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』と『一時休戦』、『融合回収』2枚と『レインボー・ライフ』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

ユーリ 手札7→8

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換、墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『便乗』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

ユーリ 手札7→8

 

「そして2枚の装備魔法、『再融合』を発動!LPを1600払い、墓地のキメラフレシア2体を特殊召喚!」

 

ユーリ LP9000→7400

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500×2

 

再びクレバスより蔦を伸ばし、フィールドに咲き誇る真紅の花弁。不気味に蠢き、悪臭を撒き散らす『捕食植物』。しかしこれでも黒コナミには届かない。

どこまで巨大になっても、植物は太陽に届く前に焼き尽くされてしまうのだ。

 

「そして魔法カード、『置換融合』発動!2体のキメラフレシアで融合!融合召喚!『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』!!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800

 

「スターヴ・ヴェノムの効果により、ライオ・ホープレイの攻撃力を吸収!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800→9300

 

「ライオ・ホープレイの攻撃力を越えた……!」

 

再びスターヴ・ヴェノムがフィールドに舞い戻り、ライオ・ホープレイの力を奪い尽くす。これで一気に形勢逆転。だがそれでも――黒コナミは動じない。

どこまでも余裕の笑みを崩さず、自分を睨むその堂々たる姿を見て、ユーリは一瞬、ほんの一瞬だがたじろぐ。何だこいつは、何故こうまで――。まるでその姿は蛇。こちらが弱っていく様を淡々と見つめ、機を待つかのような――。

ゾッ、と、背筋に冷たいものが走る。今すぐに倒さねば、LPは圧倒的に勝っている。だがそれでも焦りがユーリを急かす。早く、速く、疾く。目の前の化物を倒さねば安心出来ない――。

 

「ッ!バトル!スターヴ・ヴェノムでライオ・ホープレイに攻撃ィッ!僕の前から消えろぉっ!」

 

カラカラに乾いた喉から、ありったけを振り絞るようにユーリが叫ぶ。1分1秒でも早くこの男を視界から消し去りたい。そうでないと自分がおかしくなってしまいそうで堪えられない。すがりつくかの如く自らの切り札に指示を飛ばし、天上の太陽を打ち砕こうとする。

 

「罠発動。『エクシーズ・リベンジ・シャッフル』!墓地のホープを選択し、攻撃対象となったホープレイをエクストラデッキに戻し、選択したホープを特殊召喚し、このカードをORUとする!」

 

No.39希望皇ホープ 守備力2000→3200

 

希望郷―オノマトピア― かっとビングカウンター5→6

 

だがそれでも届かない。LPは1100、風前の灯火だと言うのに、息を吹きかければ消えてなくなる淡く小さな炎だと言うのに、目の前の希望は決して光を失わない。ギリッ、歯軋りがなる。ガリッ、両の拳を血が滴り落ちる程に力強く握り締める。

 

「スターヴ・ヴェノムでホープを攻撃!」

 

「罠発動!『攻撃の無敵化』!ホープを戦闘から守る!」

 

「ッ、墓地の『置換融合』を除外し、『古代の機械混沌巨人』をエクストラデッキに戻して1枚ドロー!」

 

ユーリ 手札5→6

 

「カードを3枚伏せ、ターンエンド……!『シャッフル・リボーン』の効果で手札を1枚除外」

 

ユーリ LP7400

フィールド『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)

セット3

手札2

 

「薄ら笑いはどうした?」

 

「……何?」

 

長く続くデュエルの最中、不意に黒コナミがユーリへと口火を切る。余裕が無くなり、息を切らし、睨むユーリを見ての事だろう。すっかり笑みの無くなったその様子を指摘する黒コナミ。それが――更にユーリを苛立たせる。

 

「ハッ!君とのデュエルに飽きちゃっただけだよ。何度もホープホープと見栄えも無いしね」

 

「ほう、しかし悪いがこれが私の戦術でな、最後まで付き合ってもらおう。私のターン、ドロー!」

 

「キメラフレシアの効果で『融合回収』と『再融合』をサーチ!」

 

「私は魔法カード、『オーバーレイ・リジェネート』発動!このカードをホープのORUとし、ホープ1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!『CNo.39希望皇ホープレイ』!!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ 攻撃力2500→3900

 

希望郷―オノマトピア― かっとビングカウンター6→7

 

「またそれか……!」

 

「またこれだ!『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果でドロー!」

 

黒コナミ LP1100→600 手札2→3

 

「手札を1枚伏せ、永続魔法、『王家の神殿』発動。罠カード、『エクシーズ・リボーン』!墓地の『ZW―獣王獅子武装』を特殊召喚し、このカードをORUに!」

 

ZW―獣王獅子武装 攻撃力3000→4400

 

「ORUを1つ取り除き、荒鷲激神爪をサーチ!」

 

「速攻魔法、『手札断殺』!互いに手札を2枚捨て、2枚ドロー!」

 

「チッ、獣王獅子武装をホープレイに装備!獣装合体ライオ・ホープレイ!!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ 攻撃力3900→6900

 

まるで先のターンの焼き回し、漆黒の騎士皇の身体に真紅の鎧が纏われる。夜空に輝く希望の化身。太陽の眩き光がフィールドを飛翔する。

 

「そしてホープレイの効果発動!LPが1000以下の場合、ORUを1取り除き、このカードの攻撃力を500アップし、相手フィールド上のモンスター1体の攻撃力を1000ダウンする!私はORUを3つ取り除く!オーバーレイ・チャージ!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ 攻撃力6900→8400

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800→0

 

ライオ・ホープレイの周囲で回転する3つのORUが弾け飛び、その背がバキリと鳴り響く。両肩から伸びる巨大な腕が背に差された大剣を鞘から引き抜き、赤き稲妻がバチバチと迸る。これこそがライオ・ホープレイの力、逆境の中でこそ輝く希望の光。

 

「ライオ・ホープレイでスターヴ・ヴェノムに攻撃!ホープ剣・トリプル・カオススラッシュ!!」

 

眩き閃光が駆け抜ける。閃く2刀の白刃、そして背の大剣が振るわれ、激しき剣戟の嵐が降り注ぐ。圧倒的攻撃力、一撃必殺の魔剣が毒竜を切り裂こうとした時――ユーリの口角が、グイッ、と不気味に持ち上げられ、歪な笑みを描く。

 

「手札を1枚捨て、罠発動!『レインボー・ライフ』!」

 

「え――?」

 

「『王家の神殿』の効果で伏せていたカウンター罠、『ギャクタン』発動!その効果を無効にし、デッキへ戻す!」

 

「カウンター罠、『魔宮の賄賂』!更にその効果を無効にし、相手は1枚ドローする!」

 

黒コナミ 手札2→3

 

発動された最悪のカード。虹色の輝きが希望の光を染め上げる。ダメージを回復に変換するカード、スターヴ・ヴェノムの攻撃力は0、つまり――8400の攻撃力が、丸々LPと変わる。

その光景に柚子が言葉を失う。そしてユーリは――顔を俯かせ、小刻みに肩を震わせ――ガバリ、喜色に満ちた表情で高らかに笑い始める。

 

ユーリ LP7400→15800

 

「クククッ……ハハハハハ!ヒヒャハハハッ!!どうだい!?君のLPはたった600、そして僕のLPは15800!しかもスターヴ・ヴェノムの効果で君のホープは砕け散った!もう勝てない!どうしようも無いだろう!?」

 

黒コナミのLPは600、対するユーリのLPは15800。しかも頼みの綱のホープも消え失せた。流石に込み上げる笑いを堪え切れない。これで終わり、ここまでどうしようも無い状況を見せてやれば心も折れるだろう。もう駄目だと諦めるだろう。そう、ユーリを希望を抱いていたのだが――。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『No.39希望皇ホープ』、『ガガガマジシャン』、『ZW-獣王獅子武装』、『ZW-阿修羅副腕』、『ZW-荒鷲激神爪』をデッキに戻し、2枚ドロー」

 

「――は?」

 

「シャイニング・ドローッ!」

 

黒コナミ 手札2→4

 

「待て、待てよ。何をやっているんだ君は……!?答えろ!その手を止めろ!」

 

ユーリの問いを無視し、黒コナミはひたすらにデッキより光輝くカードを引き抜く。シャイニング・ドローの連続、カードの創造の連発。この逆境も何でもないと言わんばかりの態度に、ユーリの笑みが引っ込み、青筋を立て、黒コナミを睨む。すると、彼は顔を上げ、透明感溢れる声音で、淡々と答える。

 

「何をやっている……?決まっている」

 

――デュエルを、続けている――

 

瞬間、ユーリの背筋に堪え難い悪寒が駆け抜ける。何だ、この怪物は。何だ、この化け物は。諦めないと言う言葉を越えた、おぞましき勝利への執念、いや、違う。これは確信だ。自分が必ず勝利すると信じて疑わない、揺るぎ無き盲信。絶対的な、絶望を喰らい尽くす希望の光。

 

「魔法カード、『ガガガドロー』、墓地の『ガガガガンマン』、『ガガガザムライ』、『ガガガクラーク』の3体を除外し、2枚ドローする。シャイニング・ドローッ!」

 

黒コナミ 手札3→5

 

限界を越え、このデュエル、4回目のシャイニング・ドローが炸裂する。視界を覆い尽くす黄金は放たれる度にその輝きを増し、絶望を塗り潰していく。

 

「オノマトピアのかっとビングカウンターを2つ取り除き、デッキから『ゴゴゴゴースト』を特殊召喚!」

 

希望郷―オノマトピア― かっとビングカウンター7→5

 

ゴゴゴゴースト 攻撃力1900→2900

 

「そして効果で『ゴゴゴゴーレム』を特殊召喚!」

 

ゴゴゴゴーレム 守備力1500→2500

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.39希望皇ホープ』!!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→3700

 

希望郷―オノマトピア― かっとビングカウンター5→6

 

「更に往くぞ!これがもう1つの可能性!魔法カード、『RDM―ヌメロン・フォール』を発動!」

 

「ランクダウン……!?」

 

次なる希望がユーリを襲う。黒コナミが度重なるシャイニング・ドローで発動したカードは『RUM』では無く、『RDM』。進化では無く、原点への帰還を促す、とある少年が友を取り戻す為、新たに創造した希望のカード。

 

「私はその効果により、希望皇ホープをランクダウンする!オーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクダウン・エクシーズ・チェンジ!現れろ!No.39!希望の光……進化へと突き進む!原初の記憶を解き放て!天衣無縫の力、希望皇ホープ・ルーツ!!」

 

No.39希望皇ホープ・ルーツ 守備力100→1500

 

希望郷―オノマトピア― かっとビングカウンター6→7

 

ホープが起源の力を解き放ち、その白い身体を光輝く水色のアストラル体へと変化させる。原型を留めながらも、新たな、いや、元の姿を取り戻し、自身の名に刻まれた「ルーツ」を叫ぶ。幻想的な光を帯びたその姿はまるで月。太陽が沈み、次は月が天を照らす。

 

「『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果発動!シャイニング・ドロー!」

 

黒コナミ LP600→100 手札4→5

 

そして対に、黒コナミのLPが100となる。吹けば飛ぶようなLP、『火の粉』1枚で敗北する絶望的な状態。ユーリと天と地程の差があるにも関わらず、それでもこの男は笑みを絶やさない。状況を知らない誰かが見れば男がおかしくなったと考えるだろう。勝つのはユーリだと断言するだろう。だがそれが出来ないからこんな馬鹿げた光景があるのだ。何度攻撃しても通らないからユーリは苛立っているのだ。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

黒コナミ LP100

フィールド『No.39希望皇ホープ・ルーツ』(守備表示)

『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』『王家の神殿』セット2

『希望郷―オノマトピア―』

手札3

 

「僕のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』、『ギガプラント』、『イービル・ソーン』、『ローンファイア・ブロッサム』2体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札3→5

 

「速攻魔法、『魔力の泉』!3枚ドローし、1枚捨てる!」

 

ユーリ 手札4→7→6

 

「永続魔法、『プレデター・プランター』を発動!スキッド・ドロセーラを蘇生!」

 

捕食植物スキッド・ドロセーラ 守備力400

 

「そして永続魔法、『超栄養太陽』発動!スキッド・ドロセーラをリリースし、そのレベル+3以下の植物族モンスターをデッキから特殊召喚する!『捕食植物サンデウ・キンジー』を特殊召喚!そしてスキッド・ドロセーラの効果でホープ・ルーツに捕食カウンターを置く!」

 

捕食植物サンデウ・キンジー 守備力200

 

No.39希望皇ホープ・ルーツ 捕食カウンター0→1

 

スキッド・ドロセーラが成長し、現れたのは苔や植物が生えた爬虫類のようなモンスター。その姿は他の『捕食植物』同様、不気味でグロテスクな外見をしたカードだ。

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『プレデター・プランター』をデッキに戻し、ドロー!」

 

ユーリ 手札4→5

 

「サンデウ・キンジーが存在する限り、自分が融合素材とする捕食カウンターが置かれたモンスターは闇属性として扱い、このカードと自分の手札、フィールド及び、相手フィールドの捕食カウンターが置かれたモンスター1体を墓地に送り、融合召喚する!」

 

「――ほう」

 

驚くべき超効果。スキッド・ドロセーラの効果を合わせる事で、相手モンスターを喰らい、更に成長すると言う、正に『捕食植物』の名に相応しい、おぞましい効果だ。

流石にこれに対する手立ては無い。ユーリのフィールドのサンデウ・キンジーがその頭を肥大化させ、ホープ・ルーツを丸呑みにする。

 

「僕はサンデウ・キンジーとホープ・ルーツを融合!融合召喚!『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』!!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800

 

3度姿を見せるユーリの切り札、毒々しい溶解液を背の大口から滴り落とし、飢えた竜が咆哮する。希望を喰らい尽くし、圧倒的な絶望が天へ飛翔する。

 

「まだだよ!魔法カード、『融合回収』!墓地のモーレイ・ネペンテスと『融合』を回収!そして発動!手札のモーレイ・ネペンテスとサンデウ・キンジーで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「装備魔法、『再融合』!800LP払い、2体目のキメラフレシア蘇生!」

 

ユーリ LP15800→15000

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

怒濤の展開、続く効果発動。自らの全てを振り絞り、ユーリはフィールドに3体の融合モンスターを召喚する。

氷上には巨大な花が2本咲き誇り、花が折れ曲がるような悪臭を放つ光景は阿鼻叫喚、そこに恐ろしい姿の竜までいるのだから地獄がついて来る。

絶望、暗き闇の如き、一筋の光も見えない世界が広がっている。

 

「これで、これで終わりだ!君の希望も、ここで消え去る!全てのモンスターで攻撃ィッ!!」

 

3体の融合モンスターがフィールドに押し寄せ、勇者を葬り去る津波として黒コナミに襲い来る。これで終わり、これで終わらせる。強迫観念に駆られたようにユーリの頭にはこのデュエルを一刻でも早く終わらせる事しか無い。

それだけ黒コナミには得体の知れないものがある。この男は一瞬でも早く視界から消し去りたい。その黒き衝動に応えるように、スターヴ・ヴェノムがその牙を突き立てようとした時――。

 

「罠発動――!『ピンポイント・ガード』!墓地の極星神馬聖鎧に耐性を与え、特殊召喚する!」

 

ZW―極星神馬聖鎧 守備力1000→2400

 

希望が、舞い降りる。たった一筋の希望が、ほんのちっぽけな希望が、ユーリの前に立ち塞がり――その力を、絶望を希望に書き換える。

 

「ッ!クソッ!クソクソクソォッ!!ふざけるな……!そんな、そんなたった1枚のカードで……ッ!僕はメインフェイズ2に移行し、キメラフレシアの効果で極星神馬聖鎧を除外ィッ!消えろぉっ!」

 

最早最初にあった余裕の笑みも全てかなぐり捨て、ユーリが怨差の籠ったドスの効いた声で叫ぶ。喉が渇く、カラカラに、額より冷たい汗が流れ落ち、地面に染み込む。苛々する。何故自分の思い通りにいかない。

こんなデュエル、アカデミアでいた頃には味わった事が無い。何故なら自分は最強だから、最強たる自分は負けないから。状況はユーリの圧倒的優勢、なのに焦りがちっとも消えない。何だ、何だこの男は――。

 

「カードを2枚セット……ターンエンド……ターンエンドだ……!」

 

ユーリ LP15000

フィールド『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)×2

『再融合』セット2

手札0

 

必死に深呼吸を繰り返し、何度も何度も自分を落ち着かせる。大丈夫、大丈夫だ。LPは1万越え、対する相手はたった100。

次のターン、次のターンで確実に消す。幾ら奴でもこのLPは削り切れない。大丈夫、大丈夫。息を整え、ユーリは殺意の籠った眼で黒コナミを睨む。このターンを堪えれば勝てる。そう思わないと、自分と言う存在がどうにかなってしまいそうになる。

そんな時だった――黒コナミが、堪え切れないように、高笑いを始めたのは――。

 

「ククク……ハハハハハ!ヒヒッ、クハハハハッ!感じる!感じるぞ!今この瞬間、私の進化を!更なる高みへのランクアップを!だがまだだ!まだ届かない!限界を振り切っても足りない!もっと力を寄越せ!もっと、もっとぉぉぉぉぉっ!!」

 

激しき力への渇望が、終わり無き欲望が、絶望を食い潰す、狂気の希望を乗せた叫びが木霊する。

何だ、これは、ユーリと柚子が、呆然と立ち尽くす。果たして目の前にいるのは、本当に人間なのか。自分の目がおかしくなったのかと疑いたくなる。ここまで来て更に上にいくのか、いや、ここまで来たからだろう。

黒コナミはユーリとのデュエルを繰り広げ、1ターン1ターンを越える度に成長している。脅威的な速度で進化している。だがそれは、あくまで人間の範囲でだ。

これ以上は無理、無茶、無謀。ならば――その枷を、外せば言い。瞬間――黒コナミの身体が、青白く輝き、眩き光を放つ。

 

「かっとビングだ!私は私自身でオーバーレイ・ネットワークを再構築!熱き情熱が勝利を導く!エクシーズ・セカンドチェンジィィィィィッ!!」

 

激しきスパークと共に、黒コナミの肌が全体的に青白く輝くアストラル体となり、左目に緑色のフレームを持つバイザーが装着される。更に腰からは漆黒に煌めくアーマーとマントが靡き、左肩から腕にかけて、黄金のデュエルディスクが盾のような形状に進化を遂げる。

エクシーズ・チェンジ、それは遠き2人の魂が重なって1つとなった姿。黒コナミはそれを力づくで、強引に限界を壊す事で、1人でランクアップを果たしたのだ。

常識を壊す超常の力、シャイニング・ドローの非常識を塗り潰す光景に、ユーリと柚子が時が止まったようにフリーズする。

 

「どう言う……事……!?」

 

漸く絞り出せた台詞が疑問と戸惑いを隠せぬ言葉。それ程までに凄まじき衝撃、あり得ない光景が目の前にある。しかしそんな事、黒コナミには関係無い。彼はその身に纏う光を右手に集束させ、夜空に浮かぶ月へと翳す。

 

「これが最強を越える最強!必然を超然に変える力!想像を創造に書き換えろ!希望の光、我が右腕と化す!シャイニング・ドロォォォォォッ!!」

 

今までのシャイニング・ドローの光がちっぽけに思えてしまう程の光が2人の視界を覆い尽くす。ランクアップを遂げたカードの創造、それは翳された右手に集束し、1枚のカードとなる。

 

「魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地の『サンダー・ドラゴン』を特殊召喚!」

 

「ぐっ、それがどうしたぁ!?罠発動!『ダメージ・ダイエット』!これでこのターン、僕が受けるダメージは半分になる!」

 

サンダー・ドラゴン 攻撃力1600→3000

 

「罠発動!『希望の光』!墓地の光属性モンスター、『No.39希望皇ホープ』と『CNo.39希望皇ホープレイ』をデッキに!そしてオノマトピアのかっとビングカウンターを2つ取り除き、デッキから『ガガガマジシャン』を特殊召喚!」

 

希望郷―オノマトピア― かっとビングカウンター7→5

 

ガガガマジシャン 攻撃力1500→2500

 

「『ガガガガール』を召喚!」

 

ガガガガール 攻撃力1000→2000

 

黒コナミが召喚したのは『ガガガマジシャン』と対になるカード、金髪赤目に可愛らしい顔立ちをした、三角帽と黒いレオタードを纏った、携帯電話を手にした女子校生風のモンスター。

 

「ガールの効果で『ガガガマジシャン』のレベルをコピー!」

 

ガガガガール レベル3→4

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.39希望皇ホープ』!!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→3700

 

希望郷―オノマトピア― かっとビングカウンター5→6

 

現れる希望の使者。その何度も何度も蘇り、目の前に立ち塞がる皇の姿にユーリが怯む。また、まただ。この希望が復活し、ユーリの希望を奪い、絶望を与える。

希望の皇が絶望の化身とは何とも皮肉な話だ。この姿を見るだけで鳥肌が立ち、身体が震える。

そう、これは恐怖だ。執拗なまでに輝くこのカードが、ユーリに恐怖を植えつけている。LPはユーリが勝っているのに、怖くて怖くて仕方無い。

 

「ガールの効果でスターヴ・ヴェノムの攻撃力を0に!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、それを防ぐよ!」

 

「更にぃオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!『CNo.39希望皇ホープレイ』!!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ 攻撃力2500→3900

 

希望郷―オノマトピア― かっとビングカウンター6→7

 

「ORUを2つ使い、キメラフレシアの攻撃力をダウン!このカードの攻撃力をアップ!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!ホープレイの効果を無効!」

 

「魔法カード発動!『RUM―アストラル・フォース』!!」

 

そしてこれが――ユーリを絶望に叩き込む、希望の化身を誕生させるカードとなる。

 

「その効果により、ホープを2つ上のランクのモンスターへとランクアップさせる!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろNo.39!人が希望を越え、夢を抱く時、遥かなる彼方に、新たな未来が現れる!限界を越え、その手に掴め!希望皇ビヨンド・ザ・ホープ!!」

 

黒コナミの発動したカードにより、黒き鎧を捨て、ホープレイの進化前である希望皇ホープとなったモンスターの周囲に、今までコナミが扱ったホープの派生となるモンスター達が天へ剣を掲げる。

『CNo.39希望皇ホープレイ』、『CNo.39希望皇ホープレイV』、『CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』、『No.39希望皇ホープ・ルーツ』。輝く星空を背景に、ホープに新たな装甲が纏われる度、そのシルエットが重なっていく。光を、儚さを、勝利を、原初を、5つの影を集束し、ここに希望を越える使者が降臨する。

 

No.39希望皇ビヨンド・ザ・ホープ 攻撃力3000→4600

 

希望郷―オノマトピア― かっとビングカウンター7→8

 

ビヨンド・ザ・ホープ、それは奇しくも、絶望を体現する名であった――。

 

「何だ……このモンスターは……!?」

 

「このカードがエクシーズ召喚した時、全ての相手モンスターの攻撃力は0となる!」

 

「なっ――!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800→0

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→0×2

 

エクシーズ召喚と共に相手モンスター全ての攻撃力を無へ帰す効果。それによりユーリのモンスター達の攻撃力が奪われる。

だが、だがそれでもユーリのLPには届かない。

 

「だけど僕のLPには――」

 

「届かせてやる。魔法カード、『ガガガドロー』!墓地のカイザー、ガール、シスターを除外、2枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札0→2

 

「まだまだぁ!墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札2→3

 

「私は装備魔法、『ガガガリベンジ』を発動!墓地の『ガガガマジシャン』を特殊召喚!」

 

ガガガマジシャン 攻撃力1500→3100

 

「レベルを5に変更!」

 

ガガガマジシャン レベル4→5

 

「更に『サンダー・ドラゴン』と共にオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『ZW―獣王獅子武装』!」

 

ZW―獣王獅子武装 攻撃力3000→4900

 

No.39希望皇ビヨンド・ザ・ホープ 攻撃力4600→4900

 

「リベンジの効果でエクシーズモンスターの攻撃力を300アップ。そして装備魔法、『ストイック・チャレンジ』をビヨンドに装備!攻撃力をフィールドのORUの数×600アップし、モンスターとの戦闘ダメージを倍にする!」

 

「ッ――!」

 

No.39希望皇ビヨンド・ザ・ホープ 攻撃力4900→7300

 

「獣王獅子武装のORUを1つ取り除き、『ZW―阿修羅副腕』をサーチ!そして『ZW-荒鷲激神爪』を特殊召喚!」

 

ZW―荒鷲激神爪 攻撃力2000→3600

 

「仕上げだ!手札の阿修羅副腕、フィールドの荒鷲激神爪、そして獣王獅子武装をビヨンドに装備!」

 

No.39希望皇ビヨンド・ザ・ホープ 攻撃力6100→12100

 

「攻撃力……」

 

「12100……!?」

 

『ZW』てんこ盛り、これでもかと言う位にビヨンドを強化し、ユーリのLPの1万台に入る。これでダメージが倍の為、24200。しかも阿修羅副腕の効果で全てのモンスターに攻撃し、合計戦闘ダメージは72600。『ダメージ・ダイエット』で半分になろうと食らい尽くす。余りに馬鹿げた数値がユーリを恐怖に駆り立てる。

 

「……やめろ……やめてくれ……!」

 

ガチガチと歯が鳴り響く。身体の震えが止まらない。こんな、こんな、こんな――おぞましいデュエル、知りたくも無かった。思わずユーリがやめてくれと何度も懇願するが――。

 

「――ビヨンドで攻撃――!ホープ剣・ビヨンド・スラッシュッ!!」

 

死神の手は止まらない。天へ飛翔し、その剣でユーリのモンスターを切り裂くビヨンド。これで終わり――希望の刃がユーリのモンスターを全て破壊し、危機を関知したデュエルディスクが途中でダメージを防ぐ為、セーフティがかかる。

 

ユーリ LP15000→0

 

「――ッ!」

 

それでも、一部のダメージが抑えられた訳では無い。身体を焦がさんばかりに熱が駆け巡り、暴れ狂う。白目を剥き、吹き飛ばされるユーリ。そんな、時だった。柚子のブレスレットが突如輝き、ユーリの姿が消えたのは。

 

「え――?」

 

「――!」

 

しかしそれだけでは無い。黒コナミが柚子へと振り向き、その視線の先には――ユーリに似た顔立ちの、D-ホイールに乗ったライダースーツを纏った少年と、柚子がまた、光に包まれる姿。

 

「何――?」

 

瞬間、ユーリと同じように、2人の姿も弾かれるように消え去る。後に残された黒コナミは、直ぐ様ランクアップを解き、デュエルディスクを操作して2人の反応を追う。そして彼が一瞬だけ息をつまらせ――彼もまた、光となって消える。歪んだ笑みを描きながら――。

そして、誰もいなくなった――。

 

――――――

 

同じ時をしてアカデミア。厳かな雰囲気を放つ赤い絨毯の上にて、ボロボロになったユーリが息を切らせ、両の手と膝をついていた。

思い返すのは先程まで闘っていた、つばの欠けた黒帽子の少年。

負けた――アカデミア最強である自分が――そんな事は、有り得てはならないのだ。カッ、と熱が頭に上り、歯軋りを鳴らし、ユーリはその拳を地へとぶつける。

 

「――クソォッ!クソクソクソクソォッ!!」

 

粉々に砕かれたプライド、今まで培った実力、全てが台無しにされ、少年は叫ぶ。悔しい、屈辱で大粒の涙が頬を伝う。ふざけるな、こんな理不尽があって堪るか――。敗北感で胸を満たされながらも、最後に残った一筋のプライドがユーリを奮い立たせる。

力が、欲しい。奴を、いや、全てを壊し、最強足り得る圧倒的な力が。

 

「――壊してやる――」

 

瞬間、ユーリの表情から全ての感情が抜け落ちる。グッ、と足に力を入れて立ち上がり、ユーリは長く続く廊下を、ゆっくりと歩み出す。まるで、幽鬼のようにフラフラと。

今ここに――1人の修羅が、目覚めた――。

 

――――――

 

夜空に輝く月が沈み、空が白く染まり、太陽が昇る。遺跡エリアの一角にて、アリトがボロボロの姿で膝をつく。無理も無い、今の今までオベリスク・フォースとのデュエルを続けて来たのだ。長い連戦を勝利して来た事自体が奇跡に等しい。しかしそれでも、オベリスク・フォース達を全員倒した訳では無い。土を鳴らし、近づくオベリスク・フォース。もうアリトは闘えない、しかし――闘う必要も、無くなった――。

 

「……後は、任せたぜ」

 

その言葉だけを言い残し、アリトは前のめりに倒れ、眠りにつく。その背後には――完全に体力を回復した、榊 遊矢と黒咲 隼の姿。

 

「「任せろ!!」」

 

陽はまた、昇る――。




ヘルユーリフラグが立ちましたー。
ユーリ君はまだ超越融合も超融合もグリーディーも持ってません。って言うか超越融合裁定どうなってんだろ。スターヴじゃ使えないって聞くけど。
黒コナミのランクアップですが、本来ZEXALは情熱が重なったりぶつかったりするからZEXALらしいですから、1人でやらかした黒コナミのあれは例えるならZEALです。しかも何気にセカンド。と言っても本家セカンドには負けます。正確に言えば1.5なのです。バリアルフォーゼの方が近いかもしれません。こっちはアストラル体ですが。
気になる能力はシャイニングドローの回数が増えたり連発出来たりするだけです。書き換えは出来ません。
そして黒コナミ君はもう瑠璃とかどうでも良くなってます。クソ野郎です。
この闘いを機に、ユーリ君は超強くなる予定、優等生デッキも使いません。途中でユーリ君が可哀想になって心の中で応援した人もいた筈。


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第69話 俺もいるぞ!

ズァークの効果判明やゴヨウ・ガーディアンが去勢されて釈放されるとかで驚く中、一番驚いたのはコズミック・ブレイザー・ドラゴンのOCG化。
もうこれで何がカード化しても驚かない。新作主人公の藤木君が霞んじゃったよ……。


「やれ!レヴォリューション・ファルコン!『古代の機械三頭猟犬』を攻撃!レヴォリューショナル・エアレイドォッ!」

 

オベリスク・フォースR LP1100→0

 

オベリスク・フォースS LP1800→0

 

オベリスク・フォースT LP200→0

 

「ぐぉぉぉぉぉっ!?」

 

「こっちもクライマックスだ!『EMディスカバー・ヒッポ』!『EMオールカバー・ヒッポ』!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』で攻撃!螺旋のストライク・バースト!!」

 

オベリスク・フォースU LP500→0

 

オベリスク・フォースV LP800→0

 

オベリスク・フォースW LP2600→0

 

「がぁぁぁぁぁっ!!」

 

砂塵舞う遺跡エリア。そこでは復活した遊矢と隼が猛威を奮っていた。飛び交う革命のハヤブサと2色の眼を持つ真紅の竜。あとカバ。まるで嵐の如く2人は誰にも止められない。

互いに背を合わせ、不敵に笑いながらデュエルディスクを構え直す。その様は長い間共に闘っていた戦友のように固い信頼に溢れている。

 

「ガッチャ!良いデュエルだったぜ、隼!お前さっきより強くなってるんじゃないか?」

 

「当然だ。今ならお前にも負けんぞ」

 

『言われているぞ遊矢』

 

「うっし、もう1回デュエルするか?」

 

「上等だ、貴様のカバを焼き尽くしてやる」

 

互いに軽口を交わし合い、口喧嘩を始める2人。喧嘩する程仲が良いと言う事だろうか、歯を剥き出しにしてメンチを切り合う2人の様子を見て、ユートが呆れて溜め息を吐き出し、苦笑する。

こんな光景、隼が憎しみに捕らわれていた頃では考えられなかっただろう。それも彼を救ってくれた遊矢のお蔭か。ギャーギャーと騒ぎ、互いの頬をつねる2人を保護者よろしく生暖かい目で見つめる。

うん、うるさい。ここら辺は前の方が良かったかもしれない。

 

「大体何だそのカバは!お前の武器はペンデュラムだろう!アドバンス召喚する事無いんだから今すぐデッキから抜け!横でチラッと目が合うとそのカバ、ムカつくドヤ顔しやがった!」

 

「抜きません~!ヒッポは『超カバー・カーニバル』でどこからでも持って来れるって言うメリットがあるんです~!それに皆の人気者だしぃ?ボッチの隼とは違うんです~!」

 

「ボッチじゃない!ユートとかアレンとかサヤカは……俺の事どう思ってるか分からんが謝り倒して仲直りする予定だし――」

 

思い返すのはエクシーズ次元でいた頃、ある少女が親切心と友情の証で妹に本人にとっても大切なカードだったのにも関わらず、一方的に軽はずみの行動と決めつけ、渡そうとしたのを乱暴に弾いた事。

もしもエクシーズ次元へと戻った時、彼女には何としてでも謝りたいと隼は思う。

 

「お、お前もいる……」

 

「お、おう……な、なんか照れるな、へへ……」

 

「……い、今更照れるんじゃない、し、親友、だろ……?」

 

何これ。目の前の茶番を一部始終見て、ドン引きするユート。喧嘩をしていると思ったら直ぐ様2人は頬を染め、鼻の頭を擦って目を逸らしている。正直親友のユートでさえ隼がここまでデレるとは思ってなかった。

しかし男のツンデレなんて誰得な上にユートの守備範囲から大きく外れている為、気持ち悪いだけである。

 

「ええい良い加減にしろ!任務外だから見逃そうと思っていたら男同士でイチャイチャと気持ち悪い!」

 

「おい……放っておいてやれ、俺達の今回の任務にはデュエルは入ってないんだ」

 

と、そこでユートの心中を代弁するかのような叫び声が木霊する。遊矢と隼、そしてユートがその先へと視線を移してみると、そこにいたのは2人のオベリスク・フォース。

しかし身に纏う闘気は他のオベリスク・フォースとは比べ物にならない。どうやら大物の登場らしい。3人は一気に気を引き締め、警戒を示す。

 

「ふん、少しはマシな奴が来たと言う事か」

 

「ハッ!この俺様を他の雑魚共と一緒にするな。あんなデュエリストの誇りも知らん奴とは違う!」

 

「……どう違うんだ?隼、俺にはコピペにしか見えないんだけど」

 

「手抜きじゃない!好きでこんなダサい格好せんわ!こっちにも色々事情があってだな……!まぁ、良い、俺様の事はオベリスク・フォース・サンダーとでも呼ぶが良い!」

 

「なら俺はオベリスク・フォース・エアーとでも名乗っておこう」

 

仮面の額に青い宝玉を嵌め込んだサンダーが遊矢のコピペ発言に激昂し、名乗りを上げ、黄色い宝玉を嵌め込んだエアーもそれに続く。

しかしエアーが名乗った瞬間、その場全員が驚愕しながら彼の方へ振り向き、サンダーも声を震わせながらエアーを指差す。

 

「あれ……エアーいたの?」

 

「いたよっ!ずっと前から!お前とは2人1組で行動してるだろっ!このやり取り何回目だよ!?」

 

「……気づいたか遊矢。あのエアー?とか言う奴、全く気配が無かった……!出来る……!」

 

「ああ、何も無い所からいきなり現れ、……また消えた……!?」

 

『馬鹿な……!』

 

「いるよ!消えて無い所か一歩も動いてないよ!馬鹿にしてんのか!」

 

どうやらこのエアーと言う男、影が薄いらしい。この場全員が彼の存在の無さに戦慄し、エアーが苛立ち、顔を真っ赤に染めて地団駄を打つ。仮面なので真っ赤なのかは分からないが。

エアー、その名に恥じない空気っぷりである。しかしそれを認めない彼は怒り、左腕に巻きつけたデュエルディスクより剣型のプレートを展開する。

 

「デュエルだ!そんな気は無かったがこうなったらデュエルで俺の存在を認めさせてやる!」

 

「良いぞエ、エアー?やっべ、本名もうろ覚えだ……その意気だ!」

 

「何でお前までうろ覚えなんだサンダー!?」

 

仲間であるサンダーにまで本名を忘れられそうな男、エアー。まるで漫才のような2人のやり取りを見て、遊矢と隼、そしてユートは呆気に取られながらもデュエルディスクを構える。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

先攻はエアーだ。彼は鼻息荒くデッキより5枚のカードを引き抜き、その実力を発揮させ始める。

 

「俺は魔法カード、『テラ・フォーミング』を発動し、フィールド魔法、『岩投げエリア』をサーチし、発動!そして『電磁石の戦士γ』を召喚!」

 

電磁石の戦士γ 攻撃力800

 

現れたのは緑色の体躯に電気を帯びた磁石の戦士。『マグネット・ウォリアー』シリーズの新たなモンスターだ。どうやらこの2人は他のオベリスク・フォースとは本当に違うらしい。

その事実に隼は違和感を覚える。どんなに強い者であろうと、オベリスク・フォースならば『アンティーク・ギア』を使う筈だが――。

 

「γの効果!手札からレベル4以下の『マグネット・ウォリアー』、『電磁石の戦士β』を特殊召喚!」

 

電磁石の戦士β 攻撃力1500

 

次にエアーが召喚したのは赤い金属の身体に頭、手に磁石を嵌め、電気を帯びた『マグネット・ウォリアー』。

 

「βの効果により、デッキから『電磁石の戦士α』をサーチ、永続魔法、『強欲なカケラ』を発動。カードを1枚セットしてターンエンド」

 

オベリスク・フォース・エアー LP4000

フィールド『電磁石の戦士β』(攻撃表示)『電磁石の戦士γ』(攻撃表示)

『強欲なカケラ』『岩投げエリア』

手札1

 

2体のモンスターを展開し、岩石族モンスターを戦闘から守る『岩投げエリア』を発動、手札には『電磁石の戦士α』。まずまずの出だしだ。

これだけでは別段他のオベリスク・フォースと変わらないが――隼は微かな違和感を覚えながら、デッキからカードを引き抜く。バトルロイヤルルールでは全てのプレイヤーが1ターンを終えねば攻撃は不可能。となれば、守備を固めるべきだ。

 

「俺のターン、ドロー!俺は『RR―ミミクリー・レイニアス』を召喚!」

 

RR―ミミクリー・レイニアス 攻撃力1100

 

現れたのはイエローカラーを基調としたボディの鳥獣族モンスター。本来ならばフィールドに出る事は少なく、デッキから直接墓地に送る事が多いのだが、手札に来てしまっては仕方無い。

 

「そして速攻魔法、『スワローズ・ネスト』を発動。ミミクリー・レイニアスをリリースし、デッキから同じレベル4の鳥獣族モンスター、『RR―バニシング・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RR―バニシング・レイニアス 攻撃力1300

 

次に特殊召喚したのは『RR』の切り込み役、緑色のカラーリングをした機械鳥だ。翼を広げ、空高く飛翔する。

 

「墓地のミミクリー・レイニアスを除外し、『RR―トリビュート・レイニアス』をサーチし、バニシング・レイニアスの効果で特殊召喚!」

 

RR―トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

お次は青く煌めく鋭い嘴と周囲に浮遊したファンネルが特徴的な『RR』。これにより、ミミクリー・レイニアスが手札に来てしまった事を帳消しにする。

 

「トリビュート・レイニアスの効果でデッキから『RR―レディネス』を墓地に送る。そして永続魔法、『RR―ネスト』を発動!効果により、デッキから『RR―ファジー・レイニアス』をサーチ!そして2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実を暴き、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ!エクシーズ召喚!『RR―フォース・ストリクス』!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000

 

2体の猛禽が重なり、1体の梟となって姿を見せる。天空に来る『RR』のキーカード。このカードが隼の布陣を強固なものへと変える。1ターン目から容赦無しの隼へと、ユートが檄を飛ばす。

 

『いけ、隼!』

 

「俺はフォース・ストリクスのORUを1つ取り除き、デッキから『RR―シンギング・レイニアス』をサーチし、特殊召喚!」

 

RR―シンギング・レイニアス 守備力100

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000→2500

 

「更にフィールドに『RR』が存在する事でファジー・レイニアスを特殊召喚!」

 

RR―ファジー・レイニアス 守備力1500

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2500→3000

 

更なる展開、仲間の『RR』の囀ずりと翼の下に2体の『RR』が駆けつける。これで再びレベル4のモンスターが2体、隼はその左腕を突き出し、カッ、と鋭い目を見開く。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RR―フォース・ストリクス』!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000→2500×2

 

「そして2体目のORUを取り除き、『ミミクリー・レイニアス』をサーチし、墓地に送ったファジー・レイニアスの効果で同名をサーチ!カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、βをリリースし、効果発動!デッキからレベル4の『マグネット・ウォリアー』、『磁石の戦士δ』を特殊召喚!」

 

磁石の戦士δ 守備力1400

 

エアーがその手を翳し、電磁石の戦士が放電により発光し、音を立てて変形する。現れたのは三角形の身体をバネで組み合わせ、頭、手、足に磁石を纏わせたモンスター。随分と前衛的なフォルムをしており、玩具のようだ。

 

「δが召喚、特殊召喚した時、デッキから『磁石の戦士α』を墓地に送る」

 

黒咲 隼 LP4000

フィールド『RR―フォース・ストリクス』(守備表示)×2

『RR―ネスト』セット1

手札4

 

「ふん、やっと俺のターンか、試してやろう貴様達の実力がアカデミアに通じるか。ドロー!俺は手札の『サンダー・ドラゴン』を捨て、デッキから同名カードを2体サーチ!魔法カード、『テラ・フォーミング』を発動。フィールド魔法、『ユニオン格納庫』をサーチし、発動。効果処理としてデッキから『A―アサルト・コア』を手札に加え、召喚!」

 

A―アサルト・コア 攻撃力1900

 

サンダーの手より召喚されたモンスターはオレンジがかったイエローボディの蠍を模したような機械のモンスター。脚の裏にあるキャタピラを回転させて移動し、尾に装備にしたレーザー砲で敵を狙い撃つ。

 

「そして『ユニオン格納庫』の効果発動!自分フィールドに機械族、光属性のユニオンモンスターが召喚、特殊召喚された場合、そのモンスターに装備可能な同名以外の機械族、光属性のユニオンモンスター1体をデッキから装備する!」

 

「デッキから装備だと!?」

 

これぞ『ユニオン格納庫』の恐るべき効果。発動処理としてカードを1枚サーチした上、そのサーチしたユニオンを召喚すれば更に対応するユニオンを装備する。結果的に2枚のカードをサーチしているのだ。そしてフィールド魔法である為、このカード自体のサーチ手段も多い。

 

「俺は『B―バスター・ドレイク』を装備!」

 

ガシャン、サンダーのフィールドに緑色の機竜が登場する。飛行機のような薄い翼に2連のカノン砲を背負い、小型恐竜の如く低い姿勢で現れたそのモンスターは身体を分断、変形させ、アサルト・コアの尾の左側に装備にされる。

 

「永続魔法、『前線基地』を発動!手札より『C―クラッシュ・ワイバーン』を特殊召喚!」

 

C―クラッシュ・ワイバーン 攻撃力1200

 

更に現れるユニオンモンスター。紫色の体躯を持ち、身体の半分以上を占める翼を広げ、後退した脚と刺々しい尾を伸ばし、ミサイルを装備した、飛竜を模したモンスター。これでフィールドにA、B、C、3体のユニオンモンスターが揃った。

 

「そしてA、B、Cの3体を除外し、融合召喚!『ABC―ドラゴン・バスター』!!」

 

ABC―ドラゴン・バスター 攻撃力3000

 

ガシャン、3体のモンスターがそれぞれパーツを分裂させ、変形して合体する。アサルト・コアのキャタピラにバスター・ドレイクの翼を、尾に2体の竜が張り付き、その背にクラッシュ・ワイバーンの翼が、竜の身体の側面に、カノン砲とミサイルポッドが装備される。

ユニオン合体、完成、『ABC―ドラゴン・バスター』。その姿に遊矢が興奮し、目を輝かせる。

 

「合体だ……合体した……!」

 

「チープな合体モンスターだな。俺のアルティメット・ファルコンの方が数段格好良いぞ、遊矢。ん?」

 

『張り合うな』

 

「ふぉぉぉぉぉ」と感動する遊矢を見て、何故か対抗心を燃やした隼がしきりに自分のモンスターの格好良さを力説する。実はこの男、遊矢の事をかなり気に入っているのでは無いだろうか?そう言えば、とユートは彼がライズ・ファルコンのプラモを手作りした事を思い出す。そうして見ると造形の方にも対抗意識があるのかもしれない。

 

「フ、見惚れるが良い!手札を1枚捨て、フォース・ストリクスを対象としてドラゴン・バスターの効果発動!対象のモンスターを除外する!」

 

「何――?ぐっ!」

 

手札1枚を相手カード1枚の除外へと変える効果。単純ながらも強力なものだ。ドラゴン・バスターの発射するレーザー、キャノン、ミサイルを受け、フォース・ストリクスが異次元へと葬られる。墓地を頻繁に利用する『RR』にとってこれは手痛い。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ。良い事を教えてやろう、ドラゴン・バスターの効果は相手ターンだろうと発動可能だ!」

 

『ッ、そう来るか』

 

更に驚くべき事実。この強力な効果が相手のターンでも発動出来る等、考えたくも無い。恐ろしいカードだ。ユートの言葉に頷きながら遊矢は気を引き締める。

間違いない。相手は他のオベリスク・フォースよりも高い実力を有している。

 

オベリスク・フォース・サンダー LP4000

フィールド『ABC―ドラゴン・バスター』(攻撃表示)

『前線基地』セット1

『ユニオン格納庫』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!俺は『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMドラネコ』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

「『EM』……?それが雑魚共を倒した貴様の武器か!俺は手札を1枚捨て、ドラゴン・バスターの効果により、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を除外する!正しくドラゴン・バスターと言う訳だ!フハハハハ!」

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』!これでドラゴン・バスターの効果を無効に――」

 

『よし、これで――』

 

「見事――と言いたいが、雑魚の足掻き程滑稽なものは無い!チェーンしてドラゴン・バスターの最後の効果を発動!このカードをリリースし、除外されている機械族、光属性のユニオンモンスター、3種を特殊召喚する!逆順処理だ!A、B、Cを特殊召喚!」

 

A―アサルト・コア 守備力200

 

B―バスター・ドレイク 守備力1800

 

C―クラッシュ・ワイバーン 守備力2000

 

ドラゴン・バスターが自ら『融合解除』し、3つに分かれ、それぞれのパーツを取り戻し、3体がフィールドに舞い戻る。チェーン3、これで終了し、チェーン2へと時は逆巻いていく。

 

「チェーン2、遊矢の聖杯が処理されるが――」

 

「対象のモンスターがフィールドに存在しない為、不発ぅ!そして最後の処理により、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を除外!それが貴様のエースなのだろう?除外されてしまえば再利用も難しい。不様を晒したな!」

 

遊矢の無効化、それは一見して正解に見えたものだった。しかし、ドラゴン・バスターの分裂により、その効果が不発となり、エースカードである『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をむざむざ失ってしまった。唇を噛み、拳を握り締める遊矢。これではルーンアイズやビーストアイズを召喚出来ない。しかも相手は3体の素材を残した。

 

『落ち着くんだ遊矢。確かに痛手を被ったが、強力なモンスターなら俺のダーク・リベリオンがいる。それにビーストアイズは『降竜の魔術師』を使えば何とかなる。何よりお前の武器は『EM』の多彩な効果とコンボだろう?』

 

「……そうだな、エースがいないからって開演を諦めるなんてエンタメデュエリスト失格だ。ありがとうユート。そうだ、俺の武器は楽しいコンボと諦めない根性だ!」

 

『フ、行くぞ遊矢!』

 

「応!」

 

焦る遊矢を見かね、ユートが叱咤する。エースを失ったからと言って焦っていてはそれこそ不様。遊矢の武器は他にもある。

遊矢はそれに気づかされ、頬を両手でパンッ、と叩く。ジンジンと熱が頬を覆う。2人は改めて覚悟を決め、デュエルディスクを構える。良いコンビだ。確かな信頼がそこにはある。

 

「ええい生意気な……不様に慌てていれば良いものを!」

 

「悪いね!これ位でへこたれてられないからさ!俺は『EMチェーンジラフ』をセッティング!これでレベル2から4のモンスターを同時に召喚可能!揺れろ!魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMインコーラス』!」

 

EMインコーラス 守備力500

 

現れたのは赤、青、緑、と信号機の色合いのようにカラフルな3羽のインコ達。その囀りは正にコーラス、美しき音色がフィールドに響き渡る。

 

「鳥獣族の『EM』か、鳥獣族は良いぞ、遊矢」

 

登場したモンスターを見て、隼がうんうんと頷きながら鳥獣族の良さをしきりに語り出す。人の趣味にまで口を出して友達を失うような男である。ユートは溜め息混じりに呆れ返り、悪影響が及ばないように遊矢の耳を塞ぐが、生憎彼は実体を持っていない。だがその様子は過保護な兄そのものである。横のシスコンよりはマシだが。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ。今はまだ開演を告げる音楽だけ、ですが次のターンからもっともっと盛り上げて見せましょう!」

 

「この瞬間、γをリリースし、『磁石の戦士δ』を特殊召喚!」

 

磁石の戦士δ 守備力1400

 

「あ、エアーいたんだ」

 

「いるよ!ずっとね!δの効果で『磁石の戦士β』を墓地に送る!」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMインコーラス』(守備表示)

セット1

Pゾーン『EMチェーンジラフ』『EMドラネコ』

手札0

 

全てのプレイヤーが1ターン目を終了し、いよいよ攻撃が可能となる2ターン目、隼はその目付きを鋭くし、デッキから1枚のカードを引き抜こうと手を翳す。

 

「俺のターン!」

 

「俺のターンだっ!」

 

「――何――?」

 

「――何――?じゃない!何でビックリしているんだ!こっちがビックリだぞ!ナチュラルに忘れるな!」

 

エアーのターンである事を、いや、エアーの存在そのものを忘れ、自身のターンへ移行しようとする隼に対し、エアーが激昂して自分のターンである事を主張する。突然彼が声を張り上げた事に隼は本気で驚愕し、瞠目する。

 

「す、すまん、つい……」

 

「ええい!俺のターン、ドロー!この瞬間、『強欲なカケラ』にカウンターが1つ溜まる!」

 

強欲なカケラ 強欲カウンター0→1

 

「手札の『サンダー・ドラゴン』を2枚に増やし、『電磁石の戦士α』を召喚!」

 

電磁石の戦士α 攻撃力1700

 

青筋を立て、エアーが召喚したモンスターは磁石の盾と槍を構えたスマートなフォルムの戦士。他の『マグネット・ウォリアー』とは違い、どこか近未来的な姿をしている。

 

「αの召喚時、デッキから『電磁石の戦士マグネット・ベルセリオン』をサーチし、フィールドの『電磁石の戦士α』、墓地の『電磁石の戦士β』、『電磁石の戦士γ』を除外し、特殊召喚!!」

 

電磁石の戦士マグネット・ベルセリオン 攻撃力3000

 

まるでサンダーのドラゴン・バスターのように、α、β、γが分裂し、それぞれのパーツが電磁石の力で合体する。αをメインとし、βが脚に、γが上半身の装甲となり、両肩に装着される。

3体合体、完成、『電磁石の戦士マグネット・ベルセリオン』。その雄々しき勇姿がフィールドに降り立ち、バチバチと稲妻が地を走り抜ける。

 

「ここで俺は罠発動、『撹乱作戦』!相手の手札を入れ換える!」  

 

「そして墓地の『磁石の戦士α』を除外し、フォース・ストリクスを対象として破壊する!」

 

「ッ!」

 

墓地のモンスターを除外する事で発動される破壊効果。ドラゴン・バスターとは違い、相手ターンでも発動出来ない上、除外では無い為、ドラゴン・バスターに劣るがそれでも優秀な効果だ。しかもこれで隼のフィールドはがら空きとなってしまった。フォース・ストリクスを2体も失った事も手痛い。

 

「δの表示形式を変更し、バトルだ!δで黒咲に攻撃!」

 

「墓地のレディネスを除外し、このターンのダメージを0にする!」

 

襲い来るエアーのモンスター。がら空きの所にδの攻撃を防ぐ為、隼は墓地の罠を除外し、ダメージを0にする。これでこのターン、隼は安全圏に逃れた。

 

「2体目のδで榊 遊矢の『EMインコーラス』に攻撃!」

 

「インコーラスの効果!デッキの『EMロングフォーン・ブル』を特殊召喚する!」

 

EMロングフォーン・ブル 守備力1200

 

インコーラスの囀りを聞き、頭にかけられた受話器を鳴らし、青い牡牛のモンスターがフィールドに召喚される。

 

「ロングフォーン・ブルの効果で『EMヘイタイガー』をサーチ!」

 

「リクルートモンスターだったか、ベルセリオンでロングフォーン・ブルを攻撃!」

 

最後に残されたベルセリオンの攻撃、手に握った槍を振るい、雷を牡牛へと落とし、黒焦げに焼き尽くす。

 

「俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォース・エアー LP4000

フィールド『電磁石の戦士マグネット・ベルセリオン』(攻撃表示)『磁石の戦士δ』(攻撃表示)×2

『強欲なカケラ』セット2

『岩投げエリア』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!俺はトリビュート・レイニアスを召喚!」

 

RR―トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

「効果でデッキのミミクリー・レイニアスを墓地へ落とし、除外する事で2枚目の『RR―レディネス』をサーチ!そしてファジー・レイニアスを特殊召喚!」

 

RR―ファジー・レイニアス 守備力1500

 

「ネストの効果でミミクリー・レイニアスをサーチ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RR―フォース・ストリクス』!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000

 

「フォース・ストリクスのORUを1つ取り除き、デッキからバニシング・レイニアスをサーチ!ファジー・レイニアスの効果で同名をサーチ!そして魔法カード、『RUM-レイド・フォース』を発動!」

 

「罠発動、『撹乱作戦』!再び手札を交換させる!」

 

「チッ、オーバーレイ・ネットワークを再構築!獰猛なるハヤブサよ激戦を切り抜けしその翼翻し寄せ来る敵を打ち破れ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR―ブレイズ・ファルコン』!」

 

RR―ブレイズ・ファルコン 攻撃力1000

 

フォース・ストリクスの翼が炎に包まれ、燃え上がり、天高く飛翔して雲を突き破る。舐めるように炎がめくれ、その姿を新たなものとして猛禽が生まれ変わる。真紅に煌めくボディ、その周囲でレーザービットを浮遊させたランク5の『RR』。その姿を見て、遊矢が拳を握り締める。

 

「そうか、ブレイズ・ファルコンなら……!」

 

『しかも遊矢のフィールドにモンスターはいない!』

 

「そう言う事だ!ブレイズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、その数×500ダメージを与える!6体を破壊し、お前達に3000のダメージを与える!」

 

モンスターを全て破壊した上で相手にダメージを与える効果。遊矢にも影響は渡るものの、これならばブレイズ・ファルコンの攻撃も合わせ、1人は脱落させられる。

ブレイズ・ファルコンのビットより稲妻状の光線が放たれ、焼き尽くそうとした瞬間――。

 

「俺もいるぞ!罠発動!『蟲惑の落とし穴』!モンスター効果の発動を無効にし、破壊する!」

 

エアーの手により発動されたカードがそれを跳ね返し、雷が天に飛翔するハヤブサを撃ち落とす。まさかの反撃に隼の表情に動揺が走る。

 

「黒咲 隼、アカデミアの戦力を退けて来たお前の実力、戦略は既に俺の耳にも届いている。何時までも通じると思わないよう気をつけるべきだな」

 

「ならば更に革命の道を突き進むまで!速攻魔法、『RUM-ラプターズ・フォース』発動!このターン、自分フィールド上で『RR』エクシーズモンスターが破壊された場合、墓地の『RR』エクシーズモンスターを特殊召喚し、ランクが1つ高い『RR』をそのモンスターに重ね、エクシーズ召喚する!オーバーレイ・ネットワークを再構築!誇り高きハヤブサよ。英雄の血潮に染まる翼翻し革命の道を突き進め!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR―レヴォリューション・ファルコン』!」

 

RR―レヴォリューション・ファルコン 攻撃力2000

 

まるで忠告のようなエアーの言葉を受けながら破壊された事を利用し、2回連続ランクアップ。ブレイズ・ファルコンが墓地より蘇り、火炎に包まれその姿を変形させる。更にその翼を大きく広げ、灰色に染まったランク6の『RR』。破壊が駄目ならば戦闘で。如何にも隼らしい考えだ。

 

「レヴォリューション・ファルコンのORUを1つ取り除き、このターン、このカードは相手モンスター全てに攻撃出来る!さぁ、バトルだ!レヴォリューション・ファルコンで全てのモンスターに攻げ――」

 

「残念だったな!永続罠、『デモンズ・チェーン』!貴様のレヴォリューション・ファルコンの効果と攻撃を封じる!」

 

と、そこでサンダーのフィールドに渦が逆巻き、その中より鎖が4本飛び出してレヴォリューション・ファルコンの身動きを封じ込める。ギチギチと翼までにも絡み付かれてしまったら開閉して爆薬を落とす所か飛翔する事もままならない。

 

「く、カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP4000

フィールド『RR―レヴォリューション・ファルコン』(攻撃表示)

『RR―ネスト』セット3

手札3

 

「フン、俺様のターン、ドロー!A、B、Cの3体で融合!融合召喚!『ABC―ドラゴン・バスター』!!」

 

ABC―ドラゴン・バスター 攻撃力3000

 

再び3体を合体させ、フィールドに現れるドラゴン・バスター。リリースする事で効果を確実にし、素材を揃え、次のターンでまともや合体する。この調子ではまた繰り返されるだろう。

 

「手札を1枚捨て、レヴォリューション・ファルコンを除外する!バトルだ!黒咲にダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『RR―レディネス』!除外してダメージを0にする!」

 

「何時までもつかな!ターンエンドだ!」

 

オベリスク・フォース・サンダー LP4000

フィールド『ABC―ドラゴン・バスター』(攻撃表示)

『前線基地』『デモンズ・チェーン』

『ユニオン格納庫』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『EMヘイタイガー』!『EMインコーラス』!」

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700

 

EMインコーラス 守備力500

 

遊矢のターンに渡り、彼の首にかけられたペンデュラムが閃き、2体のモンスターがフィールドに登場する。1体は3色3羽のインコ達。もう1体は赤い軍服を纏った2立歩行の虎だ。

 

「バトルだ!ヘイタイガーで『磁石の戦士δ』を攻撃!この瞬間、罠カード、『幻獣の角』を発動!ヘイタイガーに装備して攻撃力を800アップ!」

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700→2500

 

「『岩投げエリア』の効果!デッキから『磁石の戦士γ』を墓地に送り、戦闘破壊を無効に!」

 

「ッ!だがダメージは与える!」

 

オベリスク・フォース・エアー LP4000→3100

 

『幻獣の角』による強化を受け、ヘイタイガーがエアーのフィールドのδへと剣を振るう。ブォンッ、と空気を裂くその一撃はδへと炸裂するも、その鋼の如く変化した硬度を得たδ自体は破壊出来ない。『幻獣の角』とヘイタイガーの効果はどちらも戦闘破壊で発生する効果だ。これでは発動出来ない。

 

「俺はこれでターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMヘイタイガー』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)

『幻獣の角』

Pゾーン『EMチェーンジラフ』『EMドラネコ』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

強欲なカケラ 強欲カウンター1→2

 

「2つのカウンターが溜まったカケラを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

オベリスク・フォース・エアー 手札1→3

 

「黒咲のフィールドはがら空き、バトルだ!マグネット・ベルセリオンでダイレクトアタック!」

 

「永続罠、『闇次元の解放』!除外されている『RR―フォース・ストリクス』を特殊召喚!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000

 

フィールドはがら空き、2枚目のレディネスも除外し、丸裸になった隼。しかし遊矢は彼がこの程度では無い事を知っている。そうで無ければ彼のデュエルであんなにも苦労する筈が無いのだ。その読み通り、隼が自らのフィールドにドラゴン・バスターの効果で除外されていたフォース・ストリクスを呼び出す。

 

「フォース・ストリクスに攻撃!」

 

「それを待っていた!速攻魔法、『RUM-デス・ダブル・フォース』を発動!破壊されたフォース・ストリクスを素材としてその倍のランクのエクシーズモンスターへとランクアップさせる!オーバーレイ・ネットワークを再構築!勇猛果敢なるハヤブサよ。怒りの炎を巻き上げ、大地をも焼き尽くす閃光となれ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!飛翔しろ!『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』!」

 

RR―サテライト・キャノン・ファルコン 攻撃力3000

 

フォース・ストリクスの戦闘破壊を条件に、隼が更に『RR』をランクアップさせる。雲を突き抜け、大気圏を突破し、宇宙へと飛翔するフォース・ストリクス。その小さな姿を輝かせ、純白の装甲を纏い、巨大な砲門を地へと向ける。新たに登場したランク8の『RR』、天よりも高く飛び立った。

 

「その効果で貴様達の魔法、罠を全て破壊する!」

 

「ッ!2体のδを守備表示に変更し、永続魔法、『禁止令』を発動。『RR―ブレイズ・ファルコン』を宣言。ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォース・エアー LP3100

フィールド『電磁石の戦士マグネット・ベルセリオン』(攻撃表示)『磁石の戦士δ』(守備表示)×2

『禁止令』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!俺はトリビュート・レイニアスを召喚!」

 

「俺は『増殖するG』を捨て、効果を使う!」

 

RR―トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

「効果でミミクリー・レイニアスを墓地へ送り、除外する事で『RR―レディネス』をサーチ!ネストの効果で『RR―シンギング・レイニアス』をサーチし、ファジー・レイニアスを特殊召喚!」

 

RR―ファジー・レイニアス 守備力1500

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「更にシンギング・レイニアスを特殊召喚!」

 

RR―シンギング・レイニアス 守備力100

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!雌伏のハヤブサよ。逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ!エクシーズ召喚!『RR―ライズ・ファルコン』!」

 

RR―ライズ・ファルコン 攻撃力100

 

榊 遊矢 手札2→3

 

3体の猛禽が突如発生した渦に飛び込み、渦が集束して爆発を起こし、砂粒を巻き上げる。吹き荒れる砂塵をその翼を広げて引き裂き、現れたのは巨大な爪を持つ機械鳥。その異様な体躯とは裏腹に、攻撃力は100と低い。しかし、2人のオベリスク・フォースは侮る事はしない。

 

「ライズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、マグネット・ベルセリオンの攻撃力を吸収する!」

 

RR―ライズ・ファルコン 攻撃力100→3100

 

「ライズ・ファルコンは全てのモンスターに攻撃可能!マグネット・ベルセリオンを引き裂け!ブレイククローレヴォリューション!この瞬間、サテライト・キャノン・ファルコンのORUを取り除き、ベルセリオンの攻撃力をダウン!」

 

電磁石の戦士マグネット・ベルセリオン 攻撃力3000→0

 

「手札の『クリボー』を捨て、ダメージを0に!破壊されたベルセリオンの効果で除外されている『電磁石の戦士α』、『電磁石の戦士β』、『電磁石の戦士γ』を特殊召喚!」

 

電磁石の戦士α 守備力1000

 

電磁石の戦士β 守備力1500

 

電磁石の戦士γ 守備力2000

 

榊 遊矢 手札3→4

 

まるでサンダーのドラゴン・バスターのようにベルセリオンも分裂し、素材である『マグネット・ウォリアー』が舞い戻る。強固な壁だが――全体攻撃を持つライズ・ファルコンの前では格好の餌食だ。

 

「αの効果で2枚目のベルセリオンを、βの効果で『磁石の戦士α』をサーチ」

 

「だが攻撃は続く!やれ!ライズ・ファルコン!ドラゴン・バスターに攻撃!」

 

「無駄だ!ドラゴン・バスターをリリースし、こちらも分裂!」

 

A―アサルト・コア 守備力200

 

B―バスター・ドレイク 守備力1800

 

C―クラッシュ・ワイバーン 守備力2000

 

榊 遊矢 手札4→5

 

「3体に攻撃!」

 

「墓地へ送られたバスター・ドレイクの効果でデッキから『Y―ドラゴン・ヘッド』をサーチ!」

 

「続けてエアーのモンスターへ攻撃!」

 

「この瞬間、3体の電磁石の戦士をリリースし、α、β、δを特殊召喚!」

 

磁石の戦士α 守備力1700

 

磁石の戦士β 守備力1600

 

磁石の戦士δ 守備力1400

 

榊 遊矢 手札5→6→7→8

 

「δの効果でデッキの『磁石の戦士γ』を墓地へ」

 

「全てのモンスターに攻撃!」

 

「δが破壊された瞬間、墓地の『磁石の戦士α』、β、γを除外し、デッキから『磁石の戦士マグネット・バルキリオン』を特殊召喚!!」

 

磁石の戦士マグネット・バルキリオン 守備力3850

 

榊 遊矢 手札8→9

 

δの効果により、墓地の『マグネット・ウォリアー』がフィールドに飛び交い、パーツが分解して合体する。2枚の翼を広げ、剣を握って現れる磁石の戦神。

 

「チッ、だがサテライト・キャノン・ファルコンでサンダーを攻撃!エターナル・アベンジ!」

 

「ぐぅぉっ!?」

 

オベリスク・フォース・サンダー LP4000→1000

 

サテライト・キャノン・ファルコンが猛スピードで飛翔し、暗闇に光を散らす宇宙へと辿り着き、砲門からレーザーを放ち、サンダーのLPを大幅に削り取る。ついにこのデュエルを動かす大ダメージが入った。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

黒咲 隼 LP4000

フィールド『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』(攻撃表示)『RR―ライズ・ファルコン』(攻撃表示)

『RR―ネスト』セット2

手札1

 

4人共、苛烈な猛攻続くバトルロイヤル、優位に立ったのは遊矢と隼だ。しかし、オベリスク・フォースとて手札を充分に補充した。何より2人はまだ――切り札を隠している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遊矢君大好き黒咲さん。これからも彼には遊矢君の兄貴分として場を和ませます。綺麗な黒咲、白咲さんなんだぜ。
オベリスク・フォース・サンダー……一体何者なんだ……。


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第70話 はぁ?何だこいつ

忘れていましたが禁止制限は以前のものを使っています。90話まではこのままで。
ところでアニメのズァークは5色のてんこ盛りカードとか。めっちゃ欲しけど裁定がクソ面倒臭そう。
ダベリオンも覇王バージョンになるし何で絵違いをあれにしてくれなかったんだ。


「俺のターン、ドロー!」

 

続く榊 遊矢&黒咲 隼VSオベリスク・フォース・サンダー&オベリスク・フォース・エアーのデュエル。激しさを増す中、ターンプレイヤーのサンダーがデッキより1枚のカードを引き抜く。これで手札は2枚、さて、どう出て来るか。

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキの上から10枚を除外し、2枚ドロー!更に『貪欲な壺』を発動!墓地のドラゴン・バスター2体と『サンダー・ドラゴン』を回収し、2枚ドロー!」

 

オベリスク・フォース・サンダー 手札1→3→4

 

「俺様はフィールド魔法『ユニオン格納庫』を発動!処理として『Z―メタル・キャタピラー』をサーチ!そして魔法カード、『予想GUY』!デッキから通常モンスター、『X―ヘッド・キャノン』を特殊召喚!」

 

X―ヘッド・キャノン 攻撃力1800

 

発動されたのは自分フィールドにモンスターが存在しない事を条件にした、デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚するカード。これによりフィールドに召喚されたのは、両肩に黒光りするキャノン砲を伸ばした青と黄のカラーリングのロボット。

 

「更に『Y―ドラゴン・ヘッド』を召喚!」

 

Y―ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500

 

次に登場したモンスターは真紅のボディを輝かせる機竜。その巨大な翼を広げ、天へと飛翔し、ライズ・ファルコン達を睨み付ける。これでX、Yの2体が揃い――。

 

「『ユニオン格納庫』の効果により、ドラゴン・ヘッドにデッキの『Z―メタル・キャタピラー』を装備!」

 

Y―ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500→2100

 

Zがフィールドに登場する。黄色いボディにモノアイを光らせ、キャタピラを回転させる機械族のモンスター。ギャリギャリと音を立てて走行し、ドラゴン・ヘッドと合体する。

 

「刮目しろ!フィールドの『X―ヘッド・キャノン』と『Y―ドラゴン・ヘッド』、そして『Z―メタル・キャタピラー』を除外し、融合召喚!『XYZ―ドラゴン・キャノン』!!」

 

XYZ―ドラゴン・キャノン 攻撃力2800

 

ガシャン、3体のモンスターが分裂して天へと飛翔し、稲妻を放つ。メタル・キャタピラーの身体へとドラゴン・ヘッドが合体し、更にヘッド・キャノンがその上に降り立つ。

3体合体、完成、『XYZ―ドラゴン・キャノン』。ABCと対を為す融合モンスターが肩のキャノンを唸らせ、雄々しく吠える。

 

「また合体モンスター……!」

 

「ふん、今度はさっきのものよりマシに見えるが……」

 

「俺は更に墓地のA、B、Cを除外し、融合召喚!『ABC―ドラゴン・バスター』!!」

 

ABC―ドラゴン・バスター 攻撃力3000

 

更に姿を見せる2頭の機竜。これでABCとXYZ、2体の合体モンスターが揃った。だがこれだけでは終わらない。合体ロボと合体ロボが2体揃ったならば――2体で合体するのがお約束と言うものである。

 

「とくと見るが良い!愚か者共!これが俺様の切り札!2体のモンスターを更に合体!融合召喚!『AtoZ―ドラゴン・バスターキャノン』!!」

 

AtoZ―ドラゴン・バスターキャノン 攻撃力4000

 

2体の融合モンスターに使用されたA、B、C、X、Y、Zの6体が分裂し、再びヘッド・キャノンの両肩にメタル・キャタピラーのパーツが角のように伸び、黒光りするキャノン砲にバスター・ドレイクのカノンが合体してレールガンとなる。更に両腕にバスター・ドレイクとクラッシュ・ワイバーンの身体がアームとなって装着される。脚になったメタル・キャタピラーの腕よりバスター・ドレイクとクラッシュ・ワイバーンの首が伸び、その下に合体したのはドラゴン・ヘッド、バスター・ドレイクとクラッシュ・ワイバーンの翼と首を得、更に下にはアサルト・コアが輝きながら尾を振るう。

 

「6体合体だと……!?DからWはどこへいった!?」

 

『カッコE』

 

「フハハハハ!これこそが我が最強の僕!さぁ行け!ドラゴン・バスターキャノン!ライズ・ファルコンに攻撃ィ!」

 

「罠発動!『RR―レディネス』!このターン、俺の『RR』は破壊されな――」

 

「ヴァカめ!手札を捨て、ドラゴン・バスターキャノンの効果発動!相手のモンスター、魔法、罠の発動を無効にし、破壊する!更に分離して攻撃へ――」

 

「移っても構わんさ!ライズ・ファルコンが破壊される前に!罠発動!『仁王立ち』!ライズ・ファルコンの守備力を2倍にし、除外してこのモンスターに攻撃対象を絞る!」

 

RR―ライズ・ファルコン 守備力2000→4000

 

隼の発動した『RR』最強の防御札、レディネスの効果がドラゴン・バスターキャノンの放つレールガンによって封じられ、そのままライズ・ファルコンを丸ごと呑み込む。手札を1枚捨てる事で発動される究極の無効化効果。これでは気安く行動する事が出来ない。

 

黒咲 隼 LP4000→3100

 

「ぐ――!」

 

「ククク、かわすか、だが俺にはまだ1枚手札が残っている。ターンエンドだ精々足掻け!」

 

オベリスク・フォース・サンダー LP1000

フィールド『AtoZ―ドラゴン・バスターキャノン』(攻撃表示)

『ユニオン格納庫』

手札1

 

これで次のターン、遊矢は1度だけだがカードの発動を封じられてしまった。やはり侮れない強敵だ。だが、遊矢はそんな彼のデュエルに心を踊らせれている事に気づく。彼等の扱う、見るも楽しい合体ロボットカード、それは確かに――エンターテイメントだと。

 

様々なモンスター達が変形し、合体を繰り返す、男のロマンが詰まったデュエル、それは確かに面白い。6体合体、こんなロマンが感じられるカードがフィールドに登場したのだ。もう遊矢はドキドキワクワクを止められない。

 

だがそれだけで遊矢は満足出来ない。もっともっと盛り上げたい。いや、違う、遊矢の中のエンタメデュエリストの性が言っているのだ。このデュエル――目立つのは俺だ――と。案外遊矢も負けず嫌いと言う事か。

 

「Ledies and Gentlemen!お楽しみは、これからだぁっ!!」

 

両手を咲き誇る花のように広げ、天に向かって雄々しく叫ぶ。突如放たれた開演の口上。その主たる遊矢へと、3人の視線と言う名のスポットライトが注がれる。

だがその表情にあるのは驚きと戸惑い。それもそうだ、隼は兎も角、オベリスク・フォースの2人はエンタメデュエル等、知る筈も無い。

 

「はぁ?何だお前」

 

思わずサンダーの口から呆れたような言葉が放たれる。それも仕方無いだろう、突然こんな事をする少年を前に、驚かない方が珍しい。しかも彼等が警戒しているのはどちらかと言うと隼だ。

彼はレジスタンスの生き残りにして、今まで何人ものアカデミアの兵を倒して来た為、その実力を知られ、要注意人物とされているが、遊矢は別、2人も遊矢の事はおまけ程度にしか考えていない。つまる所、隼に比べ、侮られているのだ。

しかし遊矢にはそんな事は関係無い。

 

「貴方達のフィールドには変形、合体を繰り返し、男達のロマンを擽るモンスター、ドラゴン・バスターキャノンとマグネット・バルキリオンが揃い、Mr.黒咲のライズ・ファルコンが倒されてしまいました!私もエースカードである『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』が封じられ大ピンチ!」

 

「ほう、分かってるじゃないか!そうだろう、そうだろう!俺のドラゴン・バスターキャノンは格好良いだろう!」

 

「待て遊矢、俺のライズ・ファルコンは倒されていない。休んでいるだけだ。あと急な名字呼びはこう、クるものがある」

 

「俺もいるぞ!」

 

外野がうるさいが今は無視だ。遊矢は左目を閉じ、ウィンクを飛ばし、右手の指をパチンと鳴らす。良い感じに興味が集まって来た。

 

「しかし!このエンタメデュエリストである榊 遊矢!助手である隼と共に見事この危機を乗り越えて見せましょう!」

 

「助手……ほう、それで何を手伝えば良い……工作なら任せろ!」

 

「ふん――面白い、出来るものならやってみろ!」

 

隼がワクワクと笑みを浮かべて遊矢へと振り向き、サンダーが口端を吊り上げ、挑発的な態度を取る。ならば――お言葉に甘え、このデュエルを更に盛り上げて見せようと、遊矢は閉じた目を開き――灰色に染まった瞳を輝かせる。

瞬間、それを見た隼は目を見開いて息を呑む。これは自分とのデュエルでも発現された状態、遊矢とユートのエクシーズ。

 

『俺のターン、ドローッ!!』

 

引き抜かれる1枚のカード、さぁ見せようでは無いか、勝利への方程式を。

 

「魔法カード、『エンタメ・バンド・ハリケーン』!自分フィールドの『EM』モンスターの数まで相手フィールドのカードをバウンスする!俺の『EM』は2体!ドラゴン・バスターキャノンとマグネット・バルキリオンをバウンス!」

 

「手札を捨て、その効果を無効に!」

 

「ドクロバット・ジョーカーを召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

遊矢の手から召喚されたのは『EM』におけるキーカード。遊矢のデッキの3大カテゴリ、『オッドアイズ』、『魔術師』、『EM』の内1枚をサーチする強力なカードだ。今までのデュエルでも彼に大きく貢献し、自身の重要さをこれでもかと言う位アピールしている。

継ぎ接ぎだらけのハットに黒い仮面、トランプのマークを散りばめた燕尾服を纏う金髪の道化師は、その口元に頼もしい笑みを描き、自身の立つ地をコツコツと爪先で叩く。

 

「ドクロバット・ジョーカーの召喚時、デッキから『EMギタートル』をサーチ!」

 

するとパタリと地面が捲れ上がり、巨大な石板が登場する。まるで古代エジプトの壁画のように、石板に描かれていたのは人間達に火炙りにされているギタートル。ドクロバット・ジョーカーが瞬時に右手の指を鳴らすと、ポン、と石板が煙を上げ、晴れたそこにあったのは1枚のカード。ドクロバット・ジョーカーは即座にその1枚を遊矢に投げる。

 

「俺は更に『EMギタートル』と『EMリザードロー』の2枚でペンデュラムスケールをセッティング!ギタートルとリザードローの効果で2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札7→8→9

 

『そして『EMレ・ベルマン』をセッティング!』

 

「ペンデュラム召喚!『EMリザードロー』!」

 

EMリザードロー 守備力100

 

更なる展開、遊矢が上空の魔方陣へと手を翳し、孔が開き、中より2本の柱がフィールドに降り注ぐ。現れたのはカードの襟巻きを巻いた蜥蜴。これで遊矢のフィールドには4体のモンスターが揃い、騒がしく、慌ただしくなる。

 

『レ・ベルマンのペンデュラム効果!』

 

「自分フィールドのペンデュラム召喚されたモンスターのレベルを1つ上げる!」

 

EMヘイタイガー レベル4→5

 

EMインコーラス レベル3→4

 

EMリザードロー レベル3→4

 

フィールドにベルの音が響き渡り、ドクロバット・ジョーカー以外のモンスターのレベルが1つずつ上がっていく。一見して意味の無い行動に見えるが――隼は見抜く。遊矢と、そしてユートの狙いを。

 

「レベル4となったリザードローとドクロバット・ジョーカーの2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

『漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!』

 

「現れろ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

黒雲が遊矢のフィールドを覆い尽くし、赤き雷鳴が轟く。鈍い光が煙を引き裂き、中より現れたのは漆黒の竜。刃の如く鋭く尖った翼を広げ、妖しく輝く逆鱗を震わせるユートのエースカード。その体躯に走る深紅の血流を閃かせ、サンダーのドラゴン・バスターキャノンを睨む。

 

「ダーク・リベリオンのORUを2つ取り除き、効果発動!ドラゴン・バスターキャノンの攻撃力を半分にしてその数値分このカードの攻撃力をアップする!トリーズン・ディスチャージ!」

 

「フン、凡才が考えそうな事だ!ドラゴン・バスターキャノンを除外し、除外されている『XYZ―ドラゴン・キャノン』と『ABC―ドラゴン・バスター』を特殊召喚!」

 

XYZ―ドラゴン・キャノン 攻撃力2800

 

ABC―ドラゴン・バスター 攻撃力3000

 

ドラゴン・バスターキャノン最後の効果が発動される。自身の融合を解除し、素材となった2体に分裂する『融合解除』を内蔵した効果により、ダーク・リベリオンの雷撃が不発となる。

高笑いし、勝利を確信するサンダー。しかし遊矢の手は止まらない。直ぐ様手札の2枚を翳し、追撃をかける。

 

『ならばこれはどうかな?魔法カード、『融合』を発動!』

 

「何ぃ!?」

 

これでダメでも次の演目がある。雪崩の如く襲いかかる遊矢のエンタメ、手を変え品を変え、千変万化のエンターテイメントが華々しく披露される。

彼の背後に青とオレンジの渦が巻き起こり、その中へとピンクのカバと『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』が吸い込まれていく。

 

「手札の『EMディスカバー・ヒッポ』と『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を融合!」

 

『融合召喚!出でよ!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!』

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の眼が『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』のように2色に輝き、その身体を発光させて姿を変えていく。青い体毛が生え、獣骨の鎧を纏い、額に黄金の眼が開く。これぞ遊矢とユート、2人の力を重ね、合わせた力。ペンデュラムからのエクシーズ、エクシーズからの融合。今まで培って来たものが一直線に結ばれ、振り子のように揺れる。

 

「ペンデュラムにエクシーズ、それに融合だと……!?貴様、一体幾つの召喚法を……!」

 

「バトルだ!ビーストアイズでドラゴン・キャノンを攻撃!」

 

『ヘルダイブバースト!』

 

野獣の眼を持つ竜のアギトより、赤き熱線が放たれ、ドラゴン・キャノンに襲いかかる。ドラゴン・キャノンもその肩の砲門より黄金のレーザーを放ち、応戦するも――灼熱の炎が、それを食らい尽くし、サンダーを貫く。

 

オベリスク・フォース・サンダー LP1000→800

 

「ビーストアイズの効果により、素材となったディスカバー・ヒッポの攻撃力、800のダメージを与える!」

 

「これが、エンタメデュエル……!ククク、合格だ榊 遊矢!だが覚えていろ!下には下がいる事を!次に勝つのはこの万じょ――」

 

オベリスク・フォース・サンダー LP800→0

 

オベリスク・フォース・エアー LP3100→2300

 

黒咲 隼 LP3100→2300

 

相変わらずの高笑いをその場に響かせ、遊矢を睨み、右手の指を突きつけるサンダー。彼が沢渡のように遊矢のエンタメデュエルを越えるリベンジの言葉を残し、極太の熱線に呑み込まれ――敗北した事により、光の粒子となってアカデミアに強制送還される。

残されたのは、カランと音を立て、地面に落ちるオベリスク・フォースの仮面。砕け散るそれを見て、エアーが遊矢を射抜くように睨む。

 

「――まさかサンダーを倒すとは――面白い……!」

 

「ッ!俺はカードをセットし、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMヘイタイガー』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)

セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMレ・ベルマン』

手札5

 

サンダーを倒し、残る敵はエアー1人。2対1ならば有利に進む筈だ。しかしそう簡単には事を運ばせてくれない。

この男、エアーとて、サンダーに負けず実力者。いや、もしかすると――サンダーよりも、その実力は高いかもしれない。サンダーを倒し、ユートとのエクシーズが解除され頬を緩める遊矢だが、直ぐに目を見開き気を引き閉める。何故なら――目の前のエアーが赤く迸る程の闘気を纏っていたから――。

 

「ッ!もしかしてこれ、今の状態じゃ無くなったらヤバいんじゃ無いか?」

 

『仕方あるまい、どう言う条件でああなるか分からない上、長続きしないからな』

 

思わず不安になって呟く遊矢に、エクシーズが解除され、ふわふわと遊矢の側を浮遊するユート。先程までの状態はユートの意志も明確に現れ、とんでも無い集中力と2人分の閃き、ドロー力が得られるのだが、そんな強化が何時までも続く筈が無い。それが無くなった今、この男を倒せるかどうか。しかし、そんな不安となる遊矢に、ユートがフッ、と薄い笑みを浮かべる。

 

『安心しろ。俺達には――頼れる友がいる』

 

「――そうだな」

 

隣で共に闘う友に視線を移し、遊矢も頷く。黒咲 隼、サンダーにもエアーにも匹敵する、強力なデュエリスト。遊矢は闘ったからこそ、その強さを知っている。

鉄の意思、鋼の強さ、その力と向き合ったからこそ、これ以上心強い仲間はいない。それに――彼は、遊矢と闘った時よりも、更に強くなっている。

それが、遊矢には嬉しい。絆をもう1度得たからこそ、彼が強くなった事が嬉しい。

 

「俺のターン、ドロー!まずは墓地の『電磁石の戦士』3体を除外し、ベルセリオンを特殊召喚!!」

 

電磁石の戦士マグネット・ベルセリオン 攻撃力3000

 

「ベルセリオンの効果で墓地のδを除外し、榊 遊矢のセットカードを破壊!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!このターン、インコーラスを対象を取るモンスター効果から守る!」

 

「魔法カード、『手札抹殺』!手札を入れ換え、更に魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキの上から10枚を除外し、2枚ドロー!」

 

オベリスク・フォース・エアー 手札3→4

 

「そしてバルキリオンをリリースし、墓地の『磁石の戦士α』、β、γを特殊召喚!」

 

磁石の戦士α 攻撃力1400

 

磁石の戦士β 攻撃力1700

 

磁石の戦士γ 攻撃力1500

 

「更に再び3体をリリースし、バルキリオンを特殊召喚!!」

 

磁石の戦士マグネット・バルキリオン 攻撃力3500

 

「ベルセリオンの効果発動!墓地の『磁石の戦士α』、β、γ、δ2体を体を除外し、黒咲のサテライト・キャノン・ファルコン及び榊 遊矢のモンスター、そして『EMギタートル』、『EMレ・ベルマン』を破壊!バトルだ!マグネット・バルキリオンで黒咲に攻撃!」

 

「墓地の『RR―レディネス』を除外し、ダメージを0に!」

 

エアーのフィールドのマグネット・バルキリオンが駆け抜け、隼のフィールドに襲い来る。しかし彼の前に透明のバリアが発生し、攻撃を防ぐ。ダメージが0となるならば――ターゲットは変更される。

 

「マグネット・ベルセリオンで『EMインコーラス』を攻撃!」

 

「ぐっ――!」

 

続けてマグネット・ベルセリオンが遊矢のフィールドに向かい、インコーラスへと槍を振るう。貫かれ、光の粒子となって消え去るインコーラス。だが――これで終わりじゃない。

「インコーラスの効果でデッキから『EMロングフォーン・ブル』を特殊召喚!」

 

EMロングフォーン・ブル 攻撃力1600

 

現れたのは角に電話をかけた牡牛のモンスターだ。ジリリと受話器を鳴らし、仲間を呼び込む。

 

「効果で『EMバリアバルーン・バク』をサーチ!」

 

「速攻魔法、『瞬間融合』!フィールドのマグネット・バルキリオンとマグネット・ベルセリオンで融合!融合召喚!『超電導戦機インペリオン・マグナム』!!」

 

超電導戦機インペリオン・マグナム 攻撃力4000

 

突如空間に亀裂が走り、渦が発生する。2体の磁石の戦士はその中へと飛び込み、それぞれ分裂し、6体の『マグネット・ウォリアー』となり、再び合体する。

上半身はマグネット・バルキリオンを基調とし、ベルセリオンの装甲を纏い、下半身は馬のようになり、翼を伸ばした姿。更に右手には鋭さを増した磁石の剣を握り、左肩にはバチバチと青い雷が散るレールガンを背負っている。

6体合体、完成、『超電導戦機インペリオン・マグナム』。『マグネット・ウォリアー』最強にして、エアーの切り札が降臨した。

 

「インペリオン・マグナムでロングフォーン・ブルを攻撃!」

 

「く――!手札の『工作列車シグナル・レッド』の効果発動――」

 

「インペリオン・マグナムの効果により、モンスター、魔法、罠の効果を無効に!」

 

「バリアバルーン・バクを捨て、戦闘ダメージを0に!」

 

「遊矢!」

 

インペリオン・マグナムの左肩のレールガンより雷が迸り、青い砲弾となってロングフォーン・ブルを撃ち抜く。バリアバルーン・バクによってダメージは防がれるが、強烈な爆風が遊矢を吹き飛ばし、遺跡の壁へとその身を打ち付け、隼が心配の声を上げる。

 

「まだだ!速攻魔法、『融合解除』!インペリオン・マグナムをデッキに戻し、素材となるバルキリオンとベルセリオンを特殊召喚!」

 

磁石の戦士マグネット・バルキリオン 攻撃力3500

 

電磁石の戦士マグネット・ベルセリオン 攻撃力3000

 

更なる追撃、素材での攻撃、バトルフェイズ中の融合、そして解除と畳み掛けるような展開。激しい火花が散る一瞬に、2人は息を呑む。やはり、この男は強い。

 

「バルキリオンでダイレクトアタック!」

 

「手札から『EMジンライノ』を捨て、バリアバルーン・バクを蘇生!」

 

EMバリアバルーン・バク 守備力2000

 

お次はとぼけた顔をした風船のようなバク。『EM』では優秀な壁となり、遊矢を守ってくれる頼れる仲間だ。

 

「くっ、バルキリオンで攻撃!」

 

「墓地の『EMジンライノ』を除外し、その破壊を防ぐ!」

 

「なんて固い……!ベルセリオンで攻撃!」

 

押しても引いても遊矢の鉄壁の布陣は崩せない。歯を食い縛り、強引に突破した頃にはもう手数が尽きている。

そんな彼だからこそ、黒咲は負けたと思ったのだ。ふんぎと粘る遊矢を見て、黒咲がその口元に笑みを浮かべる。

 

「メインフェイズ2、魔法カード、『融合』!再びバルキリオンとベルセリオンを融合!融合召喚!『超電導戦機インペリオン・マグナム』!!」

 

超電導戦機インペリオン・マグナム 攻撃力4000

 

再びエアーのフィールドに姿を見せる最強の『マグネット・ウォリアー』。青い稲妻を迸らせ、火花を散らす磁石の戦機。圧倒的な威圧感を放つその姿に遊矢は思わず後ずさる。強い、確かに他のオベリスク・フォースより遥かに強い。だがそれでも――遊矢は信じる。隼の勝利を。

 

「ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォース・エアー LP2300

フィールド『超電導戦機インペリオン・マグナム』(攻撃表示)

『禁止令』

手札0

 

「……」

 

スッ、と瞼を閉じ、隼は思考する。何故だろうか、圧倒的に不利な状況、確かに今までならばそれでも不安は無く、鼻で笑い飛ばし、自らの力に任せて相手を組伏せて来ただろう。

たが今は――それ以上に脱力し、リラックスしている。張りつめた弦のような感覚は無い。楽しい、デュエルをするのが楽しいのだ。思わず微笑む。やはり、こうで無くてはデュエルじゃない。

だがまだまだ満足出来ない。もっともっと面白くなれる、もっともっと高みに飛ぶ為に――。

 

「さぁ、反逆のエンターテイメントを始めようか!俺のターン、ドロー!行くぞ!魔法カード、『RUM-ソウルシェイブ・フォース』!LPを半分払い、墓地のフォース・ストリクスを特殊召喚し、2つ上のランクのエクシーズモンスターへとランクアップする!」

 

黒咲 隼 LP2300→1150

 

「無駄だ!インペリオン・マグナムは1ターンに1度、モンスター、魔法、罠の効果を無効にし、破壊する!」

 

隼の発動した一発逆転の一手、『RUM』がインペリオン・マグナムの放つ斬撃により切り裂かれ、真っ二つにされる。これではLPを失っただけ。しかし、隼のエンタメデュエルは幕を上げたばかり、終わって等いない。

 

「お楽しみはこれからだ!俺は墓地の『RUM-レイド・フォース』と手札の『RR―バニシング・レイニアス』を除外し、『RUM-ソウルシェイブ・フォース』を回収し、再び発動!墓地の『RR―レヴォリューション・ファルコン』をランクアップさせる!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』!」

 

黒咲 隼 LP1150→575

 

RR―サテライト・キャノン・ファルコン 攻撃力3000

 

この程度で不屈の闘志は燃え尽きない。それどころかLPを燃やし、隼は更なる高みへ昇る。墓地より火炎に包まれたレヴォリューション・ファルコンが現れ、大気圏を突破し、その灰色の翼に純白の装甲を纏い、宇宙の彼方から砲門を向ける。

 

「サテライト・キャノン・ファルコンの効果で相手の魔法、罠を破壊し、ORUを取り除き、インペリオン・マグナムの攻撃力をダウン!」

 

超電導戦機インペリオン・マグナム 攻撃力4000→0

 

「これが――エンタメデュエル――!」

 

天上に明滅する、赤き太陽のような光を見上げ、エアーが呟く。これが黒咲 隼のエンタメデュエル、その光の奔流が――全てを呑み込む。

 

「サテライト・キャノン・ファルコンでインペリオン・マグナムへ攻撃!エターナル・アベンジ!」

 

オベリスク・フォース・エアー LP2300→0

 

決着、勝者――榊 遊矢&黒咲 隼――。

 

――――――

 

「よう、お前も負けたか」

 

榊 遊矢と黒咲 隼との激闘後、アカデミアにて、長い廊下の壁に背を預け、エアーの帰還を待っていた男がそこにいた。暗がりで顔に影が射し、その表情は分からないが、どうやらエアーを馬鹿にして笑っているらしい。

 

「……お前だって負けただろう……」

 

「フン、俺様はまだ本気を出していない!」

 

「ふ、そうか……で、これからどうする?」

 

「奴からの任務であるスタンダード次元の実力は充分理解した……後はシンクロ次元だが……折角だ、ここを去る前に、あのハゲの企みを台無しにしてやろう」

 

「と、言うと――プロフェッサーの集めている少女の解放か」

 

エアーの問いかけに男、サンダーがニヤリと笑みを浮かべて頷く。だがそれには門番であるデュエリストを倒さねばならない。仕方無いかとエアーは溜め息をつき、懐から3枚のカードを取り出す。

 

「……何だ、それは?」

 

「ん、これか?スタンダードに着く前にプロフェッサーの部屋からくすねて来たカードだ――」

 

――――――

 

一方、スタンダード次元、火山エリアにて、桜樹 ユウは他の出場者を保護する為、フィールドを駆けていた。ユーゴには早くここから離れるようにと言われたが、彼の中にある良心や正義感が満身創痍の身体を突き動かしていたのだ。そうして行動を開始する内に、彼は意外な人物と合流していた。

紫色の癖毛に鋭い目付き、身体中に獣傷を負いながらも逞しい肉体を持つ少年、その名は――。

 

「そっちは大丈夫か、勝鬨?」

 

「ああ、どうやらここには誰もいないようだな」

 

勝鬨 勇雄。一眠りした為か、見事回復した彼は権現坂と別行動に移り、桜樹と共にオベリスク・フォースの迎撃をしていた。昨年のチャンピオンシップ優勝者と準優勝者のタッグだ。敵う者はいない。

 

「調べてないのは火山エリアの西側か」

 

「そうだな……しかし、お前……変わったな……」

 

勝鬨が積極的に人助けをする光景を見て、桜樹が呟く。そう、勝鬨は変わった。実際桜樹の知る勝鬨は試合中リアルファイトを挑んで来てフィールドを破壊し、足を滑らせその下敷きになって気絶した男なのだが。

 

「むっ、その話は止めろ、むず痒い」

 

照れたように頬を掻く勝鬨。彼にとってリアルファイトで勝利して来た事は黒歴史のようなものなのだ。と、談笑する彼等の前に――ガシャン、と金属音が響く。

鉄と鉄が擦り合う音に、2人は思わず振り向く。そこにいたのは、刺々しい漆黒の鎧兜を纏う、鉄仮面の男。彼は左腕に嵌めた黄金のデュエルディスクを構え、激しい闘志を剥き出しにする。

 

「デュエル――」

 

今再び、覇王と覇者がぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで今年の更新は終わりです。次回はちょっと遅くなると思います。
では皆様、良いお年を。


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第71話 ドルフィーナ星人

遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございますー。まだまだ実力不足でありますが、今年もこの作品をよろしくお願いします。
今回は前回の前書きでも書いた通り、禁止、制限は前の物を使用しています。これも十二獣って奴のせいなんだ。



熱気渦巻き、紅蓮の山脈がそびえ立ち、マグマ流れる火山エリア。そこにはその場に似合わぬ、刺々しく攻撃的な漆黒の鎧を身につけた男と灼熱にも負けぬ熱き闘志を迸らせる2人のデュエリストが対峙していた。

デュエルディスクを構え、神聖とも言える雰囲気を醸し出す甲冑の男を視界に収めながら、2人のデュエリスト、勝鬨 勇雄と桜樹 ユウは額から汗を伝わせ、一歩たりとも動けないでいた。

 

「……何だあいつ……!」

 

「強いな……!」

 

その原因は勿論、目の前の甲冑男。彼の圧倒的な存在が2人の足を地に縫いつけ、離そうとしない。

間違いなく強敵、オベリスク・フォース達とは比較にならないデュエリストだ。こんな男を自由にさせておく訳にはいかない。2人は覚悟を宿し男を睨む。2人で闘っても、勝てるかどうか分からない。だがそれでも――退く事は出来ない。

 

「良いだろう!デュエルがしたいならば相手になってやる!」

 

「俺達が相手だ!」

 

謎の強敵を前に、昨年のチャンピオンシップ優勝者と準優勝者がコンビを組む。光のプレートを展開する2人を見て、甲冑の男は納得したのか満足気に頷き、ザッ、と地を鳴らし足を広げる。

 

「我が名は覇王!勇者達よ、存分に全力を、死力を尽くせ!」

 

バサァッ、真紅の外套を揺らし、高々と名乗りを上げる男、覇王。恐らく本名と言うよりは通り名なのだろう。随分と強そうな通り名だ。気を引き締め、2人はデュエルに挑む。

 

「「「デュエル!!」」」

 

鳴り響くデュエルの音、スタンダード次元にて、融合次元の覇王が凱旋する。先攻は覇王だ。彼はデッキより5枚のカードを引き抜き、1枚のカードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「僕のターン、僕は魔法カード、『コンバート・コンタクト』を発動。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札の『N・フレア・スカラベ』とデッキの『N・グラン・モール』を墓地に送り、2枚ドロー」

 

覇王 手札3→5

 

「更にもう1枚発動だ。手札の『N・グロー・モス』とデッキの『N・ブラック・パンサー』を墓地に送り、2枚ドロー」

 

覇王 手札3→5

 

まずは手札交換を。次々と手札とデッキのモンスターを墓地に送り、新たなカードを手札に呼び込む覇王。見た目とは裏腹に随分と堅実な手を取る男だ。

 

「そして『N』キモチュッ……癒し系ネオスペーシアン、『N・エア・ハミングバード』を召喚」

 

N・エア・ハミングバード 攻撃力800

 

続けて覇王がその手札から召喚したのは花の密吸うハチドリの顔に筋肉質な男性の身体、純白の翼を広げた何とも言い難いモンスター。

鳥の頭にムキムキの身体とはこれ如何に。形容しづらい不気味さがある真っ赤なその姿に、勝鬨と桜樹が思わず別の意味で息を呑む。気のせいか、主人である覇王もキモチュッチュッと言い間違いそうになった。

 

「ライフチュッチュッギガント……エア・ハミングバードの効果発動。1ターンに1度、相手の手札の数×500LP回復する。お前達の手札は合計10枚、よって5000の回復だ。ハニー・サック」

 

「ちょっ、来るなぁっ!キモッ!手札から花が咲い……キモッ!」

 

「これのどこが癒し系だ!」

 

2人の5枚の手札から白い花弁が咲き誇り、エア・ハミングバードが翼を広げ、飛びながらその花の蜜を嘴で吸い上げる。

想像して欲しい。引き締まった肉体を持つ鳥人がバッサバッサと飛び回りながら自分の目の前で蜜を吸っている所を。最早シュールを越えてホラーである。

 

その証拠に桜樹が頬を引き吊らせ、「ひぃっ、こっち見たぁ!」等と怯えている。逆に勝鬨はジッ、と睨んでいる吸いづらいったらありゃしない。

 

覇王 LP4000→9000

 

しかし何時までもそんな事をしていられない。覇王のLPが一気に5000も回復し、合計で9000となったのだ。2人で挑んでも越えるLP、しかもバトルロイヤルルールでは1ターン目は攻撃出来ない為、効果で除去しない限り、次のターンでも回復される事になる。幸いなのは回復の目安が相手の手札と相手依存な事か。しかしまたチュッチュッされるのは勘弁したい。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

覇王 LP9000

フィールド『N・エア・ハミングバード』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「くっ、俺のターン、ドロー!俺は魔法カード、『グリモの魔導書』を発動!」

 

「速攻魔法、『相乗り』発動。このターン、相手がサーチ、サルベージを繰り返す度に1枚ドローする」

 

「ッ、僕は『魔導書士バテル』をサーチする!」

 

覇王 手札2→3

 

覇王の発動したカードを見て、桜樹の顔色が一気に変わる。何故ならばこのカードはサーチを繰り返す魔導デッキにおいては強力なメタカードとなるからだ。尤も、覇王が始めて闘う桜樹のデッキを知っている筈もなく、ドローソースとして採用しただけなのだが。

ただし、魔導自体は知っている為、桜樹が『グリモの魔導書』を発動した瞬間に発動する。

 

「俺はたった今手札に加えたバテルを召喚!」

 

魔導書士バテル 攻撃力500

 

青い法衣を纏い、瞼の重い魔法使いが欠伸を抑えながら『魔導書』を手に現れる。モンスターであるが『魔導書』の名を持つ為、サーチが容易なカードだ。

 

「バテルの効果で『セフェルの魔導書』をサーチ!」

 

覇王 手札3→4

 

「そして『魔導書院ラメイソン』を公開し、墓地のグリモを対象に『セフェルの魔導書』を発動!デッキから2枚目の『セフェルの魔導書』をサーチ!」

 

覇王 手札4→5

 

「フィールド魔法、『魔導書院ラメイソン』を発動!」

 

灼熱の火山が桜樹の発動したカードにより、近未来的な『魔導書』をおさめる銀の塔へと変化する。1ターン目から良い手札だ。お陰で幸先の良いスタートを切れた。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

桜樹 ユウ LP4000

フィールド『魔導書士バテル』(攻撃表示)

セット2

『魔導書院ラメイソン』

手札3

 

「自分のターン、ドロー!自分は『微炎星―リュウシシン』を召喚!」

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1800

 

更に変わって勝鬨のターン、彼はその手札から山吹色に燃える小竜を何体も従える鎧の武人を召喚する。残念ながらモンスターを破壊するユウシや、万能サーチである天キは引き込めなかった。ならば少しでも手札を減らし、場を固める事に努める。

 

「永続魔法、『炎舞―「天枢」』を発動!獣戦士族モンスターの召喚権を増やし、攻撃力を100アップする!」

 

微炎星―リュウシシン 攻撃力1800→1900

 

「更にリュウシシンの効果!『炎舞』魔法、罠が発動した場合、デッキの『炎舞』罠カードをセットする!自分は『炎舞―「天権」』をセット!そしてもう1度召喚権を使い、『殺炎星―ブルキ』を召喚!」

 

殺炎星―ブルキ 攻撃力1700→1800

 

次に現れたのは青い牛型の炎を纏った武人だ。もしも場が埋まった時の為に1枚だけ採用したカードだ。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『魁炎星王―ソウコ』!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2200→2300

 

勝鬨の背後に黒い星の渦が広がり、2体のモンスターを吸い込む。渦は急速に集束し、小爆発を引き起こす。爆風を引き裂き、現れたのは白い虎の炎を背負った武人。『炎星』の王が天へと吠える。

 

「ソウコのエクシーズ召喚成功時、デッキの『炎舞―「天キ」』をセット、オープン!『立炎星―トウケイ』をサーチし、獣戦士族の攻撃力を100上げる」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2300→2400

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

勝鬨 勇雄 LP4000

フィールド『魁炎星王―ソウコ』(攻撃表示)

『炎舞―「天キ」』『炎舞―「天枢」』セット2

手札3

 

「僕のターン、ドロー。エア・ハミングバードの効果発動。ハニー・サック」

 

「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」

 

「やめろぉっ!」

 

覇王 LP9000→12000

 

またもや2人の手札の花弁が咲き誇り、筋肉鳥人が飛翔し、嘴を突き立てチュッチュッする。ジッ、とこちらを睨みながら蜜を吸うエア・ハミングバードを見て、2人の精神にダメージが入っていく。効果的にも視覚的にも恐ろしい。早く処理しておきたい所だ。

 

「僕は『クロス・ポーター』を召喚」

 

クロス・ポーター 攻撃力400

 

赤い近未来的な鎧を纏い、青いバイザーで顔を覆った戦士族モンスターが召喚される。攻撃力も低いが、一体どのような効果なのだろうかと2人が身構える。

 

「『クロス・ポーター』の効果発動。エア・ハミングバードを墓地に送り、手札の『N・フレア・スカラベ』を特殊召喚」

 

N・フレア・スカラベ 攻撃力500→3300

 

『クロス・ポーター』の力を受け、エア・ハミングバードが光に包まれ粒子になって散り、もう1度光が集束して1つの影を作り出す。現れたのは黒い甲殻に身を包んだ人型のカブトムシ。

燃える炎をその手に掴むそのモンスターはフィールドに召喚された瞬間、爆発的に攻撃力を上げる。

 

「フレア・スカラベは相手フィールドの魔法、罠の数×400攻撃力をアップする。そしてもう1度『クロス・ポーター』の効果発動!自身を墓地に送り、手札の『N・グロー・モス』を特殊召喚する!」

 

N・グロー・モス 守備力900

 

再び『クロス・ポーター』の力を使い、『クロス・ポーター』自身を糧に半透明の人型モンスターが召喚される。まるで水飴で作られたかのような光輝く身体を持つその姿は宇宙人のようにも見える。一見してこのカードが植物族だとは分からないだろう。

 

「そして『クロス・ポーター』が墓地に送られた時、『N・グラン・モール』をサーチする!まだだ!魔法カード、『NEX』を発動!フィールドのグロー・モスを墓地に送り、エクストラデッキからレベル4の同名カード扱いのモンスター1体を特殊召喚する!来い、『N・ティンクル・モス』!」

 

N・ティンクル・モス 攻撃力500

 

グロー・モスが光を放ち、更なる進化を遂げる。水飴のような不安定な身体はシュッ、と線の細いシルエットで固定され、スマートな形状となり、頭は花の如く刺が伸び、その胸には女性的な膨らみが出る。進化前と違い、女性と明確に分かるモンスターだ。

 

「バトル!フレア・スカラベでソウコに攻撃!フレイム・バレット!」

 

「チッ、罠発動!『炎舞―「開陽」』を発動!ソウコの攻撃力を300アップする!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2400→2700

 

勝鬨 勇雄 LP4000→3400

 

罠カードを発動するも、攻撃力は未だフレア・スカラベが上、ダメージを軽減するだけでフレア・スカラベの放つ炎弾によってソウコが破壊されてしまう。それでも発動したのは後続のモンスターを残す為だ。

 

「ソウコが墓地に送られた時、天キ、天枢、開陽、3枚の『炎舞』を墓地に送り、デッキからレベル4以下の同じ攻撃力を持つ獣戦士族モンスターを特殊召喚する!来い!『暗炎星―ユウシ』!『勇炎星―エンショウ』!」

 

暗炎星―ユウシ 攻撃力1600

 

勇炎星―エンショウ 攻撃力1600

 

N・フレア・スカラベ 攻撃力3300→2100

 

勝鬨のフィールドに現れたのは山吹色に燃える熊と大猿の炎を連れた武人。『炎星』モンスターの中でも実用性、利便性の高いモンスターだ。これで再びレベル4のモンスターが2体揃った。ティンクル・モスでの追撃も出来ない、と、考えていたのだが――。

 

「ティンクル・モスでバテルへ攻撃!」

 

「相討ちだと!?」

 

「残念ながらそうじゃない。ティンクル・モスが戦闘を行う場合、僕はデッキから1枚ドローし、そのカードの種類によってこの攻撃は変化する。モンスターならばバトルフェイズは終了し、魔法ならばダイレクトアタック、罠ならば守備表示となる。そして僕が引いたカードは――魔法カード、『二重召喚』!よってダイレクトアタックだ!ティンクル・フラッシュ!」

 

覇王 手札3→4

 

桜樹 ユウ LP4000→3500

 

「ぐっ、う――!」

 

ティンクル・モスがバテルに攻撃したかと思うと、その身体がゴムのように伸び、上半身が桜樹自身に向かい、手刀を放つ。戦闘を行う度にドロー出来、自分からの攻撃では決して破壊される事は無い優秀なモンスターだ。

 

「メインフェイズ2、『二重召喚』を発動。再び得た召喚権で『クリバンデット』を召喚」

 

クリバンデット 攻撃力1000

 

先程ドローした『二重召喚』を使い、現れたのは頭にスカーフを巻き、眼帯を装着した鋭い目付きの小さな悪魔。相手の攻撃を防ぐ『クリボー』系列と似たカードではあるが、こちらの役割は墓地肥やしだ。最低でも4枚のカードを落とす事が出来るこのカードはその中でもかなり優秀と言える。

 

「ターンエンド。この瞬間、『クリバンデット』をリリースし、デッキの上から5枚を捲り、その中の魔法、罠1枚を手札に加える。『スペーシア・ギフト』を手札に」

 

覇王 LP12000

フィールド『N・フレア・スカラベ』(攻撃表示)『N・ティンクル・モス』(攻撃表示)

セット1

手札3

 

「俺のターン、ドロー!ラメイソンの効果で墓地の『セフェルの魔導書』をデッキに戻し、ドロー!」

 

桜樹 ユウ 手札4→5

 

「『魔導召喚士テンペル』を召喚!」

 

魔導召喚士テンペル 攻撃力1000

 

現れたのは茶色い汚れ1つ無いローブに身を包んだ魔法使い族のモンスター。

 

「そして手札の『アルマの魔導書』を公開し、墓地の『グリモの魔導書』を対象に『セフェルの魔導書』発動!デッキから『ヒュグロの魔導書』をサーチ!更に『魔導書』を発動したメインフェイズ、テンペルをリリースし、デッキから『魔導法士ジュノン』を特殊召喚!」

 

魔導法士ジュノン 攻撃力2500

 

ついに登場する魔導デッキのエースカード。純白の法衣を纏い、桃色の髪を靡かせた美しい女性魔導士が光を帯び、『魔導書』を手に降臨する。1ターンに1度ではあるが、カテゴリに属した『ダーク・アームド・ドラゴン』と言って良いカードだ。その効果の優秀さは充分に伝わる。

 

「墓地のグリモを除外し、ジュノンの効果発動!ティンクル・モスを破壊する!」

 

「永続罠、『安全地帯』!ティンクル・モスは戦闘、効果では破壊されない!」

 

ジュノンが手に持った『魔導書』を開き、雷をティンクル・モスへと放つ。しかし覇王が発動したカードにより、薄い膜状のバリアがティンクル・モスを覆い、雷を弾く。危ない所だった。もしもセットカードを選択すればジュノンに対して発動され、破壊する事でジュノンも失っていただろう。

ティンクル・モスは破壊出来なくなったが、同時に『安全地帯』に入る事でダイレクトアタックは不可能となった。

 

「俺はジュノンを選択し、『ヒュグロの魔導書』を発動。攻撃力を1000アップし、相手モンスターを戦闘破壊した場合、デッキから『魔導書』魔法カードをサーチする!」

 

魔導法士ジュノン 攻撃力2500→3500

 

「まだだ!『アルマの魔導書』を発動!除外されている『グリモの魔導書』を回収し、発動!デッキから『魔導書庫ソレイン』をサーチ、そして装備魔法、『ワンダー・ワンド』をバテルに装備!攻撃力を500アップ!」

 

魔導書士バテル 攻撃力500→1000

 

N・フレア・スカラベ 攻撃力2100→2500

 

「バトル!ジュノンでフレア・スカラベを攻撃!」

 

覇王 LP12000→11000

 

ジュノンの放つ緑の雷が『ヒュグロの魔導書』の力により炎を帯び、フレア・スカラベを穿つ。2対1、それも勝鬨がフィールドを圧迫する『炎星』の使い手となればそれを逆手に取って攻撃力を上げるこのカードは早めに除去しておきたい所だ。受動的な相手依存の効果もバトルロイヤルルールならば強力となる。

 

「ヒュグロの効果でグリモサーチ!バテルでティンクル・モスを攻撃!」

 

「ティンクル・モスの効果で1枚ドロー!……ドローカードは魔法カード、『コクーン・パーティ』……!」

 

覇王 LP11000→10500 手札3→4

 

バテルが本を開き、杖から黒い球体を生み出し、ティンクル・モスに向かって撃つ。『安全地帯』によって破壊はされないがダメージは別だ。バトルフェイズも終了出来ず、守備表示にも変更出来ない為、リアルソリッドビジョンの切れ味が覇王を貫く。

 

「メインフェイズ2、バテルと『ワンダー・ワンド』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

桜樹 ユウ 手札4→6

 

「ターンエンドだ」

 

桜樹 ユウ LP3500

フィールド『魔導法士ジュノン』(攻撃表示)

セット2

『魔導書院ラメイソン』

手札6

 

「自分のターン、ドロー!自分は永続魔法、『炎舞―「玉衝」』を発動!悪いが桜樹!少しの間、お前のセットカードを封じる!」

 

「構うな!」

 

暗炎星―ユウシ 攻撃力1600→1700

 

勇炎星―エンショウ 攻撃力1600→1700

 

勝鬨の発動したカードは相手フィールドのセットされた魔法、罠を封じるカードだ。残念ながら覇王の場にはセットカードが無い為、本来味方である桜樹を相手に使う事になったが、何も何時までも封じる訳では無い。

 

「そして『立炎星―トウケイ』を召喚!」

 

立炎星―トウケイ 攻撃力1500→1600

 

現れたのは紫色に燃える鶏を肩に止まらせた武人だ。その手に短槍を構え、勝鬨のフィールドに降り立つ。

 

「トウケイの効果!フィールドの玉衝を墓地に送り、デッキの天キをセット、オープン!デッキの『炎星師―チョウテン』サーチ!天キを墓地に送り、エンショウの効果で『安全地帯』を破壊!」

 

「手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、その効果を無効に」

 

「チッ、ならば2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『魁炎星王―ソウコ』!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2200

 

「召喚時、デッキの『炎舞―「天セン」』をセット!そしてソウコのORUを1つ取り除き、フィールドの獣戦士族モンスター以外のモンスターの効果を相手ターン終了時まで無効に!バトル!ソウコとトウケイでティンクル・モスを攻撃!」

 

覇王 LP11000→9300→8300

 

ソウコの効果でティンクル・モスの効果を封じ、戦闘破壊されない事を利用してサンドバッグ状態にする勝鬨。これで覇王のLPを大きく削る事が出来た。先は長いが、それでも大きな前進だろう。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

勝鬨 勇雄 LP3400

フィールド『魁炎星王―ソウコ』(攻撃表示)『立炎星―トウケイ』(攻撃表示)

セット3

手札2

 

「僕のターン、ドロー!ここまでやるとはな……僕は魔法カード、『コクーン・パーティ』を発動!自分の墓地の『N』モンスターの種類だけデッキの『C』モンスターを特殊召喚する!僕は『C・ドルフィーナ』、『C・ラーバ』、『C・チッキー』、『C・モーグ』を特殊召喚する!」

 

C・ドルフィーナ 守備力600

 

C・ラーバ 守備力300

 

C・チッキー 守備力400

 

C・モーグ 守備力100

 

一気に4体のモンスターの大量召喚。覇王のデッキより、繭に覆われたピンクのイルカ、幼虫、雛鳥、モグラが現れる。可愛らしいモンスターだが、騒がしく鳴き声を上げる光景は正しくパーティと言えよう。

 

「永続魔法、『コクーン・リボーン』発動。フィールドの『C』をリリースし、そのカードに記された『N』を墓地から特殊召喚する。ドルフィーナ、ラーバ、チッキー、モーグをリリースし、墓地のN・キモイルカ、『N・フレア・スカラベ』、N・キモチュッチュッ、『N・グラン・モール』を特殊召喚!」

 

N・アクア・ドルフィン 守備力400

 

N・フレア・スカラベ 攻撃力500→2900

 

N・エア・ハミングバード 守備力600

 

N・グラン・モール 攻撃力900

 

繭を突き破り、次々と成体へと成長する『C』達。幼きモグラは爪を鋭くし、肩からドリルを伸ばし、生意気そうながらも憎めないポップな姿に。幼き雛鳥はどうしてこうなったと顔を覆いたい位に真っ赤なムキムキボディの鳥人に。幼虫は自身を糸で覆い、蛹になった後、スマートなカブトムシに。

 

そしてピンク色の子供イルカは特にヤバかった。

2人の前でおたまじゃくしからカエルになるようにバキバキメリメリとヒレを手足に変え、エア・ハミングバードと同じく、頭はイルカ、身体はムキムキマッチョメンへと進化し、その光景を見た2人は顔を青ざめ、白目を剥き、歯と肩をガタガタと震わせる。

 

するとアクア・ドルフィンはそのシュールな姿を2人へと向かせ、えげつない程ピュアな目を輝かせ、その姿からは想像出来ない爽やかな声で挨拶する。

 

『やぁ、僕はドルフィーナ星人!『ネオスペース』の住人さ!』

 

「「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァ!!!」」

 

余りに常軌を逸脱した狂気の状況に2人が発狂し、大声で叫ぶ。仕方無いだろう。ソリッドビジョンの存在、それもキモイルカが喋ったのである。むしろ現実逃避して気絶しない方が凄い。しかし覇王はそんな事は気にしない。何時も通りと言わんばかりにその手を進める。

 

「まずはキモチュッチュッの効果発動。ハニー・サック」

 

『コナ……覇王、せめてカード名を……』

 

「キモチュッチュッの効果発動。ハニー・サック」

 

『……』

 

「ひぃ、また来たぁっ!」

 

「羽ばたくなっ!」

 

覇王 LP8300→12300

 

頑なにキモチュッチュッと呼称する覇王へと普通に抗議するエア・ハミングバードであるが、当然の如く「それ、却下でーす☆」されてしまう。

仕方無く2人の手札に咲く花の蜜を吸うも、こっちでも雑に扱われる始末。思わず彼は『仕事なんだよっ』と小声で呟き、2人を睨む。その背には何処か哀愁が漂っている。

これでまたLPを回復されてしまった。折角ダメージを与えても、その差は一向に縮まない。

 

「魔法カード、『エンシェント・リーフ』を発動!LPを2000払い、2枚ドロー!」

 

覇王 LP12300→10300 手札2→4

 

「そしてキモイルカの効果発動。手札の鬼畜モグラを捨て、相手の手札を確認し、その中からモンスター1体を選び、選んだモンスターよりも攻撃力が高いモンスターが自分フィールドに存在する場合、そのカードを破壊し、相手に500ダメージを与える。エコー・ロケーション」

 

『あの……名前……』

 

「エコー・ロケーション」

 

『……』

 

こちらも言わずもがなである。しれっとグラン・モールまでディスりながらピーピングにハンデスと恐ろしい効果を発動する覇王。声は爽やかなのに効果はその目のピュアさと同じくえげつない。仕方無く訂正を諦め、キモイルカは2人に向き直り――。

 

『ケケケケケ!』

 

「ぎゃぁぁぁぁっ!?」

 

「なん……何なのだこれは!?」

 

『ケケケケケ』と奇声を放ち、口から超音波を吐く。そのキモチュッチュッ同様、何とも言えない光景を見て、桜樹が目尻に涙を浮かべて叫び、勝鬨はその異様さに勝鬨る。対する覇王は公開される手札を見て、顎に手を当てて思考する。

 

「ふむ……チョウテンを破壊。パルス・バースト」

 

「ッ!何だこの屈辱感は……!」

 

勝鬨 勇雄 LP3400→2900

 

フィールドにフレア・スカラベが存在する事で攻撃力2900以下のモンスターをハンデスされる。よって攻撃力500のチョウテンを破壊され、何処か堪え難い屈辱を与えられる勝鬨。多分このキモイルカの効果が通れば誰だって同じ感じになる。

 

「そして魔法カード、『NEX』発動。キモイルカを墓地に送り、エクストラデッキから『N・マリン・ドルフィン』を特殊召喚!」

 

N・マリン・ドルフィン 守備力1100

 

更なる展開、グロー・モスに使用されたカードが今度はキモイルカに発動され、その筋肉が更に逞しく、そして身体が深い海底を思わせる青に染まる。

 

「魔法カード、『スペーシア・ギフト』を発動。フィールドの『N』1種につき、1枚ドローする。ティンクル・モスとマリン・ドルフィンはルール上、グロー・モスとアクア・ドルフィンとしても扱う。よって『N』は7種、7枚ドローだ!」

 

「何!?ティンクル・モスはソウコによって無効化されているのでは無いのか!?」

 

「この効果はルール上、つまり効果外テキストだ。よって無効にはならない!」

 

覇王 手札1→8

 

たった1枚のカードを使い、7枚ものカードをドローする覇王。その途中、勝鬨がまたも勝鬨るが結果は変わらない。しかし良く『C』と『N』の両者大量のカードをデッキに投入し、ここまで回せるものだ。この無茶なタクティクスを見て、勝鬨は2人の人物を思い浮かべる。1人は人々を楽しませるエンタメデュエリスト、榊 遊矢。そしてもう1人は――。

 

「もう1枚だ。7枚ドロー!」

 

「「何ぃ!?」」

 

覇王 手札7→14

 

圧倒的、暴力的な数のドローブーストが更に加速する。再び発動される『スペーシア・ギフト』に2人は表情を驚愕に染め、動揺を走らせる。計14枚のドロー。これ程迄に展開をしておいて、13枚の手札を要求する等、強欲にも程がある。

 

「そして手札を1枚捨て、キモイルカ改の効果発動!相手の手札から『魔導冥士ラモール』を破壊!500のダメージを与える!」

 

「ぐっ!」

 

桜樹 ユウ LP3500→3000

 

「まだだ、フィールド魔法、『ネオスペース』を発動!」

 

熱気渦巻く火山が覇王の発動した1枚のカードにより、オーロラのように美しい幻想的な宇宙に変貌する。

 

「そしてエア・ハミングバードとフレア・スカラベをリリースし――アドバンス召喚!『E・HEROネオス』!!」

 

E・HEROネオス 攻撃力2500→3000

 

2体の『N』をリリースし、覇王のフィールドに、光輝く闇が落ちる。黒い墨のように濃い影はその姿を人型へと変え、形状を固定しようとぐにゃぐにゃとおぞましくもがく。

 

逞しく鍛えられた胸筋の中央部には青く光るカラータイマーが存在し、身体中には赤いラインが走る。腕には鋭く伸びた刃、頭にも鮫の背鰭を思わせる角のようなものが伸び、緑の瞳がギン、と光の粒子を散らす。足はヒールの如く爪先が天に向かって尖り、全身が〝黒ずんだ灰色〟に染まったその英雄は、宇宙から飛来せし、少年の幻が生んだ、現実と言う名の奇跡。

 

その圧倒的な存在感、そして昔見たヒーローに似た姿に、相対する2人の喉がゴクリと鳴る。

 

「このモンスターは……!」

 

「明らかにものが違うな……!」

 

「僕はフィールドの『ネオス』とマリン・ドルフィンの2体をデッキに戻し、融合を行う!」

 

「『融合』カード無しの融合だと!?」

 

「カイキを使う君が言うか」

 

『融合』カードを使わない、全く新しい融合。その行為に勝鬨が3回目の勝鬨状態になるが、本人とてそれを使っている為、桜樹にツッコまれる。しかし1ターンに3回も勝鬨が勝鬨るとは、やはりこの覇王と言う男、只者ではない。

 

「これが新たな融合の形を作ったコンタクト融合だ!コンタクト融合!『E・HEROマリン・ネオス』!!」

 

E・HEROマリン・ネオス 攻撃力2800→3300

 

2体のモンスターが重なり合い、『ネオスペース』に水の力を司る新たな『ネオス』が現れる。深い青に染まった、イルカのパーツを合わせたような姿、本来ならばこの形態は第2形態と言って良い、強化されたものだ。

 

「マリン・ネオスの効果、相手の手札をランダムに1枚破壊する!」

 

「ッ、『グリモの魔導書』が……!」

 

「まだだ、魔法カード、『死者蘇生』!墓地の『E・HEROプリズマー』を特殊召喚!」

 

E・HEROプリズマー 攻撃力1700

 

継ぎに現れたのは鏡面のように眩く輝く身体を持ったプリズムの戦士。『E・HERO』の中でも優秀な効果を持つモンスターだ。他のモンスターとは違い、2人はこのモンスターの効果を知っている。

勝鬨はコナミのデッキに投入されている為、桜樹はコナミの事は良く知らないが、彼のデュエル自体は目を通している為である。

 

「プリズマーの効果により、エクストラデッキの『E・HEROグラン・ネオス』を公開し、デッキから『ネオス』を落とす事でプリズマーの名を『E・HEROネオス』に変更!リフレクト・チェンジ!」

 

E・HEROプリズマー(E・HEROネオス) 攻撃力1700→2200

 

プリズマーがその鏡面から眩い光を放ち、異なる姿へと変身する。攻撃的な腕や足、身体中を染め上げる黒ずんだ灰。再びフィールドに姿を見せる『ネオス』。元がプリズマーと分かっていても、その威圧感は本物に劣らない。

 

「『ネオス』となったプリズマーとグラン・モールをデッキに戻し、コンタクト融合!『E・HEROグラン・ネオス』!!」

 

E・HEROグラン・ネオス 攻撃力2500→3000

 

2回目のコンタクト融合。『ネオス』とグラン・モールを融合させ、大地の力司る『ネオス』が生み出される。左手は鋭い鉤爪、右手は巨大なドリルとなった力強さを感じさせるフォルムとなったグラン・ネオス。これで2体のコンタクト融合体が揃った。しかし、覇王の手は止まらない。ここまでやっておいて、まだ手札が9枚あるのだ。

 

「魔法カード、『ミラクル・コンタクト』を発動!墓地の『E・HEROネオス』と『N・フレア・スカラベ』をデッキに戻し、コンタクト融合!『E・HEROフレア・ネオス』!!」

 

E・HEROフレア・ネオス 攻撃力2500→6600

 

3回目のコンタクト融合、フレア・スカラベの炎が『ネオス』の身体を舐めるように燃え上がり、『ネオス』の頭部にクワガタのような2本角が伸び、背に甲虫の堅い羽が広がる。更に身体が甲殻に覆われ、2体のコンタクト融合体と並び立つ。

 

「フレア・ネオスはフィールドの魔法、罠の数×400攻撃力をアップし、『ネオスペース』は『ネオス』達の攻撃力を500アップする!そしてグラン・ネオスの効果により、ソウコをバウンス!ネビュラスホール!」

 

「永続罠、『炎舞―「天権」』!メインフェイズの間、ソウコの効果を無効にし、このカード以外の効果を受け付けさせない!」

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力2200→2500

 

立炎星―トウケイ 攻撃力1500→1800

 

グラン・ネオスがその右手のドリルでソウコを貫こうとするも、勝鬨が罠でそれを防ぐ。緑色の炎がソウコを囲み、これ以上進めないと察したグラン・ネオスは素早く飛び退く。

 

「ならばカードを2枚伏せ、フレア・ネオスの攻撃力をアップ!」

 

E・HEROフレア・ネオス 攻撃力6600→7400

 

「ティンクル・モスを守備表示に変更し、バトルに移る!フレア・ネオスでソウコに攻撃!バーン・ツー・アッシュ!」

 

攻撃力7400となったフレア・ネオスの攻撃、その手より灼熱の火球を作り出し、ソウコへと放つ。メラメラと激しく燃え上がる炎をも呑み込むこの火山エリアに脈打つマグマのような熱量。これを通せば勝鬨は負ける。しかしそうはさせまいと勝鬨がバック転で後ろに飛び退き、フィールドに落ちていたカードを拾い上げ、デュエルディスクに叩きつける。

 

「させん!アクションマジック!『回避』!攻撃を無効に!」

 

「ッ、アクション……マジック……!?」

 

突如拾い上げたカードが発動され、自身のモンスターの攻撃が無効にされた事で驚愕する覇王。その鉄仮面の中はさぞ動揺しているに違いない。覇王がグルリと周囲を見渡し、地面や空中に浮かぶ光に包まれたカードを視界におさめる。

 

「成程……あれが……バトルを続ける。マリン・ネオスでジュノンを攻撃!ハイパーラピッドストーム!」

 

「罠発動!『ガガガシールド』!発動後、このカードをジュノンに装備し、1ターンに2度まで戦闘、効果破壊を防ぐ!」

 

桜樹 ユウ LP3000→2300

 

マリン・ネオスが右手を翳し、大渦を起こし、丸ごとジュノンに叩きつける。熱く煮えたぎるマグマをも蒸発させる津波を前に、桜樹はその伏せられていたカードを発動し、ジュノンに盾を授ける。津波は盾によってモーゼの如く真っ二つに裂かれるものの、桜樹へとダメージを与える。

 

「グラン・ネオスでソウコに攻撃!」

 

「永続罠、『炎舞―「天セン」』!ソウコの攻撃力を700アップし、共通効果で更に300アップ!」

 

魁炎星―ソウコ 攻撃力2500→3500

 

立炎星―トウケイ 攻撃力1800→2300

 

「速攻魔法、『禁じられた聖典』!互いにバトルを行うモンスターの攻撃力を元々の数値にする!」

 

E・HEROグラン・ネオス 攻撃力3000→2500

 

魁炎星王―ソウコ 攻撃力3500→2200

 

勝鬨 勇雄 LP2900→2600

 

「速攻魔法、『コンタクト・アウト』!グラン・ネオスの融合を解除し、デッキから素材である『ネオス』とグラン・モールを特殊召喚する!」

 

E・HEROネオス 攻撃力2500→3000

 

N・グラン・モール 攻撃力900

 

相次ぐ効果の応酬、勝鬨が天センでグラン・ネオスにカウンターを仕掛けるも、覇王は更にその上からカウンターを叩きつける。更にコンタクト融合版、『融合解除』と言えるカードにより、グラン・ネオスが灰色の英雄と宇宙モグラへと分裂し、更なる追撃を得た。

 

「『ネオス』でトウケイへ攻撃!ラス・オブ・ネオス!!」

 

「アクションマジック、『奇跡』!トウケイは戦闘破壊されず、戦闘ダメージを半分に!」

 

勝鬨 勇雄 LP2600→2250

 

『ネオス』が地を蹴り、一瞬でトウケイに肉薄する。圧倒的加速力、常人離れした『HERO』の動きにトウケイは食らいつこうと短槍を構えるが、時既に遅し――しかしその時、勝鬨がアクションマジックで破壊を防ぐ。

 

「まだ終わらん!グラン・モールでトウケイを攻撃!ダメージ計算を行わず、グラン・モールとトウケイをバウンス!」

 

「何――!?」

 

これこそが覇王がグラン・モールを鬼畜モグラと呼ぶ由縁、たった1枚の下級モンスターはどんな強力なモンスターだろうとバウンスする。召喚権を使うものの、その効果は凶悪極まりない。

 

「メインフェイズ2、マリン・ネオスを対象に、リバースカードオープン、永続魔法、『魂の共有―コモンソウル』発動!手札のグラン・モールを特殊召喚し、マリン・ネオスの攻撃力をグラン・モールの攻撃力分アップする!」

 

N・グラン・モール 攻撃力900

 

E・HEROマリン・ネオス 攻撃力3300→4300

 

E・HEROフレア・ネオス 攻撃力7400→7800

 

「そして『ネオス』とグラン・モールをデッキに戻し、コンタクト融合!『E・HEROグラン・ネオス』!!」

 

E・HEROグラン・ネオス 攻撃力2500→3000

 

「グラン・ネオスの効果でジュノンをバウンス!ネビュラスホール!」

 

圧倒的、圧倒的な実力。フィールドには3000越えのモンスターが3体、バックは万全、手札も充分、LPは1万越えと2対1で闘っているにも関わらず、手も足も出ないような実力の差を思い知らされる。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド。この瞬間、マリン・ネオス以外のコンタクト融合体はエクストラデッキに戻るが――『ネオスペース』が有る限り、その効果は発動しなくても良い」

 

覇王 LP10300

フィールド『E・HEROマリン・ネオス』(攻撃表示)『E・HEROフレア・ネオス』(攻撃表示)『E・HEROグラン・ネオス』(攻撃表示)『N・ティンクル・モス』(守備表示)

『コクーン・リボーン』『魂の共有―コモンソウル』『安全地帯』セット2

『ネオスペース』

手札4

 

圧倒的な力を見せつける漆黒の覇王。オーロラの世界で輝く、宇宙の英雄を前に、2人は傷つき、差は開いていく。それでも2人の心は折れない。

例えどれだけ逆境に陥っても、希望を捨てず、闘って来た背中を思い出し、闘志を燃やす。最後に立つ者は、誰か――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人に罵倒されても健気に頑張るキモイルカとキモチュッチュッ、二次創作の精霊の扱いの醍醐味ですよね(白目)。
覇王の持っているネオスは偽ウルトラマン使用です。ようするに絵違いカード、やった意味は特に無い。
では次回、「キモイルカに転生した男」にて(大嘘)。


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第72話 孤高なる覇王の流儀

オベリオン「デザイン的に進化前の奴に上位互換の効果使われるとかお前マジかよwww」

ダーク・レクイエム「」




「俺のターン、ドロォォォォォッ!」

 

火山エリアにて、激しさを増す、覇王VS勝鬨 勇雄&桜樹 ユウのデュエル。桜樹のターンに回り、彼は身体中に檄を注入し、裂帛の気合いと共にデッキの上から1枚のカードを引き抜く。逆境だからこそ、闘志を燃やし、奮い立つべきだ。彼の気合いは勝鬨にも伝わり、互いの炎を更に発火させる。

 

「ラメイソンの効果発動!墓地の『セフェルの魔導書』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

桜樹 ユウ 手札6→7

 

「手札の『魔導書庫ソレイン』、『ゲーテの魔導書』、『アルマの魔導書』を公開し、手札のジュノンを特殊召喚!」

 

魔導法士ジュノン 攻撃力2500

 

「もう1体だ!もう1度ソレイン、ゲーテ、アルマを公開し、ジュノンを特殊召喚!」

 

魔導法士ジュノン 攻撃力2500

 

フィールドに現れる2体のジュノン。破壊効果を持つこの2枚のカードを使い、覇王のカードを破壊し尽くし、勝鬨へと繋げる。まずは1枚目。

 

「墓地の『グリモの魔導書』を除外し、ジュノンの効果でマリン・ネオスを破壊!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!マリン・ネオスを対象とするモンスター効果を無効に!」

 

しかし相手も強い。そう簡単に行かせてはくれず、ジュノンの放つ雷をバリアで防ぐ。だがまだチャンスは残っている。直ぐ様次の布石を打つ。

 

「魔法カード、『アルマの魔導書』発動!除外されている『グリモの魔導書』を回収、発動!デッキの『セフェルの魔導書』サーチ!手札のソレインを公開し、墓地のグリモをコピーする!『ヒュグロの魔導書』サーチ!まだだ!『魔導書庫ソレイン』発動!デッキの上の2枚からセフェルをサーチ!」

 

サーチ、サーチ、サーチ。連続するサーチカードに桜樹のデッキが圧縮され、その回転速度を上げる。ここで『魔導書の神判』があればと思うのはやはり魔導使いだからか。しかしパワーカード過ぎる為、帰って来る事は無いだろうが――日々、今ならイケる気がすると妄想するだけなら良い筈だろう。

 

「墓地のソレイン除外、2体目のジュノンの効果でフレア・ネオスを破壊!」

 

「手札の『エフェクト・ヴェーラー』を切り、無効」

 

「ッ!まだだぁ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『魔導法皇ハイロン』!!」

 

魔導法皇ハイロン 攻撃力2800

 

2回の無効を乗り越え、桜樹は自らの武器を抜く。現れたのは彼のエースカード、豪奢な法衣に身を包み、頭に冠を被ったタロットの法皇。例えジュノンの効果が通らなくとも、このカードの効果ならば一気に相手のバックを破壊し、桜樹の予想が正しいなら――フレア・ネオスとグラン・ネオス、2体の強力な『ネオス』を処理出来る。

 

「ハイロンのORUを1つ取り除き、効果発動!俺の墓地の『魔導書』カードの数、5枚まで魔法、罠カードを破壊!覇王!お前のカードを全て破壊する!『安全地帯』を失う事でティンクル・モスは破壊され、お前は『ネオスペース』が有る限り、コンタクト融合体はエクストラデッキに戻らないと言った!なら『ネオスペース』が無くなれば――どうだ!」

 

「頭の回転が早い奴だ。生徒に欲しい、が、まだ甘い!速攻魔法、『コンタクト・アウト』!」

 

「2枚目を温存していたのか……!」

 

「グラン・ネオスの融合を解除し、『ネオス』とグラン・モールを特殊召喚!」

 

E・HEROネオス 攻撃力2500

 

N・グラン・モール 守備力300

 

E・HEROマリン・ネオス 攻撃力3300→2800

 

E・HEROフレア・ネオス 攻撃力7000→4500

 

これこそが桜樹の狙い。相手の魔法、罠を破壊しつつ、コンタクト融合体を戻す。しかし覇王もまだ反撃の手は残っている。ハイロンの効果を無効には出来なかったものの、グラン・ネオスのバウンスを防ぎつつ、2体のモンスターを特殊召喚する。

だがこれで活路は開いた。『ネオス』達を弱体化させ、フレア・ネオスの除去を確定させたのだ。流石はユースクラス最強、前回のチャンピオンシップの覇者と言う事か。

 

「魔法カード、『ヒュグロの魔導書』でハイロンの攻撃力を1000アップ!」

 

魔導法皇ハイロン 攻撃力2800→3800

 

「攻撃だ!ハイロン、マリン・ネオスを倒せ!」

 

「チ――!」

 

覇王 LP10300→9300

 

ハイロンが杖から光輝く球体を撃ち出し、閃光がマリン・ネオスを貫く。疾風が覇王の背から伸びる真紅のマントを揺らし、礫が鎧にカツンとぶつかり、思わず舌打ちを鳴らす。

 

「『ヒュグロの魔導書』の効果で『グリモの魔導書』をサーチ!カードを2枚伏せ、ターンエンド!フレア・ネオスはエクストラデッキに戻る!」

 

桜樹 ユウ LP2300

フィールド『魔導法皇ハイロン』(攻撃表示)

セット3

『魔導書院ラメイソン』

手札3

 

「自分のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』発動!そして天権を墓地に送り、『マジック・プランター』発動!2枚ドローする!引いた中にもう1枚、天センを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

勝鬨 勇雄 手札1→3→4

 

「この瞬間、俺は速攻魔法、『ディメンション・マジック』を発動!ハイロンをリリースし、手札の『魔導鬼士ディアール』を特殊召喚!そしてグラン・モールを破壊する!」

 

魔導鬼士ディアール 攻撃力2500

 

「そう来るか……!」

 

勝鬨のサポートをすべく、桜樹が手を回す。魔法使い族の世紀の大魔術、『ディメンション・マジック』。それによりハイロンがボックスに入り、次々とナイフが刺さる。そしてボックスが開き、血祭りに上げられたのは鬼畜モグラ。回りに回ったツケだろう。そしてボックスを踏み台に、おどろおどろしい鬼が姿を見せる。

 

「助かる。自分は『融合』を発動!手札の『天融星カイキ』と『地翔星ハヤテ』で融合!天に融けし者よ、地を飛び、今一つとなって悠久の覇者たる星と輝け!融合召喚!来い!『覇翔星イダテン』!!」

 

覇翔星イダテン 攻撃力3000

 

桜樹の支援を受け、勝鬨は手札を切る。その手から翳した1枚は『融合』。最近では『炎星』エクシーズ達を使っているが、やはり彼の得意とするのはこれだろう。2体のモンスターが力を合わせ、紫の甲冑纏う覇者となる。

 

「バトルだ!イダテンで『ネオス』に攻撃!」

 

「墓地の『ネクロ・ガードナー』を除外し、攻撃を無効にする」

 

イダテンが手に持った漆黒の槍を『ネオス』に突き出す。この攻撃が通ればイダテンの効果で『ネオス』の攻撃力は0となり、大ダメージを与えられるのだが――覇王は墓地より赤い鎧の戦士の効果を使い、『ネオス』の前にバリアを作る。

 

「硬いな……カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

勝鬨 勇雄 LP2250

フィールド『覇翔星イダテン』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「僕のターン、ドロー!魔法カード、『ミラクル・コンタクト』!墓地の『ネオス』とキモイルカ、キモチュッチュッをデッキに戻し、トリプルコンタクト融合!!」

 

「トリプル!?」

 

「コンタクト!?」

 

覇翔が更にその実力を剥き出しにする。3体のモンスターを素材に要求する、コンタクト融合のその先。銀河の英雄に、水と風の『N』が重なり、礫の如き鋭い雨を降らせた暴風を巻き起こす。

『ネオス』とキモいの2体の合体、それがどのような化学反応を起こすのか、2人はその表情に緊張を走らせる。

 

「3つの力が1つとなった時、遥か大宇宙の彼方から、最強の戦士を呼び覚ます!トリプルコンタクト融合!銀河の渦の中より現れよ!『E・HEROストーム・ネオス』!!」

 

E・HEROストーム・ネオス 攻撃力3000

 

2人の予想とは裏腹に、現れたのは正統派の『HERO』だ。身体全体を鮮やかな青に染め、背に巨大な翼を広げた3体の強大な力を内包した新たな『ネオス』。その纏う嵐は大宇宙のブラックホールさえも引き裂く。

 

「ストーム・ネオスの効果!1ターンに1度、フィールドの魔法、罠を全て破壊する!僕の場には既にバックは無い。やられたら倍にして返す、それが孤高なる覇王の流儀だ!アルティメット・タイフーン!」

 

「くっ、ならばこちらも速攻魔法、『ゲーテの魔導書』を発動!」

 

「チェーンにして永続罠、『炎虎梁山爆』を発動!桜樹!」

 

「それだと思ってたよ!更にチェーンにして罠発動!『ホーリーライフバリアー』!手札を1枚捨て、このターン、僕が受ける全てのダメージを0にする!」

 

「何――!?」

 

ストーム・ネオスの効果にチェーンにして、3つのカードが発動される。それを見てしまったと思ったのは覇王。桜樹のゲーテは予想していたが――、勝鬨の発動したカードは予測の外側、しかも桜樹が更にそれに合わせたのだ。2人の阿吽の呼吸が覇王を切り裂く刃となる。

 

「逆順処理だ、桜樹の『ホーリーライフバリアー』が発動され、自分の『炎虎梁山爆』の効果で自分フィールドの永続魔法、永続罠の枚数分、LPを500回復!」

 

勝鬨 勇雄 LP2250→2750

 

「そして俺のゲーテの効果により、墓地のアルマ、セフェル2枚の合計3枚の『魔導書』魔法カードを除外し、3つ目の効果を適用!ストーム・ネオスを除外!」

 

「さて、次はお前の番だ。ストーム・ネオスの効果で魔法、罠が破壊され――破壊された『炎虎梁山爆』の効果で、自分の墓地の永続魔法、永続罠の数×500ダメージを相手に与える!その数は8枚!よって4000のダメージ!桜樹は『ホーリーライフバリアー』によって受けないがな……!」

 

「……!」

 

一気に4000ものダメージ。LPが初期値ならばピッタリ削り取れる数値だ。しかし桜樹はこのダメージを既に回避している。よって覇王のLPのみが削られると言う訳だ。

大胆不敵、驚天動地のコンビネーション。しかもゲーテの効果により、ストーム・ネオスが除去され、思わず鉄仮面の奥の目を見開く覇王。

瞬間、勝鬨の右足に金色に輝く焔が駆け抜け、不敵な笑みを浮かべる。更にその場を疾駆し、勢いのまま大きく跳躍。右足を突き出し、覇王へと食らわせる。

 

「少森寺拳法、我流、『炎虎梁山爆』蹴り――!!」

 

覇王 LP9300→5300

 

「ぐ……ぅぁ……っ!?」

 

「……お前、暴力はやめたんじゃ無かったっけ?」

 

「演出演出」

 

覇王を背に、勝鬨が右足に宿った焔を振るい、金色の粉が散る。そのまま勝鬨はバック転で桜樹の元へと帰っていく。

圧倒的なダメージを受け、鎧にひびが走り、軋み、よろめく覇王。だがまだまだ、先は長い。

 

「――!ぺたんこ姉妹並のコンビネーションと、BBにも劣らない身体能力か。面白い……!フレア・スカラベを召喚!」

 

N・フレア・スカラベ 攻撃力500

 

「『ネオス』とフレア・スカラベでコンタクト融合!『E・HEROフレア・ネオス』!!」

 

E・HEROフレア・ネオス 攻撃力2500

 

「僕は装備魔法、『インスタント・ネオスペース』をフレア・ネオスに装備する」

 

E・HEROフレア・ネオス 攻撃力2500→2900

 

「ターンエンドだ。『インスタント・ネオスペース』を装備したコンタクト融合体はエクストラデッキには戻らない」

 

覇王 LP5300

『E・HEROフレア・ネオス』(攻撃表示)

『インスタント・ネオスペース』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!チューナーモンスター、『エフェクト・ヴェーラー』を召喚!」

 

エフェクト・ヴェーラー 攻撃力0

 

彼がその手から召喚したのは覇王も使ったレベル1のチューナーモンスターだ。相手ターンのみだけ手札から捨てる事でモンスターの効果を無効にする効果は、手札誘発系の中でも優秀な部類に入る。ただし今回はチューナーとしての活用だが。

 

「レベル6のディアールにレベル1『エフェクト・ヴェーラー』をチューニング!シンクロ召喚!『アーカナイト・マジジャン』!」

 

アーカナイト・マジジャン 攻撃力400→2400 魔力カウンター0→2

 

「『アーカナイト・マジジャン』はシンクロ召喚に成功した時、魔力カウンター2つを自身に置き、その数×1000攻撃力を上げる。そしてカウンターを1つ使い、フレア・ネオスを破壊する!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、このターン、フレア・ネオスを対象とするモンスター効果を封じる!」

 

「ならもう1つを使い、『インスタント・ネオスペース』を破壊!」

 

アーカナイト・マジジャン 攻撃力2400→400 魔力カウンター2→0

 

「更に魔法カード、『ミラクルシンクロフュージョン』発動!フィールドの『アーカナイト・マジジャン』と墓地のハイロンで融合!融合召喚!『覇魔導士アーカナイト・マジジャン』!!」

 

覇魔導士アーカナイト・マジジャン 攻撃力1400→3400 魔力カウンター0→2

 

シンクロモンスターとエクシーズモンスターを使用しての融合召喚。これまでの全てがこの為の布石と言わんばかりの一手に覇王はおろか、勝鬨までも目を見開く。これが桜樹の新たな切り札、漆黒の法衣に青の光を走らせ、巨大な杖を振るう魔法使い。魔導の真髄を極めし者が、今フィールドに降り立つ。

 

「更に墓地の『魔導書院ラメイソン』、『グリモの魔導書』、『ゲーテの魔導書』を除外し、ディアール復活!」

 

魔導鬼士ディアール 攻撃力2500

 

「バトルだ!覇魔導士でフレア・ネオスを攻撃!ディアールでダイレクトアタック!」

 

覇王 LP5300→4400→1900

 

2体が巨大な魔力の奔流を合わせ、黒く輝く球体を作り出す。球体は高速で回転しながら撃ち出され、覇王の身体を貫く。ピシリ、またしても甲冑に亀裂が走り、真紅のマントが揺れ、膝をつく。

 

「ターンエンドだ」

 

桜樹 ユウ LP2300

フィールド『覇魔導士アーカナイト・マジジャン』(攻撃表示)『魔導鬼士ディアール』(攻撃表示)

手札0

 

「自分のターン、ドロー!バトルだ!イダテンでダイレクトアタック!これで、終わりだぁっ!」

 

渾身の力を込めた一撃、最後の一振りが覇王へ向かい、漆黒の刃がその鎧を貫く――その、前に。

 

「手札の『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する――!」

 

現れたる最高の防御札。草臥れた三角帽子にワインレッドのサングラス、2本の木の枝をクロスさせ、かかしがイダテンの一撃を防ぐ。ここに来てこのカード、とんでも無い豪運だ。重い盾を前に、槍は押しても前に進まない。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

勝鬨 勇雄 LP2750

フィールド『覇翔星イダテン』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

桜樹と勝鬨、両者共に全力を尽くし、覇王を追い詰める。一万以上あったLPを削り、今や彼のフィールドのカードは0。対する2人のフィールドには切り札級のモンスターが揃い、隙の無い布陣となっている。

 

「……見事、と言わざるを得ないな。2人がかりとは言え、僕のLPをここまで削り、自慢のモンスターも事如く破壊して来た。称賛に値する。勇者達よ、名を聞こうか」

 

「……桜樹 ユウ」

 

「……勝鬨 勇雄」

 

「桜樹と勝鬨、か、覚えておこう。そして誇れ、アカデミアでもこれ程までに僕と渡り合える者は少ない」

 

「……自慢か?」

 

「フ――そうだな、そう捉えてもらっても構わん。今の僕は未熟ながら教師。導く者として教えてやろう、上には上がいる」

 

瞬間、ゴウッ!と覇王を中心として激しい烈風が吹き抜ける。熱を帯び、肌をジリジリと焦がすようなそれに、2人の顔が強張る。目を背向けたくなるような圧倒的な力、その正体を勝鬨は脳裏に浮かべる。これは一種に、氣や気合いと呼ばれるものだろう。丹田から放たれる強者の気迫。それが剥き出しとなって、2人に襲いかかる。

 

「僕のターン……ドロォォォォォッ!!」

 

その手甲を嵌めた手を翳し、勢い良く1枚のカードを引き抜く覇王。風が逆巻き、突風が漆黒の軌跡に染まる。それはまるで、あの時の、闇に呑まれた遊矢が創り出した暗黒のアーク、覇王のドローが、そこにはあった。

 

「たった1枚のカードが世界を変える。それがデュエルと言うものだ。魔法カード、『ホープ・オブ・フィフス』!墓地の『E・HEROマリン・ネオス』、『E・HEROフレア・ネオス』、『E・HEROアナザー・ネオス』、『E・HEROプリズマー』2体をデッキに戻し、2枚ドロー!更に、フィールドにこのカード以外のカードが無い為、追加でドロー!」

 

覇王 手札0→3

 

たった1枚のカードから手札を3枚まで回復させる脅威的な豪運。圧倒的な力によって引き込まれるとんでも無い荒業が炸裂する。やはりこの男は、遊矢やコナミと同じ、カードに選ばれた者なのだろう。

 

「3枚目の『ミラクル・コンタクト』を発動!墓地の『E・HEROネオス』、『N・ティンクル・モス』、『N・ブラック・パンサー』の3体でトリプルコンタクト融合!!『E・HEROカオス・ネオス』!!」

 

E・HEROカオス・ネオス 攻撃力3000

 

2度目のトリプルコンタクトが炸裂する。覇王の背後に集結したるは、灰色に染まった『ネオス』と女性的なシルエットを持つ透き通った人影、そしてマントを靡かせた黒豹。3体が1つとなり、現れたのは黒いスーツに純白の鎧を纏い、蝙蝠のような巨大な翼を広げ、鋭い鉤爪を持つ混沌の『HERO』。コンタクト融合体では最も御しにくいカードではあるが――覇王やそれに比肩する実力者なら、その真価を発揮する。

 

「カオス・ネオスの効果発動!コイントスを3回行い、その表の数によって効果を適用!運命のコイントス、当然全て表ぇ!」

 

何かがおかしい。覇王のフィールドにソリッドビジョンのコインが出現し、弾かれる。3つのコインは上空でぶつかり合い、地でクルクルと回転し、同時にパタリと倒れ、全て表となる。適用する効果は――。

 

「相手モンスターを全て破壊!」

 

「何――!?」

 

カオス・ネオスが翼を広げ、飛翔し、鋭き鉤爪で2人のフィールドのモンスターへと斬撃を飛ばし、爆発して風が頬を撫でる。

 

「装備魔法、『アサルト・アーマー』をカオス・ネオスに装備!」

 

E・HEROカオス・ネオス 攻撃力3000→3300

 

「そして墓地に送り、2回の攻撃権を得る。そして魔法カード、『ダーク・コーリング』発動!墓地の『E―HEROマリシャス・エッジ』とグラン・モールで融合!融合召喚!『E―HEROダーク・ガイア』!!」

 

E―HEROダーク・ガイア 攻撃力3500

 

熱が渦巻く大地が隆起し、火柱が食い破るように天へと昇る。灼熱の溶岩を散らし、中から現れたのは白い岩石の鎧を纏い、悪魔の翼を伸ばしたダーク・ヒーロー。『ネオス』達とは全く方向性が違う、Eが目を覚ます。

 

「『E―HERO』……!?」

 

「バトルだ!ダーク・ガイアで勝鬨へ攻撃!ダーク・カタストロフ!」

 

「罠発動!『エクシーズ・リボーン』!ソウコを特殊召喚し、このカードをORUにする!」

 

魁炎星王―ソウコ 守備力1800

 

「最後まで全力を尽くすか――ソウコに攻撃変更!」

 

ダーク・ガイアがその右手を翳し、火山エリアの岩石を掌に集め、巨大な球体を作り出す。マグマが流れる岩石の球体、圧倒的なエネルギーを内包したそれはソウコ目掛けて投げ出され、押し潰す。

 

「――終わりだ、カオス・ネオスで攻撃――!ライト・アンド・ダークスパイラル!!」

 

桜樹 ユウ LP2300→0

 

勝鬨 勇雄 LP2750→0

 

繰り出される最後の攻撃、カオス・ネオスより放たれる光と闇が2人の身体を呑み込み、そのLPを削り取る。膨大なダメージは2人の身体に数多の傷を刻み――その堪え切れない痛みに、2人は意識を手放し、倒れ伏す。

勝者、覇王。彼は自身を相手に健闘した2人を心の中で讃え、くるりと踵を返す。

 

「安心しろ、カード化はしない。安全な場所まで運んでやる。力をつけ、また再び闘える事を楽しみに待つ。それこそが僕達の流儀、そうだろう?バレット――」

 

そう呟く覇王の前には、1人の男の姿。蒼い髪をオールバックに流し、眼帯を着け、胸に大きな傷を負ったその大柄な男の名は――バレット。

 

「……久し振りだな、覇王――いや、友ならばこう呼ぶべきか?」

 

――コナミ――。

 

――――――

 

アカデミアよりの苛烈な侵略が続く中、火山エリア、覇王達が存在するその反対方向にて、コナミはひたすらに駆けていた。目的は1つ、神楽坂が言っていた先生、本物を見つける事。

必死に探す彼の元に、黒い重厚なボディを煌めかせたD-ホイールが並ぶ。コナミの子分、黒門 暗次だ。彼はスピードを緩め、コナミへと声をかける。

 

「兄貴!何してんスか!?今何かこの大会スゲェ事になってんスけど――」

 

「暗次か!ちょうど良い!オレを乗せてくれ!探している奴がいるんだが、見つからなくてな!」

 

「事情は分かりませんが了解ッス!トバしますから後ろに乗って――」

 

暗次がコナミの頼みに二つ返事で了承し、D-ホイールを停止させた、その瞬間、2つの影が、彼等の前には降り立ち、その行く手を遮った――。

 

 

 

 

 

 

 




勝鬨君、桜樹君リタイア。カード化はされませんが病院送りです。勝鬨君は桜樹君に比べ軽傷ですが。ランサーズ入りには迷ったのですが、2人共ランサーズになると他のキャラの活躍を奪ったりキャラを食う可能性もありますので、特に勝鬨とか言う割りと万能キャラ、お前だよ。
シンクロ次元が大会じゃ無ければなぁ、大会だからこそやりたい事もあるし。ただ2人共怪我さえ無ければ社長的に黒咲さんに続くランサーズ最有力候補でした。自分もセキュリティのレベルが無ければ(以下略)に嬉しそうに頷く勝鬨君を書きたかったです。



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第73話 行くしかあるまい!

ディメボも押さえられず、入荷もしない。近くのショップで目当てである調弦がシングルで売ってるのを見て「おお!」と思ったのも束の間、お値段2000ちょっと。……足元見やがって……!財布の魔術師に改名しろ!とショーケースを蹴りたくなった。今は値が落ちるのを待つのじゃ。


天に輝く太陽が沈み始め、山吹色に燃える頃、榊 遊矢はその背にスヤスヤと眠るアリトを背負い、火山エリアを駆けていた。

その傍には隼の姿。彼等はオベリスク・フォース達を見事倒し、仲間達の下へと急いでいる途中なのだ。

 

「……しかし、本当に気持ち良さそうに寝てるな。アリト、だったか?叩き起こしてやりたくなる。ところで重くないか遊矢?何なら俺が変わるが……」

 

「うん、そうしたいんだけどさ……」

 

アリトを背負う遊矢を心配し、隼が交代の申し出をかけるも、遊矢はそれを渋る。一体どう言う事だろうか、首を傾ける隼に、まぁ、こう言う事だけど。と遊矢がアリトを近づけた瞬間、アリトの鼻がひくひくと動き、その顔色が変わる。

 

具体的に言えば、にへらとだらしなく口元を緩め、涎を垂らし幸せそうな表情から、異臭を嗅いだような、しかめっ面となり、豚の如く「フガッ」と鼻を鳴らすものへと。

明らかに態度が違う。その変貌っぷりに隼が額に青筋を浮かべ、アリトの肩を掴んで激しく揺する。

 

「貴っ様ぁ!何だその顔は!?俺に背負われるのが嫌なのか!?ええおい!臭いのか!臭いと言うのか俺が!そりゃエクシーズ次元でアカデミアと闘っていた頃は風呂に入れない時もあったがなぁ!今はLDSで世話になっているから臭くない筈だ!匂ってみろ!もう1度匂ってみろ!」

 

「ちょっ!?隼、やめっ、背負っ、ているからっ、俺も揺れるっ!」

 

その表情を憤怒に変え、ひたすらにアリトを揺する隼。当然彼を背負っている遊矢にもとばっちりが来る。ここまでされてもアリトは眠ったまま、それどころか遊矢から離れまいと両腕を巻き付け、両足を腰へと回し、所謂逆だいしゅきホールドをかける。男同士なので遊矢にとっては何の得にもならず、むしろ腰にナニか固いものが当たって気が気でない。

 

「貴っ様ぁ!何を遊矢にだいしゅきホールドをしているんだ!ナニを押しつけているんだ貴様はぁ!?当ててんのよして良いのは乳だけだこの馬鹿めぇっ!」

 

「ぐえっ、ちょっ、苦しい……っ!首、絞めてる絞めてるっ!うひぃ腰にも当たってりゅぅ!た、助けっ、ユート!」

 

慌ただしく、騒がしく、ギャーギャーと叫ぶ2人。隼がアリトを引き剥がそうとすれば、アリトの腕が遊矢の首を絞め、更に腰に当たるナニかの感触が強くなる。阿鼻叫喚の地獄絵図。そこから何とか脱出しようと本来触れる事が出来ないユートにまで助けを求める遊矢。するとユートは薄い笑みを溢し、遠い目をしながら空を見上げる。

 

『夕日が、綺麗ダナァ……』

 

「ユゥゥゥゥゥトッ!!ヘルプ!ヘルプミーッ!」

 

『うるさいっ!もう面倒事は御免だ!俺は休暇を取るんダァーッ!』

 

ユートに助けを求めるも、肝心の本人が現実逃避し始めた。いきなりのキャラ崩壊に思わず「ええ……」と呟く遊矢。

すると、こんな馬鹿なやり取りをしている内に、一陣の風を吹かせ、1つの影が遊矢の下に現れる。黒髪を後ろで一括りに結び、青いマスクにマフラー、忍装束に身を包んだその少年は、ボロボロに傷ついた姿で息を切らし、遊矢達の前で膝をつく。

 

「っ、月影!?どうしたんだその姿!何があった!?」

 

「ゆ、遊矢殿……!すまぬ、今すぐに拙者について来て下さらんか!兄者や権現坂殿が危ないのだ!」

 

「権現坂と日影が!?隼!」

 

息も絶え絶え、全速力で駆けていたのか、胸をおさえ、危機を知らせる月影。遊矢はそんな彼に応える為、小さく頷き、隼へと視線を投げ掛ける。すると彼も話を聞き、やるべき事を理解したのか頷き返し、口火を切る。

 

「行くしかあるまい遊矢!」

 

「応!」

 

――――――

 

一方、俺より強い奴に会いに行く。と言った様子で火山エリアを駆けていたコナミと、その子分である暗次は2人のデュエリストと相対していた。

 

軍帽を被り、白い制服を纏った金髪の男女。

男の方は帽子のつばを抑え、どこかスカした印象が残り、日系では無いのか、長身だ。

女の方も日本人では無いのか、服の上からでも分かる程美しいプロポーションをしている。

 

突然立ちはだかる2人組、その表情はお世辞にも友好的なものでは無い。ニヤニヤとこちらを見下したような態度を取る2人に、焦りを覚え、先に進みたいコナミは苛立つ。

 

「……何の用だ?オレは急いでいるんだ、そこを退け」

 

「ハッ、そりゃあ酷いんじゃない?ケナミ。Me達をあれだけボコボコにしてその態度はさぁ、折角人がリベンジに来たって言うのに。ねぇ、マック、マッケンジー、そうだろう?」

 

ギロリ、コナミにしては珍しく、敵意を隠す事無く、2人を睨み、ドスの効いた声音で威嚇する。しかし男はどこ吹く風、鼻を鳴らし、首をすくめてやれやれと両手を参ったのポーズにする。

それに同意するように、男にマッケンジーと呼ばれた女はクスリと右手を口に当て笑い、小さく頷く。

 

「そうねデイビット。私達はエクシーズ次元でYouに負けた事を1度たりとも忘れた事なんて無いのに……ところでパートナーは何処?確か、ウートと言ったかしら、ケナミ?」

 

「……何を勘違いしているか知らんがオレはコナミだ。ケナミ、なんて頭の悪そうな名じゃない、別を当たるんだな」

 

「ん、ああソーリー、日本人の名前は発音が難しいね、ケナミ」

 

「……」

 

こいつ、態とか、名を訂正したにも関わらず、それでも小馬鹿にしたようにケナミ、と間違える男、デイビットへと視線を移し、舌打ちを鳴らすコナミ。

 

この手の奴は無視するに限る。コナミが暗次にチラリと目で合図し、多少強引にでもこの場を突っ切ろうとした瞬間、ヒュンッ、と言う空気を裂く音と共に2本の細い線がコナミと暗次、それぞれのデュエルディスクに絡み付く。

 

しまった――油断していた。そう考えた時には既に遅い。絡み付いたワイヤーがクイッ、と引っ張られ、ジャリジャリとコナミ達の足が地を削る。

 

「これ、便利だよね。プロフェッサーにお願いしてつけてもらったんだ。これで逃げられないよ、そこのYouでも良いから2対2のデュエルをしよう」

 

「デイビット、残念ながらここではタッグじゃなくてバトルロイヤルルールになるみたいよ」

 

「ガッデム、なんて事だ!でもまぁ良いか!兎に角デュエルをしよう!ケナミ?」

 

言いたい放題、やりたい放題とコナミと暗次を拘束し、デュエルを挑みにかかるデイビットとマッケンジー。2人のアカデミアからの使者。こうなっては仕方無い。コナミは諦めた様子でデュエルディスクを構える。

 

「暗次、速攻で終わらせるぞ」

 

「え、りょ、了解ッス!」

 

暗次に視線を移し、強気の台詞を飛ばすコナミ。彼らしく無い言動に暗次は違和感を覚えるが――とは言え、自らの慕う兄貴分と組んでデュエルが出来るのだ。暗次はニカッと笑い、D-ホイールからデュエルディスクを外し、アカデミアの2人組の前へと出る。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

チャンピオンシップ終盤戦、先攻は暗次だ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、戦術を整える。手札は悪くない。バトルロイヤルルールでは1ターン目は誰もが攻撃が不可能な為、ここは臆さず行くべきだろう。

 

「俺のターン、俺は『クリバンデット』を召喚!」

 

クリバンデット 攻撃力1000

 

現れたのはコナミもデッキに投入している、黄色いスカーフを頭に巻き、眼帯を着けた小さな毛むくじゃらの悪魔だ。優秀な墓地肥やし、『暗黒界』と同じ悪魔族の為投入したカードだ。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド。この瞬間、『クリバンデット』をリリースし、デッキの上から5枚を捲り、『手札抹殺』を手札に!」

 

黒門 暗次 LP4000

フィールド

セット1

手札4

 

『クリバンデット』の効果で『手札抹殺』を手札に加えられた上、墓地に落ちたカードも悪くない。これならば次のターンから暴れる事が出来そうだ。

ターンは暗次から回り、マッケンジーへ。彼女は暗次のプレイングに「ふぅん?」と小さく呟き、デッキからカードを引き抜く。

 

「私のターン、ドロー!私は手札の『ヘカテリス』を捨て、永続魔法、『神の居城―ヴァルハラ』をデッキからサーチし、発動!自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札から天使族モンスターを特殊召喚出来る!『光神テテュス』を特殊召喚!」

 

光神テテュス 攻撃力2400

 

自分フィールドにモンスターが存在しない事を条件とした、モンスター特殊召喚効果。それによりいきなり上級天使族モンスターが現れる。天使族において優秀なドローソースとなるモンスターだ。

 

「『勝利の導き手フレイヤ』を召喚」

 

勝利の導き手フレイヤ 攻撃力100→500

 

光神テテュス 攻撃力2400→2800

 

現れたのは豊穣の女神の名を持ち、手足に光輪、首飾り、ポンポンを握ったチアリーダー風のモンスター。その姿は伊達では無く、フィールドにの天使族の攻撃力を400アップする。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドよ」

 

レジー・マッケンジー LP4000

フィールド『光神テテュス』(攻撃表示)『勝利の導き手フレイヤ』(攻撃表示)

『神の居城―ヴァルハラ』セット2

手札1

 

「オレのターン、ドロー!オレは『慧眼の魔術師』2体でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

コナミが2枚のカードを翳した後、デュエルディスクの光輝くプレート、その両端に叩きつける。瞬間、彼の背に2本の柱が伸び、その中に全く同じ姿の『魔術師』が現れる。虹色の光を放つデュエルディスク、突如視界を覆う見た事も無いカードにデイビットとマッケンジーが驚愕の表情を浮かべる。

 

「ペンデュラム……!?」

 

「その反応は飽きた!慧眼のペンデュラム効果発動!このカードを破壊し、デッキの『竜穴の魔術師』と『刻剣の魔術師』をセッティング!揺れろ、光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!エクストラデッキより2体の『慧眼の魔術師』!『相克の魔術師』!」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500×2

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

柱の中の『魔術師』がそれぞれ錫杖と剣を翳し、上空に光の線を結び、巨大な魔方陣を描き出す。更にその中心より孔が開き、3本の線が轟音と共に地に落ち、突風を吹き荒らす。光の粒子が粉となって散り、フィールドに現れたのは3体のモンスター。

秤を持ち、衣装に瑠璃の珠を散りばめた美しい銀髪の『魔術師』2体と上下両刃を持った大剣を構えた最上級の『魔術師』。

いきなり3体も、それも上級モンスターを含めた召喚に2人が目を見開く。

 

「ワオ!?凄い召喚だね!ペンデュラム召喚……それ位やって貰わなきゃ、Me達も強くなった甲斐が無いって奴かな?」

 

「オレは『ジェット・シンクロン』を召喚」

 

ジェット・シンクロン 攻撃力500

 

デイビットの言葉も無視し、コナミが更にその手を進める。火炎を吹かせ、青と白のカラーリングの小さなジェットエンジンを模したモンスターがフィールドに降下する。弾丸にも似たそのモンスターはコナミの持つチューナーの中でも優秀なカードだ。

 

「まずはレベル7の『相克の魔術師』にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!星海を切り裂く一筋の閃光よ!魂を震わし、世界に轟け!シンクロ召喚!『閃光竜スターダスト』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

『ジェット・シンクロン』の身体が弾け、グリーンカラーのリングとなって『相克の魔術師』を包み込む。するとその姿から色素が抜け落ち、7つの星が並び、光が貫く。星はその並列を変え、竜の星座を作り、現実となってその美しい体躯を見せる。

白き翼に鋭角なシルエット、星屑を纏ったその竜は両腕を組、空気を裂くような咆哮を放つ。

 

「シンクロ……ねぇ」

 

「『ジェット・シンクロン』の効果で『ジャンク・コレクター』をサーチ、次だ2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる、白き翼に望みを託せ、現れろ!No.39!エクシーズ召喚!希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

スケールの間のモンスターを召喚するペンデュラム、レベルを足すシンクロ、そしてその次はレベルを合わせ、重ねるエクシーズ。コナミは2体の『慧眼の魔術師』を素材に、背後で渦巻き発生する星空に飛び込ませ、一気に集束させる。

火花を散らす小爆発、荒ぶ土煙を切り裂き、現れたのは金色の鎧を纏い、白き翼を広げた希望の皇。その腰から引き抜いた2刀の剣を煌めかせ、自身の名を高らかに叫ぶ騎士を視界におさめ、デイビットとマッケンジーがニヤリと笑う。

 

「ホープ……!待っていたわそのモンスターを!そのモンスターを倒してこそ、私達のリベンジが達成される!」

 

「……何でこう、お前達はホープに対してオーバーリアクションなんだ……いやまぁ、恐らくはそう言う事だろうが。……恨むぞもう1人のオレ……カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

コナミ LP4000

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『刻剣の魔術師』

手札2

 

「やっとMeのターンか、ドロー!Meは『マシンナーズ・ギアフレーム』を召喚!」

 

マシンナーズ・ギアフレーム 攻撃力1800

 

巡り巡って最後のターンプレイヤー、デイビットがデッキよりカードを引き抜き、手札から1枚のモンスターカードをデュエルディスクに叩きつける。

現れたのはオレンジ色の人型ロボット。そのモノアイがグリグリと動き、コナミ達を捉える。

 

「『マシンナーズ・ギアフレーム』のエフェクトにより、Meはデッキの『マシンナーズ・フォートレス』をサーチする!更に『マシンナーズ・メガフォーム』を捨て、『マシンナーズ・フォートレス』を特殊召喚!」

 

マシンナーズ・フォートレス 攻撃力2500

 

ギアフレームの隣にギャリギャリとキャタピラの擦れる音を響かせ、新たなモンスターが現れる。巨大な銃を装備し、戦車のような姿をした青き機体。

機械族では簡単に特殊召喚、自己蘇生能力を持つ小回りの効くカードだ。ステータスこそ劣るものの、暗次の持つ『暗黒界の龍神グラファ』と同系統のモンスターと言える。

 

「永続魔法、『機甲部隊の最前線』と『補給部隊』を発動。カードを1枚伏せ、ターンエンドさ」

 

デイビット・ラブ LP4000

フィールド『マシンナーズ・フォートレス』(攻撃表示)『マシンナーズ・ギアフレーム』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』セット1

手札1

 

全てのプレイヤーのターンが終了し、戦闘可能な2ターン目に。この1ターンでコナミは目の前の2人のデッキを見抜く。

デイビットは後続を呼び、安定した戦線を維持する『マシンナーズ』デッキ、マッケンジーはどのような型かは分からず、少々不気味だが、特殊召喚が容易な天使族モンスター主体のデッキのようだ。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!互いに手札を捨て、その分だけドローする!そして手札から捨てられた『暗黒界の尖兵ベージ』、『暗黒界の武神ゴルド』を特殊召喚!」

 

暗黒界の尖兵ベージ 攻撃力1600

 

暗黒界の武神ゴルド 攻撃力2300

 

これこそが『暗黒界』の強み。手札から捨てる事で様々な効果を発揮する。フィールドに召喚されたのはベージュ色の骨格の鎧を纏い、槍を構える悪魔と刺々しい体躯に巨大な翼、斧を握った屈強な黄金の悪魔。一気に2体の特殊召喚だ。

 

「俺はフィールドのベージを手札に戻し、墓地の『暗黒界の龍神グラファ』を特殊召喚!!」

 

暗黒界の龍神グラファ 攻撃力2700

 

早期決着を望み、暗次がエースカードを召喚する。漆黒の体躯に、恐竜の頭蓋の兜を被り、山羊のように捻れた角を伸ばした竜。その全身は凶器かと見間違う程、攻撃的で刺々しく、その背には紫電を放つ翼が広がっている。

『マシンナーズ・フォートレス』と同じく、自己蘇生能力を内蔵したモンスター。コストはカテゴリ内に限定されるものの、手札に戻す為、再度使いやすく、そのステータスも高い。

 

「チューナーモンスター、『魔轟神レイヴン』を召喚!」

 

魔轟神レイヴン 攻撃力1200

 

次に暗次が召喚したのはこのデッキで活躍するもう1つのカテゴリ、『魔轟神』の代表的なチューナーモンスター。

烏の仮面を被り、腕に赤黒い羽を生やした神の名を語る光の悪魔。『暗黒界』と同じく、手札を捨てる事で効果を発揮するカードが多い為、共存が出来るテーマだ。

 

「フィールド魔法、『暗黒界の門』を発動!」

 

暗黒界の龍神グラファ 攻撃力2700→3000

 

暗黒界の武神ゴルド 攻撃力2300→2600

 

魔轟神レイヴン 攻撃力1200→1500

 

ゴゴゴゴと激しく地響きが轟き、地中より巨大な門がそびえ立つ。パラパラと被った砂が溢れ落ち、ギィィィィィッ、悪魔の断末魔の如く門が開く。この火山エリアには良く似合った恐ろしい門だ。中より溢れ出る瘴気を受け、暗次のモンスターが強化される。

 

「これで思う存分やれるってもんだ!バトル!グラファでテテュスを攻撃!」

 

「罠発動、『光子化』!その攻撃を無効にし、次のターンの終了時までグラファの攻撃力をテテュスに加える!」

 

光神テテュス 攻撃力2800→5800

 

「何ぃ!?」

 

グラファがその巨大な翼で羽ばたき、野太い剛腕を振るい、テテュスを引き裂こうとした瞬間、眩き光がグラファの視界を覆い、堪らず両腕をクロスさせ目を閉じる。光はグラファより力を奪い、テテュスの身体へと宿る。攻撃無効に加え、強化、それによりテテュスの攻撃力が5800まで膨れ上がる。

 

「ッ、ならゴルドでフォートレスに攻撃!」

 

デイビット・ラブ LP4000→3900

 

「ハッハァ!そう来ると思ったよ!永続魔法、『機甲部隊の最前線』のエフェクトでフォートレスより攻撃力の低い同属性の機械族モンスター、『マシンナーズ・スナイパー』を特殊召喚!フォートレスのエフェクトで『暗黒界の門』を破壊!『補給部隊』で1枚ドロー!」

 

マシンナーズ・スナイパー 攻撃力1800

 

デイビット・ラブ 手札1→2

 

回る回る、デイビットのカード効果の数々、その様は正しく部隊。『機甲部隊の最前線』で次のモンスターを特殊召喚して戦線を維持し、『補給部隊』で次の手を整え、フォートレスで戦力を削る。お手本通りの精密なデュエル。本人の言動とは違って至って真面目で正確な戦術だ。

 

「ッ、強い……!オベリスクなんちゃらとは比べ物になんねぇ……!」

 

「だって当然だろう?Me達はオベリスク・フォースを率いるスペシャルなクラスなんだから。同じにされちゃ堪らないよ」

 

「アカデミア特記戦力、覇王、ジューリ、総司令官、バレット教官、BB、タイラー姉妹、響姉弟と数あれど、私達のデュエルの正確さは常にNo.1!更に昇華したこのデュエルでケナミ!Youは不様にカードとなるのよ!」

 

成程、今までの敵とは一味も二味も違うと言う事か。確かにオベリスク・フォースよりも実力は高く、また率いているとだけあってオベリスク・フォース達のカード1枚1枚を組み合わせて闘う戦略も似通っている。

意外性や爆発力は神楽坂が上だが――単純に実力を見るならば、もしかすると、こちらの方が上かもしれない。

 

「メインフェイズ2、俺はレベル8のグラファにレベル2のレイヴンをチューニング!シンクロ召喚!『魔轟神レヴュアタン』!!」

 

魔轟神レヴュアタン 守備力2000

 

シンクロ召喚、暗次がグラファへとレイヴンをチューニングし、新たなモンスターを呼び起こす。

フィールドに姿を見せたのは銀色の玉座に腰掛ける真っ赤な悪魔。金色の装飾を交えた真紅の鎧を纏い、ワインレッドの翼を広げた朱髪の神。残念ながらテテュスの攻撃力が上の為、守備表示での登場だが、それでも彼が放つ威圧感は凄まじい。

 

「ゴルドを手札に戻し、墓地のグラファを蘇生!!」

 

暗黒界の龍神グラファ 守備力1800

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

黒門 暗次 LP4000

フィールド『暗黒界の龍神グラファ』(守備表示)『魔轟神レヴュアタン』(守備表示)

セット2

手札3

 

「私のターン、ドロー!この瞬間、テテュスの効果により、ドローカードである天使族モンスター、『緑光の宣告者』を公開し、!もう1枚ドロー!ドローカードは『アテナ』!もう1枚ドロー!『紫光の宣告者』!ドロー!『シャイン・エンジェル』!ドロー!『崇高なる宣告者』!ドロー!『コーリング・ノヴァ』!ドロー!ここで打ち止めね」

 

レジー・マッケンジー 手札2→3→4→5→6→7→8

 

とんでもないドローブースト。このターンの通常ドローも合わせて7枚のドローか。公開された情報とは言え、とんでも無い枚数になってきた。『暗黒界』のスーパードローやコナミのディステニードローも真っ青である。

 

「フィールド魔法、『天空の聖域』を発動し、フレイヤを守備表示に変更、『コーリング・ノヴァ』を召喚!」

 

コーリング・ノヴァ 攻撃力1400→1800

 

マッケンジーのフィールドが光満ち溢れる雲の上の神殿へと変化し、厳かで神聖な空気を醸し出す。そこに現れたのはリング状となったものに翼が生えた一見、無機物に見える天使族モンスター。

 

「バトルよ!テテュスでホープに攻撃!」

 

「ホープのORUを1つ取り除き、効果発動!その攻撃を無効に!ムーンバリア!」

 

ホープが翼を前に差し出し、盾とする事でテテュスの攻撃を防ぐ。どれだけ攻撃力を上げたとしても、無効にされてはそこで終わり。この皇は自らが殺意を持つのは構わないが、殺意を向けられるのは嫌いなのだ。

 

「『コーリング・ノヴァ』で『マシンナーズ・スナイパー』へ攻撃!」

 

「ッ、仲間割れ……!?」

 

「いや、これは――」

 

「スキンシップみたいなものさ!」

 

突如『コーリング・ノヴァ』が『マシンナーズ・スナイパー』へ突撃し、狙撃によって迎撃、相討ちとなる。いきなりパートナーに牙を剥ける行為を見て、暗次が目を見開くが、これも戦略の内。

 

「戦闘破壊された『コーリング・ノヴァ』の効果でデッキの『天空騎士パーシアス』を特殊召喚!」

 

天空騎士パーシアス 攻撃力1900→2300

 

現れたのは青い鎧を纏った金髪の騎士。その下半身は白馬となっている。

この為に自爆特攻をした訳か、成程、コナミに仕掛けたのならホープか罠によって避ける可能性がある。しかしデイビットに仕掛けるならそれを通すのは分かる上、コナミもホープの効果を使うのには躊躇う。そして――。

 

「Meも、『機甲部隊の最前線』で『マシンナーズ・ピースキーパー』を特殊召喚し、『補給部隊』でドロー!」

 

マシンナーズ・ピースキーパー 守備力400

 

デイビット・ラブ 手札2→3

 

こう言う事も出来ると言う訳だ。デッキ圧縮に手札補充、パートナーのサポートにもなる。確かにこれは良いスキンシップだ。

 

「HAHAHA!どうだい?You達とは違うのさ!」

 

「何ぃ!?どう言うこったガイコクジン!」

 

右手で顔を抑え、高らかに哄笑を上げるデイビット。You達とは違う、それは恐らくコンビネーションの事だろう、その台詞に暗次が犬歯を剥き出しにして食って掛かる。彼としては兄貴分であるコナミと息が合わないと言われればそうなるのだろう。

 

「気がついてないの?Youは『手札抹殺』でケナミの『ジャンク・コレクター』を墓地に送ったのよ」

 

「ッ!そりゃあ……!兄貴、俺……!」

 

確かにそうだ。あの時、暗次は自分のデュエルを行う余り、折角コナミがサーチした『ジャンク・コレクター』を捨ててしまったのだ。

その事実に暗次がグッ、と唇を噛み、申し訳なさそうにコナミに振り向く。

タッグじゃないからこそ、バトルロイヤルだからこそ、そのプレイングに気をつけねばならない。1つのプレイングが味方を不利にする可能性があるからだ。

 

「気にするな、確かに少しは考える事も必要だが――オレは勢いに任せたお前のデュエルの方が好きだ。敵の言葉に惑わされず、思い切りやれ」

 

だがコナミは暗次に檄を入れる。暗次の本来の武器は思い切りの良さや大胆極まりないプレイングだ。流石にウイルスカードは我慢して欲しいが、暗次の長所を潰す方が痛手だ。

 

「兄貴……分かりました!ウイルスばらまいてハンデスさせます!」

 

「それはやめて。オレまでハンデスしちゃう」

 

ウイルスカードは本気でやめてもらわなければならない。

 

「続き、良いかしら?パーシアスでグラファに攻撃!パーシアスは貫通攻撃を持っているわ!」

 

黒門 暗次 LP4000→3500

 

パーシアスにより光の斬撃がグラファを切り刻み、破壊して砕け散った欠片が暗次に襲いかかる。微量なダメージだ。グラファもフィールドに戻る為、大した痛手では無いが――

 

「パーシアスの効果!戦闘ダメージを与えた場合、1枚ドロー!」

 

レジー・マッケンジー 手札6→7

 

ここで更にドローブーストがかかる。確かに彼女の扱うデッキには手札が必要だろう。だからと言ってここまで必要では無い筈だが。手札と言うものは1番分かりやすいアドバンテージだ。こうまで増やされるとコナミは暗次にウイルスカードの許可を与えたくなる。

 

「メインフェイズ2、私は魔法カード、『打ち出の小槌』を発動!手札の3枚をデッキに戻し、3枚ドロー!ドローしたカードは『朱光なる宣告者』!もう1枚ドロー!ドローカードはテテュス!もう1枚ドロー!」

 

レジー・マッケンジー 手札3→6→7→8

 

ここでまさかの手札交換カード、これでは折角の公開情報も一気に役に立たなくなってしまった。しかも『打ち出の小槌』の分も確保する始末である。

 

「永続魔法、『天空の泉』を発動。カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

レジー・マッケンジー LP4000

フィールド『光神テテュス』(攻撃表示)『天空騎士パーシアス』(攻撃表示)『勝利の導き手フレイヤ』(守備表示)

『神の居城―ヴァルハラ』『天空の泉』セット2

『天空の聖域』

手札6

 

襲い来る舞網チャンピオンシップ、最後のアカデミアからの刺客、恐ろしいまでのコンビネーションを誇る2人を前に、焦るコナミ。早くしなければ、奴まで辿り着けない。

そんな彼を――暗次は心配そうに見つめていた――。

 

 

 

 




と言う訳で今回の相手はMeとマッケンジーちゃん。デッキはマシンナーズと宣告者軸の天使です。融合体をおくれ(無茶ぶり)。
Me君は強キャラ臭がして好きです。尚使用カードの数とOCG化率と性能。


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第74話 オイオイこれじゃ…ME達の勝ちじゃないか!

折角魔術師の新規が出たから使いたいけど名前や効果的に終盤位じゃないと出せないよん。あ、集いし願いがOCG化ってマジ?やったぜ。


火山エリアの一角で続くコナミと暗次対、デイビットとマッケンジーのデュエル。ターンはコナミへと移り、彼は焦りを覚え、何とかこの窮地を抜け出さそうと行動を開始する。

 

「オレのターン、ドロー!面倒だな、一刻も早く先に行きたいと言うのに、どちらも長期戦向けとは……!ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『相克の魔術師』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

「まずは賤竜の効果で墓地の慧眼を回収!」

 

「手札の『朱光の宣告者』と『崇高なる宣告者』を捨て、その効果を無効にし、破壊!」

 

しかしこの回収作戦もマッケンジーによって阻止される。これこそが彼女のデッキ、『宣告者』の厄介な所だ。相手ターンだろうと、手札から捨てる事でそれぞれ対応した効果を無効にする、所謂パーミッションカード。これにより戦術の邪魔をされ、上手く事が進まず、長期戦を覚悟しなければならない。

だが幸い隙はある。それは手札だ。このシリーズカードは兎に角手札消費が激しい。その為のテテュスだろうが――突くべき所はそこしかない。

 

「『相克の魔術師』の効果でフレイヤの効果を無効!」

 

「残念、カウンター罠、『神罰』!『天空の聖域』の存在を条件に、その効果を無効にし、破壊!」

 

「ッ!『クリバンデット』を召喚!」

 

クリバンデット 攻撃力1000

 

「バトル!ホープでパーシアスに攻撃!ホープ剣・スラッシュ!」

 

「『天空の泉』の効果でパーシアスを除外し、攻撃力分LPを回復するわ」

 

レジー・マッケンジー LP4000→5900

 

更なるカウンターに攻略の一手である『相克の魔術師』も無効化され、破壊されるもコナミはその手を止めずホープに指示を出し、2刀流がパーシアスを切り裂く。

しかし『天空の聖域』でダメージは通らず、むしろ『天空の泉』で回復されてしまう。

だがこのカードはテテュスのドローへと繋がる。放っておく訳にもいかない。

 

「スターダストで『マシンナーズ・ギアフレーム』を攻撃!流星閃撃!」

 

デイビット・ラブ LP3900→3200

 

続けてデイビットのフィールドの『マシンナーズ・ギアフレーム』への攻撃、マッケンジーの残りのモンスターはフレイヤに強化されたテテュスと攻撃対象に出来ないフレイヤの為の判断だ。

スターダストの牙が覗くアギトから閃光が走り、ブレスがギアフレームを溶かす。

 

「『機甲部隊の最前線』で『マシンナーズ・ピースキーパー』を特殊召喚し、『補給部隊』で1枚ドロー!」

 

マシンナーズ・ピースキーパー 守備力400

 

デイビット・ラブ 手札3→4

 

「『クリバンデット』でピースキーパーを攻撃!」

 

「ピースキーパーのエフェクトにより『オイルメン』をサーチ!」

 

「ターンエンド。この瞬間、『クリバンデット』をリリースし、デッキの上から5枚を捲り、『妖刀竹光』を手札に、墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ!」

 

コナミ LP4000

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『刻剣の魔術師』

手札3

 

攻めに出るもマッケンジーの無効化で戦力を削られ、マッケンジーは回復、デイビットはリクルートで場を固める為に手数が足りなくなる。それとごろか相手のLPや手札が潤う始末。手強く、基本的で厄介な戦術を取る2人だ。これでは本人に到達出来ない。

 

「Meのターンだ、ドロー!Meは『マシンナーズ・カノン』を捨て、『マシンナーズ・フォートレス』を特殊召喚!」

 

マシンナーズ・フォートレス 攻撃力2500

 

「そして『オイルメン』を召喚!」

 

オイルメン 攻撃力400

 

デイビットの手により召喚されたのはオイルに手足が生え、マントを靡かせた、まるでどこかのマスコットキャラのようなモンスター。

その名の通り、機械族モンスターの助けとなり、デュエルを円滑に進めるカードだ。自らを円滑油に例え、見事デイビットのデッキに就職した。

 

「装備魔法、『ブレイク・ドロー』と『オイルメン』をフォートレスに装備!これでフォートレスがモンスターを破壊し、墓地に送った場合、Meは2枚ドローする!尤も、『ブレイク・ドロー』は3回目のMeのターン終了時に破壊されるけどネ。バトル!フォートレスでレヴュアタンに攻撃!」

 

「させるか!罠発動!『ヘイト・バスター』!これでレヴュアタンとフォートレスを破壊し、フォートレスの攻撃力分のダメージを与える!」

 

「手札の『紫光の宣告者』と『緑光の宣告者』を捨て、その効果を無効にするわ!」

 

「何ぃ!?ぐぅ――!」

 

フォートレスの砲門より激しい衝撃が駆け抜け、玉座に腰掛けるレヴュアタンを焼き尽くす。暗次が『ヘイト・バスター』でダメージを狙うも、マッケンジーのサポートがそれを許してくれない。コンビネーションではあちらが上と言う事か。

 

「2枚ドローだ!」

 

デイビット・ラブ 手札3→5

 

「ぐっ、こっちもレヴュアタンの効果で墓地の『魔轟神レイヴン』、『魔轟神獣ガナシア』、そして自身を回収!」

 

「ターンエンドだ」

 

デイビット・ラブ LP3200

フィールド『マシンナーズ・フォートレス』(攻撃表示)『マシンナーズ・ピースキーパー』(守備表示)

『オイルメン』『ブレイク・ドロー』『機甲部隊の最前線』『補給部隊』セット1

手札5

 

「俺のターン、ドロー!俺はフィールド魔法、『暗黒界の門』発動!墓地の『クリバンデット』を除外、ベージを捨て、ドロー!更にベージの効果で特殊召喚!」

 

暗黒界の尖兵ベージ 攻撃力1600→1900

 

「ベージを手札に戻し、グラファ復活!!」

 

暗黒界の龍神グラファ 攻撃力2700→3000

 

「もう一丁!『魔轟神レイヴン』を召喚!」

 

魔轟神レイヴン 攻撃力1200→1500

 

「行くぜ!レイヴンの効果発動!手札のベージとゴルドを捨て、レベルを2つ、攻撃力を800アップする!更に効果で捨てられたベージとゴルドを特殊召喚!」

 

魔轟神レイヴン 攻撃力1500→2300 レベル2→4

 

暗黒界の尖兵ベージ 攻撃力1600→1900

 

暗黒界の武神ゴルド 攻撃力2300→2600

 

レイヴンの効果により暗次のフィールドに次々と『暗黒界』モンスターが特殊召喚され、これまでの状勢が嘘のように塗り変わる。これこそが黒門 暗次の真骨頂。勢いのまま、暗次は畳み掛ける。

 

「バトル!グラファでテテュスを攻撃!ぶっ潰せ!」

 

「くっ――『天空の泉』の効果でテテュスを除外し、その攻撃力分回復するわ!」

 

レジー・マッケンジー LP5900→8300

 

悪魔が聖域に侵入し、その剛腕で天使を破壊する。光の神とて龍神の前には無力、バキリと握り潰され、光となって消滅する。

漸くだ、漸くこの強力なドローエンジンであるテテュスを破壊した。LPは回復されてしまったが、テテュスを破壊した事は大きいだろう。

コナミも暗次の活躍に拳を握り締め、舌を巻く。

 

「仲間は必ず守り抜く!難しい事はやめだ、これが俺のチームワークって奴よぉ!」

 

グッ、と拳を握り、デイビットとマッケンジーに威嚇するように突き出す暗次。何とも馬鹿正直で真っ直ぐな台詞。直情的で考えたら即行動な彼らしい、底抜けに明るく、突き抜けた言葉だ。

昔の彼からは想像出来ない程に彼は成長した。仲間を守る、そんな今の彼こそ、『暗黒界』デッキを持つに相応しい。彼の覚悟に応えるように、グラファが聖域から舞い戻り、天に向かって咆哮する。

 

「まだまだ行くぜ!ベージでフレイヤを攻撃!」

 

「『天空の泉』の効果発動!」

 

レジー・マッケンジー LP8300→8700

 

「止まんねぇぞ!レイヴンとゴルドでダイレクトアタック!」

 

「くっ――あぁぁぁぁっ!!」

 

レジー・マッケンジー LP8700→3800

 

止まらぬ快進撃、大量のLP回復をものともせずに暗次は怒号を飛ばし、レイヴンとゴルドがマッケンジーを切り裂く。もっともっと前へ、突き進む強引な歩みは誰にも止められない。

 

「メインフェイズ2!俺はレベル4のベージに同じくレベル4となったレイヴンをチューニング!シンクロ召喚!『魔轟神ヴァルキュルス』!」

 

魔轟神ヴァルキュルス 攻撃力2900→3200

 

更に続く暗次の手、後の展開も考え、ステータスの低くなるレイヴンを残さぬようにシンクロで繋ぐ。これで例え、グラファが破壊されても強力な戦力は残る。逆もまた同じだろう。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

黒門 暗次 LP3500

フィールド『暗黒界の龍神グラファ』(攻撃表示)『暗黒界の武神ゴルド』(攻撃表示)『魔轟神ヴァルキュルス』(攻撃表示)

セット2

『暗黒界の門』

手札2

 

状況は一変、暗次が一気に盛り返し、マッケンジーの不利となった。『天空の泉』の効果でそのLPは初期値より変わらないものの、この空気を作り出した事は大きい。

コナミと暗次、2人の士気は高まって来た――が、それでもデイビットとマッケンジーの表情から余裕が崩れない。宣告者デッキにとって、命綱であるドローが切り崩されようが、彼女には武器が残っている。

 

「私のターン、ドロー!……デイビット!準備は良いかしら?」

 

「何時でも構わないよ、マック!」

 

マッケンジーがデイビットにチラリと視線を送って何かを伝え、デイビットがウィンクでそれに応える。一体何を――2人がそこまで考えた瞬間、空気が一変し、敵の目が吊り上がる。先程までのお気楽な外国人ムードを出していた2人の姿は最早何処にも無い。

これが彼等本来の――狩人の姿。

 

「ヴァルハラの効果!私は手札から天使族モンスター、『アテナ』を特殊召喚!!」

 

アテナ 攻撃力2600

 

雲の上に立つ神殿に、神々しき光が降り注ぐ。金色の輝きを纏う柱が雲を貫き、フィールド一体を震撼させる。派手な演出とは共に現れたる戦いの女神。天使を導く杖と闇を照らす盾を手に、戦場に降臨する。

これこそがマッケンジー本来の武器、その美しき姿にフィールドの全ての者が魅了される。

 

「ここでそのカードだと……!?」

 

「頑張ったみたいだけど、所詮悪魔は天使に倒させるもの。まずは永続罠、『奇跡の光臨』を発動!除外されているテテュスを特殊召喚!」

 

光神テテュス 攻撃力2400

 

「なっ、また……!って言うかセットカードがそれじゃ、さっきの攻撃を防げた筈……『アテナ』を出す為だけに……野郎ぉ……!」

 

再びフィールドに特殊召喚されるテテュスを見て、暗次がギリリと歯軋りを鳴らす。

しかも彼女はこのカードを隠していたのだ。『アテナ』を特殊召喚する為とは言え、舐められていたようで額に青筋が浮かび上がる。

 

「失礼ね、私は男じゃないわ。『アテナ』の効果、天使族モンスターが召喚、特殊召喚された時、相手に600のダメージを与える!デイビット!」

 

「チッ、罠発動!『ダメージ・ダイエット』を除外し、このターン受けるダメージを半分に!」

 

「OK!Meは罠カード、『レインボー・ライフ』を発動!手札を1枚捨て、このターン、Meが受けるダメージは回復になる!」

 

「オレも墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外!このターン受ける効果ダメージを半分に!」

 

デイビット・ラブ LP3200→3800

 

コナミ LP4000→3700

 

黒門 暗次 LP3500→3200

 

発動される女神の効果。容赦なく降りかかる雷にそれぞれカードを発動し、ダメージを軽減する。デイビットの反応を見たのはこの為か、バトルロイヤルは全員が敵。

ダメージは味方にも降りかかるが、逆にこう言った事も出来る。

 

「あら残念、でもまだ終わってないわ!『アテナ』の効果でテテュスを墓地に送り、もう1度テテュスを特殊召喚!再びバーンよ!」

 

光神テテュス 攻撃力2400

 

デイビット・ラブ LP3800→4400

 

コナミ LP3700→3400

 

黒門 暗次 3200→2900

 

「「ぐうぁっ――!」」

 

「ん、ん~!心地良いねぇ」

 

傷つく2人と裏腹に、目を細め、虹の雨に打たれるデイビット。『アテナ』のバーン効果にはターン1制限が無い為、天使族が召喚される度にダメージが発生する。

2回で1200、LPが4000では一気に削られかねない。『ダメージ・ダイエット』があったのは幸運と言える。

 

「まだよ!『奇跡の光臨』をコストに魔法カード、『マジック・プランター』!2枚ドロー!ドローカードは『豊穣のアルテミス』!ドロー!『天空勇士ネオパーシアス』!ドロー!『シャインエンジェル』ドロー!『崇高なる宣告者』!ドロー!『朱光の宣告者』!ドロー!ここで打ち止めね」

 

レジー・マッケンジー 手札1→3→4→5→6→7→8

 

ここでまたドロー。最後に引いたカードは『打ち出の小槌』。これを使えばまたドロー出来るが――今は使うべきでは無い。折角良い事を思いついたのだ。これ以上欲をかくべきでは無い。このカードの発動は後回しでも良い。

 

「『シャインエンジェル』を召喚!」

 

シャインエンジェル 攻撃力1400

 

デイビット・ラブ LP4400→5000

 

コナミ LP3400→3100

 

黒門 暗次 LP2900→2600

 

「ここでっ……!」

 

「リクルートモンスターだと……!?」

 

「悪魔は天使によって地獄に落とされる。バトルよ!『シャインエンジェル』で『マシンナーズ・フォートレス』に攻撃!」

 

「Meはチェーン1『オイルメン』とチェーン2『ブレイク・ドロー』で2枚ドロー!スナック感覚だネ!HAHAHA!」

 

「更にチェーン3、『天空の泉』で除外し、回復!チェーン4で『シャインエンジェル』の効果で2体目の『シャインエンジェル』を特殊召喚!全てのチェーンを処理した後、『アテナ』でバーン!」

 

シャインエンジェル 攻撃力1400

 

レジー・マッケンジー LP3800→5200

 

デイビット・ラブ LP5000→5600 手札4→6

 

コナミ LP3100→2800

 

黒門 暗次 LP2600→2300

 

聖域に足を踏み入れる新たなモンスター。各属性に存在するリクルートモンスターの中でも特に代表的なモンスターだ。現在では余り見かけないが、――この状況でこのモンスターの存在は余りにも大きい。

この瞬間、しまったと苦い表情を作り、2人が降りかかる雷に顔をしかめる。何故ならこれで2人の凶悪なコンボが完成したからだ。『シャインエンジェル』と『アテナ』の連続バーン等考えが甘かった。

マッケンジーの『アテナ』、『シャインエンジェル』、『天空の聖域』、『天空の泉』。デイビットの『オイルメン』、『ブレイク・ドロー』、『レインボー・ライフ』。数多のカード効果が混ざり合い、2人に恩恵を与え、コナミと暗次に実害を与えるのだ。

 

マッケンジーは『アテナ』でバーンを与えつつ、『天空の泉』で回復。デイビットは『オイルメン』と『ブレイク・ドロー』で手札を補充し、『レインボー・ライフ』で回復する。

とんでもないコンビネーション、バトルロイヤルをフルに活かした戦術が牙を剥く。

強い、連携が上手い者がいれば、下手な者がいるオベリスク・フォースとは違い、この2人は確実な強さを持っている。

 

「兄貴!ホープの効果!」

 

「ッ!そうか!」

 

ここで暗次の脳裏に電撃が駆け抜け、コナミへと振り向いて叫ぶ。そうだ、ホープならば攻撃を無効にする事が出来る。何故こんな事に気づかなかったのか。

しかし――焦った彼等はそれが間違いだとも気づかない。

 

「『シャインエンジェル』でフォートレスに自爆特攻!」

 

「ホープの効果で無効に――!」

 

「あはは!馬鹿ね!手札の『朱光の宣告者』と『天空勇士ネオパーシアス』を捨て、その効果を無効にして破壊!」

 

「なっ――」

 

「しまった……!」

 

そう、これがマッケンジーの手札に握られていたのだ。公開されていたにも関わらず、それを忘れていた。焦りが判断を狂わせていく。何と言う失態。だがまだ挽回の余地はある。

アクションカード。攻撃反応系のカードを拾えばあるいは――そうと決まれば2人はそれぞれスターダストとグラファに乗り、フィールドを飛行する。

 

「?あぁ、アクションカードって奴かしら。拾わせる訳ないでしょう?攻撃を続行!『シャインエンジェル』リクルート!『天空の泉』と『アテナ』の効果!撃ち落としてやりなさい!」

 

「以下省略さ!HAHAHA!」

 

シャインエンジェル 攻撃力1400

 

レジー・マッケンジー LP5200→6600

 

デイビット・ラブ LP5600→6200 手札6→8

 

コナミ LP2800→2500

 

黒門 暗次 LP2300→2000

 

「ぐ――!」

 

「好き勝手やりやがって……!」

 

だがそれも『アテナ』の放つ雷で阻害され、ままならない。何とか直撃を避け、飛行するもその分回避に集中力が割かれる上、時間が経っているからかアクションカードが一向に見つからない。

 

「まだ続くわ!『シャインエンジェル』で特攻!『コーリング・ノヴァ』特殊召喚!カード達の効果発動!」

 

コーリング・ノヴァ 攻撃力1400

 

レジー・マッケンジー LP6600→8000

 

デイビット・ラブ LP6200→6800 手札8→10

 

コナミ LP2500→2200

 

黒門 暗次 LP2000→1700

 

「「がふっ……!」」

 

「次は『コーリング・ノヴァ』の番よ、自爆特攻、日本ではカミカゼと言うんでしょう?」

 

コーリング・ノヴァ 攻撃力1400

 

レジー・マッケンジー LP8000→9400

 

デイビット・ラブ LP6800→7400 手札10→12

 

コナミ LP2200→1900

 

黒門 暗次 LP1700→1400

 

「「ぐぁぁぁぁぁっ!」」

 

「楽しいわ!どう、ケナミ!Youは楽しいかしら!?最後の『コーリング・ノヴァ』で特攻!『勝利の導き手フレイヤ』を特殊召喚!」

 

勝利の導き手フレイヤ 守備力100→500

 

アテナ 攻撃力2600→3000

 

光神テテュス 攻撃力2400→2800

 

レジー・マッケンジー LP9400→10800

 

デイビット・ラブ 7400→8000 手札12→14

 

コナミ LP1900→1600

 

黒門 暗次 1400→1100

 

「「……ッ!」」

 

何度も、何度も、何度も。『アテナ』の杖より雷が放たれ、2人の身体を貫き、少しずつ、だが確実にダメージを与え、声にならぬ叫びが上がる。

墜落し、プスプスと黒煙を上げ、傷を負う2人を見て、デイビットとマッケンジーが圧倒的な愉悦と優越感を感じ、悶える。まるで拷問、鞭が雨の如く降り注ぐ。

 

「フフッ……!まだよ、まだ!まだ私のバトルフェイズは終わってない!テテュスでスターダストへ攻撃!」

 

「舐め、んなぁ……!アクションマジック……『ブラインド・ブリザード』!バトルフェイズを終了する!」

 

嗜虐的な笑みを隠さず、マッケンジーがその攻撃の手を更に進めるも、最早死に体、ボロボロに傷ついた身体に鞭打ち、それでも暗次は抵抗の意志を見せる。

 

「あら、残念……。メインフェイズ2、『打ち出の小槌』!カードを1枚デッキに戻してドロー!ドローカードは『朱光の宣告者』!ドロー!ここまでね」

 

レジー・マッケンジー 手札4→5→6

 

「永続魔法、『コート・オブ・ジャスティス』を発動!レベル1天使族モンスターが存在する場合、手札の天使族モンスター、『天空勇士ネオパーシアス』を特殊召喚!」

 

天空勇士ネオパーシアス 攻撃力2300→2800

 

更に現れる天使族の大型モンスター。青い鎧を纏い、純白の翼を広げたこのカードもまた、強力な1枚だ。

 

「ネオパーシアスは『天使の聖域』が存在し、自分のLPが相手より上の場合、その数値だけ攻撃力を上げる。相手のLPの合計値は10700、よって100、尤もフレイヤの効果で更に400アップするけど。カードをセットし、ターンエンドよ」

 

レジー・マッケンジー LP10800

フィールド『アテナ』(攻撃表示)『光神テテュス』(攻撃表示)『天空勇士ネオパーシアス』(攻撃表示)『勝利の導き手フレイヤ』(守備表示)

『神の居城―ヴァルハラ』『コート・オブ・ジャスティス』『天空の泉』セット1

『天空の聖域』

手札3

 

圧倒的、圧倒的な実力から展開される布陣。天空に居を構え、最高の軍団を結成する天使を前に、悪魔達は余りにもちっぽけだ。

ボロボロに傷つき、息切れを起こし倒れ伏す2人を視界におさめ、デイビットは高らかに哄笑を上げる。

 

「オイオイこれじゃ…ME達の勝ちじゃないか!HAHAHAHA!HAーHAHAHAHAッ!!」

 

――――――

 

熱き闘志が集束し、ぶつかり合うチャンピオンシップの終点、火山エリアの高くそびえ立つ一角にて、白きマントを靡かせ、仮面の男は全てを見下ろす。

その視線の先には――コナミ達の姿。男は失望を含んだ溜め息をつく。

 

「やはり――所詮、残りカスと言う事か――」

 

その言葉の真意を知るものは――今はまだ、ここにだけ――。

 

 

 

 

 

 

 




長くなったので4話に分ける事に。後2話続くんじゃよ。


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第75話 ティアドロップ

この回から少し暗めになっていきます。ご容赦を。


別れと言うものは何時も突然だ。気心が知れた親友であろうと、何時かはその時が訪れる。別れはとても辛い事だ、最初はその事実に気づかないかもしれない。

だがきっと、悲しみは心を蝕む。大事なものを失った悲痛が襲って来る。その時に、彼等がすべき行動は一体何であろうか?別れを惜しみ、泣き叫ぶ事、友を安心させる為、笑う事。

きっとその形は人の数だけあるだろう。別れは何時も、突然だ。

 

――――――

 

火山エリアの一角にて、8人のデュエリストが対峙していた。4人はアカデミアの精鋭、オベリスク・フォース。

それに立ち向かう4人のデュエリストは、風魔 日影、茂古田 未知夫、大漁旗 鉄平、九庵堂 栄太だ。誰も粒揃いのデュエリストであるが、今この時だけは窮地に陥っていた。

原因は敵の数だ。ほんの数人ならば充分に勝機はあっただろう、しかし、彼等は倒したと思いきや、またぞろぞろと現れる。流石に体力の限界、息を切らし、肩を震わせる。

助けに入った権現坂、沢渡、セレナ、ミエルも今は分断され、別の場所でデュエルをしている。

月影に応援を呼んで来るように頼んだものの、まだ時間がかかるだろう。負けは濃厚、だが――最後まで諦めない。未来へと、繋ぐ為に。

 

――――――

 

一方その頃、コナミと暗次、デイビットとマッケンジーのデュエルは佳境を向かえていた。相手のLPはどちらも倍以上に膨れ上がり、強力なモンスターが揃い踏み、バックのカードで万全の布陣を敷いている。更にデイビットは信じられない枚数の手札を握っている。

対するコナミと暗次は優秀なモンスターこそ存在するも、LPは風前の灯、どうしようも無く不利な状況。

それでもコナミは――先へ進む為、力を振り絞る。

 

「オレのターン、ドロー!『妖刀竹光』をスターダストに装備し、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→4

 

発動される『竹光』カードによるドロー。墓地に送られ効果を発動するこのカードは『マジカルシルクハット』や『クリバンデット』を使う彼のデッキと相性が良く、隠し刀である『魂を吸う竹光』へと繋がるカードだ。

 

「ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『相克の魔術師』!『曲芸の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

この絶望より抜け出すべく、コナミの武器である振り子が揺れる。淡く輝くペンデュラム、その軌跡が宙に描かれ、次々と光の柱がフィールドに激震する。

 

「賤竜の効果!墓地の慧眼を回収し、ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ!」

 

「通すわ」

 

「相克の効果でフレイヤの効果を無効に!」

 

「そうはさせない!手札のアルテミスと『朱光の宣告者』を捨て、効果を無効にして破壊!」

 

「そう来ると思っていた……!スターダストの効果で相克の破壊を防ぐ!『置換融合』発動!フィールドのブレイズマンと賤竜を融合!融合召喚!『E・HERO Great TORNADO』!」

 

E・HERO Great TORNADO 攻撃力2800

 

「Great TORNADOの効果で相手フィールドのモンスターの攻守をターン終了時まで半分にする!タウンバースト!」

 

暗黒界の龍神グラファ 攻撃力3000→1500

 

暗黒界の武神ゴルド 攻撃力2600→1300

 

魔轟神ヴァルキュリス 攻撃力3200→1600

 

アテナ 攻撃力3000→1500

 

光神テテュス 攻撃力2900→1450

 

天空勇士ネオパーシアス 攻撃力2800→1400

 

勝利の導き手フレイヤ 攻撃力500→250

 

マシンナーズ・フォートレス 攻撃力2500→1250

 

マシンナーズ・ピースキーパー 守備力400→200

 

相手モンスター全ての攻守を半分にする強力な効果。尤もターン終了時までしか続かないが、それでも充分であり、暗次のモンスターまで弱体化してしまう今、それが戻るのならばメリットともとれる。風が吹き荒れ、悪魔も天使も機械ですら見境なく襲う。

 

「まだだ!手札を1枚捨て、墓地の『ジェット・シンクロン』を特殊召喚!」

 

ジェット・シンクロン 守備力0

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、刻剣を戻して1枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→3

 

「慧眼をセッティングし、効果で自壊し、刻剣をセッティング!レベル5の『曲芸の魔術師』にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!星雨を束ねし聖翼よ!魂を風に乗せ世界を巡れ!『スターダスト・チャージ・ウォリアー』、シンクロ召喚!」

 

スターダスト・チャージ・ウォリアー 攻撃力2000

 

Great TORNADOの運ぶ風がスターダストの星屑を帯び、竜巻となって逆巻く。そして中より鋭き刃が引き裂き、現れたるはスターダストを模した兜を被り、腰より6本の刃を伸ばした戦士。

 

「『スターダスト・チャージ・ウォリアー』のシンクロ召喚時、1枚ドロー!」

 

コナミ 手札3→4

 

「『竜脈の魔術師』を召喚!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

残る召喚権を使い、登場したのは『竜穴の魔術師』と対をなす若手の『魔術師』だ。

 

「竜脈をリリースし、『モンスターゲート』を発動!通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキを捲り、そのモンスターを特殊召喚する!散々テテュスでドローしたんだ、こちらの運も負けてはいない事を思い知らせてやる!1枚目!『ダメージ・ダイエット』!2枚目!『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』!3枚目!『光の護封霊剣』!4枚目!『スキル・サクセサー』!5枚目!『オッドアイズ・ドラゴン』!さぁ、来い、世にも珍しい二色の眼の龍!『オッドアイズ・ドラゴン』ッ!!」

 

オッドアイズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

『竜脈の魔術師』が自らに魔法をかけ、光輝く魔方陣へと姿を変えて次々とコナミのデッキからカードを排出していく。しかもほとんどが墓地発動が可能なカードだ。

そして長いドラムロールが止まり、現れたのはコナミのエースカード、緑と赤、2色の虹彩、所謂オッドアイを輝かせた真紅の竜。胸に青い宝玉を抱き、背に三日月の如く2本の角を伸ばしたそのモンスターは天へと咆哮する。

 

「流石だぜ……さすおに!」

 

「だけどまだ私達には及ばない!」

 

「それはどうかな?バトルだ!『スターダスト・チャージ・ウォリアー』でネオパーシアスへ攻撃!流星乱射!」

 

「残念ながらダメージは受けず、『天空の泉』の効果で除外し、回復!」

 

レジー・マッケンジー LP10800→13100

 

降りかかる刃の嵐、弱体化したネオパーシアスではそれを防ぐ事も出来ず、敗れ去る。ダメージは与えられず、むしろ回復されてしまうが――コナミはその手を緩めない。

 

「『スターダスト・チャージ・ウォリアー』は特殊召喚された全てのモンスターへ攻撃出来る!続けて『アテナ』、テテュス、フレイヤに攻撃!」

 

「ッ!だけど『天空の泉』の効果で回復!」

 

レジー・マッケンジー LP13100→15700→18100→18200

 

『スターダスト・チャージ・ウォリアー』の刃が飛び交い、マッケンジーのフィールドの天使族モンスターが全て切り裂かれ、光の粒子となって消えていく。

しかしそのその魂は『天空の泉』へ吸い込まれ、浄化されてマッケンジーのLPへと変換される。その数値なんと18200。モンスターは全て破壊したが、その代償として多大なLPを与えてしまった。

 

「ピースキーパーへ攻撃!」

 

「ピースキーパーのエフェクトで『マシンナーズ・ギアフレーム』をサーチし、『補給部隊』で1枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札15→16

 

「フォートレスに攻撃!」

 

デイビット・ラブ LP8600→7850

 

「『機甲部隊の最前線』のエフェクトで『マシンナーズ・ディフェンダー』を特殊召喚!フォートレスのエフェクトでバンドの君のセットカードを破壊!」

 

マシンナーズ・ディフェンダー 守備力1800

 

一気に畳み掛けるコナミ。Great TORNADOと『スターダスト・チャージ・ウォリアー』に抜群のコンビネーションでデイビットの機械軍団を倒して倒して倒しまくる。

眼前に青いボディを輝かせる重厚な壁が現れた事を確認し、構うものかと更に攻める。

 

「『マシンナーズ・ディフェンダー』へ攻撃!」

 

これでデイビットとマッケンジー、両者のフィールドのモンスターは0、がら空きとなった。だがコナミの攻撃権はまだ残っている。グルルと喉を鳴らし、眼を輝かせる飢えた竜を満足させる為、コナミは右手を突き出す。

 

「まずはデイビット!お前から倒す!『オッドアイズ』で攻撃!」

 

「残念だったネ!手札の『速攻のかかし』を捨て、バトルフェイズを終了!」

 

ここまで来てまさかの手札誘発カードの効果が炸裂し、草臥れた三角帽にワインレッドのサングラスを、木の枝をクロスさせ、かかしがジェット噴射で登場し、ドラゴンのブレスを防ぐ。

迂闊だった、これ程に手札が充実しているのだ。手札誘発の1枚や2枚、あってもおかしくないと言うのに。

結局大したダメージは与えられず、モンスターは全滅させたは良いも、LPを与えただけだ。

 

「『アドバンス・ドロー』発動!TORNADOをリリースし、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札0→2

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

コナミ LP1600

フィールド『オッドアイズ・ドラゴン』(攻撃表示)『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『スターダスト・チャージ・ウォリアー』(攻撃表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)

『妖刀竹光』セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『刻剣の魔術師』

手札0

 

「Meのターン、ドロー!『マシンナーズ・ソルジャー』を召喚!」

 

マシンナーズ・ソルジャー 攻撃力1600

 

「ソルジャーのエフェクトにより、手札の『マシンナーズ・スナイパー』を特殊召喚!」

 

マシンナーズ・スナイパー 攻撃力1800

 

「魔法カード、『アイアンコール』を発動!墓地の『マシンナーズ・ディフェンダー』を特殊召喚!」

 

マシンナーズ・ディフェンダー 守備力1800

 

次々とデイビットのフィールドに降り立つ機械の兵隊、『マシンナーズ』モンスター達。右腕がナイフとなった緑の人型ロボットに銃を担いだロボット、そして他の『マシンナーズ』と違い、壁のような形をした青い重機。とんでもない展開力だ。

 

「手札の『督戦官コヴィントン』と『マシンナーズ・ギアフレーム』を捨て、墓地の『マシンナーズ・フォートレス』を特殊召喚!」

 

マシンナーズ・フォートレス 攻撃力2500

 

「そして永続罠、『リビングデッドの呼び声』を発動!墓地の『督戦官コヴィントン』を特殊召喚!」

 

督戦官コヴィントン 守備力600

 

最後にデイビットのフィールドに現れたのは『マシンナーズ』モンスターを指揮するピンクカラーの人型ロボット。このカードこそがソルジャー、スナイパー、ディフェンダーの3体を統率する。

 

「コヴィントンのエフェクトでフィールドのソルジャー、スナイパー、ディフェンダーの3体を墓地へ送り、手札から『マシンナーズ・フォース』を特殊召喚する!」

 

マシンナーズ・フォース 攻撃力4600

 

コヴィントンの指令の下、3体の『マシンナーズ』がパーツを分離し、合体する。スナイパーの身体にソルジャーの頭、肩と腰、脚にはディフェンダーのパーツが装着され、最強の機械兵士が生み出される。攻撃力4600、召喚条件こそ厳しいものの、そのステータスは『古代の機械究極巨人』にも勝る。

 

「魔法カード、『二重召喚』を発動!さぁ、Meの切り札の登場だ!確かこうかな?Show Must Go On!コヴィントンとフォートレスの2体をリリースし、アドバンス召喚!『The big SATURN』!!」

 

The big SATURN 攻撃力2800

 

デイビットが1枚のカードを翳した途端、一気に場の空気が変わる。2体のモンスターが風に包まれ、光となって交差し、その1枚の糧となり、デイビットがデュエルディスクに叩きつける。

瞬間、天空に輝く星がキラリと煌めき、このフィールド目掛けて凄まじい速度で落ちる。ドォォォォォッ!轟音と共に大地を捲り上げ、土煙を纏って1体のモンスターが現れる。

鈍重な鐘のような巨体を持ち、剛腕を吹かせた機械族モンスター、それから放たれる威圧感は激しく、隣に並ぶ『マシンナーズ・フォース』の方が攻撃力が高いと言うのに小さく見える。

 

「これこそがMeの切り札!プラネットシリーズの1柱!おっと、『マシンナーズ・フォートレス』が墓地に送られた事で除外し、墓地の『マシンナーズ・メガフォーム』を特殊召喚!」

 

マシンナーズ・メガフォーム 攻撃力2600

 

呆然とするのも束の間、『マシンナーズ・フォートレス』が再びフィールドに浮上し、『マシンナーズ・ギアフレーム』と『マシンナーズ・ピースキーパー』を引き上げ、二足歩行に変形して合体する。

『マシンナーズ・フォース』とは違い、余りステータスは強化されないが、それでも今のコナミ達には充分脅威となるカードだ。

 

「どうだいケナミ!これが進化したMeの実力!だがこれ位で驚くなよ?魔法カード、『マジック・プランター』!リビングデッドを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札7→9

 

「手札の『マシンナーズ・フォートレス』、『マシンナーズ・スナイパー』、『マシンナーズ・ディフェンダー』を捨て、『マシンナーズ・カノン』を特殊召喚!」

 

マシンナーズ・カノン 攻撃力0→2400

 

3体ものモンスターを要求し、現れたのは背に巨大な砲塔をそびえさせた紫色の『マシンナーズ』モンスター。効果面では『モンタージュ・ドラゴン』に見劣りするが、『マシンナーズ』カテゴリに入っている事で区別はつく。

 

「手札の『マシンナーズ・カノン』を捨て、墓地の『マシンナーズ・フォートレス』復活!」

 

マシンナーズ・フォートレス 攻撃力2500

 

10枚以上あった手札を消化し、デイビットのフィールドに5体のモンスターが並ぶ。それも全て最上級、高い攻撃力を有したモンスターだ。

マッケンジーの天使を倒したと思ったらこれ、キリが無いにも程がある。

 

「バトル!『マシンナーズ・フォース』で『スターダスト・チャージ・ウォリアー』に攻撃!」

 

デイビット・ラブ LP7850→6850

 

「罠発動!『シンクロ・バリアー』!チャージ・ウォリアーをリリースし、次のターン終了までダメージを0に!」

 

「ふぅん?まぁ、良いさ、『マシンナーズ・フォース』で『魔轟神ヴァルキュリス』に攻撃変更!先に君から片付けてあげるよ!」

 

「ッ、暗次!」

 

「ご安心を!速攻魔法、『神秘の中華なべ』!ヴァルキュリスをリリースし、攻撃力分、LPを回復!」

 

黒門 暗次 LP800→4000

 

「チッ!ならばグラファに攻撃!」

 

黒門 暗次 LP4000→2400

 

「ぐっ――!」

 

しかしデイビットの猛攻は終わらない。対象を失ったならもう1度照準を合わせるまで。再度撃ち出された凶弾がグラファの頭を穿ち、ダメージが暗次を襲う。

 

「SATURNでゴルドへ攻撃!Anger HAMMER!」

 

黒門 暗次 LP2400→2200

 

続いてデイビットの切り札、プラネットシリーズであるSATURNの剛腕が振り抜かれ、凄まじい風切り音と共にゴルドの頭蓋が粉々に砕かれる。圧倒的なパワー、これは堪らない。

 

「堪えたけどこれで終わりだね!『マシンナーズ・カノン』でダイレクトアタック!」

 

「やらせねぇよ!墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

だがこの程度で暗次は倒れない。彼が発動したカードはコナミも信頼する防御札、光輝く金色の剣が3本飛び出し、カノンの銃撃を弾き返す。

 

「なら標的を変更しよう。メガフォームで『オッドアイズ・ドラゴン』へ攻撃!」

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!『妖刀竹光』と『エレメンタルバースト』と共に『オッドアイズ・ドラゴン』をセット!」

 

「私を忘れてないかしら?永続罠、『聖なる輝き』!」

 

「ナイスだよ、マック、さぁ、かくれんぼが下手なドラゴンを攻撃!」

 

「ッ!」

 

今度は暗次からコナミへ標的を変え、デイビットがメガフォームに指示を出し、砲門から荷電粒子砲が撃ち出され、『オッドアイズ・ドラゴン』が砕け散る。

 

「フォートレスでスターダストに攻撃!相撃ちだ!」

 

「スターダストの効果で自身に1ターンに1度の破壊耐性を与える!波動音壁!」

 

「なら『機甲部隊の最前線』のエフェクトで『マシンナーズ・ギアフレーム』を特殊召喚!『補給部隊』のエフェクトでドロー!更に『マシンナーズ・フォートレス』のエフェクトでスターダストを破壊!」

 

マシンナーズ・ギアフレーム 攻撃力1800

 

デイビット・ラブ 手札4→5

 

固い防御を誇るスターダストを破壊。しかもモンスターに手札も補充する始末だ。

 

「スターダストに装備した『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』サーチ、そしてバトルフェイズが終了した事で『妖刀竹光』は破壊され、もう1枚『黄金色の竹光』をサーチ」

 

「メインフェイズ2、ギアフレームをフォースに装備、カードを2枚セットし、ターンエンド」

 

デイビット・ラブ LP6850

フィールド『The big SATURN』(攻撃表示)『マシンナーズ・フォース』(攻撃表示)『マシンナーズ・メガフォーム』(攻撃表示)『マシンナーズ・カノン』(攻撃表示)

『マシンナーズ・ギアフレーム』『機甲部隊の最前線』『補給部隊』セット2

手札3

 

「俺のターン、ドロー!来た!速攻魔法、『魔力の泉』!相手フィールドの表側表示の魔法、罠の数だけドローする!相手フィールドには11枚!よって11枚ドローし、その後、自分フィールドの表側表示の魔法、罠の数だけ捨てる!俺のフィールドには2枚、よって2枚捨てる!」

 

黒門 暗次 手札2→13→11

 

「捨てられたベージを自身の効果で特殊召喚し、グラファの効果でフォースを破壊!『魔力の泉』で装備魔法扱いのギアフレームは破壊されねぇ!身代わり効果は発動出来ねぇって訳だ!」

 

暗黒界の尖兵ベージ 攻撃力1600→1900

 

「何ッ!?」

 

「デメリットを逆手に取ったか……やるな、暗次」

 

ユニオンモンスターは装備カードとなっている場合、装備魔法として扱い、その点でドロー枚数を増やした上、本来デメリットである発動後、相手フィールドの魔法、罠に与えられる耐性を逆に利用する事でユニオンモンスター特有の身代わり効果を防ぐ暗次。これにはコナミも舌を巻く。

 

「ならMeは永続罠、『群雄割拠』発動!」

 

「へへっ!まだ行くぜ!俺は魔法カード、『闇の指名者』発動!モンスターカード名を宣言し、相手はそのカードをデッキから手札に加える『E・HEROシャドー・ミスト』を宣言!」

 

「オレのデッキにある!デッキからサーチする!」

 

「『暗黒界の門』の効果で墓地のゴルドを除外し、手札のシルバを捨て、ドロー!」

 

黒門 暗次 手札9→10

 

「シルバの効果で特殊召喚!」

 

暗黒界の軍神シルバ 攻撃力2300→2600

 

「更にもう1枚門を発動!墓地のヴァルキュリスを除外し、手札の『暗黒界の導師セルリ』を捨て、ドロー!」

 

黒門 暗次 手札8→9

 

「セルリの効果でこいつをマッケンジーのフィールドに特殊召喚!」

 

暗黒界の導師セルリ 守備力300→600

 

「私のフィールドに……!?」

 

突如、暗次の背後に開いた門より黒い影が飛び出してマッケンジーのフィールドに降り立つ。その正体は青い外套を纏った小さな悪魔。その表情は不気味な笑みとなっている。

 

「そしてセルリが『暗黒界』の効果で特殊召喚した時、相手は手札を1枚捨てる!この相手はマッケンジーから見て、だ」

 

「オレはシャドー・ミストを捨て、効果で『E・HEROプリズマー』をサーチ」

 

「クッ、だがYouだって捨てる……捨てる……!?」

 

苦虫を噛み潰したような表情で暗次を睨むデイビット、彼は暗次とて痛手を被ると考えた途中で――彼の真意に気づく。そう、捨てる。カードの効果で手札を。しかも相手が。

 

「俺が捨てたのは『暗黒界の鬼神ケルト』!効果で特殊召喚!」

 

暗黒界の鬼神ケルト 攻撃力2400→2700

 

現れたのは肩が透明になった骸骨のような悪魔。ゴルド達と同じ効果を持っているが僅かに攻撃力が高い。

 

「ケルトが相手に捨てられた事により、俺はデッキからセルリをマッケンジーのフィールドに特殊召喚!兄貴!」

 

暗黒界の導師セルリ 守備力300→600

 

「承った!プリズマーを捨てる!」

 

「俺が捨てるのはケルト!効果で自身とグラファを特殊召喚!」

 

暗黒界の鬼神ケルト 攻撃力2400→2700

 

暗黒界の龍神グラファ 攻撃力2700→3000

 

「そしてベージとシルバを手札に戻し、2体のグラファを復活!」

 

暗黒界の龍神グラファ 攻撃力2700→3000×2

 

全力全開、自身の持てる力を出し尽くし、磐石の布陣を整える。暗き門からは巨大な腕がヌッ、と現れ、強引に開かれ眩き光が漏れる。

巨大な翼を広げ、天に飛び立つ2体の龍神。残る1体も倣うように飛翔し、3体揃って雄々しき咆哮を放つ。

ビリビリと空気中が震撼し、砂塵が波紋の如く広がっていく。

 

「バトルだ!3体のグラファでデイビットのモンスター全てに攻撃!」

 

デイビット・ラブ LP6850→6650→6250→5650

 

「ぐぉぉぉぉぉ……っ!『機甲部隊の最前線』のエフェクトで『マシンナーズ・フォートレス』を特殊召喚し、『補給部隊』で1枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札1→2

 

「ケルトでフォートレスに攻撃!」

 

デイビット・ラブ LP5650→5450

 

「フォートレスの効果で残るケルトを破壊!」

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

黒門 暗次 LP2200

フィールド『暗黒界の龍神グラファ』(攻撃表示)『暗黒界の鬼神ケルト』(攻撃表示)

セット2

『暗黒界の門』

手札5

 

「速攻魔法、『非常食』!『群雄割拠』をコストに1000回復!」

 

デイビット・ラブ LP5450→6450

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『聖なる輝き』をコストにドロー!」

 

レジー・マッケンジー 手札1→3

 

「面白いじゃない、私も見せてあげるわ!切り札を!2体のセルリをリリースし、アドバンス召喚!『The splendid VENUS』!!」

 

The splendid VENUS 攻撃力2800

 

ついに登場するマッケンジーの切り札。翳された1枚のカードは彼女のデュエルディスクに叩きつけられ、途端、フィールド全体が眩き金色の光に照らされる。

息を呑む厳かな空気が支配する中、天上の雲を引き裂き、1体の天使が姿を見せる。否、それは天使と呼ぶには余りにも存在感が違う。

あの『アテナ』ですら霞んで見える星の女神。美しきヴィーナスの名を持つモンスターが降り立ち、閃光が降り注ぐ。

 

「これが私の持つプラネットシリーズの1体、さぁ、その力を見せつけなさい!ヴィーナスの効果で天使族モンスター以外の攻撃力は500ダウン!」

 

「相克の効果で無効に!」

 

「チッ――ならVENUSでケルトを攻撃!」

 

黒門 暗次 LP2200→2100

 

「ターンエンド」

 

レジー・マッケンジー LP18200

フィールド『The splendid VENUS』(攻撃表示)

『神の居城―ヴァルハラ』『コート・オブ・ジャスティス』『天空の泉』

『天空の聖域』

手札2

 

「オレのターン、ドロー!墓地の『置換融合』を除外、Great TORNADOをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

コナミ 手札3→4

 

「魔法カード、『アームズ・ホール』を発動し、墓地の『妖刀竹光』を回収し、相克に装備!2枚の『黄金色の竹光』を発動!『ペンデュラム・ホルト』を発動!更に2枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→4→5→6

 

「速攻魔法、『サイクロン』!『天空の泉』を破壊!ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『竜脈の魔術師』!出でよ、絶望の暗闇に差し込む、眩き救いの光!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800→2300

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100→1600

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500→1000

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800→1300

 

天空に振り子の軌跡を描き、1体の竜と3体の『魔術師』がフィールドに降り立つ。

 

「賤竜の効果で慧眼回収!相克の効果でVENUSの効果を無効!バトルだ!セイバーでVENUSへ攻撃!」

 

「私のVENUSを……!それでも相撃ちよ!」

 

「それはどうかな?墓地の『スキル・サクセサー』を除外、セイバーの攻撃力を800アップ!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800→3600

 

剣の竜が自らの背に伸びた刃を振るい、輝きを失った女神を切り裂く。これで両者の切り札は破壊された。勢いのままにコナミは攻撃を続ける。

 

「慧眼でデイビットに攻撃!」

 

「NO!お断りだよ!永続罠、『リビングデッドの呼び声』発動!蘇れ!SATURN!」

 

The big SATURN 攻撃力2800

 

「ならマッケンジーへと攻撃を変更!全てのモンスターの攻撃を受けろ!」

 

レジー・マッケンジー LP18200→14900→12800→10300

 

「あぁぁぁぁぁっ!?」

 

全力でマッケンジーのLPを削り取るコナミ。しかしそれでも奪えたのはLPの半分程、未だに一万を削れない。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

コナミ LP1600

フィールド『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)『慧眼の魔術師』(攻撃表示)『竜脈の魔術師』(攻撃表示)

『妖刀竹光』セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『刻剣の魔術師』

手札4

 

「Meのターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『マシンナーズ・カノン』2体『マシンナーズ・ギアフレーム』2体『マシンナーズ・フォース』を回収し、2枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札2→4

 

「そろそろ決着をつけようか!手札1枚とLPを1000払い、SATURNの攻撃力を1000アップ!モードチェンジ!SATURN FINAL!」

 

デイビット・ラブ LP6450→5450

 

The big SATURN 攻撃力2800→3800

 

全身から迸る炎を吹かせ、SATURNの真の姿が現れる。これこそがプラネットシリーズ本来の力、消費は大きいが、デイビットはこの為に『補給部隊』や『レインボー・ライフ』を使っているのだ。

 

「やれ!SATURNで『慧眼の魔術師』を攻撃!end of COSMOS!」

 

「させるかよ!罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

デイビットによる攻撃、コナミへの決着弾を避けるべく、暗次が伏せていたカードを使い、コナミを守る。グラファ3体から放たれる強烈な遠吠えがSATURNを吹き飛ばし、ビームを消滅させる。

 

「暗次……!感謝する!」

 

「兄貴には助けられてますからね!恩は返さねぇと!」

 

「……成程、彼を先に倒すべきかな……?Meは墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『機甲部隊の最前線』をデッキに戻し、1枚ドロー」

 

デイビット・ラブ 手札3→4

 

「魔法カード、『一時休戦』を発動」

 

デイビット・ラブ 手札3→4

 

レジー・マッケンジー 手札2→3

 

コナミ 手札4→5

 

黒門 暗次 手札5→6

 

「カードを3枚伏せ、ターンエンド。『シャッフル・リボーン』のエフェクトで手札を1枚除外する」

 

デイビット・ラブ LP5450

フィールド『The big SATURN』(攻撃表示)

『補給部隊』『リビングデッドの呼び声』セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ!グラファでSATURNへ攻撃!」

 

「罠発動!『進入禁止!NoEntry!!』全てのモンスターを守備表示に!」

 

「チッ、2体のグラファを攻撃表示に変更し、ターンエンドだ!手札制限で1枚捨てる」

 

黒門 暗次 LP2100

フィールド『暗黒界の龍神グラファ』(攻撃表示)×2『暗黒界の龍神グラファ』(守備表示)

セット1

『暗黒界の門』

手札6

 

「私のターン、ドロー!……デイビット」

 

「Meは構わないよ、手早く終わらせよう」

 

マッケンジーがデイビットへ目を配らせ、デイビットが苛立ったように目を鋭くし、頷く。これはマッケンジーに対しての怒りでは無い。何度も食らいつくコナミ達に対するものだ。そしてこのやり取り、これはまるで、あの自爆特攻のような――

 

「そう、なら遠慮なく!手札を1枚捨て、魔法発動!『死者への手向け』!フィールドのカード、SATURNを破壊!」

 

「なっ!?」

 

突然発動されたマッケンジーのカード、通常ならば既に相手に使っていようなものを、デイビットの切り札、SATURNへと使われる。一体何を――考えるのも束の間、破壊されるSATURNが膨れ上がり、赤く発光する。

 

「『補給部隊』でドローし、SATURNが相手によって破壊され、墓地に送られた時、互いにその攻撃力分のダメージを受ける!さぁ、負けて散れ!DOUBLE IMPACT!」

 

「墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外!暗次!」

 

「うっす!墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、効果ダメージを半分に!」

 

コナミ LP1600→200

 

黒門 暗次 LP2100→700

 

デイビット・ラブ LP5450→2650 手札0→1

 

レジー・マッケンジー LP10300→7500

 

SATURNの身体が粉々に砕け散り、内包された爆炎がフィールド全体を覆い尽くす。圧倒的な破壊力、強烈なダメージによる爆風が全員の頬を撫でる。

 

「まだ終わらない!ヴァルハラの効果で『天空勇士ネオパーシアス』を特殊召喚!」

 

天空勇士ネオパーシアス 攻撃力2300→7150

 

続く猛攻、2人の苦しむ表情を見て、熱に浮かされたようにマッケンジーが嗜虐的な笑みを張りつけ、その手札から強力な天使を出現させる。

青と金色、そして純白に彩られた最上級の天使。その姿を見て、2人が顔を強張らせる。LPの差分攻撃力をアップし、その数値7150。今のコナミに――対抗する手段も、アクションカードも無い。

 

「――相克でネオパーシアスの効果を無効に――」

 

「そいつぁ不味い!Meは罠カード、『ブレイクスルー・スキル』を発動し、その効果を無効!」

 

「バトル!ネオパーシアスで『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』へ攻撃!これで終わりよ!ケナミ!ネオパーシアスには、貫通効果がある!」

 

降りかかる閃光、天より下される審判を前に、コナミはギリッ、と歯を食い縛って立ち尽くす。これで、終わる。

誰もがそう思った瞬間、1人の少年が駆け抜け、右手を突き出し、コナミを突き飛ばす。その、少年は――。

 

「罠発動!『仁王立ち』!」

 

黒門 暗次。彼はコナミを庇うように光の前に立ち塞がり、最後のカードを発動する。『仁王立ち』、そのカードを視界におさめた途端、コナミは全てを察知し、顔を真っ青にして額から大粒の汗を流しながら右手を突き出し、叫ぶ。

 

「やめろ……何をしている暗次!?」

 

「その効果でグラファの守備力を倍にし――」

 

暗黒界の龍神グラファ 守備力2100→4200

 

瞬間、暗次の眼前に双翼を広げた黒竜が降り立ち、主を守るように『仁王立ち』する。

あの時、コナミと出会った頃よりその背中の頼もしさと暖かさは変わらない。あのデュエルを切欠に、この背の存在に気づき、今まで色々あったな、と暗次は感傷に浸る。

人間、変われば変わるものだ、昔の自分が今の自分を見れば信じられないと目を丸くするだろう。それでも――。

 

(ありがとう……こんな俺と一緒に戦ってくれて……)

 

「馬鹿な真似は止せ!オレはそんな事……望んで無い!」

 

暗次が目を細め、グラファに感謝する中、コナミが何とか立ち上がろうとするも、残る2体のグラファが彼をガシリと掴み、その行動を封じる。

まるで――主の意志を、尊重するように。その力強い腕にコナミですら抜け出せない。

 

そんなコナミを見て、暗次が思い出したように目を見開き、目を細め、ふわりと、優しい笑みを浮かべる。感謝をするならば――この人にも。

 

「ありがとうございます、兄貴――コナミさん。俺、兄貴に出会えて、本当に良かった――!」

 

「……ッ!違う、オレは……オレは兄貴と呼ばれるような奴じゃ……!」

 

これまでになく嬉しそうに、楽しそうに笑う彼を見て、コナミが息を呑む。その表情に暗次もまた、笑う。それでも――彼は尊敬する、兄貴分だと。振り向き、閃光を迎え撃つ。

 

「そして『仁王立ち』を除外し、攻撃対象をグラファに絞る――!」

 

閃光が雨の如くグラファに降り注ぎ、その嵐にグラファの角が弾け飛び、翼に風穴が空く。ボロボロに傷つき、その命が焦がされようとも――竜は倒れない、主は守る為に――。

 

黒門 暗次 LP700→0

 

その主もまた、友を守る為に倒れない。その道着がボロボロに傷つき、ヘアバンドが焦げ落ちても――彼は笑う。そして、ソリッドビジョンのグラファが溶けるように消え去り――デイビットのデュエルディスクが、紫色に発光する。

 

「ありがとう――」

 

「――ッ!」

 

コナミが駆け出し、暗次に手を伸ばすも――その手は届かず、空振りする。後に残されたのは――1枚のカードのみ。

 

「……ぅぁ……ああああああああああッ!!!」

 

今までこんな事、何度もあった、何度も下した。だから、そんな事、無いと言うのに――何故か、コナミの頬に涙が伝う。

 

別れと言うものは――何時も突然だ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




暗次、リタイア。正直言えば、彼の脱落は前々から考えていた事でした。今のコナミにとって彼は何よりも大切な友達で彼の消失を経て、コナミ君の成長を促そうと思っていたのです。
ですが書いてる内にどんどん愛着が沸いてくる。彼を脱落させるか否か本当に迷いました。苦しいですが結果、脱落。彼はコナミ君に大切なものを与えていきました。


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第76話 最高のコンビ

VSデイビット&マッケンジー決着回。そして今回からチャンピオンシップ最終戦となります。でもチャンピオンシップが終わっても何話か2章が続いたり。


長く続くアカデミアの侵略、それを退けるべく、闘う4人のデュエリスト。その命運が今、尽きようとしていた。しかし彼等の表情にあるのは、後悔では無く、期待。次の者へと渡す希望のバトン。

 

「――ミッチー!九庵堂!」

 

「兄者!」

 

長い地を踏み越え、駆けつけた遊矢と隼、アリトと月影。しかし――彼等の手〝も〟また届かない。日影達のLPが0を刻み、オベリスク・フォース達のデュエルディスクより紫色の光が閃く。

やめろ、制止の言葉が飛び出る前に――4人のデュエリストが、カードに変えられ――。

 

「させっかよぉ!」

 

『乱入ペナルティ、2000ポイントダメージ』

 

眩き銀の軌跡が弧を描き、紫色の閃光を弾く。続けて宙より撃ち出され、4人の危機を救ったカードの手裏剣がくるりと回転して地面に突き立てられ、3つの人影が日影達の前に降り立つ。

一体何が起きている。目をパチクリと瞬かせ、戸惑う4人を尻目に、現れた3人はデュエルディスクを構え、闘志を剥き出しにする。

1人は黒い長髪、前髪を目の上で切り揃え、ルビーのように輝く瞳を持った少女。1人は無造作に伸ばした茶髪に鋭い目、八重歯が特徴的な、竹刀を手にした小柄な少年。1人は北斗七星を象った髪飾りをつけ、表情に溢れんばかりの自信を纏った少年。そう、この3人は――。

 

「天知る!」

 

「地知る!」

 

「人ぞ知る!」

 

遊矢達を時に苦しめ、闘って来た3人組――。

 

光津 真澄 LP4000→2000

 

刀堂 刃 LP4000→2000

 

志島 北斗 LP4000→2000

 

誰が呼んだか、LDSトリオ。彼等がそれぞれポーズを取り、その背後から赤、青、黄、と信号機の如き色合いの爆煙が上がる。このどうしようも無いピンチに現れた正にヒーロー。

しかし4人としては何とも複雑な心境である。喜ぶべきなのだろうが、実際日影がその目をジトッ、としたものへ変え、3人を睨む。

 

「……助けてくれたのは有り難いが、マシな登場は無かったのか……」

 

「美味しい所を持っていくとは……悔しいですねぇ」

 

「はは……」

 

「何や助かったんか!?おおきにぃ!」

 

それぞれ全く異なる反応を見せる4人だが、その表情はどことなく嬉しそうだ。駆けつけた遊矢達もほっと胸を撫で下ろし、3人に心の中で感謝を送る。何故心の中かと言うとやはり戦隊風の登場が空気をぶち壊したからだろう。いや、4人がカード化されるのは嫌なのだが。そんな事を考えていると北斗がくるりと振り向き、遊矢達へと声をかける。

 

「遊矢、黒咲さん!ここは僕達に任せて先に!」

 

「上から見たけどその先に素良がいたわ!あんたの同門なんだからケリつけなさい!黒咲さんも安心してください!貴方に鍛えられた腕を今こそ見せる時!」

 

「とっとと終わらせてやるよぉ!二階堂道場で暗次とねね、黒咲さんと共に編み出した禁じ手ハンデス解禁だ!行くぜ『レスキューキャット』!」

 

何やら3人共妙に隼に対し、凄い信頼を寄せて来るが本人としては全く身に覚えが無い。遊矢が知り合いなのか?と言う視線を送った途端、口元を引き吊らせてとんでも無い勢いで首を横に振りまくる。しかし彼等の報告で聞き逃せないものがあった。この場所に素良が来ている。遊矢はその言葉に頷き、直ぐ様また駆けていく。その先に――友がいると信じて。

 

――――――

 

少年は、確かに変わっていたのだろう。遠い昔は、こんな激情が湧く事等無かった。感情自体はあったのだろう、笑う事も、怒る事も。しかし、涙は一筋も流さなかった。目の前で旧知の友が消えようと、悲しい、寂しいと思う事はあっても、泣く事は無かった。絶望を味わって尚である。

 

弱くなったと言えばそうだろう、力も、心も。昔ならばこんな事にならなかっただろう。それこそ、この程度の強者、歯牙にもかけない圧倒的な力があった。この悲劇を起こさぬ、理不尽さを持っていた。

彼を知る者ならば弱くなったと言うだろう、しかし、同時にこう言う筈だ。彼は、変わったと。

 

「……ふぅん……ケナミのおまけ程度にしか思ってなかったけど、随分と健闘したじゃないか、えっと……あん、あんー?」

 

「アンジー、だったかしら?久し振りに楽しめたわ。ケナミも良かったわね、助かって……」

 

不躾にも、2人が言葉を発する。そこには暗次に対する賞賛はあっても、達成感はあっても、彼に対する想いが無い。酷く不快な声、苛立ちを募らせる音、それがコナミの神経を刺激し、逆撫でる。

胸の奥からふつふつとどす黒いものが沸き上がり、その止めどないエネルギーが糸の切れたコナミの身体を立ち上がらせ、幽鬼の如くフラフラと足取り危うく2人へ向く。ギリリ、その口より歯軋りが響き、唇から赤い鮮血が溢れ落ちる。

 

「……れ……」

 

「……ん?」

 

小さな、本当に小さな呟き、乾き、掻き切れそうなガラガラの声でコナミが何かを発し、デイビットが無神経にも片目を伏せ、もう一方の片目を丸く開き、それを拾い上げる。その動作さえも――コナミの癪に触る。

瞬間、2人の背筋に氷が入れられたような冷たいものが這う。何か、化物の爪に掴まれたような感覚、それが襲いかかり、2人の表情が一気に変わる。

 

「黙れ……!」

 

途端にコナミを中心として烈風が吹き抜け、激情の刃が2人へ向けられる。静かだが明確な激昂、どす黒く濁ったその感情の名は――怒りだ。

自身の身を焦がす程熱く燃え盛る怒りの炎がコナミの中で渦巻き、発露されている。その事実に、2人は怯える事も無く、むしろ待っていたとばかりに歪んだ笑みを浮かべる。

 

「ふふ……やっと楽しめそうだわ、私はこれでターンエンドよ!」

 

レジー・マッケンジー LP7500

フィールド『天空勇士ネオパーシアス』(攻撃表示)

『神の居城―ヴァルハラ』『コート・オブ・ジャスティス』

『天空の聖域』

手札0

 

ビリビリと空気が震撼し、酷く張りつめる。緊迫した状況、呼吸も許さぬ中、コナミは暗次のカードを大切に、大切に手に取り、ジャケットのポケットへと入れる。

そのまま静かに右手をデュエルディスクに翳す。するとボウッと白と黒の淡い光が一瞬だけ閃き――。

 

「ドロォォォォォッ!!」

 

暗黒のアークが、宙を染め上げる。

 

「『相克の魔術師』の効果でネオパーシアスの効果を無効に!」

 

天空勇士ネオパーシアス 攻撃力7750→2300

 

「速攻魔法、『揺れる眼差し』を発動!ペンデュラムゾーンのカードを全て破壊し、その枚数分効果を適用!まず1枚目!貴様等に500のダメージを与える!」

 

デイビット・ラブ LP2650→2150

 

レジー・マッケンジー LP7500→7000

 

「2枚目!デッキからペンデュラムカード、『降竜の魔術師』をサーチ!そして魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『No.39希望皇ホープ』、『閃光竜スターダスト』、『ジャンク・コレクター』、『E・HEROブレイズマン』、『スターダスト・チャージ・ウォリアー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札5→7

 

「竜脈と慧眼でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.39希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

現れたのは黄金の鎧を纏い、純白の翼を広げた希望の皇。だがこれはモンスターゾーンを空ける為の召喚に過ぎない。コナミは怒りのままに手を進め続ける。

 

「そして墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、ホープを戻してドロー!」

 

コナミ 手札7→8

 

「儀式魔法、『オッドアイズ・アドベント』!相克をリリースし、儀式召喚!『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン 攻撃力2800

 

大地が隆起してひび割れ、竜のアギトの如く開いた地面が『降竜の魔術師』を食らう。贄によって儀式が成立し、地面より『オッドアイズ・ドラゴン』が飛び出し、捲れ上がった土が鎧となる。鉄の如く重く不動なる竜が大山を背負って降り立つ。響き渡る重音、2体の竜が揃い、共鳴するように雄叫びを上げる。

 

「破壊された『妖刀竹光』の効果で『魂を吸う竹光』サーチ、グラビティ・ドラゴンの効果で相手の魔法、罠をバウンス!この効果に相手はチェーンは出来ない!」

 

「チェーン不可の『ハリケーン』……!」

 

「降竜と慧眼でペンデュラムスケールをセッティング!慧眼を破壊し、『竜穴の魔術師』をセッティング!降竜の効果でネオパーシアスをドラゴン族に変更!更に『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』のレベルを3つ下げ、墓地の『貴竜の魔術師』を特殊召喚!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン レベル7→4

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

次なる手はコナミの持つオンリーワンのモンスター、ペンデュラムチューナーの肩書きを持った幼き『魔術師』だ。純白の衣装を纏い、紅玉の瞳を開き、剣の竜を従えるように前に立つ。吼え猛り、目を輝かせる竜、そんな暴れ馬を一瞥し、コナミは小さく呟く。

 

「従え」

 

たった一言、それだけで――あれだけコナミの言う事を聞かなかった『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』がピタリと止まり、コナミに2色の虹彩を移す。そして竜は感じ取る。

コナミが自らの根源、怒りを剥き出しにしている事を。強く、激しい怒り、それを認めた途端――竜は突然、頭を垂れる。それはまるで、コナミを〝主人〟として受け入れた光景。

皮肉な事に、大事なものを失って初めて、コナミは新たな力を得たのだ。その事実として、コナミのエクストラデッキが淡い光を帯びている。

 

「往くぞ、レベル4となった『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』にレベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

『貴竜の魔術師』の身体が3つのリングとなって弾け飛び、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を包み込む。更に『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』から色素が抜け落ち、一筋の閃光がリングを貫き、剣の竜の姿を大きく変える。

『オッドアイズ・ドラゴン』を基本とした二足歩行の竜の姿を激しく燃える赤に変え、大地を踏み砕き、炎を流し込み、火柱を上げる。その様は正にコナミの中で暴れ狂う灼熱の怒り。

だがこれ程の炎でも、コナミの心中を表すには不足している。

 

「メテオバーストの特殊召喚時、ペンデュラムゾーンの『降竜の魔術師』を特殊召喚!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

これだけではコナミの怒りは収まらない。炎の竜が天へと咆哮すると共に、コナミの背後にあった柱が砕け散り、中にいた『降竜の魔術師』が竜の背に降り立つ。

 

「更に魔法カード、『置換融合』!フィールドの『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』と『賤竜の魔術師』で融合!融合召喚!『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力2500

 

次は荒れ狂う嵐と鳴り響く轟雷。炎の竜と風の『魔術師』が突如コナミの背後に出現した青とオレンジの渦に吸い込まれ、またもその姿を変える。

深い緑に染まった身体、2対4枚の翼、嘴のように尖ったアギト、3体目の竜が今、降臨した。

 

「そして『賤竜の魔術師』をセッティングし、ペンデュラム召喚!『竜穴の魔術師』!」

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

シンクロ、儀式、融合と立て続けに異なる召喚法を操り、今度は振り子の召喚法、ペンデュラムによってコナミのフィールドに1体のモンスターが現れる。

竜を操る熟練の『魔術師』、竜穴は杖を振るい、地に突き刺す。

 

「竜穴と降竜でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800

 

天空に星を散りばめた渦が広がり、2体の『魔術師』が光となって交差し、渦へと飛び込む。瞬間、小爆発がフィールドを震撼し、砂煙が風に運ばれ吹き荒ぶ。そして突如その砂煙より白い雪が散り、もう吹雪がデイビット達の視界を覆う。

大地が氷結し、吹雪の中から現れたのは絶対零度の青白い竜。胸の宝玉を氷の結晶で覆い、冷気を漂わせるその竜にデイビット達が口元を引き吊らせる。

 

「ハ、ハハハハハ!儀式、融合、シンクロ、エクシーズにペンデュラム!Wonderful!やはりYouは――」

 

「黙れ、聞く耳持たん。魔法カード、『死者蘇生』。墓地のメテオバーストを特殊召喚!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

儀式、融合、シンクロ、エクシーズ。4種の召喚法によって別れた竜の揃い踏み。とんでもない布陣に2人が口を開き呆然とする。

しかしコナミは違う。これでも尚足りない。昔の自分ならば、この布陣をも凌駕する、圧倒的な力を持っていたと言うのに――今は、力の無さが歯痒くて仕方無い。

 

「貴様等の相手等、オレのような奴で充分だ、バトル、『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』でネオパーシアスへ攻撃!『降竜の魔術師』を素材に融合、シンクロ、エクシーズ召喚したモンスターはドラゴン族と戦闘する場合、攻撃力が倍となる!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800→5600

 

「馬鹿なっ!?ネオパーシアスは天使族……ッ!『降竜の魔術師』のペンデュラム効果……!」

 

「失せろ」

 

レジー・マッケンジー LP7000→3700

 

『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』がその口元に冷気を集束させ、絶対零度の氷弾を構成し、ネオパーシアスへと撃ち出す。高速で射出された氷はネオパーシアスの胸を穿ち、その身体を吹き飛ばし、火山へと磔にする。更に氷は身体中を侵食して氷結させる。

それだけではない。後から続き、追従する猛吹雪がマッケンジーのLPを凍てつかせ、削り取る。

 

「あああああ――っ!?」

 

「ボルテックスで攻撃」

 

レジー・マッケンジー LP3700→1200

 

畳み掛ける追撃。天空に座す嵐と雷の竜が暴風を起こし、稲妻を落とす。圧倒的な天候、降り注ぐ猛威にマッケンジーのLPが更に削られる。

 

「かふっ――!」

 

「マック!」

 

「安心しろ、これが終われば次はお前だ。『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』、やれ」

 

ギロリ、マッケンジーを心配し、思わず叫ぶデイビットに対し、コナミがその赤帽子の奥底に眠る瞳で睨む。有無を言わせぬプレッシャーを受け、デイビットは息を呑んで後ずさる。

そしてかけられるマッケンジーのとどめ。メテオバーストがその脚で地を踏み抜き、地面が膨れ上がり、隆起して火柱を上げ、マッケンジーへと向かう。

 

レジー・マッケンジー LP1200→0

 

「――!」

 

あれだけコナミ達を追い詰め、暗次を倒した少女の余りにも呆気ない終わり。吹き飛ばされ、マッケンジーのデュエルディスクが作動し、アカデミアへと強制送還される。

 

「『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』で攻撃」

 

「ぐ――!」

 

放つ声に一縷の感情すら込めず、地の竜へと指示を出し、竜はメテオバーストと同じく大地を踏み締め、ひびを走らせ隆起して土の刺がデイビットへと迫り――。

 

「『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』のORUを1つ取り除き、この攻撃を無効に」

 

ピシリ、刺が凍りつき、氷のオブジェが完成する。雪の結晶を散らし、幻想的な光景が広がっていく。突如の攻撃停止、助かったのかと目を瞬かせるデイビット。

しかしそんな筈が無い。この怒りは――収まらない。

 

「そしてその後、墓地の『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を特殊召喚する――!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

現れたる5体目の『オッドアイズ』の名を冠する竜。金色の剣を背負う鎧の竜が再び目を覚まし、フィールドに咆哮する。その雄叫びに4体の竜も共鳴するかのように喉を鳴らす。

圧倒的な力、並び立つ竜を見て、デイビットの口元が震える。これが――コナミの力。眠っていた竜を呼び起こし、逆鱗に触れた結果。そして竜は敵を逃すつもり等、更々無い。

 

『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』はモンスターを戦闘破壊した際、モンスターを破壊し、『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』は相手がモンスター、魔法、罠を発動する時、500LP支払う条件を課す。更に発動したとしても、『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』がエクストラデッキのペンデュラムモンスターをデッキに戻し、その効果を封じ、『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』が存在する限り、バトルフェイズ中、モンスター効果は発動出来ない。極めつけは『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』。先程の通り、例え相手が攻めて来ようと無効にする。

相手に何もさせない、何をしようと踏み潰す竜の力。

 

「ハ、ハハハハハッ!何て、何て事だ――!」

 

デイビットが余りに馬鹿げた光景を見て口元を引き吊らせ、乾いた笑いを溢す。もしかしたら自分は――とんでもない化物を目覚めさせてしまったのかもしれないと。

 

「失せろ」

 

たった一言、短い言葉を放ち、コナミはデイビットに背を向け、歩を進める。最早興味も無いと言わんばかりの態度、そしてそんな彼を見て、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』は悲痛な叫びを上げ、その剣でデイビットを切り裂く。

 

デイビット・ラブ LP2150→0

 

デュエルは終わった。コナミの勝利と言う、一見最高と呼べ、最悪と言える結果で。コナミは直ぐ様暗次が封じられたカードを取り出し、カードについた埃を払う。

 

「……すまない」

 

短く、だがその一言にあらゆる感情を込め、コナミは自身のジャケットから何10枚と言える程のカードを取り出す。

そしてその場に座り込み、カードを広げていく。まずは1枚のカードを拾い上げ、正しき闇の力を込めるが――。

 

「『モウヤンのカレー』」

 

失敗、デュエルディスクに差し込まれたカードは淡い光の粒子を帯びるも、直ぐに霧散してしまう。コナミは表情を歪ませ、ギリッ、と歯軋りを鳴らすが――続けるように、1枚のカードを拾い、赤き竜の力を込める。

 

「『拘束解除』」

 

失敗、このカードでも、このカードに込めた力でも届かない。いや、正確に言えばその力が十全に発揮されず、霧散するのだ。

だが関係無い。知った事かと次のカードを手に取る。込めた力は赤き竜の大元、アストラル世界の力。

 

「『魂の解放』」

 

失敗、ならばならばと思いつける限りの力を、カードを使う。

ヘカを込めた『闇次元の解放』、失敗。

精霊の力を込めた『聖なる解呪師』、失敗。

サイコパワーを込めた『連鎖解呪』、失敗。

バリアンの力を込めた『戦士の生還』、失敗。

 

あらゆる手を使っても、何度も何度もカードを使っても、その力は、カードは最後まで発動される事無く失敗に終わる。

それでもコナミは諦めない。カードが擦り切れても、自分の指の感覚が無くなろうと、大事なものを取り戻そうと無様に足掻く。その度に彼との思い出が次々と脳裏に浮かんではシャボン玉のように消えていく。

失敗、失敗、失敗、失敗。どれだけ手を伸ばしても、その手は届かない。ただひたすらに、自分の無力さを痛感させられるばかり。余りの負荷に吐血し、息を切らしてうずくまる。

 

嫌だ、彼とまた馬鹿をやれないなんて。嫌だ、彼と共に笑えないなんて。嫌だ、彼とデュエルが出来ないなんて。嫌だ、真っ暗で何も無い絶望を――彼に、味わわせるなんて――。

 

「……ぁぁぁ……!」

 

涙が、流れる。この身から、流す事など、叶わぬだろうと思っていたと言うのに――。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」

 

唇が震え、口から渇いた、声にならぬ声が絞り出る。失う事がこんなに苦しいなんて、無力な自分がこれ程までに憎いとは、思いもしなかった。

 

「ああああああああああっ!!!」

 

天に木霊する、悲痛な叫び。コナミは歯を食い縛って涙を流し、握った拳で地を殴る。何度も、何度も、血が滲もうと、何度も、何度も。痛くても、辛くても――心の痛みには、到底敵わない。

空には夕陽が昇り、山吹色の光がコナミを照らしていた――。

 

――――――

 

榊 遊矢にとって、紫雲院 素良は大事な友達だ。同じ塾で共に研鑽した仲間であり、遊矢のペンデュラムの先を掴めるようになった切欠でもあり、出会ってから短い間だが、言葉に尽くせぬ程の絆があると、少なくとも遊矢はそう感じている。

それは素良があの、アカデミアのデュエリストと知った今でもだ。いや、そもそも遊矢は、素良の事をアカデミアの人間と思ってないのかもしれない。

 

彼にとって素良は、アカデミアの素良ではなく、遊勝塾の素良なのだ。同じ家で過ごし、同じ塾で過ごしたにも関わらず、遊矢は未だに素良と言う人間を知らない。

知っているのは、その側面だけだ。だから――もっと知るべきなのだろう、素良と言う、友の事を。

 

「遊矢……!」

 

山吹色に燃える夕日と、灼熱の火山を背に、その少年が遊矢へと振り向く。その名の響き通り、青く澄み渡った空色の髪を後ろで一括りにし、棒つきキャンディーを口に含んだ小柄な少年、紫雲院 素良。

彼は遊矢を視界におさめた途端、その目を細め、ガリッ、とキャンディーを噛み砕く。

 

「よっ、素良。久し振り――って言うにはちょっと短いけど……うん、久し振り」

 

「……黒咲はどこ……?」

 

「あいつは権現坂達の助太刀だよ」

 

遊矢の態と取り繕った軽い態度に対し、素良は少しばかり瞠目した後、焦りを覚えたように黒咲の居場所を問う。それも当然か、彼は黒咲との決着に随分こだわっていたのだから。

だけど、遊矢にも譲れないこだわりがある。遊矢はデュエルディスクを構え、光輝くソリッドビジョンのプレートを展開する。

 

「……どう言う風の吹き回し……?」

 

「うん?どう言うもこう言うも、決めてたんだ、次にお前に会ったらデュエルしようって」

 

不適に笑う遊矢を見て、素良の目付きは鋭くなる。一体何をしているんだと言いたげな、疑惑の籠った眼だ。だが当の遊矢はどこ吹く風、普段通りに落ち着き払い、素良に挑戦の意を示す。

 

「あのさぁ……っ!僕は黒咲に用があって……!って言うか裏切者なんだよ僕は!」

 

「うん、だけど、友達だ」

 

「~~~ッ!?」

 

間髪入れず、素良の裏切宣言に「だけど」と答える遊矢。そんな彼に驚愕し、素良が目を瞬かせる。そんな彼をおかしそうにクスリと笑みを溢す遊矢。完全に遊矢のペースだ。

 

「難しい事とか、どうでも良いからさ、デュエルをしよう。あの時みたいに、楽しいデュエルを」

 

「……良いよ、上等じゃないか。教えて上げるよ!本当の僕は、キャンディーみたいに甘くないって事を!」

 

左腕を身体の前に突き出し、装着した盾型のデュエルディスクより剣状のプレートを展開する素良。オベリスク・フォースと同じ、アカデミアのデュエルディスク、それを見て遊矢は、良く見るとカッコイイデュエルディスクだな、と思いながら、同時にこう思う。

 

「「デュエル!!」」

 

このデュエルディスクは、彼には似合わないな、なんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




日影、九庵堂、大漁旗君、負傷によりリタイア。ミッチーはどうなるか分かりません。原作キャラをこんな雑な退場にしてしまい、本当に申し訳ありません。
本来ならば暗次と同じく見せ場を用意するのでしょうが、何時までもチャンピオンシップを続ける訳にもいかないのでこんな事に。せめてカード化は避けようとこのような形に。
大漁旗君のメイン回書きたかったんじゃ、後ミエルちゃん。
本当にこんな事になってしまい、申し訳ありませんでした。



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第77話 友情ごっこ

やっぱり書いてて楽しい遊矢君のデュエル。手札を補充しながら展開、防御力も優れているのが要因かなぁ。


開始される遊勝塾の榊 遊矢と、アカデミアの紫雲院 素良のデュエル。先攻は遊矢だ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、1枚のカードをデュエルディスクに差し込む。

 

「俺は魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』を発動し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→6

 

「そして確認、ペンデュラムモンスターの為、墓地には送られない!『慧眼の魔術師』と『刻剣の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!『慧眼の魔術師』のペンデュラム効果で自身を破壊し、『時読みの魔術師』をセッティング!」

 

「ペンデュラム……!」

 

彼の背後に2本の柱が昇り、2体の『魔術師』が上空に光の線を結び、魔方陣を描き出す。

最初から手加減無し、全開の遊矢。ペンデュラム召喚、それは遊矢が発現した力であり、素良と出会う切欠となったカードだ。いや、素良だけでは無い。多くの人がこのペンデュラムを中心として出会い、今、遊矢を築く力となっている。

 

「ペンデュラム召喚!『EMセカンドンキー』!『カードガンナー』!」

 

EMセカンドンキー 守備力2000

 

カードガンナー 守備力400

 

遊矢の呼び声に応え、ロバの姿をした『EM』が蹄を鳴らしてフィールドに降り立つ。『EMドクロバット・ジョーカー』や『EMペンデュラム・マジシャン』には劣るものの、墓地落とし、サーチ効果を持ったモンスターだ。

 

「セカンドンキーの効果でデッキから『EMドクロバット・ジョーカー』をサーチし、召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

次に召喚されたのはたった今サーチしたばかりのモンスター。継ぎ接ぎだらけのシルクハットを被り、トランプのマークを燕尾服に散りばめた仮面の道化。

彼は懐から1枚のトランプを取り出し、天空に投げる。トランプが空中で回転し、ポンと煙を上げて変わったのは――

 

「ドクロバット・ジョーカーの効果で『EMペンデュラム・マジシャン』をサーチ!」

 

赤い衣装を纏ったマジシャンだ。彼もまた自身の身を1枚のカードへと変え、遊矢の手元に滑り込む。これで次のターンから強力なサーチが可能となった。

 

「『カードガンナー』の効果でデッキトップの3枚を墓地に送り、攻撃力アップ!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

墓地に落ちたのは『光の御封霊剣』に加え、『スキル・プリズナー』、『仁王立ち』、良いカードが落ちた。素良もそれを見逃さない。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMセカンドンキー』(守備表示)『カードガンナー』(守備表示)

セット2

Pゾーン『時読みの魔術師』『刻剣の魔術師』

手札1

 

「僕のターン、ドロー!僕は手札の『ファーニマル・ベア』を墓地へ送り、デッキから『トイポット』をセットする!そしてオープン!手札を1枚捨てて、ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札4→5

 

フィールドに巨大なガシャポンが出現し、手札と言うコインを糧にカプセルが飛び出す。このカードこそ紫雲院 素良の扱う『ファーニマル』の肝となるカード。カプセルが割れ、出て来たカードは――。

 

「ドローしたカードは『ファーニマル・ドッグ』!よって『トイポット』の効果で特殊召喚!墓地へ送られた『エッジインプ・チェーン』の効果で『魔玩具融合』をサーチ!」

 

ファーニマル・ドッグ 攻撃力1700

 

フィールドに現れる犬の姿をしたぬいぐるみ。当たりだ。と言っても、遊矢の知る限り、素良が『トイポット』でハズレを引いた所は見た事が無いのだが。

 

「『ファーニマル・ドッグ』の効果で『ファーニマル・オウル』をサーチ!そのまま召喚!」

 

ファーニマル・オウル 攻撃力1000

 

連鎖的に現れたのは梟のぬいぐるみだ。パタパタと慌ただしく飛び回り、素良の左腕に乗り、その嘴で1枚のカードを引き抜いて素良に渡す。受け取ったカードは緑色のフレームの、融合次元を代表するカード。

 

「『ファーニマル・オウル』の効果で『置換融合』をサーチ!そして『ファーニマル・シープ』以外の『ファーニマル』モンスターがフィールドに存在する事で手札の『ファーニマル・シープ』を特殊召喚!」

 

ファーニマル・シープ 守備力800

 

新たに召喚される『ファーニマル』、モコモコとした羊毛で作られた可愛らしい羊が他の2体と並ぶ。遊矢のペンデュラムにも勝る恐ろしい展開力だ。だが未だに素良の武器が発動されない。そろそろ準備が整い、使う所だろうか。

 

「『ファーニマル・ドッグ』を手札に戻し、『ファーニマル・シープ』の効果で墓地の『エッジインプ・チェーン』を特殊召喚!」

 

エッジインプ・チェーン 守備力1800

 

次に現れたのはこれまでの『ファーニマル』とは全く異なり、鎖を束ね、赤い目を妖しく光らせる悪魔。そう、天使族の『ファーニマル』と悪魔族の『エッジインプ』を組み合わせ、融合させる事こそが素良のデッキの真骨頂、天使と悪魔の合体と聞けば、何だか格好良いロマンを感じる。

 

「ここで発動!魔法カード、『置換融合』!『エッジインプ・チェーン』と『ファーニマル・シープ』で融合!融合召喚!現れ出ちゃえ!自由を奪い闇に引き込む海の悪魔!『デストーイ・ハーケン・クラーケン』!」

 

デストーイ・ハーケン・クラーケン 攻撃力2200

 

絹を裂き、現れたのは刃の冠を被り、脚の先端に鋭く光る鎌を持った海の魔物、クラーケン。目の間から開いた口より、本物の赤き眼が遊矢を射抜く。

 

「その効果でセカンドンキーを墓地送りに!」

 

「チッ――!」

 

「まだだよ!魔法カード、『融合回収』発動!墓地の『置換融合』と『ファーニマル・シープ』を回収!フィールドの『デストーイ・ハーケン・クラーケン』と『ファーニマル・オウル』で融合!悪魔宿りし非情の玩具よ!煉獄の眼よ!今神秘の渦で1つとなりて、新たな力と姿を見せよ!融合召喚!現れ出ちゃえ!全てに牙剥く魔境の猛獣、『デストーイ・サーベル・タイガー』!!」

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力2400→2800

 

融合モンスターを使っての融合。素良も最初から本気で遊矢を狩ろうと奥の手を見せる。『デストーイ・ハーケン・クラーケン』と『ファーニマル・オウル』の綿を使い、現れたのは深い青に染まった、文字通り、赤く鈍く輝くサーベルを腹、頭、口より伸ばした古代の猛獣。

飛び出た眼球とは違い、本来の眼はその口から覗く赤い眼。不気味に輝かせ、遊矢のフィールドを睨み、狙いを定める。

 

「『デストーイ・サーベル・タイガー』の融合召喚時、墓地の『デストーイ』モンスターを特殊召喚する!もう1度フィールドに!『デストーイ・ハーケン・クラーケン』!」

 

デストーイ・ハーケン・クラーケン 攻撃力2200→2600

 

たった今素材になったばかりの『デストーイ・ハーケン・クラーケン』が再びフィールドに姿を見せる。融合後のリカバリーが豊富な点は『ファーニマル』や『エッジインプ』、『デストーイ』の大きな利点だ。

 

「そしてサーベル・タイガーが存在する限り、僕の『デストーイ』モンスターの攻撃力は400ポイントアップする!続けるよ!魔法カード、『魔玩具融合』!墓地の『エッジインプ・チェーン』と『ファーニマル・ベア』を除外し、融合召喚!現れ出ちゃえ!全てを封じる鎖のケダモノ!『デストーイ・チェーン・シープ』!」

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→2400

 

ぬいぐるみが引き裂かれ、真綿が締め付けられる。そして誕生したのはソーサーの翼を伸ばし、眼球が飛び出した羊のぬいぐるみ。序盤から終盤まで活躍できる優秀なアタッカーだ。

 

「1ターンに3回も融合を……流石だな、素良」

 

「これが僕の本気さ!アカデミアの紫雲院 素良として、君を倒してあげるよ!」

 

遊矢の心から素直な称賛に、素良が歪んだ笑みを向け、答える。だが遊矢にとって、それは何故か無理をしているようにしか見えない。

態々アカデミアの人間である事を強調して自分に言い聞かせ、闘おうとしているようにしか思えない。迷う遊矢を見て、傍のユートが声をかける。

 

『遊矢、友だからと言って手心を加えるな。友だからこそ、真剣に向き合え、そうすればデュエルが自ずと答えを見せてくれる』

 

「……そうだな……!良し!来いよ素良!全力だ!本気でぶつかり合えば、何とかなる!」

 

「ッ!呑気に言うじゃないか……!ハーケン・クラーケンの効果で『カードガンナー』を墓地に!バトル!」

 

「この瞬間、永続罠、『闇の呪縛』、チェーン・シープの攻撃力を700ダウンし、攻撃を封じる!」

 

「チッ、『デストーイ・ハーケン・クラーケン』で『EMドクロバット・ジョーカー』を攻撃!」

 

榊 遊矢 LP4000→3200

 

「『デストーイ・サーベル・タイガー』でダイレクトアタック!」

 

「永続罠発動!『EMピンチヘルパー』!攻撃を無効にし、デッキから『EMインコーラス』を特殊召喚!」

 

「手札の『増殖するG』を切る!」

 

EMインコーラス 守備力500

 

紫雲院 素良 手札3→4

 

だがこの程度で終わる遊矢ではない。毎度お馴染みのピンチを救うピンチヘルパーにより、攻撃を無効にした上で、後続の攻撃を防ぐ3羽のカラフルなインコが遊矢の右腕を止まり木にし、超音波で『デストーイ・サーベル・タイガー』を退ける。

 

「ふぅん、やるじゃないか。それ位してくれなきゃ面白くない!危うく拍子抜けする所だったよ、『デストーイ・ハーケン・クラーケン』で『EMインコーラス』を攻撃!」

 

「2回攻撃出来たのか……破壊されたインコーラスの効果で『EMロングフォーン・ブル』を特殊召喚!」

 

EMロングフォーン・ブル 守備力1200

 

紫雲院 素良 手札4→5

 

インコ達の囀りを下に、頭に受話器をかけた牡牛が姿を見せる。これこそが遊矢の実力の一端、守りにおいて突出した力を誇っている。

 

「ロングフォーン・ブルの特殊召喚時、デッキの『EMスライハンド・マジシャン』をサーチ!」

 

「バトルフェイズ終了時、ハーケン・クラーケンを守備表示に、カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

紫雲院 素良 LP4000

フィールド『デストーイ・サーベル・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・チェーン・シープ』(攻撃表示)『デストーイ・ハーケン・マジシャン』(守備表示)

『トイポット』セット2

手札3

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『闇の呪縛』をコストに2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「まずはペンデュラム召喚!『降竜の魔術師』!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMスライハンド・マジシャン』!『EMドクロバット・ジョーカー』!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

ここで活かされるペンデュラム召喚の大量展開。4体のモンスターが召喚され、5体のモンスターが並び立つ。だが戦力面で言えばまだ素良が上と言って良いだろう。

ならばここから盛り返すのがエンタメデュエリスト。素良がアカデミアとして闘うなら、こちらは遊勝塾として迎え撃つ。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果!ペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、『EMギタートル』と『EMリザードロー』をサーチ!そのままセッティング!ギタートルのペンデュラム効果でドロー!リザードローのペンデュラム効果で自身を破壊し、もう1枚!」

 

榊 遊矢 手札1→2→3

 

ペンデュラム・マジシャンでスケールを破壊しながら『EMギタートル』と『EMリザードロー』のコンビをサーチし、そのままセッティングして効果を発揮する事で実質手札交換となる。遊矢得意の手だ。

 

「そして『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をセッティング!さぁ行くぞ素良!まずは『降竜の魔術師』を自身の効果でドラゴン族に変更!フィールドの『降竜の魔術師』と『EMロングフォーン・ブル』をリリース!出でよ!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

ここからが本番、そう言わんばかりに遊矢の更なる手が炸裂する。遊矢の背後に青とオレンジの渦が広がり、ドラゴン族となった『降竜の魔術師』と獣族の『EMロングフォーン・ブル』が飛び込み、混じり合って1体のモンスターへと生まれ変わる。

巨大な体躯に纏った獣骨に青い体毛、両の眼とは別に、額に金色に輝く獣の目を持った野性の竜。遊矢の融合モンスターが登場し、素良の融合モンスターを睨む。

 

「融合モンスター……!」

 

「そうだ!お前と柚子がいたからこそ、俺はペンデュラムの先を見つける事が出来た!融合召喚を会得出来た!そしてもう1つ、見せてやるぜ素良!俺の新しい仲間を!」

 

『フ……2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!』

 

「漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!」

 

『エクシーズ召喚!現れろ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』ッ!!』

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

遊矢とユート、2人の少年が声を合わせて右腕を突き出し、地面に星を散りばめたような渦が発生し、『EMペンデュラム・マジシャン』と『EMドクロバット・ジョーカー』が光の線となって飛び込む。そして圧縮した渦は小爆発を起こし、黒煙を上げる。

その中より鋭き刃物の如き両翼と尾が振るわれ、赤き稲妻が駆け抜ける。雄々しき咆哮が黒雲を引き裂き、その姿を見せたのは鋭いアギトを閃かせ、全身に赤く光る血流を迸らせた漆黒の竜。

ユートのエースカードが今、牙を剥く。

 

「それは……ユートとか言う奴のエクシーズモンスター……!?何で君が……!?」

 

「色々あってね。本当に話したい事がいっぱいある。語り尽くせない程の事を、デュエルで語ろう!まずは『EMスライハンド・マジシャン』の効果!手札を1枚捨て、『デストーイ・チェーン・シープ』を破壊!」

 

仮面を被り、下半身が青い水晶となっており、純白の翼で包み込んだ赤いマジシャンがステッキから雷を放ち、『デストーイ・チェーン・シープ』を黒焦げにする。

『サンダー・ブレイク』を内蔵したモンスター。度々遊矢を救って来た効果だが――。

 

「残念だったね!『デストーイ・チェーン・シープ』は戦闘、効果で破壊された場合、攻撃力を800アップして蘇生するよ。サーベル・タイガーも合わせて1200のアップだ!」

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→2800→3200

 

ズタズタになった綿が再び蠢き、より凶悪な羊となって蘇る。1ターンに1度蘇生し、強化される効果。防御も出来るアタッカーとしてこれ程優秀なモンスターはいない。だが遊矢とて何も考えずに破壊した訳じゃない。

 

「それを待っていた!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』のORUを2つ取り除き、『デストーイ・チェーン・シープ』の攻撃力を半分にし、その数値分、攻撃力をアップする!」

 

『トリーズン・ディスチャージ!』

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力3200→1600

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→4100

 

「しまった――!」

 

『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の両翼に嵌め込まれた紅玉より赤き稲妻が迸り、『デストーイ・チェーン・シープ』から力を奪っていく。

『フォース』内蔵効果、普段ならばしないであろう失態だ。他の事に気を取られ、忘れてしまっていた。

してやったりと笑みを浮かべる遊矢に、素良がガリッ、とキャンディーを噛み砕く。

 

「バトルだ!『EMスライハンド・マジシャン』で『デストーイ・チェーン・シープ』へ攻撃!」

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!」

 

「ッ!そのカードは――!」

 

再びスライハンド・マジシャンの手によって『デストーイ・チェーン・シープ』が破壊されようとした時、素良が発動した罠から3つのシルクハットが出現し、素良の投擲した2枚のカードと『デストーイ・チェーン・シープ』に覆い被さり、シャッフルされる。

別段何の変哲も無いカードだが――このカードは、コナミのデッキでキーとなるカードだ。

 

「そう、コナミも使っているカードだよ。良いよねこれ、『おろかな副葬』と違ってワンテンポ遅れるし、バトルフェイズしか発動出来ないけど、『トイポット』や融合カードを落とす事が出来る。見た目も面白いしさ」

 

「……そっか……!」

 

思わぬ反撃を食らった筈なのに、遊矢の表情は緩む。それを見て、想定していた反応と違ったのか素良が目を丸くするが――途端に遊矢の顔は引き締まり、凛とした指示が浮かぶ。

 

「真ん中のシルクハットに攻撃!」

 

「ハズレだよ!」

 

「く――『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』で『デストーイ・サーベル・タイガー』に攻撃!ヘルダイブバースト!」

 

「ぐ――!」

 

紫雲院 素良 LP4000→3800

 

獣の竜の口より火炎が溢れ、放たれる。強力な一撃に思わずたたらを踏む素良。だがまだ追撃が残っている。本当に堪えなければいけないのはここからだ。

 

「ビーストアイズの効果により、素材となったロングフォーン・ブルの攻撃力、1600のダメージを与える!」

 

紫雲院 素良 LP3800→2200

 

更なる火の粉が降りかかり、素良の身体を焦がしていく。

 

「『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』でハーケン・クラーケンに攻撃!」

 

『反逆のライトニング・ディスオベイ!』

 

ダーク・リベリオンが翼を広げ、その身を翻し、鋭いアギトを地に突き立てる。その勢いのまま一直線、圧倒的な切り味を披露しながら突き進み、漆黒の竜は大きく跳躍して海の魔物を切り裂いた。

 

「バトルフェイズ終了時、シルクハットに入れた『トイポット』が墓地に送られる事で『エッジインプ・シザー』をサーチ!」

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド。この瞬間、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』のペンデュラム効果で自身を破壊し、『慧眼の魔術師』をサーチ!」

 

榊 遊矢 LP3200

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMスライハンド・マジシャン』(攻撃表示)

『EMピンチヘルパー』セット1

Pゾーン『EMギタートル』

手札2

 

「僕のターン、ドロー!罠カード、『融合準備』を発動!エクストラデッキの『デストーイ・シザー・ベアー』を公開し、その素材となる『ファーニマル・ベア』をデッキから、そして墓地の『置換融合』を回収!『デストーイ・チェーン・シープ』を反転召喚!そして『エッジインプ・ソウ』を召喚!」

 

エッジインプ・ソウ 攻撃力500

 

あらゆるカードで手数を増やし、素良が召喚したのは鋸の悪魔。ステータスは低いが、『ファーニマル』にとっては円滑油となるモンスターだ。

 

「召喚時、手札の『ファーニマル・ドッグ』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札5→7

 

「その後、手札を1枚デッキトップへ戻す。そして『トイポット』の効果で手札を1枚捨て、ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札5→6

 

『エッジインプ・ソウ』のデッキへカードを戻すデメリットをデッキトップ操作と言うメリットへと変え、『トイポット』の効果の発動条件を満たす。これが素良のデュエルだ。

一見して運任せに見えるが、計算された強かな戦術。当然ドローカードは――。

 

「ドローカードは『ファーニマル・ベア』!よって特殊召喚!」

 

ファーニマル・ベア 攻撃力1200

 

素良のデッキトップ操作により、カプセルの中から現れたのは純白の翼を広げた熊のぬいぐるみ。中々ファンシーな外見だが、このカードは『ファーニマル』のエンジンとなるカードだ。

 

「そして『ファーニマル・シープ』を特殊召喚!」

 

ファーニマル・シープ 守備力800

 

「その効果でフィールドのベアを手札に戻し、『エッジインプ・シザー』を復活させる!」

 

エッジインプ・シザー 攻撃力1200

 

ここで登場したのは鋏を何本も重ねた悪魔。『エッジインプ』の中でも特に重要なモンスターだ。ジャキジャキと音を鳴らすその姿は不気味ですらある。

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールドのシープと『エッジインプ・ソウ』で融合!融合召喚!現れ出ちゃえ!全てを切り裂く百獣の王!『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』!」

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ 守備力2000

 

絹を裂き、体の中心、そして鬣が丸鋸の不気味な獅子。顔が真っ二つに割れ、赤く染まった鋸状の爪が伸びた手足に包帯を巻いており、その凶悪さが全面に押し出されたモンスターだ。

 

「墓地の『置換融合』を除外し、サーベル・タイガーを戻してドロー!」

 

紫雲院 素良 手札4→5

 

「永続魔法、『デストーイ・ファクトリー』発動!墓地の『魔玩具融合』を除外し、フィールドの『エッジインプ・シザー』と手札の『ファーニマル・ベア』を融合!悪魔の爪よ!野獣の牙よ!今神秘の渦で一つとなりて新たな力と姿を見せよ!融合召喚!現れ出ちゃえ!全てを切り裂く戦慄のケダモノ!『デストーイ・シザー・ベアー』!」

 

デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力2200

 

熊のぬいぐるみが鋏の悪魔に切り刻まれ、ボロボロとなって姿を見せる。可愛らしいピンクの毛並みをした、恐ろしい熊の手、そして胸部を鋏で繋いだ猛獣。

遊矢が見た最初の融合モンスターであり、その厄介さは良く知っている。

 

「そして『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を対象に『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』の効果発動!そのモンスターを破壊し、元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!このターン、『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を対象に発動するモンスター効果を無効にする!」

 

『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』が鬣の丸鋸を1枚、獣の竜に向かって弾丸の如く撃ち出す。地面に火花を散らし、抉り取りながら猛スピードで進む丸鋸。

このままでは竜が真っ暗に引き裂かれ、3000ものダメージが遊矢を襲おうとした時、遊矢の発動したカードによって障壁が出現し、丸鋸を弾き、くるりと宙を舞って鬣に戻る。

鬣に丸鋸が刺さった事で悶えるホイールソウ・ライオ。しかし良く良く考えれば元々刺さっていたので胸を撫で下ろす。何とも愛嬌のあるカードだ。

 

「やるね……!なら装備魔法、『魔導師の力』を『デストーイ・シザー・ベアー』に装備!カードを1枚セット!」

 

デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力2200→4200

 

「ダーク・リベリオンの攻撃力を越えて来たか……!」

 

素良のフィールドの魔法は『トイポット』、『デストーイ・ファクトリー』、『魔導師の力』とセットカードの4枚、よって2000の攻撃力アップだ。これでダーク・リベリオンの攻撃力を僅か100であるが越えた。

 

「バトル!『デストーイ・シザー・ベアー』で『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』に攻撃!パンメリング・バウ!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外し、攻撃対象をダーク・リベリオンに絞る!」

 

榊 遊矢 LP3200→3100

 

「ぐっ――!」

 

シザー・ベアーが自らの左腕を振り、鋏で繋がれた腕をもいで投げる。くるくる回転しながら襲い来るそれはダーク・リベリオンを切り裂き、ブーメランの要領でシザー・ベアーの下に戻る。そしてシザー・ベアーの下に来たのは腕だけでは無い。

 

「シザー・ベアーの効果により、戦闘破壊したダーク・リベリオンを攻撃力1000アップの装備カードとしてシザー・ベアーに装備!『魔導師の力』も合わせ、1500アップだ!」

 

デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力4200→5700

 

ダーク・リベリオンが光となってシザー・ベアーの下へ向かい、捕食される。そしてこの効果を見て、遊矢の傍で浮くユートが表情を歪ませ怒りを露にする。

 

『ダーク・リベリオン……!これ程の屈辱を味わったのは初めてだ……!』

 

「ユート!?」

 

ああ悲しいかな、これがドラゴン使い、それもエクシーズ次元では宿命と言える悲劇。ドラゴン族をエースカードとする者にとって、ドラゴンの装備カード化は凄まじい屈辱、遊矢とて分からない訳ではないが、キャラ崩壊を起こすユートを見て、動揺する。

 

――全くだ……!早くダーク・リベリオンを解放しろ、このウスノロ!――

 

「ええ!?誰!?」

 

何故か遊矢の頭の中に声が響き、誰だか分からない者に罵倒される始末である。余程頭にキたのか、相当先の出番を早まらないで欲しい。

 

「僕はこれでターンエンド」

 

紫雲院 素良 LP2200

フィールド『デストーイ・シザー・ベアー』(攻撃表示)『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』(攻撃表示)『デストーイ・チェーン・シープ』(攻撃表示)

『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』『魔導師の力』『トイポット』『デストーイ・ファクトリー』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!装備魔法、『ワンダー・ワンド』をスライハンド・マジシャンに装備!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500→3000

 

「この2枚を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「魔法カード、『魔力の泉』!4枚ドローし、3枚捨てる!」

 

榊 遊矢 3→7→4

 

「『EMダグ・ダガーマン』をセッティング!ギタートルのペンデュラム効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「更にダグ・ダガーマンのペンデュラム効果で墓地の『EMペンデュラム・マジシャン』を回収!そして速攻魔法、『揺れる眼差し』により、スケールを破壊し、まずは500ポイントのダメージを与える!」

 

紫雲院 素良 LP2200→1700

 

「次にデッキから『曲芸の魔術師』をサーチ!そのまま慧眼と共にセッティング!慧眼を破壊し、『相生の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMダグ・ダガーマン』!『刻剣の魔術師』!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

相も変わらぬ大量展開、手数やエクストラデッキを増やしつつ、見事なカード捌きだ。遊矢のフィールドに降り立ったのはペンデュラム・マジシャンにナイフを持ったマジシャン風の戦士に剣を持った『魔術師』、そして目玉となるエースカード、2色の虹彩の真紅の竜。

『EM』、『魔術師』、『オッドアイズ』、3大カテゴリの揃い踏みだ。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果でスケールの2枚を破壊し、『EMギッタンバッタ』と『EMドラネコ』をサーチ!そしてダグ・ダガーマンの効果でギッタンバッタを墓地に送り、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「『EMドラネコ』をセッティングし、刻剣の効果で『デストーイ・シザー・ベアー』とこのカードを次の自分のスタンバイフェイズまで除外する!」

 

「速攻魔法、『神秘の中華なべ』!『デストーイ・シザー・ベアー』をリリースし、フィールド上での攻撃力5700を回復にあてる!」

 

紫雲院 素良 LP2200→7900

 

攻撃力で敵わないなら効果による除去を。遊矢は正攻法で攻略しようとするも、素良は攻撃力の上がったシザー・ベアーをリリースする事で大量のLPを得る。

しかしこれで攻勢となったのは遊矢。直ぐ様押せ押せの攻めで1枚のカードをデュエルディスクに差し込む。

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールドの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMペンデュラム・マジシャン』で融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

魔術の力を瞳に宿し、現れたのは固い金属で左目を覆い、背に満月のような金色のリングを負った真紅の竜。宙を駆り、喉を鳴らすこのカードは初めて遊矢が使用した融合モンスターだ。

 

「ルーンアイズはペンデュラム召喚したモンスターを素材として融合召喚したターン、相手の効果を受けず、レベル4以下の魔法使い族を素材とした為、モンスターへの2回攻撃が可能!行くぞ素良!これが俺とお前の絆の力だ!バトル!ルーンアイズで『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』と『デストーイ・チェーン・シープ』に攻撃!連撃のシャイニーバースト!」

 

紫雲院 素良 LP7900→6900

 

ルーンアイズが背負ったリングが2ヶ所輝きを放ち、2体のモンスターへと一直線に光線が突き進む。熱線で刃が溶かされて絹を貫き、破壊する。

 

「くっ――!『デストーイ・チェーン・シープ』の効果で復活!」

 

デストーイ・チェーン・シープ 守備力2000

 

「ビーストアイズでチェーン・シープを攻撃!戦闘破壊した事で1600のダメージを与える!」

 

紫雲院 素良 LP6900→5300

 

「ぐあぁぁぁぁっ!」

 

復活させればこうなる事は分かっていたが、復活させなければダイレクトアタックでもっとダメージを食らってしまう。苦渋の決断、肉を切らせて骨を断つ。少しでもダメージを減らす為、素良は仕方無くチェーン・シープを復活させたのだ。

 

「ダグ・ダガーマンでダイレクトアタック!」

 

紫雲院 素良 LP5300→3300

 

「――っ!」

 

続く連撃、畳み掛ける遊矢の手に大量に回復したLPが半分近く削り取られる。これが成長した遊矢の力。前回のデュエルで素良が本気を出していなかったのならば、この時まで遊矢もまた、大きく成長したのだ。だからこそ互角以上に渡り合う事が出来る。

 

「刻剣で攻撃!」

 

紫雲院 素良 LP3300→1900

 

激しい猛攻により、一気に素良を追い詰める。これが遊矢の成長の証、削り取られていくLPがそれを物語っている。一瞬たりとも気は抜けない。

 

「墓地の『ADチェンジャー』2体を除外し、ダグ・ダガーマンと刻剣を守備表示に、カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP3100

フィールド『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMダグ・ダガーマン』(守備表示)『刻剣の魔術師』(守備表示)

『EMピンチヘルパー』セット2

Pゾーン『EMドラネコ』

手札0

 

状況は遊矢の優勢、しかし、油断は出来ない。『ファーニマル』にはピンチだろうと、容易く覆す手段があるのだ。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「罠発動、『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!」

 

「……絆の力だって……?笑わせるよ!あんなの所詮……所詮……ッ、友情ごっこじゃないか!僕は『トイポット』の効果で手札を捨て、ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札1→2

 

ニィッ、と口元を歪ませ、嘲笑う素良。これが心からの言葉なら遊矢も多少は心が折れただろう。だがそれが無かったのは、一瞬、一瞬だけ素良が辛そうな表情を浮かべたから。一瞬ではあるが、隙はある。遊矢は気を引き締め、改めて素良と言う友人と、デュエリストと向き合う。

 

「ドローカードは『ファーニマル・オクト』!特殊召喚!」

 

ファーニマル・オクト 守備力800

 

現れたのはタコのぬいぐるみ。登場した途端、地面に黒い渦が発生し、8本の脚を突き刺し、1枚のカードを素良へ渡す。

 

「オクトの効果で墓地の『ファーニマル・ベア』回収!手札から墓地に送り、デッキの『トイポット』セット!更に墓地の『ファーニマル・ウィング』と『ファーニマル・ベア』を除外し、1枚ドロー!その後『トイポット』を墓地へ送り、1枚ドロー!まだまだ!『トイポット』の効果で『ファーニマル・ドッグ』サーチ!」

 

紫雲院 素良 手札2→3→4

 

『ファーニマル・ウィング』と『トイポット』による大量の手札補充により、素良の手札が一気に3枚回復し、4枚に膨れ上がる。恐ろしい爆発力だ。やはりこの少年は侮れない。

 

「そして手札を1枚デッキトップに戻し、墓地の『エッジインプ・シザー』を特殊召喚!」

 

エッジインプ・シザー 守備力800

 

「『トイポット』オープン!手札を1枚捨て、ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札2→3

 

「ドローカードは当然『ファーニマル・ドッグ』!特殊召喚!」

 

ファーニマル・ドッグ 攻撃力1700

 

「ドッグの効果で『ファーニマル・オウル』をサーチ!召喚!」

 

ファーニマル・オウル 攻撃力1000

 

「オウルの効果で『置換融合』サーチ!発動!フィールドの『エッジインプ・シザー』と『ファーニマル・オクト』で融合!悪魔の爪よ!悪魔の使徒よ!今神秘の渦で1つとなりて、新たなる力と姿を見せよ!融合召喚!現れ出ちゃえ!全てを引き裂く密林の魔獣!『デストーイ・シザー・タイガー』!」

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力1900→2800

 

最早恒例の毎ターン融合召喚。現れたのは『デストーイ』の中でも特に凶悪な効果を持った虎のぬいぐるみに鋏を切り込んだモンスターだ。

 

「まずはオクトの効果で除外された『エッジインプ・チェーン』と『ファーニマル・ベア』を墓地へ戻し、『デストーイ・シザー・タイガー』の融合召喚時効果で融合素材となったモンスターの数だけフィールドのカードを対象として破壊する!ピンチヘルパーとドラネコを破壊!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、ピンチヘルパーを対象に発動する事でその効果を不発とする!」

 

「分かっていたさぁっ!魔法カード、『融合回収』!『置換融合』と『ファーニマル・シープ』を回収!『ファーニマル・シープ』を特殊召喚!」

 

ファーニマル・シープ 守備力800

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力2800→3100

 

「シープの効果で『ファーニマル・ドッグ』を手札に戻し、墓地の『エッジインプ・チェーン』を特殊召喚!」

 

エッジインプ・チェーン 守備力1800

 

「『デストーイ・ファクトリー』の効果で墓地の『融合準備』を除外し、フィールドの『エッジインプ・チェーン』と『ファーニマル・オウル』で融合!融合召喚!『デストーイ・ハーケン・クラーケン』!」

 

デストーイ・ハーケン・クラーケン 攻撃力2200→3100

 

「墓地へ送られた『エッジインプ・チェーン』の効果でデッキの『デストーイ・マーチ』をサーチ!そしてハーケン・クラーケンの効果で刻剣をエクストラデッキへ送る!」

 

「くっ――!」

 

「まだだよ!魔法カード、『置換融合』!更にチェーンし、『非常食』!フィールドの『置換融合』、『トイポット』、『デストーイ・ファクトリー』を墓地に送り、3000回復!フィールドの『デストーイ・ハーケン・クラーケン』と『ファーニマル・シープ』を融合!融合召喚!『デストーイ・サーベル・タイガー』!!」

 

紫雲院 素良 LP1900→4900

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力2400→3400

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力2500→2900

 

「サーベル・タイガーの効果で『デストーイ・チェーン・シープ』を特殊召喚!『トイポット』と『デストーイ・ファクトリー』の効果で『ファーニマル・シープ』サーチ!除外されている『魔玩具融合』回収!」

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→3300

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力3400→3700

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力2900→3200

 

再び素良のフィールドに並ぶ3体の融合モンスター。しかも今回はサーベル・タイガーとシザー・タイガーの効果により、強化蘇生を行っていないチェーン・シープまでも攻撃力3000越え、容易く遊矢のモンスターを壊滅出来る布陣だ。

 

「また3体の融合モンスターを……!」

 

『それだけじゃない……!LPと手札も回復した……!』

 

「同じ展開じゃ飽きちゃうからアクセントを入れないとね!『魔玩具融合』発動!墓地の『エッジインプ・シザー』、『ファーニマル・ベア』、『ファーニマル・シープ』、『ファーニマル・ドッグ』の5体で融合!融合召喚!『デストーイ・シザー・ウルフ』!」

 

デストーイ・シザー・ウルフ 攻撃力2000→3600

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力3700→4000

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力3200→3500

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力3300→3600

 

もう一手間、アクセントの言葉通りに4体目の融合モンスターがフィールドに降り立つ。青い毛並みの狼のぬいぐるみに鋏を切り込んだ『デストーイ』モンスター。

このカードの前にシザー・タイガーの効果で活路を開くのが定石だが、強化を受けた今、それも必要無い。このカードの効果は素材となったモンスターの数だけ攻撃、つまり攻撃力3600で5回攻撃すると言う事だ。

 

「バトル!チェーン・シープでルーンアイズを!サーベル・タイガーでビーストアイズを!シザー・ウルフでダグ・ダガーマンを攻撃!」

 

榊 遊矢 LP3100→2800→2300

 

「ぐぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

『デストーイ』による猛攻が魔術の竜、野性の竜、短剣使いを次々と切り裂き、ダメージが少ないにも関わらず、遊矢の身体を焦がさんばかりの熱を与える。

熱い、まるで炎の中にいるような錯覚に陥り、思わずたたらを踏む遊矢。これが素良の本気。これ程までの強者だったとは。しかし遊矢とて数多くの強者と闘って勝利を掴み取って来た。乱れる息を整えながら、果敢に挑む。

 

「負け……ないぞ……ぉ……!」

 

「ッ、シザー・ウルフでダイレクトアタック!」

 

「『EMピンチヘルパー』の効果ぁっ!攻撃を無効にし、デッキから『EMオッドアイズ・ユニコーン』を特殊召喚!」

 

EMオッドアイズ・ユニコーン 守備力600

 

「ッ!何で諦めてくれないんだ……!何で沈んでくれないんだ……!シザー・ウルフでユニコーンを攻撃!ダイレクトアタック!」

 

「沈んで来たから今があるんだ!太陽は昇る!何度でも!墓地の『光の御封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを封じる!」

 

相次ぐカード効果の応酬、互いの譲れぬ想いが交差するようにそれは飛び交い、魂の叫びが木霊する。圧倒的な攻撃、それら全てを防ぎ切る遊矢。

これが、榊 遊矢と言う少年、彼は今まで挫ける事もあったし、膝をつく事だってあった。だけど魂の奥底までは折れなかった。だからこそ、立ち上がってこられた。まるで――振り子のように。

その理由は、友が、いたから。背を押してくれる友が、支えてくれる人がいるから、遊矢はここまで来られたのだ。その中には――素良もいる。

 

「何なんだ君は……何で君はそこまで……!」

 

遊矢の武器はペンデュラムだ。その無限の可能性から派生する力を含め、遊矢の武器。しかしこの呆れる程の固い防御力もまた、遊矢の誇れる武器だ。

防御力だけを見ればこの大会の中でも1、2を争うだろう。しかし素良が戦慄しているのはその根底にある、折れない魂。必死にしがみつき、綺麗事を信じて疑わない一途さ。改めて実感する――榊 遊矢と言う、デュエルバカを。

 

「へへっ、やっぱり素良は凄いな……!こんなにも楽しくて、面白いデュエルが出来る!だけど俺だって負けないぜ!お楽しみは、これからだ!」

 

鼻の頭を擦り、ボロボロに傷ついた姿で不適に笑う遊矢。その姿はどうしても、素良を苛立たせる。

 

「能天気だねぇ、君って奴は……!羨ましいよ、本当に……本当にねぇ!」

 

ガリッ、またもや素良がその口に含んだキャンディーを噛み砕き、音を響かせる。その言葉の通り、確かに遊矢への嫉妬心が垣間見える。

それを見逃す遊矢ではない。この少年の中に潜む闇を、いや、素良と言う少年を知るキーワードを拾い集めていく。それがきっと、このデュエルの答えなのだろう。

 

「僕はカードを伏せ、ターンエンド!さぁ、来なよ!笑えるものなら笑ってみろ!その笑顔――噛み砕く!」

 

紫雲院 素良 LP4900

フィールド『デストーイ・サーベル・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・シザー・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・シザー・ウルフ』(攻撃表示)『デストーイ・チェーン・シープ』(攻撃表示)

セット1

手札3

 

暴かれていく、紫雲院 素良の本性、だがこれでも彼の一端に過ぎない。嘘か真か、幾つもの顔を持つ彼に対し遊矢は――彼を知り、救う事が出来るのか――。

 




ガシャポンなのかガチャポンなのかガチャガチャなのか。地域によって違うこれ。私はガチャポン派です。カプセルと言えば昔ダイナデバイスと言う知る人ぞ知るゲームがあってじゃな。


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第78話 僕には病気の妹が…

ホープ・カイザー&未来皇&コズミック・ブレイザー「復讐したい奴がいる」
アンチホープ「悔しいでしょうねぇ」
ついに登場した新しい召喚法とマスタールール4。
正直言って私の書く小説は大量展開でデュエルスフィンクスを誤魔化しているのでマスタールール3のままで書きそうです。
取り敢えずシンクロ次元が終了するまでマスタールール3で進み、その先で4でもイケる気がすると感じたら変更したいと思っています。ただしリンクモンスターは出ない。小説で表せる気がしない。
因みにマスタールール4でも満足民は満足する方法を編み出したとか。やっぱ満足民頭おかしいわ(褒め言葉)。


気がつけば、少年は孤独だった。両親は既にこの世には存在せず、少年の傍にいるのは病の妹のみ。その妹も少年の下から離れ、真っ白な病室に1人きりで彼女の治療費を稼ぐ為、アカデミアの門を叩き、無理矢理自分を売り込み、デュエル戦士となった。

 

いきなりアカデミアに単身乗り込み、道場破り紛いの事を行い、多くのデュエリストを叩き伏せる彼に声をかけたのは、プロフェッサーと呼ばれる男だった。彼は手負いの獣のように威嚇する少年を見込み、勧誘した。アカデミアの戦士となるならば、妹の治療費も考えよう、と。

 

少年は直ぐ様頷き、そこから先も孤独に闘い続けた。仲間ですら敵、蹴落とし、這い上がる日々。それでも妹の為だと我慢し、何時しかそんな日常は少年本来の優しさを奪っていったのだろう、何の罪も無い人を、カード化する事も、仕方が無いと冷たく言い切る程に。

 

自分を救い、妹の治療費を与えてくれるプロフェッサーを敬い、アカデミアが崇高なものだと、考える程に――少年は、追い込まれていた。

年端もいかない少年だ、孤独を埋める為とは言え、それは当然の帰結だったと言える。

 

そして少年はアカデミアより任務を受け、スタンダード次元にやって来た。まず抱いたのは、失望。期待していた訳では無いが、デュエリストのレベルが余りにも違い過ぎる。多くのデュエリストを下して来た少年にとってはそう考えても仕方が無かった。甘いお菓子は美味しいが、それだけだ。

 

しかし、その考えは打ち砕かれる。少年、榊 遊矢の手によって――。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』、『EMドクロバット・ジョーカー』、『EMセカンドンキー』をデッキに戻し、2枚ドロー!更に『EMピンチヘルパー』を墓地に送り、魔法カード、『マジック・プランター』を発動!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2→3

 

熱く燃え猛る火山エリアにて、榊 遊矢と紫雲院 素良のデュエルは未だに続いていた。彼は1枚だった手札を一気に3枚まで補充する。これで少しは動ける。

何せ相手のフィールドには4体の融合モンスターが存在し、『デストーイ・サーベル・タイガー』と『デストーイ・シザー・タイガー』の強化で全て攻撃力が3000を越えているのだ。

対する遊矢のモンスターは0、今は少しでも手数が欲しい。

 

「俺は永続魔法、『補給部隊』を発動し、『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

「効果でデッキから『EMセカンドンキー』をサーチ!そして『EMモモンカーペット』をセッティングし、ペンデュラム召喚!『EMリザードロー』!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMダグ・ダガーマン』!『EMセカンドンキー』!」

 

EMリザードロー 守備力600

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

EMダグ・ダガーマン 守備力600

 

EMセカンドンキー 守備力2000

 

ここで得意のペンデュラム。振り子の軌道で次々と姿を見せる遊矢の愉快な仲間達、『EM』。粒揃いの団員と共にこの窮地を乗り越える。

 

「『セカンドンキー』の効果で『EMカレイドスコーピオン』をサーチ!ペンデュラム・マジシャンの効果でドクロバット・ジョーカーと自身を破壊し、『EMヘイタイガー』と『EMスプリングース』をサーチ!『補給部隊』でドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「ダグ・ダガーマンの効果で手札の『EMスプリングース』を墓地に送り、1枚ドロー!そしてこの瞬間、墓地の『EMギッタンバッタ』の効果が発動!特殊召喚!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

「まだだ!罠発動、『ペンデュラム・リボーン』!エクストラデッキの『EMオッドアイズ・ユニコーン』を特殊召喚!」

 

EMオッドアイズ・ユニコーン 守備力600

 

「その効果で墓地のスライハンド・マジシャンの攻撃力分、LPを回復!」

 

榊 遊矢 LP2300→4800

 

1つ1つの歯車が噛み合わさり、見事な連携を築いていく『EM』。手札を増やしつつ、場を固める光景は正にマジックショーかサーカスか。いずれにせよ、脅威的な回復力だ。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP4800

フィールド『EMオッドアイズ・ユニコーン』(守備表示)『EMリザードロー』(守備表示)『EMダグ・ダガーマン』(守備表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)『EMセカンドンキー』(守備表示)

『補給部隊』セット2

Pゾーン『EMモモンカーペット』『EMドラネコ』

手札2

 

2枚の手札をセットし、ターンを終了する遊矢。この2枚の内1枚に遊矢の想いがかかっている。この防御に対し、素良がどう出るかが問題だ。彼の行動を、誘導する必要がある。

 

「それで終わり?つまんないなぁ。僕のターン、ドロー!魔法カード、『カップ・オブ・エース』!コイントスは……表だ!よって2枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札3→5

 

「『ミスティック・パイパー』を召喚!」

 

ミスティック・パイパー 攻撃力0

 

「リリースす事でドロー!更に引いたカードがレベル1モンスターならばもう1枚ドローする!」

 

紫雲院 素良 手札4→5→6

 

「手札の『D.D.クロウ』を墓地に送り、君の『スキル・プリズナー』を除外!」

 

「チェーンして除外し、セカンドンキーへ耐性を付与する!更に永続罠、『デモンズ・チェーン』!チェーン・シープの動きを封じる!」

 

「速攻魔法、『リロード』!手札を交換。バトルだ!シザー・ウルフでセカンドンキーに攻撃!」

 

「罠発動、『仁王立ち』!セカンドンキーの守備力を倍にする!」

 

EMセカンドンキー 守備力2000→4000

 

紫雲院 素良 LP4900→4500

 

『デストーイ・シザー・ウルフ』が俊敏に駆け、その鋏を大きく開いてセカンドンキーに切りかかったその瞬間、遊矢はすかさずリバースカードを発動し、その効果を受けたセカンドンキーの筋肉が膨れ上がり、後ろを向き、2本の前脚で地を踏み締め、残る2本の後ろ脚でシザー・ウルフを力強く蹴り飛ばす。

突き刺さるカウンター、素良は反撃に苛立ち、その手を進める。セカンドンキーがダメならば次のモンスターを、『仁王立ち』の効果を使わせる意味でも――ここで止まっていられない。

 

「ダグ・ダガーマンへ攻撃!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外し、ダグ・ダガーマンへ攻撃を絞る!」

 

「セカンドンキーじゃない……!?ッ!リザードローか……ッ!」

 

しまったと言わんばかりに素良の表情が歪み、舌打ちを鳴らす。今までの遊矢の粘り強さ、セカンドンキーの守備力で1番見逃してはいけないものを見逃していた。

 

「『EMリザードロー』以外のモンスターが戦闘、相手の効果で破壊された場合、自分フィールドの『EM』モンスターの数だけドローする!フィールドには4体の『EM』!よって4枚ドロー!『補給部隊』も合わせて5枚だ!」

 

榊 遊矢 手札2→7

 

一気に5枚のドローブースト。遊矢は最初からこれを狙っていたのだ。実に鮮やかで大胆不敵。反撃の手を整え、笑みを深める彼に対抗し、素良は目付きを鋭くする。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

紫雲院 素良 LP4500

フィールド『デストーイ・サーベル・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・シザー・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・シザー・ウルフ』(攻撃表示)『デストーイ・チェーン・シープ』

セット3

手札2

 

「俺のターン、ドロー!『デモンズ・チェーン』をコストに『マジック・プランター』発動!」

 

榊 遊矢 手札7→9

 

「俺は2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

再びフィールドに姿を見せる漆黒の竜。相手が攻撃力を上げてくるならばこのモンスター程有効な手はない。頼もしい背を見つめ、遊矢はニヤリと笑う。

吠え猛る黒竜の周りで雷が迸り、赤い光が葉脈状にスパークする。息つく暇すら与えない。先程のお返しと言わんばかりに遊矢はその手を伸ばし、絶え間無く叩き込む。

 

「ダーク・リベリオンのORUを2つ取り除き、『デストーイ・サーベル・タイガー』の攻撃力を吸収する!」

 

「させないよ!罠発動、『デストーイ・マーチ』!『デストーイ』モンスターを対象とする効果を無効にし、破壊する!」

 

「ッ!ダーク・リベリオン!」

 

されど相手とて負けてはいない。遊矢の手を見切り、カウンターを叩きつける。ダーク・リベリオンの翼から囀ずる雷、トリーズン・ディスチャージがサーベル・タイガーへと襲いかかる瞬間、猛虎の姿が一瞬にして虚空に消え、ダーク・リベリオンへと肉薄、その野太く鈍重な腕からは想像もつかない速度で竜の胸部を貫き、爆発四散させる。

完全に読まれていた。だが遊矢は1度止められた手を再度動かせ次へと繋ぐ。無駄にはしない。どんな戦略も、1粒たりとも無駄に出来ない。

 

「『補給部隊』でドロー!」

 

榊 遊矢 手札9→10

 

ここで遊矢の手札が10枚に膨れ上がる。手札制限を越えた域にまで達し、何もないと不様な真似は許されない。次はどの手で行こうかと思考し、ユートに目を配らせ、互いに頷き合う、次のルートは決定された。

 

「墓地の『EMスプリングース』を除外し、ペンデュラムゾーンの2枚を手札に戻す!魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』を発動!エクストラデッキの『慧眼の魔術師』と『相生の魔術師』を回収し、そのままペンデュラムスケールをセッティング!慧眼を破壊し、デッキの『相克の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMペンデュラム・マジシャン』!『降竜の魔術師』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

3体のモンスターを同時展開。一体ここからどのように覆すのか、素良はキュッ、と目を細め、遊矢を見据える。と、ここで手元のキャンディーを見ると残りは後少し。ふんと鼻を鳴らして噛み砕き、棒を宙に放り投げ、『デストーイ・サーベル・タイガー』がパクりと食らい、ゴリゴリと音を鳴らして処理する。

そして直ぐ様ポケットから新しいお菓子を用意、今度は板チョコだ、包装紙を剥がし、かじりつく。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果でペンデュラムゾーンの『EMハンマーマンモ』と『EMラディッシュ・ホース』をサーチ!そして『降竜の魔術師』の効果で自身をドラゴン族に変更し、ユニコーンをリリース!アドバンス召喚!『EMハンマーマンモ』!」

 

EMハンマーマンモ 攻撃力2600

 

「降竜とハンマーマンモをリリース!来い!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

甲高い雄叫びが上がり、空気を裂いて震撼させる。ドスドスと重量感溢れる足音で地響きを鳴らし、フィールドに獣の竜が再臨する。だがそれでも素良のモンスターには敵わない。

だから――ここで遊矢の新たな力、素良も知らない奥の手を使う。

 

「魔法カード、『死者蘇生』!墓地の『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を特殊召喚!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

3度フィールドに降り立つ漆黒の竜。ユートのエースカードであるこの竜と『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』が揃った途端、2体が呼び合い、共鳴するかのように天に向かって咆哮する。

それに呼応して遊矢とユートの胸の奥が騒がしくざわめき、身体中に流れる血流が熱く、早くなっていく。闘え、戦えと耳元で囁く怒りの意志。それに向かい遊矢は――。

 

――共に、闘おう――

 

手を差し伸べて掴み、力強く引き上げる。何故だろうか、その瞬間、意外そうに目を丸くする青年の顔が、遊矢の脳裏に過った――。

 

「魔法カード、『幻影騎士団憑依』を発動!ダーク・リベリオンに『オッドアイズ』のレベルを与える!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

『その黒き逆鱗を震わせ、刃向かう敵を殲滅せよ!』

 

遊矢の眼前に煌めく星を散りばめた渦が広がり、その中へと『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』、2体の竜が光の線となって飛び込む。

最初は黒く濁り切った怒りかもしれない。だけども勝鬨との闘い、そして隼との対決を遠し、このカードは今では遊矢の頼れる切り札へと。ユートとの絆の象徴となった。

瞼を閉じ、力を抜く。さぁ、行こう、3人で。次に目を開いた瞬間、遊矢の左目の色彩が、灰色へと変化する。

 

『「エクシーズ召喚!怒りの眼輝けし龍!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!」』

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

渦が集束し、凄まじい轟音と共に爆風が吹き荒れる。砂塵を纏った風に思わず顔をしかめ、両腕をクロスさせて目を庇う素良。

視界も定まらない状況で、砂塵を一筋の光が切り裂く。まず現れたのは、赤と緑、2色の光、

 

砂塵の中でボウッ、と現れたそれを素良が認識した途端、鋭い輝きを放つ刃が2本、風の障壁から突き出る。続け様に巨大なシルエットがヌッ、と出現。白と黒の頭部、竜の顔を模した胸部、背で桜色の光を照らす刃の如き8枚の翼、そして――妖しく閃く、2本のアギト。

 

今ここに――覇王の竜が現れる。

 

「この……モンスターは……!?」

 

「これが俺の、俺達の力だ!このカードがエクシーズモンスターを素材としてエクシーズ召喚に成功した場合、相手フィールドのレベル7以下のモンスターを全て破壊し、その数×1000のダメージを与える!オーバーロード・ハウリング!」

 

「何だって!?くっ、墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外して、このターンの効果ダメージを半分に!ぐっ、うぅぅぅぅぅっ!?」

 

紫雲院 素良 LP4500→3000

 

素良が驚くのも束の間、白黒の竜のアギトの前に光のリングが出現し、それに向かって激しい怒号が轟く。下級モンスターの反撃を許さない王者の一喝。その暴虐の力により素良の『デストーイ』モンスター3体がガラスのように粉々に砕け散る。

 

「『デストーイ・チェーン・シープ』の効果でこのカードを特殊召喚し、攻撃力を800アップする!サーベル・タイガーの効果も合わせ、1200アップ!」

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→3200

 

「そしてこのターン、オッドアイズ・リベリオンは3回攻撃を行える!まずは『デストーイ・サーベル・タイガー』に攻撃!反旗の逆鱗!」

 

『ストライク・ディスオベイ!!』

 

「――罠発動、『攻撃の無敵化』!このターン受ける戦闘ダメージを0にする!」

 

白黒の竜が地を踏み砕き、陥没させて猛スピードで飛翔する。音をも置き去りとした超越者の特攻、ソニックブームを引き連れたそれは一直線にサーベル・タイガーを目指して突き進み、鋭いアギトによる斬撃がサーベル・タイガーを貫く。赤黒い刃が砕け、カランと地に落ちる。

 

「ビーストアイズでチェーン・シープに攻撃!」

 

『そしてその効果でハンマーマンモの攻撃力分、ダメージを与える!』

 

紫雲院 素良 LP3000→1700

 

「モモンカーペットとドラネコをペンデュラムスケールにセッティング。カードを3枚伏せ、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP4800

フィールド『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』(攻撃表示)『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMリザードロー』(守備表示)『EMペンデュラム・マジシャン』(守備表示)

『補給部隊』セット3

Pゾーン『EMモモンカーペット』『EMドラネコ』

手札5

 

「僕のターン、ドロー!僕は負けない……!負けちゃいけないんだ!罠発動、『貪欲な瓶』!墓地の『トイポット』3枚と『デストーイ・ファクトリー』、『融合回収』をデッキに戻し、ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札3→4

 

「まだだ!速攻魔法、『大欲な壺』を発動!除外されている『ファーニマル・オウル』、『ファーニマル・シープ』、『ファーニマル・ドッグ』をデッキに戻し、ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札3→4

 

「更に魔法カード、『貪欲な壺』ぉっ!墓地の『デストーイ・サーベル・タイガー』、『デストーイ・シザー・ウルフ』、『デストーイ・ハーケン・クラーケン』、『ファーニマル・オウル』、『ファーニマル・オクト』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札3→5

 

ここで続く壺カードによるドローブーストにより、墓地のモンスターをデッキに戻し、手札に呼び込む素良。とんでもない引きの強さだ。

 

「速攻魔法、『魔力の泉』!3枚ドローし、1枚捨てる!」

 

紫雲院 素良 手札4→7→6

 

『とんでも無いな……!』

 

「永続魔法、『トイポット』、『デストーイ・ファクトリー』、『補給部隊』を発動!まずは『トイポット』の効果で手札を1枚捨て、ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札2→3

 

「ドローカードは『ファーニマル・オウル』!よって特殊召喚!」

 

ファーニマル・オウル 攻撃力1000

 

「効果で『融合』サーチ!そして墓地の『ファーニマル・ウィング』と『ファーニマル・キャット』を除外し、ドロー!『トイポット』を墓地に送り、もう1枚!『トイポット』の効果で『ファーニマル・キャット』サーチ!」

 

紫雲院 素良 手札3→4→5→6

 

次々と手を運び、大量の手札を確保する素良。これで手札は6枚、だがまだまだ安心は出来ない。

 

「『ファーニマル・シープ』を特殊召喚!」

 

ファーニマル・シープ 守備力800

 

「シープの効果で『ファーニマル・オウル』を手札に戻し、『エッジインプ・ソウ』を特殊召喚!」

 

エッジインプ・ソウ 攻撃力500

 

「『融合』を発動!フィールドの『エッジインプ・ソウ』と手札の『ファーニマル・キャット』で融合!融合召喚!『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』!」

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ 攻撃力2400

 

「『ファーニマル・キャット』の効果で『融合』回収!更に『ファーニマル・ドッグ』を召喚!」

 

ファーニマル・ドッグ 攻撃力1700

 

「召喚時、デッキから『ファーニマル・ラビット』サーチ!そしてもう1枚『融合回収』!『置換融合』と『エッジインプ・チェーン』回収!そして『融合』発動!手札の『エッジインプ・チェーン』と『ファーニマル・ラビット』で融合召喚!『デストーイ・チェーン・シープ』!」

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000

 

「『ファーニマル・ラビット』の効果で『エッジインプ・シザー』回収!『デストーイ・ファクトリー』の効果で墓地の『融合回収』を除外し、手札の『エッジインプ・シザー』、『ファーニマル・オウル』で融合!融合召喚!『デストーイ・シザー・タイガー』!」

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力1900→3400

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ 攻撃力2400→3900

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→3500

 

獅子と羊の隣に並び立つのは密林の悪魔、飢えた猛虎。水色のボディで動き回り、腹部の鋏を伸ばして遊矢のモンスターを切り刻む。

 

「召喚時、『EMリザードロー』と『EMペンデュラム・マジシャン』を破壊!そしてホイールソウ・ライオの効果でビーストアイズを破壊し、ダメージを与える!」

 

「手札の『EMレインゴート』を捨て、効果ダメージを0に!そして『EMギッタンバッタ』を復活、『補給部隊』でドロー!」

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

榊 遊矢 手札4→5

 

「防ぐのは分かっていたよ!魔法カード、『置換融合』!フィールドの『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』と『ファーニマル・ドッグ』、『ファーニマル・シープ』を融合!融合召喚!『デストーイ・サーベル・タイガー』!!」

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力2800→4100

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力2800→3200

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2900→3300

 

現れたのは太古の野獣。赤く濡れた刃を不気味に輝かせ、シザー・タイガーと共に『デストーイ』を強化する。打点が低い素良のモンスターでは、この効果はかなり重宝する。

 

「サーベル・タイガーの効果で『デストーイ・ハーケン・クラーケン』を吊り上げる!」

 

デストーイ・ハーケン・クラーケン 攻撃力2200→3800

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力4100→4400

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力3200→3500

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力3300→3600

 

並ぶ4体の融合モンスター。そのどれもが攻撃力3000を越え、それぞれ厄介な効果を宿している。流石に焦りを覚え、額から汗を垂らす遊矢。キリが無いにも程がある。

だがこれだけでは素良の手は終わらない。身体の奥底から燃え上がる激情に任せ、1枚のカードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「魔法カード、『魔玩具融合』!墓地の『デストーイ・ハーケン・クラーケン』と『デストーイ・シザー・タイガー』、『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』を融合!悪魔宿りし非情の玩具よ、刃向かう愚民を根こそぎ滅ぼせ!融合召喚!現れ出でよ!全ての玩具の結合魔獣!『デストーイ・マッド・キマイラ』ァッ!!」

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力2800→4700

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力4400→4700

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力3500→3800

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力3600→3900

 

デストーイ・ハーケン・クラーケン 攻撃力3800→4100

 

墓地に眠る3体の『デストーイ』モンスターが巨大な箱に閉じ込められ、中で絹を裂き、結合されていく。もしも箱の中身が剥き出しとなっていれば阿鼻叫喚の地獄絵図だっただろう。そして箱がメリメリと盛り上がり、中より3頭の獣が天井を突き破って勢い良く顔を見せる。

様々な玩具やぬいぐるみを組み合わせたかのような不気味でおぞましい姿をしたキマイラ。

隼との対決で登場したモンスターだ。1ターンで5体もの融合モンスターが並び立ち、赤い目を輝かせ、遊矢を睨む。

これが素良の本当の実力、とんでも無い荒業に遊矢はその目を見開く。

 

『これが……彼の力……!』

 

「素良……!」

 

「墓地の『置換融合』を除外し、『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』をエクストラデッキに戻してドロー!」

 

紫雲院 素良 手札0→1

 

「バトルだ!『デストーイ・マッド・キマイラ』でオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンに攻撃!」

 

榊 遊矢 LP4800→3950

 

「ぐっ――モモンカーペットのペンデュラム効果でダメージは半分に……!」

 

マッド・キマイラがそれぞれ頭よりミサイルや砲弾を発射し、オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンを攻撃する。直ぐ様翼を展開し、飛翔して回避に徹する白黒の竜。しかし天空に白黒の線を描き、ジグザグの軌道で飛び回る竜に対し、ミサイルや砲弾はホーミングして追尾する。雲を突き抜け、天上で繰り広げられるドッグファイト。

 

執拗に自分を狙う兵器に痺れを切らしたのか、竜が一気に降下し、火炎を纏う体躯をクルリと反転し、迎撃の意志を示す。そしてそのアギトの周りに光のリングを生成、耳をつんざく怒号を放ち、一喝で黙らせる。衝撃波をまともに受け、宙で爆散し、黒煙を吹かせる兵器だったもの。

 

しかし――そのスモークを突き破り、魔獣の顔面がビックリ箱の如くバネ仕掛けで飛び出し、大口を開いて竜に食らいつく。バキリ、箸を折る程簡単に竜は砕かれ、咀嚼される。

 

「ハーケン・クラーケンでギッタンバッタに2回攻撃し、チェーン・シープでダイレクトアタック!」

 

榊 遊矢 LP3950→2000

 

『――ッ!』

 

続け様の攻撃、チェーン・シープがその身を丸め、地を蹴って爆発的な推進力で遊矢に体当たりする。デュエルディスクを盾に使いガードするも、遊矢は吹き飛ばされ、岩にぶつかりそうになった所をペンデュラムゾーンのモモンカーペットが見かねて飛び出し、身体を広げてクッションになる。

 

「はぁ……はぁ……ありがとう……!」

 

『助かった……!』

 

息を切らしながらも感謝を伝える遊矢に笑いかけ、頷いてペンデュラムゾーンに戻るモモンカーペット。だが相変わらず状況は不利だ。

 

「チッ、モモンカーペットを破壊すれば良かったかな……?シザー・タイガーで攻撃!」

 

「速攻魔法、『超カバーカーニバル!』デッキから『EMディスカバー・ヒッポ』を特殊召喚!」

 

シザー・タイガーによる攻撃、これで終わりかと思われたその時、遊矢のピンチを感知し、シルクハットを被ったピンク色のカバがフィールドに現れる。初めてカバが役に立った瞬間である。

 

「邪魔なカバには消えてもらうよ!」

 

しかし、眼前のシザー・タイガーに気づいたのか、ポーズを解き、冷や汗を浮かべながら慌てて逃げ出すヒッポ。だが当然逃げられる訳が無く、鋏で切り裂かれるまでも無く、踏み潰され、漫画で良くあるペラペラに薄くなって昇天するカバ。憐れヒッポ。しかしその意志は確かに次のターンに繋がれた。

 

「すまんヒッポ……!」

 

サーベル・タイガーによる攻撃が残っているが、同じく『EMドラネコ』のペンデュラム効果が消費されていない。追撃は無駄、素良は舌打ちを鳴らし、メインフェイズ2へと移行する。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだよ」

 

紫雲院 素良 1700

フィールド『デストーイ・マッド・キマイラ』(攻撃表示)『デストーイ・サーベル・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・シザー・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・チェーン・シープ』(攻撃表示)『デストーイ・ハーケン・クラーケン』(攻撃表示)

『デストーイ・ファクトリー』『補給部隊』セット1

手札0

 

相手フィールドには融合モンスターが5体、しかもそれぞれが遊矢の脅威となる効果持ち、対する遊矢のモンスターは0、だがそれで折れる遊矢では無い。そんな事より気になるのは素良の心情だ。デュエルを通し、素良の想いが未だに分からない。

いや、正確には見え隠れはしているのだが――。

 

「……素良、帰って来いよ、遊勝塾に……」

 

「ッ、何だい今更、僕はアカデミアの人間だ。裏切り者なんだよ!戻れる筈が無いだろ!?」

 

「そんな事誰も気にしないさ!お前、本当は戻りたいんだろ!?『マジカルシルクハット』やデュエルを楽しもうとしているのを見れば分かる!お前が遊勝塾の素良だって!」

 

そう、これが遊矢がこのデュエルで感じていた違和感。彼はアカデミアの人間でありながら、遊勝塾の人間との間で揺れている。

『マジカルシルクハット』は遊矢達に対する情を、「そうじゃないと面白くない」、「つまらない」等の発言は遊勝塾の信条に触れている。

つまり彼は遊勝塾の色に染まり、その居心地の良さを気に入っている。今だって遊矢の戻って来い、に対して戻らない、ではなく戻れない、と言った。自分が悪人だとアピールしながら。

 

更に言うならば――結果的にああはなってしまったが、素良は隼とのデュエルでも、一部遊勝塾のエンタメデュエルをしようとしていたのだ。

 

「ッ!うるさい、うるさい、うるさいッ!本当に君達は生温いよ!君にしたって、柚子にしたって!LDSの3人組だって敵だったのに仲良く接して!僕は敵だ!アカデミアの紫雲院 素良!」

 

無理矢理口元を歪ませ、ニヤリと笑う素良。だがそんな簡単に見破られる嘘等、遊矢に通じない。

確かに、素良は自分を押し殺し、偽る事に長けている。だがここまで動揺しては優れた観察眼を持つ遊矢には分かる。

 

素良から見てとれる想いは――羨ましい。羨望と言う想い。叶うならば、と迷いが見てとれる。そんな彼を繋ぐ鎖は、裏切り者だから、アカデミアの人間だから、と言う理由と、あともう1つ、読み取れないものが遊矢を遮り、拒む。

 

「揺れている、このペンデュラムのように、お前の想いは!」

 

「何を――!」

 

首からかけた胸元のペンデュラムを握り締め、素良へと向ける遊矢。二律背反で惑う素良。最早どっちが本当の自分か何て分かってないのだろう。

そんな彼と、遊勝塾に戻る為に――。

 

『行くぞ、遊矢!』

 

「おう、俺のターン、ドローッ!!」

 

火花が舞い、虹色の光に彩られるドローの軌跡。天空にアークを描くそれは、この危機を救う。チラリとドローカードに目を配られた、その瞬間、ドクン、と、遊矢の胸の奥が高鳴った――。

 

――世話が焼けるウスノロが――

 

胸の奥から聞こえる鼓動。頭の中を過る誰かの言葉。今は誰だか分からない。だがそれは、遊矢へと力を与えてくれる。

頭の中ではシルエットに隠れた竜が遠吠えを上げ、今か今かと出番を待っている。もう少しだ――遊矢は誰にでも無く頷きながら準備を整える。

 

「『魔法石の採掘』発動!手札を2枚捨て、墓地の『揺れる眼差し』を手札に加え、発動!500ダメージを与え、デッキの『EMマンモスプラッシュ』をサーチ!」

 

紫雲院 素良 LP1700→1200

 

「『EMトランプ・ウィッチ』と『EMマンモスプラッシュ』でペンデュラムスケールをセッティング!そしてリバースカードオープン、『ペンデュラム・ターン』!トランプ・ウィッチのスケールを10に!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMダグ・ダガーマン』!『EMカレイドスコーピオン』!『降竜の魔術師』!『相克の魔術師』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

5体同時召喚、これぞペンデュラムの本領発揮と言わんばかりの荒業が炸裂する。並び立つは2色の虹彩の真紅の竜に短剣使いと万華鏡の尾を持つ蝎。2体の『魔術師』と遊矢のデッキの代表的な3つのカテゴリに属したモンスター達だ。

 

「ダグ・ダガーマンの効果で手札のヘイタイガーを墓地に送り、ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールドの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『相克の魔術師』で融合!融合召喚!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

「マンモスプラッシュの効果でエクストラデッキの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を復活!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

「墓地の『置換融合』を除外、『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をエクストラデッキに戻してドロー!」

 

榊 遊矢 0→1

 

「『降竜の魔術師』をリリースし、『EMハンマーマンモ』をアドバンス召喚!」

 

EMハンマーマンモ 攻撃力2600

 

引いたカードを直ぐ様デュエルディスクに叩きつける。登場したのは『EM』の重鎮、鼻がハンマーとなったマンモスだ。

 

「『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMハンマーマンモ』をリリースし、『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を特殊召喚!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

2体目の融合モンスター、お次は獣の眼を得た『オッドアイズ』だ。野性と理性、2つの異なる竜を操り、遊矢の次の手は――。

 

「罠発動!『ペンデュラム・リボーン』!来い!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

「またか……!」

 

3度現れる真紅の竜。振り子は何度も揺れ、その勢いを増していく――。

 

「これが――俺とお前の絆だ!切り離せない想いの融合!『EMトランプ・ウィッチ』のペンデュラム効果!フィールドの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMダグ・ダガーマン』で融合!比類無き短剣使いよ。二色の眼輝く竜の。今一つとなりて新たな命ここに目覚めよ!融合召喚!現れ出でよ!気高き眼燃ゆる勇猛なる龍!『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

今遊矢に宿る勇気が『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』に継承される。巨大な炎の渦が逆巻き、その中から姿を現したのは真っ赤に燃えるボディを煌めかせ、巨大な角に背の三日月を更に大きく成長させた正当進化と言える程、逞しい竜。

雄々しき雄叫びを上げるその竜より紅い稲妻が迸り、素良のフィールドに降りかかる。

 

「このモンスターは……!?」

 

「このカードが融合召喚に成功した時、全ての相手モンスターの攻撃力を0にする!」

 

「なっ――!?」

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力4700→0

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力4700→0

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力3800→0

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力3900→0

 

デストーイ・ハーケン・クラーケン 攻撃力4100→0

 

相手フィールド上のモンスター全ての攻撃力を0に変動させる強力な効果。これによってあれだけ猛威を振るっていた素良のモンスター達が無力化されてしまう。

 

「『EMカレイドスコーピオン』の効果で『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』は特殊召喚された全てのモンスターに攻撃可能!バトルだ!ブレイブアイズで攻撃!灼熱の、メガフレイムバーストッ!!」

 

ブレイブアイズの口から火炎が迸り、素良のモンスターに向かい、巨大な太陽の如き火焔が放たれようとした――その、瞬間だった――。

 

「僕は、負けられないんだっ!病気の妹を、救う為にも!」

 

「ッ!?」

 

「罠発動!『融合死円舞曲』!ブレイブアイズとマッド・キマイラ以外を破壊し――対象の2体の攻撃力の合計ダメージを互いに与える!」

 

漸く暴かれた、紫雲院 素良と言う少年の、最後のピース。しかしそれが分かった時には最早遅く――。互いのモンスターが破壊され、噴煙が巻き起こり、圧倒的な衝撃が2人を襲う。

 

「「がぁぁぁぁぁっ!?」」

 

榊 遊矢 LP2000→0

 

紫雲院 素良 LP1200→0

 

決着、しかし――その結果は引き分け。岩に叩きつけられ、遊矢の身体からユートが飛び出し、倒れる。痛みが頭から爪先まで駆け抜けていく。それでも朦朧とする意識だけを頼りに身体を引き摺り、遊矢は気絶した素良へと手を伸ばす。

だが――それは遮る男が1人、土を鳴らして現れる。蒼い髪をオールバックに流し、眼帯を着け、屈強な肉体をしたその男は――。

 

「バレット……さん……!?」

 

『……ッ!』

 

突如現れた来訪者、彼は遊矢を一瞥した後、無言で素良を肩に担ぎ、その懐から――アカデミアのデュエルディスクを取り出す。

 

「なっ……まっ、待って――」

 

「――安心しろ、悪いようにはせん……セレナ様を、頼んだぞ――」

 

その言葉を最後に、バレットは素良と共に光の粒子となって消え去る。後に残されたのは、友を救えなかった、無力感を背負う少年のみ。

自分では――素良を、救えない。胸の奥から湧き出る悔しさを感じながら――遊矢は、意識を手放す――。

 

舞網チャンピオンシップ、閉幕。失ったものは、余りにも大きい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と、言う訳で決着。妹は遊矢君でもどうしようもない問題を出したくて漫画版から輸入させてもらいました。ここで1度コナミ君と遊矢君は折っとかないとこれから先では挫折させられませんので。
特に遊矢はメンタルめっちゃ強くなってるから苦労した。素良を救えなかった事、バレットさんの裏切り、柚子の行方不明と処理しきれない事で折れた感じです。
次回から意外な人物がコナミ君と遊矢君の前に現れる予定。



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第79話 アニキ

遊矢対デニスを見て、モチベーションがアップしまくり、チャレンジャーにホープとゼアルのオマージュも良かったです。だからEmの未OCGカードを……(絶望的)。



「ふざけんじゃねぇぞテメェ!!」

 

LDS内の長い廊下にて、少年の憤怒が籠った怒声が響き渡る。それと同時にガンッ、と1人の少年が壁に叩きつけられ、力無く背を預ける。

 

何故こんな事になってしまったのだろう?と2人の少年の固い絆を知っている3人は、怒り狂う少年、刀堂 刃を何とかして押さえつけ、もう1人へと目を向けるが――そこにいた赤帽子の少年、コナミはまるで燃え尽き、残りカスとなったかの如く気力の欠片も感じさせず、俯くのみ。何時もの彼の姿はそこには無い。

 

何故こんな事になってしまったのだろう?再び目を伏せ、歯軋りを鳴らすのは光津 真澄、志島 北斗、光焔 ねね。

 

全ては――舞網チャンピオンシップが閉幕してからに遡る。長きに渡るアカデミアとの闘い、彼等はスタンダード次元のデュエリスト達に数多くの犠牲を出し、その侵略から手を引いた。

カード化される者もいれば、負傷した者もいた。だが生き残った者達もいた。遊矢やコナミ達だ。

大会主催者である赤馬 零児はその残った数人で対アカデミアのデュエル戦士、ランサーズの結成を表明。生憎刃達はスタンダード次元の守りに徹する為、辞退したが――その時刃は気づいたのだ、暗次の姿が無い事に。

彼は焦りを覚え、暗次の居場所を問い、コナミがそれに答えたのだ。

 

暗次はコナミを庇い、カード化された事を。それに激昂し、今に至ると言う訳である。尚、今こうしているコナミと同じように、遊矢も最早再起不能となっており、権現坂と黒咲が何とかしようとはしているが――。

 

「……殴るなら殴れ、罵倒するなら好きにしろ。オレが暗次を救えなかった事には変わらん……こんな事で償えるとは思ってないがな」

 

「ッ!テメェェェェッ!!上等だ!ぶっ殺してやる!」

 

「やめろ刃!おい光焔!誰か呼んで来てくれ!」

 

「はっ、はいぃぃぃぃっ!」

 

「アンタ良い加減にしなさいよ!コナミも何で挑発みたいな事するのよ!」

 

ハンッ、と自嘲気味に笑うコナミに対し、刃が額に青筋を浮かべ、コナミにありったけの殺気をぶつける。このままでは意外と喧嘩早い刃は本当に殴りかかるだろう。

北斗達は刃を何とか制するが、怒りのせいか止まらない。

 

「うるせぇ!俺だって分かってんだよ!本当にぶん殴りてぇのはアカデミアだ!こいつは暗次の、俺の恩人だ!だけど、だけどよ!暗次に守られておいてふてくされてるコイツが、腐っちまったコイツが気に食わねぇ!こんな腐った奴を、暗次は救いたかった訳じゃねぇだろうが!」

 

八重歯を剥き出しにし、怒号を放つ刃。そう、刃とて暗次をカード化したのはアカデミアだと理性では分かっている。

だが感情がそれを否定する。コナミが暗次を救えなかった。そしてこうして腑抜けとなっているコナミを暗次が救った。そう考えるとやってられないのだ。暗次が余りにもバカみたいじゃないかと。そんな、時だった――。

 

「退け」

 

突然1人の男が刃の肩を掴んで退かせ、コナミの前に現れたのは。先程の北斗の頼み通りに、ねねが連れて来たのであろう。その割には男の後ろで、はわわはわわとどこぞの軍師の如くねねが慌てているが。

現れた男を見て、目を丸くして驚く刃達。しかしコナミは最早どうでも良いとばかりに俯いているが――。

 

ガンッ、と固い握り拳を男はコナミへと真横に叩きつけ、いきなりの衝撃にコナミは吹き飛ばされて近くの壁にぶつかる。身体を逆さにし、ズルズルとジャケットを引き摺りながら、コナミが目にした者は――。

 

「こう言う奴は、ぶん殴ってでもデュエルで何とかするに限るんだよ」

 

そう言いながら、赤くなった拳にイテテとぼやく、沢渡 シンゴの姿だった――。

 

「おい柿本、山部、大伴、こいつ持て。デュエルコートに行くぞ」

 

「「「分っかりましたー!沢渡さぁんっ!」」」

 

「おっ、おい沢渡!一体何を――!」

 

男前な顔をして、自らの子分にコナミを運ばせながら、ふてぶてしく歩いていく沢渡。そんな彼へと、北斗が疑問を投げかける。

すると沢渡は「あぁん?」と振り向き、――その表情に、不敵な笑みを浮かべる。

 

「さっき言っただろうが、沢渡 シンゴのエンタメデュエル――開演だ――!」

 

「「「フゥー☆沢渡さん最高ッスよー!」」」

 

「よせやい」

 

ニヤリ、と内心決まったな、と思いながらも子分達に応え、もっと言えもっと言えと念じる沢渡。しかし――。

 

「クサッ」

 

「光津ぅ!」

 

結局、しまらない所が彼らしかった――。

 

――――――

 

こうして場所は変わり、デュエルコート。互いに沢渡とコナミは向かい合ってはいるが――、デュエルディスクを構える沢渡に対し、コナミはだらりと力無く両腕を垂らし、覇気も無くただ立っているだけの状態。

しかしブーイングも声援と受け取る沢渡はそんな事関係無いとばかりに笑みを浮かべている。

 

「……ご苦労な事だな、オレなんかの為に」

 

「あぁん?誰がテメェなんかの為にここまでするかよ。デッキ調整ついでに、テメェには負けた借りもあんだよ。かっ、勘違いしないでよね!俺様のデュエルで楽しませて、帰りにステマさせてやるだけなんだから!」

 

「「「沢渡さんマジ萌え萌えッスよー!」」」

 

そう、沢渡はコナミの為等更々思ってない。彼の中にあるのは、コナミに対するリベンジと己の存在の誇示。自分自身の為のみ。誰かの為等では決して無い。沢渡 シンゴは、そう言う我が儘な少年だ。

 

「面倒臭い奴だ。オレなんかに勝って何の意味が――」

 

「柿本、山部、大伴!アクションフィールドの準備ぃ!」

 

「話を聞け」

 

コナミの言葉も聞く耳持たず、遮って子分にアクションフィールドを展開させる。ブォン、デュエルコートが光の粒子に包まれ、その姿を変えていく。味気の無い何も無い場に轟音を響かせ、そびえ立つのは――巨大な、門。その瘴気が漏れ出る門を見て、僅かながらもコナミが帽子の奥で瞠目する。

 

「『暗黒界の門』……」

 

『暗黒界の門』。暗次の操る、『暗黒界』のフィールド魔法。それがほんの砂粒程度だが、コナミの心を動かせる。

 

「さぁ、行くぜ!やっぱアクションデュエルは口上が無くちゃなぁ!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「……」

 

「かぁーっ!辛気くせぇ!柿本、山部、大伴!」

 

「はい!モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

口を閉ざし、黙り込むコナミを見て、沢渡が呆れながら子分に口上を分担させ、紡ぐ。久し振りのアクションデュエルの口上だと言うのに、何とも締まらないでは無いか。しかしこの程度では沢渡は折れない。1度デュエルをするとなれば、最後まで突き通す。

 

「アクショーン……デュエル!!」

 

「……デュエル……」

 

大声で口火を切る沢渡に対し、コナミも静かにだが応じる。まだ彼にはデュエリストの火種は残っている。沢渡は鼻を鳴らし、5枚のカードを手札に加え、フィールドを駆け出しながら1枚のカードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「まずはコイツだ!『魔界劇団―エキストラ』を召喚!」

 

魔界劇団―エキストラ 攻撃力100→400

 

現れたのは投影機のような円盤状の物体から姿を見せる3体の悪魔達。ハットを被り、単眼を鈍く輝かせるその姿はどこか愛嬌がある。

 

「コイツをリリースし、デッキから『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』をペンデュラムゾーンにセット!そして『魔界劇団―ワイルド・ホープ』をセッティング!」

 

2枚のカードが沢渡のデュエルディスクの両端に設置され、その間に虹色の光が宿る。更に彼の背後に柱が2本伸び、その中に銃を構えたガンマン風のモンスターとシルクハットを被り、ラッパを吹かせた老人が現れ、上空に光の線を結び、魔方陣を描き出す。

ペンデュラム召喚。沢渡が渇望し、漸く手に入れた力が振るわれる。

 

「ペンデュラム召喚!『魔界劇団―サッシー・ルーキー』!」

 

魔界劇団―サッシー・ルーキー 攻撃力1700→2000

 

現れる『魔界劇団』の新人。モジャモジャとした天然パーマの青髪に、だらりと力無く垂らした手が特徴的な単眼のモンスターだ。

『暗黒界の門』の恩恵により、攻撃力が2000まで引き上がる。下級にしては破格のラインだ。

 

「ペンデュラム召喚時、ダンディ・バイプレイヤーのペンデュラム効果でエクストラデッキの『魔界劇団―エキストラ』を手札に、カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『魔界劇団―サッシー・ルーキー』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』『魔界劇団―ワイルド・ホープ』

手札2

 

1ターン目終了、沢渡のフィールドには攻撃力2000となったサッシー・ルーキーが1体、バックは1枚にペンデュラムカードが存在する。無難の出だしと言った所か。これを見て管制室の者達が顎に手を当てそれぞれの思いを口に出す。

 

「沢渡にしては無難な手だな。対するコナミはどうするか――あんな状態だけど、あいつのデュエルタクティクスは高い、あの程度の布陣だと直ぐ様突破されるだろう」

 

「って言うかどうするつもりなのよ沢渡の奴。こんな状態でデュエルなんて逆効果じゃ……」

 

「さぁな、あいつの考えなんてどうやっても分かんねぇよ。だけどな――」

 

「?何ですか、刃君?」

 

それぞれが同じ考えを抱き、刃が呟く。沢渡の考えなんて分からないが――今のコナミを救う方法は、ただ1つ。

 

「俺達は今まで、デュエルで語って、答えを出して来たんだ。それに――あいつは、決める時は決める奴だぜ……!」

 

その沢渡へと視線を移し、確かな信頼を見せる刃。それは北斗や真澄とて同じ。沢渡は何時も自己中心的で我儘、大言壮語で鼻につく男だ。

だが、何だかんだで相手の事を見ているし、目的の為なら努力を惜しまず、文句一つ言わずに足を止める事なく一直線に進んでいく。

 

だからこそ目の前でエールを送る3人に慕われているの等の謎のカリスマ性があるのだろう。馬鹿にしてはいるが、結局彼等もまた、信頼しているのだ。馬鹿にする事はやめないが。

 

「……オレのターン、ドロー。オレは『貴竜の魔術師』と『曲芸の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング。揺れろ、光のペンデュラム、虚空に描け魂のアーク。ペンデュラム召喚。『竜脈の魔術師』、『E・HEROブレイズマン』」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

コナミのフィールドに姿を見せる『魔術師』と『HERO』、デッキを支える2柱のカテゴリ。彼のデッキに大きく貢献しているカード達であり、デッキ構築によってその相性を大きく引き上げている。

一見訳の分からぬ組み合わせだが、コナミが扱う事で数々の強敵を打ち破って来た事を考えると充分脅威だろう。

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチし、発動。フィールドのブレイズマンと竜脈で融合。融合召喚、『E・HEROガイア』」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200

 

暗い断崖の地を砕き、大地の力を宿した黒い巨人が降臨する。身体の各所で紅玉が輝き、その巨腕が地を鳴らす。コナミの持つ融合モンスターの中でも素材、効果共に扱いやすく、強力なカードだ。

 

「ガイアの効果でサッシー・ルーキーの攻撃力を半分にし、その数値分、このカードの攻撃力を上げる」

 

魔界劇団―サッシー・ルーキー 攻撃力2000→1000

 

E・HEROガイア 攻撃力2200→3200

 

「『クリバンデット』召喚」

 

クリバンデット 攻撃力1000→1300

 

続けてコナミが召喚したのは毛むくじゃらの小さな1頭身ボディに眼帯と頭巾を被った、鋭い目付きの『クリボー』系列のモンスター。墓地発動を主軸としたコナミのデッキでは強力な墓地肥やしとなるカードだ。悪魔族である為、フィールド魔法の効果も受ける。

 

「バトル、ガイアでサッシー・ルーキーへ攻撃。コンチネンタルハンマー」

 

コナミがゆらりと右腕を突き出し、指示を出した途端、ガイアが凄まじい脚力で地を蹴り砕き、一瞬でサッシー・ルーキーに肉薄する。そしてその巨腕を合わせ、ハンマーのように降り下ろし、サッシー・ルーキーを潰そうとしたその時、沢渡がニヤリと口元を吊り上げ、リバースカードで攻撃を遮る。

 

「甘いぜ!速攻魔法、『揺れる眼差し』!互いのペンデュラムゾーンのカードを全て破壊し、3つの効果を適用!まず1枚目により、お前に500のダメージ!」

 

コナミ LP4000→3500

 

発動されたのはコナミや遊矢も頻繁に使うペンデュラムゾーンを割りつつ、他のアドバンテージを稼ぐ強力なカード。勿論沢渡が『魔界劇団』と相性の良いこのカードを見逃す筈も無く、デッキに投入している。

1つ目の効果でコナミの背後で輝く柱が硝子のように粉砕し、その破片がコナミのLPを削る。更に沢渡のダンディ・バイプレイヤーがラッパを吹き、1枚のカードが沢渡のデッキから飛び出してその手におさまる。

 

「2枚目の効果でデッキから『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』をサーチ!更に3枚目の効果でガイアを除外するぜ!」

 

続いてワイルド・ホープが砕け散った柱の破片に飛び乗り、銃を構え、弾丸を放ってガイアを異次元へと飛ばす。だがまだ沢渡の手は終わらない。期待のホープは沢渡の手に1枚のカードを与え、颯爽と去る。

 

「ワイルド・ホープが戦闘、効果で破壊された事で『魔界劇団の楽屋入り』をサーチ!」

 

コナミのモンスターを除去しつつ、2枚のカードをサーチする。ここら辺は流石と言うべきか。

 

「『クリバンデット』でサッシー・ルーキーに攻撃!」

 

「サッシー・ルーキーは1ターンに1度破壊されない!」

 

沢渡 シンゴLP4000→3700

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド。この瞬間、『クリバンデット』をリリースし、デッキの上から5枚を捲り、魔法、罠を1枚手札に加え、残りを墓地に送る。『マジカルシルクハット』を手札に加え、墓地に送られた『E・HEROシャドー・ミスト』の効果で『E・HEROエアーマン』をサーチ」

 

コナミ LP3500

フィールド

セット1

手札2

 

「俺様のターン、ドロー!どうした赤帽子!ちゃんと盛り上げやがれ!『魔界劇団―エキストラ』を召喚!」

 

魔界劇団―エキストラ 攻撃力100→400

 

「リリースし、2枚目のダンディ・バイプレイヤーをセッティング!もう1枚はこいつだ!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』をセッティング!ペンデュラム召喚!現れろ!俺様のダンディでプリティなモンスター!『魔界劇団―ワイルド・ホープ』!」

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1600→1900

 

ダンディでプリティなのかは兎も角、沢渡が新たに召喚したのはワイルドなモンスター。サッシー・ルーキーと並び立つ期待のホープ。新人コンビは互いをライバル視して闘志を燃やす。

 

「ダンディ・バイプレイヤーの効果でエキストラ回収!ワイルド・ホープの効果で『魔界劇団』モンスターの種類×100攻撃力をアップ!」

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1900→2100

 

「バトルだ!2体でダイレクトアタック!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを封じる」

 

2体の新人によるコンビネーションアタック、しかしそれもコナミの眼前に飛び出した光の剣によって止められる。だが沢渡は渋い顔1つせず、むしろ好戦的な笑みを浮かべる。

 

「安心したぜ、デュエルする気はあるようだな」

 

「……さぁな……」

 

全くと言って良い程やる気が無かったコナミが自身の負けを認めない事を見て、沢渡が快活に笑う。

コナミ自身、何故自分が沢渡の攻撃を止めたのかは分からない。恐らくはデュエルに対してだけは嘘をつきたくない、背を向けたくない、デュエリストの血が手を動かしたのだろう。まだ――可能性は残っている。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『魔界劇団―ワイルド・ホープ』(攻撃表示)『魔界劇団―サッシー・ルーキー』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』

手札3

 

「オレのターン、ドロー。『E・HEROエアーマン』を召喚」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

コナミの手から召喚される新たな『HERO』モンスター。青いボディを煌めかせ、背中のファンが回転して風を逆巻き飛翔する。『HERO』をサーチする強力なモンスターだ。

 

「エアーマンの効果でブレイズマンをサーチ、永続魔法、『補給部隊』を発動し、カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

コナミ LP3500

フィールド『E・HEROエアーマン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札1

 

モンスターを召喚し、カードを伏せただけでターンエンド。やはり何時ものキレが無く、コナミらしくない大人しいターンだ。『揺れる眼差し』でペンデュラムカードが失われたとは言え、未だにまともに攻撃が出来ていない。

 

「チッ、俺様がデュエルしてやってんだからもっと盛り上げろってんだ……!ああ苛々する!俺のターン、ドロー!罠発動!『魔界劇団の楽屋入り』!デッキから『魔界劇団―ビッグ・スター』と『魔界劇団―デビル・ヒール』をエクストラデッキに加える!魔法カード、『魔力の泉』!1枚ドローし、3枚捨てる!捨てた中には『暗黒界の狩人ブラウ』2体!2枚ドロー!更に門の効果を使ってブラウを除外し、手札を交換、捨てたのは3枚目のブラウ!俺ってカードに選ばれスギィ!」

 

沢渡 シンゴ 手札3→4→1→3→4

 

「魔法カード、『ダーク・バースト』墓地のエキストラを回収し、ペンデュラム召喚!『魔界劇団―ビッグ・スター』!!そして『光帝クライス』!」

 

「帝ですって!?」

 

魔界劇団―ビッグ・スター 攻撃力2500→2800

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

真澄が驚愕の声を上げた瞬間、沢渡のフィールドに2本の柱が轟音と共に降り立ち、光の粒子を散らし、中よりモンスターが飛び出す。

1体は『魔界劇団』の大スターにして沢渡の新たなエースモンスター。渦巻く赤髪をメタリックに固め、黒き衣装に身を包んだ単眼の悪魔。

そしてもう1体は真澄が驚いた原因、以前沢渡が扱っていた帝の1体、金色の鎧を煌めかせた『光帝クライス』。何もおかしくは無い話だ。このカードとペンデュラムは相性が良く、沢渡の手元にあったカードなのだから。考えてみれば投入していてもおかしくは無い。

 

「ダンディ・バイプレイヤーのペンデュラム効果でエクストラデッキのデビル・ヒールを回収!そしてクライスの効果でこいつとワイルド・ホープを破壊して2枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札4→6

 

「やっぱ俺、カードに選ばれスギィ!破壊されたワイルド・ホープの効果で2枚目の楽屋入りサーチ!」

 

一気に3枚もの手札を得、更にその手を進める沢渡。大量展開が可能なペンデュラムだからこそ出来る芸当だ。左手で頭を掻きながらニヤリと笑みを深め、自分に酔う。確かに、カードに選ばれていると言われれば頷かざるを得ない。

 

「魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』を発動!カードを2枚ドローし、確認、ペンデュラムカードは1枚だ。もう1枚は捨てる。永続魔法、『魔界大道具「ニゲ馬車」』発動!ビッグ・スターを対象とし、このターン、相手は対象のモンスターを効果の対象に出来ない!更に1ターンに1度、『魔界劇団』モンスターはそれぞれ戦闘で破壊されねぇ!そしてビッグ・スターの効果でデッキの『魔界台本「火竜の住処」』をセットし、発動!このターン、ビッグ・スターがモンスターを破壊した場合、相手はエクストラデッキからモンスター3体を除外する!」

 

フィールドに現れたのは巨大な単眼の白馬2頭と白馬が引く馬車。『魔界劇団』員達は直ぐ様、馬車に飛び込み、手綱を握ってコナミのフィールドへと突撃する。

 

「バトルだ!ビッグ・スターでエアーマンへ攻撃!」

 

「罠発動、『マジカルシルクハット』」

 

しかしコナミも反撃を取る。デッキから2枚のカードをフィールドに投擲し、天より巨大な3つのシルクハットが2枚のカードとエアーマン目掛けて落ち、被さり、シャッフルされる。これで確率は低くなったが――。

 

「あめぇんだよ!カードに選ばれた俺様は!シャッフルされたカードも的中させる!右のカードだ!シャイニング沢渡チョイス!」

 

選択したシルクハットへ方向を変え、凄まじい土煙と共に突き進むビッグ・スター。答えは――正解、見事的中し、エアーマンが吹き飛ばされる。

 

「「「流石ッスよ、沢渡さぁーんっ!」」」

 

「フゥー☆」

 

「ッ……オレは『E・HEROジ・アース』、『E・HEROノヴァマスター』、『E・HEROエスクリダオ』を除外……!『補給部隊』で1枚ドロー」

 

コナミ 手札1→2

 

とんでも無い強運。流石はカードに選ばれた、いや、選ばれ過ぎた男か。管制室の子分3人がエールを送り、沢渡がポーズを取ってそれに応える。手痛い効果だ。コナミの顔色も変わる。

 

「バトルは中断だ。攻撃しても無駄だからな、俺様は引き際も弁える男なのよ」

 

「……ならばオレは墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ」

 

「メインフェイズ2、墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、サッシー・ルーキーを戻して1枚ドロー。俺様はモンスターとカード3枚を伏せ、ターンエンド。この瞬間、手札を1枚除外するぜ」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『魔界劇団―ビッグ・スター』(攻撃表示)セットモンスター

『魔界大道具「ニゲ馬車」』セット3

Pゾーン『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』

手札1

 

「オレのターン、ドロー!」

 

「罠発動!『魔界劇団の楽屋入り』!デッキから『魔界劇団―ファンキー・コメディアン』と『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』をエクストラデッキに!」

 

「オレは『E・HEROブレイズマン』を召喚」

 

E・HEROブレイズマン 攻撃力1200

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ。そして『妖刀竹光』を装備、『黄金色の竹光』で2枚ドロー」

 

コナミ 手札2→4

 

「『慧眼の魔術師』と『相克の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング。慧眼を破壊し、『竜穴の魔術師』をセッティング。ペンデュラム召喚、『竜脈の魔術師』、『慧眼の魔術師』、『貴竜の魔術師』、『曲芸の魔術師』」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

振り子の軌跡で現れるコナミの『魔術師』モンスター。これで5体のモンスターが出揃った。これがコナミと言うデュエリストの恐ろしい所だ。追い詰めたと思ったら息を吹き返し、その牙を突き立てる。少しはらしくなって来た。そうでなくては張り合いが無いと沢渡が笑みを深める。

 

「レベル4の『竜脈の魔術師』にレベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング、シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

『貴竜の魔術師』の身体が弾け飛び、3つの光のリングとなって『竜脈の魔術師』を包み込む。更に一筋の閃光が竜脈ごとリングを貫き、眩き光が沢渡の視界を照らす。

バキリ、暗き大地を踏み砕き、火柱が何本も天に昇る。炎の海の中で獰猛な唸り声を上げるのは真っ赤に燃える二色の眼の竜。

沢渡にとっては因縁の敵が扱うエースカードで似たカードだ。舌打ちを鳴らし、忌々しいとばかりに表情を歪める。

 

「メテオバーストの効果でペンデュラムゾーンの『竜穴の魔術師』を特殊召喚!」

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

コナミの右背後に設置された光の柱が炎に包まれ、硝子の如く粉々に砕け散る。そして炎より飛び出す錫杖を構えた『竜穴の魔術師』。彼はくるりと宙で身を翻してメテオバーストの背に降り立つ。

 

「これでレベル7のモンスターが2体……!」

 

「ッ!まさか……!?」

 

ギン、敵意を剥き出しにして沢渡を睨み、小さく呟くコナミの一言を聞き、管制室の北斗が驚愕を露にする。失意の底に沈んでも、コナミのデュエルタクティクスは落ちていない。

いや、恐らくは沢渡がちまちまと脇をつつくような真似をしたせいで早くこのデュエルを終わらせようと本腰に入ったのだろう。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800

 

『竜穴の魔術師』がくるりと杖を回転させ、目を閉じる。瞬間、彼の姿が水となって溶け、メテオバーストの身体を濡らす。そして水は1秒もたたず氷となってメテオバーストの体躯を覆い、ピシピシと凍結させる。完全に竜の動きが止まった――そう誰もが思った時、竜の眼が鈍く輝き、雄叫びを上げて氷を砕き、新たな竜となって生まれ変わる。

 

青銀の結晶を鎧として纏い、絶対零度の息吹を放つ極寒の竜。コナミの怒りによって生み出されたカードが、エクシーズ召喚された。

 

「ペンデュラムからシンクロ、シンクロからエクシーズ……!?」

 

「ハッ!それがどうしたよ!」

 

「魔法カード、『置換融合』発動!」

 

「速攻魔法、『エネミーコントローラー』!ビッグ・スターをリリースし、アブソリュートを奪うぜ!」

 

「ッ!フィールドの『E・HEROブレイズマン』と『慧眼の魔術師』で融合!融合召喚!『E・HERO Theシャイニング』!」

 

E・HERO Theシャイニング 攻撃力2600→3800

 

続け様にコナミが発動するカードにより、青とオレンジの渦が彼の背後で広がり、その中へと2体のモンスターが飛び込む。中より現れたのは白地のスーツの『HERO』。そのスーツに黄金のラインが引かれ、背に日輪を模した翼が形成される。

コナミと沢渡、1回目のデュエルでフィニッシャーとなった1体だ。

 

「チッ、そいつか……!」

 

「不味い、火竜の住処が利用された……!」

 

Theシャイニングは除外されている『E・HERO』の数×300攻撃力を上げる効果を持つ。先のターン、沢渡がエクストラデッキを削った事が仇になったようだ。

いや、今回は逆手に取ったコナミが賞賛されるべきか。真澄が息をつまらせる。

 

「墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』サーチ、手札を1枚捨て、墓地の『ジェット・シンクロン』を蘇生!」

 

ジェット・シンクロン 守備力0

 

息つく暇すら与えない。容赦無し、機械染みた淡々とした動作で次のモンスターを呼び出すコナミ。しかもこのモンスターは――刃がその額から汗を垂らし、小さく呟く。

 

「おいおい……まさかあいつ……」

 

「レベル5の『曲芸の魔術師』にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!星雨を束ねし聖翼よ!魂を風に乗せ世界を巡れ!『スターダスト・チャージ・ウォリアー』、シンクロ召喚!」

 

スターダスト・チャージ・ウォリアー 守備力1300

 

シンクロ召喚、このターン、2度目のそれにより、コナミのフィールドに突風が吹き荒れ、竜巻が起こる。そしてその中より煌めく刃が顔を見せ、竜巻を引き裂いてその主の姿を露とする。閃光の竜を象った兜と鎧を纏った戦士。その腰からは鋭い刃が閃いている。

 

「融合、シンクロ、エクシーズ……3種のモンスターを1ターンで……!」

 

「俺様より目立つんじゃねぇー!」

 

「チャージ・ウォリアーの効果で1枚ドロー!」

 

コナミ 手札1→2

 

「魔法カード、『手札抹殺』で手札を交換、墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『相克の魔術師』をデッキの戻し、ドロー!」

 

コナミ 手札1→2

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド。この瞬間、アブソリュートのコントロールは戻る」

 

コナミ LP3500

フィールド『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』(攻撃表示)『E・HERO Theシャイニング』(攻撃表示)『スターダスト・チャージ・ウォリアー』(守備表示)

『補給部隊』セット3

手札0

 

襲い来る高度なプレイングに脅威的なモンスター達。それらを支える強運。しかしそれは沢渡の脅威となり得ない。何故ならば今の彼の全ては沢渡のプレイングを、モンスターを、強運を引き立てる為のものに過ぎないからだ。少なくとも沢渡はそう考えている。この程度では自分に傷1つつけられないと自負しているのだ。

 

「俺のターン、ドロー!2枚目の『マジカル・ペンデュラム・ボックス』だ!2枚ドロー!2枚共ペンデュラムモンスター!ペンデュラム召喚!『魔界劇団・ビッグ・スター』!!『魔界劇団―ワイルド・ホープ』!『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』!『魔界劇団―サッシー・ルーキー』!」

 

魔界劇団―ビッグ・スター 攻撃力2500→2800

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1600→1900

 

魔界劇団―ティンクル・リトルスター 守備力1000→1300

 

魔界劇団―サッシー・ルーキー 攻撃力1700→2000

 

華々しい閃光が沢渡のフィールドに降り立ち、轟音が震撼する。中より現れたのはワイルド・ホープとサッシー・ルーキー、ビッグ・スターに似た少女だ。

 

「魔法カード、『強制転移』を発動!セットモンスターを送り込む!」

 

「ならオレはチャージ・ウォリアーを送る――この、モンスターは……?」

 

沢渡が発動したのはコントロールを扱う系統でも代表的なカード。それによって沢渡のフィールドにチャージ・ウォリアーが、コナミのフィールドにたった今セットされたモンスターが送り込まれるが――それを確認し、コナミの表情が微妙なものになる。

 

「沢渡の奴、何を……?」

 

「ワイルド・ホープの効果発動!」

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1900→2300

 

「そしてビッグ・スターの効果で『魔界台本「魔王の降臨」』をデッキからセットし、発動!モンスターゾーンにいる攻撃表示の『魔界劇団』モンスターの種類までフィールドの表側表示のカードを破壊!アブソリュートとシャイニング、『補給部隊』を破壊!」

 

「破壊されたシャイニングで効果で『E・HEROエスクリダオ』と『E・HEROガイア』をエクストラデッキに戻し、アブソリュートの効果でエクストラデッキの『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』を特殊召喚!!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力2500

 

天が鳴き、雷と竜巻が地へ駆け抜ける。轟音が炸裂し、アブソリュートの姿が深緑に染まる。3体目の『オッドアイズ』モンスター、天候を操る翼竜が咆哮する。

 

「チッ、順序を間違えたか……!」

 

「ボルテックスの効果でビッグ・スターをバウンスする!」

 

「上等!ティンクル・リトルスターとサッシー・ルーキーをリリースし、アドバンス召喚!ビッグ・スター!!」

 

魔界劇団―ビッグ・スター 攻撃力2500→2800

 

「ビッグ・スターの効果で火竜の住処をセット!ビッグ・スターでボルテックスに攻撃!」

 

コナミ LP3500→3200

 

コナミも応戦するが、沢渡はそれを嘲笑うかのように飛び越える。自身のミスも巻き返し、追撃をかける。これでコナミのフィールドには沢渡の送り込んだセットモンスターのみ。

 

「ワイルド・ホープでセットモンスターへ攻撃!セットモンスターは『アブソーブポッド』!」

 

「リバース効果で全てのセットカードが破壊され、互いにその数だけドロー……」

 

「更に!相手によって『魔界台本「オープニング・セレモニー」』と火竜の住処が破壊された事で手札が5枚になるようにドローし、お前のエクストラデッキの『E・HERO GreatTORNADO』を除外する!『アブソーブポッド』で2枚ドロー!」

 

コナミ 手札0→3

 

沢渡 シンゴ 手札2→5→7

 

これこそが沢渡の狙い。『アブソーブポッド』を送り込む事で相手の効果で破壊される事となる事態を活かし、沢渡が一気に手札を増強した上でコナミの戦力を削る。

GreatTORNADOを選んだのはこのカードが頻繁に使用されるからだ。単純に考えても強力な効果を持つこのカードは逆転の引き金になりかねない。

 

「カードを3枚伏せ、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『魔界劇団―ビッグ・スター』(攻撃表示)『魔界劇団―ワイルド・ホープ』(攻撃表示)『スターダスト・チャージ・ウォリアー』(守備表示)

『魔界大道具「ニゲ馬車」』セット3

Pゾーン『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』

手札4

 

たった1ターンでコナミの布陣が崩れてしまった。圧倒的な力に対する反骨精神、自我を通す事に関し、彼は予想以上に強い。次第に追いつめられる事に焦りを覚え、コナミは更にデュエルに臨む。少しずつ、少しずつだが――コナミがデュエリストとして、復活しようとしている。

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』!エクストラデッキの『慧眼の魔術師』と『曲芸の魔術師』を回収!墓地の『置換融合』を除外、『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』をエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

コナミ 手札5→6

 

「2体の『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!破壊して『竜穴の魔術師』と『刻剣の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!2体の『慧眼の魔術師』!『竜脈の魔術師』!『刻剣の魔術師』!『E・HEROフォレストマン』!」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500×2

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

E・HEROフォレストマン 守備力2000

 

コナミのターンに移り、反撃の狼煙が上がる。現れる5体のモンスター。先程の『魔術師』に加え、剣を持った少年『魔術師』と自然の代行者たる英雄が姿を見せる。

 

「2体の慧眼でオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる!白き翼に望みを託せ、現れろNo.39!エクシーズ召喚!希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

ペンデュラムからのエクシーズ。コナミがエクストラデッキから黒い枠のカードをデュエルディスクに叩きつけた途端、フィールドに金色の鎧を纏った白い皇が、雄々しき咆哮を上げて登場する。赤い39の紋様を左肩に描き、純白の翼を広げ、片刃の剣を2本握ったこのモンスターもまた、沢渡にとっては因縁の相手だ。

 

「刻剣の効果でこのカードとビッグ・スターを除外!バトル!ホープで『スターダスト・チャージ・ウォリアー』に攻撃!ホープ剣・スラッシュ!」

 

「罠発動!『ダーク・アドバンス』!墓地の『光帝クライス』を回収、そしてチャージ・ウォリアーをリリースし、アドバンス召喚!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

ホープが剣を閃かせ、鋭い斬撃を『スターダスト・チャージ・ウォリアー』へと放つ。襲い来る白刃、星屑の戦士の喉元に突き立てられようとしたその瞬間、戦士の身体を竜巻が覆い隠し、眩き閃光が炸裂する。視界を覆い尽くす光、それが晴れた時、フィールドには既にホープの姿は無く、代わりとしてクライスが腕を組み、コナミを睨んでいた。

 

「クライスの効果でホープとペンデュラムゾーンのプリティ・ヒロインを破壊だ」

 

コナミ 手札2→3

 

沢渡 シンゴ 手札4→5

 

「くっ!カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

コナミ LP3200

フィールド『竜脈の魔術師』(攻撃表示)『E・HEROフォレストマン』(守備表示)

セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『刻剣の魔術師』

手札1

 

ぶつかり合う2人のデュエル。コナミも何とかその実力を見せ、反撃に出ようとするが、やはり踏ん切りがつかないのか、どうにも終始沢渡のペースが続く。そんな中、沢渡は自分が押しているにも関わらず、苛立ったように表情を歪ませ舌打ちを鳴らす。

その理由は明白、それは――。

 

「ふざけんじゃねぇぞ赤帽子ぃ!」

 

ダンッ、沢渡が堪え切れず地を蹴り、激昂する。最早我慢ならないとばかりに歯を剥き出しにしてコナミを睨み付ける。対するコナミは息をつまらせ、呆然とするが――。

 

「それがテメェの全力か!それがテメェのデュエルか!こんな生温い奴に俺様は負けたのか!お前みたいな奴の為に黒門は犠牲になったのか!だったらあいつはその程度の奴だったって事だなぁ?えぇおい!?」

 

「ッ――!お前――!」

 

沢渡の暗次を陥れる言葉にコナミの顔色が変わる。が、しかし――。

 

「悔しかったら勝ってみろよ!ムカついたなら必死になってかかって来いよ!それすら出来ねぇ奴に俺様が負けるかよ!少なくとも俺の知ってる馬鹿はみっともなくても、ボロボロになっても立ち上がって来たぜ?立ち上がっても無いテメェが、黒門から目を背けてるテメェが、言い返す資格なんざねぇ!」

 

コナミの言葉を遮り、沢渡が矢継ぎに言葉を放つ。普段の彼とは違い、確かな重さが籠ったその台詞に、コナミは言葉を失う。そうだ――自分には、何も言う資格なんて無い。

だけど、それでも――。

 

「迷うならカードを取れ、デュエルは答えてくれるってな!良い面になってきたぜ……!本気のテメェをぶっ倒してこそリベンジが果たせるってもんだ。さぁ、沢渡 シンゴのエンタメデュエル――特と味わえ!」

 

迷い、戸惑いながらもデュエルディスクを構え、デュエルに臨むコナミ。その表情はまるで――暗次のように。

 

「お楽しみは、これからだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と言う訳でコナミ君と向き合うのはスーパーウルトラ何とかデュエリスト沢渡さんです。流石ッスよぉっ!
書いていた時は雨に降られたコナミと遊矢が怒りのままにデュエルする……とか、黒咲さんがかっとビング入れとく予定だったけど後者は兎も角前者は暗くなりそうなので没。後者は最近黒咲さん出番が多いし、後の話でも出るので沢渡さんになりました。コナミ君を殴り飛ばしているのはその名残。
で、書いてると『魔界劇団』の強さにびっくり、魔王の降臨連打で終わっちゃいそうで苦労しました。


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第80話 大嵐ッスよ!沢渡さん!

ToLoveるダークネス終わるとかマジかよ……。


コナミと沢渡のデュエルが続く中、赤馬 零児はLDS内の研究室に足を運んでいた。その視線の先にはエクシーズ次元のデュエリスト、瑠那が白衣を纏い、せっせとデュエルディスクを操作したり、机の上で並んだカードを見つめ、睨み合いをしている。一体何故彼女がこんな事をしているかと言うと――。

 

「……どうだ?彼等のカード化はどうにかなりそうか?」

 

「……残念ながら無理ね、一応、アカデミアのカード化機能は前に解析した事があるのだけど――このカード化は前回と全く別と言って良い、複雑過ぎて無理。せめて黒いのかクリスがいればどうにかなりそうなんだけど……!」

 

そう、アカデミアの手によってカード化されたデュエリスト達を何とか解放しようと零児が瑠那に助力を申し出たのだ。幸いと言って良いのか、彼女達エクシーズ次元のデュエリストのデュエルディスクには、アカデミアと同じカード化機能がある。

しかしそのカード化機能もアカデミアに対抗する為、即興でつけたお粗末なものに過ぎない。対してアカデミアの機能はグレードアップしていると来た。流石の零児と瑠那も手こずっていると言う訳だ。

 

悔し気に歯軋りを鳴らし、俯く瑠那。零児とて渋い顔をする他無い。一体どうするべきか、そこまで考えた時、零児のデュエルディスクの通信機能が鳴り響く。一体こんな時間に誰だ、溜め息をつき、瑠那が訝しむように眉根を寄せる。

零児がデュエルディスクのパネルを覗き――その目を僅かに瞠目させる。それも仕方無いだろう、何故なら、相手は意外過ぎる人物。

 

「ストロング石島――?」

 

――――――

 

一方、LDSのデュエルコート、アクションフィールド、『暗黒界の門』にて、コナミと沢渡のデュエルが続けられていた。

コナミのターンが終了し、沢渡のターン、彼はその手より1枚のカードをデュエルディスクに設置する。

 

「俺のターン、ドロー!墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、クライスをデッキに戻してドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札4→5

 

「『魔界劇団―デビル・ヒール』をセッティング!ペンデュラム召喚!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』!『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』!」

 

魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500→1800

 

魔界劇団―ティンクル・リトルスター 攻撃力1000→1300

 

魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー 守備力700

 

フィールドに降り立つ3体のモンスター。今度こそプリティでダンディなモンスターが騒がしくフィールドを盛り上げる。可愛らしい少女型の悪魔に髭をたくわえたラップ吹きの悪魔だ。

 

「まずはワイルド・ホープの効果発動!」

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1900→2300

 

4種の団員が揃っている事でワイルド・ホープの攻撃力がアップする。攻撃力2300、フォレストマンの守備力を軽く越えて来た。だがまだまだ、沢渡の手は止まらない。

 

「そしてダンディ・バイプレイヤーをリリースし、エクストラデッキの『魔界劇団―ファンキー・コメディアン』を特殊召喚!」

 

魔界劇団―ファンキー・コメディアン 攻撃力300→600

 

ダンディ・バイプレイヤーと入れ替わるように姿を見せるのは黄色い肌をした、4本腕の唇の厚い太った悪魔。

 

「ファンキー・コメディアンの召喚時効果により、その攻撃力を『魔界劇団』モンスターの数×300アップする!」

 

魔界劇団―ファンキー・コメディアン 攻撃力600→1800

 

「更にファンキー・コメディアンの効果!こいつの攻撃力をティンクル・リトルスターに与える!」

 

魔界劇団―ティンクル・リトルスター 攻撃力1300→3100

 

「まだまだぁ!ファンキー・コメディアンをリリースし、アドバンス召喚!『魔帝アングマール』!」

 

魔帝アングマール 攻撃力2400→2700

 

攻撃力の強化に続き、沢渡が新たなモンスターを召喚する。暗い漆黒のボディを煌めかせた、マントを纏った悪魔族モンスター。沢渡がクライスと共に投入した帝カードだ。

 

「アングマールの効果で墓地の火竜の住処を除外し、同名カードをサーチ!ティンクル・リトルスターを対象として発動!さぁ、バトルだ!ティンクル・リトルスターで『竜脈の魔術師』に攻撃!」

 

「罠発動!『仁王立ち』!フォレストマンの守備力を倍にし、除外して攻撃対象をフォレストマンに絞る!」

 

E・HEROフォレストマン 守備力2000→4000

 

と、ここで沢渡の進撃を止めるべく、コナミのフィールドのフォレストマンが竜脈を守るように前に飛び出し、防御の姿勢を取ってティンクル・リトルスターの攻撃を防ぐ。どうやらティンクル・リトルスターの複数回攻撃と火竜の住処でコナミのエクストラデッキを削ろうとした事が仇になったようだ。沢渡は直ぐにバトルを中断し、メインフェイズ2に移行する。

 

「魔法カード、『一時休戦』を発動」

 

コナミ 手札1→2

 

沢渡 シンゴ 手札4→5

 

「ターンエンドだ。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を1枚除外」

 

沢渡 シンゴ LP3700

フィールド『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』(攻撃表示)『魔界劇団―ワイルド・ホープ』(攻撃表示)『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』(攻撃表示)『魔帝アングマール』(攻撃表示)

『魔界大道具「ニゲ馬車」』

Pゾーン『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』『魔界劇団―デビル・ヒール』

手札4

 

相も変わらず続く沢渡の猛攻、激しさを増す手を掻い潜り、コナミは自分のターンへと漕ぎ着ける。とは言え防御札であるニゲ馬車が厄介だ。全てのモンスターに1ターンに1度の戦闘破壊耐性を与える効果、これがある限り、打点不足なコナミのデッキでは大ダメージを狙えない。

 

「オレのターン、ドロー!スタンバイフェイズ、ビッグ・スターと刻剣が帰還、フォレストマンの効果でデッキの『置換融合』をサーチし、手札の『曲芸の魔術師』を捨て、『竜穴の魔術師』のペンデュラム効果でニゲ馬車破壊!ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

現れたのは1体の『魔術師』。今までとは違い、1体のみのペンデュラム召喚だ。荒々しい粗野な姿で扇を振るう彼はとても『魔術師』とは思えない。

 

「賤竜の効果で墓地の『慧眼の魔術師』を回収!そして速攻魔法、『揺れる眼差し』を発動!互いのペンデュラムゾーンを破壊し、デッキから『相生の魔術師』をサーチ!そしてビッグ・スターを除外!」

 

沢渡も発動したカードがコナミの手より炸裂する。これで厄介なビッグ・スターも除去する事が出来た。やっとエンジンがかかって来たコナミを見て、沢渡がニヤリと笑みを深める。

 

「慧眼と相生でスケールをセッティング!慧眼を破壊し、デッキの『貴竜の魔術師』をセッティング!更に魔法カード、『置換融合』!フィールドの『E・HEROフォレストマン』と『竜脈の魔術師』で融合!融合召喚!『E・HEROガイア』!」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200

 

「ガイアの効果でアングマールの攻撃力吸収!」

 

魔帝アングマール 攻撃力2700→1350

 

E・HEROガイア 攻撃力2200→3550

 

「墓地の『置換融合』を除外し、Theシャイニングをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

コナミ 手札0→1

 

「バトル!刻剣でティンクル・リトルスターを!賤竜でプリティ・ヒロインを、ガイアでアングマールを攻撃!」

 

雪崩のようにコナミのフィールドのモンスター達が進撃し、沢渡のモンスターを破壊する。『一時休戦』によってダメージは与えられないものの、これで沢渡のフィールドのモンスターは1体のみ、だが1体たりとも逃す気はない。

 

「チッ、プリティ・ヒロインの効果でデッキから『魔界台本「魔王の降臨」』をセット!」

 

「メインフェイズ2、刻剣とワイルド・ホープを除外!ターンエンドだ!」

 

コナミ LP3200

フィールド『E・HEROガイア』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『相生の魔術師』『貴竜の魔術師』

手札0

 

「中々やるじゃねぇか……!俺様のターン、ドロー!魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』!2枚ドロー!ペンデュラムモンスターは1体だ」

 

沢渡 シンゴ 手札4→6→5

 

「ダンディ・バイプレイヤーをセッティングし、エキストラを召喚!」

 

魔界劇団―エキストラ 攻撃力100→400

 

「リリースしてデビル・ヒールをセッティング!魔法カード、『手札抹殺』で手札を交換!ペンデュラム召喚!『魔界劇団―サッシー・ルーキー』!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』!『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』!」

 

魔界劇団―サッシー・ルーキー 攻撃力1700→2000

 

魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500→1800

 

魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー 攻撃力700→1000

 

魔界劇団―ティンクル・リトルスター 攻撃力1000→1300

 

このデュエル、もう何度目か分からないペンデュラム召喚、揺れ続ける振り子の軌跡はコナミの心情を表しているようだ。だがこれではコナミのモンスターには届かない。ここから先どう出るかとコナミはデュエルディスクを構え、思考を張り巡らせながら沢渡の出方を伺う。待ち切れない、幼子のように。

 

「ダンディ・バイプレイヤーをリリースし、エクストラデッキのデビル・ヒールを特殊召喚!」

 

魔界劇団―デビル・ヒール 攻撃力3000→3300

 

そう来たかと舌を巻く。単純明快、沢渡はこちらより攻撃力の高いモンスターで殴り倒す気なのだ。ファンキー・コメディアンで攻撃力を上げてくるとばかり思っていたが――。

 

「俺様はエンタメデュエリストだぜ?同じ事ばっか繰り返すなんてつまらねぇ真似するかよ!デビル・ヒールの特殊召喚時、ガイアを対象として効果発動!フィールドの『魔界劇団』モンスターの数×1000ポイント、攻撃力をダウン!」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200→0

 

白い仮面を被り、大口を開けたデビル・ヒールが駆け出し、ガイアへとラリアットをお見舞いする。身体中の赤き宝石が砕け弱体化するガイア。これは不味い。デビル・ヒールでガイアに攻撃されては大ダメージは必死だ。

 

「リバースカードオープン!魔王の降臨!破壊するのは賤竜とペンデュラムカードだ!バトルだ!デビル・ヒールでガイアに攻撃!」

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!」

 

「構うか!右のシルクハットに攻撃!」

 

だがコナミもここで終われない。またもや3つのシルクハットが降り、沢渡の視界を遮る。しかし彼はカードに選ばれ過ぎた男、直ぐ様ガイアが入っているシルクハットを見抜き、デビル・ヒールが中のガイアごとシルクハットを叩き潰す。

強力な一撃、これには堪らずガイアも吹き飛び、粉々に砕け散る。『HERO』がヒールに負けると言う、何とも奇妙な光景だ。

 

「デビル・ヒールの効果で魔王の降臨をセット!まだ行くぜ!ティンクル・リトルスターで2つのシルクハットに攻撃!サッシー・ルーキーでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

「ハッ、カードを1枚伏せ、ターンエンドだ。さぁ、もっともっと盛り上げろ!」

 

沢渡 シンゴ LP3700

フィールド『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』(攻撃表示)『魔界劇団―デビル・ヒール』(攻撃表示)『魔界劇団―サッシー・ルーキー』(攻撃表示)『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』『魔界劇団―デビル・ヒール』

手札1

 

押しては返す波のように、コナミの攻撃を、展開を、全力で返す沢渡。逆境を越えたと思えばまた逆境、怒濤の展開に、コナミのデュエリストとしての魂に火が灯る。ドクン、ドクンと心臓がうるさい位に鳴り響く。熱い血流が身体中を駆け巡る。

ああ、ああ、失意の底にいたと言うのに、どうしてこんなにデュエルは――。

 

「黒門がよ」

 

ハァ、と溜め息を溢し、沢渡が仕方がない奴だと言いた気に呟き、コナミが振り向く。

 

「何でお前を慕ってたのか、分かんねぇのか?」

 

「――」

 

それは――と言いかけて、コナミは返す言葉を失う。そうだ、一体何故、暗次は自分を慕ってたのだろうか。こんなに、どうしようも無いコナミの事を。ただ1度助けられたからでは納得がいかない。何故だろう、とコナミが疑問を浮かべ――沢渡が呆れたように、また深い溜め息をつく。

 

「お前に少しでも光があったからだろ、お前がどうしようも無い事をどうにかして来たからだろ、お前が折れても立ち上がって来たからだろ。――黒門の信じたお前を信じてやったらどうだよ。お前が例えどうしようも無いクズだろうがな、子分の想いに応えてやるのが、兄貴分って奴だ」

 

「――」

 

人は、誰しもが光に導かれる。眩く光っていても、鈍く光っていても、光が差す方向へと、惹かれていく。暗次もまた、コナミに光を見出だしたのだ。だからこそ、暗次はコナミに未来を託した。

ああ、何て馬鹿なんだろうか、自分は暗次の想いを、踏みにじっていたのだ。

確かに、彼を失った悲しさも大事で、暗次の事は忘れてはいけない事だ。だけど――彼はまだ、死んだ訳じゃない。取り戻せる可能性がある。何時か彼が帰って来た時に――こんな姿をしていては、兄貴分として、立つ瀬がない。

 

「黒門の事を忘れるな、なんて言ってる訳じゃねぇ、むしろあいつを想うなら――託されたものは、ちゃんと受け取ってやれ」

 

沢渡とて、子分を3人引き連れる男だ。だからこそ、子分の想いに応えようとしないコナミを叱咤しているのだ。同じ光を放つ者として、兄貴分として。

 

「……お前、意外と良い奴だな」

 

「知らなかったのか?何なら子分にしてやっても良いんだぜ?」

 

「いや――オレは、兄貴分で良い」

 

ニヤリ、と互いに不適な笑みを溢す2人の兄貴分。まだコナミからは迷いが振り切れていないが――これならば大丈夫だろうと、沢渡が口元を吊り上げる。

最後まで見てやる程の義理は無い。ここからはコナミが覚悟を決める番だ。スゥーと息を大きく吸い込み、コナミは右手で赤帽子を被り直す。

 

「行くぞ――シンゴ!」

 

「ハンッ、来いよ!コナミ!」

 

立ち上がるコナミ。それを迎え撃つ為、沢渡が吠える。暗次の信じたコナミとして――デッキトップに右手を翳し、勢い良くドローする。天に描く虹色のアーク、雨は上がった――。

 

「オレのターン、ドロォォォォォッ!!」

 

引き抜いたカードは逆転の引き金、このどうしようも無い逆境をどうにかする為、コナミは直ぐ様カードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「この瞬間、刻剣とワイルド・ホープが帰還、もう1度除外!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』、『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』、『No.39希望皇ホープ』、『スターダスト・チャージ・ウォリアー』、『E・HEROエアーマン』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札0→2

 

「ここに来て手札増強カードか……!」

 

「やっとらしくなって来たじゃない!」

 

コナミが漸く本調子に戻った事を確認し、管制室の北斗達が安堵の笑みを浮かべる。刃も「やっとかよ」とぼやいてはいるが、口元の笑みは隠し切れない。

 

「魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』!エクストラデッキの相生と慧眼を回収!セッティングし、慧眼を破壊し、『相克の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『竜脈の魔術師』!『竜穴の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『ジャンク・コレクター』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

ジャンク・コレクター 守備力2200

 

フィールドに集う5体のモンスター。浅黒い肌、翠玉をあしらえた衣装を纏い、扇を振るう『賤竜の魔術師』。白いコートを羽織り、上下に刃を持った短刀を構える『竜脈の魔術師』。そしてその師である、錫杖を持った『竜穴の魔術師』。秤を持ち、瑠璃の珠を衣装にあしらえた銀髪の『慧眼の魔術師』。そして身体中に包帯を巻き、ガラクタを集める者、『ジャンク・コレクター』。これが――コナミの全力。

 

「賤竜の効果で『慧眼の魔術師』を回収!墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『相生の魔術師』をデッキに戻し、ドロー!」

 

コナミ 手札2→3

 

「更に『ジャンク・コレクター』と墓地の『エレメンタルバースト』を除外し、その効果をコピー!お前のフィールドのカード全てを破壊!」

 

瞬間、『ジャンク・コレクター』の姿が光に包まれ飛び散り、4つのエレメントとなって沢渡のフィールドに襲いかかる。燃え盛る灼熱の炎が、巨大な壁と見間違うような津波が、吹き荒れる竜巻の数々が、激しい轟音を響かせ、地が裂け、串刺しにする。

コナミが持つ最強の除去札が、沢渡のフィールドをまっさらにする。

 

「へっ、上等!破壊された『魔界台本「魔王の降臨」』の効果でデッキから『魔界劇団―ビッグ・スター』と『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』をサーチ!」

 

「まだだ!『慧眼の魔術師』をリリースし、デッキの『オッドアイズ・ドラゴン』を墓地に送る事で手札のこいつを特殊召喚する!出でよ、絶望の暗闇に差し込む、眩き救いの光!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』ッ!!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

2色の虹彩を輝かせ、白銀の鎧を纏い、金色の剣を背負った、雄々しくも美しい竜が現れる。遊矢から受け取った、中々コナミに心を許してくれなかったカードだ。デイビット達とのデュエルで漸く認めてはくれたが――コナミはもう1度、このカードに新たな関係を求める。そう――命じるのでは無く、求める。

 

「友として――闘ってくれないか?」

 

頭を垂れる竜を優しく撫で、その口元に薄い笑みを浮かべるコナミ。その表情はどこか不安そうに見える。そんな彼に、剣の竜は――。

任せておけ、と言わんばかりに頼もしい遠吠えを上げる。まるでその光景は――あの時、漆黒の龍神の背に語りかけ、認められた不良少年を思わせる、絆が繋がった瞬間だった――。

 

「行こう――オレは『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』のレベルを3つ下げ、墓地の『貴竜の魔術師』を特殊召喚!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン レベル7→4

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

「レベル4のセイバーにレベル3の貴竜をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

「効果でペンデュラムゾーンの『相克の魔術師』を特殊召喚!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

「竜穴と相克でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800

 

「慧眼を召喚!」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

「慧眼と竜脈でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.39希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

「『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』はバトルフェイズ中、モンスター効果を封じる……!」

 

「『速攻のかかし』や『バトル・フェーダー』を封じた……!」

 

「これが通れば……!」

 

「コナミさんの勝ち……です……!」

 

今までの逆境を覆し、一気にゲームエンドまで持っていく布陣を整えたコナミの腕に興奮する4人。だがそれに対し、沢渡の子分である山部、柿本、大伴はフッ、とキザったらしく笑い、やれやれ分かってねぇなぁと言わんばかりに顎を突き出して目を細める。

所謂ドヤ顔。非常にウザい態度に勝ち気で短気な真澄は拳を握り締め、暴れる。殴らなかったのは北斗と刃が両肩を掴み、「真澄ん、どうどう」やら「女の子はおしとやかにね?」と必死に食い止めるからだ。そんな猛獣、真澄んに怯え、目尻に涙を溜めながらも山部達が口を開く。

 

「わ、分かってねぇなぁ、真澄んは」

 

「あん?」

 

「ひっ、こっ、光津さんの仰る事は、非常に分かるのですが」

 

声を震わせ、馴れ馴れしく真澄ん呼ばわりする柿本。しかしそれが逆鱗に触れたのか、真澄がただでさえ北斗と刃にキツい目付きと言われている紅玉の眼を鋭くし、女の子が出してはいけないような、地の底から響くような低い声音で威嚇する。

最早3人は泣いているし漏らしそうである。思わず敬語になる山部。

 

「さっ、沢渡さんのエンタメデュエルはまだまだこれからなんやで……」

 

「声が震えてんじゃないの」

 

「お前が怖いからだろ……」

 

とは言え――彼等の台詞は簡単に切り捨てられるものではない。沢渡はまだ、エンタメデュエルの本番を告げる、例の口上を放っていないのだ。それにここまで優勢で進んできた彼がここで終わるとは思えない。一体どうやってこの窮地を乗り越えるのか。

 

「バトル!アブソリュートとホープで攻撃!」

 

コナミのフィールドのモンスターが咆哮を上げ、それぞれの力を集束し、球体状のエネルギーを作り出し、沢渡へと撃ち出す。放たれた力は渦巻く一筋の閃光となって大地を抉りながら沢渡に迫り――直撃する。

 

「やったか!」

 

「おいバカやめろ」

 

「何でそれ言っちゃうのよアンタは!」

 

激しい轟音を響かせ、爆発。モクモクと白煙が立つ光景を見て、思わず北斗が叫ぶ。そのフラグビンビンの台詞に刃と真澄がガチめのトーンで北斗を責め、北斗が膝をついて地面に「の」の字を書き始める。そして予想通り、煙が晴れたそこには――。

 

「ハッハー!墓地の『光の護封霊剣』を除外しぃ、俺様大脱出!やっぱ俺、カードに選ばれスギィ!」

 

髪を掻き上げ、参ったとばかりに、それでいて嬉しそうに白い歯を見せ、高笑いを放つ、沢渡の姿。フラグは回収されてしまった。

 

「「「流石ッスよ、沢渡さぁーんっ!!」」」

 

「くっ、ビビってた癖に……!」

 

沢渡の無事を確認し、取り巻き3人がその表情に笑顔を浮かべ、押さえ切れないと言った風にそれぞれガッツポーズを取る。反対に唇を噛み、残念そうにする4人、しかし、当の本人であるコナミは――。

 

「面白い……っ!」

 

ニヤリと口元を吊り上げ、深い笑みを浮かべる。今までの――彼と同じく、心からデュエルを楽しむように――。

 

「オレはこれでターンエンドだ!」

 

コナミ LP3200

フィールド『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』(攻撃表示)『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)

手札0

 

これでコナミのターンは終了し、沢渡のターンへ、一体この布陣をどう切り抜けるのか、この場全員が興味深そうに見いってしまう。それが――沢渡の原動力、何だかんだで、皆が彼等のデュエルを楽しんでいるのだ。ならば答えてやるしかあるまい。沢渡はその両手を大きく広げ、あの口上を言い放つ。

 

「Ladies and Gentlemen!お楽しみは、これからだぁっ!!」

 

デッキトップに右手を乗せ、勢い良く引き抜く。火花を散らし、虹色の輝きが放たれる。天に描かれる美しきアーク。スポットライトが彼に向けられ、コナミが食い入るように彼の一挙一動を逃すまいと視線を向ける。

 

「さぁ、行くぜ!『魔界劇団―デビル・ヒール』と『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』をセッティング!さぁ、準備は整った!ペンデュラム召喚!『魔界劇団―ビッグ・スター』!!『魔界劇団―デビル・ヒール』!『魔界劇団―ワイルド・ホープ』!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』!」

 

魔界劇団―ビッグ・スター 攻撃力2500→2800

 

魔界劇団―デビル・ヒール 攻撃力3000→3300

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1600→1900

 

魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500→1800

 

魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー 攻撃力700→1000

 

沢渡もコナミに対抗し、フィールドに5体の『魔界劇団』を並び立たせる。『魔界劇団』の大スター、エースモンスターであるビッグ・スター。悪魔らしい巨体に白き仮面、大きな口を開いた悪役、デビル・ヒール。V字を描いたハットを被り、光線銃を持った期待の新人、ワイルド・ホープ。劇団の麗しき姫君、プリティ・ヒロイン。白い髭をたくわえたラッパを鳴らすダンディ・バイプレイヤー。騒々しくも楽しい彼等の存在がデュエルを輝かしいものにする。

 

「デビル・ヒールの効果!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』の攻撃力をダウン!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500→0

 

「ダンディ・バイプレイヤーをリリースし、エクストラデッキのファンキー・コメディアンを特殊召喚!」

 

魔界劇団―ファンキー・コメディアン 攻撃力300→600

 

「ファンキー・コメディアンの効果を発動!」

 

魔界劇団―ファンキー・コメディアン 攻撃力600→2400

 

「そしてこの攻撃力をビッグ・スターに!」

 

魔界劇団―ビッグ・スター 攻撃力2800→5200

 

舞台はフィナーレへと向かう。炎の竜が『魔界劇団』の絆で弱体化し、逆にビッグ・スターに力が集束し、まるで竜を退治する勇者のような姿へと変身する。

 

「アブソリュートとホープをリリースし、『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』をお前のフィールドに特殊召喚!」

 

溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 攻撃力3000→3300

 

2体のエクシーズモンスターを贄とし、現れるマグマの魔神。これで攻撃無効も攻略した。

 

「アブソリュートの効果でエクストラデッキのボルテックスを特殊召喚!!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力2500

 

「ボルテックスの効果でビッグ・スターをバウンス!」

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、無効!さぁ、終幕だ!ビッグ・スターで『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』へ攻撃!」

 

ビッグ・スターが光輝く剣を手にし、『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』を胸を穿つ。決着、LPが削られ、デュエル終了のブザーが鳴り響く。

 

コナミ LP3200→0

 

光の粒子となって消えるフィールド、勝者、沢渡 シンゴ。今までのリベンジを果たし、彼は勝利を掴み取った――。

 

「負け、か……」

 

「借りは返したぜ」

 

倒れ伏すコナミを見て、満足そうに笑みを向ける沢渡。対するコナミは――負けたと言うのに、清々しい笑みを浮かべる。迷いは晴れた。

コナミは身体を起こし、こちらへ手を差し伸べる沢渡を見て、ポカンと呆けた表情を見せた後、その手を取って立ち上がる。

 

「行くぜ、もう1人の馬鹿の所に」

 

「……ああ」

 

向かう場所は遊勝塾、榊 遊矢の下へ――。

 

――――――

 

そしてその頃、遊勝塾では、1度に多くの事を受け、失意の底に沈み、落ち込む遊矢と、それを心配そうに見つめる仲間達の姿があった。

原因は分かっている、素良を救えなかった事、バレットの裏切り、そして――遊矢の心の支えとなっていた、柊 柚子の行方不明。その3つが同時に襲いかかり、遊矢の心がパンクしたのだ。確かに並外れた精神力を持った遊矢だが、彼はまだ中学生の少年。

親友、自分に道を示してくれた師、大切な幼馴染みが1度に失われたのだ。その負荷は大きい。傍にいるユートもかける言葉に迷っているのか、彼の傍に立ち、無言で見守っている。

 

「くっ、遊矢……!」

 

「……情けない奴だ、あれだけ俺に大口を叩いておいて……!見てられん!俺が何とかしてやる!」

 

「黒咲……!ならば俺も……!」

 

そんな遊矢を心配し、権現坂と隼が名乗りを上げる。親友が腑抜けているのだ、じっとなんてしてられない。そんな彼等を見て、遊矢の母である洋子が1枚のカードを手に、ある決心をした時だった。突如そのカードがひょいと奪われ、見知らぬ長身の男が人の良い笑みを浮かべていたのは。

 

「OH!失礼マダム、それにボーイ達!ここは私に任せてくだサーイ!」

 

「えっ、ちょっ、ちょっと貴方誰!?あ、あらやだイケメン……!」

 

「なっ、貴様何を……!」

 

「お、おい!名前くらい名乗ったらどうだ!」

 

外国人なのか、上下赤のスーツを纏ったその男は長い銀髪を揺らしながら胡散臭い日本語で3人を押し退け、遊矢の下へ鼻唄を歌いながらスキップで進んでいく。

一体何者なのか、突然現れた男に権現坂と隼が目を丸くし、引き止めようとするが、後ろに目がついているかのようにひょいひょいとかわされる。思わず足を滑らせ、その場に倒れる2人。そんな時、洋子の背後から数人の男達が息を切らして現れる。

 

1人はまるで『ドリル・バーニカル』のような紫色で幾つものドリルが巻かれたような髪をし、顔に戦化粧、世紀末ファッションに身を包んだ大男。1人はアロハシャツにスーツ、薄汚れたハットを被った2枚目の男。1人は小柄な身体でピエロのようなイメージがつきまとう男。

まるでサーカス団のような出で立ちをした彼等を見て、洋子がギョッ、と目を剥くが――1人だけ、見覚えがある男がいた。世紀末ファッションの大男だ。

 

「ス、ストロング石島ぁっ!?」

 

「ハァ……ハァ申し訳ない奥方……!こんな不法侵入のような真似をして……後、うちの馬鹿団長が本当にすまない……!目を離すと何時もこうだ……!」

 

「全くあの人は自由過ぎるぜ……!俺も人の事言えないけどよ」

 

「イ……イーヒッヒ……!団長の方から観光を申し込んでおいて……!」

 

それぞれ息を切らし、団長と呼ばれた銀髪の男に向けて視線を飛ばす。その中には苛立ちが含まれている。

 

「あっあの……あの人……貴方の知り合い……?」

 

「……あの人は私達を勝手にスカウトしたサーカス団の団長……!」

 

洋子が団長の背を指差し、問いかける。すると団長は遊矢の前で屈んでデュエルディスクを構え、人の良い笑みを向ける。自分に影が差し込んだ事で俯いていた顔を上げ、虚ろな表情で団長を見て遊矢が口を開く。

 

「……貴方は――?」

 

「私の名前はペガサス・J・クロフォード。エンタメボーイ、私にユーのデュエルを見せてくだサーイ!」

 

愉快なデュエルの、幕が上がる――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




?「ヘーイ、マスター!私は某国生まれのホイール・オブ・フォーチュンデース!愛を食らいなサーイ!マインドクラァッーシュッ!(物理)」

元ジャック「ぐぁぁぁぁぁっ!?」クルクルドガッシャァァァァ!

D-ホイールこれくしょん、Dこれ。


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第81話 トゥーンだから平気デース

忘れていましたが、マスタールールは3のまま進むと思いますが、リミットレギュレーションは更新しようと思います。新ルールで色々ぶっ壊れが戻って来ても何気無く使うと言う罠。すまんの。


「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

舞網市の長い下り坂にて、コナミと沢渡は共にUMAに乗り、猛スピードで移動していた。その恐怖を覚えるスピード、そしてアングルによって沢渡が叫ぶが、コナミはお構い無しに加速を促す。

 

「もっと疾く走れー!」

 

「やめてぇぇぇぇぇっ!!」

 

強烈な顔芸と共に叫ぶコナミに、それを止める沢渡。そして大きく跳躍してまるでペガサスの如く飛翔するUMA。あ、俺これ死んだわ。沢渡が白目を剥いて口から泡を吹き出した所で、彼等はついに――遊勝塾に辿り着く――。

 

――――――

 

「俺と、デュエルを……?」

 

一方、遊勝塾内では、突然目の前に現れた、長い銀髪を靡かせた赤いスーツの男、ペガサスのデュエルの挑戦を受け、遊矢が虚ろな表情でその口から掠れた声を出していた。含んでいるのは困惑。

それも当然だろう、いきなり見知らぬ誰かが理由も分からずデュエルを申し込んで来たのだ。それに遊矢は今、そんな気分では無い。

 

「悪いけど、俺は――」

 

「良いから良いから!私にエンタメデュエルを見せてくだサーイ!」

 

「え、ちょっ、ちょっと!?」

 

『お、おい!』

 

しかし遊矢の言葉を無視し、ペガサスは強引に遊矢の手首を掴んで起こす。ますます戸惑う遊矢につられ、ユートも目を見開く。一体何なのだろうか、この男は。ニコニコと笑顔で子供のように早く早くと急かすペガサス。あろう事か、鼻唄まで唄っている。

 

「Mr.ストロング!アクションフィールドの展開をお願いしマース!」

 

「へ、ス、ストロング石島……!?何でここに!?」

 

「はぁ……申し訳無いが、管制室を借りる。私としても久々に会った榊 遊矢がこんなにフヌケていては困るからな」

 

ブンブンと手を振ってストロング石島へとアクションフィールドの展開を求めるペガサス。そこで遊矢もストロング石島の存在に気がついたのか、すっとんきょうな声を出し、ストロング石島は溜め息を吐き出し、塾長である修造の案内の下、アクションフィールドの展開に努める。

流されるままにデュエルとなってしまった。光の粒子に覆われ、姿を変えていくフィールドをボケーと呆けた表情で見つめる遊矢。

すると地面がペラペラと紙の音を立てる本となり、飛び出す絵本のように純白の城が立つ。更に城の外もアメコミの世界の如くポップでコミカルな風景へと変化する。

 

「アンビリーバボー!『トゥーン・キングダム』!私の得意とするフィールドまであるのデスネー!」

 

「見た事無いフィールド……コナミが追加したのか……?」

 

アクションフィールド、『トゥーン・キングダム』。遊矢にとっては未知のフィールドだが、ペガサスにとっては得意のフィールドのようだ。今まで目にした事が無いが、サルガッソのようにコナミが追加したフィールドなのだろう。

 

「あ、あの……大丈夫なんですか?あの人?」

 

「団長の事かい?なぁに心配いらないさ、あの人はふざけた人だけど――やる時はやる人……だったら良いよね」

 

「大丈夫なの!?あの人に任せて本当に大丈夫なの!?」

 

修造の問いかけに対し、アロハシャツにスーツ、薄汚れたハットを被った男が不安そうに答え、洋子が息子を心配して男の肩をガクガクと揺する。それはそうだろう、見知らぬ人間に息子を預ける程、洋子は親をやめていない。やはり止めるべきか、焦る洋子を見て、男がまぁまぁ、と宥め、ニヒルに笑いかける。

 

「安心を、マダム。何なら賭けても良い。この世界一のギャンブラー、チャーリー・マッコイが、ね」

 

「イーヒッヒ!チャーリーの賭けは1度たりとも外れた事は――ありますね」

 

「大丈夫なの!?本当に大丈夫なの!?」

 

今度はピエロのような小柄な男の肩がガクガクと揺れる。しかし彼はまぁまぁ、と洋子を落ち着かせ、赤い涙のペイントをした目をペガサスに向け、その奥に潜む信頼を見せる。

 

「安心してください、団長は世界一のギャンブラーの賭けにも勝つ御方。悩み多き少年の迷いを晴らす事等、容易いでしょう」

 

「おいイェーガー!余計な事言うな!ありゃノーカンだノーカン!」

 

チャーリーをディスりながらペガサスをアゲるイェーガーに対し、ブーブーとブーイングするチャーリー。こうして見ると実に自由なサーカス団だ。

プロデュエリストで我の強いストロング石島に、自称世界一のギャンブラーで飄々とした男、チャーリー・マッコイ。そしてピエロのような謎に包まれた男、イェーガー。個性豊かで、全員が相性が良いとは思えないのに――団長、ペガサスの旗の下に集い、仲間とし、友としている。

だから洋子も、賭けたくなった。それにペガサスは、どこか似ている。自身の夫であり、遊矢の父、稀代のエンタメデュエリストと呼ばれた――榊 遊勝に。

 

「さぁ、行きマショウ!闘いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「……モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形」

 

遊矢とペガサス、温度差のある2人の口上が飛び交い、アクションデュエルの準備が進んでいく。本来ならば明るく楽しい口上を放つ遊矢だが、今はまだ、多くのショックによってそれは影に隠れている。傍にいるユートも歯切れの悪そうな顔で遊矢を見守っている。だが彼は感じる。このデュエルはきっと――遊矢にとって、必要なものだと。

 

「「アクショーン……デュエル!!」」

 

始まる2人のデュエル。先攻は遊矢だ。彼は明らかに気合いが入っていない表情で5枚のカードを手にし、その中より1枚のカードをデュエルディスクの右端に設置する。

 

「俺は『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をペンデュラムゾーンにセッティング」

 

遊矢には何気無い行動。何時も通り、自身の最大の武器であるペンデュラムカードを置いただけ。それだけだったのだが、ペガサスにとっては違う。突然遊矢の背後に現れた光の柱、その中に遊矢のエースカード、2色の虹彩を輝かせ、真紅の体躯を唸らせる『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』が咆哮するのを見て、ペガサスが目を輝かせる。

 

「WAO!ペンデュラム!これがMr.ストロングの言っていたカードデスカ!感激デース!と言う事は見れるのデスカ?ペンデュラム召喚を!」

 

何と言う事か、ペンデュラムカードを目にし、幼い子供のように興奮し、はしゃぎ出してしまった。久し振りとも言える反応に思わず目を丸くして呆ける遊矢。一体この男は何なのだろうか。「ペンデュラム!ペンデュラム!」とコールを繰り返すペガサスに溜め息を吐き出し、遊矢はその手を進める。

 

「手札を1枚捨て、魔法カード、『ペンデュラム・コール』を発動。デッキから『慧眼の魔術師』と『刻剣の魔術師』をサーチ。モンスター1体とカードを1枚セットし、ターンエンド。この瞬間、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を破壊し、デッキから『EMペンデュラム・マジシャン』をサーチ」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド セットモンスター

セット1

手札3

 

「ノォォォォォッ!?何故ペンデュラムしないのデース!がっかりも良いとこデース!」

 

あろう事か、ペガサスの期待をバッサリと無視し、何時もの遊矢らしからぬ消極的なターンに大はしゃぎしていたペガサスはその反動なのか、目を剥いてブーイングし始める。酷い手のひら返しである。溜め息を吐き、頭を抑える遊矢。本当にこの男が分からない。

 

「アナタは素晴らしいエンタメデュエリストと聞いていたのデスガ仕方ありマセーン。こうなったら何が何でも本気にさせて見せマース!私のターン、ドロー!私は『トゥーン・サイバー・ドラゴン』を特殊召喚しマース!」

 

トゥーン・サイバー・ドラゴン 攻撃力2100

 

ポン、と白い煙を立て、地面となっている本のページから現れたのは大きな目にポップな身体、コミカルな姿をした機械の竜だ。いきなり攻撃力2000オーバーのモンスターを見て、僅かだが遊矢の目付きが鋭くなる。

 

「更に『トゥーン・仮面魔道士』を召喚デース!」

 

トゥーン・仮面魔道士 攻撃力900

 

次に召喚されたのは青い仮面を被った、これまたコミカルな魔道士だ。合計攻撃力は3000だが――。

 

「残念ながらトゥーンモンスターは召喚したターン、攻撃出来まセーン。カードを2枚セットし、ターンエンドデース!トホホのホー!」

 

ペガサス・J・クロフォード LP4000

フィールド『トゥーン・サイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『トゥーン・仮面魔道士』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

警戒するのも束の間、召喚酔いの説明によってズルリと転けそうになる遊矢。何とも掴めない男だ。強いのか弱いのか、全くと言って良い程分からない。

 

「俺のターン、ドロー。俺は『慧眼の魔術師』と『刻剣の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング。そして慧眼を破壊し、デッキから『時読みの魔術師』をセッティング」

 

「ペンデュラム!ペンデュラム!」

 

再びペガサスよりペンデュラムコールが放たれる。どうも調子が狂う相手だ。デュエルの相手だと言うのに、こちらの応援まがいの事をするとは。しかし今回は先のターンと違い、準備は万端。お望みとあらば、見せてやろうでは無いか、榊 遊矢の十八番、ペンデュラムのアークを。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム。天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『慧眼の魔術師』!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

天空に揺れるペンデュラム、振り子の軌跡の後に続き、3本の光の柱が魔方陣より降り、フィールドを震撼させる。光の粒子を降らせ、現れたのは遊矢のエースカード、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』。そして赤い衣装を纏い、ペンデュラムを手に持った『EMペンデュラム・マジシャン』。銀髪を靡かせ、秤を持った『慧眼の魔術師』だ。

 

「ファンタスティック!これがペンデュラム召喚!何と美しい召喚法デショウ!」

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果でペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、『EMギタートル』と『EMドクロバット・ジョーカー』をサーチ、そのまま召喚」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

何時もならば恭しく頭を下げ、礼をするペガサスの興奮を含んだ、自身を讃える声を無視し、遊矢は機械的に次の手に進める。現れたのはボロボロのシルクハットと黒い仮面を被り、トランプのマークを燕尾服に散りばめた道化。

このコミックの世界に相応しい登場人物だ。彼はポン、と音を立てて白い煙を上げ、一冊の本を取り出し、パラパラと捲る。すると中より飛び出したのはカードの襟巻きを巻いた蜥蜴のモンスター。バタバタとコメディちっくに駆け、遊矢の手札におさまる。

 

「ドクロバット・ジョーカーの効果でデッキから『EMリザードロー』をサーチ」

 

「Oh!『EM』!面白いモンスター達デース!」

 

「そしてギタートルとリザードローをセッティングし、ギタートルの効果で1枚ドロー!リザードローを破壊してもう1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2→3

 

これこそが遊矢の黄金パターン、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『EMペンデュラム・マジシャン』、『EMドクロバット・ジョーカー』で相互サーチを繰り返し、ギタートルとリザードローのコンビに繋げ、エクストラデッキを増やしながら手札を回復させる。これが基本となり、遊矢の戦術を支え、次の展開の礎となっているのだ。

 

「悪いけど、一気に攻める!ドクロバット・ジョーカーと『慧眼の魔術師』でオーバーレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

遊矢の眼前の地面に突如渦が広がり、2体のモンスターが光の線となって飛び込む。そして瞬間、渦は集束して小爆発を起こし、フィールドに黒煙が舞う。立ち込める黒煙の中から紫電が迸り、鋭き刃物のような物体が妖しき閃きを放つ。

赤きスパークが黒雲を晴らし、現れたのは黒き竜。鋭きアギトを煌めかせ、翼と尾を振るうこのモンスターは、ユートのエースカードだ。

 

『……』

 

「格好良いドラゴンデース!」

 

「ダーク・リベリオンのORUを2つ取り除き、『トゥーン・サイバー・ドラゴン』の攻撃力を半分にし、その数値分このモンスターの攻撃力を上げる!トリーズン……ッ!?ORUが使えない……!?」

 

「NO!残念ながら『トゥーン・キングダム』が存在する限り、私のトゥーンモンスターは相手の効果の対象となりマセーン!」

 

「ッ!ならバトルだ!」

 

「させマセーン!罠発動!『威嚇する咆哮』!このターンの攻撃を封じマース!」

 

「……カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

「この瞬間、罠発動!『トゥーン・マスク』!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を対象に、そのレベル以下のトゥーンをデッキから特殊召喚しマース!私が召喚するのは『トゥーン・ブラック・マジシャン』!!」

 

トゥーン・ブラック・マジシャン 攻撃力2500

 

「『ブラック・マジシャン』!?」

 

コミックの中から現れる。王と呼ばれたデュエリストの最強の僕、そのトゥーンバージョンが杖を振るう。

可愛らしいSDキャラとなっているが、この黒衣の魔導師から放たれる気迫は本物だ。『ブラック・マジシャン』を1度扱った事のある遊矢とユートはその登場に驚愕する。

 

榊 遊矢LP4000

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)『EMペンデュラム・マジシャン』(守備表示)セットモンスター

セット2

Pゾーン『EMギタートル』

手札2

 

勝負を急ぎ、2体の強力なドラゴンを使役する事で1ターンキルを狙う遊矢に対し、のらりくらりとかわすペガサス。厄介な相手だ、苦い顔でターンを終了する遊矢。そんな遊矢を見て、ペガサスがクスリと微笑む。

 

「……Mr.ストロングに聞いたユーとは随分と違うのデスネー」

 

「……え?」

 

「私が聞いたユーは、どんな状況だろうと逃げずに立ち向かい、見る者全てを楽しませる、ワクワクするエンタメデュエルをするデュエリストと聞いていまシター」

 

「……俺は……違う、俺はそんなに、強くなかったんだ……自分でも何でも出来るって自惚れていた、ただの子供だったんだよ……!」

 

ペガサスの問いかけに対し、俯き、拳を握り締め、表情を歪める遊矢。今まで遊矢は、どんな逆境だろうと、笑って進んで来た。何だって出来ると思い込み、ひたすらに走って来た。だけど、それが壁にぶつかってしまった。榊 遊矢のエンタメデュエルで笑顔に出来ない友がいたのだ。結局、遊矢も人間だ。出来ない事に苦悩し、落ち込んでいるのだ。

だがペガサスはそんな彼を――慈しみさえ感じさせる優しい笑みで、受け止める。

 

「それの何が悪いのデース?」

 

「……え……?」

 

「フフ、ユーはただ、ゴーグルを着けているだけデース!視界が狭くなって、見えるものが見えなくなってしまっている……No problem!このデュエルでユーの迷いを晴らして見せマショウ!」

 

両手を広げ、高らかに宣言するペガサス。彼は遊矢の弱さを肯定する。悩む遊矢を優しく導こうとする。毅然と、大人として、子供の手を取り、共に進むべき道を見つけようとする。

その姿に、遊矢は今まで自分を叱咤激励し、背中を押してくれた大人達を思い浮かべる。修造やバレット、ストロング石島にニコ、母、洋子。そして――父、遊勝。

 

「手札から『トゥーン・マーメイド』を捨て、『トゥーン・ブラック・マジシャン』の効果発動!デッキから『トゥーンのもくじ』をサーチしマース!そのまま発動!2枚目のもくじをサーチし、これを後1回繰り返しマース!そして最後のもくじを発動し、『トゥーンのかばん』をサーチデース!そして装備魔法、『ワンダー・ワンド』を『トゥーン・仮面魔道士』に装備!」

 

トゥーン・仮面魔道士 攻撃力900→1400

 

「だけどそのモンスターじゃ俺のモンスターは倒せない!」

 

「倒す必要はありマセーン!トゥーンは物語の中の住人!本が存在する限り、ダイレクトアタックが可能となるのデース!」

 

『なっ――!』

 

「にぃ!?」

 

今明かされる衝撃の真実。トゥーンモンスターの真価に2人が驚愕する。『トゥーン・キングダム』が存在する限り、ペガサスのモンスターはモンスターとの戦闘を無視し、直接攻撃が出来る。とんでも無いカードだ。しかもアクションデュエルと言うルール上、フィールドの魔法は破壊出来ず、唯一の例外であるフィールド魔法の張り替えも、自分フィールドのみ。彼のフィールドまでは変えられない。

昔とあるデュエリストが編み出した、物語の住人達の住処である本そのものを破壊する、と言う攻略法も無意味だ。

 

「バトルデース!『トゥーン・サイバー・ドラゴン』でダイレクトアタック!」

 

「ダイレクトアタックなら――永続罠、『EMピンチヘルパー』!直接攻撃を無効にし、デッキから『EMジンライノ』を特殊召喚!」

 

EMジンライノ 守備力1800

 

ならば、と相手がダイレクトアタックする事を逆手に取り、遊矢が最も頼りとする罠カードが炸裂する。攻撃を受け流した上で現れたのは角に電気を帯びたサイの『EM』。

 

「あと1体……!」

 

「かわしマシタカ……なら『トゥーン・仮面魔道士』でダイレクトアタックデース!」

 

榊 遊矢 LP4000→2600

 

「ぐっ――!」

 

続けて仮面の魔道士がフィルムのように細く長く自身の身体を伸ばし、遊矢のモンスター達を掻い潜って杖を振るう。『EMピンチヘルパー』で防げるのは1ターンに1度まで。そして遊矢のデッキの防御札のほとんどがモンスターとの戦闘に関するものだ。ダイレクトアタックの防御札はそれ程豊富では無い。

 

「『トゥーン・仮面魔道士』が戦闘ダメージを与えた事で1枚ドローしマース!」

 

ペガサス・J・クロフォード 手札2→3

 

「『トゥーン・ブラック・マジシャン』でダイレクトアタックデース!」

 

「アクションマジック、『回避』!」

 

「ホウ……アクションカードデスカ……メインフェイズ2、『ワンダー・ワンド』と『トゥーン・仮面魔道士』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

ペガサス・J・クロフォード 手札3→5

 

『トゥーン・仮面魔道士』と『ワンダー・ワンド』の効果を活かし、1400のダメージを与えつつ3枚もの手札を補充するペガサス。良い腕前だ。『トゥーンのもくじ』でのデッキ圧縮も加え、デュエリストとして一流と見える。

 

「ンフフッ!良いカードを引きマシタ、魔法カード、『アームズ・ホール』!デッキトップをコストに装備魔法、『コミックハンド』をサーチし、発動しマース!」

 

『トゥーン・キングダム』の中より、びっくり箱の如くバネを勢い良く飛び出させ、白いマジックハンドが『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を掴み、城の中へと引き摺り込む。

 

『ダーク・リベリオンッ!?』

 

ドッタンバッタンと騒がしい音が城の中で響き、漫画の世界のように城の構造を無視し、バルーンの中のように城がぐにゃぐにゃと歪む。一体何が起こっているのか、その時だった。城の門が勢い良く開き、中から黒い影が飛び出したのは。

 

「『コミックハンド』の効果で『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』のコントロールを奪い、トゥーンモンスターへと書き換えマース!」

 

『ゲシシシシッ!』と不快な笑い声を放ち、現れたのはトゥーンモンスターとしてデフォルメし、コミックの世界の住人となった『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』。今までの鋭いフォルムが嘘のように丸くなり、下品に笑い声を上げて遊矢の眼前に立ち塞がる。

余りのショックに呆然とするユート。遊矢がそんな彼をそーっと覗くと――彼の表情から感情が消え、能面のような顔となった。

 

「ひぃっ!?」

 

『殺せぇっ!もう俺を殺してくれぇっ!』

 

「ええ!?」

 

――このうすのろがぁっ!装備カードの次はあんな醜悪な姿へとダーク・リベリオンを変えおって!早く何とかしろっ!――

 

「誰!?」

 

遊矢を無視し、ユートと誰かの怒りの声が彼を急かす。分からなくも無いが、余りにも突拍子が無いだろうか。困惑する遊矢を尻目に、張本人であるペガサスは爆笑している。

 

「フフ、アーハッハッハッ!最高デース!どうデスカ?エンタメボーイ!可愛らしくなったデショウ?」

 

「今アンタのせいでとんでも無い事になってんだけど!?」

 

「ホワッツ!?い、意味が分かりまセーン!」

 

クワッ、と目を見開き、爆笑しながらトゥーンと化した『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を自慢するペガサスへと遊矢が怒る。話が見えないペガサスは困惑するだけである。だが今はデュエル中、コホンと咳払いをし、気を取り直してペガサスは手を進める。

 

「ま、まぁ、良いデショウ……トゥーン・ダーク・リベリオンのORUを2つ取り除き、効果発動!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の攻撃力を半分にし、その数値分このカードの攻撃力をアップしマース!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→1250

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→3750

 

トゥーン・ダーク・リベリオンの黒翼に嵌め込まれた紅玉から赤き稲妻がバチバチと鳥の囀りのように鳴り響き、コミックの世界だからか効果音が浮かび上がる。そして雷は『オッドアイズ』を穿ち、エネルギーを奪い取る。形こそトゥーンだが、まさかダーク・リベリオンが敵に回るとは思っても見なかった。こうして効果を使われて改めてその強力さを思い知らされる。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドデース!」

 

ペガサス・J・クロフォード LP4000

フィールド『トゥーン・ブラック・マジシャン』(攻撃表示)『トゥーン・サイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)

『コミックハンド』セット2

手札2

 

攻撃力2000越えのモンスター2体に加え、ダーク・リベリオンのコントロールまで奪われた。対する遊矢のフィールドには攻撃力が半減した『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMペンデュラム・マジシャン』、『EMジンライノ』とセットモンスター。モンスターはいるが、明らかに不利な状況だ。そんな光景を、隼は静かに沈黙し、観察する。

 

「……強いな」

 

「む?意外だな、お前が他人を褒めるとは……」

 

「俺とて人を褒める時もある。今まではそれ所では無かったがな。しかし奴は強い、下手を打てば俺が代わってやろうと思っていたが――成程、今の遊矢を動かせるのは余裕のある大人である奴と言う事か」

 

隼が珍しく人を褒めた事に権現坂が反応する。2人共本当ならば自分達が前に出て遊矢の目を覚まそうとしたのだが、暫くの間はペガサスに任せようとなったのだ。彼がそれが出来なかったのなら、押し退けてでも何とかしようと思っていたのだが、今の所、その必要も無い。

何故ペガサスに任せようとしたのかは分からないが――それは恐らく、彼のカリスマと隠れた実力がそうさせたのだろう。

 

「ふざけているように見えるが、お前も見て来た筈だ。ふざけたように見えて、何よりも真剣なデュエルが、誰かの手を掴んで来た事を。傷ついた心を癒すのは何かを」

 

クスリと笑みを溢し、隼と権現坂はペガサスと遊矢のデュエルを見守る。子供同士が互いを支えるのだとすれば、大人は子供を導いていく。ならばこの場は大人に任せよう、子供も大人も、それぞれが持つ役割があるのだから。

 

「ん?そうか……そう言う事か!」

 

「?どうした、急に笑い出して」

 

「いや何、ペガサス殿が伝えたい事が、何となく分かってな」

 

急に何かを閃いたようにおもむろに立ち上がり、笑い出す権現坂。彼にはペガサスが何を伝えようとしているのか分かったのだ。急に立ち上がった権現坂を訝しみ、隼が困惑するも彼はニヤニヤと笑いを止めない。

一体ペガサスは何をしようとし、権現坂は何故その答えに至ったのか――。

 

「あ、ああ、俺にも分かったぞ、うん、あれだろ、あれ。簡単だよな、うん」

 

「……お前、絶対分かってないだろ」

 

謎の対抗意識を燃やし、知ったかぶりをする隼。それを見て、権現坂は思う。こいつが一番、答えに辿り着きそうなのになぁ、と。

 

「俺のターン、ドロー!俺は『EMドラネコ』をセッティングし、ギタートルのペンデュラム効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「ジンライノをリリースし、『EMスライハンド・マジシャン』を特殊召喚!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500

 

現れたのは白い仮面に赤い衣装を纏い、下半身が水晶の振り子となったマジシャンだ。多くのデュエルで貢献してくれたこのマジシャンへと、遊矢は望みを託す。

 

「手札を1枚捨て、スライハンド・マジシャンの効果で『コミックハンド』を破壊!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!その効果を防ぎマース!」

 

しかしそうは問屋が下ろさない。ペガサスは『コミックハンド』を効果破壊して来る事を見越し、その効果を無効にする。厄介な事この上無い。ならばと遊矢は次の手に移る。

 

「魔法カード、『置換融合』を発動!フィールドの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMペンデュラム・マジシャン』を融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

遊矢の背後に青とオレンジの渦が広がり、竜とマジシャンが溶けて混じり合う。そして閃光が弾け、一筋の光が天に伸び、新たなモンスターへと生まれ変わる。

真紅の体躯を唸らせ、左目を金属で覆い隠し、満月のような金色のリングを背負った巨大な竜。そのモンスターは雄々しい咆哮を放ち、空気を震わせる。

 

「ペンデュラム召喚したモンスターを素材としたこのカードはこのターン中、相手の効果を受けず、レベル4以下の魔法使い族を素材にした事で2回攻撃が出来る!そしてペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『刻剣の魔術師』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

続け様のペンデュラム。振り子の軌跡を描き、フィールドに降り注ぐ2本の柱。降り立ったのは『EM』と『魔術師』だ。どちらも粒揃い、強力な効果でデュエルを有利に進めようとするが――。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果でこのカードと刻剣を破壊し、『EM』2枚サーチ――」

 

「させマセーン!罠発動!『トゥーンのかばん』!特殊召喚したモンスターをデッキに戻しマース!」

 

『デッキバウンス……!?』

 

これも通してくれないらしい。デッキバウンスと言う破壊よりも恐ろしい除去が炸裂し、ペンデュラム・マジシャンのサーチを阻害する。しかも対象を取らない為、2枚共戻されてしまった。

 

「ならバトルだ!ルーンアイズで『トゥーン・ブラック・マジシャン』と『トゥーン・サイバー・ドラゴン』へ攻撃!連撃のシャイニーバースト!」

 

ルーンアイズが背負ったリングが2ヶ所光を放ち、2本の光線が宙を飛ぶ。襲い来る熱線、しかしペガサスは微動だにせずそれを受け入れる。瞬間、爆発。轟音を響かせ、凄まじいスモークがフィールドを覆い尽くす。

『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』自体は効果で攻撃力がアップしている上、トゥーンとなっている為、『トゥーン・キングダム』に守られているが、他のモンスターは射程圏内、これで2体のモンスターを倒した――そう、思った時、スモークが晴れ、そこにあったものは『キシシ』と不快な笑みを浮かべ、『チッチッチ』と指を振る、『トゥーン・ブラック・マジシャン』と、そのボディに傷一つついていない『トゥーン・サイバー・ドラゴン』の姿だった――。

 

ペガサス・J・クロフォード LP4000→3100

 

「トゥーンだから平気デース!」

 

「なっ――!?」

 

驚くべき光景、目を見張る事実が立ち塞がる。だが丸っきり平気と言う訳では無いらしい。ペガサスのLPが減っている辺り、何らかの形で戦闘破壊を防いだのだと思われるが――。

 

「『トゥーン・キングダム』の効果でトゥーンモンスターが戦闘、効果で破壊される場合、代わりにデッキトップを裏側表示で除外するのデース!しかもアクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』で『トゥーン・ブラック・マジシャン』の戦闘ダメージを0に!残念ながら『トゥーン・サイバー・ドラゴン』には間に合いませんデシタガ」

 

『面倒な……!』

 

これでは相手はダイレクトアタックし、こちらが攻撃して破壊しようとすればデッキトップが肩代わりして防がれる。正しく次元が違う。こちらは3次元で闘うのに対し、あちらは2次元ですり抜けて来る。完全な生命体。ふと、遊矢の脳裏にその言葉が過る。

 

「だがダメージは有効!スライハンド・マジシャンで『トゥーン・サイバー・ドラゴン』へと攻撃!」

 

「デッキトップを除外し、破壊を防ぎマース!」

 

ペガサス・J・クロフォード LP3100→2700

 

「くっ、ターンエンド……!」

 

榊 遊矢 LP2600

フィールド『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMスライハンド・マジシャン』(攻撃表示)セットモンスター

『EMピンチヘルパー』セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMドラネコ』

手札0

 

ルールをも味方につけ、強力無比な布陣を敷くペガサス。遊矢はそのトリッキーな動きに翻弄され、手も足も出ない。今まで闘って来た中でも格上の強敵だ。どれすれば良い。思考を張り巡らせ、戦略を練る。こんな時、どうすれば良いのか、考えて考えて考え抜け。思考を止めるな。知恵を振り絞り、ペガサスを見据える。

そんな時――遊矢の頭に浮かんだものは、あるデュエリストの姿、髪をオールバックに流し、眼帯をつけた大柄の男、その名は――バレット。融合次元、アカデミアの人間にして、遊矢が尊敬する、師だった。

 

「フフ……顔つきが変わっていく……子供が成長するのは早いデース!」

 

それを迎え撃つはペガサスサーカス団、団長、ペガサス・J・クロフォード。彼はニコリと微笑みながらも、眼前にいる少年を見つめる。

 

思い起こすのは1人のデュエリスト。ペガサスが旅の中、出会い、互いのデュエルで笑い合った、ハットを被ったエンターテイナー。

 

口元を綻ばせ、手札の1枚へと視線を移す。緑色のフレームをした、魔法カード。何て事の無い、何の力も無いそのカードのイラストは、色とりどりでカラフルな、表情豊かな円が描かれている。効果もお世辞に強いとは言えないそのカード。その1枚を見つめ、ペガサスはその男の名を思い浮かべる。

 

(……遊勝……ユーにも、私とエンタメボーイのデュエルを見せてあげたいものデース)

 

眼前で知恵を絞る少年、その父は――ペガサスの友であり、弟子であった――。




ペガサスの口調がすっげぇ難しい。多分クロノス先生も書くとなったら難しいと思う。何で遊戯王にはこんなに変な語尾のキャラが多いんザウルス。


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第82話 遊矢ボーイ

アニメ最終回に覇王紫竜と覇王白竜が出ていてワーイワーイと盛り上がっています。でももうちょっと早く出して良かったんじゃない?何にせよアニメは次回で最終回かぁ、と思うと何だか変な気分です。
賛否両論ありますし、批判されるARC-Vですが寂しいものです。て言うかデュエルで白竜と紫竜出して人型の銀河眼っぽいの出してレイラに笑顔を与えて柚子を救うとか尺大丈夫なのん?
ハードスケジュールじゃん。

そして何だかんだ言ってヴレインズにワクワクしてます。


ペガサスには、2人の弟子がいた。まだサーカス団を結成していない、旅を始めたばかりの時である。彼は金銭を稼ぐ為、マジックショーやソリッドビジョンを使ったサーカスをやっていたのだが――それがとある者の目に止まった。

 

それこそが榊 遊勝ともう1人の男である。彼等はペガサスの技術に感銘を受け、頭を下げて弟子にさせてもらいたいと申し込んで来たのだ。勿論騒がしいのが嫌いではないペガサスはそれを了承し、2人を面白おかしくふざけながら鍛えた。

 

ペガサスのビックリ箱のような面白い、何が起こるか分からないデュエルと鋭い観察眼は遊勝に。強さと技術はもう1人へと受け継がれた。

それぞれの求めていたものは違っていたと言う訳だ。結果――強くなり、増長したもう1人の弟子はペガサスが大事に持っていた、ある1枚のカードを奪い、逃亡しようとした。ペガサスはそれを見抜き、彼の態度を改めさせようとデュエルを行ったが――結局得られたものは、勝利のみ。

 

彼の心までは救えず、彼は姿を消した。弟子を闇の道へ進ませてしまった。苦悩するペガサスに遊勝はある言葉をかけた。その言葉は僅かであるが、ペガサスの心を救った。自分1人で悩むペガサスの心を軽くした。

後悔は今だってしている、だけど――その言葉を思い出す度に、ペガサスはそれを胸に抱き、前に進めるのだ。そしてその言葉は、ペガサスにサーカス団を結成する、と言う目標を与えるのだが――それはまた、別の話。

 

――――――

 

「私のターン、ドロー!」

 

続く遊矢とペガサスのデュエル。ターンはペガサスへと移り、彼はデッキトップを勢い良く引き抜き、遊矢のフィールドを確認する。

攻撃力3000の『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と攻撃力2500の『EMスライハンド・マジシャン』、セットモンスターが1体。そして直接攻撃を無効にし、デッキの『EM』を呼び出す永続罠、『EMピンチヘルパー』と中身の分からないセットカードが1枚。

セットカードが気になる所だが、あれさえ無視すればピンチヘルパーでダイレクトアタックを1度無効にされても充分射程圏内だ。

 

だがそれでも油断は出来ない。デュエルは何が起こるか分からないのだ。

 

「『トゥーン・ブラック・マジシャン』の効果により、手札の『トゥーン・リボルバー・ドラゴン』を捨て、デッキから『シャドー・トゥーン』をサーチしマース!そのまま発動!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を対象とし、その攻撃力分のダメージを与えマース!」

 

「カウンター罠、『ダメージ・ポラリライザー』!効果ダメージの発動と効果を、無効にし、互いに1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

ペガサス・J・クロフォード 手札2→3

 

『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の影が伸び、トゥーン化した黒いルーンアイズとなって遊矢の前に現れて熱線を放つ。3000のバーンダメージ、これを食らえば敗北確定。

直ぐ様遊矢は罠で凌ぐ。

瞬間、彼の周囲を障壁が覆い、熱線を打ち消した。

 

「バトルに移りマース!トゥーン・ダーク・リベリオンでルーンアイズへ攻撃デース!」

 

榊 遊矢 LP2600→1850

 

「ぐ――!」

 

トゥーン・ダーク・リベリオンがその翼を広げて身体を翻し、赤き血流を閃かせて鋭いアギトを地に突き立てる。そのまま猛スピードで地面のページを破りながら突き進み、バネのように大きく跳躍、ルーンアイズを破壊する。

対象を取れない、攻撃力3750のモンスター。一番攻撃力が高いモンスターでも3000しかない遊矢には手に余る。

 

「更に『トゥーン・ブラック・マジシャン』でスライハンド・マジシャンを攻撃!デッキトップを除外して破壊を逃れマース!『トゥーン・サイバー・ドラゴン』でセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『EMインコーラス』!破壊された事でデッキから『EMソード・フィッシュ』を特殊召喚!」

 

EMソード・フィッシュ 守備力600

 

破壊された3羽のインコの囀りに応え、フィールドに飛び出したのはリーゼントにサングラスと不良のような太刀魚のモンスターだ。

 

「ソード・フィッシュが召喚、特殊召喚に成功した事で相手フィールドの全てのモンスターの攻守を600ダウンする!」

 

トゥーン・ブラック・マジシャン 攻撃力2500→1900

 

トゥーン・サイバー・ドラゴン 攻撃力2100→1500

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力3750→3150

 

ソード・フィッシュが分身し、弾丸のようにその身を撃ち出してペガサスのモンスターを弱体化させる。しかし遊矢のモンスターもソード・フィッシュのみとなってしまった。どうやら今回はモンスターへ攻撃を絞り、堅実な戦法で来たらしい。

遊矢のフィールドにはピンチヘルパーと『EMドラネコ』があった為、2回までダイレクトアタックを無駄撃ちさせられたのだが……良い勘をしている。

 

「カードを2枚セットしてターンエンドデース!さぁ、エンタメボーイ!ユーのちょっと面白い所、見せちゃってクダサーイ!」

 

ペガサス・J・クロフォード LP2700

フィールド『トゥーン・ブラック・マジシャン』(攻撃表示)『トゥーン・サイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)

『コミックハンド』セット2

手札1

 

何とか勝機が見えて来た。対象に取れず、破壊も出来ない。ダイレクトアタックが可能なモンスター。それでもトゥーンはトゥーンだけでしか破壊出来マセーンじゃないだけマシだ。それに戦闘ダメージまでは防げない。対象を取らない効果も通用する。

一見無敵に見えるトゥーンにも――弱点はある。攻撃力をアップするのは『EM』の得意分野、エースカードの『オッドアイズ』もダメージ倍増効果がある。それならば遊矢のペースに持ち込める。

他のカードで出来ない事も、力を合わせれば――。

 

「ん――?」

 

『?どうした遊矢?』

 

ふと、違和感を感じた。何か、大事なものを見つけ、通り過ぎたような感覚。当たり前じゃない事を、当たり前だと思って、忘れてしまっているような、疑問を浮かべる遊矢に、ユートが心配の声をかける。

 

「いや、何でもない。俺のターン、ドロー!墓地の『置換融合』を除外し、『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をエクストラデッキに戻して1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「魔法カード、『金満な壺』を発動!墓地の『EMドクロバット・ジョーカー』、『慧眼の魔術師』、そしてエクストラデッキの『EMリザードロー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「ペンデュラム召喚!『EMインコーラス』!『EMセカンドンキー』!『EMウィップ・バイパー』!」

 

EMインコーラス守備力500

 

EMセカンドンキー 攻撃力1000

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700

 

ペガサスのトゥーンモンスターに対抗し、次々とコミカルで愛らしい『EM』達がフィールドに揃う。カラフルな3羽のインコと頼もしいロバ。そして毒々しい紫であるが、どこか愛嬌のある蛇だ。トゥーンと『EM』が威嚇し合う姿は何とも微笑ましい。

 

「セカンドンキーの効果でデッキの『EMドクロバット・ジョーカー』をサーチし、ソード・フィッシュの効果で相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力をダウン!」

 

トゥーン・ブラック・マジシャン 攻撃力1900→1300

 

トゥーン・サイバー・ドラゴン 攻撃力1500→900

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力3150→2550

 

ソード・フィッシュの効果により、ペガサスのモンスターが大きく弱体化する。自身を召喚し、他のモンスターを特殊召喚しただけで1200のダウン。それが全てのモンスターに降り注ぐのだ。惜しむらくはペンデュラムモンスターでない事か。

分身して切り刻まれるトゥーンモンスター。漫画の中の住人だからか、刃物を恐れてフィールドを駆ける。

 

「クッ、私のモンスターが……!」

 

『これでダーク・リベリオンの攻撃力は元々の数値まで近くなった……』

 

「ドクロバット・ジョーカーを召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

「召喚時、『EMペンデュラム・マジシャン』をサーチ!そしてウィップ・バイパーの効果でセカンドンキーの攻守を入れ替える!」

 

EMセカンドンキー 攻撃力1000→2000

 

「カードを1枚セット、装備魔法、『魔導師の力』!セカンドンキーの攻撃力を2500アップ!」

 

EMセカンドンキー 攻撃力2000→4500

 

「バトルだ!ウィップ・バイパーで『トゥーン・サイバー・ドラゴン』に攻撃!」

 

「『トゥーン・キングダム』の効果は使いマセーン!」

 

ペガサス・J・クロフォード LP2700→1900

 

ウィップ・バイパーが『トゥーン・サイバー・ドラゴン』に絡み付き、締め上げる。ここで戦闘破壊しなければサンドバックになっている所だ。冷静な判断でダメージを防ぐ。

 

「ドクロバット・ジョーカーで『トゥーン・ブラック・マジシャン』を攻撃!」

 

「罠発動!『亜空間物質転送装置』!『トゥーン・ブラック・マジシャン』をエンドフェイズまで除外しマース!」

 

「ならセカンドンキーでダーク・リベリオンを攻撃!」

 

「罠カード、『ガード・ブロック』!ダメージを0にして1枚ドローしマース!ついでにデッキトップを除外し、戦闘破壊も防ぎマース!」

 

ペガサス・J・クロフォード 手札0→1

 

セカンドンキーが蹄を鳴らし、飛び上がってダーク・リベリオンを踏みつけ、ペラペラの紙のようになったダーク・リベリオンは元に戻り、目を白黒させて『トゥーン・キングダム』の中に逃げ込む。

 

「HAHAHAHAHA!面白いデース!」

 

「はは……っ!俺はこれでターンエンドだ!」

 

「この瞬間、『トゥーン・ブラック・マジシャン』はフィールドに戻りマース」

 

榊 遊矢 LP1850

フィールド『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMウィップ・バイパー』(攻撃表示)『EMセカンドンキー』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)『EMソード・フィッシュ』(守備表示)

『魔導師の力』『EMピンチヘルパー』セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMドラネコ』

手札2

 

『EM』とトゥーンによる、面白くて微笑ましい戦闘。それを見てツボに入ったのか、ペガサスが腹を抱えて笑い、それにつられて遊矢も笑う。漸く――遊矢に明るさが戻って来た。

 

「フフ……やっと笑いマシタネ……エンタメボーイ……」

 

「え?あ……」

 

「ユーに何があったのかは分かりマセーン……デスガきっと、どうにも出来ない困難にぶつかったのデショウ。或いは――自分1人では処理しきれない多くの問題を突き出されたか……」

 

「……」

 

当たっている。素良を救えず、柚子を連れ去られ、バレットがアカデミアの人間だった。他にもカード化された人達や、怪我を負った人がいる。

遊矢の身体は1つだけだ。見えない所まで、手は届かない。どれだけ手を伸ばしても、その手の届かない範囲はきっとある。そんなどうしようも無い、どうすれば良いのか分からない事が遊矢を苦しめる。

 

「デスガ……何もその問題をユー1人で抱え込まないでクダサーイ。人1人出来る事等、限られていマース」

 

「だったら……だったらどうすれば……!」

 

「……かつて――私の弟子、遊勝はこう言いマシタ。人1人で出来る事は限られている。どうしても自分が出来ない事があれば、仲間を頼れば良い……と」

 

「とう、さんが――?」

 

突然ペガサスの口から行方不明の父、遊勝の名が出た事で遊矢がフリーズする。この男が、ペガサスが父の師。いや、今はそんな事よりも、その言葉。

 

「仲間を、頼る……」

 

「ええ、ユーにも友人がいるデショウ?あそこでユーのデュエルを見ている者達……諦めない事はきっと悪い事じゃありマセーン。デスガ、ユーが手を伸ばした事で、救われた人がいる。そしてその救われた人がまた、別の人に手を伸ばす。そうやって、バトンは渡り、輪は広がっていく。それはきっと――素晴らしい事デショウ?」

 

まるで、枝分かれする樹のような。遊矢が自分の手いっぱいに誰かを救い、その救った者達がまた、誰かを救う。広がっていく手。ああ、そうだ、遊矢はこの答えを、ずっと前から出していたのだ。

バレットとのデュエルの時、自分の力で誰かを笑顔に出来ないなら、誰かの力を借り、困難を乗り越えようと思ったように。自分1人で隼を救えないからこそ、ユートと力を合わせたように。疲れきった時、アリトを頼ったように。

 

忘れてしまった大事なものが、遊矢の胸に広がっていく。そう、何も1人で悩む事は無かった。自分にかかっていた霧が晴れ、ゴーグルを外してその視界に写ったものは――。

 

「権現坂……隼、母さん、塾長、タツヤ、フトシ、アユ、ミエル、沢渡、コナミ……ユート、ストロング石島、ペガサスさん……!」

 

この場にいない仲間達もいる。大事な仲間達を胸にし、この場にいる友の名を呼んでいく。皆、遊矢に頷き、笑顔を見せながら応えてくれる。

ああ、そうだ、こうして絆を繋いだのは、デュエルの力。デュエルでぶつかり合ったからこそ、互いの想いを吐き出すからこそ、デュエルは答えを出してくれる。

 

「皆……俺1人じゃアカデミアに立ち向かって、全員にデュエルの楽しさを知ってもらって、止める事は出来ない――だから!俺と一緒に!闘ってくれ!一緒に行けない人も、俺に、不甲斐ないこんな俺だけど、勇気を分けてくれ!」

 

『任せとけ!!!』

 

遊矢が言葉と言う名の、伸ばした手を取り、間髪入れずその場全員が合わせて叫ぶ。力を与え、支え合う。広がる輪はきっと、1人1人を強くしていく。今遊矢が強くなれば、皆もまた、強くなる。それが嬉しくて――笑ってしまう。

 

「ペガサスさん……皆、ありがとう……!」

 

「フフ、感謝するのは早いデース!ありがとうと言うならば、私にユーのエンタメデュエルを見せてクダサイ!遊矢ボーイ!」

 

「ッ――はいっ!」

 

「私のターン、ドロー!手札の『トゥーン・バスター・ブレイダー』を捨て、『トゥーン・ブラック・マジシャン』の効果でデッキより『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』を特殊召喚しマース!」

 

レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン 攻撃力2400

 

現れたのは『トゥーン・ブラック・マジシャン』に続き、それに比肩する、今は忘れられた伝説のデュエリストが使った、紅き眼の黒竜がトゥーン化したカード。トゥーン化して尚、その放つ気迫は劣らない。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』を発動しマース!墓地の『トゥーン・バスター・ブレイダー』、『トゥーン・リボルバー・ドラゴン』、『トゥーン・サイバー・ドラゴン』、『トゥーン・マーメイド』、『トゥーン・仮面魔道士』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ペガサス・J・クロフォード 手札1→3

 

「『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』の効果で手札から『ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン』を特殊召喚しマース!」

 

ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン 攻撃力3000

 

並び立つ3体目の伝説。決闘王と互角に渡り合ったライバルの使った最強のドラゴン。その者曰く、惨めな姿、ペガサス曰く、愛らしい姿となった青き目の白龍が『ゲシシ』と笑いながらフィールドに登場する。『ブラック・マジシャン』、『ブルーアイズ』、『レッドアイズ』。トゥーン化しているが、この3体とその主を知っている者からすれば、この光景は夢のようであろう。

 

「何だろうな……何だかあのモンスター達、懐かしい……」

 

現れる3体を見て、遊矢の胸から、何故か懐かしいと言う想いが込み上げる。

 

「フフ、私も何だか懐かしい……!ではこのカードで皆を笑顔にして見せマショウ!魔法カード、『スマイル・ワールド』!」

 

「『スマイル・ワールド』……?」

 

ペガサスの手より、1枚の魔法カードがデュエルディスクに置かれる。何の変哲も無い、様々な表情が描かれたイラストのカード。何処かで見た事があるそのカードにより、フィールドに光の粒子が散り、笑顔が花咲き、敵味方問わず、フィールドのモンスターが笑顔になる。

 

「その効果により、フィールドのモンスターの攻撃力はその数×100、攻撃力をアップしマース!」

 

「俺のモンスターも……!?」

 

トゥーン・ブラック・マジシャン 攻撃力2500→3400

 

ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン 攻撃力3000→3900

 

レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン 攻撃力2400→3300

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2550→3450

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800→2700

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700→2600

 

EMセカンドンキー 攻撃力3500→4400

 

EMインコーラス 攻撃力500→1400

 

EMソード・フィッシュ 攻撃力600→1500

 

笑顔笑顔、笑顔の連打。これでもかと言う位にフィールド上に笑顔が咲き誇り、モンスター達が楽しそうに笑う。敵も味方もお構い無し。問答無用で笑顔にする。

 

『互いに攻撃力を上げるカード……何とも使い道に困ると言うか……微妙なカードだが……』

 

「トゥーンモンスターはダイレクトアタックが出来る……!」

 

「さぁ、バトルデース!『トゥーン・ブラック・マジシャン』でダイレクトアタックデース!」

 

「『EMドラネコ』のペンデュラム効果で防ぐ!」

 

「かわしマスカ……!ならダーク・リベリオンでセカンドンキーに攻撃デース!アクションマジック『ハイダイブ』を使い、攻撃力を1000アップ!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力3450→4450

 

榊 遊矢 LP1850→1800

 

「踏み止まりマシタカ……メインフェイズ2!魔法カード、『簡易融合』を発動!LPを1000払い、エクストラデッキからレベル5以下の融合モンスターを融合召喚しマース!融合召喚!『サウザンド・アイズ・サクリファイス』!!」

 

ペガサス・J・クロフォード LP1900→900

 

サウザンド・アイズ・サクリファイス 攻撃力0

 

現れたのはペガサスの切り札。これまでのトゥーンモンスター達とは全く異なる恐ろしい容貌のカード。長い首に甲虫のような身体。野太い腕を持ち、身体中に千の眼を宿した邪神。醜悪でおぞましいそのモンスターはペガサスのフィールドに降り立ち――即座に『スマイル・ワールド』の影響を受けてか、仲間の笑顔にあてられてか、全ての眼をニッコリと笑わせた。

 

「キモッ!?」

 

『千の眼が全て笑顔に……『スマイル・ワールド』、恐るべし……!』

 

「HAHAHAHAHA!これがやりたかっただけデース!さて、『サウザント・アイズ・サクリファイス』の効果でこのカード以外のモンスターは表示形式を変更出来ず、攻撃も出来マセーン!そしてソード・フィッシュを装備カードとして吸収!攻守をコピーしマース!」

 

サウザント・アイズ・サクリファイス 攻撃力0→600

 

「ターンエンド。この瞬間、『簡易融合』の効果で『サウザンド・アイズ・サクリファイス』は破壊されマース!さぁ、遊矢ボーイ!ユーのターンデース!」

 

ペガサス・J・クロフォード LP900

フィールド『トゥーン・ブラック・マジシャン』(攻撃表示)『ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン』(攻撃表示)『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』(攻撃表示)『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)

『コミックハンド』

手札0

 

強力なモンスター達と恐ろしい戦術、それら全てが見事に融合し、遊矢を追いつめていく。

だけどそれが――遊矢を熱くさせる。どうしようも無い逆境に、遊矢は堪え切れず嬉しそうに叫ぶ。

言っている、遊矢のエンタメデュエリストの本能が、もっと楽しめと。言っている、遊矢のカード1枚1枚が。力を合わせて闘おうと。ゴーグルはもう、視界を覆わない目に見える全てを、このワクワクを、自分の目で確かめたいから。

 

「Ladies and Gentlemen!さぁ!お楽しみは、これからだぁっ!!」

 

デッキトップよりカードを勢い良く引き抜き、虹色のアークが宙に描かれる。もう雨は降り止んだ。後には虹がかかり、その橋を進むのみ。

 

「ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『時読みの魔術師』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

時読みの魔術師 攻撃力1200

 

「その効果でペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、デッキから『EMラフメイカー』と『EMバリアバルーンバク』をサーチ!そして時読みとペンデュラム・マジシャンをリリースし、アドバンス召喚!来てくれ。誰もを笑顔にしてくれる楽しい仲間。『EMラフメイカー』!」

 

EMラフメイカー 攻撃力2500

 

現れたのは遊矢の最後のモンスター。ハットを被り、ステッキとトランプを持つ『EM』が降り立った途端、その背後から笑顔が咲き誇る。

 

「そして魔法カード、『マジカル・スカイ・ミラー』を発動!このカードは1ターン前に発動された相手の魔法カードを発動出来る!俺が発動するのは――『スマイル・ワールド』!!」

 

EMラフメイカー 攻撃力2500→3400

 

EMインコーラス 攻撃力500→1400

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800→2700

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700→2600

 

トゥーン・ブラック・マジシャン 攻撃力1300→2200

 

ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン 攻撃力3000→3900

 

レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン 攻撃力2400→3300

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2550→3450

 

今度は遊矢の手から発動される『スマイル・ワールド』。その効果にで再びフィールドに笑顔が咲き、笑い合う。何の変哲も無い、大した効果もないこのカード。だけど、このカードだけでなく、どんなカードにだって人を笑顔にする可能性はある。

1枚だけじゃそれは遠い事かもしれない。だけど――デュエルは1枚だけのカードじゃ闘えない。他のカードと組み合わせる事で、無限の可能性を引き出すのだ。

それは人とて同じ、1人じゃ無理でも――皆となら、何だって出来る。

 

「バトル!ラフメイカーで『トゥーン・ブラック・マジシャン』を攻撃!この瞬間――ラフメイカーの効果発動!このカードの攻撃力は、このカードと相手フィールドの元々の攻撃力より高い攻撃力を持つモンスターの数×1000アップする!この条件に当てはまるのは4体、よって――」

 

EMラフメイカー 攻撃力3400→7400

 

相手の力も借り、遊矢は更に進化を果たす。ラフメイカーより放たれる雷、それはペガサスに襲いかかり――激突、大爆発を起こす。

 

「ラフィングスパーク!!」

 

巻き起こる黒煙。決まった――誰もがそう思った時――黒煙が爆風に引き裂かれ、中より空気を読まぬ笑い声が木霊する。

 

「アクションマジック――『大脱出』!バトルフェイズを終了させマース!」

 

「――ははっ!」

 

ぱんぱかぱーん、両手を広げ、ペガサスがニヤリと口元に笑みを浮かべながら奇跡の『大脱出』を果たす。ああ、強い。思わず遊矢が笑いを溢す。この人は何て――何て楽しそうにデュエルをするのだろうと。

 

「ドクロバット・ジョーカー、ウィップ・バイパーを守備表示に変更し、カードを1枚セットしてターンエンドだ!楽しい、楽しいよペガサスさん!」

 

榊 遊矢 LP1800

フィールド『EMラフメイカー』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(守備表示)『EMウィップ・バイパー』(ジョーカー表示)

『EMピンチヘルパー』セット2

手札1

 

「私も楽しい、遊矢ボーイ。素晴らしいエンタメデュエルをありがとう――ドロー!魔法カード、『ハーピィの羽帚』!さぁ!決着を!全てのトゥーンモンスターで、ダイレクトアタック――!」

 

コミックの世界から、ダーク・リベリオンが、『レッドアイズ』が、『ブルーアイズ』がそのアギトから光輝くエネルギー球を『トゥーン・ブラック・マジシャン』の杖へと集束させていく。先程のラフメイカーにも勝る凄まじい魔力弾。『トゥーン・ブラック・マジシャン』は『ギヒヒ』と、特徴的な笑い声を漏らし、遊矢へと撃ち出し――魔力弾が弾け、クラッカーとして鳴り響く。

 

榊 遊矢 LP1800→0

 

勝者、ペガサス・J・クロフォード――。

 

――――――

 

「遊矢ボーイ、素晴らしいデュエルデシタ。やはりこのカードは、ユーが持つべきデース」

 

デュエル終了後、アクションフィールドが光の粒子へ消える中、ペガサスは遊矢へと近づき、1枚のカードを渡して来た。そのカードはやはり、想像通りのカード。

 

「『スマイル・ワールド』……」

 

「これはユーの母が持っていたカードデース!ちょっとくすねマシタガ……恐らく遊勝のカードデショウ」

 

「父さんの……!?って言うか父さんの知り合いなの!?」

 

そう言えば、と遊矢は『スマイル・ワールド』を受け取りながらペガサスに問いかける。デュエル中にも彼は遊勝の事を知っているような口調をしていた。一体彼は何者かと今更ながらに尋ねると、彼は少し困ったような表情を浮かべ、悪戯っ子のように微笑む。

 

「積もる話もあるデショウが……まずは私の目的を話しながらでも応えマショウ」

 

「目的……?」

 

彼は語る。彼が舞網市に来た、その理由を。いや、ここに来て、遊矢とデュエルをすると言う他に、新たに出来た目的、それは――。

 

「カード化された人達――それを、戻せるかもしれマセーン」

 

その言葉に、ドクン、とコナミの胸が脈を打つ――。

 

 

 

 

 

 




人物紹介16

ペガサス・J・クロフォード
所属 ペガサスサーカス団
元カードの制作者と言う噂のあるサーカス団団長。本作では過去に遊勝の師をやっており、現在はおっさんばっかでワイワイとサーカス団をやっている。陽気な性格でデースマースと胡散臭い日本語で喋る。流行りのちょっとズレた外国人女子の大本なのかもしれない。英国生まれのペガサスデース。
根は善人だが良く人をからかう傾向にあり、何時も団員達を振り回している。高いカリスマを持っており、何処か人を惹き付ける。Rではそのせいでクレイジーサイコヤンデレホモに女子校生にされそうになった。やはりペガサスは外国人女子の大本……(確信)。クレイジーサイコヤンデレホモが出るかは不明。
使用デッキは『トゥーン』。エースカードは『トゥーン・ブラック・マジシャン』。


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第83話 何度も何度も同じ手を

アニメARC-V完結。凄い駆け足展開を見た、正しくソードマスタートマト。あそこまでやったら最後は不思議パワーで遊矢、柚子シリーズを分裂させても良かったんじゃ。ズァークさぁん。
色々ありましたが今はヴレインズが楽しみ。サイバースルゥースの新作も楽しみです。


ペガサスの来日より2日が過ぎた。彼はストロング石島の紹介の下、LDSへと招待され、「人々をカード化するなんて許せマセーン」とその知識をカード化を解く為に振るってくれている。聞いた所では遊矢とデニスの師にもなっているらしい。

 

因みに今、ランサーズは交流と実力をアップする為、短期間ながら合宿のようなものをしている。いきなり絆も何もない者達では連携も取れないと考えての事だろう。

 

ランサーズに選ばれたのは10人。榊 遊矢、赤馬 零児、権現坂 昇、沢渡 シンゴ、風魔 月影、赤馬 零羅、セレナ、デニス・マックフィールド、黒咲 隼、そして――アリト。……お気づきだろうか?そう、ランサーズの中にコナミが入っていない事を。実はこれに一番驚いたのはコナミだ。

 

生き残ったデュエリストでランサーズ作るよ!→暗次が自分のせいでカード化されてそんな気になんねぇ!→沢渡さんのぉ!レジェンド励ましデュエルゥ!→トゥーンだからスマイルデース!→カード化もペガサスが何とかしてくれそうだから改めてランサーズに入るぜ!→いやおめぇの席なんて元々ねぇからぁ!の6連コンボである。酷い。

 

無論遊矢達は何故なのかと零児を追求したのだが――曰く、目の前で犠牲を出さずに生き残った者と違い、コナミは助けられて、目の前で犠牲を出してここにいる。ランサーズはランス・ディフェンス・ソルジャーズ。守れない者にその資格は無い。コナミには不確定要素も多い為、ランサーズには入れない、である。

因みに勝鬨や桜樹は最有力候補だったのだが、負傷の為、治療に専念している。刃達はスタンダード次元を守る為、残る選択をした。

だが、コナミには救済措置があった。コナミがランサーズ入りするにあたっての条件、それは――合宿中、1度でも零児にデュエルで勝つ事である。これだけならサンキュー零児、フォーエバー零児となるが――2日過ぎた今でも、コナミは零児に勝利出来ていない。今もLDSのデュエルコートにて、向かい合ってデュエルディスクを構え、デュエルをしているのだが――。

 

「やれ、『DDD双暁王カリ・ユガ』でダイレクトアタック!」

 

コナミ LP1400→0

 

「イワァァァァァクッ!!」

 

玉座に座った漆黒の王者が顎に手を当てたまま、右腕を上げ、人差し指を突き出して雷を放つ。真っ黒に淀んだそれはコナミの身体を頭から爪先まで駆け抜け、まともに受けたコナミは黒煙を纏いながらドサリと倒れ伏す。

これで20戦20敗。連続でデュエルをし、ダメージを受け続けた事で気絶するコナミ。零児は彼を一瞥もせずにデュエルディスクを下げ、背を向けてデュエルコートから退室する。

また負けた――LPがたったの100になるまで追い詰めた事もあった。しかし、決定的な何かがコナミを勝利から遠ざける。

 

「……今日はここまでだ。私としても、強力な戦力は欲しい。だが、今の君は矛となり得ない」

 

その言葉を最後に、零児はデュエルコートを後にする。そんな彼を迎えたのは、意外な人物だった。

 

「……瑠那に零羅か……どうだ、カード化の方は?」

 

「まだ何とも言えないわね。ところで彼は大丈夫なの?」

 

身に纏った白衣を揺らしながら、少女、瑠那が問いかける。その背後では帽子を目深に被り、更にその上からフードを被った、引っ込み思案な性格を見た目からも受け取れる幼い、ショタなのかロリなのか不明だが、零児の弟、もしくは妹である零羅がオドオドとコナミを覗いている。

 

「……兄様……あの人……」

 

「ああ、コナミか……そうだな、お前も話してみると良い。良い刺激となるだろう」

 

そう言って零羅の頭を一撫でし、普段の彼からは想像もつかない優しい表情を見せる。それが余程意外だったのか、当然瑠那は目を見張って零児を見つめる。

 

「……何だ……?」

 

「いえ……失礼だけど、貴方ってそんな顔も出来るのね……」

 

「……そう、だな。私も社長やプロデュエリストとして張りつめているが……流石に家族と呼べる者には甘い。友人と呼べる者もいないから余計に、な。ただ――彼とのデュエルは楽しめた……後は頼む」

 

少しだけ、ほんの少しだけ彼らしからぬ弱音……だろうか。を吐き出し、ツカツカと廊下を突き進む零児。彼も一応は少年と言う事だろうか。ままならないものだと考えながら、瑠那はコナミへと視線を移す。さて、まずは彼を運ぶ所からか。

ロンググローブをしっかりと着け直し、ふんすと鼻を鳴らす瑠那の姿と、それをきょとんと見つめる零羅の姿が、そこにあった――。

 

――――――

 

混濁し、微睡む意識。最初に目に写ったのは、暗い暗い、光が全くない空間。ああ、これは夢だ、と即座に理解する。酷い悪夢、思わず溜め息をついてしまう。こんな場所には夢であろうと1秒たりともいたくない。そんな事を考えていると、眼前に一筋の光が差し込む。

光はふわふわと粘土のように形を変え、不恰好な人型となり、こちらへ手を伸ばす。

彼はそれを――受け取って――ムニュリと、柔らかい感触に手が包まれた。……ムニュリ?はて、何なのだろうか?この掌をも覆うような質感は。ずっと触っていたいような――瞼を、開けると――山があった。高くそびえ立つ山岳。それを掴んだ自分の手。視線を更に上に向けると――頬を上気させ、ハァ、と艶やかな息を吐き、ピクリと肩を震わせる瑠那――ではなく、赤馬 日美香と目が合った。

 

「……駄目、ですわ。私には、夫と息子が……っ!」

 

「……り、立派なものをお持ちで……」

 

エロい状況なのだが、酷い目眩を覚えるのは何故。コナミは直ぐ様手を放し、膝枕してくれていたであろう日美香から離れる。日美香が何故か名残惜しそうに「あっ……」と声を漏らすが聞かなかった事にしておく。

立ち上がり、帽子を被り直すと――今度はニヤニヤとコーヒーカップを持ちながらこちらに笑みを向ける瑠那と、その背後に隠れ、ビクビクと怯えながら目を向ける零羅と目が合った。

 

「……」

 

「……」

 

「こら、零羅を睨んでんじゃないわよ。マナーモードみたいに震えてんじゃないの」

 

「何故お前じゃないんだお前じゃ。しかし零羅……?ああ、赤馬の」

 

何故膝枕をしているのが瑠那じゃないのかとぶつくさと言いながら、コナミはじっ、と零羅を見る。すると零羅がビクゥッと肩を震わせ、3歩程後退する。……どうやら怯えられているようだ。権現坂や月影達に対する態度とは全く違う。少し面白くなって来た。コナミはジリッ、とゆっくり零羅に近づく。

 

「ッ……!」

 

すると零羅もゆっくりと後退する。面白い。猫か何かの小動物のようだ。

 

「……」

 

「ッ……!」

 

「……何をしているんだ貴様等は……」

 

するとコナミの背後から呆れたような声がかけられる。反射的にコナミが振り向くと、そこにいたのは――。

 

「ユ○黒咲……」

 

「誰がユ○黒咲だ」

 

何時ものコートとスカーフのレジスタンススタイルではなく、ラフな衣装に身を包んだ、黒咲 隼だった。

 

「どうしたの隼?こんな所で」

 

「ああ、沢渡とのデュエルが終わったから少し休憩にな。お前は……今日も赤馬とデュエルか。それで、結果は?」

 

「今日も全敗よ。良いトコまで行っても勝ちまではどうしても漕ぎ着けないって感じね」

 

「やはりか……おい、赤いの」

 

今日もコナミが零児に全敗したと聞き、溜め息をつく隼。どうやら彼なりにもコナミの事を心配してくれているようだ。接点は余りないように見えるが。

 

「丁度沢渡の相手には飽きていた所だ。俺としても赤馬には一泡吹かせてやりたいしな。お前を鍛えてやる」

 

「……何……?」

 

突然コナミに挑戦を叩きつけ、ついて来いと促す隼。しかしコナミには何故彼がコナミにそこまでしてくれるのか、見当もつかない。すると隼はコナミの表情から察したのか、ムスッとした表情となる。

 

「……勘違いするな、お前がランサーズに入らないと、遊矢が悲しむ。それに――仲間には手を差し伸べるのは、当然だ」

 

そう言ってコナミから視線を外し、ツカツカとデュエルコートまで歩んでいく隼。彼も、遊矢とのデュエルで変わったと言う事だろう。誰かを信頼し、手を差し伸べる。それは今までの彼では想像もつかない事だ。良い方向に変わった仲間を見て、瑠那がフッ、と微笑む。

 

「……隼、貴方疲れてるのよ」

 

「どう言う意味だ」

 

どうにも瑠那には、綺麗な黒咲と言うのは気味が悪かった。だからと言ってこの態度は無いだろうが。

 

――――――

 

「……そう言えば、お前とデュエルをするのも、こうして話すのも初めてか」

 

「……フン、俺は初めてと言う気分では無いがな」

 

そんなこんなでLDSデュエルコート。コナミはまたこの場所に舞い戻っていた。眼前にはデュエルディスクを構える隼。

見た目的にはラフな姿に加え、眉根の皺も取れ、張りつめた空気も無い。正に綺麗な黒咲。だが――実力はむしろ、上がっている。やらなきゃいけない事をやる人間と、やりたい事をやる人間では心の有り様が違うだろう。

 

「お前とは1度デュエルがしたかった」

 

「そうか、俺もだ……!」

 

たがいに歯と闘志を剥き出しにして、デュエルディスクを構える。準備は万端、管制室に待機した瑠那はそれを見てアクションフィールドを展開させる――その前に、背後でちょこんと白衣の裾を掴む零羅へと視線を移し、優しく微笑みかける。

 

「見ていなさい零羅。きっとコナミのデュエルは貴方のデュエルの良い刺激になる筈よ」

 

「……うん」

 

「良い子ね。じゃあ、アクションフィールド、展開!」

 

カチリ、瑠那がボタンを押すと共にリアルソリッドビジョン投影器が起動し、音を立てて光の粒子がフィールドを塗り替え、球状のドームが出現する。アクションフィールド、『エクシーズ・テリトリー』。隼にとって有利に働くフィールドだ。

 

「闘いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

互いにアクションデュエルの口上を紡ぎ、その闘志を燃やしていく。早くデュエルがやりたくて堪らない。その表情からもそれが窺える。

 

「「アクショーン……デュエル!!」」

 

先攻はコナミだ。トレードマークの赤帽子を被り直し、上から装着したゴーグルをバチリとゴムを引っ張り、手を離す。デッキから5枚のカードを引き抜き、直ぐ様戦術を練る。相手は零児に匹敵する実力者だ。警戒を抱きながらも1枚のカードを翳し、デュエルディスクに叩きつける。

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップから10枚のカードを除外、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札4→6

 

「魔法カード、『手札抹殺』!互いに手札を捨て、その枚数分をドロー。オレはここにアクションカードを加える。オレは『クリバンデット』を召喚」

 

クリバンデット 攻撃力1000

 

召喚されたのは黄色いスカーフを頭に巻き、眼帯を装着した、鋭い目付きの小さな毛むくじゃらの悪魔。コナミのデッキではキーとなるカードだ。初手で引き込めたのは大きい。

 

「まだだ、手札から2枚の『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

お次は得意のペンデュラム。しかも自身をエクストラデッキに溜めつつデッキから異なる『魔術師』に変化出来る強力なカードだ。この3枚が来ただけで良い手札だが――。

 

「2枚の慧眼を破壊し、デッキから『貴竜の魔術師』と『賤竜の魔術師』をセッティング!揺れろ、光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!2体の『慧眼の魔術師』!『E・HEROシャドー・ミスト』!」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500×2

 

E・HEROシャドー・ミスト 攻撃力1000

 

コナミのデュエルディスクの両端に、紅玉と翠玉の『魔術師』が設置され、その中心へ向かうように虹色の光が灯る。同時に背後に2つの柱が昇り、中にいる2体の『魔術師』が扇と音叉を振るい、上空に光の線が幾重も結ばれ、魔方陣が描かれる。そして振り子が揺れると共に魔方陣に孔が開き、3本の光が地に降りる。光の粒子が舞い散り、現れたのは2体の秤を持った銀髪の『魔術師』と美しい青髪を靡かせた黒い鎧の『HERO』だ。

 

「そして魔法カード、『モンスターゲート』!シャドー・ミストをリリースし、モンスターが出るまでデッキの上からカードを墓地に送る!1枚目!『スキル・サクセサー』!2枚目!『ギャラクシー・サイクロン』!3枚目!『スキル・プリズナー』!4枚目!『光の護封霊剣』!5枚目!『ダメージ・ダイエット』!6枚目!『光の護封霊剣』!7枚目!『相克の魔術師』!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

6枚ものカードを墓地に落とし、7枚目に選ばれた大剣を持った『魔術師』が現れる。とんでもない豪運だ。しかしここまでやらなければ隼を倒すなど、到底出来ない。

 

「シャドー・ミストの効果でデッキの『E・HEROエアーマン』をサーチ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる、白き翼に望みを託せ、現れろ!No.39!エクシーズ召喚!希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

コナミの眼前の地に渦が広がり、星々の輝きを見せるその中へと『慧眼の魔術師』が光の線となって飛び込み、渦は集束、小爆発を起こし、1体のモンスターが姿を見せる。

純白の翼を広げ、黄金の鎧を纏い、左肩に39の紋様を刻んだ希望の皇。彼は腰に携えた2刀を引き抜き、自らの名を高らかに叫ぶ。

 

「ホープ……」

 

「更にここで魔法カード、『光の護封剣』を発動し、ターンエンドだ。この瞬間、『クリバンデット』をリリースし、デッキの上から5枚を捲り、『ブレイクスルー・スキル』を手札に。墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ」

 

コナミ LP4000

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)

『光の護封剣』

Pゾーン『貴竜の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札3

 

フィールドには攻撃力2500のモンスターが2体、その内1体は攻撃を2回まで防ぎ、『光の護封剣』まである。消費した手札も3枚まで回復。しかも墓地には大量の墓地発動が可能なカード。今回は何時もに増してデッキが回りに回っている。

 

「俺のターン、ドロー!やるな……!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!」

 

黒咲 隼 手札5→7

 

「『ネクロフェイス』を召喚!」

 

ネクロフェイス 攻撃力1200

 

「召喚時、互いに除外されたカードをデッキに戻し、その数×100攻撃力をアップ!」

 

ネクロフェイス 攻撃力1200→3200

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『ネクロフェイス』をデッキに戻してドロー!」

 

黒咲 隼 手札6→7

 

「魔法カード、『二重召喚』を発動。新たに得た召喚権で俺は『RR―バニシング・レイニアス』を召喚!」

 

RR―バニシング・レイニアス 攻撃力1300

 

隼のターンに移り、手札から現れたのは深緑に彩られた機械鳥。『RR』専用の『切り込み隊長』と言えるカードであり、その重要性も然りだ。天へ羽ばたくと同時に囀り、仲間を呼び込む。

 

「バニシング・レイニアスの効果で手札の『RR―トリビュート・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RR―トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

次は青いボディ持ち、ファンネルを周囲に待機させた機械鳥。これでレベル4のモンスターが2体。相変わらずの手腕である。

 

「トリビュート・レイニアスの効果でデッキの『RR―ミミクリー・レイニアス』を墓地に送り、ミミクリー・レイニアスの効果で自身を除外し、『RR―レディネス』をサーチ!そして永続魔法、『RR―ネスト』を発動!デッキから『RR―ファジー・レイニアス』をサーチ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実を暴き、鋭い鉤爪で栄光をもぎ取れ!エクシーズ召喚!飛来せよ!『RR―フォース・ストリクス』!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000

 

2体のモンスターが光となって天上で交差し、新たなモンスターを生み出す。姿を見せたのは梟型の『RR』。小さな体躯だが、その効果は実に優秀だ。

 

「フォース・ストリクスのORUを1つ取り除き、デッキから『RR―シンギング・レイニアス』をサーチし、特殊召喚!」

 

RR―シンギング・レイニアス 守備力100

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000→2500

 

次に現れたのは黒い猛禽。特殊召喚が容易な為、重宝するカードだ。

 

「そして『RR―ファジー・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RR―ファジー・レイニアス 守備力1500

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2500→3000

 

お次は紫の翼を翻した猛禽。これで再びレベル4が2体。しかし隼は手を止める事なく次に繋げていく。

 

「シンギング・レイニアスを対象に手札の『RR―ペイン・レイニアス』の効果発動!対象の攻撃力分のダメージを受け、このモンスターを特殊召喚し、レベルをシンギング・レイニアスと同じにする!」

 

黒咲 隼 LP4000→3900

 

RR―ペイン・レイニアス 守備力1000 レベル1→4

 

RR―フォース・ストリクス 守備力3000→3500

 

100のダメージを受ける代わりに、更なるモンスターを特殊召喚、そして――。

 

「ダメージを受けた事で手札の『RR―アベンジ・ヴァルチャー』を特殊召喚!」

 

RR―アベンジ・ヴァルチャー 守備力100

 

RR―フォース・ストリクス 守備力3500→4000

 

天上で羽ばたく4体目の『RR』。禿鷲をモチーフとしたモンスターだ。これでレベル4が4体。とんでもない展開力、『RR』の扱いにおいて、この男の右に出るものはいない。

 

「シンギング・レイニアスとファジー・レイニアスでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RR―フォース・ストリクス』!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000→3500×2

 

「まだだ!残るペイン・レイニアスとアベンジ・ヴァルチャーでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RR―フォース・ストリクス』!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000→3000×3

 

天空に並ぶ3体のフォース・ストリクス。群れなして現れる梟を前に、コナミがゴクリと喉を鳴らす。ワンターンスリーストリクス。毎回の如く初めのターンでこの布陣を敷くこの男はやはり手強い。しかも手札にはレディネス。余りのガチッぷりに瑠那が引く。

 

「何度も何度も初手フォース・ストリクス3体……他の手を知らないの?あいつは」

 

「2体のフォース・ストリクスの効果発動!ORUを取り除き、デッキから『RR―バニシング・レイニアス』と『RR―ミミクリー・レイニアス』をサーチ!更に墓地に送られたファジー・レイニアスの効果で同名カードをサーチ!」

 

サーチに次ぐサーチ。何かがおかしい。フィールドに3体のエクシーズモンスターを召喚しておいて全く手札が減っていない。コナミも相当だが、流石にここまではしていない。一体何がこの男をこれ程までにサーチに駆り立てるのだろうか。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ。『シャッフル・リボーン』の効果でアクションカードを除外」

 

黒咲 隼 LP3900

フィールド『RR―フォース・ストリクス』(守備表示)×3

『RR―ネスト』セット2

手札4

 

長いターンが終了し、コナミへと移る。隼のフィールドは万全と言って良い。せめてもの救いはほとんどが公開されている手札と言う事か。恐らくはセットされたカードの1枚はレディネスである事と4枚の手札の内、3枚はサーチを重ねた、『RR―バニシング・レイニアス』、『RR―ファジー・レイニアス』、『RR―ミミクリー・レイニアス』の3枚。今の布陣が崩されてもリカバリー出来るように展開出来るカードを引き込んだのだろう。

 

「オレのターン、ドロー!まずは墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外し、『RR―ネスト』を破壊!そして『E・HEROエアーマン』を召喚!」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

『ギャラクシー・サイクロン』でサーチ、サルベージを潰し、コナミが召喚したのは背にファンの翼を伸ばした青い『HERO』モンスター。『HERO』モンスターの中でもシャドー・ミストと並んで優秀、かつ必須となるカードだ。

 

「エアーマンの召喚時、デッキから『E・HEROブレイズマン』をサーチ!ホープに『妖刀竹光』を装備し、魔法カード、『黄金色の竹光』でドロー!もう1枚だ!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→4→5

 

「ペンデュラム召喚!『E・HEROブレイズマン』!」

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

振り子の軌跡を描き、フィールドに現れたのは炎の鬣を靡かせた真紅の『HERO』。コナミが最も重宝している『HERO』だ。彼の融合召喚の中核を担っていると言っても過言では無い。

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ!そのまま発動!フィールドの『E・HEROエアーマン』と『E・HEROブレイズマン』で融合!融合召喚!『E・HERO Great TORNADO』!」

 

E・HERO Great TORNADO 攻撃力2800

 

コナミの背後に青とオレンジ、2色の渦が広がり、2体の『HERO』が混じり合う。そして中より荒れ狂う突風が吹き、竜巻となって隼のフィールドを呑み込む。風を引き裂き、姿を見せたのは黒いマントを揺らした風の『HERO』。コナミの持つ融合モンスターの中でも使用率の高いカードだ。最近では『スターダスト・チャージ・ウォリアー』と共に見事な連携を見せている。

 

「Great TORNADOの効果でお前のモンスターの攻守を半減する!タウンバースト!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力3000→1500×3

 

Great TORNADOが風を巻き上げて束ね、天空に並ぶ3体のフォース・ストリクスへと食らわせる。1つになり、巨大な竜のアギトと化したそれはフォース・ストリクスの羽をボロボロに傷つかせ、地へと降り落とす。見事な打開方、自身の効果で守備力を上げたフォース・ストリクスを弱体化させたが――。

 

「魔法カード、『ホープ・オブ・フィフス』!墓地の『E・HERO』5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札3→5

 

「バトル!ホープでフォース・ストリクスへ攻撃!」

 

「罠カード、『RR―レディネス』を発動!このターン、『RR』は破壊されない!」

 

隼にはこの防御札がある。これがある限り、攻撃は隼には届かない。

 

「チッ、カードを3枚セットし、ターンエンドだ」

 

コナミ LP4000

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『E・HERO Great TORNADO』(攻撃表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)

『妖刀竹光』『光の護封剣』セット3

Pゾーン『貴竜の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札2

 

コナミのターンが終了すると同時に3体のフォース・ストリクスの傷が修復され、再び天へと羽ばたく。Great TORNADOの全体弱体化効果は1ターンしか続かない。次のターンは別の手を取らなければならないと言う事だ。勝負を急ぎ過ぎた。

 

「俺のターン、ドロー!3体のフォース・ストリクスのORUを取り除き、効果発動!デッキから『RR―バニシング・レイニアス』、『RR―ブースター・ストリクス』、『RR―トリビュート・レイニアス』をサーチする!魔法カード、『闇の誘惑』!カードを2枚ドロー!」

 

「罠発動、『撹乱作戦』!相手の手札を交換させる!」

 

黒咲 隼 手札7→9

 

「その後手札の闇属性モンスター、『ダーク・クリエイター』を除外、そして『RUM―レイド・フォース』を発動!フォース・ストリクスをランクが1つ上のモンスターへとランクアップさせる!」

 

「ッ!手札から『増殖するG』を捨てる!」

 

「構わん!1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!勇猛なるハヤブサよ。激戦を切り抜けしその翼翻し寄せ来る敵を打ち破れ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR―ブレイズ・ファルコン』!」

 

RR―ブレイズ・ファルコン 攻撃力1000

 

フォース・ストリクスが天高く羽ばたき、その翼を炎が舐めるように燃え上がる。その小さな身体を成長させ、赤い尾を伸ばして一筋の閃光がフィールドを駆ける。灼熱の炎を散らし、姿を変えるフォース・ストリクス。その名はブレイズ・ファルコン。新たなカードが、コナミの前に立ち塞がる。

 

「『増殖するG』で1枚ドロー!」

 

コナミ 手札1→2

 

「ブレイズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、お前の特殊召喚されたモンスターを全て破壊!そしてその数×500のダメージを与える!」

 

「罠発動!『ブレイクスルー・スキル』!ブレイズ・ファルコンの効果を無効にする!」

 

「ならば魔法カード、『RUM―スキップ・フォース』を発動!ブレイズ・ファルコンを対象に、ランクが2つ高い『RR』へとランクアップする!1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR―アーセナル・ファルコン』!」

 

RR―アーセナル・ファルコン 攻撃力2500

 

コナミ 手札2→3

 

「召喚時、オレは永続罠、『安全地帯』を発動!アーセナル・ファルコンを選択!」

 

ブレイズ・ファルコンの効果が無効化され、隼が次に取った手は更なるランクアップ。それによってブレイズ・ファルコンの姿が淡く輝き、真紅の双翼が巨大化し、大型の猛禽へと進化する。現れたのはランク7、攻撃力2500と『RR』では珍しいモンスターだ。

 

「アーセナル・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!デッキから『RR―ネクロ・ヴァルチャー』を特殊召喚!」

 

RR―ネクロ・ヴァルチャー 守備力1600

 

RR―フォース・ストリクス 守備力3000→3500×2

 

コナミ 手札3→4

 

アーセナル・ファルコンの翼から弾丸のような物が撃ち出され、空中で分解して中から紫色の機械鳥が羽ばたく。ORUを使い、デッキからレベル4の鳥獣族を特殊召喚する強力な効果。召喚権を使わない展開だけで美味いのだが、デメリットが無い為、更に扱いやすい。

 

「そしてネクロ・ヴァルチャーをリリースし、墓地の『RUM―レイド・フォース』を回収し、フォース・ストリクスに発動!1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR―ブレイズ・ファルコン』!」

 

RR―ブレイズ・ファルコン 攻撃力1000

 

コナミ 手札4→5

 

「ブレイズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!」

 

「墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、効果ダメージを半減する!」

 

コナミ LP4000→3250

 

ブレイズ・ファルコンの双翼よりミサイルが撃ち出され、コナミのフィールドのモンスターに襲いかかる。折角『ブレイクスルー・スキル』で1度防いだのにこれでは水の泡だ。

 

「墓地に送られた『妖刀竹光』の効果、『黄金色の竹光』をサーチ」

 

「墓地の『RUM―レイド・フォース』と手札の『RR―バニシング・レイニアス』を除外し、『RUM―スキップ・フォース』を回収し、発動!ブレイズ・ファルコン1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR―アーセナル・ファルコン』!」

 

RR―アーセナル・ファルコン 攻撃力2500

 

コナミ 手札6→7

 

このターン、4回目のランクアップ。とんでもない速度でランクアップしていく男だ。一体何がそうさせるのか、ネクロ・ヴァルチャーのデメリットでさえ、彼を拘束出来ない。しかもアーセナル・ファルコンで再びネクロ・ヴァルチャーを出せば5回目のランクアップも可能となる、が――。

 

「安心しろ、このターンはここまでだ。あまり貴様に手札を渡したくもないしな。俺はこれでターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP3900

フィールド『RR―アーセナル・ファルコン』(攻撃表示)×2『RR―フォース・ストリクス』(守備表示)

セット1

手札5

 

「オレのターン、ドロー!」

 

これでコナミの手札は8枚。余り手札を渡したくないと言ったが、これでは1枚増えた所で変わらない。これだけあれば充分巻き返せるだろう。

 

「墓地の『置換融合』を除外し、Great TORNADOをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

コナミ 手札8→9

 

「ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!『刻剣の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!『E・HEROフォレストマン』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

E・HEROフォレストマン 守備力2000

 

3度目のペンデュラム召喚。コナミのフィールドに4本の柱が降り注ぎ、轟音を鳴らしてその姿を現す。剣を持った青年と少年、2体の『魔術師』に炎と樹、2体の『HERO』。計4体のモンスターだ。

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ!そして刻剣とORUを持ったアーセナル・ファルコンを除外!」

 

「チッ!」

 

コナミからすれば最も攻撃力が高く、展開効果が残っているモンスターを除去したに過ぎないが、隼にとっては少し事情が異なる。アーセナル・ファルコンはORUを持った状態で墓地に送られればエクストラデッキの自身以外の『RR』を特殊召喚する効果がある。これで『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』か『RR―アルティメット・ファルコン』を特殊召喚しようとしたのだが――これでは不発だ。

 

「『ジェット・シンクロン』を召喚!」

 

ジェット・シンクロン 攻撃力500

 

次は青と白のカラーリングのジェットエンジンを模したチューナーモンスターだ。優秀なレベル1チューナーであり、『ジャンク・コレクター』をサーチする為の手段としてデッキに投入している。

 

「レベル4の『竜脈の魔術師』にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『ジェット・ウォリアー』!」

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力2100

 

重厚な漆黒のボディを煌めかせ、コナミのフィールドにジェット機を模した機械戦士が足のブレードで地を削りながら降り立つ。更に背部より火炎を吹かせ、アーセナル・ファルコンへと向かい、猛スピードで突進する。

 

「『ジェット・ウォリアー』の効果でアーセナル・ファルコンをバウンス!そして『ジェット・シンクロン』の効果で『ジャンク・コレクター』をサーチ!更に『置換融合』を発動!フィールドの『E・HEROフォレストマン』と『E・HEROブレイズマン』で融合!融合召喚!『E・HEROノヴァマスター』!」

 

E・HEROノヴァマスター 攻撃力2600

 

ここで登場したのは赤と金の鎧に身を包み、マントを揺らした炎の『HERO』。融合『HERO』の中でもコナミが余り使用していないカードだ。理由はその属性と効果にあるのだろう。何とも不憫である。

 

「バトル!ノヴァマスターでフォース・ストリクスを攻撃!そしてノヴァマスターがモンスターを戦闘破壊した事で1枚ドロー!」

 

コナミ 手札5→6

 

ノヴァマスターがその手に炎を集束し、灼熱の剣を生成、フォース・ストリクスを切り裂く。これで隼のフィールドはがら空き。即座に2体目の炎の戦士に指示を出そうとしたその時――。

 

「速攻魔法、『RUM―デス・ダブル・フォース』を発動!破壊されたフォース・ストリクスを、倍のランクを持つエクシーズへとランクアップする!1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!勇猛果敢なるハヤブサよ。怒りの炎を巻き上げ、大地をも焼き尽くす閃光となれ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!飛翔しろ!『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』!」

 

RR―サテライト・キャノン・ファルコン 攻撃力3000

 

まさかのランクアップ。天空より飛翔し、翡翠の光を放つ純白の猛禽がコナミの行方を遮る。攻撃力3000、これでは迎撃は出来ない。しかも――。

 

「サテライト・キャノン・ファルコンの効果でお前の魔法、罠カードを破壊する!」

 

「ッ!ペンデュラムと『光の護封剣』、……持っていってくれる……!」

 

チェーン発動を許さぬ『ハーピィの羽帚』。サテライト・キャノン・ファルコンの放つ熱戦により、全ての小細工は焼き尽くされ、焦土と化す。コナミの武器を破壊されてしまった。

 

「クッ……!カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

コナミ LP3250

フィールド『E・HEROノヴァマスター』(攻撃表示)『ジェット・ウォリアー』(攻撃表示)

セット2

手札4

 

息もつかせぬ熱きデュエル。互いに譲れぬカードの応酬を見て、管制室の零羅が本来の幼い子供としてキラキラと目を輝かせる。どちらが勝つのか分からない激闘に、彼もやはりデュエリストだからか無性にワクワクしているのだろう。

そんな零羅を見て、瑠那もまた微笑む。彼女とてこのデュエルを楽しんでいる。それと同時に、隼の変化にも驚いている。今までの隼ならば、ムスリとした表情で坦々とデュエルをしていただろうが、今は口元を吊り上げ、好戦的な笑みを貼りつけ、幼子のように楽しんでいる。

 

コナミの猛攻を凌ぎ、次は隼のターン、彼はデッキより1枚のカードを勢い良く引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

勝利の女神が微笑むのは、どちらか。

 




4月から忙しくなるので次の更新は不定期です。早くなるか遅くなるか、どちらにせよ一週間投稿は続けたいと思っています。多分今まで通りだと思いますが何とも。


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第84話 ランクが違う

ふとエクゾディアと激流葬のおねしょコンボを思い出し、そこに○ンチホープを入れてみたらどうだろうと思った。クッソアホらしくなって月光を組む事にしました。


激しさを増すコナミ対黒咲 隼のデュエル。コナミのフィールドには炎属性の融合『HERO』とシンクロ『ウォリアー』モンスター、『E・HEROノヴァマスター』と『ジェット・ウォリアー』。対する隼は全てを焼き払うランク8のエクシーズモンスター、『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』が1体。数はコナミが有利だが、攻撃力、効果共に隼が上。ここからどう出るか、隼はその手札を駆使し、更なる展開へと手を進める。

 

「速攻魔法、『リロード』!アクションカードを手札を交換し、『RR―バニシング・レイニアス』を召喚!」

 

RR―バニシング・レイニアス 攻撃力1300

 

「効果で『RR―トリビュート・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RR―トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

「効果で『RR―ミミクリー・レイニアス』を墓地に送り、除外、デッキから2枚目のレディネスをサーチする。そして『RR―ファジー・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RR―ファジー・レイニアス 守備力1500

 

これで隼のフィールドにはレベル4の鳥獣族モンスターが3体。フォース・ストリクスを全て使い切っている事を考えると、次の展開も読めるだろう。

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!雌伏のハヤブサよ。逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ!エクシーズ召喚!現れろ!『RR―ライズ・ファルコン』!」

 

RR―ライズ・ファルコン 攻撃力100

 

隼の前に渦が広がり、3体のモンスターが光となって吸い込まれていく。そして集束、小爆発を起こし、巻き起こる白煙を引き裂き、中より一羽の猛禽が飛翔する。

青き体躯、そして身体の半分以上ある爪を閃かせ、両翼を広げて甲高い囀りを響かせる。

 

「魔法カード、『エクシーズ・ギフト』!ライズ・ファルコンのORUを2つ取り除き、2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札3→5

 

「カードを3枚セット、魔法カード、『終わりの始まり』!墓地の闇属性モンスターを5体除外して3枚ドロー!更に速攻魔法、『連続魔法』!手札のアクションカードを捨て、『終わりの始まり』をコピー、合計6枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札0→6

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換、ライズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!ノヴァマスターの攻撃力をライズ・ファルコンへ加える!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、それを防ぐ!」

 

3体のモンスターを要求し、1ターンに1度の攻撃力奪取と全体攻撃を兼ねたモンスター。余り割りにあっていない気もするが、爆発力は抜群だ。こうして止められてしまえば的となるが――。

 

「更にチェーン!サテライト・キャノン・ファルコンのORUを1つ取り除き、ノヴァマスターの攻撃力を墓地の『RR』の数×800ダウン!」

 

E・HEROノヴァマスター 攻撃力2600→0

 

墓地に眠る猛禽達の影がサテライト・キャノン・ファルコンへと重なり、その砲門から撃ち出され、何体もの『RR』達がノヴァマスターを貫こうとする。炎をも焼き焦がす光の嵐。迫る閃光。これでノヴァマスターは無力化した。

 

「墓地に送られたファジー・レイニアスの効果で同名をサーチ!バトルだ!サテライト・キャノン・ファルコンで『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』に攻撃!エターナル・アベンジ!」

 

「手札の『虹クリボー』をサテライト・キャノン・ファルコンに装備し、攻撃を封じる!」

 

サテライト・キャノン・ファルコンが天高く上昇し、雲を突き抜け、大気圏をも突破し、星が浮かぶ宇宙空間で翼を翻す。更に背部から火炎を吹かせ、Rの文字が背中合わせになるような、『RR』特有の紋章をした翼となる。

翡翠の光が砲門に集束し、一気に発射。放たれた熱線は雷の如く降り注ぎ、大地ごと『オッドアイズ』を焼き尽くさんとする。

しかしコナミの前に虹色の角を持った『クリボー』が現れ、光を反射してコナミを守る。

 

「ライズ・ファルコンでノヴァマスターへ攻撃!ブレイブクローレボリューション!」

 

RRーライズ・ファルコン 攻撃力100→900

 

コナミ LP3250→2350

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP3900

フィールド『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』(攻撃表示)『RR―ライズ・ファルコン』(攻撃表示)

セット5

手札4

 

「オレのターン、ドロー!刻剣とアーセナル・ファルコンがフィールドに戻る」

 

「トリプル罠発動、『RRーレディネス』!『RR』の戦闘破壊を防ぎ、2枚の『五稜星の呪縛』で刻剣と『ジェット・ウォリアー』のリリースとシンクロ素材への使用を封じる!更に永続罠発動、『虚無空間』!特殊召喚を不可能に!」

 

「墓地の『置換融合』を除外、『E・HEROノヴァマスター』をエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

コナミ 手札4→5

 

「魔法カード、『アームズ・ホール』!デッキトップをコストに『妖刀竹光』をサーチ。『ジェット・ウォリアー』に装備し、魔法カード、『黄金色の竹光』!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札4→6

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換。魔法カード、『地砕き』!サテライト・ファルコンを破壊し、『虚無空間』が自壊する!そして刻剣の効果でこのカードとライズ・ファルコン除外!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外、その効果を無効に!」

 

「ならば『竜穴の魔術師』と『曲芸の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『相克の魔術師』!『賤竜の魔術師』!『ジャンク・コレクター』!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

ジャンク・コレクター 守備力2200

 

強力なエクシーズモンスターを召喚する隼に対し、コナミも負けじとペンデュラムで対抗する。現れたのは2体の『魔術師』と収集者。剣を構えた『相克の魔術師』と浅黒い肌に目付きの鋭い扇を振るう『魔術師』に身体中に包帯を巻き付け、ハットを被った『ジャンク・コレクター』だ。

 

「『ジャンク・コレクター』……来るか……!」

 

「まずは賤竜の効果で墓地の慧眼を回収!話が早くて助かるな!『ジャンク・コレクター』と墓地の『エレメンタルバースト』を除外し、その効果を発動!相手フィールドのカードを全て破壊!」

 

「速攻魔法、『皆既日蝕の書』!全てのモンスターをセット状態に!」

 

コナミ最強の除去カードが発動される。大地が隆起し、地が槍のように突き出し、何本もの火柱が上がる。更に巨大な津波と激しい竜巻が吹き荒れ、隼のフィールドのカードを全て砕く。これで隼のフィールドはがら空き、更地にされてしまった。

 

「ここまでやられると呆れて物も言えんな……!」

 

「良く言う、ここまでして攻撃が届かん癖に。速攻魔法、『緊急テレポート』!デッキから『クレボンス』を特殊召喚!」

 

クレボンス 守備力400

 

「『ジェット・ウォリアー』と刻剣を反転召喚。オレはレベル5の『ジェット・ウォリアー』にレベル2の『クレボンス』をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

更なる展開。コナミが右手を翳すと共に『クレボンス』の身体が弾け飛び、ライトグリーンのリングとなって『ジェット・ウォリアー』を吸い込む。そして閃光がリングごと貫き、新たに現れた真紅の竜が降り立つ。震撼する大地を踏み抜き、燃えるマグマを流し込む『オッドアイズ』の竜。

 

「メテオバーストの効果でペンデュラムゾーンの『竜穴の魔術師』を特殊召喚!『妖刀竹光』の効果で『魂を吸う竹光』をサーチ!」

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

コナミの背後で輝く柱の1つが火炎に包まれ、粉砕される。そして中より錫杖を持った『魔術師』が飛び出し、メテオバーストの背に降り立つ。これで、レベル7のモンスターが2体。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800

 

竜穴の身体が水となって溶け、炎の竜を包み、水は凍てついて竜の体躯を氷結させる。そして竜は雄叫びを上げて氷を砕き、青銀の鎧を纏って復活する。

 

「バトルだ!アブソリュートでダイレクトアタック!」

 

「墓地のレディネスを除外し、このターン受けるダメージを0に!」

 

「ふ、刻剣の効果でこのカードと相克を除外、ターンエンドだ。『皆既日蝕の書』の効果で賤竜が表となり、カードを1枚ドロー」

 

コナミ 手札2→3

 

コナミ LP2350

フィールド『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(守備表示)

セット1

Pゾーン『曲芸の魔術師』

手札3

 

「俺のターン、ドロー!俺は墓地の『RUM―スキップ・フォース』と『RR―バニシング・レイニアス』を除外し、墓地の『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』を復活させる!」

 

RR―サテライト・キャノン・ファルコン 攻撃力3000

 

「魔法カード、『エクシーズ・トレジャー』!フィールドのエクシーズモンスターの数だけドロー!」

 

黒咲 隼 手札4→6

 

「魔法カード、『終わりの始まり』発動!墓地の『RR―バニシング・レイニアス』、『RR―トリビュート・レイニアス』、『RR―ペイン・レイニアス』、『RR―シンギング・レイニアス』、『RR―ファジー・レイニアス』を除外、3枚ドロー!」

 

黒咲 隼 5→8

 

「魔法カード、『ハーピィの羽帚』!」

 

「ぐっ……!」

 

「速攻魔法、『スペース・サイクロン』!アブソリュートのORUを1つ取り除く。俺は『RR―トリビュート・レイニアス』を召喚!」

 

RR―トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

「その効果で3枚目のミミクリー・レイニアスを墓地へ落とし、除外して『RR―レディネス』をサーチ!バトルだ!トリビュート・レイニアスで賤竜へ攻撃!」

 

「『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』のORUを1つ取り除き、その攻撃を無効に!墓地から『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』を特殊召喚!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 守備力2000

 

隼の指示を受け、トリビュート・レイニアスが空へ飛び立ち、青く輝くファンネルからビームを飛ばす。賤竜を狙った攻撃。しかしコナミはそれを通すまいと右手を突き出し、それに呼応した氷の竜が結晶のバリアを展開し、ビームを弾く。そして大地が隆起し、真紅の竜が呼び覚まされる。

 

「かわすか……サテライト・キャノン・ファルコンでメテオバーストへ攻撃!」

 

「くっ!」

 

「メインフェイズ2、俺はカードを4枚セットし、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP3900

フィールド『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』(攻撃表示)『RR―トリビュート・レイニアス』(攻撃表示)

セット4

手札2

 

「オレのターン、ドロー!スタンバイフェイズ、刻剣と相克がフィールドに戻る。魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!」

 

コナミ 手札3→5

 

「魔法カード、『名推理』!」

 

「手札の『増殖するG』を捨てる!レベル4を宣言だ!」

 

「3枚のカードが墓地へ送られ、『バイサー・ショック』を特殊召喚!」

 

バイサー・ショック 守備力600

 

黒咲 隼 手札1→2

 

「バイサー・ショックの効果発動!セットカードをバウンス!」

 

「罠発動、『ゴーゴンの眼』!守備表示モンスターの効果を無効に!」

 

「刻剣とサテライト・キャノン・ファルコンを除外!そして慧眼と『相克の魔術師』でスケールをセッティング!慧眼を破壊し、『竜穴の魔術師』をセッティング!手札を1枚捨て、墓地の『ジェット・シンクロン』を蘇生!」

 

ジェット・シンクロン 守備力0

 

黒咲 隼 手札2→3

 

「相克を反転召喚し、レベル7の相克にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!星海を切り裂く一筋の閃光よ!魂を震わし世界に轟け!シンクロ召喚!『閃光竜スターダスト』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

黒咲 隼 手札3→4

 

現れたるは星屑を纏いし純白の竜。穢れを感じさせない双翼を広げ、神々しく美しい輝きを背負うシンクロモンスターだ。

 

「ペンデュラム召喚!『相克の魔術師』!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

黒咲 隼 手札4→5

 

「カードをセット、賤竜を攻撃表示にし、バトル!アブソリュート・ドラゴンでトリビュート・レイニアスに攻撃!」

 

「速攻魔法、『RUM-レヴォリューション・フォース』を発動!アブソリュート・ドラゴンのコントロールを奪い、ランクが1つ上の『RR』へと進化させる!」

 

「何ッ!?」

 

コナミが残る隼のモンスターを破壊しようとしたその瞬間、隼はそれをも乗り越え、アブソリュートを奪い、更に進化させると言う暴挙に出る。貴重な戦力をエクシーズ素材にされると言う強力な除去。これに対する手立ては無く、アブソリュートの除去として正解と言える。

 

「1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』!」

 

RR―サテライト・キャノン・ファルコン 攻撃力3000

 

そして天空に飛翔する純白の猛禽。

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、サテライト・キャノン・ファルコンの効果を無効に!」

 

「ORUを取り除き、『スターダスト』の攻撃力をダウン!」

 

「させるか!更に墓地の『スキル・プリズナー』を除外、『スターダスト』を守る!」

 

「それがあったか……しくじったな……!」

 

「しくじってくれないと2枚も使ったこちらが困る!『スターダスト』でトリビュート・レイニアスへ攻撃!」

 

「手札のブースター・ストリクスを除外、攻撃モンスターを破壊する!」

 

「『スターダスト』の効果で自身を守る!」

 

「ダブル罠発動!『RR―レディネス』!『邪神の大災害』!戦闘破壊を防ぎ、互いの魔法、罠ゾーンのカードを破壊!ダメージの方は受ける!」

 

黒咲 隼 LP3900→3200

 

「破壊された『運命の発掘』の効果発動!墓地の『運命の発掘』の数だけドロー!枚数は3枚だ!」

 

コナミ 手札0→3

 

息もつかせぬカードの応酬。遥か上からこちらを見下ろす隼へと食らいつこうとコナミも必死に応戦する。隼はこのターンはダメージを防ごうとしない。恐らくはここで温存する事で、後に来るであろう強烈なダメージを防ごうと言うハラであろう。冷静な判断だ。『エクシーズ・テリトリー』がある以上、賤竜での追撃もかけないと考えたのだろうが――。

 

「賤竜と相克でトリビュート・レイニアスに追撃!」

 

「何――!?くっ、相克の攻撃時、手札の『RR―ブースター・ストリクス』を除外し、相克を破壊!」

 

「速攻魔法、『神秘の中華なべ』!相克をリリースし、その攻撃力をLPに変換!」

 

コナミ LP2350→4850

 

黒咲 隼 LP3200→2900

 

コナミは臆さず攻める。何か防ぐ手立てがあるのか、それとも考えなしなのか――いずれにせよ、やっとコナミが隼にまともにダメージを与えられた。予想以上に痛手を負った隼が舌打ちを鳴らす。

 

「お前の考えを見抜くなど最初から無理と言う事か……!面白い……!」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

コナミ LP4850

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)『曲芸の魔術師』(守備表示)『バイサー・ショック』(守備表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札3→5

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』で手札を入れ替える。さて……サテライト・キャノン・ファルコンを対象に、『RUM-スキップ・フォース』を発動!1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!究極至高のハヤブサよ。数多なる盟友の遺志を継ぎ、勝利の天空に飛び立て!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR―アルティメット・ファルコン』!!」

 

RR―アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

ついに姿を見せる黒咲 隼の切り札にして最強のモンスター。究極の名を刻み、漆黒に煌めく重厚なボディ、そして日輪を模した黄金の翼を翻し、胸に赤いコアを輝かせた神々しき猛禽。その雄々しくも美しい姿を目の前にし、コナミがゴクリと唾を飲み込む。攻撃力3500、脅威的な数値だ。

 

「アルティメット・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!お前のフィールドのモンスターの攻撃力を1000ダウンし、このターン、カードの効果を封じる!」

 

「『スターダスト』の効果で自身を守り、墓地の『仁王立ち』を除外、このターン『バイサー・ショック』以外への攻撃を封じる!更に罠発動、『積み上げる幸福』!カードを2枚ドロー!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500→1500

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100→1100

 

バイサー・ショック 攻撃力800→0

 

コナミ 手札1→3

 

「『RR―シンギング・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RR―シンギング・レイニアス 守備力100

 

「更に『RR―ファジー・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RR―ファジー・レイニアス 守備力1500

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RR―ライズ・ファルコン』!」

 

RR―ライズ・ファルコン 攻撃力100

 

「魔法カード、『エクシーズ・ギフト』!ライズ・ファルコンのORUを2つ取り除き、2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札0→2

 

「手札の『サンダー・ドラゴン』を捨て、デッキから2体の同名カードをサーチ。魔法カード、『手札抹殺』!アクションカードを含めて手札を交換。永続魔法、『禁止令』。『竜穴の魔術師』を宣言し、宣言カードのプレイを封じる。更にライズ・ファルコンのORUを取り除き、『スターダスト』の攻撃力を得る!」

 

RR―ライズ・ファルコン 攻撃力100→2600

 

「バトルへ移る!アルティメット・ファルコンで賤竜へ攻撃!ファイナル・グロリアス・ブライトォッ!!」

 

アルティメット・ファルコンの胸部に黒い稲妻がバチバチと囀り、集束して球体状のエネルギーを構成し、撃ち出される。圧倒的な力の奔流、当然それを受けた『賤竜の魔術師』が堪え切れる筈も無く、粉々に砕け散る。

 

「ぐっ――!」

 

コナミ LP4850→2450

 

「続いてライズ・ファルコンで『バイサー・ショック』を攻撃、カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP2900

フィールド『RR―アルティメット・ファルコン』(攻撃表示)『RR―ライズ・ファルコン』(攻撃表示)

『禁止令』セット2

手札0

 

「オレのターン、ドロー!この瞬間、刻剣とサテライト・キャノン・ファルコンはフィールドに戻る……アルティメット・ファルコン……聞いた話では効果を受けない完全耐性モンスターか。成程、究極の名に相応しい……!何時だって究極は倒しがいがある!」

 

「ぬかしたな!なら倒してみるといい!尤も、倒したとしても第2第3の究極がお前を倒す!」

 

まるで魔王のような台詞を言い放ちながらコナミを睨み、ニヤリと笑みを深める隼。やれるものならやってみろと言わんばかりの不適な表情に、コナミもまた好戦的な笑みを浮かべる。

 

「まずは刻剣とライズ・ファルコンを除外!『閃光竜スターダスト』をリリースし、手札の『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の効果発動!デッキの『オッドアイズ・ドラゴン』を墓地に送り、こいつを特殊召喚!!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

折角シンクロした『スターダスト』だが、アルティメット・ファルコンによって弱体化している今、その存在は逆にコナミを危うくする可能性がある。残念だがコナミは次の展開の糧とする事にした。

『スターダスト』が光の粒子となって散り、眩き閃光がフィールドを覆い尽くす。『スターダスト』の因子はまた再び別の配列を繋いで剣の竜へと生まれ変わる。

白銀の鎧を纏い、背から金色の剣を伸ばした2色の虹彩の竜。『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』。コナミを認め、友として闘ってくれる竜が姿を見せた。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』、『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』、『閃光竜スターダスト』、『No.39希望皇ホープ』、『慧眼の魔術師』の5枚をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→4

 

「永続罠、『便乗』!この後お前がドローフェイズ以外でドローする度に2枚ドローする!」

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップから10枚のカードを除外、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札3→5

 

黒咲 隼 手札0→2

 

「魔法カード、『ナイト・ショット』!セットカードを破壊!」

 

「墓地のレディネスを除外、このターンのダメージを防ぐ!更にチェーンして罠発動、『エクストラ・ゲート』!レベル3を宣言し、相手は宣言したレベルのモンスターをエクストラデッキから除外!」

 

「『貴竜の魔術師』を除外、魔法カード、『名推理』!」

 

「レベル7を宣言!」

 

「通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキトップからカードを墓地へ送り、宣言したレベルなら墓地へ、それ以外なら特殊召喚する!3枚のカードを墓地へ送り、特殊召喚!『賤竜の魔術師』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

「賤竜の効果により、墓地の『オッドアイズ・ドラゴン』を回収!」

 

「手札より『D.D.クロウ』を捨て、『オッドアイズ・ドラゴン』を除外!」

 

「魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』!エクストラデッキの『慧眼の魔術師』と『曲芸の魔術師』を回収し、セッティング!慧眼を破壊し、『貴竜の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!『慧眼の魔術師』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

振り子の軌跡を描き、現れた2体の『魔術師』モンスター。隼との戦力差はまだ開いてはいるが、開いているならつめてやるまでだ。

 

「バトル!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』でアルティメット・ファルコンを攻撃!墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、攻撃力を800アップ!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800→3600

 

僅か100のラインが溝を開く。完全耐性を持っているならば、戦闘で破壊を狙えば良い。至極シンプルな方法だ。攻撃力3500を越えねばならないが。

 

ダメージはレディネスで防がれるが、モンスターは別だ。ドタドタと駆け、大きく跳躍。勢い良く背の剣を振るう剣の竜。アルティメット・ファルコンも応戦するも、反撃は弾き返され、結果、真っ二つに切り裂かれる。強力な切り札を打ち倒し、剣の竜は再度剣を振るい、サテライト・キャノン・ファルコンをも切り裂く。

 

「アルティメット・ファルコンを破壊した事で『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の効果発動!モンスター1体を破壊する!」

 

「サテライト・キャノン・ファルコンまで……!」

 

「メインフェイズ2、2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.39希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ 守備力2000

 

次の隼のターン、来る猛攻を防ぐ為か、コナミが防御に優れたホープを呼び出す。尤も、最近は攻撃無効効果を察知したデュエリストからは効果で対処され、ムーンバリアの出番が無いと言う目に遭っているが。隣に『スターダスト』を並べればある程度安定性が増すのだが。無い物ねだりをしても意味はない。

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

コナミ LP2450

フィールド『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(守備表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『貴竜の魔術師』『曲芸の魔術師』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『暗黒界の取引』!手札を交換。『便乗』の効果でドロー!」

 

黒咲 隼 手札1→3

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『便乗』を戻してドロー!」

 

黒咲 隼 手札3→4

 

「速攻魔法、『リロード』!手札を交換し、墓地のスキップ・フォースとブースター・ストリクスを除外、アルティメット・ファルコンを蘇生!」

 

RR―アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

「バトル!アルティメット・ファルコンで『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』へ攻撃!」

 

「罠カード、『威嚇する咆哮』!」

 

「チッ、カードを2枚伏せ、ターンエンドだ。『シャッフル・リボーン』の効果で残る手札を除外」

 

黒咲 隼 LP2900

フィールド『RR―アルティメット・ファルコン』(攻撃表示)

『禁止令』セット2

手札0

 

「オレのターン、ドロー!刻剣とライズ・ファルコンがフィールドに戻る。速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、お前に500のダメージを与え、『慧眼の魔術師』をサーチする!」

 

黒咲 隼 LP2900→2400

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、賤竜をデッキに戻し、ドロー!」

 

コナミ 手札2→3

 

「墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外、『禁止令』を破壊!『アメイジング・ペンデュラム』!エクストラデッキの『竜穴の魔術師』と『貴竜の魔術師』を回収!竜穴と慧眼をセッティング!『竜穴の魔術師』の効果で手札の『貴竜の魔術師』を捨て、セットカードを破壊!」

 

「罠発動、『針虫の巣窟』!デッキトップから5枚のカードを墓地へ!」

 

「慧眼を破壊し、賤竜をセッティング!ペンデュラム効果でエクストラデッキから『賤竜の魔術師』を回収!魔法カード、『打ち出の小槌』!アクションカードと共に手札を交換!刻剣とライズ・ファルコンを再び除外し、ペンデュラム召喚!2体の『相克の魔術師』!『曲芸の魔術師』!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500×2

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

現れる3体の上級『魔術師』。これで5体のモンスターが出揃った。コナミのデッキは持久戦に強い為、ここからの展開が望まれる。さぁ、どう出て来るか、隣で翼を広げるアルティメット・ファルコンに目を配らせた後、コナミへ視線を移す隼。

 

「2体の相克でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800

 

2体の『魔術師』を重ね合わせ、再び絶対零度の息吹を放つ青銀の竜が呼び出される。このモンスターとホープが並んだ事で強固な盾が完成した。だがアルティメット・ファルコンには通じない。

 

「魔法カード、『エクシーズ・ギフト』!ホープとアブソリュートのORUを1つずつ取り除き、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札1→3

 

「魔法カード、『アームズ・ホール』!デッキトップをコストに墓地の『妖刀竹光』を回収!セイバー・ドラゴンのレベルを3つ下げ、『貴竜の魔術師』を墓地から特殊召喚!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン レベル7→4

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

「レベル5の『曲芸の魔術師』にレベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!シンクロ召喚!『閃光竜スターダスト』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

シンクロ召喚。現れたのは星屑を纏う閃光の竜だ。攻撃無効効果を持つエクシーズモンスターと破壊耐性を与えるシンクロモンスター。要塞のように強固な布陣だ。

 

「ホープを攻撃表示に変更、バトルだ!ホープでアルティメット・ファルコンを攻撃!」

 

「まさか……!」

 

一見して無意味で無謀な自爆特攻。しかし隼は確信する。この攻撃は確実にアルティメット・ファルコンを倒しに来ているものだと。

 

「気取ったか!ホープのORUを取り除き、この攻撃を無効にし、速攻魔法、『ダブル・アップ・チャンス』!ホープの攻撃力を2倍にし、再度攻撃!『エクシーズ・テリトリー』の効果で更に800アップ!」

 

「墓地のレディネスを除外、ダメージを0に!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→5800

 

攻撃力5800、確かにこの攻撃を受ければ隼はただでは済まなかっただろう。

 

「ホープ剣・ダブル・スラッシュ!」

 

ホープが手に取った2刀を振るい、アルティメット・ファルコンを切り裂く。究極を越えた一撃。惜しむらくはダメージが入らない事か。しかし、これで厚い壁は突破した。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

コナミ LP2450

フィールド『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』(攻撃表示)『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!罠発動!『エクシーズ・リボーン』!墓地のアルティメット・ファルコンを蘇生し、このカードをORUにする!」

 

RR―アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

何度も何度も蘇り、コナミの行く手を遮る漆黒の猛禽。まるで不死鳥の如きその姿にコナミはどこぞの太陽神にも見習って欲しいと皮肉気に笑う。

 

「アルティメット・ファルコンのORUを取り除き、効果発動!」

 

「『スターダスト』の効果により、セイバーを守り、罠発動!『ダメージ・ダイエット』!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800→1800

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800→1800

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500→1500

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→1500

 

アルティメット・ファルコンの周囲で回転するORUが弾け飛び、眩き閃光が放たれる。これではコナミの布陣は無意味なものとなる。

 

「アルティメット・ファルコンで『スターダスト』に攻撃!」

 

コナミ LP2450→1450

 

アルティメット・ファルコンの胸部より、黒いエネルギーが放たれ、『スターダスト』が粉々に砕かれる。吹き荒ぶ突風。礫がコナミのLPを削る。

 

「墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外し、竜穴を破壊。ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP2900

フィールド『RR―アルティメット・ファルコン』(攻撃表示)

手札1

 

「オレのターン、ドロー!この瞬間、刻剣とライズ・ファルコンはフィールドに戻る。そしてリバースカード、オープン!装備魔法、『妖刀竹光』をセイバー・ドラゴンに装備!永続魔法、『魂を吸う竹光』を発動!」

 

「ッ!」

 

「今回出番は無いだろうがな!『魂を吸う竹光』を手札に戻し、『妖刀竹光』を装備したセイバー・ドラゴンは直接攻撃が可能となる!セイバー・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

黒咲 隼 LP2900→1100

 

「ぐっ――!」

 

『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』が猛禽の爪を掻い潜り、隼の下へ駆け抜け、その背の剣でLPを切り裂く。そして――。

 

「アブソリュート・ドラゴンでライズ・ファルコンへ攻撃!『エクシーズ・テリトリー』の効果で攻撃力アップだ!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力1800→3200

 

RR―ライズ・ファルコン 攻撃力100→900

 

絶対零度の息吹がライズ・ファルコンに降り注ぎ、隼を凍てつかせる。エクシーズモンスター同士の激突。そして、このデュエルに、決着がつけられる。

 

黒咲 隼 LP1100→0

 

勝者、コナミ――。

 

――――――

 

2人のデュエルが終わり、アクションフィールドが光の粒子となって消えていく。そんな中、隼はコナミへと「俺に良い考えがある」と話を持ち出した。恐らくは零児への対抗策だろう。隼は神妙な顔つきで切り出す。

 

「良いデュエルだった。だが――これでもまだ、赤馬には勝てないだろう」

 

「……」

 

そう、これでも赤馬 零児には勝てないのだ。単純に相性の差と言うものもあるだろうが、デュエルスタイルにおいて、零児がコナミの上位互換と言っても良いところが痛い。だから隼は――コナミにしかない、強みを見出だす。

 

「だから――」

 

「?」

 

「だから、俺とタッグを組め」

 

それこそがきっと、コナミが零児に勝る、何よりも冴えた方法だった――。

 

 

 

 

 




コナミ君と黒咲さんは次元戦争とか無かったらエロ本を一緒に見て好みの子が別れ、喧嘩でデュエルをやり、どっちも良いじゃん!ってなってユートの家でAVを見る間柄です。


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第85話 ゲスの臭いがプンプン

更新が遅れていますが、計画通りです(大嘘)。


「……何?タッグデュエルだと?」

 

コナミと隼はデュエルの翌日、2人はLDSの社長室の扉をバーンと勢い良く開き、ズカズカと足を踏み入れ、零児にタッグデュエルを申し込んでいた。

相変わらず常識がなってない2人である。アポの取り方も知らないのかと内心イラッとしながらも零児は問い返す。無論ゲンドウポーズで。

 

「そうだ。コナミのランサーズ加入条件はお前にデュエルで勝つ事、ならばタッグデュエルでも問題あるまい」

 

「そこんとこどうなんですか、ヘイヘイヘーイ!」

 

隼が淡々と、コナミが便乗して机を揺らす。ガクガクと揺れながら、零児は内心調子乗ってんじゃねぇぞクソボケが。と言った感じのニュアンスで苛々とゲージを溜める。相変わらず棒読みだが、それが逆にイラッとさせられる。

だがまぁ、確かに零児はルールについて言っていなかった。そう言った契約はしていない、と無情に破棄する事も出来るが、今回はそう言った柔軟さも試すつもりだった為、構わない。むしろ予想通りの望む所だ。

 

「良いだろう、2対2のタッグフォースルール、それで構わないな?」

 

「やったぜ」

 

「流石ッスよ黒咲さん」

 

「やめろ」

 

こうしてひょんな事からコナミと隼と言う、異例なタッグが手を組み、零児への挑戦権を得たのだった。

 

――――――

 

「で、何で僕が連れて来られた訳?」

 

所変わって、LDSデュエルコート、そこにはコナミと隼、零児とデニスの姿があった。彼はここに到着する途中、隼が有無を言わさず、丁度良いとばかりに首根っこを掴んで連れて来たのだ。

他2人、コナミと零児も相手が話を分かって当然と言った風に説明をしない性格である為、ただひたすらに無言でザッザッ、と音を鳴らしていた3人に対し、デニスは怯えるままにされるがままだったのだ。可哀想なヤツである。下手すると黒服の男達に囲まれるより怖い。

 

「タッグデュエルだ、オレとユ○黒咲、そしてお前と赤馬でな。言ってなかったか?」

 

「言ってないよ!ずっと無言だよ!僕はてっきり……!」

 

「てっきり……?」

 

「てっきり……あーっ、えっと、兎に角凄い怖かったよ!ホラー映画か!」

 

漸く状況を理解したデニスがコナミに声を荒げて食ってかかる。何やら少し言い淀んではいるが、確かに端から見れば宇宙人に拐われる哀れな子羊状態だったかもしれないと3人は内心ですまんのと謝罪する。しかしどいつもこいつも口下手なので口には出さないが。

 

「しかしお前……前から思っていたがゲスの臭いがプンプンするな」

 

「し、失礼だねチミは!まぁ良いよ。タッグデュエルでしょ?構わないよ、僕も師匠との特訓の成果を確かめたかったしね!」

 

デュエルディスクを構え、デッキホルダーからデッキを引き抜き、セットするデニス。色々とあったが、どうやら準備は万端らしい。こんな失礼な事をされても直ぐに持ち直すのは流石エンタメデュエリストと言った所か。良い奴である。

 

「どうやら全員準備完了のようだな。ならばアクションフィールドを展開しろ中島っ!」

 

「アクションフィールド展開ィィィィィッ!!」

 

何時の間にか零羅や瑠那と共に管制室まで移動していた側近、中島へと指示を飛ばす零児。す?と中島は勢い良く声を上げ、アクションフィールドを展開する。

光の粒子に包まれ、姿を変えるフィールド。淡い光が輝き、空中に城が浮かぶ。『幻夢境』。見る者をどこか不安にさせるフィールドだ。

 

「さぁ、行くよ!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

 

「……フィールド内を駆け巡る」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

デニス、隼、零児、コナミの順番で口上が紡がれる。4人共に闘志は充分、手加減等一切無しでデュエルディスクを構える。初のランサーズ同士でのタッグデュエルだ。尤も、コナミはまだランサーズでは無いが。

 

「「「「アクショーン……デュエル!!」」」」

 

先攻は零児だ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、眼鏡のフレームに指を置く。先攻での役目は後攻で反撃も出来ない布陣を敷き、制圧する事。零児の最も得意とする分野だ。

 

「私のターン、ドロー。私は魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキトップから10枚を除外し、2枚ドロー!」

 

赤馬 零児 手札4→6

 

「魔法カード、『手札抹殺』により手札を交換、更に魔法カード、『ワン・フォー・ワン』を発動!手札のモンスターを捨て、デッキの『DD魔導賢者ケプラー』を特殊召喚!」

 

DD魔導賢者ケプラー 守備力0

 

現れたのは中の機械を剥き出しにした天文学者。半身には恒星のような物体を取りつけている。レベル1のペンデュラムモンスター。スケールも高いが、重用すべきはそのモンスター効果だ。

 

「ケプラーの効果でデッキから『地獄門の契約書』をサーチし、発動。その効果で『DDスワラル・スライム』をサーチ。そしてスワラル・スライムの効果で手札のこのカードと『DDネクロ・スライム』を墓地に送り、融合!自在に形を変える神秘の渦よ。今1つとなりて新たな王を生み出さん!融合召喚!生誕せよ!『DDD烈火王テムジン』!」

 

DDD烈火王テムジン 攻撃力2000

 

零児の背後で青とオレンジ、2色の渦が広がり、その中で2体のモンスターが溶け合い、1つとなる。ゴウゴウと燃える炎が舞い上がり、現れたのは焦げ茶色の鎧兜を纏い、真紅の剣と盾を手にした炎の王。

 

「『幻夢境』の効果でドローする」

 

赤馬 零児 手札2→3

 

「そして『DDラミア』を召喚」

 

DDラミア 攻撃力100

 

次に現れたのは薔薇のように真っ赤な鱗で頭と両手を覆い、下半身が青い蛇となった異種族の少女。低攻撃力のレベル1チューナー、それだけで充分に価値があるが、どのような効果を有しているのか。

 

「レベル6の『DDD烈火王テムジン』にレベル1の『DDラミア』をチューニング!闇を切り裂く咆哮よ。疾風の速さを得て新たな王の産声となれ!シンクロ召喚!生誕せよ!『DDD疾風王アレクサンダー』!」

 

DDD疾風王アレクサンダー 攻撃力2500

 

ラミアの身体が光となって弾け飛び、1つの巨大なリングがテムジンを包み込んで眩き光が貫く。次に姿を見せたのは風の王。

白銀の鎧を纏い、緑色のマントを靡かせ、剣を手にした騎士だ。

 

「更に墓地のスワラル・スライムを除外し、手札の『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』を特殊召喚!」

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 守備力3000

 

序盤から次々と姿を見せる次元を制する王者達。次に現れたのは漆黒のローブを纏い、頭、そして背から巨大な角を伸ばし、玉座に腰かけた悪魔だ。圧倒的な気迫を放ち、コナミ達の戦意を削ぐ。

 

「アビス・ラグナロクの効果でテムジンを蘇生」

 

DDD烈火王テムジン 攻撃力2000

 

「アレクサンダーの効果でラミア蘇生」

 

DDラミア 守備力1900

 

「レベル7のアレクサンダーにレベル1のラミアをチューニング!その紅に染められし剣を掲げ、英雄達の屍を越えていけ!シンクロ召喚!生誕せよ!『DDD呪血王サイフリート』!」

 

DDD呪血王サイフリート 攻撃力2800

 

更なる展開、美しい銀髪を靡かせ、赤く輝く剣を掲げた漆黒の騎士が姿を見せる。とんでも無いプレイングだ。1ターンに何回特殊召喚するつもりなのだろうか。

 

「テムジンの効果でラミア蘇生」

 

DDラミア 守備力1900

 

「レベル6のテムジンにレベル1のラミアをチューニング!シンクロ召喚!『DDD疾風王アレクサンダー』!」

 

DDD疾風王アレクサンダー 攻撃力2500

 

「そして墓地のネクロ・スライムとテムジンを除外し、融合!融合召喚!生誕せよ!『DDD剋竜王ベオウルフ』!」

 

DDD剋竜王ベオウルフ 攻撃力3000

 

最後は金色の鎧を纏った人狼のモンスター。攻撃力は3000、5体のモンスターが並び、コナミ達を睨む。酷い1ターンだった。隼は一瞬で優しい笑みを浮かべ、今までこんなのと闘って来たコナミを労い、肩にポンと手を置く。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP4000

フィールド『DDD剋竜王ベオウルフ』(攻撃表示)『DDD疾風王アレクサンダー』(攻撃表示)『DDD呪血王サイフリート』(攻撃表示)『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』(守備表示)『DD魔導賢者ケプラー』(守備表示)

『地獄門の契約書』セット1

手札0(零児)手札5(デニス)

 

「オレのターン、ドロー!厄介なのはサイフリートとベオウルフか。オレは『慧眼の魔術師』2体でペンデュラムスケールをセッティング!互いを破壊し、デッキの『竜穴の魔術師』と『賤竜の魔術師』をセッティング!揺れろ光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!『慧眼の魔術師』2体!『E・HEROエアーマン』!」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500×2

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

早速1ターン目から炸裂するペンデュラム。最初から全力、そう言わんばかりにコナミが右手を天に翳し、背後に2本の柱が出現し、中に存在する2体の『魔術師』がそれぞれ錫杖と扇を振るい、空に光の線を結び、魔方陣を描き出す。そして開いた孔より閃光が降り立ち、フィールドを震撼させる。飛び散る光の粒子。

姿を見せたのは美しい銀髪を持ち、秤を握った瑠璃の『魔術師』と背にファンの翼を伸ばし、回転させ、飛行する青い『HERO』だ。

 

「エアーマンの効果でデッキの『E・HEROブレイズマン』をサーチ!そのまま召喚!」

 

E・HEROブレイズマン 攻撃力1200

 

次に召喚されたのは炎の鬣を持つ赤い『HERO』。このカードの登場で準備は整う。

 

「効果で『置換融合』をサーチ!発動!」

 

「サイフリートの効果で無効にする!」

 

「させん!墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、その効果を防ぐ!フィールドのエアーマンとブレイズマンを融合!融合召喚!『E・HERO Great TORNADO』!」

 

E・HERO Great TORNADO 攻撃力2800

 

凄まじい突風を引き連れ、コナミの融合モンスターが現れる。風を呼び寄せるステッキを持った黒いマントの『HERO』。コナミと零児が初めてデュエルした際、零児に大打撃を与えたカードだ。

 

「『幻夢境』の効果でドローし、Great TORNADOの効果でお前のモンスターの攻守を半減する!タウンバースト!」

 

コナミ 手札3→4

 

DDD剋竜王ベオウルフ 攻撃力3000→1500

 

DDD疾風王アレクサンダー 攻撃力2500→1250

 

DDD呪血王サイフリート 攻撃力2800→1400

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 守備力3000→1500

 

「バトルだ!Great TORNADOでベオウルフに攻撃!」

 

「罠発動!『DDDの人事権』!フィールドのベオウルフ、ケプラー、アレクサンダーをデッキに戻し、デッキの『DD魔導賢者ニュートン』と『DDオルトロス』をサーチ!」

 

「チッ、ならばアビス・ラグナロクに攻撃変更!スーパーセル!」

 

「受けよう」

 

零児がダメージを抑えようと弱体化したモンスターをデッキへと戻し、新たなカードを手札に呼び込む。折角召喚したカードをデッキに戻す思い切りの良さは流石と言うべきか。

コナミも攻撃を変更し、Great TORNADOが竜巻を束ねてアビス・ラグナロクへと放つ。

 

「まだだ!慧眼でサイフリートへ攻撃!」

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP4000→3900

 

慧眼が手に握った秤をくるりと回転させ、小さな魔方陣を宙に描く。そして中より光輝くエネルギー弾が放たれ、弱体化したサイフリートを撃つ。

 

「ダメージを受けた事で手札の『DDオルトロス』を特殊召喚。そして破壊されたサイフリートの効果でフィールドの『契約書』の数×1000LPを回復する」

 

DDオルトロス 守備力1800

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP3900→4900

 

しかし零児は眉1つ動かさず、それ所か新たなモンスターを出す事で壁にする。守備力1800、残る慧眼では越えられない数値だ。仕方なくコナミはメインフェイズ2に移る。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

本当はホープをエクシーズ召喚したかったのだが、エクシーズモンスターが存在すればエンドフェイズ、『幻夢境』の効果でフィールドのレベルが一番高いモンスターが破壊されてしまう。このターンは見送るしかない。

 

コナミ&黒咲 隼 LP4000

フィールド『E・HERO Great TORNADO』(攻撃表示)『慧眼の魔術師』(攻撃表示)×2

セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札2(コナミ)手札5(隼)

 

「やっと僕のターンだね!さぁ、輝かしいエンタメデュエルの開幕だ!ドロー!スタンバイフェイズ、おっかな~い悪魔達に『地獄門の契約書』伸ばし、請求が来るけど踏み倒しちゃおう!僕は契約してないしね!手札の『Emフレイム・イーター』を特殊召喚!」

 

現れたのはどこかで見た事のある黒くツヤのある丸い球体に目と口を描き、ハットを被らせたモンスター。その名の通り、飛び出した途端、デニスに襲い来るダメージをペロリと平らげ――ブゥッ、と下品な音を鳴らす。

 

「ウップ!フレイム・イーターは食べたら直ぐに出すんだ!このカードが特殊召喚した場合、互いに500のダメージを受ける!」

 

コナミ&黒咲 隼 4000→3500

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP4900→4400

 

優秀な効果の代償としてダメージを請求する『契約書』を使う零児と効果ダメージを糧としてマジックを披露するデニス。表面上では噛み合うとは思えない2人だが、デッキの構成的には中々噛み合っている。強力なコンビだ。

 

「更に魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』を発動!2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札4→6

 

「そして確認!ペンデュラムモンスター以外だったら墓地に送るよ!WAO!ラッキーだね!2枚ともペンデュラムカードだ!手札に加えたのは『Emウィング・サンドイッチマン』と『Emミラー・コンダクター』だ!僕は『Emオーバーレイ・ジャグラー』と『Emミラー・コンダクター』でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル3から5のモンスターを同時に召喚可能!ペンデュラム召喚!『Emウィング・サンドイッチマン』!『Emトリック・クラウン』!」

 

Emウィング・サンドイッチマン 攻撃力1800

 

Emトリック・クラウン 攻撃力1600

 

振り子の軌跡で呼び出されるモンスター。登場したのは背に天使の羽を伸ばし、星のマークがついた盾を持つ、髭をたくわえた将軍と逆立ちしたクラウンだ。

 

「さぁ、行こうか!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!Show must go on!天空の奇術師よ華やかに舞台を駆け巡れ!エクシーズ召喚!現れろ!『Emトラピーズ・マジシャン』!!」

 

Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2500

 

ペンデュラムからのエクシーズ。空中ブランコを手に、フィールドを軽やかに駆け巡るはワインレッドのマントを靡かせた白いピエロ。このカードがデニスのエースにして、フェイバリットカード。

 

「Emミラー・コンダクターのペンデュラム効果発動!Great TORNADOの攻守はその攻守の内、低い方の数値となる!」

 

E・HERO Great TORNADO 攻撃力2800→2200

 

「そう来たか……!」

 

テクニカルに搦め手で攻めるデニス。正しくマジシャン。こう言った所は遊矢の『EM』と似通っている。

 

「バトルだ!トラピーズ・マジシャンでGreat TORNADOへ攻撃!」

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!」

 

トラピーズ・マジシャンが空中ブランコを両手にフィールドを駆け巡り、Great TORNADO目掛けて襲い来る。だがそれを見逃すコナミではない。やらせるかと言わんばかりにデッキから2枚のカードを引き抜き、デュエルディスクに叩きつける。するとGreat TORNADOの左右にカードが浮かび上がり、上空から3つのシルクハットが降り、被さる。更にシャッフル。これでGreat TORNADOの姿を隠し、例え見つけたとしても戦闘ダメージは回避出来る。

 

「僕を相手にマジックが通じるとでも?」

 

「マジックじゃねぇ!トラップだ!」

 

「フフッ、上等じゃないか!トラピーズ・マジシャン!左だよ!」

 

不敵に笑い、左に設置されたシルクハット目掛けてトラピーズ・マジシャンを向かわせるデニス。トラピーズ・マジシャンが勢い良く空を駆け、強烈な蹴りを放ったそのシルクハットの中身は――見事、Great TORNADO。流石と言うべきか。

 

「続いてサンドイッチマンで慧眼に攻撃!アクションマジック、『セカンドアタック』!トラピーズ・マジシャンで2体目の慧眼に攻撃!」

 

「くっ、アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!トラピーズ・マジシャンのダメージを0に!」

 

コナミ&黒咲 隼 LP3500→3200

 

「くっ――!だがバトルフェイズが終了し、『妖刀竹光』が墓地に送られた事で『黄金色の竹光』をサーチする」

 

これでコナミのモンスターは全滅。残ったカードも『マジカルシルクハット』で特殊召喚したカードの為、バトルフェイズが終了すると共に破壊される。ふざけた態度とは裏腹に実力は確かだ。しかも中々堅実な手で来る。

 

「カードを2枚セットしてターンエンド。この瞬間、『幻夢境』の効果でサンドイッチマンは破壊されるよ!まだまだショーは始まったばかり!もっともっと盛り上げていくよっ!」

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP4400

フィールド『Emトラピーズ・マジシャン』(攻撃表示)『DDオルトロス』(守備表示)

『地獄門の契約書』セット2

Pゾーン『Emオーバーレイ・ジャグラー』『Emミラー・コンダクター』

手札1(零児)手札0(デニス)

 

見た目の派手さばかりに目が行きがちだが、やはりこの少年は基礎が出来ている。常識を知った上で非常識を取り入れる、これ以上厄介な相手はいない。

 

「俺のターン、ドロー!俺は『RR―トリビュート・レイニアス』を召喚!」

 

RR―トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

天に飛翔する青の機械鳥。周囲にファンネルを浮かばせ、甲高い囀りを響かせる。

 

「トリビュートの効果でデッキの『RR―ミミクリー・レイニアス』を落とし、除外して『RR―レディネス』をサーチ!そして『RR―ファジー・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RR―ファジー・レイニアス 守備力1500

 

次は紫の体躯の猛禽だ。これでレベル4のモンスターが2体。得意のエクシーズへ繋げる準備が出来た。

 

「永続魔法、『RR―ネスト』を発動!デッキから『RR―シンギング・レイニアス』をサーチ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実を暴き、鋭い鉤爪で栄光をもぎ取れ!エクシーズ召喚!飛来せよ!『RR―フォース・ストリクス』!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000

 

2体のモンスターを素材とし、周囲にORUを回転させた梟が現れる。完全に隼のペース、その効果で更に展開へと繋げようとしたその瞬間――。

 

「速攻魔法、『揺れる眼差し』!」

 

デニスは見逃さない。

 

「何――ッ!?」

 

「ペンデュラムゾーンのカードを全て破壊し、その数だけ効果を適用!まずは君達に500のダメージを与える!」

 

コナミ&黒咲 隼 LP2900→2400

 

「チッ――!」

 

発動されたのはコナミや遊矢もスケールを割り、次に繋げる為に使っているペンデュラム専用のサポートカード。その効果は強力だ。それはコナミ自身が良く知っている。

 

「次にデッキから『Emボーナス・ディーラー』をサーチし、君のフォース・ストリクスを除外!」

 

ダメージに、サーチ、そしてカードの対象を取らない除外。恐ろしいまでの効果が炸裂し、隼の戦略の基盤とも言える梟が次元の彼方へ消えていく。

 

「くっ、フォース・ストリクスが……!墓地に送られたファジー・レイニアスの効果で同名カードをサーチする……!」

 

これは手痛い。まだ手札は7枚で実質消費無しだが、通常召喚権は既に使ってしまっている。折角出したフォース・ストリクスの効果を使えなかった事も大きいが――。

 

「黒咲、フィールドを見ろ」

 

焦りを浮かべる隼へと、コナミが声をかける。顔を上げ、デュエルディスクを操作してフィールドのカードを確認する隼。するとハッと気づく。まだカードは残っている。コナミの残したセットカードが。

 

「そうか……!魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』!エクストラデッキの『竜穴の魔術師』と『賤竜の魔術師』を回収し、セッティング!ペンデュラム召喚!」

 

仲間の伸ばした手を受け取り、このピンチから脱出する。少し前ならばお前の手など借りんと一蹴しただろうが――今の彼は違う。力を合わせ、勝利を目指す。それこそがタッグデュエルだ。振り子が揺れ、天空の魔方陣から孔が開く。黒咲

隼、2回目のペンデュラムがフィールドを震撼させる。

 

「『RR―ファジー・レイニアス』!『RR―インペイル・レイニアス』!」

 

RR―ファジー・レイニアス 守備力1500

 

RR―インペイル・レイニアス 攻撃力1700

 

振り子の軌跡で現れる2体の猛禽。先程も登場したファジー・レイニアスと嘴の鋭い真紅の機械鳥、インペイル・レイニアス。これで再びレベル4のモンスターが揃ったが――まだエクシーズの時では無い。

 

「装備魔法、『ラプターズ・アルティメット・メイス』をインペイル・レイニアスに装備!」

 

RR―インペイル・レイニアス 攻撃力1700→2700

 

インペイル・レイニアスの鉤爪に巨大なメカメカしいメイスが握られる。『RR』専用とは言え、攻撃力を1000アップする装備魔法。これでトラピーズ・マジシャンの攻撃力を上回った。

 

「バトル!インペイル・レイニアスでトラピーズ・マジシャンへ攻撃!」

 

「その前にメインフェイズでトラピーズ・マジシャンのORUを1つ取り除き、インペイル・レイニアスに効果を使用!」

 

「受け入れないな!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、その効果を無効!バトルを続行!」

 

「だけど『Emトリック・クラウン』の効果で墓地に送られたこのカードを攻守を0にして蘇生!この時1000ダメージを受けるけど――トラピーズ・マジシャンがいる限り、このモンスターの攻撃力以下のダメージを受けない!」

 

Emトリック・クラウン 守備力1200→0

 

「トラピーズ・マジシャンの効果でこのモンスターの攻撃力以下のダメージは受けず、破壊された事でデッキの『Emウィング・サンドイッチマン』を特殊召喚!」

 

Emウィング・サンドイッチマン 守備力2100

 

「メインフェイズ2インペイル・レイニアスの効果で墓地のファジー・レイニアスを蘇生」

 

RR―ファジー・レイニアス 守備力1500

 

「2体のファジー・レイニアスでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RR―フォース・ストリクス』!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000→2500

 

「フォース・ストリクスのORUを1つ取り除き、『RR―ペイン・レイニアス』をサーチ!『RR―シンギング・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RR―シンギング・レイニアス 守備力100

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2500→3000

 

「そしてシンギング・レイニアスを対象に手札の『RR―ペイン・レイニアス』を特殊召喚!対象としたシンギング・レイニアスの攻撃力分のダメージを受け、レベルを合わせる!」

 

RR―ペイン・レイニアス 守備力100 レベル1→4

 

RR―フォース・ストリクス 守備力3000→3500

 

コナミ&黒咲 隼 LP2400→2300

 

現れる2体の猛禽。これで再びレベル4が揃う。流石の腕前だ。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RR―フォース・ストリクス』!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000→3000

 

「フォース・ストリクスのORUを1つ取り除き、『RR―ブースター・レイニアス』をサーチ!カードを2枚セットしてターンエンドだ。この瞬間、レベルが一番高いウィング・サンドイッチマンは破壊される」

 

コナミ&黒咲 隼 LP2300

フィールド『RR―フォース・ストリクス』(守備表示)×2『RR―インペイル・レイニアス』(攻撃表示)

『ラプターズ・アルティメット・メイス』『RR―ネスト』セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札3(コナミ)手札2(隼)

 

「私のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、私は『地獄門の契約書』の効果で1000ポイントダメージを受ける」

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP4400→3400

 

「そしてその効果で『DD魔導賢者コペルニクス』をサーチし、ニュートンと共にセッティング!我が魂を揺らす大いなる力よ、この身に宿りて闇を引き裂く新たな光となれ!ペンデュラム召喚!『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』!」

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 守備力3000

 

「アビス・ラグナロクの効果で墓地の『DDD呪血王サイフリート』を特殊召喚!」

 

DDD呪血王サイフリート 攻撃力2800

 

あっと言う間に現れる3体のモンスター。手札が少ないにも関わらず、強力なモンスターを展開する手腕は流石だ。

 

「ペンデュラムゾーンの『DD魔導賢者ニュートン』と『地獄門の契約書』を破壊し、墓地の『DDD極智王カオス・アポカリプス』を特殊召喚!」

 

DDD極智王カオス・アポカリプス 攻撃力2700

 

更なる展開。2枚のカードをを破壊し、地面に発生した渦より、振り子を模した巨大な悪魔が登場する。

 

「サイフリートで『ラプターズ・アルティメット・メイス』を無効にし、バトルだ!カオス・アポカリプスでインペイル・レイニアスに攻撃!」

 

「罠発動!『RR―レディネス』!更に除外し、戦闘破壊とダメージを防ぐ!」

 

「それがあったな……メインフェイズ2、アビス・ラグナロクの効果で『DDオルトロス』をリリースし、フォース・ストリクスを除外する」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力3000→2500

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド。この瞬間、レベルが一番高いアビス・ラグナロクとサイフリートは破壊される」

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP3400

フィールド『DDD極智王カオス・アポカリプス』(攻撃表示)『Emトリック・クラウン』(守備表示)

セット2

Pゾーン『DD魔導賢者コペルニクス』

手札0(零児)手札1(デニス)

 

「オレのターン、ドロー!墓地の『置換融合』を除外し、Great TORNADOをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

コナミ 手札4→5

 

「ペンデュラム召喚!『曲芸の魔術師』!『貴竜の魔術師』!」

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

振り子の軌跡で現れる2体の『魔術師』モンスター。今回はカラフルで派手な衣装を纏った奇抜な者と音叉を構えた純白の衣装の幼い『魔術師』だ。

 

「レベル5の『曲芸の魔術師』にレベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!星海を切り裂く一筋の閃光よ!魂を震わし世界に轟け!シンクロ召喚!『閃光竜スターダスト』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、貴竜の小さな身体がミントグリーンのリングとなって弾け飛び、3つに増えたそれは曲芸を包み込み、眩き光が貫く。8つの星は竜の形となって星座は白き肉体を持つ。双翼を広げ、現れる閃光の竜。美しき咆哮を上げるその姿はまるで絵画の中の存在だ。

 

「スターダストでカオス・アポカリプスを攻撃!この瞬間、墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、攻撃力を800アップ!流星閃撃!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500→3200

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP3400→3150

 

『スターダスト』の鋭い牙が並ぶアギトへ光が集束し、眩きブレスが放たれる。圧倒的な力の奔流を受け、カオス・アポカリプスは砕け散り、零児達のLPを削る。

 

「インペイル・レイニアスでトリック・クラウンを攻撃!」

 

「トリック・クラウンの効果で特殊召喚し、500のダメージを受ける!」

 

Emトリック・クラウン 守備力1200→0

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP3150→2650

 

「メインフェイズ2、インペイル・レイニアスの効果で『RRファジー・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RR―ファジー・レイニアス 守備力1500

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2500→3000

 

「魔法カード、『一時休戦』を発動」

 

コナミ 手札3→4

 

赤馬 零児 手札0→1

 

「カードを1枚セットし、『スターダスト』の効果で自身を破壊から守り、ターンエンド」

 

コナミ&黒咲 隼 LP2300

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『RR―フォース・ストリクス』(守備表示)『RR―インペイル・レイニアス』(攻撃表示)『RR―ファジー・レイニアス』(守備表示)

『ラプターズ・アルティメット・メイス』『RR―ネスト』セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札3(コナミ)手札2(隼)

 

「僕のターン、ドロー!魔法カード、『アームズ・ホール』!デッキトップをコストに装備魔法、『ワンダー・ワンド』をサーチ!そして墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、フィールドのコペルニクスをデッキに戻し、ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札2→3

 

「『Emハットトリッカー』を特殊召喚!」

 

Emハットトリッカー 守備力1100

 

現れたのは三ツ又に分かれたハットを被った眼鏡とマント、そさて手だけと言う面白い姿をしたモンスターだ。フィールドにモンスターが2体以上存在する場合と言う、とても緩い条件で特殊召喚が出来る為、『Em』に限らず優秀なカードと言える。

 

「そして魔法カード、『ワンダー・ワンド』を『Emトリック・クラウン』に装備!」

 

Emトリック・クラウン 攻撃力0→500

 

「この2枚を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札1→3

 

「トリック・クラウンの効果で自身を蘇生!」

 

Emトリック・クラウン 守備力1200→0

 

「この時1000のダメージを受けるんだけど――あら不思議、ダメージは『Em』カウンターとなってハットトリッカーに置かれます!」

 

Emハットトリッカー Emカウンター0→1

 

手札増強に蘇生、そしてデメリットを打ち消す見事なプレイング。それだけでは無い。並んだモンスターはどちらもレベル4、侮れない男だ。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『Emトラピーズ・マジシャン』!!」

 

Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2500

 

「まだだよ!『Emファイヤー・ダンサー』と『Emボーナス・ディーラー』でペンデュラムスケールをセッティング!ペンデュラム召喚!『Emミラー・コンダクター』!『Emオーバーレイ・ジャグラー』!2体の『Emウィング・サンドイッチマン』!」

 

Emミラー・コンダクター 守備力1400

 

Emオーバーレイ・ジャグラー 守備力600

 

Emウィング・サンドイッチマン 守備力2100×2

 

現れる4体の『Em』。ペンデュラムの展開力も見事ものにしている。

 

「ウィング・サンドイッチマンの効果でこの2枚の間に存在するミラー・コンダクターのレベルを同じレベルに変更!」

 

Emミラー・コンダクター レベル4→5

 

「ミラー・コンダクターの効果でインペイル・レイニアスの攻守を反転!」

 

RRインペイル・レイニアス 攻撃力2700→2000

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『Em影絵師シャドー・メイカー』!」

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600

 

レベル5モンスター3体と言う重い素材を要求し、影の中を駆け巡る新たな『Em』が登場する。巨大な鋏を持ち、ハットに赤いフレームの眼鏡、蝶ネクタイに礼装とこれまた奇妙で愉快な姿をしたモンスターだ。

 

「レベル5を3体要求して攻撃力2600……ああ成程、おいコナミ、あいつ『RUM』を持ってないらしい。まぁ、当然と言えば当然だが、ダッセ、プッ」

 

確かにトラピーズ・マジシャンをランクアップさせれば充分だ。普通の少年らしく隼はデニスを馬鹿にし、本人は額に青筋を浮かべる。大人気ない、全くもって大人気ない。

 

「君って何でか僕に対して厳しいよねぇ……!まぁ、良いさ!魔法カード、『エクシーズ・ギフト』!シャドー・メイカーのORUを2つ取り除き、2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札0→2

 

「エンターテイメントはこれからさ!僕はオーバーレイ・ジャグラーのモンスター効果により、シャドー・メイカーを対象としてこのカードをORUにする!そしてシャドー・メイカーが効果の対象になった場合、ORUを取り除き、エクストラデッキの『Em影絵師シャドー・メイカー』を特殊召喚!」

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600

 

自分だろうと相手だろうと、効果の対象になるだけで2体目の自身を特殊召喚する強力な効果。成程、確かに重い素材を要求するだけある。正規のエクシーズ召喚ではない為、蘇生制限に引っかかるが、ターン1制限も無い。シャドー・メイカーは自らの鋏で自分を切り裂き、分身する。

 

「そして装備魔法、『ワンショット・ワンド』を1体目のシャドー・メイカーに装備!攻撃力が800アップし――」

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600→3200

 

「効果の対象となった事で最後のORUを取り除き、3体目のシャドー・メイカーを特殊召喚!」

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600

 

あっと言う間の大量展開。手札を増やし、モンスターを増やす。フィールドに並ぶ4体のエクシーズモンスター。あの隼をも凌ぐ実力だ。彼でさえフォース・ストリクス3体だと言うのに――その証拠に、隼が歯軋りをして悔しがっている。

 

「ぐぎぎ……!」

 

ぐぎぎとか言っちゃってる。相当である。

 

「バトルだ!『ワンショット・ワンド』を装備したシャドー・メイカーでインペイル・レイニアスを攻撃!」

 

「ッ!バトルフェイズ突入前に、『スターダスト』の効果でフォース・ストリクスを守る!」

 

「『ワンショット・ワンド』を破壊し、1枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札1→2

 

「そして2体のシャドー・メイカーでフォース・ストリクスに2回攻撃!トラピーズ・マジシャンで『スターダスト』へ攻撃!」

 

「相撃ち狙い、いや、これは――!」

 

「トラピーズ・マジシャンの効果でデッキの『Emトリック・クラウン』をリクルート!」

 

Emトリック・クラウン 守備力1200

 

「メインフェイズ2、速攻魔法、『魔力の泉』で4枚ドローし、2枚捨てる!」

 

デニス・マックフィールド 手札1→5→3

 

「『Emハットトリッカー』を特殊召喚!」

 

Emハットトリッカー 守備力1100

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『Emトラピーズ・マジシャン』!!」

 

Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2500

 

「魔法カード、『エクシーズ・ギフト』。トラピーズ・マジシャンのORUを2つ取り除き、2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札1→3

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』で手札交換、ターンエンドだ『シャッフル・リボーン』のデメリットで手札1枚を除外。『幻夢境』の効果でファジー・レイニアスも破壊されるよ」

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP2650

フィールド『Emトラピーズ・マジシャン』(攻撃表示)『Em影絵師シャドー・メイカー』(攻撃表示)×3

セット1

『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』

手札0(零児)手札1(デニス)

 

逆境に続く逆境。押しては返す4人のデュエル。激しさを増す中、ターンは隼へと移る。ニヤリと口角を上げ、隼は猛禽のように目を細め、デニスの喉元を狙う。

反逆のエンターテイメントの、幕が上がる。

 

 

 

 

 

 

 




Great TORNADO「オッドアイズ君さぁ、エースカードなのに僕の方が活躍してて悔しくないの?」

オッドアイズ「お前が融合、スターダストがシンクロ、ホープがエクシーズのエースで俺がメインデッキのエースだろ?ジ・アース君よりマシ」

ジ・アース「」


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第86話 英雄の血潮に染まる翼翻し

今回の話に合う遊戯王の名言、迷言がどうしても思いつかなくて遂にモンスターの召喚口上に。長い事やってるとネタが事切れて来る。いや、名言自体はまだまだあるんだけど、話に合うとなるとどうしても。最近の悩みはこれだったり。


火花散り、激しさを増すコナミと隼、零児とデニスのタッグデュエル。互いに互いを高め合うようなデュエルを見て、管制室で見学していた零羅は目を輝かせていた。

 

「……!……!」

 

「ん?零羅様?ああ、デュエルが面白いのですか?」

 

中島のスーツの袖を握り、クイクイと引っ張ってパァッと表情を明るくする零羅を見て、中島がクスリと笑う。無口な零羅であるが、こう言う所はやはり年相応の子供らしい。

 

また、人見知りする性格なのだが、零児と中島だけには今まで接した時間の長さもあってこうして懐き、積極的に話しかけてくれる。一応瑠那とも話してくれるがやはり優先度が違う。

2人の母である日美香は長い時間接している割りに懐いてくれなくて落ち込んでいるが。

 

「私としてはあなたを闘わせたく無いのです。ランサーズ入りも反対しました。フフ、長い事勤めていますが、社長に反発したのはあれが初めてですね。ですが――社長はあなたを信頼しているのでしょう。ですからこうして、色々なデュエリストを見て、勉強してください。あ、あの赤帽子と黒咲はダメですよ。赤帽子は何をするか分からないアホですし、悪影響です。黒咲は猛犬です。近寄ったら噛まれます」

 

「ッ!?……か……噛む……?」

 

「親バカなの?中島さん、親バカよね?」

 

確かに言い方はあれだが、コナミと隼は零羅に悪影響を与えかねない。そんな彼等を指差して零羅から遠ざけようとする中島は、瑠那の目から見ても確実に親バカと呼ばれる人種だった。血は繋がっていないが。

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

ターンプレイヤーが隼へと移り、彼は勢い良くカードを引き抜く。折角のフォース・ストリクスももう1度効果を使うまでもなく破壊され、『RUM』をサーチする『ラプターズ・アルティメット・メイス』を装備したインペイル・レイニアスを破壊された。

モンスター0、手札は3枚。対する相手フィールドには4体ものエクシーズモンスター。明らかに逆境だ。だからこそ――隼の実力は発揮される。

 

「ペンデュラム召喚!『RR―トリビュート・レイニアス』!『RRブースター・ストリクス』!」

 

RR―トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

RR―ブースター・ストリクス 守備力1700

 

タッグパートナーであるコナミが用意してくれたペンデュラムを使い、一気にフィールドに2体のモンスターを揃える。順調だ。

しかしフォース・ストリクスを使い切った今、この状況で活躍出来るレベル4のモンスター2体でエクシーズ出来るモンスターを隼は所持していない。2体でなら、だが。

 

「トリビュート・レイニアスの効果でミミクリー・レイニアスを落とし、除外して『RR―レディネス』をサーチ!ネストの効果でファジー・レイニアスを回収し、特殊召喚!」

 

RR―ファジー・レイニアス 守備力1500

 

2体では駄目だが――3体ならば道は切り開ける。

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!雌伏のハヤブサよ。逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ!エクシーズ召喚!現れろ!『RR―ライズ・ファルコン』!」

 

RR―ライズ・ファルコン 攻撃力100

 

3体の鳥獣族モンスターを素材とし、青い機械鳥が甲高い囀りを響かせる。ブースターを装備した翼を広げ、自身の身体の半分以上を占める巨大な爪を持った猛禽。見た目のゴツさとは裏腹に攻撃力は100と随分見かけ倒しと捉えられるが――この場にいる者は全て、その効果を充分に知っている。

 

「ライズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、シャドー・メイカーを対象として効果発動!対象のモンスターの攻撃力をこのカードに加える!」

 

RR―ライズ・ファルコン 攻撃力100→2700

 

攻撃力吸収、どんなに強力なモンスターでも上回る反逆の名に相応しい効果が炸裂する。しかもライズ・ファルコンの効果はこれだけではない。

 

「墓地に送られたファジー・レイニアスの効果で最後の同名カードをサーチ!バトルだ!ライズ・ファルコンは特殊召喚された全てのモンスターに攻撃可能!まずは厄介なトラピーズ・マジシャンだ!ブレイブクローレボリューション!」

 

「トラピーズ・マジシャンの効果で『Emスティルツ・シューター』を特殊召喚!」

 

Emスティルツ・シューター 守備力0

 

現れたのは竹馬に乗ったクールな魔法使い。『Em』でも数少ない上級モンスター。とは言えライズ・ファルコンには敵わない為、守備表示での登場だ。

 

「まだだ!全てのモンスターへ、攻撃ィ!」

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP2650→2550→2450→2350

 

「くっ――!」

 

ライズ・ファルコンが天高く飛翔し、急激に降下して勢いのままその巨大な爪でデニスのモンスターを引き裂く。鋏を砕き、影を裂き、マントを破り、全てのモンスターを破壊する。豪快なジャイアントキリング。整えられた布陣を掻き乱す、大逆境のエンターテイメントが炸裂する。これでデニスのモンスターは全滅、今度は真逆の立場となった。

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

コナミ&黒咲 隼 LP2300

フィールド『RR―ライズ・ファルコン』(攻撃表示)

『RR―ネスト』セット3

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札3(コナミ)手札2(隼)

 

「私のターン、ドロー!永続罠、『DDリビルド』を発動。魔法カード、『マジック・プランター』で墓地に送り、2枚ドロー!」

 

赤馬 零児 手札1→3

 

「更に魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキトップから10枚のカードを除外し、2枚ドロー!」

 

赤馬 零児 手札3→4

 

零児は類稀なるデュエルタクティクスを持っているが、彼自身のドロー力は決して高いとは言えない。その為サーチカード等を投入しているのだが――これはどう言う事か、2連続でドローカードを引き込んだ。もしもドロー力を身につけたと言うならば鬼に金棒だ。

 

「永続魔法、『地獄門の契約書』を発動!デッキから『DD魔導賢者ケプラー』をサーチし、召喚!」

 

DD魔導賢者ケプラー 攻撃力0

 

「ケプラーの効果で『魔神王の契約書』をサーチ、発動!そして速攻魔法、『揺れる眼差し』を発動!……効果は知っているな?ペンデュラムカードを破壊し、効果を適用!この瞬間、墓地の『Emスティルツ・シューター』を除外し、2000のダメージを与える!」

 

「またか……!俺は手札の『ハネワタ』を捨て、効果ダメージを0に!」

 

発動されたのはデュエル序盤、デニスも発動した魔法カード。ひび割れ、破壊される背後の光の柱。その数は4、尤も、適用されるのは3つまでだが。

 

「私は『DD魔導賢者トーマス』をサーチ、ライズ・ファルコンを除外!」

 

「くっ……!」

 

「私はたった今サーチした『DD魔導賢者トーマス』をセッティング!ペンデュラム効果でエクストラデッキの『DD魔導賢者ニュートン』を回収し、セッティング!ペンデュラム召喚!『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』!『DDD極智王カオス・アポカリプス』!」

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 守備力3000

 

DDD極智王カオス・アポカリプス 攻撃力2700

 

賢者が天空に魔方陣を描き出し、開いた孔より世界の終焉を名に刻んだ王達が目を覚ます。現れる2体の次元を統べる王。その効果は強力だ。

 

「アビス・ラグナロクの効果で墓地の『DDD疾風王アレクサンダー』を特殊召喚!」

 

DDD疾風王アレクサンダー 攻撃力2500

 

「そして『魔神王の契約書』の効果で手札の『DDネクロ・スライム』とフィールドのケプラーで融合!融合召喚!『DDD烈火王テムジン』!」

 

DDD烈火王テムジン 攻撃力2000

 

「『幻夢境』の効果により、1枚ドロー!アレクサンダーの効果で墓地の『DDラミア』を特殊召喚する!」

 

赤馬 零児 手札0→1

 

「レベル7のアレクサンダーにレベル1の『DDラミア』をチューニング!シンクロ召喚!『DDD呪血王サイフリート』!」

 

DDD呪血王サイフリート 攻撃力2800

 

「まだだ!テムジンの効果で墓地の『DDD疾風王アレクサンダー』を特殊召喚!」

 

DDD疾風王アレクサンダー 攻撃力2500

 

「バトル!カオス・アポカリプスでダイレクトアタック!」

 

「やらせん!永続罠、『闇次元の解放』!除外されている『RR―フォース・ストリクス』を特殊召喚!」

 

RR―フォース・ストリクス 守備力2000

 

零児の指示を受け、カオス・アポカリプスが迫り来るその時、隼はリバースカードを使い、フィールドにフォース・ストリクスを帰還させる。だが守備力は2000、結果は分かり切っている。直ぐ様でカオス・アポカリプスは狙いを変え、フォース・ストリクスを破壊する。

 

「速攻魔法、『RUM―デス・ダブル・フォース』!破壊されたフォース・ストリクスを特殊召喚し、倍のランクの『RR』へとランクアップさせる!」

 

「サイフリートの効果でデス・ダブル・フォースを無効に!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!デス・ダブル・フォースを対象に発動したモンスター効果を無効に!」

 

「速攻魔法、『神秘の中華なべ』!サイフリートをリリースし、LPを2800回復!」

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP2350→5150

 

「オーバーレイ・ネットワークを再構築!勇猛果敢なるハヤブサよ。怒りの炎を巻き上げ、大地をも焼き尽くす閃光となれ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!飛翔しろ!『RR―サテライト・キャノン・ファルコン』!」

 

RR―サテライト・キャノン・ファルコン 攻撃力3000

 

しかし隼は何もただ破壊される為にフォース・ストリクスを復活させた訳では無い。攻撃を防ぐ為ならばレディネスを発動している。

隼の狙いはフォース・ストリクスを破壊させ、サテライト・キャノン・ファルコンへとランクアップさせる事。破壊され、ボロボロに傷ついたフォース・ストリクスが復活し、天高く飛翔する。更に不死鳥の如く火炎に包まれ、その翼が巨大化し、炎を裂いて中より純白の猛禽が姿を見せる。

 

「エクシーズ召喚時、お前達の魔法、罠カードを全て破壊!」

 

「ならばメインフェイズ2、アビス・ラグナロクの効果でカオス・アポカリプスをリリースし、サテライト・キャノン・ファルコンを除外!」

 

「チィッ!サテライト・キャノン・ファルコンのORUを1つ取り除き、アレクサンダーの攻撃力をダウン!」

 

DDD疾風王アレクサンダー 攻撃力2500→0

 

「私はこれでターンエンドだ。『幻夢境』の効果でアビス・ラグナロクは破壊される。これならば出し惜しみせずカリ・ユガを出せば良かったか」

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP5150

フィールド『DDD烈火王テムジン』(攻撃表示)『DDD疾風王アレクサンダー』(攻撃表示)

手札1(零児)手札1(デニス)

 

「オレのターン、ドロー!『クリバンデット』を召喚!」

 

クリバンデット 攻撃力1000

 

現れたのは頭にスカーフを巻き、眼帯を装着した鋭い目付きの、毛むくじゃらで1頭身の悪魔。優秀な墓地肥やし、サーチ効果を持つ『クリボー』系列のモンスターだ。

 

「装備魔法、『妖刀竹光』を『クリバンデット』に装備し、魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!もう1枚だ!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→4→5

 

「『慧眼の魔術師』と『降竜の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!慧眼を破壊し、『竜穴の魔術師』をセッティング!」

 

「手札の『増殖するG』を捨てる事で、相手が特殊召喚する度にドローする」

 

「ペンデュラム召喚!2体の『慧眼の魔術師』!」

 

慧眼の魔術師 守備力1500×2

 

赤馬 零児 手札0→1

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!我が闘いはここから始まる、白き翼に望みを託せ、現れろ!No.39!エクシーズ召喚!希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

赤馬 零児 手札1→2

 

2体の慧眼を素材とし、コナミの持つエクシーズモンスターが咆哮する。金色の鎧に純白の双翼、腰の2刀を引き抜き、右肩に39の数字を刻んだ希望の皇。雄々しきその姿は主を鼓舞する。

 

「バトル!『クリバンデット』でアレクサンダーへ攻撃!」

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP5150→4150

 

「追撃だ!ホープでテムジンに攻撃!この瞬間、ホープのORUを1つ取り除き、攻撃を無効に!そして速攻魔法、『ダブル・アップ・チャンス』!ホープの攻撃を倍にして、もう1度攻撃!ホープ剣・ダブル・スラッシュ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→5000

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP4150→1150

 

テムジン目掛けホープが2刀の剣を振るう。テムジンも盾を前に突き出して防ごうとするものの、直ぐ様紙のように真っ二つに切り裂かれてしまう。

 

「くっ――!」

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ。この瞬間、『クリバンデット』をリリースし、デッキの上から5枚を捲り、『アームズ・ホール』を手札に。墓地に送られた最後の『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ!」

 

「ふむ……」

 

相変わらず墓地発動系のカードを次々と破壊し、それを利用して様々なアドバンテージを稼ぐコナミのデュエルは中々に厄介だ。何よりも墓地で発動すると言うのが歯止めの効かないものが多い為、彼のデュエルにはブレーキがかからない。一見まとまりが無いように見えて、見事にまとめてしまっている。

とは言ってもやはり彼にしか扱えないようなデッキだが、何とも評価に困るが、1度波に乗ったら止まらない、それがコナミに当て嵌まる評価だ。

 

コナミ&黒咲 隼 LP2300

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

『RR―ネスト』セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『降竜の魔術師』

手札2(コナミ)手札1(隼)

 

「僕のターン、ドロー!良いね良いねぇ!楽しくなって来たよ!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『Emトラピーズ・マジシャン』3体と『Em影絵師シャドー・メイカー』2体を回収し、2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札1→3

 

「魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』を発動!2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札2→4

 

「その後確認!ペンデュラムモンスターの為、『Emファイヤー・ダンサー』と『Emボーナス・ディーラー』を手札に!良い手札だ!『魔導書士バテル』を召喚!」

 

魔導書士バテル 攻撃500

 

「バテルの効果で『ルドラの魔導書』サーチ!発動!バテルを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

デニスの手札から繰り出されるぶっ壊れカードの数々、凶悪極まりないドローが彼の手札を潤していく。

 

デニス・マックフィールド 手札3→5

 

「『Emファイヤー・ダンサー』と『Emボーナス・ディーラー』でペンデュラムスケールをセッティング!ペンデュラム召喚!『Emウォーター・ダンサー』!『Emボール・ライダー』!『Emフレイム・イーター』!『Emミラー・コンダクター』!」

 

Emウォーター・ダンサー 守備力1400

 

Emボール・ライダー 守備力1800

 

Emフレイム・イーター 守備力1400

 

Emミラー・コンダクター 守備力1600

 

振り子の軌跡で姿を見せる4体の『Em』。騒がしくも楽しいメンバーの登場で更にデュエルは盛り上がる。

 

「墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、ダメージを半分に!」

 

コナミ&黒咲 隼 LP2300→2050

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP1150→650

 

「ボーナス・ディーラーのペンデュラム効果で手札から『Em』を3体以上ペンデュラム召喚した事で2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札0→2

 

これだけモンスターを召喚したにも関わらず、まだ手札が回復する。正にマジシャン。手数を減らさずカードを確保していく。

 

「ショーはまだまだ続くよ!ボール・ライダーとフレイム・イーターの2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『Emトラピーズ・マジシャン』!!」

 

Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2500

 

「ミラー・コンダクターの効果で、ホープの攻守を反転!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→2000

 

「もう1体!2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『Emトラピーズ・マジシャン』!!」

 

Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2500

 

「魔法カード、『エクシーズ・リベンジ』!墓地の『Em影絵師シャドー・メイカー』を蘇生し、ホープのORUを1つ奪う!」

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600

 

「装備魔法、『ワンダー・ワンド』をシャドー・メイカーに装備!」

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600→3100

 

「対象となったシャドー・メイカーのORUを取り除き、2体目のシャドー・メイカーを特殊召喚!」

 

「永続罠、!『デモンズ・チェーン』!モンスターの攻撃と効果を無効に!」

 

次々と姿を見せるデニスのエクシーズモンスター。これでトラピーズ・マジシャンとシャドー・メイカーが計3体、このターン、『RR』が戦闘破壊されず、ダメージも0になるレディネスがあるとは言え、モンスターは別だ。ホープだけで防ぎ切れるかどうか。

 

「シャドー・メイカーと『ワンダー・ワンド』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札0→2

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』で手札を交換、バトルだ!トラピーズ・マジシャンでホープへ攻撃!」

 

「罠発動!『RRレディネス』!除外してダメージを0に!ORUが無いホープが攻撃対象となった為、自壊する」

 

「カードを1枚セットして、ターンエンドだよ!」

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP650

フィールド『Emトラピーズ・マジシャン』(攻撃表示)×2『Em影絵師シャドー・メイカー』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』

手札2(零児)手札0(デニス)

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!手札を捨て、その分ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札1→3

 

「魔法カード、『RUM―ソウルシェイブ・フォース』を発動!LPを半分払い、墓地のフォース・ストリクスを2つランクが高いエクシーズモンスターへとランクアップさせる!オーバーレイ・ネットワークを再構築!誇り高きハヤブサよ。英雄の血潮に染まる翼翻し革命の道を突き進め!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR―レヴリューション・ファルコン』!」

 

コナミ&黒咲 隼 LP2050→1025

 

RR―レヴリューション・ファルコン 攻撃力2000

 

LPと言う命を削り、墓地のフォース・ストリクスが復活し、火炎に包まれランクアップする。灰色に染まった双翼を広げ、甲高い囀りを響かせるのは革命を起こす反逆のハヤブサ。このカードならば――一気に勝負を決められる。

 

「ペンデュラム召喚!『竜穴の魔術師』!『賤竜の魔術師』!」

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

賤竜の魔術師 守備力1400

 

「レヴリューション・ファルコンのORUを1つ取り除き、このターン、このカードは特殊召喚されたモンスター全てに攻撃出来る!」

 

「ならチェーンしてトラピーズ・マジシャンのORUを1つ取り除き、レヴリューション・ファルコンに効果を使う!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、効果を防ぐ!」

 

「ならもう1体の効果発動!」

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、効果を無効!さぁ、バトルだ!全てのモンスターに攻撃!レヴリューショナル・エアレイドォッ!!」

 

レヴリューション・ファルコンの双翼が展開し、中に補填された爆弾が落下して大地ごと焼き尽くす。レヴリューション・ファルコンには特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う場合、その相手モンスターの攻撃力を0にする効果がある。これならば――。

 

「罠発動!『攻撃の無敵化』!このバトルフェイズでの戦闘ダメージを0に!」

 

しかしデニスはそれを軽々とかわす。勝利を目前にして手は空を切る。だがモンスターは別だ。

 

「レヴリューション・ファルコンの効果により、戦闘する特殊召喚されたモンスターの攻撃力を0に!」

 

Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2500→0×2

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600→0

 

「破壊されたトラピーズ・マジシャンの効果でまずはフレイム・イーターを特殊召喚し、続いてスティルツ・シューターを特殊召喚!」

 

Emフレイム・イーター 守備力1400

 

Emスティルツ・シューター 守備力0

 

コナミ&黒咲 隼 LP1025→525

 

「フレイム・イーターとスティルツ・シューターに追撃、カードを1枚セットし、ターンエンドだ。この瞬間、『幻夢境』の効果で『竜穴の魔術師』は破壊される」

 

後は――パートナーである、コナミに任せるのみ。

 

コナミ&黒咲 隼 LP525

『RR―レヴリューション・ファルコン』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(守備表示)

『RR―ネスト』セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『降竜の魔術師』

手札2(コナミ)手札0(隼)

 

「私のターン、ドロー!見事、見事としか言えない連携だ。ならば私も、今出せる全力を出そう!魔法カード、『ペンデュラム・ストーム』!互いのペンデュラムゾーンを破壊し、セットカードを破壊!私は『DD魔導賢者トーマス』をセッティングし、エクストラデッキのニュートンを手札に!そして手札から捨て、墓地の『地獄門の契約書』を回収!デッキから『DD魔導賢者ケプラー』をサーチし、召喚!」

 

DD魔導賢者ケプラー 攻撃力0

 

出会って間もないにも関わらず、互いを支え、その実力を高め、十二分に発揮するコナミと隼を見て、零児が舌を巻く。やはり、コナミはそう言うデュエリストだと理解したのだ。

だがそれでも自分を倒すまではランサーズとしては認められない。零児は己の全てを出し、コナミ達に反撃を仕掛ける。

 

「ケプラーの効果により、デッキから『闇魔界の契約書』をサーチし、発動!その効果で墓地の『DD魔導賢者ニュートン』をペンデュラムゾーンにセッティング!ペンデュラム召喚!『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』!『DDD極智王カオス・アポカリプス』!」

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 守備力3000

 

DDD極智王カオス・アポカリプス 攻撃力2700

 

現れる2体の魔王。これだけでは先程と同じ、しかし零児は更にその上を行く。

 

「アビス・ラグナロクの効果で墓地の『DDD呪血王サイフリート』を特殊召喚!」

 

DDD呪血王サイフリート 攻撃力2800

 

「永続魔法、『魔神王の契約書』!フィールドのケプラーと墓地のアレクサンダーで融合!神々の黄昏を打ち破り、押し寄せる波の勢いで、新たな世界を切り開け!融合召喚!出現せよ!極限の独裁神、『DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク』!」

 

DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク 攻撃力3200

 

更に零児の背後に青とオレンジの渦が巻き起こり、2体のモンスターが吸い込まれる。

中より轟音を響かせ、フィールドを震撼させしはアビス・ラグナロクの面影が残る、海流を纏った魔王。

 

「『幻夢鏡』の効果でドロー!」

 

赤馬 零児 手札0→1

 

「魔法カード、『地割れ』!レヴォリューション・ファルコンを破壊し、2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!2つの太陽が昇る時、新たな世界の地平が開かれる!エクシーズ召喚!現れ出でよ!『DDD双暁王カリ・ユガ』!!」

 

DDD双暁王カリ・ユガ 攻撃力3500

 

2体の王が重なり合い、2つの太陽をも統べる魔王が誕生し、降臨する。巨大な玉座に腰掛け、圧倒的な威圧感を放つ面影はアビス・ラグナロクと似通っているが、放つ重圧はその倍以上に感じられる。ワインレッドの鎧、兜からは2本の雄々しき角が伸び、身体から紫電を迸らせる。赤馬 零児の切り札が今、コナミ達を睨む。

 

「カリ・ユガがエクシーズ召喚したターン、フィールドのカードの効果は発動出来ない!更に私は『闇魔界の契約書』を墓地に送り、墓地の『DDラミア』を特殊召喚!」

 

DDラミア 守備力1900

 

「レベル7のカオス・アポカリプスに、レベル1の『DDラミア』をチューニング!シンクロ召喚!『DDD呪血王サイフリート』!」

 

DDD呪血王サイフリート 攻撃力2800

 

3体目、これでフィールドに融合、シンクロ、エクシーズ、3種の召喚法により生み出される次元の王達。正しく赤馬 零児の本領発揮、ペンデュラムを合わせ、この4種の召喚法をここまで巧みに使いこなせるのはコナミと零児位のものだろう。それに加え、実力はまだ零児が上。

これでは確かにコナミの上位互換と言っても仕方ない。

 

「バトル!カエサル・ラグナロクで賤竜に攻撃!」

 

「ッ!」

 

「カリ・ユガでダイレクトアタック!」

 

「まだだ!墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

「……逃れたか、私はこれでターンエンドだ」

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP650

フィールド『DDD双暁王カリ・ユガ』(攻撃表示)『DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク』(攻撃表示)『DDD呪血王サイフリート』(攻撃表示)

『魔神王の契約書』

手札0(零児)手札0(デニス)

 

そびえ立つ高い壁。コナミ達を通さないと言う鉄の意志。強い――やはり赤馬 零児は今まで闘って来たデュエリストの中でもトップクラス、もしかすればあの白コナミにすら匹敵する男なのかもしれない。

4つの召喚法を操り、フィールドを制圧する支配者を見据え、コナミは――その口元に、笑みを描く。確かにこれは圧倒的な逆境だ。だからと言って諦めるコナミのではない。こんな時だからこそ――デュエリストは、熱く燃え上がる。

 

「オレのターン、ドロォォォォォッ!!」

 

負けられない、負けたくない、ありったけのプライドを賭け、コナミはデッキより1枚のカードを引き抜き、紅い軌跡が天に描かれる。

 

「魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地のレヴリューション・ファルコンを蘇生!」

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、サイフリートの効果を無効!魔法カード、『アームズ・ホール』を発動し、デッキトップをコストに『妖刀竹光』を回収!レヴリューション・ファルコンに装備!『黄金色の竹光』でドロー!まだだ!『エクシーズ・トレジャー』!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札0→2→3

 

「『貴竜の魔術師』と『竜脈の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

「この時を待っていた!カリ・ユガのORUを1つ取り除き、魔法、罠を全て破壊!」

 

カリ・ユガの全身から山吹色に燃えるオーラが迸って弾け飛び、爆風と紫電がフィールドを駆け抜け、大地を焦がす。轟音が響いて大地が隆起し、コナミのペンデュラムを砕く。これで、逆転の火種が消える――そう、零児が思っていたのだが――。

 

「それを待っていた!」

 

「何……!?」

 

「破壊された『妖刀竹光』の効果でデッキの『魂を吸う竹光』をサーチ!魔法カード、『アームズ・ホール』を発動し、『妖刀竹光』を回収!」

 

「まさ……か――!?」

 

「レヴリューション・ファルコンに装備!永続魔法、『魂を吸う竹光』を発動し、『妖刀竹光』の効果で手札に戻し、レヴリューション・ファルコンはダイレクトアタックが可能に!」

 

これでレヴリューション・ファルコンのダイレクトアタックが通り――LPが650の零児は――。そう、コナミはこれを予想し、ここまで促す為に『妖刀竹光』を発動し、ペンデュラムスケールをセットしたのだ。

カリ・ユガの効果を使わせる為に――。成程、この駆け引きでコナミは零児の裏をかき、見事越えて来た。

これでは認めざるを得ない。コナミの、ランサーズ入りを――。やはり、彼はタッグデュエルでこそ、その実力を数倍に上げ、パートナーの実力をも引き上げて来るデュエリスト。

 

「レヴリューション・ファルコンで、ダイレクトアタック!!」

 

赤馬 零児&デニス・マックフィールド LP650→0

 

勝者、コナミ、黒咲 隼ペア。その輝かしい勝利に、コナミは珍しくガッツポーズを取った――。

 

 

 

 

 

 

 

 




梶木強化や時械神がOCG化したりと最近は嬉しい事ずくめ。こうやって強化が来るとそのキャラを出したいなーみたいになって来ます。冷静になっていや、ここでは駄目だろうとなりますが。
No.もあと少し、時械神も出てる事だしヌメヌメを出すんやで。尚マスタールール4に書き換えられる模様。


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第87話 痺れる~!

イカれたランサーズメンバーを紹介するぜ!ハーモニカ、コナミ!草笛、沢渡!口笛、黒咲!ジェットストリームアタックだ!


「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

使い慣れ、闘い慣れた遊勝塾のデュエルコートにて、4人のデュエリストが声高々にアクションデュエルの口上を上げる。

最初に声を上げたのはジュニア3人組の痺れ担当、原田 フトシ。

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

 

フトシの口上を繋ぎ、次なる口上を上げたのはジュニア組の紅一点、赤髪の可愛らしい容姿をした、コナミ曰く、あざとい幼女、あざとい。

鮎川 アユ。そして彼女に続くのは当然――。

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

ジュニア組の頭脳担当、今回の舞網チャンピオンシップ、ジュニアクラスにて準優勝と言う、快挙を果たした山城 タツヤだ。

この3人を同時に相手し、向き合うのは遊勝塾期待のエース、頭にゴーグルをかけ、肩から舞網第2中学の制服を靡かせ、動きやすいカーゴパンツを履いた、ペンデュラムの開祖にしてエンタメデュエルを受け継ぐ少年――榊 遊矢。

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

フィールド内が光の粒子に包まれ、騒がしく輝かしい、スポットライトが走るフィールド、『マジカル・ブロードウェイ』へと変わっていき――4人がデュエルディスクを構え、対決する。

 

「「「「アクショーン……デュエル!!」」」」

 

何故こうなったのか、それを説明するには、少しばかり時間を遡る――。

 

――――――

 

それは遊矢がペガサスによる特訓やランサーズの交流デュエルを終え、コナミとセレナ、SALとアリトと談笑していた時だった。

 

「へぇ、コナミもランサーズになったのか……信じていたけど、嬉しいな。一緒に頑張ろうぜ」

 

「うむ、零児に勝ったのなら誰も文句は言わんだろう。よろしく頼む」

 

「ウキ」

 

「まぁ、ランサーズのメンバーが増えるのは良い事だ!余り話した事無いけど、何か懐かしいし、良い奴っぽいしな!」

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 

話題はやはり、コナミのランサーズ入り。その後もどうやって零児に勝ったのか、やら、ペガサスの特訓内容やデッキの改良等のデュエリストらしい会話だ。

そんな会話が続いた時だった。彼等の傍、いや――彼等から数メートルばかり離れた柱の影から、小さな子供がおどおどと遊矢達を見つめている事に、遊矢が気づいたのは。

 

「ん?零羅?どうしたんだー?」

 

「……!」

 

その正体は赤馬 零児の兄弟――弟なのか妹なのか分からないが、一般的に妹でも兄弟で通じるだろう、零羅だ。何やらジーッ、と静かに自分達を見つめる零羅を疑問に思い、遊矢が声をかける。

すると零羅はビクゥッ、と肩を震わせ、あわわあわわと言った様子で開いた口に手を当てながらキョロキョロとして――何時の間にか背後に回ったコナミに首根っこを掴まれ、確保された。

 

「残像だ」

 

「――ッ!?――ッ!?」

 

背後を振り向くと突如コナミの顔が現れると言う意味不明な状況に声にならない声を上げる零羅。だがしかし、遥かに遅い。バタバタと打ち上げられた魚のようにもがく零羅を運び、遊矢達の前まで運ぶコナミ。零羅の中ではコナミは確実にいじめっ子である。

 

「……零羅を余りいじめてやるなよ……」

 

「うむぅ……何だか可哀想だな」

 

「キー?」

 

「でもまぁ、何か用があるならこうするしかねぇんじゃ無いか?」

 

遊矢とセレナがコナミを非難し、SALとアリトが肯定する。理性と野生の別れ所と言った所か、セレナが迷っている辺り、彼女も野生みを感じられる。

 

「それで零羅、何か俺達に用かな?」

 

遊矢が人当たりの良い優しい笑みを零羅に向ける。何だかんだでコミュニケーション能力が高く、相手の視線に立って話せる少年だ。

今だって腰を下ろし、零羅と目線を合わせる事で威圧的にならないように気を使っている。

 

「……遊矢に、用があるって、タツヤ達が……コナミは、刃達がデュエルコートで呼んでる……」

 

「タツヤ達が俺を?」

 

「刃達か……あいつ等にも迷惑をかけた。一発位殴られに行くか」

 

どうやら遊矢にはタツヤ達ジュニア3人組が、コナミにはLDSの3人組が用があるらしい。零羅は伝言を頼まれたと言う事だろう。2人は立ち上がり、遊矢は零羅の頭にポンと手を置き、歩を進める。

 

「ありがとな、零羅」

 

「オレからも礼を言う」

 

「……ん……」

 

そう言って、2人は場を離れ、互いに別れ、3人の下へと急ぐ。そして遊矢はジュニア3人組と合流し、開口一番、アユがこう切り出して来たのだ。

 

「フフン、来たね遊矢お兄ちゃん!私達といざ、じんじょーにデュエル!」

 

こうして――訳も分からぬまま、遊矢はジュニア3人組に遊勝塾まで連れられ、今に至ると言う事である。

 

――――――

 

「ルールはバトルロイヤル!先攻は私だよ!私のターン!」

 

アクションフィールド、『マジカル・ブロードウェイ』にて始まった遊矢対遊勝塾ジュニア3人組のデュエル。

先攻は紅一点、アユだ。彼女のデッキは『アクアアクトレス』と名のつく水族のモンスターを『アクアリウム』と言う永続魔法で強化してひたすらに殴るビートダウン志向のデッキだ。単純ながら侮る事は出来ない。手札次第では1ターンキルも可能となるからだ。

 

「私はフィールド魔法、『湿地草原』を発動!フィールドのレベル2以下の水属性、水族モンスターの攻撃力は1200アップするよ!」

 

アユのフィールドだけが変化し、ボウボウと草が生い茂る草原へと変わる。対応するモンスターはステータスが貧弱だが、これによって1200と言う破格の強化が受けられる。厄介なカードだ。

 

「そして『アクアアクトレス・グッピー』を召喚!」

 

アクアアクトレス・グッピー 攻撃力600→1800

 

空中を泳ぎ、アユの周りを漂うはリボンにステッキと遊矢の『EM』にも似た出で立ちのピンク色で尾が身体の半分以上を占めるグッピー。『湿地草原』の恩恵を受け、攻撃力1800、優秀な下級アタッカー足り得る数値だ。

 

「グッピーの効果!手札から『アクアアクトレス・テトラ』を特殊召喚!」

 

アクアアクトレス・テトラ 攻撃力300→1500

 

グッピーの隣に並ぶように現れたのは、ひらりと長い尾を翻す青いネオンテトラ。『アクアアクトレス』に必須の『アクアリウム』をサーチする優秀なモンスターだ。

 

「テトラの効果で『水舞台』をサーチし、発動!」

 

アユのフィールドが海中に沈み、亜熱帯へと変化して幻想的な光景を作り出す。これでアユのフィールドの水属性モンスターは同じ属性でしか戦闘破壊されず、相手モンスターの効果を受けなくなった。まずは耐性を与え、防御を固めると言う事だろう。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

鮎川 アユ LP4000

フィールド『アクアアクトレス・グッピー』(攻撃表示)『アクアアクトレス・テトラ』(攻撃表示)

『水舞台』セット1

『湿地草原』

手札1

 

「次は俺のターンだよ!ドロー!俺は『エヴォルド・オドケリス』を召喚!」

 

エヴォルド・オドケリス 攻撃力500

 

アユのターンが終了し、ターンプレイヤーがフトシに移る。彼がデッキから勢い良くカードを引き抜き、召喚したのは今まで彼が使っていた『らくがきじゅう』では無く、見慣れぬ爬虫類のカード。このカードはオレンジ色の亀のようだ。今までのフトシとは違うデッキに遊矢は僅かだが瞠目する。

 

「デッキを変えたのか……!?」

 

「へへっ!驚くのはまだ早いさ!オドケリスの召喚時、手札の『エヴォルダー・ケラト』を特殊召喚!」

 

エヴォルダー・ケラト 攻撃力1900→2100

 

オドケリスの背が輝き、『マジカル・ブロードウェイ』のビルへと黒いシルエットが投影される。口を大きく開き、鋭い牙を見せ、長い尾を振るって咆哮するその姿は正に太古の恐獣。シルエットはそのまま実体を持って浮かび上がり、小さな翼と角を伸ばした肉食恐竜、ケラトサウルスが現れる。巨大な体躯を唸らせ、天へ咆哮する姿は大迫力、とんでもない威圧感だ。

 

「『エヴォルド』モンスターの効果で特殊召喚されたケラトは攻撃力が200アップするんだ!カードを2枚セットしてターンエンド!」

 

原田 フトシ LP4000

フィールド『エヴォルダー・ケラト』(攻撃表示)『エヴォルド・オドケリス』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「僕のターン、ドロー!僕は『ゴールド・ガジェット』を召喚!」

 

ゴールド・ガジェット 攻撃力1700

 

フトシのターンが終了し、次は当然タツヤのターン。彼はニッ、口端を持ち上げてドローし、手札から1体のモンスターを召喚する。ソリッドビジョンによって出現したのはキラキラと黄金に輝く歯車を組み込んだ優秀な機械族のモンスター。堅実な性格の彼らしいカードだ。LDSにおいてもこのカードの評価は高い。

 

「『ゴールド・ガジェット』の効果で手札の『グリーン・ガジェット』を召喚!」

 

グリーン・ガジェット 攻撃力1400

 

手札のレベル4、機械族を特殊召喚する効果。これによって緑色の『ガジェット』が並び立つ。

 

「『グリーン・ガジェット』の効果で『レッド・ガジェット』をサーチ!そして永続魔法、『補給部隊』を発動。カードを1枚セットしてターンエンドだよ」

 

山城 タツヤ LP4000

フィールド『ゴールド・ガジェット』(攻撃表示)『グリーン・ガジェット』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札2

 

召喚するだけでアドバンテージを稼ぐ『ガジェット』モンスターにモンスターが破壊されれば1枚ドローする『補給部隊』。彼の性格を表すようなカードだ。消費を抑えてコツコツと。この3ターンだけで3人の性格が分かってしまう。クスリと笑みを溢し、遊矢はデッキからカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!俺は『EMチアモール』と『EMドラネコ』でペンデュラムスケールをセッティング!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMセカンドンキー』!『EMインコーラス』!」

 

EMセカンドンキー 守備力2000

 

EMインコーラス 守備力500

 

いきなり全力、同門だろうが後輩だろうが、女子供でも容赦なく、問答無用で笑顔にする。遊矢のエンタメデュエルの象徴、ペンデュラムが炸裂する。

背に2本の柱が上り、キリンと銅鑼を抱えた猫が天空に線を描いて魔方陣を作り出し、振り子が揺れ、孔が開いて中から2本の光が落ちる。光の粒子を散らし、現れたのは2体の『EM』モンスター。目を大きく開いたロバと3色の鮮やかなインコだ。

 

「セカンドンキーの効果で、そうだな、『EMペンデュラム・マジシャン』をサーチし、カードを2枚セットしてターンエンド」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMセカンドンキー』(守備表示)『EMインコーラス』(守備表示)

セット2

Pゾーン『EMチアモール』『EMドラネコ』

手札1

 

全てのターンプレイヤーのターンが終了し、攻撃可能な5ターン目へ。これから3人の攻撃を3ターンも防がねばならない。ジュニア組とて油断は出来ない。

 

「私のターン、ドロー!テトラの効果で『水照明』をサーチし、発動!」

 

『水舞台』が淡い光を帯びた泡に包まれる。このカードは厄介だ。『アクアアクトレス』の戦闘時、攻守を倍にする凶悪極まりないカード。可愛らしい癖に師であるセレナやコナミと同じく殺意が高くて困る。

 

「バトル!グッピーでセカンドンキーに攻撃!」

 

アクアアクトレス・グッピー 攻撃力1800→3600

 

グッピーが宙をまるで海のように自由に漂い、その巨大な尾ひれでセカンドンキーをビンタして吹き飛ばす。ブロードウェイのビル群に激突し、破壊されるセカンドンキー。とんでもない威力だ。

 

「更にテトラでインコーラスに攻撃!」

 

アクアアクトレス・テトラ 攻撃力1500→3000

 

追撃がかけられ、テトラが口から巨大な泡を作り出してインコーラスを閉じ込める。インコーラス達が何とか抜け出そうと嘴で突いたその時、ピカリと光が泡を覆い、泡が爆発してインコーラスを焼き鳥にする。

 

「インコーラスの効果で『EMギッタンバッタ』を特殊召喚!」

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

フィールドががら空きになる事を避ける為、インコーラスが囀り、最後の力で仲間を呼ぶ。現れたのは、シーソーのように揺れる2つの顔を持つバッタのモンスター。特殊召喚される事で1ターンに1度の戦闘耐性を得るモンスターだ。

 

『随分と殺意の高い後輩だな、遊勝塾……恐るべし』

 

「いきなり出て来てそれはないだろ……」

 

アユの高い猛攻を見て、今まで引っ込んでいたユートが表に出て驚愕の声を上げる。

 

『俺の出る幕はあるか?』

 

「……あるかもしれないけど……出来れば俺1人で相手をしてあげたい」

 

『……そうか……まぁ、今回は命がかかって無いしな』

 

チラリと遊矢を横目で見て、心配するユート。しかし遊矢としては先輩として、榊 遊矢として後輩達に最後まで自分のデュエルを見せてあげたいと思っている。後輩思いの先輩だ。彼の優しさを見て、ユートもフ、と微笑み背後で見守る。

 

「ターンエンドだよ」

 

鮎川 アユ LP4000

フィールド『アクアアクトレス・グッピー』(攻撃表示)『アクアアクトレス・テトラ』(攻撃表示)

『水舞台』『水照明』セット1

『湿地草原』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!『エヴォルド・カシネリア』を召喚!」

 

エヴォルド・カシネリア 攻撃力1600

 

現れたのは胴の長い爬虫類のモンスター。成程、フトシのデッキは爬虫類族から恐竜族へと進化させるデッキなのだろう。遊矢は冷静に分析し、その方向性を見抜く。

 

「オドケリスを守備表示に変更!そして永続魔法、『進化の代償』を発動し、バトルだ!ケラトでギッタンバッタへ攻撃!」

 

「特殊召喚されたギッタンバッタは1ターンに1度、戦闘では破壊されない!」

 

「だけどカシネリアの攻撃が残ってるよ!」

 

迫る追撃。ケラトでギッタンバッタのガードを崩し、カシネリアが破壊する。これで遊矢のモンスターは0、フィールド、ががら空きとなってしまった。

 

「バトルフェイズを終了するこの瞬間、モンスターを破壊したカシネリアをリリースし、デッキから『幻創のミセラサウルス』を2体特殊召喚!」

 

幻創のミセラサウルス 攻撃力1800×2

 

「モンスターを2体も……!?」

 

フィールドに登場したのはティラノサウルスをベースとし、トリケラトプスの兜、プテラノドンの腕、ステゴサウルスの背骨、アンキロサウルスの尾を組み合わせたような骨の恐竜。正に寄せ集めの幻の生物。フィールドに並ぶ2体を見て、遊矢の表情が驚愕に染まる。

 

「『進化の代償』の効果!『エヴォルド』モンスターの効果でモンスターが特殊召喚された場合、フィールドのカードを1枚破壊する!遊矢兄ちゃんのペンデュラムゾーンの『EMドラネコ』を破壊!」

 

「くっ――!」

 

「そして2体のミセラサウルスでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『エヴォルカイザー・ラギア』!!」

 

エヴォルカイザー・ラギア 攻撃力2400

 

「エクシーズ召喚ん!?」

 

フトシの眼前に星を散りばめた渦が広がり、2体のミセラサウルスが光となって吸い込まれ、集束、小爆発を引き起こし、現れたのは恐竜をも進化させた6枚の翼を広げ、炎の渦に包まれたミントグリーンのドラゴン。まさかのエクシーズモンスター。突如現れたその黒いカードに遊矢が目を丸くして驚愕する。

 

『やはりか……このモンスターは厄介だぞ遊矢。アクションカードを積極的に拾え』

 

「ん?ああ……って言うかエクシーズかぁ……何時の間に……」

 

「へへっ、勝鬨兄ちゃんにね!痺れるだろ?」

 

「あの野郎……!」

 

どうやら勝鬨にエクシーズを教わったらしい。その事実に遊矢は悔しいやら嬉しいやら複雑な表情でフトシを見る。自分だけでは無い。フトシ達もまた――成長している。

 

「ターンエンドだよ」

 

原田 フトシ LP4000

フィールド、『エヴォルカイザー・ラギア』(攻撃表示)『エヴォルダー・ケラト』(攻撃表示)『エヴォルド・オドケリス』(守備表示)

『進化の代償』セット2

手札1

 

「僕のターン、ドロー!僕は『レッド・ガジェット』を召喚!」

 

レッド・ガジェット 攻撃力1300

 

ガキン、『グリーン・ガジェット』の上に赤い歯車が降り立ち、音を鳴らして噛み合う。緑、赤と来て次は――。

 

「『レッド・ガジェット』の効果で『イエロー・ガジェット』をサーチ!」

 

イエローカラーの歯車がタツヤの手札におさまる。これこそが『ガジェット』の利点だ。召喚時、対応した『ガジェット』をサーチする事で手札を減らさず回り続ける。グッドスタッフにも投入される事もあり、初心者も扱いやすく、玄人でも唸らせるデッキだ。それに加え、『ガジェット』を使ったデッキには様々な型がある事を考えると幅も広い。タツヤの使う『ガジェット』はどの型かと遊矢はジッと観察する。

 

「魔法カード、『融合』!フィールドの『レッド・ガジェット』と手札の『ヴォルカニック・バレット』を融合!燃え上がり飛翔せよ!融合召喚!『重爆撃禽ボム・フェネクス』!!」

 

重爆撃禽ボム・フェネクス 攻撃力2800

 

「融合モンスター……!」

 

どうやらタツヤは融合を使うらしい。摩天楼の上空に業火を纏った不死鳥が飛翔する。しかし――タツヤは誰に融合を教わったのだろう。フトシと同じく勝鬨か、それとも柚子か素良、はたまた真澄だろうか。しかし、タツヤが口にした師は、意外な人物だった。

 

「大会には間に合わなかったけど……バレットさんに教わったんだ!」

「バレットさんが……!?」

 

『……』

 

バレット。それは遊矢を導いてくれた男であり、ユートに強さを示してくれた男でもあり――素良と同じく、アカデミアのデュエル戦士だった男――。

その事実に遊矢は驚き――しかし、同時にやっぱりと安心する。確かにバレットは敵だった。それでも彼は――悪い人では無いと。

 

「そっか……!」

 

「さぁ、バトルだよ!ボム・フェネクスで、ダイレクトアタック!」

 

「させない!アクションマジック、『回避』!これで――」

 

『いや、まだだ!』

 

「ここで『エヴォルカイザー・ラギア』のORUを2つ取り除き、効果発動!相手が発動した魔法、罠を無効にし、破壊する!」

 

「なっ、ぐぅぅぅぅぅっ!?」

 

榊 遊矢 LP4000→1200

 

ラギアが顎を開き、咆哮すると同時に大気が震撼してソニックブームを巻き起こし、遊矢の前に投影されたソリッドビジョンの『回避』が砕け散る。

盾が破壊された事でボム・フェネクスが真上を通り過ぎ、投下していった爆弾が遊矢のLPを削り取る。一気に2800の大ダメージ。3対1でこれは痛い。

 

「『ゴールド・ガジェット』で攻撃!」

 

「永続罠、『EMピンチヘルパー』!効果でデッキから『EMジンライノ』を特殊召喚!毎回助かります!」

 

EMジンライノ 守備力1800

 

迫る追撃、『ゴールド・ガジェット』の攻撃より遊矢を守ったのは毎度おなじみ、ピンチヘルパーとジンライノ。何時も遊矢の危機を救ってくれるカードだ。その信頼も厚い。

 

「『グリーン・ガジェット』を守備表示に変更し、魔法カード、『一時休戦』。全てのプレイヤーはカードを1枚ドローし、次のターン終了までダメージは0になる」

 

山城 タツヤ 手札0→1

 

榊 遊矢 手札1→2

 

鮎川 アユ 手札2→3

 

原田 フトシ 手札1→2

 

「ターンエンド。やっぱりこのターンじゃ決められなかったか……!」

 

山城 タツヤ LP4000

フィールド『重爆撃禽ボム・フェネクス』(攻撃表示)『ゴールド・ガジェット』(攻撃表示)『グリーン・ガジェット』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!流石にこんなに早く負けちゃうと、先輩の威厳が台無しだしね!俺は『EMブランコブラ』をセッティング!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMインコーラス』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMインコーラス 守備力500

 

この窮地をどうにかする為、遊矢がペンデュラム召喚したのは2体のモンスター。先程の攻撃を防ぎ、後続の壁モンスターを呼び出したインコーラスと赤い衣装を纏った振り子を手にしたマジシャンだ。『EM』のキーカードと言えるこのモンスターにより、状況を乗り越える。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果でペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、『EMドクロバット・ジョーカー』と『EMギタートル』をサーチ!ドクロバット・ジョーカーを召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

フィールドにステップを刻み、現れたのは継ぎ接ぎだらけのハットと黒いマスクを被り、トランプのマークを散りばめた燕尾服を纏った道化師だ。ここから遊矢の黄金パターンが始まる。

 

「ドクロバット・ジョーカーの効果で『EMリザードロー』をサーチ!ギタートルと共にセッティングし、ギタートルのペンデュラム効果でドロー!更にリザードローのペンデュラム効果で自身を破壊し、もう1枚!」

 

榊 遊矢 手札1→2→3

 

「良し!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

遊矢の眼前に星を散りばめた漆黒の渦が広がり、その中に2体のモンスターが光となって吸い込まれ、小爆発を引き起こす。立ち込める黒雲を引き裂き、中より現れたのは刃のように鋭く、妖しく輝く牙と翼を広げた黒竜。

優秀な効果を持った召喚しやすいエクシーズモンスターだ。当然遊矢のデッキでも活躍している。最近は装備カードとなったりトゥーン化したりと散々な扱いでユートの胃がキリキリと痛んでいるが。

 

「ダーク・リベリオンのORUを2つ取り除き、効果発動!ラギアの攻撃力を半分にし、その数値分、攻撃力をアップ!トリーズン・ディスチャージ!」

 

エヴォルカイザー・ラギア 攻撃力2400→1200

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→3700

 

ダーク・リベリオンの両翼より赤い雷が迸り、ラギアの翼を穿ち、力を奪う。強き者の力を得て圧政を打ち破る強力な効果。強化が永続なのも強みの1つだ。

 

「バトル!ダーク・リベリオンでボム・フェネクスを攻撃!反逆のライトニング・ディスオベイ!」

 

ダーク・リベリオンが天高く飛翔し、急降下して大地を抉りながら猛スピードで突き進む。響き渡る破壊音。そしてダーク・リベリオンは大きく跳躍してボム・フェネクスを牙で貫く。

 

「くっ――だけど『補給部隊』の効果で1枚ドロー!」

 

山城 タツヤ 手札1→2

 

「『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をセッティング、カードを1枚セットしてターンエンド。この瞬間、『オッドアイズ』を破壊し、『EMラディッシュ・ホース』をサーチ!」

 

榊 遊矢 LP1200

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)

『EMピンチヘルパー』セット2

Pゾーン『EMギタートル』

手札2

 

ダーク・リベリオンの背に飛び乗り、遊矢は騒がしい夜の街の空を飛翔する。相手が子供とは言え3対1、出来る限り伏せたカードを温存し、アクションカードで凌ぎたい。それに彼等は強い。油断は出来ない。

 

「私のターン、ドロー!テトラの効果で『水舞台装置』をサーチし、発動!水属性モンスターの攻守を300アップし、『アクアアクトレス』は更に300アップする!」

 

アクアアクトレス・グッピー 攻撃力1800→2400

 

アクアアクトレス・テトラ 攻撃力1500→2100

 

アユのフィールドに最後の『アクアリウム』が発動される。水中に突如として現れたのはお伽噺に登場する竜宮城だ。3枚の『アクアリウム』が揃った事で幻想的に輝き、その美しさを増す。

 

「グッピーの効果で手札の『アクアアクトレス・アロワナ』を特殊召喚!」

 

アクアアクトレス・アロワナ 攻撃力2000→2600

 

グッピーの導きで現れたのは豪華な衣装を纏った巨大な魚の婦人。手に持ったパイプからはプクプクと泡が立っている。これでアユの『アクアアクトレス』は揃った。後は――新たに得た力を披露するだけだ。

 

「アロワナの効果で2体目のテトラをサーチ!そして『フィッシュボーグ―アーチャー』を召喚!」

 

フィッシュボーグ―アーチャー 攻撃力300→600

 

ここで登場したのはカワウソとアシカが入った2つの水槽を組み合わせ、ケンタウルスのような構造をした弓を引くチューナーモンスター。そう、チューナーだ。フトシがエクシーズ、タツヤが融合と来ればこうなる事は分かっていたが――やはり驚愕は隠せない。

 

「レベル2のグッピーとレベル1のテトラにレベル3の『フィッシュボーグ―アーチャー』をチューニング!シンクロ召喚!『瑚之龍』!!」

 

瑚之龍 攻撃力2400→2700

 

アーチャーが2つの光輪となって弾け飛び、グッピーとテトラを包み込む。そして閃光がリングを貫き、現れたのは竜宮を漂うオレンジ色の巨大な海龍。タツノコが進化したのような雄々しく、この舞台に相応しいモンスターだ。

 

「栄太お兄ちゃんに教えてもらいました!悔しいでしょうねぇ」

 

「アユ!メッ!悔しいでしょうねぇはメッ!お兄ちゃん許しません!」

 

どうやらシンクロを教えたのは九庵堂のようだ。フフンと胸をそらし、最早この塾では本家よりもおなじみとなった彼の台詞を放つアユに遊矢が悪影響を受けていると思って注意する。

無邪気で可愛らしい幼女が顔芸をすると思ったら大変である。早い内にその可能性を消しておきたい。意外と過保護な遊矢であった。

 

「えー、面白いのにー!」

 

「ダメったらダメ!フトシも勝鬨ったらダメだぞ!」

 

「何!?師匠が勝鬨兄ちゃんなら勝鬨っても良いのでは無いか!?」

 

「早速しない!」

 

「勲章ものだね……」

 

「全員余計な事も教えてマース!」

 

全員師匠の影響受けまくりである。子供は人の真似をして学ぶとは言うが、どうしてこう特徴的過ぎる部分を受け継ぐのか。師匠が個性的なのがいけないのかもしれない。

 

「でも遊矢兄ちゃんだって真似するじゃん」

 

「俺は良いの!」

 

「沢渡の真似?」

 

「違う!」

 

かと言って遊矢の言い分も理不尽ではある。可愛い後輩には真っ直ぐ育って欲しいのかもしれないが、少々過保護だ。プンスカと沢渡のように怒る遊矢に、ユートが苦笑する。

 

『案外似ているぞ』

 

「ユートまで……」

 

「おっと、デュエルの途中だったね!私は手札を捨て、『瑚之龍』の効果でピンチヘルパーを破壊!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!ピンチヘルパーを守る!」

 

「ならバトル!アロワナでダーク・リベリオンへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!」

 

ダーク・リベリオンに騎乗している事で空中に浮かぶアクションカードを掴み取り、デュエルディスクに叩きつける。『水照明』がある限り、アロワナは戦闘時に攻撃力が5600に跳ね上がる。そうなれば大ダメージは避けられないだろう。

 

「『瑚之龍』でインコーラスに攻撃!」

 

「インコーラスの効果で『EMロングフォーン・ブル』を特殊召喚!」

 

EMロングフォーン・ブル 守備力1200

 

『瑚之龍』がそのアギトから巨大な泡を作り出し、インコーラスを閉じ込め、爆発させる。しかしその犠牲は無駄にならない。3羽の囀りは電波となって次のモンスターに届き、頭にかけた受話器を鳴らしながら牡牛が登場する。

 

「ロングフォーン・ブルの効果で『EMバリアバルーンバク』をサーチ!」

 

「私はこれでターンエンド!」

 

鮎川 アユ LP4000

フィールド『瑚之龍』(攻撃表示)『アクアアクトレス・アロワナ』(攻撃表示)

『水舞台』『水舞台装置』『水照明』セット1

『湿地草原』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!ラギアを守備表示に変更!俺はオドケリスをリリースし、罠発動!『突然進化』!デッキから『エヴォルダー・ウルカノドン』を特殊召喚!」

 

エヴォルダー・ウルカノドン 攻撃力1200

 

オドケリスが脱皮し、中より進化し、姿を見せたのは青い鱗の巨大な竜脚類。これでまたレベル4のモンスターが揃ったが――今はまだエクシーズする時では無い。彼のデッキにはラギアは1枚しか入ってないのだ。

 

「バトル!ケラトでロングフォーン・ブルへ攻撃!」

 

ドスドスと地鳴りを響かせ、肉食恐竜がその脚でロングフォーン・ブルを踏みつけて捉え、口から炎のブレスを放つ事で丸焼きにする。

 

「ケラトの効果で『エヴォルド・ラゴスクス』をサーチ!メインフェイズ2、2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『エヴォルカイザー・ドルカ』!」

 

エヴォルカイザー・ドルカ 攻撃力2300

 

第2の皇帝は鰐のように鋭い歯を持つ純白のドラゴン。ラギアが炎の渦を纏っているのに対し、このカードは身体中から火の粉を降らせている。

 

「モンスターをセットしてターンエンド!」

 

原田 フトシ LP4000

フィールド『エヴォルカイザー・ラギア』(守備表示)『エヴォルカイザー・ドルカ』(攻撃表示)セットモンスター

『進化の代償』セット1

手札3

 

「僕のターン、ドロー!僕は『イエロー・ガジェット』を召喚!」

 

イエロー・ガジェット 攻撃力1200

 

タツヤのフィールドに現れたのは黄色い身体を持ち、側部と下半身から歯車を回したモンスターだ。これで『ガジェット』モンスターは一周した事になる。

 

「効果で『グリーン・ガジェット』をサーチ!そして500LPを払い、墓地の『ヴォルカニック・バレット』の効果で同名カードをサーチ!」

 

山城 タツヤ LP4000→3500

 

「魔法カード、『手札抹殺』!これで手札を交換!そして魔法カード、『融合回収』で『ヴォルカニック・バレット』の『融合』を回収し、発動!フィールドの『イエロー・ガジェット』と手札の『ヴォルカニック・バレット』で融合!融合召喚!『起爆獣ヴァルカノン』!」

 

起爆獣ヴァルカノン 攻撃力2300

 

現れたのは鋼鉄の肉体に爆弾を抱いた竜のようなモンスター。因みに起爆獣だと名乗っているが、地属性だ。恐らくは地雷のようなモンスターなのだろう。

 

「ヴァルカノンの効果でダーク・リベリオンを対象とし、このカードと共に破壊!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、ダーク・リベリオンを守る!」

 

「惜しい――!僕は『ゴールド・ガジェット』を守備表示に変更し、ターンエンド」

 

山城 タツヤ LP3500

フィールド『起爆獣ヴァルカノン』(攻撃力)『ゴールド・ガジェット』(守備表示)『グリーン・ガジェット』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札3

 

子供とは思えない見事な戦略と攻防、それは徐々に遊矢を追い詰めていく。額に汗を浮かべ、不適に笑う遊矢。そう言えば――まだ、彼等が何故自分にデュエルを挑んだのかを聞いていない。尤も――察しはついているが。

 

「なぁ、何でいきなりデュエルを挑んで来たんだ」

 

「……それは……」

 

言い淀むアユ。彼女にしては暗い表情だ。言い辛い事なのだろう、フトシも顔を伏せる中、タツヤが覚悟を決めた表情で語り出す。

 

「遊矢お兄ちゃんを止める為だよ」

 

「タツヤ……!」

 

表情を歪ませ、泣きそうな顔で、唇を噛みながら彼は言う。遊矢を止める為だと。ああ、やはりそうなのだろう、予想通りだ。だからこそ、辛い、彼等にこんな表情をさせてしまう自分が嫌になってしまう。

 

「アカデミアって奴等はこの街に侵略して、暗次お兄ちゃんをカード化したって!柚子お姉ちゃんを拐っていったって!だから、だから……!遊矢お兄ちゃん達もそうなっちゃうんじゃないかって!そんなの嫌だから!勿論コナミお兄ちゃんや権現坂お兄ちゃん、セレナお姉ちゃんにも行って欲しくない!行かなくて良いじゃないか!態々遊矢お兄ちゃん達が行かなくたって、他の人が何とかしてくれる筈だから……だから――僕達は遊矢お兄ちゃん達を止めるんだ!」

 

大切な人が傍にいなくなってしまったから、遊矢も、と不安に駆られてしまったのだろう。込み上げる涙を堪え、覚悟をした表情で遊矢を見つめる子供達。仕方ない事だ。犠牲者が出てる今、自分もそうなってしまう可能性は確かにある。それが怖くて、彼等は遊矢をこの遊勝塾に留めようとする。

 

だけど――遊矢は嬉しいと思うと同時に、嫌だと感じる。折角成長した彼等とデュエルするのに、泣き顔なんて嫌だから。先輩として教えて上げよう。遊勝塾の信条を。笑顔で、見送って欲しいから――。




ただでさえミスが多いのに更にミスりやすいバトルロイヤルを行う無謀な挑戦。
と言う訳で今回から遊矢君とコナミ君、スタンダード最後のデュエルに入ります。この2戦が終わったらバトルロイヤルは当分ありません。もうやだ!小生バトルロイヤルやだ!
アユちゃんに瑚之龍を使って欲しかったから召喚法はバラけさせました。バハシャ?餅カエル?ははは、何それ(白目)。
タツヤ君のデッキがブンボーグじゃないけど許してね。あの話より早く作っちゃってたから。


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第88話 可愛いから大丈夫だ!

投稿前に見返して、モンスターの数とか何時の間にかカードが増えていたりと初歩的なミスが多々あり大部分を修正する事に。何でこんなミスしてんねやろ……。これだからバトルロイヤルは!(尚後2話程バトルロイヤルする模様)


遊矢とタツヤ達がデュエルを続ける中、コナミもまた、刃達の呼び出しを受け、LDSのデュエルコートに来ていた。本人としては恐らくは暗次の事で不様を晒した為、一発ずつ殴られたり、ジェットストリームアタックを決められるんだと思っていたが――何やらおかしい。

デュエルコートが真っ暗だ。明かり1つ無いフィールドをコナミがキョロキョロと見渡した時――中心に、1枚のカードが落ちていた。傍には木の棒で支えられた網。明らかな罠だが――コナミはそれに気づかず、迷わずにカードを取り、確保される。

 

「しまった!罠か!閉じ込められた!」

 

「いや、しまったじゃねぇよ」

 

ガコンと言う音と共にコナミの眼前に3つのスポットライトが降り、3人の少年少女の姿を照らし出す。何やらポケモンジムに来たチャレンジャーのような気分である。スポットライトを浴び、その顔に影を差しながら3人はゆっくりと顔を上げ、ニヤリと不敵に笑う。実にそれっぽい。

 

「お前がニビジムのタケシか?」

 

「私が扱うポケモンはシャ、シャキーン!……は、鋼タイプ……これ確かに恥ずかしいわね……」

 

「やってる場合か、大体鋼タイプは俺だろ」

 

「僕はエスパータイプだな」

 

「じゃあ私タケシかぁ……ってじゃない!コナミ!貴方呼び出された理由分かってるんでしょうね!」

 

コナミのボケに軽くノリながらもそのままツッコミへと移行し、右手の指先をコナミへと向ける少女、真澄。彼女も随分と成長したものである。ノリツッコミのキレが鋭い。

 

「分かっている。1人一発ずつだろう?ほら並べ、思いっ切り、ぶん殴るが良いわ!」

 

「違うし!私はアンタにデュエルを挑もうとしてるのよ!察しろ!」

 

その場に仰向けになって倒れ、「さぁやれ!」と盛大に勘違いするコナミに再びツッコム真澄。そう、彼女達の目的もまた、デュエル。それもタツヤ達と同じく3対1の不規則なバトルロイヤル。尤も、彼等の理由は軽いものだが。

 

「俺達がテメェを鍛えてやるよ!お前までカード化されちゃあ堪らねぇからな!」

 

「僕達がこんな事をする機会なんて早々無いぞ?」

 

「それに――アンタに強くなったって所、見せてあげるわ!」

 

ニヤリ、口端を吊り上げ、ふてぶてしく笑う3人を見て、成程と頷くコナミ。確かに、これから先は想像もつかないような強敵と闘う事になるだろう。こうして複数の敵とも対峙する筈だ。それこそデイビットやマッケンジーのような巧みなコンビネーションを誇るデュエリストや神楽坂、白コナミのような。

アカデミア全体が今回の闘いを経て、こちらの戦術に対策して来る可能性も捨て切れない。そんな彼等と渡り合う為に――赤馬 零児を倒した時の力を1人でも出せるようにしたい。

 

「良いだろう!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「そうこなくちゃね!モンスターと共に地を蹴り宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

コナミ、真澄、刃、北斗の順で口上を上げ、デュエルコートが光を帯び、姿を変える。アクションフィールド、『マジカル・ブロードウェイ』。今別の場所で闘う友と同じフィールドであり、コナミにとって初めてアクションデュエルを体験した場だ。

 

「「「「アクショーン……デュエル!!」」」」

 

――――――

 

一方その頃、遊勝塾では、遊矢、タツヤ、アユ、フトシ、4人の遊勝塾メンバーの激闘が繰り広げられ、遊矢へとターンが移っていた。

遊矢を引き止めようとする3人を何とかして説得させる為、ダーク・リベリオンに騎乗したまま、彼はデッキより1枚のカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ギャラクシー・サイクロン』!タツヤのセットカードを破壊!俺は『EMゴムゴムートン』をセッティングし、ギタートルの効果でドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!ピンチヘルパーをコストに2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3→4

 

「魔法カード、『ペンデュラム・ターン』でギタートルのスケールを10に拡張!ペンデュラム召喚!『EMインコーラス』!『EMリザードロー』!『EMヘイタイガー』!『EMカレイドスコーピオン』!」

 

EMインコーラス 守備力500

 

EMリザードロー 守備力600

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

振り子の軌跡で現れる4体の『EM』達。毎度おなじみインコーラスに先程の遊矢のターンにエクストラデッキに加わったカードのエリマキトカゲと赤い軍服を纏った虎の兵士と万華鏡の尾を持つ蠍。遊矢のコンボパーツが揃った。これで3人の戦力を削り取る。

 

「罠カード、『幻獣の角』!ヘイタイガーに装備し、攻撃力を800上げる!」

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700→2500

 

「更にカレイドスコーピオンの効果発動!ヘイタイガーはこのターン、特殊召喚されたモンスター全てに攻撃可能!」

 

「ドルカのORUを取り除き、効果モンスターの効果を無効にして破壊!」

 

しかしそう簡単に通してくれないらしい。フトシのフィールドのドルカが炎の雨をカレイドスコーピオンに浴びせる事で破壊する。

アユが攻め、フトシが妨害し、タツヤが布陣を整える。見事なコンビネーションだ。だがこの程度で遊矢は止まらない。

 

「バトル!ヘイタイガーでドルカを攻撃!」

 

原田 フトシ LP4000→3800

 

「ヘイタイガーの効果で『EMダグ・ダガーマン』をサーチし、『幻獣の角』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「更にダーク・リベリオンで『瑚之龍』へ攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!」

 

ダーク・リベリオンがその牙を閃かせ、『瑚之龍』の鱗に突き立て、貫こうとするものの、すんでの所でかわされる。厄介な破壊効果を倒したかったが、簡単にはいかないらしい。

 

「カードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP1200

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)『EMヘイタイガー』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)『EMリザードロー』(守備表示)

『幻獣の角』セット2

Pゾーン『EMギタートル』『EMゴムゴムートン』

手札1

 

「私のターン、ドロー!アロワナの効果で『アクアアクトレス・テトラ』をサーチ!そして『アクアアクトレス・グッピー』を召喚!」

 

アクアアクトレス・グッピー 攻撃力600→2400

 

「効果でテトラを特殊召喚!」

 

アクアアクトレス・テトラ 攻撃力300→2100

 

「テトラの効果で『水照明』をサーチ!そして手札を1枚捨て、『瑚之龍』の効果でダーク・リベリオンを破壊!」

 

「くっ――!すまない……!」

 

ついに破壊されるダーク・リベリオン。砕け散る黒竜に謝罪し、遊矢は右手でその背を押す事で勢いをつけて跳躍し、ビルとビルの間を駆け回りながら地面に着地する。

 

「バトルだよ!」

 

「罠発動!『エンタメ・フラッシュ』!相手モンスターを全て守備表示に変更し、次のフトシのターンまで表示形式の変更を封じる!」

 

アユの『アクアアクトレス』の超火力攻撃を防ぐ為、遊矢はフィールドから眩き光を放ち、モンスター達の姿勢を変える。これで次のフトシの攻撃も封じた。それだけではなく、表示形式の変更も出来ない為、自然とラゴスクスの効果も防いだ。遊矢にその自覚はあるか分からないが。

 

「ターンエンドだよ!」

 

鮎川 アユ LP4000

フィールド『瑚之龍』(守備表示)『アクアアクトレス・アロワナ』(守備表示)『アクアアクトレス・グッピー』(守備表示)『アクアアクトレス・テトラ』(守備表示)

『水舞台』『水舞台装置』『水照明』セット1

『湿地草原』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!俺は2体のモンスターをリリースし、アドバンス召喚!『らくがきじゅう―てらの』!!」

 

らくがきじゅう―てらの 攻撃力2400

 

ここで姿を見せたのはフトシが本来持つカードにして彼のエースである古代の暴君。まるで子供の落書きのような微笑ましい体躯はクレヨンで緑色に塗られ、鋭い牙が並ぶ口からは炎を吐いている。

 

「てらのの効果発動!ヘイタイガーを破壊し、このカードの攻撃力を破壊したモンスターの攻撃力の半分アップ!」

 

「墓地の『EMジンライノ』を除外し、ヘイタイガーの破壊を防ぐ!」

 

「痺れる位強いぜ!俺はこれでターンエンド!」

 

原田 フトシ LP3800

フィールド『らくがきじゅう―てらの』(攻撃表示)

『進化の代償』セット1

手札3

 

「僕のターン、ドロー!確かにこれじゃあ突破出来ないね……!だけど……魔法カード、『デス・メテオ』!相手に1000ダメージを与える!」

 

榊 遊矢 LP1200→200

 

鮎川 アユ LP4000→3000

 

原田 フトシ LP3800→2800

 

「カードを1枚セットしてターンエンド」

 

「この瞬間、罠カード、『裁きの天秤』を発動!俺のフィールドと手札のカードは8枚!お前達のフィールドのカードは17枚!よって9枚をドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→9

 

一気に大量の手札を確保し、次の反撃の手を整える遊矢。バトルロイヤルである事を上手く活かしている。彼のタクティクスの成長に背後のユートも目を丸くして感心する。

何せ隼に勝利し、オベリスク・フォース達を軽く退けるようになっているのだ。最早遊矢とユートの間に実力の差は無いと見える。嬉しいような悔しいような複雑な心境だ。

 

山城 タツヤ LP3500

フィールド『起爆獣ヴァルカノン』(守備表示)『ゴールド・ガジェット』(守備表示)『グリーン・ガジェット』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札3

 

しかしそんなに強くなった遊矢と3人がかりと言えども渡り合い、優位に立っている子供達も大きく成長した。嬉しく思う。共に過ごして来た彼等の成長、嬉しくない筈が無い。

だけど――だからこそ、彼等には笑って欲しい。それが出来るのは、今ここで立つ遊矢自身のみ。彼は両手を咲き誇る花ように広げ、エンタメデュエルの幕を上げる。

 

「Ladies and Gentlemen!これより榊 遊矢による……いえ、榊 遊矢と!山城 タツヤ、鮎川 アユ、原田 フトシによる、遊勝塾のエンタメデュエルを始めましょう!」

 

ニヤリと口端を上げ、遊矢は笑い、右手の指先を3人へと向ける。観客は誰もいない。いるとすればそれはこの場にいる4人全員だ。全員がエンターテイナー。そう言わんばかりに遊矢は言葉を放つ。ポカンと、呆ける子供達。しかし遊矢は息もつかせず語り出す。

 

「確かに――俺はランサーズとして、アカデミアと闘う決意をした。危険な事もあるだろう、挫ける事もあると思う。正直に言えば、俺だって怖い!」

 

「なら――」

 

「だけど!」

 

首からかけたペンデュラムを握り締め、遊矢は薄く笑って俯く。それは3人に対する答えだ。ここにいて欲しいと願う、優しい願いに対する決別の言葉。

遊矢だってカード化されるのは怖い。そんな不安な台詞に、子供達が「なら」と言うが――遊矢は「だけど」と繋げる。

 

「だけど、それじゃ駄目なんだ……!誰かがじゃない!自分が何とかしなきゃって、勇気を持って一歩踏み出さなきゃ何も変わらない!確かに怖いさ、だけど俺には――信頼出来る仲間達がいる!俺1人じゃ到底出来ない事も――皆がいれば闘える!だから――皆も、俺を信じて頑張れって送り出して欲しい。一時の別れでも、辛いかもしれない、だけど必ず戻って来るから、柚子も、素良も連れて帰るから――待っててくれ。それが――俺の力になるから……!」

 

誰かじゃなく、自分がやらなければいけないと、遊矢は言う。怖いけど、恐れずに勇気を持って進めと教わったから――遊矢は全部を笑顔にする為、旅立ちの決意をした。

 

「ずるいよ……」

 

「そんな事言われたら――そうするしか無いじゃないかぁぁぁぁ……!」

 

確かに、ちょっとずるかったなと遊矢は思う。泣き出す3人を優しく見つめながらも、泣かないで、とまたずるい言葉を使おうとした時。

 

「泣いちゃ駄目だ……!」

 

「タツヤ……?」

 

鼻水をすすり上げ、目尻の涙を拭き取りながらタツヤが遊矢と向き合う。遊勝塾に入って来たばかりの頃は不安そうで、気弱に見えた少年の姿。それが今はどうだろうか、今の彼は、遊矢にも眩しく思えてしまう。

 

「遊矢お兄ちゃんを、世界一のエンタメデュエリストを送り出すんだ――笑顔で……送り出すんだ!」

 

涙を堪え、タツヤはニカッ、と無理矢理口端を吊り上げて笑う。不格好で、自然とは言えない笑顔。それでもそれは、遊矢に確かな力を与えてくれる、暖かい笑みだった。

 

「わ、私だって……私だって……!」

 

「俺だって……!」

 

2人もそれに釣られ、ニカリと笑う。ああ、申し訳無いと思う。こんな卑怯な手で彼等を笑顔にしたら、エンタメデュエリスト失格だ。遊矢はもっともっと大笑いさせる為――このデュエルを大切な思い出にする為、デッキから勢い良くカードを引き抜く。

 

「お楽しみはっ、これからだっ!」

 

空中に描かれる虹色のアーク。雨が降るなら、それでも良い。その先に、輝かしい太陽を。虹をかけて、サービスしよう。

 

「墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外し、『水舞台』を破壊!魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札9→11

 

「魔法カード、『成金ゴブリン』!相手のLPを1000回復する代わりに1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札10→11

 

山城 タツヤ LP3500→4500

 

鮎川 アユ LP3000→4000

 

原田 フトシ LP2800→3800

 

「速攻魔法、『サイクロン』!タツヤのセットカードを破壊!」

 

「罠発動!『和睦の使者』!このターン、僕のモンスターは戦闘破壊されず、戦闘ダメージも0となる!」

 

「速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、相手に500ダメージを与え、『EMオッドアイズ・ユニコーン』をサーチ!」

 

山城 タツヤ 4500→4000

 

鮎川 アユ 4000→3500

 

原田 フトシ 3800→3300

 

「『EMディスカバー・ヒッポ』を召喚!」

 

EMディスカバー・ヒッポ 攻撃力800

 

「アドバンス召喚の権利を増やし、インコーラスとリザードローをリリースし、アドバンス召喚!『EMスライハンド・マジシャン』!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500

 

「そして『EMオッドアイズ・ユニコーン』と『EMダグ・ダガーマン』をセッティング!ダグ・ダガーマンの効果で墓地の『EMペンデュラム・マジシャン』を回収!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

ここで姿を見せるのは『EM』のキーカードと遊矢のエースカード、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の2体、真紅の竜の上に飛び乗り、その手を突き出す。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果でペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、『EMラクダウン』と『EMマンモスプラッシュ』をサーチ!マンモスプラッシュとラクダウンをセッティング!魔法カード、『置換融合』を発動!『オッドアイズ』とペンデュラム・マジシャンで融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

『オッドアイズ』とペンデュラム・マジシャンの2体が融合し、フィールドに眩き光と共に進化した姿で降臨する。遊矢を乗せ、宙を駆るのは左目を金属で覆った真紅の竜。満月を模したリングを背負ったモンスターが雄々しき咆哮を放つ。

 

「マンモスプラッシュのペンデュラム効果でエクストラデッキの『オッドアイズ』を特殊召喚!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

「『EMディスカバー・ヒッポ』と『オッドアイズ』をリリースし、出でよ!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

現れたるは2体目の融合モンスター。『オッドアイズ』に獣骨の鎧を纏わせ、青い毛並みを伸ばした野生の竜。揃う大型モンスターを見て、子供達も盛り上がる。

 

「そして手札を1枚捨て、スライハンド・マジシャンの効果で『進化の代償』を破壊!手札が捨てられた事で墓地の『EMギッタンバッタ』を特殊召喚!」

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

「まだだ!『EMラクダウン』のペンデュラム効果でこのターン、ルーンアイズは貫通効果を得、相手モンスターの守備力は800ダウン!」

 

ゴールド・ガジェット 守備力800→0

 

グリーン・ガジェット 守備力600→0

 

瑚之龍 守備力500→0

 

アクアアクトレス・アロワナ 守備力2000→1200

 

アクアアクトレス・グッピー 守備力1200→400

 

アクアアクトレス・テトラ 守備力900→100

 

らくがきじゅう―てらの 守備力1200→400

 

「バトルだ!ルーンアイズでアユのアロワナとテトラに攻撃!連撃のシャイニーバースト!」

 

「テトラとの戦闘時、罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にして1枚ドロー!」

 

鮎川 アユ LP3500→1700 手札2→3

 

ルーンアイズが背のリングの僅かな窪みへとエネルギーを充填し、2本の熱線を放つ。空を裂き、迫る先行を防ぐ為、アユはリバースカードを使ってかわす。

 

「ヘイタイガーでグッピーに攻撃!」

 

ヘイタイガーが手に握った剣を振るい、テトラを3枚に下ろす。器用なものだ。下ろされた2枚が遊矢の手元に運ばれ、2枚の手札と化す。

 

「ヘイタイガーと『幻獣の角』の効果で『EMラフメイカー』をサーチし、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札7→8

 

「まだまだ!ビーストアイズで『らくがきじゅう―てらの』へ攻撃!ヘルダイブバースト!」

 

ビーストアイズとてらののアギトに大気が集束し、発火、迸る青き火炎と子供の落書きのような炎がぶうかり合い、鬩ぎ合う。だが次第に青の炎が押していき、てらのの炎を食らい、更に勢いを増しててらのを飲み込む。

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にしてドロー!」

 

原田 フトシ 手札3→4

 

「この瞬間、ビーストアイズの効果により、素材となったディスカバー・ヒッポの攻撃力分のダメージを与える!」

 

山城 タツヤ LP4000→3200

 

鮎川 アユ LP1700→900

 

原田 フトシ LP3800→3000

 

「スライハンド・マジシャンで『瑚之龍』に攻撃!」

 

「アクションマジック、『奇跡』!『瑚之龍』は戦闘破壊されず、戦闘ダメージは半分に!守備表示だから意味はないけどね」

 

「メインフェイズ、手札を1枚捨て、魔法カード、『ペンデュラム・コール』を発動!デッキから『慧眼の魔術師』と『刻剣の魔術師』をサーチ!手札上限で2枚捨て、ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP1200

フィールド『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMヘイタイガー』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

『幻獣の角』

Pゾーン『EMマンモスプラッシュ』『EMラクダウン』

手札5

 

「私のターン、ドロー!私だって……!水のイリュージョンを披露するよ!私は『瑚之龍』を攻撃表示に変更!手札を1枚捨て、ルーンアイズを破壊!魔法カード、『サルベージ』を発動し、テトラとグッピーを回収し、『手札抹殺』を発動!捨てたカードは3枚!よって3枚ドロー!来た!フィールド魔法、『伝説の都アトランティス』!」

 

瑚之龍 攻撃力2700→2900

 

アユのフィールドが深海に沈み、神秘的で厳かな海底都市へと変化する。溢れ出る水、水、水、一瞬でフィールドが変わるその様は正にイリュージョン。

 

「そして『コダロス』を召喚!」

 

コダロス 攻撃力1400→1600

 

「そんなカードまで……!」

 

現れたのは小型の海竜族モンスターだ。幼く、小さな姿をしているが、その身に秘めた力は並外れている。アトランティスの中で泳ぐこのモンスターを見て、遊矢の頬がひきつる。

 

「『コダロス』の効果!アトランティスを墓地に送り、『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』とギッタンバッタを墓地に送る!」

 

アトランティスがゴゴゴゴと震え出し、流れる水が溢れ、噴水のように宙へと吹き出し、巨大な波となって遊矢のフィールドのビーストアイズとギッタンバッタを飲み込む。破壊を通さない除去だ。これを防ぐ手立ては今の遊矢にはない。

 

「バトル!『瑚之龍』でヘイタイガーを攻撃!」

 

「手札の『クリボー』を捨て、ダメージを0に!」

 

『瑚之龍』の水のブレスが噴出し、ヘイタイガーを飲み込む。これでサーチとドローまでも潰された。残るモンスターはスライハンド・マジシャンのみ。1ターンでここまで削られるとは思ってもみなかった。

 

「私のエンタメはこれにて閉幕!ターンエンドだよ!」

 

鮎川 アユ LP900

フィールド『瑚之龍』(攻撃表示)『コダロス』(攻撃表示)

『水舞台装置』『水照明』

手札1

 

「次は俺の番だ!俺のターン、ドロー!俺だって見せてやるぜ!痺れる位面白いエンタメデュエル!魔法ガード、『死者転生』!手札のアクションカードを捨て、墓地のラギアを回収!更に魔法カード、『予想GUY』!デッキから『セイバーザウルス』を特殊召喚!」

 

セイバーザウルス 攻撃力1900

 

「まだまだ!墓地のミセラサウルスの効果でこのカード2枚とウルカノドン、てらのを除外、デッキからケラトを特殊召喚!」

 

エヴォルダー・ケラト 攻撃力1900

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『エヴォルカイザー・ラギア』!!」

 

エヴォルカイザー・ラギア 攻撃力2400

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

原田 フトシ LP3000

フィールド『エヴォルカイザー・ラギア』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「ここで俺は罠カード、『進化の特異点』を発動!墓地のカシネリアとケラトを選択、そしてエクストラデッキの『エヴォルカイザー・ソルデ』を特殊召喚!」

 

エヴォルカイザー・ソルデ 攻撃力2600

 

「更に選択したカードをORUに!」

 

『遊矢、あのカードは特殊召喚したカードを破壊する!』

 

「成程……」

 

「僕を忘れちゃ困るよ!魔法カード、『死者転生』手札を1枚捨て、墓地のボム・フェネクスをエクストラデッキに戻し、墓地の『ヴォルカニック・バレット』の効果で500LP払い、同名カードをサーチ!」

 

山城 タツヤ LP3200→2700

 

「魔法カード、『融合』!手札の『シルバー・ガジェット』と『ヴォルカニック・バレット』を融合!融合召喚!『重爆撃禽ボム・フェネクス』!!」

 

重爆撃禽ボム・フェネクス 攻撃力2800

 

再びフィールドに蘇る不死鳥のモンスター。高い攻撃力も厄介だが、真に恐るべきはその効果にある。

 

「ボム・フェネクスの効果発動!フィールドに存在するカード1枚につき、300のダメージを与える!不死魔鳥大空襲!」

 

「フィールドのカードは14枚……4200のダメージ!?くっ、アクションカードは――」

 

3対1である事を充分に活かした特大のバーン攻撃が遊矢に迫る。だが、これは他の2人も犠牲にする。そう、思った時、目の前にあったのは舌をチロリと出し、片目を伏せる可愛らしいアユの姿。

 

「ごめんね遊矢お兄ちゃん。『ハネワタ』を捨て、効果ダメージを0に!」

 

「くっ、可愛いから許しちゃう……っ!」

 

『それで良いのかお前は!?』

 

「じゃあ俺は罠カード、『ピケルの魔法陣』の効果で効果ダメージを0に!」

 

後輩の余りにも可愛らしいてへっ、に遊矢が唇を噛んで仕方なく許してしまう。ユートがツッコムが遊矢は決してロリコンじゃない。ただアユが可愛かっただけだ。そんな中、フトシもまたダメージを回避し――残るは遊矢のみ。空より襲いかかる爆弾、それは地面に着弾し――激しい轟音を響かせ、辺り一面に黒煙が立ち込める。

決まった――誰もがそう思った時、『マジカル・ブロードウェイ』を駆けるスポットライトが一点に集まり、そこから閃光が黒煙を裂く。中より登場したのは――この窮地から見事脱出した、エンタメデュエリストの姿。

 

「なーんてねっ!墓地の『プリベントマト』を除外し、ダメージを無効にゴホッ、ゴホッ!」

 

『締まらない奴だ』

 

「やっぱり……遊矢お兄ちゃんは最高のエンターテイナーだ!僕はこれでターンエンド!さぁ、遊矢お兄ちゃんのターンだよ!」

 

山城 タツヤ LP2700

フィールド『重爆撃禽ボム・フェネクス』(攻撃表示)『起爆獣ヴァルカノン』(守備表示)『ゴールド・ガジェット』(守備表示)『グリーン・ガジェット』(守備表示)』

『補給部隊』

手札0

 

3人の前に高くそびえ立つ壁。誰よりも身近にいて、憧れたデュエリスト、榊 遊矢。彼等は遊矢を誇りとし、遊矢も3人を誇りに思う。

今はまだ、届かないかもしれない。だけど、何時かきっと越える為に、道を示す為に、このデュエルを記憶に焼きつける。

 

「さぁさぁ、皆さんご注目!ここから繰り広げられるエンターテイメントに喝采を!ドローッ!!」

 

引き抜かれる1枚のカード、さぁ、巻き起こせ、台風を。激しい風に遊矢の首にかけられたペンデュラムが揺れ、キラリと閃く。恐らくは長い闘いの旅に出る遊矢にとって、遊勝塾のデュエルはここで1度終わるから――最後は輝く笑顔で締めるべき、それが――遊勝塾に相応しい。

 

「まずは墓地の『置換融合』を除外、ビーストアイズをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→5

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』!ラギアの効果を無効にして攻撃力を400アップ!」

 

エヴォルカイザー・ラギア 攻撃力2400→2800

 

「更にもう1枚!ソルデの効果を無効に!」

 

エヴォルカイザー・ソルデ 攻撃力2600→3000

 

「くぅ、痺れるぅ!」

 

「装備魔法、『ワンダー・ワンド』をスライハンド・マジシャンに装備!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500→3000

 

「この2枚を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「俺は魔法カード、『ペンデュラム・ストーム』を発動!スケールを破壊し、『補給部隊』を破壊!『時読みの魔術師』と『星読みの魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMカレイドスコーピオン』!『EMダグ・ダガーマン』!『EMペンデュラム・マジシャン』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

遊矢の背後に光の柱が上り、中に出現したのは遊矢が初めてペンデュラムを発現した時、彼を支えてくれた2体の『魔術師』。彼等は空に魔方陣を描き、遊矢の仲間を呼び出す。

 

「ペンデュラム・マジシャンの効果でこのカードと時読みを破壊し、『EMトランプ・ウィッチ』と『EMレインゴート』をサーチ!トランプ・ウィッチを召喚!」

 

EMトランプ・ウィッチ 攻撃力100

 

「リリースして魔法カード、『融合』をサーチし、発動!フィールドの『オッドアイズ』とダグ・ダガーマンを融合!比類なき短剣使いよ。二色の眼輝く龍よ。今一つとなりて新たな命ここに目覚めよ!融合召喚!現れ出でよ!気高き眼燃ゆる勇猛なる龍!『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

そして――このデュエルに決着をつける、遊矢の最後のモンスターが舞台に降り立つ。ゴウゴウと燃える炎の渦より姿を見せる、目が覚めるような鮮やかな紅蓮の体躯を唸らせるドラゴン。

頭と背に黄金に煌めく角を伸ばし、胸に宝玉を抱いたそのモンスターは全ての者に勇気を与えるべく吠える。

 

「ブレイブアイズの効果で相手モンスターの攻撃力を0に!」

 

重爆撃禽ボム・フェネクス 攻撃力2800→0

 

起爆獣ヴァルカノン 攻撃力2300→0

 

ゴールド・ガジェット 攻撃力1700→0

 

グリーン・ガジェット 攻撃力1400→0

 

瑚之龍 攻撃力2700→0

 

コダロス 攻撃力1400→0

 

エヴォルカイザー・ラギア 攻撃力2800→0

 

エヴォルカイザー・ソルデ 攻撃力3000→0

 

「カレイドスコーピオンの効果でブレイブアイズは――全ての特殊召喚されたモンスターに攻撃できる!フィナーレだ!ブレイブアイズで攻撃――灼熱のメガフレイムバーストッ!!」

 

山城 タツヤ LP2700→0

 

鮎川 アユ LP900→0

 

原田 フトシ LP3000→0

 

舞台は終幕――眩しい笑顔を向ける観客に――遊矢は深々と礼をした――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




人物紹介17

山城 タツヤ
所属 遊勝塾
遊勝塾の頭脳担当、大人びた性格をしており、カードについての知識も広い。遊矢に憧れ、遊勝塾へと入塾する。この作品ではバレットに弟子入りし、堅実な戦術をより強固にした。
アニメではE・Mと言うカードを使ってたっぽいが、終盤E・M?誰それ、俺『ブンボーグ』ぅ!になってた、解せぬ。
この作品の使用デッキは融合軸の『ガジェット』。エースカードは『重爆撃禽ボム・フェネクス』。

鮎川 アユ
所属 遊勝塾
遊勝塾のあざとい担当、ピッチピチのロリ。あざといが、それが良い。とは言えコナミやセレナ、九庵堂とか言う頭の良いバカ達に指導を受け、遊勝塾の中でもトップクラスに殺意が高くなっている。ひどい。
使用デッキは『アクアアクトレス』。エースカードは『瑚之龍』。

原田 フトシ
所属 遊勝塾
遊勝塾の痺れ担当、見た目に反して身体が柔らかく、独特の動きから繰り出される「痺れるぅ~!」は何時の間にかクセになる。
この作品では勝鬨の弟子であり、特訓中勝鬨はこいつの痺れちっとも見切れないんだけどなんなん?と戦慄したとか。
因みに特訓を終えた後、フトシはコンマイ語の理解度が落ちた。タクティクス、リアルファイト共に上昇させる勝鬨のデメリットである。
使用デッキは『エヴォル』。エースカードは『エヴォルカイザー・ラギア』。



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第89話 ひどい……

新しい遊戯王が始まり、ワクワクが止まりません。1話はデュエル無しだったので次回に期待。その分を引いても面白かったです。島君は良い奴。遊作のデッキ作りたくなったけど再録有能すぎてスターターが買う前に売り切れてるよハルトォォォォォッ!!スターターが無いから手をつけるの躊躇うよハルトォォォォォッ!!


時は少しだけ遡る。遊矢達がデュエルをしていた頃、コナミもまた真澄達とデュエルを開始していた。

先攻は刃だ。彼はジッ、と自分の手札を見つめた後、これならばと展開を始める。

 

「俺のターン、俺は『XX―セイバーボガーナイト』を召喚!」

 

XX―セイバーボガーナイト 攻撃力1900

 

開戦の火蓋を切って下ろしたのは『X―セイバー』の切り込み役。荒くれ者と言った風貌の獣戦士だ。その頭には捻れた角が生えた兜を。背にはマントを伸ばし、その手には妖しく閃く剣を握っている。

 

「ボガーナイトの召喚時効果でチューナーモンスター、『X―セイバーエアベルン』を特殊召喚!」

 

X―セイバーエアベルン 攻撃力1600

 

ボガーナイトがマントで身体を覆い、直ぐ様払うように靡かせれば、中より新たなモンスターがフィールドに飛び出す。

その正体は金色の鬣を靡かせた獅子の頭を持つ兵士。両手にはフック状となった3本の鉤爪が伸びた手甲を纏っている。

 

「フィールドに2体以上『X―セイバー』が存在する事で『XX―セイバーフォルトロール』を特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400

 

ここで現れたのは『X―セイバー』のキーカード。真紅の鎧とマントを纏い、大剣で空を裂く単眼の巨人。この3体を見て、コナミの顔があ、これちょっとヤバい奴じゃんと変わり、彼は直ぐ様フィールドを駆ける。

 

「待たせたな!レベル4のボガーナイトにレベル3のエアベルンをチューニング!光差する刃持ち屍の山を踏み越えろ!シンクロ召喚!出でよ!『X―セイバーソウザ』!」

 

X―セイバーソウザ 攻撃力2500

 

刃の隣で喉を鳴らすエアベルンが光となって弾け、3つのライトグリーンのリングが出現、そしてその中をボガーナイトが勢い良く潜り抜け、7つの星が一直線に並ぶ。

更に眩き光が撃ち抜いてフィールドを照らす。光が晴れたそこに立っていたのは、2本の剣を交差し、ボロボロのマントを纏った狂剣士だ。

 

「飛ばしてくぜ!フォルトロールの効果でエアベルンを蘇生!」

 

X―セイバーエアベルン 攻撃力1600

 

「レベル6のフォルトロールにレベル3のエアベルンをチューニング!白銀の鎧輝かせ刃向かう者の希望を砕け!シンクロ召喚!出でよ!『XX―セイバーガトムズ』!!」

 

XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100

 

フォルトロールの身体に白銀の鎧と兜が装着され、フィールドに降り立つ。鎧に青白い光が走り、真紅のマントが風に吹かれる。手に持った大剣が光に包まれて中心でバキリと音を響かせて割れ、二又の大剣となって振るわれる。

これこそが刃のエースカード。全てを切り裂く至高の剣。

 

「まだまだ!魔法カード、『ガトムズの非常召集』!墓地のボガーナイトとエアベルン、2体の『X―セイバー』を攻撃力0にして蘇生!」

 

XX―セイバーボガーナイト 攻撃力1900→0

 

X―セイバーエアベルン 攻撃力1600→0

 

「魔法カード、『戦士の生還』!墓地のフォルトロールを回収し、特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400

 

ヤバい、これは本当にヤバい。コナミが額より冷や汗を垂らし、真澄と北斗もえげつねぇとドン引きする。とんでもないソリティア。しかし問題はここからだ。

 

「フィールドのソウザ、ボガーナイト、エアベルンをリリースし、コナミの手札をランダムに3枚捨てる!」

 

コナミ 手札5→2

 

3体の『X―セイバー』が光となってガトムズの大剣に吸収され、振るわれる事で発生した斬撃がコナミの手札を切り裂く。本当にちょっと待って欲しい。権現坂は動じなかったが、それは彼だから、と言う理由と1対1だったからだ。

 

「フォルトロールの効果でエアベルン蘇生!」

 

X―セイバーエアベルン 攻撃力1600

 

「フォルトロールとエアベルンをリリースし、残る2枚も切り裂く!」

 

コナミ 手札2→0

 

「Oh……!」

 

「ひどい(直球)」

 

「3対1でこれって……そこまでして勝とうとは思わないわ……」

 

「うるせぇ!」

 

本当に酷い。とは言っても3対1でこの戦術、彼等が忘れているだけで隼にも使っているのだが。コナミが呆然とし、2人が刃を非難する始末だ。

3対1にも関わらず、コナミの手札は0、何ともひどいスタートだ。しかも捨てられた手札も『E・HEROシャドー・ミスト』や『妖刀竹光』が無かった為、リカバリーが出来ないと来た。

 

「俺はこれでターンエンドだ。さぁ、この状況、どう覆す?尤もお前のターンは最後だけどな」

 

刀堂 刃 LP4000

フィールド『XX―セイバーガトムズ』(攻撃表示)

手札0

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、刃はコナミを挑発する。自分でやっといてどう覆す、なんてふざけてんのかコイツ?としか思えない。無効無効の効果を並べてくるより、バトルロイヤルでのハンデスは厄介だ。もしもここにフトシがいたらもっと酷い事になっていたが。

 

「コナミが不憫でならないわ……だからって容赦はしないけど!」

 

「……お前こそそんなんだから何時まで経っても真澄んなんだよ……友達出来ねぇんだよ」

 

「ううううるっさいわね!」

 

自身を非難する言葉に反応し、刃がボソリと真澄んが気にしている言葉を吐く。ここで手加減して好感度を上げに行こうとしない辺りが真澄んだ。尤も、手加減すればコナミの好感度は逆に下がるだろうが。

真澄んが顔を真っ赤にして刃の言葉を遮断する。

 

「私のターン、ドロー!大丈夫だもん……私友達作れる子だもん……っ!」

 

「「「……」」」

 

「なんか言いなさいよぉ……っ!良いもんっ!永続魔法、『星邪の神喰』を発動!自分の墓地のモンスター1体のみが除外された場合、そのモンスターと属性が異なるモンスターをデッキから墓地に落とすわ!魔法カード、『ジェムナイト・フュージョン』!手札の『ジェムナイト・ラズリー』と『ジェムナイト・ガネット』で融合!融合召喚!現れ出でよ!幻惑の輝き!『ジェムナイト・ジルコニア』!」

 

ジェムナイト・ジルコニア 攻撃力2900

 

真澄の背後に青とオレンジの渦が広がり、その中へと少女らしき瑠璃のモンスターと燃えるような柘榴石のモンスターが飛び込んで混じり合い、光を裂いて新たなモンスターが現れる。

模造ダイヤを嵌め込んだ巨腕を振るい、紫の外套を翻したジルコニアの騎士。『ジェムナイト』においては軽い素材で呼び込める高攻撃力のカードだ。

 

「ラズリーの効果でガネットを回収!そしてラズリーを除外し、『ジェムナイト・フュージョン』を回収!『星邪の神喰』の効果でデッキから『超電磁タートル』を墓地へ!そして『クリスタル・ローズ』を召喚!」

 

クリスタル・ローズ 攻撃力500

 

真澄が手札から召喚したのはその名の通り、クリスタルの輝きを放つ薔薇だ。『ジェムナイト』に関する効果を持っているカードでは貴重な光属性であると共にコナミの持つ『E・HEROプリズマー』のような名を借りる効果を持つ為、真澄は重宝している。1枚は柚子へと渡したが。

 

「『クリスタル・ローズ』の効果!デッキから『ジェムナイト・サニクス』を落とし、同名として扱うわ!そして『ジェムナイト・フュージョン』!手札のガネットと『クリスタル・ローズ』で融合!融合召喚!『ジェムナイト・セラフィ』!」

 

ジェムナイト・セラフィ 攻撃力2300

 

2体目の『ジェムナイト』融合モンスターが現れる。女性らしい線の細さに甲冑とマントを纏い、背には天使の羽を伸ばした神々しい『ジェムナイト』。その姿には『ジェムナイト・ラズリー』の面影が残っており、成長した姿だと推測出来る。

 

「カードを1枚セットしてターンエンドよ」

 

光津 真澄 LP4000

フィールド『ジェムナイト・ジルコニア』(攻撃表示)『ジェムナイト・セラフィ』(攻撃表示)

『星邪の神喰』セット1

手札0

 

融合モンスターが2体に『ジェムナイト』と相性の良い『星邪の神喰』、セットカードが1枚。手札はコナミと同じく満足しているが、次のターンに『ジェムナイト・フュージョン』を回収するだろう。

何より厄介なのは墓地に落とされた『超電磁タートル』。これがあれば1度だけであるがバトルフェイズが強制的に終了される。バトルロイヤルでは全員が1ターン目では攻撃不可能の為、コナミは2度もバトルを封じられる事となる。ルールまでもが牙を剥く、最悪の状況だ。しかも次のプレイヤーもこの状況を更に追い込むデュエリスト。詰めデュエルでもしている気分である。詰んでいるのはコナミだが。

 

「さぁ、僕のターンだ!ドロー!僕は『セイクリッド・シェアト』を特殊召喚!」

 

セイクリッド・シェアト 守備力600

 

続く北斗のターン、彼が手札から呼び出したのは自分フィールドにモンスターが存在せず、相手のフィールドにモンスターがいれば特殊召喚出来るモンスターの1枚。水瓶座をモチーフとした小さなモンスターだ。優秀なモンスターであり初手で呼び込めたのは大きい。

 

「『セイクリッド・ポルクス』を召喚!」

 

セイクリッド・ポルクス 攻撃力1700

 

次は左半身がプラチナの輝きを放つ鎧兜とマントを纏い、二又に分かれた剣を持った双子座の騎士。

 

「ポルクスの効果で僕はもう1度『セイクリッド』を召喚する権利を得る!『セイクリッド・グレディ』を召喚!」

 

ポルクスの隣に並び立ったのは山羊の角を兜から伸ばし、杖を手にした女性らしき星の騎士。これでレベル4が2体、だが北斗の手は止まらない。

 

「グレディの効果で手札から『セイクリッド・カウスト』を特殊召喚!」

 

セイクリッド・カウスト 攻撃力1800

 

更に召喚されるのは金色の弓を手にした射手座の『セイクリッド』。マジかよ、とこのモンスターの登場を見てコナミが額から汗を伝わせる。やはり志島 北斗は――あの異名通りの男だと。

 

「カウストの効果でこのカードとポルクスのレベルを1つ上げる!」

 

セイクリッド・カウスト レベル4→5

 

セイクリッド・ポルクス レベル4→5

 

「更にシェアトの効果でグレディのレベルをコピー!」

 

セイクリッド・シェアト レベル1→4

 

「準備は整った!レベル5のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!星々の光よ!今大地を震わせ降臨せよ!エクシーズ召喚!『セイクリッド・プレアデス』!!」

 

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500

 

北斗の眼前に煌めく星を散りばめた渦が広がり、2体のモンスターが光となって吸い込まれる。瞬間、小爆発を起こし、渦を砂塵を裂いて現れたのは星のマントを靡かせ、大剣を振るう白と金の騎士。彼が誇るエースモンスターだ。

 

「まだだ!レベル4のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『セイクリッド・オメガ』!」

 

セイクリッド・オメガ 攻撃力2400

 

次に現れたのはカウスト同様、射手座を守護する上級『セイクリッド』。仲間に星の加護を与える神星騎兵だ。下半身は馬のような四足となっており、マントは翼のように広がっている。

 

「カードを2枚セットしてターンエンドだ!」

 

志島 北斗 LP4000

フィールド『セイクリッド・プレアデス』(攻撃表示)『セイクリッド・オメガ』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

コナミの前に立ち塞がる、数々の強力なカード達――それは最早、今までになく酷い光景だった。刃のガトムズがコナミの手札をハンデスさせ、真澄の墓地に落ちた『超電磁タートル』が攻撃を防ぎ、更には北斗のプレアデスがコナミがモンスターを召喚しても魔法、罠をセットしてもバウンスすると言わんばかりに無言の圧力を送っている。デッキ所か、次に引くたった1枚のカードでさえ詰む状況だった。もっと自重して欲しい。

 

「……あの、うん、私達も悪かったって言うか……ね、ねぇ?」

 

「まぁ、あれだ、これで負けても落ち込むなって!」

 

「サ、サレンダーする?一回仕切り直すか!うん!」

 

「下手な慰めは止めろ」

 

本人でさえ気まずそうに視線を逸らし、反省する始末である。最初からこんな事するなと言えるが。確かにヤバい布陣だ。これで次にドローする手札が悪かったら高笑いした後、大声で「サレンダーだっ!!」と吐き捨ててやろうかとも思ったが、仕方無い。コナミは諦めが悪いのだ。

 

「ドローしてから考えるか……」

 

「つ、続けるのか……」

 

「そう来れば来るでちょっと引くわね」

 

「い、良いぞコナミ!そのガッツだけは買う!」

 

「もう黙ってろ」

 

やや半ギレ。うるさい3人組に苛々としながらコナミはデッキトップに手を翳し、勢い良くドローする。

 

「オレのターン、ドロー!」

 

引き抜く1枚のカードは、逆転の一手か否か。いずれにせよ、コナミの動向に3人はゴクリと喉を鳴らし、一挙一動に目を離さずに見つめる。チラリ、コナミはカードに目を配らせ――。

 

「魔法カード、『エクシーズ・トレジャー』!エクシーズモンスターの数だけドロー!」

 

「ここで引くのは流石だな……!」

 

「オメガのORUを使い、『セイクリッド』に耐性を与える!」

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、オメガの効果を無効!」

 

コナミ 手札0→2

 

引き抜かれる2枚のカード、これでコナミの手数が増えたが、それでもこの状況を覆す事が出来るかどうか。

 

「魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』。2枚ドロー……どちらもペンデュラムモンスターでは無い、墓地に捨てる。カードをセット、ターンエンドだ」

 

「ぬぁぁー!」

 

「だ、大丈夫、あのカード次第では――」

 

「『セイクリッド・プレアデス』のORUを1つ取り除き、効果発動!」

 

「やめたげてよぉっ!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、セットカードをモンスター効果から守る!」

 

北斗が反射的に手を突き出し、無慈悲な鉄槌を下そうとしたその時だった。ガトムズの効果でハンデスされ、墓地に落ちたカードを駆使し、コナミが難を逃れたのは。

 

「お、おおっー!」

 

「し、信じてたわ!コナミはこんな所で終わらないって!私信じてた!」

 

「ハッ、思わずバウンスを使ってしまった……」

 

コナミ LP4000

フィールド

セット1

手札0

 

いずれにせよ、プレアデスの効果を防ぎ、カードをセットする事には成功した。後はこのカードがフリーチェーンかどうか、状況を覆すか否かだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『裁きの天秤』!オレのカードは1枚、お前達のフィールドのカードは8枚!よって7枚のドローだ!」

 

コナミ 手札0→7

 

不利な状況を活かし、一気に大量のカードを手札に引き込むコナミ。これで少しはマシになった。後は3ターン、3ターンもの間彼等の猛攻を堪えなければならない。その為の防御札は手札と墓地のカード、余りにも範囲が狭い。コナミのデッキが墓地発動カードを大量に投入していなければ詰んでいただろう。そうで無くとも次から次へと有利になっても危ない橋を渡る状況だ、後は――アクションカードか。不意にコナミは摩天楼の空を見上げ、フィールドを再び駆け出す。

 

「アクションカード狙い……!オメガ!阻め!」

 

「甘いわ!」

 

駆け出すコナミを見て、北斗がオメガに指示を出してコナミの眼前に壁として出すも、問題ないと言わんばかりにコナミがオメガの背を蹴り、更に加速。とんでもない身体能力だ。オメガもどうすれば良いのかとコナミを見逃してしまう。

 

「化物め……!ガトムズでダイレクトアタック!」

 

刃がコナミの行動を察知し、ガトムズに指示を飛ばし、それを受けて白銀の鎧が地を蹴り、弾かれたように猛スピードでコナミに肉薄、身体を丸め、両手で剣を握り締め、真横に振り抜く。アクションカードはまだ拾っていない。これを受ければ攻撃力3100のダメージを丸々削られる。

だから――コナミは手札の1枚をデュエルディスクに叩きつける。

 

「手札の『虹クリボー』の効果発動!このカードをガトムズに装備し、攻撃を封じる!」

 

ガクンッ、突如現れた虹色の角を持つ謎生物がガトムズの足を引っ張り、行く手を遮る。小さな身体と比べてとんでもない力だ。何にせよ、これで刃の攻撃を防いだ。後は真澄と北斗か。彼等は刃と違い、2体のモンスターを有している為、この手はもう通じないだろう。

こんな時にホープ、君がいてくれたら、とコナミは苦い表情を浮かべながら光溢れる街並みを蹴っていく。

 

「チッ、メインフェイズ2に移行し、魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドローするぜ!」

 

刀堂 刃 手札0→3

 

「『XX―セイバーダークソウル』を召喚!」

 

XX―セイバーダークソウル 攻撃力100

 

ここで刃が召喚したのは深紅のマントを纏い、鋭く、そして妖しく閃く鎌を持った死神のようなモンスターだ。

 

「ガトムズの効果でダークソウルをリリースし、コナミの手札を削る!」

 

コナミ 手札6→5

 

またもやハンデス、流石にまた全ての手札を捨てさせる事は出来ないが、それでも手数を減らしておくのは悪い手では無い。何せこのデュエルは3対1、それを覆すにはやはり手数は多い方が良く、逆に少ないならば逆転も難しくなる。

 

「ッ、だが捨てられたのは『妖刀竹光』!効果で『黄金色の竹光』をサーチ!」

 

「チッ、だがそう来なくちゃ面白くねぇ!カードを2枚セットしてターンエンド。この瞬間、『命削りの宝札』の処理をしてからダークソウルの効果で『XX―セイバーレイジグラ』をサーチするぜ」

 

刀堂 刃 LP4000

フィールド『XX―セイバーガトムズ』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「私のターン、ドロー!墓地の『ジェムナイト・ガネット』を除外し、『ジェムナイト・フュージョン』を回収!『星邪の神喰』の効果で『ヴォルカニック・バレット』を落とすわ。そして永続魔法、『ブリリアント・フュージョン』を発動!デッキから『ジェムナイト・ラズリー』2体と『ジェムナイト・アンバー』を墓地に送り、融合!光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!融合召喚!これが私の真のエース!輝きの淑女!『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』!!」

 

ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ 攻撃力3400→0

 

たった1枚のカードから融合を果たす、融合の中でも上級の手段、デッキ融合により、瑠璃の少女と琥珀の騎士が1つになって新たな光となる。

フィールドに出現する巨大なダイヤモンド。それは縦、横、両斜め、計4本の線を走らせ、砕け散り、中より美しきダイヤモンドの白騎士が降臨する。

真澄が師であるマルコを倒し、譲り受けた新たな切り札だ。今では完全に使いこなしている。

 

「出たか……!」

 

「ふふっ、思い出すわね……私は墓地に送られた『ジェムナイト・ラズリー』の効果で墓地から『ジェムナイト・サニクス』と『ジェムナイト・アンバー』を回収!まだよ!『ヴォルカニック・バレット』の効果でLPを500払い、同名カードをサーチ!」

 

光津 真澄 LP4000→3500

 

「そしてブリリアント・ダイヤの効果!このカードを墓地に送り、エクストラデッキから『ジェムナイト・パーズ』を特殊召喚!グラインド・フュージョン!光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!現れよ!勝利の探求者、『ジェムナイト・パーズ』!」

 

ジェムナイト・パーズ 攻撃力1800

 

ブリリアント・ダイヤが自身をダイヤモンドの殻に閉じ込め、再び剣線を走らせ、砕け散る。現れたのはブリリアント・ダイヤから変化したトパーズの騎士だ。その背からはマントを靡かせ、気風溢れる姿を見せる。

 

「私は墓地のブリリアント・ダイヤを除外し、『クリスタル・ローズ』の効果発動!このカードを守備表示で特殊召喚!」

 

クリスタル・ローズ 守備力500

 

「効果発動!デッキの『ジェムナイト・アイオーラ』を落とす!そして『ジェムナイト・フュージョン』発動!『クリスタル・ローズ』と『ヴォルカニック・バレット』を融合!光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!融合召喚!『ジェムナイト・マディラ』!」

 

ジェムナイト・マディラ 攻撃力2200

 

新たに姿を見せたるは黄水晶とも呼ばれる宝石の騎士。焦げ茶色の鎧を纏い、両手は赤く発熱したかのようになっている。宝石言葉は友情、そして初恋。どっちつかず、いや、どちらもまともに得られていない真澄んにぴったりのカードだ。

 

「バトルよ!マディラの攻撃時、相手は魔法、罠、モンスターの効果を発動出来ない!まずは確実にダメージを狙う!」

 

「ならばその前に墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを封じる!」

 

コナミが地より光輝く金色の剣を引き抜き、襲い来るマディラの剣を防ぐ。火花散る剣戟。このままでは勿論モンスターではあるマディラに軍配が上がるが、そうはいかない、大地が隆起して更に2本の剣が飛び出し、コナミを救援する。流石に分が悪い。マディラはその身を翻し、真澄のフィールドへと戻る。

 

コナミは即座に光の剣を一振りしてそのまま投げ捨て、ビルの壁に突き立て、それを利用して剣に飛び乗り、体重を預けて刃をしならせ――バイン、と戻る力で勢い良く跳躍する。

 

「んなっ――!?相変わらずとんでもない身体能力ね……!私はこれでターンエンドよ……!」

 

光津 真澄 LP3500

フィールド『ジェムナイト・ジルコニア』(攻撃表示)『ジェムナイト・セラフィ』(攻撃表示)『ジェムナイト・マディラ』(攻撃表示)『ジェムナイト・パーズ』(攻撃表示)

『ブリリアント・フュージョン』『星邪の神喰』セット1

手札2

 

コナミの人間離れした身体能力に驚愕し、戦慄しながら真澄はターンを終える。一方のコナミは少し距離が足りなかったのか、ガシリと右手の指をビルの屋上の塀へと食い込ませ、そのまま指の力のみで登る。この男にしか出来ないような芸当だ。他にいるとしたら勝鬨か。

そんな彼の背後に現れたのは『セイクリッド・オメガ』の背に立ち、飛翔する北斗だ。コナミは振り向き、ニヤリと笑う。

 

「次はお前か……!」

 

「本当にめちゃくちゃだな君は……モンスターもいないのにここまで立体的に動くなんて……!」

 

「勝鬨程ではない」

 

「あれは別だし、君とそこまで変わらんだろう!永続魔法、『セイクリッドの星痕』を発動!そしてバトルだ!プレアデスでダイレクトアタック!」

 

「アクションマジック、『大脱出』!バトルフェイズを終了させる!」

 

プレアデスが星の光を剣へと集束させ、コナミを切り裂こうとしたその瞬間、コナミは直ぐ様ビルの屋上へと着く前に手に入れていたアクションカードを使い、攻撃を防ぐ。防御系アクションカードの中でも特に強力なカードだ。これを手に入れた事は幸運と言える。

 

「くっ、流石にこれだけ動けばアクションカードの1枚位持っているか……ターンエンドだ」

 

志島 北斗 LP4000

フィールド『セイクリッド・プレアデス』(攻撃表示)『セイクリッド・オメガ』(攻撃表示)

『セイクリッドの星痕』セット1

手札1

 

「やっとオレのターンか、オレのターン、ドロー!魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』!2枚ドロー!ペンデュラムは1枚だけ、もう1枚を捨てる。オレは『竜穴の魔術師』と『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!慧眼のペンデュラム効果でこのカードを破壊し、デッキから『賤竜の魔術師』をセッティング!揺れろ光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!『慧眼の魔術師』!『竜脈の魔術師』!『V・HEROヴァイオン』!」

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

V・HEROヴァイオン 守備力1200

 

コナミの背後に2本の柱が昇り、その中に錫杖と扇を持った『魔術師』が現れ、天空に光の線を結んで魔方陣を描く。そして巨大な孔が開き、振り子が揺れて3本の眩き閃光が地上に落ちる。輝きが晴れたそこにいたのは3体のモンスターだ。

銀髪を靡かせ、秤を持った瑠璃の『魔術師』と両刃の剣を持った若い『魔術師』。そして頭部がカメラとなったEでは無く、V、ヴィジョンの『HERO』。赤馬の指示の下、瑠那が何とか開発したカードだ。

 

「ヴァイオンの召喚時、デッキの『E・HEROシャドー・ミスト』を墓地に送り、シャドー・ミストの効果でデッキの『E・HEROエアーマン』をサーチ!更にシャドー・ミストを除外し、ヴァイオンの第2の効果発動!デッキの『置換融合』をサーチ!」

 

墓地落としにサーチ効果、シャドー・ミストの効果も合わせればこの通り、2枚のカードをサーチし、1枚で融合召喚の準備が整う優秀なモンスターだ。デッキ圧縮にもなってコナミにとって有り難い。

 

「そして『E・HEROエアーマン』を召喚!」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

そのままたった今サーチしたエアーマンを召喚する。ファンの翼を伸ばした青い『HERO』。スマートなボディをしており、その効果は実に優秀だ。

 

「召喚時、『E・HEROブレイズマン』をサーチ!そして装備魔法、『妖刀竹光』をサーチし、『黄金色の竹光』を発動!」

 

コナミ 手札2→4

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールドのエアーマンと竜脈を融合!融合召喚!『E・HEROガイア』!」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200

 

ペンデュラムから融合へ、現れたのは黒鉄の鎧を纏った巨大な『HERO』融合体。素材、効果共に強力なモンスターだ。

 

「ガイアの効果により、ガトムズの攻撃力の半分を奪い取る!」

 

「『セイクリッド・プレアデス』の効果発動!ORUを取り除き、バウンス!」

 

「アクションマジック、『透明』!ガイアに完全耐性を与える!」

 

XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100→1550

 

E・HEROガイア 攻撃力2200→3750

 

ガトムズの攻撃力を奪い、自らのものにする『フォース』効果。この効果ならばどんなモンスターだろうが耐性がない限り上から叩き、自分の攻撃力を無理矢理通せる。北斗も何とか援護するも、コナミはアクションカードで回避する。

 

「オレは2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる、白き翼に望みを託せ、現れろ!No.39!エクシーズ召喚!希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

ペンデュラムから融合の次はペンデュラムからのエクシーズ。『魔術師』と『HERO』。先程の融合素材で使われた素材で今度は別のモンスターが生み出される。

現れたのは金色の鎧を纏い、純白の翼を広げ、左肩に39の赤き紋様を走らせ、腰に2刀を携えた希望の皇。猛々しく自らの名を咆哮し、悠然と両腕を組んでコナミの隣に降り立つ。

 

「『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチし、バトルだ!ガイアでガトムズに攻撃!コンチネンタルハンマー!」

 

「真澄!『超電磁タートル』は温存しろ!」

 

「っ、分かったわ。何とかしなさいよ!」

 

刀堂 刃 LP4000→1800

 

ガシャンッ!ガイアがビルの屋上から飛び降り、地面を砕きながら突き進み、ガトムズの白銀の鎧へと黒鉄の巨腕を振り抜く。ゴッ、メキメキィッ!と鈍い音を響かせて鎧を砕き、ガトムズが吹き飛ばされてビルに叩きつけられ、飛び散るガラス片が刃のLPにダメージを入れる。パラパラと埃を落とし、光の粒子となって消えるガトムズ。

『超電磁タートル』を使わせなかったのは後から来る厄介なモンスターに備える為か、コナミは舌打ちを鳴らして攻撃を続ける。

 

「ホープで刃に攻撃!ホープ剣・スラッシュ!」

 

「くっ、ハンデスの怨みか!?罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にして1枚ドロー!」

 

刀堂 刃 手札1→2

 

「逃したか……カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

コナミ LP4000

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『E・HEROガイア』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札3

 

ターンを終了し、くるりと刃達に背を向け、再びフィールドを移動するコナミ。その様はコンクリートジャングルを飛び交う猿か何かだ。ビルの屋上を飛ぶコナミを視線で追い、刃も足を運ばせながらデッキからカードを引き抜く。

 

「猿か何かかあいつは……俺のターン、ドロー!よっし!永続魔法、『炎舞―「天キ」』を発動!『XX―セイバーボガーナイト』をサーチし、召喚!」

 

XX―セイバーボガーナイト 攻撃力1900→2000

 

「効果で『XX―セイバーレイジグラ』を特殊召喚!」

 

XX―セイバーレイジグラ 守備力1000

 

ボガーナイトのマントから現れたのは頭をすっぽりと覆うフードつきのマントを被った二足歩行のカメレオン。その風貌は暗殺者のようだ。

 

「レイジグラの効果で『XX―セイバーフォルトロール』回収!特殊召喚!」

 

XX―セイバーフォルトロール 攻撃力2400

 

「フォルトロールの効果でエアベルン蘇生!」

 

X―セイバーエアベルン 攻撃力1600

 

「レベル6のフォルトロールにレベル3のエアベルンをチューニング!シンクロ召喚!『XX―セイバーガトムズ』!!」

 

XX―セイバーガトムズ 攻撃力3100→3200

 

「ガトムズの効果でレイジグラをリリースし、手札をかっさらう!」

 

コナミ 手札3→2

 

「ッ!やはり手痛いな……!」

 

「バトルに移る!ガトムズでホープに攻撃!」

 

「ホープのORUを1つ取り除き、攻撃を無効に!ムーンバリア!」

 

ガトムズが二又の剣を振るい、ホープへ襲いかかる。鋭い斬撃、しかしホープは自身の周りで回転するORUを1つ弾き飛ばし、翼を盾として差し出す事で攻撃を逸らす。

 

「ソウザにしてフォルトロールと一緒に殴った方が良かったか……?うーん……俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

刀堂 刃 LP1800

フィールド『XX―セイバーガトムズ』(攻撃表示)『XX―セイバーボガーナイト』(攻撃表示)

『炎舞―「天キ」』セット2

手札0

 

「私のターン、ドロー!墓地の『ジェムナイト・ラズリー』を除外し、『ジェムナイト・フュージョン』を回収!『星邪の神喰』の効果でデッキの『ネクロ・ガードナー』を落としてバトル!ジルコニアでホープに攻撃!」

 

「ホープの効果で攻撃を無効に!」

 

真澄のターンへと移り、彼女はジルコニアへと指示を飛ばす。攻撃力2900のモンスターだ、無効にせざるを得ない。直ぐ様コナミは右手を突き出し、ホープの盾で防ぐ。

 

「でもこれでもう攻撃を無効に出来ないわ!セラフィでホープに攻撃!」

 

「ホープは自壊するが――罠発動!『マジカルシルクハット』!ガイアとデッキの魔法、罠カード2枚をセットしてシャッフル!」

 

セラフィの眩き光を受けて崩壊するホープを横目にコナミは次に標的にされるだろうガイアを守る為、リバースカードを使い、3つのシルクハットを出現させる。追撃も可能だが、ガイアの守備力は2600、その選択は賢くない。

 

「ターンエンドよ」

 

光津 真澄 LP3500

フィールド『ジェムナイト・ジルコニア』(攻撃表示)『ジェムナイト・セラフィ』(攻撃表示)『ジェムナイト・マディラ』『ジェムナイト・パーズ』(攻撃表示)

『ブリリアント・フュージョン』『星邪の神喰』セット1

手札4

 

「僕のターン、ドロー!僕はプレアデス1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!眩き光もて降り注げ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『セイクリッド・トレミスM7』!!」

 

セイクリッド・トレミスM7 攻撃力2700

 

プレアデスの身体が光に包まれ、上位の存在へとランクアップする。現れたのは神聖なる領域で飛翔すると言われる伝説の神龍。頭部に蝙蝠のような巨大な翼を伸ばした金と白銀の機竜。蠍座を司る『セイクリッド』だ。

 

「星痕の効果でドロー!」

 

志島 北斗 手札2→3

 

「『セイクリッド・ソンブレス』を召喚!」

 

セイクリッド・ソンブレス 攻撃力1550

 

フィールドに降臨するのは天使に見間違う程に美しく、気高いモンスター。山羊の角が伸びたような兜と金と白の鎧を纏い、腰からは蝙蝠と蝶の羽を合わせたような翼を広げ、周囲には仲間達の武器を、手には真澄のもう1つのエースカード、『ジェムナイトマスター・ダイヤ』から受け取ったダイヤの短剣を握っている。線の細い、乙女座を司る『セイクリッド』の中でも特異なモンスターだ。

 

「ソンブレスの効果で墓地のポルクスを除外、墓地のカウストを回収!そしてソンブレスの続く効果で召喚権を増やし、召喚!」

 

セイクリッド・カウスト 攻撃力1800

 

「カウストの効果でソンブレスとこのカードのレベルを1つ上げる!」

 

セイクリッド・カウスト レベル4→5

 

セイクリッド・ソンブレス レベル4→5

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『セイクリッド・プレアデス』!!」

 

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500

 

「ここで使っても次のターンに呼び出されると……ならバトルだ!トレミスでガイアを攻撃!」

 

機竜が頭部の翼を広げ、地表スレスレで夜の街を滑空してガイアへと突き進む。シャアと蛇のようにアギトを開き、鋭い牙でガイアの鎧を食らいつき、容易く砕く。とんでもないパワーだ。破壊されるガイア。どうやらバウンスされても次のターンで破壊されると踏んだのだろう。尤も、『置換融合』で戻されるのだろうが――結果は同じ、ならば1枚ドローされても厄介な所でバウンスしてやろうと戦闘破壊を狙う。確かに残ったモンスターでもコナミのLPは削り取れるが――。

 

「2体で攻撃!」

 

「墓地の『超電磁タートル』を除外し、攻撃を防ぐ!」

 

「そう来るか……!僕はこれでターンエンドだ」

 

志島 北斗 LP4000

フィールド『セイクリッド・プレアデス』(攻撃表示)『セイクリッド・トレミスM7』(攻撃表示)『セイクリッド・オメガ』(攻撃表示)

『セイクリッドの星痕』セット1

手札2

 

ぶつかり合い、凌ぎを削るコナミとLDS3人組、1対3の変則デュエル。融合、シンクロ、エクシーズ、3種の召喚法においてエキスパートと言えるデュエリスト達との対決だ。1人1人でも強敵となる彼等の実力もあって苦戦は必死。手札を削り、攻撃を遮り、カードはバウンスされる。正に自分のデュエルをさせてくれない三大要素だ。このコンビネーションは厄介。下手をしたらあの赤馬 零児を越えるだろう。果たしてコナミは、この状況を打破し、3人を倒せるのか――。

 

「オレのターン……!」

 

反撃の狼煙が今、上がる――。

 

 

 

 

 




刃君、容赦無し。真澄ん、やっぱり真澄んの巻き。
ハンデスとコナミ君の魂を吸う竹光を見るとコナミ君と一番性格やデッキの相性が良いのは彼か暗次かもしれません。エンメンタルバーストでフィールドを粉砕し、ウィルス等でハンデスし、竹光ロックでドローの希望も奪う。あらやだ、主人公勢がやる事じゃない……。
対抗出来る墓地発動系は正義なんやなって。だからもっと汎用墓地発動系を下さい(インフレ脳)。


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第90話 ドローしてから考えるか

漫画アークでペンデュラム・ホルトが発動したターン、ペンデュラム召喚出来ないようにエラッタされましたがこの小説では遊矢対ジャックが終わるまで3巻の効果で通します。やっぱりデメリット無しの2枚ドローはヤバイってなったんでしょうかね。


長く続くコナミとLDS3人組のデュエル。コナミは何とか3人組の猛攻を凌ぎ、再び自分のターンに移る。

相手フィールド上にはまず刃、攻撃力3000越えと2000越えのガトムズとボガーナイト。セットカードが2枚。

 

次に真澄、コナミが3人組の中で光津光津と名字呼びする事もあり、そろそろ名前で呼んで欲しいなぁ、と悩む乙女のフィールドには高い攻撃力を誇るジルコニア、召喚権を増やすセラフィ、攻撃時、カード効果を封じるマディラ、2回攻撃に破壊したモンスターの攻撃力分ダメージを与えるパーズの4体もの『ジェムナイト』融合モンスターだ。セットカードは1枚、しかし最も厄介なのはフィールドではなく墓地。

彼女はバトルフェイズを終了させる最上級の防御カード、『超電磁タートル』と攻撃を無効にする『ネクロ・ガードナー』を溜め込んでいる。これによって長期戦は必至。エンジンとなる『星邪の神喰』の破壊が望まれる。

 

最後は北斗だ。フィールドには3体のエクシーズモンスター、プレアデス、トレミス、オメガが存在する。プレアデスでバウンスされ、魔法、罠での対処はオメガに防がれる。幸いなのは攻撃力をアップさせる『セイクリッド・ビーハイブ』の不在か。

セットカードは不明だが、彼は『エクシーズ』魔法、罠を大量に投入している。恐らくはそのカード群だろう。

 

「考えても仕方無い、ドローしてから考えるか、ドロー!ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

コナミのフィールドに現れたのは先程も登場した『魔術師』と炎の鬣を伸ばした赤い『HERO』だ。これだけでは次のターンには終わってしまう。次の展開に繋げる為、コナミは更に手を打つ。

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ!そして魔法カード、『アームズ・ホール』を発動!デッキトップをコストに装備魔法、『妖刀竹光』をサーチし、竜脈に装備!『黄金色の竹光』を発動し、2枚ドロー!もう1枚だ2枚ドロー!」

 

コナミ 手札1→3→4

 

これで手札が4枚まで回復した。悪くない手札だ、コナミは口元を綻ばせ、次の手に移る。

 

「魔法カード、『モンスター・ゲート』!竜脈をリリースし、通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキを墓地に送る!1枚目!『光の護封霊剣』!2枚目!『シャッフル・リボーン』!3枚目!『スキル・プリズナー』!4枚目!『スキル・サクセサー』!5枚目!『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』!通常召喚出来ない為、6枚目!『ジェット・シンクロン』!」

 

ジェット・シンクロン 守備力0

 

大量のカードを墓地に送り込み、出て来たのは青と白のカラーリングのジェットエンジンを模した小さなチューナーモンスター。低ステータスで運が悪かったとなりそうなものだが、コナミとしてはこのカードが出てくれて好都合だ。

 

「墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ!」

 

「プレアデスのORUを取り除き、『ジェット・シンクロン』をバウンス!」

 

「流石だな、だが――」

 

コナミが上空を見上げ、ビルの間に浮いたアクションカードを視界に止める。このカードでかわすつもりか、北斗はオメガの背に乗ったまま、ビルの壁を蹴ってカードへと進むコナミの邪魔をすべく、モンスターに指示を出す。

 

「プレアデス!行かせるな!」

 

プレアデスがフィールドを駆け、北斗の指示に従ってコナミを捕獲しようと手を伸ばす。が――コナミは何と、プレアデスが手に持った剣へ飛び乗り、更に加速する。

 

「はぁっ!?」

 

「アクションマジック、『アンコール』!墓地の『透明』を使い、『ジェット・シンクロン』は効果を受けない!」

 

「チッ!」

 

「レベル4のブレイズマンにレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『ジェット・ウォリアー』!」

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力2100

 

ここで使うのは融合ではなくシンクロ、現れたのは重厚な漆黒のボディを煌めかせた戦闘機を人型にしたかのような機械戦士。ギャリギャリと鋭い脚で地を削り、その鉄拳でガトムズを吹き飛ばす。

 

「シンクロ召喚時、ガトムズをバウンス!『ジェット・シンクロン』の効果で『ジャンク・コレクター』をサーチ!このまま繋げる!デッキトップをコストに墓地の『グローアップ・バルブ』を蘇生!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

次に現れたのは植物に目が生えた不気味なモンスターだ。本来ならば『ジェット・シンクロン』を蘇生させる所だが、生憎サーチ効果と蘇生効果は1ターンにどちらかしか使えない。

 

「レベル5の『ジェット・ウォリアー』にレベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!星雨を束ねし聖翼よ!魂を風に乗せ世界を巡れ!『スターダスト・チャージ・ウォリアー』シンクロ召喚!」

 

スターダスト・チャージ・ウォリアー 攻撃力2000

 

ここで姿を見せたのは風と星屑を纏う白き戦士。腰元にはスカートのように刃が広がり、敵のモンスターを狙っている。確かにこのモンスターならば特殊召喚したモンスター全てに攻撃が可能だ。

 

「シンクロ召喚時、1枚ドロー!」

 

コナミ 手札5→6

 

「手札の刻剣を捨て、竜穴のペンデュラム効果で『星邪の神喰』を破壊!バトル!『スターダスト・チャージ・ウォリアー』でセラフィ、マディラ、パーズ、プレアデス、オメガに攻撃!流星乱射グォレンダァ!」

 

「墓地の『超電磁タートル』を除外し、バトルフェイズを終了する!」

 

「カードを3枚セットし、ターンエンドだ」

 

コナミ LP4000

フィールド『スターダスト・チャージ・ウォリアー』(攻撃表示)

セット3

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札4

 

「俺のターン、ドロー!『XX―セイバーフラムナイト』を召喚!」

 

XX―セイバーフラムナイト 攻撃力1300

 

刃の手札から登場したのは金髪の少年剣士。その手に刃が鞭のようにしなる剣を持ったモンスターだ。

 

「バトル!ガトムズでチャージ・ウォリアーに攻撃!」

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!」

 

「プレアデスの効果発動!」

 

「アクションマジック、『透明』!チャージ・ウォリアーに耐性を与える!」

 

刃の攻撃が迫る中、コナミが得意の罠で凌ぐ。長期戦となればバトルロイヤルの性質上、不利になるのはコナミだが、そのデッキ上、有利にもなりやすい。

 

「チッ、だけど俺のモンスターも3体!3体で攻撃だ!」

 

刃のフィールドの3体が同時にコナミのシルクハットを切り裂く。しかしフラムナイトだけはシルクハットを切り裂いた途端、ギラリと閃く刃が飛び出し、攻撃を弾く。

 

「残念だったな、フラムナイトとチャージ・ウォリアーの攻守は同じ、よって破壊されない」

 

「こいつ……俺の運でも吸ってんのかよ……!ターンエンドだ!」

 

刀堂 刃LP1800

フィールド『XX―セイバーガトムズ』(攻撃表示)『XX―ボガーナイト』(攻撃表示)『XX―セイバーフラムナイト』(攻撃表示)

『炎舞―「天キ」』セット2

手札1

 

「魔法カード、『ジェムナイト・フュージョン』!フィールドの『ジェムナイト・セラフィ』と手札の『ジェムナイト・サニクス』を融合!融合召喚!『ジェムナイト・マディラ』!」

 

ジェムナイト・マディラ 攻撃力2200

 

「墓地のセラフィを除外し、『クリスタル・ローズ』を蘇生!」

 

クリスタル・ローズ 守備力500

 

「『クリスタル・ローズ』の効果でデッキの『ジェムナイト・ガネット』を墓地に送り、名前をコピー!そして墓地のガネットを除外し、『ジェムナイト・フュージョン』回収、発動!マディラと『クリスタル・ローズ』を融合!融合召喚!『ジェムナイト・ルビーズ』!」

 

ジェムナイト・ルビーズ 攻撃力2500

 

現れたのは紅蓮に燃える宝石の騎士だ。燃え盛るような鮮やかな赤い戦士は隣に並ぶジルコニアを手に持った得物へと吸収する。

 

「ルビーズの効果でジルコニアをリリースし、その攻撃力を吸収する!」

 

ジェムナイト・ルビーズ 攻撃力2500→5400

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

「チッ、メインフェイズ2墓地の『ジェムナイト・アイオーラ』を除外し、『ジェムナイト・フュージョン』回収!発動!ルビーズとパーズを融合!融合召喚!『ジェムナイト・プリズムオーラ』!」

 

ジェムナイト・プリズムオーラ 攻撃力2450

 

「墓地のジルコニアを除外し、『ジェムナイト・フュージョン』を回収、プリズムオーラの効果で墓地に送り、『竜穴の魔術師』を破壊!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、破壊を防ぐ!」

 

「ターンエンドよ」

 

光津 真澄 LP3500

フィールド『ジェムナイト・プリズムオーラ』(攻撃表示)『ジェムナイト・マディラ』(攻撃表示)

『ブリリアント・フュージョン』セット1

手札3

 

「僕のターン、ドロー!トレミスのORUを1つ取り除き、墓地のソンブレスを回収!そして罠発動!『エクシーズ・リボーン』!墓地のプレアデスを特殊召喚し、このカードをORUにする!」

 

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500

 

「星痕の効果でドロー!」

 

志島 北斗 手札4→5

 

「ORUのないプレアデスでオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『セイクリッド・トレミスM7』!!」

 

セイクリッド・トレミスM7 攻撃力2700

 

「バトルだ!プレアデスでチャージ・ウォリアーへ攻撃!」

 

「手札の『工作列車シグナル・レッド』を特殊召喚し、このカードに攻撃を移し、ダメージ計算を行う!」

 

工作列車シグナル・レッド 守備力1300

 

「くっ――何て奴だ……!残る2体でシグナル・レッドとチャージ・ウォリアーに攻撃!カードを2枚セットしてターンエンド!」

 

志島 北斗 LP4000

フィールド『セイクリッド・プレアデス』(攻撃表示)『セイクリッド・トレミスM7』(攻撃表示)『セイクリッド・オメガ』(攻撃表示)

『セイクリッドの星痕』セット2

手札3

 

「オレのターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!『沼地の魔神王』!『ジャンク・コレクター』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

沼地の魔神王 守備力1100

 

ジャンク・コレクター 守備力2200

 

ここで現れたのは3体のモンスター、『魔術師』に沼地の魔神ガラクタの収集者。この状況を覆す為の3体だ。3人の顔色が変わる。

 

「『ジャンク・コレクター』……!だが奴を戻しても……!」

 

「アドバンス召喚でまた出てくる……!?」

 

「ッ!構うか!バウンスする!」

 

「『沼地の魔神王』をリリースし、手札に戻った『ジャンク・コレクター』をアドバンス召喚!」

 

ジャンク・コレクター 攻撃力1000

 

「くっ――!」

 

「伏せろ北斗!来るぞ!」

 

「『ジャンク・コレクター』と墓地の『エレタンタルバースト』を除外し、その効果をコピー!相手フィールドのカード全てを破壊!ぶち撒けろ!」

 

「くたばってたまるかよ!罠発動!『ダメージ・ダイエット』!破壊される前に使っておくぜ!」

 

コナミが右手を勢い良く突き出すと共に『マジカル・ブロードウェイ』のコンクリートが砕けて隆起し、突風に運ばれた火と水の柱が3人のカードを破壊し尽くす。一気に形勢逆転、見事ピンチを覆した――。

 

「やりやがったなコナミィ……!」

 

「今度から墓地発動系も入れとこう……」

 

3人共に水を浴び、びしょ濡れになった姿でコナミを睨む。しかしその口元にはニヤリと笑みが浮かんでいる。ポタポタと落ちる雫、全く、3対1でもこの男相手に油断は出来ない。

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『竜穴の魔術師』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→3

 

「魔法カード、『ミラクル・フュージョン』!墓地の『E・HEROブレイズマン』と『沼地の魔神王』を除外、融合召喚!『E・HEROアブソルートZero』!」

 

E・HEROアブソルートZero 攻撃力2500

 

『HERO』と『沼地の魔神王』が融合し、フィールドに現れたのは最強の『HERO』とも言われる純白の貴公子。雪のようなマントを翻し、地上に降り、『エレタンタルバースト』によって生まれた大量の水を氷のスケート上へと変える。

 

「『ジャンク・コレクター』を何とかしても無駄って事ね……!」

 

「ふざけてやがる……!」

 

「バトルだ!アブソルートZeroで刃を攻撃!」

 

「墓地の『ネクロ・ガードナー』を除外し、攻撃を無効に!」

 

「サンキュー真澄ん!」

 

「軽口言ってる場合か!」

 

アブソルートZeroがスケート場を滑り、刃の下へと駆け抜け、その腕から伸びた鋭角な刃を振るい、ダメージを与えようとするが、真澄が墓地から『ネクロ・ガードナー』を除外して攻撃を防ぐ。

刃の前に現れた、蜃気楼のようにユラユラと揺れる戦士の影がアブソルートZeroを弾き飛ばしたのだ。後方に吹き飛ばさせるも空中でくるりと回転し、見事着地するアブソルートZero。だが追撃はかけられないとコナミに向かって首を振る。

 

「竜脈で光津に攻撃!」

 

「私ィ!?」

 

「クソ!中々冷静じゃねぇか!」

 

ここで刃に追撃してもダメージが半減され、止めを刺せないと判断したのだろう。ターゲットを変更し、少しでも多くのダメージを与えようとする。

 

光津 真澄 LP3500→1700

 

「うぁ――!」

 

強力な斬撃が襲いかかり、思わず真澄は腕をクロスさせ、苦悶の声を漏らす。LPが半分近く削り取られてしまった。次のターン、確実にコナミは刃か真澄のどちらかを倒しに来るだろう。いや、もしかすれば欲張りなコナミの事だ。全員を倒しに来る可能性も充分に考えられる。と言うかその気だ。この男はそう言う奴なのだ。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

コナミ LP4000

フィールド『E・HEROアブソルートZero』(攻撃表示)『竜脈の魔術師』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『賤竜の魔術師』

手札0

 

「私のターン、ドロー!ガトムズのハンデスを避ける為にカードを伏せたか……!だがこっちも大惨事になる前にアブソルートZeroを倒す!」

 

アブソルートZeroにはフィールドを離れた場合、相手モンスター全てを破壊する強力な効果がある。だからこそ最強の『HERO』なのだ。刃はせめて次のターンに展開する2人の被害を防ぐ為に、ここで食い止めねばと鼻息荒く氷の『HERO』を睨む。

 

「『XX―セイバーボガーナイト』を召喚!」

 

XX―セイバーボガーナイト 攻撃力1900

 

「効果でフラムナイトを特殊召喚!」

 

XX―セイバーフラムナイト 攻撃力1300

 

「レベル4のボガーナイトにレベル3のフラムナイトをチューニング!シンクロ召喚!出でよ!『X―セイバーソウザ』!」

 

X―セイバーソウザ 攻撃力2500

 

刃が覚悟を宿し、アブソルートZeroを倒す為にシンクロ召喚する。姿を見せるのは狂気の二刀流使い、攻撃力はアブソルートZeroと同じ。

 

「ソウザでアブソルートZeroへ攻撃!」

 

「チィッ!」

 

ソウザが地を蹴り、剣を交差させてアブソルートZeroへ斬りかかる。しかし氷の『HERO』も負けてはいない。瞬間にその軌道を見抜き、両腕から氷の刃を伸ばして切り結ぶ。響く金属音、削り取られる氷、劣勢なのはアブソルートZeroだ。ソウザの持つ聖剣に対し、彼の剣はただの氷、このままじゃ分が悪い。冷静に判断し、仕方無いと剣を食らう。切り裂かれる肩、しかし直ぐ様刃を凍結させて腕ごと凍らせ、その隙をついて氷の刃でソウザを切り裂く。結果は相撃ち、しかし相手モンスターが存在しない為、アブソルートZeroの効果は不発となる。

 

「後は頼む!ターンエンドだ!」

 

刀堂 刃 LP1800

フィールド

手札0

 

だがこれで刃を守るカードも無くなった。モンスターもセットカードも、手札すらない。全ては勝利の為に――残る2人に賭けたのだ。応えてやらねば、真澄はキッと目を吊り上げ、勢い良くカードを引き抜く。

 

「私のターン、ドロー!任せなさいっての……!私は墓地のラズリーを除外し、『ジェムナイト・フュージョン』を回収!そして『ジェムナイト・アンバー』を召喚!」

 

ジェムナイト・アンバー 攻撃力1600

 

雷纏いし琥珀の戦士が姿を見せる。このカードも墓地では通常モンスターとして扱うデュアルモンスターだ。その効果を発動させる為、真澄は次の手に移る。

 

「装備魔法、『スーペルヴィス』をアンバーに装備!再度召喚状態となったアンバーの効果で『ジェムナイト・フュージョン』を捨て、除外されているブリリアント・ダイヤをエクストラデッキに!まだよ!墓地の『ジェムナイト・パーズ』を除外し、『クリスタル・ローズ』を特殊召喚!」

 

クリスタル・ローズ 守備力500

 

「効果でデッキの『ジェムナイト・サフィア』を落とし、名前をコピー!墓地の『ジェムナイト・マディラ』を除外し、『ジェムナイト・フュージョン』回収!発動!手札の『ジェムナイト・クリスタ』と『ジェムナイト・エメラル』、そしてフィールドの『ジェムナイト・アンバー』を融合!融合召喚!『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』!!」

 

ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ 攻撃力3400

 

再びフィールドに降臨する煌めくダイヤの白騎士。自身が入っていたダイヤモンドに剣線を走らせ切り裂き登場。そのまま剣を振るい、巨大なダイヤモンドを一瞬で切り取り、ダイヤの薔薇を手にする。

 

「『スーペルヴィス』の効果でサニクス蘇生!」

 

ジェムナイト・サニクス 攻撃力1800

 

「墓地の『ジェムナイト・サフィア』を除外し、『ジェムナイト・フュージョン』回収!発動!フィールドのサフィアとなった『クリスタル・ローズ』とサニクスで融合!光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!融合召喚!『ジェムナイト・アクアマリナ』!」

 

ジェムナイト・アクアマリナ 攻撃力1400

 

ブリリアント・ダイヤに並び立つように現れたのは現れたのは頑強な鎧と盾を持ち、黒いマントを纏ったアクアマリンの騎士。攻撃力は低く、守備向きのモンスターと言えるカードだ。

 

「ブリリアント・ダイヤの効果でアクアマリナを墓地に送り、グラインドフュージョン!『ジェムナイトマスター・ダイヤ』!!」

 

ジェムナイトマスター・ダイヤ 攻撃力2900→3700

 

アクアマリナが巨大なダイヤモンドの殻に閉じ込められ、ブリリアント・ダイヤが華麗なステップを刻みながら剣を振るう。バキリとダイヤモンドが砕かれ、中から現れたのはブリリアント・ダイヤと同じく光輝くダイヤモンドの騎士王。砕かれたダイヤモンドには仲間達の姿が写り込み、マスター・ダイヤの手元に集まってダイヤの大剣を構成する。攻撃力3700、最高ラインと言える数値を得た。

 

「アクアマリナの効果で竜脈をバウンス!」

 

「ほう――?」

 

「マスター・ダイヤの効果で『ジェムナイト・マディラ』を除外し、その名前と効果を得る!」

 

ジェムナイトマスター・ダイヤ 攻撃力4000→3900

 

「バトルよ!2体でダイレクトアタック!」

 

「その前に、墓地の『光の護封霊剣』を除外、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

2体の聖騎士が地を蹴ってコナミに肉薄し、レイピアと大剣を重ね、勢い良く振り抜く。しかしコナミが瞬時に光の剣を地面から引き抜き、斬撃を弾く。またもやかわされた、のらりくらりとするコナミを見て、真澄が唇を噛む。

 

「かったいわね……ターンエンドよ、北斗!」

 

光津 真澄 LP1700

フィールド『ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ』(攻撃表示)『ジェムナイトマスター・ダイヤ』(攻撃表示)

手札0

 

「全く手間のかかる……!僕のターン、ドロー!『セイクリッド・シェアト』を特殊召喚!」

 

セイクリッド・シェアト 守備力1600

 

「『セイクリッド・ポルクス』を召喚!」

 

セイクリッド・ポルクス 攻撃力1700

 

「ポルクスの効果で得た召喚権を使い、『セイクリッド・ソンブレス』を召喚!」

 

セイクリッド・ソンブレス 攻撃力1550

 

「ソンブレスの効果で墓地のプレアデスを除外し、『セイクリッド・カウスト』を回収!ソンブレスの効果で召喚!」

 

セイクリッド・カウスト 攻撃力1800

 

「シェアトの効果で墓地のポルクスのレベルをコピー!」

 

セイクリッド・シェアト レベル1→4

 

「カウストの効果でシェアトとこのカードのレベルを1つ上げる!」

 

セイクリッド・シェアト レベル4→5

 

セイクリッド・カウスト レベル4→5

 

4体の『セイクリッド』モンスターを展開し、これにて準備は整った。後は――得意のエクシーズへと繋げるのみ。

 

「レベル4のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『セイクリッド・オメガ』!」

 

セイクリッド・オメガ 攻撃力2400

 

「レベル5のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『セイクリッド・プレアデス』!!」

 

セイクリッド・プレアデス 攻撃力2500

 

並び立つ2体のエクシーズモンスター。カードをバウンスするプレアデスと『セイクリッド』を魔法、罠から守るオメガ。この2体を合わせる事で安定感はグッと上がる。それでも突破される事は多々あるが、無いよりはマシだ。

 

「プレアデスでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『虹クリボー』を特殊召喚!」

 

虹クリボー 守備力100

 

「プレアデスの効果でバウンス!」

 

「アクションマジック、『ブラインド・ブリザード』を発動!バトルを終了!」

 

「くっ、ターンエンドだ」

 

志島 北斗 LP4000

フィールド『セイクリッド・プレアデス』(攻撃表示)『セイクリッド・オメガ』(攻撃表示)

手札0

 

それぞれが全力を出し尽くし、コナミを確実に追い込んでいく。最早防御札は粗方使い切った――。ここが正念場、そびえ立つ高い壁を乗り越えねば、勝利はない。コナミは覚悟を決め、勢い良くデッキからカードを引き抜く。

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『エクシーズ・トレジャー』!フィールドのエクシーズモンスターは2体、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札0→2

 

「魔法カード、『HEROの遺産』を発動!墓地の『アブソルートZero』とガイアをエクストラデッキに戻し、3枚ドロー!」

 

コナミ 手札1→4

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『No.39希望皇ホープ』、『慧眼の魔術師』、『刻剣の魔術師』、『スターダスト・チャージ・ウォリアー』、『E・HEROエアーマン』を回収し、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札3→5

 

「『慧眼の魔術師』をセッティングし、ペンデュラム効果で破壊、デッキの『竜穴の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!『相克の魔術師』!『慧眼の魔術師』!世にも珍しい二色の眼を持つ龍!『オッドアイズ・ドラゴン』!!出でよ、絶望の暗闇に差し込む、眩き救いの光!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

振り子の軌跡で現れる4体のモンスター。『魔術師』2体に二色の眼の竜が2体、これでフィールドは埋め尽くされた。

 

「プレアデスのORUを1つ取り除き、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』をバウンス!」

 

「甘いな、『相克の魔術師』の効果でその効果を無効にする!バトルだ!『オッドアイズ・ドラゴン』で『セイクリッド・オメガ』を攻撃!スパイラル・フレイムッ!!」

 

志島 北斗 LP4000→3800

 

『オッドアイズ・ドラゴン』の鋭い歯が並ぶアギトに大気が集束し、発火して渦巻く炎のブレスが放たれる。呑み込まれる光の神馬。だがまだだ、炎は消える事無く燃え上がり、広がって3人に襲いかかる。

 

「『オッドアイズ・ドラゴン』の効果で『セイクリッド・オメガ』の攻撃力の半分、1200のダメージを与える!」

 

光津 真澄 LP1700→500

 

刀堂 刃 LP1800→600

 

志島 北斗 LP3800→2600

 

「ぐっ――」

 

「この効果があったか……!」

 

「『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』でブリリアント・ダイヤに攻撃!この瞬間、2枚の『スキル・サクセサー』を除外し、攻撃力を800アップ!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800→4400

 

光津 真澄 LP500→0

 

セイバー・ドラゴンが背から伸びた金色の剣を振るい、真澄のブリリアント・ダイヤと切り結ぶ。ぶつかり合う剣戟の嵐。それを制したのはセイバー・ドラゴンだ。黄金の斬撃がブリリアント・ダイヤを吹き飛ばし、プレアデスもまとめて切り裂く。これで真澄はリタイヤとなった。

 

「セイバー・ドラゴンの効果でプレアデスを破壊!」

 

「おいおい……マジかコイツ……!」

 

「さぁ終わりだ!竜脈で刃を!相克と慧眼で北斗にダイレクトアタック!」

 

刀堂 刃 600→0

 

志島 北斗 LP2600→100→0

 

決着――勝者、コナミ。赤帽子のデュエリストは見事勝利を掴み取った――。

 

――――――

 

一方、コナミや遊矢達が特訓をしている頃、融合次元アカデミアの巨城では、騒がしい軍靴の音が鳴り響いていた――。その原因は――最上部、とある少女達が閉じ込められている塔にあった。

 

「チッ!嗅ぎ付けられたか!おいエアー!貴様があんなデカイモンスターを出したからこうなったのだ馬鹿者め!」

 

「仕方無いだろう!俺もあそこまでデカイモンスターとは思ってなかったんだ!正直すまんかったと思ってる!」

 

そこにいたのは遊矢と隼と激闘を繰り広げたオベリスク・フォース・サンダーとエアーだ。今は身分を隠しているのか、仮面を被り、塔へとやって来るオベリスク・フォース達を見据える。と、そんな中、何時の間にかいたのか、赤い髪を結び、褐色の肌をした幼女がくいくいとエアーの軍服を引っ張り、不安そうな表情となる。

 

「私のせい……?」

 

「それは違う。断言する」

 

キリッ、幼女の前で真面目な顔をし、なでこなでこと幼女の頭を撫でるエアー。良く見てみるとハァハァと鼻息が荒いが――子供が好きなんだろう。多分。

 

「ロ、ロリコン……」

 

思わず彼等に助けられた少女達も引く始末である。

 

「やってる場合か!おい貴様等、俺様かエアーに掴まれ!奴等に見つからんアジトに飛ぶぞ!」

 

幼女を愛でるエアーに若干引きつつ、この場から逃れる為にサンダーが指示を出す――するとエアーに掴まったのは幼女、サンダーに掴まったのは助け出された少女2人となった。日頃の行いって大事。

 

「「「……」」」

 

「何か言えよ」

 

「さて、準備は良いな!飛ぶぞ!」

 

気まずい雰囲気が流れる中、サンダーが口を開き、デュエルディスクを操作したその時、ヒラリ、とショートカットの少女のポケットから1枚のカードが落ち、彼女が慌てて拾おうとする。

 

「っ!待って!あのカードだけは――」

 

「なっ、おい!」

 

「見つけたぞ!貴様等が反逆者か!」

 

「チッ!」

 

しかし運悪く、そこにオベリスク・フォース達が辿り着き、モンスター達を呼び出して彼等に攻撃を仕掛け――黒い球体状のエネルギー弾が、カードを拾おうとした少女に直撃する。

 

「なっ!?」

 

「リンちゃん!?」

 

最悪の展開――吹き飛ばされる少女、リンの下へとサンダーが駆け、カードと共に拾い上げ、状態を確認――気絶はしているが、目立った外傷は無い。どんだけ頑丈なんだとリンのストロングさに戦慄しながらもサンダーとエアーはデュエルディスクを操作し、その場から消え去る。

 

「逃げられたか――!」

 

「反応を追え!」

 

「ダメだ!反応が無い!奴等デュエルディスクに何か仕込んだな!ドクトル教授を呼べ!」

 

――――――

 

「……なぁんか上がうるさいなぁ」

 

「気のせいでしょう恐らくまた覇王殿がやらかしたんでしょうねぇ」

 

一方――アカデミアの地下にて、1人のデュエリストが厳かで怪しい門を潜っていた。キィッ、ガシャンッ!と彼が門の中へと足を踏み入れた途端、その背で門が閉まり、何重にも鍵がかけられるが、少年は表情を変えず、門、いや、その先の人物に振り向く。

後退した白髪に深い隈が刻まれた目、如何にもと、怪しい風貌をしたその男性は喉をクツクツと鳴らしながら少年に語りかける。

 

「クフフフフッ……私に案内出来るのはここまでです。ここから先、いや、ここの存在はアカデミアの上層部しか知らぬ、禁断の地なのですから――それでは、どうか無事に帰って来られる事を――ユーリ君」

 

そう言って――男、ドクトルは怪し気な笑い声を上げ、踵を返してその場から去っていく――。後に残された少年、ユーリはまた、くるりと振り返り、暗く整備の行き届いてない地下デュエル場を見渡す。

ここから始まるは誰にも語られる事は無いだろう――修羅の道。少年は、長く険しい獣道を突き進む――。

 

 

 

 

 

 




スタンダード次元最後のデュエルって言っただけで2章が終わるとは言ってない(震え声)。
次にユーリ君のデュエルに2話、もう1つ2話構成のデュエルをして2章は終了になると思います。冗長になりますが、お付き合いしていただければ。
……割りとマジでこの話が長くなるの何とかしたいなぁ。色んなキャラにスポットを当てる以上仕方ないかもしれないけど。


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第91話 ポイント制

今回から時々挟むであろう、ユーリ君側のデュエルはちょっと特殊なルールとなります。詳しくは文章内で説明しますが、疑問点や矛盾点があれば出来る限りお答えします。
私もふわっとしか考えて無いんですがね。


時は少しだけ遡る。スタンダード次元からアカデミアへと戻ったユーリはデュエル場にて、黒コナミに惨敗した鬱憤を晴らすようにオベリスク・フォース達をなぎ倒していた。その様は正に破壊神か修羅の如し、しかし、多くの勝利とは裏腹に彼の顔色は一向に優れない。追い詰められたように、張りつめた表情で「次」と呟く。

こんなものじゃ足りない、これだけやっても、あの黒帽子のデュエリストを完膚無きまでに叩きのめす事は出来無いと。今以上に圧倒的な力を求めるが――。

 

「も、申し訳ありません……っ!こ、これ以上は……!」

 

目の前に倒れ伏し、ボロボロにひび割れた仮面を着けたオベリスク・フォースが助けを乞うように言葉を返す。そう言われて初めて、ユーリは辺りを見渡す。倒れ伏し、呻き声を上げる数十人のオベリスク・フォース達――その様は正しく阿鼻叫喚の地獄絵図。

最早戦意も喪失したのだろう、彼等は怯えた様子でユーリを見ている。こんな状態の彼等と闘っても、得られるものは何も無い。

 

ユーリはフンと鼻を鳴らし、訓練場から去っていく。力も何も得られぬ、ただ無意味なものだったと苛立ちながら。そうして、長い廊下を渡り、行く宛も無く歩いている時だった。彼がユーリに声をかけて来たのは。

 

「クフフフフフッ、何やらお悩みの様子ですねぇ、ユーリ君」

 

「……何、アンタ?」

 

耳元を飛ぶ羽虫のように、耳障りで不快な声音に眉をひそめ、ユーリが振り返る。そこにいたのは1人の男性の姿。アカデミアの者であろう服装に身を包み、後退した白髪、目の下の深い隈とマッドサイエンティストを絵に書いたような男だ。

何やら見覚えがあるような気がするが――思い出せないと言う事は、所詮その程度の有象無象だったのだろうとユーリは鼻を鳴らす。どちらにせよ、余り良い印象を抱けないような男だ。相手にするのも面倒なので適当に話を合わせようと溜め息を吐く。

 

「ああ、失礼、私はドクトルと呼ばれています。何やらアカデミアでも最強格と呼ばれる貴方の表情が優れないようなのでねぇ、ええ、何かお悩みですか?」

 

「アンタには関係無いだろう?怪しい薬や開運グッズならお断りだよ」

 

長々と話始めるドクトルを見て、ユーリは結構だと言わんばかりに踵を返そうとしたその時だった――ドクトルがニヤリと口角を持ち上げ、不意に言葉を放ったのは。

 

「力が、欲しいんでしょう?」

 

ピタリ、ユーリの足が縫い付けられたように、その場に止まる。

 

「……何?アンタが相手してくれるって事?中二病みたいな台詞を言っちゃった所悪いけど、僕は今虫の居所が悪いんだ。手加減出来無いよ」

 

ギラリ、ユーリが少しだけ、紅く濡れた視線をドクトルに移し、怒気を露にする。適当な事を言っているならもう話しかける気力も起きないように痛めつけてやろうと考えているのだろう。

しかしドクトルは誰もが退くであろうその視線を受けて尚、その薄ら笑いをおさめず、話しかける。

 

「おお怖い……私等では貴方の相手になりませんよ。私が言いたいのはですね、強くなりたいなら、打ってつけの場所がありますよ、と言う事です」

 

「――ふぅん?」

 

「おや、食いつきましたか?クフフフフフッ」

 

「話を続けてくれる?」

 

ドクトルの言葉にユーリが反応し、興味を示した彼に不気味な笑みを溢すドクトル。回りくどい、ユーリは舌打ちを鳴らしてさっさとしろと言外に急かす。

 

「このアカデミアには、上層部しか知らない、落ちぶれ、力のみを求めるデュエリスト達の集まる所があるのです。ルールはあるがモラルは無い、デュエルはあるが、誇りは無い、まぁ、大袈裟になりますが、どんな手を使ってでも勝つ、ここのデュエリストとは比べ物にならない強者が集う場所がね」

 

「……で?だとしたらどうしてそんな奴等が戦線に出ないの?」

 

「彼等の多くは壊れているのですよ。確かに実力はありますが――命令には背きますし、敵味方お構い無し、そもそも人外もいますし……話を続けましょうか。ユーリ君、君は力を求めているのでしょう?でしたらその場所へと案内しますが――そこは正にこの世の地獄、再びここへ戻って来られる保証も無い、高い確率で貴方も壊れる可能性がある。それでも――行きますか?」

 

そこは恐らく、ドクトルが言う通りの場所なのだろう、力を求め、食らい合う強者達の魔窟。最悪の地獄。

だが――ユーリはそれでも、それを望む。圧倒的な力を。光を閉ざす闇を。希望を砕く絶望を。だからこそ、スタンダード次元から帰還して初めて、口角を吊り上げて笑みを浮かべ、その悪魔の囁きに応じる。

それに――と、ユーリはドクトルに言い放つ。地獄なら、既に見た。と。

 

「クフフフフフッ!よろしい!では案内しましょう、覇王、総司令、バレット殿、響紅葉と貴方、アカデミアの四天王と呼ばれる者達をも越えると言われる、帝王が統べる地下の世界へ――」

 

「……5人いるじゃん、四天王」

 

「細かい事は良いのですよ」

 

クフフフフフ、と独特の笑い声を上げ、鼻歌を歌う彼の背について行くユーリ。こうして――彼は力を求め、門を潜る。その先に、何が待ち構えていようとも――。

 

――――――

 

「で、どうしたら良いんだろうねぇ」

 

「お答えしましょう!」

 

「うわびっくりしたぁ!アンタ帰ったんじゃないの?」

 

「いやぁ、私とした事がここのルールを説明するのを忘れていましてね、放って置いて貴方がカモにされるのもアレですし」

 

フゥ、と溜め息を吐くのも束の間、先程去った筈のドクトルが音も無く背後に現れた事に肩をビクリと揺らすユーリ。って、何でドクトル君が!?と言いた気である。門を挟んでいるにしても心臓に悪い。呆れ返る中、ドクトルがコホンと咳払いしてこの地下におけるルールを説明する。曰く――ここのデュエルは、賭け事であると。

 

「賭けるものはLP、デュエリストはここに入った時点で、4000のLPを得ます。ここに入る前に交換したデュエルディスクに表示されているでしょう?」

 

LPの初期値は4000。当たり前のようだが、何か違うようだ。彼の言う事が本当ならそのLPが賭けるものなのだから。

 

「そしてデュエル、この時対戦相手は自由に選べますが、応じてくれるとは限りません。デュエルの前に互いが納得する賭け金を提示するのです」

 

「……良く分からないな、続けて」

 

「まぁ、じきに慣れるでしょう。例えばユーリ君、貴方が1000LP賭けるから、私にデュエルしてくれと言いました。私はNOと言います。そうすればデュエルは成立しません。それ以上のLPを賭けて気を引くのです。オークションみたいなもの、ですかねぇ」

 

「ふぅん、僕の誘いを断るんだ」

 

「例えば、ですよそして貴方は1500賭けます。ならば私は1000賭けると言いました。貴方が承諾すればデュエル成立です」

 

「せこいねアンタ」

 

「例え話ですよ。そしてこの時、賭けるLPは持っているLPから引かれます」

 

「……うん?」

 

話の流れが変わったとユーリは目を細める。どうやらここからがこの地下でのデュエルの在り方と言うものだろう。耳を傾け、真剣に聞く態度に移る。

 

「貴方が持っているLPは4000、そして賭けるLPは1500、つまりデュエル開始時のLPは2500です。私が持っているLPはそうですね、3000にしましょう、1000賭けるから2000です」

 

「成程、賭けるLPは一旦どこかに預けられると言う事だ」

 

「ええそうです!理解が早くて助かりますねぇ!そして勝者は自分と相手が賭けていたLPを獲得します。ユーリ君が勝った場合、2500のLPを得て、LP5000となる訳です。しかしデュエル中、LPが減り、例えば1500となっているとそこに2500加えられ、4000になります。勝った時のLPに賭け金が加算される訳ですねぇ」

 

「負けた君は?」

 

「負ければ0、特殊勝利でもね、そうしてLPが0になった者はLPと言う金を稼ぐ為、ここで労働する訳です。ここでのLPは地上での金と思ってください。カードを買うのも、食事をするにしてもね。何やらシンクロ次元での環境と似せているようですが、いえ、シンクロ次元がここに似せているんでしたかねぇ。因みにここから出たい場合、LPを4000払わなければいけません」

 

「本当に金って訳だ」

 

「ええ、こうして得たLPは次のデュエルで反映されていきます。例えばこの話のユーリ君が次のデュエルで500LP賭けるなら5000から引かれ、デュエル開始時は4500、とね。そしてここではランキングがあります」

 

「……何だか面白そうなものが出て来たね」

 

ランキング、競うべきものが出て来た事で俄然ユーリは興味が沸く。LPを賭けるのも刺激的で楽しそうであるが、目指すものがあれば人はより一層努力しようとする。それは彼とて同じと言う事だろう。

 

「ここでのランキングは持っているLPが多ければ多い程上がります。ランキングが高い程、ここでの生活は楽になりますよ。買えるものの多さ、そして買うのものが割り引きされるのです」

 

「ポイントカードか……」

 

「クフフフフフ。そして――ランキング2位の者だけが、ランキング1位――帝王と呼ばれるデュエリストに挑戦出来、勝者が帝王となるのです」

 

「最強の称号って訳か、良いねぇ……!」

 

ニヤリ、ユーリの口元に笑みが浮かぶ。退屈はしなくて済みそうだ。さて、ここで話を纏めてみよう。

 

その1、ここでのデュエリストは賭け。賭ける物はLP(初めてここに来た者はLP4000を与えられる)

 

その2、デュエル開始時に互いにLPを賭け、賭けるLPはデュエル開始時に持っているLPから引かれる。(例、持ちLPが4000、賭けるLP1000、デュエル開始時のLPは持ちLP-賭けLP=LP3000となる)

 

その3、勝者はその時点の自分のLPに互いに賭けたLPを足したLPを得る。(例、Aが賭けたLP1000、Bが賭けたLP1500、Aの勝利時のLP3000、1000+1500+3000=5500)。

 

その4、その3で得たLPは次のデュエルで引き継がれる。

 

その5、その3で負けたデュエリストのLPは0となり、ここで労働しなければLPを得られない。得られるLPは労働によって様々、LPは金であり、生活の必需品、食事代、カード代等、因みにLPの貸し借りをする金融も存在する。

 

その6、LPが高い程ランキング上位となり、生活が豊かとなる。

 

その7、ランキング2位だけがランキング1位である帝王に挑める。

 

と言った所か。要するにデュエルで勝ってLPを稼ぎまくれ、と言う事らしい。ランキング上位になる度に相手のLPも多くなっていく。中々面白いルールだ。社会の縮図のような地下のルールにユーリが納得する中、彼の背後に身体中に傷を負った、上半身裸の男が現れる。

首、そして腕に黒いリングのようなものを着けた彼は下卑た笑みと共にユーリに話しかける。

 

「おいおいドクトルさんよぉ、肝心のこれを忘れているぜぇ……」

 

「……何、アンタ?」

 

「おや、確か貴方はランキング20位のマッドドッグ犬飼さん。ああ私とした事がそれの事を忘れていましたよ。ユーリ君、犬飼さんの持っているリングを彼と同じように首と両腕に着けてください」

 

「……何、この悪趣味なリング、こんなダサいの着けたくないなぁ……」

 

不満そうに言いながらも渋々と言った様子でマッドドッグ犬飼よりリングを受け取り、首と両腕に装着する。何やら他の者達も着けているが、一体このリングは何なのだろうか。

 

「出来るだけそれは身につけておいて下さい。それを着けてないとデュエルは出来ませんから、クフフフフッ」

 

不気味に笑うドクトルを見て、どうせロクでも無い物なんだろうと半眼で見るユーリ。どちらにせよ、早く強敵と闘いたいと言わんばかりに振り返り、マッドドッグ犬飼を睨む。

 

「で、だ。マッドドッグさんだっけ?おじさん、僕とデュエルしてくれない?」

 

「……ほう?」

 

いきなりの挑戦、不敵な笑みで挑発するユーリを見て、犬飼が目を丸くして興味深そうにユーリを見つめる。完全にユーリの事を舐めきっている目だ。

だが彼はユーリの事を、実力を知らないから見下している訳では無い。むしろその逆、強者と知っているからこそ、こちらの情報を全く知らず挑戦して来たユーリを見下しているのだ。

 

「良いぜ、とんだハリキリボーイがやって来たじゃねぇかドクトル。俺ぁ、こう言う奴は嫌いじゃねぇぜ。この何も知らねぇ尻の青いガキに社会の厳しさを教えてやるのが楽しくて堪らねぇ!俺はそうだな、LP4000賭けてやる。持ちLPの19000から引いて――初期値は15000だ」

 

「……!」

 

「どうした?ビビったか?」

 

目眩がするような巨大な数値――ランキング20位でもこれならば1位はどれ程なのだろうか。思わずユーリは言葉を失う。しかし――それは畏縮したからでは無い。ピッタリだったのだ。余りにも――ユーリが黒コナミに敗れた時、持っていたLPと。

丁度良い、愉快だと言わんばかりに目を皿のようにして口角を吊り上げる。

 

「テメェはどうする?何なら100でも良いぜ?」

 

「じゃあお言葉に甘えてそうするよ。LP3900を賭けて、初期値100からだ」

 

「「ッ!?」」

 

そう、丁度良い。奴がこれをやってのけたならば――自分もやらなければ気が済まない。100を残して全額投資、破滅的な賭け金に犬飼は勿論、ドクトルでさえも息を呑む。

 

「どうしたの?ビビった?」

 

先程の犬飼の言葉を借り、オウム返しに挑発する。とんでもない馬鹿だ。犬飼はその気迫に押されながら――ニヤリ、笑みを浮かべ、ユーリを見据える。

 

「上等だ。だが負けた時の言い訳に使うなよ?」

 

「良いよ別に。僕が勝つから」

 

ザッ、と互いに地を鳴らし、2人は地下の中心――金網の闘技場へと向かう――。

 

――――――

 

『さぁ、始まりました!闇の中のアンダーグラウンド!地下デュエル!司会は私、モンキー猿山がお送りしまぁぁぁぁす!』

 

数分後、金網が辺りを覆い尽くすデュエル場にて、ユーリと犬飼の姿があった。その外はコロシアム状となっており、ガラの悪い観客から金持ちそうな観客が2人へと品のない野次が送っている。

本当にそう言う所らしい。ユーリは辺りを見渡しながら不快そうに目を細める。彼としてはこのような見世物になるような事は余り好きではない。

 

「へへ、本当に良かったのか?ユーリくぅん?逃げるなら今の内だぜ」

 

「おじさんもしつこいねぇ、心配はいらないさ」

 

「そうかい……!」

 

互いに「早くやれー!」やら「どっちもくたばれー!」等と言う品のない罵倒を聞き流し、デュエルディスクを構える。もう犬飼のどんな言葉もユーリには届かない。早くデュエルがしたい、相手を叩きのめしたいと苛烈な闘志が彼の背を押しているのだ。犬飼も仕方無いと呆れ返り――デュエルが、始まる。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻はユーリだ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、その中から3枚のカードを選び、デュエルディスクに叩きつける。

 

「僕のターン、僕はモンスター1体とカードを1枚セット、永続魔法、『強欲なカケラ』を発動し。魔法、カード『命削りの宝札』を、発動!2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札1→3

 

「カードを3枚セットし、ターンエンド」

 

ユーリ LP100

フィールド セットモンスター

『強欲なカケラ』セット4

手札0

 

まずは様子見と言う事だろうか。無理もない、彼のLPはたった100、守備重視で来るのは当たり前だが――彼の場合、本当にそうか。

 

「大口叩いた割りには消極的だな。俺のターン、ドロー!ふん、俺もモンスター1体とカードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

マッドドッグ犬飼 LP15000

フィールド セットモンスター

セット2

手札3

 

と思いきや、こちらもユーリと同じくモンスター1体とカードを2枚伏せたのみ。これには観客席から大ブーイング。罵倒が2人に降り注ぐ。だがユーリは兎も角、犬飼のデッキは自分から攻め込むようなものではない。

 

「僕のターン、ドロー!カケラに強欲カウンターが乗るよ」

 

強欲なカケラ 強欲カウンター0→1

 

「おじさんも僕の真似かい?僕のLPはたった100なんだから攻め込まなきゃ、ダブル罠発動!『強欲な瓶』!2枚あるからにドロー!」

 

ユーリ 手札1→3

 

「そして速攻魔法、『手札断札』発動。互いに2枚捨て、2枚ドロー!僕は『捕食植物オフリス・スコーピオ』を召喚!」

 

捕食植物オフリス・スコーピオ 攻撃力1200

 

3ターン目、ここでユーリがモンスターを召喚する。蠍を模した植物のモンスター。その尾から伸びた針はどちらかと言うと蜂の物のようだ。ここで漸くモンスターが登場した事により、観客達が喜びの声を上げる。

 

「オフリス・スコーピオの効果により、手札の『捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ』を墓地に送り、デッキの『捕食植物ダーリング・コブラ』を特殊召喚!」

 

捕食植物ダーリング・コブラ 守備力1500

 

次に現れたのは顔が花のようになったコブラを模したモンスター。良い流れだ。ユーリは続け様にその効果を発動する。

 

「ダーリング・コブラの効果発動!『捕食植物』モンスターの効果で特殊召喚された事でデッキの『置換融合』をサーチ!発動!フィールドのオフリス・スコーピオとダーリング・コブラで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

ユーリの背後に青とオレンジの2色の渦が発生し、2体のモンスターが溶け、混ざり合う。眩き光が発生すると共にユーリが両手を合わせ、閃光の中から蛇の頭部のような物が生えた蔦が飛び出す。現れたのは巨大な花弁。酷い悪臭を撒き散らし、ウネウネと不気味に蠢くラフレシアを模したモンスターだ。

 

「バトル!キメラフレシアでセットモンスターに攻撃!」

 

キメラフレシアがその蔦を走らせ、犬飼のセットモンスターに襲いかかる。その瞬間――犬飼がニヤリと口角を吊り上げ、待ってましたとばかりにセットモンスターが姿を見せる。緑色の体躯に長い顎、鋭い牙がビッシリと並んだそのモンスターは――ワニだ。

 

「戦闘破壊された『グレイドル・アリゲーター』の効果により、このカードをキメラフレシアに装備!そのコントロールを得る!」

 

「――ふぅん」

 

ワニが破壊されると同時にその姿をスライムのように形の無いものに変え、キメラフレシアの全身を覆う。キメラフレシアはその影響か、全身が緑色に染められ、コントロールが犬飼に移る。コントロール奪取の中でも容易に条件を満たせる強力なものだ。折角融合召喚したのに奪われてしまった。最悪とも言える結果だ。

 

「『捕食植物』が逆に捕食されちまったなぁ」

 

「僕はカードを1枚セットしてターンエンド。強いねおじさん。そうでなくっちゃ」

 

ユーリ LP100

フィールド セットモンスター

『強欲なカケラ』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『三位一択』!融合モンスターを宣言し、互いのエクストラデッキにある宣言したモンスターが多い方が3000回復!」

 

「チッ、俺のエクストラデッキに融合モンスターはねぇよ」

 

「……ふぅん、確かに」

 

ユーリ LP100→3100

 

ユーリが犬飼のエクストラデッキを確認し、目を細める。いずれにせよこれでバーンカード1枚で終わりはしないだろう。

 

「活きの良いガキだ、嫌いじゃねぇぜ!『グレイドル・イーグル』を召喚!」

 

グレイドル・イーグル 攻撃力1500

 

現れたのは翼や尾の先が灰色になっている黄金の猛禽だ。先程の『グレイドル・アリゲーター』と同様のカテゴリ、恐らくはこのモンスターもコントロール奪取効果を持っているのだろう。

 

「バトル!キメラフレシアでセットモンスターに攻撃!」

 

「墓地のドロソフィルム・ヒドラの効果発動!墓地からダーリング・コブラを除外し、キメラフレシアの攻撃力を500ダウン!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→2000

 

「そしてセットモンスター、『捕食植物プテロペンテス』の守備力は2100!よって反射で100のダメージを与える!」

 

マッドドッグ犬飼 LP15000→14900

 

「ぐっう~っ!」

 

セットモンスターが表に返り、姿を見せたのは翼竜のような姿をした植物だ。その守備力は2100、ドロソフィルム・ヒドラの効果を合わせる事でユーリは戦闘破壊を逃れた。

だがそれよりも気になるのはマッドドッグ犬飼の反応だ。どう見ても100のダメージで取る表情ではない。気のせいか、電流のような物が彼に駆け抜けたように見える。

 

「?そしてプテロペンテスが相手に戦闘ダメージを与えた事でキメラフレシアに捕食カウンターを置き、レベルを1にする!キメラフレシアには自身のレベル以下のモンスターを除外する効果があるからね」

 

捕食植物キメラフレシア 捕食カウンター0→1 レベル7→1

 

「成程、自分のモンスターだからこそ対策は充分と言う訳か、俺はこれでターンエンドだ」

 

マッドドッグ犬飼 LP14900

フィールド『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)『グレイドル・イーグル』(攻撃表示)

『グレイドル・アリゲーター』セット2

手札2

 

「僕のターン、ドロー!カケラにカウンターが乗る!」

 

強欲なカケラ 強欲カウンター1→2

 

「カウンターの乗ったカケラを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札1→3

 

「僕は『捕食植物スピノ・ディオネア』を召喚!」

 

捕食植物スピノ・ディオネア 攻撃力1800

 

フィールドに登場したのは背中がハエトリグサのようになったスピノサウルスをモチーフとした植物だ。恐竜を模しているだけあり、かなりの巨体だ。攻撃力も比較的高く、優秀なアタッカーである事が伺える。

 

「スピノ・ディオネアの召喚時、『グレイドル・イーグル』にカウンターを置く!」

 

「させるか!カウンター罠!『グレイドル・コンバット』!『グレイドル』モンスターを対象とするその効果を無効にし、破壊!」

 

「ありゃ、そう来ちゃう?なら僕は装備魔法、『捕食接ぎ木』発動!スピノ・ディオネアを蘇生し、このカードを装備!」

 

捕食植物スピノ・ディオネア 攻撃力1800

 

「効果で『グレイドル・イーグル』にカウンターを乗せる」

 

グレイドル・イーグル 捕食カウンター0→1 レベル3→1

 

「『ギャラクシー・サイクロン』を墓地から除外し、『グレイドル・アリゲーター』破壊!墓地の『置換融合』を除外、キメラフレシアを戻してドロー!」

 

ユーリ 手札2→3

 

「プテロペンテスの効果で『グレイドル・イーグル』のコントロールを奪う!バトル!スピノ・ディオネアで攻撃!」

 

「永続罠、『グレイドル・パラサイト』!デッキから『グレイドル・スライム』をリクルート!」

 

グレイドル・スライム 守備力2000

 

呼び出されたのは銀色に煌めくグレイタイプと呼ばれる宇宙人。その名の通り、この姿は偽りのものであり、本来はスライムなのだろう。恐らくイーグルやアリゲーター達もその類いに見える。

 

「メインフェイズ2永続罠、『捕食惑星』を発動し、捕食カウンターが乗ったイーグルをリリースし、ドロソフィルム・ヒドラを蘇生!」

 

捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ 守備力2300

 

今度はユーリが捕食する番だ。イーグルがいる地面がバキリと砕け、中より伝説上の怪物、ヒドラを模した植物が現れて『グレイドル・イーグル』を丸呑みにする。

 

「『捕食惑星』の効果!捕食カウンターが置かれたモンスターがフィールドを離れた事でデッキの『捕食植物セラセニアント』をサーチ!カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

ユーリ LP3100

フィールド『捕食植物スピノ・ディオネア』(攻撃表示)『捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ』(守備表示)『捕食植物プテロペンテス』(守備表示)

『捕食接ぎ木』『捕食惑星』セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズ、キメラフレシアの効果で『置換融合』をサーチ」

 

「ククク、見事なもんだ。俺は『グレイドル・コブラ』を召喚!」

 

グレイドル・コブラ 攻撃力1000

 

次に現れた『グレイドル』は鮮やかなピンク色のコブラだ。このモンスターもコントロール奪取効果を持っている。相手に回すには厄介なモンスター達だ。

 

「そして罠発動!『グレイドル・スプリット』!コブラへ攻撃力500アップの装備カードとして装備!」

 

グレイドル・コブラ 攻撃力1000→1500

 

「更に!スプリットを墓地に送り、コブラを破壊!デッキから『グレイドル・イーグル』と『グレイドル・アリゲーター』を特殊召喚!」

 

グレイドル・イーグル 攻撃力1500

 

グレイドル・アリゲーター 攻撃力500

 

「『グレイドル・コブラ』が罠の効果で破壊された事でスピノ・ディオネアに装備!コントロールを奪う!」

 

鮮やかなるコンボ、カードの効果を繋げる事で犬飼は2体のモンスターを展開しつつユーリのモンスターを奪い取る。

 

「楽しませろよ?俺はレベル3の『グレイドル・アリゲーター』にレベル5の『グレイドル・スライム』をチューニング!シンクロ召喚!『グレイドル・ドラゴン』ッ!!」

 

グレイドル・ドラゴン 攻撃力3000

 

スライムが5つのリングとなって弾け飛び、アリゲーターを包み込んで閃光がリングごと貫く。光が晴れ、現れたのは頭はアリゲーターのものだろう、緑色のワニの頭部、スライムの銀色の胴体にイーグルの黄金の翼、そしてコブラのピンク色の尾とキメラのようなドラゴン。

攻撃力は3000、アカデミアで呼び出されたシンクロモンスターに、ユーリは興味深そうに目を細める。

 

「シンクロ召喚、ねぇ……!」

 

「地下ってのは色々な物を先取りして流れ込んで来るんだ。言わばテスターだなぁ、上でもエクシーズ召喚を使う奴がいるだろう?あれも地下でテストしてから表に出て来たんだぜ?さぁ、『グレイドル・ドラゴン』の効果発動!シンクロ召喚時、素材となった水属性の数まで相手カードを破壊!ドロソフィルム・ヒドラとプテロペンテスを破壊するぜ!」

 

「ドロソフィルム・ヒドラの効果でオフリス・スコーピオを除外し、攻撃力を500ダウン!」

 

グレイドル・ドラゴン 攻撃力3000→2500

 

「構わねぇ!バトルだ!『グレイドル・ドラゴン』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にして1枚ドロー!」

 

ユーリ 手札2→3

 

「ならスピノ・ディオネアでダイレクトアタック!」

 

「手札の『捕食植物セラセニアント』を特殊召喚!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

ここで手札誘発、敗北の危機を逃れる為、ユーリは手札から背から葉が生えた昆虫を呼び出す。『捕食植物』においてこれ以上無く壁に適したモンスターはいない。

 

「ならそいつに攻撃対象を変更!」

 

「セラセニアントの効果で戦闘を行ったスピノ・ディオネアを破壊!そしてこのカードが破壊された事でデッキの『プレデター・プランター』をサーチ!」

 

「イーグルでダイレクトアタック!」

 

「仕方無い、受ける……ぐぅぅぅぅぅっ!?」

 

ユーリ LP3100→1600

 

3体目、『グレイドル・イーグル』の攻撃、それを防ぐ手立てが無い為、ユーリは素直に受けるが――LPが削られた途端、ユーリの身体中、頭から爪先まで激しい電流が駆け抜ける。思わず身体をくの字に曲げ、苦悶の表情となるユーリ。何だ、これは――ソリッドビジョンの痛み等では決して無く、痛みを伴うデュエルとも違った感覚、頭の中が真っ白となり、目眩までする。

 

「クフフフフッ、どうですかユーリ君?」

 

「ッ!ドクトル……どう言う事だい……?」

 

そんな中、何時の間にかいたのか分からないが、金網を隔て、彼の背後にいたのはドクトルだ。薄ら笑いを浮かべる彼をギロリと睨み、ユーリが問いただす。

 

「貴方達が着けている黒いリング、それはダメージと連動して電撃を流すのですよ。これこそが地下の醍醐味、電撃デスマッチ、なぁに、死にはしない程度に調整されですが――痛いですよ」

 

「知ってるよ……!今受けたばっかりだからね……成程、それでプテロペンテスの反射ダメージの時、おじさんに電流が走ったのか……!」

 

これこそが地下デュエル、最大にして最悪の目玉ダメージに比例した電流を受けるデスマッチ。この悪趣味なリングにはそう言う意図があったのかと漸くユーリが理解する。

痛い、今までの痛みと違い、肉体の内部に襲いかかるようなダメージだ。だが――だからどうした――。彼はもう、こんなダメージ等、比べ物にならない痛みを味わっている。

 

「ビビったか小僧?」

 

「まさか……!むしろ面白くなって来たじゃないか……!」

 

「口の減らん……だが泣いて逃げ出すよりマシか、カードを1枚セットし、ターンエンドだ。この瞬間、イーグルは破壊される」

 

マッドドッグ犬飼 LP14900

フィールド『グレイドル・ドラゴン』(攻撃表示)

『グレイドル・パラサイト』セット1

手札2

 

「僕のターン、ドロー!永続魔法、『プレデター・プランター』発動!墓地のセラセニアント蘇生!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

「『捕食植物スキッド・ドロセーラ』を召喚!」

 

捕食植物スキッド・ドロセーラ 攻撃力800

 

次に召喚されたのは葉に鋭い牙が並び、不気味に目を輝かせる巨大な植物。

 

「『置換融合』を発動!フィールドのスキッド・ドロセーラとセラセニアントで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「墓地に送られたスキッド・ドロセーラの効果で相手モンスターに捕食カウンターを置き、セラセニアントの効果で『捕食接ぎ木』をサーチ!」

 

グレイドル・ドラゴン 捕食カウンター0→1 レベル8→1

 

「そしてカウンターの置かれた『グレイドル・ドラゴン』をリリースし、ドロソフィルム・ヒドラを蘇生!」

 

捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ 守備力2300

 

「『捕食惑星』の効果で2枚目の『捕食惑星』をサーチ!まだだよ!魔法カード、『マジック・プランター』!『捕食惑星』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札3→5

 

「バトル!キメラフレシアでダイレクトアタック!」

 

「『グレイドル・パラサイト』の効果で『グレイドル・コブラ』をリクルート!」

 

グレイドル・コブラ 守備力1000

 

「チッ、メインフェイズ2に移行、キメラフレシアの効果でコブラを除外し、カードを2枚セットしてターンエンド」

 

ユーリ LP1600

フィールド『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)『捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ』(守備表示)

『プレデター・プランター』セット2

手札2

 

攻めに入っても『グレイドル・パラサイト』が邪魔をする。だが『グレイドル』モンスターにだって数がある筈だ。弾切れを起こすか除去に出るしかない。

 

「俺のターン、ドロー!クククッ、もっと楽しもうぜ!俺は魔法カード、『マジック・プランター』!『グレイドル・パラサイト』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

マッドドッグ犬飼 手札2→4

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』!互いに1枚ドローし、1枚捨てる。そして『グレイドル・スライムJr.』を召喚!」

 

グレイドル・スライムJr. 攻撃力0

 

現れたのは『グレイドル・スライム』の息子であろう、小さな銀色の宇宙人。親と同じく、その下半身はスライム状となっている。

 

「召喚時、墓地の『グレイドル・イーグル』を蘇生!手札から『グレイドル・アリゲーター』を特殊召喚!」

 

グレイドル・イーグル 攻撃力1500

 

グレイドル・アリゲーター 守備力1500

 

「更に!『グレイドル・イーグル』と『グレイドル・スライムJr.』を破壊し、墓地の『グレイドル・スライム』を特殊召喚!」

 

グレイドル・スライム 守備力2000

 

「スライムの効果で『グレイドル・コブラ』を蘇生!イーグルの効果でキメラフレシアのコントロールを奪う!」

 

「させないよ!墓地の『捕食惑星』を除外し、フィールドのキメラフレシアと手札の『捕食植物コーディセップス』で融合!融合召喚!『捕食植物ドラゴスタペリア』!」

 

捕食植物ドラゴスタペリア 攻撃力2700

 

グレイドル・コブラ 守備力1000

 

コントロール奪取から逃れる為、ユーリが相手ターンに『融合』魔法を使わず融合を行う。現れたのはドラゴンを模したスタペリアと言う植物だ。巨大な翼を広げ、雄々しく咆哮する。

 

「ほう……!」

 

「これでコントロールは奪えない。次はどうするの?おじさん」

 

「こう出る!レベル3の『グレイドル・コブラ』にレベル5の『グレイドル・スライム』をチューニング!シンクロ召喚!『グレイドル・ドラゴン』!!」

 

グレイドル・ドラゴン 攻撃力3000

 

「シンクロ召喚時、効果発動!」

 

「ドラゴスタペリアの効果により、『グレイドル・ドラゴン』に捕食カウンターを置き、発動する効果を無効!」

 

グレイドル・ドラゴン 捕食カウンター0→1 レベル8→1

 

互いに効果を発動し、鬩ぎ合う2頭の竜。天高く飛翔し、ぶつかり合う姿は正に圧巻、会場がヒートアップしていく。だが攻撃力は『グレイドル・ドラゴン』が上、思い素材を要求してドラゴスタペリアの攻撃力は2700と少々頼りない。

 

「永続魔法、『グレイドル・インパクト』!俺のアリゲーターとドロソフィルム・ヒドラを破壊!そしてアリゲーターの効果でドラゴスタペリアのコントロールを奪う!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!ドラゴスタペリアを対象とするモンスター効果を無効!」

 

「バトルだ!『グレイドル・ドラゴン』でドラゴスタペリアへ攻撃!」

 

ユーリ LP1600→1300

 

「がぁぁぁぁぁっ!?」

 

天空決戦、『グレイドル・ドラゴン』とドラゴスタペリアが頭上でぶつかり合い、牙や爪を持ってドッグファイトを繰り広げる。しかし攻撃力は『グレイドル・ドラゴン』が上、その体躯をスライム状に変化させてドラゴスタペリアの内部に侵入し、破裂させる。そして襲い来る電流ダメージ、ユーリの身体を駆け抜け、絶叫を上げる。

 

「ターンエンドだ。どこまでもつかなぁ!フハハハハ!」

 

マッドドッグ犬飼 LP14900

フィールド『グレイドル・ドラゴン』(攻撃表示)『グレイドル・コブラ』(守備表示)

『グレイドル・インパクト』

手札0

 

暗き地下で繰り広げられる電撃デスマッチ、圧倒的な不利な状況の中、ユーリは笑う。そんな時――彼の中に眠る悪魔が、目覚めようとしていた――。

 

 

 

 

 

 

 




と言う訳で今回の相手はGXでカイザーを追い詰め、ヘルカイザーにしたマッドドッグ犬飼さんです。原作ではスライムデッキの所、スライム繋がりと言う事でグレイドルに変更。だってスライムデッキだとカイザーのメタにしかならないんだもん。
作中でも説明されましたが、ここからアカデミアのデッキはシンクロやエクシーズを取り入れると思います。ユーリ君等は一定のカード以外別ですが。
この先オベフォのデュエルをするか分からないけど、念の為。
アクションカードメタなアンティークギアも良いんですが、ぶっちゃけワンパターンになりそうなんで……ね?


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第92話 負けたくないぃぃぃぃぃっ!

ユーリ君覚醒回。


アカデミアの上層部しか知らない、暗く閉ざされた地下にて、ユーリとマッドドッグ犬飼のデュエルは続いていた。ダメージを負えば電流が走り、エキサイトする異常な闘い。LPの差は1万以上と言うハンディキャップを抱えながらもユーリは口元に歪んだ笑みを浮かべ、デッキからカードを引き抜く。

 

「アンタを倒して、僕は上に行く!僕のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、キメラフレシアの効果でデッキから『融合』をサーチ!これで3枚目だ、僕は『プレデター・プランター』のコストを払わず破壊する!」

 

「今更怖じ気づいたのか!」

 

「そんな訳無いじゃん!罠発動!『活路への希望』!」

 

「何っ――!?」

 

『プレデター・プランター』のライフコストを支払わないユーリを見て、襲い来る電流に怖じ気づいたと笑う犬飼だが、直ぐ様その考えは彼方に吹き飛ばされる。発動されたのはユーリが大嫌いとなった希望の名を持つカード。今更こんなものにすがるなんて皮肉なものだとユーリが鼻を鳴らす。

その効果は今この状況だからこそ輝く、地獄に垂らされた蜘蛛の糸のようなものだ。

 

「LPを1000払い、お互いのLPの差2000につき1枚ドローする。ぐっうぁ……!LPの差は14400……!よって7枚のドロー!」

 

ユーリ LP1300→300 手札4→11

 

「手札を確保する為とは言え、少ないLPを削り、この電流を知って尚、受けに来るか……狂ってるな小僧……!」

 

迸る電流の痛みに堪え、デッキから7枚のカードを引き抜くユーリ。その恐ろしい胆力を見て、歴戦を潜り抜けた犬飼ですらゾクリと背筋を冷たくする。

 

「テメェみたいにイカれた奴は帝王以来だぜ……!」

 

「へぇ、おじさん、帝王と闘った事あるんだ」

 

「……昔の話だ。俺を倒せないお前では、奴には勝てん!」

 

「僕は誰にも負けないさ!もう、誰にも負けちゃいけないんだ!僕は『捕食植物オフリス・スコーピオ』を召喚!」

 

捕食植物オフリス・スコーピオ 攻撃力1200

 

「召喚時効果により、手札の『捕食植物フライ・ヘル』を墓地に送り、デッキからスピノ・ディオネアを特殊召喚!」

 

捕食植物スピノ・ディオネア 攻撃力1800

 

「スピノの効果でコブラに捕食カウンターを乗せる!」

 

グレイドル・コブラ 捕食カウンター0→1 レベル3→1

 

「永続魔法、『超栄養太陽』!オフリス・スコーピオをリリースし、デッキから『捕食植物サンデウ・キンジー』を特殊召喚!」

 

捕食植物サンデウ・キンジー 守備力200

 

大量の手札に物を言わせ、次々とモンスターを呼び出していくユーリ。召喚されたのはエリマキトカゲのように成長したコケ類の植物だ。このモンスターも『捕食植物』の名を連ねるだけあり、効果は実に凶悪。

 

「永続罠、『捕食惑星』を発動!サンデウ・キンジーがモンスターゾーンに有る限り、捕食カウンターが置かれたモンスターは闇属性として扱う!そして第2の効果発動!このカードと、捕食カウンターが置かれたコブラを融合する!」

 

「何っ――!?」

 

「融合召喚!現れろ!飢えた牙持つ毒龍。『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』ッ!!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800

 

ここで漸く姿を見せる、ユーリのデッキ、最強のエースカード。紫色に染められた体躯に赤と黄の珠を散りばめ、背に牙を持つ器官を伸ばし、空腹だと言わんばかりに唾液を落とすおぞましき竜。その圧倒的な威圧感に、会場の誰もが息を呑む。

 

「これが僕の切り札さ!『捕食惑星』の効果で『捕食植物セラセニアント』をサーチ!スターヴ・ヴェノムの効果!融合召喚時、『グレイドル・ドラゴン』の攻撃力吸収!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、防ぐ!」

 

相対する合成竜、『グレイドル・ドラゴン』からエネルギーを食らおうとする。バリアで防いでもガリガリと飢えた餓鬼の爪のように光の壁を引っ掻くは何とも不気味だ。

 

「かわしたか……!でも残念、捕食カウンターの置かれた『グレイドル・ドラゴン』をリリースし、墓地のドロソフィルム・ヒドラを特殊召喚!」

 

捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ 守備力2300

 

ついに犬飼のモンスター全てを捕食し、ユーリの悪意が剥き出しとなる。『グレイドル・ドラゴン』も『グレイドル・コブラ』も、破壊によって効果を発動するモンスターだ。融合やリリースされては堪ったものじゃない。

 

「『捕食接ぎ木』を発動!墓地のセラセニアントを特殊召喚!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

「『融合』を発動!フィールドのセラセニアントと手札の『捕食植物モーレイ・ネペンテス』で融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「セラセニアントの効果で『捕食生成』をサーチ!そして魔法カード、『融合回収』!墓地のスキッド・ドロセーラと『融合』を回収し、発動!手札のプテロペンテスとキメラフレシアを融合!融合召喚!『捕食植物ドラゴタスペリア』!」

 

捕食植物ドラゴタスペリア 攻撃力2700

 

並び立つ2体の融合モンスター、雄々しきドラゴン達が宙を舞う。合計攻撃力は8100。ドロソフィルム・ヒドラが戦闘に参加しない事を考えれば少々落ちるが、それでも充分な数値だ。

 

「バトル!スターヴ・ヴェノム、ドラゴタスペリア、スピノでダイレクトアタック!」

 

「ぐっおぉぉぉぉぉっ!?」

 

マッドドッグ犬飼 LP14900→12100→9400→7600

 

一斉攻撃、3体の竜が口から放ったブレスを合わせ、1本の熱線として犬飼を貫く。7300のダメージが電流となって彼の身体を駆け抜ける。

成程、確かにLPが多い方が有利だが、それに伴う痛みはより強大だ。思わずたたらを踏み、震える腕でデュエルディスクを構える犬飼。これで倒れないのは流石と言うべきか。

 

「凄いねおじさん」

 

「ク、ククククク……この程度、何て事は無い……!」

 

「ふぅん?僕はカードを3枚セットし、ターンエンド」

 

ユーリ LP300

フィールド『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)『捕食植物ドラゴタスペリア』(攻撃表示)『捕食植物スピノ・ディオネア』(攻撃表示)『捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ』(守備表示)

『捕食惑星』セット3

手札4

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズ、キメラフレシアの効果でデッキから『融合回収』をサーチ!」

 

「俺は魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

マッドドッグ犬飼 手札0→3

 

「運が良い、俺は更に魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『グレイドル・イーグル』、『グレイドル・アリゲーター』2体、『グレイドル・コブラ』2体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

マッドドッグ犬飼 手札2→4

 

ここで大量の手札を確保する犬飼。ユーリの戦術は彼にとって天敵と言える為、このドローラッシュは嬉しい誤算だ。これで手札は4枚、ここまで増えた手札をどこまで使えるか。

 

「俺はモンスターをセット、カードを3枚セットし、ターンエンド。エンドフェイズ、先に『命削りの宝札』の処理をし、『グレイドル・インパクト』の効果で『グレイドル・スライムJr.』をサーチ」

 

マッドドッグ犬飼 LP7600

フィールド セットモンスター

『グレイドル・インパクト』セット3

手札1

 

「僕のターン、ドロー!成程ね、確かにセットモンスターなら捕食カウンターは置けないし、『グレイドル』モンスターならコントロール奪取に繋がる訳だ」

 

「ふん……」

 

ニヤリ、口元を吊り上げて笑みを深めるユーリに、面白くなさそうに鼻を鳴らす犬飼。確かにセットモンスターならば捕食カウンターを置かれて処理される事は無い上、『グレイドル』モンスターと警戒させる事も可能だ。

 

「ま、焦る事は無いさ、僕は『融合回収』を発動!墓地のセラセニアントと『融合』を回収。セラセニアントを召喚」

 

捕食植物セラセニアント 攻撃力100

 

「そして『融合』を発動!フィールドのセラセニアントと手札のダーリング・コブラで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「セラセニアントの効果で『プレデター・プランター』をサーチ、墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、スターヴ・ヴェノムを守り、バトルだ!スピノ・ディオネアでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『グレイドル・イーグル』!ドラゴタスペリアのコントロールを奪う!」

 

「構わないさ!キメラフレシアでドラゴタスペリアに攻撃!」

 

「罠発動!『デストラクト・ポーション』!ドラゴタスペリアを破壊し、その攻撃力分LPを回復!」

 

マッドドッグ犬飼 LP7600→10300

 

ここでLPを回復するカード、成程、確かにこのカードならば『グレイドル・コブラ』の起動条件となる

 

「キメラフレシアでダイレクトアタック!」

 

「ぐおおおおっ!」

 

マッドドッグ犬飼 LP10300→7800

 

再び犬飼の身体に駆け抜ける電流、強烈なダメージ、回復した分、その反動も大きい。

 

「スターヴ・ヴェノムで攻撃!」

 

「永続罠、『グレイドル・パラサイト』!『グレイドル・コブラ』を特殊召喚!」

 

グレイドル・コブラ 守備力1000

 

「メインフェイズ2、キメラフレシアの効果でコブラを除外。ターンエンド」

 

ユーリ LP300

フィールド『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)『捕食植物スピノ・ディオネア』(攻撃表示)

『捕食惑星』セット3

手札5

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地の『グレイドル・コブラ』を特殊召喚!」

 

グレイドル・コブラ 守備力1000

 

「そして罠発動!『グレイドル・スプリット』!コブラに装備!」

 

グレイドル・コブラ 攻撃力1000→1500

 

「そのまま墓地に送り、装備モンスター破壊!デッキから『グレイドル・イーグル』と『グレイドル・アリゲーター』を特殊召喚!」

 

グレイドル・イーグル 攻撃力1500

 

グレイドル・アリゲーター 守備力1500

 

「コブラの効果でスターヴ・ヴェノムのコントロールを奪う!」

 

「くっ、スターヴ・ヴェノム……!酷いじゃないかおじさん!」

 

「聞く耳持たんな!」

 

流れるような見事なプレイング、2体のモンスターを展開し、自身のエースモンスターを奪う犬飼へと、ユーリが眉根を寄せて非難する。無論そんな事思っても無いが。

 

「『グレイドル・インパクト』の効果!アリゲーターと左のセットカードを破壊!アリゲーターの効果でスピノ・ディオネアのコントロールを奪う!」

 

「そんな……っ!スピノ・ディオネアまで……!」

 

「ククク、これだけで終わるものか……!フィールドの『グレイドル・イーグル』と『グレイドル・アリゲーター』を破壊し、墓地の『グレイドル・スライム』を蘇生!」

 

グレイドル・スライム 守備力2000

 

「アリゲーターを破壊した事でスピノ・ディオネアは破壊され、スライムの効果で『グレイドル・アリゲーター』蘇生!破壊されたイーグルの効果でキメラフレシアのコントロールを得る!」

 

グレイドル・アリゲーター 守備力1500

 

「く、キメラフレシアも……!」

 

「まだだ!レベル3のアリゲーターにレベル5のスライムをチューニング!シンクロ召喚!『グレイドル・ドラゴン』!!」

 

グレイドル・ドラゴン 攻撃力3000

 

ユーリの融合モンスターを奪った上、犬飼のフィールドに彼のエースモンスターが降臨する。流石にここでのこのカードは不味い。ユーリは額から汗を伝わせ合成竜を睨み付ける。

 

「ドラゴンの効果で『捕食惑星』とセットカードを破壊!」

 

「速攻魔法、『捕食生成』!手札から『捕食植物セラセニアント』、『捕食植物スキッド・ドロセーラ』、『プレデター・プランター』を公開し、相手フィールドのモンスター3体に捕食カウンターを乗せる!」

 

グレイドル・ドラゴン 捕食カウンター0→1 レベル8→1

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 捕食カウンター0→1 レベル8→1

 

捕食植物キメラフレシア 捕食カウンター0→1 レベル7→1

 

「フリーチェーンのカードだったか、だが結果は変わらん!やれ!『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』!主に引導を渡してやれ!」

 

スターヴ・ヴェノムが背から赤く輝く木の枝のような線を描き、強大なエネルギーを放出しながらユーリに迫る。最悪の展開、このままだとユーリのLPが削られ、敗北してしまう。会場中がエキサイトし、誰もがそう思った時――ユーリは必死で食らいつく。

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

ゴウッ、瞬間、ユーリの小さき身体、その背から激しき突風が吹き荒れ、その行く手を遮る。間一髪、すんでの所で逃れた。

 

「チッ、墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『グレイドル・インパクト』をデッキに戻し、ドロー!」

 

マッドドッグ犬飼 手札1→2

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を1枚除外」

 

マッドドッグ犬飼 LP7800

フィールド『グレイドルドラゴン』(攻撃表示)『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)

『グレイドル・イーグル』『グレイドル・コブラ』『グレイドル・パラサイト』セット1

手札0

 

頼みの綱、自身のエースモンスターを奪われ、モンスター0、圧倒的な不利な状況に、ユーリの胸が激しく脈打つ。

これは――恐怖だ。黒コナミとのデュエルにより、ユーリに刻まれたトラウマ染みた恐怖の記憶。それを思い起こし、ユーリの身体から嫌な汗が流れ、その呼吸が荒くなっていく。

 

怖い、負けるのが。あの時の恐怖が鮮明に蘇り、それを拒絶しようと胸の奥から何かが暴れ出す。熱い、会場中のもっともっとと急かす声を聞き、黒い何かがユーリを蝕む。

力が、欲しい。全てを壊す、圧倒的な力が。その望みに応えるように――ユーリの右の眼が、紅く燃え上がり――黄金の輝きを放つ。

 

『――力が、欲しいか』

 

欲しい。全てを捨てても力が欲しい。だから――ユーリはその、悪魔の囁きに、手を伸ばす。

 

「欲しい……力が欲しい!僕は、僕は……負けたくないぃぃぃぃぃっ!!」

 

ゴウッ、胸の奥から膨れ上がった力を解放し、漆黒に染まった波動がその身体中から放出されていく。契約は成された。ユーリは溢れる快感に身を任せ、その深紅の眼と黄金の眼、2色の虹彩、オッドアイで犬飼を睨む。

 

「何だ……何が起こっている……!?」

 

目の前で起こる異常、台風の中にいるような感覚に犬飼が目を見開き、その背に冷や汗が流れる。これは――恐怖。生物の原始的な本能が黒い雨となって降り注ぎ、この場にいる全ての者に伝染していく。

それは――この場だけでは無い。遠い次元、離れた地、覇王の依代が何かが目覚めた産声を聞く。

 

――――――

 

「ぐっ……う……!何だ……この感覚……!?」

 

『……ぁぐ……胸の奥が、締め付けられるような――』

 

スタンダード次元にいる、エンタメデュエリストである少年と、黒き地のデュエリストへと。

 

――――――

 

「ぐぁ……っ何だ、こりゃあ――クリアウィングがまた――」

 

シンクロ次元にいる、D-ホイーラーへと。

 

――――――

 

彼等の脳裏に、巨大な竜と、それに対峙する、涙を流す少女の姿が写っては消えていく。これが一体何かは分からない。

だが3人は――3人の意志は、自分が倒さねばならない者の産声だと、確かに感じ取っていた。1人の依代を除いて――。

 

「クク、フフフ……力が溢れ出て来る……最高、最高だよこれ!これなら――怖いもの、全部壊せる!」

 

『壊して壊して壊し尽くす……我を望んだお前達を!その望みに、絶望で応える!』

 

ユーリの口から、2人の声が聞こえる。ユーリ本人の声と、何者かの声、喜色に溢れたそれはユーリから発せられ、身に纏う黒の障気を右腕へと集束していく。

 

『さぁ、我の!』

 

「僕のターン、ドロォォォォォッ!!」

 

そして右手をデッキトップに翳し、勢い良く引き抜く。ゴウッ、カードは宙に放物線を描き、更に暗黒に彩られたアークが追従し、ユーリを中心として暴風が吹き荒れる。突如起こされた激しき突風、犬飼はそれを両腕をクロスさせ、両の足を踏ん張って堪えようとするも、後方に吹き飛ばされて金網へとぶつかる。

 

「ぐ――!」

 

ジンジンと、金網に背を打ち付けた事で痛む。上半身に何も着用してない為、当然の痛みだが鍛えている為、出血はしない。ドローだけでこの風圧、その恐るべき変化に犬飼がギリリと歯軋りを鳴らす。

 

「僕は永続魔法、『プレデター・プランター』を発動!セラセニアントを蘇生!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

「スターヴ・ヴェノムをリリースし、ドロソフィルム・ヒドラも蘇生!」

 

捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ 守備力2300

 

自身のエースモンスターだろうと容赦無し、一瞬黄金の眼が悲痛に揺れたが、これでスターヴ・ヴェノムがユーリの手元に戻った。だがまだだ、ユーリはその手を進める。

 

「墓地の『置換融合』を除外し、スターヴ・ヴェノムをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

ユーリ 手札5→6

 

『『捕食植物プテロペンテス』を召喚!』

 

捕食植物プテロペンテス 攻撃力300

 

『その効果でキメラフレシアを奪う!更に永続魔法、『超栄養太陽』!プテロペンテスをリリース、『捕食植物サンデウ・キンジー』をリクルート!』

 

捕食植物サンデウ・キンジー 守備力200

 

「魔法カード、『融合回収』!『融合』とキメラフレシアをエクストラデッキに!発動!セラセニアントとドロソフィルム・ヒドラで融合!融合召喚!『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』ッ!!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800

 

再びフィールドに現れる『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』。ユーリの切り札が雄々しき遠吠えを天へと放つ。身に纏いたるは漆黒の障気、その圧倒的な力の負荷か、スターヴ・ヴェノムの右目がパキリとひび割れ、深紅の光を放射状に放つ。より恐ろしく、おぞましく隻眼となった竜が喉を唸らせる。

 

『効果発動!『グレイドル・ドラゴン』の攻撃力を奪う!』

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800→5800

 

ギュルリ、スターヴ・ヴェノムの右目から放たれた光が『グレイドル・ドラゴン』の全身を貫き、エネルギーを奪う。失われた隻眼が今度は白い光となってフィールドを照らす。

 

「セラセニアントの効果で『捕食生成』をサーチ!そしてサンデウ・キンジーと『グレイドル・ドラゴン』で融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

『まだだ!墓地の『捕食惑星』を除外し、フィールドのキメラフレシアと手札のモーレイ・ネペンテスを融合!融合召喚!『捕食植物ドラゴタスペリア』!』

 

捕食植物ドラゴタスペリア 攻撃力2700

 

「魔法カード、『手札抹殺』!手札を入れ換え、速攻魔法、『神秘の中華なべ』!ドラゴタスペリアをリリースし、攻撃力分、LPを回復!」

 

ユーリ LP300→3000

 

「装備魔法、『再融合』2枚と『捕食接ぎ木』!ドラゴタスペリア2体とキメラフレシア蘇生!」

 

ユーリLP3000→1400

 

捕食植物ドラゴタスペリア 攻撃力2700×2

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

オールフュージョン、ユーリのフィールドに5体の融合モンスターが集う。隻眼と化し、邪悪なオーラを纏った『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』。

竜の姿を模し、巨大な翼を広げる『捕食植物ドラゴタスペリア』2体。

悪臭を撒き散らす巨大な花弁を咲かせた『捕食植物キメラフレシア』2体。

とんでも無い布陣が犬飼を睨む。だが大丈夫だ、犬飼は内心汗を流しながらも安心感があった。彼のセットカードは『聖なるバリア―ミラーフォース』。攻撃された時、全ての攻撃表示モンスターを破壊する、攻撃反応系でも強力なカード、なのだが――。

 

『バトル、この瞬間、速攻魔法、『封魔の矢』!ターン終了時まで、互いに魔法、罠の効果を発動出来ない!』

 

その希望も――漆黒の絶望に呑み込まれる。ユーリの手札から発動されるカードにより、2本の矢が飛び出して犬飼のカードを地に縫い付ける。

これでは――『グレイドル・パラサイト』も発動出来ない。

用意周到、僅かな甘ささえも見逃さないプレイング。これは帝王――いや、覇王のデュエル。今このアカデミアに、2人目の覇王が生まれたのだ。

 

「ク、フハハハハ!何て奴だ!お前ならばきっと――帝王まで、届く」

 

「素晴らしい!予想以上ですよユーリ君!」

 

恐怖を力へと変え、全てを叩き伏せる王のデュエル。力を渇望する貪欲なる修羅を見て、犬飼とドクトルが喜びの声を上げる。

新たに地下に登場したルーキー。それは、このデュエルを見ていた帝王の口角を上げるに充分なものだった。

 

「全てのモンスターで攻撃!グォレンダァ!」

 

マッドドッグ犬飼 LP7800→0

 

漆黒の閃光が犬飼を呑み込み電撃が駆け抜ける。合計ダメージは16200。だが――ユーリには、余りにもお粗末な数値。彼は右眼を本来の紅に戻し、笑いながら気絶する犬飼に背を向け、デュエルをフィールドから去っていく。

これでユーリのLPは5400。ランキングは50位。まだ修羅の道は――遠い。

 

――――――

 

アカデミアのとある一室にて、そこではプロフェッサー、赤馬 零王を含む数人の幹部達が揃っていた。とは言え誰も彼もが顔が見えないローブを纏い、それっぽい雰囲気を出している。重厚な甲冑を纏う者までいる始末だ。

零王は相変わらず、雰囲気だけはそれっぽいなぁと思いながらも各々に視線を移す。

 

「全員では無いか、総司令はどうした?」

 

「またエクシーズ次元じゃないか?あそこはもう、うん、魔境になっちまっているのに……」

 

零王の問いに答えたのは灰色のローブに黒い仮面を纏い、魔術師のような出で立ちをした男、アムナエルだ。仮面越しでも分かるような深い溜め息を溢し、やれやれと首を振っている。

 

「バレットは謹慎、プラシドはシンクロ次元……バリアンはエクシーズ次元として、〝彼〟はどうした?」

 

「私ならここにいる」

 

スッ、キョロキョロと辺りを見渡す零王の背後より、真っ白なローブと仮面を被った男、アムナエルがボスと呼ぶ男が現れる。心臓に悪い登場だ。流石の零王も肩を揺らして口元を引き吊らせる。

 

「すまない、遅れたか、零王」

 

「あ、ああ、いや、問題ない」

 

この会話から2人が対等な関係にあると伺える。アカデミアのボス、プロフェッサーと肩を並べる彼は何者なのだろうと、一部の者から興味は尽きない。当然――それが面白くない者もいるが。

 

「貴様、プロフェッサーにその口の聞き方は何だ!」

 

そこで彼等の関係を知らないからか、2本の触覚のような髪を伸ばし、口髭をたくわえ、軍服を纏った男、サンダースが鞭を突きつけて怒りを露にする。

彼からすればプロフェッサーの尊敬よりも自分の知らない新入りがプロフェッサーに馴れ馴れしいのが気に食わないのだろう。男がサンダースよりも若いのもその一因かもしれない。

 

「良いんだサンダース。彼は私と志を同じくする者、彼の言う通りにすれば失敗はない」

 

「ぐっぬぅぅ……!」

 

零王にこうして嗜められては引き下がるしかない。納得はいかないと言った様子でぐぬぬと鞭を曲げ、怒りの矛先を失って着席する。騒がしいおっさんだな、とアムナエルは欠伸を堪え、虚空を見つめる。

新入りと言えば彼もそうだ。それに零王が呟いたプラシドとバリアンも。彼等は正確にはプロフェッサーの部下では無く、白仮面のボスの同士としてアカデミアに力を貸しているに過ぎない。

 

「退屈そうね、アムナエル」

 

「……響先生か」

 

そんなアムナエルに声をかけたのは隣に座った美女、響姉弟の姉、みどりだ。彼女も退屈そうに溜め息をつき、その隣に座り冷たい目で黙る弟、紅葉を見つめる。

アムナエルとしては彼等がアカデミアに手を貸しているのが不思議でならなかったが、紅葉のこの変貌を見て、今は納得している。

 

そんな中だった。プロフェッサーの隣にソリッドビジョンのウィンドウが開き、切れ長の目に高い鼻を持った男性が写り出されたのは。

 

『赤馬氏、午後からはD-ホイールこれくしょん、Dこれの協力プレイと言っていたでしょう。私とエクシーズ次元の彼も待ちわびているのですよ』

 

「おおそうだった!」

 

何やってんだこのおっさん。その場全員が考え、喉元まで出かかった言葉を呑み込んだ。

 

「何やってんだこのハゲ」

 

否、漆黒の、刺々しい甲冑を纏った男、覇王だけは思わず口に出してしまっていた。後で減給である。

話を戻す。ウィンドウから現れた男、名はジャン・ミシェル・ロジェ。アカデミアにおいてシンクロ次元の担当を任された男だ。つまりシンクロ次元においてのアカデミアの行動の権限は彼が持っている。こうして会話していれば分かるが、彼と零王はネトゲ仲間である。どうでも良いが。

 

『全く、会議があるならそう言っていただきたい、で、今回は一体何なのですか?』

 

「すまないロジェ氏、今回は対ランサーズ小隊の設立と――」

 

娘これくしょんの再収集だ――。

 

キレ気味に真顔で言い放った零王に――その場の空気が凍りついたのは言うまでも無いだろう。

 

「何言ってんだこのハゲ」

 

――――――

 

一方、スタンダード次元、自身の娘これくしょんのついでのように対小隊の設立案が出されているとは思ってもみないランサーズのメンバーは、ついに全員揃って次元移動を開始しようとしていた。

目的地は――シンクロ次元、これはアカデミアに対抗する為、シンクロ次元で仲間を集める事にある。そしてもう1つは、シンクロ次元に向かったと思われる、柊 柚子の奪還。アカデミアの目的は柚子達、ならば彼女こそが優先事項だ。

 

「皆、丸太は持ったな!?」

 

「持つか!」

 

こんな状況だろうとボケをかますコナミに対し、沢渡がツッコム。相変わらず緊張と言う言葉を知らない2人を見て、遊矢がクスリと微笑む。確かにこれからどんな事が起こるか分からない。

それでも――ここにいる皆なら、どんな逆境だって乗り越えられそうだ。榊 遊矢、コナミ、赤馬 零児、赤馬、零羅、権現坂 昇、沢渡 シンゴ、風魔 月影、デニス・マックフィールド、黒咲 隼、セレナ、アリト、何故かついてきた柿本、山部、大伴。この3人がいないと沢渡が弱体化してしまう為、仕方なく非戦闘員として赤馬が入れたらしい。

 

何にせよ――遊矢は楽しみなのだ。まだ見ぬ強敵、まだ見ぬ仲間、彼等との出会いが遊矢をワクワクさせる。さぁ、行こう――シンクロ次元へ――。

 

「ゲートオープン!シンクロ次元へGO!」

 

ランサーズは、新たな世界へ飛び出す――。

 

――――――

 

気がつけば、コナミはどこかも分からない真っ暗な空間に放り出されていた。ああ、また何時もの夢かと思うが、次の瞬間、それは否定される。

ここは真っ暗な空間ではない。上下左右、全てが闇、しかしその中で輝く点。遠くで炎を吹き上げる真っ赤な球体。そして――母なる青い星。

 

「宇宙……!」

 

そう、宇宙。何故コナミがここにいるかは分からない。意味不明で混乱する。次元移動の際にスペースコナミに進化するドン!とか思ったのがいけなかったのだろうか、そうなんだろうなと呑気な事を考えながら、自身の立つ透明な道を進む。

ここが本物の宇宙なら脱出不可能。閉じ込められた!のだが、ここには空気も道もある。ようするにハリボテなのだろう。出口を探し、コナミは進む。そんな、時だった。

 

「モォォォォォメントッ!」

 

コナミの目の前にアホそうな男が現れ、アホそうな台詞をほざいたのは。

 

 




人物紹介18

マッドドッグ犬飼
所属 アカデミア
やたら頑丈な身体を持った気の良いおっさん。アカデミアの地下でチュートリアル的なものの担当、過去4回位LPが0になっているがそのタフさで何度もデュエルをする辺り、地下の人間の逞しさが見える。
過去に新人時代の帝王を追い詰めた事があるものの、それが原因となって帝王はヘル化されて現帝王となった。しかし自分のお蔭で新人が覚醒する事については誇りに思っている様子。教官とかに向いているのかもしれない。
使用デッキは『グレイドル』。エースカードは『グレイドル・ドラゴン』。

と言う訳でランサーズには沢渡さんの子分もついてきます。この3人がいないと沢渡さんが拗ねるから……。ブリーチにいたマスキュリス?みたいな感じです。子分が応援して沢渡さんは真の強さを発揮する的な。いざデュエルとなれば沢渡さんに任せてやいのやいの応援します。尚自分達はデュエルを仕掛けられないように逃げる模様。ある意味無敵です。

蛇足な話、アカデミアの教科担当は以下となってます
コンマイ語 覇王
実践訓練 バレット
経済 ハゲ
英語 総司令
生物 ドクトル
数学 紅葉
国語 みどり
体育 サンダース
歴史 地理 キャプテンソロ
因みに勲章おじさんがいない間の実践はサンダース担当です。この人はバレットさんをライバル視していますが、相手にされてません。
その他にも教員はいますし、何人か謎のエンタメおじさんにより、ヘッドハンティングされ裏切った人もいます。
アカデミアはプロフェッサー直々に教鞭を取り、優秀な人員を育てる所。ハノイの何ちゃらよりオベリスク・フォースとなり、仮面の奥に紳士的な心を隠した貴方を待っています。



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第93話 僕だ!

BB(バトルビースト)のアルターエゴがいるとしたらきっと乳首サスペンダーと股間にブブゼラを装着したヤンホモな変態なんだろうなと思うここ最近。疲れてるな、うん。喉が痛い。


「モォォォォォメントッ!」

 

扇のような髪型に眼鏡、高い鼻、白衣を纏った男が自身の身体をさながら『サイクロン』の如くくるくると回転させ、割りと高い声で叫び回る。

彼の名は阿久津。コナミの知る限りではある大手の会社の社員であり、この通り、ベラベラと喋りながら回転すると言う奇行を行う頭のネジが2、3本外れた変人である。

見た目からは想像もつかないが、有能だったりする。そんな彼が宇宙をバックにくるくる回る。回って叫ぶ、当然――。

 

「うるせぇ……」

 

コナミがこう思うのも無理は無い。と言う事である。だが話しかけねばここが何処なのかは分からないだろう。恐らく別に放って置いても話が進むような奴だろうが、手早くここから脱出する為だ。コナミは嫌そうな表情を剥き出しにして目の前の阿久津の肩を叩こうとして――とんでもない回転力で弾かれた。

 

「……えぇ……?」

 

こうなるのも無理は無い。何なのこの人と珍しくコナミが狼狽える。どうしたら正解なのだろう、ドリルでも見つけて逆回転で応戦すべきかとコナミが考えた時、阿久津は漸くコナミに気づいたのか、「おや、おやおやぁ?」と呟きながら回転を止める。

 

「おや?貴方は……誰です?」

 

「……むかつくなぁ、まぁ良い、オレはコナミだ。ここの出口を探しているんだが」

 

「あぁ!貴方がコナミさんですか!待ってましたよ!」

 

「話を聞け」

 

どうにも掴みにくい男だ。あのコナミが阿久津のペースに巻き込まれている。しかし、今の台詞で気になる所があった。待っていた、コナミの事を。つまりは――彼がコナミをここに呼んだのだろうか。

 

「お前がオレをここに呼んだのか?」

 

「いえ?」

 

「……むかつくなぁ……」

 

だったら何だ。イラッとしながらコナミは溜め息を吐く。聞いた自分が馬鹿だったと反省する。一介の研究者である筈の彼に、そんな力がある筈が無いのに。

 

「もしかしてここがシンクロ次元なのか?」

 

「いえいえ、ここは試練の間ですよ」

 

「試練?」

 

ここで初めて阿久津がこの宇宙を模した空間について言及する。試練の間、何やら修行パートに入りそうな場所だ。面倒事の匂いがプンプンする。

頭に?マークを浮かべるコナミに対し、阿久津が彼のデュエルディスク、更に言うならばエクストラデッキを指差してニヤリと口元を吊り上げる。

 

「アクセルシンクロ……まだ出来ないんでしょう?」

 

「ッ!?」

 

ゴクリ、その場の空気を180度変える言葉を受け、コナミが息を詰まらせる。アクセルシンクロ、それはシンクロモンスターとシンクロチューナーで行う、スピードの境地、クリアマインドによって発現される、シンクロのその先。

コナミはシンクロチューナーを白コナミとのデュエルで得たにも関わらず、肝心要のアクセルシンクロモンスターを召喚出来ないでいた。否、その前にクリアマインドに入る事も出来ない。あの時のデュエルでは乗っているものがD-ホイールでは無く、馬だからと判断したが――それ以前の問題だったのだ。

 

「原因は貴方の弱体化、そして――『閃光竜スターダスト』のマリッジブルーです」

 

「……は?」

 

この男、今何と言ったのか。マリッジブルー、確か嫁入り前の女性が本当に結婚して良いのかと悩む的なものだったが――。それをコナミのシンクロモンスター代表、『閃光竜スターダスト』がかかっている。意味が分からない。

カードには精霊がつくと言うし、『スターダスト』もそうだとしても、コナミは『スターダスト』と婚約した覚えが無い。そう言うのは七皇の銀河眼使いの役目だ。

 

「貴方は強力なシンクロ使いとデュエルした……その際、『スターダスト』は思ったのでしょう、主がこの男よりも弱く、しかも相手の『スターダスト』の方が幸せそうだと……つまり、貴方は真に『スターダスト』には認められていないのです。そのカードは元々決闘竜の1柱、試練も無しに扱えていた今までが不思議だったのですよ。しかも貴方は本来の担い手でも無い」

 

「ああ、そう言う意味か、で、『スターダスト』に認めてもらうように試練を受けると」

 

「その通り!順序があれですが、このデュエルでアクセルシンクロも修得すれば良いと」

 

「分かった。相手は誰だ?D-ホイールは?」

 

ようするに『スターダスト』に認められるデュエルをすればアクセルシンクロへの道も見えて来ると言う事らしい。その為のデュエルをする相手を探し、キョロキョロと辺りを見渡すコナミ。まさかこの阿久津ではあるまい。

そんな事を考えていると――ドシュウ、コナミの遥か背後で光輝く太陽の中から炎が吹き出し、一筋の閃光が駆け抜け、コナミの隣へと停止する。

 

白いローブ、竜を思わせるように紋様を走らせ、修正テープのような近未来的なD-ホイールに登場したその男は――。

 

「君の相手は――僕だ!」

 

「ブルーノ、お前だったのか!」

 

「僕は決闘神官ジョニー!皆大好きブルーノちゃんでは無い!」

 

現れたその男――どこか懐かしい気配を感じるのは勘違いなのだろうか、ジョニーと名乗った男は凛々しい声でコナミに言葉を投げ掛ける。

ジョニー、一体何ーノで何チノミーなんだ……!

 

「ジョニー、お前がオレの相手か、で、オレのD-ホイールはどこだ?」

 

「安心しろ、今送る。持って来るのに少々苦労したが――君が使うべきD-ホイールは、これだ――」

 

ジョニーがD-ホイールのパネルを操作すると光の粒子がコナミの眼前で流線状のボディを形成していく。重厚な漆黒のボディ、それでいて美しい流線状を保ち、ヘッドに当たる部分には雄々しき角が天に向かって突き立っている。この、D-ホイールは――。

 

「グラファ号、R……!」

 

「フッ、中々良い子ちゃんじゃないか、見ただけで分かったよ。このD-ホイールは、友情の証、2人分の想いが詰まっていると」

 

グラファ号R、元々はコナミの子分である暗次のものであるバイクのようなものをコナミが改造し、D-ホイールにしたものだ。ああ、確かに今のコナミの相棒として、これ以上のものは無い。良いファンサービスだ、謎のD-ホイーラー、ジョニーの気配りに感謝し、コナミはグラファ号Rに跨がる。

 

「準備は良いな、行くぞ!」

 

ニヤリ、ジョニーは口元を吊り上げ、コナミの様子を見た後、互いにブロロロ、とD-ホイールの駆動音を響かせ、マフラーから煙を吹かせる。準備は万端、覚悟はとっくに完了している。さぁ、行こう――。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

宇宙にかかった橋を駆け、一気に飛び出す。先行したのはジョニーだ。ライディングの腕はコナミが鈍っており、D-ホイールの性能も彼が上、こうなるのも仕方無いだろう。コナミは舌打ちを鳴らし、ジョニーの背を見つめる。さぁ、一体どんなデュエルをするのか。

 

「僕のターン、魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキから10枚を除外し、2枚ドロー!」

 

ジョニー 手札4→6

 

「僕は手札のモンスターを墓地に送り、魔法カード、『ワン・フォー・ワン』を発動!デッキからレベル1、チューナーモンスター、『TGサイバー・マジシャン』を特殊召喚!」

 

TGサイバー・マジシャン 守備力0

 

ジョニーのフィールドに登場したのは小さな身体に科学的な法衣、黒いマントを靡かせた魔法使い。レベル1、チューナー、光属性、攻守0、ステータスは貧弱だが、だからこそ恵まれたモンスターだ。

『TG』、コナミの友も使っていた、未来からのカード、何故彼がそれを使えるのかは分からないが――警戒するにも充分だ。

 

「レベル4以下のモンスターが特殊召喚に成功した時、手札の『TGワーウルフ』を特殊召喚!」

 

TGワーウルフ 攻撃力1200

 

次に登場したのは左腕がメカメカしいアームとなった人型の狼だ。手軽な特殊召喚条件を持ち、シンクロ、エクシーズ共に活躍出来る素材だ。この手軽さはデニスの持つ『Emハットトリッカー』と似ている。

 

「サイバー・マジシャンは『TG』シンクロモンスターの素材とする場合、手札の『TG』も素材に出来る!僕は手札のレベル4、『TGラッシュ・ライノ』にレベル1のサイバー・マジシャンをチューニング!リミッター解放、レベル5!レギュレーターオープン!スラスターウォームアップ、OK!アップリンク、オールクリアー!GO、シンクロ召喚!カモン、『TGハイパー・ライブラリアン』!」

 

TGハイパー・ライブラリアン 攻撃力2400

 

ジョニーの手札から青いゴム質の鎧、背にブースターを取りつけたサイが現れ、サイバー・マジシャンが光のリングとなって弾け飛び、包み込む。更に一筋の閃光がリングごとサイを貫き、光が晴れたそこに現れたのはタブレットを手に持ち、黒いマントを靡かせた知性溢れる司書。シンクロ召喚を扱うデッキではその凶悪さを充分に発揮する強力なシンクロモンスターだ。

 

「そして速攻魔法、『緊急テレポート』を発動!デッキからレベル3以下のサイキック族モンスター、『クレボンス』を特殊召喚!」

 

クレボンス 攻撃力1200

 

次は近未来的な衣装に身を包んだピエロのようなモンスターだ。サイキック族の中でも優秀な効果を持っており、自身を維持する事に長けている。

 

「レベル3のワーウルフにレベル2の『クレボンス』をチューニング!リミッター解放レベル5!ブースターランチ、OK!インクリネイション、OK!グランドサポート、オールクリアー!GO、シンクロ召喚!カモン、『TGワンダー・マジシャン』!」

 

TGワンダー・マジシャン 攻撃力1900

 

「ハァッ!」と野太い男性の声を上げ、現れたのはその逆、可愛らしい少女の姿をした、4枚の羽を伸ばしたサイバー魔導師。

コナミがそのギャップを越えた声に反応し、「ッ!?」と見つめると今度は少女の声でウフ、と笑いウィンクする。空耳だったのだろうか?

このモンスターはコナミの『アクセル・シンクロン』と同じく、シンクロモンスターにしてチューナーモンスター、つまり――アクセルシンクロの素材である。

 

「ライブラリアンの効果で、シンクロ召喚に成功した為、1枚ドロー!」

 

ジョニー 手札1→2

 

そしてこれがハイパー・ライブラリアンの恐るべき効果、自分、相手を問わず、フィールドに存在し、シンクロ召喚時に1枚ドローする効果。単純ながらもターン制限の無いこのカードは大量展開、手札の消費がかさむシンクロとは相性が良い。素材に制限が無いのも拍車をかけている。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

ジョニー LP4000

フィールド『TGハイパー・ライブラリアン』(攻撃表示)『TGワンダー・マジシャン』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

相手フィールドにはシンクロモンスターとシンクロチューナー、早速アクセルシンクロの準備が整ったようだ。

コナミとしても望む所、見れば出来る、学習能力が高いコナミだが、アクセルシンクロは目にも止まらぬ為、何度か観察しなければならないのだろう。自身が弱くなっている事も原因であるが、手本があるのと無いのではやりやすさも違う。何としてでもコツを掴むべく、ジョニーからアクセルシンクロを引き出す。

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』!2枚ドローし、ペンデュラムモンスター、『慧眼の魔術師』を手札に!残りを捨てる!オレは『賤竜の魔術師』と『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!慧眼のペンデュラム効果で自身を破壊し、『貴竜の魔術師』をセッティング!」

 

「来たか……ペンデュラム……!」

 

コナミの背後から2本の柱が伸び、その中から2体の『魔術師』が出現、音叉と扇を振るい、宇宙に魔方陣を描き出す。ペンデュラム召喚、未知なる召喚を見てもジョニーの顔色は変わらない。

 

「揺れろ、光のペンデュラム、虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!『慧眼の魔術師』!『E・HEROフォレストマン』!」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

E・HEROフォレストマン 守備力2000

 

振り子の軌跡で現れる2体のモンスター、先程、ペンデュラムスケールに存在した、銀髪を靡かせ、秤を持った瑠璃の『魔術師』と樹木の肉体を持った『HERO』だ。上々の出だし、コナミは更にその手を打つ。

 

「チューナーモンスター、『ジェット・シンクロン』を召喚!」

 

ジェット・シンクロン 攻撃力500

 

ここでコナミもシンクロへ繋げる為、チューナーモンスターを召喚する。青と白のカラーリング、ジェット・エンジンを模したモンスター。レベル1で自己蘇生効果を持っており、チューナーの中でも重宝している1枚だ。

 

「レベル4の慧眼にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『ジェット・ウォリアー』!」

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力2100

 

シンクロ召喚、コナミもジョニーに対抗し、シンクロモンスターの切り込み役を召喚する。黒い重厚なボディ、肩から伸びる鋭い翼、背より火炎を吹かせ、D-ホイールにやすやすと並び立つ。

 

「『ジェット・シンクロン』の効果で『ジャンク・コレクター』サーチ!『ジェット・ウォリアー』の効果でライブラリアンバウンス!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!このターン、ライブラリアンを対象とするモンスター効果を無効にし、ライブラリアンの効果でドロー!」

 

ジョニー 手札0→1

 

「賤竜の効果で慧眼を回収、バトルだ!『ジェット・ウォリアー』でワンダー・マジシャンを攻撃!」

 

「構わない、ワンダー・マジシャンが破壊された事で1枚ドローさせて貰うぞ……!」

 

ジョニー LP4000→LP3800 手札1→2

 

「何……?アクセルシンクロしない……?」

 

ジョニーの行動を訝しみ、疑問の声を上げるコナミ。おかしい、バトルに入る前にワンダー・マジシャンの効果でシンクロ召喚しておけば態々モンスターを破壊されず、ダメージを受ける事も無かった筈だ。しかし、彼はそれをしなかった。それは――。

 

「手数を増やす為か……」

 

「その通りだ。ライブラリアンがいる限り、シンクロ召喚する度にドローし、ワンダー・マジシャンが破壊されればドロー出来る。手札がないままではアクセルシンクロしても処理されては困る上、リカバリーも出来ないからな」

 

ライブラリアンによりドローは出来る限り維持しておきたいと言う事か。これならばホープを出していればまだマシだったか。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

コナミ LP4000

フィールド『ジェット・ウォリアー』(攻撃表示)『E・HEROフォレストマン』(守備表示)

セット2

Pゾーン『貴竜の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札2

 

「僕のターン、ドロー!装備魔法、『妖刀竹光』をライブラリアンに装備!『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!もう1枚だ、2枚ドロー!最後に1枚発動!」

 

ジョニー 手札1→3→4→5

 

「頭おかC」

 

コナミですら戦慄する竹光ターボでジョニーの手札が急速に回復する。これで『黄金色の竹光』を使い切り、手札は5枚、戦慄のジョニーである。

 

「僕は『TGカタパルト・ドラゴン』を召喚!」

 

TGカタパルト・ドラゴン 攻撃力900

 

ジョニーの隣に並び飛行するのは頭部が射出機のように伸びたドラゴンだ。高レベル、高ステータスが多いドラゴン族の中では珍しく低レベル、低ステータスのモンスターだ。

 

「カタパルト・ドラゴンの効果!手札のレベル3以下の『TG』モンスター、『TGジェット・ファルコン』を特殊召喚!」

 

TGジェット・ファルコン 攻撃力1400

 

カタパルト・ドラゴンに射出され、宇宙を飛行するのは背にブースターを取りつけた荒鷲だ。レベル3、カタパルト・ドラゴンと合わせるとレベル5となる。

 

「レベル2のカタパルト・ドラゴンにレベル3のジェット・ファルコンをチューニング!シンクロフライトコントロール!リミッター解放、レベル5!ブースター注入120%!リカバリーネットワークレンジ修正!オールクリアー!GO、シンクロ召喚!カモン、『TGパワー・グラディエーター』!」

 

TGパワー・グラディエーター 攻撃力2300

 

登場したのは新たなレンジ5のシンクロモンスター。金色の鎧を纏い、右手には斧が握られている。貫通効果と破壊された時、ドローするリカバリー効果を持ったカードだ。

 

「ライブラリアンの効果でドロー!ジェット・ファルコンの効果で500のダメージを与える!」

 

ジョニー 手札3→4

 

コナミ LP4000→3500

 

「バトル!パワー・グラディエーターでフォレストマンに攻撃!マシンナイズ・スラッシュ!」

 

「くっ――!」

 

コナミ LP3500→3200

 

パワー・グラディエーターがその手に持った斧を振るい、フォレストマンから伸びる樹木を狩って狩って狩りまくり、その斬撃をお見舞いする。スタンバイフェイズに『融合』をサーチ、サルベージするこのカードは維持しておきたかったが仕方無い。

 

「ライブラリアンで『ジェット・ウォリアー』に攻撃!」

 

「罠カード、『マジカルシルクハット』!」

 

だが『ジェット・ウォリアー』は別だ。このカードを使えばもしも生き残ってもフォレストマンがセット状態となる為使わなかったが、『ジェット・ウォリアー』は融合、シンクロ共に使っても先が優秀な為、ここで残しておきたい。お得意の罠が炸裂し、フィールドに3つのシルクハットが飛び出し、コナミの投げる2枚のカードと『ジェット・ウォリアー』を覆い、シャッフルされる。

 

「左のシルクハットへ攻撃!」

 

「外れだ!」

 

「これで終わりと思ったか?まだだ!永続罠、『リビングデッドの呼び声』!ワンダー・マジシャンを蘇生!」

 

TGワンダー・マジシャン 攻撃力1900

 

「ここで追撃か……!」

 

「真ん中のシルクハットに攻撃!」

 

ライブラリアンに続き、ワンダー・マジシャンの魔力球がシルクハットに激突する。確率は2分の1、しかしコナミはそれを――外して見せる。

 

「魔法カード、『手札抹殺』。手札の『D.D.クロウ』を捨て、君の墓地から『ブレイクスルー・スキル』を除外。カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

ジョニー LP3800

フィールド『TGハイパー・ライブラリアン』(攻撃表示)『TGワンダー・マジシャン』(攻撃表示)『TGパワー・グラディエーター』(攻撃表示)

『リビングデッドの呼び声』セット1

手札1

 

「オレのターン、ドロー!」

 

ターンプレイヤーがコナミに移り、デッキよりカードを引き抜く。引いたカードは『V・HEROヴァイオン』。召喚時、デッキから『HERO』を墓地に落とし、墓地の『HERO』を除外し、『融合』をサーチするモンスターだ。

 

「『V・HEROヴァイオン』を召喚!」

 

V・HEROヴァイオン 攻撃力1000

 

戦術を固め、手札より召喚されたのは頭部がカメラとなった『HERO』モンスター。優秀な効果を持つが、一部残念なのは『E・HERO』で無い事位か。

 

「召喚時、『E・HEROシャドー・ミスト』を墓地へ、シャドー・ミストの効果で『E・HEROエアーマン』をサーチ!そしてヴァイオンの効果でシャドー・ミストを除外し、『置換融合』をサーチ!」

 

一気に『HERO』と『融合』の2枚を手札に。これこそがヴァイオンの優秀な所だ。『HERO』をサーチするにはシャドー・ミストを落とさなければならないが、それでも1枚で墓地肥やしとサーチを行えるこのカードはデッキ圧縮として優秀だ。

 

「ペンデュラム召喚!『慧眼の魔術師』!『E・HEROエアーマン』!」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

再び揺れるペンデュラム、コナミのフィールドに現れたのは1体の『魔術師』と『HERO』モンスターだ。青いボディにファンの翼を伸ばしたエアーマンは『E・HERO』の中でも特に強力な1枚だ。

 

「エアーマンの召喚時、デッキから『E・HEROブレイズマン』をサーチ!そして魔法カード、『置換融合』を発動!フィールドのエアーマンと『ジェット・ウォリアー』で融合!融合召喚!『E・HEROノヴァマスター』!」

 

E・HEROノヴァマスター 攻撃力2600

 

炎属性モンスター、『ジェット・ウォリアー』と『HERO』であるエアーマンが融合し、その場に突風と共に火柱が吹き、中より赤と金、炎を思わせる鎧を纏った『HERO』が登場する。

 

「更に慧眼とヴァイオンの2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる!白き翼に望みを託せ、現れろNo.39!エクシーズ召喚!希望皇ホープ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

融合に続きエクシーズ、コナミの隣に渦が広がり、この場の星々と2体のモンスターを吸収し、小爆発を引き起こす。突風と爆煙が辺りに立ち込め、それを切り裂き、金色の鎧を纏った白き翼の皇が雄々しい咆哮と共に現れる。肩には39の赤い紋様が浮かび上がり、腰から2刀の剣が引き抜かれる。

 

「エクシーズにペンデュラム……フ、やはり誰にも未来と言うのは分からないな……僕はこの瞬間、ワンダー・マジシャンの効果でシンクロ召喚を行う!」

 

「来るか!」

 

相手ターン中、それもシンクロモンスターとシンクロチューナーによるシンクロ召喚が今ここで放たれる。ジョニーのD-ホイールが風を受け、段々と空気の壁をずらしていく。靡く外套、スリップストリーム、ジョニーは1人でそれを行い、空気の抵抗を減らしているのだ。そしてこの究極、心を静かに落ち着かせ、境地へ至ったものこそ――。

 

「クリアマインド!」

 

「アクセルシンクロ……!」

 

「リミッター解放、レベル10!メイン・バスブースター・コントロール、オールクリアー!無限の力、今ここに解き放ち、次元の彼方へ突き進め!GO、アクセルシンクロ――」

 

「消え……た……!」

 

ドシュウ!ジョニーの姿が風の中に溶けるように消え、空気の輪が広がっていく。そして――コナミの背後から、ジョニーが新たなモンスターを引き連れ、コナミを抜き去る。引き連れたモンスターは緑色とオレンジのカラーリングを基調とした人型ロボット――。

 

「カモン、『TGブレード・ガンナー』!!」

 

TGブレード・ガンナー 攻撃力3300

 

現れるアクセルシンクロモンスター、やはりこれも、あの男と同じ――。何故この男が『TG』を、アクセルシンクロを使えるのかは分からないが――コナミとしては望む所だ。

 

「ライブラリアンの効果でドロー!」

 

ジョニー 手札1→2

 

「バトルに入る!確かにアクセルシンクロモンスター、ブレード・ガンナーは強力だが……ライブラリアンは別だ!ここで切る!ノヴァマスターでライブラリアンへ攻撃!」

 

ノヴァマスターがその手に火炎を逆巻き、灼熱の大剣を作り出す。そのままライブラリアンに接近、撃ち出される魔法弾を弾き、赤いエネルギーがライブラリアンを貫き、剛炎が消し炭にする。

 

ジョニー LP3800→3600

 

「ぐっ――ライブラリアンが……!」

 

「ノヴァマスターの効果でドロー!」

 

コナミ 手札2→3

 

相手の手札補充カードを削り、今度はコナミが手札を補充する。これで厄介なライブラリアンを倒した。ブレード・ガンナーも強力だが、戦線を強化していくライブラリアンの除去が優先だ。

 

「ターンエンドだ」

 

コナミ LP3200

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『E・HEROノヴァマスター』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『貴竜の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札3

 

「僕のターン、ドロー!フッ、楽しいな……久々の感覚だ。罠発動!『TGX3―DX2』発動!墓地の『TGハイパー・ライブラリアン』、『TGワーウルフ』、『TGサイバー・マジシャン』の3体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ジョニー 手札3→5

 

「手札をデッキトップに戻し、『ゾンビキャリア』を蘇生!」

 

ゾンビキャリア 守備力200

 

ライブラリアンをエクストラデッキへと回収しながら2枚ドロー。そして増えた手札を活用し、現れたのは優秀なアンデット族チューナーだ。恐らくは『ワン・フォー・ワン』の時に墓地へと送っていたのだろう、抜け目の無い男だ。

 

「『チューニング・サポーター』を召喚!」

 

チューニング・サポーター 攻撃力100

 

ここで登場したのは鍋を頭に被った小さなモンスター。その名の通り、シンクロ召喚に使う事で後のサポートとなるカードだ。

 

「魔法カード、『機械複製術』!『チューニング・サポーター』を選択し、デッキから同名カードを2体特殊召喚!」

 

チューニング・サポーター 守備力300×2

 

非常に不味い流れとなった。コナミはその額から汗を垂らす。このままでは――折角握りかけたペースが、ジョニーに戻る。

 

「レベル1の『チューニング・サポーター』3体にレベル2の『ゾンビキャリア』をチューニング!シンクロ召喚!『TGハイパー・ライブラリアン』!」

 

TGハイパー・ライブラリアン 攻撃力2400

 

再びフィールドに戻るライブラリアン。そして――。

 

「シンクロ素材となった『チューニング・サポーター』の効果で3枚ドロー!」

 

ジョニー 手札2→5

 

加速、『ゾンビキャリア』のデメリットを物ともせず、また5枚の手札を握る。そしてここまで手札を回復したのだ。これで終わりとはいかないだろう。

 

「魔法カード、『二重召喚』!もう1度得た召喚権で『TGラッシュ・ライノ』を召喚!」

 

TGラッシュ・ライノ 攻撃力1600

 

「そして手札の『TGギア・ゾンビ』を特殊召喚!ラッシュ・ライノの攻撃力を1000ダウン!」

 

TGギア・ゾンビ 守備力0

 

TGラッシュ・ライノ 攻撃力1600→600

 

更なる展開。ラッシュ・ライノの攻撃力を糧とし、現れたのは歯車を頭に装着したアンデット。これでまたレベル5のシンクロモンスターへ繋げる。

 

「レベル4のラッシュ・ライノにレベル1のギア・ゾンビをチューニング!シンクロ召喚!『TGワンダー・マジシャン』!」

 

TGワンダー・マジシャン 攻撃力1900

 

「ワンダー・マジシャンの効果で君のペンデュラムゾーンの賤竜を破壊し、ライブラリアンの効果でドロー!」

 

ジョニー 手札2→3

 

「片方のペンデュラムゾーンから『魔術師』が無くなった事で貴竜も破壊される」

 

「当たりを引いたようだな、僕は更に永続魔法、『TGX300』を発動!自分フィールドの『TG』1体につき、自分フィールドのモンスターの攻撃力は300アップする!」

 

TGブレード・ガンナー 攻撃力3300→4200

 

TGハイパー・ライブラリアン 攻撃力2400→3300

 

TGワンダー・マジシャン 攻撃力1900→2800

 

ジョニーのフィールドには『TG』が3体、つまり900のアップとなる。複数の種族で構成された『TG』では『一族の結束』の代わりとなるカードだ。打点の低い『TG』には有り難い効果だ。

 

「バトル!ワンダー・マジシャンでホープへ攻撃!」

 

「ホープのORUを使い、攻撃を無効に!ムーンバリア!」

 

先行するジョニーが機体を真横にし、ワンダー・マジシャンに指示を出してホープへ攻撃をかける。当然コナミはこれを回避するしか無い。ホープの周囲で回転するORUが1つ弾け飛び、皇は自らの翼を盾とし、ワンダー・マジシャンが作り出す魔力球の嵐を防ぐ。

 

「ライブラリアンで追撃!」

 

「ホープの効果で無効!」

 

続く追撃、ライブラリアンがタブレットを操作し、ワンダー・マジシャンと同じく魔力で作られた砲弾をホープへ飛ばし、無論コナミはそれも防ぐ。襲い来る嵐を回避し、ホープの盾が崩れ落ち、晴れたコナミの視界にあったのは――光輝く剣。

 

「ブレード・ガンナーで攻撃!シュート・ブレード!」

 

「――ORUの無いホープが攻撃対象になった場合破壊される!」

 

「ならばノヴァマスターへ攻撃!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターン中のダメージを半分に!」

 

コナミ LP3200→2400

 

ブレード・ガンナーの光の剣線がノヴァマスターに襲いかかる。ノヴァマスターも負けじと炎の剣を作り出し、鍔迫り合いに持ち込むも、ブレード・ガンナーは光の剣を銃へと変形させてノヴァマスターの脳天を貫く。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ。これで君のフィールドのカードは0、さぁ、どう出る?」

 

ジョニー LP3600

フィールド『TGブレード・ガンナー』(攻撃表示)『TGハイパー・ライブラリアン』(攻撃表示)『TGワンダー・マジシャン』(攻撃表示)

『TGX300』『リビングデッドの呼び声』セット1

手札0

 

「オレのターン、ドロー!墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外し、『TGX300』破壊!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『No.39希望皇ホープ』、『慧眼の魔術師』、『V・HEROヴァイオン』、『E・HEROエアーマン』、『ジェット・ウォリアー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札3→5

 

「魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』!エクストラデッキの貴竜と賤竜を回収し、セッティング!ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ!」

 

再びコナミの振り子が揺れ、天空に描かれた魔方陣に孔が開き、中より2本の柱が降り立つ。今度は剣を持った若い『魔術師』と炎の鬣を伸ばした『HERO』だ。

 

「魔法カード、『置換融合』を発動!フィールドの竜脈とブレイズマンで融合!融合召喚!『E・HEROガイア』!」

 

E・HEROガイア 守備力2600

 

宇宙空間へとまた新たな『HERO』が登場する。漆黒のボディに紅く輝く珠を散りばめた剛腕を振るうモンスター。今回は相手の布陣もあって守備表示だ。

 

「ガイアの効果でライブラリアンの攻撃力を半分にし、その数値分、このモンスターの攻撃力をアップ!」

 

「無駄だ!レベル5のライブラリアンにレベル5のワンダー・マジシャンをチューニング!アクセルシンクロ!『TGブレード・ガンナー』!!」

 

TGブレード・ガンナー 攻撃力3300

 

ジョニーの姿がまたも消失し、コナミの背後から登場する。攻撃力吸収もサクリファイスエスケープの要領で回避し、強力なアクセルシンクロモンスターを召喚する。これもアクセルシンクロの強みと言える。だがここまではコナミの読み通り、彼はジョニーがこうするように仕向けたのだ。

 

「焦ったなジョニー。オレはガイアを守備表示で召喚した。お前はオレがガイアで攻撃力を奪い、次のモンスターで攻撃して来ると思ってたんだろうが……それは次のモンスターを確認してからでも遅くなかった。『スキル・プリズナー』もあるしな、『クリバンデット』を召喚!」

 

クリバンデット 攻撃力1000

 

「――しまった……!」

 

ここでコナミが召喚したのは攻撃用のモンスターでは無く、サポート向けのモンスターだ。これでジョニーはアクセルシンクロモンスターを2体、フィールドに揃えはしたが、ライブラリアンによるドローブーストを望めなくなった。

 

「だがそれでも僕の優勢は変わらない……!」

 

「何とかするさ、オレはこれでターンエンド!この瞬間、『クリバンデット』をリリースし、デッキの上から5枚を捲り、『HEROの遺産』を手札に!墓地に送られた『妖刀竹光』をサーチ!」

 

コナミ LP2400

フィールド『E・HEROガイア』(守備表示)

Pゾーン『貴竜の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札3

 

宇宙空間の中で繰り広げられる、スピードの世界のデュエル。激しく、そして速い攻防の中、ジョニーは自身に挑む赤帽子の少年を見て、クスリと笑う。

やはり――彼とのデュエルは何が起こるか分からない、ワクワクがある。だがまだだ、このままではコナミはジョニーには勝てない。そして――これから闘うであろう、数多くの強敵にも。

だから今、彼を導き、彼が新たな力を、スピードの境地に足を踏み入れねばならない。それがきっと――ジョニーが、コナミに出来る恩返しなのだから――。

 

「行くぞコナミ!」

 

「来い、ジョニー!」

 

 

 




次回、2章最終回、謎のD-ホイーラー、ジョニーの正体が明らかに……!?


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第94話 皆大好き、ブルーノちゃん

サブタイからネタバレするドジッ子。


輝く星々が浮かぶ、漆黒の宇宙、そこにかけられた見えない橋を、2人はD-ホイールで渡り、疾駆していた。

1人は赤い帽子にゴーグルを装着し、同じく赤のジャケットを羽織り、山羊のような捻れた角が伸びた重厚な黒のD-ホイール、グラファ号に搭乗したコナミ。

そしてもう1人は白いフードつきのマントを身に纏った顔の見えない決闘神官、まるで修正テープのような近未来的なD-ホイールを操る彼は――ジョニー。

コナミは彼に懐かしい思いを抱きながら、このデュエルを楽しんでいた。だが負ける訳にはいかない。ターンはジョニーへと渡り、彼はデッキよりカードを引き抜く。

 

「僕のターン、ドロー!僕は魔法カード、『マジック・プランター』を発動!『リビングデッドの呼び声』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

ジョニー 手札0→2

 

「『カードガンナー』を召喚!」

 

カードガンナー 攻撃力400

 

ジョニーのフィールドに現れたのは透明なガラスのヘッドから覗くカメラアイのサーチライト、両手に備えた赤い大砲、下半身の青いキャタピラとどこか玩具のようなモンスター。可愛らしいが、これ1枚で墓地肥やしドローが出来る優秀なモンスターだ。また打点も下級の中でも高いものとなる為、攻撃の面でも頼りになる。

 

「魔法カード、『機械複製術』!効果は知ってるな?デッキから2体の『カードガンナー』を特殊召喚!」

 

カードガンナー 守備力400×2

 

「ここで更にか……!」

 

回る回る、恐ろしい程良く回る。とんでもないデッキの回転度だ。何より『機械複製術』が2回も成功する等、割りとふざけているとしか思えない。

 

「『カードガンナー』の効果でデッキトップから3枚を墓地に送り、攻撃力を1枚につき500アップ!『カードガンナー』は3体!よって9枚を墓地に送る!」

 

カードガンナー 攻撃力500→1900×3

 

ここに来て9枚もの墓地肥やし、コナミにとって羨ましい限りだ。本気でこの墓地肥やしギミックを投入してみようかと迷う。カテゴリに属していないのが悩み所だ。それにコナミは機械族をデッキに余り投入していない。

 

「バトル!ブレード・ガンナーでガイアを攻撃!」

 

ブレード・ガンナーが光の剣を振るい、ガイアの重厚な鎧を真っ二つに切り裂く。守備力2600とかなり高い壁だが、ブレード・ガンナーの攻撃力の前では無意味だ。

 

「2体目のブレード・ガンナーで攻撃!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、このターンのダイレクトアタックを防ぐ!」

 

続く攻撃、これを受けては敗北してしまう。コナミはブレード・ガンナーの攻撃を防ぐ為、どこからか飛んで来た光の剣を手に取り、ブレード・ガンナーの剣と鍔競り合う。しかし流石のコナミでもモンスター相手では分が悪い。更に2本の光の剣が飛んで来て、ブレード・ガンナーを弾き飛ばす。

 

「フ、そうでなくてはな!墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、1枚ドロー!カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

ジョニー LP3600

フィールド『TGブレード・ガンナー』(攻撃表示)×2『カードガンナー』(守備表示)×2

セット1

手札0

 

ジョニーのフィールドには強力なアクセルシンクロモンスターが2体、破壊されれば1枚ドローする『カードガンナー』が2体、この布陣を覆す。気合いを込め、コナミがデッキよりカードを引き抜く。

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『HEROの遺産』を発動!墓地のノヴァマスターとガイアをエクストラデッキに戻し、3枚ドロー!」

 

コナミ 手札3→6

 

1枚のカードで一気に3枚ものドロー。条件として『HERO』を素材に要求する融合モンスターが2体必要だが、その分に身合った強力なカードだ。

 

「3枚のドローか……!」

 

「そして『E・HEROエアーマン』を召喚!」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

「効果で『E・HEROブレイズマン』をサーチ!そして『妖刀竹光』をエアーマンに装備!『黄金色の竹光』を発動し、2枚ドロー!もう1枚、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札→4→6→7

 

「ここで更にか……!」

 

更に畳み掛けるようなドローブースト。これによりコナミの手札が7枚まで膨れ上がる。とんでもない爆発力だ。これには流石のジョニーも不敵な笑みを崩さずにはいられない。

 

「賤竜の効果で『竜脈の魔術師』を回収!速攻魔法、『揺れる眼差し』を発動!スケールを破壊し、相手に500のダメージを与え、デッキから『慧眼の魔術師』をサーチ!」

 

ジョニー LP3600→3100

 

「オレは竜脈と慧眼をセッティング、慧眼を破壊し、デッキから『竜穴の魔術師』をセッティング、ペンデュラム召喚!『貴竜の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

コナミのフィールドに現れる3体のモンスター。純白の高貴な衣装を纏い、紅玉を嵌め込んだ音叉を持った『魔術師』と『慧眼の魔術師』。そしてブレイズマン。エアーマンを合わせ、これでコナミのフィールドに4体のモンスターが揃った。

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ!レベル4の慧眼にレベル3の貴竜をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

続けてシンクロ召喚、ライブラリアンのいない今この時を見逃さず、コナミが一気に仕掛ける。灼熱の炎を纏い、雄々しく咆哮を上げるのは真っ赤に彩られた2色の虹彩の竜。このモンスターが周囲から降りかかる流星を破壊し、コナミを導く星となる。

 

「メテオバーストの効果でペンデュラムゾーンの『竜穴の魔術師』を特殊召喚!」

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

息もつかせず次の手へ。コナミの背後からついて来る光の柱が1つひび割れ、中から錫杖を持った『魔術師』が登場し、メテオバーストの上に飛び乗る。

 

「レベル7のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800

 

更に現れる二色の眼の竜、今度は自身をも氷結させた青銀の竜だ。雄々しく咆哮し、コナミに檄を飛ばす。

 

「罠発動!『ハイレート・ドロー』!自分フィールドの機械族モンスターを全て破壊し、その数だけドロー!そして墓地の『仁王立ち』を除外し、攻撃対象を『カードガンナー』に絞る!『カードガンナー』は破壊された時、1枚ドローする。よって計4枚のドロー!」

 

ジョニー 手札0→4

 

「何――ッ!?」

 

先を見越し、コナミの手を回避しつつ、大量の手札をドローするジョニー。とんでもない男だ。これでは攻撃が出来ない。

 

「くっ、2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.39希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

「『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』サーチ!魔法カード、『エクシーズ・ギフト』!ホープとアブソリュートのORUを2つ取り除き、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札5→7

 

「魔法カード、『星屑のきらめき』!墓地のブレイズマンと『クリバンデット』を除外し、メテオバースト・ドラゴンを蘇生!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

「手札を1枚捨て、『ジェット・シンクロン』蘇生!」

 

ジェット・シンクロン 守備力0

 

「俺はレベル7のメテオバーストにレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『閃光竜スターダスト』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

「来たか……!」

 

星が竜の形を描き、星屑と共に浮かび上がる。現れたのはコナミの持つ最強のシンクロモンスター、このデュエル中、コナミが認めさせねばならないドラゴンだ。

 

「オレはカードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

コナミ LP2400

フィールド『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』(攻撃表示)『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『竜脈の魔術師』

手札3

 

「僕のターン、ドロー!デッキトップを墓地に送り、墓地の『グローアップ・バルブ』を特殊召喚!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

次はレベル1で墓地から自己蘇生が可能なチューナーモンスターだ。植物に目が生えたような不気味な姿をしている。

 

「『TGラッシュ・ライノ』を召喚!」

 

TGラッシュ・ライノ 攻撃力1600

 

「レベル4のラッシュ・ライノにレベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!シンクロ召喚!『TGワンダー・マジシャン』!3体目!」

 

TGワンダー・マジシャン 攻撃力1900

 

「効果で『竜脈の魔術師』破壊!」

 

「チッ――!」

 

「魔法カード、『シンクロクラッカー』!ブレード・ガンナーをエクストラデッキに戻し、その攻撃力以下の相手モンスターを破壊!」

 

「スターダストの効果でこいつを守り、墓地の『仁王立ち』を除外し、攻撃対象をアブソリュートに絞る!そしてアブソリュートの効果で『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』特殊召喚!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力2500

 

ブレード・ガンナーが全武装を持ってコナミのモンスターを殲滅し、爆煙より氷の結晶が砕け飛び、雷鳴を纏った深緑の翼竜が飛翔する。更に翼竜は竜巻のブレスをブレード・ガンナーへと放つ。

 

「ボルテックスの効果でブレード・ガンナーをバウンス!」

 

「『スキル・プリズナー』でブレード・ガンナーを守る!面白いな……カードを3枚セットし、ターンエンドだ」

 

ジョニー LP3100

フィールド『TGブレード・ガンナー』(攻撃表示)『TGワンダー・マジシャン』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『アームズ・ホール』!デッキトップをコストにデッキから装備魔法、『妖刀竹光』をサーチし、スターダストに装備!『黄金色の竹光』で2枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→4

 

「『慧眼の魔術師』と『刻剣の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!慧眼を破壊し、竜穴をセッティング!ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!『賤竜の魔術師』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

強力なアクセルシンクロに対抗する為、コナミが全てを振り絞って加速する。ペンデュラム、融合、シンクロ、エクシーズ、持てる全てを出しても届かない。だから――新たな力を、コナミは望む。

 

「賤竜の効果で『竜穴の魔術師』を回収!デッキトップをコストに『グローアップ・バルブ』を蘇生!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

「レベル4の竜脈にレベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!シンクロ召喚!シンクロチューナー、『アクセル・シンクロン』!」

 

アクセル・シンクロン 守備力2100

 

コナミのエクストラデッキから1枚のカードが排出され、その手に掴んでデュエルディスクに叩きつける。フィールドに現れたのは燃えるような真紅のボディを煌めかせたどこか見覚えのあるD-ホイールを模したモンスター。白コナミとのデュエルで創造されたは良いものの、アクセルシンクロが出来ない為に使用を封じていたカードだ。これでアクセルシンクロを――。

 

「罠発動!『TG1―EM1』!ワンダー・マジシャンとスターダストのコントロールを入れ替える!」

 

「ボルテックスの効果でエクストラデッキの竜脈をデッキに戻し、無効にして破壊!」

 

「だったら―もう1枚だ!君のスターダストは頂いていく――!」

 

「なっ!?」

 

ここで発動される2枚のコントロール奪取カードが1人と1枚を引き裂く。1枚はボルテックスが雷で串刺しにするが、もう1枚の発動は通ってしまう。コナミのフィールドにワンダー・マジシャンが、ジョニーのフィールドにスターダストが移る。最悪だ。

どうするどうするとコナミが汗を垂らし、思考の海に落ちる。手は――ある。手札の1枚、フィールドのセットカード、そして『アクセル・シンクロン』。奪われたスターダストを取り戻す為、カード達に線が結ばれ、一筋の方程式となる。

 

「『アクセル・シンクロン』の効果でデッキの『ジェット・シンクロン』を墓地に送り、レベルを1つ上げる!」

 

アクセル・シンクロン レベル5→6

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

コナミ LP2400

フィールド『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』(攻撃表示)『アクセル・シンクロン』(守備表示)『TGワンダー・マジシャン』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)

『妖刀竹光』セット3

Pゾーン『竜穴の魔術師』『刻剣の魔術師』

手札2

 

どうやら諦めた訳では無いようだ。ジョニーは背後のコナミの様子を除きながらニヤリと笑う。沈むどころか燃えるような覚悟、やはりこうで無くては面白くない。何かを仕掛けて来るならば、真正面から迎え撃つまで。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『妖怪のいたずら』!フィールドの全てのモンスターのレベルを2つ下げる!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン レベル7→5

 

アクセル・シンクロン レベル6→4

 

TGワンダー・マジシャン レベル5→3

 

賤竜の魔術師 レベル6→4

 

TGブレード・ガンナー レベル10→8

 

閃光竜スターダスト レベル8→6

 

「レベルを……?一体何を――」

 

これで『アクセル・シンクロン』、『妖怪のいたずら』と2枚のカードが線で繋がった。次は――。

 

「もう1枚だ!罠発動!『シンクロ・マテリアル』!相手フィールドのスターダストをシンクロ素材に出来る!マリッジブルー?上等だ!そんな不安も消し飛ばす!オレの下へ、帰って来い!」

 

「これは――!?」

 

3枚目、『シンクロ・マテリアル』が更に線を繋ぎ、スターダストへと結ばれ、再び『アクセル・シンクロン』へと結ばれる。

コナミの叫びはまるで愛の告白、奪われたスターダストを取り戻す。そんな彼の魂に、スターダストの胸がドクンと高鳴る。繋がれた輪の線は堅く、赤い糸の指輪へと。星屑の竜は今、主人と共に――昇華する。

 

「そして『アクセル・シンクロン』は相手のメインフェイズにシンクロ召喚が可能!行くぜ、クリアマインド!」

 

ゴウッ、コナミを中心として風が逆巻き、空気の層がズレていく。どこまでも透明で澄んだ心――その中で、コナミは数多のデュエリストを思い起こす。

今まで闘って来たライバル、肩を並べた戦友、仲間達との絆、そして最後に彼の背を押すのは――グラファ号Rに込められた、暗次との絆。

今までの全てが線となり、コナミに結ばれて力となっていく。込み上げる熱き想いは、黄金の光を放つ。

 

「レベル6のスターダストに、レベル4の『アクセル・シンクロン』をチューニング!星流れる痕に紡がれる全ての想い……!絆と共にこの世界を満たさん!アクセルシンクローッ!!」

 

加速、加速、加速。流れる星達よりも速く、光よりも速く。絆は集束し、コナミの背から流れていく。その姿はまるで――流星。

 

「消えたっ……!」

 

コナミの姿が消失、そして――ジョニーの背後から、黄金の光が駆け抜け、一気に追い抜く。赤いジャケットを纏ったその背、その上空には黄金に輝く星屑の竜の姿。

 

「光来せよ!『真閃光竜スターダスト・クロニクル』!」

 

真閃光竜スターダスト・クロニクル 攻撃力3000

 

今ここに、コナミのアクセルシンクロモンスターが生み出された――。

 

「それが……君の答えか……」

 

「そうだ!これがオレの、いや、オレ達の答え!墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『魂を吸う竹光』をサーチ!」

 

「ならば見せてみろ!その力を!バトル!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外し、攻撃対象をスターダスト・クロニクルに絞る!」

 

「ブレード・ガンナーで、スターダスト・クロニクルに攻撃!」

 

襲い来る熱線、光の銃撃、漸く出て来たが、スターダスト・クロニクルには打点を上げる効果も、破壊を防ぐ効果も無い。だから――コナミが何とかする。

 

「罠発動!『スキル・サクセサー』!スターダスト・クロニクルの攻撃力を400アップ!」

 

真閃光竜スターダスト・クロニクル 攻撃力3000→3400

 

ジョニー LP3100→3000

 

迎撃、攻撃力が逆転し、スターダスト・クロニクルのアギトから放たれる熱線がブレード・ガンナーごと消し飛ばす。これでジョニーのフィールドはがら空き。

 

「面白い……!カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

ジョニー LP3000

フィールド

セット2

手札0

 

ジョニーがニヤリと笑い、コナミの背を見つめる。何時の間にか弱くなった彼、強さと引き換えに彼は大事なものを培っていた。

コナミは変わった、彼を知る者から見れば明らかに。コナミを知るジョニーが見て、明らかに彼は人間らしくなったのだ。これからもコナミは壁とぶつかり、悩み、迷うだろう。だが――そんな人間らしい彼も悪くは無い。

最早恩は返した。後は――このデュエルを、楽しむのみ。

 

「オレのターン、ドロー!行くぞジョニー!」

 

「来い!コナミ!」

 

「バトルだ!スターダスト・クロニクルでダイレクトアタック!」

 

「罠カード、『波紋のバリア―ウェーブ・フォース―』!相手のモンスターを、デッキに戻す!」

 

「ボルテックスの効果で慧眼をデッキに戻し、無効!」

 

「甘い!罠カード、『ブレイクスルー・スキル』!その効果を無効!」

 

ボルテックスが雷で水のバリアを串刺しにしようもするも、ジョニーの援護によって翼が封じられる。これでは、白コナミの時の過ちと同じ――。

 

「もう、間違えない!スターダスト・クロニクルの効果!墓地のスターダストを除外し、このモンスターは効果を受けない!スターダスト・クロニクルで、ダイレクトアタック!流星煌閃撃!!」

 

ジョニー LP3000→0

 

スターダスト・クロニクルが黄金のオーラを纏い、ジョニーを貫く。0を刻むLP、決着――コナミの眼前の宇宙が晴れ、光が差す。どうやら出口のようだ。喜ばなければならないのだろうが――少し、迷ってしまう。彼とのデュエルが終わり、ここで別れる事に。

だがジョニーはそんなコナミの背を押す為、自らのD-ホイールでグラファ号Rを押し、加速させる。

 

「君の仲間が、待っている」

 

「――ッ!ありがとう――ブルーノ……!」

 

そんな彼に応える為にも、コナミは前に進む。何もこれが一生の別れになる訳じゃない。デュエルをしていれば、またきっと、何時かどこかで会えるから。決闘神官ジョニー、自らの友、ブルーノに感謝を示し、進む。前へ、前へ、光差す道へと――。

 

「また会おう――コナミ」

 

風がジョニーのフードを飛ばし、その顔が明らかとなる。青い髪に青い瞳、長身が特徴的な彼。その表情は――皆が大好きな、ブルーノの晴れやかな笑顔だった――。

 

出会いと別れ、数多くの一期一会を繰り返し、コナミは進む。この先にはまだ見ぬデュエリスト、そしてかつて共に闘った友もいるのだろう。何が起こるか分からない未来へと、コナミはワクワクを抑え切れず、駆ける。さぁ、行こう――シンクロ次元へと――。

 

――――――

 

「バレてしまいましたね、正体」

 

「良いんだ、彼はきっと、最初から分かっていて知らない振りをしていたんだから」

 

コナミが去った後、ブルーノはD-ホイールを停止し、阿久津と話し込んで感傷に浸っていた。何時だって彼は誰かを支え、その背中を押して来た。それが不満と言う訳では無い。むしろ――彼はそれが誇らしく思っている。迷いながらも、仲間の絆で道を拓き、走っていく人間が大好きだからこそ、彼は応援してしまう。

 

「さて、次に彼と会うのは、何時になるかな」

 

遠い目で空を見上げる。その視線の先には、キラリと流れる6つの流れ星。

 

「頑張れよ」

 

何時か彼は、どうしようも無い残酷な現実に直面するだろう、間違う事だってあるだろう、だけどきっとその時には、今彼と共に歩む友が、彼を正してくれる。そう信じて――ブルーノはD-ホイールを疾駆させる。

 

「さぁ、僕もトップ・クリアマインドを取り戻そう、まだまだ始まったばかりなんだ、人生と言う、ライディングデュエルは!」

 

D-ホイールで光の橋を渡り、彼は駆け抜ける。その背に輝くは、彼の眩しい笑顔のような、太陽。

 

「ライディングデュエル、アクセラレーションッ!!」

 

第2章 DIMENSION OF CHAOS 完

 

 

 

 

――少年は、夢を見る、とあるデュエリストの夢を。靄がかかった誰かの記憶を。

彼は、赤き竜の痣を持つデュエリスト達と共に歩む。冥界の王の目覚めを目論む、死者と闘い、神を操る瞳を持つデュエリストと闘い、未来からやって来たデュエリストと闘い、未来の救う救世主と闘い――ああ、何て素晴らしい人物なのだろうと、少年は彼に憧れる。

 

彼が救った、未来があった。彼が導いた、英雄がいた。彼と歩んだ、友がいた。光満ちる、暖かき道。自分も彼のようになりたいと心から想う。

 

そして彼は――赤き竜の痣を持つデュエリストと闘う。

 

彼が救った、未来があった。彼が導いた、英雄がいた。彼と歩んだ、友がいた。同時に、その道はあったのだ。

 

彼が奪った、未来があった。彼が壊した、英雄がいた。彼が裏切った――友がいた。

 

そして少年は、夢から覚める。

 

 

 

 

 




これにて2章は完結です。
この章では黒咲さんと神楽坂がボスキャラだったのでチャンピオンシップの最終戦VS素良きゅんとかスッキリとしない所があったと思います。この点は大きく反省。次の章ではちゃんとスカッと晴れやかな気持ちになれるよう努力します。
ミエルちゃんや大漁旗君、日影の兄者の活躍が書けなかったのが心残り。彼等のファンの人は申し訳ありません。

3章からですが、当然シンクロ次元に入り、今までシリアス続きだったのでゆるく行きたいと思います。2章では遊矢君とコナミ君中心、2章の裏主人公として黒咲さんのキャラを浮き彫りしていきました。
3章からは遊矢君を中心とし、コナミ君は添えるだけ、3章の裏主人公にはジャックがなります。と言っても現行キャラの活躍を奪わないように気をつけたいと思いますが。
他には沢渡さんが活躍したり、シンジ君やセルゲイを活躍させたいです。

では話を読んでくれた読者の皆様方、お気に入り、感想、評価をくださった方々に感謝を。
ありがとうございます。

ご要望があったので活動報告にてコナミ君のデッキレシピを乗せました。興味がある人は見てね。




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第3章 NEXT CHALLENGERS
第95話 昇進確定だ!


シンクロ次元はバカばっか。


それは、雲1つ無き、青空の下での出来事だった。近未来的な建築物が並び立つ中、長いデュエルレーンと繋がれた、巨大なスタジアム。どこもかしこも観客で満席、街中には中継が写されている中、人々は、忘れられていた伝説を目撃する。

スタジアムの中心のサーキット、人々の目が釘付けとなっているのはそこに立っている3人のデュエリストの存在。

 

1人は、長身の男、金髪にライディングスーツ、鋭き眼光はまるで王者を思わせ、並外れた威圧感を放っている。

1人は箒のような髪型をした小柄な男。バンドで髪を留め、額にはM字のマーカーや、それらと同じようなマーカーが顔中に刻まれている。

そしてもう1人は――。

 

人々はこの衝撃的な光景をその目にし、記憶に刻みつけ、忘れる事は無いだろう。誰もが彼等を見て、脳裏にある言葉が過る。

 

――ライディングデュエル。それはスピードの中で進化したデュエル。そこに命を賭ける伝説の痣を持つ者を、人々は――。

 

第3章 NEXT CHALLENGERS

 

――D-ホイール。デュエルディスクを進化させたそのマシンを駆使し戦うライディングデュエルは、スピードとスリルに溢れた最高のショーであり、自由の象徴であった――。

 

――――――

 

シンクロ次元、シティの上層トップスと、下層コモンズを隔てる橋のようになった公道――今はライディングデュエルの為に変形したレーンにて、2人の少年と少女を乗せたD-ホイールを、シティのデュエル警察、セキュリティの隊員である2人が追っていた。

少年の名はユーゴ。白いライディングスーツに同色のD-ホイールに乗った彼はセキュリティを一瞥して舌打ちを鳴らす。

もう1人、少女の名は柊 柚子。ユーゴから受け取ったヘルメットを被り、セレナのものであるアカデミアの赤いジャケットを纏った彼女は何故こうなったのだろうと戸惑う。

 

彼女は元々スタンダード次元の人間であり、どうして自分がここにいるのかさえあやふやだ。文化が違うシンクロ次元のこの光景も彼女を混乱させる。

そもそも――こうなってしまったのは一種の事故だ。故意のものではない。

 

スタンダード次元、舞網チャンピオンシップの会場にて、黒コナミとユーリのデュエルが終了した時、ユーゴがそこに通りかかった事で柚子のブレスレットが光り、2人はここに転移させられたのだ。

そして転移先はトップスが住む高層エリア。不法侵入と勘違いされ、通報されて今に至ると言う訳である。

更に追って来たのは2人のセキュリティ、1人ならまだしも2人となってはユーゴも不利だ。柚子にダッグを組ませようにも後ろに座る彼女を参戦させるのは危うい。

野次馬が沸き、上空にはマスコミ、メリッサ・クレールと言ったか、女性がユーゴの気も知らず、実況するヘリが一機、セキュリティを纏める長官が治安維持局のウィンドウ越しで「勝ったな、Dこれやって来るわ」と呟く始末の劣勢。

 

そこに――コモンズが憧れ、トップスが恐れるヒーローが現れる。遥か上空、夜空にキラリと輝く星、それは流星の如く飛来し、姿を見せる。

 

「空を見ろ!」

 

「何だアレは!?鳥か!?」

 

「飛行機か!?」

 

流れる一筋の星を見て、コモンズトップスを問わず目を見開いてその正体を見定める。白とミントグリーンのカラーリング、先端が二又に分かれた独特の形状をした戦闘機のような物体が翼を展開し、飛来する。それに登場したのは、白いジャケットを纏い、同色の帽子を被り、そして――竜をモチーフとしたお面を着けた男。

 

「いやフユーン……D-ホイールだ!」

 

「お面ホイーラーだ!」

 

お面ホイーラー。それはまるで流星のように空を駆ける巨大なD-ホイールに乗り、デュエルある所に現れる謎の糞迷惑D-ホイーラー。

主に犠牲者がセキュリティの為、後何か格好いい為、コモンズは支持し、トップスのチビッコ以外が恐れる存在である。この男の登場にユーゴは「生のお面ホイーラーじゃん!マジ?サイン!色紙あったっけ!?」と騒ぎ立て、柚子は白い目でお面ホイーラーを見る。セキュリティは背後に着地した巨大なD-ホイールに事故られるのを恐れて顔を青くし、治安維持局の長官は「んもぉぉぉぉぉっ!!お面ホイーラー、ふっざけんなよぉっ!!」とキャラ崩壊して叫ぶ。

 

長官にとってレーンを破壊し、セキュリティをバッタバッタと倒すお面ホイーラーは天敵である。厳しい彼も、お面ホイーラーに敗北したセキュリティは彼はもう終わりですねをしない事が物語っている。と言うかそんな事をすればキリが無いのである。

 

「ゆ、柚子!お前色紙持ってない!?いや、いっそD-ホイールに……!」

 

「私がリンって子なら間違いなくぶっ飛ばすわよそれ」

 

「2対1とは天下のセキュリティが情けない、情けなくない?ユーゴ!手を貸そう、タッグライディングデュエルだ!」

 

「はっはい!?何でお面ホイーラーが俺の名前を……!?やるやるぅ!」

 

セキュリティの遥か背後に着地、翼を折り畳み、フライングモードからライディングモードへと切り替え、ユーゴへと助け船を出すお面ホイーラー。そんな彼に嬉しそうに答えるユーゴ。これで2対2、まともな勝負となりそうだ。セキュリティも覚悟を決め、こうなったら返り討ちにしてやろうと息巻く。

 

「「「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」」」

 

こうして始まる、タッグライディングデュエル、ライディングデュエルの特徴であるスピードワールド・ネオが発動され、ユーゴが先攻を取る。ターンはユーゴ→デュエルチェイサー227→お面ホイーラー→デュエルチェイサー110となる。ユーゴは憧れのヒーローに格好いい所を見せる為、鼻息荒く戦術を練る。

 

『ついに始まったライディングデュエル!お面ホイーラーも参戦し、このデュエルはどうなるのでしょうか!?お面ホイーラーがまたセキュリティを狩るか!?それともセキュリティが意地を見せるか!?実況はこの私、メリッサ・クレールがお送りします!』

 

「俺のターン、俺は『ゴブリンドバーグ』を召喚!」

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

スピードを上げるユーゴのD-ホイールに並走し、現れたのは玩具の飛行機に乗った『ゴブリン』。残念ながら『スピードロイド』の核である『SRベイゴマックス』は引き込めなかったが、手はまだある。

 

「『ゴブリンドバーグ』の召喚時、手札の『SR―OMKガム』を特殊召喚!自身を守備表示に変更!」

 

SR―OMKガム 守備力800

 

お次はガムのケースが変形した小さなモンスター。これでチューナーと非チューナーが揃った。ユーゴ得意の高速シンクロ、シンクロモンスターを呼び出そうと手を翳す。

 

「レベル4の『ゴブリンドバーグ』にレベル1のOMKガムをチューニング!その躍動感溢れる、剣劇の魂。出でよ、『HSRチャンバライダー』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

OMKガムの身体が光のリングとなって弾け飛び、『ゴブリンドバーグ』を包み込む。更に一筋の光がリングごと『ゴブリンドバーグ』を貫き、新たなモンスターを呼び起こす。刀を模したバイクの下半身を持った、鋭き侍のモンスター。攻撃力は低いものの、それはこれから補われる。

 

『少年がいきなりシンクロ召喚!彼も中々侮れません!』

 

「OMKガムがシンクロ素材として墓地に送られた場合、デッキトップを墓地に送り、『スピードロイド』モンスターならこのカードを素材にシンクロ召喚したモンスターの攻撃力を1000アップする!デッキトップは『SR三つ目のダイス』!よって攻撃力アップ!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000→3000

 

攻撃力3000、これならば上級モンスターだろうとそうやすやすと突破出来ないだろう。初手としては充分のモンスターだ。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

ユーゴ&お面ホイーラー LP4000

フィールド『HSRチャンバライダー』(攻撃表示)

セット1

手札2(ユーゴ)手札5(お面ホイーラー)

 

『さてさて相手の場には攻撃力3000のシンクロモンスター、セキュリティ組はどう攻略するのか!?』

 

「お面ホイーラーが相手……!だが奴を倒せば昇進確定!俺のターン、ドロー!手札の『サスマタ・ガードナー』の効果発動!相手フィールドのシンクロモンスター、チャンバライダーの攻撃力を500ダウンし、このカードを特殊召喚!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力3000→2500

 

サスマタ・ガードナー 守備力2000

 

227のターンに移り、彼が手札から特殊召喚したのは歌舞伎や時代劇に出て来るような白い化粧に赤い隈取り、そして身体には真っ赤な鎧を纏い、巨大な盾と刺股を持ったモンスター。

 

「『ジュッテ・ロード』を召喚!」

 

ジュッテ・ロード 攻撃力1600

 

次に召喚されたのは羽織に袴、十手を持った役人のようなモンスター。セキュリティの扱うポリスモンスターの中で『切り込み隊長』の役割を果すカードだ。

 

「『ジュッテ・ロード』の召喚時、手札の『ジュッテ・ナイト』を特殊召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

更に展開、現れたのはマスコットのような小柄な身体に髷と眼鏡、十手を持ち、背に提灯を負ったチューナーモンスターだ。

 

「『ジュッテ・ナイト』の効果により、チャンバライダーを守備表示に変更!そしてレベル3の『サスマタ・ガードナー』にレベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!地獄の果てまで追い詰めよ!見よ!清廉なる魂!シンクロ召喚!出でよ!『ゴヨウ・チェイサー』!」

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力1900

 

今度はデュエルチェイサーのシンクロ召喚、現れたのは『ジュッテ・ナイト』を成長させたようなモンスターだ。歌舞伎の白化粧に赤い隈取りと髷、十手を持ったモンスター。攻撃力は低いものの、その効果は厄介だ。

 

「バトル!『ゴヨウ・チェイサー』でチャンバライダーへ攻撃!」

 

「墓地の三つ目のダイスを除外し、攻撃を無効!」

 

『ゴヨウ・チェイサー』が十手につけられた縄をブンブンと振り回し、十手をチャンバライダーに投擲する。これを受けては不味い。直ぐ様ユーゴは墓地の三つ目のダイスを使い、D-ホイールを横に倒して三角形のバリアを展開する。

 

「ならば『ジュッテ・ロード』で追撃!」

 

「墓地に送られたチャンバライダーの効果で除外された三つ目のダイスを回収!」

 

『チャンバライダー撃破!流石セキュリティ!巧みな手管で見事攻撃力3000を越えました!』

 

しかし相手はデュエルチェイサー、追跡者の名は伊達ではない。猟犬のようにどこまでも追い、獲物を逃さず食らいつく。折角攻撃力を上げたチャンバライダーも見事なプレイングで突破された。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンド!」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP4000

フィールド『ゴヨウ・チェイサー』(攻撃表示)『ジュッテ・ロード』(攻撃表示)

セット2

手札1(227)手札5(110)

 

「俺のターン、ドロー!」

 

『ついに来ましたお面ホイーラーのターン!チェイサー達のフィールドには『ゴヨウ・チェイサー』と『ジュッテ・ロード』の2体!さぁ、どう出るのでしょうか!』

 

お面ホイーラーのターンと共に上空のヘリからメリッサの実況が飛ぶ。チェイサー達のモンスターの攻撃力はそう高く無い。だからこそ、2枚のセットカードに何かがある筈だ。

 

「俺は手札のモンスターを捨て、『クイック・シンクロン』を特殊召喚!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

お面ホイーラーの手札を撃ち抜き、現れたのはテンガロンハットを被ったガンマン人形。銃より吹く煙をフッ、と消し飛ばし、クルクルと回転させてガンホルダーへと戻す。

 

「そして『クリア・エフェクター』を召喚!」

 

クリア・エフェクター 攻撃力0

 

次に登場したのは煌めく黒髪を流し、民族衣装に身を包んだ女性のモンスター。レベル2のシンクロ素材としては実に優秀なモンスターだ。

 

「レベル2の『クリア・エフェクター』にレベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし思いがここに新たな力となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!燃え上がれ、『ニトロ・ウォリアー』!」

 

ニトロ・ウォリアー 攻撃力2800

 

お面ホイーラーもシンクロ召喚。シンクロ合戦に名乗りを上げたのは戦士と言うには異質な宇宙人のようなモンスターだ。緑色の体躯を持ち、爆弾の如く膨れ上がった尾を持っている。お面ホイーラーの扱うシンクロモンスターの中で戦闘能力が高いカードだ。切り込み役としてはこれ以上に向いた者はいない。

 

「『クリア・エフェクター』がシンクロ素材となった事で1枚ドロー!」

 

お面ホイーラー 手札3→4

 

「更に『クリア・エフェクター』をシンクロ素材にした事で『ニトロ・ウォリアー』は効果破壊耐性を得ている……!」

 

「その通りだ!魔法カード、『調律』を発動!『クイック・シンクロン』をサーチし、デッキトップを墓地に!墓地の『ADチェンジャー』を除外し、『ゴヨウ・チェイサー』を守備表示に!」

 

「攻撃力で勝っているのに守備表示に……?」

 

「そっか、柚子は知らねぇもんな。『ニトロ・ウォリアー』は相手モンスターを破壊した時、相手の表側守備表示のモンスターを攻撃表示にしてもう1度攻撃出来る効果があるんだ」

 

お面ホイーラーの操るモンスターを知らない柚子が疑問を発し、ユーゴがそれに答える。お面ホイーラーのファン、そして知り合いにお面ホイーラーと良く似たデッキを使う者がいる彼はそのモンスター達の効果を良く知っている。

 

「成程、だから――」

 

「しかも自分ターンに魔法カードを発動した場合、『ニトロ・ウォリアー』はダメージ計算時、攻撃力を1000アップする。こいつぁ中々強いぜ」

 

「バトル!『ニトロ・ウォリアー』で『ジュッテ・ロード』に攻撃!ダイナマイト・ナックル!」

 

「やらせるか!罠発動!『セキュリティー・ボール』!『ニトロ・ウォリアー』を守備表示にする!」

 

だがそうは問屋が下ろさない。お面ホイーラーも強力なデュエリストだが、デュエルチェイサーに選ばれた227も非凡なデュエリスト。効果破壊が出来ない。攻撃力が高いだけなら幾らでもやりようがあり、セキュリティにとってはお手の物だ。これもその一種、戦闘破壊を可能とする為、低い守備力を狙い撃つ。

227を守るように出現した黄色く発光する赤いボールからレーザーの縄が飛び、『ニトロ・ウォリアー』を守備表示に張りつける。

 

『ここで227防ぐ!これは上手い!』

 

「チッ、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

ユーゴ&お面ホイーラー LP4000

フィールド『ニトロ・ウォリアー』(守備表示)

セット2

手札3(ユーゴ)手札3(お面ホイーラー)

 

「私のターン、ドロー!チューナーモンスター、『トラパート』を召喚!」

 

トラパート 攻撃力600

 

110の手札から召喚されたのは円を中心とし、上下にかかしのような魔法使いが生えた奇妙なモンスター。彼等の使うポリスモンスターの1体であり、『ジュッテ・ナイト』と共に良く使用されるチューナーだ。

 

「レベル4の『ジュッテ・ロード』にレベル2の『トラパート』をチューニング!出でよ!荒ぶる獣の牙もて捕獲せよ!シンクロ召喚!『ゴヨウ・プレデター』!」

 

ゴヨウ・プレデター 攻撃力2400

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力1900→2200

 

当然シンクロ、登場したのは『ゴヨウ』シリーズの1体、獣か魔人のような角を持ち、強靭な肉体に獣の体毛や尾を振るう凶暴なモンスター。攻撃力は2400、所謂帝ラインに達したカードだ。

 

「更に!自分フィールドに戦士族モンスターが存在する事で手札の『キリビ・レディ』を特殊召喚!」

 

キリビ・レディ 守備力100

 

カチカチと火打ち石を鳴らして頭巾と着物を纏ったたらこ唇の少女が現れる。

 

「魔法カード、『二重召喚』!再び得た召喚権で『ジュッテ・ナイト』を召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 攻撃力700

 

「レベル1の『キリビ・レディ』にレベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!お上の力を思い知れ!シンクロ召喚!現れろ!『ゴヨウ・ディフェンダー』!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力2200→2500

 

2回連続シンクロ、現れたのは今までとは違い、レベル3のシンクロモンスター。他の『ゴヨウ』とは一風変わった、卵のような形をした『ゴヨウ』モンスターだ。

 

『110、2回連続シンクロ!追い詰めるぅー!』

 

「『ゴヨウ・ディフェンダー』の効果で自分フィールドのモンスターが戦士族、地属性シンクロのみの場合、エクストラデッキの『ゴヨウ・ディフェンダー』を特殊召喚!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力2500→2800

 

「シンクロモンスターが4体……!」

 

「本来は2体目の効果も使う所だが……今はやめておこう」

 

恐るべき展開力、条件は厳しいものの、『ゴヨウ』によっては達成はしすやく、最低フィールドにこのモンスターのみで乗り越えられる。そして『ゴヨウ・チェイサー』の攻撃力もアップした。

 

『110恐るべき展開力!これは勝負あったかー!?』

 

「バトル!『ゴヨウ・プレデター』で『ニトロ・ウォリアー』に攻撃!シンクロ素材とした『トラパート』の効果でダメージステップ終了まで罠の発動を封じる!更にプレデターの効果で破壊した『ニトロ・ウォリアー』を自分フィールドに特殊召喚!」

 

ニトロ・ウォリアー 攻撃力2800

 

これが『ゴヨウ』モンスターの真に恐るべき効果だ。墓地を通したコントロール奪取、これで強力な『ニトロ・ウォリアー』がそのまま敵となってしまった。墓地を経由した為、破壊耐性は失われたが、このモンスターの爆発力はお面ホイーラー自身良く分かっている。

 

「『ニトロ・ウォリアー』で攻撃!『ゴヨウ・プレデター』の効果で特殊召喚したモンスターが与えるダメージは半分となるが、それでも充分だ!」

 

「何が充分だ?俺は手札の『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する」

 

しかしこんなに簡単に彼を倒せるならば治安維持局長官はとっくに胃薬を手放している。『ニトロ・ウォリアー』が110のフィールドに現れ、その拳がお面ホイーラーに襲いかかる中、長官は「おお!」と嬉しそうな顔をして立ち上がり、ワインレッドのサングラスをかけたかかしがその拳を受け止めた瞬間、無表情で席に戻る。

 

「くっ、カードを1枚セット!ターンエンドだ!」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP4000

フィールド『ゴヨウ・プレデター』(攻撃表示)『ゴヨウ・チェイサー』(攻撃表示)『ゴヨウ・ディフェンダー』(攻撃表示)×2『ニトロ・ウォリアー』(攻撃表示)

セット1

手札1(227)手札1(110)

 

ハイウェイで繰り広げられるライディングデュエル。ユーゴと227、110は猛スピードで飛ばし、お面ホイーラーはその巨大なD-ホイールの為、低速でジリジリと走行する。ターンは一周し、ユーゴの2ターン目、後ろで自身のD-ホイールに必死にしがみつき、うひゃあうひゃあと悲鳴を上げる柚子を一瞥し、ユーゴはデッキより1枚のカードを引き抜く。

 

「しっかり掴まってろよ柚子。俺のターン、ドロー!まずは『SRアクマグネ』を召喚!」

 

SRアクマグネ 攻撃力0

 

ユーゴの手から登場したのは青く、丸い物体にU字の磁石が3つついた何とも奇妙なモンスターだ。

 

「アクマグネの効果!自分メインフェイズに召喚、特殊召喚した場合、相手モンスター1体とこのカードでシンクロ召喚する!俺はレベル5の『ゴヨウ・チェイサー』にレベル1のアクマグネをチューニング!十文字の姿持つ魔剣よ。その力で全ての敵を切り裂け!シンクロ召喚!現れろ、『HSR魔剣ダーマ』!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200

 

敵モンスターを巻き込んでのシンクロ召喚、正規のものの為、モンスター自体に縛りがあれば召喚も不可能であり、風属性モンスターしかシンクロ召喚出来ない為、使いにくいが召喚してしまえば後の縛りは無い。これで攻撃力が膨れ上がった『ゴヨウ・チェイサー』を除去出来た。

 

『これは凄い!相手モンスターを除去してからの展開!しかし『ゴヨウ・チェイサー』は墓地に送られても未だにチェイサーのフィールドには攻撃力2800の『ニトロ・ウォリアー』と攻撃力2400の『ゴヨウ・プレデター』が存在します!』

 

「罠発動!『リサイコロ』!墓地の『スピードロイド』チューナー、『SR―OMKガム』を特殊召喚!」

 

SR―OMKガム 守備力800

 

「そして運命のダイスロール!出た目は――1だ!OMKガムのレベルは1となる!変わってねぇがな……!」

 

『ここで運任せー!?』

 

まさかの運に任せたプレイングにメリッサが大声で叫ぶ。響き渡るハウリング、しかしこれこそがユーゴの戦術だ。その場のノリと勢い、直感が彼の最大の武器。

 

「上手くいったぜ……ここで俺は『SRタケトンボーグ』を特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

更に展開、次に現れたのは竹トンボの状態からロボットに変形した小さなモンスター。『スピードロイド』において軽い特殊召喚条件を持つカードであり、ユーゴも重宝している1枚だ。

 

「レベル3のタケトンボーグにレベル1のOMKガムをチューニング!幾千の顔を持つ迷宮の影よ、その鋭き刃で混沌の闇を切り裂け!シンクロ召喚!『HSR快刀乱破ズール』!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300

 

タケトンボーグにOMKガムをチューニング、合計レベルは4、光を裂き、現れたのはパズルをモチーフとした不気味なモンスターだ。攻撃力は1300、いささか頼りない数値ではあるが――。

 

「OMKガムの効果でデッキトップを落とす!ビンゴ!『SR赤目のダイス』!よってズールの攻撃力は1000アップ!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2300

 

「……ズールは特殊召喚されたモンスターと戦闘する際、攻撃力を倍にする……」

 

「へへ、お面ホイーラーの言う通り!さぁ、バトルだ!ズールで『ゴヨウ・プレデター』へ攻撃!」

 

「甘い!罠発動!『進入禁止!NoEntry!!』フィールドの攻撃表示のモンスターを全て守備表示に!」

 

しかしこれも受け流される。空中に渦が発生し、中より飛び出したテープが全てのモンスターを縛りつける。フリーチェーンの表示形式変更カード、単なる除去ではなく、この手のカードを投入しているのは『ゴヨウ』モンスターとるコンボを狙っているのだろう。

 

「また表示形式を……ターンエンドだ」

 

ユーゴ&お面ホイーラー LP4000

フィールド『HSR魔剣ダーマ』(守備表示)『HSR怪刀乱破ズール』(守備表示)

セット1

手札2(ユーゴ)手札3(お面ホイーラー)

 

「俺のターン、ドロー!プレデターと『ニトロ・ウォリアー』を攻撃表示に、バトルだ!『ゴヨウ・プレデター』で快刀乱破ズールへ攻撃!」

 

「くそっ、ズールが!」

 

『ゴヨウ・プレデター』がズールに襲いかかり、荒縄を巻きつけて捕縛する。これでズールまでも相手の手に渡った。

 

「『ゴヨウ・プレデター』の効果でズールを特殊召喚!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300

 

「ズールでダーマへ攻撃!」

 

「ぐっ――!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2600

 

奪われたズールがダーマへと襲いかかり、その刃がぶつかり合う。折れるダーマの剣、自身のモンスターの効果を思い知らされるのは何とも屈辱的だ。

 

「『ニトロ・ウォリアー』でダイレクトアタック!」

 

「この瞬間、手札の『SRメンコート』を攻撃表示で特殊召喚し、相手モンスターを守備表示に!」

 

SRメンコート 攻撃力100

 

『少年防ぐ!危機一髪!』

 

ここでユーゴの手札から火炎を吹かし、1枚のメンコがフィールドに叩きつけられ、チェイサーのモンスターが全て引っくり返る。このターンも何とか凌いだが――以前不利には変わらない。

 

「くっ、メインフェイズ2、ディフェンダーを攻撃表示にし、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP4000

フィールド『ゴヨウ・プレデター』(守備表示)『ゴヨウ・ディフェンダー』(攻撃表示)×2『ニトロ・ウォリアー』(守備表示)『HSR快刀乱破ズール』(守備表示)

セット1

手札1(227)手札1(110)

 

「俺のターン、ドロー!手札のモンスターを捨て、『クイック・シンクロン』を特殊召喚!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

「『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

お面ホイーラーが召喚したのは彼のデッキにとって代表的なチューナーモンスターだ。オレンジ色の所々へこんだガラクタのボディに丸眼鏡、背にはバーニアを負ったモンスター。

 

「召喚時、墓地の『チューニング・サポーター』を特殊召喚!」

 

チューニング・サポーター 守備力300

 

ここで登場したのは中華鍋を被り、マフラーを風に靡かせた小さなモンスター。シンクロ素材としては優秀なモンスターであり、『クリア・エフェクター』と互換になるカードだ。

 

「レベル4のメンコートとレベル1の『チューニング・サポーター』にレベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!集いし闘志が怒号の魔神を呼び覚ます。光差す道となれ!シンクロ召喚!粉砕せよ、『ジャンク・デストロイヤー』!」

 

ジャンク・デストロイヤー 攻撃力2600

 

天に浮かぶ星が1つ輝き、凄まじいスピードでフィールドに飛来する。呼び出されたのは巨大なロボ。額で輝く黄金の角、胸部にはオレンジ色と緑の珠、4本の腕にX字の白い翼、まるで勇者王のようなスーパーロボットが降り立ち、大地を震撼させる。

 

「『チューニング・サポーター』の効果でドロー!『ジャンク・デストロイヤー』のシンクロ召喚時、素材となったチューナー以外の数だけフィールドのカードを破壊!『ニトロ・ウォリアー』とセットカードを破壊!」

 

お面ホイーラー 手札1→2

 

『ジャンク・デストロイヤー』がその腕に光を集束させ、2つのエネルギー球を作り、チェイサーのフィールドにある2枚のカードを破壊し、爆風が吹き荒れる。クルクルと回転するチェイサーのD-ホイール。しかし227は体勢を立て直し、破壊されたカードをオープンする。

 

「舐めるな!破壊された『荒野の大竜巻』の効果で『ジャンク・デストロイヤー』を破壊!」

 

『おおっと227反撃!こちらも負けてはいない!』

 

やはり一筋縄ではいかないらしい。パッと見、同じ顔をした集団の為、雑魚として見られがちのデュエルチェイサーだが、その実力は確かだ。『ゴヨウ』モンスターを主軸に置き、その効果を活かす為のサポートカードの数々、お手本のようなデッキ構築と戦術は厄介な事この上ない。

 

「墓地の『ボルト・ヘッジホッグ』を特殊召喚!」

 

ボルト・ヘッジホッグ 守備力800

 

お面ホイーラーのフィールドに渦が広がり、登場したのはレベル2のモンスターだ。自分フィールドにチューナーが存在する場合蘇生出来るモンスターであるが、この効果を使えば墓地に送られる場合、除外される。針の代わりにボルトが背に打ち付けられたネズミだ。

 

「レベル2の『ボルト・ヘッジホッグ』にレベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし怒りが忘我の戦士に鬼神を宿す。光差す道となれ!シンクロ召喚!吠えろ、『ジャンク・バーサーカー』!」

 

ジャンク・バーサーカー 攻撃力2700

 

2回連続『ジャンク』モンスターのシンクロ召喚。今度は真っ赤に染まったボディを輝かせる1本角の鬼神だ。背に伸びた翼を広げて飛行し、その手に握られた巨大な斧がガリガリと地を抉る。

 

「バトル!『ジャンク・バーサーカー』で『ゴヨウ・プレデター』へ攻撃!」

 

『ジャンク・バーサーカー』が雄々しく咆哮し、尋常じゃない速度で『ゴヨウ・プレデター』に肉薄し、巨大な斧を軽々と降り下ろす。これで厄介なコントロール奪取源を断ち切った。『トラパート』の効果で罠の発動も封じられる為、このカードは早めに破壊しておくべきだ

 

「ターンエンドだ」

 

ユーゴ&お面ホイーラー LP4000

フィールド『ジャンク・バーサーカー』(攻撃表示)

セット1

手札2(ユーゴ)手札2(お面ホイーラー)

 

「私のターン、ドロー!私は『アタック・ゲイナー』を召喚!」

 

アタック・ゲイナー 攻撃力0

 

現れたのは赤髪を靡かせたマスクの戦士。レベル1のチューナーであり、使用されるのは珍しいカードだ。

 

「レベル4のズールにレベル1の『アタック・ゲイナー』をチューニング!シンクロ召喚!『ゴヨウ・チェイサー』!」

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力1900→2500

 

「『アタック・ゲイナー』の効果で『ジャンク・バーサーカー』の攻撃力を1000ダウン!」

 

ジャンク・バーサーカー 攻撃力2700→1700

 

「そして『ゴヨウ・ディフェンダー』の効果で3体目を呼び出す!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力2500→2800

 

「バトル!『ゴヨウ・チェイサー』で『ジャンク・バーサーカー』へ攻撃!」

 

「断ち切らせはしない!罠発動!『くず鉄のかかし』!その攻撃を無効にし、このカードをセットする!」

 

再び襲いかかる『ゴヨウ』モンスターの十手、またしてもモンスターがお縄につき、奪われるのを防ぐ為、お面ホイーラーがリバースカードをオープンし、フィールドに登場したガラクタのかかしが攻撃から『ジャンク・バーサーカー』を守る。今まで罠を封じる『ゴヨウ・プレデター』がいた為、発動出来なかったカードだ。

 

「硬過ぎる……カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP4000

フィールド『ゴヨウ・チェイサー』(攻撃表示)『ゴヨウ・ディフェンダー』(攻撃表示)×3

セット1

手札1(227)手札0(110)

 

「俺のターン、ドロー!」

 

『一進一退、未だ削られないLP!果たしてどちらが先制するのか!』

 

「長引いて来たな……!俺は『SRバンブー・ホース』を召喚!」

 

SRバンブー・ホース 攻撃力1100

 

「効果で手札の三つ目のダイスを特殊召喚!」

 

SR三つ目のダイス 守備力1500

 

「レベル4のバンブー・ホースにレベル3の三つ目のダイスをチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!現れろ、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

ユーゴが勝負に出る為、自らが最も信頼するエースカードを呼び起こす。青と白のカラーリングのボディにミントグリーンの透き通った美しい両翼を広げ、雄々しく咆哮するのは召喚法を名に刻んだドラゴンだ。どこか自身の幼馴染み、榊 遊矢の持つエースカード、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を思い起こす姿に柚子がポカンとする。

 

『おおーっと!ここで少年がエースカードらしきモンスターを召喚ー!勝負に出たかー!?』

 

「一気に行くぜ!まずは『ジャンク・バーサーカー』の効果!墓地の『ジャンク・シンクロン』を除外し、『ゴヨウ・チェイサー』の攻撃力を1300ダウン!」

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力2800→1500

 

「『ジャンク・バーサーカー』で『ゴヨウ・チェイサー』へ攻撃!」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP4000→2800

 

ここで初めてダメージが入る。後は『ゴヨウ・ディフェンダー』だけだが――実質、厄介なのはこちらの方だ。『ゴヨウ・ディフェンダー』の攻撃対象となった場合、他の地属性、戦士族シンクロモンスターの数×1000攻撃力をアップする。つまりは攻撃力3000の壁。折角折角召喚したクリアウィングもこの効果はレベル5以上のモンスター効果では無い為、カウンター出来ないのだ。だがクリアウィングは出しておくだけで相手の行動を制限する。出しておいて損は無い。

 

「ターンエンドだ」

 

「罠発動!『トゥルース・リインフォース』!デッキからレベル2以下の戦士族モンスター、『ジュッテ・ナイト』を特殊召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

ユーゴ&お面ホイーラー LP4000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『ジャンク・バーサーカー』(攻撃表示)

セット1

手札1(ユーゴ)手札2(お面ホイーラー)

 

――――――

 

一方、治安維持局の長官室にて、長官であるジャン・ミシェル・ロジェは見るからに憔悴していた。折角今日は仕事を早めに切り上げ、今日は朝まで日常系アニメを見ようと言う予定が台無しである。

部屋の片隅に置いた、ごちうさのブルーレイのパッケージで少女達がロジェに笑いかけるも、ニコリとも出来ない。サブカルチャーにまみれた長官は溜め息を吐き、目の前のモニターに視線を移す。

市民の平和を守る為!と言う建前、本音は高画質でアニメを見たいが為に新調したモニターだ。人、それを横領と言う。そこに写っているのは巨大な戦闘機のようなD-ホイールを操縦する、竜を模したお面を被ったデュエリスト、全ての元凶、お面ホイーラーだ。

 

「それもこれもこいつのせいだ……!貴様が……貴様が突然現れたりとするから私は休めず、何度も道路を破壊するからその修繕費が私の給料から飛んでいく……!お蔭で侵略が全く出来ん上、悪党の筈なのに市民に慕われる始末……!違う!なんかこれじゃないっ!あの時のコモンズの幼女の笑顔が眩しいっ!」

 

ロジェは自らも認める程の悪党である。にも関わらず、お面ホイーラーのせいで悪事が全く出来ない。むしろ市民に貢献し、支持率は驚く程高い。良い事なのだが悪党としては納得出来ない。

この間なんてお面ホイーラーがぶっ壊した道路を直したらその道を利用するコモンズ達に感謝されたではないか。何がその調子で格差社会も直してくれだ。突き放しても「おっツンデレ~」と言われる始末。幼女がいなければあのシンジ・ウェーバーと言う男をブン殴っていただろう。横のトニーとかデイモンとか言う男もムカつく。特にトニー。

 

「あいつに負けたチェイサーを切っていったらキリが無いから罰を無くしたらチェイサーにも慕われるし……もうやだ……アカデミアに帰りたい」

 

ついには膝を抱え、泣き出してしまう長官。ダメな完璧人間である。せめて方向性が悪党じゃなかったらどれだけ楽か。そんな彼の背後に、音もなく1人の男が現れる。

 

「……何をしている」

 

「ぬおっ!?びっくりしたぁ……プラシドか……」

 

プラシド、白いケープを被って顔を隠し、腰に1本の剣を差したこの男の名だ。神出鬼没、こうして音もなく現れる彼はロジェにとって上司にあたるものだ。尤も、それはアカデミアの地位だが。ロジェもこの男の言う、予言のようなものには滅多に外れがない為信頼をおいている。

 

「なぁ、お前、お面ホイーラーを何とか出来たりしないか?」

 

「……何とも言えんな」

 

プラシドならばもしかすると、と思い、ロジェは疑問をぶつけるも、彼の返答にはどうだろうな、と言うものしかない。

 

「まぁ、もしかすれば――」

 

「?」

 

顔を上げ、ケープに隠された視線をモニターに移すプラシド。そんな彼の様子を見て、思わずロジェは首を傾げる。

 

「何とかなるかもしれん――」

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!俺は『サムライソード・バロン』を召喚!」

 

サムライソード・バロン 攻撃力1600

 

227の手より召喚されたのはポリスモンスターの1体、両手、そして背から刀を伸ばした侍のモンスターだ。

 

「レベル4の『サムライソード・バロン』にレベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!シンクロ召喚!『ゴヨウ・ガーディアン』!!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800

 

ここでついに『ゴヨウ』モンスターの代表格が登場する。歌舞伎を意識した白い面に赤の隈取り、その身に着物を纏い、十手を握ったモンスター。

長い間このカード自身が御用となっていたが、つい最近制限カードへと緩和されたのだ。レベル6で攻撃力2800と同じ種族、属性、レベルのガイアナイトを蹴り飛ばすステータスと加え、『ゴヨウ』特有のモンスターを奪う効果。尤も守備表示だが――デメリットなし、元祖に相応しい強力な性能だ。

 

「シャバの空気は美味いだろう!バトル!『ゴヨウ・ガーディアン』で『ジャンク・バーサーカー』へ攻撃!」

 

「罠発動!『くず鉄のかかし』!」

 

だが彼は忘れていた。彼等のフィールドにこのカードがセットされている事を。折角出した切り札の攻撃が打ち消され、気不味い空気がその場を支配する。

 

「……お前、何がしたかったんだ?」

 

「う、うるさい!セットカードが変わってないか確認しただけだ!」

 

思わず心配するユーゴに対し、227は顔を真っ赤にして反論する。

 

「クソゥ、カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP2800

フィールド『ゴヨウ・ガーディアン』(攻撃表示)『ゴヨウ・ディフェンダー』(攻撃表示)×3

セット1

手札0(227)手札0(110)

 

『おおーっと227痛恨のミス!これは恥ずかしいぞー!』

 

「うっうるさい!それ以上いじるなっ!」

 

実況するメリッサもこれには苦笑い。ミスをつつき、227をいじり倒す。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『調律』を発動!『ジャンク・シンクロン』をサーチし、デッキトップを墓地に!そして召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

「『チューニング・サポーター』を吊り上げる!」

 

チューニング・サポーター 守備力300

 

「更に墓地からモンスターを蘇生した事で手札の『ドッペル・ウォリアー』を特殊召喚!」

 

ドッペル・ウォリアー 守備力800

 

次は銃を持ち、黒い装備に身を包んだ戦士族。『ジャンク・シンクロン』とは抜群の相性を誇るカードだ。

 

「まずはレベル1の『チューニング・サポーター』にレベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『アームズ・エイド』!」

 

アームズ・エイド 攻撃力1800

 

ここで現れたのは黒光りする赤い爪を伸ばした右腕のみのモンスター。

 

「『チューニング・サポーター』の効果でドロー!」

 

お面ホイーラー 手札1→2

 

「そして『アームズ・エイド』を攻撃力1000アップの装備カードとしてクリアウィングに装備!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→3500

 

ガシャン、『アームズ・エイド』が宙を舞い、クリアウィングの右腕へと装備される。これでクリアウィングは戦闘においても頼りになる1枚となった。

 

「手札のモンスターを捨て、『クイック・シンクロン』を特殊召喚!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

「レベル2の『ドッペル・ウォリアー』にレベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし叫びが木霊の矢となり空を裂く!光差す道となれ!シンクロ召喚!『ジャンク・アーチャー』!」

 

ジャンク・アーチャー 攻撃力2300

 

更にシンクロ、次に登場したのは鳥帽子を模した頭部にオレンジ色のボディ、そして弓矢を持った弓兵のモンスターだ。

 

「効果発動!『ゴヨウ・ディフェンダー』を除外する!やっちゃってアーチャー!ディメンジョン・シュート!」

 

「ぐっ!」

 

「更に『ジャンク・バーサーカー』の効果で『ジャンク・シンクロン』を墓地から除外し、『ゴヨウ・ディフェンダー』の攻撃力をダウン!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000→0

 

「バトルだ!クリアウィングで『ゴヨウ・ガーディアン』に攻撃!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!」

 

クリアウィングがその翼に風を逆巻き、烈風を纏って『ゴヨウ・ガーディアン』に突撃する。薄く鋭い翼は刃となって『ゴヨウ・ガーディアン』を切り裂き、爆発を起こす。

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP2800→2450

 

「『アームズ・エイド』の効果で『ゴヨウ・ガーディアン』の攻撃力分、ダメージを与える!」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP2450→1050

 

「ぐおぉぉぉっ!?」

 

「『ジャンク・バーサーカー』で攻撃力が下がったディフェンダーに攻撃!」

 

「『ゴヨウ・ディフェンダー』の効果で攻撃力アップ!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力0→1000

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP1050→200

 

「とどめだ!『ジャンク・アーチャー』でディフェンダーに攻撃!スクラップ・アロー!」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP200→0

 

『決まったー!長きに渡る激闘に幕を下ろす一撃!勝者は少年とお面ホイーラー!』

 

木霊の矢が2人のLPを貫き、この激闘を制す。モニター越しにこの光景を見る長官も溜め息を吐き出す。デュエル以外で拘束しようとしてもあの巨大なD-ホイールを止められる訳が無い。敗者は大人しく手を引くのみ。ユーゴ達が逃げ、お面ホイーラーが空に帰っていくのを目で追いながら、今日も長官は処理に追われるであろう未来を想像し、膝を抱えて泣いた。

 

――――――

 

パチリ、と目を覚ます。目の前に広がるのは廃墟のような薄暗く、ひび割れた空間。ここはどこだろうか、少年、コナミは考える。

トレードマークの赤帽子を深く被り直し、その上に装着されるゴーグルが外からの日差しで光を反射する。確か自分はブルーノとデュエルをして――シンクロ次元へ――。

そこまで考え、この場所に察しがつく。

 

「シンクロ次元……なのか……?」

 

疑問を浮かべながら立ち上がり、外へ向かって歩み出す。外からの光に慣れてないせいか、眩しく、思わず手で目を守りながら徐々に慣らしていく。そこにあったのは――自分のイメージとは駆け離れた、近未来的な建築物の数々。しかしコナミには分かる。ここが――シンクロ次元だと。

 

「起きたか……」

 

と、ここでコナミの背後から声がかけられる。そうだ、自分は元々ランサーズのメンバーと共にここに来たのだ。仲間がいてもおかしくないと振り返り、その表情を驚愕に染める。何故ならそこにいたのは――。

 

「ユー……ト……?」

 

実体を持った、ユートの姿だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここのロジェ長官はセルゲイと仲良く日常系アニメを見ます。


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第96話 お粗末なデッキ

七夕の小ネタ

コナミ「遊矢は何を書いたんだ?」

遊矢「俺は取り敢えず無事で皆一緒に帰る事かな。コナミは?」

コナミ「ふふっ、なーいしょっ☆」

遊矢「こいつぅ~☆」




遊星、誕生日おめでとう コナミ。

モクバ「……俺は?」




跳ねた前髪に鋭い目付き、身体には暗い色のシャツとネクタイ、黒いマントを纏った少年、ユート。榊 遊矢と似た顔立ちの少年を連れ、コナミはシティの繁華街を歩んでいた。

彼が何故か実体を持って蘇った理由は謎で、コナミも一瞬驚いたが――彼にとっては超常現象は何時もの事、直ぐ様持ち直し、コナミ達は自分達がやるべき事を浮かべていく。

 

まずは仲間探し、それもランサーズのメンバーだ。次元移動が不安定だったのか、それとも着地点がズレたのかは分からないが、廃墟にはコナミ以外のランサーズのメンバーはいなかった。恐らく皆バラバラに転送されている可能性もある。まずは合流を目指すべきだろう。

これはデュエルディスクの通信手段を使おうとしたが――近未来的な建物の影響か、通信機能が使えなくなっている。幸いなのはデュエル自体は出来る事か。

次に仲間集め、こちらはシンクロ次元のだ。元々の指針でもあり、現地の者にここの様子を聞くべきだろう。

そしてユートのデュエルディスク作成と、彼のデッキ作り。彼は今、デュエルディスクもデッキもない。デュエルディスクはコナミが捨てられていた旧型の廃品を修理して既に作成し、デッキは落ちているカードを拾ったり、コナミのポケットに突っ込まれたカードを貸して一応の完成を見せた。恐らく彼本来のデュエルディスクとデッキは零児が持っている為、合流した時に返してもらうまでの我慢だ。

そして最後は――。

 

「金がない」

 

「うむ」

 

そう、金がない。シンクロ次元出身と言っていたイェーガーが最低限の金を与えてくれたが、持っているのは零児だ。コナミ達が持っているのは、スタンダード次元の金と、ここでも通用する事を確認したデュエルをすると自動的にデュエルディスクに送られる、通貨代わりとなるデュエルポイント、DPのみ。

コナミはかなりデュエルをしている為、余裕はあるが、それでも限界があるのでそこまで使う訳にはいかない。使うのは生活にかかる金位だ。せめて自分のDPも使えれば、とユートは何やらカチャカチャしているコナミに視線を向ける。

 

「……さっきから何をしているんだ?」

 

「何時までいるかは分からないから一応作っておくべきと思ってな、ほれ、偽の身分証明書。これからはオレの名はダニエル。お前の名はナッシュだ」

 

「何て物を作ってるんだお前は、法に触れるぞ」

 

「バリアン警察手帳もあるぞ」

 

「何だそれは……随分手が込んでいるな……」

 

法には触れるが、確かにこれは持っていても困らないだろう。幸いコナミの腕が良いのか、かなり作り込んでいてバレる事も無いだろう。仕方無いと溜め息をつき、ユートは一応受け取っておく。決してバリアン警察手帳が欲しかった訳じゃない。

 

「まぁ、元々パスポートも無しに海外に来たようなものだ。気にするな」

 

「……こ、国内だから」

 

良い子は決して真似してはいけない。

 

「で、どうする?金の方は?」

 

「オレに良い考えがある」

 

「その台詞は悪い予感しか無いのだが……」

 

胸を張り、フ、と笑みを深めるコナミの背後に変形ロボットの幻が見え、ユートが嫌な予感がすると顔をしかめる。しかし、コナミは大丈夫だとユートの肩にポンと手を置く。

 

「オレ達デュエリストの稼ぎ方なんて――いくらでもあるだろう――?」

 

――――――

 

「さぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!楽しい楽しいデュエルチャレンジだよー!」

 

数分後、人々が集まる広場にて、そこには挑戦者求ム!と書かれた看板を掲げて声を上げるコナミと、げんなりした表情のユートの姿があった。

挑戦者参加型の公開デュエル。それがコナミの提案したものだった。これならば仲間が聞き付ける可能性もあり、デュエルだからDPも稼げると言う訳だ。

 

「おいコナ……ダニエル、良い案かもしれんが、お前がやった方が良いんじゃ無いか?」

 

「勿論オレもやるが、交代制だ。午後からはオレが出る」

 

「むぅ……」

 

そう言われては仕方無い。ユートはヤケクソ気味に「誰でも良いからかかって来い!」とキャラ崩壊しながら叫ぶ。するとどうだろうか?ワイワイガヤガヤとこちらの様子を観察し、お前行けよ、いやお前が行けって等と騒ぐ街の住人の分厚い壁をモーゼの如く割り、金色の甲冑の男が現れる。

 

兜の後ろで舞う赤い毛、キリリとした目付きに整えられた口髭。右腕には金色に輝く、アカデミアのものとはまた違う、盾を模したデュエルディスク。正しく騎士。厳格そうな男の登場にユートがゴクリと唾を呑み込む。

 

「貴公等、対戦相手を望んでいるのか?」

 

「え、ええ……」

 

「ほう……ならば丁度良い、私も大会に向けてデッキ調整が出来る相手を求めていたのだ。見た所貴公達は強い。私には分かる、そこの少年の修羅場を潜り抜けて来たような闘気に、帽子の少年の異様な感覚……正しく私の求めていた相手!このデュエル、挑ませてもらう!」

 

どうしよう、何か良い人なんだろうけど、ちょっと暑苦しくて面倒臭い。何故自分の所にはこんな感じの奴が集まって来るのだろうかとユートは唇を噛む。

遊矢から分離したと思ったらコナミとシンクロ次元に転送されたと言うのも何か悪意を感じる。

とは言えこの騎士の男は恐らくかなりの強者だろう。ユートとコナミの腕を見抜く目に、纏う闘気も凄まじい。口だけの者じゃないとユートは察する。

面白い、相手が騎士ともあってユートも燃える。本来のデッキで闘えないのが口惜しいが――この挑戦を受け入れる。

 

「その挑戦、承った」

 

「そう来なくてはな!私の名はジル・ド・ランスボウ!少年!貴公の名を聞こう!」

 

「旅行者、ナッシュ!行くぞ!」

 

自身の名を名乗れないのも口惜しい。ユート、ナッシュとジルは互いに旧型と特注品の対照的なデュエルディスクを構え、口火を切る。

 

「「デュエル!!」」

 

始まるエクシーズ次元とシンクロ次元、黒と白の騎士によるデュエル。先行はチャレンジャーであるジルだ。彼はデュエルディスクに先攻を告げる赤いランプが点滅したのを確認し、5枚の手札で戦術を練る。

 

「私のターン、私は『聖騎士モルドレッド』を召喚!」

 

聖騎士モルドレッド 攻撃力1700

 

現れたのは金髪に少し黒ずんだ鎧、深紅のマントを靡かせた騎士。『聖騎士』――ユートも良く知っている、アーサー王伝説に登場する人物をモチーフとした戦士族のカテゴリだ。エクシーズモンスターも存在するが――彼はシンクロ次元の人間、恐らく持ってはいないだろう。

このモンスターは黒幕とも言える騎士、モルドレッド。それを表すように彼の影が悪魔のような形をしている。しかし『聖騎士』、やはりこう言ったカテゴリだったか、つくづく『幻影騎士団』で闘いたかったとユートはデッキに視線を移す。このデッキでどこまで彼に通用するか、実力が問われる。

 

「そして装備魔法、『聖剣カリバーン』をモルドレッドに装備!攻撃力が500アップし、同時にモルドレッドの効果が発動し、レベルも1つ上がり、闇属性となる!」

 

聖騎士モルドレッド 攻撃力1700→2200 レベル4→5

 

モルドレッドにより、伝説の『聖剣』が引き抜かれる。翡翠の輝きを見せる刀身、選ばれし者が使っていない為、その光は少し落ちている。

 

「カリバーンの効果により、私はLPを500回復!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4000→4500

 

「更にモルドレッドの効果発動!自分フィールドにこのカード以外のモンスターが存在しない場合、デッキから『聖騎士』を守備表示で特殊召喚する!来い!『聖騎士ボールス』!」

 

聖騎士ボールス 守備力900

 

モルドレッドに呼び出されたのは黒い短髪に青と銀の鎧、赤のマントを背から伸ばした聖杯を持った騎士。

 

「そしてカリバーンは破壊され、カリバーンの効果でこのカードをボールスに装備する!ボールスの効果も発動。レベルが1つ上がり、闇属性となる!」

 

聖騎士ボールス 攻撃力1700→2200 レベル4→5

 

「カリバーンの効果で回復!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4500→5000

 

「更にボールスの効果発動!デッキから3枚の『聖剣』を公開し、その中の1枚を相手はランダムに選ぶ!私は『聖剣を抱く王妃ギネヴィア』と『天命の聖剣』、そして『聖剣ガラディーン』を公開!」

 

ソリッドビジョンにより、ジルのデッキから3枚のカードが投影され、裏側となってシャッフルされる。どうやら全て同じカードでは無いらしい。『聖剣』はどれも1枚しかフィールドに存在出来ない為、当然と言えば当然か。

 

「俺は左のカードを選ぶ」

 

「うむ、選ばれし『聖剣』は『天命の聖剣』!手札に加え、残る2枚は墓地に送られる。しかし!ギネヴィアは墓地より攻撃力300アップの装備カードとして『聖騎士』に装備出来る!モルドレッドに装備!」

 

聖騎士モルドレッド 攻撃力1700→2000 レベル4→5

 

墓地より蘇り、モルドレッドに装備されるギネヴィア、ゾンビなビッチ、ゾンビッチである。たまごっちの仲間では無い。

 

「そして『天命の聖剣』をボールスに装備!装備モンスターは1ターンに1度、戦闘及びカードの効果で破壊されなくなる。私はこれでターンエンド。さぁ、ナッシュ殿よ、貴公の実力を見せてくれ!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP5000

フィールド『聖騎士モルドレッド』(攻撃表示)『聖騎士ボールス』(守備表示)

『聖剣を抱く王妃ギネヴィア』『聖剣カリバーン』『天命の聖剣』

手札3

 

ジルのターンが終わり、ユートへと移る。相手フィールドのギネヴィアは闇属性モンスターに装備されている場合、装備モンスターと戦闘を行うモンスターをダメージステップ開始時に破壊する効果がある。そしてボールスには耐性を与える『天命の聖剣』、防御としては中々の布陣だ。これを突破するのは少々骨が折れそうだ。

 

「俺のターン、ドロー!これならば――俺は『ツイン・ブレイカー』を召喚!」

 

ツイン・ブレイカー 攻撃力1600

 

ユートの手札から登場したのは鳥帽子に黒いマスク、和風の衣装に身を包み、手には3本の剣を獣の爪のように取り付けた手甲を纏った如何にも武人と言った風貌のモンスター。ハマれば実に優秀なアタッカーとなるカード、拾い上げたカードの1枚であり、こんなものまで捨てられているのかと驚愕したものだ。

 

「む、『ツイン・ブレイカー』か……中々渋いカードを使う」

 

実はこのカード、シンクロ次元では良く構築済みデッキに投入されているカードであり、素人は勿論、玄人もこのカードの持つ可能性には舌を巻いている。恐らくはこのカードを持ち過ぎた価値も分からない人間が捨てたのだろう。

 

「バトル!『ツイン・ブレイカー』でボールスに攻撃!このモンスターには貫通効果がある!ダブル・アサルト!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP5000→4300

 

「む、ぐっ――!」

 

『ツイン・ブレイカー』が右手の剣を振るい、ボールスを切り裂く。守備表示だろうと容赦なく貫通させる効果。そしてもう1つの効果が『天命の聖剣』の破壊耐性を逆手に取る。

 

「『ツイン・ブレイカー』は守備表示モンスターへ攻撃した場合、もう1度攻撃出来る!『天命の聖剣』が裏目に出たな!もう1度ボールスへ攻撃!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4300→3400

 

貫通に2回攻撃と1枚で噛み合い、完成された効果、これこそが『ツイン・ブレイカー』がアタッカー足り得る力だ。追撃がボールスを破壊し、LPを大きく削り取った。

 

「ぐぬぅ……見事!そうで無くてはな!フィールドで破壊された『聖剣』の効果により、この2枚をモルドレッドへ装備!」

 

聖騎士モルドレッド 攻撃力2000→2500

 

「カードを2枚セットし、ターンエンド!」

 

ナッシュ LP4000

フィールド『ツイン・ブレイカー』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

攻め込んだは良いが、『ツイン・ブレイカー』の攻撃力は1600と少し頼りない。ユートは2枚のカードをセットして守りを固める。この紙束に等しいデッキで彼とどこまで渡り合えるか、観戦するコナミはユートの実力に期待する。

 

「私のターン、ドロー!カリバーンの効果で回復!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP3600→4100

 

「そしてモルドレッドの効果でデッキから『聖騎士アルトリウス』を特殊召喚!」

 

聖騎士アルトリウス 守備力1800

 

登場したのはアーサー王伝説、主人公のアルトリウスだ。守備力は1800、『ツイン・ブレイカー』では突破出来ない。

 

「カリバーンを破壊し、再びモルドレッドへ装備!」

 

聖騎士モルドレッド 攻撃力2000→2500

 

「LPを回復!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4100→4600

 

名指しでは無い1ターンに1度の効果を利用し、カリバーンから放たれる光がジルに生命力を与える。これでLPは4600、折角削った分が戻っていく。早く何とかしなければジリ貧だ。

 

「アルトリウスをリリースし、私は『マスクド・ナイトLV5』をアドバンス召喚!」

 

マスクド・ナイトLV5 攻撃力2300

 

登場したのは仮面を着けた騎士。珍しい『LV』モンスターの1種であり、彼が昔から愛用するカードだ。

 

「バトル!モルドレッドで『ツイン・ブレイカー』に攻撃!」

 

「罠発動!『重力解除』!フィールドの全ての表側表示のモンスターの表示形式を変更!」

 

貴重なアタッカーが破壊されるのは見逃せない。何しろこのデッキは汎用カードなんて無いに等しいのだ。『死者蘇生』どころか、『リビングデッドの呼び声』等の蘇生カードが無いこのデッキでは『ツイン・ブレイカー』が倒されれば回収手段も限られる。ユートは罠を使い、何とかかわし、更に次のターンの『ツイン・ブレイカー』の攻撃に繋げる。

 

「珍しいカードを使うのだな、いや、シティはそんな事ザラだと聞いたな……メインフェイズ2、『マスクド・ナイトLV5』の効果で相手に1000のダメージを与える!」

 

ナッシュ LP4000→3000

 

「くっ――!罠発動!『白衣の天使』!戦闘、または効果ダメージを受けた時、LPを1000回復する!」

 

ナッシュ LP3000→4000

 

戦闘が駄目なら効果ダメージで、マスクド・ナイトが光の剣でユートを切り裂いた瞬間、ユートの背後に『白衣の天使』が現れて治療する。このカードも拾ったカードの1枚だ。かなり古く、他にも使い勝手のあるカードのある今では見かける事もない。

 

「これまた古いカードだ。しかしそれでも充分私と闘えている。デュエリストの腕が良いと見た」

 

「いや、カードが良いからさ」

 

「フ、そうか……私はカードを伏せ、ターンエンド」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4600

フィールド『マスクド・ナイトLV5』(守備表示)『聖騎士モルドレッド』(守備表示)

『聖剣を抱く王妃ギネヴィア』『聖剣カリバーン』『天命の聖剣』セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!俺は速攻魔法、『帝王の烈旋』を発動!このターン、アドバンス召喚する際、相手モンスター1体を代わりにリリースする!……、……!」

 

発動されたのはエクストラデッキからの特殊召喚を封じる事でバトルフェイズが可能となる『クロス・ソウル』と似たカード。これならば相手の強力なモンスターもリリースで除去出来るのだが――ユートはこれ本当にやって良いのか?と眉間に皺を寄せ、ぐむむと唸る。コナミと言えば彼が睨むカードに察しがついたのか、あっと口を開いている。

 

「どうしたナッシュ殿!私ならばモンスターをリリースされても怒りはしない!これは真剣勝負!貴公の全力を出すのだ!」

 

何時までも唸るユートを心配してか、ジルが声をかける。良い奴である。騎士道精神に溢れている。だからこそ――罪悪感が吹き出る。

 

「分かった、行くぞ!俺はモルドレッドをリリースし――アドバンス召喚!」

 

黒雲が空を制し、バリバリと紫色の雷が鳴り響く。天より漆黒の雫が溢れ落ち、巨大な悪魔の影を地面に写す。何が来る。妖しく、異様な空気がその場を支配し、誰もが緊張する中、それは巻き起こる。

地面に落ちた漆黒の雫がユートの眼前で竜巻のように逆巻いてバチバチと紫電が迸る。そして中から――神々しき光が黒雲を晴らし、現れたのは太陽のような山吹色の翼、深い海を思わせる体躯、天をも裂く鋭い鉤爪――。

 

「『モリンフェン』!!」

 

モリンフェン 攻撃力1550

 

今ここに――悪魔が聖誕した――。

 

「も、『モリンフェン』……だと……!?」

 

「『モリンフェン』だ……」

 

「まさかあのカードが見られるなんて……」

 

「あの少年、一体何者なんだ……!」

 

「嵐が……来るぞい……!」

 

「ちょっ、長老!」

 

現れたのモンスターを見て、次々と観客達が騒ぎ立てる。その視線の先には神々しい後光を引き連れた悪魔の姿。

『モリンフェン』、それはレベル5、闇属性、悪魔族、攻撃力1550、守備力1300の通常モンスター。そう、何とこのカード、相手がLP1550以下の場合、ダイレクトアタックするだけで勝利出来るのである。強い。

他にも様々な伝説を持つこのカードは一部でカルト的な人気を誇っており、また存在自体が幻とされるカードだ。

 

「まさか……貴公が『モリンフェン』使いだったとは……フッ、面白い!相手にとって不足無し!さぁ、来るが良い!」

 

「え、ええぇ……お、俺は『ツイン・ブレイカー』を攻撃表示に変更し、バトル!『ツイン・ブレイカー』でマスクド・ナイトへ攻撃!」

 

「させん!罠発動!『威嚇する咆哮』!プレイヤーに影響を及ぼすこのカードならば、『モリンフェン』とて抗えない!」

 

「くっ、そんな効果無いんだけどな……俺はカードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

ナッシュ LP4000

フィールド『モリンフェン』(攻撃表示)『ツイン・ブレイカー』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「私のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、『マスクド・ナイトLV5』を墓地に送り、レベルアップさせる!デッキから特殊召喚!『マスクド・ナイトLV7』!!」

 

マスクド・ナイトLV7 攻撃力2900

 

マスクド・ナイトが進化を遂げ、2メートル程の片翼の騎士となる。攻撃力2900、戦士族の中では破格の数値だ。そして――その効果も成長している。

 

「マスクド・ナイトの効果により、1500のバーンダメージを与える!」

 

「何っ!?」

 

ナッシュ LP4000→2500

 

1500のこれまた破格のバーン効果。しかもLV5と違い、この効果を使っても攻撃可能だ。

 

「更にチューナーモンスター、『湖の乙女ヴィヴィアン』を召喚!」

 

湖の乙女ヴィヴィアン 攻撃力200

 

現れたのはスッ、と宙に浮かぶ『聖剣』を抱いた幻想的な雰囲気を醸し出す1人の少女。水の妖精とも呼ばれる乙女だ。チューナーモンスター、つまりここから彼が行おうとしているのは――。

 

「シンクロか……!」

 

「ご名答!ヴィヴィアンの効果により墓地の『聖騎士』通常モンスター、『アルトリウス』を特殊召喚!」

 

聖騎士アルトリウス 攻撃力1800

 

「いざ参る!レベル4の『アルトリウス』にレベル1のヴィヴィアンをチューニング!シンクロ召喚!『魔聖騎士皇ランスロット』!!」

 

魔聖騎士皇ランスロット 攻撃力2100

 

アルトリウスに『聖剣』が渡り、更なる進化を遂げる。現れたのは皮肉にも、アーサー王の宿敵、裏切りの黒騎士、『ランスロット』。ジルのマスクド・ナイトと並ぶエースカードだ。

 

「そして『ランスロット』がシンクロ召喚した時、デッキの『聖剣』を装備する。私が装備するのは『ランスロット』卿の名剣、『聖剣アロンダイト』!『ランスロット』の攻撃力を500ダウンし、貴公のセットカードを破壊!」

 

魔聖騎士皇ランスロット 攻撃力2100→1600

 

「むしろ有り難い!セットされた『リ・バウンド』が破壊された事でカードを1枚ドロー!」

 

ナッシュ 手札2→3

 

「何と……!?謀られた訳か、良いだろう!バトルだ!『ランスロット』で『モリンフェン』に攻撃!」

 

ナッシュ LP2500→2450

 

『ランスロット』が赤き瞳を閃かせ、その手に持ったアロンダイトで『モリンフェン』を一閃、切り伏せる。如何にも『モリンフェン』が強力なネタモンスターであろうと攻撃力が上回っている『ランスロット』には勝てない。

 

「『モリンフェン』が!ナッシュのエースが!」

 

「勝手にエースにするな!」

 

「『ランスロット』の効果で『魔聖騎士ランスロット』をサーチ!更にマスクド・ナイトで『ツイン・ブレイカー』に攻撃!」

 

ナッシュ LP2450→1150

 

「ぐっ――!」

 

マスクド・ナイトが光の剣を創造し、『ツイン・ブレイカー』と切り結び、怒濤の突きで身体を貫き吹き飛ばす。『モリンフェン』だけで無く、『ツイン・ブレイカー』までも戦闘破壊、LPも大きく削られてしまった。

 

「メインフェイズ2、私は墓地のギネヴィアを『ランスロット』に装備!」

 

魔聖騎士皇ランスロット 攻撃力1600→1900

 

「ターンエンドだ」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4600

フィールド『マスクド・ナイトLV7』(攻撃表示)『魔聖騎士皇ランスロット』(攻撃表示)

『聖剣を抱く王妃ギネヴィア』『聖剣アロンダイト』

手札3

 

「俺のターン、ドロー!俺は『メカレオン』を召喚!」

 

メカレオン 攻撃力800

 

ここで登場したのはカメレオンの姿をした通常モンスター、『モリンフェン』と違い、その知名度の無さから何、あのモンスター?等と騒がれている。確かに、このモンスターは余り知られていないし、弱い。もっとステータスの高いモンスターも存在するし、ステータスの低さをとるならば他のモンスターの方が良いだろう。きっとユートにとっても、自身のデッキを取り戻せばいらなくなるカード。

だが――今この時は、共に闘う仲間だ。コナミの親友に、この世に使えないカードは無いと言った男がいた。良い言葉だ。コナミだってそう思う。だが、使われないカードはある。誰にも見向きもされず、捨てられるカード。残酷なものだ。デュエルモンスターズが人気であるからこそ、新しいカードが作られ、使われないカードが増え、使われるカードも増える。そのカードに眠る精霊達はそれでもデュエリストを憎まず、悲しむ。だが今この時、この一瞬だけは――彼等は喜ぶ。デュエリストと共に、闘える事を。

 

「何でも良い……相手がどれだけ馬鹿にしようと、使われる事に、意味がある」

 

唇を噛み締め、コナミは小さく呟く。確かに、この世には使われないカードはある。だが――使えないカードは、たった1枚も無い。どれだけ否定されようと、コナミはその言葉を信じる。それが、自身を愛してくれるカード達への想いだ。

 

「『メカレオン』……ふむ、見かけないカードだ。侮っている訳では無いだろうが――」

 

「無論だ。確かにこのデッキは1枚1枚が拾ったカード。だが――負けるつもりは無い!装備魔法、『バスターランチャー』を『メカレオン』に装備!」

 

小さなカメレオンがその舌で身の丈に合わぬ巨大なランチャーを掴む。これも見ないカード、通常モンスターならば『下克上の首飾り』が来ると思ったが――生憎、このデッキは使われないカードのオンパレード、尤も、このカードはその中でもマシだが。

 

「どれだけ言い繕っても、弱いカードは弱い。大切なのは、その弱さを認めてやる事だ。何せデュエルは――1枚のカードで闘う訳じゃない」

 

この世には、弱いカードは幾らでもある。だが、弱いカードを助けるカードも、幾らでもある。

 

「バトル!『メカレオン』でマスクド・ナイトに攻撃!そして『バスターランチャー』の効果!ダメージ計算時、相手モンスターが攻撃表示なら攻撃力、守備表示ならば守備力2500以上の場合、装備モンスターの攻撃力を2500アップ!」

 

メカレオン 攻撃力800→3300

 

「何と――っ!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4600→4200

 

攻撃力1000以下のモンスターだからこそ、『バスターランチャー』を使う資格がある。ランチャーの砲門へと光が集束し、放出、巨大なレーザーがマスクド・ナイトを焼き尽くし、跡形も無く消し去る。『メカレオン』も強力なモンスターに下克上を果たした為か、どこか嬉しそうだ。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンド!」

 

ナッシュ LP1150

フィールド『メカレオン』(攻撃表示)

『バスターランチャー』セット2

手札0

 

「私のターン、ドロー!見事!私のマスクド・ナイトを倒すとは……が、しかし!私の剣は尽きていない!アロンダイトの効果により、右のセットカードを破壊!」

 

「速攻魔法発動!『エネミーコントローラー』!『メカレオン』をリリースし、『ランスロット』のコントロールを奪う!←→AB!」

 

「Cボタンは特に必要ない!」

 

魔聖騎士皇ランスロット 攻撃力1900→1600

 

アロンダイトで破壊されそうになった『エネミーコントローラー』がソリッドビジョンで浮かび上がり、コマンド入力によって『ランスロット』をコントロールを奪う。

 

「ほう……ならば儀式魔法、『超戦士の儀式』!」

 

「儀式だと!?」

 

何とここでジルが取ったのはシンクロではなく儀式魔法。確かに召喚ごと分かれた次元でも、アドバンスと儀式召喚までは分かれていない。使い手がいてもおかしくないが――まさかここで引き込むとは。

 

「手札より『伝説の預言者マーリン』と『魔聖騎士ランスロット』をリリースし、儀式召喚!『超戦士カオス・ソルジャー』!!」

 

超戦士カオス・ソルジャー 攻撃力3000

 

マスクド・ナイトと『ランスロット』、そして引き抜かれる3本目の剣、『カオス・ソルジャー』。かつて忘れ去られた伝説の決闘王が使ったモンスターが今、進化して蘇る。漆黒と金の鎧を纏い、その手に煌めく剣を握った凄まじき闘気を放つ剣士が地に降り立つ。

 

「『カオス・ソルジャー』……!」

 

「うむ!これこそが私の最後の剣!とは言えギネヴィアを装備した『ランスロット』がいては攻撃出来ん。カードを1枚セットし、ターンエンド!この瞬間、『ランスロット』のコントロールは戻る」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4200

フィールド『超戦士カオス・ソルジャー』(攻撃表示)『魔聖騎士ランスロット』(攻撃表示)

『聖剣を抱く王妃ギネヴィア』『聖剣アロンダイト』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!手札の『パペット・プラント』を捨て、効果発動!相手フィールドの戦士族モンスター、『ランスロット』のコントロールを奪う!そしてバトル!『ランスロット』で『カオス・ソルジャー』へ攻撃!ギネヴィアの効果で破壊!」

 

「ぐぬっ――!」

 

ギネヴィアの効果を利用し、強力な『カオス・ソルジャー』を砕く。『ランスロット』がアロンダイトに手に鋭い斬撃を叩き込み、返しの刃からギネヴィアが『ランスロット』を守る。

 

「『カオス・ソルジャー』がこうも呆気なく倒されるとは……」

 

「フ、俺はこれでターンエンドだ」

 

ナッシュ LP1150

フィールド

セット1

手札0

 

モンスター0、手札0、あるのはセットカード1枚のみ。その頼りない布陣に、今まで観戦して来た者も明らかに落胆する。良く頑張ったが――拾ったデッキではここまでか――。

しかしそうは思えない者がここに3人、観戦するコナミ。闘う本人であるユート、そして――ユートと向かい合うジル。彼は分かっている。目の前の男がここで終わる男じゃないと。

 

「私のターン、ドロー!アロンダイトの効果でセットカードを破壊!」

 

「セットカードはモンスターカード、『アーティファクト―モラルタ』!特殊召喚する!」

 

「モンスターカードを魔法、罠ゾーンに!?」

 

魔聖騎士皇ランスロット 攻撃力1100→1600

 

アーティファクト―モラルタ 守備力1400

 

ここで登場したのは何と魔法、罠ゾーンにセット出来るモンスター。アロンダイトの効果を使ってしまったが為、ユートが優勢となった。

 

「モラルタの効果で『ランスロット』を破壊!」

 

「罠発動!『天地開闢』!デッキの『超戦士カオス・ソルジャー』、『カオス・ソルジャー―開闢の使者―』、『聖騎士ガラハッド』を公開!相手はランダムに1枚選び、そのカードが『カオス・ソルジャー』だった場合、私はそれを手札に加え、それ以外を墓地へ!」

 

「1枚のサーチと2枚の墓地肥やし……!」

 

『カオス・ソルジャー』及び、『暗黒騎士ガイア』モンスターが投入されているのが前提だが、戦士族モンスターにとってはとんでも無い墓地肥やしだ。

 

「俺は左のカードを選ぶ!」

 

「承った、選ばれたのはガラハド、残念ながら全て墓地に送られる。私は墓地の『超戦士の儀式』、『聖騎士アルトリウス』、『魔聖騎士ランスロット』を除外し、手札の『カオス・ソルジャー』を特殊召喚する!」

 

カオス・ソルジャー 攻撃力3000

 

ジルは最後の力を振り絞り、混沌の戦士をフィールドに呼び出す。青き鎧に一振りの剣、最強の戦士がフィールドに降臨する。

 

「往け!モラルタを攻撃!カオス・ブレード!」

 

剣のモンスターと『カオス・ソルジャー』が切り結び、激しき剣戟が響き合う。しかしモラルタには剣を振るう人間がいない。如何に素晴らしい名刀であろうと、その真価を発揮するには戦士が必要。『カオス・ソルジャー』の白黒の一閃に切り裂かれる。

 

「ターンエンドだ」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4200

フィールド『カオス・ソルジャー』(攻撃表示)

手札0

 

相手フィールドには攻撃力3000の『カオス・ソルジャー』に対し、ユートのフィールドは空、手札も無い。賭けられるのはデッキのカードのみ。しかも相手のLPは初期値から全く減っていない。正直強い。拾ったデッキで闘うには無謀な相手だ。

だが――彼が一緒に闘って来た友は、何時だって諦めず挑戦して来た。

 

「いくぞ!かっとビングだ!俺!ドロー!」

 

引き抜かれる1枚のカード。これならば――。

 

「魔法カード、『闇の誘惑』!2枚ドローし、手札の闇属性モンスター1体を除外!」

 

「ここで賭けに出るか!面白い!」

 

手札0からこのカード、賭けも賭け、とんでもないギャンブルだ。だがそれでも、このカードはこのデッキの中でも良い方のカード、賭けと言うならこのデッキで挑んだ時点で充分。

 

「ドロー!」

 

ナッシュ 手札0→2

 

「――!闇属性モンスター、『サイバー・ウロボロス』を除外し、このカードが除外された場合、手札を1枚捨て、1枚ドロー!」

 

ナッシュ 手札0→1

 

「捨てたカードは『魔轟神ルリー』!特殊召喚する!」

 

魔轟神ルリー 守備力400

 

次は仮面を被った小さな悪魔。足りない、足りない、手数が足りない。だからユートは手札を求める為、あらゆる手でカードを呼び込む。

 

「魔法カード、『天よりの宝札』!手札と自分フィールドのカードを除外し、2枚ドロー!」

 

ナッシュ 手札0→2

 

更にドロー。ここで使われたのは何とも使い勝手が悪い手札交換カード。それを使いこなし、2枚ドロー。だがまだまだ足りない。

 

「良し来た――っ!魔法カード、『カップ・オブ・エース』!」

 

発動されたのはまたもドローソース。ただしこのカードはコイントスを行い、自分か相手がドローするカード。もうこうなれば賭けまくる。ソリッドビジョンによってコインが出現。弾かれて宙でくるりと舞い、地に落ちてカラカラと回る。全ての運命を決めるコイントス。その場全員が唾を呑み込む中――下されたジャッジは、表。

 

「2枚ドローだ!」

 

「くっ――!」

 

ナッシュ 手札1→3

 

これで――勝利の方程式が完成した。

 

「『ラピッド・ウォリアー』を召喚!」

 

ラピッド・ウォリアー 攻撃力1200

 

登場したのは青と白のカラーリングをしたスマートなフォルムの機械戦士。このカードこそがユートがこのデュエルのフィニッシャーとして選んだモンスターだ。

 

「『ラピッド・ウォリアー』の効果発動!このターン、このモンスターはダイレクトアタックが可能!バトル!ラピッド・ウォリアーでダイレクトアタック!ウィップラッシュ・ワロップバーン!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4200→3000

 

「ぐぬぅ――!」

 

『ラピッド・ウォリアー』が稲妻の如く加速し、渾身の蹴りをジルへと直撃させる。ダメージ1200。決して少なくないダメージだが――今この時は圧倒的に少ない。ガリガリと地を削り、ジルが停止し、こらで終わりかとニヤリと笑う。

 

「どうした?こんなものか、ナッシュ殿!」

 

「何を勘違いしている?」

 

「――ッ!?」

 

しかし――ユートのお楽しみはここからが本番、彼は手札の1枚を翳し、勢い良くデュエルディスクに叩きつける。

 

「手札を全て捨て、速攻魔法、『狂戦士の魂』を発動!ダイレクトアタックで1500以下のダメージを与えた場合、俺はデッキトップをめくり、そのカードがモンスターだった場合、相手に500ダメージを与え、モンスター以外を引くまでこれを続ける!」

 

「――!ここでそのカード……ククッ、面白い!さぁ、来い!私は6回モンスターカードを引かれれば負けるぞぉっ!」

 

発動された、このデュエル、最後のカード、ジルのLPは3000、つまり6回連続でモンスターカードを引けばユートの勝ち。それ以外ならばユートの負け。ここが勝負所――。

 

「お楽しみは、これからだ!1枚目!『ハングリー・バーガー』!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP3000→2500

 

「2枚目!『ウィンドフレーム』!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP2500→2000

 

「3枚目!『火口に潜む者』!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP2000→1500

 

これで半分――1枚1枚引く度に、この場全員の鼓動が跳ね上がる。正にエンタメ、後、3枚――このドローが勝負を決める。ユートに応えるべく、カード達がジルに牙を剥く。

 

「4枚目!『かつて神と呼ばれた亀』!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP1500→1000

 

「5枚目!『チューン・ウォリアー』!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP1000→500

 

後、1枚――後1枚が、この勝負の分かれ道。ユートが勝つか、ジルが勝つか、ハラハラドキドキのラストドロー。ユートは勢い良く引き抜き――そのドローが、虹色のアークを描く。

 

「6枚目!『六武衆―ヤリザ』!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP500→0

 

「見事――!」

 

決着――大歓声が響き渡る中、ユートは声を張り上げ、ガッツポーズを取った――。

 

 

 

 

 




???「やはりヤリザ殿は優秀でござるな、ニサシ殿も見習うでござるよ」

と言う訳でジルさん登場の巻。自分的に5D,sの中でも好きなキャラです。アニメ原作ではアキさんの噛ませとして登場した金ぴか騎士です。この作品では二人称が少し変更し、暑苦しい騎士キャラとなります。
かぁーっ、幻影騎士団と闘わせたかったなぁー!



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第97話 だが俺はレアだぜ

七夕の小ネタ 裏側

コナミが働きますように リン
コナミが働きますように ツァン
コナミが働きますように ユーゴ

5000兆円欲しい 白コナミ





髪が欲しい 赤馬 零王


時は少しばかり遡る。コナミ達がこのシンクロ次元に到着した頃、遊矢もまたシンクロ次元へと足を踏み入れていた。その傍にいるのは――赤馬 零児の姿。しかも2人きりである。気不味い。

遊矢は淡々と歩く零児にチラリと視線を移し、何とも言えない気分を味わっていた。

そう、遊矢と零児には余り接点が無い。ランサーズのチームワークを磨く特訓でも忙しい彼とは主に事務的に顔を合わせるだけだったのだ。

言うなれば友達かな?それも少し違うか――とあやふやな関係。尤も最大の原因は零児の話しかけるのを躊躇うオーラと性格にあるが。

 

何せ彼、友達と言える人物がいない。認めたくないが、ぼっちに含まれる男なのだ。

唯一友達っぽい月影も上司と部下の関係。黒咲は多分否定する。それも、「え?友達だっけ?」と最も傷つく形で。最後に沢渡は――分からない。割りと本気で。

兎に角、ここにいるのは真澄んをも越えるエリートぼっち、赤馬 零児なのだ。ユートがいない事もこの気不味さに拍車をかけている。助けてユート。いやコナミのお守りで無理。

 

「な、なぁ」

 

「……何だ?」

 

ギロリ、遊矢が何か話題を、とこの空気に堪え切れず零児に声をかけた途端、鋭き眼光が遊矢を射抜く。怖い。隼とはまた違った怖さだ。

隼が猛禽だとすれば彼は獅子。またはそれを従える悪魔だ。思わず「ひぃっ」と喉から声が漏れる小動物。

しかし彼は零児と正反対に位置するリア充。コミュニケーション能力が高い彼はぼっちの鋭い威圧感を何とか押し退け話しかける。

 

「あ、あのさ、赤馬って何でアカデミアの事を知っていたんだ?チャンピオンシップの前から知ってるみたいだけど」

 

おどおどとしながらもしっかりと零児と目を合わせ、聞きたかった事を口にする。そう、どうにもこれが気にかかっていた。何故零児はアカデミアの事を最初から知っていたのだろうと。

 

「……昔、私が小さな子供だった頃、そう、君の父、榊 遊勝が失踪する前の事だ」

 

「……」

 

「私の父もまた、失踪していたのだ」

 

「……ぇ――」

 

ふと、声にならない声が漏れる。父の失踪。意外な形での共通点、それは――何かが繋がっていると感じ取ったから。そして――その勘は、的中する。

 

「母が悲しむ中、私は何とか手掛かりを探そうと父が研究を続けていた地下に足を運び――そこで次元転送装置を発見した」

 

「……」

 

遊矢は自然とデュエルディスクに視線を向ける。次元転送装置、今更思い知るがとんでもない代物だ。その雛形がまさか、零児の父が造ったものだったとは。

 

「私はそれを使い――融合次元、アカデミアに到着した」

 

「――!」

 

「そこで見たのは何だと思う?変わり果て、アカデミア総帥、プロフェッサーとなった父、赤馬 零王の姿だ」

 

絶句。赤の瞳が大きく見開かれ、頭の中が真っ白となる。零児の父が、アカデミアの総帥。そんな馬鹿なと思いながらも――合点がいったと、力強い説得力がある。だがまさか、彼の父があんな非道を行っているとは。遊矢はどんな顔をすれば良いのか分からなくなる。

 

「だが、この話には続きがある」

 

「?」

 

そう、話はここでは終わらない。むしろここからが問題。遊矢も関わって来る事だ。零児は足を止め、遊矢と向き合う。同じく足を止める遊矢。

 

「スタンダード次元に戻された私は、父を止める為、あるデュエリストへとこの話を持ち出し、協力を申し込んだ。その、デュエリストの名は――」

 

バクバクと心臓がうるさい位早鐘を打つ。息も出来ない圧迫感と緊張感。まさか、まさかと思考が駆け巡り、ゴクリと唾を呑み込む中――零児は眼鏡をかけ直し、その事実を告げる。

 

「榊 遊勝。私の父の友であり――君の父だ――」

 

「――ッ!」

 

予感は、的中する。全てが遊矢の中で繋がる。数年前の失踪に隠された真実。それが今、遊矢の前で明らかとなる。証人、赤馬 零児の口から。

 

「彼は私の父と友であったらしく、この件を承諾。そして調整中の次元転送装置を使い、私にも黙って行ってしまった。――すまない」

 

全ての真実を吐き出し、零児が目を閉じ、スッと頭を下げて謝罪する。突然の事に遊矢としては困惑しかない。だがそれでも、零児は責任は自分にあると頭を上げない。

 

「君の父が失踪したのも、君の父が臆病者と呼ばれるのも、君が臆病者の息子と呼ばれてしまったのも、全て私の責任だ。謝ろうと許される事では無い。憎んでくれても構わない。だが、どうか君の力を貸してくれ――」

 

それは、心からの謝罪なのだろう。目の前で初めて見る、赤馬 零児の弱い姿。確かに、彼のせいで全てがああなったのかもしれない。遊矢には、彼に罰を与える権利があるのかもしれない。彼の罪に対して、罰を決める権利が。

ならば――と遊矢は覚悟を決め、彼に歩み出る。

 

「顔を上げてくれ、赤馬」

 

「……」

 

「確かにさ、赤馬が今までこんな事を黙っていたのはムカついたけどさ、これ、父さんも悪いと思うんだよね」

 

「……は?」

 

ううむ、と唸りながら返答する遊矢に対し、零児の口から珍しく疑問が飛び出す。いや、これは正確には戸惑いか。何を言っているか分からない。と言う種類のものだ。

しかし遊矢としては――本当に零児だけが悪いとは思えないのだ。

 

「話を聞く限り、父さんが勝手に次元転送装置使ったみたいだし、俺達にも一切相談無いし、ストロング石島の試合が終わるか、事情を話して中断するかなりあっただろうに……ハァー、なんか昔っからそー言う所あるんだよなー父さん。何か抜けてると言うか、自分本位と言うか……な?」

 

「いや、な?と言われても」

 

尤もである。いきなり父について愚痴り出す遊矢に対し、何と返せば良いのか分からない零児。それもそうだろう、殴られても仕方が無いと思っていたのに、当の本人はのほほんとしているのだから。

 

「私は、君に罰せられなければいけないと――」

 

「ん、じゃあさ、お互い馬鹿やらかした父親叱りつけて謝らせて仲直りしよーぜ。はい決まり」

 

「はい決まり……っ!?」

 

あっけんからんと言い放つ遊矢。その強引な手にぼっちである零児は衝撃を受けて驚愕する。何とも軽い、事を重く受け止めてしまう零児としてはもにょってしまう。

 

「考え過ぎって言うか、責任感じ過ぎなんだよ赤馬は。元々悪いのはお前の父親みたいなんだからさ、知るかーってならない?」

 

「い、いやだがな?」

 

「お前友達いないだろ?」

 

「ぐっはぁっ!」

 

ついに飛び出す爆弾発言。零児の重い性格がとうとう面倒臭くなった遊矢がそうなんだろ?と視線を向け、図星をつかれた零児が胸を抑えて倒れ、マフラーが揺れる。

 

「何時かハゲるぞ」

 

「やめろ、それだけはやめろ」

 

実際父がハゲな零児はその言葉にハゲしく反応する。ぼっちでも良いが、ハゲるのだけは彼としては勘弁したい。

 

「1人で抱え込み過ぎなんだよ。仲間なんだからさ、もっと俺達を頼ってくれ」

 

「――」

 

仲間だから。ああそうだ、遊矢と零児は友達と言うには首を傾けざるを得ない。だから、今の彼等の関係は、ランサーズの、共に闘う仲間。零児とした事が――いや、今まで1人で闘って来た零児だからこそ、気づけなかった。

デュエルでは、確かに零児が上だ。だけど――敵わないな、なんて思いながら、零児は差し伸べられた手を受け取る。

 

「これからも僕とよろしく頼む。遊矢」

 

「ああ、零児」

 

手を取り合う2人のデュエリスト。もうそこには、空気の悪さも何も無い。ここにいるのは、共に闘う仲間なのだ。

再び仲間を探し始める遊矢と零児。すると――その視線の先に、フラフラと足取りの危うい人影が現れる。身の丈に合わないブカブカの真っ白なローブに身を包んだ、遊矢より少しだけ背が高い少女。その顔は――。

 

「柚……子……?」

 

遊矢の大切な幼馴染みと驚く程似ていた――。

 

「……?」

 

「柚子!柚子じゃないか!どうしてこんな所に!?自力で脱出を!?」

 

思わず足早に駆け寄り、ガシッ、と少女の肩を掴んで捲し立てる遊矢。何だかどこかで見た事がある光景だ。焦りまくる遊矢に対し、少女はどこか掴み所の無い、ボーッとした金色の瞳で遊矢を見つめながら首を傾げている。

 

「ああ、柚子良かった……大丈夫か?ご飯はちゃんと食べてたか?ちゃんと寝ているのか?」

 

「……?」

 

「落ち着け遊矢、恐らく彼女は――」

 

保護者全開な遊矢を見かね、零児が彼の肩に手を置いたその時、ファサッ、と遊矢が少女の肩をガクガクと揺らした為か、フードが頭から外れる。

すると、そこにあったのは――遊矢に良く似た、ふわりとした緑の髪に、1本のアホ毛。柚子に良く似た顔立ちに、金色の瞳。ローブの下に纏ったのは、ライダースーツ風の衣装。そう、彼女は――。

 

「柚子じゃなぁい」

 

柊 柚子ではない。目の前で突きつけられた事実にガクリと膝を落とし、項垂れる遊矢。しかし、零児は柚子のそっくりさんな彼女に驚愕しながらも、やはりと目を鋭くする。一体何故ここにいるのか分からないが、遊矢も言った通り、自力で脱出でもしたのだろうか。恐らく彼女は――。

 

「君は、瑠璃だな?」

 

「……?私の、名前、瑠璃?」

 

黒咲 瑠璃。黒咲 隼の妹であり、柊 柚子やセレナと良く似た顔立ちと聞く少女。今はアカデミアの捕らわれていると聞いたが。そんな事を考える零児を裏腹に、目の前の少女の様子はどこかおかしい。

 

「?君は瑠璃じゃないのか?」

 

「……分からない」

 

「……何?」

 

問いかける零児に対しても、少女はどこか他人事のように、ボーッとした表情で零児に視線を運び、ポツリと答える。

 

「私は、誰なの?」

 

名も知らぬ、柚子と良く似た少女は――記憶を失ってしまっていた――。こうして、恐らくアカデミアから狙われているであろう少女を放って置けず、遊矢と零児は少女を保護し、再び歩み出す。

何とも奇妙な珍道中、遊矢達が沢渡達と合流し、セキュリティの襲撃を受け、鉄砲玉のD-ホイーラーに救われるのは、数十分後の出来事となる――。

 

――――――

 

時は戻り、コナミ達が意外とガッポガッポと稼いでいた晩。セキュリティのデュエルチェイサー、227は高架下のおでん屋台で溜め息をついていた。原因は無論、先日のお面ホイーラーとのデュエル。彼とのデュエルともあって、クビは逃れたが――見ず知らずの少年もデュエルに参加していた事で減給されてしまったのだ。飲まずにはいられない。

 

「あぁークソッ、親父!もう一杯!後はんぺんと卵!」

 

「おいおい旦那、飲み過ぎだぜ?潰れても知らねぇからな」

 

「うるせぇっ!飲まずにやってられるかよぉぉぉ……」

 

店主の注意も聞き入れず、杯をグビッとあおる。所謂やけ酒。ガブリとはんぺんを口に入れる。そんな時だった、屋台の暖簾を潜り、1人の男が227の隣に座ったのは。

白い帽子を目深に被り、同色のジャケットを纏った男だ。彼の来訪に「おっす」と227が手を上げる。実は彼、227の知り合いなのだ。

 

「親父、大根とちくわを頼む」

 

「また旦那か、ツァンちゃんかリンちゃんに叱られても知らねーぞ、後良い加減ツケを払っとくれ」

 

「今日もツケで頼む」

 

「このニート聞いちゃいねぇ……」

 

「良いよ親父、この場は俺が払う。その代わり俺の愚痴に付き合えデュエルニート573」

 

そう、実はこの男、無職なのである。当然金を持ち合わせていない彼に店主は苦い顔をする。まぁ、何だかんだ何時も許してしまうのだが。たまに彼の保護者のような少女が金を払ってくれる時もあるが。

とことんクズ、渾名はキング(笑)とデュエルニート573と言うのがそれを物語っている。今回は飲み友達である227が出すようだ。

 

「サンキュー227」

 

「別に良いけどよ……お前DPは?」

 

「パチで儲けてパックを大人買いよ」

 

クズである。しかしここ、シンクロ次元ではニートであろうと凄腕のデュエリストならばモテる。いや、ニートで凄腕のデュエリストならば、か。羨ましい限りである。

 

「お前なぁ……」

 

「シンジ達が革命だ!って言うからついな」

 

「知るかよ、誰だよそれ」

 

ハァ、と溜め息を吐きながら卵を食す227。これでは逆に愚痴を聞いてしまっているではないか。何とか話題を変える為、227は話を切り出す。

 

「それより俺の愚痴聞けよ。俺さ、公務で違反者2人とタッグデュエルして負けたんだけど、減給されちまったんだよ」

 

「ほう、酷い奴もいるもんだ」

 

「そうだろう!?長官には感謝してるけど、あいつら絶対取り締まってやる……!」

 

「俺も応援しよう、頑張ってシティの平和を守ってくれ」

 

全く酷い奴がいるものだと互いに頷きながら酒をあおり、大根を口に含む2人。当然227の言っている相手はユーゴとお面ホイーラーの事だ。しかし、その事まで知らないデュエルニートこと白コナミ――何とお面ホイーラーの正体である彼は他人事のように対応する。

世の中には知らない方が良い事もあると言う事か。因みに白コナミはその際対戦した相手が227だった事は知らない。様々な食い違いや勘違いが発生し、このような珍妙な事態になっているのだ。

 

「そうそう、俺さ、何とか昇進しようとこれに出ようと思うんだ」

 

話はまた変わり、227が懐をゴソゴソと漁り、1枚の用紙を取り出す。フレンドシップカップと大きな文字が書かれたそれはどうやらデュエル大会の案内のようだ。世話になっている施設で昼間っからゴロゴロしたり好き勝手遊び回る白コナミは初めて目にする。

 

「そんなものがあったのか、面白そうだな」

 

「参加する気か?やめとけ、これ負けると即地下送りだぜ?俺はお前と蹴落とし合うなんてしたくねぇよ」

 

「自分が地下送りになるかもしれんのに参加するのか?」

 

「だって昇進したいし」

 

野心家な227は何としても昇進しようとこの大会に出て優勝するつもりらしい。凄まじい昇進へのこだわり、だが白コナミとしても大会がある以上出てみたい。

 

「受付は治安維持局1階か」

 

「一応用紙を持っていれば応募でも大丈夫だぜ。ま、この話はここまでだ、親父!もう一杯!」

 

ここで話を切り上げ、227が更におでんと酒を追加し、白コナミと共に飲み食いし、互いに千鳥足になるまで酒に酔う。

人生とは様々な縁がある。ここで何かが違っていたなら――運命は大きく変わっていたのかもしれない。

 

――――――

 

場所は変わって、治安維持局の長官室、そこには長官であるジャン・ミシェル・ロジェがお面ホイーラーの件を何とか処理し、念願の日常アニメリレーを行っていた。

 

「やはりきんモザは素晴らしい……そうは思わないか?セルゲイ」

 

その背後には筋骨隆々の大柄な男。短く切り揃えられた銀髪にマーカーだらけの強面、セルゲイ・ヴォルコフは、ロジェが落ちぶれていった者達の溜まり場である地下より吊り上げた強力なデュエリストだ。

元々はとんでもない荒くれ者だったのだが、ショッカー並の改造手術とロジェの英才教育によって忠実な部下となっている。ロジェとしても彼には愛着が沸いており、良好な仲である。

 

「……俺としてはがっこうぐらしの方が……ん?」

 

「あれには騙された……日常系だと思えば……ニ○ロプラスめ……!まぁ、あれも面白いが。ん?どうしたセルゲイ」

 

こうして日常系アニメに語り合う仲である。そんな中――セルゲイがガラス張りの窓の外、星々が輝く空に何かを捉える。キュイッ、とセルゲイが高性能センサーを搭載したカメラアイで空に現れた何かをズームする。

夜空に一際輝く星、流星か何かか。徐々にその輪郭が明らかとなっていく。白い翼の鳥?それとも飛行機?いや、猛スピードでこちらに進んで来るあれは――。

 

「お面ホイーラー……!」

 

「セルゲイ、その名を出すのはやめろ」

 

二又に分かれた先端に、戦闘機のようなシルエット、巨大な翼を広げた異色のD-ホイール。それは雲を切り裂き、猛スピードで――治安維持局のビルに盛大に突っ込んだ。

ガシャァァァァンッとガラスが割れる破壊音、パラパラと散る埃。ロジェの左右真横に伸びる2本の先端、目の前で粉々にされた高画質モニター。もう、何が何だか分からない。

 

「え?えっ?何何何?何これ意味分かんない」

 

思わず素面となり、叫ぶのを通り越して一端冷静になろうとするロジェ。現実逃避をしているとも言う。そんな中だった。巨大なD-ホイールより人影が降り立ったのは。

 

「長官、下がってください。貴方は、俺が守る」

 

「え?これもしかしてお面ホイーラー?んん?」

 

未だに混乱するロジェを庇うように前に出てカメラアイで塵埃の中でフラフラと歩む人影を睨むセルゲイ。そして、煙が晴れたそこにいたのは、白い帽子を被り、同色のジャケットを纏った青年。しかしその顔にお面は無く、少し朱が差している。

恐らく彼がお面ホイーラーの正体なのだろう。ジッ、セルゲイが更に分析するとアルコール成分を検出。成程、飲酒運転してここに突撃したと言う事か。

 

「頭痛い……フラフラする……すんませーん、フレンドシップカップの受付ってここれすかー?」

 

フラフラと覚束無い千鳥足で歩き、セルゲイの前まで歩み出る。どうやらここが1階と勘違いしているようだ。

 

「飲酒運転はやめろ、取り敢えず罰金だな」

 

この場で最も冷静なセルゲイはセキュリティに所属していると言う事もあり、目の前の男を取り締まろうとする。この男もどこかズレている。

 

「俺金持ってない……」

 

と、そこで一気に白コナミの顔色が青くなり、その場に苦しそうにして蹲る。一体どうした、セルゲイが心配して覗き込んだその時。

 

「うっぷ……ヴェロロロロロロ!!」

 

白コナミがセルゲイに向かい、盛大に吐いた。モザイクがかったものが宙へと投げ出され、ベシャリと虹を描きながらセルゲイの顔へと飛来する。

酷い。地獄のような光景にロジェが言葉を失い、口をパクパクと金魚のように開き、ドMなセルゲイは逆に恍惚とした表情で喜ぶ。酷い絵面だ。

 

「う、あースッキリした。ん?あれここ1階じゃない。まぁ、良いや。すんません、受付お願いしまーす」

 

「アホかぁぁぁぁぁっ!!」

 

漸く酔いが覚めたのか、白コナミがキョロキョロとしながらもロジェに受付を願い、冷静に戻ったロジェがその表情を怒りに染め上げ激昂する。

 

「セルゲイ!この馬鹿をデュエルで拘束しろ!相手がお面ホイーラーだろうと、貴様なら倒せる筈だ!この際あのデッキも使って良い!全力で叩き潰せ!」

 

「……了解」

 

ギラリ、ロジェの指示を受け、セルゲイが眼を赤く煌めかせ、ニヤリと笑う。無論ゲロまみれで。対する白コナミは「お、デュエルか?」等と呑気に呟き、自らのD-ホイールからデュエルディスクを取り外し、左腕に装着する。

そして始まる、お面ホイーラー、白コナミとロジェが手塩にかけて育て上げたセルゲイの因縁の対決――。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻はセルゲイだ。彼はデッキより5枚のカードを引き抜き、白コナミを睨む。相手はあのお面ホイーラー。高速シンクロを得意とする強力なデュエリストだ。油断せず、全力で行く。

 

「俺のターン、フィールド魔法、『地縛牢』を発動。このカードが有る限り、モンスターの攻守を変化させる効果は無効となる」

 

ドロリ、と。厳か――と言う雰囲気を破壊され、見るも無惨となった長官室が亡者の手が伸びる恐ろしいフィールドへと変わる。白コナミも手の形をした牢に閉じ込められ、辺りには霊魂がユラユラとさ迷う。

 

「『地縛』……?」

 

「そしてフィールドゾーンにカードが存在する事で、手札の『地縛囚人ストーン・スィーパー』を特殊召喚」

 

地縛囚人ストーン・スィーパー 攻撃力1600

 

登場したのは黒い影に青く光る線を走られたイルカを模したモンスター。ヒレの傍には囚人と言うだけあり、枷がついている。まるでナスカの地上絵が立体化したかのような姿だ。

 

「そして『地縛囚人グランド・キーパー』を召喚」

 

地縛囚人グランド・キーパー 攻撃力300

 

次はレベル1のチューナーモンスター。このカードを出したと言う事は、シンクロへと繋げる気か。

 

「ここで魔法カード、『異界共鳴―シンクロ・フュージョン』を発動!自分フィールドからシンクロ、融合モンスターとなる素材を墓地に送り、シンクロと融合召喚を行う!」

 

「融合だと……?」

 

「ククク、我等が持つ特権!平伏せ、お面ホイーラー!2つの召喚を使うデュエリスト、セルゲイの前に!」

 

シンクロと融合、2つの召喚法を使いこなすデュエリスト。成程、確かにこのシティでは初見殺しで強力なデュエリストだ。このシティのキングだろうと初戦で融合を目にするならば苦戦は必至であろう。が――残念ながらこの男はもう、こんなデュエリストとは闘っている。

もっと言えば、そのデュエリストは、2つどころか4つの召喚法を使ったのだ。面白いとはなるが、驚愕には値しない。

 

「レベル5のストーン・スィーパーにレベル1のグランド・キーパーをチューニング!大地に取り憑きし妖精よ、その妖しき力で万物を揺るがせ!シンクロ召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグレムリン』!」

 

地縛戒隷ジオグレムリン 攻撃力2000

 

まずはシンクロ召喚。現れたのは青白い紋様を走らせた悪魔の影。手や足、胴に尾と強力な枷を纏い、左翼に弓矢のような物を負ったずんぐりとしたモンスターだ。

 

「石に囚われし者よ!地に封じられし者と1つとなりて大地を掴め!融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグレムリーナ』!」

 

地縛戒隷ジオグレムリーナ 攻撃力2000

 

次はジオグレムリンと対を為すような黄色い紋様の融合モンスター。ジオグレムリンは2本角、このモンスターは1本角、同じく頑丈な拘束を受けた獣のような4本足の悪魔だ。

 

「狛犬みたいだな」

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4000

フィールド『地縛戒隷ジオグレムリン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオグレムリーナ』(攻撃表示)

セット1

『地縛牢』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!面白いカードだ。あの時を思い出す。俺は魔法カード、『調律』を発動!」

 

「カウンター罠、『地縛魔封』ゥ!自分フィールドゾーンにカードが存在する場合、相手の発動した魔法カードの発動と効果を無効にし、破壊!」

 

「チッ、ならば魔法カード、『ワン・フォー・ワン』!手札のモンスターを捨て、デッキのレベル1モンスター、『チューニング・サポーター』を特殊召喚!」

 

チューニング・サポーター 守備力300

 

現れたのは中華鍋を被り、マフラーを靡かせた小さなモンスターだ。彼が愛用する非チューナーであり、デッキの回転速度を上げる事に貢献している。

 

「魔法カード、『機械複製術』!『チューニング・サポーター』を選択、デッキから同名モンスター2体を特殊召喚!」

 

チューニング・サポーター 守備力300×2

 

「『ハイパー・シンクロン』を召喚」

 

ハイパー・シンクロン 攻撃力1600

 

次に現れたのは額に赤い宝石、背にマフラーを伸ばした青いロボットだ。レベル4のチューナー、と言っても使いにくい部類に入るカードだ。

 

「『チューニング・サポーター』はシンクロ素材にする場合、レベルを2として扱う事も出来る。レベル2の『チューニング・サポーター』2体にレベル4の『ハイパー・シンクロン』をチューニング!集いし願いが新たに輝く星となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

現れたる白コナミのエースモンスター。風と星屑を纏い、煌々と神々しく輝く、まるで女性的な天使を思わせる美しい白竜。存在はロジェとセルゲイを圧倒し、2人はその美しさに思わず見惚れてしまう。

 

「美しい……!」

 

『……官、ロジェ長官、無事ですか!?』

 

と、ここで外部からの通信がロジェの元に来る。彼の傍の空間にモニターが開き、オペレーターと思わしき女性が心配そうに覗き込んでいる。

 

「む、ああ、こちらは無事だ。それと丁度良い、セキュリティに通信、このビル周辺に厳戒体制を。マスコミも受け付けさせるな」

 

『りょ、了解です』

 

折角白コナミを倒しても逃がしてしまっては意味がない。彼はこの場から逃がすまいとロジェが総力を持って白コナミを拘束しようと画策する。尤も、彼のD-ホイールならばこれも無意味かもしれないが。

 

「『チューニング・サポーター』の効果でドロー!」

 

白コナミ 手札1→3

 

「そして魔法カード、『二重召喚』。俺は『グローアップ・バルブ』を召喚」

 

グローアップ・バルブ 攻撃力100

 

お次は植物に目が生えたような不気味なモンスター。レベル1のチューナーの中でかなり有能な1枚だ。これでフィールドには『スターダスト・ドラゴン』とレベル1のチューナーと非チューナー、白コナミは完全に――このターンに終わらせようとしている。

 

「レベル1の『チューニング・サポーター』にレベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!集いし願いが新たな速度の地平へ誘う、光差す道となれ!シンクロ召喚!希望の力、シンクロチューナー、『フォーミュラ・シンクロン』!」

 

フォーミュラ・シンクロン 守備力1500

 

フィールドに光が走り、それを追うように音をも越えて、F1カーを模したモンスターが現れる。シンクロチューナー、異質な存在だ。

 

「『フォーミュラ・シンクロン』と『チューニング・サポーター』の効果でドロー!」

 

白コナミ 手札1→3

 

更に手札を回復、これだけ動いているのにも関わらず、手札が3枚、最早手札はいらないが。

シンクロモンスターとシンクロチューナー、これでシンクロの先へと進化出来るが――それはあくまで、D-ホイールに乗っている時だけ。だが――彼は今も昔も、そんな常識を破壊する。

 

「レベル8の『スターダスト・ドラゴン』にレベル2のシンクロチューナー、『フォーミュラ・シンクロン』をチューニング!集いし夢の結晶が新たな進化の扉を開く。光差す道となれ!アクセルシンクロ――!」

 

「消え……た……!?」

 

瞬間、白コナミの姿がフッ、と溶けるように虚空へ消える。人が消える。そんな馬鹿な――考えるのも束の間、眩い光がフィールドを照らし、1体の竜に乗った白コナミが再び現れ、手の形をした牢を破壊する。

 

「生来せよ、『シューティング・スター・ドラゴン』!!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

空気抵抗を無くす為にヘルメットのようになった頭部、戦闘機を思わせる平行な翼。逞しい四肢、全体的にガッシリとした体躯に風と星屑を纏い、『スターダスト・ドラゴン』が進化した白竜が、流星の如く姿を見せる。

その神々しさ、美しさを増した姿を見て、セルゲイが更に恍惚な表情を見せて呟く。

 

「美しい……!」

 

ただ一言、その一言が何よりもこの竜を表していた。

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』の効果でデッキの上から5枚を捲り、このターン、その中にあったチューナーの数まで攻撃権を得る」

 

「――ハッ、ハハハハハ!馬鹿め!そんな博打、2枚程度が限界、むしろ1枚もなかった方のリスクが高い!」

 

発動されるアクセルシンクロモンスター、『シューティング・スター・ドラゴン』の効果、その博打とも言える効果にロジェは大笑いする。

そう、こんな効果、チューナーが2枚位がせいぜいだろう。ロジェの言う通り、1枚もなかった方のリスクが大きい。だが――無論この男にそんな常識が通じる訳がない。

 

「1枚目!チューナーモンスター、『ニトロ・シンクロン』!2枚目!チューナーモンスター、『エフェクト・ヴェーラー』、3枚目!チューナーモンスター、『クイック・シンクロン』!4枚目!チューナーモンスター、『ジャンク・シンクロン』!5枚目!チューナーモンスター、『ドリル・シンクロン』!」

 

当然、当然のように、運命を嘲笑うかの如く、5枚全てがチューナー。その圧倒的な豪運に――ロジェも言葉を失い、目を見開く。こんな、こんな馬鹿げた事があって良いのか――。

 

「5回連続チューナーだと!?そんな、そんなものっ、ただ運が良かっただけではないかぁぁぁぁぁっ!!」

 

思わず魂の底からの叫びが木霊する。最早それしかなかった。彼は――自身の育てたセルゲイこそがキングをも葬る最強のデュエルマシーンだと思っていた。

だが違う、この男こそ――破滅の、デュエルマシーン。

 

「スターダスト・ミラージュ――!」

 

5体になって分裂し、オーロラのような色合いとなる流星。幻想的で美しい光景――だが、セルゲイが最も美しいと思ったのは――目の前に立つ、白い帽子のデュエリスト。

 

「美しい――!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4000→2700→1400→0

 

5色の流星が撃ち出され、それに貫かれてセルゲイが恍惚の表情のまま、きりもみ回転で宙を舞い、壁に打ち付けられ、ひびが走って倒れ伏す。終わって見れば1ターンキル――圧倒的な実力を見せつけ、白コナミは勝利した。

 

「セルゲェェェェェイッ!セルゲイ、大丈夫か!?セルゲイ!?セルゲイ!?」

 

セルゲイを心配し、思わずロジェが駆け寄り抱き起こす。怪我はしているが、気絶しているだけ。良かった――ホッ、と胸を撫で下ろすのも束の間、ロジェはキッ、と白コナミを睨む。しかしこんな化け物に彼が勝てる筈もない。

どうすれば良い――ロジェが必死に策を練る中、1人の男が現れる。

 

「――ほう、まさかそちらから来るとはな」

 

音もなく、その男は文字通り空間を裂いて現れる。白いケープで顔を隠し、腰に剣を差した男――プラシドだ。白コナミも彼の接近には気づけず、驚愕して振り返り、ロジェはおおと助けが来た事に安心する。

 

「プラシド!良く来てくれた!この男を何とかしてくれ!」

 

「……プラ/シド……?」

 

「任せておけ、何、意外と簡単な事だったんだ、なぁ、コナミよ」

 

「?」

 

ロジェがプラシドへとすがり付き、プラシドが応える。そう、簡単な事だったのだ。彼を何とかする事事態は。プラシドは白コナミへと向き直り、首を傾げる彼へと話しかける。

 

「俺達の、仲間になれ」

 

発せられる、この場の時間をも止める発言。一体何を言っている?ロジェが呆然とする中――白コナミは、ニヤリと笑みを深める。

今、この時――治安維持局長官、ジャン・ミシェル・ロジェは――最強の駒を手にいれた――。

 

「だが俺はレアだぜ」

 

結局、白コナミが放ったこの台詞の意味は良く分からなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コナミ 一応遊勝塾の手伝い、ショップの店番やバイト、趣味のモンスターのフィギュアやNo.プラモ作りで柊家に貢献。こっそり通帳に貯めている。
黒コナミ レジスタンスにて活動。
紫コナミ 教師、一番まとも。
白コナミ 無職

この差よ。


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第98話 最高のSatisfactionを貴方に

一週間って早い(小並感)。


治安維持局のビルがお面ホイーラーのD-ホイールに突撃された。それはもうシティを揺るがす程の大事件には……ならなかった。街の住人はロジェの無事を知ると共に何だ何時もの事か、と平和に過ごす。彼等はお面ホイーラーの奇行に慣れているのだろう。それもどうかと思うが。

 

そしてこの事件はコナミの耳にも入って来たが――意外な事に、彼は特に何もしなかった。

気になりはするが――彼とは遠くない内に再戦すると、デュエリストの勘が告げている。今は稼ぎ、仲間を探す事が先決だ。

今日も昨日のようにユートと共に公開デュエルをする。だが変わっている事が1つ、それは彼等の傍に、仲間となったジルがいる事だ。

 

「うむ、今日も良いデュエル日和で結構。さぁ、ナッシュ殿、ダニエル殿、共にデュエルに励もうぞ!」

 

「あ、ああ……協力してくれるのは良いんだが……暑苦しいなぁ」

 

グッ、と力強い握り拳を作り、2人へと爽やかな笑みを向けるジル。今日も今日とてピッカピカの黄金鎧に身を包んでおり、何とも眩しい。下心なく、善意で接してくれるのは分かるが、それにしてもムサッ苦しい男である。

 

「フ、なぁに私としても修行になる。ナッシュ殿、ダニエル殿のデュエルを見て研鑽するのだ!」

 

「おおもう……」

 

良い奴、良い奴なのだが面倒臭い。それがユートから見たジルの評価だった。因みに稼ぎはコナミ達へと渡している為、本当に彼の人の良さが伺い知れると言うものだ。

兎に角、一応これで当初の目的の1つであった仲間集めも成功……なのだろうか?清廉潔白の騎士道精神の塊のような彼の事だ。アカデミアの事を告げれば許しまじと協力してくれるだろう。

 

「ん……?――ッ!?」

 

と、そんな和気あいあいとした時だった。コナミがある一点に視線を運ぶと同時に驚愕し、身体を弾くように勢い良く立ち上がり、走り出したのは。

 

「お、おいコ、ダニエル!?」

 

「む、ただ事では無い様子、追うぞ、ナッシュ殿!」

 

最近では落ち着いているコナミがこうまで焦るのはただ事では無い。ユートもジルもそれを察したのだろう。狭き路地裏へと入っていくコナミを追う為、2人も駆ける。一体何がコナミをそうさせるのか、ユートは彼の背を追いかけながら言葉を投げ掛ける。

 

「おい、何があった!ダニエル!」

 

「蟹がいた!」

 

――蟹?いきなりの訳の分からぬ、要領を得ない返答を聞き、ユートとジルが顔を見合せ首を傾げる。こんな路地裏に蟹。確かに珍しいが、だからと言ってここまで彼が焦るだろうか。

コナミとしては返事をするのも面倒で台詞を短くする為、こんな訳の分からぬ答えとなっているのだが。

 

「――ッ、何――!?」

 

と、そこで――どう言う訳か、行き止まりとなってしまう。コナミの言う、蟹の姿もそこには無い。まさか幻覚を見たと言うのか。

いや、あれは確かに。と考え込むコナミに漸く2人が追い付き、その肩を掴む。

 

「おいダニエル……何も無いじゃないか」

 

そんな時だった。周囲のビルから彼等の背後に、ぞろぞろとガラの悪い男達が集まり、下卑た笑みを3人に向けて来たのは。

 

「ッ!こいつ等は……!?」

 

「へへへっ、まさかそっちからこんな所に来てくれるとは……手間が省けたぜ」

 

「チ、オレが軽率過ぎたか……」

 

「お前達がタンマリ金を持ってんのは分かってんだ。おら、金と、そこの男はその高そうな鎧を置いていきな」

 

「ふん、不快な者共だ。例え私がどれだけ汚されようと、心と鎧は屈しない!」

 

コナミが自らの軽率な行動を呪い、目の前の男達を睨む。大方コナミ達の持った金を奪おうと考えたデュエルギャングだろう。ジルがレ○プ寸前の女騎士のような台詞をほざく中、コナミとユートは男達の数と技量を量る。

実力が高そうな奴も見えない。数も3人ならば相手にならない程度だ。これならば特に苦戦もせずに切り抜けられるだろう。3人がデュエルディスクを構え、応戦しようとした時――そこに、どこか懐かしい音色が響き渡る。

 

「――!こ、これはまさか……!」

 

「間違いねぇ!奴が、いや奴等が来た!」

 

「あり得ねぇ、何だってこんな時に――ハーモニカの音色が!」

 

そう――響き渡る旋律は、ハーモニカのもの。それを耳に入れたギャング達はざわざわと騒ぎ立て、その表情を見る見る内に恐怖に染まったものに変えていく。

ユートとジルが何が起こっているのかと訝しむ中――コナミだけはこの音色の意味を理解する。そして男達が振り返った視線の先に――吹き荒ぶ砂煙の中を歩く、2つの影。

 

「あ、ああ……!」

 

砂煙が晴れ、徐々にその影が明らかとなっていく度に男達の顔色が青くなっていく。それ程までに、あの影は彼等にとって恐ろしいものなのか、そして――2つの影が男達の前で立ち止まる。

 

1つはヘルメットとゴーグルを装着し、首にスカーフを巻いた小柄な少年、そしてもう1つは――ユートとジルは彼の溢れ出る闘気に目を見開く。

気だるげな眼に無造作に伸ばされた青白い髪、目の下から顎まで走る黄色いマーカー、黒いジャケットを風に靡かせた彼は口にしていたハーモニカを放し、その鋭い目付きでギャングを睨む。

 

「チームサティスファクション……!」

 

「伊集院 セクト……そして、鬼柳 京介……!」

 

小柄な少年の名がセクト、そして長髪の男の方が鬼柳と言うらしい。今ここにいるのはリーダーである鬼柳とセクトだけだが、彼等はこのシティでもデュエルギャングも恐れる、チームサティスファクションなのだ。

 

「おいおい3人を相手に随分な数だなぁオイ!情けなくねぇのか!なぁ、アニキ!」

 

セクトと呼ばれた少年が小柄な身体に反して勝ち気な言葉を男達に放ち、鬼柳をアニキと呼ぶ。どうやら2人は親分子分の間柄らしい。

鬼柳はふん、と鼻を鳴らした後、獣のような獰猛な笑みを浮かべ、腰から一丁の拳銃を取り出す。

 

「って銃……!?」

 

「いや、あれは――デュエルディスクだ」

 

突然鬼柳が銃を取り出した事でユートが動揺するも、直ぐ様コナミが補足する。確かに本来銃弾を装填する弾倉にはデッキが設置されている。成程、この銃がデュエルディスクなら、弾丸はカードと言う事か。

鬼柳は銃形態のデュエルディスクの銃口を天へと向け、ニヤリと笑う。

 

「どうだって良い……問題はこいつ等が俺を満足させてくれるかどうかだ……!」

 

瞬間、鬼柳が引き金を引き、銃声が轟き響き渡る。銃はその姿を変形させてソリッドビジョンで形成された銃弾型のベルトが彼の腕に巻き付き、光のプレートが浮かび上がる。

臨戦体勢――まるで野生の虎と対峙しているかのような感覚にギャング達が思わずデュエルディスクを構える。

 

「デュエッ!」

 

鬼柳の勢いの良い掛け声と共に――デュエルが始まった――。

 

――――――

 

「あ、あり得なぁい……!」

 

バタリ、と最後の1人が倒れ伏す。あれから数十分後――ここに立っているのは5人だけとなった。無論その5人はコナミとユート、ジルに鬼柳、セクトだ。

結果としてはコナミ達の圧倒的勝利。特に鬼柳が凄まじい勢いでギャングをバッタバッタとなぎ倒していったのだ。尤も、彼の戦術はユートにとってハラハラさせられるものだったが。

 

「こんなんじゃ満足できねぇぜ……」

 

鬼柳が溜め息を吐き出し、不満足そうに顔を俯かせる。呆れた男だ。これだけデュエルを繰り返し、満足していないとは。彼の実力の高さが分かる。

すると彼はコナミへと視線を移し、コナミの帽子の奥に隠れた視線とぶつかり合う。

 

「……へぇ……」

 

「……」

 

「ア、アニキ……?あれコナミじゃ……」

 

「おいダニエル……?」

 

合図はそれだけで充分だった。心配そうに覗き込むセクトとユートを他所に、向かい合い、デュエルディスクを構える2人。まさか――と思った時にはもう遅い。

目と目が合えばデュエル。それが訓練されたデュエリストの常識である。

 

「「デュエッ!!」」

 

満足式の掛け声と共に――満足を求める2人のデュエルが開始された――。先攻は鬼柳。このシンクロ次元でもトップクラスの実力を誇るだろう彼との闘い、苦戦は必至となる筈だ。だがコナミとて負けるつもりは無い。実力は劣っているだろうが、これから起こるであろう激戦の為、彼に勝利して殻を破る。

 

「満足させてくれよ……?俺のターン、魔法カード、『手札抹殺』!手札を捨て、その分ドロー!カードを3枚セット、墓地の『ヘルウェイ・パトロール』を除外し、手札の『インフェルニティ・ネクロマンサー』を特殊召喚!」

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

鬼柳が切り込み役として選んだのは髑髏のような頭から緑色の髪を伸ばし、ローブを纏った死霊使い。『インフェルニティ』では蘇生役を担うモンスターだ。そしてこれで――鬼柳の手札は0、満足へと入った。

 

「アニキ、本気だ……!」

 

ハンドレス、手札0と言う不安定なこの状況こそが、鬼柳のデッキ、『インフェルニティ』が最大限に力を発揮する。まるで彼の生き様を示しているかのような戦術。しかし、これは決して運任せでは無い。

 

「ネクロマンサーの効果により、墓地の『インフェルニティ・デーモン』を蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

お次は『インフェルニティ』のキーカード。2本の捻れた角を伸ばした悪魔のモンスターだ。

 

「『デーモン』の効果!手札0の状態でこいつが特殊召喚した事でデッキの『インフェルニティ・ミラージュ』をサーチし、召喚!」

 

インフェルニティ・ミラージュ 攻撃力0

 

更に展開、次はどこかの民族の被り物のような頭部にローブを纏ったモンスターだ。このモンスターもまた、手札0で強力な効果を発揮する。

 

「ミラージュをリリースし、墓地の『インフェルニティ・ビートル』と『インフェルニティ・ビショップ』蘇生!」

 

インフェルニティ・ビートル 攻撃力1200

 

インフェルニティ・ビショップ 守備力2000

 

一気に2体の蘇生。今度は黒いヘラクレスオオカブトを模した昆虫族と本を手にした男だ。

 

「レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』にレベル2のビートルをチューニング!破壊神より放たれし聖なる槍よ、今こそ魔の都を貫け!シンクロ召喚!『氷結界の龍トリシューラ』!!」

 

氷結界の龍トリシューラ 攻撃力2700

 

シンクロ召喚。ビートルがその身体を弾き飛ばし、ライトグリーンのリングとなって『デーモン』とネクロマンサーを包み込み、閃光が貫く。現れたのは彼が扱う満足龍の一柱。

白鎧と青と体躯を唸られた三つ首の竜だ。世界をも凍結させてしまう圧倒的なエネルギーを放ち、地面がピキピキと凍っていく。

 

「トリシューラのシンクロ召喚時、相手の手札、フィールド、墓地からカードを1枚ずつ除外する。尤も、フィールドには無いが、お前の墓地の『光の護封霊剣』と手札のカードを除外する!」

 

「チッ――!」

 

「そしてリバースカード、オープン!魔法カード、『シンクロキャンセル』!トリシューラをエクストラデッキに戻し、シンクロ召喚に使用したモンスターをフィールドに戻す!」

 

「何ッ!?」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

インフェルニティ・ビートル 攻撃力1200

 

ここでまさかのカードが発動され、鬼柳のフィールドに再び素材が蘇る。速攻魔法では無いが、シンクロ版、『融合解除』と言えるカードだ。この状況でのこのカードは非常に不味い。

 

「『デーモン』の効果で『インフェルニティガン』サーチ、セット!そしてレベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』にレベル2のビートルをチューニング!シンクロ召喚!『氷結界の龍トリシューラ』!!」

 

氷結界の龍トリシューラ 攻撃力2700

 

「墓地の『スキル・プリズナー』と手札を除外!更に2枚目の『シンクロキャンセル』発動!」

 

「ふざけんな!」

 

更に『シンクロキャンセル』、驚愕の戦術に思わずコナミがイラッとして叫ぶ。折角『手札抹殺』で送られたカードも見る見る内に除外されていく。

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

インフェルニティ・ビートル 攻撃力1200

 

「『デーモン』の効果で『インフェルニティ・リベンジャー』をサーチし、リバースカードオープン!『インフェルニティガン』!リベンジャーを捨て、ネクロマンサーで蘇生!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

「レベル4のビショップとレベル4の『デーモン』にレベル1のリベンジャーをチューニング!シンクロ召喚!『氷結界の龍トリシューラ』!!」

 

氷結界の龍トリシューラ 攻撃力2700

 

3度フィールドで咆哮する氷龍。制限カードである筈なのに何故3度もシンクロ召喚されているのだろうか。

 

「墓地の『ギャラクシー・サイクロン』と手札除外!ガンを墓地に送り、『インフェルニティ・リベンジャー』と『インフェルニティ・デーモン』を特殊召喚!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

更に展開、現れたのは『デーモン』とテンガロンハットと2丁拳銃を構えた小さなガンマン人形だ。

 

「デーモンの効果で『インフェルニティバリア』サーチ、セット!レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』にレベル1のリベンジャーをチューニング!漆黒の張下りし時、冥府の扉は開かれる。舞い降りろ闇よ!シンクロ召喚!出でよ、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

漸くトリシューラ以外のシンクロモンスターの登場。漆黒の体躯にその名の通り百の眼を刻んだ龍だ。不気味な外見に加え、攻撃力3000、しかしこのモンスターの恐るべき所はその効果にある。

 

「ワンハンドレッドの効果で墓地のミラージュを除外し、名前と効果をコピー!リリースし、墓地の『デーモン』とネクロマンサー蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

「『デーモン』の効果で2枚目のバリアをサーチ、セット!ネクロマンサーの効果でリベンジャー蘇生!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

「レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』にレベル1のリベンジャーをチューニング!地獄と天国の間……煉獄よりその姿を現せ、シンクロ召喚!『煉獄龍オーガ・ドラグーン』!!」

 

煉獄龍オーガ・ドラグーン 攻撃力3000

 

フィールドに3体目の満足龍が姿を見せる。赤黒い鱗を持つ、正当派のドラゴンだ。『インフェルニティ』カードでは無いものの、このカードはハンドレス時にその真価を発揮する。

 

「最後に『インフェルニティ・ビートル』をリリースし、2体に分裂!」

 

インフェルニティ・ビートル 攻撃力1200

 

「ターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP4000

フィールド『煉獄龍オーガ・ドラグーン』(攻撃表示)『氷結界の龍トリシューラ』(攻撃表示)『インフェルニティ・ビートル』(攻撃表示)×2

セット3

手札0

 

長いターンが終わり、漸くコナミのターンになる。が――鬼柳のフィールドには手札0の時、モンスター、魔法、罠の効果を無効にし、破壊するカードが何と3枚もある。正直言ってヤバイ。LDS3人組よりも酷いものを見た。しかし、幸い抜け道はある。コナミはデッキトップに手を置き、勢い良くドローする。

 

「オレのターン、ドロー!良し、オレは『カードガンナー』を召喚!」

 

カードガンナー 攻撃力400

 

コナミが呼び出したのは透明なガラスの頭部から光るカメラアイのサーチライト、両手に備えた大砲と下半身のキャタピラが特徴的なモンスターだ。

 

「『カードガンナー』か……」

 

鬼柳が面倒臭そうに舌打ちを鳴らす。ここでこのモンスターは実に厄介だ。効果にカウンターを打つべきか迷う。

 

「『カードガンナー』の効果!デッキトップの3枚を墓地に送り、送った数×500、攻撃力をアップする!」

 

「カウンター罠、『インフェルニティバリア』!フィールドに『インフェルニティ』モンスターが存在し、手札が0の場合、相手のモンスター、罠、効果の発動を無効にし、破壊!」

 

「だが『カードガンナー』の墓地肥やしはコストだ。そしてこいつが破壊された事でドロー!」

 

ダニエル 手札2→3

 

破壊した事でドローし、コナミの手札が僅かに潤う。

 

「カウンターを打ってくれた事で上手くいった。魔法発動、『ギャラクシー・サイクロン』!セットされた『インフェルニティバリア』を破壊!」

 

「そうはいくか!オーガ・ドラグーンの効果でその効果を無効にし――」

 

「甘い!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、オーガ・ドラグーンの効果を無効!」

 

「何ッ!?」

 

2重に3重に張り巡らせた鬼柳の布陣を見事潜り抜け、コナミの手が冴え渡る。鬼柳が『ブレイクスルー・スキル』を見逃したからこそ出来た突破だ。残りの手札は2枚、全力で鬼柳に対抗する。

 

「カードを1枚セット、魔法カード、『命削りの宝札』を発動、3枚ドロー!」

 

ダニエル 手札0→3

 

「手札を1枚捨て、魔法カード、『ペンデュラム・コール』を発動!デッキから『慧眼の魔術師』と『竜脈の魔術師』をサーチし、セッティング!」

 

コナミのデュエルディスクの両端に2枚のカードが設置され、ソリッドビジョンのプレートに虹色の輝きが灯る。同時に彼の背後に2本の光の柱が伸び、中に出現した秤を持った銀髪の『魔術師』と短刀を握った若い『魔術師』が天空に線を結び、美しい魔方陣を描き出す。何とも幻想的で美しい光景だ。そして初めて目にするであろうペンデュラムに鬼柳とセクト、そしてジルがその表情に驚愕を貼りつける。

 

「ほう……満足させてくれそうじゃねぇか……!」

 

「何だこりゃあ……!」

 

「何と……ダニエル殿は何者なのだ……!?」

 

「……俺も知らんが……奴は強いぞ……!」

 

各々コナミの使うペンデュラムカードに驚く中、ユートがニヤリと笑みを深める。一時はどうなるかと思ったが、危機は乗り越えた。このターンは攻撃に移れないが、次のターンからがコナミの本領発揮だ。

 

「竜脈のペンデュラム効果で手札の『貴竜の魔術師』を捨て、オーガ・ドラグーンを破壊!」

 

「チッ――!」

 

更に手を打ち、厄介なオーガ・ドラグーンも撃破する。これでこちらを妨害するカードは全て取り払った。手札も墓地もボロボロにされていたと言うのに、見事とと言う他無いだろう。

コナミもまた、チャンピオンシップでの激闘、暗次の想いを力に変え、着実に成長している。

 

「オレはこれでターンエンドだ」

 

ダニエル LP4000

フィールド

セット1

Pゾーン『慧眼の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札0

 

これでコナミも手札0、鬼柳に対抗して満足状態となった。まだまだ勝負は分からない。見事効果無効を潜り抜けたコナミに対し、鬼柳はニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。

 

「やるじゃねぇか……そうで無くちゃ満足出来ねぇ!俺のターン、ドロー!バトルだ!トリシューラでダイレクトアタック!」

 

「させん!墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

トリシューラの三つ首へと冷気が集束し、氷の弾丸が形成されて撃ち出される。レベル9にしては少ない数値だが、2700のダメージは放置出来ない。コナミは地面に渦を広げ、中より伸びる光の剣を握り、氷弾を切り裂き防ぐ。

 

「メインフェイズ2、トリシューラをリリースし、『インフェルニティ・デストロイヤー』をアドバンス召喚!」

 

インフェルニティ・デストロイヤー 攻撃力2300

 

ここで登場したのは破壊者たる魔人のモンスター、手札が0の場合、モンスターの戦闘破壊時に相手のLPを1600削る効果を持っている。とは言えこの状況で使える特徴はレベル6と言うレベル8シンクロへ繋ぐ為のステータスだけだが。

 

「レベル6のデストロイヤーにレベル2のビートルをチューニング!死者と生者、ゼロにて交わりし時、永劫の檻より魔の竜は放たれる!シンクロ召喚!出でよ、『インフェルニティ・デス・ドラゴン』!!」

 

インフェルニティ・デス・ドラゴン 攻撃力3000

 

黒いスモークが鬼柳のフィールドに巻き起こり、中より鋭い爪が黒煙を切り裂き、身体中より紫電をスパークさせる魔竜が姿を見せる。刃のような角、ギョロギョロと不気味に蠢く複数の眼、計4本の腕に薄い羽と全体的に昆虫を思わせるドラゴンだ。

これこそが最後の満足龍。効果はそれ程強力では無いが、『インフェルニティ』の名を持つだけでこのカードの価値は一気に増す。

 

「ビートルを守備表示にし、ターンエンドだ。さぁ、どう出る?」

 

鬼柳 京介 LP4000

フィールド『インフェルニティ・デス・ドラゴン』(攻撃表示)『インフェルニティ・ビートル』(守備表示)

セット1

手札0

 

「オレのターン、ドロー!慧眼を破壊し、デッキの『竜穴の魔術師』をセッティング!そしてリバースカード、オープン!『アームズ・ホール』!デッキトップをコストに『妖刀竹光』をサーチする!準備は整った!揺れろ、光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!『慧眼の魔術師』!『V・HEROヴァイオン』!」

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

V・HEROヴァイオン 守備力1200

 

振り子の軌跡を描き、フィールドに光の柱が轟音と共に降り立ち、震撼させる。光を粒子として散らし、中から姿を見せたのは衣装に瑠璃の珠を散りばめ、秤を持った銀髪の『魔術師』と頭部がカメラとなった映画泥棒のような『HERO』モンスターだ。

 

「ヴァイオンの召喚、特殊召喚時、デッキの『E・HEROシャドー・ミスト』を墓地に落とし、シャドー・ミストの効果でデッキから『E・HEROエアーマン』サーチ!更にヴァイオンの効果で墓地のシャドー・ミストを除外し、デッキの『置換融合』をサーチ!ターンエンドだ」

 

ダニエル LP4000

フィールド『慧眼の魔術師』(守備表示)『V・HEROヴァイオン』(守備表示)

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札3

 

ここで融合しても『インフェルニティ・デス・ドラゴン』に勝てず、『ホープ』を召喚しても相性が悪い。序盤に手札を削られた事もあり、今は防御に徹するコナミ。しかし――死神はそう簡単に防御を許さない。

 

「おいおい、がっかりさせてくれるなよ、固まってるだけじゃ満足出来ねぇぜ。俺のターン、ドロー!俺は『疫病狼』を召喚!」

 

疫病狼 攻撃力1000

 

現れたのは飢えた黒の狼。赤い瞳を輝かせ、息を荒くしてコナミのフィールドに狙いを定める。

 

「『疫病狼』の効果で攻撃力を倍に!」

 

疫病狼 攻撃力1000→2000

 

「『インフェルニティ・デス・ドラゴン』の効果発動!手札0の場合、相手モンスター1体を破壊し、その攻撃力分の半分のダメージを与える!慧眼を破壊!インフェルニティ・デス・ブレス!」

 

ダニエル LP4000→3250

 

『インフェルニティ・デス・ドラゴン』の眼がギョロギョロと蠢いた後、竜はそのアギトに黒雲を集束し、一気に解き放つ。弾丸のように襲いかかるブレスは『慧眼の魔術師』は破裂され、コナミへとダメージを与える。

 

「この効果を使ったターン、『インフェルニティ・デス・ドラゴン』は攻撃出来ねぇ……が、『疫病狼』は別!ヴァイオンに攻撃!」

 

「チッ――!」

 

「ターンエンドだ。『疫病狼』は自壊する」

 

鬼柳 京介 LP4000

フィールド『インフェルニティ・デス・ドラゴン』(攻撃表示)『インフェルニティ・ビートル』(守備表示)

セット1

手札0

 

「何て男だ、あの壁を破りダメージを与えるとは……」

 

「へっ、アニキを舐めんじゃねぇ!アニキにかかりゃキングなんて目じゃねぇ!アニキはこのシティ最強のデュエリストなんだ!」

 

「フ、よせやいセクト」

 

コナミが守備表示モンスターで防御を固めたにも関わらず、それを全滅させた上でダメージを与えた鬼柳の手腕にユートが舌を巻く。対するセクトは嬉しそうに兄貴分であるセクトを自慢し、鬼柳はどこか嬉しそうに応える。

シティ最強、成程、キングと言う者が何かは分からないが、確かにその名に相応しいと思える程強いデュエリストだ。事実、この鬼柳はコナミが今まで闘って来た誰よりも強い。

 

「上等だ、そうでなければ満足出来ん」

 

「む……」

 

「オレのターン、ドロー!オレは『E・HEROエアーマン』を召喚!」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

相手が強ければ強い程、コナミの魂は燃え上がる。彼がその手から召喚したのは青いボディに背からファンの翼を伸ばした風の『HERO』だ。『HERO』の中でも必須と言えるカードであり、召喚時、サーチ効果を持つカードの代表格と言える。

 

「エアーマンの召喚時、デッキの『E・HEROブレイズマン』をサーチ!装備魔法、『妖刀竹光』をエアーマンに装備!魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札2→4

 

「ペンデュラム召喚!『慧眼の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

またもペンデュラム召喚。次に現れたのは先程のターンでも召喚した慧眼と炎の鬣を伸ばした『HERO』だ。

 

「慧眼ってのは破壊した筈じゃ……」

 

「ペンデュラム召喚はスケールの間のレベルのモンスターを手札、そしてエクストラデッキからはペンデュラムモンスターを召喚するものだ。そしてフィールドで破壊されたペンデュラムモンスターはエクストラデッキへ送られる」

 

「はぁ!?それってズルじゃん!」

 

ここで疑問を浮かべたセクトにコナミが説明し、セクトが目を剥いて苦言を漏らす。確かにズルと呼ばれても仕方無いものかもしれない。

だが、デュエルディスクが作動している以上、ルール内、それに持てる力を全て出し切らねば鬼柳とは互角に渡り合えない。そう、互角には。全力を出しても、勝てるかは怪しい。

 

「ガタガタ言ってんじゃねぇセクト。良いぜ、面白いじゃねぇか」

 

その証拠に鬼柳本人はそれも自分を満足させてくれるスパイスとしか思っていない。ペンデュラムで精神を揺れると思ったが――これだから自身の腕を、デッキを信頼する強者は困る。

 

「ならもっと面白いものを見せてやろう!ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ、発動!フィールドのブレイズマンとエアーマンで融合!融合召喚!『E・HERO GreatTORNADO』!」

 

E・HERO GreatTORNADO 攻撃力2800

 

融合召喚、更にシンクロ次元の既知の外側の力を使い、コナミは勝負に出る。吹き荒れる風を身に纏い、現れたのは黒いマントを靡かせた嵐の英雄。コナミが多くの召喚の中で最も頻繁に使う召喚だ。

 

「融合召喚……ナッシュ殿、貴公等は一体……?」

 

「……そうだな、これが終われば全て話そう」

 

流石にジルがナッシュ達を怪しく思い目を細め、ユートがそろそろ話す頃かと覚悟を決める。

 

「融合……」

 

「ほう……」

 

対するセクトは何か思い当たるものがあるのか考え込み、鬼柳はニヤリと笑みを深める。

 

「『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』サーチ!TORNADOの融合召喚時、相手モンスターの攻守を半分に!タウンバースト!」

 

インフェルニティ・デス・ドラゴン 攻撃力3000→1500

 

TORNADOが風を弾丸にして撃ち出し、鬼柳のモンスターを弱体化させる。デス・ドラゴンの厄介な所は攻撃力の高さと『インフェルニティ』の名を持つからこその蘇生の容易さだ。

 

「バトル!TORNADOで『インフェルニティ・デス・ドラゴン』へ攻撃!スーパーセル!」

 

「永続罠発動!『スピリット・バリア』!墓地の『インフェルニティ・ビショップ』を除外し、破壊も防ぐ!」

 

TORNADOが自身の周囲に嵐を発生させ、それを1つに束ねて竜の形をした竜巻を作り出し、魔竜に撃ち出す。

 

「慧眼で追撃!」

 

続けて慧眼がその秤で自身の前に小さな魔方陣を描き出し、その中から光の弾丸を撃ち出し、デス・ドラゴンを貫く。しかしデス・ドラゴンも負けじと黒き弾丸を放ち、相撃ちとなる。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

ダニエル LP3250

フィールド『E・HERO GreatTORNADO』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札3

 

互いにダメージと言う名の先制パンチを交換し、様子見はもう終わった。コナミのターンが終了し、鬼柳のターンに移る。鬼柳はどう出るか――。

赤い悪魔と死神のデュエルは、更なる加速を見せる。

 

「さぁ、満足させてもらおうか――!」

 

勝利の女神を口説き落とすのは、どちらか。

 




と言う訳でリーダー登場。インフェルニティの回し方の難しさにヒィコラ言った回です。満足民頭おかしい(誉め言葉)。


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第99話 満足させてもらおうか

今回ちょっと短め。



理由も無く、ただ互いが満足するだけの為に始まったコナミVS鬼柳のデュエル。迎撃をするコナミを見て、鬼柳がニヤリと笑みを浮かべ、デッキトップに右手を翳す。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『スピリット・バリア』をコストに2枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→2

 

「カードを2枚セット!そしてリバースカード、オープン!魔法カード、『ZERO―MAX』を発動!墓地の『インフェルニティ・ネクロマンサー』蘇生!」

 

「手札の『増殖するG』を捨てる!」

 

放たれる大量展開に備え、コナミが手札より黒光する昆虫を飛ばす。『インフェルニティ』相手にこのカードは効果が抜群だが、油断すると抜群過ぎる事が仇となり、デッキ全てが持っていかれかねない。

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

ダニエル 手札2→3

 

「効果で『インフェルニティ・デーモン』蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

ダニエル 手札3→4

 

「効果で『インフェルニティ・ミラージュ』サーチし、召喚!」

 

インフェルニティ・ミラージュ 攻撃力0

 

「リリースし、『インフェルニティ・デストロイヤー』と『インフェルニティ・リベンジャー』蘇生!」

 

インフェルニティ・デストロイヤー 攻撃力2300

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

ダニエル 手札4→5

 

「レベル6のデストロイヤーにレベル2のビートルをチューニング!シンクロ召喚!『インフェルニティ・デス・ドラゴン』!」

 

インフェルニティ・デス・ドラゴン 攻撃力3000

 

ダニエル 手札5→6

 

「レベル4の『デーモン』とレベル3のネクロマンサーにレベル1のリベンジャーをチューニング!シンクロ召喚!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

「2体目……!」

 

ダニエル 手札6→7

 

2体の魔竜が再び顕現し、コナミを睨み付ける。とんでもない回復力と展開力、やはり『インフェルニティ』の相手は面倒だ。

 

「ワンハンドレッドでミラージュコピー!リリースし、『デーモン』とネクロマンサー蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

ダニエル 手札7→8

 

「『デーモン』でバリアサーチ!」

 

「手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、その効果を無効に!」

 

ここまで引けば手札誘発も出て来ると言うもの、少々遅い出勤である事に文句を言いたいが、無いよりはマシだ。何とか『デーモン』を封じ、最悪を逃れる。

 

「ネクロマンサーでデス・ドラゴンを蘇生!」

 

インフェルニティ・デス・ドラゴン 攻撃力3000

 

ダニエル 手札7→8

 

「効果によりTORNADOを破壊し、その攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

「手札の『ハネワタ』を切り、効果ダメージを0に!」

 

デス・ドラゴンのスモークを思わせるブレスがコナミのモンスターを腐敗させ、コナミにも襲いかかるその時、彼の頭上よりパタパタと羽を世話しなく羽ばたかせる毛玉のようなモンスターが現れ、フーフーと息を吐いてスモークを消し飛ばす。一発一発が致命傷、全てが命取りだ。

まるで死神を鎌を首にかけているような感覚に、コナミは末恐ろしいものを感じる。

 

「チッ、ターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP3300

フィールド『インフェルニティ・デス・ドラゴン』(攻撃表示)×2『インフェルニティ・デーモン』(攻撃表示)『インフェルニティ・ネクロマンサー』(守備表示)

セット1

手札0

 

「オレのターン、ドロー!墓地の『置換融合』を除外、GreatTORNADOをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

ダニエル 手札8→9

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を2枚交換、魔法カード、『シールド・クラッシュ』、『地砕き』、『地割れ』!ネクロマンサー、デス・ドラゴン、『デーモン』破壊!」

 

「ぐぬっ!」

 

「ペンデュラム召喚!『慧眼の魔術師』!」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

「そしてチューナーモンスター、『ジェット・シンクロン』を召喚!」

 

ジェット・シンクロン 攻撃力500

 

ここで登場したのは青と白のカラーリングのジェットエンジンを模したモンスターだ。ここでこのカード、流れは確実にコナミに向いている。更に手繰り寄せ、掴み取る為、コナミは攻めに出る。相手が相手だ。攻められる時には一気に攻め切る。

 

「レベル4の慧眼にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『ジェット・ウォリアー』!」

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力2100

 

シンクロ召喚、鬼柳の魔竜に対抗し、コナミが召喚したのは重厚な黒のボディを煌めかせたジェット機を模した機械戦士。その翼を展開し、鋭利な脚で地面を削り、着陸する。攻撃力は低いものの、その効果は優秀だ。

 

「シンクロ召喚時、デス・ドラゴンをバウンス!『ジェット・シンクロン』の効果で『ジャンク・コレクター』をサーチ!」

 

「く――!」

 

『ジェット・ウォリアー』が背中に装備したエンジンから火を吹かせ、勢いのまま魔竜に特攻、右拳を魔竜を腹に抉り込ませ、鬼柳のエクストラデッキへと叩き込む。何度も復活する『インフェルニティ』に対して破壊では無く、バウンスで対応したのは正解に近い。

 

「バトルだ!『ジェット・ウォリアー』でダイレクトアタック!叩き込め!」

 

鬼柳 京介 LP4000→1900

 

「がふっ……!」

 

更に漆黒の機械戦士が背部と右肘から火炎をジェット噴射し、猛スピードで加速して鬼柳に向かい、必殺の一撃をお見舞いする。ソリッドビジョン特有の刺すような痛みに、思わず鬼柳も身悶える。強力なパンチだ。このダメージは手痛い。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

「デュエルらしくなって来たじゃねぇか!罠発動!『裁きの天秤』!4枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→4

 

ダニエル LP3250

フィールド『ジェット・ウォリアー』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札3

 

「俺のターン、ドロー!まだだ!まだ俺は満足しちゃいねぇ!魔法カード、『復活の福音』!墓地のレベル7、8のドラゴン族モンスター、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』を蘇生する!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

再び現れる百目の満足竜。不気味に目を蠢かせ、コナミのモンスターを睨む。

 

「『疫病狼』をコピー、効果発動!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000→6000

 

「バトル!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』で『ジェット・ウォリアー』へ攻撃!インフィニティ・サイト・ストリーム!」

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!デッキの魔法、罠と共に『ジェット・ウォリアー』をセット、シャッフル!」

 

『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』が身体中より赤黒い霧を噴射し、口元より黒と紫が混ざった禍々しいブレスを撃ち出すも、コナミの投擲した2枚のカードと『ジェット・ウォリアー』の上にシルクハットが被さり、シャッフルされる事で回避される。コナミのデッキの回転度を上げ、複数の攻撃を防ぎ、次の展開の選択肢を増やす頼れるカードだ。尤も、フリーチェーンのカードが採用される現在ではバトルフェイズと発動が遅いのが難点だが。

 

「なら真ん中のシルクハットへ攻撃!」

 

「残念、『エレメンタルバースト』だ」

 

「チッ、だが『エレメンタルバースト』……?そうか、そう言う事か……!魔法カード、『アドバンスドロー』!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』をリリースし、2枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札3→5

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』、互いに1枚ドローし、1枚捨てる。そして魔法カード、『終わりの始まり』!墓地のワンハンドレッド2体とビートル2体、『死霊操りしパペットマスター』の闇属性モンスター5体を除外し、3枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札3→6

 

「魔法カード、『復活の福音』!オーガ・ドラグーンを蘇生!」

 

煉獄龍オーガ・ドラグーン 守備力3000

 

「カードを3枚セットし、ターンエンドだ!」

 

鬼柳 京介 LP1900

フィールド『煉獄龍オーガ・ドラグーン』(守備表示)

セット3

手札2

 

鬼柳がコナミのセットしていた『エレメンタルバースト』を見て、何かに気づいたように舌打ちを鳴らす。恐らくは先程コナミが『ジェット・シンクロン』でサーチした『ジャンク・コレクター』とのコンボを見抜いたのだろう、直ぐ様関連性を看破するとは、やはり鋭い男だ。

だがこれは決まれば勝負の決定打となる。退く訳にはいかない。

 

「オレのターン、ドロー!」

 

「罠発動!『インフェルニティ・インフェルノ』!手札を2枚捨て、デッキから『インフェルニティ・ジェネラル』と『インフェルニティ・デス・ガンマン』を墓地へ!」

 

「ペンデュラム召喚!『慧眼の魔術師』!『ジャンク・コレクター』!」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

ジャンク・コレクター 守備力2200

 

幾度も揺れ動くペンデュラム。振り子の軌跡が再び天に描かれ、2体のモンスターがコナミのフィールドに召喚される。このデュエルで過労気味となっている『魔術師』と屑鉄の収集者のお出ましだ。特に後者はコナミにとって奥の手の1つとなっている。

鬼柳相手に2つ目の奥の手は余り効果が無いだろうが。

 

「『ジャンク・コレクター』と墓地の『エレメンタルバースト』を除外し、その効果を発動!相手フィールド上のカードを全て破壊!ぶち撒けろ!」

 

「チッ、罠カード、『スキル・プリズナー』!オーガ・ドラグーンを対象とし、発動!」

 

これぞコナミの奥の手、『マジカルシルクハット』で『エレメンタルバースト』を落とし、『ジェット・シンクロン』でサーチした『ジャンク・コレクター』でコピーし、コストを無視して相手フィールドを一掃する。

相手モンスターは1体のみだが、これが通れば勝利は確実なのだ。勿体ぶってはいられない。

地がひび割れて火柱と氷柱を上げ、強風によって魔竜へ激突、爆煙が吹き荒れる。しかし――紫色の光がスポットライトのように回転し、霧を晴らす。そこにいたのは――。

 

「馬鹿な……!」

 

思わず見守っていたユートが驚愕の声を上げる。それもその筈だろう、何故ならそこにいたのは、傷1つ無い、魔竜の姿だったのだから。

 

「俺は墓地の『復活の福音』を除外し、ドラゴン族モンスター、オーガ・ドラグーンの破壊を防いでいたのさ――!」

 

そう、『復活の福音』は墓地のレベル7、8のドラゴン族モンスターを蘇生するだけでなく、墓地発動の破壊耐性を与える効果までも有している強力なカードだ。鬼柳はその効果を使い、見事『ジャンク・コレクター』と『エレメンタルバースト』のコンボを回避して見せた。

 

「墓地発動系……良いなぁ、欲しいなぁ……」

 

『オッドアイズ』や『スターダスト』を扱うコナミにとっても欲しいカードだ。思わず欲求が声として漏れる。

 

「『エレメンタルバースト』、破れたり!そして破壊された『運命の発掘』の効果で墓地のこのカード2枚分ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→2

 

初見にも関わらず、鬼柳は『エレメンタルバースト』を攻略して見せた。とんでもないデュエリストだ。コナミとしてもこのコンボを信頼している為、ショックは大きい。

 

「ならこちらは賭けに出る!魔法カード、『モンスターゲート』!慧眼をリリースし、通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキのカードを墓地に落とす!1枚目!『スキル・サクセサー』!2枚目!『オッドアイズ・ドラゴン』!特殊召喚する!来い!世にも珍しい二色の眼の龍!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

ここで『慧眼の魔術師』の眼前に魔方陣が浮かび上がり、自身を代償として召喚術が発動される。魔方陣より現れるのは遊矢より譲り受けたコナミの信頼するモンスター、白銀の鎧を纏い、金色の剣を背より伸ばした2色の虹彩を輝かせる竜だ。このカードならば、とコナミの顔色が明るくなる。

 

「『ジェット・ウォリアー』を反転召喚!装備魔法、『メテオ・ストライク』を『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』に装備!手札の『D.D.クロウ』を捨て、『復活の福音』除外、バトル!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』でオーガ・ドラグーンに攻撃!この瞬間、墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、攻撃力を800アップ!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800→3600

 

鬼柳 京介 LP1900→1300

 

「『ジェット・ウォリアー』で攻撃!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

「永続魔法、『エクトプラズマー』を発動し、ターンエンドだ。この瞬間、『エクトプラズマー』の効果で『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』をリリースし、攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

白銀の竜を白い煙のようなオーラが包み込み、竜が雄々しき咆哮を上げて、その体躯を弾丸の如く鬼柳へ放つ。魂の籠った一撃、これで終わらせる――しかし、鬼柳はここで思わぬ反撃に出る。

 

「フ、この瞬間、俺は『インフェルニティ・ゼロ』以外の手札を捨て、このカードを特殊召喚する!」

 

インフェルニティ・ゼロ 守備力0

 

「――その、カードは――!」

 

登場した土偶のようなモンスターを見て、コナミの顔色が変わる。が、遅い。弾丸になったセイバー・ドラゴンがLPを削り取る。

 

鬼柳 京介 LP1300→0

 

鬼柳のLPが0を刻み、ユートとジルが勝利を確信して拳を握り締める。だが違う。LPが0になっても、デュエルは続いている。そう、世にも珍しい、LPを失ってもデュエルを終わらせない死神のカードによって。その証拠に、勝者である筈のコナミが歯軋りを鳴らしている。

 

「何が起こっているのだ……!?」

 

「死神は死なねぇ……!『インフェルニティ・ゼロ』がいる限り、俺のLPが0になろうと、俺は負けねぇ!」

 

「何と言う効果だ……!」

 

そう、これこそが『インフェルニティ・ゼロ』の恐るべき効果。LPが0を刻もうと、敗北しない。その出鱈目な効果を聞き、ユートとジルは勿論、鬼柳がここまで追い詰められなかった為、このカードを知らなかったセクトも驚愕する。が、当然デメリットもある。

 

「そして『インフェルニティ・ゼロ』は手札が0の時、戦闘破壊されず、ダメージを受ける度にこのカードにデスカウンターを置き、3つ以上となった場合に破壊される」

 

インフェルニティ・ゼロ デスカウンター0→1

 

「くっ――!」

 

ダニエル LP3250

フィールド『オッドアイズ・ドラゴン』(攻撃表示)『ジェット・ウォリアー』(攻撃表示)

『エクトプラズマー』セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『和睦の使者』!」

 

「俺は『インフェルニティ・ミラージュ』を召喚!」

 

インフェルニティ・ミラージュ 攻撃力0

 

「リリースし、『インフェルニティ・デーモン』と『インフェルニティ・ネクロマンサー』を特殊召喚!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

「『デーモン』の効果で『インフェルニティ・ブレイク』をサーチし、セット!ネクロマンサーの効果で『インフェルニティ・リベンジャー』を特殊召喚!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

「レベル4の『デーモン』とレベル3のネクロマンサーにレベル1のリベンジャーをチューニング!シンクロ召喚!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

「『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の効果でミラージュを除外し、コピー!リリースし、『デーモン』とネクロマンサー蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 守備力1200

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

「『デーモン』の効果で最後の『インフェルニティ・ブレイク』をサーチし、セット!ネクロマンサーの効果でデス・ドラゴン蘇生!」

 

インフェルニティ・デス・ドラゴン 攻撃力3000

 

再び現れる漆黒の魔竜。コナミもモンスターを過労させるが、鬼柳は少し、かなりやり過ぎだ。

 

「デス・ドラゴンの効果で『ジェット・ウォリアー』を破壊し、攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

ダニエル LP3250→2200

 

「ぐぁっ……!」

 

魔竜によるブレスが自身のモンスターへ撃ち出され、コナミにまでも及ぶ。状況は最悪に近い。後2回ダメージを与えようとしても――彼のセットカードが厄介だ。

 

「ターンエンドだ。『エクトプラズマー』の効果で『デーモン』をリリースし、攻撃力の半分のダメージを与える」

 

ダニエル LP2200→1300

 

鬼柳 京介 LP0

フィールド『インフェルニティ・デス・ドラゴン』(攻撃表示)『インフェルニティ・ネクロマンサー』(守備表示)『インフェルニティ・ゼロ』(守備表示)

セット2

手札0

 

「オレのターン、ドロー!」

 

「ダブル罠発動!『インフェルニティ・ブレイク』!墓地の『インフェルニティ・インフェルノ』と『インフェルニティ・ガン』を除外し、ペンデュラムカードを破壊!」

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『E・HEROエアーマン』、『E・HEROブレイズマン』、『D.D.クロウ』、『ジェット・ウォリアー』、『エフェクト・ヴェーラー』を回収し、2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札0→2

 

ことごとく自分の手が防がれ、コナミが焦りを浮かべる。やはり強敵だ。コナミの戦術とペンデュラムの特性を見抜き、徹底的に邪魔をする鬼柳。そしてコナミの手札ではこの危機を回避出来ない。使えない、ならば――。

 

「魔法カード『打ち出の小槌』!手札を全てデッキに戻し、ドロー!」

 

カードを入れ替える。ここ一番の大勝負。決着を賭け、コナミがデッキよりカードを引き抜き、その軌跡が三日月のようなアークを描く。引き抜かれたカードは――。

 

「来た!魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地から蘇れ!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

再びフィールドに蘇る、剣の竜。白銀の竜が天へと咆哮する。コナミはこのカードに、一発逆転を賭ける。

 

「バトル!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』で『インフェルニティ・デス・ドラゴン』に攻撃!」

 

「ッ!何を――!?」

 

「忘れたのか!オレの墓地には、これがある!墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、攻撃力を800アップ!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800→3600

 

「この一撃と『エクトプラズマー』でカウンターを乗せる気か!」

 

これが、コナミの全力全開。全てを賭けた一撃にユートとジルが歓声を上げる。そして『オッドアイズ』のアギトへと大気が集束し、光輝く熱線が魔竜を呑み込む。これで――ゼロに2つ目のカウンターが乗る。

 

インフェルニティ・ゼロ デスカウンター1→2

 

「エンドフェイズ、『エクトプラズマー』の効果でダメージを――」

 

しかしその時、カチャリと、コナミの側頭部に固い何かの感触が当たり、『オッドアイズ』の一撃が止まる。一体何が――動揺し、視線をそこへと移せばコナミの側頭部へと、拳銃の銃口を向ける鬼のような面をしたガンマンの姿。これは――。

 

「お前こそ――俺の墓地にこいつがあるのを忘れていないか?この『インフェルニティ・デス・ガンマン』を!」

 

「ッ!」

 

そう、コナミが『モンスターゲート』で『スキル・サクセサー』を墓地に送ったように、鬼柳にはこんな時の為に『インフェルニティ・インフェルノ』で墓地送ったこのカードがある。

 

「『インフェルニティ・デス・ガンマン』。このカードは手札0の場合、相手がダメージを与えるモンスター、魔法、罠の効果を発動した時、こいつを除外する事で無効にし、相手は更に効果を使うかどうかを選択する。続く効果は俺のデッキトップを捲り、モンスターだった場合、お前が2000ダメージを受ける効果。そして魔法、罠の場合、俺に2000のダメージを与える効果――さぁ、引き金を引けよ」

 

突きつけられる銃口と選択、どうするか――昨今のデッキ構築はモンスターが重視され、魔法、罠は少ない。だが、この賭けを逃すとしたら、勝機は無くなる。ならば、この分の悪いロシアンルーレットに、乗るしか手は無い。何より、こんな所で逃げては――満足出来ない。

 

「当然――使う!」

 

「……そう言うと思ったぜ……!さぁ、運命のロシアンルーレット!銃弾は――!」

 

コナミの答えと共に、引き抜かれる1枚のカード、銃弾はコナミか、それとも鬼柳か。バクバクと心臓がうるさい程に早鐘を鳴らす。額より大粒の汗が垂れ、ポタリと地に落ちる。このデュエル中、コナミは何度も勝利の女神を口説き、そして――女神は、ニコリとコナミへと笑みを向ける。口説き、落とした――。翳されたカード、結果は――。

 

「――『インフェルニティ・リローダー』!俺の、勝ちだ――!」

 

しかし――女神は背後から現れた死神の鎌に切り裂かれ、血飛沫を上げてコナミの胸に倒れ伏す。勝利の女神が自身に微笑まないならば、用は無い。倒して、自分の手で強引に勝利を奪い取るのみ。

 

ダニエル LP1300→0

 

デス・ガンマンが引き金を引き、銃弾がコナミを貫く。勝者、鬼柳 京介。勝利の女神をも、この死神は狩り取る――。

 

「フ、久々に満足出来るデュエルだったぜ。立てるか?」

 

デュエルが終了し、ソリッドビジョンのモンスター達が消えいく中、鬼柳は満足そうな表情を浮かべ、コナミに歩み寄り、手を差し出す。

負けてしまった、悔しさが胸の奥から込み上げる。やはりこの男は強い。コナミは溜め息を吐き出し、晴れやかな表情でその手を受け取り、立ち上がる。

 

「次は負けん」

 

「それだけ言えりゃ大丈夫か……よし、お前等」

 

「?」

 

鬼柳がコナミやユート、ジルの3人を見渡し、ニヤリと笑みを浮かべる。一体何を企んでいるのか、若干、悪そうな顔だ。

 

「俺のチームに入れ」

 

突然告げられた勧誘の言葉――ユートとジルが目を見開く中、コナミがニヤリと笑みを浮かべ、その誘いに乗り、更に2人を驚愕させる。

 

「だがオレはレアだぜ」

 

この言葉の意味は、相変わらず分からなかったが――。

 

 




ヴレインズが面白い。ファイアウォールが予想以上に格好良かったです。出た回で寝取られたけど。ヴァレルロードが強過ぎて大丈夫なんだろうかとハラハラします。


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第100話 インチキ効果も良い加減にしやがれ!

「笑顔!」

 

「飯!」

 

「笑顔!」

 

「飯!」

 

コナミ達が鬼柳とデュエルをしている頃、遊矢達は何故か勘違いされてセキュリティに襲われている所を、クロウ・ホーガンと言う男に助けられ、彼が暮らすボロ家で口喧嘩していた。

 

この場にいるのは遊矢、零児、零羅、沢渡、セレナ、クロウに沢渡の子分とクロウを慕う子供達、そして遊矢達が保護した柚子に良く似た少女だ。

 

喧嘩の原因は価値観の違い、遊矢が笑顔が一番大事な物だと言うのに対し、クロウが飯の方が優先されると主張し返したのだ。そこで案外短気な2人はカチンと来てしまったと言う訳である。この様子を見ている零児は呆れて深い溜め息を吐き出す。

 

「よぉし上等だ、こうなったらどっちが本当に大事な物か、デュエルだホウキ頭」

 

「お?言ったなトマト頭、ボッコボコにしてやんよ、やんよぉ!」

 

どちらも幼稚である。特にクロウは大人気ないにも程がある。額にM字を描いたマーカーの側に青筋を浮かべ、メンチを切り合うトマトとホウキ。一触即発、今にも爆発しようとする2人。しかし、そんな2人へと歩み寄る影が1つ。

 

「遊矢、クロウ、めっ」

 

「そうだぞ遊矢、エヴァの言う通りだ!」

 

細身の身体に白いマントを羽織り、フードを被った柚子に似た顔立ち、どこかボーッとした表情が特徴の少女、デッキ以外を持っておらず、名前が不明の為、セレナ命名、エヴァだ。

彼女は幼い子供をあやすように遊矢の額を小突く。

 

「ごめんなクロウ」

 

「早ぇ!お前はそれで良いのか!?」

 

エヴァの「めっ」を受け、遊矢がキリッとした表情を浮かべ見事にセットした掌をリバースする。余りにも早い変わり身だ。流石のクロウも驚愕する。恐るべきはエヴァに秘められた母性、バブみか。柚子に似ている事もあり、遊矢はデレデレとしている。

 

「めっ、だってさ、ウフフ」

 

「ん、良い子」

 

「聞いたかクロウ!ちょっと聞いた!?」

 

「うるせぇっ!女にデレデレしやがって……!」

 

「クロウはモテないもんね」

 

「フランク、ちょっと黙っていてくれ」

 

最早エヴァのバブみの前に牙を抜かれた遊矢。そんな彼の姿を見て、クロウが顔に手を当ててボスッとソファに倒れるように座り、溜め息を吐く。

すると彼が世話を焼く子供から思わぬフレンドリーファイア。これにはクロウもマジ顔になって「やめよう、な?」と諭す。笑顔なのだが目が笑っていない。

 

「ったく、どいつもこいつもだらしねぇな。女だ何だの下らねぇ」

 

「全くッスよ沢渡さん!」

 

「膝が震えてるッスよ沢渡さん!」

 

「目尻に涙が浮かんでるッスよ沢渡さん!」

 

と、ここで口を挟んで来たのは沢渡 シンゴだ。口ではぶつぶつ言っているが、取り巻きの言う通り彼も女っ気が無いのを気にしている。彼の場合、そのプライドの高い性格と残念な所が原因だろうが。

 

「へぇ、話が合うじゃねぇか」

 

「ハッ!どうだ?俺とデュエルでも。シンクロ次元の実力がどれ程か、俺が試してやるよ」

 

鼻を鳴らし、クロウを挑発する沢渡。彼の台詞は本音だが、その裏には零児の指示がある。彼が沢渡へと、恐らく仲間になるだろう、クロウ・ホーガンの実力を量れと指令をかけたのだ。沢渡もデッキ調整を兼ね、それに乗る。

 

「上等だ、俺もお前達の事をまだ信頼した訳じゃねぇ。デュエルで見せてもらうぜ、そこん所を」

 

ニヤリ、クロウが沢渡の挑発に乗り、獰猛な笑みを浮かべ、全身から闘気を放つ。その強者特有の雰囲気を見て、遊矢と零児が目を鋭くする。セレナとSALと言えば気づいてはいるが、そんな事はどうでも良いとばかりにエヴァに膝枕をされて寝息を立てる始末。

強い、数多の激戦を潜り抜けたであろう歴戦の戦士のような佇まいだ。クロウはそのまま立ち上がり、外へと出る。場所を変えると言う事だろう、沢渡もそれに倣い、遊矢と零児、それに続いて零羅、沢渡の子分が後を追う。

 

「さて、準備は良いな?」

 

「俺は何時でも構わねぇぜ」

 

2人がデュエルディスクを構え、光輝くプレートを展開する。LDSの中でも高い実力を誇る沢渡と、未知の強敵、クロウ。この予想もつかない対決に、その場にいる全員が目を離すまいとする。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻は愉快なペンデュラム集団、『魔界劇団』を操るエンタメデュエリスト、沢渡 シンゴだ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、戦術を組み立てる。

 

「俺は『魔界劇団―エキストラ』を召喚!」

 

魔界劇団―エキストラ 攻撃力100

 

まず登場したのは物語を影で支える脇役だ。円盤状の投影装置からハットを被った単眼の悪魔が出現する。脇役ながら劇団を支え、回転させるには必要不可欠のカードと言える。

 

「エキストラをリリースし、効果発動!デッキから『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』をペンデュラムゾーンに設置する!」

 

「ペンデュラム……?」

 

「へっ、お楽しみはこれからだぜ!俺は更に『魔界劇団―デビル・ヒール』をセッティング!これでレベル2から7のモンスターを同時に召喚可能!」

 

沢渡がもう1枚のカードをデュエルディスクにセッチシタ途端、その両端から中心へと向かい、虹色の光が灯り、彼の背後に2本の柱が上り、天空に魔方陣を描き出す。舞台は整った。沢渡は両手を広げ、声高々に叫びを上げる。

 

「ペンデュラム召喚!『魔界劇団―サッシー・ルーキー』!」

 

魔界劇団―サッシー・ルーキー 攻撃力1700

 

振り子の軌跡を描き、現れたのは草木のように生い茂った髪型をした生意気そうな悪魔だ。手足をブラブラと垂らし、面倒そうにクロウを睨む。

 

「「「出た!沢渡さんのペンデュラム召喚だ!」」」

 

「フゥー☆」

 

「ペンデュラム……成程、カラクリはフィールドに設置された2枚か。それでレベル2から7のモンスターを同時、複数特殊召喚するって事か。とんだインチキだぜ」

 

冷静に分析し、沢渡の台詞から推理するクロウ。とんでもない推理力、恐らくは数多の闘いで身に付けた観察眼だろう。沢渡を持ち上げる3人を他所に、遊矢と零児がクロウの予測に舌を巻く。

 

「そしてダンディ・バイプレイヤーのペンデュラム効果により、ペンデュラム召喚した時、エクストラデッキのエキストラを回収!」

 

「エクストラデッキ……どう言った原理か分からねぇが、ペンデュラムモンスターはエクストラデッキに送られる訳か」

 

「ご名答過ぎて怖いぜ。種明かしも出来ねぇよ。俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『魔界劇団―サッシー・ルーキー』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』『魔界劇団―デビル・ヒール』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!ぶち抜いてやるぜ、覚悟しな!俺は2枚の永続魔法、『黒い旋風』を発動!こいつは俺が『BF』モンスターを通常召喚した時、そのモンスターより低い攻撃力を持つ『BF』をサーチするカードだ!」

 

「専用のモンスターを『ガジェット』化するカード……!」

 

「これだけでも充分に巻き返せるカードだな」

 

クロウのフィールドに黒い羽を逆巻く旋風が吹き荒れる。このカードこそ彼のデッキでキーとなるカード。これがある限り、クロウは『BF』を召喚する度に2枚の手札を稼ぐ事となる。

 

「羽帚ッスよ沢渡さん!」

 

「いやいや『サイクロン』ッスよ沢渡さん!」

 

「ここは『ツイン・ツイスター』ッスよ沢渡さん!」

 

「握ってねぇ」

 

「「「沢渡さぁーん!?」」」

 

横合いから子分3人がそれぞれ助言を出すが、残念な事に今沢渡の手札、フィールドには魔法、罠を破壊するカードは無い。せめて『アブソーブポッド』があればと思うもこれもない。

 

「俺は『BF―蒼炎のシュラ』を召喚!」

 

BF―蒼炎のシュラ 攻撃力1800

 

クロウが畳み掛けるべく召喚したのは『BF』の切り込み役、細身の身体を覆うような黒翼を広げ、長い手足を持った鳥人。『BF』の中でも比較的攻撃力が高いアタッカーだ。

 

「『黒い旋風』の効果で『BF―疾風のゲイル』と『BF―月影のカルート』をサーチ!ゲイル以外の『BF』が自分フィールドに存在する事でゲイルを特殊召喚する!」

 

BF―疾風のゲイル 攻撃力1300

 

サーチから特殊召喚へ。見事に展開に繋げ、フィールドに特殊召喚されたのは黄色い顔に髪のような緑の羽毛を生やし、身体は紫の羽で覆った鳥獣族のチューナーだ。特殊召喚が容易な上、チューナー、そして強力な効果と3拍子揃ったカードであり、クロウもこのカードには信頼を寄せている。

 

「ゲイルの効果でサッシー・ルーキーの攻守を半分にする!」

 

「あぁん!?」

 

魔界劇団―サッシー・ルーキー 攻撃力1700→850

 

この戦闘補助こそがゲイルの強み。しかもこの効果は永続的に続くのだ。これならば守備表示で出せば良かったかと沢渡が眉根を寄せて舌打ちを鳴らす。

 

「バトルだ!シュラでサッシー・ルーキーを攻撃!」

 

「サッシー・ルーキーは1ターンに1度破壊されねぇ!」

 

「だがダメージは受けてもらうぜ!」

 

沢渡 シンゴ LP4000→3050

 

シュラがサッシー・ルーキーに向かい、2つ名の由来であろう蒼い炎を発射し、サッシー・ルーキーが何とかそれを防ぐ。微量だが、見過ごせないダメージだ。チクチクとしたダメージに顔をしかめる。

 

「ゲイルで追撃!」

 

沢渡 シンゴ LP3050→2600

 

「チッ、だがサッシー・ルーキーが破壊された事でデッキから『魔界劇団―ワイルド・ホープ』をリクルート!」

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 守備力1200

 

サッシー・ルーキーがゲイルの放つ突風でエクストラデッキに送り込まれるものの、最後の意地で自身と肩を並べる劇団のニューホープを呼び出す。ハットを被り、レーザー銃を構えた、どこか気取った印象を持つモンスターだ。

 

「ちょっとは出来るって事か。メインフェイズ2、レベル4のシュラにレベル3のゲイルをチューニング!黒き旋風よ、天空へ駆け上がる翼となれ!シンクロ召喚!『BF―アーマード・ウィング』!」

 

BF―アーマード・ウィング 攻撃力2500

 

ゲイルが3つのリングとなって弾け飛び、シュラを包み込んで閃光と共に姿を変える。シンクロ召喚、動き出したクロウの前に降り立ったのは黒鉄の鎧と翼を広げた、嘴の中の赤いフェイスガードが特徴的な機械染みたモンスターだ。

おおよそ鳥獣族に見えないが、隼の操る『RR』もこんなものだったかと遊矢は観察を続ける。彼にとって見ると言う事はそれだけで成長に繋がるのだ。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

「おっとその前に罠発動!『魔界劇団の楽屋入り』!ペンデュラムゾーンに『魔界劇団』が2枚ある場合、デッキの『魔界劇団』2体をエクストラデッキに送る!俺は『魔界劇団―ビッグ・スター』と『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』を送る!」

 

クロウ・ホーガン LP4000

フィールド『BF―アーマード・ウィング』(攻撃表示)

『黒い旋風』×2セット1

手札3

 

「俺のターン、ドロー!行くぜ!ワイルド・ホープを攻撃表示に変更し、ペンデュラム召喚!『魔界劇団―ビッグ・スター』!!『魔界劇団―サッシー・ルーキー』!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!」

 

魔界劇団―ビッグ・スター 攻撃力2500

 

魔界劇団―サッシー・ルーキー 攻撃力1700

 

魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500

 

これが『魔界劇団』の展開力、次々と団員が登場し、フィールドを盛り上げる。現れたのは先程も登場したサッシー・ルーキーに可愛らしい少女型の悪魔。そして渦巻く赤髪に黒い衣装を纏った『魔界劇団』の大スター、沢渡のエースモンスターだ。

 

「ビッグ・スターの召喚、特殊召喚時、相手は魔法、罠を発動出来ない。更にビッグ・スターの効果により、デッキから『魔界台本「魔王の降臨」』をセットし、発動!自分フィールドの攻撃表示の『魔界劇団』の数までフィールドの表側表示のカードを対象として破壊する!俺は俺のフィールドのダンディ・バイプレイヤー、お前のフィールドのアーマード・ウィング、『黒い旋風』2枚を破壊する!」

 

「インチキ効果も良い加減にしやがれ!」

 

そしてこのカードこそ『魔界劇団』において切り札足り得る魔法カード。相手フィールドを蹂躙し、破壊し尽くす。しかもレベル7以上の『魔界劇団』がいればチェーンも出来ない為、ペンデュラムの展開力を合わせれば一気に止めまで持ち込める。

ビッグ・スターが台本を広げ、紫色の屈強な肉体を誇る魔王に扮し、赤い熱波を放ってクロウのカードを焼き尽くす。吹き荒れる黒煙を受け、クロウが顔をしかめる。

 

「チッ――!」

 

「『魔界劇団―エキストラ』を召喚!」

 

魔界劇団―エキストラ 攻撃力100

 

「そしてワイルド・ホープの効果でモンスターゾーンの『魔界劇団』の種類×100攻撃力をアップする!」

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1600→2100

 

「エキストラをリリースし、『魔界劇団―ファンキー・コメディアン』をセッテイング!さぁ、バトルとしゃれこもうぜ!プリティ・ヒロインでダイレクトアタック!」

 

「させっかよぉ!永続罠、『リビングデッドの呼び声』!墓地のアーマード・ウィングを蘇生!」

 

BF―アーマード・ウィング 攻撃力2500

 

「チッ、ならビッグ・スターで攻撃!」

 

「相撃ち狙いか?なら残念だったな!アーマード・ウィングは戦闘で破壊されず、自分への戦闘ダメージは0になる!」

 

「うそぉん!?」

 

ビッグ・スターで相撃ちに持ち込み、残るモンスターで大ダメージを与えようとしたのだろうが、残念な事にアーマード・ウィングには戦闘破壊耐性がある。よって失われるのはビッグ・スターのみ。唯一の救いはビッグ・スターがペンデュラムモンスターな点か。

 

「くっ、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP2600

フィールド『魔界劇団―ワイルド・ホープ』(攻撃表示)『魔界劇団―サッシー・ルーキー』(攻撃表示)『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『魔界劇団―ファンキー・コメディアン』『魔界劇団―デビル・ヒール』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!俺は『BF―極北のブリザード』を召喚!」

 

BF―極北のブリザード 攻撃力1300

 

クロウのターンに移り、彼が召喚したのは『BF』と言うには程遠い、白い羽毛を持つ嘴の広いチューナーモンスターだ。

 

「ブリザードの召喚時、墓地のレベル4以下の『BF』、シュラを守備表示で特殊召喚する!」

 

BF―蒼炎のシュラ 守備力1200

 

「レベル4のシュラにレベル2のブリザードをチューニング!シンクロ召喚!『BF―星影のノートゥング』!」

 

BF―星影のノートゥング 攻撃力2400

 

シンクロ召喚、舞い上がる黒羽を広げ、現れたのは屈強な肉体を持ち、その右手に美しい波紋が広がる剣を握る鳥人だ。汎用レベル6でもあり、優秀な効果を持っている。

 

「ノートゥングの特殊召喚時、相手に800のダメージを与える!」

 

沢渡 シンゴ LP2600→1800

 

「そして相手モンスター1体を選び、攻守を800ダウン!プリティ・ヒロインを選ぶ!」

 

魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500→700

 

「まだだぜ、ノートゥングがモンスターゾーンに存在する限り、俺は通常召喚に加え1度だけ『BF』を召喚出来る!来い!『BF―蒼炎のシュラ』!」

 

BF―蒼炎のシュラ 攻撃力1800

 

「もう逃げられねぇぜ、やれ!アーマード・ウィング!プリティ・ヒロインに攻撃!ブラック・ハリケーン!」

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!このターンの攻撃を封じる!」

 

アーマード・ウィングが羽を散らし、旋風を起こして攻撃するも、沢渡が攻撃を丸ごと封じる。これで危機は去ったが、一瞬も気を抜けない。

 

「「「流石ッスよ沢渡さん!」」」

 

「……現状は沢渡の不利かな?」

 

「だろうな、だが彼には魔王の降臨がある。巻き返しは充分可能。しかし……彼が2回目を許してくれるか」

 

「うん、沢渡も実力はあるけどどこか不安定だし」

 

遊矢と零児が顎に手を当てて静かに観察し、分析する。確かにビッグ・スターを出せばまた魔王の降臨がある。だがクロウに2回目が通じるか。それも沢渡はマルチデッカーとしてどんなデッキも使いこなす高い実力を持っているが、不安定なデュエルをする。強いと思ったら弱い。弱いと思ったら強い。だが――零児は知っている。彼が最も強い時は――子分3人に、格好つける時。彼は歓声を受けて強くなるタイプだ。

 

「ふぅん、面白いじゃねぇか。だがテメェの種は全部見た。このままじゃジリ貧になるだけだぜ?メインフェイズ2、リビングデッドを墓地に送り、魔法カード、『マジック・プランター』!2枚ドローだ」

 

クロウ・ホーガン 手札1→3

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

クロウ・ホーガン LP4000

フィールド『BF―星影のノートゥング』(攻撃表示)『BF―蒼炎のシュラ』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、ノートゥングをリリースし、罠発動!『ゴッドバードアタック』!テメェのペンデュラムカードを破壊する!」

 

「んなっ――!?」

 

ノートゥングが天より降る雷を受け、電光の速度で羽ばたき、剣で沢渡のペンデュラムカードを切り裂く。不意打ちの一撃。クロウはペンデュラムの特性を見抜き、ペンデュラム召喚自体を封じに来た。ヤバい、流石の沢渡も驚愕し、その額から汗が伝う。それでも――その顔に浮かぶものは。

 

「何がおかしいんだ?」

 

ニヤリと口角を持ち上げる、不敵な笑み。

 

「ハンッ、エンタメデュエリストは何時だって笑ってピンチを切り抜けるんだよ」

 

「沢渡……!」

 

エンタメデュエリストだから。だからこそピンチで笑い、何とかして見せる。そんな彼に遊矢が目を見開いて息を呑む。何て男だ。これが沢渡 シンゴ。思わず流石と舌を巻いてしまう。負けてられないと笑ってしまう。

 

「まだ手はある!プリティ・ヒロインをリリースし、アドバンス召喚!『光帝クライス』!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

フィールドに金色の鎧を纏う皇帝が君臨する。帝モンスター、ペンデュラム召喚でも効果を発揮し、能動的にスケールが割れる為に投入したカードだ。このカードで逆転を狙う。

 

「効果発動!ワイルド・ホープとサッシー・ルーキーを破壊し、2枚ドロー!更にワイルド・ホープの効果で『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』をサーチ!」

 

沢渡 シンゴ 手札2→4

 

一気に3枚の手札回復、これならばペンデュラムカードを1枚でも引けば巻き返せる。引いたカードの1枚は――ペンデュラムモンスター、思わずニヤリと笑みを浮かべ、沢渡は額に手を当てる。

 

「やっぱ俺、カードに選ばれスギィ!俺は『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』と『魔界劇団―デビル・ヒール』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

瞬間――パリンッ、と沢渡の背後に伸びた光の柱がガラスのようにひび割れ、崩れ落ちる。一瞬の出来事、誰もが目を見開き、ワンテンポ遅れた沢渡がクロウを見る。まさか――。

 

「シュラをリリースし――『ゴッドバードアタック』……!ぶち抜いてやったぜ……!」

 

またしても『ゴッドバードアタック』、それにより沢渡のペンデュラムが崩れ去る。最悪だ。沢渡の手札にはもうペンデュラムカードは無い。召喚権も使い、クライスは自身の効果でバトルに参加出来ない。がら空きのチャンスなのに――踏み出せない。

 

「ぐっ――カードを2枚セットし、ターンエンドだ!上等だぜ……!」

 

沢渡 シンゴ LP1800

フィールド『光帝クライス』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ダーク・バースト』発動!墓地の極北のブリザードを回収し、召喚!」

 

BF―極北のブリザード 攻撃力1300

 

「効果でシュラを蘇生!」

 

BF―蒼炎のシュラ 守備力1200

 

「レベル4のシュラにレベル2のブリザードをチューニング!シンクロ召喚!『BF―星影のノートゥング』!」

 

BF―星影のノートゥング 攻撃力2400

 

「バーンダメージと攻撃力ダウンを食らえ!」

 

沢渡 シンゴ LP1800→1000

 

光帝クライス 攻撃力2400→1600

 

「チッ、ちまちまと……!」

 

「バトル!ノートゥングでクライスへ攻撃!」

 

「罠発動、『ガード・ブロック』!ダメージを0にしてドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札0→1

 

流石にこれ以上のダメージは不味いと考えたのか、沢渡が罠でダメージを防ぎ、手数を増やす。これでこのターンは防いだ。しかしLPは残り1000、対して相手はノーダメージで4000のまま。何とかしなければこのまま一気にケリをつけられる。

 

「ターンエンドだ」

 

クロウ・ホーガン LP4000

フィールド『BF―星影のノートゥング』(攻撃表示)

手札1

 

「俺のターン、ドロー!これじゃねぇ……!モンスターとカードをセットしてターンエンドだ!」

 

沢渡 シンゴ LP1000

フィールド セットモンスター

セット2

手札0

 

これじゃないと頭を振り払い、残る手札を全てセットする沢渡。このままじゃジリ貧だ。『魔界劇団』はペンデュラムありきの戦術となる為、スケールが崩れればこうなってしまうのは必然。コナミや遊矢、零児のようにペンデュラムの先があればと思うが――直ぐに否定する。

違う、無いものねだり等、ここでは使えない。自分は自分だ。他の者のようになりたいなど、断じて沢渡 シンゴではない。

 

(くっだらねぇ事考えてんじゃねぇーぞ俺!俺様は沢渡 シンゴだ!他の凡人なんぞと違う!むしろ俺のようになりたいと思わせろ!)

 

「ふん、良い顔になって来たじゃねぇーか!俺のターン、ドロー!やれ、ノートゥング!セットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『アブソーブポッド』!リバース効果でセットされた魔法、罠を破壊し、その数だけドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札0→2

 

ノートゥングの一撃がセットされた『アブソーブポッド』のスイッチを押し、それを引き金として沢渡の手札が回復する。だがまだだ、まだ逆転の一手に届かない。

 

「チッ――!」

 

「良いカードが引けなかったか?カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

クロウ・ホーガン LP4000

フィールド『BF―星影のノートゥング』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

絶体絶命、どうしようも無いピンチが沢渡に降りかかる。不味い、不味い、不味い。ここで引けるか引けないかが運命の別れ道――。

 

「「「沢渡さん、ファイトッスよー!!」」」

 

だが――3人の応援を引き金に――気づいたら、右手が1枚のカードを引き抜いていた――。空中に描かれる真っ赤なアーク。引いたカードは――。

 

「あ――」

 

逆転への一手。

 

「ッ!俺はッ!『魔界劇団―ワイルド・ホープ』と『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

沢渡の背後に光の柱が2本上り、天空に線が結ばれ、巨大な魔方陣が描かれる。破壊はされない。だがこのペンデュラムはスケールが同じ、2同士。

 

「それじゃあ得意のペンデュラムは出来ねぇな」

 

「そいつはどうかな?ワイルド・ホープのペンデュラム効果により、もう一方のスケールを9に変更!」

 

「何――ッ!?」

 

「ペンデュラム召喚!『魔界劇団―ビッグ・スター』!!『魔界劇団―デビル・ヒール』!『魔界劇団―ワイルド・ホープ』!『魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー』!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!」

 

魔界劇団―ビッグ・スター 攻撃力2500

 

魔界劇団―デビル・ヒール 攻撃力3000

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1600

 

魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー 守備力700

 

魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500

 

一気に展開。沢渡が勝負に出て5体のモンスターを同時にペンデュラム召喚する。劇団の主役、ビッグ・スターに名悪役である紫の巨体に白い仮面、大口を開いたデビル・ヒール。期待の新人、ワイルド・ホープにラッパを吹き鳴らす白髭をたくわえた脇役、ダンディ・バイプレイヤーに可愛らしいプリティ・ヒロイン。劇団が総出でフィールドを盛り上げる。

 

「ビッグ・スターの効果で魔王の降臨をセットし、発動!尤も、破壊出来るのはノートゥングだけだがな。ダンディ・バイプレイヤーをリリースし、エクストラデッキの『魔界劇団―デビル・ヒール』を特殊召喚!」

 

魔界劇団―デビル・ヒール 攻撃力3000

 

「ワイルド・ホープの効果発動!」

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1600→2100

 

「そして魔法カード、『魔界台本「オープニング・セレモニー」』を発動!LPを2500回復!」

 

「罠発動!『裁きの天秤』!俺の手札とフィールドのカードは2枚!お前のフィールドのカードは8枚!よって6枚のドロー!」

 

クロウ・ホーガン 手札1→7

 

沢渡 シンゴ LP1000→3500

 

「引いたカードの中に『BF―そよ風のブリーズ』!このカードは効果で手札に加えられた場合、特殊召喚する!」

 

BF―そよ風のブリーズ 攻撃力1100

 

現れたのはオレンジと黄色の羽を持ったチューナーモンスターだ。ここでモンスターを特殊召喚し、壁を増やす手腕は凄まじいとしか言えない。だが――沢渡はその上で踏み越える。

 

「プリティ・ヒロインで攻撃!」

 

「手札のカルートを切り、ブリーズの攻撃力を1400アップ!」

 

BF―そよ風のブリーズ 攻撃力1100→2500

 

沢渡 シンゴ LP3500→2500

 

「ぐっ――LPを回復しといて良かったぜ……!プリティ・ヒロインの効果で2枚目のオープニング・セニモニーをサーチ!」

 

気を抜けばこちらのターンだろうとLPを削りに来る。やはり侮れない男だ。念の為、オープニング・セレモニーの効果で回復して良かったと心から思う。

 

「デビル・ヒールで攻撃!」

 

「手札の『BF―蒼天のジェット』を捨て、ブリーズの戦闘破壊を防ぐ!」

 

クロウ・ホーガン LP4000→3500

 

ここに来て初めて――初めて沢渡の刃がクロウの喉元に届く。デビル・ヒールのラリアットがブリーズに炸裂し、ジェットの後押しを受けてブリーズが何とか立ち上がる。

 

「もう1体のデビル・ヒールで攻撃!」

 

そこに再び、ラリアットが炸裂する。

 

クロウ・ホーガン LP3500→3000

 

「ワイルド・ホープで攻撃!」

 

「通す!」

 

クロウ・ホーガン LP3000→900

 

一発逆転、ワイルド・ホープの光線銃の一撃がクロウのLPを削り取る。後一撃、沢渡は全力の気合いを込め、自らのエースカードに指示を出す。

 

「さぁ、終幕だ!ビッグ・スターで攻撃!」

 

「――この瞬間、手札の『BF―熱風のギブリ』を特殊召喚!」

 

BF―熱風のギブリ 守備力1600

 

しかし――その一歩は届かない。現れた6枚の翼を広げ、赤い鶏冠を逆立たせる鳥獣が壁となり、ビッグ・スターの攻撃を阻む。

 

「グッ、だが俺のLPは2500!モンスターも揃った今、負ける気がしねぇ!」

 

それはフラグと言う奴である。

 

「カードをセットしてターンエンドだ!」

 

沢渡 シンゴ LP2500

フィールド『魔界劇団―ビッグ・スター』(攻撃表示)『魔界劇団―デビル・ヒール』(攻撃表示)×2『魔界劇団―ワイルド・ホープ』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『魔界劇団―ワイルド・ホープ』『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』

手札0

 

だが沢渡の言う事も最もだ。彼のLPは今や2500に回復し、フィールドには強力なモンスターが4体、果たしてクロウはこの状況を更に覆す事が可能だと言うのか(フラグ)。

 

「おいおい、この状況で沢渡さんが負ける訳ねぇぜ(フラグ)」

 

「勝ったな、風呂入ってくる(フラグ)」

 

「大人しくサレンダーするんだな(フラグ)」

 

柿本、山部、大伴の3人によって次々と立てられていくフラグの数々、それを横で見る遊矢と零児はおい馬鹿やめろと止めようとするが――時既に遅し。もう逆転のフラグはビンビンである。

 

「認めてやるよ、お前は強いし、悪い奴でもねぇ。だが、相手が悪かっただけだ!俺のターン、ドロー!」

 

引き抜かれる逆転の一手――。この純白のアークが沢渡の運命を別つ。

 

「魔法カード、『手札抹殺』、手札を入れ替える!うし、永続魔法『黒い旋風』を発動!カルートを召喚!」

 

BF―月影のカルート 攻撃力1400

 

「旋風の効果でゲイルをサーチし、特殊召喚!」

 

BF―疾風のゲイル 攻撃力1300

 

「カルートを手札に戻し、墓地の『BF―精鋭のゼピュロス』を特殊召喚し、俺は400のダメージを受ける!」

 

BF―精鋭のゼピュロス 攻撃力1600

 

クロウ・ホーガン LP900→500

 

現れたのは青い鶏冠に嘴を帽子のように伸ばした人型の『BF』モンスター。デュエル中1度しか発動出来ないものの、実に優秀だ。

 

「ゲイルの効果でワイルド・ホープの攻守半減!」

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ 攻撃力1600→800

 

「レベル4のゼピュロスにレベル3のゲイルをチューニング!シンクロ召喚!『BF―アーマード・ウィング』!」

 

BF―アーマード・ウィング 攻撃力2500

 

天空に昇る黒い羽、旋風を巻き上げ、再びフィールドに登場するアーマード・ウィング。このモンスターが、このデュエルに決着をつける。

 

「ッ!だがそいつじゃ俺のLPを――ん?待て、カルートがあるじゃねぇか!」

 

「その通り!さぁ、アーマード・ウィング!ワイルド・ホープに攻撃!この瞬間、カルートを切る!」

 

BF―アーマード・ウィング 攻撃力2500→3900

 

ああ悲しいかな、沢渡 シンゴ。1度はクロウを追いつめたにも関わらず、漆黒の閃光を受け、ギャグ漫画のように吹き飛ばされる。

 

沢渡 シンゴ LP2500→0

 

勝者、クロウ・ホーガン。しかし――遊矢達は違和感を覚える。確かにクロウは強い。

だが――思っていた彼の実力には、何故か物足りなさがあった。

 

 

 

 

 

 

 




今回は沢渡さんとクロウの絆を深める回。まぁ、この作品でこの2人がタッグを組む事は恐らく無いでしょうが。
因みにクロウのデッキについては投入している『BF』がある程度限定されています。理由は追々分かっていくかと。


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第101話 やめろ

ピンク髪、一人称僕、シンクロ次元=D-ホイール=D-ホイーラー=ライダー……生えても、よろしいか?


「ツァンちゃーん、遊びましょーっ!」

 

シティの下層、コモンズ達が住居を構えるスラム街のような薄暗いエリアにて、コナミ達は鬼柳とセクトに連れられ、身寄りの無い子供達が集う教会――孤児院の前に来ていた。

何でもここにチームサティスファクションのメンバーがいるらしい。鬼柳は口に手を当てて拡声器のようにして叫ぶ。すると教会の中からドタドタと慌ただしい音が響き渡り――。

 

「き~りゅ~う~!アンタ良い加減にしなさいよ!僕はアンタのチームに入った覚えは無いって言ってんでしょぉっ!」

 

バタン!ガンッ、扉が勢い良く開いた事で鬼柳の顔面を強打し、中から登場したのはここの者であろう、1人のシスター。ウェーブがかかったピンク色の髪に赤いカチューシャ、吊り目がちの眼を怒りで更に吊り上げ、ムスゥとした表情で現れた、整った顔立ちの美少女。

台詞を聞く限り話が違う。どうやら鬼柳達が一方的に彼女をメンバーに引き込んでいるようだ。コナミは現れた少女に「む」と反応し、視線が交差する。

 

途端に彼女は眼を見開いて固まり――肩を震わせ、顔を怒りで真っ赤に染め、コナミの脛を蹴ってきた。

 

「コナミィッ!アンタ一体どこフラついてたのよぉっ!就職したって連絡したっきり音沙汰無いし帰って来ないし!何なのさ!僕が嫌いなのかよぉ!?もぉっ!もぉっ!もぉっ!」

 

ゲシ、ゲシ、ゲシ、少女がコナミの脛を蹴りまくる。鋼鉄の肉体を持つコナミとして微妙、微妙な痛さだ。訳も分からず受け止めていると少女が先に参ったのかゼェゼェと息を切らせ、その場でグスグスと泣き始めた。

 

「心配した、心配した、心配したっ!良かった、良かったよぉ……っ!」

 

……気不味い。実に気不味い。目尻に涙を浮かべ、おんおんと泣くツァンに対し、コナミはどうしようかと悩む。恐らく彼女の言うコナミとは白い方だ。つまりコナミ違いである。だがそれを目の前でカバのようにおんおんと泣く彼女に告げられるだろうか。

コナミは意を決し、彼女の両肩を掴む。

 

「……本当にすまんが……オレはお前の知るコナミじゃない……」

 

「……え?ふぇぇっ!?う、嘘でしょ!どうせ鬼柳とグルになって……!もう許さない!コナミィッ!デュエルよ!就職したってのもどうせ嘘でしょ!ほら、デュエルディスク構えなさい!アンタのそのニート根性叩き直してあげる!」

 

しかし真実を告げても信じてもらえないらしい。余程心配してコナミがいないと言うのを信じたくないのか、ツァンは目をキッ、と吊り上げ、猫のように威嚇しながらデュエルディスクを構える。まるで息子に対する母親だ。コナミは仕方無いと溜め息を吐き出してデュエルディスクを構える。こうなったらデュエルで証明するしかない。尻拭いは慣れないが、自分の尻だ。

 

「「デュエル!!」」

 

始まるデュエル、先攻はツァンだ。彼女はふんすと鼻息荒くデッキより5枚のカードを引き抜き、1枚のカードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「魔法カード、『手札抹殺』!互いに手札を捨てて、捨てた分だけドロー!来た……永続魔法、『六武の門』と『六武衆の結束』を発動!そして『真六武衆―カゲキ』を召喚!」

 

真六武衆―カゲキ 攻撃力200

 

現れたのは雷纏う、黄金の鎧の4本腕の鬼神と恐れられる侍モンスター。彼女のデッキは『六武衆』。高速で展開し、相手を制圧する、鬼柳の『インフェルニティ』にも似たカテゴリだ。2連続でこの系統と当たるとは思っても見なかったが、前回の敗北の汚名返上には丁度良い相手だ。

 

「カゲキの召喚時、門と結束に武士道カウンターを置く!」

 

六武の門 武士道カウンター0→2

 

六武衆の結束 武士道カウンター0→1

 

「更にカゲキの召喚時効果で手札の『六武衆の影武者』を特殊召喚!カウンターを置く!」

 

六武衆の影武者 守備力1800

 

真六武衆―カゲキ 攻撃力200→1700

 

六武の門 武士道カウンター2→4

 

六武衆の結束 武士道カウンター1→2

 

次に現れたのは『六武衆』のチューナーモンスター。武者鎧に緑色の線を走られた影武者だ。このモンスターの登場と共にフィールドのカードが変化を起こす。

 

「カゲキは他の『六武衆』が存在する場合、攻撃力を1500上げる。そして結束に乗った2つと門に乗った2つ、計4つの武士道カウンターを取り除き、門の効果でデッキの『真六武衆―キザン』をサーチし、特殊召喚!」

 

六武の門 武士道カウンター4→2→4

 

六武衆の結束 武士道カウンター2→0→1

 

真六武衆―キザン 攻撃力1800→2100

 

更に展開、現れたのは漆黒の鎧に黄色い線を走られた鬼武者。『六武衆』でも特殊召喚が容易な下級アタッカーであり、未来の姿を含めて優秀なカードだ。

 

「レベル3のカゲキにレベル2の影武者をチューニング!シンクロ召喚!『真六武衆―シエン』!!」

 

真六武衆―シエン 攻撃力2500

 

六武の門 武士道カウンター4→6

 

六武衆の結束 武士道カウンター1→2

 

ここでツァンの、『六武衆』のエースモンスターが現れる。深紅に染まった鎧を纏い、背に悪魔のような翼と紫炎を負い、竜の鱗を思わせる刃を繋げた刀を持った戦国の魔王。攻撃力2500、レベル5にしては高い攻撃力と強力な効果を有するモンスターだ。

 

「結束のカウンター2つと門のカウンター2つを取り除き、『真六武衆―キザン』をサーチし、特殊召喚!」

 

六武の門 武士道カウンター6→4→6

 

六武衆の結束 武士道カウンター2→0→1

 

真六武衆―キザン 攻撃力1800→2100×2

 

「まだだよ!門のカウンター4つ使い、3枚目のキザンサーチ、特殊召喚!」

 

六武の門 武士道カウンター6→2→4

 

真六武衆―キザン 攻撃力1800→2100×3

 

六武衆の結束 武士道カウンター1→2

 

「結束を墓地に送り、このカードに乗っていたカウンターの数だけドロー!」

 

ツァン・ディレ 手札0→2

 

「最後に門のカウンターを使い、『六武衆の師範』をサーチし、特殊召喚!」

 

六武の門 武士道カウンター4→0→2

 

六武衆の師範 攻撃力2100

 

これでツァンのモンスターゾーンが全て埋め尽くされる。1ターンでここまでの展開、まるでペンデュラム召喚だ。攻撃力2000越えのモンスターが5体に加え、まだ手札が余っている。初動が安定すればこんな布陣が常なのが『六武衆』の厄介な所だ。

 

「流石はチームサティスファクションの紅一点、やる事がえげつないぜ!」

 

「やめろ、アンタが言うなし。僕は永続魔法、『補給部隊』を発動し、カードを1枚セットしてターンエンド」

 

ツァン・ディレ LP4000

フィールド『真六武衆―シエン』(攻撃表示)『真六武衆―キザン』(攻撃表示)×3『六武衆の師範』(攻撃表示)

『六武の門』『補給部隊』セット1

手札0

 

茶々を入れる鬼柳に対し、ツァンがやめろと否定する。確かに彼の方がえげつない。手札が乗れば相手の手札をボロボロにした上にカウンター系統が3つ並ぶ彼に比べれば彼女はまだ優しい方だ。

 

「どう、コナミ?反省した?大人しく謝るなら許してあげ――」

 

「オレのターン、ドロー!」

 

「話を聞きなさいよぉ……っ!」

 

ふふん、とドヤ顔で豊かな胸を張るツンデレシスターを無視し、コナミがデッキトップからカードを引き抜き、ツァンは涙目となる。間違いない、彼女のこの不憫さは真澄ん2号と呼べるものだ。いや、こちらの方が初号機か。空回りっぷりが実に良く似ている。

 

「ツァンの実力は本物だ。さぁ、ダニエル。お前はどう出る?」

 

「オレは『慧眼の魔術師』と『賤竜の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!慧眼を割り、デッキの『竜穴の魔術師』をセッティング!」

 

「へ?えっ、えっ?な、何?ペンデュラムって何さ!?」

 

コナミの展開の要であるペンデュラム、デュエルディスクの両端に2枚のカードが設置され、虹の光がプレートに灯る。背後に昇る2本の柱、中に出現した『魔術師』がそれぞれ錫杖と扇を振り、天空に光の線を結び、魔方陣を描き出す。

突然知らないカードどころか召喚法に目を丸くして驚き、慌てふためくツァン。その間にシエンに邪魔されないように慧眼の効果を使うコナミ。

 

「ツァン!狼狽えるんじゃねぇ!ペンデュラムはそのスケールって奴の間のレベルのモンスターを手札から、ペンデュラムならエクストラデッキからも特殊召喚して来る!ペンデュラムゾーンに置かれたカードは魔法カードと同じ扱いになる!」

 

「ちょっ、ちょっと待って!メモする!」

 

鬼柳がアドバイスを与えようとするも、彼女のキャパシティはそこまで大きくない。パンク寸前の脳に情報を与えても益々混乱させるだけだ。頭は良い方だが、鬼柳達生粋のデュエリストと違って突然の事への対応力が低いのだ。

 

「ペンデュラム召喚!」

 

「いーやー!待って待って待ってー!」

 

「ダニエル殿は女性でも容赦無しなのだな」

 

「あれはもう素人イジメに近いがな」

 

酷い奴である。相手がアドバンスと融合、儀式しか知らなくてもその先の召喚法を使う男、コナミ。かと言ってこれを使わなかったら手抜きとなってしまい、負けてしまうかもしれないのだが。

 

「『相克の魔術師』!『慧眼の魔術師』!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

息もつかさぬ高速召喚。フィールドに現れたのは大剣を手にした『魔術師』と衣装に瑠璃を散りばめ、秤を持った『魔術師』の2体だ。

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、シエンの効果を無効!バトル!『相克の魔術師』でシエンに攻撃!」

 

「相撃ち……!」

 

「ただの相撃ちじゃねぇ!ペンデュラムカードはフィールドで破壊された時、エクストラデッキに行くんだよ!」

 

「へっ、それが何――?あっ、そ、そうか!またペンデュラム召喚で出せるって事!?ぐぬぅっ!『補給部隊』でドロー!」

 

ツァン・ディレ 手札0→1

 

漸くペンデュラムのカラクリを呑み込めたが、もう遅い。大剣の『魔術師』と深紅の魔王が切り結び、互いの刃が胸を貫く。これで最も厄介なシエンは除去した。コナミもモンスターを失ったが、ペンデュラムの為、挽回は出来る。

 

「『クリバンデット』召喚!」

 

クリバンデット 攻撃力1000

 

ペースを握り、一気に差を開く。コナミが召喚したのは黄色いスカーフと眼帯を装着した毛むくじゃらの悪魔。悪くない手札だ。このモンスターを使い、次に備える。

 

「賤竜の効果でエクストラデッキの相克を回収、カードを2枚セットし、ターンエンド。『クリバンデット』をリリースし、デッキの上から5枚を捲る。『妖刀竹光』を手札に。墓地送られた2枚目の『妖刀竹光』を効果で『黄金色の竹光』をサーチ」

 

ダニエル LP4000

フィールド『慧眼の魔術師』(守備表示)

セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札3

 

「くぅっ……僕のターン、ドロー!僕は魔法カード、『戦士の生還』を発動!墓地の影武者を回収し、召喚!」

 

六武衆の影武者 攻撃力200

 

六武の門 武士道カウンター2→4

 

「門の効果でカウンターを使い、『真六武衆―エニシ』をサーチ!」

 

六武の門 武士道カウンター4→0

 

「そして僕はレベル5の師範にレベル2の影武者をチューニング!二つの刃交わりし時、ここに忠義の刃が現れん。我に仕えよ!シンクロ召喚!現れろ、『不退の荒武者』!」

 

不退の荒武者 攻撃力2400

 

ツァン、2度目のシンクロ召喚。現れたのは『六武衆』とは一風異なった武者のモンスター。だが確かにこのカードは『六武衆』とは相性が良く、打点に不安がある『六武衆』において活躍が期待出来る。

 

「バトル!キザンで慧眼に攻撃!」

 

「罠発動!『仁王立ち』!慧眼の守備力を倍にする!」

 

慧眼の魔術師 守備力1500→3000

 

「なっ、くっ――!」

 

ツァン・ディレ LP4000→3100

 

慧眼の守備力が倍化し、キザンの刃が慧眼の作り出したバリアの前に折れる。パキッ、カン、サクッ、折れた刃はクルリと宙を舞ってキザンの膝に刺さる。膝に刃を受けてしまってな。

 

「むぅ、カードを1枚セットしてターンエンドだよ」

 

ツァン・ディレ LP3100

フィールド『不退の荒武者』(攻撃表示)『真六武衆―キザン』(攻撃表示)×3

『六武の門』『補給部隊』セット2

手札1

 

「オレのターン、ドロー!慧眼に『妖刀竹光』を装備し、魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札2→4

 

「ペンデュラム召喚!『相克の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!『V・HEROヴァイオン』!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

V・HEROヴァイオン 守備力1200

 

再び揺れ動くペンデュラム、振り子の軌跡を描き、フィールドに現れたのは3体のモンスター。先程のターンでも活躍を見せた相克と炎の鬣を持つ『HERO』と頭部がカメラとなった『HERO』モンスターだ。

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ、ヴァイオンの効果でデッキの『E・HEROシャドー・ミスト』を墓地へ落とし、シャドー・ミストの効果で『E・HEROエアーマン』をサーチ!そしてヴァイオンの効果でシャドー・ミストを除外し、2枚目の『置換融合』サーチ!そして『E・HEROエアーマン』召喚!」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

5体目のモンスターがフィールドの上空に飛翔する。背からファンの翼を伸ばした青い『HERO』モンスター。次々と手札を確保し、更にコナミは展開する。

 

「エアーマンの効果でブレイズマンサーチ!そして魔法カード、『置換融合』発動!フィールドのエアーマンとブレイズマンで融合!融合召喚!『E・HERO GreatTORNADO』!」

 

E・HERO GreatTORNADO 攻撃力2800

 

ペンデュラムから融合へ、見事なカード捌きでコナミがフィールドに呼び出したのは風を纏う黒いマントの英雄。彼は風の弾丸を撃ち出し、ツァンのモンスターを貫いていく。

 

「ゆ、融合ッ!?き、鬼柳!これは何なの!?」

 

「『融合』魔法を使って2体以上のモンスターを合体させんだよ。チューナーの代わりに魔法カードを使うシンクロだと思え!レベルは関係ねぇけど」

 

「何それ!?」

 

「GreatTORNADOの効果により、相手モンスターの攻守を半減!タウン・バースト!」

 

不退の荒武者 攻撃力2400→1200

 

真六武衆―キザン 攻撃力2100→1050×3

 

「まだだ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる!白き翼に望みを託せ、現れろ!『No.』39!エクシーズ召喚!『希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

コナミの眼前に星が浮かぶ渦が発生し、2つの光となったヴァイオンと慧眼が飛び込み、一気に集束して小爆発を引き起こす。巻き起こる黒煙。白銀の軌跡が黒を引き裂き、黄金の鎧を纏った希望皇が、純白の翼を広げて登場する。

 

「き、きりゅえもんっ!」

 

「……これは知らない」

 

「何でさ!」

 

「うるせぇー!俺が何でも知ってると思うんじゃねぇよ!」

 

またもや初めて見るエクシーズにツァンが思考停止して鬼柳を頼るものの、残念ながら鬼柳とのデュエルで登場していなかった為、鬼柳も勝鬨る。

やりたい放題、思うがままの全力を出すコナミ。驚愕する一堂の中、ジルがユートにこれが何なのかを問い、ユートが腕を組んで答える。

 

「基本的に同じレベルのモンスターを2体以上要求し、その上に重ねて召喚する。それがエクシーズモンスターだ。その多くは下に重ねたカード、ORUを取り除いて効果を発動する。因みにエクシーズにはレベルが無い。これはレベル0と言う意味では無く、レベルの代わりにランクを持つと言う事だ」

 

「成程……」

 

(なんか賢そうなユーゴがいる……)

 

エクシーズの講義をするユートに頷くジル。彼の説明は実に分かりやすい為、すんなり頭に入っていく。ツァンも知人に良く似た彼の説明を必死にメモする。

 

「墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ、バトル!TORNADOとホープ、相克でキザンへ攻撃!」

 

「ちょっ、ちょっと待った!罠発動!『攻撃の無敵化』!このターンの戦闘ダメージを0にし、『補給部隊』でドロー!」

 

ツァン・ディレ 手札1→2

 

異次元からの来訪者、融合とエクシーズのTORNADOとホープがツァンのモンスターへ強襲し、一気に決着をつけようとしたその時、ツァンが発動したカードが薄いバリアを作り出し、彼女をダメージから守る。

鬼柳に負けはしたものの、舞網チャンピオンシップを勝ち残り、隼の手を借りても零児に勝利して見せたコナミの実力は本物だ。油断すれば早期でゲームエンドとなってしまう。

 

「ほう、オレはこれでターンエンドだ」

 

ダニエル LP4000

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『E・HERO GreatTORNADO』(攻撃表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札4

 

「ぼ、僕のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

ツァン・ディレ 手札0→3

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。互いに1枚ドローし、1枚捨てる。どうしよ、これしか無いかな……!『真六武衆―エニシ』を召喚!」

 

真六武衆―エニシ 攻撃力1700

 

六武の門 武士道カウンター0→2

 

フィールドに登場したのは黄緑色の甲冑に身を包んだ侍だ。光輝く刃を翳し、コナミのフィールドのモンスターを狙う。

 

「墓地の『真六武衆』キザン2体を除外してエニシの効果発動!GreatTORNADOをバウンス!」

 

「相克で無効に!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!エニシを対象とするモンスター効果を無効!」

 

煌めく白刃から三日月型の斬撃が飛び、GreatTORNADOを吹き飛ばし、エクストラデッキに送り込む。強力な一撃だ、思わずコナミもよろめく。

 

「後は……荒武者を守備表示に変更し、カードを3枚セットしてターンエンドだよ」

 

ツァン・ディレ LP3100

フィールド『不退の荒武者』(守備表示)『真六武衆―エニシ』(攻撃表示)

『六武の門』『補給部隊』セット3

手札0

 

「オレのターン、ドロー!『相克の魔術師』の効果でエニシの効果を無効に!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、モンスター効果からエニシを守る!」

 

ここで『相克の魔術師』の効果を使い、『スキル・プリズナー』を使わせる。相克はペンデュラムモンスターの為、何度でも効果を使えるが、『スキル・プリズナー』はフィールドと墓地の2回だけ。早い内に消費させておきたい。

 

「万策尽きたか?魔法カード、『アームズ・ホール』!デッキトップをコストに墓地から『妖刀竹光』を回収、ホープに装備!」

 

「エニシの効果でシエンと師範を除外し、ホープをバウンス!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、ホープを守る!『黄金色の竹光』を発動し、2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札3→5

 

「ペンデュラム召喚!『稲荷火』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

稲荷火 攻撃力1500

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

幾度も揺れ動く振り子の召喚法、今回コナミのフィールドに現れたのは炎に包まれた狐と炎の『HERO』だ。

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』サーチ、発動!フィールドのブレイズマンと『稲荷火』で融合!融合召喚!『E・HEROノヴァマスター』!」

 

E・HEROノヴァマスター 攻撃力2600

 

「待ってたよ!罠発動!『深黒の落とし穴』!ノヴァマスターを除外!」

 

更に融合召喚で有利に進めようとするも、ツァンのセットカードが炎の『HERO』を異次元に落とす。

 

「バトルだ!ホープでエニシを攻撃!ホープ剣・スラッシュ!」

 

ツァン・ディレ LP3100→2300

 

「っ――!『補給部隊』でドロー!」

 

ツァン・ディレ 手札0→1

 

ホープが自身の刃と妖刀を引き抜き、エニシを翻弄する。幾ら百戦錬磨の鬼武者であろうと人外である存在、『No.』の前には無力も等しい。剣戟を受け、敗れ去ってしまう。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

ダニエル LP4000

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)

『妖刀竹光』セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札2

 

「僕のターン、ドロー!来た!魔法カード、『七星の宝刀』!荒武者を除外し、2枚ドロー!」

 

ツァン・ディレ 手札0→2

 

「防御を捨てたか……!」

 

ここに来てツァンが守りの要である荒武者をドローカードへ換金する。このモンスターがあればコナミが『ブレイクスルー・スキル』等を引き込みさえしなければ凌げるにも関わらず、だ。随分と思い切りの良い戦術。だがドローカードに賭けた訳では無さそうだ。彼女のセットしている2枚のカード、恐らくこれが彼女の本命。

 

「罠発動!『諸刃の活人剣術』!墓地のカゲキと影武者を特殊召喚!」

 

真六武衆―カゲキ 攻撃力200→1700

 

六武衆の影武者 守備力1800

 

「更にレベル3のカゲキにレベル2の影武者をチューニング!シンクロ召喚!『真六武衆―シエン』!!」

 

真六武衆―シエン 攻撃力2500

 

六武の門 武士道カウンター4→6

 

再びフィールドに舞い戻る紫炎を纏った紅蓮の魔王。このモンスターで状況は一変する。

 

「カウンターを4つ使い、『真六武衆―ミズホ』をサーチ!」

 

六武の門 武士道カウンター0→2

 

「罠発動!『六武派二刀流』!僕のモンスターが『六武衆』1体のみの場合、相手のカード2枚をバウンス!セットカードをバウンスするよ!」

 

一閃二閃、紫色の炎を纏った二刀を引き抜き、シエンがコナミのカードをバウンスする。そう、彼女はこれをセットしていたのだ。だからこそ、今は邪魔になる荒武者をフィールドから退けた。

 

「そして『真六武衆―シナイ』を召喚!」

 

真六武衆―シナイ 攻撃力1500

 

六武の門 武士道カウンター2→4

 

登場したのは紫の鎧を纏い、鬼と記された兜に金棒を持った武者だ。死者が肉体を得て蘇り、生前の力を奮う。

 

「シナイがいる事で『真六武衆―ミズホ』を特殊召喚!」

 

真六武衆―ミズホ 守備力1000

 

六武の門 武士道カウンター4→6

 

シナイがいる所、ミズホあり。戦場に夫婦の契りを交わした2人が揃う。シナイとは対照的な真っ赤な鎧を纏い、手にしたのは琴か弓のような形をした刃だ。まるで自刃でもするような形状でもある。黒い長髪を靡かせ、シナイと共にキャッキャッウフフと駆ける。若い頃は可愛いからって調子乗んなBBA。

 

「魔法カード、『六武式三段衝』!3体の『六武衆』が存在する場合、相手モンスターを全て破壊する!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外し、攻撃をホープに絞る!『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』サーチ!」

 

発動されたのは強力な全体除去のカード。ツァンがこのカードをデュエルディスクに差し込むと共にシエン、シナイ、ミズホの3体が『六武衆』がフィールドを駆け、それぞれの刃を持ってコナミのモンスターを切り裂く。

 

「門のカウンターを4つ使い、2体目のミズホサーチ!」

 

六武の門 武士道カウンター6→2

 

「ミズホを特殊召喚!」

 

真六武衆―ミズホ 守備力1000

 

六武の門 武士道カウンター2→4

 

「ミズホをリリースし、2体目のミズホの効果発動!ペンデュラムカードを破壊!武士道カウンターを使い、3体目のミズホサーチ!特殊召喚!」

 

六武の門 武士道カウンター4→0→2

 

真六武衆―ミズホ 守備力1000

 

「ミズホの効果でシナイをリリースし、もう1枚のペンデュラムも破壊!」

 

瞬間、え?とミズホとシナイの表情が凍りつき、青い顔でガタガタと震え出す。仲睦まじい夫婦に向かい、妻に夫を殺せと言う残酷な指示。「本当にやるの?」と言わんばかりの顔でツァンを見るその視線に彼女は堪え切れなくなり、顔を背ける。途端、ザシュッと言う音と共に響き渡る男と女の叫び声。何故モンスター効果を使うだけでこんな目に遭わなければならないのだろうか。甚だ遺憾である。だがこれで――コナミのカードは全滅した。

 

「うぅ……し、シナイの効果でキザンを回収、特殊召喚……!」

 

真六武衆―キザン 攻撃力1800→2100

 

六武の門 武士道カウンター2→4

 

「ツァン、お前……」

 

「何もっ、何も言わないで……っ!仕方無い、仕方無いじゃん!カウンターを4つ使い、師範をサーチ!特殊召喚!」

 

六武の門 武士道カウンター4→0→2

 

六武衆の師範 攻撃力2100

 

「ターンエンド……うぅ、めっちゃ、ミズホが見てくる……!」

 

ツァン・ディレ LP2300

フィールド『真六武衆―シエン』(攻撃表示)『真六武衆―キザン』(攻撃表示)『真六武衆―ミズホ』(守備表示)×2『六武衆の師範』(攻撃表示)

『六武の門』『補給部隊』

手札0

 

ツァンの場には5体のモンスター。その中には相手の行動を封じるツァンのエースモンスター、シエンも存在する。ギリギリ、限界への挑戦。モンスター、セット、ペンデュラム、全てが破壊し尽くされた。だが――手はある。

 

「オレのターン、ドロー!フ、オレも来たようだな。墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、シエンの効果を無効!」

 

「――ッ!『アームズ・ホール』の時……!」

 

「魔法カード、『手札抹殺』!カードを4枚捨て、4枚ドロー!」

 

引き抜かれるアーク。空に描かれる虹の軌跡を見て、その場全員が息を呑む。全てを捨てたと言う事は、このドローに全てが賭けられている。1枚目、2枚目、――全てが単体では意味を成さず、この状況では事故も良い所。が、3枚目――この3枚で、全て繋がる。

 

「ツァン――」

 

「な、何よう」

 

「この勝負、オレの勝ちだ!」

 

ニヤリ、口の端を吊り上げ、コナミが勝利宣言を放つ。壁モンスターが5体。LPは2300と言うこの不利な逆境を――たった今引いたカードで破壊する。カードの力を繋ぐなら、コナミはランサーズでもトップクラスだ。

 

「魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』!エクストラデッキの竜穴と賤竜を回収し、セッティング!ペンデュラム召喚!『相克の魔術師』!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

「モンスターが1体だけ……!?」

 

「おいおい、そんなんで勝てるってのか……!?」

 

「そしてオレは装備魔法、『妖刀竹光』を相克に装備し――永続魔法、『魂を吸う竹光』を発動!」

 

相克の手に一振りの『竹光』が装備され、コナミが発動したカードにより、暗黒の瘴気が宿る。コナミの奥の手、懐刀と言えるカード。しかし、今必要なのはその隣――『妖刀竹光』のもう1つの効果。

 

「『妖刀竹光』の効果――『魂を吸う竹光』を戻し、相克のダイレクトアタックを可能に!行け!相克、ダイレクトアタック!」

 

カチャリ、相克が妖刀を煌めかせ、戦場を駆り、立ち塞がるミズホを伏せ、キザンをいなし、師範を翻弄し、シエンを切り裂き――ツァンの下へと駆け抜け、黒き斬撃が一閃、空を裂く。

 

ツァン・ディレ LP2300→0

 

勝者、ダニエルことコナミ――。名刀同士の切り結び合いは、妖刀に軍配が上がった――。

 

――――――

 

一方その頃、遊矢達がクロウに無事認められた後、彼に柚子を見かけなかったかと問い、そう言う事ならばとある場所を案内されていた。

 

「おら、ここだ。ここならそう言う事も掴みやすいと思うぜ」

 

クロウが顎で目の前の建物を差し、遊矢達へと視線を移す。そこにあったのは、コモンズの下層では珍しく、かなり立派な部類に入るビルだ。その看板に書かれているのは――。

 

「ここが……」

 

狭霧探偵事務所――。

 

 

 

 

 

 

 




ヤリザ殿「拙者は?」
自分としてはツンデレと言うのは不憫と言うか、残念と言うか、ノリツッコミ役とかが向いていると思うのです。
ツンデレ=ノリツッコミと言う方程式をつきツキ!から教わりました。フーズBAD!

人物紹介19

ツァン・ディレ
所属 コモンズ孤児院
皆大好きタッグフォースでお馴染みのツンデレキャラ。
本作ではユーゴ達、コモンズの孤児院に所属する何ちゃってシスター。正月シーズンには何ちゃって巫女のバイトもしている。
何時の間にか孤児院に住み着いた白コナミが早く就職しないかと心配しているが、就職したらしたで相手にされなくなって複雑なオカン。
また、白コナミ系列で鬼柳達と顔を会わせ、デュエルをしてしまった事でチームサティスファクションに無理矢理入れられる。
トリシューラプリンが好物。
因みに孤児院の主はマリア・アン。不幸体質は少しは軽減されているものの、やっぱり不幸。
使用デッキは『六武衆』。エースカードは『真六武衆―シエン』。


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第102話 カモ~ン

今更だけどレヴォリューション・ファルコンの爆弾投擲攻撃ってウ○コじゃね?


「おーい、牛尾ー!牛尾はいないのかー!」

 

コモンズ達が居を構える下層エリア、そこにある狭霧探偵事務所にて、遊矢と零児、そして柚子に似た謎の少女、エヴァはクロウに連れられていた。

目的は柚子や仲間の捜索。確かに探偵ならば頼りになるだろう。

 

「?〝狭霧〟探偵事務所じゃないのか?」

 

「あん?ああ、ここには2人の探偵がいるんだよ。推理力が高い所長、狭霧さんとデュエルの腕っぷしが高い決闘探偵の牛尾っつーオッサンがな」

 

「誰がオッサンだぁ、クロウ」

 

と、遊矢の質問にクロウが答える中、前を見ていなかった為、ドンと背の高く、筋肉質な男にぶつかる。

男らしい、権現坂にも似たキリリと太い眉に細い目、浅黒い肌、頬に傷を負ったガタイの良い彼はニヤッと笑みを浮かべ、クロウの頭をむんずと掴む。

 

「げっ、牛尾」

 

「テメェ、げっとは何だ、げっとは……探してぇのか探したくねぇのかどっちだよ」

 

「用があるのは俺じゃねぇよ、ほら」

 

クロウが苦い顔をしながら牛尾の手を跳ね除け、顎で遊矢達を差す。同時に遊矢達もどうもと頭を下げて挨拶する。エヴァは相変わらずボーッとした眠そうな目で虚空を見つめているが。すると客がいる事を確認した牛尾がほぉと口をへの字にして顎に手を当てる。

 

「……何やら訳ありって事か、依頼なら落ち着いた場所で聞かなきゃな。ガキでも客は客だ、こっちへ来いよ」

 

くるりと背を向け、遊矢達を部屋まで案内する牛尾。門前払いは受けなくて済みそうだ。話しやすくもあり、何とも頼りになりそうな背中を見ながら、遊矢は案内された部屋のソファに座る。

 

「あら、牛尾君、お客さん?」

 

「ええ、そうなんスよ深影さん。どうやらクロウの知り合いらしくって」

 

「ふぅん、お茶、用意するわね」

 

部屋の奥から1人の女性が顔を出す。クロウの言っていた所長なのだろう。青い髪に金の瞳、スーツにシャツ、タイトスカートとカジュアルな衣装に身を包んだ、小柄ながら如何にも大人の女性の雰囲気を放つ彼女と顔を合わせた途端、牛尾の頬が緩む。

深影は兎も角、牛尾は彼女の事を想っているらしい。また奥へと引っ込み、ポットを沸かす深影の背から視線を外し、遊矢はぐるりと部屋を見渡す。

 

並ぶコピー機やシュレッダーの周りには何やら分からない資料のような紙が積まれ、深影の机にもファイルと共に山を作っている。その隣には磁石で紙を止めたホワイトボード。如何にも探偵事務所と言った空間だ。その中でも遊矢の目を引いたのは画鋲で壁に留められた1枚のポスター。

円を描いた奇妙な形をしたD-ホイールに搭乗した、白いライダースーツを纏った金髪の男。自信に満ち溢れた表情の、一目見て王者と言う2文字が過るその男の姿に、何故か視線が惹き付けられる。

 

「で、用件は何だ?」

 

「っあ、はい、えっと、人探しをしているんです」

 

ここで牛尾に声をかけられて我に返った遊矢が慌ててデュエルディスクを操作して1枚の画像を写し出す。舞網チャンピオンシップ開催前に遊勝塾の皆や友人達と撮った写真だ。遊矢はその写真の中から柚子や権現坂、コナミ、月影を指差しながらこの人達なんだけどと説明する。

もう1枚、特訓の最中に撮った写真に写った隼やデニス、アリトも加えてだ。

 

「ふぅん?この女の子はそこの嬢ちゃんの妹か何かか?」

 

「?」

 

「ああ、いや、確かに顔は似てるけど違います」

 

「ふぅん?まぁ良いや、何かお前さんとこの女の子の顔はどっかで見た事あんだけどなぁ……手掛かりは無いのか?」

 

「珍しいカードを使う事でしょうか」

 

「珍しいカードぉ?どんなカードだ?」

 

牛尾の尤もな質問に今まで黙っていた零児が口を出す。確かに彼等の行方には手掛かりが無い為、これ位しか言えないだろう。幸い零児の言う通り、皆このシンクロ次元では珍しいカード――融合やエクシーズ、ペンデュラムカードを持っている筈だ。

デュエルをしているならば誰かが見ていてもおかしくは無い。

遊矢はデッキから3種のカードを取り出して牛尾に見せる。

 

「こう言うカードなんですけど……」

 

「んん?何だこりゃあ、紫に黒……融合、エクシーズ、ペンデュラム?」

 

「はい、このカードを使ってデュエルをしているならば目立つかと、カードについて説明はしますが――」

 

「いや、そっちはそうだな、自分で相手して覚える」

 

零児が遊矢の取り出したカードについて説明しようとした時、牛尾が立ち上がってデュエルディスクを取り出して自身の右腕に装着させる。

見た事もないカードを見て、デュエリストとしての本能が刺激されたらしい。

 

「オッサン無理すんなって」

 

「うるせぇクロウ、こちとらまだまだ現役よ」

 

クロウが呆れて茶々を入れるも牛尾はもう闘う気満々だ。こうなっては仕方無い。遊矢もデュエルディスクを取り出そうとするが――。

 

「ここは私がやろう」

 

そこに零児が待ったをかける。零児が重い腰を上げるようだ。彼が積極的にデュエルをすると言う事実に遊矢が目を剥いて驚愕する。

 

「折角俺が出ようと思ったのに……」

 

「私としても君達のリーダーとして少しは働かねばならないからな」

 

チェッ、と唇を尖らせる遊矢を見て、零児が眼鏡を指で抑えながらかけ直し、薄く笑う。遊矢との対話で彼も思うところがあったのだろう。シンクロ次元に来てからロクな出番が無いなと考える遊矢を他所に、ランサーズのリーダーが立ち上がる。

 

「話はついたな。ついてきな、小さいもんだが、デュエルコートに案内するぜ」

 

牛尾と零児が遊矢とクロウを引き連れ、外へと出て行く。あとに残されたのは――茶を運んで来た深影と、ボーッと虚空を見つめるエヴァのみ。

 

「……折角お茶淹れたのに……男って何でこうなのかしら」

 

「……全くもう」

 

「あら、話が分かるわね」

 

「……お茶、いただきます」

 

溜め息を吐く深影に合わせ、エヴァが呟き湯飲みを手にする。こうして男4人とは別に2人の女性は語り合う。

 

――――――

 

「「デュエル!!」」

 

事務所の中に存在する簡素なデュエルコートにて、零児と牛尾、2人の声が木霊する。先攻は零児だ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、磐石の布陣を整え、迎撃に備える為の戦術を練る。

フィールドを支配する『DD』の力、先攻で出しておきたいのはまず、『DDD呪血王サイフリート』。このカードを召喚しておけば、ある程度相手の動きを封じる事が出来る。

 

「私は『DD魔導賢者』ケプラーを召喚」

 

DD魔導賢者ケプラー 攻撃力0

 

まずは下準備を。零児の手札から登場したのは機械の身体を剥き出しにした悪魔の賢者。天文学者である偉人をモチーフとしたペンデュラムモンスターだ。

 

「召喚時、デッキの『地獄門の契約書』をサーチし、発動。デッキより『DDスワラル・スライム』をサーチし、その効果を発動。このカードと手札の『DDラミア』を墓地に送り、融合を行う」

 

「お、早速か」

 

「自在に形を変える神秘の渦よ!未来に流される血よ!今1つとなりて新たな王を生み出さん!融合召喚!生誕せよ!『DDD烈火王テムジン』!」

 

DDD烈火王テムジン 攻撃力2000

 

現れたのは焦げ茶色の鎧を纏い、深紅の剣を手にした炎の王者。『DD』において展開の起点となるモンスターだ。このモンスターでルートを張り巡らせ、狙いの布陣へと繋げる。

 

「私は墓地より『DDスワラル・スライム』の効果を発動。このカードを除外し、手札の『DD魔導賢者コペルニクス』を特殊召喚!」

 

DD魔導賢者コペルニクス 守備力0

 

ここで現れたのは太陽系を模した球体状のモンスター。ケプラーと同じくペンデュラムモンスター、レベルは4、これならば――。

 

「コペルニクスの特殊召喚時、デッキの『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』を墓地へ!そして墓地の『DDラミア』の効果!フィールドの『地獄門の契約書』を墓地に送り、特殊召喚!」

 

DDラミア 守備力1900

 

お次は真っ赤な薔薇のような鱗を持ち、下半身が蛇となった青い肌に目隠しをしたモンスター。特殊召喚が容易なレベル1チューナー。尤もその条件は『DD』専用だが、使い勝手は良く、ルートを確保するには役立つカードだ。

 

「この瞬間、テムジンの効果により墓地の『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』を特殊召喚!」

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 守備力3000

 

墓地より蘇り、フィールドに降り立つのは玉座に座し、圧倒的な威圧感を放つ、頭部に山羊のように捻れた角を伸ばした異形のモンスター。『DD』においてキーカードとなる上級モンスターだ。

 

「そして私はレベル6のテムジンとレベル1のケプラーにレベル1のラミアをチューニング!その紅に染め上げられし剣を掲げ、英雄達の屍を越えて行け!シンクロ召喚!生誕せよ!『DDD呪血王サイフリート』!」

 

DDD呪血王サイフリート 攻撃力2800

 

ここで零児の当初の目的であるモンスターがフィールドに呼び出される。ラミアの身体が1つの光のリングとなって弾け、テムジンとケプラーがその中を潜り抜け、一筋の閃光がリングを撃ち抜く。フィールドを覆う光、それが黒い軌跡によって切り裂かれ、現れたのは白い長髪を靡かせ、漆黒の鎧と大剣を持った騎士の王。攻撃力を2800、このシンクロ次元において『ゴヨウ』ラインと言われる一定の安心を持った数値だ。

 

「更に私は永続魔法、『魔神王の契約書』を発動。フィールドのアビス・ラグナロクとコペルニクスで融合!融合召喚!出でよ!神の威光伝えし王!『DDD神託王ダルク』!」

 

DDD神託王ダルク 攻撃力2800

 

更に展開、2体のモンスターが青とオレンジの渦に溶け、1体のモンスターとなって零児のフィールドに降り立つ。蝙蝠のような両翼を広げ、白銀の鎧を纏ったサイフリートとは対照的な女騎士。この2体ならば――安心感がぐっと上がる。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

赤馬 零児 LP4000

フィールド『DDD神託王ダルク』(攻撃表示)『DDD呪血王サイフリート』(攻撃表示)

『魔神王の契約書』セット1

手札0

 

「長過ぎるったらありゃしねぇ、俺のターン、ドロー!確かに厄介そうな布陣だが、なぁに、1つ1つ崩してやれば良いのさ。俺は永続魔法、『補給部隊』を発動し、『ジュッテ・ロード』を召喚!」

 

ジュッテ・ロード 攻撃力1600

 

牛尾の手から召喚されたのは新しい部類に入るポリスモンスターの1体。まるで奉行のような姿で十手を構えるモンスターだ。

 

「効果で『ジュッテ・ナイト』を特殊召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

『ジュッテ・ロード』が御用だ御用だと叫び、部下である『ジュッテ・ナイト』を呼び出す。髷に眼鏡、着物を着て十手を構え、背に提灯を負った役人を思わせるチューナーモンスターだりその効果は単純なものだが――この状況では実に効果的。

 

「『ジュッテ・ナイト』の効果でお前さんのサイフリートを守備表示に変更!」

 

「くっ――!」

 

「上手い……サイフリートは魔法、罠しか無効に出来ないからモンスターで……!」

 

「牛尾はそんな事気づいてねぇだろうな。長年培った勘って奴だぜ」

 

上手い、牛尾のプレイングを的確に表すならばこの一言に尽きる。クロウの言う通り、彼は経験を頼りにした勘で零児を追いつめる。正に探偵、鼻が利く男だ。だが――彼が上手いのはここからだ。

 

「レベル4の『ジュッテ・ロード』にレベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!荒ぶる獣の牙持て捕獲せよ!シンクロ召喚!『ゴヨウ・プレデター』!」

 

ゴヨウ・プレデター 攻撃力2400

 

今度は牛尾がシンクロ召喚。閃光が晴れ、カカンと音を鳴らしてフィールドに登場したのはレスラーのような覆面を被り、鋭い爪や尾を持った獣人のモンスター。その手に持った縄をブンブンと振り、先についた十手を回す。

 

「バトル!『ゴヨウ・プレデター』でサイフリートを攻撃!」

 

『ゴヨウ・プレデター』が守備表示として地に伏せたサイフリートへと十手を投擲し、縄がグルグルと回って捕縛し、牛尾のフィールドへと移ろうとする。不味い、零児は少しでも相手の有利に運ばせまいと右手を翳す。

 

「攻撃前にサイフリートの効果で『補給部隊』を無効に!更に破壊された事でフィールドの『契約書』の数だけLPを1000回復!」

 

赤馬 零児 LP4000→5000

 

「英断だな!『ゴヨウ・プレデター』の効果で戦闘破壊したサイフリートを特殊召喚!カモン!サイフリートちゃん!」

 

DDD呪血王サイフリート 攻撃力2800

 

「……確かに上手いとしか言いようがない」

 

「サイフリートでダルクへ攻撃!」

 

「サイフリートの効果で回復!」

 

赤馬 零児 LP5000→6000

 

コントロールを奪った上で追撃し、2体を相撃ちさせる。実に上手い戦術だ。あの零児がされるがままに舌打ちを鳴らす。相手のものを利用し、柔よく剛を制す。これ以上に厄介な相手はいない。

 

「こんなもんよぉ!ま、サイフリートの効果で『補給部隊』は次のスタンバイフェイズまで無効になるがな。折角ドロー出来る所だったんだがなぁ、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

牛尾 哲 LP4000

フィールド『ゴヨウ・プレデター』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札2

 

「私のターン、ドロー!この瞬間、『魔神王の契約書』で私は1000のダメージを受ける」

 

赤馬 零児 LP6000→5000

 

「罠発動!『DDDの人事権』!墓地のサイフリート、ダルク、テムジンの3体をエクストラデッキに戻し、デッキから『DDオルトロス』と『DD魔導賢者ニュートン』をサーチし、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

零児のデュエルディスクの両端に2枚のカードが設置され、虹色の光を灯す。ペンデュラム召喚、ここから一気に巻き返すにはこれしかないと判断したのだろう。彼の背後に光の柱が2本伸び、天空に線を結び、魔方陣を描き出す。

 

「次はこれか……」

 

「これでレベル4から9のモンスターが同時に召喚可能!我が魂を揺らす大いなる力よ。この身に宿りて、闇を引き裂く新たな光となれ!ペンデュラム召喚!『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』!『DD魔導賢者コペルニクス』!『DDリリス』!」

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 攻撃力2200

 

DD魔導賢者コペルニクス 守備力0

 

DDリリス 守備力2100

 

振り子の軌跡と共に3本の柱がフィールドに降り注ぎ、轟音が鳴り響く。光が晴れ、そこにいたのは3体のモンスター。先のターンでも登場した2体に加え、薔薇の花弁のような悪魔が1体だ。

 

「コペルニクスの効果で『DDゴースト』を墓地へ、『DDリリス』の効果でエクストラデッキのケプラー回収、召喚」

 

DD魔導賢者ケプラー 攻撃力0

 

「ケプラーの効果で『地獄門の契約書』をサーチし、発動!デッキの『DDD死偉王ヘル・アーマゲドン』をサーチ。ここでケプラーをリリースし、アビス・ラグナロクの効果で『ゴヨウ・プレデター』を除外!」

 

「ほう……?」

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!この世の全てを統べる為、今世界の頂きに降臨せよ!エクシーズ召喚!生誕せよ!『DDD怒濤王シーザー』!」

 

DDD怒濤王シーザー 攻撃力2400

 

エクシーズ召喚、零児の眼前に星を散りばめた渦が発生し、コペルニクスとリリスの2体が光の線となって飛び込み、瞬間、渦は一気に集束して爆発を引き起こす。巻き起こる黒煙、銀の軌跡が突風と共に引き裂き、中より姿を見せたのは刺々しい鎧に身を包んだ紫色の魔王。その手に巨大な剣を握り、荒波の王が君臨する。

 

「これがエクシーズか……」

 

「シーザーのORUを1つ取り除き、効果発動!このターン破壊されたモンスターをバトルフェイズ終了時に可能な限り特殊召喚する。そして『魔神王の契約書』の効果で墓地の『DDゴースト』と『DDリリス』を除外し、融合召喚!『DDD神託王ダルク』!」

 

DDD神託王ダルク 攻撃力2800

 

「更に除外された『DDゴースト』の効果で除外されたスワラル・スライムを墓地に戻し、再び除外して手札のヘル・アーマゲドンを特殊召喚する!現れよ!地獄の重鎮、『DDD死偉王ヘル・アーマゲドン』!!」

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン 攻撃力3000

 

まだまだ零児の手は休まない。モンスター効果を次々と繋げ、フィールドに呼び出されたのは零児のエースモンスター。振り子を模した手足のない巨大な魔王。

 

「アビス・ラグナロクとヘル・アーマゲドンでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!2つの太陽が昇る時、新たな世界の地平が開かれる!エクシーズ召喚!現れ出でよ!『DDD双暁王カリ・ユガ』!!」

 

DDD双暁王カリ・ユガ 攻撃力3500

 

2体の王が1つとなり、新たな魔王が産声を上げる。悪徳を背負い、巨大な玉座に身体を預け、赤黒い鎧を纏った威風溢れる赤馬 零児の切り札。本気だ、零児は本気で牛尾を迎え撃っている。

 

「バトル!カリ・ユガでダイレクトアタック!ツインブレイクショット!」

 

「ならリバースカード……使えねぇ!?」

 

「カリ・ユガがエクシーズ召喚したターン、フィールドのカードは効果を発動出来ず、無効化される!」

 

「チッ、なら手札の『速攻のかかし』を捨て、バトルフェイズは終了!」

 

カリ・ユガが左腕に黒と紫の雷を帯び、牛尾へと撃ち出す。フィールドのカードも無効化された状態、確実にワンターンキルの準備が整えられた状況でも牛尾は舌打ちを鳴らして正解を取る。

 

「うへぇ、これを防いじゃうのか」

 

「妖怪かよあのオッサン」

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

赤馬 零児 LP5000

フィールド『DDD双暁王カリ・ユガ』(攻撃表示)『DDD神託王ダルク』(攻撃表示)『DDD怒濤王シーザー』(攻撃表示)

『地獄門の契約書』『魔神王の契約書』

Pゾーン『DD魔導賢者ニュートン』『DDオルトロス』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!大体分かって来たぜ……魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地の『ジュッテ・ナイト』を特殊召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

「手札の『グローアップ・バルブ』を墓地に送り、手札の『パワー・ジャイアント』を特殊召喚!」

 

パワー・ジャイアント 攻撃力2200 レベル6→5

 

フィールドに召喚されたのは宝石で組み立てられたロボットのようなモンスター。『THEトリッキー』のような特殊召喚条件を持ち、墓地に送ったモンスターのレベルだけ自身のレベルを下げる。

 

「そしてデッキトップをコストに『グローアップ・バルブ』を蘇生!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

お次は植物に目が生えた不気味なモンスター。これでチューナーと非チューナーが揃った。合計レベルは……6。

 

「レベル5となった『パワー・ジャイアント』にレベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!シンクロ召喚!『ゴヨウ・ガーディアン』!!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800

 

ついに現れる牛尾のエースモンスター。歌舞伎の白化粧に赤い隈取り、髷に着物、十手を握った役人をモチーフとした強力なモンスター。彼の長年愛用しているカードだ。当然手強いが――。

 

「召喚したは良いが、この状況はオッサンにはキツいわ。若いもんに譲らねぇとな!レベル6の『ゴヨウ・ガーディアン』にレベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!お上の威光にひれ伏すが良い!シンクロ召喚!『ゴヨウ・キング』!!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力2800

 

そして――古き強者が新たな力を得て、牛尾の隣に並び立つ。白い髷に白化粧、赤い隈取りをした、日本刀を持った『ゴヨウ』系最強のモンスターにして、牛尾の切り札。その身が放つ威圧感は、決してカリ・ユガに劣らない。

 

「やれ!『ゴヨウ・キング』!シーザーへ攻撃!この瞬間、自分フィールドの地属性、シンクロモンスターの数×400攻撃力をアップ!」

 

「シーザーのORUを取り除き、効果を発動!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力2800→3200

 

赤馬 零児 LP5000→4200

 

『ゴヨウ・キング』が鋭き剣閃を煌めかせ、シーザーをその大剣ごと切り伏せる。更に瞬時に十手つきの縄をカリ・ユガへと投擲する。

 

「『ゴヨウ・キング』がモンスターを戦闘破壊し、墓地へ送った場合、相手モンスター1体のコントロールを得る!」

 

「ッ!シーザーの効果で『闇魔界の契約書』をサーチし、カリ・ユガのORUを取り除き、効果発動!フィールドの魔法、罠を全て破壊!」

 

戦闘破壊を切欠にモンスターを奪い取る強力な効果。これで自身よりも格上のモンスターだろうと関係なく強奪出来る。牛尾のフィールドに移るカリ・ユガ。まさか自分のモンスターがこうして敵となって立ち塞がるとは。

 

「成程ねぇ、このORUで効果を使う訳か。1つだがORUも残ってるし、お前のペンデュラムももうねぇ。追撃だ!カリ・ユガでダルクへ攻撃!」

 

赤馬 零児 LP4200→3500

 

「ぐっ――!」

 

カリ・ユガが左腕に黒と紫の雷を帯び、ダルクに向かって一気に解き放つ。雷に打たれ、地に突き落とされるダルク。自身の切り札が牙を剥き、零児に襲いかかる。これ以上に厄介な相手はいない。

 

「相手が強ければ強い程、牛尾は強くなる」

 

「……まるで柔道だ。あの零児が苦戦するなんて……」

 

上手い、やはりこの一言に尽きる。相手の強さを自分のものにするからこそ、零児は苦戦している。その事実に遊矢は目を見開き、舌を巻く。これだ、この相手の強さを自分のものにするデュエルは――遊矢のデュエルスタイルの1つの派生形。ジッと見つめ、吸収していく。

 

「バトルフェイズ終了時、シーザーの効果で自身とダルクを蘇生」

 

DDD怒濤王シーザー 攻撃力2400

 

DDD神託王ダルク 攻撃力2800

 

「ま、そうなるよな、俺はこれでターンエンドだ」

 

牛尾 哲 LP4000

フィールド『ゴヨウ・キング』(攻撃表示)『DDD双暁王カリ・ユガ』(攻撃表示)

手札0

 

「私のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、シーザーの効果で特殊召喚したモンスターの数×1000のダメージを受けるが――ダルクの効果で回復に変換される。ライフ・イレイション!」

 

赤馬 零児 LP3500→5500

 

「成程ねぇ、キリがねぇや」

 

「私は永続魔法、『闇魔界の契約書』を発動!その効果で墓地のアビス・ラグナロクをペンデュラムゾーンにセッティング!更に魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

赤馬 零児 手札0→3

 

「だがこれでお前は特殊召喚出来ない」

 

「誓約は承知の上!私は『DDケルベロス』をペンデュラムゾーンにセッティング!『クリバンデット』を召喚!」

 

クリバンデット 攻撃力1000

 

得意の特殊召喚は使えなくなったが、仕方がない。ここは場を固める為の作業に集中する。その意志と共に召喚されたのは黄色いスカーフを頭に巻き、眼帯を装着した目付きの鋭い毛むくじゃらのモンスター。

 

「シーザーを守備表示に変更し、バトル!ダルクで『ゴヨウ・キング』へ攻撃!オラクル・チャージ!」

 

「おっと、させねぇぜ!墓地の『仁王立ち』を除外し、攻撃対象をカリ・ユガに絞る!」

 

「ッ!バトルを中断する!」

 

恐らく『グローアップ・バルブ』のコストか何かで落ちたカードだろう、抜け目が無い男だ。これでは『ゴヨウ・キング』を破壊する事が出来ず、またコントロールが奪われてしまう。例え罠をセットしても――カリ・ユガの残ったORUで、発動前に破壊される。

 

「カードをセットしてターンエンド。この瞬間、『命削りの宝札』の効果を処理し、『クリバンデット』をリリースし、効果発動!」

 

「こっちもカリ・ユガの効果発動!」

 

カリ・ユガが全身より黒の雷を放ち、零児のフィールドを焦土と化す。これでペンデュラムカードも、『契約書』も、セットカードも失ってしまった。

 

「デッキトップの5枚を捲り、『地獄門の契約書』を手札に、そして墓地に落ちた『魔サイの戦士』の効果でデッキの『DDネクロ・スライム』を墓地に送る」

 

赤馬 零児 LP5500

フィールド『DDD神託王ダルク』(攻撃表示)『DDD怒濤王シーザー』(攻撃表示)

手札1

 

「俺のターン、ドロー!たんと味わえ!魔法カード、『死者蘇生』!墓地の『ゴヨウ・ガーディアン』を特殊召喚!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800

 

牛尾のフィールドに並び立つ、彼の切り札とエース、そして零児の切り札。圧倒的な布陣、とんでもない実力だ。

 

「バトル!『ゴヨウ・キング』でダルクへ攻撃!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力2800→3600

 

赤馬 零児 LP5500→4700

 

『ゴヨウ・キング』が日本刀でダルクを切り裂き破壊し、墓地に落ちたダルクを引き上げて牛尾のフィールドに引き摺り込む。

 

「『ゴヨウ・キング』の効果で戦闘破壊したダルクを奪う!」

 

DDD神託王ダルク 攻撃力2800

 

「まだまだぁ!『ゴヨウ・ガーディアン』でシーザーへ攻撃!ゴヨウ・ラリアット!」

 

更に追撃。『ゴヨウ・ガーディアン』の十手がシーザーを捕らえ、またもや奪い取る。

 

「シーザーの効果で『戦神の不正契約書』をサーチ!」

 

「こっちもシーザーを奪うぜ!」

 

DDD怒濤王シーザー 守備力1200

 

仁義無きモンスターの奪取。これで牛尾のフィールドには5体のモンスター、零児のフィールドは0、最悪も最悪、赤馬 零児最大の危機、味わった事の無いピンチが彼を追い詰める。

強い――デッキ、実力を合わせれば零児が上だ。しかし、牛尾はデッキ、実力に加え、相手の実力も利用する事で零児よりも優位に立っているのだ。

 

「カリ・ユガでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、このターンのダイレクトアタックを防ぐ!」

 

カリ・ユガによる電撃が零児に襲いかかるも、零児の眼前に3本の光の剣が降り、攻撃を弾く。とは言え危い所だった。『クリバンデット』で墓地へ送られていなければ敗北していただろう。

 

「私がここまで不安定なデュエルをさせられるとはな……!」

 

溜め息を吐き出し、目を伏せる。ここまで不安定で危うげなデュエルは何時以来だろうか、恐らく――プロになる前、まだ遊矢と同じく、中学生だった頃か。

あの頃は今に比べれば実力も不足していて、だからこそ強くなろうと考え、デュエルが楽しかった。

 

だが今はどうだろうか、強くなったが――だからこそ、強敵に出会えず、楽しむ事は無くなった。安定を求め、挑戦する意志を失っていた。

停滞は退化も同然。零児は諦めが良い方だ。だが今は――みっともなく、足掻きたくなって来た――。

 

「へぇ、良い顔になって来たじゃねぇか……!正直、そこのゴーグルボウズ以外は明確な意志は見えなかったが……面白くなって来やがった。俺はこれでターンエンドだ!」

 

牛尾 哲 LP4000

フィールド『ゴヨウ・キング』(攻撃表示)『ゴヨウ・ガーディアン』(攻撃表示)『DDD双暁王カリ・ユガ』(攻撃表示)『DDD神託王ダルク』(攻撃表示)『DDD怒濤王シーザー』(守備表示)

手札0

 

状況は最悪だが、逆転の手はある。2枚の内1枚、それが引ければ勝利の方程式は揃う。だが――零児にはドロー運は無い。だからサーチカードや墓地肥やしを多く投入し、それらを補っているのだ。ここで引けるかは分からない。

ニヤリと口端が吊り上がる。面白い、面白いじゃないか。ここで逆転のカードを引かねば負ける。ギリギリの攻防、デュエルの醍醐味、熱い駆け引きが、新たな赤馬 零児を誕生させる。

 

「……くそぅ」

 

「?」

 

「零児を笑わせるのは、俺のエンタメデュエルって決めてたんだけどなぁ……」

 

不敵に笑う零児を見て、ガラにも無く、遊矢は牛尾に嫉妬してしまう。だけど――零児が楽しんでいるならばそれで良い。デュエルを楽しんでいる誰かを見れば、自分も楽しくなって来る。

 

「感謝します。貴方のお蔭で――僕は強くなる。僕のターン、ドローッ!!」

 

引き抜かれる1枚のカード、宙に描かれる燃えるような真っ赤なアーク。来た――彼がデッキからドローしたカード、それは――彼が最も信頼する、エースカード。

 

「永続魔法、『地獄門の契約書』と『戦神の契約書』を発動!地獄門の効果で『DD魔導賢者トーマス』をサーチし、セッティング!その効果でエクストラデッキのニュートンを回収し、セッティング!ペンデュラム召喚!『DDD死偉王ヘル・アーマゲドン』!!『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』!」

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン 攻撃力3000

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 攻撃力2200

 

振り子の軌跡で現れる零児のエースモンスター。『DDD死偉王ヘル・アーマゲドン』。このモンスターが、このデュエルに決着をつけるフィニッシュカードとなる。

 

「墓地のネクロ・スライムの効果でこのカードとコペルニクスを除外し、融合召喚!『DDD神託王ダルク』!」

 

DDD神託王ダルク 攻撃力2800

 

「そして『戦神の不正契約書』の効果発動!ヘル・アーマゲドンの攻撃力を1000アップし、『ゴヨウ・キング』の攻撃力を1000ダウン!」

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン 攻撃力3000→4000

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800→1800

 

「バトル!ダルクで『ゴヨウ・ガーディアン』攻撃!」

 

ダルクと『ゴヨウ・ガーディアン』が十手と剣で切り結び、共に胸を穿って爆散する。相撃ち――それだけではない。零児の狙いはここから先。

 

「ヘル・アーマゲドンの効果!自分の『DD』モンスターが戦闘、効果で破壊された場合、そのモンスターの攻撃力を自身に加える!」

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン 攻撃力4000→6800

 

ダルクのエネルギーがヘル・アーマゲドンの水晶に吸収され、その攻撃力を爆発的に上げる。これが――彼が選んだ、勝利への道。安定も何も無い。火力重視の手、彼の全力が、炸裂する。

 

「ヘル・アーマゲドンで、『ゴヨウ・キング』へ攻撃!地獄触手鞭!」

 

牛尾 哲 LP4000→0

 

ヘル・アーマゲドンが放つ閃光の鞭が『ゴヨウ・キング』を破壊し、突風が牛尾を襲う。ワンショット・キル――勝者、赤馬 零児。

 

 

 

 

 




人物紹介20

牛尾 哲
所属 狭霧探偵事務所
5D,sから参戦。元々深影さんと共にセキュリティのデュエルチェイサーのまとめ役であったが、深影さんが新長官となったロジェに疑惑を抱き、調査していたが為に解雇を受け、彼女についていくように自分から退職、深影さんが何かあった時の為に貯めていた金と彼が深影さんに送る指輪を買う為に貯めていた金を合わせ、探偵事務所を建てる事となる。
勿論深影さんには良い友人にしか思われて無い模様。泣ける。
しかしクロウと違い、女っ気が無い訳では無く、元同僚や依頼人の女性にはモテている。本人は気づいていないのだが。
事務所では深影さんには劣るが優秀な探偵をやっており、腕っぷしとデュエルではプロ顔負けの実力を見せる。ついた渾名は決闘探偵。
この人がセキュリティに残っていればお面ホイーラーも何とかなったかもしれない。
ロジェについては含む所はあるものの、その手腕は認め、尊敬している。
エンジョイ長次郎のファン。
使用デッキは『ゴヨウ』。エースカードは長年連れ添っている相棒、『ゴヨウ・ガーディアン』。

狭霧 深影
所属 狭霧探偵事務所
5D,sより参戦。上記の通りの人。牛尾さんからの好意に気づいておらず、良い人だなとしか思っていない。牛尾さんカワイソス。
推理力、洞察力は高く、牛尾さんと組んで様々な事件を解決している。番外編で決闘探偵牛尾をやっても面白そうである。
事務所では金銭面のやりくりもやっており、倹約家。彼女の淹れるコーヒーは絶品、どこかの電脳探偵の上司と違い、決してコーヒーに色々混ぜたりしない。
ジャック・アトラスの熱狂的なファン。
多分デュエルをする事は無いだろうが、使用デッキは『SPYRAL』。エースカードは『SPYRAL―ダンディ』。決して『カオス』ではない。



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第103話 なーにっかなっ、なーにっかなっ

私用で少々忙しくなる為、次週からは投稿出来なくなるかもしれません。具体的に言うと2、3週程休むかと。次の投稿は9月の後半になると思います。


「アカデミア、ねぇ……」

 

――すっげーすっげー!ダニエルすっげーよ、このベイブレード!超強い!――

 

――何でこんなに生き物みたいに動けるのかしら……?――

 

――フ、そんなもので満足か?これを見ろ!――

 

物語はまたもコナミ陣営へと戻る。遊矢達が探偵事務所を訪問し、零児と牛尾がデュエルをしている頃、ユートはコナミがツァンの知るコナミではない事を納得してもらい、孤児院の中にてジル達が気にかけていた自身の正体、そして目的を明かしたのだ。

皆驚愕しているが、未だ半信半疑なのだろう、押し黙り、考え込んでいる。

 

「……私は信じよう……」

 

「騎士のおっさん……?」

 

――おぉぉぉぉぉっ!?何コレ何コレ!?めっちゃ角生えてる!――

 

――これはカブトボーグと言ってな――

 

――すっ、凄い!目にも止まらぬ速度で像に突撃して破壊した!――

 

皆が言葉を話さない中、最初に口を開いたのは黄金の騎士甲冑に身を包んだ男、ジル・ド・ランスボウだ。彼は真摯さを込めた眼で鬼柳、セクト、ツァンと視線を交差させた後、ユートへと視線を移す。

まさかこんな荒唐無稽な話を信じてもらえるとは思ってなかったのだろう。話したユートも目を丸くしてジルの言葉を待つ。

 

「私はナッシュ殿とデュエルをした、だからこそ分かる。彼のこの話が真実だと」

 

「ジル……!」

 

――ボールをゴールにシュゥゥゥゥゥットッ!――

 

――超!エキサイティンッ!――

 

――ずっ、ずるい!私もやりたい!――

 

騎士の熱い信頼の籠った台詞にユートの目頭が熱くなる。何と言う男だ。彼は1度デュエルした自分の事を、こんなにも信じてくれている。それが嬉しく、同時に今まで黙っていた事に罪悪感を覚える。

スッ、とジルが差し出した手を取り、ユートは力強く握手を交わす。そうだ、迷う事は無い。ユートだって本当は分かっていたのだ。彼が、正義感に溢れる義に熱い騎士であると。

 

「ふん、それなら俺だって信じるぜ……!ダニエルは久し振りに俺を満足させてくれた奴だ。それに同じチームの仲間の言葉を疑うかよ」

 

「鬼柳……!」

 

――ねぇねぇコレ何コレ何!?――

 

――ああ、それはトレジャーガウストと言ってな――

 

――こっちは銃みたいになってるのね――

 

ジルと共に、信頼を寄せたのはシンクロ次元最強格、満足が口癖である青年、鬼柳だ。彼もまた、デュエルを通して絆を繋げた1人。

ニヤリと口端を吊り上げ、不敵に笑う彼の存在がこれ以上なく頼もしく見える。そうだ、これこそがデュエル本来の力。人と人を繋げるデュエリスト達のコミュニケーション。

デュエルで笑顔を。ユートが遊矢に託した志は今ユートの下に戻り、彼を支えている。

 

――おおっ!ロボットだ!このプラモすげぇ変形する!――

 

――そっちはアークビートルD、こっちはサイカチス。ちなみに中身をいじってラジコンみたいになってる。そしてこれが……受けよ!太陽の洗礼!アペンディクス!――

 

――ああ、また像が!今度は熱線に焼かれて……!――

 

感動的な、ドラマチックな光景だ。しかし全然心に入って来ないのは気のせいか、いや、気のせいではない。その元凶に視線を移し――ウェーブのかかった髪をカチューシャで留めたシスター少女、ツァンは溜め込んだ怒りを解き放つ。

 

「だぁぁぁぁぁっ!!もうっ、うるっさいわよ龍亞龍可ダニエルッ!このっ、この感動的なシーンが台無しでしょうが!さっきから懐かしいものポンポン出してきてぇっ……!どう反応して良いのか分かんないのよ!」

 

「何だ?混ざりたいのか?仕方あるまい、ツァンには特別に電光超人グリッドマンのセットを……」

 

「あっ、いーなー!いーなー!」

 

「ずるいわ」

 

「うわぁい懐かしい!じゃねぇーよ!」

 

「何……?シャンゼリオンの方が良いのか……?」

 

「違わい!」

 

嵐のようなボケに冴え渡るツッコミ、次々とカブタックやらビーファイターのフィギュアを手にするコナミへとツァンがゲシゲシと脛を蹴りまくる。この男は何故シンクロ次元に来ると言うのにこんなものを持って来ているのだろうか。

ツァンの怒りは当然。仕方が無い奴だとユートが溜め息を吐く。最早見慣れた光景だ。バタバタと暴れるコナミとツァン。しかしそこで、ツァンの服を引っ張る影が1つ。

 

「ご、ごめんなさいツァンお姉ちゃん……」

 

緑の髪を前で2つ留め、まるで触角のような髪型をした小学生程度の少女だ。彼女はツァンのシスター服をちょこんと引っ張りながら上目遣いで謝罪し、こう言うのに弱いツァンはうっ、と喉元から声を漏らす。

 

「そ、そんな顔しないでよ龍可ぁ、僕が悪いみたいじゃん」

 

「許してやれよツァン」

 

「ほぼアンタのせいでしょうが……っ!」

 

「ダニエルと龍可は悪くないよ!俺がっ、俺がっ……!」

 

「る、龍亞まで……!」

 

「どや?」

 

更に追撃、今度は緑色の髪を後ろで一括りにした少年――容姿が龍可と良く似ている為、双子なのだろう、がコナミを擁護し、コナミがポンとロリとショタの肩に手を置き、ツァンにドヤ顔を見せる。完全に手懐けている。まさかホビーは双子の心を掌握する為の布石だったのかと戦慄し、同時にそのドヤ顔に拳をめり込ませたくなるような怒りを覚えるツァン。本当にこの男はクズである。

 

「わ、悪かったわよ、言い過ぎたわ、その代わり、裏側の広場で遊んで来なさい」

 

「仕方あるまい、お外でデュエルとしよう。勝った奴はこのトリシューラプリンをやろう!」

 

「「わーい!」」

 

「ちょっ、ちょっと待って!何それ!?ぼ、僕も!僕もやる!」

 

ついにツァンも陥落、それぞれの好物を餌に興味を引く正に悪魔の所業。ドタバタと慌ただしく外れ出ていく4人を見て、ユートは呆れて溜め息を吐くのだった。

 

――――――

 

「さて、アホなツァンも釣れた事だ。ここは2対2のタッグデュエルといこう」

 

「「はーい!」」

 

「ぐぬっ……言い返せないのが腹立つ……!」

 

ヴォン、コナミがツァンをディスりながら左腕に黄金のデュエルディスクを装着し、光のプレートを展開する。双子は元気に返事をし、アホなツァンは見事釣られた為、ぐぬぬと悔しそうに押し黙る。

 

「うむ、オレとツァン、双子のタッグといこうか」

 

「へへっ、俺達のコンビネーション、ダニエルに見せちゃうぜ!」

 

「もう、仕方無いんだから」

 

「おこちゃまには負けないよ!」

 

どうやら全員準備は整ったらしい。3人がデュエルディスクを構えるのを確認し、コナミがデュエルする火蓋を切って下ろす。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

先攻はツァンだ。デュエルディスクのランプが灯り、彼女はデッキから5枚のカードを引き抜く。先攻の役目は次の相手の攻撃に備える事、優等生らしく、彼女は場を整える事に努める。

 

「僕のターン、僕は魔法カード、『紫炎の狼煙』を発動!デッキよりレベル3以下の『六武衆』、『真六武衆―カゲキ』をサーチ!永続魔法、『六武衆の結束』を発動し、カゲキを召喚!」

 

真六武衆―カゲキ 攻撃力200

 

六武衆の結束 武士道カウンター0→1

 

登場したのは雷纏う黄金の鎧武者。4本の腕にそれぞれ刀を握り、『六武衆』の切り込み役がフィールドを駆ける。

 

「カゲキの召喚時、『六武衆の影武者』を特殊召喚!」

 

「げっ、早!俺は手札の『増殖するG』の効果発動!」

 

六武衆の影武者 守備力1800

 

真六武衆―カゲキ 攻撃力200→1700

 

六武衆の結束 武士道カウンター1→2

 

龍亞 手札5→6

 

続けて展開。カゲキの横に現れたのは鳥帽子のような兜を被った、緑色の線を鎧に走らせた影武者。『六武衆』の中ではレベル2のチューナーであり、カゲキと合わせて使用する事が常となるカードだ。

 

「ふふん、絶好調!結束を墓地に送って2枚ドロー!」

 

ツァン・ディレ 手札2→4

 

「永続魔法、『六武の門』を発動し、レベル3のカゲキにレベル2の影武者をチューニング!シンクロ召喚!『真六武衆―シエン』!!」

 

真六武衆―シエン 攻撃力2500

 

六武の門 武士道カウンター0→2

 

龍亞 手札6→7

 

早速シンクロ召喚、ツァンが右手を翳すと共に影武者が2つのリングとなって弾け飛び、カゲキがその中を潜り抜け、一筋の閃光がリングを貫く。そして眩い光を切り裂き、姿を見せたのは深紅の鎧を纏い、翼から紫色の炎を散らす武者。戦国を統べる魔王が降り立つ。

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだよ!」

 

ダニエル&ツァン・ディレ LP4000

フィールド『真六武衆―シエン』(攻撃表示)

『六武の門』セット1

手札5(ダニエル)手札2(ツァン)

 

ツァンのターンが終了し、龍可のターンへと移行する。フィールドには1ターンに1度、モンスター、魔法、罠の効果を無効にし、破壊するツァンのエースカード、シエン。そしてカウンターを使い、様々な効果を発揮する『六武の門』にセットカードが1枚。モンスターが1体と言うのが不安だが、まずまずの出たしと言った所か。ここからどう崩すかが見物でもある。

 

「私のターン、ドロー!私は『アロマージ―ローズマリー』を召喚!」

 

アロマージ―ローズマリー 攻撃力1800

 

龍可のターンに移り、登場したのは青い髪にコートを纏い、ロンググローブを装着して植物が生えた杖を手にした少女型のモンスターだ。尤も、種族は植物だが、その見慣れぬカードにコナミが「む」と口を開き、ジッと見つめる。

 

「そしてフィールド魔法、『アロマガーデン』を発動!」

 

「させないよ!シエンの効果で無効にし、破壊!」

 

「うん、知ってる!だから2枚目を発動!『アロマ』モンスターが存在する事でLPを500回復!」

 

龍亞&龍可 LP4000→4500

 

「『アロマ』か……」

 

どうやら龍可のデッキは『アロマ』と言うカテゴリのデッキらしい。コナミが想像していたのはカテゴリも何も無い、シモッチバーンだった為、予想は大きく外れる。だがデッキのタイプは少し似ている。こちらも回復する事で動作するデッキだ。

フィールドが美しく鮮やかな植物園へと変わり、龍可のLPを回復する。これだけならシエンの効果を発動するまでも無いようだが――。

 

「その後、次の相手のターンが終わるまでローズマリーの攻撃力を500アップ!そしてローズマリーの効果でシエンを守備表示に!」

 

アロマージ―ローズマリー 攻撃力1800→2300

 

成程、これならば攻撃力で劣るローズマリーでシエンを破壊出来る。コナミは思わず舌を巻き、ツァンは苦い表情となる。恐らくは『アロマガーデン』の時点で止めたかったのだろう。

低速気味なデッキではあるが、LPの回復を主軸にしている以上、それも仕方無いだろう。この手のデッキは長期戦こそ真価を発揮する。

 

「バトル!ローズマリーでシエンに攻撃!」

 

ローズマリーがステッキを振るうと同時に植物園の植物が成長し、その蔦がシエンに絡み付いて繭のようになってシエンを呑み込む。

 

「ぐぬぬ、折角出したのに」

 

「私はカードを2枚セットしてターンエンドよ」

 

龍亞&龍可 LP4500

フィールド『アロマージ―ローズマリー』(攻撃表示)

セット2

『アロマガーデン』

手札7(龍亞)手札1(龍可)

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』発動!デッキから10枚を除外、2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札5→7

 

「オレは魔法カード『打ち出の小槌』を発動し、手札を交換、魔法カード、『ペンデュラム・コール』を発動!手札を1枚捨て、デッキから『慧眼の魔術師』と『賤竜の魔術師』をサーチし、セッティング!これでレベル3から4のモンスターが同時に召喚可能!」

 

コナミのデュエルディスクの両端に2枚のペンデュラムカードが設置され、虹色の光が灯る。同時にコナミの背後に昇る2本の柱。その中に出現した秤と扇を持った『魔術師』が天空に光の線を結び、魔方陣を描き出す。

 

「おおっ!これがペンデュラム!?スッゲー!俺も欲しい!」

 

「フ、揺れろ光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

振り子の軌跡でコナミのフィールドに1本の柱が降り立ち、光の粒子を散らして現れたのは剣を持った若手の『魔術師』。

 

「『クリバンデット』を召喚!」

 

クリバンデット 攻撃力1000

 

次は黄色いスカーフを頭に巻き、眼帯を装着した毛むくじゃらの悪魔だ。コナミのデッキを支える優秀なモンスター、このモンスターで布陣を整える。

 

「永続罠『潤いの風』を発動!LPを1000払い、『アロマージ―アンゼリカ』をサーチ!」

 

龍亞&龍可 LP4500→3500

 

「更に『潤いの風』の第2の効果!自分のLPが相手より少ない場合、LPを500回復!ローズマリーの効果で竜脈を守備表示に!」

 

龍亞&龍可 LP3500→4000

 

サーチにLP回復、そしてコナミの攻撃の牽制と攻守の体勢を整える龍可。成程、これは中々に骨が折れそうだ。長期戦も覚悟せねばならない。

 

「カードを1枚セットしてターンエンド!この瞬間、『クリバンデット』をリリースし、デッキの上から5枚を捲る。『モンスターゲート』を手札に」

 

「永続罠、『神の恵み』を発動。自分がドローする度にLPを500回復するわ」

 

ダニエル&ツァン・ディレ LP4000

フィールド『竜脈の魔術師』(守備表示)

『六武の門』セット2

Pゾーン『慧眼の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札2(ダニエル)手札2(ツァン)

 

「へへっ俺のターンだね!ドロー!ジャキーン!『神の恵み』で回復だよ!」

 

龍亞&龍可 LP4000→4500

 

「俺は『D・スコープン』を召喚!ババーン!」

 

D・スコープン 攻撃力800

 

ターンは龍亞へと移り、彼は擬音混じりの台詞を放ちながらも手を進める。召喚されたのは顕微鏡が変形したモンスター。レベル3のチューナーであり、彼の扱う『ディフォーマー』デッキにとって重要なモンスターだ。

 

「スコープンの効果で手札の『D・ステープラン』を特殊召喚!」

 

D・ステープラン 攻撃力1400

 

続けて登場したのはホチキスが変形したモンスター。見るのも面白い機械族、そしてこれで龍亞の目的であるチューナーと非チューナーが揃った。ローズマリーを使っても良いが、このカードは龍可の展開に使える。攻撃力も高く、効果も優秀な為、置いておくべきだろう。何より勝手に使えば龍可が怖い。

 

「さぁさぁ凄いの見せちゃうよ!レベル4のステープランにレベル3のスコープンをチューニング!鋼の逆鱗に触れたい奴はご自由に!シンクロ召喚!『機械竜パワー・ツール』!!」

 

機械竜パワー・ツール 攻撃力2300

 

シンクロ召喚、ついに龍亞龍可ペアも勝負に出たのかエクストラデッキからの召喚法に打って出る。美しい花園に降り立つのは自然を慈しむ機械の竜。

黄色いボディに赤いラインを走らせ、右手にショベルを左手にドライバーを伸ばし、スコップの尾を振るう庭園の守護者。この竜の登場と共にコナミのエクストラデッキの『スターダスト』が反応するが――邪悪な気配は一切見られず龍亞を主人と認め、従っているように見える。

 

「『アロマガーデン』の効果で回復!モンスターの攻撃力アップ!」

 

龍亞&龍可 LP4500→5000

 

機械竜パワー・ツール 攻撃力2300→2800

 

アロマージ―ローズマリー 攻撃力1800→2300

 

「そして装備魔法、『パワー・ピカクス』!『パワー・ツール』に装備!『パワー・ツール』の効果!自分ターンに装備魔法を装備した時、カードをドロー!装備特典!」

 

龍亞 手札5→6

 

「『神の恵み』でLPもボーナスだ!」

 

龍亞&龍可 LP5000→5500

 

見事な連携だ。『パワー・ツール』でドローし、『神の恵み』による回復。単純な回復の手段だけで無く、明らかに龍亞の戦術を理解した上で『神の恵み』を投入している。

 

「『パワー・ピカクス』の効果で墓地のシエンを除外し、『パワー・ツール』の攻撃力を500アップ!」

 

機械竜パワー・ツール 攻撃力2800→3300

 

「バトル!ローズマリーで竜脈に攻撃だよ!」

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!」

 

龍亞が攻撃に踏み込もうとしたその瞬間、コナミがリバースカードを発動し、上空から3つのシルクハットが降り、コナミは2枚のカードをその中に投擲、竜脈もシルクハットに避難し、シャッフルされる。これで中身は分からなくなった。確率は3分の1、攻撃権が2回ある為、3分の2。それでもいきなり当てられる事は――。

 

「左」

 

「ん、OK!左だね!」

 

「あーはぁん?」

 

当てられた――それも瞬時に。思わずコナミが間の抜けた声を放つと同時にローズマリーが左のシルクハットへエネルギー球を放ち、中にいた竜脈ごと爆発させる。そんな馬鹿なと冷や汗を浮かべ、見事当てた張本人、龍可を見る。

 

「精霊があれだって言ってたし、シャッフルされたのを見たから当てられたわ」

 

しまった、コナミが口を開けて自らの失態を恥じる。そう、この少女、龍可はデュエルモンスターズの精霊と強い絆を持った少女であり、それでなくても天才少女なのだ。この程度造作も無い。後者は最早息をしていない設定だったが、前者は知っていた筈なのに。

隣でデュエルディスクを構えるツァンがうちの子凄いでしょと言いたげなドヤ顔を見せ、コナミがイラッとする。

 

「追撃は無駄だね、バトルフェイズを終了するよ!」

 

「くっ――!墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』サーチ!」

 

「カードを2枚セットしてターンエンド。『パワー・ピカクス』の効果も終了するよ」

 

龍亞&龍可 LP5500

フィールド『機械竜パワー・ツール』(攻撃表示)『アロマージ―ローズマリー』(攻撃表示)

『パワー・ピカクス』『潤いの風』『神の恵み』セット2

『アロマガーデン』

手札4(龍亞)手札2(龍可)

 

「僕のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』発動!墓地の『真六武衆―カゲキ』、『六武衆の影武者』、『クリバンデット』、『曲芸の魔術師』、『相克の魔術師』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ツァン・ディレ 手札2→4

 

「タッグじゃこっちが不利かな?だけど……!ペンデュラム召喚!『六武衆の御霊代』!」

 

六武衆の御霊代 守備力500

 

六武の門 武士道カウンター2→4

 

「あっ、ツァン姉ちゃんズリィ!俺もやりたい!」

 

「ふふん、何だかこれ気分が良いね」

 

コナミの用意したスケールを利用し、ツァンがペンデュラム召喚でフィールドに出したのは紫色の鎧を纏った青い炎。彼女の初ペンデュラムに龍亞が良いな良いなと子供らしい反応をし、ツァンがフフンとドヤる。

 

「そして『六武衆の師範』を特殊召喚!」

 

六武衆の師範 攻撃力2100

 

六武の門 武士道カウンター4→6

 

更に展開。フィールドに白い長髪を靡かせた歴戦の老兵が降り立つ。攻撃力2100、特殊召喚もしやすく、『六武衆』では優秀なアタッカーだ。

 

「門のカウンターを4つ使い、『真六武衆―キザン』をサーチし、特殊召喚!」

 

六武の門 武士道カウンター6→2→4

 

真六武衆―キザン 攻撃力1800→2100

 

次に召喚されたのは師範の若かりし頃の姿。漆黒の鎧に身を包んだ武者。老いた師範同様に優秀なアタッカーだ。

 

「もう一丁!カウンターを4つ使い、ヤイチをサーチし、召喚!」

 

六武の門 武士道カウンター4→0→2

 

六武衆―ヤイチ 攻撃力1300

 

ペンデュラムも驚きの大量展開、これでツァンのフィールドに4体のモンスターが揃った。

 

「ヤイチの効果でセットカード破壊!」

 

「カウンター罠、『無償交換』!その発動を無効して破壊!相手はカードを1枚ドローする!」

 

ツァン・ディレ 手札2→3

 

「御霊代を攻撃力500アップの装備カードとしてキザンに装備!」

 

真六武衆―キザン 攻撃力2100→2600

 

「魔法カード、『二重召喚』を発動!最後に『紫炎の荒武者』を召喚!」

 

紫炎の荒武者 攻撃力1600

 

手札を使い切り、ツァンが召喚したのは切り味鋭い日本刀を手にした鎧武者。攻撃力1600、決して高くは無い数値だが――。

 

「召喚時、このカードに武士道カウンターを乗せ、攻撃力が300アップする!」

 

紫炎の荒武者 攻撃力1600→1900 武士道カウンター0→1

 

「バトル!御霊代を装備したキザンで『パワー・ツール』に攻撃!」

 

龍亞&龍可 LP5500→5200

 

青き炎を纏ったキザンが刀を振るい、庭園を守護する機械竜を切り裂き、破壊する。炎に覆われ朽ち果てる『パワー・ツール』。これで道は開いた。

 

「御霊代の効果でドロー!」

 

ツァン・ディレ 手札1→2

 

「続いて!師範でローズマリーを攻撃!」

 

龍亞&龍可 LP5200→4900

 

「くっ――!」

 

最後の砦であるローズマリーも切り裂かれて光の粒子へと散る。残りのモンスターの攻撃力合計は1900、ここで一気に削りたいが――。

 

「荒武者でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『奇跡の残照』!このターン、戦闘破壊された『パワー・ツール』を復活させる!」

 

機械竜パワー・ツール 攻撃力2300

 

ところがどっこい、そうは問屋が下ろさないのがデュエルと言うものだ。庭園の上空から光が差し込み、『パワー・ツール』が再びフィールドに降り立つ。立ち塞がる巨大な壁、残る戦力では残念ながら太刀打ち出来ない。

 

「ぐぬっ、荒武者のカウンターを門に移動、魔法カード、『一時休戦』発動」

 

ツァン・ディレ 手札1→2

 

龍亞 手札4→5

 

龍亞&龍可 LP4900→5400

 

「『禁止令』を発動。『アロマセラフィ―アンゼリカ』を宣言してターンエンド」

 

紫炎の荒武者 武士道カウンター1→0

 

六武の門 武士道カウンター2→3

 

ダニエル&ツァン・ディレ LP4000

フィールド『真六武衆―キザン』(攻撃表示)『六武衆の師範』(攻撃表示)『紫炎の荒武者』(攻撃表示)

『六武衆の御霊代』『六武の門』『禁止令』セット1

Pゾーン『慧眼の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札3(ダニエル)手札1(ツァン)

 

「私のターン、ドロー!」

 

龍亞&龍可 LP5400→5900

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』発動!デッキから10枚を除外、2枚ドロー!」

 

龍可 手札2→4

 

龍亞&龍可 LP5900→6400

 

「魔法カード、『名推理』を発動!」

 

「レベル3を選択するよ」

 

「1枚目――から来ちゃた。『アロマージ―ジャスミン』を特殊召喚!」

 

アロマージ―ジャスミン 守備力1900

 

花園に透き通るような香りが運ばれ、召喚される新たな『アロマ』モンスター。今回は美しい雪のような銀髪を靡かせた幼い少女だ。このカードこそ、『アロマ』のキーカード。

 

「速攻魔法、『地獄の暴走召喚』!デッキから2体のジャスミンを特殊召喚!」

 

「こっちだってキザンを出すよ!」

 

アロマージ―ジャスミン 攻撃力100×2

 

真六武衆―キザン 攻撃力1800→2100×2

 

六武の門 武士道カウンター3→5

 

ツァンの戦力も増えるが些細な問題だ。モンスターゾーンが埋まっている以上、1体しか出せない。そしてこれで――龍可の恐ろしいコンボが完成した。

 

「『潤いの風』の効果!LPを1000払い、『アロマージ―ローズマリー』をサーチ!」

 

龍亞&龍可 LP6400→5400

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を交換!」

 

「ジャスミンの効果!1ターンに1度、自分がLPを回復した場合、ドロー!」

 

龍可 手札2→5

 

「『神の恵み』で回復!」

 

龍亞&龍可 LP5400→5900→6400→6900

 

「手札を1枚捨て、装備魔法、『閃光の双剣―トライス』を『パワー・ツール』に装備!効果でドロー!」

 

機械竜パワー・ツール 攻撃力2300→1800

 

龍可 手札3→4

 

龍亞&龍可 LP6900→7400

 

「『リ・バイブル』を召喚」

 

リ・バイブル 攻撃力700

 

「レベル2のジャスミン2体にレベル1の『リ・バイブル』をチューニング!シンクロ召喚!『アロマセラフィ―ローズマリー』!」

 

アロマセラフィ―ローズマリー 攻撃力2000→2500

 

アロマージ―ジャスミン 守備力1900→2400

 

眩き光を背に美しき花園に降り立つのはアンゼリカの透き通った羽を得た、ローズマリーの姿。黒いドレスは純白へと変化し、その杖からは美しき花が咲き誇っている。

 

「LPが上回っていてこのモンスターが存在する限り、私の植物族モンスターの攻守は500アップする!そしてジャスミンのもう1つの効果!LPが上回っている場合、植物族モンスターの召喚権を増やす!『アロマージ―ローズマリー』を召喚!」

 

アロマージ―ローズマリー 攻撃力1800→2300

 

「『アロマセラフィ―ローズマリー』の効果で御霊代の効果を無効に!更に『アロマージ―ローズマリー』の効果でもう1体のキザンを守備表示に……!そしてLPを2000払い、墓地の『リ・バイブル』蘇生!」

 

龍亞&龍可 LP7400→5400

 

リ・バイブル 攻撃力700

 

「『アロマガーデン』で回復!モンスターの攻撃力アップ!」

 

龍亞&龍可 LP5400→5900

 

機械竜パワー・ツール 攻撃力1800→2300

 

アロマセラフィ―ローズマリー 攻撃力2500→3000

 

アロマージ―ローズマリー 攻撃力2300→2800

 

アロマージ―ジャスミン 守備力2400→2900

 

リ・バイブル 攻撃力700→1200

 

「バトル!『リ・バイブル』で守備表示のキザンへ攻撃!」

 

「これでキザンの攻撃力はダウン!『パワー・ツール』で2体のキザンへ攻撃!」

 

『パワー・ツール』がその両手のシャベルとドライバーでキザンへ攻撃し、鈍い音と共に粉砕する。これで3体のキザンが破壊された。残るは2体。

 

「『アロマセラフィ―ローズマリー』で師範に、もう1体のローズマリーで荒武者に攻撃!」

 

「くっ――!」

 

「メインフェイズ2、レベル4のローズマリーとレベル2のジャスミンにレベル1の『リ・バイブル』をチューニング!太古の森よりフィールドを制圧する精霊よ、仮初めの姿に身をやつし降臨せよ。シンクロ召喚!『妖精竜エンシェント』!!」

 

妖精竜エンシェント 攻撃力2100

 

龍可の背後に光を纏い、降臨したのは青い海洋生物のようなぬるりとした身体に青いラインを走らせ、大きな瞳、蝶のような翼に、緑の鬣を持った幻想的な竜。『パワー・ツール』同様の力を持っており、こちらも少女に従っている。

 

「フィールド魔法が存在する事でエンシェントの効果発動!『慧眼の魔術師』を破壊!セットカードはフリーチェーンでも攻撃反応でも無い……恐らく『六武衆』がいる場合、カードを破壊する効果発動を無効にするカウンター罠、『六尺瓊勾玉』!森葬の霊場!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外して守る!」

 

そう、龍可はこれを予想していたからこそ、エンシェントの効果を使わず、『六武衆』の破壊を先回しにしたのだ。そしてツァンのポーカーフェイスから程遠いギクリとした表情を見る限り当たりのようだ。流石は天才少女。エンシェントの力により『アロマガーデン』の蔦が襲い掛かり、ツァンは何とか障壁を展開して防ぐ。

 

「私は魔法カード、『封印の黄金櫃』と『光の護封剣』を発動。『サイクロン』を除外、これでターンエンド!」

 

龍亞&龍可 LP5900

フィールド『機械竜パワー・ツール』(攻撃表示)『妖精竜エンシェント』(攻撃表示)『アロマセラフィ―ローズマリー』(攻撃表示)

『閃光の双剣―トライス』『光の護封剣』『潤いの風』『神の恵み』

『アロマガーデン』

手札5(龍亞)手札0(龍可)

 

襲い来るチビッ子2人による見事なコンビネーションの猛攻――2体の竜を前にし、コナミとツァンはどう出るのか――今、年上の威厳が賭けられる。

 

 

 

 

 

 

 

 




と言う訳で双子登場。龍可ちゃんとか言うタッグフォースの真ヒロイン。
彼女のデッキは何となくなイメージでアロマとなりました。トラミッドは何か違うかなと思い、こちらに。シモッチバーン?知らない子ですねぇ。


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第104話 不審者発見、職務質問を開始する

遅くなって申し訳ありません。
時間が空いたので更新、と言っても10月になればまた2、3週休みそうです。投稿出来ないの本当つらたん。


シンクロ次元、下層にある孤児院の広場にて、トリシューラプリンと年上の尊厳を賭けた、コナミ&ツァン・ディレVS龍亞&龍可のタッグデュエルは続く。

 

チビッコ2人のフィールドには2体の決闘竜と花園の精霊、計3体のシンクロモンスターに、LPを回復するフィールド魔法と永続罠が1枚ずつ、サーチ効果を持った永続罠が1枚、ガチガチと言って良い布陣だ。

 

対するコナミ達のフィールドのモンスターは0、様々な効果を持つ永続魔法、『六武の門』が1枚、見切られたカウンター罠が1枚にペンデュラムカードが2枚、ピンチである。分っかりやすいピンチである。このままでは威厳が危うい。コナミは何とかせねばとデッキトップのカードを引き抜く。

 

「オレのターン、ドロー!慧眼のペンデュラム効果!このカードを破壊し、デッキの『竜穴の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『V・HEROヴァイオン』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

V・HEROヴァイオン 守備力1200

 

フィールドに振り子の軌跡を描き、3体のモンスターが降り立つ。先のコナミのターンでも使用された竜脈に、ペンデュラムゾーンにいた秤を持った銀髪の『魔術師』、そして頭部がカメラとなっている『HERO』モンスターだ。

 

「ヴァイオンの効果により、デッキから『E・HEROシャドー・ミスト』を墓地へ!そしてシャドー・ミストが墓地に送られた事でデッキから『E・HEROエアーマン』をサーチ!更にヴァイオンの第2の効果!墓地のシャドー・ミストを除外し、デッキの『置換融合』をサーチ!」

 

1枚で2枚の手札を確保、シャドー・ミストの存在が前提とは言え、やはりこのカードは強力だ。惜しむべくは『E・HERO』では無い為、コナミの融合『HERO』に使えない事か。だが――レベルは4、エクシーズ素材には出来る。

 

「『E・HEROエアーマン』を召喚!」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

次に登場したのは背にファンの翼を伸ばした青き『HERO』。攻撃力1800、下級アタッカーにしては優秀な数値であり、その効果も実に優秀だ。

 

「エアーマンの召喚時、デッキから『E・HEROブレイズマン』をサーチ!」

 

「本当それどうなってんの?手札が減ってないんだけど……」

 

「知らん、お前も似たようなもんだろ。魔法カード、『置換融合』を発動!フィールドのエアーマンと竜脈を融合!融合召喚!『E・HEROガイア』!」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200

 

なりふり構わずこの次元から既知の外側の力を使う。子供相手でも容赦なし、と言うかコナミのデッキはペンデュラムからの融合が優先されている傾向にある為、仕方無いだろう。青とオレンジの渦に2体のモンスターが混ざり合い、花園の地を踏み締めるのは巨大な腕を振るう黒い巨人。力強さと逞しさを感じさせる英雄だ。

 

「ガイアの召喚時、ローズマリーの攻撃力を半減し、吸収!」

 

アロマセラフィ―ローズマリー 攻撃力3000→1500

 

E・HEROガイア 攻撃力2200→3700

 

『フォース』を内蔵した優秀な効果、『E・HERO』以外の素材も比較的多い地属性の為、召喚しやすいモンスターだ。これで突破口は見えた。コナミは続けざまに右手を突き出し、自身の前方の地面に美しき星が煌めく渦を発生させる。

 

「融合……スッゲー!」

 

「まだよ龍亞!」

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる!白き翼に望みを託せ、現れろ!『No.』39!エクシーズ召喚!『希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

渦へとヴァイオンと慧眼、光と闇を宿した2体が飛び込み、集束して小爆発を引き起こす。巻き起こる爆煙。煌めく白刃がそれを引き裂き、中より姿を見せたのは黄金の鎧を纏い、純白の翼を伸ばした希望の皇。その右肩には赤く輝く39の紋様が刻まれ、途端に皇は雄々しき咆哮を放つ。

 

「エクシーズ!?おぉぉっ!カッケー!」

 

「……成程ね、同じレベルのモンスター同士を素材にしているのね」

 

「……ねぇダニエル、龍可が僕より対応力高いんだけど」

 

「やーい子供に負けてやんの。バーカバーカ」

 

「ぐぬふっ!」

 

初のエクシーズに対し、龍亞は子供らしく目を輝かせ、龍可は冷静にカラクリを見抜く。その頭脳明晰ぶりに劣等感を覚えてへこむツァンに対し、煽るコナミ。そう言われればぐうの音も出ない。ツァン、龍亞と同レベル説。ここに来て可哀想な疑惑が出てしまった。龍可が飛び抜けているだけであるが。そこは黙っていた方が面白いとコナミは笑みを深める。畜生である。

 

「哀れな子羊め、それで良くシスターなんてやってるな。このなんちゃってシスターが」

 

「うぅ……ごめんなさい……コスプレでごめんなさい……」

 

タッグパートナーに関わらずこの仕打ち。最早味方でさえ怪しい。3対1である。孤軍奮闘、ぼっちは辛い。

 

「デッキは『六武衆』なのにシスターって時点でもうね」

 

「もうやめてよぉ!そんな事言ったら私名前カタカナだし!」

 

更に追い込みをかけるコナミ。流石のなんちゃってシスターもこれには堪らず叫ぶ。なんちゃってシスターだけあり、彼女はそこまで慈悲深くは無い。

 

「まぁここまでにしておくか、賤竜のペンデュラム効果で竜脈を回収し、竜穴のペンデュラム効果で捨て、『光の護封剣』破壊、バトル!ガイアでローズマリーに攻撃!コンチネンタルハンマー!」

 

龍亞&龍可 LP5900→3700

 

「くっ――!『アロマガーデン』の効果で『アロマ』モンスターが戦闘、効果で破壊され墓地に送られた場合、1000回復!」

 

龍亞&龍可 LP3700→4700

 

ガイアが野太い黒腕を合わせてハンマーのようにローズマリーに降り下ろし、ローズマリーが光の粒子となって散る。3000打点に効果無効を持つこのカードは早めに除去しておきたい。そして次に厄介なのは――。

 

「ホープでエンシェントへ攻撃!ホープ剣・スラッシュ!」

 

龍亞&龍可 LP4700→4300

 

更に追撃、叩き込むようにホープが翼を広げて飛翔し、エンシェントに2刀の剣を振るう。決闘竜と『No.』、次元を越えた闘い。エンシェントが尾を鞭のように振るえばホープがその尾に剣を突き立て、地面に磔にし、逃げられないと感じたエンシェントは今度は光のブレスで応戦するも、ホープが剣でそれを跳ね返してエンシェントを撃破する。今回軍配が上がったのは『No.』だ。これで破壊効果は使えない。

 

「メインフェイズ2、魔法カード、『モンスターゲート』を発動!ガイアをリリースし、通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキトップからカードを墓地に送る。1枚目!『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』!2枚目!『エレメンタルバースト』!3枚目!『ブレイクスルー・スキル』!4枚目!『シャッフル・リボーン』!5枚目!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!決まりだな!さぁ、出でよ、絶望の暗闇に差し込む、眩き救いの光!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

効果を使い、バニラも同然となったガイアをリリースし、その鎧の上にドスリと降り立ったのは金色の剣を背負い、白銀の鎧を纏った2色の眼の竜。遊矢から譲り受けたカードであり、暫くの間、コナミの言う事を聞かなかったが、沢渡との対決で頼もしい相棒となったモンスターだ。

 

「墓地の『置換融合』を除外し、ガイアをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

ダニエル 手札3→4

 

ガイアをリリースしたのはこれを使う為でもある。前回ではツァンに尽く融合モンスターをバウンスされ、『置換融合』の効果を使えなかったのだ。

 

「カードを1枚セットしてターンエンド」

 

ダニエル&ツァン・ディレ LP4000

フィールド『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

『六武の門』『禁止令』セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札3(ダニエル)手札1(ツァン)

 

「俺のターン、ドロー!」

 

龍亞&龍可 LP4300→4800

 

「魔法カード、『拘束解放波』発動!俺の装備魔法、トライスと相手フィールドのセットされた魔法、罠を全て破壊する!ババーン!」

 

「くっ――!罠発動!『針虫の巣窟』!デッキから5枚を墓地に!」

 

『パワー・ツール』が飛翔し、凄まじい衝撃波をその身体から解き放ち、コナミ達のセットカードが吹き飛んでガラスのように砕け散る。だがまだまだ、龍亞はその手を止めはしない。

 

「『D・リモコン』を召喚!」

 

D・リモコン 攻撃力300

 

龍亞の手よりリモコンに手足の生えたモンスターが登場する。まるで何年か前に放送されたケータイの刑事のような見た目をしたこのカードもまた、『D』では少数のチューナーだ。

 

「リモコンの効果で墓地の『D・ステープラン』を除外し、同じレベルの『D・ラジカッセン』をサーチ!魔法カード、『二重召喚』!増やした召喚権で『D・ラジカッセン』召喚!」

 

D・ラジカッセン 攻撃力1200

 

次に登場したのはラジオカセット、通称ラジカセが変形した赤いロボット。『D』の中でもアタッカーとなるモンスターだ。尤も、『D』の武器である装備魔法を装備すればに限るが。

 

「レベル4のラジカッセンにレベル3のリモコンをチューニング!世界の平和を守る為、勇気と力をドッキング!シンクロ召喚!愛と正義の使者、『パワー・ツール・ドラゴン』!!」

 

パワー・ツール・ドラゴン 攻撃力2300

 

呼び出されるもう1体の守護者、イエローカラーのボディに赤く輝くマシンアイ、右腕にドライバーを、左腕に青いシャベルを装着した機械竜だ。その姿は驚く程『機械竜パワー・ツール』に酷似している。違うのは赤いラインがあるか無いかか。並び立つ2体の勇姿、そしてこの2体は揃った時、歯車が合わさるように噛み合う。

 

「『パワー・ツール・ドラゴン』の効果!デッキから装備魔法3枚を選び、相手がランダムに選んだ1枚を手札に加える!パワー・サーチ!」

 

龍亞の背後にソリッドビジョンのカードが3枚現れる。選び抜かれた3枚のカード、それは――。

 

「3枚ともっ……!3枚とも『魔導師の力』……っ!」

 

正しくパワー・サーチ。横暴過ぎる特権がその小さな少年の身体から放たれる。思わずコナミの顔が面長となり、鼻と顎が賭博師のように尖る。ざわ……ざわ……。仕方無くコナミは右のカードを選び、龍亞の手におさまる。

 

「『魔導師の力』を『パワー・ツール・ドラゴン』に装備!」

 

パワー・ツール・ドラゴン 攻撃力2300→4300

 

「バトル!『パワー・ツール・ドラゴン』で『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を攻撃!」

 

「ホープのORUを1つ取り除き、その攻撃を無効に!ムーンバリア!」

 

攻撃力を増した『パワー・ツール・ドラゴン』の攻撃、それを防ぐ為、皇が竜達の間に割って入り、翼を盾として攻撃を防ぐ。剣の竜と盾の戦士。攻防の役目を振っていると言う事か。

 

「なら機械竜の効果で『パワー・ツール・ドラゴン』に装備された『魔導師の力』を機械竜に装備!効果でドロー!」

 

龍亞 手札3→4

 

「『神の恵み』で回復!」

 

龍亞&龍可 LP4800→5300

 

「『パワー・ツール』でセイバーに追撃!」

 

「ホープの効果で無効!」

 

「メインフェイズ2、速攻魔法、『ダブル・サイクロン』!『魔導師の力』と『六武の門』を破壊!そして装備魔法、『ダブルツールD&C』を『パワー・ツール・ドラゴン』に装備!」

 

ここで『パワー・ツール・ドラゴン』に専用の装備カードが使われ、ドライバーがドリルへと、シャベルがチェーンソーへと変わった新生『パワー・ツール・ドラゴン』。これは少しばかり厄介だ。

 

「ターンエンドだよ」

 

龍亞&龍可 LP5300

フィールド『パワー・ツール・ドラゴン』(攻撃表示)『機械竜パワー・ツール』(攻撃表示)

『ダブルツールD&C』『潤いの風』『神の恵み』

『アロマガーデン』

手札2(龍亞)手札0(龍可)

 

「僕のターン、ドロー!キツいねこれ……!2人とも防御がガチガチ過ぎて……!ペンデュラム召喚!『六武衆―カモン』!『六武衆のご隠居』!」

 

六武衆―カモン 攻撃力1500

 

六武衆のご隠居 守備力0

 

ツァン、2度目のペンデュラム。彼女の下に集うのはダイナマイトを持った赤い鎧の武人に御輿に乗った『六武衆のご隠居』。ここでカモンは頼もしい。

 

「カモンの効果!『ダブルツールD&C』を破壊!バトル!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』で『パワー・ツール・ドラゴン』を攻撃!」

 

龍亞&龍可 LP5300→4800

 

剣の竜がドタドタとフィールドを駆け抜け、背の剣を振るって『パワー・ツール・ドラゴン』のドライバーと激突し、赤い火花が散る。世界を守る正義の竜と、怒りによって生み出された竜、2体はそれぞれの武器をぶつけ合い、激しい剣戟の音が響く。『オッドアイズ』とは事なり、特別な力を持たないカードなのにここまで食いつくのは恐らく――激しい闘いを潜り抜けた猛者だから。しかし、やはり届かない。最後に叩き込んだ一撃が『パワー・ツール・ドラゴン』が叩きのめす。

 

「そしてこの瞬間、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の効果でもう1体の『パワー・ツール』も破壊!」

 

「えぇっ!?」

 

更に『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』は勢いのまま『パワー・ツール・ドラゴン』を踏み台にして跳躍し、ぐるりと1回転しながら振るわれる刃が決闘竜を切り裂く。2体の『パワー・ツール』を前に大活躍、やはりこのカードは頼もしい。

 

「ホープでダイレクトアタック!」

 

龍亞&龍可 LP4800→2300

 

後一息。押しているとは言え、油断は出来ない。次のターンプレイヤーは龍可だ。恐らく回復されるだろう。

 

「ターンエンドだよ!」

 

「くっ、『潤いの風』の効果で回復」

 

龍亞&龍可 LP2300→2800

 

ダニエル&ツァン・ディレ LP4000

フィールド『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『六武衆―カモン』(攻撃表示)『六武衆のご隠居』(守備表示)

『禁止令』

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札3(ダニエル)手札0(ツァン)

 

「私のターン、ドロー!」

 

龍亞&龍可 LP2800→3300

 

「『封印の黄金櫃』で除外されていた『サイクロン』を手札に、そして発動!『禁止令』を破壊!『潤いの風』の効果!LPを1000払い、『アロマセラフィ―アンゼリカ』をサーチ!」

 

龍亞&龍可 LP3300→2300

 

「そして回復!」

 

龍亞&龍可 LP2300→2800

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『潤いの風』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

龍可 手札1→3

 

「『神の恵み』の効果!」

 

龍亞&龍可 LP2800→3300

 

「魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『アロマージ―ジャスミン』を3体、『アロマージ―ローズマリー』と『増殖するG』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

龍可 手札2→4

 

龍亞&龍可 LP3300→3800

 

「魔法カード、『偽りの種』!手札の『アロマージ―ジャスミン』を特殊召喚!」

 

アロマージ―ジャスミン 守備力1900

 

「速攻魔法、『地獄の暴走召喚』!」

 

「うぐっ、カモンを呼ぶよ……!」

 

アロマージ―ジャスミン 攻撃力100×2

 

六武衆―カモン 守備力1000

 

「手札の『アロマセラフィ―アンゼリカ』を捨て、墓地のアロマセラフィ―ローズマリーの攻撃力分回復!」

 

龍亞&龍可 LP3800→5800

 

「ジャスミンでドロー!」

 

龍可 手札0→3

 

「『神の恵み』の効果!」

 

龍亞&龍可 LP5800→6300→6800→7300

 

2000少しだったLPが一気に回復し、7300、これではキリが無い。一番良いのは火力を上げて上げて上げまくって一撃で終わらせる事だが、生憎2人のデッキの弱点はその火力不足である。

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『神の恵み』をコストに2枚ドロー!」

 

龍可 手札2→4

 

「ジャスミンの効果で増えた召喚権で『グローアップ・バルブ』を召喚!」

 

グローアップ・バルブ 攻撃力100→600

 

現れたのは優秀なレベル1のチューナー。植物に目が生えたモンスターだ

 

「レベル2のジャスミン2体にレベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!シンクロ召喚!『アロマセラフィ―ローズマリー』!」

 

アロマセラフィ―ローズマリー 攻撃力2000→2500

 

アロマージ―ジャスミン 守備力1900→2400

 

「まだよ!『アロマージ―カナンガ』を召喚!」

 

アロマージ―カナンガ 攻撃力1400→1900

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800→2300

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→2000

 

六武衆―カモン 攻撃力1500→1000×2

 

六武衆のご隠居 守備力1000→500

 

更なる展開。次に登場したのはベレー帽に眼鏡、緑のマフラーとコートを纏った学者風の少女だ。花園にある切り株に腰をかけ、うむむと何やら唸り出す。

 

「そして『アロマガーデン』の効果で回復し、モンスターの攻撃力アップ!」

 

龍亞&龍可 LP7300→7800

 

アロマセラフィ―ローズマリー 攻撃力2500→3000

 

アロマージ―カナンガ 攻撃力1900→2400

 

アロマージ―ジャスミン 守備力2400→2900

 

「カナンガの効果でLPが回復した場合、相手の魔法、罠をバウンス!竜穴をバウンスよ!更にローズマリーでホープを無効化!」

 

「ッ!嘘、これじゃ……!」

 

カナンガのバウンスが炸裂し、ペンデュラムが崩れ去る。しかも厄介なのはこれがタッグデュエルと言う事だ。手札に戻ったのはツァンの下、しかし次のターンプレイヤーはコナミ。これでは得意、いや、コナミの展開の要であるペンデュラムが使えない。手札のペンデュラムモンスターはスケール1の『竜脈の魔術師』。スケール2の『賤竜の魔術師』と合わせても意味がない。

ここに来てコナミの弱点が露見してしまった。そう――コナミはデッキの構築上、ペンデュラムが無ければ融合、シンクロ、エクシーズとそこから先の展開が不可能に近くなる。ギリッ、と歯軋りを鳴らすコナミ。うっすらと気づいていたが、こうして目の前にすると――今まで対戦相手がペンデュラムを狙わなかったから勝利出来たと考えてしまう。だが対策カードはある。『スキル・プリズナー』ならモンスター効果による除去が多い今、充分に対策となる。

 

「墓地の『アロマセラフィ―アンゼリカ』を蘇生!」

 

アロマセラフィ―アンゼリカ 守備力0→500

 

「魔法カード、『波動共鳴』!アンゼリカのレベルを4に!」

 

アロマセラフィ―アンゼリカ レベル1→4

 

「レベル3のカナンガにレベル4のアンゼリカをチューニング!シンクロ召喚!『エンシェント・ホーリー・ワイバーン』!」

 

エンシェント・ホーリー・ワイバーン 攻撃力2100→5900

 

連続シンクロ、花園の上空から光の柱が出現し、その中から金色の鬣を靡かせ、白い体躯に黒い紋様を浮かべた幻想的な翼竜が現れる。その攻撃力5900、龍可達の命の力がそのまま宿る。

 

「このモンスターは自分と相手のLPの差分攻撃力を変化させる!そしてデッキトップをコストに『グローアップ・バルブ』蘇生!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100→600

 

「魔法カード、『星屑のきらめき』!墓地の『パワー・ツール・ドラゴン』を除外し、『妖精竜エンシェント』を蘇生!」

 

妖精竜エンシェント 攻撃力2100

 

再びフィールドに降臨する花園の支配者。厄介過ぎるモンスターの帰還にツァンがうっと唸る。これでフィールドには3体のシンクロモンスターが揃った。

 

「エンシェントの効果で『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』破壊!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外し、セイバーに攻撃を絞る!」

 

このまま総攻撃、一気にLPを削る所を何とか凌ぐ。

 

「ターンエンドよ」

 

龍亞&龍可 LP7800

フィールド『妖精竜エンシェント』(攻撃表示)『アロマセラフィ―ローズマリー』(攻撃表示)『エンシェント・ホーリー・ワイバーン』(攻撃表示)『アロマージ―ジャスミン』(守備表示)『グローアップ・バルブ』(守備表示)

『アロマガーデン』

手札0(龍亞)手札0(龍可)

 

チビッコ2人の猛攻、攻防一体の息の合ったコンビネーションにコナミの弱点が暴かれ、追い詰められていく。だが――それがどうした。分かっていた事だ。自分が弱点だらけで弱くなってしまっている事を。それで歩みを止める等する訳が無い。弱点だらけだろうと――デュエリストは止まらない。

 

「オレのターン、ドロー!なめるなよ、確かにデュエルに大人も子供も関係無いが、ここで負ける程、甘くない!カモンの効果で『アロマガーデン』破壊!『ジェット・シンクロン』を召喚!」

 

ジェット・シンクロン 攻撃力500

 

登場したのは青と白のカラーリングのジェットエンジンを模したモンスター。レベル1、チューナー、このモンスターこそがピンチを覆す鍵となる。

 

「レベル3のカモン2体にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

現れたる焔の竜。地を砕き、炎を流し込むのは真っ赤に燃える体躯を唸らせる2色の眼の竜。星々を砕きしコナミの希望が咆哮する。

 

「メテオバーストの効果でペンデュラムゾーンの『賤竜の魔術師』を特殊召喚!素材となった『ジェット・シンクロン』の効果でデッキの『ジャンク・コレクター』サーチ!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

竜の咆哮によって呼び出されたのは扇を振るう『魔術師』の1体、次から次へ、展開を繋ぎ加速していく。

 

「特殊召喚時、墓地の『慧眼の魔術師』を回収!装備魔法、『妖刀竹光』を『ホープ』に装備し、魔法カード、『黄金色の竹光』で2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札3→5

 

「慧眼と竜脈をセッティングし、慧眼の効果で自身を破壊し、竜穴をセッティング!更に魔法カード、『置換融合』!フィールドの『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』と『賤竜の魔術師』を融合!融合召喚!『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力2500

 

吹き荒れる風に身を包み、『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』の体躯が緑に染まり、その背から翼が広がり、アギトが嘴の如く尖る。天候を操る雷と嵐の竜が天空に君臨する。

 

「効果でローズマリーバウンス!ペンデュラム召喚!『E・HEROブレイズマン』!『ジャンク・コレクター』!」

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

ジャンク・コレクター 守備力2200

 

振り子の軌跡で呼び出される2体のモンスター。炎の鬣を持つ赤い『HERO』とゴミの収集者、これで一気にカタをつける。

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』サーチ!発動!ご隠居とブレイズマンで融合!融合召喚!『E・HERO ガイア』!」

 

E・HEROガイア 攻撃力2200

 

更に融合、現れたのは巨大な体躯を持つ鉄の『HERO』だ。

 

「効果でワイバーンの攻撃力吸収!」

 

エンシェント・ホーリー・ワイバーン 攻撃力5900→2950

 

E・HEROガイア 攻撃力2200→5150

 

「そして『ジャンク・コレクター』と墓地の『エレメンタルバースト』を除外し、効果をコピー!相手フィールドのカード全てを破壊!ぶち撒けろ!」

 

『ジャンク・コレクター』が光に包まれて弾け飛び、あらゆる大災害が炸裂する。燃え盛る炎に襲い来る津波、吹き荒れる嵐に隆起する大地。4つのエレメントの力が龍可達のフィールドを焦土と化す。

 

「すっげ、すっげ、スッゲー!龍可龍可!今のスッゲーコンボじゃない!?」

 

「そんな……あのデッキ構築もこの為……!?」

 

あり得ないデッキ構築にロマンをぶち込んだふざけたコンボ、だがそれ故に予測不能。

 

「あんた……とんでもないもんばっか仕込んでるのね……」

 

「まぁな、だが……まだ先がありそうな気がする。バトル!全てのモンスターで攻撃!」

 

龍亞&龍可 LP7800→0

 

ボルテックスの放つ竜巻を束ねたブレスに、ガイアの放つ衝撃波、更に『ホープ』の剣が重なり、巨大な荒波となって龍亞達のLPを打ち砕く。決着――華々しい勝利を得、コナミ達は何とか年上の威厳を守り、ツァンはトリシューラプリンを得たのだった。

 

「ねぇねぇ、勝ったって事はプリンは僕のものだよね!ね!」

 

「……これではどちらが子供か分からんな……」

 

「う、うっさいし!ほらほら寄越しなさいよ!」

 

早速トリシューラプリンを催促するツァンにコナミがやれやれと溜め息を溢す。そんな時だった――彼等が、この孤児院に帰って来たのは。

 

「おっ、何だか面白そうな事してんなぁ」

 

「ちょっ、ちょっとユーゴ、早過ぎるって――え――?」

 

青い紙にバナナのように重なった前髪、コナミが良く知る顔、ライダースーツを纏った少年に、ピンク色の髪をツインテールで結び、これまたライダースーツを纏った彼女は――。

 

「柚子……!?」

 

「コナミ……!?」

 

――――――

 

一方その頃、遊矢達はと言うと――

 

「はい、タイーホ」

 

「誤解だぁー!俺はやってねぇ!俺は悪くぬぇーっ!」

 

「なぁなぁ遊矢!手錠だぞこれ!本物だ!おお、あっちはパトカーだな!初めて乗るぞ!」

 

「キキッ!」

 

「お前等ちょっと黙ってくんない?元凶なんだからさ」

 

ファンファンと鳴り響き、赤く輝くサイレン、仲間達の両手にかけられ、拘束する冷たい金属を前に遊矢は遠い目をして溜め息をつく。どうにも現実を直面して見る事が出来ない。目の前で零児が手錠をかけられるのを見て、何の冗談かと笑いたくなる。そして――警官が遊矢の肩をポンと叩き――カチャリ、冷たい金属が彼の両手を拘束する。

 

「はい、君もタイーホ」

 

「どうしてこうなった」

 

それでも俺はやってない。榊 遊矢――シンクロ次元にて前科一犯。エンタメデュエリストとしてこれはどうなんだろうかと考えながら、彼は全ての元凶となった沢渡とセレナにウフフと優しい、幼い子供をあやすような笑顔を向けるのだった――。

 

 

 

 




ブレスレット「出番かな?」

ストックを書いていると禁止制限が追い付かない。取り敢えず128話には2017年7月のものとなり、141話位に今現在2017年10月のものとなると思います。一応変更の際には都度に前書きに書くようにします。違和感があるでしょうがご了承ください。

オマケ

零児(月影たすけて)ジー

月影(分かってるでござるよ零児殿……自分は良いから零羅殿を任せたと言う事でござるな!)グッ

零児(あの野郎零羅連れて逃げやがった……!ぜってぇ減給だわ……!)ギリィッ


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第105話 新ネオ・ニュー・沢渡

今更ながらメダロットクラシックスが今冬に発売すると聞き、テンションが上がってます。1~5まで収録してるって豪華過ぎりゅ……。
因みに私用で忙しくなるので今回で一旦投稿は休止、次の投稿は10月後半になると思います。最近休みばっかで申し訳ありません。


「まさか権現坂達も捕まってたとはなぁ……ウフフ」

 

「俺とて赤馬の奴が囚人服を着ているのを見た時は何かの悪夢かと思ったぞ」

 

時は少しだけ進み、遊矢達はとある場所にて、権現坂とデニスと合流していた。その場所は――脱出不可能とされる犯罪者達が集う収容所だ。

ここは右と左の塔の2つに別れているらしく、突如現れた月影に助けられた零羅を除き、今右の収容所にいるのは遊矢と権現坂、零児にデニス、エヴァ。クロウとその友のシンジ。

そして左の塔には沢渡とその子分3人、黒咲、アリトにセレナとSALがいるようだ。

こんな時に限ってコナミがいないのは手痛い。彼ならば無茶苦茶な方法で脱出するのだろうが、今回はそうはいかない。どうするべきかと遊矢が唸る中、ある男が彼に声をかける。

 

「ここにいたか、遊矢」

 

「零児……君は本当に何でそんな格好をしているんだい?」

 

その男とは赤馬 零児、With囚人服だ。白と黒の縞模様の服に身を包んだ、収容所の風景に溶け込んでいる、キャラ崩壊を起こしている姿に思わず遊矢の口調も砕ける。それ程までに違和感を感じさせてくれる光景だ。2回目だが慣れる気がしない。

 

「何、木を隠すなら森の中と言う奴だ、それより遊矢。脱出の手がかりを掴んだ。着いて来てくれ」

 

「本当か!?」

 

いきなりの有益な情報に遊矢と権現坂が目を丸くする。流石は赤馬 零児。ふざけた格好をしていると思いきや有能な働きを見せてくれる。遊矢は素直に彼に着いて行き――その先で、この収容所の右塔の頂点である、燻ったエンターテイナーと闘う事になる――。

 

――――――

 

「あぁクソッ!何で俺様がこんなむさっ苦しい所にいなきゃなんねぇーんだよ!」

 

「「「沢渡さぁーん、落ち着いて下さいよぉー!」」」

 

一方、収容所の左塔にて、沢渡 シンゴは自分達に割り振られた雑居房の壁を蹴っていた――。と思いきや壁が思った以上に固かったらしい。足に爪先から衝撃が跳ね返り、痺れて膝を抱える沢渡。何とも格好つかない男である。

 

「落ち着け沢渡、暴れても状況は良くならんぞ」

 

「正論だな。はぁ、せめて遊矢と同じ部屋ならなぁ……」

 

同じ雑居房の住人である隼とアリトが沢渡を諭すが、彼としては落ち着かない。考えるよりも行動してみるタイプの沢渡にとって、こうして動きを封じられるのは何よりストレスが溜まる。どうにか出来ないものか――そんな時だ、雑居房の前に1人の男が現れたのは。

 

「ハハッ、威勢が良い奴が来たもんだなぁ」

 

「あぁん?誰だテメェ!」

 

「ああ、俺は青山ってんだよ。お前さん達、何を仕出かしたか知らねぇが、収容所は初めてだろ?色々教えてやるよ」

 

ニィッと人の良い笑みを浮かべる男、青山。有り難い申し出だ。未だ騒ぐ沢渡の口を塞ぎ、隼が前に出て彼に答える。

 

「ああ、良ければ頼もうか、俺もここにあるあのサーキットのようなものが気になっていたんだ」

 

そう言って収容所の真ん中に引かれたサーキットのような線路をチラリと一瞥して答える隼。まずは情報収集を。脱出の手がかりになるようなものを掴む為、積極的に、しかし穏和に打って出る。この男も丸くなったものだ。とは言え他の2人、アリトと沢渡がそう言った場面で頼りになりそうもないのもあるが。

 

「ああ、あれか?あれは見たまんまだよ。ライディングデュエルって奴のサーキットさ、外からやって来た奴等がこれがねぇと夜しか眠れねぇとか言って、許可を得て作ったんだ。今ボスを決める為、あれを使ってデュエルをしているんだ」

 

「ほう――ボス……か」

 

ボス、成程、ここの収容所の頂点に立つ者ならば、何か鍵になるものを握る事が出来るだろうと隼は推測する。ならば話は早い。この青山から情報を引き出し、ボスと話す、もしくはボスとなる事でこの収容所全体を掴む。

恐らく右塔にいる零児もこれ位の事は試しているだろう。こちらも足手まといにならないようにと隼は顎に手を当て考える。

 

「おっ、噂をすれば何とやらだ。ほら、ボスが帰って来たぜ」

 

青山の視線の先へと沿うように隼がその猛禽類を思わせる眼をサーキットへと向ける。だがそこには誰もいないように見える。

いや、これは――キィィィィンッと、耳鳴りを起こすように響く音、その出所はサーキットが引かれた先にある――穴だ。まるで鉱山の如く、人1人が余裕で入るものの、D-ホイールで抜けるには少々狭い穴がある。まさか――と思ったその瞬間、穴から眩きライトがキラリと輝き、ドシュゥゥゥゥゥ!白煙の尾を靡かせ、1機のD-ホイールが走り抜ける。

 

まるで髑髏を思わせるヘルムに、肩にスパイクがついたライダースーツ、後部に巨大なブースターを取り付けたそのD-ホイールを操るホイーラー。

それに追従するは頭部からゴウゴウと燃える炎を伸ばし、ローブとマントを纏った骸骨だ。掌を後ろから飛び出して来たD-ホイーラーに向け、炎に包まれた髑髏を弾丸のように撃ち出す。

 

「『バーニング・スカルヘッド』の効果ぁ!こいつが特殊召喚に成功した時、お前さんに1000ポイントのダメージを与える!」

 

「ぐっ、がぁぁぁぁぁっ!?」

 

瓜生 LP1000→0

 

「――奴は――!?」

 

「おいおいおい、ボスがやられちまったぜ、何者だあいつぁ……!?」

 

馬鹿な、そう言わんばかりに2人が瞠目する。青山はこの左塔のボスである、昆虫族使いのデュエリスト、瓜生が敗北し、新たなボスが生まれた事で。

対する隼は今君臨したボスと、そのボスが使うモンスターを見て、そう、隼はたった今ボスとなった男を知っている。

ヘルメットを脱ぎ捨て、炎を思わせるファンキーな髪型に光を反射するサングラス、顎から生えた無精髭が特徴的な男――。

 

「炎城……ムクロ……!」

 

炎城 ムクロ。この男は隼がこの収容所に来る事となった理由、地下デュエルでの対戦者の1人にして、勝利こそしたが隼を後一歩の所まで追い詰めた凄腕のD-ホイーラーなのだ。どうするかと悩む彼をよそに、ムクロは停止したD-ホイールに乗ったまま高々と声を上げる。

 

「どうだテメェ等!これでこの俺様がここのボスだ!文句のある奴ぁかかって来い!」

 

ニヤリ、不敵な笑みを浮かべ、啖呵を切るムクロ。不味い、こんな事を言われれば、後ろの馬鹿共が黙っていないと隼が振り返り――時既に遅し。そこにいた筈の沢渡とアリトの姿が忽然と消えていた――。

そしてサーキットの方で聞こえる覚えのある声。頭が痛い。こんな気持ちをユートに味わわせていたと思うと今更ながら申し訳なくなる。

 

「オウオウオウ!良い度胸じゃねぇか!この沢渡 シンゴ様を前にボスを気取るたぁ!上等だぜ、俺が相手になってやんよ!やんよぉ!」

 

「おう良い気合いだぜ沢渡!セコンドには俺がついてやる!存分にエンタメってやれ!」

 

「「「沢渡さん、やっちゃて下さいよぉー!」」」

 

柿本、山部、大伴も引き連れ、ムクロの挑発に乗り、名乗りを上げる馬鹿2人、いや、5人か。ムクロはそんな彼等の登場に眼を丸くした後、喉から笑い声を絞り出す。

 

「ハハハハハッ!良いねぇ、熱いぜお前さん達!その挑戦受けて立つ!おい瓜生、ボス命令だ、お前さんのD-ホイールを貸してやんな!」

 

「……チッ、仕方ねぇか……おいガキ、壊すんじゃねぇぞ、後、あの野郎をぶっ倒して来い」

 

沢渡の突然の挑戦を受けて立ち、今しがたデュエルで下した瓜生へ沢渡にD-ホイールを貸すように指示を出すムクロ。垂れ目で顔にマーカーを刻んだ男――瓜生も仕方なく頷き、リベンジを果たしてくれと沢渡の前にD-ホイールを停止する。

 

「へっ、任せとけよおっさん!……で、D-ホイールってどう操作すりゃ良いんだ?」

 

「バッカ沢渡、そんなもん気合だ気合!こう、抉り込むようにアクセルを踏むべし!踏むべし!」

 

「舐めんじゃねぇアリト!言っとくが俺様は補助輪の沢渡と呼ばれる男だぞ!」

 

ギャーギャーとアホ丸出しで騒ぎ立てる2人を見て、こんなんで大丈夫かと口元を引き吊らせる瓜生。それは隼も同じ。遠巻きに見ていた彼は溜め息を吐き出し、勝手に行動する沢渡に悪態をつく。

 

「補助輪て……中学生だろお前……っ!」

 

「「「沢渡さぁーん、また特訓付き合いますよぉーっ!」」」

 

「おい、あいつ等お前の知り合いじゃ……止めなくて良いのか……!?」

 

たった今沢渡達が隼の仲間だと気づいたのか、隼より慌てて彼等の心配をする青山。普通に良い奴だ、何故この収容所に入ったのが本気で分からない。だが隼はそんな彼へと、心配無用と胸を張る。

 

「安心しろ、奴等は心配する程やわじゃない――」

 

「アクセルどこ!?ブレーキは!?」

 

「わっかんね!俺馬鹿だからわっかんね!」

 

「気がする」

 

「大丈夫!?お前の仲間大丈夫!?」

 

が、その信頼は幻想なのかもしれない。

 

「おいおいおい、そんなんで大丈夫か?言っとくが俺はライディングに関してはあのキングに負けねぇ自信があるし、手を抜くつもりはねぇぞ、小僧」

 

「ハッ!安心しろよ!俺がボスになって、おっさんは隠居でもしときな!アリト、後ろ持ってて、放さないでね!」

 

「いや無理ィ!」

 

「ここのサーキットはオートパイロットでも対応出来ねぇぞ」

 

「オートパイロット……?あ、これか」

 

話を聞かず、ラッキーと考え、沢渡がオートパイロットモードに移行する。確かにこれで運転の面の不安は解消される。……サーキットがまともならばだが。見るだけで分かる簡素なサーキット、デコボコな道や狭い穴の通路。不安要素はまだまだある。

何より相手は炎城 ムクロ。彼は――ライディングでは超一流だ。

 

「準備は良いか……?さぁ行くぜ、3、2、1……ッ!」

 

兎にも角にも、ボスの座を賭け、沢渡 シンゴ、初のライディング劇場が幕を上げる。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

互いに弾かれるようにD-ホイールを発進する。その差は明白、明らかにムクロの方が好スタートを切った。ブースターより火炎を吹き上げ、見る見る内に差を開くムクロ。

このブースターはボルガーカンパニー製の最初はとんでもないスピードを約束するが後半になればその代償として大幅にスピードを落とす諸刃の剣、しかしホイーラーはあのムクロ。彼がそんな弱点を分かってない筈が無い。テクニックでどうにかするだろう。

そしてこれで――先攻はムクロに渡った。狭き穴を潜り、ムクロがデッキより5枚のカードを引き抜く。

 

「俺のターン、俺は永続魔法、『ミイラの呼び声』を発動!俺のフィールドにモンスターが存在しない場合、手札のアンデット族モンスターを特殊召喚する!来な!『バーニング・スカルヘッド』!」

 

バーニング・スカルヘッド 守備力800

 

現れたのは先程の瓜生とのデュエルに決着をつけた、火に包まれた髑髏のモンスター。ステータスも低く、折角アンデットの上級モンスターを出せる手段をこのカードに取ったのか、沢渡が首を傾げる。しかし――思い出す、このカードの効果は――。

 

「こいつが特殊召喚に成功した時、相手に1000のダメージを与える!ヘル・バーニング!」

 

「うわっちゃぁ!?」

 

沢渡 シンゴ LP4000→3000

 

『バーニング・スカルヘッド』が自身を弾丸のように撃ち出し、沢渡を火炎で焦がす。LP4000では強力なバーン効果。彼のデッキはこれを主軸としている為、後3回繰り返せばデュエルが終わる。

 

「モンスターをセットし、ターンエンドだ」

 

炎城 ムクロ LP4000

フィールド『バーニング・スカルヘッド』(守備表示)セットモンスター

『ミイラの呼び声』

手札1

 

ムクロのターンが終了し、何とか沢渡が追い縋って自分のターンに入る。これ以上差を開かれればダメージのフィールも激しさを増してしまう。とは言っても沢渡がオートパイロットを解除すればその時点でクラッシュする可能性が高い。採掘場のような場所に出て、沢渡はデッキからカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!舐めんじゃねぇ、俺は『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』と『魔界劇団―ワイルド・ホープ』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

「ほう……ペンデュラム……エクシーズと言い、最近は面白いカードが出回ってんのか?」

 

沢渡の背後に光輝く2本の柱が出現し、中に現れた少女と期待の新人が天――と言っても洞窟内だが、沢渡の頭上に線を結び、魔方陣を描き出す。いきなりのペンデュラム、見慣れぬカードにムクロが少しばかり驚くが、エクシーズで通った道だ。冷静に観察する。

 

「ほら、中央のモニターでサーキット内部の様子が見られる」

 

「良くこんな所に金をかけようと思ったものだ」

 

「囚人のストレスを発散させて、脱出させないようとでもお偉いさんが考えたんだろ。監視カメラの意味も込めて」

 

その様子をサーキットの中央に展開された大型モニターより隼と青山、囚人達が興味深そうに見つめる。一種のお祭り事。一大イベントを逃すまいと囚人達がエキサイトする。

 

「そこだ沢渡!お前の得意のパンチでダメージを稼げ!」

 

「ペンデュラム召喚!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!」

 

魔界劇団―プリティ・ヒロイン 攻撃力1500

 

振り子の軌跡で光が沢渡へと並走し、現れたのは劇団のヒロイン、名の通り、可愛らしい悪魔族モンスターだ。

 

「おいおいペンデュラムってのはそれだけか?」

 

「へっ、ペンデュラムの真価は後半なんだよ!ティンクル・リトルスターのペンデュラム効果!このターン、プリティ・ヒロインはモンスターに3回攻撃出来る!」

 

「何ィ!?」

 

ペンデュラムゾーンのティンクル・リトルスターが光の粉をプリティ・ヒロインに降り注がせ、その愛らしさに磨きがかかる。モンスター限定とは言え強力な効果。だが――当然デメリットもある。

 

「だがこのターン、プリティ・ヒロイン以外のモンスターは攻撃出来なくなる。ま、俺のフィールドのモンスターはこいつだけだから関係ねぇがな。さぁ、プリティ・ヒロイン!スカルヘッドとセットモンスターへ攻撃!」

 

プリティ・ヒロインがその手に持った鞭を振るい、ムクロのモンスターを薙ぎ倒す。だが彼がセットしていたモンスターは――。

 

「ハッハー!セットモンスターは『ピラミッド・タートル』!戦闘破壊された事でデッキから『スカル・フレイム』を特殊召喚!カモォン!マイフェイバリット!!」

 

スカル・フレイム 攻撃力2600

 

背にピラミッドを負った黄金の亀だ。プリティ・ヒロインの鞭がピラミッドの甲羅を破壊し、その中より影が飛び出す。アンデット族にとって優秀なリクルートモンスター、ムクロが呼び出したのは――彼のエースと言えるモンスター。炎の鬣を伸ばし、ローブと真紅のマントを纏った骸骨のモンスターだ。攻撃力2600、いきなりの最上級モンスターの登場に沢渡が怯む。

 

「チィッ!アンデットってのはこれだから……!俺はカードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP3000

フィールド『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』『魔界劇団―ワイルド・ホープ』

手札1

 

「さぁ、楽しもうぜ?俺のターン、ドロー!本来ならバーンで攻めるんだが……ここはバトルとしゃれこもうか!『スカル・フレイム』でプリティ・ヒロインへ攻撃ィ!」

 

沢渡 シンゴ LP3000→1900

 

「倒れんな沢渡ィ!腕を折り畳んでガードしろぉ!」

 

『スカル・フレイム』が拳を突き出して眼前に魔方陣を描き出し、メラメラと燃える灼熱の弾丸をプリティ・ヒロインへと撃ち出す。炎に焼かれ、慌ててエクストラデッキに引っ込むプリティ・ヒロイン。これでモンスターは失ったが――プリティ・ヒロインは沢渡へと1枚のカードを渡していった。

 

「プリティ・ヒロインがモンスターゾーンで戦闘、効果破壊された場合、デッキの『魔界台本』魔法カードを選び、フィールドにセットする!『魔界台本「魔王の降臨」』をセット!更に罠カード、『魔界劇団の楽屋入り』でデッキの『魔界劇団―ビッグ・スター』と『魔界劇団―デビル・ヒール』をエクストラデッキに!」

 

「ほぉう?俺はカードをセットし、ターンエンドだ」

 

炎城 ムクロ LP4000

フィールド『スカル・フレイム』(攻撃表示)

『ミイラの呼び声』セット1

手札2

 

ガリガリとデコボコの道を進み、互いのD-ホイールが疾駆する。だがその差は歴然、まだ2人の間には差があり、ムクロは危う気なく突き出た岩や石を避け、対する沢渡は危な気に進んでいく。ガタガタと機体を揺らし、沢渡が舌打ちを鳴らす。

 

「俺様のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『魔界劇団―ビッグ・スター』!!『魔界劇団―デビル・ヒール』!『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』!」

 

魔界劇団―ビッグ・スター 攻撃力2500

 

魔界劇団―デビル・ヒール 攻撃力3000

 

魔界劇団―プリティ・ヒロイン 守備力1000

 

ペンデュラム特有の大量展開、ここで大型が沢渡のフィールドに降り立ち、並走する。エースカードである隻眼の大スター、黒いジャケットにメタリックな渦巻くワインレッドの髪のモンスターに、ずんぐりむっくりとした白い仮面をつけ、大口を開けた悪役モンスター。そして先程のターンも登場した麗しのヒロインだ。

 

「そしてリバースカード発動!『魔界台本「オープニング・セレモニー」』!俺のフィールドの『魔界劇団』モンスターの数×500LPを回復する!」

 

沢渡 シンゴ LP1900→3400

 

相手がバーンで来るならばこちらは回復するまで。何せ後2回『バーニング・スカルヘッド』を特殊召喚されればジ・エンドとなる所まで来ているのだ。少しでも多くLPを残しておきたい。バーンデッキと言うのはそれだけ厄介なのだ。しかも相手はビートダウンにもシフト出来るフットワークの軽さと来た。

 

「さ、ら、に!ビッグ・スターの効果でデッキから2枚目のオープニング・セレモニーをセット!そして魔王の降臨を発動!俺様の攻撃表示の『魔界劇団』の数までテメェの表側表示のカードを破壊!『スカル・フレイム』と『ミイラの呼び声』を破壊!」

 

「チッ――!」

 

「よっしゃ、良いぞ!決めちまえ!」

 

チェーン発動を許さぬ強力な除去カードの炸裂。魔王の降臨を読み込んだビッグ・スターが巨大な悪魔の翼を広げ、羽ばたいてソニックブームを巻き起こし、ムクロのフィールドのカードを破壊する。更には強力な突風を受け、ムクロのD-ホイールが傾き減速する。少し――差が縮まった。

 

「さぁ、バトルだ!ビッグ・スターでダイレクトアタック!」

 

「させねぇよ!罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地より戦闘、効果耐性を与え、『ピラミッド・タートル』を特殊召喚!」

 

ピラミッド・タートル 守備力1400

 

「チッ、ここでそのカードかよ……!」

 

「耐性があるから効果は発動出来ねぇがな」

 

折角ここで決着がつけられそうな所でこの防御、どうやら攻めだけの男ではないらしい。だが長引けばペンデュラムを操る沢渡にも分がある。

 

「このラウンドでも仕留めそこなったか……だが充分、コーナーに追いつめろ沢渡!」

 

「ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP3400

フィールド『魔界劇団―ビッグ・スター』(攻撃表示)『魔界劇団―デビル・ヒール』(攻撃表示)『魔界劇団―プリティ・ヒロイン』(守備表示)

セット1

Pゾーン『魔界劇団―ティンクル・リトルスター』『魔界劇団―ワイルド・ホープ』

手札2

 

コースは何度目かのカーブに入り、互いに機体を傾かせ、減速を抑えて進もうとする――が、ここもデコボコ道、ムクロはそのテクニックで制するが、沢渡は躓き、ガンッ、クラッシュへ――。

 

「――ッ!デビル……ヒィィィィルッ!」

 

危うくクラッシュしそうになった瞬間、沢渡が叫び、その声に応え、デビル・ヒールが機体の動きを修正し、更に加速させる。確かにテクニックで劣るが、彼はアクションデュエリスト。モンスターと共に、サーキットを駆け抜ける。

 

「へぇ……やるじゃねぇかボウズ」

 

「ハッ、当たり前だっつーの!」

 

「んじゃ俺も、気合見せねーとな……!ドロー!魔法カード、『トレード・イン』!手札の『スカル・フレイム』をコストに2枚ドロー!」

 

炎城 ムクロ 手札1→2

 

「俺は墓地の『スカル・フレイム』を除外し、手札から『スピード・キング☆スカル・フレイム』を特殊召喚!!」

 

スピード・キング☆スカル・フレイム 攻撃力2600

 

切り札登場、ここで現れたのは下半身が鎧を纏った馬のようになった『スカル・フレイム』。その炎を風に靡かせ、フィールドを疾駆する姿は正にスピード・キング。ムクロのデッキのビートバーンの象徴と言えるカードだ。

 

「それがお前の切り札って訳か……!だが攻撃力は『スカル・フレイム』と変わんねぇぜ?」

 

「おかしいな、俺の記憶では3000はあった気がすんだが……まぁ、良い!スピード・キングの効果で相手に墓地の『バーニング・スカルヘッド』の数×400のダメージを与える!」

 

沢渡 シンゴ LP3400→3000

 

「永続魔法、『一族の結束』を発動!俺の墓地にはアンデット族モンスター1種類!よってアンデット族の攻撃力を800アップする!」

 

スピード・キング☆スカル・フレイム 攻撃力2600→3400

 

ピラミッド・タートル 攻撃力1200→2000

 

「チィッ!しょっぱい真似を……!」

 

「ヒャッハー!直ぐに言ってられなくなるぜ!スピード・キングでデビル・ヒールへ攻撃!」

 

沢渡 シンゴ LP3000→2600

 

スピード・キングがその蹄で地を駆け抜け、巨体を誇るデビル・ヒールを轢き倒す。圧倒的攻撃力、だが沢渡とて対策が無い訳ではない。

 

「プリティ・ヒロインの効果!自分、または相手がダメージを受けた時、そのダメージ分、相手モンスター1体の攻撃力をダウン!」

 

スピード・キング☆スカル・フレイム 攻撃力3400→3000

 

「ほぉう……だが何だか攻撃力が下がってしっくり来たぜ。『ピラミッド・タートル』でビッグ・スターへ攻撃!」

 

炎城 ムクロ LP4000→3500

 

「リクルート効果で『馬頭鬼』特殊召喚!」

 

馬頭鬼 攻撃力1700→2500

 

現れたのはその名の通り、馬の頭部をした鬼のモンスターだ。斧を手にし、ビッグ・スターに向かって駆ける。

 

「追撃と行くぜ!『馬頭鬼』でビッグ・スターへ攻撃!」

 

『馬頭鬼』が壁を足場にしてビッグ・スターに向かい、斧を振るって叩きのめす。ゴシャッ、と頭から地面に叩きつけられるビッグ・スター。しかし彼も負けていない。ガシリと斧を掴み、奪い取って『馬頭鬼』を切り裂き、相撃ちに持ち込む。

 

「メインフェイズ2、『馬頭鬼』を除外し、墓地の『バーニング・スカルヘッド』を蘇生!」

 

バーニング・スカルヘッド 攻撃力1000→1800

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

炎城 ムクロ LP3500

フィールド『スピード・キング☆スカル・フレイム』(攻撃表示)『バーニング・スカルヘッド』(攻撃表示)

『一族の結束』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

サーキットも終盤に差し掛かり、またもカーブが2人を襲う。ムクロはそのテクニックで、沢渡は自身のモンスターに助けを求めようとするも――。

 

「独り立ちしなくちゃ駄目だぜ少年!罠発動!『不知火流燕の太刀』!『バーニング・スカルヘッド』をリリースし、ペンデュラムカード破壊!その後デッキから『不知火の宮司』を除外!」

 

「破壊されたワイルド・ホープの効果で『魔界劇団―ファンキー・コメディアン』をサーチ!」

 

「宮司が除外された事でプリティ・ヒロインも破壊!」

 

「プリティ・ヒロインの効果でデッキから『魔界台本「魔王の降臨」』をセット……!」

 

1枚で3枚のカードを破壊し、沢渡を追い詰めるムクロ。これでペンデュラムは出来ない。沢渡のデッキは純ペンデュラム構築、ムクロはそれを見抜き、妨害したのだ。それだけではない。これで沢渡のモンスターは0。つまり――カーブの修正を行う助けは無い。曲がり切れずクラッシュは不可避。誰もがそう思った時――。

 

「なめんなっつってんだよぉっ!!」

 

ガンッ、何と沢渡は機体を壁へと乗り出し、猛スピードでムクロを抜き去る。まさかの高等テクニック、アクロバティックな動きにムクロを始め、観戦していた者達も目を見開く。

 

「なっ、馬鹿な……っ!?テメェ、自転車も乗れねぇような奴じゃ……!」

 

「ハッ、俺様は天才なんだよ。その気になりゃあこん位朝飯前よ!」

 

そう、彼はオートパイロットから徐々に慣らし、ライディングデュエルを学習したのである。目の前にはライディングの教本のような男もいる。天才肌である彼が吸収するのも仕方がないと言える。言えるが――。

 

「だからって、デュエル前まで素人だった奴がここまでライディングをものにするとはな……!」

 

正しく天才。

 

「だが、テメェのお得意のペンデュラムはもうねぇ!どう出て来るよ!」

 

「分かってねぇなぁ!俺様がそれ位対策してねぇとでも思ってんのか!?それに俺はエンタメデュエリスト、ここから逆転するのさ!魔法カード、『手札抹殺』!手札全てを墓地へぶち込む!」

 

「何っ!?」

 

運命を賭けたラストドロー。沢渡はギャンブルのように手札全てを賭ける。思い切った戦術、そして沢渡のドローが、空中に光のアークを描く――。

 

「来たぜ!俺は『妖仙獣鎌壱太刀』を召喚!」

 

妖仙獣鎌壱太刀 攻撃力1600

 

「馬鹿な……『妖仙獣』だと……!?」

 

「おいおい、沢渡の奴、スイッチヒッターだったのかよ……!」

 

ここで現れるモンスター、『妖仙獣』を見て、隼とアリトが驚愕する。まさかまさかと度肝を抜くその一手、馬鹿げた構築が――ピンチを覆す。現れる鎌を手にした人型鼬のモンスター。羽織を風に靡かせ、スピード・キングに並走する。

 

「鎌壱太刀の効果で手札の『妖仙獣鎌弐太刀』を召喚!」

 

妖仙獣鎌弐太刀 攻撃力1800

 

次は鼬兄弟の次男坊、羽織に袴、壱太刀と同じく和風デザインのモンスター。しかし手にしたのは鋭く輝く日本刀。そしてこのモンスターの次は――。

 

「弐太刀の効果ぁ!さぁ、壱、弐と来たら分かるな?召喚!『妖仙獣鎌参太刀』!」

 

妖仙獣鎌参太刀 攻撃力1500

 

短刀と薬を手にした三男がフィールドに降り立ち――3体の鼬が揃い踏み、流れるような三連星に囚人達が歓声を上げる。

 

「「「沢渡さん、やっちゃって下さいよぉー!」」」

 

「ハッ!だが攻撃力ではこちらが上!しかもこいつは破壊されれば墓地の『スカル・フレイム』を呼び出す!残念だったなぁ!」

 

「教えてやるぜ……!雑魚モンスターだろうと、使い方次第で勝てるってなぁ!壱太刀の効果!フィールドにこいつ以外の『妖仙獣』が存在する場合、相手モンスター1体をバウンスする!」

 

「何ィ!?」

 

3体の鼬がそれぞれ刃を重ね、白銀の斬撃を放ってスピード・キングをクラッシュさせる。これで――道は開いた。

 

「さぁ行け!壱太刀!弐太刀!参太刀!ジェットストリームアタックだ!」

 

炎城 ムクロ LP3500→0

 

襲い来る、3匹の息の合ったコンビネーションアタック、斬撃の嵐が、ムクロのLPを削り取り、白煙を上げ、停止するムクロのD-ホイール。

勝者、沢渡 シンゴ。その度肝を抜くデュエルはこの場全員を魅了し――彼は誰もが認めるボスとなったのだった――。




人物紹介21

炎城 ムクロ
所属 コモンズ
5D,sより参戦。ライディングデュエルでの活動を主とするデュエリスト。ライディングの腕ならばあのキングをも凌ぎ、もしもアクションカードやスピードスペルがあった場合、黒咲さんと沢渡さんとの勝負は分からなかったであろう実力を持つ。
黒咲さんとの地下デュエルにて敗北し、地下自体が見つかった事で収容所行きへ。尤も本人は余り気にしておらず、前向きでいる模様。
性格は楽観的で陽気、豪快で細かい事を気にしない、気の良いおっさん。
使用デッキはビートでもバーンでも立ち回れる『スピード・キング☆スカル・フレイム』、エースカードも同じく『スピード・キング☆スカル・フレイム』。

社長の囚人服とか言うクソコラが書きたかったのが遊矢達と行動を共にさせた理由だった気がします。
と言う訳で沢渡さんのデッキは『魔界劇団妖仙獣帝』とか言う訳の分からないデッキとなりました。
だってね、純魔界劇団だと魔王の降臨連打ばっかになっちゃってデュエル構成的にワンパターンになっちゃうんだもん。
最後まで凄く悩みましたが、他の戦略が出来る魔界劇団の新規の気配もありませんでしたし。こうなったら全部ぶち込んじゃえとなり、こうなりました。まぁ、主人公2人が『オッドアイズEM魔術師』と『オッドアイズ魔術師HERO』だからセーフ(震え声)。
案外書くのが楽しいデッキとなり、成功と言える気がします。多分。


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第106話 エンジョイ!

ただいまー(小並感)


収容所の左塔にて沢渡とムクロのライディングデュエルが行われている頃、ここ右塔でも、ボスの座を賭け、デュエルが行われようとしていた。

1人は人々を笑顔にするエンタメデュエルを信条としたエンタメデュエリスト、榊 遊矢。

そしてもう1人は――かつてシンクロ次元で名を馳せた元プロデュエリスト、徳松 長次郎。

 

遊矢は徳松を倒し、ここのボスとなり、この収容所に変革を起こす為、徳松は生意気な遊矢に現実を見せ、黙らせる為――激突する。

 

「尻尾巻いて逃げるなら今の内だぜ、小僧」

 

「逃げないさ、俺のデュエルは何時だって踏み出す勇気と共にある!」

 

両者共に気合いは充分、互いにデュエルディスクを構え、激しき闘いの火蓋を切って下ろす。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻は遊矢だ。デッキからカードを5枚引き抜き、万全の布陣を敷く事に努める。まずは――得意のペンデュラム。相手が知らぬ召喚法で度肝を抜き、ペースを握る。

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキトップから10枚を除外、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→6

 

「俺は『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『星読みの魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル2から3のモンスターが召喚可能!」

 

「あぁん?何だこりゃあ……?」

 

遊矢のデュエルディスクの両端に2枚のカードが設置され、虹色の光が灯る。同時に彼の背に2本の光る柱が出現し、中に現れた遊矢のエースカードである真紅の竜と白い『魔術師』が咆哮し、天空に光の線を結び、眩き魔方陣を描き出す。見慣れぬカードに目を細める徳松。

遊矢は右手を翳し、宙で振り子が揺れ、魔方陣に孔が開く。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム、天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMインコーラス』!」

 

EMインコーラス 守備力500

 

現れたのはショーの始まりを告げる歌を響かせるカラフルな3羽のインコ。遊矢を何度も救って来た優秀なモンスターだ。序盤に引き込めたのは大きい。

 

「そして『召喚僧サモンプリースト』を召喚!」

 

召喚僧サモンプリースト 攻撃力800

 

続けて召喚、フィールドに登場したのはローブを纏った魔法使いの翁。汎用性の高い優秀なモンスターであり、遊矢のカードとも相性が良い。

 

「召喚後、守備表示に、そして手札の魔法カードを捨て、効果発動!デッキからレベル4モンスター、『EMペンデュラム・マジシャン』を特殊召喚!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

遊矢の魔法カードがサモンプリーストの魔力となり、彼が眼前に描いた紫の魔方陣より、赤い衣装にシルクハット、振り子を手にしたキーカードが現れる。序盤からこのカードの登場、全開で飛ばす遊矢にデュエルを観戦する権現坂とデニスが笑みを浮かべる。

 

「良いぞ遊矢!」

 

「Mr.ペガサスの修行の成果が出てるね……!」

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果発動!このカードとサモンプリーストを破壊し、デッキから『EMドクロバット・ジョーカー』と『EMバリアバルーンバク』をサーチ!俺はカードを1枚セットし、ターンエンドだ。この瞬間、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を破壊し、デッキから『慧眼の魔術師』をサーチ!」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMインコーラス』(守備表示)

セット1

Pゾーン『星読みの魔術師』

手札3

 

「俺のターン、ドロー!俺は魔法カード、『花積み』を発動!デッキの『花札衛』3体をデッキトップに好きな順で置く!そして俺は『花札衛-松-』を召喚!」

 

花札衛-松- 攻撃力100

 

登場したのは何と花札をモチーフとしたモンスター。見た事の無いカード、一体どんな戦術が飛び出すのか、遊矢は期待を胸に身構える。

 

「こいつが召喚に成功した場合、デッキから1枚ドローし、互いに確認、『花札衛』モンスター以外ならば墓地に送るぜ。ドローだ!」

 

徳松 長次郎 手札4→5

 

「引いたカードは当然『花札衛』モンスター、『花札衛-松に鶴-』!このカードはレベル1の『花札衛』をリリースし、特殊召喚出来る!来な!」

 

花札衛-松に鶴- 攻撃力2000

 

カス札である松をリリースし、現れたのは光札の1枚、『クレーンクレーン』の姿が描かれた花札モンスターだ。レベル1にして攻撃力2000、何とも豪快なカードである。

 

「特殊召喚時、1枚ドローし、そのカードが『花札衛』ならば特殊召喚し、それ以外は墓地に送る!」

 

徳松 長次郎 手札4→5

 

「ドローカードは『花札衛-芒-』!よって特殊召喚!」

 

花札衛-芒- 攻撃力100

 

お次はまたもカス札、『ナチュル・コスモビート』がアップで描かれたモンスターだ。カンッと松に鶴にぶつかって合わさる。

 

「そして俺はこいつをリリースし、『花札衛-芒に月-』を特殊召喚!」

 

花札衛-芒に月- 攻撃力2000

 

またもカス札を捨て、光札と交換、今度は何やら真っ黒ゴムボールが描かれたカード。『クレーンクレーン』や『ナチュル・コスモビート』とは違い、見た事の無いモンスターだが――いや、これはモンスターの姿なのかと遊矢が首を傾げる。

 

「効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

「ドローカードは『花札衛-柳-』!よって特殊召喚!」

 

花札衛-柳- 攻撃力100

 

今度は禁止魔法カード、『ハリケーン』のカードが描かれた花札。こうして見ると中々に面白いモンスターだ。ドローして特殊召喚等のギミックもワクワクして遊矢も使いたくなって来る。カンッ、と音を鳴らし、他2枚と合わさるカス札。そして――。

 

「柳をリリースし、『花札衛-柳に小野道風-』を特殊召喚!」

 

花札衛-柳に小野道風- 攻撃力2000

 

カス札から光札へ。お決まりとなった交換で登場したのは何やら見慣れぬ人型モンスターと『引きガエル』が描かれたモンスター。これでモンスターが3体、ペンデュラムも驚愕の展開力だ。

 

「後は分かるな?ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札2→3

 

「ドローカードは『花札衛-桐-』!特殊召喚!」

 

花札衛-桐- 攻撃力100

 

カカンッ、甲高い音が響き、4体目の『花札衛』が現れる。今度は『テンタクル・プラント』が描かれたカードだ。

 

「リリースし、『花札衛-桐に鳳凰-』を特殊召喚!」

 

花札衛-桐に鳳凰- 攻撃力2000

 

洒落にならない。現れたのはスピリットモンスター、『鳳凰』が描かれたモンスター。とんでもない展開、これで徳松のフィールドには4体の攻撃力2000のモンスター。少し、不味い。

 

「ドローだ!」

 

徳松 長次郎 手札1→2

 

「ドローカードは『札再生』、魔法カードの為、墓地に送られるが――こいつが『花札衛』の効果で墓地に送られた場合、デッキトップから5枚を捲り、その中の魔法、罠1枚を手札に加える。『花合わせ』を手札に、さぁ、バトルだ!芒に月でインコーラスに攻撃!」

 

「インコーラスの効果でデッキから『EMセカンドンキー』を特殊召喚!」

 

「俺もモンスターを戦闘破壊した事で芒に月の効果発動!ドローだ!」

 

EMセカンドンキー 守備力2000

 

徳松 長次郎 手札2→3

 

「セカンドンキーの効果でデッキから『EMジンライノ』を墓地へ!」

 

攻撃力2000のモンスターが4体、確かに不味いが、この攻撃力ならば壁を用意すれば何とかなる。遊矢はロバの『EM』を呼び出し、攻撃を防ぎ墓地も肥やす。

 

「ふぅん、やるじゃねぇか。なら松に鶴でセカンドンキーに攻撃!破壊は出来ねぇが、バトルフェイズ終了時、効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

『花札衛』の大量展開で消費したカードが見る見る内に回復し、4枚まで戻る。面倒な相手だ。だが4体とも攻撃力は2000、それを上回りさえすれば――そう、思った時だった。

 

「柳に小野道風をシンクロ素材にする場合、このカードを含むシンクロ素材のレベルは2として扱う事が出来る!」

 

「ッ!チューナー……!?シンクロ召喚か!」

 

柳に小野道風が2つの光のリングとなって弾け飛ぶ。チューナーモンスター、シンクロ召喚、そう、ここはシンクロ次元なのだ。シンクロをしても何らおかしくはない。こちらのモンスターが1体の為、手数が多い内にバトルをしてドロー効果を使おうと後回しにしたのだろう。合計レベルは8、一体どんなモンスターを出すのか――。

 

「レベル2の松に鶴、芒に月、桐に『鳳凰』にレベル2の柳に小野道風をチューニング!涙雨!光となりて降り注げ!シンクロ召喚!出でよ、『花札衛-雨四光-』!!」

 

花札衛-雨四光- 攻撃力3000

 

3体の『花札衛』が2つのリングを潜り抜け、一筋の閃光が貫き、眩き輝きがフィールドを照らす。それが晴れた先に現れたのは監獄のボス、秋雨の長次郎のエースモンスター。羽ばたいた鳥の飾りを着けた帽子を被り、松や桜を描いた着物を纏い、黒と赤の傘を持った、今までの花札型と違い、人型のモンスターだ。

 

「攻撃力3000……!」

 

「これだけじゃねぇ、魔法カード、『花合わせ』!デッキから攻撃力100の『花札衛』モンスター4体を効果を無効にし、攻撃表示で特殊召喚!」

 

「4体も!?」

 

驚くべきパワーカード、効果を無効にし、攻撃表示になるとは言え、とんでもない効果が炸裂する。

 

「来な!松!芒!柳!桐!」

 

花札衛-松- 攻撃力100

 

花札衛-芒- 攻撃力100

 

花札衛-柳- 攻撃力100

 

花札衛-桐- 攻撃力100

 

カカカカンッ、一気に4体のモンスターが展開され、フィールドに甲高い音が響く。これだけでは攻撃力100のモンスターが剥き出しになっているようなものだが――。

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!芒をリリースし、2枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札2→4

 

『花札衛』が高いレベルのものが多い事を活かしたドローカードで更に手札を補充する徳松。そして――。

 

「柳をリリースし、『花札衛-牡丹に蝶-』を特殊召喚!」

 

花札衛-牡丹に蝶- 攻撃力1000

 

更なる展開、今回は花札においてタネ札と呼ばれるものだ。描かれているモンスターは『炎妖蝶ウィルプス』。そして大事な事は--このカードが、チューナーである事。

 

「効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

「チ、やっぱ駄目みてぇだな。『花札衛』じゃない為、墓地に送るぜ。そしてこいつもシンクロ素材にする場合、素材全てをレベル2として扱える!レベル2の松と芒に、レベル2の牡丹に蝶をチューニング!シンクロ召喚!シンクロチューナー、『花札衛-月花見-』!」

 

花札衛-月花見- 攻撃力2000

 

2度目のシンクロ召喚、ここで現れたのは赤と黒の艶やかな着物に身を包み、簪で髪を纏めた大和撫子。右手に扇子、左手に盃を持ち、散り行く桜の雨を浴びるその姿は誰もが目を奪われる。だが――それだけじゃない、このモンスターは、シンクロモンスターの中でも特別なカード。

 

「シンクロ……チューナーだって!?」

 

シンクロチューナー、それはシンクロの先を掴むのにも必要不可欠なカードだ。尤も――徳松はそんな事知る筈も無く、出来ないのだが。その珍しいカードに遊矢が目を輝かせる。

 

「月花見の効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

「ドローカードは永続魔法、『一族の結束』。発動するぜ。墓地の種族が一種類の場合、フィールドのその種族のモンスターの攻撃力を800アップ!」

 

花札衛-雨四光- 攻撃力3000→3800

 

花札衛-月花見- 攻撃力2000→2800

 

「デメリットが無いのか……」

 

今度は種族強化の永続魔法、これで雨四光は手のつけられない攻撃力を得、月花見も信頼出来るラインへアップした。益々厄介、攻略の糸口が潰されていく。遊矢は月花見の効果に戦慄しながら汗を垂らす。

 

「デメリットならあるぜ、とびっきりのな。カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

徳松 長次郎 LP

フィールド『花札衛-雨四光-』(攻撃表示)『花札衛-月花見-』(攻撃表示)

『一族の結束』セット1

手札2

 

長い長い1ターンが終了し、漸く遊矢のターンへ。相手フィールドには強力なシンクロモンスターが2体、強化を受けた状態で存在している。どうやって攻略しようか、口元を吊り上げ、デッキトップのカードを引き抜いたその時――。

 

「俺のターン、ドロォ……ッ!?」

 

榊 遊矢 LP4000→2500

 

遊矢の頭上に、ダメージと言う名の雨が降り注ぐ。一気にLP1500が削られ、遊矢の視界が一瞬ながらも真っ白に染まり、チカチカと光る。一体何が起こっている――。くらくらとする頭を抑え、遊矢が何とか地を踏み締め、眼前を睨む。するとそこには――傘をこちらへ向ける、雨四光の姿――。

 

「相手がドローフェイズに通常のドローをした場合、雨四光の効果で1500のダメージを与える。それだけじゃねぇ、こいつがいる限り、『花札衛』は効果の対象にならず、効果破壊されない!」

 

「1500のバーンと全体耐性付与……!」

 

「とんでも無いね……!」

 

「なぁんか見た事があんだよなぁ、あいつ……」

 

相手がドローするだけで1500のバーン、つまりはLP4000なら3回でデュエルを終わらせる効果に遊矢とデニスが驚愕し、シンジが徳松を見て首を傾げる。

豪快な効果だ。果たして遊矢は何ターンもつか、バーンだけでなく、攻撃にも気をつけねばならない。しかも耐性までもあり、効果で突破も不可能だ。

 

「お上に逆らわねぇ方が身の為って事よ。賢く生きろよ、小僧」

 

「ッ!面白いじゃないか、俺、益々あんたとデュエルを続けたくなったよ」

 

「ッ、口の減らねぇ……!」

 

しかし遊矢には逆効果、戦意を鎮火させる所か、雨に打たれて尚燃え上がってしまった。

 

「罠発動!『三位一択』!融合モンスターを宣言し、互いのエクストラを確認、宣言した種類のモンスターが多い方のプレイヤーが3000回復する!」

 

「チッ、んなもんねぇよ」

 

榊 遊矢 LP2500→5500

 

「俺は『慧眼の魔術師』をセッティング!効果で破壊し、『時読みの魔術師』をデッキからセッティング!そして『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

現れたのは継ぎ接ぎのシルクハットにトランプのマークを散りばめた燕尾服、黒いマスクを被った奇術師、遊矢の頼れるパートナーだ。ヒッポは泣いている。

 

「召喚時、『EMギタートル』をサーチ!ペンデュラム召喚!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMインコーラス』!『慧眼の魔術師』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

EMインコーラス 守備力500

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

まずはペンデュラムで布陣を整える。現れたのは遊矢の頼れるエースカード、2色の虹彩を輝かせる真紅の竜。赤き衣装のマジシャンに3羽のカラフルなインコ、そして秤を持った銀髪の『魔術師』。これでフィールドには5体のモンスターが揃った。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果でスケールを破壊し、デッキから『EMリザードロー』と『EMオッドアイズ・ユニコーン』をサーチ!『EMギタートル』と『EMリザードロー』をセッティング!ギタートルの効果でドロー!リザードローを破壊し、もう1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4→5

 

「そして『EMオッドアイズ・ユニコーン』をセッティング!バトルだ!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』で雨四光に攻撃!」

 

「何ぃ……!?」

 

攻撃力の低いモンスターによる攻撃、これにランサーズ以外のメンバーがどよめくが、何も遊矢は自爆特攻する気は無い。むしろその逆、雨四光を仕留める気満々である。

 

「『EMオッドアイズ・ユニコーン』のペンデュラム効果!『オッドアイズ』モンスターの攻撃宣言時、『EMドクロバット・ジョーカー』を対象として発動!攻撃モンスターの攻撃力に、対象のモンスターの攻撃力を加える!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→4300

 

「螺旋のストライクバースト!」

 

『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』のアギトより赤黒の螺旋状のブレスが放たれ、雨四光へと迫っていく。これが決まればバーンと耐性が失われる。しかし――。

 

「罠発動!『札改め』!このターン、『花札衛』は戦闘では破壊されない!」

 

「ッ!だが『オッドアイズ』の効果により、ダメージは2倍となる!リアクション・フォース!」

 

徳松 長次郎 LP4000→3000

 

「チッ!」

 

そう簡単には届かない。徳松の発動したカードにより、雨四光が傘を盾にしてブレスを防ぐ。手強い相手だ。だがダメージは与えた。遊矢は前向きに考える。

 

「ちょっとヤバいけど……何とかなるか……!カードを3枚セットして、ターンエンドだ!」

 

「この瞬間、雨四光の効果!俺は次の相手のスタンバイフェイズまでこいつの効果を無効にするか、ドローフェイズをスキップするか1つの効果を選ぶ!」

 

「――そうか、これが、強力なバーンと超耐性の代わりのデメリット……!」

 

「当然――ドローフェイズをスキップ!」

 

「なっ――!?」

 

1500ものバーンに超耐性の代償、そして維持とは言え、簡単にドローを捨てる徳松に遊矢が驚愕する。何もおかしい事では無いが――デュエリストにとって、ドローは可能性、一体何がこの男をそうさせるのか――?

 

榊 遊矢 LP5500

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMペンデュラム・マジシャン』(守備表示)『EMインコーラス』(守備表示)『慧眼の魔術師』(守備表示)

セット3

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMギタートル』

手札1

 

「思い出したぜ、あいつエンジョイ長次郎だ!」

 

「あっ、マジだ!サイン貰おうかな」

 

ここでうんうんと唸っていたシンジが漸く徳松の事を思い出し、隣のクロウも声を上げる。エンジョイ長次郎、それはクロウ達がまだ子供の頃、奇跡のドローで劣勢を覆し、勝利して来た、所謂遊矢と同じエンタメデュエリストなのだが――。

 

「その名で呼ぶんじゃねぇ!」

 

もう、あの頃の相手を知り、己を知り、デュエルで絆を繋いだ彼は、ここにはいない。

 

「今の俺は秋雨の長次郎、運に頼るドローなんざしねぇ!どう逆らっても運命は変わらねぇなら、俺はテメェの運命の自爆を待つ!何が楽しいデュエルだ、その笑顔は嘲笑に変わるんだよ!」

 

コモンズとトップスの垣根を無くし、真の平等を求め、トップスに挑んだ彼。しかし――その中で彼は惨敗し、笑顔は嘲笑へと変えられていく。ならば――最初から、笑顔なんていらない。ましてや再起を賭けたデュエルで、プレッシャーに呑まれ、イカサマに手を伸ばした自分に、その資格は無いと、彼はドローと共に捨てたのだ。辛い事があって、惨めな自分が嫌で目を反らす。

それは――昔の遊矢と同じ。ゴーグルを装着し、視界を狭くしていた遊矢と同じ。だけど――今の遊矢は、彼とは違う。頼もしい仲間がいる。それだけで――闘える。

 

「辛い事があったのは分かる。だから傷つきたくないのも分かる。だけど――だからこそ、進まなきゃいけないんだ!勇気を持って、一歩前へ!その涙の種だって、きっと笑顔の花を咲かせる!例え誰があんたを嘲笑っても――俺はあんたを笑ったりしない!」

 

手を差し伸べる――これが遊矢のデュエル。今まで彼が培って見つけたもの。敵だろうと理解して、友となる。無敵のデュエル。世界中の誰もと友となり、笑顔にする。それは果てしなく茨の道、だけど――こうして手を繋ぎ輪を広げていけば、きっと何とかなると遊矢は信じている。

 

「ッ――!うるせぇっ!俺のターン、雨四光と月花見の効果でドローフェイズをスキップ!だが月花見の効果でドローがロックされようと、ドロー出来る!」

 

「捨ててないじゃないか、未来を信じる事を!」

 

「黙れってんだよぉっ!例えカードが引けたって――俺の奇跡のドローは死んじまった!」

 

雨四光と月花見、2体のコンボによってデメリットを抑えつつ解消する。だけど――昔のような奇跡は起きないのだ。

 

「ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札2→3

 

「ドローカードは『花札衛-桐に鳳凰-』!月花見の効果で召喚条件を無視して特殊召喚し、このターンダイレクトアタックを可能に!」

 

花札衛-桐に鳳凰- 攻撃力2000

 

「更にこいつの効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札2→3

 

「チッ、やっぱ望んだカードは来やがらねぇ、墓地に送るぜ。そして墓地の『花積み』を除外し、墓地から『花札衛-桐-』を回収し、特殊召喚!」

 

花札衛-桐- 守備力100

 

「バトルだ!雨四光で『オッドアイズ』に攻撃ィ!」

 

「手札のバリアバルーンバクを捨て、戦闘ダメージを0に!」

 

雨四光が傘から針を飛ばし、『オッドアイズ』を串刺しにして破壊する。更に針は遊矢にも襲いかかるが、その前に紫色の風船のように膨らんだバクが現れ、遊矢を包み込んで守る。

 

「月花見でドクロバット・ジョーカーへ攻撃!」

 

「速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、相手に500のダメージを与え、『相生の魔術師』をサーチ!更に罠発動!『ダメージ・ダイエット』!ダメージを半分に!」

 

「今更何を――?」

 

榊 遊矢 LP5500→5000

 

徳松 長次郎 3000→2500

 

「『花札衛-桐に鳳凰-』でダイレクトアタック!」

 

榊 遊矢 LP5000→3000

 

「ぐっ……!」

 

「戦闘ダメージを与えた事でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札2→3

 

雨のように降り注ぐ猛攻、強烈な攻撃を受け、それでも遊矢は防ぎ切る。だが――徳松もまたドローが出来ぬと言うのに手数を増やし、遊矢のLPは3000、後2回、雨四光のバーンを食らえば終わりだ。

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!」

 

徳松 長次郎 手札2→4

 

「カードを1枚セットして、ターンエンドだ!」

 

徳松 長次郎 LP2500

フィールド『花札衛-雨四光-』(攻撃表示)『花札衛-月花見-』(攻撃表示)『花札衛-桐-』(守備表示)

『一族の結束』セット1

手札3

 

ここが正念場――遊矢は覚悟を決め、デッキトップからカードを引き抜く。同時に雨四光より降り注ぐ光の雨。防げ、防げ、全力で防げ――。雨を通り過ぎれば――。

 

「俺のターン、ドローッ!」

 

「雨四光のバーンを受けろぉっ!」

 

「ッ、墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、効果ダメージを半分に!」

 

榊 遊矢 LP3000→2250

 

虹のアークが、空に描かれる。

 

「魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』発動!2枚ドローし、その内のペンデュラムモンスターを手札に!ペンデュラムは1体、よって1枚のみを手札に加える!」

 

榊 遊矢 手札1→3→2

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『慧眼の魔術師』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』をリリースし、アドバンス召喚!『光帝クライス』!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

光を纏い、現れたのは沢渡も使う黄金の帝王。ペンデュラムと相性が良く、『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の素材にもなる為、投入されたカードだ。

 

「クライスとインコーラスを破壊し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「『相生の魔術師』と『相克の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMリザードロー』!『カードガンナー』!『時読みの魔術師』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMリザードロー 守備力600

 

カードガンナー 攻撃力400

 

時読みの魔術師 守備力2300

 

次々と登場する遊矢のモンスター。これでフィールドに5体のモンスターが揃い踏み、ここから一気に攻めに転じる。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』でスケールを破壊し、『EMスプリングース』と『EMギッタンバッタ』をサーチ!さぁ、まだまだ盛り上げて行きましょうか!『カードガンナー』の効果でデッキトップのカード3枚を墓地に送り、攻撃力を1500アップ!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

「魔法カード、『手札抹殺』!手札2枚を新たに得る!良し来た!魔法カード、『一時休戦』!互いに1枚ドロー、次のターン終了までダメージを0に!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

徳松 長次郎 手札4→5

 

「速攻魔法、『サイコロン』!サイコロを振り、出た目の効果を適用!」

 

「ギャンブルカードか……!」

 

「面白いだろう?さぁ、運命のダイスロール!」

 

何とここで発動されたのは汎用カードの『サイクロン』では無く、『サイコロン』。エンタメの為だろうが――分の悪い賭け、これが失敗すれば遊矢はダメージを受ける。サイコロがソリッドビジョンによって出現し、風に吹かれて飛翔、地に落ちる。結果は――5、最高の結果だ。

 

「『一族の結束』とセットカード破壊!そして魔法カード、『置換融合』!フィールドの『オッドアイズ』と『時読みの魔術師』で融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

融合召喚、青とオレンジの渦が発生し、その中に真紅の竜と白の『魔術師』が飛び込んで混ざり合い、ルーンの眼を輝かせる竜が天を駆ける。背負った三日月は満月となり、右目を金属で覆った真紅の竜。このドラゴンこそが、窮地を覆す鍵となる。

 

「バトル!『カードガンナー』で月花見へ攻撃!破壊された事で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「そしてルーンアイズは効果で連続攻撃を可能としている!月花見、雨四光に攻撃!連撃のシャイニーバーストッ!」

 

「相撃ちだと――っ!?」

 

ルーンアイズの背のリングが2ヵ所輝き、2本の熱線が月花見に襲いかかり、爆散させる。しかし雨四光は最後の反撃にその傘を槍のように投擲し、ルーンアイズの胸の宝玉を砕く。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』で桐へ攻撃!」

 

「やらせるかよっ!桐の効果!バトルフェイズを終了し、ドローッ!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP2250

フィールド『EMペンデュラム・マジシャン』(守備表示)『EMリザードロー』(守備表示)

セット1

手札0

 

激しい攻防、熱い駆け引き、見るも楽しいデュエル――この全てが観客達を盛り上がらせ、熱狂させる。ああ――これだ、これが求めていたデュエル。思い出す、込み上げる笑み。遊矢を見て、徳松の表情に光が差す。結局、この少年の思い通りか。

だが、悪くない。ここまでされて――黙っていては男が廃る。何より――自分もデュエルを、楽しみたくなって来た。さぁ、エンジョイ長次郎の復活だ――。

 

「面白い……!上等だぜ小僧!見せてやるよ、エンジョイ長次郎、奇跡のドローを!俺のターン、ドローフェイズはスキップされ――俺は『花札衛-松-』を召喚!」

 

花札衛-松- 攻撃力100

 

「効果でドロー!エンジョイ!」

 

徳松 長次郎 手札4→5

 

「ドローカードは『花札衛-桜に幕-』!効果発動!こいつを公開し、1枚ドロー!『花札衛』だった場合、桜に幕を特殊召喚!エンジョイ!」

 

徳松 長次郎 手札5→6

 

「ドローカードは『花札衛-萩に猪-』!よって特殊召喚!」

 

花札衛-桜に幕- 攻撃力1000

 

「そして松をリリースし、萩に猪を特殊召喚!」

 

花札衛-萩に猪- 攻撃力1000

 

「効果でドロー!エンジョイ!」

 

徳松 長次郎 手札4→5

 

「引いたのは芒!萩に猪の効果でリザードローを破壊!そして特殊召喚!」

 

花札衛-芒- 攻撃力100

 

「効果で手札の『花札衛』を公開し、戻してドロー!エンジョイ!」

 

恐ろしい回転力でドロー、ドロー、ドロー、強力なドローが炸裂し、奇跡が次々と巻き起こる。同時に上がるボルテージ、そして――。

 

「芒をリリースし、『花札衛-牡丹に蝶-』を特殊召喚!」

 

花札衛-牡丹に蝶- 攻撃力1000

 

「更にドロー!エンジョイ!」

 

徳松 長次郎 手札2→3

 

「ドローカードは柳!牡丹に蝶の効果でテメェのデッキトップから3枚を確認!……全てデッキボトムに戻すぜ。そして特殊召喚!」

 

花札衛-柳- 攻撃力100

 

「柳の効果ぁ!墓地の桐を戻し、ドロー!エンジョイ!」

 

徳松 長次郎 手札2→3

 

カカカカンッ、甲高い音を鳴らして繋がる『花札衛』。これでフィールドには5体のモンスター。とんでもない展開力とドロー。これが――エンジョイ長次郎――。

 

「へっ、俺の目を覚ましてくれた礼だ、特等席で楽しみな!蝶の効果で全員レベル2として扱い、レベル2の柳、桐、猪、桜にレベル2の蝶をチューニング!その神々しきは聖なる光。今、天と地と水と土と金となりて照らせ。シンクロ召喚!『花札衛-五光-』!!」

 

花札衛-五光- 攻撃力5000

 

5体を使用したシンクロ召喚、レベル10――フィールドを5つの光が照らし、現れたのは神々しき鎧を纏い、肩から腕にかけてリングを身につけ、波紋が広がる名刀を手にした究極の『花札衛』。攻撃力5000――正しく最強格のシンクロモンスターに相応しい。

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を交換だ!……やっと来てくれたか……!くくっ、これだからデュエルはやめらんねぇ!魔法カード発動――『超こいこい』!!」

 

「ッ!来たぁーッ!!」

 

そして放たれる、エンジョイ長次郎の代名詞。最後の剣。このカードの発動に、監獄中が盛り上がる。

 

「こいつはデッキの上から3枚カードを捲り、その中の『花札衛』を可能な限り、召喚条件を無視し、効果を無効、レベル2として特殊召喚するカード。だが――ハズレを引けば、そのカードを除外し、LPを1000失う!」

 

「面白いッ!」

 

分の悪い、ハズレを引けば、負ける賭け。だが――だからこそデュエルは楽しくなる。この一瞬が、何よりも輝く。さぁ、勇気を持って、一歩前へ。徳松はデッキトップに手を添え、一気に引き抜く。

 

「「「こいこいこい!!」」」

 

「1枚目ぇ!エンジョイ!『花札衛-萩に猪-』!」

 

「「「こいこいこい!!」」」

 

「2枚目ぇ!エンジョイ!『花札衛-紅葉に鹿-』!」

 

「「「こいこいこい!!」」」

 

「3枚目ぇ!エンジョイ!『花札衛-牡丹に蝶-』!」

 

花札衛-萩に猪- 攻撃力1000 レベル7→2

 

花札衛-紅葉に鹿- 攻撃力1000 レベル10→2

 

花札衛-牡丹に蝶- 攻撃力1000 レベル6→2

 

猪鹿蝶、揃い踏み。圧倒的な豪運を見せつける徳松に監獄が震え上がる。エンジョイ長次郎、大復活。相対する遊矢も額から汗を流しながらニヤリと笑みを浮かべ、闘志を更に燃やす。眼前にいるのは紛れもなく、一流のエンタメデュエリスト。自らも目指す壁。これ以上に嬉しい相手はいない。

 

「越えて見せる……っ!」

 

「さぁ、レベル2となった猪と鹿にレベル2の蝶をチューニング!その猛き事猪の如く!その勇壮なる事鹿の如く!その美しき事蝶の如く!シンクロ召喚!『花札衛-猪鹿蝶-』!!」

 

花札衛-猪鹿蝶- 攻撃力2000

 

現れる最後の『花札衛』。昔、徳松の相棒として活躍したフェイバリットカードと、進化した彼の切り札が並び立つ。猪の顔を模した鎧、鹿の頭に角を伸ばした兜に杖、そして左腕に装着された蝶の籠手。このカードと五光が遊矢を封じる。

 

「装備魔法、『最強の盾』を猪鹿蝶に装備!攻撃力を守備力分アップ!」

 

花札衛-猪鹿蝶- 攻撃力2000→4000

 

「更に!墓地の『花札衛-月花見-』を除外し、次の相手ターン終了まで、相手は墓地のカード効果を使えず、蘇生が不可能となる!ターンエンドだ。言っておくが――五光には1ターンに1度、魔法、罠の効果を封じる効果がある。さぁ、どんな手で切り抜ける!」

 

徳松 長次郎 LP2500

フィールド『花札衛-五光-』(攻撃表示)『花札衛-猪鹿蝶-』(攻撃表示)

『最強の盾』

手札0

 

ペンデュラムモンスターは破壊してもエクストラデッキに戻り、蘇る。『一時休戦』でダメージが与えられない以上、下手に動いて『EMペンデュラム・マジシャン』を特殊召喚させる事を避けたのだろう、熱くなっている筈なのに冷静な判断だ。

モンスターが2体にバックが1枚。対する相手は攻撃力5000と4000のモンスター。しかも魔法、罠封じに墓地封じと来た。

ピンチもピンチ、大ピンチ。だが、それがどうした。この逆境が楽しくて仕方無い。ここを乗り越えれば――それこそ面白い。諦めるつもりは毛頭無い。負けるつもりも更々無い。

相手が奇跡のドローの持ち主なら、こちらは軌跡のドローで対抗する。

 

「さぁさぁ、ここ一番の大勝負!私が引けばまだまだ勝負は分からない!引けなければMr.徳松の勝利となるでしょう!半か丁か!一世一代の賭け、ご覧あれ!お楽しみはまだこれから!さぁ、皆様ご一緒に!こい、こい、こい――!」

 

「ハハッ、やるねぇ!だが――出来るかな!」

 

「フ、これが遊矢のデュエル、相手と同じ土俵に立ち、理解し、自らの力とする!奴だからこそ出来る芸当だ」

 

ニヤリ、口の端を大きく吊り上げ、徳松と同じように腰を据え、居合いのような構えでデッキトップに手を添える遊矢。これが遊矢の変幻自在、千変万化のデュエル。徳松のデュエルを吸収し、自分のものとした彼なりのエンジョイデュエル。その粋な姿に、徳松は笑みを浮かべ、囚人達が熱狂して声を合わせる。

 

「「「こいこいこい!!」」」

 

「こい、こい、こい――!」

 

「「「こいこいこい!!」」」

 

全神経を2本の指先に集中し――一瞬、閃光が煌めき、遊矢の指先から1枚のカードが抜刀される。

 

「エンジョォォォォォイッ!!」

 

このドローが描くアークは、奇蹟の軌跡。遊矢は引き抜かれたカードに視線を移し、すかさず発動して見せる。

 

「魔法カード発動!『ブラック・ホール』!」

 

「ハッ、それがおめぇさんの答えか!だけど残念だったな!五光の効果で無効だ!」

 

発動されたカードにより、フィールドに光を呑み込む『ブラック・ホール』が発生、徳松のモンスター全てを破壊しようとするも、五光の剣閃で切り裂かれる。逆転のカードも、終わったか――そう、誰もが思った時。

 

「やっぱり、ドロー勝負じゃ敵わないな……!だけど、勝負は貰う!」

 

「何――!?」

 

「俺のフィールドには、まだカードが残っている!リバースカードオープン!魔法カード、『龍の鏡』!」

 

『ブラック・ホール』が青とオレンジ、融合の渦へと変化、中から赤と緑、2つの光が大きく輝く。

 

「墓地のルーンアイズとクライスを融合!融合召喚!現れ出でよ!気高き眼燃ゆる勇猛なる龍!『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

嵐を潜り抜け、黄金の角と三日月を背負った竜が咆哮する。『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を一回り大きくし、正当進化させたような、勇気を刻んだモンスター。これが遊矢の、最後のカード。

 

「ブレイブアイズの効果!融合召喚時、相手モンスター全ての攻撃力を0に!」

 

「何ぃ!?」

 

花札衛-五光- 攻撃力5000→0

 

花札衛-猪鹿蝶- 攻撃力4000→0

 

これで逆転、見事窮地を覆した遊矢。その光景を見て、徳松は呆然とした表情から目を細め、参ったとばかりに両手を上げる。

 

「やるじゃねぇか……小僧」

 

「ブレイブアイズで五光へ攻撃!灼熱のメガフレイムバースト!」

 

徳松 長次郎 LP2500→0

 

決着、勝者、榊 遊矢。見事彼はこのデュエルで、エンタメデュエリストとしての成長を見せた。

 

「へへっ、負けちまったよ……」

 

「ボス……」

 

「徳松さん……」

 

負けたと言うのに、晴れやかな気分となった徳松が笑みを浮かべる。やはり――デュエルは楽しい。胸に染みるような思いを噛み締める中、差し出される手が1つ。遊矢だ。徳松はフッ、と笑みを溢し、その手を取って立ち上がる。

 

「これからはおめぇがここのボスか……へへ、左塔との交流戦、楽しみにしてるぜ!」

 

「……へ?」

 

 

 

 

 

 

 




お待たせして申し訳ありません。やっとこさ用が片付き、通常投稿が可能になりました。
と言う訳で今回は徳松さん回。アニメでもやってたんですが、徳松さんの出番は少なくなりそうなのでデュエル展開を変えて書きました。
次回はコナミ君側の話になります。沢渡さんの子分は座っててね。


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第107話 お願いします先生!

多分満足タウン編で鬼柳先生に対して言われた台詞。もう本当最近サブタイのネタが尽きてるなぁ……。


時は遊矢達が収容所へと更送される前に遡る。とある孤児院にて、コナミはツァンと共に龍亞と龍可に勝利し、柚子と再会を果たしたのだが――。

 

「やんのか、おおん?」

 

「調子に乗るなよバナナ頭ぁ……!」

 

そこでは――同じ顔同士、ユートとユーゴが額をぶつけ、睨み合っていた。

 

「ちょっ、やめなさいってば!ユ、ナッシュもユーゴも!」

 

ここで柚子が喧嘩を始めた2人を止めるべく、割って入る。こんな時、遊矢顔が2人いて、柚子がいる場合、何故か柚子のブレスレットが光輝いてどちらか1人がワープするのだが――今回は何故か、うんともすんとも反応しない。いや、一応微弱に光ってはいるのだが。一体どうなっているのと柚子が首を傾げる。

 

「だってこいつがリンを」

 

「だってこいつが瑠璃を」

 

「それ人違いだから!」

 

ムッと幼い子供のように頬を膨らませ、互いに互いを指差してだってだってと駄々を捏ねるユートとユーゴ。だが柚子は知っている。これは大きな勘違いだ。リンを拐ったのはユートでは無いし、瑠璃を拐ったのもユーゴでは無い。2人を拐ったのは同一人物なのだ。彼女はハァ、と溜め息を溢し、2人にその事を伝える。

 

「落ち着いて聞いて、リンを拐ったのも、瑠璃を拐ったのも、全部融合次元のユーリって奴なの」

 

「「な、何だってー!?」」

 

今明かされる衝撃の真実、全部ユーリって奴が悪いんだ、と言う柚子に2人がその表情を驚愕に染めて、目を見開き叫ぶ。

 

「ま、待ってくれ柚子、じゃあこいつは何なんだ、融合次元の手先じゃないのか?融合だと名乗っていたんだぞ?こいつから融合次元の手先と言う設定を取り上げると何が残る?ただの馬鹿じゃないか!」

 

「だから融合じゃねぇし、クッソ失礼だなお前ぇ!お前こそ何なんだよ!俺と同じ顔だし、幸薄そうなオーラ纏いやがって!」

 

またもや「ああん?」やら「おおん?」と唸り、額を擦り付けメンチを切り合う同じ顔。勘違いが解けた後でも馬が合わないのか、今にも喧嘩になりそうだ。頭が痛い、良い加減にして欲しいと柚子が割って入り、また説明フェイズに入る。一々面倒臭い奴等である。

 

「落ち着いて!2人共犠牲者なの!どんな関係性があるかはまだ分からないけど、次元で別れたそっくりさん!貴方達2人が争う必要は無いの!むしろ協力して融合次元と立ち向かわなきゃ!」

 

そう、ユートとユーゴは柚子の知る限り、大切な仲間を奪われたそっくりさんであり、強力なデュエリストだ。こんな所で争うよりも、協力してアカデミアに立ち向かい、リンと瑠璃を奪還する方が余程実になる。柚子は2人の手を取り、握手させる。

 

「あ、ああ、君がそう言うなら仕方無い。よろしく頼む」

 

「チッ、しゃあねぇ、わぁーったよ」

 

渋々と言った様子だが、手を取り、握手する2人。何とか和解は出来たようだ。取り敢えず目先の問題は解決したとホッと胸を撫で下ろす柚子だが――。

 

「おい、そろそろ手を放せ、気持ち悪い」

 

「あん?そっちこそ強く握るのやめろや」

 

何やら雲行きが怪しくなって来た。2人共顔は笑っているが、目が笑っていない。握手をした手もミシミシと不気味な音を鳴らしており、和解は表面上のものだったようだ。

 

「やんのかバナナ」

 

「やってやんよナス」

 

ああ分かった、この2人、リンと瑠璃、次元間の問題が無くとも――ただ単純に、相性が悪いのだ。何となく反りが合わない、性格が真逆、まるで水と油のように、磁石のS極同士のように、全くと言って良い程噛み合わない。

もう面倒臭い、どうにでもなーれ☆と言った様子で諦める柚子。放って置いても多分大丈夫だろう、これ以上は彼等の問題だ。

 

「言っておくが俺は忘れないぞ、貴様に消滅させられた事を……!」

 

「む、あれはまぁ、俺も悪かったが……お前が俺より弱いって事だろ」

 

プスー、と手を口にあて、笑うユーゴを見て、ついにユートがカチンと来て堪忍袋の緒が切れる。もう我慢ならない、このバナナ頭を何としてでも叩きのめさなければこの怒りは晴れないだろう。

 

「上等だ、デュエルだ!」

 

「おっ、やんのかやんのか?良いぜぇー、四の五の言わずにそっちの方が手っ取り早い!勝負だ!」

 

こうなったら決着はデュエルで着ける。それこそがデュエリストの流儀、デュエル万能、迷ったらデュエル。ユーゴもデュエル脳なのでこの案には乗り気だ。だが不味い。デュエルとなってしまえば――また負けた方が消滅となる可能性がある。そればかりは駄目だと柚子が止めようと慌てふためく。

 

「ちょっ、それは――」

 

「お願いしやす、ダニエル先生」

 

「Come on」

 

ズザァッ、思わぬ展開に古いギャグ漫画のように転ぶ柚子。ここでまさかの代打の登場。ユートがコナミの肩をポンと叩き、それを受けたコナミがスタンバってましたとばかりに、まるで格ゲーキャラの如く風船ガムをクッチャクッチャプクーと噛んで膨らませ、穴空きグローブを装着した手をコキコキと鳴らす。

 

「なっ、お前それでも男か!何でそこでコナミ……のそっくりさんが出て来るんだよ!」

 

これには流石のユーゴも顔を真っ赤にして怒り狂う。それもそうだろう、この流れなら明らかにユートとユーゴの対決となる筈だ。だが――ユートとしては、自分が闘う訳にはいかない。何故なら今、彼の手元には本来のデッキが無いのだ。あるのは拾ったカードで作られたデッキ、これでは余りにも心許無く、他の者のデッキを借りてもやはり慣れたデッキには及ばない。この2つの方法を取ってユーゴに勝てる可能性は0に近い。この少年に負ける事はユートのプライドが許さない。ユートは彼の実力だけは認めているのだ。

 

「おやおやぁ、負けるのが怖いのか?」

 

「あぁん!?んな事ねぇよ!誰がこんなニート……のそっくりさんに負けるかよ!」

 

そして彼を乗らせるには挑発に限る。単細胞の彼はこの通り熱くなり、話を逸らしているのにも気づかない。計画通り、かかったなアホが!とほくそ笑むユート。実に悪い顔をしている。

 

「と言う訳だ、頼むぞダニエル。勝利以外は許さん」

 

「OK、Boss」

 

一体何様なのか、コナミに頼んでおいて偉そうにドヤるユートに対してもコナミは黙って従う。コナミもデュエル脳、デュエルが出来れば何だって良い生粋のデュエル馬鹿なのだ。こうして――割りとどうでも良い理由で、コナミとユーゴ、2人実力者がぶつかり合う。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻はコナミ、彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、戦術を練る。相手はシンクロ次元の遊矢と言って良いが、恐らくその戦法、戦術は大きく違う。ユートはコナミと同じような墓地発動を主とした戦術を取るらしいが――彼はどんな戦術を繰り出して来るのか、まずは相手の出方を伺う。

 

「オレのターン、オレは『貴竜の魔術師』と『竜脈の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

「これがペンデュラムか……!」

 

コナミのデュエルディスクの両端に2枚のカードが設置され、その間に虹色の光が灯る。同時に彼の背後に光の柱が2本出現、その中の『魔術師』が音叉と短剣を振るい、天空に線を結び、魔方陣を描き出す。

 

「揺れろ、光のペンデュラム、天空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!『E・HEROブレイズマン』!『V・HEROヴァイオン』!」

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

V・HEROヴァイオン 守備力1200

 

現れる2体の『HERO』。1体は炎の鬣を伸ばした赤の『HERO』ともう1体は頭部がカメラとなった紫の『HERO』だ。どちらも『HERO』モンスターの中では優秀なモンスターである。

 

「ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ、ヴァイオンの効果でデッキから『E・HEROシャドー・ミスト』を墓地に送る。シャドー・ミストの効果で『E・HEROエアーマン』をサーチ!最後にヴァイオンの効果で墓地のシャドー・ミストを除外し、2枚目の『置換融合』をサーチ!」

 

サーチを繰り返し、一気に手札を回復、これでペンデュラムカードの使用分の消費を取り戻した。見事なカード捌き、サーチにデッキ圧縮にユーゴが舌を巻く。

 

「そして2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる、白き翼に望みを託せ!現れろNo.39!エクシーズ召喚!『希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

コナミの眼前に星を散りばめた渦が広がり、2体の『HERO』が光となって飛び込み、一気に集束、小爆発が起こり、辺りに白煙が吹き荒れる。そして――中より煌めく白刃がスッ、と現れ、煙を裂き、登場したのは希望の皇。傷一つ無い金色の鎧を纏い、純白の翼を広げ、腰には2刀の剣、右肩に39の赤き紋様を走らせた騎士が、雄々しく吠える。

 

「『クリバンデット』を召喚!」

 

クリバンデット 攻撃力1000

 

次に現れたのは黄色いスカーフと眼帯を身に付けた、一頭身の目付きが鋭い毛むくじゃらのモンスターだ。コナミのデッキにおいて墓地落としにサーチと貢献してくれる優秀なモンスターであり、何度も世話になっている。

 

「ターンエンド。この瞬間、『クリバンデット』をリリース、デッキトップから5枚を捲り、『マジカルシルクハット』を手札に加え、それ以外を墓地へ」

 

ダニエル LP4000

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

Pゾーン『貴竜の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札4

 

「俺のターン、ドロー!成程、確かに少しはやるようだな……俺は魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキトップから10枚のカードを除外し、2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札4→6

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』を発動し、手札を交換!『SRベイゴマックス』を特殊召喚!」

 

SRベイゴマックス 守備力600

 

ユーゴのターンに移り、彼が召喚したのは『スピードロイド』の必須カード、複数のベーゴマが連結し、蛇のようになったモンスターだ。デッキに1枚しか投入出来ない為、初手に引き込めたのは大きい。

 

「ベイゴマックスの効果で『SRタケトンボーグ』をサーチし、そのまま特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

続けて現れたのはベイゴマックスと共に『スピードロイド』の中核を成す、竹トンボが変形して小型ロボットとなったモンスターだ。召喚権、手札消費を最小限に抑え、2体のモンスターの展開、見事なものだ。

 

「そしてタケトンボーグをリリース、デッキから『SR-OMKガム』を特殊召喚!」

 

SR-OMKガム 守備力800

 

タケトンボーグと入れ替わりに現れたのはチューインガムが変形し、人型ロボットとなった白いモンスターだ。レベル1のチューナーモンスター。だとすれば次に来るのはシンクロモンスターか。

 

「レベル3のベイゴマックスにレベル1のOMKガムをチューニング!幾千の顔を持つ迷宮の影よ、その鋭き刃で闇を切り裂け!シンクロ召喚!『HSR快刀乱破ズール』!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300

 

OMKガムが1つのリングとなって弾け飛び、ベイゴマックスを包み込む。更に一筋の閃光がリングを貫き、眩き光がフィールドを覆い尽くす。風と刃が白き光景を裂き、中より姿を見せたのはマフラーを靡かせ、右腕の剣を振るう仮面の騎士。攻撃力は下級アタッカーにも劣るが――切れ味は抜群だ。

 

「OMKガムの効果!シンクロ素材となった事でデッキトップを墓地に送り、そのカードが『スピードロイド』モンスターの場合、このカードを素材としたシンクロモンスターの攻撃力を1000アップする!墓地に送られたカードは――『SR電々大公』!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2300

 

見事目当ての『スピードロイド』を引き当て、ズールの攻撃力が爆発的に上がる。同時にここから先のユーゴのデュエルは、更なる加速を約束された。

 

「俺はここで『SRダブルヨーヨー』を召喚!」

 

SRダブルヨーヨー 攻撃力1400

 

現れたのは騎士兜のような物体から雷が走り、金属つきのホイールと繋がったヨーヨーのモンスター。

 

「召喚時、墓地のOMKガムを蘇生!」

 

SR-OMKガム 守備力800

 

「そして自分フィールドにモンスターが特殊召喚された事で手札の『SR56プレーン』を特殊召喚!」

 

SR56プレーン 攻撃力1800

 

更なる展開、青空に飛び立ったのは赤と黄のボディが鮮やかな、ゴムが動力の飛行機だ。次々と姿を見せる『スピードロイド』モンスター。これこそがシンクロデッキの十八番、高速召喚で相手を置き去りにする。

 

「特殊召喚時、『希望皇ホープ』の攻撃力をターン終了まで600ダウン!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→1900

 

「チッ――!」

 

ここに来ての攻撃力ダウンに舌打ちを鳴らすコナミ。ユーゴのモンスターの攻撃力はそう高くない、だからこそこうして倒されやすくするのは実に厄介極まりない。

 

「レベル4のダブルヨーヨーにOMKガムをチューニング!その躍動感溢れる剣劇の魂。出でよ、『HSRチャンバライダー』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

2回目のシンクロ召喚、現れたのは刀を模したバイクの下半身を持つ、二刀流の侍のモンスター。そしてシンクロ素材にOMKガムが使用された事で、またしてもあの効果が発動される。

 

「OMKガムの効果!デッキトップは――『SRバンブーホース』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000→3000

 

2連続成功、しかも2体とも墓地発動効果を持ったモンスターだ。コナミの運も余程だが、こうした賭けに対し、ユーゴはとことん強い。突発的な運ならコナミも越えるだろう。

 

「まだだぜ!墓地の電々大公を除外し、墓地のOMKガムを蘇生!」

 

SR-OMKガム 守備力800

 

3度フィールドに蘇るOMKガム。噛めば噛む程味が出る。ガムだと言うのにスルメのようなモンスターだ。それに1体のモンスターをここまで酷使して過労死させる腕前。流石はシンクロ次元のデュエリストかとコナミが舌を巻く。

 

「レベル5の56プレーンにレベル1のOMKガムをチューニング!十文字の姿持つ魔剣よ。その力で全ての敵を切り裂け!シンクロ召喚!現れろ、『HSR魔剣ダーマ』!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200

 

3連続シンクロ召喚、現れたるはけん玉のような形状をした妖しく光る魔剣のモンスター。とんでも無い展開力、圧倒的なスピードがコナミに牙を剥き襲いかかる。

 

「デッキトップを墓地に!『SR赤目のダイス』だ!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200→3200

 

こちらも3連続で当たり、スロットならば777が決まっている所だ。それ程ステータスが高くなかったシンクロモンスターもこれで強力なモンスターへと成長した。

 

「バトル!ズールで『ホープ』へ攻撃!こいつは特殊召喚したモンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時、攻撃力を倍にするぜ!」

 

「させるか!『ホープ』のORUを1つ取り除き、攻撃を無効に!ムーンバリア!」

 

ズールが音を残して高速でフィールドを移動し、『ホープ』に向かって剣を差し出す。しかし『ホープ』は百戦錬磨の戦士。自身の翼を盾として前に出し、その剣を防いでみせる。

 

「やるな!チャンバライダーで追撃!」

 

「それも防ぐ!ムーンバリア!」

 

だが『ホープ』はエクシーズモンスター。効果使用にはORUを使わなければならず、その数には限界がある。攻撃は決して無駄にならない。今度はチャンバライダーが刀を模したバイクでフィールドを駆け、二刀流で『ホープ』へ襲いかかり、『ホープ』がもう片翼も盾とする。

 

「これでもうORUはねぇ!追撃だ!チャンバライダーは2回攻撃が出来る!」

 

「ORUが無い『ホープ』が攻撃対象となった事で自壊する!」

 

「ならダイレクトアタックだ!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

攻撃無効、強固な盾を砕き、チャンバライダーがついに本丸に到達し、その刀を振るう。しかし次の瞬間、コナミの右手に光の剣が形成され、チャンバライダーを切り飛ばす。盾の次は剣、これではこれ以上進みようが無い。

 

「そう来たか……へっ、俺はこれでターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP4000

フィールド『HSR魔剣ダーマ』(攻撃表示)『HSRチャンバライダー』(攻撃表示)『HSR快刀乱破ズール』(攻撃表示)

手札3

 

「オレのターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『刻剣の魔術師』!『E・HEROエアーマン』!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

立ち塞がる強敵。ユーゴの超高速シンクロによりピンチに陥るコナミ。だが彼とて負けてはいない、直ぐ様振り子の召喚法で逆転を狙う。フィールドに現れる。剣を持った少年、『魔術師』とファンの翼を伸ばした青い『HERO』。この2体で窮地を覆す。

 

「エアーマンの効果で2体目のブレイズマンをサーチ、召喚!」

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

「効果で最後の『置換融合』をサーチ、発動!フィールドのエアーマンとブレイズマンで融合!融合召喚!『E・HERO GreatTORNADO』!」

 

E・HERO GreatTORNADO 攻撃力2800

 

コナミの背後で青とオレンジの渦が発生し、その中へエアーマンとブレイズマン、風と炎の『HERO』2体が飛び込み、混ざり合う。これこそが『HERO』の真骨頂、力を合わせ、新たな『HERO』を生み出す。渦より凄まじい突風が吹き荒れ、ユーゴのフィールドへと襲いかかる。風は『スピードロイド』達を巻き上げて竜巻となり、その中を裂いて、空に現れたのは黒いマントを靡かせた風の『HERO』。コナミが最も信頼する融合モンスターがフィールドを駆ける。

 

「融合召喚時、相手モンスター全ての攻撃力を半減する!タウン・バースト!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力3200→1600

 

HSRチャンバライダー 攻撃力3000→1500

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力2300→1150

 

「ぐっ――!」

 

「バトル!GreatTORNADOでズールへ攻撃!」

 

「ズールの効果で攻撃力を倍に!」

 

「だが倍になっても2300!スーパーセル!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1150→2300

 

ユーゴ LP4000→3500

 

GreatTORNADOがその手に風を集束して球体状のエネルギーを形成し、球が幾つもの鎌鼬に別れてズールを切り刻む。いくら剣の達人であるズールとは言え、風の刃まで切り裂けない。パズルのようにバラバラになって破壊される。

 

「刻剣でチャンバライダーへ攻撃!墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、攻撃力を800アップ!」

 

「こっちも戦闘を行うダメージステップ開始時、攻撃力を200アップ!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400→2200

 

HSRチャンバライダー 攻撃力1500→1700

 

ユーゴ LP3500→3000

 

今度は刻剣とチャンバライダーの剣戟が木霊する。鋭き剣と二刀による斬撃が甲高い音色を響かせ、その速度を上げていく。加速、加速、加速。白い剣閃が走っては弾け、火花を散らす。このままでは拉致が空かない。刻剣が舌打ちを鳴らし、身体ごと捻り、回転して剣を振り抜く。チャンバライダーの二刀のガードを跳ね上げ――好機と見た刻剣が返しの刃で切り裂く。強力な斬撃を受け、チャンバライダーが吹き飛んで破壊される。

 

「チッ、だがチャンバライダーが墓地へ送られた事で除外されている『SR電々大公』を手札に!」

 

「メインフェイズ2、刻剣とダーマを次のオレのスタンバイフェイズまで除外、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、墓地に送られたズールの効果で墓地の『SRベイゴマックス』を回収するぜ」

 

「リカバリーも充分と言う訳か、ダニエル、油断するな!」

 

「合点だBoss」

 

ダニエル LP4000

フィールド『E・HERO GreatTORNADO』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『貴竜の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札2

 

チャンバライダーとズールの効果でシンクロで消費した手札を回復し、次の展開に備えるユーゴを見て、ユートが目付きを鋭くしてコナミへ檄を飛ばす。3体のシンクロを除去したとは言え、油断は出来ない。コナミの場にはGreatTORNADO1体だけと心許無く、ユーゴの実力ならば直ぐに取り戻せると考えてだ。何故なら彼の手札には自分フィールドにモンスターが存在しない場合、特殊召喚出来、サーチ効果を持ったベイゴマックスが握られている。

 

「俺のターン、ドロー!先制はされちまったが……ここからが本番だぜ!魔法カード、『手札断札』!互いに2枚、手札を捨てて2枚ドロー!更に魔法カード、『カップ・オブ・エース』!コイントスを行い、表なら俺が、裏ならテメェが2枚ドロー!よっしゃ表!2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札4→6

 

「俺はベイゴマックスを特殊召喚!」

 

SRベイゴマックス 守備力600

 

「効果でタケトンボーグをサーチ、特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

またもやベイゴマタケトンコンビ。この2体による展開力は流石としか言えないレベルだ。召喚権を使わず、手札を1枚しか消費せず、チューナーと非チューナーを揃えるのだから強力にも程がある。

 

「タケトンボーグをリリース、『SR赤目のダイス』をリクルート!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

次に登場したのは赤い目を光らせたサイコロのモンスターだ。レベル1、低ステータスのチューナー、どう出て来るか、ベイゴマックスと合わせ、ズールを出してもGreatTORNADOには届かず、これならば少々賭けになってもOMKガムを出した方が良かったのではとコナミが思考するが――。

 

「赤目のダイスの効果!ベイゴマックスのレベルを6に!」

 

SRベイゴマックス レベル3→6

 

「レベル6と1、大型が来るか……!」

 

「気をつけろダニエル!奴のエースが来るぞ!」

 

「へへっ、気をつけたって無駄だぜ!レベル6のベイゴマックスにレベル1の赤目のダイスをチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!現れろ、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

美しきミントグリーンの透明な双翼を広げ、青と白のカラーリングの竜が雄々しき咆哮と共に尾を靡かせ、天空へ飛翔する。これがユーゴのエースモンスター。その美しくも雄々しい、口上通りの姿を見て、コナミが見惚れてほう、と息をつく。

 

「ふつくしい……」

 

そしてエースモンスターだけあり、このモンスターには強力な効果がある。デッキによっては詰みかねない効果が、その体躯に宿っている。

 

「気をつけろ、そのモンスターはレベル5以上のモンスター効果無効、レベル5以上のモンスター1体を対象とするモンスター効果の無効、そしてこの2つで破壊したモンスターの攻撃力吸収効果を持っている」

 

「対モンスターと言う事か、厄介な」

 

徹底的な対モンスター効果モンスター。それこそが『クリアウィング』の実体だ。優秀なモンスター効果が増え、除去も任せる中ではこれ程までには厄介な効果は無い。

 

「そう言うこったな!『SRシェイブー・メラン』を召喚!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

ここで召喚したのはブーメランが変形し、奇妙な形のロボットとなったモンスター。攻撃力2000、下級モンスターにしては強力な数値だ。

 

「シェイブー・メランの効果!このカードを守備表示にし、GreatTORNADOの攻撃力を800ダウン!」

 

E・HERO GreatTORNADO 攻撃力2800→2000

 

「墓地の電々大公を除外し、墓地のOMKガムを蘇生!」

 

SR-OMKガム 守備力800

 

「レベル4のシェイブー・メランにレベル1のOMKガムをチューニング!シンクロ召喚!『HSRチャンバライダー』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

「OMKガムの効果!デッキトップを墓地へ、チッ、『スピードロイド』じゃねぇか。墓地のバンブー・ホースを除外し、デッキの『SR三つ目のダイス』を墓地へ!バトル!『クリアウィング』でGreatTORNADOへ攻撃!」

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!デッキの魔法、罠カード2枚とGreatTORNADOをセットし、シャッフル!」

 

『クリアウィング』がミントグリーンの双翼を大きく広げ咆哮、臨戦態勢に入った時、空かさずコナミがデッキより2枚のカードを引き抜いてフィールドに投擲する。ソリッドビジョンでセットされ、上空から降るシルクハットに隠され、シャッフルされる。

 

「右のシルクハットへ攻撃!旋風のヘルダイブスラッシャー!」

 

『クリアウィング』がその翼に激しき風を逆巻かせ、一直線に突き進んでシルクハットを切り裂く。中身は――外れだ。

 

「チャンバライダーで真ん中のシルクハットへ攻撃!この瞬間、攻撃力を200アップ!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000→2200

 

二刀の刃を振るい、チャンバライダーがシルクハットを切り裂く。中身は――GreatTORNADO、だがチャンバライダーとGreatTORNADOの好守は同数値、破壊には至らない。返しの刃が無ければ、だが。

 

「2回目の攻撃!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2200→2400

 

もう1度二刀が振るわれ、風を引き裂き、GreatTORNADOの喉元を貫く。永続的に続く攻撃力アップ。2回攻撃で毎ターン400アップ、放置すれば化け物になるだろう。尤もコナミがそこまで放置するとは限らないが。

 

「バトルフェイズ終了時、破壊された『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ!」

 

「手札の『D.D.クロウ』を捨て、テメェの墓地から『ブレイクスルー・スキル』を除外!カードを2枚セットし、ターンエンド!」

 

ユーゴ LP3000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『HSRチャンバライダー』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「オレのターン、ドロー!」

 

「罠発動、『針虫の巣窟』!デッキトップから5枚のカードを墓地へ!」

 

「スタンバイフェイズ、刻剣とダーマが戻り、墓地の『置換融合』を除外し、GreatTORNADOをエクストラデッキに戻して1枚ドロー!」

 

ダニエル 手札4→5

 

「装備魔法、『妖刀竹光』を刻剣に装備!魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!引いた中にもう1枚だ!2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札3→5→6

 

『竹光』によるドローターボで一気に手札補充、爆発的な回復力だ。このドローギミックは侮れない。

 

「速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムカードを破壊し、お前に500ダメージを与え、ペンデュラムカード、『慧眼の魔術師』をサーチ!」

 

ユーゴ LP3000→2500

 

「2体の『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!破壊して『竜穴の魔術師』と『賤竜の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!『貴竜の魔術師』!2体の『慧眼の魔術師』!」

 

「セッティング時、手札の『増殖するG』を捨て、相手が特殊召喚する度にドローする!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

慧眼の魔術師 守備力1500×2

 

ユーゴ 手札0→1

 

幾度も揺れ動く振り子の軌跡、眩き光の柱がコナミのフィールドに降り注ぎ、光を散らして4体の『魔術師』がフィールドに現れる。これでフィールドには5体の『魔術師』モンスター。これだけでは届かないが、ペンデュラムはスタートラインに過ぎない。

 

「レベル4の『慧眼の魔術師』にレベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

ユーゴ 手札1→2

 

目には目を、シンクロにはシンクロを。コナミがユーゴに対抗し、フィールドに登場したのは2色の虹彩を輝かせた真紅の竜。大地を踏み砕き、力強い咆哮が放たれる。

 

「『ジェット・シンクロン』を召喚!」

 

ジェット・シンクロン 攻撃力500

 

『クリアウィング』で妨害されればメテオバーストは破壊される。効果を発動せずに、そのままコナミが召喚したのは青と白のカラーリングのジェットエンジンを模したモンスターだ。このカードもまたチューナー。ユーゴには劣るだろうが、コナミも連続シンクロで対抗する。

 

「レベル3の刻剣、レベル4の慧眼にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!星海を切り裂く一筋の閃光よ!魂を震わし世界に轟け!シンクロ召喚!『閃光竜スターダスト』!!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

ユーゴ 手札2→3

 

『ジェット・シンクロン』の身体が光のリングとなって弾け、刻剣と慧眼を包み込み、一筋の閃光が貫く。天に8つ星が輝き、配置を変えて竜の星座を作り上げ、浮かび上がる。フィールドに降り立つ、星屑を纏う純白の竜。その美しさは『クリアウィング』にも劣らない。そして――この竜の姿に、観戦していたツァンと龍亞龍可、ユーゴが表情を驚愕に染める。

 

「『スターダスト』……だって……!?」

 

その姿、そしてその名、このカードは、この4人が知るデュエリストのカードと、驚く程酷似しているのだ。

 

「シンクロ素材となった『ジェット・シンクロン』と墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『ジャンク・コレクター』と『黄金色の竹光』をサーチ!」

 

リカバリーも万全、消費した手札を取り戻し、5枚まで回復。

 

「魔法カード、『モンスターゲート』!竜脈をリリースし、通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキトップを墓地へ送る!1枚目!『仁王立ち』!2枚目!『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』!3枚目!『スキル・サクセサー』!4枚目!『シャッフル・リボーン』!5枚目!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!決まったな!出でよ、絶望の暗闇に差し込む、眩き救いの光!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

ユーゴ 手札3→4

 

ここで終わらない。賭けになるが、上級モンスターを呼び出す為、コナミがデッキを削ってモンスターを呼び出す。現れたのは最も欲しかった1枚、白銀の鎧を纏い、背より金色の剣を伸ばした2色の虹彩の竜。これで――『クリアウィング』討伐の準備は整った。

 

「賤竜のペンデュラム効果でエクストラデッキの慧眼を回収、竜穴のペンデュラム効果で捨て、セットカードを破壊!」

 

「罠発動!『ハーフ・アンブレイク』!『クリアウィング』は戦闘破壊されず、『クリアウィング』を通して受けるダメージは半分になる!」

 

「バトル!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』でチャンバライダーへ攻撃!」

 

「チャンバライダーの効果で攻撃力アップ――しない!?」

 

「メテオバーストがいる限り、バトルフェイズ中、相手はモンスター効果を発動出来ない!」

 

「なっ――ぐ――!」

 

ユーゴ LP2500→2100

 

『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』がその口から光のブレスを放ち、チャンバライダーを消し炭にする。応戦しようにもメテオバーストが地面に炎を流し込み、チャンバライダーの下へと走り、炎の鎖となって身動きを封じられた上で、だ。

これならばバトルフェイズ中、『クリアウィング』は無力化する。まずはこのカードを除去するべきだとユーゴが頭を回す。お陰でチャンバライダーや三つ目のダイスの効果も使えない。後者はメインフェイズで使用すれば良いが、不意を突けなくなるのが痛い。

 

「『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の効果で『クリアウィング』を破壊!」

 

「墓地の『復活の福音』を除外し、『クリアウィング』の破壊を防ぐ!」

 

「メテオバーストでダーマへ攻撃!」

 

ユーゴ LP2100→1800

 

続いてダーマにメテオバーストが襲いかかり、炎に包まれた尾でダーマが吹き飛ばされ、破壊される。これで残ったのはエースである『クリアウィング』のみ。

 

「ターンエンドだ」

 

ダニエル LP4000

フィールド『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』(攻撃表示)『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札4

 

まだまだ続く、コナミVSユーゴ、2人のデュエル。現段階で優勢なのはコナミだ。LPやモンスターがリードする彼に対し、ユーゴはどのような手で対抗するのか――。

 

 

 

 

 

 




柚子ちゃんのブレスレットが反応しないのはユート君側の覇王成分のほとんどが遊矢君の方に移行し、そのまま分裂したのが原因です。何時までもそっくりさんが顔を合わせられないのはアレですし。
まぁ、ユートとユーゴは何も無くても仲が悪いんですが。


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第108話 ベッドがベットンベットン!(意味深)

※ペンデュラム・ホルトがエラッタ前の効果です。
※この作品は全年齢向けの至って健全なものです。


孤児院の広場にて、簡素なデュエルコートとも言えるそこで、コナミVSユーゴ、ユートとユーゴの意地を賭けた代理デュエルは未だに続いていた。観客となった柚子やユート、ツァン、龍亞龍可が固唾を飲んで見守る中、こちらの方が気になったのか、教会よりセクトがひょこっと顔を出す。

 

「……何やってんだよお前等……アリ?ユーゴじゃねぇか」

 

「セクト……今なんかダニエルとユーゴがデュエルしてるんだよ」

 

「へぇー面白そうじゃん、見たところユーゴのピンチか、ターンは?」

 

「今ユーゴのターンに入る」

 

そう、丁度今コナミのターンが終了し、ターンプレイヤーはユーゴに移行する。フィールドには『クリアウィング』のみ、対するコナミはシンクロモンスター2体に上級モンスター1体の強力な布陣、ここからどう盛り返すか――

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『魔力の泉』を発動!2枚ドローし、1枚捨てる!」

 

ユーゴ 手札2→4→3

 

「よし――墓地の『スピードリバース』を除外し、ベイゴマックスを回収、更に魔法カード、『ヒドゥン・ショット』発動!墓地のタケトンボーグと赤目のダイスを除外し、メテオバーストとセイバーを破壊!」

 

「ッ!いや、ダメか……!墓地の『仁王立ち』を除外し、このターンの攻撃をメテオバーストに絞る!」

 

除外するコストが必要なものの、1枚で2枚を破壊する強力なカードが炸裂する。今のコナミにはこれを防ぐ手立ては無い。正確には『スターダスト』の効果があるが――バトルフェイズでは無い為、すかさず『クリアウィング』で無効にされる事になってしまう。せめて少しでも消費を抑える為、墓地のカードでこのターンを凌ぐ。

 

「ベイゴマックスを召喚!」

 

SRベイゴマックス 攻撃力1200

 

ここで変わらずベイゴマックス、召喚、特殊召喚問わずに『スピードロイド』をサーチ出来るこのカードは実に強力無比と言える。こうして再利用が容易いと言う点も含めて優秀だ。

 

「最後のタケトンボーグをサーチ、特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

「リリースし、『赤目のダイス』をリクルート!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

「効果でベイゴマックスのレベルを4に変更!」

 

SRベイゴマックス レベル3→4

 

「そしてレベル4となったベイゴマックスに、レベル1の赤目のダイスをチューニング!双翼抱く煌めくボディー、その翼で天空に跳ね上がれ!シンクロ召喚!現れろ!『HSRマッハゴー・イータ』!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000

 

現れたのはピンク色の鮮やかなボディーの羽子板を模したシンクロモンスターだ。チャンバライダーやズールを出さなかったのは除去される事を考えてか、それともこのカードでコナミのエクシーズやシンクロの妨害を狙ってか、いずれにせよ、出しておいて損するカードでは無いか。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンド」

 

ユーゴ LP1800

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『HSRマッハゴー・イータ』

セット2

手札0

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!エクストラデッキにペンデュラムカードが3枚以上ある為、2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札4→6

 

「ペンデュラム召喚!『刻剣の魔術師』!『竜脈の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『ジャンク・コレクター』!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

ジャンク・コレクター 守備力2200

 

窮地のユーゴに対し、容赦なくその手を進め、追い撃ちをかけるコナミ。まずはペンデュラムで基盤を固める。フィールドに現れる5体のモンスター、そして――。

 

「『ジャンク・コレクター』と墓地の『エレメンタルバースト』を除外し、相手フィールドのカードを全て破壊!」

 

「その効果はモンスター効果だろう?なら無効にするぜ!ダイクロイック・ミラー!」

 

『ジャンク・コレクター』が光輝き、弾けてエレメントを解放、フィールドを蹂躙しようとしたその時、『クリアウィング』の双翼に紋様が走り、光の線が飛び出して『ジャンク・コレクター』を串刺しにして破壊する。既に除外されている為、破壊扱いにならず、攻撃力はアップしないが、これは止めるしかない。そしてこれは――コナミの思い通りだ。全ては『スターダスト』の効果を通す為、もしも『スターダスト』の効果を発動しようと、勘の良いユーゴの事だ。それを無視して『ジャンク・コレクター』に備えるだろう。

 

「『スターダスト』の効果で自身に1ターンに1度の耐性を与える!波動音壁!」

 

「成程、そう来たか……!」

 

「バトル!『スターダスト』で『クリアウィング』に攻撃!」

 

「墓地の三つ目のダイスを除外し、攻撃を無効にする!」

 

「構わん、速攻魔法、『ダブル・アップ・チャンス』!『スターダスト』の攻撃力を倍にし、再攻撃!流星突撃!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500→5000

 

「チッ、罠発動!『シンクロ・バリアー』!マッハゴー・イータをリリースし、このターンのダメージを0に!迎え撃て!旋風のヘルダイブスラッシャーッ!」

 

両シンクロドラゴン、一騎討ち、2人の指示を受け、漸くかと言った様子で2体の竜が飛び出し、天空でドッグファイトが繰り広げられる。飛び交う軌跡がまるで光の尾のように交差し、ぶつかり、火花を散らす。切り裂く剛爪、食らい合うアギト、衝突するブレス。最後に2体が己の体躯全てを投げ出し――ぶつかり合う。

『スターダスト』の星屑を纏い、高速で突き進む流星突撃、『クリアウィング』の翼に風を逆巻いて切り裂く旋風のヘルダイブスラッシャー。次元を越え、時を越えた勝敗は――『スターダスト』に軍配が上がる。

 

「ユーゴの『クリアウィング』が……!」

 

「破壊された……!」

 

今まで破壊されず、不敗神話を築いていた『クリアウィング』の破壊、それを見て、ツァンやセクトを動揺させる。まさかまさかの展開、負けはしても、『クリアウィング』を守って来たユーゴにとって、この一撃は何よりも重い。

 

「くぅぅぅぅッ!燃えるぜ!面白くなって来やがった!」

 

ところが――ユーゴ本人はあっけからんと笑い、益々このデュエルに闘争心を燃やす。全くもってデュエルバカと言う事か。楽しそうにデュエルをするユーゴを見て、コナミもまた、ニヤリと笑う。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

「この瞬間、罠発動!『裁きの天秤』!俺の手札、フィールドのカードはこれ1枚!お前のフィールドのカードは7枚!よって6枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→6

 

ここでユーゴが窮地を活かし、一気に手札を補充する。これでコナミに充分対抗出来る。ここで終わるつもりは無い。楽しいデュエルはまだまだ始まったばかりなのだ。

 

ダニエル LP4000

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『刻剣の魔術師』(攻撃表示)『竜脈の魔術師』(攻撃表示)『慧眼の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『賤竜の魔術師』

手札3

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『カップ・オブ・エース』!表ぇ!2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札6→8

 

「手札の『サンダー・ドラゴン』を捨て、同名カードを2体サーチ!魔法カード、『星屑のきらめき』を発動!墓地からレベル7になるようにモンスターを除外し、墓地の『クリアウィング』を蘇生!」

 

「ッ、チェーンして『スターダスト』の効果で自身を守る!」

 

「当然そうなるよなぁ!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

再びフィールドに舞い戻る白き竜。やっと破壊したと思ったらこんなにも簡単に復活するとは。いや、ユーゴのデッキがエースである『クリアウィング』を中核として活躍させる為に構築されているからか。たった1枚の好きなカードに全力を注ぎ込む。これもまたデュエリストとしての形であり、コナミとしても好ましく思う戦術だ。

 

「『SRアクマグネ』を召喚!」

 

SRアクマグネ 守備力0

 

次に現れたのは刃物のようなU字型の磁石の翼を広げた悪魔のようなモンスター。レベルは1、このモンスターでどう出て来るのか。

 

「アクマグネの召喚時、相手モンスター1体とこのカードでシンクロ召喚を行う!レベル4の竜脈にレベル1のアクマグネをチューニング!シンクロ召喚!『HSRチャンバライダー』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

相手モンスターを巻き込んでのシンクロ召喚。『シンクロ・マテリアル』を内蔵したような効果が炸裂し、コナミのモンスターを奪い取ってユーゴがチャンバライダーを再び繰り出す。これが最後のチャンバライダー、出来れば破壊される前に決着をつけたい所だ。

 

「まさかこちらのモンスターを利用するとは……!」

 

「更に魔法カード、『二重召喚』!『SRーOMKガム』を召喚!」

 

SRーOMKガム 攻撃力0

 

「フィールドに『スピードロイド』チューナーが存在する事で墓地の『HSRマッハゴー・イータ』を蘇生!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000

 

「モンスターが特殊召喚された事で56プレーンを特殊召喚!」

 

SR56プレーン 攻撃力1800

 

「効果で『スターダスト』の攻撃力をダウン!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500→1900

 

「くっ――!」

 

大量のモンスターを展開しながらもコナミの戦術を越えて来るユーゴ。手強いデュエリストだ。だからこそ――彼を倒せば、コナミは成長出来る。負ける訳にはいかない。最早ユートの為と言う事も忘れ、彼と言う好敵手を越えるべく、コナミは思考を張り巡られ、戦略を練る。

『スターダスト』はこのターン、1度だけ破壊されない。つまり残るモンスター2体も合わせ、4度戦闘を行うとして、合計攻撃力は6700、傷一つついていないLPも合わせると10700、この数値が越えられれ少々不味い。多く見えるが、果たして安全圏と言えるかどうか。

 

「魔法カード、『手札抹殺』!手札を全て捨て、新たに3枚を引き込む!レベル5の56プレーンにレベル1のOMKガムをチューニング!シンクロ召喚!『HSR魔剣ダーマ』!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200

 

合計攻撃力8700――いや、チャンバライダーが2回攻撃出来、攻撃力アップを加味すれば11300。早速越えられた。何が安全圏だクソッタレと舌打ちを鳴らすコナミ。だがまだだ、ユーゴの手はまだ止まってない。

 

「デッキトップを墓地へ。チ、『スピードロイド』じゃねぇ。魔法カード、『スピードリバース』を発動!墓地の『HSR快刀乱破ズール』を蘇生!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300

 

無慈悲にも、5体のシンクロモンスターが揃う。しかもご丁寧に全て異なるモンスターだ。コナミも昔はブイブイ言わせてフィールドを真っ白に染めたものだが、彼もソリティアの血筋を引く者らしい。1人でシコシコ白いのを出す事に定評のある彼が認めるのだ、ユーゴもまた、1人で白いのをいっぱい出す事には秀でている。しかしこうして見ると壮観だ。

チャンバライダーのズール剥けな魔剣ダーマがマッハゴー・イータとは。

 

「何か知らねぇがスゲェ腹立って来た」

 

「タッちゃったのか」

 

「おい、何か知らんがそれ以上はやめろ、色々危うい気がする」

 

ここでユートの脳裏に電撃が駆け抜け、これ以上はいけないと言う謎の衝動が突き動かし、2人を止めに入る。まだセーフ、セーフである。

 

「まぁ、良いや、今まで世話になった分、返してやるぜ!ズールで『スターダスト』に攻撃!」

 

「返さんで良い、多分お前借りパクする性格だろ、ずっと取っておけ、こんな時だけ返さんで良い、罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2600

 

ダニエル LP4000→3650

 

一撃一撃が破滅への致命傷、命を削るカウントダウン、コナミはそれから逃れる為、自身の前にバリアを張り、少しでもダメージを軽くしようと足掻きに足掻く。ズールによる斬撃が『スターダスト』に襲いかかり、胸に大きな傷を残した。

 

「チャンバライダーで刻剣に攻撃!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000→2200

 

ダニエル LP3650→3250

 

破壊されたリベンジと言わんばかりにチャンバライダーがバイクを疾駆させ、2刀の剣を振るって刻剣をジリジリと追い詰める。防戦一方、剣で防ぐ刻剣が何とか隙を見つけ、その喉元を切り裂こうとしたが――その隙は作り出されたもの、刻剣を誘き出したチャンバライダーをその一振りを払い伏せ、もう1刀で切り裂く。

 

「2回目の攻撃!慧眼を倒せ!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2200→2400

 

ダニエル LP3250→2800

 

更に続く猛攻、チャンバライダーが加速して今度は慧眼の下へ駆け、有無を言わさず一刀の下に切り伏せる。これで残るモンスターは――『スターダスト』1体のみ。

 

「リベンジだ!『クリアウィング』で『スターダスト』に攻撃!旋風のヘルダイブスラッシャーッ!」

 

「くっ、流星突撃!」

 

再び激突する2体の竜。覇王の因子と決闘竜のドッグファイト。上空で火花と爆風が舞い、互いに腕を掴み、相撲のように押し合いとなる。だが――ズキリ、『スターダスト』の胸の傷が動きを鈍らせ、『クリアウィング』がその隙を見逃さず、尾を振るって『スターダスト』の顎を跳ね上げて飛び退き、加速してその翼で『スターダスト』を切り裂く。

 

ダニエル LP2800→2500

 

「これでがら空き!ダーマとマッハゴー・イータでダイレクトアタック!」

 

ダニエル LP2500→1400→400

 

「ぐうっ、『ダメージ・ダイエット』の効果で半減する……!」

 

がら空きの所にダーマとマッハゴー・イータの一撃が突き刺さる。半減されているとは言え、重い一撃、状勢は一気に覆り、一転してコナミの不利となった。LPは3桁、モンスターは0、対するユーゴのフィールドには5体のシンクロモンスター。

 

「墓地の機械族モンスターを除外し、ダーマの効果で相手に500のダメージを与える!」

 

ダニエル LP400→150

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP1800

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『HSR魔剣ダーマ』(攻撃表示)『HSRチャンバライダー』(攻撃表示)『HSR快刀乱破ズール』(攻撃表示)『HSRマッハゴー・イータ』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

ここが正念場でラストターン、勝負を賭けたドロー。コナミはデッキトップに手を翳し、勝利を信じて大きく引き抜く。

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地より『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』、『No.39希望皇ホープ』、『E・HEROエアーマン』、『E・HEROブレイズマン』、『V・HEROヴァイオン』を回収し、2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札3→5

 

「手札の『曲芸の魔術師』を捨て、『竜穴の魔術師』のペンデュラム効果でセットカード破壊!ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『貴竜の魔術師』!『ジャンク・コレクター』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

ジャンク・コレクター 守備力2200

 

「またそれか……!」

 

再び揺れるペンデュラム。振り子の軌跡で光の柱がコナミのフィールドに降り注ぎ、5体のモンスターが現れる。全力全開、全身全霊をもってユーゴを迎え撃つ。

 

「マッハゴー・イータをリリースし、フィールドのモンスターのレベルを1つ上げる!メテオバーストはシンクロさせねぇ!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7→8

 

HSR魔剣ダーマ レベル6→7

 

HSRチャンバライダー レベル5→6

 

HSR快刀乱破ズール レベル4→5

 

竜脈の魔術師 レベル4→5

 

慧眼の魔術師 レベル4→5

 

貴竜の魔術師 レベル3→4

 

ジャンク・コレクター レベル5→6

 

マッハゴー・イータがピンク色のボディーを眩き光と共に弾けさせ、中に眠っていた星をフィールドに散りばめる。これでシンクロどころかエクシーズも不可能となった。

 

「何かあると思っていた……だからこそこいつを残していたんだ!『賤竜の魔術師』のペンデュラム効果で刻剣を回収!召喚!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

「しまった――!」

 

「レベル3の刻剣に、レベル4となった貴竜をチューニング!シンクロ・召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

再び現れる赤き竜の星。打ち砕く竜が『クリアウィング』を睨み、星屑の竜の仇を討とうと咆哮する。

 

「くっ――!」

 

メテオバーストを見て、ユーゴが舌打ちを鳴らす。このカードはバトルフェイズ中、相手モンスターの効果発動を封じる効果を持っている。つまり手札の『SRメンコート』も使えなくなる。何より――『クリアウィング』の効果も通じない。

しかも、コナミのフィールドには――。

 

「バトルだ!『ジャンク・コレクター』と墓地の『エレメンタルバースト』を除外、効果をコピー!」

 

このカードがある。『ジャンク・コレクター』の身体が閃光に包まれ、弾けて『エレメンタルバースト』のエネルギーを解放する。襲いかかる天変地異。4つのエレメントが5体のシンクロモンスターを討ち滅ぼす。これで、道は開いた――。

 

「メテオバーストで、ダイレクトアタック!」

 

ユーゴ LP1800→0

 

「国へ帰るんだな、お前にも家族がいるだろう」

 

メテオバーストのアギトに集束した炎が撃ち出され、ユーゴを覆い尽くす――。勝者、コナミ――。

 

――――――

 

「ベッドがベットンベットン!」

 

「あっはっは!お前やるじゃねぇか!」

 

コナミとユーゴのデュエルが終了した後、彼等2人は見事に意気投合していた。むっつり天然クールなコナミとむっつり天然熱血のユーゴ。似ていないようでその実似ている2人がこうなるのは自然だったのかもしれない。それにコナミはユーゴを暗次に重ね、ユーゴはコナミをここのニートに重ねて見ているから打ち解けるのが早かったのだろう。

 

「当然お前もフレンドシップカップに出るんだろ?」

 

「?フレンドシップカップ……?」

 

「何だ、知らねぇのか?もうすぐシティで大会があるんだよ。優勝した奴があのキング、ジャック・アトラスと闘えるんだ!」

 

「――!ジャック・アトラス……!」

 

ユーゴの口から出たキングの名、それはコナミを驚愕させるには充分なものだ。ジャック・アトラス。まさか彼がここにいるとは。いや、シンクロ次元と言うのだ。当然か、しかしまさか、彼が就職しているとは。

 

「おい、俺達は大会に出る暇など無いんだ」

 

「い、いや、そうでもないかもしれないぜ」

 

ユートが大会出場を必要とは思わず、否定してその時――意外にもそこで口を挟んだのはセクトだった。

 

「?それはどう言う意味だ?」

 

「……もしかしたら――キングは、アカデミアと繋がってるかもしれねぇんだ」

 

その言葉と共に、孤児院は静寂に包まれた――。

 

――――――

 

そして時は再び戻り、場所は遊矢達がいる収容所へ。彼等は右塔の中心に集まっていた。

理由は――この場で右塔と左塔のボスが対決する祭りがある、と言う事だ。そしてこれこそが脱獄のチャンス、祭りで囚人が集まり、セキュリティで手薄となる事を利用し、脱獄する。そう思っていた時だった――。入り口より、何やら騒がしいかけ声が聞こえて来たのは。

 

「?何だ一体――」

 

「セイヤッ、セイヤッ、セイヤッ、セイヤッ、セイヤッ、セイヤッ!」

 

「え、え、ええぇぇぇぇぇっ!?」

 

現れたのは屈強で引き締まった肉体を持ち、褌を巻いた、如何にも祭りと言った出で立ちをした男達。そしてそんな彼等が担いだ御輿。いや、これは――玉座と言った方が良いだろう。豪奢で華美な玉座に腰かけているのは――。

 

「ハ、ハァハン!ハ、ハァハン!」

 

沢渡の姿であった――。

 

「……な、何やってんのお前ぇぇぇぇぇっ!?」

 

思わず遊矢の叫びが木霊する。それも当然だろう、屈強な男達が運ぶ玉座に腰かけている等、意味が分からない。それは彼の背後にいるランサーズメンバーも同じだ。皆唖然としている。

 

「本当に、本当に何をやってるんだあの馬鹿は……!」

 

「びっくりだよもう……!」

 

想像の斜め上を行く沢渡の行動に、権現坂とデニスが溜め息を吐く。もう何とも言えない。

 

「フ、久し振りだな遊矢。俺と闘うのは宿命のライバルであるお前だと思っていた!」

 

「って言う事はまさか……!」

 

「そうだ!俺様こそが左塔のボス!さぁ、今こそアクションデュエルで決着をつけてやるよぉ!」

 

「とうっ」と沢渡が玉座から飛び降り、宙でくるりと回転、想像通り着地する時にグキリと足を挫き、フゥーフゥーと毛を逆立てる猫のような表情で息を吐き、痛みを堪える。何時も通りの沢渡だ。遊矢は呆れ返りながらも沢渡の言葉に慌てる。

 

「えっ、ちょっ、ちょっと!?」

 

「アクションフィールド、発動ゥー!」

 

フィールドが光に包まれ、光のブロックを形成して姿を変える中、遊矢は困惑し、沢渡とその子分が口上を放つ。

 

「『クロス・オーバー』か……!行くぜ!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化形!」

 

「アクショーン、デュエル!!」

 

「話を聞けぇ!」

 

榊 遊矢VS沢渡 シンゴ――因縁の闘いが、今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、オッドアイズEM魔術師VS魔界劇団妖仙獣帝


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第109話 振り切った限界をまた乗り越えて

今回からアクションフィールド関連が整理させています。今まではフィールド自体に効果のみが適用される、ルール介入型だったのですが、今回よりフィールドを離れないルール効果を持ったフィールド魔法に変更です。因みにフィールド書き換えは適用され、書き換えた後のフィールド魔法が破壊されれば元のアクションフィールドへと戻ります。


始まった榊 遊矢VS沢渡 シンゴ。2人のエンタメデュエリストのアクションデュエル。祭舞台を中心としてフィールドに青白く輝くブロックが並ぶ中、遊矢は思考する。

このデュエルは目眩まし、看守達も巻き込んで目をこちらに向け、その間に交流戦で警備が手薄となった別室のエヴァとセレナを救出後、ダクトからの抜け道で脱出するように零児が策を走らせている。彼がいれば心強い。

手を抜くつもりは毛頭無いが、その為にも全力のエンタメデュエルを見せねばならない。

 

「さぁ、野郎共!俺を見ろ!俺のターン!」

 

先攻を取ったのは沢渡だ。ダン、と力強く地を蹴りながら走り、ソリッドビジョンで形成されたブロックを駆け上がる。その物珍しさに観客達は興味深そうにフィールドに目を向ける。

 

「俺は永続魔法、『修験の妖社』を発動!そして『魔界劇団-エキストラ』を召喚!」

 

魔界劇団-エキストラ 攻撃力100

 

現れたのは円盤状の投影機から写し出される3体の隻眼の悪魔。まずは落ち着いてエキストラからの登場だ。何事も焦りは禁物。エンタメデュエリストならば尚更気をつけねばならない。

 

「エキストラをリリースし、デッキの『魔界劇団-ダンディ・バイプレイヤー』をセッティング!更に『魔界劇団-ワイルド・ホープ』もセッティングだ!これでレベル3から7までのモンスターを同時に召喚可能!ペンデュラム召喚!『魔界劇団-プリティ・ヒロイン』!」

 

魔界劇団-プリティ・ヒロイン 守備力1000

 

沢渡の背後に髭をたくわえ、ラッパを鳴らす老人とハットを被り、光線銃を持った新入りが現れて光の柱に包まれ、上空に線を結んで光の魔方陣を描き出す。早速ペンデュラム、観客達がお祭り騒ぎで盛り上がる中、登場したのは可愛らしい『魔界劇団』の姫君だ。

 

「ダンディ・バイプレイヤーの効果でエクストラデッキのエキストラを回収、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『魔界劇団-プリティ・ヒロイン』(攻撃表示)

『修験の妖社』セット1

Pゾーン『魔界劇団-ダンディ・バイプレイヤー』『魔界劇団-ワイルド・ホープ』

手札1

 

沢渡のターンが終了し、遊矢のターンへ、見た所沢渡の手札は良くも無く、悪くも無くと言った様子だろう。それにしても『魔界劇団』と『妖仙獣』を合わせたデッキとは。相性が良いとは余り言えないが、彼の事だ。何とかして来るだろう。それとも複数のカテゴリを投入した遊矢やコナミのデッキに対抗したのかもしれない。

 

「さぁ、お前のターンたぜ?カードを引きな!」

 

「ああ!俺のターン、ドロー!俺は『EMシルバー・クロウ』と『EMゴムゴムートン』の2体でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル2から4のモンスターを同時に召喚可能!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMヘイタイガー』!」

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700→2000

 

今度は遊矢のペンデュラム召喚、振り子の軌跡で現れたのは赤い軍服を着用した虎の兵士だ。腰からサーベルを引き抜き、果敢に吠える。

 

「シルバー・クロウのペンデュラム効果で俺の『EM』モンスターの攻撃力は300アップ!バトルだ!ヘイタイガーでプリティ・ヒロインに攻撃!」

 

ヘイタイガーがサーベルを振るい、プリティ・ヒロインの鞭を捌きながら前進、見事その懐に飛び込む。しかしそれはプリティ・ヒロインの仕掛けた罠。ヘイタイガーが歩み寄った所に鞭を振るい、その頭に命中――だがヘイタイガーとて負けていない。デフォルメされて隠されているが、ヘイタイガーは獰猛な肉食獣。その鋭い牙で鞭を噛み切り、サーベルで一閃、プリティ・ヒロインをエクストラデッキに送り込む。

 

「ひゅう、やるねぇ。だがプリティ・ヒロインの効果でデッキの魔法カード、『魔界台本「魔王の降臨」』をセットするぜ」

 

「俺もヘイタイガーの効果でデッキの『EMペンデュラム・マジシャン』をサーチ!」

 

互いにこれは前哨戦、モンスターが破壊された事を機に、カードを呼び込む。勝負は次のターンからと言う事か。ニヤリと笑みを浮かべながらフィールドを駆け抜ける。

 

「モンスターとカードをセット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMヘイタイガー』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

Pゾーン『EMシルバー・クロウ』『EMゴムゴムートン』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『魔界劇団-プリティ・ヒロイン』!『光帝クライス』!」

 

魔界劇団-プリティ・ヒロイン 攻撃力1500

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

再び揺れ動くペンデュラム。今回現れたのはプリティ・ヒロインと黄金に輝く甲冑を纏った皇帝だ。帝に『魔界劇団』、『妖仙獣』。今までの沢渡のデッキを纏めて混合したかのようなデッキだ。ダーツ?知らない子ですね。

 

「クライスの効果!ダンディ・バイプレイヤーとワイルド・ホープを破壊し、2枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札1→3

 

「更に破壊されたワイルド・ホープの効果で『魔界劇団-ファンキー・コメディアン』をサーチするぜ!」

 

これこそが沢渡の持つ強力な手札補充のドローエンジン。遊矢の『EMギタートル』と『EMリザードロー』とも言うべき黄金パターン。クライスターボ。ここにワイルド・ホープが加わる事で3枚のカードを回復出来るのだ。

 

「まだだ!リバースカードオープン!魔法カード、『魔界台本「魔王の降臨」』を発動!自分フィールドの攻撃表示で存在する『魔界劇団』の数まで相手フィールドの表側表示のカードを破壊!『EMゴムゴムートン』を破壊!」

 

「ッ!」

 

アタッカーであるヘイタイガーでも、攻撃力アップのシルバー・クロウでも無く、戦闘破壊を防ぐゴムゴムートンの破壊。成程、どうやら沢渡には攻撃力2000になったヘイタイガーを処理する方法があるのだろう。だから戦闘耐性とスケールを割る意味でもこちらを選んだのだ。折角攻撃に備えようとしていたのだが、そう上手くいかないか。これならば手早く『EMペンデュラム・マジシャン』を召喚していれば良かった。

 

「そして『妖仙獣木魅』を召喚!」

 

妖仙獣木魅 攻撃力0

 

風に吹かれ、登場したのは木の葉で身を包んだバレーボールサイズの目玉のモンスター。血走った眼をギョロギョロと動かす姿は不気味であるが、その小柄なサイズを見ると可愛らしくも見える。

 

「『修験の妖社』に妖仙カウンターが乗る」

 

修験の妖社 妖仙カウンター0→1

 

「そして木魅をリリース、『修験の妖社』にカウンターを3つ乗せるぜ!」

 

修験の妖仙社 妖仙カウンター1→4

 

「妖仙カウンターを3つ取り除き、デッキの『妖仙獣凶旋嵐』をサーチ!」

 

修験の妖社 妖仙カウンター4→1

 

「木魅を墓地から除外し、俺はもう1度『妖仙獣』の召喚権を得る!プリティ・ヒロインをリリース、アドバンス召喚!『妖仙獣凶旋嵐』!」

 

妖仙獣凶旋嵐 攻撃力2000

 

修験の妖社 妖仙カウンター1→2

 

次に現れたのは禍々しい瘴気を放つ漆黒の鎌鼬。巨大な赤い数珠を首から下げ、ボロボロのマフラーを風に揺らし、鋭い牙が並ぶ口から長い舌を出し、鎌刀を舐めるその姿は不気味で恐ろしい。

 

「凶旋嵐の召喚時、デッキの『妖仙獣閻魔巳裂』を特殊召喚!」

 

妖仙獣閻魔巳裂 攻撃力2300

 

修験の妖社 妖仙カウンター2→3

 

お次は僧の姿をし、頭に2本の角を伸ばし、巨大な刀を持った獣人だ。成程、確かにこれならばヘイタイガーを倒す事が出来る。

 

「バトルだ!閻魔巳裂でヘイタイガーに攻撃!」

 

榊 遊矢 LP4000→3400

 

閻魔巳裂がその大刀を力任せに振るい、ヘイタイガーへと襲いかかる。だがヘイタイガーがその並外れた脚力で地を蹴り、俊敏な動きで閻魔巳裂を翻弄、細く鋭いサーベルで閻魔巳裂を突き刺そうとするも――ガキン、閻魔巳裂の鋼鉄の肉体を前にポッキリと真っ二つに折れてしまう。まさかの展開にその場に固まって瞠目するヘイタイガー。瞬間、閻魔巳裂はニィッ、と頬が破けんばかりに獰猛で好戦的な笑みを浮かべ、その大刀を目にも止まらぬ速度でヘイタイガーへと振り下ろし、ヘイタイガーが光の粒子となって砕け散る。

 

「凶旋嵐でセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『EMインコーラス』だ!戦闘破壊された事でデッキの『EMロングフォーン・ブル』をリクルート!」

 

EMロングフォーン・ブル 守備力1200

 

続けて凶旋嵐が狂ったように笑い声を上げながら鎌刀に身を任せるように振りまくり、セットモンスターを切り刻もうとする。セット状態からチラリとフィールドを覗き、慌てて捕食者から逃げるインコーラス。3羽で飛翔して音波を放った後、遊矢のエクストラデッキへと逃げ込む。そして電波を受信し、登場したのは角に受話器をかけた青い牡牛。その効果で更に次のモンスターに連絡する。

 

「特殊召喚時、『EMセカンドンキー』をサーチする!」

 

「チッ、後続を残したか……ま、そうで無くちゃ面白くねぇ。俺はファンキー・コメディアンをエキストラをセッティング!カードを1枚セットし、ターンエンド。この瞬間、特殊召喚した閻魔巳裂を手札に戻す」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『妖仙獣凶旋嵐』(攻撃表示)『光帝クライス』(攻撃表示)

『修験の妖社』セット2

Pゾーン『魔界劇団-ファンキー・コメディアン』『魔界劇団-エキストラ』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!俺は『EMペンデュラム・マジシャン』をセッティング!ペンデュラム召喚!『EMインコーラス』!『EMセカンドンキー』!」

 

EMインコーラス 攻撃力500→800

 

EMセカンドンキー 攻撃力1000→1300

 

何度も続くペンデュラム合戦、今度は遊矢の番となり、2体のモンスターが呼び出される。現れたのは先程も遊矢を助けてくれた3羽のカラフルなインコとロバのモンスターだ。バッ、と遊矢は肩からかけた制服をはためかせ、セカンドンキーに跨がり移動を開始する。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』のペンデュラム効果で『EM』の攻撃力を1000アップ!セカンドンキーの効果で『EMドクロバット・ジョーカー』をサーチ!」

 

EMインコーラス 攻撃力800→1800

 

EMロングフォーン・ブル 攻撃力1900→2900

 

EMセカンドンキー 攻撃力1300→2300

 

「『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800→2100

 

怒濤の展開、次に遊矢のフィールドに現れたのは継ぎ接ぎだらけのシルクハットに黒い仮面、トランプのマークを散りばめた燕尾服を纏った道化師のモンスターだ。

 

「効果で『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をサーチ!」

 

ドクロバット・ジョーカーがガサゴソと自身の燕尾服のポケットを漁り、ポイポイと様々な道具を出しては捨てていく。目的の物が中々見つからないのか、映画版ドラえもんのような奴である。そして漸く見つけたのは風船ガム。クッチャクッチャと何度も口の中で噛み、ぷくりと膨らませ、キュッ、キュッと器用に壊さず捻ってバルーンアートを作り出す。その姿はデフォルメされた『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』に酷似しており、風船は風に流され遊矢の下へ向かい、破裂して中から1枚のカードがヒラリと舞い、遊矢の手札に加えられる。

 

「バトルだ!インコーラスで凶旋嵐へ攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!その攻撃を無効にするぜ!」

 

「ドクロバット・ジョーカーで凶旋嵐を攻撃!」

 

沢渡 シンゴ LP4000→3900

 

ドクロバット・ジョーカーの飛び蹴りが凶旋嵐に炸裂し、彼が乗っていたブロックから突き落とす。何ともコミカルな光景だ。

 

「ロングフォーン・ブルでクライスへ攻撃!」

 

沢渡 シンゴ LP3900→3400

 

更なる追撃が沢渡を襲う。ロングフォーン・ブルが蹄で地を蹴り、クライスに突進、破壊する。そして防御札が無いと思い、これを好機と捉えた遊矢が更に追撃をかける。

 

「セカンドンキーで攻撃!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にして、1枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札1→2

 

だが沢渡は防御札が使えなかったのでは無く、使わなかっただけ。このドクロバット・ジョーカーよりも重いダメージを凌ぐ為、隠していた盾でこれを防ぐ。

 

「ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP3400

フィールド『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMインコーラス』(攻撃表示)『EMロングフォーン・ブル』(攻撃表示)『EMセカンドンキー』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMシルバー・クロウ』『EMペンデュラム・マジシャン』

手札3

 

「俺のターン、ドロー!妖仙カウンターを3つ取り除き、『妖仙獣大幽谷響』をサーチ!」

 

修験の妖社 妖仙カウンター3→0

 

「罠発動!『魔界劇団の楽屋入り』!デッキの『魔界劇団-ビッグ・スター』と『魔界劇団-サッシー・ルーキー』をエクストラデッキに加える!ペンデュラム召喚!『魔界劇団-ビッグ・スター』!!『魔界劇団-ワイルド・ホープ』!『魔界劇団-プリティ・ヒロイン』!『魔界劇団-サッシー・ルーキー』!『妖仙獣閻魔巳裂』!」

 

魔界劇団-ビッグ・スター 攻撃力2500

 

魔界劇団-ワイルド・ホープ 攻撃力1600

 

魔界劇団-プリティ・ヒロイン 攻撃力1500

 

魔界劇団-サッシー・ルーキー 攻撃力1700

 

妖仙獣閻魔巳裂 攻撃力2300

 

修験の妖社 妖仙カウンター0→1

 

振り子の軌跡の下、沢渡のフィールドに5体のモンスターが姿を見せる。まずは沢渡のエースにして『魔界劇団』の大スター、メタリックで渦巻く赤髪が特徴的な隻眼の悪魔。ビッグ・スターに、劇団期待の新人コンビ、ワイルド・ホープにサッシー・ルーキー。姫君、プリティ・ヒロイン。そして最後はゲストである閻魔巳裂だ。

 

「閻魔巳裂のペンデュラム召喚時、お前のセットカードを破壊!」

 

「ッ!」

 

「ワイルド・ホープの効果!モンスターゾーンの『魔界劇団』の種類×100攻撃力をアップ!」

 

魔界劇団-ワイルド・ホープ 攻撃力1600→2000

 

「ビッグ・スターの効果でデッキから2枚目の魔王の降臨をセット、オープン!テメェのドクロバット・ジョーカー、インコーラス、シルバー・クロウ、『EMペンデュラム・マジシャン』の4枚を破壊!」

 

ビッグ・スターの背から6枚の翼が生え、その羽ばたきによる強風が遊矢のフィールドを蹂躙する。思わず遊矢もセカンドンキーから落ちそうになるが、何とか持ち堪え、セカンドンキーの背を蹴って上空に浮かぶブロックへと避難する。

 

「バトル!ビッグ・スターでロングフォーン・ブルを!閻魔巳裂でセカンドンキーへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!セカンドンキーの戦闘ダメージを0に!」

 

榊 遊矢 LP3400→2500

 

悪魔と妖怪によるタッグが遊矢へと襲いかかり、彼のモンスターを破壊し尽くす。アクションマジックで防げたのも1体だけだ。そして猛攻は更に続く。

 

「さぁ、皆の衆、やってやれ!ダイレクトアタック!」

 

「させない!墓地の『光の護封霊剣』を除外し、このターンのダイレクトアタックを封じる!」

 

カカカンッ、と遊矢に向かって駆けるモンスター達の眼前に、天空より降り注ぐ光輝く剣の雨が行く手を遮る。それを見て舌打ちを鳴らす沢渡。てっきり『EMピンチヘルパー』だと思っていたが、そのイメージが強過ぎたか、やはりそう簡単にはいかないらしい。

 

「チッ、俺はカードを1枚セットし、ターンエンド。閻魔巳裂は手札に戻るぜ」

 

沢渡 シンゴ LP3400

フィールド『魔界劇団-ビッグ・スター』(攻撃表示)『魔界劇団-ワイルド・ホープ』(攻撃表示)『魔界劇団-プリティ・ヒロイン』(攻撃表示)『魔界劇団-サッシー・ルーキー』(攻撃表示)

『修験の妖社』セット1

Pゾーン『魔界劇団-ファンキー・コメディアン』『魔界劇団-エキストラ』

手札3

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『魔力の泉』を発動!相手フィールドの表側表示の魔法、罠の数までドローし、自分フィールド上の表側表示の魔法、罠カードの数だけ手札を捨てる!お前のフィールドはアクションフィールドを含めて4枚、よって4枚ドローし、俺のフィールドのこのカードとアクションフィールド2枚分を捨てる!」

 

榊 遊矢 手札3→7→5

 

「ここで手札増強と墓地肥やしか!俺程じゃねぇが、やっぱ持ってやがる……!」

 

「まぁね!更に魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキから10枚除外し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→6

 

「俺は『EMブランコブラ』と『EMウィム・ウィッチ』でペンデュラムスケールをセッティング!魔法カード、『ペンデュラム・ターン』を発動し、ウィム・ウィッチのスケールを10に拡張!ペンデュラム召喚!『EMドクロバット・ジョーカー』!『EMインコーラス』!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMシルバー・クロウ』!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

EMインコーラス 守備力500

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

振り子の軌跡で現れる遊矢のモンスター達。仮面の道化師に3羽のインコ、真っ赤な衣装に身を包んだ振り子のマジシャン。鋭い鉤爪を持つ銀狼。そして遊矢の頼もしいエースカード、真紅の体躯を唸らせる、オッドアイの竜だ。揃う5体のモンスター、遊矢と沢渡のペンデュラムモンスターが睨み合う。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果!スケールを破壊し、『EMギタートル』と『EMリザードロー』をサーチ!セッティング!ギタートルの効果でドロー!リザードローを破壊し、もう1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3→4

 

「厄介だぜ、そのドロー……!」

 

これこそが遊矢の黄金パターン、沢渡のクライスターボに対する遊矢の対抗手だ。エクストラデッキを肥やし、新たな手札を呼び込む。ペンデュラムにとってエクストラデッキは何よりも大切なものだ。ここでの手数の多さが重要となる。

 

「俺はシルバー・クロウとドクロバット・ジョーカーでオーバーレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

ここで遊矢が一気に勝負に出る。彼の背後に星を散りばめた渦が広がり、道化師と銀狼が光の線となって飛び込み、渦は集束、爆発を引き起こし、黒煙が舞い上がる。そして中から赤き雷が迸り、鋭い牙が雲を引き裂く。現れたのはユートのエースカード、刃物のような牙と翼を広げ、体躯に赤い血流を走らせた黒竜だ。

 

「ダーク・リベリオンのORUを2つ取り除き、効果発動!ビッグ・スターの攻撃力を半減し、このカードに加える!トリーズン・ディスチャージ!」

 

魔界劇団-ビッグ・スター 攻撃力2500→1250

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→3750

 

ダーク・リベリオンの双翼に嵌め込まれた紅玉から赤き電流が駆け抜け、ビッグ・スターから力を吸収する。攻撃力2500分のダメージを無理矢理通す強力な効果、これで沢渡へ打って出る。

 

「まだまだ!魔法カード、『置換融合』!フィールドの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『EMペンデュラム・マジシャン』で融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

エクシーズに続き、融合へ。2つのペンデュラムが重なり、現れたのは背の三日月を満月へと変え、金属で左目を覆った『オッドアイズ』の進化形態。この2体の竜で沢渡へ挑戦する。

 

「バトル!ルーンアイズでプリティ・ヒロインへ攻撃!」

 

「ここで決着をつけようってか!?冷たいじゃねぇか、ツレねぇじゃねぇか。そんな事言うなよ!罠発動!『攻撃の無敵化』!ダメージを0にし、破壊されたプリティ・ヒロインの効果でデッキの『魔界台本「魔界の宴タ女」』をセット!」

 

「くっ、やるなぁ、沢渡……!」

 

攻撃を防ぎつつ、次のターンの準備を。見事な手腕を見て、舌を巻く遊矢。そうだ、これこそが沢渡 シンゴ。遊矢と何度もぶつかり、観客達を熱狂に包み込んだエンタメデュエリスト。やはり彼とのデュエルは面白い。今もその証拠に囚人達もこのデュエルに夢中になってエキサイトしている。

 

正直、遊矢とて分かっている。エンタメデュエリストとしては、彼が上手だと。予想もつかないデュエルに言葉巧みに観客を乗せ、相手を誘導する口の上手さ。そして声援を受け、どんどん強くなる特異なスタイル。これ程までにエンターテイナーとして秀でたものはいない。デニスだってそうだろう。彼等の人の琴線に触れる力と言うものは遊矢よりも優れている。だけど――負けるつもりは毛頭無い。

 

劣っているならこのデュエルの中で、彼のデュエルを吸収して見せるまで。ニヤリ、口の端を吊り上げ、更に踏み込み、フィールドを駆ける。沢渡もまた、2人のデュエルはぶつかり合い、高め合う。際限無く、振り切った限界をまた乗り越えて。

 

「もっともっと面白く!俺はカードを2枚セットし、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP2500

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)

セット2

Pゾーン『EMギタートル』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!そうだ!このデュエルでどんな名勝負も過去のものにしてやる!あのチャンピオンシップの、俺とお前の激闘も、このデュエルで塗り変える!歴史は繰り返す?違うな!どんなにスゲェ記録も、それは越える為にある!リバースカード、オープン!永続魔法、『魔界台本「魔界の宴タ女」』を発動!サッシー・ルーキーをリリースし――墓地の『魔界台本「魔王の降臨」』をセット!発動!テメェのダーク・リベリオンとインコーラスを破壊!」

 

沢渡のエンタメデュエルを表すようなカードが発動され、再び魔王の降臨が炸裂、遊矢のモンスターを蹂躙する。脅威的な爆発力、これこそが彼の『魔界劇団』の厄介な所だ。しかもこの強力な魔王の降臨が3回で終わると思いきや、再利用されると来た。流石にこれは辛い。

 

「まだだ!これだけじゃ終わらねぇ!俺はビッグ・スターの効果でデッキから『魔界台本「オープニング・セレモニー」』をセットし、ビッグ・スターとワイルド・ホープをリリース、アドバンス召喚!『怨邪帝ガイウス』!」

 

怨邪帝ガイウス 攻撃力2800

 

アドバンス召喚――最も基本の召喚法で現れたのは邪悪な魂を司る漆黒の帝王。その身に纏ったマントを靡かせ、黒く燃える霊魂を操り、遊矢へと撃ち出す。

 

「その、カードは――!」

 

「アドバンス召喚時、テメェのフィールドのカードを1枚除外する!更に闇属性モンスターをリリースして召喚された為、もう1枚も除外、更にぃ、この効果で闇属性モンスターを除外すればぁ、相手に1000のダメージを与える!ここは両方セットカードといきたい所だが――フリーチェーンだと困るからなぁ、ルーンアイズと右のセットカードを除外!これでテメェはバーンに加え、このターンを防いでも『置換融合』でドロー出来なくなるって訳よ!ナーハッハッハァッ!」

 

「ご丁寧な説明ありがとう!これだけ盛り上げられてすんなり通しちゃエンタメデュエリストの名が廃る!対象となったセットカードを発動!速攻魔法、『神秘の中華なべ』!」

 

「うそぉん!?」

 

次々と説明し、フラグを立てる沢渡に答え、見事遊矢がこの危機を回避する。発動されたのはこの状況では最も正解と言えるカードだ。

 

「ルーンアイズをリリースし、攻撃力3000分、LPを回復!」

 

榊 遊矢 LP2500→5500

 

ルーンアイズを墓地に送りつつ、LPを大量に回復、何とか難は逃れたものの、これで遊矢のフィールドががら空きになってしまった。対する沢渡にはまだペンデュラム召喚が残っている。

 

「だけどこいつはかわせるかな!?ペンデュラム召喚!『魔界劇団-ビッグ・スター』!『魔界劇団-ワイルド・ホープ』!『魔界劇団-サッシー・ルーキー』!『妖仙獣閻魔巳裂』!」

 

魔界劇団-ビッグ・スター 攻撃力2500

 

魔界劇団-ワイルド・ホープ 攻撃力1600

 

魔界劇団-サッシー・ルーキー 守備力1000

 

妖仙獣閻魔巳裂 攻撃力2300

 

修験の妖社 妖仙カウンター1→2

 

幾度も揺れ動く振り子の軌跡、遊矢が勢い良く踏み込めば、沢渡は更に力を込めて返す。繰り返す度、その軌跡は鮮やかなものになっていく。

 

「閻魔巳裂の効果でセットカードを破壊!」

 

「破壊された『運命の発掘』の効果発動!墓地のこのカードの数だけドローする!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「チッ、とことん裏目に出やがる。だがこれでテメェのカードはギタートルだけ!俺はセットした『魔界台本「オープニング・セレモニー」』を発動!フィールドの『魔界劇団』モンスターの数×500回復!」

 

沢渡 シンゴ LP3400→4900

 

「まだまだ行くぜ!ビッグ・スターの効果で3枚目の魔王の降臨をセット、オォゥプン!ギタートルも破壊ィ!放置すればテメェはそれで逆転する。どんな小さな種を摘み取ってやるよ!」

 

遊矢の実力を認めているからこそ、沢渡は全力で、出し惜しみ無く遊矢を追い詰める。ランサーズ内でこれ程までに遊矢を相手に的確な手を取れる者はいないだろう。敵であったからこそ、味方であるからこそ、この2側面を充分に活かして、有利に事を運べるのだ。対榊 遊矢に関して彼以上の適役は無い。

 

「ここまで買ってくれるとはな……!益々ここで終われなくなって来たじゃ無いか!」

 

「ぬかせ!ワイルド・ホープの効果で攻撃力アップ!」

 

魔界劇団-ワイルド・ホープ 攻撃力1600→1900

 

「バトル!ビッグ・スターでダイレクトアタック!」

 

「手札の『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効、バトルフェイズを終了!」

 

赤いサングラスをかけ、三角帽子を被ったかかしが行く手を遮る。思わず急停止する沢渡のモンスター。彼等は急激に止まった事で崩れ、重なって身動きが封じられる。

 

「つくづく運の良い奴だ。俺様は魔法カード、『一時休戦』を発動。互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0に」

 

沢渡 シンゴ 手札1→2

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ。この瞬間、閻魔巳裂を手札に戻るぜ」

 

沢渡 シンゴ LP4900

フィールド『魔界劇団-ビッグ・スター』(攻撃表示)『魔界劇団-ワイルド・ホープ』(攻撃表示)『魔界劇団-サッシー・ルーキー』(守備表示)『怨邪帝ガイウス』(攻撃表示)

『魔界台本「魔界の宴タ女」』『修験の妖社』セット1

Pゾーン『魔界劇団-ファンキー・コメディアン』『魔界劇団-エキストラ』

手札2

 

フィールドを走りながらもう何度目か分からないピンチに陥る遊矢。やはり厄介なのはその核となっている『魔界台本』をサーチするビッグ・スター。だがこのカードを対処してもまだ問題はある。今の問題は――『魔界台本「魔界の宴タ女」』。このカードが有る限り、『魔界劇団』をリリースし、魔王の降臨が連発される。そうなっては押し切られるのは遊矢の方だ。

 

「俺のターン、ドロー!墓地の『置換融合』を除外、ルーンアイズをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→5

 

「魔法カード、『金満な壺』!エクストラデッキのギタートル、リザードロー、墓地のドクロバット・ジョーカーをデッキに戻してドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→6

 

ドロー、ドロー、ドロー。呆れる位の3連続ドローによる手札補充で一気に遊矢の手札が6枚まで膨れ上がる。当然そのデメリットも重い。このターン、遊矢はペンデュラム召喚しか行えないのだ。

 

「『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

「戻したカードを直ぐに引くかよ……」

 

「召喚時に『EMギタートル』をサーチ!リザードローと共にセッティング!ギタートルのペンデュラム効果でドロー!リザードローを破壊し、もう1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→5→6

 

「『EMダグ・ダガーマン』をセッティング!ペンデュラム効果で『EMヘイタイガー』を回収し、ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMヘイタイガー』!『EMインコーラス』!『刻剣の魔術師』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700

 

EMインコーラス 守備力500

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

ここで召喚されたのは赤いマジシャンと虎の兵士、3羽のカラフルなインコと剣を持った少年『魔術師』。

 

「まずは『EMペンデュラム・マジシャン』の効果でこいつとダグ・ダガーマンを破壊し、『EMカレイドスコーピオン』と『EMラディッシュ・ホース』をサーチ!カレイドスコーピオンをセッティングし、速攻魔法、『揺れる眼差し』を発動!互いのペンデュラムゾーンのカードを全て破壊!『EMモモンカーペット』をサーチ!『魔界台本「魔界の宴タ女」』を除外!」

 

サーチ、除外と2つの効果が炸裂し、沢渡のフィールドを崩していく。これで厄介な魔界の宴タ女を除去した。後はビッグ・スターのみ。このカードはペンデュラムモンスター。破壊しても次のターン、沢渡がスケールを揃えれば再び現れる。ならば――。

 

「刻剣の効果!このカードとビッグ・スターを除外!」

 

刻剣がその剣で次元を裂き、ビッグ・スターを連れて次元の裂け目へ飛び込む。これで魔王の降臨による全体破壊を封じた。残るはモンスター、ガイウスの打点が驚異的だが、その対策も手札に呼び込んでいる。

 

「『EMモモンカーペット』と『EMラディッシュ・ホース』をセッティング!そしてラディッシュ・ホースのペンデュラム効果!『EMドクロバット・ジョーカー』の攻撃力分、ガイウスの攻撃力をダウン!」

 

怨邪帝ガイウス 攻撃力2800→1000

 

ペンデュラムゾーンに現れたラディッシュ・ホースが大根の角を飛ばして弾けさせ、ガイウスを弱体化させる。見事な逆転劇。遊矢の快進撃は止まらない。

 

「バトル!ヘイタイガーでガイウスに攻撃!」

 

ヘイタイガーがサーベルを抜き、ガイウスの黒炎を切り払いながら突き進む。しかし帝王は弱体化しても帝王。残る力を振り絞り、サーベルを拳で砕く。空中で舞い、バラバラになるサーベルの破片。その煌めく鏡面のような刀身が写したのは――長銃を構えるヘイタイガーの姿。ズドンッ、と重い音が響き、ガイウスが倒れ伏す。

 

「ヘイタイガーの効果で『EM小判竜』をサーチ、魔法カード、『打出の小槌』を発動し、手札を入れ替え、カードを3枚伏せ、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP5500

フィールド『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMヘイタイガー』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)

セット3

Pゾーン『EMモモンカーペット』『EMラディッシュ・ホース』

手札0

 

加速していく2人のデュエル。振り子を波のように、押しては返す。続く沢渡のターン、彼は一体どんな手を取り、遊矢を、そして観客達を驚かせ、楽しませてくれるのか、上がるハードル、だけどきっと、彼は難なくそれを乗り越えるだろう。その為に――遊矢はカードを伏せ、沢渡を迎え撃つ。

 

「さぁ、遊矢!俺様のエンタメデュエル、その目に焼きつけやがれ!」

 

「かかって来い!沢渡!俺はそれを、乗り越える!」

 

互いに不適な笑みを浮かべ、激闘に更なる拍車をかける。まだまだデュエルは始まったばかり――。

 




魔界劇団妖仙獣帝書くのクッソ楽しい……。


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第110話 俺、カードに選ばれスギィ!

島君とモブハノイの完璧なデュエルを見て大爆笑。現実でも使ってみたいですね、完璧な手札(震え声)。
ところでサモン・ソーサレスのお陰で100%1キル可能なデッキが生まれてしまったとか。……定期講読しようかなぁ……(遠い目)。


地獄とも言える収容所で繰り広げられる、アクションデュエルと言う名のエンターテイメント。観客達が魅了され、熱狂して声を上げる。囚人も、看守も、熱に浮かされたように――遊矢と沢渡の対決に見入っている。一瞬たりとも目を放すまいと、彼等を惹き付けて止まない。

 

「もっともっと盛り上げてやるぜ!俺のターン、ドロー!俺はサッシー・ルーキーをリリースし、アドバンス召喚!『光帝クライス』!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

再び、沢渡のフィールドに現れる黄金の皇帝。仕掛けて来る。遊矢はグッ、と拳を握り締めて身構える。

 

「さぁ、黄金劇場の幕を上げろ!クライスとワイルド・ホープを破壊し、2枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札2→4

 

「更にぃ、ワイルド・ホープの効果で『魔界劇団-ダンディ・バイプレイヤー』をサーチ!良いカードを引いたぜ。いや、引き込んだと言うべきか!魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『妖仙獣凶旋嵐』、『妖仙獣木魅』、『光帝クライス』2体、『怨邪帝ガイウス』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札4→6

 

遊矢に比肩する程のドローラッシュ、それにより、沢渡の手札が見る見る内に回復する。準備は整った。ドローした2枚を見て、沢渡の口角が持ち上がる。

 

「やっぱ俺、カードに選ばれスギィ!俺は魔法カード、『妖仙獣の神颪』を発動!自分フィールドにモンスターが存在しない場合、デッキの『妖仙獣右鎌神柱』、『妖仙獣左鎌神柱』をセッティング!」

 

「1枚で2枚の交換……!って言うか、そのカードが来たって事は……!」

 

沢渡の背に現れる2本の柱、そのカードの登場に遊矢が瞠目し、口元を緩ませる。本当にこの男は――面白いデュエルをしてくれる。

 

「右鎌神柱のスケールを11に変更!」

 

右鎌神柱と左鎌神柱、2つの柱が1つの鳥居となり、その奥が異次元に繋がり、木の葉を巻き上げる突風が吹き荒れる。鳥居の奥から覗くは獰猛なる唸り声と爛々と赤く輝く獣の眼。来る、来る、来る。鳥肌が止まらない。アドレナリンが放出しっぱなし、熱き血が加速して流れる。心臓が早鐘を打つ。エンターテイメントが、昇華する――。

 

「ペンデュラム召喚!『妖仙獣閻魔巳裂』!烈風纏いしあやかしの長よ。荒ぶるその衣を解き放ち、大河を巻き上げ大地を抉れ!出でよ、『魔妖仙獣大刃禍是』!!」

 

魔妖仙獣大刃禍是 攻撃力3000

 

妖仙獣閻魔巳裂 攻撃力2300

 

修験の妖社 妖仙カウンター 2→3

 

獣が飛び出す。風を纏う、いや、風で作られた一角獣が。フィールドに君臨し、雄々しき咆哮を上げ、天を裂く。『妖仙獣』、最強のモンスター、沢渡 シンゴ、第2のエースモンスターが登場した。

 

「大刃禍是……!」

 

「さぁ、効果発動だ!閻魔巳裂の効果で『EMインコーラス』を破壊!大刃禍是の効果でヘイタイガーとドクロバット・ジョーカーをバウンス!ここで発動!永続罠、『妖仙郷の眩暈風』!『妖仙獣』モンスター以外のモンスターがバウンスされる場合、デッキに戻す!妖仙ロスト・トルネード!」

 

「させない!罠発動!『スキル・プリズナー』!ヘイタイガーを対象に取るモンスター効果を無効に!」

 

炸裂、妖仙ロスト・トルネード。しかしこのコンボは『妖仙大旋風』と『妖仙郷の眩暈風』のコンボ、大刃禍是で代用した事で遊矢が防ぐ決定打となる。チッ、と舌打ちを鳴らしつつ、そうでなくてはと笑う沢渡。所詮これは過去の戦法だ。通じてれば恩の字しか思ってない。こう言った割り切った考え方も沢渡の強みだ。

 

「カウンターを3つ取り除き、『妖仙獣鎌壱太刀』をサーチするぜ」

 

修験の妖社 妖仙カウンター3→0

 

「そして魔法カード、『マジック・プランター』!眩暈風を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札3→5

 

「速攻魔法、『揺れる眼差し』!スケールを破壊し、500のダメージを与える!」

 

榊 遊矢 LP5500→5000

 

「『魔界劇団-デビル・ヒール』をサーチし、ドクロバット・ジョーカーを除外!さぁ、バトルだ!大刃禍是でヘイタイガーに攻撃!」

 

榊 遊矢 LP5000→3700

 

「ぐうっ――!」

 

大刃禍是がその刃のような角を閃かせ、ヘイタイガーへ突進し、風の刃を纏って切り刻む。強力な一撃、遊矢はブロックを壁として何とか防ぐ。

 

「次は閻魔巳裂でダイレクトアタックだ!」

 

「永続罠、『EMピンチヘルパー』!直接攻撃を無効にし、デッキの『EMジンライノ』を効果を無効して特殊召喚!」

 

EMジンライノ 守備力1800

 

続いて閻魔巳裂の攻撃が遊矢を襲う。巨大な刀を降り下ろした一撃。これを受ければひとたまりも無い。直ぐ様遊矢はリバースカードをオープンし、そのカードの中から角に雷を纏った鋼鉄の身体を持つサイが現れ、攻撃を防ぐ。

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだ。この瞬間、2体の『妖仙獣』は手札に戻る」

 

沢渡 シンゴ LP4900

フィールド

『修験の妖社』セット1

手札6

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、刻剣とビッグ・スターがフィールドに戻る。もう1度除外、魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→3

 

「そして魔法カード、『マジック・プランター』!ピンチヘルパーをコストに2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「『EMチェーンジラフ』、『EMホタルクス』をセッティング!カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP3700

フィールド『EMジンライノ』

セット3

Pゾーン『EMチェーンジラフ』『EMホタルクス』

手札0

 

「何だ何だぁ?それで終わりかよ遊矢!だとしたら拍子抜けも良い所だぜ!俺のターン、ドロー!『魔界劇団-ダンディ・バイプレイヤー』と『魔界劇団-デビル・ヒール』をセッティング!ペンデュラム召喚!『魔界劇団-ワイルド・ホープ』!『魔界劇団-プリティ・ヒロイン』!『魔界劇団-サッシー・ルーキー』!『魔界劇団-ダンディ・バイプレイヤー』!『妖仙獣閻魔巳裂』!」

 

魔界劇団-ワイルド・ホープ 攻撃力1600

 

魔界劇団-プリティ・ヒロイン 攻撃力1500

 

魔界劇団-サッシー・ルーキー 攻撃力1700

 

魔界劇団-ダンディ・バイプレイヤー 守備力700

 

妖仙獣閻魔巳裂 攻撃力2300

 

修験の妖社 妖仙カウンター0→1

 

またまたペンデュラム召喚。もうこのデュエル何度目か分からないそれにより、沢渡のフィールドが賑やかなものとなる。その中で厄介なのは――。

 

「ダンディ・バイプレイヤーのペンデュラム効果でエクストラデッキの『魔界劇団-エキストラ』を回収!閻魔巳裂の効果で『EMジンライノ』破壊!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、防ぐ!」

 

このカード、閻魔巳裂。ペンデュラム召喚すればフィールドのカードの種類を問わず破壊し、ターンの終了には手札に戻るこのカード。厄介としか言いようが無い。

 

「ハッ、そう来るだろうな!だから俺はこうするぜ!まずはダンディ・バイプレイヤーをリリースし、エクストラデッキの『魔界劇団-ファンキー・コメディアン』を特殊召喚!」

 

魔界劇団-ファンキー・コメディアン 守備力200

 

防ぐ遊矢の手も折り込み済み。その不敵な笑みを崩さず沢渡は次の手に出る。恐るべき猛攻、遊矢はどこまで堪えられるか。食らいつくだけでも必死。

 

「ファンキー・コメディアンの効果!フィールドの『魔界劇団』モンスターの数×300、このカードの攻撃力をアップする!」

 

魔界劇団-ファンキー・コメディアン 攻撃力300→1500

 

複数の腕を持った太った悪魔、ファンキー・コメディアンに劇団の力が集まっていく。そしてそのままエネルギーを4本の腕で掴み、ワイルド・ホープへとパスする。

 

「そしてこのカードの攻撃力をワイルド・ホープに加える!」

 

魔界劇団-ワイルド・ホープ 攻撃力1600→3100

 

「もう一丁、ワイルド・ホープ自身の効果で攻撃力アップ!」

 

魔界劇団-ワイルド・ホープ 攻撃力3100→3500

 

攻撃力、3500。下級モンスターにしては余りにも馬鹿げた数値が遊矢の前に立ち塞がる。強力、凶悪、一体この男はいくつものネタをデッキに仕込んでいるのか。臨機応変、あの手この手で来られたら、こちらの方がジリ貧だ。

 

「対策が追いつかない――そんな顔だなぁ?」

 

「――ッ!」

 

そんな遊矢の考えを、沢渡は見透かしたように口にする。顔に出ていたか。エンターテイナーが感情を気取られるとは、何たる失態。だが沢渡はそんな事も気にせずに言葉を続ける。

 

「違うね、俺には誰も追いつけない!時代さえも置き去りにする、それがこの俺、沢渡 シンゴだ!」

 

「「「沢渡さぁーん、それでも俺達はついていきますよぉーっ!!」」」

 

「へっ、当たり前だ!ぼさっとしてると置いてくぜ☆」

 

ああ違った。ただ単に何時ものヤツだったと遊矢は半眼となる。相変わらず仲が良い4人を見て、遊矢が溜め息を吐き、もう1度吸い込んで気を引き締める。呆れていても油断は出来ない。相手は沢渡 シンゴ。遊矢が心の底から尊敬し、憧れ、ライバルとして認めるエンタメデュエリストだ。

 

「更に俺はぁ!サッシー・ルーキーとファンキー・コメディアンをリリースし、アドバンス召喚!大刃禍是!!」

 

魔妖仙獣大刃禍是 攻撃力3000

 

修験の妖社 妖仙カウンター1→2

 

再び下界に現れ、暴風を引き起こす人ならざる超常の妖獣。だが今回はアドバンス召喚の為、手札には戻らない。攻撃力3000のモンスターが場に居座るのも面倒である。

 

「効果でチェーンジラフとホタルクスをバウンス!そいつ等の効果は分かってんだよぉ!チェーンジラフで戦闘破壊したジンライノに耐性を与えて復活し、このターンを堪えるぅ?それともホタルクスでジンライノをリリースし、バトルフェイズを終了するぅ?二段構えで隙が無いように見えるが――こっちも二段構えで行けば何の問題もねぇんだよ!」

 

正当だ。二段構えと一気に2枚突き崩してしまえば何の問題も無い。それに手痛いのは『スキル・プリズナー』をジンライノに使わざるを得なかった事だ。チェーンジラフとホタルクス、どちらもモンスターがいて成り立つカードだ。だからこそジンライノを守らざるを得なかった。こんな事ならピンチヘルパーを手放さなかった方が良かったか。

 

「バトルだ!大刃禍是でジンライノに攻撃!」

 

「罠発動!『エンタメ・フラッシュ』!相手モンスターを守備表示に!」

 

だが何も防ぐ手立てが無い訳では無い。ランサーズトップクラスの防御力は伊達では無いのだ。ジンライノがその巨大な角に雷を落とし、スパークさせて沢渡のモンスターを地に縛り付ける。表示形式の変更も封じるこのカードを受けては流石の沢渡も追撃不可能。

 

「チッ、うざってぇ。ピンチヘルパーが無きゃ何とかなると思ったが読み間違えたか……!俺はこれでターンエンドだ。閻魔巳裂を手札に戻す」

 

沢渡 シンゴ LP4900

フィールド『魔界劇団-ワイルド・ホープ』(守備表示)『魔界劇団-プリティ・ヒロイン』(守備表示)『魔妖仙獣大刃禍是』(守備表示)

『修験の妖社』セット1

Pゾーン『魔界劇団-ダンディ・バイプレイヤー』『魔界劇団-デビル・ヒール』

手札5

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、刻剣とビッグ・スターがフィールドに戻り、もう1度除外!罠発動!『強欲な瓶』!1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「魔法カード、『手札抹殺』!お互いに手札を捨て、その分ドローする!これでもう閻魔巳裂は召喚出来ない!」

 

「チッ!」

 

手札に戻ったホタルクスとチェーンジラフを処理しつつ、沢渡の『妖仙獣』を墓地に送らせる。尤も、大刃禍是がフィールドに残っているのが惜しい所だが。

 

「『EMキングベアー』と『曲芸の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMカレイドスコーピオン』!『EMシルバー・クロウ』!『EMウィップ・バイパー』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMカレイドスコーピオン 攻撃力100

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700

 

4体同時召喚、ペンデュラムの本領発揮で現れたのは振り子のマジシャンに万華鏡の尾を持つ蠍。銀狼に紫の蛇と個性豊かなモンスター。そしてこの状況で遊矢の助けとなる核を担うのは――シルバー・クロウ。

 

「まずは『EMペンデュラム・マジシャン』の効果でジンライノと曲芸を破壊し、『EMオッドアイズ・ユニコーン』と『EMドラネコ』をサーチ!カレイドスコーピオンの効果をシルバー・クロウに使用!このターン、シルバー・クロウは特殊召喚されたモンスター全てに攻撃可能!更にウィップ・バイパーの効果でカレイドスコーピオンの攻守を反転!」

 

EMカレイドスコーピオン 攻撃力100→2300

 

「バトルだ!シルバー・クロウでワイルド・ホープを攻撃!攻撃宣言時、シルバー・クロウの効果で『EM』の攻撃力を300アップ!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→2100

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500→1800

 

EMカレイドスコーピオン 攻撃力2300→2600

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700→2000

 

シルバー・クロウの遠吠えが『EM』達を鼓舞し、その攻撃力をアップさせる。しかもこの効果はターン1制限が無い。爪が食い込み、切り裂かれるワイルド・ホープ。そして――。

 

「くっ、ワイルド・ホープの効果!『魔界劇団-ビッグ・スター』をサーチ!」

 

「続けてプリティ・ヒロインへ攻撃!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力2100→2400

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1800→2100

 

EMカレイドスコーピオン 攻撃力2600→2900

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力2000→2300

 

「破壊されたプリティ・ヒロインの効果でデッキの『魔界台本「魔界の宴タ女」』をセット!」

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』で大刃禍是に攻撃!」

 

「チッ――!」

 

畳み掛ける猛攻を受け、沢渡のモンスターが全滅する。道は開いた。後は突き進むまで。

 

「ウィップ・バイパーでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!ダメージを半分に!」

 

沢渡 シンゴ LP4900→3750

 

ウィップ・バイパーが一直線に沢渡へと襲いかかり、彼に強烈なダメージを与える。半減したとは言え、これは手痛い。均衡も崩れ始め、ペースは遊矢に傾いて来た。だが――同時に沢渡の手に、反撃の手段を与えてしまった。

 

「カレイドスコーピオンで攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!」

 

「メインフェイズ2、『EMドラネコ』をセッティング!ターンエンドだ。この瞬間、『EMキングベアー』を破壊し、エクストラデッキの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を回収!」

 

榊 遊矢 LP3700

フィールド『EMペンデュラム・マジシャン』(攻撃表示)『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)『EMカレイドスコーピオン』(攻撃表示)『EMウィップ・バイパー』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『EMドラネコ』

手札2

 

「俺様のターン、ドロー!やるじゃねぇか!だがまだまだ!ペンデュラム召喚!『魔界劇団-ビッグ・スター』!!『魔界劇団-ワイルド・ホープ』!『魔界劇団-プリティ・ヒロイン』!『魔界劇団-サッシー・ルーキー』!『魔界劇団-ダンディ・バイプレイヤー』!」

 

魔界劇団-ビッグ・スター 攻撃力2500

 

魔界劇団-ワイルド・ホープ 攻撃力1600

 

魔界劇団-プリティ・ヒロイン 攻撃力1500

 

魔界劇団-サッシー・ルーキー 攻撃力1700

 

魔界劇団-ダンディ・バイプレイヤー 守備力700

 

今度は沢渡がペンデュラム召喚を繰り広げ、5体の『魔界劇団』がフィールドに揃う。最も面倒なのはやはりエースカードのビッグ・スターだろう。ペンデュラムの特性にカテゴリ限定とは言え、魔法カードをサーチする効果は強力だ。

 

「まずはワイルド・ホープの攻撃力をアップ!」

 

魔界劇団-ワイルド・ホープ 攻撃力1600→2100

 

「そしてビッグ・スターの効果でオープニング・セレモニーをセット、発動!」

 

沢渡 シンゴ LP3750→6250

 

「折角削ったLPが……!」

 

2500ものLPが沢渡へと与えられる。破壊された時のドロー効果も脅威的だが、こうして長期戦となるとこの回復効果も充分厄介だ。魔王の降臨でチェーン不可の全体除去をし、豪快に攻める沢渡に対し、遊矢の攻めはどうしても小さく見えてしまう。このままでは不味い。何か、『魔界劇団』のような悪魔的な手を取らねば――。

 

「ダンディ・バイプレイヤーをリリースし、エクストラデッキのファンキー・コメディアンを特殊召喚!」

 

魔界劇団-ファンキー・コメディアン 守備力200

 

「ファンキー・コメディアンの特殊召喚時、攻撃力アップ!」

 

魔界劇団-ファンキー・コメディアン 攻撃力300→1800

 

「そしてこの攻撃力をビッグ・スターへ譲渡!」

 

魔界劇団-ビッグ・スター 攻撃力2500→4300

 

「更に更にぃ?リバースカード、オゥプン!永続魔法、『魔界台本「魔界の宴タ女」』!ファンキー・コメディアンをリリースし、墓地の魔王の降臨をセットォ!そのまま発動!モンスター全てを破壊だ!」

 

「良い加減にして欲しいね……!」

 

破壊、破壊、破壊。何度も何度も遊矢のフィールドを蹂躙し、降臨しまくる魔王を見て、遊矢が嫌になると思わず呟く。いくら防いでいるとは言え、ここまで押されては遊矢の方が参ってしまう。

 

「これ位で参るなよ!まだまだ!お楽しみはこれからなんだからよぉ!永続魔法、『冥界の宝札』発動!サッシー・ルーキーとプリティ・ヒロインをリリースし、アドバンス召喚!『冥帝エレボス』!!」

 

冥帝エレボス 攻撃力2800

 

魔界の劇団を退け、今まで玉座に腰かけ彼等の芸を見物していた『帝王』が参戦する。山羊のような捻れた角に漆黒の鎧。巨大な体躯を玉座から起こし、その真紅の眼で遊矢を一瞥する。沢渡 シンゴ、第3のエースカード――。

 

「……うそぉん」

 

「クククッ!『冥界の宝札』でドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札2→4

 

「エレボスの効果により、手札の『帝王の凍気』とデッキの『帝王の溶撃』を墓地に送り、テメェの右のセットカードをデッキに送り込む!」

 

「クソッ!」

 

「まだだぜ!墓地の『帝王の凍気』と『帝王の溶撃』を除外、最後のセットカードを破壊ィ!」

 

「――!破壊されたのは『運命の発掘』!」

 

「何ぃ!?」

 

遊矢がエレボスの登場に驚くのも束の間、今度は沢渡が遊矢の強運に驚愕する。こんの、2分の1の確率でこれを当ててしまうとは――。

 

「3枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→5

 

これで3枚、遊矢に新たな手札が渡った。だが沢渡の手札はまだ4枚。攻めに使うか、防御に使うのか、どちらにせよ、充分な枚数だ。

 

「墓地の木魅を除外、俺様は『妖仙獣鎌壱太刀』を召喚!」

 

妖仙獣鎌壱太刀 攻撃力1600

 

修験の妖社 妖仙カウンター2→3

 

ここで現れたのは羽織に袴を纏った鎌鼬の長男だ。バウンス効果を持った優秀なモンスターがフィールドにトンと足を降ろし、連鎖を刻む。

 

「召喚時、手札の『妖仙獣鎌弐太刀』を召喚!」

 

妖仙獣鎌弐太刀 攻撃力1800

 

修験の妖社 妖仙カウンター3→4

 

お次は日本刀を手にした次男坊。そして最後は――。

 

「最後に壱太刀と弐太刀をリリースし、アドバンス召喚!『魔妖仙獣大刃禍是』!!」

 

魔妖仙獣大刃禍是 攻撃力3000

 

修験の妖社 妖仙カウンター4→5

 

三男なんていなかった。2体の鼬をリリースし、またまた『妖仙獣』の長が姿を見せる。ビッグ・スター、エレボス、太刀禍是。3大エースの揃い踏み、強力なモンスターが遊矢を攻める。

 

「『冥界の宝札』でドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札1→3

 

「手札の『D.D.クロウ』を捨て、ジンライノを除外、太刀禍是の効果でドラネコをバウンス!バトルだ!ビッグ・スターでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『クリアクリボー』を除外し、デッキトップをドロー!そのカードがモンスターなら特殊召喚し、攻撃を移し変える!これで引ければビッ『クリボー』!」

 

「ここに来て賭けかぁ!?面白ぇ!やって見ろよ!遊矢ぁ!」

 

このデュエルの勝敗を賭けた運命のドロー。ここでモンスターを引かなければ沢渡の勝ち。引いてもただのモンスターではビッグ・スターにそのまま破壊され、第2第3のエースのダイレクトアタックでフィニッシュ。つまり、モンスターでもこのバトルフェイズを堪え切る事が出来るモンスターでなければならない。正に綱渡り、ギリギリの一手。心臓が早鐘を打つ。怖い、怖い、怖い。恐怖が頭の中を駆け巡る。だが――。

 

「ここで引ければ面白いっ……!来い、来い、来い――!Ledies and Gentlemen!!」

 

榊 遊矢 手札6→7

 

デッキを信じ、自分を信じ、今引き抜かれる1枚のカード。その軌跡が虹色に輝き、空に橋がかかる。翳したカードにチラリと視線を移し――遊矢は笑う。

 

「俺、カードに選ばれスギィ!」

 

「何ぃ!?」

 

「お楽しみはまだまだこれからってね!さぁ、来い!『EMバリアバルーンバク』!」

 

EMバリアバルーンバク 守備力2000

 

今度は沢渡のエンタメをコピーし、現れたのは紫色の風船のように膨れ上がったバクのモンスター。このモンスターが、遊矢の危機を救う為、ビッグ・スターの攻撃を受ける。

 

「チッ、ならワイルド・ホープで攻撃!」

 

「手札の『EMディスカバー・ヒッポ』を捨て、バリアバルーンバクを復活!」

 

EMバリアバルーンバク 守備力2000

 

「攻撃変更!そのボケッとしたバクをぶっ倒せ!」

 

「ぐっ!」

 

攻撃、攻撃、猛攻撃。襲い来る沢渡のモンスターの手から何度も逃れ、遊矢がフィールドを駆け抜ける。

 

「エレボスで攻撃!」

 

榊 遊矢 LP3700→900

 

「大刃禍是でダイレクトアタック!」

 

「手札の『クリボー』を捨て、ダメージを0に!」

 

バクが破壊され、エレボスによる一撃が遊矢へと突き刺さる。だが――堪えた。恐るべき猛攻を、堪え抜いた――。

 

「チィッ!ビッグ・スターの攻撃を最後にしておけば……!カウンターを使い、『妖仙獣辻斬風』をサーチ!」

 

修験の妖社 妖仙カウンター5→2

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP6250

フィールド『魔界劇団-ビッグ・スター』(攻撃表示)『魔界劇団-ワイルド・ホープ』(攻撃表示)『魔妖仙獣大刃禍是』(攻撃表示)『冥帝エレボス』(攻撃表示)

『魔界台本「魔界の宴タ女」』『修験の妖社』『冥界の宝札』セット2

Pゾーン『魔界劇団-ダンディ・バイプレイヤー』『魔界劇団-デビル・ヒール』

手札1

 

揺れ続ける振り子の軌跡、速度を上げてそれは遊矢へと戻る。さぁ、今度は遊矢の番だ。思いっ切り――返してやろう。ニヤリと笑みを浮かべ、彼は3体のエースを出した沢渡へと答えを見せる。

 

「俺のターン、ドロー!フィールドに刻剣とビッグ・スターが帰還!刻剣とエレボスを除外!まずは――『EMオッドアイズ・ユニコーン』と『EMドラネコ』をセッティング!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMユーゴーレム』!『EMカレイドスコーピオン』!『EMペンデュラム・マジシャン』!『曲芸の魔術師』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMユーゴーレム 攻撃力1600

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

振り子の軌跡を描き、遊矢のフィールドに5体のモンスターが現れる。2色の眼の竜に命を宿した岩石に万華鏡の尾を持つ蠍、最後に振り子のマジシャンと派手な衣装の『魔術師』だ。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果発動!自身とドラネコを破壊し2枚の『EM』をサーチ!」

 

「カウンター罠、『無償交換』!『EMペンデュラム・マジシャン』の効果の発動を無効にし、破壊!相手は1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「魔法カード、『ナイト・ショット』!セットカードを破壊!」

 

「甘いぜ遊矢!墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、このターン受ける効果ダメージを半分に!更にチェーンして永続罠、『ドラゴン族・封印の壺』!これでテメェの『オッドアイズ』は守備表示となる!」

 

発動されたのは竜の顔を模したデザインの壺カード。随分と古臭いが、成程、これならば遊矢の扱う強力なドラゴンを封じる事が出来る。

 

――おい、うすのろ、さっさとあの壺を破壊しろ!ドラゴンを封印とか許さんからな――

 

その効果に遊矢の脳裏にまたもや謎の声が聞こえるが――この程度で遊矢は止まらない。

 

「残念だったな、沢渡!今から始まるのは――榊レジェンドコンボ『EM』ロスト・バーンだ!」

 

「なっ、何ぃ!?何だそのイカしたコンボは……っ!?」

 

ニヤリ、本当に沢渡のデュエルを模倣し、自分のものにするつもりなのか、敢えて彼のセンスで即興のコンボを言い放つ遊矢。思わず戦慄、沢渡の脳裏に電撃が駆け抜け、遊矢の、いや、沢渡をコピーした遊矢のセンスに惚れ惚れと痺れる。この状況で、一体どんなコンボで沢渡を倒すと言うのか。

 

「と言っても、お前みたいに凄いコンボじゃないさ。だが――お前みたいに悪魔的で豪快な手だ!カードをセットし、ユーゴーレムの効果!このカードと『オッドアイズ』を素材とし、融合召喚する!」

 

「融合召喚……!?そのモンスターの種族は……!」

 

「言っただろ!悪魔的にってね!二色の眼の竜よ。土より生まれし巨人と一つになりて、新たな種族として蘇れ!融合召喚!現れよ!『EMガトリングール』!」

 

EMガトリングール 攻撃力2900

 

遊矢の背後に青とオレンジの渦が広がり、混ざり合って1体のモンスターとなる。現れたのはシルクハットにスーツに身を包み、鋭い牙を見せ、ガトリング砲を持ったグールのモンスター。遊矢の、言う通り、攻撃的で『魔界劇団』と似た悪魔族のモンスターだ。

 

「何だ、そのモンスターは……!?」

 

「さぁ、新顔の効果!融合召喚時、フィールドのカード×200のダメージを与える!フィールドのカードは18枚!よって3600のダメージだ!」

 

「シャレになんねぇ……!『ダメージ・ダイエット』の効果で効果ダメージを半分に!」

 

沢渡 シンゴ LP6200→4400

 

とんでもないバーン効果、18発の弾丸が雨のように降り注ぎ、沢渡のLPを削り取る。半分とは言え1800、そして、LPをロストさせるバーンはまだ終わらない。

 

「更に更にぃ!ペンデュラムモンスターを素材にした事で、大刃禍是を破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!さぁ、天空に花火を打ち上げろ!」

 

「うそぉん!?」

 

沢渡 シンゴ LP4400→2900

 

ガトリングールが大刃禍是を捕らえ、そのガトリン砲に無理矢理押し込んで天空に打ち上げる。瞬間、パァンと言う乾いた音と共に赤い花が咲き誇り、その種が沢渡のLPを焦がす。祭りに相応しい大輪の花火だ。『ダメージ・ダイエット』が無ければこの二撃で終わる所だった。

 

「魔法カード、『破天荒な風』!ガトリングールの攻撃力を1000アップ!カレイドスコーピオンの効果で複数攻撃を可能に!」

 

EMガトリングール 攻撃力2900→3900

 

「バトルだ!ガトリングールで、ビッグ・スター2体とワイルド・ホープに攻撃!」

 

沢渡 シンゴ LP2900→1500→100→0

 

決着――勝者、榊 遊矢。エンタメデュエリスト同士の対決、大歓声の中、ガッツポーズを取った――。

 

――――――

 

時は遊矢達がシンクロ次元にやって来た頃に遡る。場所はアカデミアの地下、堕ちたデュエリスト達が地獄の中で闘う場所へと、アカデミアの研究者、ドクトルは足を運ばせていた。目的は当然、ユーリの様子を見る事。

マッドドッグ犬飼との一戦以降、修羅に目覚めた彼がどこまでランキングを上げたか、それとも堕ちたか。後者の可能性は低いだろうが。ランキング上位の者と闘えばその可能性も出て来る。少しばかり興味が沸き、彼を見ようと思ったのだ。彼は一体どこにいるのか、丁度良く視界に入った、レストランの椅子に座り、黙々とスパゲティやらカレーライス等の大量の食べ物を口に運ぶ太った少年に尋ねる。

 

「もし少年、ユーリと言う少年を探しているのですが、どこにいるか分かりますか?」

 

ピタリ、そこで少年の手が止まり、ガツガツと食べ物を掻き込んでいた顔が上げられる。右眼に黒い眼帯を着用し、蛇を思わせる赤い眼をした少年の顔。その顔はどこかで見た事があるような。はて、と首を傾げるドクトル。少年はそんなドクトルを見て、口の周りに赤いケチャップをつけたままニコリと笑いかける。

 

「あっ、おじさん!やだなぁ、おじさん。僕ならここにいるじゃないか」

 

「……うん?」

 

言われて――ドクトルが丸々と太った少年を頭から爪先まで見て――瞠目する。まさかまさかと口元がわなわなと震える。蛇のような赤い眼に、アカデミアの紫の軍服。何より、この声は――。

 

「……えぇと、まさか、ユーリくぅん?」

 

「?どこからどう見たって、僕はユーリだけど?」

 

いや、どこからどう見ても別人です。太った少年を見て、ドクトルが頬を引き吊らせて思う。この少年は――闘いだけでなく、物理的にも飢えてしまっていた――。天を仰ぎ、ドクトルは右手で顔を覆う。

どうして、この少年はこう、アレなのか。想像の斜め上を行ってしまうのか――。




草毒タイプで特性厚い脂肪って何てメガフシギバナ。と言う訳で飢えてしまったユーリ君は生まれ変わりました。彼のファンの方はすまない……。
ズァーク様「飢えるってそう言う事じゃ……おお、もう……」

沢渡「何故勝てないんだ……」
バスブレ「力が欲しいか」

人物紹介22

沢渡 シンゴ
所属 LDS→ランサーズ
遊矢とのデュエル後、エンタメデュエルに目覚めた自意識過剰な少年。ただ自意識過剰と言ってもカリスマ、デュエリストとしての発想や着眼点、更に混合デッキを操る運命力は高く、かなりの実力者。社長から謎の信頼を得ているのはそこら辺が関係しているのかもしれない。
また、遊戯王では珍しく、マルチデッカーの一面も持つ。
素の実力で言えばランサーズ中堅レベルなのだが、子分や観客の応援、また、調子次第では実力が浮き沈みしやすいタイプ。遊矢やコナミ相手ならば更に強くなると言う主人公キラー。
新しいものが大好きで、ネオにニューを重ねる点から見てもそれが窺える。反面、エクシーズや他の召喚法には興味を示さないと言う面もある。中学生らしい中学生なのかもしれない。
因みにエンタメデュエリストとしては遊矢より上手。
使用デッキは『魔界劇団妖仙獣帝』。エースカードは『魔界劇団-ビッグ・スター』。



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第111話 正しき闇の力

ズァーク様による依代4人の評価
遊矢 うすのろ。ドラゴンを様々な目に会わされる事が多い為、評価は低い。
ユーリ かなり覇王に向いてるけど太るのはちょっと……。
ユーゴ クリアウィングを活かすプレイングは素質あり。しかしアホ。
ユート 普段は冷静であるが、怒った時はピカイチの素質あり。良いぞ良いぞと目をつけられている。


少年は飢えた。闘いに、勝利に。幾ら食い尽くしても腹が減り、右眼が疼く。こんな不味い飯じゃ満足出来ないと、何者かが訴えるのだ。美味い飯にありつけない少年は――その空腹を、物理的に食う事で満たそうとした。違う、そうじゃない。何者かが焦ったように訴えたが、構わず少年は食って食って――当然のように太った。中二病的なものを空腹と勘違いしてしまった結果である。何とも無惨だ。

少年、ユーリの丸くなった腹を目を細めて見つめるドクトルは思う。

 

「ユーリ君……ランキングは……?」

 

「えっとね、確か30位かな?」

 

やはりか……ドクトル額を抑えて溜め息を吐く。上がってはいるものの、思った程では無い。ドクトルの予想では今頃は15位以内には入っていたのだが――圧倒的に、食費が足を引っ張っている。頭が痛い。

 

「これは……食生活を改める必要がありますねぇ……」

 

「えー、やだよ」

 

「やだじゃありませんよ……!このままじゃ貴方、ランキング上位に相手にされず強くなれませんよ……っ!」

 

「ッ!確かに……!そうだよねおじさん。でもこのスパゲティ食べてからでも……」

 

「おいバカやめろ」

 

説得しても最早大食らいが染み込んでしまっているのか、ズルズルとスパゲティを啜るユーリから皿を奪い取る。何故自分がこんな保護者のような事をしなければならないのか。再び深い溜め息を吐いた時――闘技場の方から歓声が爆発する。何事か――それでも黙々と食うユーリを尻目に、視線を移したそこには、彼を驚愕させるには充分なものがあった。

これならば――ドクトルがニヤリと口角を上げ、ユーリに向き直る。

 

「ユーリ君……」

 

「何?これはあげないからね」

 

「帝王のデュエルを、見たくはありませんか――?」

 

ポカン、不気味に笑うドクトルを見て、呆けるユーリ。何が何だか分からないが、何故かその時、ズキリとユーリの右眼が疼いた――。

 

――――――

 

地獄とも呼ばれる、アカデミアの暗き地下の中心に存在する闘技場にて、2人のデュエリストが対峙していた。1人はユーリと同じくドクトルの口車に乗り、自ら地下送りを望み、見事ランキング2位まで登り詰めた男、白い軍服と軍帽を被り、オベリスク・フォースを率いるデイビット・ラブだ。ユーリも何度か顔を合わせた事がある。嫌みな性格で、ユーリには劣るが、中々の強者だ。2位と言う事は、その頃よりも強くなっているのだろうか。

 

そんなデイビットと向かい合うのは黒いジャケットを纏った鋭い目付きの男。ユーリには何者かは分からないが、彼が纏うその闘気は余りにも桁違い。あのランクアップした黒コナミをも越えるかもしれないとユーリは冷や汗を掻く。

 

「あれが……帝王……?」

 

「ええ、そうです。彼こそがランキング1位、常勝無敗、アカデミア真の最強、カイザー、丸藤 亮」

 

大観衆に呑まれながら、ユーリとドクトルはカイザー、丸藤 亮を見つめる。彼が最強。ユーリが目指すべきデュエリスト。一体、デイビット相手にどんなデュエルをするのか。

 

「やぁカイザー、Youと闘えるのを楽しみにしていたよ。アカデミア最強、その座、Meに譲って貰おうか」

 

「……疑問だな、貴様はどうやって2位まで辿り着いた?奴等が貴様程度に負けるとは思えん」

 

ニヤニヤと笑みを張り付け、亮を挑発するデイビット。対する亮はこんな挑発慣れているとばかりに受け流し、こちらも挑発――では無く、本心からそう思っているのだろう。ハァ、と深い溜め息を溢す。まるでデイビットが眼中に入ってないと言わんばかりの態度だ。

 

「You以外は興味ないさ、雑魚を倒して、さっさとYouまで辿り着いただけだよ」

 

「……成程、良く分かった。貴様では俺を満足させられない事を」

 

失望、冷徹な視線がデイビットを射抜く。まるで氷のような眼光にデイビットが怯み、凍てつく。亮はそのままデュエルディスクを操作、驚くべき行動に出る。

 

「このデュエル、俺はLPを100残し、全て賭ける」

 

「「なっ!?」」

 

オールベット、最低限を残し、全てを賭けるその馬鹿げた行動に、奇しくもユーリとデイビットの声が重なる。負ければ帝王の座から引き摺り下ろされると言うのに――ユーリと同じような事をする等、ふざけているとしか思えない。舐められている、プライドに泥を塗られたと感じたデイビットは青筋を立て、ガリッ、と歯軋りを鳴らす。

 

「後悔させてやる……MeはLPを100ベット、このデュエルが終点なら、大量に賭ける必要も無い!MeのLPは10万!訂正するなら今の内だぜ、カイザー!」

 

「訂正しようにも、これ以上は賭けられん」

 

「ッ……!どこまでも……っ!なら良いさ。くたばれカイザー!」

 

LP100VS100000。どちらが不利なのかは一目瞭然。例えカイザーでも、これでは勝てるかどうか、それ程までに自身の実力に自信を持っているのか、何にせよ、帝王のデュエルが幕を上げる。

 

「「デュエル!!」」

 

始まる金網デスマッチ、先攻はデイビットだ。彼は5枚のカードを引き抜き、ニヤリと口角を上げる。どうやら良いカードを引いたらしい。分かりやすい反応に、亮とユーリが目を細める。

 

「オイオイこれじゃ…Meの勝ちじゃないか!魔法カード、『火炎地獄』!相手に1000の、自分に500のダメージを与える!」

 

放たれたのはバーンカード、早速のピンチ、勝負を決定付ける一手が亮へ襲いかかる。これで終わればたった1枚のカードをプレイした1ターンキル。が、当然これど終わる帝王では無い。

 

「手札の『ハネワタ』を捨て、このターンの効果ダメージを0にする」

 

デイビット・ラブ LP100000→99500

 

成程、自分でLPを100にするだけあってバーン対策も出来ていると言う訳か。それにしてもこのカードを引き込むとは運が良いのかそれとも――。

 

「チッ、ただ運が良かっただけじゃないか……!Meは永続魔法、『機甲部隊の最前線』と『補給部隊』を発動!『マシンナーズ・ギアフレーム』を召喚!」

 

マシンナーズ・ギアフレーム 攻撃力1800

 

召喚されたのはオレンジ色のボディを持つ、スマートな人型ロボット。ギョロギョロとマシンアイを蠢かせ、眼前の帝王を捉える。下準備の『機甲部隊の最前線』と『補給部隊』も敷いた。良好な手札と言える。

 

「召喚時、デッキの『マシンナーズ・フォートレス』をサーチ、カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

デイビット・ラブ LP99500

フィールド『マシンナーズ・ギアフレーム』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』セット1

手札1

 

デイビットは気づかない。このターン、彼はカイザーを倒せる最大のチャンスを逃した事に。

 

「俺のターン、ドロー。俺は『サイバー・ドラゴン・コア』を召喚」

 

サイバー・ドラゴン・コア 攻撃力400

 

亮のターンとなり、彼が最初に召喚したのはアナ……球体状のパーツを繋げて作られた機械の竜だ。尤も見た目、攻撃力共に貧弱で剥き出しにするには不安なカードだ。

 

「召喚時、デッキから『サイバー・リペア・プラント』をサーチする。そして魔法カード、『機械複製術』。攻撃力500以下の機械族、『サイバー・ドラゴン・コア』と同名モンスターを2体、デッキよりリクルートする。コアはフィールド、墓地では『サイバー・ドラゴン』として扱う。よって特殊召喚されるのは当然――2体の『サイバー・ドラゴン』」

 

サイバー・ドラゴン 攻撃力2100

 

攻撃力の低さを利用し、攻撃力2000越えのモンスター2体を呼び出す亮。黒く染まった機械の竜。サイバー流と言う流派において使われるモンスターだ。

 

「これで、レベル5の機械族が2体……」

 

「ッ!まさか……!?」

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『サイバー・ドラゴン・ノヴァ』!」

 

サイバー・ドラゴン・ノヴァ 攻撃力2100

 

エクシーズ召喚――まさかの一手にデイビットが瞠目する中、亮の眼前に星を散りばめた渦が広がり、2体の『サイバー・ドラゴン』が光となって飛び込み、爆発。黒煙を裂き、咆哮を上げたのは双翼を広げ、白黒の体躯を唸らせる機光竜。胸に抱いたコアが光輝き、亮の隣に並び立つ。

 

「エクシーズモンスター……はっ、それがどうした?」

 

「使えるなら何だって使う。俺はノヴァ1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!」

 

「ランクアップだと!?」

 

ただのエクシーズならまだしも、更にその上を行くランクアップ。有益な力ならば――この男はいとも容易く会得し、使役すると言う事か。たった今召喚されたのはノヴァが再び発生した渦に飛び込み、一筋の閃光が天に昇り、3つの星が周囲を回転する。弾ける光、天空に飛翔せしはより攻撃的なフォルムとなった機光竜。

 

「『サイバー・ドラゴン・インフィニティ』!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ 攻撃力2100→2700

 

「……ふぅん、ちょっとびっくりしたけど、何の変哲も無いモンスターじゃないか。それにMeのLPは90000以上もある。どうやってもYouに勝ち目は無い。ゆっくりやらせてもらうよ」

 

「貴様がそうしたいのは構わんさ。『機甲部隊の最前線』に『補給部隊』、この2枚があれば余裕も出て来るんだろうが……貴様が機械族デッキなのが運のツキだ。俺は『サイバー・ドラゴン』扱いのコアと貴様のフィールドの機械族モンスター、『マシンナーズ・ギアフレーム』で融合!」

 

「What!?Meのモンスターを!?」

 

「自分と相手のモンスターでの融合が2流……だったか。融合召喚!『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』!」

 

キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻撃力2000

 

今度はアカデミアらしく融合召喚。それも融合魔法無し、相手モンスターを巻き込んでの特異なものだ。フィールドに円盤状の物体が数珠繋ぎとなり、白銀の竜の頭と尾が伸びる。とんでも無い男だ。彼の操る奇妙なカードに、デイビットでさえ勝鬨る。

 

「キメラテック・フォートレスは素材となったモンスターの数×1000の攻撃力となる。因みにインフィニティはORUの数×200攻撃力を上げる。さて、バトルだ、インフィニティでダイレクトアタック!」

 

「甘いよ!罠発動!『業炎のバリア-ファイヤー・フォース-』!相手の攻撃宣言時、相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊!そしてMeはその攻撃力合計のダメージを受け、その後そのダメージを相手にも与える!Meには些細なダメージさ!」

 

デイビットのリバースカードが展開され、ワインレッドのフレームから爆発が巻き起こり、業炎が金網内を支配する。立ち込める黒煙、白銀の輝きが晴らし、中から無傷のインフィニティとフォートレスが咆哮する。そんな馬鹿な――デイビットが動揺し、一体どうやって切り抜けたのかと推理する。そして目に入ったのは、インフィニティのORU、3つあった星が2つとなり、竜の周囲を回転している。これか――。

 

「俺には決定的か?インフィニティのORUを1つ取り除く事で、カードの効果を無効にし、破壊する」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ 攻撃力2700→2500

 

ORU1つで万能カウンター。とんでも無く強力な効果だ。200の攻撃力を犠牲にして使えるような効果では無い。

 

「攻撃続行、インフィニティとフォートレスで攻撃!エヴォリューション・リザルト・アーティレリー!」

 

デイビット・ラブ LP99500→97000→95000

 

「がぁぁぁぁぁっ!?」

 

2体の機械竜のアギトより熱線が放たれ、4500ものダメージが電流と共にデイビットの肉体を襲い、駆け抜ける。LPが大量にあると言う事は同時にそれだけのダメージを受ける可能性があると言うデメリットを兼ねている。

 

「これで1回目、メインフェイズ2、魔法カード、『サイバー・リペア・プラント』を発動。『サイバー・ドラゴン・コア』をサーチ、カードを2枚セットし、ターンエンドだ。さて、デュエル終了まで、貴様は何度敗北する?」

 

丸藤 亮 LP100

フィールド『サイバー・ドラゴン・インフィニティ』(攻撃表示)『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』(攻撃表示)

セット2

手札3

 

恐らくLPが4000だった場合で計算しているのだろう、ニヤリともせず、無表情で問いかける亮。嫌味でも、挑発でもない。だからこそその問いはデイビットのプライドを傷つける。ガリッ、歯軋りを鳴らし、苛立つデイビット。プライドの高い彼からすれば、見下される事程屈辱的なものは無い。

何より2ターンを通し、手も足も出ない事が腹立たしい。何とかしなければ、このターンのドロー次第ではサンドバックにされかねない。

 

「Meのターン、ドロー!良し……!手札の『マシンナーズ・メガフォーム』を捨て、『マシンナーズ・フォートレス』を特殊召喚!」

 

マシンナーズ・フォートレス 攻撃力2500

 

何とかカードを引き込んだ。ここで召喚されたのは青いボディとカノン砲を持つ戦車のようなモンスター。召喚ルール効果の為、インフィニティと言えども無効には出来ない。このカードであれば、インフィニティの僅かな隙を突けると言う訳だ。

 

「ほう……」

 

「バトル!フォートレスでキメラテック・フォートレスに攻撃!」

 

「永続罠、『強制終了』!キメラテック・フォートレスを墓地に送り、バトルフェイズを終了する!」

 

それでも――帝王には届かない。

 

「クッ、ターンエンドだ!」

 

デイビット・ラブ LP95000

フィールド『マシンナーズ・フォートレス』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』

手札0

 

全くと言って良い程事が上手く運ばず、常にこちらのプレイングの上を行く。強い――これが帝王と呼ばれるデュエリスト。フォートレスを呼び出したは良いものの、相手の手札にはフィールド、墓地で『サイバー・ドラゴン』として扱うコアが握られている。つまりはフォートレスを復活させても、キメラテック・フォートレスの素材にされ、攻めの手は『強制終了』で防がれる。効果で切り開こうとしてもインフィニティが無効化する。最悪と言って良い状況。せめてもの救いはLPが大量にある事か。その戦略の高さに観戦しているだけのユーリもゾッとする。

 

「俺のターン、ドロー!威勢が良いのは最初だけか?『サイバー・ドラゴン・コア』を召喚」

 

サイバー・ドラゴン・コア 攻撃力400

 

「召喚時、『サイバー・リペア・プラント』をサーチ、発動。デッキから最後のコアをサーチ、そしてコアとフォートレスで融合。融合召喚!『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』!」

 

キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻撃力2000

 

「バトル、2体でダイレクトアタック!」

 

デイビット・ラブ LP95000→92500→90500

 

「がふっ……!」

 

一方的、コーナーに追い詰められ、サンドバックにされているような光景だ。あのデイビットが何も出来ず、されるがまま。実力に差があり過ぎる。

 

「これで2回目。カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

丸藤 亮 LP100

フィールド『サイバー・ドラゴン・インフィニティ』(攻撃表示)『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』(攻撃表示)

『強制終了』セット2

手札3

 

LPがたった100なのに、デイビットが無力と化している。その姿に、ユーリは思わず彼の姿に黒コナミを重ねる。高い次元に存在する、孤高の強者達。自分は果たしてそこまで辿り着けるのか、と。

 

「Meのターン、ドローッ!来た……!クク、ククク……!さぁ、亮、これならどうだ?Youのモンスターを2体リリースし、Youのフィールドに『溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム』を特殊召喚!」

 

溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 攻撃力3000

 

亮の2体の強力なモンスターを糧とし、現れたのはマグマと岩石で作られた巨人。亮の背に登場し、彼を檻に閉じ込める。檻in檻。何とも斬新な光景だ。だがこれならばモンスターを除去した上でダメージを与えられる。

 

「成程……ならばこいつをリリースし、速攻魔法、『神秘の中華なべ』を発動。攻撃力分、LPを回復する」

 

丸藤 亮 LP100→3100

 

「チッ、だけどこれで厄介なインフィニティはもういない。ターンエンドだ」

 

デイビット・ラブ LP90500

フィールド

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『カップ・オブ・エース』を発動。表だ。2枚ドロー!」

 

丸藤 亮 手札3→5

 

「もう1枚発動。表、2枚ドロー」

 

丸藤 亮 手札4→6

 

「魔法カード、『二重召喚』を発動。『サイバー・ドラゴン・ツヴァイ』を召喚」

 

サイバー・ドラゴン・ツヴァイ 攻撃力1500

 

現れたのは『サイバー・ドラゴン』の2号機。黄緑のラインを体躯に走られた機械竜だ。

 

「そしてコアを召喚」

 

サイバー・ドラゴン・コア 攻撃力400

 

「最後の『サイバー・リペア・プラント』をサーチ、発動。デッキから『サイバー・ドラゴン・ドライ』をサーチ、墓地のノヴァをエクストラデッキに。そして手札の魔法カード、『置換融合』を公開し、ツヴァイは『サイバー・ドラゴン』の名を得る。たった今公開した『置換融合』を発動。フィールドの『サイバー・ドラゴン』扱いのツヴァイとコアを融合!融合召喚!『サイバー・ツイン・ドラゴン』!」

 

サイバー・ツイン・ドラゴン 攻撃力2800

 

2体の機械竜を束ね、現れたのは2頭となった機械竜。『サイバー・ドラゴン』の融合モンスターでも比較的使いやすいモンスターだ。

 

「墓地の『置換融合』を除外し、キメラテック・フォートレスをエクストラデッキに戻し、ドロー」

 

丸藤 亮 手札3→4

 

「ふん……バトルだ、ツインは2回攻撃が出来る。やれ、エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

デイビット・ラブ LP90500→87700→84900

 

「……ッ!」

 

2頭の竜が光線を放ち、デイビットの肉体を焼き焦がす。これでLPが1万以上削られた。1ターンに1回敗北する勢いだ。火力が桁違いにも程がある。

 

「これで3回。速攻魔法、『融合解除』、ツインをエクストラデッキに戻し、素材となったツヴァイとコアを特殊召喚」

 

サイバー・ドラゴン・ツヴァイ 攻撃力1500

 

サイバー・ドラゴン・コア 攻撃力400

 

ここで更なる追い討ち。『融合解除』によりツインが2体に分かれて呼び出される。2体とも墓地で『サイバー・ドラゴン』として扱う為、『融合解除』で呼び出すのも可能と言う訳だ。

 

「ツヴァイで攻撃」

 

デイビット・ラブ LP84900→83400

 

「ずぁっ……!」

 

「コアで攻撃」

 

デイビット・ラブ LP83400→83100

 

「くっ……!」

 

2体によるブレスが更にデイビットを追い詰める。脅威的な火力だ。反撃する暇すら与えてくれない。

 

「メインフェイズ2、手札の『フォトン・ジェネレーター・ユニット』を公開し、ツヴァイを『サイバー・ドラゴン』に。そして発動。2体の『サイバー・ドラゴン』をリリースし、デッキから『サイバー・レーザー・ドラゴン』を特殊召喚!」

 

サイバー・レーザー・ドラゴン 攻撃力2400

 

次は尾がレーザー砲となったスマートなフォルムの『サイバー・ドラゴン』だ。

 

「ターンエンドだ。4度、貴様は敗北したぞ」

 

丸藤 亮 LP3100

フィールド『サイバー・レーザー・ドラゴン』(攻撃表示)

『強制終了』セット1

手札2

 

「~~~っ!舐めるなぁっ!Meのターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札0→3

 

ここに来て手札増強カード。この男もつくづく悪運が強い。このドローでどれだけ盛り返せるかがかかっている。

 

「2枚目の『補給部隊』を発動!モンスターとカードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

デイビット・ラブ LP83100

フィールド セットモンスター

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』×2セット

手札0

 

3枚をフルに防御に活用。これで多少はマシになった。後は亮がどう出て来るかに賭けられている。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『七星の宝札』!レーザー・ドラゴンを除外し、2枚ドロー!」

 

丸藤 亮 手札2→4

 

「相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドに存在しない事で、墓地のコアを除外し、デッキから『プロト・サイバー・ドラゴン』をリクルートする!」

 

プロト・サイバー・ドラゴン 守備力600

 

何度も亮のフィールドに現れる『サイバー・ドラゴン』モンスター。今度は黒い円柱状のパーツを繋げたプロトタイプの『サイバー・ドラゴン』だ。ステータスはコアに次いで低く、コアと違って優秀な効果も無いが、この状況では役立つ。

 

「『サイバー・ドラゴン・ドライ』を召喚」

 

サイバー・ドラゴン・ドライ 攻撃力1800

 

お次は『サイバー・ドラゴン』の3号機。ツヴァイと同じ黄緑のラインを持ち、鋭く攻撃的なフォルム、長い体躯を唸らせる機械竜だ。攻撃力も複製品にしては下級アタッカーラインを維持している。

 

「召喚時、フィールドの『サイバー・ドラゴン』のレベルを5に。プロト、ドライ共にフィールドでは『サイバー・ドラゴン』として扱う」

 

サイバー・ドラゴン・ドライ レベル4→5

 

プロト・サイバー・ドラゴン レベル4→5

 

「2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『サイバー・ドラゴン・ノヴァ』!」

 

サイバー・ドラゴン・ノヴァ 攻撃力2100

 

「っ!またインフィニティに繋げる気か……!」

 

「残念ながらノヴァとインフィニティはテストカードとして1枚ずつしか投入されていない。安心しろ」

 

このままランクアップし、またインフィニティの制圧が来ると焦るデイビットだが、どうやらエクシーズは1枚ずつしか投入していないらしい。ほっと胸を撫で下ろす。

だが1ターン目はインフィニティに直ぐに繋げられたが、当然このモンスターにも油断ならない効果がある。ただの下敷きでは無いのだ。

 

「ノヴァのORUを1つ取り除き、墓地の『サイバー・ドラゴン』を蘇生」

 

サイバー・ドラゴン 攻撃力2100

 

「バトルだ!『サイバー・ドラゴン』でセットモンスターを攻撃!エヴォリューション・バースト!」

 

「セットモンスターは『A・ボム』!光属性モンスターとの戦闘で破壊された事で、Youのノヴァと『強制終了』を破壊!『補給部隊』のエフェクトで2枚ドロー!Meのデッキが『マシンナーズ』だけと思ったか?情報は少ないが、対策は立てて来たんだよ!この地下のカードを使って!」

 

デイビット・ラブ 手札0→2

 

「ノヴァが相手の効果によって墓地に送られた事でエクストラデッキから『サイバー・ツイン・ドラゴン』を特殊召喚する。対策が裏目に出たようだな」

 

サイバー・ツイン・ドラゴン 攻撃力2800

 

「ッ!」

 

デイビットのセットモンスター、『A・ボム』が飛び出し、ノヴァに吸着して爆発する。『A・O・J』、ある光属性モンスター達を殲滅する為に作り出されたと言うバックボーンのあるメタモンスター軍の1体だ。光属性機械族で構成される『サイバー・ドラゴン』には効果覿面、上手くいったとほくそ笑むデイビットだが、爆煙を引き裂き、2頭の竜が姿を見せると、その表情は驚愕に変わり、歯噛みする。

 

「2回、攻撃!」

 

デイビット・ラブ LP83100→80300→77500

 

「がふっ――!」

 

更なる追撃がデイビットを焦がす。最悪だ。折角の反撃もダメージを増やす結果になってしまった。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド。5回目だな」

 

丸藤 亮 LP3100

フィールド『サイバー・ツイン・ドラゴン』(攻撃表示)『サイバー・ドラゴン』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「Meのターン……ドロー……ッ!Meは永続罠、『リビングデッドの呼び声』を発動!復活させるのは、『A・ボム』!」

 

A・ボム 攻撃力400

 

「……何?」

 

デイビットの行動を見て、僅かながら亮の目が細くなる。おかしい、このカードがあるならば先程のツイン・ドラゴンのダメージも防げた筈だ。プレイングミスとも思えない。一体何を考えている。亮が興味を示したその時――。

 

「チューナーモンスター、『A・O・Jサイクロン・クリエイター』を召喚!」

 

A・O・Jサイクロン・クリエイター 攻撃力1400

 

現れたのはレベル3、鳥類を模したオレンジ色の機械族チューナー、成程、そう来たかと亮が納得する。全てはシンクロを確実なものにする為。その為だけに彼は電流を受ける事も良しとした。

 

「レベル2の『A・ボム』に、レベル3の『A・O・Jサイクロン・クリエイター』をチューニング!シンクロ召喚!『A・O・Jカタストル』!」

 

A・O・Jカタストル 攻撃力2200

 

サイクロン・クリエイターの姿が光となって弾け飛び、3つのミントグリーンのリングが『A・ボム』を包み込み、閃光がフィールドを覆う。シンクロ召喚、デイビットが新たに得た力で召喚されたのは、昆虫のようなフォルムを持ち、頭部に黄金に輝くリングを装着した兵器のモンスター。

『マシンナーズ』と言い、『A・O・J』と言い、つくづく兵器を模したモンスターに縁がある男だ。しかしこのモンスターならば強力な『サイバー・ドラゴン』に対抗出来る。

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!リビングデッドをコストに2枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札2→4

 

「手札の『A・O・Jコズミック・クローザー』を捨て、墓地の『マシンナーズ・フォートレス』を蘇生!」

 

マシンナーズ・フォートレス 攻撃力2500

 

「まだだ!魔法カード、『アイアンコール』!墓地のサイクロン・クリエイターを蘇生!」

 

A・O・Jサイクロン・クリエイター 攻撃力1400

 

「そしてサイクロン・クリエイターを墓地に送り、魔法カード、『トランスターン』を発動!墓地に送ったモンスターと同じ種族、属性を持ち、レベルが1つ高いモンスターをデッキから特殊召喚する!来い!『A・O・J D.D.チェッカー』!」

 

A・O・J D.D.チェッカー 攻撃力1700

 

ここで呼び出されたのは正八面体から小型のロボットが飛び出したような奇妙な形状のモンスター。このモンスターこそ、『サイバー・ドラゴン』を封じる必殺のカードとなる。

 

「クク、このカードがいる限り、互いに光属性モンスターは特殊召喚出来ない……!どうだカイザー!これならば――」

 

「口だけは達者なようだな。そんなもの、俺を止める枷になるとでも?」

 

「チッ、良いだろう!なら力を持って証明してやる!カタストル!ツイン・ドラゴンへ攻撃!そしてカタストルが闇属性以外と戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わず破壊する!」

 

カタストルの頭部より黒に彩られたレーザーが放たれ、ツイン・ドラゴンのエヴォリューション・ツイン・バーストとぶつかり合う。その時、カタストルの放ったレーザーはツイン・ドラゴンの熱線を呑み込み、勢いを増して2頭の竜を撃破する。

 

「ふん……」

 

「ハッハー!ノッて来たよぉ!フォートレスで『サイバー・ドラゴン』に攻撃ィ!」

 

「永続罠、『サイバー・ネットワーク』、デッキより『サイバー・ドラゴン・ドライ』を除外し、ドライが除外された事でこのターン、『サイバー・ドラゴン』は戦闘及び効果では破壊されない」

 

丸藤 亮 LP3100→2700

 

フォートレスの砲撃が『サイバー・ドラゴン』に襲いかかるも、異次元より現れたドライが身代わりとなって防ぐ。

『サイバー・ドラゴン』が場に残る、それは次のターン、デイビットの機械族がキメラテック・フォートレスの素材となる事を暗示している。そうなっては目もあてられない。

しかし――やっと、やっとだ。漸くカイザー、丸藤 亮にダメージを与えた。これは大きな収穫と言える。この勢いのまま――デイビットは突き進む。

 

「D.D.チェッカーで『サイバー・ドラゴン』へ攻撃!」

 

「……ほう」

 

デイビット・ラブ LP77500→77100

 

ここでまさかの自爆特攻、折角呼び出した『サイバー・ドラゴン』の対抗策であるD.D.チェッカーを手放すデイビット。一体何を考えているのか、彼の事だ。ダメージを背負ってでも亮を追い詰める策を思い付いたのだろう。

 

「『機甲部隊の最前線』と『補給部隊』のエフェクトで、『A・O・Jアンノウン・クラッシャー』をデッキより特殊召喚し、2枚ドロー!」

 

A・O・Jアンノウン・クラッシャー 攻撃力1200

 

デイビット・ラブ 手札1→3

 

破壊を引き金に、デイビットの手に2枚のカードが、フィールドにマンモスを模した機械兵が降り立つ。成程、このモンスターならば破壊耐性をすり抜けられる。

 

「アンノウン・クラッシャーで『サイバー・ドラゴン』へ攻撃!」

 

デイビット・ラブ LP77100→76200

 

またも自爆特攻、ダメージも躊躇せずにモンスターに指示を出し、アンノウン・クラッシャーが『サイバー・ドラゴン』に迎撃される。しかし――アンノウン・クラッシャーは長い鼻を『サイバー・ドラゴン』に巻き付け、異次元へと放り投げる。その後朽ちるアンノウン・クラッシャー。役目は果たした。

 

「成程な……」

 

「アンノウン・クラッシャーと戦闘を行った光属性モンスターは除外される!メインフェイズ2、カードを2枚セットし、ターンエンドだ。さぁ、カイザー!地獄の始まりだぁッ!HAHAHAHAHA!HAーッHAHAHAッ!!」

 

デイビット・ラブ LP76200

フィールド『A・O・Jカタストル』(攻撃表示)『マシンナーズ・フォートレス』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』×2セット2

手札1

 

見事反逆は成功し、状況は一変、6個目の魂を翳し、デイビットが哄笑を上げる。果たしてカイザーはどう乗り越えるのか、期待、不安、様々な思いを胸に、観戦するユーリは今、4皿目のスパゲティを口にする――!

 

「NO、ユーリ君、NOです」

 

「だめぇ?」

 

当然、ドクトルに止められた。




デイビット君は強いんです、格好良いんです、お気に入りのキャラなんです。でも噛ませ臭が凄いんです……。


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第112話 俺は……飢えている!

カイザーVSデイビット 後半戦です。今年までに遊矢VSジャックまで辿り着きたい……!


アカデミアの一部の者にしてか知られていない地下深く、荒くれ者共が集う世界の中心、金網を張り巡らせた闘技場にて、最強のデュエリスト、カイザー、丸藤 亮と、オベリスク・フォースを率いる部隊長、デイビット・ラブによるデュエルは続く。

 

デイビットのLPは約3分の1が削られたものの、未だに70000以上ある。対する亮は回復こそしたが、2000少し、デイビットのLPの前では塵にも等しい。だが――亮には自身のLP程どうでも良いものは無い。彼にとって、LPは1でもあれば良い。

 

そして現在、デイビットのターンは終了し、亮のターンへ。亮の猛攻を大量のLPで何とか凌ぎ、漸く逆転に出て来たデイビット。

彼のフィールドには光属性で構成された亮の『サイバー・ドラゴン』メタのシンクロモンスター、『A・O・Jカタストル』と機械族の中でも優秀な大型モンスター、『マシンナーズ・フォートレス』が1体ずつ、そして戦闘破壊、効果破壊された時の保険として『機甲部隊の最前線』と2枚の『補給部隊』が存在している。セットカードは2枚。つまり魔法、罠ゾーンが埋まっていると言う事だ。この状況では新たな魔法、罠は使えない。フリーチェーンのカードか否か、いずれにせよこのセットカードが鍵を握っている。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「永続罠、『リビングデッドの呼び声』!墓地の『A・O・J D.D.チェッカー』の特殊召喚!」

 

A・O・J D.D.チェッカー 攻撃力1700

 

やはりか、デイビットが発動したカードに亮は鼻を鳴らす。先程のターン、『サイバー・ドラゴン』を除去する為とは言え、簡単にこのモンスターを手放した事から何かあるとは考えてはいたが、魔法、罠ゾーンを圧迫する永続罠だったとは。

 

だがこれで、亮の光属性モンスターの特殊召喚を封じた。亮からすればこんなもの、間抜けを通り越して滑稽でしか無い。たかが光属性の特殊召喚を封じられた程度。光属性以外の特殊召喚は可能であり、光属性も通常召喚は可能。それだけで充分過ぎる。

サイバー流は史上最強、小細工等捩じ伏せる。

 

「おめでたい頭だ。自分で味わっておいて、この程度で俺を止められるとでも思ったか。俺は『プロト・サイバー・ドラゴン』を召喚!」

 

プロト・サイバー・ドラゴン 攻撃力1100

 

現れたのは下級であり、フィールドで『サイバー・ドラゴン』として扱うモンスター。このカード1枚で、デイビットの対策は無力と化した。

 

「っ、しまった――!」

 

「気づいたか、俺はこのカードと貴様の機械族モンスター全てを融合!融合召喚!『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』!」

 

キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻撃力4000

 

そしてデイビットのモンスターを吸収し、呼び出されたのは闇属性、『サイバー・ドラゴン』をベースとした合成機械竜。キメラテックシリーズの1体だ。どちらもこのデュエルで1度は呼び出されたカードなのに――何故忘れてしまっていたのか。これでは間抜け言われても仕方無い。

 

「対策は良い、戦略も基礎は作られている。だがツメが甘い。バトル!キメラテック・フォートレスでダイレクトアタック!」

 

デイビット・ラブ LP76100→72100

 

「おごぉぉぉぉぉっ!!」

 

キメラテック・フォートレスの円盤状の身体4つから竜の首が伸び、熱線が放たれ、ダメージと電流がデイビットの身体を駆け抜け、くの字に折れる。甘かった――この男は多少の小細工では止まらない。止めるならば、それこそ大がかりのものを幾重にも張り巡らせなければ話にならない。

 

「6度目、ターンエンドだ。さぁ、どうする?またカタストルを出してもこのカードは闇属性、『A・O・J』では突破は困難だ」

 

丸藤 亮 LP2700

フィールド『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』(攻撃表示)

『サイバー・ネットワーク』セット1

手札2

 

「くっ、Meのターン、ドロー!罠カード、『貪欲な瓶』!墓地のラヴァ・ゴーレム、『火炎地獄』、ファイヤー・フォース、命削りの宝札、リビングデッドを回収し、1枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札1→2

 

「永続魔法、『一族の結束』を発動!Meのフィールドにモンスターが存在しない場合、手札の『太陽風帆船』を特殊召喚!」

 

太陽風帆船 守備力2400→1200

 

フィールドに現れたのは『サイバー・ドラゴン』と似た効果を持つ機械族モンスター。上下共に帆を広げ、カジキのような長い角を伸ばした船型のモンスターだ。

 

「そしてチューナーモンスター、『ブラック・ボンバー』を召喚!」

 

ブラック・ボンバー 攻撃力100→900

 

お次は鋭い目と歯が並ぶ口がデザインされた丸い爆弾のモンスターだ。

 

「召喚時、墓地のレベル4の闇属性、機械族を効果を無効にし、守備表示で特殊召喚可能だが――使用しない!」

 

「む……」

 

墓地のモンスターを蘇生出来、1枚でシンクロが可能となる優秀な効果だが、その効果は使用されない。ここで使えば、次のターン、コアによって『サイバー・ドラゴン』が呼ばれ、キメラテック・フォートレスの素材となると考えたのだろう。

 

「レベル5の『太陽風帆船』にレベル3の『ブラック・ボンバー』をチューニング!シンクロ召喚!『A・O・Jライト・ゲイザー』!」

 

A・O・Jライト・ゲイザー 攻撃力2400→5200

 

シンクロ召喚、再び異次元の召喚を使い、呼び出されたのは宇宙人のような奇妙な形状をしたモンスター。首、足の無い人型をしたロボットの腰周りに、リングが回転し、目、手、下半身、リングと様々なヵ所から発光したカードだ。攻撃力は爆発的に上がり、5200、キメラテック・フォートレスの攻撃力を一瞬で追い抜いた。

 

「ライト・ゲイザーの攻撃力は、Youの墓地の光属性モンスター×200アップ!Youの墓地には10体の光属性モンスター。よって2000アップし、『一族の結束』の効果で更にアップ!バトルだ!ライト・ゲイザーでキメラテック・フォートレスへ攻撃!」

 

丸藤 亮 LP2700→1500

 

「ッ――!」

 

ライト・ゲイザーが全身からレーザーを放ち、合成機竜を打ち砕く。強烈なダメージと共に亮に流れる電撃、しかし亮はそれも気にも止めず、むしろ好戦的な笑みを浮かべている。

 

「ふん、そうだ、これでこそ生きていると実感出来る……!」

 

漸く面白くなって来た。ダメージを受けるからこそ、彼は戦場で生と言うものを実感し、楽しめる。正しく求道者。闘いのみを生き甲斐とする修羅だ。

 

「ターンエンドだ!」

 

デイビット・ラブ LP72100

フィールド『A・O・Jライト・ゲイザー』

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』×2『一族の結束』『リビングデッドの呼び声』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『サイクロン』!『機甲部隊の最前線』を破壊!墓地のコアを除外し、デッキから3体目の『プロト・サイバー・ドラゴン』をリクルート!」

 

プロト・サイバー・ドラゴン 攻撃力1100

 

「貴様のライト・ゲイザーと融合!融合召喚!『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』!」

 

キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻撃力2000

 

「バトル!キメラテック・フォートレスでダイレクトアタック!」

 

デイビット・ラブ LP72100→70100

 

「ぐぅっ……!」

 

「7度目、ターンエンドだ」

 

丸藤 亮 LP1500

フィールド『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』(攻撃表示)

『サイバー・ネットワーク』セット1

手札2

 

「Meのターン、ドロー!モンスターをセットし、ターンエンドだ!」

 

デイビット・ラブ LP70100

フィールド セットモンスター

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』×2『一族の結束』『リビングデッドの呼び声』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!この瞬間、発動後、3回目のスタンバイフェイズを経た『サイバー・ネットワーク』は破壊され、除外されている光属性、機械族モンスターを特殊召喚する!来い!『サイバー・ドラゴン』!『サイバー・ドラゴン・ドライ』2体!『サイバー・ドラゴン・コア』!」

 

サイバー・ドラゴン 攻撃力2100

 

サイバー・ドラゴン・ドライ 攻撃力1800×2

 

サイバー・ドラゴン・コア 守備力1500

 

現れる4体の『サイバー・ドラゴン』。効果は発動出来ず、バトルフェイズも行えなくなるが、光属性、機械族専用の『異次元からの帰還』と言えるカードだ。

 

「その後、『サイバー・ネットワーク』の効果で俺の魔法、罠カードは破壊される。魔法カード、『置換融合』!フィールドのドライ2体とコア1体で融合!融合召喚!『キメラテック・ランページ・ドラゴン』!」

 

キメラテック・ランページ・ドラゴン 攻撃力2100

 

3体の機械竜を素材とし、新たなキメラテックシリーズの1体が降臨する。『サイバー・ドラゴン』、ツヴァイ、ドライの3体の竜の頭部を持つ合成機竜。しかしそのステータスは3体のモンスターを素材にしておいて低く、『サイバー・ドラゴン』と同じステータスだ。一体どのような効果を持っているのか。

 

「融合召喚時、素材の数まで魔法、罠を破壊!『一族の結束』と2枚の『補給部隊』を破壊!」

 

「何ッ!?」

 

これでデイビットの魔法、罠ゾーンのカードは置物と化した『リビングデッドの呼び声』のみ。がら空きの状態だ。リカバリー手段のカードが破壊された事で防御が手薄となった。

 

「ランページの効果でデッキから『サイバー・ドラゴン・ツヴァイ』を2体墓地に送る。カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

丸藤 亮 LP1500

フィールド『キメラテック・ランページ・ドラゴン』(攻撃表示)『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』(攻撃表示)『サイバー・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「ぐぅっ……Meのターン、ドロー!……ハッ、残したのが仇となったネ!魔法カード、『マジック・プランター』!リビングデッドをコストに2枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札0→2

 

「永続魔法、『機甲部隊の最前線』!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札0→3

 

「カードを2枚セットしてターンエンド!『命削りの宝札』の誓約で、残った1枚を捨てる」

 

デイビット・ラブ LP70100

フィールド セットモンスター

『機甲部隊の最前線』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ランページの効果により、デッキから『サイバー・バリア・ドラゴン』と『サイバー・ジラフ』を墓地に送り、攻撃回数を2回増やす!バトル!キメラテック・フォートレスでセットモンスターに攻撃!」

 

「永続罠発動!『DNA移植手術』!フィールドのモンスター全てを光属性に変更!そしてセットモンスターは『A・O・Jブラインド・サッカー』!戦闘を行った光属性モンスターのエフェクトを無効!『機甲部隊の最前線』のエフェクトで『A・O・Jコアデストロイ』をリクルート!」

 

A・O・Jコアデストロイ 守備力200

 

キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻撃力2000→0

 

「ほう……ターンエンドだ」

 

丸藤 亮 LP1500

フィールド『キメラテック・ランページ・ドラゴン』(攻撃表示)『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』(攻撃表示)『サイバー・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

「Meのターン、ドロー!一気に攻める!リバースカード、オープン!魔法カード、『ダークバースト』!墓地の『ブラック・ボンバー』を回収し、召喚!」

 

ブラック・ボンバー 攻撃力100

 

「召喚時、D.D.チェッカーを蘇生!」

 

A・O・J D.D.チェッカー 守備力1200

 

「レベル3のコアデストロイと、レベル4のD.D.チェッカーに、レベル3の『ブラック・ボンバー』をチューニング!シンクロ召喚!『A・O・Jディサイシブ・アームズ』!!」

 

A・O・Jディサイシブ・アームズ 攻撃力3300

 

現れたのは『A・O・J』の切り札。最終決戦兵器の異名を持つ超大型モンスターだ。青と金のボディには幾何学模様が浮かび上がり、両腕にはレーザー砲が、頭部にあたる部位には巨大な大砲がそびえている。異星からの侵略者を根こそぎ殲滅すべく、小さな者に生み出された正義の使者が今、デイビットのフィールドに君臨した。

 

「最終決戦兵器か……」

 

「どうだい亮?これならば満足も出来るだろう!さぁ、正義の裁きを受けろ!相手フィールドに光属性モンスターが存在する場合、ディサイシブ・アームズのエフェクト発動!相手フィールドのセットカードを破壊!」

 

「チェーンして罠発動、『レインボー・ライフ』。手札を1枚捨て、このターンのダメージを回復に」

 

「チッ、だがモンスターは別!ディサイシブ・アームズ!『サイバー・ドラゴン』へ攻撃!」

 

丸藤 亮 LP1500→2700

 

ディサイシブ・アームズの砲門に眩き光が集束し、巨大な球体状のエネルギーが青白く輝き、明滅する。そして――ドシュゥゥゥゥンッ!激しき轟音が響き、極太のレーザーが突き進み、大地を焦がして『サイバー・ドラゴン』を丸呑みにする。正に決戦兵器。圧倒的な力が振るわれる。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

デイビット・ラブ LP70100

フィールド『A・O・Jディサイシブ・アームズ』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』『DNA移植手術』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ランページの効果でデッキから『サイバー・ジラフ』と『サイバー・ヴァリー』を墓地へ。2体を守備表示に変更し、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、Meは速攻魔法、『終焉の焔』を発動!自分フィールドに2体の『黒焔トークン』を特殊召喚!」

 

黒焔トークン 守備力0×2

 

2体のキメラを守備表示にし、ターンエンド。あれだけ猛威を奮っていた帝王がすっかり大人しくなってしまった。これは良い、ニヤリとデイビットはほくそ笑む。流石にカイザーと言えどLP100と100000の差では勝てなかったと言う事だろう。こうなってしまえば勝負は貰ったも同然、デイビットはプライドを持ち直し、歪んだ笑みを表情に張り付ける。

 

丸藤 亮 LP2700

フィールド『キメラテック・ランページ・ドラゴン』(守備表示)『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』(守備表示)

手札2

 

「Meのターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『A・O・Jライト・ゲイザー』、『太陽風帆船』、『ブラック・ボンバー』、『A・O・Jコアデストロイ』、『A・O・Jブラインド・サッカー』の5枚を回収し、2枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札0→2

 

「2体の『黒焔トークン』をリリースし、現れろMeの切り札!プラネットシリーズの1柱!アドバンス召喚!『ThebigSATURN』!!」

 

ThebigSATURN 攻撃力2800

 

ここで――2つの黒焔を握り潰して糧とし、新たなモンスターが呼び出される。世界に1枚しか存在しないとされる、太陽系の惑星をモチーフとした、プラネットシリーズの1体。土星の名を冠する巨大な鐘のような身体を持ち、剛腕を振るう黒い機械族。

これこそがデイビットの真の切り札、彼が最も信頼する自慢のエースだ。このモンスターを召喚した事により、デイビットが酔いしれるような表情を浮かべている所からもその事を窺える。また、このモンスターも闇属性、機械族、このモンスター自身はリクルート不可能だが、『A・O・J』にデッキをシフトした事による恩恵を受けている。

 

「更にディサイシブ・アームズの効果により、手札を全て墓地に送り、相手の手札を確認!その中の光属性モンスターを墓地に送り、攻撃力の合計分のダメージを与える!」

 

「残念だが、俺の手札にモンスターはいない」

 

「チッ、命拾いしたか、バトル!ディサイシブ・アームズとSATURNでモンスターへ攻撃!AngerHAMMER!」

 

ディサイシブ・アームズの砲門から極太のレーザーが、SATURNの剛腕が火を吹いて亮のモンスターを殲滅する。圧倒的パワー、他を寄せ付けない力が振るわれる。正に兵器。鉄騎兵達が亮を襲う。

 

「貧弱、貧弱ゥ!どうだ亮!これがMeの力!パワーイズジャスティス!Youのモンスター程度じゃ勝てないって事さ!」

 

アカデミアの中でも彼の軍隊のように計算された戦略、そしてこのパワーは強力と言える。余程の腕自慢なのか、高笑いをするデイビット。しかし――彼は愚かにも、本物の最強に、力で挑んでしまった。

カイザー亮。彼のデュエルでは相手の策をも真っ向から捩じ伏せる戦略ばかりに目を取られがちだが――彼の真に恐るべき力は、戦略にあらず、確かに戦略もアカデミア内でトップクラスであるが――彼とデュエルした者は、口を揃えてこう言うのだ。

カイザーは、途方も無い、〝力〟の権化だと。

 

「Meはこれでターンエンド!」

 

デイビット・ラブ LP70100

フィールド『ThebigSATURN』(攻撃表示)『A・O・Jディサイシブ・アームズ』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』『DNA移植手術』

手札0

 

「もう良い、分かった」

 

「ん――?」

 

ポツリ、亮が小さな言葉を溢し、溜め息を吐く。話にならない。そもそも、こんなにも有利な条件で今まで亮を倒し切れない時点で気づくべきだった。確かに、基礎は作られている、対策も練られている。充分な武器もある。一流とも言って良い。だが――足りない。足りないのだ。一流程度では、亮は倒せない。届かない。この狂おしい程の、闘いへの渇きを、潤す事は無い。彼の闘争心を、満たせない。

彼のエースモンスターを見つめる亮。巨大で強大、誰もがそう思うだろうモンスターが――亮には、矮小に思えて仕方無い。こんなものでは、自身を脅かすには至らない。それを知らしめる為、亮は右手をデッキトップへと翳し、勢い良く引き抜く。

 

「俺は飢えている!闘いに!俺のターン……ドロォォォォォッ!」

 

引き抜かれる1枚のカード、それに追従する激しき突風がデイビットの頬を撫で、観客席にいるユーリの髪まで揺らす。何と言う気迫、凄まじいドローを前に、誰もが額からを汗を伝わらせる。

 

「墓地の『置換融合』を除外し、キメラテック・フォートレスをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

丸藤 亮 手札3→4

 

これで手札は4枚。全てが緑色のフレームをしているが――このデュエルを終わらせるには充分なカード達だ。

 

「速攻魔法、『サイバネティック・フュージョン・サポート』!このターン、機械族の融合モンスターを融合召喚する場合、1度だけその素材を手札、フィールド、墓地から選んで除外し、素材に出来る!そして魔法カード、『パワー・ボンド』を発動!墓地の『サイバー・ドラゴン』と機械族モンスター、24体!計25体を素材に、融合召喚!蹂躙し、焦土とかせ!『キメラテック・オーバー・ドラゴン』ッ!」

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン 攻撃力20000→40000

 

現れたるは暴虐の帝王。25体もの素材を喰らい、25本の首を伸ばす黒金の身体を持つ、力がそのまま形となったような合成機竜。その登場と共にフィールドは火に包まれ、爆発したかと思う程の咆哮が25のアギトより放たれる。攻撃力、40000。これこそが亮の真に恐るべき力。

そう、力だ。純粋に強い、ひたすらに強い、ただただ強い。それだけで――彼は勝利を刻んで来た。戦略も何も必要無い。この圧倒的な力こそが、帝王を帝王たらしめているのだ。その全てを捩じ伏せる力を前にして――デイビットが呆然と立ち尽くす。

 

「……馬鹿な……」

 

「このカードの元々の攻撃力は素材の数×800となり、『パワー・ボンド』の効果で元々の攻撃力分、攻撃力をアップ。そして、このカードは素材の数だけモンスターに攻撃可能!散るが良い、速攻魔法、『ハーフ・シャット』!SATURNに戦闘耐性を与え、攻撃力を半減する!」

 

ThebigSATURN 攻撃力2800→1400

 

一縷の望みさえも与えぬ帝王の睨み。それがプラネットシリーズであるSATURNをも怯ませ、フィールドに貼りつける。最早逃げ道も無い。待っているものは――蹂躙のみ。

 

「速攻魔法、『リミッター解除』!キメラテック・オーバーの攻撃力を、更に倍に!」

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン 攻撃力40000→80000

 

更に強化、攻撃力、80000による25回攻撃――SATURNの攻撃力を引いても、その数値は1965000。LPが10万あっても――勝利へは届かない。

 

「28回、7度と合わせ、35度、地を舐めろ。SATURNへ攻撃、エヴォリューション・レザルト・バースト、20、グォレンダァッ!!」

 

デイビット・ラブ LP70100→0

 

眩き閃光が竜のアギトより放たれ――デイビットを呑み込む。瞬間、デュエルディスクによるセーフティがかかるも――電流は彼の肉体を焦がし、白目を剥き、デイビットは悲鳴も上げられず気絶する。

勝者、カイザー、丸藤 亮。しかし――そのデュエルを見た者は、誰もが声を出せなかった。ただ1人――。

 

「……面白い……っ!」

 

眼帯の奥から、金色の光を灯す少年を除いて――。

 

――――――

 

「ねぇ……おじさん」

 

「……何ですかユーリ君?」

 

数刻後、会場の入り口にて、口を閉じ、黙りこくっていたユーリが漸くドクトルヘ口を開く。もう彼の手には飢えを止める為の食べ物は無い。彼の表情に浮かんでいるものは――有り余る、デュエルへの闘争心。あれ程の闘いを見せられて尚、この少年は心が折れる所か、踊ってさえいるのだ。

 

「僕が、カイザーに勝てると思う?」

 

「思いませんねぇ、今の貴方も、前の貴方も、デイビット君のようになるだけですよ」

 

「だけど――僕は、カイザーを超える」

 

それは揺るぎなき挑戦への意志。眼帯に覆われていない紅い眼に決意を灯し、少年は囀ずる。今は誰が聞いても馬鹿馬鹿しいと花で笑うような台詞だ。だが――今は、それでも良い。だけど必ず、そう遠く無い内に、暴虐の帝王を地に沈める。最強に勝利して見せるとユーリは口にする。恐れ多く、愚かな挑戦。しかし、ドクトルはそれを待っていたとばかりに口角を上げ、目を開く。

 

「ならばやるべき事は1つ!ユーリ君、貴方はこの地下のランキング上位に君臨する化物達とデュエルし――勝利するのです!」

 

その先を経て――初めてカイザーと渡り合えるでしょうと、ドクトルは笑う。ユーリが倒すべき者達、それはこの地下でもカイザーに並び、化物と称されるデュエリスト共、今ここに――ユーリの魑魅魍魎を相手としたデュエルが始まるのだ。

 

「上等……やってやろうじゃないか!」

 

「クフフフフフッ!まず目指すべきはランキング8位!吸血姫、カミューラさんといきましょう!」

 

相手は闇夜を支配せし、鮮血の魔嬢。闇のデュエルの幕が、今上がる。

 

 




ユーリ君とドクトルさんと言うキ○ガイコンビ、何だかんだでこの2人仲が良くて書いてて楽しいです。ドクトルさんはマジでヤバイ人なんですけど。


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第113話 おばさん

多分今までに無くユーリ君が輝いてる回。


アカデミアの上層部、その一部のみが知る暗き地下、その一角にある蝙蝠達が羽音を立てる、小さな中世の屋敷を模した建築物の前にて、ユーリとドクトルは立っていた。目的はこの屋敷に住む人物、ランキング7位、通称吸血姫、カミューラとのデュエルだ。

その為に彼女が住処とするこの屋敷まで交渉に来たのだ。

 

現在ユーリのランキングは21位、デイビットが退いた事で順位は1つ上がったが、それでも7位であるカミューラが相手にするとは思えない。加えて現在ユーリは丸々と太っている。醜いものを嫌うと言われるカミューラの事だ、屋敷に上げてすら貰えるかどうか。ドクトルは自分で誘ったものの、これ大丈夫なんでしょうか、と心の中で溜め息を吐く。

 

「うわぁ、悪趣味な屋敷。カミューラさんって人、本当に吸血鬼か何か?」

 

ユーリが城を飛び交う蝙蝠を見て、露骨な程に眉をひそめて吐き捨てる。確かに通り名と言い、彼がそう思うのも仕方無い。それに――彼の疑問は事実でもある。

 

「どうでしょうねぇ?私も良く知りませんが、彼女は本物の吸血鬼だ、と言う噂は良く聞きますよ。ランキングを駆け上がって来たデュエリストを悉く打ち倒し、血を啜る砦、彼女が存在する限り、滅多な事では順位は動かないのです」

 

「成程ねぇ」

 

「一説では中世から生き残ったヴァンパイアだとか。ぜひ研究したいですねぇ」

 

「アンタが言うと冗談に聞こえないよ……」

 

「おや?冗談では無いのですが」

 

「……」

 

最近常識人っぽい所ばかりを見て、忘れていたが、痩せこけた頬や、やや開いた瞳孔、目の下の隈等、見た目通りドクトルはマッドサイエンティストの一面を持つ。流石に彼とて倫理を外れた実験はしていないが。某動物愛好家のように育てている蟲に対し、愛おしそうに頬擦りをする、と言う不気味な行動をしているのを良く見かけられている。危険人物だと思われても仕方無いだろう。

 

ハァ、と溜め息を吐くユーリは知らない。彼自身もまた、良く八つ当たり気味にオベリスク・フォースを叩きのめしている事で危険人物扱いされている事を。

 

兎に角、今はカミューラだ。中世より生き残ったヴァンパイア。それ程までに恐ろしく強いデュエリストと言う事だろう。面白い飯が美味い事は良い事だ、とペロリと舌舐めずりをするユーリ。しかし――それと同時に、その噂に、ユーリは思う所があった。中世から生きていると言うならば――彼女の通り名には違和感がある。

 

「吸血姫、ねぇ。姫って言うにはババア過ぎるんじゃない?」

 

「誰がババアですって?」

 

相手が女性にも関わらず、デリカシーに欠ける発言をするユーリ。そしてそこに丁度良いのか悪いのか、噂をすれば何とやら。2人の背後に張本人が姿を見せる。

思わずユーリが重くなった身体を振り向かせると、そこにいたのは緑がかった長髪を腰まで流し、深紅のドレスを纏った目付きの鋭い美女、胸元や足を露出させた姿は確かにヴァンパイアと思える程に艶やかで色気があり、美しい。しかし同時に――この華美な美女が、そんな化物には到底思えないと言う真逆の思考を抱かせる。

 

「あら、ドクトルじゃない。こんな所で会うなんて珍しいわね。蝙蝠達が騒がしいから見に来たら……何なのこのブクブク太った醜くて口の悪いガキは」

 

しかし中身は見た目とは裏腹に性格が悪いらしい。口を開けば罵倒をして来る貴婦人、カミューラに対し、ムッと眉根を寄せるユーリ。

 

「お久し振りですねぇ、カミューラさん。相変わらず顔色が悪い人だ」

 

「貴方に言われたく無いわね……用件は何?採血はしないわよ」

 

「それは残念ですが、今回は別件ですよ。この少年、ユーリ君とランキング戦をして欲しいんですが――」

 

どうやら2人は知り合いらしい。とは言ってもそれ程仲が良い、と言う訳では無さそうだが。交渉事に向かないユーリに代わり、トントン拍子で話を進めるドクトル。有り難い存在だ。カミューラはふぅん?と鼻を鳴らし、ユーリを頭から爪先までジトリと見つめ――露骨に嫌そうに顔を歪め、身体をやや逸らし、目だけをユーリに向けて口を開く。

 

「ランキングは?」

 

「21です」

 

「ハッ!笑わせないでちょうだい。見た目もランキングも下、正直言ってゲテモノじゃない。そんなものの相手をしろと?」

 

やはりか――ドクトルが額を抑え、溜め息を吐き出す。こうなれば仕方無い。ダイエットとランキング上げをコツコツと繰り返してまた来るしかないと、ドクトルが諦めた時――ユーリが前に出て、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「逃げるの?」

 

「……挑発のつもり?益々つまらない男ね」

 

「そっちこそ、つまらないオバサンだね」

 

特大の爆弾が放り投げられ、一瞬空気が凍る。言ってはならぬ一言を、ユーリは言ってしまった。その事実にドクトルですら冷や汗を流し、カミューラの様子を見る。ぴくぴくとこめかみをひくつかせ、ユーリを睨むカミューラ。まだ、切れてはいない。しかし一歩手前の崖っぷち。

 

「今、何つった?」

 

「聞こえなかったぁ?年取ってるから耳も遠いんだぁ、おばあちゃん。無理しちゃ駄目だよ、僕別に、お年寄りをイジメる趣味無いし、無理ならやっぱり良いんだよ?ほーらお屋敷に帰ろうねー」

 

更に爆弾投下、地雷をタップダンスで踏み抜きまくるユーリに対し、カミューラの額にビキビキと青筋が浮かび上がり――その美しい顔を台無しにして、表情が怒り一色に染め上がる。

 

「上等よクソガキィッ!散々痛めつけて、最も不様に負かしてあげるわ……!」

 

正に怒髪天、頬が千切れんばかりに吊り上げられ、怒り狂う姿は吸血鬼と言うより口裂け女だ。ユーリはあながち吸血鬼ってのも嘘じゃないなぁ、と呑気に考えながら鼻を鳴らす。ここまでふてぶてしいと逆に清々しい。

 

「ありがとー、お年玉くれるなんて、おばあちゃんは優しいなぁ、でもまだお正月じゃないよぉ、ボケてるのかな?まぁ良いや、ほら行こうか、あっ、1人で歩けるぅ?」

 

「ぶっ殺!」

 

煽りながらてくてくと呑気に会場に向かって歩くユーリと対照的に、怒り狂いながらザッザッと早歩きで進むカミューラ。何とか勝負に漕ぎ着けたが――会場につくまでユーリは煽る事を止めず、ドクトルとしては生きた心地が全くしなかった――。

 

――――――

 

こうして場所は変わり、地下の中心にある金網が張り巡らされた闘技場へ。ユーリとカミューラは互いにデュエルディスクを構え、準備は万端。ユーリは相変わらず紅玉の左眼を細めてニヤニヤと笑みを浮かべ、カミューラはギリギリと歯軋りを鳴らす。随分と苛立っているが、デュエルに支障は無いのだろうか?

 

「血祭りに上げてやるわ……!」

 

「はぁーあ、全く嫌だねぇオバサンのヒステリックなんて。醜いったらありゃしない」

 

「アンタの腹に比べたら可愛いもんよ!って言うかオバサンじゃないっつーの!」

 

少し物を言えばユーリの口が煽りを滑らせ、カミューラのストレスが更に上がる。これではキリが無い。カミューラはギリッ、と歯軋りを鳴らし、デュエルディスクより蝙蝠の羽のようなプレートを展開し、それを見たユーリも剣型のプレートを展開する。これ以上ユーリと話していたら狂ってしまいそうだとでも思ったのだろう。手早く終わらせようと言うのが見てとれる。LPはユーリが4000、カミューラが14000。上位にしては少ないが――一体どうなるのか。

 

「「デュエル!!」」

 

こうして、デュエルが始まる。対戦カードは飢えた悪童と吸血鬼の女王。どちらが勝ってもただでは済まないだろう。先攻はユーリだ。彼は太ってしまった事で短くなった手を動かし、デッキから5枚のカードを引き抜いて手札にする。

 

「僕のターン、僕はモンスターをセット、カードを2枚セットしてターンエンド」

 

ユーリ LP4000

フィールド セットモンスター

セット2

手札2

 

モンスターとリバースカード、合計3枚のカードをセットしてターンエンド。随分と大人しい出だしだ。とは言え彼のデッキでは先攻に打ってつけのカードが余り無い為、仕方無いか。

 

「ふん、体重と同じでデュエルも重いのかしら?私のターン、ドロー!私は『ヴァンパイア・ソーサラー』を召喚!」

 

ヴァンパイア・ソーサラー 攻撃力1500

 

フィールドに現れたのは三角帽子とローブを纏い、蝙蝠を模した杖を握った青い肌の『ヴァンパイア』の魔導士。『ヴァンパイア』デッキのキーカードとなるモンスターだ。

 

「バトル、ソーサラーでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『捕食植物プテロペンテス』。守備力は2100、600の反射ダメージを受けてもらおうか」

 

カミューラ LP14000→13400

 

ソーサラーがセットモンスターへと魔球を撃ち出したその時、セットモンスターがくるりと身を翻して姿を見せる。食虫植物、ウツボカヅラと翼竜を合成したかのようなモンスターだ。プテロペンテスはその翼で魔力弾を弾き返し、ソーサラーを迎撃する。

 

「チィ――ッ!」

 

ビリビリと微量な電流がカミューラへと襲いかかり、舌打ちを鳴らす。吸血鬼である彼女からしたらこんな電撃、無いにも等しいダメージだが、苛立つ事には変わらない。折角の先制ダメージもユーリに取られてしまった。出だしを挫かれるのは彼女的にプライドに障る。

 

「そしてプテロペンテスがダメージを与えた事でソーサラーに捕食カウンターが乗る。このカウンターが乗ったモンスターはレベルが1となる」

 

ヴァンパイア・ソーサラー レベル4→1 捕食カウンター0→1

 

「焦っちゃ駄目だよ、まだデュエルは始まったばかりなんだから」

 

「ふん、ならエスコートしてもらえると有り難いわね。カードを2枚セットし、ターンエンド」

 

カミューラ LP13400

フィールド『ヴァンパイア・ソーサラー』(攻撃表示)

セット2

手札3

 

「僕のターン、ドロー!悪いけど好みじゃないなぁ、プテロペンテスの効果により、このカードのレベル以下のモンスター、ソーサラーのコントロールを奪う!」

 

「くっ!」

 

「うわ、僕が墓地に送るだけでサーチかぁ。しかもリリース軽減まで持ってる、融合素材にしようと思ったのになぁ。僕は『捕食植物コーディセップス』を召喚!」

 

捕食植物コーディセップス 攻撃力0

 

ユーリが自軍に加わったソーサラーの効果を確認し、愚痴りながら召喚したのは冬虫夏草をモチーフとしたモンスターだ。『ヴァンパイア・ソーサラー』は相手によって墓地に送られた場合、『ヴァンパイア』カードをサーチする効果を持つ。しかも墓地から除外する事で上級『ヴァンパイア』のリリース軽減つき、折角プテロペンテスの効果がエンドフェイズまでしか続かない為、融合素材にでもしようと思ったのだが、これでは迂闊にリリースにも出来ない。

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールドのプテロペンテスとコーディセップスで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

融合召喚――ユーリの背後に青とオレンジの渦が広がり、2体の『捕食植物』が飛び込んで溶け合い、新たなモンスターが呼び出される。現れたのは悪臭振り撒くラフレシアをモチーフとした凶暴なモンスターだ。

 

「バトル、キメラフレシアとソーサラーでダイレクトアタック!」

 

カミューラ LP13400→10900→9400

 

「がふっ――!この……高くつくわよ、クソガキィッ……!」

 

キメラフレシアの蔦とソーサラーの魔弾がカミューラを貫き、4000ものダメージがカミューラを襲う。思わず苦悶の声と共にたたらを踏むカミューラ。彼女は忌々し気にユーリを睨み、悪態をつく。

 

「良いよ返さなくて。僕も返さないからさ。メインフェイズ2、キメラフレシアの効果でこのカードのレベル以下のソーサラーを除外、僕はこれでターンエンド」

 

ユーリ LP4000

フィールド『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

ソーサラーを墓地に送らずに除外し、サーチ、リリース軽減まで奪うユーリ。俗に言う借りパクであろうか、見事な腕前だ。カミューラは舌打ちを鳴らし、次の手を考える。

 

「私のターン、ドロー!くっ、モンスターをセットしてターンエンドよ」

 

カミューラ LP9400

フィールド セットモンスター

セット2

手札3

 

「僕のターン、ドロー!遠慮無くやらせて貰うよ!僕はキメラフレシアでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスター、『ヴァンパイア・ソーサラー』が墓地に送られた事でデッキの『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』をサーチ!」

 

「ふぅん?僕はこれでターンエンド」

 

ユーリ LP4000

フィールド『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「私のターン、ドロー!たっぷりお礼をしてあげるわ!」

 

「結構でーす」

 

「一々苛々させられる……っ!私は墓地の『ヴァンパイア・ソーサラー』を除外し、『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』をリリース無しで召喚!」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力2000

 

現れたのは背に蝙蝠の双翼を伸ばし、銀髪を腰まで流した美しく、妖艶な少女。ロンググローブにブーツ、胸元と腰が開いた艶やかな衣装に身を包んだ彼女は紅い眼を輝かせ、ペロリと舌舐めずりをする。

 

「召喚時、キメラフレシアをこのカードに装備し、その攻撃力をこのカードに加える!」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力2000→4500

 

相手モンスターの装備化に攻撃力アップ。中々に強力な効果だ。これではキメラフレシアの効果も使えない。ユーリのフィールドはがら空き、『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』の攻撃力は4500、一撃で終わる数値だ。しかし装備カードとなるモンスターが『スターヴ・ヴェノム』が装備カードじゃなくて良かった。もしも『スターヴ・ヴェノム』が装備カードと化せば――。

 

「バトル、『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』、その醜い豚を消しなさい」

 

「させないけど?罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にして、1枚ドロー!」

 

ユーリ 手札2→3

 

『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』がその指先を宙に這わせ、ハートを描き、吐息を吹き掛ける。するとハートはユーリへと向かい、途中で無数の矢に分裂して襲いかかる。だがユーリとて、ランキングは食費のせいで余り動いていないが、この地下で何戦も闘い、勝ち抜いて来た。難なくかわし、新たなカードを手札に呼び込む。

 

「チッ、そこそこ出来るみたいね、私はこれでターンエンドよ」

 

カミューラ LP9400

フィールド『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』(攻撃表示)

『捕食植物キメラフレシア』セット2

手札3

 

「全く、僕のデッキは『捕食植物』だって言うのに、ここに来てから逆に捕食されちゃうばかりだよ。僕のターン、ドロー!まぁ、結局僕が食べ尽くすんだけど。僕は『捕食植物オフリス・スコーピオ』を召喚!」

 

捕食植物オフリス・スコーピオ 攻撃力1200

 

ここで現れたのは蠍を模した植物だ。根が身体、葉が尾となっており、鋭い針が伸びている。単体でも優秀な部類に入るが――とある1体と組み合わせる事で、その性能は跳ね上がる。

 

「召喚時、手札のモンスターを墓地に送り、デッキから『捕食植物ダーリング・コブラ』を特殊召喚!」

 

捕食植物ダーリング・コブラ 守備力1500

 

次は二又に別れた頭部を持つ、蛇を模したような植物だ。このカードこそがオフリス・スコーピオと抜群の相性の良さを持つカードだ。

 

「ダーリング・コブラが『捕食植物』モンスターの効果で特殊召喚された事でデッキの『置換融合』をサーチし、発動!フィールドのオフリス・スコーピオとダーリング・コブラで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「効果で『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を除外!」

 

「させるか!罠発動!『スキル・プリズナー』!『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を対象とするモンスター効果を無効!」

 

「ならバトル!キメラフレシアで『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』へ攻撃!攻撃宣言時、相手モンスターの攻撃力を1000ダウンし、このカードの攻撃力を1000アップ!」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力4500→3500

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→3500

 

相撃ち狙い、玉砕覚悟の特攻、確かにこれならば『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を破壊出来る。モンスターを装備化するこのカードは早めに除去しておきたいと言う事だろう。それにキメラフレシアは墓地に送られた次のスタンバイフェイズ、『融合』系列のカードをサーチ出来る。が――ニヤリ、カミューラが笑みを浮かべ、その手を打ち砕く。

 

「甘いのよっ!罠発動!『ヴァンパイア・シフト』!デッキよりフィールド魔法、『ヴァンパイア帝国』を発動!」

 

「デッキからフィールド魔法だって!?」

 

リバースカードが発動され、カミューラのフィールドゾーンへと1枚のカードが設置される。味気無い金網のリングが中世の闇夜へと変わり、蝙蝠が飛び交う城がそびえ立ち、赤く輝く月が照らし出す。

 

「ダメージ計算時、アンデット族モンスターの攻撃力は500アップする!」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力3500→4000

 

まるで妖艶な少女に誘い出されたかのように――キメラフレシアが蔦で吸血鬼を絡め取ろうとするも、『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』は自らの影よりキメラフレシアを呼び出し、迎撃、相撃ちさせるも、彼女のキメラフレシアは影の為、破壊されてもドロリと溶けて彼女の足下へと戻る。触手プレイ失敗である。規制は厳しい。

 

ユーリ LP4000→3500

 

「くっ――、カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

ユーリ LP3500

フィールド

セット2

手札1

 

「私のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズ、キメラフレシアの効果で僕は『再融合』をサーチ!」

 

「無駄よ!どうせこのターンで終わる!私は『ヴァンパイア・レディ』を召喚!」

 

ヴァンパイア・レディ 攻撃力1550

 

次に現れたのは腰元から翼を伸ばし、紫のドレスを纏った女性の『ヴァンパイア』。攻撃力はこころもと無いが、数少ない『ヴァンパイア』の下級モンスターだ。

 

「バトル!『ヴァンパイア・レディ』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地の『捕食植物プテロペンテス』に耐性を与え、蘇生!」

 

捕食植物プテロペンテス 守備力2100

 

「ふぅん?カードを1枚セット、ターンエンドよ。どこまでもつかしら」

 

カミューラ LP9400

フィールド『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』(攻撃表示)『ヴァンパイア・レディ』(攻撃表示)

『捕食植物キメラフレシア』セット2

『ヴァンパイア帝国』

手札2

 

「僕のターン、ドロー!僕は装備魔法、『再融合』発動!LPを800払い、墓地のキメラフレシアを蘇生、装備!」

 

ユーリ LP3500→2700

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「魔法カード、『融合回収』!墓地の『置換融合』と『捕食植物オフリススコーピオ』を回収!そしてオフリス・スコーピオ召喚!」

 

捕食植物オフリス・スコーピオ 攻撃力1200

 

「キメラフレシアの効果で『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を除外!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、防ぐわ!」

 

「そう来るよねぇ、僕は『置換融合』を発動!フィールドのオフリス・スコーピオとプテロペンテスで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

キメラフレシア、3体目、これで全てのキメラフレシアを使い切った、後はゴリ押しするのみ。

 

「まさか――!」

 

「気づいたかな?2体目の効果で『ヴァンパイア・レディ』を除外!まずは1体目のキメラフレシアで『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』へ攻撃!キメラフレシアの効果発動!」

 

「『ヴァンパイア帝国』の効果発動!」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力4500→3500→4000

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→3500

 

ユーリ LP3500→3000

 

粉砕、玉砕、今度は『ヴァンパイア帝国』があって迎撃されるのを分かっていての特攻、無駄にも見える行為だが――。

 

「キメラフレシアの攻撃力ダウンはターン終了まで続く!さぁ、追撃だ!キメラフレシア!」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力3500→2500→3000

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→3500

 

一撃で駄目なら二撃で、ゴリ押し戦法、強引な手で攻める。これで『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を撃破した。墓地に2体のキメラフレシアを送り込めたのも大きいだろう。しかし――。

 

「フフ、甘いわね!自身の効果で装備カードを装備したこのカードが墓地に送られた場合、復活する!」

 

「何――!?」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力2000

 

不死たる存在である『ヴァンパイア』は蘇る。折角倒したのに――これではキリが無い。面倒だなと唇を噛むユーリ。しかし同時に対策はしやすくなった。

 

「カードを3枚セットし、ターンエンド」

 

ユーリ LP3000

フィールド『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

「私のターン、ドロー!」

 

「キメラフレシアの効果で『再融合』をサーチ!」

 

「永続罠発動!『リビングデッドの呼び声』!墓地の『ヴァンパイア・レディ』を蘇生!」

 

ヴァンパイア・レディ 攻撃力1550

 

「そして『ヴァンパイア・レディ』をリリースし、アドバンス召喚!『シャドウ・ヴァンパイア』!」

 

シャドウ・ヴァンパイア 攻撃力2000

 

チチチと城の影より蝙蝠が飛び交って集まり、1体のモンスターとなってフィールドに現れる。登場したのは中世の騎士のような鎧に剣、盾を纏い、紅い眼を輝かせた吸血鬼。

 

「このカードの召喚時、デッキより『ヴァンパイア・デューク』を特殊召喚し、更に『ヴァンパイア』モンスターを召喚した事でキメラフレシアを『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』に装備!」

 

ヴァンパイア・デューク 攻撃力2000

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力2000→4500

 

騎士の咆哮に応え、フィールドに新たな『ヴァンパイア』が現れる。髪をオールバックに固め、紳士然とした衣装に黒いマントと正しく洋画にも出て来る『ヴァンパイア』と言った姿のモンスターだ。『シャドウ・ヴァンパイア』と共に守備力0、『悪夢再び』等のサポートを受けられる数値だ。

 

「デュークの特殊召喚時、魔法カードを宣言、相手は宣言した種類のカードをデッキから墓地へ落とす。貴方のデッキは融合を多用するらしいから、そこを突かせて貰うわ」

 

「お望み通り、僕は『融合』を墓地に送るよ」

 

「この瞬間、相手のデッキからカードが墓地に送られた事で『ヴァンパイア帝国』の効果発動!デッキより『ヴァンパイア・グレイス』を墓地へ送り、貴方のフィールドにある右のセットカードを破壊!」

 

「破壊されたのは『運命の発掘』!1枚ドローだ!」

 

ユーリ 手札1→2

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!リビングデッドをコストに2枚ドロー!」

 

カミューラ 手札1→3

 

「このまま総攻撃……と行きたい所だけど、残念ながら『シャドウ・ヴァンパイア』の効果を使ったターン、この効果で特殊召喚したモンスターしか攻撃出来無いわ。バトル!『ヴァンパイア・デューク』でダイレクトアタック!」

 

「させないよ、相手モンスターの直接攻撃宣言時、僕は手札の『捕食植物セラセニアント』の効果発動!このカードを特殊召喚する!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

ユーリの危機に登場したのは昆虫の背から草が放射状に伸びたモンスター。『捕食植物』の中でも貴重な手札誘発モンスターであり、それを差し引いても優秀なカードだ。

 

「このまま攻撃、と行きたい所だけど、そのモンスター、何かありそうね」

 

「さぁてどうかな?」

 

「ふん、話す気は無いって訳。なら私はメインフェイズ2に移行、『シャドウ・ヴァンパイア』と『ヴァンパイア・デューク』の2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『紅貴士-ヴァンパイア・ブラム』!!」

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム 攻撃力2500

 

セラセニアントには戦闘したモンスターを破壊する効果がある。その危機を感知し、カミューラが2体のモンスターでエクシーズ召喚を行う。現れたのは『シャドウ・ヴァンパイア』と良く似た、しかしより鮮明となったモンスター。鎧、剣、盾は赤く発光し、美しき銀髪を靡かせた暗黒騎士だ。

 

「ブラムのORUを1つ取り除き、効果発動!貴方の墓地の『捕食植物キメラフレシア』を私のフィールドに特殊召喚!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「キメラフレシアの効果でセラセニアントを除外!カードを1枚セットし、ターンエンドよ」

 

カミューラ LP9400

フィールド『紅貴士-ヴァンパイア・ブラム』(攻撃表示)『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』(攻撃表示)『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)

『捕食植物キメラフレシア』セット1

『ヴァンパイア帝国』

手札2

 

「僕のターン、ドロー!装備魔法、『再融合』!キメラフレシアを蘇生!」

 

ユーリ LP3000→2200

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「永続罠、『闇次元の解放』!除外されているセラセニアントを帰還!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

「まだまだ!『捕食植物サンデウ・キンジー』を召喚!」

 

捕食植物サンデウ・キンジー 攻撃力600

 

次に現れたのはエリマキトカゲとモウセンゴケを合成したモンスター。『捕食植物』らしく、相手を捕食する効果の他に『融合』を内蔵した効果を持っている。そして、このカードで呼び出すのは――。

 

「僕はサンデウ・キンジーの効果でこのカードとセラセニアントを融合!魅惑の香りで虫を誘う二輪の美しき花よ!今1つとなりて、その花弁の奥の地獄から、新たな脅威を生み出せ!」

 

瞬間、ユーリの眼帯に覆い隠された右眼が金色に輝く。明らかに異常な光景にカミューラですら瞠目し、額から汗を浮かべる。何が起こっている――思考が過る最中、ユーリの背後に出現した青とオレンジの渦が赤黒に染まり、バチバチと雷が囀ずって霧が広がり、中より細い皺だらけの腕が2本伸び、2体のモンスターを掴んで引き摺り込む。バキバキと噛み砕いて咀嚼するような音が鳴り響き、余りのおぞましさにカミューラの肌が粟立つ。

そして――黒雲を裂き、恐怖が降り立つ。

 

「融合召喚!現れろ!飢えた牙持つ毒龍!『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』!!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800

 

言葉が、出なかった。誰もが静かにフィールドに出現した竜の姿を見て、言葉を失う。現れた竜は余りにも変わり果てた姿になっていたからだ。

砕け散り、光を失った事で漆黒に染まった右眼、身体に纏った鎧のような鱗はくすみ、肉体は肉を全て削ぎ落としたような細く、皺だらけ、弱々しく、無惨な姿となった『スターヴ・ヴェノム』。だと、言うのに――このモンスターの姿は、どうしようもなく不安に駆り立てる。その癖、アギトから覗く並んだ牙は唾液に濡れ、爛々と輝いている。

正しく飢えた竜。そして――竜は大きく口を裂くように開き、大気をも震わせる咆哮を放つ。

 

「――っ!」

 

「お腹が減っているのかい?『スターヴ・ヴェノム』。良いよ、今日はご馳走だ。たぁっぷり召し上がれ!『スターヴ・ヴェノム』の融合召喚時、相手の特殊召喚されたモンスターの攻撃力を、このカードに加える!『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を選択!更に効果で墓地に送ったセラセニアントの効果で『プレデター・プランター』をサーチ!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800→7300

 

オオオオオッ――と、激しき咆哮を上げ、『スターヴ・ヴェノム』の砕かれた筈の右眼が赤く、鮮烈に、放射状に発光、針の如く伸びて『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を貫き、エネルギーを吸収する。

 

「くっ――何なの……!?何なのよその竜は!?」

 

余りに異様、常軌を逸した竜の存在に、カミューラが金切り声を上げる。それもそうだろう、この竜の飢えは、それ程のものなのだから。

 

「『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を除外、お次は効果食べちゃおう!キメラフレシアを対象とし、『スターヴ・ヴェノム』の効果発動!ターン終了まで、対象のカード名と効果を得る!良いよ良いよぉっ!ははっ、最っ高!」

 

ギン、再び『スターヴ・ヴェノム』の眼が発光し、今度はキメラフレシアに向かって弾かれたように駆け、大顎を開いて貪り食らう。暴れ狂う竜に最早理性は無い。

そして――激しきデュエルの影響か、それとも『スターヴ・ヴェノム』の力なのか、ユーリが汗を流し、痩せているように見える。

 

「なっ――!」

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『闇次元の解放』をコストに2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札1→3

 

「LPを800払い、最後の『再融合』発動!キメラフレシアを蘇生!」

 

ユーリ LP2200→1400

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「バトルゥ!キメラフレシア同士で戦闘、『スターヴ・ヴェノム』でブラムへ攻撃ィ!」

 

「くっ、罠発動!『攻撃の無敵化』!バトルフェイズ中のダメージを0に!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→1500

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→3500

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム 攻撃力2500→1500→2000

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力7300→8300

 

バキリ――『スターヴ・ヴェノム』がブラムの上半身に飛びついて食らいつく。ダメージが0になっていると言うのに、竜が猛スピードで駆ける影響で突風がカミューラを襲う。危ない所だった。もしも『攻撃の無敵化』が無ければLPが全て削られ、敗北する所だった。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド。さぁ、楽しませてよ――」

 

ユーリ LP1400

フィールド『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)×2

『再融合』×2セット2

手札1

 

激しさを増す飢えた竜と吸血鬼による、化物同士が食らい合う闇のデュエル。有利なのはユーリだが――LPは未だにカミューラが上、更に彼女はまだ、奥の手を隠し持っている。果たしてこのデュエル、どちらが制すのか――。




スターヴ「ごす!ごすの体重は俺が食っておいたぞ!」

ユーリ「また食うだけだゾ」

スターヴ「」


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第114話 OKAWARIだ!

最近ギャグ書けて無くて辛い……。早くランサーズメンバーでわちゃわちゃさせたい。


地下で繰り広げられる電撃デスマッチ、フィールド魔法の影響によって、深紅の月に照らされた城の下、ユーリとカミューラ、2人の化物が見る者の背筋が凍るような闘いをしていた。最も目を引き付けるのは――やはり、ユーリのフィールドで、今は静かに沈黙する紫の竜。

 

巨大な花弁、2体のキメラフレシアを両隣に連れ、文字通り両手に花状態になっているユーリのエースカード、『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』。

しかし――そのデザインはカードイラストと180度異なり、肉が削ぎ落とされたかのようにか細く痩せこけ、水分も失ったように皺だらけ、そして左の眼は砕け、どす黒く染まっている。弱々しい姿に変わり果てているからと侮るなかれ、その力は色褪せる事無く、その気性はより荒々しく飢えている。

もしかすればこの姿こそがこの竜のあるべき姿なのかもしれない。この竜によってカミューラのモンスターは食い尽くされ、がら空きとなってしまったのだ。不気味で凶悪。『ヴァンパイア』すらそう思う程のモンスター。

 

何よりこの竜の影響なのか知らないが、ユーリに起こった変化も見逃せない。激しきデュエルのせいか――彼は太りに太った身体から元のスマートなボディにダイエットを果たし、その左に装着された眼帯の奥から淡い金色の光を灯している。異常、異様、どちらが『ヴァンパイア』なのか分からない。しかし――まだカミューラの策謀は尽きない。

 

確かにこの竜は強力だ。だが、彼女の扱う『ヴァンパイア』は不死。死して尚蘇り、人々の生き血を啜り、恐怖へ突き落とす崇高にして高貴な存在。よって彼女も貴婦人らしく余裕の笑みを浮かべる。

 

「確かに驚いたけど――この程度ならまだまだ。私達の領域には至らない!ドロー!スタンバイフェイズ、相手によって破壊されたブラムは守備表示で蘇る!」

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム 守備力0

 

再びフィールドに舞い戻る深紅の騎士。強力なエクシーズモンスターの復活は喜ばしいが、守備表示の為、戦力としては期待出来ない。壁としての運用が望ましいが、ORUも無い為、相手モンスターの蘇生も不可能だ。一応レベルを持たない為、ユーリのモンスターの効果を受けないが。

 

「僕もキメラフレシアの効果で『融合回収』をサーチ」

 

「私は『ゴブリンゾンビ』を召喚!」

 

ゴブリンゾンビ 攻撃力1100

 

現れたのは剣を手にした小鬼のゾンビ。低ステータスであるが、その効果は実に優秀、『ヴァンパイア』とも種族、属性、効果の点から相性も良い。カミューラとしては見た目が気になる所だが。

 

「魔法カード、『トランスターン』!『ゴブリンゾンビ』を墓地に送り、デッキより『ヴァンパイア・デューク』をリクルート!」

 

ヴァンパイア・デューク 攻撃力2000

 

「デュークの特殊召喚時、魔法カードを宣言!『ゴブリンゾンビ』が墓地に送られた事で『ヴァンパイア・デューク』をサーチ!」

 

「チッ、なら『シャッフル・リボーン』を墓地に送るよ」

 

「そして『ヴァンパイア帝国』の効果で『ヴァンパイア・ソーサラー』を墓地に送り、『スターヴ・ヴェノム』を破壊!」

 

「ははぁ、それは悪手って奴さ!融合召喚した『スターヴ・ヴェノム』が破壊された事で相手フィールドの特殊召喚されたモンスター全てを破壊!」

 

「何ですって!?」

 

デュークの効果によって起動した『ヴァンパイア帝国』が竜を呑もうとするも、最後の足掻きに『スターヴ・ヴェノム』がジタバタと駆け、頬を裂いて大口を開け、2体の『ヴァンパイア』を食らう。恐ろしい食欲、最後までその空腹は満たされない。

 

「くっ――ふざけた効果を――私はカードを1枚セットしてターンエンドよ!」

 

カミューラ LP9400

フィールド

セット1

『ヴァンパイア帝国』

手札1

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズ、ブラムが蘇る!」

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム 守備力0

 

「バトル!キメラフレシアでブラムへ攻撃!」

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム 攻撃力2500→1500→2000

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→3500

 

「追撃だ!2体目のキメラフレシアでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!」

 

カミューラ 手札1→2

 

「ふぅん?僕はカードを1枚セット、これでターンエンド」

 

ユーリ LP1400

フィールド『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)×2

『再融合』×2セット2

手札3

 

「私のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、ブラムが蘇る!」

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム 守備力0

 

キメラフレシアに破壊されて尚、灰から蘇る吸血騎士ブラム、過労死の予感を感じさせるカードだ。

 

「墓地の『ヴァンパイア・ソーサラー』を除外し、『ヴァンパイア・デューク』を召喚!」

 

ヴァンパイア・デューク 攻撃力2000

 

「デュークが召喚に成功した時、墓地の『ヴァンパイア』を特殊召喚する。来なさい、『ヴァンパイア・デューク』!」

 

ヴァンパイア・デューク 守備力0

 

「この瞬間、デュークと墓地の『ヴァンパイア・グレイス』の効果発動!アンデット族の効果でレベル5以上のアンデット族モンスターが特殊召喚された時、LPを2000払ってグレイスを特殊召喚し、デュークの効果で魔法カードを宣言!」

 

「2枚目の『シャッフル・リボーン』を墓地へ」

 

カミューラ LP9400→7400

 

ヴァンパイア・グレイス 攻撃力2000

 

現れたのは赤い宝玉を設置した杖とワイングラスを手にし、頭にティアラを、そして女教皇のようなドレスを纏った『ヴァンパイア』の貴婦人。ライフコストは重いものの、蘇生効果持ちが多い『ヴァンパイア』では比較的特殊召喚しやすい上級モンスターだ。

 

「そして『ヴァンパイア帝国』の効果でデッキの『ヴァンパイア・ロード』を墓地に送り、『再融合』を破壊!」

 

展開、デッキ破壊、カード破壊。『ヴァンパイア』達は群れを成し、知恵を使って人を陥れる。人に近い姿に、人知を越える知性を誇る存在に、赤き花弁が摘まれ、散らされる。面倒なコンボだ。思わずユーリは舌打ちを鳴らす。

 

「グレイスの効果で魔法カードを宣言、さぁ、デッキから墓地に送りなさい」

 

「……『捕食生成』を墓地に」

 

「フフ、吸われ過ぎて貧血かしら?もしかして痩せちゃったのも血の気が引いたから?私は魔法カード、『置換融合』を発動!フィールドのデューク2体で融合!2体の亡者の魂が冥界の主を呼び覚ます!冥界の扉を破り現れよ!幽合召喚!『冥界龍ドラゴネクロ』!!」

 

冥界龍ドラゴネクロ 攻撃力3000

 

融合召喚――今度は2体のデュークを1体に束ね、フィールドに骨の鎧を纏う黒翼の竜が姿を見せる。決闘竜の1体にして、唯一の融合モンスター。その素材はアンデット族2体と軽く、効果を置いても攻撃力3000のアタッカーとして期待が出来る。

 

「これが私のドラゴン……尤も、人から貰ったものなんだけれど。さぁ、バトルよ!ドラゴネクロでキメラフレシアに攻撃!ソウル・クランチ!」

 

「永続罠発動!『強制終了』!キメラフレシアを墓地に送り、バトルフェイズを終了する!」

 

カミューラのドラゴン、骸骨を模したようなドラゴネクロがキメラフレシアに襲いかかろうとしたその瞬間、ユーリがリバースカードでキメラフレシアをコストに攻撃を防ぐ。何とか難を逃れた。ユーリは気づいていないが、このままだと危うかったのだ。

 

「やるわね、カードを1枚セットしてターンエンドよ」

 

カミューラ LP7400

フィールド『冥界龍ドラゴネクロ』(攻撃表示)『紅貴士-ヴァンパイア・ブラム』(守備表示)『ヴァンパイア・グレイス』(攻撃表示)

セット1

『ヴァンパイア帝国』

手札0

 

「僕のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、キメラフレシアの効果で『融合回収』をサーチ!墓地の『置換融合』を除外、『スターヴ・ヴェノム』をエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

ユーリ 手札5→6

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『強制終了』をコストに2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札5→7

 

「『融合回収』を発動!墓地の『融合』とオフリス・スコーピオを回収!更に永続魔法、『プレデター・プランター』を発動!墓地より『捕食植物セラセニアント』を蘇生!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『プレデター・プランター』をデッキに戻し、ドロー!」

 

ユーリ 手札7→8

 

「装備魔法、『捕食接ぎ木』を発動!墓地のキメラフレシアを蘇生し、このカードを装備する!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「キメラフレシアの効果でグレイスを除外!まだだよ!魔法カード、『融合』!キメラフレシアとセラセニアントで融合!融合召喚!『捕食植物ドラゴスタペリア』」

 

捕食植物ドラゴスタペリア 攻撃力2700

 

融合モンスターを使っての融合。2体のモンスターが混ざり合い、現れたのは腐肉臭を漂わせる竜を模した植物。キメラフレシアと並ぶ『捕食植物』融合モンスターの1体だが、その素材は重く、もっぱらキメラフレシアが使用される事もあり、影に隠れがちだ。

 

「セラセニアントの効果で『捕食接ぎ木』をサーチ!ドラゴスタペリアの効果でドラゴネクロに捕食カウンターを置く!」

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム 捕食カウンター0→1

 

「オフリス・スコーピオを召喚!」

 

捕食植物オフリス・スコーピオ 攻撃力1200

 

「召喚時、手札のモンスターを捨て、デッキから『捕食植物サンデウ・キンジー』をリクルート!」

 

捕食植物サンデウ・キンジー 守備力200

 

「永続罠、『捕食惑星』を発動し、捕食カウンターが乗ったブラムをリリースし、墓地の『捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ』を蘇生!」

 

捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ 守備力2300

 

地面が突如開き、穴となってブラムを吸い込んで捕食する。その正体は腹にブラムを捕食した口を持つヒドラを模した植物。これで破壊されず、墓地に送られたブラムは蘇生されない。壁を残す事も無くなったと言う訳だ。

恐るべき展開力、次々とユーリのフィールドに『捕食植物』が生い茂り、緑に染まる。だがまだまだこれから、ここからがユーリの本領発揮だ。

 

「捕食カウンターが置かれたモンスターがフィールドを離れた事で『捕食惑星』の効果で『捕食接ぎ木』をサーチ!魔法カード、『融合回収』!墓地の『融合』とプテロペンテスを回収!『捕食接ぎ木』を発動!キメラフレシアを蘇生!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「そして融合を発動!キメラフレシアとオフリス・スコーピオで融合!融合召喚!『捕食植物ドラゴスタペリア』!」

 

捕食植物ドラゴスタペリア 攻撃力2700

 

「効果でドラゴネクロにカウンターを設置!」

 

冥界龍ドラゴネクロ レベル8→1 捕食カウンター0→1

 

「サンデウ・キンジーの効果!このカードと捕食カウンターが置かれたドラゴネクロを融合!融合召喚!『捕食植物ドラゴスタペリア』!」

 

捕食植物ドラゴスタペリア 攻撃力2700

 

ドラゴネクロが融合モンスターである事を活かし、ドラゴスタペリア、3体目――重い素材をものともせず、3体のドラゴスタペリアを並ばせる。その手腕は流石と言うべきか。

 

「最後に装備魔法、『捕食接ぎ木』を発動!来い、キメラフレシア!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「――ッ!この瞬間、罠発動!『裁きの天秤』!私のフィールドと手札のカードは2枚!貴方のフィールドのカードは7枚!よってその差5枚をドロー!」

 

カミューラ 手札0→5

 

圧倒的不利を回避する為、カミューラが逆境を利用して手数を増やす。だがまさか、あれ程の布陣を1ターンで崩され、更にここまで融合モンスターを展開して来る等、誰が予想出来ようか、大粒の汗がカミューラの額から伝う。これで危機を回避するカードを引き込まなければ――彼女が負ける。だがここで終わる程、彼女も甘くない。ランキング上位は伊達では無いのだ。

 

「バトル!ドラゴスタペリアでダイレクトアタック!」

 

「ッ!手札の『バトル・フェーダー』の効果発動!このカードを特殊召喚し、バトルフェイズを終了!」

 

バトル・フェーダー 守備力0

 

闘いを止める鐘を鳴らし、現れたのは蝙蝠と鐘を合わせたようなモンスター。『速攻のかかし』と並び、手札誘発でバトルフェイズを終了させる強力なカードだ。こちらは場に残り、リリース要員となる事が出来る為に採用された訳だ。

見た目としても『ヴァンパイア』に近い。このカードを引き込めたお蔭で融合モンスターの連撃を受けずに済んだ。残る手札は4枚、これならば充分に巻き返せる。

 

「キメラフレシアの効果で『バトル・フェーダー』を除外!カードを1枚セットしてターンエンド。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を1枚除外」

 

ユーリ LP1400

フィールド『捕食植物ドラゴスタペリア』(攻撃表示)×3『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)『捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ』(守備表示)

『捕食接ぎ木』『捕食惑星』セット1

手札2

 

「私のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズ、キメラフレシアの効果で『決闘融合-バトル・フュージョン』をサーチ!」

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキトップから10枚を除外し、2枚ドロー!」

 

カミューラ 手札4→6

 

「魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地のドラゴネクロを蘇生!」

 

冥界龍ドラゴネクロ 攻撃力3000

 

再びフィールドに蘇る冥界の竜。効果が無効にされるものの、攻撃力3000と言うだけで強力なアタッカーとしての活躍を見込める。だがカミューラの事だ。これだけで終わらないだろう。その予想通り――彼女はこのモンスターをも踏み台とし、ユーリの戦略を越える手を打つ。翳された1枚のカード、カミューラの白魚をような指からデュエルディスクにカードが叩きつけられる。

 

「魔法カード、『生者の書-禁断の呪術』!墓地より『ヴァンパイア・ロード』を蘇生!貴方の墓地のキメラフレシアを除外!」

 

ヴァンパイア・ロード 攻撃力2000

 

ここで現れたのは『ヴァンパイア』の美青年。最も代表的なモンスターだ。

 

「『ヴァンパイア・ロード』を除外、手札の『ヴァンパイアジェネシス』を特殊召喚!!」

 

ヴァンパイアジェネシス 攻撃力3000

 

『ヴァンパイア帝国』から蝙蝠達がバサバサと飛び交い、『ヴァンパイア・ロード』を覆い隠す。見る見る内に増殖する蝙蝠達。そして全ての蝙蝠が飛び散った時、そこにいたのは異形の吸血鬼。

紫の肌に膨れ上がった筋肉、背より伸びた巨大な翼。真っ赤に充血した輝く眼。『ヴァンパイア・ロード』と似ても似つかぬ、吸血鬼の真祖が理性を捨て雄々しく咆哮する。

 

「チューナーモンスター、『ゾンビキャリア』を召喚!」

 

ゾンビキャリア 攻撃力400

 

次に登場したのはアンデット族において代表的なチューナーモンスター。低いステータスながら強力な効果を持っている。このモンスターが登場したと言う事は――エクシーズ、融合に続き、彼女はシンクロをも操るオールラウンドのデュエリストと言う事。やはりここは――上での常識は通じず、予想だにしない手が飛んで来る魔境だ。だが、ユーリも魔境の住人、それを通さない為の手を取る。

 

「ドラゴスタペリアの効果でドラゴネクロと『ヴァンパイアジェネシス』にカウンターを設置!」

 

冥界龍ドラゴネクロ レベル8→1 捕食カウンター0→1

 

ヴァンパイアジェネシス レベル8→1 捕食カウンター0→1

 

これでドラゴネクロ達のレベルが一気に変動し、シンクロする事も叶わない。エクシーズにも切り換えられない為、融合以外のエクストラデッキの召喚法に対する強力なメタだ。

しかも『ヴァンパイアジェネシス』の効果を奪われた事も痛い。このカードには手札のアンデット族を捨て、そのレベル以下のアンデット族を蘇生する効果がある。デュークを蘇生され、グレイスを展開、『ヴァンパイア帝国』とのコンボでカードを削られる事も許さない。

 

カミューラは舌打ちを鳴らし、次の手に移る。まだだ、まだ終わった訳では無い。ユーリの手を掻い潜る――。

 

「舐めるなぁッ!墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、ドラゴネクロをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

カミューラ 手札2→3

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『紅貴士-ヴァンパイア・ブラム』、『ヴァンパイア・デューク』2体、『シャドウ・ヴァンパイア』、『ヴァンパイア・ロード』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

カミューラ 手札2→4

 

「魔法カード、『龍の鏡』!墓地のデュークとグレイスを除外し、融合!融合召喚!『冥界龍ドラゴネクロ』!!」

 

冥界龍ドラゴネクロ 攻撃力3000

 

何度もフィールドに蘇る冥界の竜。不死性のあるアンデットのドラゴンとは言え、その過労ぶりのせいか、竜の表情は曇っているようにも見える。

 

「はいお疲れ様、ドラゴスタペリアの効果でカウンターを乗せるよ!」

 

「させないわ!速攻魔法、『禁じられた聖杯』!最後のドラゴスタペリアの効果を無効にし、攻撃力を400アップ!」

 

捕食植物ドラゴスタペリア 攻撃力2700→3100

 

3体のドラゴスタペリアの妨害を回避し、何とかカミューラがシンクロへの道を開く。こうして見るとシンクロやエクシーズの妨害が出来る捕食カウンターをフリーチェーンで設置可能なドラゴスタペリアは強力だ。しかも3体、改めてその有能さと、それを潜り抜けたカミューラの実力を思い知る。

 

「レベル8のドラゴネクロにレベル2の『ゾンビキャリア』をチューニング!冥界を流るる嘆きの河より亡者の激流を逆巻き浮上せよ!シンクロ召喚!『冥界濁龍ドラゴキュートス』!!」

 

冥界濁龍ドラゴキュートス 攻撃力4000

 

シンクロ召喚――『ゾンビキャリア』の身体が光のリングとなって弾け飛び、ドラゴネクロを包み込む。そしてリングを閃光が貫き、更なる進化を遂げ、胸の骸骨の面を持ち、より攻撃的な姿となったドラゴネクロ――いや、ドラゴキュートスが雄々しき咆哮を放ち、空気を裂くように震撼させる。

攻撃力4000――圧倒的な数値がユーリの眼前に立ち塞がる。進化した決闘竜、一体どのような効果を持っているのだろうか。

 

「魔法カード、『復活の福音』!墓地よりドラゴネクロを蘇生する!」

 

冥界龍ドラゴネクロ 攻撃力3000

 

ここで更にドラゴネクロが復活し、ドラゴキュートスと並び立つ。壮観だ。尤も、やはりドラゴネクロは蘇生のし過ぎか、疲れているように見えない事は無いが。これでカミューラのフィールドには攻撃力3000のモンスターが2体と、攻撃力4000のモンスターが1体、圧倒的攻撃力の布陣だ。

 

「バトルよ!『ヴァンパイア・ジェネシス』でキメラフレシアへ攻撃!ヘルビシャス・ブラッド!」

 

「罠発動!『攻撃の無敵化』!このバトルフェイズのダメージを0に!」

 

『ヴァンパイアジェネシス』が自らの胸を貫き、ボタボタと流れる血を固め、1本の巨大な槍、いし、串を作り出す。不死の力で傷はたちまち修復され、ジェネシスはその串をキメラフレシアに投擲し、文字通り串刺しにする。その一撃を受け、花弁を散らし、腐って朽ちるキメラフレシア。まるで生け花だ。鮮血に染まったそれはおぞましくも美しい。

 

「ドラゴネクロでドラゴスタペリアに攻撃!」

 

「ドロソフィルム・ヒドラの効果により墓地のダーリング・コブラを除外、ドラゴネクロの攻撃力を500ダウン!」

 

冥界龍ドラゴネクロ 攻撃力3000→2500

 

カミューラ LP7400→6900

 

「チッ、だけど私は墓地の『復活の福音』を除外し、破壊を防ぎ、ドラゴネクロの効果!このモンスターと戦闘するモンスターは破壊されず、そのモンスターの攻撃力を0に!そしてそのモンスターの元々のレベルと攻撃力を持つ『ダークソウルトークン』を特殊召喚する!」

 

捕食植物ドラゴスタペリア 攻撃力2700→0

 

ダークソウルトークン 攻撃力2700

 

ドラゴネクロがドラゴスタペリアの胴を掴み、もう一方の腕で頭を掴み、何かを剥がす。白く染まり、龍の姿をしたそれは恐らく魂だろう。カミューラのフィールドに移り、冥界の龍として魂を配下に加え、魂を奪われたドラゴスタペリアはグッタリと力を無くす。成程、強力な効果だ。『攻撃の無敵化』が無ければユーリの敗北となっていただろう。

 

「『ダークソウルトークン』で攻撃力0となったドラゴスタペリアに攻撃!続いてドラゴキュートスでドラゴスタペリアに攻撃!冥界の幽鬼奔流!」

 

ドラゴキュートスのアギトより紫色に染まった水のようなブレスが放たれ、攻撃力がアップしたドラゴスタペリアを砕く。重い一撃――しかし、これだけでは終わらない。

 

「モンスターを破壊した事で3体目のドラゴスタペリアに追撃!」

 

更なる追撃が3体目のドラゴスタペリアを巻き込む。これでユーリの融合モンスターは全滅、残ったのはドロソフィルム・ヒドラのみとなった。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドよ」

 

カミューラ LP6900

フィールド『冥界濁龍ドラゴキュートス』(攻撃表示)『冥界龍ドラゴネクロ』(攻撃表示)『ヴァンパイアジェネシス』(攻撃表示)『ダークソウルトークン』(攻撃表示)

セット1『ヴァンパイア帝国』

手札0

 

カミューラのフィールドには『ヴァンパイア』の最高打点モンスター、『ヴァンパイアジェネシス』が1体、モンスターの魂を吸い取り、配下に加えるアンデットの支配者にして決闘竜の1柱、『冥界龍ドラゴネクロ』。そしてその進化形態、融合からシンクロへと転生し、より巨大で強大な姿となった『冥界濁龍ドラゴキュートス』。

恐るべき不死者の布陣。並の者ならばこの3体を同時に相手取るだけで恐怖に陥るだろう。だが――ユーリの表情に浮かぶのは、これを待っていたとばかりの喜色。漸く――待ち焦がれたご馳走が目の前にあると言う飢え。その欲望のままに――ユーリは身を任せ、デッキトップから1枚のカードを引き抜く。

 

「僕のターン、ドロォォォォォッ!!」

 

勢い良く引き抜かれた1枚のカードは空中に漆黒のアークを描き出し、ユーリの眼帯に覆われた眼が金色に輝く。来る――カミューラがデュエルディスクを構え直し、警戒を露にする。何故だか分からない、だが――このデュエルにおいて、彼女はただの人間である筈のユーリに、ある筈の無い怯えを抱いている。

まるで――帝王に対するように。しかし、そんな事がある筈が無いと直ぐ様振り払う。あれは特別だ。人外を飛び越えた超越者。力のみを求める求道者。こんな小僧が、彼の領域に辿り着く事等、あってはならない。

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!僕は『捕食惑星』をコストに2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札2→4

 

新たにユーリの手元に2枚のカードが引き寄せられる。これで手札は3枚。そして――これで、ユーリの勝利への下準備が整った。ナイフとフォークを両手に、絶対的捕食者が打って出る。

 

「速攻魔法、『ツイン・ツイスター』手札を1枚捨て、セットカードと『ヴァンパイア帝国』を破壊!」

 

「チェーンして発動!『ブレイクスルー・スキル』!ドロソフィルム・ヒドラの効果を無効!」

 

まずは露払いを。ユーリの手札より竜巻が舞い、カミューラのカードを砕き、城が崩れ落ちる。

 

「『捕食植物モーレイ・ネペンテス』を召喚!」

 

捕食植物モーレイ・ネペンテス 攻撃力1600

 

「墓地の『捕食惑星』を除外し、フィールドのモーレイ・ネペンテスとドロソフィルム・ヒドラを融合!融合召喚!『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』!!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800

 

2体の『捕食植物』を糧とし、再び紫毒の竜が舞い戻る。飢えた牙が照明に照らされ、その細い身体からは想像もつかないような、地獄の底から響く雄叫びが木霊する。目の前には特上のご馳走が3つ。ジュルリと背の口より唾液が滴り落ち、地面を溶かす。

 

「融合召喚時、ドラゴキュートスの攻撃力を奪う!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800→6800

 

『スターヴ・ヴェノム』の失われた瞳が赤く輝き、ドラゴキュートスより力を奪い、食らい尽くす。それだけでは無い。腹を空かせた紫竜は、これだけでは満たされない。

 

「『スターヴ・ヴェノム』の効果により、ドラゴキュートスの効果をコピー!さぁ、バトルだ!『スターヴ・ヴェノム』で『ヴァンパイアジェネシス』へ攻撃!」

 

カミューラ LP6900→3100

 

『スターヴ・ヴェノム』の背の口が開き、本来ならば赤き稲妻が放出される器官より、どす黒い濁流が放出され、そのままロケットの如く激しく推進、頬を裂いて大口を開き、『ヴァンパイアジェネシス』を食らう。同時に『スターヴ・ヴェノム』の隻眼が一際赤く輝く。

 

「ぐっー!」

 

「ドラゴキュートスの効果を得た『スターヴ・ヴェノム』は追撃が可能!おかわりだ!『スターヴ・ヴェノム』でドラゴキュートスへ攻撃ィ!」

 

「だけど私のLPは――」

 

「残す訳無いじゃん!速攻魔法、『決闘融合-バトル・フュージョン』!もう1度ドラゴキュートスの攻撃力を『スターヴ・ヴェノム』へ!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力6800→10800

 

最後の手札が切られ、『スターヴ・ヴェノム』に更なる力を与える。攻撃力、一万越え。暴力的な数値を前に、カミューラは瞠目し――紫竜のアギトが、不死の竜を食らう。

 

カミューラ LP3100→0

 

勝者、ユーリ――。

 

――――――

 

時は戻り、シンクロ次元にある孤児院、コナミ達はシンクロ次元において最高権力を持つ評議会を名乗る者達に囲まれていた。何でも遊矢達は彼等の比護を受けており、同じランサーズのメンバーであるコナミ達も保護しようとの事。コナミとしても遊矢達と合流出来るならば望む所だ。

しかし――彼等が保護するばでは、男女が分けられるらしい、当然と言えば当然だが、そうなると柚子がまた分断される事となる。そこでコナミは少し待てと評議会の人間を牽制し、ゴソゴソとポケットから紙とペンを取り出し、柚子へと渡す。

 

「何か遊矢達に伝言があるならこれに書け。オレが必ず渡すと約束する」

 

どうやら――これはコナミなりの優しさらしい。何時も通り無愛想に紙とペンを差し出すコナミに呆然とした後、柚子は口元を緩ませて礼を述べ、サラサラと女の子らしい綺麗な字で紙にありったけの想いを書き綴る。

が、何か余計な事か、恥ずかしい事を書いてしまったのか、彼女は急に顔を赤くし、一部をペンで黒く塗り潰し、折り畳んでコナミに渡す。

 

「お願いね、ダニエル。あ、勝手に読まないように……無茶しないでね?貴方は目を離すと危なっかしいんだから」

 

「承った」

 

クスリと小さく笑みを溢し、背伸びしてコナミの頭――帽子の上に手を乗せる柚子。コナミの背は柚子より少し高い為、彼女が頭に触れようとすると爪先を立たせる事となる。その姿は――優しい弟に対する、姉のようで。

 

「ありがとう、ダニエル」

 

「何、美味い飯を食わせてくれてる礼だ」

 

「そんな事言って、私は知ってます。貴方が塾で店番をしてる時に作ってるデュエルモンスターズのプラモやフィギュアを売って、店の稼ぎを少しでも良くしてくれている事位」

 

「バレてーら」

 

「フフ、お姉さんみたいなもんだからねっ、あ、私やセレナがいなくても、朝はちゃんと起きて、歯を磨いたり、顔を洗う事」

 

「承った」

 

「ならば良しっ!」と柚子はツインテールを揺らし、少女らしいあどけない笑顔を浮かべる。敵わないな、とコナミは自分よりも少し背の低い姉に苦笑を溢す。家族の暖かさに胸を満たし――コナミは振り向く。準備は整った。向かう先は、評議会。ランサーズメンバーと合流し、舞台は、フレンドシップカップへと――。

 

 




次回からフレンドシップカップ編に入ります。有能月影が社長の役目を兼ねている以外は概ね原作通り。柚子ちゃんは可愛いから可愛さ2割増しで書いてます。あざとくても仕方無いね。
では次回からのデュエル、何ターンで終わるでしょう?


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第115話 3ターン

ハカメモをプレイして感動。お使いプレイが苦でない方、濃厚なストーリーが好きな方にオススメです(ダイマ)。
さて、メダロットクラシックスをプレイしましょうか……(ステマ)


コンコンコン、と、自身に振り当てられた部屋のドアがノックされる音を耳に入れ、少年、榊 遊矢はジッ、と集中して見ていたテレビから目を離して振り向き、来訪者へと応える。

 

「はーい、どちら様ですかーっと……」

 

ガチャリ、ドアノブを捻り、開けると、そこにいたのは見慣れた、しかしここ数日では顔を合わせていなかった赤帽子の上にゴーグルをかけた少年の姿。遊矢は少しだけ目を見開いた後、口元に笑みを浮かべている。

 

「ようコナミ、お前もここに来たのか」

 

「ああ、入るぞ」

 

「ん」

 

短い言葉と共に通じ合い、コナミが部屋に上がり込む。遊矢がこの評議会によって作られた、フレンドシップカップの選手達の大部分が占める者達が宿泊しているのは、脱出の際、月影によってランサーズの事情を聞いた評議会が保護した為だ。やはり月影は有能。

 

その際、ランサーズの実力を見せる為、こうしてフレンドシップカップに出場する事になってしまったが。コナミも芋づる式に保護され、ユート、ユーゴ、柚子、鬼柳、セクト、ジルと共にここに来た。尤も、ユートと零児、エヴァは大会に参加しないようだが。

 

遊矢とコナミは近況を報告し合い、その度に2人の表情が変わる。

コナミがユートの復活、柚子の無事を語り、遊矢が目を丸くした後、嬉しそうにはにかみ、遊矢がクロウや牛尾の事を口にすればコナミが口元を緩めて相槌を打つ。チームサティスファクションの事、収容所のデュエル、そのどれもに2人は目を輝かせ、笑みを浮かべる。

そして――話が落ち着いた時、コナミが一通の手紙を遊矢に渡す。柚子からの手紙だ。遊矢は差出人を聞き、急いで手紙を手に取り、封を開いて目を通す。

 

「柚子が……!?ちょっ、ちょっと見せてくれ……!」

 

「手紙には、何と?」

 

「……自分の無事と、俺の心配ばかりだよ。ハハ、全く……こんな時まで人の心配なんてな……」

 

一通り目を通した後、遊矢の指先が震え、視界がボヤける。いや、これは――頬を伝う、暖かい雫、涙だ。コナミはそんな遊矢を見て、帽子を深く被って見ずまいとし、遊矢はそんなコナミに感謝してゴシゴシと腕で涙を拭き取る。

これでも遊矢は年相応、中学二年生の少年だ。大切な人の無事に安心し、気が緩んだのだろう、無理も無い。彼にとって、誰かの代わりなんて思い付けないのだから。

 

「辛いなら、肩を貸そう。何、オレは帽子を被っている。肩が濡れても気にしない」

 

「ッ――ごめん、コナミ。ありがとう……!」

 

そうして笑顔の絶えない少年は、赤帽子の少年の肩に顔を埋め、嗚咽を溢す。目から溢れる感情はきっと、誰かの幸せに対する、嬉し涙だったのだろう。また、遊勝塾で皆揃って笑い合う事を願い、〝少年〟が想いを馳せる。

 

「俺……柚子のこう言う、自分の事より人を気にかける所……嫌いだ……」

 

「あぁ……そうだな」

 

「小さい頃から俺がイジメられたら、権現坂よりも母さんよりも早く、イジメっ子に向かって行く所なんか、大嫌いだった」

 

「……そうか」

 

「会ったら、文句の一つでも言ってやる」

 

「フ、その時はオレも付き合おう、男同士の約束だ」

 

全て溢し、スッキリとした表情でコナミから離れ、目元を赤くしながら遊矢が笑う。もう迷いは振り切った。コナミもそんな遊矢を見て笑みを浮かべる。

そんな時だった――遊矢の部屋のドアがギィッ、と小さく開き、権現坂や沢渡、隼にアリト、デニスと沢渡の子分が団子のように重なってこちらの様子を伺っているのが遊矢の目に写ったのは。

 

「……」

 

「……」

 

「見てた?」

 

コクコクと、遊矢が素に戻った放った問いかけに対し、気不味そうに汗を浮かべて頷く5人。途端、遊矢は素早くベッドに突撃し、毛布を頭から被って奇声を上げながら部屋をゴロゴロのたうち回る。

 

「うっきゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

『まぁまぁ』

 

「うるさいよ!」

 

皆が孫を見るような優しい眼差しで遊矢を見つめ、青春してるなぁと思いながら大丈夫だと語りかけるが、今の遊矢にはその優しさが辛い。羞恥心で顔を真っ赤にしながら部屋をゴロゴロのたうち回って暴走する中、デニスが遊矢が弾き飛ばしたビデオテープに視線を移す。

 

「ん――遊矢、これは何だい?」

 

「えっ、あ――これは――」

 

デニスの言葉を受け、遊矢がモゾモゾと毛布の中で芋虫のように這い出し、顔を出してビデオテープを見て声を漏らす。

途端、ランサーズメンバーが何だ何だとテープを見つめる。

 

「おっ、何だ遊矢。エッチなビデオか?」

 

「けしからん!そうなのか遊矢!?」

 

「遊矢にはまだ早い、俺が没収しておこう」

 

「待て黒咲、抜け駆けは許さんぞ」

 

「どれどれ、この俺様が審査してやろう」

 

アリト、権現坂、隼、コナミ、沢渡の順に口を開き、ガヤガヤと騒ぎ出す。こう言う所はやはり男と言う事か。コナミと隼がビデオテープを取り合い、剣呑な空気を発し、デュエルディスクを構え出したその時――。

 

「どれどれ、ジャック・アトラス?何だ遊矢、お前外人系が好きなのか?ん?ジャック……男の名前だよな?ホモビかテメェ!?」

 

「コナミ、争いはやめよう。これはお前に託す」

 

「それがレジスタンスのやり方か……!」

 

沢渡がげぇっと声を出すと共に、隼がセットした掌をオープンし、やたら綺麗な眼でビデオを押し付ける。ぶっちゃけコナミとしてはホモビでもワンチャンあるが、そのやり口の汚さに歯軋りを鳴らす。

 

「違うって!ほら、俺、明日フレンドシップカップのエキシビションに出る事になったから、評議会の人に対戦相手のキングの今までのデュエルの記録を持って来て貰ったんだ。どんな相手か分からないけど、ビデオを見れば戦略とかも分かるかなって」

 

「へぇ……ってこれ全部かい!?凄い量だね……」

 

「ある程度は早送りしたりしてるよ。見る度にその強さを見せつけられるよ」

 

もう羞恥心は消えたのか、再びテレビの前に座り、画面に視線を移す遊矢。勉強熱心な事だ。もう何時間もこんな状態なのだろう。消化されているビデオもまた、山積みとなっている。

そんな遊矢を見て――6人は顔を合わせて頷く。

 

「オレも手伝おう。権現坂、後2台程ならばこっちにテレビを移せる筈だ、手伝ってくれ」

 

「了解した」

 

「山部、柿本、大判!俺達はデュエルの展開をノートに書き取るぞ!」

 

「了解ッスよ沢渡さぁーんっ!」

 

「じゃあ俺とデニスはビデオの厳選だな。参考にならない奴は少しでも省こう」

 

「OK!分かったよ!」

 

「全員余ったカードを出せ、俺は対策となるカードを割り出そう」

 

テキパキと、コナミと隼を中心として役割を振り、少しでも遊矢の助けになろうと行動を開始するランサーズメンバー。そんな彼等を見て、ポカンと遊矢が呆けた表情を浮かべる。

 

「皆、少しでもお前の力になりたいんだ。忘れるな、お前は1人じゃない。オレ達が最高のバックアップをしてやる。だから、勝ってくれ。テレビが運び終わったら許可を取って遊矢のD-ホイールを仕上げる!手が空いている奴は手伝ってくれ!」

 

コナミ達が良かれと思い、彼の為に必死で動く。そんな彼等の優しさが、友情が、遊矢の胸に染み込んでいく。やはり、自分は幸せ者だ。こんなにも自分に与えてくれる、力となってくれる人間がいる。

絶対に、ジャック・アトラスに勝つ。皆の想いを無駄にしたくない。自分に協力してくれる彼等の強さを証明する為に――代表者として、遊矢は覚悟を決める。

 

ジャック・アトラスは、確かに強く、気高く、遊矢よりもずっとエンターテイナーとして、デュエリストとして一流だろう。

だけど――遊矢には、この孤高の王には無い、絆がある。負けられない、自分の為にも、皆の為にも。ジッ、とジャックのデュエルを研究する遊矢。そんな彼の目に写るジャック・アトラスは――どこか、不満足そうに見えた――。

 

――――――

 

そして、あっと言う間に1日が過ぎた。あれから皆はジャックの対策をそれぞれ立て、遊矢のデッキのコンセプトや事故に繋がらないように強化を施してくれた。

気がつけば皆疲れ、1つの部屋で眠りこけてた程だ。だがそれだけあって、準備は万端、控え室でイメージトレーニングを行う中、1人の少年が1枚のカードを差し出して来た。

 

名前はサム。彼はこれをジャックに返して欲しいと言い、カードに秘められた思い出を語った。

何でも――彼がまだ、コモンズにいて、コモンズからのし上がったジャックに、どうやったら貴方みたいになれるかと問いかけた時、彼はこのカードを渡し、彼に相応しいカードだ、と言ったらしい。

レベル1で、攻守0、余り強いとは言えない、どちらかと言うと弱いカード。それを見て――サムはジャックが弱いお前には弱いカードがお似合いだ、と言ったように思ったらしい。

だが遊矢は、そのカードを受け取り、サムの肩に優しく手を乗せる。

 

「分かった、返すよ。だけど、そんな事言わないで欲しい。確かに、このカードは弱いのかもしれない。でも、このカードを作った人の気持ちを考えてくれないか?このカードに込められた想いを、知ってくれないか?」

 

「え――」

 

「弱いカードでも、このカードにも、このカードだから出来る役割がある筈なんだ。それがきっと、このカードの闘えるフィールドなんだ」

 

デュエルモンスターズと言うものには、膨大な量のカードがある。1枚1枚に込められた想い、カードの心。それを知って欲しいと、遊矢はサムを諭す。

そんな遊矢を見て、サムは呆然とする。今はまだ、分からないのかもしれない。だけど――きっと何時か、分かる筈だ。このカードに込められた、ジャック・アトラスの魂の想いが。

 

「ちょっとトイレに行って来る」

 

「あ――はい」

 

去っていく遊矢の背を見て、サムは考える。あのカードに込められた、ジャックの想いを――。

 

――――――

 

「うぉー、トイレトイレ……」

 

サムにカードについて語った後、遊矢は選手控え室近くにあるトイレに駆け込み、用を足していた。何とか間に合った。スッキリとし、社会の窓を閉め、手を洗おうとしたその時――。

 

「……そこに誰かいるのか?」

 

「え――」

 

トイレの個室から、声がかけられる。太く男らしく、威風堂々とした、まるで王と言うイメージが纏う、凛々しい声に反応し、遊矢が個室トイレに向き直る。一体誰なのだろうか。

 

「すまないが――用を足したのは良いが、紙が無くてな、取ってくれないか?」

 

どうやら紙が無いらしい。成程、それなら仕方無いと遊矢はポンと手を合わせ、隣の個室から紙を取り、開けられたドアの隙間から中の人に渡す。

 

「む、礼を言う」

 

カラカラとペーパーが回り、暫くして――水が流れる音が響き、トイレからスッと出て来た男を見て、遊矢の表情が驚愕に染まる。白を基調としたライダースーツ、金髪にアメジストの瞳。毅然とした長身の男。そう、彼は――。

 

「ジャック……アトラス……!」

 

「ほう、俺の事を知っているか。ならば話は早い、サインをやるからこの事はファンに黙っていてくれ」

 

「え、と――俺、榊 遊矢って言います。貴方の今日の対戦相手です。今日は――貴方に、勝ちに来ました」

 

毅然と、遊矢はジャックを見据え、挑戦状を叩きつける。それを見てジャックはほうと頷き、鋭い目付きで遊矢を睨む。

 

「ふん、果たして俺を満足させられるか?正直、そうは思わんがな」

 

「えっと……チャック開いてますよ?」

 

鼻を鳴らし、遊矢を見下すジャックを前にして、遊矢は親切に教える。チャック・アイテマス。最高に激ダサな瞬間だった。

 

「……礼を言う」

 

「兎に角、俺は負けるつもりは無いです。お互い、デュエルを楽しみましょう」

 

ニコリと微笑み、スッと手を差し出す遊矢。しかし――。

 

「……楽しむ、か。甘いな……どうでも良いが、せめて手を洗ってからにしろ」

 

「……そっスね」

 

結局、最後まで格好のつかない2人であった――。

 

――――――

 

そして――ついにフレンドシップカップ、エキシビションマッチの舞台のサーキットへ。巨大なスタジアムの外周には観客席が設けられ、トップスとコモンズを問わず、多くの人々がデュエルを見物しようと入場している。その大多数は、ジャック・アトラスのデュエルが見たいが為。先にサーキットへD-ホイールを走らせ入場した遊矢は、今か今かと王者を待っている。

上空にはバリバリと音を鳴らして飛ぶヘリ。中からこの大会の実況、解説を預けられた駆け出しの、カウボーイハットを被ったメリッサ・クレールとリーゼントが特徴的な男性が顔を出す。

 

『ハーイ!いよいよ始まるフレンドシップカップ!そのエキシビションマッチとして、サーキットには挑戦者である少年、榊 遊矢クンがD-ホイールに乗り、我等の王者の来訪に緊張している様子!何でも彼は珍しいカードを使うとか!そのカードを使い、果たして彼はキングにどのようなデュエルを見せるのか!』

 

『因みにこのデュエルはライディングデュエルに加え、フィールドに散らばったカードを拾い、それを使ってデュエルを有利に進めるアクションデュエル、と言うものを取り入れている!つまり、アクションライディングデュエルと言う訳だ!キングも始めて行うデュエル!チャレンジャーにも勝機はある!勝つのは常勝無敗、絶対王者、ジャック・アトラスか!それとも無銘の少年、榊 遊矢か!さぁ、ここでキングの登場だぁーっ!』

 

リーゼントのMCの熱い台詞と共にサーキットにスモークが上がり、その中を突っ切って真っ白な、1つの車輪によって走行するD-ホイール、ホイール・オブ・フォーチュンが出現する。瞬間、爆発したかのように歓声が上がり、それに応える為、ホイール・オブ・フォーチュンに搭乗したジャックが指先で天を差し、高々と王者の咆哮を上げる。

 

「キングは1人!この俺だ!」

 

――――――

 

「フ、キングは1人、ですか……」

 

治安維持局、長官室にて、そこではフレンドシップカップの様子が写ったモニターを見て、ニヤリと笑みを浮かべる男性、長官であるジャン・ミシェル・ロジェの姿と、その背後のテーブルに座る、白帽子を被った青年と、大男の姿があった。白コナミとセルゲイだ。彼等は暇を持て余し、ロジェの所持品であるチェスをしている。

 

「そう、キングは1人、2人もいらないのですよ。ねぇ、プラシド?」

 

ねっとりと、絡み付くような台詞を聞き、部屋の片隅に陣取り、モニターを見つめる、ケープとローブを纏った青年、プラシド――と本人は名乗っている。はフンと鼻を鳴らし、白コナミ達が座っていない、もう1つのテーブルに視線を移す。

そこにいるのは、プラシドと同じく、ケープとマントを羽織った長身の男と、やや背の低い男。

背の低い男は灰色の眼を地に落とし、何をするまでも無くボーっとしており、対して長身の男はケープから覗く赤い瞳でモニターの中のジャック・アトラスを睨む。まるで、憎んでいるかの如く。

 

「……あぁ、そうだな――」

 

プラシドは想いを馳せる。この大会で、榊 遊矢が何処まで成長してくれるかと。サーキットを、完成するに至るのかと。

 

――――――

 

一方、評議会のビル、コナミ達が保護されたそれの、沢渡の部屋にて、そこではコナミと権現坂、沢渡に隼、アリトとデニス。沢渡の子分が集まり、フレンドシップカップの様子を写したテレビの前に集っていた。目的は勿論、遊矢の勝利を願っての観戦だ。

 

「どうでも良いけどよ、何で俺の所に来るんだよ」

 

「どうでも良いなら言うな」

 

「テメェ黒咲!俺の部屋でポテチの袋を開けんじゃねぇ!カスが散るだろうが!」

 

「バリッ!バリバリッ!さぁて一体どうなる事やら。権現坂はどう思うよ?」

 

「ぜってーお前はそうなると思った!アリトテメェめっちゃ溢してんじゃねーかバーカバーカ!」

 

男が数人1つの部屋に集まった時の恒例として隼がどこからともなくポテチを出し、皆が食べられるように所謂、パーティー開きにして広げ、コナミとアリトと共に雑に頬張る。ボロボロと落ちるカス、容赦無しである。沢渡が顔を真っ赤にして怒り狂うのも仕方無いだろう。

 

「ビデオを見る限り、ジャック・アトラスの力は本物だ。エースカードに一点特化した豪快な戦術。エースを立たせ、他のカードはその1枚だけをサポートする布石。だが誰もが手がつけられない、正しく王道」

 

「黄金のワンパターンって奴だね。厄介なのは相手が対策の対策を持っていて、下手なものじゃ通用しない事だ。こっちが立てたものも何処まで通用するか」

 

「その点は特にアテにしていない。防げれば儲けもの。最終的には単純に遊矢を強化する形になったしな。己の武器でぶつかるしか無いだろう。バリッ!バリッ!」

 

「真面目な顔して散らしてんじゃねぇー黒咲ィ!」

 

再び遊矢の対戦相手であるジャック・アトラスを分析する。彼の戦法は突出した1枚のエースカードを中心とし、他のカードはそのカードを維持、通す為の物と割り切った、ある意味ファンデッキと言って良いデッキだ。だが、その完成度とデッキを操る本人の実力と才能が並外れている。単純なゴリ押しが、彼の強みとなっている。

権現坂が闘って来た中で、最も強いデュエリスト、バレットとは正反対に見える。堅実で搦め手を混ぜ、相手のデュエルのリズムを崩して来る彼とは違い、こっちは豪快に攻めて来る。それが手がつけられない。だが――彼等とて、そんなジャックを倒す為、遊矢に協力したのだ。

 

「コナミ、お前はどう思う?」

 

ここで――今の今まで黙々とポテチを頬張っていたコナミへと振り向き、権現坂が問う。彼だけが意見を出していない。それが気になったのだ。

するとコナミはん?とポテチを頬張る事を止め、口元をギトギトの油まみれにしながら首を傾げ、あっけからんと言ってのける。

 

「確かに――ジャックは強い。だが、この勝負、遊矢の勝てる要素は充分にある」

 

その言葉に、誰もが目を丸くし、顔を合わせて笑う。結局、この場には誰1人、遊矢の勝利を疑う者はいなかった――。

 

――――――

 

そして――場所は再びフレンドシップカップ、スタジアム、サーキットへと移る。対戦者である遊矢とジャックは準備万端、互いにD-ホイールを並び停止させる。あと少しでデュエルが始まろうとするその時、ジャックが右腕を上空に向かって突き上げ、指先で天を差す。

 

「諸君!このデュエル!俺は3ターンで勝利して見せよう!1ターン目で俺が先行し!2ターンで榊 遊矢の活躍を見せてピンチを演出し!3ターン目で圧倒的なパワーで全てを砕き、捩じ伏せる!」

 

何と――デュエルが始まる前に、勝利宣言。しかもターンまで縛ってある。キングの勝利宣言を聞き、観客がまたも盛り上がる。

 

『おおーっとジャック、早くも勝利宣言!最早恒例となった王者の公約はこのデュエルでも果たされるのか――っ!?』

 

ビデオで見た通り、エンターテイナーとして盛り上げる為の公約をその目で生で見て、遊矢がニヤリと笑う。そっちがその気なら、こっちも――何度も研究したのだ。腕、指の角度、再現する等、朝飯前だ。声までもそれっぽく真似、遊矢も高らかに叫ぶ。

 

「ならば俺も宣言しよう!俺はある筈の無い、失われた幻の4ターン目を向かえ、その瞬間を王者交代にすると!」

 

「――何……!?」

 

『何とぉ!?遊矢もジャックに対し、勝利宣言ーッ!このような返しは初めてだぁっ!これは面白くなって来たぞぉッ!』

 

意趣返しに勝利宣言、ジャックに便乗する形で放たれたそれは会場を更に盛り上げる。尤も、やはり実績の無い遊矢に対し、観客の感情は別れるが。なぁにデュエルで証明すれば良い。ブーイングも軽やかに流し、自分に注目を集める。アドリブに咄嗟に対応してこそエンタメデュエリストなのだから。

 

「貴様……ぬけぬけと……そのふざけた戯言ごと、叩きのめしてやる!」

 

「俺はアンタに乗っただけだぜ?観客だって盛り上がってる。あ、チャック開いてますよ」

 

「貴様ぁ……!……開いてないではないか!」

 

「あっはっは」

 

猿真似をされ、激昂するジャックに対しても遊矢は余裕を持って対応する。どんなに凄まれても、隼や怒った柚子よりも怖くない。妙な経験を経て、遊矢の神経は太く、いや、図太くなっているらしい。ようするにクソ度胸が良いのだ。ここら辺はコナミや沢渡、権現坂、デニスのものか。

 

『さぁ両者共に準備はOK?では始めましょう!3!』

 

デュエル開始のランプが灯る。全部で3個、まずは1個目、2人はブォンとエンジンを唸らせる。

 

『2!』

 

さぁ、いよいよだ。楽しさで胸を膨らませ、遊矢は今か今かとデュエルを待ちわびる。

 

『1!』

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

多くの強者が見つめる中、道化と王者のデュエルが今、火蓋を切る。D-ホイールを発進し、コーナーを取ったのはジャックだ。やはりD-ホイールの扱いにおいてはジャックが有利。アクションデュエルで鍛えている為、コナミ達がD-ホイールを点検した為、圧倒的なまでに差は開いてはいないが、ついて行くので精一杯だ。

速い、しかもスタートが遅れてしまった。ジャックはそんな遊矢を見て、鼻を鳴らし、デッキから5枚のカードを引き抜く。

 

「やはり口だけか?俺のターン、俺は『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

現れたのは炎の鬣と角を持つ馬のようなモンスターだ。召喚、特殊召喚時にレベル3以下の悪魔族チューナーを手札、墓地から特殊召喚する効果を持つが、デメリットとして自分フィールドに他のモンスターが存在すれば効果は使えない。彼のデッキでは優秀な働きをするカードだ。

しかしこのカードを召喚したとなると、このターンに彼のエースカードが出る事は無いか。恐らくは布石となるカードの召喚を行うのだろう。彼の性格上、宣言を行い、いきなり主役を出す可能性は低い。

 

「召喚時、フィールドに他のモンスターが存在しない事で手札の『レッド・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

次は炎のローブを纏い、音叉とステッキを構えた真っ赤な小さな悪魔。レベル2のチューナーモンスター、と言う事はレベル6のシンクロに繋げるか。彼が持つレベル6のシンクロモンスターは遊矢の知る限り2種類、一方はエースカードに繋げる為のカード、とすると――『レッド・リゾネーター』が鋭い目付きを閃かせ、音叉とステッキを合わせて虚空に波紋を広げる。

 

「『レッド・リゾネーター』の特殊召喚時効果!フィールドにいる表側表示のモンスター、『レッド・スプリンター』の攻撃力分、LPを回復する!」

 

ジャック・アトラス LP4000→5700

 

「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!赤き魂、ここに1つとなる!王者の雄叫びに震撼せよ!シンクロ召喚!現れろ、『レッド・ワイバーン』!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

シンクロ召喚、『レッド・リゾネーター』の身体が2つのリングとなって弾け飛び、『レッド・スプリンター』を包み込み、閃光がリングの中を貫く。光が晴れ、現れたのは後頭部と翼から炎を吹かせ、ワインレッドの体躯を唸らせた翼竜だ。

やはりこのカードが来た。予想通りの展開に遊矢は目を細める。

 

『1ターン目からシンクロ召喚!この砦を守るワイバーンを前に、遊矢はどう出るか!』

 

『相手の攻撃に備える!正に宣言通りだ!』

 

「俺は永続魔法、『補給部隊』を発動。カードを2枚セットし、ターンエンドだ。貴様の最後のターン、良く考え、噛み締めると良い!」

 

ジャック・アトラス LP5700

フィールド『レッド・ワイバーン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

ジャックのターンが終了し、遊矢のターンへ。ジャックの宣言通りならばこのターンが遊矢の最初にして最後のターン。気を引き締め、デッキよりカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!俺はスケール6の『EMギタートル』とスケール2の『EMドラネコ』でペンデュラムスケールをセッティング!ギタートルのペンデュラム効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→5

 

遊矢のD-ホイールに追従するかのように彼の背後に2本の柱が伸び、中にギターの形をした亀と銅羅の形をした猫が登場し、演奏を始め、上空に線を結び、魔方陣を描き出す。幻想的な光景、始めて見るペンデュラムに観客達は騒ぎ出す。

 

『これまた不思議!遊矢が謎の2枚のカードをデュエルディスクに設置!これが彼の持つ珍しいカードか!』

 

「ペンデュラム……ふん、見せてもらおうか、俺に大口を叩くに相応しいものか!」

 

「これでレベル3から5のモンスターを同時に召喚可能!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMセカンドンキー』!『EMロングフォーン・ブル』!」

 

EMセカンドンキー 守備力2000

 

EMロングフォーン・ブル 攻撃力1600

 

天空の振り子が揺れ動き、魔方陣に孔が開いて中から2体のモンスターが登場する。ロバのモンスターと頭の角に受話器をかけた牡牛のモンスター。同時召喚に観客がどよめき、ジャックが目付きを鋭くする。

 

「成程……」

 

『何と同時召喚!これがペンデュラムの力かぁーっ!』

 

『恐らくは2枚のペンデュラムの間にあるレベルのモンスターを特殊召喚するものだろう、見事な展開だぁーっ!』

 

「特殊召喚されたセカンドンキーとロングフォーン・ブルの効果により、俺はデッキから『EMドクロバット・ジョーカー』と『EMスライハンド・マジシャン』をサーチ!」

 

「速攻魔法、『相乗り』!相手がサーチ、サルベージする度にドローする!」

 

ジャック・アトラス 手札0→1→2

 

「そしてドクロバット・ジョーカーを召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

登場したのは『EM』のキーカード、継ぎ接ぎのシルクハットに黒い仮面、トランプのマークを散りばめた燕尾服を纏った金髪の道化だ。彼は遊矢のD-ホイールに良く似た三輪車に乗り、キコキコと走らせる。

 

「召喚時、『EMペンデュラム・マジシャン』をサーチ!」

 

ジャック・アトラス 手札2→3

 

「そしてセカンドンキーをリリースし、『EMスライハンド・マジシャン』を特殊召喚!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500

 

お次は赤い衣装を纏い、下半身が水晶と化しているマジシャンだ。攻撃力は2500、『レッド・ワイバーン』を上回っているが――。

 

「この瞬間、『レッド・ワイバーン』の効果発動!シンクロ召喚したこのカードが表側表示で存在する限り1度だけ、このカードより攻撃力が高いモンスターが存在する場合、フィールドで最も攻撃力の高いモンスターを破壊する!」

 

「――2歩先を行く!速攻魔法、『禁じられた聖槍』!スライハンド・マジシャンの攻撃力を800ダウン!これでフィールドで最も攻撃力が高いモンスターは、『レッド・ワイバーン』自身だ!」

 

「何――っ!?」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500→1700

 

『レッド・ワイバーン』がそのアギトから火炎弾を放とうとするも、スライハンド・マジシャンがステッキを槍に変え、『レッド・ワイバーン』の頭蓋を貫き、暴発、『レッド・ワイバーン』が火炎に呑まれる。散り行く火花を浴び、クルクルとジャックの機体が回転する。

 

「おのれ……!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札3→4

 

「バトル!スライハンド・マジシャンでダイレクトアタック!」

 

スライハンド・マジシャンがパッと右手から幾つかのボールを見せ、フィールドに放った後、1つだけボールを握り、ステッキで弾く。まるでビリヤード、キューによって弾かれたボールは全てのボールを弾き、ジャックへ向かって襲いかかる。

 

「させん!罠発動、『リジェクト・リボーン』!相手モンスターのダイレクトアタック時、バトルフェイズを終了し、墓地のシンクロモンスターとチューナーを効果を無効にし、特殊召喚する!来い!『レッド・ワイバーン』!『レッド・リゾネーター』!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

しかし王者はやはり簡単に通してくれないらしい。しかも2体のモンスターの蘇生のおまけ付きだ。

 

『遊矢、『レッド・ワイバーン』の効果を逆手に取り、果敢に攻めるも防がれた!果たしてこのターンが彼の最後のプレイングとなるか!?』

 

「俺はカードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMスライハンド・マジシャン』(攻撃表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMロングフォーン・ブル』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMドラネコ』

手札1

 

ここで『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を出すか迷うが――焦りはしない。ダーク・リベリオンはあくまで攻めのカード、次のターン失ってしまえばむざむざジョーカーを知られた上、再び出すには下準備がかかる。

そして宣言の3ターン目、果たしてこのターンを乗り越え、幻の4ターンに辿り着けるか。

 

「俺のターン、ドロー!少しは出来るようだが――このターンで終わりだ!魔法カード、『打ち出の小槌』により、手札を1枚交換、俺はカードを1枚セット!そしてレベル6の『レッド・ワイバーン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!王者の咆哮、今天地を揺るがす。唯一無二なる覇者の力をその身に刻むが良い!シンクロ召喚!荒ぶる魂、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』ッ!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

そして――ついに、ジャック・アトラスの最強の僕、代名詞と呼べるエースモンスターが君臨する。赤黒の体躯を唸らせ、山羊のような捻れた悪魔の角、背からは一対の双翼を広げた強靭の竜。しかしその右角、右腕は折れ、ギプスが巻かれており、強者の闘いでつけられた爪痕が胸に刻まれている。

光る傷痕、緋の光、右におった傷。スカーライトの名を得、赤き魔竜が雄々しく咆哮し、空気を震撼させる。その気迫を受け、遊矢も苦笑いを見せる。

このモンスターこそが、ジャック・アトラスに勝利を運ぶ絶対王者。その登場に会場が沸き起こる。

 

『出たぁーっ!ジャックのエースカード、スカーライト!凄いぞー、格好良いぞー!』

 

「さぁ、刮目せよ!スカーライトの効果発動!このカード以外の、このカードの攻撃力以下の特殊召喚された効果モンスターを全て破壊し、破壊したモンスター×500のダメージを与える!弱者を捩じ伏せろ!アブソリュート・パワー・フレイム!」

 

「させないっ!お待ちかねのっ、カウンター罠、『大革命返し』!フィールドのカードを2枚以上破壊するモンスター、魔法、罠の発動を無効にし、除外する!スカーライトの頬に捩じ込めっ!」

 

「ふん、『大革命返し』なら王者に従っておけ!これが真の2歩先を行くデュエル!カウンター罠、『レッド・バニッシュ』!『レッド』モンスターが存在する場合、セットしたターンでも発動出来、魔法、罠の発動を無効にし、破壊する!」

 

対策として投入したカードも通じない。スカーライトのアギトから放たれる炎のブレスがスライハンド・マジシャンとロングフォーン・ブルを焼き尽くす。正に絶対王者。孤高の独裁者だ。炎が地を焦がし、あおられた遊矢の機体がよろめく。

 

榊 遊矢 LP4000→3000

 

「くっ――!」

 

「後は邪魔な道化のみ!踊るが良い!無様に!俺は『スピア・ドラゴン』を召喚!」

 

スピア・ドラゴン 攻撃力1900

 

今度は槍のように尖った頭部を持つ竜のモンスター。攻撃力1900、ドクロバット・ジョーカーに殴り勝ち、スカーライトと合わせて遊矢のLPを上回っている。

 

「やれ!『スピア・ドラゴン』でドクロバット・ジョーカーに攻撃!」

 

榊 遊矢 LP3000→2900

 

『スピア・ドラゴン』がドクロバット・ジョーカーを突き刺し、破壊する。微量なダメージで体勢を立て直した遊矢の機体が、またもよろめく。そしてそこに――魔竜が牙を剥く。

 

「ダメージステップ終了時、『スピア・ドラゴン』は守備表示に。さぁ、フィナーレだ!スカーライトでダイレクトアタック!灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニングッ!!」

 

スカーライトのアギトから放たれる赤き炎、それは遊矢に向かって撃ち出され、彼の視界、ゴーグルを覆う。そして――着弾、激しき轟音を響かせ、黒い爆煙が遊矢がいた付近からモクモクと上がる。

 

『決まったー!宣言通り、ジャックが3ターンで勝利!ウィナー、ジャーック……』

 

『違うメリッサ!良く見ろ!』

 

ジャックの勝利、そう、誰もが思った時――MCの言葉と共に、赤き閃きが黒煙を裂き、ジャックの真横を駆け抜ける。そう、その正体は無論――。

 

「Ladies and Gentlemen!!」

 

スカーライトの攻撃を受けて尚、無傷の榊 遊矢――。

 

「馬鹿、な……!?一体何故!?どうやってスカーライトの攻撃を!確かに着弾した筈だ!」

 

想定外、予想外の展開にジャック・アトラスでさえ狼狽える。彼は勝利を宣言し、本気で潰しにかかった筈なのに――。その問いに、遊矢はニヤリと白い歯を見せる笑みを浮かべ、指を鳴らして軽やかに答える。

 

「お答えしましょう!私は確かに、スカーライトの攻撃を受けました!ですがその攻撃宣言時、ペンデュラムゾーンの『EMドラネコ』の効果を発動していたのです!」

 

「ッ!ペンデュラム――」

 

「直接攻撃で発生するダメージを0にする――と言う効果をね」

 

これが――遊矢の答え。キング、ジャック・アトラスの知識の外にある、ペンデュラムを使って、攻撃を受けはしたが、ダメージを0にしたのだ。

しかも遊矢は自らのエース、スカーライトで止めを刺して来るであろう事も予測していた為、ダメージも軽減出来た。

見事な腕前、あのジャックの裏を、いや、2歩先を行くプレイング。

 

「ク、クククククッ、クハハハハ!成程、面白い!良いぞ榊 遊矢!合格だ!もっと俺を楽しませろ!満足させろ!その小細工ごと砕いてやろう!手品は割れた!最早容赦はせん!俺はカードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス LP5700

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(守備表示)『スピア・ドラゴン』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

『凄い凄い!何と遊矢!ジャックの宣言を回避したぁーっ!ターンは幻の4ターン目へ!前代未聞、ここからどのようなデュエルをみせてくれるのかぁーっ!』

 

高らかに笑い、激しき闘争心を剥き出しにし、爛々と眼を輝かせるジャック。ここからが本番、無敗の王者を倒す為、遊矢は勇気を振り絞って挑む。

 

「お楽しみは、これからだっ!!」




これにて今年の投稿は終了……と思いきや31日があったでござる。もうちょっと続くんじゃ。


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第116話 2歩先を行く

ちょっと早めに更新。


評議会のビルにて、保護された少女、柊 柚子はフレンドシップカップの様子を写したテレビ画面に釘付けとなっていた。モニターの奥にあるのは絶対王者、ジャック・アトラスに果敢に挑む幼馴染み、榊 遊矢の姿。

彼女はデュエルが二転三転する度に面白い程表情を変え、自分1人しかいない、声も届かない筈なのにテレビに向かって喋る。

 

「遊矢、頑張って!ファイトよ!」

 

「あぁっスタート遅れちゃった!ま、まだ巻き返せるわ!」

 

「凄い凄い!相手の効果を利用した!」

 

「こ、攻撃が防がれたっ!?3ターン目が来ちゃったぁ!」

 

「うわーんカウンターにカウンター!?」

 

「遊矢が負けちゃうー!?」

 

以上がその様子である。まるで自分の事のようにあわわあわわと慌てふためく柚子。そして現在、遊矢が「発動していたのさっ!」を行い、ジャックの猛攻を防いだ今、彼女は感極まって涙ぐんでいた。

 

「遊矢……!」

 

遊矢の成長を見て、思わず感動したのだろう。画面のデュエルに夢中となっていた彼女は、ドアの隙間からこっそり様子を覗き、気不味そうにするセレナとSALに気付かなかった。

 

――――――

 

一方、ランサーズメンバーの男性陣の殆どが集う沢渡の部屋では、まるでお祭り事のように盛り上がっていた。

 

「よっしゃー!流石俺様のライバル!スカーライトの攻撃を防いだぜぇっ!」

 

「良く言うぜ、『大革命返し』がカウンターされた時は、もうダメだぁ、おしまいだぁ。とかヘタレてたのによ」

 

「それはアリトもでしょ?ドラネコがあるから大丈夫なのにねぇ」

 

「うっせーし!」

 

勿論その原因は遊矢の見事な脱出劇。彼等はポテチを頬張りながらそれはもう夢中になっていた。もう沢渡が部屋をポテチのカスで汚されるのを気にしない程である。男が数人集まった時のテンションは凄まじい。

普段は仲の悪い隼とデニスが遊矢の活躍を見て肩を組む位だ。それとも一晩明かして遊矢に協力する、と言う過程を経たからか。

ワイワイガヤガヤ、騒ぎまくるランサーズ。その余りの喧しさにクロウやシンジ、鬼柳にセクト、徳松、デイモン、トニーがやって来て注意するも、妙なテンションで結局一緒になって観戦してしまうのはまた別のお話――。

 

――――――

 

その頃――治安維持局のビル、とある一室にて、モニターに写し出された遊矢の実力を見て、今までセルゲイとチェスをしていた白コナミが手を止め、興味深そうに見いっていた。

 

「……榊……遊矢」

 

「ふむ、中々やりますね、この少年も」

 

彼等がデュエルを見つめる中、テーブルで静かにデュエルを見つめていた長身の男は下らないものに対するように、ジャック・アトラスを睨み、鼻を鳴らした後、室内を出る。その様子を唯一、プラシドだけが見ていた――。

 

――――――

 

場所は更に変わり、フレンドシップカップ会場、アクションフィールド、『クロス・オーバー・アクセル』へと変わったサーキットにて。ジャックの猛攻を凌いだ遊矢はある筈の無い4ターン目を迎え、デッキから1枚のカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!俺は『EMペンデュラム・マジシャン』を召喚!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

現れたのは赤い衣装を纏い、振り子を揺らしたマジシャン。ドクロバット・ジョーカーと同じく『EM』のキーカードであるが、その効果が発揮されるのは特殊召喚時、通常召喚するようなモンスターでは無い。当然遊矢がそんなミスを行う筈が無い。彼はスカーライトの攻撃時、爆風に運ばれ、拾ったカードを発動する。そう、アクションデュエルの武器を。

 

「さてさて皆様ご注目!取り出したるはこのカード!私榊 遊矢が今からアクションデュエルについてご説明致します!アクションデュエル!それは戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が、モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!デュエルの最強進化形!デュエリストとモンスターが力を合わせ、フィールドに散らばったアクションカードを使い、デュエルを有利に進めるのです!ですが1度に手札に加えられるアクションカードは1枚まで!では早速、私がスカーライトの攻撃をかわし、竜の住処から手に入れたお宝を見せましょう!あぁ、もしかしたらスカーライトは私がこれを取るだろうと思って怒って攻撃したのかもしれませんねぇ。\ドッ/」

 

「ドッじゃない!一体どうやってるんだそれ……!?さっさとせんか!」

 

ピッ、と遊矢が裏側にAと書かれたカードを見せ、長々と説明するとジャックに怒られてしまう。折角初見のお客さんに説明しているのになぁ、ちぇっ、と遊矢は唇を尖らせながらも、そのカードをD-ホイールのプレート部分に叩きつける。

 

「ではでは発動!アクションマジック、『デキテルレンジ』!このカードは自分フィールドのモンスターを1体手札に戻し、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚します!私がレンジに入れるのは『EMペンデュラム・マジシャン』!3、2、1、チーン!さぁさぁ上手に焼けました!レンジを開けるとあら不思議!」

 

『EMペンデュラム・マジシャン』が突如出現した電子レンジに入り込み、3秒程暖められる。そしてレンジが開くとモクモクと白煙を上げ――。

 

「ホッカホカの『EMペンデュラム・マジシャン』です!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

「同じではないかっ!」

 

ホカホカと妙にホットとなった『EMペンデュラム・マジシャン』を見て、思わずジャックが突っ込みを入れる。 \ドッ/

 

『こら遊矢ー!真面目にやりなさーい!』

 

「ありゃ、怒られちゃった。ですが私は大真面目!特殊召喚された『EMペンデュラム・マジシャン』の効果発動!このカードと『EMドラネコ』を破壊し、デッキから『EMリザードロー』と『EMラクダウン』をサーチ!」

 

「成程、そう言う事か……!」

 

「行くぜジャック!俺は『EMリザードロー』をセッティングし、ギタートルのペンデュラム効果でドローし、リザードローも破壊して更にもう1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3→4

 

「そして魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキから10枚を除外し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→5

 

サーチに加えドローブースト。これで遊矢の手札は5枚、この5枚を駆使し、遊矢は隠した爪でジャックの喉元を狙う。全神経を研ぎ澄ます――。

 

『ここで手札を補充、遊矢、どう出るか!?』

 

「さて――お手並み拝見と行こうか、チャレンジャー」

 

寄せられる期待を裏切らない為にも――深呼吸を繰り返し、決心をつける。

 

「良し!俺は『EMラクダウン』をセッティング!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMドクロバット・ジョーカー』!『EMリザードロー』!『EMファイア・マフライオ』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

EMリザードロー 守備力600

 

EMファイア・マフライオ 守備力800

 

天空の振り子が揺れ、4体のモンスターがフィールドに現れる。先程までに現れた振り子のマジシャンとドクロバット・ジョーカーの『EM』エリートコンビにカードのエリマキを持つ蜥蜴と炎の鬣を持った獅子。

 

「そして『EMペンデュラム・マジシャン』と『EMドクロバット・ジョーカー』でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

遊矢の背後に星を散りばめた渦が発生し、2体のモンスターが光となって吸い込まれ、渦は集束、小爆発を引き起こし、中より黒煙がフィールドを侵食する。

黒煙の中で蠢くは赤く輝く雷と血流、バチバチと双眸が閃き、中より鋭い刃が黒雲を引き裂き、現れたるは刃物のようなアギトと翼を広げる黒竜。ユートのエースモンスターだ。

 

『おぉーっと今度は何だぁーっ!?ペンデュラムの次はエクシーズ!一体どのようなモンスターなのか!?』

 

「ダーク・リベリオンの効果発動!ORUを2つ取り除き、スカーライトの攻撃力を半分にし、その数値分、このカードの攻撃力をアップする!トリーズン・ディスチャージ!」

 

「何……!?スカーライトが……!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000→1500

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→4000

 

ダーク・リベリオンの双翼に嵌め込まれた紅玉より稲妻が走り、スカーライトより力を奪う。王者に向けた反逆の牙を研ぎ澄まし、狙いを定める。

 

「更にラクダウンのペンデュラム効果で相手モンスターの守備力を800ダウンし、このターン、ダーク・リベリオンは貫通効果を得る!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 守備力2500→1700

 

「ぬぅっ――」

 

「バトル!ダーク・リベリオンで『スピア・ドラゴン』へ攻撃!反逆のライトニング・ディスオベイッ!!」

 

ズガガガガガッ、ダーク・リベリオンがそのアギトを地に突き刺し、猛スピードで削りながら火花を散らして突き進む。『スピア・ドラゴン』の所に来た瞬間、大きく跳躍、雷を纏った牙で切り裂き、一気に4000のダメージがジャックを襲う。

 

ジャック・アトラス LP5700→1700

 

「くっ――!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札1→2

 

くるくると回転するホイール・オブ・フォーチュン。だがまだまだ、遊矢は更に追撃をかける。

 

「速攻魔法、『瞬間融合』!フィールドのダーク・リベリオンとファイア・マフライオを融合!融合召喚!出でよ!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

ペンデュラムからエクシーズ、エクシーズから融合へ。ジャックにとって未知の力を全て使い、オレンジと青の渦から現れたのは獣骨の鎧を纏い、オッドアイと額に開いた獣の眼を光らせる竜だ。攻撃力3000、そしてこのカードの効果を使い――ジャック・アトラスの喉元へ届かせる。

 

「ビーストアイズで、スカーライトに攻撃!届けっ!ヘルダイブバーストッ!」

 

蒼炎が、スカーライトに着弾し、黒煙が上がる。

 

――――――

 

「おぉぉぉぉぉっ!?やったか!?」

 

評議会ビル、とある一室にて、ライダースーツを身に纏い、遊矢と似た顔立ちをした少年、ユーゴがテレビ内で起こる遊矢とジャックの対戦を食い入るように見つめていた。

 

「すげぇなコイツ!俺やナッシュと似ているってだけで驚いたのに、ジャックに勝つなんて……悔しいなぁっ、ジャックを倒すのは俺だって決めてたのによぅ」

 

どうやら彼は遊矢の事を忘れているらしい。まぁ会っている、とも言えないから仕方無い事か。楽しいやら悔しいやら、遊矢とデュエルしたいなぁと思いながらテレビを見つめていると――黒煙が晴れ、そこにあったものは。

 

「――なっ――」

 

――――――

 

『猛追――!流れるような攻撃を食らったジャック、これは無事なのか!?って言うか融合って何!?』

 

「……いや、まだだ……!」

 

上空で飛翔するヘリから放たれるメリッサの実況も流し、遊矢がD-ホイールを停止させる事もなく走行する。そう、デュエルはまだ終わっていない。

その証拠に――ビーストアイズの効果が発動されず、遊矢の背の黒煙を裂き、白い閃光が駆け、レーンに乗り出し、大ジャンプ。遊矢の眼前に躍り出る。

 

「ククク、今のはヒヤヒヤしたぞ」

 

『ジャック復活ゥー!ええっ!?どうなってんのぉ!?』

 

「本当、どうなってんの?」

 

「ダーク・リベリオンの攻撃の際、俺のホイール・オブ・フォーチュンは回転し――その時、フィールドに落ちていたこれが手におさまっただけの事だ」

 

「……アクションマジック、『回避』……!」

 

そう、彼は遊矢と同じくモンスターの攻撃を受け、アクションカードを拾い、それを利用してかわしたのだ。何と言う才気、先程使ったアクションカードを直ぐに実戦投入して来た。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンド。エンドフェイズ、『瞬間融合』で呼び出したビーストアイズは破壊される……!」

 

榊 遊矢 LP2900

フィールド『EMリザードロー』(守備表示)

セット2

Pゾーン『EMギタートル』『EMラクダウン』

手札0

 

互いの勝利宣言は不発に終わり、ここから先は未知の領域へ。2人共に宣言が失敗したと言うのに、その顔には陰りが見られず、むしろデュエルを楽しむ笑みが浮かんでいる。

 

「俺のターン、ドロー!スカーライトの効果発動!このカードの攻撃力以下の特殊召喚されたモンスターを全て破壊!その数×500のダメージを与える!」

 

「くっ、罠カード、『ピケルの魔法陣』!効果ダメージを0に!」

 

ダーク・リベリオンにその機能を半減されたにも関わらず、凄まじい王者の一喝が熱波となってリザードローを焦がす。これで遊矢のフィールドはがら空き。攻撃力1400以上のモンスターを召喚すれば射程圏内。危険地帯だ。

 

「安心しろ、俺の手札にはモンスターは存在しない。スカーライトも弱体化し、矜が乗らん、誇るが良い、俺のスカーライトを一時でも退かせた事を!魔法カード、『シンクロキャンセル』!スカーライトをエクストラデッキに戻し、素材である一組を蘇生!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

「もっと酷い……!」

 

スカーライトが玉座に戻り、2体の臣下がフィールドに見参する。これで攻撃力の合計は3000、しかも――『レッド・リゾネーター』が呼び出され、更に厄介な事になった。

 

「『レッド・リゾネーター』の効果!『レッド・ワイバーン』の攻撃力分、LPを回復!」

 

ジャック・アトラス LP1700→4100

 

LP回復、この効果が優秀かつ厄介だ。折角削ったLPも初期値まで戻ってしまった。ここからまたスカーライトを呼び出すか、遊矢が予測する中、彼はその様子を察したのか、意外な展開に出る。

 

「バトル!『レッド・リゾネーター』でダイレクトアタック!」

 

「っ!永続罠、『EMピンチヘルパー』!その攻撃を無効にし、デッキから『EMインコーラス』を特殊召喚!」

 

EMインコーラス 守備力500

 

突如の強襲、シンクロを行わず、攻撃を仕掛けるジャックに僅かに驚愕した遊矢は数秒遅れるも何とか防ぐ。彼のデッキからカラフルな3羽のインコが羽ばたき、音波の壁を放ち、『レッド・リゾネーター』の音波を相殺する。

 

「やはり防いだか、貴様の表情、またドラネコのようなカードがあると踏んだが、今度はリバースカードだったようだな」

 

「ッ!」

 

そう、彼はスカーライトが来ると想定した遊矢の表情を見ただけで何かあると見抜いていたのだ。何たる慧眼。踏んだ場数が段違いだ。

 

「『レッド・ワイバーン』でインコーラスへ攻撃!」

 

「戦闘破壊されたインコーラスの効果発動!デッキから『EMスプリングース』を特殊召喚!」

 

EMスプリングース 守備力2400

 

インコからガチョウへ。インコーラスが羽を散らして遊矢のエクストラデッキに避難し、羽のブラインドからスプリングースが飛び出す。攻撃を何とか受け流し、次のターンの布石も出した所で――王者は更なる追撃をかける。

 

「ほう、やるでは無いか、お陰で仕留め損なった。だが言った筈だ!2歩先を行くと!罠発動!『緊急同調』!バトルフェイズに、俺はシンクロを行う!」

 

「なっ――!?」

 

『更に追撃ィー!防ぐ遊矢に攻めるジャック!一向に手を休ませてくれません!』

 

『場のモンスターの合計レベルは8!ここはスカーライトが来るか!?いや違う!この状況で出されるのは、恐らく紅蓮の剣客!』

 

「優秀な解説だ、流石は百戦錬磨のMCと言った所か!俺はレベル6の『レッド・ワイバーン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!王者の決断、今赤く滾る炎を宿す、深紅の刃となる!熱き波濤を超え、現れよ!シンクロ召喚!炎の鬼神、『クリムゾン・ブレーダー』!」

 

クリムゾン・ブレーダー 攻撃力2800

 

スカーライトと同じレベル8、MCの宣言通り、フィールドに焔纏う旋風を逆巻かせ、切り裂いて現れたのは紅蓮の剣客。

真っ赤に燃える鎧は火の粉を弾き、鋭き剣を王者の為に振るう。魔竜に仕える剣士。その効果は今この状況では脅威的だ。このモンスターの登場に、遊矢の額から汗が伝う。何も熱いからでは無い。むしろこれは冷や汗だ。

 

「上級殺し……!」

 

「ほう、やはり知っていたか、そう!このモンスターがモンスターを破壊し、墓地に送った場合、次の貴様のターン、貴様はレベル5以上のモンスターを召喚、特殊召喚出来無い!さぁ、『クリムゾン・ブレーダー』!スプリングースへ攻撃!レッドマーダー!」

 

「ぐっ――、アクションマジック、『フレイム・チェーン』!相手モンスターの攻撃力を400ダウン!」

 

「緩いわ!アクションマジック、『ノーアクション』!アクションマジックの発動を封じる!」

 

「ッ――!」

 

アクションマジックによる援護も封じられ、『クリムゾン・ブレーダー』の赤き斬撃がスプリングースを切り裂く。これで遊矢は次のターン、上級の召喚を封じられた。『クリムゾン・ブレーダー』を破壊しようにも、上級が出せなければグンと難易度が跳ね上がる。ジャック相手にこれは不味い。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス LP4100

フィールド『クリムゾン・ブレーダー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『金満な壺』!エクストラデッキの『EMドラネコ』、墓地の『EMペンデュラム・マジシャン』、『EMドクロバット・ジョーカー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

ここで手札増強カード、優秀なドローソースが多い壺カードの中では使用後ペンデュラム召喚しか特殊召喚が行えなくなる、と言う少々使いにくいが、レベル5以上を呼び出せない今はありがたい1枚だ。デメリットも気にせずに済む。チラリと引いた2枚に目を配らせ――次の手を打つ。

 

「墓地のスプリングースを除外、ペンデュラムカードをバウンスし、『EMギタートル』と『EMオオヤドカリ』をセッティング!ギタートルのペンデュラム効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!ピンチヘルパーを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「魔法カード、『EMキャスト・チェンジ』!手札の『EMラクダウン』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「さぁ、行くぞ!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMシルバー・クロウ』!『EMファイア・マフライオ』!『EMリザードロー』!『EMインコーラス』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

EMファイア・マフライオ 守備力800

 

EMリザードロー 攻撃力1200

 

EMインコーラス 守備力500

 

一気に飛び出す5体のペンデュラムモンスター。振り子のマジシャンに鋭き爪を地を疾駆する銀狼、炎の獅子に3羽のインコ、カードのエリマキトカゲと騒がしいサーカス団がフィールドを盛り上げる。まずは『EMペンデュラム・マジシャン』。このカードで『クリムゾン・ブレーダー』を攻略する糸口を掴む。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果!スケールを破壊し、デッキから2枚の『EM』をサーチ!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!『EMペンデュラム・マジシャン』の効果と発動を封じる!」

 

しかし――そうは問屋が下ろさない。ジャックのリバースカードがオープンし、ソリッドビジョンによって4本の鎖が飛び出し、振り子のマジシャンを雁字搦めに拘束する。流石はキング、こちらのキーカードを一目散に封じて来た。だが――今度は遊矢が一手先を行く。

 

「魔法カード、『破天荒な風』!シルバー・クロウの攻守を1000アップ!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→2800

 

「相撃ち狙いか!」

 

「いいや!シルバー・クロウで『クリムゾン・ブレーダー』へ攻撃!この瞬間、シルバー・クロウの効果で『EM』達の攻撃力は300アップする!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力2800→3100

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500→1800

 

EMファイア・マフライオ 攻撃力800→1100

 

EMリザードロー 攻撃力1200→1500

 

EMインコーラス 攻撃力500→800

 

ジャック・アトラス LP4100→3800

 

「ぬぅ……!」

 

シルバー・クロウの雄叫びが『EM』を鼓舞し、その鉤爪が『クリムゾン・ブレーダー』の剣をへし折り、鎧を砕く。見事『クリムゾン・ブレーダー』を撃破、下級モンスター達の結束の勝利だ。

 

「ペンデュラムモンスターが相手モンスターを戦闘破壊した事で、ファイア・マフライオの効果発動!そのモンスターの攻撃力を200アップし、続けて攻撃可能!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力3100→3300

 

ジャック・アトラス 手札1→2

 

ファイア・マフライオが口から煙草の煙のようにリング状の炎を吹き、シルバー・クロウの道筋を作り出す。直ぐ様火の輪を潜り始めるシルバー・クロウ。その爪から火花が散り、発火する。

 

「シルバー・クロウでダイレクトアタック!その効果も忘れずに!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力3300→3600

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1800→2100

 

EMファイア・マフライオ 攻撃力1100→1400

 

EMリザードロー 攻撃力1500→1800

 

EMインコーラス 攻撃力800→1100

 

襲い来る炎の爪、この攻撃を受けてしまえば大ダメージは必至、決着がつけられるその瞬間――リン、ゴーン、と鐘の音が響くと共に、シルバー・クロウの行く手を、黒い影が遮る。

 

「手札の『バトル・フェーダー』を特殊召喚し、バトルフェイズを終了する!」

 

バトル・フェーダー 守備力0

 

現れたのは鐘を鳴らす小さな悪魔。ここでもまた防がれてしまった。

 

「カードを1枚セットしてターンエンド」

 

榊 遊矢 LP2900

フィールド『EMペンデュラム・マジシャン』(攻撃表示)『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)『EMリザードロー』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)

セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMオオヤドカリ』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札1→3

 

「『バトル・フェーダー』をリリースし、アドバンス召喚!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』!」

 

ストロング・ウィンド・ドラゴン 攻撃力2400

 

ここで現れたのは緑色の体躯をし、突風を引き連れた屈強な竜。『パワー・ブレイカー』共々『レッド』モンスターでは無い。彼のデッキ構築の広さを思い知らされる。

 

「このカードは貫通効果を持っている!バトルだ!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』でファイア・マフライオに攻撃!ストロング・ハリケーン!」

 

榊 遊矢 LP2900→1700

 

「くっ――『EMリザードロー』と『EMオオヤドカリ』の効果発動!まずはオオヤドカリを特殊召喚!」

 

EMオオヤドカリ 守備力2500

 

強風に吹き飛ばされるファイア・マフライオと入れ替わりに現れたのは子ヤドカリを自身の貝に住ませた大きなヤドカリ。守備力2500、強力な壁の上、これでペンデュラムゾーンも空いた。

 

「リザードローの効果で『EM』モンスターの数だけドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→5

 

「チッ、そんな効果があったのか、俺はカードを2枚セットし、ターンエンド!」

 

『互いに攻撃しては防ぎ合う!果たしてこの均衡を崩すのはどちらか!』

 

ジャック・アトラス LP3800

フィールド『ストロング・ウィンド・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

「このタイミングで……?俺は『EMダグ・ダガーマン』をセッティング!」

 

「そしてこの瞬間、もう1枚の罠発動!『裁きの天秤』!」

 

「そう言う事か……!」

 

「俺と貴様のフィールドのカードの差は5枚!加えて俺の手札は0!よって5枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札0→5

 

『おぉーっと、ここでジャックも遊矢に対抗し、大量の手札を確保!しかも攻撃も封じたぁーっ!』

 

遊矢とジャック、互いに大量の手札を引き込み、次の展開へと繋げていく。全力のぶつかり合いだ、スタミナの消費も、補給も激しい。

 

「ギタートルの効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札5→6

 

「更にダグ・ダガーマンの効果で墓地の『EMスライハンド・マジシャン』を回収!『EMペンデュラム・マジシャン』とシルバー・クロウをリリースし、アドバンス召喚!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500

 

「スライハンド・マジシャンの効果!手札を1枚捨て、ここは『ストロング・ウィンド・ドラゴン』を破壊!」

 

『補給部隊』と迷う所だが、貫通効果を持ち、シンクロ素材にも繋げられる『ストロング・ウィンド・ドラゴン』は厄介だ。多少相手の手数を増やしても今の内に処理しておくべきだろう。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札5→6

 

「そしてペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

「効果でこのカード自身とダグ・ダガーマンを破壊、『EMドクロバット・ジョーカー』と『EMレインゴート』をサーチ!俺は『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をセッティング、カードを2枚セットし、リザードローを守備表示に変更、ターンエンド、この時、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を破壊し、デッキから『慧眼の魔術師』をサーチ!」

 

榊 遊矢 LP1700

フィールド『EMスライハンド・マジシャン』(攻撃表示)『EMリザードロー』(守備表示)『EMインコーラス』(守備表示)『EMオオヤドカリ』(守備表示)

セット3

Pゾーン『EMギタートル』

手札5

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、アクションマジック、『ティンクル・コメット』!スライハンド・マジシャンの攻撃力を1000ダウン!」

 

「速攻魔法、『神秘の中華なべ』!スライハンド・マジシャンをリリースし、攻撃力分、LPを回復!」

榊 遊矢 LP1700→4200

 

「俺は自分フィールド上にモンスターが存在しない事で『レッド・ガーゴイル』を特殊召喚!」

 

レッド・ガーゴイル 守備力1400

 

現れたのは4本腕の炎の悪魔。容易な召喚条件を持っており、ジャックのデッキでは優秀な部類に入る。

 

「そして『レッド・リゾネーター』を召喚!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

「召喚時効果により、『クロック・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

クロック・リゾネーター 守備力600

 

次々と呼び出される『リゾネーター』モンスター、お次は背に時計を負った悪魔だ。仕掛けて来るか、遊矢は目を細め、手札の1枚を握り締める。

 

「俺はレベル4の『レッド・ガーゴイル』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100

 

再びシンクロ召喚、ここで姿を見せたのは炎に包まれた魔竜。その見た目はスカーライトと良く似ている。ビデオで見た限り、このモンスターは円滑油のような役割を持っている。

 

「シンクロ召喚時、墓地の『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「そしてレベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

更に――止めを刺すように、エースカード、スカーライトがフィールドに舞い戻る。最悪だ、勝負を一撃で決めかねないこのカードの登場は重い。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『レッド・ライジング・ドラゴン』、『レッド・ワイバーン』、『クリムゾン・ブレーダー』、『レッド・スプリンター』、『レッド・ガーゴイル』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札3→5

 

「スカーライトの効果発動!特殊召喚された『クロック・リゾネーター』も破壊されるが――このカードは表側守備表示の場合、1ターンに1度、戦闘、効果で破壊されない!」

 

「俺は手札の『EMレインゴート』を捨て、このターン、戦闘、効果破壊から『EMリザードロー』を守る!」

 

「――ほう」

 

榊 遊矢 LP4200→3200

 

「リザードローの効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→5

 

レインゴートにはもう1つ、手札から捨て、効果ダメージを防ぐ効果があるが、今はドローを取る。少しでも手数を増やし、ジャックに大ダメージを与える布陣を整えたいが為の行動だ。肉を切らせ、骨を断つ。

 

「俺は魔法カード、『二重召喚』を発動!『ファラオの化身』を召喚!」

 

ファラオの化身 攻撃力400

 

今度は黄金の仮面を被った黒い獣のモンスター。ジャックのデッキには全くシナジーが無いが、このモンスターの登場に遊矢は目を丸くする。

 

「嘘だろ……」

 

「控えるが良い!レベル3の『ファラオの化身』に、レベル3の『クロック・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100

 

「『ファラオの化身』の効果で自身を!『レッド・ライジング・ドラゴン』の効果で『クロック・リゾネーター』を蘇生!」

 

ファラオの化身 守備力600

 

クロック・リゾネーター 守備力600

 

『おおっと!これは何と言う事だぁーっ!『レッド・ライジング・ドラゴン』がシンクロ召喚されたにも関わらず、素材が復活、と言う事は――!』

 

「ループする……!」

 

「その通りだ!俺はレベル3の『ファラオの化身』に、レベル3の『クロック・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100

 

そう、これこそがジャックのループコンボ、『レッド・ライジング・ドラゴン』と『ファラオの化身』、そしてレベル3の『リゾネーター』、この3体により、何度でも『レッド・ライジング・ドラゴン』が呼び出される。

 

「2体を蘇生!」

 

ファラオの化身 守備力600

 

クロック・リゾネーター 守備力600

 

「再びレベル3の『ファラオの化身』に、レベル3の『クロック・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100

 

「効果で『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「効果でスカーライトの攻撃力分、LPを回復!」

 

ジャック・アトラス LP3800→6800

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP6800

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)『レッド・ライジング・ドラゴン』(攻撃表示)×3『レッド・リゾネーター』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

『ジャックのフィールドにはエースカードのスカーライトを含め、シンクロモンスターが4体、対する遊矢は凌ぐしか無い!これがキングの力なのか!?』

 

強い――上空で実況するメリッサの言う通り、圧倒的な力を見せるジャックに対し、遊矢は闇雲に消費させられるのみ。このままではジリ貧、一体どうしたらと弱気になった時――。

 

――……見てられんわ、このうすのろめ――

 

「え――?」

 

遊矢の左眼が、金色に輝いた――。

 

 




これにて今年の更新は終了です。良いお年を。


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第117話 キングは1人

新年明けましておめでとうございます。今年もこの作品をよろしくお願いいたします。
……書き始めた頃はここまで続くとは思ってなかったなぁ。


榊 遊矢とジャック・アトラスによるエキジビションマッチが行われる中、評議会のビル、最上階、幹部達が集う場にて、ランサーズメンバー、赤馬 零児と零羅、風魔 月影とユート、エヴァの姿があった。

彼等はモニター内に写る激闘を見つめ――不意に、幹部の1人であるゲールが鼻を鳴らし、口を開く。

 

「最初は良かったが……結局防戦一方ではないか」

 

ピクリ、遊矢を罵倒する言葉にユートの眉根が上がる。何も知らない癖に、と口に出しそうになるが彼等とは協力関係を結ばねばならない。堪えてゲールを一瞥した後モニターに視線を戻す。

ゲールの言う事も一理あるのだ。今の遊矢の布陣はジャックに対して余りにも頼りない。何をやっている、お前はそんなものじゃないだろうと思う中、零児が溜め息を吐き、鋭い目付きでゲールを睨む。

 

「そう焦らないでいただきたい。デュエルはまだ終わっていません」

 

「ッ、だが実際、LP、フィールド共に榊 遊矢が押されているではないか?ですな議長?」

 

零児の睨みにオレンジのローブを纏い、魚顔をした男性、ボルドーが口を出し、議長であるタキ・ホワイトに同意を求める。

すると彼は好々爺とも見える笑みを浮かべたまま、顎に手を置き、ふぅん?と頷く。

 

「そうですねぇ、融合次元とやらと闘うと言うには、頼りないかと」

 

ニッコリと、何を考えているのか分からない笑みを浮かべるタキ。だが零児は興味ないとばかりにモニターに向き直り、更に口を開く。

 

「ならばこそ最後まで見るべきだ。榊 遊矢の剣が、ジャック・アトラスの喉元に届く、その時を」

 

彼等も信じる。榊 遊矢の、勝利を――。

 

――――――

 

シティ、繁華街にて、フレンドシップカップの様子を写す、ビルに設置された大型モニターを見つめる影が1つ、いや、4つあった。フードつきのマントを纏った4人、その中の1人は見入ったようにモニターを見つめ、その赤い瞳を大きく見開く。

 

「ユー……ト……?」

 

震える唇からかすかに漏れた声。それは少女特有のものだ。その場に立ち止まってモニターを注視する彼女に対し、2人の男が苛立ったように少女の肩を掴む。

 

「おい何をしている!お前まで迷子になられては困る!」

 

「で、でも――目、ユートが……!」

 

「――目さんだ!敬語を使え!む、榊 遊矢では無いか」

 

「おいサンダー!お前まで一緒になってどうする!?大体お前がドジるからあの子が記憶喪失に……」

 

「「あ、いたんだ 」」

 

「いたよっ!俺の名前を空白にするなっ!」

 

「よしよし」

 

「うう……宇理亜たん……宇理亜たんだけだぁ、俺の味方は……」

 

存在を忘れられ、ガクリと膝をつく男の頭をローブを纏った赤毛の幼女がよしよしと撫でる。モニターの前で立ち止まり、騒ぐ黒マント、幼女もつくとなれば間違いなく事案である。

少女と一緒になって「何をやっている榊 遊矢!俺に勝ったのに負ける等許さんぞ!」と声を上げる男の首根っこを掴み、ズルズルと引き摺る影の薄い男。少女もその後をついて行くが、気になってモニターへ振り向く。

 

「榊……遊矢……」

 

「何をしている!行くぞ瑠璃!」

 

その少女は、正しく――。

 

――――――

 

「誰だ……一体誰なんだ……!?」

 

フレンドシップカップ、サーキットにて、ジャックと対峙する遊矢は、不意に聞こえて来た何者かの声に反応し、D-ホイールの乗りながらも辺りを見渡し、声の主を探していた。思えば――この声は舞網チャンピオンシップ、素良とのデュエル、そしてペガサスとのデュエルでも聞こえたものだ。いや、正確に言えば頭に直接響いた、か。声の主を探せども、観客席にいない事は分かっている。とすれば――やはり、ユートのように――。

 

--ファ○チキください--

 

こいつ、直接脳内にっ!何時も怒っていると思いきや、突然茶目っ気を見せる何者かに戦慄する遊矢。しかしアホをやっている場合では無い。ジャックが自分のターンに移らない遊矢を見て、訝しんで声を張る。

 

「何をしている榊 遊矢!貴様のターンだ!」

 

「あ、ああ!」

 

--やーい、怒られたー、だからうすのろなんだお前は--

 

「誰のせいだと思って……!」

 

--ふん、まぁ良い、おいうすのろ、その男に勝ちたければ、カードの声に耳を澄ませろ--

 

「カードの、声に……?」

 

--そうだ、貴様はデュエルがデュエリストとの対話と思っているようだが、デュエルは己とカードとの対話でもある。カードを信じ、カードの声に耳を傾ける。それが1番の勝利への近道だ。貴様とて経験があるだろう、黒咲と言う男とのデュエル、あれはそれに迫るものがあった--

 

「そう言えば――」

 

彼の言う通り、遊矢は隼とのデュエル中、必死でカードへの助力を求め、何を考えるまでもなく、自然とカード達が手札に引き込まれ、それぞれの役割を果たす為に、デュエルディスクへと運ばれていった記憶がある。

あれが、カードとの対話。いや、対話の一端。

 

--それが出来れば、この男も敵では無い。確かにこの男も少しはやるようだが、その境地へ辿り着いていないのだからな。俺からすればワンパンよ、ワンパン--

 

「……そうか、誰だか分からないけど、ありがとな」

 

--べっ、別に?貴様の為じゃないしっ!勘違いするんじゃない、バーカバーカ!--

 

何故ツンデレ、遊矢は直ぐ様その思考を追い出し、静かに落ち着き払って集中、耳を澄ませる。カードの声を聞き、カードと対話する。仲間を信じ、力を合わせる。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

引いたカードに目を配らせるが--違う、このカードじゃない。

 

--ふん、まだまだだなぁ、俺なんて一発だぞ一発、かぁーっ、これだからうすのろは!--

 

「ぐぬっ、だけど手札は充分ある。引いたカードも悪くない!「罠発動!『強欲な瓶』!1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札6→7

 

「魔法カード、『EMキャスト・チェンジ』!手札の『EM』をデッキに戻し、戻したカード+1枚ドロー!『EMカレイドスコーピオン』をセッティング!ギタートルの効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札6→7

 

「速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムスケールを崩し、相手に500のダメージを与え、『慧眼の魔術師』をサーチ!」

 

ジャック・アトラス LP6800→6300

 

「2体の『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!ペンデュラム効果で破壊し、『時読みの魔術師』と『星読みの魔術師』をデッキからセッティング!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMユーゴーレム』!『EMカレイドスコーピオン』!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMユーゴーレム 攻撃力1600

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

空中に光の軌跡が描かれ、遊矢のフィールドに3本の柱が落ちる。光の粒子を散らし、現れたのは振り子のマジシャンに命を灯した岩石の悪魔、万華鏡の尾を持った蠍、そして遊矢のエースカード、赤と緑の眼を輝かせる真紅の竜。『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』だ。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果発動!スケールを崩し、『EMオッドアイズ・ユニコーン』と『EMラディッシュ・ホース』をサーチ!セッティング!そしてユーゴーレムの効果発動!このカードと『オッドアイズ』で融合!二色の眼の龍よ。土より生まれし巨人と一つとなりて、新たな種族として蘇れ!融合召喚!現れよ!『EMガトリングール』!」

 

EMガトリングール 攻撃力2900

 

2回目の融合召喚、フィールドに現れたのは銃声を轟かせる鬼のモンスター。カチャリと巨大なガトリング砲をスカーライトへ向け、無数の弾丸を発射する。

 

「ガトリングールの融合召喚時、フィールドのカードの数×200のダメージを与える!」

 

「罠発動!『レインボー・ライフ』!手札を1枚捨て、このターンのダメージを回復に回す!」

 

「んなっ――!」

 

ジャック・アトラス LP6300→9100

 

ここでまさかの『レインボー・ライフ』。ガトリングールの放った弾丸が虹色のバリアを通り抜け、雨となってジャックに降り注ぎ、LPを回復する。最悪の展開だ。ガトリングールのバーンが仇となってしまった。

いや、これはジャックが上手いと言うべきか、てっきり『揺れる眼差し』に使わないものだから可能性を見落としていた。

 

--チッ、面倒な……--

 

「くっ、続くガトリングールの効果で『レッド・リゾネーター』を破壊し、攻撃力のダメージを与える!」

 

「『補給部隊』でドロー!」

 

ジャック・アトラス LP9100→9700 手札0→1

 

「ガトリングールとスカーライトを対象とし、ラディッシュ・ホースのペンデュラム効果発動!スカーライトの攻撃力を、ガトリングールの攻撃力分ダウン!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000→100

 

「俺のスカーライトを……!」

 

「これで効果による破壊は制限された!魔法カード、『螺旋のストライクバースト』を発動!エクストラデッキの『オッドアイズ』を回収!リザードローとカレイドスコーピオンをリリース!アドバンス召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールドの『EMペンデュラム・マジシャン』と『オッドアイズ』を融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

連続融合、怒濤の展開で姿を見せたのは魔眼を隠した真紅の竜。金色に輝く満月を背負い、美しい咆哮を放つ。

 

「ほう、手品が尽きんな」

 

--そうだ、こちらの何よりの武器は貴様は奴のデュエルを知っている上で、奴は貴様のデュエルを知らない事、奴の知らん領域へ持っていけ!--

 

「墓地の『置換融合』を除外、ビーストアイズをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「バトルだ!レベル4以下の魔法使い族を素材としたルーンアイズはモンスターへ2回攻撃が可能!ルーンアイズとガトリングールで『レッド・ライジング・ドラゴン』へ攻撃!連撃のシャイニーバースト!」

 

「アクションマジック、『大脱出』!バトルフェイズを終了する!」

 

--ええい誰だ!アクションデュエルなんて考えた奴は!--

 

渾身の連撃も――王者の喉元には届かない。『レッド・ライジング・ドラゴン』を一掃するチャンスを逃したか、ルーンアイズの背から放たれる熱線も、ガトリングールの弾丸も、ジャックには届かない。強い――アクションデュエルと言う自らの土俵が、ライディングデュエルによってジャックに奪われてしまっているのも大きい。

 

「まだだ!ライフはまだ残っている。残ってる限り、諦めない!俺のライフは!俺のデッキは!俺のD-ホイールは!皆で考えて、動いて拾い集めたものなんだ!俺のエンタメデュエルは何一つ応えてない!応えても無い内に、負けられるかぁっ!」

 

「まだ目が死んでいないか……!」

 

--クク、良いぞうすのろ!そうで無くては面白くない!凡骨ならば凡骨らしく、無様に足掻いて俺を楽しませろ!--

 

「俺はこれでターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP3200

フィールド『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMガトリングール』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMラディッシュ・ホース』

手札3

 

『遊矢、バーンや連続攻撃と言った方法で窮地脱出を試みるも不発!ですがジャックのスカーライトは弱体化し、光明が見えて来た!』

 

『どう出るジャック!』

 

「俺のターン、ドロー!俺は魔法カード、『紅蓮魔竜の壺』を発動!スカーライトが存在する事で、2枚ドロー!もう1枚だ、2枚ドロー!とどめに3枚目!」

 

ジャック・アトラス 手札1→3→4→5

 

『紅蓮魔竜の壺』3連発、恐るべきドロー力で一気に手札が5枚まで膨れ上がる。ここからどう出て来るか。

 

「ふん、魔法カード、『シンクロ・クラッカー』を発動!スカーライトをエクストラデッキに戻し、元々の攻撃力3000以下の攻撃力を持つ相手モンスターを全て破壊!」

 

「くあっ――!」

 

--チッ、やりおるわ……!--

 

魔竜が遊矢のフィールドに急接近、長い尾を振るい、遊矢のモンスターを破壊してエクストラデッキに去っていく。これでモンスターを除去した上で弱体化したスカーライトを回収した。

 

「バトル!3体の『レッド・ライジング・ドラゴン』でダイレクトアタック!」

 

「ぐぬっ、罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地の『EMセカンドンキー』に耐性を与え、蘇生!」

 

EMセカンドンキー 守備力2000

 

「セカンドンキーの効果でデッキの『EMヘイタイガー』をサーチ!」

 

「チィッ、カードを3枚セットし、ターンエンド!」

 

ジャック・アトラス LP9100

フィールド『レッド・ライジング・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

手札1

 

『遊矢も何とか堪え凌ぐ!さぁ、このデュエルどう動く!』

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMカレイドスコーピオン』!『EMダグ・ダガーマン』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000

 

振り子の軌跡で現れたのは、竜とマジシャン、万華鏡の尾を持つ蠍に短剣使い。遊矢はまだ諦めない、必死に勝利への糸口を手繰り寄せ、自分のものにする為に。あらゆるルートを試行錯誤する。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果!このカードとセカンドンキーを破壊し、デッキの『EMマンモスプラッシュ』と『EMバリアバルーンバク』をサーチ!ダグ・ダガーマンの効果でバリアバルーンバクを捨て、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札6→7

 

「ラディッシュ・ホースのペンデュラム効果!ダグ・ダガーマンの攻撃力分、『レッド・ライジング・ドラゴン』の攻撃力をダウン!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100→100

 

「そしてカレイドスコーピオンの効果を『オッドアイズ』に使用!このターン、『オッドアイズ』は特殊召喚されたモンスター全てに攻撃可能!バトル!『オッドアイズ』で『レッド・ライジング・ドラゴン』へ攻撃!この瞬間、『EMオッドアイズ・ユニコーン』のペンデュラム効果で『オッドアイズ』の攻撃力はダグ・ダガーマンの攻撃力分アップする!その二色の眼で捉えた全てを焼き払え!螺旋のストライクバースト!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

「罠発動!『和睦の使者』!このターン、俺のモンスターは戦闘破壊されず、ダメージも0になる!」

 

--しぶとい奴め、それとも貴様がとろくさいのか?--

 

『オッドアイズ』の背に負われたアーク、そのアークに嵌め込まれた赤と緑の宝玉が光輝き、アギトから螺旋状のブレスから放たれた瞬間、『レッド・ライジング・ドラゴン』がバリアに包まれ、防がれる。これも駄目――だがまだ手は残っている。1つタネが潰されただけ、デュエルはまだ分からない。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP3200

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)『EMダグ・ダガーマン』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMラディッシュ・ホース』

手札6

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『八汰烏の骸』!1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札6→7

 

「フィールドにシンクロモンスターが存在する事により、俺は『シンクローン・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

「俺はレベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!王者の叫びが木霊する!勝利の鉄槌よ、大地を砕け!シンクロ召喚!羽ばたけ!『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』!」

 

エクスプロード・ウィング・ドラゴン 攻撃力2400

 

ここで姿を見せたのは後頭部が隕石のような形状をしたエイリアン染みたドラゴン。

 

「フィールドより『シンクローン・リゾネーター』が墓地に送られた事により、墓地の『チェーン・リゾネーター』回収!召喚!」

 

チェーン・リゾネーター 攻撃力100

 

今度は背から鎖を出した小さな悪魔。レベル1のチューナーモンスターだ。『チェーン・リゾネーター』は背の鎖をジャックのデッキに繋げ、勢い良く何かを引っ張り上げる。

 

「『チェーン・リゾネーター』の召喚時、フィールドにシンクロモンスターが存在する事でデッキの『レッド・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「『レッド・リゾネーター』の効果により、貴様の『オッドアイズ』の攻撃力を俺のLPに加える!」

 

ジャック・アトラス LP9100→11600

 

「1万越え……!」

 

LP1万越え、これで更にジャックを倒す事が難しくなった。だが――遊矢は折れない。この程度の危機、何度だって乗り越えて来た。今までの経験を全て活かし、ジャック・アトラスにぶつける。

 

「レベル7の『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』に、レベル1の『チェーン・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

再びフィールドに君臨する真紅の魔竜。王者の如く睥睨するその姿は何度見ても身震いしそうになる。

 

「レベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『クリムゾン・ブレーダー』!」

 

クリムゾン・ブレーダー 攻撃力2800

 

魔竜に続き、それに仕える剣客までも姿を見せる。これは本格的に不味い事になった。このモンスターは厄介過ぎる。だが同時に、これでスカーライトの効果は発動しない筈だと思ったその時――。

 

「ダブル永続罠発動!『ディメンション・ガーディアン』!『クリムゾン・ブレーダー』と『レッド・ライジング・ドラゴン』は戦闘、効果で破壊されない!」

 

「これはっ――!」

 

『スカーライトの効果から、ジャックのモンスターは逃れる事となる!』

 

「さぁ、敵を殲滅せよ!アブソリュート・パワー・フレイム!」

 

榊 遊矢 LP3200→1700

 

「ぐっ――!」

 

「俺は魔法カード、『マジック・プランター』を発動!『レッド・ライジング・ドラゴン』を守る『ディメンション・ガーディアン』をコストに2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札0→2

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』!互いにドローし、手札を1枚捨てる!墓地の『グローアップ・バルブ』の効果!デッキトップをコストに蘇生!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

「レベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!シンクロ召喚!『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』!」

 

エクスプロード・ウィング・ドラゴン 攻撃力2400

 

剣客に続き、火竜まで、スカーライトの従者がフィールドに集う。

 

「バトル!3体でダイレクトアタック!」

 

「手札の『速攻のかかし』を捨て、バトルフェイズを終了!」

 

「ほう……カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

ジャック・アトラス LP11600

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)『クリムゾン・ブレーダー』(攻撃表示)『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』『ディメンション・ガーディアン』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMカレイドスコーピオン』!『EMダグ・ダガーマン』!『EMマンモスプラッシュ』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

EMカレイドスコーピオン 守備力2300

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000

 

EMマンモスプラッシュ 守備力2300

 

何度も何度も、遊矢の振り子は揺れ動く。勢いを増して、一歩一歩突き進む。今度のルートは――。

 

「まずは『EMペンデュラム・マジシャン』の効果!このカードと『EMオッドアイズ・ユニコーン』を破壊し、『EMモモンカーペット』と『EMギッタンバッタ』をサーチ!そしてモモンカーペットをセッティング!ダグ・ダガーマンの効果でギッタンバッタを墓地に送り、ドロー!」

 

榊 遊矢 手札6→7

 

「行くぞ!マンモスプラッシュの効果で『オッドアイズ』とダグ・ダガーマンを融合!比類なき短剣使いよ。二色の眼の龍よ。今一つとなりて新たな命ここに目覚めよ!融合召喚!現れ出でよ!気高き眼燃ゆる勇猛なる龍!『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

融合召喚、ゴウゴウと燃える炎を纏い、より強く、より逞しくなった『オッドアイズ』が雄々しく咆哮する。ダーク・リベリオン、ビーストアイズ、ルーンアイズとガトリングール、『オッドアイズ』とユニコーン、ラディッシュ・ホースのコンボも潰された。なら今度は、このモンスターで試すのみ。

 

「ブレイブアイズの融合召喚時、相手モンスター全ての攻撃力を0にする!」

 

「何――ッ!?」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000→0

 

クリムゾン・ブレーダー 攻撃力2800→0

 

エクスプロード・ウィング・ドラゴン 攻撃力2400→0

 

--うすのろ!わかっているだろうな!--

 

「ああ、この効果を使用したターン、ブレイブアイズしか攻撃出来ない、だから――カレイドスコーピオンの効果発動!このターン、ブレイブアイズは特殊召喚されたモンスター全てに攻撃可能!」

 

ジャックが驚愕するのも束の間、遊矢は内よりの声に応え、カレイドスコーピオンの万華鏡にブレイブアイズを写し、3体に分身させる。ブレイブアイズの両隣に並び立つ、青と緑のブレイブアイズ。見事なコンボでダメージを増量させた。

 

「バトルだ!ブレイブアイズで3体へ攻撃!灼熱のメガフレイムバースト!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!『補給部隊』の効果でドロー!ぐっぬぅぅぅぅっ!」

 

ジャック・アトラス LP11600→10100→8600→7100 手札0→1

 

3体のブレイブアイズのアギトから放たれる、赤、青、緑、光の三原色の炎が混ざり合い、不思議な事に透明な炎となって熱量を持ったままジャックのモンスターを焼き尽くす。半分になったが膨大なダメージを負わせ――更に、今まで破壊されず、不敗神話を築き上げて来た『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』が今、地に堕ちた。

 

「おのれ榊 遊矢、俺のスカーライトを……!だが『ディメンション・ガーディアン』の効果で『クリムゾン・ブレーダー』は破壊されない!」

 

「破壊はね」

 

「何――?ッ!?」

 

『おおーっと、これはどう言う事だ!?スカーライトを地に伏せたのも驚きだが、破壊されない筈の『クリムゾン・ブレーダー』がフィールドを離れていくー!』

 

ギリッ、ジャックが自らの魂を砕かれた事で歯軋りを鳴らし、せめて、と『クリムゾン・ブレーダー』の無事を確認するが――何と、剣客が次元に発生した渦に呑み込まれ、姿を消してしまった。

 

「除外か……!」

 

「ご名答!ブレイブアイズとの戦闘で破壊されなかったモンスターはダメージステップ終了時に除外される!」

 

--クク、良いぞうすのろ。あの涼しい顔が崩れておるわ!フハハハハ!--

 

未だLPはジャックが上、だが――スカーライトを倒し、勢いに乗った遊矢が有利となった。道は開かれた。まだ枝分かれしているが――着実に、勝利へのルートを手繰り寄せ、進んでいく。

 

「カードを3枚セットし、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP1700

フィールド『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMカレイドスコーピオン』(守備表示)『EMマンモスプラッシュ』(守備表示)

セット3

『EMモモンカーペット』『EMラディッシュ・ホース』

手札4

 

腹立たしく、同時に面白い。ジャック・アトラスはぐちゃぐちゃに掻き混ぜられた感情のまま、笑みを浮かべて舌打ちを鳴らす。

1度目は――あのトイレで、生意気にも自らに勝利を宣言し、楽しもうと笑って来た。

2度目はサーキットにて。自らの勝利宣言に便乗し、果たしはされなかったがこちらを邪魔してきた。

3度目は――自らの魂、エースカードであるスカーライトの破壊。腹立たしい、上手くいかない事が。面白い、上手くいかない事が。久方振りに――楽しめる――。

 

「良い、良いぞ榊 遊矢!久し振りに、本気で叩き潰したくなって来た!気骨の塊のような貴様を粉々に粉砕してやる!」

 

「来い!ジャック・アトラス!」

 

瞬間――ジャックの脳裏に、電撃が駆け抜け、とある光景がフラッシュバックする。青い目で静かに語りかける青年。顔中にマーカーをつけた少し小柄な青年。ゴシックなドレスを纏った少女。瓜二つな容姿の双子。そして、背の高い青髪の青年と――赤い帽子を被った青年。

笑顔で自らを迎える彼等は、どこか懐かしくて――〝ジャックの記憶には無い〟何かだった。

 

「――ッ!?今のは……」

 

「?」

 

「いや、今はデュエルだ!俺のターン、ドロー!」

 

直ぐ様ビジョンを振り払って遊矢に向き、後ろ向きのままに進むと言うホイール・オブ・フォーチュンだからこそ出来る芸当を見せながらデッキからカードを引き抜く。

 

「魔法カード、『復活の福音』!墓地よりスカーライトを蘇生!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

「スカーライトの効果発動!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!」

 

榊 遊矢 LP1700→950

 

魔竜が咆哮を上げ、その体躯から熱風を放ち、遊矢のモンスターが礫を受けて爆発する。全体破壊にバーン、この効果は遊矢のデッキには荷が重い。

 

「これで終わりと思ったか?」

 

「!」

 

--ほう、スカーライトの上があるか--

 

ギン、王者の眼が遊矢を射抜く。まさか――このスカーライトさえ、切り札では無いと言うのか。冷たい汗が遊矢の額を伝い、地に落ちたその時――王者は動く。

 

「墓地の『レッド・ライジング・ドラゴン』を除外し、墓地から『シンクローン・リゾネーター』と『ダブル・リゾネーター』を蘇生!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

ダブル・リゾネーター 守備力0

 

蘇るは2体の音叉を持った悪魔。レベル1のチューナーが2体、レベル9のシンクロか――しかし遊矢の予想に反し、ジャックは思いもよらぬ行動に打って出る。

彼は自らの心臓に手を当て――グッ、と五指に力を込めた途端、その右手が燃え上がる。

 

「なっ――!」

 

「これが俺の全身全霊!行くぞ!俺はレベル8の『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』と『ダブル・リゾネーター』をダブルチューニング!」

 

「ダブルチューニング!?」

 

『何とジャック、スカーライトに2体のチューナーをチューニングしたぁーっ!これは熱い!熱いぞぉーっ!』

 

--クク、これだからデュエルは面白い……!あぁ、口惜しい、口惜しいな。せめて完全に貴様の身体を借りられる程回復すれば--

 

シンクロモンスターに2体のチューナーをチューニング、前代未聞、驚天動地の荒業に各々が反応を見せる。荒ぶる魄、言うなれば――バーニング・ソウル。2体の『リゾネーター』がリングとなって弾け、交差してスカーライトを包み込み、巨大な赤い竜が通り過ぎる。

 

「赤い……竜……!?」

 

「王者と悪魔、今ここに交わる。赤き竜の魂に触れ、天地創造の雄叫びを上げよ!シンクロ召喚!現れろ!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500

 

シンクロ召喚――赤き魔竜が進化し、その翼はより巨大に、より鮮やかな紅に染まり、強者と激闘で刻まれた傷は消え去り、雄々しい角が頭から伸びる。これが、ジャック・アトラスの真の切り札。紅蓮に染まりし暴君の魔竜。その余りの威圧感に――誰もが、言葉が出ない。

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果で墓地の『レッド・リゾネーター』を回収、そしてタイラントの効果発動!このカード以外のフィールドのカードを、全て破壊!アブソリュート・パワー・インフェルノ!」

 

「くっ、破壊された『運命の発掘』の効果でドローする!墓地に落ちているのは2枚だ!」

 

榊 遊矢 手札4→6

 

赤き炎がフィールドを覆い、全てのカードを焼き尽くす。ジャックも『補給部隊』を失ったが――遊矢はペンデュラムを失ってしまった。

フィールドはがら空き、手札誘発も無い、どうする――。

 

--阿呆め、忘れたのか?--

 

「忘れてないさ……この攻撃も、防いで見せる……!」

 

「バトル!タイラントでダイレクトアタック!獄炎のクリムゾンヘルタイドッ!!」

 

遊矢の眼前に、火の手が迫る。触れれば火傷で済まない、地獄の炎。遊矢はそれを――。

 

「手札のヘイタイガーを捨て、『EMバリアバルーンバク』を蘇生!」

 

EMバリアバルーンバク 守備力2000

 

間一髪でかわす。

 

「何だと――!?くっ、ならバリアバルーンバクに攻撃!」

 

現れたのはとぼけた顔をした風船のようなバク。彼は遊矢の眼前に呼び出され、その身を盾にして主人を守る。

 

「ありがとう、バリアバルーンバク」

 

「俺はこのままターンエンド。面白い……貴様のターンだ、榊 遊矢!」

 

ジャック・アトラス LP7100

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』(攻撃表示)

手札2

 

圧倒的戦術、圧倒的なモンスター。されどその力は遊矢には届かない。デュエルは佳境を迎え、互いの魂は更に苛烈にぶつかり合う。

そんな中――遊矢のデッキに、淡い光が灯る。小さな小さな、今にも消えてしまいそうな光。

 

--私を、呼んで--

 

少女の小さな声が漏れ、風の音に掻き消される。勝利の女神が微笑むのは――どちらか。




次回予告

圧倒的な猛威を振るうタイラントに対し、遊矢は自らの切り札であるオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンで反撃に出る。オープニングのオベリオンとスカーライトのぶつかり合いは果たされなかったが、進化形態だしこれで大丈夫じゃない?

次回の黒咲
沢渡の部屋でついつい無音激臭の屁をかましてしまった黒咲。ランサーズメンバーが鼻をつまみ、犯人を探す中、彼は隣に並ぶデニスに罪を擦り付けようとする!


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第118話 ゼロ・リバース

前回のあらすじ

黒咲「ははーん、デニス、さてはお前やろ?」


激しさを増し、サーキットに火花を散らす遊矢とジャックのエキシビションマッチ。モニター内で繰り広げられるアクションライディングデュエルを、1人の少年が選手控えで見守っていた。

彼の名はサム。ジャックから1枚のカードを受け取り、遊矢へと渡した小柄な少年だ。遊矢は様々なカード、様々な戦術を駆使し、強力なカードでフィールドを制圧するジャックに対し、必死に食らいついていた。会場の誰もがこんな接戦を予想していなかっただろう。

だが彼のデュエルは見事会場を熱狂させ、ジャックと互角に渡り合っている。

 

負ける――3ターン目、ジャックの『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』が登場した時は誰もその結果を疑わなかった。しかし今はどうだろう、誰も――デュエルの先が分からない、予測もつかない。

次は何を起こすのか、ジャックがエースカードを進化させ、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』と言う切り札を出したにも関わらず、ここで遊矢が終わらないと、ある種の期待が、観客達から寄せられる。

 

ドキドキ、ワクワク、ハラハラする、正にデュエル。最早遊矢にエールが送られるのも不思議ではない。サムも両手を合わせ、瞼を閉じ、静かに祈る。

どうか――

 

(君に与えられた役目が、君に込められた想いが、遊矢さんを助けてくれますように――)

 

その願いは今、小さな光を灯す。

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

--ええい、まだ無理だと言うのか、このうすのろっ!--

 

遊矢がデッキから1枚のカードを引き抜き、目を配らせると共に罵倒が飛ぶ。違う、心が求めているのはこのカードでは無い。だがこのカードにそれを言うのはカードに対して失礼だ。

このデッキを組んだ皆に対してもそれは言える。決して否定の言葉は吐かず、このカードにも出来る役割を考え抜き、戦術を立てる。どうする、どうすればいい、答えは――。

 

「良し……!俺は魔法カード、『シャッフル・リボーン』を発動!墓地より『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を蘇生!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

墓地より呼び出されたのは反逆の牙、暴君に立ち向かうべく、その鋭いアギトを閃かせるが――その光は鈍く、見ただけで決して届きはしないと頷ける。

 

--成程、クク、面白い事を考えたではないか、うすのろ。だが貴様に引けるか?--

 

先程のドローで遊矢の手札に加わったカード、そして残りの手札3枚を見てか、声が愉快そうに笑う。この4枚の手札で、暴君を打ち倒す。まずは、この2枚。

 

「引くさ……!まずは『相生の魔術師』と『曲芸の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!ペンデュラム召喚!『EMリザードロー』!『EMファイア・マフライオ』!『EMインコーラス』!」

 

EMリザードロー 守備力600

 

EMファイア・マフライオ 守備力800

 

EMインコーラス 守備力500

 

呼び出されたのは3体のモンスターだ。スケールの間が3の為、呼び出せるのはこれだけ、だが今必要なものは、リリース要員、これで充分だ。

 

「俺はリザードローとインコーラスをリリースし、アドバンス召喚!『降竜の魔術師』!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

「このカードの効果でこのカードをドラゴン族に変更!そして墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『曲芸の魔術師』をデッキに戻し、ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

--ほう--

 

「来た……!魔法カード、『波動共鳴』!タイラントのレベルを4に変更!」

 

「何……?」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント レベル10→4

 

発動されたのはフィールド上のモンスター1体をレベル4に変更するカード。それをこちらに使って来る事にジャックは警戒心を強める。一体、何を考えているのか、と。

 

「そして『相克の魔術師』をセッティング!『相生の魔術師』のペンデュラム効果発動!ダーク・リベリオンと降竜を対象にし、ダーク・リベリオンのランクを、降竜の数値と同じ7にする!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ランク4→7

 

「更に『相克の魔術師』のペンデュラム効果でダーク・リベリオンをレベル7のモンスターとして、エクシーズ素材に使用可能!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!二色の眼の龍よ!その黒き逆鱗を震わせ、刃向かう敵を殲滅せよ!クロス・エクシーズ召喚!出でよ、怒りの眼輝けし龍!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

目には目を、歯に歯を、暴君には覇王を。2体のモンスターが光となって天上で交差し、爆発。立ち込める黒雲を裂き、白黒の竜が姿を見せる。背で輝く桜色の翼、工具のような腕、胸には竜の顔を模した装甲を、鋭いアギトを2本伸ばし、赤と緑の眼を輝かせ--遊矢の切り札が、フィールドに降り立つ。

これこそがダブルチューニング、シンクロの高みに肩を並べる、ペンデュラムの高み。エクシーズペンデュラム。2つの召喚法を瞳に宿す漆黒竜が今、紅蓮の竜を射抜く。

 

「エクシーズと、ペンデュラム……!?」

 

「『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』がエクシーズモンスターをORUとしてエクシーズ召喚した場合、相手のレベル7以下のモンスターを全て破壊し、その数×1000のダメージを与える!今、反逆の時!オーバーロード・ハウリング!」

 

「その為の『波動共鳴』か――!俺は手札の『レッド・ガードナー』を墓地に送り、タイラントを効果破壊から守る!」

 

「くっ、『復活の福音』だけと思ったら……!」

 

見事なコンボ、覇王黒竜の格上を破壊出来ない問題をサポートする遊矢だが、ジャックは手札のモンスター効果で防いで見せる。しかも墓地にはドラゴン族モンスターの破壊を防ぐ『復活の福音』も残っている。白黒の竜が放つ凄まじい怒号も盾によって届かない。

 

「これでタイラントは破壊されず、攻撃力3000のそのモンスターでは、攻撃力3500のタイラントには届かない!」

 

「それはどうかな?バトルだ!覇王黒竜で、タイラントへ攻撃!」

 

「何っ!?」

 

『遊矢構わず攻撃!何か策があるのか!?覇王と暴君がぶつかり合うっ――!』

 

遊矢は臆さず攻め、互いの切り札、2体の竜王が天高く飛翔し、螺旋状の軌道を描いて交差、ぶつかり合う。黒竜がアギトを振るえば、赤竜が掌底で弾き、暴君が咆哮を放てば覇王が怒号を飛ばして波紋が打ち消される。

切り札同士の派手なドッグファイトに会場が盛り上がり、2人は必殺の指示を出す。

 

「『降竜の魔術師』を素材としたモンスターがドラゴン族モンスターと戦闘を行う際、ダメージステップの間、攻撃力が倍となる!革命のイカヅチ!ライトニング・ストライクッ!!」

 

「何だとっ!?くっ、墓地の『復活の福音』を除外、タイラントの破壊を防ぐ!迎え撃て!獄炎のクリムゾンヘルタイドォッ!!」

 

天空を背に、覇王黒竜が桜色の翼を展開、巨大な花びらのようになった双翼を輝かせ、そこから来るエネルギーをアギトに乗せ、バチバチと雷を迸らせ、極太の線になった雷のブレスを放つ。

対するタイラントはバサリと巨大な翼を翻し、大気をアギトに集束、まるで太陽と見間違うような球体状のエネルギーを構成し、黒炎を纏わせて撃ち出す。

 

雷と炎はぶつかり、鬩ぎ合い、火花を散らし、炎を裂いて雷がタイラントに命中、その巨大な体躯を大きく吹き飛ばす。

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→6000

 

ジャック・アトラス LP7100→4600

 

「ぐうぅぅぅぅぅっ!?」

 

タイラントに着弾し、発生した爆風によってジャックのD-ホイール、ホイール・オブ・フォーチュンがクルクルと回転する。やっと、やっとだ。ジャックのLPを4000台に戻す事が出来た。

通じる。遊矢のデュエルはキングに通じ、倒す事とて夢じゃない。だが油断は禁物、何せタイラントには自分以外を破壊する豪快な全体除去効果があるのだ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP950

フィールド『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』(攻撃表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)

セット1

Pゾーン『相生の魔術師』『相克の魔術師』

手札0

 

『何と言う大迫力!宙を舞う2体のドラゴンの攻防!見るだけで熱くさせられます!正に最強のチャレンジャー!榊 遊矢!最強のキングはどう返す!?』

 

「俺のターン、ドロー!良いモンスターだ。しかし、俺のタイラントには勝てん!墓地の『レッド・ライジング・ドラゴン』を除外、墓地から『シンクローン・リゾネーター』と『ダブル・リゾネーター』を蘇生!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

ダブル・リゾネーター 守備力0

 

「タイラントの効果発動!このカード以外のカードを全て破壊!幾ら攻撃力を上げようと、これなら無意味!」

 

「くそっ――!」

 

獄炎が反逆の覇王を燃やし、破壊する。全体破壊だ、覇王黒竜の効果も使えない。

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果で『レッド・リゾネーター』を回収、バトル!タイラントで攻撃!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

「そろそろ手品が尽きた頃か?見事なものだったが、フィールドに残ったのは俺の切り札だ!カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

ジャック・アトラス LP4600

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

強い、強い、強い――。これがキング、ジャック・アトラス。切り札対決もジャックが寸での所で競り勝ち、頼みの綱の覇王黒竜が破壊され、遊矢のフィールドのカードは0、手札も0、勝てるのか?僅かな不安が込み上げる。

小さな小さなその思いは、染みのように遊矢の心を侵食する。負ける――このまま、負ける?何もせず、諦めて、ああ、それは何て甘いのだろう、楽になれるのだろう、だけど――それじゃあ、今まで闘って来た皆に、協力してくれた仲間に、会わせる顔が無い。

 

「まだ、だぁっ!無様でも、足掻くんだっ!ここで諦める程、俺と闘って来た皆のデュエルは、安くない!」

 

「……ッ!?折れない、だと……!?」

 

確かに『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』も、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』も、『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』も、『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』も、『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』も、『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』でさえ、ジャックには届かない。だけど、それでも、闘うカードは尽きていない。皆の絆はここにある。それが遊矢を奮い立たせ、前を向かせる、背を押してくれる。

 

「あるんだ、ジャックを倒すカードが、まだデッキに残ってる!俺のターン、ドロー!」

 

引いたカードに視線を配らせる。このカードなら――。

 

「魔法カード、『金満な壺』!エクストラデッキの『慧眼の魔術師』、『EMギタートル』、墓地の『降竜の魔術師』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

「後、少し……っ!魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』!2枚ドローし、確認!ペンデュラムモンスターは1体だけ、1枚を捨てる!」

 

榊 遊矢 手札1→3→2

 

「『EMギタートル』と『EMブランコブラ』をセッティング!ギタートルの効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「来た――!」

 

--ん?このカードは……!--

 

「ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMオオヤドカリ』!『EMラディッシュ・ホース』!『EMファイア・マフライオ』!『EMインコーラス』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMオオヤドカリ 守備力2500

 

EMファイア・マフライオ 守備力800

 

EMインコーラス 守備力500

 

5体同時召喚、ペンデュラムの本領発揮により、遊矢のフィールドが埋め尽くされる。呼び出されたのは小さな、タイラントに敵わないであろうモンスター達。しかし――このカード達が、ジャックを倒す鍵となる事を、遊矢は信じる。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果でスケールを破壊し、『EMシルバー・クロウ』と『EMジンライノ』をサーチ!シルバー・クロウをセッティング!フィールドの『EM』の攻撃力は300アップ!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500→1800

 

EMオオヤドカリ 攻撃力500→800

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力500→800

 

EMファイア・マフライオ 攻撃力800→1100

 

EMインコーラス 攻撃力500→800

 

「オオヤドカリの効果!『EM』の数×300、ラディッシュ・ホースの攻撃力をアップ!」

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力800→2300

 

「ラディッシュ・ホースの効果!このカードの攻撃力分、タイラントの攻撃力をダウン!『EMペンデュラム・マジシャン』の攻撃力をアップ!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500→1200

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1800→3100

 

「ほう……!」

 

『EMペンデュラム・マジシャン』のサーチ、オオヤドカリ、ラディッシュ・ホース、シルバー・クロウの攻撃力アップ効果を駆使し、タイラントの弱体化と『EMペンデュラム・マジシャン』の強化を行う。そして恐らくタイラントを撃破した後はファイア・マフライオの効果による追加攻撃を狙うのだろうが――インコーラスの存在が分からない。

防御を固める為か、それとも――。何にせよ、見事なプレイングだ、弱いモンスターが、あっという間にタイラントを越えて来た。

 

「バトル!『EMペンデュラム・マジシャン』でタイラントへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『奇跡』!タイラントに戦闘耐性を与える!」

 

「アクションマジック、『ギャップ・パワー』!『EMペンデュラム・マジシャン』の攻撃力を、相手のLPから俺のLPを引いた数値の半分、1825アップ!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力3100→4925

 

ジャック・アトラス 手札2→3

 

しかしまだタイラントはフィールドから退かない。これではまた、全体破壊で振り出しに戻されてしまう。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP950

フィールド『EMペンデュラム・マジシャン』(攻撃表示)『EMオオヤドカリ』(守備表示)『EMラディッシュ・ホース』(守備表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)『EMインコーラス』(守備表示)

セット1

『EMシルバー・クロウ』

手札1

 

「俺のターンだ、ドロー!墓地の『レッド・ライジング・ドラゴン』を除外、『シンクローン・リゾネーター』と『ダブル・リゾネーター』を蘇生!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

ダブル・リゾネーター 守備力0

 

「ここだ!罠発動!『風林火山』!」

 

「何ッ!?」

 

ジャックの蘇生に対し、遊矢が発動したのはコナミの『エレメンタルバースト』と同様、発動が厳しい罠カード。ここでまさかの登場に、ジャックが目を剥き驚愕する。その効果は4つ、今遊矢が使うのは――。

 

「ジャックのモンスターを全て破壊!」

 

フィールドに火の手が迫り、ジャックのモンスターが全滅する。あっという間の大逆転。あのタイラントが見事に破壊された。

 

『遊矢凄い!ここで『風林火山』の発動なんて、一体誰が予測出来たでしょうか!?』

 

『全く、彼のデュエルには驚かされてばかりだ!』

 

「……俺は『シンクローン・リゾネーター』の効果で『ダブル・リゾネーター』を回収……成程、この5体のペンデュラムモンスターは、この為でもあったのか……!」

 

先のターンの戦闘補助も、ブラフだったと言う事か。一体何時からタネを仕込んでいたと言うのか、全くこの少年のデュエルには驚かされる。

 

「うまくいって良かったよ。また『レッド・ガードナー』とかでかわされたら、目も当てられない」

 

「ふん……!俺も腹を括らねばならんか……!魔法カード、『手札抹殺』!手札を捨て、その枚数分ドロー!そして魔法カード、『死者転生』!手札1枚を捨て、タイラントをエクストラデッキに!更に魔法カード、『星屑のきらめき』!墓地の『ストロング・ウィンド・ドラゴン』と『レッド・リゾネーター』を除外し、合計レベル8のスカーライトを蘇生!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

今再び現れる赤き魔竜。相変わらず見事な腕前だ。このモンスターを中心とし、彼のデッキは構築されている為、当然と言えば当然とも言えるが。その当然が辛い。

 

「スカーライトの効果!このモンスター以外の、このモンスターの攻撃力以下の特殊召喚された効果モンスター達を全て破壊し、その数×500のダメージを与える!」

 

「墓地の『EMジンライノ』を除外、『EM』達の破壊を防ぐ!」

 

「まだだ!『チェーン・リゾネーター』を召喚!」

 

チェーン・リゾネーター 攻撃力100

 

「効果でデッキから『シンクローン・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

「嘘だろ……!?」

 

--ここでダブルチューニングか……!--

 

スカーライトの効果を防いでも、ジャックは止まらない。直ぐ様新たなチューナーを呼び込み、2歩先を行く。

 

「レベル8のスカーライトに、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』と『チェーン・リゾネーター』をダブルチューニング!シンクロ召喚!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500

 

そして――魔竜に続き、暴君までもがフィールドに舞い戻る。最悪だ、折角『風林火山』で除去したのに――更にその上を行かれた。凄いと、遊矢は最早感心してしまう。

 

「面白い……っ!」

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果で『レッド・リゾネーター』回収、タイラントの効果発動!貴様のカードを全て破壊!バトルだ!タイラントでダイレクトアタック!」

 

「手札の『EMドラミング・コング』を捨て、バリアバルーンバクを蘇生!」

 

EMバリアバルーンバク 守備力2000

 

「ならばタイラントでバリアバルーンバクを攻撃!」

 

どれだけ危機に立たされようと、遊矢は諦めない。その根性で何とか踏み止まる。

 

「ふん、俺はこれでターンエンド。この瞬間、墓地に送られた『スカーレッド・コクーン』の効果でスカーライトを蘇生!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

『ここでジャックのフィールドに2体の『レッド・デーモンズ・ドラゴン』が並んだぁーっ!全力全開、対する遊矢はフィールド0、手札0、流石に辛いかぁっ!?』

 

容赦無しと言わんばかりにフィールドに魔竜が2体並び立つ。これぞキングの全力、間違いなく、次のターンが遊矢のラストターンだ。

 

ジャック・アトラス LP4600

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』(攻撃表示)『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)

手札1

 

絶体絶命、これ以上無き逆境。だけど遊矢は笑う。楽しい、デュエルが楽しくて堪らない。ビリビリと痺れる、アドレナリンが放出しっぱなし、ワクワクが止まらない。これから起こるリアルが全て――遊矢には鮮明に、輝いて見える。全てを、解き放つ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

--来ている、うすのろ!もっと深く!もっとアクセルを踏み込め!集中しろ!--

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』、『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『EMガトリングール』、『EMセカンドンキー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

--を……んで--

 

微かに、遊矢の耳に何かが届く。これは、声だ。自身に呼びかける、カード達の声。溢れる想いが――遊矢の背を押す。

 

「待ってろ、直ぐに引き上げてやる……!魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!エクストラデッキに表側表示のペンデュラムモンスターが3体以上存在する事で、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

更に加速、最後の踏ん張りでドローブーストをかけ、幾度も遊矢のデッキトップからアークが描かれる。全てを賭けた最後のドロー、カードの声は――。

 

――私を、呼んで――

 

「来て、くれたかっ!俺はスケール4の『EMウィム・ウィッチ』と、スケール0の『ペンデュラムーチョ』をセッティング!」

 

「スケール0だと!?」

 

--あっれぇ?スケール0……?えっ、うそぉん--

 

遊矢のペンデュラムゾーンに設置されたのは色っぽい猫のモンスターとノリの良いポンチョを纏った鳥のモンスター。スケール0、誰だろうと分かるその特別な数値を、遊矢は得た。

 

「ペンデュラム召喚!『時読みの魔術師』!『EMファイア・マフライオ』!『EMリザードロー』!『EMオッドアイズ・ユニコーン』!そして――『調律の魔術師』!」

 

「その、カードはっ――!?」

 

時読みの魔術師 攻撃力1200

 

EMファイア・マフライオ 守備力800

 

EMリザードロー 守備力600

 

EMオッドアイズ・ユニコーン 守備力600

 

調律の魔術師 守備力0

 

現れる5体の小さなモンスター達。攻撃力も守備力も低く、1つ1つでは誰もが使えないと評するカード達。だけど、遊矢は知っている。このカード達が、勝利を導く役目を持つと、サムに渡された遊矢の新たな仲間――『調律の魔術師』に目を配らせる。すると彼女は遊矢と目を合わせ、ウィンクをしてくれた。

 

「『調律の魔術師』の効果で相手は400ポイント回復し、俺は400ポイントダメージを受ける!」

 

ジャック・アトラス LP4600→5000

 

榊 遊矢 LP950→550

 

「あべしっ!」

 

白い法衣を揺らし、『調律の魔術師』がチロリと舌を見せ、遊矢を音叉で殴る。まさかこんな効果とは思ってなかった。400分のダメージとは思えないそれを受けながらも遊矢は何とか前を向く。

 

--ごめーん、ごすずん、でもこれ強制効果だからと言ってるな--

 

「そんな感じなんだ……」

 

--相手は元マスターなんだ、でもごすずん、心配しないでねっ、今のマスターはごすずんだから!それに私と元マスター手も握ってないし!とも言ってるな。どうやらドジっ娘スイーツ系か。まぁ、ドジっ娘なら俺の『クリアウィング』の方が可愛いがな!自軍のモンスターもたまに破壊しちゃう所が可愛くて可愛くて--

 

「何故元カレ風……」

 

「――何故お前がそのモンスターを持っているのか分からないが、これも運命と言うものか」

 

--えっ、何元マスター?そんな、今更戻れないわ!と言ってるな--

 

ジャックが格好良い事を言っているのにこのスイーツと中の人のせいで色々台無しである。

 

「ジャック、アンタをサムにこのカードを渡した理由、何となく分かるよ。『調律の魔術師』は確かに弱いかもしれない、だけど、俺の勝利に欠かせない、このカードもまた、切り札なんだ!」

 

--ヤダごすずん格好良い……!こんな私でも受け入れてくれるだなんてっ!と言ってる--

 

本当に台無しである。

 

「俺はっ、レベル3の『時読みの魔術師』と『EMリザードロー』、レベル1の『EMオッドアイズ・ユニコーン』に、同じくレベル1の『調律の魔術師』をチューニング!剛毅の光を放つ勇者の剣!今ここに閃光と共に目覚めよ!シンクロ召喚!『覚醒の魔導剣士』!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、『調律の魔術師』が1つのリングとなって弾け、明度を増して宙を舞い、3体の小さなモンスターを包み込み――閃光が貫く。直後にフィールドに光のリングが雷のように降り注ぎ、美しき白刃の煌めきと共に現れたのは――聖剣を抱く、魔導の勇者。

2本の剣を振るい、今――遊矢の初めてのシンクロ召喚、シンクロモンスターがフィールドに降り立つ。

 

『ここで遊矢、シンクロ召喚!新たに登場したそのモンスターの力は、ジャックに通じるのかーっ!?』

 

「通じるさっ!『覚醒の魔導剣士』のシンクロ召喚時、『魔術師』ペンデュラムモンスターを素材にしている為、墓地の魔法カードを回収する!俺が手札に加えるのは――アクションマジック、『ギャップ・パワー』!『覚醒の魔導剣士』に使用!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500→4725

 

「バトルだ!『覚醒の魔導剣士』で『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』へ攻撃!この瞬間、墓地の『スキル・サクセサー』を除外、更に攻撃力を800アップ!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力4725→5525

 

「切ぃり……裂ぁけぇぇぇぇぇっ!!」

 

「迎え撃て、タイラントォォォォォッ!!」

 

狙うは王、ただ1人、ジャック・アトラス最大の切り札へと、『覚醒の魔導剣士』が剣を振るい、魔竜の放つ炎を裂き、突き進む。もっと強く、もっと速く。更なる高みへと――。2人の喉が枯れる程に叫び――その剣が、魔竜を切り裂く。

 

ジャック・アトラス LP5000→2975

 

「――っ!」

 

「『覚醒の魔導剣士』の効果により、戦闘破壊したタイラントの攻撃力分のダメージを与える!」

 

「……馬鹿な……!」

 

届く想い。その中にあるのは、決して遊矢1人のものだけじゃない。今まで闘って来た強敵、協力してくれた仲間達、背を押してくれた大人達、共に闘った、カードと、自身の中にいる誰か。全てをこの一撃に込める。これが――皆と繋ぐ、榊 遊矢のデュエル。榊 遊矢の、エンタメデュエル。最初から、勝負は決まっていたのかもしれない。

 

多くの人に囲まれる遊矢と、孤高の王者、ジャック。2人の道は正反対だ。ジャックに白刃が届く、その瞬間――2人は、一瞬の幻を見る。仲間と共に、笑い合う、キングでなくなった者の姿を。きっと――ジャックに時に競い合い、時にぶつかり合う仲間達がいたならば――このデュエルの結果は、変わっていたかもしれない。

 

ジャック・アトラス LP2975→0

 

『けっ、決着ゥゥゥゥゥッ!一体、一体誰がこの結末を予測出来たのでしょう!?フレンドシップカップ、エキシビションマッチ、その激闘を制したのは、無名のチャレンジャー、榊、遊矢ーっ!!』

 

今この瞬間、誰もが彼の名を、脳裏に刻む。小さな小さなエンターテイナー。彼は今、誰もが認めるデュエリストへと、成長した――。

 

――――――

 

デュエルが終わった後、遊矢へとインタビューを開始するメリッサ達を簑とし、ジャック・アトラスは逃げるようにピットへと戻って来た。情けない――あれだけ大口を叩いておきながらこの様か、ジャックは自身を鼻で笑い、愛機、ホイール・オブ・フォーチュンをカラカラと進める。どうして負けたのか、ジャック自身分からない。一体何故と視線を地面に落とした、その時だった――。

 

「無様なものだな、プラシドの言う通り、所詮、牙を抜かれ、爪を失った愚鈍な家畜と言う訳か。こんなものに俺が負けたと考えると苛立ちを通り越して呆れもしよう」

 

「――っ!?」

 

ジャックの眼前に、白いローブを纏った長身の男が現れたのは。何時の間に、と考えるその前に――ジャックは眼前の男の放つ気迫に呑まれる。

何だ、この男は。強いなんてものではない。放つ気迫は、圧倒的で、まるで王と見間違えるような――。

 

「ぬるいデュエルだった。特に貴様だ、貴様が弱過ぎる。あれでキングとは笑わせる。どうやったらあそこまでいや、ここまで腑抜けられる?」

 

「……何者だ貴様は……?自分が誰を愚弄しているのか分かっているのか?」

 

ギン、ここまで言われて引き下がるジャックではない。目付きを鋭くし、目の前の赤い瞳を睨むが――男は首をすくめ、やれやれと両手を上げる。

 

「知らんな、貴様が誰かなど、興味も無い、知り合いに似ていると思ったが、どうやらそっくりさんだったようだ。もう帰って良いぞ、キングでも、ジャック・アトラスでも無い者、元ジャックよ」

 

「良いだろう、そこまで言うなら俺自ら相手になってやる。名を名乗れ、墓標に刻んでやる」

 

尚もジャックを挑発する男に苛立ち、ジャックがホイール・オブ・フォーチュンからデュエルディスクをパージし、左腕に巻き付け、プレートを展開する。

対する男は名を聞かれた途端、待っていたとばかりに口角を上げ、纏ったローブを宙に放り投げる。宙に舞い、巧妙に男の姿を隠しながらゆっくりと地に落ちるローブ。その奥から覗く男の姿に――ジャックが目を見開き、言葉を失う。

 

「墓標に刻むのは、自分の名か?まぁ、良い、良くぞ聞いた――」

 

金に輝く明るい髪、赤く染まった両の眼。

 

「その脳髄に、特と刻め――」

 

本来の白から、灰に染まったジャケットに、王者を思わせる気風。

 

「我が名は――」

 

放たれるマシンボイスは、自身が最も聞き慣れたもの。

 

「ジャック・アトラス・D」

 

ジャック・アトラスが、そこにいた――。

 

「キングは1人、この俺だ。さぁ、宣言しよう、このデュエルで、貴様は真のキングをその目に目撃する!」




と言う訳で遊矢対ジャック、決着。かなり迷いましたがこの結果に。賛否両論あると思いますが、この結果を変える事はありません。今の2人の差を考えれば僅かに遊矢君に軍配が上がります。むしろ遊矢君が勝てるとしたらここしか無かったり。

おまけ

ジャック「ジャック・アトラス・大好きブルーノちゃん?」

ジャック・D「違う!ダッシュだ、ダッシュ!誰がそんなトンチキな名前にするか!」


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第119話 ぬるい

前回のあらすじ

ゴッズジャック「俺がジャック・アトラスだ!」
AVジャック「いいや俺だ!」
フィールジャック「ふざけるな俺だ!」
偽ジャック「俺なんだよなぁ」

コナミ「▽ジャック・アトラス ▽ジャック・アトラス ▽ジャック・アトラス ▽ジャック・アトラス」

クロウ「全部いらねぇ」


治安維持局の一室にて、4人の男が長椅子に、1人の男性がモニター前の椅子に腰かけていた。モニター前の椅子に座っているのは治安維持局長官、この部屋の主であるジャン・ミシェル・ロジェ。

そして長椅子に座るのはそんな彼の補佐を務める謎の男、プラシド。ロジェに忠誠を誓うデュエルマシーン、セルゲイ・ヴォルコフ。そして忠誠を誓ってない方のデュエルマシーン、白コナミ。最後にプラシドが連れて来た白マントの青年。

白コナミとセルゲイがチェスを行い、それを白マントの青年がボーッと見つめる中、ロジェはプラシドへと問いを投げかける。

 

「まさかジャック・アトラスが負けるとは……少々誤算だが、構わんか。それで、本当にあの、お前が連れて来たジャック・アトラス・Dとやらはジャックに勝てるのか?」

 

「無論だ。ジャック・アトラス・Dはタクティクス、就職率、コミュニケーション能力、仕事能力、ユーモアにおいてジャック・アトラスを大きく上回っている。更に同時製作したホイール・オブ・フォーチュン・Dとは合体する事が可能だ」

 

「お前たまにアホになるのなんなの?」

 

「因みにセルゲイにも合体機能をつけておいた」

 

「セルゲェェェェェイッ!おまっ、お前うちの子になにしてくれてるんだ!?」

 

フフン、と得意気に胸をそらすプラシドの胸ぐらを掴み、ガクガクと揺らすロジェ。このプラシドと言う男、実に有能なのだが、たまにやる事がアホでズレている。セルゲイを大事にしている彼としては勝手に改蔵、ではなく改造する彼の行為は許せないものである。

例えると部下に彼女を調教された感じ、寝取りである。

 

「安心しろ、長官」

 

「何が安心しろなんだコナミ。私はお前がセルゲイにした所業を忘れていないぞ。敵に回すのが怖いからこちらにいて貰うが」

 

と、そこで今までセルゲイと静かにチェスをしていた白コナミが顔を上げ、ロジェへと声をかける。一瞬ビクリとするロジェだが、セルゲイの背後に隠れ、ギロリと白コナミを睨む。

 

「この勝負、ジャック・アトラス・Dの勝ち以外、ありえん」

 

――――――

 

「馬鹿な――俺と全く同じ姿だと……!?」

 

一方その頃、彼らの話題の中心にいる、ジャック・アトラスとジャック・アトラス・Dは、ピットにてデュエルディスクを構え、対峙していた。

と言ってもまだデュエルは始まらず、ジャックはジャック・Dの姿に動揺を隠せず、その目を見開いている。それも当然か、自分と同じ姿をしている男をその目で見たのだ。驚かない方が無理と言うものだろう。

 

「一緒にするな、俺とお前では天と地、月とスッポン、雲泥の差がある。最早ジャック・アトラスで無いお前と比べるのも烏滸がましいと言うものだ」

 

「何だと!?」

 

「何が違う?エキシビションマッチと言う場で、チャレンジャーに盛大に負けた犬よ」

 

「ぐ……!榊 遊矢がそれ程のデュエリストだったと言う事だ……!」

 

「違うな、確かに榊 遊矢は強い。だが――貴様がジャック・アトラスであるならば、こんな不様な結果にはならなかった」

 

否定、否定、否定。赤き眼でジャックの一言一句を否定していくジャック・Dに対し、ジャックはギリリと歯軋りを鳴らす。どれだけ言おうと自分が負けた事には変わらない。言い返せない。

 

「もうお前は用済みだ。猿山の大将も充分楽しんだだろう?俺に玉座を譲り、とっとと消え失せろ。それが貴様の為と言うものだ」

 

哀れな家畜を見るように、ジャック・Dの眼は優しく、だからこそ残酷だ。少なくとも――ジャック・アトラスに向けられるものではない。ジャックの姿をした何かを見る眼だ、それが――ジャックのひびが入ったプライドに、火を点ける。

 

「ふざけるな紛い物!貴様如きに譲る程、キングと言う称号は甘くない!」

 

「……お飾りのキングが良く吠える。ならばチャンスをやろう、この俺とデュエルをすると言う栄誉!この俺に敗北すると言う誇りを持って、俺にキングの座を徴税されていけ!」

 

ガシャリ、ジャック・Dの左腕に巻かれたデュエルディスクよりワイヤーが伸び、ジャックのデュエルディスクを拘束する。

このデュエル、逃れられないと言う事か、臨む所だ、この無礼な男に目にものを見せてやるとジャックは意気込み、闘志を燃やす。

 

「「デュエル!!」」

 

そして始まる、王者と魔王のデュエル、互いに5枚のカードを引き抜き、火花を散らす。フン、とジャック・Dが鼻を鳴らし、ジャックを指差す。

 

「このデュエル、榊 遊矢が成し遂げられなかった4ターンで終わらせてやろう、先攻はチャレンジャー、貴様に譲ろう、俺に勝利を捧げよ」

 

「ほざくな!負けた時の言い訳に使わん事だ、俺のターン、俺は『レッド・リゾネーター』を召喚!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

ジャックがその手より召喚したのは炎のローブを纏い、音叉とステッキを手にした悪魔のモンスター。彼の持つチューナーの代名詞であり、優秀なレベル2チューナーだ。

 

「『リゾネーター』モンスターを召喚した事で、手札の『レッド・ウルフ』を特殊召喚!」

 

レッド・ウルフ 守備力2200

 

次に登場したのはレベル6、狼の姿をした赤い悪魔。『レッド・リゾネーター』と合わせる事でダイレクトに彼のエースに接続が可能となるカードだ。

 

「『レッド・リゾネーター』の効果は使わんのか?」

 

「俺の勝手だ、俺は魔法カード、『手札抹殺』を発動!互いに手札を捨て、捨てた枚数だけドロー!そしてレベル6の『レッド・ウルフ』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!王者の咆哮、天地を揺るがす。唯一無二なる覇者の力をその身に刻むが良い!シンクロ召喚!荒ぶる魂、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

シンクロ召喚、『レッド・リゾネーター』が光のリングとなって弾け飛び、『レッド・ウルフ』の中の6つの星を包み、閃光が輪を貫く。1ターン目から早速現れる、ジャックのエースカード、紅蓮に燃える力強い体躯から双翼を伸ばし、折れた角を唸らせる傷だらけの魔竜が、雄々しく咆哮を放つ。

が、ジャック・Dはこのモンスターを見ると表情を歪ませ、忌々し気に舌打ちを鳴らす。

 

「ふん、そんな満身創痍のモンスター等、最早『レッド・デーモン』では無いわ!」

 

どうやら傷だらけのスカーライトの姿がお気に召さないらしい。魔竜を鼻で一笑し、吐き捨てる。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP4000

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

エースモンスターを召喚し、ターンを終了、準備万端なジャックを見て、ジャック・Dはつまらなそうに鼻を鳴らし、デッキから1枚のカードを引き抜く。一体どんな戦術を見せてくるのか、ジャックは注意深く神経を尖らせる。

 

「俺のターン、ドロー!ぬるい……ぬるい……ぬるい……っ!ぬる過ぎる!貴様ぁ!キングを舐めているのかぁぁぁぁぁっ!!」

 

ゴウッ、ジャック・Dが赤に染まった両目を見開き、青筋を立ててジャックへと怒号を放つ。瞬間、彼を中心として突風が吹き荒れ、思わずジャックは両腕を交差して退く。とんでもない気迫だ。どこからこんなエネルギーが沸いて来ると言うのか、ジャックは呆然とする。

 

「後攻めでこそ真価を発揮するスカーライトをポンと出す。いや、その前に、主役を1ターン目から出して仕事もさせない!それだから貴様はニートなのだ!見せてやろう!真のキングと言うものを!永続魔法、『補給部隊』を発動し、『レッド・リゾネーター』を召喚!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

互いに最初に出すモンスターは同じ、『レッド・リゾネーター』。尤も、彼の『レッド・リゾネーター』が纏う炎は赤黒く、禍々しいものがあるが。そしてここから――ジャックと違うルートへと切り替わる。

 

「召喚時効果により、手札の『トリック・デーモン』を特殊召喚!」

 

トリック・デーモン 攻撃力1000

 

次に現れたのはデュエルモンスターズ史上でも有名な部類に入る、『デーモン』の名を持つ小さな悪魔の少女。『デーモン』を扱うならば必須とも言えるカードだ。

 

「更に!『デーモン』モンスターがフィールドに存在する事で、手札の『デーモンの将星』を特殊召喚!」

 

デーモンの将星 攻撃力2500

 

畳み掛ける展開、3体目のモンスターはレベル6、攻撃力2500とステータスだけでも優秀な『デーモン』を率いる一軍の将。『レッド・ウルフ』と同じレベル6、と言う事はやはり――。

 

「『デーモンの将星』の続く効果により、『トリック・デーモン』を破壊!『トリック・デーモン』の効果でデッキから『デーモンの騎兵』をサーチする!更に『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札3→4

 

美しい流れだ。チューナーと非チューナーを揃えつつ、効果のデメリットを最小限に抑える、基本に忠実、計算された精巧なプレイング、成程、ジャック・アトラスを名乗る相応の腕は持っているらしい、とジャックは観察する。だからと言って認める訳ではないが。

 

「待たせたな!貴様に真のキングを見せてやる!万雷の喝采で迎えるが良い!俺はレベル6の『デーモンの将星』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!漆黒の闇を裂き天地を焼き尽くす孤高の絶対なる王者よ!万物を睥睨しその猛威を振るえ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

ゴウッ!今にも全てを焼き尽くさんとする炎が2人のジャックをサークル状に囲み、巨大な火柱がジャック・Dの眼前で迸る。火柱は球体状、まるで太陽のような形となり、中より王者の産声が上がる。殻を破り、フィールドに参上したのは紅蓮の魔竜。

 

赤黒の体躯より双翼と尾を振るい、頭からは天に反り立つ角と山羊のような捻れた2本、計3本の角、赤く輝くラインが身体に走り、勇猛な雄叫びを放つその姿は――傷一つ無い、『レッド・デーモン』。

眼前に立ち塞がる、自身が最も信頼するカードと同じ姿に、ジャックは言葉さえ失う。

 

「……ッ!?」

 

「クク、美しいだろう?俺の『レッド・デーモン』は。貴様の紛い物と違い、この威風堂々とした王者の姿、見惚れる事は許してやろう」

 

「貴様……何だ、そのモンスターは……!?」

 

上機嫌に自らの『レッド・デーモン』の喉を撫で、自慢するジャック・Dに対し、自らのエースと同じ姿をした炎魔竜を睨み、ジャックが青筋を浮かべる。彼からすれば、この炎魔竜こそ紛い物なのだろう、そんな彼の思いを見透かし、ジャック・Dはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「勘違いするな、このモンスターは正真正銘オリジナル、貴様の『レッド・デーモン』とは違う存在。特と味わえ!その力を!天に二日をいらん!いや、太陽は俺の下にあれば良い!炎魔竜の効果!このカード以外の攻撃表示モンスターを全て破壊する!敵対せし王国を焼き払え!真紅の地獄炎!」

 

「何だと!?グッ、スカーライトが……罠発動!『スカーレッド・コクーン』!スカーライトの装備とする!」

 

粉砕、玉砕、大喝采。刃向かう敵を地獄の炎が焼き尽くす。それは勿論、スカーライトとて同じ、格上さえも捩じ伏せる力の前に、互角である王者が逆らえる筈も無く、容易く崩れ落ちる。

 

「こんなものか?そのモンスターにすがりつく事だけは長けていると思ったが、期待外れも良い所だ!バトル!炎魔竜でダイレクトアタック!極獄の裁き!」

 

「手札の『バトル・フェーダー』の効果!このカードを特殊召喚する事で、バトルフェイズを終了する!」

 

バトル・フェーダー 守備力0

 

がら空きとなった所へ炎魔竜のブレスが襲いかかろうとしたその時、ジャックの手札より福音が鳴り響き、鐘を抱いた悪魔が現れ主人を守る。危うい所だった。後少しで3000ものダメージを受ける所であった。

 

「ふん、良いだろう、最初からキングが全力でかかれば、勝負は一瞬!キングのデュエルは、エンターティイメントでなければならない!」

 

「口だけは達者だな……!」

 

ギィッ、左腕を振るい、好戦的な肉食獣――いや、魔竜を思わせる凄絶な笑みを浮かべ、ジャック・Dは爛々と紅玉の瞳を輝かせる。

 

「メインフェイズ2、『シンクローン・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

次に登場したのはレベル1の優秀な『リゾネーター』モンスター。自己特殊召喚に『リゾネーター』のサルベージと『リゾネーター』に欠かせない1枚だ。

 

「拝んでいけ!レベル8の『炎魔竜レッド・デーモン』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!深淵の闇より解き放たれし魔王よ!その憤怒を爆散させよ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

更なる進化へ。炎魔竜だけでも驚きなのにジャック・Dは新たな『レッド・デーモン』を呼び覚ます。現れたのはより強靭な体躯となり、胸に竜の顔を模した飾り、両腕なら戦斧の如き刃を伸ばした魔竜。攻撃力3200――これではスカーライトで打破不可能だ。

 

「レベル9の『レッド・デーモン』……!」

 

「ククク、俺の『レッド・デーモン』の進化は光よりも速い!フィールドから墓地に送られた『シンクローン・リゾネーター』の効果により、『チェーン・リゾネーター』を回収!カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、『スカーレッド・コクーン』の効果により、スカーライトを蘇生する!太陽は何度でも昇る!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

ジャック・アトラス・D LP4000

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!舐めるなぁっ!俺は『ダブル・リゾネーター』を召喚!」

 

ダブル・リゾネーター 攻撃力0

 

ジャックのターンに移り、彼が召喚したのは双頭の『リゾネーター』。相手の場にはスカーライトで破壊不可能な攻撃力3200の『レッド・デーモン』。ならば取る手は1つ。それ以上のモンスターへと、ジャックも『レッド・デーモン』を進化させる。

目には目を、歯には歯を、『レッド・デーモン』の進化体には、『レッド・デーモン』の進化体を。ジャックの胸から紅蓮の炎が灯り、彼は炎を掴み、1枚のカードへと宿す。

 

「『ダブル・リゾネーター』の召喚時、『バトル・フェーダー』をチューナーにする!レベル8の『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』に、レベル1の『ダブル・リゾネーター』と『バトル・フェーダー』をダブルチューニング!王者と悪魔、今ここに交わる。赤き竜の魂に触れ、天地創造の雄叫びを上げよ!シンクロ召喚!現れろ!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500

 

ダブルチューニング、ジャックの奥の手が早くも発現し、2体の魂がスカーライトに捧げられ、スカーライトの傷が癒え、その体躯がより逞しく、力強くなる。紅蓮の炎に染まった翼に頭から伸びるドレッドヘアーのような何本もの角、暴虐の魔竜が今、雄々しく咆哮を放つ。

 

「タイラント……か、この場合、僣主と言うより暴君だな」

 

「しかとその目に焼きつけろ!タイラントの効果!このカード以外のフィールドのカード全てを破壊する!アブソリュート・パワー・インフェルノ!」

 

「つまらんな、アビスの効果!1ターンに1度、相手フィールドの表側表示のカードの効果を無効にする!」

 

「何――ッ!?」

 

自分、相手のターンを問わず、カードの種類も自在の無効化効果。敵より力を奪う王者の力にタイラントが地に叩き伏せられ、そのアギトに集束していた炎が霧散する。進化前とは違い、攻防一体、優秀な効果だ。

だがまだまだ、タイラントの効果が無効化されただけではジャックは止まらない。

 

「バトル!タイラントでアビスへ攻撃!獄炎のクリムゾンヘルタイドォッ!」

 

「迎え撃て!深淵の怒却拳!」

 

ジャック・アトラス・D LP4000→3700

 

魔竜のブレスと拳がぶつかり合い、爆風が吹き荒れる。効果で破壊出来なければ攻撃で破壊すれば良いだけの事、単純な力技で捩じ伏せた。

 

「ふん、どうした?進化した『レッド・デーモン』とやらもこの程度か?」

 

「調子に乗るな、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札2→3

 

「更に永続罠、『リビングデッドの呼び声』。アビスを蘇生する」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

「チッ、俺はこれでターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP4000

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』(攻撃表示)

手札0

 

互いのフィールドには高い攻撃力を誇る『レッド・デーモン』。しかし攻撃力で言えばジャックのタイラントが上、いくら無効化効果を持っていても、これではジャックに攻撃は通らない。ならばどうすれば良いか、簡単な事だ。進化した『レッド・デーモン』が届かないなら――更に進化させれば良い。

 

「俺のターン、ドロー!『チェーン・リゾネーター』を召喚!」

 

チェーン・リゾネーター 攻撃力100

 

ここで登場したのは『ダブル・リゾネーター』や『シンクローン・リゾネーター』と同じレベル1の『リゾネーター』モンスター。背中から鎖を伸ばし、ジャック・Dのデッキへと繋げる。

 

「『チェーン・リゾネーター』の効果でデッキから『シンクローン・リゾネーター』をリクルート!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

「言った筈だ、俺の『レッド・デーモン』の進化は、光よりも速いと!」

 

「何――まさかっ!?」

 

「そのまさかを成し遂げてこそ真のキング!俺はレベル9の『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』に、レベル1の『チェーン・リゾネーター』をチューニング!泰山鳴動!山を裂き地の炎と共にその身を曝せ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル 攻撃力3500

 

シンクロ召喚、更なる進化を求め、アビスをも踏み台とし、フィールドに王者の咆哮が轟く。現れたのはレベル10、攻撃力3500、ダブルチューニングもしていないのにタイラントと並ぶ性能を誇る、赤黒の鎧を纏い、両腕の刃を更に鋭利なものとした魔竜。その圧倒的な気迫に、思わずジャックの肌が粟立つ。

 

「馬鹿な――3体目の『レッド・デーモン』だと……!?」

 

「これ位で驚いてもらっては困る!俺はベリアルの効果により、『シンクローン・リゾネーター』をリリースし、墓地のアビスを復活させる!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

「『レッド・デーモン』の蘇生効果……!?」

 

「何を驚く、アビスの進化体なのだ、これ位持っていなければ困る。『シンクローン・リゾネーター』の効果により、『チェーン・リゾネーター』を回収」

 

『シンクローン・リゾネーター』が炎に舐め上げられ、火柱が上り、中よりアビスが再び姿を見せる。並び立つ2体の『レッド・デーモン』。超弩級モンスターの連続だ。

 

「貴様は『レッド・デーモン』を2体並べていたが……俺のデュエルは3歩先を行く!魔法カード、『復活の福音』!墓地より炎魔竜を蘇生!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

更に『炎魔竜レッド・デーモン』がフィールドに復活し、3体の『レッド・デーモン』が並び、王者の咆哮が重なり合う、何と言う豪快なプレイング、とんでもない腕前にジャックの喉がゴクリと鳴る。とんでもない強さだ。口を閉ざすジャックに対し、ジャック・Dは顔に手を当て、高笑いを始める。

 

「ククク、ハハハハハ!これぞ空前絶後!地上最大のショーのクライマックスだ!圧倒的力を持って食らい、血を啜る!闘気滴る極上のデュエルこそ、キングの真髄ッ!それを体現出来なくなった貴様はキング、いや、ジャック・アトラスですらないっ!特と刮目せよ!真のキング、ジャック・アトラス・Dのデュエルは、4歩先を行く!魔法カード、『左腕の代償』!手札2枚を除外し、デッキから装備魔法、『堕落』をサーチし、発動!貴様のタイラントのコントロールを奪う!今の貴様に相応しいカードだ、さぁ、貴様の『レッド・デーモン』は頂いていくぞ!」

 

「何ィ!?」

 

『レッド・デーモン』が『デーモン』モンスターである事を活かし、更にジャックのタイラントまで奪い、4体もの『レッド・デーモン』をフィールドに並ばせるジャック・D。とんでも無いにも程がある。この男は、〝あの時〟よりも進化している――。

 

「!?ぐぅ、何だ……!?」

 

と、そこで――ジャックの脳裏に稲妻が駆け抜け、とある光景がフラッシュバックする。疾駆する2つのホイール・オブ・フォーチュンに、眼前に立ち塞がる、3体の『レッド・デーモン』に似たモンスター。自分は、この男と1度闘った事があるのか?それとも――この光景のジャック・アトラスは――自分とは、何かが違うのか――。

 

「ふん、まだ思い出せんか……まぁ良い、俺を倒した時、貴様が持っていた大切なもの、それを取り戻さない限り、貴様は俺と対等ですらない!俺はあの時よりも進化したぞ!貴様がジャック・アトラスだろうと、捩じ伏せる程に!さぁ、散るが良い!4体の『レッド・デーモン』で、ダイレクトアタック!」

 

ゴウッ、ジャック・Dのフィールドより、4体の紅蓮の魔竜が飛び立って飛翔し、それぞれ弾丸の如くジャックに襲いかかる。圧倒的な力の嵐。それはジャックを呑み込み、身体中を焦がさんばかりに焼き尽くし――ドサリ、と敗者が倒れ伏す。

 

ジャック・アトラス LP4000→1000→0

 

決着、宣言通り、4ターン、ジャックを倒した榊 遊矢すら優に越え――真の王者が、いや、魔王がここに君臨する。その名は――ジャック・アトラス・D。今この瞬間こそ、真のキング、真のジャック・アトラスが決まった瞬間だった――。

 

「ぐ……貴様は……一体……」

 

倒れ伏したジャックが霞んだ視界の中、何とか這い、ジャック・Dの足を掴む。疑問、疑惑、表情に浮かんだものに、ジャック・Dはふんと鼻を鳴らし、答える。

 

「言っただろう、俺はキング、ジャック・アトラス・D……!全ての次元において、最強のキングとなる男……いずれ貴様にも分かるだろう、いずれな……」

 

その言葉を最後に――ジャックは意識を手放す。立っているのはジャック・Dと、背後からやって来たであろう、男、白いケープを纏った、プラシドだ。

 

「遅かったな、この俺のデュエルを見逃した訳ではあるまい?」

 

「充分見させてもらった。予想通り、いや、予想以上の実力をな。ロジェも気に入ったようだ、製作した俺としても鼻が高い」

 

「フ、当然だ。俺こそがキング・オブ・キングなのだからな。色々手を回しているようだが、俺がいれば心配あるまい」

 

「さて、どうだかな。我等の望みを手にする為には、必要なものが多過ぎる」

 

ニヤリと獰猛な笑みを浮かべるジャック・Dに対し、産みの親であるプラシドは溜め息を吐く。ジャック・Dは知っている。この男が自分の知らぬ計画の為に奔走している事を。今も何かを造る為に忙しなく駆け回っているのだ。最近では白コナミの手を借りて少しは楽になっているようだが。ご苦労なものだと思いながらも、彼は――。

 

「フム、そうか。ではこの男を地下牢にでも運んでおいてくれ」

 

「……人の話を聞いていたか?俺は忙しいと言っただろう」

 

ジトリ、気遣う事もせずプラシドを働かせようとするジャック・Dに向かい、プラシドがケープの奥から覗く眼を半眼にして睨む。もしやショートやウィルスにでもかかって本来のジャックのニート成分が出て来たか。

 

「分かっている。だが大の男、そもそもこいつは嫌でも目立つ外見だ。このホイール・オブ・フォーチュンも運ばねばならん。そこで、だ。貴様の持つ剣が使えば手間もかからんだろう?」

 

チラリ、ジャック・Dがプラシドの腰元に差された剣に視線を移す。物騒な物言いだが、この剣はデュエルディスクの次元転移機能を利用し、デュエルエナジーを消費し、彼の行った事がある場所の次元の壁をショートカットして繋ぐ、どこでもドアのような超絶便利な道具だ。

 

「ハァ……仕方あるまい、言っておくがこの剣はあくまで紛い物、デュエルエナジーを大幅に食うんだ。少しでも溜めたい今この時には余り使いたくないんだがな……」

 

「チッ、そうだったか、出来れば俺も1つ欲しかったが仕方あるまい」

 

「では俺はジャックを運んでおく。後は頼むぞ――キング」

 

「任せておけ、俺はそいつとは違い、働き者なんだ」

 

ザンッ、剣で次元を切り裂き、ジャックを運ぶプラシドを見送り、ジャック・Dがフレンドシップカップ会場へ向かって歩み出す。成り変わったキング、最初の仕事は――。

 

「さぁ、フレンドシップカップ本選、ルール変更のお知らせだ――!」

 

歯車がまた、狂い出す。

 

――――――

 

「ルール変更……?」

 

エキシビションマッチが終了し、ランサーズメンバーが集まり、ポテチのカスでギトギトにされた沢渡の部屋にて、アリトがむぅと頭に疑問符を浮かべ唸っていた。

そう、あのエキシビションマッチの後、ジャックが再び会場に現れ、ルール変更を告げて来てのだ。キングの地位ならばある程度の融通が効くと言う事だろう。別段ジャックが有利となるルールでもない為、それは通った。最も、いきなりだったので運営はてんやわんやで駆け回っているが。そして気になるルールの内容は――。

 

「3対3の勝ち抜きアクションライディングデュエルねぇ……」

 

「タッグフォースルールに似ているな、チームでフィールド墓地のみ共有、デュエルを行っている走者が負けた時点で次のプレイヤーに強制的にターンが移行。ここ辺りが使えそうだ」

 

「墓地アドバンテージが稼ぎやすいな、尤も、俺はデッキの都合上、ファーストホイーラーになるが」

 

3対3の勝ち抜き戦、フィールド、墓地のみを共有したアクションライディングデュエル。それがジャックが提示した内容であった。チームメンバーはランダムに選出、ジャックのチームも加えた全8チームのトーナメントとなるようだ。走者が負けた時点でフィールド、墓地の状態を引き継ぎ、相手ターンであろうと強制的に次の走者にターンが移行する特殊ルールを持っている。如何に次のプレイヤーを有利にするかが鍵になるだろう。

 

そして――今、テレビのモニターに、チームメンバーが発表される――。




偽ジャックとか言う格好いい方のジャック。台詞全部好き。


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第120話 すまねぇ!

最近スマホの調子が悪い。そろそろ変えるかなぁ。


フレンドシップカップが開催されるサーキットにて、今正に、1回戦第1試合が始まろうとしていた。

対戦するのは鬼柳 京介、徳松 長次郎、柊 柚子が所属するチームサティスファクション。そしてセルゲイ・ヴォルコフ、デュエルチェイサー227、伊集院 セクトのチームセキュリティ。

先鋒は徳松とデュエルチェイサー227だ。彼等が定位置に着く中、ベンチで鬼柳と柚子が話し合う。

 

「まさかセクトが敵側になっちまうとはな……やりづらいったらありゃしねぇ……」

 

「でも鬼柳さん強いんでしょ?」

 

「まぁな!ってもここ最近セクトも強くなってる。油断は出来ないさ。それに――いや、これは良いか……」

 

「?でも徳松さんの実力が分からないのよね……」

 

うぅんと頬をポリポリと掻く柚子。そう、彼女と鬼柳は徳松と顔を合わせるのは今日が初めてなのだ。チーム分けがランダムなので仕方無いが。しかし、鬼柳としては徳松とは知り合いでは無いが――その実力は知っている。

 

「あのおっさんは強いさ、昔はエンジョイ長次郎って有名なプロデュエリストだったんだからな」

 

「プロ……」

 

「まぁ、相手も何か隠しているみたいだが……」

 

ジッ、と徳松の対戦相手であるデュエルチェイサー227、そしてセルゲイに視線を移す鬼柳。彼のデュエリストとしての勘が言っている、彼等2人が何かを持っていると。そしてそれは正解であり――ハズレでもある。鬼柳は気づかない、真に隠された、このデュエルの運命を別つ、もう1つのものを。

 

『さぁ、いよいよ始まるフレンドシップカップ1回戦第1試合!実況はこの私、メリッサ・クレール!』

 

『解説は私、MCだぁーっ!エキシビションマッチから盛り上がったフレンドシップカップ、今日はもっともっと盛り上げていこう!』

 

ワァァァァッ!と観客席から大声が上がり、試合も始まっていないのに熱が伝わっていく。やはり遊矢とジャックのデュエルが脳裏に浮かび上がり、期待を抱かずにはいられないのだろう。そしていよいよ、デュエル開始のランプが灯る。

 

『さぁ、皆さんご一緒に!3、2、1!』

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

光の粒子がフィールドを覆い、景色が変わっていく。アクションフィールド、『クロス・オーバー・アクセル』。エキシビションマッチでも使われたフィールドだ。

徳松と227のD-ホイールが一気に駆け抜け、コーナーに迫る。ここを制した者が先攻を取る。しかしやはりと言うか、ライディングデュエルが初の徳松はフラフラと危うい走行を行い、227に追い抜かれてしまう。

先攻は227、ライディングデュエルでは経験がものを言う。とは言ってもライディングデュエル素人の遊矢がジャックに勝利したのだ、徳松も死ぬ気で食らいつこうとする。

 

「俺のターン!エンジョイ長次郎……俺も昔憧れたものだ、胸を借りるつもりで挑ませてもらう!永続魔法、『補給部隊』を発動し、俺はチューナーモンスター、『ジュッテ・ナイト』を召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 攻撃力700

 

先攻を取った227が召喚したのは髷を結い上げ、眼鏡をかけた役人風のモンスター。手には十手、背中には提灯を負っており、セキュリティを代表するポリスモンスターのチューナーだ。シンクロ黎明期のカードだけあり、最近のカードには劣るが、プレイングで補う。

 

「そして戦士族モンスターが俺のフィールドに存在する事で『キリビ・レディ』を特殊召喚!」

 

キリビ・レディ 守備力100

 

次は火打石をカチカチと鳴らすタラコ唇が特徴的な少女のモンスター。これでチューナーと非チューナーが揃った。合計レベルは3、次なる手は勿論――。

 

「俺はレベル1の『キリビ・レディ』に、レベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!お上の力を思い知れ!シンクロ召喚!現れろ!『ゴヨウ・ディフェンダー』!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

早速シンクロ召喚、『ジュッテ・ナイト』が光の輪となって弾け飛び、『キリビ・レディ』が1つの星となって輝く。並ぶ星は3つ、輪によって包まれ、一筋の閃光が星を貫き、フィールドに現れたのは白化粧に赤い模様、歌舞伎の隈取りをした岡っ引きのモンスター。

布陣を固めるにはお誂え向きの『ゴヨウ』モンスターだ。レベル、ステータスは低いが、その効果は実に強力。

 

「『ゴヨウ・ディフェンダー』の効果!自分フィールドに存在するモンスターが地属性、戦士族のシンクロモンスターのみの場合、エクストラデッキより2体目の『ゴヨウ・ディフェンダー』を特殊召喚する!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

「更に今特殊召喚したディフェンダーの効果で3体目を特殊召喚!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

『一気に3体のシンクロモンスターを展開!やはりセキュリティエリート部隊、デュエルチェイサーの名は伊達では無い!』

 

一気に大量展開、これぞ『ゴヨウ・ディフェンダー』の強みだ。そしてこのモンスターには相手から攻撃を受ける際、このカード以外の地属性、戦士族のシンクロモンスターの数×1000攻撃力をアップする効果がある。これで攻撃力は3000、簡単には手出しは出来ない。

 

「ほう、やるじゃねぇか兄ちゃん」

 

「元プロに褒められるとは光栄だな、俺は永続魔法、『強欲なカケラ』を発動し、ターンエンドだ」

 

デュエルチェイサー227 LP4000

フィールド『ゴヨウ・ディフェンダー』(攻撃表示)×3

『補給部隊』『強欲なカケラ』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!さぁ、楽しもうじゃねぇか……!俺は魔法カード、『花合わせ』を発動!デッキより『花札衛-松-』、『花札衛-芒-』、『花札衛-柳-』、『花札衛-桐-』の4体を特殊召喚!」

 

花札衛-松- 攻撃力100

 

花札衛-芒- 攻撃力100

 

花札衛-柳- 攻撃力100

 

花札衛-桐- 攻撃力100

 

『227に負けじとこちらも展開!エンジョイ長次郎、復活なるか!?』

 

1枚のカードで一気に4体を特殊召喚、徳松の展開力も227には負けていない。フィールドに『ナチュル・コスモビート』が、『ハリケーン』が、『テンタクル・プラント』が描かれた巨大な花札型のモンスターが現れ、カカンッ、と甲高い音を響かせて横に繋がっていく。

 

「さぁて行くぜ!まずは松をリリース、『花札衛-萩に猪-』を特殊召喚!」

 

花札衛-萩に猪- 守備力1000

 

松に代わり、フィールドに現れたのは猪型のモンスター、『ボアソルジャー』の姿が描かれた種札と呼ばれる種類の花札だ。

 

「荻に猪の特殊召喚時、1枚ドローする!」

 

徳松 長次郎 手札4→5

 

「引いたカードは『花札衛-柳に小野道風-』。よって荻に猪の効果で『ゴヨウ・ディフェンダー』を1体破壊!」

 

「くっ、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札1→2

 

「おめぇさんもドローかい?良いカードは引けたか?俺は柳をリリースし、チューナーモンスター、『花札衛-柳に小野道風-』を特殊召喚!」

 

花札衛-柳に小野道風- 攻撃力2000

 

お次は『花札衛』のエース、『花札衛-雨四光-』と『引きガエル』の2体が描かれた『花札衛』のチューナーモンスター。

 

「柳に小野道風の効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札4→5

 

「引いたカードはおっと残念、『花積み』、よって墓地送りだ。だけど止まらねぇぞ!芒をリリースし、『花札衛-芒に月-』を特殊召喚!」

 

花札衛-芒に月- 攻撃力2000

 

「効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

「ドローカードは『花札衛-桐に鳳凰-』!桐をリリースし、特殊召喚!」

 

花札衛-桐に鳳凰- 攻撃力2000

 

次はその名の通り、スピリットモンスター、『鳳凰』の姿が描かれた『花札衛』。次々と飛び出る『花札衛』。止まらないドローラッシュこそエンジョイ長次郎の武器だ。遺憾無く発揮されている。

 

「効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

「引いたカードは『花札衛-松に鶴-』。ここで打ち止めかねぇ。魔法カード、『打ち出の小槌』を発動し、手札を交換、俺はここで永続魔法、『一族の結束』を発動!俺の墓地は戦士族一色!よって俺のフィールドの戦士族モンスターは攻撃力を800アップ!」

 

花札衛-荻に猪- 攻撃力1000→1800

 

花札衛-芒に月- 攻撃力2000→2800

 

花札衛-柳に小野道風- 攻撃力2000→2800

 

花札衛-桐に鳳凰- 攻撃力2000→2800

 

『大幅に攻撃力アップ!227、どう堪えるか!?』

 

更に全体強化を与える事で準アタッカークラスの『花札衛』モンスターの攻撃力が『ゴヨウ』ラインまで上がる。セキュリティも型無しだ。

 

「バトル!『花札衛-芒に月-』で『ゴヨウ・ディフェンダー』へ攻撃!」

 

「させん!アクションマジック、『大脱出』!バトルフェイズを終了する!」

 

「チッ」

 

襲い来る『花札衛』軍団による攻撃を回避する為、227が空中に浮かぶアクションマジックを手に取りデュエルディスクに叩きつける。見事な手腕だ、ライディングテクニックでアクションデュエルを物にしている。ここでコースは外へと移り、ハイウェイへ、2人はレーンを駆け、更に進んでいく。

 

「メインフェイズ2、柳に小野道風の効果でこのカードとシンクロ素材3体をレベル2に変更し、レベル2となった『花札衛-荻に猪-』、『花札衛-芒に月-』、『花札衛-桐に鳳凰-』に、レベル2の『花札衛-小野道風-』をチューニング!涙雨!光となりて降り注げ!シンクロ召喚!出でよ!『花札衛-雨四光-』!!」

 

花札衛-雨四光- 攻撃力3000→3800

 

シンクロ召喚、4体のモンスターを素材とし、フィールドに現れたのは秋雨の長次郎としての彼のエースカード、傘を差し、着物を纏った美丈夫だ。攻守共に高く、効果も実に強力なモンスターの登場、227も警戒を露にする。

 

「秋雨は卒業したが……こいつも俺と闘って来たモンスターだ。俺はカードを1枚セットし、ターンエンド」

 

徳松 長次郎 LP4000

フィールド『花札衛-雨四光-』(攻撃表示)

『一族の結束』セット1

手札1

 

『両者共に1ターン目を終了!戦況としては徳松選手が上か!?』

 

『やはりエンジョイ長次郎の名は伊達では無い!』

 

「攻守3000越えのモンスターか……俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、雨四光の効果で相手に1500のダメージを与える!」

 

デュエルチェイサー227 LP4000→2500

 

「ぐっ――!?だ、だが『強欲なカケラ』にカウンターが乗る……!」

 

強欲なカケラ 強欲カウンター0→1

 

雨四光の傘より針の雨が降り注ぎ、227の身体を焦がす。これこそが雨四光の効果。相手のドローフェイズに1500、LPの半分近くを削る特大のバーンだ。

 

『何と1500のバーン!豪快だぁーっ!』

 

「放って置く訳にはいかないな!そのモンスター、確保する!チューナーモンスター、『トラパート』を召喚!」

 

トラパート 攻撃力600

 

現れたのはハットを被り、舌を出したマスコットのようなモンスターが上下に2体繋がったチューナーだ。『ジュッテ・ナイト』と並ぶポリスモンスターの1体、これで227はレベル5か8のシンクロモンスターへ繋げる事が可能となった。

 

「俺はレベル3の『ゴヨウ・ディフェンダー』2体に、レベル2の『トラパート』をチューニング!お上の威光の前にひれ伏すが良い!シンクロ召喚!『ゴヨウ・キング』!!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力2800

 

シンクロモンスターを使用してのシンクロ、雨四光と同じくレベル8で現れたのは白い髷と化粧、赤い隈取りをし、日本刀を握った『ゴヨウ』系最強のモンスターだ。しかし残念ながら攻撃力2800のこのモンスターではまだ雨四光には届かない。

 

「更に永続魔法、『一族の結束』を発動!効果は知っているな?」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力2800→3600

 

「念には念をだ、速攻魔法、『サイクロン』!アンタの『一族の結束』を破壊!」

 

「何ィ!?」

 

自身のモンスターを強化しつつ、相手の強化を絶つ堅実なプレイング。これにより雨四光と『ゴヨウ・キング』の攻撃力が逆転する。幾ら強固な耐性を誇る雨四光とは言え、攻撃力で越えられては仕方無い。

 

「バトル!『ゴヨウ・キング』で雨四光へ攻撃!この瞬間、『ゴヨウ・キング』の効果で地属性、戦士族シンクロモンスターの数×400攻撃力をアップ!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力3600→4000

 

「なら俺も――手札から『花札衛-桜に幕-』を捨て、雨四光の攻撃力を1000アップする!」

 

「何だと!?」

 

花札衛-雨四光- 攻撃力3000→4000

 

ダメステ良いっすか?妙な幻聴と共に徳松が手札より桜に幕を捨て、迎撃に出る。これでどちらのモンスターも攻撃力4000、強力なシンクロモンスター同士がぶつかり、火花を散らす。

 

『ゴヨウ・キング』が日本刀を振るい、雨四光が鉄を仕込んだ傘で防ぎ、そのまま回転させて針の雨を射出、『ゴヨウ・キング』が身を翻してかわし、宙でクルリと舞いながら縄付き十手を投擲、傘を奪おうとするも、雨四光が腕を突き出して傘を守る。しかし『ゴヨウ・キング』も負けてはいない。ぐいっと縄を引き、雨四光を釣り上げ、日本刀を一振りし--雨四光の胸を切り裂く。だが雨四光もまた、傘を折り畳み、槍のようにして『ゴヨウ・キング』の胸に突き立てている。

 

相撃ち――エースカード対決は互角、2体のシンクロモンスターは光の粒子となって消える。

 

「流石だな……!俺のエースを道連れにもっていくとは……『補給部隊』の効果でドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札0→1

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

デュエルチェイサー227 LP2500

フィールド

『補給部隊』『一族の結束』『強欲なカケラ』セット1

手札0

 

『見事なエース対決!いやぁとても見応えがあります!』

 

『王道だからな、有利なのは徳松選手、ここでモンスターを呼べばがら空きの所にダメージが与えられる!』

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『魔力の泉』!アクションフィールドも合わせ、4枚ドローし、2枚捨てる!」

 

徳松 長次郎 手札0→4→2

 

「へへっ、楽しいねぇ!墓地の『花積み』を除外し、墓地より桜に幕を回収!そんでこいつの効果発動!デッキから1枚ドローし、そのカードが『花札衛』だった場合、こいつを特殊召喚する!エンジョイ!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

「引いたカードは『花札衛-柳-』!よって特殊召喚!」

 

花札衛-桜に幕- 攻撃力2000

 

「更にレベル10以下の『花札衛』が存在する事で、柳も特殊召喚!」

 

花札衛-柳- 守備力100

 

「柳の効果、墓地の柳をデッキに戻し、シャッフル!そしてドロー!」

 

徳松 長次郎 手札2→3

 

「こりゃ良いぜ。俺は柳をリリース、『花札衛-牡丹に蝶-』を特殊召喚!」

 

花札衛-牡丹に蝶- 攻撃力1000

 

『花札衛』特有のドローラッシュ、現れたのはデュアルモンスター、『炎妖蝶ウィルプス』が描かれたチューナーだ。『花札衛』はチューナーが少ない為、このカードか柳に小野道風のどちらかを引き込めるかが鍵となる。

 

「効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札2→3

 

「ムッ、『花積み』かい、墓地に送るが……俺は続いて桐を特殊召喚!」

 

花札衛-桐- 守備力100

 

「バトルだ!桜に幕でダイレクトアタック!」

 

「させん!罠発動!『リジェクト・リボーン』!バトルフェイズを終了し、シンクロモンスター、『ゴヨウ・キング』と『トラパート』を効果を無効にして特殊召喚!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力2800→3600

 

トラパート 守備力600

 

「防ぐか、カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

徳松 長次郎 LP4000

フィールド『花札衛-桜に幕-』(攻撃表示)『花札衛-牡丹に蝶-』(攻撃表示)『花札衛-桐-』(守備表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『強欲なカケラ』にカウンターが乗る!」

 

強欲なカケラ 強欲カウンター1→2

 

「カウンターが2つ乗ったこのカードを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札1→3

 

「フッ、来たか……魔法カード、『ミラクルシンクロフュージョン』!墓地の『ゴヨウ・ディフェンダー』2体を除外し、融合!融合召喚!出でよ、荘厳なる捕獲者の血を受け継ぎし者!『ゴヨウ・エンペラー』!!」

 

ゴヨウ・エンペラー 攻撃力3300→4100

 

ここでまさかの融合召喚、227の背後に青とオレンジの渦が広がり、2体の『ゴヨウ・ディフェンダー』を合わせ、現れたのは今までの『ゴヨウ』モンスターとは一風変わったモンスターだ。幼子のような小さな体躯を玉座に腰掛け、その名の通り、皇帝然としたカード、このカードの登場に徳松を含め、会場中の人間が驚愕する。

 

『何とデュエルチェイサー227、遊矢も使用した融合モンスターを召喚!まさかまさかの展開だぁーっ!』

 

『攻撃力4100、並のモンスターを寄せ付けない!』

 

「融合モンスターだとぉ……っ!?お前さん、まさか……!いや、聞くのはデュエルに勝ってからだ!」

 

「フッ、バトルだ!『ゴヨウ・エンペラー』で桜に幕に攻撃!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にして1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→1

 

『ゴヨウ・エンペラー』が口から炎を吐くと言う意外な攻撃法で『花札衛』を撃破するその瞬間、徳松は罠でバリアを作ってダメージを凌ぎ、新たなカードを手札に呼び込む。

 

「『ゴヨウ・エンペラー』の効果、このカードと元々の持ち主が相手となるモンスターが相手モンスターを戦闘破壊し、墓地へ送った時、そのモンスターを俺のフィールドに特殊召喚する!」

 

「俺のモンスターもだと!?」

 

花札衛-桜に幕- 攻撃力2000→2800

 

奪った相手モンスターにも『ゴヨウ』効果を付与する、強力なコントロール奪取。成程、相手モンスターを統べるその姿は正に皇帝の名に相応しい。

 

「さぁ、行け!桜に幕で牡丹に蝶へ攻撃!」

 

徳松 長次郎 LP4000→2200

 

「ぐっ――!」

 

「コントロールを奪う!」

 

花札衛-牡丹に蝶- 守備力1000

 

『ゴヨウ・エンペラー』の効果により、次々と奪われていく徳松のモンスター。今回チューナーを奪われたのは不味い事になった。次のターンでのシンクロが難しくなった。墓地にいればまだ手段があったが、相手の場にいるとそうはいかない。

 

「効果でドロー」

 

デュエルチェイサー227 手札2→3

 

「当然『花札衛』で無い為、墓地へ。メインフェイズ2」

 

「ッ」

 

227はメインフェイズ2へと移行する。何故――まだ『ゴヨウ・キング』の攻撃権が残っている。いや、その前に牡丹に蝶を攻撃表示で呼べば桐を破壊し、『ゴヨウ・キング』で止めを刺そうとする筈なのに――。

 

「桐の効果は知っている。いや、雨四光以外の『花札衛』の効果は、と言った所か。エンジョイ長次郎、貴方は元とは言えプロだ。昔使っていたカード位、俺は覚えている」

 

「有名なのも辛いねぇ……!」

 

プロであったが故、知られる、と言う事がここに来て徳松の首を絞める。成程、これは中々に辛い。とすれば、まともに通じるのは地下で新たに得たカード達、秋雨の長次郎のとしての彼か。まさかここに来てあの頃が役に立つとは、分からないものだ。

 

「俺はレベル3の桜に幕に、レベル2の『トラパート』をチューニング!地獄の果てまで追い詰めよ!見よ!清廉なる魂!シンクロ召喚!出でよ、『ゴヨウ・チェイサー』!」

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力1900→3000

 

奪ったモンスターを利用し、更にシンクロ召喚、現れたのは十手を握り、徳松のモンスターを睨む追跡者。自身の効果と『一族の結束』の効果で攻撃力を大幅に上げ、3000ラインまで辿り着く。これは厄介だ。

このままでは次々と徳松のモンスターが奪われ、彼の布陣を強固なものにしていく。しかも『花札衛』は戦士族、彼の『一族の結束』でパワーアップされてしまう。

面倒な事だ、徳松は227を追い、コースを一周、再びサーキットに戻る。

 

「大ピンチって訳か……!」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

デュエルチェイサー227 LP2500

フィールド『ゴヨウ・エンペラー』(攻撃表示)『ゴヨウ・キング』(攻撃表示)『ゴヨウ・チェイサー』(攻撃表示)『花札衛-牡丹に蝶-』(守備表示)

『補給部隊』『一族の結束』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ここでこのカードかい、俺もツイてるねぇ!魔法カード、『超こいこい』!!」

 

「来たか――!」

 

発動されたのはエンジョイ長次郎、奇跡のドローの象徴とも言える魔法カード。徳松はこの1枚で逆転を狙う。

 

「見せてやるよ、奇跡のドロー!自分のデッキより3枚を捲り、その中の『花札衛』を効果を無効にし、レベルを2に変更、召喚条件を無視して特殊召喚!さぁまずは1枚目!どちらさんもご一緒にぃ!こいこい、こいこい――!」

 

『ここに来てエンジョイ長次郎、奇跡のドローに賭ける!さぁ、どう出るか!こいこい、こいこい――!』

 

こいこい、こいこい。と――会場全体がエンジョイ長次郎の奇跡のドローを期待し、声を上げる。ここで引かねば逆転は無い。何より――引かねば男が廃る。

 

「エンジョイ!『花札衛-萩に猪-』!」

 

花札衛-萩に猪- 守備力1000 レベル7→2

 

まず1枚――カカンッ、と音を鳴らし、桐に繋がる。

 

「さぁ、次だ!こいこい、こいこい――!」

 

『こいこい、こいこい!』

 

「エンジョイ!『花札衛-紅葉に鹿-』!」

 

花札衛-紅葉に鹿- 守備力1000 レベル10→2

 

2枚目、後1枚、後1枚で逆転への布石が完成する。

 

「3枚目!こいこい、こいこい――!」

 

『こいこい、こいこい!』

 

「エンジョイ!『花札衛-牡丹に蝶-』!」

 

花札衛-牡丹に蝶- 守備力1000 レベル6→2

 

3枚目――これで3枚の『花札衛』を見事引き当て、猪鹿蝶が完成する。とんでもない豪運、正に奇跡のドロー。エンジョイ長次郎、地上にて完全復活に会場から声援が巻き起こる。

 

「だが呼べるのは猪鹿蝶か雨四光、それではこの状況は打破出来ん!」

 

「おいおい、何を勘違いしてるだい兄ちゃん、俺は墓地の『花積み』を除外し、墓地の松を回収、召喚!」

 

花札衛-松- 攻撃力100

 

「効果でドロー!引いたカードは――『シャッフル・リボーン』か、墓地に送るぜ。そしてリバースカード、オープン!魔法カード、『下降潮流』!桐のレベルを3に変更!」

 

花札衛-桐- レベル12→3

 

「まさか――5体によるシンクロか!」

 

「その通りよ!俺はレベル3となった桐、レベル2となった萩に猪と紅葉に鹿、レベル1の松にレベル2の牡丹に蝶をチューニング!その神々しきは聖なる光。今、天と地と水と土と金となりて照らせ。シンクロ召喚!『花札衛-五光-』!!」

 

花札衛-五光- 攻撃力5000

 

5体のモンスターを使用してのレベル10シンクロモンスターのシンクロ召喚、超弩級要素満載で現れたのは攻撃力5000のモンスター。このカードこそ徳松の真の切り札。美しい波紋を広た日本刀を振るこの武者が、逆境を切り裂く。

 

「ならばそれを貰おう!俺は『ゴヨウ・エンペラー』の効果発動!『ゴヨウ・チェイサー』をリリースし、そのモンスターのコントロールを得る!」

 

「おいおいそいつはねぇだろ、アクションマジック、『透明』!このターン、五光は相手の効果の対象とならず、効果を受けない!」

 

「チッ!」

 

五光を奪おうと手を伸ばす227を払いのけ、押し通す徳松。危うい所だった。五光は魔法、罠は無効に出来るが、モンスター効果は無効に出来ない。アクションマジックを手に入れて良かったと心底安堵する。

 

「バトルだ!」

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

「五光の効果で無効にするぜ!そのまま『ゴヨウ・エンペラー』に攻撃!」

 

カチャリ、五光が手に持った日本刀を振るい、捕獲者の皇帝へと襲いかかろうとしたその時――。

 

「罠発動!『聖なる鎧-ミラーメール-』!『ゴヨウ・エンペラー』の攻撃力を、五光と同じにする!」

 

「何ぃ!?」

 

ゴヨウ・エンペラー 攻撃力4100→5000

 

227が残る罠を使い、『ゴヨウ・エンペラー』に鏡面の輝きを持った鎧が纏われ、相撃ちに持ち込む。エース対決の次は切り札対決。雨四光の時の仕返しとばかりに自身を切り裂く日本刀を掴み、『ゴヨウ・エンペラー』が炎を吐き迎撃する。光の粒子に消える2体のモンスター。

だが2人は息つく暇なく次の手に出る。

 

「『ゴヨウ・エンペラー』の効果で牡丹に蝶のコントロールは戻り、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

「俺も五光の効果でエクストラデッキから雨四光を特殊召喚!!」

 

花札衛-雨四光- 守備力3000

 

デュエルチェイサー227 手札0→1

 

「メインフェイズ2、墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、牡丹に蝶をデッキに戻してドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→1

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

徳松 長次郎 LP2200

フィールド『花札衛-雨四光-』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

古参の元プロデュエリストとセキュリティによる激突。そのデュエルは予想以上に熱く、目まぐるしい展開を見せる。

 

誰が彼等がこれ程までのデュエルをすると予想しただろう、227は『ゴヨウ・キング』や融合モンスターである『ゴヨウ・エンペラー』、2体の最上級『ゴヨウ』で徳松を翻弄し、かと思えば徳松は5体によるシンクロ、レベル10、攻撃力5000と言う超弩級のシンクロモンスターを呼び出し、華々しいエースと切り札の相撃ちが演舞のように披露される。

 

玄人同士の2人だが、強力なモンスターの激突とエンターテイメントと呼ぶに相応しいデュエル。読み合いもある、バーン、コントロール奪取の搦め手もある。

だが――それを差し引いても、デュエルモンスターズの王道を往く。フィールドに残っているのは互いのエースモンスターのみ。両者切り札を失った今、果たして勝者はどちらになるのか。

 

「フ、貴方と闘えて良かった……」

 

「俺もだぜ兄ちゃん、トップスの奴で話の分かる奴がいるとはな……!」

 

『両者共にデュエルを通し友情が芽生えています!これこそフレンドシップカップの真の形!シティは1つ!皆友達!』

 

デュエルを通し、227と徳松。トップスとコモンズの壁を越えて友情が生まれる。まだ本当にトップスとコモンズが分かり合えるものでは無いのかもしれないが――今確かに、この2人は絆で繋がれた――。

 

「行くぜエンジョイ長次郎!」

 

「来な!」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「これはチーム戦!最後まで、俺に出来る事を全力でやるぜ!雨四光の効果!」

 

デュエルチェイサー227 LP2500→1000

 

最後のターンとなる事を覚悟し、徳松が残る力を振り絞り、もう1枚の相棒、雨四光のバーンで227のLPを削り取る。これで残るLPは1000、自分に出来る事はここまでだ。

 

「見事――俺は『サムライソード・バロン』を召喚!」

 

サムライソード・バロン 攻撃力1600→2400

 

姿を見せたのは幾つもの刀を持った侍のモンスター。準アタッカー級の攻撃力も『一族の結束』で帝ラインに引き上げられる。このカードも破壊しておきたかったが――仕方無い、鬼柳には悪いが、彼ならば何とか出来るだろうと徳松は考える。初対面だが、それでも分かる程に彼は強い。徳松のデュエリストとしての嗅覚がそう言っているのだ。

 

「バロンの効果で雨四光を攻撃表示に変更、カードを1枚セット!」

 

「――へっ……!」

 

「バトル!『ゴヨウ・キング』で雨四光へ攻撃!」

 

徳松 長次郎 LP2200→1600

 

「がっ――!」

 

『ゴヨウ・キング』が十手を投げ、雨四光を縛り上げて日本刀を一振りして切り裂く。最早強化カードも無い。破壊されてしまうが、『リジェクト・リボーン』の効果で『ゴヨウ・キング』の効果が無効となっているのが幸いか。残したセットカードを鬼柳が上手く活用してくれると信じるのみ。

 

「バロンでダイレクトアタック!」

 

徳松 長次郎 LP1600→0

 

ファーストホイーラー対決、軍配が上がったのは227だ。とは言え徳松も健闘した。セーフティが下り、スモークがモクモクと上るD-ホイールを最後まで走らせ、徳松は鬼柳にバトンを繋ぐ。

 

『ファーストホイーラー、制したのは227だぁーっ!あのエンジョイ長次郎に退けを取らない見事な戦術!しかし徳松選手も健闘しました!』

 

『セカンドホイーラーは何と伝説のチームサティスファクションのリーダー、鬼柳 京介!相手はLP1000とは言え、強力な布陣が整っている!ここからどう巻き返すのか!?』

 

「すまねぇ鬼柳の兄ちゃん。『一族の結束』を残しちまった」

 

「安心しな、徳松のオッサンの分まで満足させてやる。最高のSatisfactionを観客席に届けてやるぜ!」

 

既に準備は完了しているのか、愛用のD-ホイール、ギガントLに搭乗しながらエンジンを唸らせ、鬼柳が猛スピードでスタートを切り、先行する227に迫る。凄まじいスタートだ。見る見る内に距離を縮め、227に並ぶ。風に靡くコート、鬼柳はヘルメットのバイザー奥の目を細め、ニヤリと笑い、227を挑発する。

 

「ホイーラーが変わった為、俺のターンは強制的に終了する」

 

デュエルチェイサー227 LP1000

フィールド『ゴヨウ・キング』(攻撃表示)『サムライソード・バロン』(攻撃表示)

『補給部隊』『一族の結束』セット1

手札0

 

「鬼柳 京介……デュエルギャングを狩るデュエルギャング、チームサティスファクションのリーダーであり、セキュリティでも簡単に手を出せない要注意人物か。相手にとって不足はない!このまま押し切る!」

 

「俺を知ってるのか、だけどそいつぁいただけねぇ。手負いのお前じゃ、死神を殺す事は出来ねぇよ!さぁ、行くぜ!たっぷり満足していきな!」

 

鬼柳がデッキから5枚のカードを引き抜き、227へと挑戦状を叩きつける。ここから始まるはチームサティスファクション、リーダー、死神と呼ばれる優勝候補のデュエリストのデュエル。万全とも言える布陣に、鬼柳はどのように切り込んでいくのか――。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

伝説が、フィールドを駆ける。

 

 




次回予告

始まったシンクロ次元最強の男、鬼柳のデュエル。彼は得意のハンドレスソリティアコンボで果敢に攻めるが――。

次回の沢渡
遊矢がジャックに勝った事でランサーズメンバーが盛り上がって彼をチヤホヤし、そこに子分3人も混ざるものだから彼は嫉妬してフテ寝してしまう。だがそれでも気づかれない沢渡。そんな彼が取った行動は果たして!?


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第121話 カードの死神

魔王様がストラクRで復活!始めて持ったデッキがこれだったので凄く懐かしくて嬉しいです。チラ見がガン見になるのだろうか、魔王様の種族はまだ迷子なのか……大丈夫かなぁ?


シティ、評議会のビルにて、関係者達と共にモニターを見つめる赤馬 零児の姿があった。

視線の先にあるのはたった今デュエルに勝利したデュエルチェイサー227の姿。彼は徳松とのデュエル中、このシンクロ次元に存在する筈の無い融合モンスターを召喚して来た。

 

これは――一体何を意味しているのか、彼個人がアカデミアに繋がっているのか、それとも――彼が所属する、セキュリティがアカデミアと繋がっているのか、少なくとも関係無いとは言えないだろう。側に控える月影に目を配らせ、無言で語りかける。月影も察したのか、コクリと頷き、その場から姿を消す。

さて――鬼が出るか、蛇が出るか、どちらにせよ、面倒な事になりそうだ。

 

――――――

 

一方、フレンドシップカップ、サーキットにて、1回戦第1試合、チームサティスファクションVSチームセキュリティのデュエルはセカンドホイーラー、鬼柳 京介とファーストホイーラー、デュエルチェイサー227の対決に入る。

セキュリティ側のフィールドには『リジェクト・リボーン』によって蘇生され、効果が無効になったシンクロモンスター、『ゴヨウ・キング』と『守備封じ』効果を持つポリスモンスター、『サムライソード・バロン』が1体ずつ。

2枚の永続魔法、自軍モンスターが破壊された場合、1枚ドローする『補給部隊』に、今現在、戦士族モンスターの攻撃力を800アップしている『一族の結束』。そしてターンが強制終了される事を見越してセットされたカードが1枚。

LPは1000と言う中々の布陣だ。

 

対してサティスファクションのフィールドは徳松が残したセットカードが1枚だけ。LPは4000、手札5枚からスタートするとは言え、少しこころもとない所だ。

辛い場合であるが、この男は鬼柳 京介。充分に巻き返せる。ライディングデュエルは得意とする所では無いが、愛用のD-ホイール、ギガントLの馬力でセキュリティのD-ホイールを軽く追い越し、デュエルディスクから1枚のカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

まずはセットカードの確認を。徳松が残してくれたカードだ。有効活用するならばまず効果を見なければならない。セットカードに目を通し――僅かに鬼柳の目が見開かれ、口端が吊り上がる。

 

「最高の土産だぜ、徳松のオヤジ……!俺は魔法カード、『暗黒界の取引』を発動!互いに1枚ドローし、1枚捨てる。リバースカード、オープン!魔法カード、『手札抹殺』!」

 

「む……!」

 

発動される徳松のカード、それは考えられるカードの中でもこの状況で発動するには最高の1枚だ。鬼柳は直ぐ様5枚のカードを墓地に送り、新たな5枚を手札に加える。

これで鬼柳の扱う『インフェルニティ』に必要な墓地アドバンテージを幾らか稼ぐ事が出来た。

 

「さて、準備は整ったか……!俺は手札の『インフェルニティ・デストロイヤー』を捨て、『ダーク・グレファー』を特殊召喚!」

 

ダーク・グレファー 守備力1600

 

現れたのは『戦士ダイ・グレファー』をダーク化した漆黒の剣士だ。目を赤く充血し、その手に握った剣は妖しく閃いている。闇属性モンスターを扱うデッキでは優秀なモンスター。このように手札で腐った上級を切る事も出来、鬼柳は重宝している。

 

「『ダーク・グレファー』の効果発動。手札の『インフェルニティ・リベンジャー』を捨て、デッキの『ヘルウェイ・パトロール』を墓地に。カードを1枚セット、墓地の『ヘルウェイ・パトロール』を除外し、手札から『インフェルニティ・デーモン』を特殊召喚!」

 

インフェルニティ・デーモン 守備力1200

 

いきなり手札満足、呼び出されたのは山羊のような津の、オレンジの鬣を伸ばし、額に緑の宝玉を、首の周りに巨大なリングを囲い、ローブを纏った悪魔だ。『インフェルニティ』において最重要カードであり、3積み必須と言って良い。

 

「来たか……!」

 

「手札0での特殊召喚効果により、俺はデッキから『インフェルニティガン』をサーチ!発動!このカードを墓地に送り、墓地の『インフェルニティ・ネクロマンサー』と『インフェルニティ・リベンジャー』を蘇生!」

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

1枚のカードにより、鬼柳の墓地からローブを纏い、骸骨の頭部を持ち、緑の鬣を伸ばし悪魔と呪いのガンマン人形のモンスターがフィールドに呼び出される。

 

『いきなり大量展開!手札0この威力!これがハンドレスコンボなのか!?』

 

『これで鬼柳のモンスターは4体、ここからどう出る!?』

 

手札0の状況にも関わらず、通常召喚権を使わず、4体ものモンスターをフィールドに揃える。これこそが鬼柳 京介のハンドレスコンボ。その爆発力は凄まじい。

 

「まずはレベル4の『デーモン』とレベル3のネクロマンサーに、レベル1のリベンジャーをチューニング!漆黒の帳下りし時、冥府の瞳は開かれる。舞い降りろ闇よ!シンクロ召喚!出でよ、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

早速シンクロ召喚、3体のモンスターの代わりとして呼び出されたのは漆黒の体躯に百の眼を開いた邪悪な竜。攻撃力は3000、元々の数値では『ゴヨウ・キング』を越えているものの、『一族の結束』の効果が有る限り、『ゴヨウ・キング』の攻撃力は3600、敵わない。

 

「噂に聞くループコンボのパーツか、そのモンスターでどうする?」

 

「墓地のネクロマンサーを除外し、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』はそのカード名と効果を得る!『インフェルニティ・デーモン』を蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

「効果でデッキから『インフェルニティ・ミラージュ』をサーチ、召喚!」

 

インフェルニティ・ミラージュ 攻撃力0

 

現れたのは赤い鬣を伸ばし、ローブを纏った不気味な民族人形のようなモンスター。『インフェルニティ』にはこのような西武風のモンスターが多い。

 

「更にミラージュを墓地に送り、墓地の『インフェルニティ・リベンジャー』と『インフェルニティ・デストロイヤー』を特殊召喚!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

インフェルニティ・デストロイヤー 攻撃力2300

 

更なる展開、フィールドに呼び込まれたのは先程シンクロの素材に使用されたばかりのリベンジャーと剛腕を持つ大悪魔。これで鬼柳のモンスターゾーンが埋まった。とは言っても『インフェルニティ』にとってモンスターゾーンが埋まってしまう事は正直動きが鈍くなってしまう為、避けたい所なのだが。

 

「続けて行くぜ、レベル4の『ダーク・グレファー』と『デーモン』に、レベル1の『インフェルニティ・リベンジャー』をチューニング!破壊神より放たれし聖なる槍よ、今こそ魔の都を貫け!シンクロ召喚!『氷結界の龍トリシューラ』!!」

 

氷結界の龍トリシューラ 攻撃力2700

 

連続シンクロ、大量展開からフィールドに呼び出されたのは『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』と並ぶ第2の満足龍、トリシューラ。とある世界を凍結寸前まで追い込み、暴れたその力は強大だ。銀色の鱗に青い体躯、3つの首を唸らせ、絶対零度の息を吐く氷の龍。

鬼柳自身も何とか手に入れたレアカードであり、このカードの登場に会場が沸き起こる。

 

「トリシューラのシンクロ召喚時、テメェのフィールドの『ゴヨウ・キング』、そして墓地の『ゴヨウ・エンペラー』を除外!」

 

「チィッ!」

 

トリシューラの3つ首が動き、氷弾を放って227のエースカードと切り札を凍結させる。このデュエルは墓地を共有する為、『ゴヨウ・エンペラー』の蘇生を封じたいと考えたのだろう。今回は使用されなかったが、手札も合わせ、対象を取らない3枚のカードを除外する効果。その力は絶大だ。

 

「バトル!トリシューラで『サムライソード・バロン』へ攻撃!」

 

デュエルチェイサー227 LP1000→700

 

「ぐっ――!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札0→1

 

トリシューラの3つのアギトに冷気が集束、巨大な氷の塊を作り出し、弾丸として撃ち出し、バロンに襲いかかる。氷はバロンに着弾、冷気が広がり、パキパキと凍てつかせる。

 

「デストロイヤーでダイレクトアタック!」

 

デュエルチェイサー227 LP700→0

 

そして――デストロイヤーの剛腕が227へ振り抜かれ、爆発したかのような轟音が響き渡る。

一気に決着、徳松によってLPが削られているとは言え、1ターンで勝利を奪う。これにはベンチに戻った徳松も苦笑いだ。

 

『見事勝利!これで2対2に持ち込んだ――!』

 

「さて……次はセクト、か……」

 

鬼柳 京介 LP4000

フィールド『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』(攻撃表示)『氷結界の龍トリシューラ』(攻撃表示)『インフェルニティ・デストロイヤー』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

後方でスモークを上げる227がセカンドホイーラー、伊集院 セクトにバトンタッチし、彼が黒いD-ホイールに搭乗して駆け、鬼柳へ迫る。流石にギガントLの性能には敵わないのか、追い抜く事は出来ないが――追い縋る事は出来る。何の因果か、チームサティスファクションのメンバーである彼がセキュリティのメンバーとして、敵として立ち塞がる。鬼柳をアニキと呼び慕う彼が、デュエルを挑んで来る。その事実に、鬼柳の表情が僅かに歪む。

 

『セカンドホイーラー、セクト発進!チームサティスファクション同士の対決だぁー!』

 

「……アニキ……」

 

「来いよセクト……大会に参加した以上、いずれこうなる事は分かってたんだ。ここではお前と俺は敵、容赦する事はねぇ」

 

その表情に影を差したセクトに対し、鬼柳は非情に徹する。いや、非情にならなければ、鬼柳自身まともに闘える自信が無いのだ。セクトはそれを汲んだのか、コクリと頷き、2人が正面を見据える。

 

「「デュエル!!」」

 

鬼柳のターンが強制的に終了し、セクトのターンへ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、デュエルに徹する。

 

「俺のターン、ドロー!俺は魔法カード、『ブラック・ホール』を発動!フィールド上のモンスターを全て破壊!」

 

「カウンター罠、『インフェルニティバリア』!その発動を無効にし、破壊!俺にこいつがあるのを忘れたか!」

 

セクトが『ブラック・ホール』によって一気に形勢逆転を狙うも、鬼柳が持つカウンター罠によって封殺される。『インフェルニティ』モンスターが存在する場合、モンスター、魔法、罠を無効にし、破壊する強力な効果だ。最大の利点はこのカードも『インフェルニティ』カードの為、簡単にサーチが可能と言う事なのだが。

 

「魔法カード、『手札抹殺』!」

 

「ほう……」

 

セクトの手札から4枚のカードが墓地に送られ、新たに4枚が手札に運ばれる。これでセクトの墓地は肥えた。だが彼のデッキは昆虫族が主体、墓地に昆虫族が送られた事で227が置いていった『一族の結束』の効果が失われ、魔法、罠ゾーンが圧迫される。

 

「モンスターを1体、カードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

伊集院 セクト LP4000

フィールド セットモンスター

『補給部隊』『一族の結束』セット3

手札1

 

モンスターとカードをセットし、ターンエンド。随分と消極的であるが、仕方無いと言える。何しろ鬼柳のフィールドには攻撃力2500オーバーのモンスターが2体もいるのだ。まずは下準備と言った所か。

 

「どうしたセクト!お前のデュエルはそんなものか!俺のターン、ドロー!」

 

続いて鬼柳のターンに移り、彼がデッキから1枚のカードを引き抜く。同時に2人はサーキットから出て、ハイウェイへ。シティを駆け抜け、速度を上げる。

 

「カードを1枚セット、バトル!『インフェルニティ・デストロイヤー』でセットモンスターへ攻撃!」

 

「墓地の『プリベントマト』を除外し、このターンの効果ダメージを0に!これでデストロイヤーの効果ダメージは防がれた!そしてセットモンスターは『共鳴虫』!破壊された事でデッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスター、『共鳴虫』をリクルート!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

共鳴虫 守備力1300

 

伊集院 セット 手札1→2

 

セットされていたのは青いコオロギのようなモンスター。鈴の音を放ち、同種のモンスターを呼び出す。同族をリクルートする比較的優秀な壁モンスター。これでセクトはこのターン、鬼柳の猛攻を堪えられる。リクルートモンスターの利点は複数の攻撃を堪えられ、デッキの圧縮、限られたステータス内なら好きなモンスターを引っ張って来れる事にあるだろう。

 

「リクルートモンスターか、トリシューラで追撃!」

 

一瞬、僅かに安堵した表情となる鬼柳だが、直ぐ様引き締め、追撃に移る。

 

「3体目の『共鳴虫』を呼び出す!」

 

共鳴虫 守備力1300

 

トリシューラが氷弾を撃ち出し、2体目の『共鳴虫』を凍てつかせるも、3体目がフィールドに現れ、セクトへの道を遮る。実に面倒だ。次々と新手がやって来る。

 

「『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』で攻撃!インフィニティ・サイト・ストリーム!」

 

「『共振虫』を呼ぶ!」

 

共振虫 守備力700

 

ギョロリ、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』が百の眼で『共鳴虫』を睨み、漆黒のブレスを放って消し炭とする。コオロギが最後に呼び出したのは鈴虫をモチーフとしたモンスターだ。『共鳴虫』と似た名前から同じような効果だろうと想像出来る。

 

「ターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP4000

フィールド『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』(攻撃表示)『氷結界の龍トリシューラ』(攻撃表示)『インフェルニティ・デストロイヤー』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『針虫の巣窟』!デッキトップから5枚を墓地に!」

 

「俺は永続罠、『リビングデッドの呼び声』を発動!墓地の『共鳴虫』を蘇生!」

 

共鳴虫 攻撃力1200

 

「『共鳴虫』と『共振虫』をリリース!アドバンス召喚!『ポセイドン・オオカブト』!」

 

ポセイドン・オオカブト 攻撃力2500

 

現れたのはセクトのエースモンスター、ネプチューンオオカブトをモチーフとし、甲殻を思わせる白い鎧、巨大な2本角を伸ばした兜を纏った甲虫騎士。とは言えその攻撃力は2500、鬼柳のモンスターには敵わない。

 

「『共振虫』の効果により、『デビルドーザー』をサーチ、更にリビングデッドをコストにリバースカード、オープン!魔法カード、『マジック・プランター』!2枚ドロー!」

 

伊集院 セクト 手札2→4

 

「まだまだ!墓地の『共振虫』と『共鳴虫』を除外、『デビルドーザー』を特殊召喚!」

 

デビルドーザー 攻撃力2800

 

更に展開、ここで現れたのは昆虫族の中でも特に有名で代表的な大型モンスター。2体の昆虫族を墓地から除外するが、逆に言えばそれだけで攻撃力2800を特殊召喚出来る。地よりピンク色の巨大な百足が飛び出し、D-ホイールに並走するように這い回る。

 

「大型モンスターが2体か……!」

 

「除外された『共振虫』の効果で『地獄百足』を墓地に送る!更に墓地の『共鳴虫』を除外、『ジャイアントワーム』を特殊召喚!」

 

ジャイアントワーム 攻撃力1900

 

今度は『デビルドーザー』を小型化した下級モンスター。緑色をした百足のカードだ。それにしても凄まじい展開。やはり彼もチームサティスファクションのメンバーと言う事か。

 

「更にフィールドに2体以上昆虫族が存在する事で、手札のチューナーモンスター、『地獄針幼虫』を特殊召喚!」

 

地獄針幼虫 守備力600

 

次はレベル2のチューナーモンスター。同種族がフィールドに2体いれば特殊召喚出来る。昆虫族では優秀なチューナーだ。

 

「チューナー……!」

 

「行くぜ……レベル4の『ジャイアントワーム』に、レベル2の『地獄針幼虫』をチューニング!闇と闇重なりし時、冥府の扉は開かれる。光無き世界へ!シンクロ召喚!出でよ、『地底のアラクネー』!」

 

地底のアラクネー 攻撃力2400

 

ここでシンクロ召喚、呼び出されるのは上半身が女性、下半身が蜘蛛となった異形のモンスター。このモンスターから放たれる力は『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』と同種のものだ。鬼柳が僅かに眉をひそめるが、直ぐに気を取り直す。

 

「アラクネーの効果で『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』をこのカードに装備!」

 

「ッ!」

 

表側表示のモンスターを装備カードとする効果。それにより鬼柳が操る満足龍の1体、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』が吸収され、除去される。ドラゴン族、エースの装備に鬼柳は舌打ちを鳴らすが、エクシーズ次元民、そして彼は特にドラゴンキチでは無いのでおのれぇ、とはならない。彼は満族なのだ。彼を本当に動揺させるには、ハンドレスを封じる位やらねばならない。

 

「バトル!『デビルドーザー』でトリシューラを攻撃!」

 

鬼柳 京介 LP4000→3900

 

『デビルドーザー』がハイウェイのレーンを這い回り、トリシューラに襲いかかる。世界を凍結させる龍もその力を使った後ならばただのバニラモンスターだ。レベル9でも攻撃力は低い為、簡単に破壊される。

 

「『デビルドーザー』が戦闘ダメージを与えた事で、相手のデッキトップからカードを墓地に送る」

 

デッキ破壊効果が破壊されるも、その枚数は1枚のみ、鬼柳の『インフェルニティ』デッキに対しては逆に墓地肥やしを手助けしてしまう結果となる。

 

「どうした?それで終わりかセクト!」

 

「いいや、ここからだぜアニキ!『ポセイドン・オオカブト』でデストロイヤーへ攻撃!トライデント・スパイラル!この瞬間、速攻魔法、『ハーフ・シャット』!『インフェルニティ・デストロイヤー』にこのターン、戦闘破壊耐性を与える代わりに、攻撃力を半減する! 」

 

インフェルニティ・デストロイヤー 攻撃力2300→1150

 

鬼柳 京介 LP3900→2550

 

「ぐ、う――!成程な……!」

 

『インフェルニティ・デストロイヤー』が弱体化され事で鬼柳に大ダメージが入る。とは言えデストロイヤーも戦闘破壊耐性を持ったと考えられるが――このままでは鬼柳は大ダメージを受ける。その理由は――『ポセイドン・オオカブト』の効果。

 

「『ポセイドン・オオカブト』がモンスターを戦闘破壊出来なかった場合、続けて攻撃可能!更にこの効果を2回まで発動出来る!2回目の攻撃!」

 

「させるか!アクションマジック、『ブラインド・ブリザード』!バトルフェイズを終了!」

 

『地底のアラクネー』も合わせればとんでもないダメージとなる。鬼柳は宙に浮かぶアクションカードを掴み、海神の矛の前に氷の壁を作り出し、攻撃を防ぐ。あの鬼柳がこれ程までに追いつめられている。セクトの実力も侮れない。

 

「やるじゃねぇかセクト……!」

 

「へっ、俺はこれでターンエンドだ!」

 

伊集院 セクト LP4000

フィールド『ポセイドン・オオカブト』(攻撃表示)『地底のアラクネー』(攻撃表示)『デビルドーザー』(攻撃表示)

『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』『補給部隊』『一族の結束』

手札0

 

『伊集院選手、鬼柳に対し猛攻!これには鬼柳も堪らない!』

 

「俺のターン、ドロー!厄介なのはアラクネーか……俺は魔法カード、『暗黒界の取引』を発動!互いに1枚ドローし、1枚捨てる」

 

『おぉーっと鬼柳、引きが悪かったのか、カードを手札に運び切れない!』

 

手札が悪いのか、結果的に手札0へと終わり、一気にピンチに陥る鬼柳。その何時もの好戦的なデュエルとは違った姿にセクトが眉をひそめる。

 

「どう言うつもりだいアニキ?」

 

「さぁな、俺のハンドレスコンボは風の吹くまま気の向くまま、ここで負けりゃ、カードが俺を手放したって事さ」

 

これがカードの死神と呼ばれる男の戦術。破滅的で綱渡り。まさかアクションマジックを頼りにしているのかとセクトが睨むが――分からない、このデュエルがどう転ぶのか。

 

「俺は『インフェルニティ・デストロイヤー』を守備表示に変更し、ターンエンド」

 

鬼柳 京介 LP2550

『インフェルニティ・デストロイヤー』(守備表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

「ッ!」

 

セクトのフィールドに存在するモンスターが戦闘体制を取ると共に鬼柳の場から3本の光輝く剣が飛び出し、降り注いで壁となる。思わずセクトがD-ホイールをよろめかせたが、何とか剣の間を縫って鬼柳を追跡する。この男も悪運が強い。

 

「だけどモンスターは別!『ポセイドン・オオカブト』でデストロイヤーを攻撃!」

 

「ッ」

 

「ターンエンドだ」

 

伊集院 セクト LP4000

フィールド『ポセイドン・オオカブト』(攻撃表示)『地底のアラクネー』(攻撃表示)『デビルドーザー』(攻撃表示)

『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』『補給部隊』『一族の結束』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!反撃と行こうか!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『氷結界の龍トリシューラ』、『ダーク・グレファー』、『花札衛-五光-』、『花札衛-雨四光-』、『花札衛-桐-』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→2

 

「カードを1枚セット、『インフェルニティ・ミラージュ』を召喚!」

 

インフェルニティ・ミラージュ 攻撃力0

 

「ミラージュを墓地に送り、『インフェルニティ・デーモン』と『インフェルニティ・ネクロマンサー』を蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

1枚のカードにより2枚のモンスターを蘇生、蘇生において『インフェルニティ』はトップクラスと言って良い。墓地を肥やし、蘇生の連続でアドバンテージを稼ぐ。まずは2体、この2体で続く2枚を稼ぐ。

 

「『デーモン』の効果で『インフェルニティ・ブレイク』をサーチ、セット!ネクロマンサーの効果で『インフェルニティ・リベンジャー』を蘇生!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

「レベル4の『デーモン』とレベル3のネクロマンサーに、レベル1のリベンジャーをチューニング!シンクロ召喚!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

再びフィールドに舞い戻る百眼の竜。禍々しいオーラを放つこのモンスターを鬼柳は手懐け、更なる展開に繋ぐ。

 

「『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の効果で墓地のミラージュを除外し、コピー!墓地に送り、『デーモン』とネクロマンサーを蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

「『デーモン』の効果で『インフェルニティバリア』をサーチ、セット!ネクロマンサーの効果でリベンジャー蘇生!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

「レベル4の『デーモン』とレベル3のネクロマンサーにレベル1のリベンジャーをチューニング!シンクロ召喚!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

「ミラージュコピー!墓地に送り、『デーモン』とネクロマンサー蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

「『デーモン』の効果でバリアサーチ、セット!ネクロマンサーの効果でリベンジャー蘇生!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

「レベル4の『デーモン』とレベル3のネクロマンサーに、レベル1のリベンジャーをチューニング!死者と生者、ゼロにて交わりし時、永劫の檻より魔の竜は放たれる!シンクロ召喚!出でよ、『インフェルニティ・デス・ドラゴン』!!」

 

インフェルニティ・デス・ドラゴン 攻撃力3000

 

黒いスモークが鬼柳のフィールドに巻き起こり、中より鋭い爪が黒煙を切り裂き、身体中より紫電をスパークさせる魔竜が姿を見せる。刃のような角、ギョロギョロと不気味に蠢く眼、4本の腕に薄い羽を持ったドラゴンだ。

 

「デス・ドラゴンの効果により、アラクネーを破壊し、その攻撃力の半分のダメージを与える!インフェルニティ・デス・ブレス!」

 

伊集院 セクト LP4000→2800

 

『インフェルニティ・デス・ドラゴン』の頭部から黒雲が吹き出し、口の中へと吸い込んで黒い弾丸として放つ。消し飛び、腐敗するアラクネー。アラクネーには戦闘で破壊される際、装備モンスターを身代わりに出来る効果があるが、効果となっては無駄だ。残りは『ポセイドン・オオカブト』と『デビルドーザー』。『ハーフ・シャット』等でコンボを狙われない限り安泰だ。対策はしてあるが。

そして、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の最後の効果が発動されるものの、不発に終わり、セクトのD-ホイールのモニターに鬼柳のデッキ情報が公開される。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

伊集院 セクト 手札1→2

 

「ターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP2550

フィールド『インフェルニティ・デス・ドラゴン』(攻撃表示)

セット4

手札0

 

「……やっぱ強いなアニキは……俺のターン、ドロー!速攻魔法、『サイクロン』!左のカードを破壊!」

 

「カウンター罠、『インフェルニティバリア』!その発動を無効にし、破壊!」

 

「魔法カード、『ソウルテイカー』!デス・ドラゴンを破壊!」

 

「2枚目のバリアで無効!」

 

「アクションマジック、『ハイダイブ』!『デビルドーザー』の攻撃力を1000アップ!」

 

「罠発動!『インフェルニティ・ブレイク』!『インフェルニティ・インフェルノ』を墓地から除外し、『デビルドーザー』を破壊!」

 

事如く一歩先を行かれ、全ての策が失敗に終わる。これこそが鬼柳 京介。バリアブレイクの布陣は簡単に越えられない。

 

「『補給部隊』の効果でドロー……」

 

伊集院 セクト 手札1→2

 

「『ポセイドン・オオカブト』を守備表示に変更し、ターンエンド」

 

伊集院 セクト LP2800

フィールド『ポセイドン・オオカブト』(攻撃表示)

『補給部隊』『一族の結束』

手札2

 

強い、強い、強い。知ってはいたが――やはり鬼柳は自分よりも遥かに強いデュエリストだ。精神面、戦術、運、全てがセクトの上を行く。だからこそセクトは鬼柳に憧れ、アニキと呼び慕う。だからこそセクトは――。

 

「……」

 

妬んで、しまう。

 

「俺のターン、ドロー!モンスターをセット!そしてデス・ドラゴンの効果により、『ポセイドン・オオカブト』を破壊し、1250のダメージを与える!」

 

「アクションマジック、『フレイム・ガード』!効果ダメージを0に、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

伊集院 セクト 手札2→3

 

互いのエースが火花を散らす。『インフェルニティ・デス・ドラゴン』が頭部の器官から黒煙を噴出、吸い込んで禍々しいブレスへ変換し、海神の名を持つ甲虫騎士へと放ち、爆裂させる。

 

「罠発動!『強欲な瓶』!1枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→1

 

「どうしたセクト!俺はカードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

鬼柳 京介 LP2550

フィールド『インフェルニティ・デス・ドラゴン』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

手札0

 

上級モンスターによる布陣も容易く突破し、今度は鬼柳が猛攻を仕掛ける。とんでもない男だ。最早セクトに勝ち目はないか、観客達が鬼柳にエールを送り始めたその時――セクトの口元がニヤリと弧を描いて歪む。狂気を孕んだ禍々しい笑み。同時に彼の身体からどす黒い闘気が湯気のように上り、鬼柳が異様な光景に目を見開く。

 

「ッ!?セクト、お前――」

 

「アニキ……俺はアンタに憧れてた……その力に、その心に……思わず、妬んじまう位になぁっ!!」

 

ゴウッ、闘気はセクトのD-ホイールへと絡み付き、ホイールから黒い羽を噴出する。何だ、これは――誰もが驚く中、セクトの眼が黒く濁り、その癖獲物を狙う獣の如く爛々と輝き、憎悪の怒号が木霊する。これは、この感情は――羨望と、嫉妬。劣等感が剥き出しとなって鬼柳に牙を剥く。

 

「どうせアンタも俺の事を見下してんだろ!?俺なんかじゃアンタに勝てねぇってな!」

 

「何を――!」

 

「分かるんだよ!さっきから俺に気を使って、アンタが本気じゃ無い事位!手を抜いてる事位!」

 

「ッ!」

 

被害妄想、大暴走、あれだけ鬼柳を慕っていたセクトが人が変わったように鬼柳に罵詈雑言を放ち、デッキより1枚のカードを引き抜く。描かれる黒のアーク。溢れ出る瘴気に身を任せ、セクトは反撃に出る。

 

「『地獄毒蛾』を召喚!」

 

地獄毒蛾 攻撃力1300

 

現れたのはレベル3、毒の鱗粉を振り撒く蛾のモンスターだ。

 

「『地獄毒蛾』の効果!手札の同名モンスターを効果を無効にし、特殊召喚!」

 

地獄毒蛾 守備力100

 

「更に『地獄針幼虫』を特殊召喚!」

 

地獄針幼虫 守備力600

 

呼び出されるチューナーモンスター。これで合計レベルは、8。セクトのエクストラデッキから漆黒の光が伸び、3体のモンスターが光となって弾け飛ぶ。

 

「レベル3の『地獄毒蛾』2体に、レベル2の『地獄針幼虫』をチューニング!魔神を束ねし蠅の王よ!ムシズの走る世界に陰りを!シンクロ召喚!『魔王龍ベエルゼ』ッ!!」

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力3000

 

そして、魔王が姿を見せる。6つの星を2つのリングが包み込み、漆黒の光が貫き、粒子が飛び散る。中よりうねり出たのは2頭の黒竜、裸の女を磔とした異形と呼ぶに相応しく、魔王の名を刻んだモンスター。圧倒的な力を感じさせる、鬼柳が持つ『煉獄竜オーガ・ドラグーン』と同種の決闘竜。その姿に観客が押し黙り、あの鬼柳でさえ息を呑む。

 

「……この、モンスターは……!?」

 

「ヒヒヒ、ヒャハハハハ!これが力だ!俺の力!潰せ!壊せ!踏みにじれ!俺を認めろ!助けを求めろ!バトル!ベエルゼでデス・ドラゴンへ攻撃!魔王の赦肉祭!」

 

ベエルゼが不気味に蠢き、鬼柳のエースモンスターへ迫る。全てを貪り、食らおうとする漆黒の暴竜。鬼柳はそれを止めるべく、リバースカードを発動する。

 

「罠発動!『聖なるバリア-ミラーフォース-』!攻撃表示の相手モンスターを破壊!」

 

「残念だったなぁ!ベエルゼは効果で破壊されねぇ!」

 

「くっ、だが2体の攻撃力は同じ!」

 

「だからぁ?ベエルゼは戦闘でも破壊されねぇんだよ!」

 

「何ッ!?」

 

戦闘、効果で破壊されない強固な耐性を誇る弩級のモンスター。そのとんでもない効果、そして攻撃力の一撃を食らい、デス・ドラゴンが崩れ落ちる。更にセクトが鬼柳に迫り、黒い翼で切り裂いて鬼柳を追い抜く。これは――機体性能が、上がっている。

 

「ぐっ、墓地の『インフェルニティ・リベンジャー』の効果でこいつを蘇生し、レベルをデス・ドラゴンと同じにする!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0 レベル1→8

 

「カードを1枚セット、ターンエンド。ヒヒヒヒヒ、ヒャハハハハハ!」

 

伊集院 セクト LP2800

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

『補給部隊』『一族の結束』セット1

手札0

 

襲い来る悪意、セクトの魔の手。今まで絆を繋いで来た相手の憎悪を受け、鬼柳は果たして――。

 

 




セクトのキャラの掘り下げが充分に出来ていないのでかなり強引で突然だったと思います。申し訳ありません。1回で良いからデュエルさせとくべきだったなぁと反省。とっちらかってるなぁ。


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第122話 死のダンス

鬼柳VSセクト、決着回。


シティ、とある孤児院にて、1人のシスター、ツァン・ディレが煎餅をボリボリと食べながらテレビモニターに映る鬼柳とセクトのデュエルを見ていた。彼女はこの孤児院がある為、大会には参加していない後ろめたさを感じながら。

最初こそ負けた方が地下送りと知っている為、心配そうに見入っていたが――突如セクトが豹変した途端、彼女の表情は驚きと共に、何故かやっぱりな、と言う謎の納得があった。大会に彼女の探していた白コナミが参加していたのを知った時のように。

 

「……セクト……」

 

彼は鬼柳といる時、時折辛そうな表情を見せていた。思い悩むような表情を見せていた。それを自分は気のせいだと思って、彼の苦しみを理解する事をしていなかった。その罪悪感が――彼女の胸にチクチクと突き刺さる。

少なくとも自分は、チームサティスファクションの仲間であり、彼の姉のような存在だ。それなのに――。

 

「……こんな時、あの子達だったら、どうするんだろうな……」

 

泣きそうな表情を作りながら、ツァンは思いを馳せる。もし――あの2人が、今のセクトにかけるなら、どんな言葉を言うだろう、と。

 

――――――

 

評議会のビル、一部の選手達が保護された部屋の一角にて、ユーゴはテレビモニターに映る鬼柳とセクトの激闘を見つめながら、驚愕を露にしていた。原因は――ツァンと同じく、鬼柳の弟分であり、自身の親友、セクトの変貌だ。

何時も慕っていた鬼柳に憎悪を向け、邪悪なシンクロモンスター、『魔王龍ベエルゼ』を召喚した彼の異様に、ユーゴは言葉を失う。

 

一体何故、彼がこんなにも変わったのか、そして――何故、彼の憎悪に気づいてやれなかったのかとユーゴは自分が悔しくてグッ、と奥歯を噛み締める。

 

「……」

 

だからこそ、目を離さない。鬼柳が彼と向き合い、何とかしてくれるならそれで良し。しかし彼が、彼でも止められなかったその時は――。

 

――――――

 

一方、治安維持局の最上部、長官室にて、部屋の主である長官、ジャン・ミシェル・ロジェは堪え切れぬ笑みを溢し、デュエルが繰り広げられるモニターに向かい、高笑いしていた。

 

「ククク……フフフフフッ!ハハハハハッ!どうだプラシド!君が連れて来た少年は今、最も邪魔なデュエリスト、鬼柳を追いつめている!これ程にも愉快なショーは無い!劣等感を少しつついてやり、君の持つ決闘竜を持たせればこうも簡単に堕ちる!見ろ、鬼柳のこの間抜けな顔を!信じていた者に裏切られた絶望の表情を!」

 

「……絶望、か……」

 

そう――伊集院 セクトの変貌、そして邪悪な決闘竜、『魔王龍ベエルゼ』の元手こそ、このプラシドとロジェにある。彼は計画に最も邪魔になるであろう、シンクロ次元最強のデュエリスト、鬼柳 京介を排除する為に、彼の大切な弟分、セクトの心を利用し、アカデミア、治安維持局の刺客へと引き込んだ。

少々躊躇ったが――この策は成功と言って良い。3対3のチーム戦にしたのも、計画を円滑に進める為、今の白コナミやジャック・アトラス・Dの実力をもってしても、2人がかりで鬼柳に勝てる程度だろう。無論、トーナメントの対戦カードも仕組んだ事だ。

 

「……」

 

モニターに映るセクトの様子を視界におさめ、彼の目が細くなる。信じていた者に、裏切られる絶望、彼もまた、その苦痛を充分に理解している。セクトの心も、また。

知っていて、彼は利用している。それは、許されざる行為だ。悪党の行いだ。理解して、受け入れて、彼はこの作戦を実行した。冷徹に宣言した。それでも――

 

「……」

 

胸が強く、締め付けられる。絶望、余り好きな、言葉では無い。

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

場所はハイウェイへと戻り、鬼柳がデッキより1枚のカードを引き抜く。手札はこれ1枚、フィールドには『インフェルニティ・リベンジャー』とセットモンスターのみ。

対するセクトのフィールドには戦闘、効果破壊耐性を持つ、不死身の双頭竜、ベエルゼの姿。厄介なカードだ。攻撃力3000と鬼柳のエース級のモンスター達と同じ攻撃力を有していながら、強固な破壊耐性の保持、これでは手がつけられない。

 

だが――手はある。1つはベエルゼの効果を無効にする事、鬼柳のデッキには『ブレイクスルー・スキル』等のカードも投入されている為、これは充分に狙える。

他には破壊を通さぬ除去、バウンスやリリース、そして――除外。幸い鬼柳のエクストラデッキには『氷結界の龍トリシューラ』が回収されている。対象を取らない除外効果を持ったトリシューラなら、充分可能性はある。

 

「魔法カード、『ダーク・バースト』!墓地のネクロマンサーを回収し、召喚!」

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 攻撃力0

 

「召喚後、守備表示に変更、そして効果発動!『インフェルニティ・デーモン』を蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

「『デーモン』の効果で『インフェルニティ・ブレイク』をサーチ!そして『ゾンビ・キャリア』を反転召喚!」

 

ゾンビ・キャリア 攻撃力400

 

次々と『インフェルニティ』モンスターをフィールドに呼び出し、3体目はレベル2のアンデット族チューナーモンスター、『ゾンビ・キャリア』。自己蘇生効果を持っており、コストも自分の手札1枚をデッキトップに戻す、『インフェルニティ』、特に『デーモン』と相性の良いカードだ。これで合計レベルは9、呼び出すモンスターは勿論、満足龍が1体、槍の名を冠する3頭の氷結竜。

 

「レベル4の『デーモン』とレベル3のネクロマンサーに、レベル2の『ゾンビ・キャリア』をチューニング!シンクロ召喚!『氷結界の龍トリシューラ』!!」

 

氷結界の龍トリシューラ 攻撃力2700

 

再びフィールドに舞い戻る、世界の時をも凍てつかせる蒼銀の竜。鬼柳のフィールドで咆哮するトリシューラは2つのアギトから氷弾を作り出し、セクトのフィールドに撃ち出す。

 

「永続罠、『王宮の鉄壁』!これで互いのカードは除外されない!」

 

「何ッ!?」

 

ところがセクトがトリシューラの対策として投入したメタカードを発動し、その標的を失わせる。対象を取らないとは言え、そもそも除外自体封じられては如何にトリシューラでも手出しは出来ない。

加えてベエルゼはその不死の肉体を更に不朽のものにした。

 

「くっ――!」

 

「アンタと闘う時、厄介なのはトリシューラだ。対策を立てるのは当然だろうが!」

 

「……全くもってその通りだな……俺はカードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

鬼柳 京介 LP2550

フィールド『氷結界の龍トリシューラ』(攻撃表示)『インフェルニティ・リベンジャー』(守備表示)

セット1

手札0

 

『トリシューラで除外しようとするも防がれた!打つ手なしか!?』

 

鬼柳の誇る4体の満足龍の1体、トリシューラの除去を掻い潜り、再びフィールドに顕現する魔王。これで除去出来なかった、いや、除去しても無意味と言うのは手痛い。

『王宮の鉄壁』があると言うだけで除外は潰されたにも等しい。残る手はバウンスか、無効、しかもこれも――バウンスでは再びシンクロ、効果無効で破壊しても蘇生と再利用の可能性が高い。

 

もう1つの勝筋は――プレイヤーである、セクトを倒す。だがこれも思い切って決行するには至らない。何故ならこのデュエルは勝ち抜き戦のチーム戦、フィールドでの状態は勝敗に関わらず受け継がれる。倒せなかったらセルゲイがこのモンスターで闘うまでだ。

となると一番理想なのはバウンスし、ベエルゼがエクストラデッキに存在する内に彼を倒す事。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

とは言え、それはこのターンを乗り切ってからだが。

 

「バトル!ベエルゼでトリシューラに攻撃!」

 

鬼柳 京介 LP2550→2250

 

「ぐぁぁぁぁぁっ!?」

 

ベエルゼが2頭を駆使し、トリシューラの3頭に食らいつき、噛み砕く。同時にセクトのD-ホイールから噴出された黒い翼のフィールが鬼柳を切り裂く。たった300でも鋭いダメージが鬼柳の身体を駆け抜ける。これこそが闇に呑まれた決闘竜の力。

 

「ククク、俺はこれでターンエンド!踊れ鬼柳!死のダンスを!」

 

伊集院 セクト LP2800

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

『補給部隊』『一族の結束』『王宮の鉄壁』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!何でだ!何でそんなにも俺を憎むんだセクト!俺の何がお前をそうさせちまったんだ!?」

 

セクトの突如の変貌に、鬼柳が困惑を露にし、堪らず叫ぶ。それも当然だろう、鬼柳はセクトの事を、実の弟のように思っている。理由も分からぬまま憎悪を向けられる事は堪えられない。

何か自分が悪い事をしたか、原因は自分の中にあるんじゃないかとセクトを問い質す。

 

「そうやって……そうやってアンタは俺の事を仲間だと言いながら、結局の所、俺を対等に見ていないんだ!見下してんだろうが!俺の方が強いから、弱いお前は守られていろってなぁ!ムシズが走るぜ!」

 

それは些細なすれ違い。鬼柳が彼を大切だと思っているからこそ、弟だと思っているからこそ、セクトは劣等感を覚え、彼に見下されているように感じ、その心の隙をロジェに突かれてしまったのだ。

 

「違う!俺はお前を大事な仲間だと……っ!」

 

「どうだかなぁ、口では何とでも言えるぜ!」

 

鬼柳の弁解も聞く耳持たず、ベエルゼに取り憑かれたように暗黒の瘴気を放ち、闇のフィールに身を任せてハイウェイを暴走する。このままではラチがあかない。彼を説得にしても、その前にベエルゼを何とかしなければと思い至ったのだろう、鬼柳は真剣に彼に向き直り、デュエルを再開する。

 

「クッ、セクト……!俺は魔法カード、『アドバンスドロー』を発動!レベル8となった『インフェルニティ・リベンジャー』をリリースし、2枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→2

 

リベンジャーの効果を利用し、2枚ドロー。高レベルとなったリベンジャーを最も活かせるのはこう言った方法だろう。レベル8ともなればチューナーとして運用するのも難しくなる為、このカードが来てくれたのは有り難い。引いたカードに目を通し――これならば逆転とは言えないが、時間を稼ぐ事は出来る。

 

「速攻魔法、『サイクロン』!『王宮の鉄壁』を破壊!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップから10枚を除外し、2枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→2

 

「モンスターをセット、そして魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→3

 

「カードを3枚セット、ターンエンド!」

 

鬼柳 京介 LP2250

フィールド セットモンスター

セット4

手札0

 

「それで終わりか!俺のターン、ドロー!バトル!ベエルゼでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『インフェルニティ・ガーディアン』!手札が0の為、戦闘、効果では破壊されない!」

 

セクトが指示を出し、ベエルゼがセットモンスターに食らいつくが、ガキリ、と鋼に牙を突き立てたような感触が走り、堪らずベエルゼが牙を放す。姿を見せたのは盾のような形状をした不気味なモンスターだ。ハンドレス状態の為、ベエルゼと同じ耐性を得る。

壁にうってつけのモンスターだ。セクトは舌打ちを鳴らし、次の手へ移る。

 

「しゃらくせぇ。カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

伊集院 セクト LP2800

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

『補給部隊』『一族の結束』セット1

手札1

 

『ここで両者耐性持ちで防御を万全にする!まだ勝負は分からない!』

 

「俺のターン、ドロー!永続罠発動!『リビングデッドの呼び声』!墓地の『インフェルニティ・デス・ドラゴン』を蘇生!!」

 

インフェルニティ・デス・ドラゴン 攻撃力3000

 

ここで鬼柳がフィールドに呼び出したのはトリシューラと並ぶ満足龍だ、昆虫のような体躯に巨大な頭部を持ったアンバランスなモンスター、このモンスターではベエルゼは倒せないが――。

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』!ベエルゼの効果を無効にし、攻撃力を400アップ!」

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力3000→3400

 

「罠発動!『インフェルニティ・ブレイク』!ベエルゼを破壊!」

 

「カウンター罠、『ギャクタン』!その発動を無効にし、デッキに戻す!」

 

「デス・ドラゴンの効果でベエルゼを破壊し、攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

効果を無効にすれば倒せない事はない。セクトもベエルゼを守ろうとするも、二重の策で上を行かれる。

これでデス・ドラゴンのアギトから放たれる黒い炎がベエルゼに命中し、爆風が巻き起こり、セクトの機体を揺らす。

正気に戻ったか?原因であろうベエルゼを撃破した事で、鬼柳が僅かな期待を寄せ、セクトをチラリと横目で覗くが――。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

伊集院 セクト LP2800→1100 手札1→2

 

『ベエルゼ撃破!このまま攻めに移るか鬼柳!』

 

彼の瞳にはまだ黒い狂気が宿ったまま、これでも駄目なのか、と、鬼柳は舌打ちを鳴らして次の手に打って出る。まだ可能性はある。

 

「俺は魔法カード、『マジック・プランター』を発動!リビングデッドをコストに2枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→2

 

「そして永続罠、『悪魔の憑代』!レベル5以上の悪魔族モンスターのリリースを軽減し、『インフェルニティ・アーチャー』を召喚!」

 

インフェルニティ・アーチャー 攻撃力2000

 

止まる事無く、次の手へ。フィールドに現れたのは上級の悪魔、弓を持った黒とオレンジのカラーリングの魔人だ。上級にしては低い攻撃力だが、その分効果は強力、と言っても、今は意味が無いが。

 

「カードを1枚セット、バトル!アーチャーでダイレクトアタック!」

 

セクトのLPは1100、対する『インフェルニティ・アーチャー』の攻撃力は2000、この一撃が通れば鬼柳の勝利だが――。

 

「手札の『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する!」

 

そう簡単に行かせてはくれない。セクトの眼前にワインレッドのサングラスと草臥れた三角帽を被ったニヒルな笑みが特徴的なかかしが飛び出し、木の枝で矢を弾く。機を損じてしまったか、ここで仕留め切れなかったのは少々不味い。

 

「俺はこのままターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP2250

フィールド『インフェルニティ・アーチャー』(攻撃表示)『インフェルニティ・ガーディアン』(守備表示)

『悪魔の憑代』セット1

手札0

 

再び手札は満足。これで『ガーディアン』は耐性を取り戻した。『ガーディアン』の耐性はあくまでハンドレス状態の時のみ。手札が1枚でも残っているならば失われ、たちまち鬼柳を守る盾は砕かれてしまう。それだけは死守しなければならない。

相手にベエルゼと言う手がある限り、このモンスターが鬼柳の命綱なのだ。

 

『再び鬼柳が逆転!二転三転するデュエルに目が離せない!』

 

「俺のベエルゼをコケにしやがって……!俺のターン、ドロー!魔法カード、『復活の福音』!墓地のレベル7か8のドラゴン族モンスターを蘇生する!来い、ベエルゼ!!」

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力3000

 

2度目――あの手この手で攻略しようと、ベエルゼに特化させたセクトのデッキでは容易く復活し、鬼柳を脅かす。

しかも今度は『復活の福音』が墓地にある為、耐性が二重になってしまった。

 

「バトル!ベエルゼでアーチャーに攻撃!」

 

「『悪魔の憑代』を墓地に送り、アーチャーの破壊を防ぐ!」

 

「だがダメージは別だ!」

 

鬼柳 京介 LP2250→1250

 

「ぐぁっ――!」

 

2頭の竜のアギトが迫ったその時、鬼柳は『悪魔の憑代』を墓地に送って何とか破壊を防ぐも、超過ダメージが襲いかかり、フラついてしまう。強烈な一撃だ。ここで何とかしなければ後続の柚子がこれを相手にする事になる。それだけは回避しなければならない。これは自分達の問題なのだから。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

伊集院 セクト LP1100

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

『補給部隊』『一族の結束』

手札0

 

「くっ、俺のターン、ドロー!カードをセット、バトルだ!アーチャーでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!」

 

伊集院 セクト LP1100→100

 

ハンドレス状態の時、ダイレクトアタックが可能なアーチャーの攻撃で止めを刺そうとするも、すんでの所で回避される。残りLP100、あと少しだ。あと少しでセクトに手が届く。

 

「しゃらくせぇ……!」

 

「ターンエンド!」

 

鬼柳 京介 LP1250

フィールド『インフェルニティ・アーチャー』(攻撃表示)『インフェルニティ・ガーディアン』(守備表示)

セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ハーピィの羽帚』!相手の魔法、罠カードを全て破壊!」

 

「罠発動!『ヒロイック・ギフト』!お前のLPを8000にし、2枚ドロー!」

 

伊集院 セクト LP100→8000

 

鬼柳 京介 手札0→2

 

セクトが鬼柳のセットカードを一掃しようとしたその瞬間、鬼柳はセットカードの1枚を使う事で、2枚のカードを手札に加える。とは言えこれでセクトのLPは8000に回復、しかも手札を得た事で『ガーディアン』の耐性も失われた。発動しない方が得策、明らかにプレイングミスと言える行動だ。

 

『おおっと鬼柳どうした?セクトのLPを回復させてしまったー!』

 

「舐めてんのかテメェ……!ふざけんじゃねぇぞ鬼柳ゥ!」

 

セクトが鬼柳のプレイングミスに目を血走らせて怒気を放つ。鬼柳にも恩恵があるが、セクトに比べれば小さなものだ。敵に塩を送る鬼柳に再び見下されたと感じたのだろう、劣等感を刺激され、セクトのD-ホイールから伸びる黒い翼がより巨大となってホイールから吹き出す。

 

「これが、俺に出来る最善の手だ……!」

 

「ッ!ならくたばりやがれ!ベエルゼで『インフェルニティ・アーチャー』へ攻撃!」

 

鬼柳 京介 LP1250→250

 

「ぐぁぁぁぁぁっ!!」

 

激昂したセクトがベエルゼに指示を出し、ベエルゼの双頭がアーチャーを食い尽くす。馬鹿な男だ。アーチャーを蘇生させるカードを引き込めさえすれば、勝てたかもしれないものを。

 

「ターンエンド!」

 

伊集院 セクト LP8000

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

『補給部隊』『一族の結束』

手札0

 

鬼柳のLPは3桁、対するセクトのLPは初期値の倍、8000。そしてフィールドには圧倒的な猛威を奮うシンクロモンスター、暴食の決闘竜、『魔王龍ベエルゼ』。明らかに不利、勝機は閉ざされたと誰もが会場に戻って来た鬼柳に注目を集める中――鬼柳は自身のベンチにいる柚子達に視線を向け、申し訳無さそうに微笑む。

 

「――え?」

 

「セクト、悪かったな……俺が出来の悪いアニキだったせいで――だけど、俺は嬉しかったんだ。俺なんかを慕ってくれるお前の存在が。大切にしたいって思う余り、確かにお前を下に見てたのかもしれない。……だからもう、アニキぶるのはこれで終わりだ。最後だから、アニキらしい所を見せてやりたいってのも、俺の我儘かもしれない」

 

「……何を、言ってやがる……!」

 

「頼んだぜ……ユーゴ……お前に任せて、すまねぇな……俺のターン、ドロー!魔法カード、『ハーピィの羽帚』!お前の魔法、罠を一掃、カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

鬼柳 京介 LP250

フィールド『インフェルニティ・ガーディアン』(守備表示)

セット2

手札0

 

鬼柳 京介、最後のターン、全ての想いを2枚のカードに乗せ、ターンエンド。この2枚で、ベエルゼを除去し、セクトを倒す。そんな奇跡にも等しい事を――この男は、シンクロ次元最強の男は、やってのける。

 

「訳の分からねぇ事を、俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、ダブル罠発動!」

 

セクトのターンに移行すると共に、鬼柳が2枚のカードを発動する。どちらも罠カード。その、効果は――。

 

「その、カードは……っ!?」

 

「チェーン2、『強制退出装置』で、『ガーディアン』とベエルゼをバウンス!」

 

まずは一番厄介なベエルゼをバウンスし、『ガーディアン』と共にフィールドをリセット、これで後続の憂いを消し去り――鬼柳の手に、何かのスイッチが握られる。

 

「チェーン1、こいつが俺のオトシマエだ!『自爆スイッチ』!俺のLPがお前より7000以上少ない事で――互いのLPは、0になる!」

 

それは、デュエルモンスターズと言うゲーム上、引き分けに持ち込む事が出来る、珍しいカード。鬼柳としては最後のD-ホイーラーを道連れにする為、自身の持つ『インフェルニティ・ゼロ』の存在や、勝ち抜きルールを利用して投入したカードなのだが――まさか彼に使うとは思っていなかった。

 

「最初から、狙ってたのか……?『ヒロイック・ギフト』で引き込めるか分からないのに……!」

 

「そうだ……これが俺の、答えだ。上も下もねぇ、俺とお前が対等な証」

 

「そんなものっ……そんなんだから上から目線だってんだ!」

 

「そう、かもな……」

 

鬼柳がフ、と笑みを浮かべ――スイッチに、手を添える。これが、鬼柳の答え。

 

「やっ、やめ――」

 

「いいや、限界だ。押すねっ!」

 

カチリ、と渇いた音がその場に響き――激しき爆発が巻き起こり、爆風が2人を呑み込もうとしたその時、鬼柳がD-ホイールを疾駆させ、セクトのD-ホイールを、爆発に巻き込まないように突き飛ばす。

 

「なっ――!」

 

「……ごめんな――セクト」

 

鬼柳 京介 LP250→0

 

伊集院 セクト LP8000→0

 

セカンドホイーラー対決、決着――勝者は存在せず、2人はD-ホイールからスモークを上げながらベンチに帰還する。特に損傷が酷いのは鬼柳だ。ギガントLがボロボロに傷つき、鬼柳もセクトを庇ったからかボロボロだ。フラフラと走行し、ガシャリと倒れてしまう。

 

「鬼柳さん!」

 

「鬼柳!」

 

思わず飛び出す柚子と徳松。まさか彼がここまでになるとは。運ばれて来た担架に乗せられる彼を心配し、2人が身を乗り出す。

 

「すまねぇな柚子……」

 

「鬼柳さんが謝る事なんか無い!」

 

「へへ……気をつけろよ。きっと、セキュリティはアカデミアと繋がってやがる。セルゲイって野郎も危険そうだ」

 

このデュエルを通し、確信した鬼柳が柚子へと忠告する。そう、セキュリティは十中八九アカデミアと通じている。227の融合モンスターも、セクトのベエルゼも、出所はきっとアカデミアだ。そして鬼柳は医務室に運ばれていき――覚悟を決めた柚子は、怒りに燃えながらヘルメットを被り、D-ホイールに跨がる。相手のラストホイーラー、セルゲイも準備万端なようだ。

 

「私は貴方達を許せない……!鬼柳さんと、セクトの絆を引き裂いて、利用する貴方達を、絶対に……!」

 

「……」

 

キッ、と気丈にセルゲイを睨む柚子だが、セルゲイの方はまるで機械のように無反応。聞こえていないと言わんばかりに無視だ。それが柚子には堪らなく許せない。鬼柳とセクトの絆を利用するアカデミアに、メラメラと怒りを燃やす。

あんなにも仲の良い、兄弟のような2人を争わせるアカデミアを許してはいけないと柚子の良心が訴える。

そして――3つのランプが灯り、2人のD-ホイールが発進する。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!」」

 

コーナーを取り、先攻を握ったのはセルゲイ、彼はデッキより5枚のカードを引き抜き、ギョロリと視線を落とす。

 

「俺は『茨の囚人-ヴァン』を召喚」

 

茨の囚人-ヴァン 攻撃力0

 

フィールドに現れたのは茨で木の板に磔にされた不気味で恐ろしい容姿のモンスター。まるで拷問されているかのようなカードだ。悪趣味としか言えないこのカードの攻撃力は0、それを剥き出しで召喚していると言う事は何か厄介な効果があるか、防ぐ手立てがあるに違いない。

 

「カードを2枚セット、ターンエンド」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4000

フィールド『茨の囚人-ヴァン』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

攻撃力0の下級モンスターを召喚、カードを2枚セットしてターンエンド。大ダメージを与えるチャンスとも言えるが、果たして何が待ち構えているのか、怒りに燃えながらも柚子は冷静に分析する。

 

「私のターン、ドロー!相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない事で、手札の『幻奏の歌姫ソロ』を特殊召喚!」

 

幻奏の歌姫ソロ 攻撃力1600

 

現れたのは優秀な特殊召喚効果とリクルート効果を持った『幻奏』モンスター。比較的フィールドに出しやすく、後続に繋げられると言うのは大きな利点だ。

 

「ソロでヴァンに攻撃!」

 

「ヴァンの効果発動!手札の『茨の囚人-ダーリ』を公開し、400LPを払い、戦闘ダメージを0に!うっぐぅぅぅぅ……」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4000→3600

 

手札のモンスターを公開、LPを払ってダメージを0に、成程、確かに攻撃表示で出しても問題は無いが、結局破壊されるならばセットでも充分な筈だ。セルゲイの身体に茨が絡みつき、LPを失う事で苦悶の声を上げる。一体何を狙っているのだろうか、色々な意味で。

 

「そしてダメージステップ終了時、墓地のヴァンと公開したダーリを特殊召喚!」

 

茨の囚人-ヴァン 攻撃力0

 

茨の囚人-ダーリ 攻撃力0

 

本当の狙いはこちら、モンスターの展開か。これならば2体のモンスターを呼び出し、上級モンスターの布石にする事も出来る。だが――このモンスター達には、それ以上の不気味さを感じる。今度は車輪に磔にされた女性のモンスターだ。

 

「私はモンスターをセット、カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

柊 柚子 LP4000

フィールド『幻奏の歌姫ソロ』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

手札3

 

「俺のターン、ドロー!俺はレベル1のヴァンに、レベル1のダーリをチューニング!歪曲した煩悩をさらけ出し、茨に肉塊を委ねよ。シンクロ召喚、現れろ、『茨の戒人-ズーマ』!」

 

茨の戒人-ズーマ 攻撃力0

 

シンクロ召喚、2体のモンスターを素材に現れたのは首枷を装着し、茨に絡まれたモンスター。見るだけで不安になるようなカードだ。こちらも攻撃力0、一体どんな戦術を取るのか分からない。

 

「シンクロ召喚時、フィールドのモンスター全てに茨カウンターを乗せる!」

 

茨の戒人-ズーマ 茨カウンター0→1

 

幻奏の歌姫ソロ 茨カウンター0→1

 

「ターンエンド。この瞬間、ズーマの効果で自分フィールドの茨カウンターの数×400のダメージを受ける。うっ……くふぅ……!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3600→3200

 

「えっ――?」

 

訳が分からない。柚子はこの茨カウンターでセルゲイがデュエルを有利に進めて来ると思っていたが、そうではないらしい。むしろ自分を傷つける効果に困惑してしまう。

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3200

フィールド『茨の戒人-ズーマ』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

『セルゲイ、一体何を考えているのか、折角展開したシンクロモンスターも自分を傷つける要因にしかなってないぞー!』

 

「わ、私のターン、ドロー!私は2体のモンスターをリリースし、アドバンス召喚!『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』!」

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600

 

ここで登場したのは最上級の『幻奏』モンスター、展開能力を持った1枚だ。

 

「プロディジー・モーツァルトの効果で手札の『幻奏の音女エレジー』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女エレジー 攻撃力2000→2300

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600→2900

 

更に上級を展開、これで『幻奏』モンスターは効果破壊されず、攻撃力も300アップした。攻めるなら今、少々怪しいが、やはり攻撃しなければ始まらない。

 

「バトル!エレジーでズーマに攻撃!」

 

「ズーマの効果!400LPを払い、墓地のシンクロ素材に使用したヴァンとダーリを対象とし、発動!戦闘ダメージを0にし、ダメージステップ終了と共にこのカードと対象としたモンスターを蘇生!ぬっ、ふぉぉぉぉ……っ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3200→2800

 

茨の戒人-ズーマ 攻撃力0

 

茨の囚人-ヴァン 攻撃力0

 

茨の囚人-ダーリ 攻撃力0

 

再び茨が絡みつき、汚いおっさんが汚い喘ぎ声を上げる。一体誰得なのか、テレビ画面越しに見ている者からすればお茶の間凍結である。

 

「プロディジー・モーツァルトでズーマに攻撃!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!ぐっふぅぅぅぅっ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2800→1350

 

プロディジー・モーツァルトがタクトを振るって音波で攻撃し、ズーマとセルゲイが苦悶の声を上げる。フラフラと足取り危うくなるD-ホイール。

おかしい、余りにも上手くいき過ぎている。柚子がLPにダメージを負っていないのとは裏腹に、セルゲイはどんどんLPが減っていく。激しい違和感、そして不気味さが上手くいっている筈の柚子を不安にする。

 

それが確信に変わったのは――セルゲイの、恍惚とした表情を見た時。悦んでいる。自分が傷ついて尚。ゾッと背筋に冷たいものが伝う。

もしかすると――自分は何か、取り返しのつかない事をしているのではないか。

 

「――ッ!私はこれでターンエンド!」

 

柊 柚子 LP4000

フィールド『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』(攻撃表示)『幻奏の音女エレジー』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

激突するラストホイーラー、柊 柚子とセルゲイ・ヴォルコフ。嵐の前の静けさが漂う中、圧倒的な不利を抱えたセルゲイのマシンアイが――怪しく、鈍い赤の輝きを放つ。




白コナミとジャック・Dが連戦してやっと勝てる可能性が出て来る鬼柳さんとか言うチート。この人単騎で無双しかねないから扱いに困りゅ……。
セルゲイ書くの楽しいです。でも書いてると何をやってんだろうなぁと思うキャラでもあります。


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第123話 うっ、う…!(恍惚)

魔王様リメイクが有能で思わずニッコリ。尚素の魔王様は救われない模様。


行政評議会のビルにて、チームサティスファクションとチームセキュリティのラストホイーラー、柊 柚子とセルゲイ・ヴォルコフのデュエルをテレビのモニター越しに観戦する遊矢は嫌な予感をひしひしと感じていた。原因は分からない。あるとすればセルゲイがもしかするとアカデミアと通じているかもしれないと言う事か。状況は明らかに柚子有利、だがそれでも不安は拭えない。遊矢には何故か、セルゲイが自分から不利になっているようにしか見えないのだ。

 

「柚子……」

 

ギュッ、と首から下げたペンデュラムを握り締め、遊矢は瞳を揺らしながら画面を見る。今はただ、彼女の勝利を祈る事しか出来ない。それがどうにも、歯がゆかった。

 

――――――

 

一方、行政評議会の要人達が集う場にて、赤馬 零児は思考を繰り返していた。その理由は勿論、チームセキュリティがアカデミアと通じているか否かだ。現在月影に調べさせているが、恐らく間違いないだろう。ただ、証拠を掴まねば、セキュリティと言う権力相手に真っ向から刃向かう事になる。それは少々不味い。

 

それに――気になるのは、何故、彼がこの大会に参加しているのか、だ。何か目的があるのか、だとすれば――阻止しなければならない。

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

場所はサーキットへ移り、セルゲイのターンへ。明らかに興奮し、息の荒くなった彼は引いたカードを一瞥した後、手札から1枚のカードをデュエルディスクに差し込む。

 

「魔法カード、『ミラクルシンクロフュージョン』!フィールドのヴァン、ダーリ、そして墓地のズーマを除外し、融合!辛苦、痛み、凡庸なる価値を骸とし、全て脱ぎ去り、今茨の道を超えよ!融合召喚!現れよ!『茨の超越戒人-ヴァン・ダーリ・ズーマ』!」

 

茨の超越戒人-ヴァン・ダーリ・ズーマ 攻撃力0→2300

 

融合召喚、3体のモンスターが混ざり合い、現れたのはヴァン、ダーリ、ズーマがキメラのように茨で絡み合った悩ましくもおぞましいモンスター。シンクロと融合、227と同じくこの二種類を扱う戦術、やはり彼はアカデミアと通じているのだろう。柚子の気が引き締まる。

レベルは一気に上がり、8に、攻撃力も0から上がり、2300。強力な効果もある事も窺えるが、一体どのような計算をしてこの攻撃力になったのだろうか。

 

「このカードの攻撃力は2500から俺のLPを引き、2倍にした数値になる。2500から1350引き、1150、2倍にして2300だ」

 

随分と面倒な計算方法だ。これならば自身のLPを回復しつつ、LPの差分攻撃力をアップする『パーシアス』等の方がマシに見える。3体もモンスターを要求しているから尚更か。区別するならば融合モンスター、悪魔族な点を活かす事か。

 

「LPを100払い、ヴァン・ダーリ・ズーマの効果発動!プロディジー・モーツァルトの攻撃力を100にする!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1350→1250

 

茨の超越戒人-ヴァン・ダーリ・ズーマ 攻撃力2300→2500

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2900→400

 

LPを払う事で相手モンスターを弱体化させる効果。成程、この効果を持っているならば一気にワンショットキルに持ち込む事も可能だろう。ヴァン・ダーリ・ズーマが絹を裂くような悲鳴を上げながら車輪を回転させ、自身を傷つけて加速する。

 

「ヴァン・ダーリ・ズーマでプロディジー・モーツァルトへ攻撃ィ!」

 

柊 柚子 LP4000→1900

 

「くっ――!」

 

弾かれたように突き進み、プロディジー・モーツァルトを轢くヴァン・ダーリ・ズーマ。そのまま爆発を引き起こし、黒煙が吹き出し、柚子の機体を揺らす。だがまだLPは残っている。ヴァン・ダーリ・ズーマの攻撃力も対応出来ないものでは無く、反撃は充分可能だ。

 

「ターンエンド!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1250

フィールド『茨の超越戒人-ヴァン・ダーリ・ズーマ』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

「私のターン、ドロー!私は魔法カード、『融合』を発動!手札の『幻奏の音女カノン』とフィールドのエレジーで融合!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台へ!『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400

 

融合召喚、このターンからエンジンがかかり、『幻奏』の新たな力が炸裂、現れたのは山吹色の長髪をウェーブさせ、刃を持ったタクトを握り、黄金の仮面を被った音姫だ。

 

「マイスタリン・シューベルトの効果!貴方の墓地の『ゴヨウ・チェイサー』、『共鳴虫』と私の墓地のモーツァルトを除外し、攻撃力を600アップ!コーラス・ブレイク!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400→3000

 

マイスタリン・シューベルトがタクトを振るうと同時に旋律が流れ、セルゲイの墓地より3枚のカードを除外する。攻撃力は3000に、これで並のモンスターでは太刀打ち出来ない。

 

「バトル!マイスタリン・シューベルトでヴァン・ダーリ・ズーマへ攻撃!ウェーブ・オブ・ザ・グレイト!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札2→3

 

マイスタリン・シューベルトが再びタクトを振るい、音が空気を震撼、波打ってヴァン・ダーリ・ズーマに襲いかかり、破壊する。見事な腕前にしかしおかしい。余りにも呆気ない。シンクロと融合、二種の召喚法を扱っているのに――まるで歯応えが無い。

 

「私はこれでターンエンド!」

 

柊 柚子 LP1900

フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!フィールドゾーンにカードが存在する事で、俺は手札の『地縛囚人ストーン・スイーパー』を特殊召喚!」

 

地縛囚人ストーン・スイーパー 攻撃力1600

 

現れたのは黒い影に青の光を帯びたイルカのようなモンスター。先程までの『茨の囚人』シリーズとは別のカテゴリ。ただ囚人と言うにはその形は異形だ。

 

「そしてチューナーモンスター、『地縛囚人グランド・キーパー』を召喚!」

 

地縛囚人グランド・キーパー 攻撃力300

 

次も『地縛』モンスター、こちらはレベル1、チューナーであると言う事はここから出すのはシンクロモンスターか。

 

「魔法カード、『異界共鳴-シンクロ・フュージョン』を発動ぅ!フィールドのシンクロモンスターのシンクロ素材となり、融合モンスターの融合素材でもある一組を墓地へ送り、そのシンクロモンスターと融合モンスターをそれぞれシンクロ召喚、融合召喚する!」

 

「融合とシンクロを同時に!?」

 

発動されたのは何と融合とシンクロ、二種類の召喚法を同時に行う強力無比なカード、素材のモンスターのカテゴリやレベル、その他の条件を合わせねばならないが、彼のデッキはこのカードの真価を充分に発揮出来るように作られている。

 

セルゲイの背後でチューナーモンスター、グランド・キーパーが1つの光の輪となって弾け飛び、その中を潜り抜けるストーン・スイーパー。そしてその先で青とオレンジの渦が広がり、眩き閃光がリングと渦を照らす。

 

「大地に取り憑きし妖精よ、その妖しき力で万物を揺るがせ!シンクロ召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグレムリン』!」

 

地縛戒隷ジオグレムリン 攻撃力2000

 

シンクロ召喚、セルゲイのフィールドに2つの穴が空き、その中の1つから姿を見せたのは左翼に矢を縛り付け、黒き影に青い光の紋様を走らせ、2本の捻れた角を伸ばし、鎖や枷に繋がれた人型の悪魔。

 

「石に囚われし者よ!地に封じられし者と1つとなりて大地を掴め!融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグレムリーナ』!」

 

地縛戒隷ジオグレムリーナ 攻撃力2000

 

融合召喚、もう1つの穴より飛び出したのは黒き影に黄色い光のライン、額より伸びる一本角が特徴的な拘束された獣のようなモンスター。ジオグレムリンと対になるカードであり、並ぶ姿は狛犬のようだ。一気に2体のモンスターをエクストラデッキから呼び出すセルゲイ。

とは言ってもどちらも攻撃力は2000、マイスタリン・シューベルトには届かない。

 

『何とセルゲイ、シンクロと融合を同時に行いました!ここからどう出る!?』

 

「ジオグレムリンの効果!フィールドゾーンにカードが存在する場合、このカードを特殊召喚したターンのメインフェイズに1度、マイスタリン・シューベルトを対象に効果発動!相手はそのモンスターを破壊するかしないかを選択する!破壊すればこのターンのバトルフェイズはスキップされ、破壊しなければ対象のモンスターの攻撃力分、俺のLPが回復する!」

 

珍しい相手に効果を選択させるモンスター。運命の選択肢が柚子に突きつけられる。破壊すればバトルフェイズはスキップされるが、高攻撃力のマイスタリン・シューベルトを失い、次のターンにリカバリ出来るかどうか。

破壊しなければセルゲイのLPが3000回復、今まで削られた分が取り戻され、勝機を逃す可能性がある。

 

どうするか――柚子は迷うが、ここで間違えれば彼女は敗北する。もう1体のモンスター、ジオグレムリーナは相手モンスターが効果破壊された場合、自分フィールドのモンスター全てを破壊し、その攻撃力の合計ダメージを与える効果を持っている。ジオグレムリンとジオグレムリーナの攻撃力合計は4000、つまり破壊すればそこでジ・エンド。柚子が選択するのは――。

 

「破壊はしないわ!私はモンスターを信じる!」

 

ここで焦りを出さず、自分を信じて相手のLPを回復する。例え回復されても直ぐに取り戻すと言う心の表れだろう、見事な覚悟だ。その選択肢は知らずの内に彼女を救う。

 

「俺はLPを回復する……」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1250→4250

 

心なしかしょんぼりとしているセルゲイ。痛みが快感な彼としては回復は余り嬉しくないのだろう。上司のロジェの命令だから回復カードも投入しているが。しかしこれでセルゲイのLPは4250、初期値まで戻ってしまった。ここからが本番と言う事か。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4250

フィールド『地縛戒隷ジオグレムリン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオグレムリーナ』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『トレード・イン』!手札のレベル8モンスターを捨て、2枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札0→2

 

「バトル!マイスタリン・シューベルトでジオグレムリーナへ攻撃!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4250→3250

 

「くふぅぅぅぅぅっ!罠発動!『運命の発掘』!戦闘ダメージを受けた際、1枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→1

 

マイスタリン・シューベルトがタクトを振るい、ジオグレムリーナを破壊する。ジオグレムリンの効果は分かっているが、このモンスターは別だ。そしてこの選択も正解。相手モンスターを効果破壊するだけで引導を渡しかねないこのカードは早々に退場させるに限る。逆にセルゲイは優秀なモンスターを失ったと言うのに悦びの声を上げているが。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

柊 柚子 LP1900

フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『地縛救魂』発動!フィールドゾーンに表側表示のカードがある場合、墓地より魔法カードと『地縛』モンスターを回収!俺は『地縛囚人グランド・キーパー』と『異界共鳴-シンクロ・フュージョン』を回収!」

 

フィールド魔法の存在が前提とは言え、逆にそれだけで1枚で2枚のアドバンテージを稼ぐ。しかもこのカード、1ターン制限も無く、回収する魔法カードは種類を問わない。つまり、『地縛救魂』で『地縛救魂』を回収すると言う荒業と可能なのだ。

 

「『地縛囚人グランド・キーパー』を召喚!」

 

地縛囚人グランド・キーパー 攻撃力300

 

「リバースカード、オープン!速攻魔法、『スター・チェンジャー』!グレムリンのレベルを1つ上げる!」

 

地縛戒隷ジオグレムリン レベル6→7

 

更にレベルを調整。これでシンクロの準備は整った。

 

「魔法カード、『異界共鳴-シンクロ・フュージョン』を発動!」

 

「また……!」

 

『ここでセルゲイ、またも異界共鳴を発動!『地縛』モンスター2体、レベル8!2体の大型が呼び出される!』

 

再び発動されるセルゲイのデッキのキーカード、『異界共鳴-シンクロ・フュージョン』。融合とシンクロを同時に行う強力な効果により、2体のモンスターが同調し、混ざり合う。

 

「地の底から蘇れ、戒め放つ翼持つ巨獣よ!シンクロ召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグリフォン』!」

 

地縛戒隷ジオグリフォン 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、7つの星を1つのリングが縛り上げ、フィールドより飛翔するのは黒い影に緑の光る紋様を走らせ、蛇の尾を持った翼獣。獰猛な唸り声を上げ、ギロリと柚子のモンスターを睨む。

 

「地を這う囚人よ、刑場への道を歩み続ける囚人と1つとなり戒めを与える巨獣となれ!融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオクラーケン』!」

 

地縛戒隷ジオクラーケン 攻撃力2800

 

融合召喚、ジオグリフォンが天空の支配者ならこちらは海の魔物。イカの形状をした黒い影に紫色のラインを走らせた大型モンスター。しかし今回も攻撃力はマイスタリン・シューベルトに及ばない。だから――セルゲイは漆黒のD-ホイールを駆けさせ、アクションカードを掴み、デュエルディスクに差し込む。

 

「アクションマジック、『オーバー・ソード』!ジオクラーケンの攻撃力を500アップ!」

 

地縛戒隷ジオクラーケン 攻撃力2800→3300

 

これで攻撃力はマイスタリン・シューベルトを越えた。後は攻め込むのみだ。

 

「バトル!ジオクラーケンでマイスタリン・シューベルトに攻撃!」

 

柊 柚子 LP1900→1600

 

「くっ――!」

 

「ジオグリフォンでダイレクトアタック!」

 

「永続罠、『光の降臨』!除外されているプロディジー・モーツァルトを特殊召喚!」

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600

 

あわや敗北、柚子の危機に現れたのはマイスタリン・シューベルトの効果によって除外されていたプロディジー・モーツァルトだ。攻撃力は2600、ジオグリフォンの攻撃力を僅かであるが越えた。追撃は不可、ジオグリフォンの効果を使えばあるいは突破が可能だが、そうすればジオグリフォンを失う。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3250

フィールド『地縛戒隷ジオグリフォン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオクラーケン』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

『柚子ちゃんプロディジー・モーツァルトを壁にし、追撃を回避!しかし現状はセルゲイの有利か!?』

 

「私のターン、ドロー!プロディジー・モーツァルトの効果発動!手札から『幻奏の歌姫ソプラノ』を特殊召喚!」

 

幻奏の歌姫ソプラノ 攻撃力1400

 

ここで現れたのは赤毛を揺らしたその名の通り、ソプラノボイスが特徴的な歌姫だ。彼女の融合戦術において頼もしい1枚だ。

 

「ソプラノの特殊召喚時、墓地のソロを回収!そしてソプラノとプロディジー・モーツァルトで融合!至高の天才よ!天使の囀りよ!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台に勝利の歌を!『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』!!」

 

幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ 攻撃力1000

 

融合召喚、柚子の背後に青とオレンジの渦が広がり、2体の天使が混ざり合い、淡い青の光を灯した花弁が出現、回転して花開き、姿を見せたのは青き瞳の幼き少女。天女のような羽衣を纏い、美しき歌声を上げる。これこそが柚子のエースカード、攻撃力こそ低いが、それを逆手に取り、有利に進める。

 

「バトル!ブルーム・ディーヴァでジオクラーケンに攻撃!」

 

『攻撃力の低いブルーム・ディーヴァで攻撃!?』

 

「ブルーム・ディーヴァは戦闘、効果で破壊されず、このカードの戦闘で発生する自分へのダメージは0になる!そして特殊召喚されたモンスターと戦闘を行ったダメージ計算後、相手モンスターとこのモンスターの元々の攻撃力の差分のダメージを与え、その相手モンスターを破壊する!リフレクト・シャウト!」

 

反射効果を有した戦闘、効果で破壊されない強力なモンスター。そのベエルゼの天敵と言える力がブルーム・ディーヴァの歌声となって表れ、ジオクラーケンの触手を跳ね返す。

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3250→1450

 

「うっ、うっ……!」

 

強烈、弱小モンスターの逆転で爆発が巻き起こり、セルゲイのD-ホイールがクルクルと回転する。ジオグリフォンには自軍の『地縛』モンスターが破壊された場合、相手モンスター1体を破壊する効果があるのだが、ブルーム・ディーヴァの耐性の前では不発に終わる。

 

「モンスターをセット、ターンエンドよ!」

 

柊 柚子 LP1600

フィールド『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

手札1

 

再び逆転、今度は一転して柚子の有利となった。しかもブルーム・ディーヴァには強固な耐性がある。このまま押し切れば間違いなく勝てる。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『アドバンスドロー』!ジオグリフォンをリリースし、2枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→2

 

このままジオグリフォンを置いてもブルーム・ディーヴァに破壊されると判断したか、セルゲイは強力なモンスターを手放す代わりに2枚のカードを手にする。この2枚で逆転は――出来ない。

 

「モンスターをセット、カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1450

フィールド セットモンスター

セット2

手札0

 

『セルゲイ、逆転のカードを引き込めなかったのか!?このターンで終わりとなるのでしょうか!?』

 

「私のターン、ドロー!ソロを反転召喚!」

 

幻奏の音女ソロ 攻撃力1600

 

「更に『幻奏の音女オペラ』を召喚!」

 

幻奏の音女オペラ 攻撃力2300

 

現れたのは可愛らしい幼女のモンスター。レベル4にして攻撃力2300と言う破格のステータスを持っている。とは言っても召喚、反転召喚したターンは攻撃出来ないが。

 

「バトル!ソロでセットモンスターに攻撃!」

 

「ぐっ!」

 

「ブルーム・ディーヴァでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にして、1枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→1

 

「ターンエンドよ!」

 

柊 柚子 LP1600

フィールド『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』(攻撃表示)『幻奏の音女ソロ』(攻撃表示)『幻奏の音女オペラ』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「魔法カード、『ミラクルシンクロフュージョン』!墓地のジオグレムリンとジオグレムリーナで融合!地を司る悪魔よ、大地を掴む悪魔よ、今雌雄一つとなりて大いなる大地の底より来たれ、融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』!!」

 

地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス 攻撃力3000

 

大地に眠る2体の悪魔が重なり合い、巨大な翼を広げる魔王と化す。黒き影にオレンジの紋様を走らせ、鋭き爪と野太い尾を振るう、捻れた山羊の角を伸ばした大地の悪魔。これこそがセルゲイの切り札。シンクロと融合を一体とした地上絵の存在。

 

「罠発動!『ブレイクスルー・スキル』!ブルーム・ディーヴァの効果を無効にする!バトル!ジオグラシャ=ラボラスでブルーム・ディーヴァへ攻撃!」

 

「罠発動!『仁王立ち』!オペラの守備力を倍にし、除外して攻撃を絞る!」

 

幻奏の音女オペラ 守備力1000→2000

 

柊 柚子 LP1600→900

 

あわやブルーム・ディーヴァが破壊され、敗北の危機に立たされたその時、罠を使ってオペラに攻撃を誘導する。ブルーム・ディーヴァは強力な効果を持っているが、元々のステータスが低い為、効果を無効化されてはただの的になってしまう。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1450

フィールド『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「私のターン、ドロー!バトル!ブルーム・ディーヴァでジオグラシャ=ラボラスへ攻撃!」

 

「罠発動!『フローラル・シールド』!攻撃を無効にし、1枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→1

 

「また攻撃反応系……!」

 

『ガード・ブロック』が戦闘ダメージを0にして1枚ドローするカードであり、このカードは攻撃自体を無効にして1枚ドローする類似カードだ。攻撃してもこうしてかわされ、手数を増やす。厄介極まりない、セルゲイとしてはダメージを受けられなくてしょんぼりである。

 

「メインフェイズ2、『幻奏の音女カノン』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女カノン 守備力2000

 

次の攻撃に備え、柚子な防御手段を取る。現れたのは『幻奏』の表示形式を操るモンスターだ。このモンスターの効果で次のターンのブルーム・ディーヴァの無効対策を取る。

 

「カノンの効果でブルーム・ディーヴァを守備表示に変更、ソロを守備表示に変更し、ターンエンド!」

 

柊 柚子 LP1900

フィールド『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』(守備表示)『幻奏の音女ソロ』(守備表示)『幻奏の音女カノン』(守備表示)

手札1

 

『柚子ちゃん場を固めた!強固な壁を前にセルゲイの魔の手が迫る!』

 

「俺のターン、ドロー!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、ブルーム・ディーヴァの効果を無効に!バトル!ジオグラシャ=ラボラスでブルーム・ディーヴァに攻撃!このモンスターがシンクロ、融合モンスターと戦闘を行う場合、相手モンスターの攻撃力を0にする!」

 

幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ 攻撃力1000→0

 

悪魔が天使の花弁を散らす。能力を奪われ、花の盾を失ったブルーム・ディーヴァへとジオグラシャ=ラボラスが鋭き爪を突き立て八つ裂きにする。ダメージは無いが、その風圧、フィールによってジリジリ減速する柚子。だがまだまだ、モンスターは残っている。逆転の可能性はなくならない。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1450

フィールド『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「私のターン、ドロー!カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

「この瞬間、罠発動!『無力の証明』!自分フィールドにレベル7以上のモンスターが存在する場合、相手フィールドのレベル5以下のモンスターを全て破壊する!」

 

「なっ――!?」

 

逆境の柚子に追い撃ちをかけるセルゲイ。彼が発動したカードにより、ジオグラシャ=ラボラスが尾を振るって『幻奏』モンスターを蹴散らす。巨大な悪魔を前に、柚子の天使達は余りに小さい。

 

「俺のターン、ドロー!永続魔法、『補給部隊』を発動!バトル!ジオグラシャ=ラボラスでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

巨大な悪魔の猛威をかわす柚子。セルゲイも手強いが、柚子も食らいつく。少女と言うにはとんでもない根性だ。

 

「私は諦めない!徳松さんも鬼柳さんも、諦めなかった!遊矢だって何度挫けても立ち上がった!だから私だって諦めない!私だってデュエリストよ!鬼柳さんとセクトの絆を裂いた貴方達を許せない!」

 

「……!」

 

真っ直ぐに、一途にぶつけられる清く正しい心を前にして、セルゲイの瞳が揺れる。何と美しい心か、何と正しい少女か。手を伸ばしても届かない、太陽のような輝き。セルゲイはそれに対し――。

 

「俺はこれでターンエンド……」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1450

フィールド『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』(攻撃表示)

『補給部隊』

手札1

 

「私のターン、ドロー!来た!私は速攻魔法、『死者への供物』を発動!次の私のドローフェイズをスキップし、ジオグラシャ=ラボラスを破壊!」

 

まずは厄介なジオグラシャ=ラボラスの破壊を。融合モンスターの攻撃力を0にするこのカードはブルーム・ディーヴァでしか対応出来ない。だからこそ効果で退場させ、セルゲイのフィールドをがら空きにする。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札1→2

 

「更に私は魔法カード、『オスティナート』を発動!私のフィールドにモンスターが存在しない事で、デッキから『幻奏の音姫ローリイット・フランソワ』と『幻奏の音女アリア』を墓地に落とし、融合!」

 

融合の中でも特に強力、1枚で融合出来、デッキ圧縮も可能となるデッキ融合が炸裂する。これで呼び出すのは――。

 

「融合召喚!今こそ舞台に情熱の歌を!『幻奏の華歌聖ブルーム・プリマ』!」

 

幻奏の華歌聖ブルーム・プリマ 攻撃力1900→2500

 

現れたのはブルーム・ディーヴァと同じく一輪の花より咲き誇る幼き少女。美しき歌声をハイウェイに響かせるその姿は正に華歌聖。

 

「バトル!ブルーム・プリマでダイレクトアタック!」

 

魂を込めた一撃。これが決まれば柚子の勝利。セルゲイの場にはこれを防ぐ手立てはない。ブルーム・プリマの口の周りにリングが形成され、激しき情熱の歌が響き、リングを通して巨大化、セルゲイへと降り注ぐ。

 

「手札の『バトル・フェーダー』を特殊召喚!バトルを終了させる!」

 

バトル・フェーダー 守備力0

 

「これもかわされた――!」

 

現れたのは手札誘発モンスターの1体、『速攻のかかし』と並ぶバトルフェイズを終了させる防御札の1枚だ。鐘の形をした悪魔。このモンスターの利点はフィールドに残り、リリース要員や他の召喚の素材となれる事にある。逆に場に残る事で低いステータスを狙われ、貫通ダメージを与えられる事もあるが。

 

「ターンエンド。この瞬間、『オスティナート』の効果でブルーム・プリマを破壊し、その素材を蘇生する!」

 

幻奏の音姫ローリイット・フランソワ 守備力1700

 

幻奏の音女アリア 守備力1200

 

これが『オスティナート』のもう1つの効果。融合素材に選んだ一組をフィールドに蘇生するリカバリー手段にも長けた1枚だ。フィールドに呼び出されたのは墓地の光属性、天使族をサルベージする上級モンスター、ローリイット・フランソワと『幻奏』モンスターに戦闘、効果耐性を与えるアリア。中々に固い布陣だ。

 

「ブルーム・プリマの効果で墓地のブルーム・ディーヴァを回収!」

 

柊 柚子 LP900

フィールド『幻奏の音姫ローリイット・フランソワ』(守備表示)『幻奏の音女アリア』(守備表示)

手札0

 

今考えられる中でも強固な布陣を敷く柚子。だが何故だろうか、この布陣でも、嫌な不安が拭えず、背から冷たい汗が伝う――。

 

――――――

 

「……現状はセルゲイの不利、まさかあの少女がジオグラシャ=ラボラスも倒すとは」

 

治安維持局にて、椅子に腰かけたロジェはモニターをジッ、と観察し、僅かながら動揺していた。まさか柚子がここまでセルゲイを追い詰める程とは思ってもなかったのだろう。想定ではジオグラシャ=ラボラスを出せば何とかなると思っていたのだが――彼女はその想像を越える程に強い。

 

「――やはり、プラシド、お前の忠告を聞いておいて良かった」

 

「俺もここまでとは思ってなかった。想定外の為にあのコピーカードを出さざるをえないとはな――」

 

それでも、セルゲイには届かない。プラシドの与えたカードが無ければ、あるいは柚子の勝利も見えただろう。しかし、最早それは、あり得ない。何故ならセルゲイの手には――あの地に縛られし邪神の複製が、握られているのだから。

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!俺は『ジェスター・コンフィ』を特殊召喚!」

 

ジェスター・コンフィ 攻撃力0

 

フィールドに登場したのは玉に乗ったピエロのモンスター。優秀なサポートが受けられるカードであり、特殊召喚が容易な1枚だ。

 

「2体のモンスターをリリース!積年の恨み積もりし大地に眠る魂達よ!今こそ穢された大地より出でて、我に力を貸さん!アドバンス召喚!降臨せよ、『地縛神Chacu Challhua』!!」

 

地縛神Chacu Challhua 攻撃力2900

 

2体の贄を捧げ――今、邪神が君臨する。今までの『地縛』モンスターと似て非なる、悪魔を越え、統べる神。巨大な黒き体躯に紫色のラインを走らせた鯱のモンスター。『地縛神Chacu Challhua』。これこそがセルゲイのもう1つの切り札であり――遥か昔に、赤き竜の僕と大戦を繰り広げた邪神の複製。コピーと言っても、その存在感は圧倒的、その姿を見て、誰もがのまれる。

 

「……何……これ……!?」

 

『こ、これは何とだぁーっ!?セルゲイ選手、この土壇場にとんでもないモンスターを召喚したぁーっ!』

 

「で、でもアリアがいる限り、私のモンスターは効果の対象にも、戦闘で破壊される事も無い!」

 

「美しく、完璧な布陣、だがこの神の前では無意味!Chacu Challhuaは、ダイレクトアタックが可能!」

 

「そん、な――!」

 

全てを砕く、絶望の神。この神の前では、全てが無意味。

 

「ヒヒ、ハハハハハァ!やれ、Chacu Challhua!壊して壊して、壊し尽くせぇ!」

 

Chacu Challhuaがその巨体を動かし、今その尾が――柚子のD-ホイールに激突、彼女を大きく吹き飛ばす。

 

「――あ――」

 

柊 柚子 LP900→0

 

そのまま吹き飛ばされた柚子な――D-ホイールごと、ビル群と激突、爆発が、巻き起こる。

勝者、セルゲイ・ヴォルコフ。その結果に、誰もが押し黙り、声も出せない。

 

――――――

 

「そん、な……柚子……柚子ゥゥゥゥゥ!」

 

余りにも予想外の結果、テレビのモニター内で巻き起こる悲劇を見て、思わず遊矢かを動揺し、大切な彼女の名を呼ぶ。柚子の運命は果たして――。

 

――――――

 

「全く……俺様がいなければ流石に危なかったぞ……」

 

『兄貴ってば優しいんだから~この、このっ!』

 

『ヒュー、ヒュー!』

 

『憎いねっ!』

 

「やかましいわ!」

 

柚子が爆発に巻き込まれたビル群の近くにて、その男はいた。ツンツンと尖った黒髪に、黒いジャケット。全身に黒を纏ったような男。その男の周囲には、黄、緑、黒と何とも微妙な色をした赤いブーメランパンツ一丁の小さな異形達が浮かび、高い声で彼を囃し立てる。

そして彼の背には――1人の少女が、背負われていた。




シャーク&ジャック&黒咲「スタンダード人頑丈過ぎるんだけど」

遊矢「だって当然だろ?デュエリストなら」(吹き飛ばされて首から地面に叩きつけられながら)


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第124話 イテテ……

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800←分かる。
グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力3300←分かる。
覇王眷竜スターヴ・ヴェノム 攻撃力2800←分かる。
覇王紫竜オッドアイズ・ヴェノム・ドラゴン 攻撃力3300←分かる。
スターヴ・ヴェネミー・ドラゴン 攻撃力2500←まぁ、分かる。
スターヴ・ヴェネミー・リーサルドーズ・ドラゴン 攻撃力2800←!?
ダーク・アンセリオン・ドラゴン 攻撃力3000←!?!?

バランスが分からない……。ヴェネミーでバランス取っといて何でアンセリオンの攻撃力が3000なのか、ランク7だからと思えばまぁ、分からないでも無いけど、リーサルドーズは進化体なのに300アップってどう言う事なの……?


フレンドシップカップ、1回戦第1試合、チームサティスファクションVSチームセキュリティのデュエルは、セルゲイの手によりセキュリティの勝利となった。……チームサティスファクションのメンバーに深い傷を残して。

 

デュエルに敗北した事により、徳松は地下労働施設送り。鬼柳はセクトとの絆を裂かれ、重傷を負い、こちらも治療が終わり次第地下送りとなる。そして最後のメンバー、柊 柚子は――セルゲイの操る禍々しいモンスター、『地縛神』の攻撃でビルに激突、現在彼女の確保を画策するロジェの手により、セキュリティによる捜索が行われているものの、行方不明となっている。

 

それでも、フレンドシップカップは進行する。そんな中――シティ、コモンズ達が住居を構える下層エリアのとあるビルにて、その少女は目覚める。

 

「イテテ……ここは一体……私は確か……」

 

少女の名は柊 柚子。セルゲイに吹き飛ばされ、爆発に呑み込まれた筈であるが――そのストロングさ故に身体が頑丈に出来ているのか、傷1つ無い。彼女はそのまま少々痛む頭を抑え、よろめきながらも立ち上がって辺りの様子を見る。コモンズの廃墟か何かだろうか――と言っても随分と綺麗で清潔感があり、妙に人が住んでいる気配がする。

 

「そうだ、私、セルゲイに……!」

 

漸く自分がセルゲイに敗北した事を思い出し、反射的に飛び上がるが――そんな彼女の前に意外な人物が姿を見せる。

 

「あ、起きたのね!」

 

「え――あなたは――」

 

――――――

 

「クソッ、柚子、柚子っ……!」

 

一方、行政評議会管理のビルにて保護されている遊矢は、柚子がセルゲイに吹き飛ばされた事で冷静さを失い、テーブルの上から無造作にデュエルディスクを掴み取り、荒々しく部屋を飛び出そうとしていた。無理も無いだろう、彼にとって柚子は心の支えとも言える大切な少女だ。

チャンピオンシップで行方不明となっただけでも我を失っていたのだ、彼女の無事が分からない今、鬼気迫る形相となっている。その彼の前に現れたのは――赤帽子にゴーグルを装着し、赤いジャケットを肩からかけた少年、コナミだ。

 

「落ち着け遊矢、お前には試合があるだろう」

 

「これが落ち着けるか!退いてくれコナミ!試合なんかどうでも良い!柚子の方が大切だろう!?」

 

「分かっている。だが態々試合が控えているお前が行く事は無い!」

 

親友であろうコナミが相手だろうと容赦無く食らいかかり、柚子の元まで急ごうとする遊矢をコナミが宥める。コナミとて柚子を見捨てろと言っている訳ではない。

 

「オレの試合は最後だ、お前の次の試合に出る黒咲、そして試合に出ないユートと零羅も柚子を探すと言っている。だからここはオレ達に任せてくれないか?」

 

「ッ!」

 

そう、ここで遊矢が行けば彼が失格になってしまうだろう。だからこそ試合まで時間があるコナミ達が捜索に出ようと申し出たのだ。

 

「……任せて、良いんだな?」

 

「赤馬の許可は得ている。オレ達は別のチームに別れてもランサーズだ。仲間を信じろ」

 

漸く落ち着いた遊矢が覚悟を決めた表情でコナミに語りかける。本当は自分が行きたい。だが――ここは信じられる友に託す。

 

「ごめんコナミ、俺焦って……柚子を頼む。このカードを、ユートに」

 

「任せろ、必ず無事で終わらせる」

 

ガシリと握手を交わし、2人は互いに違う道に進む。そんな彼等の前に現れたのは――次の試合、遊矢の所属するチームランサーズと対決するチーム革命軍のリーダー、シンジ・ウェーバーだ。

 

「柊 柚子の事は諦めるんだな、残念だが、あの子は助からない。助かったとしても、ここに戻れば地下送りだ」

 

「シンジ……」

 

「だから、柊 柚子のような犠牲者を出さない為にも、俺達がシティを変えるしかねぇ……!」

 

バシリ、右拳を左手に殴り付け、やる気満々と言った様子のシンジ。その瞳の奥にあるのは我欲か、復讐か、いずれにせよ彼の言葉は聞き捨てならない。コナミは駆けつけて来るユート達を視界におさめながらシンジの真横を通り過ぎる。

 

「柚子は助かるし、残念ながらお前の目的は果たされん。その事を、大事な事を、お前の目の前にいる奴が教えてくれる筈だ」

 

遊矢がいる限り、彼の黒い野望は叶えられる事は無いと、コナミは友を信じて先に進む。後は互いに任せるのみ。遊矢は第2試合に向け、コナミは柚子救出の為、迷わずに道を進む。

 

「来たかユート、零羅。少々急ぐ、舌を噛まんように気をつけろ」

 

「ん?」

 

「……?」

 

ガシリ、コナミがやって来たユートと零羅を脇に挟み、窓を開く。まさかこの男――ひょっとしなくても、またとんでもない事をしようとしていないか。

 

「成程、確かに手っ取り早いな」

 

ニヤリ、対する隼はコナミ側なのか、不敵な笑みを浮かべる。そして2人はデュエルディスクよりデュエルアンカーを射出、向かいのビルへと引っ掛け――タンッ、窓から一気に飛び降りる。

 

「ちょまっアーっ!?」

 

「……!?……っ!?」

 

「ついて来い黒咲!」

 

「ああ!」

 

ああじゃないが。心の準備もさせてくれぬ即決行動にユートと零羅が動揺する。相変わらず無茶をする2人である。2人を抱えてアンカーを使いこなすコナミも流石だが、それについていく隼もとんでもない。そして4人は地に着地し、ビルの裏口に辿り着く。

 

「し、死ぬかと思った……!」

 

「……」

 

余りのとんでも体験にぐでんと倒れるユートと零羅。零羅に関しては最早魂が抜けている。幼い子供にはショックが強すぎたか。しかし全く反省しないコナミは気絶した零羅を小脇に抱え、気にも止めずに再行動に出る。

 

「情けないぞユート、それでもレジスタンスか」

 

「もう俺レジスタンスじゃなくて良い」

 

ピョンピョン飛んだり跳ねたりするのに最早レジスタンスは関係ない気がする。むしろ赤い配管工に近い。

 

「さて、行こうか。余り時間はかけてられん」

 

任務開始、コナミは零羅を脇に抱えたままと言う人拐いスタイルで、隼はサングラスをかけ、口元にスカーフを巻いた不審者スタイルで街を駆ける――。目的は柚子の捜索。ユートはその姿では職質を受けるぞとツッコミたかったが――もう面倒臭いので放置した。

 

――――――

 

一方その頃、フレンドシップカップの会場では、D-ホイールの準備の為、チームランサーズのメンバー、榊 遊矢、ユーゴ、セレナの3人がピットに揃っていたのだが――。

 

「やんのかコラ?」

 

「やってやんよオラ」

 

「良い加減にせんか貴様等!同じ顔同士で睨み合うな気持ち悪い!」

 

「ウキャ!」

 

「ぐふっ、その顔でその台詞は効く……!」

 

そこで繰り広げられていたのは遊矢とユーゴの喧嘩であった。彼等はピットで顔を合わせた途端、珍しく遊矢の方から無言でメンチを切り、それに感化されたユーゴが睨み返して額をぶつけ合う程睨みを効かせ、罵倒し始めたのだ。

 

間に挟まれたセレナとSALとしては堪ったものでは無い。普段は温和な遊矢が喧嘩を売ると言う不可解な行動に戸惑いながらもセレナは彼等を引き剥がす。このままでは試合になった時、チームワークが心配だ。

 

何せ相手は沢渡を倒したクロウ・ホーガンとそれに比肩するであろう実力を持つシンジ・ウェーバー率いるチームなのだ。同じ仲間でもあり、連携も高い筈、少なくともいがみ合っているようでは勝てない。

 

「おい遊矢、一体どうした?何時ものお前なら誰であろうと仲良くする筈だ。少なくとも自分から喧嘩を売るような真似を……まさか柚子の事で気が立っているのではあるまいな?」

 

「ウキャキキ」

 

彼のらしくない行動にもしかすれば柚子の無事が分からないからなのでは?と探るセレナとSAL。一番考えつくものはこれだが――遊矢は、ムスリと頬を膨らませたまま腕を組み、ユーゴを睨みながら答える。

 

「それもあるかもしれない」

 

「む」

 

「何だよ八つ当たりか?分からねぇでも無いが――」

 

「でもその前にこいつはユートを傷つけたんだ」

 

「おふぅ」

 

予想外の言葉に頭をガシガシと乱暴に掻いていたユーゴの手が止まり、頬から空気が抜けるような間抜けな声を漏らす。そう、遊矢は最初からユートの消滅の事でユーゴに怒っていたのだ。戻って来たとは言え、友を傷つけたユーゴを見て、普段のように接する事が出来なかったと言う訳だ。

 

「成程、だそうだぞ融合」

 

「融合じゃねぇ!ユーゴだ!……わ、悪かったよ……あの時は俺も意味分かんなくてさ……一応あのナスビ野郎……ユートにも謝った」

 

「だそうだ遊矢、お前もいきなりだったし、そんな調子では皆を笑顔には出来んぞ」

 

「うぐ……」

 

「この通り!」と手を合わせ頭を下げるユーゴを見て、セレナが溜め息を吐きながらジトリとした視線を遊矢に向ける。喧嘩両成敗。いきなり睨んで来た遊矢も悪く、こんな事ではアカデミアを笑顔には出来ないとセレナは遊矢も叱りつけているのだ。遊矢は言葉をつまらせ、眉を伏せた後、反省してユーゴに頭を下げる。

 

「俺も……柚子の事で気が立っていたんだと思う……いきなりごめん」

 

「と言う訳だ。2人共、どうする?」

 

「気にすんなって!元々俺が悪かったみたいだし、許すぜ!」

 

「ああ、俺も許すよ。何時までも恨み合うなんて嫌だからな。どうせなら仲良くなりたい」

 

再びのセレナの問いに対し、2人はカラッと晴れたような笑顔で互いを許す。2人共何時までも憎み合うような性格ではない。握手を交わし、仲直りをする2人を見て、うんうんとセレナが頷く。

 

「うむ、一件落着と言う訳だな!」

 

「ウキッ!」

 

この調子ならば上手くすれば善戦出来るだろう、セレナが一安心し、SALが彼女の肩で一鳴きした、その時だった。

 

「ま、何たって俺はこのチームのリーダーだからな!器が大きいのよ!」

 

「は?」

 

「あ?」

 

カーン、2回戦開始のゴングが鳴り響き、再び遊矢とユーゴが額をぶつけ、メンチを切り合う。一難去ってまた一難。何とも前途多難なチームである。思わずSALがセレナの肩からズルリと落ち、呆れ返る中――。

 

「馬鹿者!リーダーは私だ!」

 

主人であるセレナまでも参戦し、リーダー争いは更にもつれ込む。何なんだこのチーム。SALは思わず両手で顔を覆い、器用にミザル状態となる。

 

――リーダーは俺だろうに、ええい、それよりチカチカチカチカとそこの娘のブレスレットが眩しいわ!――

 

そこで更に遊矢の脳裏に例の声が響き、遊矢の影から発生した黒い瘴気がセレナの手首で光るブレスレットを覆い――一際大きく輝く。

 

――イワァァァァァァクッ!?――

 

「ええ!?」

 

「ッ!?」

 

悲鳴を上げる謎の人物。それっきり声はうんともすんとも言わなくなり、セレナのブレスレットからも光が失われたのであった――。

 

――――――

 

「駄目よ今動いちゃ、目立った外傷が無いとは言え、あんなに派手に吹き飛ばされたんだから」

 

「え、で、でも……」

 

「ダ、メ、よ?」

 

場所は移り、シティ、コモンズが居を構える下層エリア。そこでは同じ顔をした少女が備えつけられたソファに腰をかけさせ、叱りつけ、もう1人がしょんぼりと項垂れると言う奇妙な光景が繰り広げられていた。

 

1人はやや汚れたライダースーツを着て、ピンク色の髪をツインテールに纏めた少女、現在、遊矢が行方を心配する幼馴染みであり、コナミ達が捜索している柊 柚子だ。

彼女の額を指で小突き、叱りつけたのはそんな柚子と似た顔立ちに紅玉の瞳、美しい黒髪を首近くで括った少々大人びた少女だ。

彼女はしゅんとする柚子を見て苦笑した後、ギュッと柚子に抱きつく。

 

「もうびっくりしちゃったわ、いきなりいなくなったと思ったら大会に出てて……あんなに吹き飛ばされたんだから……心配したのよ?」

 

「え?あ、えと、ごめんなさい……?」

 

「フフ、無事で良かったわ。ちょっと待っててね、今簡単なものを作るから。お腹空いてるでしょ?」

 

「わ、私は別に……」

 

妙に親しくして来る自分そっくりな少女に対し、柚子は意味も分からないまま会話を続ける。一体この少女は誰なのだろうか?セレナでは無いようだし、と考えた所で、キュー、と柚子の腹の虫が鳴く。思わず顔を赤くする柚子。恥ずかしく穴があったら入りたいとはこの事だろう。

 

「フフッ」

 

「い、いただきます……」

 

顔を真っ赤にして俯く柚子を見て、少女が吹き出す。何とも微笑ましい光景だ。少女は部屋に持って来た食材を手に取り、キッチンへと入っていく。

 

「待っててねリンちゃん!こう見えて私、料理が得意なんだから!」

 

「え?あの、もしかして貴女――」

 

柚子の事をリン、なる少女と勘違いする彼女を見て、柚子の頭からそう言えばユーゴの幼馴染みであり、自分と似た顔立ちの少女がリンだった事を思い出す。彼女は柚子をリンだと勘違いしており、彼女自身はセレナでない。と言う事は、やはり彼女は――。

と、その時だった。2人の青年がドタドタと別の部屋から外出しようとしていたのは。

 

「あら、サンダー、エアー、どうしたの?」

 

「何、少し知り合いを見つけただけだ。暫く出掛ける。絶対にここを出るな、何かあったら連絡しろ」

 

1人はツンツンとした黒髪に鋭い目付き、黒いジャケットを纏った全身黒一色の青年。もう1人はオールバックに髪を流し、黄色い制服のようなものを着用した、どこか影の薄そうな青年だ。この少女の知り合いなのか、親しそうに話している。

 

「もしかして……追手……?」

 

「いや、それは無いだろう。追手は完全に撒いた、ただ知り合いに借りを返すだけだ。お前はそいつと大人しくしていろ」

 

「分かったわ、夕飯には戻って来てね」

 

「俺は子供か……お前も勝手にフラフラ出歩くなよ」

 

「え?あ、はい」

 

サンダーと呼ばれた目付きの悪い青年がギロリと柚子を睨んで釘を刺す。どうやらこの男も柚子の事をリンと勘違いしている模様だ。と言う事は――このシンクロ次元に、リンがいて、アカデミアから狙われ、鍵を握る少女が4人、揃っていると言う事。

 

柚子は鬼気迫る男の表情に気圧されながらも頷き、チラリと少女に視線を移す。この少女は、やはり――サンダー達がバタバタと慌ただしく外出する中、柚子は少女の背に向かって語りかける。

 

「もしかして――貴女は、瑠璃なの……?」

 

「――え……?」

 

シンクロ次元にて、ゆっくりと揃う4人の少女。歯車は狂う。静かに、確実に――。

 

――――――

 

「……おかしいな……」

 

更に場所は変わり、柚子がセルゲイによって吹き飛ばされ、激突した高層ビル。様々なD-ホイールが並ぶその階にて、コナミ達はセキュリティに取り押さえられる前に足を踏み入れていた。

ザッ、と見渡すが、酷いものだ。窓のガラスは盛大に割れ、一部のD-ホイールの装甲がひしゃげて半壊されており、黒煙がモクモクと出ている。直ぐ様隼が消火器を使って鎮火する。

取り敢えず鬱陶しい煙は多少おさまったが、やはりおかしい。その原因は――。

 

「ああ、柚子がいない」

 

そう、柚子がいない事だ。あれ程派手に吹き飛ばされていれば、いくらストロングで頑丈な柚子とは言え、動けない筈だ。それなのにも関わらず、痕跡は残っていない。つまり柚子は誰かに連れ去られたと言う事だ。

3人の表情に緊張が走る。もしやアカデミアの手に捕らわれたかと、最悪の想像が脳裏を過る。そうなっては直ぐ様次元移動で足を掴めなくなる。

 

隼が舌打ちを鳴らす中、コナミはポイと小脇に抱えた零羅を雑にユートに投げつけ、裏口に回り込む。仮にも仲間を気絶させこの仕打ち、外道である。

 

「お、おいコナミ!何を……」

 

「少し待っててくれ、急ぐ」

 

そうして扉を開き、監視カメラの映像が写されたモニターを操作する。成程、ユートが彼のしようとしている事を察し、舌を巻く。

 

「監視カメラの記録を、見てるの……?」

 

「零羅、起きたのか……」

 

と、そこでユートが背負った零羅がモゾモゾと動き、コナミに視線を飛ばす。そう、コナミは残された監視カメラの映像を見て、柚子がどうなったのかを調べているのだ。

 

「ああ、それにセキュリティが負えないように偽装する。……あったぞ」

 

そして、モニターにその様子が写り、4人が覗き込む。そこに写っていたのは、吹き飛ばされる柚子がガラスを突き破り、こちらへと迫り来る瞬間、その時カメラに黒いものが移り込む。現れたのは白いマントを羽織った3人の怪しい人物。1人は柚子を背負う男、そしてもう1人はカメラから見切れた男、最後の1人は女性なのか、背が低く、線が細い。丁度柚子と同程度か。何やら彼女の存在に、ユートと隼がどこかで見たようなと考え込む。そして彼等は早足に部屋から出ていく。

 

「柚子はこいつ等に連れ去られたのか……?隼……?」

 

「……ん、いや、この女、何やら見慣れた動きをする……駄目だ、喉元まで出ているんだが思い出せないと言うか、いや、まさかな……?」

 

「兎に角直ぐに次元移動しなかったと言う事はアカデミアではないか、まだこの次元に用があるかだ。まだそこまで遠くにはいってない筈だ。周辺を調べるぞ」

 

「ッ、セキュリティが来た……」

 

「まぁ、放っては置かんだろうな、後片付けは奴等に任せて急ぐぞ!」

 

セキュリティに気づかれぬように忍び足でビルから脱出し、柚子の捜索を再開する。するとビルから離れた所で――彼等の上から影が差し、何事かと見上げる。そこにあるのは照りつく太陽をバックに飛び出す黒い人影。ユート達が眩しさで目を覆う中、その影はザッ、とコンクリートに着地し、4人の前に立ち塞がる。

 

「貴様等は――!」

 

眼前に現れたのは2人の男。1人はツンツンとした黒髪に鋭い目付き、黒一色のジャケットが特徴的な青年。もう1人はどこか影の薄い、黄色い制服を着用したオールバックの青年。その腕に着けたのは、アカデミア特有の、盾型のデュエルディスク。その身に纏う闘気は、どこかで味わったもの。

 

「久しいな、榊 遊矢、黒咲 隼!」

 

「尤も、あの時は顔も名も隠していたから覚えてなくても不思議じゃないがな」

 

「……」

 

彼等はユートを遊矢と勘違いし、隼と共に名を呼ぶ。この男達は2人を、正確に言えば遊矢と隼を知っている。彼等の姿や声、闘気を頼りにユートと隼は記憶から2人を引き出し――コナミは彼等を見て、帽子の奥の瞳を見開き、黙り込む。そう、彼等は――。

 

「オベリスク・フォース・サンダーと……えっと……」

 

「エアーだよ!何でそっちだけ忘れるんだ!」

 

「……改めて名乗ろうか、俺はオベリスク・フォース・サンダー改め、万丈目 準!」

 

「オベリスク・フォース・エアー改め、三沢 大地!」

 

オベリスク・フォース・サンダーとオベリスク・フォース・エアー。スタンダート次元にて、次元を巻き込んだ舞網チャンピオンシップ、バトルロイヤルで遊矢と隼のコンビを苦戦させた強敵だ。最終的に遊矢達が勝利したものの、それはバトルロイヤルと言うルール、そして2人の力を合わせた事が大きいだろう。あの時は単純な実力は2人が上だった筈、しかも彼等は、手を抜いていたのだ。

 

「お前達が柚子を連れ去ったのか……!」

 

「?柚子、何の事だ?俺達は貴様等にリベンジを果たしに来ただけだ!」

 

そう言ってサンダー、万丈目とエアー、三沢はデュエルディスクよりワイヤーを射出し、万丈目がユートに、三沢が隼を拘束し、大きく引っ張り跳躍する。

 

「ッ!ユート、黒咲……!」

 

「ぐっ、コナミ!零羅!こいつ等は俺達に任せて先に行け!こいつ等が出て来たと言う事は恐らく柚子は近くにいる!」

 

「ッ!わかった!ユート、このカードを!」

 

場所を変え、移動する中、ユートが構うなと声を張り上げてコナミ達を急かす。ここは足止めされ、時間を奪われるべきでは無い。コナミと零羅は頷いてユートに向かって1枚のカードを投げつけて駆ける。

 

「!このカード……さて、俺を分断したと言う事は、1対1で構わないんだな?」

 

「当然だ、今度は邪魔1つ入らない、1対1のデュエルと行こう」

 

「……少し違うな」

 

「何?」

 

ニヤリ、ユートが口元を吊り上げて笑みを描き、〝自信本来の〟デュエルディスクを左腕に巻き付け、1枚のカードをエクストラデッキにおさめた後、光輝くプレートを展開、続いてディスクのパネルを操作し、電子音が鳴り響く。

 

『アクションフィールド、『クロス・オーバー』発動』

 

瞬間、辺り一面が光の粒子に覆われ、青白く輝くブロックが宙に浮かぶ。そう、ユートはコナミ達と合流する前に遊矢達と同じアクションフィールドシステムを新たに得た自身のデュエルディスクを赤馬から受け取っていたのだ。

 

「随分と久しいな、このデュエルディスクも、デッキも……」

 

これにて、レジスタンスのユートはランサーズのユートへと完全復活を果たした。

 

「ふっ、アクションデュエルか……これ位のハンデは構わんだろう、行くぞ!榊 遊矢!」

 

「……俺も、改めて名乗ろう」

 

「俺の名はユート、このシンクロ次元では――ナッシュと名乗っている」

 

「ユートにナッシュ……聞いた事があるぞ、アカデミアを悉く撃退し、黒咲と肩を並べるレジスタンスの砦、ユート。そして――七皇の王、ナッシュ……!面白い、どちらが本名かは分からんが、榊 遊矢と再戦出来ん代わりに当たりを引いたようだ」

 

ニヤリ、ユートの名乗りに対して万丈目も口元を吊り上げて好戦的な笑みを浮かべ、デュエルディスクより光輝くプレートを展開する。両者ともに準備は万端、そして――激突。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻はユートだ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、思考する。今まで遊矢の隣や拾ったデッキで闘ったとは言え、このデッキではブランクがある。彼のスタイル的にもまずは防御を固めるべきだろう。

 

「俺はモンスターをセット、永続魔法、『幻影死槍』を発動、カードを1枚セットしてターンエンド」

 

ユート LP4000

フィールド セットモンスター

『幻影死槍』セット1

手札2

 

「消極的だな、俺のターン、ドロー!俺は『アームド・ドラゴンLV3』を召喚!」

 

アームド・ドラゴンLV3 攻撃力1200ターンが万丈目へと移り、彼の手より現れたのは小さなドラゴンの幼体だ。珍しい『LV』モンスターの1体であり、『ホルスの黒炎竜』と並んで稀少なカード。ただ今ではその効果は遅れつつあり、レアリティだけが目立つカードだ。

 

「『LV』モンスター……」

 

「ほう、知っているか」

 

「これでもデュエリスト養成学校にいたからな」

 

「成程、ならば『LV』モンスターを支えるこれも知っているだろう。魔法カード、『レベルアップ!』。『LV』モンスターを次の『LV』に進化させる!来い!『アームド・ドラゴンLV5』!」

 

アームド・ドラゴンLV5 攻撃力2400

 

召喚したモンスターを直ぐ様レベルアップ。これにより現れたのは黒と赤の鱗に棘を生やし、成長したドラゴンだ。その体躯は立派なものではあるが、少々太っている。

 

「バトル!『アームド・ドラゴンLV5』でセットモンスターへ攻撃!」

 

「罠発動!『幻影騎士団ウロング・マグネリング』!その攻撃を無効にし、このカードをレベル2、闇属性、戦士族、攻守0のモンスターとして特殊召喚!」

 

幻影騎士団ウロング・マグネリング 守備力0

 

ここで現れ、攻撃を防いだのはリング状の磁石を手にした罠モンスター。ユートお得意の罠モンスターによる戦術だ。

 

「ならばアクションマジック、『セカンド・アタック』!もう1度『アームド・ドラゴンLV5』でセットモンスターに攻撃!」

 

「くっ!」

 

早速アクションカードを利用し、戦術に取り入れる万丈目。流石だ。『アームド・ドラゴン』の拳がセットモンスターである『幻影騎士団フラジャイル・アーマー』の鎧を砕き、中より青い炎が霧散する。

 

「カードを1枚セットしてターンエンド。この瞬間、俺の『アームド・ドラゴン』は更に進化する!来い!『アームド・ドラゴンLV7』!」

 

「俺もウロング・マグネリングと『幻影死槍』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

アームド・ドラゴンLV7 攻撃力2800

 

ユート 手札2→4

 

互いに更に手を打つ。ユートは新たに2枚ドロー。万丈目は『アームド・ドラゴン』を進化させ、より刺々しく鋭利に、メタリックボディへと。攻撃力2800。少々厄介だが耐性持ちでは無いならば対策は容易い。

 

万丈目 準 LP4000

フィールド『アームド・ドラゴンLV7』(攻撃表示)

セット1

手札3

 

「俺のターン、ドロー!俺は墓地のフラジャイル・アーマーを除外、手札の『幻影騎士団ダスティローブ』を墓地に送り、1枚ドロー!」

 

ユート 手札4→5

 

「そして俺は墓地のダスティローブを除外、デッキから『幻影騎士団サイレントブーツ』をサーチ!」

 

これこそがユートの戦術、罠モンスターによる防御に加え、ほとんどのカードが墓地から除外する事で効果を発揮する強力なものばかり。少しコナミの戦術に似ているが、その面ではユートが上を行くだろう。アドバンテージの取り方が違う。

 

「『幻影騎士団ラギッドグローブ』を召喚!」

 

幻影騎士団ラギッドグローブ 攻撃力1000

 

現れたのは青いデッサン人形のような上半身に青い炎の下半身、更に身体よりも巨大な腕を持ったモンスター。打点で不安な点が残る『幻影騎士団』にとっては優秀な1枚と言える。

 

「そしてフィールドに『幻影騎士団』が存在する事で『幻影騎士団サイレントブーツ』を特殊召喚!」

 

幻影騎士団サイレントブーツ 守備力1200

 

次は便利な特殊召喚効果を持ったローブを纏い、首と両手にあたる部位に枷を着けたモンスター。その名の通りブーツに憑依したのだろう、ユートの隣に立ち、トントンと上下してリズムを刻む。

 

「レベル3が2体か……」

 

「行くぞ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!戦場に倒れし騎士達の魂よ。今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ!エクシーズ召喚!現れろ、『幻影騎士団ブレイクソード』!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000→3000

 

エクシーズ召喚、ユートの眼前に黒き渦が広がり、2体のモンスターが光となって飛び込み、爆発、黒煙を裂き、現れたのは黒鉄の馬の下半身を持つ首無しの黒騎士。鎧の隙間なら青白い炎を吹き出し、その名の由来である鏡面の輝きを放つ、折れた剣を手にしたこのモンスターは、ユートにとってのフェイバリットカードだ。その性能も高く、時によっては彼がダーク・リベリオンよりも信頼して重宝している1枚と言える。

 

「エクシーズ素材となったラギッドグローブの効果でブレイクソードは攻撃力を1000アップする効果を得る!そしてカードを1枚セット、ブレイクソードのORUを取り除き、効果発動!俺のセットカードと『アームド・ドラゴン』を破壊!」

 

「させん!永続罠、『デモンズ・チェーン』!ブレイクソードの効果と攻撃を封じる!」

 

パキンとブレイクソードの周囲で回転するORUが弾け飛び、ブレイクソードの剣に吸収されて刃を取り戻したその瞬間、万丈目のフィールドから4本の鎖が伸び、ブレイクソードを縛りつける。効果は不発、しかも攻撃も封じられた。

 

「くっ……!」

 

「ラギッドグローブの効果は自身の効果では無く、エクシーズモンスターに与える効果、よって攻撃力もダウンする」

 

「見事なものだ。俺は墓地のサイレントブーツを除外、デッキの『幻影霧剣』をサーチ。カードを3枚セットし、ターンエンド」

 

ユート LP4000

フィールド『幻影騎士団ブレイクソード』(攻撃表示)

セット4

手札1

 

繰り広げられるユートと万丈目、フレンドシップカップの影で巻き起こるデュエル。勝負はまだ、始まったばかり――。




流石デュエリストだ!何ともないぜ!


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第125話 雑魚とハサミは使いよう

話を作っていた期間の都合上、このデュエルが終わるまでは2017年4月のリミットレギュレーションのものを使用しています。ご了承下さい。


シンクロ次元、シティ、下層にて繰り広げられるユートVS万丈目のデュエル。ターンは万丈目へと移り、彼はデッキよりカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに2枚ドロー!」

 

万丈目 準 手札3→5

 

「俺は『アームド・ドラゴンLV7』をリリースし、『アームド・ドラゴンLV10』を特殊召喚!!」

 

アームド・ドラゴンLV10 攻撃力3000

 

更にレベルアップ。現れたのは『アームド・ドラゴン』の究極形態、『LV』モンスターの中でもトップレベルとなった巨大で強靭な体躯を誇る赤銀の竜。万丈目の切り札の1枚であり、強力な効果を持ったモンスターだ。

 

「『アームド・ドラゴン』の効果!手札1枚をコストに、ブレイクソードを破壊!」

 

「永続罠、『幻影霧剣』!今度は俺が『アームド・ドラゴン』の効果と攻撃を封じさせてもらう!」

 

今度はユートのフィールドより霧のように形無き刃を持った剣が『アームド・ドラゴン』を貫き、地に張り付ける。このカードは『幻影騎士団』バージョンの『デモンズ・チェーン』と言って良いカードであり、対象となったモンスターは攻撃対象にならないと、より臨機応変に使え、彼のデッキでは『デモンズ・チェーン』の上位互換となるカードだ。

 

「構わん、元よりこのカードを使う為!手札コストとなった『おジャマジック』の効果!このカードが手札、またはフィールドより墓地へ送られた時、デッキから『おジャマ・グリーン』、『おジャマ・イエロー』、『おジャマ・ブラック』をサーチする!来い!雑魚共!」

 

『あは~ん』

 

『うふ~ん』

 

『いや~ん』

 

「『おジャマ』……?ッ!?」

 

『アームド・ドラゴン』のコストに使用した『おジャマジック』により、万丈目の手札に3枚ものカードが一気に加わる。見事なプレイングだ。だが『おジャマ』と言うカテゴリは今まで聞いた事がないとユートが首を傾げるが――そんな中、万丈目に応えるように、彼の背後に半透明の気色悪い生物が飛び出す。

 

1体は緑色の身体の1つ目のモンスター。赤いブーメランパンツを履いており、これがグリーンだろう。

2体目は触角のような器官に目を生やした、タラコ唇のモンスター、これはイエローか。黄色と言うより肌の色に近いが。このモンスターも赤いブーメランパンツを履いている。

最後は鼻の大きなモンスター。このモンスターはブラックか、こちらもやはり赤いブーメランパンツを履いている。

一体これは何なのか、ユートは目をパチパチと瞬かせ、何度も擦る。

 

「そして俺はここで魔法カード、『手札抹殺』を発動!雑魚共を捨て、新たな手札に変える!」

 

『そっ、そんな~!』

 

『アニキ~!』

 

『殺生な~!』

 

通常モンスターが手札に何枚もあっては逆に動きづらい。手札にある事を更に利用し、『おジャマ』を抹殺して新たな手札に変換する。墓地に送られ、気色悪い声を上げる『おジャマ』達。酷い仕打ちだが、プレイングとしては間違ってない。

 

「まだだ!俺のコンボはこれで完成する!魔法カード、『トライワイトゾーン』!墓地よりレベル2以下の通常モンスター3体を蘇生する!俺は先程捨てた『おジャマ』3兄弟を復活させる!集え!雑魚共!」

 

『もうっアニキったらツンデレさん!』

 

『手札に来たり墓地へ行ったりフィールドに戻ったり忙しいなぁ』

 

『過労死しそう』

 

「やかましい!」

 

おジャマ・イエロー 守備力1000

 

おジャマ・グリーン 守備力1000

 

おジャマ・ブラック 守備力1000

 

フィールドに登場する3匹の『おジャマ』。フィールドで見るとより一層気色悪い生物である。最早普通に喋っているが、本当にこれは何なのだろうか、ユートはコナミ達に振り回され過ぎて頭がおかしくなったのかと頭を抑える。

だが――冷静に見れば、ステータスの低い通常モンスターとは言え、1枚で3体の蘇生。『おジャマジック』や『手札抹殺』とのコンボも合わせれば強力なプレイングだ。見かけに騙されそうになるが、やはりこの男の実力は本物、ここでエクシーズやシンクロ、融合に繋げる事も可能、可能性は無限大だ。

 

「さぁ、食らうが良い!雑魚共の足掻きを!魔法カード、『おジャマ・デルタハリケーン!!』!!自分フィールドに『おジャマ・グリーン』、『おジャマ・イエロー』、『おジャマ・ブラック』が存在する事で、貴様のフィールドのカードを全て破壊する!」

 

『いっくわよ~ん!』

 

『やっけくそ~!』

 

『ヘイヘイヘ~イ!』

 

「なっ――くっ、罠発動!『幻影騎士団シャドーベイル』!『幻影騎士団ミストクロウズ』!『幻影剣』!まずは『幻影剣』の効果でブレイクソードの攻撃力を一時800アップ!そしてミストクロウズの効果で除外されているサイレントブーツを回収!シャドーベイルの効果でブレイクソードの攻守を300アップ!最後に『幻影剣』を身代わりにブレイクソードを守る!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000→3100→2300

 

『おジャマ』3兄弟が互いの尻をおしくらまんじゅうのように押しつけ合い、猛回転してユートのフィールドを囲い出す。このままでは全滅は必至。ユートは罠を全て使い、被害を最小限に抑える。爆発し、吹き荒れる黒煙。両者は共に手で視界を防ぐ。

 

「チッ、実質不発か」

 

『すいませんアニキ~』

 

『あいつ中々やりますぜ~!』

 

『デルタハリケーンが通じないなんて、俺達の存在意義を殺しにきてやがる!』

 

「安心しろ、元々期待していない」

 

『辛辣!』

 

「それに何も無駄にはなっていない、貴様等は確かに雑魚だが……それを補って余りあるこいつの封印が解かれた」

 

ギン、万丈目がニヤリと不敵な笑みを浮かべると共に、黒煙の中より翡翠の輝きが2つ灯り、激しき怒号によって霧が裂かれる。姿を見せたのは銀と赤の巨大な竜。『アームド・ドラゴンLV10』が、『幻影霧剣』の束縛より解放され、自由の身になったのだ。

 

「チッ」

 

「そして俺は魔法カード、『置換融合』を発動!フィールドの『おジャマ・グリーン』、『おジャマ・イエロー』、『おジャマ・ブラック』で融合!融合召喚!『おジャマ・キング』!!」

 

おジャマ・キング 守備力3000

 

そして融合、3体の『おジャマ』が万丈目の背後で発生する青とオレンジの渦に吸い込まれ、閃光を切り裂き、新たな姿となってフィールドに登場する。巨大な白の一頭身ボディにはイエローの触角のような目と唇、そしてブラックの鼻を持ち、赤いブーメランパンツを頭と下半身に履き、風呂敷マントを背から靡かせ、頭にちょこんと小さな王冠を装着した不気味なモンスター。その守備力は何と3000、そしてこのモンスターの登場と共に、ユートのデュエルディスクの上にポンと白い煙と共に、ミニチュアの『おジャマ』3兄弟が現れ、ポンポンと判子を押す。

 

「なっ――!?」

 

「『おジャマ・キング』がフィールドに存在する限り、貴様のモンスターゾーン3ヵ所を使用不可にする!」

 

『『おジャマ』しまーす』

 

『あ~実家のような安心感』

 

『やっぱ人様の家は違うねぇ』

 

使用不可となったユートのモンスターゾーンに『おジャマ』3兄弟が現れ、炬燵を取り出し、自由気ままに居座る。正に邪魔。人のフィールドで茶を啜る、横になる、屁をこくとやりたい放題である。

 

「もう一生そこでいれば良いものを……バトルだ!『アームド・ドラゴン』でブレイクソードへ攻撃!アームド・ビッグ・パニッシャー!」

 

ユート LP4000→3300

 

『アームド・ドラゴン』がその巨大な掌にエネルギーを集め、握り潰した後開き、ブレイクソードに叩きつける。同時に強烈な衝撃波によって爆破が巻き起こり、ブレイクソードの鎧を砕いて青き炎が吹き荒れる砂塵へと掻き消される。轟音と共に大地が陥没、とんでもない威力だ。腕の一振りだけでこの有り様だ。

 

「くっ――!墓地の『幻影死槍』を除外し、戦闘破壊を防ぐ!」

 

「ほう?」

 

しかし青い炎がユートのフィールドで逆巻き、鎧を修復してブレイクソードが蘇る。

 

「中々やるな、モンスターとカードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

万丈目 準 LP4000

フィールド『おジャマ・キング』(守備表示)『アームド・ドラゴンLV10』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

手札0

 

攻撃力3000と守備力3000のモンスター、全体破壊とモンスターゾーンの封印を宿した矛と盾が万丈目のフィールドに揃う。どちらも厄介なカードだが、この矛と盾の恐ろしい所は相性の良さだ。『アームド・ドラゴンLV10』の効果には手札コストが必要であるが、『おジャマ』ならば手札コストの融通が効く。『おジャマジック』を墓地に送れば先程のように一気に3枚のカードが手札に渡り、デルタハリケーンや『おジャマ・キング』が飛んで来る。

最強と最弱、矛と盾、相反するのに手を組むと厄介なものだ。だが――ユートにもまた、最強の矛がある。

 

「俺のターン、ドロー!ブレイクソードの効果発動!ORUを取り除き、このカードと『おジャマ・キング』を破壊!そしてブレイクソードの効果により、墓地の2体のラギッドグローブをレベルを1つ上げ、蘇生!」

 

幻影騎士団ラギッドグローブ 守備力500×2 レベル3→4

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→3500

 

黒雲がユートのフィールドを覆い尽くし、赤き雷鳴が轟く。鈍い光が煙を引き裂き、中より現れたのは漆黒の竜。刃の如く鋭い翼を広げ、妖しく輝く牙を閃かせるエクシーズモンスター。体躯に走る深紅の血流を灯し、ユートのエースカードが今、久方振りに彼の手によって蘇る。ダーク・リベリオンも主人の帰還が嬉しいのか、喉を歓喜で震わせる。

 

「そのカードは榊 遊矢の……成程、貴様のものだったか」

 

「そうだ、俺はダーク・リベリオンのORUを2つ取り除き、効果発動!『アームド・ドラゴン』の攻撃力を半減、その数値をダーク・リベリオンの攻撃力に加える!トリーズン・ディスチャージ!」

 

アームド・ドラゴンLV10 攻撃力3000→1500

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力3500→5000

 

ダーク・リベリオンの翼の紅玉から赤き稲妻が迸り、『アームド・ドラゴン』を串刺しにして力を奪う。これでダーク・リベリオンの攻撃力は5000、向かい合い、相対する黒と銀の竜。どちらも凄まじい威圧感だ。

 

「俺は更に墓地のラギッドグローブを除外し、デッキの『幻影騎士団フラジャイルアーマー』を墓地へ、更にこのカードも除外、手札のサイレントブーツを墓地へ送り、1枚ドロー!」

 

ユート 手札2→3

 

「サイレントブーツも除外、『幻影霧剣』をサーチ!そして墓地の『幻影剣』を除外、墓地のブレイクソードを特殊召喚!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000

 

「まだだ!『幻影騎士団クラックヘルム』を召喚!」

 

幻影騎士団クラックヘルム 攻撃力1500

 

次々とモンスターを展開、今度は兜と手だけのモンスターだ。

 

「バトル!ダーク・リベリオンで『アームド・ドラゴン』へ攻撃!反逆のライトニング・ディスオベイッ!」

 

ズガガガガッ!ダーク・リベリオンが両翼を広げてその場で体躯を翻し、大地に牙を突き立て快音を響かせ突き進む。そしてイルカのように跳躍、鋭いアギトを銀の竜の喉元へ突き立てようとしたその時――。

 

「墓地の『ネクロガードナー』を除外し、その攻撃を無効!」

 

『アームド・ドラゴン』がガシリとダーク・リベリオンの両翼を掴む事で強引に止める。止められた――だがユートは戸惑う事無く、更に踏み込む。覚悟の上だ、この程度では動揺もしない。

 

「ブレイクソードで追撃!」

 

「永続罠、『ディメンション・ガーディアン』!『アームド・ドラゴン』に戦闘、効果破壊耐性を与える!」

 

「だが切れ味は受けてもらう!」

 

万丈目 準 LP4000→3500

 

ブレイクソードが黒馬を駆けさせ、ダーク・リベリオンの相手で手が塞がっている『アームド・ドラゴン』に襲いかかる。蹄の音がダーク・リベリオンの背骨を走り、大きく跳躍、折れた剣で『アームド・ドラゴン』の頭部を切りつけ、浅くだが傷をつける。

 

「クラックヘルムでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『おジャマ・ブルー』、守備力は1000だが、戦闘によって破壊された事でデッキの『おジャマ・カントリー』と『おジャマジック』をサーチする!」

 

『折角登場したのにこんな役目ですかい……』

 

セットモンスターが裏返り、現れたのは青い身体の目が細く、唇が青い『おジャマ』モンスター。即座にクラックヘルムにニギニギされて昇天する。しかし戦闘破壊を介するとは言え、2枚のカードのサーチ、しかも1枚は『おジャマジック』と来た、『アームド・ドラゴン』も破壊出来ない為、次のターン、確実に仕掛けて来るだろう。

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

ユート LP3300

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)『幻影騎士団ブレイクソード』(攻撃表示)『幻影騎士団クラックヘルム』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!手札を1枚捨て、『アームド・ドラゴン』の効果発動!」

 

「永続罠、『幻影霧剣』!効果と攻撃を止める!」

 

「当然そう来る事は折り込み済み!『おジャマジック』の効果で3兄弟サーチ!そして魔法カード、『マジック・プランター』!『ディメンション・ガーディアン』をコストに2枚ドロー!」

 

万丈目 準 手札4→6

 

「まだだ!魔法カード、『アドバンスドロー』!『アームド・ドラゴン』をリリースし、2枚ドロー!」

 

万丈目 準 手札5→7

 

一気に手札を増加させ、次の戦術に備える。とんでもない回復力だ。

 

「『おジャマ・イエロー』を召喚!」

 

おジャマ・イエロー 攻撃力0

 

『ついにアタイの出番が……!』

 

「魔法カード、『馬の骨の対価』!イエローを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

『やっぱりねん』

 

万丈目 準 手札5→7

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』!手札2枚とアクションマジック、計3枚をデッキに戻し、3枚ドロー!良いカードが来た、フィールド魔法、『ユニオン格納庫』を発動!」

 

「ッ!このカードは……!」

 

アクションフィールドの上からフィールドが張られ、景色が変わる。合体効果が特徴的なユニオンモンスターを収納した格納庫。このカードは遊矢と隼とのデュエルで使用されたカードだ。

 

「発動時の効果処理として『A-アサルト・コア』をサーチ、魔法カード、『二重召喚』により増えた召還権を使い、召喚!」

 

A-アサルト・コア 攻撃力1900

 

現れたのはオレンジ色の蠍を模した機械族のモンスター。そしてユニオンモンスターが登場した事で、『ユニオン格納庫』の効果が発動される。

 

「『ユニオン格納庫』の効果で『B-バスター・ドレイク』をデッキからアサルト・コアに装備!」

 

「来たか……だがクラッシュ・ワイバーンは……」

 

「既に捨てている」

 

「ッ!」

 

仕込みは既に完成している。ユートがゴクリと生唾を呑み込んだその時――。ニヤリと笑みを深める万丈目の背後で、青とオレンジの渦が発生する。来る――遊矢と隼を苦戦させた、あの合体モンスターが。

 

「フィールドより『A-アサルト・コア』と『B-バスター・ドレイク』を!墓地より『C-クラッシュ・ワイバーン』を除外し、融合召喚!『ABC-ドラゴン・バスター』!」

 

ABC-ドラゴン・バスター 攻撃力3000

 

フィールドに緑の機竜が現れ、バスター・ドレイクと共に変形し、アサルト・コアの尾に連結する。完成、『ABC-ドラゴン・バスター』。見た目こそ玩具だが、その攻撃力と効果は強力だ。

 

「手札を1枚捨て、ダーク・リベリオンを対象にドラゴン・バスターの効果発動!対象カードを除外!」

 

手札を交換しつつドラゴン・バスターの効果を発動。狙われたダーク・リベリオンは砲撃に撃ち抜かれ、次元の彼方に消え去ってしまう。

 

「くっ、ダーク・リベリオンが……!」

 

「まだまだ!フィールドを張り替える!『おジャマ・カントリー』!」

 

更に続く万丈目の手、ユニオンモンスター達の基地がひび割れ、景色は奇妙な民家が並ぶ里へ。どうやら『おジャマ』達が暮らす村らしい。フィールド内を『おジャマ』なモンスターが自由気ままに駆け回り、ユートと発動者である万丈目まで苛つかせる。

 

『おー、サンダーだー』

 

『囲めー』

 

『登れー』

 

「ええいっ!囲むなよじ登るな!チッ、俺は手札の『おジャマ』カードを墓地に送り、墓地の『おジャマ・キング』を蘇生!」

 

おジャマ・キング 攻撃力0→3000

 

ABC-ドラゴン・バスター 攻撃力3000→2800

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000→1000

 

幻影騎士団クラックヘルム 攻撃力1500→500

 

『『『よろしくニキー』』』

 

「くっ、またか……!」

 

再びフィールドに『おジャマ・キング』が登場した事でユートのモンスターゾーンが3ヶ所埋まる。最早実家のように『おジャマ』達が落ち着いている。しかも――『おジャマ・キング』の登場と共に、フィールドのモンスターの攻撃力が変化した。

 

「『おジャマ・カントリー』の発動中、『おジャマ』モンスターが存在する限り、フィールドのモンスターの元々の攻守は入れ替わる!バトル!キングでブレイクソードに攻撃!フライング・ボディアタック!」

 

「くっ、罠発動!『幻影騎士団ウロング・マグネリング』!その攻撃を無効にし、特殊召喚!」

 

幻影騎士団ウロング・マグネリング 守備力0

 

『おジャマ・キング』がユートへと飛びかかるその瞬間、彼のフィールドに円い磁石を持った騎士が現れ、磁力で『おジャマ・キング』を跳ね返す。だが――まだ彼のモンスターは残っている。

 

「ドラゴン・バスターでクラックヘルムへ攻撃!」

 

「ウロング・マグネリングの効果!このカードとクラックヘルムを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

ユート 手札0→2

 

「ならば標的変更!ブレイクソードに攻撃!」

 

ユート LP3300→1500

 

「ぐぅ……!『幻影剣』で蘇生したブレイクソードは除外される……!」

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

万丈目 準 LP3500

フィールド『おジャマ・キング』(攻撃表示)『ABC-ドラゴン・バスター』(攻撃表示)

セット2

『おジャマ・カントリー』

手札1

 

強い、正直に言えばこの一言に尽きる。万丈目のデュエルには兎に角無駄が無い。『アームド・ドラゴン』やユニオンモンスターによる高い攻撃力が剛、その為の手札補充、こちらの妨害をして来る『おジャマ』が柔、剛柔合わせた強力なコンボとプレイングをさせた高い次元で完成されたデュエル。

その癖遊矢のエンタメデュエルのように魅せてくれる。いや、彼の場合、沢渡のものに近いか。その究極形と言って良い。間違いなく今のユートでは手に余り、勝ち目が見えない相手だ。

 

だが――この程度でユートは諦めない。レジスタンスの不屈のデュエル。ランサーズのデュエルを愛するデュエル。その2つのORUでユートは自身のデュエルを再構築する。

 

「俺のターン、ドロー!俺は永続罠、『闇次元の解放』を発動!除外されているブレイクソードを特殊召喚!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 守備力1000→2000

 

「そして魔法カード、『オーバーレイ・リジェネート』!このカードをブレイクソードのORUに!」

 

「ドラゴン・バスターの効果!手札を1枚捨て、ブレイクソードを除外!」

 

「ッ!当然そう来るだろうな……!俺は『幻影騎士団ダスティローブ』を召喚!」

 

幻影騎士団ダスティローブ 攻撃力800

 

「そして『幻影騎士団サイレントブーツ』を特殊召喚!」

 

幻影騎士団サイレントブーツ 守備力1200

 

「レベル3が2体……来るか!」

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『幻影騎士団ブレイクソード』!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 守備力1000→2000

 

「ブレイクソードのORUを1つ取り除き、このカードと『おジャマ・カントリー』を破壊!」

 

「ぬぅっ!」

 

おジャマ・キング 攻撃力3000→0

 

ABC-ドラゴン・バスター 攻撃力2800→3000

 

ブレイクソードの貢献でフィールドが元に戻る。これで攻撃力変化は無い。ユートは勢いのまま、反撃に出る。

 

「ブレイクソードの効果でダスティローブとサイレントブーツのレベルを上げ、蘇生!」

 

幻影騎士団ダスティローブ 攻撃力800 レベル3→4

 

幻影騎士団サイレントブーツ 守備力1200 レベル3→4

 

このままダーク・リベリオンに繋げられれば良かったのだが、生憎ダーク・リベリオンは除外されている1枚のみ。ランク4のエクシーズモンスターはダーク・リベリオンのみの為、完全にレベルアップが裏目に出た。

 

「罠発動!『幻影騎士団ロスト・ヴァンブレイズ』!サイレントブーツの攻撃力を600ダウンし、レベルを2に変化、このカードをレベル2、闇属性、戦士族、攻撃力600、守備力0のモンスターとして守備表示で特殊召喚!」

 

幻影騎士団サイレントブーツ 攻撃力200→0 レベル4→2

 

幻影騎士団ロスト・ヴァンブレイズ 守備力0

 

これでレベル2が2体、再びエクシーズの準備が整った。

 

「む……!」

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!幾万の戦士を貫き、闇に葬る呪われし反逆の槍。降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ、『幻影騎士団カースド・ジャベリン』!」

 

幻影騎士団カースド・ジャベリン 攻撃力1600

 

2体のレベル2モンスターを素材に現れたのは骸骨を面に赤いマフラー、肩から青い炎を放ち、髑髏を串刺しにした槍と骸骨を模した盾を構えた戦士だ。攻撃力1600、決して高い数値とは言えない為、何か特殊な効果を持っているのだろう。万丈目は警戒を露にする。

 

「カースド・ジャベリンのORUを1つ取り除き、ターン終了までドラゴン・バスターの効果を無効にし、攻撃力を0に!」

 

「忘れたのか?『ABC-ドラゴン・バスター』は自身をリリースする事で除外されている素材に分解される!」

 

A-アサルト・コア 守備力200

 

B-バスター・ドレイク 守備力1800

 

C-クラッシュ・ワイバーン 守備力2000

 

カースド・ジャベリンが槍を投擲し、ドラゴン・バスターを貫こうとするが、ドラゴン・バスターが3体に分裂して回避する。そう、ドラゴン・バスターにはこれがある。自分、相手ターンを問わず手札1枚を相手フィールドのカードの除外に変える効果に、相手ターンに分裂する効果。しかもこの3体は墓地に送られた場合、効果を発動すると来た。ドラゴン・バスターの素材もフィールド、墓地から除外すれば良い為、破壊しても相手が損するだけ、ユートもそれを分かっている筈だが――何故彼はカースド・ジャベリンの効果を使ったのか。

 

「ダスティローブの効果!カースド・ジャベリンの攻守を800アップし、このカードを守備表示に!」

 

幻影騎士団カースド・ジャベリン 攻撃力1600→2400

 

「バトルだ!カースド・ジャベリンで『おジャマ・キング』へ攻撃!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!」

 

万丈目 準 LP3500→2300

 

「ちぃっ……!」

 

「メインフェイズ2、墓地のサイレントブーツを除外、『RUM-幻影騎士団ラウンチ』をサーチ!カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ユート LP1500

フィールド『幻影騎士団カースド・ジャベリン』(攻撃表示)『幻影騎士団ダスティローブ』(守備表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!墓地の『置換融合』を除外、墓地の『ABC-ドラゴン・バスター』をエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

万丈目 準 手札1→2

 

「A、B、Cの3体を除外、融合召喚!『ABC-ドラゴン・バスター』!」

 

ABC-ドラゴン・バスター 攻撃力3000

 

再びフィールドに現れる2頭の機竜。厄介なモンスターだ。確実にこちらのカードを1枚削っていく上、破壊、除去しようとしても分裂、合体と繰り返す。

 

「手札を1枚捨て、カースド・ジャベリンを除外!」

 

「カースド・ジャベリンのORUを1つ取り除き、効果発動!」

 

ABC-ドラゴン・バスター 攻撃力3000→0

 

今度こそカースド・ジャベリンの槍がドラゴン・バスターに命中する。これでドラゴン・バスターによる除去は不発。と言ってもあくまで一時凌ぎでしか無いが。

 

「ふん……ターンエンドだ」

 

万丈目 準 LP2300

フィールド『ABC-ドラゴン・バスター』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!まずはダスティローブを攻撃表示にし、効果発動!守備表示に変更し、カースド・ジャベリンの攻守を800アップ!」

 

「ドラゴン・バスターの効果発動!手札を1枚捨て、カースド・ジャベリンを除外!」

 

「リバースカードオープン!速攻魔法、『RUM-幻影騎士団ラウンチ』!エクシーズ素材が無いカースド・ジャベリンをランクが1つ高い闇属性、エクシーズモンスターへとランクアップし、このカードをORUにする!」

 

この駆け引きを制したのはユートだ。万丈目が強化されるカースド・ジャベリンを狙って来る事を見越し、対象を新たなモンスターにランクアップさせ、ドラゴン・バスターの効果を不発に終わらせる。

 

「ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『幻影騎士団ブレイクソード』!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000

 

来る最後のブレイクソード。このカードで3枚目だ。有能である為、使用回数も多いが、出来る事ならエクストラデッキに余裕がある内に倒したかった。とは言え相手が相手だ。出し惜しみはしてられない。

 

「バトル!ブレイクソードでドラゴン・バスターへ攻撃!」

 

「何……?チッ、罠発動、『ピンポイト・ガード』!『おジャマ・ブルー』に戦闘、効果破壊耐性を与え蘇生!ドラゴン・バスターの効果発動!フハハハハ!」

 

おジャマ・ブルー 守備力1000

 

攻撃力の低いブレイクソードでドラゴン・バスターへ攻撃、何か算段があるのか、万丈目が予測し、ドラゴン・バスターを分裂させる事で回避する。例え何も無かったとしても損は無い。そう思っての行動だったのだが――。

 

「速攻魔法、発動――」

 

「フーハッハッハァッ!」

 

「『大欲な壺』!」

 

「……ハ?」

 

「除外されている3体のユニオンモンスターをお前のデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

ユート 手札0→1

 

発動されたABCの対策札により、その効果は不発に終わる。分解先のパーツが無いのなら――ドラゴン・バスターのパーツはフィールドに現れない。見事な攻略法だ。

 

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ユート LP1500

フィールド『幻影騎士団ブレイクソード』(攻撃表示)『幻影騎士団ダスティローブ』(守備表示)

セット1

手札0

 

ここで攻勢に出たのはユートだ。見事な機転で厄介な融合モンスター、『ABC-ドラゴン・バスター』を除去し、相手の武器を1つ奪った。これで少しは楽になると良いのだが――生憎、そう簡単にはいかないだろう。何せ相手は3つのカテゴリを使っている。

『おジャマ』、ユニオン、『LV』モンスター。それもどれも珍しく、デュエリストの腕が問われるカード達。万丈目はそれを見事なまでに使いこなし、合わせる事でその力を何倍にもしている。

 

その手腕はデュエリスト養成学校で学んだ優秀なユートですら舌を巻き、感心する程だ。何が飛んで来るか分からない、それがこれ程までに恐ろしいとは、相手にして初めて痛感する。今までは隣でいたが――もしかしたら、彼を前にして闘うデュエリスト達はこの恐怖とワクワクを味わっていたのかもしれない。そう、今も会場で闘う彼へと、想いを馳せる。

 

(そうだろう――遊矢……!)

 




万丈目のデュエル書くの楽しい……でもアームド・ドラゴン・カタパルトキャノンが無いのが悔しい。もうちょっと早く公開されてたら使ったのになぁ。何かサクリファイスやヴァンパイアと言い後手に回ってる感じがする……。


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第126話 明日を作るのは

ヤバい、200話越えそう。


シンクロ次元にてぶつかり合うエクシーズ次元と融合次元の強豪デュエリスト、ユートと万丈目。倒れずに何度でも蘇る不屈の闘志を持つ『幻影騎士団』と、相手の戦術を狂わせる『おジャマ』、テクニカルに場を乱すユニオンモンスター、そして世にも珍しい『LV』モンスターと全く異なる3種を1つに纏めたデッキの対決。

 

今の所、LPで優勢なのは万丈目だが、勢いに乗っているのはユートだ。尤も、万丈目の強力な合体モンスター、『ABC-ドラゴン・バスター』を見事除去したとは言え、未だにあれやこれと言った方法で大ダメージはかわされているが。

 

中々に捉え所が無い。しかも恐らく――ドラゴン・バスターは彼の武器の1つでしか無い。使えるから使っている、と言う所だろう。何せこのカードは以前遊矢達と闘った時と同じカード。あの時と違うデッキと言う事は、恐らくはあの時でさえ彼の実力の一端に過ぎなかったのだ。

 

しかし、同時に疑問が沸く。何故、彼はあの時、全力で闘わなかったのか。そうすれば、あの時の遊矢と隼も、倒せた筈だが――。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『針虫の巣窟』!デッキトップから5枚のカードを墓地に送る!」

 

ユートが発動したのは罠と少し遅いが、一気にデッキから5枚のカードを墓地に送る事が可能な墓地肥やしカード。これでブレイクソードの効果による蘇生先を増やしておく。『幻影騎士団』は優秀なカードばかりだが、その効果を使うには除外せねばならないのだ。

 

「褒めてやろう、俺のドラゴン・バスターをあのような方法で攻略するとは……だがこの程度で調子に乗るなよ、ここからが本番だ!まずは魔法カード、『一時休戦』。次のターン終了まで互いのダメージを0にし、互いに1枚ドローする。引くが良い」

 

万丈目 準 手札0→1

 

ユート 手札0→1

 

「そして『おジャマ・ブルー』を攻撃表示に」

 

『……え?アニキ?もしかしてもしかして?』

 

クルン、自分の意志に関係無くカードが真横にスライドして縦となり、弱々しいファイティングポーズを取る『おジャマ・ブルー』。彼は不安そうな表情でチラリと主を見て――万丈目が悪どい笑みを向ける。

 

「骨は拾ってやる。バトル!『おジャマ・ブルー』でブレイクソードへ攻撃!」

 

『やっぱりねぇぇぇぇぇっ!』

 

「ッ!?」

 

『一時休戦』でダメージを0にしてからの自爆特攻、相変わらず基本を抑えた実戦的な手だ。意外性ばかりに目を向けられがちだが、『おジャマジック』を手札コストにしたり、手札にいては事故に繋がる『おジャマ』を手札交換に利用し、そのまま蘇生に繋いだりと彼のプレイングは一種の美しさを覚える程に上手い。

 

『おジャマ・ブルー』はびぇぇぇぇんっ、と泣きながらダッシュして――流石に可哀想になったのか、ブレイクソードが小突いて倒す。

 

「何だ、せめて綺麗に散らしてやろうと思ったのに。だが助かったぞ、『おジャマ・ブルー』の効果により、デッキから『おジャマンダラ』と『おジャマ・デルタハリケーン』をサーチし、『おジャマンダラ』発動!LPを1000払い、グリーン、ブラック、イエローを蘇生!」

 

おジャマ・グリーン 守備力1000

 

おジャマ・ブラック 守備力1000

 

おジャマ・イエロー 守備力1000

 

しれっとブルーに酷い事を言い放ち、感謝すると言うツンデレを発揮しながら2枚のカードを手札に加える万丈目。そして加えた1枚を使い、再び3兄弟が現れる。そしてもう1枚のカードは――。

 

「魔法カード、『おジャマ・デルタハリケーン』!貴様のフィールドのカードを全て破壊!」

 

「くっ――ブレイクソードの効果で『幻影騎士団ダスティローブ』と『幻影騎士団ラギッドグローブ』のレベルを1つ上げ、蘇生!」

 

幻影騎士団ダスティローブ 守備力1000 レベル3→4

 

幻影騎士団ラギッドグローブ 守備力500 レベル3→4

 

『おジャマ』3兄弟が再び3つの尻を合わせ、クルクルと回転し竜巻を起こしてユートのモンスターを爆発させる。そしてブレイクソードの効果によって蘇る2体のモンスター。

 

「こればかりは仕方無いだろう、俺は魔法カード、『馬の骨の対価』を発動!骨は拾ってやるぞ、イエロー」

 

『ヒエッ』

 

万丈目 準 手札0→2

 

「そして魔法カード、『置換融合』!ブラックとグリーンを融合!融合召喚!『おジャマ・ナイト』!」

 

おジャマ・ナイト 守備力2500

 

融合召喚、ここで現れたのは騎士甲冑を纏ったイエローだ。ただし赤いブーメランパンツを履いたまま。このモンスターが現れた途端、ユートのフィールドに『おジャマ・グリーン』と『おジャマ・イエロー』が老化したモンスターが現れ、のんびり茶を啜る。

 

『はぁー、落ち着くなぁ、婆さんや』

 

『お爺さん、ご飯ならさっき食べたでしょう?』

 

『あ?何だって?』

 

会話が通じていない。

 

「くっ、また……!」

 

とは言え塞がったのは2ヶ所のみ。ユートのデッキはエクシーズ特化だ。シンクロならば少々危なかったかもしれないが、まだ余裕はある。

 

「墓地の『置換融合』を除外、ドラゴン・バスターをデッキに戻し、1枚ドローだ」

 

万丈目 準 手札1→2

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

万丈目 準 L1300

フィールド『おジャマ・ナイト』(守備表示)

セット1

手札1

 

万丈目のフィールドには守備力2500の『おジャマ・ナイト』とセットカードが1枚、少々厄介な布陣だ。『おジャマ・ナイト』のステータス、攻撃力は0の為、ダーク・リベリオンを回収したとしても、攻撃力を吸収出来ず、攻守は互角、他のモンスターでも守備力2500は少し高い。ブレイクソードなら何とかなるが、3枚とも使い切った。だが――攻略法は、ある。

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『大欲な壺』!除外された3体のモンスターを回収し、ドロー!」

 

ユート 手札1→2

 

「む……俺は墓地の『幻影霧剣』を除外、ブレイクソードを蘇生!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000

 

「そしてダスティローブを攻撃表示に変更、ダスティローブの効果でこのカードを守備表示に変更、ブレイクソードの攻守を800アップ!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000→2800

 

これでブレイクソードの攻撃力が『おジャマ・ナイト』の守備力を越えた。打点の低い『幻影騎士団』にとってダスティローブの効果は大助かりだ。

 

「バトル!ブレイクソードで『おジャマ・ナイト』へ攻撃!」

 

ブレイクソードの壊れた剣が振るわれ、『おジャマ・ナイト』の鎧を砕く。強力な一撃、『おジャマ・ナイト』もこれには堪らず倒れ伏し、ユートのフィールドに居座った2体の『おジャマ』が成仏する。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ユート LP1500

フィールド『幻影騎士団ブレイクソード』(攻撃表示)『幻影騎士団ダスティローブ』(守備表示)『幻影騎士団ラギッドグローブ』(守備表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!フィールド魔法、『おジャマ・カントリー』!手札の『おジャマ・レッド』を捨て、『おジャマ・キング』を蘇生!」

 

おジャマ・キング 攻撃力0→3000

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000→1000

 

幻影騎士団ダスティローブ 守備力1000→800

 

幻影騎士団ラギッドグローブ 守備力500→1000

 

「不味い……!」

 

またもフィールドが『おジャマ』の里に変わり、『おジャマ』の王が帰還すると共にフィールドのモンスターの攻守が反転する。これが厄介だ。こちらのモンスターの攻撃力は下がり、『おジャマ』は爆発的に攻撃力が上がる。言うなれば強肉弱食の世界。

 

「バトル!『おジャマ・キング』でブレイクソードに攻撃!」

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!ダメージを0に!」

 

『おジャマ・キング』がダダダと駆け、大きく跳躍、自身の体重全てをブレイクソードに叩きつける。頑強な鎧も砕け、中より吹く青い炎が飛び散る。何とかアクションマジックでダメージは逃れたが――『幻影霧剣』で呼び出したブレイクソードは除外される。

 

「ターンエンドだ」

 

「罠発動、『強欲な瓶』1枚ドロー!」

 

ユート 手札1→2

 

万丈目 準 LP1300

フィールド『おジャマ・キング』(攻撃表示)

セット1

『おジャマ・カントリー』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!早速行くぞ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→2000→3000

 

漸くユートのフィールドへと帰還する彼のエースカード。これでユートと万丈目のエースが並んだ。ラギッドグローブの効果により、どちらも攻撃力3000、互角だが――ダーク・リベリオンには、強力な効果がある。

 

「ダーク・リベリオンのORUを2つ取り除き、効果発動!『おジャマ・キング』の攻撃力を半分にし、その数値をダーク・リベリオンの攻撃力に加える!」

 

おジャマ・キング 攻撃力3000→1500

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力3000→4500

 

ダーク・リベリオンの両翼に嵌め込まれた紅玉より赤い稲妻が駆け抜け、『おジャマ・キング』から力を吸収する。

 

「バトル!ダーク・リベリオンで『おジャマ・キング』へ攻撃!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

万丈目 準 手札0→1

 

ダーク・リベリオンが翼から赤い雷を地へ走らせ、『おジャマ・キング』の動きを封じ、漆黒の体躯を翻し、鋭い牙で地を削って突き進む。響く轟音、牙より赤い火花を飛び散らし、発火させて『おジャマ・キング』を貫き、『おジャマ・キング』がバウンドして万丈目にのしかかろうとしたその時、彼の周囲にバリアが張られ、『おジャマ・キング』を墓地に跳ね返す。

 

「メインフェイズ2、墓地のダスティローブとラギッドグローブを除外し、『幻影騎士団サイレントブーツ』をサーチ、デッキの『幻影死槍』を墓地に送る。カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

ユート LP1500

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「俺をここまで手こずらせるとは……俺のターン、ドロー!モンスターをセット、カードをセットし、ターンエンドだ」

 

万丈目 準 LP1300

フィールド セットモンスター

セット1

『おジャマ・カントリー』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を交換。魔法カード、『暗黒界の取引』!更に交換!攻め時か?『幻影騎士団クラックヘルム』を召喚!」

 

幻影騎士団クラックヘルム 攻撃力1500

 

「バトル!ダーク・リベリオンでセットモンスターへ攻撃!クラックヘルムでダイレクトアタック!」

 

「アクションマジック、『回避』!攻撃を無効に!」

 

「この瞬間、罠発動!『裁きの天秤』!俺のフィールドには『おジャマ・カントリー』とこのカードの2枚。お前のフィールドにはモンスター2体とセットカード2枚、そしてアクションフィールドの5枚。よって3枚ドロー!」

 

万丈目 準 手札0→3

 

ユート LP1500

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)『幻影騎士団クラックヘルム』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『予想GUY』!デッキから『X-ヘッド・キャノン』をリクルート!」

 

X-ヘッド・キャノン 攻撃力1800

 

フィールドに現れたのは肩から黒光する砲塔を伸ばした青と黄のカラーリングが特徴的な機械族モンスター。下半身は棒に丸い突起を繋げている。初代合体モンスターの1体だ。

 

「更に『Y-ドラゴン・ヘッド』を召喚!」

 

Y-ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500

 

お次は鮮烈な赤のボディを持つ翼竜型のロボットだ。XYZの2体目、Yを冠するカード、そしてこのカードが来たと言う事は――。直ぐ様万丈目は残る手札2枚をデュエルディスクに叩きつける。

 

「魔法カード、『二重召喚』!もう1度得た召喚権を使い、『Z-メタル・キャタピラー』を召喚!」

 

Z-メタル・キャタピラー 攻撃力1500

 

3体目、イエローカラーの戦車型のモンスター。キュルキュルとキャタピラで2体に並び、中心にあるカメラアイでユートのモンスターに狙いを定める。これでフィールドにXYZ、3体のユニオンが揃った。ABCと違い、フィールドに並べる事が難しいカード、しかし異なる3種を自在に操る万丈目からすればこの程度朝飯前だろう。

 

「フィールドの3体を除外し、融合召喚!『XYZ-ドラゴン・キャノン』!」

 

XYZ-ドラゴン・キャノン 攻撃力2800

 

ガシャリ、3体の間に紫電が迸り、磁力の力で上からX、Y、Zと塔の如く3体が重なり、合体する。完成、『XYZ-ドラゴン・キャノン』。ドラゴン・バスターの対となる合体モンスターが今、完成した。

 

「アクションマジックを捨て、貴様のダーク・リベリオンを破壊!」

 

「永続罠発動!『幻影翼』!ダーク・リベリオンの攻撃力を500アップし、このターン、戦闘、効果破壊から守る!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力4000→4500

 

ヘッド・キャノンの砲塔、ドラゴン・ヘッドのアギト、メタル・キャタピラーのバルカンより雷光が駆け抜け、飛翔するダーク・リベリオンを撃ち落とそうとするも、ダーク・リベリオンの両翼から青い炎が吹き出して無理矢理軌道を変えてかわす。

 

「バトル!ドラゴン・キャノンでクラックヘルムへ攻撃!X・Y・Zハイパー・キャノン!」

 

「罠発動!『幻影騎士団シャドーベイル』!クラックヘルムの攻撃力を300アップ!」

 

幻影騎士団クラックヘルム 攻撃力1500→1800

 

ユート LP1500→500

 

ダーク・リベリオンは守れてもクラックヘルムとLPは守れない。再びドラゴン・キャノンより光線が放たれ、クラックヘルムを粉砕、そのままユートへ直撃する。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

万丈目 準 LP1300

フィールド『XYZ-ドラゴン・キャノン』(攻撃表示)

『おジャマ・カントリー』

手札0

 

LPは射程圏内、セットカードも手札も0、攻め時だ。ユートはデッキからカードを引き抜き、果敢に打って出る。

 

「俺のターン、ドロー!ダーク・リベリオンでドラゴン・キャノンへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『アンコール』!墓地の『回避』を発動!」

 

「くっ!」

 

が、ここに来て万丈目がアクションマジックを使いこなす。面倒な相手だ。ユートもダーク・リベリオンの背に乗り、フィールドを飛翔する。

 

「ターンエンド!」

 

ユート LP500

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)

『幻影翼』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

万丈目 準 手札0→3

 

「『C-クラッシュ・ワイバーン』を召喚!」

 

C-クラッシュ・ワイバーン 攻撃力1500

 

「クラッシュ・ワイバーンをドラゴン・キャノンに装備!手札1枚を捨て、ドラゴン・キャノンの効果でダーク・リベリオン破壊!」

 

「墓地の『幻影死槍』を除外し、破壊を防ぐ!」

 

「ドラゴン・キャノンを守備表示に、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

万丈目 準 LP1300

フィールド『XYZ-ドラゴン・キャノン』(守備表示)

『C-クラッシュ・ワイバーン』セット1

『おジャマ・カントリー』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』を発動!『幻影翼』をコストに2枚ドロー!」

 

ユート 手札1→3

 

「ダーク・リベリオンでドラゴン・キャノンへ攻撃!」

 

「罠発動!『フローラル・シールド』!攻撃を無効にし、1枚ドロー!」

 

万丈目 準 手札0→1

 

攻め込めども攻め込めども防がれる。ダーク・リベリオンの猛攻も花の盾で弾かれて終わる。最早どちらのスタミナが切れるかの長期戦、ユートは息を切らせて舌打ちを鳴らす。

 

「良い加減にして欲しいな……!」

 

「それはこちらの台詞、そろそろ本気で終わらせてやろう……!」

 

こちらも息を切らしながらニヤリと笑う万丈目。どうやら反撃の手立てを整えたらしい。面倒な事になった。こんな時、遊矢やコナミなら手数の多さで攻めて攻めて攻めまくるのだが、それがないユートはどうにも攻めあぐねる。

だがユートとて彼等に勝るものがある。それは、長期戦での粘り強さ。レジスタンスの砦とも言われる彼は切り込み役の隼と共に数多くのアカデミアを撃退して来たのだ。

 

「俺はカードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

ユート LP500

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「そして『B-バスター・ドレイク』を召喚!」

 

B-バスター・ドレイク 攻撃力1500

 

「まさか……!」

 

「そのまさかだ!アサルト・コアは戦闘破壊され、クラッシュ・ワイバーンはフィールドにある!フィールドのB、C!墓地のAを除外!融合召喚!『ABC-ドラゴン・バスター』!」

 

ABC-ドラゴン・バスター 攻撃力3000

 

再びフィールドに現れる2頭の機械竜。またもや地獄が始まる。攻撃力、効果共に強力なこのカードの除去に苦労させられたのに、またこうして見る事になるとは。全くもって嫌になる。

 

「ドラゴン・バスターの効果!手札を1枚捨て、ダーク・リベリオンを除外!」

 

「罠発動!『闇のデッキ破壊ウイルス』!ダーク・リベリオンをリリースし、魔法カードを宣言!フィールドと3ターン内に相手がドローした中の魔法カードを破壊する!」

 

「ククク、やるな。しかしこれはどうだ!?ドラゴン・バスターとドラゴン・キャノンの2体を除外!融合召喚!『AtoZドラゴン・バスター・キャノン』!!」

 

AtoZドラゴン・バスター・キャノン 攻撃力4000

 

ドラゴン・バスターもが捨て石に過ぎない。ABC、そしてXYZ、6体からなるモンスターが分離し、合体、ヘッド・キャノンから伸びる大砲はクラッシュ・ワイバーンのものと連結してレールガンへ、その上にメタル・キャタピラーのパーツが角のように伸び、両腕にバスター・ドレイクとクラッシュ・ワイバーンの身体が連結、脚となったメタル・キャタピラーより2体の首が伸び、その下にドラゴン・ヘッドの頭部とバスター・ドレイク、クラッシュ・ワイバーンの翼が広がり、アサルト・コアの尾が振るわれる。

6体合体、完成、『AtoZドラゴン・バスター・キャノン』。万丈目の切り札が今、立ち塞がる。

 

「フーハッハッハァ!まさかまた出せるとは思って無かったが……流石俺と言った所か。さぁ、バトルだ!ドラゴン・バスター・キャノンで攻撃!」

 

「カウンター罠発動!『攻撃の無力化』!攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了!」

 

迫るドラゴン・バスター・キャノン。その肩から伸びたレールガンより火花が散り、雷が迸って極太の砲撃がユートに襲い来る。ユートは何とかそれをかわす。バトルフェイズ自体を終了すれば追撃は不可能、ドラゴン・バスター・キャノンにはドラゴン・バスターよろしく分離効果もある。慎重に対処しなければ。

 

「フン、俺はこれでターンエンドだ」

 

万丈目 準 LP1300

フィールド『AtoZドラゴン・バスター・キャノン』(攻撃表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「ドラゴン・バスター・キャノンを分離させる!」

 

ABC-ドラゴン・バスター 守備力2800

 

XYZ-ドラゴン・キャノン 守備力2600

 

「速攻魔法、『リロード』!手札を交換し、魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

ユート 手札0→3

 

ここでユートが手札増強カードを発動。一気に3枚まで膨らませ、場を整える。

 

「モンスターをセット、カードを2枚セットし、ターンエンド」

 

ユート LP500

フィールド セットモンスター

セット2

手札0

 

今度はユートが防戦一方だ。せめてもの救いは大量のLPか。これも余り頼りにならないが。3枚のカードに望みを託し、ターンエンド。ここからが正念場だ。

 

「俺のターン、ドロー!引いたカードは魔法カードではない。手札の『サンダー・ドラゴン』を捨て、同名2体をサーチ!2体を除外!融合召喚!『AtoZドラゴン・バスター・キャノン』!!」

 

AtoZドラゴン・バスター・キャノン 攻撃力4000

 

「ドラゴン・バスター・キャノンでセットモンスターに攻撃!」

 

「ぐっ!」

 

ドラゴン・バスター・キャノンより砲撃が飛び、ユートのセットモンスターを形残さず消し炭にする。これでユートのフィールドはがら空き。だが万丈目にはまだ攻め手が残っている。

 

「ドラゴン・バスター・キャノンを除外!ドラゴン・キャノンとドラゴン・バスターを呼び出す!」

 

ABC-ドラゴン・バスター 攻撃力3000

 

XYZ-ドラゴン・キャノン 攻撃力2800

 

ここでドラゴン・バスター・キャノンが分離し、除外されていたドラゴン・バスターとドラゴン・キャノンが復活する。これで追撃可能、万丈目はすかさずモンスターに指示を出す。

 

「ドラゴン・キャノンでダイレクトアタック!」

 

「この瞬間、墓地から2体のシャドーベイルを特殊召喚!」

 

幻影騎士団シャドーベイル 守備力300×2

 

「ならば手札を1枚捨て、除外!ドラゴン・キャノンで再攻撃!ドラゴン・バスターでダイレクトアタック!!」

 

「3体目ぇ!」

 

「お前ぇ!」

 

幻影騎士団シャドーベイル 守備力300

 

2体の合体モンスターによる砲撃がユートを襲うも、彼の仲間である騎士達の魂が行く手を遮る。

 

「3体目を破壊し、メインフェイズ2、再び2体を除外!融合召喚!『AtoZドラゴン・バスター・キャノン』!!」

 

AtoZドラゴン・バスター・キャノン 攻撃力4000

 

再びフィールドに現れる合体モンスター、『AtoZドラゴン・バスター・キャノン』。除外効果の代わりとして効果無効と言う制圧特化となったモンスター。このカードが有る限り、こちらの手は確実に1回削られる。

 

「ターンエンド」

 

万丈目 準 LP1300

フィールド『AtoZドラゴン・バスター・キャノン』(攻撃表示)

手札1

 

強力なモンスター、巧みなプレイングで次第に追い詰められていくユート。やはり、強い。だけど、勝ちたいのだ。久し振りに自分の手でデュエルをして、再び痛感したのだ。デュエルが奥が深く、楽しいと。自分は負けず嫌いなんだと。だけど、今のままでは届かない。

力が、欲しい。誰かを憎み、怒りによって生み出される力では無く、誰かを守り通し、デュエルを楽しむ事で生まれる力が。

 

そしてその望みは、叶えられる。ユートの中で僅かに残っていた力の欠片、それが今、彼の想いで形を変え、彼のものとなって復活する。明日を作るのは、憎しみでは無く、楽しむ強さ。ユートはスタンダード次元で多くのデュエリストと出会い、それを取り戻した。その証が--彼のエクストラデッキから、光として放たれる。

 

「『幻影騎士団』は、レジスタンスは、ランサーズは倒れない!かっとビングだ、俺!不屈のエンタメデュエルを見せてやる!」

 

「……お前も、エンタメデュエルか……」

 

「俺はまだ、お前達アカデミアを許した訳じゃない。瑠璃を拐ったお前達を、ハートランドを滅茶苦茶にしたお前達を許せない。だけど、俺は俺の憎しみを乗り越える!」

 

これがユートの覚悟。今までの憎しみを全て乗り越え、過去の自分を越え、新たな自分となる。すなわち、寛容の道。それは茨の道だ。生半可な覚悟では進めない道。何度裏切られても、何度心を砕かれても、優しさを失わない誓い。

だが――仲間と共になら、何だって出来る。悲劇だって起こる前に無くしてみせる。変えてみせる。デュエルで、全てを。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

引き抜くアークは、彼の軌跡の道標。黄金に輝き、彼を導く。

 

「罠発動!『エクシーズ・リボーン』!」

 

「させん!ドラゴン・バスター・キャノンの効果で手札を1枚捨て、無効!」

 

「ならば魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のブレイクソード2体、クラックヘルム2体、『クレーンクレーン』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ユート 手札0→2

 

「来たか……罠発動!『エクシーズ・リボーン』!」

 

「2枚目……!」

 

「来い、ダーク・リベリオン!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

何度だって蘇る『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』。彼のエースカードである黒竜が赤き血流を輝かせて咆哮する。しかし『エクシーズ・リボーン』の効果を加味してもORUは1つ、2つなければダーク・リベリオンの効果は発動出来ない。

 

「墓地の『RUM-幻影騎士団ラウンチ』を除外!手札の『幻影騎士団サイレントブーツ』をORUにする!そしてORUを2つ取り除き、ドラゴン・バスター・キャノンの攻撃力を奪う!」

 

「無駄だ!除外し、分裂!」

 

ABC-ドラゴン・バスター 守備力2800

 

XYZ-ドラゴン・キャノン 守備力2600

 

ダーク・リベリオンの両翼から放たれ赤き稲妻がドラゴン・バスター・キャノンを狙うも、2体へと分離してかわされる。やはりそう簡単には通してくれないか。

 

「墓地のサイレントブーツを除外!『RUM-幻影騎士団ラウンチ』をサーチし、発動!ダーク・リベリオンをランクが1つ上のエクシーズモンスターへとランクアップする!煉獄の底より、未だ鎮まらぬ魂に捧げる反逆の歌!永久に響かせ現れよ!」

 

だが――ユートの手は止まらない。これで駄目なら、次の手へ。自身の分身、ダーク・リベリオンをランクアップさせ、逆転を狙う。彼のエクストラデッキの光が、更に増し、ユートはその白紙のエクシーズカードを引き抜き、デュエルディスクに叩きつける。光がカード全体を舐めるように輝き、今その姿が描かれる。

 

「ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!出でよ、『ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力3000

 

そして、その竜は現れる。ダーク・リベリオンが骨の鎧を纏い、更に鋭利となった翼を広げた、ユートの新たな力。新たな切り札。『ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン』。仲間達の魂を紡ぎ、黒竜は進化する。

 

「これが……お前の全力か!」

 

「そうだ!これが俺の全力!ダーク・レクイエムの効果!ORUを1つ取り除き、XYZの攻撃力を0にし、その数値分攻撃力をアップ!レクイエム・サルベーション!」

 

XYZドラゴン・キャノン 攻撃力2800→0

 

ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力3000→5800

 

「バトルだ!ダーク・レクイエムで、ドラゴン・キャノンへ攻撃!アクションマジック、『伏魔殿の螺暈祟』!ダーク・レクイエムの攻撃力を500アップし、貫通効果を与える!」

 

ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力5800→6300

 

バサリ、ダーク・レクイエムが巨大な翼を広げると共に、美しい輝きを放つステンドグラスが広がる。神々しくも美しい光。ダーク・レクイエムはその勢いのまま地へ牙を突き立てて突き進み――ドラゴン・キャノンを討つ。

 

「鎮魂のディザスター・ディスオベイ!!」

 

万丈目 準 LP1300→0

 

「――見事――!」

 

砕かれるドラゴン・キャノンを見て、万丈目は悔しそうに表情を歪めながら、ユートへと称賛の言葉を送る。勝者――ユート。




おジャマ・レッド「えっ、私の出番、少な過ぎ……?(手札コスト)」

VW「……」
VWXYZ「……」


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第127話 デュエルマッスル

機種変しましたー、使いにくい。


時は少しばかり遡る。ユートとは別に、三沢 大地によってデュエルアンカーをデュエルディスクに巻き付けられ、動きを封じられた隼はとあるドームへと分断されていた。今は使われていないのか、一人っ子1人いない。ここなら邪魔が入らないだろう。

 

「ここで良いか……俺のモンスターはデカ過ぎるんでな、こんな所でもないと邪魔が来るだろう」

 

「ふん、そう言う事か、アクションフィールド、展開」

 

隼がデュエルディスクを操作すると共に、ドームの中に光の粒子が広がり、青いブロックが設置され、カードが浮き上がる。隼もまた、ユートと同じくアクションデュエルで挑むようだ。

 

「アクションデュエルか……良いだろう」

 

両者共にデュエルディスクを構え、光のプレートを展開する。準備万端、2人は気合いを入れて叫ぶ。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻は三沢だ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、戦術を練る。まずは自分本来のデュエルを。

 

「フィールド魔法、『化合電界』を発動!その効果で俺はレベル5以上のデュアルモンスターのリリースを無くし、『進化合獣ダイオーキシン』を召喚する!」

 

進化合獣ダイオーキシン 攻撃力2800

 

いきなり上級モンスターの召喚、現れたのは鬼のような風貌をしたカラフルなモンスターだ。攻撃力は2800、しかも通常召喚の為、隼との相性は悪い。

 

「デュアルモンスターか……」

 

「これならばお前の『RR』をいくらか封じられる。俺は『化合電界』の効果でダイオーキシンを再度召喚!永続魔法、『補給部隊』を発動し、カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

三沢 大地 LP4000

フィールド『進化合獣ダイオーキシン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

『化合電界』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!攻撃力2800のデュアルモンスター……単純で少し古いが、だからこそ俺には刺さる。だが生憎、合宿で散々ペンデュラムとアドバンスの2つを使う奴と対戦したんでな!そう簡単にはいかんぞ!魔法カード、『強欲で金満な壺』!エクストラデッキから6枚のカードを除外、2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札5→7

 

「手札の『黄金の天道虫』を公開し、LPを500回復!」

 

黒咲 隼 LP4000→4500

 

「『RR-インペイル・レイニアス』を召喚!」

 

RR-インペイル・レイニアス 攻撃力1700

 

現れたのは嘴の鋭い赤い機械鳥だ。この場でこのカード程頼りになるカードは無い。

 

「更に魔法カード、『RR-コール』を発動!インペイル・レイニアスを対象とし、デッキから同名モンスターを守備表示で特殊召喚!」

 

RR-インペイル・レイニアス 守備力1000

 

「まだだ、『RR』が存在する事で『RRーファジー・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RR-ファジー・レイニアス 守備力1500

 

次に現れたのは紫色の鳥獣だ。容易な特殊召喚条件を持っており、『RR』の肝と言って良い。

 

「連続召喚……」

 

「速攻魔法、『スワローズ・ネスト』!守備表示のインペイル・レイニアスをリリースし、デッキから『RR-トリビュート・レイニアス』をリクルート!」

 

RR-トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

更に隼の手は進む。ドームで飛翔するのは青い体躯をした鳥獣、身体の周囲に幾つかのレーザービットを浮かばせており、攻撃的なデザインのモンスターだ。

 

「トリビュート・レイニアスの効果でデッキから『RR-ミミクリー・レイニアス』を墓地に落とし、ミミクリー・レイニアスを除外する事で『RR-レディネス』をサーチ」

 

「速攻魔法、『相乗り』!相手がサーチ、サルベージをする度に1枚ドロー!」

 

「……そのカードを使われたのは2回目だ……」

 

三沢 大地 手札1→2

 

サーチが主たる戦術である『RR』に対し、逆手に取って『相乗り』。成程、対策はして来ているらしい。前回でのデュエルで感じられた事だが、この三沢と言う男、観察、分析、研究派のデュエリストらしい。だがここで止まる訳にはいかない。

 

「インペイル・レイニアスの効果でダイオーキシンを守備表示に変更!」

 

「成程、ダイオーキシンの守備力は200、合理的だな」

 

「バトルだ!トリビュート・レイニアスでダイオーキシンへ攻撃!」

 

トリビュート・レイニアスのレーザービットから青白い熱線が放たれ、ダイオーキシンを粉々にする。下級モンスターによる上級モンスターへの反逆、如何にも隼らしい。

 

「『補給部隊』の効果でドロー」

 

三沢 大地 手札2→3

 

「インペイル・レイニアスで追撃!」

 

「永続罠、『リビングデッドの呼び声』!ダイオーキシンを蘇生する!」

 

進化合獣ダイオーキシン 攻撃力2800

 

しかし追撃を仕掛けようとした所で三沢のフィールドにダイオーキシンが舞い戻る。インペイル・レイニアスの効果も狙いたかったのだが、そう上手くはいかないようだ。

 

「そうでなくては面白くない。メインフェイズ2、トリビュート・レイニアスの効果で『RUMーラプターズ・フォース』をサーチ!」

 

三沢 大地 手札2→3

 

「更にファジー・レイニアスとインペイル・レイニアスでオーバーレイ・ネットワークを構築!冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実を暴き、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ!エクシーズ召喚!飛来せよ!『RR-フォース・ストリクス』!」

 

RR-フォース・ストリクス 守備力2000→2500

 

エクシーズ召喚、隼の眼前に黒き渦が発生し、2体の猛禽が光となって吸い込まれて集束、小爆発を起こし、現れたのは『RR』の鉄壁の盾、初手安定のフォース・ストリクスだ。隼は『RR』の大量展開でこのカードを複数並べ、次の手へ繋げると言う模範的なプレイングを得意としている。

 

「フォース・ストリクスのORUを1つ取り除き、効果発動!『RR-シンギング・レイニアス』をサーチ!墓地に送られたファジー・レイニアスの効果で同名をサーチ!」

 

三沢 大地 手札3→4→5

 

「フィールドにエクシーズモンスターが存在する事でシンギング・レイニアスを特殊召喚!」

 

RRーシンギング・レイニアス 守備力100

 

更に展開、お次はファジー・レイニアスと共に翼となるモンスターだ。これで再び、レベル4が2体。

 

「2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RR-フォース・ストリクス』!」

 

RR-フォース・ストリクス 守備力2000→2500

 

「ORUを取り除き、効果発動!『RR-ブースター・ストリクス』をサーチ!」

 

三沢 大地 手札5→6

 

「良いのか?こんなにドローさせて」

 

「そうしなければやられるのは俺だ。相手がどう来ようと、俺は全力を尽くす!カードを3枚セットし、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP4500

フィールド『RR-フォース・ストリクス』(守備表示)×2

セット3

手札4

 

「俺のターン、ドロー!」

 

ここで三沢の手札が6枚、初期値まで戻った。ここからどのような戦術を取るのか、隼は警戒を露にする。

 

「まずは魔法カード、『手札抹殺』!手札を交換!」

 

「ファジー・レイニアスの効果で同名をサーチ!」

 

「手札の『デューテリオン』を捨て、『ボンディングーDHO』をサーチ!更に『化合電界』の効果で『進化合獣ヒュードラゴ』を召喚!」

 

進化合獣ヒュードラゴ 攻撃力200

 

現れたのは多頭のドラゴン。胸には水の化学式が記されており、水をモチーフにしているのだろう。

 

「これで、レベル8のデュアルモンスターが2体……」

 

「何……!?」

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『超化合獣メタン・ハイド』!!」

 

超化合獣メタン・ハイド 攻撃力3000

 

エクシーズ召喚、現れたのは多くの『化合獣』を合成したキメラのモンスター。竜の身体に輝く翼、蟹の鋏等、様々な動物の特徴が見てとれる。まさかアカデミアの人間がエクシーズ召喚するとは思ってなかったのか、隼が驚愕を見せる。

 

「メタン・ハイドのエクシーズ召喚時、墓地のデュアルモンスター、『化合獣カーボン・クラブ』を蘇生!」

 

化合獣カーボン・クラブ 守備力1400

 

メタン・ハイドの腕の鋏がニュルリと這い出て蟹となる。炎属性、水族の珍しいカードだ。

 

「『化合電界』の効果でカーボン・クラブを再度召喚、メタン・ハイドのORUを1つ取り除き、お前はフィールド、手札からカードを墓地に送る」

 

「俺に選ばせる効果か……面倒な、俺はフィールドのセットカードを墓地に」

 

相手に選ばせる耐性を無視した強力な効果。中々厄介なものだ。

 

「カーボン・クラブの効果でデッキの『化合獣ハイドロ・ホーク』を墓地に送り、『化合獣オキシン・オックス』をサーチ!バトルだ!メタン・ハイドでフォース・ストリクスに攻撃!」

 

「罠発動!『RR-レディネス』!このターン、『RR』は戦闘破壊されない!」

 

メタン・ハイドがその翼で飛翔し、大きな蟹の鋏を使って空中に浮く梟を切り裂こうとしたその時、フォース・ストリクスの周囲にバリアが発生して防がれる。サーチ効果を持っているこのカードをそう簡単に失う訳にはいかない。

 

「む、墓地に送ったのはレディネスでは無かったか……俺はカードを3枚セットし、ターンエンド」

 

三沢 大地 LP4000

フィールド『超化合獣メタン・ハイド』(攻撃表示)『化合獣カーボン・クラブ』(守備表示)

『補給部隊』『リビングデッドの呼び声』セット3

『化合電界』

手札3

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、罠発動!『ボンディング-DHO』!墓地より『デューテリオン』、『ハイドロゲドン』、『オキシゲドン』の3体をデッキに戻し、手札の『ウォーター・ドラゴン-クラスター』を特殊召喚!!」

 

ウォーター・ドラゴン-クラスター 攻撃力2800

 

三沢の墓地のモンスター達が巨大なフラスコの中で混ざり合い、新たなモンスターに変化する。ドドドとドーム内の観客席が津波に侵食されるのを見て、隼はいち早く飛び退いてブロックの上に避難する。そして水が竜巻の如くとぐろを巻き、現れたのは2対の水の龍。赤い眼を光らせ、フォース・ストリクスを睨み付ける。

 

クラスターの効果!お前のモンスターの攻撃力は0となる!効果を発動出来ない!

 

「何――!?」

 

RR-フォース・ストリクス 攻撃力1600→0→1500

 

『ウォーター・ドラゴン』に威圧され、フォース・ストリクスが地に落とされる。これではフォース・ストリクスのサーチ効果が使えない。だがこの三沢の選択はタイミングを急いたように見える。

 

「俺がフォース・ストリクスの効果を使ってからでも遅くは無かったろうに。魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を交換し、魔法カード、『エクシーズ・ギフト』!フォース・ストリクスのORUを1つずつ取り除き、2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札4→6

 

例えORUを取り除き、効果を発動出来なくとも、こうしてコストにする事は出来る。隼のフォース・ストリクスを警戒して封じようとしたものの、少々焦りが出たか。

 

「そう来るか」

 

「魔法カード、『RUM-レイド・フォース』を発動!フォース・ストリクス1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!獰猛なるハヤブサよ。激戦を切り抜けしその翼を翻し寄せ来る敵を打ち破れ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR-ブレイズ・ファルコン』!」

 

RR-ブレイズ・ファルコン 攻撃力1000

 

隼得意のランクアップ戦術、フォース・ストリクスが深紅の炎に包まれて昇華し、真っ赤なボディを煌めかせる猛禽となる。このモンスターで危機を乗り越える。

 

「ブレイズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!相手フィールドに特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、その数×500のダメージを与える!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!ブレイズ・ファルコンの攻撃と効果を封じる!」

 

「チッ、まだだ!俺はファジー・レイニアスを特殊召喚!」

 

RR-ファジー・レイニアス 守備力1500

 

RR-フォース・ストリクス 守備力2500→3000

 

「そしてファジー・レイニアスの攻撃力分のダメージを受け、『RR-ペイン・レイニアス』を特殊召喚、レベルをファジー・レイニアスと同じ4に!」

 

黒咲 隼 LP4500→4000

 

RR-ペイン・レイニアス 守備力1000 レベル1→4

 

RR-ペイン・レイニアス 守備力3000→3500

 

ファジー・レイニアスに並び、現れたのは緑色のボディの小さな鳥獣。これでレベル4が2体、最後だ。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RR-フォース・ストリクス』!」

 

RR-フォース・ストリクス 守備力2500→3000

 

「ORUを1つ取り除き、『RR-ネクロ・ヴァルチャー』をサーチ、召喚!」

 

RR-ネクロ・ヴァルチャー 攻撃力1000

 

RR-フォース・ストリクス 守備力3000→3500

 

次に現れたのは紫色の機械鳥、防御を捨て、怒濤のラッシュ。このターンで決める勢いだ。

 

「ネクロ・ヴァルチャーの効果!このカードをリリースし、墓地のレイド・フォースをサルベージ!ブレイズ・ファルコンを対象に発動!オーバーレイ・ネットワークを再構築!誇り高きハヤブサよ。英雄の血潮に染まる翼翻し革命の道を突き進め!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR-レヴォリューション・ファルコン』!!」

 

RR-レヴォリューション・ファルコン 攻撃力2000

 

2回連続ランクアップ、怒濤の勢いで進化し、空を飛翔するのは灰色の翼を広げた猛禽。隼のエースと言って良いカードだ。圧倒的な殲滅力を誇るこのモンスター程、今この状況で頼れるものはいない。

 

「レヴォリューション・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!このターン、このカードは相手モンスター全てに攻撃可能!バトル!レヴォリューション・ファルコンでメタン・ハイドに攻撃!レヴォリューショナル・エアレイド!」

 

「永続罠、『強制終了』!『デモンズ・チェーン』を墓地に送り、バトルフェイズを終了!」

 

しかし――これもかわされる。発動されたのは自分フィールドのカード1枚をコストにバトルを終わらせるカード、これでフィールドに残ったカードを処理しつつ、攻撃を防ぐ算段なのだろう。無駄を嫌う彼らしいカードだ。だが――何故かここまでのカードを思い返し、隼は違和感を覚える。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンド」

 

黒咲 隼 LP4000

フィールド『RR-レヴォリューション・ファルコン』(攻撃表示)『RR-フォース・ストリクス』(守備表示)×2

セット3

手札1

 

「俺のターン、ドロー!カーボン・クラブの効果!デッキから『化合獣カーボン・クラブ』を墓地に送り、『進化合獣ダイオーキシン』をサーチ!そして『化合電界』の効果でダイオーキシン召喚!」

 

進化合獣ダイオーキシン 攻撃力2800

 

レヴォリューション・ファルコンは特殊召喚されたモンスターならば攻守を0にする強力なモンスター。よって真正面から捩じ伏せるなら通常召喚したモンスター位のものだろう。三沢の選択は正解と言える。

 

「ダイオーキシンを再度召喚!墓地のヒュードラゴを除外、レヴォリューション・ファルコンを破壊!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外して防ぐ!」

 

「ならバトルだ!ダイオーキシンで攻撃!」

 

黒咲 隼 LP4000→3200

 

「罠発動!『RR-リターン』!『RR』が戦闘破壊された事で墓地のトリビュート・レイニアスをサルベージ!更に速攻魔法、『RUM-ラプターズ・フォース』!レヴォリューション・ファルコンを呼び戻し、ランクが1つ高い『RR』へと進化させる!オーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR-アーセナル・ファルコン』!」

 

RR-アーセナル・ファルコン 守備力2000

 

RR-フォース・ストリクス 守備力2500→3000

 

「だがそのモンスターのステータスは俺のモンスターより低い!やれ、クラスター!」

 

折角ランクアップされた格納庫のような『RR』も空しく『ウォーター・ドラゴン-クラスター』に呑み込まれる。これでフォース・ストリクスにも追撃が可能となる。そう思った時――。

 

「ORUを持ったアーセナル・ファルコンが墓地に送られた事でエクストラデッキより『RR-アルティメット・ファルコン』を呼び出し、このカードをORUにする!」

 

「何っ!?」

 

RR-アルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

隼の狙いが炸裂する。破壊されたアーセナル・ファルコンが更に進化を遂げ、黄金の輝きを放つのは漆黒の猛禽。その背に日輪を模した翼を伸ばしたこのカードこそ、黒咲 隼、最強の切り札。

 

「どうやらアーセナル・ファルコンの存在は知らなかったようだな」

 

「フ、構わないさ。デュエルに想定外は想定内だからな。メタン・ハイドを守備表示に、カードを2枚セットし、ターンエンド」

 

「この瞬間、アルティメット・ファルコンの効果でお前のモンスター達の攻撃力は1000ダウンする!」

 

ウォーター・ドラゴン-クラスター 攻撃力2800→1800

 

超化合獣メタン・ハイド 攻撃力3000→2000

 

進化合獣ダイオーキシン 攻撃力2800→1800

 

化合獣カーボン・クラブ 攻撃力700→0

 

太陽の威光の前に三沢のモンスターが霞む。効果を受けない超耐性に加えて『RR』を素材にしている場合、互いのエンドフェイズに相手モンスターを大幅に弱体化する効果、強力だ。隼はアルティメット・ファルコンの背に乗り、フィールドを駆ける。

 

三沢 大地 LP4000

フィールド『ウォーター・ドラゴン-クラスター』(攻撃表示)『超化合獣メタン・ハイド』(攻撃表示)『進化合獣ダイオーキシン』(攻撃表示)『化合獣カーボン・クラブ』(守備表示)

『補給部隊』『リビングデッドの呼び声』『強制終了』セット2

『化合電界』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!アルティメット・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!お前のモンスターの攻撃力を1000ダウンし、カードの効果発動を封じる!」

 

「チェーンして罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

ウォーター・ドラゴン-クラスター 攻撃力2000→1000

 

超化合獣メタン・ハイド 攻撃力2000→1000

 

進化合獣ダイオーキシン 攻撃力1800→800

 

「ならばフォース・ストリクスのORUを取り除き、『RR-ブースター・ストリクス』をサーチ!そしてトリビュート・レイニアスを召喚!」

 

RR-トリビュート・レイニアス 攻撃力1800

 

「効果でデッキのミミクリー・レイニアスを落とし、除外して『RR-レディネス』をサーチ!墓地のレイド・フォースと手札の『RR-スカル・イーグル』を除外、ラプターズ・フォース回収!カードを2枚セットし、ターンエンド」

 

黒咲 隼 LP3200

フィールド『RR-アルティメット・ファルコン』(攻撃表示)『RR-フォース・ストリクス』(守備表示)×2

セット3

手札2

 

「俺のターン、ドロー!カーボン・クラブの効果発動!デッキからヒュードラゴを落とし、ダイオーキシンをサーチ!そして速攻魔法、『手札断殺』!手札の2枚を捨て、2枚ドロー!」

 

「チィッ」

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!リビングデッドをコストに2枚ドロー!」

 

三沢 大地 手札2→4

 

「ダイオーキシンの効果でヒュードラゴを除外、フォース・ストリクスを破壊!」

 

「墓地の『RR-リターン』を除外、『RR-ネスト』をサーチ!」

 

「ダイオーキシンとカーボン・クラブをリリースし、ダイオーキシンをアドバンス召喚!」

 

進化合獣ダイオーキシン 攻撃力2800

 

「再度召喚!カーボン・クラブを除外、フォース・ストリクスを破壊!そしてクラスターをリリースし、『ウォーター・ドラゴン』を2体、デッキから守備表示で特殊召喚!」

 

ウォーター・ドラゴン 守備力2600

 

超化合獣メタン・ハイド 攻撃力1000→0

 

水の龍が2体に分かれ、防御の体制となる。だが守備表示の上、攻撃力も隼のモンスターへ届かない。ならばどうするか?簡単だ、使えるように工夫してやれば良い。

 

「永続罠、『メタモル・クレイ・フォートレス』!岩石族、地属性、レベル4、攻撃力1000のモンスターとして特殊召喚し、メタン・ハイドを装備!攻撃力分、攻守をアップ!」

 

メタモル・クレイ・フォートレス 攻撃力1000→4000

 

現れたのは巨人のモンスター。巨大な身体にメタン・ハイドを取り込み、圧倒的な攻撃力を見せつける。

 

「更に永続魔法、『王家の神殿』を発動!これで俺は1ターンに1度、罠をセットしたターンに発動可能!カードをセットし、発動!『メタモル・クレイ・フォートレス』!」

 

「2枚目だと!?」

 

「『ウォーター・ドラゴン』を装備!」

 

メタモル・クレイ・フォートレス 攻撃力1000→3800

 

何と2枚目のメタモル・クレイ・フォートレス。これにより三沢のフィールドのモンスターが4体、魔法、罠ゾーンの全てが埋まった。

 

「バトルだ!『メタモル・クレイ・フォートレス』でアルティメット・ファルコンへ攻撃!」

 

「この瞬間、手札のブースター・ストリクスを除外し、攻撃モンスターを破壊!」

 

『ウォーター・ドラゴン』を装備した『メタモル・クレイ・フォートレス』がその巨体を鈍く動かせ、アルティメット・ファルコンを握り潰そうとしたその時、横合いから小さな猛禽が飛び出し、アルティメット・ファルコンの背に取りつき、ジェット噴射して『メタモル・クレイ・フォートレス』を貫く。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

三沢 大地 手札0→1

 

「2体目で追撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!」

 

「かわすか……!ターンエンド」

 

「速攻魔法、『RUM-ラプターズ・フォース』発動!このターンに破壊されたフォース・ストリクス1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR-ブレイズ・ファルコン』!」

 

RR-ブレイズ・ファルコン 攻撃力1000

 

三沢 大地 LP4000

フィールド『ウォーター・ドラゴン』(攻撃表示)『進化合獣ダイオーキシン』(攻撃表示)『メタモル・クレイ・フォートレス』(守備表示)

『超化合獣メタン・ハイド』『補給部隊』『王家の神殿』『強制終了』

『化合電界』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!ブレイズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、貴様の特殊召喚されたモンスターを全て破壊!その数×500のダメージを与える!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!ぐっうぅぅぅぅっ!?」

 

三沢 大地 LP4000→3000 手札1→2

 

ブレイズ・ファルコンの翼よりミサイルが飛び出し、三沢の『ウォーター・ドラゴン』と『メタモル・クレイ・フォートレス』を破壊する。これでアルティメット・ファルコンの敵は消えた。

 

「バトルだ!アルティメット・ファルコンでダイオーキシンへ攻撃!」

 

「『強制終了』の効果で『化合電界』を墓地に送り、バトルを終了!」

 

「カードを1枚セットし、ブレイズ・ファルコンを守備表示に変更、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP3200

フィールド『RR-アルティメット・ファルコン』(攻撃表示)『RR-ブレイズ・ファルコン』(守備表示)

セット3

手札2

 

「俺のターン、ドロー!時は来た、か。俺はカードをセットし、発動!永続罠、『心鎮壷』!お前のセットカード2枚を封じる!ダイオーキシンの効果でハイドロン・ホークを除外、ブレイズ・ファルコンを破壊!そして永続魔法、『リサイクル』を発動!そして3枚の永続魔法を墓地に送り――手札のこのカードを特殊召喚する!」

 

肌が粟立つ、身震いがする。何だこれは、この男は一体何をしようとしている。一体何を呼び出そうとしている。永続魔法3枚と言う異常な生け贄を捧げ、三沢が手にした1枚のカードに力が注がれる。ドクン、ドクンと心臓が脈打つような音がカードから鳴り響き、デュエルディスクのプレートに置かれた途端――三沢の筋肉が膨張、更に逞しくなり、上半身がキャストオフされる。

 

「ッ!?」

 

更に――ピシリ、と光のプレートと、その直線上にある空間が黄色い光でひび割れるようなエフェクトが走る。

 

来る、神にも匹敵する悪魔の1柱。天より落雷が轟き、ドームの天井を食い破ってそれは姿を見せる。

 

「来い!『降雷皇ハモン』!!」

 

降雷皇ハモン 攻撃力4000

 

黄金の巨体、透き通った薄い羽に、剥き出しになった骨の体躯、稲妻を纏い、その身を輝かせる姿は正に雷の化身。神とも幻視しそうになる程に、この悪魔は、圧倒的で、超然的だった。

 

漆黒の体躯に黄金の輝きを放つアルティメット・ファルコンでさえ、このカードの前では霞む。その場にいるだけで空気を何倍にも重くするハモンに、あの隼でさえ声を絞り出せない。これは果たして、モンスターなのかとすら思ってしまう。

 

だが――直ぐ様振り払い、鉄の意志を引き摺り出し、赤い眼でこちらを睥睨する悪魔を睨み返す。絶対に負けない、負けてたまるかと気迫を込めた瞳だ。一歩たりとも引き下がらない。

 

「ほう……このハモンを前にして下がらないか」

 

「フン、これが貴様の切り札か」

 

「そう、これがこのデッキにある、三幻魔の1体だ」

 

「……三、幻魔だと……!?」

 

愕然、思わず隼の瞳が揺れる。三幻魔。こんな化物が後2体も残っていると言うのか。そしてこの男は、それを御していると言うのか。

 

「……ッ!攻撃力4000か……!」

 

デュエルモンスターズには、攻撃力で判断されるラインがある。一般的にこれに当てはまるモンスターは総じて優秀である事が多い。下級モンスターの1800、沢渡も操る上級モンスター、帝ラインとも呼ばれる2400、このシンクロ次元では『ゴヨウ』ラインと言われる2800、そこから更に上の3000と言うのが、一般的に見られるものだ。

隼の切り札であるアルティメット・ファルコンはこれを越え、3500。しかし――三沢のハモンは更に上、4000。しかも守備力にも隙は無い。インペイル・レイニアスの攻略も不可、アルティメット・ファルコンも効果を受けない超耐性が仇となり、これ以上攻撃力を上げられない。

 

「バトルだ!ハモンでアルティメット・ファルコンへ攻撃!失楽の霹靂!」

 

ハモンが両翼を広げると共に雷鳴が轟き、アルティメット・ファルコンに撃ち出す。それを跳躍し、ブロックに飛び移って回避する隼。しかし余波によって吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。とんでもない一撃だ。

 

「ぐっう――!罠発動!『RR-レディネス』!除外し、ダメージを0に!」

 

「む、ターンエンドだ」

 

三沢 大地 LP4000

フィールド『降雷皇ハモン』(攻撃表示)『進化合獣ダイオーキシン』(攻撃表示)

『心鎮壷』『強制終了』

手札0

 

痺れる身体を何とか立たせ、ふらつきながらも隼は三沢のフィールドを睨む。降臨するのは三幻魔の一角、『降雷皇ハモン』。圧倒的なこのモンスターを前に、それでも隼は勇気を振り絞る。分が悪いのは、何時もの事、これでこそ、隼の力の見せ所と言うものだ。

自分は特別な存在では無いが――特別なものに、立ち向かえる。

 

「お楽しみは、これからだ!」

 

不死鳥は、何度でも蘇る。




三沢君なら三幻魔でも使いこなせるかなって。


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第128話 三幻魔

環境で混ぜ物デッキが出回ってるの見たり混ぜ物デッキ書いてると自分も使いたくなって作ってしまう。そして事故る。


サーキットでは遊矢達とシンジ達によるライディングチームデュエルが、シティ内ではユートと隼が万丈目と三沢を迎撃する中、ここ――治安維持局周辺でも、語られる事の無いデュエルが行われていた。1人は風魔 月影。ランサーズの隠密機動役を担う縁の下の力持ちだ。彼は零児からの指令により、治安維持局を調査しようとしたのだが――偶然か必然か、周辺にいた治安維持局の者であろう黒マントの男と対峙する事となった。その灰色の瞳は月影を逃すまいと彼を無機質に射抜き、冷徹に、機械的に月影を追い詰めていく。

 

「ぐっ――!」

 

「……効果発動」

 

フワリ、と彼のモンスターが翼を広げて空中に飛翔、凄まじいスピードでフィールドを駆け抜け、刃を振るって月影のモンスターを切り裂く。一撃必殺、守備力で勝っていた月影のエースモンスター。『黄昏の忍者将軍-ゲツガ』が容易く崩れ落ちる。これで月影のフィールドのモンスターは0、LPも彼のモンスターの攻撃力に上回られている。

 

「……攻撃」

 

そして今――凶刃が、月影の喉元へ迫る。

 

――――――

 

黒咲 隼VS三沢 大地、レジスタンス、ランサーズとアカデミア、エクシーズ次元と融合次元のデュエリストによる、シンクロ次元で繰り広げられるデュエルは、現在一方的な展開を向かえていた。

かたやモンスター0、手札0、唯一ある2枚のセットカードも発動を封じられた状態。かたや攻守4000の圧倒的な力を振るう悪魔と上級モンスター、そしてバトルフェイズを終了させる永続罠とワンサイドゲーム待ったなしの状況。

 

そんな中、隼はデッキトップからカードを引き抜き、反撃の準備を整える。引いたカードを確認、これならば――隼はたった今手札に加えたカードをデュエルディスクに差し込み、賭けに出る。この1枚で、どこまで出来るか。

 

「魔法カード、『命削りの宝札』を発動!手札が3枚になるようにドローする!」

 

黒咲 隼 手札0→3

 

この状況ではありがたい1枚だ。隼の手札に3枚のカードが渡り、確認、またもありがたい。無駄になるカードが1枚も無い。デッキが彼の翼となり応えてくれている。自分も応えるべきだ。デッキが諦めていない以上、本人が諦める訳にはいかない。引いた3枚をフルに活用する。

 

「モンスターをセット、カードを2枚セットし、ターンエンド!」

 

黒咲 隼 LP3200

フィールド セットモンスター

セット4

手札0

 

「フム……俺のターン、ドロー!フィールド魔法、『失楽園』を発動!これで俺の三幻魔は相手の効果の対象とならず、効果で破壊されなくなる」

 

「耐性付与か……」

 

ドーム内に巨大な枯れ木が生え、フィールドが冷たい闇に包まれる。三幻魔への強力な耐性付与、非常に不味い流れだ。戦闘面で凶悪な性能を誇るハモンが効果にも強くなってしまった。時が経つ程に不利になるのは隼。早期の決着を、と思っても手数が足りない。

 

「そして俺のフィールドに三幻魔が存在する事で2枚ドロー!」

 

「何っ!?」

 

三沢 大地 手札0→2

 

しかも『失楽園』の効果はこれだけにおさまらない。耐性に加え、三幻魔の存在を条件とした1ターンに1の『強欲な壺』効果、間違いない、このカードは早々に除去しなければならない。

 

「バトルだ!ダイオーキシンでセットモンスターを攻撃!」

 

「ッ!」

 

「ハモンでダイレクトアタック!」

 

セットモンスターが撃破され、がら空きとなった所にハモンの落雷が降り注ぐ。凄まじい勢いでこちらに向かう高圧電流、隼はそれを足飛びにかわしながらデュエルディスクにセットしたカードを発動する。

 

「罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地のトリビュート・レイニアスに耐性を与え、蘇生する!」

 

RR-トリビュート・レイニアス 守備力400

 

現れたトリビュート・レイニアスの翼に掴まり、隼が空を飛んで雷から逃れる。これでこのターンは堪えた。今はこれだけで精一杯だ。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

三沢 大地 LP3000

フィールド『降雷皇ハモン』(攻撃表示)『進化合獣ダイオーキシン』(攻撃表示)

『心鎮壷』『強制終了』セット1

『失楽園』

手札1

 

このターンで三沢は三幻魔に耐性を与え、毎ターン『強欲な壺』をデメリット無しで発動可能な『失楽園』を得た。状況は悪化するばかり、このままでは詰め将棋、いや、詰めデュエルの如く隼の一手一手が塞がれていく。この男はそう言う男だ。

大きな武器を持っているからと慢心も油断もせず、相手の武器を1つ1つ奪い、確実に致命傷を通して来る。

 

厄介な相手だと言っても、彼等は運が良い。ユートならば相手を対象とする効果が多い為、三幻魔の攻略に手こずるだろうし、隼が万丈目と闘えば『おジャマ』によって展開が妨害される。首の皮1枚で繋がっている2人だった。

 

「俺のターン、ドロー!まだ、勝機はある……!罠発動!『R・R・R』!トリビュート・レイニアスを対象とし、デッキから同名モンスターを特殊召喚する!」

 

RR-トリビュート・レイニアス 守備力400

 

「効果でミミクリー・レイニアスを墓地に送り、除外、デッキから『RR-レディネス』をサーチ!」

 

これで生命線を確保した。後はまた分の悪い賭けに出る。

 

「魔法カード、『終わりの始まり』!」

 

「ほう……!」

 

隼が発動したカードを見て、三沢が興味深そうに目を見開く。このカードは墓地に闇属性モンスターが7体以上存在して発動出来、この内の5体を除外と言う重いコストを持つカードである。だが成程、彼のデッキならば高速で闇属性を墓地に落とし、発動条件を満たす事が可能だ。そしてその効果は――3枚ドロー。

 

「俺はファジー・レイニアス、インペイル・レイニアス、ネクロ・ヴァルチャー、ブースター・ストリクス、ブレイズ・ファルコンの5体を除外し、3枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札1→4

 

5体の魂が3枚のカードとなって隼の手に渡る。

 

「……引けんか……」

 

しかし、どうやら目当てのカードを引けなかったらしい。一応は何とかなるが――。

 

「『RR-アベンジ・ヴァルチャー』を召喚!」

 

RR-アベンジ・ヴァルチャー 攻撃力1700

 

2体のトリビュート・レイニアスの間に現れたのは茶色いボディの荒鷲、これでレベル4が3体、フォース・ストリクスを使い切った今、隼が取れる行動は1つのみ。

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!雌伏のハヤブサよ。逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ!エクシーズ召喚!現れろ!『RR-ライズ・ファルコン』!」

 

RR-ライズ・ファルコン 守備力2000

 

ここで現れたのは青いボディに、身体の半分以上の爪を持ったランク4のエクシーズモンスター。多対一の状況で輝くが、生憎今は効果を使えない。

 

「更に手札の『RUM-ラプターズ・フォース』を捨て、ライズ・ファルコン1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RR-レヴォリューション・ファルコン-エアレイド』!!」

 

RR-レヴォリューション・ファルコン-エアレイド 守備力3000

 

ライズ・ファルコンがランクアップし、現れたのはレヴォリューション・ファルコンの新たな姿。必殺をその名に刻んだモンスターだ。このカードで逆転を狙う。

 

「エクシーズ召喚時、ダイオーキシンを破壊!攻撃力分バーンダメージを与える!」

 

「永続罠、『メタモル・クレイ・フォートレス』!効果は知ってるな?特殊召喚し、ダイオーキシンを装備!」

 

メタモル・クレイ・フォートレス 攻撃力1000→3800

 

しかし――これも回避、武器が1つ壊される。折角隠していた手も初見で封じられてしまった。隼は舌打ちを鳴らし、カードをデュエルディスクに差し込む。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンド」

 

黒咲 隼 LP3200

フィールド『RR-レヴォリューション・ファルコン-エアレイド』(守備表示)

セット4

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『失楽園』の効果でドロー!」

 

三沢 大地 手札2→4

 

「速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!手札を1枚捨て、『心鎮壷』の対象になった2枚を破壊!」

 

「破壊されたカードで『運命の発掘』の効果でドロー!」

 

黒咲 隼 手札0→1

 

「む……まぁ良い…2枚目の登場だ……!」

 

「ッ、まさか……!?」

 

ニヤリ、三沢が不敵に笑い、手札の1枚を見せつけるように翳す。まさか、こんなにも早く引き込んだと言うのか、隼の表情に動揺が走り、ギリ、と歯軋りが鳴る。

 

「フィールドの永続罠3枚を墓地に送り――来い!『神炎皇ウリア』!!」

 

神炎皇ウリア 攻撃力0→7000

 

そしてそれは、地に堕ちる。雷に並ぶは、神の炎。真っ赤な巨大な体躯でとぐろを巻き、薄い羽を広げる深紅の竜。幻魔の2柱目が君臨する。その攻撃力は――。

 

「7000……だと……!?」

 

並び立つハモンをも越え、7000。隼のアルティメット・ファルコンの倍の数値である。

 

「ウリアたんは墓地の永続罠の数1000の攻撃力を得るのだ」

 

「ウリアたん……!?」

 

三沢がドヤ顔でウリアをたん呼びすると共に赤い竜が『WRYYYYYYY!!』と雄々しく吠える。これのどこがたんなのだろうか。

 

「更にウリアたんの効果!左のセットカードを破壊!」

 

「ならば発動……出来ない…!?」

 

「残念だが、この効果にチェーンは不可能!トラップディストラクション!」

 

ウリアのアギトから放たれる、超高熱、高密度の火炎弾が隼のセットカードを封じ、爆発させる。幻魔の威光の前には如何なる抵抗も無意味。消し炭になったカードを見て、隼が舌打ちを鳴らす。

 

「バトルだ!ハモンでレヴォリューション・ファルコンへ攻撃!」

 

再び頭上よりハモンの雷が降り注ぎ、進化したハヤブサまでもが黒焦げにされる。だが――これが、隼の狙い。地に落とされても、革命のハヤブサは飛翔する。

 

「ハモンの効果で相手に1000のダメージを与える!」

 

「レディネスは使わん!が、エアレイドの効果!エクストラデッキからレヴォリューション・ファルコンを呼び、このカードをORUにする!エクシーズ・チェンジ!『RR-レヴォリューション・ファルコン』!!」

 

黒咲 隼 LP3200→2200

 

RR-レヴォリューション・ファルコン 攻撃力2000

 

黒焦げになったエアレイドがパキリとひび割れ、中よりレヴォリューション・ファルコンが新生する。その上に飛び移る隼。このカードならば特殊召喚した三幻魔を牽制出来る。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

三沢 大地 LP3000

フィールド『神炎皇ウリア』(攻撃表示)『降雷皇ハモン』(攻撃表示)

セット1

『失楽園』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バック除去まで加わったか……レヴォリューション・ファルコンの効果!ORUを1つ取り除き、全体攻撃を可能に!バトルだ!レヴォリューション・ファルコンで幻魔に攻撃!反逆の狼煙、今こそ上げろ!」

 

レヴォリューション・ファルコンは相手を対象に取る事無く、攻守を0にする効果を持つ。これならば――。

 

「甘いな!俺のデッキには、幻魔を呼ぶ為〟だけ〝のカードは存在しない!1枚1枚がお前を倒す切り札なのだ!永続罠、『デモンズ・チェーン』!レヴォリューション・ファルコンの効果と攻撃を封じる!」

 

しかし、これも三沢の予想通り、異次元から飛び出した鎖がレヴォリューション・ファルコンの翼を絡め取る。強い、巧い、彼の頭脳は隼の手を上回る。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP2200

フィールド『RR-レヴォリューション・ファルコン』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「それでも折れんか……良いデュエリストだ。俺も、全身全霊で応えよう!ドロー!ウリアの効果で中心のセットカード破壊!『失楽園』の効果でドロー!」

 

三沢 大地 手札1→3

 

「行くぞ、『幻銃士』を召喚!」

 

幻銃士 攻撃力1100

 

現れたのは小さな悪魔のモンスター。幻魔に仕える銃士だ。

 

「その効果で『銃士トークン』を2体生成!」

 

銃士トークン 守備力500×2

 

「3枚目だ、歯を食いしばれ……!」

 

「引くと思っていたさ、クソッタレめ……!」

 

ヴン、三沢が翳す手札の1枚より、青紫色のオーラが迸る。最早予想通りだ。ここで引き抜く彼はとんでもないの一言に尽きる。だがここまで来たのだ、どうせならば拝んでやろうでは無いか。最後の幻魔、三幻魔がフィールドに並び立つ光景を。

 

「3体の『銃士』をリリースし――来たれ!『幻魔皇ラビエル』!!」

 

幻魔皇ラビエル 攻撃力4000

 

天を裂いて、天使の名を語る魔皇は降臨する。禍々しくも雄々しく、逞しい青の巨体、その姿は正に、魔皇。四肢を振るい、翼を広げ、美しい後光を背に、巨神兵は君臨した。

並び立つ、炎の天空竜。雷の翼神竜。そして悪魔の巨神兵。圧巻、並の者ならば膝を折り、祈りを捧げてしまうような光景が、そこにはあった。

 

「……ここまで粘るとは思ってなかった」

 

「俺もだ、自分自身の諦めの悪さに、ちょっと引く」

 

3体もの幻魔を前に、尚も心を折らない隼に三沢は敬意を持つ。もしかすれば幻魔が無ければ――と考えるのは彼に失礼か。

 

「全力をも越え、お前を倒す!やれ、ハモン!レヴォリューション・ファルコンへ攻撃!」

 

「墓地のレディネスを除外し、ダメージを0に!」

 

神炎皇ウリア 攻撃力7000→8000

 

「ふん、そう来ると思っていた。ターンエンド」

 

三沢 大地 LP3000

フィールド『幻魔皇ラビエル』(攻撃表示)『神炎皇ウリア』(攻撃表示)『降雷皇ハモン』(攻撃表示)

『失楽園』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!罠発動!『貪欲な瓶』!墓地のフォース・ストリクス、ライズ・ファルコン、レヴォリューション・ファルコン、エアレイド、アーセナル・ファルコンをデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札2→3

 

「そして魔法カード、『RUM-ソウル・シェイブ・フォース』!LPを半分払い、墓地のレヴォリューション・ファルコンを蘇生し、オーバーレイ・ネットワークを再構築!勇猛果敢なるハヤブサよ。怒りの炎を巻き上げ、大地をも焼き尽くす閃光となれ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!飛翔しろ!『RR-サテライト・キャノン・ファルコン』!」

 

黒咲 隼 LP2200→1100

 

RR-サテライト・キャノン・ファルコン 攻撃力3000

 

地より革命の灰色のハヤブサが蘇り、赤き炎に包まれその姿を変化させる。灰の翼はより巨大な白に、炎は赤を帯びて情熱的なものとなる。更に爆弾は緑色に輝くレーザーへと。前回彼等から勝利をもぎ取った猛禽が甲高い囀りを上げる。

 

「エクシーズ召喚時、相手の魔法、罠を全て破壊!」

 

「チェーン不可の羽帚……っ!」

 

サテライト・キャノン・ファルコンが翼を広げ、黒と白の砲塔から翡翠のレーザーを放って三沢のセットカード、そしてドームの中心にそびえ立つ朽ちた巨木を焼き尽くす。これで幻魔の耐性は消えた。

 

「サテライト・キャノン・ファルコンのORUを1つ取り除き、ハモンの攻撃力を墓地の『RR』の数×800ダウン!」

 

「手札のの『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、サテライト・キャノン・ファルコンの効果を無効に!」

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を交換、魔法カード、『RUMースキップ・フォース』!サテライト・キャノン・ファルコンを更に2つ上のランクへランクアップする!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!来たれ!『RRーアルティメット・ファルコン』!」

 

RRーアルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

「アルティメット・ファルコンの効果発動!」

 

幻魔皇ラビエル 攻撃力4000→3000

 

神炎皇ウリア 攻撃力7000→6000

 

降雷皇ハモン 攻撃力4000→3000

 

「アルティメット・ファルコンでハモンへ攻撃ィ!」

 

三沢 大地 LP3000→2500

 

「チッ!」

 

アルティメット・ファルコンの胸部に黒い球体が生み出され、黄金の幻魔に撃ち出し、破壊する。だがまだ2体残っている。油断は出来ない。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP1100

フィールド『RR-アルティメット・ファルコン』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「今のは危なかった……が、俺の方が上手だったようだな。俺のターン、ドロー!ウリアの効果でセットカードを破壊!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

三沢 大地 手札0→2

 

「『折れ竹光』をウリアに装備し、魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!もう1枚だ!」

 

三沢 大地 手札0→2→3

 

「バトルだ!ウリアでアルティメット・ファルコンを攻撃!ハイパーブレイズ!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札0→1

 

ウリアの炎がアルティメット・ファルコンに襲いかかり、隼をも呑み込もうとしたその時、アルティメット・ファルコンが彼を庇い、黒焦げとなった身体を更に破壊される。命を賭しても主を守るその姿に隼は感謝と謝罪を述べ、デッキからカードを引き抜く。

ギリギリの所で踏みとどまるが、既にデッドゾーン、敗北まで浸った状態だ。そして三沢の猛攻は終わらない。

 

「ラビエルで攻撃!天界蹂躙拳!」

 

ラビエルの拳に闇が纏われ、隕石の如き鉄拳が襲いかかる。弱体化しても攻撃力3000、LPが2倍あっても沈む一撃だ。これを受けては一堪りも無い、それとも全てを投げ出せば気持ち良くなるのか――。

 

「俺には……関係無い話だ!墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

だが、それでも隼は拒む。例え一時楽になろうと、それは後で死ぬ程後悔する道だ。もう間違えない、鉄の意志と鋼の強さで誘惑を断ち切り、仲間の待つ場所に突き進む。

 

「クク、これ程楽しいデュエルは久し振りだ……!俺は墓地の『ヘルウェイ・パトロール』を除外し、手札の『暗黒の召喚神』を特殊召喚!」

 

暗黒の召喚神 攻撃力0

 

「そしてこのカードをリリースする事で、デッキの『降雷皇ハモン』を特殊召喚!!」

 

降雷皇ハモン 守備力4000

 

再び現れる雷の幻魔。これで三幻魔が揃い立つ。折角倒したのにこれではキリがない。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド!」

 

三沢 大地 LP2500

フィールド『幻魔皇ラビエル』(攻撃表示)『神炎皇ウリア』(攻撃表示)『降雷皇ハモン』(守備表示)

『折れ竹光』セット1

手札1

 

ニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、三沢がターンを終了する。三幻魔の力を持ってしても押し切れず、諦める事無く果敢に立ち向かう黒咲 隼。これ程のデュエリストは早々いないだろう。だからこそ、この男と出会い、闘える事を誇りに思う。

三沢 大地は天才とも言って良いデュエリストだ。並外れた頭脳と精神力が生み出す数々の戦術はこれまでに多くのデュエリストを打ち倒して来たものだ。しかし――だからこそ、彼と対等に渡り合えるデュエリストは少ない。爽やかなデュエルを行える相手がいない、知恵を絞り、勇気を振るって闘えるデュエリストがいない。

 

だが目の前の相手はどうだ?高度な駆け引き、泥臭い根性、肉を切らせて骨を断つ戦術、そのどれもが三沢を楽しませてくれる。次はどう来る?彼の一手一手を潰す一方的な手にも負けずに突き進む彼は、正に三沢が望んでいた好敵手。

 

この時をずっと、待っていた。この相手から、勝利をもぎ取る時を。必ず勝つ、三沢は自慢の知能を張り巡らせ、ボロボロの姿でデュエルディスクを構える隼を迎え撃つ。そして――隼の指先が、デッキトップに添えられる。

 

「行くぞ、三沢 大地、これが正真正銘、ラストターンだ」

 

「来い、黒咲 隼。如何なる手も打ち砕いてやる」

 

スッ、と互いの目が細められる。お互いにこれがラストターンなのは分かっている。だが、隼のラストターンか、三沢のラストターンなのかはまだ分からない。その答えを出す為にも――隼はデッキから、1枚のカードを引き抜く。

 

「かっとビングだ、俺!俺のターン、ドロー!」

 

「来るか……!」

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のシンギング・レイニアス、トリビュート・レイニアス、ファジー・レイニアス、インペイル・レイニアス、ペイン・レイニアスをデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札1→3

 

黒咲 隼、最後のドロー、光の軌跡が宙を舞う。ここで引かねば負ける。だが――仲間を信じ、デッキを信じ、デュエルを楽しむ彼の事をデッキが裏切る事等あり得ない。

 

「ありがとう――さぁ、見せてやる!レジスタンスの仲間と、ランサーズの仲間、多くの絆が俺にくれた力を!カードを1枚セット、墓地のスキップ・フォースと『RR』モンスターを除外し、レヴォリューション・ファルコンを蘇生!」

 

「させるか!手札の『D.D.クロウ』を捨て、レヴォリューション・ファルコンを除外!」

 

「魔法カード、『RUM-ソウル・シェイブ・フォース』!LPを半分払い、アルティメット・ファルコンを2つ先のランクのエクシーズモンスターへと、ランクアップさせる!」

 

「な――ランク12だと!?」

 

正に想定外、ここに来て初めて三沢の計算が狂う。黒咲 隼、最大の切り札であるアルティメット・ファルコンの更なる進化。限界を越えたランクアップに驚愕する。そして、隼の墓地より黒と黄金の日輪が昇り、赤く輝いて紅蓮の炎と風を纏う。その姿、正しく不死鳥。

 

「我が魂のハヤブサよ!揺るぎない信念と、深き慈愛の心で、堅牢なる最後の砦となりて降臨せよ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RR-ファイナル・フォートレス・ファルコン』!!」

 

黒咲 隼 LP1100→550

 

RR-ファイナル・フォートレス・ファルコン 攻撃力3800

 

炎が翼を舐め上げ――姿を見せし、最後のハヤブサ。巨大なワインレッドの身体からブースターと砲塔を伸ばし、先端に黄金の鳥のオブジェクトを設置した、要塞の名に相応しき切り札。

これが隼がレジスタンスとランサーズの絆を経て生み出した、反逆と慈愛、2つの側面を持った、全てを受け入れた末のカード。悠然と輝く光を背に、隼は無言で力強く立つ。

 

「これが、お前の……!」

 

「この瞬間、罠発動!『ディメンション・スライド』!エクシーズ召喚した場合、セットしたターンでも発動出来、モンスターを特殊召喚した際、相手の表側表示モンスター1体を除外する!ウリアを除外!」

 

「何っ!?ウリアたんが……!?」

 

ファイナル・フォートレス・ファルコンの砲塔が傾き、ウリア目掛けてレーザーが発射、異次元へと穴を開き、ウリアを押し退ける。これで一番厄介な打点の高いウリアを除去した。かなりショックを受け、悲しそうにする三沢を無視し、隼は次の手へ移る。

 

「ファイナル・フォートレス・ファルコンのORUを1つ取り除き、除外された『RR』モンスター全てを墓地に戻す!最後だ!装備魔法、『ビッグバン・シュート』をファイナル・フォートレス・ファルコンに装備!攻撃力を400アップし、貫通効果を与える!」

 

RR-ファイナル・フォートレス・ファルコン 攻撃力3800→4200

 

「バトル!ファイナル・フォートレス・ファルコンでハモンへ攻撃!」

 

「永続罠、『スピリット・バリア』!モンスターが存在する場合、自分の戦闘ダメージを0にする!」

 

ファイナル・フォートレス・ファルコンが飛翔し、ハモンの全身から放たれる雷を避け、青白く輝くレーザーを撃ち出して迎撃する。2体目の幻魔、撃破。しかし、三沢の前に半透明のバリアが展開し、彼には届かない。

 

「ファイナル・フォートレス・ファルコンがモンスターを戦闘破壊した事で墓地のアルティメット・ファルコンを除外し、もう1度攻撃権を得る!ラビエルへ攻撃!」

 

ならば届くまでやるまでだ。再びファイナル・フォートレス・ファルコンが起動、猛スピードでラビエルに迫り、巨腕を掻い潜ってレーザーを発射し、破壊。凄まじき轟音と砂煙を上げ、最強の幻魔が地に沈む。これで3体の幻魔を撃破した。吹き荒れる爆風。しかしこれで同時に隼の手も尽きた――。

 

「だがダメージは無い!」

 

「何を、勘違いしている――?」

 

かに、思われた。

 

「ファイナル・フォートレス・ファルコンの効果は!1ターンに、2度使える!サテライト・キャノン・ファルコンを除外!」

 

爆風を裂き、渦の中心より、ファイナル・フォートレス・ファルコンが現れ、三沢の眼前で砲塔を向け、停止する。

 

「――一手、及ばなかったか……」

 

一筋の閃光が、三沢のLPを撃ち抜く。たった1度の一手先が、勝敗を分けた。

 

三沢 大地 LP2500→0

 

勝者、黒咲 隼。彼はソリッドビジョンのモンスター達が消える中、三沢に歩み寄り、その肩を掴む。あの時、チャンピオンシップにて、この男と闘った時から僅かな違和感があった。その違和感は、確信に変わり――。

 

「答えろ」

 

彼の口から、放たれる。

 

「貴様は、アカデミアの手先では無いな?」




アーミタイル「……」


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第129話 負けろ……!

ここにセリヌンティウス、花京院の魂、ユートを置いておく。一週間以内に投稿出来ねば、どれか1人を選び、旅のパートナーにするが良い。


ガキン、シティ治安維持局近辺の林にて、金属音が鳴り響く。その出所は――ランサーズ隠密調査役、風魔 月影だ。彼は自身に襲いかかるガーディアンたる黒マントの男の刃を受け流し、かろうじてのレベルで立っていた。それ程の相手だ。

 

「墓地の『タスケナイト』の効果によりこのカードを墓地より特殊召喚し、バトルフェイズを終了!」

 

タスケナイト 攻撃力1700

 

「……」

 

フィールドに赤い鎧の騎士が飛び出し、敵モンスターの刃を防ぐ。これでこのターンは堪えたが、それでも状況は月影の不利。相手フィールドには強力な連携プレイを見せる3体のモンスターが存在するのだ。どうするべきか――月影が考えたその時。

 

「本当だってアマンダ!ここからなら近道だからさ!」

 

「本当にぃー?」

 

「2人共早く!クロウの試合終わっちゃうよ!」

 

茂みから3人の子供が飛び出し、現れたのは。不味い――月影が現れた子供達が巻き込まれるのを恐れ、相手の出方を伺いながら何時でも動けるように体勢を整える。しかし、どう言う事か。敵は子供達の姿を捉えた途端、動きが鈍り、頭を抑え、肩を震わせる。

 

「子供……?うぐっ……!?ぬぁ……思考に、微量な乱……れ発生……デュエル続行不可と判断……離脱する……!」

 

ガシャリ、突然彼はサレンダーを行い、ソリッドビジョンが消失する中、黒いマントを翻しその場から離脱する。一体何が起こっているのか――続ければ敗北は濃厚、デュエルを続ける気にも、追う気にもなれず、月影はその場に棒立ちし、その背を見つめる。

 

「助かった……?」

 

「あー!忍者だ!忍者!スゲー!」

 

――――――

 

一方――フレンドシップカップが開催されるサーキットの中心にて、2人のDーホイーラーの姿があった。1人はじゃんけんで見事チームランサーズのリーダーとなった遊矢と似た顔立ちの少年、ユーゴ。もう1人はチーム革命軍先鋒、通称鉄砲玉のクロウ・ホーガン。高速シンクロを狙うスピードタイプの2人の激突だ。一体どのようなデュエルになるのか、遊矢はベンチから観戦する。

 

一応彼は2人の実力を知っている。ユートVSユーゴ、沢渡VSクロウのデュエルを見た限り、2人は似たタイプ、そうなれば純粋な実力の差で勝負が見えて来る。遊矢の予測では――全くの五分、ユーゴは1度ユートを下しており、クロウは全開とは言わないものの、ノリに乗った沢渡を倒している。

ここでクロウを倒せばセカンドホイーラーであるセレナと楽になり、勝率はグッと上がる。何としてでもユーゴには勝って欲しい所だ。

 

「俺は折角最後を努めるんだ、少しでもデュエルを見て吸収しないと……」

 

集中、キュッ、と目を細め、2人を真剣に見つめる遊矢。彼のデュエルは闘えば闘う程、他のデュエリストのデュエルを見る程に進化する。こうしてラストホイーラーになったのもその為だ。

 

「……負けた……私がじゃんけんで負けた……」

 

「キー……」

 

その横で膝を抱え、ズーンと擬音がつく程暗い空気を纏い、落ち込んでいるのはセレナだ。彼女はじゃんけんにおいては負け知らずだったのだが、ユーゴに負けたショックを受け、SALに慰められている。相手がアホなユーゴと言う事も相まってだろう。

遊矢も集中状態に入り、高い観察眼と言うチートを使ったのだが、ユーゴのじゃんけんの強さは並みじゃない。自分でも何を出すかを考えているのか分からないアホの強さと持ち運が融合しているユーゴはセレナや遊矢以上にじゃんけんキングだ。

実は彼、ギャンブルに関してはとんでもないツキを発揮する。サイコロやコイントスで外れを引いた事が無い。

 

「セレナ、集中出来ないんだけど……」

 

「うるさいっ、邪魔者扱いするな!私に構え!」

 

「えぇ……」

 

フシャー!と猫が毛を逆立てて威嚇するように吠えるセレナ。どうやら傷心で構って欲しいらしい。よしよしと頭を撫でるSALを気にせず、ベンチに仰向けになって倒れ、駄々っ子のように手足をバタバタとさせる。

 

「融合負けろっ!負けちまえっ!」

 

「凄い事言い出したこの子……」

 

「ふーんっ!どうせ私とお前がいれば充分だっ」

 

ブーと頬を膨らませ、手足をブンブン振るセレナ。強気な台詞で信用されているのは嬉しいが、それはどうだろうか?相手はあのクロウとその仲間だ。クロウ並のデュエリストが3人と警戒する遊矢が普通だと思うが……。

 

「暇だー、イライラするぅー」

 

「うーん……あ、そうだ、確か昨日コナミが部屋に置いてったものが――」

 

「む、何だ何だ!?」

 

「はいカブトボーグ」

 

「なっ、何だこれは……!?クラッシュギアに似ているが……!?」

 

「あ、そっちは知ってるんだ」

 

遊矢がどこからか取り出したカブトボーグを奪うように掴み、興味深そうにジロジロと見つめるセレナ。これで暫く大人しくなるだろう。などと子供に対するような失礼な事を考えながら遊矢はデュエルに集中する。どうやらもう始まるようだ。デュエル開始のランプが3つ灯り、2人はDーホイールから白煙を吹かせ、一気に勢い良く飛び出す。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

瞬間、光が弾けてサーキットを包み込む。切り立った崖を幾重にも重ねた、モンスター達のサーキット。アクションフィールド、『チキンレース』。強力なフィールド魔法だ。このデュエル、早期決着となると思ったが、どうやらそうはいかないらしい。

何故ならこのフィールド魔法には相手よりLPが少ないプレイヤーが受ける全てのダメージを0にする効果がある。アクションフィールドともあって破壊する事は不可能だろう。

 

「ぐ……速い……!」

 

「年季が違うんだよ!さぁ、ぶち抜くぜ、ブラック・バード!」

 

ギュン、コーナーでクロウの機体、ブラック・バードが急激に加速し、ユーゴのDーホイールを置き去りにする。先攻はクロウ、ユーゴも速いがここは経験の差が物を言う。

 

「俺のターン、俺は『チキンレース』の効果でLPを1000払い、1枚ドロー!」

 

クロウ・ホーガン LP4000→3000 手札5→6

 

「更に『チキンレース』の効果発動!」

 

「はぁ!?テメェは『チキンレース』の効果を使ったばっかの筈――」

 

「あるじゃねぇか、テメェの場に、もう1枚!」

 

「ッ!そう言うことかよ……!」

 

2度の『チキンレース』の効果発動の宣言を受け、ユーゴが目を見開くが、クロウはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ユーゴのフィールドに発動されている『チキンレース』を指で差す。そう、このカードは互いのメインフェイズに、それぞれのプレイヤーが発動出来、カード名でのターン1では縛られていない。故にこのような荒業が可能なのだ。

 

正しく『チキンレース』。ライフコストもドロー数も多大、ハイリスクハイリターンなのだ。クロウは真っ先に気付き、使って見せた。

 

クロウ・ホーガン LP3000→2000 手札6→7

 

これでLPは充分、手札は7枚となった。手札とは可能性、あって困ると言う事は無い。

 

「永続魔法、『黒い旋風』を――3枚、発動!」

 

「ハァッ!?」

 

更に特大のエンジンを積み込むクロウ。ここで発動されたのは『BF』において強力なサーチカード。『BF』を『ガジェット』化する効果を持っているのだが――それが3枚、一気に発動。思わずユーゴを含め、会場が驚愕の表情を浮かべる。最早積み込みをしているとしか思えない引きだ。

 

「テメッ、トランプじゃねーんだぞ!」

 

『クロウ、何と同じカードを3枚発動!とんでもない引きの強さだぁ―ッ!』

 

『これでクロウは『BF』を呼び出す度、3枚のカードをサーチする事になる!』

 

「俺は『BFー蒼炎のシュラ』を召喚!」

 

BFー蒼炎のシュラ 攻撃力1800

 

3つの旋風の中より飛び出したのは青い羽毛の細身の鳥人。『BF』にとって優秀なアタッカーであり、『黒い旋風』を使うならばその打点の高さがメリットとなる。シュラが登場した事でクロウの側で逆巻く3つの黒い風より、3枚のカードが排出される。

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー黒槍のブラスト』、『BFー疾風のゲイル』、『BFー月影のカルート』の3枚をサーチ!そしてフィールドに自身以外の『BF』が存在する事でブラストとゲイルを特殊召喚!」

 

BFー黒槍のブラスト 攻撃力1700

 

BFー疾風のゲイル 攻撃力1300

 

続けて飛び出したのは巨大な黒のランスを構えた鳥人と小柄な緑色の羽毛を頭から生やした鳥人。どちらも特殊召喚効果を持っており、ゲイルは優秀なチューナーだ。

 

『クロウ、一気に3体のモンスターを展開!』

 

『これこそ『BF』の真価!群れを成し、超高速で暴れ狂う!』

 

「たっぷり味わえよ、スピードスターのデュエル!レベル4のブラストに、レベル3のゲイルをチューニング!黒き旋風よ、天空へ駆け上がる翼となれ!シンクロ召喚!『BFーアーマード・ウィング』!」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500

 

展開から展開、シンクロへ。ゲイルの小さな身体が3つのリングとなって弾け飛び、ブラストを包み込んで7つの星が煌めく。そして一筋の閃光が撃ち抜き、光を裂いて現れたのは漆黒の鎧と黒鉄の翼を広げた、機械族と見間違うようなモンスター。これこそがクロウのエースカードだ。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

クロウ・ホーガン LP2000

フィールド『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)『BFー蒼炎のシュラ』(攻撃表示)

『黒い旋風』×3セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!なら俺もやってやろうじゃねぇか!『チキンレース』、二重発動!」

 

ユーゴ LP4000→3000→2000 手札6→7→8

 

こちらも臆する事なく『チキンレース』に参加する。ダメージが与えられない以上、ドローするか回復させるか。押せ押せのユーゴならば勿論ドローを選ぶ。手札は8枚、充分過ぎる。

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップから10枚を除外し、2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札7→9

 

「『SRバンブー・ホース』を召喚!」

 

SRバンブー・ホース 攻撃力1100

 

ユーゴの隣に現れたのは竹馬を模したモンスター。ピョンピョンと跳ね、必死にユーゴのDーホイールに並走する。

 

「召喚時効果で手札の『SRーOMKガム』を特殊召喚!」

 

SRーOMKガム 守備力800

 

『スピードロイド』専用の『切り込み隊長』効果で登場したのはガムのケースから変形した小型ロボット。最近では活躍しっ放しのカードだ。

 

「俺のフィールドにモンスターが特殊召喚した事で手札の『SR56プレーン』を特殊召喚!」

 

SR56プレーン 攻撃力1800

 

ユーゴの走行するDーホイールの上空から出現したのはゴムが動力となった玩具の飛行機だ。赤いボディを輝かせ、プロペラをクルクルと回転させながらシュラの周囲を旋回する。

 

「56プレーンの効果でシュラの攻撃力を600ダウン!」

 

BFー蒼炎のシュラ 攻撃力1800→1200

 

「そしてレベル4のバンブー・ホースにレベル1のOMKガムをチューニング!その躍動感溢れる、剣劇の魂、出でよ、『HSRチャンバライダー』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

こちらも負けじと高速シンクロ。OMKガムが1つのリングとなって弾け飛び、バンブー・ホースを包み込んで閃光を放つ。眩き光を切り裂き現れたのは日本刀型のバイクの下半身を走らせる二刀流の剣士。これで互いにシンクロモンスターが揃い、向かい合う形となった。

 

『ユーゴもクロウと同じく展開からのシンクロ!』

 

『この勝負、似た者同士の対決と言う事だ!』

 

上空のヘリよりメリッサとMCの実況が降り注ぐ。同じ?いや、違う。断じて同じでは無い。真のシンクロ使い、高速展開を扱うデュエリストとして優れているのは――。

 

「「俺だ!!」」

 

好戦的な笑みを浮かべ、自らの存在意義を吠える2人。同じ者同士だからこそ、負けられない。この縄張りの主は1人で充分なのだ。

 

「OMKガムの効果!シンクロ素材として墓地に送られた事で、デッキトップを墓地に!落ちたカードは『SR』モンスター!よってチャンバライダーの攻撃力を1000アップする!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000→3000

 

ここでチャンバライダーの攻撃力が一気に跳ね上がり、ブーストされてクロウのDーホイールに並ぶ。準備は万端、何時でも戦闘可能と言わんばかりに両の刃を研ぎ合わせ、シャリンシャリンと金属音を鳴らす。

 

「全開で行くぜ!魔法カード、『ヒドゥン・ショット』!墓地のバンブー・ホースとOMKガムを除外し、お前のアーマード・ウィングとシュラを破壊!」

 

シャリン、チャンバライダーが研ぎ澄ませた刀を振るい、鋭い斬擊を飛ばしてクロウのモンスターを狙い撃つ。遊矢から既に『BF』の特性は聞いている。戦闘破壊出来ないアーマード・ウィングに、効果での破壊で対応する。これが通ればクロウのモンスターは全滅、がら空きの所に手札の『封魔の矢』を使い、チャンバライダーの攻撃でワンショット・キル、スピードスターの座を頂く。

 

「罠発動!『ゴッドバードアタック』!アーマード・ウィングをリリースし、お前のモンスターを逆に破壊させて貰うぜ!」

 

しかしこちらも負けてはいない。クロウのフィールドのリバースカードがオープンされ、アーマード・ウィングが天より降り注ぐ雷に打たれ、電流を纏ってユーゴのモンスターに応戦する。撃ち抜かれるシュラと吹き飛ばされる56プレーン。最後にアーマード・ウィングとチャンバライダーが黒羽をむしり取って作った刀と白刃が切り結び、同時に胸を貫き爆発する。何とこちらも2枚のカードの破壊。こんな所も似るとは皮肉なものだ。

 

「以心伝心で何よりだ」

 

「この野郎……!墓地に送られたチャンバライダーの効果で除外されているバンブー・ホースを回収!速攻魔法、『リロード』!手札を交換!魔法カード、『名推理』!相手はレベルを1つ宣言」

 

「3だ」

 

「デッキトップから通常召喚可能なモンスターが出るまでカードを墓地に送り、モンスターが出た場合、宣言したレベルなら墓地に送り、それ以外なら特殊召喚する!良し、レベル4、『メカファルコン』だ!」

 

メカファルコン 守備力1200

 

「そして墓地の『SR電々大公』を除外し、手札の『スピードロイド』チューナー、『SR赤目のダイス』を特殊召喚!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

してやられた事に青筋を浮かべ、勢いのままにモンスターを並べる。機械の猛禽に続き、呼び出したのはその名の通り、赤い出目を発光させた黄色のサイコロ。レベル変動効果を持ったチューナーモンスターだ。

 

「レベル4の『メカファルコン』に、レベル1の赤目のダイスをチューニング!双翼抱く煌めくボディー、その翼で天空に跳ね上がれ!シンクロ召喚!現れろ!『HSRマッハゴー・イータ』!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000

 

「バトル!マッハゴー・イータでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地のゲイルに耐性を与え、蘇生する!」

 

BFー疾風のゲイル 守備力400

 

『おおっとクロウ防いだぁっ!』

 

『これでユーゴは攻める事が出来ない!』

 

「こ、この野郎……!」

 

ユーゴが体制を建て直し、再びシンクロで攻めるのも束の間、飄々とかわすクロウ。こちらの手を読んでいるかのように上手くいかせてくれない。スピードスターにしてトリックスター。それがクロウだ。

 

「ぐぬぬ……!」

 

「どうした?終わりかい?」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP2000

フィールド『HSRマッハゴー・イータ』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!『チキンレース』の効果でドロー!」

 

クロウ・ホーガン LP2000→1000 手札3→4

 

「ゲイルの効果でマッハゴー・イータの攻守半減!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000→1000

 

「『BFー精鋭のゼピュロス』を召喚!」

 

BFー精鋭のゼピュロス 攻撃力1600

 

ゲイルの隣に並び立つのは黄色い鎧を纏い、嘴の兜を被った鳥人。そして――『BF』が召喚された事で、3つの旋風が逆巻き、中より3羽の烏が飛翔し、クロウの手札に渡る。

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー白夜のグラディウス』、『BFー突風のオロシ』、『BFー疾風のゲイル』の3枚をサーチ!」

 

1枚の召喚で3枚のサーチ。『強欲な壺』や『天使の施し』も真っ青なアドバンテージの取り方だ。ターン開始時3枚だった手札が倍の6枚になっている。

 

「さて、見せてやるよ、本物のシンクロって奴をな。まずはレベル4のゼピュロスに、レベル3のゲイルをチューニング!シンクロ召喚!『BFーアーマード・ウィング』!」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500

 

フィールドに現れる2枚目のアーマード・ウィング。厄介なモンスターの登場だ。

 

「そして自分フィールドのモンスターが『BF』1体のみの場合、手札のグラディウスを特殊召喚!」

 

BFー白夜のグラディウス 守備力1500

 

ビュンッと空気を裂き、現れたのは銀の鎧を纏い、二刀のナイフを構えた鳥。少し条件が厳しいが、非チューナーでレベル3とブラストとは充分差別化が出来る。

 

「そして自身以外の『BF』が存在する事でオロシとゲイルを特殊召喚!」

 

BFー突風のオロシ 守備力600

 

BFー疾風のゲイル 守備力400

 

まだまだ続く展開、今度は2体一気に呼び出す。

 

「墓地のゼピュロスの効果!フィールドの『黒い旋風』をバウンスし、特殊召喚!この時400のダメージを受けるが……『チキンレース』の効果でダメージは遮断されるぜ」

 

BFー精鋭のゼピュロス 守備力1000

 

『クロウ、展開に次ぐ展開!何とか1ターンでモンスターゾーンが埋まったー!』

 

「俺だってそれ位できらぁ!」

 

「へぇ、一気に5体を並べられるってのか?」

 

「えっ、5体のモンスターを!?」

 

「どっちなんだテメェ。ゲイルの効果でマッハゴー・イータの攻守半減!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力1000→500

 

更に攻守半減、2000から500、4分の1になってしまった。容赦なく群れを成して襲い来る黒羽達。面倒な相手だ、ユーゴは舌打ちを鳴らし、クロウのモンスターを睨む。

 

「よっと……アクションマジック、『デキテルレンジ』!グラディウスを手札に戻し、『BFー上弦のピナーカ』を特殊召喚!」

 

BFー上弦のピナーカ 守備力1000

 

次は弓矢を手にした鳥。『BF』では優秀なサーチ効果を持ったチューナーだ。

 

「レベル4のゼピュロスに、レベル1のオロシをチューニング!シンクロ召喚!『BFー煌星のグラム』!」

 

BFー煌星のグラム 攻撃力2200

 

2回連続シンクロ、怒濤の勢いで召喚されたのは白銀の鎧を纏い、鳥の脚を模した束を持つサーベルを閃かせた鳥人だ。

 

「素材となったオロシの効果でマッハゴー・イータを守備表示に変更、グラムの効果で手札の『BFー白夜のグラディウス』を特殊召喚!」

 

BFー白夜のグラディウス 守備力1500

 

「レベル3のグラディウスに、レベル3のピナーカをチューニング!漆黒の力!大いなる翼に宿りて、神風を巻き起こせ!シンクロ召喚!吹き荒べ、『BFーアームズ・ウィング』!

 

BFーアームズ・ウィング 攻撃力2300

 

3回連続シンクロ召喚。現れたのはアーマード・ウィングに似ているものの、鎧が軽装となり、頭には真っ赤なトサカ、肩と腰からは風に靡く羽毛を伸ばし、可変式の銃剣を手にした鳥人だ。

 

『3回連続シンクロ!攻め立てる!』

 

「踊ろうか!アームズ・ウィングでマッハゴー・イータへ攻撃!」

 

「ダンスなんて知らねぇよ!永続罠、『追走の翼』!マッハゴー・イータは戦闘及び効果で破壊されず、レベル5以上の相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時にその相手モンスターを破壊、攻撃力を吸収する!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力500→2800

 

アームズ・ウィングが銃剣を握ってマッハゴー・イータに襲いかかり、白刃を浴びせようとした時、マッハゴー・イータが不格好な体勢になりながらもかわし、光の翼が伸び、体勢が建て直されて、突進して逆に倒す。強固な耐性と上級モンスターの破壊、実に厄介なカードだ。

 

「チッ、面倒なカードを。ターンエンドだ。この瞬間、ピナーカの効果でデッキの『BFー蒼炎のシュラ』をサーチするぜ」

 

クロウ・ホーガン LP1000

フィールド『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)『BFー煌星のグラム』(攻撃表示)『BFー疾風のゲイル』(守備表示)

『黒い旋風』×2

手札4

 

「俺のターン、ドロー!『チキンレース』の効果でドロー!」

 

ユーゴ LP2000→1000 手札3→4

 

「そして罠発動!『リサイコロ』!墓地の赤目のダイスを蘇生し、サイを振って出目のレベルになる!さぁて、ダイスロール!出た目は――1!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

「『SRバンブー・ホース』を召喚!」

 

SRバンブー・ホース 攻撃力1100

 

「召喚時効果で手札の『SRシェイブー・メラン』を特殊召喚!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

バンブー・ホースに乗って現れたのはブーメランから変形し、刃を閃かせる小型ロボット。攻撃力2000、下級にしては高い数値を持っており、そのデメリットとして召喚したターンは攻撃出来ないが、こうして特殊召喚すれば問題は無い。

 

「レベル4のバンブー・ホースにレベル1の赤目のダイスをチューニング!シンクロ召喚!『HSRチャンバライダー』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

チャンバライダー2体目、攻めて攻めて攻めまくるユーゴらしい選択だ。

 

「マッハゴー・イータを攻撃表示に変更、バトル!マッハゴー・イータでアーマード・ウィングへ攻撃!『追走の翼』の効果で破壊、攻撃力アップ!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力500→3000

 

急襲、マッハゴー・イータが翼を得た身体を加速させ、目に止まらぬ速度でアーマード・ウィングを叩き伏せる。自慢の『BF』達がこうも簡単に倒されるとは思ってなかったのだろう。クロウが苦虫を噛み潰した表情を浮かべている。

 

「アクションマジック、『セカンド・アタック』!もう1度得た攻撃権でグラムに攻撃!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力3000→5200

 

更にグラムまでもが撃破される。

 

「そしてシェイブー・メランでゲイルへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!攻撃を無効!」

 

「2度はねぇ!チャンバライダーで追撃!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000→2200

 

ユーゴの激しき猛攻により、ついにクロウのモンスターゾーンががら空きとなった。好機、最大のチャンスにユーゴは目を光らせ、更に踏み出る。この勝負、『チキンレース』がある以上、ここで勝った方が優位に立てる。

 

「チャンバライダーでダイレクトアタック!」

 

「させるか!手札の『BFー熱風のギブリ』の効果でこいつを特殊召喚!」

 

BFー熱風のギブリ 守備力1600

 

「ならそいつへ攻撃!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2200→2400

 

しかしクロウが手札より何枚もの翼を持った雛鳥を盾にし、致命傷を避ける。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『HSRチャンバライダー』(攻撃表示)『HSRマッハゴー・イータ』(攻撃表示)『SRシェイブー・メラン』(攻撃表示)

『追走の翼』セット1

手札1

 

『何と言う攻防でしょう!互いに一歩間違えれば致命傷!高速のデュエルで両者見切り合う!正に『チキンレース』!』

 

「俺のターン、ドロー!『黒い旋風』を発動!そして『BFー蒼炎のシュラ』を召喚!」

 

BFー蒼炎のシュラ 攻撃力1800

 

「旋風の効果で『BFー白夜のグラディウス』、『BFー黒槍のブラスト』、『BFー月影のカルート』をサーチ!そしてグラディウスとブラストを特殊召喚!」

 

BFー白夜のグラディウス 守備力1500

 

BFー黒槍のブラスト 攻撃力1700

 

「カードをセットし、バトル!シュラでマッハゴー・イータへ攻撃!」

 

「甘い!マッハゴー・イータをリリースし、フィールドのモンスターのレベルは1つ上がる!」

 

SRチャンバライダー レベル5→6

 

SRシェイブー・メラン レベル4→5

 

BFー蒼炎のシュラ レベル4→5

 

BFー黒槍のブラスト レベル4→5

 

BFー白夜のグラディウス レベル3→4

 

「なら攻撃変更、シュラでシェイブー・メランに攻撃!」

 

「罠発動!『攻撃の無敵化』!戦闘ダメージを0に!」

 

「チッ、手札のカルートを切り、攻撃力を1400アップ!」

 

BFー蒼炎のシュラ 攻撃力1800→3200

 

マッハゴー・イータの効果でクロウが立てたシンクロへの布石が覆る。だがこのままでは終われないと直ぐ様建て直す為、シュラとカルートの力を合わせ、シェイブー・メランを打ち倒す。

 

「シュラの効果でデッキの上弦のピナーカを特殊召喚!」

 

BFー上弦のピナーカ 守備力1000

 

「ブラストでチャンバライダーへ攻撃!アクションマジック、『ハイダイブ』!ブラストの攻撃力を1000アップするぜ!」

 

BFー黒槍のブラスト 攻撃力1700→2700

 

「チャンバライダーの効果で除外された『SR電々大公』を回収!」

 

「メインフェイズ2、レベル4のグラディウスにレベル3のピナーカをチューニング!シンクロ召喚!『BFーアーマード・ウィング』!」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500

 

現れる3体目のアーマード・ウィング。ここまで倒して来たとは言え、厄介なモンスターには変わらない。

 

「またそいつか……」

 

「またこいつだ!俺はこれでターンエンド。この瞬間、ピナーカの効果で『BFー暁のシロッコ』をサーチするぜ」

 

クロウ・ホーガン LP1000

フィールド『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)『BFー黒槍のブラスト』(攻撃表示)『BFー蒼炎のシュラ』(攻撃表示)

『黒い旋風』×3セット1

手札2

 

ぶつかり合うシンクロ次元、最速と言って良い高速展開とシンクロを操るDーホイーラー。火花を散らしデュエル。今の所勝負は互角、両者譲らず、ブレーキを踏まずに加速し、『チキンレース』に挑む。先に踏み留まるのは、どちらか――。

 

 




折角シンクロ次元だからと『チキンレース』を発動するも破壊出来ないからダメージ合戦が出来ず、長引くと言う罠。


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第130話 ぶち抜いてやるぜ

ヴレインズ新章始まりましたね。皆新キャラを疑っててベクターの残した傷はデカイなと思いました。FWDは生き残れるんだろうか。


アクションフィールド、『チキンレース』によって絶壁になったハイウェイのコースにて、怯える様子1つ無く、2人のデュエリストが闘っていた。先行しているのはチーム革命軍のサブリーダー、群れを成し、鋭き爪で獲物を狩る黒鳥達、『BF』の使い手、鉄砲玉のクロウ・ホーガン。

対するのはその後をピッタリとつき、常にプレッシャーをかけるチームランサーズのリーダー、『BF』と同じく、高速でシンクロへと繋ぐ疾風のマシーン、『スピードロイド』の担い手、ユーゴ。

 

先鋒同士のデュエルは両者一歩も譲らずに加速の連続、先に均衡を破った方が勝負を決めると言っても過言では無い。一撃で仕留めるか、それとも致命傷をかわし、返しの刃が喉元に届くか。ギリギリの攻防、読み合いの重ね合い。先に動くのは――ターンプレイヤーのユーゴ。

彼はより一層、集中力を高め、Dーホイールにしがみつくように身体を預ける。

 

「俺のターン、ドロー!墓地の『SRバンブー・ホース』を除外し、デッキの『SR三つ目のダイス』を墓地に送る!速攻魔法、『魔力の泉』を発動!お前のフィールドに存在する表側表示の魔法、罠は『黒い旋風』3枚に『チキンレース』!そして俺のフィールドにはこいつと『チキンレース』!よって4枚ドローし、2枚捨てる!」

 

ユーゴ 手札2→6→4

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』!手札を交換!『SRパチンゴーカート』を召喚!」

 

SRパチンゴーカート 攻撃力1800

 

「墓地の電々大公を除外し、墓地の『SR三つ目のダイス』を蘇生!」

 

SR三つ目のダイス 守備力1500

 

「フィールドに『スピードロイド』チューナーが存在する事で墓地のマッハゴー・イータを蘇生!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000

 

「さぁて次はこっちのエースのお披露目だ!レベル4のパチンゴーカートに、レベル3の三つ目のダイスをチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!現れろ、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

ここでユーゴの頼れるエースモンスターが現れる。青と白の体躯に、ミントグリーンの薄い両翼。このカードの登場と共に、ドクンとベンチにいる遊矢の胸が高鳴る。

 

「そいつがお前のエースか……」

 

「まっ残念ながら直ぐ退場だ。魔法カード、『シンクロ・クラッカー』発動!『クリアウィング』をエクストラデッキに戻し、相手フィールドの攻撃力2500以下のモンスターを一掃する!」

 

『おおっとユーゴ、エースカードを引っ込めた!』

 

だが『クリアウィング』が場にいられるのはセミの寿命より短い。思わず「えっ」と驚き、ユーゴを見る『クリアウィング』。その体躯が蒼白く光輝いて弾け飛び、7つのリングがクロウの『BF』を吹き飛ばす。クロウもDーホイールを操縦し、襲い来るリングをかわすが――その隙を逃さず、ユーゴがクロウを抜き去る。

 

「チッ!」

 

「ぶち抜いてやるぜ!綺麗になったな、バトルだ!マッハゴー・イータでダイレクトアタック!」

 

「カウンター罠、『攻撃の無力化』!攻撃を無効にし、バトルを終了!」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『HSRマッハゴー・イータ』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!相手フィールドにモンスターが存在し、俺のフィールドにモンスターが存在しない事で、手札の『BFー暁のシロッコ』をリリース無しで召喚!」

 

BFー暁のシロッコ 攻撃力2000

 

現れたのは上級『BF』。嘴の被り物をつけた鳥人だ。攻撃力は2000、『黒い旋風』の発動下では広範囲で『BF』をサーチ出来る。

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー残夜のクリス』、『BFー突風のオロシ』、『BFー黒槍のブラスト』をサーチ!そのまま特殊召喚!」

 

BFー残夜のクリス 攻撃力1900

 

BFー黒槍のブラスト 攻撃力1700

 

BFー突風のオロシ 守備力600

 

『クロウ、またまた3枚サーチし、特殊召喚!この男の手札は尽きないのか!?』

 

『3枚のサーチをする『黒い旋風』は厄介極まりない、除去したい所だが、ユーゴどうする!?』

 

「最初から『黒い旋風』を狙えばこうはならなかっただろうな」

 

「……さぁてそいつはどうかねぇ……俺がそいつを放置して勝てば後続の邪魔になるんだぜ?」

 

「勝てば、な」

 

「勝つさ!マッハゴー・イータをリリースし、効果発動!」

 

BFー暁のシロッコ レベル5→6

 

BFー残夜のクリス レベル4→5

 

BFー黒槍のブラスト レベル4→5

 

BFー突風のオロシ レベル1→2

 

「チッ、バトルだ!ブラストでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札1→2

 

「追撃だ、クリス!」

 

「手札の『SRメンコート』を特殊召喚し、相手モンスターを守備表示に変更する!」

 

「アクションマジック、『透明』!シロッコは効果を受けない!」

 

SRメンコート 攻撃力100

 

総攻撃、群れ成し集う鳥達が爪を研ぎ、ユーゴへと襲いかかったその瞬間、ユーゴが手札の1枚をメンコのようにデュエルディスクに叩きつけ、現れたメンコートの風圧で『BF』達がバタンと引っくり返る。これが本当にメンコなら全部奪えるのだがそうはいかない。今は命拾いしただけマシと考えるべきだ。

 

「シロッコでメンコートへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『大脱出』!」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

クロウ・ホーガン LP1000

フィールド『BFー暁のシロッコ』(攻撃表示)『BFー残夜のクリス』(守備表示)『BFー黒槍のブラスト』(守備表示)『BFー突風のオロシ』(守備表示)

『黒い旋風』×3セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!うっし、『SRーOMKガム』を召喚!」

 

SRーOMKガム 攻撃力0

 

「墓地のマッハゴー・イータを蘇生!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000

 

「レベル4のメンコートにレベル1のOMKガムをチューニング!シンクロ召喚!『HSRチャンバライダー』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

こちらもアーマード・ウィングと同じく3体目のチャンバライダー。汎用レベル5の中で2回攻撃と言う特徴を持つこのカードは優秀な部類に入る。

 

「OMKガムの効果でデッキトップを墓地へ!当たりだ、『SRベイゴマックス』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000→3000

 

「チャンバライダーでオロシに攻撃!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力3000→3200

 

「追撃、シロッコへ攻撃!」

 

「手札のカルートを捨て、攻撃力を1400アップ!」

 

BFー暁のシロッコ 攻撃力2000→3400

 

カルートを使わなければ1400の超過ダメージ。使えば相撃ちでクロウのLPはユーゴのLPを下回る事は無い。このデュエル、細かいLPの計算まで考えなければならない。

 

「チャンバライダーの効果で除外されている『SRーOMKガム』を回収っと。カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP1000

フィールドに『HSRマッハゴー・イータ』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

クロウ・ホーガン 手札0→3

 

「更に魔法カード、『黒羽の宝札』!手札の『BF』を除外し、2枚ドロー!」

 

クロウ・ホーガン 手札1→3

 

「そしてフィールドに『BF』が存在する為、俺は手札の『BFー漆黒のエルフェン』をリリース無しで召喚!」

 

BFー漆黒のエルフェン 攻撃力2200

 

現れたのは真っ黒な身体を持った鳥人だ。攻撃力2200、先のターンで出されたシロッコより高い攻撃力だ。

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー隠れ蓑のスチーム』、『BFー大旆のヴァーユ』、『BFー尖鋭のポーラ』をサーチするぜ」

 

「6……26か……?」

 

「何をブツクサいってやがる?クリスとブラストを攻撃表示に変更!バトルだ!クリスでマッハゴー・イータへ攻撃!」

 

「自分だけ『チキンレース』から逃げようったってそうはいかねぇ!マッハゴー・イータをリリースし、効果発動!」

 

BFー漆黒のエルフェン レベル6→7

 

BFー残夜のクリス レベル4→5

 

BFー黒槍のブラスト レベル4→5

 

「『命削りの宝札』の効果で俺はダメージを受けねぇ」

 

「ま、そうなるよな、俺はカード1枚をセット、ターンエンドだ。『命削りの宝札』の効果で手札を全て捨てる」

 

クロウ・ホーガン LP1000

フィールド『BFー漆黒のエルフェン』(攻撃表示)『BFー残夜のクリス』(攻撃表示)『BFー黒槍のブラスト』(攻撃表示)

『黒い旋風』×3セット2

手札0

 

「折角の手札も役に立たなかったな」

 

「さぁ、どうかな?」

 

「墓地発動系か……面倒なもんじゃねぇと良いが……俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満な壺』!エクストラデッキから6枚のカードを除外し、2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札1→3

 

「『SRーOMKガム』を召喚!」

 

SRーOMKガム 攻撃力0

 

「そしてマッハゴー・イータを蘇生!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000

 

「罠発動!『ゴッドバードアタック』!ブラストをリリースし、そいつとセットカードを破壊!」

 

「ッ、この……!カードをセット、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ 1000

フィールド『SRーOMKガム』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!墓地の『BFー大旆のヴァーユ』とアーマード・ウィングを除外し、合計レベルとなる『BF』をエクストラデッキから特殊召喚する!吹き荒べ嵐よ!鋼鉄の意思と光の速さを得て、その姿を昇華せよ!『BFー孤高のシルバー・ウィンド』!」

 

BFー孤高のシルバー・ウィンド 攻撃力2800

 

現れたのは銀色の羽を伸ばし、鳥の被り物をしたモンスターだ。レベル8、攻撃力2800、クロウの持つ『BF』の中で最高のステータスを誇るモンスター。とは言っても素材の条件が厳しく、効果も今一つな物である為、こうして大旆のヴァーユの効果を使い、アタッカーとして運用するのが堅実だ。

 

「もう1体だ。墓地のヴァーユとアーマード・ウィングを除外、来い!『BFー孤高のシルバー・ウィンド』!」

 

BFー孤高のシルバー・ウィンド 攻撃力2800

 

「2体目……!」

 

「バトルだ!シルバー・ウィンドでOMKガムを攻撃!」

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!戦闘ダメージを0に!」

 

「2体目のシルバー・ウィンドでダイレクトアタック!」

 

「やらせるかよっ!『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効、バトルフェイズを終了する!」

 

「しつけぇ奴だぜ……このスピード勝負に遅延はいらねぇっての、俺までノロマたと思われちまうぜ……!」

 

シルバー・ウィンドがユーゴに襲いかかったその瞬間、ユーゴの手札から三角帽にワインレッドのサングラスをつけたかかしが現れ、攻撃を防ぐ。常にギリギリ、凌ぐので精一杯と言った様子だ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

クロウ・ホーガン LP1000

フィールド『BFー孤高のシルバー・ウィンド』(攻撃表示)×2『BFー漆黒のエルフェン』(攻撃表示)『BFー残夜のクリス』(攻撃表示)

『黒い旋風』×3セット2

手札0

 

魔法、罠ゾーンが全て埋まり、迎撃準備が万端と言った様子のクロウ。その布陣を見て、ユーゴは悟る。最早スピードで勝つのは不可能かと。

彼は強い。悔しいが自分よりも。ギュッ、とDーホイールのハンドルを握り締め、唇を噛む。自分は弱い。少なくとも、クロウや鬼柳と言う一流のデュエリストよりも、粗がある。親友であるセクトを救いたいと言うのにこの様だ。

だけど、勝つ事を諦めた訳じゃない、救う事を諦めた訳じゃない。まだ、勝機はある。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→3

 

「良し……モンスターをセット、カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

『ユーゴ、スピードダウン!防御を固める!』

 

ユーゴ LP1000

フィールド セットモンスター

セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!2体目のエルフェン召喚!」

 

BFー漆黒のエルフェン 攻撃力2200

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー月影のカルート』、『BFー残夜のクリス』、『BFー突風のオロシ』をサーチするぜ」

 

「23……22……21……」

 

「エルフェンの効果でセットモンスターを攻撃表示に変更!」

 

「リバースした『アブソーブポット』の効果により互いのセットカードを破壊し、その分ドローする!加えて罠発動!『威嚇する咆哮』!これでテメェは攻撃が出来ない!破壊される魔法、罠は俺は2枚、お前も2枚だ!」

 

「破壊された『運命の発掘』の効果でドロー!」

 

ユーゴ 手札0→2

 

クロウ・ホーガン 手札3→6

 

ユーゴのリバースモンスターの効果が起動し、互いの手札にカードが渡る。ここで――クロウは漸くユーゴの思惑に気づく。

 

「そうか、成程……デッキ破壊か……!」

 

「ッ!」

 

気づかれてしまったか。分かりやすいユーゴは隠し切れず、その表情に出てしまう。そう、ユーゴの狙いは正当なLPの削り合いでは無く、もう2つある勝利条件の1つ、デッキ破壊。デッキを全て削って、クロウに勝利しようとしているのだ。

 

『何とユーゴの狙いはデッキ破壊!デッキを破壊し、勝利するつもりなのか!?』

 

『確かにそれも立派な戦術だ。現在クロウのデッキのカードは19枚、後19枚だ!』

 

「そう、俺のデッキのカードはまだ19枚〟も〝ある。お前のデッキは本来デッキ破壊狙いじゃねぇだろ?そんなんで19枚削ろうってか?」

 

「やるしかねぇだろうよ」

 

「どうかな?俺も馬鹿じゃねぇ。お前の狙いが分かった以上、『黒い旋風』の効果は……」

 

「使わねぇ、そう、飾りになってゾーンを圧迫する」

 

「充分だ」

 

とは言えクロウの言う通り、こうなった以上クロウは『黒い旋風』の効果を使ってくれないだろうし、ユーゴのデッキはデッキ破壊を積極的に狙うものでは無い。それで19枚は――難しい。

 

「……ユーゴの奴、デッキ破壊狙いか」

 

「らしいな。確かに押されている以上、それもありだろう。だが、19枚、多いか少ないかで言えばここでは多い。せめて気づかれなければと言いたいが、敵もそこまで間抜けじゃない」

 

ジッ、と遊矢とセレナがユーゴのデュエルを観察し、唸る。彼等の目から見てもユーゴの不利は明らかだ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

クロウ・ホーガン LP1000

フィールド『BFー孤高のシルバー・ウィンド』(攻撃表示)×2『BFー漆黒のエルフェン』(攻撃表示)×2『BFー残夜のクリス』(攻撃表示)

『黒い旋風』×3セット1

手札5

 

「焦って来たんじゃねぇか?魔法カード、『手札抹殺』!5枚、ドローしてもらうぜ」 

 

「こんにゃろう……」

 

「後、14枚……速攻魔法、『魔力の泉』を発動!4枚ドローし、2枚捨てる!」

 

ユーゴ 手札1→5→3

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『アブソーブ・ポット』をデッキに戻してドロー!」

 

ユーゴ 手札3→4

 

「魔法カード、『ハンマーシュート』!シルバー・ウィンドを1体破壊!」

 

「魔法カード、『スピードリバース』!墓地の『SRベイゴマックス』を特殊召喚!」

 

SRベイゴマックス 攻撃力1200

 

ここで現れたのは赤いベーゴマを連結させ、蛇のようになったモンスターだ。『スピードロイド』のキーカード、もう少し速く出したかったが仕方無い。

 

「効果で『SRタケトンボーグ』をサーチし、特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

「こいつをリリースし、デッキの『SRーOMKガム』をリクルート!」

 

SRーOMKガム 守備力800

 

「墓地のマッハゴー・イータ蘇生!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000

 

「レベル5のマッハゴー・イータにレベル1のOMKガムをチューニング!十文字の姿持つ魔剣よ。その力で全ての敵を切り裂け!シンクロ召喚!現れろ、『HSR魔剣ダーマ』!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200

 

ここで登場したのはけん玉のような形状をしたモンスター。このモンスターを呼び出したのは後続のホイーラーの選択肢を増やす為。アタッカーとして使用するのはあくまでオマケだ。

 

「OMKガムの効果でデッキトップを墓地に!『SR赤目のダイス』だ!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200→3200

 

「墓地の電々大公を除外し、墓地の『SR赤目のダイス』を蘇生!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

「赤目のダイスの効果発動!ベイゴマックスのレベルを6に!」

 

SRベイゴマックス レベル3→6

 

「レベル6のベイゴマックスに、レベル1の赤目のダイスをチューニング!シンクロ召喚!『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

再びフィールドに舞い戻るミントグリーンの翼を広げる白竜。このモンスターも場に残るか残らないかではデュエルの展開が全く違ってくる。このチームデュエルは墓地も共有するのだ。例え破壊されても後続が蘇生すれば優秀なアタッカーになってくれる。

 

「ダーマの効果で墓地の『SR赤目のダイス』を除外し、相手に500のダメージを与える!そしてこの効果を『クリアウィング』で無効にし、破壊!攻撃力を吸収!ダイクロイック・ミラー!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→4700

 

ミントグリーンの翼より光る紋様が浮かび上がり、針となってダーマを串刺しにしてエネルギーを吸収、雄々しき咆哮を上げる。

 

「正攻法は諦めたんじゃなかったか?」

 

「んな事一言も言ってねぇぜ?今出来る事を、全力でやる!いけ、『クリアウィング』!クリスへ攻撃!旋風のヘルダイブ・スラッシャー!」

 

「くっ、罠発動!『ガード・ブロック』!」

 

「おっとラッキー、止めは刺せなかったが、これで13枚だ!」

 

「ぬかしやがれ……!」

 

クロウ・ホーガン 手札5→6

 

「魔法カード、『一時休戦』!互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0にする!」

 

ユーゴ 手札1→2

 

クロウ・ホーガン 手札5→6

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!『シャッフル・リボーン』の効果で手札のアクションマジックを除外する」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!ここまで来ると良いカードはほとんどねぇな……『BFー極北のブリザード』を召喚!」

 

BFー極北のブリザード 攻撃力1300

 

「召喚時効果で墓地の『BFー蒼炎のシュラ』を蘇生!」

 

BFー蒼炎のシュラ 守備力1200

 

「レベル4の蒼炎のシュラに、レベル2の極北のブリザードをチューニング!シンクロ召喚!『BFーアームズ・ウィング』!」

 

BFーアームズ・ウィング 攻撃力2300

 

「装備魔法、『D・D・R』!手札を1枚捨て、除外されているアーマード・ウィング復活!」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500

 

「装備魔法、『団結の力』!アームズ・ウィングに装備!」

 

BFーアームズ・ウィング 攻撃力2300→6300

 

「バトルだ!アーマード・ウィングで『クリアウィング』へ攻撃!」

 

「速攻魔法発動!『皆既日食の書』!」

 

「何ッ!?」

 

「俺のデッキはデッキ破壊じゃねぇが……これ位は積んでんだよ!」

 

発動されたカードより、フィールドのモンスターが全て地面に叩きつけられ、セット状態となる全体的な『月の書』効果。これだけ聞くと上位互換に見えるが、この効果でセットしたモンスターはターン終了と共に表に戻り、その数だけ相手はドローする。つまり、この状況では打ってつけのカードだ。

 

「ターンエンドだ……!」

 

「さぁ、5枚ドローしな」

 

「チッ」

 

クロウ・ホーガン 手札3→8

 

『ユーゴ、攻撃を回避し、デッキを削る!残り5枚!』

 

「手札制限で2枚捨てる……」

 

クロウ・ホーガン LP1000

フィールド『BFーアーマード・ウィング』(守備表示)『BFーアームズ・ウィング』(守備表示)『BFー孤高のシルバー・ウィンド』(守備表示)『BFー漆黒のエルフェン』(守備表示)×2

『黒い旋風』×3

手札6

 

「残るは5枚、高速のDーホイーラーさんも大変だなぁ、さぁ、その音速っぷりで自爆しな」

 

ニヤリ、ユーゴが悪どい笑みを浮かべてクロウを煽る。とは言えクロウの連続攻撃をかわすこちらも必死だ。クロウも焦ってはいるが――今までで墓地に落ちたカード、そして手札を見てまだあのカードが来ていないと冷静になる。あのカードさえ来れば、クロウの寿命は伸びる。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『カップ・オブ・エース』!コイントスを行い、表なら俺が、裏ならお前が2枚ドローする!……表だ、どっちにしろラッキーだな!」

 

ユーゴ 手札1→3

 

「魔法カード、『シールド・クラッシュ』!シルバー・ウィンドを破壊!墓地の『スピードリバース』除外、墓地の『SRベイゴマックス』を回収し、召喚!」

 

SRベイゴマックス 攻撃力1200

 

「効果で『SRタケトンボーグ』をサーチ、特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

再びフィールドに現れるベイゴマックスとタケトンボーグのコンビ。ベイゴマックス1枚からシンクロへ繋げられるこの2枚は『スピードロイド』の中でも特に優秀だ。

 

「タケトンボーグをリリース、デッキから『SR赤目のダイス』を特殊召喚!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

「そしてマッハゴー・イータを蘇生!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000

 

「レベル3のベイゴマックスに、レベル1の赤目のダイスをチューニング!幾千の顔を持つ迷宮の影よ、その鋭き刃で混沌の闇を切り裂け!シンクロ召喚!『HSR快刀乱破ズール』!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300

 

ユーゴのフィールドに駆けつけたのはその名の通り、様々なパーツが合体したパズルのようなモンスターだ。シンクロモンスターで攻撃力1300と中途半端なステータスながら、『クリアウィング』、チャンバライダーに並び、ユーゴの頼れるアタッカーだ。OMKガムと組み合わせれば大半のモンスターを寄せ付けなく出来る。

 

「バトル!マッハゴー・イータでエルフェンを!ズールでアームズ・ウィングへ攻撃!ズールは自身の効果で攻撃力倍加!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2600

 

ユーゴの怒濤の攻めにより、クロウの『BF』達が次々と破壊される。デッキ破壊で勝つにしても、ダメージで勝つにしても、後続の為に相手のモンスターは減らしておきたい。

 

『疾風怒濤!ユーゴ、ヒット&ウェイで攻めて守る!』

 

「『クリアウィング』で攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!」

 

「カードをセット、ターンエンド」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『HSR快刀乱破ズール』(攻撃表示)『HSRマッハゴー・イータ』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!チッ、まだか……しかしやるもんだ。お蔭でフィールドもデッキもボロボロだぜ。だがせめて、テメェだけはぶっ倒す!『BFー残夜のクリス』を特殊召喚!」

 

BFー残夜のクリス 攻撃力1900

 

「そして『BFー極北のブリザード』を召喚!」

 

BFー極北のブリザード 攻撃力1300

 

「効果でシュラ蘇生!」

 

BFー蒼炎のシュラ 守備力1200

 

「この瞬間、マッハゴー・イータの効果発動!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7→8

 

HSR快刀乱破ズール レベル4→5

 

BFーアーマード・ウィング レベル7→8

 

BFー残夜のクリス レベル4→5

 

BFー漆黒のエルフェン レベル6→7

 

BFー蒼炎のシュラ レベル4→5

 

BFー極北のブリザード レベル2→3

 

「バトルだ!アーマード・ウィングで『クリアウィング』へ攻撃!」

 

「墓地の三つ目のダイスを除外し、攻撃を無効!」

 

「ブリザードでズールに攻撃!」

 

「永続罠、『ディメンション・ガーディアン』!ズールの戦闘、効果破壊を防ぐ!」

 

「この野郎ッ!ならクリスで『クリアウィング』へ攻撃!」

 

クロウ・ホーガン LP1000→400

 

襲い来るクロウの『BF』の猛攻を掻い潜り、ユーゴは何とか自分のターンへ持ち込む。とは言え最後の攻撃は見逃し、『チキンレース』の効果でダメージが与えられなくなってしまった。

 

「カードをセット、ターンエンドだ!」

 

クロウ・ホーガン LP400

フィールド『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)『BFー漆黒のエルフェン』(守備表示)『BFー蒼炎のシュラ』(守備表示)

『黒い旋風』×3セット1

手札4

 

「俺のターン、ドロー!後、4枚……!思ったより長いな。魔法カード、『マジック・プランター』!『ディメンション・ガーディアン』をコストに2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札1→3

 

「魔法カード、『ソウルテイカー』!アーマード・ウィングを破壊!」

 

「くっ、罠発動、『亜空間物質転送装置』!アーマード・ウィングをターン終了まで除外し!」

 

「『クリアウィング』でエルフェンへ、ズールでシュラに攻撃!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2600

 

これで残るモンスターはアーマード・ウィングのみ。全てが神経を磨り減らすような作業に感じる。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド。付き合ってもらうぜ、地獄まで……!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『HSR快刀乱破ズール』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「潰れるなら1人で潰れて欲しいんだがな……俺のターン、ドロー!」

 

『クロウ、残り3枚!カウントダウンが始まる!』

 

「アーマード・ウィングを攻撃表示に、バトル!アーマード・ウィングで『クリアウィング』へ攻撃!」

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

「くっ、モンスターとカードをセット、ターンエンドだ」

 

クロウ・ホーガン LP400

フィールド『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)セットモンスター

『黒い旋風』×3セット1

手札3

 

「俺のターン、ドロー!バトル!ズールでセットモンスターへ攻撃!」

 

「罠発動!『ゴッドバードアタック』!セットしたブリーズをリリースし、モンスター2体を破壊!」

 

「ぐぬっ――!」

 

ユーゴが攻勢に出るも、ブリーズが死力を尽くした特攻によってユーゴの頼れるモンスターが全滅する。

 

「ターンエンド。ズールの効果により、『SRメンコート』を回収」

 

ユーゴ LP1000

フィールド

手札2

 

「俺のターン、ドロー!まだか……まだ来ないのか……!バトル!アーマード・ウィングでダイレクトアタック!」

 

「手札のメンコートの効果発動!」

 

SRメンコート 攻撃力100

 

再びクロウの行く手を遮るメンコート。これでこのターンも何とか凌いだ。クロウのデッキは残り火2枚、目当てのカードもまだ来ず、両者共に焦りが募る。後少し、まだまだ先。時間がまるで、無限のように感じる。

 

「ターンエンドだ……!」

 

クロウ・ホーガン LP400

フィールド『BFーアーマード・ウィング』(守備表示)

『黒い旋風』×3

手札4

 

「俺のターン、ドロー!メンコートを守備表示に、後ちょっと……後少しだけだ!持ってくれよ、俺のカード達!魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を交換!う、し……!」

 

目当てのカードを引けたのか、ニヤリと薄い笑みを浮かべるユーゴ。もうもたない、このカードに全てを託す。

 

「カードをセット、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『SRメンコート』(守備表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!俺も来たぜ、魔法カード、『貪欲な壺』!」

 

ここで引き抜かれたのはユーゴの努力を塗り潰す最悪のカード。本来ドローソースとして使用する為、ユーゴの狙いを助けるように見えるが、その条件が厄介だ。このカードは、ドローの前に5枚のカードをデッキへと戻す。これが通れば、一貫の終わり。

 

「させ、るかぁっ!カウンター罠、『魔宮の賄賂』!その発動を無効にし、お前は1枚ドローする!」

 

「ここでかよ……!?」

 

クロウ 手札3→4

 

負けられない、意地をかけた咆哮を上げ、ユーゴがクロウの命綱を断ち切る。クロウの奥の手も、見事打ち砕いた。残るカードは1枚、だが、ユーゴの体力も、風前の灯火。

 

「根性あるじゃねぇか……アーマード・ウィングを攻撃表示に変更、メンコートへ攻撃!」

 

「くっ!」

 

「ターンエンドだ!」

 

クロウ・ホーガン LP400

フィールド『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)

『黒い旋風』×3

手札4

 

『ユーゴ繋ぎ止めた!クロウのデッキは残り1枚!凄い凄い!一体誰がこんな展開を予想したのでしょうか!素晴らしい健闘振りだ!』

 

「俺のターン、ドロー!……ここまでか……ターンエンドだ……」

 

ユーゴ LP1000

フィールド

手札2

 

「俺のターン、ドロー!どうやらお前も万策尽きたようだな」

 

「ハ、どうかな?」

 

ニヤリ、クロウの挑発に対してもユーゴは不敵な笑みを浮かべる。とは言え彼の言う通り、最早ユーゴにはクロウに対する手は無い。

 

「さぁ、終わりだ!俺も、お前も!アーマード・ウィングで、ダイレクトアタック!」

 

「手札の『D.D.クロウ』を捨て、お前の墓地の『BFー尖鋭のポーラ』を除外!」

 

ユーゴ LP1000→0

 

漆黒の鳥が旋風を纏い、黒い流星となってユーゴを貫く。ファーストホイーラー対決、勝者は、クロウ・ホーガン。しかし――ユーゴの残したものもまた、大きなものだった。

攻撃を受け、LPが0になったユーゴのDーホイールが白煙を上げて停止、後はセカンドホイーラー、セレナに託された。ユーゴはヘルメットを脱ぎ、カラッとした笑顔を2人に向ける。

 

「ワリィ、負けちまった。――後、任せるわ」

 

「――任せておけ!」

 

コツン、ユーゴが向けた拳に、セレナが拳をぶつける。バトンは受け取った。セレナは頼もしい台詞と共にDーホイールに乗り、クロウへ迫る。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

次の闘いの火蓋が、切って下ろされる。




2人のデュエルを始めた頃はまさかこんな特殊な決着になるとは思ってなかったでござる。


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第131話 どっちだろう、分からない

勝鬨「自分人気すぎてさぁ、使用カードがOCG化されてさぁ。本当参っちゃうよね」
シンジ「テメェ!おいセルゲイ、お前も何とか言ってやれ!」
セルゲイ「放置プレイ……!」
シンジ「駄目だコイツ!」


「やはり、お前達はアカデミアではなかったか」

 

フレンドシップカップが行われる裏側にて、見事万丈目と三沢の2人に勝利したユートと隼は、彼等の案内の下、柚子がいると言うエリア内に足を運んでいた。その道中、話の種は2人の正体、隼が高性能アカデミア探知レーダーによってアカデミアとは別のデュエリストとバレた2人は面倒そうに身分を明かす。

 

「正確には元アカデミアだな。俺達のようにアカデミアのやり口に嫌気が差している奴もいると言う事だ。まぁ、行動に移すのは極一部だが」

 

「だろうな、幾ら反感を持とうと自身の意志を持たん奴は集団に流される。奴がやっているなら俺も……とやっていく内に染まるのだろう」

 

「数と言うのはこれだから厄介だ。数こそが正義……否定はせん。だからこそ俺達もアカデミアに対抗出来る戦力を見定める為、スタンダード次元への遠征に参加したんだからな」

 

隼と万丈目が溜め息を吐いて共感する。アカデミアが厄介な所は軍隊である事だろう。統率の取れた連携に一定の水準を越えた錬度、そしてその兵が大量にいる。だからこそエクシーズ次元は壊滅に近い打撃を受けた。スタンダード次元が救われたのは赤馬 零児の対策や隼達エクシーズ次元民の協力が大きい。

 

「現在アカデミアから離反した奴は二組に分かれ、手を結んでいる。俺達はその1つ、アカデミアに潜り込んで情報を。カード化のメカニズムを調査している男の任務を受けていたんだ」

 

「カード化は俺達でも未解明の部分が多いからな」

 

三沢が説明し、万丈目が舌打ちを鳴らす。アカデミアでさえ詳しくは知らないカード化の謎、レジスタンスもあくまで彼等のデュエルディスクを解析し、組み込んだに過ぎない。しかもカード化については瑠那曰く、現在全く別の方法を取られている為、ますます厄介な事になっているのだろう。

 

「成程な、柚子を連れ去ったのは何故だ?」

 

「アカデミアから狙われている奴を放って置くわけにもいかんだろう。このシンクロ次元には俺達にも知らされていないアカデミアの人間がいると言うしな」

 

「やはりセキュリティはアカデミアと繋がっていたか……」

 

三沢が肩をすくめ、ユートが苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。道理でこのシンクロ次元だけ無事で綺麗過ぎると納得する。静かに着々と魔の手は迫って来ているのだ。

 

「だからこそ動き辛い。知り合いのヤブ医者がエクシーズ次元も現在厄介な事になっていると言うしな」

 

「エクシーズ次元が……?それにヤブ医者……隼」

 

「……いや、ユート。確かに奴は医者を目指していたし、そんな頭をしていたが流石に……」

 

「あそこはもう別番組だと言っていたな」

 

「何があったんだ……!」

 

ユート達の知らぬ間にエクシーズ次元でもただならぬ変化があったらしい。気になる気持ちも山々だが、その話は後にしようとユートは思考の片隅に追いやり、彼等に聞きたかった事――頼みたかった事を口に出す。

 

「それは後で聞こう。万丈目、君に、頼みがある」

 

――――――

 

「あれ?どこに行くんだユーゴ」

 

「ん、いや、ちょっとトイレにな。何だか気が抜けたらウンコしたくなっちまったぜ。ダハハハハ!」

 

時は少し進み、シティ湾岸沿いに存在するスタジアム、選手用のベンチにて、コソコソと裏に引っ込もうとするユーゴを見て、遊矢が疑問を感じ、問いかける。何やら様子がおかしい。鈍感では無く、察しが良い遊矢は彼が口に出したそれを直ぐ様嘘だと見抜く。

ユーゴが分かりやすいのもあるだろうが。その原因を理解した遊矢は難しい顔をした後、「そうか」とユーゴを見送る。彼が1人になった理由は恐らく、遊矢自身も経験がある事。

 

こんな時は1人になりたい気持ちも充分理解出来る。が――頭に装着したゴーグルを掴んで視界を覆い、唇を噛んでジタバタと悶える。

やはり――苦しんでいる誰かを、悩んでいる誰かを見て、放って置く事なんて出来そうに無い。嫌われたって良い、怒られたって良い。それで彼と気持ちを分け合う事が出来るなら。ゴーグルを外し、覚悟を決めた赤い眼を耀かせ、遊矢は誰でもない、仲間であるユーゴの下へ向かう。大きなお節介を焼きに――。

 

「ちょっと、行って来る!」

 

「キー!」

 

去り際に、背中にかけられたSALの鳴き声が妙に頼もしかった。

 

「私のターン、ドロー!」

 

一方、スタジアムのサーキットにて、チームランサーズのセカンドホイーラー、セレナがDーホイールを発進し、チーム革命軍のファーストホイーラー、クロウ・ホーガンの背を追い、デッキより1枚のカードを引き抜く。

 

相手はユーゴの必死の健闘により、既にデッキ枚数は0、次のターン、自動的に敗北が決まっているとは言え、やる事はある。

クロウのフィールドには『D・D・R』によって帰還した戦闘耐性、及びこちらのモンスターを弱体化させるクロウのエースカード、『BFーアーマード・ウィング』が1体。『BF』を『ガジェット』化させる『黒い旋風』が3枚存在している。後者は後続のDーホイーラーが『BF』使いで無い限り魔法、罠ゾーンを圧迫する為、有難い。ユーゴが残したもう1つの釣果だ。

 

「充分だ。全く良い仕事っぷりだぞ融合。褒めてやる!」

 

ここにユーゴがいれば「融合じゃねぇ、ユーゴだ!」と怒声が飛んでいただろう。セレナとしてはかなり褒めているが。ユーゴは自分以上の相手に対し、プライドを捨ててまで手を尽くし、クロウと相撃ちに持ち込んだのだ。その覚悟に応えねばならない。

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』カードを2枚ドロー!」

 

セレナ 手札5→7

 

「魔法カード、『魔力の泉』を発動!4枚ドローし、2枚捨てる!」

 

セレナ 手札6→10→8

 

「『チキンレース』の効果発動!」

 

セレナ LP4000→3000→2000 手札8→9→10

 

『チキンレース』の効果で手札を10枚まで確保。手数を増やし、アーマード・ウィングの撃破、そしてセカンドホイーラーに備える布陣を敷く。少々手間だが、ユーゴがやった事に比べれば何て事は無い。

 

「速攻魔法、『手札断札』!互いに手札を2枚交換、私はアクションカードを1枚捨てよう。更に手札の『月光黒羊』を捨て、デッキから『融合』をサーチ!そして『月光虎』をペンデュラムスケールにセッティング!その効果で墓地の『月光黒羊』を蘇生!」

 

月光黒羊 守備力600

 

流れるようなカードの動きでセレナのフィールドに現れたのは燕尾服を纏った羊の獣人。肩から捻れた角を伸ばしたこのカードこそ『ムーンライト』のキーカード、『融合』に必須と言えるサーチ、サルベージ効果を併せ持っている1枚だ。素良の扱う融合特化の『ファーニマル』、『エッジインプ』、『デストーイ』と違い、これ1枚の回し方が重要だ。

 

「そして魔法カード、『融合』を発動!フィールドの『月光黒羊』と手札の『月光紫蝶』を融合!紫の毒持つ蝶よ!漆黒の闇に潜む獣よ!月の引力により渦巻きて新たなる力と生まれ変わらん!融合召喚!現れ出でよ!月明かりに舞い踊る美しき野獣!『月光舞猫姫』!!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400

 

融合召喚、セレナの背後に青とオレンジの渦が広がり、紫の蝶人と黒い羊の獣人が混ざり合い、閃光が炸裂する。そして赤い毛並みを揺らし、美しき舞と共に登場したのは2刀のナイフを振るう、踊り子のような風貌の猫の獣人。セレナのエースカードだ。

 

「『月光黒羊』の効果で『月光紫蝶』回収、墓地に送り、舞猫姫の攻撃力を1000アップ!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400→3400

 

「モンスターをセット、バトルだ!舞猫姫でアーマード・ウィングに攻撃!」

 

「むっ」

 

「この瞬間、手札の速攻魔法、『禁じられた聖杯』を発動!アーマード・ウィングの攻撃力を400アップし、効果を無効!」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500→2900

 

アーマード・ウィング撃破、無効化されたアーマード・ウィングに、捕食者である猫の牙、2刀のナイフが突き立てられる。これで後続の憂いは振り払った。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンド」

 

セレナ LP2000

フィールド『月光舞猫姫』(攻撃表示)セットモンスター

セット2

Pゾーン『月光虎』

手札3

 

「俺のターン、この瞬間、デッキ枚数0の俺はドローカードが無い為、自動的に敗北、次のDーホイーラーに引き継がれる」

 

キィッとクロウのDーホイール、ブラック・バードがチーム革命軍のベンチで停止し、セカンドホイーラー、デイモンにバトンタッチする。

 

「すまねぇな、場に良いカードを残せねぇどころか、フィールドを圧迫しちまって」

 

「まぁ1人倒したんだ。充分だ。デイモン、行けるか?」

 

「奴さんがやりやがるからな。ちと厳しいが、ぼちぼち頑張るさ」

 

デイモンがメットを被り、Dーホイールに跨がりながらリーダーであるシンジに答える。少々厳しい所だが、幸い相手のモンスターの攻撃力はそれ程高くない。それに、『黒い旋風』の対処策ならある。後攻めの有利もある事だ。好きにやらせてもらうとデイモンがセレナを追ってDーホイールを駆けさせる。

 

「……なぁ、シンジ……」

 

「あん?何だクロウ」

 

俯き、暗い顔をしたクロウの呼び掛けに、シンジが眉をひそめて顔を上げる。

 

「俺達、やっぱ間違ってんじゃねぇのか?」

 

「……馬鹿言え、それじゃあ今のシティが正しいとでも言うのかよ?」

 

シンジのシティの異常な格差社会を無くす為、革命を起こすと言う考えに対し、クロウが疑問をぶつけるも、シンジは何かに取り憑かれたように一蹴する。そうだ、シンジの考えは間違ってはいないし、正しいとさえ言える。

クロウも子供達に貧しい思いをさせない為に彼に賛成したのだ。間違っているのはシティ、だから――迷う必要は、無い筈なのに。

 

「そう、だよな。ワリィ、変な事言った。ちょっとトイレ行って来る」

 

「おう」

 

そう、その考え自体は、間違ってはいないのだ。

 

「さぁて、お次は俺だ。クロウの仇……はもう取れねぇが、お前さん位は倒させて貰うぜ!」

 

「そう簡単にいくかな?」

 

『さぁ、ユーゴ、クロウ、両者のファーストホイーラーが倒れ、セカンドホイーラー同士の対決へ!果たして次はどのようなデュエルになるのでしょうか!』

 

『第2ラウンドに突入だ!』

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

デイモンがデッキより5枚のカードを引き抜く。まずまずの手札と言った所か。焦る必要は無い。こちらも通常のドローに加え、『チキンレース』の効果もある。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動、『針虫の巣窟』!デッキトップからカードを5枚墓地に送る!」

 

「『チキンレース』の効果発動!」

 

デイモン・ロペス LP4000→3000→2000 手札6→7→8

 

LPを削り、一気に2枚のドローで8枚の手札に。こちらもブレーキ無しのフルスロットル。アクセル全開で駆け抜け、セレナに並走する。

 

「速攻魔法、『「A」細胞組み換え装置』!舞猫姫を対象とし、デッキから『エーリアン・ヒュプノ』を墓地に送り、そのレベル4つ分のAカウンターを乗せる!」

 

月光舞猫姫 Aカウンター0→4

 

「カウンターか……」

 

「チューナーモンスター、『エーリアンモナイト』を召喚!」

 

エーリアンモナイト 攻撃力500

 

現れたのは棘つきの殻を被ったアンモナイト型の『エーリアン』。『エーリアン』唯一のチューナーであり、シンクロ召喚を可能とするモンスターだ。

 

「召喚時、墓地のレベル4以下の『エーリアン』、『エーリアン・ヒュプノ』を特殊召喚!」

 

エーリアン・ヒュプノ 攻撃力1600

 

『エーリアンモナイト』で吊り上げたのは頭部が膨れ上がり、指先が水色の宝石のようになり、胴体からはカプセル状になった『エーリアン』だ。

 

「レベル4のヒュプノに、レベル1のアンモナイトをチューニング!シンクロ召喚!『宇宙砦ゴルガー』!!」

 

宇宙砦ゴルガー 攻撃力2600

 

『エーリアンモナイト』がクルクルとUFOのように旋回し、殻の隙間から淡い光を発して光のリングに変化し、ヒュプノを包み込む。そして閃光が炸裂、光を裂き、山のような巨体を誇る、形容し難い異形が姿を見せる。

 

「これがお前のエースか……!」

 

「ゴルガーの効果!フィールドの表側表示の魔法、罠カードを任意の数手札に戻し、その枚数分、フィールドの表側表示モンスターにAカウンターを乗せる!俺はお前の『月光虎』、俺のフィールドの3枚の『黒い旋風』をバウンスし、ゴルガーに4つのカウンターを乗せる!」

 

宇宙砦ゴルガー Aカウンター0→4

 

「チッ、『黒い旋風』を回収し、フィールドの圧迫を逃れたか……!」

 

ゴルガーを使う事により、残されていたカードを『黒い旋風』を利用するデイモン。これで相手の拘束は解かれた。

 

「魔法カード、『手札抹殺』を発動!互いに手札を捨て、その枚数分ドロー!お前には『月光虎』を捨てて貰うぜ!」

 

「む……!」

 

これで『黒い旋風』を捨て、ドロー数を増やしながらセレナの『月光虎』を安全に排除した。この男、中々見事な手腕だ。

 

「永続魔法、『「A」細胞培養装置』、『古代遺跡コードA』、『「A」細胞増殖装置』を発動!」

 

「良いのか?そんなに専用の永続魔法を使って。また次のDーホイーラーの動きを制限するぞ」

 

「ゴルガーをフィールドに残すか墓地に置いときゃ心配ねぇさ」

 

そう、ゴルガーを後続のホイーラーに使えるようにするだけでフィールドを圧迫するカードも手札コストに変換出来る。これでセレナ達はプレッシャーをかけられなくなった。

 

「そして舞猫姫のAカウンターを2つ取り除き、『エーリアン・リベンジャー』を特殊召喚!」

 

月光舞猫姫 Aカウンター4→2

 

エーリアン・リベンジャー 攻撃力2200

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター0→1

 

Aカウンターを使いこなし、様々な恩恵を与えていく。これこそが『エーリアン』デッキの力、このデイモンもクロウに劣らない。

 

「フィールドのAカウンターが取り除かれた事で『「A」細胞培養装置』にAカウンターを1つ置く!そしてリベンジャーの効果でお前のモンスターにAカウンターを乗せる!」

 

月光舞猫姫 Aカウンター2→3

 

「舞猫姫のカウンターを2つ取り除き、ゴルガーの効果で破壊する!」

 

「アクションマジック、『ミラー・バリア』!舞猫姫に効果破壊耐性を与える!」

 

月光舞猫姫 Aカウンター3→1

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター1→2

 

「ゴルガーのカウンターを2つ取り除き、コードAの効果で墓地の『エーリアン・ヒュプノ』を蘇生!」

 

宇宙砦ゴルガー Aカウンター4→2

 

エーリアン・ヒュプノ 攻撃力1600

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター2→3

 

「バトル!『エーリアン・リベンジャー』で舞猫姫へ攻撃!そしてこのカードがフィールドに存在する限り、Aカウンターが乗ったモンスターが『エーリアン』と戦闘を行うダメージ計算時、Aカウンター1つにつき攻撃力を300ダウンする!」

 

「私もこれを使おう!罠発動!『幻獣の角』!舞猫姫の攻撃力を800アップ!」

 

「アクションマジック、『突撃』!リベンジャーの攻撃力を600アップ!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400→3200→2900

 

エーリアン・リベンジャー 攻撃力2200→2800

 

デイモン・ロペス LP2000→1900

 

セレナ 手札4→5

 

Aカウンターを使い、戦闘を有利に進めるデイモンだが、戦闘面で上回ったのはセレナだ。下げられたのなら上げるだけ。これで戦闘においてAカウンターの効力は失われた。

 

「コードAの効果!『エーリアン』モンスターが破壊される度にこいつにAカウンターを乗せる!」

 

古代遺跡コードA Aカウンター0→1

 

「ゴルガーでセットモンスターを攻撃!」

 

「セットモンスターは『月光蒼猫』!破壊された事で『月光紅狐』をリクルートする!」

 

月光紅狐 攻撃力1800

 

蒼猫が去り、入れ替わりに現れたのは紅の狐。緑の狸のライバルである。

 

「ここでストップか。仕方ねぇ、ターンエンドだ」

 

デイモン・ロペス LP1900

フィールド『宇宙砦ゴルガー』(攻撃表示)『エーリアン・ヒュプノ』(攻撃表示)

『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』

手札4

 

「『チキンレース』の効果でドロー!」

 

セレナ LP2000→1000 手札6→7

 

「『月光白兎』を召喚!」

 

月光白兎 攻撃力800

 

現れたのは月の面を被った兎の獣人だ。餅つきの槌を携え、戦闘にフィールドに舞い降りる。

 

「召喚時、墓地の『月光黒羊』を蘇生!」

 

月光黒羊 守備力600

 

「そして白兎の効果発動!フィールドの『ムーンライト』カードの数まで相手の魔法、罠をバウンスする!私の『ムーンライト』は3枚!丁度だな!カウンターもろとも戻ると良い!」

 

「させねぇよ!墓地の『スキル・プリズナー』を除外!『「A」細胞増殖装置』を対象に取るモンスター効果を無効に!」

 

「ふん、構わん!魔法カード、『置換融合』を発動!『月光紅狐』と『月光黒羊』を融合!融合召喚!『月光舞猫姫』!!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400

 

「『月光黒羊』の効果で『月光虎』を回収し、『月光紅狐』の効果でヒュプノの攻撃力をターン終了まで0にする!」

 

エーリアン・ヒュプノ 攻撃力1600→0

 

「『月光虎』をセッティング!効果で『月光紅狐』を蘇生!」

 

月光紅狐 攻撃力1800

 

「魔法カード、『融合回収』!墓地の『融合』と『月光黒羊』回収、発動!手札の『月光白兎』と『幻獣の角』を装備していない『月光舞猫姫』を融合!融合召喚!月光の原野で舞い踊るしなやかなる野獣!『月光舞豹姫』!!」

 

月光舞豹姫 攻撃力2800

 

融合進化、舞猫姫が更なる力を得て進化を遂げる。黒い髪を目を隠した所で切り揃え、野太い腕を持った豹の姫君。舞猫姫が戦闘破壊耐性を持っているなら、こちらは効果破壊耐性を持っている。

 

「墓地の『置換融合』を除外し、墓地の舞猫姫をデッキに戻し、ドロー!」

 

セレナ 手札4→5

 

「手札の『月光黒羊』を捨て、『置換融合』をサーチ、発動!フィールドの舞豹姫、紅狐、白兎を融合!現れ出でよ!月光の原野の頂点に立って舞う百獣の王!『月光舞獅子姫』!!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500

 

そして――更なる融合を。3連続融合によって現れたのは白い鬣を伸ばした、白刃を煌めかせる獅子の女王。セレナの最強の切り札が今、フィールドに顕現する。

 

『3連続融合!強力なモンスターがフィールドを舞い踊る!その攻撃力、3500!』

 

「カードをセット、バトル!舞猫姫でゴルガーへ攻撃!舞猫姫の効果発動!」

 

「アクションマジック、『ブラインド・ブリザード』!バトルフェイズを終了させる!」

 

デイモン・ロペス LP1900→1800

 

「チッ、ターンエンドだ」

 

セレナ LP1000

フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)『月光舞猫姫』(攻撃表示)

『幻獣の角』セット1

Pゾーン『月光虎』

手札3

 

強力な融合モンスターによる猛攻を仕掛けるも、すんでの所でアクションマジックを発動。彼等の間に氷の壁が出現し、剣を弾く。だがセレナのモンスターは2体共強力なモンスターだ。早々越える事は無いだろう。

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、『「A」細胞増殖装置』の効果で相手モンスター1体を対象とし、Aカウンターを乗せる!」

 

「舞獅子姫は効果の対象にならない。必然的に舞猫姫にカウンターが乗る」

 

月光舞猫姫 Aカウンター1→2

 

「ゴルガーの効果でコードAと自身のカウンターを取り除き、セットカードを破壊!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、セットカードを対象に取るモンスター効果を無効!」

 

宇宙砦ゴルガー Aカウンター2→1

 

古代遺跡コードA Aカウンター1→0 

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター3→4

 

「『チキンレース』の効果でドロー!」

 

デイモン・ロペス 手札1800→800 手札5→6

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』、手札を交換、墓地の『「A細胞組み換え装置」』を除外、デッキの『エーリアン・リベンジャー』をサーチ!」

 

「手札の『増殖するG』を切る!」

 

「ゴルガーと舞猫姫のカウンターを2つ取り除き、特殊召喚!」

 

宇宙砦ゴルガー Aカウンター1→0

 

月光舞猫姫 Aカウンター2→1

 

エーリアン・リベンジャー 攻撃力2200

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター4→5

 

セレナ 手札2→3

 

「そしてリベンジャーの効果で相手フィールドの全てのモンスターにAカウンターを乗せる!この効果は対象を取らない。舞獅子姫相手でも有効!」

 

月光舞獅子姫 Aカウンター0→1

 

月光舞猫姫 Aカウンター1→2

 

「舞猫姫のカウンターを2つ取り除き、コードAの効果で『エーリアンモナイト』を蘇生!」

 

月光舞猫姫 Aカウンター2→0

 

エーリアンモナイト 守備力200

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター5→6

 

セレナ 手札3→4

 

「そしてレベル4のヒュプノにレベル1のアンモナイトをチューニング!シンクロ召喚!『宇宙砦ゴルガー』!!」

 

宇宙砦ゴルガー 攻撃力2600

 

セレナ 手札4→5

 

現れる2体目のゴルガー。並ぶ山を見てもセレナの表情に動揺は見られない。それは自身の切り札への絶対的な信頼によるものだ。確かに舞獅子姫は対象にならず、効果で破壊もされず、互いに攻撃力を持っていると来た。Aカウンターが乗っていてもその数は1、攻撃力をダウンされても3200とデイモンのモンスターでは突破出来ない。だが――デイモンの手札には、丁度無効化するカードがある。

 

「『エーリアン・マーズ』を召喚!」

 

エーリアン・マーズ 攻撃力1000

 

現れたのは額や身体に赤い宝玉を埋め込んだ触手を持つ『エーリアン』。攻守共に1000と低いステータスだが、このモンスターの登場と共に、2体の『ムーンライト』モンスターに貼り付いたAカウンターが活性化し、2体の動きが鈍る。

 

「これは――」

 

「マーズがいる限り、マーズ以外のAカウンターを持つモンスターの効果は無効化する。勿論、対象を取らないぜ」

 

「チッ……!」

 

これがデイモンの策、確かにこれならば舞獅子姫の効果を無効化し、ゴルガーの効果で破壊が可能となる。こんなカードまであるとは。

 

「もう1体のゴルガーにより、培養装置のカウンターを取り除き、舞猫姫を破壊!」

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター6→4→5

 

「罠発動!『月光輪廻舞踊』!フィールドの『ムーンライト』モンスターが破壊された事で『月光狼』と『月光彩雛』をサーチ!」

 

「ゴルガーの第2の効果により、コードAと『月光虎』をバウンスし、モンスターにAカウンターを乗せる!」

 

「手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、その効果を無効!」

 

「ならもう1体の方も効果発動!」

 

「2枚目の『エフェクト・ヴェーラー』を切る!」

 

「速攻魔法、『トライアングル・エリア』!Aカウンターを乗せた舞獅子姫を破壊し、デッキの『エーリアン』モンスターを特殊召喚!」

 

「やらせん!墓地の『月光紅狐』を除外、その発動を無効にし、互いのLPを1000回復!」

 

セレナ LP1000→2000

 

デイモン・ロペス LP800→1800

 

「やるな、だが回復したLPを払い、もう1枚の『チキンレース』の効果発動!」

 

デイモン・ロペス LP1800→800 手札3→4

 

「永続魔法、『暗黒の扉』を発動、カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

デイモン・ロペス LP800

フィールド『宇宙砦ゴルガー』(攻撃表示)×2『エーリアン・リベンジャー』(攻撃表示)『エーリアン・マーズ』(攻撃表示)

『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』『暗黒の扉』セット1

手札2

 

「私のターン、ドロー!速攻魔法、『手札断札』!互いに手札を2枚交換!」

 

「こっちはアクションカードを捨て、同時に墓地に送られた『絶対王バック・ジャック』の効果でデッキトップを操作!罠発動、『ハーフ・アンブレイク』!お前の舞獅子姫に耐性を与える!」

 

「更に魔法カード、『貪欲な壺』!モンスターを5体、墓地から回収し、2枚ドロー!」

 

「バック・ジャックを除外し、デッキトップから罠をセット!」

 

セレナ 手札4→6

 

「『月光狼』をセッティング!『月光彩雛』を召喚!」

 

月光彩雛 攻撃力1400

 

現れたのは黄金に輝く雛鳥の獣人。『ムーンライト』の思い素材を軽減する優秀なモンスターだ。

 

「雛鳥の効果でエクストラデッキの『月光舞豹姫』を墓地に落とし、同名として素材に出来る!そして『月光狼』のペンデュラム効果を使う!彩雛と墓地の白兎、紫蝶を除外し、融合召喚!『月光舞獅子姫』!!」

 

「手札の『増殖するG』を捨てる!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500

 

デイモン・ロペス 手札2→3

 

『2体目の舞獅子姫登場!セレナ、容赦無く斬りかかる!』

 

2体目の切り札の登場。並び立つ白獅子の女王。美しくも凛と佇む舞獅子姫の姿に、デイモンの顔色が一気に変わる。これは少々、不味い事になってしまった。

 

「逃がさんぞ。彩雛の効果でバトルフェイズ中、お前は効果を発動出来ない。『チキンレース』の効果でLPを1000払い、相手のLPを1000回復!」

 

セレナ LP2000→1000

 

デイモン・ロペス LP800→1800

 

「『月光虎』のペンデュラム効果で『月光蒼猫』を蘇生!」

 

月光蒼猫 攻撃力1600

 

デイモン・ロペス 手札3→4

 

「罠発動!『亜空間ジャンプ装置』!『ハーフ・アンブレイク』の効果を受けた舞獅子姫とマーズのコントロールを入れ替える!」

 

「チッ、だが舞獅子姫が攻撃したダメージステップ終了時に、相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全て破壊する!」

 

「ならこいつだ!アクションマジック、『透明』!舞獅子姫に効果耐性を与える!」

 

「バトルに移り、舞獅子姫で『エーリアン・リベンジャー』へ攻撃!」

 

デイモン・ロペス LP1800→500

 

古代遺跡コードA Aカウンター0→1

 

舞獅子姫が振るう白刃が黒き『エーリアン』を切り裂き、爆発を巻き起こしてデイモンのモンスターを吹き飛ばす。

 

「良かったのか?これでお前は俺に傷をつけられねぇ」

 

「どうかな?『エーリアン・マーズ』を守備表示に変更し、ターンエンドだ。この瞬間、『月光虎』の効果で特殊召喚された『月光蒼猫』は破壊され、デッキから『月光虎』をリクルートする」

 

月光虎 守備力800

 

デイモン・ロペス 手札4→5

 

セレナ LP1000

フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)『月光虎』(守備表示)『エーリアン・マーズ』(守備表示)

Pゾーン『月光虎』『月光狼』

手札4

 

「さぁ、トリックスター、デイモン様の力を見せてやるぜ!」

 

ぶつかり合うセカンドホイーラー対決。意外な伏兵、顔に似合わぬトリックスター、光の侵略者、『エーリアン』の使い手、デイモン・ロペスを相手にセレナは苦戦を強いられる。予想だにしないトリッキーな戦術を前にし、セレナはどう対処するか。ユーゴから受け取ったバトンを魂に刻み、彼女は決死の想いで闘いに挑む――。

 

――――――

 

一方、柚子捜索へと出向いたユートと隼は、万丈目と三沢の案内の下、道を進む。

 

「成程、良いだろう、その頼み、引き受けてやる」

 

「本当か?万丈目!」

 

「さん、だ!」

 

どうやらユートが万丈目に何かを頼み、それによって発生するメリットで万丈目が折れたらしい。他人の命令等滅多に聞かない彼だが、そんな彼が動く気になったのだ。一体何に動かされたのだろうか。

 

「構わんだろう、敗者が勝者に従うのは仕方あるまい。ただし、今回だけだからな!」

 

「ああ、それで良い。これであいつも余計な事に悩まずに済む」

 

「む、話している内に着いたな。ここが俺達のアジトだ。柊 柚子の無事を確認するが良い」

 

と、ここで彼のアジトに辿り着いたのか、2人が立ち止まった。少々古いが、小綺麗な廃墟へと足を踏み入れる4人、彼等は階段を登り、一室の部屋に足を踏み入れる。そこに、いたのは――長い髪を後ろで留めた、2人が見慣れ、最も会いたかった、1人の少女。

 

「瑠……璃……!?」

 

「――兄さん?ユート――?」

 

次元を越え、漸く再会したレジスタンスの3人、その再会は、余りにも唐突なものだった――。

 

 

 




最近更新が遅れて申し訳ないですん。


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第132話 リン

飛行エレファントがOCG化した上に雑な特殊勝利持ちで草。自分的には居合いドローが嬉しいです。普通に強くない……?


時は戻り、セレナとデイモンのデュエルが行われる前へと巻き戻る。クロウをデッキ切れに追い込みはしたも、敗北してしまったユーゴは選手用のベンチへと繋がる廊下をフラフラと歩き、唇を血が出るまで強く噛み、右拳を思い切り壁へと叩きつけた。ガンッ、と重い音が廊下内に反響し、拳の痕が僅かに壁に残る。

 

負けた――実際は引き分けと言って良い内容だ。格上相手に健闘したと誰もが口を揃え、ユーゴを讃えるだろう。だが、彼には到底納得出来なかった。

ユーゴは自身の親友であるセクトを救おうと心に誓ったのだ。それが、この様。このままではセクトを救う事等不可能。

 

今回のデュエルを通し、自分の実力不足を痛感し、彼はベンチから逃げるように飛び出し、ここまで来たのだ。

こんな姿、誰にも見せたくなかった瞳から涙が溢れ、全身から力が抜けたように壁に背を預け、ズルズルと倒れ込む。

 

「……ぁぁぁぁ……!」

 

腕で隠すように涙を拭い、嗚咽を溢す。限界だった。遊矢達の前では何でもないように振る舞っていたが、1人になってしまえば自分への情けなさや嫌悪感で胸が張り裂けそうになる。

無様で、情けない。少なくともユーゴが理想とする男らしいデュエリストとは全く異なる。弱々しい姿。誰にも見せたくない姿。だったのだが――。

 

「……」

 

「……えと」

 

不意に腕を目から放した途端――目の前でツンツンと指を突っつき合い、気不味そうに汗を垂らす自身と似た顔立ちの少年、遊矢と目が合う。

何故、オマエガココニイル?

 

「何でいるんだよぉぉぉぉぉ……!」

 

「あの、えと、1人になりたいかなって思ったんだけど、やっぱり放っておけなくて」

 

「1人にしろよぉぉぉぉぉ……っ!」

 

思わず嗚咽と共に遊矢を非難するユーゴ。何だ、この男は。空気の読めない、いや、読めるんだけど敢えて無視する行動。デリカシーの無いユーゴでさえ腹が立つ。

 

「お前……マジでふざけんなよっ……!俺がどんな気持ちなのか分かっててやってんだろ……!」

 

「うん」

 

「見られたくないのに来たんだろ!」

 

「うん」

 

「ざっけんな!」

 

ギリリと歯軋りを鳴らし、怒りに任せてユーゴが拳を振るう。だが――パシッ、と、乾いた音と共に遊矢の掌に受け止められる。

 

「ごめん、だけど泣いてる友達を放っておくなんて、俺には出来ない」

 

真剣な表情で、遊矢はユーゴを肯定し、受け止める。こうなるのは分かっていた。だけど、遊矢は分かっていてここに来たのだ。苦しんで、悩んで、泣いてる仲間を放っておけず、半ば身体が勝手にここに来ていた。

 

「ッ!何だよ、それ……!」

 

「大きなお世話だって分かってる。余計なお節介だって分かってる。だけど、俺は仲間と一緒に笑って、気が楽になった。仲間の肩で泣いて、前を見れた。だから、俺がそうしたくて、そうしてる」

 

「……そうかよ、だったら勝手にしろ!」

 

チッ、と一際大きく舌打ちを鳴らし、ユーゴは床に座り込む。何なんだコイツは。鬱陶しくてお節介にも程がある。止めろと言っても聞きやしない頑固者だ。誰だって苛立たしく思うに違いない面倒臭い男だ。勝手にズケズケと人の心に上がり込んで、居座って当たり前のように振る舞う。気に入らない。

 

「言われなくても勝手にするよ」

 

ドカリ、遊矢が少々荒っぽくユーゴの隣に座り込む。ガンガン距離をつめて来る奴だ。最早こちらが折れるしかないと諦めの悪いユーゴも諦め、溜め息を吐く。

 

「何なんだよお前、本当に意味分かんねぇ」

 

「なら分かり合おう。ユーゴの悔しさも、悲しみも、半分ずつ」

 

「……」

 

ニコリと微笑みをユーゴに向ける遊矢。彼は、ユーゴの悔しさを少しでも和らげようとしている。本当に、お節介な奴。気に入らない奴だ。だけど――不思議と突き放すような真似が出来ない。それもまた何だか癪で、ユーゴはフイと顔を背け、唇を尖らせる。

 

「俺もさ、嫌な事があったら、こうしてゴーグルかけて、現実から目を背けて逃げてたんだよ」

 

ほら、と何がおかしいのか、遊矢はゴーグルを装着し、ユーゴに笑いかける。

 

「……そんなもんと一緒にすんな。俺は別に、目を背けてなんかいない」

 

「あはは、確かにな。ユーゴは多分、嫌な自分と向き合ったから、そんな自分に苛立ってるんだもんな」

 

「……」

 

「自分の弱さが、誰かの想いに応えられなくて悔しい。もっと強くなれたらって」

 

「……」

 

押し黙ってそっぽを向くユーゴに対し、遊矢は天井を見上げて呟く。無力な自分、弱い自分、期待に応えられない自分――。誰だって持っている、自分の嫌いな自分。遊矢にだってそれはある。伸ばした手が届かなかった悔しさは、今でも胸に残っている。膝をついた悔しさは、今でも胸を締め付ける。

 

「自分には出来ないって、怖くなるんだよな。だけど――そんな自分も、自分なんだ」

 

「……」

 

「無力でも力だ。弱くても力なんだ。受け入れて、自分の血肉にして、強くなれる」

 

「――」

 

目を見開き、掌を見つめる。無力に嘆くからこそ、弱さを悔しいと思うからこそ、人は強くなれる。何も出来ない自分だって、何かが出来る自分に変えられる。そうして遊矢は、強くなって来た。

 

「それにさ――」

 

「……」

 

スッ、と遊矢は立ち上がり、ユーゴの前に出て手を差し伸べて屈託のない笑みを見せる。

 

「俺達は同じチームの仲間だ。例え1人で出来ない事も、3人いれば出来る。俺にも、手伝わせて欲しい」

 

「……お前……」

 

「俺はユーゴを友達だと思ってる。会ったばかりだけど、まだ何も知らない者同士だけど、これから分かり合えば良い。それに――ユーゴの友達は、俺にだって友達だ」

 

都合の良い言葉だと思う。だけど、それがどうにもユーゴには眩しく見えて、その光に向かって手を伸ばす。ガシリと握られた掌は、友情の始まりを物語っていた。

 

「まだ、認めた訳じゃねぇぞ」

 

「……」

 

「俺を信じさせたきゃ、このデュエルで勝ち抜いてみろ。見ててやるからよ」

 

「……あぁ」

 

突き放すように、照れ混じりに遊矢にそっぽを向け、鼻頭を掻きながらもユーゴは遊矢に向かって一歩、歩み寄る。今はまだ、これだけで良い。彼らはまだ、友達未満なのだから。

 

「……しっかしお前のそー言う所、リンにそっくりだな」

 

「リン?」

 

「ん、ああ、俺の幼馴染みでよ、見た目は柚子にそっくりで、性格は柚子のストロングさとお前のお節介な所を足したよーな、何つーかオカン染みた、まぁ、ちょっと可愛いって言うか、嫌いじゃないって言うか、そんな女なんだけど」

 

「……ええと」

 

リン、と言う名を聞き、首を傾げる遊矢に対し、ユーゴがニヤニヤ、いや、どちらかと言うとデレッとした表情で照れ混じりに笑い、その名の主である幼馴染みの少女の説明を始める。最初は褒めているのか良く分からなかったが、徐々に若干美化が入ったような思い出を語るユーゴ。

 

凄く、覚えがある。遊矢がこのシンクロ次元で会った、1人の少女に。彼女は遊矢から見て、柚子じゃなかった。また、セレナでもない。隼から見ても、妹である瑠璃では無い。

スタンダード次元の榊 遊矢と柊 柚子。エクシーズ次元のユートと黒咲 瑠璃。黒コナミが言っていた融合次元のユーリとセレナ。そして――シンクロ次元のユーゴとリン。全てのピースが合わさり、パズルが完成する。合点が、いった。

 

同時に――デレッとした顔で思い出第2部に入るユーゴの背後に、1人の人物が現れる。そして、その少女こそが。

 

「えっとさ、ユーゴ」

 

「ん?何だよ。今良いトコなんだぞ。それから俺達は泣いてるリンにあるカードを渡したんだがな」

 

「そのリンって子さ、もしかして、こんな子だったり……する?」

 

スッ、と遊矢は何故かこの場にやって来たマントを纏った少女のフードをパッと取り、ユーゴに見せる。ふわりと揺れるウェーブがかったミントグリーンの髪とアホ毛。ピクリともしない無表情に山吹色の瞳。マントの内側には柚子が着用していたものと似たライダースーツ。そう、彼女こそ――。

 

「そーそー!こんな感じでムスッとした感じで――うん?」

 

ユーゴの言う、リンそのもの。見本が現れた事で同意するユーゴだが、遅れて固まり、頭上に疑問符を浮かべる。だって彼女は――ユーリとか言うアカデミアからの使者に、拐われた筈では――思いもよらず、思考が停止し、フリーズするユーゴに対し、エヴァ――リンはムスッとした表情のまま、ユーゴの下へと目にも止まらぬ速度で肉薄し、流星のように加速した右拳を、鳩尾に叩き込む。

 

「くぼぉっ!?」

 

ドズンッ、まるで巨大な重りが地面に激突したような音が響き、ユーゴが強烈な顔芸と共に苦悶の声を漏らす。痛そう、見ていた遊矢はうわぁ……と引く。そしてリンはと言うと。

 

「不愉快」

 

ピシャリと、鼻を鳴らし、無表情で握り拳を作る。

 

「おぉぉぉぉぉ……っ!い、イテェ……!夢じゃない……このストレートの威力、間違いない……リン!やっぱりリンなんだなっ!」

 

パァッと殴られたにも関わらず、リンと再会出来た感動に突き動かされ、ユーゴが何とか立ち上がり、眩しい笑顔をリンへと向ける。しかし――彼は知らない。

 

「貴方……誰?何か胸が、ムカムカするわ」

 

ピシリと、ユーゴが固まる。そう、彼女は今、記憶喪失となっているのだ。例えユーゴと再会したからと言って、その事実は変わらない。その光景に遊矢は胸が締め付けられるような気持ちになる。それもそうだ、自分がもしも柚子に忘れられていたらと思うと苦しくて堪らない。それも、折角再会したと言うのに。

 

「あのさ、エヴァ――リンは今、記憶喪失になってるみたいなんだ」

 

「……ハッ!えっ、な、何!?記憶そーしつ……!?どー言う事だ遊矢!説明してくれ!でないとまた泣きそうだ!」

 

遊矢の言葉に我に返ったユーゴが遊矢の肩を揺らし、必死に説明を求める。余程リンが大切なのだろう。遊矢もコクリと頷き、ユーゴに説明を始める。遊矢と彼女が出会った事から、記憶を失った事、知っている事、全てを。

そして、全てを説明するとと共に、ユーゴは悲しむ事も、悔しがる事もせず、何かを決心した表情でリンに向き合う。

 

「……何?ゆ、融合……?」

 

「融合じゃねぇ、ユーゴだ!……良いから、デッキ出せ」

 

「……何で……?」

 

手を差し出し、デッキを渡せと言うユーゴに対し、何故かユーゴに苦手意識があるリンはムッとした表情で身を引く。かなり傷つく反応だ。ユーゴはイラッとして青筋を浮かべ、そのまま強引な手段に出る。

 

「良いから借せってんだ!すぐ返すっつーの!」

 

「い……やぁ……!」

 

「お、おいユーゴ……!?」

 

ガシリと腰につけられたデッキケースを掴むユーゴと嫌がるリン。こうして見れば変態である。いや、実際変態である。どさくさに紛れ、フヒヒとユーゴが鼻の下を伸ばしている。

 

「うし!あった!」

 

「あっ……そのカードは……!」

 

と、ここでユーゴがリンから1枚のカードを奪い取る。どうやら記憶を失っていてもリンにとっては何となく大切なカードだと分かるらしい。奪われたカードを見て、不安そうな顔をする。

 

「そ、そんな顔すんなっつーの……!安心しろよ、このカードが何でお前にとって大切なのか思い出したら返してやるよ。つーか、俺が今、コイツに頼りてぇんだ。お守りみたいなもんだからな。俺にとっても、お前にとっても……あいつにとっても。俺がコイツで、お前の記憶を取り戻すから、見てろよ?」

 

リンから取ったカードを見て、感傷に浸るユーゴ。そんな彼を見て、リンは渋々と言った様子で唇を尖らせ、引き下がる。

 

「……ちょっとだけ……」

 

「おう!約束する!」

 

「……やっぱり、ムカムカする」

 

ニカリと笑うユーゴと、拗ねたように顔を背けるリン。それは彼等を知る者からすれば、正反対の光景だ。何時もは拗ねたユーゴに、リンが笑いながら励ますのだが――今はまだ。

 

「そう言えば、リンは何でここにいるんだ?」

 

と、ここで漸くリンがこんな所にいる事に対し、遊矢が問いかける。彼女はアカデミアから狙われているのだから、大人しくしていて欲しいのだが。

 

「……黒咲達から、遊矢に伝言」

 

「え……?」

 

――――――

 

時は戻り、フレンドシップカップ1回戦第2試合、チームランサーズVSチーム革命軍のライディングデュエルはセカンドホイーラー対決に託された。

ランサーズからは猛攻撃を仕掛ける融合軸のデッキ、『ムーンライト』の使いのセレナが。革命軍からはAカウンターを駆使し、テクニカルに相手を翻弄、次々とあの手この手を繰り出す『エーリアン』使い、デイモン・ロペスがアクションフィールド、『チキンレース』に変わったサーキットで火花を散らす。

 

セレナが押せばデイモンが華麗に流し、デイモンが切り込めばセレナが防ぎ、返しの刃を放とうとする。一進一退の激しいデュエル。ターンは今、デイモンに移る。彼のフィールドにはセレナからコントロールを奪った強力なモンスター、『月光舞獅子姫』がセレナの舞獅子姫と睨み合う形で剣を構えている。まるで鏡だ。

とは言えデイモンの舞獅子姫はAカウンターとコントロールを奪う為に相手に渡した『エーリアン・マーズ』によって効果が無効化されているが。

 

「来るが良い!ユーゴの想いに応える為にも、お前を倒す!」

 

「さぁて、俺のターン、ドロー!……ユーゴの想いに応える、ねぇ……俺だってシンジ達と信念を共にしてんだよ……負けられねぇ!」

 

セレナがユーゴから受け取ったバトンを繋ごうとする様子を見て、デイモンもまた闘志を燃やす。そう、彼もまた、譲れぬ想いを持っている。この大会に賭けた想いが。

 

「俺達がこのシティを変えるんだ……!スタンバイフェイズ、『「A」細胞増殖装置』の効果で『月光虎』にAカウンターを乗せる!」

 

月光虎 Aカウンター0→1

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換し、速攻魔法、『非常食』!『暗黒の扉』を墓地に送り、LPを1000回復!」

 

デイモン・ロペス LP500→1500

 

「『チキンレース』の効果でドロー!」

 

デイモン・ロペス LP1500→500 手札4→5

 

「『月光舞獅子姫』と『月光虎』のAカウンターを2つ取り除き、墓地の『エーリアンモナイト』を蘇生!」

 

「手札の『増殖するG』を切る!」

 

セレナ 手札3→4

 

月光舞獅子姫 Aカウンター1→0

 

エーリアンモナイト 守備力200

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター5→4→5

 

「『エーリアン・キッズ』を召喚!」

 

エーリアン・キッズ 攻撃力1600

 

現れたのは光線銃を持った『エーリアン』の子供。攻撃力は1600、Aカウンターを溜めていけばこれでも充分に闘える。

 

「レベル4の『エーリアン・キッズ』に、レベル1の『エーリアンモナイト』をチューニング!シンクロ召喚!『宇宙砦ゴルガー』!!」

 

宇宙砦ゴルガー 攻撃力2600

 

セレナ 手札4→5

 

3度現れるデイモンのエース。レベル5にして攻撃力2600と言う高いステータスと優秀な効果を持ったモンスターだ。

 

「ゴルガーの第2の効果!コードAと培養装置のカウンターを使い、『月光虎』を破壊!」

 

「『月光虎』の効果!戦闘、効果で破壊された事で墓地の『月光蒼猫』を特殊召喚!」

 

古代遺跡コードA Aカウンター1→0

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター5→4→5

 

月光蒼猫 守備力1200

 

「仇となったな、『月光蒼猫』の特殊召喚時、舞獅子姫の攻撃力を倍化する!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500→7000

 

『おおっとデイモン、慎重な戦術が仇となった!』

 

「チッ、藪蛇だったか。まぁ良いさ、ゴルガーのもう1つの効果!コードAをバウンスし、お前のモンスター1体にAカウンターを乗せる!獅子姫を狙おうか!」

 

「手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、ゴルガーの効果を無効!」

 

「バトル!ゴルガーで蒼猫に攻撃!」

 

「蒼猫の効果により、デッキから2体目の『月光蒼猫』をリクルート!」

 

月光蒼猫 守備力1200

 

ゴルガーより放たれる熱線が蒼猫を撃つも、直ぐ様2体目の蒼猫が現れ、壁になる。カテゴリ専用のリクルートモンスター。同名縛りも無い為、厄介なものだ。

 

「舞獅子姫で『エーリアン・マーズ』へ攻撃!その効果でテメェのモンスターを全て破壊!」

 

「舞獅子姫は効果破壊されず、蒼猫は効果で3体目を呼ぶ!」

 

月光蒼猫 守備力1200

 

古代遺跡コード「A」 Aカウンター0→1

 

舞獅子姫の剣がマーズを切り裂き、刃先から巻き起こる爆発がセレナのモンスターを破壊する。とは言っても余り効果は無いようだが。

 

「2回目の攻撃!蒼猫を破壊!」

 

「蒼猫の効果で『月光彩雛』を呼ぶ!」

 

月光彩雛 守備力800

 

最後に呼び出されたのは素材を軽減する雛鳥だ。

 

「モンスターを残したか、カードを2枚セット、ターンエンド」

 

デイモン・ロペス LP500

フィールド『宇宙砦ゴルガー』(攻撃表示)『月光舞獅子姫』(攻撃表示)

『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』セット2

手札2

 

「私のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『毒蛇の供物』!爬虫類族のゴルガーとお前のフィールドの『月光彩雛』、『月光狼』を破壊する!」

 

「彩雛が効果で墓地に送られた事で墓地の『融合』を回収!」

 

ここでデイモンが舞獅子姫によって破壊される前にセレナの戦術を崩そうと考えたのか、ゴルガーを犠牲に2枚のカードを破壊する。素材軽減と墓地のモンスターで融合を行う『月光彩雛』と『月光狼』の破壊、これは手痛い反撃だ。

 

「速攻魔法、『手札断札』!互いに手札を2枚捨て、2枚ドロー!良し、魔法カード、『月光香』!墓地から『月光蒼猫』を蘇生!」

 

月光蒼猫 守備力1200

 

「効果で舞獅子姫の攻撃力を倍に!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500→7000

 

「そして墓地の『月光香』を除外、手札を1枚捨て、デッキから『月光白兎』をサーチ、召喚!」

 

月光白兎 攻撃力800

 

「効果で墓地の『月光黒羊』を蘇生!」

 

月光黒羊 守備力600

 

「まだだ!『月光虎』のペンデュラム効果で『月光舞豹姫』を蘇生!」

 

月光舞豹姫 攻撃力2800

 

これでセレナのフィールドに5体のモンスターが揃った。とんでもない展開力だ。流石のデイモンも舌を巻く。

 

「白兎の効果でお前の魔法、罠を全てバウンス!」

 

「甘い!墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、その効果を防ぐ!」

 

「そう来ると思っていた。魔法カード、『融合』!フィールドの舞豹姫、白兎、黒羊を融合!融合召喚!『月光舞獅子姫』!!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500

 

『再び舞獅子姫の融合召喚!重い素材にも関わらず、完璧に使いこなしている!』

 

このデュエル、3体目の舞獅子姫の融合召喚、そして並び立つ3体の舞獅子姫。重い素材であるこのカードを全て呼び出すとは大したものだ。

 

「素材となった黒羊の効果で『月光彩雛』を回収!バトルだ!」

 

「おっと、永続罠、『ディメンション・ガーディアン』!舞獅子姫を戦闘、効果破壊から守る!」

 

「チッ、カードをセットし、ターンエンドだ」

 

セレナ LP1000

フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)×2『月光蒼猫』(守備表示)

セット1

Pゾーン『月光虎』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『精神操作』!『月光蒼猫』のコントロールを奪い、墓地の『シャッフル・リボーン』で戻してドロー!」

 

デイモン・ロペス 手札2→3

 

「培養装置のカウンターを2つ取り除き、『エーリアン・リベンジャー』を蘇生!」

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター5→3→4

 

エーリアン・リベンジャー 攻撃力2200

 

「リベンジャーの効果発動!」

 

月光舞獅子姫 Aカウンター0→1×2

 

「更に『エーリアン・ソルジャー』召喚!」

 

エーリアン・ソルジャー 攻撃力1900

 

次々と現れる『エーリアン』。今度はその下級戦士。鋭い剣を持った騎士か剣士のようなモンスターだ。

 

「カードをセットし、バトル!舞獅子姫で舞獅子姫に攻撃!」

 

「永続罠、『デプス・アミュレット』!手札を1枚捨て、攻撃を無効に!更に彩雛の効果で『融合』を回収!」

 

「アクションマジック、『コスモ・アロー』手札に加えた魔法カードを破壊!2回目の攻撃!」

 

2体の舞獅子姫が妖しく光輝く刃を振るい、剣閃と火花が散る。ぶつかり合う2頭の獅子。縄張りを争う女王。勝ったのは――デイモンの舞獅子姫だ。『ディメンション・ガーディアン』が有る限り、セレナの不利だ。

 

「ターンエンドだ。『シャッフル・リボーン』の効果で手札のアクションマジックを除外」

 

デイモン・ロペス LP500

フィールド『エーリアン・リベンジャー』(攻撃表示)『エーリアン・ソルジャー』(攻撃表示)『月光舞獅子姫』(攻撃表示)

『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』『ディメンション・ガーディアン』セット1

手札1

 

「私のターン、ドロー!墓地の『置換融合』を除外、舞獅子姫をエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

セレナ 手札1→2

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『デプス・アミュレット』をコストにドロー!更に魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!」

 

セレナ 手札1→3→4

 

「『激昂のミノタウルス』を召喚!」

 

激昂のミノタウルス 攻撃力1700

 

「『月光虎』の効果で『月光舞豹姫』を蘇生!」

 

月光舞豹姫 攻撃力2800

 

「魔法カード、『受け継がれる魂』!舞豹姫を墓地に送り、舞獅子姫の攻撃力を2800アップ!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500→6300

 

『セレナ打点を上げるが――『ディメンション・ガーディアン』が有る限り、デイモンのフィールドの舞獅子は無敵!『チキンレース』でダメージも与えられない!』

 

「カードを1枚セット、バトル!舞獅子姫で『エーリアン・ソルジャー』へ攻撃!」

 

古代遺跡コードA Aカウンター1→2

 

「効果で『エーリアン・リベンジャー』を破壊!」

 

古代遺跡コードA Aカウンター2→3

 

「そして速攻魔法、『ツイスター』!LPを500払い、『ディメンション・ガーディアン』を破壊!」

 

セレナ LP1000→500

 

セレナの手より旋風が巻き起こる。『サイクロン』には劣るが、『チキンレース』を使用するこのデュエルでは彼女を助ける。

 

「舞獅子姫で舞獅子姫を攻撃!」

 

「罠発動、『攻撃の無敵化』!戦闘ダメージを0に!」

 

今度はセレナの反撃だ。美しく輝く刃が振るわれ、幾重もの剣閃が走り、デイモンの舞獅子姫の動きを圧倒、翻弄し、こちらの動きについていけなくなった所で神速の突きが貫く。キャットファイト2戦目、制したのは本来の使い手であった。

 

「私はこれでターンエンド」

 

セレナ LP500

フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)『激昂のミノタウルス』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『月光虎』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、増殖装置の効果で激昂のミノタウルスにカウンターを乗せる」

 

激昂のミノタウルス Aカウンター0→1

 

「魔法カード、『ハーピィの羽帚』!お前の魔法、罠を破壊する!」

 

「『月光虎』の効果で墓地の『月光蒼猫』を蘇生!」

 

月光蒼猫 守備力1200

 

「効果で舞獅子姫の攻撃力を倍に!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500→7000

 

「チッ、そっちからでもとか……インチキ過ぎるだろ。俺はコードAのカウンターを使い、『エーリアン・ヒュプノ』を蘇生!」

 

古代遺跡コードA Aカウンター3→1

 

エーリアン・ヒュプノ 守備力700

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター4→5

 

「ヒュプノを再度召喚、効果で『激昂のミノタウルス』のコントロールを得る。そして『激昂のミノタウロス』をリリースし、墓地から『BFー隠れ蓑のスチーム』を特殊召喚!」

 

BFー隠れ蓑のスチーム 守備力1200

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

デイモン・ロペス LP500

フィールド『エーリアン・ヒュプノ』(守備表示)『BFー隠れ蓑のスチーム』(守備表示)

『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』セット1

手札0

 

これでデイモンは全ての役目を果たした。少々相手に戦力を渡す事、そして後続の相手があのジャック・アトラスを倒した榊 遊矢と言うのが気がかりだが、最初からジャックを倒すつもりだったのだ。シンジに任せておけば何とかなる筈。絶対の信頼を寄せ、最後のセットカードに望みを託す。

彼にとってシンジは恩人だ。トップスから助けてくれた男、そしてこのシティを引っくり返すと言う目的を与えてくれた男。彼に恩を返す為、そしてトップス至上主義と言う社会を変える為、彼は全力を尽くす。

 

「俺達が変えるんだ、ガキ共の未来を……!」

 

「私のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、罠発動!『破壊指輪』!隠れ蓑のスチームを破壊し、互いは1000のダメージを受ける!」

 

「相撃ちだと――!?」

 

「そう言うこった!俺はテメェより弱い!だけど弱くても倒す方法はあるんだよ!ユーゴって言うガキみたいにな!」

 

『デイモン、何とここで相撃ち狙い!執念を見せる!』

 

「お前……そこまで……!」

 

「俺にだって夢はあるんだよ!」

 

これがデイモンの、最後のカード。最後の覚悟。自身を犠牲にしてでも相手を倒し、次へと繋げる道筋。

 

「くっ、私は速攻魔法、『魔力の泉』を発動!5枚ドローし、2枚を捨てる!」

 

セレナ 手札0→5→3

 

そして、隠れ蓑のスチームが光輝き、轟音と共に爆発を起こす。

 

セレナ LP500→0

 

デイモン・ロペス LP500→0

 

セカンドホイーラー対決、決着。そこに勝者は存在せず、2人の敗者が自身のベンチへ戻っていく。セレナは魂のモンスターを、デイモンはパーツを託し、ラストホイーラーが今、D-ホイールに搭乗する。

 

「すまねぇシンジ。俺に出来るのはここまでだ。舞獅子姫が残っちまった」

 

「気にするなデイモン。お前は良くやってくれた。これで1対1、互角の勝負に持ち込める」

 

項垂れ、謝罪するデイモンの肩をポンと叩き、シンジ・ウェーバーはヘルメットを被りながらデイモンを励ます。勝負は自分の手にかかっていると言うのに彼の表情に陰りは見えず、寧ろ自信に溢れている。

 

「後は俺が、シティを変える。革命の時だ」

 

全ての夢を背に乗せ、彼は挑む。その背中は、紛れもないリーダーのものだ。

 

「すまない遊矢、ユーゴ、負けてしまった」

 

「気にするなよ。セレナの想いはフィールドに残ってる。ユーゴの想いも墓地にある。このデュエル、俺達が勝つ」

 

ぐぬぬと悔しがるセレナに苦笑しながら、遊矢はユーゴとセレナ、チームメンバーに視線を移し、ヘルメットを被り、ゴーグルを装着する。彼の表情も曇りなく、不敵な笑みを浮かべている。

 

「さぁ、楽しもうぜ」

 

その身体に想いを乗せ、彼は挑む。その姿は、ただのチームメンバーのものだ。

 

「遊矢、お前……」

 

「柚子の無事が分かった。それに、それ以上の事もだ」

 

「柚子が……良かった。ん?それ以上?」

 

「後で話すさ」

 

「よう大将、準備万端か?」

 

「俺は大将じゃないよ、シンジ」

 

「そうかい……全力で行くぞ」

 

「ああ、こっちも全力だ」

 

互いに並び立つ。託されたものを乗せ、今、彼等は走り出す。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」




ちょっと最近忙しくて遊矢VSシンジが終わり次第暫く更新停止するかもです。


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第133話 革命

フルアーマード・ウィングカッコイイ……ブラック・フェザー・ドラゴンも救済されてるし組もうかぁと悩む所。


「瑠璃!」

 

「兄さん!」

 

「瑠璃!」

 

「兄さん!」

 

「瑠璃ィ!」

 

「あの……そろそろやめない?」

 

「瑠璃ィッ!」

 

時は少しばかり遡り、セレナとデイモンのデュエルが佳境を向かえる頃、柚子を捜索していたコナミ達と、柚子と瑠璃達、そして万丈目と三沢が彼等のアジトで合流し、白い目で黒咲兄妹の茶番を見ていた。

何度も何度も瑠璃とばかり、他の言語を失ってしまった隼が連呼し、そろそろ面倒臭く、恥ずかしくなって来た瑠璃が制止しようとも止めようとしない。

 

「良い加減にしろ隼、ここは俺と三沢に任せ、お前は戻れ。試合が始まってからでは遅いぞ」

 

「や!」

 

「や!じゃない、このクソボケがっ!」

 

少し前に立てた計画、と言う程のものでもないが、試合のないユートが三沢と共に柚子と瑠璃を保護――ユートがいるのは流石に万丈目がいなくなり、三沢だけでは警護が薄くなるのと、そこまでの信頼を築いていないからだろう。柚子も会場に戻ると地下送りになってしまう為、こちらの方が断然良い。

遊矢達にも三沢の端末を使い、エヴァ――リンに柚子の無事を知らせた。後はコナミと隼、零羅がビルに戻れば一件落着なのだが――隼がブラコンを拗らせ、ひしっと瑠璃の腰にしがみつき、幼児退行して離れようとしない。まるで蝉である。思わずユートがキャラ崩壊して罵倒する。

 

「やだいやだい!俺、瑠璃と一緒にいるんだもん!」

 

「だもんじゃない!キモいわ!」

 

地面に転がり、駄々っ子のように手足をジタバタさせる隼。柚子と零羅はドン引きしており、瑠璃は恥ずかしそうに耳まで真っ赤になった顔を両手で覆っている。

その間にコナミは冷蔵庫から万丈目がちょっと贅沢したくて買ったステーキ肉を出して適当に焼き、テーブルに座ってバクバクと食っている。自由。

 

「……こんなのに俺は負けたのか」

 

「どうでも良いわ、俺はもう行くぞ」

 

こんな情けない男に負けたのかと三沢も顔を覆うが、万丈目は貴様も似たようなものだろうと内心思いながら出発の準備を整える。

その間コナミは万丈目お気に入りのティーセットを取り出し、これまたお高いブルーアイズマウンテンを淹れ、ゴクゴクと飲む。自由。

 

「おい瑠璃」

 

「え?何ユート」

 

「あっ、イケないんだーイケないんだーっ!俺を放って置いて2人でコソコソしてイケないんだーっ!……ユート、殺すぞ」

 

「最後だけガチなトーンになるのやめろ!」

 

こうなっては仕方無いと瑠璃にそっと耳打ちするユートだが、それを見た隼がブーブーと文句を言い、最後に今までアカデミア相手にも出さなかったような殺気をぶつける。思わず叫ぶユート。

その間コナミはテレビの前に寝転がり、傍にあったブルーレイを視聴。巨大ロボもののアニメを見る。ストライクフリーダム。

 

「わ、分かったわユート……やってみる……に、兄さん!」

 

「何だい瑠璃?」

 

ユートの助言を聞き、何やら決心した表情で頷く瑠璃。そして彼女は兄へ向き直って息を吸い込み――。

 

「わ、私、会場で闘う兄さんの格好いい姿、みたいなー☆」

 

「何をしている零羅、コナミ。ゴロゴロとするな。俺達のディステニーは会場にある」

 

キリッ、瑠璃の言葉を受け、隼が立ち上がり、漢らしい顔つきでコナミと零羅を叱咤する。零羅は完全にとばっちりである。ユートはヤレヤレと溜め息を吐き、コナミと零羅を小脇に抱え、行って来ると瑠璃に良い顔で言い放ち、会場へと戻る友の背を見つめる。

 

「……いや、友達関係見直した方が良いかもなぁ……」

 

苦労人、ユート。その背には哀愁が漂っている。とは言え――ユートの受難はまだ終わらない――。

 

――――――

 

そして時は戻り、フレンドシップカップ会場、サーキットにて、そこではアクションフィールド、『チキンレース』となったコースにて、凌ぎを削る2人のデュエリストの姿があった。1人はチームランサーズのメンバー、エンタメデュエリスト、榊 遊矢。もう1人はチーム革命軍のリーダー、シンジ・ウェーバー。

どちらもラストホイーラー同士。互角の闘いが繰り広げられた末、彼等はどちらもLP4000、先攻後攻を決める為、フルスロットルでD-ホイールを走らせる。今の所、互角。しかし、コーナーでの闘いは――シンジが上だ。

 

「先攻は俺が貰う!ドロー!スタンバイフェイズ、増殖装置の効果で蒼猫にカウンターを乗せる!」

 

月光蒼猫 Aカウンター0→1

 

「『チキンレース』の二重効果でドロー!」

 

シンジ・ウェーバー LP4000→3000→2000 手札5→6→7

 

「さぁて、革命の始まりだぜ、コモンズの野郎共!魔法カード、『名推理』!」

 

「レベル3を選択」

 

「1、2、良し、『B・Fー早撃ちのアルバレスト』を特殊召喚!」

 

B・Fー早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800

 

現れたのは蜂のモンスター。『B・F』、『BF』と似たカテゴリだろうか。

 

「コードAの効果により、蒼猫とコードAに乗ったカウンターを2つ使い、墓地の『エーリアン・マーズ』を蘇生!」

 

月光蒼猫 Aカウンター1→0

 

古代遺跡コードA Aカウンター1→0

 

エーリアン・マーズ 守備力1000

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター5→6

 

デイモンの残したカードを駆使し、闘うシンジ。シンジのデッキは『エーリアン』とは全く関係ない上、永続魔法はフィールドを圧迫するが、その残したカードが重なる事でシンジには出来ない戦術を生み出す。

 

スタンバイフェイズ、モンスターにAカウンターを乗せる『「A」細胞増殖装置』、フィールドからAカウンターが取り除かれる度に自身にAカウンターを乗せる『「A」細胞培養装置』、Aカウンターを使い、『エーリアン』を蘇生する『古代遺跡コードA』。この3つにより、シンジは自身のデッキと共に、『エーリアン』デッキを使うに等しい。

 

「『エーリアン・ヒュプノ』の効果で舞獅子姫を奪う!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、効果を無効!」

 

「ヒュプノを攻撃表示に、バトルだ!『エーリアン・ヒュプノ』で蒼猫に攻撃!」

 

「俺のデッキには『ムーンライト』はいないから、リクルートは無しだ」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP2000

フィールド『エーリアン・ヒュプノ』(攻撃表示)『エーリアン・マーズ』(守備表示)『B・Fー早撃ちのアルバレスト』(攻撃表示)

『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』セット2

手札4

 

「俺のターン、ドロー!『チキンレース』の効果を使う!」

 

榊 遊矢 LP4000→3000→2000 手札6→7→8

 

「魔法カード、『精神操作』!ヒュプノのコントロールを奪い、墓地の『シャッフル・リボーン』で戻してドロー!」

 

榊 遊矢 手札8→9

 

「良し……俺は『EMファイア・マフライオ』と『EMドラネコ』でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル3から4のモンスターを同時に召喚可能!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMシルバー・クロウ』!『EMヘイタイガー』!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700

 

遊矢の後を追従し、2本の光の柱が出現、天空に光の線が結ばれ、魔方陣が浮かび上がる。そして遊矢の声と共に魔方陣に孔が開き、中より2つの光がフィールドに降り立ち、モンスターが姿を見せる。

 

「罠発動!『奈落の落とし穴』!残念だがそのモンスター達には退場してもらうぜ!」

 

「くっ、除外か……!」

 

ところがシンジがセットしていたカードを使い、折角ペンデュラムしたモンスターが姿を消す。しかもこのカードはペンデュラムにとって天敵と言えるものだ。除外されれば再度ペンデュラムは出来ない。

 

『遊矢、ペンデュラム召喚するも破られる!』

 

『しかも『奈落の落とし穴』は除外する為、エクストラデッキには送れない!』

 

加えて『奈落の落とし穴』は対象を取らない為、同時召喚すればした分だけ除外される。遊矢はペンデュラム召喚の権利を放棄し、カードを失う事になってしまった。

 

「だけど俺のフィールドにはセレナが残した舞獅子姫がいる!バトルだ!舞獅子姫で『エーリアン・マーズ』へ攻撃!全滅効果を発動!」

 

「『B・Fー早撃ちのアルバレスト』が破壊された場合、手札の同名モンスターを特殊召喚する。その前に舞獅子姫の効果でリベンジャーが破壊され、コードAにカウンターが溜まる」

 

古代遺跡コードA Aカウンター0→1

 

B・F早撃ちのアルバレスト 守備力800

 

舞獅子姫の刃が振るわれ、シンジのモンスターを破壊するも、彼の手札から後続が呼び出され、壁となる。

 

「2回目の攻撃!」

 

「手札にアルバレストはねぇ」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を除外」

 

榊 遊矢 LP2000

フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『EMファイア・マフライオ』『EMドラネコ』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!」

 

シンジ・ウェーバー 手札3→5

 

「『チキンレース』の効果でドロー!」

 

シンジ・ウェーバー LP2000→1000 手札5→6

 

「コードAと培養装置のカウンターを使い、リベンジャーを蘇生!」

 

古代遺跡コードA Aカウンター1→0

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター6→4→5

 

エーリアン・リベンジャー 攻撃力2200

 

「効果発動!」

 

月光舞獅子姫 Aカウンター1→2

 

「魔法カード、『蘇生の蜂玉』を発動!墓地のアルバレストの効果を無効にし、蘇生!」

 

B・Fー早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800

 

「速攻魔法、『天使のサイコロ』!サイを振り、出た目×100、リベンジャーの攻撃力をアップ!3だ!」

 

エーリアン・リベンジャー 攻撃力2200→2500

 

「バトルだ!リベンジャーで舞獅子姫に攻撃!Aカウンターの数だけ舞獅子姫の攻撃力を300ダウン!更にアクションマジック、『突撃』!リベンジャーの攻撃力を600アップ!」

 

エーリアン・リベンジャー 攻撃力2500→3100

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500→2900

 

榊 遊矢 LP2000→1800

 

舞獅子姫がリベンジャーによって砕かれる。折角セレナが残してくれた切り札も失ってしまった。

 

「アルバレストでダイレクトアタック!」

 

「『EMドラネコ』のペンデュラム効果でダメージを0に!」

 

「チッ、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP1000

フィールド『B・Fー早撃ちのアルバレスト』(攻撃表示)『エーリアン・リベンジャー』(攻撃表示)

『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』セット2

手札3

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『砂塵の大嵐』!お前のペンデュラムスケールを破壊!」

 

徹底的に遊矢のペンデュラムの邪魔をするシンジ。それだけ遊矢のペンデュラムを警戒しているのだろう。単純だが、かなり有効な手だ。何しろ遊矢の戦術はペンデュラムを基盤に作られている。こうして元から刈り取ってしまえば、融合、シンクロ、エクシーズと強力な展開も断ち切れる。

 

「『チキンレース』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 LP1800→800 手札3→4

 

「永続罠、『リビングデッドの呼び声』を発動!」

 

「無駄だ!カウンター罠、『ギャクタン』!罠の発動を無効にし、デッキに戻す!」

 

「くっ、ならモンスターとカードをセット、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP800

フィールド セットモンスター

セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!手札を1枚捨て、セットカード2枚を破壊する!更に培養装置のカウンターを使い、コードAの効果で『エーリアン・キッズ』を蘇生!」

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター5→3→4

 

エーリアン・キッズ 攻撃力1600

 

「バトルだ!リベンジャーでセットモンスターを攻撃!」

 

「セットモンスターは『EMオッドアイズ・ミノタウロス』、破壊される……!」

 

「『チキンレース』の効果でダメージは与えられない、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP1000

フィールド『B・Fー早撃ちのアルバレスト』(攻撃表示)『エーリアン・リベンジャー』(攻撃表示)『エーリアン・キッズ』(攻撃表示)

『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』

手札2

 

『B・F』と『エーリアン』、異なるカードを組み合わせて展開、魔法、罠で邪魔を無くし、攻め込む。堅実な手を見せるシンジ。お蔭で遊矢のフィールドはボロボロ、カード1枚も存在しない。だからこそ――取れる手がある。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『カップ・オブ・エース』!コイントスを一回行う……表だ。カードを2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「俺のフィールドのモンスターが相手フィールドより2体少ない事で手札の『魔導ギガサイバー』を特殊召喚!」

 

魔導ギガサイバー 攻撃力2200

 

「だが『エーリアン・キッズ』の効果で特殊召喚したモンスターにはAカウンターが乗る」

 

魔導ギガサイバー Aカウンター0→1

 

「Aカウンターは1つ……だけど攻守ダウン効果は重なるから600ダウンか」

 

「その通りだ」

 

「ならターゲットはアルバレスト!ギガサイバーで攻撃!」

 

シンジ・ウェーバー LP1000→600

 

「アルバレストの効果発動!」

 

B・Fー早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800

 

「カードを1枚セット、ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP800

フィールド『魔導ギガサイバー』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、増殖装置の効果でAカウンターをギガサイバーに乗せる!」

 

魔導ギガサイバー Aカウンター1→2

 

「更にリベンジャーの効果でカウンターを散りばめる!」

 

魔導ギガサイバー Aカウンター2→3

 

「培養装置のカウンターを使い、墓地の『エーリアン・マーズ』を蘇生!」

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター4→2→3

 

エーリアン・マーズ 守備力1000

 

「俺のLPを減らした事が仇となったな。バトル!『エーリアン・リベンジャー』でギガサイバーへ攻撃!」

 

「手札の『クリボー』を捨て、ダメージを0に!」

 

魔導ギガサイバー 攻撃力2200→400

 

あわや敗北となりそうな所で遊矢の下に毛むくじゃらの悪魔が現れ、膨れ上がって盾となる。だがまだシンジのモンスターは残っている。ここからどう捌くのかが見物だ。

 

「アルバレストでダイレクトアタック!」

 

「永続罠、『EMピンチヘルパー』!攻撃を無効にし、デッキから『EMインコーラス』をリクルート!」

 

EMインコーラス 守備力500 Aカウンター0→1

 

ここで遊矢を助けたのはお馴染みの『EMピンチヘルパー』。今までも遊矢を助け、モンスターを展開する優秀な防御カードだ。デッキより飛び出すのはこのカードとコンビを組んだ3羽のカラフルなインコ。音波を飛ばし、遊矢を守る。

 

「なら『エーリアン・キッズ』で攻撃だ!」

 

EMインコーラス 守備力500→0

 

「インコーラスが戦闘破壊された事でデッキから『EMギッタンバッタ』をリクルート!」

 

EMギッタンバッタ 守備力1200 Aカウンター0→1

 

インコーラスの次はシーソーのようなバッタだ。ロングフォーン・ブルが使えない今、墓地に送っても役立つこのカードを選ぶ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP600

フィールド『B・Fー早撃ちのアルバレスト』(攻撃表示)『エーリアン・リベンジャー』(攻撃表示)『エーリアン・マーズ』(守備表示)『エーリアン・キッズ』(攻撃表示)

『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』セット1

手札1

 

「くっ、俺のターン、ドロー!速攻魔法、『魔力の泉』!アクションフィールドを合わせ、お前のフィールドのカードは4!俺の場は3!よって4枚ドローし、3枚捨てる!」

 

榊 遊矢 手札1→5→2

 

「せめてAカウンター……『エーリアン』を何とかすれば……『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

現れたのは継ぎ接ぎだらけのハット、黒いマスクにトランプのマークを散りばめた燕尾服を纏った道化師。ここで引けたのは大きい。軽やかなステップを刻んだドクロバット・ジョーカーはパラパラとトランプを取り出し、中より1枚のカードを遊矢に手渡す。

 

「効果で『EMギタートル』をサーチし、『EMレ・ベルマン』と共にセッティング!ギタートルのペンデュラム効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「ペンデュラム召喚!『EMオッドアイズ・ミノタウロス』!『EMインコーラス』!『EMファイア・マフライオ』!」

 

EMオッドアイズ・ミノタウロス 攻撃力1200 Aカウンター0→1

 

EMインコーラス 攻撃力500 Aカウンター0→1

 

EMファイア・マフライオ 攻撃力800 Aカウンター0→1

 

「バトル!ドクロバット・ジョーカーで『エーリアン・マーズ』へ攻撃!」

 

古代遺跡コードA Aカウンター0→1

 

マーズに向かい、ドクロバット・ジョーカーがトランプを手裏剣のように投げつけて切り刻む。だがまだまだ遊矢の手は止まらない。ファイア・マフライオが口から炎を吐き出し、輪となってドクロバット・ジョーカーの前に浮かぶ。

 

「ファイア・マフライオの効果!ペンデュラムモンスターが相手モンスターを破壊したダメージ計算後、ドクロバット・ジョーカーの攻撃力を200アップし、もう1度攻撃出来る!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800→2000

 

「『エーリアン・リベンジャー』へ攻撃!この瞬間、『EMオッドアイズ・ミノタウロス』の効果でリベンジャーの攻撃力は俺のフィールドの『EM』、『オッドアイズ』カードの数×100ダウン!」

 

エーリアン・リベンジャー 攻撃力2200→1400

 

火の輪を潜り抜け、ドクロバット・ジョーカーが『エーリアン・リベンジャー』を切り裂く。止まらない快進撃。遊矢は更に手を打つ。

 

古代遺跡コードA Aカウンター1→2

 

「インコーラスで『エーリアン・キッズ』へ攻撃!」

 

『おおっと、ここで遊矢自爆か!?』

 

「ミノタウロスの効果発動!」

 

「Aカウンター作動!」

 

EMインコーラス 攻撃力500→200

 

エーリアン・キッズ 攻撃力1600→800

 

榊 遊矢 LP800→200

 

「踏み止まった……!」

 

「そしてインコーラスの効果でデッキから『EMハンマーマンモ』をリクルート!」

 

EMハンマーマンモ 攻撃力2600 Aカウンター0→1

 

LPギリギリで踏み止まりつつ、上級モンスターを展開。肉を切らせて骨を断つ。強気の戦法だ。遊矢の背後に鼻先をハンマーに変えたマンモスが現れる。

 

「ハンマーマンモで『エーリアン・キッズ』へ攻撃!この瞬間、相手の魔法、罠をバウンス!」

 

「罠発動!『攻撃の無敵化』!ダメージを0に!」

 

EMハンマーマンモ 攻撃力2600→2300

 

こちらも何とか踏み止まって防ぐ。一気に逆転、一転して遊矢の有利となった。Aカウンターに関するカードも手札に戻された。『魔力の泉』の隙を突くナイスプレイだ。

 

「ミノタウロスでアルバレストへ攻撃!」

 

B・Fー早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800→1000

 

続け様にミノタウロスが斧を振り上げ、アルバレストを切り裂く。これでシンジのモンスターは全滅だ。

 

「ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP200

フィールド『EMハンマーマンモ』(攻撃表示)『EMオッドアイズ・ミノタウロス』(攻撃表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMファイア・マフライオ』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

『EMピンチヘルパー』

Pゾーン『EMギタートル』『EMレ・ベルマン』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!そうでなくちゃ面白くねぇ……!ここからが俺達の革命だ!魔法カード、『暗黒界の取引』!手札を交換、永続魔法、『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』を発動!コードAの効果!ギッタンバッタとファイア・マフライオのカウンターを使い、『エーリアン・リベンジャー』を蘇生!」

 

EMギッタンバッタ Aカウンター1→0

 

EMファイア・マフライオ Aカウンター1→0

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター0→1

 

エーリアン・リベンジャー 攻撃力2200

 

「Aカウンター散布!」

 

EMハンマーマンモ Aカウンター1→2

 

EMドクロバット・ジョーカー Aカウンター0→1

 

EMオッドアイズ・ミノタウロス Aカウンター1→2

 

EMファイア・マフライオ Aカウンター0→1

 

EMギッタンバッタ Aカウンター0→1

 

「バトル!リベンジャーでハンマーマンモを攻撃!」

 

EMハンマーマンモ 攻撃力2600→2000

 

再び蘇ったリベンジャーがハンマーマンモを鋭き爪で切り刻む。やはりこの『エーリアン』パーツは厄介だ。倒しても倒しても『エーリアン』が現れ、Aカウンターによって次第に押されていく。キリが無い。

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP600

フィールド『エーリアン・リベンジャー』(攻撃表示)

『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『EMインコーラス』!」

 

EMインコーラス 攻撃力500

 

「このままドクロバット・ジョーカーとギッタンバッタでエクシーズっていきたいけど……ダーク・リベリオンはユートに返したからな……今更ながら便利さを痛感するよ。バトル!インコーラスでリベンジャーへ攻撃!」

 

「罠発動!『デストラクト・ポーション』!リベンジャーを破壊し、LPを攻撃力分回復!加えて墓地の『仁王立ち』を除外し、リベンジャーに攻撃を絞る!」

 

シンジ・ウェーバー LP600→2800

 

古代遺跡コードA Aカウンター0→1

 

「ッ、ドクロバット・ジョーカーとファイア・マフライオ、ミノタウロスを守備表示に変更、カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP200

フィールド『EMドクロバット・ジョーカー』(守備表示)『EMオッドアイズ・ミノタウロス』(守備表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)『EMインコーラス』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

『EMピンチヘルパー』セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMレ・ベルマン』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、増殖装置のAカウンターをドクロバット・ジョーカーへ!」

 

EMドクロバット・ジョーカー Aカウンター1→2

 

「『チキンレース』の効果を使い、ドローと回復、2つを行う!」

 

シンジ・ウェーバー LP2800→1800→800 手札1→2

 

榊 遊矢 LP200→1200

 

「そしてコードAの効果でドクロバット・ジョーカーのカウンターを使い、リベンジャー蘇生!」

 

EMドクロバット・ジョーカー Aカウンター2→0

 

エーリアン・リベンジャー 攻撃力2200

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター1→2

 

「リベンジャーの効果発動!」

 

EMドクロバット・ジョーカー Aカウンター0→1

 

EMオッドアイズ・ミノタウロス Aカウンター2→3

 

EMファイア・マフライオ Aカウンター1→2

 

EMインコーラス Aカウンター0→1

 

EMギッタンバッタ Aカウンター1→2

 

幾度も降りかかるAカウンター。大量展開する遊矢にとってこの効果は非常に凶悪だ。このままではカウンターは増える一方、尽きる事なくコードAの弾丸となる。

 

「さぁ、革命の始まりだ!」

 

「……!?」

 

ニヤリ、突如シンジが不敵な笑みを描き、拳を振り上げて観客席にいるコモンズに向かってさけぶ。これから起きるのは彼等コモンズ達による下克上、シンジはそれを束ねるリーダーとなって遊矢に刃を向ける。

 

「俺達コモンズ達はトップス共に虐げられて来た!だがこの榊 遊矢が見せたように、ジャック・アトラスに勝ち、俺達がキングとなれば全ては変わる!変えられるんだ!今こそその時、さぁ、俺達で勝つんだ!勝ってこのシティを変えるんだ!俺達コモンズが!」

 

『ちょっ、ちょっと何言っちゃってんのー!?』

 

その言葉は腐り落ち、全てを諦めたコモンズの魂に火を灯す。希望の道に、光を照らし出す。まるでそれは、地獄に垂らされた蜘蛛の糸。シンジはカリスマを持って人々を惹き付け、束ね――その夢を叶えようとする。コモンズより降り注ぐシンジへのエール。それに押されるようにシンジのD-ホイールが加速し、今は『チキンレース』に変わったレーンに乗り上げ、大きく跳躍する。

 

「さぁ、行くぞ!バトルだ!『エーリアン・リベンジャー』で、インコーラスへ攻撃!」

 

「ピンチヘルパーを墓地に送り、ダメージを0に!」

 

EMインコーラス 守備力500→0

 

「インコーラスの効果でデッキから『EMロングフォーン・ブル』をリクルート!」

 

EMロングフォーン・ブル 守備力1200

 

後続として現れたのは青い牡牛のモンスターだ。角には受話器がかけられており、インコーラスの飛ばした音波に反応してジリリと音を鳴らす。

 

「効果で『EMセカンドンキー』をサーチ!」

 

「メインフェイズ2、『B・F必中のピン』を召喚!」

 

B・F必中のピン 攻撃力200

 

「ピンの効果!相手に200のダメージを与える!」

 

榊 遊矢 LP1200→1000

 

「ッ!」

 

現れた小さな蜂が毒針を飛ばして遊矢を追い詰める。ステータスも低く、効果も地味だが――今この時ではかなり厄介だ。

 

「魔法カード、『一時休戦』!」

 

シンジ・ウェーバー 手札0→1

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「ターンエンド!さぁ、行くぞ!野郎共!」

 

シンジ・ウェーバー LP800

フィールド『B・F必中のピン』(攻撃表示)『エーリアン・リベンジャー』(攻撃表示)

『「A」細胞増殖装置』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』

手札1

 

小さな者達の声を、力を合わせ、シンジは遊矢と闘う。束ねられた力。それは――遊矢も目指すデュエルの形。それに対し、遊矢はどう出るのか――。

 




海外のレギュレーションでアストログラフと覇王スターヴが規制されたと聞いてビクビクしてます。使ってるのもあるんですけどストーリーに関わるカードなんで彼のデュエルで出せるかが不安。ダーク・ヴルムも規制されてるし、ラスボス強い……。


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第134話 蜂の踊り

これにて暫く更新を停止したいと思います。多分次の更新は3、4ヶ月後になるんじゃないかなぁと。


数と言うのは分かりやすい力の一種だ。それも人数と言う数ならば尚更に。1人では出来ない事とも、2人でなら。それは遊矢自身、身をもって体験した事であり、目指すものであり、これ以上なく頼もしい力であった。それが今――遊矢の敵として襲いかかっている。

 

会場中の溢れかえらんばかりの観客、コモンズ達が爆音かと聞き間違える程の凄まじい声を張り上げ、眼前を走る相手――シンジ・ウェーバーにエールを送る。まるで遊矢が悪役にでもなったような光景だ。居心地が悪いと言うレベルではない。今この時、遊矢はコモンズの敵となったのだ。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換、ドクロバット・ジョーカーとロングフォーン・ブルをリリースし、アドバンス召喚!『相克の魔術師』!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

遊矢が召喚したのは大剣を構えた『魔術師』だ。このカードが来てくれたのなら『エーリアン』の相手も少し楽となる。

 

「ペンデュラム召喚!『EMセカンドンキー』!」

 

EMセカンドンキー 守備力2000

 

次の現れたのはロバのモンスターだ。『相克の魔術師』をアドバンス召喚したのもこのカードを呼ぶ為のモンスターゾーンを空ける為。

 

「セカンドンキーの効果で『EMペンデュラム・マジシャン』をサーチ、バトル!『相克の魔術師』で必中のピンを攻撃!」

 

「くっ――!」

 

「更にファイア・マフライオの効果発動!俺のペンデュラムモンスターが相手モンスターを戦闘破壊した事で、そのペンデュラムモンスターの攻撃力を200アップし、リベンジャーに2回目の攻撃を行う!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500→2700

 

古代遺跡コードA Aカウンター1→2

 

榊 遊矢 LP1000

フィールド『EMオッドアイズ・ミノタウロス』(守備表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)『EMセカンドンキー』(守備表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMレ・ベルマン』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、『「A」細胞増殖装置』の効果で『相克の魔術師』にカウンターを乗せる!」

 

相克の魔術師 Aカウンター0→1

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』を発動。そしてミノタウロスのカウンターを2つ使い、墓地のリベンジャーを蘇生!」

 

EMオッドアイズ・ミノタウロス Aカウンター3→1

 

「A」細胞培養装置 Aカウンター2→3

 

エーリアン・リベンジャー 攻撃力2200

 

「リベンジャーの効果発動!」

 

EMオッドアイズ・ミノタウロス Aカウンター3→4

 

EMファイア・マフライオ Aカウンター2→3

 

EMセカンドンキー Aカウンター0→1

 

EMギッタンバッタ Aカウンター2→3

 

相克の魔術師 Aカウンター1→2

 

「チッ、バトル……と行きたい所だが、ここでモンスターを倒せば面倒な『EMペンデュラム・マジシャン』が呼ばれるからな……モンスターをセット、ターンエンドだ」

 

「ギッタンバッタの効果発動!」

 

「おっと、墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、無効にするぜ」

 

シンジ・ウェーバー LP800

フィールド『エーリアン・リベンジャー』(攻撃表示)セットモンスター

『「A細胞増殖装置」』『「A」細胞培養装置』『古代遺跡コードA』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『ツイン・ツイスター』を発動!手札1枚を捨て、『古代遺跡コードA』と『「A」細胞増殖装置』を破壊!」

 

これで漸く『エーリアン』の供給源を断ち切った。後は『「A」細胞培養装置』だが――このカードは破壊されればAカウンターをばら撒く為、放置で構わない。Aカウンターを取り除き効果を発動するカードが無ければただの置物と化す。

 

「相克でリベンジャーに攻撃!『EMオッドアイズ・ミノタウロス』の効果発動!そしてファイア・マフライオの効果を使い、セットモンスターに追撃!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500→1900→2500→2700

 

「チッ、『エーリアン』がやられたか……!」

 

榊 遊矢 LP1000

フィールド『EMオッドアイズ・ミノタウロス』(守備表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)『EMセカンドンキー』(守備表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMレ・ベルマン』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、培養装置をデッキに戻し、ドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札1→2

 

「来たか……!さぁ、行くぞ!コモンズの皆!これが俺達の革命だ!」

 

『オオオオオッ!シンジ!シンジ!シンジ!』

 

ドローカードを目を配らせ、シンジが右手を振り上げてコモンズ達を先導する。凄まじいカリスマだ。彼の言葉が、意志が、これだけの人々の心を突き動かしている。素直に凄いと遊矢は尊敬する。

だが――チラリと視線を観客席に移せば、トップス達は怯え、コモンズの子供も不安そうにしている。

 

シンジの言う事は間違ってないのかもしれないし、仕方無いものだ。何かに不満を持ち、多くの仲間と共に変えようとする。それは素晴らしい事であり、歴史を見ても起こるべくして起こるもの。だが――その結果、待ち構えているものを想像し、遊矢の表情が僅かに歪む。

 

「魔法カード、『一斉蜂起』!相手フィールドにモンスターが存在する場合、その数だけ墓地のレベル4以下の『B・F』を蘇生する!」

 

「ッ!俺のフィールドのモンスターは、5……!」

 

「そうだ!蜂は群れを成し、小さくとも、俺達1人1人の毒針を合わせ巨大な敵をも打ち倒す!さぁ、コモンズ達よ!今こそ立ち上がれ!」

 

『オオオオオッ!!』

 

『ちょっとちょっとー!これフレンドシップカップなんですけどー!』

 

「来い!アルバレスト3体!ピン1体!『B・Fー毒針のニードル』1体!」

 

B・Fー早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800×3

 

B・Fー必中のピン 守備力300

 

B・Fー毒針のニードル 守備力800

 

ペンデュラムも驚愕の、一気に5体の大量展開。まさかこんな形でこちらのペンデュラムを逆手に取って来るとは思ってもみなかった。流石にこれは不味い。

 

「行くぞ!レベル4のアルバレストに、レベル2のニードルをチューニング!その羽で爆風を巻き起こし、その一刺しで真実の道を切り拓け!シンクロ召喚!来い、『B・Fー突撃のヴォウジェ』!」

 

B・Fー突撃のヴォウジェ 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、漸くシンジが本来の力を出し、召喚されたのは青い甲殻を纏った槍を構える蜂の兵士。

 

「バトル!ヴォウジェで相克へ攻撃!ヴォウジェの効果で相克の攻撃力を半減する!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500→1250

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

ヴォウジェが高速で羽ばたき、相克に肉薄、そのまま槍の一刺しで相克を倒す。だが遊矢も負けまいとダメージをドローに書き換える。

 

「2体のアルバレストでギッタンバッタへ攻撃!カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

シンジ・ウェーバー LP800

フィールド『B・Fー突撃のヴォウジェ』(攻撃表示)『B・F早撃ちのアルバレスト』(攻撃表示)×2『B・Fー必中のピン』(守備表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ペンデュラム・ターン』!ギタートルのスケールを10に変更!永続魔法、『補給部隊』を発動!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『相克の魔術師』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

ついに現れる『EM』のキーカード、『EMペンデュラム・マジシャン』。このカードが登場したからには遊矢のデュエルは本領を発揮する。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果発動!レ・ベルマンとこのカードを破壊し――」

 

「させねぇよ!カウンター罠、『大革命返し』!その発動を無効にし、除外する!」

 

しかし残念ながらそうはいかない。シンジはペンデュラムの特性を見抜き、魔法、罠を破壊するカードを積んだように、同時に遊矢のデッキで最も強力なこのカードにも対策を取っていたのだ。

 

「革命しようって奴が入れるカードかよ……!」

 

「それだけお前を買っているって事だ」

 

「嬉しくないっ!ぐぬぬ、ミノタウロスを攻撃表示に変更!バトル!ミノタウロスでアルバレストへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!」

 

「相克でピンへ攻撃!ファイア・マフライオの効果を使い、ヴォウジェへ追撃!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500→2700

 

「ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP1000

フィールド『EMオッドアイズ・ミノタウロス』(攻撃表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)『EMセカンドンキー』(守備表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)

『補給部隊』

Pゾーン『EMギタートル』『EMレ・ベルマン』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『魔力の泉』!4枚ドローし、2枚捨てる!」

 

シンジ・ウェーバー 手札0→4→2

 

「『B・Fー連撃のツインボウ』を特殊召喚!」

 

B・Fー連擊のツインボウ 攻撃力1000

 

「そして『ホップ・イヤー飛行隊』を召喚!」

 

ホップ・イヤー飛行隊 攻撃力300

 

「レベル3のツインボウに、レベル2の『ホップ・イヤー飛行隊』をチューニング!蜂出する憤激の針よ、閃光と共に天をも射抜く弓となれ!シンクロ召喚!現れろ!『B・Fー霊弓のアズサ』!」

 

B・Fー霊弓のアズサ 攻撃力2200

 

再びのシンクロ召喚で現れたのはヴォウジェと対を成すような桃色の身体を持つ弓矢に雷を纏わせた人型の女王蜂。

 

「バトル!アズサでミノタウロスに攻撃!」

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!ダメージを0に!『補給部隊』でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

アズサの弓より放たれた電光の矢がセカンドンキーを貫き、硝子のように砕け散る。

 

「アルバレストでセカンドンキーへ攻撃!アクションマジック、『オーバー・ソード』!アルバレストの攻撃力を500アップ!」

 

B・Fー早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800→2300

 

シンジが出来るのはここまで。幾ら戦力を呼ぼうと遊矢のモンスターはペンデュラムの特性を持っている。一気に殲滅しない限り、その刃は届かない。どちらも手を出せない状況だ。

 

「ターンエンド」

 

シンジ・ウェーバー LP800

フィールド『B・Fー霊弓のアズサ』(攻撃表示)『B・Fー早撃ちのアルバレスト』(攻撃表示)×2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『成金ゴブリン』!相手のLPを1000回復させる代わりに1枚ドローする!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

シンジ・ウェーバー LP800→1800

 

「ペンデュラム召喚!『EMオッドアイズ・ミノタウロス』!『EMドクロバット・ジョーカー』!『EMインコーラス』!」

 

EMオッドアイズ・ミノタウロス 攻撃力1200

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

EMインコーラス 攻撃力500

 

「バトル!インコーラスでアルバレストへ攻撃!インコーラスの効果で『EMスライハンド・マジシャン』をリクルートし、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500

 

榊 遊矢 手札2→3

 

インコーラスの自爆特攻で現れたのは赤い衣装に白い仮面、下半身が水晶になったマジシャンだ。遊矢のデュエルで何度も活躍したこのカードならば――。

 

「ミノタウロスでアルバレストへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!」

 

「スライハンド・マジシャンでアズサへ攻撃!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外、アルバレストへ攻撃を絞る!」

 

「ッ!なら相克でアルバレストへ攻撃!ミノタウロスの効果発動!」

 

B・Fー早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800→1200

 

シンジ・ウェーバー LP1800→500

 

「ハッ、届かなかったな!」

 

「ッ、メインフェイズ2、スライハンド・マジシャンの効果で手札を1枚捨て、アズサを破壊!」

 

「チッ!」

 

榊 遊矢 LP1000

フィールド『EMスライハンド・マジシャン』(攻撃表示)『EMオッドアイズ・ミノタウロス』(攻撃表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)

『補給部隊』

Pゾーン『EMギタートル』『EMレ・ベルマン』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!アルバレストを守備表示に、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP500

フィールド『B・Fー早撃ちのアルバレスト』(守備表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!スライハンド・マジシャンの効果で手札のアクションカードを捨て、アルバレストを破壊!」

 

「罠発動!『裁きの天秤』!それを待ってたんだ!俺のフィールド、手札は2枚、お前のフィールドには9枚のカード、よって7枚ドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札0→7

 

『シンジ7枚のドロー!とんでもない回復力だ!』

 

「くっ、ターンエンドだ……!」

 

榊 遊矢 LP1000

フィールド『EMスライハンド・マジシャン』(攻撃表示)『EMオッドアイズ・ミノタウロス』(守備表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMファイア・マフライオ』(攻撃表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)

『補給部隊』

Pゾーン『EMギタートル』『EMレ・ベルマン』

手札3

 

「俺のターン、どうだ遊矢!俺はコモンズ達の未来を賭けて闘ってるんだよ!トップス達を引き摺り落とすまで、俺は、俺達は止まらねぇ!」

 

「……っ!」

 

トップスへの、格差社会への怒りを胸にシンジは叫ぶ。当然の怒りかもしれない、だけど――彼に、そんな事をさせてはいけない。

 

「それが――それがトップスと同じ事をするって分かっても、お前はやるのか?」

 

「……ああ、そうだ」

 

肯定、遊矢の問いかけに対し、シンジは僅かに目を見開いた後、キュッと細めて頷く。そう、シンジは全て、承知した上で革命を起こそうとしているのだ。革命の結果が、トップスと同じ事になろうと言う事も、結局、中身は変わらないと言う事も。

 

「何でだ……何で分かっていて……!」

 

「それでも、変わるんだよ……!99%の犠牲が、1%になる!良い方向に変わるんだ!多くの子供が貧しい思いをしなくて済む!罪なき人が、頑張っている奴が報われるんだ!」

 

たった1%、1%の犠牲に目を瞑れば、このシティは確実に変わるだろう。そして彼等には瞑る事が出来る。出来てしまう。トップス達に日々不満を持つコモンズは、今までのツケが回って来ただけだと、トップスを見捨てる。だがその行為だけを見逃せば、シンジは間違っていない。

 

「何も救われないだろ!そんなの上部だけだ!そんなのは駄目だ!何より、俺はお前にそんな事をして欲しくない!」

 

「ッ!遊……矢……!」

 

だけど、それでは駄目だと遊矢は吠える。それは嫌だと駄々をこねる。我が儘かもしれない、遊矢が分からず屋なのかもしれない。だけど。

 

「俺達を助けれくれた、優しいお前にそんな事をして欲しくない!友達に、自分がされて嫌だった事をして欲しくない!何かある筈なんだ、トップスもコモンズも、手を取り合える道が!許せとまでは言わないさ、だけど復讐なんて駄目だろう!?」

 

シンジ達は見ず知らずの遊矢達を文句も言わずに助けてくれる優しい青年だ。その優しさが、誰かを傷つける事になるなんて遊矢には堪えられない。友達にそんな事をして欲しくないのだ。決して許せとまでは言わない。だけど――出来る事なら、胸を張れる道を作って欲しい。

 

「そんな事が、出来ると思ってるのか!?」

 

「出来る!俺の友達だって、どうしようもない怒りを乗り越えて、前に進めたんだ!」

 

「ッ、だったら俺の、俺達の怒りもどうにかしてみやがれ!このシティの、99%の想いを!力で証明しろ!それがこのシティの――クソッタレたルールだ!手札の『D.D.クロウ』を捨て、テメェの墓地からギッタンバッタを除外!永続魔法、『補給部隊』を発動し、魔法カード、『一斉蜂起』!墓地より立ち上がれ!アルバレスト2体、ツインボウ、ニードル、ピン!」

 

B・Fー早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800×2

 

B・Fー連擊のツインボウ 攻撃力1000

 

B・Fー毒針のニードル 守備力800

 

B・Fー必中のピン 守備力300

 

再び大量展開カード、『一斉蜂起』によって蘇る『B・F』モンスター達。たった1枚からこれなのだから恐れ入る。

 

「レベル3のツインボウに、レベル2のニードルをチューニング!シンクロ召喚!『B・Fー霊弓のアズサ』!」

 

B・Fー霊弓のアズサ 攻撃力2200

 

「ピンの効果で200のダメージを与える!この瞬間、アズサの効果で『B・F』が与える効果ダメージは倍になる!」

 

榊 遊矢 LP1000→600

 

「そして連擊のツインボウを特殊召喚!」

 

B・Fー連擊のツインボウ 攻撃力1000

 

「立ち塞がるなら誰だろうと容赦はしねぇ!行くぞ遊矢!レベル3のツインボウに、レベル5のアズサをチューニング!」

 

「シンクロチューナー……!?」

 

アズサが閃光と共にリングとなって弾け、ツインボウを包み込む。シンクロモンスターであり、チューナーモンスター。徳松も持っていた特殊なカードだ。シンジはそのシンクロチューナーでしか呼び出せぬ切り札をエクストラデッキから引き抜く。

 

「呼応する力、怨毒の炎を携え反抗の矢を放て!シンクロ召喚!『B・Fー降魔弓のハマ』!!」

 

B・Fー降魔弓のハマ 攻撃力2800

 

現れたのはシンジ・ウェーバーが誇る最強の切り札。緑の甲殻の鎧を纏い、弓矢より雷を迸らせる破魔の矢。人型をした蜂の戦士だ。

 

「バトル入り、終了。この瞬間、ハマの効果で戦闘ダメージが発生しなかったバトルフェイズ終了時、墓地の『B・F』の数×300のダメージを与える!」

 

「手札の『EMレインゴート』を捨て、効果ダメージを防ぐ!」

 

ピンの効果が通った事でシンジが迷う事なくハマの効果によって決着を狙うも、遊矢が温存していたレインゴートがバサリと覆い被さり、矢を弾く。

 

「チッ、カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP500

フィールド『B・Fー降魔弓のハマ』(攻撃表示)『B・Fー早撃ちのアルバレスト』(攻撃表示)×2『B・Fー必中のピン』(守備表示)

『補給部隊』セット2

手札3

 

「俺のターン、ドロー!手札を1枚捨て、スライハンド・マジシャンの効果でハマを破壊!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!ハマを狙うモンスター効果を無効に!」

 

「ならバトルで倒す!スライハンド・マジシャンでハマへ攻撃!」

 

「甘いね!底知れぬ闇に沈め!罠発動!『聖なるバリアーミラーフォースー』!」

 

「なっ!?」

 

度重なる遊矢の手を危うげなく対処するシンジ。手強い。『チキンレース』の効果もあって、2人の間には分厚い壁が存在し、遮っている。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「ペンデュラム召喚!『EMドクロバット・ジョーカー』!『EMインコーラス』!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 守備力100

 

EMインコーラス 守備力500

 

「そして速攻魔法、『揺れる眼差し』!スケールを破壊し、ペンデュラムモンスター、『EMダグ・ダガーマン』をサーチ!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と共にセッティング!そしてダグ・ダガーマンの効果でレインゴート回収!カードを1枚セット、ターンエンド。この瞬間、『オッドアイズ』を破壊し、デッキの『EMモモンカーペット』をサーチする!」

 

榊 遊矢 LP500

フィールド『EMオッドアイズ・ミノタウロス』(守備表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(守備表示)『EMインコーラス』(守備表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMダグ・ダガーマン』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ワン・フォー・ワン』!手札のモンスターを捨て、デッキのレベル1モンスター、『グローアップ・バルブ』を特殊召喚!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

「レベル4のアルバレストに、レベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!シンクロ召喚!『B・Fー霊弓のアズサ』!」

 

B・Fー霊弓のアズサ 攻撃力2200

 

「まだだ!デッキトップをコストに『グローアップ・バルブ』を蘇生!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

「レベル4のアルバレストとレベル1のピンに、レベル1のグローアップ・バルブをチューニング!シンクロ召喚!『B・Fー突撃のヴォウジェ』!」

 

B・Fー突撃のヴォウジェ 攻撃力2500

 

『B・F』シンクロモンスター、揃い踏み。強力な展開力により、シンジのフィールドで蜂が踊る。

 

「バトルに入り、終了。ハマの効果でダメージを与える!」

 

「レインゴートを捨て、ダメージを0に!」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP500

フィールド『B・Fー降魔弓のハマ』(攻撃表示)『B・Fー霊弓のアズサ』(攻撃表示)『B・F突撃のヴォウジェ』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『EMモモンカーペット』をセッティング!」

 

「罠発動!『砂塵の大嵐』!スケールを破壊!」

 

「――!ならドクロバット・ジョーカーを攻撃表示に変更!バトル!アズサへ特攻!」

 

「墓地の『超電磁タートル』を除外、バトルフェイズを終了!甘いんだよ!俺達を倒そうなんざ!」

 

「それでもやるって決めたんだ!ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP600

フィールド『EMオッドアイズ・ミノタウロス』(守備表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のアルバレスト2体、アズサ、ヴォウジェ、ゴルガーをデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札0→2

 

「魔法カード、『ハーピィの羽帚』を発動!そして墓地の昆虫族モンスター2体を除外、『デビルドーザー』を特殊召喚!」

 

デビルドーザー 攻撃力2800

 

「バトル!『デビルドーザー』でドクロバット・ジョーカーへ攻撃!」

 

「手札の『クリボー』を捨て、ダメージを0に!」

 

「防ぐか、だけどまだまだ終わらねぇぞ!アズサでミノタウロスを、ヴォウジェでファイア・マフライオを、ハマでインコーラスを攻撃!」

 

猛攻撃、ここぞとばかりにシンジがモンスターに指示を出し、槍と弓矢によって遊矢のモンスターを薙ぎ払う。しかし遊矢も負けてはいない。インコーラスの効果を使い、危機を脱出する。

 

「インコーラスの効果で『EMジンライノ』をリクルート!」

 

EMジンライノ 守備力1800

 

「甘い!ハマは2回攻撃が出来るんだよ!」

 

「ッ!」

 

ところがハマが矢をつがえ、ジンライノへ雷を帯びたそれを放つ。これでモンスターは全滅。しかも――。

 

「ハマの効果でダメージを与える!」

 

「アクションマジック、『フレイム・ガード』!効果ダメージを0に!」

 

戦闘に加え、ハマの効果ダメージ。どちらか一方を通せば遊矢は負けてしまう。ならばどちらも避けねばならないと遊矢はD-ホイールで駆け抜け、アクションカードを掴み取り、防御する。

 

「しつけぇ野郎だ。ターンエンド!」

 

シンジ・ウェーバー LP500

フィールド『B・Fー降魔弓のハマ』(攻撃表示)『B・Fー霊弓のアズサ』(攻撃表示)『B・Fー突撃のヴォウジェ』(攻撃表示)『デビルドーザー』(攻撃表示)

『補給部隊』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!シンジ……俺は決めたぞ!」

 

「あん?一体何を……」

 

「俺はこのシンクロ次元で大それた目的なんてなかった。ただ柚子を取り戻そうと、ランサーズの仲間を増やそうと思った。だけど今、このシンクロ次元でやるべき事が出来た!」

 

シンクロ次元で様々な事に触れ、多くの人と出会った。優しい人々と、歪んだ街。奥底で眠る格差社会への怒り。それを見て――何とかしたいと思った。

 

「俺はキングになる!このシティのキングになって、変えてやる!このシティを1つにしてやる!コモンズもトップスも、皆笑える未来を作ってやる!」

 

だから遊矢は決意した。このシティの人々が、皆揃って、胸を張って笑顔になれる未来を作ろうと。真っ直ぐで真摯な想い。それを見て、シンジが目を見開く。この少年はどこまで――。

 

「そんな事が、そんな事が出来ると思っているのか!?このシティには、コモンズには怒りが渦巻いている!お前のそれは俺達を否定しているんだぞ!いきなり仲良くなれって言って仲良く出来ると思ってんのか!?」

 

「思ってない!だけど多数の為に少数を犠牲のするのも納得出来ない!決してそれが間違ってるとは言えないけど、俺は難しくても、皆でいれる方が良い!少しずつでも、何日、何十日、何年かかっても、歩み寄って理解し合える方が良い!シンジ!お前は俺達にも優しくしてくれた!ならその優しさを、少しで良い、トップスに向けてくれ!」

 

「ッ!」

 

「コモンズもトップスも歩み寄ってくれ!優しさを優しさで返せる街を作るんだ!時には喧嘩したって良い!全部が全部そうはいかないかもしれない!当たり前の事だ!だけどせめて〟街〝を作ってくれ!暖かみのある、本当の街を!」

 

遊矢の目指す道は茨の道だ。だけど放っておけないと思ってしまった。優しい人々が笑って過ごせる街が作りたいと思った。このシティは見せかけだけの街だ。格差社会と言う巨大な壁がコモンズとトップスと言う、本来1つである筈のものを分けている。遊矢はそれを壊す。そして99%でも、1%でもなく、100%を作り出そうとしている。

 

「遊……矢……」

 

彼の必死の慟哭は、ほんの少し、僅かな人数だが、コモンズとトップス、関係なくその心を動かせる。このままじゃいけないと、突き動かされる想い。今はまだ、弱くて少ない。シンジに賛同するコモンズよりもずっと小さな灯火だ。だが――何時かきっと、未来を見せてくれる炎だった。

 

「これが俺の、革命の道だ!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『EMスライハンド・マジシャン』、『EMロングフォーン・ブル』、『EMセカンドンキー』、『EMハンマーマンモ』、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

「まだだ!魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「『調律の魔術師』を召喚!」

 

調律の魔術師 攻撃力0

 

現れたのは遊矢がサムから預かったチューナーモンスター。白い法衣を纏った桃色の髪の『魔術師』少女。生憎ジャックには返せなかった為、遊矢のデッキに投入されたままだが――それが勝敗を分ける。

 

「召喚時、相手のLPを400回復し、俺は400ダメージを受ける!」

 

シンジ・ウェーバー LP500→900

 

榊 遊矢 LP600→200

 

「そして――速攻魔法、『超カバーカーニバル』!デッキより『EMディスカバー・ヒッポ』をリクルートし、3体の『カバートークン』を特殊召喚!」

 

EMディスカバー・ヒッポ 攻撃力800

 

カバートークン 守備力0×3

 

発動されたのはどこからでもディスカバー・ヒッポを呼び、可能な限りトークンを生み出す強力なカード。本来防御に使うカードであるが――遊矢は攻めに使う。

 

「フッ、呼び出したのが攻撃力800のカバか!それじゃあ俺のモンスターには届かねぇ!」

 

「お前がやった事だぜ?一人一人の声は小さくとも――合わせれば、どこまでも届く!装備魔法、『団結の力』!ディスカバー・ヒッポへ装備!」

 

「ッ!それは――!」

 

「装備モンスターは、自軍フィールドのモンスターの数×800、攻撃力をアップする!」

 

EMディスカバー・ヒッポ 攻撃力800→4800

 

「これが俺の、答えだ!行け、ディスカバー・ヒッポ!ハマへ攻撃!」

 

一人の力は小さくとも、皆と共になら。ディスカバー・ヒッポが仲間達の力を受け取り、爆発的に攻撃力をアップ。強靭な脚で地を蹴り跳躍、ハマに勢い良く降下し、突撃する。

 

「俺の……負けか……」

 

シンジ・ウェーバー LP900→0

 

『決着ゥー!激闘を制したのは、チームランサーズ、榊 遊矢ー!』

 

決着、紙吹雪が舞う中、白煙を吹き、停止するシンジのD-ホイールに遊矢が歩み寄る。

 

「シンジ」

 

「……そんな顔すんな。俺達は全力で闘った。その結果が、お前の勝ちで、俺の負けだ。……なぁ、遊矢」

 

へへ、とシンジは恥ずかしそうに鼻頭を指で擦り、遊矢と向き合う。

 

「このシティは、変わるのか?」

 

「変えるよ、俺達の手で」

 

「そっか……託したぞ、遊矢」

 

ガシリ、とシンジは両手で遊矢の右手を包み込み、夢を託し、地下へ去っていく。シンジ・ウェーバー、敗退。遊矢は握り締めた拳を見つめながら――決心する。




何となくで空いた時間でハカメモ二次創作のプロットを練ってたんですけど紛失しました。南無。デジマーケット会長が主人公とかそんなんだったと思います。相棒はキメラモン。完全に悪役ですねハイ。


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第135話 スリーカウント

(人の子よ……私の声が聞こえますか……?更新再開……更新再開です……休み過ぎて正直すまんかったと思っていますし、休みの間にエクシーズ次元までは行ってやるぜ!と思ったのに忙しくて行けなかったり、久し振りに書くの何か面倒臭いですがそれでも更新再開……更新再開なのです……前の自分良く週間投稿出来たな……アホかよ……)


「なぁ、俺達、間違ってるのかな……?」

 

シティ、フレンドシップカップの会場にて。榊 遊矢とシンジ・ウェーバーのデュエル。その内容に魅せられた1人のコモンズが、ポツリと仲間に対して呟く。

シンジの想いに賛同し、遊矢の言葉に僅かであるが、心を打たれた者だ。自分の小さな変化に戸惑い、仲間に同意を求める。

 

「はぁ?……知るかよ、そんな事……」

 

男の問いに対し、仲間が眉を伏せ、もごもごと口を動かしながら言い淀む。男は変わろうとしていて、一方こちらの仲間はまだ、と言ったところだろうか。

遊矢がたった1度想いをぶつけた所で、全てのシティの人間が一気に変わる訳では無い。変われないのだ。そう簡単に。

変わると言う事は、今までの自分が間違っていると認める事に近くて、無意識に恐れている。

現状は、少人数が、僅かに変わろうとしているだけ。だが――。

 

「……俺にも、分かんねぇよ……」

 

少しずつ、少しずつ、それでもシティは、変わろうとしている。そんな光景を――少年、サムは無言で見つめていた。遊矢とジャックのデュエルを見て、そしてシンジのデュエルを見て、彼の心も、揺れ動き出す。

 

「ジャックは……僕に、何を伝えたかったんだろう……」

 

最近になって、思い出す。自分がジャックに、『調律の魔術師』を渡された日の事を。最初は弱いモンスターを渡して、お前にはお似合いのカードだと馬鹿にしているんだと思っていた。だけど――今はもう、そうは思えなくなってきた。

 

――――――

 

「……無関係の子供に見つかり、風魔 月影を逃がした、か」

 

「……」

 

治安維持局のある一角にて、ベンチに座り込んだジャック・アトラス・Dが、黒いマントを纏った男の報告に対し、訝し気に金の眉を上げ、男の顔色を覗き込むように見上げていた。視線の先には黒いフードの奥に隠された機械的な瞳。ジャック・Dはフム、と顎に手を当て、僅かに思考した後――クックッと可笑しそうに喉を鳴らす。

 

「良いのではないか?ロジェ達には俺から上手く言っておこう」

 

「……?しかし……」

 

男の失態自体を気にする事もなく、むしろそれで良いと言わんばかりに笑みを深めるジャック・D。彼は上機嫌に立ち上がり、男の肩に手を乗せ、ポンポンと叩く。

 

「まぁ、捕獲した所で、チームが1つ脱落し、俺達が不戦勝と言う満足出来ん結果になっていたからな。それに――貴様が変わろうとしているのは、素直に良い事だと、俺は思う」

 

「……変わる?」

 

「そうだ、奴の影響もあるのだろうが、子を見逃すと言う事は、貴様にも心がある、と言う事なのだろう」

 

「……心」

 

「フ、機械が心を語るのが可笑しいか?俺はそうは思わん。例え機械の身体でも、心や魂は宿るのだ。かつて俺を作った者がそうであったようにな。まぁ……貴様の心はまだ未熟……これからゆっくりと成長させるが良い。俺はそれを楽しませてもらおう」

 

まるで弟を慈しむように、ジャック・Dは薄い笑みを張りつけ、その場から去っていく。残された男は、胸に手を当て、1人佇む。

 

「……心、魂……」

 

――――――

 

数時間後、フレンドシップカップ会場、サーキットにて、沢渡と隼、アリト達、チーム沢渡と、デニス、権現坂、ジルのチームデニスの姿があった。

一回戦第3試合、いきなりのランサーズ同士のぶつかり合いだ。

 

だが例え敗北した相手が地下送りになろうとも彼等は容赦はしない。遊矢が与えた希望、キングになる事で地下のメンバーも助けられるのだ。デュエリストとして、手加減はしない。

両チーム、覚悟を宿し、ファーストホイーラーがD-ホイールを並ばせる。

 

チーム沢渡からはアリトが、チームデニスからは権現坂が出る。フルモンスター型のデッキを使う権現坂がファーストホイーラーになるのは予想通り、それに対しアリトをぶつけて来た。

 

「ランサーズ同士のデュエルになっちまったが、手加減はしねぇ、全力で行くぜ。権現坂ぁ!」

 

ヘルメットを被り、背中に決闘上等と書かれた特攻服を纏い、派手なD-ホイールに跨がるアリトが、ビシリと指を権現坂に向ける。相変わらず一昔前の不良ファッションが似合う男である。

 

「それはこちらとて同じ!勝負と言う以上、全力で行かせてもらう!」

 

ギン、権現坂も鋭い視線を投げ掛け、アリトに答える。味方と言えど、いや、味方だからこそ、本気でやらなければならない。

 

『さぁ、ホイーラーの準備も万端、時間も押しているようですし、早速始めましょう!ライディングデュエル――』

 

「「アクセラレーション!!」」

 

2人がD-ホイールを発進させると同時に、サーキットが光の粒子に包まれ姿を変える。アクションフィールド、『破邪の魔法壁』。ターンによってモンスターの攻守を変化させるカードであるが――どちらのフィールドにもある以上、特に意味はないだろう。

光輝く紋様が走るサーキットを駆け、一早くコーナーを取ったのは――アリトだ。荒々しく豪快なD-ホイール捌きで猛スピードで無理矢理権現坂の真横を通り過ぎ、減速する事なく前に出る。かなり危なっかしい運転だ。その証拠に本人でさえ焦っている。

 

『アリト、凄まじい速度でコーナーを取る!見ていてハラハラものだぁ!』

 

「うおっと危ねぇ。俺のターンだな、『BKヘッドギア』を召喚!」

 

BKヘッドギア 攻撃力1000→1300

 

現れたのは鍛え抜かれた青の肉体に、赤いヘッドギアとグローブを身につけた、鋭い眼光が特徴のモンスター。『BK』、ボクシングをモチーフとした、攻撃的なカード群だ。このモンスターはそのエンジン部分に当たる。

 

「召喚時効果でデッキから『BKスパー』を墓地へ送る。そして魔法カード、『戦士の生還』!スパーを回収し、こいつの効果で特殊召喚!」

 

BKスパー 守備力1400

 

ワンツーのコンビネーションでヘッドギアからスパーへ繋ぐ。洗練された美しい流れだ。アリトにとって朝飯前の展開から放たれるのは――勝利を繋ぐ、リードブロー。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!魂に秘めた炎を、拳に宿せ!エクシーズ召喚!『BK拘束蛮兵リードブロー』!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→2500

 

『いきなりエクシーズ召喚!アリト、飛ばしていく!』

 

アリトのD-ホイールに並ぶように黒い渦が出現し、ヘッドギアとスパー、2体の『BK』が光となって吸い込まれ、小爆発を引き起こす。中より姿を見せたのは巨大な首枷で拘束された拳闘士。アリトの得意とするブローであり、勝利には必要不可欠の頼れるモンスターだ。

『BK』では素材が緩く、2回の破壊耐性と攻撃力アップと優秀で強力であり、相手にとっては面倒なカードだ。

アリトを相手にするならこのカードを攻略しなければならない。権現坂はこの高速のジャブを掻い潜り、アリトの懐に辿り着けるか。

 

「こんな所か、俺はカードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

アリト LP4000

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!俺は『超重武者ダイー8』を召喚!」

 

超重武者ダイー8 攻撃力1200→1500

 

現れたのは荷車を走らせる緑色の機械族モンスター。権現坂のD-ホイールに並走し、ガサゴソと荷を漁る。彼のデッキにとって優秀のモンスターだ。何せ彼のフルモンデッキではサーチカードは貴重なのだから。

 

「召喚時、守備表示となり、おれの墓地に魔法、罠が存在しない事でこのカードを攻撃表示に変更し、デッキの『超重武者装留チュウサイ』をサーチ!」

 

そしてこのカードこそがダイー8を万能リクルートへ変化させる。

 

「チュウサイをダイー8に装備!装備モンスターをリリースし、デッキから『超重武者ビッグベンーK』をリクルートする!」

 

超重武者ビッグベンーK 守備力3500

 

ダイー8とチュウサイのコンボにより、高速で特殊召喚される『超重武者』のキーカード、ビッグベンーK。実質攻撃力3500を誇るこのカードならば、リードブローに比肩するだろう。

 

「まだだ!俺は手札の『超重武者装留ダブル・ホーン』をビッグベンーKは2回攻撃が可能!」

 

権現坂の手札より、牛の頭部を模したような機械が飛び出し、空中で分裂、ビッグベンーKの両肩にドッキングする。これでリードブローの戦闘耐性にも対応可能となった。

 

「バトル!ビッグベンーKでリードブローに攻撃!このカードは守備表示のまま攻撃出来る!」

 

『防御は最大の攻撃!権現坂選手、巨大な壁で押し潰す!』

 

『ミラーフォース系統も封じられる戦法だ!』

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!ダメージを半分にし、リードブローのORUを1つ取り除き、破壊を防ぐ!更に枷が外れた事で、リードブローの攻撃力が800アップ!」

 

アリト LP4000→3350

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3000

 

ビッグベンーKが刺股を振りかぶって投擲し、リードブローを貫こうとするも、リードブローが逆にそれを利用し、僅かに軌道を逸らす事で枷を盾にし、破壊させる。

 

「2回目の攻撃!」

 

「リードブローの破壊を防ぐ!」

 

アリト LP4000→3100

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3000→3800

 

2回の攻撃がリードブローを攻め立て、アリトのLPを削る。とは言えこれでリードブローの枷は全て破壊され、攻撃力もビッグベンーKの守備力を上回った。ピンチはチャンス、今度はアリトの有利になる。

 

「やるじゃねぇか……だが俺の鉄拳は砕けねぇぜ?」

 

「フッ、面白い……俺はこれでターンエンドだ!」

 

権現坂 昇 LP4000

フィールド『超重武者ビッグベンーK』(守備表示)

『超重武者装留ダブル・ホーン』

手札4

 

「俺のターン、ドロー!フルモンだからバックは気にしねぇで済むが……その分手札誘発があるか。見えねぇ分、こっちの方が厄介だな。なにがあるか分からねぇ……だが……」

 

冷静に分析し、首をコキリと鳴らすアリト。熱血漢な彼であるが、デュエルに対しては意外とクレバーな面がある。

権現坂のデッキは全てがモンスターの為、バックの魔法、罠を気にせずに済むが――勿論相手の動きを妨害する為、手札誘発を多く詰んでいる。伏せない分、フットワークが軽く、何をしてくるか分からない怖さがある。

 

「だからって止まる気はねぇ!フルスロットルだ!『BKラビット・パンチャー』を召喚!」

 

BKラビット・パンチャー 攻撃力800→1100

 

次に登場したのはヘッドギアに怪しいマスク、オレンジ色の髪を伸ばした小柄なモンスターだ。ラビットパンチ、ボクシングにおいて後頭部を狙う反則技、ガード不可とも言えるものだが――このカードの効果も、ガード不可能。防御はお構い無しだ。

 

「そのカードは……!」

 

「ま、散々特訓したんだ。効果も割れちまってるだろうよ。さぁ、バトルだ!ラビット・パンチャーでビッグベンーKに攻撃!」

 

『おっとアリト、どうした事か!攻撃力で劣るモンスターで攻める!』

 

「ラビット・パンチャーが守備モンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わず破壊する!」

 

「させん!手札の『超重武者装留ファイヤー・アーマー』を捨て、ビッグベンーKの守備力を800ダウンし、戦闘、効果破壊耐性を与える!」

 

「がら空きだぜ!カウンター罠、『ジョルト・カウンター』!『BK』モンスターが存在する場合、バトルフェイズ中に発動したモンスター、魔法、罠の効果を無効にし、破壊する!」

 

『アリトのカウンターが突き刺さる!』

 

ビッグベンーKが炎の鎧を纏い、ラビット・パンチャーの攻撃を防ごうとするも、スルリと腕が伸び、鎧の防御が届かぬ後頭部へ拳を叩き込んで砕く。

 

「ぐっ、カウンターか……!」

 

「そう、いくら手札誘発とは言え、俺のカウンターの方が一歩上、対抗するならお前もカウンターを使うしかねぇが……お前のデッキはフルモンだ!」

 

そう、手札誘発とカウンター罠、比べるならカウンターが速い。そしてアリトはカウンター罠の名手。権現坂にとって、相性が悪い。

 

「そぉらワンツー!リードブローで、ダイレクトアタック!」

 

「まだだ!手札の『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効にし、バトルを終了させる!」

 

がら空きの脇腹へと、リードブローのジャブが炸裂する寸前、三角帽子とワインレッドのサングラスを装着したかかしが現れ、2本の木の枝をクロスさせ、拳を受け止める。

 

「押し切れなかったか。カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

アリト LP3100

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)『BKラビット・パンチャー』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!俺のフィールドにモンスターが存在せず、お前のフィールドにモンスターが存在する事で、手札の『超重武者テンBーN』を特殊召喚!」

 

超重武者テンBーN 守備力1800

 

権現坂のD-ホイールの後部に秤を担いだ深緑の武者が飛び乗る。そして秤を地面に発生した渦へ下ろし、一気に引き上げる。

 

「テンBーNの効果で、墓地のダイー8を蘇生!」

 

超重武者ダイー8 守備力1800

 

引き上げられた秤にダイー8が登場。テンBーNが勢い良くぶん投げ、くるりと宙を舞い、見事地面に着地する。

 

「攻撃表示に変更し、チュウサイをサーチ、ダイー8に装備し、リリースしてビッグベンーKをリクルート!」

 

超重武者ビッグベンーK 守備力3500

 

「そして『超重武者ツヅー3』を召喚!」

 

超重武者ツヅー3 攻撃力300→600

 

お次はその名の通り鼓の形を模したモンスター。『超重武者』唯一のレベル1チューナーだ。これでチューナーと非チューナーが揃った。アリトのエクシーズに対抗し、権現坂のシンクロが放たれる。

 

「レベル8のビッグベンーKに、レベル1のツヅー3をチューニング!動かざる事連山の如し。大岩に宿りし魂、今、そびえ立つ砦となれ!シンクロ召喚!出でよ!『超重魔獣キュウーB』!」

 

超重魔獣キュウーB 守備力2500→3400

 

『権現坂、シンクロ召喚で逆転なるか!?』

 

シンクロ召喚、ツヅ3が1つのリングとなって弾け飛び、ビッグベンーKを包み込んで閃光が炸裂する。眩い光と共に姿を見せたのは、炎の尾を九つ伸ばした白い機獣。その手には杖のような銃火器を握っている。

 

「バトル!キュウーBでラビット・パンチャーへ攻撃!この瞬間、手札の『超重武者オタスーK』を捨てる事で、ダイー8の守備力をキュウーBに加える!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

超重武者キュウーB 守備力3400→5200

 

アリト 手札0→1

 

キュウーBが杖を振るい、その先端にある砲門をラビット・パンチャーへ向け、エネルギーを充填、一筋の光線を撃ち出す。守備力5200、豪快な攻撃、しかしアリトは即座にバリアを発生させて手札に書き換える。

 

「くっ、リードブローを狙えば良かったか……ターンエンドだ」

 

権現坂 昇 LP4000

フィールド『超重武者キュウーB』(守備表示)『超重武者テンBーN』(守備表示)

手札2

 

「俺のターン、ドロー!俺は『BKグラスジョー』を召喚!」

 

BKグラスジョー 攻撃力2000→2300

 

現れたのは筋骨隆々、緑色の超人染みた肉体を誇るボクサーだ。攻撃力も見た目と比例して高いが、レベル4、効果モンスターで攻撃力2000越えと言うならば当然デメリットもある。

 

「バトル!リードブローでキュウーBへ攻撃!」

 

「ぬぅっ……!」

 

拘束を解かれたリードブローのジャブのラッシュがキュウーBから飛来する熱線をも弾く。左、左、左の連続、地道に、徐々に踏み込んで近づき――神速のジャブがキュウーBの装甲を砕く。

 

「グラスジョーでテンBーNを攻撃!」

 

更に畳み掛けるラッシュ。グラスジョーの唸る大砲、右ストレートがテンBーNを一撃で吹き飛ばす。ガードごと捩じ伏せるこの威力、とんでも無いにも程がある。

 

『アリト、攻める攻める!権現坂防戦一方だ!』

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

アリト LP3100

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)『BKグラスジョー』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!俺はモンスターをセット、ターンエンドだ」

 

権現坂 昇 LP4000

フィールド セットモンスター

手札2

 

「おいおいそれで終わる気か?そんなガードじゃ俺の拳は止められねぇぜ!俺のターン、ドロー!魔法カード、『バーニングナックル・スピリッツ』!デッキトップを落とし、墓地の『BKスパー』を蘇生!」

 

BKスパー 守備力1400

 

「バトルだ!グラスジョーでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『超重武者グロウーV』!墓地に送られた事でデッキトップから5枚の順番に入れ替える!」

 

「リードブローでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『超重武者グロウーV』と『超重武者オタスーK』を除外し、効果発動!まずはグロウーVの効果でデッキトップを捲り、そのカードが『超重武者』なら手札に加え、リードブローの攻撃力を0にする。『超重輝将サンー5』!ルール上、『超重武者』である為、リードブローの攻撃力を、0に!そしてオタスーKの効果により、墓地のビッグベンーK蘇生!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力4100→0

 

超重武者ビッグベンーK 守備力3500→4100

 

「チッ、メインフェイズ2、2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『BK拘束蛮兵リードブロー』!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 守備力2000

 

「ターンエンドだ」

 

アリト LP3100

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)『BK拘束蛮兵リードブロー』(守備表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!俺は『超重輝将サンー5』と『超重輝将ヒスーE』でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!ペンデュラム召喚!『超重武者ワカー02』!」

 

超重武者ワカー02 守備力2000

 

『ペンデュラム召喚が放たれる!反撃の狼煙となるか!』

 

権現坂のフィールドの上空に2本の光の柱が伸び、その中から登場した赤と緑、煌めく武将が光の線を結んで魔方陣を描き出す。そして孔が開き、中から姿を見せたのは青いボディを持った重厚な武者だ。

 

「バトル!ワカー02で攻撃表示のリードブローへ攻撃!」

 

「させねぇ!墓地の『BKリベージ・ガードナー』を除外し、リードブローを次のスタンバイフェイズまで除外する!」

 

「かわしたか……ならばビッグベンーKで残るリードブローへ攻撃!」

 

「ORUを取り除き、破壊を防ぐ!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3000

 

「そして墓地へ送られたグラスジョーの効果により、俺は墓地の『BKラビット・パンチャー』をサルベージ!」

 

「モンスターをセット、ターンエンドだ」

 

権現坂 昇 LP3600

フィールド『超重武者ビッグベンーK』(守備表示)『超重武者ワカー02』(守備表示)セットモンスター

Pゾーン『超重輝将サンー5』『超重輝将ヒスーE』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!この瞬間、リードブローはフィールドへ戻る。リードブローを攻撃表示に、ラビット・パンチャーを召喚」

 

BKラビット・パンチャー 攻撃力800→1100

 

「バトル!ラビット・パンチャーでビッグベンーKを、ORUの無いリードブローでワカー02を、もう1体のリードブローでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『超重武者タイマー2』!戦闘破壊されない!」

 

アリトの猛ラッシュが炸裂し、『BK』がパンチの連打で権現坂のモンスターへ攻める、攻める、攻める。しかし最後に残ったセットモンスター、炎を吹き出すタイマー2は戦闘耐性によって破壊を防ぐ。

 

「そう来たか……カードをセット、ターンエンドだ」

 

アリト LP3100

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)×2『BKラビット・パンチャー』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!やりにくい相手だ……俺は手札の『超重武者装留マカルガエシ』をタイマー2に装備!これで装備モンスターは1ターンに1度の効果破壊耐性を得た!ターンエンド!」

 

「チッ、罠発動!『トゥルース・リィンフォース』!デッキからレベル2以下の戦士族モンスター、『BKビッグバンテージ』をリクルートする!」

 

BKビッグバンテージ 守備力1400→2000

 

現れたのは身体中にバンテージを巻き付けたレベル2の『BK』だ。『BK』にレベル2は特に必要ないのだが、このモンスターにはレベル調節効果がある。

 

権現坂 LP4000

フィールド『超重武者タイマー2』(守備表示)

『超重武者装留マカルガエシ』

Pゾーン『超重輝将サンー5』『超重輝将ヒスーE』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!このままバンテージを使ってランク4を出すのも良いが……それじゃ芸がねぇ。俺は『BKシャドー』を召喚!」

 

BKシャドー 攻撃力1800→2100

 

次にフィールドに現れたのは真っ黒な出で立ちにマフラーを巻いた、まるで『忍者』のようなボクサーだ。軽く左を打ち出す速度はかなり速く、その腕前を窺える。

 

「『BKビッグバンテージ』の効果により、除外されているリベージ・ガードナーを選択。俺のフィールドの『BK』のレベルをリベージ・ガードナーと同じ3に変更!」

 

BKシャドー レベル4→3

 

BKビッグバンテージ レベル2→3

 

「これでレベル3が3体……3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』!」

 

No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド 攻撃力2600→2900

 

3体のモンスターを素材とし、アリトのフィールドに新たな『No.』が入場する。真っ赤に燃える体温により、白煙をも吹き出す熱き肉体に、角つきマスクを被り、身体の半分以上を占める巨大な両腕。ボクシングと言うよりはプロレス寄りのデザインであるが、怪腕とは正にピッタリなカードだ。

 

「『No.』51……初顔だな……」

 

「素材が素材だからな。隠していた訳じゃねぇ。バトル!フィニッシュ・ホールドでタイマー2へ攻撃!」

 

「何……!?」

 

フィニッシュ・ホールドが凄まじい脚力でタイマー2へ接近、肉薄し、その巨大な拳を叩きつける。バギィッ!重々しい嫌な音が鳴り響き、タイマー2が吹き飛ばされる。まさかこのカードには戦闘と効果破壊耐性に対する何らかの効果があるのかと思ったが――タイマ―2は破壊されてはいない。

 

「安心しろよ、今は破壊出来ねぇさ。フィニッシュ・ホールドが戦闘を行ったダメージステップ終了時、ORUを1つ取り除き、このカードにカウンターを乗せる。……カウンター、くぅ~良い響きだぜ!」

 

No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド カウンター0→1

 

戦闘を行った事でカウンターを乗せるカード。このカウンターに何かがあるのだろう。1つ乗ってもなにも効果が発動されない事から、複数個必要なのか――いずれにせよ、放置するには不安が残る。

 

「ターンエンドだ!」

 

アリト LP3100

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)×2『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!不気味なカードだ。放って置く訳にはいかんが――手はない。ターンエンドだ」

 

『権現坂選手、ドローしただけでターンを終了。手札が悪いのか!?』

 

『彼のデッキはフルモンスター、こう言う事もあるだろう』

 

権現坂 昇 LP4000

フィールド『超重武者タイマー2』(守備表示)

『超重武者装留マカルガエシ』

Pゾーン『超重輝将サンー5』『超重輝将ヒスーE』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!こっちは遠慮なく行かせてもらおうか!バトル!フィニッシュ・ホールドでタイマー2へ攻撃!」

 

No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド カウンター1→2

 

ORUがカウンターへと変わる。これで2つ目、ORUは残り1つ、つまりは計3つのカウンターが乗ると言う事だが――3つ乗った時、何が起こるのか。

 

「ターンエンドだ!」

 

アリト LP3100

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)×2『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!良し、これで……俺は『超重武者ヒキャーQ』を特殊召喚!」

 

超重武者ヒキャーQ 守備力1800

 

現れたのは真っ赤なボディを煌めかせた飛脚のモンスター。脚部に取りつけられたタイヤを回転させ、権現坂のD-ホイールに並走する。このカードでこの膠着状態を解きたいのだが――果たして――。

 

「ヒキャーQをリリースし、手札の『超重武者ツヅー3』と『超重武者カゲボウーC』を相手フィールドに特殊召喚する!」

 

超重武者ツヅー3 守備力100→700

 

超重武者カゲボウーC 守備力1000→1600

 

ヒキャーQがグッと親指を立て、相手フィールドに2体のモンスターをお届けする。何故アリトのフィールドに――敵に塩を送るにしても、過ぎる気がするが――。

 

「ヒキャーQの効果で送りつけたモンスターの数だけドローする!」

 

権現坂 昇 手札0→2

 

成程、多少のリスクを含んだドローだったか。手札は必要になるが、権現坂はそれを補うように墓地に送られた時、自分のメリットとなるカードを送り込んでいる。後はドローカードだが――。

 

「『超重武者タマーC』を召喚!」

 

超重武者タマーC 攻撃力100→400

 

現れたのはバレーボールのような形状とサイズのモンスター。可愛らしい姿をしているが、中々エグい効果を持ったチューナーだ。尤も、相手がエクシーズ使いなら効果は半減するが。

 

「タマーCの効果!カゲボウーCとこのカードを墓地に送り、レベルの合計分の『超重武者』シンクロモンスターをシンクロ召喚扱いでエクストラデッキから呼び出す!『超重剣聖ムサーC』!」

 

超重剣聖ムサーC 守備力2300

 

カゲボウーCとタマーC、2つのCにより呼び出される3体目のCは、2振りの刀を持つ侍のモンスター。髷はブースターになっているのだろう。火炎を吹き、赤、黒、黄を基調としたボディは胴着を模しており、正しく剣聖。宮本武蔵をモチーフとしたデザインのモンスターが地に降りる。しかし残念な事に2回攻撃は出来ない。

 

「ムサーCの効果により、墓地の『超重武者テンBーN』を回収!ただしこのターン、この効果で回収したモンスターとその同名モンスターを召喚する事は出来ないがな。ペンデュラム召喚!『超重武者コブーC』!」

 

超重武者コブーC 攻撃力900→1200

 

現れたのは4体目のC、タマーCを成長させたかのようなモンスターだ。

 

「バトル!コブーCでツヅー3へ攻撃!ツヅー3の効果で『超重魔獣キュウーB』を蘇生!」

 

超重魔獣キュウーB 守備力2500→5200

 

コブーCがツヅー3を割ると同時に、権現坂のフィールドに白い九尾が現れる。これで更なる追撃が可能となった。

 

「キュウーBでORUを持ったリードブローへ攻撃!」

 

「リードブローの効果発動!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3000→3800

 

「ムサーCで攻撃力2200のリードブローへ攻撃!そしてコブーCの効果発動!自分の『超重武者』が相手モンスターを戦闘破壊したバトルフェイズ、このカードを含むモンスターを素材にシンクロ召喚する!俺はレベル5のムサーCに、レベル2のタマーCをチューニング!速き事風の如く!静かなる事林の如し!音無く忍び止めを刺せ!シンクロ召喚!出でよ!『超重忍者シノビーA・C』!」

 

超重忍者シノビーA・C 守備力2800

 

更に2本のCによるシンクロ召喚で新たなCが目を覚ます。黒い装甲を纏い、先端から火花を散らす棍棒を持った超重の『忍者』。追撃からの追撃、終わらぬ猛攻撃が炸裂する。

 

「シノビーA・Cでフィニッシュ・ホールドへ攻撃!」

 

シノビーA・Cが棍棒を振るい、先端が爆発を起こし、黒煙が上がる。不気味にカウンターを溜めるフィニッシュ・ホールドを除去する為の判断だが――。爆煙が晴れたそこには――。

 

「馬鹿な……!」

 

傷一つ無い、フィニッシュ・ホールドの姿。

 

アリト LP3100→2900

 

「フィニッシュ・ホールドは戦闘で破壊されねぇ……!」

 

No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド カウンター2→3

 

カウンターが3つ溜まる。一体ここからどうなるのか、権現坂はゴクリと唾を呑み込む。特殊勝利ならば目も当てられない。

 

『フィニッシュ・ホールドにカウンターが3つ溜まった!鳴動のスリーカウント!一体何が起こるのか!?』

 

「くっ、バトルを終了!」

 

「この瞬間、フィニッシュ・ホールドの効果発動!このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、このカードにカウンターが3つ置かれていれば、相手フィールドのカードを全て破壊する!」

 

「何だと!?」

 

何と戦闘するだけでフィールド全滅させる。『サンダー・ボルト』と『ハーピィの羽帚』を合わせた強力な効果。マカルガエシによってタイマー2は破壊されないが、マカルガエシ自身は別だ。振るわれる巨腕によって吹き飛ばされ、粉々になるカード達。最悪の展開だ。

 

「くっ、ターンエンド……!」

 

権現坂 昇 LP4000

フィールド『超重武者タイマー2』(守備表示)

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、効果で墓地に送られたシノビーA・Cは蘇生される!」

 

超重忍者シノビーA・C 守備力2800

 

「へぇ……まぁ、戦闘で破壊すれば良いんだろ?魔法カード、『手札抹殺』!手札を交換、バトル!まずはフィニッシュ・ホールドでタイマー2に攻撃し、リードブローでシノビーA・Cへ攻撃!」

 

「タイマー2の効果で攻撃対象をこのカードに変更!」

 

「チ、そいつがあったか。メインフェイズ2、フィニッシュ・ホールドの効果で相手カードを破壊。魔法カード、『命削りの宝札』を発動!カードを3枚ドロー!」

 

アリト 手札0→3

 

「カードを3枚セット、ターンエンド」

 

アリト LP2900

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

遅い来る剛腕、『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』を前にして、次第に追い詰められる権現坂。戦闘耐性と全体除去を兼ねるこのカードに対し、権現坂は攻略出来るのか――。

 

 




と言う事で久し振りに投稿開始、大分前のストックなので禁止制限は大幅に遅れています。つまりこの作品ではテンペストは死んだままです。安らかに眠るしょご。


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第136話 ハリキリボーイ

ネオスと言いTGと言い、最近嬉しい強化が多いです。早く書きたいなぁ……特にネオス、ネビュラの大量ドローは爽快だと思う。


アクションフィールド、『破邪の魔法壁』によって光輝くサーキットにて、チーム沢渡とチームデニスによるファーストホイーラー、アリトと権現坂のライディングデュエルが行われていた。防御を固めながら闘う権現坂に対し、アリトが取ったのは『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』のカウンターを溜め、全てを破壊すると言う豪快にして単純な手。戦闘でも破壊されないこのカードに対する手は『超重武者』においては少ないが、権現坂はどう出るか。

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、効果で破壊されたシノビーA・Cを蘇生する」

 

超重忍者シノビーA・C 守備力2800

 

再び権現坂のフィールドに現れる黒い鎧を纏った『忍者』。クルクルと棍棒を振り回し、火花を散らす先端をアリトのモンスター達へ向け、威嚇する。今の所アリトに対抗出来るカードと言えば、このカード位しかない。

 

「そして『超重武者テンBーN』を召喚!」

 

超重武者テンBーN 攻撃力800→1100

 

続けて天秤を肩に担いだ深緑の武者。自身の特殊召喚効果と蘇生効果を持ち、優秀なカードだ。

 

「テンBーNの効果発動!蘇生するのは『超重武者ダイー8』だ!」

 

超重武者ダイー8 守備力1800

 

続けて黄緑の鎧を纏った台車引きがフィールドを走る。このデュエル中、チュウサイと組み合わせて何度も大型『超重武者』を呼んだカードだ。

 

「そしてシノビーA・Cのレベルを1つ下げ、墓地のコブーCを蘇生する!」

 

超重忍者シノビーA・C レベル7→6

 

超重武者コブーC 攻撃力900→1200

 

次は小さな身体に大きな拳を構えたオレンジ色のモンスター。レベル2、自己蘇生効果を持ったカード。『超重武者』専用の『レベル・スティーラー』と言って良いカードだ。

 

『権現坂選手、モンスターを大量展開!ここから巻き返せるか!』

 

「レベル4のテンBーNに、レベル2のコブーCをチューニング!雄叫び上げよ。神々しき鬼よ!見参せよ。悪の蔓延る戦場に!シンクロ召喚!いざ出陣!『超重神鬼シュテンドウーG』!」

 

超重神鬼シュテンドウーG 守備力2500

 

地響きと共に赤き装甲の鬼が降り立つ。側頭部には天に反り立つ2本の角、胸には青白い宝石が埋め込まれており、肩には黄色いパーツが装着されている。そして腰からは左右4本、合計8本の吹奏楽器のようなものが伸びており、右手には巨大な金棒を握っている。

 

「シンクロ召喚時、相手フィールドの魔法、罠を全て破壊!」

 

「甘い!破壊されたのは2枚とも『運命の発掘』!墓地にはこいつ等を含め3枚!よって6枚ドロー!」

 

アリト 手札0→6

 

「裏目に出たか……ならダイー8の効果!攻撃表示に変更し、『超重武者装留チュウサイ』をサーチ!ダイー8に装備し、リリースして『超重武者ソードー999』をリクルート!」

 

超重武者ソードー999 守備力1800

 

「止めるぜ、手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、無効だ」

 

「ならシノビーA・Cの守備力を半分にし、ダイレクトアタックを可能に!」

 

超重忍者シノビーA・C 守備力2800→1400

 

「バトル!シュテンドウーGでリードブローへ攻撃!この瞬間、バスター・ガントレットを捨て、守備力を倍にする!」

 

超重神鬼シュテンドウーG 守備力2500→5000

 

アリト LP2900→1700

 

「ぐうっ――!」

 

シュテンドウーGが天に向かって跳躍した途端、空より一筋の光が飛来し、シュテンドウーGの拳に装着される。そう、その正体はバスター・ガントレット。火炎を吹き出して勢いを増し、強烈な正拳突きをリードブローへと食らわせる。

 

「シノビーA・Cでダイレクトアタック!」

 

アリト LP1700→300

 

「がはっ!」

 

更にシノビーA・Cがフィニッシュ・ホールドの巨腕を軽々と掻い潜り、アリトへと棍棒の一撃をお見舞いする。モンスターが倒せなくてもプレイヤーは別、ダメージを蓄積させて倒す寸法か。次のターンまでシノビーA・Cを守れば或いは勝利が見えてくる。

 

「効いたぜ、お前のパンチ……!」

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

権現坂 昇 LP4000

フィールド『超重神鬼シュテンドウーG』(守備表示)『超重忍者シノビーA・C』(守備表示)『超重武者ソードー999』(守備表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!墓地の『手札抹殺』を除外し、『マジック・ストライカー』を特殊召喚!」

 

マジック・ストライカー 守備力200

 

「魔法カード、『二重召喚』を発動!『マジック・ストライカー』をリリースし、『光帝クライス』をアドバンス召喚!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

「クライスの効果でこいつとソードー999を破壊!互いにドロー!」

 

アリト 手札3→4

 

権現坂 昇 手札0→1 

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動し、『BKスイッチヒッター』を召喚!」

 

BKスイッチヒッター 攻撃力1500→1800

 

「召喚時効果で墓地のグラスジョーを蘇生する!」

 

BKグラスジョー 攻撃力2000→2300

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!現れろ、『No.』80!猛りし魂に取り憑く、呪縛の鎧!狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク!」

 

No.80狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク 守備力1200

 

バサリと紫のマントを翻し、フィールドに登場する2枚目の『No.』。巨大な拳を持つ黒き覇王はステータスこそ低いものの、アリトにとって頼れるモンスターだ。

 

「魔法カード、『RUMーリミテッド・バリアンズ・フォース』!ラプソディ・イン・バーサークをランクが1つ高い『CNo.』へとランクアップする!オーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ、『CNo.』80!魂を鎮める旋律が、十全たる神の世界を修復する!我にすがれ、葬装覇王レクイエム・イン・バーサーク!」

 

CNo.80葬装覇王レクイエム・イン・バーサーク 守備力2000

 

『おおーっとランクアップ!これも未知の召喚だ!』

 

ランクアップ、あの隼の得意とする戦術は何も彼だけのものではない。このアリトにも1枚だけであるが、ランクアップをさせるべく投入された『RUM』と『CNo.』が存在するのだ。

黒き覇王は白金の鎧を纏い、フィールドに再び降り立つ。『CNo.』、『No.』を進化させたこのカードは、並外れた覇気を放ち、権現坂を睨む。

 

「レクイエム・イン・バーサークのCORUを1つ取り除き、効果発動!シノビーA・Cを除外する!」

 

「ならば墓地のカゲボウーCを除外する事でその発動を無効にし、破壊する!」

 

「しまった、ここでカウンターか!」

 

レクイエム・イン・バーサークの効果によって破壊を通さず除外し、シノビーA・Cを除去しようとしたアリトだが、カゲボウーCの墓地発動効果で防がれた上、破壊されてしまう。しまったと表情を歪めるアリト。このカードの存在を忘れてしまっていた。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

アリト 手札1→2

 

「魔法カード、『一騎加勢』!フィニッシュ・ホールドの攻撃力を1500アップする!」

 

No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド 攻撃力2900→4400

 

除外出来ないならせめて戦闘で、アリトが発動したカードによってフィニッシュ・ホールドの両腕が更に膨れ上がり、強化される。強引な突破方法だが――これも中々彼らしい。

 

「バトル!フィニッシュ・ホールドでシノビーA・Cを攻撃!」

 

「ぐっ――!」

 

フィニッシュ・ホールドの必殺パンチによってシノビーA・Cが装甲を砕かれながら宙を舞う。重い一撃、流石の『超重武者』でも堪え切れない。

 

「バトルフェイズ終了時、シュテンドウーGも破壊!カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

アリト LP300

フィールド『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『超重武者ヌスー10』を特殊召喚!」

 

超重武者ヌスー10 守備力1000→1300

 

「このカードをリリースし、『補給部隊』を破壊し、自分フィールドにセット!発動する!モンスターをセットし、ターンエンドだ!」

 

権現坂 昇 LP2300

フィールド セットモンスター

『補給部隊』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『補給部隊』を取られたか……!『BKスイッチヒッター』を召喚!」

 

BKスイッチヒッター 攻撃力1500→1800

 

「召喚時、墓地の『BKグラスジョー』を蘇生する!」

 

BKグラスジョー 攻撃力2000→2300

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『BK拘束蛮兵リードブロー』!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→2500

 

現れる3体目のリードブロー。アリトにとってエースと呼べる攻撃力の高いアタッカーはこのカード位しかいない。昔は心の底から信頼するエースが存在した気がするのだが――気のせいか。

 

「バトル!フィニッシュ・ホールドでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『超重武者ツヅー3』!破壊された事で、シノビーA・Cを蘇生!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

超重忍者シノビーA・C 守備力2800→3100

 

権現坂 昇 手札0→1

 

フィニッシュ・ホールドの豪腕が風を切り裂き、セットモンスターに叩きつけられる。しかし破壊されたのは太鼓の形をした『超重武者』。叩かれる事を想定したカードだ。ゴォンと音を響かせ、墓地に眠る仲間を呼ぶ。

 

「チッ、フィニッシュ・ホールドの効果で破壊……ターンエンドだ」

 

アリト LP300

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、シノビーA・Cを蘇生!」

 

超重忍者シノビーA・C 守備力2800

 

「シノビーA・Cの守備力を半分にし、ダイレクトアタックを可能に!」

 

超重忍者シノビーA・C 守備力2800→1400

 

「バトル!シノビーA・Cでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

アリト 手札0→1

 

「止めるか……ターンエンド」

 

決死の攻撃も無効にされ、下唇を噛み締める権現坂。一応他にもコブーCを蘇生し、レベルが下がったシノビーA・Cと共にシンクロを行い、『超重忍者サルトーB』を召喚。効果を使ってアリトのセットカードを破壊し、500のダメージを与える方法もあったが――それで勝ったとしても、これはチーム戦、黒咲にフィニッシュ・ホールドが引き継がれ、成す術もなく破壊され、倒されてしまうだろう。保険の為にシノビーA・Cで攻めるのも、決して間違ってはいない。だが、今回ばかりは判断を誤ったようだ。

 

権現坂 昇 LP4000

フィールド『超重忍者シノビーA・C』(守備表示)

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『暗黒界の取引』!互いに1枚ドローし、1枚捨てる!魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

アリト 手札0→3

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ!」

 

アリト LP300

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「永続罠、『召喚制限ー猛突するモンスター』!モンスターが特殊召喚した時、そのモンスターは攻撃表示となり、可能な限り攻撃を行う!」

 

「シノビーA・Cの効果発動!」

 

「カウンター罠、『エクシーズ・ブロック』を発動!リードブローのORUを取り除き、シノビーA・Cの効果発動を無効にし、破壊!」

 

「くっ……!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3000

 

これでシノビーA・Cを撃破。権現坂が新たな『超重武者』を出しても高い守備力を利用した攻撃を行えなくなると言う寸法だ。だが――権現坂が使用するシンクロモンスターの中で、1枚だけ、そう、1枚だけであるが、この状況を覆すカードがある。

 

「手札の『グローアップ・バルブ』を捨て、『パワー・ジャイアント』を特殊召喚!」

 

パワー・ジャイアント 攻撃力2200→2500 レベル6→5

 

現れたのは身体中が宝石で作られたゴーレム。何処かブロックで作られた玩具のようであるが、容易な特殊召喚効果を持ち、攻撃力も高く、戦闘でも有利な効果を持っている。更にレベル調節も可能と権現坂にとってかなり有難いモンスターだ。

 

「『超重武者ココロガマーA』を召喚!」

 

超重武者ココロガマーA 攻撃力100→400

 

次は緑の甲冑を纏った『超重武者』。レベル3にして守備力2300と比較的高い守備を誇るが、今回権現坂がこのモンスターを召喚した狙いはそこではない。

 

「次だ!デッキトップをコストに、墓地の『グローアップ・バルブ』を蘇生!」

 

グローアップ・バルブ 攻撃力100→400

 

続けて現れたのは植物から目を生やした不気味なモンスター。デュエル中で、1度であるが、自己蘇生効果を持ち、その条件もデッキトップの1枚をコストにすると言う、むしろ墓地肥やしとして自身が有利となる効果である為、長い間禁止入りしていたレベル1の汎用チューナーだ。当然権現坂もその汎用性に目をつけて利用している。

 

「シンクロか……だがキュウーBじゃ俺のモンスターを倒せない!」

 

「誰がキュウーBを出すと言った?」

 

「何……?」

 

「俺はレベル5の『パワー・ジャイアント』とレベル3のココロガマーAに、レベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!白銀の鎧輝かせ刃向かう者の希望を砕け!シンクロ召喚!出でよ!『XXーセイバーガトムズ』!」

 

XXーセイバーガトムズ 攻撃力3100→3400

 

現れしは勇者の剣。戦友との絆、白銀の鎧が陽光を反射し、真紅のマントが風に揺れる。二又に別れた剣を掲げた威風溢れる騎士のモンスター。このカードは、師、刃から預かったカード。本来の権現坂のモンスターではない為、『召喚制限ー猛突するモンスター』の中でも充分稼働可能となる。

 

「『Xーセイバー』だと!?」

 

「さぁ、バトルだ!ガトムズでリードブローへ攻撃!」

 

「くっ……!リードブローのORUを1つ取り除き、破壊を防ぐ……!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3000→3800

 

アリト LP300→0

 

騎士王の聖剣より、眩き剣閃が幾重も走り、蛮兵を拘束する枷が破壊。吹き飛ばされた破片がアリトに向かって降り注ぎ、LPを削り取る。

これで――アリトは敗退。だが、権現坂もまた、アリトのモンスターを破壊し切れなかった。残るは1度の破壊耐性を残した『BK拘束蛮兵リードブロー』と、戦闘破壊耐性を持ち、全体破壊効果を有した『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』。どちらも厄介過ぎるカードだ。どちらか1体でも除去出来ればまだ安心出来たが――権現坂は口を一文字に引き締め、悔しいそうな表情をする。

勝負には買った。だがこれはチーム戦、如何に個人で勝とうと、チームと言う大局で勝たねば意味が無い。

 

「倒し切れなかったか……!だけど繋いだぜ……!黒咲ィ!」

 

白いスモークを上げ、減速するアリトのD-ホイール。アリトは何とかピット前で停止させ、バトンをセカンドホイーラー、黒咲へ渡す。すると黒咲はガッ、と袖を捲り上げるような仕草をし、右腕の力瘤を見せる。何時も通りのムッツリとした表情で口を開く。

 

「お兄ちゃんに、まっかせなさーい☆」

 

「どうしたお前!?」

 

彼はこの試合の前、柚子を救出する為に働き、その末に愛する妹に再開し、1つの約束をした。それは妹へカッコいい所を見せる事。

そう、現在黒咲は妹、瑠璃へ格好つける為にハリキリボーイモードなのだ。明らかに空回りしている。

その不気味な姿に思わずアリトが動揺し、何があったんだと口調を荒げる。こんな気持ち悪い隼は初めて見る。しかし彼が呆ける間にも、隼はD-ホイールを一気に発進、猛スピードで権現坂の背を追走し、彼に並ぶ。

ライディングデュエルで言えば、地下で何度か行っている隼の方が分があると言う事だろう。それに権現坂の性格上、彼とライディングデュエルは相性が良くない。

 

「行くぞ権現坂!相手が貴様とて容赦はせん!」

 

「う、うむ。こちらとて同じだ!」

 

『黒咲選手、やる気は充分!自分1人でも勝ち上がる気合いだ!それとも権現坂選手が阻むか!いずれにせよ、この勝負が流れを決めるに違いない!』

 

キッ、鋭い目付きで権現坂を射抜き、指先を向け、隼が鼻息荒く彼に挑戦状を叩きつける。その鬼気迫る様子に権現坂が僅かに怯む。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

権現坂のターンが強制的に終了し、ターンが隼へ渡る。彼は減速する事無く猛スピードで走り、デッキから1枚のカードを引き抜く。とは言ってもアリトの残した『召喚制限ー猛突するモンスター』は隼にとっても邪魔となるカードだ。

序盤の彼は自ら攻めるような戦法を取らないし、取りたくは無い。最初は防御を固め、手札アドバンテージを稼ぎながら盤上を整えつつ堪え、一気に反逆する。能あるハヤブサは好機が来るまで爪を隠すのだ。その戦法はどこかセルゲイに似ているが――本人に言えば否定されるだろう。

沢渡辺りが追求すればボコボコにされるに違いない。

 

「……心配は無用か。有難い、俺のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズ、シノビーA・Cを蘇生!」

 

「無駄だ!手札の『D.D.クロウ』を捨て、シノビーA・Cを除外!リバースカード、オープン!魔法カード、『マジック・プランター』!永続罠、『召喚制限ー猛突するモンスター』をコストに2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札5→7

 

アリトが残してくれたカードを使い、不要なカードを取り除きつつ、手数を増やす。後続の事も考えてくれて有難い事だ。これで表示形式の自由を取り戻し、攻める手段も増えて来る。意外な事にナイスアシストが多いアリトだ。

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップから10枚のカードを除外!2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札6→8

 

「『RRーシンギング・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RRーシンギング・レイニアス 守備力100

 

現れたのはエクシーズモンスターが存在する場合、特殊召喚可能な『RR』だ。ステータスが極めて低く、レベル4の為、回収しやすく、ランク4の素材となる。展開が大事な『RR』では重宝するカードだ。パタパタと小さな翼を羽ばたかせ、黒い身体が揺れる。

 

「そしてシンギング・レイニアスを対象に、手札の『RRーペイン・レイニアス』の効果発動!対象のモンスターの守備力分のダメージを受け、特殊召喚!対象と同じレベルとなる!」

 

黒咲 隼 LP4000→3900

 

RRーペイン・レイニアス 守備力100 レベル1→4

 

次は緑のメタリックボディに白い顔を持つ機械鳥。その効果故に例に漏れず特殊召喚しやすいモンスターだ。シンギング・レイニアス等を相手に使えば、ダメージも軽減出来る。

そしてこれで、早速レベル4のモンスターがフィールドに並ぶ。アリトと同じく、エクシーズ召喚を中心とした戦法が火を吹く。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実を暴き、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ!エクシーズ召喚!飛来せよ!『RRーフォース・ストリクス』!」

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2000

 

エクシーズ召喚。隼の本領が発揮する。黒と緑、2羽の猛禽が重なり、姿を見せる、青と茶色を基調としたカラーリングの梟型の『RR』。小さく、一見頼り無さそうなモンスターであるが、勿論この梟、ただの梟ではない。むしろこのカードこそが『RR』の主力と言って良いだろう。守備力も高く、場持ちが良いカードだ。

 

「フォース・ストリクスのORUを1つ使い、デッキから『RRートリビュート・レイニアス』をサーチ、召喚!」

 

RRートリビュート・レイニアス 攻撃力1800→2100

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2000→2500

 

ターン1のサーチ効果、展開力が高いが為に手札消費が激しい『RR』にとって、必要不可欠の効果だ。この効果を使って隼の手札へと飛来し、召喚されたのは青い翼を持ち、レーザービットを浮かせた機械鳥。ブースターからの噴射で猛スピードで隼を追尾し、彼の隣に並ぶ。

 

「トリビュート・レイニアスの召喚、特殊召喚したターンのメインフェイズ、効果を発動!デッキから『RRーミミクリー・レイニアス』を墓地に送り、ミミクリー・レイニアスの効果によりこのカードを除外、デッキから『RRーレディネス』をサーチ」

 

デッキから墓地へ『RR』カードを落とす効果。そのまま墓地肥やしとしても運用出来るが、こうしてミミクリー・レイニアスと合わせる事で、サーチ効果に生まれ変わる。展開力が高い割にはサーチにも恵まれたテーマだ。それ故に高い実力を持った隼が使えば鬼に金棒状態にもなる。

 

「永続魔法、『RRーネスト』を発動!デッキから『RRーファジー・レイニアス』をサーチし、フィールドに『RR』が存在する事で特殊召喚!」

 

RRーファジー・レイニアス 守備力1500

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2500→3000

 

今度は紫と銀の体躯をした『RR』だ。シンギング・レイニアスと並び、『RR』では必須級のカードを担っている。そしてこれでまた、レベル4が2体。恐ろしい展開速度だ。最速のシンクロ使いがクロウ・ホーガンならば、最速のエクシーズ使いと聞けば黒咲 隼の名が上がるであろう。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RRーフォース・ストリクス』!」

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2000→2500

 

2体目のフォース・ストリクス。ターン1であるが、名指しで制限されていない為、3体並べれば3枚サーチ出来ると言う訳だ。しかも同族が並べば攻守も上がる。展開の胆であり、鉄壁の盾ともなるモンスター、それがフォース・ストリクスなのだ。故に隼は真っ先にこのカードを並べる事にしている。沢渡がワンパターンだと文句をつけるのも仕方無い。言ったデュエルでは勿論ボコボコにしたが。

 

「フォース・ストリクスのORUを1つ取り除き、『RRーミミクリー・レイニアス』をサーチ!更に墓地に送られたファジー・レイニアスの効果で同名サーチ!カードを3枚セットし、バトル!リードブローでガトムズへ攻撃!」

 

「ぬぅぅ……!」

 

権現坂 昇 LP4000→3000 

 

リードブローの槍のようなジャブがガトムズの白銀の鎧を貫き砕き。最後のフィニッシュブローがガトムズを吹き飛ばしてきりもみ回転して地に叩き伏せられる。

 

「フィニッシュ・ホールドでダイレクトアタック!この瞬間、墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、フィニッシュ・ホールドの攻撃力を800アップ!」

 

No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド 攻撃力2900→3700

 

権現坂 昇 LP3000→0

 

「ぐっう――!」

 

そして――フィニッシュ・ホールドの拳が、権現坂のLPを削り取り、0を刻む。1勝1敗、ここから隼の快進撃なるか。後方でスモークを上げる権現坂のD-ホイールにバトンを渡されるのは黄金の鎧を纏う騎士、ジル・ド・ランスボウ。彼は鎧と同じく金色に輝くD-ホイールを駆り、隼へ追い縋ろうとする。随分高そうな&重そうなD-ホイールだ。彼の鎧も加味し、高速で走行出来るのかと心配になる。

 

「頼むぞ、ジル殿……!」

 

「任せよ権現坂殿!我が金の馬に、追いつけぬものは無し!ハイヨーッ!」

 

権現坂のバトンを受け取ったジルが、意外にも見事なライディングで隼の後ろにピッタリとつき、プレッシャーをかける。デュエルはセカンドホイーラー同士の闘いに縺れ込み、2人のデュエリストが今、激突する。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

 

 

 

 

 




毎回の如く黒咲さんにボコボコにされる沢渡さん。何だかんだ言ってこの2人仲が良いと思います。


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第137話 踊れ天地開闢

3話目投稿、巻き返していきますー。


「私のターン、ドロー!」

 

シティのフレンドシップカップ、サーキットにて、光輝くレーンを駆ける鉄馬、D-ホイールに跨がり、2人のデュエリストが対峙していた。

1人はチーム沢渡のセカンドホイーラー、エクシーズ召喚を駆使する『RR』使い、黒咲 隼。

もう1人はチームデニスのセカンドホイーラー、様々な騎士を扱う技巧派デュエリスト、ジル・ド・ランスボウ。

ターンはジルへと移り、彼は隼のフィールドに並ぶエクシーズモンスターを睨み、デッキよりカードを引き抜く。まずは戦闘耐性と全体破壊効果を持った『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』を何とかしたいが、サーチ効果を持った『RRーフォース・ストリクス』も捨てておけない。

 

「一掃する!魔法カード、『ブラック・ホール』!フィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

「無駄だ!カウンター罠、『魔宮の賄賂』!魔法、罠の発動を無効にし、破壊!その後相手に1枚ドローさせる!」

 

ジル・ド・ランスボウ 手札5→6

 

ジルの手札より最強の除去魔法が炸裂するも、黒き渦はフォース・ストリクスの巻き起こす風に切り裂かれ、発生する前に葬られる。これが通らないなら苦労しそうだ。ジルはむ、と表情を強張らせ、次の手に移る。

 

「手札の『サンダー・ドラゴン』を捨て、2体に増やす!更に『儀式の下準備』発動!『カオス・ソルジャー』と『カオスの儀式』を手札に加え、速攻魔法、『リロード』!手札を交換!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!2枚ドローする!」

 

ジル・ド・ランスボウ 手札6→8

 

「私は永続魔法、『補給部隊』を発動し、儀式魔法、『超戦士の萌芽』を発動!手札のレベル4光属性モンスター、『開闢の騎士』とデッキのレベル4闇属性モンスター、『宵闇の騎士』を墓地に送り、儀式召喚を行う!儀式召喚!降臨せよ、『超戦士カオス・ソルジャー』!!」

 

超戦士カオス・ソルジャー 攻撃力3000→3300

 

いきなりの儀式召喚により、フィールドに見参したのは彼の切り札が1枚、青き甲冑を纏い、赤き光を放つ聖魔の騎士。『カオス・ソルジャー』だ。1ターン目からアクセル全開で飛ばして来る。

 

『何と『カオス・ソルジャー』!伝説級のレアカードが登場だぁーっ!』

 

「『開闢の騎士』を使用した事で得た『超戦士カオス・ソルジャー』の効果発動!『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』を除外!」

 

「何――?」

 

超戦士に開闢の力が宿り、縦横無尽にフィールドを駆け、剣の一閃で時空に裂け目を開き、フィニッシュ・ホールドを押し込む。強力な効果だ。そしてこのモンスターが得たのは、開闢の力だけにあらず。

 

「更に『宵闇の騎士』によって得た効果も発動!リードブローを除外!」

 

「こっちもか――!」

 

つまり1ターンに2体のモンスターを除外する効果。放置すれば間違いなく障害となるだろう。早めに除去したい所だ。

 

「参る。『超戦士カオス・ソルジャー』でフォース・ストリクスへ攻撃!」

 

「罠発動!『RRーレディネス』!このターン、『RR』の戦闘破壊を防ぐ!」

 

『超戦士カオス・ソルジャー』が腕を振り、魔剣の一撃が上空を飛ぶフォース・ストリクスに襲い掛かる。ブーメランのように投擲された剣が三日月の軌道を描いたその時、フォース・ストリクスを守る壁が出現し、剣を弾き返す。

 

「権現坂殿やデニス殿の言う通り、厄介なカードだ。私は永続魔法、『暗黒の扉』を発動。カードを3枚セットし、ターンエンドだ」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4000

フィールド『超戦士カオス・ソルジャー』(攻撃表示)

『補給部隊』『暗黒の扉』セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「少しはやれるようだな。そうでなくては面白くないし、ランサーズメンバー足り得ない。見極めてやろう。魔法カード、『強欲で金満な壺』!エクストラデッキから6枚のカードを除外、2枚ドロー!」

 

「罠発動、『撹乱作戦』!相手の手札を入れ換える!」

 

黒咲 隼 手札5→7

 

「俺は『RRーネスト』の効果で『RRーペイン・レイニアス』をサーチ!次にフォース・ストリクス2体のORUを取り除き、シンギング・レイニアスとバニシング・レイニアスをサーチ!そして『RRーバニシング・レイニアス』を召喚!」

 

RRーバニシング・レイニアス 攻撃力1300→1600

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2500→3000×2

 

天に飛翔する緑色の猛禽。『RR』にとって専用の『切り込み隊長』と言えるカードだ。

 

「バニシング・レイニアスの効果で手札の『RRートリビュート・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RRートリビュート・レイニアス 攻撃力1800→2100

 

RRーフォース・ストリクス 守備力3000→3500×2

 

「トリビュート・レイニアスの効果でデッキのミミクリー・レイニアスを墓地に送り、除外して『RRーレディネス』をサーチ!更に『RRーファジー・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RRーファジー・レイニアス 守備力1500

 

RRーフォース・ストリクス 守備力3500→4000×2

 

高速展開、流れるような所作でフィールドにレベル4のモンスターが3体並ぶ。その癖手札が7枚と言うのが実に恐ろしい。これこそが隼の『RR』の力。とんでもない男だ。

 

『黒咲、次々とモンスターを展開!』

 

『これで手札が減っていないと言うのだから驚きだ!』

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!雌伏のハヤブサよ。逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ!エクシーズ召喚!現れろ!『RRーライズ・ファルコン』!」

 

RRーライズ・ファルコン 攻撃力100→400

 

3体の素材を要求し、フィールドに現れたのは攻撃力がたった100のモンスター。青く輝くボディき身体の半分以上を占める巨大な爪が特徴的なモンスターだ。

 

「ライズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!『超戦士カオス・ソルジャー』の攻撃力を吸収!」

 

RRーライズ・ファルコン 攻撃力400→3400

 

「そして墓地に送られたファジー・レイニアスの効果で同名カードをサーチ!そして『RRーシンギング・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RRーシンギング・レイニアス 守備力100

 

「更に手札の『RRーペイン・レイニアス』の効果発動!対象はシンギング・レイニアス!」

 

黒咲 隼 LP3900→3800

 

RRーペイン・レイニアス 守備力100 レベル1→4

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RRーフォース・ストリクス』!」

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2000→3500

 

「3体目……!」

 

「効果発動!『RRーブースター・ストリクス』をサーチ!バトルだ!ライズ・ファルコンで『超戦士カオス・ソルジャー』に攻撃!ブレイブクローレボリューション!」

 

「罠発動!『陰謀の盾』!『超戦士カオス・ソルジャー』に装備し、戦闘破壊とダメージを防ぐ!」

 

ライズ・ファルコンの巨大な爪が『超戦士カオス・ソルジャー』を鷲掴みにしようとした時、盾より紫色のオーラが吹き出し、ライズ・ファルコンを近づかせまいと押し返す。

 

「チッ、カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP3800

フィールド『RRーライズ・ファルコン』(攻撃表示)『RRーフォース・ストリクス』(守備表示)×3

『RRーネスト』セット3

手札6

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『アームズ・ホール』!デッキトップをコストに、デッキから装備魔法、『天命の聖剣』をサーチ!墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『暗黒の扉』を戻してドロー!」

 

ジル・ド・ランスボウ 手札1→2

 

「『天命の聖剣』『超戦士カオス・ソルジャー』に装備!これで装備モンスターは1ターンに1度、戦闘及び効果では破壊されなくなると言う訳だ。『陰謀の盾』もあるが――念には念をだ。『超戦士カオス・ソルジャー』の効果により、ライズ・ファルコンとフォース・ストリクスを除外する!」

 

開闢と宵闇、光と闇の力を重ね、混沌の騎士の両手に輝かしい『聖剣』と漆黒の魔剣が握られ、一振りで次元を切り裂いてライズ・ファルコンとフォース・ストリクスを鳥籠に閉じ込める。モンスターや手札の数では隼が有利だが、このモンスターを放置すればどんどん逆転されて不味い。

 

「やれ!『超戦士カオス・ソルジャー』でフォース・ストリクスへ攻撃!」

 

「――通す!」

 

『超戦士カオス・ソルジャー』による快進撃で、一気に3体のモンスターが破壊される。

 

「超戦士の効果により、フォース・ストリクスの元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

黒咲 隼 LP3800→3700

 

「カードをセット、ターンエンド」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4000

フィールド『超戦士カオス・ソルジャー』(攻撃表示)

『天命の聖剣』『補給部隊』『陰謀の盾』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ナイト・ショット』!セットカードを破壊!『光の護封霊剣』か……罠発動!『針虫の巣窟』!デッキトップから5枚を墓地へ!そして『RRーファジー・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RRーファジー・レイニアス 守備力1500

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2000→2500

 

「ネストの効果でシンギング・レイニアスをサーチ、特殊召喚!」

 

RRーシンギング・レイニアス 守備力100

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2500→3000

 

「そして『RRーブースター・ストリクス』を召喚!」

 

RRーブースター・ストリクス 攻撃力100→400

 

RRーフォース・ストリクス 守備力3000→3500

 

見事な手腕で再び並ぶ3体のモンスター。ここからが本番だ。

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RRーライズ・ファルコン』!」

 

RRーライズ・ファルコン 攻撃力100→400

 

「ライズ・ファルコンの効果発動!」

 

RRーライズ・ファルコン 攻撃力400→3400

 

「だがそのモンスターだけでは突破出来んぞ!」

 

「承知している!魔法カード、『エクシーズ・キブト』!ライズ・ファルコンのORUを2つ取り除き、2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札3→5

 

「墓地の『RUMーレイド・フォース』と手札の『RR』カードを除外し、『RUMーリミテッド・バリアンズ・フォース』回収、更に『RUM』を手札から捨て、フォース・ストリクスをランクアップさせる!1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RRーレヴォリューション・ファルコンーエアレイド』!!」

 

RRーレヴォリューション・ファルコンーエアレイド 攻撃力2000→2300

 

隼が『超戦士カオス・ソルジャー』を突破すべく、フォース・ストリクスを昇華させ、フィールドに飛翔するのは灰色と青の装甲を持つ、彼のエース、レヴォリューション・ファルコンの新たな姿。

 

「これがランクアップか……!」

 

「エアレイドをエクシーズ召喚時、貴様のモンスター1体を破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!」

 

「させぬ!『天命の聖剣』の効果により、破壊を防ぐ!」

 

エアレイドの爆撃が『超戦士カオス・ソルジャー』に降り注ぐも、手にした『聖剣』を振るい、一刀の斬撃の下に切り裂かれる。ここまでは承知の上だ。

 

「バトルだ!墓地のレディネスを除外し、このターンのダメージを0にし、エアレイドで『超戦士カオス・ソルジャー』へ攻撃!」

 

「迎え撃て、『超戦士カオス・ソルジャー』!」

 

ここから先は自爆覚悟の特攻、エアレイドが翼を広げ、果敢に混沌の騎士に迫り、爆撃を開始するも、再び光と闇を束ねた斬撃を振るわれ、エアレイドが返り討ちに会い、爆発が巻き起こる。吹き荒れる黒煙――しかしこれも承知の上、全てはこの先への布石。煙が晴れ、中より姿を見せたのは1羽の猛禽。

 

「馬鹿な……エアレイドが破壊されてないだと!?」

 

「いいや違うな、エアレイドは破壊された……そして最後の効果でエクストラデッキから『RRーレヴォリューション・ファルコン』を呼び出し、このカードのORUとなったのだ!」

 

RRーレヴォリューション・ファルコン 攻撃力2000→2300

 

そう、エアレイド自体は確かに破壊された。しかし、エアレイドの本来の姿――レヴォリューション・ファルコンへとエクシーズ・チェンジし、不死鳥の如く復活を果たしたのだ。

 

「メインフェイズ2に移り、レヴォリューション・ファルコンの効果発動!『超戦士カオス・ソルジャー』を破壊し、その攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

「何と!?これは防げん……だが『補給部隊』の効果でドローだけでもさせてもらうぞ!ぬ、ぐぉぉぉっ!!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4000→2500 手札0→1

 

今度こそ――レヴォリューション・ファルコンの反逆の爆撃が命中し、『超戦士カオス・ソルジャー』を見事撃破、1500のダメージを与えて見せた。流石のジルもこのダメージには怯み、唇を噛み締める。

 

「ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP3700

フィールド『RRーレヴォリューション・ファルコン』(攻撃表示)『RRーライズ・ファルコン』(攻撃表示)

『RRーネスト』セット2

手札3

 

「私のターン、ドロー!くく、面白い!魔法カード、『ハーピィの羽帚』を発動!相手の魔法、罠カードを一掃する!」

 

「罠発動!『RRーレディネス』!『RR』の戦闘破壊を防ぐ!」

 

「モンスターをセットし、ターンエンドだ」

 

ジル・ド・ランスボウ LP2500

フィールド セットモンスター

『補給部隊』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!レヴォリューション・ファルコンの効果により、セットモンスターを破壊!」

 

「『補給部隊』の効果発動!」

 

ジル・ド・ランスボウ 手札0→1

 

「カードを1枚セット、バトルだ!レヴォリューション・ファルコンでダイレクトアタック!レヴォリューショナル・エアレイド!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

レヴォリューション・ファルコンによる攻撃が迫るその時、ジルは墓地より一振りの光の剣を引き抜いて応戦し、何とか危機を逃れる。分かっていた事だが、舌打ちを鳴らし、次に備える。

 

「ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP3700

フィールド『RRーレヴォリューション・ファルコン』(攻撃表示)『RRーライズ・ファルコン』(攻撃表示)

セット1

手札3

 

「私のターン、ドロー!チューナーモンスター、『湖の乙女ヴィヴィアン』を召喚!」

 

湖の乙女ヴィヴィアン 攻撃力200→500

 

現れたのは『聖剣』を抱く湖の精霊。美しい金髪を靡かせるこのカードはチューナーモンスター。シンクロへの布石だ。

 

「ヴィヴィアンの効果により、私は墓地の『聖騎士アルトリウス』を蘇生!」

 

聖騎士アルトリウス 攻撃力1800→2100

 

続いてヴィヴィアンの効果により、伝説の『聖剣』、エクスカリバーに選ばれし王、アーサーことアルトリウスが降臨する。

 

「レベル4のアルトリウスに、レベル1のヴィヴィアンをチューニング!シンクロ召喚!『魔聖騎士皇ランスロット』!!」

 

魔聖騎士皇ランスロット 攻撃力2100→2400

 

そしてシンクロ召喚、ヴィヴィアンが光のリングとなって弾け飛び、アルトリウスを包み込む。瞬間、黒き闇の瘴気がアルトリウスのよろいを染め上げ、フィールドに降臨したのは裏切りの黒騎士、アーサー王をも凌ぐ剣の腕前を誇る『ランスロット』だ。その登場と共にジルのデッキから1枚のカードが引き抜かれ、一振りの『聖剣』へと変化して『ランスロット』の手におさまる。

 

「シンクロ召喚時、デッキから『聖剣アロンダイト』をサーチし、装備!『ランスロット』卿の攻撃力を500下げ、セットカードを破壊!」

 

魔聖騎士皇ランスロット 攻撃力2400→1900

 

その正体は『ランスロット』を所持者とする魔の『聖剣アロンダイト』。『ランスロット』が振るうと同時に暗黒色の斬撃が地を引き裂いて進み、隼のセットカードを粉々に砕く。

 

「チッ――!」

 

「そして手札の『聖剣を抱く王妃ギネヴィア』を『ランスロット』卿へ装備する!」

 

魔聖騎士皇ランスロット 攻撃力1900→2200

 

「バトルだ!『ランスロット』でレヴォリューション・ファルコンへ攻撃!そしてギネヴィアの効果発動!ダメージステップ開始時にレヴォリューション・ファルコンを破壊し、このカードも破壊される!」

 

「だがレヴォリューション・ファルコンの効果で『ランスロット』の攻撃力は0に!」

 

魔聖騎士皇ランスロット 攻撃力2200→300

 

『ランスロット』の凶撃がレヴォリューション・ファルコンをも切り裂く。出来ればライズ・ファルコンも破壊したい所だが、それは叶わない。

 

「ターンエンドだ」

 

ジル・ド・ランスボウ LP2500

フィールド『魔聖騎士皇ランスロット』(攻撃表示)

『聖剣アロンダイト』『補給部隊』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!カードをセット、バトルだ!ライズ・ファルコンで『ランスロット』へ攻撃!」

 

「ここで終わらん!アクションマジック、『回避』!攻撃を無効に!」

 

ライズ・ファルコンの巨大な爪が『ランスロット』を引き裂こうとしたその時、ジルが宙に浮かぶアクションカードを掴み取り、見事攻撃を『回避』する。自分はまだ100ポイントしか隼のLPを削っていない。こんな所で終われるものかと鼻息荒く奮闘する。

 

『ジル攻撃を防ぐ!ここから逆転なるか!』

 

「フ、上等だ。俺はこれでターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP3700

フィールド『RRーライズ・ファルコン』(攻撃表示)

セット1

手札3

 

「墓地のギネヴィアを『ランスロット』に装備!」

 

魔聖騎士皇ランスロット 攻撃力300→600

 

「そしてアロンダイトの効果でセットカードを破壊!」

 

魔聖騎士皇ランスロット 攻撃力600→100

 

「そのままバトル!『ランスロット』でライズ・ファルコンへ攻撃!」

 

「チッ!」

 

ギネヴィアの効果により、どれだけアロンダイトの効果を使い、攻撃力が下がってもモンスターを破壊出来る。厄介なものだ。せめてもの救いはギネヴィアも破壊され、1ターンに1度しか装備出来ない事か。

 

「押し返して見せる……カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP2500

フィールド『魔聖騎士皇ランスロット』(攻撃表示)

『聖剣アロンダイト』『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を入れ換え、カードを3枚セット!ターンエンドだ!」

 

黒咲 隼 LP3700

フィールド

セット3

手札0

 

『打ち出の小槌』による手札交換。良いカードが引けなかったのか、それとも入れ換えた3枚に何かあるのか、全てセットしてターンを終了する隼。墓地にはレディネスもある為、1ターンは堪えられるが――彼の目にはそんなつもりは更々ないと言わんばかりの光が灯っている。

 

『黒咲、カードを全てセット!防御に転じたかー!?』

 

「……違うな、貴公のその目は虎視眈々と獲物に狙いを定め、鋭き爪を隠す猛禽の眼!隙あれば私の喉笛に爪を突き立てようとしているのだろう……?」

 

「フ、どうかな?」

 

キッ、とジルが眉根を寄せ、隼の思惑を推測する。数ターンの攻防を経て、彼も黒咲 隼と言う男の性格を掴んだと言う事か。

 

「ならばその思惑ごと看破するまで!私のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

ジル・ド・ランスボウ 手札0→3

 

「速攻魔法、『サイクロン』!セットカードを破壊!ギネヴィアを『ランスロット』に装備!」

 

魔聖騎士皇ランスロット 攻撃力100→400

 

「『マスクド・ナイトLV3』を召喚!」

 

マスクド・ナイトLV3 攻撃力1500→1800

 

現れたのは仮面を被った小さな騎士。彼が愛用するカード、すなわちフェイバリットカードにあたるモンスターだ。珍しい『LV』モンスターの一種であり、このカードは彼の家系で代々引き継がれている。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

ジル・ド・ランスボウ LP2500

フィールド『魔聖騎士皇ランスロット』(攻撃表示)『マスクド・ナイトLV3』(攻撃表示)

『聖剣を抱く王妃ギネヴィア』『聖剣アロンダイト』『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!攻めて来ないなら仕方無い……こちらから行くぞ!罠発動!『エクシーズ・リボーン』!墓地よりフォース・ストリクスを蘇生!」

 

RRーフォース・ストリクス 攻撃力100→400

 

「ORUを取り除き、『RRートリビュート・レイニアス』をサーチし、召喚!」

 

RRートリビュート・レイニアス 攻撃力1800→2100

 

RRーフォース・ストリクス 攻撃力400→900

 

「トリビュート・レイニアスの効果でミミクリー・レイニアスを墓地に送り、除外し、レディネスをサーチする!カードをセット!バトルだ!フォース・ストリクスでマスクド・ナイトへ攻撃!」

 

「また自爆特攻か……!」

 

黒咲 隼 LP3700→3100

 

またもや自爆特攻により、活路を開こうとする隼。今度は何を考えているのか、ジルは鋭い目付きで見極める。

 

「そしてリバースカード、オープン!速攻魔法、『RUMーデス・ダブル・フォース』を発動!戦闘破壊されたフォース・ストリクスを蘇生し、その倍のランクのエクシーズモンスターへとランクアップ刺せる!1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!勇猛果敢なるハヤブサよ。怒りの炎を巻き上げ、大地をも焼き尽くす閃光となれ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!飛翔しろ!『RRーサテライト・キャノン・ファルコン』!」

 

RRーサテライト・キャノン・ファルコン 攻撃力3000→3300

 

地に堕ちたフォース・ストリクスを真っ赤な炎が包み込み、不死鳥の如く蘇って昇華する。現れたのは純白のつばさを広げる猛禽。極太の熱線を放ち、ジルの魔法、罠ゾーンのカードを一掃する。

 

「エクシーズ召喚時、相手の魔法、罠を全て破壊!この効果に対し、相手はチェーン出来ない!」

 

「むうっ!チェーン不可の『ハーピィの羽帚』か!だが破壊されたアロンダイトの効果でこのカードを『ランスロット』に装備!」

 

翡翠の光がフィールドを埋め尽くし、火の手が上がる。これで後方の憂いは無くなった。後は攻め込むのみ。

 

「バトルだ!サテライト・キャノン・ファルコンで『ランスロット』へ攻撃!」

 

「させん!墓地の『超電磁タートル』を除外し、バトルを終了する!」

 

サテライト・キャノン・ファルコンが高速で宇宙に進出すべく飛翔し、地上に向けて反転、翼より鏡写しのRの文字を火炎を吹き出し、再び極太のレーザーを放つも――ジルのフィールドにクルクルと回転する円盤が飛び出し、赤と青の雷を迸らせ、磁力のバリアを張って弾き返す。フォース・ストリクスが自爆特攻する前に使えれば文句なしだったが――この展開は予想していなかった為、仕方無い。

 

「ターンエンド!」

 

黒咲 隼 LP3100

フィールド『RRーサテライト・キャノン・ファルコン』(攻撃表示)『RRートリビュート・レイニアス』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「私のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、『マスクド・ナイトLV3』を墓地に送り、デッキから『マスクド・ナイトLV5』をリクルートする!」

 

マスクド・ナイトLV5 攻撃力2300→2600

 

レベルアップ。これが『LV』モンスターの特徴だ。条件を満たす事で、エクシーズモンスターのランクアップのように進化する。『マスクド・ナイトLV3』の鎧がより大きく、より強靭となり、新たな姿になる。

 

「墓地のギネヴィアを『ランスロット』に装備!」

 

魔聖騎士皇ランスロット 攻撃力100→400

 

「バトルだ!『ランスロット』でサテライト・キャノン・ファルコンを攻撃!」

 

「サテライト・キャノン・ファルコンの効果!ORUを取り除き、マスクド・ナイトの攻撃力を墓地の『RR』の数×800ダウンする!」

 

マスクド・ナイトLV5 攻撃力2600→300

 

サテライト・キャノン・ファルコンが最後の力を振り絞り、仮面の騎士の力を奪い取って倒れ伏す。これで追撃がかけられなくなったが――。

 

「メインフェイズ2、『LV』5の効果で相手に1000ダメージを与える!」

 

「通す……!」

 

黒咲 隼 LP3100→2100

 

マスクド・ナイトにはバーン効果が存在する。致命傷ではない為、レディネスは使わないが、これは少々想定外だ。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

ジル・ド・ランスボウ LP2500

フィールド『魔聖騎士皇ランスロット』(攻撃表示)『マスクド・ナイトLV5』(攻撃表示)

『聖剣アロンダイト』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!装備魔法、『ラプターズ・アルティメット・メイス』をトリビュート・レイニアスに装備!」

 

RRートリビュート・レイニアス 攻撃力2100→3100

 

ガチャリとトリビュート・レイニアスの背中に赤いメイスが乗せられ、攻撃力が飛躍的に上がる。攻撃力3100。上級ラインへ軽く到達した。

 

「バトルだ!トリビュート・レイニアスで『ランスロット』へ攻撃!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!戦闘ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

ジル・ド・ランスボウ 手札0→1

 

「だがメインフェイズ2、トリビュート・レイニアスがモンスターを破壊した事で、『RUMーレヴォリューション・フォース』をサーチ、セットする!」

 

黒咲 隼 LP2100

フィールド『RRートリビュート・レイニアス』(攻撃表示)

『ラプターズ・アルティメット・メイス』セット2

手札0

 

「私のターン、ドロー!『LV』5の効果発動!このカードを墓地に送り、デッキから『マスクド・ナイトLV7』をリクルートする!」

 

マスクド・ナイトLV7 攻撃力2900→3200

 

ついにマスクド・ナイトが最高到達点、『LV』7に進化する。黄金と漆黒の騎士甲冑に、カブトムシのような頭部、右肩からは翼のような装飾を伸ばし、鋭い爪を持ったモンスター。攻撃力はトリビュート・レイニアスを越えた3500。加えてこのカードの強みは――。

 

「速攻魔法、『サイクロン』!左のカード、レヴォリューション・フォースを破壊!そしてマスクド・ナイトの効果発動!相手に1500のダメージを与える!」

 

徳松 長次郎が持つ、『花札衛ー雨四光』に匹敵する、1500もの大量バーン。効果を使っても攻撃出来、攻撃力は100低く、耐性付与は無いが、ドロースキップを行わなくていい為、充分メリットはある。

 

「墓地のレディネスを除外し、ダメージを0に!」

 

「ならばバトルと行こう!『LV』7でトリビュート・レイニアスを攻撃!」

 

「『ラプターズ・アルティメット・メイス』の効果発動!装備モンスターが自身より高い攻撃力を持つモンスターに攻撃対象に選ばれた時、デッキから『RUMーソウル・シェイブ・フォース』をサーチし、ダメージを0にする!更にレディネスを発動し、戦闘破壊も防ぐ!」

 

「む……!」

 

しかしそれでも――黒咲 隼、ハリキリボーイモードは止められない。メイスの効果で『RUM』をサーチし、ダメージを0に。更に戦闘破壊も回避する。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

ジル・ド・ランスボウ LP2500

フィールド『マスクド・ナイトLV7』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード発動!『RUMーソウル・シェイブ・フォース』!LPを半分払い、墓地のサテライト・キャノン・ファルコンを蘇生し、ランクが2つ高いエクシーズモンスターへとランクアップさせる!1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!究極至高のハヤブサよ。数多なる盟友の遺志を継ぎ、勝利の天空に飛び立て!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RRーアルティメット・ファルコン』!」

 

黒咲 隼 LP2100→1050

 

RRーアルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

そして――フィールドに究極の力が舞い降りる。魂を削る『RUM』により、白き猛禽が太陽の光を受け、ボディを漆黒に染め上げ、その背に日輪の如く輝く黄金の翼を広げる。『RRーアルティメット・ファルコン』。幻魔との闘いにより、ランク12の力に目覚めたとは言え、このカードの強力さは変わらない。

 

「アルティメット・ファルコンのORUを取り除き、効果発動!相手モンスターの攻撃力を1000ダウンし、相手はカードの効果発動を封じられる!」

 

「ならば――これが私に出来る最後の仕事!永続罠、『ディメンション・ガーディアン』!マスクド・ナイトに戦闘、効果破壊耐性を与える!」

 

マスクド・ナイトLV7 攻撃力2900→1900

 

カードの効果発動を封じる圧倒的な制圧能力がジルの退路を塞ぐ。ならばせめてとジルは後続のデニスに希望を託す。

 

「カードを1枚セットし、バトルだ!トリビュート・レイニアスとアルティメット・ファルコンで、マスクド・ナイトへ攻撃!ファイナル・グロリアス・ブライトォッ!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP2500→1300→0

 

アルティメット・ファルコンの胸部に黒いエネルギーが集束し、球体状となって仮面の騎士に撃ち出される。必殺の一撃。マスクド・ナイトも止め切れず、ジルを呑み込み、LPを削り取る。

 

「見事……後は任せたぞ、デニス殿……ッ!」

 

ジルの黄金のD-ホイールがスモークを上げて停止し、ラストホイーラー、デニスにバトンを渡す。

 

「任せといて!エンタメデュエリストの逆転劇って奴を見せて上げるよ!」

 

ニヤリと獰猛とも言える笑みを浮かべ、先行する隼を追従するデニス。隼も背後に迫るデニスに視線を移し、キュッ、と猛禽のように目を細める。

 

「来い……デニス……!」

 

ぶつかり合うランサーズ達。生き残るのは、どちらか。

 

 

 

 

 

 




最近グリッドマンが楽しみです。まさかこれがアニメ化するとはなぁ。何だか感動的な気持ちになりまする。


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第138話 我輩こそが真の悪である!

連日更新4日目、遅れを取り戻します。


「さぁ、Show timeだ!僕のターン、ドロー!」

 

フレンドシップカップ1回戦第3試合もいよいよ大詰め、チーム沢渡のセカンドホイーラー、黒咲隼とチームデニスのラストホイーラーにしてリーダー、デニス・マックフィールドの対決へと展開する。

 

光輝くサーキットを進むデニス。彼と隼は少し前に地下デュエル場にてデュエルをしたのだが――その時はデュエルは中断、決着つかずだったのだが――今その時が来たようだ。

あの時はデニスの正体を見極められなかったが、このデュエルで。明るく笑顔でデッキよりカードを引き抜くデニスを見つめながらその動向を観察する。

 

彼のデッキはエクシーズと零児より受け取ったペンデュラムを混合させた『Em』デッキだ。トリッキーな動きでこちらを翻弄して来るだろう。

 

「まずはマスクド・ナイトの効果で1500のダメージを与えるよ!」

 

「墓地のレディネスを除外し、このターンのダメージを0に!」

 

仮面の騎士が光の剣を作り出し、矢のように撃ち出して隼に襲いかかるも、隼はD-ホイールを加速させてかわす。

 

「でもこれでレディネスは全て使い切った!僕は『Emボーナス・ディーラー』と『Emファイヤー・ダンサー』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

デニスが手札から2枚のカードをデュエルディスクの両端に設置すると共に、彼の背後に2本の光の柱が追従し、中にコインを弾くディーラーと、火の輪を持ったダンサーが出現、天空に光の線を結んで魔方陣を描き出す。いきなりペンデュラムで来るか――隼が身構える。だが例えどんなモンスターを出そうと、アルティメット・ファルコンと言う巨大な壁を切り崩すのは至難の技だ。

 

『デニス、ペンデュラムスケールをセッティング!来るか軌跡の召喚法!』

 

「ペンデュラム召喚!『Emウィンド・サッカー』!『Emボール・ライダー』!『Emカップ・トリッカー』!」

 

Emウィンド・サッカー 守備力0

 

Emボール・ライダー 守備力1800

 

Emカップ・トリッカー 守備力1400

 

振り子の軌跡を描き、3本の光の柱がフィールドに轟音を立てながら降り立ち、光の粒子を散らして姿を見せる。現れたのは掃除機に乗った少年と、巨大なボールを転がすモンスター、そしてカップを被った昆虫のようなモンスターだ。

 

「そしてウィンド・サッカーの効果でこのカードのレベルを1つ下げ、手札から3体以上のペンデュラム召喚に成功した事でボーナス・ディーラーのペンデュラム効果発動!2枚ドロー!」

 

Emウィンド・サッカー レベル5→4

 

デニス・マックフィールド 手札1→3

 

手札から3体以上と少々満たしにくい条件であるが、ペンデュラム召喚で失った手札を補充する『強欲な壺』と同じドロー効果。これはデニスには有り難く、隼には厄介に写る。

 

「良いカードが来たね。僕はボール・ライダーとウィンド・サッカーの2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!Show most go on!天空の奇術師よ華やかに舞台を駆け巡れ!エクシーズ召喚!現れろ!『Emトラピーズ・マジシャン』!!」

 

Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2500→2800

 

エクシーズ召喚、こちらも隼と同じ召喚法で対抗する気なのか、デニスの隣に星を散りばめた渦のようなものが発生し、2体のモンスターが光の線となって吸い込まれる。瞬間、爆発が巻き起こり、閃光と共に笑い声を上げ、フィールドに現れたのは空中ブランコで天を駆ける白いマジシャン。

デニスのデュエルの象徴とも言えるエースカードだ。彼のデュエルを1度でも見ている者ならば――彼がこのカードに全幅の信頼を寄せている事が理解出来るだろう。

 

「装備魔法、『ワンショット・ワンド』をトラピーズ・マジシャンに装備!攻撃力を800アップ!」

 

Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2800→3600

 

トラピーズ・マジシャンの右手に三日月を模したステッキが握られ、叡知を授ける。これでトラピーズ・マジシャンの攻撃力はアルティメット・ファルコンを越えた。そう、アルティメット・ファルコンは高い攻撃力と完全耐性を持つが、戦闘耐性は無い。単純であるが、打点で越えれば良いのだ。

 

「バトル!トラピーズ・マジシャンでアルティメット・ファルコンへ攻撃!」

 

「ぐっ――!」

 

トラピーズ・マジシャンが空中ブランコで空を駆け、ステッキを振るうと共に輝く星が散りばめられ、明滅して巨大化、流星の如くアルティメット・ファルコンに降り注いで激突、胸部を撃ち抜き、墜落する。

 

「『ワンショット・ワンド』の効果により、このカードを破壊し、1枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札2→3

 

「マスクド・ナイトを守備表示に変更し、カードを2枚セット、ターンエンドだよ」

 

デニス・マックフィールド LP4000

フィールド『Emトラピーズ・マジシャン』(攻撃表示)『Emカップ・トリッカー』(守備表示)『マスクド・ナイトLV7』(守備表示)

『ディメンション・ガーディアン』セット2

Pゾーン『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、トラピーズ・マジシャンの効果発動!ORUを1つ取り除き、君のトリビュート・レイニアスに2回攻撃権を与える!」

 

『デニスどうした事か!相手に塩を送るプレイング!』

 

「チッ、面倒な事を……」

 

「あ、やっぱり分かっちゃう」

 

「何が塩を送るだ。傷口に塩を塗るの間違いだろう」

 

チッ、とデニスの狙いを理解した隼が苦々しい表情で舌打ちを鳴らす。そう、デニスの狙いは決して隼へメリットのある行為をプレゼントしたのではなく――むしろその逆、笑顔と言う仮面の奥に、とんでもない凶器を隠し持っている。

 

「偽るのがそんなに楽しいのか……?」

 

「?何か言ったかい?」

 

「いや……バトルだ!トリビュート・レイニアスでトラピーズ・マジシャンに攻撃!」

 

「トラピーズ・マジシャンの効果により、僕はこのカードの攻撃力より低いダメージを受けず、このカードが破壊された事でデッキから『Emウィング・サンドイッチマン』をリクルートする!」

 

Emウィング・サンドイッチマン 守備力2100

 

トラピーズ・マジシャンの破壊を起動とし、フィールドに現れたのは背に純白の羽を持つ軍人のモンスターだ。

 

「トリビュート・レイニアスで攻撃し――バトルを終了」

 

「この瞬間、トラピーズ・マジシャンの効果を受けたトリビュート・レイニアスは破壊されるよ!」

 

ボン、と力に呑み込まれ、オーバーヒートしたトリビュート・レイニアスの翼にひびが走り、赤い炎を上げて爆発を起こす。そう、これこそが本当の狙い。2回攻撃の代償として支払われる対価だ。まるで組んだ筈のないローンを支払わなければならないような感覚に隼が溜め息を溢す。

 

『何とデニスの狙いはトリビュート・レイニアスの破壊!これで黒咲のモンスターは全滅だ!』

 

「構わん、カードをセット、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP1050

フィールド

セット2

手札0

 

「僕のターン、ドロー!手品のタネが尽きちゃったかな?こっちはまだまだカードを残してるよ!」

 

「ならば全て見せてもらおう!タネを明かした上でな!」

 

「それは困る。マスクド・ナイトの効果でダメージを与えるよ!」

 

「墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、このターンの効果ダメージを半分に!」

 

黒咲 隼 LP1050→300

 

「かろうじて逃れたか……ペンデュラム召喚!『Emウィング・サンドイッチマン』!」

 

Emウィング・サンドイッチマン 守備力2100×2

 

「さぁ、行くよ!レベル5のモンスター3体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『Em影絵師シャドー・メイカー』!」

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600→2900

 

3体の『Em』を素材とし、デニスのD-ホイールの影から這いずり出たのはペラペラと紙のような影の体を持ち、巨大な鋏を持った奇妙なモンスター。重い素材を持っているが、出せば強力なモンスターだ。

 

「そいつか……」

 

「『RUM』を持ってないからダサいだっけ?必要ないんだよねぇ、そんなの無くたって、僕は君に勝てるのさ!」

 

「根に持ってやがる……」

 

「マスクド・ナイトを攻撃表示に変更!バトルだ!シャドー・メイカーで攻撃!」

 

「永続罠、『強制終了』!セットカードを墓地に送り、バトルフェイズを終了する!」

 

「やるねぇ、でもとっとと倒れてラストホイーラーに譲ってくれたら助かるかな。ターンエンド!」

 

デニス・マックフィールド LP4000

フィールド『Em影絵師シャドー・メイカー』(攻撃表示)『マスクド・ナイトLV7』(攻撃表示)

『ディメンション・ガーディアン』セット2

Pゾーン『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『強制終了』をコストに2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札0→2

 

「そして『RRーネクロ・ヴァルチャー』を召喚!」

 

RRーネクロ・ヴァルチャー 攻撃力1000→1300

 

ここで現れたのは紫色のボディを持った鳥獣だ。今この危機にこのカード、風は隼に吹いている。

 

「このカードをリリースし、墓地の『RUM』をサルベージする!」

 

「無駄だよ!カウンター罠、『無償交換』!モンスター効果の発動を無効にして破壊!君は1枚ドローする!」

 

黒咲 隼 手札1→2

 

「ならこれはどうだ?魔法カード、『エクシーズ・リベンジ』!墓地よりレヴォリューション・ファルコンを蘇生し、シャドー・メイカーのORUを奪い取る!」

 

RRーレヴォリューション・ファルコンーエアレイド 攻撃力2000→2300

 

カウンター罠でデニスが隼の狙いを外そうとするも、直ぐ様隼が軌道修正を行う。発動されたのは彼に相応しい名を持つ魔法カード。その効果により、エアレイドが反逆の翼を翻す。アルティメット・ファルコンと並ぶ一発逆転のエースを呼ぶカードだ。

 

「バトル!エアレイドでシャドー・メイカーに攻撃!」

 

「永続罠、『強制終了』!『ディメンション・ガーディアン』をコストにバトルを終了するよ!」

 

「チッ、同じカードを……!魔法カード、『一時休戦』を発動!次のターン終了まで互いのダメージを0にし、互いに1枚ドローする!」

 

黒咲 隼 手札0→1

 

デニス・マックフィールド 手札1→2

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

黒咲 隼 LP300

フィールド『RRーレヴォリューション・ファルコンーエアレイド』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「僕のターン、ドロー!装備魔法、『ワンダー・ワンド』をシャドー・メイカーに装備!」

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2900→3400

 

「シャドー・メイカーが効果の対象になった事で、ORUを取り除き、効果発動!エクストラデッキの同名モンスターを呼び出す!」

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600→2900

 

シャドー・メイカーが自身を鋏で切り裂き、分裂する。これこそがシャドー・メイカーの強力な効果だ。効果の対象になっただけで分身する。

とは言え隼のエアレイドは破壊されればレヴォリューション・ファルコンは特殊召喚したモンスターとの戦闘時、その攻撃力を0にする効果を持っている。特殊召喚が多くなっている現在だからこそ真価を発揮するエクストラモンスターキラーが多い『RR』。その厄介さは伊達ではない。嫌な敵がセカンドホイーラーに居座ったものだ。これを退けるには中々骨が折れる。LPを半分以上削られる事も覚悟しなければならない。

 

「ま、僕のする事は変わらないさ!楽しくいこうよ、楽しくね!『ワンダー・ワンド』とシャドー・メイカーを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札2→4

 

「全く僕って奴はつくづくツイてるねぇ……!バトルだ!シャドー・メイカーでエアレイドに攻撃!」

 

ガキン、とシャドー・メイカーの鋏が鋼鉄のボディを持つレヴォリューション・ファルコンをも容易く切り裂き破壊する。これで後はレヴォリューション・ファルコンを突破するのみ。幸い、先程のドローで『禁じられた聖杯』を手にした。これでレヴォリューション・ファルコンを無効化し、マスクド・ナイトで切り裂く。だが――残念、隼の狙いは、更に上。

 

「フ、かかったなアホウが!」

 

「何――!?」

 

「速攻魔法、『RUMーデス・ダブル・フォース』!」

 

「それは確か、戦闘破壊されたエクシーズモンスターを倍のランクにランクアップさせる――レヴォリューション・ファルコンのランクは6……ランク12!?」

 

デス・ダブル・フォース、サテライト・キャノン・ファルコンを呼び出したカードが今再び発動される。エアレイドのランクは6、倍となれば12、最高到達地点とも言える、超弩級のモンスターの登場の予感にデニスが冷や汗を垂らす。あのアルティメット・ファルコンをも越える大型モンスターが、フィールドに飛来する。

 

『黒咲、ここでランクアップ!ランクは何と12!限界突破だぁーっ!』

 

「ランクアップこそ、俺のエンタメと言う事だ!行くぞ!1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築!我が魂のハヤブサよ!揺るぎない信念と深い慈愛の心で堅牢なる最後の砦となりて降臨せよ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ、『RRーファイナル・フォートレス・ファルコン』ッ!!」

 

RRーファイナル・フォートレス・ファルコン 攻撃力3800

 

革命のハヤブサが赤き炎に包まれ、守護のハヤブサに進化して飛翔する。現れたのは赤い装甲に包まれ、頂に黄金の鳥が飾られた正しく要塞の名に相応しい、黒咲 隼、最強にして最高、鉄壁の切り札。揺るぎなき鉄の意志、鋼の強さ、そして優しさを秘めたカードだ。

 

「これが……!」

 

「そう、これが、これこそが俺の真の切り札!このカードで貴様の仮面を剥ぎ取ってやる!」

 

「――何を……!」

 

「分かっている筈だ、貴様が何よりも!『RR』をORUとしたこのカードは、他のカードの効果を受けない!」

 

「アルティメット・ファルコンと同じ完全耐性……僕はマスクド・ナイトを守備表示に変更、カードを2枚セットし、ターンエンドだ!」

 

デニス・マックフィールド LP4000

フィールド『Em影絵師シャドー・メイカー』(攻撃表示)『マスクド・ナイトLV7』(守備表示)

『強制終了』セット2

Pゾーン『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体を回収し、2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札0→2

 

「速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!『強制終了』とセットカードを破壊!」

 

「ぐっ――!速攻魔法、『禁じられた聖杯』!シャドー・メイカーの攻撃力を400アップ!」

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600→3000

 

「これで邪魔な壁はなくなった!さぁ、行くぞデニス!本当のお前を、引き摺り出す!バトルだ!ファイナル・フォートレス・ファルコンでシャドー・メイカーへ攻撃!」

 

デニス・マックフィールド LP4000→3200

 

「ぐっ、あぁぁぁぁっ!!」

 

ファイナル・フォートレス・ファルコンより発射される葵熱線が一直線にシャドー・メイカーに迫り、影をも焼き尽くす勢いで眩き閃光が全てを呑み込み、デニスのLPを削る取る。一撃、そして――。

 

「ファイナル・フォートレス・ファルコンの効果発動!墓地の『RRーフォース・ストリクス』を除外し、再攻撃を行う!」

 

「連続攻撃……!?」

 

「1度で駄目なら、何度でも!それがアイツが俺に教えてくれた事だ!マスクド・ナイトへ攻撃!」

 

「くぅ、ううぅぅぅっ!」

 

墓地より紫色の翼を広げる鳥獣、ファジー・レイニアスがファイナル・フォートレス・ファルコンの両翼に宿って再起動。翡翠の砲撃が大地を焦がしながら突き進み、仮面の騎士を呑み込む。ジルのフェイバリットカードだけあって善戦する強敵だった。が、これで1500のバーンダメージはなくなった。モンスターも全滅。今、この瞬間が勝負所。

 

「再びフォース・ストリクスを除外し、3度目の攻撃を可能に!これが俺の全力全開!やれ!ファイナル・フォートレス・ファルコン!」

 

3度目――ありったけの想いを込め、閃光がデニスに迫る。これで決着か――誰の目から見ても明らかな、その時。

 

「甘いねぇ!エンタメデュエリストは、ピンチの時こそ輝くのさ!特殊召喚されたモンスターの直接攻撃宣言時、墓地の『Emボール・ライダー』を蘇生する!」

 

Emボール・ライダー 守備力1800→2100

 

デニスのエンタメが炸裂する。ファイナル・フォートレス・ファルコンの熱線を遮るように現れたのは巨大なボールに乗ったマジシャン。トラピーズ・マジシャンのORUとして墓地に送られたペンデュラムモンスターだ。このペンデュラムモンスターはエクシーズと相性が良く、こうして相手の攻撃を防ぎ、エクストラデッキへと舞い戻り、再びORUとなって墓地に送られる事で何度もデニスを手助けする。まさかまさかのどんでん返し、デニスの大脱出マジックショーに会場が盛り上がる。

 

『デニス、危機を脱出!見事なプレイングだぁーっ!』

 

「くっ、だがボール・ライダーも倒し、貴様のモンスターは0だ。どう出る?」

 

「フ――どうやら君にはバレてるようだし――その誘いに乗ろうかな?」

 

「漸くと言う訳か。ならば見せてもらおう、デニス・マックフィールドのデュエルを。俺はこれでターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP300

フィールド『RRーファイナル・フォートレス・ファルコン』(攻撃表示)

手札0

 

隼がデニスを挑発した事で、笑顔の仮面に隠された彼の本性が刺激され、今舞台に引き摺り出されようとする。漸くだ、漸く、本当の彼が明らかとなる。

 

「僕のターン、ドロー!お望みとあらば見せようか!デニス・マックフィールド、今世紀最大のショーを!Show time!罠発動!『エクシーズ・リボーン』!墓地の『Em影絵師シャドー・メイカー』を蘇生し、このカードをORUに!」

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600→2900

 

「そして魔法カード、『アームズ・ホール』を発動!デッキトップをコストに、装備魔法、『ワンダー・ワンド』をサーチし、シャドー・メイカーに装備!」

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2900→3400

 

「勿論、ORUを取り除き、2体目を呼び出すよ!」

 

Em影絵師シャドー・メイカー 攻撃力2600→2900

 

「『ワンダー・ワンド』の効果により、このカードとこのカードを装備したシャドー・メイカーを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札2→4

 

「魔法使いカード、『手札抹殺』!手札を全て捨て、3枚ドロー!来た来た来たぁ!ここまで思った通りに回ると堪らないね!黒咲ィ!君は勘が良いから色々嗅ぎ回っていたようだけど――貴様の言う通り、我輩こそが真の悪である!」

 

カチャリ、デニスが懐から取り出した、趣味の悪い仮面が彼の顔を覆い隠すように装着される。その行為を見て、僅かに顔をしかめる隼。

 

「阿呆が、俺が見たかったのはそんなものではない……!」

 

ボソリ、と誰にも聞こえぬ声音で隼が呟くが――デニスは止まらない。より拍車をかけ、悪役に没頭する。

 

「ペンデュラム召喚!『Emボール・ライダー』!」

 

Emボール・ライダー 守備力1800

 

「魔法カード発動ゥ!『オーバーロード・フュージョン』!墓地に存在する『古代の機械猟犬』、『古代の機械飛竜』、『古代の機械箱』、『古代の機械熱核竜』を除外し、融合ゥ!古の魂の受け継ぎし機械仕掛けの猟犬共よ!その10の首混じり合わせ混沌にして絶大なる力とならん!融合召喚!現れろ!『古代の機械混沌巨人』!」

 

古代の機械混沌巨人 攻撃力4500

 

そして現れる――融合次元、アカデミア、オベリスク・フォースを象徴する1枚のカード。猟犬の頭部を模した青く錆びたボディを鈍く光らせる、破壊の巨人。『古代の機械混沌巨人』。――そう、デニスは、彼は――アカデミアから送られたスパイ。

 

『で、で、デカーイ!デニスまさかの融合召喚!攻撃力なんと4500ゥ!超弩級のモンスターの登場だぁーっ!』

 

「そう、これが本当の僕さ!君の妹、瑠璃を拐ったのも!君のご協力、ハートランドを侵略するGOサインを出したのも、全て僕!ランサーズに潜り込んだの、スパイの為!どうだい黒咲ィ?ショックかい?それとも想定通りで、僕が憎い?聞かせてくれよ、君の心を!」

 

ニヤニヤと歪んだ笑みを貼りつけ、おかしそうに早いを挑発するデニス。そんな彼に、隼は――。

 

「……んなもの……」

 

「ん?何かな?」

 

「そんなものっ、とっくに分かり切ってるわマヌケがぁぁぁぁぁっ!!」

 

「……ッ!?」

 

ゴウッ、一筋の烈風が隼を中心として駆け抜け、腹の底から放たれる怒号が響き渡り、思わずデニスが気圧される。

 

「バレてないと思ったか?騙せていると思ったか?ちゃんちゃらおかしいわ!」

 

「は、ハハハハハ!そうかい、そんなに僕が憎いかい?怒りが沸いて来るかい?」

 

「ああ憎いさ!だがな……っ、今俺が怒っているのはそちらではない!俺が怒っているのは、未だに偽り続ける貴様の態度だワカメ野郎!」

 

ギリギリと歯軋りの音を鳴らし、カッと目を見開いて隼がデニスを罵倒する。ズレている。彼とデニスの中で何かが。そのズレが――彼の怒りの正体。デニスはそれに見当もつかず、その為更に隼の怒りを刺激する。

 

「何を言おうがここで終わりさ!カードを2枚セット、バトルだ!『古代の機械混沌巨人』でファイナル・フォートレス・ファルコンに攻撃!クラッシュ・オブ・ダークネス!」

 

「迎え撃て!ファイナル・フォートレス・ファルコン!」

 

隼とデニスのモンスター。ファイナル・フォートレス・ファルコンと、『古代の機械混沌巨人』が互いに前に出、攻撃を開始する。光線を撃ち出す赤い猛禽と、その光を腕で裂く青の巨人。勝つのは勿論、攻撃力で勝る混沌巨人。隼の怒号も虚しく、巨人は左腕で光線を払いながら前進し、右腕から極太のビームを放ち、赤き猛禽を地に叩きつけ、破壊、粉々に砕く。

口惜しい――彼を倒せない事だ。隼は舌打ちを鳴らし、D-ホイールからスモークを上げながらクルクルと回転し、ピットへ辿り着く。

 

黒咲 隼 LP300→0

 

「チッ、負けたか……!」

 

「大丈夫か黒咲?」

 

「アリトか……何ともないが、全く苛々させられる……おい沢渡!後は頼むぞ!」

 

ピットから迎えに来たアリトに答えながら隼はヘルメットを脱ぎ捨て、チーム沢渡のリーダーにしてラストホイーラーへと全ての望みを託す。

沢渡 シンゴ。この男に勝負の行方と、デニスへの答えがかかっている。のだが、沢渡が隼へと振り向き――ゲッソリと頬が痩け、青くなった顔を見せる。

 

「あ……今、大きい声出さないでくれますか……?」

 

「……」

 

何これ。ただならぬ様子の沢渡を見て、隼がアリトに問うように振り向く。アリトは気不味そうな表情で目を泳がせながらも、重々しく彼が疑問に思っているであろう事に答える。

 

「今朝、こいつが飲んだ牛乳が腐ってたらしくてな……腹を壊したらしい」

 

「あ……あ……!」

 

くらり、予期せぬ展開に隼が目眩を感じて天を仰ぎ、口をパクパクと開く。何故、こんな重要な時に、本当にこの男は――。

 

「アホかァァァァァッ!?」

 

天に木霊する隼の魂の叫び。怒髪、天を突く。先程のデニスへの怒りをも越え、呆れ混じりの咆哮が会場中に響き渡り、何だ何だと観客がザワザワとどよめき、チーム沢渡へと視線を向ける。

この反応も当然だろう。大事なものが賭けられた一戦、その最終試合、ラストホイーラーである沢渡が――本来は遊矢達と闘った時のように、絶好調で臨みたい今この時に――逆に、どん底とも言えるような、最悪も最悪の絶不調に陥っているのだから。

 

動揺する隼を尻目に、沢渡は「あんまり大きな声出さないで……」と、青い顔で腹を抑えながらD-ホイールをヨロヨロと走らせ始める。

しかし、最早後戻りは出来ない。例えゴロゴロと腹が不気味に鳴ろうとも、仲間が繋いだバトンを受け取らねばならないのだ。チーム名に自分の名をつけ、リーダーになると我が儘を言ったからには尚更に。

 

相手フィールドには融合次元、アカデミアの精鋭部隊、オベリスク・フォースの操る切り札、超弩級融合モンスター、『古代の機械混沌巨人』。対する沢渡のフィールドは0、しかも調子が左右するデュエルスタイルの彼は、現在――絶不調。

だが、こんな逆境だからこそ、エンタメデュエリストの真価が発揮される。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

と言っても――

 

「腹が痛い……!」

 

不安材料は、とてつもなく多いが。

 

 

 




黒咲さんはデニスの事をキン肉バスターでボコボコにしたいと思う位、彼のした事を憎んでいて、その程度でおさまる位成長していて、彼の事を想っています。


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第139話 揺れるma ma ma mind

連日更新グォレンダ。と言う事で連日の方はこれにて打ち止め、次回から週間投稿に戻ります。
……お前グォレンダやりたかっただけだろと言う声が聞こえる。


「お……俺のターン……ドロー……」

 

『沢渡フラフラとスタートしました。大丈夫なのぉ!?』

 

フレンドシップカップ、1回戦第3試合もいよいよラストホイーラー同士の対決に入る。チーム沢渡のリーダー、沢渡 シンゴ。チームデニスのリーダー、デニス・マックフィールド。

エンタメデュエリスト同士のぶつかり合い、華々しく楽しいデュエルになるであろうカードだが――かたやアカデミアから送られたスパイである事を明かし、敵側が持つ切り札を使い始め。かたや調子によって実力の降り幅が大きくなる癖に、朝飲んだ牛乳が腐っていて腹を下し、絶不調の男。エンタメもクソもない奴等である。

 

ターンは腹を下した男、沢渡へ。相手フィールドには超大型モンスター1体に大型モンスター1体、そして下級モンスター1体。セットカード2枚にペンデュラムカードも揃い踏みと万全とも言える布陣、対する沢渡のフィールドは0、何もない状態だ。有利なのは手札とLP位のものか。

 

「俺は永続魔法、『修験の妖社』を発動……」

 

「だ、大丈夫かい色々……アカデミアの人間である僕が心配するのもあれだけど……」

 

「な、舐めんな……俺様は沢渡 シンゴォ……エンタメデュエリストよぉ。俺は『魔界劇団カーテンライザー』と『魔界劇団ーデビル・ヒール』をセッティング……!」

 

沢渡の背後に2つの光の柱が伸び、中に傘のようなテントのようなモンスターと白い仮面を被った巨体の悪魔が現れ、天空に線を結んで魔方陣を描き出す。召喚可能なモンスターはレベル2から6、何時もに比べ、少々狭い。

 

「ペンデュラム召喚!『妖仙獣閻魔巳裂』……!」

 

妖仙獣閻魔巳裂 攻撃力2300→2600

 

修験の妖社 妖仙カウンター0→1

 

現れたのは巨大な柄無しの刀を方にかけた修行僧のような出で立ちの鬼鼬。烈風を纏って登場するこのモンスターはこの状況では実に優秀だ。不調と言えど、カードに選ばれる男、この幸運は流石と言える。

 

「ペンデュラム召喚に成功した事で、『古代の機械混沌巨人』を破壊……!」

 

「成程、混沌巨人は魔法、罠の効果を受けないけど、モンスター効果は別だ。その攻略法は得策、だけどその対策を考えてないと思ってたのかい?永続罠、『デモンズ・チェーン』!閻魔巳裂の効果を無効に!」

 

ところが閻魔巳裂の身体を次元の歪みより飛び出した鎖が雁字絡めに封じ込める。これで効果はおろか、攻撃する事も出来ない。しかも面倒なのは閻魔巳裂の持ち味とも言える第3の効果、特殊召喚したターン、手札に戻る効果も無効にされたと言う事だ。

毎ターンペンデュラム召喚して相手のカードを削る真似も不可能。デニスの方が一枚上手だった訳だ。混沌巨人も破壊出来ず、シャドー・メイカーにも攻撃出来ない。やはり調子が悪いのか、沢渡が苦い表情となる。

 

「くっ……俺は『妖仙獣右鎌神柱』を召喚……!」

 

妖仙獣右鎌神柱 攻撃力0→300

 

修験の妖社 妖仙カウンター1→2

 

次に現れたのは1本の鳥居の柱。本来ならば『妖仙獣』をペンデュラム召喚する為の門となるべくペンデュラムゾーンに置かれるのだが、生憎手札が悪い。こうして『修験の妖社』の妖仙カウンターを溜める位しか使い道が無い。せめてもう片方の『妖仙獣左鎌神柱』ならば閻魔巳裂が無効化される事を防げたのだが。

 

「召喚後、守備表示に変更……カードを1枚セットし、ターンエンドぉ……!」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『妖仙獣閻魔巳裂』(攻撃表示)『妖仙獣右鎌神柱』(守備表示)

『修験の妖社』セット1

Pゾーン『魔界劇団カーテンライザー』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札0

 

「僕のターン、ドロー!残念ながら黒咲の願いである僕を倒す事は叶わないようだね。勿論僕もこの試合を終われば君達と居られなくなるけど、このデュエルで実力の差を思い知らせてあげるよ。エンタメデュエリストとして、1度上げた幕は演目が終わらない以上、下げられないしね!ファイヤー・ダンサーのペンデュラム効果でシャドー・メイカーに貫通効果を与え、バトル!『古代の機械混沌巨人』で閻魔巳裂へ攻撃!」

 

「罠発動……『和睦の使者』……!このターン、俺のモンスターは戦闘破壊されず、ダメージも0となる……!」

 

混沌巨人による全体攻撃と貫通攻撃で沢渡のLPが丁度4000削られようとした時、彼のフィールドに光の障壁が展開され、攻撃を防ぐ。どうやら1ターンキルは逃れたようだ。不安材料はまだ多いが、持ち堪えてはいる。

 

「ふぅん?まぁ、これ位やってくれなきゃ、同じエンタメデュエリストとしては困るしね。ターンエンドだ」

 

デニス・マックフィールド LP3200

フィールド『Em影絵師シャドー・メイカー』(攻撃表示)『Emボール・ライダー』(守備表示)『古代の機械混沌巨人』(攻撃表示)

『デモンズ・チェーン』セット1

Pゾーン『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』

手札1

 

「俺のターン、ドロー……!魔法カード、『命削りの宝札』……!3枚、ドロー……」

 

息を切らしながら沢渡が尽きた手札を補充する。絶不調と言えども悪運は尽きない。これで3枚のカードを確保した。後はこの状況を何とかするカードがあるかだが――。

 

「あった……!俺は2体のモンスターをリリースし、アドバンス召喚……ッ!『烈風帝ライザー』!」

 

烈風帝ライザー 攻撃力2800→3100

 

2体の『妖仙獣』が小さな竜巻に包まれ、鎖を破壊しながら供物として捧げられ、2つの竜巻が合わさって1つの巨大な竜巻となる。そして吹き荒れる風を裂き、中より姿を見せたのは風を従える緑の『帝王』。肩や腕には鋭い刃が伸び、背には日輪のようなリングとマントを装着したモンスターだ。

 

「ライザーの効果により、ボール・ライダーとお前の墓地の『超重武者ヌスー10』をデッキトップへ、更に混沌巨人をバウンスする……!」

 

「悪くないね。何せ僕の行動を2ターン封じた上で混沌巨人を除去出来る。でも無駄だよ!罠発動!『ブレイクスルー・スキル』!ライザーの効果を無効に!呆気ないもんだよ」

 

『おおっとこれも防がれる!デニス巧みに翻弄!沢渡はどう出るか!』

 

「ならバトルだ……!ライザーでシャドー・メイカーへ攻撃!」

 

「でも『命削りの宝札』の効果でダメージは与えられない」

 

ライザーによる攻略も防がれる。決まれば強力な効果であるが、決まらなければバニラとなってしまう。沢渡は直ぐ様バトルフェイズへ移行し、少しでも戦力を削る為、ライザーが放つ烈風の刃にてシャドー・メイカーを切り裂く。だが肝心要の混沌巨人は倒せない。目下の脅威であるこのカードを何とかしなければ、沢渡に勝利はない。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『烈風帝ライザー』(攻撃表示)

『修験の妖社』

Pゾーン『魔界劇団カーテンライザー』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札0

 

「正直、君とのデュエルは楽しみにしてたんだけどねぇ。遊矢達以外のエンタメデュエリスト、そして『魔界劇団』に『妖仙獣』、帝と3種を巧みに組み合わせて闘うデッキは驚く他ない。でも――今やその突拍子もないデュエルは見る影も無いけど」

 

「うるせぇ……ぐだくだ言ってねぇで、早くカードを引きな……!」

 

「はいはい、僕のターン、ドロー!見るに堪えないデュエルは直ぐ終わらせてあげるよ!君の小さな名誉の為にもね!バトルだ!混沌巨人でライザーへ攻撃!」

 

「がぁぁぁぁぁっ……!」

 

沢渡 シンゴ LP4000→2300

 

混沌巨人の拳が炸裂し、ライザーを粉々に砕く。1700のダメージ。決して軽くはない数値だ。2連戦にも関わらず、これで沢渡のLPはデニスを下回り、唯一勝っていたLPもデニスの有利となった。凄まじい猛威を奮う混沌巨人。やはり魔法、罠の効果を受けず、バトルフェイズにモンスターの効果も封じ、全体攻撃と貫通ダメージと戦闘向けの効果をこれでもかとてんこ盛りにした攻撃力4500のモンスターと言うのは強力だ。

 

『大ダメージ!これは痛い!』

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだよ」

 

デニス・マックフィールド LP3200

フィールド『Emボール・ライダー』(守備表示)『古代の機械混沌巨人』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』

手札1

 

「俺のターン、ドロー……!舐めんじゃねぇよ、俺様のデュエルはここからよ。リバースカード、オープン!魔法カード、『汎神の帝王』!手札の『帝王』魔法、罠1枚を墓地に送り、2枚ドローする!」

 

沢渡 シンゴ 手札0→2

 

「まだだ……『汎神の帝王』を墓地から除外し、デッキから『帝王』魔法、罠を3枚公開、テメェが選んだ1枚を手札に加える」

 

「全部同じカードかい、『帝王の深怨』を選ぶよ」

 

「そして手札の攻撃力2400、守備力1000の『光帝クライス』を公開し、発動。デッキより『始源の帝王』をサーチする。そしてペンデュラム召喚、『光帝クライス』!『妖仙獣右鎌神柱』!」

 

光帝クライス 攻撃力2400→2700

 

妖仙獣右鎌神柱 守備力2100

 

修験の妖社 妖仙カウンター2→3

 

振り子の軌跡によって現れる2体のモンスター、光輝く黄金の鎧を纏った『帝王』と鳥居の姿をした『妖仙獣』だ。このカードで道を拓く。

 

「クライスの効果により、混沌巨人とデビル・ヒールを破壊!」

 

「全く……こう言うの、カードに選ばれてるって言うのかな?手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、クライスの効果を無効にするよ!」

 

『これも防がれる!デニス、鉄壁の防御!』

 

だがこれも――不発。悉く無効、無効、無効。流石にここまで来るとストレスで爆発しそうになる。が――この男は沢渡 シンゴ。この程度は想定済み。2度ある事は3度あるとも言う位だ。沢渡は青い顔をしながらニヤリと不敵な笑みを浮かべる。まるでここからが本番と言わんばかりに歯を剥き出しにして。

 

「妖仙カウンターを3つ取り除き、デッキから『妖仙獣鎌壱太刀』をサーチ!」

 

修験の妖社 妖仙カウンター3→0

 

「そして召喚!」

 

妖仙獣鎌壱太刀 攻撃力1600→1900

 

修験の妖社 妖仙カウンター0→1

 

現れたのは鼬兄弟の長男。青い羽織と鎌が特徴的なモンスターだ。

 

「鎌壱太刀の効果で混沌巨人をバウンスするぜ!」

 

「カウンター罠、『無償交換』!モンスター効果の発動を無効にして破壊!相手は1枚ドローする!」

 

沢渡 シンゴ 手札2→3

 

『沢渡、果敢に攻めるも弾かれる!』

 

しかしこれも無効、だが――。

 

「リバースカード、オープン!魔法カード、『二重召喚』……!教えてやるよ。これが本当にカードに選ばれてるって事だ!2体のモンスターをリリース、烈風纏いし妖の長よ。荒ぶるその衣を解き放ち、大河を巻き上げ大地を抉れ!アドバンス召喚!出でよ、『魔妖仙獣大刃禍是』!!」

 

魔妖仙獣大刃禍是 攻撃力3000→3300

 

再度2体のモンスターを風が包み込み、烈風を裂いて新たなモンスターが目を覚ます。緑色に彩られた風の体躯を持つ、赤き眼の一角獣。『妖仙獣』の長にして、沢渡のエースモンスターの1体が軽やかにフィールドを舞い、気高き咆哮を上げる。

 

「ここで引いたのか……!?」

 

「効果発動!混沌巨人とボール・ライダーをバウンスする!」

 

そしてついに――大刃禍是が角に風を逆巻かせ、烈波の刃で混沌巨人を切り裂き、倒す。漸く混沌巨人を打倒出来た。この突破の意味は大きい。

 

『沢渡、見事混沌巨人を除去!妨害されても止まらない!これで勝負はイーブンか!?』

 

「くっ、混沌巨人が……!」

 

「バトルだ!大刃禍是でダイレクトアタック!」

 

「させないよ!アクションマジック、『回避』!」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

沢渡 シンゴ LP2300

フィールド『魔妖仙獣大刃禍是』(攻撃表示)

『修験の妖社』セット2

Pゾーン『魔界劇団カーテンライザー』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札の0

 

「やるじゃないか……でも混沌巨人はあくまで尖兵って事、忘れないでよね!僕のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『Em影絵師シャドー・メイカー』2体、『Emウィング・サンドイッチマン』2体、『Emウィンド・サッカー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札2→4

 

「ペンデュラム召喚!『Emボール・ライダー』!『Emウィンド・サッカー』!『Emウィング・サンドイッチマン』!『Emハットトリッカー』!」

 

Emボール・ライダー 守備力1800

 

Emウィンド・サッカー 攻撃力2100→2400

 

Emウィング・サンドイッチマン 守備力2100

 

Emハットトリッカー 守備力1100

 

こちらも沢渡に負けじとペンデュラム召喚。手札全てを使い切り、フィールドに4体のモンスターを並ばせる。玉乗りマジシャン、ボール・ライダー。掃除機のような乗り物に乗ったウィンド・サッカー。羽を生やした軍人、ウィング・サンドイッチマン。そしてハットと眼鏡、手袋だけのハットトリッカーだ。

 

「ボーナス・ディーラーのペンデュラム効果で2枚ドロー!」

 

デニス・マックフィールド 手札0→2

 

手札からとは言え、3体の『Em』をペンデュラム召喚する度に『強欲な壺』と同じ効果を発動するこのボーナス・ディーラーは中々に厄介だ。ペンデュラムの消費を直ぐ様補ってくる。

 

「攻めていくよ!魔法カード、『置換融合』!ウィング・サンドイッチマンとウィンド・サッカーで融合!融合召喚!『Emトラピーズ・フォース・ウィッチ』!」

 

Emトラピーズ・フォース・ウィッチ 攻撃力2400→2700

 

ペンデュラムから融合へ。現れたのはこちらも空中ブランコで空を蹴るマジシャンの少女。二又に別れた魔女帽子に仮面、マラカスのようなおさげ、そして派手な衣装を纏った女版トラピーズ・マジシャンと言った出で立ちのモンスターだ。

 

「更にボール・ライダーとハットトリッカーでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『Emトラピーズ・マジシャン』!!」

 

Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2500→2800

 

ケタケタと笑い声を上げ、再び純白のピエロが赤いマントを翻し、空中ブランコで空を駆けながら登場する。トリッキーな効果を備えたこのカードは実に彼のエースとして似合っている。

 

『デニス、攻める攻める!次々とモンスターを召喚!だぁーっ!』

 

「エースに加え、『Em』の融合モンスター……!」

 

「驚いたかい?これが僕の真の実力さ!」

 

「テメェ、今まで本気じゃなかったって事か!?」

 

「キレる所そこなの!?」

 

ギリッ、歯軋りを鳴らし、沢渡が怒り心頭と言った表情でデニスに向かって叫ぶが、果たしてそこは怒る所なのだろうか。

 

「君のツボが良く分からないよ……ま、まぁ、良い。トラピーズ・マジシャンのORUを1つ取り除き、フォース・ウィッチに2回の攻撃権を与える!更に『Emファイヤー・ダンサー』の効果で貫通効果も与えちゃうよ!バトルだ!トラピーズ・マジシャンで大刃禍是に攻撃!この瞬間、トラピーズ・フォース・ウィッチの効果により、『Em』と戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を600ダウン!」

 

魔妖仙獣大刃禍是 攻撃力3000→2400

 

沢渡 シンゴ LP2300→1900

 

「うごっ……おさまって来たのに……!」

 

ザァッと衝撃波が沢渡に襲いかかり、更に便意の波も襲いかかる。折角おさまって来たのに酷い仕打ちである。つらい。

 

「トラピーズ・フォース・ウィッチでダイレクトアタック!アクションマジック、『オーバー・ソード』により攻撃力を500アップ!」

 

Emトラピーズ・フォース・ウィッチ 攻撃力2700→3200

 

「沈まれぃ……!罠発動、『ガード・ブロック』……!ダメージを0にして1枚ドロゥ」

 

沢渡 シンゴ 手札0→1

 

更なる追撃が沢渡に襲いかかり、すんでの所で逃れる。危ない所だった。後一撃入れられたらところてん方式で出てもおかしくはなかった。

 

「かわすか……だけどフォース・ウィッチには、もう1度攻撃権がある!ダイレクトアタック!」

 

「来るんじゃねぇ!永続罠、『始源の帝王』を発動!発動後、悪魔族、闇属性、攻撃力1000、守備力2400のモンスターとして特殊召喚!」

 

始源の帝王 守備力2400→2700

 

沢渡 シンゴ LP1900→1400

 

まだ終わらぬデニスの猛攻と便意から逃れる為、沢渡が『帝王の深怨』で引き寄せた従者の悪魔を呼び起こす。これでもう追撃は出来ないだろう。だがまだまだ気は抜けない。

 

「メインフェイズ2へ移行、トラピーズ・マジシャンの効果を受けたフォース・ウィッチは破壊されるけど、このカードが存在する限り、自分フィールドの『Em』は効果では破壊されず、相手の効果の対象にならない。更に他の『Em』が存在する限り、このカードは攻撃対象にならない。カードを1枚セットし、ターンエンドだ。どこまでもつかな?」

 

デニス・マックフィールド LP3200

フィールド『Emトラピーズ・マジシャン』(攻撃表示)『Emトラピーズ・フォース・ウィッチ』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『Emファイヤー・ダンサー』『Emボーナス・ディーラー』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「フフ、どうだい沢渡ぃ、仲間と思っていたのに、裏切られた気分は。君の事だ、怒り心頭、ただじゃおかないって所かな?」

 

「……」

 

「それともショックだったかい?無視しないで教えてくれよ」

 

「……るせぇ……!」

 

「うん?」

 

デニスがニヤニヤと沢渡を挑発する。対する沢渡は暫く俯き、その顔に影を差していたが――ガバッ、突如顔を上げ、こめかみに青筋を浮かべてデニスを睨む。そして――。

 

「うるせぇってんだよっ!テメェがアカデミアのスパイって事はなぁ……ランサーズ全員、何となくで勘づいてんだよ。このバカがぁぁぁぁぁっ!!」

 

とんでもない爆弾発言を投下した。思わず仮面で隠していても丸わかりな程呆けた表情となるデニス。バレていた?最初から?ずっと?なら、何故今まで――。

 

「なっ、なっ、なっ……!」

 

「何で放って置いたってか?そんなもん決まってんだろ!確証がなかったてのもあるが――それでもお前が俺達の仲間だからだ!敵だってのにも関わらず、俺達と馬鹿やって、遊矢の事だって助けてやれるお人好しだからだ!」

 

「なっ、なら何で黒咲は――」

 

「キレてるってか?あいつも許せねー所もあるんだろうが、それ以上にテメェがそうやって、被りたくもねぇアカデミアの仮面被って、デニス・マックフィールドっつー本当の顔を見せないからだろ!本音を明かさないからだろ!バレバレなんだよ!お前が俺達の事、大事な友達って思ってる事くらい!今だって、続けなくても良いデュエル続けて、未練タラタラだろうが!」

 

「ッ――!」

 

そう、彼等は何となくだが、デニスがアカデミアの人間ではないのかと疑っていた。だけど、皆言わなかった。それはデニスが余りにもスパイらしくないと言う事もあるだろう。ワイワイと友達として馬鹿やって、助け合って、だから皆、友達であるデニスを失いたくなかったのだ。そんな彼等に、デニスもまた――絆を感じていないと言ったら、嘘になる。

 

「本当は最初から言うべきだったんだろうよ。知ってるってな。そんで、改めて仲間になって欲しいって。遅れちまったけど、今言うぜ。デニス、俺達と、来い」

 

スッ、と沢渡がデニスに向かって手を差し伸べる。それは、救いの手であり、絆を繋ぐ掌だ。この手を取るだけで――彼等とまた、馬鹿をやれる。そんな希望がデニスの心を揺さぶる。だが――罪の意識が、天秤を傾ける。

 

「ッ!残念だったね……!その手には乗らないよ!言っただろう、僕こそが真の悪!君達を倒すアカデミアの手先だ!さぁ、覚悟しろランサーズ!1人残さず始末してやろう!フハハハハ!」

 

「……そうかい、ならぶん殴ってでも引き摺り込む!一緒に赤馬の手先になって、馬車馬のように働いてもらうぜ。ついでに俺の子分にしてなぁッ!」

 

拒絶の意志に、行き場の失った掌を握り締め、沢渡は覚悟を決める。

 

「紫雲院と言い、お前と言い、アカデミアは素直な奴がいねーのか!男のツンデレなんぞクソ食らえだ!俺様は魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『妖仙獣閻魔巳裂』、『妖仙獣鎌壱太刀』、『烈風帝ライザー』、『No.80狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク』、『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札1→3

 

「『魔界劇団カーテンライザー』は自分フィールドにモンスターが存在しない場合、ペンデュラム効果で特殊召喚可能!」

 

魔界劇団カーテンライザー 攻撃力1100→2400

 

ペンデュラムゾーンからモンスターゾーンへ綱渡りするように移るテントの姿を模したモンスター。この効果はデュエル中1度しか使えないが、今は出し惜しみはしない。

 

「『魔界劇団ーファンキー・コメディアン』をセッティングし、ペンデュラム召喚!『魔界劇団ーサッシー・ルーキー』!『妖仙獣右鎌神柱』!」

 

魔界劇団ーサッシー・ルーキー 攻撃力1700→2000

 

妖仙獣右鎌神柱 守備力2100

 

修験の妖社 妖仙カウンター2→3

 

そしてペンデュラム、フィールドに2体のモンスター、『魔界劇団』のメンバー、モジャモジャとした髪にだらりと手を垂らしたやる気のない腕が特徴的なモンスターと、『妖仙獣』の鳥居が呼び出され、『修験の妖社』にカウンターが灯る。

 

「ファンキー・コメディアンの効果発動!サッシー・ルーキーをリリースし、その攻撃力分、カーテンライザーの攻撃力をアップする!」

 

魔界劇団カーテンライザー 攻撃力1700→3100

 

「カーテンライザーの効果により、『魔界台本「魔王の降臨」』を墓地に落とし、エクストラデッキのサッシー・ルーキーを回収!更に妖仙カウンターを3つ取り除き、『妖仙獣凶旋嵐』をサーチし、右鎌神柱をリリースし、アドバンス召喚!」

 

妖仙獣凶旋嵐 攻撃力2000→2300

 

修験の妖社 妖仙カウンター3→0→1

 

次に現れたのは禍々しい闇の瘴気を放つ鎌鼬。鎌を振るうと共に、隣につむじ風が発生し、仲間を運ぶ。

 

「召喚時、デッキから『妖仙獣大幽谷響』をリクルート!」

 

妖仙獣大幽谷響 攻撃力?→300

 

修験の妖社 妖仙カウンター1→2

 

現れたのは山のように巨大なのっぺりとした顔の妖だ。これで沢渡の準備は整った。後は攻め込むのみ。

 

「カーテンライザ―でトラピーズ・マジシャンへ攻撃!アクションマジック、『ハイダイブ』!攻撃力を1000アップする!」

 

魔界劇団カーテンライザー 攻撃力3100→2500→3500

 

「罠発動!『ガガガシールド』!発動後、トラピーズ・マジシャンの装備カードなり、装備モンスターは1ターンに2度まで破壊されない!」

 

「チッ、大幽谷響でトラピーズ・マジシャンへ攻撃!こいつの攻撃力は戦闘を行う相手モンスターと同じになる!」

 

妖仙獣大幽谷響 攻撃力300→2800→2200

 

大幽谷響がトラピーズ・マジシャンと同じ姿となり、空中ブランコで空を駆け、鋭い矢のような飛び蹴りを放つも――トラピーズ・マジシャンが盾で防ぎ、そのまま盾を地面に突き刺し、軸として回し蹴りを放つ。

 

沢渡 シンゴ LP1400→1100

 

「ぐっ、破壊された大幽谷響の効果で、デッキから『魔妖仙獣大刃禍是』をサーチするぜ。魔法カード、『一時休戦』を発動。互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0にする」

 

沢渡 シンゴ 手札2→3

 

デニス・マックフィールド 手札0→1

 

「ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP1100

フィールド『魔界劇団カーテンライザー』(攻撃表示)『妖仙獣凶旋嵐』(攻撃表示)

『修験の妖社』

Pゾーン『魔界劇団ーファンキー・コメディアン』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札3

 

「僕のターン、ドロー!速攻魔法、『揺れる眼差し』!互いのペンデュラムゾーンを全て破壊!その数は4!よって4つの効果を適用する!まずは1つ目!相手に500のダメージ……は、『一時休戦』の効果で与えられないね。2つ目!ペンデュラムモンスター、『Emミラー・コンダクター』をサーチ!3つ目!フィールドのカードを選んで除外!『修験の妖社』には退場してもらうよ!」

 

「チッ!」

 

「そして4つ目!『揺れる眼差し』をサーチ!」

 

『揺れる眼差し』によって4つの効果が沢渡に襲いかかる。まず1つ、ペンデュラムゾーンの破壊により、ペンデュラム召喚を奪われ、2つ、デニスは新たなペンデュラムカードを手札に、3つ、『修験の妖社』が吹き飛ばされ、4つ、再び『揺れる眼差し』を手札に。最後が特に厄介だ。何故なら――。

 

『これでデニスの手札に『揺れる眼差し』が渡った!つまり!沢渡は次のターン、ペンデュラムを完全に封じられた事になる!』

 

そう、『揺れる眼差し』は速攻魔法。セットさえすれば、相手ターンでも発動可能だ。これでデニスが手札に加えたペンデュラムカードをセッティングすれば、沢渡が次のターン、ペンデュラムを整えた瞬間に発動され、ペンデュラムを破壊し、カードを除外されてしまう。よって――ペンデュラムは封じ込められ、リリース要員を揃える事すらままならない。

 

「僕は『Emミラー・コンダクター』と『Emオーバーレイ・ジャグラー』をセッティング!これでレベル4から5のモンスターが同時に召喚可能!ペンデュラム召喚!『Emウィンド・サッカー』!『Emウィング・サンドイッチマン』!『Emファイヤー・ダンサー』!」

 

Emウィンド・サッカー 攻撃力2100→2400 レベル5→4

 

Emウィング・サンドイッチマン 攻撃力1800→2100

 

Emファイヤー・ダンサー 守備力1200

 

更に追い討ちと言わんばかりに3体のモンスターがフィールドに降り立つ。2体のトラピーズを何とかしても、3体の壁が残る。完全に沢渡の逃げ道を塞ぎにかかっている。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『Emトラピーズ・マジシャン』!!」

 

Emトラピーズ・マジシャン 攻撃力2500→2800

 

トラピーズ・マジシャン、3体目――悪夢のような布陣が整う。今この時、最も厄介なのはこのカードの攻撃力以下のダメージを通せない事だ。『ガガガシールド』、トラピーズ・フォース・ウィッチと合わさって、戦闘ダメージや効果ダメージを狙う事さえ出来ない。

 

「さぁ、バトル!2体のトラピーズ・マジシャンでカーテン・ライザーと凶旋嵐へ攻撃!」

 

けたたましい笑い声を上げ、2体のトラピーズ・マジシャンが空中ブランコで空を駆け、弾丸の如く飛び蹴りを放つ。モンスター、セットカード、ペンデュラムが一気に全滅した。沢渡のフィールドのカードは0、残るは2枚の手札、『魔界劇団ーサッシー・ルーキー』、『魔妖仙獣大刃禍是』。どちらも今この時役に立つカードでは無い。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

デニス・マックフィールド LP3200

フィールド『Emトラピーズ・マジシャン』(攻撃表示)×2『Emトラピーズ・フォース・ウィッチ』(攻撃表示)『Emウィング・サンドイッチマン』(攻撃表示)

『ガガガシールド』セット1

Pゾーン『Emミラー・コンダクター』『Emオーバーレイ・ジャグラー』

手札0

 

状況は最悪――こちらのモンスターを破壊する効果、そして攻撃力以下のダメージを防いだ上、破壊されても後続を呼び出すモンスターに加え、『Em』の戦闘補助に効果耐性を与えるモンスター、加えてその内の1体は1ターンに2度も戦闘と効果で破壊されないと来た。極めて不利な状況。それでも――。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

沢渡 シンゴは、諦めない。

 

「魔法カード、『手札抹殺』!手札を3枚捨て、3枚ドローする!」

 

「入れ替えか……!」

 

「まだだぁ!速攻魔法、『魔力の泉』!お前のフィールドにはアクションフィールドを合わせ、表側表示の魔法、罠は3枚!そして俺のフィールドはアクションフィールドとこのカードの2枚!よって3枚ドローし、2枚捨てる!」

 

沢渡 シンゴ 手札2→5→3

 

「墓地に送られた『ダンディライオン』の効果で2体の『綿毛トークン』を特殊召喚!」

 

綿毛トークン 守備力0×2

 

風に運ばれ、2つの綿毛が沢渡のフィールドで舞い踊る。リリース要員にはなるが、それには1ターン待たなければならない。壁としても見た目通り、風に吹かれるように頼りない。

 

「速攻魔法、『リロード』の効果で手札を交換、手札を2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP1100

フィールド『綿毛トークン』(守備表示)×2

セット2

手札0

 

手札を入れ替え、希望を見つけ出そうとするも、ここまで――。それもそうだろう。相手のフィールドは万全とも言える布陣なのだ。せめてトラピーズ・フォース・ウィッチがいなければ何とかなりそうなのだが――このカードがデニスのフィールドに与える影響はそれ程のものだ。

効果の対象にならない為、無効にする事も難しく。『ブラック・ホール』のような全体除去を引き込んでも効果破壊耐性がある。対象を取らない、破壊以外の除去カードでしか対応出来ない。

戦闘ダメージで勝とうとすれば、トラピーズ・マジシャンの攻撃力を越えねばならず、一瞬で勝負を決めるとなると攻撃力5300以上が求められる。

『ガガガシールド』があるのも厄介だ。ガチガチに固められた布陣、求められるのは、破壊以外の対象を取らない全体除去。だが、そんなカードがある筈――。

 

「あ――」

 

不意に、声が漏れる。あった。破壊もしない、対象も取らない、全体にかかる夢のような、この状況にピッタリと当て嵌めるカードが1枚、沢渡のデッキに。

タイミングも遅く、妨害されればそれまでだが――決まれば、爆発力で勢いのままにゲームエンドまで持っていける。だがその為には――条件を満たさなければならない。この圧倒的不利な劣性で。そんな事が出来るのか?否、やらねばならない。

 

「沢渡 シンゴなら、出来る筈だ……!」

 

「覚悟は出来たかい?僕のターン、ドロー!速攻魔法、『サイクロン』!右のカードを破壊!」

 

「させるか!罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

「ッ!しつこいねぇ、ネタが尽きたエンタメデュエリストに価値はないよ!ターンエンドだ!」

 

「罠発動!『裁きの天秤』!俺のフィールドと手札のカード、テメェのフィールドのカードの差分、ドローする!差は5枚だ!」

 

沢渡 シンゴ 手札0→5

 

一世一代のチャンス。このドローで目当てのカードを引き抜こうとするも――無い。ギリッ、と歯軋りを鳴らし、何とか気持ちを整える。

 

デニス・マックフィールド LP3200

フィールド『Emトラピーズ・マジシャン』(攻撃表示)×2『Emトラピーズ・フォース・ウィッチ』(攻撃表示)『Emウィング・サンドイッチマン』(攻撃表示)

『ガガガシールド』セット1

Pゾーン『Emミラー・コンダクター』『Emオーバーレイ・ジャグラー』

手札0

 

強い、強い、強い。まさかここまでデニスが強かったとは思いしなかった。確かに実力がある事は承知していた。ペガサスの特訓を受け、強くなっている事も。だがこれ程とは。最早後が無い。このドローであのカードを引かねば――確実に負ける。そうなってはランサーズよりもアカデミアが勝る結果になり、彼を味方に引き入れるにしても説得力がない。勝たねばならない。

デニスの為?ランサーズの為?いや、違う。全ては――自分の為。気に入らないからこそ、沢渡は闘うのだ。至極単純で、最も純粋とも言える、闘うべき理由。

 

さぁ、カードを取れ、証明しろ。自分が榊 遊矢よりも、デニス・マックフィールドよりも、最高のエンタメデュエリストである事を。華々しい逆転劇を演じ、観客達の歓声を浴び、仲間を奪い取る。そんな未来を信じ――沢渡は、希望をその手に掴み取る。

 

「俺様のターン……ドローッ!!」

 

引き抜かれた1枚が、宙に黄金に輝くアークを描く。来た、来た、来た。まるで電流が駆け抜けたかのような感覚。沢渡はニヤリと笑みを浮かべ、エンタメデュエルの口上を上げる。

 

「Ladies and Gentleman!さぁ、お楽しみは、これからだぜっ!!」

 

「何を――っ!この状況から、逆転があり得るとでも!?」

 

「あり得るんだよなぁ、それが!この俺様のデュエルなら!」

 

動揺を走らせ、疑惑を飛ばすデニスに応え、沢渡が手札の6枚を翳す。この6枚で、道を拓く。

 

「まずは『魔界劇団ーティンクル・リトルスター』と『妖仙獣左鎌神柱』をセッティング!」

 

「させないよ!速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムゾーンを破壊し、3つの効果を適用!まずは500のダメージ!」

 

沢渡 シンゴ LP1100→600

 

「ペンデュラムモンスター、『Emウィング・サンドイッチマン』をサーチし、『綿毛トークン』を除去!これでペンデュラムは封じた!」

 

「そいつぁどうかな?ペンデュラムは何度でも揺れ動く!『魔界劇団ーワイルド・ホープ』と『魔界劇団ビッグ・スター』をセッティング!」

 

「止められなかったか……!」

 

「ワイルド・ホープのペンデュラム効果でビッグ・スターのスケールを9に!ペンデュラム召喚!『魔界劇団ーティンクル・リトルスター』!『妖仙獣右鎌神柱』!『妖仙獣左鎌神柱』!」

 

魔界劇団ーティンクル・リトルスター 攻撃力1000→1300

 

妖仙獣右鎌神柱 攻撃力0→300

 

妖仙獣左鎌神柱 攻撃力0→300

 

振り子の軌跡で現れるのは3体のモンスター。そう、3体。それも攻撃力の低い、ティンクル・リトルスターと鳥居コンビだ。折角のペンデュラム召喚にも関わらず、彼が取りそうにない手にデニスが訝しむ。一体何を考えているのか――本気で分からない。

 

「どう言うつもりだい?他のモンスターでもこの布陣を突破出来ると思えないけど――態々戦闘能力の低いモンスターを……しかも2体のみだなんて」

 

「直ぐに分かるさ!『綿毛トークン』を攻撃表示に変更し、永続魔法、『王家の神殿』を発動!1ターンに1度、セットしたばかりの罠の発動を可能にする!さぁ、行くぜ!カードをセット、そしてオープン!これが俺のエンタメだ!対象も取らず、破壊もしない全体に適用するカード!罠発動!『スウィッチヒーロー』!」

 

「――はぁ?」

 

これが――状況を一変する沢渡の奥の手。『王家の神殿』により発動される罠を見て、デニスが思わず目を見開き、そのカードをジッと見つめる。呆れた訳ではない。ただ――予想外。

だが彼の顔色が見る見る内に変わり、大粒の汗が額より伝う。それもその筈、このカードは確かに、沢渡の言う通り、対象も取らず、破壊もしない、全体に通じるカード。そう、敵味方問わず、全体に。その効果は――シンプルに短く。

 

「馬鹿な……!」

 

「効果は知ってるみたいだな?そう、このカードは――互いのフィールドのモンスターの数が同じ場合、そのモンスターのコントロールを、全て入れ替える!」

 

コントロール奪取――条件こそ難しいが、決まればとんでもない爆発力。そう、これで――デニスの完璧とも言える布陣がそのまま、沢渡へと渡る。しかもデニスのフィールドに渡るのは、どれも低攻撃力のモンスター。

 

『な、な、なんとぉーっ!!沢渡 シンゴ、大逆転!完璧と思われた布陣を、予想外の手で攻略したぁーっ!!』

 

巻き起こる歓声が降り注ぎ、沢渡が得意気な顔でポーズを決める。まさに大逆転。まさかの大逆転。誰もが予想だにしない手で、逆境を打ち破った。

 

「トラピーズ・マジシャンのORUを使い、フォース・ウィッチとサンドイッチマンに2回攻撃を与え――バトルだ!トラピーズ・マジシャンとフォース・ウィッチで、二鎌神柱へ攻撃ィ!相棒の手で、目を覚ましやがれぇ!」

 

デニスが信頼するエース、トラピーズ・マジシャンとフォース・ウィッチが主を想ってこそ、全力で空中を駆け、飛び蹴りを放つ。矢のように降り注ぐそれは、デニスを貫き――LPを、削り取る。

 

デニス・マックフィールド LP3200→400→0

 

決着――勝者、沢渡 シンゴ。チーム沢渡は、2回戦へと駒を進め、仲間の心に、その想いを刻んだ。

 

『決まったー!ウィナー、沢渡 シンゴ!大、逆、転ッ!』

 

「……よう、どうだい大将」

 

何時の間にかスモークを上げるデニスのD-ホイールに並ぶように、停止した沢渡がデニスに向かって言葉を投げ掛ける。モクモクと立ち込める白煙が周囲を覆い、2人の存在を視認しているのは互いの存在だ。デニスは大きな溜め息を吐き出し、沢渡へと向き直る。

 

「……まさか、負けるなんてね……あそこで『スウィッチヒーロー』はズルいよ大将」

 

「ふざけんな。オメェの方がよっぽどだ。で、どうする?」

 

「……僕は……」

 

顔を曇らせるデニス。結局、彼の決意まで揺るがす事は出来なかったのだろう。沢渡は顔をしかめ、これ以上は無駄かと諦める。自分では。

 

「……負けたら子分、だったな」

 

「え?」

 

「親分命令だ。お前ちょっと、アカデミアにスパイに行ってこい」

 

「……君は……不器用だね……ありがとう……ごめん」

 

沢渡の親分命令に、僅かに目を見開いた後、デニスは苦笑いし、デュエルディスクに手を伸ばし、パネルを操作する。不器用と言うなら、彼もだろう。「お前にだけは言われたかねぇや」と溢しながら、沢渡はデニスに背を向ける。そして――沢渡の背後から、紫色の光が輝き、デニスは姿を消す。

 

「……バカヤローが……」

 

舌打ちを鳴らし、拳を握り締める。生まれて初めての無力感。それはとても――許容出来るものではなかった。

フレンドシップカップ、1回戦はこれにて3試合が終了し、いよいよ最後の試合となる。対決するカード、赤と白の帽子を被るデュエリストが、激突する。

 

――――――

 

満身創痍とも言える状態で、デニスはアカデミアの城へと帰還する。だが心に刻まれたものの方が遥かに大きい。虚脱感に覆われながら、これからどうしようと苦笑いし、溜め息を吐き出す――その時だった。

 

「おや?もしかして君がデニス君かい?」

 

「!?」

 

不意に背後から声がかけられ、ビクリと肩を震わせる。一体誰だ――クルリと振り返り、暗がりで立つ男を、ジッと見つめる。

顔は見えないが、どうにも不気味な声だ。赤いタキシードを纏った彼は、笑みを溢し、ツカツカとデニスに近づく。見ない男だ。一体何者だろうか。

 

「貴方は……?」

 

「私は最近アカデミアに入った新人でね。怪しむのも無理はない」

 

男はパラパラと手元でカードで遊びながら、赤いタキシードにシルクハット、まるでマジシャンのような出で立ちに、目立つのは緑と黒の縞模様の仮面。その男は恭しく礼をした後、カードの中から1枚引き、デニスへと見せるように翳す。それは――赤いローブを纏った、『ブラック・マジシャン』のカード。男は禁忌の宝箱より、自らの名を取り出す。

 

「私の名はパンドラ。奇術師パンドラとでも、呼んでください」

 

災厄が、ばら撒かれる。




アカデミアの人間は大体面倒臭い性格をしてます。
余りに面倒臭いから1話にしては結構多い文字数となり、2話に分けると中途半端になってしまう程です。おのれデニス。
ちなみに赤馬社長は月影使ってデニスがアカデミアである決定的な証拠を掴もうとしていましたが、迷ってる所見る&沢渡達とワイワイやってるので期を見て引き込もうとしていた模様。アカデミアと連絡先していないなら泳がせとこうみたいな。


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第140話 追われるってのは気分が良い

今回から1週間投稿に戻ります。……戻れるだろうか。休みすぎてどうやって週間投稿してたか分からねぇや。


日が沈み、暗くなった夜のシティにて、ネオンや照明の光がサーキットに揃う二組のチームを照らす。いよいよフレンドシップカップ1回戦も最終試合に入る。

 

挑むのは赤帽子を被った凄腕のデュエリスト、ダニエルもとい、コナミをリーダーとした風魔 月影、トニーのチーム噴水広場仲良し連合。

迎え撃つは白い帽子を被った、コナミと同じ姿をした青年、通称白コナミをリーダーとしたキング、ジャック・アトラスを擁するチーム。チームメンバーの内2人が正体不明、そしてキングが在籍するこのチームは今大会の優勝候補となっている。

 

榊 遊矢に敗北したとは言え、彼の実力は本物だ。偽物なのだが。そんな事も知らぬ観客はジャックの試合とあって誰1人席を離れる事無く、サーキットを食い入るように見つめている。ジャックを最後の試合に回すのはこうして客を帰さない為の計略だろうか。

 

スタートラインにファーストホイーラーである月影がD-ホイールを停止させ、その背後に漆黒と赤に染まったホイール・オブ・フォーチュン、ホイール・オブ・フォーチュン・Dに搭乗したジャック・アトラス・Dが並ぶ。最初から全開と言う事か、月影は警戒心を高める。

 

「まさか1回戦からキングに当たるとは……だがこの月影、負けるつもりは毛頭ない!」

 

「良い気概だ。そうでなくてはつまらん。今宵は月が良く映える。お前も月の字を名に持つなら、この太陽を引き立てるよう、面白い芸を見せろ、忍の者よ」

 

戦意を剥き出しにし、ジャックに堂々と挑戦状を叩きつける月影。対するキングはそれもまた良しと獰猛な笑みを見せ、月影を見下す。

そして――サーキットが光の粒子に包まれ、その光景が変化する。雷鳴轟く、漆黒の伏魔殿。魔王、ジャック・アトラス・Dに相応しき悪魔城の迷宮へと。アクションフィールド『伏魔殿ー悪魔の迷宮』に生まれ変わった。

 

『さぁ、1回戦最後の試合がいよいよ始まる!勝者は王者か?それとも忍者か?準備は良いー?3、2、1!』

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

ドシュンッ、風を切り、2機のD-ホイールが発進する。悪魔の呻き声が飛び交う城の中、コーナーをいち早く切ったのは勿論、ジャック・アトラス・Dだ。彼の愛機は従来のホイール・オブ・フォーチュンよりも大幅に馬力を上げている。彼自身のライディングテクニックもあり、コーナーの取り合いにおいて月影に勝ち目はないだろう。

 

「不覚……!」

 

「当然の結果だ。悲観する事はない。俺は『トリック・デーモン』を召喚!」

 

トリック・デーモン 攻撃力1000→1500

 

現れたのは『デーモン』デッキのキーカードである悪魔の髑髏を被り、蛇のような髪を振るう小柄な少女。アクションフィールドの効果で悪魔族の攻撃力は500アップする。決して安くはない数値。月影にとって厳しい闘いになりそうだ。

 

「そして永続魔法、『補給部隊』を発動!『デーモンの将星』を特殊召喚!」

 

デーモンの将星 攻撃力2500→3000

 

お次は雷を纏った『デーモン』の将。攻撃力3000となり、彼のエース、『レッド・デーモン』と並ぶモンスターとなった。

 

「その後、『トリック・デーモン』を破壊、『トリック・デーモン』の効果で『デーモンの将星』をサーチし、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札3→4

 

損失を抑える見事なプレイング。これでジャックの手札は4枚まで回復した。流石はキングと言った所か、プレイングに無駄がない。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP4000

フィールド『デーモンの将星』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札3

 

「拙者はスケール1の『黄昏の忍者ージョウゲン』と、スケール10の『黄昏の忍者ーカゲン』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

月影の背後に黄金に輝く甲冑を纏い、鎖鎌を持った『忍者』と、筋骨隆々、腕に刃を装着した『忍者』が現れ、天空に光の魔方陣を結び、ペンデュラムによる三日月の軌跡を描く。これでレベル2から9のモンスターを同時に召喚可能、尤も、カゲンの誓約で『忍者』以外のモンスターのペンデュラム召喚は出来ないが。

 

「ほう、ペンデュラムか……」

 

「参る!ペンデュラム召喚!『忍者マスターHANZO』!」

 

忍者マスターHANZO 攻撃力1800

 

振り子の軌跡を描き、1本の輝く柱がフィールドに降り、黒き影が目にも止まらぬ速度で駆け抜ける。現れたのは『忍者』のキーカード。黒き衣を纏った『忍者』だ。

 

「HANZOの特殊召喚時、デッキより『黄昏の忍者将軍ーゲツガ』をサーチし、HANZOをリリース!由緒正しき風魔一族の真の力を思い知るが良い!アドバンス召喚!『黄昏の忍者将軍ーゲツガ』!!」

 

黄昏の忍者将軍ーゲツガ 攻撃力2000

 

そしてHANZOが変化し、登場したのは月影のエースモンスター。夕日と月が交わる旗を背に、月の飾りを模した兜、片眼を隠し、3本の腕で矛を握る『忍者』の将が今、フィールドに君臨し、軍配を振るう。

 

「それがお前のエースか」

 

「左様、拙者は永続魔法、『隠密忍法帖』を発動!手札の『忍者』モンスターを墓地に送り、デッキより永続罠、『機甲忍法ラスト・ミスト』をセットする。そしてゲツガの効果発動!このカードを守備表示に変更し、墓地の『黄昏の忍者ーシンゲツ』とHANZOを蘇生!」

 

黄昏の忍者ーシンゲツ 攻撃力1500

 

忍者マスターHANZO 攻撃力1800

 

ゲツガの命の下に、蘇るのは片眼を隠し、4本の腕で光の刃を振るう『忍者』とHANZOだ。

 

「HANZOの効果により、『白竜の忍者』をサーチ、そして2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!斬り結ぶ魂よ、降りよ!エクシーズ召喚!『機甲忍者ブレード・ハート』!」

 

機甲忍者ブレード・ハート 攻撃力2200

 

2体のモンスターが突如発生した渦に吸い込まれ、小爆発を起こし、赤い鎧を纏った『忍者』を呼ぶ。月影が零児より受け取った新たな力、エクシーズモンスターだ。

 

「ORUを取り除き、ブレード・ハートの2回攻撃を可能に!バトル!ブレード・ハートで将星に攻撃!カゲンのペンデュラム効果で1000、そしてアクションマジック、『オーバー・ソード』により500、ブレード・ハートの攻撃力をアップ!電磁抜刀カスミ斬り!」

 

機甲忍者ブレード・ハート 攻撃力2200→3200→3700

 

ジャック・アトラス・D LP4000→3300

 

ブレード・ハートがフィールドを駆け抜け、2刀の刃を手に将星の背後に回って切り裂き、フィールダメージでクルクルと回転するホイール・オブ・フォーチュン・D、ジャックはこれが当然と言わんばかりに涼しげに笑う。観客としても名物である。

 

『月影先制!このまま攻め込む!』

 

「そよ風が心地良いわ。『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札3→4

 

「ダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ピンポイント・ガード』!『トリック・デーモン』に耐性を与え、蘇生!」

 

トリック・デーモン 守備力0

 

「無駄だ!破壊は出来なくとも――ジョウゲンのペンデュラム効果で貫通ダメージを与える!」

 

「ほう……!」

 

ジャック・アトラス・D LP3300→1100

 

「フハハ……!」

 

ダメージを受け、より一層回転するホイール・オブ・フォーチュン・D。それでもジャックはまるでアトラクションのコーヒーカップを堪能するかのように愉快そうに笑う。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

風魔 月影 LP4000

フィールド『黄昏の忍者将軍ーゲツガ』(守備表示)『機甲忍者ブレード・ハート』(攻撃表示)

『隠密忍法帖』セット2

Pゾーン『黄昏の忍者ージョウゲン』『黄昏の忍者ーカゲン』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「永続罠、『機甲忍法ラスト・ミスト』!『忍者』モンスターが存在する場合、相手が特殊召喚したモンスターの攻撃力は半分になる!」

 

「栓なき事……と一笑にふしたいが、それは少々厄介だな。『デーモンの将星』を特殊召喚!」

 

デーモンの将星 攻撃力2500→3000→1500

 

「『トリック・デーモン』を破壊し、『戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン』をサーチ、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札5→6

 

「そして元々の攻守を半減し、『戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン』を妥協召喚!」

 

戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン 攻撃力1500→2000

 

そして魔王城に君臨するのは紫の巨躯を持ち、肩や背中から角を伸ばし、膝に髑髏と赤い宝石を埋め込まれた魔剣を握る創世の魔王だ。

 

「凶皇の効果!墓地の将星を除外し、ラスト・ミストを破壊!更にアクションフィールド、『伏魔殿ー悪魔の迷宮』の効果発動!凶皇を対象とし、それ以外の悪魔族モンスター、将星を除外、デッキより対象と同じレベルの『デーモン』を呼び出す!来い!2体目の凶皇!」

 

戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン 攻撃力3000→3500

 

「永続罠、『忍法分身の術』を発動!ゲツガをリリースし、デッキより『忍者マスターHANZO』を2体リクルートする!」

 

忍者マスターHANZO 攻撃力1800×2

 

「特殊召喚時、効果でゲツガと『機甲忍者アース』をサーチ!」

 

「そう来るか、魔法カード、『アドバンスドロー』!1体目の凶皇をリリースし、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札4→6

 

「速攻魔法、『手札断札』を発動。互いに手札を2枚入れ替える。凶皇の効果により、『トリック・デーモン』を除外し、カゲンを破壊!バトルに入る!凶皇でブレード・ハートを攻撃!」

 

風魔 月影 LP4000→2700

 

「ぐぬっ……!これしき……!」

 

凶皇の魔剣の一撃が迷宮ごとブレード・ハートを一刀両断し、ダメージが月影を襲う。鋭い攻撃であるが、まだまだ月影の有利だ。

 

「メインフェイズ2、カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP1100

フィールド『戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札3

 

「拙者のターン、ドロー!永続魔法、『冥界の宝札』を発動!HANZO2体をリリースし、アドバンス召喚!『白竜の忍者』!」

 

白竜の忍者 攻撃力2700

 

ドロンと2体の『忍者』が煙と消え、中より裂いて現れたのは光の東洋龍を連れた中性的な顔立ちのくノ一だ。上級『忍者』の中でもゲツガに続き、優秀な効果を持っており、攻防において立ち回れる。

 

「『冥界の宝札』の効果で2枚ドロー!」

 

風魔 月影 手札2→4

 

「分身の術をコストに、魔法カード、『マジック・プランター』!2枚ドロー!」

 

風魔 月影 手札3→5

 

「そしてカゲンをセッティング!ペンデュラム召喚!『黄昏の忍者将軍ーゲツガ』!!『黄昏の中忍ーニチリン』!」

 

黄昏の忍者将軍ーゲツガ 攻撃力2000

 

黄昏の中忍ーニチリン 攻撃力2300

 

続け様、怒濤の勢いで2体の『忍者』が姿を見せる。月と太陽、黄昏時の『忍者』だ。

 

「ゲツガの効果!守備表示に変更し、2体のHANZOを蘇生!」

 

忍者マスターHANZO 攻撃力1800×2

 

「効果で『機甲忍者アクア』を2枚サーチする!そして『隠密忍法帖』の効果発動!アクアを墓地へ送り、2枚目のラスト・ミストをセットする!まだまだ!2体のHANZOでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『機甲忍者ブレード・ハート』!」

 

機甲忍者ブレード・ハート 攻撃力2200

 

「ORUを1つ使い、『白竜の忍者』の2回攻撃を可能とし、バトルに入る!」

 

「この瞬間、罠発動!『闇の閃光』!凶皇をリリースし、このターン特殊召喚されたモンスターを全て破壊!」

 

「させぬ!ニチリンの効果!手札のアクアを捨て、このターン、『忍者』と『忍法』カードに戦闘、効果破壊耐性を与える!」

 

「これを越えて来るか……面白い……!」

 

「『白竜の忍者』で、ダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

相次ぐカードの応酬が炸裂し、息もつかせぬデュエルを演出する。風魔 月影、ジャック・アトラス・Dを相手にここまで食い下がるとは。観客も予想外の善戦に盛り上がり、ジャック・Dもニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

『何てハイレベルなデュエルでしょう!どちらも一歩たりとも譲りません!』

 

『だが現状は月影の有利!その布陣は鉄のように硬い!』

 

「ターンエンド」

 

風魔 月影 LP2700

フィールド『黄昏の忍者将軍ーゲツガ』(守備表示)『黄昏の中忍ーニチリン』(攻撃表示)『機甲忍者ブレード・ハート』(攻撃表示)『白竜の忍者』

『隠密忍法帖』『冥界の宝札』セット1

Pゾーン『黄昏の忍者ージョウゲン』『黄昏の忍者ーカゲン』

手札2

 

MCの言う通り、現在の月影のフィールドは堅牢な城のように強固になっている。『忍者』を蘇生するゲツガに、戦闘、効果破壊耐性、攻撃力アップを付与するニチリン、2回攻撃付与のブレード・ハート、更には魔法、罠に破壊耐性付与の『白竜の忍者』により、ペンデュラムまでも守られ、セットカードは特殊召喚したモンスターの攻撃力を半減するラスト・ミスト。更に更にぃ、墓地にはダイレクトアタックを無効にするアクアが2枚。一切相手の関与を受け付けないと言わんばかりの戦略だ。

だがこの男はキング、ジャック・アトラス・D。ナチュラルボーンキングは面白いと笑みを浮かべ、圧倒的な力で捩じ伏せる。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「永続罠、『機甲忍法ラスト・ミスト』を発動!」

 

「心が踊る。流石は忍びと言った所か、芸達者な男よ。褒美として、特等席で、このジャック・アトラス・Dの!空前絶後のエンターテイメントをお見せしよう!俺は『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700→2200

 

現れたのは炎の鬣を持つ黒馬。自身のフィールドにモンスターが存在しない時こそ、真価を発揮する。

 

「効果で墓地から『レッド・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

次は音叉とステッキを振るう、黒炎のローブを纏った小悪魔。ジャックのデッキを代表するチューナーモンスターであり、汎用レベル2チューナーの中ではかなり優秀なカードだ。

 

「特殊召喚時、『白竜の忍者』の攻撃力分、LPを回復!」

 

ジャック・アトラス・D LP1100→3800

 

この『レッド・リゾネーター』が、ジャック戦において厄介だ。召喚時は『切り込み隊長』と同じ展開効果。特殊召喚ならば敵味方問わず強力なモンスターの攻撃力をLPに変換する回復する。臨機応変で優秀なモンスター。このカードが存在する限り、ジャック相手に長期戦は禁物となる。

 

「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100→1050

 

シンクロ召喚。『レッド・リゾネーター』が音叉を鳴らすと共にその小さな体が2つの光のリングとなって弾け飛び、『レッド・スプリンター』を包み込んで閃光が炸裂する。中より姿を見せたのは、炎に包まれた悪魔竜。彼のエース、『レッド・デーモン』の姿を模したようなモンスターだ。

 

「シンクロ召喚時、墓地から『レッド・リゾネーター』を吊り上げる」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「刮目せよ!俺はレベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!漆黒の闇を裂き天地を焼き尽くす孤高の絶対なる王者よ!万物を睥睨しその猛威を振るえ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000→1500

 

そして――ジャック・アトラス・Dの絶対的信頼を受けるエースモンスターが君臨する。悪魔の角を伸ばし、巨大な翼で天を覆う、赤黒の体躯を誇る魔王竜。身体に走る赤のラインが、月光の下で映える。

 

「スカーライトではない……!?」

 

『おおっと、このモンスターは一体何だ!?ジャックの新たなエースでしょうか!?』

 

「攻撃力が半分になっているのが残念だ。俺は『シンクローン・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

「そしてレベル8の『レッド・デーモン』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!深淵の闇より解き放たれし魔王よ!その憤怒を爆散させよ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200→1600

 

更に進化、『レッド・デーモン』が進化の階段を駆け上がり、巨大な体躯、鋭い角、そして腕に斧のような刃を伸ばした『レッド・デーモン』へと生まれ変わる。だがそれでもラスト・ミストがある限り、弱体化からは逃れられない。

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果で墓地の『レッド・リゾネーター』をサルベージ!アビスの効果でラスト・ミストを無効に!」

 

「しかしそれでは遅いのではないか?既にアビスは半減している!」

 

「痛い所を突いてくるわ、こやつめ。フハハ。魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を交換。安心しろ手はある!魔法カード、『復活の福音』!墓地のレベル8のドラゴン族モンスター、『炎魔竜レッド・デーモン』を蘇生!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

再びフィールドに舞い戻る魔王竜。これで2体の竜が揃った。凄まじい威圧感だ。アビスも半減していると言うのに冷や汗が止まらない。

 

「効果発動!このカード以外の攻撃表示のモンスターを全て破壊する!真紅の地獄炎!」

 

「させん!手札の『忍者』を捨て、ニチリンの効果発動!『忍者』と『忍法』を守る!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→2

 

「そう、そうするしかない。貴様の手札が尽きるまで、何度でも焼き尽くしてくれるわ!」

 

『レッド・デーモン』が腕を振るうと共に獄炎が地より噴き出し、『忍者』を焼き尽くそうと津波の如く襲いかかるが――ニチリンが額の飾りを発光させ、光のバリアで破壊を防ぐ。

 

「バトル!『炎魔竜レッド・デーモン』でブレード・ハートを攻撃!極獄の裁き!」

 

風魔 月影 LP2700→1800

 

『レッド・デーモン』のブレスがブレード・ハートに襲いかかり、僅かに鎧を溶かし、月影にダメージを与える。如何に耐性を与えられても攻撃力では『レッド・デーモン』が上、ダメージが無効に出来ない以上、こうなる事は必然だ。

 

「魔法カード、『死者蘇生』!蘇れ!アビスよ!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

そして再びアビスが『レッド・デーモン』の隣に並ぶ。ただでさえ強力な『レッド・デーモン』に無効化効果を持たせたカード。攻めにも守りにも転じれるこのカードは早めに処理しておきたいカードだ。

 

「速攻魔法、『魔力の泉』。貴様のフィールドの表側表示の魔法、罠の数6枚ドローし、俺のフィールドの表側表示の魔法、罠の数3枚を墓地へ」

 

ジャック・アトラス・D 手札0→6→3

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換。速攻魔法、『リロード』。更に手札を交換。ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP3800

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン』(攻撃表示)『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)

『補給部隊』

手札1

 

『ジャック見事なプレイング!たった1枚のカード、アビスで月影を牽制する!』

 

『攻撃力も高く、ペンデュラム効果も無効にされる訳だ!これは月影、辛いか!』

 

その通り、月影にかかったプレッシャーは大きい。例えカゲンとニチリンの効果で攻撃力をアップしても、ニチリンの時点で止められる。1度の破壊耐性を与える『復活の福音』が墓地にある以上、破壊は出来ず、次のターン、ニチリンで防ごうとアビスで無効にされる。かと言ってアビスを倒しても、残った『レッド・デーモン』が全体破壊を行う。考え抜け――どうにかする方法を――。

 

「拙者のターン、ドロー!魔法カード、『アームズ・ホール』!装備魔法、『風魔手裏剣』をサーチ!白竜に装備!攻撃力を700アップ!」

 

白竜の忍者 攻撃力2700→3400

 

「ほう……そう来たか」

 

「ブレード・ハートの効果により、ORUを取り除き、白竜に2回攻撃権を与える!」

 

「そちらを止めよう、アビスの効果で無効!」

 

「バトル!白竜でアビスへ攻撃!」

 

「『復活の福音』を除外し、防ぐ」

 

「だがダメージは受けてもらう!」

 

ジャック・アトラス・D LP3800→3600

 

白竜による攻撃がアビスの腹部に叩き込まれ、ズザザと土煙を巻き上げ飛び退く。これで破壊耐性はなくなった。どちらを処理すべきか、無効のアビスか、破壊の『レッド・デーモン』か。

 

「アビスだ!損失はゲツガで取り戻せる!ニチリンで攻撃!カゲンのペンデュラム効果で攻撃力を1000アップ!」

 

黄昏の中忍ーニチリン 攻撃力2300→3300

 

ジャック・アトラス・D LP3600→3500

 

「ふむ……賢明にして大胆……良いだろう、俺も『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→2

 

「ブレード・ハートで自爆特攻!」

 

「む、アクションマジック、『回避』!攻撃を無効に!」

 

「ターンエンドだ!」

 

風魔 月影 LP1800

フィールド『黄昏の忍者将軍ーゲツガ』(守備表示)『黄昏の中忍ーニチリン』(攻撃表示)『機甲忍者ブレード・ハート』(攻撃表示)『白竜の忍者』(攻撃表示)

『風魔手裏剣』『隠密忍法帖』『冥界の宝札』『機甲忍法ラスト・ミスト』

Pゾーン『黄昏の忍者ージョウゲン』『黄昏の忍者ーカゲン』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『レッド・デーモン』の効果発動!焼き尽くせ!」

 

「手札に『忍者』カードはない。白竜と共に墓地に送られた『風魔手裏剣』の効果で相手に700のダメージを与える!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D LP3500→2800 手札2→3

 

「かゆいわ」

 

一刀両断。『レッド・デーモン』が手刀を振り下ろすと共に地面より溢れ出したマグマが月影のモンスターを破壊する。残るはゲツガ1体のみ。だが『レッド・デーモン』とゲツガの攻守は同じだ。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP2800

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札2

 

「拙者のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!手札を交換、ゲツガを攻撃表示に変更し、効果発動!墓地のHANZOを――」

 

「永続罠発動!『デモンズ・チェーン』!」

 

「ッ!?」

 

ゲツガの効果により、再び優位に立とうとした月影だが、逆に効果発動の為に攻撃表示にしなければならないと言う隙を突かれ、異次元の渦より鎖が飛び出し、ゲツガを絡み取って動きを封じる。最悪の展開だ。損失を取り戻す?それを知って尚、ジャック・Dが放置してくれる等。考えが甘かった。ジャック・Dは眠そうな眼で月影へ視線を移し、片手をハンドルの上に乗せ、頬杖をつく。

 

「それは飽きた。もっと他の芸を見せてみよ」

 

「ッ!言ってくれる……!魔法カード、『アドバンスドロー』!ゲツガをリリースし、2枚ドロー!」

 

風魔 月影 手札0→2

 

「更に墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『冥界の宝札』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

風魔 月影 手札2→3

 

「ペンデュラム召喚!『黄昏の忍者ージョウゲン』!」

 

黄昏の忍者ージョウゲン 攻撃力2000

 

「バトルだ!ジョウゲンで『レッド・デーモン』へ攻撃!カゲンのペンデュラム効果発動!」

 

「そこまでして相撃ちか、涙ぐましいな。良いだろう」

 

黄昏の忍者ージョウゲン 攻撃力2000→3000

 

ジョウゲンの決死の特攻が炸裂し、『レッド・デーモン』の胸部に風穴が空き、ジョウゲンが攻撃の反動で崩れ落ちる。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札2→3

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド!『シャッフル・リボーン』のデメリットで手札を除外」

 

風魔 月影 LP1800

フィールド

『隠密忍法帖』『機甲忍法ラスト・ミスト』セット1

Pゾーン『黄昏の忍者ージョウゲン』『黄昏の忍者ーカゲン』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札3→5

 

「速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!手札を1枚捨て、『隠密忍法帖』とラスト・ミストを破壊する!」

 

「ぐっ――!」

 

これでラスト・ミストをサーチ出来る『隠密忍法帖』を破壊、ラスト・ミスト自身も砕け散った。攻撃力半減がなくなり、ジャック・D本来のパワーデュエルを思う存分振るう事が可能となった。解き放たれし魔物が獰猛に笑みを浮かべ、牙を剥く。

 

「『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700→2200

 

「墓地の『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「スプリンターの攻撃力分回復!」

 

ジャック・アトラス・D LP2800→5000

 

やはりこの効果は厄介だ。ダメージを入れても入れてもこの『リゾネーター』がある限り、直ぐ様取り戻す。ジャック・Dを倒す方法はワンショットキル位のものだろうが――パワーデュエルばかりと思われるジャック・Dはその実、防御に関しても優れている。そこまで至る道は苦難だろう。遊矢がジャックを倒せたのも対策を行い、自分のデュエルを伸ばし、ペースを掴んだ上で運が良かったから。奇跡に奇跡を重ねた結果だ。格上である事は変わらない。しかも――彼等は知らないが、このジャック・アトラス・Dはジャック・アトラスの更に上を往く。

 

「レベル4の『レッド・スプリンター』にレベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!赤き魂、ここに1つとなる!王者の雄叫びに震撼せよ!シンクロ召喚!現れろ、『レッド・ワイバーン』!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

現れたのは魔王竜の忠実な僕である、真紅のに染まった翼竜だ。後頭部から火炎を吹かし、けたたましい雄叫びを放つ。

 

「バトル!『レッド・ワイバーン』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『聖なるバリアーミラーフォースー』!『レッド・ワイバーン』を破壊!」

 

「足掻くか……『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札2→3

 

「カードをセット。どこまでもつかな?ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP5000

フィールド

『補給部隊』セット1

手札2

 

「拙者のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『黄昏の忍者ージョウゲン』!『黄昏の中忍ーニチリン』!」

 

黄昏の忍者ージョウゲン 攻撃力2000

 

黄昏の中忍ーニチリン 攻撃力2300

 

「バトル!ニチリンで攻撃!カゲンのペンデュラム効果発動!」

 

黄昏の中忍ーニチリン 攻撃力2300→3300

 

「ぐっ――!永続罠発動!『銀幕の鏡壁』!貴様の攻撃モンスターの攻撃力を半分にする!」

 

黄昏の忍者ーニチリン 攻撃力3300→1650

 

ジャック・アトラス・D LP5000→3350

 

ニチリンが掌に気を集め、円盤上の刃、ソーサーにして投擲、ジャック・Dのホイール・オブ・フォーチュン・Dにぶつかり、激しく回転する。危うく腰がもげかけそうになった。

 

「ジョウゲンでダイレクトアタック!」

 

黄昏の忍者ージョウゲン 攻撃力2000→1000

 

ジャック・アトラス・D LP3350→2350

 

「おぉぉぉぉっ!?」

 

『月影猛攻ーっ!意地を見せる!流石のジャックもこれには堪らないか!?』

 

『残りは2350!削り切れるか!?』

 

続け様のジョウゲンの鎖鎌がLPを刈り取る。残り2350、隙が見えて来たが、ここで逃したのは辛い。

 

「ターンエンドだ!」

 

風魔 月影 LP1800

フィールド『黄昏の忍者ージョウゲン』(攻撃表示)『黄昏の中忍ーニチリン』(攻撃表示)

Pゾーン『黄昏の忍者ージョウゲン』『黄昏の忍者ーカゲン』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、『銀幕の鏡壁』のライフコストを払う!」

 

ジャック・アトラス・D LP2350→350

 

「クク、血沸き肉踊るわ……!これこそがデュエル!己の確固たる信念をぶつけ合い、今まで闘った記憶をさらけ出す!駆け引き、戦略、運を総動員する究極にして至高のエンターテイメント!これが俺の求めたもの!もっと味わわせてもらうぞ!貴様等全員、骨の髄までしゃぶり尽くしてくれるわ!」

 

『ジャック大胆にも3人抜きを宣言!果たして誓約は果たされるか!』

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!銀幕を捨て、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札2→4

 

「魔法カード、『手札抹殺』!手札を全て捨て、その分ドロー!墓地へ送られた『髑髏顔天道虫』の効果で1000回復!」

 

ジャック・アトラス LP350→1350

 

「俺は奴とは違うんでな!全員引き摺り出してやろう。魔法カード、『復活の福音』!舞い戻れ!我が魂!『炎魔竜レッド・デーモン』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

「効果発動!その身を我が竜に捧げよ!」

 

蘇った赤き悪魔の獄炎が『忍者』を食らうように呑み込む。剥き出しの状態――防ぐ手立ては、ある。

 

「ダイレクトアタック!」

 

『墓地のアクアを除外し、攻撃を無効に!』

 

「アクションマジック、『オーバー・ソード』!『レッド・デーモン』の攻撃力を500アップし、攻撃は無効化されない!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000→3500

 

風魔 月影 LP1800→0

 

しかし――ジャックは更に上を往く。紅蓮の炎が月影を呑み込み、LPが0を刻む。勝者、ジャック・アトラス・D。魔王が今、蹂躙の音を踏み鳴らす――。

 




少々迷いましたが月影のエクストラデッキにブレード・ハート追加。これでノーエクストラは沢渡さんだけになりました。なのに何で沢渡さんって半端なエクストラありなデュエリストより強いんだろ……?


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第141話 圧倒的力を持って食らい、血を啜る!

雷鳴轟く魔王の居城と化したサーキットにて、その主たるジャック・アトラス・Dの笑い声が木霊する。3対3のアクションライディングチームデュエル。見事に彼等に先制されてしまった。ファーストホイーラーである月影も健闘したものの、彼の圧倒的とも言えるパワーデュエルに捩じ伏せられてしまった。

月影は白煙を上げるD-ホイールを何とか動かせ、ピットまで辿り着く。後はセカンドホイーラーたるトニーに任せるしかない。

 

「すまぬ、コナミ殿、トニー殿。拙者が不甲斐ないばかりに……!」

 

「いや、良くやってくれた。かなり消耗させられただろうしな。相手もジャックをファーストホイーラーに置いていると言う事は好き勝手暴れてこちらの戦力を削るつもりなんだろう。ここで止めたい。頑張れトニー、お前なら出来る」

 

「お前、俺の何を知ってるの?」

 

ポン、とD-ホイールに跨がり、準備をするトニーの肩に手を置くコナミ。だが彼等は会ったばかり。トニーが半眼で馴れ馴れしくするコナミを睨むのも無理はない。

 

「言われなくたってやってやるさ。シンジ達は遊矢って奴に任せたみたいだし、目標を見失っちまったけど、ジャックには一泡吹かせてやりたいからな」

 

「その意気だトニー」

 

「お前、俺の何なの?」

 

自嘲するように笑うトニーの肩にポン、と手を置くコナミ。馴れ馴れしい奴である。トニーは何なんだろうコイツ、と呆れながらD-ホイールを発進させ、ジャック・Dのホイール・オブ・フォーチュン・Dへと追い縋る。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

始まるジャックとトニーのデュエル。手負いの竜を相手に、されどトニーは全力で立ち向かう。相手はジャック・アトラスだ。後少しでLPを削り取れるとは言え、油断は出来ない。

 

「俺のターン、ドロー!俺は速攻魔法、『手札断札』を発動!互いに手札を2枚捨て、2枚ドロー!『ゾンビ・マスター』を召喚!」

 

ゾンビ・マスター 攻撃力1800

 

現れたのはボロ布のような衣服を纏った銀髪の青年。自身も不死の肉体となった死霊使いだ。このカードを見るに、トニーのデッキはアンデット族デッキなのだろう。墓地肥やしや蘇生手段が多く、展開力に長けるデッキだ。反面、ジャックを相手にするならば打点に不安が残り、展開力が逆に『レッド・デーモン』の効果の的になりかねない。

 

「効果発動!手札を1枚捨て、墓地の『午頭鬼』を特殊召喚する!」

 

午頭鬼 攻撃力1700

 

次は牛の頭を持つ黒い鬼。雄々しい肉体を見せつけるように現れ、『ゾンビ・マスター』の隣に並ぶ。少しずつ、展開力が上がる。

 

「『午頭鬼』の効果!デッキからアンデット族モンスター、『ゾンビキャリア』を墓地に送る!『ゾンビキャリア』の効果発動!手札1枚をデッキトップに戻す事で蘇生!」

 

ゾンビキャリア 守備力200

 

今度は人やゴリラ、馬に蜥蜴等のパーツを組み合わせた醜いキメラのゾンビだ。シンクロ中心のアンデット族において、これ以上ないキーカードで、優秀なチューナーだ。今では少々主戦力から外れる事もあるが、それども自己蘇生が可能なチューナー、弱い事はない。

これでフィールドにレベル4のモンスター2体とレベル2のチューナーが1体、レベル6か10のシンクロが可能となった。

 

「レベル4の『ゾンビ・マスター』と、『午頭鬼』に、レベル2の『ゾンビキャリア』をチューニング!シンクロ召喚!『炎神ー不知火』!」

 

炎神ー不知火 攻撃力3500

 

シンクロ召喚、現れたのはいきなりのレベル10、炎で作られた馬に跨がった整った顔立ちに白髪の武者。攻撃力は何と3500、『レッド・デーモン』をも越える数値だ。これは何とも頼もしい。

 

「そして『午頭鬼』の効果発動!墓地の『ゾンビ・マスター』を除外し、手札から『地獄の門番イル・ブラッド』を特殊召喚!」

 

地獄の門番イル・ブラッド 攻撃力2100

 

更に展開、囚人服に足枷をつけた巨大な人型モンスターがフィールドに現れる。チャックの中から巨大な顔が覗いており、恐怖を煽られる。

 

「バトル!炎神で『レッド・デーモン』に攻撃!」

 

「墓地の福音を除外し、破壊を防ぐ!」

 

ジャック・アトラス・D LP1350→850

 

武者が跨がる炎馬が蹄を鳴らして駆け、若武者が鋭い白刃を振るい、赤い魔竜を地面に叩きつける。肩口からバッサリと切り裂かれ、血飛沫が宙を舞う。後残り、850――。この我儘王者の好きにさせてなるのかとトニーが奮闘する。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

トニー LP4000

フィールド『炎神ー不知火』(攻撃表示)『地獄の門番イル・ブラッド』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『黄昏の忍者ージョウゲン』『黄昏の忍者ーカゲン』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!俺は『戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン』を妥協召喚!」

 

戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン 攻撃力1500→2000

 

「墓地の『ヘル・エンプレス・デーモン』を除外し、セットカードを破壊!」

 

「罠発動!『因果切断』!手札のアクションマジックを捨て、『レッド・デーモン』を除外!」

 

「ほう……中々どうしてやるものだ。魔法カード、『アドバンスドロー』!凶皇をリリースし、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→3

 

「更に俺は速攻魔法、『デーモンとの駆け引き』を発動!レベル8以上の自分モンスターが墓地に送られたターン、デッキより『バーサーク・デッド・ドラゴン』を特殊召喚する!さぁ、ゲストの登場だ!血に誘われし飢えた竜よ!舞台に駆け上がれ!」

 

バーサーク・デッド・ドラゴン 攻撃力3500

 

強者の血肉を貪り食い、フィールドに現れたのは肉を削ぎ落とした黒き骨の体躯と翼を持つ不気味なモンスター。本来であればジャック・Dのカードではなく、伝説のデュエリストを苦しめたモンスター。だが――彼のデッキとの相性から、プラシドがジャックに授けたカードだ。

 

「バトルだ!『バーサーク・デッド・ドラゴン』でイル・ブラッドへ攻撃!貪り食らえ!知性なき竜よ!」

 

トニー LP4000→2600

 

「ぐっ――!」

 

狂気の竜が暴れ狂い、トニーのフィールドで構える門番に掴みかかり、死肉にも関わらず牙を突き立て、バリバリと食らい、咀嚼する。何ともおぞましい光景だ。あのジャック・アトラスがこのようなカードを使うとは。

 

「更に炎神へ攻撃!この瞬間、アクションマジック、『フレイム・チェーン』を発動!炎神の攻撃力を400ダウン!」

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!戦闘ダメージを0に!」

 

炎神ー不知火 攻撃力3500→3100

 

「良き力だ。俺はカードを2枚セットし、ターンエンドだ。この瞬間、『バーサーク・デッド・ドラゴン』の攻撃力は500下がる」

 

バーサーク・デッド・ドラゴン 攻撃力3500→3000

 

ジャック・アトラス・D LP850

フィールド『バーサーク・デッド・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「くそっ、俺のターン、ドロー!こんなモンスターまでいたなんて……!魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

トニー 手札0→3

 

「モンスターをセット、永続魔法、『強欲なカケラ』と『補給部隊』を発動し、ターンエンドだ」

 

トニー LP2600

フィールド セットモンスター

『強欲なカケラ』『補給部隊』

手札0

Pゾーン『黄昏の忍者ージョウゲン』『黄昏の忍者ーカゲン』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ!『バーサーク・デッド・ドラゴン』でセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『スケープ・ゴースト』!リバース効果で4体の『黒羊トークン』を特殊召喚する!更に『補給部隊』の効果でドロー!」

 

黒羊トークン 守備力0×4

 

トニー 手札0→1

 

黒炎を纏った魔竜が雄叫びを上げ、鋭い爪をセットモンスターめがけて振るう。と、その時、セットモンスターである『スケープ・ゴースト』にスカリと爪が空振る。霊体であると言う事だろう。当たりはしても煙のように溶けるのみ。そのまま4体に分裂し、魔竜を惑わす。

レベル1、闇属性、攻守0とステータスと効果に恵まれたチューナーだ。フィールドに残ればレベル2から5のシンクロモンスターに繋げられる。

 

「迷える子羊か、ならば俺が導いてやろう、竜の腸にな!『バーサーク・デッド・ドラゴン』は全てのモンスターに攻撃が出来る!死肉を貪れ!」

 

だが、トニーがこのモンスターで『黒羊トークン』を壁とし、次のターンに繋ごうとした策も見事看破され、全てのトークンが『バーサーク・デッド・ドラゴン』に食われてしまう。最悪だ。これで再びトニーのモンスターが0となった。

 

「これで終われると思うなよ?貴様が相手にしているのら、キング・オブ・キングなのだからな!永続罠、『闇次元の解放』!復活せよ!『レッド・デーモン』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

「ここで……!」

 

「『レッド・デーモン』でダイレクトアタック!」

 

「ッ、アクションマジック、『回避』!」

 

「くく、どこまでもつかな?貴様も俺を楽しませてくれ。ターンエンドだ。『バーサーク・デッド・ドラゴン』の攻撃力がダウンする」

 

バーサーク・デッド・ドラゴン 攻撃力3000→2500

 

ジャック・アトラス・D LP850

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン』(攻撃表示)『バーサーク・デッド・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』『闇次元の解放』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!このドローの瞬間、『強欲なカケラ』に強欲カウンターが1つ乗る!」

 

強欲なカケラ 強欲カウンター0→1

 

「俺はモンスターをセット、カードをセットし、ターンエンドだ」

 

トニー LP2600

フィールド セットモンスター

『強欲なカケラ』『補給部隊』セット1

Pゾーン『黄昏の忍者ージョウゲン』『黄昏の忍者ーカゲン』

手札0

 

「随分と消極的だな。俺のLPは残り850、攻め時だぞ?そちらが来ないなら――こっちから行ってやろう!俺のターン、ドロー!カードをセット!やれ、『バーサーク・デッド・ドラゴン』!セットモンスターに攻撃!」

 

「セットモンスターは『カードガンナー』!破壊された事でドロー!『補給部隊』の効果でもう1枚ドロー!」

 

トニー 手札0→1→2

 

「『レッド・デーモン』でダイレクトアタック!」

 

「永続罠発動!『デプス・アミュレット』!手札を1枚捨て、相手モンスター1体の攻撃を無効に!」

 

「ほう?速攻魔法、『神秘の中華なべ』!『バーサーク・デッド・ドラゴン』をリリースし、攻撃力2500をLPに変換する!」

 

「何だって……!?くそっ……!」

 

ジャック・アトラス・D LP850→3350

 

ここでジャックが最早これ以上弱体化しては使い物にならないと判断したのか、『バーサーク・デッド・ドラゴン』をLPに変換する。LPが回復し、3350。折角月影が削ったLPが……とトニーが悔しさと申し訳なさで唇を噛み締める。

 

「ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP3350

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン』(攻撃表示)

『補給部隊』『闇次元の解放』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『強欲なカケラ』にカウンターが乗る!」

 

強欲なカケラ 強欲カウンター1→2

 

「そしてカウンターが2つ乗ったカケラを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

トニー 手札2→4

 

「魔法カード、『手札抹殺』を発動し、『終末の騎士』を召喚!」

 

終末の騎士 攻撃力1400

 

「効果発動!効果発動!デッキから『ゾンビキャリア』を墓地に!そして『ゾンビキャリア』の効果でカード1枚をデッキトップに戻し、蘇生!」

 

ゾンビキャリア 守備力200

 

「フィールド魔法、『アンデット・ワールド』を発動!フィールドと墓地のモンスターは全てアンデット族となる!」

 

トニーのフィールドゾーンにフィールド魔法が張り替えられ、魔王城の壁も腐敗し、より恐ろしさが増す。これで実質、アクションフィールドの効果は封じられ、ジャックの優位さはなくなった。ここからはトニーの舞台だ。死者が悪魔に襲いかかる。

 

「レベル4の『終末の騎士』に、レベル2の『ゾンビキャリア』をチューニング!シンクロ召喚!『デスカイザー・ドラゴン』!!」

 

デスカイザー・ドラゴン 攻撃力2400

 

現れたのはトニーのエースモンスター。生前の覇気はそのままに、肉が腐敗し、死して尚闘う死皇帝竜。胸には赤いコアを、骨の鎧を纏い、破れた翼を広げて帝王が蘇る。

 

「特殊召喚時、相手の墓地のアンデット族モンスターを自分フィールドに特殊召喚する!来い、『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

「俺に牙を剥けるか、『レッド・デーモン』よ……面白い、それもまた良し。前から見る雄姿は中々のもの……アンデットとなっているのがアレだがな」

 

トニーのフィールドに獄炎が昇り、中より進化した『レッド・デーモン』がアンデット化して現れる。強力な切り札も奪われてしまえばそれまでだ。

 

「バトルだ!アビスで『レッド・デーモン』へ攻撃!」

 

「手札の『ブルータル・レッド』を墓地に送り、『レッド・デーモン』に戦闘、効果破壊耐性を与え、その後攻撃力を1000アップする」

 

ジャック・アトラス・D LP3350→3150

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000→4000

 

互いのフィールドに別たれた炎魔竜が拳に炎を纏い、魔王城と化したサーキットでぶつかり合う。凄まじいド迫力、圧倒的なパワーデュエルに観客が盛り上がる。これこそがジャックのデュエルに求められるものだ。

 

「アビスの効果で『スケープ・ゴースト』を蘇生!」

 

スケープ・ゴースト 守備力0

 

「破壊は出来なかったか……ターンエンド!」

 

トニー LP2600

フィールド『デスカイザー・ドラゴン』(攻撃表示)『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)『スケープ・ゴースト』(守備表示)

『補給部隊』『デプス・アミュレット』

Pゾーン『黄昏の忍者ージョウゲン』『黄昏の忍者ーカゲン』

『アンデット・ワールド』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『レッド・デーモン』の効果発動!」

 

「アビスの効果で無効にする!」

 

『レッド・デーモン』が腕を振るい、獄炎で全てを焼き払おうとするも、アビスが強引に腕を掴み、頭を抑え、地に叩きつけて動きを封じる。効果は封じた。しかし――。

 

「攻撃は封じられん!バトルだ!『レッド・デーモン』で『デスカイザー・ドラゴン』へ攻撃!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外し、攻撃を『スケープ・ゴースト』に移行!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

トニー 手札0→1

 

「チッ、カードをセット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP3150

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン』(攻撃表示)

『補給部隊』『闇次元の解放』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!アビスで『補給部隊』を無効化し、速攻魔法、『サイクロン』!『闇次元の解放』を破壊!バトルだ!アビスでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『リジェクト・リボーン』!相手モンスターのダイレクトアタック時、墓地のシンクロモンスターとチューナーを蘇生する!来い、『レッド・ワイバーン』!『シンクローン・リゾネーター』!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

「くっ、流石に固いな……アビスの効果を取っておくべきだったか……ターンエンド!」

 

「罠発動!『貪欲な瓶』!墓地のカードを5枚回収し、1枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札0→1

 

トニー LP2600

フィールド『デスカイザー・ドラゴン』(攻撃表示)『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)

『補給部隊』『デプス・アミュレット』

Pゾーン『黄昏の忍者ージョウゲン』『黄昏の忍者ーカゲン』

『アンデット・ワールド』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『地砕き』!」

 

「アビスで無効に!」

 

「速攻魔法、『魔力の泉』!5枚ドローし、3枚捨てる!」

 

ジャック・アトラス・D 手札0→5→2

 

「速攻魔法、『コズミック・サイクロン』!LPを1000払い、『アンデット・ワールド』を除外!」

 

ジャック・アトラス・D LP3150→2150

 

「そんな事をしてもアビスは戻らないぜ?」

 

「分かっている。俺はただ、本来の輝きを取り戻したまで。アビスも、俺のモンスターも!レベル6の『レッド・ワイバーン』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!王者の叫びが木霊する!勝利の鉄槌よ、大地を砕け!シンクロ召喚!羽ばたけ、『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』!」

 

エクスプロード・ウィング・ドラゴン 攻撃力2400

 

現れたのは後頭部を隕石のように膨張させたエイリアンのような翼竜だ。確かにこのモンスターのシンクロ条件はチューナー以外のドラゴン族モンスターが必要だ。『アンデット・ワールド』の影響下ではそれは不可能だろう。

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果で『レッド・リゾネーター』を回収!バトルだ!『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』で『デスカイザー・ドラゴン』へ効果で!キング・ストーム!」

 

「させるか!『デプス・アミュレット』の効果で手札を1枚捨て、攻撃を無効に!」

 

「当然そうなるか。魔法カード、『七星の宝刀』を発動!エクスプロードを除外し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→3

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

ジャック・アトラス・D LP3150

フィールド

『補給部隊』セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『デプス・アミュレット』をコストに2枚ドロー!」

 

トニー 手札0→2

 

「良し……カードを2枚セット!バトルだ!アビスでダイレクトアタック!」

 

「させん。手札の『バトル・フェーダー』を特殊召喚し、バトルを終了する!」

 

バトル・フェーダー 守備力0

 

鐘を抱く悪魔が現れ、闘いを終幕させる音を鳴らす。どうにも固い守りだ。だがトニーのフィールドにはアビスがいる。敵に回せば厄介だが、味方となれば攻防こなせるこのカードは実に優秀で強力。これ以上に頼りになるものはない。

 

「ターンエンドだ!」

 

トニー LP2600

フィールド『デスカイザー・ドラゴン』(攻撃表示)『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

Pゾーン『黄昏の忍者ージョウゲン』『黄昏の忍者ーカゲン』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!リバースカード、オープン!『大欲な壺』!除外されている『炎魔竜レッド・デーモン』、『トリック・デーモン』、『戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

「通す……!」

 

「フン、王を相手に許可を出すか。不遜な奴め」

 

ジャック・アトラス・D 手札2→3

 

「『レッド・リゾネーター』を召喚!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600→1100

 

「『リゾネーター』が召喚された事で、手札の『レッド・ウルフ』を特殊召喚!」

 

レッド・ウルフ 守備力2200

 

これでジャック・Dのフィールドにレベル2のチューナーとレベル6の非チューナーが並んだ。恐らくは『レッド・デーモン』によるシンクロ召喚の突破が狙いか。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『レッド・ワイバーン』、『バーサーク・デッド・ドラゴン』、『レッド・スプリンター』2体、『戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン』をデッキに戻し、2枚ドロー!勿論貴様は通す、通さざるを得ない。そのセットカードが邪魔をせん限りな」

 

「……通す」

 

ジャック・Dの言う通り、ここで『貪欲な壺』を止めては来る『レッド・デーモン』の全体破壊が止められなくなる。仕方無く通さざるを得ない。

 

ジャック・アトラス・D 手札0→2

 

「レベル6の『レッド・ウルフ』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

「焼き尽くせ!効果発動!」

 

「アビスの効果で無効に!」

 

「バトルだ!『レッド・デーモン』で『デスカイザー・ドラゴン』へ攻撃!」

 

「罠発動!『攻撃の無敵化』!『デスカイザー・ドラゴン』に破壊耐性を与える!」

 

トニー LP2600→2000

 

「ぐうっ……!」

 

炎がトニーを包み込み、ダメージがLPを削り取る。だが『デスカイザー・ドラゴン』は守り切った。このカードが破壊されればアビスも破壊されてしまう。何がなんでも守り切らなければならない。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP3150

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン』(攻撃表示)『バトル・フェーダー』(守備表示)

『補給部隊』セット2

手札の0

 

「俺のターン、ドロー!フィールド魔法、『アンデット・ワールド』発動!」

 

「罠発動!『砂塵の大嵐』!『アンデット・ワールド』と『補給部隊』を破壊!」

 

「アビスの効果で無効に!」

 

「チッ!」

 

ジャック・Dのフィールドに発生した砂嵐がトニーに襲いかかるも、アビスの剛腕から放たれる火球が霧散させる。これでまたもやフィールドのモンスターはアンデット族となった。ジャック・Dのシンクロモンスターは素材にドラゴン族や悪魔族を求めるカードが存在する為、このフィールドは中々厄介と言える。

 

「バトル!アビスで『レッド・デーモン』へ攻撃!」

 

「罠発動!『陰謀の盾』!『レッド・デーモン』に装備し、1ターンに1度の戦闘耐性を与え、戦闘ダメージを0にする!」

 

「ならこいつでどうだ!罠発動!『バスター・モード』!『デスカイザー・ドラゴン』をリリースし、デッキから『デスカイザー・ドラゴン/バスター』を特殊召喚!!」

 

デスカイザー・ドラゴン/バスター 攻撃力2900

 

眩き閃光が死皇帝竜を包み込み、バキバキとおとを鳴らし、その骨格をより強靭に、より強大に進化させる。恐ろしい鬼火を引き連れ、フィールドに君臨したのは胸部を髑髏のように変化させ、黒き翼を広げる死の王者。『/バスター』、シンクロモンスターの新たなステージが今、奮われる。これこそがトニーの切り札。その勇姿は『レッド・デーモン』にも劣らない。

 

『トニー勝負に出る!大型モンスターの登場だぁーっ!!』

 

「『デスカイザー・ドラゴン』がフィールドを離れた事でアビスが破壊され、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

トニー 手札0→1

 

「そして『/バスター』の効果発動!互いの墓地のアンデット族を任意の数だけ自分フィールドに蘇生する!来い、『炎神ー不知火』!『レッド・リゾネーター』!『黄昏の中忍ーニチリン』!」

 

炎神ー不知火 攻撃力3500

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

黄昏の中忍ーニチリン 攻撃力2300

 

進化した竜の雄叫びの下、互いの墓地から精鋭がトニーのフィールドへと目覚める。正に死者の軍勢。数多の追撃がジャックに襲いかかる。

 

「『/バスター』で『レッド・デーモン』を攻撃!」

 

「やらせん!アクションマジック、『回避』!」

 

「炎神で『レッド・デーモン』を攻撃!更に『黄昏の中忍ーニチリン』で『バトル・フェーダー』へ攻撃!この瞬間、ペンデュラムゾーンの2体の効果発動!攻撃力を1000アップし、貫通ダメージを与える!」

 

「くっ、『レッド・デーモン』の破壊時、『補給部隊』の効果でドロー!そしてアクションマジック、『ダメージ・バニュシュ』で『バトルフェーダー』との戦闘ダメージを0にする!」

 

ジャック・アトラス・D 手札0→1

 

黄昏の中忍ーニチリン 攻撃力2300→3300

 

「アクションマジック、『セカンド・アタック』!とどめだ、炎神でダイレクトアタック!」

 

炎神が死の皇帝に飛び乗って魔王城を飛翔、死した者達の怨念を集束し、おぞましき声を放つ球をジャック・Dに向かって撃ち出す。ジャックのLPは2600。炎神の攻撃力は3500。これが通ればトニーの勝ち。この一撃で、勝負をイーブンに持ち込む。だが――。

 

「甘い!罠発動!『リジェクト・リボーン』!『レッド・デーモン』と『レッド・リゾネーター』を蘇生し、バトルを終了!」

 

大魔王は、倒れない。

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「くっ、メインフェイズ2、レベル6のニチリンに、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『戦神ー不知火』!」

 

戦神ー不知火 攻撃力3000

 

「ターンエンド……『デスカイザー・ドラゴン/バスター』で呼び出したモンスターは破壊される……!」

 

トニー LP2000

フィールド『デスカイザー・ドラゴン/バスター』(攻撃表示)『戦神ー不知火』(攻撃表示)

『補給部隊』

Pゾーン『黄昏の忍者ージョウゲン』『黄昏の忍者ーカゲン』

『アンデット・ワールド』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキトップから10枚除外し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→3

 

「速攻魔法、『サイクロン』を発動!『アンデット・ワールド』を破壊!良い、良いぞ!実に心地良い!この熱気こそが俺を満足させる!褒美に見せてやろう!『レッド・デーモン』の更なる進化体を!レベル8の『レッド・デーモン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!泰山鳴動!山を裂き地の炎と共にその身を曝せ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・デーモン 攻撃力3500

 

そして――現れたのはアビスの更にその先、『レッド・デーモン』の第3形態、灼熱の如き深紅の鎧を纏い、腕から斧を思わせる重量級の刃を伸ばした赤い魔王竜。アビスの上を行くモンスターの登場に、観客は驚愕しながらも盛り上がりを見せる。

アビスだけでも厄介だったのに、これは少々、いや、かなり不味い。一体どんな効果を持っているのか、トニーはゴクリと喉を鳴らし、緊張を張り巡らせる。

 

「ベリアル……!?」

 

「噛み締めるが良い、極上のエンターテイメントを!モンスターをセット、そしてベリアルの効果!セットモンスターをリリースし、墓地に眠る『レッド・デーモン』を呼び出す!我がフィールドで充分に猛威を奮え!『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

その効果は『レッド・デーモン』を蘇生し、統率する王の力。これでアビスまでもが蘇り、圧倒的な力でフィールドを支配する。

 

「アビスの効果で『補給部隊』を無効に、バトルだ!アビスで戦神を!ベリアルで『デスカイザー・ドラゴン/バスター』を攻撃!深淵の怒却拳!割山激怒拳!」

 

アビスとベリアルが地を削り、深淵を抉り取る一撃を、山を裂く一撃を拳に乗せ、トニーのモンスターに食らわせる。強力なダブルパンチ、その凄まじき拳圧力がトニーのD-ホイールにも襲いかかる。

 

トニー LP2000→1300→700

 

「ぐっ、うぅぅぅぅっ……!『/バスター』の効果で『デスカイザー・ドラゴン』を蘇生!戦神の効果で『ゾンビ・マスター』を墓地に戻す!」

 

デスカイザー・ドラゴン 攻撃力2400

 

「ベリアルの効果で墓地の『シンクローン・リゾネーター』とデッキの『グローアップ・バルブ』を特殊召喚。アビスの効果で墓地の『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「『レッド・リゾネーター』の効果でベリアルの攻撃力分、LPを回復!」

 

ジャック・アトラス・D LP3150→6650

 

「これこそが本物のデュエル!俺はこれでターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス・D LP6650

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』(攻撃表示)『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)『シンクローン・リゾネーター』(守備表示)『レッド・リゾネーター』(守備表示)『グローアップ・バルブ』(守備表示)

『補給部隊』

手札1

 

「俺のターン、ドロー……!」

 

強い――月影を倒し、彼が健闘して、消耗させたのにも関わらず、ジャック・Dの実力は未だ底無し。セカンドホイーラーであるトニーまでも倒そうとしている。

トニーの手札に、この逆境を覆すカードは――無い。ならばせめて、出来る限りの最高の布陣をダニエルに託す。それしか出来ないのが悔しいが――このまま無駄に防御を固めるよりも、ダニエルが奇襲をかけられる方が何倍も良いだろう。

 

「『ゾンビキャリア』を召喚!」

 

ゾンビキャリア 攻撃力400

 

「カードを1枚セット、バトルだ!『ゾンビキャリア』でベリアルに攻撃!」

 

「……ほう、良いだろう、この覚悟、しかと受け取った!迎え撃て!ベリアル!貴様の一撃で、勇敢なるデュエリストに手向けの花を!」

 

並々ならぬ覚悟を込め、トニーが小さなモンスターに攻撃命令を下し、それを受け取った『ゾンビキャリア』が圧倒的強者に挑み――火炎を纏った拳に、砕かれる。

 

トニー LP700→0

 

『トニー!特攻ーっ!と言う事は、自動的にラストホイーラー、ダニエルにターンが回る!全ての望みを託したバトン!怒濤の2連勝を刻むジャックへ挑む!圧倒的な不利を抱えるチーム噴水広場仲良し同盟はどう出るのか!』

 

「すまねぇ……!俺が不甲斐ねぇばかりに……!」

 

トニーがチームメイトの下に戻り、ヘルメットを外し、目を伏せながら謝罪する。出来る限りの事はしたが、それでもジャック・D達の優位には変わらない。2体の『レッド・デーモン』に、6650のLP。厳しい状況だ。

 

「そんな事はない。お前は良くやってくれた……月影もトニーも、後は俺に任せろ。全部ひっくり返してやる……!諦めるのはまだ早い、勝つんだ!」

 

それでもコナミは諦めない。月影が、トニーが、彼等から受け取ったバトンを握り締め、赤帽子を深く被り直し――相棒、グラファ号Rに跨がり、フィールドを駆ける。3対1、こんな不利な状況でも、諦めなかった者がいたのだ。諦めなかった者を知っているのだ。ならばコナミも諦めない。

 

「来たな、赤帽子……邪魔するようで悪いが、ラストホイーラーまで辿り着けると思うな。俺が全て、食らい尽くす!」

 

「その台詞、そのまま返す!」

 

漆黒に彩られた魔王城にて、黒の機体がぶつかり合う。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」




トニー君とか言う奈落使い。視聴者の間では奈落のトニーとして知られる彼ですが、素材が厳しいアンデット・スカル・デーモンを3体並べる程の強者なんですよね。
今回は奈落もデーモンも使えなかったんですが。
シンクロ次元のアンデット使いと言う事で魔妖とか良かったかもしれません。SDRも出てますし。
今回はその2つが出る前に書き終えてる話なんですが。
なんかこう……悲しくない?


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第142話 ゴースト

気づいている人は気づいているキャラの登場です。


『さぁ、いよいよ噴水広場仲良し同盟のラストホイーラー、ダニエルが飛び出しました!絶対王者、ジャックに一矢報いる事が出来るか!それともこのまま圧倒的なパワーを前に膝を折るのか!』

 

『2人を相手にしているとは言え、ジャックのLPは6650!フィールドには2体の『レッド・デーモン』!これは厳しい!』

 

アクションフィールド、『伏魔殿ー悪魔の迷宮』にて、2人のD-ホイーラーが漆黒の機体を操り駆ける。

かたやファーストホイーラー、このシティのキング。黒に走る赤く光るラインが映えるD-ホイール、ホイール・オブ・フォーチュン・Dに乗ったジャック・アトラス・D。

かたや噴水広場仲良し同盟のラストホイーラー、雄々しくも天に反り立つ角を伸ばした重厚な黒のD-ホイール、グラファ号Rに乗った赤帽子の少年、ダニエルことコナミ。

 

ターンはダニエルの1ターン目から。トニーが自爆特攻した事でジャック・Dのバックが整っていない今が最大のチャンス。奇襲をかけ、一気に片付けたいが――流石にそこまでは難しい。せめて『レッド・デーモン』を蘇生する『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』は倒しておきたい所だ。

 

「オレのターン、ドロー!セットカードは――成程、ありがたい。さて、まずは、リバースカード、オープン!『貪欲な壺』!墓地の『デスカイザー・ドラゴン/バスター』、『戦神ー不知火』、『炎神ー不知火』、『機甲忍者ブレード・ハート』2体をデッキに戻し、2枚ドロー!さぁ、どうする?」

 

「……通す」

 

ダニエル 手札6→8

 

「アビスの効果は使わんか。慎重なのか、直感か……ならこれはどうだ?速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムゾーンを破壊し、2つの効果を適用!」

 

「そこで止めよう。アビスの効果で無効に」

 

僅かにジャックの眉が吊り上がり、思考を張り巡らされる。このカードの効果は互いのペンデュラムゾーンを破壊し、その数の効果を適用する。ジャックはペンデュラムを使わない為、2つ、500のバーンとペンデュラムカードのサーチ。

コナミは『貪欲な壺』をカモフラージュに使い、こちらを通したかったのだろう。そうでなくともドローが稼げる。こちらが通ればスケールを割りつつ、ペンデュラムカードをサーチ、セッティング出来る。

 

ジャックは彼の戦略をプラシドから教わっている。恐らく『慧眼の魔術師』か『竜脈の魔術師』をサーチ、最終的に竜脈のペンデュラム効果で『レッド・デーモン』の撃破を狙うつもりだろうと推測する。

ならばここで止めればスケールは割れず、『忍者』モンスターしかペンデュラム召喚出来ないジョウゲンとカゲンは置物と化す。コナミの戦術の基盤はペンデュラムによる展開だ。ペンデュラムを止めれば行動は制限される。

 

「『ジェスター・コンフィ』を特殊召喚!」

 

ジェスター・コンフィ 攻撃力0

 

「オレは手札の1枚をデッキトップに戻し、墓地の『ゾンビキャリア』を蘇生!」

 

「手札の『増殖するG』を切る!」

 

ゾンビキャリア 守備力200

 

ジャック・アトラス・D 手札1→2

 

「そして魔法カード、『モンスターゲート』を発動!『ジェスター・コンフィ』をリリースし、通常召喚可能なモンスターが出るまでデッキトップからカードを墓地に送る!」

 

1、2、3、と次々とコナミの墓地にカードが送られていく。強力なモンスターを特殊召喚する事は運になるが、コナミがこのカードを使う理由はこの通り、大量の魔法や罠を墓地に送る為だ。彼のデッキの魔法、罠は大半が墓地にあっても有用なカード。3枚も落とせれば上出来だ。

 

「良し、4枚目、『E・HEROシャドー・ミスト』を特殊召喚する!」

 

E・HEROシャドー・ミスト 守備力1800

 

ジャック・アトラス・D 手札2→3

 

トニーが残した『ゾンビキャリア』を活用し、フィールドに現れたのは美しき青の髪を靡かせた漆黒の鎧を纏う『HERO』だ。他にも良いカードを墓地に送れた。これは幸先が良い。

 

「シャドー・ミストをリリースし、アドバンス召喚!『ジャンク・コレクター』!」

 

ジャンク・コレクター 攻撃力1000

 

「ッ!そのモンスターは……!」

 

現れたモンスターを見て、ジャックが息を呑む。思考が辿り着いたのだ。『揺れる眼差し』までもがカモフラージュ。更に加えるなら、この男は『ゾンビキャリア』の本来デメリットである、手札1枚をデッキトップに戻す効果でさえ有用に扱ったのだと。流石にいきなり彼が奥の手を出して来るとは思わなかった。それだけジャックが強いと言う事もあるが。

 

「お前が相手だ。最初から全開で行く!墓地に送られたシャドー・ミストの効果により、『E・HEROエアーマン』をサーチ!そして『ジャンク・コレクター』の効果発動!このカードと墓地の『エレメンタルバースト』を除外し、その効果をコピーする!コストを無視し、相手フィールドのカード全てを破壊するマジックだ。楽しいデュエルがお望みだろう?存分に味わえ!バーストッ!」

 

『ジャンク・コレクター』の身体が眩い先行に包まれ、弾け飛び、4つのエレメントによる災害を生み出す。魔王城から噴き出す灼熱のマグマと荒々しく巨大な津波。嵐と礫が魔竜を呑み込む。

 

「くっ、『シンクローン・リゾネーター』の効果により、『レッド・リゾネーター』を回収!おのれ……我が『レッド・デーモン』をコケにするか……!」

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、ペンデュラムゾーンのカゲンをデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

ダニエル 手札6→7

 

「『竜穴の魔術師』をペンデュラムゾーンにセッティング!ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!『E・HEROエアーマン』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

ジャック・アトラス・D 手札3→4

 

ペンデュラム召喚を駆使し、コナミのフィールドに『魔術師』と『HERO』が姿を見せる。両刃の短剣を持った若い『魔術師』と背からファンの翼を伸ばした青い『HERO』だ。

粒揃いのコナミの頼れるカード達。ペンデュラムが通ればコナミのペースだ。

 

「エアーマンの召喚時、デッキから『E・HEROエアーマン』をサーチ!行くぞ!レベル6の『デスカイザー・ドラゴン』に、レベル2の『ゾンビキャリア』をチューニング!星海を切り裂く一筋の閃光よ!魂を震わし世界に轟け!シンクロ召喚!『閃光竜スターダスト』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

ジャック・アトラス・D 手札4→5

 

ペンデュラムからシンクロへ。フィールドに飛翔するのはジャックが持つ『レッド・デーモン』の宿命の好敵手、眩き閃光と星屑を純白の翼から散らす細身の、まるで天使のような竜だ。このモンスターの登場にジャックが、そしてベンチの白コナミが獰猛な笑みを浮かべる。

 

「来たか、我が宿敵……!」

 

「カードを2枚セット!『スターダスト』でダイレクトアタック!流星閃撃!」

 

ジャック・アトラス LP6650→4150

 

「ぐぅぅぅぅっ……!?」

 

竜のアギトに光が集束し、ジャック・Dに向かってブレスが撃ち出され、ホイール・オブ・フォーチュン・Dに激突、白煙を上げながらクルクルと回転する。

 

「『竜脈の魔術師』でダイレクトアタック!」

 

「調子に乗るな!手札の『血涙のオーガ』の効果発動!2回目のダイレクトアタックが宣言された時、このカードを特殊召喚し、攻守を1度目のダイレクトアタックを行った『スターダスト』と同じにする!」

 

血涙のオーガ 攻撃力0→2500→3000

 

ここで現れたのは目から赤い涙を流す青い鬼。『スターダスト』の攻撃が通った為、『バトル・フェーダー』等の手札誘発がないと思えば――まさかこのカードがあったとは。コナミは舌打ちを鳴らしながらも布陣を整えるチャンスだと思考を切り替える。場には『スターダスト』がいるとは言え、ジャックが『レッド・デーモン』を復活させれば相性が悪い。

 

「メインフェイズ2、2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる!白き翼に望みを託せ、現れろ!『No.』39!エクシーズ召喚!『希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

ジャック・アトラス・D 手札5→6

 

今度はエクシーズ召喚、今まで闘った月影とトニーの戦法を辿るようにコナミが呼び出したのは、黄金の鎧を纏い、純白の翼を広げた、二振りの剣を持った皇。右肩には赤く発光する39の紋様を走らせ、天に向かって雄々しく吠える。このカードと『スターダスト』が揃えば並みの戦術では突破出来ない。

 

「ターンエンド。『シャッフル・リボーン』の効果で手札1枚を除外する」

 

ダニエル LP4000

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『黄昏の忍者ージョウゲン』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『打ち出の小槌』を発動。手札を交換。永続魔法、『補給部隊』を発動!『パワー・インベーダー』を召喚!」

 

パワー・インベーダー 攻撃力2200→2700

 

「そしてデッキトップをコストに『グローアップ・バルブ』を蘇生!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

「墓地の『レッド・ライジング・ドラゴン』を除外し、墓地から『シンクローン・リゾネーター』と『バリア・リゾネーター』を蘇生!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

バリア・リゾネーター 守備力100

 

「レベル5の『パワー・インベーダー』に、レベル1の『バリア・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ワイバーン』!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

「まだだ!レベル6の『レッド・ワイバーン』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』!」

 

エクスプロード・ウィング・ドラゴン 攻撃力2400

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果で『バリア・リゾネーター』を回収!そしてレベル7の『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』に、レベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!王者の決断、今赤く滾る炎を宿す、真紅の刃となる!熱き波濤を超え、現れよ!シンクロ召喚!炎の魔神、『クリムゾン・ブレーダー』!」

 

クリムゾン・ブレーダー 攻撃力2800

 

怒濤の3連続シンクロ。一歩一歩レベルを上げ、フィールドに現れたのは真紅の鎧を纏った炎の剣客。ジャックにしては回り道をしての登場だ。

 

『3連続でシンクロ召喚!流石はジャックと言った所でしょうか!』

 

「バトルと行こう。『血涙のオーガ』で『ホープ』に攻撃!」

 

「ホープのORUを1つ取り除き、攻撃を無効に!ムーンバリア!」

 

『血涙のオーガ』が金棒を振り回し、『ホープ』へ下ろそうとしたその時、『ホープ』の翼が盾となって展開して行く手を遮る。火花を散らす金棒と盾、オーガはその身を弾かれ、ジャックのフィールドへ戻り、後続へバトンタッチする。

 

「『クリムゾン・ブレーダー』で追撃!レッドマーダー!」

 

「なら『スターダスト』の効果発動!『ホープ』の破壊を防ぐ!波動音壁!」

 

今度は『クリムゾン・ブレーダー』が炎を纏った剣を振るい、『ホープ』に迫る。2体がかりの攻撃、コナミも応戦しようと『スターダスト』を向かわせ、タッグマッチに持ち込む。『スターダスト』の咆哮で『ホープ』の周囲に光のバリアが展開され、『ホープ』が『クリムゾン・ブレーダー』と切り結ぶ。

 

ダニエル LP4000→3700

 

「……ダメージを与えられただけ良しとするか……カードをセット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP4150

フィールド『クリムゾン・ブレーダー』(攻撃表示)『血涙のオーガ』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札3

 

「オレのターン、ドロー!」

 

「罠発動、『針虫の巣窟』。俺のデッキの上から5枚のカードを墓地へ」

 

「あの状況でここまで整えるか……エアーマンを召喚!」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

「効果で『E・HEROブレイズマン』をサーチ!ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

現れたのは先のターンも姿を見せた『魔術師』と炎の鬣を燃やす赤い『HERO』だ。

 

「賤竜の効果で墓地の『竜脈の魔術師』を、ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ!リバースカード、オープン!速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムを破壊し、500のダメージを与え、『貴竜の魔術師』をサーチ!」

 

「『ダメージ・ダイエット』を除外し、ダメージを半分に」

 

ジャック・アトラス・D LP4150→3900

 

「『竜脈の魔術師』をセッティング!魔法カード発動!『置換融合』!フィールドのエアーマンとブレイズマンで融合!融合召喚!『E・HERO GreatTORNADO』!」

 

E・HERO GreatTORNADO 攻撃力2800

 

だがしつこさならコナミも負けていない。融合召喚、第4の召喚法を使い、コナミの背後に青とオレンジの渦が発生、風と炎の『HERO』が混ざり合い、渦より突風が吹き荒れ、新たな英雄が目を覚ます。黒い外套を纏った嵐の『HERO』。コナミが最も使用する融合『HERO』だ。

 

「融合召喚時、相手モンスターの攻守を半減!タウンバースト!」

 

クリムゾン・ブレーダー 攻撃力2800→1400

 

血涙のオーガ 攻撃力3000→1500

 

GreatTORNADOが竜巻を束ね、竜の形となったそれをジャックのフィールドにぶつけ、力を削ぐ。これで攻撃面での不安は消し飛んだ。

 

「バトル!GreatTORNADOで『クリムゾン・ブレーダー』に攻撃!スーパーセル!」

 

ジャック・アトラス・D LP3900→2500

 

GreatTORNADOが風の弾丸を撃ち出し、『クリムゾン・ブレーダー』の鎧に風穴を空ける。このモンスターはこちらの特殊召喚を封じてくる為、早々に倒しておきたい。

 

「ぬぅ……『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札3→4

 

「『スターダスト』でオーガへ攻撃!」

 

ジャック・アトラス・D LP2500→1500

 

続けて『スターダスト』のブレスがオーガを粉々に砕く。これで、場はがら空き。

 

「『ホープ』でダイレクトアタック!」

 

「墓地の『クリアクリボー』を除外し、カードを1枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札4→5

 

「そしてそれがモンスターならば特殊召喚し、攻撃を引き受ける!来い、『ダーク・リゾネーター』!」

 

ダーク・リゾネーター 守備力300

 

「『ダーク・リゾネーター』は1ターンに1度、戦闘で破壊されない」

 

「賤竜で『ダーク・リゾネーター』へ攻撃!」

 

「手札の『バリア・リゾネーター』を捨て、『ダーク・リゾネーター』を戦闘破壊から守る」

 

「ターンエンドだ」

 

ダニエル LP3700

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『E・HERO GreatTORNADO』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『竜脈の魔術師』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換。自分フィールドにチューナーが存在する事で、手札の『奇術王ムーン・スター』を特殊召喚!」

 

奇術王ムーン・スター 攻撃力900→1400

 

現れたのは紫の衣装を纏い、星と月の飾りをつけたステッキを握る悪魔だ。

 

「『クリエイト・リゾネーター』を召喚!」

 

クリエイト・リゾネーター 攻撃力800→1300

 

次は扇風機を背負った『リゾネーター』。ムーン・スターの隣に並び、音叉を鳴らす。

 

「ムーン・スターの効果により、このカードのレベルを墓地の『デーモンの騎兵』のレベルに合わせる!」

 

奇術王ムーン・スター レベル3→4

 

「レベル4のムーン・スターに、レベル3の『クリエイト・リゾネーター』をチューニング!天頂に輝く死の星よ!地上に舞い降り生者を裁け!シンクロ召喚!降臨せよ!『天刑王ブラック・ハイランダー』!」

 

天刑王ブラック・ハイランダー 攻撃力2800→3300

 

現れたのは巨大鎖鎌を持ち、黒いマントを纏った大悪魔。天に浮かぶ三日月に鎌を翳し、コナミを裁こうとギロリと睨む。

 

「バトル!ブラック・ハイランダーでホープへ攻撃!死兆星斬!」

 

「ORUを取り除き、攻撃を無効に!」

 

これで『ホープ』のORUは尽き、攻撃対象になるだけで破壊されるだろう。しかし、コナミのフィールドには『スターダスト』が存在する。迂闊に手を出せばダメージを負うのはジャック・Dだ。

 

「ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP1500

フィールド『天刑王ブラック・ハイランダー』(攻撃表示)『ダーク・リゾネーター』(守備表示)

『補給部隊』

手札1

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『地砕き』!ハイランダーを破壊!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→2

 

「バトル!『ホープ』で『ダーク・リゾネーター』へ攻撃!」

 

「『ダーク・リゾネーター』は1ターンに1度、破壊されない!」

 

「承知している!『スターダスト』で追撃!」

 

『ホープ』と『スターダスト』、黒と白のエースの合体攻撃で『ダーク・リゾネーター』の強固な防御が崩れ去る。残るは本丸、ジャック・Dのみ――。

 

「GreatTORNADOで攻撃!」

 

「手札の『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効にし、バトルを終了!」

 

だが通らない――。キングは膝を折らず、むしろ食いかからんばかりにコナミの火の粉を払いのける。いち早く倒したいのにと、コナミが焦りで舌打ちを鳴らす。

 

「ターンエンドだ」

 

ダニエル LP3700

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『E・HERO GreatTORNADO』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『竜脈の魔術師』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札断殺』。互いに手札を2枚交換、俺と貴様が今手札に加えたアクションマジックもな……魔法カード、『星屑のきらめき』!墓地より『グローアップ・バルブ』、『奇術王ムーン・スター』、『パワー・インベーター』を除外!合計レベル9のアビスを蘇生する!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

ここで現れたのは効果無効のアビス。ベリアルでないのは確実にコナミのモンスターを削る為か。

 

「魔法カード、『地割れ』!賤竜を破壊!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ダニエル 手札2→3

 

「バトル!アビスで『ホープ』に攻撃!」

 

「攻撃対象になった瞬間、ORUを持たない『ホープ』は自壊する」

 

「攻撃対象変更!『スターダスト』を葬れ!」

 

「『スターダスト』の効果発動!」

 

『ホープ』が破壊された事により、攻撃が巻き戻り、飢えた竜は狙いを変え、宿敵である閃光の竜へ襲いかかる。瞬間、自身の能力で障壁を張るが――。

 

「アビスの効果で無効化!」

 

アビスの爪を前に、溶けるように消え、『スターダスト』を貫こうとする。

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!デッキより2枚の魔法、罠カードをセット!『スターダスト』もセットし、シャッフルする!」

 

だがそうはさせまいとコナミがリバースカードを使い、デッキから2枚のカードを投擲、『スターダスト』と共に巨大なシルクハットに閉じ込められ、シャッフル。アビスの行く手を遮る。

 

「なら確実に倒せるモンスターへ変更する。GreatTORNADOを攻撃!」

 

ならばとジャック・Dは『スターダスト』を諦め、剥き出しとなっている風の『HERO』を仕留める。アビスが『スターダスト』に向けていた体躯をクルリと回転し、腕についた刃でGreatTORNADOを切り裂く。

 

ダニエル LP3700→3300

 

「くっ――!」

 

「アビスの効果により、墓地から『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「効果でアビスの攻撃力分LPを回復する!」

 

ジャック・アトラス・D LP1500→4700

 

これで再びジャック・DのLPが大幅に回復。防御が更に固くなった。

 

「ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP4700

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン』(攻撃表示)『レッド・リゾネーター』(守備表示)

『補給部隊』

手札0

 

「オレのターン、ドロー!墓地の『置換融合』を除外し、GreatTORNADOをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

ダニエル 手札4→5

 

「魔法カード、『地砕き』!」

 

「アビスの効果で効果を無効に!」

 

「『慧眼の魔術師』をセッティング!破壊し、『竜穴の魔術師』をセッティング!装備魔法、『妖刀竹光』を『スターダスト』に装備、魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドローする!」

 

ダニエル 手札0→2

 

「ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『黄昏の忍者ージョウゲン』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

黄昏の忍者ージョウゲン 攻撃力2000

 

「賤竜の効果により、『貴竜の魔術師』サルベージ!召喚!」

 

貴竜の魔術師 攻撃力700

 

現れたのは紅玉を散りばめた純白の衣を纏う幼き『魔術師』。ペンデュラムであり、チューナーでもある特異なモンスターだ。

 

「レベル4の『慧眼の魔術師』に、レベル3の貴竜をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

再びシンクロ召喚、大地を踏み砕き、赤き炎を流し込むのは真紅の体躯を唸らせる、二色の眼の竜だ。雄々しき咆哮を放ち、コナミの背後を追従するペンデュラムゾーンから『魔術師』が竜の背に転移する。

 

「特殊召喚時、ペンデュラムゾーンの『竜穴の魔術師』を特殊召喚!」

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

「まだまだ!メテオバーストと竜穴でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800

 

シンクロの次はエクシーズ。竜穴が錫杖を竜の背に突き刺し、自身の身体ごと凍結、月光を反射する氷に包まれる。そしてひび割れ、氷を鎧として纏い、メテオバーストが青銀の氷竜へと生まれ変わる。炎の次は絶対零度の鱗を煌めかせる『オッドアイズ』。180度異なる竜の登場に観客が沸き立つ。

 

「バトル!賤竜で『レッド・リゾネーター』へ攻撃し、アブソリュートのORUを取り除き、攻撃を無効!」

 

『自分の攻撃を無効!?何考えてんのぉーっ!?』

 

「……」

 

「その後、墓地に眠る『オッドアイズ』を呼ぶ!再びフィールドへ『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

「成程、強力なモンスターを増やしたか」

 

「ジョウゲンで『レッド・リゾネーター』を攻撃!貫通ダメージを食らえ!」

 

ジャック・アトラス・D LP4700→2850

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札0→1

 

「アブソリュートでアビスへ攻撃!墓地より『スキル・サクセサー』を除外し、攻撃力を800アップ!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800→3600

 

ジャック・アトラス・D LP2850→2450

 

アブソリュートが大地を踏み締めると共に地面から鋭い氷柱が飛び出し、飛び立とうとするアビスの翼を貫き、動きを封じる。出来る一瞬の隙。アブソリュートは狙いを定め、アギトに大気を集束、冷気を帯びさせながら吐き出し、氷の弾丸がアビスに命中。腹を貫き、氷像に変える。

 

「ッ!アビスが……!」

 

「『スターダスト』で攻撃ィ!」

 

「手札の『バトル・フェーダー』の効果を――使えない……!?」

 

「メテオバーストがモンスターゾーンに存在する限り、相手はバトルフェイズ中、モンスター効果を使えない!」

 

「何だと!?くっ、ここで退場か……!無念……!」

 

ジャック・アトラス・D LP2450→0

 

白竜のブレスが見事ジャック・Dに命中し、LPを焼き尽くす。ダニエルVSジャック・アトラス・D、勝利をもぎ取ったのは、ダニエル。

しかし――まだ1勝、ラストホイーラーにして漸くファーストホイーラーを倒したに過ぎず、まだ2人の相手が残っている。ジャック・Dも2人を倒して尚、コナミのカードを消耗させて見せた。上々の成果だろう。

 

彼はゆっくりとホイール・オブ・フォーチュン・Dをピットへ走らせ、セカンドホイーラーへとバトンを渡す。黒いローブを纏った正体不明のセカンドホイーラーだ。ジャック・Dはフンと鼻を鳴らし、どこがで見た事のある白いD-ホイールに搭乗する彼に語りかける。

コナミはそんな彼等に僅かに眉をひそめる。本当に、彼のD-ホイールはどこかで見た事があるのだが――と、ハッと思い出す。そう、色が違った為、分からなかったが、このD-ホイールは――。

 

「ッ!奴は――」

 

同時に、月影がガタリと立ち上がり、男を見て驚愕する。そう、彼は月影の治安維持局潜入を阻んだ、あの時の男。

 

「次は貴様の番だ。なに、勝敗に拘る事はない。貴様はまだ生まれたばかり――奴のデュエルから、学んで来ると良い――クロウ・ゴースト」

 

バサリ、男の纏ったローブが宙に翻ると共に、その姿が月下に晒される。鳥の羽を模した飾りをつけたヘルメットに、バイザーの奥で輝く鋭い双眸、顔中には黄色いマーカーを幾つも走らせ、ブラウンのジャケットを着、専用に改造された、D-ホイール、ブラック・バード・アルビオンに搭乗した彼の姿は――1回戦、第2試合、敗北したチーム革命軍のサブリーダー。

 

「……了解……」

 

クロウ・ホーガンと、全く同じものだった――。

 

「何……だと……!?」

 

キュイッ、黒曜石の輝きを見せるカメラアイが鳴り、コナミを射抜く。ファーストホイーラー、ジャック・アトラス・Dに続き、セカンドホイーラー、クロウ・ゴースト。どうやらこの勝負、一瞬たりとも気は抜けないらしい。

コナミは深く帽子を被り直し、苦笑いを浮かべるのであった――。




このクロウ・ゴーストと言うキャラ、ジャック・Dと同じく公式キャラとなっています。登場作品はタッグフォース6の牛尾さんシナリオ、ハートイベント4。
オリジナルを越えたと豪語するプラシドのゴーストのタッグパートナーとして、最強のゴーストとして立ちはだかります。
しかしこのクロウの強さのみを真似れば最強じゃろうと言うプラシドの考えに牛尾さんが激昂、初期のあの台詞が飛び出し、ボコボコにされ、胴体をもがれてしまいます。哀れプラシド・ゴースト。
自分の感想ですがこの牛尾さんシナリオだけでもタッグフォース6を購入する価値がありますね。無論他のシナリオも面白いですが。
ちなみに6には5に登場し、メインキャラクターとしてスチルをゲットまでした偽ジャックは登場しないので夢のタッグは組めません。悲しい。
しかし産地偽装蟹のZONEとは組めます。最早蟹って言うかザリガニ位別物ですが。


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第143話 鉄砲玉

辺りが暗き闇に覆われ、天に輝く三日月の光が、不気味な魔王城と化したサーキットを照らし出す。フレンドシップカップ、1回戦最終試合、迷宮を駆けるのは2人のD-ホイーラー。

ジャック・Dが散々暴れてくれたお蔭でラストホイーラー、ダニエルことコナミまで引っ張り出され、相手は3人がかりで漸く倒したジャック・Dに続き、クロウ・ゴースト。

 

彼は驚く事にクロウ・ホーガンと全く同じ姿をしており、彼のD-ホイールを改造したブラック・バード・アルビオンに登場している。

ターンはジャック・Dが倒されたばかりの為、セカンドホイーラーのクロウに移る。彼はバイザーの奥のカメラアイでコナミのフィールドを捉えながらデッキよりカードを引き抜く。

 

『何と言う事でしょう!ジャックに続き、セカンドホイーラーはチーム革命軍のメンバー、クロウ!兄弟か何かか!?』

 

『この大会そっくりさん多過ぎるだろ……』

 

「俺のターン、ドロー。速攻魔法、『魔力の泉』を発動。相手フィールド上に存在する表側表示の魔法、罠の数だけドロー。俺は4枚ドロー。そして俺のフィールド上に存在する表側表示の魔法、罠の数だけ手札を捨てる。3枚を墓地へ」

 

クロウ・ゴースト 手札5→9→6

 

「墓地に送られた『妖刀竹光』の効果により、『黄金色の竹光』をサーチ。永続魔法、『黒い旋風』を発動し、『BFー蒼炎のシュラ』を召喚!」

 

BFー蒼炎のシュラ 攻撃力1800

 

登場したのはやはり『BF』。クロウが操るカードと同じカテゴリだ。シュラはこの中でも切り込み役、青い羽毛を伸ばした細身のモンスター。

 

「『BF』が召喚されたこの時、『黒い旋風』の効果発動。シュラの攻撃力より低い攻撃力を持つ『BF』モンスター、『BFー疾風のゲイル』をサーチ。そして同名カード以外の『BF』がフィールドに存在する事で、『BFー砂塵のハルマッタン』を手札から特殊召喚する」

 

BFー砂塵のハルマッタン 守備力800

 

次は脚の長い、首に赤い数珠を巻いた『BF』。このカードはクロウも持っていないカードだ。どうやらこのクロウ・ゴースト、ただのそっくりさんと言う訳ではないらしい。

 

「更に同条件を持つ『BFー疾風のゲイル』も特殊召喚」

 

BFー疾風のゲイル 攻撃力1300

 

次は『黒い旋風』でサーチした、『BF』でも特徴的なチューナーモンスター。頭には髪のような緑の羽毛、身体には紫の羽毛を纏っている。

 

「ゲイルの効果発動。1ターンに、1度、相手モンスターの攻守を半減する。俺は『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』を選択」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800→1400

 

「チッ」

 

「更に同条件を持つ『BFー残夜のクリス』を特殊召喚」

 

BFー残夜のクリス 攻撃力1900

 

更に展開。現れたのは民族衣装のようなものを纏った鳥獣族だ。

 

「そしてクリスをリリースし、手札の『ABFー霧雨のクナイ』を特殊召喚」

 

ABFー霧雨のクナイ 攻撃力2100

 

クリスと入れ替わりにフィールドに登場したのは『BF』の強化体、『ABF』の名を冠するモンスター。その名の通り、忍者のような風貌をしており、爪はクナイになっている。

 

「この方法で特殊召喚したクナイはチューナーとして扱う。レベル2のハルマッタンに、レベル5のクナイをチューニング!漆黒の翼翻し、雷鳴と共に走れ!電光の斬撃!シンクロ召喚!降り注げ、『ABFー驟雨のライキリ』!」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600

 

シンクロ召喚、クナイが5つのリングとなって弾け飛び、2つの星となったハルマッタンを包み込む。そして閃光がフィールドを覆い、一筋の剣閃によって晴らされる。現れたのは『ABF』シンクロモンスター。黒と白、鳥類と機械の翼を伸ばし、武者鎧を纏った、鋭い輝きを放つ刀を持ったモンスターだ。

 

「『BF』を素材としてシンクロ召喚に成功したこのカードはチューナーとして扱う。そしてライキリの効果発動。1ターンに1度、このカード以外の『BF』モンスターの数まで相手フィールド上のカードを対象として破壊する。『スターダスト』とアブソリュート・ドラゴンを破壊」

 

「『スターダスト』の効果により、このカードの破壊を防ぎ、アブソリュートの効果により、エクストラデッキから『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』を呼ぶ!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力2500

 

アブソリュートの氷がひび割れ、氷の鎧を脱ぎ捨てて、深緑に染まった体躯を翻し、4枚の翼を持った竜へと生まれ変わる。態々アブソリュートの攻守を半減しておいての破壊。何を考えているか分からないが、ここは乗っておこう。

 

「ボルテックスの効果により――ここはライキリをバウンス!」

 

迷う所ではあるが、シュラを戻せば次のシンクロを防げはするが、手札が増え、次のターンで『黒い旋風』の種となってしまう。モンスターの数でもこちらの選択を選ぶ。

 

「レベル4のシュラに、レベル3のゲイルをチューニング!黒き旋風よ、天空へ駆け上がる翼となれ!シンクロ召喚!『BFーアーマード・ウィング』!」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500

 

今度は旧型の『BF』モンスター。黒い鎧に身を包んだ、機械族と見間違えてしまいそうなモンスターだ。新旧交えての『BF』デッキ。これは中々手強そうだ。

 

「バトル、アーマード・ウィングでボルテックスへ攻撃。ブラック・ハリケーン!」

 

アーマード・ウィングが羽を弾丸として撃ち出し、ボルテックスの翼を砕き、貫き通して破壊する。ボルテックスも最後の力を振り絞って応戦するも――アーマード・ウィングは黒羽を折り畳み、盾として防ぐ。

 

「アーマード・ウィングは戦闘破壊されず、このカードの戦闘で発生する俺へのダメージは0になる。ターンエンド」

 

クロウ・ゴースト LP4000

フィールド『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)

『黒い旋風』『補給部隊』

手札2

 

「オレのターン、ドロー!『刻剣の魔術師』を召喚!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

現れたのは剣を持った少年『魔術師』。利便性が高く、応用の効くカードだ。

 

「そして刻剣の効果により、このカードとアーマード・ウィングを除外、バトル!『スターダスト』でダイレクトアタック!」

 

「アクションマジック、『ブラインド・ブリザード』。バトルを終了させる」

 

「賤竜とジョウゲンを守備表示に変更。カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

ダニエル LP3300

フィールド『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』(攻撃表示)『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(守備表示)『黄昏の忍者ージョウゲン』(守備表示)

『妖刀竹光』『補給部隊』セット1

Pゾーン『竜脈の魔術師』

手札1

 

「俺のターン、ドロー。魔法カード、『強欲で金満』な壺を発動。エクストラデッキからランダムに6枚のカードを除外し、2枚ドローする」

 

クロウ 手札2→4

 

「俺は『BFー上弦のピナーカ』を召喚」

 

BFー上弦のピナーカ 攻撃力1200

 

現れたのは弓矢を構えた小さな鳥。『BF』の中では優秀なサーチ効果を持ったチューナーだ。

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー白夜のグラディウス』をサーチし、特殊召喚」

 

BFー白夜のグラディウス 守備力1500

 

続けて現れる。鎧を纏った鳥。『BF』はこう言った類いの特殊召喚条件を持ったモンスターが多く、召喚権で困る事が少ないのが強みだ。

 

「レベル3のグラディウスに、同じくレベル3のピナーカをチューニング!シンクロ召喚!『BFー星影のノートゥング』!」

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2400

 

またもシンクロ。現れたのは美しい波紋を刃に広げた剣を持つ鳥人だ。単なるレベル6のシンクロモンスターとしても汎用性が高く、『BF』ならば更に強くなるモンスターでもある。

 

「特殊召喚時、相手に800のダメージを与え、『スターダスト』を対象とし、攻守を800ダウン」

 

「墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、効果ダメージを半分にする!」

 

ダニエル LP3300→2900

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500→1700

 

淡々と、機械的に効果を発動し、コナミを追い詰めるクロウ・ゴースト。その展開と違い、静けさを帯びた姿は不気味でもある。

 

「装備魔法、『D・D・R』を発動。手札を1枚捨て、除外されているアーマード・ウィングを特殊召喚し、このカードを装備する。更に墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500

 

「バトル、アーマード・ウィングでメテオバーストへ攻撃」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ダニエル 手札1→2

 

アーマード・ウィングが自身の黒羽を引き抜いて刀とし、黒き剣閃を走らせ、メテオバーストを討つ。砕け散るメテオバーストの胸の宝玉。『スターダスト』の効果は――使わない。使えない。例え破壊を逃れても、アーマード・ウィングに楔を打ちつけられるだけだ。

 

「ノートゥングでジョウゲンへ攻撃」

 

「『スターダスト』で破壊を防ぐ!」

 

ダニエル LP2900→2500

 

「カードをセットし、ターンエンド。この瞬間、墓地に送られたピナーカの効果で『BFー月影のカルート』をデッキからサーチする」

 

クロウ・ゴースト LP4000

フィールド『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)『BFー星影のノートゥング』(攻撃表示)

『D・D・R』『黒い旋風』『補給部隊』セット1

手札2

 

「オレのターン、ドロー!刻剣の効果でアーマード・ウィングを除外!」

 

「罠発動。『威嚇する咆哮』」

 

「……オレは全てのモンスターを守備表示に変更し、ターンエンドだ」

 

ダニエル LP2500

フィールド『閃光竜スターダスト』(守備表示)『賤竜の魔術師』(守備表示)『黄昏の忍者ージョウゲン』(守備表示)

『妖刀竹光』『補給部隊』

Pゾーン『竜脈の魔術師』

手札2

 

「『BFー月影のカルート』を召喚」

 

BFー月影のカルート 攻撃力1400

 

現れたのはゲイルと良く似たモンスター。本来ならば手札誘発として手札に置くのが定石であるが――今の彼の布陣ならば問題はない。

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー極北のブリザード』をサーチ。そしてノートゥングには『BF』モンスターの召喚権を増やす効果がある。たった今手札に加えたブリザードを召喚」

 

BFー極北のブリザード 攻撃力1300

 

ノートゥングの施しと『黒い旋風』を合わせる事で1ターンに2枚のカードをサーチしながら展開する強力なコンボが完成する。この男、本物のクロウ並みに『BF』を使いこなしている。

 

「ブリザードの召喚時、墓地の『BFー上弦のピナーカ』を蘇生。更に『黒い旋風』の効果で『BFー砂塵のハルマッタン』をサーチ」

 

「ブリザードの効果にチェーンして手札の『増殖するG』を捨て、効果発動!このターン、相手がモンスターを特殊召喚する度に1枚ドローする!」

 

BFー上弦のピナーカ 守備力1000

 

ダニエル 手札1→2

 

「そして『BFー砂塵のハルマッタン』を特殊召喚」

 

BFー砂塵のハルマッタン 守備力800

 

ダニエル 手札2→3

 

「ハルマッタンの特殊召喚時、ブリザードを対象に効果発動。このカードのレベルを対象のブリザードのレベル分アップする」

 

BFー砂塵のハルマッタン レベル2→4

 

「レベル4のハルマッタンに、レベル3のピナーカをチューニング!シンクロ召喚!『ABFー驟雨のライキリ』!」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600

 

ダニエル 手札3→4

 

「装備魔法、『折れ竹光』をライキリに装備、魔法カード、『黄金色の竹光』を発動、2枚ドロー」

 

クロウ・ゴースト 手札0→2

 

「手札の『BFー突風のオロシ』を特殊召喚」

 

BFー突風のオロシ 守備力600

 

ダニエル 手札4→5

 

「ライキリの効果発動。『スターダスト』、『賤竜の魔術師』、『補給部隊』、『竜脈の魔術師』を破壊する」

 

「『スターダスト』の効果で自身を守る!」

 

『スターダスト』の効果を使えども、残る3枚が斬撃を受けて砕け散る。汎用性は高いが、本家『スターダスト・ドラゴン』ならば守れた効果だ。

 

「レベル3のカルートに、レベル2のブリザードをチューニング!シンクロ召喚!『BFー煌星のグラム』!」

 

BFー煌星のグラム 攻撃力2200

 

ダニエル 手札5→6

 

2連続シンクロ召喚。本家スピードスターに並ぶ程の腕前を披露し、現れたのは白銀の鎧を纏った鳥人。余り強力な効果は持っていないが――素材に使うならば充分だ。

 

「レベル5のグラムに、レベル1のオロシをチューニング!漆黒の力!大いなる翼に宿りて、神風を巻き起こせ!シンクロ召喚!吹き荒べ、『BFーアームズ・ウィング』!」

 

BFーアームズ・ウィング 攻撃力2300

 

ダニエル 手札6→7

 

3連続シンクロ召喚――更に実力を発揮し、現れたのはアーマード・ウィングと似たモンスター。尤も、アーマード・ウィングと違い、頭部から伸びた赤い羽根や羽毛等、野性的な見た目をしており、その手には銃剣を持っている。

 

「オロシの効果で『スターダスト』の表示形式を変更」

 

「アクションマジック、『ミラー・バリア』!『スターダスト』に効果耐性を与える!」

 

「バトル、アームズ・ウィングでジョウゲンへ攻撃!ブラック・チャージ!」

 

襲い来るアームズ・ウィング。銃剣から何発もの弾丸を放ち、雨のようにジョウゲンに降り注ぐ。このモンスターは守備表示モンスターへ攻撃する際、攻撃力を500アップし、貫通ダメージを与える効果がある。

 

「手札の『虹クリボー』をアームズ・ウィングに装備し、攻撃を封じる!」

 

だから防ぐしかない。突如ジョウゲンの眼前に虹色の角を持った小さなモンスターが現れ、大きく息を吸い込んで体を膨らませ、銃弾を跳ね返す。何とか難は逃れたが――所詮、一時凌ぎに過ぎない。キュイッ、とクロウ・ゴーストのカメラアイが収束して唸る。まだ刀は、2本ある。

 

「ノートゥングでジョウゲンを、ライキリで『スターダスト』を攻撃!」

 

2羽の『BF』による攻撃がコナミのモンスターに襲いかかり、フィールドががら空きになってしまう。『スターダスト』がいるにも関わらず、ここまでボロボロにされるとは。

 

「……『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチする」

 

「ターンエンド。ピナーカの効果でデッキから『BFー月影のカルート』をサーチ」

 

クロウ・ゴースト LP4000

フィールド『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)『BFーアームズ・ウィング』(攻撃表示)『BFー星影のノートゥング』(攻撃表示)

『折れ竹光』『黒い旋風』『補給部隊』

手札2

 

『クロウ・ゴーストの猛攻!嵐のような攻撃でダニエルのフィールドを掻き混ぜる!対するダニエルは流石に2連戦で疲労しているのか、防ぐしかない!』

 

『不味いのはそれだけじゃない!防御に徹すればデッキ枚数的に不利なのはダニエルだ!』

 

そう、攻撃にしろ、防御にしろ、カードをドローすればドローする程、可能性はデッキから削り取られていく。このままではクロウを倒しても次でデッキ切れなんて事になりかねないのだ。

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を2枚交換。オレは『アメイジング・ペンデュラム』を発動!エクストラデッキより、『竜穴の魔術師』と『竜脈の魔術師』を回収し、セッティング!そして手札からペンデュラムモンスターを捨て、竜穴の効果で『黒い旋風』を破壊!」

 

「手札の『増殖するG』を捨て、効果発動」

 

「ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『竜穴の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

E・HEROブレイズマン 守備力1800

 

クロウ・ゴースト 手札1→2

 

長期戦ではコナミが不利だが、同時に有利なものもある。一番その要素が強いのがこのペンデュラムだ。ペンデュラムモンスターをエクストラデッキに蓄え、一気に解放する。墓地が第2の手札、除外ゾーンが第3の手札なら、エクストラデッキは第4の手札と言える。

 

「賤竜の効果で墓地の『曲芸の魔術師』を、ブレイズマンの効果で『置換融合』をサーチ!そして発動!ブレイズマンと竜穴を融合!融合召喚!『E・HEROアブソルートZero』!」

 

E・HEROアブソルートZero 攻撃力2500

 

クロウ・ゴースト 手札2→3

 

融合召喚、現れたのはこの逆境を覆す最強の異名を冠する『HERO』。白銀の鎧を纏い、マントを風に揺らす、神々しささえ感じさせる、美しく洗練された氷の英雄。どんなモンスターが相手でも、このモンスターがいれば百人力だ。

 

「墓地の『置換融合』を除外し、ボルテックス・ドラゴンをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

ダニエル 手札5→6

 

「カードを3枚セット、バトル!アブソルートでアーマード・ウィングへ攻撃!瞬間凍結!」

 

「迎え撃つ」

 

アブソルートZeroが手を凍らせ、氷で形成された刃を作り出し、二刀流の手刀でアーマード・ウィングに挑みかかる。アーマード・ウィングもまた背から伸びる黒羽を2本引き抜き、切り結ぶ。鳴り響く剣戟の音、しかし決着は一瞬。アブソルートの氷の剣がアーマード・ウィングの胸を貫き、どうだと言わんばかりにアーマード・ウィングを睨む。だがアーマード・ウィングは何ともないと言わんばかりに二刀を交差させ、アブソルートZeroを切り裂く。勝者はアーマード・ウィング。が、英雄はここで終わらない。アーマード・ウィングを貫いた腕から凍らせていき――相手フィールド全体を覆う程の冷気を放ち、『BF』達を氷の像に変える。

 

「アブソルートZeroがフィールドを離れた事で、相手フィールドのモンスターを全て破壊!」

 

「……!『補給部隊』の効果でドロー」

 

クロウ・ゴースト 手札3→4

 

「賤竜でダイレクトアタック!」

 

「手札の『BFー熱風のギブリ』の効果発動。相手の直接攻撃宣言時、このカードを特殊召喚する。更にアクションマジック、『回避』。賤竜の攻撃を無効にする」

 

BFー熱風のギブリ 攻撃力0

 

「新手か……メインフェイズ2、刻剣の効果でこのカードとギブリを除外する。ターンエンドだ!」

 

ダニエル LP2500

フィールド『賤竜の魔術師』(攻撃表示)『慧眼の魔術師』(攻撃表示)

セット3

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札3

 

「俺のターン、ドロー」

 

「罠発動、『貪欲な瓶』!墓地の『貪欲な壺』、『黄金色の竹光』、『妖刀竹光』、『マジカルシルクハット』2枚を回収し、1枚ドロー!」

 

ダニエル 手札3→4

 

「魔法カード、『貪欲な壺』を発動。墓地のカルート、ゲイル、グラディウス、クリス、ブリザードを回収し、2枚ドロー」

 

クロウ・ゴースト 手札3→5

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を3枚交換。永続魔法、『黒い旋風』を発動。そして『BFー黒槍のブラスト』を召喚」

 

BFー黒槍のブラスト 攻撃力1700

 

現れたのはその異名の通り、巨大な黒い槍を持った『BF』。本来なら自身の特殊召喚効果によって呼び出すのだが、その条件を満たしていない為、通常召喚だ。

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー疾風のゲイル』をサーチし、特殊召喚」

 

BFー疾風のゲイル 攻撃力1300

 

「ゲイルの効果で慧眼の攻撃力を半減」

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500→750

 

「そしてレベル4のブラストに、レベル3のゲイルをチューニング!シンクロ召喚!『BFTー漆黒のホーク・ジョー』!」

 

BFTー漆黒のホーク・ジョー 攻撃力2600

 

現れたのは『ABF』でも、『BF』でもない、『BF』を操る『BF』のテイマー。赤髪を揺らし、白き衣を纏った人型のモンスターだ。種族も戦士族であり、他の『BF』と違う事が窺える。

 

「ホーク・ジョーの効果、1ターンに1度、墓地のレベル5以上の鳥獣族モンスターを蘇生する。『ABFー驟雨のライキリ』を選択」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600

 

「ライキリの効果で賤竜を破壊」

 

これが『BF』を統べるテイマーの効果。中盤でこそ真価を発揮する強力な蘇生効果だ。これは少々厄介。

 

「バトル、ライキリで慧眼へ攻撃」

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!」

 

「……ならバトルを中断、魔法カード、『一時休戦』を発動」

 

クロウ・ゴースト 手札0→1

 

ダニエル 手札4→5

 

「ターンエンドだ」

 

クロウ・ゴースト LP4000

フィールド『BFTー漆黒のホーク・ジョー』(攻撃表示)『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)

『黒い旋風』『補給部隊』セット1

手札0

 

「オレのターン、ドロー!2枚目の『貪欲な瓶』を発動!『マジカルシルクハット』と『死者蘇生』、『No.39希望皇ホープ』、『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』、『E・HEROアブソルートZero』を戻し、1枚ドロー!」

 

ダニエル 手札6→7

 

これで一応はデッキ切れの心配はなくなった。『貪欲な壺』と『貪欲な瓶』で墓地のカードを使い回す事で何とかするしかない。とは言ってもペンデュラムモンスターは通常エクストラデッキに行く為、戻せないが。

 

「魔法カード、『金満な壺』を発動!エクストラデッキと墓地のペンデュラムモンスターを合計3枚デッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札6→8

 

「刻剣の効果により、ホーク・ジョーと共に除外!」

 

「ホーク・ジョーの効果発動。このカードが攻撃、効果の対象になった場合、別の『BF』へ対象を写す。ギブリを選択」

 

「そんな効果まで……!ならばペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『竜穴の魔術師』!『竜脈の魔術師』!『曲芸の魔術師』!」

 

賤竜の魔術師 守備力1400

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

竜脈の魔術師 守備力900

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

幾度も揺れ動く振り子の軌跡により、フィールドに4体の『魔術師』が呼び出される。扇を持った目付きの鋭い賤竜。竜穴と竜脈の『魔術師』師弟。更に派手な衣装の曲芸と色とりどりだ。

 

「賤竜の効果で慧眼を回収。そして竜脈の効果で捨て、ホーク・ジョーを破壊!」

 

「させない。永続罠、『ディメンション・ガーディアン』を発動。ホーク・ジョーに戦闘、効果破壊耐性を与える」

 

「魔法カード、『一騎加勢』!賤竜の攻撃力を1500アップ!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100→3600

 

「バトル!賤竜でライキリへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『大脱出』。バトルを終了させる」

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

ダニエル LP2500

フィールド『竜脈の魔術師』(守備表示)『賤竜の魔術師』(守備表示)『竜穴の魔術師』(守備表示)『曲芸の魔術師』(守備表示)セットモンスター

セット3

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札2

 

「俺のターン、ドロー。ホーク・ジョーの効果により、墓地からアーマード・ウィングを蘇生」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500

 

ホーク・ジョーの下に集う3体の『BF』モンスター。このコンボこそ彼の主軸となる。通称、3羽烏。ライキリが相手の戦線を突破し、防御において起点たるホーク・ジョーが狙われれば戦闘耐性を持つアーマード・ウィングへ移行する。かなり厄介な3体が揃ってしまった。

 

「面倒な……!」

 

「ライキリの効果により、ペンデュラムを破壊する」

 

「ッ!」

 

「バトル、ライキリで曲芸を、ホーク・ジョーで竜脈を、アーマード・ウィングでセットモンスターへ攻撃」

 

「チッ、曲芸の効果でこのカードをペンデュラムゾーンへ!」

 

確実に、一歩一歩とこちらの手を潰すクロウ・ゴースト。機械的で淡々としたその戦術にコナミが冷や汗を垂らす。全く熱の籠っていない相手だ。血が通っていないかのような、こちらを観察するデュエル。正直不気味で仕方無い。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド」

 

「罠発動。『転生の予言』。墓地の『貪欲な瓶』を2枚回収」

 

クロウ・ゴースト LP4000

フィールド『BFTー漆黒のホーク・ジョー』(攻撃表示)『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)

『黒い旋風』『補給部隊』『ディメンション・ガーディアン』セット1

手札0

 

「オレのターン、ドロー!刻剣はフィールドに戻る。そして効果発動!狙いのはホーク・ジョー!」

 

「ホーク・ジョーの効果により、対象をギブリに」

 

「だがこれでホーク・ジョーの効果は使い切った。オレは『貴竜の魔術師』をセッティング!」

 

「罠発動。『ゴッドバード・アタック』。ライキリをリリースし、『貴竜の魔術師』とセットカードを破壊」

 

「ぐっ!?」

 

悉く、コナミの策が看破されていく。このままではジリ貧、何か大きな手を打ち、打破したいが――何もない。

 

「ターン、エンド……」

 

ダニエル LP2500

フィールド『賤竜の魔術師』(守備表示)『竜穴の魔術師』(守備表示)

セット1

Pゾーン『曲芸の魔術師』

手札2

 

「俺のターン、ドロー。魔法カード、『マジック・プランター』を発動。永続罠、『ディメンション・ガーディアン』を墓地に送り、2枚ドロー」

 

クロウ・ゴースト 手札0→2

 

「そしてホーク・ジョーの効果でライキリを蘇生」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600

 

「更に『ゴブリンドバーグ』を召喚」

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

現れたのは玩具の飛行機に乗ったゴブリン。彼が操る中で、初めて『BF』以外のモンスターが召喚された

 

「召喚時効果により、手札の『BFー弔風のデス』を特殊召喚」

 

BFー弔風のデス 守備力1000

 

次に現れたのもまた、初めて見る『BF』モンスターだ。今度は一体どんな効果で攻めて来るのか、コナミは押し黙って観察する。

 

「ライキリの効果発動。竜穴、セットカード、曲芸を破壊」

 

「……!」

 

再びライキリの斬撃がコナミのフィールドを粉々に砕く。

 

「レベル4のトルネードに、レベル4のデスをチューニング!漆黒の風を纏い、末世から飛翔せよ!シンクロ召喚!『玄翼竜ブラック・フェザー』!!」

 

玄翼竜ブラック・フェザー 攻撃力2800

 

レベル4モンスター2体によるシンクロ召喚で、姿を見せたのは予想外のモンスター。黒き鬣、黒き翼、鋭い嘴を持ち、細長い体躯をしならせ、赤いラインを輝かせる黒羽の竜。コナミも良く見たモンスターの姿であり、彼の持つ『スターダスト』、ジャック・Dの『レッド・デーモン』と同じ決闘竜にして、クロウ・ゴーストが誇るエースカードだ。

 

「ブラック・フェザー……!」

 

「バトル、アーマード・ウィングで賤竜へ、ライキリでダイレクトアタック」

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニュシュ』により賤竜の戦闘ダメージを0に、墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを封じる!」

 

「ターンエンド。この瞬間、墓地に送られた『弔風のデス』の効果で1000ポイントのダメージを受ける」

 

クロウ・ゴースト LP4000→3000

 

「そしてブラック・フェザーの効果発動。1ターンに1度、戦闘、効果ダメージを受けた時、デッキトップから5枚のカードを墓地に送り、その中にモンスターカードがあった場合、ターン終了まで攻撃力を400アップする」

 

玄翼竜ブラック・フェザー 攻撃力2800→3200

 

ブラック・フェザーの翼に光が灯り、その力を増す。5枚もの墓地肥やしと確率性の高い攻撃力アップ。それがブラック・フェザーの効果だ。

 

クロウ・ゴースト LP3000

フィールド『玄翼竜ブラック・フェザー』(攻撃表示)『BFTー漆黒のホーク・ジョー』(攻撃表示)『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)

『黒い旋風』『補給部隊』

手札0

 

「オレのターン、ドロー!刻剣がフィールドに戻る。そして装備魔法、『妖刀竹光』を刻剣に装備し、魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札1→3

 

「魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』発動!『竜穴の魔術師』と『曲芸の魔術師』を回収し、セッティング!ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『竜脈の魔術師』!」

 

賤竜の魔術師 守備力1400

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

竜脈の魔術師 守備力900

 

「賤竜の効果で『相生の魔術師』を回収!『ジェット・シンクロン』召喚!」

 

ジェット・シンクロン 攻撃力500

 

現れたのは青と白のカラーリングのジェットエンジンを模したモンスター。レベル1のチューナーであり、自己蘇生効果を持った優秀なカードだ。

 

「レベル4の慧眼に、レベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『ジェット・ウォリアー』!」

 

ジェット・ウォリアー 守備力1200

 

続けてシンクロ召喚、現れたのは重厚な黒のボディを煌めかせる、ジェット機を模した機械戦士だ。ギャリギャリと己の脚部に着いた刃で地を削り、フィールドに着地。そのままクロウ・ゴーストのフィールドに突き進む。

 

「『ジェット・ウォリアー』の効果発動!ホーク・ジョーをバウンス!更に素材になった『ジェット・シンクロン』の効果で『ジャンク・コレクター』サーチ!」

 

「対象をギブリに変更」

 

「そう、そうするしかない。刻剣の効果でホーク・ジョーを除外!」

 

「ッ!」

 

『ジェット・ウォリアー』と『刻剣の魔術師』、二段構えの策でホーク・ジョーを攻略。これで厄介な蘇生は潰した。

 

「『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ。カードを1枚セット、ターンエンド」

 

ダニエル LP2500

フィールド『ジェット・ウォリアー』(守備表示)『竜脈の魔術師』(守備表示)『賤竜の魔術師』(守備表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『曲芸の魔術師』

手札4

 

「俺のターン、ドロー。魔法カード、『打ち出の小槌』を発動。アクションカードと共に手札を交換。『BFー蒼天のジェット』を召喚」

 

BFー蒼天のジェット 攻撃力100

 

「『黒い旋風』の効果でギブリをサーチ。ライキリの効果発動。ペンデュラムを破壊」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!ペンデュラムを対象とするモンスター効果を無効!」

 

「ッ!バトルに入る。アーマード・ウィングで竜脈を、ライキリで『ジェット・ウォリアー』に、更にアクションマジック、『セカンド・アタック』によって攻撃権を増やし、賤竜へ攻撃」

 

『BF』大暴れ。コナミのモンスターを倒し、破壊する事でフィールドを更地に変える。これでコナミのモンスターはまたも全滅。対するクロウ・ゴーストはブラック・フェザーによる攻撃権が残っている。だが――。

 

「ブラック・フェザーで攻撃。黒怒尖闘撃!」

 

「墓地の『機甲忍者アクア』を除外し、攻撃を無効!」

 

「知っている……」

 

キュイッ、クロウ・ゴーストのカメラアイが細められる。そう、計算高く、デュエルを綿密に組み上げる彼はコナミ達が墓地に落とした公開情報ならば全て覚えている。勿論、『虹クリボー』の事も。だが使わせなければ何時までも残る。使わせる時に使わせなければ、クロウ・ゴーストとしても攻め切れない。

 

「ターンエンド」

 

クロウ・ゴースト LP3000

フィールド『玄翼竜ブラック・フェザー』(攻撃表示)『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)『BFー蒼天のジェット』(攻撃表示)

『黒い旋風』『補給部隊』

手札2

 

「オレのターン、ドロー!スタンバイフェイズ、刻剣はフィールドに戻る。魔法カード、『金満な壺』を発動!エクストラデッキ、墓地のペンデュラムモンスターをデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札4→6

 

「ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『竜脈の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『ジャンク・コレクター』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

慧眼の魔術師 攻撃力1500

 

ジャンク・コレクター 守備力2200

 

再度ペンデュラム召喚。現れたのは3体の『魔術師』とコナミの奥の手である『ジャンク・コレクター』だ。このモンスターを召喚したと言う事は――既に手は打ってあると言う事だろう。

 

「賤竜の効果で竜穴を回収!」

 

「手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、効果を無効に」

 

「『ジャンク・コレクター』と墓地の『エレメンタルバースト』を除外し、効果をコピー!相手フィールドのカードを全て破壊する!」

 

『ジャンク・コレクター』が閃光に包まれ、弾け飛び、中より4つのエレメントが溢れ出す。押し寄せる津波が、沸き立つ火柱が、荒々しき旋風が、隆起する大地が、クロウ・ゴーストのフィールドを焦土と化す。これならば対象等関係なくホーク・ジョーを含めて全てのカードを潰せる。クロウ・ゴーストの扱う『BF』の最も厄介なのは繁殖力。特にアーマード・ウィング、ホーク・ジョー、ライキリの3羽は1体でも残しておくとそれだけで突破力になりかねない。だから――纏めて全部叩くしかない。お蔭で貴重な『エレメンタルバースト』の2発目を切ってしまった。

 

「……ッ!」

 

「『相生の魔術師』を召喚!」

 

相生の魔術師 攻撃力500

 

「カードをセット、バトル!竜脈でダイレクトアタック!」

 

「手札のギブリの効果発動」

 

BFー熱風のギブリ 守備力1600

 

「そのまま叩く!そして刻剣でダイレクトアタック!」

 

クロウ・ゴースト LP3000→1600

 

「ッ!」

 

刻剣の剣がクロウ・ゴーストの肩口を切り裂き、ダメージを与える。残るLPは1600。これならば――。

 

「賤竜で攻撃!」

 

クロウ・ゴースト LP1600→0

 

「――ッ!」

 

賤竜の攻撃が真正面から入り、クロウ・ゴーストのLPを削り尽くす。白煙を上げ、停止する白いD-ホイール。勝者、ダニエル――。

残るD-ホイーラーはただ1人。コナミは荒くなった息を整え、ラストホイーラーである白帽子に指先を向け、挑戦状を叩きつける。

 

「残るはお前ただ1人……さぁ、来い!決着をつける時だ!」

 

「……面白い……!」

 

夜空に映える月下で、2人のデュエリストが吠える。今こそ雌雄を決する時。白コナミは腰を上げ、右手を空へと翳し、信頼する愛機を呼び出す。

漆黒の夜空で輝く明星。その存在はドンドンとサーキットへ近づき、流星の如く舞い降りる。先端が二又に別れた、翼を持った戦闘機のような巨大な純白のD-ホイール。サーキットに現れたマシンを見て、観客達がざわざわと騒ぎ出す。

 

『こっこ、これはお面ホイーラーの機体!?と言う事はまさか、お面ホイーラーの正体はコナミだったのか!?』

 

その間にも白コナミはぴょんと自らのD-ホイールに搭乗し、エンジンをかけ、フィールドを疾駆する。1回戦最終試合、2回戦に駒を進める、決着を賭けたラストホイーラー同士の対決。そして、コナミ同士の決着を賭けた一戦が今――始まる。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」




と言う事でクロウ・ゴーストのデッキはABFを投入したBFデッキです。
クロウ・ホーガンのデッキはアニメ5D'sに登場したBF+ホーク・ジョーを除いた漫画BF+一部のOCGオリジナルBFとなっております。ARCーV登場のBFはABFでなくとも投入されておりません。


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第144話 これからが本当の勝負!

暗き夜空、弧を描く黄金の三日月の輝きの下、恐ろしい魔王城の迷宮と化したサーキットにて、2人のデュエリストがD-ホイールを疾駆させ、雌雄を決するデュエルに挑んでいた。

 

1人は赤帽子を被り、同色のジャケットを羽織った少年。友の機体、重厚な黒いのボディを煌めかせ、天に反り立つ2本の山羊角を伸ばしたグラファ号Rに乗ったコナミ。

彼はチームメイトである月影、トニーの力を合わせ、何とかジャック・アトラス・Dの強力な『レッド・デーモン』モンスターを打ち倒し、続く新型の『ABF』と旧型の『BF』を合わせたハイブリッドの『BF』デッキを扱うクロウ・ゴーストも薙ぎ倒し、やっとの思いでラストホイーラーまで引き摺り出した。

 

とは言え2人の強敵を相手にした為、消耗が激しい。一番不味いのは『ジャンク・コレクター』と『エレメンタルバースト』のコンボを2度も使わされた事だ。打てるとしても後1度、しかも2度も見せているとなれば成功するかも怪しい。幸いなのはもう1つの奥の手は見せていない事か。『エレメンタルバースト』を打つとすれば、2つの奥の手が揃った時。チャンスは1度となる。それ程までにコナミは身を削られ、対する相手はジャック・Dに肩を並べる力を持つ。

 

白帽子を被り、同色のジャケットを纏った、コナミと良く似た青年。彼は先端が二又に別れた、翼を持つ戦闘機のような巨大D-ホイールに搭乗している。

白コナミ。コナミが1度完膚なきまでに叩きのめされたデュエリストだ。

スタンダード次元の舞網市から今のシンクロ次元まで、この男を越える強敵は片手で数える程しかいない。だが、全くいなかったと言う訳ではない。その代表が――鬼柳 京介。彼との闘いを経た今ならば、そして白コナミとの対決からデッキ構築を変えた今ならば、この刃は喉元まで届く。

 

グンッ、気合いを込め、アクセルをかけるコナミの背後で、白コナミがデッキより5枚のカードを引き抜く。

その光景を――治安維持局長官、ジャン・ミシェル・ロジェはモニター越しに眺めていた。

 

「さて、ラストホイーラーまで引き摺り出されたか」

 

「奴がここまで成長しているとは思わなかったが……この程度ならば充分想定内だ」

 

「複雑な気分だな。私のセルゲイを倒した男と同じ顔同士が闘い、ムカつく方を応援せねばならんとは」

 

「そう言うな、しかしまだ1回戦と言うのに、これ程デュエルエナジーが溜まるとは――」

 

「確か赤き竜とやらを引き摺り出すと言っていたな……それより柊 柚子は見つかったのか?セレナはまだデュエルエナジー増幅の為に見逃せねばならんが、彼女はもう違うだろう」

 

「柊 柚子?あぁ、忘れてない、忘れていないさ……」

 

ロジェが彼の背後で控えるプラシドと会話し、企み、根回しをするプラシドに何やら違和感を覚える。おかしい。今まで予言者染みた発言で事を進めていたプラシドであるが――彼はまるで、自らの目的を達成すれば、後の事、柊 柚子達、プロフェッサー目的等、どうでも良いように見える。

 

「……どうした?」

 

「……いや、何でもないさ。ゆっくりと観戦しようじゃないか」

 

いや、気のせいだろうとロジェはモニターに振り向く。この時、ロジェがもっと彼の本心を引き出せば――あるいは、彼等の核心に触れていたのかもしれない。

 

――――――

 

コナミ達のデュエルを観戦しているのはロジェだけではない。ここ、評議会のビルにもまた、彼のデュエルを見守る者が1人、榊 遊矢だ。

自分の試合が終わった彼は自室に戻り、部屋に備え付けられたテレビの前に座り、試合の中継を見ていた。

 

「……コナミと同じ奴……やっぱり気のせいじゃ無かったんだな……」

 

その視線の先には、白コナミ。コナミと似た容姿の青年だ。遊矢は彼のような、コナミと似た者と会い、デュエルをした事が1度だけある。1度だけ、〟コナミ〝とデュエルをしたのだ。

 

黒の召喚法、エクシーズ、『No.39希望皇ホープ』をエースとする少年、黒コナミと。

その実力は言うまでもなく強く、融合召喚も得ていなかったとは言え、完膚なきまでに叩き伏せられた。成長した今でさえ勝てるか怪しいだろう。

そして恐らく、この白コナミもまた、彼に比肩する力を持っている。コナミの実力は彼のデュエルを見て知っている。彼の実力の方は、黒コナミや白コナミと比べれば――。

 

「いや……勝てるさ。コナミは、俺がジャックと闘ってる時、俺の勝利を信じてくれたんだ……その俺が信じなくて、誰が信じるんだ」

 

この闘いが終われば、恐らく、ユートとユーゴのデュエルの時のように、どちらか一方が消えるだろうと、遊矢は確信している。

そう言う存在なのだと、何となく察しているのだ。遊矢と柚子、そしてコナミ。4つの次元で存在する彼等。それが何を意味するのかはまだ分からない。だから今は、今出来る事は、コナミの勝利を信じる事。

 

だが何故だろうか、胸騒ぎが、止まらない。遊矢の胸の奥が熱く、脈を打っている――。

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

ラストホイーラー、白コナミがクロウ・ゴーストが敗北した事で自動的にターンを引き継ぎ、デッキより1枚のカードを引き抜く。

彼の手札は全開の6枚、フィールドのカードは『エレメンタルバースト』によって0枚の状態、対してコナミのフィールドは『魔術師』ペンデュラムモンスターが5体、セットカードが2枚とペンデュラムが2枚。代償としてはLPが2900、まずまずの布陣だ。

だが、白コナミを全開の状態で相手取るなら、不安が残る。

 

「手札のモンスターを捨て、『クイック・シンクロン』を特殊召喚!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

白コナミの手札を撃ち抜き、フィールドに飛び出したのはテンガロンハットを被ったガンマン人形。煙を吹く銃に向かい、フッ、とキザに息を吐きかけ、クルクルと回転させてガンホルダーへ戻す。中々に様になっている。

レベル5のチューナー、特殊召喚も比較的容易であり、シンクロ素材にする場合、『シンクロン』チューナーの代わりとなって条件を補う、彼のデッキには欠かせないカードだ。

 

「そして墓地に送られた『ダンディライオン』の効果により、2体の『綿毛トークン』を特殊召喚する」

 

綿毛トークン 守備力0×2

 

更に『クイック・シンクロン』の両隣に顔を持った綿毛が降り立つ。これだ、手札コストさえも利用し、シンクロへ繋ぐ。『シンクロン』デッキにとって理想とも言える戦術。こう言ったものがある以上、手札コストは彼にとって有利に働くものでしかない。

 

「『デブリ・ドラゴン』を召喚」

 

デブリ・ドラゴン 攻撃力1000

 

続けて現れたのは彼のエースモンスターをミニチュア化させたようなドラゴンだ。青白い身体を持ち、翼を羽ばたかせ、フィールドに舞い降りる。

 

「召喚時、墓地から攻撃力500以下のモンスターを蘇生する。来い、『ダンディライオン』」

 

ダンディライオン 守備力300

 

効果により、たんぽぽとライオンを合わせたようなモンスターが吊り上げられる。これで白コナミのフィールドには5体のモンスター。ペンデュラムも真っ青の展開力だ。これこそがこのデッキ最大の武器。

 

「レベル3の『ダンディライオン』とレベル1の『綿毛トークン』に、レベル4の『デブリ・ドラゴン』をチューニング!集いし願いが新たに輝く星となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

シンクロ召喚――高速展開から繋ぎ、現れたのは彼のエースモンスター、彼の操るD-ホイールと同じく、白とミントグリーンの細い体躯を持った、まるで天使のような竜。星屑を纏った姿はコナミの使う『閃光竜スターダスト』と驚く程酷似している。早速エースモンスターの登場にコナミが警戒を強める。

 

「まだだ、『ダンディライオン』の効果で『綿毛トークン』を生成」

 

綿毛トークン 守備力0×2

 

「くっ――!」

 

まだ続く展開にコナミが歯を食い縛る。分かっていた事だが、面倒なものだ。

 

「レベル1の『綿毛トークン』3体に、レベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし闘志が怒号の魔神を呼び覚ます。光差す道となれ!シンクロ召喚!粉砕せよ、『ジャンク・デストロイヤー』!」

 

ジャンク・デストロイヤー 攻撃力2600

 

2連続シンクロ。地を踏み砕き、降り立ったのは巨大ロボット型のモンスター。王冠のような角にX字の翼、胸に数個のコアを輝かせ、黒のボディを煌めかせる破壊神。彼のデッキの中でも特に凶悪なモンスターだ。

 

「『ジャンク・デストロイヤー』のシンクロ召喚時、チューナー以外の素材となったモンスターの数まで相手フィールドのカードを破壊する!賤竜と竜穴、セットカードを破壊!タイダル・エナジー!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、賤竜を対象とするモンスター効果を無効に!」

 

「チッ、ならばバトル!」

 

「罠発動!『ワンダー・エクシーズ』!慧眼と相生でエクシーズ召喚を行う!エクシーズ召喚!『No.39希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

「『ジャンク・デストロイヤー』で『ホープ』に攻撃!デストロイ・ナックル!」

 

「『ホープ』のORUを1つ取り除き、攻撃を無効に!ムーンバリア!」

 

『ジャンク・デストロイヤー』が巨大な剛腕で『ホープ』に襲いかかるも、『ホープ』が周囲に回転するORUを弾き飛ばし、翼に吸収、盾として眼前に突き出して攻撃を反らす。流石に重い一撃で反らすので精一杯と言った様子だ。

 

「『スターダスト・ドラゴン』で『刻剣の魔術師』に攻撃!シューティング・ソニック!」

 

「『ホープ』の効果で無効!」

 

続けて『スターダスト・ドラゴン』が大気をアギトに集束し、光のブレスとして『ホープ』に向かって吐き出す。これも何とか防ぐが――代わりとして、全てのORUを失ってしまった。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ。さぁ、約束通り力をつけたようだな。満足させて見せろ!」

 

白コナミ LP4000

フィールド『スターダスト・ドラゴン』(攻撃表示)『ジャンク・デストロイヤー』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地から『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』、『閃光竜スターダスト』、『竜穴の魔術師』、『E・HEROエアーマン』2体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札3→5

 

「手札のアクションマジックを捨て、墓地の『ジェット・シンクロン』の効果で自身を特殊召喚!」

 

ジェット・シンクロン 守備力0

 

「レベル6の賤竜に、レベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

再びフィールドに現れる二色の眼の灼熱竜。流星を砕く為、コナミのデッキに宿ったモンスターだ。雄々しき咆哮を上げ、赤と青の眼で白コナミを射抜く。

 

「メテオバーストの効果により、ペンデュラムゾーンの『竜穴の魔術師』を特殊召喚!」

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

ペンデュラムゾーンからモンスターゾーンへ、『竜穴の魔術師』がメテオバーストの背に転移する。このデュエル中、2度目の光景。ここから導き出される展開は――。

 

「エクシーズか……!」

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800

 

シンクロからエクシーズ、炎の竜が氷の竜へと生まれ変わる。『スターダスト・ドラゴン』が振り撒く星屑を氷の結晶に変え、三日月の下吠え猛る。

 

「刻剣の効果でこのカードと『ジャンク・デストロイヤー』を除外する!バトルだ!」

 

「罠発動!『バスター・モード』!『スターダスト・ドラゴン』をリリースし、デッキより『スターダスト・ドラゴン/バスター』を特殊召喚!!」

 

スターダスト・ドラゴン/バスター 攻撃力3000

 

『バスター・モード』。コナミのチームメイトであるトニーも使ったシンクロモンスターの更なる進化形態がフィールドに君臨する。疾風に、旋風に、嵐に星屑を乗せ、青と白の鎧を纏い、細い肉体を逞しく成長させた『スターダスト・ドラゴン』が、神々しく、雄々しく、敵であるコナミを睥睨する。

 

「『/バスター』……そんなものまで……!」

 

「万事に備えてこそ真のデュエリスト。心構え位出来ていないのか?」

 

「いや、予感はあった……!竜脈で『/バスター』へ攻撃!この瞬間、アブソリュートのORUを取り除き、効果発動!攻撃を無効に!」

 

「『/バスター』の効果!このモンスターをリリースし、モンスター、魔法、罠の効果を無効にし、破壊!」

 

アブソリュートが氷の結晶を模したバリアを作り出し、その中より仲間を呼ぼうと咆哮を上げようとするも、『/バスター』がアブソリュートの首を掴み、もう1つの腕を振るい、次元を割り、その先の空間に共に飛び込む。瞬間、アブソリュートも何とか応戦しようと最後に凍風のブレスを『/バスター』に向かって放つ。が――白い冷気を裂き、『/バスター』が無傷のままに引き摺り込む。

 

「忘れたか?アブソリュートの効果により、エクストラデッキから『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』を呼ぶ!!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン 攻撃力2500

 

アブソリュートが最後に放った凍風が逆巻いて竜巻となり、中から斬撃が切り裂き、天候を司る竜が姿を見せる。深緑の体躯に4枚の翼、嘴を持った二色の眼の竜。ボルテックスがアブソリュートと入れ替わって現れた。

 

「特殊召喚時、セットカードをバウンス!竜脈でダイレクトアタック!」

 

「アクションマジック、『大脱出』!」

 

「ボルテックスの効果で無効!」

 

「手札の『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了!」

 

竜脈からのボルテックスと『ホープ』による挟撃で一気に叩こうとその時、白コナミの手札からサングラスをかけ、三角帽子を被ったかかしが現れ、2本の木の棒で2体の攻撃を防ぎ、ニヒルに笑う。

 

「カード2枚セットし、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、『/バスター』がフィールドに戻る」

 

スターダスト・ドラゴン/バスター 攻撃力3000

 

ダニエル LP2500

フィールド『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『竜脈の魔術師』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『曲芸の魔術師』

手札3

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換」

 

「罠発動!『貪欲な瓶』!」

 

「通す」

 

「墓地の『妖刀竹光』、『黄金色の竹光』、『貪欲な壺』、『アメイジング・ペンデュラム』、『ジェット・ウォリアー』を戻し、1枚ドロー!」

 

ダニエル 手札3→4

 

「『カードガンナー』召喚!」

 

カードガンナー 攻撃力400

 

新たに現れたのは丸いガラスヘッド、赤いボディと腕に大砲、青いタンクの下半身を持った機械族のモンスターだ。下級モンスターや墓地肥やしを大量に投入する傾向が強い為、こう言ったカードが出て来るであろう事は予想済みだ。

 

「効果発動!デッキトップから3枚のカードを墓地に送り、攻撃力をアップ!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

「バトル!『/バスター』でボルテックスへ攻撃!」

 

ダニエル LP2500→2000

 

「ぐっ――!」

 

『/バスター』がボルテックスの放つ嵐と雷を引き裂き、荒々しく首を掴んで地に叩きつける。余りの力に地が割れ陥没する。

 

「『カードガンナー』で『ホープ』へ攻撃!」

 

「ORUが無い為、自壊する……そしてこの瞬間、効果でモンスターが破壊された為、ペンデュラムゾーンの『曲芸の魔術師』を特殊召喚!」

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

「攻撃変更!竜脈を攻撃!」

 

ダニエル LP2000→1900

 

「チッ!」

 

怒濤の攻め込みでコナミの戦力を削り、モンスターを全滅させる白コナミ。凄まじい展開力から繋がれる高速攻撃は侮れない。

 

「ターンエンドだ」

 

白コナミ LP4000

フィールド『スターダスト・ドラゴン/バスター』(攻撃表示)『カードガンナー』(攻撃表示)

手札0

 

「オレのターン、ドロー!罠発動!『貪欲な瓶』!墓地のカード5枚を回収し、ドロー!」

 

ダニエル 手札5→6

 

貪欲カードを使い回し、デッキ切れを抑える。こちらにも気を回さなければならないのが辛い所だ。

 

「スタンバイフェイズ、刻剣とデストロイヤーがフィールドに戻る。そして刻剣と『/バスター』を除外」

 

「『/バスター』をリリースし、無効にして破壊!」

 

「魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』!エクストラデッキから『竜穴の魔術師』と『竜脈の魔術師』を回収!セッティング!ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『相生の魔術師』!『刻剣の魔術師』!『貴竜の魔術師』!」

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

相生の魔術師 守備力1500

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

「賤竜の効果で墓地の慧眼をサルベージ!更に光属性モンスター、『相生の魔術師』をリリースし、デッキから『オッドアイズ・ドラゴン』を墓地に送り、手札より『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を特殊召喚する!出でよ、絶望の暗闇に差し込む、眩き救いの光!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

現れたのはコナミが友、榊 遊矢から譲り受けた絆のカード、白銀の鎧に身を包み、背から黄金の剣を伸ばした二色の眼の竜。『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』だ。

 

「更にレベル5の曲芸に、レベル3の貴竜をチューニング!シンクロ召喚!『閃光竜スターダスト』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

更に現れたのは白コナミの『スターダスト』と対を成す、コナミの『スターダスト』。リベンジに燃え、気高き咆哮を放って白コナミを睨み付ける。

 

「『刻剣の魔術師』の効果により、このカードと『カードガンナー』を除外!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』で『ジャンク・デストロイヤー』へ攻撃!」

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!戦闘ダメージを0にする!」

 

「だがこれでフィールドはがら空きだ!やれ、『スターダスト』で、ダイレクトアタック!」

 

「甘いわ!墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを封じる!」

 

がら空きとなった所に『スターダスト』のブレスを放つコナミだが、白コナミの手に光の剣が形成され、閃光が切り裂かれる。恐らく『カードガンナー』で墓地に送られていたのだろう。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

「この瞬間、『/バスター』がフィールドに戻る」

 

スターダスト・ドラゴン/バスター 攻撃力3000

 

ダニエル LP1900

フィールド『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札4

 

「俺のターン、ドロー!バトル!『/バスター』で『閃光竜スターダスト』へ攻撃!」

 

「バトル前に『エフェクト・ヴェーラー』を手札から捨て、『/バスター』の効果を無効!『スターダスト』の効果で自身を守る!」

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、その効果を無効!」

 

ダニエル LP1900→1400

 

「む、ぐっ――!」

 

『/バスター』と『スターダスト』、2体のブレスが鬩ぎ合い、『/バスター』のブレスが波のように押して衝撃がコナミと『スターダスト』を貫く。破壊を逃れる為に工夫を凝らしたつもりだったが――それも無効にされてしまった。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP4000

フィールド『スターダスト・ドラゴン/バスター』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「オレのターン、ドロー!刻剣と『カードガンナー』がフィールドに戻る。そして刻剣の効果!このカードと『/バスター』を除外!」

 

「無効にする!」

 

「手札の慧眼を捨て、『竜穴の魔術師』のペンデュラム効果により、セットカードを破壊!」

 

「チッ、罠発動!『裁きの天秤』!俺の手札とフィールド、お前のフィールドのカードの差分ドローする!3枚ドローだ!」

 

白コナミ 手札0→3

 

どうやらこちらがペンデュラム召喚し、刻剣と『カードガンナー』がいなくなった後にでも発動するつもりだったのだろう。舌打ちを鳴らしながら破壊されるよりマシ、と『裁きの天秤』によってカードをドローする白コナミ。コナミとしては相手の目論見を打破出来て嬉しいばかりだ。

 

「ペンデュラム召喚!『刻剣の魔術師』!『曲芸の魔術師』!『相生の魔術師』!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

相生の魔術師 守備力1500

 

「刻剣の効果で『カードガンナー』を除外!バトルだ!『賤竜の魔術師』でダイレクトアタック!」

 

「墓地の『超電磁タートル』を除外し、バトルフェイズを終了!」

 

賤竜が白コナミのフィールドへと踏み出し、駆け出したその時、賤竜の眼前に円盤状の物体が飛び出し、賤竜の鼻先を通過し、攻撃を躊躇わせる。更に円盤は赤と青の稲妻を放出しながらクルクルとブーメランのように白コナミのフィールドに戻っていき、電磁の障壁を作り出す。

 

「ッ、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

「『/バスター』がフィールドに戻る」

 

スターダスト・ドラゴン/バスター 攻撃力3000

 

ダニエル LP1400

フィールド『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)『曲芸の魔術師』(守備表示)『相生の魔術師』(守備表示)

セット2

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!バトル!『/バスター』で『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』へ攻撃!」

 

「罠発動、『スキル・サクセサー』!『オッドアイズ』の攻撃力を400アップ!」

 

「チッ、『/バスター』をリリースし、効果を無効!」

 

コナミが『スキル・サクセサー』を使う事によって『/バスター』を迎え撃とうとするも、白コナミはその効果を使ってエスケープする。だがこれで戦闘破壊を逃れた。

 

「モンスターをセット、カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

「『/バスター』を帰還」

 

スターダスト・ドラゴン/バスター 攻撃力3000

 

白コナミ LP4000

フィールド『スターダスト・ドラゴン/バスター』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

手札2

 

「オレのターン、ドロー!フィールドに刻剣が戻り、効果発動!このカードと『/バスター』を除外!」

 

「しつこい奴だ。無効にする」

 

「ペンデュラム召喚!『刻剣の魔術師』!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

刻剣の効果、そしてペンデュラムの特性を活かし、無敵の『/バスター』を一時的にとは言え戦線離脱。その間に攻め込む戦術を確立させる。

 

「刻剣と『カードガンナー』を除外、バトル!賤竜でセットモンスターに攻撃!」

 

「セットモンスターは『スターダスト・ファントム』!破壊された事により、墓地の『スターダスト・ドラゴン』を蘇生!」

 

スターダスト・ドラゴン 守備力2000

 

「『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』で攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!攻撃を無効にする!」

 

「魔法カード、『一時休戦』。互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0に」

 

ダニエル 手札2→3

 

白コナミ 手札2→3

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

「『/バスター』がフィールドに戻る」

 

スターダスト・ドラゴン/バスター 攻撃力3000

 

ダニエル LP1400

フィールド『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』(攻撃表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)『曲芸の魔術師』(守備表示)『相生の魔術師』(守備表示)

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!互いに手札を捨て、その分ドローする!速攻魔法、『サイクロン』!『竜穴の魔術師』を破壊!『金華猫』を召喚!」

 

金華猫 攻撃力400

 

現れたのは珍しいスピリットモンスター。毛を逆立てた青い猫。レベル1モンスターを使うデッキならばかなり優秀なカードだ。

 

「召喚時効果で墓地のレベル1モンスター、『救世竜セイヴァー・ドラゴン』を蘇生する!」

 

救世竜セイヴァー・ドラゴン 守備力0

 

ニヤリ、白コナミがゾッとするような笑みを浮かべ、呼び出したのは透き通った桜色の身体を持つ、小さな竜。蜻蛉等の昆虫にも見えるその小さな身には強大な力を秘めており、このカードの登場にコナミが表情を驚愕に染める。こんなカードまで、と言った様子で。

 

「『セイヴァー』……!」

 

「クク、隠し種を用意していたのはお前も俺も同じと言う訳だ。俺はレベル8の『スターダスト・ドラゴン』とレベル1の『金華猫』に、レベル1の『救世竜セイヴァー・ドラゴン』をチューニング!」

 

ギュン、救世竜の小さな身体が急激に巨大化し、『スターダスト・ドラゴン』と『金華猫』がその中に入り、眩き光を放つ。

 

「集いし星の輝きが、新たな奇跡を照らし出す。光差す道となれ!シンクロ召喚!光来せよ、『セイヴァー・スター・ドラゴン』!!」

 

セイヴァー・スター・ドラゴン 攻撃力3800

 

閃光と共に現れる、救星の竜。クリスタルのように透き通った体躯に、腕を無くし、代わりに4枚の美しき翼を持った、進化した『スターダスト』が降臨する。『/バスター』と同じ、いや、それ以上の進化形態。フィールドにこの2体が並ぶのは、壮観であり、厄介だ。

 

「『セイヴァー・スター・ドラゴン』の効果発動!『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の効果を無効にし、奪い取る!サブリメーション・ドレイン!」

 

効果無効に加え、そのまま無効にした効果を自分に取り込む強力な効果。しかも奪われたのは――『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』の対象を取らない破壊効果。

 

「『スターダスト・ファントム』を除外し、『セイヴァー・スター・ドラゴン』に耐性を与え、バトル!『セイヴァー・スター・ドラゴン』で『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』へ攻撃!シューティング・ブラスター・ソニック!」

 

「ぐっ――!」

 

『セイヴァー・スター・ドラゴン』が4枚の翼を展開し、音をも越えた光速の領域に踏み出し、『オッドアイズ・セイバー・ドラゴン』を貫き倒す。

 

「効果で『相生の魔術師』を破壊!『/バスター』で賤竜を攻撃!」

 

「がはっ――!」

 

2体の星屑竜の猛攻でコナミのモンスターが消し飛ばされる。他のカードを使い、応戦しようにも『セイヴァー・スター・ドラゴン』には『/バスター』と同じく効果無効に加え、その際に相手フィールドのカードを全て破壊する『サンダー・ボルト』と『ハーピィの羽帚』を合わせたような効果がある。無効も加えれば『神の宣告』もか。だがこれだけ強力なモンスターだ。当然代償もある。『セイヴァー・スター・ドラゴン』はエンドフェイズにエクストラデッキに戻る。『/バスター』の効果もある事だ。このターンを凌げば――。

 

「このターンを凌げば何とかなる、か?」

 

「ッ!」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ。この瞬間、『セイヴァー・スター・ドラゴン』の効果が発動。それにチェーンし、永続罠、『ステイ・フォース』。発動!」

 

「その、カードは……!?」

 

発動されたカードが、コナミを更なる絶望に落とす。このカードの効果は――。

 

「LPを1000払い、このターンのエンドフェイズ時、モンスターがフィールドを離れる効果を無効にする!」

 

白コナミ LP4000→3000

 

『セイヴァー・スター・ドラゴン』をフィールドに留まらせる、最悪の罠。

 

白コナミ LP3000

フィールド『セイヴァー・スター・ドラゴン』(攻撃表示)『スターダスト・ドラゴン/バスター』(攻撃表示)

『ステイ・フォース』セット1

手札0

 

「オレのターン、ドロー!この瞬間、フィールドに刻剣が戻る。刻剣の効果発動!このカードと『セイヴァー・スター・ドラゴン』を除外する!」

 

「迷わず来たか、良いだろう!その心意気に応えてやる!『セイヴァー・スター・ドラゴン』をリリースし、その効果を無効にし、破壊!更に相手フィールドのカードを全て破壊する!スターダスト・フォース!」

 

ゴウッ、『セイヴァー・スター・ドラゴン』が4枚の翼を広げ、流星の如くフィールドを駆け、コナミのフィールドに落ち、ソニックブームが広がり、全てのカードを砕く。こちらも迷わず『セイヴァー・スター・ドラゴン』の効果を使って来た。どうせ刻剣はペンデュラムを復活させれば再び召喚されると思っての行動だろう。それに墓地に眠られせた方が何かと都合が良い。ペンデュラムさえなければ刻剣はエクストラに眠ったままだ。

 

「全破壊がお前だけのものだと思うなよ」

 

「気にしてたのか……モンスター1体とカード2枚をセット、ターンエンドだ」

 

ダニエル LP1400

フィールド セットモンスター

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動、『貪欲な瓶』!」

 

「通そう」

 

「墓地のカード5枚を戻し、1枚ドロー!」

 

ダニエル 手札0→1

 

「『カードガンナー』の効果発動!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

「更に罠発動、『星屑の残光』!墓地の『スターダスト・ドラゴン』を蘇生する!!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

再びフィールドに舞い戻る星屑の竜。『セイヴァー』や『/バスター』には劣るものの、このカードもまた、コナミの手を遮る制圧型のモンスター。やりにくいものだ。

 

「『天輪の葬送士』を召喚!」

 

天輪の葬送士 攻撃力0

 

「効果発動!墓地の『エフェクト・ヴェーラー』を蘇生!」

 

エフェクト・ヴェーラー 守備力0

 

現れたのは棺のような形状の天使族と白い法衣を纏い、翼を広げた妖精のようなモンスター。光属性、魔法使い族、レベル1、攻守0と多くのサポートを受けられるチューナーモンスターだ。

 

「シンクロモンスターが2体……一方はチューナー……来るか!」

 

「レベル1の『天輪の葬送士』に、レベル1の『エフェクト・ヴェーラー』をチューニング!集いし願いが新たな速度の地平へ誘う。光差す道となれ!シンクロ召喚!希望の力、シンクロチューナー、『フォーミュラ・シンクロン』!」

 

フォーミュラ・シンクロン 守備力1500

 

2体のレベル1のモンスターが混ざり合い、フィールドに光の速度で駆けつけたのはF1カーを模したレベル2のシンクロチューナー。シンクロを更なる高みへ引き上げる為のモンスターだ。尤も、シンジの試合を見る限り、シンクロチューナーだけならば何ら特別では無いのだろうが。

 

「シンクロ召喚時、1枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→1

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→2

 

「見せてやろう、貴様に俺の本気を!この俺の究極形態を!」

 

「何――!?」

 

ニヤリ、白コナミが獰猛な笑みを浮かべ、不吉な言葉を放つと共にD-ホイールにあるスイッチを押す。すると座席が展開し、円柱状のパーツが飛び出す。そして――。

 

「とう――っ!」

 

白コナミが突然にその場で大きく跳躍、月光を浴びる。これは一体どうした事か。

 

「なっ!?」

 

『おおっとコナミどうした事か!D-ホイールから飛び出したーっ!?』

 

目を剥くコナミとメリッサ、MC、そして観客達。唯一驚いていないのはジャック・Dのクロウ・ゴースト位か。ジャックは何やら頭を抑え込んでいるが。

その間にも白コナミに変化が訪れる。何と――彼の下半身が変形し出したのだ。もう1度言おう、彼の下半身が変形し出したのだ。下ネタ的な意味ではなく、文字通り、冗談抜きで。

 

『え、うえぇぇぇぇっ!?』

 

『何とぉぉぉぉ!?』

 

そのまま白コナミの上半身はD-ホイールの円柱状のパーツと連結、D-ホイールと合体し、キメキメのポーズを取る。

 

「これこそが俺の究極形態、俺の真の姿だ!」

 

ババーンと擬音がつきそうな光景である。まさかのD-ホイールとの合体。最早白コナミが機械族でしたと言われても驚かない。

 

「何と言う事だ……!」

 

『コナミ、D-ホイールと合体――勝利へ賭ける執念を見たーっ!』

 

そして割りと受け入れるシンクロ次元。この次元はどこかおかしい。頭のネジが2、3本ぶっ飛んでいる。

 

「さぁ、行くぞ!レベル8の『スターダスト・ドラゴン』に、レベル2の『フォーミュラ・シンクロン』をチューニング!集いし夢の結晶が新たな進化の扉を開く。光差す道となれ!アクセルシンクロ!」

 

D-ホイールと文字通り1つとなった白コナミが風を引き連れ、空気の層がずれていく。そしてカッ、と眩き閃光が放たれ――白コナミの姿が消える。

 

『き、消えたっ!?』

 

そして――白コナミが消え去った地点から更に後ろに穴のようなものが開き、中よりヘルメットのような頭部、空気抵抗をなくす為の戦闘機のような翼を伸ばし、強靭な体躯を持った白亜の竜を連れた白コナミが現れる。

 

「生来せよ、『シューティング・スター・ドラゴン』!!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

夜空に煌めく美しき流星竜。シンクロモンスターを超越した、アクセルシンクロモンスターが今、顕現した――。

 

『こ、このモンスターは――!?』

 

「効果発動!デッキトップから5枚を捲り、その中のチューナーの数だけ攻撃権を得る!」

 

一見ギャンブルとも言える効果だ。チューナーを大量に投入しなければ意味がなく、それでも2、3枚出れば充分。1枚も出なければ攻撃は出来ない。何せ攻撃権を増やすのではなく、得るのだ。しかし――この男相手に、確率論は通じない。

 

「1枚目!チューナーモンスター、『ジャンク・シンクロン』!2枚目!チューナーモンスター、『クイック・シンクロン』!3枚目!チューナーモンスター、『エフェクト・ヴェーラー』!4枚目!チューナーモンスター、『ドリル・シンクロン』!5枚目!チューナーモンスター、『ターボ・シンクロン』!当然!全てチューナー!」

 

『えぇぇぇぇっ!?どうなってんのぉぉぉぉっ!?』

 

本当に積み込みでもしているとしか思えない光景だ。コナミは最早見慣れているから何も言わないが、観客達は大騒ぎ。当然だろう、5枚連続全てチューナー、5回連続の攻撃。ふざけているとしか思えない。

 

「また俺何かやっちゃいましたぁ?」

 

「ぐっ……!」

 

「クク、バトル!『シューティング・スター・ドラゴン』でセットモンスターを攻撃!更にダイレクトアタック!スターダスト・ミラージュ――グォレンダァ!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

「『/バスター』で無効!」

 

「アクションマジック、『ブラインド・ブリザード』!バトルを終了!」

 

シューティング・スターが夜空に飛翔、月光を背にオーロラのように赤、青、緑と5体に分裂し、美しき輝きを見せる。そのまま弾丸の如くその身を撃ち出し――コナミのモンスターと彼に迫る。が、コナミの眼前に氷が飛び出し、柵のように行く手を遮る。

 

どうやら『シューティング・スター・ドラゴン』の5回連続攻撃への対策として投入した『マジカルシルクハット』や墓地除外での防御カードが活きているようだ。そうでないと困る。何せデッキを改造したのは本来、この男を倒す為だったのだから。

 

「フン、『カードガンナー』を守備表示に変更。魔法カード、『一時休戦』を発動!」

 

白コナミ 手札1→2

 

ダニエル 手札1→2

 

「ターンエンドだ。早々には終わらんらしいな。面白い、そうでなくては困る。さぁ、成長したならばその力の全てを見せてみろ!この俺を満足させられるか!?」

 

スターダスト・ドラゴン/バスター 攻撃力3000

 

白コナミ LP3000

フィールド『シューティング・スター・ドラゴン』(攻撃表示)『スターダスト・ドラゴン/バスター』(攻撃表示)『カードガンナー』(守備表示)

『ステイ・フォース』

手札2

 

並び立つ2体の流星、『スターダスト・ドラゴン』の進化体、『シューティング・スター・ドラゴン』と『スターダスト・ドラゴン/バスター』。この強力無比な二大エースを相手に、コナミは活路を見出だす事が出来るのか――。

 

「オレの、ターンッ!」

 

デュエルは、続く。

 




黒コナミ→アストラル体へ。
白コナミ→究極形態へ。
紫コナミ→覇王へ。
赤いの以外は第2形態を備えています。


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第145話 人々は彼等を

「オレのターン、ドロー!」

 

続くコナミVS白コナミ。月下の魔王城と化したサーキットにて続くライディングデュエルでの死闘。状況はコナミの圧倒的――不利。

フィールドのカードは『セイヴァー・スター・ドラゴン』の効果で草の根絶やさず全滅。一方の白コナミは『スターダスト・ドラゴン』の進化形、アクセルシンクロモンスター、『シューティング・スター・ドラゴン』と『バスター・モード』へと変わった『スターダスト・ドラゴン/バスター』と言うとんでもない布陣を構えている。

ここから手札2枚だけでどうするかが問題だ。相手フィールドには『/バスター』がいる為、発動しても通るのは1枚だけ。つまりどちらも『/バスター』の効果を使わせるようなカードでなければならない。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』を発動!」

 

「させん!『/バスター』をリリースし、効果を無効!」

 

「2枚目だ。『貪欲な壺』を発動!」

 

「チッ!」

 

2枚連続で『貪欲な壺』。成程これならば『/バスター』の効果を使っても結果は変わらなかったか。それとも1枚でも無効に出来た事を喜ぶべきか。

 

「墓地の『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』、『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』、『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』、『No.39希望皇ホープ』、『E・HEROブレイズマン』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札1→3

 

「魔法カード、『死者蘇生』を発動!俺が呼び出すのは――『セイヴァー・スター・ドラゴン』!」

 

セイヴァー・スター・ドラゴン 攻撃力3800

 

「ッ!やってくれる……!」

 

コナミが発動した『死者蘇生』により、白コナミの墓地に眠る『セイヴァー・スター・ドラゴン』が浮上する。やはり『スターダスト』系列は奪われる運命から逃れられないと言う事か。目には目を、歯には歯を。思いもよらぬ攻略を見せるコナミ。

 

「更に『刻剣の魔術師』を召喚!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

「『セイヴァー・スター・ドラゴン』の効果により、『シューティング・スター・ドラゴン』の効果を奪う!バトル!『セイヴァー・スター・ドラゴン』で『シューティング・スター・ドラゴン』へ攻撃!」

 

夢の対決、救世の力を継ぐ『セイヴァー・スター・ドラゴン』と未来を想う力の結晶である『シューティング・スター・ドラゴン』が向かい合い、夜空に白い軌跡を描いてぶつかり合う。

走る流星、『シューティング・スター・ドラゴン』が5体に分裂、怒濤の連続攻撃で応戦するも――『セイヴァー・スター・ドラゴン』が自身を眩く発光させてオーロラを消し去り、矢の如く一直線に『シューティング・スター・ドラゴン』に突き進んで貫く。

軍配が上がったのは救世の竜だ。

 

「『刻剣の魔術師』で『カードガンナー』へ攻撃!」

 

「1枚ドロー!」

 

白コナミ 手札2→3

 

続く刻剣の一閃により、白コナミのモンスターが全滅。これで互角、勝負は分からなくなってきた。が――。

 

「だが、『セイヴァー・スター・ドラゴン』はエクストラデッキに、『/バスター』はフィールドに戻る……!」

 

そう、エンドフェイズ、日が沈み、月が昇るように、入れ替わり様に『セイヴァー・スター・ドラゴン』は消え、『スターダスト・ドラゴン/バスター』が戻って来る。そうなれば有利なのは白コナミの方だ。

 

「忘れたのか?刻剣の効果を!」

 

「……?刻剣は自身と他のモンスターを除外する……まさか――っ!?」

 

「そう、効果で除外出来るのは、敵味方関係無く、そしてコントロールが奪われたモンスターがフィールドに戻る際、その前の時点のコントローラーの下だ!」

 

刻剣と『セイヴァー・スター・ドラゴン』、自身と相手のカードを使ったまさかのコンボが炸裂する。これで『セイヴァー・スター・ドラゴン』は完全にコナミの戦力となった。切り崩すのは面倒そうだ。

 

「ターンエンドだ」

 

スターダスト・ドラゴン/バスター 攻撃力3000

 

ダニエル LP1400

フィールド

手札1

 

「俺のターン、ドロー!くく……良いぞ……!そうでなくちゃ面白くない!だが良いのか?フィールドがお留守だぞ?」

 

「さて、どうかな?」

 

そう、『セイヴァー・スター・ドラゴン』を御したのは良いも、そのお蔭でコナミのフィールドはがら空き。モンスターどころか身を守るバックも存在しない。対する白コナミには『/バスター』と言う強力なモンスターが存在している。相変わらず不利なのは火を見るよりも明らかだ。

 

「フン、終わってくれるなよ?魔法カード、『マジック・プランター』!『ステイ・フォース』をコストに2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→2

 

「バトル!『/バスター』でダイレクトアタック!」

 

「墓地の『虹クリボー』を蘇生!」

 

虹クリボー 守備力100

 

コナミの危機に駆けつけたのは角を持った1頭身の謎生物。『クリボー』系列のモンスターだ。現れたは良いも、直ぐ様『/バスター』に破壊される。

 

「耐えたか……モンスターとカードをセット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP3000

LP『スターダスト・ドラゴン/バスター』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

手札3

 

「オレのターン、ドロー!フィールドに『セイヴァー・スター・ドラゴン』が戻る。速攻魔法、『リロード』。手札を交換。バトル!『セイヴァー・スター・ドラゴン』で『/バスター』へ攻撃!」

 

白コナミ LP3000→2200

 

『シューティング・スター・ドラゴン』の次は『/バスター』を、再び『スターダスト』の進化体が向かい合い、2つのほうき星が夜空で激突。火花を散らす。しかしやはり、救世の力を得た『セイヴァー・スター・ドラゴン』。アクセルシンクロモンスターが敵わなかった存在に『/バスター』が敵う筈も無く、胸を貫かれて砕け、夜空で星屑が散り、月光を浴びて雪のように煌々と輝く。

これで二大エースを撃破。コナミは『セイヴァー・スター・ドラゴン』を保持したままとなり、一気にペースを掴んだ。

 

「『/バスター』の効果で、『スターダスト・ドラゴン』を蘇生!!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

「メインフェイズ2、『セイヴァー・スター・ドラゴン』と『刻剣の魔術師』を除外。カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

「罠発動。『貪欲な瓶』墓地のカードを5枚デッキに戻し、ドロー」

 

白コナミ 手札3→4

 

ダニエル LP1400

フィールド

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』。手札を交換。バトル!『スターダスト・ドラゴン』でダイレクトアタック!シューティング・ソニック!」

 

「罠発動!『次元幽閉』!『スターダスト』を除外!」

 

「チッ、速攻魔法、『神秘の中華なべ』!『スターダスト』をリリースし、攻撃力をLPに変換!」

 

白コナミ LP2200→4700

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP4700

フィールド

セット2

手札1

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札0→2

 

「バトルだ!『セイヴァー・スター・ドラゴン』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『聖なるバリアーミラーフォースー』!攻撃表示モンスターを全て破壊!」

 

「チッ、やらせん!『セイヴァー・スター・ドラゴン』をリリースし、無効にし、相手フィールドのカードを全て破壊!」

 

カッ、と白コナミのフィールドが輝き、攻撃を反射して『セイヴァー・スター・ドラゴン』を討とうとするも、その光を吸収した『セイヴァー・スター・ドラゴン』が白コナミのフィールドを呑み込む。無効には出来たが、『セイヴァー・スター・ドラゴン』と言う戦力を失ってしまった。

 

「そして破壊された『運命の発掘』の効果で墓地のこのカードの数だけドローする!墓地には2枚、よって2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札1→3

 

更に『セイヴァー・スター・ドラゴン』の効果を逆利用してのドロー。やはり持ち主。自身のカードの特性を良く知っている。

 

「刻剣でダイレクトアタック!」

 

「手札の『バトル・フェーダー』を特殊召喚し、バトルフェイズを終了する!」

 

バトル・フェーダー 守備力0

 

現れたのは鐘を鳴らす小さな悪魔。『速攻のかかし』と共に手札誘発での攻撃中断を兼ねる優秀なモンスターだ。

 

「カードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

ダニエル LP1400

フィールド『刻剣の魔術師』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

現れたのは所々へこんだオレンジ色のボディを持ち、背にバックパクを負ったモンスターだ。彼のデッキでも代表的なチューナーである。

 

「召喚時、墓地のレベル2以下のモンスター、『ドッペル・ウォリアー』を蘇生!」

 

ドッペル・ウォリアー 守備力800

 

続けて登場したのは光線銃を手にした黒い戦士。何故かブレるように2体に見えるモンスターだ。

 

「レベル2の『ドッペル・ウォリアー』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!集いし星が新たな力を呼び起こす。光差す道となれ!シンクロ召喚!出でよ、『ジャンク・ウォリアー』!!」

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300

 

シンクロ召喚、白いマフラーを靡かせ、青いボディを煌めかせ1回転ターン、拳を突き出したのは戦士型のシンクロモンスターだ。コナミと白コナミ、最初の決戦で、コナミに引導を渡そうとしたカードだ。否が応でも緊張してしまう。

 

「シンクロ召喚時、レベル2以下のモンスターの攻撃力を吸収!それにチェーンし、『ドッペル・ウォリアー』は2体の『ドッペル・トークン』を生み出す!チェーンを処理、『ドッペル・トークン』の攻撃力を『ジャンク・ウォリアー』へ!パワー・オブ・フェローズ!」

 

ドッペル・トークン 攻撃力400×2

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300→3100

 

『ドッペル・トークン』より光が立ち上ぼり、『ジャンク・ウォリアー』に集約して力を与える。仲間との絆を受けて強くなる。小さな者でも力を合わせれば強い者を打ち倒せる事を体現した効果だ。

 

「バトル!『ジャンク・ウォリアー』で刻剣へ攻撃!」

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!」

 

「左のシルクハットへ攻撃だ!『スクラップ・フィスト』!」

 

「残念、外れだ!」

 

『ジャンク・ウォリアー』の拳がシルクハットを貫くも、虚しく外れる。しかし、刻剣の守備力、及びシルクハットの守備力は0。『ドッペル・トークン』での対処可能だ。

 

「2体の『ドッペル・トークン』で残るシルクハットを破壊!」

 

「『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ!」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

「罠発動!『転生の予言』!墓地から『貪欲な瓶』を2枚回収」

 

白コナミ LP4700

フィールド『ジャンク・ウォリアー』(攻撃表示)『ドッペル・トークン』(攻撃表示)×2『バトル・フェーダー』(守備表示)

セット2

手札0

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『金満の壺』!エクストラデッキの『竜穴の魔術師』、『刻剣の魔術師』、『貴竜の魔術師』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ダニエル 手札1→3

 

「後少し、か――カードをセット、魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

ダニエル 手札0→3

 

「魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』!エクストラデッキの『竜穴の魔術師』と『竜脈の魔術師』を回収、セッティング!カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

ダニエル LP1400

フィールド

セット4

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ!『ジャンク・ウォリアー』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『聖なるバリアーミラーフォースー』!」

 

『ジャンク・ウォリアー』が再び攻撃を仕掛け、拳を突き出し、バーニアから火炎を吹いてコナミへと襲いかかる。しかしそれを見越していたコナミがセットカードをオープン、発生したバリアが衝撃を吸収、『ジャンク・ウォリアー』の眼前で放射、『ドッペル・トークン』ごと呑み込む。

 

「チッ、『ドッペル・トークン』を攻撃参加させたのは間違いだったか……!カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

「罠発動!『貪欲な瓶』!『アメイジング・ペンデュラム』、『金満な壺』、『貪欲な壺』、『転生の予言』、『命削りの宝札』を回収、ドロー!」

 

ダニエル 手札0→1

 

白コナミ LP4700

フィールド『バトル・フェーダー』(守備表示)

セット3

手札0

 

「オレのターン、ドロー!罠発動!『貪欲な瓶』!5枚のカードを回収し、ドロー!」

 

ダニエル 手札2→3

 

「ペンデュラム召喚!『刻剣の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『相生の魔術師』!『賤竜の魔術師』!『ジャンク・コレクター』!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

相生の魔術師 守備力1500

 

賤竜の魔術師 攻撃力2100

 

ジャンク・コレクター 守備力2200

 

「『ジャンク・コレクター』……!罠発動!『深黒の落とし穴』!レベル5以上の賤竜を除外!!」

 

「そう来たか。オレは『ジャンク・コレクター』と墓地の『エレメンタルバースト』を除外し、効果をコピー!」

 

「チッ、罠発動!『貪欲な瓶』!『ダメージ・ダイエット』!墓地の『スターダスト・ドラゴン』、『シューティング・スター・ドラゴン』、『カードガンナー』、2枚の『運命の発掘』を回収してドロー!このターン受けるダメージを半分にする!」

 

白コナミ 手札0→1

 

『ジャンク・コレクター』が光に包まれ弾け飛び、中より災厄が降り注ぐ。炎、水、風、地。4つのエレメントが炸裂、白コナミのフィールドを呑み込む。

 

「装備魔法、『妖刀竹光』を刻剣に装備、リバースカード、オープン!『黄金色の竹光』!2枚ドロー!もう1枚だ!」

 

ダニエル 手札1→3→4

 

「『ジェット・シンクロン』を召喚!」

 

ジェット・シンクロン 攻撃力500

 

「レベル4の『相生の魔術師』に、レベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『ジェット・ウォリアー』!」

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力2100

 

「ここで『ジェット・ウォリアー』だと?」

 

「更にオレは手札を1枚捨てる事で、墓地の『ジェット・シンクロン』を蘇生!」

 

ジェット・シンクロン 守備力0

 

「レベル4の『慧眼の魔術師』に、レベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『アクセル・シンクロン』!」

 

アクセル・シンクロン 守備力2000

 

『ジェット・ウォリアー』の出現の後、フィールドに登場したのは赤と白、紅白のボディを持つD-ホイールを模したモンスターだ。『フォーミュラ・シンクロン』と同じシンクロチューナー。と言う事は――。

 

「会得していたか……!」

 

「往くぞ!クリアマインド!」

 

カッ、コナミが帽子の奥の眼を輝かせ、疾風を纏い、グラファ号Rの受ける空気抵抗を少しずつずらしていく。まるで身体がブレ、分身しているような光景。そして――。

 

「レベル5の『ジェット・ウォリアー』に、レベル5の『アクセル・シンクロン』をチューニング!星流れる痕に紡がれる全ての想い…!絆と共にこの世界を満たさん!アクセルシンクロ!」

 

『まっ、また消えたぁーっ!?』

 

フッ、とコナミとD-ホイールの姿が空気に溶けるように消え、またも会場がどよめく。そして次の瞬間、白コナミの背後よりコナミが現れ、双翼の下を潜り抜け、黄金に輝く竜が連れられる。

『スターダスト』に似た流線状のボディは見るだけでその進化形態なのだと確信させられる。これが、コナミのアクセルシンクロモンスター。そして、現状彼が誇る最強のモンスターだ。

 

「光来せよ!『真閃光竜スターダスト・クロニクル』!」

 

真閃光竜スターダスト・クロニクル 攻撃力3000

 

「黄金の『スターダスト』……それがお前のアクセルシンクロか……!」

 

「そうだ、これがオレの、オレ達の絆の証!」

 

胸を張り、誇らしそうに白コナミに言い放つコナミ。そう、コナミにとってのこのカードは過去と今、多くの仲間達との絆があったからこそ生まれたカードであり、未来を切り開くシンクロモンスター。

 

「絆……」

 

「装備魔法、『白銀の翼』をクロニクルに装備!まだ行くぞ!永続魔法、『魂を吸う竹光』!『妖刀竹光』を装備した刻剣に対し発動!」

 

「ッ、そのカードは――!?」

 

コナミが1枚のカードをデュエルディスクに叩きつけた瞬間、刻剣が握る妖刀から夥しい量の瘴気が解き放たれ、取り憑いた魂が蠢き、呻く。

このカードの発動を見て、白コナミが帽子の奥の眼を見開いて驚愕する。そう、このカードはコナミが『ジャンク・コレクター』と『エレメンタルバースト』の次に持つ奥の手。それが今、白コナミを倒す為に発動される。

 

「『マジカルシルクハット』、『エレメンタルバースト』、『ジャンク・コレクター』、『竹光』のターボ。全て、この為か……!今この時の為の布石か!」

 

「そうだ!全ては今に集束する!バトルだ!『真閃光竜スターダスト・クロニクル』で、ダイレクトアタック!流星煌閃撃ッ!」

 

「ぐっ、おぉぉぉぉっ!?」

 

白コナミ LP4700→3200

 

『真閃光竜スターダスト・クロニクル』が黄金の体躯を震わせ、光を纏って白コナミへと特攻、貫き、D-ホイールと合体した白コナミが大きく回転しながらガタガタと揺れる。まるで胴体がもげるかと思うような思い一撃。白コナミが息を切らす中、更なる追撃が襲いかかる。

フ、と機体を持ち直す白コナミの頭上に影が差し、ハッと見上げればそこにいたのは、鍵のような形状をした剣と瘴気を放つ妖刀、二刀流の少年『魔術師』だ。瞳より鈍い赤の光を放ち、二刀を振り上げ――。

 

「刻剣で、ダイレクトアタック!」

 

白コナミを切り裂く。

 

「ぬっ、がふっ……!」

 

白コナミ LP3200→2500

 

連続攻撃を受け、白コナミのLPが大きく削り取られる。それも充分にピンチだが、何よりも彼を追い込むのは妖刀が切り裂いた、傷跡の呪い。

 

「『魂を吸う竹光』により選択されたモンスターが相手に戦闘ダメージを与えた事で、次の相手のドローフェイズをスキップする!」

 

そう、これこそが恐るべき『竹光』の効果。相手のドローを、即ち希望を砕くロック効果。同じドローロック効果を持ったカードが禁止になっている事からもその強力さと凶悪さが分かるだろう。

 

「お前がたった1枚のドローで全てを覆すなら、オレはそのドローを封じるまでだ!」

 

「成程な……くく、面白い……!」

 

ニヤリ、圧倒的な危機を前にして、白コナミは笑う。LPは風前の灯火。ふいは全滅。ドローも封じられたこの状況で、だ。勝つ手無しと思われるこの状況でだ。彼は――1枚のカードを翳し、邪悪な笑みを浮かべる。

 

「1ターン、遅かったな」

 

「ッ!」

 

それは『貪欲な瓶』で引いた、たった1枚の手札。彼は、この1枚だけで全てを覆すと言うのだ。

 

「いやはや、恐れ入る。このカードがなければ、俺は確実に勝機を失っていただろう」

 

「――ッ、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ダニエル LP1400

フィールド『真閃光竜スターダスト・クロニクル』(攻撃表示)『刻剣の魔術師』(攻撃表示)

『妖刀竹光』『魂を吸う竹光』『白銀の翼』セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札0

 

デュエルモンスターズは、たった1枚のカードが運命を別つ。大袈裟と言えるかもしれないが、今しかと、この場の2人はそれを感じ取っていた。

 

「俺のターン、クク、ドローフェイズがスキップされる。俺は魔法カード、『終わりの始まり』!墓地の闇属性モンスター5体を除外し、3枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→3

 

一気に手札を勝ち取る白コナミ。これでドローフェイズのスキップと言うハンディキャップはなくなった。彼は獰猛な笑みを浮かべつつ、3枚のカードを翳す。

 

「貴様は進化した。俺と同じく、クリアマインドに辿り着くまでに。だがな――その進化、貴様だけの特権と思ったか?」

 

「ッ!まさかっ――!?」

 

ゾッ、コナミの背筋に冷たいものが駆ける。まるで背に蛇か何かが這うような感覚。いや、これは――圧倒的力を誇る龍にでも、鷲掴みにされているかのような――。

 

「俺は手札のモンスターを捨て、手札の『クイック・シンクロン』を特殊召喚!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

「『ダンディライオン』が墓地に送られた事で、2体の『綿毛トークン』を特殊召喚!」

 

綿毛トークン 守備力0×2

 

「そして『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

「召喚時効果で『フォーミュラ・シンクロン』を蘇生!」

 

フォーミュラ・シンクロン 守備力1500

 

「俺はレベル1の『綿毛トークン』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『アームズ・エイド』!」

 

アームズ・エイド 攻撃力1800

 

現れたのは鋭い赤の爪を伸ばした黒い腕のモンスター。見た目通り、他のモンスターに装備する事で真価を発揮するカードだ。レベル4のシンクロモンスターである為、中継役にもなる。

 

「レベル1の『綿毛トークン』に、レベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし絆が更なる力を紡ぎ出す。光差す道となれ!シンクロ召喚!轟け、『ターボ・ウォリアー』!」

 

ターボ・ウォリアー 攻撃力2500

 

次に現れたのは真っ赤なボディにリーゼントのような頭部。車を模した胸部に加え、鋭い爪を持ったシンクロ『ウォリアー』モンスターだ。

戦闘、耐性共に優秀なカードであり、これで白コナミのフィールドに3体のシンクロモンスターが揃った。

レベル6、『ターボ・ウォリアー』、レベル4、『アームズ・エイド』、レベル2のシンクロチューナー、『フォーミュラ・シンクロン』。ここから出される答えはやはり――アクセルシンクロをも越えた、シンクロの極み。

 

「速攻魔法、『非常食』!3枚のカードを墓地に送り、LPを3000回復!『妖刀竹光』の効果で、『竹光』をサーチ!更にクロニクルの効果で墓地の『スターダスト』を除外し、このカードに完全耐性を与える!」

 

ダニエル LP1400→4400

 

「さて、来るか……!」

 

「これが俺の全力!レベル6の『ターボ・ウォリアー』とレベル4の『アームズ・エイド』に、レベル2の『フォーミュラ・シンクロン』をチューニング!」

 

「と、飛んだぁっ!」

 

ゴウッ、白コナミが合体した機体から火炎を吹かせ、月を背に飛行、光を浴び、3体のシンクロモンスターが重なる。

 

「集いし星が1つになる時、新たな絆が未来を照らす!光差す道となれ!デルタアクセルシンクロォォォォォッ!!」

 

更に白コナミの身体が黄金に輝き、3体のシンクロモンスターが赤き竜となり、光を纏ってその姿を変える。『スターダスト・ドラゴン』と良く似た、月光を反射する白い巨躯、神々しいとも言える圧倒的な姿。そう、これが――シンクロの極み。

 

「進化の光、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』ッ!!」

 

シューティング・クェーサー・ドラゴン 攻撃力4000

 

降臨せし光の竜。その姿に――全ての者が言葉を失い、見上げ、魅了される。

 

『……何、これ……』

 

「バトルだ。『シューティング・クェーサー・ドラゴン』で、『真閃光竜スターダスト・クロニクル』に攻撃!天地創造撃ザ・クリエーションバースト!」

 

『シューティング・クェーサー・ドラゴン』が掌に光を溜め、球体を生み出して『真閃光竜スターダスト・クロニクル』にぶつける。

そうして見るだけで2体のサイズの違いが分かる。圧倒的な巨躯を誇る『シューティング・クェーサー・ドラゴン』の前では『真閃光竜スターダスト・クロニクル』は蟻も同然。アクセルシンクロモンスターとデルタ・アクセルシンクロモンスターにはそれだけの差があるのだ。

光球に呑まれ、砕け散る『真閃光竜スターダスト・クロニクル』。そして衝撃波によってコナミのD-ホイールが浮いて吹き飛ぶ。とんでもないパワーだ。コナミは何とか姿勢を正し、危うげながらも着地する。

 

ダニエル LP4400→3400

 

「くっ、う……!『真閃光竜スターダスト・クロニクル』が相手に破壊された事で、除外されている『スターダスト』を特殊召喚する!」

 

「無駄だ。『シューティング・クェーサー・ドラゴン』は1ターンに1度、モンスター、魔法、罠の効果を無効にし、破壊する!そしてこのカードはチューナー以外に素材にしたモンスターの数まで攻撃が可能!『刻剣の魔術師』へ攻撃!」

 

ダニエル LP3400→800

 

2度目の攻撃も重く、『刻剣の魔術師』に命中したと思った瞬間に押し潰す。これでモンスターは0、『竹光』による攻略も不可となった。だがまだ勝機はある。コナミの眼は、闘志は死んでいない。『シューティング・クェーサー・ドラゴン』を前にしても――下がらない、諦めない。

 

「ターンエンドだ」

 

白コナミ LP2500

フィールド『シューティング・クェーサー・ドラゴン』(攻撃表示)

手札0

 

「オレのターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『刻剣の魔術師』!『相生の魔術師』!『慧眼の魔術師』!『曲芸の魔術師』!」

 

刻剣の魔術師 守備力0

 

相生の魔術師 守備力1500

 

慧眼の魔術師 守備力1500

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

振り子の軌跡で現れる4体の『魔術師』ペンデュラムモンスター。『シューティング・クェーサー・ドラゴン』で無効に出来るのは効果のみ。ペンデュラム召喚は効果ではない為、無効にはならない。これで暫くの間凌げれば良いが、どこまでもつか。

 

「ターンエンドだ」

 

ダニエル LP800

フィールド『刻剣の魔術師』(守備表示)『相生の魔術師』(守備表示)『慧眼の魔術師』(守備表示)『曲芸の魔術師』(守備表示)

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!今度は引き籠ったか、面倒な奴だ。俺はカードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP2500

フィールド『シューティング・クェーサー・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「オレのターン、ドロー!慧眼と相生の2体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!『No.39希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

「刻剣の効果でこのカードと『シューティング・クェーサー・ドラゴン』を除外!」

 

「――通す。『シューティング・クェーサー・ドラゴン』がフィールドから離れた事で、エクストラデッキから『シューティング・スター・ドラゴン』を呼ぶ!!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

『シューティング・クェーサー・ドラゴン』と入れ替わりに現れたのはその一段階進化前の流星の白竜。刻剣の効果を無効にしてもまたペンデュラム召喚される上、フィールドを離れてもこのカードを呼べる為に通したのだろう。コナミとしても勝つならば『シューティング・スター・ドラゴン』をフィールドから退けなければならない。

 

「バトルだ!『ホープ』で『シューティング・スター・ドラゴン』へ攻撃!ORUを使い、無効、速攻魔法、『ダブル・アップ・チャンス』!『ホープ』の攻撃力を倍にし、再攻撃を可能に!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→5000

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!このカードを除外、攻撃を無効に!」

 

「させる訳ないだろう、墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、『シューティング・スター・ドラゴン』の効果を無効にする!更に『スキル・サクセサー』を除外し、攻撃力アップ!ホープ剣マーズ・スラッシュ!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力5000→5800

 

『ホープ』が両手に持った2刀、更に背から伸びる2枚の翼が剣となり、熱が灯ったように赤く発光、4刀流の剣技で流星竜に襲いかかる。

『シューティング・スター・ドラゴン』も4体に分身し、迎え撃つも――まず1体目、片刃の剣で赤く輝く流星を切り裂き、返す刃で2体目、緑色の流星を打ち落とす。その隙を突き、背後から黄色の光が明滅、一直線に突き進むも――背から伸びる剣に阻まれ、そのまま切り裂かれる。

そして4体目、一体どこにいるのかと『ホープ』が辺りを見渡す中、夜空に浮かぶ星が一際激しく輝き、急速に『ホープ』に近づく。

そう、この青いオーラを纏った流星そ本物の『シューティング・スター・ドラゴン』だ。空より落ちて『ホープ』に襲いかかり、『ホープ』が二刀の剣を交差させて防御する。

紙一重の所だった。直ぐ様『ホープ』は背の剣を使い、『シューティング・スター・ドラゴン』を切り裂き、撃退する。

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→1

 

「チッ、防いだか……ならカードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ダニエル LP800

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『曲芸の魔術師』(守備表示)

セット1

Pゾーン『竜穴の魔術師』『竜脈の魔術師』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『一時休戦』!互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0に!」

 

白コナミ 手札1→2

 

ダニエル 手札1→2

 

「ッ!……カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP2500

フィールド

セット2

手札0

 

「オレのターン、ドロー!刻剣がフィールドに戻り、その効果でこのカードと『シューティング・クェーサー・ドラゴン』を除外!」

 

「罠発動!『ブレイクスルー・スキル』!そのモンスター効果を無効に!」

 

「手札のペンデュラムモンスターを捨て、竜脈のペンデュラム効果で『シューティング・クェーサー・ドラゴン』を破壊!」

 

「クェーサーの効果で無効!」

 

「速攻魔法、『大欲の壺』!除外されているモンスター3体をデッキに戻し、ドロー!」

 

ダニエル 手札1→2

 

「『貴竜の魔術師』を召喚!」

 

貴竜の魔術師 攻撃力500

 

「レベル5の『曲芸の魔術師』に、レベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!シンクロ召喚!『閃光竜スターダスト』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

再びフィールドに降臨する星屑を纏った閃光の竜。白コナミが持つ『スターダスト・ドラゴン』とは似て非なる決闘竜。もう何度目かも分からない登場だ。巨大な白竜。自身のもう1つの進化の可能性である『シューティング・クェーサー・ドラゴン』を睨み付け、主を守るように前に躍り出る。以前は大敗を喫したが、今回はそうはいかないと月に向かって吠え猛る。

 

「魔法カード、『一騎加勢』!『スターダスト』の攻撃力を1500アップ!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500→4000

 

「『スターダスト』の効果で自身に耐性を与え、バトルだ!『スターダスト』で、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』へ攻撃!流星不死鳥突撃ッ!!」

 

「迎え撃て!天地創造撃ザ・クリエーションバーストッ!!」

 

『スターダスト』が双翼から火炎を吹かし、更に炎の尾を伸ばし、不死鳥のような姿となって『シューティング・クェーサー・ドラゴン』に向かい合い、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』も赤き竜のオーラを纏って激突する。鬩ぎ合う2体の白竜。月下の中、2つの流星が交差し、二重螺旋を描く。空中で散る火花、厚い雲を引き裂き、明星が輝く。互いに拳にエネルギーを集束し、振り抜く。

瞬間、天がカッ、と閃き大爆発を起こす。そして残っていたのは――満身創痍になりながらも勝利の雄叫びを上げる『スターダスト』。あの『シューティング・クェーサー・ドラゴン』をも倒し、コナミが勝利にリーチをかけた。

 

「まさか『シューティング・クェーサー・ドラゴン』をも倒すとは……!」

 

「ターンエンドだ」

 

ダニエル LP800

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『刻剣の魔術師』(攻撃表示)

Pゾーン『竜穴の魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!楽しいデュエルも、これで終わりだ。貴様は言ったな?アクセルシンクロが絆の証だと!」

 

「!」

 

「だが俺からすれば、貴様の束ねた絆は脆い!」

 

「何だと……!?」

 

ギリッ、白コナミの挑発とも言える言葉を受け、コナミが歯を食い縛って怒りを見せる。それもそうだろう、コナミにとって今まで築いた絆を否定される事は、自身の否定にも近い。だがそれでも、白コナミは言う。

 

「これが真の絆だ!罠発動!『集いし願い』!!」

 

「その、カードは――ッ!?」

 

発動されたこのデュエル、最後のカード。それを見てコナミが表情を驚愕に染める。このカードこそ、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』をも越える、白コナミ最強の切り札。

 

「自分の墓地にドラゴン族のシンクロモンスターが5種類以上存在する事で、エクストラデッキから『スターダスト・ドラゴン』をシンクロ召喚扱いで呼び出し、このカードを装備する!飛翔せよ!!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

こちらも再び現れる星屑の竜。そしてその姿はどんどん巨大化していき――。

 

「装備モンスターの攻撃力は、墓地のドラゴン族シンクロモンスターの攻撃力の合計分アップする!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500→30200

 

「攻撃力……」

 

『30200……!?』

 

圧倒的、暴力的な数値へと膨れ上がる。ジャンク・アトラス・D、クロウ・ゴーストと力を集結させた最強の『スターダスト』。これこそ彼の、彼等の絆の力。

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、『ホープ』の効果を無効にする!」

 

「バトルだ!『スターダスト・ドラゴン』で、『閃光竜スターダスト』を攻撃!シューティング・スパイラル・ソニック!!」

 

「――ッグ、アァァァァッ!?」

 

ダニエル LP800→0

 

光に呑まれ、コナミがD-ホイールごと吹き飛び、コナミの身体が自チームのピットに叩きつけられ、コナミの口から言葉にならぬものが漏れる。そのまま壁に預けた背がズルズルと力なく擦り、落ちていく。痛みさえ感じず、歪む視界の中、白コナミがD-ホイールを停止、分離してツカツカとこちらに歩む姿を捉える。

 

負けた、完全に、この男に、このチームに。こうなってしまえば自身に訪れるものは――充分に分かっている。だがジッとしている場合ではない。コナミの予想通りならば、今出来る手を打たなければ、この化け物は止められなくなる。

 

「コナ、ダニエル殿!無事でござるか!?」

 

月影が目に見える焦りを浮かべ、コナミに駆け寄り、彼を守るように白コナミの眼前に立つ。

 

「月……影」

 

「コナミ殿、大丈夫か!?」

 

「違うな、俺こそがコナミだ。そいつはただの紛い物、弱き者にはコナミは相応しくない」

 

「何を……!」

 

ニヤリ、不敵な笑みを浮かべ、白コナミが鼻を鳴らす。コナミには彼の言わんとしている事は分かる。だが今は彼よりも――コナミは懐よりゴソゴソと何かを取り出し、月影へと突き出す。

 

「構うな、月影。オレの事はもう良い、お前はこれを――」

 

取り出したのは1枚のカード。コナミはこれを託すべき相手を考え――辿り着く。きっと彼が、そうなるだろうと思って。コナミは月影にカードの使い方と、渡すべき相手を耳打ちし、ここから去るように託す。

 

「――ッ!任された……!」

 

コナミの覚悟を受け、月影はその姿を消す。トニーには悪い事をした。と考えながら、白コナミ――自身に視線を移す。

 

「話は済んだか?言い残した事も」

 

「……ハッ、優しい事だな。あぁ――言い残す事か、なら、お前にくれてやる」

 

「?」

 

フ、と薄く笑みを浮かべ、コナミは不敵に彼に言い放つ。

 

「貴様は――」

 

そう言ってコナミは強がるように笑みを浮かべる。対する白コナミは、口を固く結び、コナミの首を掴み上げ、人目に触れぬようにベンチの壁に叩きつける。そしてコナミは、まるでユーゴに敗北した時のユートのように光に包まれ、粒子と共に消え行く。

 

「……戯れ言だな……ああ、そうだ。俺も貴様に言っておこう、最後に刻め、貴様を倒した、俺達のチーム名を」

 

『フレンドシップカップ、1回戦最終試合、長きに渡る激闘を制したのは――』

 

メリッサの声と共に、白コナミはその台詞を放つ。その、チーム名を。

スピードの中で進化した、ライディングデュエルに命を賭ける、D-ホイーラー達の名を。

 

「チーム、ネオ5D's」

 

呟きは、誰もいない虚空に消えていく――。




アニメなら次回からチームネオ5D'sが主人公面でOPに参加する頃です。


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第146話 新しい朝

祝DーHERO強化!ドミネイトカッコいいですね。効果も運命を操っている感じで好きです。自分DーHERO組んでなかったんですが、最近のネオスやら忘れられていた方のHEROの強化が続いて何だか嬉しくなってしまいました。


融合次元、アカデミアの地下にて、その男、デイビット・ラブは、ボロボロの姿でフラフラと歩いていた。

帝王、丸藤 亮との闘い以来、彼はプライドを粉々に砕かれてしまった。その結果がこれだ。

なんて事のない小石に躓き、その場に転げる。その小石が――デイビットには、亮ではなく、ある1人の男に見える。

 

赤い帽子とジャケットを纏った少年――。

 

「コナ……ミィ……!」

 

ギリッ、思えばこの地下に落ちたのも、奴がいたから、奴に負けたからだと、歯軋りを鳴らす。そう思えば、憎めば止まらない。ドス黒い感情が加速し、頭の中を支配する。

そんな、彼の下に――。

 

「おーおー、随分と情けねぇ姿だなぁ……デイビットぉ」

 

1人の男が、現れる。着流しを纏い、頭に星条旗のバンダナ、サングラスをかけた金髪の男。

彼は顎に生えた無精髭を擦りながら、デイビットに対し、ニヤリとした笑みを向ける。

 

「You……は……!」

 

「不様なお前を、拾ってやるよ」

 

見上げるデイビットの事を、まるでギャンブルに使うかのように、男は笑った――。

 

――――――

 

空に月が昇り、暗闇が訪れた頃、フレンドシップカップ1回戦、全ての試合が終了した。

 

2回戦へと駒を進めたのは4チーム。ユーゴ率いる榊 遊矢、セレナを擁するチームランサーズ。沢渡 シンゴをリーダーとした、黒咲 隼、アリトのチーム沢渡。以上の2チームがランサーズが生き残ったチームだ。

そして残るは、セルゲイ・ヴォルコフが存在する、デュエルチェイサー227、敵へと回った伊集院セクトのチームセキュリティ。最後は――ジャック・アトラス・Dの、白コナミとクロウ・ゴーストをメンバーに引き入れた、チームネオ5D's。

鬼柳が敗退した今、大会の優勝候補筆頭だ。

 

治安維持局のある一室にて、その少年、伊集院 セクトはベッドの上で膝を抱え、蹲っていた。試合後に評議会からこちら側に移ったのだ。彼の試合を考えれば、この結果は当然だろう。

その目は焦点が合っておらず、ガチガチと歯を鳴らし、怯えるように小刻みに震えている。

 

「アニキ……俺はアニキと引き分けた……これで俺はアニキと肩を並べられる……!守られる俺じゃない……!」

 

ブツブツと呟くセクト。セクトは鬼柳とデュエルにて、結果として引き分けた。それ以来彼はこの部屋に引き籠り、このような状態になっていると言う訳だ。食事や睡眠は取る。だが時折我を忘れたかのようにこうなるのだ。

 

「……違う……俺は引き分けたんだ……引き分けさせられたんだ……!アニキを、倒せてない……!」

 

ふと、セクトの眼前に、鬼柳の姿が現れる。それはセクトが見た幻だ。本物の鬼柳は既に地下に送られている。だが、セクトはこの鬼柳が本物だと思った。この、セクトは侮蔑するように見下す鬼柳を。

 

「あ、あぁ……!やめろ、そんな眼で俺を見るな……!俺を見下すな……!違う、違う、違う!俺は強くなったんだ!アニキと一緒に闘えるようになったんだ!何で……何でそんな眼で見るんだよぉ……!」

 

そんな鬼柳を見て、ムシケラを見るような目の鬼柳を見て、セクトの震えが一段と大きくなる。嫌だ、嫌だと駄々を捏ねる子供のように蹲るセクトの目の前に――更に、もう1つの影が現れる。

 

「そう、か……!お前が、まだいたな……!お前も俺を、見下してるんだ……!倒してやる!お前も、鬼柳も!倒して倒して、倒してやる……!そして俺の存在を――」

 

その視線の先には――。

 

「認めさせてやるっ!!」

 

鬼柳と同じ眼をした、ユーゴがいて。セクトのデッキケースの中の、『魔王龍ベエルゼ』が、妖しく輝いていた――。

 

――――――

 

評議会のビル、自身にあてがわれた部屋のベッドにて、遊矢はずっと彼等の事を考えていた。友であるコナミを倒し、吸収した白コナミがいるからと言うのもある。ジャックがいると言うのもある。クロウに似た、クロウ・ゴーストがいると言うのもある。

だがもう1つ、遊矢は彼等のチーム名をどこかで見聞きしたような気がするのだ。少なくとも――他人事とは思えない。謎だらけのチーム、ネオ5D's。彼等は一体何者なのか、そこへ辿り着くには、遊矢は余りにも彼等の事を知らない。

 

コナミに似た、白コナミや、黒コナミの事も。いや、コナミ自身の事も。ジャックやクロウがまだ会ったばかりだが、コナミは同じ遊勝塾、ランサーズに所属する仲間なのに。

 

「俺、あいつの事、何も知らなかったんだな……」

 

ギュッ、と首からかけた水晶のペンデュラムを握り締める。思えば、互いの事を積極的に話した事もない。彼と、彼等と過ごす時間は余りにも心地好いものだったから、ふとした事でその日常が崩れるのを恐れていたのかもしれない。そして、コナミは姿を消してしまった。あの時の、ユートのように。だが、もし遊矢の予想通りならば。

 

「きっと、取り戻せる……!」

 

ユートと同じように、再び帰って来られる筈だ。話すのは、それからでも遅くはない。誰が相手だろうと、勝ち上がり、権現坂も、シンジ達も、コナミも取り戻し、このシティ皆が笑える未来を作り出す。そんな出来すぎた理想を叶える為、遊矢は進む。光差す道へと。

 

そして――新しい朝が、始まる。

 

――――――

 

翌日、会場のサーキットには、2つのチームが揃っていた。一方はチームデニスを相手に白熱するデュエルを見せた、チーム沢渡。先鋒は特攻隊長、アリト。

一方はチーム噴水広場仲良し同盟相手に圧倒的なタクティクスを見せたチームネオ5D's。先鋒はキング、ジャック・アトラス・D。

神をも砕く拳を持つ皇と、神をも恐れぬ魔王が互いのD-ホイールに乗り、並ぶ。圧倒的パワーと、カウンター使いの激突。

 

2人はD-ホイールを突き動かし、サーキットを駆ける。同時に会場に広がる光の粒子でフィールドが生まれ変わる。ケタケタと女性のものであろう笑い声が木霊する野獣達の領域、『ハーピィの狩場』。鳥獣族モンスターを強化するフィールドだ。隼とクロウ・ゴースト、両者の鳥獣使いが有利となる。条件は互角と言う訳だ。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

コーナーにさしかかり、先攻を取ったのはジャック・Dだ。やはりここは経験の差が顕著となる。ライディングデュエルは昨日今日で極められる程甘くはない。アクセルを踏み込み、全速力を出すアリトだが、容易くジャックに抜かれてしまう。こうなってはアクションの差で埋めるしかない。

 

「俺のターン、俺は『レッド・リゾネーター』を召喚!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

現れたのは彼が持つチューナーの代表的存在、『リゾネーター』モンスターの1体、炎のローブに身を包み、音叉とステッキを握ったカードだ。レベル2のチューナーの中でも優秀なカードであり、『リゾネーター』の中で使いやすさは1、2を争う。

 

「召喚時、手札の『デーモンの騎兵』を特殊召喚!」

 

デーモンの騎兵 攻撃力1900

 

次は黒馬に跨がり、赤い鎧を纏った悪魔。ランスを携え、ジャック・Dの隣に並走する。攻撃力1900、守備力0とステータスの面でも優秀な所を見せるアタッカーだ。

 

「レベル4の『デーモンの騎兵』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!赤き魂、ここに1つとなる。王者の雄叫びに震撼せよ!シンクロ召喚!現れろ、『レッド・ワイバーン』!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

早速シンクロ召喚、『レッド・リゾネーター』が2つのリングとなって弾け飛び、騎兵がリングを潜り抜ける。4つの星となり、2つのリングが重なり、閃光がフィールドを覆う。光を咲き、中から赤い双翼を広げて飛び立ったのは、後頭部から炎を吹かせた真っ赤な竜。ジャックのデッキでは尖兵に位置するモンスターだ。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP4000

フィールド『レッド・ワイバーン』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!さぁて行こうか!『BKヘッドギア』を召喚!」

 

BKヘッドギア 攻撃力1000

 

アリトの手から繰り出されるジャブ。一手目はその名の通り、ヘッドギアを装着し、青い肉体を持ったボクサー。攻撃力は低いものの、『BK』では序盤から活躍を見込めるカードだ。

 

「召喚時、デッキから『BKグラスジョー』を墓地へ送り、魔法カード、『バーニングナックル・スピリッツ』を発動!デッキトップをコストに墓地の『BKグラスジョー』を蘇生する!」

 

BKグラスジョー 守備力0

 

次に現れたのは緑色に染まった屈強なボディを誇るボクサー。攻撃力2000と下級モンスター最高ラインのカード。打たれ弱いのが難点だが、アリトによってその短所は逆に活かされる。パワー型に見せかけて、テクニカルな運用が望まれる1枚と言える。

そしてこれで――レベル4のモンスターが2体、ジャックのシンクロと同じように、アリトの武器が発揮させる時だ。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!霊に秘めた炎を、拳に宿せ!エクシーズ召喚!『BK拘束蛮兵リードブロー』!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200

 

アリトの隣に黒い渦が発生、星を散りばめたその中に、2体の『BK』が光となって飛び込み、閃光弾が炸裂したかのような眩い光が放たれる。そして立ち込める白煙の中から、剛腕を振るって現れるアリトのデッキの中核を担うモンスター。破壊砲を右腕に宿した、重々しい首枷を装着した拳闘士。今、リングに降り立ち、天空で羽ばたく赤き翼竜を睨む。

 

「ふん、どこまでやれるかな?」

 

「どこまででもやってやるぜ!バトル!リードブローで『レッド・ワイバーン』へ攻撃!このダメージ計算時、手札の『BKカウンターブロー』を除外し、リードブローの攻撃力を1000アップする!」

 

「むぅ!?」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3200

 

ジャック・アトラス・D LP4000→3200

 

翼を折り畳んだ『レッド・ワイバーン』が後頭部の火炎を更に吹かせ、自身を弾丸の如く撃ち出してリードブローに襲いかかる。目にも止まらぬ速度で低空飛行する『レッド・ワイバーン』に対し、リードブローは神経を研ぎ澄まし、狙いを定める。身体を捻り、『レッド・ワイバーン』をかわし、そのまま左腕を勢い良く、空を裂くように突き出して拳が顔面を捉える。この機を逃さない。リードブローは更に力を込め、相手の力を利用するカウンターを叩き込む。

グシャリ、骨が砕けたような音が響き、『レッド・ワイバーン』が吹き飛ばされ、空中で破砕。破片が降り注ぎ、ジャック・Dをかすめる。先攻は奪われたが、先制パンチはアリトが貰った。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

アリト LP4000

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!流石は歴戦の勇士と言う訳か。良かろう、全力で受けて立つ!永続罠、『強化蘇生』を発動!墓地の『レッド・リゾネーター』のレベルを1つ上げ、攻守を100アップさせて蘇生する!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200→300 レベル2→3

 

「『レッド・リゾネーター』の特殊召喚時、リードブローの攻撃力をLPに変換する!」

 

ジャック・アトラス・D LP3200→5400

 

これが『レッド・リゾネーター』の厄介な所だ。召喚すれば手札のレベル4以下のモンスターを呼び出す、『切り込み隊長』と同じ展開を補助するチューナーとなり、特殊召喚すれば敵味方問わずモンスターの攻撃力をLPに加える回復効果。攻めと守り、攻防を兼ね備えた優秀なカード。このカードが有る限り、長期戦は必至。パワーデュエルを行うジャック・Dを後方支援する事で安定性を増している。

 

「そして俺のフィールドに攻撃力1500以下の悪魔族チューナーが存在する事で、手札の『風来王ワイルド・ワインド』を特殊召喚!」

 

風来王ワイルド・ワインド 攻撃力1700

 

お次は黒い毛並みのワーウルフ。緑色のマントを風に靡かせたモンスターだ。『リゾネーター』とは抜群の相性を持つ事で投入されたカードである。

これで再びフィールドにチューナーと非チューナーが揃い、合計レベルは7、『レッド・ワイバーン』よりもギアを上げて来た。

 

「俺はレベル4のワイルド・ワインドに、レベル3となった『レッド・リゾネーター』をチューニング!天頂に輝く死の星よ!地上に舞い降り生者を裁け!シンクロ召喚!降臨せよ!『天刑王ブラック・ハイランダー』!」

 

天刑王ブラック・ハイランダー 攻撃力2800

 

死兆星の下、フィールドに舞い降りたのは骸骨を模したような白い面、黒い鎧とマントを纏い、巨大な鎌を握った死神を思わせる恐ろしい外見のモンスターだ。

 

「リバースカード、オープン!魔法カード、『マジック・プランター』!『強化蘇生』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→3

 

「悪くない。俺は装備魔法、『災いの装備品』をリードブローに装備!俺のフィールドのモンスターの数だけ、攻撃力を600ダウンする!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→1600

 

「更にブラック・ハイランダーの効果により、リードブローの装備カードを破壊!400のダメージを与える!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターン受けるダメージを半分にする!」

 

アリト4000→3800

 

「そして『災いの装備品』の効果で再びリードブローへ装備する」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→1600

 

「またかよ……!」

 

「さぁバトル!ブラック・ハイランダーでリードブローへ攻撃!死兆星斬!」

 

「ORUを1つ取り除き、破壊を逃れ、攻撃力を800アップ!更に墓地に送られたグラスジョーの効果で墓地の『BKスイッチヒッター』を回収!」

 

アリト LP3800→3200

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力1600→2400

 

バキリ、リードブローへとブラック・ハイランダーが鎌を振り下ろすものの、リードブローは枷を盾にして防ぎ、更に相手に破壊させる事で拘束を緩める。とは言えジャックが追加した枷によって攻撃力はブラック・ハイランダーを越えない。こんな方法でリードブローを攻略してくるとは。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP5400

フィールド『天刑王ブラック・ハイランダー』(攻撃表示)

『災いの装備品』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!俺は『BKスイッチヒッター』を召喚!」

 

BKスイッチヒッター 攻撃力1500

 

新たに投入されたのはフードを被った両利きのボクサー。『バーニングナックル・スピリッツ』のコストで墓地に送られ、グラスジョーの効果で回収したカード。このモンスターで状況の打破を狙う。

 

「召喚時、墓地のグラスジョーを蘇生する!」

 

「罠発動!『悪魔の嘆き』!貴様の墓地のグラスジョーをデッキに戻し、俺のデッキから悪魔族モンスター、『魔サイの戦士』を墓地に送り、魔サイの効果で更にデッキから悪魔族モンスター、『トリック・デーモン』を墓地に送る。『トリック・デーモン』の効果で『戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン』をサーチ!」

 

「こっ、この野郎……!カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

アリト LP3200

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)『BKスイッチヒッター』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!俺は『戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン』を妥協召喚!」

 

戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン 攻撃力1500

 

フィールドに現れたのは天を覆うような巨躯を誇る悪魔の皇。その身の丈に劣らぬ巨剣を握り、玉座に座り込んだその姿は正に圧巻。頭部、肩、背より角を伸ばし、膝には髑髏と紅玉が輝く。上級モンスターと思えば妥協召喚も可能な小回りの効くカードだ。

 

「墓地の『トリック・デーモン』を除外し、効果発動!リードブローを破壊する!」

 

「させるか!カウンター罠、『エクシーズ・リフレクト』!エクシーズモンスターを対象とするモンスター、魔法、罠の効果を無効にし、破壊!そしてお前に800のダメージを与える!」

 

ジャック・アトラス・D LP5400→4600

 

凶皇の効果が発動した瞬間、アリトが機を逃さずに得意のカウンターを放ち、リードブローのパンチが凶皇の顎に炸裂、巨大な身体を吹き飛ばし、地に沈める。

 

「ならば、ブラック・ハイランダーの効果でリードブローに装備されたカードを破壊!ダメージを与える!」

 

「墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、効果ダメージを半分にする!」

 

アリト LP3200→3000

 

「そして『災いの装備品』は再びリードブローの手元に戻る」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3000→2400

 

「バトル!ブラック・ハイランダーでスイッチヒッターへ攻撃!」

 

アリト LP3000→1700

 

「ぐぅぅぅぁっ!?」

 

「ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP4600

フィールド『天刑王ブラック・ハイランダー』(攻撃表示)

『災いの装備品』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!リードブローを守備表示に変更、モンスターとカードをセット、ターンエンドだ!」

 

アリト LP1700

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(守備表示)セットモンスター

セット1

手札1

 

「防戦一方か?俺のターン、ドロー!ブラック・ハイランダーの効果発動!」

 

「来たな!カウンター罠、『エクシーズ・ブロック』!リードブローのORUを1つ取り除き、モンスター効果の発動を無効にし、破壊!」

 

「ほう……!」

 

逆転のカウンターが炸裂し、強敵、ブラック・ハイランダーを撃破する。かなり手こずったが、これで現状を打破した。

 

「見事……だがここからが本番だ!『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3000→2400

 

しかしジャック・Dはまだ真髄を見せていない。手札より炎の鬣を靡かせた馬がフィールドを駆け、ジャック・Dに並走する。

 

「召喚時、墓地の『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2400→1800

 

「『レッド・リゾネーター』の効果により、リードブローの攻撃力をLPに加える!」

 

ジャック・アトラス・D LP4600→6400

 

「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100

 

続けてシンクロ召喚、現れたのは彼のエース、『レッド・デーモン』を象った炎の竜。攻守は900ずつ少なくなった小型のシンクロモンスターだ。

 

「シンクロ召喚時、墓地の『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2400→1800

 

「『レッド・リゾネーター』の回復は1ターンに1度の為、効果は発動出来ん。俺はレベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!漆黒の闇を裂き、天地を焼き尽くす孤高の絶対なる王者よ!万物を睥睨しその猛威を振るえ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

そして――フィールドに君臨したる、魔王の竜。赤黒の体躯に、溢れるばかりの力を漲らせ、マグマの竜脈が身体を駆け巡る。山羊のような雄々しい2本の角、天を覆う蝙蝠を思わせる巨大な双翼、鋭い爪を煌めかせ、王者の咆哮を轟かせる。

このカードこそ、ジャック・アトラス・Dが誇るエースカード。破壊の力を宿した、決闘竜が1体だ。

 

「出て来たか……!」

 

「まだ終わらんよ!墓地のワイルド・ワイルドを除外し、デッキから『シンクローン・リゾネーター』をサーチし、特殊召喚する!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3200→2600

 

次に登場したのは背からオブジェクトを生やしたレベル1の『リゾネーター』。『レッド・デーモン』と合わせ、合計レベルは9。特異なレベルとなるが――ジャックのエクストラデッキには存在する。レベル9のドラゴンが。

 

「往くぞ!レベル8の『レッド・デーモン』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!深淵の闇より解き放たれし魔王よ!その憤怒を爆散させよ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

『レッド・デーモン』、進化。赤きマグマが地より吹き出し、『レッド・デーモン』を呑み込み、灼熱の力を帯びて新たな姿に生まれ変わる。身体は一回り大きくなり、胸には竜の顔を模した装飾、両腕からは斧のような刃を伸ばす、攻撃的な『レッド・デーモン』。尤も、その効果は攻防一体、汎用性が高く、最も厄介なものとも言える。

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果により、墓地の『レッド・リゾネーター』を回収。バトル!アビスでリードブローへ攻撃!深淵の怒却拳!」

 

「チィッ!」

 

アビスが獄炎を纏った拳を放ち、リードブローのブロックをも貫通させる。衝撃波によって風が吹き荒び、思わずアリトが顔をしかめる。

 

「ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP6400

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!クソ、このままじゃ何も出来ねぇまま終わっちまう……!」

 

ギリッ、アリトが悔しさを滲ませて歯軋りを鳴らす。彼にとってこのアビスは天敵とも言って良い相手だ。彼が誇る『BK』は基本効果で相手を翻弄する。リードブローもパワーを上げる前に無効化されてしまえば意味をなさないのだ。

 

「モンスターをセット、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

アリト LP1700

セットモンスター×2

セット1

手札0

 

「ふん、七皇の1人と言うから楽しみにしていたが、この程度か……!俺のターン、ドロー!どうやら俺は強くなり過ぎたようだ。俺は魔法カード、『苦渋の決断』を発動!デッキより『デーモン・ソルジャー』を墓地へ落とし、同名カードをサーチ。そして『レッド・リゾネーター』を召喚!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

「召喚時、手札の『デーモン・ソルジャー』を特殊召喚!」

 

デーモン・ソルジャー 攻撃力1900

 

『レッド・リゾネーター』に続き、召喚されたのはマントを纏ったスマートなフォルムの『デーモン』。効果を持たない通常モンスターであるが、その分サポートも多い。

 

「俺はレベル4の『デーモン・ソルジャー』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100

 

「効果で墓地から『シンクローン・リゾネーター』を蘇生!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

「更にレベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!王者の叫びが木霊する!勝利の鉄槌よ、大地を砕け!シンクロ召喚!羽ばたけ、『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』!」

 

エクスプロード・ウィング・ドラゴン 攻撃力2400

 

現れたのは後頭部を隕石のような形状にした、エイリアンと見間違いそうな翼竜だ。

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果で『レッド・リゾネーター』を回収。バトル!アビスとエクスプロードで2体のセットモンスターを破壊!」

 

「チッ!」

 

襲いかかるジャックの猛攻、圧倒的パワーを前に為す術もなく、アリトのモンスターが粉砕される。

 

「ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP6400

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『地砕き』!相手フィールドの守備力が1番高いモンスターを破壊!」

 

「アビスの効果で無効!」

 

「罠発動!『裁きの天秤』!俺のフィールド、手札のカードとお前のフィールドのカードの差分ドローする!」

 

アリト 手札0→2

 

「たった2枚か、さて、どう出る?」

 

「たっぷりお返ししてやるよぉ、『BKスイッチヒッター』を召喚!」

 

BKスイッチヒッター 攻撃力1500

 

「召喚時効果により、墓地の『BKヘッドギア』を蘇生!」

 

BKヘッドギア 守備力1800

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『BK拘束蛮兵リードブロー』!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200

 

「バトル!リードブローで、アビスに攻撃!」

 

「何?まさか……!?」

 

一見すると血迷ったと思う自爆特攻、リードブローの効果で破壊を逃れるにしろ、次にターンにで無効化されれば目も当てられない。だからこれは――アビスを倒す為の攻撃。互いのモンスターが炎を纏った拳を振り抜く。風を切り、迫る剛腕、結果は――。

 

「手札の『BKカウンターブロー』を除外し、リードブローの攻撃力を1000アップする!更にリードブローのORUを取り除き、破壊を防ぐ!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3200→4000

 

バキィッ、アビスの拳はリードブローの頬を掠め、首枷を破壊して木片が飛び散り、リードブローのカウンターがアビスの顔面を砕く。倍の威力となった拳はアビスの身体を浮かせ、地に沈める。

 

「我がアビスを倒すか……!」

 

「さぁ、第2ラウンド、始めようぜ。俺はこれでターンエンドだ」

 

アリト LP1700

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!モンスターをセット、エクスプロードを守備表示に変更し、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP6400

フィールド『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』(守備表示)セットモンスター

セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!バトル!リードブローでエクスプロードへ攻撃!」

 

「――フン……!」

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

アリト LP1700

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『レッド・リゾネーター』を召喚!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

「召喚時効果により、手札の『インターセプト・デーモン』を特殊召喚!」

 

インターセプト・デーモン 守備力1600

 

『レッド・リゾネーター』のステッキが振るわれ、フィールドに新たなモンスターが導かれる。アメフトのヘルムとユニフォームを纏い、岩にように盛り上がった肩から左右3本、合計6本の腕を生やし、胸に髑髏を、足がバネとなった『デーモン』だ。

 

「レベル4の『インターセプト・デーモン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!天を焼くシリウス、孤狼の蒼き瞳よ、地に縛られた牙無き犬共を噛み砕け!シンクロ召喚!『天狼王ブルー・セイリオス』!」

 

天狼王ブルー・セイリオス 守備力1500

 

雷光を轟かせ、フィールドに降り立ったのは、青い毛並みのワーウルフ。しかもただの狼ではない。両手から狼の頭部を生やし、腹にも妖しく光る眼と牙を持ち、全身から鋭い刺を伸ばした攻撃的な姿をしている。

 

「ターンエンド」

 

ジャック・アトラス・D LP6400

フィールド『天狼王ブルー・セイリオス』(守備表示)セットモンスター

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!バトル!リードブローでブルー・セイリオスへ攻撃!」

 

「ブルー・セイリオスが破壊された事で、貴様のリードブローの攻撃力を、2400ダウンする!蒼天昇牙!」

 

リードブローの拳がブルー・セイリオスに突き刺さり、爆散した瞬間、3つの狼の頭が白煙より飛び出し、リードブローの身体へ噛みつく。

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力3000→600

 

これでリードブローの攻撃力は大幅に下がり、例え後1つORUを使っても、攻撃力は1400、下級モンスターにも敵わない所へ落ちてしまった。

 

「チッ、ターンエンドだ」

 

アリト LP1700

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!俺はセットモンスターをリリースし、『デーモンの巨神』をアドバンス召喚!」

 

デーモンの巨神 攻撃力2400

 

現れたのはその名の通り、巨大な体躯を誇る赤髪の『デーモン』。地響きを鳴らし、両腕を組んでアリトを見下ろす。

 

「バトル!『デーモンの巨神』でリードブローへ攻撃!」

 

「やらせるかぁ!永続罠、『死力のタッグ・チェンジ』!リードブローのORUを取り除き、破壊を逃れ、タッグ・チェンジの効果でダメージを0に抑え、更に手札からレベル4以下の戦士族モンスター、『BKリベージ・ガードナー』を特殊召喚!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力600→1400

 

BKリベージ・ガードナー 守備力1400

 

リードブローの破壊を防いだ上でダメージを0にし、後続を呼ぶアリト。危うい所だったが、何とか堪えた。だが相変わらずピンチな事には変わらない。『死力のタッグ・チェンジ』があるとは言え、このカードは手札に戦士族モンスターが存在しなければならない上、手札消費も激しくなる。リードブローに関してはORUを全て失い、ブルー・セイリオスの効果で『デーモンの巨神』を越えられない。ここまで相性が悪いとは思いもしなかった。

 

「ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP6400

フィールド『デーモンの巨神』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!リードブローを守備表示に変更、カードを1枚セット、ターンエンド」

 

アリト LP1700

フィールド『BK拘束蛮兵リードブロー』(守備表示)『BKリベージ・ガードナー』(守備表示)

『死力のタッグ・チェンジ』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『捨て身の宝札』!俺のフィールドに存在するリードブローとリベージ・ガードナー、2体以上のモンスターの攻撃力の合計が、お前のフィールドに存在する攻撃力が最も低いモンスター、『デーモンの巨神』より低い事で2枚ドロー!」

 

アリト 手札0→2

 

アリトが使用したのは手札増強を行う宝札カードの中でも珍しいものだ。発動するにあたっての条件が厳しく、例え成功しても発動ターンの召喚を封じ、表示形式の変更さえも許さない。相手ターンに使えばある程度は補えるものの、『死力のタッグ・チェンジ』を使えなくなってしまうのは痛い。

 

「俺は『フォース・リゾネーター』を召喚!」

 

フォース・リゾネーター 攻撃力500

 

現れたのは背に緊箍児をつけた球体を負い、両手から雷を放つ、水属性の『リゾネーター』だ。レベルは『レッド・リゾネーター』と同じ2、とは言え、効果は劣るが。

 

「レベル6の『デーモンの巨神』に、レベル2の『フォース・リゾネーター』をチューニング!王者の決断、今赤く滾る炎を宿す、真紅の刃となる!熱き波濤を超え、現れよ!シンクロ召喚!炎の鬼神、『クリムゾン・ブレーダー』!」

 

クリムゾン・ブレーダー 攻撃力2800

 

炎の幕がフィールドを覆い、眩い剣閃が横薙ぎに振るわれて切り裂かれる。登場してのは真紅の甲冑を纏う、紅蓮の剣客。エクシーズ主体、それもレベル4以下のモンスターを利用するアリトにとっては余り刺さらないカードだが、今この攻撃力は驚異的だ。

 

「バトル!『クリムゾン・ブレーダー』でリードブローへ攻撃!レッドマーダー!」

 

「くっ!」

 

『クリムゾン・ブレーダー』が2刀の剣に炎を迸らせ、赤い斬撃を振るってリードブローを切り裂く。紅蓮の剣士と火炎の拳士、勝者は『クリムゾン・ブレーダー』だ。

 

「ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP6400

フィールド『クリムゾン・ブレーダー』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『切り込み隊長』を召喚!」

 

切り込み隊長 攻撃力1200

 

アリトの手から召喚されたのは『BK』ではなく、戦士族の中でも有名なモンスターだ。召喚時の効果、永続効果共に優秀であり、今では多少劣るものの、それでも充分戦線に立てるカードと言える。

 

「召喚時、手札の『BKラビット・パンチャー』を特殊召喚!」

 

BKラビット・パンチャー 攻撃力800

 

お次はゴーグルを装着したボクサー。これでレベル3のモンスターが3体、ここから導き出される答えは――。

 

「あの『No.』か……!」

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』!」

 

No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド 攻撃力2600

 

エクシーズ召喚、現れたのはアリトが持つ『No.』の1体、プロレスラーのようなマスクを被り、巨大な腕を振るうハードパンチャー。厳密に言えばボクシングよりプロレスよりだが、強固なスターがフィールドで吠える。

 

「バトル!フィニッシュ・ホールドで『クリムゾン・ブレーダー』へ攻撃!」

 

怪腕が吠え、紅蓮の剣客に振るわれる。しかし――『クリムゾン・ブレーダー』は見事な剣捌きで拳をいなし、返しの刃でフィニッシュ・ホールドを吹き飛ばす。

 

アリト LP1700→1500

 

「フィニッシュ・ホールドは戦闘で破壊されず、戦闘を行ったダメージステップ終了時にORUを取り除き、このカードにカウンターを乗せる!」

 

No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド カウンター0→1

 

勝利に向け、スリーカウントが始まる。このカウンターがORUと同じ数だけ溜まった時、特殊勝利となる――のは別の『No.』の仕事。フィニッシュ・ホールドは相手フィールド全てを破壊する効果を得る。しかも厄介なのは3つカウンターが置かれていれば何度でも使える点だ。効果を使えば減ると言う事もなく、戦闘耐性も相まって強力。思わずジャックも舌打ちを鳴らす。早い所除去しなければ、アリトを倒しても後続のホイーラーに引き継がれる。

 

「ターンエンドだ!」

 

アリト LP1500

フィールド『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』(攻撃表示)

『死力のタッグ・チェンジ』

手札1

 

赤き魔王と炎の拳聖による一騎討ち、熱く燃え上がるデュエルは、更に激しさを増していく――。




デイビット「皆コナミって奴のせいなんだ!」

コナミ「故人です」

デイビット「」

本当ならこの話の前にユーリ君とアドビスの闘いをはさむ予定だったんですが、余りに長かったんでカット。
シンクロ次元編では結構カットしてる話が多いです。ブレイブとか出したかったんですけどね。


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第147話 ジャック・バトル

グリッドマンの最終回が電光超人電光超人し過ぎてて駄目だった。あそこで夢のヒーローはズルいやん。ラストもズルいやん。ルーブも終わって何だか虚しさが胸を襲う……。


フレンドシップカップ2回戦第1試合、決勝へのチケットを賭け、チーム沢渡の先鋒、アリトとチームネオ5D'sのリーダー兼先鋒、ジャック・アトラス・Dがサーキットにてぶつかり合う。

現在、アリトのフィールドには戦闘耐性を持つ『No.』が一柱、『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』が存在し、戦闘ダメージを0にし、手札からレベル4以下の戦士族モンスターを呼ぶ永続罠、『死力のタッグ・チェンジ』が1枚発動されている。LPは1500。

対するジャック・Dの布陣は高レベルモンスターの特殊召喚を封じるシンクロモンスター、『クリムゾン・ブレーダー』と1ターン目からセットしているリバースカードが1枚。LPは『レッド・リゾネーター』の効果で上昇し、今や7200。アリトのLPと比べれば差は一目瞭然、誰でも分かるアリトのピンチ。しかもターンは――。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

ジャック・Dへ回る。

 

「チ、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP6400

フィールド『クリムゾン・ブレーダー』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

とは言え、引きが悪かったのか、ジャックが舌打ちを鳴らして引き下がる。フィニッシュ・ホールドには戦闘耐性と共に厄介な効果が存在する。戦闘を行う度にORUをカウンターに変換し、3つ溜まれば相手フィールドのカードを全て破壊する強力な効果だ。戦闘すればダメージは与えられるが、カウンターを溜める手伝いをしてしまうジレンマ。そのせいで手を出そうにしても出せないのだ。今はカウンターが溜まる事を遅らせる事しか出来ない。

 

「俺のターン、ドロー!手も足も出せないってか?ならこっちは思う存分出させてもらおうか!魔法カード、『マジック・プランター』!『死力のタッグ・チェンジ』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

アリト 手札1→3

 

「バトル!フィニッシュ・ホールドで『クリムゾン・ブレーダー』へ攻撃!」

 

『アリト、果敢に攻める!』

 

アリト LP1500→1300

 

「手札の『BKベイル』の効果発動!戦闘ダメージを受けた時、このカードを特殊召喚し、ダメージを回復させる!」

 

BKベイル 守備力1800

 

アリト LP1300→1500

 

「更にフィニッシュ・ホールドのORUをカウンターに変換!」

 

No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド カウンター1→2

 

「メインフェイズ2、『BKビッグバンテージ』を召喚!」

 

BKビッグバンテージ 攻撃力1100

 

「ビッグバンテージの効果で墓地のスイッチヒッターのレベルをコピーする!」

 

BKビッグバンテージ レベル2→4

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!現れろ、『No.』80!猛りし魂に取り憑く、呪縛の鎧!エクシーズ召喚!狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク!」

 

No.80狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク 守備力1200

 

現れたのは2体目の『No.』。フィニッシュ・ホールドに劣らぬ巨腕を振るう、漆黒の鎧を身に纏い、紫の外套を靡かせる狂戦士。

 

「ラプソディ・イン・バーサークのORUを2つ取り除き、お前の墓地から2体の『レッド・デーモン』を除外する!」

 

「む!?」

 

ラプソディ・イン・バーサークが天空に向かって吠え、ジャックの墓地から赤き魔王竜の魂を破壊する。彼のデュエルで最も脅威となるのは『レッド・デーモン』による高攻撃力モンスターの制圧だ。遊矢とのデュエルから戦法は少し変わったが、エースから潰す事による攻略法は変わってない。

 

「そしてラプソディ・イン・バーサークをフィニッシュ・ホールドに装備!攻撃力を1200アップする!」

 

No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド 攻撃力2600→3800

 

フィニッシュ・ホールドに狂気を乗せた漆黒の鎧が装着される。これで攻撃力の面でもカバーされ、益々手に負えなくなってきた。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

アリト LP1500

フィールド『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』(攻撃表示)

『No.80狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『アドバンスドロー』を発動!『クリムゾン・ブレーダー』をリリースし、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札2→4

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP6400

フィールド

セット3

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『戦士の生還』発動!墓地の『BKスイッチヒッター』をサルベージ、召喚!」

 

BKスイッチヒッター 攻撃力1500

 

「効果で墓地からヘッドギアを特殊召喚!」

 

BKヘッドギア 守備力1800

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『BK拘束蛮兵リードブロー』!」

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200

 

このデュエル、3体目のリードブロー。このカードが破壊される前に決着をつけたい所だ。

 

「バトル!フィニッシュ・ホールドで、ダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『リジェクト・リボーン』!ダイレクトアタック時、バトルフェイズを終了、そして墓地から効果を無効にし、ブルー・セイリオスと『シンクローン・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

天狼王ブルー・セイリオス 守備力1500

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

「……ターンエンド」

 

アリト LP1500

フィールド『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』(攻撃表示)『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)

『No.80狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『大欲な壺』!除外されている『レッド・デーモン』2体と『トリック・デーモン』をデッキに加え、1枚ドローする!」

 

ジャック・アトラス・D 手札2→3

 

「レベル6のブルー・セイリオスに、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!新たなる王者の脈動、混沌の内より出でよ!シンクロ召喚!誇り高き、『デーモン・カオス・キング』!」

 

デーモン・カオス・キング 攻撃力2600

 

シンクロ召喚、現れたのは胸に紅玉を宿し、後頭部から爆炎を、背から炎の翼を伸ばした悪魔の王だ。

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果により、墓地の『フォース・リゾネーター』を回収し、召喚!」

 

フォース・リゾネーター 攻撃力500

 

「そして『フォース・リゾネーター』を墓地に送る事で、このターン、『デーモン・カオス・キング』が戦闘を行う際、ダメージステップ終了時まで『デーモン・カオス・キング』を対象とするモンスター、魔法、罠の発動を封じる!バトルだ!『デーモン・カオス・キング』でフィニッシュ・ホールドへ攻撃!この瞬間、相手フィールドのモンスターの攻守を入れ替える!」

 

No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド 攻撃力3800→1200

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→2000

 

攻撃宣言時、相手モンスターの攻守を入れ替える厄介な戦闘補助効果。強力なモンスター程守備力が低くなりがちな弱点を突いた効果だ。これを食らえば不味い。アリトはすかさずリバースカードを使う。

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

アリト 手札0→1

 

「凌いだか……!」

 

「そしてフィニッシュ・ホールドのORUをカウンターに変換!」

 

No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド カウンター2→3

 

「メインフェイズ2に移行」

 

「フィニッシュ・ホールドが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、カウンターが3つ溜まっている事で、相手フィールドのカードを全て破壊する!さぁお待ちかねのカウンターだぜ!」

 

ガガンッ、フィニッシュ・ホールドの両腕に青筋が浮かび上がり、風船のように膨張、鉛の重さ、丸太の如く太い腕を振るってジャック・Dのフィールドのカードを紙切れ同然に薙ぎ払う。絶対的な『No.』のパワー、『レッド・デーモン』すら凌ぐ異界の力が炸裂し、フィールドに突風が舞う。

 

「早まったか……だが破壊された『運命の発掘』の効果で1枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札3→4

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP6400

フィールド

セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!ぶっ潰してやるぜ!フィニッシュ・ホールドでダイレクトアタック!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!フィニッシュ・ホールドの攻撃と効果を封じる!」

 

「なっめんなコラァ!速攻魔法、『サイクロン』!『デモンズ・チェーン』を破壊!引き千切れ!」

 

ジャラリと時空を裂いて出現した穴から鎖が飛び出し、フィニッシュ・ホールドの腕に絡みつく。が、ギュルリと腕を回転させて旋風を纏い、鎖を引き千切る。

 

「特攻!」

 

「チッ、罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターン受けるダメージを半分に!ぐぉぉぉぉっ!?」

 

ジャック・アトラス・D LP6400→4500

 

フィニッシュ・ホールドの巨腕がジャック・Dを撃ち抜き、衝撃によって漆黒の機体、ホイール・オブ・フォーチュン・Dが遠心力に任せてクルクルと回転する。

 

「追撃だ!リードブローでダイレクトアタック!」

 

「ぬぅ!?」

 

ジャック・アトラス・D LP4500→3400

 

更に攻撃、ワン、ツーのリズムで拳を突き出し、ダメージを与えるリードブロー。これでジャック・DのLPは4000以下、やっと元に戻って来た。このまま波に乗っていきたい。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

アリト LP1500

フィールド『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』(攻撃表示)『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)

『No.80狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!クク、面白くなってきた……!速攻魔法、『魔力の泉』!2枚ドローし、2枚捨てる!」

 

ジャック・アトラス・D 手札2→4→2

 

「モンスターをセット、ターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス・D LP3400

フィールド セットモンスター

手札1

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ!リードブローでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『シンクローン・リゾネーター』!効果で墓地の『レッド・リゾネーター』を回収!」

 

「フィニッシュ・ホールドでダイレクトアタック!」

 

「アクションマジック、『ティンクル・コメット』!フィニッシュ・ホールドの攻撃力を1000ダウンし、貴様に500のダメージを与える!」

 

No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド 攻撃力3800→2800

 

アリト LP1500→1000

 

「ぬぅぅぅぅっ!?」

 

ジャック・アトラス・D LP3400→600

 

剛腕がジャック・Dに襲いかかり、大幅にLPが削り取られる。大逆転、これで残るLPは600、後少しの所まで追いつめた。

 

『怒濤の攻撃!残るLP、600!』

 

「ターンエンドだ!」

 

アリト LP1000

フィールド『No.51怪腕のフィニッシュ・ホールド』(攻撃表示)『BK拘束蛮兵リードブロー』(攻撃表示)

『No.80狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『レッド・リゾネーター』を召喚!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

「『リゾネーター』モンスターの召喚時、手札から『レッド・ウルフ』を特殊召喚!」

 

レッド・ウルフ 守備力2200

 

『レッド・リゾネーター』と共に現れたのは赤い狼を模した悪魔。レベルは6、『レッド・リゾネーター』と合わせて『レッド・デーモン』を出せと言わんばかりのカードだ。

 

「レベル6の『レッド・ウルフ』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

再臨する紅蓮の魔王竜。ジャック・Dの絶対的エース、『レッド・デーモン』。そして――これだけでは終わらない。進化への布石は、既に打たれている。

 

「墓地の『レッド・ライジング・ドラゴン』を除外、墓地から『シンクローン・リゾネーター』を2体蘇生!」

 

「手札の『D.D.クロウ』を捨て、そいつを除外!」

 

「ならもう1体の効果を使う」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100×2

 

「レベル8の『レッド・デーモン』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

進化、『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』。無効化効果を持った強力なカード。だが攻撃力でも効果でも優れているフィニッシュ・ホールドには通じない。

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果で『レッド・リゾネーター』回収!そしてレベル9のアビスに、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!泰山鳴動!山を裂き地の炎と共にその身を曝せ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル 攻撃力3500

 

アビスの身体を炎が包み込み、更なる進化が炸裂する。真紅に燃える強固な鎧、腕より伸びる刃もより鋭くなった、新たな『レッド・デーモン』。これこそがジャック・アトラス・Dの切り札。この2段進化は相変わらず観客を盛り上がらせる。

 

「ベリアル……だけどそのモンスターでもフィニッシュ・ホールドは倒せねぇ!」

 

「ふん、確かにラプソディ・イン・バーサークを装備したそのカードは脅威的だ。だが――弱点はいくらでもある!『シンクローン・リゾネーター』の効果で『フォース・リゾネーター』を回収、そして装備魔法、『堕落』!」

 

「ッ!そのカードは――!?」

 

「知っているようだな、俺のフィールドに『デーモン』モンスターが存在する事で、フィニッシュ・ホールドのコントロールを得る!」

 

「くっそぉ……!」

 

コントロール奪取。成程、これならば強力なフィニッシュ・ホールドを除去するだけではなく、そのまま自分の戦力にする事が出来る。

『レッド・デーモン』も立派な『デーモン』モンスター。『デーモン』をメインデッキに投入している彼だ、強力なこのカードを投入していてもおかしくはない。ニヤリと微笑むジャック・D。だが内心、アリトのセットカードがこのカードに対抗するカウンター罠だったらと危うい賭けだったのだ。

 

「だが、このカードは俺にもダメージを与える。ベリアルの効果でフィニッシュ・ホールドをリリースし、墓地のアビスを蘇生する!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

ベリアルが遠吠えを上げると共に、地が裂け、マグマが噴出し、中からアビスが目を覚ます。フィールドに並び立つ2体の『レッド・デーモン』。これがジャック・アトラス・Dのデュエル。圧倒的パワーを持つ切り札級のモンスターによる布陣で相手を叩き潰す、王道のデュエルだ。

 

「バトルだ!ベリアルでリードブローへ攻撃!アビスの効果により、リードブローの効果を無効にする!割山怒却拳!」

 

「――ッ、クッソォ……!」

 

ベリアルがアビスが出現した穴よりマグマを引き抜き、2振りの剣を形成、熱く燃える魔剣を振るい、火炎の斬撃を飛ばす。これに対するアリトの手は、無い。

 

アリト LP1000→0

 

決着、ファーストホイーラー対決に軍配が上がったのは、ジャック・アトラス・D。だがアリトも凄まじい健闘を見せ、彼を追い込んだ。そんな彼の心意気に応える為にも、ピットよりセカンドホイーラーにして、リーダー、沢渡 シンゴが飛び出す。

 

「後は任せやがれーっ!」

 

ドシュンッ、勢い良くD-ホイールを駆けさせ、沢渡がジャック・DのD-ホイールを追う。今回の彼は絶好調とはいかないが、中々の好調だ。猛スピードでサーキットを走り抜け、ジャック・Dに並走する。

 

「次は貴様か、我が『レッド・デーモン』の餌食となるのは!」

 

「ハッ、笑わせんな!ここから俺が、怒濤の3人抜きよぉっ!」

 

ニヤリ、両者好戦的な笑みを浮かべ、挑発し合う。手負いの獣、ジャック・アトラス・D。エンタメデュエリスト、沢渡 シンゴ。今、激突する。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

リレー形式のデュエルルールにより、ターンは終了し、沢渡へと渡される。ジャック・Dのフィールドには2体の『レッド・デーモン』が並んでおり、LPは3桁。とは言え無効効果を持つアビスが存在する。充分警戒し、沢渡はデッキからカードを引き抜く。

 

「俺様のターン、ドロー!」

 

「俺様は手札の『地帝家臣ランドローブ』の効果発動!このカードを特殊召喚し、アビスを裏側守備表示に変更!」

 

「チッ」

 

地帝家臣ランドローブ 守備力1000

 

現れたのは黄と茶の鎧を纏い、紫色のローブで頭をすっぽりと覆ったモンスターだ。彼のデッキに投入された帝をサポートするカードである反面、エクストラデッキからの展開を封じてしまうデメリットがある。とは言えペンデュラムは手札からも可能だ。現在邪魔にはならない。

 

「永続罠、『メタル・リフレクト・スライム』!守備力3000のモンスターとして特殊召喚!」

 

メタル・リフレクト・スライム 守備力3000

 

「そして2体のモンスターをリリースし、アドバンス召喚!『冥帝エレボス』!!」

 

冥帝エレボス 攻撃力2800

 

アドバンス召喚、最も基本となる召喚法により、フィールドに現れたのは沢渡のエースの1体。魔王に匹敵する冥府の『帝王』。フィールドに暗き光が降り注ぎ、厳かな空気が醸し出す中、玉座に腰掛け、漆黒の鎧を纏い、頭、肩より山羊のような捻れた角を伸ばし、背に日輪を負った巨大な人型モンスターが赤い眼光で『レッド・デーモン』を射抜く。

 

「ほう……!」

 

「アドバンス召喚時、効果発動!デッキから『汎神の帝王』と『真源の帝王』を墓地に送りベリアルをエクストラデッキに戻す!更にリリースされたランドローブの効果で、このカード以外の墓地の攻撃力800、守備力1000のモンスター、『BKラビット・パンチャー』を回収!」

 

ギロリ、エレボスが赤い眼を発光させ、ベリアルを一睨みした瞬間、魔王竜が姿を消す。睨むだけでこの力、正しく『帝王』の名に相応しいスペックだ。

 

「そして墓地の『汎神の帝王』を除外、デッキから『帝王』魔法、罠を3枚公開、相手はその中から1枚を選ぶ」

 

「……ふむ、『帝王の烈旋』を手札に加えろ」

 

「あいよ。さて、バトルだ!エレボスでセットされたアビスへ攻撃!」

 

エレボスが気だるそうに玉座から立ち上がり、セット状態のアビスを踏み砕く。魔王竜も体勢を崩された状態では『帝王』に敵わず、されるがままに蹂躙される。1ターンで2体の『レッド・デーモン』を鮮やかに攻略。ここでペンデュラム出来れば止めを刺せたのだが――仕方無い。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『冥帝エレボス』(攻撃表示)

セット2

手札4

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『打ち出の小槌』を発動。手札を交換。モンスターをセット、魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札0→3

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動。カードを2枚セット、ターンエンド」

 

ジャック・アトラス・D LP600

フィールド セットモンスター

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!俺は『魔界劇団ーデビル・ヒール』と『妖仙獣右鎌神柱』でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル2から4のモンスターを同時に召喚可能!」

 

沢渡のD-ホイールに追従するように、2本の柱が出現し、中に『魔界劇団』1の悪役、ずんぐりとした紫の巨体に白い仮面を被った悪魔、デビル・ヒールと『妖仙獣』の鳥居の1柱、右鎌神柱が現れ、天空に光の線を結び、魔方陣を描き出す。ペンデュラム、スタンダード次元特有の召喚法にして、沢渡がアドバンス召喚と共に得意とする技だ。磨き上げた力が今、炸裂する。

 

「ペンデュラム召喚!『BKラビット・パンチャー』!」

 

BKラビット・パンチャー 攻撃力800

 

「バトルだ!ラビット・パンチャーでセットモンスターへ攻撃!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札0→1

 

「エレボスでダイレクトアタック!冥王掌底撃!」

 

「させん!罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地より『レッド・スプリンター』を蘇生する!」

 

レッド・スプリンター 守備力1200

 

「そして『レッド・スプリンター』の効果発動!墓地の『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「まだだ!『レッド・リゾネーター』の効果により、エレボスの攻撃力分、LPを回復!」

 

ジャック・アトラス・D LP600→3400

 

たった1枚のカードから2体のモンスターに加え、回復までこなすジャック・D。凄まじい勢いだ。これで再び彼は存分に闘えるようになった。沢渡としては厄介な所であるが。

 

「これで少しはマシになったか。さて、貴様はエンタメデュエリストなのだろう?実はと言うと俺は貴様の事を買っているんだ。デニス・マックフィールドとのデュエルでの逆転劇、実に見事なものだった。この俺にも捧げろ、素晴らしきエンタメデュエルを!」

 

ギン、ヘルメットのバイザー越しに、赤い眼が沢渡を射抜く。期待していると言うのにこの気迫と態度。正に王様である。だが、傲慢さであれば、沢渡とて負けてはいない。

 

「そいつぁテメェ次第だな!俺様が最高でも、テメェがついてこれなきゃそこまでよ!」

 

「言うではないか、フハハ、こやつめ。潰してやろう」

 

「ヒエッ」

 

沢渡の図々しさを見て、ジャック・Dが青筋を立て、ボソリと呟く。悪鬼羅刹のような表情だ。実に恐ろしい。

 

「ま、まぁ言い。エレボスで『レッド・リゾネーター』へ攻撃し、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP4000

フィールド『冥帝エレボス』(攻撃表示)『BKラビット・パンチャー』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『妖仙獣右鎌神柱』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『復活の福音』!墓地の『炎魔竜レッド・デーモン』を蘇生する!来い、我が魂!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

「エース復活か……!」

 

「『帝王』如き、敵ではないわ!やれ、『レッド・デーモン』!全ての攻撃表示モンスターを破壊!真紅の地獄炎!」

 

バッ、『レッド・デーモン』が右腕を振るうと共に、地より火炎が噴出、沢渡のモンスターを呑み込み、黒焦げにする。

 

「バトルだ!『レッド・デーモン』でダイレクトアタック!極獄の裁き!」

 

「させっかよ!永続罠、『光の護封霊剣』!LPを1000払い、攻撃を無効!」

 

沢渡 シンゴ LP4000→3000

 

魔竜が口内に火炎を溜め込み、沢渡に向かって息吹を放つ。濃密なエネルギーを前にし、沢渡はリバースカードを使い、3本の光輝く剣を壁にして防ぐ。

 

「簡単にはいかんか、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP3400

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン』(攻撃表示)『レッド・スプリンター』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!早速エースを出した所残念だが、ご退場願おうか!リバースカードオープン!速攻魔法、『帝王の烈旋』!『レッド・デーモン』をリリースし、アドバンス召喚!来な!『光帝クライス』!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

墓地に『復活の福音』がある事で、実質破壊耐性を持つ『レッド・デーモン』を上手く処理しながら、沢渡のフィールドに黄金の甲冑を纏った『帝王』が現れる。沢渡のデッキではデッキの回転速度を上げる為に重要な位置に存在するモンスターだ。

 

「効果発動!こいつ自身と『光の護封霊剣』を破壊し、2枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札2→4

 

「おのれ、この俺の『レッド・デーモン』を踏み台扱いするか……!」

 

「そして次のステージに行くのさ!ペンデュラム召喚!『魔界劇団ーサッシー・ルーキー』!『魔界劇団ープリティ・ヒロイン』!」

 

魔界劇団ーサッシー・ルーキー 攻撃力1700

 

魔界劇団ープリティ・ヒロイン 攻撃力1500

 

再び揺れ動くペンデュラム。現れたのは青いパーマがかかった髪をした、生意気なルーキーと可愛らしい『魔界劇団』の姫君。2体の下級モンスターの登場だ。

 

「バトルだ!プリティ・ヒロインで『レッド・スプリンター』へ攻撃!」

 

プリティ・ヒロインがパシンと鞭を振るい、炎の黒馬を破壊する。これでジャック・Dのフィールドはがら空きになった。

 

「『補給部隊』の効果により、ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→2

 

「サッシー・ルーキーでダイレクトアタック!」

 

「速攻魔法、『終焉の焔』!俺のフィールドに2体の『黒焔トークン』を特殊召喚する!」

 

黒焔トークン 守備力0×2

 

現れたのは黒い炎で作られた小さな生物。『スケープ・ゴート』には数では劣るが、闇属性モンスターを積極的に利用するデッキなら差別化は可能だ。

 

「チッ、1体の『黒焔トークン』を攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』」

 

「ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP3000

フィールド『魔界劇団ーサッシー・ルーキー』(攻撃表示)『魔界劇団ープリティ・ヒロイン』(攻撃表示)

Pゾーン『妖仙獣右鎌神柱』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札断札』!互いに手札を2枚入れ替える!そして魔法カード、『星屑のきらめき』を発動!墓地より『魔サイの戦士』と『レッド・ウルフ』を除外し、『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』を蘇生!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

再びフィールドに舞い戻る赤き魔竜。ジャック・Dが最も信頼するカード達とあって、使用頻度も高く、攻撃力3000を優に越えてくるこのカード達の相手は実に苦しい。

 

「墓地の『ダブル・リゾネーター』を除外し、悪魔族モンスター、『黒焔トークン』をチューナー扱いにする!レベル9の『炎魔竜レッド・デーモン』に、レベル1の『黒焔トークン』をチューニング!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル 攻撃力3500

 

「ッ!」

 

「効果で『黒焔トークン』をリリースし、アビスを蘇生!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

ベリアルある所アビスあり。高攻撃力に加え、この展開力。ベリアルのお蔭で凶悪な『レッド・デーモン』が次々と復活していく。倒しても倒してもキリがない。

 

「これがエース特化のデッキって訳か……特化型のデッキ使いは余りいなかったからなぁ、新鮮だけど、経験値がないからやり辛いぜ……!」

 

ランサーズにはエース特化の戦術を使い者はアリト位しかいない。彼はリードブローで押して押して押しまくる戦法だが、他のランサーズは様々なモンスターで臨機応変に闘う事が多いのだ。そんな彼にとって、この手の相手は珍しい。

 

「自分のやりたい事を押しつける。それもまたデュエルに勝つ為に必要な事だ」

 

「勉強になるねぇ、クソッタレが……!」

 

「クク、バトルだ!ベリアルでサッシー・ルーキーへ攻撃!この瞬間、アビスの効果でプリティ・ヒロインの効果を無効に!」

 

「手札の『クリボー』を捨て、ダメージを0に!」

 

ベリアルが両手に炎の剣を形成し、サッシー・ルーキーに襲いかかる。このままでは攻撃力にものを言わせ、沢渡の敗北になってしまう。2人抜きをさせる訳にはいかないと、沢渡が『クリボー』を捨て、ダメージを逃れる。

 

「アビスでルーキーへ追撃!」

 

沢渡 シンゴ LP3000→1500

 

「ぐぁっ!サッシー・ルーキーの効果でデッキから『魔界劇団ーワイルド・ホープ』を特殊召喚!」

 

「アビスの効果で『シンクローン・リゾネーター』を蘇生!」

 

魔界劇団ーワイルド・ホープ 守備力1200

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

サッシー・ルーキーと入れ替えるように現れたのは黄金に輝くV字の角を伸ばしたハットを被り、光線銃を構えた期待のホープだ。

 

「メインフェイズ2に移行、カードを1枚セット」

 

「俺様も手札の『帝王』カードを捨て、墓地の『冥帝エレボス』の効果発動!『光帝クライス』をサルベージ」

 

「ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP3400

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』(攻撃表示)『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)『シンクローン・リゾネーター』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

サーキットでぶつかる2人のエンターテイナー。予測不可能のデュエル、勝者はどちらか。




これにて今年の投稿は終了です。次回からは来年にて。かなり休んだりしてあんまり進められなかったのが残念。
取り敢えずはシンクロ次元は無事下書きの方が完成しそうです。それでは皆様良いお年を。


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第148話 妖仙ロスト・トルネード

あけましておめでとうございますー。今年もよろしくお願いします。
なんだかんだこの作品も結構長い事やってるんですよね。


フレンドシップカップ、2回戦第1試合にて、チームネオ5D'sのファーストホイーラーにして、リーダー、ジャック・アトラス・Dと、チーム沢渡のセカンドホイーラーにしてリーダー、沢渡 シンゴが激突する。

 

現在、ジャックのフィールドには『レッド・デーモン』を蘇生するベリアル、そして万能無効化効果を持つアビスの『レッド・デーモン』コンビと『シンクローン・リゾネーター』の3体、加えてモンスター破壊時に1枚ドローする『補給部隊』とセットカードが1枚。万全とも言って良い布陣だ。LPは3400、単純にアリトと沢渡の2人がかりで闘っていると考えればその凄まじさが分かるだろう。

 

対する沢渡のLPはジャック・Dの約半分、1500。モンスターはプリティ・ヒロインとワイルド・ホープの2体、セットカードは0。ペンデュラムゾーンには『妖仙獣右鎌神柱』と『魔界劇団ーデビル・ヒール』、レベル2から4のモンスターをペンデュラム召喚可能だ。とは言え不利な点には変わらない。このターンで挽回したいものだ。

 

「俺のターン、ドロー!プリティ・ヒロインをリリースし、アドバンス召喚!『光帝クライス』!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

「効果発動!ベリアルとアビスを破壊!」

 

「アビスの効果で無効!」

 

「魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札0→3

 

「永続魔法、『修験の妖社』と『補給部隊』を発動!速攻魔法、『神秘の中華なべ』!クライスをリリースし、LPを2400回復!」

 

沢渡 シンゴ LP1500→3900

 

「ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP3900

フィールド『魔界劇団ーワイルド・ホープ』(守備表示)

『修験の妖社』『補給部隊』

Pゾーン『妖仙獣右鎌神柱』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『シンクローン・リゾネーター』をリリースし、アドバンス召喚!『デーモンの召喚』!」

 

デーモンの召喚 攻撃力2500

 

現れたのは効果を持たぬバニラカード、白き骨の鎧を纏い、雷を翼に纏わせた上級悪魔。遠き地にて、伝説となったデュエリストも使用したモンスターだ。

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果で、『レッド・リゾネーター』を回収!バトルだ!『デーモンの召喚』でワイルド・ホープへ攻撃!魔降雷!アビスの効果で『補給部隊』を無効!」

 

「ワイルド・ホープの効果で『魔界劇団ービッグ・スター』をサーチ!」

 

「ベリアルでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを封じる!」

 

ベリアルの炎剣が襲いかかり、沢渡のフィールドに光の剣が飛び出して剣戟を繰り広げる。流石に二刀流では3本の剣には分が悪いと考えたのか、ベリアルは飛び退く。

 

「フン、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP3400

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』(攻撃表示)『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)『デーモンの召喚』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『魔界劇団ーワイルド・ホープ』!『魔界劇団ーサッシー・ルーキー』!『魔界劇団ープリティ・ヒロイン』!」

 

魔界劇団ーワイルド・ホープ 守備力1200

 

魔界劇団ーサッシー・ルーキー 守備力1000

 

魔界劇団ープリティ・ヒロイン 守備力1000

 

振り子の軌跡で現れる3体の『魔界劇団』。これで少しは時間を稼げると良いのだが、やはりアビスが厄介だ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド」

 

沢渡 シンゴ LP3900

フィールド『魔界劇団ーワイルド・ホープ』(守備表示)『魔界劇団ーサッシー・ルーキー』(守備表示)『魔界劇団ープリティ・ヒロイン』(守備表示)

『修験に妖社』『補給部隊』セット1

Pゾーン『妖仙獣右鎌神柱』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラムの特性を活かし、壁を作る。加えて全てのモンスターが破壊された際、デッキのカードを呼び出す。面倒な……『デーモンの召喚』をリリースし、モンスターをセット。そしてベリアルの効果でセットモンスターをリリースし、『レッド・デーモン』を蘇生!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

「アドバンス召喚した『タン・ツイスター』がフィールドから墓地へ送られた事で2枚ドロー」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→3

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を交換。魔法カード、『名推理』!」

 

「レベル4を宣言するぜ」

 

「俺はデッキトップから通常召喚可能なモンスターが出るまでカードを墓地に送り、宣言したレベルのモンスターならば墓地へ、それ以外なら特殊召喚する。1、2、3、4『絶対王バック・ジャック』を特殊召喚!」

 

絶対王バック・ジャック 攻撃力0

 

「ベリアルとアビスを守備に変更!『レッド・デーモン』の効果発動!バック・ジャックを破壊し、バック・ジャックが墓地に送られた事でデッキトップの3枚を操作。『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→2

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』を発動。カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP3400

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』(守備表示)『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(守備表示)『炎魔竜レッド・デーモン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺様のターン、ドロー!」

 

「『絶対王バック・ジャック』を墓地から除外する事でデッキトップの罠カードをセット!発動!『貪欲な瓶』!墓地のカードを5枚デッキに戻し、ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札0→1

 

「サッシー・ルーキーとプリティ・ヒロインをリリースし、アドバンス召喚!来な!『魔界劇団ービッグ・スター』!!」

 

魔界劇団ービッグ・スター 攻撃力2500

 

現れたのは沢渡 シンゴのエースモンスターの1体、エレボスと肩を並べる『魔界劇団』の大スター。渦巻くメタリックなワインレッドの髪、隻眼を輝かせる悪魔だ。

 

「効果発動!デッキから『魔界台本』をセットする!」

 

「させん!アビスよ、無効化しろ!」

 

「チッ!」

 

ビッグ・スターが沢渡のデッキから一冊の本を抜き取ろうとしたその瞬間、アビスに鷲掴みにされて身動きを封じられる。やはりこの効果は厄介極まりない。だけどまだ、手段は残っている。

 

「舐めんじゃねぇ!罠発動!『ダーク・アドバンス』!墓地から『光帝クライス』を回収!そしてビッグ・スターをリリースし、アドバンス召喚!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

「俺の『レッド・デーモン』を狙うか……?」

 

「違うぜ」

 

「何……?」

 

「俺様はワイルド・ホープとぉ、『妖仙獣右鎌神柱』の2枚を破壊!ワイルド・ホープの効果により、『魔界劇団ーファンキー・コメディアン』を手札に加え、2枚ドロー!更に『補給部隊』の効果でドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札2→4→5

 

「4枚の手札回復だと!?」

 

「オラァ!魔法カード、『金満な壺』!エクストラデッキ、墓地から合計3体のペンデュラムモンスターをデッキに戻し、更に2枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札4→6

 

「これこそが俺様の最強のドロー!まだまだ行くぜぇ!ファンキー・コメディアンをセッティング!行くぜ行くぜ行くぜぇっ!ペンデュラム召喚!来な!俺様の忠実なる僕達!『魔界劇団ービッグ・スター』!!『魔界劇団ーワイルド・ホープ』!『魔界劇団ーサッシー・ルーキー』!『魔界劇団ープリティ・ヒロイン』!」

 

魔界劇団ービッグ・スター 攻撃力2500

 

魔界劇団ーワイルド・ホープ 攻撃力1600

 

魔界劇団ーサッシー・ルーキー 攻撃力1700

 

魔界劇団ープリティ・ヒロイン 攻撃力1500

 

何度も何度も、押し返されても突き進む。沢渡が描く虹のアーク。手札の超回復に超展開。とんでもないプレイングだ。流石のジャック・Dも苦笑いを溢す。

 

「たっぷり礼してやるよ。このペンデュラム召喚時、手札の『D.D.クロウ』を捨て、テメェの墓地から『復活の福音』を除外!ビッグ・スターの効果!デッキから『魔界台本「魔王の降臨」』をセット、オープン!『魔界劇団』は4体!よってモンスター全てと『補給部隊』を破壊ィ!」

 

魔王の降臨を読み込んだビッグ・スターが巨大な悪魔の翼を広げ、羽ばたきによる衝撃波でジャック・Dのモンスターを全て吹き飛ばす。容赦なしの一撃、これで強力な『レッド・デーモン』も一網打尽だ。

 

「ぐっ……!」

 

「ワイルド・ホープの効果発動!攻撃力を400アップ!」

 

魔界劇団ーワイルド・ホープ 攻撃力1600→2000

 

「カードを2枚セット、バトルだ!ビッグ・スターでダイレクトアタック!」

 

「フ、ハハハハハ!やるではないか!だが、2歩先を行く!墓地の『光の護封霊剣』を除外!このターンのダイレクトアタックを防ぐ!」

 

「チッ、墓地の『ADチェンジャー』を除外し、サッシー・ルーキーを守備表示に変更。ターンエンド!」

 

「速攻魔法、『デーモンとの駆け引き』!レベル8以上のモンスターが俺のフィールドから墓地に送られたターン、デッキより『バーサーク・デッド・ドラゴン』を呼び出す!血肉を貪り食らえ、美しくも醜悪なる亡竜よ!来たれ!」

 

バーサーク・デッド・ドラゴン 攻撃力3500

 

血の匂いに誘われ、飢えた亡竜が舞台に駆け上がる。肉を削ぎ落とした、黒い骨の体躯に翼を伸ばした醜悪なモンスター。ペンデュラム相手にも通じる強力なカードの登場だ。沢渡が冷や汗を垂らす。

 

「クッ、何つーもん出しやがる……!」

 

沢渡 シンゴ LP3900

フィールド『魔界劇団ービッグ・スター』(攻撃表示)『魔界劇団ーワイルド・ホープ』(攻撃表示)『魔界劇団ーサッシー・ルーキー』(守備表示)『魔界劇団ープリティ・ヒロイン』(攻撃表示)『光帝クライス』(攻撃表示)

『修験の妖社』『補給部隊』セット2

Pゾーン『魔界劇団ーファンキー・コメディアン』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!永続魔法、『補給部隊』を発動。バトルだ!『バーサーク・デッド・ドラゴン』でプリティ・ヒロインへ攻撃!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、プリティ・ヒロインの効果を無効にする!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターン受けるダメージを半分に!」

 

沢渡 シンゴ LP3900→2900

 

血肉に飢えた竜が耳をつんざく雄叫びを上げ、沢渡のフィールドに襲いかかり、鋭い牙でプリティ・ヒロインを引き裂く。

 

「プリティ・ヒロインの効果でデッキから『魔界台本「魔王の降臨」』をセット、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札2→3

 

「まだだ!ビッグ・スターへ攻撃!」

 

「こ、のっ……!?」

 

沢渡 シンゴ LP2900→2400

 

更に『バーサーク・デッド・ドラゴン』が地を蹴り、首を伸ばしてビッグ・スターを噛み砕く。恐るべき戦闘力で無双する亡竜。力だけなら『レッド・デーモン』に匹敵するだけの事はある。

 

「次だ、クライスへ攻撃!」

 

「ぬぁっ!?」

 

沢渡 シンゴ LP2400→1850

 

黒い牙が黄金の甲冑を噛み砕く。見る見る内に削られるモンスターとLP、更に荒々しさを増したジャック・Dのパワーデュエルを前に防戦一方だ。

 

「ワイルド・ホープへ攻撃!」

 

沢渡 シンゴ LP1850→900

 

「くっ、だがワイルド・ホープの効果で『魔界劇団ーティンクル・リトルスター』をサーチ!」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ。『バーサーク・デッド・ドラゴン』の攻撃力が500ダウンする」

 

バーサーク・デッド・ドラゴン 攻撃力3500→3000

 

ジャック・アトラス・D LP3400

フィールド『バーサーク・デッド・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『砂塵の大嵐』!ペンデュラムを破壊!」

 

モンスターに加え、ペンデュラムまでも破壊、これで沢渡はスケールを崩され、再びペンデュラムでの展開は封じられた。恐らくはビッグ・スターと魔王の降臨による攻略を断ち切りに来たのだろう。だが何も、沢渡の武器は1つだけではない。

 

「上等……俺様は『氷帝家臣エッシャー』を特殊召喚!」

 

氷帝家臣エッシャー 守備力1000

 

現れたのは円盤状の頭部を持つ、青い騎士のようなモンスターだ。相手の魔法、罠ゾーンに2枚以上のカードが存在する場合特殊召喚可能であり、既に条件は満たしている。

 

「リバースカード、オープン!『魔界台本「魔王の降臨」』!『補給部隊』を破壊!『妖仙獣左鎌神柱』と『魔界劇団ーティンクル・リトルスター』をセッティング!2体のモンスターをリリース!烈風纏いし妖の長よ。荒ぶるその衣を解き放ち、大河を巻き上げ大地を抉れ!アドバンス召喚!出でよ、『魔妖仙獣大刃禍是』!!」

 

魔妖仙獣大刃禍是 攻撃力3000

 

修験の妖社 妖仙カウンター0→1

 

風がサッシー・ルーキーとエッシャーを包み込み、1つの竜巻となり、中を引き裂いて新たなモンスターが姿を見せる。1本の角を伸ばした風の化身。赤い眼を輝かせた巨大な獣だ。これこそがビッグ・スター、エレボスと並ぶ『妖仙獣』のエースモンスター。先の2体に匹敵する強力な効果を持っている。

 

「召喚時、テメェの『バーサーク・デッド・ドラゴン』とセットカードをバウンスする!ここで永続罠、『妖仙獣の眩暈風』を発動!レベル6以上の『妖仙獣』モンスターと、ペンデュラムゾーンに『妖仙獣』が設置されている事で、手札に戻るモンスターはデッキに戻る!これぞ妖仙ロスト・トルネード!」

 

「ぬぅ!」

 

凶暴な『バーサーク・デッド・ドラゴン』をも屈伏させる強力なコンボが炸裂し、ジャック・Dのフィールドががら空きとなる。だがまだ沢渡の手は止まらない。

 

「お次はこいつだ!ペンデュラム召喚!『魔界劇団ービッグ・スター』!!『魔界劇団ーワイルド・ホープ』!『魔界劇団ーサッシー・ルーキー』!『魔界劇団ープリティ・ヒロイン』!」

 

魔界劇団ービッグ・スター 攻撃力2500

 

魔界劇団ーワイルド・ホープ 攻撃力1600

 

魔界劇団ーサッシー・ルーキー 守備力1000

 

魔界劇団ープリティ・ヒロイン 守備力1000

 

更に展開、恐るべき少年だ。ジャック・Dの布陣を崩しつつ、自らは5体のモンスターを呼ぶ。しかも――。

 

「ビッグ・スターの効果で『魔界台本「オープニング・セレモニー」』をセット、オープン!LPを2000回復ぅ!」

 

沢渡 シンゴ LP900→2900

 

失ったLPまで回復すると来た。

 

「何と……!」

 

「これが俺様の本気よぉ!カードをセット、バトルだ!ビッグ・スターと大刃禍是で、ダイレクトアタック!」

 

ジャック・アトラス・D LP3400→900→0

 

「――ッ!」

 

ビッグ・スターと大刃禍是、二大エースによる強烈な合体攻撃がジャック・Dを貫き、全てのLPを削り取る。見事、パワーデュエルに対し、タクティクスでジャックを上回った。

 

「さぁ、お次はテメェだ!クロウの偽物野郎!」

 

ビシリ、ピットで純白のD-ホイール、ブラック・バード・アルビオンに跨がり、不気味にこちらを見つめるクロウ・ゴーストに対し、指を突きつける沢渡。彼はこの男に対し、内心怒っているのだ。熱も何もないデュエルで、クロウと同じ『BF』を使い、コナミ達を追い詰めたこの男に。

 

「良いだろう、クロウ。存分に奴から学べ」

 

「……了解」

 

ギン、ヘルメットの奥の眼がギラギラと輝き、沢渡を射抜く。ターゲットロックオン。クロウ・ゴーストは静かにジャック・Dの言葉に応え、D-ホイールを吹かし――猛スピードで発進、沢渡へと迫る。

 

「うぉっ!?」

 

突然来襲し、並走するクロウ・ゴーストに対し、沢渡が若干怯えつつも驚愕する。だが直ぐ様声を震わせ、「やんのかコラァ!」とファイティングポーズを取る。かなりの実力者の筈なのに今一小者感が抜けない男だ。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

セカンドホイーラーが、激突する。

 

「……俺のターン、ドロー。魔法カード、『強欲で金満な壺』。エクストラデッキのモンスターを6体除外し、2枚ドロー」

 

クロウ・ゴースト 手札5→7

 

「魔法カード、『名推理』」

 

「レベル4を選択するぜ」

 

「1、2……『BFー逆風のガスト』を特殊召喚」

 

BFー逆風のガスト 守備力1400→1600

 

現れたのは黒と緑の羽を風に靡かせた鳥人だ。少々条件を満たしにくいが、特殊召喚可能なレベル2の『BF』。これの改良版が『BFー砂塵のハルマッタン』となる。

 

「そしてガストをリリースし、手札の『ABFー霧雨のクナイ』を特殊召喚する」

 

ABFー霧雨のクナイ 攻撃力2100→2500

 

次はその名を指す通り、爪がクナイとなった『忍者』のような『BF』だ。『BF』の強化体、『ABF』。これがクロウ・ゴーストとクロウ・ホーガンの大きな違いだ。

最新鋭の『BF』と旧型の精鋭を合わせたハイブリッド型の混合デッキ。本人含めればこの大会で最も謎が多いと言っていい。

 

「この効果で特殊召喚したこのカードはチューナー扱いとなる。そして永続魔法、『黒い旋風』を発動し、『BFー極北のブリザード』を召喚」

 

BFー極北のブリザード 攻撃力1300→1700

 

更に展開、呼び出されたのは『BF』の名にも関わらず、白い羽毛に包まれた嘴の広いモンスターだ。

 

「召喚時、墓地の『BFー逆風のガスト』を蘇生」

 

BFー逆風のガスト 守備力1400→1800

 

「『黒い旋風』の効果により、『BFー砂塵のハルマッタン』をサーチ、特殊召喚」

 

BFー砂塵のハルマッタン 守備力800→1200

 

次は首周りに赤い数珠を巻いた脚の長い鳥だ。レベルは2、先程言った通り、使いやすくしたガストのようなモンスターだ。

 

「ハルマッタンの特殊召喚時、このカードのレベルをブリザードのレベル分アップする」

 

BFー砂塵のハルマッタン レベル2→4

 

「レベル4になったハルマッタンに、レベル2のブリザードをチューニング!シンクロ召喚!『BFー星影のノートゥング』!」

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2400→2800

 

ブリザードが2つの星となって弾け飛び、ハルマッタンを包み込む。閃光がフィールドを覆い、新たに姿を見せたのは全身を漆黒に染めた鳥人だ。手には刃に波紋を広げた剣を持っている。

 

「特殊召喚時、相手に800ダメージを与え、サッシー・ルーキーの攻守を800ダウン!舞い戻る剣!」

 

沢渡 シンゴ LP2900→2100

 

魔界劇団ーサッシー・ルーキー 守備力1000→200

 

「更にノートゥングの効果で『BF』の召喚権が増える。『BFー鉄鎖のフェーン』を召喚」

 

BFー鉄鎖のフェーン 攻撃力500→900

 

展開に次ぐ展開、現れたのは忍装束に身を包んだ『BF』だ。

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー突風のオロシ』をサーチし、特殊召喚」

 

BFー突風のオロシ 守備力600→1000

 

「レベル6のノートゥングに、レベル1のオロシをチューニング!漆黒の翼翻し、雷鳴と共に走れ!電光の斬擊!シンクロ召喚!降り注げ、『ABFー驟雨のライキリ』!」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600→3000

 

更に現れる『ABF』のシンクロ体、鳥を模した兜に、刺々しい鎧、鳥獣の左翼と機械の右翼を広げ、美しい輝きを放つ日本刀を持ったモンスター。クロウ・ゴーストが持つ、準エース級のカードだ。

 

「オロシの効果でサッシー・ルーキーを攻撃表示に変更。そしてライキリの効果発動。このカード以外の『BF』の数まで相手フィールドのカードを対象とし、破壊する。3枚のセットカードを破壊する」

 

「くっ!罠発動!『仁王立ち』!ビッグ・スターの守備力を倍に!」

 

魔界劇団ービッグ・スター 守備力1800→3600

 

ライキリが刀に雷を這わせ、鋭い斬擊を放つ。これがライキリの効果だ。一気にカードを破壊する、今までの『BF』になかった突破力。

 

「まだだ。クナイの効果でライキリのレベルを3に変更」

 

ABFー驟雨のライキリ レベル7→3

 

「レベル2のフェーンに、レベル3となったチューナー扱いのライキリをチューニング!黒き烈風よ、絆を紡ぐ追い風となれ!シンクロ召喚!飛び立て、『ABFー五月雨のソハヤ』!」

 

ABFー五月雨のソハヤ 守備力2000→2400

 

シンクロ召喚、3回目。現れたのは青い翼と鎧を纏い、刀に雷を帯びさせた中型の『BF』だ。

 

「ソハヤのシンクロ召喚時、墓地の『ABFー驟雨のライキリ』を蘇生する!」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600→3000

 

「ライキリの効果発動。次はビッグ・スター、大刃禍是、『補給部隊』、ペンデュラムを破壊」

 

「ぐっ、『仁王立ち』除外してビッグ・スターに攻撃を絞る!」

 

「まだだ。レベル2のガストに、レベル5のクナイをチューニング!シンクロ召喚!『BFTー漆黒のホーク・ジョー』!」

 

BFTー漆黒のホーク・ジョー 攻撃力2600

 

次は『BF』達を統べる者、赤髪を靡かせ、黄金の飾りを身につけた鷹匠だ。『BF』唯一の戦士族と言えばその特異性が分かるだろう。

 

「ホーク・ジョーの効果により、墓地のクナイを特殊召喚する」

 

ABFー霧雨のクナイ 攻撃力2100→2500

 

「クナイの効果発動。ソハヤのレベルを2に変更」

 

ABFー五月雨のソハヤ レベル5→2

 

「この野郎……!」

 

とんでもない展開速度とルート確保。1回戦に比べ、明らかに成長したクロウ・ゴーストの実力を見て、沢渡が戦慄する。余り良い手札と言えなかった筈なのに――いきなり、彼のコンボがフィールドに揃う。

 

「レベル5のクナイに、レベル2となったチューナー扱いのソハヤをチューニング!黒き旋風よ、天空へ駆け上がる翼となれ!シンクロ召喚!『BFーアーマード・ウィング』!」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500→2900

 

1ターン目から、5連続シンクロ召喚。余りにも馬鹿げたプレイングが沢渡に刃を向ける。速すぎるにも程がある。現れる黒い鎧に包まれた機械鳥。そして並ぶ鷹匠と日本刀。3羽烏が天空を駆る。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

クロウ・ゴースト LP4000

フィールド『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)『BFTー漆黒のホーク・ジョー』(攻撃表示)『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)

『黒い旋風』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!サッシー・ルーキーを守備表示に変更し、魔法カード、『マジック・プランター』を発動!眩暈風をコストに2枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札0→2

 

「手札の『帝王の溶撃』を捨て、墓地のエレボスの効果発動!クライスをサルベージ、溶撃を除外し、墓地の『真源の帝王』をモンスターとして特殊召喚!」

 

真源の帝王 守備力2400

 

「『真源の帝王』をリリースし、アドバンス召喚!『光帝クライス』!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

「このカードとワイルド・ホープを破壊、ワイルド・ホープの効果で『魔界劇団ーエキストラ』をサーチしつつ、2枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札2→4

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

沢渡 シンゴ LP2100

フィールド『魔界劇団ーサッシー・ルーキー』(守備表示)『魔界劇団ープリティ・ヒロイン』(守備表示)

『修験の妖社』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー。ホーク・ジョーの効果発動。墓地の『BFー星影のノートゥング』を蘇生する」

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2400→2800

 

「特殊召喚時、相手に800ダメージを与え、サッシー・ルーキーの攻守を800ダウン」

 

沢渡 シンゴ LP2100→1300

 

魔界劇団ーサッシー・ルーキー 守備力200→0

 

「こっの……!」

 

「ライキリの効果発動。サッシー・ルーキーとセットカードを破壊する」

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!更に破壊された『運命の発掘』の効果で2枚ドロー!」

 

沢渡 シンゴ 手札2→4

 

「……カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

クロウ・ゴースト LP4000

フィールド『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)『BFTー漆黒のホーク・ジョー』(攻撃表示)『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)『BFー星影のノートゥング』(攻撃表示)

『黒い旋風』セット3

手札0

 

「俺様のターン、ドロー!魔法カード、『暗黒界の取引』、手札交換。『魔界劇団ーエキストラ』を召喚!」

 

魔界劇団ーエキストラ 攻撃力100

 

現れたのは円盤状の投影器に写し出された3体の隻眼の悪魔だ。

 

「エキストラをリリースし、デッキの『魔界劇団ーファンキー・コメディアン』をセッティング!『魔界劇団ーデビル・ヒール』をセッティング!ペンデュラム召喚!『魔界劇団ービッグ・スター』!『魔界劇団ーワイルド・ホープ』!『魔界劇団ーダンディ・バイプレイヤー』!」

 

魔界劇団ービッグ・スター 攻撃力2500

 

魔界劇団ーワイルド・ホープ 攻撃力1600

 

魔界劇団ーダンディ・バイプレイヤー 守備力700

 

「ビッグ・スターの効果発動!」

 

「罠発動、『もの忘れ』。ビッグ・スターの効果を無効にし、守備表示に変更」

 

「く、ダンディ・バイプレイヤーの効果でこのカードをリリースし、エクストラデッキから『魔界劇団ーデビル・ヒール』を特殊召喚!」

 

魔界劇団ーデビル・ヒール 攻撃力3000

 

「デビル・ヒールの特殊召喚時、ホーク・ジョーの攻撃力をダウン!」

 

「ホーク・ジョーの効果により、効果対象をアーマード・ウィングに移す」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2900→0

 

「まだだ!墓地の『妖仙獣木魅』を除外し、『妖仙獣』の召喚権を増やす!サッシー・ルーキーとプリティ・ヒロインをリリースし、アドバンス召喚!『魔妖仙獣大刃禍是』!!」

 

魔妖仙獣大刃禍是 攻撃力3000

 

2体の『魔界劇団』を引き換えとして、沢渡の第2のエースが再びフィールドに現れる。

 

「大刃禍是の効果により、ホーク・ジョーとアーマード・ウィングをバウンスする!」

 

「ッ!」

 

「ファンキー・コメディアンのペンデュラム効果でビッグ・スターをリリースし、デビル・ヒールの攻撃力をアップ!」

 

魔界劇団ーデビル・ヒール 攻撃力3000→5500

 

「そしてデビル・ヒールのペンデュラム効果でワイルド・ホープをリリースし、ライキリの攻撃力をダウン!」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力3000→1400

 

「バトル!大刃禍是でライキリへ攻撃!」

 

「罠発動。『ブラック・ソニック』。自分フィールドの『BF』モンスターが攻撃宣言を受けた時、相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て除外する」

 

「な、に――!?」

 

窮地を脱出する、沢渡最後の反撃、それも届かず――目の前で黒い竜巻に呑み込まれ、モンスター達が消滅する。最悪の展開。最早、沢渡に残された手はない。

 

「ッ、ターン、エンドだ……!」

 

沢渡 シンゴ LP1300

フィールド

『修験の妖社』

Pゾーン『魔界劇団ーファンキー・コメディアン』『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札0

 

「俺のターン、ドロー」

 

相変わらず無機質で機械的な音声でデッキからカードを引き抜くクロウ・ゴースト。熱もない、ただ効率のみを重視したような淡々としたデュエル――どうしても好きにはなれない。

 

「クロウとは大違いだぜ……!」

 

だからこそ、認めたくない。この男が――クロウ・ホーガンより、強い事を。

 

「罠発動、『強欲な瓶』。1枚ドロー」

 

クロウ・ゴースト 手札1→2

 

「『ネクロフェイス』を召喚」

 

ネクロフェイス 攻撃力1200

 

「除外されているカードをデッキに戻し、その数×100攻撃力をアップ」

 

ネクロフェイス 攻撃力1200→2600

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』をデッキに戻し、『ネクロフェイス』をデッキに戻して1枚ドロー」

 

クロウ・ゴースト 手札1→2

 

「カードをセット、ライキリの効果でファンキー・コメディアンを破壊。バトルだ、ライキリでダイレクトアタック」

 

突きつけられた指先に従い、ライキリが煌めく刀身で沢渡を貫き刺す。

 

沢渡 シンゴ LP1300→0

 

セカンドホイーラー対決、勝者、クロウ・ゴースト。そして同時に、チーム沢渡のラストホイーラー、黒咲 隼がD-ホイールに跨がり、フィールドを駆け抜ける。

 

「黒咲……っ、後は頼む!」

 

「ああ、任せておけ!」

 

バトンは託された。残る敵は万全の状態のクロウ・ゴーストと白コナミ。状況は絶望的に近いが――彼等は諦めない。仲間達の想いを胸に、サーキットを疾駆する。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

黒き鳥獣が、天空に舞う。




今年こそはせめてシンクロ次元編終了までは持っていきたいんですけどまだまだ話数が残っていると言う不安。


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第149話 最強の鳥獣決戦!(半ギレ)

最近大掃除したんですが、結構懐かしいものが出来てますね。録画したビデオにしゅごキャラが入ってたり、グランセイザーとかあったり。懐い。
今時の世代はビデオテープ知ってるのかなと思ったり。


「俺のターン、ドロー!」

 

フレンドシップカップ、2回戦第1試合もいよいよ大詰め。チームネオ5D's、セカンドホイーラー、クロウ・ゴーストと、チーム沢渡のラストホイーラー、黒咲 隼との対決が始まる。

シンクロとエクシーズ、形こそ違えど、両者共に闇属性鳥獣族使いだ。この対戦カードを楽しみにしていた観客も存在し、一気に盛り上がる。

 

「お前が何者かは知らんが、全力で倒させてもらおう!魔法カード、『強欲で金満な壺』を発動!エクストラデッキのモンスターを6体除外し、2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札5→7

 

「俺は永続魔法、『RRーネスト』を発動!そして『RRートリビュート・レイニアス』を召喚!」

 

RRートリビュート・レイニアス 攻撃力1800→2200

 

現れたのは青いボディを持ち、レーザーユニットを浮遊させた機械鳥。出だしとしては悪くないモンスターだ。

 

「そしてトリビュート・レイニアスの効果発動!デッキから『RRーミミクリー・レイニアス』を墓地に送り、ミミクリー・レイニアスの効果発動!このカードを除外し、デッキより『RRーレディネス』をサーチ!そしてフィールドに『RR』モンスターが存在する事で、手札の『RRーファジー・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RRーファジー・レイニアス 守備力1500→1900

 

次は紫色のボディを持った機械鳥。これでレベル4のモンスターが2体、とは言っても今回は相手の場にライキリが存在する為、少し考えなければならないが。

 

「『RRーネスト』の効果発動!フィールドに『RR』が2体存在する事で、デッキの『RRーペイン・レイニアス』をサーチ、そして2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実をあばき、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ!エクシーズ召喚!飛来せよ!『RRーフォース・ストリクス』!」

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2000→2400

 

エクシーズ召喚、2体のモンスターが重なり、現れたのは梟の姿をした『RR』だ。『RR』デッキの中でも鍵となる重要なモンスターでもあり、最初からの運用が望まれる。

 

「フォース・ストリクスのORUを1つ取り除き、効果発動!デッキから『RRーシンギング・レイニアス』をサーチ!更に墓地に送られたファジー・レイニアスの効果で同名カードをサーチ!まだ行くぞ!エクシーズモンスターがフィールドに存在する事で、『RRーシンギング・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RRーシンギング・レイニアス 守備力100→500

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2200→2900

 

次はファジー・レイニアスと双璧を成す、『RR』の中でも優秀な特殊召喚効果を持つカードだ。

 

「そしてシンギング・レイニアスを対象にし、手札のペイン・レイニアスの効果発動!守備力500分のダメージを受け、このカードを特殊召喚!レベルを対象モンスターに合わせる!」

 

黒咲 隼 LP4000→3500

 

RRーペイン・レイニアス 守備力100→500 レベル1→4

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2700→3400

 

更に展開、現れたのは緑色の機械鳥。これで再びレベル4が2体だが、今回はフォース・ストリクスのエクシーズは見送る。

 

「戦闘、効果ダメージを受けた事で、手札の『RRーアベンジ・ヴァルチャー』の効果発動!このカードを特殊召喚する!」

 

RRーアベンジ・ヴァルチャー 攻撃力1800→2200

 

RRーフォース・ストリクス 守備力3200→3900

 

これで、レベル4が3体揃った。

 

「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!雌伏のハヤブサよ。逆境の中で研ぎ澄まされた爪を挙げ、反逆の翼翻せ!エクシーズ召喚!現れろ!『RRーライズ・ファルコン』!」

 

RRーライズ・ファルコン 攻撃力100→500

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2200→2900

 

現れたのは青いボディと翼を煌めかせ、身体の半分以上を占める巨大な爪を持った鳥獣だ。見た目に反して攻撃力は低いが、能ある鷹は爪を隠すと言うように、その真価は効果にある。

 

「ライズ・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!ライキリの攻撃力をこのカードに加える!」

 

RRーライズ・ファルコン 攻撃力300→3300

 

「そしてライズ・ファルコンは特殊召喚されたモンスター全てに攻撃可能……!バトル!ライズ・ファルコンでライキリへ攻撃!ブレイブクローレボリューション!」

 

「ッ!」

 

クロウ・ゴースト LP4000→3700

 

ライズ・ファルコンが巨大な爪でライキリに強襲をかけ、ライキリが応戦しようと刀で凌ぐ。ぶつかり、火花を散らす互いの刃。しかしライズ・ファルコンの刃は1つだけではない。直ぐ様もう一方の爪でライキリを鷲掴みにし、身動きを封じた後、握り潰す。ゴキリ、鈍い音を響かせて翼が砕け、パッと放せばライキリは重力に任せて地に堕ち、消滅する。

 

「続けてノートゥングを攻撃!」

 

クロウ・ゴースト LP3700→3200

 

「ぐっ……!」

 

続け様にライズ・ファルコンが天空を駆け、応戦しようとするノートゥングの剣を器用に奪い、奪った剣を使ってノートゥングを下から切り裂く。本人が使うだけあって中々の業物だ。いとも容易くノートゥングを地に伏せる。

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、罠発動。『裁きの天秤』。俺のフィールドのカードと手札4枚と、お前のフィールドのカード8枚、その差4枚をドローする」

 

クロウ・ゴースト 手札1→5

 

黒咲 隼 LP3500

フィールド『RRーライズ・ファルコン』(攻撃表示)『RRーフォース・ストリクス』(守備表示)

『RRーネスト』『修験の妖社』セット3

Pゾーン『魔界劇団ーデビル・ヒール』

手札3

 

モンスターが全滅した後のリカバリーも充分。凄まじいドローで手札を補充し、迎撃に備えるクロウ・ゴースト。とは言え隼の布陣も負けてはいない。彼のセットしたカードの中には『RR』を戦闘破壊から守り、更にはダメージも防ぐレディネスがある。このカードが有る限り、隼へダメージは通らないと言う訳だ。攻めは勿論、防御にも隙がない。

 

「俺のターン、ドロー。俺は自分フィールドにモンスターが存在しない事で、『BFー朧影のゴウフウ』を手札から特殊召喚」

 

BFー朧影のゴウフウ 守備力0→400

 

現れたのは暴風を引き連れ、鎖を巻いた『BF』モンスター。『BF』だけでなく、幅広い汎用性を持ったカードだ。

 

「ゴウフウが手札から特殊召喚した事で、2体の『朧影トークン』を特殊召喚」

 

朧影トークン 守備力0→400×2

 

手札からの特殊召喚時、トークンを2体用意する効果。しかしこのトークンはリリースやシンクロ素材にも使えない為、かなりクセが強い。尤も――利用方法はいくらでもあるのだが。

 

「このカードとチューナー以外のモンスターを1体以上除外し、合計レベルとなる『BF』シンクロモンスターをチューナー扱いで墓地より蘇生する。ファントムシンクロ……!」

 

「ファントムシンクロだと……!?」

 

これぞオリジナルのクロウ・ホーガンを上回る為、彼のデッキの『ABF』と共に投入された、彼だけの技。別方向からアプローチするシンクロ、ファントムシンクロ。

 

「来い、『ABFー驟雨のライキリ』!」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600→3000

 

復活する黒羽の名刀、雷切り裂く白銀の刃、その登場に隼は思わず舌打ちを鳴らす。

 

「更に『BFー逆巻のトルネード』を召喚」

 

BFー逆巻のトルネード 攻撃力1000→1400

 

次は紫の羽を持った鳥獣。効果としてはレベル4、非チューナーとなったブリザードと言って良いカードだ。

 

「召喚時、墓地の『BFー突風のオロシ』を蘇生し、『黒い旋風』の効果で『BFー砂塵のハルマッタン』をサーチ」

 

BFー突風のオロシ 守備力600→1000

 

「レベル4のトルネードに、レベル1のオロシをチューニング!シンクロ召喚!『ABFー五月雨のソハヤ』!」

 

ABFー五月雨のソハヤ 守備力2000→2400

 

「ソハヤの効果により、クナイを蘇生」

 

ABFー霧雨のクナイ 攻撃力2100→2500

 

「クナイの効果により、ライキリのレベルを5に変更」

 

ABFー驟雨のライキリ レベル7→5

 

「『BFー砂塵のハルマッタン』を特殊召喚」

 

BFー砂塵のハルマッタン 守備力800→1200

 

「ライキリの効果発動。ネストとセットカード3枚を破壊」

 

「罠発動!『RRーレディネス』!更に速攻魔法、『非常食』!全ての魔法、罠を墓地に送り、4000回復!」

 

黒咲 隼 LP3500→7500

 

ライキリの効果は強力であるが、フリーチェーンのカートであればある程度リカバリーが出来る。邪魔になった『修験の妖社』も処理し、一気にLPを回復する隼。

 

「レベル5のクナイに、レベル1のオロシをチューニング!シンクロ召喚!『BFー星影のノートゥング』!」

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2400→2800

 

「効果で800ダメージを与える」

 

「墓地のレディネスを除外し、ダメージを0に!」

 

「レベル2のハルマッタンに、レベル5となったチューナー扱いのライキリをチューニング!シンクロ召喚!『BFTー漆黒のホーク・ジョー』!」

 

BFTー漆黒のホーク・ジョー 攻撃力2600

 

「『BFー極北のブリザード』を召喚」

 

BFー極北のブリザード 攻撃力1300→1700

 

更なる展開、恐るべき速度で召喚を繰り返しながら次々とシンクロへ繋ぐ。

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー上弦のピナーカ』をサーチ。ブリザードの効果でハルマッタンを蘇生」

 

BFー砂塵のハルマッタン 守備力800→1200

 

「レベル2のハルマッタンに、レベル5のチューナー扱いのソハヤをチューニング!シンクロ召喚!『BFーアーマード・ウィング』!」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500→2900

 

「墓地に送られたソハヤの効果、もう1枚のソハヤを墓地から除外し、自身を蘇生」

 

ABFー五月雨のソハヤ 守備力2000→2400

 

「レベル5のソハヤに、レベル2のブリザードをチューニング!漆黒の翼濡らし、そぼ降る雨に響け。雷鳴の一撃!シンクロ召喚!突き抜けろ!『ABFー涙雨のチドリ』!」

 

ABFー涙雨のチドリ 攻撃力2600→7200

 

続けて現れたのは緑の甲冑を纏い、黒羽を翻した鳥人。その手にはライキリに勝るとも劣らない刀剣を握り、フィールドに見参した途端、爆発的に攻撃力を上げる。

 

「チドリの攻撃力は墓地の『BF』モンスターの数×300アップする。そしてホーク・ジョーの効果発動。ライキリを蘇生」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600→3000

 

「ライキリの効果により、ライズ・ファルコンとフォース・ストリクス、デビル・ヒールを破壊」

 

「俺のフィールドの『RR』モンスターが効果破壊された事により、墓地の『RRーリターン』を除外し、デッキより『RRーミミクリー・レイニアス』をサーチする!」

 

これで隼のフィールドは全滅。対するクロウ・ゴーストのフィールドには5体のシンクロモンスターが揃う結果となった。恐るべき展開力と破壊力だ。

 

「カードを2枚セット、ターンエンド」

 

クロウ・ゴースト LP3200

フィールド『ABFー涙雨のチドリ』(攻撃表示)『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)『BFTー漆黒のホーク・ジョー』(攻撃表示)『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)『BFー星影のノートゥング』(攻撃表示)

『黒い旋風』セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動、『撹乱作戦』!『針虫の巣窟』!相手の手札を入れ換え、デッキトップから5枚のカードを墓地へ!墓地へ送られた『絶対王バック・ジャック』の効果でデッキトップの3枚を操作!除外してデッキトップの罠カードをセットする!即座に発動、『八汰烏の骸』。カードを1枚ドロー!」

 

クロウ・ゴースト 手札1→2

 

「『RRートリビュート・レイニアス』を召喚!」

 

RRートリビュート・レイニアス 攻撃力1800→2200

 

「トリビュート・レイニアスの効果発動!デッキから『RRーミミクリー・レイニアス』を墓地に送り、除外、『RRーレディネス』をサーチする!そして『RRーファジー・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RRーファジー・レイニアス 守備力1500→1900

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RRーフォース・ストリクス』!」

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2000→2400

 

「ORUを取り除き、『RRーミミクリー・レイニアス』をサーチ。墓地に送られたファジー・レイニアスの効果で同名カードをサーチ。魔法カード、『RUMーレヴォリューション・フォース』を発動!フォース・ストリクス1体でオーバーレイ・ネットワークを構築!獰猛なるハヤブサよ。激戦を切り抜けし翼翻し寄せ来る敵を打ち破れ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RRーブレイズ・ファルコン』!」

 

RRーブレイズ・ファルコン 攻撃力1000→1400

 

隼は得意のランクアップ戦術により、フォース・ストリクスが燃え盛る炎に包まれ、赤い機械鳥へと生まれ変わる。

 

「ORUを取り除き、貴様の特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、その数×500ダメージを与える!」

 

「墓地の『プリベントマト』と『仁王立ち』を除外、効果ダメージを0にし、攻撃をチドリに絞る。そして破壊されたチドリの効果発動。墓地のライキリを蘇生する」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600→3000

 

「チッ、粘るな……カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP7500

フィールド『RRーブレイズ・ファルコン』(攻撃表示)

セット1

手札4

 

「俺のターン、ドロー。『BFー上弦のピナーカ』を召喚」

 

BFー上弦のピナーカ 攻撃力1200→1600

 

現れたのは弓矢を構えた『BF』だ。レベル3のチューナーモンスター。特殊召喚効果は無いが、代わりに優秀な能力を備えている。

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー砂塵のハルマッタン』をサーチ、特殊召喚」

 

BFー砂塵のハルマッタン 守備力800→1200

 

「ライキリの効果でブレイズ・ファルコンとセットカードを破壊」

 

「レベル2のハルマッタンに、レベル3のピナーカをチューニング!シンクロ召喚!『ABFー五月雨のソハヤ』!」

 

ABFー五月雨のソハヤ 守備力2000→2400

 

「ソハヤのシンクロ召喚時、チドリを蘇生」

 

ABFー涙雨のチドリ 攻撃力2600→8400

 

「バトル!」

 

「墓地のレディネスを除外し、このターンのダメージを0にする!」

 

「カードを2枚セット、ターンエンド。ピナーカの効果により、『BFー月影のカルート』をサーチする」

 

クロウ・ゴースト LP3400

『ABFー涙雨のチドリ』(攻撃表示)『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)『ABFー五月雨のソハヤ』(守備表示)

『黒い旋風』セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動、『撹乱作戦』」

 

「またか……!『RRートリビュート・レイニアス』を召喚!」

 

RRートリビュート・レイニアス 攻撃力1800→2200

 

「効果で『RRーミミクリー・レイニアス』を落とし、除外。『RRーレディネス』をサーチ!『RRーファジー・レイニアス』を特殊召喚!」

 

RRーファジー・レイニアス 守備力1500→1900

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『RRーフォース・ストリクス』!」

 

RRーフォース・ストリクス 守備力2000→2400

 

「ORUを1つ取り除き、『RRーブースター・ストリクス』をサーチ!魔法カード、『打ち出の小槌』を発動し、手札を交換。まだだ!魔法カード、『RUMーレイド・フォース』を発動!フォース・ストリクス1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!まだ見ぬ勇猛なるハヤブサよ。猛き翼に秘めし未知なる力、今ここに知らしめよ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ、『RRーエトランゼ・ファルコン』!」

 

RRーエトランゼ・ファルコン 攻撃力2000→2400

 

再びのランクアップで現れたのは深紅の装甲を持ち、黄色い線を走らせた猛禽だ。ブレイズ・ファルコンと並ぶランク5、あちらは全体破壊だが、こちらは一点集中型だ。

 

「ORUを1つ取り除き、効果発動!ライキリを破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

「罠発動、『シンクロバリアー』。ライキリをリリースし、次のターン終了まで自分が受けるダメージを0にする」

 

「逃れたか、墓地の『RUMーレイド・フォース』と手札の『RRースカル・イーグル』を除外し、墓地の『RUMーレヴォリューション・フォース』を回収し、発動!オーバーレイ・ネットワークを再構築!誇り高きハヤブサよ。英雄の血潮に染まる翼翻し、革命の道を突き進め!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RRーレヴォリューション・ファルコン』!!」

 

RRーレヴォリューション・ファルコン 攻撃力2000→2400

 

2回連続ランクアップ。現れたのは黒咲 隼のエースカード、灰色の翼を広げ、深い青に包まれたボディを煌めかせる機械の猛禽。特殊召喚に対する鬼である強力無比なカード。デッキ次第では苦戦は必至。当然クロウ・ゴーストにも突き刺さる。

 

「ORUを1つ取り除き、全体攻撃を可能に!バトルだ!ソハヤ、チドリへ攻撃!ダメージステップ、特殊召喚されたモンスターの攻守を0にする!レヴォリューショナル・エアレイドォッ!!」

 

ABFー五月雨のソハヤ 守備力2400→0

 

ABFー涙雨のチドリ 攻撃力9300→0

 

全体攻撃に敵弱体化、凄まじい効果が炸裂し、ひ弱である筈のレヴォリューション・ファルコンが猛威を奮う。正に一騎当千。最強の力だ。

 

「チドリの効果により、墓地のノートゥングを蘇生」

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2400→3000

 

「効果で800ダメージを与え、レヴォリューション・ファルコンの攻撃力を800ダウン」

 

黒咲 隼 LP7500→6700

 

RRーレヴォリューション・ファルコン 攻撃力2400→1600

 

「構わん!ノートゥングへ攻撃!」

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2800→0

 

レヴォリューション・ファルコンの双翼が展開し、次々と爆弾が投下されてクロウ・ゴーストのフィールドを焼け野原に変える。今度は黒咲有利となった。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP6700

フィールド『RRーレヴォリューション・ファルコン』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー。『BFー月影のカルート』を召喚」

 

BFー月影のカルート 攻撃力1400→1800

 

登場したのは頭部から黄色と赤の羽を伸ばし、黒い羽毛に包まれた等身の低いモンスター。本来は手札に持つ事でこそ活躍する手札誘発系のカードであるが、現在戦力として見込めるのはこのカードのみ。仕方あるまい。

 

「『黒い旋風』の効果により、『BFー疾風のゲイル』をサーチ、特殊召喚」

 

BFー疾風のゲイル 攻撃力1300→1700

 

次に現れたのはカルートと良く似たモンスター。頭部から緑の羽毛を伸ばし、身体は紫の羽に覆われたモンスター。こちらはチューナー、特殊召喚効果と攻守半減と優秀な1枚だ。

 

「ゲイルの効果により、レヴォリューション・ファルコンの攻守を半減」

 

RRーレヴォリューション・ファルコン 攻撃力1600→800

 

「バトル、カルートでレヴォリューション・ファルコンへ攻撃」

 

「手札の『RRーブースター・ストリクス』を除外し、カルートを破壊!」

 

「ッ、カードを1枚セット、ターンエンド」

 

クロウ・ゴースト LP3200

フィールド『BFー疾風のゲイル』(攻撃表示)

『黒い旋風』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動、『貪欲な瓶』。墓地のソハヤとホーク・ジョー、カルートとブリザードを回収し、ドロー」

 

クロウ・ゴースト 手札0→1

 

「レヴォリューション・ファルコンの効果発動!ゲイルを破壊し、攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

クロウ・ゴースト LP3200→2350

 

「バトル!レヴォリューション・ファルコンで攻撃!」

 

クロウ・ゴースト LP2350→1550

 

「ぐっ……!」

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP6700

フィールド『RRーレヴォリューション・ファルコン』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー。モンスターをセット、魔法カード、『命削りの宝札』を発動。3枚ドロー」

 

クロウ・ゴースト 手札0→3

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動。カードを2枚セット、ターンエンド」

 

クロウ・ゴースト LP1550

フィールド セットモンスター

『黒い旋風』『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!レヴォリューション・ファルコンの効果でセットモンスターを破壊!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

クロウ・ゴースト 手札0→1

 

「『RRーネクロ・ヴァルチャー』を召喚!」

 

RRーネクロ・ヴァルチャー 攻撃力1000→1400

 

現れたのは紫のボディを持った『RR』。トリビュート・レイニアスと並び、『RUM』に関する効果を持つカードだ。

 

「このカードをリリースし、墓地の『RUMーレヴォリューション・フォース』をサルベージ、発動!レヴォリューション・ファルコン1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RRーアーセナル・ファルコン』!」

 

RRーアーセナル・ファルコン 攻撃力2500→2900

 

更にランクアップ、灰色の翼が緑の炎に染まり、天空へ駆け上がる。姿を見せたのは兵器庫の名を冠する巨大な『RR』。ランクは7、奇数であり、倍のランクは存在しない為、隼が多用する『RUMーデス・ダブル・フォース』とは相性が悪いものの、様々な戦況下で攻撃や展開と対応可能なモンスターだ。

 

「アーセナル・ファルコンのORUを取り除き、効果発動!」

 

「罠発動、『もの忘れ』。その効果を無効にし、守備表示に変更させる」

 

「チッ、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP6700

フィールド『RRーアーセナル・ファルコン』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー。『BFー暁のシロッコ』を召喚」

 

BFー暁のシロッコ 攻撃力2000→2400

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー極北のブリザード』をサーチ。そして『BFー突風のオロシ』を特殊召喚」

 

BFー突風のオロシ 守備力600→1000

 

「レベル5のシロッコに、レベル1のオロシをチューニング!シンクロ召喚!『BFー星影のノートゥング』!」

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2400→3000

 

「効果で相手に800のダメージを与え、アーセナル・ファルコンの攻守を800ダウン。オロシの効果で更に攻撃表示に変更」

 

「通す」

 

黒咲 隼 LP6700→5900

 

RRーアーセナル・ファルコン 攻撃力2400→1600

 

「ノートゥングの効果で増えた召喚権を使い、ブリザードを召喚」

 

BFー極北のブリザード 攻撃力1300→17 00

 

「召喚時、効果で『BFー月影のカルート』を蘇生『黒い旋風』の効果でハルマッタンをサーチ」

 

BFー月影のカルート 守備力1000→1400

 

「レベル3のカルートに、レベル2のブリザードをチューニング!シンクロ召喚!『ABFー五月雨のソハヤ』!」

 

ABFー五月雨のソハヤ 守備力2000→2400

 

「ソハヤの効果でライキリを蘇生」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600→3000

 

「ライキリの効果でセットカードを破壊。そしてハルマッタンを特殊召喚」

 

BFー砂塵のハルマッタン 守備力800→1200

 

「レベル2のハルマッタンに、レベル5のソハヤをチューニング!シンクロ召喚!『BFTー漆黒のホーク・ジョー』!」

 

BFTー漆黒のホーク・ジョー 攻撃力2600

 

「ホーク・ジョーの効果により、『ABFー涙雨のチドリ』を蘇生」

 

ABFー涙雨のチドリ 攻撃力2600→9900

 

「ソハヤの効果発動。同名カードを除外し、自身を蘇生」

 

ABFー五月雨のソハヤ 守備力2000→2400

 

「バトル、チドリでアーセナル・ファルコンへ攻撃」

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!ダメージを0に!更に相手によって墓地に送られたアーセナル・ファルコンの効果発動!このカード1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!勇猛果敢なるハヤブサよ、怒りの炎を巻き上げ、大地をも焼き尽くす閃光となれ!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!飛翔しろ!『RRーサテライト・キャノン・ファルコン』!」

 

RRーサテライト・キャノン・ファルコン 攻撃力3000→3400

 

破壊されたアーセナル・ファルコンが光を帯びて進化する。紅白の装甲を纏い、翡翠の光を溢す巨大な鳥獣。エクシーズ召喚ではない為、羽帚効果は使えない。

 

「ターンエンド」

 

クロウ・ゴースト LP1550

フィールド『ABFー涙雨のチドリ』(攻撃表示)『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)『ABFー五月雨のソハヤ』(守備表示)『BFTー漆黒のホーク・ジョー』(攻撃表示)『BFー星影のノートゥング』(攻撃表示)

『黒い旋風』『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!サテライト・キャノン・ファルコンのORUを1つ取り除き、効果発動!チドリの攻撃力を墓地の『RR』の数×800ダウンする!」

 

ABFー涙雨のチドリ 攻撃力9600→0

 

「更に魔法カード、『RUMースキップ・フォース』を発動!サテライト・キャノン・ファルコンを対象とし、ランクが2つ上の『RR』へとランクアップさせる!オーバーレイ・ネットワークを再構築!究極至高のハヤブサよ。数多なる盟友の遺志を継ぎ、勝利の天空へ飛び立て!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!現れろ!『RRーアルティメット・ファルコン』!」

 

RRーアルティメット・ファルコン 攻撃力3500

 

純白の装甲が漆黒に染まり、今天空へ飛び立つ。背に輝く、黄金の日輪を模した翼を広げた、究極の名を冠する猛禽。完全耐性を持ったモンスターの登場だ。並のモンスターでは歯が立たないだろう。

 

「ORUを1つ取り除き、効果発動!相手フィールドのモンスターの攻撃力を1000ダウンし、カード効果を封じる!」

 

「罠発動、『威嚇する咆哮』。攻撃宣言を封じる」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力3000→2000

 

ABFー五月雨のソハヤ 攻撃力1900→900

 

BFTー漆黒のホーク・ジョー 攻撃力2600→1600

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2800→1800

 

「ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP6700

フィールド『RRーアルティメット・ファルコン』(攻撃表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー。魔法カード、『七星の宝刀』を発動。レベル7モンスター、チドリを除外し、2枚ドロー」

 

クロウ・ゴースト 手札0→2

 

「更に速攻魔法、『大欲な壺』を発動。除外されているチドリと2枚のソハヤをデッキに戻し、ドロー」

 

クロウ・ゴースト 手札1→2

 

「『BFー竜巻のハリケーン』を召喚」

 

BFー竜巻のハリケーン 攻撃力0→400

 

「レベル6のノートゥングに、レベル1のハリケーンをチューニング!シンクロ召喚!『BFー涙雨のチドリ』!」

 

ABFー涙雨のチドリ 攻撃力2600→10200

 

再び現れるチドリ。アルティメット・ファルコンは完全耐性を持った、攻撃力3500のモンスター。対抗するには攻撃力で勝つしかない。そして力押しならこのカード以上に最適なカードはないと言う訳だ。攻撃力はついに5桁に入り、10200。流石にこの数値を越えるモンスターは隼にはない。

 

「ホーク・ジョーの効果発動。アーマード・ウィングを蘇生」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500→2900

 

「バトル、チドリでアルティメット・ファルコンへ攻撃!雷鳴の一撃ライトニング・スラッシュ!」

 

「墓地のレディネスを除外し、このターンのダメージを0に!」

 

ガキィィィィンッ、チドリの煌めく白刃が、アルティメット・ファルコンの黄金の翼とぶつかり、甲高い音を鳴らし、火花が散る。チドリは握った日本刀に力を込め、刃が光を帯びて巨大化、戦艦をも切り裂く剣が太陽をも沈ませる。圧倒的な力を前に成す術もなく堕ちるアルティメット・ファルコン。とんでもない威力だ。

 

「魔法カード、『一時休戦』を発動。互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0に」

 

クロウ・ゴースト 手札0→1

 

黒咲 隼 手札0→1

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

クロウ・ゴースト LP1550

フィールド『ABFー涙雨のチドリ』(攻撃表示)『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)『ABFー五月雨のソハヤ』(守備表示)『BFTー漆黒のホーク・ジョー』(攻撃表示)『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)

『黒い旋風』『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

黒咲 隼 手札1→3

 

「魔法カード、『ブラック・ホール』を発動!」

 

「カウンター罠、『大革命返し』。2枚以上のカードを破壊する効果の発動を無効にし、除外」

 

「速攻魔法、『魔法効果の矢』!お前のフィールドに存在する表側表示の魔法カードを破壊する!その後にダメージを与える効果もあるが……『一時休戦』の効果でダメージは与えられない。墓地のスキップ・フォースの効果!このカードと墓地のファジー・レイニアスを除外し、墓地から『RRーレヴォリューション・ファルコン』を蘇生!!」

 

RRーレヴォリューション・ファルコン 攻撃力2000→2400

 

「魔法カード、『オーバーレイ・リジェネート』を発動!このカードをレヴォリューション・ファルコンのORUに変え、取り除き、効果発動!全体攻撃を可能に!バトル!レヴォリューション・ファルコンでソハヤ、ライキリ、ホーク・ジョー、チドリへ攻撃!」

 

「チドリの効果により、ノートゥングを蘇生!」

 

ABFー五月雨のソハヤ 守備力2400→0

 

ABFー驟雨のライキリ 守備力3000→0

 

BFTー漆黒のホーク・ジョー 攻撃力2600→0

 

ABFー涙雨のチドリ 攻撃力10200→0

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2400→2800

 

「攻撃し、ターンエンドだ」

 

黒咲 隼 LP6700

フィールド『RRーレヴォリューション・ファルコン』(攻撃表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー。魔法カード、『貪欲な壺』墓地のモンスターを5体回収し、2枚ドロー」

 

クロウ・ゴースト 手札0→2

 

「俺は『BFー極北のブリザード』を召喚」

 

BFー極北のブリザード 攻撃力1300→1700

 

「召喚時、『BFー月影のカルート』を蘇生」

 

BFー月影のカルート 守備力1000→1400

 

「レベル3のカルートに、レベル2のブリザードをチューニング!シンクロ召喚!『ABFー五月雨のソハヤ』!」

 

ABFー五月雨のソハヤ 守備力2000→2400

 

再び現れる青い鳥獣剣士。この使いやすさとシンクロ召喚時の蘇生効果。更に墓地の同名を除外する事で自己蘇生する効果。明らかにこのカードが『BF』の回転速度を上げている。チューナー扱いとなる事といい、厄介なカードだ。

 

「シンクロ召喚時、ライキリを蘇生」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600→3000

 

こちらも『BF』に革命を与える『ABF』の1体。打点が低い『BF』の中に、破壊力を与える強力なカードだ。まるで『BF』の弱点を補うように作られたカード達だ。

 

「ライキリの効果、レヴォリューション・ファルコンを破壊」

 

「ッ!」

 

「そしてレベル7のライキリに、レベル5のソハヤをチューニング!漆黒の翼よ!雷の力宿して鮮烈に轟け!シンクロ召喚!切り裂け!『ABFー神立のオニマル』!!」

 

ABFー神立のオニマル 攻撃力3000→3400

 

レベルマックス。12の星がフィールドで輝き、1体のモンスターとなって姿を見せる。漆黒の鎧を纏う、最強の鳥獣剣士。雷を操り、鬼をも切り裂く一振りのの日本刀。それがこのモンスターだ。

 

「バトル!オニマルでダイレクトアタック!この瞬間、オニマルの効果でダメージステップの間、攻撃力を3000アップ!更に手札のカルートを捨て、1400アップ!」

 

ABFー神立のオニマル 攻撃力3400→6400→7800

 

「く……そぉ……!」

 

「サンダーボルトフラップ!」

 

黒咲 隼 LP6700→0

 

雷纏う斬擊が、希望を断ち切る。決着――圧倒的な力をもって、チームネオ5D'sが、決勝へ駒を進める――。

 

 



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第150話 走り出せ、その足で

セルゲイのキモさを全面に押し出してみました。コイツをどう気持ち悪くするかで書いてたらだんだん楽しくなってきたでござる。かぁっ、気持ちワリ(誉め言葉)。


治安維持局の一室にて、長官であるジャン・ミシェル・ロジェはクツクツと邪悪な笑みを浮かべていた。その理由は、彼の計画が現状、思い通りになっている事を示している。セキュリティ側のチームが決勝へと勝ち上がり、残るチームも今、決勝に進む駒を賭け、闘おうとしている。敵であるランサーズのチームはその1つ、全て地下に送り込み、一気に叩き潰す。逆らう者を全て消し、自軍のデュエリストがキングとなった時、彼の王国が完成していく。

後少し、後少しで野望が実現する。それが楽しみで、笑いが堪えられない。ジッ、とサーキットに並ぶ、お気に入りのDーホイーラー、セルゲイの背を見つめ、次に犠牲となる榊 遊矢へと視線を移す。ああ、楽しみだ――ロジェはより一層目を細め、その時を待つ。

 

そんなロジェの背を見つめ、プラシドは壁に背を預けながら、思考していた。彼が持つ計画――サーキットの完成まで、まだデュエルが足りていない。多くの闘い、濃密なデュエルがあってこそ、サーキットは完全するのだ。

ここでランサーズを潰す訳にはいかない。彼等の事は放置する他ないだろう、この後の為にも。そして――最終的な計画、その実現の為にも、榊 遊矢にはここで倒れてもらっては困るのだ。

全ては――彼の成長に、かかっている。

 

――――――

 

シティの地下、敗北した者が集う、強制労働施設、そこにある一室の牢屋にて、男はいた。ブロンドの髪に、アメジストの眼。称号も、名すら奪い取られ、覇気もなく、死んだようにぐったりとした男。

どうして、こんな事になった。自分が弱いから?自問自答を繰り返しても、答えは出ず。誇りを失った彼は、虚空を見つめ、佇むのみ――。

 

――――――

 

場所は変わり、フレンドシップカップ会場、サーキットにて。2回戦、第2試合の為、チームランサーズとチームセキュリティのファーストホイーラーがDーホイールに跨がり、デュエル開始を今か今かと待ちわびている。

頭にかけたゴーグルを装着し、赤を基調としたライダースーツに身を包んだ少年、エンタメデュエリストである榊 遊矢。

もう1人は治安維持局長官、ジャン・ミシェル・ロジェの懐刀、銀髪に顔中マーカーだらけの大男、そして無事だったとは言え、柚子を事故に合わせたドMホイーラー、セルゲイ・ヴォルコフ。

 

遊矢はこの時を待っていた。彼と闘える、今この時を。彼と闘う為、ファーストホイーラーとなり、引き摺り出そうとしたが――彼もファーストホイーラーなら好都合。彼だけは自分が止めなければならないと思っているのだ。

それに他のランサーズメンバーは脱落し、もう後がない。彼等を助ける為にも、勝利を築き、キングになるのだ。

 

今、ランプが点滅し、デュエルが始まる。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

ゴウッ、とDーホイールが発進し、同時にサーキットが紫の炎に包まれ、天空を黒雲が覆い尽くす。アクションフィールド、『地縛原』。アクションカードに関する効果を持ったカードだ。

このカードが発動された途端、セルゲイのマシンアイが赤く輝き、彼のDーホイールが変形を始める。これはまるで、白コナミが行った、デュエリストとDーホイールの合体。ライディングデュエルの究極進化形――まさかと、遊矢が目を見開く中、セルゲイを核にするかのように、彼の手足の延長線上にDーホイールが変形、一輪のバランスの悪さが際立つ形状となる。

 

『な、なんとセルゲイ、Dーホイールと合体!コナミがやったように、これがライディングデュエルの新たな形なのか!?勝利にかける執念を見たーっ!』

 

「何だよコレ……何だよコレ……」

 

頭を抱える遊矢。シンクロ次元民と違って、彼には少々刺激が強かったらしい。最早常軌を逸している。当然、セルゲイのDーホイールが先行し、コーナーをいち早く曲がる。先攻はセルゲイだ。ライディングデュエルになって以降、遊矢が先攻を取れていない気がする。仕方ない事であるが。

 

「ヒヒヒヒヒッ!俺のターン!」

 

巨大な機械の指先が、その見た目に反して繊細にデッキのカードを掴んで引き抜く。図体に反し、速く、動きが滑らかだ。パシリと早速アクションカードを取る様子を見て、遊矢が目を細める。これは、思った以上に手強そうだ。

 

「フィールドゾーンにカードが存在する事で、『地縛囚人ーストーン・スィーパー』を特殊召喚!」

 

地縛囚人ーストーン・スイーパー 攻撃力1600

 

現れたのは黒いイルカの影に、青い光のラインを走らせたようなモンスター。尾の周りにはジャラリと鎖が伸びた枷がつけられている。レベルは5、上級モンスターだ。

 

「そして『地縛囚人ーライン・ウォーカー』を召喚!」

 

地縛囚人ーライン・ウォーカー 攻撃力800

 

続いて召喚されたのは下半身が紫色の炎となった人型の影。こちらはオレンジのラインを走らせ、肩、腕からは刺を、両手首に枷を着けている。レベル3のチューナーモンスター。早速来るかと遊矢が身構え、警戒を示す。

 

「魔法カード、『異界共鳴ーシンクロ・フュージョン』!自分フィールドのシンクロモンスターと融合モンスター、両者に当て嵌める素材一組を墓地に送り、そのシンクロモンスターと融合モンスターを1体ずつ、シンクロ、融合召喚する!条件は『地縛』モンスター2体、『地縛』チューナーと『地縛』モンスター、レベルは8!」

 

発動されたのは彼のデッキのキーカード。融合とシンクロ、2つの召喚法を同時に行うとんでもないカードだ。

 

「レベル5のストーン・スィーパーに、レベル3のライン・ウォーカーをチューニング!地の底から蘇れ、戒め放つ翼持つ巨獣よ!シンクロ召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグリフォン』!」

 

地縛戒隷ジオグリフォン 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、3つのリングとなって弾け飛んだライン・ウォーカーが、ストーン・スィーパーを縛り上げ、8つの星となって空に輝く。閃光がフィールドを覆い尽くし、光を裂いて姿を見せたのは、黒い影に緑のライン、蛇の尾を持った翼獣。獰猛な唸り声を上げ、自らの相棒を呼ぶ。

 

「地を這う囚人よ、刑場への道を歩き続ける囚人と1つとなり戒めを与える巨獣となれ!融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオクラーケン』!」

 

地縛戒隷ジオクラーケン 攻撃力2800

 

融合召喚、青とオレンジの渦が発生し、2体のモンスターの霊魂を食らい、1体のモンスターを生み出す。イカの形状をした黒い影。紫色のラインが走った脚を鞭のようにしならせ、地を叩く。

 

「永続魔法、『補充部隊』を発動し、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4000

フィールド『地縛戒隷ジオグリフォン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオクラーケン』(攻撃表示)

『補充部隊』セット1

手札1

 

シンクロモンスターと融合モンスターに加え、『補充部隊』とセットカードが1枚。手札はアクションカードを含めて2枚。油断ならない布陣だ。遊矢はふっ、と息を漏らし、緊張をほぐしながらもデッキから1枚のカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!永続魔法、『補給部隊』を発動!俺は『EMヒックリカエル』と『EMエクストラ・シューター』でペンデュラムスケールをセッティング!これで俺はレベル4から5のモンスターを同時に召喚可能!」

 

遊矢の背後に光の柱が2本出現し、中に現れたシルクハットを被ったカエルとパチンコを構えた少年が天空に輝く線を結んで魔方陣を描き出す。遊矢得意のペンデュラム。さっそくセルゲイに対抗し、こちらも手段を取る。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム、天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』!『EMギッタンバッタ』!」

 

EMオッドアイズ・ライトフェニックス 攻撃力2100

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

魔方陣に孔が開き、中から赤と緑の光が降り注ぎ、フィールドで粒子を散らす。中より現れたのは真っ赤な翼を広げる不死鳥とシーソーを模したバッタだ。

 

「『地縛原』の効果により、俺は2枚目のアクションカードを手札に加えられる!そして手札に加えた2枚目のアクションカードは除外され、相手モンスター1体の攻撃力を300ダウンし、相手に300のダメージを与える!フェニックスの攻撃力をダウン!」

 

「ッ!」

 

EMオッドアイズ・ライトフェニックス 攻撃力2100→1800

 

榊 遊矢 LP4000→3700

 

2枚目以降のアクションカードの入手を可能とし、加えてそのカードを相手モンスターの攻撃力ダウンとバーンダメージに書き換える効果。地味に厄介な効果だ。セルゲイがDーホイールと合体し、先行した理由はこれだったのかと遊矢は冷静に見極めようとする。

 

「ヒックリカエルのペンデュラム効果発動!ターン終了時まで、ジオクラーケンの攻守を入れ替える!」

 

地縛戒隷ジオクラーケン 攻撃力2800→1200

 

「バトル!ライトフェニックスでジオクラーケンへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!攻撃を無効にする!」

 

「くっ、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP3700

フィールド『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMエクストラ・シューター』『EMヒックリカエル』

手札0

 

Dーホイールを疾駆させ、セルゲイが取り損ねたアクションカードを手に取り、防御に努める遊矢。相手が『地縛原』の効果を使うならこちらも使ってデュエルを有利に進めようと言うつもりなのだろう。しかし――。

 

「俺のターン、ドロー!アクションカードを手札に加えた事で、『地縛原』の効果発動!相手の手札のアクションカードを墓地に送る!この効果に対し、相手はアクションカードの効果を発動出来ない!」

 

「何っ!?」

 

攻撃力ダウンとバーンに加え、互いにどちらかしかアクションカードを取る事が出来なくなる効果。これも遊矢が不利になるような効果だ。まだこんな効果まであったのかとフィールド魔法へ視線を移す。残るは攻撃表示モンスターの表示形式の変更を封じる効果。

最初にフィールド魔法の効果を確認すれば良かったのだが、冷静に冷静にと努めようしようとしても、柚子の事でどこか気が立っていたのかもしれない。

 

「成程、俺はもう、相手の土俵に立たされていたって訳か……」

 

迂闊だったが、想定外と言う訳ではない。今までも相手の有利なフィールドになった事等、数え切れぬ程ある。フィールド面で不利になる位、不利の内には入らない。

 

「バトル!ジオクラーケンでライトフェニックスへ攻撃!」

 

榊 遊矢 LP3700→2700

 

「うぐっ――『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

ジオクラーケンの触手が不死鳥に絡みつき、主の性癖を知ってか縛り上げて拘束、誰得なんだと言わんばかりの亀甲縛りから引き裂いて破壊する。このモンスターは真っ先に破壊せねばならないだろう。健全面でもそうすべきだ。

 

「モンスターをセット、ターンエンド」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4000

フィールド『地縛戒隷ジオグリフォン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオクラーケン』(攻撃表示)

『補充部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』!『相生の魔術師』!」

 

EMオッドアイズ・ライトフェニックス 攻撃力2100

 

相生の魔術師 攻撃力500

 

再び揺れる振り子の軌跡、描かれた先に現れたのは赤き不死鳥と女性の『魔術師』。ここから先が本番だ。

 

「『相生の魔術師』の効果で、このカードの攻撃力をライトフェニックスと同じ数値に変更!」

 

相生の魔術師 攻撃力500→2100

 

「ヒックリカエルのペンデュラム効果発動!ジオクラーケンの攻守を反転!」

 

地縛戒隷ジオクラーケン 攻撃力2800→1200

 

「バトル!ライトフェニックスで、ジオクラーケンへ攻撃!」

 

「永続罠、『アストラルバリア』!相手モンスターの攻撃を直接攻撃に変更!んぐっ……くっふぅぅぅぅぅっ……!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4000→1900

 

ライトフェニックスが羽ばたいて翼から火炎を飛ばして攻撃するも、ジオクラーケンをすり抜けて文字通りセルゲイに飛び火する。当然攻撃を受けたセルゲイは頬を赤く染め、恍惚の表情を浮かべてニヤける。エンターテイナーには程遠い、アレな絵面だ。モンスターを守り、自分へのダメージへ、セルゲイらしい戦法と言える。そして何より、このカードは――。

 

「そして相手によってダメージを受けた際、『補充部隊』の効果発動!1000ポイントのダメージにつき、1枚ドローする!受けたダメージは2100!よって2枚ドローする!ウッヒヒヒヒヒィ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札1→3

 

このカードへのコンボへ繋がるのだ。痛みを快楽に、ダメージをドローへと変える。実に彼らしいと言えば彼らしい。遊矢の発動した『補給部隊』とは違い、安定性はないが、爆発力を重視しているのだろう。これもまた、彼らしい。

 

「『相生の魔術師』はダメージを与えられない……俺はこれでターンエンドだ」

 

ドMなセルゲイを見て、ドン引きしていた相生が、あれに攻撃しなくて良いと分かった途端、ホッと胸を撫で下ろし、女王様不在にセルゲイがしゅんと項垂れる。

 

榊 遊矢 LP2700

フィールド『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)『相生の魔術師』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMエクストラ・シューター』『EMヒックリカエル』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「アクションカード、ゲット!『地縛原』の効果でそっちは捨てて貰うぜ!」

 

ライトフェニックスがフィールドを先行し、カードを掴んで遊矢に渡す。セルゲイの方が速いとは言え、モンスターは別だ。こう言った手もアクションデュエルの醍醐味と言える。

 

「む……相手フィールドにエクストラデッキから特殊召喚された存在する場合、そのモンスター、ライトフェニックスを対象として墓地のライン・ウォーカーを除外し、効果発動!対象のモンスターをもう1度特殊召喚させる!そして俺のターンに相手フィールドにモンスターが特殊召喚された事で、ジオクラーケンの効果発動!このターンに特殊召喚された相手モンスターを破壊し、その数×800のダメージを与える!」

 

「アクションマジック、『加速』!効果ダメージを0に!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

ジオクラーケンの触手がライトフェニックスを引き裂き、炎となって飛び散る中をかわしながら駆ける遊矢。とは言えセルゲイのDーホイールが巨大かつ、複雑に動いている為、簡単に抜ける事は出来ない。

モンスターを破壊されれば1枚ドロー。1ターンに1度とは言え、ペンデュラムと相性が良い上、安定性も上がる。が、セルゲイに比べると爆発力は劣る。あちらは1000ダメージにつき1枚と軽くはないが、ターン制限がない。『アストラルバリア』と合わせて少々厄介だ。今はLPが少なくなっているが、このカードを積んでいるのだ、LP回復系のカードもあるだろう。モンスターも加え、面倒な布陣を敷いてくれる。

 

 

「『ジェスター・コンフィ』を特殊召喚!」

 

ジェスター・コンフィ 攻撃力0

 

ここで現れたのは小さな玉に乗った道化師だ。条件を持たずに特殊召喚可能なカードであり、レベル1、闇属性、魔法使い族、攻守0と豊富なサポートも受けられる優秀なカードだ。

 

「『ジェスター・コンフィ』とセットモンスターの2体をリリース!積年の恨み積もりし大地に眠る魂達よ!今こそ穢された大地より出でて、我に力を貸さん!アドバンス召喚!降臨せよ、『地縛神ChacuChallua』!」

 

地縛神ChacuChallua 攻撃力2900

 

2体のモンスターが天上に昇り、奇怪な装置となって心臓のように不気味に脈動する。これは――柚子とのデュエルで見せた、思うよりも早く、装置に『地縛原』の炎が集束し、中を破り、紫色の水が溢れ、巨大な黒い鯱が泳ぎ出る。

紫のラインを走らせた、まるで地上絵が浮き上がったような恐ろしい邪神。セルゲイのもう1つの切り札と言えるカードの登場に、遊矢がゴクリと唾を呑む。

 

「『地縛神』……っ!」

 

「カードを1枚セット、バトル!ジオグリフォンでギッタンバッタへ攻撃!」

 

「アクションマジック『回避』!攻撃を無効に!」

 

「ジオクラーケンで相生へ攻撃!」

 

「手札から『EMバリアバルーンバク』を捨て、モンスターとの戦闘ダメージを0に!」

 

ジオクラーケンの触手が『相生の魔術師』に襲いかかったその瞬間、彼女の周囲に紫色のバクが風船のように覆い、触手を弾く。そしてバクが萎むと共に相生も消失、エクストラデッキへと送られる。色々危ない所だった。

 

「ChacuChalluaでダイレクトアタック!」

 

「させるか!永続罠発動!『EMピンチヘルパー』!ダイレクトアタックを無効にし、デッキから『EMインコーラス』をリクルート!」

 

EMインコーラス 守備力500

 

『地縛神』の高攻撃力でのダイレクトアタックを逆手に取り、遊矢のリバースカードから赤、青、黄と、信号機のようなカラフルな3羽のインコが飛び出し、音波を放って退ける。

 

「ターンエンドだ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1900

フィールド『地縛神ChacuChallua』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオグリフォン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオクラーケン』(攻撃表示)

『補充部隊』『アストラルバリア』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!やっぱりダーク・リベリオンがないと厳しいな……自分がそれだけ頼っていた事を痛感させられるよ……ペンデュラム召喚!『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』!『相生の魔術師』!」

 

EMオッドアイズ・ライトフェニックス 攻撃力2100

 

相生の魔術師 守備力1500

 

「ヒックリカエルのペンデュラム効果により、ジオクラーケンの攻守を反転!」

 

地縛戒隷ジオクラーケン 攻撃力2800→1200

 

「バトル!ライトフェニックスでジオクラーケンへ攻撃!」

 

「罠発動!『ホーリージャベリン』!攻撃モンスターの攻撃力分、LPを回復!更に『アストラルバリア』の効果でプレイヤーへの攻撃へ移行!ン……グフッ……!ンヒッヒヒィヒッ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1900→4000→1900

 

LPを回復し、直ぐ様その分のダメージを受ける。セルフ飴と鞭。癒したと思ったら痛みへと。これならLP回復もアリと言わんばかりに恍惚し、謎の快感を得るセルゲイ。知りたくもない世界だ。遊矢は目を背けようとするも、そうもいかない。

 

「『補充部隊』の効果で2枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→2

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP2700

フィールド『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)『相生の魔術師』(守備表示)

『補給部隊』『EMピンチヘルパー』セット1

Pゾーン『EMエクストラ・シューター』『EMヒックリカエル』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!アクションカードを2枚ゲット!1枚を除外し、ライトフェニックスの攻撃力をダウン、お前にダメージを与える!」

 

EMオッドアイズ・ライトフェニックス 攻撃力2100→1800

 

榊 遊矢 LP2700→2400

 

「つうっ――!」

 

セルゲイの巨体がサーキットをジグザグに駆け抜け、機械の手が2枚のカードを掬い上げる。手強い、アクションフィールドの力もあって、見事にデュエルを支配している。変態チックな奇行が多い為、ついつい忘れてしまいそうになるが――。

 

「改めて……強い……っ!」

 

「バトル!ChacuChalluaでライトフェニックスへ攻撃!」

 

榊 遊矢 LP2400→1600

 

「ッ!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「ジオクラーケンとジオグリフォンで、ギッタンバッタを連続攻撃!」

 

「ギッタンバッタ!」

 

怒濤の攻撃、『地縛』モンスター達が遊矢のモンスターを見事撃破する。防戦一方、だが遊矢も負けていない。ドローカードに活路を見出だす。

 

「モンスターをセット、カードを1枚セットし、ターンエンドォ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1900

フィールド『地縛神ChacuChallua』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオグリフォン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオクラーケン』(攻撃表示)セットモンスター

『補充部隊』『アストラルバリア』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『砂塵の大嵐』!ヒックリカエルと『EMピンチヘルパー』を破壊!」

 

「ッ!まだだ!『EMダグ・ダガーマン』をセッティング!ペンデュラム効果により、墓地の『EMバリアバルーンバク』を回収!そしてインコーラスと相生の2体をリリース!アドバンス召喚!『降竜の魔術師』!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

「ペンデュラム召喚!『EMインコーラス』!『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』!『相生の魔術師』!」

 

EMインコーラス 守備力500

 

EMオッドアイズ・ライトフェニックス 攻撃力2100

 

相生の魔術師 守備力1500

 

眼光の鋭い女性『魔術師』が現れ、杖を振るうと共に遊矢のフィールドに光が降り注ぎ、3体のモンスターが登場する。これで戦力は補充された。

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールドのライトフェニックスと『降竜の魔術師』で融合!融合召喚!現れよ!『EMガトリングール』!」

 

EMガトリングール 攻撃力2900

 

融合召喚、遊矢もまた、ペンデュラム以外の召喚法を使い、フィールドに新たなモンスターを呼ぶ。ガトリング砲を抱えた、燕尾服のグール。攻撃的な外見だ。活躍が期待出来る。

 

「融合召喚時、フィールドのカードの数×200のダメージを与える!フィールドのカードはアクションフィールドも合わせ、合計で15枚!よって3000のダメージだ!」

 

「罠発動!『レインボー・ライフ』!手札のアクションカードを捨て、このターンのダメージを回復に変換する!」

 

「かわすか……だけど、手を緩めるつもりはない!ペンデュラムモンスターを素材にしている為、続くガトリングールの効果発動!ChacuChalluaを破壊!その攻撃力分のダメージを与える!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1900→4900→7800

 

ガトリング砲が唸り声を上げ、数十発の弾丸が発射され、ChacuChalluaを蜂の巣にして破壊する。だがその代償として、多大なLPを与えてしまった。

 

「『地縛』モンスターが破壊された事により、ジオグリフォンの効果発動!ガトリングールを破壊!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!ガトリングールを対象に取るモンスター効果を無効にする!ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢2400

フィールド『EMガトリングール』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)『相生の魔術師』(守備表示)

『補給部隊』

Pゾーン『EMエクストラ・シューター』『EMダグ・ダガーマン』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満の壺』!エクストラデッキからモンスターを6枚除外、2枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札1→3

 

「魔法カード、『やりすぎた埋葬』!手札のモンスターを捨て、そのモンスターのレベル以下のモンスターを蘇生し、このカードを装備する!装備モンスターの効果は無効化される。来い、ChacuChallua!」

 

地縛神ChacuChallua 攻撃力2900

 

蘇り、咆哮を上げる鯱の『地縛神』。倒したばかりでこれでは苦笑いが飛び出す。唯一の救いは『地縛神』の最大の効果であるダイレクトアタックが脅威では無くなる事か。

 

「バトル!ChacuChalluaでガトリングールへ攻撃!」

 

「ぐっ、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

相撃ち狙い、玉砕覚悟の攻撃。ChacuChalluaが耳をつんざく咆哮を轟かせ、強力な体当たりをガトリングールに食らわせる。流石のガトリングールも身体中から悲鳴を上げ、たたらを踏むが、何とか姿勢を整え、ChacuChalluaの巨大な口の中にガトリング砲を突っ込んで連射、ひしゃげたガトリング砲は暴発し、2体が弾け飛ぶ。

 

「ジオグリフォンの効果で『EMインコーラス』を破壊!」

 

「ぬぐ……!」

 

ジオグリフォンが遠吠えを上げ、『EMインコーラス』を音波で破壊する。この効果は中々面倒だ。自他問わず、しかもターン制限がない為、自慢のモンスターが失われていく。

 

「ジオクラーケンで『相生の魔術師』へ攻撃!カードを1枚セット、ターンエンド」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP7800

フィールド『地縛戒隷ジオグリフォン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオクラーケン』(攻撃表示)

『補充部隊』『アストラルバリア』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!まだだ!ここからが本番だ!墓地の『置換融合』を除外、『EMガトリングール』をエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「更に魔法カード、『EMキャスト・チェンジ』!手札の『EMバリアバルーンバク』、『EMディスカバー・ヒッポ』をデッキに戻し、戻した数+1枚をドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→4

 

「魔法カード、『ペンデュラム・ストーム』!ペンデュラムゾーンのカードを破壊し、『補充部隊』を破壊!」

 

「ぬぅっ!?」

 

「魔法カード、『ペンデュラム・コール』!手札を1枚捨て、『時読みの魔術師』と『刻剣の魔術師』をサーチし、セッティング!ペンデュラム召喚!『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』!『EMインコーラス』!『EMダグ・ダガーマン』!『相生の魔術師』!『降竜の魔術師』!」

 

EMオッドアイズ・ライトフェニックス 攻撃力2100

 

EMインコーラス 守備力500

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000

 

相生の魔術師 攻撃力500

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

「『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』をリリースし、ダグ・ダガーマンの攻撃力を1000アップ!」

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000→3000

 

「『相生の魔術師』の効果で攻撃力をコピー!」

 

相生の魔術師 攻撃力500→3000

 

「バトル!ダグ・ダガーマンで、ジオグリフォンへ攻撃!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP7800→7300

 

「ぬっ、くふぅぅぅぅぅっ……!」

 

ダグ・ダガーマンがライトフェニックスの力を得て、炎を帯びた短剣を振るい、ジオグリフォンを切り刻む。強烈な一撃。ジオグリフォンも最後の力を振り絞り、アギトを開くが――。

 

「ジオグリフォンの効果により、インコーラスを破壊!」

 

「『刻剣の魔術師』のペンデュラム効果により、1ターンに1度、俺のペンデュラムモンスターは効果破壊されない!」

 

ペンデュラムゾーンで浮遊する『刻剣の魔術師』が剣をブーメランのように投げ、ジオグリフォンの上顎と下顎を貫いて無理矢理閉ざす。

 

「ダメージも微妙……くふぅっ、焦らしプレイ……!」

 

消化不良のセルゲイ。相変わらずである。

 

「相生でジオクラーケンへ攻撃!」

 

更に相生が矢を放ち、ジオクラーケンを打ち倒す。相生の効果でダメージは受けない為、不満そうなセルゲイ。相生は女王様ではない。

 

「降竜でダイレクトアタック!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP7800→5400

 

「おっほぉぉぉぉぉ!き、来たぁん……!うっ……んっ……!」

 

汚い。目を剥き、アへ顔を晒す大男にドン引きする遊矢とモンスター、観客達。仲間でさえ引く始末である。遊矢が初めてコピーしたくないと思ったデュエリストだ。

 

「んっ……ふぅぅぅぅっ……!……ぉぉ!ムヒヒヒヒ!」

 

「うわぁ……お、俺はこれでターンエンド……」

 

「その前に速攻魔法、『終焉の焔』を発動ぉ!2体の『黒焔トークン』を特殊召喚!」

 

「ここで……いや、それもそうか……」

 

黒焔トークン 守備力0×2

 

ダメージを防げたものを、今更ながら発動するセルゲイ。だがトークンを残す為、『補充部隊』の効果を使う為、何よりセルゲイならばおかしくは無い。だってセルゲイだしな、と最早慣れている遊矢。

 

榊 遊矢 LP2400

フィールド『EMインコーラス』(守備表示)『EMダグ・ダガーマン』(攻撃表示)『相生の魔術師』(攻撃表示)『降竜の魔術師』(攻撃表示)

『補充部隊』

Pゾーン『時読みの魔術師』『刻剣の魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『アストラルバリア』をコストに2枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→2

 

「更に『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキトップからカードを10枚除外、2枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札1→3

 

「『補充部隊』を発動し、2体の『黒焔トークン』をリリース!今再び、五千年の時を越え、冥府の扉が開く!我等が魂を新たなる世界の糧とするが良い!アドバンス召喚!降臨せよ!『地縛神Asllapiscu』!」

 

地縛神Asllapiscu 攻撃力2500

 

2つの黒焔が紫の炎に覆われ、またも『地縛神』の心臓を作り出す。心臓を破き、双翼を広げて現れたのは黒い影にオレンジのラインを走らせた、ハチドリの地上絵。まさかの2体目の『地縛神』の登場に、遊矢も目を見開く。

 

「2体目の『地縛神』ッ!?」

 

「カードをセット、バトルだ!さぁ、イケぇっ!Asllapiscuで、ダイレクトアタック!」

 

「う、おおっ!アクションマジック、『回避』!」

 

ハチドリの『地縛神』が風を巻き上げ、鋭い嘴を遊矢に向け、襲いかかる。巨大で強大、モンスターの域を明らかに逸脱した一撃に、遊矢は怯みながらもアクションカードで攻撃を防ぐ。流石に反らす位しか出来ず、ズズンも砂塵が巻き起こる。

 

「諦めが悪い……見苦しい……!」

 

「悪いね!これが俺なんだ!」

 

「むぅぅん、俺はこれでターンエンドだ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP5400

フィールド『地縛神Asllapiscu』(攻撃表示)

『補充部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!アクションカードを捨て、ペンデュラムを破壊!」

 

「『相生の魔術師』をリリースし、『EMバリアバルーンバク』をアドバンス召喚!」

 

EMバリアバルーンバク 攻撃力1000

 

「そして『降竜の魔術師』の効果で、このカードをドラゴン族に変更!このカードとバリアバルーンバクをリリース!出でよ!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

現れたのは『融合』魔法を必要としない融合モンスター。彼のエースモンスター、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』に、青い体毛を伸ばし、獣の骨格を鎧のように纏わせたドラゴン。額には3つ目の獣の眼が爛々と輝き、獲物であるAsllapiscuを睨む。

 

「だがどんなに強力なモンスターを呼んでも、『地縛神』は攻撃対象にはならない!」

 

「なら墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、Asllapiscuの効果を無効!バトル!ビーストアイズで、Asllapiscuへ攻撃!ヘルダイブバースト!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP5400→4900

 

獣の力を得た竜が、3色の眼を輝かせ、アギトに大気を集束、火炎を放つ。炎に覆われ、苦しむAsllapiscu。だが最後の足掻きか、その巨大な翼を羽ばたかせる。

 

「ビーストアイズの効果で、バリアバルーンバクの攻撃力分のダメージを与える!」

 

「Asllapiscuが自身の効果以外でフィールドを離れた事で、相手フィールドの表側表示のモンスターを全て破壊!その数×800のダメージを与える!」

 

「なっ!アクションマジック、『アンコール』!墓地の『加速』を発動!効果ダメージを0に!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4900→3900

 

危機一髪。危うい所だった。セルゲイの狙いはこれだったのだろう。アクションカードで何とかかわす遊矢だが、モンスターは別。全てAsllapiscuが起こした突風に吹き飛ばされる。そして――。

 

「『補給部隊』の効果で――」

 

「『補充部隊』の効果で――」

 

互いにデッキから、カードを引き抜く。

 

「「1枚ドロー!」」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→1

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP2400

フィールド

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『茨の囚人ーヴァン』を召喚!」

 

茨の囚人ーヴァン 攻撃力0

 

現れたのは彼のデッキに投入されたカテゴリ、『茨の囚人』モンスターの1体だ。十字架に茨でくくりつけられた、ボロ布を纏う痛々しい姿のカードだ。

 

「ターンエンド」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3900

『茨の囚人ーヴァン』(攻撃表示)

『補充部隊』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『カードガンナー』を召喚!」

 

カードガンナー 攻撃力400

 

現れたのはガラスの頭部から覗くサーチライトに赤いボディと両手の大砲、青いキャタピラを走らせた、玩具のようなモンスター。

 

「デッキトップから3枚のカードを墓地に送り、送った数×500の攻撃力をアップ!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

「バトル!『カードガンナー』でヴァンへ攻撃!」

 

「手札の『茨の囚人ーダーリ』を公開、LPを400払い、効果発動!自分への戦闘ダメージを0にする!……うっ、んっ……!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3900→3500

 

セルゲイがヴァンの効果を使う事で、彼の身体に茨が絡み付き、LPが減少すると共に無駄にエロく悩ましい声を漏らす。何故大の男の苦悶の声を聞かなければならないのか、少々理不尽である。

 

「その後、墓地のヴァンと、この効果で公開したダーリを攻撃表示で特殊召喚する!」

 

茨の囚人ーヴァン 攻撃力0

 

茨の囚人ーダーリ 攻撃力0

 

今度はヴァンと車輪に縛られた女性の悪魔のモンスターだ。

 

「ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP2400

フィールド『カードガンナー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!俺はレベル1のヴァンに、レベル1のダーリをチューニング!歪曲した煩悩を晒け出し、茨に肉塊を委ねよ、シンクロ召喚、現れろ、『茨の戒人ーズーマ』!」

 

茨の戒人ーズーマ 攻撃力0

 

現れたのは首と右手に枷が嵌められ、茨で縛られた悪魔のモンスターだ。

 

「シンクロ召喚時、全てのモンスターに茨カウンターを乗せる!」

 

茨の戒人ーズーマ 茨カウンター0→1

 

カードガンナー 茨カウンター0→1

 

「カードを1枚セット、ターンエンド。この瞬間、自分フィールドの茨カウンターの数×400のダメージを受ける。くふっ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3500→3100

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3100

フィールド『茨の戒人ーズーマ』(攻撃表示)

『補充部隊』セット1

手札0

 

互いにフィールドを駆け、接戦を繰り広げる2人。勝者は果たして――。

 

 




遊戯王恒例男の喘ぎ回。みんな好きだと信じてる。


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第151話 見苦しい

漫画版ARC見たんですけどゼロゴッドレイジが名前も性能も頭悪くて笑いました。何時も思うんですけどアオリがセンス良いですよね。遊戯王はコミックスではなく雑誌で読むのが正しい気がしてきます。


「俺のターン、ドロー!」

 

フレンドシップカップ、2回戦第2試合、決勝行きのチケットを賭け、チームランサーズとチームセキュリティのファーストホイーラー対決は未だ続く。

 

Dーホイールと合体を果たしたドMデュエリスト、究極体セルゲイのフィールドには、茨カウンターが乗った低レベルシンクロモンスター、『茨の戒人ーズーマ』が、魔法、罠ゾーンには彼の戦法や性格と滅法相性の良い『補充部隊』とセットカードが存在している。

一方、カードを引き抜く遊矢のフィールドには茨カウンターが置かれ、攻撃不能となった『カードガンナー』と、セルゲイの『補充部隊』と対を成すように『補給部隊』とセットカードが存在している。

今の所、互角の状況と言って良い。

 

「『カードガンナー』の効果!デッキトップから3枚をコストに、攻撃力をアップ!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

「魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!エクストラデッキに表側表示のペンデュラムモンスターが3体以上いる事で2枚ドロー!代わりにこのターンのペンデュラム召喚を不可になる」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

「そして『EMフレンドンキー』を召喚!」

 

EMフレンドンキー 攻撃力1600

 

現れたのは少々目付きの悪いロバのモンスターだ。胴の横に箱がついており、ガタゴトと動き始める。

 

「召喚時、墓地の『EMウィップ・バイパー』を蘇生する!」

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700

 

フレンドンキーの箱から飛び出したのは紫色の蛇だ。シュルリと遊矢の腕に巻き付く。

 

「バトル!フレンドンキーでズーマに攻撃!」

 

「400LP払い、墓地のこのカードの素材になったヴァンとダーリを対象とし、ズーマの効果発動!戦闘ダメージを0にし、ダメージステップ終了時、墓地のズーマと対象の一組を攻撃表示で呼び出す!うっ、ぅぅん!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3100→2700

 

茨の戒人ーズーマ 攻撃力0

 

茨の囚人ーヴァン 攻撃力0

 

茨の囚人ーダーリ 攻撃力0

 

攻守を0を剥き出しとは言え、3体のモンスターを呼び出す効果、素材にするにしても、『地縛神』のリリース要員にしても優秀なカードだ。

 

「だけどその効果は墓地に素材が無ければ使えない!ウィップ・バイパー!ズーマに攻撃!」

 

「永続罠発動!『神の恵み』!ぐっ、ううううんっ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2700→1000

 

ウィップ・バイパーが攻撃すると同時に、セルゲイがリバースカードがオープン、遊矢が少々目を見開く。彼の発動したこのカード、どうやらコンボに繋ぐ1枚らしい。ダーリで攻撃を無効にしなかったのもこの為か。

 

「『補充部隊』の効果でドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→1

 

「そしてドローする度、『神の恵み』の効果でLPを500回復!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1000→1500

 

ダメージを受け、ドローする『補充部隊』と、ドローする度回復する『神の恵み』。彼の場合、『地縛神』の恵みだろうが。中々厄介だ。回復値は少ないが、それでもリカバリー出来る事には変わらない。

 

「くふ、ふふふふふ……!回復すれば、またダメージを受けられる……!ドローすれば、相手を壊せる……!」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべ、トリップするセルゲイ。不気味な光景だ。だが彼の言うように、遊矢はそう簡単に壊れるタマではない。

 

「ズーマがいなくなった事で、『カードガンナー』は解放された!さぁ、行け!ヴァンへ攻撃!」

 

「手札のダーリを公開し、LPを400払ってヴァンの効果発動!ダメージを0にし、このカードと公開したダーリを特殊召喚!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1500→1100

 

茨の囚人ーヴァン 攻撃力0

 

茨の囚人ーダーリ 攻撃力0

 

「そう来るか……カードをセット、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP2400

フィールド『EMフレンドンキー』(攻撃表示)『EMウィップ・バイパー』(攻撃表示)『カードガンナー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『神の恵み』の効果で回復!」

 

「罠発動、『貪欲な瓶』!墓地のカード5枚を回収し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1100→1600

 

「魔法カード、『地縛救魂』!フィールドカードが表側表示で存在する場合、墓地の『地縛』モンスターと魔法カード1枚を回収する。Asllapiscuと『大脱出』を手札に!」

 

1枚で2枚を取り戻し、加えて種類を問わず魔法カードを回収する強力なカード。しかも驚くべきなのはこの『地縛救魂』で『地縛救魂』を回収出来ると言う事だ。ターン制限も無い、正しくインチキカード。欠点は『地縛』カードが必要となる事位か。

 

「そしてレベル1のヴァンに、レベル1のダーリをチューニング!シンクロ召喚!『茨の戒人ーズーマ』!」

 

茨の戒人ーズーマ 茨カウンター0→1

 

茨の囚人ーダーリ 茨カウンター0→1

 

EMフレンドンキー 茨カウンター0→1

 

EMウィップ・バイパー 茨カウンター0→1

 

カードガンナー 茨カウンター1→2

 

「ズーマとダーリをリリース!アドバンス召喚!『地縛神Asllapiscu』!」

地縛神Asllapiscu 攻撃力2500

 

再びフィールドに顕現するハチドリの『地縛神』。攻撃対象に出来ないダイレクトアタッカー。しかもフィールドから離れれば遊矢のモンスターが3体以上で敗北と来た。厄介と言う他ない。

 

「バトル!Asllapiscuでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『レインボー・ライフ』!手札を1枚捨て、そのダメージを回復に回す!」

 

榊 遊矢 LP2400→4900

 

「ターンエンドぉ……!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1600

フィールド『地縛神Asllapiscu』(攻撃表示)

『補充部隊』『神の恵み』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!LPは回復した……動ける……!『カードガンナー』の効果発動!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

「魔法カード、『金満な壺』!エクストラデッキの『EMエクストラ・シューター』、『EMヒックリカエル』、墓地の『EMパートナーガ』をデッキに戻し、2枚ドローする!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

「フレンドンキーとウィップ・バイパーをリリース!雄々しくも美しく輝く二色の眼!アドバンス召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

ここで姿を見せたのは榊 遊矢が持つエースカード。赤と緑のオッドアイを輝かける真紅の竜。背から三日月のような角を伸ばした『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』だ。

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、Asllapiscuの効果を無効に!バトル!『オッドアイズ』で、Asllapiscuへ攻撃!その2色の眼で捉えた全てを焼き払え!螺旋のストライクバーストッ!!」

 

カッ、と『オッドアイズ』の両眼が光を灯し、嘴のようなアギトに大気が集束、赤と黒、螺旋状のブレスが放たれる。相撃ち覚悟の玉砕攻撃、しかし――。

 

「アクションマジック、『大脱出』!バトルフェイズを終了!」

 

「くっ――防がれたか……!カードを1枚セット、墓地の『ADチェンジャー』の効果を使い、『カードガンナー』を守備表示に変更し、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP4900

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『カードガンナー』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1600→2100

 

「バトル!Asllapiscuでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外、攻撃を『カードガンナー』に絞る!」

 

「ならば『カードガンナー』へ攻撃ィ!」

 

「――っ!『カードガンナー』と『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1→2

 

Asllapiscuの攻撃で機体を揺らしながらも動きを修正、次のターンに備える遊矢。彼もこの大会を通してライディングデュエルに慣れて来たと言う事か。

 

「メインフェイズ2、魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2100→2600 手札0→3

 

「魔法カード、『ナイト・ショット』!セットカードを破壊!カードを2枚セット、ターンエンド」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2600

フィールド『地縛神Asllapiscu』(攻撃表示)

『補充部隊』『神の恵み』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ここは攻めていく!速攻魔法、『禁じられた聖杯』!Asllapiscuの効果を無効にし、攻撃力を400アップ!」

 

地縛神Asllapiscu 攻撃力2500→2900

 

「『EM小判竜』を召喚!」

 

EM小判竜 攻撃力1800

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→3000

 

現れたのは額に小判がついた東洋風の龍だ。ピタリと『オッドアイズ』の胸の宝玉に、その名の通り、コバンザメのように吸い付く。

 

「このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカード以外のドラゴン族は攻撃力を500アップし、効果破壊耐性を得る!バトル!『オッドアイズ』でAsllapiscuへ攻撃!『オッドアイズ』の効果で、ダメージは倍加!リアクション・フォース!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2600→2400

 

『オッドアイズ』とAsllapiscuの赤黒の炎と紫の炎がぶつかり、鬩ぎ合い、勢いを増して中央で爆発する。粉々に砕け散るAsllapiscu、最後の足掻きで翼を広げ、爆風を『オッドアイズ』に放つ。

 

「Asllapiscuの効果で、モンスターを破壊し、ダメージを与える!」

 

「小判竜の効果で『オッドアイズ』は守られる!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 LP4900→4100 手札1→2

 

しかし瞬間、胸に貼りついていた小判竜が飛び出し、攻撃を一身に受ける事で『オッドアイズ』を守る。

 

「メインフェイズ2、魔法カード、『アメイジング・ペンデュラム』を発動!ペンデュラムゾーンにカードが存在しない事で、エクストラデッキの『相生の魔術師』と『刻剣の魔術師』を回収し、セッティング!」

 

「ダブル罠発動!『強欲な瓶』!相生は俺のフィールドよりお前のフィールドのカードが多い場合、スケールが4になる……!」

 

「ッ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2400→2900 手札0→1→2

 

「だけどレベル3ならペンデュラム召喚出来る!ペンデュラム召喚!『EMインコーラス』!『時読みの魔術師』!」

 

EMインコーラス 守備力500

 

時読みの魔術師 守備力600

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP4100

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)『時読みの魔術師』(守備表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『相生の魔術師』『刻剣の魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2900→3400

 

「永続魔法、『魔法吸収』。魔法カードが発動される度、LPを500回復する!魔法カード、『地縛救魂』!墓地の『地縛囚人ストーン・スィーパー』と『地縛救魂』を回収!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3400→3900

 

「……ん?」

 

何やら不穏な気配が漂って来た。『地縛救魂』で『地縛救魂』を回収。これはもしや――いや、もしかしなくとも――。

 

「魔法カード、『地縛救魂』!墓地のAsllapiscuと『地縛救魂』を回収!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP3900→4400

 

「無限ループ……!?」

 

流石に無限ループとは言えないが、それに近しい、凶悪なコンボ。『地縛救魂』で『地縛』モンスターを回収しつつ、『地縛救魂』を回収し続ける一手。ここに『魔法吸収』が加わり、LPが大幅に回復。せめてもの救いは魔力カウンター系や『連弾の魔術師』、『ビッグバンガール』等のダメージを与えるカードがない事か。

 

「『地縛救魂』を発動!ChacuChalluaと『地縛救魂』を回収!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4400→4900

 

「再び発動!ジオクラーケンと『地縛救魂』を回収!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4900→5400

 

「もう1度ぉ!ジオグリフォンと『地縛救魂』を回収!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP5400→5900

 

「だけどこれでもう、お前の墓地に『地縛』モンスターはいなくなった!」

 

「ならば作るまで!」

 

「何ッ!?」

 

「カードを1枚セット、魔法カード、『手札抹殺』!」

 

「ッ!」

 

ループが終わったかと思いきや、ここで発動されたのほ手札交換カード、これで、『地縛』モンスターを墓地に送りつつ、新たなカードが手札に加えられる。

 

「そして『魔力吸収』と『神の恵み』で回復ぅ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP5900→6400→6900

 

「リバースカード、オープンッ!『地縛救魂』!ストーン・スィーパーと、『地縛救魂』を回収!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP6900→7400

 

「ヒヒ、ハハハハハァ!もう1度、もう1度ぉ!Asllapiscuと『地縛救魂』回収ぅ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP7400→7900

 

「再び発動!ChacuChalluaと『異界共鳴ーシンクロ・フュージョン』を回収ゥ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP7900→8400

 

LPは初期値の2倍、手札は7枚、とんでもないアドバンテージだ。強力無比なコンボを前に、遊矢は苦笑いを浮かべるしかない。

 

「『地縛囚人ストーン・スィーパー』を特殊召喚!」

 

地縛囚人ストーン・スィーパー 攻撃力1600

 

「『地縛囚人グランド・キーパー』を召喚!」

 

グランド・キーパー 攻撃力300

 

展開されたのはレベル5のモンスターとレベル1のチューナーだ。2体の『地縛』モンスター、非チューナーとチューナー、そしてセルゲイの手札には既にあるカードが加えられている。

 

「ヒヒッ!魔法カード、『異界共鳴ーシンクロ・フュージョン』発動!ストーン・スィーパーとグランド・キーパーで、融合とシンクロを行う!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP8400→8900

 

「レベル5のストーン・スィーパーに、レベル1のグランド・キーパーをチューニング!大地に取り憑きし妖精よ、その妖しき力で万物を揺るがせ!シンクロ召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグレムリン』!」

 

地縛戒隷ジオグレムリン 攻撃力2000

 

まずはシンクロ。2足歩行の黒い影に青いライン、2本の角を伸ばす獣が現れる。そして――その横で青とオレンジの渦が発生、たった今消えたストーン・スィーパーとグランド・キーパーの魂が昇り、その中へと吸収され――。

 

「ストーン・スィーパーとグランド・キーパーで融合!石に囚われし者よ!地に封じられし者と1つとなりて大地を掴め!融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグレムリーナ』!」

 

地縛戒隷ジオグレムリーナ 攻撃力2000

 

その対となるモンスターが融合召喚される。フィールドに地鳴らしを響かせて現れたのは4足歩行の黒い影に黄色いライン、1本の角、左翼を伸ばし、両足を枷で拘束した獣のモンスター。

ジオグレムリンと合わせ、まるで狛犬のように並び、遊矢のフィールドをジロリと無機質な眼で睨む。

 

「ジオグレムリンの効果を『オッドアイズ』に発動!」

 

「選択させる効果か!悪いけど、どっちも断るよ!墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、『オッドアイズ』を対象に取るモンスター効果を無効にする!」

 

「バトル!ジオグレムリーナで、『オッドアイズ』へ攻撃!速攻魔法、『決闘融合ーバトル・フュージョン』で『オッドアイズ』の攻撃力を吸収!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP8900→9400

 

地縛戒隷ジオグレムリーナ 攻撃力2000→4500

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にして、ドロー!『補給部隊』の効果で追加ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1→2

 

「ジオグレムリーナで時読みへ攻撃!」

 

「ぐっ――!」

 

「残るはインコーラス……」

 

「だがもう、攻撃するモンスターは残ってない……!」

 

融合とシンクロ、怒濤の2連撃を防ぎ、何とか耐え抜く遊矢。見事なものだ。まだ少々危うさは残っているものの、相手が誰であろうと常に落ち着いて自分のデュエルが出来ている。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP9400

フィールド『地縛戒隷ジオグレムリン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオグレムリーナ』(攻撃表示)

『補充部隊』『魔法吸収』『神の恵み』セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!お前のフィールドのカードは俺のフィールドのカードを上回っている!よって『相生の魔術師』のスケールは8!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『降竜の魔術師』!『EMダグ・ダガーマン』!『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMオッドアイズ・ライトフェニックス 攻撃力2100

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

「そしてライトフェニックスをリリースし、インコーラスの攻撃力を1000アップ!」

 

EMインコーラス 攻撃力500→1500

 

「攻撃表示に変更、墓地の『調律の魔術師』の効果発動!ペンデュラムゾーンに2枚の『魔術師』モンスターが揃っている事で、特殊召喚!」

 

調律の魔術師 守備力0

 

「効果で相手はLPを400回復し、自分は400のダメージを受ける」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP9400→9800

 

榊 遊矢 LP4100→3700

 

現れたのは白い法衣を纏った桜色の髪の『魔術師』少女。遊矢がサムから受け取った、初めて扱うチューナーモンスターだ。遊矢の中の人の翻訳で、スイーツ系である事が知られている。

 

「そしてレベル7の『降竜の魔術師』に、レベル1の『調律の魔術師』をチューニング!剛毅の光を放つ勇者の剣!今ここに閃光と共に目覚めよ!シンクロ召喚!『覚醒の魔導剣士』!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、遊矢がジャックとのデュエルの最中、発現した力が解放される。閃光と共に、金と白の鎧を纏い、二振りの魔剣を握る聖なる魔法騎士が登場する。

 

「『覚醒の魔導剣士』が『魔術師』ペンデュラムモンスターを素材にシンクロ召喚された事で、墓地の魔法カード、『ペンデュラム・コール』を回収!発動!手札を1枚捨て、『相克の魔術師』と『慧眼の魔術師』をサーチ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP9800→10300

 

「ダグ・ダガーマンの効果で『EM』を手札から墓地に送り、1枚ドロー!そして手札の『EM』が墓地に送られた事で、『EMギッタンバッタ』を蘇生!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

「バトル!インコーラスでジオグレムリンへ攻撃!」

 

「永続罠、『アストラルバリア』!ダイレクトアタックに移行させる!ぬっふぅぅぅぅんっ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP10300→8800

 

インコーラスの戦闘破壊を防ぐ為、セルゲイが身体を張って攻撃を受け止め、頬を染める。

 

「『補充部隊』の効果でドロー!『神の恵み』でLPを500回復ぅ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP8800→9300 手札2→3

 

ダメージ、ドロー、回復。一連の流れがクセになって来ているセルゲイ。彼の性癖の変化がどうであれ、このコンボは強力だ。ダメージを与えているが、有利になっている気がしない。

 

「『覚醒の魔導剣士』でジオグレムリーナへ攻撃!」

 

「『アストラルバリア』の効果!攻撃をダイレクトアタックに!ぐほぉぉぉぉんっ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP9300→6800

 

『覚醒の魔導剣士』は破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える為、ダメージ差がないのならせめてモンスターを残そうと考えたのだろう。極めて嬉しそうに攻撃を受けるセルゲイ。全く迷いのない速決だった。彼にとってはボーナスタイムなのだろう。

 

「ドローして回復……ぅ!フッヒヒヒ……ヒヒヒヒヒ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP6800→7300 手札3→5

 

「『オッドアイズ』でジオグレムリンへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『ブラインド・ブリザード』!バトルフェイズを終了する!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP7300→7800

 

「ここで打ち止めか……カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP3700

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『覚醒の魔導剣士』(攻撃表示)『EMダグ・ダガーマン』(攻撃表示)『EMインコーラス』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

『補給、』セット2

Pゾーン『相生の魔術師』『刻剣の魔術師』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP7800→8300

 

「魔法カード、『デビルズ・サンクチュアリ』!『メタルデビル・トークン』を特殊召喚!」

 

メタルデビル・トークン 攻撃力0

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP8300→8800

 

「更に『ジェスター・コンフィ』を特殊召喚!」

 

ジェスター・コンフィ 攻撃力0

 

「速攻魔法、『非常食』!『魔法吸収』を墓地に送り、LPを1000回復!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP8800→9800→10300

 

「永続魔法、『冥界の宝札』を発動!『メタルデビル・トークン』と『ジェスター・コンフィ』をリリースし、アドバンス召喚!『地縛神Asllapiscu』!」

 

地縛神Asllapiscu 攻撃力2500

 

再びフィールドに舞うハチドリの『地縛神』。紫の炎を巻き上げ、天空に飛翔する。幾度となく蘇り、立ち塞がるナスカの邪神。遊矢も唇を噛み締める。

 

「『冥界の宝札』の効果で2枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP10300→10800 手札2→4

 

「魔法カード、『地縛旋風』!相手の魔法、罠を全て破壊!」

 

「速攻魔法、『神秘の中華なべ』!魔導剣士をリリースし、回復!更に罠発動!『威嚇する咆哮』!ペンデュラムカードも『ペンデュラム・コール』の効果で破壊されない!」

 

榊 遊矢 LP3700→6200

 

Asllapiscuが翼を翻し、紫炎を帯びた突風を巻き起こす。炎に呑まれる遊矢のカード、何とか消費は抑えたが、これで遊矢のバックはがら空きだ。

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!Asllapiscuをリリースし、2枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP10800→11300 手札2→4

 

「Asllapiscuの効果発動!相手モンスターを全て破壊し、3200のダメージを与える!フッヒヒヒヒヒィ!壊れろぉっ!」

 

「墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、このターンの効果ダメージを半分に!更に刻剣の効果で『オッドアイズ』を守る!」

 

榊 遊矢 LP6200→5000

 

「まだだ!相手フィールドのモンスターが効果破壊された事で、ジオグレムリーナの効果発動!俺のフィールドのモンスターを全て破壊し、攻撃力の合計ダメージを与える!」

 

「なっ、うぁぁぁぁぁっ!?」

 

榊 遊矢 LP5000→3000

 

モンスターを犠牲にし、一気に引き離しにかかるセルゲイ。とんでもない戦法だ。

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP11300→11800

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ……!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP11800

フィールド

『補充部隊』『冥界の宝札』『神の恵み』『アストラルバリア』セット1

手札2

 

「俺のターン……ドロー!まだだ……まだ終わってない……魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を交換。ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『相克の魔術師』!『降竜の魔術師』!『EM小判竜』!『EMインコーラス』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→3000

 

EM小判竜 攻撃力1800

 

EMインコーラス 守備力500

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

「降竜の効果でこのカードをドラゴン族に変更」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400→2900

 

「バトルに移る!」

 

「その前に!罠発動!『早すぎた復活』!墓地に眠るChacuChalluaを蘇生!」

 

地縛神ChacuChallua 守備力2400

 

身体を横に倒し、セルゲイと遊矢の間を阻む壁となるシャチの『地縛神』。とは言え守備力は2400、『オッドアイズ』の手を借りずとも、『相克の魔術師』で倒せるラインだ。と、思っていたのだが――。

 

「ChacuChalluaが守備表示で存在する限り、お前はバトルフェイズを行えない!」

 

「何――!?」

 

邪神と言えど、神。その絶大な力がルールにも介入される。相手の戦闘をも許さない、永続的な『覇者の一括』と同じ効果。少しでも早く、多くLPを削りたい今、この効果は最悪に近い。

メインフェイズに移行、『オッドアイズ』の背を疾駆し、黒い壁を乗り越えて何とか移動する。

 

「くっ、ターンエンドだ……!」

 

榊 遊矢 LP3000

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EM小判竜』(攻撃表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)『降竜の魔術師』Pゾーン『相克の魔術師』『刻剣の魔術師』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP11800→12300

 

「ChacuChalluaの効果発動!このカードの攻撃を放棄し、このカードの守備力分のダメージを与える!」

 

榊 遊矢 LP3000→1800

 

「ぐぁぁぁぁっ!?」

 

バトル封じに加え、バーン効果。攻撃表示になれば希望があったが――そんな甘い考えも打ち砕かれる。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ。貴様は最早何も出来ない……!ヒヒヒヒヒ!ヒャハハハハハッ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP12300

『地縛神ChacuChallua』(守備表示)

『補充部隊』『冥界の宝札』『神の恵み』『アストラルバリア』セット1

手札2

 

命からがら、ギリギリの所で持ちこたえる遊矢。バトルフェイズを封じられ、一方的にこちらにダメージを与えるセルゲイ。それを乗り越えても、大量のLPと回復機関が遊矢を阻む。ピンチもピンチ、大ピンチ。手も足も潰され、気力までもが削がれていく。風前の灯火、疲労が溜まり、流石の遊矢もこのままでは――心が折れる。

それ、でも――。

 

「まだだ……!」

 

それでも、まだ。

 

「まだ、終わってない……!」

 

淡く燃える、炎がある。消え去りそうでも、少しでもと足掻く闘志がある。

 

「何……!?」

 

キュイン、カメラアイを見開き、信じられないものを見るかの如く動揺を表すセルゲイ。最初はそう、この男に対して、僅かながらにでも、柚子の仇を取ると言う、怒りだけだった。だけど、今は――。

 

「まだ、俺のデュエルは幕を上げてもいないじゃないか!」

 

この凄いデュエリストに勝ちたいと、自分の本当のエンタメデュエルで、お返しに笑わせてやれと、何が何でもと言う意地が、遊矢を立ち上がらせる。

 

「虚勢だ……!」

 

「ああ、虚勢さ!怖いし辛いし、しんどいさ!だけど――そのまま諦めるようじゃ、何時だって諦めるようになっちまう!そんなんじゃ、勿体ない!デュエルは、楽しんでこそなんだ!」

 

震える指先に力を入れ、遊矢は不敵に笑って見せる。その不屈の魂を表すように――遊矢の左眼が、黄金の輝きを放つ。

 

『ここからが本番!』

 

「お楽しみは、これからだ!」



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第152話 美しい

長期に渡る遊矢とセルゲイのアクションライディングデュエル。現在は一方的なセルゲイの優勢、LPは1万台、フィールドには相手のバトルフェイズを封じ、守備力の半分のダメージを与える『地縛神ChacuChallua』が圧倒的な存在感を放っている。しかもこのカードは攻撃対象にならない効果付き。加えて魔法、罠カードには遊矢の攻撃をダイレクトアタックに変える『アストラルバリア』、1000ポイントのダメージにつき1枚ドローする『補充部隊』、ドローの度に500ポイント回復する『神の恵み』と3枚のカードが流れを作っている。

少しのダメージを与えても手札を与えるだけではLPは戻ってしまう。一方の遊矢は5体のモンスターが揃ってこそいるが、対抗出来るカードはない。このドローで変えられるかが鍵だ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

『来たか……!』

 

「魔法カード、『金満な壺』!墓地の『EMペンデュラム・マジシャン』、『EMドクロバット・ジョーカー』、『EMオッドアイズ・ミノタウルス』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「そして魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!エクストラデッキに表側表示のペンデュラムモンスターが3体以上存在する事で2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「魔法カード、『ペンデュラム・ストーム』!ペンデュラムゾーンの2枚を破壊し、『アストラルバリア』を破壊!」

 

「ッ!」

 

『まだ行くぞ!『EMシール・イール』をセッティング!ペンデュラム効果により、ChacuChalluaの効果を無効!』

 

「む……!」

 

『これでバトルフェイズは解放されたぞ……!』

 

ニヤリ、金色の眼の主が不敵な笑みを浮かべ、邪神を無力化する。これでバトルフェイズ封じ、攻撃対象にならない効果、ダイレクトアタックに逃げる事の3つの回避を封じた。

 

「『降竜の魔術師』の効果でこのカードをドラゴン族に変更!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400→2900

 

「バトル!『オッドアイズ』でChacuChalluaへ攻撃!」

 

『螺旋のストライク・バーストッ!』

 

『オッドアイズ』のアギトより、渦巻く火炎が放たれ、鯱の『地縛神』を破壊する。

 

「希望は見えた!『降竜の魔術師』でダイレクトアタック!」

 

「アクションマジック、『アンコール』!墓地の『大脱出』を発動!」

 

「インコーラスを守備表示に変更、カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP1800

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EM小判竜』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)『降竜の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMシール・イール』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP12300→12800

 

「罠発動!『貪欲な瓶』墓地のカードを5枚デッキに戻し、1枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP12800→13300 手札2→3

 

「魔法カード、『取捨蘇生』を発動!」

 

「Asllapiscuを選択する……!」

 

地縛神Asllapiscu 攻撃力2500

 

「バトル!Asllapiscuでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『フローラル・シールド』!攻撃を無効にし、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「くっ、ターンエンドだ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP13300

フィールド『地縛神Asllapiscu』(攻撃表示)

『補充部隊』『冥界の宝札』『神の恵み』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!手札を全て捨て、この分だけドローする!シール・イールの効果でAsllapiscuを無効化!更に魔法カード、『一時休戦』!互いに1枚ドローし、次のターン終了時までダメージを0に!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP13300→13800 手札2→3

 

「『降竜の魔術師』の効果で自身をドラゴン化!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400→2900

 

「インコーラスを攻撃表示に変更、バトルだ!インコーラスで自爆特攻!」

 

「アクションマジック、『回避』ぃ!」

 

『『オッドアイズ』でAsllapiscuへ攻撃!』

 

「ぐうっ、相手モンスターを全て破壊!」

 

『だが小判竜の効果でこのカード以外のドラゴンは守られる!』

 

2体目の『地縛神』、撃破。圧倒的な勢いで見事窮地を突破した。諦めない想いが、彼をグングンと加速させる。こんな馬鹿な事がと、セルゲイが目を見開く。

 

「お前、勝っていたのにって思っただろ」

 

「!」

 

『デュエルは最後まで、何が起こるか分からない。可能性は決して、0ではない!』

 

セルゲイの隣に並走する遊矢が、彼に言葉を投げ掛ける。それはくしくも、彼の台詞と似た言葉だ。

 

「ぐぅぅぅぅぅっ!」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP1800

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『降竜の魔術師』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMシール・イール』

手札0

 

「俺のっ、俺のターン、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP13800→14300

 

「『地縛囚人ストーン・スィーパー』を特殊召喚!」

 

地縛囚人ストーン・スィーパー 攻撃力1600

 

「更に、『地縛囚人ライン・ウォーカー』を召喚!」

 

地縛囚人ライン・ウォーカー 攻撃力800

 

「魔法カード、『異界共鳴ーシンクロ・フュージョン』を発動!」

 

再び発動されるセルゲイのキーカード。融合とシンクロを同時に行うこのカードはとても強力だ。

 

「レベル5のストーン・スィーパーに、レベル3のライン・ウォーカーをチューニング!シンクロ召喚!『地縛戒隷ジオグリフォン』!」

 

地縛戒隷ジオグリフォン 攻撃力2500

 

「ストーン・スィーパーとライン・ウォーカーで融合!融合召喚!『地縛戒隷ジオクラーケン』!」

 

地縛戒隷ジオクラーケン 攻撃力2800

 

揃う2体の『地縛』モンスター。特にこの2体は強力だ。攻撃力もさる事ながら、ジオクラーケンの破壊とバーンに、ジオグリフォンの破壊効果は厄介過ぎる。

 

「バトルぅ!ジオクラーケンで『オッドアイズ』へ攻撃!」

 

『ぐっ、おのれぇっ……!貴様もむざむざこんな変態に『オッドアイズ』を破壊されるんじゃない!』

 

「ジオグリフォンで降竜へ攻撃!」

 

「くっ!」

 

今度は遊矢のモンスターが全滅、『一時休戦』でダメージを受けないのがせめてもの救いか。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP14300

フィールド『地縛戒隷ジオグリフォン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオクラーケン』(攻撃表示)

『補充部隊』『冥界の宝札』『神の恵み』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!罠発動!『貪欲な瓶』!墓地の『覚醒の魔導剣士』、『アメイジング・ペンデュラム』、『手札抹殺』、『威嚇する咆哮』、『フローラル・シールド』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「カードを2枚セット、魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→3

 

「『EMオッドアイズ・ユニコーン』をセッティング、カードを1枚セット、ターンエンドだ!『命削りの宝札』のデメリットで手札を捨てる」

 

榊 遊矢 LP1800

フィールド

セット3

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMシール・イール』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP14300→14800

 

「カードを1枚セット、バトル!ジオクラーケンでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『EMショーダウン』!俺のフィールドの表側表示の魔法カードの数まで、相手モンスターを裏側守備表示に変更!当然ジオクラーケンとジオグリフォンを選択!」

 

「永続罠、『闇次元の解放』!来い、『地縛神ChacuChallua』!」

 

地縛神ChacuChallua 攻撃力2900

 

「また……!」

 

「ダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『パワー・ウォール』!デッキトップから6枚のカードを墓地に送り、ダメージを0に!」

 

「ジオグリフォンを反転召喚、ターンエンド……!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP14800

フィールド『地縛神ChacuChallua』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオグリフォン』(攻撃表示)セットモンスター

『補給部隊』『冥界の宝札』『神の恵み』『闇次元の解放』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『EMフレンドンキー』、『EMウィップ・バイパー』、『EMラディッシュ・ホース』、『慧眼の魔術師』、『カードガンナー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

『ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『降竜の魔術師』!『相克の魔術師』!『EMレ・ベルマン』!『EM小判竜』!』

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→3000

 

EMレ・ベルマン 守備力2300

 

EM小判竜 攻撃力1800

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

カードの声が、聞こえる。自分を呼べと、遊矢の進むルートへと、光を差す。考える前に、答えを掴み取っていく。

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールドの降竜と小判竜で融合!融合召喚!『EMガトリングール』!」

 

EMガトリングール 攻撃力2900

 

「融合召喚時、フィールドのカード×200のダメージを与える!15枚×200、3000のダメージだ!」

 

「罠発動!『レインボー・ライフ』!手札のアクションカードを捨て、ダメージを回復に!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP14800→17800

 

『くっ――モンスター破壊効果は使わない……だがまだ手はあるさ!墓地の『置換融合』を除外、ビーストアイズをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!』

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「更に、永続罠、『闇次元の解放』!除外されている『調律の魔術師』を呼び出す!」

 

調律の魔術師 守備力0

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP17800→18200

 

榊 遊矢 LP1800→1400

 

「お次はシンクロだ!レベル7の『相克の魔術師』に、レベル1の『調律の魔術師』をチューニング!シンクロ召喚!『覚醒の魔導剣士』!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500

 

ペンデュラム、融合、更にシンクロ。セルゲイのお株を奪うような連続召喚が披露される。とんでもない腕前だ。だが本番はここから。カードの声に耳を傾け、遊矢のデュエルは更に進化を遂げる。

 

「シンクロ召喚時、墓地の『一時休戦』を回収し、発動!互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0に!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP18200→18700 手札0→1

 

「魔法カード、『波動共鳴』!『覚醒の魔導剣士』のレベルを4に変更!」

 

覚醒の魔導剣士 レベル8→4

 

『どうやら、条件は揃ったようだな』

 

ニヤリ、遊矢は口端を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべる。カードの声に導かれる。エクストラデッキが光輝き、早く自身を呼べと語り掛ける。さぁ、ニューフェイスのお披露目だ。

 

「俺はレベル4の『覚醒の魔導剣士』に、レベル6の『EMレ・ベルマン』をチューニング!」

 

「チューナー無しのシンクロ召喚……ッ!?」

 

チューナー無し、シンクロモンスターとペンデュラムモンスターを使用した、彼等の次元を繋げるような特異な召喚法。誰もが新しいシンクロの形を見て驚愕し、期待に目を輝かせる。

 

「平穏なる時の彼方から、あまねく世界に光を放ち、蘇れ!シンクロ召喚!現れろ、『涅槃の超魔導剣士』!」

 

涅槃の超魔導剣士 攻撃力3300

 

神々しい程の光を纏い、現れたのは遊矢の新たなるモンスター。青の兜と法衣に銀の鎧、右手に魔剣を握った、魔導剣士の進化形態。シンクロペンデュラムモンスター。シンクロ次元のデュエリストを模倣する、スタンダード次元のデュエリスト――遊矢に相応しいモンスターが今、フィールドに生み出された――。

 

「シンクロ……ペンデュラム……!?」

 

『誇れようすのろ、これはお前の想いが生んだモンスターだ』

 

「俺の想い……ははっ!ペンデュラム召喚したペンデュラムモンスターをチューナーとして、シンクロ召喚に成功した事で、『涅槃の超魔導剣士』の効果発動!墓地のカード1枚を回収する!俺が選ぶのは、『EMカレイドスコーピオン』!『オッドアイズ』をリリースし、アドバンス召喚!」

 

EMカレイドスコーピオン 攻撃力100

 

現れたのは万華鏡の尾を持つ蠍のモンスター。攻撃面では何時も遊矢を支えてきたモンスターだ。

 

「効果発動!『涅槃の超魔導剣士』は特殊召喚された相手モンスター全てに攻撃可能となる!そしてシール・イールのペンデュラム効果でChacuChalluaの効果を無効!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外、ジオグリフォンの効果も無効!バトル!『涅槃の超魔導剣士』でChacuChalluaへ攻撃!トゥルース・スカーヴァティ!」

 

涅槃の超魔導剣士が光を帯びた剣を煌めかせ、シャチの地縛神を切り伏せる。刃こぼれを残さない見事な剣技だ。

 

「『涅槃の超魔導剣士』が相手モンスターを破壊した事で、相手のLPを半分にする!」

 

「何――ッ!?」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP18700→9350

 

ダメージではなく、LPを半分にする、LP変動効果。セルゲイの『レインボー・ライフ』も、遊矢の『一時休戦』の効果もすり抜ける強力な効果だ。しかも――この効果に、ターン制限はない。カレイドスコーピオンの効果を受けた今、更にこの効果は光輝く。

 

『これはダメージではない……『レインボー・ライフ』も、『補充部隊』も、『一時休戦』さえも妨げられない!さぁ、バトルはまだ続くぞ!』

 

「罠発動!『早すぎた復活』!墓地より『地縛神Asllapiscu』を蘇生する!」

 

地縛神Asllapiscu 攻撃力2500

 

「成程、そう来たか、だけど――」

 

『止まらんよ!速攻魔法、『禁じられた聖杯』!Asllapiscuの効果を無効!』

 

地縛神Asllapiscu 攻撃力2500→2900

 

「『涅槃の超魔導剣士』で、Asllapiscuへ攻撃!』

 

「Asllapiscuの効果でお前のモンスターを破壊ィ!」

 

「させない!アクションマジック、『ミラー・バリア』!『涅槃の超魔導剣士』の破壊を防ぐ!更に――」

 

『LPを半減だ。貴様如きの策略に、踊らされる俺ではないわっ!』

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP9350→4675

 

「ぐぅうううううっ……!」

 

快進撃は止まらない。続けざまに遊矢が指示を出し、ハチドリの『地縛神』も真っ二つに切り裂かれる。

 

「まだまだぁっ!ジオクラーケンへ攻撃!LPを半減!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4675→2338

 

『ジオグリフォンへ攻撃!LPを半減!』

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2338→1169

 

「ぐうっ、ぐぅぅぅぅっ……!」

 

LP半減を繰り返し、18700から、1169まで削った。中々見ない数値だ。『補充部隊』の効果も発動させず、ダメージも与えられないこの状況での大立回り。とんでもない戦術だ。僅かな、地獄に垂れたか細い糸のような希望から、手繰り寄せ、光差す道へと繋いで見せた。これこそが榊 遊矢の本領発揮。エンタメデュエル――。

 

「ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP1400

フィールド『涅槃の超魔導剣士』(攻撃表示)

『闇次元の解放』

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMシール・イール』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1169→1669

 

「まだだ……!まだデュエルは終わってない!終わらせるかぁっ!こんな気持ちイイ事を!もっともっとお前を晒け出してくれっ!傷つけ合って、傷を舐め合おう!速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!手札を1枚捨て、ペンデュラムを破壊!そして墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『冥界の宝札』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP1669→2169 手札0→1

 

「魔法カード、『ミラクルシンクロフュージョン』!墓地のジオグレムリンとジオグレムリーナを除外し、融合する!地を司る悪魔よ、大地を掴む悪魔よ今雌雄一つとなりて大いなる大地の底より来たれ融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』!!」

 

地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス 攻撃力3000

 

シンクロモンスターと融合モンスター、青と黄、雌雄の悪魔が1つとなって、最強の悪魔を産み落とす。巨大な双翼を広げ、『地縛原』の天空を飛翔したるは、オレンジ色に輝くラインを黒い体躯に走らせ、山羊のように捻れた角を伸ばし、3本の尾を振るう大悪魔。翡翠の眼を細め、『涅槃の超魔導剣士』を睨む。これこそがセルゲイ・ヴォルコフの本来の切り札。『地縛神』にも匹敵する融合モンスターだ。

 

「バトルだ!ジオグラシャ=ラボラスで『涅槃の超魔導剣士』へ攻撃!このカードが融合、またはシンクロモンスターと戦闘を行う場合、その相手モンスターの攻撃力を0にする!」

 

涅槃の超魔導剣士 攻撃力3300→0

 

ジオグラシャ=ラボラスと超魔導剣士が天空でぶつかり、火花を散らす。互いの切り札級のモンスターが激闘を繰り広げる。剣を振るう超魔導剣士に対し、悪魔は剣を掴み、もう片方の腕を振るい、鋭い爪で切り裂く。折角出した新たなモンスターが倒されてしまったが――このモンスターはシンクロペンデュラムモンスター。活躍はむしろここからが本番だ。

 

「『涅槃の超魔導剣士』がモンスターゾーンで戦闘、効果破壊された場合、このカードをペンデュラムゾーンに置く!」

 

「ターンエンドだぁ!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2169

フィールド『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』(攻撃表示)

『補充部隊』『神の恵み』

手札0

 

ぶつかり合う遊矢とセルゲイ。互いの信念と想いを賭けたデュエル。一歩も譲らぬ大激闘に、会場が沸き起こる。

楽しい――遊矢もセルゲイも、ニヤリと笑みを浮かべる。何が起こるか分からない。ドキドキワクワクのデュエル。終わらせたくない。それはセルゲイだけではなく、遊矢も同じ、だけど。

 

「分かるよ、セルゲイ。楽しいから、終わらせたくない。俺だって同じだ。だけど――それ以上に、俺は、お前って言う凄いデュエリストに勝ちたいんだ!」

 

「――ッ!」

 

『良く言ったうすのろぉ!さぁ、引け!ラストドローだ!』

 

楽しいけど――それだけじゃない。遊矢はその先を望む。セルゲイに勝つ事を。純粋に、デュエリストとして。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

遊矢の右手がデッキに翳され――1枚のカードが引き抜かれ、虹色のアークを、天空に描き出す。

 

「俺は、『EMリザードロー』をセッティング!」

 

『これでレベル7のモンスターを同時に召喚可能!』

 

「ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『降竜の魔術師』!『相克の魔術師』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

揺れ動く運命の振り子。三日月の軌跡を描き、フィールドに呼び出される遊矢のエース、『オッドアイズ』と2体の『魔術師』。攻撃力ではジオグラシャ=ラボラスに劣るが――。

 

「バトル!『相克の魔術師』でジオグラシャ=ラボラスへ攻撃!」

 

「自爆特攻……!?くふっ、お前もかぁっ!」

 

「いいや、違うね!『涅槃の超魔導剣士』のペンデュラム効果、発動!俺のペンデュラムモンスターが攻撃する場合、そのモンスターは戦闘破壊されず、ペンデュラムモンスターが攻撃したダメージステップ終了時、相手モンスターの攻撃力は、攻撃モンスターの攻撃力分ダウンする!」

 

地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス 攻撃力3000→500

 

ここでも新たなモンスター、『涅槃の超魔導剣士』が、遊矢の勝利を繋ぐピースとなる。

 

「さぁ、フィナーレだ!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』で、ジオグラシャ=ラボラスへ攻撃!螺旋のストライク・バーストッ!!」

 

「『オッドアイズ』は戦闘ダメージを――」

 

「倍にする効果がある!リアクション・フォース!」

 

最後の一撃、『オッドアイズ』のアギトに火炎が集束し、赤黒の渦巻くブレスが放たれ――ジオグラシャ=ラボラスを丸呑みにする。これで――。

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP2169→0

 

決着――遊矢の勝利。『オッドアイズ』のブレスを受けたセルゲイが吹き飛ばされ、レーンから投げ出される。その最中、遊矢はすかさず『涅槃の超魔導剣士』に指示を出し、セルゲイへと手を伸ばす。だが。

 

「止めるなぁっ!」

 

バチン、とセルゲイが合体したDーホイールの腕を振るって拒み、遊矢が瞠目する。一体何を――。

 

「壊れる時、人は最高の美しさを放つ!散り際こそが――最上の輝き!ヒヒヒヒッ、イーヒッヒッヒッヒッヒッ!」

 

これが、セルゲイの信念、彼は最後の最後まで、自分を貫き通す。その清々しいまでの潔さに――遊矢は、ブチ切れた。

 

「ふっざけんな、このド変態がぁぁぁぁぁっ!!」

 

ありったけの激情を抱き、恥も外聞も、エンタメデュエリストとしての余裕の笑みすら投げ捨て、遊矢は叫び、問答無用で『涅槃の超魔導剣士』に指示を出し、無理矢理にセルゲイを掴んで引き上げようとする。その姿に驚愕し、目を見開くセルゲイと観客達。その中で、遊矢は更に言葉を続ける。

 

「壊れる時、人は最高の美しさを放つ?そんな事あって堪るか!お前がやってるのは、ただの独り善がりだ!ただの逃げだ!俺はそんな事しないぞ!醜くたって、足掻いてやる!意地汚くたって諦めない!俺の目の前で自分を投げ出すような事はさせない!良いかセルゲイ!お前が100回身を投げても、100回身を投げても、100回俺が止めてやる!」

 

「ッ!」

 

「それにお前は勘違いしてる!デュエルはこんな事の為にあるんじゃない!デュエルは1回じゃ終わらないんだよ!何度も何度もデュエルして、その度に分かり合う為にあるんだ!勝っても負けても、デュエルは俺達を歩ませてくれるんだ!お前達にも言ってんだぞ!」

 

ギン、赤き眼で会場を見上げ、遊矢は観客へと矛先を向ける。まさかの展開にギョッと目を見開く観客達。遊矢はそのまま暴走したかのように言葉を続ける。

 

「1回や2回の敗けで、相手の全部を奪おうとするな!実力者主義とか言って誤魔化すな!狂ってると思わないのかお前等は!優しい人達を犠牲にして、ヘラヘラヘラヘラ、薄っぺらい笑いを浮かべるなぁっ!」

 

最早、我慢の限界だった。このシティの有り様を見て、遊矢の感情が爆発する。このシティはおかしい。優しい人が報われない。それはどこにでもある光景なのかもしれない。だけど――実力主義が度を越しているのだ。それが当たり前の現状が――遊矢は嫌で嫌で堪らない。

そんな、誰かの為に怒る遊矢の姿を見て、セルゲイが呆然とする。なんだ、この少年は、何故こんなにも、誰かを想える。何故醜い感情の発露なのに――こんなにも心を打ち、美しいと思えるのか。トクン、今まで凍っていたセルゲイの心が溶かされ――熱く、高鳴る。えっ、これってまさか――そんな、だって――と頭を振るも、この熱は、消え去らない。

 

「お、下ろして……」

 

「あぁん?まだ言ってんのかお前ぇっ!」

 

「もっもうしないから、良いから下ろしてっ!」

 

「お、おう……?」

 

引き上げられたセルゲイは借りられた猫のようにシュンと大人しくモジモジと頬を赤らめ、遊矢の顔をチラチラと窺う。一体どうしたんだこの変態は、と遊矢は首を傾げる。そんな彼を見て、セルゲイは顔を真っ赤に染め上げ――。

 

「べっ、別に感謝なんてしてないんだからっ!これは絶対、違うんだから――っ!」

 

ウィーガチャ、ウィーガチャ、ガションガション、プヒー、ドルンドルン、ブロロロロォォォォンッ!と、セルゲイが一部壊れたDーホイールと合体したまま、黒煙を纏わせ、脱兎の如く駆動音を響かせ、ツンデレながらピットまで逃げ込む。

 

「……何だったんだ……?」

 

結局、遊矢には何が何だか分からなかった。それが、幸か不幸かは分からないが。



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第153話 完璧な手札だ

フレンドシップカップのサーキットにて、2回戦第2試合、決勝への切符を賭け、チームランサーズとチームセキュリティがぶつかっていた。

現在、ファーストホイーラー、榊 遊矢とセルゲイ・ヴォルコフのデュエルに決着がつき、遊矢が勝利、セルゲイが乙女ムーヴを見せて観客の一部が何かを察して驚きの表情を見せる中、完璧に食われたセカンドホイーラー、デュエルチェイサー227がDーホイールを発進し、戸惑いながらもデッキから1枚のカードを引き抜く。

 

「お、俺のターン、ドロー!『神の恵み』の効果で回復……」

 

デュエルチェイサー227 LP4000→4500

 

「完璧な手札だ……永続魔法、『補給部隊』を発動し、『ジュッテ・ロード』を召喚!」

 

ジュッテ・ロード 攻撃力1600

 

現れたのは着物に袴と奉行の姿をし、十手を構えたモンスターだ。セキュリティ御用達の戦士族モンスター、汎用性では『ゴブリンドバーグ』に劣るのが欠点ではあるが、攻撃力の高さや表示形式が変わらない点でシンクロを封じられた際に『ジュッテ・ナイト』の効果を活かせるのが利点だ。

 

「召喚時、手札から『ジュッテ・ナイト』を特殊召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

次は提灯を背負い、眼鏡に髷、着物と十手と役人風のチューナーモンスター。早速チューナーと非チューナーが揃った。

 

「レベル4の『ジュッテ・ロード』に、レベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!シンクロ召喚!『ゴヨウ・ガーディアン』!!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800

 

シンクロ召喚、『ジュッテ・ナイト』が2つのリングとなって弾け飛び、『ジュッテ・ロード』を包み込んで閃光がフィールドを照らし出す。真っ白な背景を裂き、現れたのは白化粧に赤い隈取りを描いた歌舞伎役者風の岡っ引き。『ゴヨウ』モンスターの代表格と言うべき強力なシンクロモンスターだ。とは言えペンデュラム相手では少々勝手が異なる為、真価を発揮出来ないが。

 

「バトル!『ゴヨウ・ガーディアン』で『降竜の魔術師』へ攻撃!ゴヨウ・ラリアット!」

 

榊 遊矢 LP1400→1000

 

「ぐっ――!」

 

『ゴヨウ・ガーディアン』が『降竜の魔術師』に向かって縄付きの十手を投擲し、グルグルに絡め取って自陣のフィールドに連れ込もうとするが――光の粒子となって消え去る。ペンデュラムモンスター故、墓地に送れない為だ。軽くカルチャーショックに陥る『ゴヨウ・ガーディアン』であった。

 

「カードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

デュエルチェイサー227 LP4500

フィールド『ゴヨウ・ガーディアン』(攻撃表示)

『補給部隊』『補充部隊』『神の恵み』セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『降竜の魔術師』!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

「カードを1枚セット、バトルだ!相克で『ゴヨウ・ガーディアン』へ攻撃!」

 

「罠発動!『進入禁止!NoEntry!!』攻撃表示のモンスターを全て守備表示に変更!」

 

発動されるのは表示形式変更カード。『地縛原』の効果で封じられているのはあくまでも1ターンに1度の表示形式変更のルール。カードの効果はその限りでない為、有効だ。『ゴヨウ』モンスターの戦闘補助の為、彼等セキュリティのデッキにはこのような表示形式操作系が投入されている。

 

「ターンエンドだ!」

 

だがそれでも勢いに乗っているのは遊矢だ。セルゲイとのデュエルで消耗しているとは言え、ペンデュラムモンスターを大幅に強化し、支える『涅槃の超魔導剣士』の力は絶大と言える。このカードと『オッドアイズ』が噛み合いさえすれば、ワンショットキルも夢ではない。今の遊矢は正しく手負いの獣。細心の注意を払わなければならない。

 

榊 遊矢 LP1000

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(守備表示)『降竜の魔術師』(守備表示)『相克の魔術師』(守備表示)

『闇次元の解放』セット1

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『EMリザードロー』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 LP4500→5000

 

「『トラパート』を召喚!」

 

トラパート 攻撃力600

 

現れたのは円盤状の物体から上下に身体を持ち、双子に別れたマスコットのようなモンスターだ。

 

「俺のフィールドに戦士族モンスターが存在する事で、手札の『キリビ・レディ』を特殊召喚する!」

 

キリビ・レディ 守備力100

 

お次はたらこ唇が特徴的な、火打ち石をカチカチと鳴らす少女のモンスター。かなり容易な特殊召喚条件を持ったカードだ。

 

「レベル1の『キリビ・レディ』に、レベル2の『トラパート』をチューニング!お上の力を思い知れ!シンクロ召喚!現れろ!『ゴヨウ・ディフェンダー』!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

新たにフィールドに呼び出されたのはレベル3の『ゴヨウ』シンクロモンスター。シンクロモンスターとしても異質な低レベルモンスターだ。卵のような体型に、『ゴヨウ・ガーディアン』と同じ白化粧と赤い隈取り、岡っ引きの姿をしたカード。『ゴヨウ』デッキでは優秀な壁となる。

 

「『ディフェンダー』の効果で同名モンスターをエクストラデッキからリクルート!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

「2体目の効果も使う!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

あっと言う間に大量展開。これこそが『ゴヨウ・ディフェンダー』の強みだ。同系統のモンスターが存在する時しか発動出来ないと言う厳しい条件があるが、それさえ満たせば後は何のデメリットもない。

 

「そして永続魔法、『連合軍』を発動!俺のフィールドの戦士族の攻撃力は、自軍の戦士族と魔法使い族の数×200アップする!フィールドには4体の戦士族!よって800のアップだ!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800→3600

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000→1800×3

 

数を活かした戦術を見せる227。本来であれば戦士族デッキに統一し、『一族の結束』にしておけば楽に安定した強化を受けられるのだが、このデュエルはフィールド、墓地を共有するチームデュエル。悪魔族を使用するセルゲイや、昆虫族を使用するセクトとは噛み合わない為、彼はデッキを調整している。

 

「『ゴヨウ・ガーディアン』を攻撃表示に変更、バトルだ!2体のディフェンダーで『魔術師』を、ガーディアンで『オッドアイズ』に攻撃!」

 

『ゴヨウ』モンスターの連続攻撃が遊矢のペンデュラムモンスターの布陣を崩す。これで、遊矢のモンスターゾーンはがら空きとなった。

 

「3体目の『ゴヨウ・ディフェンダー』で、ダイレクトアタック!」

 

榊 遊矢 LP1000→0

 

最後の『ゴヨウ・ディフェンダー』の十手が遊矢を貫き、LPを削り取る。これで1勝1敗、互角となった。グッ、と拳を握る227。そんな中――。

 

「なぁ……」

 

「?」

 

「アンタは何で、セキュリティになろうと思ったんだ――?」

 

不意に、遊矢が彼に問いかける。向けられる真剣な眼差しに、思わず227がたじろぐが、遊矢はそのままピットへと戻り、セカンドホイーラーであるセレナへとバトンを渡す。

 

「――俺が、セキュリティになった理由――?」

 

ポツリと呟き、思考する。セキュリティになろうと思った理由。何年前の事だろうか。朧気で、最早忘れてしまっている記憶。あれは確か――。

 

「おい、何をボケッとしている。随分余裕だな」

 

と、そこでセレナが並走し、思考を中断させる。今はそれよりデュエルだ。頭を振り、目の前の敵に集中する。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

セレナがジトリとした視線をデッキトップへと移し、カードを引き抜き、戦術を練る。まずは――。

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『闇次元の解放』をコストに2枚ドロー!」

 

セレナ 手札5→7

 

「速攻魔法、『ダブル・サイクロン』を発動!私のフィールドのリザードローと、相手フィールドの『連合軍』を破壊!そして『月光狼』をセッティング!ペンデュラム召喚!『月光紫蝶』!『月光狼』!」

 

月光紫蝶 攻撃力1000

 

月光狼 攻撃力2000

 

振り子の軌跡で現れたのは紫色の人型の蝶と、女性のワーウルフだ。

 

「リバースカード、オープン!魔法カード、『置換融合』!フィールドの『月光紫蝶』と、『月光狼』で融合!融合召喚!現れ出でよ!月明かりに舞い踊る美しき野獣!『月光舞猫姫』!!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400

 

融合召喚、セレナが得意とする召喚法で呼び出されたのは、赤い毛を揺らす、踊り子のような姿をした猫の獣人だ。

 

「墓地の『置換融合』を除外、『EMガトリングール』をエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

セレナ 手札3→4

 

「そして墓地の『月光紫蝶』を除外し、手札から『月光蒼猫』を特殊召喚する!」

 

月光蒼猫 攻撃力1600

 

お次は青い毛並みをした猫の獣人。『ムーンライト』において重要な位置に存在するモンスターだ。シュタリとセレナのフィールドに降り立ち、毛を逆立たせて『ゴヨウ』モンスターに威嚇する。

 

「特殊召喚に成功した事で、舞猫姫の攻撃力を倍加する!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400→4800

 

「そして舞猫姫の効果で蒼猫をリリースし、このターン、相手モンスターは1度だけ破壊されず、このカードは全てのモンスターに2回ずつ攻撃可能となる!カードを3枚セット、バトルだ!舞猫姫で攻撃――」

 

「させん!アクションマジック、『ブラインド・ブリザード』!バトルフェイズを終了する!」

 

強化された舞猫姫が全体攻撃をすれば、227のLPは大きく削り取られ、オーバーキルとなってしまう。流石にこんなに早く退場は勘弁願いたいと227が必死にアクションカードを掴み、デュエルディスクに叩きつけ、難を逃れる。

 

「フン、ターンエンドだ」

 

セレナ LP4000

フィールド『月光舞猫姫』(攻撃表示)

セット3

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『月光狼』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 LP5000→5500

 

「魔法カード、『マジック・プランター』を発動!『神の恵み』をコストに、2枚ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札0→2

 

「魔法カード、『戦士の生還』を発動!墓地から『トラパート』を回収し、召喚!」

 

トラパート 攻撃力600

 

「レベル3の『ゴヨウ・ディフェンダー』に、レベル2の『トラパート』をチューニング!地獄の果てまで追い詰めよ!見よ!清廉なる魂!シンクロ召喚!出でよ、『ゴヨウ・チェイサー』!」

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力1900→2800

 

現れたのはレベル5に調整された『ゴヨウ』モンスターの1体だ。白化粧と赤い隈取り、手に持ったのは十手。『ゴヨウ・ガーディアン』の後輩にあたるモンスターと言える。

 

「バトル!『ゴヨウ・チェイサー』で『月光舞猫姫』へ攻撃!『トラパート』を素材とした戦士族シンクロモンスターの攻撃時、相手はダメージステップ終了まで罠を発動出来ない!」

 

「だが舞猫姫は戦闘で破壊されない!」

 

セレナ LP4000→3600

 

227の武器は表示形式変更系のカードを駆使し、『ゴヨウ』モンスターの戦闘補助、そのまま破壊に繋げモンスターのコントロールを奪う事だ。

セレナはその事を知ってか、この戦闘耐性を持つ舞猫姫を場に残した。墓地に送られさえしなければ、ある程度コントロール奪取を封じる事が出来る。

 

「『ゴヨウ・ガーディアン』で追撃!」

 

「かかったな!罠発動!『幻獣の角』!舞猫姫に装備し、攻撃力を800アップ!」

 

「何ッ!?」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400→3200

 

舞猫姫が持つナイフが神秘的な光を帯び、黄金に輝く『幻獣の角』を使用した物となり、『ゴヨウ・ガーディアン』を返り討ちにする。見事なカウンターだ。

 

デュエルチェイサー227 LP5500→5100

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力2800→2500

 

「うぐっ――!」

 

「そして『幻獣の角』を装備したモンスターが相手モンスターを戦闘破壊した事で、1枚ドロー!」

 

「こちらも『補給部隊』の効果でドローする!」

 

セレナ 手札0→1

 

デュエルチェイサー227 手札1→2

 

戦闘破壊を引き金に、互いのデッキより1枚のカードが引き抜かれる。このままではセレナのペースに引き込まれる。227は舌打ちを鳴らし、何とか応戦しようと考える。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

デュエルチェイサー227 LP5100

フィールド『ゴヨウ・チェイサー』(攻撃表示)『ゴヨウ・ディフェンダー』(攻撃表示)×2

『補給部隊』『補充部隊』セット2

手札0

 

「私のターン、ドロー!手札の『月光黒羊』を捨て、デッキから『置換融合』をサーチ!ペンデュラム召喚!『月光狼』!」

 

月光狼 攻撃力2000

 

「罠発動!『ペンデュラム・リボーン』!エクストラデッキから『EMリザードロー』を呼ぶ!」

 

EMリザードロー 守備力600

 

「『月光狼』のペンデュラム効果により、墓地の『月光黒羊』と『月光蒼猫』を除外し、融合!融合召喚!『月光舞猫姫』!!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400

 

「そして魔法カード、『置換融合』!力を借りるぞ遊矢!フィールドの『月光舞猫姫』と『EMリザードロー』で融合!融合召喚!『EMガトリングール』!」

 

EMガトリングール 攻撃力2900

 

セレナと遊矢のモンスターが力を合わせ、フィールドに現れたのは遊矢の融合モンスター、ガトリングールだ。先のターン回収され、素材の相性の良さもあって呼び出されたのだろう。ガトリング砲を唸らせ、無数の弾丸が撃ち出される。

 

「効果発動!お前に2400のダメージを与える!」

 

「罠発動!『もの忘れ』!モンスター効果を無効にし、守備表示に変更する!」

 

「逃れたか、舞猫姫の効果で『月光狼』をリリースし、全体攻撃を可能とする!バトル!舞猫姫で攻げ――」

 

「そちらもさせん!罠発動!『強制脱出装置』!舞猫姫をバウンスする!」

 

「舞猫姫!?」

 

追撃にかかるセレナだが、227が発動したトラップにかかり、エースを失ってしまう。しまったと思うも、時既に遅し、舞猫姫は宙高く吹き飛ばされ、エクストラデッキへ戻る。

 

「おのれ――私はカードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

セレナ LP3600

フィールド『EMガトリングール』(守備表示)

セット2

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『月光狼』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ふっ、厄介なモンスターもいなくなった事だ。反撃と行こう!バトル!『ゴヨウ・チェイサー』で『EMガトリングール』へ攻撃!」

 

「くっ、せめて罠が使えれば……!」

 

「『ゴヨウ・チェイサー』の効果により、『EMガトリングール』を墓地より攻撃力を半減し、特殊召喚する!」

 

EMガトリングール 攻撃力2900→1450

 

『ゴヨウ・チェイサー』が縄付き十手をガトリングールに投擲し、グルグルと巻きつけて自陣へと引っ張り込む。攻撃力が落ちるのは痛手であるが、やはりコントロール奪取は強力だ。

 

「そのままガトリングールで攻撃!」

 

「永続罠発動!『闇次元の解放』!除外されている『月光蒼猫』を特殊召喚!」

 

月光蒼猫 守備力1200

 

「守備表示……攻めるべきか、ガトリングールで攻撃!」

 

「かかってくれたか!罠発動!『月光輪廻舞踊』!蒼猫の効果で『月光虎』をリクルートし、このカードの効果で『月光彩雛』と『月光黒羊』をサーチする!」

 

月光虎 守備力800

 

意を決し、227が攻めるもそれはセレナの罠。直ぐ様小柄な虎の獣人がフィールドに呼び出され、2枚のカードがセレナ手札に渡る。これである程度反撃の準備が整った。

 

「チッ、カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

デュエルチェイサー227 LP5100

フィールド『ゴヨウ・チェイサー』(攻撃表示)『ゴヨウ・ディフェンダー』(攻撃表示)×2『EMガトリングール』(攻撃表示)

『補給部隊』『補充部隊』セット1

手札0

 

「私のターン、ドロー!手札の『月光黒羊』を捨て、2枚目の『置換融合』をサーチ!さぁ行くぞ!ペンデュラム召喚!『月光彩雛』!『月光狼』!」

 

月光彩雛 守備力800

 

月光狼 攻撃力2000

 

天空の魔方陣が輝きを増し、振り子が揺れ、大穴が開く。中より2本の光が飛び出して、フィールドに現れ立ち、轟音を鳴らす。

再びのペンデュラムで呼び出されたのは先程のターンでも呼ばれたモンスターに加え、鮮やかな黄色に染まった『ハーピィ』の雛のようなモンスターだ。『ムーンライト』において、素材軽減やサルベージ等、どれをとっても欠かせない優秀な効果を兼ね備えている。

 

「『月光彩雛』の効果により、エクストラデッキから『月光舞豹姫』を落とし、このカードを墓地に送ったモンスターと同名扱いにする!そして魔法カード、『置換融合』!フィールドの『月光舞豹姫』となった『月光彩雛』と、『月光虎』、そして『月光狼』で融合!融合召喚!現れ出でよ!月光の原野の頂点に立って舞う百獣の王!『月光舞獅子姫』!!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500

 

フィールドに舞い降りるのはセレナが持つ最強の切り札。装着した月の仮面がバキリとひび割れ、美しく、凛々しい顔が露となる。逆立つ白い鬣、左耳から伸びる三日月の飾り、左腕にも装備しており、右手には妖しい輝きを放つ剣が握られ、腰の赤布が尾とともに揺らめく。これこそが満月の百獣女王。全てを切り裂く最上級の融合モンスターだ。

 

「まだだ!『月光彩雛』が効果によって墓地に送られた事で、墓地の『置換融合』をサルベージ!『月光狼』の効果で墓地の『月光舞豹姫』、『月光彩雛』、『月光蒼猫』を除外し、融合!融合召喚!『月光舞獅子姫』!!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500

 

更に2体目、恐るべきモンスターがフィールドに並び立つ。

 

「そして彩雛が除外された事で、このターン、お前はバトルフェイズ中に効果を発動出来ない!」

 

「ならここで使う!罠発動!『威嚇する咆哮』!攻撃宣言を封鎖する!」

 

「そう来るか……だが防戦一方でどうにかなるものかな?カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

セレナ LP3600

フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)×2

セット1

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『月光狼』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札0→3

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ……!」

 

デュエルチェイサー227 LP5100

フィールド『ゴヨウ・チェイサー』(攻撃表示)『ゴヨウ・ディフェンダー』(攻撃表示)×2『EMガトリングール』(攻撃表示)

『補給部隊』『補充部隊』セット3

手札0

 

「私のターン、ドロー!私の優勢だな!このまま臆さず攻める!ペンデュラム召喚!『月光狼』!『月光虎』!」

 

月光狼 攻撃力2000

 

月光虎 守備力800

 

「そして魔法カード、『置換融合』!フィールドの『月光虎』と『月光狼』で融合!融合召喚!『月光舞猫姫』!!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400

 

「これで終わると思うなよ?『月光狼』のペンデュラム効果により、墓地の『月光舞猫姫』と『月光黒羊』を融合!月明かりに舞い踊る美しき野獣よ!漆黒のやみに潜む獣よ!月の引力により渦巻きて新たなる力と共に生まれ変わらん!融合召喚!現れ出でよ!月光の原野で舞い踊るしなやかなる野獣!『月光舞豹姫』!」

 

月光舞豹姫 攻撃力2800

 

更に融合、現れたのは艶のある黒髪を目を隠すように切り揃え、豹の獣耳を生やした獣人。肘からは三日月を模した黄金の刃が伸び、手首には三日月と鈴のブレスレットが回転、太く力強い手足を伸ばした捕食者が今、獅子の下、猫と共に集う。

 

「舞豹姫の効果発動!このターン、相手モンスターは1度の戦闘耐性を得、このカードは全ての相手モンスターへ2回攻撃が可能となる!更に舞猫姫の効果で舞獅子姫をリリース、このカードにも全体攻撃権を与える!バトル!舞猫姫でガトリングールに攻撃!」

 

「アクションマジック、『クイック・ガード』!舞猫姫を守備表示に変更!」

 

デュエルチェイサー227 LP5100→5000

 

「舞豹姫でガトリングールへ攻撃!」

 

デュエルチェイサー227 LP5000→3650

 

「『補充部隊』の効果でドロー!」

 

デュエルチェイサー 手札0→1

 

先陣を切ったのは2番手である舞豹姫。しなやかに場を跳躍し、ガトリングールに向かって飛び蹴りを放つ。衝撃が脚から伝わり、ガトリングールが倒れ、地面にキスしたままひびが走る。

 

「もう1度攻撃ィ!」

 

デュエルチェイサー227 LP3650→2300

 

更にその場で1回転、再びガトリングールが両足で踏みつけられる。

 

「くっ、『補給部隊』と『補充部隊』の効果でドロー!」

 

「こちらも舞豹姫がモンスターを戦闘破壊した事で、バトルフェイズ終了まで攻撃力を200アップ!」

 

月光舞豹姫 攻撃力2800→3000

 

デュエルチェイサー227 手札1→2→3

 

「続いて『ゴヨウ・チェイサー』へ攻撃!」

 

「速攻魔法、『神秘の中華なべ』!『ゴヨウ・チェイサー』をリリースし、攻撃力をLPに変換!」

 

デュエルチェイサー227 LP2300→4800

 

「なら『ゴヨウ・ディフェンダー』を攻撃!」

 

「『ゴヨウ・ディフェンダー』の効果により、このカードは自分以外の地属性、戦士族のシンクロモンスターの数×1000攻撃力をアップ!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000→2000

 

デュエルチェイサー227 LP4800→3800

 

ガトリングールを破壊した後、舞豹姫がクルリと身体を翻してセレナのフィールドに舞い戻り、もう1度地を蹴って『ゴヨウ・ディフェンダー』に肉薄、相手が盾を構えるのにも気を止めず、野太い腕で殴り付ける。

 

「『補充部隊』の効果でドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札3→4

 

「もう1度だ!」

 

デュエルチェイサー227 LP3800→2800

 

ガツン、先程の攻撃を受け、持っていた盾が運悪く――いや、狙っていたのだろう。『ゴヨウ・ディフェンダー』の頭にぶつかり、クラリと来た所に第2擊が突き刺さる。残るは『ゴヨウ・ディフェンダー』たった1体。これで決まるか。

 

「舞豹姫の攻撃力アップ!」

 

「『補充部隊』の効果でドロー!」

 

月光舞豹姫 攻撃力3000→3200

 

デュエルチェイサー227 手札4→5

 

「『ゴヨウ・ディフェンダー』へ攻撃!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札5→6

 

「堪えるか……もう一撃だ!」

 

デュエルチェイサー227 LP2800→600

 

度重なる攻撃を受け、227のLPがついに3桁を切る。モンスターも0。彼にあるのは大量の手札とリバースカード1枚だけだ。

 

「ッ……!『補充部隊』の効果で2枚ドロー!」

 

月光舞豹姫 攻撃力3200→3400

 

デュエルチェイサー227 手札6→8

 

「最後だ!舞獅子姫でダイレクトアタック!」

 

「させん!手札の『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了!」

 

間一髪、後一息の所で227の手札からモンスターが投げ出されて彼の危機を救う。一命をとりとめ、彼に残るは大量の手札。これならば逆転も不可能ではない。問題は効果の対象とならず、効果破壊もされない舞獅子姫だ。

 

「私はこれでターンエンドだ!」

 

セレナ LP3600

フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)『月光舞豹姫』(攻撃表示)『月光舞猫姫』(守備表示)

セット2

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『月光狼』

手札0

 

ぶつかる2人のデュエリスト、セレナと227。この一戦が――ラストデュエルの、鍵を握る。



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第154話 虫ケラ

「俺のターン、ドロー!たっぷりと礼をさせてもらおう!まずは『切り込み隊長』を召喚!」

 

切り込み隊長 攻撃力1200

 

多くのデュエリストがぶつかり、火花を散らすフレンドシップカップ。2回戦第2試合、今対決していたのはチームランサーズ、チームセキュリティ、互いのチームのセカンドホイーラー、セレナとデュエルチェイサー227だ。現状は227のピンチ。

セレナのフィールドには強力な融合モンスターが4体、対する227はモンスターこそいないものの、先のターンで稼いだ手札がある。ここからが勝負所だ。

 

「召喚時、手札より『ソード・マスター』を特殊召喚!」

 

ソード・マスター 守備力0

 

二刀流の戦士が戦場に駆けつけ、隣に剣士が並ぶ。これでシンクロの準備が整った。

 

「まだ行くぞ!手札のモンスターを捨て、手札から『パワー・ジャイアント』を特殊召喚!」

 

パワー・ジャイアント 攻撃力2200 レベル6→5

 

「まだまだ!墓地の『グローアップ・バルブ』の効果!デッキトップをコストに蘇生する!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

次は宝石を身体中に散りばめた巨人とギョロギョロと目を蠢かせる植物だ。流れるようなプレイング。デュエルチェイサーの称号は伊達ではない。

 

「さぁ、行くぞ!レベル3の『切り込み隊長』に、レベル3の『ソード・マスター』をチューニング!シンクロ召喚!『ゴヨウ・ガーディアン』!!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800

 

「もう一丁!レベル5の『パワー・ジャイアント』に、レベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!荒ぶる獣の牙持て捕獲せよ!シンクロ召喚!『ゴヨウ・プレデター』!」

 

ゴヨウ・プレデター 攻撃力2400

 

フィールドに現れたのは守護者と捕食者の『ゴヨウ』モンスター。岡っ引きと、マスクを被り、獣の牙を見せる役人だ。シンクロモンスターが2体、とは言えこのままではセレナに勝てない。

 

「魔法カード、『ミラクルシンクロフュージョン』!墓地のディフェンダー2体を除外し、融合を行う!融合召喚!出でよ、荘厳なる捕獲者の血統を受け継ぎし者!『ゴヨウ・エンペラー』!!」

 

ゴヨウ・エンペラー 攻撃力3300

 

更にここで融合召喚、現れたのは厳かなる玉座に腰かけた幼き皇帝。『ゴヨウ』系列を継いだモンスターだ。攻撃力3300、破格の数値だが、舞獅子姫には一歩届かない。

 

「だがそれでも――」

 

「届かないなら、届かせる!永続魔法、『連合軍』!効果は知っているな?」

 

ゴヨウ・エンペラー 攻撃力3300→3900

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800→3400

 

ゴヨウ・プレデター 攻撃力2400→3000

 

これで、227のモンスターがセレナのモンスターを超えた。

 

「面倒な……!」

 

「ここからが本番だ!バトル!『ゴヨウ・プレデター』で、『月光舞豹姫』へ攻撃!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!」

 

セレナ LP3600→3500

 

力を増した『ゴヨウ・プレデター』が鋭い牙を剥き出しにして唸り声を上げ、十手を振るって舞豹姫を打ち倒す。更に左腕で虚空を砕き、墓地に繋がる次元の渦を作り出し、十手を投げ込んで舞豹姫を引っ張り出す。

 

「戦闘破壊した事で、舞豹姫のコントロールを得て蘇生!ただし、与えるダメージは半分になるがな」

 

「こちらも罠発動!『月光輪廻舞踊』!『月光黒羊』と『月光紅狐』をサーチ!」

 

月光舞豹姫 攻撃力2800

 

「そのまま舞豹姫で舞猫姫へ攻撃!速攻魔法、『禁じられた聖杯』!舞猫姫の攻撃力を400アップし、効果を無効にする!」

 

月光舞猫姫 攻撃力2400→2800

 

「そして『ゴヨウ・エンペラー』の効果により、元々のコントロールが相手となるモンスターが相手モンスターを戦闘破壊した事で、その相手モンスターを蘇生、コントロールを得る!」

 

月光舞豹姫 攻撃力2800→3000

 

月光舞猫姫 攻撃力2400

 

次々と奪われ、227の強力な戦力となるモンスター達、最悪だ。

 

ついにセレナの牙城が崩れ去る。最強のモンスター、舞獅子姫の撃破。この結果は227にとってもセレナにとっても大きい。幸いなのは舞獅子姫は融合召喚でしか特殊召喚不可能の為、コントロールが奪われない事か。

 

「続けて『ゴヨウ・エンペラー』で舞獅子姫へ攻撃!」

 

セレナ LP3500→3300

 

「くあっ――!」

 

『ゴヨウ・エンペラー』の口から火炎が放たれ、舞獅子姫を呑み込む。ついにセレナの牙城が崩れ去る。最強のモンスター、舞獅子姫の撃破。この結果は227にとってもセレナにとっても大きい。

幸いなのは舞獅子姫は融合召喚でしか特殊召喚不可の為、コントロールが奪われない事か。

そしてがら空きの所へ――。

 

「舞猫姫でダイレクトアタック!」

 

舞猫姫の踵落としが突き刺さる。

 

セレナ LP3300→3250→2050

 

「ぐあっ!」

 

「最後だ!『ゴヨウ・ガーディアン』でダイレクトアタック!」

 

「させん!アクションマジック、『回避』!」

 

「逃れたか……ターンエンドだ!」

 

デュエルチェイサー227 LP600

フィールド『ゴヨウ・エンペラー』(攻撃表示)『ゴヨウ・ガーディアン』(攻撃表示)『ゴヨウ・プレデター』(攻撃表示)『月光舞豹姫』(攻撃表示)『月光舞猫姫』(攻撃表示)

『補給部隊』『補充部隊』『連合軍』セット1

手札0

 

「私のターン、ドロー!私は墓地にある2枚の『置換融合』の効果発動!このカードを除外し、墓地の『月光舞獅子姫』をエクストラデッキに戻してドローする!」

 

セレナ 手札4→5→6

 

「そしてペンデュラム召喚!『月光狼』!『月光虎』!『月光紅狐』!」

 

月光狼 攻撃力2000

 

月光虎 攻撃力1200

 

月光紅狐 攻撃力1800

 

「魔法カード、『死者への手向け』!手札を捨て、『ゴヨウ・エンペラー』を破壊!」

 

『ゴヨウ・エンペラー』が破壊された事で、彼のフィールドへ移った2対の『ムーンライト』モンスターに異常が起こる。

 

「『ゴヨウ・エンペラー』がフィールドを離れた事により、モンスターのコントロールは元々の持ち主へと戻る……!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札1→2

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力3400→3200

 

ゴヨウ・プレデター 攻撃力3000→2800

 

「カードを2枚セット、バトル!」

 

「アクションマジック、『大脱出』!バトルを終了!」

 

「チ、メインフェイズ2、私は手札の『月光黒羊』を捨て、デッキから『融合』をサーチ!発動!フィールドの『月光舞豹姫』と『月光狼』、『月光狼』で融合!融合召喚!『月光舞獅子姫』!!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500

 

セレナの想いに応え、再び彼女の切り札がフィールドに帰還する。威風堂々、凛々しい姿をした獣の女王。重い素材に関わらず、このカードを何度も呼び出せるのがペンデュラムの利点であり、彼女の腕前だ。

 

「ターンエンド」

 

セレナ LP2050

フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)『月光舞猫姫』(攻撃表示)『月光紅狐』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『月光狼』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!モンスターをセット、バトル!『ゴヨウ・ガーディアン』で『舞猫姫』へ攻撃!」

 

「罠発動!『デストラクト・ポーション』!『月光紅狐』を破壊し、その攻撃力分LPを回復!更に紅狐が効果で墓地に送られた事で、『ゴヨウ・ガーディアン』の攻撃力をターン終了時まで0にする!」

 

セレナ LP2050→3850

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力3200→0

 

「だがモンスターが減った事でバトルは巻き戻る。『ゴヨウ・プレデター』で舞猫姫へ攻撃!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、舞猫姫の効果を奪う!」

 

セレナ LP3850→3450

 

「効果でコントロールを奪う!」

 

月光舞猫姫 守備力2000

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

デュエルチェイサー227 LP600

フィールド『ゴヨウ・ガーディアン』(攻撃表示)『ゴヨウ・プレデター』(攻撃表示)『月光舞猫姫』(攻撃表示)セットモンスター

『補給部隊』『補充部隊』『連合軍』セット2

手札0

 

「私のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『月光狼』!『月光虎』!」

 

月光狼 攻撃力2000

 

月光虎 守備力800

 

「カードを1枚セットし、バトルに入る!『月光狼』がモンスターゾーンに存在する限り、私の『ムーンライト』モンスターは貫通効果を得る!『月光舞獅子姫』で舞猫姫へ攻撃!」

 

「罠発動!『レインボー・ライフ』!アクションマジックを捨て、このターンのダメージを回復に変換する!」

 

デュエルチェイサー227 LP600→2100

 

227の周囲に虹色のバリアが発生し、降り注ぐ火花が恵みの雨と化す。こちらもセレナに負けじとLPを回復して来た。面倒なものだ。少しでも早く倒して後続のユーゴを楽にさせたいと言うのに。

 

「だが舞獅子姫が攻撃したダメージステップ終了時、貴様のフィールドに特殊召喚されたモンスターを全て破壊!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札0→1

 

「セットモンスターに追撃、メインフェイズ2、『月光狼』のペンデュラム効果を使い、墓地の舞豹姫、舞猫姫、黒羊を除外し、融合!融合召喚!『月光舞獅子姫』!!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500

 

「ターンエンドだ」

 

セレナ LP3450

フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)×2『月光狼』(攻撃表示)『月光虎』(守備表示)

セット2

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『月光狼』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

デュエルチェイサー227 LP2100

フィールド

『補給部隊』『補充部隊』『連合軍』セット2

手札1

 

「私のターン、ドロー!万策尽きたか?バトル!『月光舞獅子姫』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『リジェクト・リボーン』!バトルフェイズを終了し、墓地の『ゴヨウ・ガーディアン』と『トラパート』を特殊召喚!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800→3200

 

トラパート 守備力600

 

「しつこい奴だ……!ターンエンド!」

 

セレナ LP3450

フィールド『月光舞獅子姫』(攻撃表示)×2『月光狼』(攻撃表示)『月光虎』(守備表示)

セット2

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『月光狼』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!レベル6の『ゴヨウ・ガーディアン』に、レベル2の『トラパート』をチューニング!お上の威光の前にひれ伏すが良い!シンクロ召喚!『ゴヨウ・キング』!!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力2800→3000

 

シンクロ召喚、『ゴヨウ・ガーディアン』が更なる進化を遂げ、現れたのは『ゴヨウ・エンペラー』と双璧を為す、『ゴヨウ』モンスター達を統べる王。

そして――。

 

「魔法カード、『ミラクルシンクロフュージョン』!墓地の『ゴヨウ・プレデター』と『ゴヨウ・ディフェンダー』を除外し、融合!融合召喚!『ゴヨウ・エンペラー』!!」

 

ゴヨウ・エンペラー 攻撃力3300→3700

 

ゴヨウ・キング 攻撃力3000→3200

 

再びフィールドに現れる『ゴヨウ』の皇帝。切り札級のモンスター2体が揃った事により、セレナが舌打ちを鳴らして227のフィールドを睨む。攻撃力も『連合軍』の効果でセレナのモンスターを超えている。

 

「バトル!『ゴヨウ・キング』で『月光舞獅子姫』へ攻撃!この瞬間、『ゴヨウ・キング』の効果で攻撃力を400アップ!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力3200→3600

 

セレナ LP3450→3350

 

『ゴヨウ・キング』が腰元の鞘から美しい波紋を広げる日本刀を引き抜き、十手との二刀流で舞獅子姫を相手に果敢に攻める。舞獅子姫も妖しく閃く鶴来を振るって応戦するも、縄付き十手を投擲され、剣をグルグルと絡めてそのまま取り上げられ、隙を突かれて切り裂かれる。

 

「『ゴヨウ・キング』の効果発動!このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し、墓地に送った場合、相手モンスター1体を選んでコントロールを得る!この効果は対象を取らない効果だ!さぁ、いただこうか!『月光舞獅子姫』!」

 

「ッ、対象を取らない、コントロール奪取……!」

 

更に『ゴヨウ・キング』が十手をもう1体の『月光舞獅子姫』に投げつけ、縄で拘束して自軍に引き込む。舞獅子姫は隼の『RRーアルティメット・ファルコン』と違い、完全な効果耐性を持っていない。あくまで対象にならない効果と効果破壊耐性のみ。それでも充分強力なのだが――今はこうして僅かな隙を突かれ、最悪とも言って良い状況を作り出した。切り札である舞獅子姫を奪われたのだ。頼もしいカードが敵に回るとそれだけでも恐ろしい。

 

 

「舞獅子姫で『月光狼』へ攻撃!」

 

「速攻魔法、『異次元からの埋葬』!舞豹豹と彩雛、蒼猫を除外ゾーンから墓地に戻す!」

 

セレナ LP3350→1850

 

「ぐっ――!」

 

「舞獅子姫の効果でお前の特殊召喚されたモンスターを全て破壊!」

 

「『月光虎』の効果で墓地の、『ムーンライト』モンスター、蒼猫を蘇生!」

 

月光蒼猫 守備力1200

 

「チッ、舞獅子姫で2回目の攻撃!」

 

「蒼猫の効果で3体目をリクルート!」

 

「『ゴヨウ・エンペラー』の効果で蒼猫のコントロールを得る!」

 

月光蒼猫 攻撃力1600

 

月光蒼猫 守備力800

 

「そして蒼猫の効果で『月光舞獅子姫』の攻撃力を倍に!」

 

月光舞獅子姫 攻撃力3500→7000

 

「と言ってももう攻撃は出来んがな」

 

自身の切り札の連続攻撃を受け、見る見る内に戦力を削ぎ取られるセレナ。『月光蒼猫』と『月光虎』のお蔭で何とか凌いではいるが、どこまでもつか。

 

「蒼猫で蒼猫に攻撃!」

 

「蒼猫の効果で『月光狼』をリクルート!」

 

「『ゴヨウ・エンペラー』の効果ぁ!」

 

月光蒼猫 攻撃力1600

 

月光狼 守備力1800

 

「『ゴヨウ・エンペラー』で『月光狼』へ攻撃!」

 

「うっ……!」

 

「そしてこいつの攻撃が残っている。やれ、蒼猫!」

 

セレナ LP1850→250

 

「ぐっ、うっ――!」

 

強力な飛び蹴りが炸裂し、セレナのLPが大きく削り取られる。残るLPは3桁、このままでは少々不味い。だが一体、切り札級3体を相手にどうすればいいのか。

 

「ターンエンドだ!」

 

デュエルチェイサー227 LP2100

フィールド『ゴヨウ・エンペラー』(攻撃表示)『ゴヨウ・キング』(攻撃表示)『月光舞獅子姫』(攻撃表示)『月光蒼猫』(攻撃表示)×2

『補給部隊』『補充部隊』『連合軍』セット1

手札0

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『金満な壺』!墓地、エクストラデッキのペンデュラムモンスター3体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

セレナ 手札1→3

 

「魔法カード、『ハーピィの羽帚』!お前の魔法、罠カードを破壊!これでバックはがら空き!」

 

「だがそれでも俺の戦力が上だ!」

 

「それはどうかな?」

 

「何っ!?」

 

勝ち誇る227に対し、セレナがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。馬鹿な――この状況を覆すカードが、あると言うのかと227が怯む。

 

「お前は自分で私にチャンスを与えてしまったんだ!ペンデュラム召喚!『月光狼』!『月光虎』!」

 

月光狼 守備力1800

 

月光虎 守備力800

 

「速攻魔法、『死者への供物』!次のドローフェイズをスキップする代わりに、『ゴヨウ・エンペラー』を破壊!」

 

これがセレナの見いだした活路。最後の一手。確かに、コントロールを奪う『ゴヨウ』モンスターは強力だが、この『ゴヨウ・エンペラー』には大きなデメリットがある。そう、自身がフィールドを離れた場合、全てのモンスターのコントロールを、元々の持ち主に戻すと言う効果が。

 

「しまった――!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力3200→3000

 

これで、セレナのフィールドには2体の蒼猫と切り札である舞獅子姫が戻って来た。充分と言える戦力だ。

 

「バトル!舞獅子姫で、『ゴヨウ・キング』へ攻撃!」

 

デュエルチェイサー227 LP2100→1800

 

先程のお返しとばかりに舞獅子姫が鬣を逆立たせて地を蹴り、ひびを走らせ一瞬にして『ゴヨウ・キング』に肉薄、勢いのままに剣を『ゴヨウ・キング』に叩きつける。しかし『ゴヨウ・キング』も何とか反応し、日本刀と十手を重ね、ガキンと甲高い音を響かせて防ぐ。飛び散る火花、ギチギチと互いに押し引きを繰り返す中、舞獅子姫はじれったさを覚えたのか、舌打ちを鳴らしてその場で一回転。『ゴヨウ・キング』の脇腹に回し蹴りを食らわせ、怯んだ隙に鶴来を横薙ぎに一閃、『ゴヨウ・キング』を切り裂き、スッキリとした顔で剣についた血を振るう。

 

「くっ!」

 

「これでとどめだ!『月光舞獅子姫』で、ダイレクトアタック!」

 

デュエルチェイサー227 LP1800→0

 

剣が三日月の軌跡を描き、227のLPを削り取る。勝者、セレナ――。歓声が一際大きく降り注ぐ中、LPが0を刻む音を耳に入れ、227はデュエル最初、あの少年が呟いた一声に思いを馳せる。

 

(俺は――何の為に、セキュリティに、入ったんだろう……)

 

答えは最後まで、出る事はなかった。

 

『ついにセカンドホイーラーを倒し、王手をかけるチームランサーズ!チームセキュリティは後がない状況だぁーっ!』

 

そう、これでチームセキュリティの残るDーホイーラーは1人のみ。伊集院 セクト。元チームサティスファクションの1人にして、決闘竜を操るデュエリスト。相手にとって不足無し、セレナは鼻息をふんすと鳴らし、後方より来る彼に視線を移す。

 

「……む……」

 

そこにいたのは今までとは違い、漆黒の甲冑を纏い、黒のDーホイールに搭乗、最高に高めたフィールで、最強の力を手にしたセクトの姿。

 

「ヒヒヒ、ヒャハハハハハッ!まさか227は兎も角、セルゲイが倒されるとはなぁ!だがま、所詮アイツ等は俺に比べりゃムシケラも同然!良い気になってんじゃねぇぞ、その鼻っ柱へし折って、ぺしゃんこに踏み潰してやんよぉ!」

 

ゴウッ、暗黒のオーラを身体から噴出し、血走った眼でセレナを睨むセクト。凄まじいフィールだ。確かにこの男、あのセルゲイをも超えた実力を手にしたように見える。大粒の汗を額から流すセレナ。だが、彼女とて負ける気はない。せめて一太刀浴びせ、自身の切り札と遊矢の残したペンデュラムはユーゴに託して見せる。

 

「俺様のターン、ドロー!魔法カード、『ナイト・ショット』!セットカードを破壊!そして『地獄毒蛾』を召喚!」

 

地獄毒蛾 攻撃力1300

 

「効果発動!手札の同名カードを特殊召喚!」

 

地獄毒蛾 攻撃力1300

 

「更にフィールドに昆虫族モンスターが2体以上存在する事で、手札の『地獄針幼虫』を特殊召喚!」

 

地獄針幼虫 守備力600

 

「チューナーか……!」

 

これでレベル3のモンスターが2体と、レベル2のチューナーが1体、合計レベルは8。『地獄針幼虫』が闇属性である事も含めれば、この後登場するモンスターと、自ずと答えが出て来る。

 

「さぁ、行くぜぇ!レベル3の『地獄毒蛾』2体に、レベル2の『地獄針幼虫』をチューニング!魔神を束ねし蠅の王よ!ムシズの走る世界に陰りを!シンクロ召喚!『魔王龍ベエルゼ』!!」

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力3000

 

現れたのは蠅を思わせる胸部に、両肩から赤黒の竜を伸ばし、悲鳴を上げる女が磔となった異形のモンスター。決闘竜の1体にして、圧倒的な力を誇る暗黒の竜。これこそが伊集院 セクトのエースモンスター。攻撃力こそ舞獅子姫に劣るが――このモンスターは、舞獅子姫を正面から打ち倒す能力がある。

 

「確かにお前の舞獅子姫は強力なモンスターだが――生憎、俺様のベエルゼとはとことん相性が悪かったようだなぁ?」

 

「ッ!」

 

「ま、そのモンスターは後だ。俺様はカードを1枚セット、バトルだ!ベエルゼで『月光蒼猫』へ攻撃!魔王の赦肉祭!」

 

セレナ LP250→0

 

「ぐ、あぁぁぁぁっ!?」

 

ベエルゼの双頭に暗黒の瘴気が集まり、ブレスとして放たれ、セレナを呑み込む。0を刻むLP、これで互いにラストホイーラー同士の対決にまで漕ぎ着けた。

黒き竜の使い手、伊集院 セクトと、白き竜の使い手、ユーゴ。親友にして、敵同士の2人、最早断たれたとも言って良い絆を持つ2人の対決だ。鬼柳の為、セクトの為、チームの為、そして何より、自分自身の為に。ユーゴは幼馴染みと共に作り上げたDーホイールを疾駆させ、セクトに挑む。

 

「セクトォォォォォッ!!」

 

「来たか、ユーゴ……!」

 

興奮気味に猛々しく吠え、凄まじい速度で自身の背を追うユーゴに対し、ニヤリと敵意を含んだ笑みを浮かべ、彼を見下すセクト。

 

「テメェをぶっ倒して、正気に戻してやるぜ!」

 

「正気ぃ?俺は今だって正気だぜ?これが本当の俺様だ!つーかよぉ、今聞き捨てならねぇ事を言いやがったか?俺をぶっ倒すだの何だの……ふざけてんじゃねぇぞムシケラがぁっ!!力の差がまだ分からねぇのか!?俺様を見下ろしてんじゃねぇぞ!丁度良い、鬼柳共々、テメェは気に食わなかったんだ……当たり前のように俺を下に見るお前がなぁッ!」

 

「上等だぜ……小難しい事並べるよりも、そっちの方が分かりやすい、充分だよなぁ!ケンカの理由なんざ、気に食わねぇってだけでよぉっ!」

 

互いに火がついたように闘争心を剥き出しにし、睨み合う。元よりケンカっ早く短気なユーゴだ。遊矢と同じような真似をする気はない。彼は彼らしく――男は拳で語る。その方が単純で分かりやすいではないか。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

2つのDーホイールがサーキットで交差する中、ユーゴはデッキより5枚のカードを引き抜く。



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第155話 アリえねぇ

フレンドシップカップ、2回戦第2試合、ついにラストホイーラー同士のデュエルが始まった。カードはスピード重視の高速連続シンクロ召喚で意外にテクニカルに攻めるユーゴと、以前の堅実なデュエルと違い、圧倒的な力を持ったエースに全てを任せてパワーで捩じ伏せにかかる伊集院 セクト。

 

ユーゴのフィールドに存在するのは、遊矢が残してくれた高スケールのペンデュラムカード、『涅槃の超魔導剣士』と、セレナが残した『月光狼』。モンスターゾーンには彼女が残した『月光蒼猫』と『月光狼』、『月光虎』。そして強力な切り札である『月光舞獅子姫』が存在するが――余り状況は良いとは言えない。

何故ならセクトのフィールドには、このカードとは相性が良いとは言えないエースモンスター、『魔王龍ベエルゼ』がいるからだ。戦闘、効果で破壊されず、受けたダメージを攻撃力へと変換する成長性を有したシンクロモンスター。面倒なカードだ。早く退場させなければと鋭い目でベエルゼを睨むユーゴ。

 

そんな彼等の対決を――評議会のモニター越しに、ジッと無言を貫き、見つめる少女が1人――記憶喪失となった、柊 柚子似の少女、リン。ユーゴの幼馴染みだ。正直今の彼女としてはユーゴに苦手意識しかないのだが、彼が見ろと言ったので仕方無く、そう、本当に仕方なくである。大切なカードを取られた事もあり、彼のデュエルを見届けなければならない。の、だが――。

 

「……ユーゴ……」

 

真剣な彼の表情を見て、彼女の頭の奥で、何かが目を覚まそうとしていた――。

 

――――――

 

一方、治安維持局にて、セルゲイが敗北してから目に見えて落ち込むロジェの背後で、モニターをジッと見つめる存在がいた。彼の上司、プラシドだ。彼はセクトのデュエルが始まってから、無言を貫き、目を離さずにモニターばかり見ている。その瞳に秘めた想いは、如何様なものか。

 

「……」

 

思えば、彼にベエルゼのカードを渡した、彼を唆したのはプラシドだったか。自身が彼の劣等心を利用している事に、何か思うところがあるのかもしれない。

 

「……」

 

だが、その瞳に滲むものは、それだけではなく――

 

――――――

 

「俺のターン!」

 

場所は再びサーキットに戻る。ターンはセレナが敗北した事で、強制的にユーゴのものへ。とは言ってもセレナが最後に発動した魔法カード、『死者への供物』の効果でドローフェイズはスキップされるが。フィールドに充分な戦力が存在している為、そこまで痛くはない。

 

「俺は『SR電々大公』を召喚!」

 

SR電々大公 攻撃力1000

 

現れたのは金髪をリーゼント風に固め、赤いマントを纏ったでんでん太鼓を持った貴族。レベル3のチューナーモンスターだ。どうやら早速得意のシンクロを披露するつもりらしい。

 

「さぁ、行くぜ!レベル4の『月光蒼猫』に、レベル3の『SR電々大公』をチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

現れたのはユーゴの最も信頼するエースモンスター、ミントグリーンの双翼を広げ、青と白のカラーリングで身体を染めたドラゴンだ。互いに1ターン目からエースを呼び出す全開モード。2体の竜がフィールドで咆哮し、睨み合う。

 

「いきなり『クリアウィング』の登場か。焦ってるのか?ユーゴぉ」

 

「さぁな、俺は『月光狼』と『月光虎』を攻撃表示に変更!バトルだ!『月光虎』でベエルゼに攻撃!『涅槃の超魔導剣士』のペンデュラム効果発動!戦闘ダメージと破壊を防ぎ、ベエルゼの攻撃力を『月光虎』の攻撃力分、ダウン!」

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力3000→1800

 

「榊 遊矢の残したカードか……」

 

ベエルゼは破壊されない効果を持つが、無敵と言う訳ではない。遊矢とセレナの残したカードを使い、ベエルゼの攻撃力を下げにかかるユーゴ。

 

「『月光狼』でベエルゼに攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!」

 

「なら『月光舞獅子姫』でベエルゼに攻撃!」

 

「チッ、ベエルゼの効果で受けたダメージを攻撃力に加える!」

 

伊集院 セクト LP4000→2300

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力1800→3500

 

とは言え与えたダメージが直ぐ様元に戻り、より強力となってベエルゼが吠える。これで再び手を出せなくなってしまったが――ユーゴにも考えがある。

 

「この瞬間、舞獅子姫の効果発動!ベエルゼは破壊出来ねぇが――本命はこっちだ!『クリアウィング』の効果で無効にして破壊!攻撃力を『クリアウィング』に加える!ダイクロイックミラー!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→6000

 

攻撃して舞獅子姫が自身の役目は終えたとばかりに光の粒子となって消え、『クリアウィング』に力を与える。これこそがユーゴの狙い。遊矢とセレナが託してくれたカードを駆使し、セクトの強力なモンスターを打ち砕く。

 

「何だと……っ!?」

 

「見たかセクト!これが俺達の力だ!行け、『クリアウィング』!ベエルゼに攻撃ィ!旋風の、ヘルダイブスラッシャーッ!!」

 

『クリアウィング』の翼が光輝き、自身を弾丸の如く撃ち出し、ベエルゼに迫る。魂を乗せた全力の一撃、『クリアウィング』の鋭い刃のような翼が今、ベエルゼを切り裂く――その、瞬間。

 

「何てなぁ!甘いんだよ、ツメがよぉ!罠発動!『ガード・ブロック』!戦闘ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

伊集院 セクト 手札1→2

 

「何っ!?」

 

セクトの嘲笑が、ユーゴの戦略を真っ向から打ち砕く。赤黒の竜の口元が吊り上がり、『クリアウィング』の翼に噛みつき、天空へと投げて遠ざける。そう、セクトは最初からユーゴの策を見抜いていたのだ。

 

「俺が気づかねぇと思ったか?アリえねぇんだよ、そんな事はぁ!テメェの薄っぺらい策なんざ、羽虫も当然なんだよ!」

 

「ぐっ!」

 

「むざむざ舞獅子姫まで失ってぇ、ご苦労様だなぁ、ユーゴぉ!」

 

彼の言う通り、これでユーゴは切り札級のモンスターである舞獅子姫を失ってしまった。ベエルゼと相性が悪いとは言え、かなり手痛い。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ……!」

 

ユーゴ LP4000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『月光狼』(攻撃表示)『月光虎』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『月光狼』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!さぁてバトルだ!ベエルゼで『クリアウィング』へ攻撃ィ!力の差を思い知らせてやれ!」

 

「永続罠、『追走の翼』!『クリアウィング』は戦闘、効果で破壊されない!」

 

「だがもう1つの効果であるレベル5以上のモンスターとの戦闘開始時、こちらのモンスターを破壊する効果はベエルゼには通じない!ベエルゼの真似事か?当然劣るがなぁ!」

 

ユーゴ LP4000→3000

 

「ぐっあ――!」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドぉ!精々楽しませてくれよぉ?」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『SRシェイブー・メラン』を召喚!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

ジャキン、ユーゴがデュエルディスクに叩きつけると同時にクルクルとブーメランが回転し、宙で変形してロボットのような形状となる。レベル4にして攻撃力2000と高めだが、当然デメリットは存在する。

 

「シェイブー・メランを守備表示に変更し、『クリアウィング』の攻撃力を800ダウン!『クリアウィング』の効果で無効にし、攻撃力をこのカードに加える!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

「バトルだ!『月光狼』で攻撃!『涅槃の超魔導剣士』のペンデュラム効果発動!」

 

「罠発動!『奇策』!手札の『地獄大百足』を捨て、その攻撃力2600分、『月光虎』の攻撃力をダウンする!」

 

「っ!」

 

月光虎 攻撃力2000→0

 

「ペンデュラムモンスターの攻撃力が0なら、変動値も0!言っただろう、お見通しなんだよ、テメェの考え位!さぁ、どうするぅ?」

 

「なら、『月光虎』で!」

 

「アクションマジック、『透明』ぃ!これでベエルゼは効果を受けないぜ。危ねぇ危ねぇ。次は何だ?その攻撃力の上がった『クリアウィング』でベエルゼに攻撃するか?」

 

「ぬっ、ぐ――する……!してやるよぉ!『クリアウィング』で、ベエルゼに攻撃!」

 

「そう来なくっちゃなぁ、このダメージ、ありがたく攻撃力に変換させてもらうぜぇっ!クロス・フィール!」

 

伊集院 セクト LP2300→1300

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力3500→4500

 

ゾゾォッ、ベエルゼに闇の瘴気が発生し、筋肉が膨張、ミシミシと音を立てながら成長する。ダメージを与えなくては勝てないが、与えれば攻撃力が上がるジレンマ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP3000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『月光狼』(攻撃表示)『月光虎』(攻撃表示)

『追走の翼』セット2

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『月光狼』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!罠発動!『地獄召喚』!墓地から『地獄大百足』を蘇生する!」

 

地獄大百足 攻撃力2600

 

フィールドに這い出したのは赤黒の巨大なムカデ。カサカサと脚を蠢かせ、ベエルゼの隣に並び立つ。『クリアウィング』の攻撃力を超えるモンスターが2体、これは少々不味いか。

 

「バトル!ベエルゼで『月光虎』へ攻撃!」

 

「罠発動!『仁王立ち』!『クリアウィング』の守備力を倍にし、除外、攻撃を絞る!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 守備力2000→4000

 

「チッ、ならそいつに攻撃変更!」

 

ユーゴ LP3000→1000

 

「ぐぅぅぅぅっ!?」

 

圧倒的なフィールの嵐がユーゴに降り注ぎ、苦悶の声を上げる。破壊こそされないが、度重なる猛攻を受け、『クリアウィング』の姿が傷だらけとなっていく。額は少々砕け、翼はガラスのようにひびが走った痛々しい姿。あの頼もしいユーゴのエースが嘘のような有り様だ。これが決闘竜の力、このベエルゼが放つフィールは鬼柳の持つ『煉獄竜オーガ・ドラグーン』をも凌いでいる。

 

「格下の三竜如きが勝とうなんざ、百年早いぜ!魔法カード、『七星の宝札』!『地獄大百足』を除外し、2枚ドロー!」

 

伊集院 セクト 手札0→2

 

「ターンエンドだ」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

手札2

 

「俺のターン、ドロー!クッ……カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『月光狼』(攻撃表示)『月光虎』(攻撃表示)

『追走の翼』セット2

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『月光狼』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!手札を交換、魔法カード、『ハーピィの羽帚』!お前の魔法、罠カードを全て破壊!」

 

「罠発動!『進入禁止!NoEntry!!』フィールドの攻撃表示で存在するモンスターを全て守備表示に変更!」

 

「ならベエルゼを攻撃表示に!『クリアウィング』へ攻撃ィ!」

 

「ぐあっ――!」

 

ここで漸く、ベエルゼの猛攻を前にして、『クリアウィング』が膝をつき、粉砕される。防戦一方、このままでは間違いなくジリ貧だと言うのに、――頼みのエースも倒された。

 

「どこまでもつか見物だなぁ?カードをセット、ターンエンド!」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「くっそ……俺のターン、ドロー!」

 

それでもユーゴは諦めない。諦める訳にはいかないのだ。ここで諦める事は許さない。誰よりも、ユーゴが。遊矢がセルゲイの絶対的な力に抗った。セレナが傷つきながらも227を倒した。鬼柳がボロボロになっても、セクトを救おうとした。

 

「だから俺は、諦めねぇ!2体のモンスターをリリース、アドバンス召喚!『SRビードロ・ドクロ』!」

 

SRビードロ・ドクロ 攻撃力0

 

現れたのはこの窮地を脱する事が出来るモンスター。髑髏と列車が合体したかのようなモンスターだ。高レベルにも関わらず、低い攻撃力と高い守備力、それだけ聞けば守備固めに向いたモンスターとも言えるが――このカードは極めて攻撃的でもある。このカードの登場にセクトも露骨な顔で舌打ちを鳴らす。

 

「そいつか……」

 

「バトルだ!ビードロ・ドクロでベエルゼに攻撃!こいつとの戦闘で発生するダメージは、相手が受ける!」

 

「確かに、ベエルゼに対抗するには打ってつけのモンスターだ。だが甘いんだよ!俺がそいつの事を忘れてると思ったか!罠発動!『次元幽閉』!攻撃モンスターを除外!」

 

「ぬぐっ――!」

 

だがこれでもセクトへは届かない。ユーゴの戦術を知り尽くしているのだろう。ニヤリと見透かした笑みを浮かべ、リバースカードで攻撃を防ぐ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ……!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ!ベエルゼでダイレクトアタック!」

 

「アクションマジック、『回避』ィ!」

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドォ!」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!まだ終わってねぇんだよ!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→3

 

ここで3枚の手札補充、ベエルゼを打ち倒すとなれば多くの手数が必要となる。このドローで対策カードを引き込めれば良いのだが――。

 

「これなら……!モンスターをセット、永続魔法、『補給部隊』を発動し、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP1000

セットモンスター

『補充部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『強制脱出装置』!ベエルゼをバウンスする!」

 

「破壊が出来ねぇからそれ以外の除去を狙おうって魂胆か。確かに有効だが……お前、この期に及んでまだ俺を舐めてんのか?」

 

「ッ!」

 

「自分のカードの弱点位、知らねぇ訳無いだろうが!カウンター罠、『ギャクタン』!その発動を無効にし、デッキに戻す!」

 

ダメージの押しつけにバウンス、破壊耐性をすり抜けての除去を狙うユーゴだが、尽く邪魔され、上手くいかない。ベエルゼだけではない。ベエルゼを使うセクトの実力も高いのだ。

 

「魔法カード、『マジカル・スカイ・ミラー』!テメェがさっきのターン使った『命削りの宝札』の効果を使う!3枚ドロー!」

 

伊集院 セクト 手札0→3

 

「バトル!ベエルゼでセットモンスターを攻撃ィ!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ユーゴ 手札0→1

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ。ベエルゼこそが最強無敵!テメェみたいなムシケラがどう足掻こうったって手も足も出ねぇんだよ!大人しくサレンダーでもするんだな!」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

「この野郎……俺のターン、ドロー!魔法カード、『復活の福音』!墓地のレベル7、8のドラゴン族モンスターを蘇生する!来い!『クリアウィング』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

再びユーゴのフィールドに『クリアウィング』が飛翔し、雄々しい咆哮を放って自らの存在を誇示する。対モンスターモンスターと言える『クリアウィング』ではあるが、現状ベエルゼに対しては無力だ。破壊されず、攻撃すればする程攻撃力が上がり、成長していくベエルゼ。対して『クリアウィング』は同じく攻撃力アップの効果はあるが、あくまで一時のもの。永続的に上がるベエルゼにはどうしても一歩届かない。

 

「今更『クリアウィング』か。確かにそいつは強力だが……俺様のベエルゼに比べれば羽虫も同然!いい加減気づけよ!テメェが俺より格下って事になぁ!」

 

「言ってくれるぜ……!魔法カード、『スピードリバース』!墓地のシェイブー・メランを蘇生!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

「効果発動!守備表示に変更し、ベエルゼの攻撃力を800ダウン!『クリアウィング』の効果で無効に!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

「バトルだ!『クリアウィング』でベエルゼに攻撃!この瞬間、罠発動!『ブレイクスルー・スキル』!ベエルゼの効果を無効に!」

 

「甘いっつってんだよ!ムシズが走るぜ!罠発動!『イタクァの暴風』!テメェのモンスターの表示形式を変更!」

 

「これでも届かねぇっつーのか……!?」

 

「何しても無駄だって事だ!」

 

多くのカードを駆使して狙う逆転も、たった1枚のカードで封じられる。手札が足りない、打点が足りない、足りないものだらけ。だがそんなもの――。

 

「コモンズなら当たり前だっつーの……!ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(守備表示)

『補給部隊』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!罠発動!『貪欲な瓶』!墓地の『手札抹殺』、『地縛救魂』、『命削りの宝札』、『死者蘇生』、『ハーピィの羽帚』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

伊集院 セクト 手札1→2

 

「墓地の『地獄毒蛾』2体を除外し、『デビルドーザー』を特殊召喚!」

 

デビルドーザー 攻撃力2800

 

現れたのは昆虫族モンスターの代表格、ピンク色の巨体を持った大百足のモンスターだ。その巨大さは『地獄大百足』に退けを取らず、地鳴らしのような音を轟かせながら地面より出現し、セクトのDーホイールに並走する。

 

「バトルに入るぜ!『デビルドーザー』で『クリアウィング』へ攻撃ィ!」

 

「墓地の『復活の福音』を除外し、破壊を防ぐ!」

 

「まぁそうするしかねぇよなぁ!だがそれは1度だけ!やれ、ベエルゼ!光栄に思えよ、このカードの贄となる事を!」

 

「まだだ!墓地の『SR三つ目のダイス』を除外し、攻撃を無効に!」

 

ベエルゼが待っていたとばかりに双頭の竜のアギトから舌を覗かせ、ペロリと舌舐めずりをした後、『クリアウィング』へと襲いかかる。しかしユーゴも負けていない。墓地から三角錐のサイコロを呼び出し、3つの面で別れてそれぞれ空中を飛翔、三角形のバリアを作り出し、ベエルゼから『クリアウィング』を守った。

 

「往生際の悪い……ターンエンドだ!」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)『デビルドーザー』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!カードを1枚セット、ターンエンドだ……!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!手も足も出ませんってかぁ!?バトルだ!『デビルドーザー』で『クリアウィング』へ攻撃!」

 

「罠発動!『強制終了』!『補給部隊』を墓地に送り、バトルフェイズを終了する!」

 

「あぁん?無駄な事を……諦めちまえば苦しまずに済むってのによぉ!カードを1枚セット、ターンエンド!」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)『デビルドーザー』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『強制終了』をコストに2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→2

 

「良し……これなら……俺は墓地の『スピードリバース』を除外、同じく墓地の『SRシェイブー・メラン』を手札に加える!そして召喚!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

「懲りねぇ奴だ……今度は墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外して相撃ち狙いかぁ?」

 

「どうかな?シェイブー・メランの効果を使い、『クリアウィング』で無効!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

「馬鹿の1つ覚えが……!」

 

「更に魔法カード、『ハイ・スピード・リレベル』!墓地から『SRシェイブー・メラン』を除外し、『クリアウィング』の攻撃力を、除外したモンスターのレベル×500アップし、同じレベルにする!」

 

「何ッ!?」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力4500→6500 レベル7→4

 

「バトルだ!『クリアウィング』で『デビルドーザー』に攻撃ィ!」

 

「ッ、罠発動!『デストラクト・ポーション』!『デビルドーザー』を破壊し、攻撃力分、LPを回復!」

 

伊集院 セクト LP2300→5100

 

「なら攻撃変更!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、ベエルゼの効果を無効に!行け、『クリアウィング』!」

 

「アリえねぇ……!」

 

『クリアウィング』の双翼が光を帯び、風を纏って一直線にベエルゼへと突き進む。白き閃光はベエルゼの双頭と激突し、打ち砕いて破壊。ベエルゼが悲鳴を上げて焦げ崩れる。

 

伊集院 セクト LP5100→3100

 

ベエルゼ、撃破――。しかしこの瞬間、セクトの肩が震え、ギリィッ、と歯軋りが鳴り響く。

 

「……ソが……!」

 

「?」

 

ズズズ、と不気味に広がり、霧散を繰り返す闇の瘴気、明らかに狼狽しているセクトを見て、ユーゴが彼の表情を覗き込む。もしや元通りの彼に戻ったのかと推測するが――。

 

「クソが、クソが、クソが、クソがぁぁぁぁぁッ!!ムシケラの分際で、俺を、俺を見下してんじゃねぇぇぇぇっ!!」

 

「ッ!?」

 

ゴォッ、今までにない闇のフィールが、彼を中心として吹き荒れ、突風がユーゴのDーホイールをあおる。強烈な衝撃、何とか体勢を正すも、彼を覆う瘴気が巨大過ぎて、近づく事もままならない。一体何が起こっているのか、いきなり豹変したセクトは怨嗟の籠った表情でドスの効いた罵声を放ちまくる。

 

「お前等は何時もそうだ!守ってやるとあたかも自分の方が上であるように俺を見下す!俺を守るべき弱者だと哀れんでいるんだ!どれ程強くなろうと、対等に近づこうとしようと、お前達は俺を認めない!ムシズが走るぜ……!俺を見ろ!俺を認めろ!俺はお前達の下にはいない!」

 

「セクト……!」

 

会場に響き渡る、セクトの悲痛なる魂の叫び。これがセクトの本音。あの時も、こんな事を想っていたのかとユーゴの胸がズキズキと痛む。彼がこうなってしまったのは、自分のせいなのかと。

 

「ッ!その眼で俺を見るなぁっ!その哀れみの籠った眼で、その見下した眼で俺を見るなぁっ!クソクソクソクソォ!ふざけやがって!俺は強い、強いんだ!認めさせてやる……この、力で!」

 

「上等だ……こうなったらお前ととことん向き合ってやる……お前をぶっ倒す!この俺の、全てを賭けて!」

 

胸の奥で染みのように広がる痛みを拭い、彼は親友である伊集院 セクトと向き合う事を覚悟する。彼の抱える闇は、ちっぽけなものかもしれない、大きなものかもしれない。だけど――どんなものであれ、ユーゴは彼を見ると決めた。彼ととことんぶつかり合うと決めた。これは最早、ただの喧嘩だ。互いの全てをぶつけ合う、信念を賭けたデュエル。

 

「俺を認めねぇなら、誰であろうとぶっ潰してやる!」

 

セクトもまた、強大な闇を纏い、血走った眼でユーゴを睨み、地獄の底から響くような声音を放ち、ユーゴに確かな敵意を示す。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド」

 

「罠発動!『奇跡の残照』!このターン戦闘破壊され、墓地に送られたモンスター1体を蘇生する!再びフィールドに顕現せよ!見下せ、『魔王龍ベエルゼ』ェッ!!」

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力3000

 

ユーゴ LP1000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

やっとの思いで倒したにも関わらず、再びフィールドに現れ、セクトを闇の呪縛に捕らえるベエルゼ。向かい合う2人のDーホイーラーと、白と黒の対照的な竜。激闘は、更に加速する――。



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第156話 BELIEVE IN NEXUS

絆とか迷ったけどユーゴに合わせるなら熱過ぎるこれかなって。今思えばもう少しユーゴとセクトの交流を書いた方が良かったと後悔。
ではユーゴ対セクト、クライマックスです。


伊集院 セクトはシンクロ次元、シティ、コモンズの生まれだ。彼も例外無く、他のコモンズ出身者同様、トップス達に日々蔑まれ、時には虐げられて来た。

思えばこの時、彼に折り目がついたのだろう。弱者として見られる苦痛、自分の存在を認められない孤独。

 

当時の彼自身がコモンズ内でも弱者だった事で、コモンズからも馬鹿にされる、と言う事実もまた拍車をかけていた。

人間と言うものは、故意でも自然でも、自分よりも下を作り出そうとするものだ。彼はその中でもカースト下位にあったと言う事である。親兄弟もいない孤児。

 

唯一彼が笑みを浮かべられている時は、孤児院にあった昆虫図鑑を眺める事と、昆虫族のカードを拾い集める事。なけなしの小遣いも、それら全てに注ぎ込まれた。

写真やカードイラストの中で、ちっぽけながらも力強く、美しく生きる彼等は、セクトの目には眩しく見えた。

 

そんな日常が変化したのは、やはりシンクロ次元の最強の男、鬼柳 京介との出会いが切欠だろう。

何時も通り、いじめっこに虐められている時、突如ハーモニカの音色が響き渡り、陽光を背に彼が現れ、大人気のなさを発揮し、いじめっこを蹴散らしたのだ。今も昔も変わらずのソリティアも見せつけ、一方的に蹂躙する、圧倒的強者のデュエル。

親戚同士の集まりで、俺アルセウス持ってんだぜ、とポケモンバトルを挑む伝説使いのガキンチョ相手に、厳選した厨ポケで大人気なく圧倒する、社会的地位さえも鼻で笑い、虚仮にするニートのような所業。

 

他人の目を気にしない、彼にとってのキングの姿、ムシキングの堂々とした在り方に――セクトは憧れた。

何も言わずに立ち去る寂しい男の背に、セクトは圧倒されつつも勇気を振り絞り、待ったをかけた。どうやったら、貴方のように強くなれるのかと。

鬼柳はその問いに答える。ただ俺は、俺を満足させる奴に会いに行くだけだと。

 

セクトは痺れた。多くの者にとってはまるで意味が分からん台詞だが、その言葉はどうしようもなくセクトの胸を打ち、気づけば膝をつき、頭を下げて土下座し、彼に懇願していた。

どうか俺を、弟子にしてくださいと。彼もまた、満足の血を引くものだったと言う事か。そんなセクトの姿を見て、鬼柳が一喝、男が簡単に頭を下げんじゃねぇと。

そしてその後――ついてこられるなら、ついて来いと、彼は初めて優しい笑みを浮かべ、彼に手を差し伸べた。

 

その手を取った瞬間から、伊集院 セクトは小さな幼虫から、蛹へと進化を遂げた。彼の退屈な日常は壊され、鬼柳とのジェットコースターのような非日常が彼の世界に光を与えていく。

苦しい特訓、デュエルギャングとの抗争にも音を上げず、セクトは努力を積み重ねた。

様々な人物との出会いもまた、彼に良い刺激を与えてくれた。

 

その中でも特に顕著だったのは、親友、ユーゴとの出会い。競い合うライバルの登場だ。喧嘩し、ぶつかり合いながらも切磋琢磨する2人。

だがそんな充実な日々の中にも、セクトに不満はあった。いや、充実していたからこそ、それは浮き彫りとなっていたのだろう。

彼がどんなに努力して、強くなっても――鬼柳は決して、彼を対等として扱わず、背を預けてはくれなかったのだ。これは、鬼柳があくまでもセクトの事を弟分として見ていた擦れ違いでもある。

彼もまた、天涯孤独の身、初めて出来た弟子であるセクトを、家族のように思い、実の弟のように接していた事にある。それはセクトも同じであり、あくまでその不満は小さなものでしか無かった。

 

そう、この時までは。第3の出会いの転機、プラシドと名乗る男との出会いが無ければ――。突如現れた謎に包まれた彼は、言葉巧みにセクトを惑わす。果たしてお前は、今のままで満足なのか、と。当然セクトはギクリとしつつも否定した。

だが――対等として、彼等と肩を並べ、頼られる存在として見て欲しかった事も、本音。プラシドはセクトの劣等感を刺激し、1枚のカードを彼に渡す。

 

それが――決闘竜、『魔王龍ベエルゼ』。普段のセクトなら、何とかなったのかもしれないが、掻き回されたセクトの心は、徐々にベエルゼの闇に侵食され、彼の心を憧れと劣等感の2つに大きく引き裂く。

どちらが本当の自分なのかも分からない、胡蝶の夢のような、心の歪み。

 

それはついにはこのフレンドシップカップ、鬼柳とのデュエルで爆発し――彼は蛹から、黒き羽を広げ、見上げる眼で、他者を見下す。最早誰の声も届かぬ闇へと飛翔した彼、そんな彼を――ユーゴは尚も諦めず、捕らえようと手を伸ばす。その掌は――空を、見上げていた。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

劣等感を刺激され、ひびが走った歪なプライドに檄を入れながら、セクトがデッキからカードを引き抜く。諦めて欲しい、認めて欲しいと叫ぶセクトに相反する、諦めず、今の彼を認めないユーゴ。

平行線の彼等はぶつかり合い、火花を散らす。状況はセクトの有利。だが――何故か彼の心は掻き乱される。

 

「俺は……強い、強いんだ……!ベエルゼと共に、鬼柳と対等になったんだ!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体を戻し、2枚ドロー!」

 

伊集院 セクト 手札1→3

 

彼の心の闇に呼応し、彼が纏うフィールもまた、強大で凶悪に研ぎ澄まされていく。嫉妬、劣等感、苦痛、負の感情はより増幅され、彼の心を強固に覆う甲殻となる。

 

「魔法カード、『デビルズサンクチュアリ』!俺のフィールドに、『メタルデビル・トークン』を特殊召喚する!」

 

メタルデビル・トークン 守備力0

 

「更に『チューニングガム』を召喚!」

 

チューニングガム 攻撃力400

 

現れたのは2体の悪魔。鋼の像と気持ち悪いリアルな顔面のチューナーだ。レベル1のモンスターが2体、一方はチューナーであるが、一体何を始める気なのか、低レベルシンクロモンスターの登場にしても腑に落ちない。

 

だがその時――突如セクトのエクストラデッキが、黒い光を放つ。

 

「終わらせてやるよ!レベル1の『メタルデビル・トークン』と、レベル8の『魔王龍ベエルゼ』に、レベル1の『チューニングガム』をチューニング!」

 

「な……に……!?」

 

だがユーゴの予想を裏切り、セクトが行ったのは何とエースモンスター、『魔王龍ベエルゼ』を使用したレベル10のシンクロ。

そんな馬鹿な――彼のエースは、ベエルゼでは無かったのかと大粒の汗が伝い、戦慄する。ベエルゼの巨体が宙に浮き、『メタルデビル・トークン』と共に1つのリングを潜り抜け、10の漆黒に輝く星が天を舞う。ただでさえ強力なベエルゼが、セクトの闇に呼応し、新たな進化を遂げ、断末魔のような産声を上げる。

そして――セクトが、黒い輝きを放つカードを、エクストラデッキから抜き取り、フィールドに放つ。

 

「地を這う億万の蛆虫よ!その身をやつし天を埋めよ!全ての世界は我等の掌中にあり!シンクロ召喚!君臨せよ!『魔王超龍ベエルゼウス』!!」

 

魔王超龍ベエルゼウス 攻撃力4000

 

黒雷をフィールド中に降り注がせ、君臨せしは神をも食らい、より堅牢で巨大な体躯を得た暴食の魔王。

赤黒だった身体は漆黒へと変わり、背からは一対の悪魔の翼が伸びていく。見た目に然程変化は見えないが、纏う闇のフィールは、ベエルゼを軽く凌駕している。

 

「ククク、ヒャハハハハ!どうだ!これが俺の力だ!俺を認めろ!バトルだ!ベエルゼウスで『クリアウィング』へ攻撃!蠅王殲滅覇軍!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→1

 

ベエルゼウスの咆哮が響き渡り、胸部のアギトから無数の羽虫が『クリアウィング』へと飛び交い、その翼を汚し、動きを縛りつけた所をベエルゼウスの双頭が食らいつく。鋭い牙はバキバキと『クリアウィング』の体躯を翼ごと砕き、へし折って粉砕する。圧倒的な力を前に、ユーゴは防ぐ事しか出来ない。

 

「ぐっ――!」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドォ!」

 

伊集院 セクト LP2300

フィールド『魔王超龍ベエルゼウス』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5枚をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→2

 

「良し、墓地の電々大公を除外し、手札の『SR赤目のダイス』を特殊召喚!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

次は赤い目を輝かせたサイコロ型のチューナーだ。クルクルと回転し、ユーゴのフィールドで停止する。

 

「そしてモンスターが特殊召喚された事で、『SR56プレーン』を特殊召喚!」

 

SR56プレーン 守備力0

 

「レベル5の56プレーンに、レベル1の赤目のダイスをチューニング!十文字の姿持つ魔剣よ、その力で全ての敵を切り裂け!シンクロ召喚!現れろ、『HSR魔剣ダーマ』!」

 

HSR魔剣ダーマ 守備力1600

 

現れたのはけん玉の形状を模したシンクロモンスター。現状どんなモンスターを呼び出そうとベエルゼウスには届かない。が、このモンスターを出す事が最善だ。

 

「ダーマの効果!墓地の機械族モンスター、『SR赤目のダイス』を除外し、相手に500のダメージを与える!ベエルゼやベエルゼウスが無敵でも、お前自身は無敵じゃねぇだろ!」

 

伊集院 セクト LP2300→1800

 

「――フン、俺自身は、ねぇ……」

 

「攻撃力アップ効果が無い……?ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『HSR魔剣ダーマ』(守備表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!相変わらずおめでたい頭だなぁ、ベエルゼは進化してんだよ!ベエルゼウスの効果発動!ダーマの攻撃力を0にし、元々の攻撃力を、俺様のLPに加える!蠅王覇権!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200→0

 

伊集院 セクト LP1800→4000

 

「何だと……!?」

 

「残念だったなぁ、これでテメェのチマチマとする小賢しい手はぺしゃんこに潰されたって訳だ」

 

ベエルゼウスのアギトか、無数の羽虫が飛び出し、ダーマに襲いかかり、その力を腐らせ、ダーマがモノクロに染まる。これがベエルゼの新たに得た力。神をも食らう魔王の権威。攻撃力変動を失った代償に、ベエルゼは恐ろしい進化を遂げた。これで、ベエルゼウスを倒さずにセクトを倒すと言う抜け道も閉ざされた

 

「バトルだ!ベエルゼウスでダーマへ攻撃!」

 

「ぐぁっ!」

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

伊集院 セクト LP4000

フィールド『魔王超龍ベエルゼウス』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「魔法カード、『成金ゴブリン』!相手にLP1000を与える代わりに1枚ドロー!」

 

伊集院 セクト LP4000→5000

 

「もう1枚だ!」

 

伊集院 セクト LP5000→6000

 

「魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

「モンスターとカードを1枚セット、ターンエンドだ最後の1枚は捨てられる……」

 

ユーゴ LP1000

フィールド セットモンスター

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!面倒くせぇなぁ……ベエルゼウスでセットモンスターへ攻撃!」

 

「クソッ……!」

 

「モンスターをセット、ターンエンドだ!」

 

「この瞬間、罠発動!『裁きの天秤』!俺の手札とフィールドのカードと、お前のフィールドのカードの差分ドローする!」

 

ユーゴ 手札0→3

 

伊集院 セクト LP6000

フィールド『魔王超龍ベエルゼウス』(攻撃表示)セットモンスター

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー。!こいつは……!」

 

引き抜いた1枚のカードを見て、ユーゴの目が見開かれる。引いたカードは、彼の運命を決定づける、ラッキーカード。これならば――。

 

「へへ、最高の1枚だぜ……俺は永続魔法、『補給部隊』を発動し、こいつを召喚する!」

 

たった今引いたカードをデュエルディスクに叩きつけ、フィールドにソリッドビジョンによって呼び出される1体のモンスター。それは――。

 

「――っ!そい、つは――」

 

――――――

 

評議会、最高幹部が一堂に集う一室にて、少女、リンは確かにそれを見た。モニターに写し出されるフレンドシップカップの試合。ユーゴとセクトの対決。その激しき火花が散るデュエルの最中、フィールドに呼び出されたモンスターの姿を。

彼女がユーゴへ渡した、いや、強引に奪い取られたカード――記憶を失ったにも関わらず、大切に持っていたカード。無意識に、彼等と彼女達を繋いでいた、絆のカード。そのカードを視界におさめ――。

 

「ユー……ゴ……?」

 

彼女の記憶が、目覚め始める――。

 

――――――

 

「……おい、何の真似だ、そいつぁ……」

 

場所は再びフレンドシップカップ、サーキットへと戻る。ユーゴが手札から呼び出したモンスターを見て、セクトが暫く呆然とした後、ギリリと歯軋りを鳴らしその口を開く。

 

「何の真似だって……?こいつが俺の、切り札さ……!」

 

対してユーゴは不敵に笑い、その真剣な眼差しでカードに信頼を託す。その視線の先にいるのは――羽根つき帽子を被った、幼い少年。細い指先で笛を持ち、軽やかな音色を奏でる――。

 

幸運の笛吹き 攻撃力1500

 

「……それが、切り札……?そんなカードが……?馬鹿に……馬鹿にしてんのかテメェはぁぁぁぁっ!?ここに来てまでお前は俺を、見下してんのか!?ふざけやがって……ふざけやがってぇぇぇ……!ユゥゥゥゥゴォォォォッ!!」

 

ストレスが最高値を振り切り、セクトが憤怒の形相で叫び声を上げる。彼がこうなるのも、ある意味必然なのかもしれない。だがそれでも、ユーゴは真剣そのものだった。

 

「いいや……これが俺の全力だ、カードの想いに応えた結果だ!それにコイツには、スッゲェ効果があるんだぜ?」

 

「あぁ!?俺がそいつの効果を知らねぇでも!?そいつはデュアルモンスター、もう1度召喚すれば効果を得られるが……それでも得られるのは相手モンスターを破壊した後、ドロー出来る効果。分かるか!?もう1度召喚して得られる効果が、たったそれだけだ!低い攻撃力で戦闘破壊しなきゃならねぇ、ベエルゼウスに通じないショボイ効果!アリえねぇだろうが!」

 

そう、セクトとて、このカードの効果は知っている。知った上で怒っているのだ。この状況で、胸を張って出すカードでは無いと。

 

「お前の言う通り、こいつは弱いかもしれない。だけど、このカードは俺に、力をくれるんだ!どんな相手だろうと正面から立ち向かう勇気をなぁ!」

 

だけど、このカードはユーゴにとって、思い出のカードだ。彼等が昔、幼馴染みへと渡したカード。何の変哲もないカードだったが――彼女の、満面の笑顔を見せてくれた最高のカード。

 

「なら、そのカードと共に潰れてろ!綺麗事を言おうが、そのカードじゃ勝てねぇんだよ!」

 

「いいや、俺は勝って見せる!魔法カード、『二重召喚』!俺は『幸運の笛吹き』を再度召喚!バトルだ!『幸運の笛吹き』でセットモンスターへ攻撃!」

 

少年が笛を吹き鳴らし、優しい音色がフィールドを包み込む。暖かで懐かしい音色はユーゴへと幸運を与える。

 

「戦闘破壊成功!1枚ドローだ!」

 

ユーゴ 手札1→2

 

「チッ、『カードガンナー』の効果で1枚ドロー!」

 

伊集院 セクト 手札0→1

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『幸運の笛吹き』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!永続魔法、『補給部隊』を発動。ベエルゼウスの効果発動!『幸運の笛吹き』の攻撃力を0に!」

 

幸運の笛吹き 攻撃力1500→0

 

伊集院 セクト LP6000→7500

 

「バトルだ!ベエルゼウスで『幸運の笛吹き』へ攻撃!完膚無きまでに、叩き潰せ!」

 

「罠カード、『パワー・ウォール』!デッキから15枚のカードを墓地に送り、ダメージを0に!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ユーゴ 手札0→1

 

ムシケラを踏み潰すかのように、呆気なくベエルゼウスに倒される『幸運の笛吹き』。その姿を見てセクトは嘲笑い、ユーゴは彼が最後に託したカードに希望を見出だす。

 

「これでテメェの希望とやらは砕け散った。ざまぁねぇなぁ!ユーゴォ!」

 

「そいつぁ……どうかな?」

 

「スカしてんじゃねぇよ!ターンエンドだ!」

 

伊集院 セクト LP7500

フィールド『魔王超龍ベエルゼウス』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

引いたカードは、この窮地を脱出するには足り得ない。だが――ドクン、と。ユーゴの胸の奥から熱い何かが込み上げる。

 

「呼んでる……カードが俺を、呼んでる……!」

 

脳裏に浮かぶ、デッキに、フィールド、墓地に、手札に散りばめられたピース達。それらが一筋の方程式を編み出し――最後に、1枚の輝くカードを描き出す。真っ白で、何も描かれていないカード。それは徐々に鮮明になっていき――ユーゴのエクストラデッキに、光を灯らせる。

 

「ッ!これは――セクトと、同じ……!?」

 

「何だ……何だその光は……!?」

 

眩いばかりの輝きが、フィールドを照らし出す。絶望が、闇が、1枚のカード、ベエルゼの進化を促したように、今、希望の光が、1枚のカードの進化を促す。

 

「覚えてるか、セクト……」

 

「ッ、何を――」

 

「昔、一緒にさ、リンのデッキが後1枚で完成するってなって、俺達3人で、どこかにカードが落ちてないかって探そうとした事があったよな……」

 

「――え……?」

 

暖かい光に包まれ、ユーゴは語り出す。彼等はコモンズだ。カードを買うにしても、小遣いは少なく、拾ったカードでデッキを作る事も多々ある。彼等もその例外では無かっただけ。デュエルが好きで、デュエルがやりたくて、3人でカードを拾っていただけ。その記憶が――ユーゴには何よりも大切で。

 

「もう遅いからって言うアイツは心配してたけど、俺達はムキになって兎に角無我夢中に探して――そんで、見つけたんだ」

 

「……っあ――」

 

ボロボロと、擦り切れていたカード。それは2人で見つけ出して、彼女に渡した。すると、彼女は怒った顔から呆れ顔に、呆れ顔から花が咲いたような笑顔となり――3人が笑顔になった。

 

「その後遅くなってツァンや鬼柳に怒られたけど、リンのデッキが完成したって言ったら、皆笑って許してくれた。あのカードが、幸運を届けてくれたんだ。このカードが、俺達の絆をより強く、深くしてくれたんだ!俺は忘れない!あの時の事を、あの時の想いを!例え俺が何者になろうと、俺達は――!」

 

記憶を失っても、敵になっても、それでもユーゴは信じて我夢捨羅に突き進む。風を切って前を向く。馬鹿なユーゴには、それが精一杯だから。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体を回収、2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札1→3

 

「行くぞセクト!これが俺達の絆だ!魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地より蘇れ、『幸運の笛吹き』!」

 

幸運の笛吹き 攻撃力1500

 

現れたのは想い出のカード、皆に笑顔を、幸運を届けてくれた、懐かしい音色、今と昔を繋ぐ、絆のカードだ。

 

「そして墓地から『シャッフル・リボーン』を除外、『補給部隊』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札2→3

 

「魔法カード、『復活の福音』!並び立て、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

次はユーゴのエースカード、美しきミントグリーンの双翼を広げた白の竜。『幸運の笛吹き』の隣に並び、互いに視線を交わせ、頷き合う。ユーゴとリンのカード、互いに時に共に闘い、時にぶつかり合った長い仲だ、カード同士も喜んでいるように見える。

 

「魔法カード、『ハイ・スピード・リレベル』!墓地のパチンゴーカートを除外し、『クリアウィング』の攻撃力を2000アップし、レベルを4に変更!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

「更に魔法カード、『ナチュラル・チューン』!通常モンスターである、『幸運の笛吹き』をチューナーにする!さぁ、バトルだ!『クリアウィング』で、ベエルゼウスへ攻撃!」

 

「チッ、たかだか500……!」

 

伊集院 セクト LP7500→7000

 

『クリアウィング』が2枚の翼を広げ、風を引き裂きベエルゼウスを貫く。まるで日本刀のような鋭い切れ味、胴体が切り裂かれ、別れようとしたベエルゼウスだが――ズルリと黒い血液が飛び出し、胴体を繋ぎ合わせ、傷が完全に塞がってしまう。不死の魔王竜、凄まじいカードだ。力を増した『クリアウィング』でさえ、一歩及ばない。

 

「ハッ、残念だったなぁ、結局ベエルゼウスを倒す事は出来ねぇんだよ!」

 

「そうかもな、だけど俺のバトルフェイズは、まだ終わっちゃいない!罠発動!『緊急同調』!バトルフェイズ中に、シンクロを行う!」

 

「ここでシンクロ召喚だと……!?」

 

そう、ここからが本番、ユーゴの全力全開、全身全霊を込めたプレイング。フィールドに存在するのは、レベル4となったシンクロモンスター、『クリアウィング』。レベル4のチューナー、『幸運の笛吹き』。ユーゴ、リン、セクト、3人の想いを乗せたカードが今、1つの光となる。

 

「レベル4の『クリアウィング』に、レベル4の『幸運の笛吹き』をチューニング!」

 

『幸運の笛吹き』が、優しくもどこか懐かしい旋律を笛で奏で出し、光輝くリングとなって『クリアウィング』の体躯を包み込む。儚くも美しい記憶の輝きは今、穢れなき純白の水晶となって――。ユーゴがエクストラデッキから、光を帯びた1枚のカードを引き抜き、デュエルディスクに叩きつける。

 

「神聖なる光蓄えし翼煌めかせ、その輝きで敵を撃て!シンクロ召喚!出でよ、『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』ッ!!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000

 

今、水晶の殻を砕き、1体の竜が蛹から羽化する。散り行く雪のように、水晶の欠片が美しき煌めきを会場中に降り注がせ、フィールドに舞い降りる。頭や胸、脚部等随所に水晶を散りばめ、特徴的なミントグリーンだった翼はクリスタルの鋭い刃のような翼へと変わり、青と白のカラーリングを強調した美しくも、雄々しい、ユーゴの新たな切り札。『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』が、聖誕した。

 

「『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』……だと……!?何だ、そのモンスターは!?『クリアウィング』の進化形態を生み出したって言うのか!?」

 

「今なら分かる……こいつは、俺達の記憶の結晶なんだ……昔の俺やリン、お前の想い出、そして今、遊矢とセレナ達との新たな記憶、未来へ繋ぐ為の、絆の結晶なんだ!セクトォ!俺達はこいつで、お前とベエルゼウスを、ぶっ倒す!」

 

「ッ!やれるもんならやってみろよ!決闘竜でも無い分際で、ベエルゼウスに勝てると思ってんじゃねぇぞぉ!」

 

「クリスタルウィングで、ベエルゼウスへ攻撃!」

 

「馬鹿が!ぶっ潰せ!蠅王殲滅覇軍!」

 

クリスタルウィングが翼を閃かせ、ベエルゼウスに向かって一直線に突き進む。迎え撃とうとベエルゼウスが磔になった女性より金切り声を上げ、双頭の竜のアギトから漆黒のブレスを放つ。攻撃力ではベエルゼウスが上、このままでは超過ダメージでユーゴの敗北となるが――。

 

「クリスタルウィングの効果!レベル5以上のモンスターと戦闘を行うダメージ計算時、その相手モンスターの攻撃力を、このカードに加える!」

 

「何だとッ!?」

 

「烈風の、クリスタロス・エッジ!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→7000

 

伊集院 セクト LP7000→4000

 

突如クリスタルウィングの翼が光り、鏡面の如くベエルゼウスの姿を写し出してその力を自らのものとする。烈風を纏い、ベエルゼウスのブレスをモーゼを思わせる割断、勢いのままベエルゼウス本体を貫く流れ星と化す。

 

「ぐぅぅぅぅっ!?馬鹿な……そのカードは決闘竜に匹敵するって言うのか!?そんな筈無い……アリ得て良い訳が無い!」

 

「決闘竜だろうと何だろうと関係ねぇ!俺達の絆が、そんなヤワなものじゃねぇのは当然だろうが!」

 

「――ッ!舐めるなぁっ!そんなものに、俺が捨てたものに負けるかぁっ!」

 

ゴウッ、クリスタルウィングの攻撃で沈静化していたセクトのフィールが、爆発的に膨れ上がる。結局の所、まだベエルゼウスを倒せてはいない。彼を取り戻すには、ベエルゼウスを倒す他無い。

 

「なら来いよセクト!俺とお前の想い、どっちが強いかハッキリさせようぜ!ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!負けるか……負けられるかぁっ!魔法カード、『暗黒界の取引』!手札を交換、ベエルゼウスの効果!クリスタルウィングの攻撃力を0に!例えこっちの攻撃力を加えようと、0になりゃあこっちが殴り勝つんだよ!」

 

「甘いぜ、クリスタルウィングの効果発動!モンスター効果の発動を無効にし、破壊……は出来ねぇがな……!」

 

「なっ――」

 

当然と言えば当然、このクリスタルウィングは『クリアウィング』の進化形態なのだ。対モンスター効果が存在してもおかしくはない。全てがベエルゼウスに有効な効果。このカードは、ベエルゼウスの天敵だ。

 

「チッ、カードをセット、ターンエンドだ……!」

 

伊集院 セクト LP4000

フィールド『魔王超竜ベエルゼウス』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満な壺』!エクストラデッキから6体のモンスターを除外し、2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→2

 

「魔法カード、『ハーピィの羽帚』!お前の魔法、罠カードを全て破壊!そして『SRシェイブー・メラン』を召喚!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

「効果を発動し、クリスタルウィングの効果で破壊、攻撃力を吸収!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→5000

 

「――ッ!」

 

これが、ユーゴのありったけの想い。いや、ユーゴだけではない。彼は、遊矢とセレナの想いも、鬼柳やリン、そしてセクトの想いまで乗せ、闘っているのだ。1人で歩む道を選んだセクトには――余りにも、眩しい光景、だけど、それでも――彼は、真っ向から来るユーゴから、逃げる事はしない。

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、ベエルゼウスの効果を無効、さぁ、バトル!『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』で、『魔王超竜ベエルゼウス』へ攻撃!」

 

「迎え撃て!『魔王超竜ベエルゼウス』!蠅王殲滅覇軍ッ!!」

 

互いの竜が雄々しき咆哮を天へと放ち、ユーゴのDーホイールから白く輝く光の翼が、セクトのDーホイールからはどす黒い闇の翼が伸び、モンスターとフィールが今、交差してぶつかり合う。

瞬間、彼等の脳裏にある光景が流れる。ユーゴとセクトの記憶の数々、あれはそう、とある大会にて、ユーゴとセクトが参加した時の事。ユーゴはプレイングミスを多発し、1回戦から敗退してしまったが、セクトは鬼柳との特訓で得た実力を発揮し、優勝まで漕ぎ着けたのだ。その時から、ユーゴは、セクトを目指すべきライバルとして、セクトを目標にして来た。ユーゴは1度たりともセクトを見下した事なんて無かったのだ。

 

「ッ、お前――!」

 

その想いは、セクトにも伝わって。

 

「見下せるかよ……だって、馬鹿な俺と違って、お前は強くて、優しい奴だったじゃねぇか……!俺はそんなお前に並べるように、必死だったんだ!」

 

ユーゴは、手を伸ばす。遥か高みにいる、ライバルに追いつこうと、必死で足掻き、直向きに飛翔して来た。セクトのライバルとして、恥じぬように。

 

「そう、か――!」

 

目を逸らしていたのは、自分の方、見上げていたのは、ユーゴも同じ。結局、誰も彼もが不器用だっただけで。

 

「今こそ届け!烈風の、クリスタロス・エッジィ!!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力5000→9000

 

伊集院 セクト LP4000→0

 

光輝く翼が、セクトの闇の切り裂く。決着、勝者、ユーゴ。

 

――――――

 

「セクト……」

 

試合が終わった後、担架で運ばれるセクトに向け、ユーゴは語りかける。が、セクトは全てが吹っ切れた表情で鼻を鳴らし――。

 

「よせよユーゴ。憐れみなんて、それこそいらねぇ。胸を張れ、お前は俺に、勝ったんだ」

 

「……おう」

 

「俺は取り敢えず――アニキに謝る所から、始めなきゃな……許してくれっかな……」

 

「アイツは許すさ、だけど、なんかそりゃあ――」

 

「あぁ、許されないより、許される方が、ずっと辛いだろうなぁ……」

 

クスリと笑い合う2人の少年。もう彼等は、親友ではなくなったのかもしれない。あれだけの事があったのだ。だけど、そうであっても、もう1度、友人からやり直せば良い。

 

「ッ、アリゃあ……」

 

するとセクトが上空を見上げ、何かを見つけたように目を開く。ユーゴもその視線に倣い、上空を見上げると、そこにあったのは、カイトによって上空を飛翔する、アカデミアからの使者、オベリスク・フォースの姿。これは一体――。

 

「あいつ等は……!」

 

「チッ、プラシドの野郎、そう言えばデュエルエナジーが充分に溜まってないとかいってたな……強行手段に出るつもりか……!」

 

このままではシティが戦場になってしまう。それだけは何としてでも避けねばならない。

 

「行け、ユーゴ!俺はこのままアニキ達にこの事を伝える!お前はお前のやりたいようにやれ!」

 

ボロボロの身体に檄を入れ、ユーゴへと喝を入れるセクトに対し、ユーゴは頷いてDーホイールに跨がり、遊矢達と共に、サーキットを駆け抜ける。

 

「負けるんじゃねぇぞ……!」

 

その背を、セクトは眩しそうに見つめていた――。




最近ミスってハマっていたソシャゲのデータを消す&パスワード忘れると言うコンボ食らい、意気消沈。
逆に時間が出来て小説の進み具合が上がったのですが。余裕が出来たらグリッドマンの続きでも書こうかなぁ……。


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第157話 俺はお前の中に光る原石を見た

前回までのあらすじ
地下へと送られた沢渡。彼は痴漢冤罪で捕まったと言うジャンと言う男と行動を共にする事になる。「全く、俺は軽い女には興味がないと言うのに」そう事情を語りながら自身の尻を優しく撫でるジャンに、沢渡は身の危険を覚えるのだった。因みに部屋は一緒である。


フレンドシップカップ、2回戦第2試合が終わった頃、今まで軽いフットワークで零児の下と地下を行き来し、情報収集をしていた月影が動く。目的は突如シティに現れたアカデミアからの刺客、オベリスク・フォース達に対抗する為、ランサーズメンバーを地下から脱出させる為だ。折角アカデミアと闘う為に結成されたデュエル戦士がアカデミアと闘わない等、笑い話にもならない。

 

「アカデミアの手先が現れたか……その話、本当なんだろうな、月影」

 

「うむ、この目でハッキリと」

 

「ったく、余計な時に来てくれるぜ」

 

隼、月影、アリトの順で口を開き、状況確認と策を練るランサーズ。地下の警備は収容所よりも厳重だ。月影が何とかルートを確保しているが、上手く進むかまでは分からない。このまま通すか、それとも策を変更するか、その時、隼が何か妙案を思いついたのか、ニヤリと不敵に笑う。

 

「そうか……どうせなら、ここの奴等も連れていこう」

 

「はぁ!?そんなのバレちまうに決まってんだろ!」

 

「どうせお前がいる時点でバレる」

 

「にゃにおう!」

 

大胆にも程がある隼の台詞に、沢渡が反応するも、隼がお前が原因だとばかりに冷ややかな視線を送る。目立ちたがり屋で騒がしく、その上うっかりしている彼がいれば、そう考えても無理はない。前科もある事だ。

 

「俺達ランサーズは、シンクロ次元の奴等を含めると、少々多人数となってしまった。これではバレる可能性は高い。だから――」

 

「成程、囮か」

 

「そうだ、こいつ等には悪いが、森になってもらう。本物の犯罪者は既に気絶させて牢に放り込んである」

 

「何時の間に……」

 

木を隠すなら森の中、と言う事だろう、どうせバレるなら、大々的にバラしてしまえと言う隼らしい策だ。穴は残るが、それは都度サポートすれば良い。時間もない。

 

「その為に、奴に協力してもらう」

 

そうして――ランサーズメンバーは、この策の鍵を握るであろう人物の下に向かっていく――。

 

――――――

 

一方、地上に残るランサーズメンバーの1人、榊 遊矢は、ユーゴやセレナと別行動でシティをDーホイールで駆け抜け、1人のオベリスク・フォースと対峙していた。

 

「貴様が榊 遊矢か……その実力、どれ程のものか見せてもらおう!デュエルだ!」

 

「1人で良いのか?何時も3人行動だった気がするけど」

 

「フン、俺を他のオベリスク・フォースと一緒にされては困る!アカデミアにも、デュエリストとしての矜持を捨てず、恥を知っている者はいるのだ!」

 

「ならそのままカード化なんてやめて欲しいんだけどな。まぁ、そう言う話なら、遠慮なく!」

 

互いにデュエルディスクを構え、光輝くプレートを展開、遊矢は同時にアクションフィールドを発動し、フィールドが光の粒子に包まれ、姿を変える。アクションフィールド、『歯車街』。どうやらハズレを引いてしまったようだ。オベリスク・フォースもニヤリと笑みを浮かべ、轟音を鳴らしながらそびえ立つ、赤錆を纏った街並みを見つめる。

 

「ククク、始まる前に勝負が決まってしまったか?」

 

「そうでもないさ!」

 

2人はデッキより5枚のカードを手にし、前のめりになって決闘の口火を切る。

 

「「デュエル!!」」

 

このデュエルが、後に大きな影響を与える事は、まだ誰も知らない。

 

「まずは俺のターンからだ!何だか最近後攻ばっかだったから新鮮だな……俺は『EMモモンカーペット』と『相克の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル3から6のモンスターを同時に召喚可能!」

 

「出たか、ペンデュラム……!」

 

早速遊矢得意のペンデュラム。彼の背後に光の柱が2本伸び、中に魔法の絨毯とモモンガを合わせたモンスターと、大剣を構えた勇ましい『魔術師』が現れる。そしてモモンカーペットはくるりと宙で翻り、相克は剣を回転させ、天空に線を結び、輝く魔方陣を描き出す。これで準備は整った。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMキングベアー』!『EMウィップ・バイパー』!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700

 

天空の振り子が揺れ、魔方陣より孔が開く。中より2本の光が飛び出し、フィールドを激震させ、現れたのは王冠を被り、マントを翻した熊とシルクハットを被った愛嬌のある紫のコブラ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMキングベアー』(攻撃表示)『EMウィップ・バイパー』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMモモンカーペット』『相克の魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』を発動!手札を全て捨て、その分ドロー!クク、見せてやろう、進化したオベリスク・フォースのデュエルを!」

 

「何……!?」

 

新たに引き込んだ5枚のカードを見つめ、オベリスク・フォースが不敵な笑みを浮かべる。進化したオベリスク・フォースのデュエル、それは一体――。

 

「貴様等が強くなるように、俺達も成長するのだ!永続魔法、『補給部隊』、フィールド魔法、『歯車街』を発動!フィールド自体は変わらんが、こちらは破壊が出来る!早速墓地の『古代の機械射出機』の効果発動!俺のフィールドの『歯車街』を破壊し、『古代の歯車トークン』を特殊召喚!更に『歯車街』が破壊された事で、デッキから『古代の機械工兵』をリクルートする!」

 

古代の機械工兵 攻撃力1500

 

古代の機械トークン 守備力0

 

現れたのは右腕をドリルにした古びた機械戦士と小さな歯車。『歯車街』で呼べるモンスターはレベル制限や攻撃力制限が無い為、もっと強力なモンスターを呼べる筈だが――。

 

「疑問か?何故俺がこのモンスターを選んだのか」

 

「……」

 

「直ぐに分かる!魔法カード、『ナチュラル・チューン』!フィールドの通常モンスター、すなわち『古代の機械トークン』をチューナー扱いにする!」

 

「チューナーだって!?」

 

これが彼が工兵を呼んだ理由。工兵のレベルは5、トークンのレベルは1、つまりレベル6のシンクロモンスターを呼び出そうとしているのかと遊矢は驚愕するが、まだそれは正解には至っていない。

 

「シンクロ召喚か……!」

 

「惜しいな、シンクロ召喚も、だ!魔法カード、『異界共鳴ーシンクロ・フュージョン』!」

 

「そのカードは!?」

 

そう、これこそが彼の真の狙い。融合とシンクロ、2種を同時に行う、セルゲイと同じ戦術、今までのオベリスク・フォースの戦術を超えた新たな力。

 

「知っているようだな、話が早くて助かる。俺はこのカードの効果を使い、工兵とトークンで融合とシンクロを行う!まずは融合と行こう!今、隊列を組み交じり合い、新たな力と共に生まれ変わらん!融合召喚!現れろ!機械仕掛けの魔神!『古代の機械魔神』!」

 

古代の機械魔神 攻撃力1000

 

青とオレンジの渦が広がり、2体の『アンティーク・ギア』モンスターが混ざり合い、新たなモンスターとなって産声を上げる。ガシャンとフィールドに降り、駆動音を鳴らすのは黒鉄の細いボディを持った悪魔。背には骨が剥き出しになったような翼が伸び、腕は赤と黒のパーツで形成された3連の砲塔になっている。

 

「次はシンクロだ!レベル5の『古代の機械工兵』に、レベル1の『古代の機械トークン』をチューニング!荒ぶる獣の牙持て捕獲せよ!シンクロ召喚!『ゴヨウ・プレデター』!」

 

ゴヨウ・プレデター 攻撃力2400

 

歯車が光輝いて工兵を包み込み、一筋の閃光が歯車ごと工兵を貫く。天に輝く6つの星、フィールドで回転し、集束、人型に変化して肉がついていく。現れるのは覆面レスラーのようなマスクを被った岡っ引きのモンスター。本来セキュリティが持つシンクロモンスターだ。

 

「異界共鳴に『ゴヨウ』モンスター……やっぱり、セキュリティはアカデミアと繋がってたんだな……!」

 

「さて、どうかな?貴様にそれを確かめる術はない……何故ならここで俺に負けるのだから!魔法カード、『オーバーロード・フュージョン』!墓地より4体の『アンティーク・ギア』モンスターを除外し、融合を行う!融合召喚!この世の全てを形無き混沌に帰す究極破壊神!『古代の機械混沌巨人』!!」

 

古代の機械混沌巨人 攻撃力4500

 

更に、追い討ちをかけるように、いや、追い討ちと言うには余りにも強大なモンスターがフィールドに呼び出される。青いボディを、鈍く輝かせた巨大な猟犬達の王、『アンティーク・ギア』最強にして最大のモンスターが今、『歯車街』に地響きを鳴らして現れる。

 

「これが……進化したオベリスク・フォースのデュエル……!」

 

「そうだ!これが新たなオベリスク・フォースのデュエル!『古代の機械魔神』の効果により、貴様に1000のダメージを与える!」

 

榊 遊矢 LP4000→3000

 

「バトルと行こう!」

 

「その前に、ウィップ・バイパーの効果発動!『古代の機械混沌巨人』の攻守を反転!」

 

古代の機械混沌巨人 攻撃力4500→3000

 

「やるではないか、だがそれでも俺の勝利は揺るがない!『古代の機械魔神』でウィップ・バイパーへ攻撃!」

 

「自爆特攻……!?」

 

オベリスク・フォース LP4000→3300

 

黒鉄の重機が特攻し、ウィップ・バイパーに返り討ちにあって機械の身体がひしゃげ、ボロボロと錆が溢れ落ちる。そのまま爆裂――カラカラと歯車が飛び散っていく。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!更に、『古代の機械魔神』が戦闘破壊された事で、デッキから『古代の機械巨人ーアルティメット・パウンド』を召喚条件を無視し、リクルートする!!」

 

古代の機械巨人ーアルティメット・パウンド 攻撃力3000

 

オベリスク・フォース 手札0→1

 

飛び散った歯車は『歯車街』へと回収、再利用されて新たな『アンティーク・ギア』モンスターへと生まれ変わる。ズズンと地に着地すると共に地響きを起こし、赤いモノアイを輝かせたのは『古代の機械巨人』の新たなる姿、アルティメット・パウンドだ。大型モンスターの連続に流石の遊矢も冷や汗をかく。

 

「『ゴヨウ・プレデター』でウィップ・バイパーを攻撃!」

 

「『EMモモンカーペット』のペンデュラム効果で戦闘ダメージを半減!」

 

榊 遊矢 LP3000→2650

 

「うぐっ――!」

 

「フハハハハ!どうしたどうした!?これがランサーズとやらの実力か?『ゴヨウ・プレデター』の効果で戦闘破壊し、墓地に送ったウィップ・バイパーを俺のフィールドに蘇生する!」

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700

 

EMキングベアー 攻撃力2200→2400

 

「ウィップ・バイパーが……!」

 

超重量級の『アンティーク・ギア』モンスターに加え、モンスターのコントロールを奪う『ゴヨウ』モンスターによる攻撃的なデュエルが遊矢を襲う。幸いモモンカーペットの効果で何とか致命傷は避けられてはいるが、どこまでもつか。

 

「次はアルティメット・パウンドでキングベアーに攻撃ィ!」

 

榊 遊矢 LP2650→2250

 

巨人の歯車が鈍く回転し、ノロマな動きのまま右腕がキングベアーに吸い込まれるように襲いかかる。キングベアーもフンスと鼻を鳴らして応戦するも、余りに重い衝撃に吹き飛ばされる。

 

「更に!アルティメット・パウンドがモンスターを破壊した事で、手札の機械族モンスター1体を捨て、効果発動!もう1度続けて攻撃を行う!ダイレクトアタックだ!」

 

「させるか!罠発動!『パワー・ウォール』!相手モンスターの攻撃により、自分が受けるダメージ計算時、そのダメージが0になるように、500ダメージにつき、デッキトップからカードを墓地に送る!3枚のカードを墓地へ!」

 

デュエルディスクの処理により、遊矢のデッキから3枚のカードが墓地に送られる。決してデッキを投げる事はしない。そちらの芸は裏サイバー流の技である。

 

「逃れたか、だがこれはどうかな?『古代の機械混沌巨人』の攻撃!クラッシュ・オブ・ダークネス!」

 

「アクションマジック、『大脱出』バトルを終了!」

 

混沌巨人の右腕にエネルギーが集束、黒く輝く球体となって撃ち出されるも、遊矢がその場から消え、不発に終わる。これでこのターン、遊矢に手を出す事は不可能となった。

 

「チ、ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォース LP3300

フィールド『古代の機械混沌巨人』(攻撃表示)『古代の機械巨人ーアルティメット・パウンド』(攻撃表示)『ゴヨウ・プレデター』(攻撃表示)『EMウィップ・バイパー』(攻撃表示)

『補給部隊』

手札0

 

強力な攻撃を何とか避け、自身のターンに漕ぎ着けた遊矢。とんでもないモンスターやプレイングのオンパレードだった。危うく1ターンキルされてしまう所だっただろう。状況は早速遊矢の不利、何とか巻き返したい。

 

「俺のターン、ドロー!ここからが本番だ!俺は魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→3

 

「ここで手札増強カードか……」

 

「良し、これなら……!俺はカードを3枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP2250

フィールド

セット3

Pゾーン『EMモモンカーペット』『相克の魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!さて、どこまでやれるかな?永続魔法、『古代の機械城』を発動!俺の『アンティーク・ギア』モンスターの攻撃力は300アップする!」

 

古代の機械巨人ーアルティメット・パウンド 攻撃力3000→3300

 

「バトル!」

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!攻撃宣言を封じる!」

 

「チ、当然防御札は引き込んでいるか……ターンエンド!」

 

オベリスク・フォース L3300

フィールド『古代の機械混沌巨人』(攻撃表示)『古代の機械巨人ーアルティメット・パウンド』(攻撃表示)『ゴヨウ・プレデター』(攻撃表示)『EMウィップ・バイパー』(攻撃表示)

『古代の機械城』『補給部隊』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『EMキングベアー』!『EMラディッシュ・ホース』!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200

 

EMラディッシュ・ホース 守備力2000

 

再びペンデュラム召喚、今度は先のターン召喚されたキングベアーに加え、大根の角を持った馬もいる。このカードが、逆転のピースを握っている。

 

「ラディッシュ・ホースの効果により、混沌巨人の攻撃力をこのカードの攻撃力分ダウンし、キングベアーの攻撃力をその数値分アップ!」

 

古代の機械混沌巨人 攻撃力4500→4000

 

EMキングベアー 攻撃力2200→2700

 

これでバトルに入ればキングベアーの攻撃力は3000までアップするが、それでも混沌巨人には届かず、ウィップ・バイパーの効果を使われれば大幅に下がってしまう。

 

「罠発動!『ダブルマジックアームバインド』!俺のフィールドからキングベアーとラディッシュ・ホース、2体のモンスターをリリースし、お前のフィールドから『古代の機械巨人ーアルティメット・パウンド』と『ゴヨウ・プレデター』のコントロールを奪う!」

 

「何ッ!?くっ、ウィップ・バイパーの効果により、『ゴヨウ・プレデター』の攻守を反転!」

 

ゴヨウ・プレデター 攻撃力2400→1200

 

遊矢のフィールドにシンバルのようなアームを持つマジックハンドが2つ、交差する形で合わさった物体が出現し、それぞれのアームでアルティメット・パウンドと『ゴヨウ・プレデター』を掴み、遊矢のフィールドへと運ぶ。コストこそ重いが、強力なカードだ。だがそれでも、混沌巨人のコントロールを奪えず、攻撃力も届かない。

 

「バトルだ!アルティメット・パウンドで混沌巨人へ攻撃!」

 

「『ダブルマジックアームバインド』でコントロールを奪ったモンスターはそのターンの終了時に相手フィールドに戻る。せめてこちらの戦力を削ろうと思ったか?迎え撃て!混沌巨人!」

 

互いのフィールドの巨人が歯車を回転させ、剛腕を振るい、フィールド中央で火花を散らす。『歯車街』で繰り広げられる、大迫力のバトル、だがやはり、混沌巨人が優勢なのか、圧倒的なパワーを前に徐々に押され始める。

 

「自爆特攻?違うね!墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、アルティメット・パウンドの攻撃力を、800アップ!」

 

古代の機械巨人ーアルティメット・パウンド 攻撃力3300→4100

 

「馬鹿な……!」

 

だが遊矢がニヤリと不敵な笑みを浮かべ、左腕を天に向かって突き上げると同時にアルティメット・パウンドも同様の動きで混沌巨人の拳をかち上げる。僅か100の差が、溝を開いた。たたらを踏む混沌巨人に対し、右腕を振り下ろし、轟音を鳴らして混沌巨人が吹き飛び、『歯車街』を破壊しながら崩れ落ちる。

 

オベリスク・フォース LP3300→3200

 

「ぐっ、混沌巨人が……!俺は『補給部隊』の効果でドロー!」

 

オベリスク・フォース 手札0→1

 

「これで一番厄介なモンスターは消えた。『ゴヨウ・プレデター』でウィップ・バイパーへ攻撃、今度は自爆特攻だ」

 

榊 遊矢 LP2250→2000

 

「ターンエンドだ。アルティメット・パウンドのコントロールは元に戻る」

 

榊 遊矢 LP2000

フィールド

セット1

Pゾーン『EMモモンカーペット』『相克の魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!まさか混沌巨人がこうも早く退場するとは……まぁ、そちらの消費も激しいようだが。バトルだ!アルティメット・パウンドでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『カウンター・ゲート』!相手のダイレクトアタック時、1枚ドローし、それがモンスターの場合、通常召喚する!ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「良し、ドローカードは『EMアメンボート』!召喚する!」

 

EMアメンボート 攻撃力500

 

「この瞬間、モンスターが召喚された事で『古代の機械城』にカウンターが乗る」

 

古代の機械城 カウンター0→1

 

現れたのはアメンボ型の小さなモンスターだ。この状況では打ってつけのカードと言える。

 

「ならばウィップ・バイパーで攻撃!」

 

「アメンボートの効果発動!攻撃を無効にし、このカードを守備表示に変更する!」

 

「チ、ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォース LP3200

フィールド『古代の機械巨人ーアルティメット・パウンド』(攻撃表示)『EMウィップ・バイパー』(攻撃表示)

『古代の機械城』『補給部隊』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『EMキングベアー』!『EMラディッシュ・ホース』!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200

 

EMラディッシュ・ホース 守備力2000

 

「ラディッシュ・ホースの効果発動!ウィップ・バイパーの攻撃力をダウンし、キングベアーの攻撃力をアップ!」

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700→1200

 

EMキングベアー 攻撃力2200→2700

 

「ウィップ・バイパーの効果でキングベアーの攻守を反転!」

 

EMキングベアー 攻撃力2700→1500

 

このウィップ・バイパーの効果が厄介だ。このカードがあってはアルティメット・パウンドに攻めようにも攻められない。流石は自身のカードと言った所か、相手になって改めてその頼もしさを思い知らされる。

 

「バトルだ!キングベアーの攻撃力がアップ!」

 

EMキングベアー 攻撃力1500→1900

 

「キングベアーでウィップ・バイパーへ攻撃!」

 

オベリスク・フォース LP3200→3000

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

オベリスク・フォース 手札2→3

 

「アメンボートを攻撃表示に変更、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP2000

フィールド『EMキングベアー』(攻撃表示)『EMラディッシュ・ホース』(守備表示)『EMアメンボート』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMモモンカーペット』『相克の魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満な壺』!エクストラデッキのモンスター6体を除外し、2枚ドロー!」

 

オベリスク・フォース 手札3→5

 

「『古代の機械騎士』を召喚!」

 

古代の機械騎士 攻撃力1800→2100

 

古代の機械城 カウンター1→2

 

現れたのは槍と盾を持った古びた機械騎士。『アンティーク・ギア』唯一のデュアルモンスターであり、攻撃力も高い下級モンスターだ。

 

「バトル!『古代の機械騎士』でアメンボートへ攻撃!」

 

「攻撃を無効にし、守備表示に!」

 

「アルティメット・パウンドで追撃!貫通ダメージを受けろ!」

 

榊 遊矢 LP2000→1150

 

「ぐぁっ!?」

 

「まだだ!手札の機械族モンスターを捨て、更に追撃!ラディッシュ・ホースを蹴散らせ!」

 

榊 遊矢 LP1150→500

 

「こ、のっ……!」

 

「この効果は1ターンに2度まで使えるが――残念な事に、手札に機械族はもういない。カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォース LP3000

フィールド『古代の機械巨人ーアルティメット・パウンド』(攻撃表示)『古代の機械騎士』(攻撃表示)

『古代の機械城』『補給部隊』セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!こっちも永続魔法、『補給部隊』を発動!ペンデュラム召喚!『EMラディッシュ・ホース』!」

 

EMラディッシュ・ホース 守備力2000

 

「ラディッシュ・ホースの効果でアルティメット・パウンドの攻撃力をダウンし、キングベアーの攻撃力をアップ!」

 

古代の機械巨人ーアルティメット・パウンド 攻撃力3300→2800

 

EMキングベアー 攻撃力2200→2700

 

「バトルに入る!」

 

EMキングベアー 攻撃力2700→3000

 

「キングベアーでアルティメット・パウンドへ攻撃!この瞬間、罠発動!『幻獣の角』!キングベアーに攻撃力800アップの装備カードとして装備!」

 

EMキングベアー 攻撃力3000→3800

 

オベリスク・フォース LP3000→2000

 

「ふっ――だがアルティメット・パウンドが破壊された事で、デッキから『融合』を、墓地からは『古代の機械巨人』を手札に加え、『補給部隊』の効果でドローする!」

 

「こっちも『幻獣の角』の効果でドローする!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

オベリスク・フォース 手札4→5

 

互いに手札を確保するが、その数はオベリスク・フォースの方が多い。リカバリー手段も豊富、これはやはり手強い相手だ。

 

「ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP500

フィールド『EMキングベアー』(攻撃表示)『EMラディッシュ・ホース』(守備表示)

『補給部隊』『幻獣の角』

Pゾーン『EMモモンカーペット』『相克の魔術師』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!成程な、混沌巨人に続き、アルティメット・パウンドまで破壊する腕前は流石だが――こちらの手は止まらんぞ!罠発動、『強欲な瓶』!1枚ドロー!」

 

オベリスク・フォース 手札7→8

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』!手札3枚を交換、魔法カード、『融合』!手札の『古代の機械巨人』、『古代の機械箱』、『古代の歯車』で融合!今一つとなりて絶大なる力を示せ。融合召喚!出でよ、『古代の機械究極巨人』!」

 

古代の機械究極巨人 攻撃力4400→4700

 

3体ものモンスターを素材とし、現れたのはケンタウルスのように下半身が4足歩行となったゴーレムだ。攻撃力は4400、貫通効果持ちの上、攻撃時に魔法、罠の効果を封じる。つまり、ラディッシュ・ホースがこのカードの攻撃を受ければモモンカーペットのペンデュラム効果でダメージを半減しても、遊矢のLPが削り取られてしまう。

 

「バトルだ!究極巨人でラディッシュ・ホースへ攻撃ィ!」

 

「手札の『EMバリアバルーンバク』を捨て、戦闘ダメージを0に!そして『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「かわしたか、騎士を守備表示に変更し、カードをセット、ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォース LP2000

フィールド『古代の機械究極巨人』(攻撃表示)『古代の機械騎士』(攻撃表示)

『古代の機械城』『補給部隊』セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『EMラディッシュ・ホース』!『EMパートナーガ』!『EMバブルドッグ』!」

 

EMラディッシュ・ホース 守備力2000

 

EMパートナーガ 守備力2100

 

EMバブルドッグ 攻撃力2300

 

再び揺れるペンデュラム、キングベアーに並び立つのはラディッシュ・ホースとウィップ・バイパーとは違う蛇型のモンスター、加えて頭にシャンプーノズル、下半身を泡で覆い、サスペンダーをつけた実に変態デザインの『EM』。攻め手は充分。究極巨人は混沌巨人に比べれば大いに勝機はある。

 

「パートナーガの召喚、特殊召喚時効果を使い、ラディッシュ・ホースの攻撃力を、フィールドの『EM』モンスターの数×300アップする!」

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力500→1700

 

「更にラディッシュ・ホースの効果により、究極巨人の攻撃力をダウン、キングベアーの攻撃力をアップ!」

 

古代の機械究極巨人 攻撃力4700→3000

 

EMキングベアー 攻撃力3000→4700

 

「そしてバトルに入り、キングベアーの攻撃力は更にアップ!」

 

EMキングベアー 攻撃力4700→5200

 

「キングベアーで究極巨人へ攻撃!」

 

「罠発動!『ハイレート・ドロー』!俺のフィールドのモンスターを全て破壊し、機械族モンスターの数だけドロー。『補給部隊』の効果でもドロー!」

 

オベリスク・フォース 手札0→3

 

「更に究極巨人の効果発動!破壊された事で、墓地に眠る『古代の機械巨人』を蘇生する!!」

 

古代の機械巨人 守備力3000

 

「なら攻撃対象を『古代の機械巨人』に変更!」

 

「むぅっ……!」

 

手札を補充しつつ、後続を呼ぶ見事なプレイング。とは言え今の遊矢は止められない。キングベアーの鋭い爪が巨人を切り裂き、残骸が『歯車街』へ飛び散っていく。

 

「『幻獣の角』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「そしてバブルドッグで攻撃!」

 

「くっ、手札の『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効にし、バトルを終了!」

 

「へへっ、どんなもんだ!俺はカードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP500

フィールド『EMキングベアー』(攻撃表示)『EMラディッシュ・ホース』(守備表示)『EMパートナーガ』(守備表示)『EMバブルドッグ』(攻撃表示)

『補給部隊』『幻獣の角』セット1

Pゾーン『EMモモンカーペット』『相克の魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー。魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を交換し、モンスターとカードをセット、ターンエンド」

 

オベリスク・フォース LP2000

フィールド セットモンスター

『古代の機械城』『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ!」

 

EMキングベアー 攻撃力3000→3500

 

「キングベアーでセットモンスターへ攻撃!」

 

「ぐ、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

オベリスク・フォース 手札1→2

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「バブルドッグでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『カウンター・ゲート』!効果は知ってるな?1枚ドロー!」

 

オベリスク・フォース 手札2→3

 

「引いたカードは『古代の機械巨人ーアルティメット・パウンド』!上級モンスターだが……『古代の機械城』はそのカウンターの数のリリース要員に出来る!『古代の機械城』をリリース、アドバンス召喚!『古代の機械巨人ーアルティメット・パウンド』!!」

 

古代の機械巨人ーアルティメット・パウンド 攻撃力3000

 

これも見事なプレイング、モンスターが存在しないにも関わらず、最上級モンスターをフィールドに呼ぶオベリスク・フォース。本当にこのデュエル、驚かされてばかりだ。

 

「全く、楽しませてくれるよ。光る原石じゃないか。アクションマジック、『セカンド・アタック』!キングベアーに再度攻撃権を与える!やれ!」

 

「させん!手札の『工作列車シグナル・レッド』の効果!このカードを特殊召喚し、攻撃対象をこのカードに移し変える!また、このカードはその戦闘では破壊されない!」

 

工作列車シグナル・レッド 守備力1300

 

「やるな……俺はこれでターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP500

フィールド『EMキングベアー』(攻撃表示)『EMラディッシュ・ホース』(守備表示)『EMパートナーガ』(守備表示)『EMバブルドッグ』(攻撃表示)

『補給部隊』『幻獣の角』セット1

Pゾーン『EMモモンカーペット』『相克の魔術師』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ペンデュラム・ストーム』を発動!」

 

「何ッ!?」

 

発動されたのは遊矢達の力、ペンデュラムに関するカード、こんなカードまで投入されているとは。

 

「互いのペンデュラムを破壊、そしてその後、『幻獣の角』を破壊!俺は更に魔法カード、『古代の機械融合』を発動!フィールドのアルティメット・パウンド、そしてデッキの『古代の機械巨人』とアルティメット・パウンドの3体で融合!」

 

「デッキ融合……!」

 

次は『アンティーク・ギア』専用の融合カード、『古代の機械巨人』系統を素材とするならば、デッキからも素材を選出出来る効果を持っている。遊矢とて、デッキ融合の強力さは知っている。真澄の『ジェムナイト』やねねの『シャドール』。デッキから素材とする事で消費を抑え、同時にデッキ圧縮をこなす新時代の融合と言える。

 

「融合召喚!『古代の機械超巨人』!」

 

古代の機械超巨人 攻撃力3300

 

3体の『古代の機械巨人』が混ざり合い、フィールドに激震を走らせるのは6本の腕と4本の脚を持つ合成巨人。究極巨人にも匹敵するその巨人さは正しくメガトン級、赤いモノアイが閃き、遊矢のフィールドを睨む。

 

「こいつは素材となった『古代の機械巨人』とアルティメット・パウンドの数が2体以上の場合、その数だけ攻撃が可能、つまり3回の攻撃が可能となっているのだ!バトル!」

 

「バトル前に罠発動、『レインボー・ライフ』!手札を1枚捨て、このターンのダメージを回復に!」

 

「チ、キングベアーへ攻撃!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 LP500→1600 手札1→2

 

「パートナーガとラディッシュ・ホースを攻撃!」

 

『古代の機械超巨人』が多数の腕を振るい、遊矢のフィールドのモンスターを殴る、殴る、ひたすらに殴る。鬼神を思わせる連続攻撃を脅威的な速度で繰り出し、遊矢のモンスターを粉砕する。

 

「ターンエンドだ!さぁ、どう出て来るかな?」

 

オベリスク・フォース LP2000

フィールド『古代の機械超巨人』(攻撃表示)『工作列車シグナル・レッド』(守備表示)

『補給部隊』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『金満な壺』を発動!エクストラデッキの『EMキングベアー』、『EMモモンカーペット』、墓地の『EMドラミング・コング』の3体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

不利な状況からのソース、この引きの良さも遊矢の強みの1つだ。これで手札は4枚、充分に回復してくれた。

 

「『EMディスカバー・ヒッポ』を召喚!」

 

EMディスカバー・ヒッポ 攻撃力800

 

現れたのは遊矢のデッキのマスコット、ピンク色のカバ型のモンスターだ。余り活躍の場が無いが、それでも愛用してくれる遊矢の為、フンスと鼻息を荒くする。

 

「ディスカバー・ヒッポの効果で、俺はレベル7以上のモンスターをアドバンス召喚可能に!バブルドッグと共にリリース!来てくれ。誰をも笑顔にしてくれる楽しい仲間。アドバンス召喚!『EMラフメイカー』!」

 

EMラフメイカー 攻撃力2500

 

現れたのはステッキとトランプを持ったマジシャン。登場した途端、背後に笑顔のマークが咲き誇る。

 

「魔法カード、『マジカル・スター・イリュージョン』!互いのモンスターは、それぞれのフィールドに存在するモンスターのレベルの合計分×100、攻撃力をアップする!」

 

EMラフメイカー 攻撃力2500→3300

 

古代の機械超巨人 攻撃力3300→4500

 

工作列車シグナル・レッド 攻撃力1100→2200

 

「バトルだ!ラフメイカーで『古代の機械超巨人』へ攻撃!この瞬間、ラフメイカーの攻撃力は、このカードと相手モンスターの内、元々の攻撃力より高い攻撃力となったモンスターの数×1000アップする!ラフィングスパーク!」

 

EMラフメイカー 攻撃力3300→6300

 

オベリスク・フォース LP2000→200

 

ラフメイカーのステッキより雷が迸り、『古代の機械超巨人』を撃ち抜く。見事な攻撃、オベリスク・フォースのLPが大きく削り取られたが――まだ、彼の仮面の奥で光る眼は死んでいない。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

オベリスク・フォース 手札0→1

 

「カードをセット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP1600

フィールド『EMラフメイカー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

新たな力、新たな戦術を得て、遊矢の前に立ち塞がるオベリスク・フォース。その見事な腕前に遊矢は苦戦を強いられるが、負けじと自らの実力を見せつける。熱き火花を散らすデュエル。勝敗は、果たして。



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第158話 闘う舞台

赤馬 零児は苛立っていた。原因としてはシティに襲来したアカデミア、オベリスク・フォース達だ。加えて――目の前で、零児の出陣を遮るように現れたセキュリティ達、どうやらもうアカデミアとの繋がりを隠す気はないらしい。どう言うつもりかは分からないが、こちらとしてはありがたい。が、他のランサーズメンバーを助けにいけないのは心苦しい。

一応月影にはランサーズの解放を、零羅には遊矢達との合流を命じた。後者は家族と言う事もあり、少々心配であるが、零羅の実力、そして今のメンタルならば問題ないと判断した。こちらも早々に終わらせたい所だが――零児の実力を警戒してか、数が多い。加えて――。

 

「頑張れ頑張れ零児殿」

 

「負けるな負けるな零児殿」

 

「ホッホッホ」

 

後ろの評議会がうるさい。これが一番のストレスの原因だ。こんなんじゃ俺、守る気がなくなっちまうよ……である。いっその事ピンチを演出して慌てるさせてやろうかと思う程である。時間の無駄だからやらないが、個人の好き嫌いが通用する立場では無いのだ。これが終われば一言物申すつもりだが。

 

「『DDD疾風王アレクサンダー』、『DDD神託王ダルク』でダイレクトアタック!」

 

デュエルチェイサー114 LP2300→0

 

デュエルチェイサー514 LP1400→0

 

「ぐぅぅぅっ!?」

 

白い騎士王と悪魔の翼を広げた鎧纏う魔女が風を切り、凄まじい速度でセキュリティに肉薄し、白刃を振るって切り裂く。また1人、また1人とセキュリティが倒れ伏す。零児無双である。流石ですお兄様。その圧倒的な強さにセキュリティ達がこれ倒せねぇんじゃね?と一歩退く。

 

「行け行け押せ押せ零児殿」

 

「イエー」

 

うるさい。額に浮かぶ青筋を沈める為、ストレス解消が為に、零児は一歩前に出てセキュリティ達を睨む。

 

「次は……誰だ……」

 

その一声を皮切りに、怯えながらも、セキュリティ達がデュエルディスクを構える。だから――気づけなかったのだろう。リンの姿が、消えている事に。

 

――――――

 

一方、オベリスク・フォース達が襲撃をかけるシティ、意外にも、彼等の手による被害は抑えられていた。原因はツァンや牛尾達による、現地民でも強力なデュエリストの加勢、そしてここてを、オベリスク・フォースを食い止めるのは――。

 

「チ、面倒な……せめてサンダーがいれば……柊!瑠璃!悪いが君達にも踏ん張ってもらうぞ!」

 

「勿論!」

 

「分かっているわ!流石に遅れは取らない!」

 

三幻魔を操る三沢 大地。そして柚子と瑠璃の3人だ。本来ならば守るべき2人であるが、いかんせん敵の数が多い為、彼女等の手も借りている。面倒なものだ。だが――何故だろうか、敵の数がは確かに多い、実力も上がっている。にも関わらず、ギリギリの所で食い止められている。その事は助かるが、妙に引っかかる。それ程の戦力が、こちらを助けているのか――その事を物語るように、遠くで、黒い暴風が、オベリスク・フォースを薙ぎ倒していた――。

 

そして場所は地下にて、そこでは隼の案により、コモンズ達の統率に長けたシンジ・ウェーバーの指揮の下、地下送りにされた者達が革命を開始していた。

 

「オラオラ革命の時だ。テメェ等!遊矢達が困ってる、それに誰だか分からねぇ奴に俺達のシティを好きにさせるんじゃねぇ!」

 

「……流石だな、コモンズ達が1つに纏まっている」

 

「へ、そっちもな!」

 

シンジと隼が背を合わせ、敵に応戦する。トニーやデイモン、クロウも協力してくれている。このままならばコモンズの独走も抑えられ、時間もかからず地上に出れるだろう。と、そんな時だった――。

 

「……そこに、誰かいるのか……」

 

壁際の隅から、か細い声がかけられたのは。どこかで聞き覚えのある声、反応し、キョロキョロと辺りを見渡せば、そこには隠れるように小さな独房があるではないか。誰かが捕まっているのだろうか。警戒しながらも、悪い奴じゃないならついでに出してやろうと、鍵を壊し、扉を開く。すると、そこにいたのは――。

 

「ん……眩しいな……」

 

ボロボロの姿となり、少々痩せ、変わり果ててしまった――ジャック・アトラスの姿があった――。

 

――――――

 

同じく地下にて、セキュリティのデュエルチェイサー227は悩んでいた。遊矢達に負け、地下送りになってから――彼の言葉について。

自分が何故、セキュリティになったのか。左腕に装着したデュエルディスクを撫で、考える。あれは、確か――。

 

「おっと待ちな。全く手間かけさせやがって……お前等全員、大人しくしてもらうぜ?」

 

そんな彼の前に、1人の男が現れる。黒い肌に、金のサングラス。派手な衣装を纏った、ダンディな中年。確か――プロモーターの、ギャラガーと言ったか。彼は不機嫌そうにデュエルディスクを構え、227達の前に立ち塞がる。

 

「さぁてお前さん達、覚悟は出来てんだろうな……俺様を怒らせたんだ、この禁止カードデッキで、ボコボコにしてやんよぉ!」

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、光のプレートを展開するギャラガー。派手なデュエルディスクだ。だがまぁ、悩んでいた自分には、丁度良い相手だろう。自分が何をしたいのか、まだ分からないが、取り敢えず、目の前のレギュレーションも守れず、ルールを守ってデュエルを出来ないような奴には――セキュリティが、お似合いだ。

 

「まずはお前か、227ぁ」

 

ギャラガーがデュエルディスクよりワイヤーを放ち、227のデュエルディスクへと繋げる恐らくこれは、デュエルギャングが良く使用するものだろう。227の勘によれば――。

 

「こいつは敗けた奴のデュエルディスクを爆破する特別装置だぁ」

 

「上等じゃないか……」

 

今、導火線に、火が着く。

 

「「デュエル!!」」

 

――――――

 

そして――治安維持局にて、プラシドはモニターを見つめ、セキュリティやオベリスク・フォースを応援するロジェを視界の端に追いやり、状況を整理していた。

 

「ククク、ハーハッハッハ!さぁ、行けお前達!私のセルゲイを傷つけた輩を、榊 遊矢を叩きのめせぇっ!」

 

「……ふむ、思ったよりもデュエルエナジーが溜まっていない、食い止められているのか?セクトもこちらに戻す訳にはいかないだろうし、ジャック達を向かわせるべきか……榊 遊矢の成長は喜ばしいが、ランサーズが地上に出るにはもう少し時間がかかるか……それまでチクチクと現状維持か」

 

独り言が多いのか、考え事が多いのがクセなのか、顎に手を当てて思考に耽るプラシド。そこに――モニターの端に、彼にとって興味深いものが写り込む。

 

「む、ほう、これはこれは――」

 

表情は一変、不機嫌そうな声色も、喜色を含んだものとなる。彼の計画は、順調に進む。

 

――――――

 

場所は変わり、シティの中、錆び付いた歯車が回転する街、アクションフィールド、『歯車街』にて、2人のデュエリストが対峙していた。

1人は多くの強敵とぶつかり、最早一流のエンタメデュエリストと言って良い実力と経験を身につけた少年、榊 遊矢。もう1人はアカデミアの使者、とある神を模した仮面を被った精鋭、オベリスク・フォース。

彼は新たな力を身に付け、強力な戦術を駆使、見事なまでに遊矢を苦戦させている。オベリスク・フォース全員が、ここまでパワーアップしているのなら、恐るべき事だ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

ターンはオベリスク・フォースに移り、彼はデッキから1枚のカードを引き抜く。『アンティーク・ギア』の上級モンスターを何度も繰り出す彼のデュエルは脅威的だ。このターンも、何を仕掛けて来るか。

 

「ここまでやるとは……!だが俺とてアカデミアのデュエル戦士!ここで終わる程ヤワでは無い!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地より『古代の機械混沌巨人』と『古代の機械巨人』2体、アルティメット・パウンド2体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

オベリスク・フォース 手札1→3

 

「『古代の機械猟犬』を召喚!」

 

古代の機械猟犬 攻撃力1000

 

現れたのは彼等オベリスク・フォースが愛用する、遊矢にとってのディスカバー・ヒッポのようなモンスターだ。本来は融合召喚の為に使用するのだが――今回は少々趣が異なる。

 

「召喚時効果で貴様に600のダメージを与える!」

 

榊 遊矢 LP1600→1000

 

「魔法カード、『ワン・フォー・ワン』!手札のモンスター1体を捨て、デッキからレベル1モンスター、『トルクチューン・ギア』をリクルート!」

 

トルクチューン・ギア 守備力0

 

次はレベル1のチューナー、これで準備は整った。

 

「『トルクチューン・ギア』を猟犬に装備!攻守を500アップし、チューナーとして扱う!」

 

古代の機械猟犬 攻撃力1000→1500

 

「ほんっと……思いもよらないプレイングをして来るね、飽きないよ」

 

「光栄だな、だが褒めても出るのは、強力のモンスターだ!俺はレベル3の『工作列車シグナル・レッド』に、レベル3の『古代の機械猟犬』をチューニング!シンクロ召喚!『ゴヨウ・ガーディアン』!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800

 

猟犬が青とオレンジの渦に呑まれ、3つのリングとなった後、シグナル・レッドがランプに赤い光を灯してリングの中を突き進む。そして一筋の閃光がシグナル・レッドをリングごと貫き、フィールドを覆う光を裂いて、中より歌舞伎化粧をした岡っ引きが見栄を切って現れる。

 

「バトル!『ゴヨウ・ガーディアン』でラフメイカーへ攻撃!」

 

榊 遊矢 LP1000→700

 

「うぐっ……!罠発動!『運命の発掘』!『補給部隊』と合わせ、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1→2

 

「今度は俺の有利だな、ターンエンド」

 

オベリスク・フォース LP200

フィールド『ゴヨウ・ガーディアン』(攻撃表示)

『補給部隊』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ペンデュラム・コール』を発動!手札を1枚捨て、デッキから『時読みの魔術師』と『星読みの魔術師』をサーチ、セッティング!ペンデュラム召喚!『相克の魔術師』!『EMラディッシュ・ホース』!『EMパートナーガ』!『EMバブルドッグ』!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

EMラディッシュ・ホース 守備力2000

 

EMパートナーガ 守備力2100

 

EMバブルドッグ 攻撃力2300

 

「パートナーガの効果でラディッシュ・ホースの攻撃力を900アップ!」

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力500→1400

 

「ラディッシュ・ホースの効果を、『ゴヨウ・ガーディアン』と相克に使用!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800→1400

 

相克の魔術師 攻撃力2500→3900

 

「バトル!相克で『ゴヨウ・ガーディアン』へ攻撃!」

 

「無駄だ!墓地の『超電磁タートル』を除外し、バトルフェイズを終了する!」

 

「『ワン・フォー・ワン』の時……カードを1枚セット、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP700

フィールド『相克の魔術師』(攻撃表示)『EMラディッシュ・ホース』(守備表示)『EMパートナーガ』(守備表示)『EMバブルドッグ』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『時読みの魔術師』『星読みの魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトルに移る!」

 

「罠発動!『妖怪のいたずら』!フィールドのモンスターのレベルを2つ下げる!」

 

相克の魔術師 レベル7→5

 

EMラディッシュ・ホース レベル4→2

 

EMパートナーガ レベル5→3

 

EMバブルドッグ レベル6→4

 

ゴヨウ・ガーディアン レベル6→4

 

「レベルを……?それがどうし――!?」

 

遊矢の不可解なカードの発動に、眉をひそめるオベリスク・フォース。だがそれは直ぐに分かる。パートナーガが『ゴヨウ・ガーディアン』の四肢に絡みつき、自由を奪い取っているのだ。

 

「パートナーガがモンスターゾーンに存在する限り、レベル5以下のモンスターは攻撃が出来ない……!」

 

「……チッ、メインフェイズ2、魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

オベリスク・フォース 手札0→3

 

「モンスター1体とカードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォース LP200

フィールド『ゴヨウ・ガーディアン』(攻撃表示)セットモンスター

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!面白くなって来たな、ラディッシュ・ホースの効果を使い、『ゴヨウ・ガーディアン』の攻撃力を下げ、バブルドッグの攻撃力をアップ!」

 

「速攻魔法、『神秘の中華なべ』!『ゴヨウ・ガーディアン』をリリースし、その攻撃力分、LPを回復!」

 

オベリスク・フォース LP200→3000

 

「バブルドッグでセットモンスターへ攻撃!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

オベリスク・フォース 手札0→1

 

「相克でダイレクトアタック!」

 

「墓地の『カイトロイド』を除外し、ダメージを0に!」

 

「ッ、魔法カード、『七星の宝刀』!レベル7のモンスター、相克を除外し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP700

フィールド『EMラディッシュ・ホース』(守備表示)『EMパートナーガ』(守備表示)『EMバブルドッグ』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

Pゾーン『時読みの魔術師』『星読みの魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!手札を1枚捨て、ペンデュラムを破壊!ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォース LP3000

フィールド

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ラディッシュ・ホースとパートナーガをリリース!アドバンス召喚!『法眼の魔術師』!」

 

法眼の魔術師 攻撃力2200

 

現れたのは『慧眼の魔術師』と対をなす『魔術師』ペンデュラムモンスター、銀色の髪を靡かせ、筋骨隆々とめ言える体躯を誇り、神聖なオーラをその身に纏う。

 

「バトル!法眼でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『リジェクト・リボーン』!バトルフェイズを終了し、『ゴヨウ・ガーディアン』と『ジュッテ・ナイト』を蘇生!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

「ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP700

フィールド『法眼の魔術師』(攻撃表示)『EMバブルドッグ』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「墓地の『妖怪のいたずら』を除外し、『ゴヨウ・ガーディアン』のレベルを1つダウン!」

 

ゴヨウ・ガーディアン レベル6→5

 

「チッ、ならばバトルだ!」

 

「罠発動!『ペンデュラム・リボーン』!エクストラデッキのパートナーガをフィールドに!」

 

EMパートナーガ 守備力2100

 

「バブルドッグの攻撃力をアップ!」

 

EMバブルドッグ 攻撃力2300→2900

 

「やるな……カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォース LP3000

フィールド『ゴヨウ・ガーディアン』(攻撃表示)『ジュッテ・ナイト』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ!法眼で『ジュッテ・ナイト』へ攻撃!」

 

「罠発動!『緊急同調』!バトルフェイズにシンクロ召喚を行う!俺はレベル6の『ゴヨウ・ガーディアン』に、レベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!お上の威光の前にひれ伏すが良い!シンクロ召喚!『ゴヨウ・キング』!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力2800

 

現れたのは『ゴヨウ』モンスター達を統べる王。『ゴヨウ・ガーディアン』の正統進化形、歌舞伎化粧に日本刀と十手を構えた岡っ引きのモンスター。下駄の音をカカンッ、と鳴らし、居合いの構えを取って法眼を睨む。

 

「バトルを中断、バブルドッグで『ゴヨウ・キング』へ攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP700

フィールド『法眼の魔術師』(攻撃表示)『EMパートナーガ』(守備表示)『EMバブルドッグ』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトル!『ゴヨウ・キング』でバブルドッグへ攻撃!この瞬間、攻撃力を400アップ!」

 

「罠発動!『ドレイン・シールド』!攻撃を無効にし、『ゴヨウ・キング』の攻撃力分、回復!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力2800→3200

 

榊 遊矢 LP700→3500

 

「フン、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォース LP3000

フィールド『ゴヨウ・キング』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!法眼とパートナーガをリリースし、アドバンス召喚!『降竜の魔術師』!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

今回かなり使用されるアドバンス召喚、現れたのは竜の血を宿す『魔術師』モンスター。ここからが反撃開始だ。遊矢の意気に応え、杖を回転させ、地面に突き刺して両手を合わせる。

 

「降竜の効果でこのカードをドラゴン族に変更!そして降竜とバブルドッグをリリース!出でよ!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

ここで遊矢が、このデュエル初めて、ペンデュラム以外のエクストラデッキからのモンスターを呼ぶ。雄々しい咆哮を放つのは、獣骨の鎧を纏い、青い毛並みを伸ばした竜。赤と緑、加えて額に獣の眼を開いた『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の進化形だ。

 

「バトル!ビーストアイズで『ゴヨウ・キング』へ攻撃!ヘルダイブバースト!」

 

「やれやれ、足下がお留守だぞ?罠発動!『セキュリティー・ボール』!攻撃モンスターを守備表示に!」

 

ビーストアイズがアギトに炎を集束し、放とうとしたその瞬間、ズボリと地面から黄色く発光する赤い球体が出現、コアから光の糸を放ち、ビーストアイズの脚に引っかけて転ばせ、その間に糸を張り巡らせ、地面に縛りつける。

 

「ッ――ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP3500

フィールド『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!クク、必死だなぁ?魔法カード、『一時休戦』!互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0に!」

 

オベリスク・フォース 手札0→1

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「魔法カード、『ミラクルシンクロフュージョン』!墓地の『ゴヨウ・ガーディアン』と『ゴヨウ・プレデター』を除外し、融合!融合召喚!出でよ、荘厳なる捕獲者の血統を受け継ぎし者!『ゴヨウ・エンペラー』!」

 

ゴヨウ・エンペラー 攻撃力3300

 

『ゴヨウ・キング』に並び立つのは更なる『ゴヨウ』の進化形、皇帝の名を与えられた幼き少年の姿をし、玉座に腰かけたモンスターだ。

 

「『ゴヨウ・キング』でビーストアイズへ攻撃!」

 

「永続罠、『光の護封霊剣』!LPを1000払い、攻撃を無効!」

 

榊 遊矢 LP3500→2500

 

「『ゴヨウ・エンペラー』で追撃!」

 

「『光の護封霊剣』の効果!」

 

榊 遊矢 LP2500→1500

 

「ビーストアイズを守ったか……まぁ、LPを2000削れたんだ、良しとしよう。ターンエンド」

 

オベリスク・フォース LP3000

フィールド『ゴヨウ・キング』(攻撃表示)『ゴヨウ・エンペラー』(攻撃表示)

『補給部隊』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『光の護封霊剣』をコストに2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「『EM小判竜』を召喚!」

 

EM小判竜 攻撃力1800

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→3500

 

「ビーストアイズを攻撃表示に変更し、バトルに入る!ビーストアイズで『ゴヨウ・キング』へ攻撃!」

 

「ッ、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

オベリスク・フォース 手札0→1

 

「カードを1枚セット、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP1500

フィールド『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EM小判竜』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!2枚目の『補給部隊』を発動!そしてモンスターをセット、バトル!『ゴヨウ・エンペラー』で小判竜へ攻撃!」

 

「罠発動!『攻撃の無敵化』!ダメージを0に!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォース LP3000

フィールド『ゴヨウ・エンペラー』(攻撃表示)セットモンスター

『補給部隊』×2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!モンスターをセット、バトルだ!ビーストアイズでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『カードガンナー』、2枚の『補給部隊』の効果も合わせ、3枚ドロー!」

 

「ビーストアイズの効果で素材となったバブルドッグの攻撃力分、ダメージを与える!」

 

オベリスク・フォース LP3000→700 手札0→3

 

「ぬぅぅぅぅ……!」

 

ビーストアイズのアギトから青い炎が放たれ、オベリスク・フォースを呑み込む。強力な一撃、思わず両腕を交差し、盾とする。

 

「メインフェイズ2、魔法カード、『一時休戦』を発動!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

オベリスク・フォース 手札3→4

 

「ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP1500

フィールド『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)セットモンスター

『補給部隊』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『古代の整備場』を発動。墓地の『古代の機械箱』をサルベージ。そしてドロー以外でデッキ、墓地から加わったこのカードの効果で『古代の機械素体』をサーチ、召喚!」

 

古代の機械素体 攻撃力1600

 

現れたのは『古代の機械巨人』から重厚なボディを奪ったような、骨格のみのモンスターだ。

 

「効果を使い、手札を1枚捨て、デッキから『古代の機械融合』をサーチ!発動!フィールドの『古代の機械素体』、手札の『古代の機械箱』、『古代の機械巨竜』、『古代の歯車機械』の4体で融合!融合召喚!『古代の機械混沌巨人』!!」

 

古代の機械混沌巨人 攻撃力4500

 

再び現れるオベリスク・フォースの切り札。青錆を纏う、『アンティーク・ギア』最大最強の巨神。圧倒的力を誇る超弩級のモンスター。『ゴヨウ』最強の『ゴヨウ・エンペラー』と並び立ち、赤い眼を妖しく光らせる。

 

「バトル!混沌巨人でビーストアイズとセットモンスターへ攻撃ィ!」

 

「う、あっ……!」

 

混沌巨人が右腕にエネルギーを充填し、バチバチと雷が囀ずる黒い球体を撃ち出し、ビーストアイズに着弾、ドーム状に衝撃が広がり、遊矢のモンスターを跡形もなく破壊する。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

オベリスク・フォース LP700

フィールド『古代の機械混沌巨人』(攻撃表示)『ゴヨウ・エンペラー』(攻撃表示)

『補給部隊』×2セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『EMヘルプリンセス』を召喚!」

 

EMヘルプリンセス 攻撃力1200

 

遊矢のターン、手札より出現したのはマジックハンドを持つ紫色の髪をツインテールに結んだ少女だ。攻撃力は低く、この場に出すカードには向いていない。本人もオベリスク・フォースのフィールドに揃ったモンスターを見て、ビクリと肩を震わせ、涙目となる。

 

「魔法カード、『龍の鏡』!墓地の『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と、フィールドのヘルプリンセスを除外し、融合!今一つとなりて新たな命ここに目覚めよ!融合召喚!現れ出でよ!気高き眼燃ゆる勇猛なる龍!『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

フィールドに巨大な炎が発生し、その中を裂いて新たなモンスターが産声を上げる。彼のエース、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を正統進化させたような、赤い鱗を宝石のように輝かせ、黄金の角を煌めかせるオッドアイのドラゴン。雄々しく勇猛な遠吠えを放ち、その体躯から赤い竜の影が何本か伸び、オベリスク・フォースのモンスターに突き刺さる。

 

「ブレイブアイズの効果!お前のモンスターの攻撃力を0に!」

 

古代の機械混沌巨人 攻撃力4500→0

 

ゴヨウ・エンペラー 攻撃力3300→0

 

「!」

 

「バトルだ!ブレイブアイズで混沌巨人へ攻撃!灼熱のメガフレイムバーストッ!」

 

「罠発動!『パワー・ウォール』!デッキトップから6枚のカードを墓地に落とし、ダメージを0に!そして『補給部隊』の効果でドロー!」

 

オベリスク・フォース 手札0→2

 

「ぬうっ……!」

 

ブレイブアイズのアギトに大気が集束し、火炎が迸って混沌巨人に撃ち出される。力が錆び付いた混沌巨人は反撃する事も出来ず、高熱で燃やされ、陽炎が揺らめいた後に姿を消す。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP1500

フィールド『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『死者への手向け』!手札を1枚捨て、ブレイブアイズを破壊!」

 

「速攻魔法、『禁じられた聖槍』!ブレイブアイズの攻撃力を800ダウンし、魔法、罠への完全耐性を与える!」

 

ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→2200

 

「逃したか……構わん!『ゴヨウ・エンペラー』をリリース、『歯車街』の効果でリリースを軽減し、アドバンス召喚!『古代の機械巨人』!!」

 

古代の機械巨人 攻撃力3000

 

フィールドに現れる、『アンティーク・ギア』の代表的な大型モンスター。この状況でブレイブアイズを引き抜いて来た。この男も大概ツイているとしか言いようが無い。古びた歯車を回転させ、銅の体躯が稼働する。鈍く、赤く輝くモノアイを輝かせ、遊矢を睨み、強者のオーラを放つ。

 

「バトルだ!『古代の機械巨人』で、ブレイブアイズへ攻撃!アルティメット……パウンドォォォォォッ!!」

 

榊 遊矢 LP1500→700

 

ギギギも鈍い音が響き、『古代の機械巨人』が駆動、右腕を大きく振りかぶってブレイブアイズを押し潰し、フィールドに亀裂を走らせて砂塵を巻き起こす。

 

「ぐあっ……!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「ターンエンド……さぁ、貴様のターンだ……!」

 

オベリスク・フォース LP700

フィールド『古代の機械巨人』(攻撃表示)

『補給部隊』×2

手札0

 

強い――脅威的な戦術を繰り出し、進化を遂げたオベリスク・フォースのデュエル。最早一流以上の域まで達している。驚かされるばかりだ。だけど、だからこそ楽しい。何が起こるか分からない、ワクワクドキドキするデュエル。1つだけ分かるのは、彼も、デュエルが好きで、楽しんでいる事。それが、彼のデッキから、デュエルから伝わってくる。アカデミアにも、こんなデュエリストがいる。

 

「へへ、やっぱり凄いなアンタ……」

 

「当然だ、アカデミアの精鋭をなめてもらって困る」

 

「凄いし、強い。それに面白い……だけど、ここで逆転すれば、もっと面白いよな?」

 

「ほう……出来るものなら、やって見せろ!」

 

デュエリストとしての闘気が迸る。熱き血潮が流れ、脈を打つ。互いに全身全霊、全力全開、まだまだ、高みへと昇る。

 

「行くぞ!お楽しみは、これからだぁっ!」

 

引き抜かれる、1枚のカード、その軌跡が、天空に虹色のアークを描く。デッキは――遊矢へと応える。

 

「来たか……!俺は魔法カード、『ペンデュラム・パラドックス』を発動!エクストラデッキより、スケールが同じ、ラフメイカーと小判竜を回収!そして魔法カード、『EMキャスト・チェンジ』!小判竜をデッキに戻し、2枚ドロー!『EMウィム・ウィッチ』を召喚!」

 

EMウィム・ウィッチ 攻撃力800

 

現れたのはピンク色の猫のモンスター。後は――。

 

「魔法カード、『二重召喚』!ウィム・ウィッチはペンデュラムモンスターのアドバンス召喚に使用する場合、2体分のリリース要員となれる!ウィム・ウィッチをリリース!アドバンス召喚!『EMラフメイカー』!」

 

EMラフメイカー 攻撃力2500

 

現れたのはこのデュエル、2度目の登場となる魔法使い。ステッキとトランプを手に持った、マジシャンのような出で立ちのこのカードが、遊矢を勝利へ導く鍵となる。

 

「フ、またそのモンスターか……だが、そいつでは俺の『古代の機械巨人』には届かん!」

 

「焦るなよ、『EM』には『EM』の闘う舞台があるんだぜ?Ladies and Gentleman!魔法カード、『スマイル・ワールド』を発動!」

 

EMラフメイカー 攻撃力2500→2700

 

古代の機械巨人 攻撃力3000→3200

 

そしてこれが――このデュエルのラストを飾る、フェイバリットカード。発動と同時に、『歯車街』に色とりどりの笑顔のスタンプが散りばめられ、世界を鮮やかに変えていく。これが――『EM』の、戦う舞台、心を惹き付けるショーこそ、彼等の本領が発揮出来る場所。

 

「この効果で互いのモンスターは、フィールドのモンスターの数×100、攻撃力がアップする。バトルだ!ラフメイカーで、『古代の機械巨人』へ、攻撃!」

 

ラフメイカーがステッキを振るい、稲妻が激しくスパークしながら放たれる。そんな中――遊矢の脳裏に、ある光景が過る。昔、とある場所で、学生服の少年と、青いコートを纏った金髪の男性が向かい合い、デュエルをおこなう光景、そのデュエルは、佳境を向かえ――赤と緑の人型のモンスターが、背に伸びた翼を広げ、竜の頭部が生えた右腕を巨人へと向けて。

 

「ラフメイカーの、効果発動!」

 

EMラフメイカー 攻撃力2700→4700

 

今、決着する。

 

「ラフィングスパークッ!!」

 

オベリスク・フォース LP700→0

 

勝者、榊 遊矢。ソリッドビジョンのモンスターとフィールドが光の粒子に消えいく中、彼は記憶の中の少年と同じく、中指と人差し指を突き出し、眩しい笑顔を見せる。

 

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!」

 

まるで太陽を思わせるような、溢れんばかりの笑み。対するオベリスク・フォースは、口端を吊り上げ、不敵に笑って強気を見せようとするが――上空より影が差し、見上げる間もなく、頭部を踏みつけられ、ガンッ、と鈍い音を鳴らして地面に倒れる。

 

「がぁっ――!?」

 

余りにも突然の出来事に、目を見開き、思考が混乱する遊矢。一体、何が起こっている、と、目の前に表れ、オベリスク・フォースの上に着地した人物に、視線を移す。この、男は――。

 

「……久し振りだな、榊 遊矢……!」

 

風に揺れる、白いマント、首にかけられた重々しいヘッドフォン、マントの下には黒いジャケットを纏い、左腕には黄金のデュエルディスクが装着されている。そして何よりも目を引くのは――彼のキャラクターを決定つける、頭に被ったつばの欠けた黒い帽子。

遊矢に向かい、好戦的な笑みを浮かべる、この少年は――。

 

「黒い、コナミ……!」

 

絶望をもたらす、希望の使者が、白き大地に降り立った。

 

「さぁ、デュエルを始めようか……!」

 

ニヤリ、笑みを浮かべ、デュエルディスクを構え、光輝くプレートを展開する、黒コナミ。この乱戦の中、遊矢は思いもよらぬ再会を果たした。



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第159話 奴をデュエルで拘束せよ!

コナミ「……」

遊矢「ゲーム新作情報が出てから凄いコッチ見て来る……」

沢渡「リンクス次元に帰ろうね」


シティ、地下。フレンドシップカップで敗北したメンバーも集う場にて、喧騒に包まれる中――3人の男が、対峙していた。

1人はコモンズの青年、チーム革命軍のメンバーにしてリーダー、青い髪を跳ねさせ、ライダースーツを纏ったシンジ・ウェーバー。もう1人は奇襲、多対1と様々な状況で立ち回れ、経験も豊富、赤いスカーフにコート、猛禽を思わせる鋭い目付きが特徴的な青年、黒咲 隼。

そして――2人と相対するのは、1人の男。金髪にアメジストの瞳、ボロボロになった白いコートを纏い、元の彼からは想像もつかない程、死んだ気配を漂わせ、王者の仮面を剥がされた、ジャック・アトラス。このシティでは、誰もがその実力者を認めるデュエルキング――だった男だ。

 

「おーいシンジ!脱出経路を確保出来たぞー!」

 

「……黒咲、お前達は先に行ってろ」

 

「……良いのか?」

 

「お前達には役目があんだろ。俺は……ワリィが、こいつに用がある」

 

ジッ、目を逸らさずに、真っ直ぐとジャックを睨むシンジ。その瞳には、揺るぎない意志が見える。誰が相手だろうと、一歩も退かない、彼らしい覚悟が。

 

「俺もついてるから、ここは任せて先に行きな」

 

「クロウ……分かった……恩に着る!」

 

シンジの親友、オレンジの髪をヘアバンドで留めた青年、クロウもシンジに加勢し、隼を促す。確かに、ここにいても彼に出来る事はない。ここは彼等に任せるべきだろう。ダッ、とその場から駆け、ランサーズメンバーを引き連れて地上へと出る。残されたのは、3人。シンジとクロウ、そしてジャックだ。

 

「さて……まずは自己紹介といこうか、俺はシンジ・ウェーバー。こいつはクロウ・ホーガンってんだ」

 

「……クロウ・ホーガン……?」

 

ピクリ、クロウを見て、死んでいたジャックの眼に僅かに光が灯り、反応を見せるが――直ぐにまた元通りに戻ってしまう。一体何が彼に起こったのか、それに、彼は地上にいる筈だが。

 

「で……だ、キング、ジャック・アトラス。何でアンタがここにいる?」

 

ギロリ、下手な嘘は許さないと言わんばかりの眼光をジャックに向けるシンジ。それもそうだろう、シンジはこのジャックの事を余り良く思っていないのだ。

 

「キング……ジャック・アトラスか――俺は……何者なんだろうな……」

 

「……何?」

 

虚空を見つめ、自虐するように薄く、乾いた笑みを浮かべるジャック。その姿はやはり、彼の知るジャックとはかけ離れていて、どうしても苛立って、頭に血が上ってしまう。

 

「どう言う意味だ……!それに俺は聞いてんだよ、何で地上にいる筈のテメェがここにいるかを!」

 

「地上……ああ、そうか、と言う事は、あの男は上手くやっているのか……クク、本当に、俺と言う存在をとことん否定してくれる……」

 

「あん?」

 

「……良いだろう、教えてやる。フレンドシップカップ、榊 遊矢と俺のデュエルが終わった後にあった出来事を……」

 

訝しむシンジとクロウを見て、ジャックは語り出す。ジャック・アトラスが、ジャック・アトラスで無くなったあの時の事を。

 

――――――

 

一方、同じ地下では、2人の男が対峙していた。

1人はセキュリティに所属し、敗北した事でロジェより切り捨てられた男、デュエルチェイサー227。尤も、最早そのコードネームは意味の無いものだが。

もう1人は短髪に黒い肌、個性的な金のサングラスが特徴であり、白いスーツを着た男、ロジェの部下であり、彼側につく自称プロモーターのギャラガーだ。

 

ギャラガーは彼を見逃さない為、見せしめの為に。227は自らの信じる正義の為に。信念を賭けてぶつかり合う。

ギャラガーのデッキは禁止カードデッキらしいが――本来禁止カードはデュエルディスクの機能が反応しないようになっている筈。例えセキュリティの旧型のディスクでも禁止カード1枚が限界、それも処理が不安定になる為、廃棄されたのだが――考えても仕方無い。227は先攻を取り、5枚のカードを引き抜く。

 

「俺のターン、俺は永続魔法、『補給部隊』を発動。『ジュッテ・ナイト』を召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 攻撃力700

 

現れたのは彼のデッキにとって代表的なチューナーモンスター。髷に眼鏡、十手に着物、背には提灯を負った役人がモチーフのモンスター。特に秀でた効果は無いが、『ゴヨウ』モンスターをサポートする役割を持っている。

 

「そして『キリビ・レディ』を特殊召喚!」

 

キリビ・レディ 守備力100

 

次は戦士族の存在をトリガーに特殊召喚が可能なレベル1のカード。頭巾にタラコ唇、火打ち石を持った少女のモンスターだ。『ジュッテ・ナイト』に並び、カチカチと火打ち石の音をフィールドで鳴らす。

レベル2のチューナーとレベル1の非チューナーが揃った。この状況で出すならばあのカードか。

 

「レベル1の『キリビ・レディ』に、レベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!お上の力を思い知れ!シンクロ召喚!現れろ!『ゴヨウ・ディフェンダー』!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

シンクロ召喚、『ジュッテ・ナイト』が光輝く2つのリングとなって弾け飛び、『キリビ・レディ』を包み込む。そして一筋の光の柱がリングごと『キリビ・レディ』を貫き、眩き閃光がフィールドを覆う。光を裂き、現れたのは卵のような形をしたモンスター。髷や着物に加え、歌舞伎化粧を施した岡っ引きを思わせるシンクロモンスターがフィールドで大手を振るう。

 

「『ゴヨウ・ディフェンダー』の効果!エクストラデッキの2体目の『ゴヨウ・ディフェンダー』を呼ぶ!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

「そして2体目の効果も使う!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

これで『ゴヨウ・ディフェンダー』が3体、このカードが攻撃対象になった場合、他の地属性、戦士族のシンクロモンスターの数×1000攻撃力をアップする。3体で攻撃力3000、防御としては充分な盾が出来上がった。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

デュエルチェイサー227 LP4000

フィールド『ゴヨウ・ディフェンダー』(攻撃表示)×3

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!さぁ、見せてやるよ!このデッキと改造ディスクの力を!速攻魔法、『魔導書の神判』!このカードを発動したターンのエンドフェイズ、俺様はこのカードの発動後に、互いに発動した魔法カード、の数まで、このカード以外の『魔導書』をサーチする。そしてその後、手札に加えたカードの枚数以下のレベルの魔法使い族を特殊召喚……って……お、俺このカード以外の『魔導書』なんて入れてねぇぞ!」

 

「……ハァ?」

 

まさかのデッキ構築時点でのミスに呆れる227。この男――まさか本当に、禁止カードしかデッキに入れてないと言うのか。それとも――デュエルディスクが禁止カードしか認識しないのか。ギャラガーが考えなしに禁止カードを投入したと言うのも大きいか。禁止カード=強いと言うデュエル素人だったらしい。勝機はある。

 

「く、くそっ!まだだ!まだカードはあるんだよ!永続魔法、『生還の宝札』と『マスドライバー』を発動!そしてモンスターの代わりに、この2枚の永続魔法をリリースし、アドバンス召喚!『真竜剣皇マスターP』!」

 

真竜剣皇マスターP 攻撃力2950

 

2枚の魔法カードを捧げ、現れたのは白く輝く竜の剣士。雄々しい翼を広げ、美しく煌めく剣を振るう勇敢なモンスターだ。攻撃力は2950。効果も禁止カードだけあり強力であるが――。

 

「折角の『生還の宝札』と『マスドライバー』をこんな風に使うとは……」

 

驚くべきは彼が消費したカード。このモンスターを召喚するまでに、このカードも含め、既に4枚のカードを使っている。内1枚は無駄打ち。2枚は他のデッキであれば1ターンキルに使えるポテンシャルを持っている。やはり素人か、戦術が豪快にも程がある。227が思わずもったいないと考えてしまうのも無理は無い。

しかし不思議なものだ。デュエルディスクが4枚もの禁止カードを認識してしまっている。やはりこれは――。

 

「マスターPはリリースしたカードと同じ種類のカード効果を受けない!リリースしたのは魔法カード、よって魔法カードの効果を受けない。更に、1ターンに1度、墓地の永続魔法、永続罠を除外し、このカード以外のフィールドのカードを破壊可能!『生還の宝札』を除外、『ゴヨウ・ディフェンダー』を破壊!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札0→1

 

「バトルだ!マスターPで『ゴヨウ・ディフェンダー』へ攻撃!」

 

「罠発動!『聖なるバリアーミラーフォースー』!マスターPを破壊!」

 

「ぐぬっ、俺はカードを2枚セット、ターンエンド!」

 

ギャラガー LP4000

フィールド

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!どうやらデッキが強くても、お前自身は大した事が無いらしいな!」

 

「うるせぇ!負け犬が上等な口開いてんじゃねぇぞ!罠発動!『第六感』!」

 

「何ィ!?」

 

ギャラガーが発動した罠を見て、227がギョッとして額から汗を流す。このカードは禁止カードの中でも凶悪極まりないカード、その効果は――。

 

「俺はサイコロの目を2つ宣言し、相手がサイコロを振り、宣言した数字が出た場合、その枚数をドロー!外れた場合、出た目の数だけデッキトップからカードを墓地に送る!」

 

当たれば大儲け、当たらなくても大儲け。とんでもないパワーカード。これ程までに分かりやすい強さ、正しく禁止カードの相応しい。ニヤリと笑みを浮かべるギャラガー。227のフィールドに、ソリッドビジョンで構成されたサイコロが落ちる。

 

「おれば5と6を宣言!さぁ、サイを振りな!」

 

「くっ――インチキカードも大概にしろ……お前はそれでもデュエリストか!」

 

「リアリストだ!ヒャハハハハ!」

 

恥も外聞も捨てた、ルールを守らない無法者、リアリスト、ギャラガー。ここまで清々しいルールブレイカーを見るのは227とて初めてだ。例えどんなに卑劣なデュエリストだろうと、デュエリストである限り、ルールの範囲内で相手を倒すと言う誇りを持っているのに――この男は、デュエルをとことんバカにしているのか、通じない。

 

「さぁて、何が出るかな?何が出るかな~?」

 

「この……!」

 

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、227の反応を楽しむギャラガー。こうなってはデュエルでこの男を倒す他ない。苛立ちを抑え、歯噛みしながら227はサイコロを回転させる。結果は――6、最悪だ。

 

「ハハハハハッ!デケェ口叩いた割にはお前の運、大した事ないねぇ、お疲れさん!ありがたぁく6枚、ドローさせてもらうぜ!」

 

ギャラガー 手札0→6

 

一気に6枚のドローブースト。辛い所だが、相手のデッキは禁止カードのみで構成されている。テーマもバラバラで、禁止カードには防御カードが少なかった筈だ。そこを叩く。

 

「……だがおかしいな、何故お前のデュエルディスク、ここまで禁止カードに反応している?」

 

「あぁん?……どうやら頭は悪くねぇようだな……へへ、特別に教えてやんよ。デュエルディスクが禁止カードなら反応を見せず、制限カードならサルベージを行わねぇ限り、対応しねぇのは知ってるか?」

 

そう――デュエルディスクは、レギュレーションの更新の都度、自動的にアップデートされ、禁止カードには無反応や引っ掛かったりする。例え改造しても、処理が滅茶苦茶になってしまうのだ。ある例外を除く限りは。

 

「ああ……旧型のセキュリティ、デュエルディスク以外がそうなのはな」

 

「クク、気づいたか……」

 

昔――セキュリティは凶悪犯罪者をデュエルで拘束するにあたり、1つの策を編み出した。それが、旧型のセキュリティディスク、つまり、禁止カードに対応したディスクだ。無論製作は困難を極め、結果的に、1枚の禁止カードを処理させる、と言う一点に無理矢理改造する事で成功した。

 

ただし、そのディスクは新型ディスク、マスタールール3に対応したディスクには適応出来ず、処理も不安定になる事から廃棄されたのだ。

 

「お前の読み通り、これほ旧セキュリティディスクを魔改造し、奇跡的に成功した偶然の産物、ま、代わりとして禁止カード以外に対応出来なくなっちまったがな。お偉いさんが言うには、禁止カードとそれ以外のカードが、このディスクでは入れ替わってる形に近いらしい」

 

成程、それならば辻褄が合う。納得出来るものではないが。奇跡的と言う辺り、複製はきかないのだろうが――こんな違法ディスク、認める訳にはいかい。それも大元がセキュリティが撒いた種なら放って置けない。

 

「やはり貴様を見逃す訳にはいかない……ギャラガー!貴様を違法ディスクの使用により、デュエルで拘束させてもらう!」

 

「ハッ、出来るもんならやってみな!負け犬が良く吠えるぜ!」

 

「ッ!俺は『ジュッテ・ナイト』を召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 攻撃力700

 

「レベル3の『ゴヨウ・ディフェンダー』に、レベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!地獄の果てまで追い詰めよ!見よ!清廉なる魂!シンクロ召喚!出でよ、『ゴヨウ・チェイサー』!」

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力1900→2200

 

現れたのはレベル5、髷に歌舞伎化粧、黒い着物を纏い、十手を持った『ゴヨウ』モンスターだ。攻撃力は2200、シンクロモンスターとしては少々頼りない数値ではある。

 

「バトルに入る!」

 

「おっと、この瞬間、永続罠、『血の代償』を発動!その効果を使うぜ!LPを500払い、『レベル・スティーラー』を召喚!」

 

ギャラガー LP4000→3500

 

レベル・スティーラー 攻撃力600

 

「『ゴヨウ・チェイサー』で『レベル・スティーラー』を攻撃!」

 

「まだまだ!『血の代償』の効果で2体目の『レベル・スティーラー』召喚!」

 

ギャラガー LP3500→3000

 

レベル・スティーラー 攻撃力600

 

フィールドに2体の背に星を浮かべたてんとう虫が並ぶ。レベル5以上のモンスターのレベルを1つ下げる事で容易に蘇生が可能となるモンスターだ。効果でのリリースが不可能の為、『マスドライバー』とのコンボは狙えないが、それでも汎用性が高く、小回りが効く。

 

「チッ、『ゴヨウ・チェイサー』で『レベル・スティーラー』へ――」

 

「一々悪いね、巻き戻して。これで最後だ!『血の代償』の効果で、2体の『レベル・スティーラー』をリリース!アドバンス召喚!『瀑征竜ータイダル』!」

 

ギャラガー LP3000→2500

 

瀑征竜ータイダル 攻撃力2600

 

そして――2体の『レベル・スティーラー』を糧に、デュエルモンスターズ史上、最凶のドラゴン族と呼ばれたカードの1枚が君臨する。

手を切られても、その猛威は止まらず。足を奪っても、衰えず。翼をもがれても、尚、欲深く。全てを封じ、漸く死を受け入れた禁断の力。古より転生を繰り返す脅威、その1つが解き放たれる。

フィールドが吹雪に覆われ、現れたのは水の力を司る、青いドラゴン。大自然そのものが命を宿したような圧倒的な存在に、227がゴクリと喉を鳴らす。

 

「ギャラガー……!貴様は何てものを解き放ってしまったんだ……!」

 

「ハッハー!どうだぁ?これが禁止カードの力だ!」

 

「攻め手がない……俺はディフェンダーを守備表示に変更、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

デュエルチェイサー227 LP4000

フィールド『ゴヨウ・チェイサー』(攻撃表示)『ゴヨウ・ディフェンダー』(守備表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!手札の『嵐征竜ーテンペスト』の効果発動!同じく手札より、『ヴィクトリー・ドラゴン』と『焔征竜ーブラスター』を除外し、特殊召喚!」

 

嵐征竜ーテンペスト 攻撃力2400

 

吹き荒れる竜巻がギャラガーの手札より、2枚のカードを巻き上げ、復活の糧となる。竜巻が翼を、手足を、眼を、アギトを得て、現れたのは風がそのまま竜になったような存在。天空を司る征竜が今、タイダルに並び、227のフィールドを射抜く。

 

「そして除外されたブラスターの効果により、デッキから炎属性のドラゴン族モンスター、2枚目のブラスターを手札に!テンペストとタイダルのレベルを1つ下げ、墓地の『レベル・スティーラー』2体を蘇生!」

 

嵐征竜ーテンペスト レベル7→6

 

瀑征竜ータイダル レベル7→6

 

レベル・スティーラー 守備力0×2

 

「そして2体の『レベル・スティーラー』をリリース!アドバンス召喚!『焔征竜ーブラスター』!」

 

焔征竜ーブラスター 攻撃力2800

 

地からマグマが溢れ、2体の『レベル・スティーラー』を呑み込み、新たな征竜がフィールドに君臨する。赤黒い溶岩の鱗にマグマの血を流し、巨大な翼、鋭い爪、全てを食らわんとするアギトを兼ね備えた炎の征竜。タイダルとテンペストに並び、3体目の征竜が現れた。

 

「征竜が3体……!」

 

「バトルだぁ!ブラスターで『ゴヨウ・チェイサー』に攻撃!」

 

デュエルチェイサー227 LP4000→3100

 

ブラスターが大気中の熱をアギトに集め、火球を作り出して『ゴヨウ・チェイサー』へ撃ち出す。『ゴヨウ・チェイサー』も十手で何とか防ごうとするが、余りの高熱に十手が溶け、『ゴヨウ・チェイサー』を呑み込んでしまう。

 

「ぐっ……罠発動!『運命の発掘』!『補給部隊』と合わせ、2枚ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札0→1→2

 

「タイダルでディフェンダーへ攻撃、テンペストでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『リジェクト・リボーン』!バトルを中断させ、墓地の『ゴヨウ・チェイサー』と『ジュッテ・ナイト』を蘇生する!」

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力1900

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

「堪えるじゃねぇか、俺様はカードをセット、ターンエンドだ」

 

ギャラガー LP2500

フィールド『焔征竜ーブラスター』(攻撃表示)『瀑征竜ータイダル』(攻撃表示)『嵐征竜ーテンペスト』(攻撃表示)

『血の代償』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『第六感』!5と6を宣言、おっと5だ」

 

ギャラガー 手札0→5

 

「俺はレベル5の『ゴヨウ・チェイサー』に、レベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!縺れた疑惑の黒い霧、切り裂きて真実を解き明かさん!シンクロ召喚!『スナイピング・ヘイジータイプ0』!」

 

スナイピング・ヘイジータイプ0 攻撃力2400

 

ここで現れたのは『ゴヨウ』モンスターとはまた違った、地属性、戦士族のシンクロモンスター。尤も、その姿は右腕に小銭を弾丸のように撃ち出す手甲、左手には十手を持った岡っ引きと言った近しいものだが。歌舞伎化粧があるかないかの違いだろうか。

 

「手札1枚を墓地に送り、ヘイジの効果発動!ブラスターを破壊し、400のダメージを与える!」

 

ギャラガー LP2500→2100

 

「装備魔法、『アサルト・アーマー』をヘイジに装備、攻撃力を300アップする」

 

スナイピング・ヘイジータイプ0 攻撃力2400→2700

 

「バトルだ!ヘイジでテンペストに攻撃!」

 

ギャラガー LP2100→1800

 

今度は227が攻める番だ。ヘイジが右腕の手甲を構え、小銭を撃ち出してテンペストを牽制、注意を引き付けた所で十手で叩き伏せる。征竜モンスター特殊召喚されればこちらのターン終了と共に手札に戻る。そうなれば次のターンも特殊召喚され、コストとなった征竜の効果で新たな征竜をサーチ、『レベル・スティーラー』をリリースして2体以上の征竜が並ぶ。それをさせない為、ここで叩くしかない。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

デュエルチェイサー227 LP3100

フィールド『スナイピング・ヘイジータイプ0』(攻撃表示)

『アサルト・アーマー』『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!永続魔法、『悪夢の蜃気楼』を発動!」

 

「くっ……!」

 

「フハハッ!こっちは幾らでも補給が効くんだよ。タイダルのレベルを2つ下げ、2体の『レベル・スティーラー』を蘇生する!」

 

瀑征竜ータイダル レベル6→5→4

 

レベル・スティーラー 守備力0×2

 

「フィールド魔法、『ドラゴニックD』を発動!フィールドのタイダルを破壊し、デッキより『真竜剣皇マスターP』をサーチ!スティーラーと蜃気楼をリリースし、アドバンス召喚!『真竜剣皇マスターP』!」

 

真竜剣皇マスターP 攻撃力2950

 

「『悪夢の蜃気楼』を除外し、効果発動!セットカードを破壊!」

 

「速攻魔法、『神秘の中華なべ』!ヘイジをリリースし、LPを回復!」

 

デュエルチェイサー227 LP3100→5800

 

「そしてフィールドを離れたヘイジの効果でシンクロ素材を蘇生!」

 

ゴヨウ・チェイサー 守備力1000

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

「墓地のブラスターの効果!墓地のタイダルとテンペストを除外し、蘇生する!」

 

焔征竜ーブラスター 攻撃力2800

 

「除外されたテンペストとタイダルの効果!デッキから2枚目のタイダルとテンペストをサーチ!ブラスターのレベルを下げ、『レベル・スティーラー』を蘇生!」

 

焔征竜ーブラスター レベル7→6

 

レベル・スティーラー 守備力0

 

「2体の『レベル・スティーラー』をリリースし、アドバンス召喚!『瀑征竜ータイダル』!」

 

瀑征竜ータイダル 攻撃力2600

 

「まだまだ行くぜ!ブラスターとタイダルのレベルをダウン、『レベル・スティーラー』!」

 

焔征竜ーブラスター レベル6→5

 

瀑征竜ータイダル レベル7→6

 

レベル・スティーラー 守備力0×2

 

「『血の代償』の効果!2体の『レベル・スティーラー』をリリースし、アドバンス召喚!『嵐征竜ーテンペスト』!」

 

ギャラガー LP1800→1300

 

嵐征竜ーテンペスト 攻撃力2400

 

これぞ禁止カードの力、圧倒的なカードパワーを振るい、4体の大型モンスターがフィールドに揃う。これは少々どころではなく、厄介な事になって来た。

 

「装備魔法、『強奪』を発動!『ゴヨウ・チェイサー』に装備し、コントロールを得る!」

 

「くっ……!」

 

『ゴヨウ』モンスターを『強奪』するとは、皮肉なものだ。

 

「バトル!タイダルで『ジュッテ・ナイト』へ攻撃!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札0→1

 

「マスターPでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを封じる!」

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

ギャラガー LP800

フィールド『真竜剣皇マスターP』(攻撃表示)『焔征竜ーブラスター』(攻撃表示)『瀑征竜ータイダル』(攻撃表示)『嵐征竜ーテンペスト』(攻撃表示)『ゴヨウ・チェイサー』(守備表示)

『強奪』『血の代償』セット1

『ドラゴニックD』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「このスタンバイフェィズ、お前は『強奪』の効果で1000回復する」

 

デュエルチェイサー227 LP5800→6800

 

「これでは……カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

「マスターPの効果発動!『マスドライバー』をコストにセットカードを破壊、そしてブラスターは手札に戻る」

 

デュエルチェイサー227 LP6800

フィールド

『補給部隊』

手札1

 

「『ゴヨウ・チェイサー』のレベルを下げ、『レベル・スティーラー』を蘇生する!」

 

「手札の『増殖するG』を捨て、効果発動!相手が特殊召喚する度ドロー!」

 

ゴヨウ・チェイサー レベル5→4

 

レベル・スティーラー 守備力0

 

デュエルチェイサー227 手札0→1

 

「『ドラゴニックD』の効果で『レベル・スティーラー』を破壊し、最後のマスターPをサーチ、そしてテンペストとタイダルをリリース、アドバンス召喚!」

 

真竜剣皇マスターP 攻撃力2950→3250

 

「そしてテンペストとタイダルを除外し、手札の『焔征竜ーブラスター』を特殊召喚!」

 

焔征竜ーブラスター 攻撃力2800

 

デュエルチェイサー227 手札1→2

 

「除外されたタイダルとテンペストの効果で3枚目のタイダルとテンペストをサーチ!バトルだ!マスターPでダイレクトアタック!」

 

「手札の『バトルフェーダー』の効果発動!このカードを特殊召喚し、バトルを終了する!」

 

バトルフェーダー 守備力0

 

「チ、ターンエンドだ」

 

ギャラガー LP800

フィールド『真竜剣皇マスターP』(攻撃表示)×2『焔征竜ーブラスター』(攻撃表示)『ゴヨウ・チェイサー』(守備表示)

『強奪』『血の代償』セット1

『ドラゴニックD』

手札5

 

「俺のターン、ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 LP6800→7800

 

何かがおかしい。先程のターン、再び『レベル・スティーラー』を展開し、『ゴヨウ・チェイサー』と共にリリースすれば、更に征竜を呼べたのだが――何故、『強奪』で手に入れた『ゴヨウ・チェイサー』を処理しなかったのか、放置してもデメリットにしかならない筈。単なるプレイングミスか?ギャラガーは素人だ。充分にあり得るが。

 

「カードをセット、魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札0→3

 

「『バトルフェーダー』をリリースし、モンスターをセット、カードを1枚セット、ターンエンドだ!宝札の効果で手札を1枚捨てる」

 

「ブラスターの効果で手札に戻る」

 

デュエルチェイサー LP7500

フィールド セットモンスター

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺様のターン、ドロー!手札の『ヴィクトリー・ドラゴン』とブラスターを除外し、来い、『瀑征竜ータイダル』!」

 

瀑征竜ータイダル 攻撃力2600

 

「除外されたブラスターの効果で3枚目のブラスターをサーチ、バトルだ!タイダルでセットモンスターへ攻撃!」

 

「永続罠、『強制終了』!セットモンスターを墓地へ送り、バトルを終了!更に墓地に送られた『タン・ツイスター』の効果で2枚ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札0→2

 

「このやろ……ターンエンドだ」

 

ギャラガー LP800

フィールド『真竜剣皇マスターP』(攻撃表示)×2『瀑征竜ータイダル』(攻撃表示)『ゴヨウ・チェイサー』(守備表示)

『強奪』『血の代償』セット1

『ドラゴニックD』

手札5

 

「俺のターン、ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 LP7800→8800

 

「『ジュッテ・ロード』を召喚!

 

ジュッテ・ロード 攻撃力1600

 

「効果で『ジュッテ・ナイト』を特殊召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

「レベル4の『ジュッテ・ロード』に、レベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!シンクロ召喚!『ゴヨウ・ガーディアン』!!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800

 

現れたのは『ゴヨウ』モンスターの代表格、元祖『ゴヨウ』となった『ゴヨウ・ガーディアン』だ。髷に歌舞伎化粧、着物を纏い、十手を握った岡っ引きのモンスター。元禁止カードでもあり、脱獄したギャラガーのモンスターを目にした途端、やる気になったのか、縄付き十手をグルグルと回す。

 

「バトル!『ゴヨウ・ガーディアン』でタイダルへ攻撃!ゴヨウ・ラリアット!」

 

「『血の代償』の効果!『ゴヨウ・チェイサー』とタイダルをリリース、アドバンス召喚!『焔征竜ーブラスター』!」

 

「ここでか……!」

 

ギャラガー LP800→300

 

焔征竜ーブラスター 攻撃力2800

 

「バトルを中断、カードを1枚セット、ターンエンド」

 

「罠発動!『ライフチェンジャー』!」

 

「なっ、この為だったのか……!」

 

発動された罠に、227が目を見開く。これこそがギャラガーの狙い。互いのLPに8000以上の差がある場合、強制的に3000にするカード、『チキンレース』等のカード、そしてバーンデッキではキーカードとなっており、1枚だけでも決着弾となれる為に禁止カードになった経歴を持つ。このカードの発動条件を満たす為、『強奪』を残し続けていたのだ。

 

ギャラガー LP300→3000

 

デュエルチェイサー227 LP8800→3000

 

「所詮、負け犬は負け犬よぉ」

 

「くそっ……!」

 

デュエルチェイサー227 LP3000

フィールド『ゴヨウ・ガーディアン』(攻撃表示)

『補給部隊』『強制終了』セット2

手札0

 

これでLPは互角、とは言え、状況としては227の不利だ。彼には強力な『ゴヨウ・ガーディアン』が存在するが、それはギャラガーも同じ。

『ゴヨウ・ガーディアン』と同等の攻撃力を持った『焔征竜ーブラスター』に加え、『ゴヨウ・ガーディアン』を超える『真竜剣皇マスターP』が2体、しかも内1体はフィールド魔法、『ドラゴニックD』の効果で攻撃力アップと1ターンに1度の戦闘耐性を持っている。他にはこちらのターンにも召喚権を得る『血の代償』。やはり禁止カードのオンパレードとだけあって、カードパワーはギャラガーが上。このままではじり貧だ。どうすればこの状況を抜け出し、彼を倒す手を生み出せるのか――227は必死で頭を働かせる。

 

「それでも――俺は勝つ!」

 

「ヒャハハハハ!無駄無駄ぁ!負け犬が俺に勝てると思うなよぉ!」

 

立ち塞がる禁断の力達。正義の刃は、彼の喉元に届くのか――。




ちなみに禁止カードをユベル等が使う場合、異物扱いとなり使用不可能になります。コピーカードは精巧なもの以外は反応しません。
プラシドは精巧な形で作り出し、その上でラーの翼神竜のコピーと同じ、神の怒りに触れる形でデュエルエナジーを発生、このシステムを利用して地縛神を製作しました。尤もモノホンには大きく劣りますが。


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第160話 屑野郎

シンクロ次元、シティの地上にて、1人の少女が奔走していた。白いフードつきのマントを纏った少女だ。彼女は息を切らしながらも走る足を緩める事無く、シティを駆ける。目的は――1人の少年、幼馴染みに会う為、普段聡明な彼女からは想像もつかないような行為だ。それだけ冷静さを失っているのか――。

 

「はぁ……はぁ……ユーゴ……!」

 

記憶を取り戻した少女は、故郷を駆ける。果たして彼女は、少年と無事再会出来るのか――。

 

――――――

 

一方、隼達ランサーズメンバーはシンジ達の助けを得、何とか地上に出ていた。

 

「良し、行動開始だ」

 

「こう言う時って状況を開始するって言うんじゃねーの?」

 

「成程、一理ある。格好良いしな」

 

「よっしゃ、じゃあ状況を開始するぜ!」

 

「待てアリト、そう言うのはサブリーダーである俺が言うべきだ」

 

「待てい黒咲、何時からお前がサブリーダーになったんだよ。普通俺みたいなスーパーウルトラなデュエリストがな……」

 

「お前達何をしているんだ、そんなどうでも良い事より早く状況を開始せんか!」

 

「あっるぇー!権現坂君、真面目そうな事言いながらしれっと状況を開始しちゃいましたよぉー?ちょっといただけないなー」

 

こんな状況にも関わらず、男子中学生らしい馬鹿なやり取りを繰り返すランサーズ達。余裕があるのか考え無しなのか、前者であると思いたいと考えながら、新たなランサーズに加わった黄金の騎士、ジル・ド・ランスボウと、エンジョイデュエリスト、徳松 長次郎がやや呆れながら口を挟む。

 

「それより早く敵軍に仕掛けた方が良いのでは?」

 

「月影の兄ちゃんは先に行っちまったしよ」

 

大人な意見である。ランサーズメンバーもむぅと黙り込み、仕方無いと頷き合い、状況を開始しようとしたその時――。

 

「ハーハッハッハ!」

 

「ッ!?」

 

彼等がいる場所の遥か上、ビルの屋上より笑い声が5つ、木霊する。敵か味方か一体何者なのかとランサーズ達がその先へと視線を向けると――そこにいたのは、5つの影。赤、青、黄、緑、桃と色とりどりのオベリスク・フォースの仮面を被った男達の姿。彼等の姿を視界におさめた途端、この場全員の思考が一致する。何だ――ただの馬鹿か、と。

 

「まさか早速喧嘩を始めるとはな、ランサーズ、恐るるに足らず!」

 

「何ィ!?」

 

「沢渡、挑発に乗るな、同じ馬鹿になるぞ。手遅れかもしれんが」

 

「馬鹿ではないわ!馬鹿って言った方が馬鹿なんですぅー!」

 

「じゃあ一体何なんですー?」

 

「フハハハハ!良くぞ聞いた!ピンク!」

 

赤いスーツを纏ったオベリスク・フォースが待っていたとばかりに哄笑を上げ、ピンクと呼ばれた筋骨隆々、5人の中でも一番マッシヴなピンク色のスーツを纏ったオベリスク・フォースが前に出る。

 

「OK、レッド!ピンクの仮面は愛の証!癒しのデュエリスト、アカデミアピンク!」

 

ムッキムキのボディをくねらせながら、黄色のマフラーを靡かせ、両手でハートを作ってポーズを決めるアカデミアピンク。その姿に堪え切れなくなった隼と沢渡が仲良く吐く。そんな彼等、特に隼を気に入ったのか、彼にウィンクを飛ばすピンク。隼のゲロが止まらなくなって来た。

 

「緑の仮面は叡知の証!データデュエリスト、アカデミアグリーン!」

 

ピンクとは対照的な、ヒョロリとした長身でポーズを決め、黄色のマフラーをたなびかせたのは緑のスーツと仮面を被ったアカデミアグリーン。彼は仮面の上に装着したスカウターを起動し、不敵な笑みを沢渡に向ける。

 

「黄の仮面は暴食の証!大食いデュエリスト、アカデミアイエロー!」

 

お次はかなり肥満体型のオベリスク・フォース。カレーライスを片手にした彼はモシャモシャと食いながらジルへと視線を向ける。

 

「青の仮面は冷徹の証!トラップデュエリスト、アカデミアブルー!」

 

続くは青いスーツ、青い仮面を装着したオベリスク・フォース。権現坂に視線を投げ掛け、ポーズを決める。

 

「赤の仮面は情熱の証!熱血デュエリスト、アカデミアレッド!」

 

最後は赤い仮面とスーツを纏ったリーダー格であろう男、彼は荒ぶる鷹のポーズを決め、アリトを射抜く。そして彼等は揃ってポーズを決め――。

 

「「「「「我等、学園軍隊ビッグ5!!」」」」」

 

瞬間、5人の背後に赤、青、黄、緑、桃の爆煙が上がる。正に戦隊ヒーロー。その姿を見て、ランサーズ達は彼等の評価を修正する。ただの馬鹿から、大馬鹿野郎へと。

 

「フハハハハ!さぁ、悪の手先ランサーズめ!我等アカデミアの正義の名の下に、敗れ去るが良いわ!」

 

激突する正義と正義、勝つのは果たして――。

 

――――――

 

デュエルチェイサー227は考える。自身が何故、セキュリティになろうと思い至った出来事を。あれは何時の頃だったか、幼い頃、セキュリティの姿に憧れたのが理由だった事は覚えている。だけど、自身がどんな人間になりたいかが、スッポリと抜けてしまっていて――どうにも気持ち悪い。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

場所は変わって、シティの地下、デュエルチェイサー227とギャラガーのデュエルは続いていた。状況は227の不利。

とは言えそれも無理はない。セキュリティの中でも腕利きの実力を持った彼ではあるが、相手は禁止カードのみで組まれたデッキを使っている。そのカードパワーは凄まじいの一言に尽きる。一体どうして禁止になったのかが今更ながらに思い知らされる。227も何とか渡り合っているが……どこまでもつか。

 

「魔法カード、『天使の施し』を発動!3枚ドローし、2枚捨てる!」

 

ギャラガー 手札4→7→5

 

「マジか……」

 

発動されたカードは『強欲な壺』と肩を並べる極悪ドローソース。実に分かりやすいパワーカードだ。それにより、ギャラガーの手札が入れ替わり、補充される。

 

「墓地に送られた『処刑人ーマキュラ』の効果発動!このターン、俺は手札から罠を発動可能!罠カード、『刻の封印』を発動!次のお前のターンのドローフェイズをスキップ!」

 

「なっ!?」

 

続けて発動されたのは本来1ターンタイミングが遅れる罠を発動可能とするカードと、相手のドローフェイズをスキップする禁止カード。極悪カードのオンパレード、凶悪なラッシュのハメコンボが227を攻め立てる。これが禁止カードの力。こんなものが今野に放たれれば環境は荒れ放題、デュエルはじゃんけんゲーとなるだろう。この違法ディスクは、ここで潰さねばならない。

 

「ブラスターのレベルをダウン、2体の『レベル・スティーラー』を蘇生する!」

 

焔征竜ーブラスター レベル7→6→5

 

レベル・スティーラー 守備力0×200

 

「2体の『レベル・スティーラー』をリリース、アドバンス召喚!『嵐征竜ーテンペスト』!」

 

嵐征竜ーテンペスト 攻撃力2400

 

「バトル!マスターPで『ゴヨウ・ガーディアン』へ攻撃!」

 

「罠発動、『砂塵のバリアーダスト・フォース』!お前の攻撃宣言時、モンスター全てを裏側守備表示に変更!」

 

「何ィ!?」

 

227のフィールドに凄まじい砂塵が吹き荒れ、ギャラガーのモンスターの視界を覆い、砂へズブズブと沈み込む。まるで蟻地獄だ。ギャラガーもマスターPに罠耐性を与えていない事が仇となり、攻撃モンスターが失われる。見事禁止カード軍団を抑え込んだ。

 

「クソッ、そんなゴミみたいなカードで……!」

 

「ゴミなんかじゃないさ、俺も、このカード達も、捨て石なんかじゃない!」

 

「ハッ、良く言うぜ。テメェもコモンズを切り捨ててた癖によぉ!」

 

「ッ!」

 

確かに、ギャラガーの言う通り、227には彼の事をとやかく言う権利はないのかもしれない。今までロジェの手駒として、違反者を捕らえ、ゴミのように地下に送って来た事だってある。中には、冤罪を被った者もいるだろう。彼が優秀と言う事は、それだけ犠牲になった者がいると言う事だ。

ただコモンズと言うだけで、罪のない者も、蹴り落として来た。それは、227もギャラガーも同じ。今の差は、勝者か敗者かだけに過ぎない。

 

「俺は……!」

 

「綺麗事言ってんじゃねぇよ。俺からすれば、お前も同類なんだよぉ!」

 

「俺、は……」

 

何も、言えない。言い返せない。それだけの罪悪感が、彼を縛り付ける。このデュエルは、罰だ。彼に罪の重さを思い知らせるデュエル。そして――目の前に立ちはだかる禁止カード達が、その重さを物語っている。

 

「ターンエンド。精々苦しみな」

 

ギャラガー LP3000

フィールド セットモンスター×4

『血の代償』

『ドラゴニックD』

手札3

 

「俺のターン、俺は、ドローフェイズをスキップ……バトルだ!『ゴヨウ・ガーディアン』で、セット状態のブラスターへ攻撃!そのコントロールを奪う!」

 

焔征竜ーブラスター 守備力1800

 

『ゴヨウ・ガーディアン』の効果で、禁止カードであるブラスターが227のフィールドへ渡る。禁止カードを使う事になるが、相手のデュエルディスクが特殊な為か、エラーは出ない。

 

「ターン、エンドだ……」

 

デュエルチェイサー227 LP3000

フィールド『ゴヨウ・ガーディアン』(攻撃表示)「焔征竜ーブラスター」(守備表示)

『補給部隊』『強制終了』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『サンダー・ボルト』!テメェのモンスターを、全て破壊!」

 

ギャラガーが1枚のカードを掲げ、デュエルディスクに叩きつけた途端、2人の真上に黒雲が発生し、中より凄まじき稲妻が227のフィールドに降り注ぐ。雷は自然を司る征竜が1体、ブラスターまでも焦がし尽くし、227のフィールドをまっさらな荒野へと変える。

デュエルモンスターズ黎明期に作り出されたカードだ。これ1枚で状況は逆転する。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札0→1

 

「おっと手札を確保したか。ならこいつの出番だ。魔法カード、『強引な番兵』!相手の手札を確認、その中のカード1枚をデッキに戻させる!『ブラック・ホール』か、俺様の『サンダー・ボルト』の下位互換とは言え、危ねぇもん持ってんなぁ」

 

「くそっ……!」

 

お次はハンデス3種の神器の1枚、ノーコストでピーピングとハンデスを行うカードだ。折角引き寄せたチャンスもクシャリと簡単に握り潰されてしまう。

 

「『ゼンマイハンター』を召喚!」

 

ゼンマイハンター 攻撃力1600

 

今度はゼンマイ仕掛けのケンタウルス。緑と白のボディを鈍く光らせ、黄金のボウガンを構える。『ゼンマイ』モンスターを利用したハンデスデッキにおいて、キーとなったカードだ。尤も、彼のデッキを考えるとその効果は使用する事は無いだろうが。

 

「バトル!『ゼンマイハンター』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動、『波紋のバリアーウェーブ・フォースー』!『ゼンマイハンター』をデッキにバウンスする!」

 

「チ、ターンエンドだ」

 

ギャラガー LP3000

フィールド セットモンスター×3

『血の代償』

『ドラゴニックD』

手札1

 

「……」

 

回りに回って227のターン、一体どうしたのか、彼はカードを引く事を躊躇っている。その理由は――無論、彼の迷いだ。自身のして来た事を今更ながら痛感し、罪悪感が彼にのしかかっているのだ。

今なら分かる。敗者の側に落ちた今なら。このどうしようもない、納得のいかなさが、それでも納得するしかない理不尽さが。こんな思いを――多くの人々に味わわせて来たのだ。それが今、彼に回っている。

他ならない、街を守るセキュリティと言う正義が、彼等コモンズにとって脅威だったのだ。理想が、弱者を傷つけていたのだ。踏み潰して来た草花の存在に、気づくように。

 

「クク、大人しく今まで通り、トップスに尻尾振ってりゃ良いものをよぉ、何なら……俺様がロジェ長官に交渉して、お前だけ助けてやっても良いんだぜぇ?」

 

ニヤリ、口端を吊り上げ、ギャラガーは227を見下しながら笑みを浮かべる。差し伸べられた悪魔の誘惑、これに応じれば、今まで通りの生活が待っている。トップス達に忠実に、コモンズ達を虐げる、何時も通りの日々が。憧れた、輝かしい昇進への道も。

 

「俺は――」

 

だけど、彼は見て来た、その常識を変えようと、必死に足掻くコモンズの姿を、苦しみながらも、見下されても誇りを失わなかった者もいた。

だから――もう、取り返しのつかない事かもしれないけど、227は、正義を目指し、守るべきものを選び取る。セキュリティではない、彼自身の正義を。

 

「俺は、確かに屑野郎だ、自分の事ばかり考えて、他者を蹴落として来た、本物の屑野郎だ。だけど、こんな屑野郎にも、守りたいものがある!俺は――トップスもコモンズも関係ない、このシティを守りたかったんだ!新しく生まれ変わる、シティを守りたいんだ!」

 

それが、彼に出来る罪滅ぼしの形であると信じて。

 

「……そうかい、交渉決裂って事で良いんだなぁ!」

 

「構わん、もう昇進なんて糞食らえだ!俺はこのシティに住む人々全てを守ってみせる!」

 

「くだらねぇ正義ごっこかい、なら遠慮なく、テメェを地獄に送ってやるよ!」

 

迷いは振り切った。まだまだ荒削りの正義であるが――誇りを胸に、227はデッキトップよりカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!ギャラガー!まずはお前の悪を挫かせてもらう!本物のデュエルって奴を見せてやろう!永続罠、『強制終了』を墓地に送り、魔法カード、『マジック・プランター』を発動!2枚ドロー!」

 

デュエルチェイサー 手札0→2

 

「モンスターをセット、ターンエンドだ!」

 

デュエルチェイサー227 LP3000

フィールド セットモンスター

『補給部隊』

手札1

 

「ハッ、それで終わりか?俺に本物のデュエルとやらを見せてくれるんじゃないのか?俺のターン、ドロー!『ゼンマイハンター』を召喚!」

 

ゼンマイハンター 攻撃力1600

 

「バトル!『ゼンマイハンター』でセットモンスターへ攻撃!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!そして破壊されたのは『ヘル・セキュリティ』!効果でレベル1の悪魔族、『ヘル・セキュリティ』をリクルート!」

 

ヘル・セキュリティ 守備力600

 

デュエルチェイサー227 手札1→2

 

「ターンエンド」

 

ギャラガー LP3000

フィールド『ゼンマイハンター』(攻撃表示)セットモンスター×3

『血の代償』

『ドラゴニックD』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満な壺』!エクストラデッキからモンスター6体を除外し、2枚ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札2→4

 

「『アサルト・ガンドッグ』を召喚!」

 

アサルト・ガンドッグ 攻撃力1200

 

現れたのはその名の通り、アサルトライフルを装備したドーベルマン。これでチューナーと非チューナーが揃った。

 

「レベル4の『アサルト・ガンドッグ』に、レベル1の『ヘル・セキュリティ』をチューニング!シンクロ召喚!『ヘル・ツイン・コップ』!」

 

ヘル・ツイン・コップ 攻撃力2200

 

シンクロ召喚、ここで現れたのはヘイジと同じく、『ゴヨウ』系列から外れたポリスシンクロモンスターの1体、2つの頭を生やし、バイクに乗った悪魔刑事。ジョーとキックが戦場に駆ける。

 

「バトル!『ヘル・ツイン・コップ』で『ゼンマイハンター』へ攻撃!」

 

ギャラガー LP3000→2400

 

「ぐあっ!?」

 

「そして『ヘル・ツイン・コップ』の効果、戦闘で相手モンスターを破壊し、墓地に送った時、このカードの攻撃力を800アップ、続けて攻撃出来る!」

 

ヘル・ツイン・コップ 攻撃力2200→3000

 

「やれ!『ヘル・ツイン・コップ』!セットされたテンペストへ攻撃!」

 

「この野郎っ!」

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ!」

 

デュエルチェイサー LP3000

フィールド『ヘル・ツイン・コップ』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

手札0

 

「屑が調子に乗りやがって……!俺のターン、ドロー!セットモンスター1体をリリース!アドバンス召喚!『マジェスペクター・ユニコーン』!」

 

マジェスペクター・ユニコーン 攻撃力2000

 

現れたのは風を纏った一角獣。227としては見た事のないカードであるが、このカードも禁止カードなのだろうか?いや、それよりもこのカードは――。

 

「ペンデュラムモンスターだと……!?」

 

そう、このカードは、榊 遊矢達が使う、ペンデュラムモンスターと同種のもの。こんなものまで手に入れたと言うのか。

 

「ハッ、こいつは昨日届いたばかりのエラーカード。テメェでその力を試してやるよ、光栄に思いな」

 

「未知のカードか……面倒だな」

 

「墓地の『焔征竜ーブラスター』の効果!タイダルとテンペストを除外し、特殊召喚!」

 

焔征竜ブラスター 攻撃力2800

 

「墓地の『レベル・スティーラー』の効果!ユニコーンのレベルを2つ下げ、2体蘇生!」

 

マジェスペクター・ユニコーン レベル6→5→4

 

レベル・スティーラー 守備力0×2

 

「そしてユニコーンの効果!このカードと『ヘル・ツイン・コップ』をバウンス!」

 

「罠発動!『蟲惑の落とし穴』!このターン特殊召喚したモンスターの効果を無効にし、破壊!」

 

「だがユニコーンは効果で破壊されねぇ!装備魔法、『蝶の短剣ーエルマ』をブラスターに装備!攻撃力を300アップ!」

 

焔征竜ブラスター 攻撃力2800 攻撃力2800→3100

 

次は貴重なレアカードを一般支給させたカードだ。装備魔法としての性能はイマイチであるが、その真価は墓地に送られた後、ループコンボのパーツになってしまう為に禁止になったカード。こう言ったように、禁止カードは解放していると一方的なターン運びになってしまう事が多い。尤も、彼のデッキなら心配はなさそうだが。

 

「バトル!ブラスターで攻撃!」

 

「罠発動!『邪悪なるバリアーダーク・フォースー』!お前の守備表示モンスターを全て除外!」

 

デュエルチェイサー227 LP3000→2100

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札0→1

 

「ユニコーンでダイレクトアタック!」

 

デュエルチェイサー227 LP2100→100

 

「ハッハー!どうしたどうしたぁ!」

 

「ふん……痒くもないな……!永続罠、『サウザンド・クロス』!俺のLPが2000以下の場合、LPを2000にする!」

 

デュエルチェイサー227 LP100→2000

 

「吠えるじゃねぇの。俺はこれでターンエンドだ」

 

ギャラガー LP2400

フィールド『マジェスペクター・ユニコーン』(攻撃表示)『焔征竜ーブラスター』(攻撃表示)

『蝶の短剣ーエルマ』『血の代償』

『ドラゴニックD』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『サウザンド・クロス』をコストに2枚ドロー!」

 

「おっと、良いのかぁ?」

 

デュエルチェイサー227 手札1→3

 

「速攻魔法、『魔力の泉』!お前の場に表側表示で存在する魔法、罠、3枚分ドローし、俺のフィールドの2枚分を捨てる!」

 

デュエルチェイサー227 手札2→5→3

 

「悪くないな、『ジュッテ・ロード』を召喚!」

 

ジュッテ・ロード 攻撃力1600

 

フィールドに見参したのは着物を纏い、十手を握った役人風のモンスター。『ゴブリンドバーグ』と互換となるカードだ。

 

「効果発動、手札の『ジュッテ・ナイト』を特殊召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

「レベル4の『ジュッテ・ロード』に、レベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!荒ぶる獣の牙持て捕獲せよ!シンクロ召喚!『ゴヨウ・プレデター』!」

 

ゴヨウ・プレデター 攻撃力2400

 

次はプロレスラーのマスクのようなものを被り、鋭い牙を覗かせる獣戦士に似たモンスターだ。レベル6としては『ゴヨウ・ガーディアン』に劣るが、コントロールを奪った後に追撃がかけられる為、相互互換と言った所だろう。

 

「はいはいお疲れちゃん、『マジェスペクター・ユニコーン』の効果!このカードと『ゴヨウ・プレデター』をバウンスする!」

 

「こっちのターンでもか……!」

 

攻め込もうとした所で、ギャラガーが台無しにする効果を使う。自身のペンデュラムモンスターと、相手モンスターをバウンスする小回りの効く優秀な効果。自身もエスケープする為、除去するには骨が折れそうだ。両者のターンでも使えるのが辛い。

 

「くそっ、カードを1枚セット、ターンエンド」

 

「ブラスターが手札に戻る」

 

デュエルチェイサー227 LP2000

フィールド

『補給部隊』セット1

手札0

 

「フハハッ、俺のターン、ドロー!魔法カード、『天使の施し』!3枚ドローし、2枚捨てる!」

 

ギャラガー 手札1→4→2

 

「『ゼンマイハンター』を召喚!」

 

ゼンマイハンター 攻撃力1600

 

「『血の代償』の効果を使い、『ゼンマイハンター』をリリース、アドバンス召喚!『マジェスペクター・ユニコーン』!」

 

ギャラガー LP2400→1900

 

マジェスペクター・ユニコーン 攻撃力2000

 

再び現れる風を操る一角獣。厄介なモンスターだ。『ゴヨウ』モンスターには耐性もない為、このままではされるがままになってしまう。早々に除去しておきたい。

 

「『レベル・スティーラー』を蘇生!」

 

マジェスペクター・ユニコーン レベル6→5

 

レベル・スティーラー 守備力0

 

「バトル!ユニコーンでダイレクトアタック!」

 

「罠発動、『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札0→1

 

「……ターンエンドだ」

 

ギャラガー LP1900

フィールド『マジェスペクター・ユニコーン』(攻撃表示)『レベル・スティーラー』(守備表示)

『血の代償』

『ドラゴニックD』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!フ、どうした?これだけ禁止カードを使って俺1人に勝てんとはな」

 

「……チッ」

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『ゴヨウ・ガーディアン』、『ゴヨウ・チェイサー』、『ゴヨウ・ディフェンダー』3体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

デュエルチェイサー227 手札1→3

 

「『切り込み隊長』を召喚!」

 

切り込み隊長 攻撃力1200

 

今度は戦士族モンスターの代表的なカード。今では多くのカテゴリが存在する為に使用率は低いが、それでも優秀なカードだ。歴戦の兵らしく手強い雰囲気を醸し出し、二振りの剣を手に戦場を駆ける。『ジュッテ・ロード』、『ゴブリンドバーグ』、そしてこのカード、あの手この手でモンスターを展開して来る。戦士族と言う点でも彼にとって扱いやすいのだろう。

 

「召喚時、手札から『ソード・マスター』を特殊召喚!」

 

次は地属性、戦士族のチューナーモンスター。「まそっぷ!」の掛け声と共にフィールドに現れ、『切り込み隊長』の隣に並び立つ。アラブ風の衣装を纏い、二刀流の剣技を見せる。

 

「レベル3の『切り込み隊長』に、レベル3の『ソード・マスター』をチューニング!シンクロ召喚!『ゴヨウ・プレデター』!」

 

ゴヨウ・プレデター 攻撃力2400

 

「ハッ、忘れたのかぁ?ユニコーンの効果を!効果発動!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、プレデターを対象に取るモンスターの効果を無効!」

 

「ッ!?」

 

ギャラガーが不敵な笑みを浮かべたその時、227が負けじと墓地の罠を使い、ユニコーンの効果に対抗する。予想外の場所からの妨害がユニコーンに突き刺さり、プレデターを守る。

 

「バトル!プレデターでユニコーンへ攻撃!」

 

「ぐっ!?」

 

ギャラガー LP1900→1500

 

「ユニコーンはペンデュラムモンスターの為奪えない。俺はカードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

デュエルチェイサー227 LP2000

フィールド『ゴヨウ・プレデター』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!舐めるなよ雑魚が!魔法カード、『強欲な壺』!2枚ドロー!」

 

ギャラガー 手札1→3

 

「魔法カード、『天使の施し』!3枚ドローし、2枚捨てる!」

 

ギャラガー 手札2→5→3

 

「墓地へ送られた『処刑人ーマキュラ』の効果で、俺はこのターン、手札から罠を発動可能!そして罠発動、『異次元からの帰還』!LPを半分払い、除外されているブラスターとタイダルを2体ずつ呼び戻す!」

 

ギャラガー LP1500→750

 

焔征竜ーブラスター 攻撃力2800×2

 

瀑征竜ータイダル 攻撃力2600×2

 

「――っ!」

 

凶悪罠により、フィールドに舞い戻る4体の征竜。自然を掌握する竜の頂に住みし者達。それがこれ程ともなれば227に緊張が走る。

 

「更に2体のブラスターをリリースし、アドバンス召喚!『The tyrant NEPTUNE』!!」

 

The tyrant NEPTUNE 攻撃力0→5600

 

2体の征竜を糧として、現れたのは何と世界に1枚ずつ存在しないプラネットシリーズの1枚、正真正銘本物のNEPTUNE。海王星を司る冷たき暴君。鎧を纏い、大鎌を手にした爬虫類のような巨大なモンスターだ。攻撃力は2体の力を吸収し、5600、圧倒的な数値、正しく暴君だ。

 

「この、カードは……っ!?」

 

現在、〟全てのプラネットシリーズ〝はアカデミアが管理している為、227がこのカードを知らないのは無理もない。このカードの纏う闇の瘴気は途方もない。227はピリピリとしたプレッシャーを感じるが――ギャラガーはアホなのか、余り気にしていないのか、このカードも彼にとっては凄く強いカードの1つでしかないのだろう。

 

「バトル!NEPTUNEで『ゴヨウ・プレデター』へ攻撃ィ!Sickle of ruin!」

 

「罠発動!『ハーフ・アンブレイク』!『ゴヨウ・プレデター』に戦闘耐性を与え、ダメージを半分にする!うぐぁぁぁぁぁっ!?」

 

デュエルチェイサー227 LP2000→400

 

NEPTUNEが野太い剛腕で大鎌を振るい、『ゴヨウ・プレデター』を切り裂く。『ゴヨウ・プレデター』にも薄い膜状のバリアが覆われ、何とか防ごうとするが、凄まじい衝撃を受け、地下の壁まで吹き飛ばされて叩きつけられ、異が逆流して胃液と血が吐き出される。とんでもない力だ。ダメージも実体化し、227が転倒、地面に叩きつけられる。

 

「続けて2体のタイダルで攻撃!」

 

デュエルチェイサー227 LP400→300→200

 

「カードをセット、ターンエンドだ。この瞬間、『異次元からの帰還』で呼んだモンスターは除外される」

 

ギャラガー LP750

フィールド『The tyrant NEPTUNE』(攻撃表示)『レベル・スティーラー』(守備表示)

『血の代償』セット1

『ドラゴニックD』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!カードをセット――」

 

「罠発動!『ラストバトル!』」

 

「ッ!?」

 

ここで発動されたのは、文字通りデュエルに決着をつける極悪禁止カード。エクストラデッキのモンスターが多用される現在では更に凶悪なカードとなる。痺れを切らしたのか、デュエルを無理矢理終わらせるこのカードの発動、227が驚愕するのも無理はない。

 

「俺はNEPTUNEを選択、そしてNEPTUNE以外の互いのフィールド、手札のカードを墓地に送り、その後、お前はデッキからモンスター1体を攻撃表示で呼ぶ。そして互いのモンスターを強制戦闘、プレイヤーのダメージを0にし、エンドフェイズ時、フィールドにモンスターが残っていた者が勝者となる」

 

これが『ラストバトル!』の効果。豪快で凶悪な効果だ。ギャラガーがフィールドに残すのは攻撃力5600のモンスター、227が勝つには、それ以上のモンスターを呼ばねばならないが――素の攻撃力が5600を越えるモンスターが、メインデッキに存在する筈もない。ギャラガーはそれを理解した上でこのカードを発動したのだ。

自らの勝利を確信したからこそ、ギャンブルに出た。だが――この勝負、227に勝機がある。このギャンブルを、ギャンブルとして成立させるジョーカーが。

 

「俺が呼ぶのは――『一撃必殺侍』!」

 

一撃必殺侍 攻撃力1200

 

現れたのは武者鎧を纏い、槍を手にした小さな侍。これが、227の出した、最後のカード。最後に選んだ運命のモンスター。

 

「攻撃力1200ぅ……?ハハッ!そんなモンスターで、俺様のNEPTUNEに勝てるとでも思ってんのか?お笑いだぜ!ヒャハハハハ!」

 

現れた小さなモンスターを見て、腹を抱えて馬鹿笑いするギャラガー。無理もない。彼が選んだのは、NEPTUNEに比べれば余りにも小さなモンスター。だが――。

 

「『一撃必殺侍』には――」

 

「んん?」

 

「戦闘時に発動する、効果がある」

 

「……あぁ?」

 

クルクルと天上よりある物体が降ってくる。黄金に輝く、円形の薄い物体……コインだ。それを視界におさめ、訝しむギャラガー。今更何をしようと言うのか、彼には理解出来ない。デュエルにどっぷり浸かった、デュエリストではなく、リアリストの為に。そんな彼に対し、227はコインを掴み、最後の効果を彼に説明する。

 

「ダメージ計算時、コイントスで裏表を当て、当たった場合、相手モンスターを破壊する効果が!」

 

「は……はぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

そう――これが、227が最後の最後で賭けた大博打、逆転の為の一手。ピシリとギャラガーの表情が固まり、余裕の笑みが崩れ去り、悲鳴にも似た驚愕の声が木霊する。

 

「俺が宣言するのは、裏だ」

 

「待てっつってんだろ!」

 

動揺を浮かべ、慌てふためくギャラガー。彼はこのデュエル、禁止カードを使えば必ず勝てると思っていたのだ。必ず勝てるルールを作り出していた筈なのだ。それが――2分の1の確率に変わってしまった。焦るギャラガー、だがデュエルは彼を待ってくれない、ソリッドビジョンのコインが弾かれ、宙でクルリと回転しながら、カラカラと地面に落ちて舞う。結果は――。

 

「お前は、自分がリアリストだと言った。だが俺は、俺達は――勝つか負けるか分からない、ギリギリの状況でも闘志を燃やす――」

 

裏。

 

「デュエリストだ」

 

勝敗は決まった。『一撃必殺侍』の眼がキラリと閃き、全身全霊を手に持った槍の穂先に込め、弾丸のようにNEPTUNEに向かい、真っ直ぐに突き進む。NEPTUNEも大鎌を振るい、迎撃に出るも――フワリ、まるで柳の如くかわされ、大鎌に乗り移った『一撃必殺侍』が駆け、その槍で心臓を穿つ。

崩れ落ちるNEPTUNE。フィールドに残ったのは、227のモンスター、『一撃必殺侍』のみ。ブンと槍を振るい、『一撃必殺侍』がニヒルに笑う。正に一撃必殺、プレイヤーをも葬る槍撃であった。

 

「ば、馬鹿なぁぁぁぁっ!?」

 

ギャラガー LP1000→0

 

ギャラガーのLPが削り取られ、0を刻むと共にデュエルディスクが火花を散らして爆発する。勝者、デュエルチェイサー227。揺るぎなき正義が、圧倒的な猛威を奮う禁断の力に、風穴を空ける。

違法デュエルディスク所持者、ギャラガー。デュエルによって確保。記録に残らず、実績にならず、誰にも知られずに終わる、裏方で行われていたデュエル。それでも、だとしても――このデュエルは227に、守るべきものを守り抜いた誇りを与える。

 

これがシティを守るセキュリティの新たな姿。227は進む。例えどんな敵が相手でも、正義と誇りを胸に、暖かい灯火に照らされた、笑顔溢れる未来へと、コモンズもトップスも関係ない、皆が肩を並べる光差す道へと。

 

「お前もきっと、再び日の光を拝めるさ。違いなんて、気づけたか気づけなかったかに過ぎないんだから。さぁ、行こう!このシティの新たな姿を見る為に、あいつ等が変えるシティを守る為に」

 

新しい朝が、彼等を待つ。

 

 



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第161話 検診の時間よ~

特撮版グリッドマンが再放送ですってよ。アニメ化の影響もあり時代が追いついたなぁ、と思います。これ映画化とかするんじゃなかろうか。


融合次元、アカデミア。幹部の1人である男の研究室で、部屋の主、やや後退した白髪に不健康な顔色、目の下の深い隈が特徴的なマッドサイエンティスト、ドクトルがモニターを見つめ、不気味な笑みを浮かべていた。

 

モニターに写し出されているのはアカデミアが誇る新たな精鋭部隊、学園軍隊ビッグ5とその敵、アカデミアに対抗する勢力、ランサーズの姿。

 

実はこのビッグ5が持つ装備、彼が作り出したものなのだ。このモニターに写し出された光景も、彼等の仮面に搭載されたカメラを通してのものだ。今回も実戦での運用を試す為に観察を行っている。

 

「……何コレ」

 

「ん、おやおや、誰かと思えば君でしたか」

 

突然ドクトルの背後に人影が現れ、ジトリとした視線をモニターにぶつける。ドクトルの知り合いであるのか、彼も騒ぎ立てる事をせず、むしろ歓迎ムードである。

 

「アンタがプロフェッサーが呼んでるって言うから仕方無く上がって来たんだろ。で、これは……オベリスク・フォース……にしてはカラフルだけど」

 

「クフフ、良くぞ聞いてくれました。彼等は対ランサーズ試験部隊、学園軍隊ビッグ5!彼等が装備したもの、所謂変身スーツはエクシーズ次元のナンバーズハンターと呼ばれるデュエリスト達の技術の一部を解析、応用したものなのですよ!マスクやデュエルディスクはリンクしていて、脳の発達を促進、並列思考と高速思考、更には戦略的思考を――」

 

「はいはい、ようするにお飾りじゃなく本当にデュエリストレベルをアップさせるアイテムって訳だ」

 

「クフフ、ええ、そして今回は彼等ランサーズに対してどこまで通用するか。シミュレーションでは完璧でしたが、彼等も成長しているでしょうし、デュエルはしてみなければ分かりません。通用したとしても、一定の水準を超えなければ開発する労力に見合わず、今まで通りの方がコストが良いでしょうしねぇ」

 

「ふぅん、ま、僕はランサーズなんてどうでも良いや」

 

ブツブツと呟くドクトルに対し、少年は呆れ返ったような、言葉通り興味無いとばかりに溜め息を吐く。それにしてもデュエリストレベルをアップさせるアイテムが変身スーツとは、ここは彼の趣味か、それとも元となったエクシーズ次元のものか、どちらにせよ、ふざけているとしか思えないものだ。

 

「何を言っているんですか、君がプロフェッサーに呼ばれたのも、ランサーズを倒す為でしょうに――ねぇ、ユーリ君?」

 

クルリと椅子を回転し、ドクトルが少年に向き直る。紫色の髪に、右眼に装着した眼帯、赤いマフラーと紫色の軍服、そう、彼の名はユーリ。地獄の底から生還し、渇望した力を手に入れた修羅。それが今、ランサーズへと牙を剥こうとしていた――。

 

――――――

 

一方、2人の話題に上がっているビッグ5は、それぞれランサーズメンバーを相手にデュエルを挑んでいた。まず、癒し系(笑)デュエリストこと、アカデミアピンクと、ランサーズの主力とも言える青年、黒咲 隼。

 

「ウフフッ、アタシの検診の時間はこれで終わり。さぁ、アナタのターンよ、隼ちゃん」

 

アカデミアピンク LP3800

フィールド『衛星兵マッスラー』(攻撃表示)×3

『シモッチによる副作用』

手札0

 

無駄にツヤツヤテカテカしたボディをくねらせ、アカデミアピンクがウフンと隼にウインクする。当然吐く隼。

とは言え現在有利なのはピンクの方だ。彼のフィールドには彼と似たモンスター、パッツンパッツンの衛星服を纏った男性、『衛星兵マッスラー』が存在し、このモンスターをサポートする『シモッチによる副作用』までもがある。しかもマッスラーは通常召喚されたモンスター。対特殊召喚モンスターである『RR』には少々荷が重い。

 

「隼ちゃん言うな!くっ、この……!」

 

「ウフフッ、もうっ、照れちゃて~可愛いゾ!でもでもアナタの『RR』じゃ、残念ながらアタシのホモッチバーンデッキを倒せないわ!」

 

キャピキャピと体をくねらせ、今までにない恐ろしい手で隼を攻めるピンク。ホモッチバーン、名前こそふざけているが脅威的なデッキだ。視覚的にも。だが――。

 

「それはどうかな?」

 

この程度で、反逆のハヤブサの翼は縛られない。

 

「……あっちは大変そうだなぁ、良かった。俺の相手、あいつじゃなくて」

 

彼等のデュエルを遠巻きに見るのは沢渡 シンゴ。彼はクネクネヌルヌル動くピンクを見ながら、心底良かったと安堵する。

そんな彼の相手は、緑のスーツを纏ったデータデュエリスト、アカデミアグリーン。彼はヒョロリとした手で仮面の上に装着されたスカウターをクイッ、と掛け直す。

 

「フッ、他人の心配をする余裕があるのか?君のデュエリストレベルはたった4、僕に勝てる確率は2%に過ぎない。それは何故か?僕が君達のデッキを研究し、ペンデュラム対策をしたこのデッキが相手だからだぁ!フッフッフッハーッハッハァ!ターン、エンドぉ!」

 

額に手を当て、高らかな哄笑を上げ、得意気に胸を反らす。そんな彼の気になる布陣は――。

 

アカデミアグリーン LP2700

フィールド『ダーク・シムルグ』(攻撃表示)

『魔封じの芳香』

手札2

 

グリーンのフィールドに存在するのはカードのセットを封じる黒翼の巨神鳥と、魔法カードをセットしなければ発動不可能にする『魔封じの芳香』。この2枚のコンボにより、実質魔法、罠を封じられ、彼が得意とするペンデュラムまでも束縛されている。成程、確かに対策としては正解、厄介なものだ。

 

「このデッキならば榊 遊矢を倒す事も容易い!フハハハハ!ハハハハハ!」

 

「……あぁん?」

 

ピクリ、グリーンが放った一言に、沢渡の眉が動き、剣呑な雰囲気となる。このデッキなら、遊矢に勝てる?この男は――本当にそんな事を考えているのか。

 

「ハッ、笑わせんなクソザコナメクジが。お前が遊矢に勝てる可能性なんざ――0%だ」

 

残念ながら、それは不正解だと、沢渡は言い放った。

 

「フム、どうやらあちらは心配無用らしい」

 

そして黄金の騎士甲冑を纏い、アカデミアとはまた違った盾型のデュエルディスクを構えるのは、シンクロ次元のデュエリストにして、義によってランサーズ入りを果たしたジル・ド・ランスボウ。装備魔法である『聖剣』に選ばれし『聖騎士』を操るデュエリスト。

対する相手は、暴飲暴食を繰り返し、肥満体型となった大食いデュエリスト、アカデミアイエロー。その手にカードとカレーライスを持ち、モシャモシャと食べながらターンを終える。

 

「オイラはカードを1枚セットし、ターンエンド。デュエルもカレーも上手く進むんだな!」

 

アカデミアイエロー LP2500

フィールド『ジャイアント・オーク』(攻撃表示)『遅すぎたオーク』(攻撃表示)『ゴブリン突撃部隊』(攻撃表示)『ゴブリンエリート部隊』(攻撃表示)

『スキルドレイン』『暴君の暴飲暴食』セット1

手札0

 

彼のフィールドに存在しているのは、攻撃力が高いものの、デメリット効果を持つ下級モンスター達。そしてデメリットを解消する『スキルドレイン』と大型モンスターの特殊召喚を封じる『暴君の暴飲暴食』。現在、この醜悪なモンスター達により、ジルの『聖騎士』達は鎧を砕かれ、誇り高きプライドを汚され、蹂躙(意味深)されている。だが――。

 

「例えこの身体がどれだけ傷つき、汚されても、この心までも屈しない!」

 

何故だろうか、頼もしい台詞にも関わらず、この面子相手だと、とても不安になる。

 

「クックック……どうやらお仲間達は揃ってピンチのようですねぇ。良いんですか?私相手に手こずっていて」

 

「安心しろ、奴等はこの程度で倒れる程やわではない。俺が不動でいられるのも、そのお蔭だ」

 

一方、こちらは防御こそが最大の攻撃、フルモンデッキと言う特徴的なデッキを使う、リーゼントと白い学ラン、応援団長のような出で立ちをした不動のデュエリスト、権現坂 昇。

その相手は青いスーツを纏ったトラップデュエリスト、アカデミアブルー。彼もまた、権現坂と似たデュエリストだ。

 

「つまらない反応ですねぇ……どこまでその余裕が続くか見物ですよ。ターンエンド」

 

そのデッキは――。

 

アカデミアブルー LP4000

フィールド『カース・オブ・スタチュー』(攻撃表示)『ソウル・オブ・スタチュー』(守備表示)『苦紋様の土像』(守備表示)『死霊ゾーマ』(攻撃表示)

『宮廷のしきたり』

手札5

 

罠カード一色、フルトラップとも言うべきとんでもないデッキだ。罠積みまくりなだけあり、恐るべき強固さを誇る為、デッキ傾向、防御力共に『超重武者』と似て非なる存在だ。重ねに重ねた罠は権現坂の道を阻み、苦戦を強いられている。だが――。

 

「言っただろう、俺は常に不動、勝利は、揺るぎはせん」

 

落ち着き払い、余裕を崩さずに不動を貫く権現坂。彼の意志は、揺るがない。

 

「ハハハハハ!どうしたどうした!もっと熱くなれよ!」

 

「舐めんな!この程度で俺が燃え尽きるかぁっ!」

 

最後はランサーズ1の熱血漢。カウンターパンチャー、アリトと、ビッグ5のリーダー、熱血デュエリスト、アカデミアレッド。

彼のデッキは――チェーンバーン。効果ダメージで一気に相手のLPを削り取る、究極の速攻デッキ。熱血と言う割には凄まじくえげつないデッキだ。アリトも何とかかわしてはいるが、息が荒くなっている。

 

「そうかぁ!なら堪えて見せろよ!俺はカードを5枚セット!ターンエンド!」

 

アカデミアレッド LP1600

フィールド

セット5

手札0

 

まるでガンマンのように5枚のカードをデュエルディスクに設置、アリトへ銃口を向けるレッド。フル充填、また嵐のような地獄のバーンがアリトに襲いかかろうとする。だが――。

 

「こんなもんで、俺からダウンは取れないぜ!」

 

彼の闘志まで、燃え尽きはしない。

 

――――――

 

シティで激しいデュエルが繰り広げられ、火花が散る中――ここでもまた、2人のデュエリストが対峙していた。1人はエンタメデュエリストを目指す、ランサーズメンバーの1人、榊 遊矢。そしてもう1人は――つばの欠けた黒い帽子を被り、首にヘッドフォンをかけ、白いマントを靡かせる少年、因縁の相手――黒コナミの姿。

彼は突如遊矢の目の前に現れ、先程まで遊矢とデュエルを行っていたオベリスク・フォースを踏みつけにしており、その事が遊矢を熱くさせる。

 

「その足をどけるんだ。例えアカデミアの人間でも、お前のしている事は間違っている」

 

「ん?ああ、何かと思えばオベリスク・フォースか。折角の再会なのに――邪魔だな」

 

「う……がはっ!?」

 

ドスリ、何を思ったかのか、それとも何も思っていないのか、黒コナミがまるで路傍の石に対するようにオベリスク・フォースの腹を蹴り、遊矢の傍まで滑らせる。

 

「ッ、お前……!」

 

これには流石の遊矢も苛立ち、声を荒げる。相手の姿がコナミと同じと言う事も相まってだ。目付きを鋭くする遊矢を見て、対する黒コナミは満足そうに笑みを浮かべる。

 

「そう、それで良い。あの時のお前と――私はデュエルをしたいんだ」

 

白いマントを風に靡かせ、黄金に輝くデュエルディスクを構える黒コナミ。どうやらこの男、遊矢が心優しい事を見抜き、態と他者を傷つけて怒りを引き出そうとしているらしい。彼が闘いたいのは遊矢であって遊矢でないと言う事か。まるでドラゴンボールのセルのような男である。

 

「ぐ……あ……」

 

「!大丈夫か、あんた……これ以上は危ない、あんたもボロボロなんだ。今すぐアカデミアに戻った方が良い」

 

呻き声を上げるオベリスク・フォースを見て、遊矢が心配して駆け寄り、彼を抱き起こす。黒コナミもそうだが、まずは傷ついた彼をどうにかしないといけない。アカデミアの人間とは言え、ボロボロの彼を放ってはおけない。例え敵でも、1度デュエルしたなら尚更だ。そんな彼の姿が不思議なのだろう、オベリスク・フォースも動揺を隠せない。

 

「何故だ……俺は敵の筈……放って置いても誰も文句は言わんと言うのに……」

 

「それでも俺とあんたは1度デュエルをした。なら少なからず絆がある筈だ。デュエルをしたから分かるよ。あんたもデュエルが好きなんだって。だったら放って置けない」

 

「また同じ過ちを繰り返すとしてもか?」

 

「その時は真っ先に俺の所に来い。何度だってデュエルをしよう。それでお前を変えてやる」

 

甘い考えかもしれないが、遊矢はその優しさを捨てたくなかった。確かに彼がこのまま反省せず、遊矢の見えない所で人々をカード化するかも知れないと言う恐怖もある。だけどそれでも信じたい。自分とのデュエルで、笑っていた彼が変わっている事を。そんな愚直な姿に――オベリスク・フォースは呆れたように乾いた笑みを浮かべる。

 

「お前は……馬鹿だな……良いだろう、次に貴様と闘うまで、俺は誰も傷つけない。敗者として、何よりこのデュエリストの誇りに賭けて、な」

 

彼は変わったのだろうか、変わったのだろう。大きな溜め息の後、敗北した事で転送装置が起動し、アカデミアへと帰還する。

 

「話は終わったか?なら早くデュエルを始めようか」

 

コキリ、首を鳴らしながら黒コナミが遊矢を急かす。待っていてくれるとは、彼も妙に律儀な所がある。

 

「待ってくれ、今はアカデミアを退けるのが先――」

 

「知らん、私にとってはお前と闘う方が優先事項だ」

 

「クッ……」

 

仕方無い、忙しい中だが、彼も倒さねばここを通してくれないだろう。覚悟を決め、遊矢はデュエルディスクを構える。

 

「ああ、相手になるよ。俺が――」

 

――俺が相手だ――

 

「へ……?」

 

しかし、運命の歯車はズレ動く。突如遊矢の脳裏に好戦的となった男の声が響き、彼の胸元のペンデュラムが光輝く。一体何が起こっているのか、考える間もなく遊矢の意識が遠くなり、プツリと身体とのリンクが切り離される。

目の前にあるのは、光に覆われる自分の身体。目を白黒させる間にも、光は格納されていき――両の眼から、黄金の輝きを放つ遊矢が、彼らしくない獰猛な笑みを口元に描く。

 

「……ふん、少々違和感があるが、まぁ良いだろう。さて、黒帽子のデュエリスト。お前がお望みなのは俺だろう?俺も、あの時のデュエルに納得している訳では無いんでな。少しの間、間借りする」

 

口調が180度変わり、不遜な態度の遊矢が黄金の眼で黒コナミを射抜く。そんな自分の姿を、背後から見つめる、半透明になった遊矢。彼はポカンとした表情を暫く続けた後、何とか正気に戻る。

 

『え……えええええっ!?なっ、何コレ!?どうなってんの!?何で俺が目の前にいるの!?何で半透明なの俺!?』

 

「うるさいぞ、うすのろ。静かにせんか、このたわけが」

 

悲鳴にも似た驚愕の声を上げる遊矢に対し、目の前の〟遊矢〝は両耳に指を突っ込み、半眼となってシャットアウトする。

 

『だっ……だって……って、うすのろ……?ま、まさかお前……』

 

目の前で自分の姿をした誰かの正体に見当がついたのか、指を差して目を見開く遊矢。そう、この男は恐らく、ジャックとのデュエル中、遊矢に助言をくれた、声の正体。

 

「漸く気がついたか、本当にうすのろだな。お前は……まぁ良い、それより名がないと不便だな……俺の事は取り敢えずティモシーとでも呼べ」

 

『ティモシー……?え、偽名?』

 

お茶目な所を見せる男だが、遊矢としては正体が気になって仕方無い。

 

「クク……フフフフフ……」

 

そんな中――眼前の黒コナミは、一体どうしたのか、肩を小刻みに震わせ、身体を抱くようにしている。

 

『……?』

 

「まさかお前の方から来てくれるとは……手間が省けた……!」

 

「ふん、貴様がどこまでやれるか……見物だな」

 

カチャリ、デュエルディスクを構え、光輝くソリッドビジョンのプレートを展開する2人。このティモシーと名乗る男の実力は未知数だが、黒コナミに簡単に負けるとは思えない。ゴクリ、緊迫した空気が漂う中、遊矢は喉を鳴らし、それを合図に――。

 

「「デュエル!!」」

 

激闘が、幕を上げる。フィールドが光の粒子に包まれ、アクションフィールド、『クロス・オーバー』へと変わる。

 

「まずは俺のターンだ。俺は『EMラフメイカー』と『EMゴムゴムートン』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

先攻はティモシー。彼は2枚のカードをデュエルディスクの両端に設置し、背後に2本の柱を出現、その中にマジシャンと羊が現れ、天空に線を描いて魔方陣を作り出す。柱の中のモンスターは遊矢の豹変に動揺しているのか、気のせいか混乱しているような表情を浮かべている。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム、天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!出でよ、我が僕のモンスター、『刻剣の魔術師』!」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

魔方陣に孔が開き、中から一筋の閃光がフィールドに落ち、轟音を鳴らす。木々が風に揺れ、コンクリートの地面が僅かに悲鳴を上げる。閃光が晴れ、飛び出したのは剣を構えた少年『魔術師』。手に持った剣を振るい、空気を裂きながら宙に浮かぶ。

 

「『刻剣の魔術師』が手札からこのカード1体のみのペンデュラム召喚に成功した時、攻撃力は倍となる」

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400→2800

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『刻剣の魔術師』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『EMラフメイカー』『EMゴムゴムートン』

手札0

 

出だしとしてはまずまずと言った所だろうか、本人としては不服そうに見えるが。攻撃力2800と言うのは一種の安心感がある。そしてターンは黒コナミへ移り、彼はデッキから1枚のカードを引き抜く。

 

「私のターン、ドロー!『ゴブリンドバーグ』を召喚!」

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

現れたのは玩具の飛行機に乗った『ゴブリン』だ。コンテナを吊るし、フィールドを旋回した後、着地する。

 

「召喚時、手札の『ゴゴゴゴーレム』を特殊召喚し、守備表示となる」

 

ゴゴゴゴーレム 守備力1500

 

次は卵体型に不釣り合いな程の巨大な腕を持ったゴーレム。彼のオノマトの中で『ゴゴゴ』の中心に存在するモンスターだ。このモンスターがコンテナに入っていたからか、『ゴブリンドバーグ』はふぅと行きを吐き、額から流れる汗を拭う。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『交響魔人マエストローク』!」

 

交響魔人マエストローク 攻撃力1800

 

黒コナミの目の前の地面に星々が散りばめられた渦が広がり、その中に『ゴゴゴゴーレム』と『ゴブリンドバーグ』が光となって飛び込む。そのまま渦は集束、爆発して1体のモンスターを生み出す。

羽根つきのハットに黒を基調とし、赤、金の線を走られた礼装、指揮棒のようなレイピアを携えた音楽隊を思わせるモンスターだ。遊矢が得意のペンデュラムを使うなら、こちらも得意のエクシーズで対抗、早速飛ばしてきた。

 

「マエストロークのORUを1つ取り除き、効果発動!『刻剣の魔術師』を裏側守備表示に変更する!」

 

「チッ」

 

「バトル!マエストロークで刻剣へ攻撃!」

 

「ゴムゴムートンのペンデュラム効果により、1ターンに1度の戦闘耐性を与える!」

 

セット状態の刻剣が姿を見せ、奇襲をかけて来たマエストロークのレイピアを剣で防ぐ。ガキン、と甲高い金属の音が響き渡る。厄介な効果だ。黒コナミは冷静に分析しながらメンイフェイズへと移る。

 

「『ガガガガンマン』ではなく、このカードを選んで正解だったか。カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP4000

フィールド『交響魔人マエストローク』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!『EMシルバー・クロウ』を召喚!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

現れたのは鋭利に輝く爪を持った銀狼のカード、『EM』内では比較的扱いやすいアタッカーだ。

 

「刻剣の効果により、このカードとマエストロークを次の俺のスタンバイフェイズまで除外する」

 

「罠発動!『ブレイクスルー・スキル』!刻剣の効果を無効に!」

 

「やりおるわ、ならバトル!シルバー・クロウでマエストロークに攻撃!シルバー・クロウの効果により、『EM』の攻撃力を300アップ!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→2100

 

「マエストロークの第2の効果!このカードのORUを1つ取り除き、『魔人』エクシーズモンスターを破壊から守る!」

 

黒コナミ LP4000→3700

 

シルバー・クロウが地を駆け、鋭い爪を剥き出しにして肩口からマエストロークを切り裂く。破壊こそ出来なかったが、先制ダメージは取った。このままペースを掴む。

 

「戦闘ダメージを受けた事で、私は罠カード、『運命の発掘』を発動!1枚ドローする!」

 

黒コナミ 手札2→3

 

『あっちもただじゃ転んでくれないな……』

 

「ふん、良く分かっているではないか……奴め、黒咲と言う男やセルゲイと似た気配を感じる。俺としてはこちらの方が楽しめそうであるがな。ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)『刻剣の魔術師』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『EMラフメイカー』『EMゴムゴムートン』

手札0

 

警戒を充分に、ターンを終了するティモシー。どうやらこの男、言葉遣いとは裏腹にかなり冷静なようだ。獣染みた好戦的な性格と勘の良さ、そして理知的な雰囲気を感じさせる。

 

「私のターン、ドロー!『ゴゴゴゴースト』を召喚!」

 

ゴゴゴゴースト 攻撃力1900

 

次は赤い鎧を纏った不定形の青い炎のモンスター。鋭い剣を振るい、切っ先を遊矢へと向ける。どうやらティモシーの背後にいる遊矢を同種と思っているようだ。

 

「バトル!マエストロークで刻剣へ攻撃!」

 

榊 遊矢 LP4000→3600

 

「罠発動、『運命の発掘』。1枚ドローする」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「ゴーストでシルバー・クロウを攻撃!」

 

「ゴムゴムートンのペンデュラム効果を使う」

 

榊 遊矢 LP3600→3500

 

マエストロークのレイピアが刻剣の剣を砕いて喉笛を貫き、ゴーストが剣を振るってシルバー・クロウに攻め立てる。押しては返す波のようなデュエル。

しかし妙なものだ。遊矢は違和感を感じ取る。黒コナミは白コナミと同等かそれ以上のデュエリストの筈だ。1度デュエルしたから、充分に理解している。ティモシーもまた、黒コナミに匹敵、または超える実力を感じさせる。だからこそ、今の普通のデュエルを行っている状況は嵐の前の静けさのようで、少々不気味だ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド」

 

黒コナミ LP3700

フィールド『交響魔人マエストローク』(攻撃表示)『ゴゴゴゴースト』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『EMウィム・ウィッチ』!『刻剣の魔術師』!」

 

EMウィム・ウィッチ 守備力800

 

刻剣の魔術師 攻撃力1400

 

現れたのはピンク色の色っぽい猫と剣を構える少年『魔術師』。相変わらず静けさを感じさせる布陣だ。彼の性格的にもっと苛烈に攻め立てるものだと思っていたが――。

 

「ウィッチ・ウィッチはペンデュラムモンスターをアドバンス召喚する場合、2体分のリリース要員となれる。ウィム・ウィッチをリリース、アドバンス召喚!『降竜の魔術師』!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

猫の魔法使いが退場し、次に現れたのは竜と交信する『魔術師』。三角帽に顔を覆う赤の包帯、青いコートを纏ったモンスターだ。こう見えて女性である。

 

「刻剣の効果により、マエストロークを除外!」

 

「チッ!」

 

「まだだ!俺は『降竜の魔術師』の効果により、このカードをドラゴン族に変更。そして闇属性、ドラゴン族のこのカードと獣族のシルバー・クロウをリリース、出でよ!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

ティモシーの背後に青とオレンジの渦が広がり、その中で降竜とシルバー・クロウが混じり合い、新たなモンスターとして生まれ変わる。獣骨の鎧を纏い、赤と緑、更に額に開いた獣の瞳から火花を散らす融合モンスター。ティモシーはフィールドに姿を見せたドラゴンに視線を移し、うっとりとした表情を浮かべる。

 

「クク、やはりドラゴンは良いものだ。『オッドアイズ』の美しさに荒々しさを加えたこの姿、中々に新鮮だな」

 

どごぞのドラゴン使いのような事をのたまうティモシー。どうやら彼はドラゴン族モンスターにこだわりがあるらしい。今までもその兆候があった為、遊矢はやはりと言う思いが強い。

 

「バトル!ビーストアイズでゴーストへ攻撃!ヘルダイブバースト!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札1→2

 

「ビーストアイズの効果発動!貴様にこのカードの素材となった獣族モンスター、シルバー・クロウの攻撃力1800のダメージを与える!」

 

「ぐぅぅぅぅっ!?」

 

黒コナミ LP3700→1900

 

ビーストアイズがその鋭い牙が並ぶアギトに大気を集束、青い炎として発火、『ゴゴゴゴースト』へと放ち、霊魂をも燃やし尽くす。流石はドラゴンだ。生命の頂点に座したその力は伊達ではない。

 

「ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP3500

フィールド『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMラフメイカー』『EMゴムゴムートン』

手札0

 

「私のターン、ドロー!『ゴゴゴジャイアント』を召喚!」

 

ゴゴゴジャイアント 攻撃力2000

 

現れたのは塔が人型となったようなモンスターだ。下級モンスターにしては攻撃力が高く、効果が無くともアタッカーとして運用出来る。

 

「召喚時、墓地の『ゴゴゴゴースト』を守備表示で呼び、このカードを守備表示に変更する」

 

ゴゴゴゴースト 守備力0

 

「ゴーストが特殊召喚に成功した事で、墓地の『ゴゴゴゴーレム』を守備表示で特殊召喚する!」

 

ゴゴゴゴーレム 守備力1500

 

1体のモンスターから一気に2体の展開、これでレベル4のモンスターが3体、準備としては充分だ。

 

「相手フィールドにモンスターが存在し、私のフィールドに存在するモンスターが全てレベル4の場合、手札の『トラブルダイバー』は特殊召喚出来る!」

 

トラブルダイバー 守備力1000

 

『レベル4が4体も……!』

 

「これ位は朝飯前と言う事か。フッ、相手にとって不足はないな」

 

最後に呼び出されたのはシュノーケルとダイバースーツを纏った犬のモンスター。これでレベル4が4体。

 

「わたしは『ゴゴゴジャイアント』と『ゴゴゴゴーレム』の2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!全てを捕まえろ!『ガガガガンマン』!」

 

ガガガガンマン 攻撃力1500

 

再びエクシーズ召喚、現れたのはカウボーイハットに赤いマント、両手に拳銃を握ったガンマン。攻撃力は高くないが、それでも充分な爆発力を秘めている。

 

「そして『ゴゴゴゴースト』と『トラブルダイバー』でオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!高貴なる戦士!『ガガガザムライ』!」

 

ガガガザムライ 攻撃力1900

 

次は黒髪を後ろで一括りにし、学ランの下に赤い着物と袴を纏い、美しい閃きを放つ刀を二振り握った侍。西洋と東洋、異なる『ガガガ』モンスターが並び立つ。

 

「魔法カード、『エクシーズ・ギフト』!2体のORUを1つずつ取り除き、2枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札0→2

 

「速攻魔法、『サイクロン』!ゴムゴムートンを破壊!そして『ガガガガンマン』のORUを取り除き、効果を発動。そして『ガガガザムライ』もORUを取り除き、効果発動!このカードに2回攻撃権を与える!バトル!まずは『ガガガガンマン』でビーストアイズに攻撃!この瞬間、このカードの攻撃力を1000アップし、ビーストアイズの攻撃力を500ダウンする!」

 

ガガガガンマン 攻撃力1500→2500

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→2500

 

ビーストアイズが口内から青い炎を発射、ガンマンを牽制し、ガンマンは2丁の拳銃を乱射して攻める。ガンマンには強化が、ビーストアイズには弱体化がかけられている為、互角の闘い、互いの一撃がクリティカルヒットし、2体が同時に倒れ伏す。

 

『相撃ち……!』

 

「おのれ……俺のビーストアイズを……!」

 

『俺のなんだけど……』

 

「『ガガガザムライ』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『カウンター・ゲート』!1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「引いたカードは『召喚僧サモンプリースト』!召喚する!」

 

召喚僧サモンプリースト 攻撃力800

 

『ガガガザムライ』が刀を振るうと共に突如彼を守るように僧侶が飛び出す。

 

「召喚後、守備表示に変更」

 

「攻撃続行!」

 

一撃目が防がれようと、返しの刃がサモンプリーストを切り裂く。状況は一変、黒コナミの有利になった。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP1900

フィールド『ガガガザムライ』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

ぶつかる覇王と皇、次元を超えし強者達。勝つのは、果たして。



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第162話 ティモティモ詐欺

混乱極まるシンクロ次元、シティ。スタンダード、融合、シンクロ、エクシーズ、4つの次元のデュエリストがぶつかる中、ここでもまた、スタンダードとエクシーズ次元のデュエリストが対峙していた。

1人はエンタメデュエルを信条とし、最早一流とも言って良い実力を身につけた少年、榊 遊矢。そしてもう1人は――エクシーズ次元出身と言うのも怪しい、つばの欠けた黒帽子、重々しいヘッドフォンを首から下げ、白いマントを靡かせた少年、黒コナミ。

 

親友と同じ姿をした相手にデュエルをしているのだが――遊矢にも変化が起きていた。今の遊矢は遊矢であって遊矢ではない。彼の身体に、ティモシーと名乗る謎の男の意識が入っているのだ。

因みに遊矢本人は背後で浮遊霊のように半透明になってデュエルを見守っている。

結局の所、このティモシーもどの次元出身なのか分かってない為、この混戦の中でもニュートラルな者同士の対決と言えよう。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

そしてターンはティモシーに移り、彼はデッキから1枚のカードを引き抜く。状況としてはLPは彼が上、しかし黒コナミの場にはモンスターが存在している為、互角と言った所か。だがこれも、ティモシーが低スケールのペンデュラムモンスターを引けば大きく動く。

 

「スタンバイフェイズ、刻剣とマエストロークがフィールドに戻る。そして刻剣の効果により、このカードと『ガガガザムライ』を除外!」

 

「ッ」

 

「クク、まだまだ。俺は『EMブランコブラ』をセッティング!ペンデュラム召喚!『EMシルバー・クロウ』!『EMウィム・ウィッチ』!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

EMウィム・ウィッチ 守備力800

 

「バトル!シルバー・クロウでマエストロークに攻撃!効果で攻撃力アップ!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→2100

 

EMウィム・ウィッチ 攻撃力800→1100

 

「アクションマジック、『大脱出』!バトルフェイズを終了!」

 

「チ、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP3500

フィールド『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)『EMウィム・ウィッチ』(守備表示)

Pゾーン『EMラフメイカー』『EMブランコブラ』

手札0

 

「私のターン、ドロー!チッ、マエストロークを守備表示に変更、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP1900

フィールド『交響魔人マエストローク』(守備表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、刻剣と『ガガガザムライ』がフィールドに戻る。どうした?もう少し骨があると思っていたんだがな……『EMウィップ・バイパー』を召喚!」

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700

 

現れたのは紫色の蛇。シルバー・クロウやヘイタイガーには劣るものの、このモンスターもまた、『EM』内ではトリッキーなアタッカーだ。別方向からの突破や防御に一役かう。

 

「ウィップ・バイパーの効果により、マエストロークの攻守を入れ替える!混乱する毒!」

 

交響魔人マエストローク 守備力2300→1800

 

「チッ」

 

「バトル!シルバー・クロウでマエストロークへ攻撃!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→2100

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700→2000

 

EMウィム・ウィッチ 攻撃力800→1100

 

このデュエル中、何度目か分からないシルバー・クロウの活躍により、次々と黒コナミのエクシーズモンスターが破壊されていく。頼もしいアタッカーだ。

 

「ウィッチ・バイパーで『ガガガザムライ』へ攻撃、刻剣でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『カウンター・ゲート』!」

 

「ほう……!」

 

ここで発動されたのはティモシーも使った罠カード。直接攻撃宣言時、カードを1枚ドロー、モンスターならば召喚可能なカードだ。『ガード・ブロック』のは相互互換であるが、こちらはモンスターを引けなければ駄目、モンスターであっても上級であっては腐ってしまうギャンブル性がある。ティモシーは引いたが、こちらは――。

 

「フ、言うまでもないか」

 

「この程度、シャイニング・ドローするまでもない!さぁ、来るが良い!ドロー!」

 

黒コナミ 手札0→1

 

この男はモンスターは引ききると、ティモシーも確信している。問題は、引いたモンスターが何であるかだ。黒コナミがデッキトップに手をかけ、1枚のカードを引き抜く。結果は――。

 

「『ゴゴゴジャイアント』を召喚!」

 

ゴゴゴジャイアント 攻撃力2000

 

「召喚時、墓地の『ゴゴゴゴースト』を特殊召喚し、守備表示に!」

 

ゴゴゴゴースト 守備力0

 

「更に『ゴゴゴゴースト』の効果で『ゴゴゴゴーレム』を蘇生!」

 

ゴゴゴゴーレム 守備力1500

 

1枚の防御カードからの展開では最高と言える結果だ。3体の『ゴゴゴ』モンスターが膝をつき、壁となって黒コナミへの道を閉ざす。

 

「ならば『ゴゴゴジャイアント』へ攻撃!」

 

「構わん、通す」

 

「ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP3500

フィールド『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)『EMウィップ・バイパー』(攻撃表示)『EMウィム・ウィッチ』(守備表示)『刻剣の魔術師』(攻撃表示)

Pゾーン『EMラフメイカー』『EMブランコブラ』

手札0

 

壁モンスターを少しでも減らすが、それでも2体のモンスターが残る。レベル4のモンスターが2体だ。間違いなく仕掛けて来るだろう。警戒を引き上げ、デュエルディスクを構え直す。

 

「私のターン、ドロー!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.55ゴゴゴゴライアス』!」

 

No.55ゴゴゴゴライアス 攻撃力2400

 

早速エクシーズ召喚、現れたのは要塞に手足を足したような巨人のモンスター。彼が『ホープ』以外に所持する『No.』モンスター。遊矢が目にするのは初めてだ。

 

「ゴライアスのORUを1つ取り除き、効果発動!墓地の『ゴゴゴジャイアント』をサルベージ、そして召喚!」

 

ゴゴゴジャイアント 攻撃力2000

 

「またか……」

 

今回の過労死要員、『ゴゴゴジャイアント』。気のせいか、少々元気が失われているように感じる。そんな彼がお前も道連れだと言わんばかりに墓地に繋がる穴を作り出し、巨大な腕で同僚を引っ張り出す。

 

「召喚時、『ゴゴゴゴーレム』を蘇生!」

 

ゴゴゴゴーレム 守備力1500

 

「永続魔法、『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』!私が『希望皇ホープ』をエクシーズ召喚する度、LPを500払い、ドローに変換する。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!現れよ、『No.』39!我が戦いはここより始まる!白き翼に望みを託せ!光の使者、『希望皇ホープ』!!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

2体のモンスターが1つとなり、閃光がフィールドを覆う。満ち溢れる光の中、降り立つのは黄金の装飾を纏う白い塔。カタカタと音を立てて変形し、人型となったそれが腰の剣を抜き、白刃で光を裂く。

晴れたそこに立つのは、全貌が明らかとなった彼のエース。黄金に輝く鎧に純白の翼、二振りの剣を携え、右肩に赤い閃きを見せる39の数字が浮かび上がる。

 

『希望皇ホープ』。防御的な効果を持つモンスターだが、真に恐るべきは彼が扱うこのモンスターの攻撃性が高い進化形態、言わばこのモンスターは仮の姿に過ぎない。

 

「『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果発動!」

 

黒コナミ LP1900→1400 手札0→1

 

「更に『希望皇ホープ』1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!現れよ、『CNo.39』!混沌を光に変える使者!希望皇ホープレイ!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ 攻撃力2500

 

地面に星が浮かぶ渦が広がり、白い塔に戻った『ホープ』が飛び込み、中で新たな姿へ変わった『ホープ』が再びフィールドへと飛翔する。白と金より一転、黒一色に染まった体躯を回転させ、鋭い翼を広げた黒騎士が雄々しい咆哮を放つ。

 

「『CNo.』……!」

 

「出て来たか……」

 

「『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果発動!」

 

黒コナミ LP1400→900 手札1→2

 

「ホープレイの効果発動!ORUを2つ取り除き、このカードの攻撃力を1000アップ!ウィップ・バイパーの攻撃力を2000ダウン!更にORUを1つ取り除き、攻撃力を500アップ、シルバー・クロウの攻撃力を1000ダウン!オーバーレイ・チャージ!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ 攻撃力2500→3000→3500→4000

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700→0

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→800

 

「くっ、ウィップ・バイパーの効果発動!ホープレイの攻守を入れ替える!」

 

「無駄だ!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、効果を無効!バトル!ホープレイでウィップ・バイパーへ攻撃!ホープ剣・カオススラッシュ!」

 

『不味い!』

 

「囀ずるなうすのろ。アクションマジック、『回避』!」

 

「何!?」

 

ホープレイが二振りの剣を握り、背中がバキリと甲高い音を上げ、2本の巨大な腕を伸ばし、3本目の剣を手にし、ウィップ・バイパーへ向かい、襲いかかる。一閃、二閃、三閃、風を引き裂く光の刃。ティモシーはそれをかわす為、ウィップ・バイパーの尾を掴み、ブン回してアクションマジックを口に咥えさせて運ぶ。人のモンスターだと思って無茶苦茶な奴である。

 

『やめたげてっ!』

 

「ふん、ご苦労」

 

そしてぽいっ、と呆気なくリリースされるウィップ・バイパー。その目はグルグルと回転している。

 

「ならゴライアスで追撃!」

 

「ぬうぅ!?」

 

榊 遊矢 LP3500→1100

 

ゴライアスが剛腕を振り抜き、ウィップ・バイパーを吹き飛ばす。とんでもないパワーだ。ソリッドビジョンで作られた光の足場が砕かれ、ガラガラと土煙を上げて崩れ落ちる。

 

『互角……!』

 

「互角……?互角だと?笑わせるな、俺の方が遥かに上だ、このうすのろ」

 

「ならば見せてみろ、貴様の実力を。まさかこの程度な訳あるまい?私は速攻魔法、『神秘の中華なべ』を発動。ホープレイをリリースし、攻撃力をLPに変換」

 

黒コナミ LP900→4900

 

『負けてるじゃないか!』

 

「ええい、狼狽えるな、このたわけが!」

 

100を切ったLPが一気に4000以上に回復し、対するこちらは100少しと明らかに不利な状況を見て、遊矢がティモシーに文句を放ち、ギャースカと喧嘩になる。この男の自信はどこから出て来るのだろうか。流石の遊矢も勝手に身体を乗っ取られ、その上で負けると言うのはカチンと来るものがある。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP4900

フィールド『No.55ゴゴゴゴライアス』(攻撃表示)

『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!刻剣の効果発動!ゴライアスとこのカードを除外する!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!ゴライアスを対象とするモンスター効果を無効!」

 

「チッ、全てのモンスターを守備表示に変更、カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP1100

フィールド『EMシルバー・クロウ』(守備表示)『EMウィム・ウィッチ』(守備表示)『刻剣の魔術師』(守備表示)

セット1

Pゾーン『EMラフメイカー』『EMブランコブラ』

手札0

 

「私のターン、ドロー!ゴライアスのORUを取り除き、効果発動!『ゴゴゴジャイアント』を回収!速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!手札を1枚捨て、ペンデュラムを破壊!」

 

「くっ!」

 

「バトル!ゴライアスで刻剣へ攻撃!」

 

ペンデュラムも破壊され、頼みの刻剣も破壊、これで防ぐ事も攻略も難しくなった。

 

「ターン、エンド」

 

黒コナミ LP4900

フィールド『No.55ゴゴゴゴライアス』(攻撃表示)

『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!俺のエクストラデッキに3種類以上のペンデュラムモンスターが加わっている事で2枚ドローする!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

「ウィム・ウィッチをリリース、アドバンス召喚!『相克の魔術師』!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

現れたのは大剣を手にした上級『魔術師』だ。光属性モンスターの効果を無効、つまり『ホープ』に対抗出来るモンスターでもある。

 

「バトル!相克でゴライアスへ攻撃!」

 

黒コナミ LP4900→4800

 

ゴライアスが向かって来る相克を迎撃すべく、腹部の砲門から弾丸をばら撒くも、相克は凄まじい速度で駆け抜け、ゴライアスの太い腕に飛び乗る。そしてゴライアスは思わず自身の腕にいる相克へ砲撃を続け、かわされて腕を爆砕してしまう。

たたらを踏み、そのまま足を滑らせて転ぶゴライアス。ゴライアスが赤く輝くモノアイで上空を見れば――そこには跳躍し、こちらに剣を向けて落ちて来る相克の姿。

ズガンッ、と鈍い音と共にモノアイに剣が突き立てられ、活動を停止するゴライアス。相克は大剣を引き抜いて退いた瞬間、ゴライアスが爆発、岩石が飛び散る。

 

「シルバー・クロウで攻撃!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→2100

 

黒コナミ LP4800→2700

 

更なる追撃、シルバー・クロウが獲物を狙って走り、鋭い爪で黒コナミを切り裂く。大ダメージだ。流石の黒コナミも顔をしかめ、たたらを踏む。

 

「くっ……!」

 

「ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP1100

フィールド『相克の魔術師』(攻撃表示)『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『名推理』!相手はレベルを宣言し、自分はデッキトップからモンスターが出るまでカードを墓地に送る!そして出たモンスターのレベルが相手が宣言したものであれば墓地に送り、それ以外であれば特殊召喚する!」

 

「レベル4を選択する」

 

発動されたのは『名推理』の効果で黒コナミのデッキからカードが墓地に送られていき――1枚のモンスターカードがその手に渡る。レベルは――。

 

「レベル3、『ガガガガール』!よって特殊召喚!」

 

ガガガガール 守備力800

 

ポン、飛び出したのは三角帽子を被り、スライド式の携帯電話を持った女子校生風の金髪美少女。気だるげにふわぁと欠伸をし、紅玉のような眼をゴシゴシと擦る。

そしてやっと目の前の相克の姿に気づいたのか、強そうなモンスターに怯え、ふわふわと宙を漂って黒コナミの後ろに隠れ、威嚇するようにシャドーボクシングを始める。

そんな彼女の様子に溜め息を吐き、首根っこを掴んでポイとフィールドに放り投げる黒コナミ。べしゃりと倒れた『ガガガガール』は「うー」と唸り、女の子座りのまま半眼で主人を睨む。

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札0→1

 

「そして装備魔法、『ワンダー・ワンド』を『ガガガガール』に装備、攻撃力を500アップ」

 

ガガガガール 攻撃力1000→1500

 

『ガガガガール』の手に緑の宝玉がついた杖が渡り、途端に彼女はキラキラした眼で主人に視線を移す。まるで見捨てられてなかったんだと言わんばかりである。

 

「『ワンダー・ワンド』を装備した『ガガガガール』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札0→2

 

戦闘破壊されずに済んだと笑顔で手を振り去っていく『ガガガガール』。しかし――。

 

「『ガガガシスター』を召喚」

 

ガガガシスター 攻撃力200

 

ガールの妹なのか、白い帽子を被り、鍵を模したステッキを持った幼女がフィールドに立つ。その姿に墓地に繋がる渦に入り込もうとする『ガガガガール』の表情が凍りつく。

 

「召喚時、デッキから装備魔法、『ガガガリベンジ』をサーチ、発動!『ガガガガール』をそせし、このカードを装備!」

 

ガガガガール 攻撃力1000

 

墓地の穴から赤いモノアイが覗き、やって来た『ゴゴゴゴーレム』がお前が来るのはここではない、あっちだと墓地行きをキャンセルし、『ガガガガール』の首根っこを掴んでフィールドに投げられる。べしゃり。

 

「『ガガガシスター』の効果により、このカードと『ガガガシスター』のレベルを、2体のレベルを合計した数値にする!」

 

ガガガシスター レベル2→5

 

ガガガガール レベル3→5

 

そんな彼女の頭を良し良しと撫でるシスター。思わず彼女は妹に抱きつき泣いた。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『ZWー獣王獅子武装』!」

 

ZWー獣王獅子武装 攻撃力3000→3300

 

大地を駆り、天空に雄々しき咆哮を放つのは赤と金に染まった機械の獅子。『ホープ』を助ける『ZW』達を統べし王だ。

 

「ORUとなった『ガガガガール』の効果により、獣王獅子武装はエクシーズ召喚に成功した際、相手モンスター1体の攻撃力を0にする効果を得る!相克に対し、発動!ゼロゼロコール!」

 

「相克の効果で獣王獅子武装の効果を無効!」

 

「甘い!墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、獣王獅子武装を対象とするモンスター効果を無効!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500→0

 

獅子の背後に『ガガガガール』が現れ、まぁ、戦闘しないならいっか、と半眼になりながらケータイを操作し、相克に向かって音波を放つ。少々不味い事になった。

 

「そして獣王獅子武装のORUを1つ取り除き、デッキから『ZWー阿修羅副腕』をサーチ、バトル!獣王獅子武装で、相克へ攻撃!」

 

「罠発動!『レインボー・ライフ』!手札を1枚捨て、ダメージを回復に変換する!」

 

榊 遊矢 LP1100→4400

 

獣王の咆哮が木霊し、衝撃が空気を震撼させ、相克がガラスのように砕け散る。それでもダメージは虹のカーテンを通して恵みの雨となり、ティモシーを癒す。これでかなり楽になった。

 

「ほう、モンスターとカードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP2700

フィールド『ZWー獣王獅子武装』(攻撃表示)セットモンスター

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『金満な壺』!エクストラデッキの『EMブランコブラ』、『EMラフメイカー』、『EMゴムゴムートン』の3体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動!『EMラディッシュ・ホース』をセッティング!ペンデュラム効果発動!シルバー・クロウの攻撃力分、獣王獅子武装の攻撃力をダウンする!」

 

ZWー獣王獅子武装 攻撃力3000→1200

 

ペンデュラムゾーンに現れた鮮やかな赤の馬が大根の角をロケットのように発射させ、弾けて狼と獅子の頭に降り注ぐ、これで強弱が入れ替わった。優秀な1枚だ。例え下級モンスターだろうと強力なモンスターを倒す可能性が沸いて来る。

 

「バトル!シルバー・クロウで獣王獅子武装へ攻撃!」

 

「罠発動!『ハーフ・アンブレイク』!獣王獅子武装に戦闘耐性を与え、受けるダメージを半分にする!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→2100

 

黒コナミ LP2700→2250

 

「かわしたか……だが獣王獅子武装は弱体化した。俺はこのままターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP4400

フィールド『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)

『補給部隊』

Pゾーン『EMラディッシュ・ホース』

手札0

 

「私のターン、ドロー!獣王獅子武装を守備表示に変更、墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外し、ラディッシュ・ホースを破壊!獣王獅子武装のORUを1つ取り除き、『ZWー荒鷲激神爪』をサーチ!こちらも永続魔法、『補給部隊』を発動。そしてLPが相手より2000以上少ない事で手札の『ZWー荒鷲激神爪』を特殊召喚する!」

 

ZWー荒鷲激神爪 攻撃力2000

 

「阿修羅副腕を反転召喚、バトル!荒鷲激神爪でシルバー・クロウへ攻撃!」

 

榊 遊矢 LP4400→4200

 

「チ、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

黒コナミのフィールドに赤い荒鷲が現れ、シルバー・クロウを破壊する。一進一退、どちらも負けていない。

 

「阿修羅副腕でダイレクトアタック!」

 

榊 遊矢 LP4200→3200

 

「ぬぅぅぅぅっ!?」

 

迫る猛攻、複数の拳がティモシーを貫く。堪らず苦悶の声を上げ、たたらを踏むティモシー。このままでは不味い――。

 

「ふん……舐めるなよ……この程度、屁でもないわ!」

 

「ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP2250

フィールド『ZWー獣王獅子武装』(守備表示)『ZWー荒鷲激神爪』(攻撃表示)『ZWー阿修羅副腕』(攻撃表示)

『補給部隊』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『EMヘイタイガー』を召喚!」

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700

 

現れたのはデフォルメされた虎の兵士。赤い軍服を纏い、背筋を伸ばして敬礼する。

 

「バトル!ヘイタイガーで獣王獅子武装へ攻撃!」

 

「チ、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

「こちらもヘイタイガーの効果で『EMペンデュラム・マジシャン』をサーチ!」

 

ヘイタイガーが腰のサーベルを引き抜き、弱体化した獣王獅子武装に剣線を走らせ、切り裂く。獅子と虎の動物合戦、勝利をもぎ取ったのは虎だ。

 

黒コナミ 手札0→1

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』をセッティング、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP3200

フィールド『EMヘイタイガー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMペンデュラム・マジシャン』

手札0

 

「私のターン、ドロー!」

 

「永続罠発動!『連成する振動』!『EMペンデュラム・マジシャン』を破壊し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「手札を確保したか……バトル!荒鷲激神爪でヘイタイガーへ攻撃!」

 

榊 遊矢 LP3200→2900

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「阿修羅副腕でダイレクトアタック!」

 

榊 遊矢 LP2900→1900

 

「ぐふっ……!」

 

『ZW』による連撃、本来『ホープ』の装備となるカードに素のままで殴られ続けるティモシー。このままでは不味い。とは言えティモシーもLPを犠牲に手札を確保。このままでは終われない。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP2250

フィールド『ZWー荒鷲激神爪』(攻撃表示)『ZWー阿修羅副腕』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『連成する振動』をコストに2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

『――え?』

 

引き抜かれた2枚のカード、その内の1枚に視線を移し、遊矢の目が見開かれ、ポカンと口が開く。そのカードは、自分が最も信頼するカード、しかし、デッキに投入した覚えが全く無いカード。ティモシーが描く漆黒のアーク、天に現れ、揺れ動く。

 

「『時読みの魔術師』と『覇王眷竜オッドアイズ』の2体でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

背後のペンデュラムゾーンに登場する、黒い『魔術師』と赤い体躯に緑の光を走らせた、オッドアイのドラゴン。その姿は遊矢の持つエースカード、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』に驚く程酷似しており、このカードが発動された途端、ドクンと遊矢の心臓が跳ねる。『オッドアイズ』でありながら、『オッドアイズ』ならざるカード。このモンスターは一体――。

 

「――その、カードは……」

 

「クク、美しいだろう?早くフィールドに出してやりたいが、このデッキでは少々相性が悪いな。まぁ良い、ペンデュラム召喚!『降竜の魔術師』!『相克の魔術師』!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

降り注ぐ光の柱、フィールドに現れたのは2体の『魔術師』。どちらも攻撃力は荒鷲激神爪を上回っている。反撃開始と言う事か。

 

「まだだ、俺は『調律の魔術師』を召喚!」

 

調律の魔術師 攻撃力0

 

現れたのは攻守0、レベル1、闇属性の魔法使い族チューナーだ。白い法衣を纏い、桜色の髪を揺らす少女の『魔術師』。遊矢がサムから受け取ったカード、今更ながらジャックへと返しそびれ、すっかり遊矢のデッキに馴染んでしまっている。

今とて「星読みちゃんが焼いたクッキーおいしー」と口をモゴモゴ動かしている。どうやら遊矢のモンスターに可愛がられているようだ。遊矢が何しているんだコイツ、と言いたげな呆れの籠った視線を送ると、漸く呼び出された事に気づいたのか、口元にクッキーのカスをつけながらポーズを決める。

そして人懐っこい表情を浮かべ、ティモシーに近づき――ハッとした表情から更に眉をひそめ、手に持った音叉をティモシーの頭部目掛けて振るう。

 

「召喚時、相手のLPを回復、自分のLPに400のダメージを与えぶふぉっ!?」

 

黒コナミ LP2250→2650

 

榊 遊矢 LP1900→1500

 

ゴッ、頭部を殴られ、鈍い音を出すティモシー。彼はうごごと唸り、怒り心頭と言った顔をした調律を睨む。

 

「こ……こやつ……何?アンタごすずんじゃないでしょ?アタシのごすずんを返して?このスイーツめが……!」

 

忠誠心故と言う事か、ツンとそっぽを向く調律に舌打ちを鳴らすティモシー。とは言え今の主人は自分だ、言う事は聞いて貰わねばならない。

 

「……良いのか?後ろのごすずんとやらに格好いい所を見せないで?」

 

ニヤリ、ティモシーが意地の悪い笑みを見せ、クイと親指で遊矢を差す。そして漸く遊矢の存在に気づいたのか、調律はムーと頬を膨らませ、仕方無いと溜め息を吐く。

 

「そうで良いんだぁ……!俺はレベル7の降竜にレベル1の調律をチューニング!剛毅の光を放つ勇者の剣!今ここに閃光と共に目覚めよ!シンクロ召喚!『覚醒の魔導剣士』!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、調律がピースサインを決め、光のリングとなって弾け飛び、降竜を包み込んで一筋の光がリングごと降竜を貫く。閃光がフィールドを覆い、それを切り裂いて現れたのは白銀の鎧を纏う、二刀流の魔導剣士。遊矢がこのシンクロ次元に来て新たに得た力だ。フィールドに降り立ち、剣を構える。

 

「『魔術師』ペンデュラムモンスターを素材としてこのカードがシンクロ召喚に成功した事で、墓地の『ペンデュラム・ホルト』を回収、発動!2枚のカードをドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「バトル!『覚醒の魔導剣士』で荒鷲激神爪へ攻撃!」

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

「チ、魔法カード、『一時休戦』を発動」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

黒コナミ 手札0→1

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP1500

フィールド『覚醒の魔導剣士』(攻撃表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

Pゾーン『時読みの魔術師』『覇王眷竜オッドアイズ』

手札1

 

ぶつかる互いのカード、互いの力、2人の実力者は互いに認める。目の前の存在は、自らの全力を出すに相応しい相手であると。ニヤリと笑みを深める覇王と皇。ここからがデュエルの本番、黒コナミはつばの欠けた帽子を被り直し、内側から溢れ出る力を今、解放する。

 

「……どうやら、ここからが奴の本領発揮のようだな」

 

「え……?」

 

嵐の気配を察知し、好戦的な笑みを見せるティモシー。遊矢が口を開いたその時――。

 

「さぁ、かっとビングだ!私は私自身でオーバーレイ・ネットワークを再構築!熱き情熱が勝利を導く!エクシーズ・セカンドチェンジィィィィッ!!」

 

黒コナミの身体が、青白く輝き、激しいスパークが視界を覆った。



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第163話 エクシーズセカンドチェンジ

シャイニング・ドローの設定整理回、やっぱり絶対に勝てる手なんてないんだなって。


変化は直ぐに起こった。シティ全体を照らすかと言う程の青い閃光がフィールドに発生し、黒コナミの魂を更なる次元にランクアップさせる。肌は全体的に青白く輝くアストラル体へと変わり、左眼に緑のフレームを持つバイザーが装着、腰からは漆黒に煌めくアーマーとマントが靡き、左肩から腕にかけ、黄金のデュエルディスクが盾のような形状に進化する。これこそが黒コナミの奥の手、エクシーズ・チェンジ。

遊矢達の目の前で初披露されたそれは2人の度肝を抜く。ある程度耐性を持っているティモシー

さえ、少々動揺している。

 

『エクシーズ……セカンドチェンジ……!?』

 

「ふ……ふん、ファ、ファーストはどこにいったのやら……この程度何ともないわ!」

 

『声が震えてるけど……』

 

「やかましいわ!」

 

途方も無い力を黒コナミから感じる。これがエクシーズ・チェンジの結果と言う事か。今の今まで互角だったのだ、力を増した黒コナミ相手では、ティモシーでもどうなるか分からない。

 

「……だが……少々不味いな……」

 

『え?』

 

初めて、気弱な台詞を吐くティモシーに、遊矢が戸惑う。この男なら例え相手が自身よりも強敵であったとしても不遜な態度を崩さないと思ったのだが――それとも、別の事か、どこかあせっているように見える。

 

「――お前にこの姿を見せるのは初めてだったな……お前が融合やシンクロを得たように、私も成長していると言う事だ」

 

そう言うや否や、彼は右手を翳し、眩い光を宿す。これは――彼が得意とする、必殺とも言って良い力。カードの創造、シャイニング・ドロー。

 

「来るか……」

 

「最強デュエリストのデュエルは全て必然!ドローカードでさえもデュエリストが創造する!」

 

黄金の力は、彼の右手からデッキトップへと移り、1枚のカードを作り出す。

 

「全ての光よ!力よ!我が右腕に宿り、希望の光を照らせ!シャイニング・ドロォォォォッ!!」

 

引き抜かれる1枚のカード、形勢を逆転させる1枚が、その手に渡る。

 

「『Vサラマンダー』を召喚!」

 

Vサラマンダー 攻撃力1500

 

現れたのは4本の首を伸ばした赤い炎に包まれし蜥蜴。このカードの事は知っている。面倒な事になりそうだ。

 

「召喚時効果により、墓地のホープレイを蘇生!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ 攻撃力2500

 

再びフィールドに現れる黒騎士皇。希望の光、ホープレイ。だがこうして相対する者からすれば絶望を与えるモンスターと言える。

 

「そして『ZW』の効果!阿修羅副腕と荒鷲激神爪をそれぞれ攻撃力1000、2000アップの装備カードとして装備する!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ 攻撃力2500→3500→5500

 

ガガンッ、甲高い音を響かせ、荒鷲激神爪、阿修羅副腕の2体が『ホープ』の肩と背に取りつき、複数の腕を伸ばした騎士へと進化する。これが彼のエース、『ホープ』の強み、『ZW』によって強化されるエース1体に全てを振り切ったデッキ。どこかジャックにも似た戦術だ。

 

「バトルだ!ホープレイで『覚醒の魔導剣士』へ攻撃!ホープ剣・アシュラ・イーグル・スラッシュ!」

 

『罠カードを!』

 

「分かっている!罠発動!『あまのじゃくの呪い』!ターン終了まで、攻守のアップダウンは逆転する!つまり『ZW』の効力は逆となり、ホープレイの攻撃力は3000ダウン!」

 

「無駄だ!荒鷲激神爪の効果により、1ターンに1度、罠の効果を無効にし、破壊!」

 

「罠発動!『聖なる鎧ーミラーメールー』!『覚醒の魔導剣士』の攻撃力を、ホープレイと同じ5500に変更!」

 

「何ッ!?」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500→5500

 

武装した黒騎士と白銀に輝く鎧を纏った白騎士が互いに同時に地を蹴って飛び上がり、二刀の剣で切り結ぶ。火花を散らし、鉄がぶつかり合う音を鳴らす両者の白刃。

同じ形状をした片刃の剣で攻め防ぎ、痺れを切らした魔導剣士がホープレイの胸を蹴り、宙をくるりと舞って魔導剣士の本領発揮と言わんばかりに背後の空間を揺らめかせ、波紋の中から何本もの剣を召喚、両手に持つ魔剣に劣らぬの業物を弾丸のようにホープレイに向かって撃つ。

 

しかし相手は強化された『No.』。直ぐ様阿修羅副腕で背の大剣を引き抜き、雨の如く降り注ぐ剣を3本の聖剣で叩き落とし、足場にして魔導剣士に襲いかかると言う荒業を披露。

僅かに目を見開き、驚愕する魔導剣士。流石に相手が悪いと感じ取ったのか、彼は身を守る鎧に灯る光を手に持った剣に全て注ぎ、滝のように流れる巨大な光の刃を生成、二刀の剣を回転しながら振るう。

 

全てを賭けた攻撃、ホープレイもその覚悟に応え、降り注ぐ剣を阿修羅副腕と荒鷲激神爪、全ての腕で掴み、全ての剣で斬撃を放つ。

光と闇、白と黒、斬撃は混じり合って大爆発を起こし、最強の一撃となって両者を吹き飛ばし、鎧を砕く。相撃ち――予想外の結果に黒コナミがギリリと歯軋りを鳴らす。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

「ッ、こちらもドローだ!」

 

黒コナミ 手札1→2

 

榊 遊矢 手札1→2

 

ティモシーはニヤリと笑みを浮かべ、黒コナミは対照的に苦い顔で1枚のカードをデッキから引き抜く。

 

「やはりな……貴様のシャイニング・ドローも、無敵ではないと言う事だ」

 

『え――?』

 

「……」

 

フン、と鼻を鳴らし、ティモシーは得意気な顔を見せる。そう、彼は見つけたのだ。この一見無敵となるシャイニング・ドローの、致命的とも言える弱点を。この短い間に――見つけてみせた。

 

「そのシャイニング・ドローは完璧過ぎるのだ。今のように、未公開のリバースカードや手札誘発に対応するカードは引けず、公開情報から答えを計算、その状況を覆す事が出来るカードしか引けない。一種のピンポイントメタだ。その時に必要なカードしか引けない為、予想外の一手を打たれては一気に瓦解してしまう」

 

『そんな、事が――』

 

冷静にシャイニング・ドローを分析、弱点を語るティモシーの姿に、呆然とする遊矢。そんな事、思いつきとしなかったと言うのに――。やはりこの男は、デュエリストとしても高いレベルを持っている。

 

「それに最初から――シャイニング・ドローは必ずしも勝てる力ではない。敵が強ければ数も引かねばならんしな。クク、シャイニング・ドロー、敗れたり!と言った所か」

 

『スゲェ……!』

 

「……フン、だからどうした?確かにシャイニング・ドローの弱点は貴様の言う通りだ。必勝であってはデュエルがつまらんしな。例えシャイニング・ドローが無くとも、私は充分に闘える!装備魔法、『ワンダー・ワンド』を『Vサラマンダー』に装備!」

 

Vサラマンダー 攻撃力1500→2000

 

「2枚を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札1→3

 

「カードを2枚セット、ターンエンド」

 

黒コナミ LP2650

フィールド

『補給部隊』セット3

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!手札1枚を捨て、ペンデュラムを破壊!」

 

「『EM小判竜』を召喚!」

 

EM小判竜 攻撃力1800

 

フィールドに登場したのは額に小判をつけた東洋風の龍。『EM』内でも珍しい漢字を使ったカードだ。アタッカーとしてもそこそこに役立つが、個性を出すにはエースの『オッドアイズ』を出す必要があるだろう。

 

「バトル!『相克の魔術師』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『エクシーズ・リボーン』!墓地から『ZWー獣王獅子武装』を蘇生し、このカードをORUにする!」

 

ZWー獣王獅子武装 攻撃力3000

 

「止めに来たか、カードを2枚セット、ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP1500

フィールド『相克の魔術師』(攻撃表示)『EM小判竜』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「私のターン、ドロー!バトルだ!獣王獅子武装で相克へ攻撃!」

 

「罠発動!『ペンデュラム・リボーン』!エクストラデッキから『EMペンデュラム・マジシャン』を特殊召喚!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

現れたのは振り子を手にした赤い衣装のマジシャン。遊矢のデッキ内ではキーとなるモンスターだ。このカードを起点とし、後半の展開へと繋ぐのが『EM』の基本戦術だ。

 

「特殊召喚時、効果発動!これにチェーンして相克の効果で獣王獅子武装の効果を無効!」

 

「相克と小判竜を破壊、デッキから『EMドクロバット・ジョーカー』と『EMギタートル』をサーチ!更に『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「チッ……ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP2650

フィールド『ZWー獣王獅子武装』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

フィールドにステップを刻みながら飛び出したのは、継ぎ接ぎだらけのシルクハットを被り、黒いマスクにトランプのマークを散りばめた燕尾服を纏ったモンスター。『EMペンデュラム・マジシャン』と並び、『EM』の戦術を加速させるカードだ。

 

「召喚時効果により、デッキから『EMリザードロー』をサーチ!ギタートルと共にセッティングし、ギタートルのペンデュラム効果でドロー!更にリザードローのペンデュラム効果も発動!このカードを破壊し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3→4

 

「ノッて来たな!『EMパートナーガ』をセッティング!これでレベル4から5のモンスターまで同時に召喚可能!ペンデュラム召喚!『EMシルバー・クロウ』!『EMラディッシュ・ホース』!『EMリザードロー』!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

EMラディッシュ・ホース 守備力2000

 

EMリザードロー 守備力100

 

「パートナーガのペンデュラム効果!フィールドの『EM』カードの数×300、ラディッシュ・ホースの攻撃力をアップ!」

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力500→2600

 

「そしてラディッシュ・ホースの効果により、このカードの攻撃力分、獣王獅子武装の攻撃力をダウンし、『EMシルバー・クロウ』の攻撃力をアップする!」

 

ZWー獣王獅子武装 攻撃力3000→400

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→4400

 

『よしっ!』

 

「さぁバトルだ!シルバー・クロウで獣王獅子武装へ攻撃!この瞬間、シルバー・クロウの効果で『EM』達の攻撃力を300アップ!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力4400→4700

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800→2100

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500→1800

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力2600→2900

 

EMリザードロー 攻撃力1200→1500

 

「罠発動!『パワー・ウォール』!ダメージ500につき、デッキトップからカードを墓地に送り、ダメージを0にする!ダメージは4300、デッキから9枚のカードを墓地に送る!」

 

黒コナミがデッキトップから大量のカードを引き抜き、前方へと投げ出す。カードは組み合わさって盾となり、シルバー・クロウの爪を防ぐ。惜しい、だが攻撃権はまだ残っている。

 

「『補給部隊』の効果でドローする!」

 

黒コナミ 手札1→2

 

「ドクロバット・ジョーカーでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外、このターンのダイレクトアタックを封じる!」

 

「チッ、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP1500

フィールド『EMペンデュラム・マジシャン』(守備表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)『EMラディッシュ・ホース』(守備表示)『EMリザードロー』(守備表示)

『補給部隊』セット2

Pゾーン『EMギタートル』『EMパートナーガ』

手札2

 

「私のターン、ドロー!『暗黒界の取引』。手札を交換、速攻魔法、『サイクロン』私のフィールドの『補給部隊』を破壊!」

 

『なっ!?』

 

「ほう……?」

 

ここで黒コナミが自身のカードを破壊する凶行に打って出る。一体何を考えているのか、自棄になった訳ではないだろう。ティモシーが目を細め、警戒を露にする。もしや――。

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP2650

フィールド

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『裁きの天秤』!」

 

「やはりそう来たかっ!」

 

発動された黒コナミの罠、それはこの状況だからこそ輝くカードだ。予想的中、ティモシーは金色の眼を見開き、小さく舌打ちを鳴らす。

 

「私のフィールド、手札のカードはこれ1枚、対するお前のフィールドのカードは10枚!よってその差9枚をドロー!我が手に希望を!シャイニング・ドロー!」

 

黒コナミ 手札0→9

 

そう、黒コナミはこの為に――9枚連続シャイニング・ドローと言う荒業を行うが為に、態々自身のカードを破壊したのだ。確かに、状況によって適応するシャイニング・ドローならば、この状況で手札誘発の1枚も引けるだろう。相手ターンでのシャイニング・ドロー。それは何よりも信頼出来る防御となる。

 

「パートナーガのペンデュラム効果により、シルバー・クロウの攻撃力をアップ!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→3900

 

「バトル!シルバー・クロウでダイレクトアタック!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力3900→4200

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500→1800

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800→2100

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力500→800

 

EMリザードロー 攻撃力1200→1500

 

「手札の『ガガガガードナー』の効果により、このカードを特殊召喚する!」

 

ガガガガードナー 守備力2000

 

この危機に登場したのは巨大な盾を構えた『ガガガ』モンスター。オノマトの中で手札誘発効果を持つ頼もしい1枚だ。

 

「チ、ならターゲットを『ガガガガードナー』に変更!」

 

「手札を1枚捨て、ガードナーの破壊を防ぐ!」

 

「ドクロバット・ジョーカーで追撃!」

 

「通す」

 

ティモシーが攻め込むも、全てが叩き落とされる。が、相手の手札を2枚削れたならば上々と言った所だ。直ぐ様思考を切り換える。

 

「カードをセット、ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP1500

フィールド『EMペンデュラム・マジシャン』(守備表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)『EMラディッシュ・ホース』(守備表示)『EMリザードロー』(守備表示)

『補給部隊』セット3

Pゾーン『EMギタートル』『EMパートナーガ』

手札2

 

「私のターン、ドロー!……貴様は言ったな、シャイニング・ドローは公開情報にしか対応出来ないと」

 

「……ああ、完璧過ぎる為に、後に勝利に繋がるカードは引き込めない。後出しじゃんけん、チェーンを組めるカードはほぼないだろうな」

 

「だが――逆に言えば、未公開情報と言う事は、公開されている」

 

「……?……ッ!そう言う事か!」

 

「魔法カード、『ハーピィの羽帚』!セットカードがあると言う事は、公開されている!」

 

成程、確かにこれならば未公開情報にも対応する出来る。シャイニング・ドローの条件にのっとり、その弱点を補う一手。

 

「罠発動!『レインボー・ライフ』!手札を1枚捨て、このターンのダメージを回復に回す!」

 

だがそれでも、やはり取り零しは出てくる。

 

「仕方無いか、魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地から『希望皇ホープ』を特殊召喚!!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

「またそいつか」

 

「またこいつだ!私は更に『クレーンクレーン』を召喚!」

 

クレーンクレーン 攻撃力300

 

次は鶴とクレーンを合わせた言葉遊びのモンスター。ここから更なる展開へと繋ぐ。

 

「召喚時、墓地のレベル3のモンスター、『ガガガガール』を蘇生!」

 

ガガガガール 攻撃力1000

 

クレーンにより墓地へと繋がる穴が開き、吊り上げられたのは『ガガガガール』。拗ねた様子でフィールドの隅に置かれる。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『管魔人メロメロメロディ』!」

 

管魔人メロメロメロディ 攻撃力1400

 

登場したのは金管楽器に巻かれた『魔人』モンスター。攻撃力こそ低いが、このモンスターの本来の力は他の『魔人』と並べる事にある為、仕方無いだろう。

 

「更にメロメロメロディのORUを1つ取り除き、このカードに2回攻撃権を付与する!バトル!メロメロメロディで『EMリザードロー』と『EMペンデュラム・マジシャン』へ攻撃!メロリンウェーブ!」

 

メロメロメロディがトランペットを吹き、音波が放たれて2体の『EM』をノックアウトする。これで2体、残るモンスターは3体だ。

 

「『ホープ』でドクロバット・ジョーカーへ攻撃!ホープ剣・スラッシュ!」

 

榊 遊矢 LP1500→2200

 

お次は『ホープ』の斬撃が冴え渡り、ドクロバット・ジョーカーを切り裂く。かに思われたが――ドロン、白煙が舞い、丸太へ変わる。当の本人はスタコラサッサとエクストラデッキへと逃げ込む。最早『忍者』モンスターである。

 

「そして速攻魔法、『RUMークイック・カオス』を発動!『ホープ』1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!出でよ、『CNo.39』!混沌を統べる赤き覇王。悠久の戒め解き放ち、赫焉となりて闇を打ち払え!降臨せよ、希望皇ホープレイV!!」

 

CNo.39希望皇ホープレイV 攻撃力2600

 

ランクアップ・エクシーズ・チェンジ。エクシーズ特有の『RUM』を使っての召喚により、『ホープ』が新たな力を得て、フィールドに降り立つ。元の姿とは対照的な赤と黒の鎧を身につけ、フェイスは悪魔を思わせる攻撃的なものになった儚き希望の使者。ホープレイV――『ホープ』の中でも、特異なカードが耳を裂くような咆哮を放つ。

 

「ホープレイVでシルバー・クロウへ攻撃!ホープ剣・Vの字斬り!」

 

榊 遊矢 LP2200→3000

 

『ホープ』が二刀の曲刀を振るい、Vの字を描いてラディッシュ・ホースを3枚に下ろす。これで残るモンスターは1体、その1体も――。

 

「メインフェイズ2、手札の『ZWー極星神馬聖鎧』をホープレイVに装備!攻撃力を1000アップ!」

 

CNo.39希望皇ホープレイV 攻撃力2600→3600

 

「そしてCORUを取り除き、ホープレイVの効果発動!ラディッシュ・ホースを破壊!」

 

打ち砕かれる。

 

榊 遊矢 LP3000→3500

 

「ッ!」

 

『1ターンでモンスター5体、全てを破壊……!』

 

とんでもない腕前だ。あれだけあったモンスター達が、一瞬にして破壊し尽くされた。

 

「カードを2枚セット、ターンエンド」

 

黒コナミ LP2650

フィールド『CNo.39希望皇ホープレイV』(攻撃表示)『管魔人メロメロメロディ』(攻撃表示)

『ZWー極星神馬聖鎧』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『金満な壺』!エクストラデッキから『覇王眷竜オッドアイズ』、『EMギタートル』、『EMドクロバット・ジョーカー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「魔法カード、『埋葬されし生け贄』!このターン、2体のリリースを必要とするアドバンス召喚をする場合に1度だけ、モンスター2体をリリースせず、互いの墓地のモンスターを1体ずつ除外する!俺の墓地からは『覚醒の魔導剣士』を、お前の墓地からは『No.39希望皇ホープ』を除外!二色の眼持つ眷属よ、その鋭き両目で捉えた敵を焼き尽くせ!アドバンス召喚!現れろ!『覇王眷竜オッドアイズ』!!」

 

覇王眷竜オッドアイズ 攻撃力2500

 

ドクン、と遊矢の心臓が跳ねる。その原因は――ティモシーが手に持つ1枚のカード。墓地のシンクロとエクシーズ、2体のモンスターを糧とし、遊矢の相棒ならざる『オッドアイズ』がフィールドに降り立つ。

真っ赤に燃える美しい体躯、胸に抱く青い宝玉、赤と緑のオッドアイを輝かせ、身体中に緑のラインを走らせた遊矢の最も信頼するエースモンスター。しかしその姿はどこか禍々しく、どちらかと言えば『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』を思わせる。

 

『――『オッドアイズ』……!?』

 

「バトルだ!『オッドアイズ』で、メロメロメロディを攻撃!螺旋のストライクバースト!」

 

「罠発動!『ハーフ・アンブレイク』!このターンメロメロメロディは戦闘破壊されず、受けるダメージを半分にする!」

 

「良い判断だ。『オッドアイズ』には、俺のペンデュラムモンスターが相手モンスターと戦闘を行う際、ダメージを倍にする効果がある!リアクションフォース!」

 

黒コナミ LP2650→1550

 

「ぐぉぉぉぉぅ!?」

 

『オッドアイズ』の両眼が輝き、アギトに大気が集束、圧倒的エネルギーが螺旋状のブレスとなって撃ち出され、メロメロメロディを呑み込む。凄まじい威力だ。ダメージ倍化を与える効果、モンスターとの戦闘やペンデュラムモンスターにしか影響されないが、『オッドアイズ』の強化版と言って良い。

 

「魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→3

 

「カードを3枚セット、ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP3500

フィールド『覇王眷竜オッドアイズ』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

「私のターン、ドロー!それがお前のエースと言う訳か……私は『ZWー玄武絶対聖盾』を召喚!」

 

ZWー玄武絶対聖盾 攻撃力0

 

フィールドに現れたのは青い甲羅を持つ亀の『ZW』。攻撃力は低く、効果は少々ピンポイントだが、既に条件は満たされている。

 

「召喚時、除外されているエクシーズモンスター、『No.39希望皇ホープ』をフィールドに!!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

再びフィールドに現れる『ホープ』。この男は『ホープ』をフィールドに出す手段が豊富過ぎる。ここまで1体のエースを過労視させるとは、気のせいか、彼の墓地のモンスター達からから流石『ホープ』先輩だぜと憧れと怯えの眼差しが向けられているように見える。

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『ZWー玄武絶対聖盾』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札2→3

 

玄武絶対聖盾を装備しても得られるのは守備力のみ。攻撃するならば意味のない数値だ。直ぐ様ドローカードに変換する。

 

「魔法カード、『RUMーリミテッド・バリアンズ・フォース』を発動!『ホープ』をランクが1つ高い『CNo.』へとランクアップさせる!オーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!現れろ、『CNo.39』!未来に輝く勝利を掴む!重なる思い、繋がる心が世界を変える!希望皇ホープレイ・ヴィクトリー!!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー 攻撃力2800

 

2度目のランクアップ、『ホープ』に赤、青、金と様々な色のパーツが装着され、ヒロイックな4本腕となった『ホープ』へと進化を遂げる。並び立つVとヴィクトリー。2体の『ホープ』の進化形態。見事なものだ。

 

「メロメロメロディのORUを1つ取り除き、攻撃権を増やす。バトル!」

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

「チ、メロメロメロディを守備表示に変更、カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

黒コナミ LP1550

フィールド『CNo.39希望皇ホープレイV』(攻撃表示)『CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』(攻撃表示)『管魔人メロメロメロディ』(守備表示)

『ZWー極星神馬聖鎧』セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→3

 

「バトル!『オッドアイズ』でホープレイ・ヴィクトリーへ攻撃!」

 

「ほう……!」

 

「罠発動!『燃える闘志』!『オッドアイズ』に装備、元々の攻撃力より攻撃力が高いモンスターがフィールドに存在する場合、装備モンスターの攻撃力を倍にする!」

 

覇王眷竜オッドアイズ 攻撃力2500→5000

 

『オッドアイズ』の力が更に増し、極太のブレスがヴィクトリーを襲う。圧倒的質量による攻撃は『No.』である『ホープ』をも溶かす。一撃一撃が重く、身体の芯まで響いて来る。間違いなくこのカードは、『No.』か、それ以上のポテンシャルを秘めている。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ。『命削りの宝札』の効果で1枚捨てる」

 

「罠発動!『奇跡の残照』!このターン破壊されたヴィクトリーを蘇生する!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー 攻撃力2800

 

榊 遊矢 LP3500

フィールド『覇王眷竜オッドアイズ』(攻撃表示)

『燃える闘志』セット2

手札0

 

「私のターン、ドロー!罠発動、『貪欲な瓶』。カードを1枚ドロー」

 

黒コナミ 手札1→2

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のホープ、ホープレイ、阿修羅副腕、荒鷲激神爪、『Vサラマンダー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

黒コナミ 手札1→3

 

「『ゴブリンドバーグ』を召喚!」

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

「召喚時効果で『アステルドローン』を特殊召喚!」

 

アステルドローン 攻撃力1600

 

「更に永続魔法、『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』を発動!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『No.39希望皇ホープ』!!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

再び現れる『ホープ』。とんでもない頻度だ。

 

「『アステルドローン』と『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果でドロー!」

 

黒コナミ LP1550→1050 手札0→1→2

 

『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』、『ホープ』のエクシーズ召喚を利用してのドロー。これも厄介なものだ。LPを支払う事も、ホープレイの効果発動の条件を満たしやすくなる為、メリットに変わってしまう。しかも窮地を逆転させるシャイニング・ドローのスパイスにもなるのだから楽観視は出来ない。

 

『手札が尽きない……!』

 

「ドローの鬼だな、こやつは……まぁ、お前も人も事は言えんが」

 

デュエリストと言うものはサーチやドロー、絶えずに手札を確保する手段を用意するもの。遊矢なら『EMペンデュラム・マジシャン』、『EMドクロバット・ジョーカー』、『EMギタートル』、『EMリザードロー』。

コナミならば『竹光ターボ』。沢渡ならばクライスと『魔界劇団ーワイルド・ホープ』の合わせ技。隼は『RRーフォース・ストリクス』の連続サーチがこれにあたる。

概ね、エースを呼ぶまでの、言うなれば壁となるカード達で凌ぐ下準備、防御から攻めに転じる為の行為だ。

 

だがこの男のドローは少々異なる。攻めのドロー。エースを召喚しながら、より攻撃的に、より凶悪に、相手の希望をむしりとる為の行為。攻めから、更なる攻めに。その為ならば肉を切らせても構わない。諸刃の剣と言える戦術だ。切れ味を求め、細く、鋭く。

 

「まだまだこんなものでは無いぞ!さぁ、貴様のデュエルで、この私を更なる高みへと昇らせてくれ!」

 

この男にとって、相手となるデュエリストは全て、自身と言う刀剣を鍛える火だと言うのか、獰猛な笑みを浮かべ、純粋にデュエルを楽しむ彼が、どこかコナミに被って見える。

 

『――違う……!』

 

「む……」

 

だが遊矢は直ぐ様頭を振り、その考えを払う。彼はそんな事をしないと。しかし――。

 

「……俺には同じに見えるがな……」

 

『え――』

 

フイとそっぽを向くように、遊矢から視線を外し、眼前の敵に目を細めるティモシー。一体どう言う事なのか、遊矢が問おうとしたその時。

 

「……ぐっ……!」

 

ティモシーが頭を抑え、膝を着いたのは。

 

『ッ!おいティモシー!一体何が……』

 

瞬間、遊矢の身体にも変化が起こる。まるでノイズが走るように、遊矢の身体が揺らぎ始めたのだ。目を見開く遊矢。これは――。

 

「……フン、そろそろタイムリミットか……!」

 

『ッ!?』

 

「今の状態で長時間俺が表に出るのは無理と言う事だ。つまり、今まで通りの状態に戻るだけ。何としてでもこのデュエル中はもたせるが……」

 

どうやら彼が遊矢の身体を乗っ取っている状態も続かないようだ。焦りを浮かべるティモシー。

 

「成程、ならばさっさと終わらせてやろう、私は『ホープ』1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!『CNo.39希望皇ホープレイ』!!」

 

CNo.39希望皇ホープレイ 攻撃力2500

 

連続エクシーズ召喚、呼び出した『ホープ』に『ホープ』を重ね、白が黒へと裏返る。

 

「『エクシーズ・チェンジ・タクティクス』の効果発動!」

 

黒コナミ LP1050→550 手札2→3

 

「速攻魔法、『サイクロン』!『燃える闘志』を破壊!そして魔法カード、『RUMーアストラル・フォース』を発動!」

 

黒コナミが天上に1枚のカードを掲げ、カードから眩き光がフィールドを照らす。アストラル・フォース。本来、異世界最強のデュエリストが使う、切り札とも言って良いカードだが――今は彼の手によって創造され、発動される。

 

「ホープレイ1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!限界突破だ、『希望皇ホープ』!現れろ、『No.39』!人が希望を越え、夢を抱く時、遥かなる彼方に、新たな未来が現れる!限界を超え、その手に掴め!希望皇ビヨンド・ザ・ホープ!!」

 

No.39希望皇ビヨンド・ザ・ホープ 攻撃力3000

 

フィールドの中心に『No.39希望皇ホープ』が新たな、その周囲に『CNo.39希望皇ホープレイ』、『CNo.39希望皇ホープレイV』、『CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー』、『No.39希望皇ホープ・ルーツ』が出現、天上に剣を掲げ、4体が光となって『ホープ』を包み、装甲を得て新たな『ホープ』となる。

純白の鎧を纏い、両腕に黄金の爪を思わせる剣を持った、限界をも超えるランク6の『ホープ』。これが黒コナミの、切り札。

 

「どうやら、このカードがお前の切り札らしいな」

 

「その通りだ。そしてその効果を味わえ!エクシーズ召喚成功時、お前のモンスターの攻撃力を0に!」

 

覇王眷竜オッドアイズ 攻撃力2500→0

 

「『オッドアイズ』……!」

 

他者の希望を奪う、絶望の化身、それがこのビヨンド・ザ・ホープ。希望を超える者。その力は覇王の竜からも力を奪い取る。強力なモンスターだ。ティモシーも舌打ちを鳴らし、セットカードを睨む。やりたくなかったが、やるしかあるまい。

 

「バトルだ!」

 

「この瞬間、罠発動!『破壊指輪』!『オッドアイズ』を破壊し、互いに1000のダメージを与える!」

 

「ッ、そのカードは……!」

 

「苦々しい思い出だ……!」

 

カチャリ、『オッドアイズ』の首に輪がかけられ、凄まじい爆発が巻き起こる。ティモシーからすれば、勝鬨との闘いで引き分け、自身の気に入っている『オッドアイズ』を破壊する忌々しいカード。だが――敗北するよりはマシだ。

爆風が2人を呑み込み、炎が襲いかかる。ティモシーのLPは3500、黒コナミのLP550、0を刻むのは、黒コナミのみの、筈だった。

 

「……な……に……!?」

 

榊 遊矢 LP3500→2500

 

煙を1枚のカードに、吸い込み、無傷で存在する黒コナミを見るまでは。

 

「手札の『ハネワタ』を捨て、効果ダメージを0に……!」

 

馬鹿な、ティモシーと遊矢、2人の目が見開かれる。こちらがかわし、相手だけ効果ダメージを与え、勝とうとした手も、見抜かれたようにかわされた。

それは本当に偶然、偶然の事だった。シャイニング・ドローではない、普通のドロー。公開情報に対応していないドローが、偶々非公開情報に対応してしまったのだ。恐るべき、デュエリストとしての運。無傷のままに仁王立ちし、3体の『ホープ』を背後に従える黒コナミを前に、ティモシーの膝が崩れ、額から大粒の汗が流れ落ちる。

 

「ぐっ……ハァ……ハァ……!ここが、限界か……おのれ……!」

 

ギンッ、敗北寸前だと言うのに、猛獣のように爛々と輝く眼で黒コナミを睨み、あくまで屈しない彼に対し、黒コナミはつばの欠けた黒帽子を被り直し、青く光る指先をティモシーに向ける。

 

「残念だったな、お前の実力も、そんなものでは無いだろうに。が――勝負は勝負、このデュエル、私の勝ちだ」

 

瞬間、3体の『ホープ』がそれぞれ剣を構え、その眼が赤い輝きを見せる。絶体絶命の大ピンチ、ここで、終わりか。

 

「バトルだ」

 

ドシュン、3体の『ホープ』が地を踏み砕き、凄まじい速度でティモシーに迫る。希望と殺意の化身、今鋭き輝きを見せ、遊矢達に絶望を与えようとして――。

 

「『ホープ』で、ダイレクトアタ――」

 

「リバースカード……オープン……!」

 

ティモシーが最後のカードを使おうとした、その時。

 

『乱入ペナルティ、2000ポイントダメージ』

 

白と紫のデュエリストが、地に降り立った。



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第164話 このカードだ!クソ野郎!

「な……何で……何でなのよぉぉぉぉぉっ!?」

 

遊矢――ティモシーと黒コナミが激しきデュエルを行っている頃、同じくシティでは、対アカデミアのデュエル戦士精鋭部隊、ランサーズと、学園軍隊ビッグ5のデュエルが佳境を迎えていた。

 

まずは黒咲 隼とアカデミアピンク。最初こそ『衛生兵マッスラー』の高い攻撃力と効果と『シモッチによる副作用』によってピンクの優勢、隼の防戦一方に思われたが――それは全て隼の掌の上。

何時も通り『RRーフォース・ストリクス』でサーチと防御をこなしつつ、準備を整え――特殊召喚だけでなく、通常召喚されたモンスターが相手だろうと正面から打ち勝てるランク10の大型エクシーズモンスター、『RRーアルティメット・ファルコン』によって反撃に出た。

まさか攻めて来るとは思ってもみなかったピンクは瞬く間に布陣を崩され、今のように金切り声を上げている事に至る。

結局、最初から最後まで、隼は自分自身のデュエルを貫いただけ。

 

「こんなものか……確かに今までのオベリスク・フォースと異なり、手こずりはしたが、俺に勝つには至らん」

 

「何じゃとゴラァァァァッ!!」

 

最早オカマ口調も忘れ、怒り狂うピンク。恐ろしい光景だが、隼はこれだったらクネクネとオカマしていた方が恐ろしかったと鼻を鳴らす。

 

「所詮二流は二流、終わりだ。アルティメット・ファルコンで、ダイレクトアタック!ファイナル・グロリアス・ブライトォッ!!」

 

そして――隼の背後から、黄金に燃える太陽のような翼を広げた漆黒の猛禽が飛び立ち、胸部に黒いエネルギーの球体を集束、ピンクに撃ち出し、爆発する。

 

「ノォォォォォンッ!?」

 

アカデミアピンク LP1300→0

 

黒咲 隼VSアカデミアピンク――勝者、黒咲 隼――。

 

「馬鹿な……何故だ、何故ロックをかけていた僕が、逆にロックされている!?」

 

一方、沢渡 シンゴVSアカデミアグリーン。グリーンによって『ダーク・シムルグ』と『魔封じの芳香』の、所謂アロマダムルグコンボによってペンデュラム召喚が封じられた沢渡と言えば――帝による効果で『ダーク・シムルグ』を崩し、そのまま何と、彼の手札から風属性の『妖仙獣』と闇属性の『魔界劇団』を除外、『ダーク・シムルグ』を呼び出し、逆にロックをかけると言う思いもよらぬ戦術に出た。

 

「アロマダムルグねぇ……確かにペンデュラム対策としては悪くねぇが……こんなもんで遊矢を倒せれば苦労なんざしねぇんだよ」

 

やれやれと首を振り、溜め息を吐く沢渡。経験者は語る。そう、彼もまた、『妖仙獣』と『魔界劇団』の属性から、この戦術に辿り着き、取り入れているのだ。当然、遊矢達はこれ1つで止まる程やわじゃなかったのだが。

 

「ま……1つの戦法に止まって、俺達の成長を考えねーテメェじゃ、どっちにしろ勝てねぇさ」

 

ランサーズは全員、敵が成長している事を計算の内に入れている。だから――驚く事はあっても、慌てる事はない。

 

「ありえない、こんな事がっ……!」

 

「何があるか分からねぇ、だからデュエルは面白いんだよ。行け、『ダーク・シムルグ』!ダイレクトアタック!」

 

沢渡の指示を受け、漆黒の怪鳥が飛翔、その羽を矢のようにグリーンに降り注がせ、LPを削り取る。

 

「ぐわぁぁぁぁっ!?」

 

アカデミアグリーン LP2000→0

 

沢渡 シンゴVSアカデミアグリーン――決着、勝者、沢渡 シンゴ――。

 

「さて、これで終わりか?」

 

続けてジル・ド・ランスボウVSアカデミアイエロー。このカードは最早、一方的と言って良かった。『スキルドレイン』によって両者のモンスターの効果を奪い、デメリットのなくなった高攻撃力のモンスターで攻め、『暴君の暴飲暴食』で大型の特殊召喚を封じられていたジルであったが――。

それならばこちらも攻めに攻めるとスタンスを大きく変え、1体のモンスターに装備魔法を積みまくってごり押しすると言う力業に出たジルにより、イエローの醜悪なオーク達は一網打尽に陥ったのだ。

 

「ウガガガガ……オ、オイラのモンスター達が……!」

 

「見事であった、イエローとやら。しかし、私の勝ちだ。やれ、『聖騎士アルトリア』!『遅すぎたオーク』へ攻撃!」

 

逃げるオークに対し、何本もの『聖剣』を構えた『聖騎士』が追い、背後から煌めく剣を、オークの穴と言う穴に突き刺す。

 

「アッ――!」

 

アカデミアイエロー LP500→0

 

ジル・ド・ランスボウVSアカデミアイエロー、――決着、勝者、ジル・ド・ランスボウ――。

 

「皆も終わっているようだな。俺も続くとしよう」

 

そして権現坂 昇VSアカデミアブルー。2人の対決も終局に入っていた。フルモンを使う権現坂に対し、フルトラップを使うブルー。似て非なるデッキを使う2人。雁字絡めに罠を張るブルーであったが――『超重神鬼シュテンドウーG』と『超重荒神スサノーO』の2体を巧みに使う権現坂により、張った罠は奪われ、逆に彼を有利にしてしまったのだ。

 

「ク、クソクソクソクソォッ!こ、こんな事が……!」

 

自身の戦術が自身の首を絞めている。プライドを傷つける事実にブルーは頭を掻き毟る。だが――ニヤリ、その口元に邪悪な笑みが描かれる。

当然、この取り乱している様子も彼の罠、彼の場には権現坂の『超重武者』を一気に除去出来る罠カード、『邪悪なるバリアーダーク・フォース』が伏せられている。が――。

 

「俺はレベル4の『超重武者ジシャーQ』と、レベル3の『超重武者ココロガマーA』に、レベル2の『超重武者ホラガーE』をチューニング!白銀の鎧輝かせ刃向かう者の希望を砕け!シンクロ召喚!出でよ!『XXーセイバーガトムズ』!」

 

XXーセイバーガトムズ 攻撃力3100

 

彼の策略とは裏腹に、フィールドに登場したのは『超重武者』ではなく、『Xーセイバー』モンスター。権現坂が師であり、親友の刃から受け取ったカードだ。突如現れたこのカードを見て、ブルーは目を丸くして「ひょ?」と間抜けな声を出す。

 

「そ……そんな……」

 

「やれ、ガトムズ!『カース・オブ・スタチュー』へ攻撃!」

 

アカデミアブルー LP1000→0

 

権現坂 昇VSアカデミアブルー、――決着、勝者、権現坂 昇――。

 

そしてランサーズVSビッグ5最終戦、リーダー、アカデミアレッドVSアリト。やはりリーダーと言う訳か、この男を相手にアリトは少々苦戦し――2人は息を切らし、肩を震わせていた。

 

「ハァ……ハァ……やるじゃねぇか、テメェ……!」

 

「ハァ……ハァ……お前もな……!」

 

レッドのデッキはチェーンバーン。デッキのほぼ全てが相手に効果ダメージを与えるカードだ。カウンター罠を大量に投入していたアリトでなければ短期決戦で終わっていたかもしれない。

究極の速攻デッキは伊達ではないのだ。しかし今回ばかりは相手が悪かったとしか言えない。

まるで一昔前の不良漫画のように互いに笑みを浮かべ、ボロボロになりながらも認め合う2人。デュエルを通して友情が目覚めたのか、実に爽やかだ。

 

「これで終わりだ!罠発動!『仕込みマシンガン』!お前の手札とフィールドのカードの数×200のダメージを与える!お前のフィールドと手札のカードの合計は7!よって1400のダメージ!」

 

「俺のLPは100……!」

 

ガチャリ、アリトのフィールドのカードからマシンガンが飛び出し、その銃口をアリトへと向ける。自らのカードが木場を剥くバーン効果。アリトのLPは僅か100、この一撃で終わる。

かに、思われたが――ニヤリ、アリトの口端が吊り上げられ、アリトのフィールドに伏せられたリバースカードが発動され、マシンガンの銃口がレッドに向く。

 

「カウンター罠、『地獄の扉越し銃』!自分が受ける効果ダメージを、相手に与える!」

 

カウンターパンチャーの名手、アリトはこの時を待っていたとばかりに拳を構え、レッドを睨む。

 

「俺のLPも、100……!」

 

「さぁ、燃え尽きな!」

 

振り抜かれる拳と共に、銃声が絶え間無く鳴り響き、14発の弾丸がレッドを貫く。

 

アカデミアレッド LP100→0

 

アリトVSアカデミアレッド――、決着、勝者、アリト。これでランサーズ全員がビッグ5を下し、完全勝利となった。圧倒的な実力を見せる5人。アカデミアの成長をも寄せ付けない。彼等もまた、確実に成長している。

 

「ぐっ、我等が敗れるとは……!」

 

「これがランサーズだ!覚えときな!」

 

「お前が締めるな沢渡」

 

ランサーズ、進撃――。

 

――――――

 

一方、ティモシーと黒コナミのデュエルに決着がついた頃、彼等の前に2人のデュエリストが姿を見せる。

1人は超巨大、先端が二股に別れた戦闘機のようなDーホイールに搭乗した、白帽子のデュエリスト、白コナミ。

そしてもう1人は――刺々しい漆黒の鎧に身を包んだアカデミアの幹部、覇王。

 

両者共に、黒コナミに匹敵する程の化物。因縁深い3人が揃った。揃ってしまった。何も知らない遊矢でも分かる。分かってしまう。この3人は、絶対に引き合わせてはならないと、本能が訴えかける。駄目だと心臓が早鐘を打ち、燃え盛るように熱くなる。何だ、これは――まるで自分の中の何かが彼等に反応しているような――。

 

「ぐっあ……はぁ……はぁ……!」

 

意識が遠退く、身体が熱い。もう思考も定まらない。重い身体を何とか起こし、3人の様子を視線で追う。

全員、笑っていた。黒コナミもあれだけ執着していた遊矢から視線を外し、白コナミと覇王を見て歪んだ笑みを貼りつけ、白コナミは黒コナミと覇王を見て、Dーホイールを駆動、激しいエンジン音を響かせる。覇王は鉄仮面で顔を覆っている為、表情は分からないが、バサリと真紅のマントを翻し、デュエルディスクを構える。そして――。

 

「「「デュエル!!」」」

 

突風が、吹き荒れる。

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』ッ!!」

 

白コナミが純白のDーホイールで飛翔、瞬く間の高速シンクロで自身のエースの進化形態、ヘルメットのような頭部に逞しい四肢、戦闘機を思わせる平行な翼を伸ばした白亜の竜を呼び出し、その体躯が5色に輝き分裂、弾丸の如く黒コナミと覇王に襲いかかる。

 

「アクションマジック、『大脱出』!」

 

それを防いだのは黒コナミだ。フィールドを駆け、白コナミのDーホイールの翼を蹴って跳躍、1枚のカードを取ってデュエルディスクに叩きつける。瞬間、彼の姿がテレポートしたかの如く白コナミの視界から外れ、代わりに彼の上空から影が差す。

 

「『E・HEROマグマ・ネオス』!!」

 

続け様に覇王が自らのエース、その身体を黒く染めた『E・HEROネオス』を呼び、大型のカブトムシとドリルを装着したモグラを召喚、3体によるトリプル・コンタクト融合を炸裂させ、強固な甲殻と一撃必殺のドリルを纏った英雄を呼び、白亜の竜を攻撃する。

 

「チ、『シューティング・スター・ドラゴン』の効果により、このカードを除外、攻撃を無効!」

 

しかしインパクトの瞬間、竜は空間に溶け込み消える。白コナミも猛スピードでその場を飛翔し、追っ手を振り切る。そのままクルリと反転、覇王の背後に回り込む。

 

「魔法カード、『エクシーズ・ギフト』!ビヨンドのORUを2つ取り除き、2枚ドロー!そしてヴィクトリーで『E・HEROマグマ・ネオス』へ攻撃!効果発動!ヴィクトリー・チャージ!」

 

「手札の『E・HEROオネスティ・ネオス』を捨て、マグマ・ネオスの攻撃力をアップ!」

 

更にぶつかる勝利の希望皇と大地の英雄。炎の剣と光の剣が剣線と火花を走らせる。息つく暇もない嵐のような激しい攻防、このままでは爆心地にいる遊矢が最悪の形で巻き込まれるだろう。

何とかここから脱出したいが、身体が全く言う事を聞かない。勝負に割って入る等もっての他だ。

凄絶な笑みを浮かべ、人外のバトルを繰り広げる3人。勝てる気がしない。どうしようかと考える中――。

 

「遊矢っ!」

 

声が届く。聞き覚えのある、渋い男性の声、この声は――。

 

「徳松さんっ!」

 

徳松 長次郎。エンジョイ長次郎の通り名を持つ元プロデュエリストだ。彼は爆心地をひたすらに走り、3人のデュエルに巻き込まれないように遊矢を抱え、その場から脱出を計る。彼もここは危険だと感じたのだろう。懸命な判断だ。

 

「何だぁ、アイツ等は……取り敢えずトンズラすんぞ遊矢!」

 

「何で、ここに……」

 

「話は後だ!今はここから逃げるぞ!」

 

背後で響く激しき爆音、決して振り返る事をせず、この場から離れる事だけを考えてその場を駆け抜ける。流石に化物同士の争いに態々首を突っ込む事はしない。幸い彼等もこちらに興味が無いのか、台風の如くぶつかりながら辺りを巻き込んで進んでいく。遠くでオベリスク・フォース達の悲鳴が聞こえるが――気のせいにしておこう。何とかその場を逃れ、廃ビルの中に入り込む。そのまま徳松は安全を確認、遊矢を地面に下ろす。

 

「ふぅ、危ねぇ所だったな……」

 

「ありがとう徳松さん。イテテ……これ、思ったより疲れてるな……」

 

壁に背を預け、コキコキと首を鳴らす遊矢。どうやら黒コナミとの闘いだけでなく、セルゲイ戦からの疲労も抜け切れてないようだ。いずれも強敵ばかりの連戦だった為、仕方無いか。とは言えオベリスク・フォース達の事が気にかかる。

 

「動くんじゃねぇ遊矢。安心しろ、今お前の仲間……ランサーズが事態の解決に向かっている。お前が休んでも大丈夫だろう。て言うか休め。そんな状態で加勢されたらそれこそ足手纏いって奴だ」

 

「皆が……!?そっか、だから徳松さんもここに……分かった……悔しいけど、今は休むよ」

 

しかし徳松の忠告を受け、立ち上がろうとした身体を座らせる。徳松の言う事も尤もだ。こんな状態の遊矢が加勢した所で、強化されたオベリスク・フォースを倒せるとは限らない。今は少しでも英気を養い、回復に努めるべきだろう。そんな時だった――。

 

「おうおう、誰かと思えば……ランサーズの榊 遊矢じゃねぇか……どうやらアタリを引いたらしい。いやぁ、俺もツイてるねぇ。ヒャハハハハハ」

 

その男が、廃墟の影から、ヌッと出て来たのは。

 

「ッ!何だぁ、オメェは……」

 

徳松が突如現れた男を見て、遊矢を庇うように前に出てデュエルディスクを構える。アカデミアの者だろうか、にしては随分薄汚れた姿をしている。

所々穴が開いた、星条旗のバンダナにサングラス、着流しを纏った風体の悪い金髪の男だ。懐よりタバコとライターを取り出し、カチカチと中々火が点かないライターを使い、タバコを口に含む。

 

「チ……やっとこそ点いたか……そろそろ新しいの買わねぇとなぁ……ああ……俺が誰だって話だったかぁ?察しの通り、アカデミアのものだよ。名前は――キース・ハワード」

 

ニヤリ、タバコから白煙を吹かし、顎髭を撫でながら不敵に名乗るキース。やはりアカデミアの人間か。しかし随分と不真面目そうな男だ。てっきりアカデミアは軍隊らしいイメージがついている為、こんな男がいるとは思ってもみなかった遊矢は僅かに目を見開く。

 

「そのキースとやらが何のようだ?」

 

「あぁ?んなもん決まってんだろ、噂のランサーズとやらがどんなもんか、試しに来たんだよ。退きな、オッサン、俺様が用があるのは、後ろのボウズだ」

 

「悪いがそいつぁ出来ねぇな……!」

 

「……チッ、退く気はねぇってか……面倒くせぇ」

 

ボリボリとやる気が無いのか、本当に面倒臭そうに頭を掻くキース。この男、どこか他のアカデミアとは違うように見える。他のアカデミアの者は連携に気を配っている事に反し、この男は極端に協調性を無視しているような。

 

「俺もランサーズのメンバーだ。遊矢に挑みたきゃ、俺を倒してからにしな!」

 

「……へぇ、なら、仕方ねぇなぁ!」

 

徳松がランサーズと名乗った瞬間、あれだけ脱力していたキースより、激しき闘気が吹き荒れる。あの黒コナミにも匹敵する強力な闘志。デュエリストとしての格が目に見えるようだ。思わず2人の表情が強張る。この男は、強い。デュエルディスクを構えるキースに対し、徳松も何とか気力を振り絞り、迎え撃つ。

 

「楽しませてくれるんだろうなぁ」

 

「……へ、そいつぁお前さん次第だぜ……!」

 

今、ギャンブラーがぶつかり合う。

 

「「デュエル!!」」

 

先攻はキースだ。彼はデュエル前とは打って変わって好戦的な表情を見せ、勢い良くデッキから5枚のカードを引き抜く。

 

「魔法カード、『カップ・オブ・エース』!コイントスを行い、表ならドローする。……良し、表だ」

 

キース・ハワード 手札4→6

 

「ツイてんねぇ全くよぉ。俺は永続魔法、『機甲部隊の最前線』と『補給部隊』を発動。そして手札の『可変機獣ガンナードラゴン』の元々の攻守を半分にし、妥協召喚!」

 

可変機獣ガンナードラゴン 攻撃力1400

 

現れたのは首から下が戦車のようになった赤の機竜。元々の攻撃力2800と上級らしいのだが、今回はその攻守を半分にしての召喚だ。『スキルドレイン』等の下でも充分に猛威を奮えるが、彼の狙いはそこでは無いだろう。

永続魔法、『機甲部隊の最前線』により元々の攻撃力2800より下の闇属性、機械族の召喚。風体とは裏腹に、地盤がかなりしっかりとしている戦術だ。

 

「カードを2枚セット、ターンエンド」

 

キース・ハワード LP4000

フィールド『可変機獣ガンナードラゴン』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』セット2

手札1

 

「気をつけて、徳松さん……」

 

「おう!俺のターン、ドロー!

 

「魔法カード、『ナイト・ショット』!セットカードを破壊!」

 

「チ、『禁じられた聖典』が……!」

 

「俺は『花札衛ー松ー』を召喚!」

 

花札衛ー松ー 攻撃力100

 

徳松の手札から1枚のカードが切られ、フィールドに登場する。巨大な花札を模したモンスター。このカードはカス札の1つ、『花札衛』では唯一リリース無しで召喚可能な重要な1枚だ。

 

「召喚時、1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札4→5

 

「そして確認!『花札衛ー芒ー』!よってそのまま手札に加え、このカードはフィールドにレベル7以下の『花札衛』が存在する事で特殊召喚が可能!来な!」

 

花札衛ー芒ー 攻撃力100

 

「特殊召喚時効果により、手札の『花札衛』モンスターをデッキに

戻し、戻した分だけドローする!」

 

カンッ、甲高い音を立て、『ナチュル・コスモビート』のイラストが描かれた『花札衛』が松お連結する。手札交換カード、アドバンテージを取る事には繋がらないが、事故を防ぐ為には必要不可欠の1枚だ。

 

「お次はこれよぉ!レベル8の芒をリリースし、手札の『花札衛ー芒に月ー』を特殊召喚!」

 

花札衛ー芒に月ー 攻撃力2000

 

芒と入れ替わって現れたのは花札で言う光札の1種、高いレベルと2000打点を持つカード。イラストには邪悪な力を持った黒い球体のようなモンスターが描かれている。遊矢も徳松も知らないカードだ。このシンクロ次元のカードでは無いのだろうが、なぜそんなものが描かれているのか。

 

「特殊召喚時、1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

「引いたカードは『花札衛ー柳ー』!芒に月の効果で特殊召喚!」

 

花札衛ー柳ー 攻撃力100

 

カカンッ、禁止カード、『ハリケーン』が描かれた花札が飛び出し、再び連結。この特徴的な光景も『花札衛』の醍醐味だ。思った以上に回る徳松のカード達に遊矢は苦笑し、キースを欠伸をする。

 

「花札ねぇ……俺はどっちかと言うとトランプの方が好きだぜ。あれで色々遊べるからなぁ。榊 遊矢は確かトランプをモチーフとしたカードも使うんだろ?お前のも中々面白いが、そっちも見てぇ」

 

「ハッ、果たして見られるかねぇ、柳の効果!墓地の芒をデッキに戻し、シャッフル、1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

「そぉらまだまだ行くぞ!柳をリリースし、『花札衛ー柳に小野道風ー』を特殊召喚!」

 

花札衛ー柳に小野道風ー 攻撃力2000

 

次は『引きガエル』と彼のエースの1体、『花札衛ー雨四光ー』の姿を写したモンスター。そしてこのカードは『花札衛』内では貴重なチューナーモンスターだ。手札に引き込めたのは運が良い。

 

「特殊召喚時、1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札3→4

 

「引いたカードは……残念、『花札衛』じゃねぇから墓地に送るぜ。そして俺は手札の『花札衛ー桜に幕ー』を公開する事で、効果発動!1枚ドローし、そのカードが『花札衛』モンスターの場合、こいつを特殊召喚する!来い!」

 

徳松 長次郎 手札2→3

 

「来たぜ、『花札衛ー柳ー』だ!よって特殊召喚!」

 

花札衛ー桜に幕ー 攻撃力2000

 

「そして桜に幕をリリースし、来い!『花札衛ー牡丹に蝶ー』!」

 

花札衛ー牡丹に蝶ー 攻撃力1000

 

『黒魔族のカーテン』が描かれた桜に幕から、『炎妖蝶ウィルプス』が描かれたチューナー、牡丹に蝶に。忙しい入れ替わりっぷりだ。目が回りそうになってしまう。

 

「牡丹に蝶の効果!1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札1→2

 

「チッ、『花札衛』じゃねぇ……墓地に送るぜ。そして柳を特殊召喚!」

 

花札衛ー柳ー 攻撃力100

 

「柳の効果!墓地の桜に幕をデッキに戻し、ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→1

 

「さてと……まずは小野道風の効果により、このカードとこのカードと共にシンクロ素材になるモンスターのレベルを2として扱う!俺はレベル2の松と柳にレベル2の小野道風をチューニング!シンクロ召喚!『花札衛ー月花見ー』!」

 

花札衛ー月花見ー 攻撃力2000

 

シンクロ召喚、2体の『花札衛』が光輝く4つの星に、小野道風が2つのリングとなって星を包み込み、激しき閃光がフィールドを照らす。

そして新たにフィールドに呼び出されたのは彼が持つシンクロモンスターの1体、雪のように真っ白な肌、髪を結う美しい簪、黒と赤の鮮やかな着物、満月を描く扇子を持ったモンスター。その姿は正に大和撫子の名に相応しい。

 

「効果を使うぜ!1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札1→2

 

「ドローカードは『花札衛ー松に鶴ー』!月花見の効果で召喚条件を無視して特殊召喚!」

 

花札衛ー松に鶴ー 攻撃力2000

 

「そして松に鶴の効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札1→2

 

「ドローカードは『花札衛ー萩に猪ー』!よって特殊召喚!」

 

花札衛ー萩に猪ー 攻撃力1000

 

次は『クレーンクレーン』を描いた『花札衛』と『ボアソルジャー』の姿を描いた『花札衛』。

 

「萩に猪の効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札1→2

 

「おっと残念、『花札衛』じゃねぇ、捨てるぜ」

 

攻め手は充分、だが相手のフィールドには『機甲部隊の最前線』が存在する為、ガンナードラゴンを倒した途端、上級モンスターが呼び出されるだろう。攻撃力は2000を超える為、今の戦力では少々心許ない。

 

「永続魔法、『一族の結束』!俺のフィールドの戦士族モンスターは攻撃力を800アップするぜ!」

 

「その見た目で戦士族だったのかよ……」

 

花札衛ー月花見ー 攻撃力2000→2800

 

花札衛ー松に鶴ー 攻撃力2000→2800

 

花札衛ー芒に月ー 攻撃力2000→2800

 

花札衛ー萩に猪ー 攻撃力1000→1800

 

花札衛ー牡丹に蝶ー 攻撃力1000→1800

 

これで一気に全体強化、3体のモンスターは『ゴヨウ』ラインまで上がった。これで例えガンナードラゴンを破壊し、『機甲部隊の最前線』の効果でモンスターを呼び出しても最大攻撃力は2800には届かない。

 

「おいおい、ハリキリ過ぎじゃねぇか?ちょっとは手加減してくれよ」

 

参ったと言わんばかりに両手を上げ、首を振るキース。演技なのか素なのか、良く分からない男だ。だが徳松はそれを見て手加減するつもりはない。この男は強い。倒せる内に倒すべきだ。油断はしない。

 

「悪いがそいつは出来ねぇ相談だ。月花見の効果で特殊召喚した松に鶴はダイレクトアタックが可能!」

 

「オッサン無茶し過ぎだぜ……ちょっと話し合おうぜ、な?何でも暴力で解決するのは良くねぇよ、うん」

 

「話し合いならたっぷりしてやるよ、デュエルでな!やれ!松に鶴!ダイレクトアタック!」

 

「待てっつってんだろうが!手札の『工作列車シグナル・レッド』と永続罠、『ラッキーパンチ』を発動!前者は特殊召喚し、1度の戦闘耐性を与え、攻撃をこのカードに移し、後者は3回コイントスを行い、全て表が出れば3枚ドローする!」

 

「そんな効果が――」

 

成功するとでも、と言おうとした途端、彼のフィールドにソリッドビジョンに作り出された3枚のコインが舞い、天空でぶつかり合って落ちる。結果は――何と、3枚とも表。この処理はデュエルディスクによる公正な判断だ。イカサマでも何でもない。偶然の結果だ。

 

「なっ、に……!」

 

「ツイてるねぇ、3枚、ドロー!」

 

工作列車シグナル・レッド 守備力1300

 

キース・ハワード 手札0→3

 

恐るべき豪運、攻撃を回避し、新たに手札を得るキースに僅かな戦慄を見せる徳松。強いデュエリストは運を味方につけている事が多い。この男もその1人だろう。

 

「牡丹に蝶でシグナル・レッドを攻撃」

 

「『補給部隊』の効果でドローするぜ」

 

キース・ハワード 手札3→4

 

「4枚、か……芒に月でガンナードラゴンへ攻撃!」

 

キース・ハワード LP4000→2600

 

「ぐっ……『機甲部隊の最前線』の効果!デッキより『ツインバレル・ドラゴン』をリクルート!」

 

「芒に月がモンスターを戦闘破壊した事で1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→1

 

ツインバレル・ドラゴン 守備力200

 

ガンナードラゴンの装甲が剥がれ落ち、中より姿を見せたのは頭部がダブルデリンジャーとなった青い機械竜。ガンナードラゴンから呼び出されたにしては低めの攻撃力、キースは自分の運に自信があるのか、ニヤリと笑う。

 

「こいつが召喚、反転召喚、特殊召喚された事で月花見を選択し、効果発動!2回コイントスを行い、2回とも表なら対象のカードを破壊する!おっと……ハズレか、おいおい神様、やる気出してくれよな……」

 

「荻に猪で『ツインバレル・ドラゴン』へ攻撃、月花見でダイレクトアタック!」

 

「手札の『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効、バトルフェイズを終了する!」

 

「かわすか……バトルは終了、松に鶴の効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札1→2

 

「メインフェイズ2、牡丹に蝶の効果でこのカードと共にシンクロするモンスターのレベルを2に、レベル2の松に鶴、芒に月、萩に猪に、レベル2の牡丹に蝶をチューニング!涙雨!光となりて降り注げ!シンクロ召喚!出でよ!『花札衛ー雨四光ー』!!」

 

花札衛ー雨四光ー 攻撃力3000→3800

 

再びシンクロ召喚、4体もの素材により現れたのは黒い鉄傘を持った着物の美丈夫。涙雨の長次郎だった頃の彼のエースであり、今尚彼の強力な武器であるカードだ。月花見と組み合わせる事で、デメリットを最小限に回避出来る。この布陣ならばやすやすと突破されないだろう。

 

「こいつがいる限り、『花札衛』は相手の効果の対象とならず、効果破壊されねぇ。カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

徳松 長次郎 LP4000

フィールド『花札衛ー雨四光ー』(攻撃表示)『花札衛ー月花見ー』(攻撃表示)

『一族の結束』セット2

手札0

 

「やっと終わったか……俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、雨四光の効果発動!相手の通常ドロー時、テメェに1500のダメージを与える!」

 

「このカードだ、クソ野郎!『クリアクリボー』を捨て、効果ダメージを発生されるモンスター効果の発動を無効にする!」

 

「チッ、かわしやがるか」

 

「モンスターをセット、カードを2枚セットしてターンエンドだ」

 

「この瞬間、雨四光の効果により、次の俺のドローフェイズをスキップする事を選択」

 

キース・ハワード LP2600

フィールド セットモンスター

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』『ラッキーパンチ』セット2

手札0

 

徳松と比べると随分と短いターンだ。戦況としても徳松の有利。キースは防御を固めているように見える。このまま攻めていきたいと徳松が意気込む。

 

「俺のターン、雨四光と月花見の効果でドローフェイズをスキップ。月花見の効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→1

 

「ドローしてのは『花札衛ー桐ー』!特殊召喚!」

 

花札衛ー桐ー 守備力100

 

現れたのは『テンタクル・プラント』が描かれた『花札衛』。月花見の効果でダイレクトアタッカーとなっているものの、その攻撃力の低さから守備表示での登場だ。

 

「バトル!月花見でセットモンスターへ攻撃!」

 

「『ラッキーパンチ』の効果発動!全て表!3枚ドローだ!」

 

キース・ハワード 手札0→3

 

当然のように3枚ドロー。ギャンブルカードがデメリット無しのドローソースとなっている現状に思わず舌打ちを鳴らす徳松。無理もない、この男の運はまるで何かに取り憑かれているのかと疑う程常軌を逸している。

 

「そしてセットモンスターはガンナードラゴン。『機甲部隊の最前線』の効果でデッキから『ブローバック・ドラゴン』をリクルート、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ブローバック・ドラゴン 守備力1200

 

キース・ハワード 手札3→4

 

次に現れたのは『ツインバレル・ドラゴン』の進化体、赤いオートマチックの頭部を持った機械竜だ。雨四光の効果で『花札衛』は効果に対して強固な耐性を持っている。キースのデッキとしてはかなりやり辛い。

 

「雨四光で攻撃!」

 

「罠発動!『フローラル・シールド』!攻撃を無効にし、1枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札3→4

 

「面倒くせぇ……」

 

「ターンエンドだ」

 

徳松 長次郎 LP4000

フィールド『花札衛ー雨四光ー』(攻撃表示)『花札衛ー月花見ー』(攻撃表示)『花札衛ー桐ー』(守備表示)

『一族の結束』セット2

手札0

 

ぶつかる徳松とキース。2人のギャンブラーのデュエル。豪運が降り注ぐ両者の激突の果てに、勝利の女神が微笑むのは、どちらか――。



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第165話 地獄の底から舞い戻って来たぜ

治安維持局、長官室にて、プラシドはモニターを見つめ、思考を続けていた。

視線の先に存在するのは、進行方向にいるオベリスク・フォース達を薙ぎ倒し、まるで竜巻の如く荒れ狂い、進みながらデュエルを行う3人のデュエリスト、エクシーズ次元、レジスタンスに所属していた黒帽子にクリアブルーの肌、左腕から黄金のデュエルディスクを盾のように伸ばし、腰元にアーマーマントを展開した黒いコナミ。

シンクロ次元、チームネオ5D'sに所属する白い帽子にジャケット、下半身を戦闘機のような巨大Dーホイールと連結させた白のコナミ。

そして最後に融合次元、アカデミア所属、幹部に名を連ねる漆黒の甲冑と深紅のマントを纏った鉄仮面の男、覇王。

 

彼等3人のデュエルを止めるべきか否か、プラシドは迷う。彼等のデュエルでデュエルエナジーがとんでもない勢いで溜まっていくと言うメリット、ここで彼等3人を引き合わせるのは早計ではないかと言う、計画への悩み。

そして最後に自身だけでは止められるとしても1人だけと言う予想。その他の事を考えても、結局は止まらないと言う答えが出る。せめてこの事を、〟彼〝に伝えるべきかと考えた時――。

 

「――ほう……」

 

モニター内に、興味深いものが写り込んだ。

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

一方、シティ内ではアカデミアの手先から街を守るべく、多くのデュエリスト達がデュエルを行っていた。ここにも2人、対決し合う者達の姿が。

ランサーズ入りを果たした徳松 長次郎とアカデミアのデュエリスト、キース・ハワードだ。両者共に運が大きく絡むデッキを高いレベルで使いこなしている。

運が良い方が有利になると言うある意味デュエルらしいデュエルと言える。極端な言い方だが。

 

「雨四光の効果発動!」

 

キース・ハワード LP2600→1100

 

「チッ……!」

 

雨四光の傘より針が飛び、キースの身体に降り注ぐ。1500と言う1枚のカードにしては特大のバーン。これに加えて耐性を持っていると言うのだから面倒だ。

攻撃力も高く、攻略には手を焼かされる。敵ならば恐ろしいが、味方になればこれ程頼もしいとは、デュエルを見守る遊矢は微笑を浮かべる。

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『ラッキーパンチ』をコストに2枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札4→6

 

「『ブローバック・ドラゴン』の効果発動!『一族の結束』を対象に、コイントスを3回行い、2回以上表なら破壊する!」

 

「またギャンブルカードか……!」

 

再びキースのフィールドに3枚のソリッドビジョンで作られたコインが出現、宙で舞ってぶつかり合い、火花を散らして地面に落ちる。結果は、表、表、表。ジャックポット。

『ブローバック・ドラゴン』の頭部がカシャリと動作し、一発の弾丸が放たれて『一族の結束』を撃ち抜く。

 

「これで全体強化は無くなったな。ブローバックを墓地に送り、魔法カード、『トランスターン』を発動!チェーンしてリバースカード、オープン!速攻魔法、『非常食』!『補給部隊』、『トランスターン』を墓地に送ってLPを2000回復!『トランスターン』の効果で『ブローバック・ドラゴン』と属性と種族が一致し、レベルが1つ高いモンスターをデッキから特殊召喚する!来な!『リボルバー・ドラゴン』ッ!!」

 

キース・ハワード LP1100→3100

 

リボルバー・ドラゴン 攻撃力2600

 

『ブローバック・ドラゴン』が淡い光に包まれ、その銃身がメキメキと悲鳴を上げる。より凶悪に、より強力に、光が晴れ、進化を遂げた機械竜がフィールドに降り立つ。

頭部と両腕を黒光りするリボルバーへと変えた、キースのエースモンスター。その威圧感は凄まじいの一言に尽きる。

 

「更に装備魔法、『7カード』を『リボルバー・ドラゴン』に装備!攻撃力を700アップするぜ!」

 

リボルバー・ドラゴン 攻撃力2600→3300

 

「『BMー4ボムスパイダー』を召喚!」

 

BMー4ボムスパイダー 攻撃力1400

 

次に登場したのは『TMー1ランチャースパイダー』を小型化した最新世代の兵器、ボムスパイダー。優秀なモンスターであるものの、雨四光が存在しているこの状況では余り役には立たないのが辛い所だ。

 

「フィールド魔法、『鋼鉄の襲撃者』!俺の闇属性、機械族モンスターはそれぞれ1ターンに1度戦闘で破壊されず、受けたダメージ分、攻撃力をアップする!バトルだ!『リボルバー・ドラゴン』で雨四光へ攻撃!ガン・キャノンショット!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分にする!」

 

徳松 長次郎 LP4000→3850

 

『リボルバー・ドラゴン』の頭部の銃口より弾丸が放たれ、雨四光を傘ごと貫く。折角の耐性持ちのカードだったのだが、ここまでのようだ。ここまでもっただけでも充分か。

 

「更にボムスパイダーの効果ぁ!闇属性、機械族のモンスターが戦闘、効果で相手モンスターを破壊した事で、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

徳松 長次郎 LP3850→3100

 

「ぐぁっ!」

 

ボムスパイダーの火薬庫が開き、スフィア・ボムが撃ち出され、爆発を引き起こす。闇属性、機械族を強化する優秀な効果。成程、厄介だ。

 

「ボムスパイダーで桐へ攻撃!」

 

「桐が攻撃対象になった事で、効果発動!攻撃を無効にし、バトルを終了!1枚ドローだ!」

 

徳松 長次郎 手札0→1

 

「チッ、そんな効果があったのか……メインフェイズ2、『リボルバー・ドラゴン』の効果でコイントスを3回行い、2回以上表ならばモンスターを破壊!対象にするのは勿論月花見!」

 

再びコイントス、3枚のコインが『リボルバー・ドラゴン』の銃口より撃ち出され、宙を舞う。結果は勿論、全て表。『リボルバー・ドラゴン』の銃口が再度動作、3発の銃弾が月花見を貫く。

 

「ボムスパイダーの効果は1ターンに1度、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP3100

フィールド『リボルバー・ドラゴン』(攻撃表示)『BMーボムスパイダー』(攻撃表示)

『7カード』『機甲部隊の最前線』セット1

『鋼鉄の襲撃者』

手札1

 

「俺のターン、月花見の効果でドローフェイズをスキップ。永続魔法、『強欲なカケラ』を発動し、ターンエンドだ」

 

徳松 長次郎 LP3100

フィールド『花札衛ー桐ー』(守備表示)

『強欲なカケラ』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『予見通帳』!デッキトップから3枚を除外、3ターン後のスタンバイフェイズに回収する。『リボルバー・ドラゴン』の効果!表、表、表ぇ!桐を破壊だ!ボムスパイダーの効果発動!」

 

「チッ!」

 

徳松 長次郎 LP3100→3050

 

「魔法カード、『アームズ・ホール』!デッキトップをコストに装備魔法、『7カード』をサーチ、『リボルバー・ドラゴン』へ装備!」

 

リボルバー・ドラゴン 攻撃力3300→4000

 

「バトル!『リボルバー・ドラゴン』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『リジェクト・リボーン』!相手の直接攻撃宣言時、バトルフェイズを終了、墓地からチューナーとシンクロモンスターを効果を無効にして特殊召喚する!来な、雨四光!!月花見!」

 

花札衛ー雨四光ー 攻撃力3000

 

花札衛ー月花見ー 攻撃力2000

 

上手い使い方だ。『リジェクト・リボーン』の特性とシンクロチューナーである月花見を合わせる事で2体のシンクロモンスターの蘇生。白コナミであればアクセルシンクロまで繋げられる展開だ。残念な事に徳松はアクセルシンクロモンスターを持っていないが。

 

「ボムスパイダーを守備表示にして、ターンエンド」

 

キース・ハワード LP3100

フィールド『リボルバー・ドラゴン』(攻撃表示)『BMー4ボムスパイダー』(守備表示)

『7カード』×2『機甲部隊の最前線』セット1

『鋼鉄の襲撃者』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!この瞬間、『強欲なカケラ』に強欲カウンターが乗るぜ」

 

強欲なカケラ 強欲カウンター0→1

 

「装備魔法、『最強の盾』を雨四光に装備!雨四光の攻撃力を守備力分アップ!」

 

花札衛ー雨四光ー 攻撃力3000→6000

 

「バトル!雨四光で『リボルバー・ドラゴン』へ攻撃!」

 

「『鋼鉄の襲撃者』の効果で『リボルバー・ドラゴン』の戦闘破壊を防ぎ、受けたダメージを攻撃力に変換!」

 

キース・ハワード LP3100→1100

 

リボルバー・ドラゴン 攻撃力4000→6000

 

逆襲のマシーンモンスター。『鋼鉄の襲撃者』の効果で受けたダメージを攻撃力に変換、直ぐ様雨四光と並ぶ。厄介なフィールド魔法だ。このカードを先に何とかしなければならないか。

 

「月花見を守備表示に変更、ターンエンド」

 

徳松 長次郎 LP3100

フィールド『花札衛ー雨四光ー』(攻撃表示)『花札衛ー月花見ー』(守備表示)

『最強の盾』『強欲なカケラ』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『リボルバー・ドラゴン』の効果!雨四光を対象に発動!当然、表3連続!破壊し、ボムスパイダーの効果で元々の攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

「墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、ダメージを半分に!」

 

徳松 長次郎 LP3100→2350

 

「更に俺の闇属性、機械族が戦闘、効果でテメェのモンスターを破壊した事で、『鋼鉄の襲撃者』の効果発動!手札の同属性、同種族の『スロットマシーンAMー7』を特殊召喚!」

 

スロットマシーンAMー7 攻撃力2000

 

降り注ぐキースの猛攻、逃がしはしまいと言わんばかりに次々と魔の手が迫る。『リボルバー・ドラゴン』、ボムスパイダーの隣に並ぶのはスロットマシーンに手足がついた黄金のモンスター。

 

「バトル!『リボルバー・ドラゴン』で月花見へ、スロットマシーンでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

「チッ、メインフェイズ2、ボムスパイダーの効果発動!スロットマシーンとテメェのフィールドの『強欲なカケラ』を破壊!」

 

希望を潰す爆撃、スロットマシーンにスフィア・ボムが貼り付き、徳松のフィールドに特攻、修復しかけた壺のカケラと共に爆発し、木っ端微塵に吹き飛ばす。

 

「『強欲なカケラ』が……!」

 

「ドローも許しちゃくれねぇか……!」

 

「ターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP1100

フィールド『リボルバー・ドラゴン』(攻撃表示)『BMー4ボムスパイダー』(守備表示)

『7カード』×2『機甲部隊の最前線』セット1

『鋼鉄の襲撃者』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『魔力の泉』!お前さんのフィールドの表側表示の魔法、罠の数だけドローし、俺のフィールドに存在する表側表示の魔法、罠の数だけ手札を捨てる!4枚ドローし、1枚捨てる!」

 

徳松 長次郎 手札0→4→3

 

ここでドローカードを引くのは流石と言うべきか、相手の魔法、罠に発動と破壊の耐性を与えてしまうのが少々難点であるが、この際仕方無いだろう。

 

「魔法カード、『打出の小槌』。手札を交換、カードを2枚セット、ターンエンド」

 

徳松 長次郎 LP2350

フィールド

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!こんなもんか?バトルに移る!」

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

「チッ、しつけぇ野郎だ……ターンエンド……」

 

キース・ハワード LP1100

フィールド『リボルバー・ドラゴン』(攻撃表示)『BMー4ボムスパイダー』(守備表示)

『7カード』×2『機甲部隊の最前線』セット1

『鋼鉄の襲撃者』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→3

 

「2ターン連続でドローカードを……!」

 

「罠発動!『サンダー・ブレイク』!手札を1枚捨て、『リボルバー・ドラゴン』を破壊!」

 

「させねぇ!速攻魔法、『禁じられた聖衣』!『リボルバー・ドラゴン』の攻撃力を600ダウンし、効果破壊耐性を与える!」

 

リボルバー・ドラゴン 攻撃力6000→5400

 

「これもかわすか……カードを2枚セット、ターンエンド」

 

徳松 長次郎 LP2350

フィールド

セット2

手札0

 

「俺様のターン、ドロー!『予見通帳』の効果で除外された3枚を手札に。装備カード、『7カード』!『リボルバー・ドラゴン』に装備!」

 

リボルバー・ドラゴン 攻撃力6000→6700

 

「魔法カード、『古のルール』!手札よりレベル5以上の通常モンスター、『デビルゾア』を特殊召喚!」

 

デビルゾア 攻撃力2600

 

現れたのは彼が持つマシーンモンスターには所属していない、青い悪魔のモンスターだ。喉を唸らせ、徳松を睨み付ける。

 

「バトルに移る!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!『闇の呪縛』!『リボルバー・ドラゴン』の効果と攻撃を、『デビルゾア』の攻撃力を700下げ、攻撃を封じる!」

 

デビルゾア 攻撃力2600→1900

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP1100

フィールド『リボルバー・ドラゴン』(攻撃表示)『BMー4ボムスパイダー』(守備表示)『デビルゾア』(攻撃表示)

『7カード』×3『機甲部隊の最前線』セット1

『鋼鉄の襲撃者』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→2

 

「もう1枚、『闇の呪縛』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札1→3

 

「魔法カード、『ハーピィの羽帚』!お前のフィールドの魔法、罠を全て破壊!」

 

「速攻魔法、『非常食』!このカード以外の魔法、罠を墓地に送り、LPを回復!」

 

キース・ハワード LP1100→6100

 

「魔法カード、『花合わせ』!デッキから攻撃力100の『花札衛』4体を効果を無効にし、攻撃表示で特殊召喚する!来な、『花札衛ー松ー』!『花札衛ー桐ー』!『花札衛ー芒ー』!『花札衛ー柳ー』!」

 

花札衛ー松ー 攻撃力100

 

花札衛ー桐ー 攻撃力100

 

花札衛ー芒ー 攻撃力100

 

花札衛ー柳ー 攻撃力100

 

1枚のカードで一気に4体のモンスターを呼び出す強力な効果、様々な制限はあるものの、1枚単体の力と考えれば恐るべき脅威だ。カカカカンッ、と甲高い音を鳴らし、連結する4体の『花札衛』。ここから雨四光を呼び出すのも悪くないが、それよりも上を目指す。

 

「柳をリリースし、手札の『花札衛ー柳に小野道風ー』を特殊召喚!」

 

花札衛ー柳に小野道風ー 攻撃力2000

 

これでチューナーも揃い、雨四光のシンクロが可能となった。だが徳松の狙いは更に上、小野道風の効果により、デッキトップに右手を添える。

 

「小野道風の効果でドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→1

 

「来たぜ!ドローしたのは『花札衛ー柳ー』!特殊召喚!」

 

花札衛ー柳ー 攻撃力100

 

これで――5体の『花札衛』がフィールドに揃った。

 

「柳の効果で墓地の柳をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→1

 

「小野道風の効果でシンクロ素材をレベル2に!さぁ行くぜ!レベル2の松、桐、芒、柳2体に、同じくレベル2の小野道風をチューニング!その神々しきは聖なる光。今、天と地と水と土と金となりて照らせ。シンクロ召喚!『花札衛ー五光ー』!!」

 

花札衛ー五光ー 攻撃力5000

 

5体のモンスターを使ってのレベル10、超弩級のシンクロモンスターのシンクロ召喚、現れたのは徳松 長次郎の真の切り札。煌びやかな甲冑を纏い、美しき波紋を刀身に浮かべた日本刀を持つ鎧武者。攻撃力、5000。デュエルモンスターズの中でも、最大攻撃力と言って良い数値だ。

 

「攻撃力……5000……!」

 

「バトル!五光で『リボルバー・ドラゴン』へ攻撃!」

 

キース・ハワード LP6100→5700

 

五光が自身に光を纏わせ、圧倒的な速度で『リボルバー・ドラゴン』に肉薄、反撃はおろか、動く隙さえも与えず日本刀を斜めに振るい、『リボルバー・ドラゴン』の3つの銃身を真っ二つに切り裂き、爆発を巻き起こす。エース撃破、これで厄介なモンスター破壊は振るえなくなった。

 

「俺様の『リボルバー・ドラゴン』を倒すとはな……」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

徳松 長次郎 LP2350

フィールド『花札衛ー五光ー』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!まさかここまでやるとは……だが、『リボルバー・ドラゴン』を倒した位で勝った気になられちゃ困るぜ!ボムスパイダーの効果!このカードと五光を破壊!」

 

「やらせはしねぇ!永続罠、『ディメンション・ガーディアン』!五光に戦闘、効果破壊耐性を与える!」

 

「チ、モンスターをセット、『デビルゾア』を守備表示に変更、ターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP5700

フィールド『デビルゾア』(守備表示)セットモンスター

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!松、桐、芒、柳、小野道風をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→2

 

「『花札衛ー桐ー』を特殊召喚!」

 

花札衛ー桐ー 守備力100

 

「バトル!五光で『デビルゾア』へ攻撃!」

 

「ぐっ……!」

 

圧倒的な力をもって次々とキースのモンスターを切り伏せていく五光。最早キースは防戦一方、攻撃力5000の耐性持ち、しかも魔法、罠を1ターンに1度無効にする効果も持っているのだ。生半可な手は通じない。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

徳松 長次郎 LP2350

フィールド『花札衛ー五光ー』(攻撃表示)『花札衛ー桐ー』(守備表示)

『ディメンション・ガーディアン』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!カードをセット、ターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP5700

セットモンスター

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!どうしたどうしたぁ?こんなもんかい?」

 

「チッ、調子に乗りやがって……!」

 

「バトル!五光でセットモンスターへ攻撃!」

 

「破壊された『カードガンナー』の効果でドロー!」

 

キース・ハワード 手札0→1

 

「ターンエンドだ」

 

徳松 長次郎 LP2350

フィールド『花札衛ー五光ー』(攻撃表示)『花札衛ー桐ー』(守備表示)

『ディメンション・ガーディアン』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!リバースカード、オープン!『サイクロン』!『ディメンション・ガーディアン』を破壊!」

 

「五光の効果で無効!」

 

「ならモンスターをセット、魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札0→3

 

「速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!手札を1枚捨て、『ディメンション・ガーディアン』とセットカードを破壊!カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

キース・ハワード LP5700

フィールド セットモンスター

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『アドバンスドロー』!桐をリリースし、2枚ドロー!」

 

徳松 長次郎 手札0→2

 

「更に魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換、バトルだ!五光でセットモンスターへ攻撃!」

 

「破壊されたのは『エア・サーキュレーター』!効果でドローだ!」

 

キース・ハワード 手札0→1

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

徳松 長次郎 LP2350

フィールド『花札衛ー五光ー』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ブラック・ホール』!フィールドのモンスターを全て破壊!」

 

「五光の効果で無効!」

 

「魔法カード、『オーバーロード・フュージョン』!墓地の『リボルバー・ドラゴン』と『ブローバック・ドラゴン』の2体で融合!融合召喚!『ガトリング・ドラゴン』!!」

 

ガトリング・ドラゴン 攻撃力2600

 

融合召喚、キースの背後に青とオレンジの渦が発生し、黒と赤の機械竜が混ざり合い、フィールドに爆音が轟く。現れたのは頭部と両腕をガトリング砲に進化させ、下半身を車輪に変えた新たな機械竜。このモンスターがキースの切り札か。凄まじい威圧感に徳松達が冷や汗を垂らす。

 

「『ガトリング・ドラゴン』の効果!コイントスを3回行い、表が出た数までフィールドのモンスターを破壊する!」

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』!『ガトリング・ドラゴン』の効果を無効にし、攻撃力を400アップする!」

 

ガトリング・ドラゴン 攻撃力2600→3000

 

「こいつも凌ぐか、バトル!『ガトリング・ドラゴン』で五光へ攻撃!速攻魔法、『リミッター解除』!『ガトリング・ドラゴン』の攻撃力を倍に!」

 

「ならこっちは手札から『花札衛ー桜に幕ー』を捨て、五光の攻撃力を1000アップ!」

 

ガトリング・ドラゴン 攻撃力3000→6000

 

花札衛ー五光ー 攻撃力5000→6000

 

互いに手札から1枚のカードを放ち、自らの切り札に力を送る。攻撃力6000となった『ガトリング・ドラゴン』と五光のぶつかり合い。

『ガトリング・ドラゴン』が砲門から何十、何百もの弾丸を放ち、五光が光の速度で銃弾の間を縫うように駆け抜け、かわしきれなかった銃弾を刀で弾く。そのまま接近、超至近距離で『ガトリング・ドラゴン』の首を落とそうとしたその時、バカリ、『ガトリング・ドラゴン』の口の奥から4つ目のガトリング砲が出現、五光が首を切ると同時に弾丸が五光の眉間を撃ち抜く。

 

「五光の効果!このカードが戦闘破壊された事で、エクストラデッキから五光以外の『花札衛』シンクロモンスター、雨四光を特殊召喚!!」

 

花札衛ー雨四光ー 攻撃力3000

 

しかし、キースがただ切り札を失った事に対し、徳松は強力な後続を呼び出す。五光には劣るものの、このカードも攻撃力3000の耐性持ち。かなり厄介だ。

 

「ターンエンドだ」

 

「雨四光の効果で次のドローフェイズをスキップするぜ」

 

キース・ハワード LP5700

フィールド

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ!雨四光でダイレクトアタック!」

 

「墓地の『クリアクリボー』を除外し、1枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札0→1

 

「くっ、モンスターじゃねぇ……ぐぅぅぅぅっ!?」

 

キース・ハワード LP5700→2700

 

雨四光の傘から発射される針がキースへと降り注ぎ、キースの身体を焦がさんばかりの熱が襲いかかる。攻撃力3000の大ダメージ、流石のキースもこれには悲鳴を上げる。

 

「どうやらツキに見放されたようだな」

 

「ハッ、そいつはどうかねぇ……!」

 

「俺はこのままターンエンドだ!」

 

徳松 長次郎 LP2350

フィールド『花札衛ー雨四光ー』(攻撃表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「雨四光の効果発動!」

 

キース・ハワード LP2700→1200

 

「ぐぅぅぅぅっ!?舐めるなよ……俺はカードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

「雨四光の効果でドローフェイズをスキップ!」

 

キース・ハワード LP1200

フィールド 

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!このまま決める!雨四光で直接攻撃!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札0→1

 

「ターンエンドだ」

 

徳松 長次郎 LP2350

フィールド『花札衛ー雨四光ー』(攻撃表示)

手札0

 

キースの残りLPは1200、対して徳松のフィールドには相手が通常ドローを行った場合、1500のダメージを与える雨四光が存在。これを何とかしなければ、キースの敗北。徳松の勝利となる。

緊張の一瞬、キースはデッキトップに右手を翳し、一気にドローする。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「雨四光の効果ぁ!」

 

「……ツイてるぜぇ!手札の『ハネワタ』を捨て、効果ダメージを0に!」

 

「何ィ!?」

 

この土壇場で、逆境を切り抜ける一手を引き抜くキースの圧倒的幸運。恐るべきドロー力に徳松は勿論、遊矢と驚愕する。この男は、何故これ程までに。

 

「まだまだ終わらねぇ!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『ガトリング・ドラゴン』、『ツインバレル・ドラゴン』、『BMー4ボムスパイダー』、『カードガンナー』、『ハネワタ』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札0→2

 

「ここで……」

 

「更にドロー……!」

 

「魔法カード、『黙する死者』!墓地の通常モンスター、『デビルゾア』を守備表示で蘇生!」

 

デビルゾア 守備力1900

 

キースを昔から支えて来た1枚、青い悪魔がフィールドに舞い戻り、彼を守るように膝をつく。闇属性、機械族を中心としたデッキには首を傾げざるを得ないモンスターだ。何故キースはこのモンスターを投入しているのか、その謎は、今解き明かされる。

 

「罠発動!『メタル化・魔法反射装甲』を発動!『デビルゾア』に攻守300アップの装備カードとして装備!」

 

デビルゾア 守備力1900→2200

 

眩い光が『デビルゾア』を包み込み、フレーバーテキスト通り、『デビルゾア』の真の力を解放する。

 

「そしてこのカードを装備した『デビルゾア』をリリースする事で、デッキから『メタル・デビルゾア』を特殊召喚!」

 

メタル・デビルゾア 攻撃力3000

 

ガシャガシャと『デビルゾア』が身体を煌めく鋼の装甲で覆い、土煙を上げてフィールドに降り立つ。これこそが『デビルゾア』の真の姿。

闇属性、機械族に変化し、雄々しい咆哮を放つ。尚、『メタル化・魔法反射装甲』を装備した『デビルゾア』の方が強いのは密に。このカードにも『鋼鉄の襲撃者』の効果を受けられると言うメリットが一応存在するのだ。

 

「バトル!『メタル・デビルゾア』で雨四光へ攻撃!メタル・エックス・シザース!」

 

「迎え撃て!雨四光!」

 

『メタル・デビルゾア』が頭部の翼を発光させ、振るうと同時にX字のレーザーが雨四光に向かって突き進み、雨四光が放つ無数の針とぶつかり合う。

そしてフィールド中央で爆発を起こし、互いのモンスターがガラスのように砕け散る。互いの攻撃力は同じ3000、当然の帰結だ。爆煙がフィールドを覆い、両者の視界を塞ぐ。

 

「相撃ち……」

 

「ハッ、笑わせてんじゃねぇよ……今度はこっちが後続を呼ぶ番だ!」

 

瞬間、キースの声が響き渡り、煙の中より黒光りする銃口が徳松と遊矢の視界に写る。これは、このモンスターは――。

 

「俺様の闇属性、機械族モンスターが戦闘で破壊された事で、手札の『デスペラード・リボルバー・ドラゴン』を特殊召喚する!!」

 

デスペラード・リボルバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

現れたのはキース・ハワードの真の切り札。『リボルバー・ドラゴン』を正当進化させた、機械の翼を広げる頭部、両腕がリボルバーとなった巨大な竜。最後の絶望が、徳松に照準を合わせる。

 

「これで終わりだ!撃ち抜けっ、デスペラードォ!」

 

ガシャリ、デスペラードの3つの銃口が徳松へと向き、3発の銃弾を放つ。モンスターは全滅、手札は尽きた、墓地にも希望は無い。その銃弾は――徳松のLPを貫く。

 

徳松 長次郎 LP2350→0

 

0を刻むLP、徳松はその一撃に吹き飛ばされ、倒れ伏す。勝者、キース・ハワード。圧倒的豪運をもってして、彼は徳松を下して見せた。その勲章を掴み取るが如く、彼はデュエルディスクを操作し、紫色の光を灯す。

これは、デュエリストのカード化。遊矢は何とか動き、徳松を守ろうとするが、ガクリ、回復し切れてないのか、膝が言う事を聞いてくれない。

 

「うぁ……!やめ、やめろぉっ!!」

 

そんな、時だった。

 

「ッ!?」

 

ガキリ、と。キース正面から何かが飛来し、デュエルディスクごと腕を弾き、跳ね上げたのは。

 

「――ッ!これ、は……」

 

突然の事に遊矢が目を見開き、キースも固まる。一体何が起こっているのか、飛んで来た何かがキースのデュエルディスクに当たってクルリと宙で回転し、地に突き刺さる。これは――カードだ。

たった1枚のカードが、猛スピードで飛来、キースのデュエルディスクを弾いたのだ。一体誰がこんな事を?そんな事は、カードを見れば一目瞭然だった。

 

「……『インフェルニティ・デス・ガンマン』……!」

 

遊矢がカードの名を呼んだ瞬間、響き渡るハーモニカの音色。西部劇を思わせる緩やかなそれを奏で、彼は月をバックに土を鳴らし、この場に現れる。

無造作に伸ばされた淡い青の髪、気だるげな眼に、顔に右に引かれた黄色いマーカー。黒いコートを纏い、カードを放ったであろう、銃型のデュエルディスクを手に持った彼。そう、シンクロ次元最強の男――。

 

「鬼柳……京介……!」

 

死神が、冥府の扉を撃ち抜き、蘇る。

 

「……地獄の底から、舞い戻って来たぜ……!」

 

ニヤリ、途端に好戦的な笑みを浮かべ、拳銃を空へと向ける鬼柳。そしてそのまま――パンッ、とデュエル開始の合図を送るが如く発砲、銃型よりデュエルディスクに変形したそれを左腕に装着し、光輝くプレートを展開する。

 

「良いもん持ってるな……俺が勝ったらそのデュエルディスク、貰おうか」

 

「さぁ……満足させてくれよ?」

 

生きるか死ぬか――今、死神が互いの眉間に、銃を突きつける。

 

「「デュエル!!」」



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第166話 冥府の瞳は開かれる

4つの次元のデュエリスト達が激闘を繰り広げるシンクロ次元、シティ。ここでもまた、融合次元のデュエリストと、シンクロ次元のデュエリストが対峙していた。

融合次元、アカデミアの使者の名は、キース・ハワード。アカデミアの地下にて、恐るべき魑魅魍魎共と死闘を繰り広げて来た強者。そしてもう1人は――地下から帰還した死神、シンクロ次元最強の男、鬼柳 京介。

2人の死神が、命を賭けてデュエルディスクを構える。

 

「先攻は俺様が貰う!永続魔法、『機甲部隊の最前線』を発動!モンスター1体とカードを3枚セット、ターンエンドだ!」

 

キース・ハワード LP4000

フィールド セットモンスター

『機甲部隊の最前線』セット3

手札0

 

セットモンスターに後続を呼ぶ『機甲部隊の最前線』、加えてセットカードが3枚、慎重な出だしだ。鬼柳の実力を本能的に嗅ぎ取ったのか。

 

「俺のターン、ドロー!さて――俺は手札の『インフェルニティ・デストロイヤー』を捨て、『ダーク・グレファー』を特殊召喚!」

 

ダーク・グレファー 攻撃力1700

 

先陣を切ったのは漆黒に染まり、血走った眼を開いた闇の剣士。闇属性モンスターを使うデッキならば回転率を一気に上げてくれるカードだ。ただ、手札消費が激しくなるのが欠点であるが、『インフェルニティ』にとってはそんな事はメリットでしかない。

 

「『ダーク・グレファー』の効果!手札の闇属性モンスター1体を捨て、デッキの闇属性モンスター1体を墓地に送る!『インフェルニティ・ネクロマンサー』を召喚!」

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 攻撃力0

 

次は骸骨から緑の髪を伸ばし、ローブを纏った呪術師のようなモンスター。『インフェルニティ』を蘇生させるカードの筆頭であり、有事の壁としても機能する。

 

「召喚時、守備表示に変更、カードを2枚セット、ネクロマンサーの効果で墓地の『インフェルニティ・デーモン』を特殊召喚!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

次は『インフェルニティ』のキーカード。青い鎧つきローブを纏い、オレンジの鬣を伸ばす悪魔のモンスター。

 

「特殊召喚時、手札0な事で効果発動!デッキから『インフェルニティ・リベンジャー』サーチ!墓地の『ヘルウェイ・パトロール』を除外し、特殊召喚!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 攻撃力0

 

今度は闇の瘴気に包まれたガンマン人形。攻守0、レベル1のチューナー。ここからシンクロへ繋げるか。

 

「レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』に、レベル1のリベンジャーをチューニング!漆黒の帳下りし時、冥府の扉は開かれる。舞い降りろ闇よ!シンクロ召喚!出でよ、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

シンクロ召喚、高速展開からのシンクロよにり、現れたのは漆黒の体躯に百の目玉を開いた不気味なドラゴン。彼が誇る満足竜の1体であり、このモンスターが彼の得意とするループの起点、早速次の展開へ移ろうとしたその時――。

 

「罠発動!『煉獄の落とし穴』!攻撃力2000の相手モンスターが特殊召喚した時、そいつの効果を無効にし、破壊する!」

 

「ッ!」

 

キースの罠が発動、鬼柳の行く手を遮る。これで強力なモンスターを失ったと同時にループコンボを封じられた。ここは慎重に行くべきだったと考えてももう遅い。

 

「バトル!『ダーク・グレファー』でセットモンスターを攻撃!」

 

「永続罠、『ラッキーパンチ』!コイントスを3回行い、3回とも表なら3枚ドローする!」

 

「気をつけてくれ鬼柳さん!そいつは十中八九当ててくる!」

 

遊矢が注意を飛ばした時にはこれまた遅い。ソリッドビジョンで作り出されたコインが宙を舞い、ぶつかり合って地に落ちる。予想通り、全てが表。鬼柳は驚きこそしないものの、ほうと息をつく。

 

「3枚ドローだ!」

 

キース・ハワード 手札0→3

 

「そしてセットモンスターは妥協召喚した『可変機獣ガンナードラゴン』。『機甲部隊の最前線』の効果でデッキから『リボルバー・ドラゴン』を特殊召喚!!」

 

リボルバー・ドラゴン 攻撃力2600

 

キースのフィールドの赤い機竜が破壊され、その中から頭部と両腕がリボルバーとなったドラゴンが姿を見せる。こちらも早速エースの登場だ。

 

「成程、どうやら一筋縄じゃいかないようだな」

 

「ククク……」

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP4000

フィールド『ダーク・グレファー』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『リボルバー・ドラゴン』の効果発動!コイントスを3回行い、2回以上表ならモンスターを破壊する!3連続表!よって『ダーク・グレファー』を破壊!」

 

「チッ!」

 

2連続で全て表。おかしいと思わざるを得ない豪運に鬼柳が舌打ちを鳴らす。だが鬼柳とてデュエリスト、最悪の事態も想定している。

 

「魔法カード、『古のルール』!手札のレベル5以上の通常モンスター、『振り子刃の拷問機械』を特殊召喚!」

 

振り子刃の拷問機械 攻撃力1750

 

現れたのは赤い機械から振り子のように揺れ動く刃を持ったモンスター。レベル6にして攻撃力1750と、『モリンフェン』には劣るが中々微妙なステータスを持ったモンスターだ。

 

「バトル!『振り子刃の拷問機械』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『カウンター・ゲート』!1枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→1

 

「引いたカードは『インフェルニティ・ガーディアン』!モンスターカードの為、通常召喚する!」

 

インフェルニティ・ガーディアン 攻撃力1200

 

現れたのは髑髏をつけた炎の盾。ハンドレス状態の時、強固な耐性を得るモンスターだ。展開には余り向いていないが、防御にこれ以上のものはない。

 

「チッ、なら『リボルバー・ドラゴン』で攻撃!撃ち抜け!ガン・キャノン・ショット」

 

「『インフェルニティ・ガーディアン』はハンドレス状態の時、戦闘、効果で破壊されない!」

 

鬼柳 京介 LP4000→2800

 

『リボルバー・ドラゴン』の銃撃が『インフェルニティ・ガーディアン』を撃ち抜く。破壊はされない、だけどダメージは鬼柳に襲いかかる。肩口を裂く痛みに、鬼柳が僅かに表情を歪ませる。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP4000

フィールド『リボルバー・ドラゴン』(攻撃表示)『振り子刃の拷問機械』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』『ラッキーパンチ』セット3

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→3

 

「『インフェルニティ・ガーディアン』を守備表示に変更、モンスター1体とカード2枚をセットしてターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP2800

フィールド『インフェルニティ・ガーディアン』(守備表示)セットモンスター

セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!威勢が良いのは最初だけか?2枚の罠、『ゴブリンのやりくり上手』を発動!更にチェーンし、速攻魔法、『非常食』!『ラッキーパンチ』とやりくり上手2枚を墓地に送り、LPを3000回復!そしてやりくり上手の効果でこのカードと同名カードの枚数+1枚をドローし、自分の手札1枚をデッキボトムに戻す!既にやりくり上手は墓地にある。6枚ドローし、2枚を戻すぜ!」

 

キース・ハワード LP4000→7000 手札2→8→6

 

「魔法カード、『ブラック・コア』!手札1枚を捨て、『インフェルニティ・ガーディアン』を除外する!」

 

「何ッ!?」

 

戦闘でも効果でも破壊されないモンスター。一見無敵に見えるが、破壊以外ならばどうとでもなる。それを表すかの如く、冷静に対処するキース。手慣れている。

 

「フィールド魔法、『鋼鉄の襲撃者』!そして『リボルバー・ドラゴン』の効果発動!3連続表だ、そのセットモンスターを破壊するぜ!」

 

「破壊されたのは『エア・サーキュレーター』!効果で1枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→1

 

またもや3連続表。明らかに常軌を逸している。とは言えデュエルディスクは正常に作動しており、イカサマには思えない。これは一体どう言う事なのか。ただ単に運が良いだけ?それにしては――何かがおかしく、怪しい。

 

「そして『鋼鉄の襲撃者』の効果!俺の闇属性、機械族モンスターがフィールドのカードを破壊した事で、手札の同属性、同種族の『スロットマシーンAMー7』を特殊召喚!」

 

スロットマシーンAMー7 攻撃力2000

 

続けて現れたのは手足の生えた黄金のスロットマシーン。レベル7の通常モンスターにしては攻撃力2000と低い。

 

「バトル!『リボルバー・ドラゴン』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『リジェクト・リボーン』!バトルフェイズを終了し、墓地のシンクロモンスターとチューナーを1体ずつ特殊召喚!来い、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!『インフェルニティ・リベンジャー』!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

「この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効になるがな」

 

「ま、そう簡単にはいかねぇわな。ターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP7000

フィールド『リボルバー・ドラゴン』(攻撃表示)『スロットマシーンAMー7』(攻撃表示)『振り子刃の拷問機械』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』セット2

『鋼鉄の襲撃者』

手札0

 

かなり特徴的なデッキを使う相手だと鬼柳が観察する。闇属性、機械族主体、通常モンスターも折り込んだギャンブルデッキ。場に残す魔法、罠を大量に投入している為、圧迫しやすいと思いきや、『非常食』等で最悪の事態を回避して来る。正に運が問われるデッキ、彼にしか扱えないデッキと言える。

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『サイクロン』!『鋼鉄の襲撃者』を破壊!そして永続罠、『悪魔の憑代』!レベル5以上の悪魔族モンスターを召喚する場合、リリース無しで召喚出来る!来い、『インフェルニティ・デストロイヤー』!」

 

インフェルニティ・デストロイヤー 攻撃力2300

 

現れたのは野太い腕を持った巨大な悪魔。『インフェルニティ』の上級アタッカーとして活躍を期待出来るカードだ。とは言え攻撃力がやや低いのが痛い。

 

「バトル!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』で『リボルバー・ドラゴン』へ攻撃!」

 

キース・ハワード LP7000→6600

 

「『機甲部隊の最前線』の効果により、『ツインバレル・ドラゴン』をリクルート!」

 

ツインバレル・ドラゴン 守備力200

 

「効果発動!コイントスを2回行う!2回とも表だ!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』を破壊!」

 

本当ならば『インフェルニティ・デストロイヤー』を破壊したい所だが、『悪魔の憑代』で防がれる為にこちらを選んだのだろう。現れた青い銃竜が頭部から弾丸を発砲し、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の眼球を貫く。

 

「デストロイヤーでスロットマシーンへ攻撃!」

 

キース・ハワード LP6600→6300

 

デストロイヤーとスロットマシーンがフィールド中央で腕を振るい、拳がぶつかり、火花を散らす。フィールド中に響く轟音、パワータイプのモンスター同士のバトルに相応しい大迫力だ。そのまま左拳を振るい、デストロイヤーが肘でスロットマシーンの肘をかち上げ、がら空きの所をアッパーカットを放って吹き飛ばす。スロットマシーンが胸を砕かれ崩れ落ち、大量のコインが溢れ出す。

 

「やるじゃねぇか……!」

 

「まだだ!デストロイヤーがハンドレス状態でモンスターを戦闘によって墓地に送った事で相手に1600ダメージを与える!」

 

「あぁん!?」

 

キース・ハワード LP6300→4700

 

戦闘破壊を通すが、このモンスターの一撃は本物、徳松の雨四光にも劣らぬバーンダメージがキースを襲う。一気に逆転、鬼柳優勢となった。

 

「メインフェイズ2、リバースカード、オープン!魔法カード、『シールド・クラッシュ』!守備表示のツインバレルを破壊!」

 

「このっ……!」

 

「ターンエンドだ!来いよオッサン、ここからが面白いんだろうが!」

 

「イキがってんじゃねぇよ!永続罠、『蘇りし魂』!墓地の通常モンスター、『デビルゾア』を蘇生!」

 

デビルゾア 守備力1900

 

現れたのは頭部から羽を伸ばした青の悪魔。キースのフィールドに膝をついた姿で登場、その巨大さは『インフェルニティ・デストロイヤー』に負けていない。

 

鬼柳 京介 LP2800

フィールド『インフェルニティ・デストロイヤー』(攻撃表示)『インフェルニティ・リベンジャー』(守備表示)

『悪魔の憑代』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『デビルゾア』を攻撃表示に変更!バトルだ!『デビルゾア』でデストロイヤーへ攻撃!」

 

「デストロイヤーが破壊される代わりに『悪魔の憑代』を墓地に送る!」

 

鬼柳 京介 LP2800→2500

 

今度は悪魔同士のぶつかり合い、拳と拳で語る肉弾戦、原始的な闘争だ。バキバキと頬を、胸を抉る打撃音が響き渡る。一対一のタイマン勝負。押しては返す殴打の中、『デビルゾア』が足を引っ掛けてデストロイヤーの体制を崩し、ガシリと首を掴んで宙に放り投げる。更に自身も跳躍、真っ逆さまの状態で落ちるデストロイヤーの脚を両腕で抑え込み、肩口で首を支え、そのまま凄まじい速度で着地、その衝撃がデストロイヤーに襲いかかる。

そう、これは首、背骨、股にダメージを与えるスーパー・フェイバリット・ホールド、キン肉バスター。悪魔超人『デビルゾア』によって『デビルゾア』バスターへ変わった必殺がデストロイヤーを地に沈める。

 

「『振り子刃の拷問機械』で『インフェルニティ・リベンジャー』へ攻撃し、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP4700

フィールド『振り子刃の拷問機械』(攻撃表示)『デビルゾア』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』『蘇りし魂』セット2

手札0

 

「モンスターとカードをセット、バトルだ!デストロイヤーで『振り子刃の拷問機械』へ攻撃!」

 

キース・ハワード LP4700→4050

 

「デストロイヤーの効果発動!」

 

「調子に乗るな!『機甲部隊の最前線』の効果により、『ツインバレル・ドラゴン』をリクルート!」

 

キース・ハワード LP4050→2450

 

ツインバレル・ドラゴン 守備力200

 

「コイントスにより、デストロイヤーを破壊!」

 

「ッ、魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→3

 

「モンスターとカードをセット、ターンエンドだ!『命削りの宝札』の効果で残る手札を捨てる」

 

鬼柳 京介 LP2500

フィールド セットモンスター

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『ツインバレル・ドラゴン』をリリース!アドバンス召喚!『ブローバック・ドラゴン』!」

 

ブローバック・ドラゴン 攻撃力2000

 

ここで現れたのは回転式では無く、スライドによって次弾の装填を行う自動式拳銃の頭部を持ったワインレッドカラーの機械竜。『リボルバー・ドラゴン』の進化前にして対となるカードだ。

 

「攻撃力こそ低いが……こいつは『リボルバー・ドラゴン』と違って魔法、罠に対応している!右のリバースカードを対象に効果発動!コイントスを3回行い、2回以上表なら対象のカードを破壊!」

 

「ならチェーンして発動!『安全地帯』!『ブローバック・ドラゴン』に対して使い、破壊される事で道連れにする!」

 

「やぶ蛇かよっ!仕方ねぇ、『デビルゾア』でセットモンスターへ攻撃!」

 

「墓地の『インフェルニティ・リベンジャー』の効果発動!ハンドレス状態で俺のモンスターが戦闘破壊された事で、このカードを特殊召喚し、破壊されたモンスターのレベルをコピーする!破壊されたモンスターのレベルは2だ!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0 レベル1→2

 

「壁を用意して来たか、俺はこれでターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP2450

フィールド『デビルゾア』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ちとキツイな……魔法カード、『命削りの宝札』!2枚目だ、3枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→3

 

「これなら……カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP2500

フィールド『インフェルニティ・リベンジャー』(守備表示)

セット3

手札0

 

「良いカードは引けたかよ?俺のターン、ドロー!ハハァ!魔法カード、『命削りの宝札』!こっちも3枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札0→3

 

「バトル!『デビルゾア』でリベンジャーに攻撃!」

 

「罠発動!『聖なるバリア―ミラーフォース―』!相手の攻撃表示のモンスターを破壊!」

 

「フィールド魔法、『鋼鉄の襲撃者』を発動!カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP2450

フィールド

『機甲部隊の最前線』セット4

『鋼鉄の襲撃者』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『インフェルニティ・ミラージュ』を召喚!」

 

インフェルニティ・ミラージュ 攻撃力0

 

現れたのは獅子の頭部を持ち、民族衣装であろうローブを纏ったモンスター。どこか人形染みた気配を出しており、『インフェルニティ』において強力な効果を持ったカードだ。ここで引けたのは大きい。反撃開始と言った所か。

 

「このカードを墓地に送り、『インフェルニティ・デーモン』と『インフェルニティ・ネクロマンサー』を蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

「『デーモン』の効果で『インフェルニティガン』をサーチ、セット!そしてネクロマンサーの効果でデストロイヤー蘇生!」

 

インフェルニティ・デストロイヤー 攻撃力2300

 

「レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』に、レベル2のリベンジャーをチューニング!破壊神より放たれし聖なる槍よ、今こそ魔の都を貫け!シンクロ召喚!『氷結界の龍トリシューラ』!!」

 

氷結界の龍トリシューラ 攻撃力2700

 

そして、2体目の満足竜が顕現する。凍気を纏う、白の鎧と青の体躯を唸らせる三つ首の竜。世界をも凍結させる圧倒的な力が今、君臨する。

 

「シンクロ召喚時、お前のフィールドの『鋼鉄の襲撃者』と墓地の『リボルバー・ドラゴン』を除外!」

 

「罠発動!『深黒の落とし穴』!レベル5以上のモンスターが特殊召喚された場合、そのモンスターを除外する!」

 

だがキースとて負けてはいない。被害を受けながらも何とかトリシューラを除去。この対処は正しい。鬼柳の実力ではピン刺しのこのカードを何度でもフィールドに呼べるのだ。

 

「ならリバースカードオープン!永続魔法、『インフェルニティガン』!このカードを墓地に送り、『デーモン』とネクロマンサーを蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

「『デーモン』の効果で『インフェルニティバリア』をサーチ!セット!更にネクロマンサーの効果でリベンジャー蘇生!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

「レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』に、レベル1の『リベンジャー』をチューニング!シンクロ召喚!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

「そして『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の効果!墓地のミラージュを除外し、効果をコピー!墓地に送り、『デーモン』とネクロマンサーを蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

「『デーモン』の効果で2枚目のバリアをサーチ、セット!ネクロマンサーの効果でリベンジャー蘇生!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

「おいおい、さっきの奴よりひでぇソリティアだな」

 

「レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』に、レベル1のリベンジャーをチューニング!地獄と天国の間……煉獄よりその姿を現せ、『煉獄龍オーガ・ドラグーン』!!」

 

煉獄龍オーガ・ドラグーン 攻撃力3000

 

3体目の満足竜、今度は漆黒の鱗を煌めかせた正統派のドラゴンだ。決闘竜の1柱にして、『インフェルニティ』と似た効果を持った強力なモンスター。完全にキースの動きを封殺しようとしている。

 

「バトルだ!オーガ・ドラグーンでダイレクトアタック!煉獄の混沌却火!」

 

「させるか!罠発動!『カウンター・ゲート』!」

 

「甘い、オーガ・ドラグーンの効果でハンドレス状態の場合、魔法、罠の効果を無効にし、破壊!」

 

「ひでぇ奴だよ、ホント。罠発動!『パワー・ウォール』!デッキトップから6枚のカードを墓地に送り、ダメージを0にする!」

 

「デストロイヤーでダイレクトアタック!」

 

「永続罠発動!『闇次元の解放』!除外された『リボルバー・ドラゴン』を特殊召喚!」

 

リボルバー・ドラゴン 攻撃力2600

 

「これを防ぐか……ターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP2500

フィールド『煉獄龍オーガ・ドラグーン』(攻撃表示)『インフェルニティ・デストロイヤー』(攻撃表示)

セット4

手札0

 

「俺のターン、ドロー!全くヤバい布陣を敷いてくれるぜ……『リボルバー・ドラゴン』の効果発動!」

 

「カウンター罠、『インフェルニティバリア』!その発動を無効にし、破壊!」

 

鬼柳が敷いた布陣はオーガ・ドラグーンと『インフェルニティバリア』、2枚の凶悪な防御。このカード達の前ではいくらキースでも動きが封じられる。とんでもない頼もしさだ。思わず遊矢は苦笑してしまう。

 

「魔法カード、『シャッフル・リボーン』!」

 

「オーガ・ドラグーンの効果で無効にする!」

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、オーガ・ドラグーンの効果を無効!」

 

「ッ!」

 

「墓地の『デビルゾア』を蘇生する!」

 

デビルゾア 攻撃力2600

 

「更に『シャッフル・リボーン』を除外、『機甲部隊の最前線』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札0→1

 

「魔法カード、『局所的ハリケーン』!フィールドにセットされた魔法、罠カードをバウンス!」

 

「カウンター罠、『インフェルニティバリア』!」

 

見事な腕前だ。この逆境、限られた手しかない状況で鬼柳の固い布陣を切り抜けて見せた。キース・ハワード、恐ろしいデュエリストがいたものだ。

鬼柳はそんな彼の実力を見てか、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。彼にとっては強敵は望む所、ここからが本当の勝負、キースが畳み掛けるように次の手に移る。

 

「バトルだ!『デビルゾア』でオーガ・ドラグーンへ攻撃!」

 

「デストロイヤーじゃなくオーガ・ドラグーンに……?何がある!?」

 

「答えはコイツだ!罠発動!『メタル化・魔法反射装甲』!『デビルゾア』に攻撃力300アップの装備カードとして装備!更にモンスターに攻撃するダメージ計算時、攻撃対象の攻撃力の半分を吸収!『デビルゾア』の力を解放せよ!」

 

デビルゾア 攻撃力2600→2900→4400

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!こっちもダメージを防いで1枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→1

 

『デビルゾア』の青い体躯が銀の光に包まれ、フィールド全体を照らす勢いで輝き、光が矢となってオーガ・ドラグーンを貫いて串刺しにする。トリシューラもその真価を発揮する前に処理され、オーガ・ドラグーンまで倒されてしまった。本格的に不味いか。

 

「メインフェイズ2、『メタル化・魔法反射装甲』を装備した『デビルゾア』をリリースし、デッキの『メタル・デビルゾア』をリクルートする!」

 

メタル・デビルゾア 攻撃力3000

 

そして『デビルゾア』を包んでいた銀の光が宙に散り、その姿が露となる。機械のパーツで全身をサイボーグへと変化させた鋼鉄の悪魔。これこそが『デビルゾア』の真の姿だ。

『メタル化・魔法反射装甲』を装備したままの方が強いとかは言ってはいけない。これで『シャッフル・リボーン』のデメリットも帳消しとなった。

 

「ターンエンドだぜ」

 

キース・ハワード LP2450

フィールド『メタル・デビルゾア』(攻撃表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!罠発動!『インフェルニティ・インフェルノ』!手札2枚を捨て、デッキから『インフェルニティ』モンスター2体を墓地に!手札から捨てられた『魔轟神獣ケルベラル』を効果で特殊召喚する」

 

魔轟神獣ケルベラル 守備力400

 

「そして墓地に送った『インフェルニティ・ジェネラル』を除外し、墓地の『インフェルニティ・ビートル』と『インフェルニティ・ドワーフ』を効果を無効にして特殊召喚!」

 

インフェルニティ・ビートル 攻撃力1200

 

インフェルニティ・ドワーフ 守備力500

 

現れたのは2本角のカブトムシと斧を手にした木こり。どちらもレベル2、ビートルはチューナーモンスターだ。

 

「そしてレベル6の『インフェルニティ・デストロイヤー』に、レベル2の『インフェルニティ・ビートル』をチューニング!死者と生者、ゼロにて交わりし時、永劫の檻より魔の竜は放たれる!シンクロ召喚!出でよ、『インフェルニティ・デス・ドラゴン』!!」

 

インフェルニティ・デス・ドラゴン 攻撃力3000

 

『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』、『氷結界の龍トリシューラ』、『煉獄龍オーガ・ドラグーン』に続き、4体目、最後の満足竜が解き放たれる。

複眼をギョロギョロと蠢かせ、昆虫のような腕を持った漆黒の竜。満足竜の中では非力な存在であるが、『インフェルニティ』の名を含む事でしか出来ない事もある。

 

「『インフェルニティ・デス・ドラゴン』の効果発動!ハンドレス状態の場合、相手モンスター1体を破壊し、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える!インフェルニティ・デス・ブレス!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外、『メタル・デビルゾア』を対象とするモンスター効果を無効にする!」

 

漆黒の竜の頭部より黒煙が噴き出し、そのままスモークを吸い込んで青い炎に変えて撃ち出す『インフェルニティ・デス・ドラゴン』。超高熱度の攻撃だ、これを受ければ『メタル・デビルゾア』はひとたまりもないだろう。直ぐ様キースは自身の僕の周囲にバリアを展開、炎を弾いて霧散させる。

 

「かわすか、ターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP2500

フィールド『インフェルニティ・デス・ドラゴン』(攻撃表示)『インフェルニティ・ドワーフ』(守備表示)『魔轟神獣ケルベラル』(守備表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『ツインバレル・ドラゴン』3体と『振り子刃の拷問機械』、『可変機獣ガンナードラゴン』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札0→2

 

「3枚目の『鋼鉄の襲撃者』発動!そして『カードガンナー』を召喚!」

 

カードガンナー 攻撃力400

 

次はガラスの頭部から輝くサーチライト、赤い胴体と両腕の大砲、青いキャタピラの下半身を持ったモンスターだ。

 

「効果発動!デッキトップから3枚のカードを墓地に送り、攻撃力を1500アップ!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

「バトルだ!『メタル・デビルゾア』で『インフェルニティ・デス・ドラゴン』へ攻撃!『鋼鉄の襲撃者』の効果で『メタル・デビルゾア』は戦闘破壊されねぇ!メタル・エックス・シザース!」

 

『メタル・デビルゾア』が頭部から伸びる翼を発光、X字のレーザーを発射、デス・ドラゴンの胸部を撃ち抜いて絶命へと至らせる。

 

「『インフェルニティ・リベンジャー』を蘇生!」

 

インフェルニティ・リベンジャー レベル1→8

 

「『カードガンナー』でドワーフへ攻撃!」

 

「ぐっ……!」

 

「メインフェイズ2、墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『カードガンナー』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札0→1

 

「魔法カード、『カップ・オブ・エース』!表だ、2枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札0→2

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP2450

フィールド『メタル・デビルゾア』(攻撃表示)

セット2

『鋼鉄の襲撃者』

手札0

 

襲いかかるキースのマシーンモンスター達を相手に、流石の鬼柳も苦戦を強いられる。いや、これは今のカード群を考えれば力不足が否めない古いカードをここまで使いこなすキースの腕が高いと言った方が正しいだろう。

ただの通常モンスターや召喚条件がキツい『メタル・デビルゾア』が彼の手にかかればとんでもなく強く見える。

4体の満足竜も次々と破壊されてしまった鬼柳と違い、彼の奥の手はまだまだ残っている。

だが――何も鬼柳は、収穫無しに復活した訳ではない。彼も地獄から帰還し、新たな力を得ているのだ。

 

「どうしたどうしたぁ?この程度かよ!」

 

「フッ、面白くなって来やがったぜ……!俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→2

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!リベンジャーをリリースし、2枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札1→3

 

「……墓地の『アマリリース』を除外し、このターン、1度だけアドバンス召喚の為のリリース素材を1体減らす!1体のモンスターをリリース!アドバンス召喚!『DTナイトメア・ハンド』!」

 

DTナイトメア・ハンド 攻撃力0

 

そして――現れたのは、黒き鎧を纏った戦士。上級にも関わらず、攻守0と低いステータスを持っているが、何か特殊な効果を持っているのか。

 

「ダーク、チューナー……?」

 

「そしてこのモンスターの特殊召喚時、手札からレベル2のモンスターを特殊召喚する!来い、『イピリア』!」

 

イピリア 守備力500

 

次に現れたのは白い鬣と髭を生やした青い蜥蜴のようなモンスターだ。

 

「『イピリア』の特殊召喚時、1枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札1→2

 

「2枚のカードをセット!さて……見せてやるよ……シンクロの新たな境地を!俺はレベル2の『イピリア』に、レベル10の『DTナイトメア・ハンド』をダークチューニング!」

 

「ダークチューニングだとぉ!?」

 

バチン、ナイトメア・ハンドが黒い輝きを放つ10の星となって弾け飛び、『イピリア』に埋め込まれ、苦悶の声を上げる。そして『イピリア』が吹き飛び、中より溢れた8つの星が宙に浮かび、竜の星座を描き出す。

そのまま漆黒の肉体がつき、原初の満足竜が、百の眼を覚ます。

 

「漆黒の帳下りし時、冥府の瞳は開かれる。舞い降りろ闇よ!ダークシンクロ!出でよ、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

その姿は、鬼柳が本来持つ、シンクロモンスター、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』と全く同じ。漆黒の体躯を覆う百の眼、雄々しくも醜悪な竜のもの。

されど――この竜が纏う瘴気は、シンクロモンスターだった頃に比べ、凄まじく暗く、黒い。一点の曇りなき闇の存在。真の力を解放した、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』。

ダークシンクロモンスターが今、フィールドに君臨、耳をつんざくようなおぞましい咆哮を放つ。

 

「ダークシンクロモンスター……!?マイナス、レベル8……!?」

 

今までにないカード、ジャックのダブルチューニング、白コナミのアクセルシンクロ、自身のシンクロペンデュラムと似て非なる、シンクロのもう1つの可能性を前にして、遊矢が自然と声を漏らし、唾を呑み込む。

融合、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラムと特異なカードはあれど、マイナスのレベルを持つカードなど聞いた事がない。レベルは無い、だけどある、誰だろうと勝鬨る。

これがシンクロ次元最強の男、鬼柳 京介が新たに得た力。本来、死者にしか扱えぬ冥府の王の祝福、この男はその力を、冥府の王から無理矢理力尽くで奪い取ったのだ。これが――鬼柳 京介。

 

 

「ハ、ハハハハハ!面白いじゃねぇか!まさかこんなレアモノが見れるとはな!全くツイてるぜ!来な!そのダークシンクロとやらの力、俺に見せてみろ!」

 

「さぁ、俺の満足は、これからだ!」

 

竜虎、相討つ。



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第167話 これで……満足したぜ

E―HEROに強化来ましたね。ネオスやD、Vと色々なHEROが強化されて嬉しい限りです。全部混ぜ闇鍋HEROやってみたい……。


シンクロ次元、シティにて――2人の死神がぶつかり合う。鬼柳 京介とキース・ハワード。シンクロ次元と融合次元のデュエリストだ。そのデュエルは、余りにも異様な光景に包まれていた。

キースのフィールドには巨大な機械悪魔、『メタル・デビルゾア』の姿。これは別段おかしくはないだろう。珍しいカードではあるものの、あくまで普通のカードだ。

問題は鬼柳のフィールドに存在するモンスター。

 

マイナスレベル8、負の星を持ったモンスター、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』だ。

シンクロでありながらシンクロではない何か。エクシーズモンスターとはまた違った黒のフレームに包まれた奇怪なカード、ダークシンクロモンスター。

それが真の力を解放したこのカードの正体だ。誰もが圧倒的な存在感を放つこのモンスターに釘付けとなっている。そして、気になるこのモンスターの効果が今、明かされる。

 

「『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の効果……このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、このカードは墓地に存在する全ての『インフェルニティ』モンスターの効果を得る!」

 

「ッ!?」

 

「な、に……!?」

 

全ての『インフェルニティ』モンスターの効果を得る、それはつまり――鬼柳の手札が0である限り、『インフェルニティ・ガーディアン』の戦闘、効果で破壊されない効果、『インフェルニティ・ドワーフ』の全体貫通効果、『インフェルニティ・ネクロマンサー』の蘇生効果、『インフェルニティ・デストロイヤー』の1600のバーンダメージ効果、そして『インフェルニティ・デス・ドラゴン』のモンスター破壊、バーン効果とてんこ盛りである。

幸いなのはこれでも完全体ではなく、完全体でもつけ入る隙はあると言う事か。それでも1体のモンスターにしてはとんでもないカードパワーであるが。これがダークシンクロ、シンクロを超越する力と言う事か。新たに得た力は伊達ではない。

 

「ネクロマンサーの効果を使い、『インフェルニティ・デーモン』を蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

「そして『デーモン』の効果!『インフェルニティ・ミラージュ』をサーチ、リバースカード、『二重召喚』を発動し、召喚!」

 

インフェルニティ・ミラージュ 攻撃力0

 

「このカードを墓地に送り、『インフェルニティ・ネクロマンサー』と『インフェルニティ・デストロイヤー』を蘇生!」

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

インフェルニティ・デストロイヤー 攻撃力2300

 

「ネクロマンサーの効果で『インフェルニティ・リベンジャー』を蘇生!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

「レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』に、レベル1のリベンジャーをチューニング!シンクロ召喚!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

今度は正当なシンクロモンスターの『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』だ。白と黒、全く違った方向性の『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』を使いこなすのは流石と言うべきか。

 

「そして効果でミラージュを除外、コピー!墓地に送り、『デーモン』とネクロマンサーを蘇生!」

 

インフェルニティ・デーモン 攻撃力1800

 

インフェルニティ・ネクロマンサー 守備力2000

 

「『デーモン』の効果で『インフェルニティ・ブレイク』サーチ、セット!そしてネクロマンサーの効果でリベンジャー蘇生!」

 

インフェルニティ・リベンジャー 守備力0

 

「レベル3のネクロマンサーとレベル4の『デーモン』に、レベル1のリベンジャーをチューニング!シンクロ召喚!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

「今度はネクロマンサーをコピー!『インフェルニティ・ビートル』を蘇生!」

 

インフェルニティ・ビートル 守備力0

 

「ビートルをリリース、同名をリクルート!」

 

インフェルニティ・ビートル 守備力0×2

 

「レベル6のデストロイヤーに、レベル2のビートルをチューニング!シンクロ召喚!『煉獄龍オーガ・ドラグーン』!!」

 

煉獄龍オーガ・ドラグーン 攻撃力3000

 

たった1枚から攻撃力3000のモンスターを2体展開、これが『インフェルニティ』の展開力だ。あっという間にピンチをチャンスに変えて来た。

 

「『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の効果!デス・ドラゴンの効果を使い、攻撃権を放棄し、『メタル・デビルゾア』を破壊!」

 

「墓地の『仁王立ち』と『ダメージ・ダイエット』を除外、攻撃を『メタル・デビルゾア』に絞り、効果ダメージを半分にする!」

 

キース・ハワード LP2450→1700

 

「リバースカード、オープン!魔法カード、『シンクロ・クリード』!シンクロモンスターが3体以上存在する事で2枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→2

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換し、カードをセット、ターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP2500

フィールド『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』(攻撃表示)×2『煉獄龍オーガ・ドラグーン』(攻撃表示)『インフェルニティ・ビートル』(守備表示)

セット3

手札0

 

「俺様のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『針虫の巣窟』。デッキトップから5枚のカードを墓地へ送るぜ」

 

「俺はこのままターンエンドするぜ」

 

「罠発動!『インフェルニティ・ブレイク』!墓地の『インフェルニティ・インフェルノ』を除外し、『鋼鉄の襲撃者』を破壊!」

 

キース・ハワード LP1700

フィールド

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『サンダー・ブレイク』!手札を1枚捨て、オーガ・ドラグーンを破壊!」

 

「チ、カードを1枚セット、バトルだ!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』でダイレクトアタック!インフィニティ・サイト・ストリーム!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の百の眼が赤く発光、身体中の光がそのアギトに集束し、闇の瘴気と混ざり合って撃ち出される。圧倒的な熱量が襲いかからんとしたその時、キースのフィールドに光の剣が突き刺さり、壁となる。

 

「ターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP2500

フィールド『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』(攻撃表示)×2『インフェルニティ・ビートル』(守備表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『一時休戦』!互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0に!」

 

キース・ハワード 手札0→1

 

鬼柳・京介 手札0→1

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP1700

フィールド

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『サイクロン』!セットカードを破壊だ!」

 

「チッ、なら片方のカードを発動!罠発動!『貪欲な瓶』!墓地の『鋼鉄の襲撃者』2枚、『命削りの宝札』2枚、『一時休戦』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札0→1

 

「ターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP2500

フィールド『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』(攻撃表示)×2『インフィニティ・ビートル』(守備表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『一時休戦』!まだまだ休ませてもらうぜ!」

 

キース・ハワード 手札1→2

 

鬼柳 京介 手札1→2

 

「長期戦に持ち込むつもりか……」

 

2連続で『一時休戦』、一時、とは思えない程の休憩を取るキース。これである程度回復を許してしまった。

 

「魔法カード、『カップ・オブ・エース』!クク、表だ、2枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札1→3

 

「来た来た……魔法カード、『オーバーロード・フュージョン』!墓地の『リボルバー・ドラゴン』と『ブローバック・ドラゴン』を除外、融合!融合召喚!『ガトリング・ドラゴン』!!」

 

ガトリング・ドラゴン 攻撃力2800

 

融合召喚、キースの背後に青とオレンジの渦が広がり、回転式と自動式、2丁の拳銃の頭を持った機械竜が現れ、吸い込まれる。

そして閃光が炸裂、中よりガトリング砲の頭部と両腕を持ち、下半身が車輪と化した戦車のようなモンスターが姿を見せる。彼が持つ切り札の1枚だ。ここに来て勝負に出たらしい。

 

「効果発動!3度コイントスを行い、表の数だけフィールドのモンスターを破壊!結果は――3回表!2体の『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』と『インフィニティ・ビートル』を破壊!」

 

またも3回連続表、コインが弾丸となってガトリング砲に装填され、鬼柳のフィールドのモンスターに放たれ蜂の巣にする。

この豪運、何かがおかしい。鬼柳が眼を細め、キースを観察したその時、ユラリ、と彼の背後の空間が歪む。

 

「ッ!?2体の『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』が破壊された事で、デッキから特定の2枚をサーチする!」

 

何かがおかしい。何かがある。ルールに触れない、デュエルディスクにも反応しない、高度なレベルで――キースはこのデュエルに何かを仕組んでいる。鬼柳は確信し、キースの動作を見逃すまいと更に観察する。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP1700

フィールド『ガトリング・ドラゴン』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ギャラクシー・サイクロン』!セットカードを破壊だ!」

 

「破壊されたのは罠カード、『運命の発掘』!墓地に3枚存在する事で、3枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札0→3

 

「やぶ蛇か、ならフィールド魔法をセット、今度はこれだ!魔法カード、『死者蘇生』!」

 

「カウンター罠、『魔宮の賄賂』!魔法、罠の発動を無効にし、相手は1枚ドローする!」

 

鬼柳 京介 手札2→3

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』2体、オーガ・ドラグーン、デストロイヤー、ナイトメア・ハンドをデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札2→4

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換し、罠発動!『極限への衝動』!手札2枚を墓地へ送り、2体の『ソウルトークン』を特殊召喚する!」

 

ソウルトークン 守備力0

 

「フィールド魔法、『ダーク・アリーナ』を発動!そして2体のトークンと俺の満足を生け贄に、降臨せよ!」

 

カッ、鬼柳の腕から青い光が放たれ、光が線となって巨人の絵を描き出す。まるでそれはナスカの地上絵。圧倒的な闇の力、冥府の王の加護を受けて尚、鬼柳はそれを容易く御し、自らのものとする。奪い取ったのは――ダークシンクロだけにあらず。宙に心臓のように脈打つ物体が浮き、内部から盛大に破裂する。

 

「『地縛神CcapacApu』!!」

 

地縛神CcapacApu 攻撃力3000

 

君臨せし、地に縛られし邪神。黒き巨影に青い光を宿らせた人型のモンスター。あのセルゲイも使っていた、『地縛神』――だが、彼のものとは違い、このカードは正真正銘、本物の『地縛神』。その証拠に、空気を押し潰すかのような重圧が、この場を襲う。

相手取り、充分にその脅威を知る遊矢ですら眼を見開いて驚愕する。これが鬼柳 京介の新たな切り札。人々の魂の代償として、鬼柳の溢れんばかりの満足を捧げて顕現する満足の神。『地縛神』、敵となれば恐ろしいが、味方となればこれ以上に頼れる背中はないだろう。

 

「何だ……そのモンスターは!?」

 

「モンスターじゃねぇ!神だ!やれ、CcapacApu!『ガトリング・ドラゴン』へ攻撃!」

 

振り抜かれる豪腕、襲いかかる魔の手が『ガトリング・ドラゴン』を滅茶苦茶に押し潰し、あっという間にスクラップに変える。凄まじい衝撃、駆け抜ける土煙とひび割れた大地がこのカードがただのモンスターでは無い事を物語っている。

邪神とは言え、神は神。デュエルモンスターズでも最高位に位置する存在だ。本物の神には劣るものの、格では三沢の三幻魔と同等だろう。

 

「だがっ、俺のマシーンモンスターが破壊された事で、手札の『デスぺラード・リボルバー・ドラゴン』を特殊召喚する!!」

 

デスぺラード・リボルバー・ドラゴン 攻撃力2800

 

しかし、キースも負けてはいない。スクラップとなった『ガトリング・ドラゴン』の中から黒光りする銃口が伸び、その姿を晒す。現れたのはキース・ハワードの真の切り札。鋼の翼と鱗を持つ、『リボルバー・ドラゴン』の強化形態だ。

 

「更にこいつの効果発動!3回コイントスを行い、表が出た数までフィールドの表側表示モンスターを選んで破壊!」

 

ここでまたもコイントスを行い効果、しかも『ガトリング・ドラゴン』と違い、自爆の可能性も無い。キースが仕組む何かを見抜く為、鬼柳はキースの方向へと視線を移す。その間にソリッドビジョンで作られた3枚のコインが宙を舞い、瞬間、彼の背後の空間が歪み、黒いローブを纏い、大鎌を持った骸骨が現れる。その姿は――正に死神。

 

「ほう、見抜いたか、こいつを……!」

 

「な、し、死神……!?」

 

キースがイカサマを見抜かれた事で僅かに眼を見開いて感心の様子を見せ、遊矢が現実離れした光景に驚愕する。

無理もない。キースの背後にいるのは正真正銘、空想の中で存在する死神なのだ。

 

「どうやら……テメェがポンポンとコイントスで当たりを出していたのはそいつのお蔭らしいなぁ」

 

「バレちゃ仕方ねぇ、聞いた事はねぇか?カードの死神の噂を……」

 

「……都市伝説か何かか?確か、契約すればデュエルでツキをくれるみたいな奴だったか」

 

カードの死神。それは契約すればデュエル中、あらゆうツキをもたらすと言う都市伝説のような存在。それがキースに取り憑き、力を貸していたと言うのだ。まさか本当に存在するとは、と余りその手の話に興味がない鬼柳が死神を見つめる。

 

「イカサマだったのか……!?」

 

「ハッ、デュエルディスクが反応しないならイカサマじゃねぇよ!運命力と言ってもらいたいね」

 

呆れる遊矢に対し、開き直るキース。とは言えキースの言う事も一理ある。これはイカサマと言うには少々グレーゾーンな所がある。何せ同じような事例を遊矢は知っているのだから。と言うかこの場にいる自身はユートやティモシーの力を借りているし、鬼柳は冥界の力を使っている。文句を言って良いものか。

 

「まぁ……そいつがいなくても結果は変わらねぇみたいだがな」

 

「その通りぃ!墓地の『銃砲撃』を除外し、コイントスの結果を全て表にする!」

 

最後のイカサマ、最後の足掻き、運ではなく戦略を持って最上の結果を導いて見せた。最初からやれば良いのに。

 

「そしてCcapacApuを破壊!コイントスが全て表となった事で、更に1枚ドロー!」

 

キース・ハワード 手札2→3

 

デスぺラードの頭部の銃口から一発の弾丸が放たれ、CcapacApuの胸部を撃ち抜き、ドパァッと黒い液体となって崩れ落ちる。神を殺す銃砲撃。これこそキースの切り札だ。

 

「こいつも倒されるとはな……ターンエンドだ」

 

鬼柳 京介 LP2500

フィールド

セット1

『ダーク・アリーナ』

手札0

 

「フハハハハ!俺様のターン、ドロー!魔法カード、『古のルール』!手札の『TMー1ランチャースパイダー』を特殊召喚する!」

 

TMー1ランチャースパイダー 攻撃力2200

 

現れたのはキースのマシーンモンスターの1体、赤い頭部に緑の身体、背にミサイルポッドを負った機械グモだ。上級にしては攻撃力が低く、闇属性ではないが、キースの愛用する1枚だ。デスぺラードと並び、その巨体で鬼柳を威圧する。

 

「バトルだ!デスぺラードでダイレクトアタック!」

 

「させっかよ!罠発動!『カウンター・ゲート』!1枚ドロー!」

 

鬼柳 京介 手札0→1

 

「引いたカードは『インフィニティ・ネクロマンサー』!召喚する!」

 

インフィニティ・ネクロマンサー 攻撃力0

 

「召喚時、守備表示に変更!」

 

「ならそいつに攻撃!」

 

「墓地の『インフィニティ・リベンジャー』の効果でこいつを蘇生!」

 

インフィニティ・リベンジャー 守備力0 レベル1→3

 

「この野郎……!ランチャースパイダーで追撃!ショック・ロケット・アタック!」

 

デスぺラードの3つの銃口から放たれる弾丸がネクロマンサーを撃ち、ランチャースパイダーのミサイルポッドから数多のミサイルが降り注ぎ、リベンジャーを消し炭へと変える。恐るべき機械兵器軍団。鬼柳も何とかダメージを逃れるが、このままでは不味い。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

キース・ハワード LP1700

フィールド『デスぺラード・リボルバー・ドラゴン』(攻撃表示)『TMー1ランチャースパイダー』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『復活の福音』!墓地よりダークシンクロモンスター、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』を蘇生!!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン 攻撃力3000

 

ダークシンクロモンスターはマイナスのレベルを持っているが、自身のダークシンクロ時以外にルール上は特に変わりはない。レベルは勿論、シンクロモンスターとしても扱うのだ。

 

「そしてネクロマンサーの効果をコピーし、発動!」

 

「させるかよ!罠発動!『無限泡影』!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の効果を無効にする!」

 

「ならバトルだ!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』で『デスぺラード・リボルバー・ドラゴン』を攻撃!」

 

「甘い!デスぺラードの効果発動!墓地の『銃砲撃』を除外、3回表に!撃ち抜けぇっ!」

 

キース・ハワード 手札0→1

 

ガチャリ、デスぺラードの引き金が引かれ、頭部と両腕のリボルバーから放たれる銃弾が高速で『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』へ襲いかかり、爆発を引き起こす。フィールドを覆う黒煙、凄まじい両者の駆け引きの先に――黒煙を裂き、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』が無傷の姿を見せる。

 

「ッ!『インフィニティ・ガーディアン』の耐性も奪った筈だがなっ!イカサマしてんじゃねぇぞ!」

 

「テメェが言うな!墓地の『復活の福音』を除外し、破壊を防いだだけだ!さぁ行け!『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』!」

 

ギラリ、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の百の眼が赤く発光し、光がアギトへ集束、漆黒の波動となって撃ち出される。極太の熱線、圧倒的なエネルギーがデスぺラードを呑み込む前に――。

 

「手札の『工作列車シグナル・レッド』の効果発動!こいつを特殊召喚し、1度の戦闘耐性を与え、攻撃を移し替える!」

 

工作列車シグナル・レッド 守備力1300

 

デスぺラードの効果で引いた1枚が、彼の切り札を危機から救う。何と言う豪運、死神等いなくても、この男は幸運の女神に取り憑かれているのではないか。

一瞬の攻防で繰り広げらる駆け引きの連続、めまぐるしく回るカード効果の応酬に遊矢が魅せられる。

 

「ターンエンドだ……!」

 

鬼柳 京介 LP2500

フィールド『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』(攻撃表示)

『ダーク・アリーナ』

手札0

 

だが鬼柳のフィールドに存在するのはあのダークシンクロモンスター、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』だ。全ての『インフィニティ』の能力を引き継ぐ究極の満足竜。デスぺラードであっても手出しは出来ないだろう。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

その考えを踏み潰すように――。

 

「俺のフィールドのモンスターを全てリリース!」

 

その魔物は、フィールドに君臨する。

 

「現れろ、『真魔獣ガーゼット』!」

 

真魔獣ガーゼット 攻撃力0→6000

 

現れたのは偉大にして絶大な魔神の皇帝。雄々しい翼を広げ、骨格の鎧を纏いし巨大な赤の悪魔。巨体だけならば鬼柳の『地縛神』にも匹敵し、その攻撃力は何と2倍、ここに来て攻撃力6000、キースの奥の手が飛び出した。

 

「嘘、だろ……!?」

 

「……ハッ、満足させてくれるぜ……!」

 

確かに『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』は戦闘、効果で破壊されない『インフィニティ・ガーディアン』の効果を引き継いでいる。されど鬼柳は別、攻撃力を越えさえすればダメージを与えて勝利は可能。至極単純明快な攻略法で、キースは鬼柳の予想を超えて見せた。

 

「バトル!ガーゼットで『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』へ攻撃!更にだめ押しだ!罠発動!『メタル化・魔法反射装甲』!」

 

ここでだめ押しのメタル化が発動され、ガーゼットが更なる進化を遂げる。恐ろしき悪魔の肉体が、鋼鉄のボディ、超合金へと変わり、見た目が大きく変化。

頭は白い骸骨のようなものとなり、頭頂部と側頭部から計3本の角が伸び、身体は黒い機械のものに、胸に赤いV字のパーツを、背からは悪魔を思わせる真っ赤な双翼が広がっていく。

これこそがガーゼットの真の姿、真魔神Z。キースはロボット化したガーゼットに搭乗し、デュエルディスクを操作して必殺のロケットパンチを放つ。

 

「これで、終わりだぁッ!」

 

迫る巨大な鉄拳、圧倒的な質量と重圧を持って『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』ごと鬼柳を押し潰そうとする。リバースカード無し、手札0、このままでは――鬼柳のLPが削り取られる。

 

「ッ!鬼柳さん!」

 

遊矢の叫びも空しく――拳は全てを破壊し尽くす。まるで天空から降り注ぐ隕石のように、天災を超えし宇宙からの災害の如く。地へと命中、激しき轟音と共に砂塵を巻き上げる突風が吹き荒れる。

 

真魔獣ガーゼット 攻撃力6000→6300→7800

 

鬼柳 京介 LP2500→0

 

0を刻むLP、負けた――?徳松に続き、この男は、シンクロ次元最強の男を、冥界の力を新たに得た鬼柳を倒したと言うのか。信じられない光景、最悪の事態が遊矢の脳裏に過る。

 

「クク、ハハハハハ!これでリーチだ!さぁ、次はお前だ榊 遊矢!テメェを潰してボーナスをたんまりともらうとしようか!」

 

この男も鬼柳の実力を充分に理解しているのだろう。倒した事で、思わずといった笑い声を溢し、次の獲物、遊矢に視線を移す。

が――何かが、おかしい。

 

「……あん?どう言う事だこりゃあ……ソリッドビジョンが、解除されねぇ……?」

 

そう、どう言う訳か、デュエルが終わったと言うのに、ソリッドビジョンによって実体化しているモンスター達やフィールドが解除されていないのだ。デュエルディスクの故障?いや、アカデミアのディスクはスタンダードのものにも負けぬ程の最先端のものだ。考えにくい。なら何故――とキースが訝しむ中、土煙の中から鮮やかな赤の光が放たれる。

 

「何勝手に終わらせようとしてやがる……?」

 

「ッ!?」

 

響き渡る声を皮切りに、赤の光が土煙を切り裂き、景色を晴らす。馬鹿な、とキースが呆然とするも、事実としてそのありえぬ光景は目の前にあった。

土煙の中より姿を見せしは自身がたった今下した筈のデュエリストとモンスター。黒い体躯に百の眼を蠢かせる不気味なドラゴン。そしてチームサティスファクションのリーダー、鬼柳 京介。

 

「俺はまだまだ満足してねぇって言うのによぉっ!!」

 

その男のLPは、0を刻んでいる。刻んでいる筈なのに――死んではいない。あり得ない、キースの背後にいる死神でさえも戦慄する光景、本物の死神さえも恐怖させる人間。何が起こっているのか、その謎に最も早く気づいたのは遊矢だった。

彼はコナミから聞いていた。鬼柳と言うデュエリストと出会い、デュエルをしたと言う話を。そのデュエルの最中、鬼柳が繰り出したカードの数々を。LPが0になって敗北を受け入れぬ死神のカードを。

 

「……『インフェルニティ・ゼロ』……!」

 

ニヤリ、鬼柳の口元が死神の鎌の如く弧を描く。

 

「そう……『インフェルニティ・ゼロ』はフィールドに存在する限り、俺はLPが0でも敗北せず、ダメージを受ける度にゼロへとデスカウンターを乗せる」

 

「馬鹿な!そんなモンスター、フィールドには……!?そう、かっ!」

 

キースの言う通り、〟フィールドには〝『インフェルニティ・ゼロ』の姿はない。あるのは、ダークシンクロモンスター、『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』の姿のみ。

 

「気づいたようだな。そう……俺のフィールドにいるのは、フィールド上に存在する限り、〟墓地の『インフェルニティ』モンスターの〝効果を得る『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン』だけだ。つまり」

 

「既に、『インフェルニティ・ゼロ』を墓地に送り、効果をコピーしていたってのか……っ!」

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン デスカウンター0→1

 

「イカサマなんて言うなよ?俺が仕組んだのは、デュエルの中でだけだ」

 

「このっ……死神がぁっ……!ターン、エンドだ……!」

 

キース・ハワード LP1700

フィールド『真魔獣ガーゼット』(攻撃表示)

『メタル化・魔法反射装甲』

手札0

 

最早、勝敗は決した。

 

「俺のターン、ドロー。カードをセット、『インフェルニティ・デス・ドラゴン』の効果を使い、ガーゼットを破壊、その攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

キース・ハワード LP1700→0

 

勝者、鬼柳 京介――。

 

――――――

 

シティにてぶつかり合う強者達。多くのデュエリスト達が次元を超え、闘う中、ここ、遊矢やランサーズの皆と離れた噴水広場付近でもまた、アカデミアの刺客、オベリスク・フォースを退けている者がいた。

ユート、三沢と柚子、そして瑠璃だ。彼等に合流した月影と零羅も含め、5人のデュエリストがオベリスク・フォース達が最も集う最前線を維持していた。

何故ここにばかり敵が来るか。それはやはり、柚子と瑠璃の2人が狙いだろう。突如やって来た暴風と三沢の三幻魔の力によって何とか事なきを得ているが、オベリスク・フォースの数が減る気配がない。

 

「面倒な……!」

 

「しかし数は減っている筈!」

 

そんな中、この場へと、彼が姿を見せる。トン、とまるで空から降って来たかように軽やかな足取りで靴で地を叩いて降り立ち、水色の髪を後ろで一括りにして、幼さを感じさせる少年――その姿を見て、瑠璃以外の5人が瞠目、特に反応が大きいのは柚子だ。彼女はゴクリと白い喉を鳴らし彼の名を呼ぶ。

 

「……素良……!」

 

紫雲院 素良。かつて、遊勝塾で共に励み、共に笑い合った仲間。そして何より、柚子に融合召喚を教えた師。

 

「……久し振りだね、柚子」

 

ガリッ、懐から取り出した棒つきのキャンディーに齧りつき、彼は柚子に視線を移す。かつての笑みはそこにはない。遊勝塾にいた彼は、ここにはいない。

ここにいるのは、アカデミアに所属する融合次元のデュエリスト、紫雲院 素良だ。

 

「そして……隣にいるのは瑠璃かな?悪いけど、アカデミアに来て貰うよ……プロフェッサーからの指令なんだ」

 

カチャリと左腕に装着した、アカデミア特有の盾の形をしたデュエルディスクより、光輝く剣状のプレートを展開、明らかな敵意を剥き出しにする。

 

「させると思っているのか?」

 

そんな彼を見て、当然のようにユートが彼女を守ろうと前に出てデュエルディスクを構える。折角助け出したのに、保護出来たのに捕らえられては堪らない。そう考えての行動だったのだが――そんなユートを制し、柚子が気丈にも素良の前に飛び出す。

 

「ッ!?お、おい!」

 

「良いわよ」

 

「はぁ!?」

 

自らを拐おうとする素良を前にして、柚子は覚悟を決めた表情で素良に向かい合う。この返事は流石の素良も予想していなかったのか、目をパチクリと瞬かせる。

 

「ただし、私が勝ったら、〟遊勝塾〝に戻ってもらう!」

 

ガチャリ、デュエルディスクを構え、光のプレートを展開する柚子。そう、彼女は自分自身を賭け、素良を取り戻そうとしているのだ。何と言う覚悟、そのどこか遊矢を思い起こさせる豪胆さに素良は一瞬息を呑み、ギリ、と歯軋りを鳴らす。

 

「……君達って、何でそうまで……!悪いけど、僕は遊勝塾に帰る気なんてない!そんな考え出来ないように、噛み砕いて上げるよ!」

 

「なら私は、貴方を引き摺ってでも連れて帰る!覚悟しなさい!私は遊矢みたいに甘くないわよ!」

 

師と弟子、互いの意地を賭け、今ぶつかり合う。

 

「「デュエル!!」」




この作品のダークシンクロモンスターはタッグフォース版のものを採用しております。
ゲーム内ではルール上、ダークシンクロ時以外はレベルは正の数値として扱っていて、他のシンクロモンスターと変わらないカードとして処理されていたのでその辺も流用しています。
例 マイナスレベル8のダークシンクロ版ワンハンドレッドの負の数値の筈のレベルを下げて(上げて?)レベル・スティーラー蘇生
例2 シンクロキラー、機皇帝……このモンスターに対抗すべき答えを、俺はアクセルシンクロやダブルチューニング、サイバー流以外に見つけた!ダークシンクロォ!
グランエル「いただきまーすw」
次回更新は10月頃を予定してます。


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第168話 キャンディー舐めながらだって僕には出来る!

お待たせしました。更新再開です。
ギリギリ10月だから許してね。


鬼柳がキースを退けた後、体力を回復した遊矢は徳松を鬼柳に任せ、シティを駆けていた。目的は、柚子達との合流。

アカデミア達は今まで瑠璃やリンを狙って来た。ならば柚子を拐おうとするだろう。また彼女を失うのはごめんだ。

何も出来ないまま自分の無力さだけを痛感させられる程心苦しいものはない。だから、今度こそは急いでいたのだが――そんな彼の前に、彼と因縁深い人物が現れ、急ブレーキで停止する。

 

「ッ!?」

 

「久し振りだな、少年よ」

 

馬鹿な、何故、どうしてこの男がここに。と、脳裏に疑問が過るが、直ぐ様にその理由は導き出される。この男が、アカデミアの人間だからだ。融合次元のデュエリストだからだ。

青い髪をオールバックに流し、左眼の眼帯と、胸にある大きな傷が特徴的な大男、バレット。それが、この男の名。

 

かつて遊矢と権現坂の2人を相手に互角以上の激闘を繰り広げ、彼のデュエルに多大な影響を与えた勲章もののデュエリストだ。

遊矢が今尚、父、榊 遊勝と並んで尊敬し、その実力を恐れる人物でもある。その力は、あのジャック・アトラスにも匹敵、あるいは超えるだろう。

 

「バレットさん……!」

 

「良い顔つきだ。男子三日会わざれば刮目して見よ、とは良く言ったものだな。最後に会ったあの時とは比べ物にならない程成長しているように見える。己の限界に何度もぶつかり、殻を破って来たか」

 

フ、と薄く笑い、あの時と、遊矢達と過ごしてきた時と同じ、優しげな眼差しを向けるバレット。だからこそ、戸惑う。この男が、こんなにも優しい顔が出来る男が、何故アカデミアにいるのかと。

 

「セレナ様は元気か?」

 

「……うん、元気だよ。元気過ぎる位だ」

 

「……そうか、ああ見えて寂しがりやな所がある御方だ。気丈に振る舞う事もあるが、元気だと言うなら、心配は無さそうだな」

 

「……バレットさん、そろそろ本題に入ってくれ。悪いけど、急いでるんだ。何もセレナの様子を聞きに来た訳じゃないんだろう?」

 

目を閉じ、想いを馳せるバレットへ、苦なようだが鋭い視線を投げつける遊矢。バレットはそんな彼に対して「そうだったな」と申し訳なさそうに苦笑する。彼も遊矢の目的を僅かながら察しているのだろう。

 

「では本題に入ろう、急いでいる所申し訳ないが――榊 遊矢」

 

瞬間、突如として彼の纏う雰囲気が180度変化する。具体的には、人当たりの良い温厚な人物から、威圧的で強者の闘気を漂わせる軍人、アカデミアのデュエリストへと。盾型のデュエルディスクを構え、剣状のプレートを展開する。

 

「デュエルだ。全てを見捨てず、掴み取るならば――私程度、乗り越えて見せろ」

 

ゴウッ、途端に彼を中心に闘気が逆巻き、突風が吹き荒れる。目の前に立ち塞がるは、余りにも高く険しい壁。アカデミアの幹部、バレット。思わず息を呑む遊矢。

だが――ここで止まる訳にはいかない。彼に対し、背を見せたくはない。時が来たのだ、彼と、1対1で闘う時が。

 

「そう来るとは思ってた!」

 

『アクションフィールド、展開』

 

「「デュエル!!」」

 

――――――

 

時を同じくして――遊矢とバレットがデュエルを始めた中、柚子もまた、素良と向かい合い、対峙していた。賭けられたのは互いと言う分かりやすいデュエル。先攻は柚子だ。彼女はデッキより5枚のカードを引き抜き、その中の1枚をデュエルディスクに叩きつける。

 

「まずは永続魔法、『補給部隊』!1ターンに1度、私のモンスターが破壊された時、1枚ドローする!」

 

「手札増強カードか……」

 

「貴方が教えてくれた事よ、素良。融合召喚で闘うなら、手札を確保する手段を持つのは当然だって」

 

「……」

 

そう、融合はその性質上、手札の消費が激しくなる傾向にある。だからこうした手札強化系のカードを持っているべきと言う事を――彼女は、素良から学んだ。

 

「そしてモンスターをセット、カードを1枚セットしてターンエンドよ」

 

柊 柚子 LP4000

フィールド セットモンスター

『補給部隊』セット1

手札2

 

「僕のターン、ドロー!ふぅん?まぁまぁの出だしって所かな?『エッジインプ・ソウ』を召喚!」

 

エッジインプ・ソウ 攻撃力500

 

現れたのは彼のデッキに投入されている3つのカテゴリの内1つ、『エッジインプ』の名を持つモンスター。鋭い銀の刃を煌めかせ、金具の奥から覗く赤い眼が鈍く光る。

 

「召喚時、手札の『ファーニマル』モンスター1体を墓地に送り、2枚ドロー!その後、手札1枚をデッキトップに送るよ!」

 

紫雲院 素良 手札4→6→5

 

「そして永続魔法、『トイポット』発動!手札1枚を墓地に送り、1枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札3→4

 

素良のフィールドに巨大なカプセルトイが出現、手札と言うコインを投入され、スイッチが回転、カエルの舌を思わせる滑り台を転がり、カプセルが飛び出してその中が開く。

 

「引いたカードは『ファーニマル・ラビット』!『ファーニマル』モンスターの為、手札のモンスターを特殊召喚!勿論『ファーニマル・ラビット』を特殊召喚!」

 

ファーニマル・ラビット 守備力1200

 

飛び出したのはウサギのぬいぐるみに天使の翼を伸ばした可愛らしいモンスター。これで素良のフィールドには『ファーニマル』モンスターと『エッジインプ』モンスターが揃った。後は1枚、彼の、彼等の戦術を代表するカード。

 

「魔法カード、『置換融合』!」

 

「ッ、来た……!」

 

この『融合』魔法だ。

 

「融合召喚!現れ出ちゃえ!自由を奪い闇に引き込む海の魔物!『デストーイ・ハーケン・クラーケン』!」

 

デストーイ・ハーケン・クラーケン 攻撃力2200

 

素良の背後に青とオレンジの渦が広がり、兎の天使とソーサーの悪魔が混ざり合い、新たな姿を得てフィールドに現れる。

頭部に3本の鎌を生やし、十本の脚からも鋭い鎌を伸ばした紫色のイカ型のモンスター。ギラリと歯が並ぶ口の中より赤い眼が不気味に輝き、柚子を射抜く。

 

「ラビットの効果でベアを回収、手札の『サンダー・ドラゴン』を捨て、同名を2枚サーチ、そして魔法カード、『手札抹殺』!互いに手札を捨て、捨てた枚数をドロー!バトル!ハーケン・クラーケンでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『幻奏の歌姫ソロ』!戦闘破壊された事でデッキから『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』をリクルートし、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600

 

柊 柚子 手札2→3

 

ソロが破壊された事で柚子のフィールドに光の柱が上り、閃光を引き裂き、中から赤いドレスを纏った天使が姿を見せる。『幻奏』の最上級モンスター。融合召喚を会得する以前は柚子のエースであり、今尚愛用されている1枚だ。攻撃力は2600、ハーケン・クラーケンは2回攻撃が可能であるが、これでは柚子まで届かない。

 

「メインフェイズ2、戦闘を行ったハーケン・クラーケンは守備表示となり

効果発動!プロディジー・モーツァルトを墓地に送る!」

 

「ッ!」

 

だがハーケン・クラーケンにはもう1つ効果がある。破壊を通さぬ墓地送り、強力な効果だ。守備力も高く、そう簡単には突破は出来ない。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだよ」

 

紫雲院 素良 LP4000

フィールド『デストーイ・ハーケン・クラーケン』(守備表示)

『トイポット』セット2

手札1

 

「私のターン、ドロー!プロディジー・モーツァルトが……!魔法カード、『強欲で金満な壺』!エクストラデッキから6枚のカードを除外し、2枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札3→5

 

「永続魔法、『神の居城ーヴァルハラ』を発動!1ターンに1度、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、手札の天使族モンスター1体を特殊召喚出来る!来て!『幻奏の音姫ローリイット・フランソワ』!」

 

幻奏の音姫ローリイット・フランソワ 攻撃力2300

 

空中に出現した光の鍵盤を弾き、美しき音色を奏でるのは紫のドレスを纏い、腰から蝶の羽を思わせる翼を広げた上級天使。攻撃力こそプロディジー・モーツァルトに劣るが、その効果は負けてはいない。

 

「そしてフィールドに『幻奏』モンスターが存在する事で、手札の『幻奏の音女カノン』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女カノン 攻撃力1400

 

「バトルよ!『幻奏の音女カノン』でハーケン・クラーケンへ攻撃!ダメージ計算時、手札の『幻奏の音女スコア』を墓地に送る事で、『幻奏』モンスターと戦闘を行うハーケン・クラーケンの攻守を0にする!」

 

デストーイ・ハーケン・クラーケン 守備力3000→0

 

カノンとスコアの歌声が重なり、響き合って『デストーイ・ハーケン・クラーケン』の刃を砕き、絹を裂いて真綿が飛び出す。見事な手腕で素良のモンスターを容易く倒した。彼女もまた多くの激闘を経、成長している。

 

「ローリイット・フランソワでダイレクトアタック!」

 

「速攻魔法、『スケープ・ゴート』!4体の『羊トークン』を呼び出す!」

 

羊トークン 守備力0×4

 

ローリイット・フランソワの音色が迫る最中、素良が後ろに飛び退きながらリバースカードをオープン、ソリッドビジョンのカードの中からボンと白煙を出して4体のカラフルな羊が飛び出し、行く手を遮る。遊矢の『カバー・カーニバル』と似たトークン生成カード。可愛らしい羊の姿も相まって彼らしいカードと言える。

 

「やっぱりこれ位は止めて来るのね……『羊トークン』1体へ攻撃、メインフェイズ2、ローリイット・フランソワの効果で墓地のスコアを回収、カノンの効果で自身を守備表示に変更し、カードをセット、ターンエンドよ」

 

柊 柚子 LP4000

フィールド『幻奏の音姫ローリイット・フランソワ』(攻撃表示)『幻奏の音女カノン』(守備表示)

『神の居城ーヴァルハラ』『補給部隊』セット2

手札2

 

思った以上に柚子が成長している。油断は出来ない。彼女の手札にはローリイット・フランソワによって回収されてスコアがあり、公開されている事で逆に素良へプレッシャーをかけている。さて、どうするか。

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップから10枚除外し、2枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札1→3

 

「罠発動、『融合準備』!」

 

「速攻魔法、『おろかな転生』!貴方の墓地の『置換融合』をデッキに戻す!」

 

「チッ、『デストーイ・チェーン・シープ』を公開し、『エッジインプ・チェーン』をデッキから手札に加える!『トイポット』の効果!手札を墓地に送り、1枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札3→4

 

「引いたカードは『ファーニマル・ライオ』!特殊召喚!」

 

ファーニマル・ライオ 攻撃力1600

 

次は羽と鬣を伸ばしたライオンのぬいぐるみ。他の『ファーニマル』と違い、下級アタッカーとしての運用が求められる1枚だ。

 

「更にチェーンが手札、フィールドから墓地に送られた事でデッキから『魔玩具補綴』をサーチ、発動!デッキから『置換融合』と『エッジインプ・シザー』をサーチする!」

 

「一気に2枚のサーチ……!」

 

分かりやすいパワーカードだ。これで素良の手札は4枚、素良は柚子を警戒しているようだが、柚子も彼の回復力を脅威に思っている。そしてサーチされたのは『エッジインプ・シザー』。少々素材が心許ないが、仕掛けて来るか。

 

「『エッジインプ・シザー』を召喚!」

 

エッジインプ・シザー 攻撃力1200

 

現れるハサミを束ね、鋭い刃を輝かせる赤い眼の悪魔。今悪魔の意志がぬいぐるみへと取り憑き、柚子のモンスターを呪う。

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールドの『ファーニマル・ライオ』と『エッジインプ・シザー』で融合!牙剥く野獣よ!悪魔の爪よ!神秘の渦で1つになりて、新たな力と姿を見せよ!融合召喚!現れ出ちゃえ!全てを引き裂く密林の魔獣!『デストーイ・シザー・タイガー』!」

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力1900→2200

 

柚子の予想通り、現れたのは水色と黒の縞模様の胴体、腕にハサミを切り込ませて各部を繋いだ虎のモンスター。鋭い牙が並ぶ口から赤い悪魔の眼が蠢く。素良が持つ融合モンスターの中でも特に危険なカードだ。

 

「シザー・タイガーの融合召喚時、素材となった数まで相手フィールドのカードを破壊!ローリイット・フランソワとカノンには消えて貰うよ!」

 

柊 柚子 手札2→3

 

シザー・タイガーの腹のハサミが光を帯びて巨大化し、柚子のモンスターを纏めて切り裂く。多少強引だが、これでスコアの効果も使えなくなった。

 

「墓地の『置換融合』を除外、ハーケン・クラーケンを墓地からエクトラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札3→4

 

「まだだよ、手札1枚をデッキトップに戻し、墓地の『エッジインプ・シザー』を守備表示で特殊召喚!」

 

エッジインプ・シザー 守備力800

 

「そして『置換融合』を発動!フィールドの『デストーイ・シザー・タイガー』と『エッジインプ・シザー』で融合!融合召喚!現れ出ちゃえ!全てに牙剥く魔境の猛獣、『デストーイ・サーベル・タイガー』!!」

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力2400→2800

 

2連続、それも融合モンスターを素材とした融合が炸裂し、シザー・タイガーが新たな姿へと進化を遂げる。青い体躯に尾から胸までかけてをサーベルで貫き、頭部から角のように2本のサーベルを、そして口内より3対6枚の刃を伸ばしたモンスター。その刃は血に濡れているのか、赤く染まり、口から白い吐息が漏れ出していく。

 

「融合召喚時、墓地の『デストーイ』モンスター、『デストーイ・シザー・タイガー』を蘇生する!」

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力1900→2500→2900

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力2800→3400

 

並ぶ2体のタイガー。互いに互いを強化し、その攻撃力は一気に膨れ上がる。凄まじき展開力。恐ろしき攻撃力が柚子へ牙を剥く。

 

「バトルだ!シザー・タイガーでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『カウンター・ゲート』!カードを1枚ドロー!」

 

「なら速攻魔法、『魔力の泉』!相手フィールドの表側表示の魔法、罠の数だけドローし、自分フィールドの表側表示の魔法、罠の数だけ手札を捨てる!3枚ドローし、2枚を捨てる!」

 

紫雲院 素良 手札1→4→2

 

柊 柚子 手札3→4

 

「引いたカードは『幻奏の音女オペラ』!召喚するわ!」

 

幻奏の音女 攻撃力2300

 

柚子の危機に駆けつけたのは攻撃力2300の下級モンスター。とは言えその攻撃力は素良のモンスターに及ばない。が、重要なのはこのモンスターが『幻奏』モンスターである事、つまり――スコアのサポートが受けられるのだ。流石に素良の手を躊躇わせる。が――。

 

「ここは進む!シザー・タイガーで攻撃!」

 

「ッ!手札のスコアを切るわ!」

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力2900→0

 

紫雲院 素良 LP4000→1700

 

「ぐぅぅぅぅぅっ!?」

 

特攻、恐るべき苦痛が素良へ襲いかかり、彼のLPを大量に奪い取る。だが――これでスコアは消えた。

 

「サーベル・タイガー!やれ!」

 

柊 柚子 LP4000→3500

 

「きゃっ!」

 

肉を切らせて骨を断つ。絹を切らせて悪魔が吠える。脅威はなくなったと言わんばかりにサーベル・タイガーがオペラを切り裂く。

 

「メインフェイズ2、『置換融合』を除外、シザー・タイガーをエクトラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札2→3

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだよ」

 

紫雲院 素良 LP1700

フィールド『デストーイ・サーベル・タイガー』(攻撃表示)『羊トークン』(守備表示)

『トイポット』セット1

手札2

 

「私のターン、ドロー!やっぱり強いわね……だけど負けない!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!2枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札2→4

 

「ヴァルハラの効果で『幻奏の歌姫ソプラノ』を特殊召喚!」

 

幻奏の歌姫ソプラノ 守備力1400

 

現れたのは赤い毛を揺らし、青いドレスを纏ったモンスター。その名の通り、ソプラノボイスの歌声を披露し、眠りし仲間を呼び覚ます。

 

「特殊召喚時、自身の墓地から『幻奏の音女カノン』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女カノン 守備力2000

 

「そしてソプラノの効果でこの2体を融合!響け歌声!流れよ旋律!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台へ!『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400

 

融合召喚、柚子も素良に対抗し、姿を見せたのは山吹色のウェーブして髪を風に揺らし、刃を持ったタクトを振るう仮面の指揮者。『幻奏』では比較的軽い素材で召喚出来る融合モンスターだ。とは言っても、この危機を乗り越えるには充分の効果を持っている。

 

「マイスタリン・シューベルトの効果発動!貴方の墓地の『ファーニマル・ラビット』、『エッジインプ・シザー』、『超電磁タートル』を除外し、攻撃力を600アップ!コーラス・ブレイク!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400→3000

 

素良の融合素材を断ちつつ、自身の強化、素良にとっては実に厄介な効果だ。特に『エッジインプ・シザー』を奪われた事が手痛い。思わずガリッと口に含んだキャンディーを噛み砕く。

 

「バトル!マイスタリン・シューベルトでサーベル・タイガーへ攻撃!ウェーブ・オブ・ザ・グレイト!」

 

「速攻魔法、『神秘の中華なべ』!サーベル・タイガーをリリースし、攻撃力分、回復!」

 

紫雲院 素良 LP1700→4500

 

「なら『羊トークン』へ攻撃!」

 

マイスタリン・シューベルトがタクトを振るい、空中に音色を奏で、巨大な波紋を広げ、『羊トークン』を討つ。残るトークンは2体、ここからが本番だ。

 

「メインフェイズ2、手札の『サンダー・ドラゴン』を捨て、デッキから同名カードを2枚手札へ。速攻魔法、『手札断殺』。互いに手札を2枚交換」

 

「墓地に送られた『絶対王バック・ジャック』の効果でデッキトップから3枚を操作する」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドよ」

 

「バック・ジャックを墓地から除外する事でデッキトップをめくり、罠ならセットし、即時に発動出来る!『戦線復帰』をセット!発動!墓地の『エッジインプ・チェーン』を……」

 

「手札の『D.D.クロウ』を捨て、除外するわ!」

 

「ッ、復活させたかったんだけどねぇ……」

 

柊 柚子 LP3500

フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)

『神の居城ーヴァルハラ』『補給部隊』セット1

手札1

 

「僕のターン、ドロー!『トイポット』の効果発動!」

 

紫雲院 素良 手札2→3

 

「引いたカードは『ファーニマル・オウル』!特殊召喚!」

 

ファーニマル・オウル 守備力1000

 

現れたのは梟のぬいぐるみ。彼のデッキではかなりの手札消費を抑える事が出来るモンスターだ。

 

「効果で『融合』をサーチ、発動!僕はオウルと手札の『エッジインプ・ソウ』で融合!悪魔宿りし鉄の歯よ!煉獄の眼と1つとなりて新たな力と姿を見せよ。融合召喚!現れ出ちゃえ!全てを切り裂く百獣の王!『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』!」

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ 守備力2000

 

当たり前のように毎ターン融合召喚。現れたのは丸鋸の鬣を、身体の中心を丸鋸で支えた恐ろしい獅子。その血走った赤い眼でマイスタリン・シューベルトに狙いを定め、頭の丸鋸を発射しようとする。

 

「効果発動!マイスタリン・シューベルトを破壊!その元々の攻撃力分のダメージを与えるよ!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!その効果と攻撃を封じる!」

 

しかし異次元に繋がる渦から鎖が飛び出し、ホイールソウ・ライオを縛り上げ、その動きを封じる。元より悪魔に対しての鎖だ。悪魔族のホイールソウ・ライオにとってひとたまりも無いらしく、倒れながらもジタバタと足掻く。真横にいる『羊トークン』は肩を寄せ合い、ぷるぷると震え怯えているが。

 

「む……ターンエンド」

 

紫雲院 素良 LP4500

フィールド『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』(守備表示)『羊トークン』×2

『トイポット』

手札1

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに2枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札1→3

 

「『幻奏の音女セレナ』を召喚!」

 

幻奏の音女セレナ 攻撃力400

 

現れたのは全体的に暖色の色合いをした天使族モンスター。桃色の髪に片翼、黄色のドレスを纏った女性天使だ。

 

「魔法カード、『トランスターン』!セレナを墓地に送り、デッキから種族、属性が同じでレベルが1つ上のモンスターを特殊召喚する!来て!『幻奏の音女エレジー』!」

 

幻奏の音女エレジー 攻撃力2000→2300

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力3000→3300

 

「エレジーが存在する限り、私の『幻奏』モンスターは効果で破壊されず、特殊召喚されている事で更に天使族モンスターの攻撃力を300アップさせる!」

 

効果耐性と強化、これで素良のホイールソウ・ライオやシザー・タイガーに対抗可能となった。

 

「バトルよ!マイスタリン・シューベルトでホイールソウ・ライオへ攻撃!」

 

「ぐっ……!」

 

「エレジーで『羊トークン』へ攻撃!」

 

続く猛攻により、次々と破壊される素良のモンスター。正直素良としてもここまで柚子が成長し、食いつくとは思ってなかった。複雑な表情を浮かべ、ガリッとキャンディーを噛み砕き、懐から板チョコを取り出す。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドよ!」

 

柊 柚子 LP3500

フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)『幻奏の音女エレジー』(攻撃表示)

『神の居城ーヴァルハラ』『補給部隊』セット1

手札0

 

「どう?素良、少しは帰って来る気になったかしら」

 

「……調子に乗らないでよね、腕を上げたみたいだけど、僕からすればまだまだ甘い!ドロー!」

 

柚子の挑発を流し、素良は非情に徹し、山札よりカードを引き抜く。

 

「速攻魔法、『魔力の泉』!2枚ドローし、2枚捨てる!」

 

紫雲院 素良 手札1→3→1

 

「魔法カード、『成金ゴブリン』!1枚ドローし、相手のLPを1000回復!」

 

柊 柚子 LP3500→4500

 

「『トイポット』の効果発動!」

 

紫雲院 素良 手札0→1

 

「引いたカードは『ファーニマル・ベア』!特殊召喚!」

 

ファーニマル・ベア 攻撃力1200

 

引いたカードはピンク色の毛並みをした熊のぬいぐるみ。羽を広げ、ポンとフィールドに飛び出す。

 

「墓地の『ファーニマル・ウィング』の効果!このカードと『ファーニマル・ベア』を除外、1枚ドロー!更に『トイポット』も墓地に送り、1枚ドロー!更に更に、『トイポット』の効果で『ファーニマル・ドッグ』をサーチ!」

 

紫雲院 素良 手札0→1→2→3

 

サーチとドローを駆使し、一気に3枚のカードを調達。とんでもない回復力だ。自信満々に言うだけはある。融合のエキスパートと言っても差し支えないだろう。融合デッキとしての完成度ではトップクラスだ。

 

「『ファーニマル・ドッグ』を召喚!」

 

ファーニマル・ドッグ 攻撃力1700

 

今度は犬のぬいぐるみだ。パタパタと素良の周囲を羽ばたいて飛び回った後、彼の足元に頭をすり寄せる。

 

「効果で『エッジインプ・シザー』をサーチ!墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『ファーニマル・ドッグ』をデッキに戻し、ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札3→4

 

「更に『ファーニマル・ベア』の効果発動!このカードをリリースし、墓地の『融合』を回収、発動!」

 

「永続罠、『夜霧のスナイパー』!『デストーイ・ハーケン・クラーケン』を宣言!」

 

「手札の『ファーニマル・ベア』と『エッジインプ・シザー』を融合!悪魔の爪よ!野獣の牙よ!今神秘の渦で1つとなりて新たな力と姿を見せよ!融合召喚!現れ出ちゃえ!全てを切り裂く戦慄のケダモノ、『デストーイ・シザー・ベアー』!」

 

デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力2200

 

『エッジインプ・シザー』が『ファーニマル・ベア』の絹を裂き、ほつれた糸を引き連れ縫合しながら刃をバラけさせ、新たなモンスターとして生まれ変わる。最後に羽をむしりとり、完成したのはピンク色の熊のぬいぐるみ。

腕お胴体をハサミで支え、牙が覗く口から赤い眼を不気味に光らせる姿は正しくモンスター。所々綿が飛び出し、縫合後も残った恐ろしい悪魔だ。

 

「カードを1枚セット、装備魔法、『魔導師の力』をシザー・ベアーに装備!攻撃力を僕のフィールドの魔法、罠の数×500アップする!」

 

デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力2200→3200

 

「バトルだ!シザー・ベアーでエレジーへ攻撃!パンメリング・パウ!」

 

柊 柚子 LP4500→3600

 

「うっ――『補給部隊』の効果でドロー!」

 

「シザー・ベアーの効果で戦闘破壊したエレジーを攻撃力1000アップの装備カードとして装備!そして『魔導師の力』も合わせ500アップ!」

 

デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力3200→4700

 

柊 柚子 手札0→1

 

シザー・ベアーと『魔導師の力』のコンボで爆発的に攻撃力アップ。見事なものだ、マイスタリン・シューベルトでも届かない。このまま放置するのは不味いだろう。

 

「どうだい柚子?大人しくサレンダーでもする?僕はこれで、ターンエンドだよ」

 

紫雲院 素良 LP4500

フィールド『デストーイ・シザー・ベアー』(攻撃表示)『羊トークン』(守備表示)

『幻奏の音女エレジー』『魔導師の力』セット1

手札0

 

「冗談じゃないわ……!私も貴方も、帰るのはアカデミアなんかじゃない!皆揃って、遊勝塾に帰るのよ!」

 

「帰らない!僕の居場所は、アカデミアだ!」

 

「なら徹底的に教えて上げるわ!私のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『夜霧のスナイパー』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札1→3

 

「バトルよ!マイスタリン・シューベルトでシザー・ベアーへ攻撃!この瞬間、速攻魔法、『決闘融合ーバトル・フュージョン』を発動!シザー・ベアーの攻撃力を、マイスタリン・シューベルトに加える!」

 

「チェーンして速攻魔法、『非常食』を発動!エレジーと『魔導師の力』を墓地に送り、LPを2000回復!」

 

紫雲院 素良 LP4500→6500

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力3000→5200

 

「ぐあっ!?」

 

紫雲院 素良 LP6500→3500

 

シューベルトの剣がシザー・ベアーのハサミを断ち切り、素良のLPを大きく削り取る。だが素良も『非常食』で回復しており、致命傷へは至らない。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドよ」

 

柊 柚子 LP3600

フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)

『神の居城ーヴァルハラ』『補給部隊』セット1

手札1

 

「僕のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドローだ!」

 

紫雲院 素良 手札0→3

 

「ここで手札強化……!」

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動、カードを2枚セットしてターンエンド」

 

紫雲院 素良 LP3500

フィールド『羊トークン』(守備表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

手強い、成長した柚子の実力をその身で体感し、素良はその翡翠の眼を細める。実際、素良が数多くの融合モンスターを繰り出し、切り込んでいるにも関わらず、彼女のマイスタリン・シューベルトを崩せていない。勢いで押されているのは素良の方なのだ。

 

「私のターン、ドロー!墓地の光属性モンスター2体を除外し、手札の『神聖なる魂』を特殊召喚!」

 

神聖なる魂 攻撃力2000

 

現れたのは光輝く女天使。天使族モンスターの中でも汎用性があり、除外ギミックを仕込んでいるならば活躍が見込めるモンスターだ。

 

「そして永続罠、『奇跡の光臨』を発動!除外されている天使族モンスター、『幻奏の音姫ローリイット・フランソワ』を特殊召喚!」

 

幻奏の音姫ローリイット・フランソワ 攻撃力2300

 

ここは迷う所であるが、手札の回復を狙う。現れたローリイット・フランソワが光の鍵盤を弾き、地面より光に包まれたカードを呼び覚ます。

 

「効果発動!スコアを回収!バトルよ!『神聖なる魂』2体で『羊トークン』を攻撃!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

紫雲院 素良 手札0→1

 

「マイスタリン・シューベルトでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し!ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

「魔法カード、『一時休戦』!互いに1枚ドローし、次のターン終了までダメージを0に!」

 

柊 柚子 手札1→2

 

紫雲院 素良 手札1→2

 

「カードを1枚セット、ターンエンドよ!」

 

柊 柚子 LP3600

フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)『幻奏の音姫ローリイット・フランソワ』(攻撃表示)『神聖なる魂』

『神の居城ーヴァルハラ』『補給部隊』『奇跡の光臨』セット1

手札1

 

「僕のターン、ドロー!魔法カード『融合回収』!墓地の『融合』と『ファーニマル・オウル』を回収!墓地の『エッジインプ・シザー』の効果で手札1枚をデッキトップに戻し、守備表示で特殊召喚!」

 

エッジインプ・シザー 守備力800

 

「リバースカード、オープン!永続魔法、『トイポット』!手札1枚を墓地に送り、効果発動!1枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札2→3

 

「引いたカードは『ファーニマル・オウル』!特殊召喚!」

 

ファーニマル・オウル 守備力1000

 

「魔法カード、『融合』!フィールドの『ファーニマル・オウル』と『エッジインプ・シザー』で融合!融合召喚!『デストーイ・シザー・タイガー』!」

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力1900→2200

 

「融合召喚時、効果でマイスタリン・シューベルトとローリイット・フランソワを破壊!」

 

「させない!罠発動、『もの忘れ』!その効果を無効にして守備表示に変更させる!」

 

「罠発動!『貪欲な瓶』!墓地の『融合』、『融合回収』、『魔導師の力』、『非常食』と『魔力の泉』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札1→2

 

「魔法カード、『魔玩具補綴』!デッキの『融合』と『エッジインプ・トマホーク』をサーチ!」

 

何とかシザー・タイガーを再び呼びたい所であるが、残念は事にそう上手く事は運ばない。それに彼の融合モンスターの殆どが2枚積みだ。

 

「『エッジインプ・トマホーク』を召喚!」

 

エッジインプ・トマホーク 攻撃力1800

 

現れたのは斧を束ねた『エッジインプ』。生憎逆転に繋がるカードでは無い。

 

「デッキから『エッジインプ・DTモドキ』を墓地に送り、名前をコピー!そして魔法カード、『融合』!シザー・タイガーとトマホークを融合!融合召喚!『デストーイ・サーベル・タイガー』!!」

 

デストーイ・サーベル・タイガー 守備力2000

 

「融合召喚時、墓地の『デストーイ・シザー・タイガー』を蘇生!」

 

デストーイ・シザー・タイガー 守備力1200

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだよ」

 

紫雲院 素良 LP3500

フィールド『デストーイ・サーベル・タイガー』(守備表示)『デストーイ・シザー・タイガー』(守備表示)

『トイポット』『補給部隊』セット1

手札0

 

「私のターン、ドロー!ローリイット・フランソワの効果発動!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!ローリイット・フランソワの効果と攻撃を封じる!」

 

「バトルよ!『神聖なる魂』でシザー・タイガーへ、マイスタリン・シューベルトでサーベル・タイガーを攻撃!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

紫雲院 素良 手札0→1

 

「カードを1枚セット、ターンエンド!」

 

柊 柚子 LP3600

フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)『幻奏の音姫ローリイット・フランソワ』(攻撃表示)『神聖なる魂』(攻撃表示)

『神の居城ーヴァルハラ』『補給部隊』『奇跡の光臨』セット1

手札1

 

「僕のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに2枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札1→3

 

「魔法カード、『ブラック・ホール』!邪魔なモンスターには消えてもらうよ!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

柊 柚子 手札1→2

 

ここで発動されたのは強力な全体破壊効果を持った魔法カード。黒く輝くブラックホールが全てを呑み込み、あっという間に無に帰す。これでイーブン、いや、素良に部があるか。

 

「デッキトップへ手札を1枚送り、『エッジインプ・シザー』を蘇生!」

 

エッジインプ・シザー 守備力800

 

「そして『トイポット』の効果発動!手札1枚を墓地に送り、1枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札0→1

 

「引いたカードは『ファーニマル・オウル』!特殊召喚!」

 

ファーニマル・オウル 守備力1000

 

「墓地に送ったバック・ジャックの効果でデッキトップをコントロール!『ファーニマル・オウル』の効果発動!LPを500払い、このカードと『エッジインプ・シザー』を融合!融合召喚!『デストーイ・ハーケン・クラーケン』!」

 

紫雲院 素良 LP3500→3000

 

デストーイ・ハーケン・クラーケン 攻撃力2200

 

「ハーケン・クラーケンでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『和睦の使者』!戦闘ダメージを0に!」

 

「……ふん、ハーケン・クラーケンの効果で自身を守備表示に変更、ターンエンドだよ」

 

紫雲院 素良 LP3000

フィールド『デストーイ・ハーケン・クラーケン』(守備表示)

『トイポット』『補給部隊』

手札0

 

襲い来る融合次元の刺客、紫雲院 素良――。自身の仲間であり、融合召喚の師でもある相手を前に、柚子は果敢に立ち向かう。彼女の手は、彼へ届くのか。




休んでいる間に遊戯王の方も色々ありましたね。ヴレインズが完結してちょっと焦ってます。この作品は何時になったら終わるんですかね?(他人事)
多分今回から後半戦。シンクロ次元完結まで駆け抜けたいです。多分。


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第169話 優し過ぎる

シンクロ次元、シティで繰り広げられる紫雲院 素良と柊 柚子による師弟デュエル。互いの想いを賭した闘いは中盤に入っていた。

押せ押せと何度も融合召喚をおこなう素良に対し、柚子はモンスターの効果を組み合わせて対抗、互角に渡り合う。そんな2人のデュエルを、オベリスク・フォースを退治しながら、ユートと三沢、そして瑠璃が覗き見る。

 

(紫雲院のデュエルはアカデミアにいた頃、何度か見かけたが……強いな。純融合魔法を使いこなし、数多くの融合モンスターで攻め立てる、恐るべきはその手数の多さか。だが……)

 

(柚子ちゃんも負けていない。今まで維持して相手モンスターを撃退していたマイスタリン・シューベルトこそいなくなったけど、天使族モンスターをコスト無しで呼べる『神の居城ーヴァルハラ』がある。充分に巻き返せる!)

 

互いに譲らぬシーソーゲーム。今は少々素良に傾いているが、それでも柚子にも可能性はある。素良もそれを分かっているのか、その表情にそこまで余裕はない。

 

(厄介なのは柚子の手札にあるスコア……せめてアレが無ければもう少し楽になれるんだけどなぁ……本当、成長してるよねぇ……融合を教えたのは不味かったか……全く、僕も甘かった。だけど――もう甘くはしてやれない!)

 

がぶりと板チョコを噛み砕き、素良は頭の中で戦術を練る。このままでは不利になるのは素良だ。彼の場には守備力3000と申し分のない壁である『デストーイ・ハーケン・クラーケン』が存在するものの、油断は出来ない。

柚子の手札に『幻奏』モンスターと戦闘を行う相手モンスターの攻守を0にする『幻奏の音女スコア』が存在するからだ。上級天使を呼べるヴァルハラもある。間違いなくこのターンでハーケン・クラーケンを倒しに来るだろう。そうなれば手札0の素良は体勢を戻すのに力を裂かねばならない。

 

「私のターン、ドロー!」

 

「バック・ジャックを除外し、デッキトップの罠をセット!」

 

「ヴァルハラの効果発動!手札の『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』を特殊召喚!」

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600

 

「ここでプロディジー・モーツァルトか……!」

 

「バトルよ!プロディジー・モーツァルトで『デストーイ・ハーケン・クラーケン』へ攻撃!この瞬間、手札のスコアを墓地に送り、ハーケン・クラーケンの攻守を0に!グレイスフル・ウェーブ!」

 

デストーイ・ハーケン・クラーケン 守備力3000→0

 

プロディジー・モーツァルトがタクトを振るい、空中に音符を放ち、ハーケン・クラーケンの紫の体躯を貫く。ハーケン・クラーケンは攻撃力こそプロディジー・モーツァルトより低いが、相手モンスターを墓地送りにする効果を持っている。破壊ではなく、墓地送り。かなり厄介な効果だ。早々に除去しておくに限る。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

紫雲院 素良 手札0→1

 

「カードを1枚セット、ターンエンドよ!どう?素良、サレンダーでもする?」

 

柊 柚子 LP3600

フィールド『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』(攻撃表示)

『神の居城ーヴァルハラ』『補給部隊』セット1

手札0

 

ニヤリ、先程の素良の台詞を借り、意趣返しを送る柚子。彼女も中々にイイ性格をしている。素良は頬をひくつかせ、『補給部隊』の効果で引いたカードに視線を移す。これなら――。

 

「そんなんだからストロングとか言われるんだよ」

 

「なっ……何ですってぇっ!?」

 

目を細め、挑発し返す素良に対し、柚子がワナワナと肩を震わせ、怒りを抱く。意外と乙女らしい彼女の事だ、乙女からかけ離れたストロングを引き合いに出され、少々傷ついている。

 

「うわ、おっかない。僕のターン、ドロー!『ネクロフェイス』を召喚!」

 

ネクロフェイス 攻撃力1200

 

「召喚時、除外されたカードを全てデッキに戻し、その数×100攻撃力をアップ!」

 

ネクロフェイス 攻撃力1200→5000

 

「バトル!『ネクロフェイス』でプロディジー・モーツァルトへ攻撃!」

 

「罠発動!『セキュリティー・ボール』!『ネクロフェイス』を守備表示に変更!」

 

「チ、なら罠発動!『魂の転身』!通常召喚したレベル4のモンスター、『ネクロフェイス』をリリースし、2枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札1→3

 

「魔法カード、『二重召喚』。通常召喚権を増やし、モンスターとカードをセット、ターンエンドだよ!」

 

紫雲院 素良 LP3000

フィールド セットモンスター

『トイポット』『補給部隊』セット1

手札0

 

モンスターとカードをセットし、ターンエンド。次の融合の為の準備、反撃の手立てを整えているのか、随分と大人しい運びだ。派手なデュエルを好む素良にしては少々意外であるが――油断は出来ない。

 

「私のターン、ドロー!プロディジー・モーツァルトの効果発動手札のローリイット・フランソワを特殊召喚!」

 

幻奏の音姫ローリイット・フランソワ 攻撃力2300

 

再び戦場に舞うローリイット・フランソワ。打点こそ低いが、天使族を回収するこのカードは実に厄介、スコアを毎ターン回収され、攻めも守りも先を行かれる。

 

「効果発動!スコアを手札に――」

 

「チェーンし、罠発動!『悪魔の嘆き』!君の墓地のスコアをデッキに戻し、僕のデッキの悪魔族モンスター、『魔サイの戦士』を墓地に送る!更に『魔サイの戦士』が墓地に送られた事で、デッキから『エッジインプ・シザー』を墓地に送るよ!」

 

しかし、それを何度も通す程、今の素良は甘くない。彼はアカデミアの戦士、紫雲院 素良。確実に任務を遂行すべく、相手の一手を踏み潰す。

 

「くっ……ならバトルよ!ローリイット・フランソワでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『メタモルポット』!お互い手札が無いから捨てはしないけど――5枚ドローする!『補給部隊』の効果も使うよ!」

 

紫雲院 素良 手札0→5→6

 

柊 柚子 手札0→5

 

素良のフィールドにセットされたモンスターがクルリと反転し、1つ目とニヤけた口を中から覗かせる壺が出現する。ここで『メタモルポット』――柚子が驚く中、2人の手に5枚のカードが渡り、手札を潤す。リバース効果なのが少々遅く、相手まで回復してしまうが、それでも5枚のドローと強力なドローソースだ。

 

「プロディジー・モーツァルトでダイレクトアタック!」

 

「手札の『速攻のかかし』を捨て、バトルを終了!」

 

「メインフェイズ2、フィールドに『幻奏』モンスターが存在する事で、手札の『幻奏の音女ソナタ』と『幻奏の音女カノン』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女ソナタ 攻撃力1200→1700

 

幻奏の音女カノン 守備力2000→2500

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力2600→3100

 

幻奏の音姫ローリイット・フランソワ 攻撃力2300→2800

 

手札を得た事で当然展開。ソナタの効果により、柚子のモンスターの攻守が上がる。益々倒しにくくなった。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドよ」

 

柊 柚子 LP3600

フィールド『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』(攻撃表示)『幻奏の音姫ローリイット・フランソワ』(攻撃表示)『幻奏の音女ソナタ』(攻撃表示)『幻奏の音女カノン』(守備表示)

『神の居城ーヴァルハラ』『補給部隊』セット2

手札1

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『覇者の一括』!このターンのバトルを封じる!」

 

これで素良の手札は6枚、充分巻き返しが可能な数だ。ここから彼がどう出て来るか――。

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!2枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札5→7

 

「魔法カード、『魔玩具融合』!墓地の『エッジインプ・ソウ』、『ファーニマル・ベア』の2体を除外し、融合!融合召喚!『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』!」

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ 攻撃力2400

 

「その効果により、プロディジー・モーツァルトを破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

「罠発動!『スキル・プリズナー』!プロディジー・モーツァルトを対象とするモンスター効果を無効に!」

 

「なら次はこれだよ!手札1枚をデッキトップに戻し、墓地の『エッジインプ・シザー』を蘇生!」

 

エッジインプ・シザー 守備力800

 

「『トイポット』の効果発動!」

 

紫雲院 素良 手札4→5

 

「引いたカードは『ファーニマル・マウス』!特殊召喚!」

 

ファーニマル・マウス 守備力100

 

『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』の致命傷となる一撃を回避する柚子に対し、素良は驚きもせず、休む間もなくその手を進める。この程度は予想通りと言わんばかりの反応、手札1枚と言うコインによって『トイポット』を回し、引き当てたのは羽を生やし、ドーナツに齧りつくハムスターだ。『エッジインプ・シザー』のデメリットも上手く使いこなしている。

 

「そして『ファーニマル・マウス』の効果発動!デッキから同名モンスター2体をリクルート!」

 

ファーニマル・マウス 守備力100×2

 

「永続魔法、『デストーイ・ファクトリー』を発動!墓地の『魔玩具融合』を除外し、融合を行う!僕はフィールドの『エッジインプ・シザー』、『ファーニマル・マウス』3体、更に手札の『ファーニマル・キャット』を融合!融合召喚!『デストーイ・シザー・タイガー』!」

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力1900→2500

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ 攻撃力2400→3000

 

ここで現れるシザー・タイガー。2枚目、素良のエクストラデッキには2枚しか存在しない為、これで打ち止めとなる。

 

「シザー・タイガーの効果でプロディジー・モーツァルト以外の3体のモンスター、そしてヴァルハラと『補給部隊』を破壊するよ!そしてチェーンして『ファーニマル・キャット』の効果発動!『融合』を回収!」

 

「うっ……!」

 

ジョキンとシザー・タイガーの腹部のハサミが伸び、柚子のカードを5枚も切り裂く。

 

「良い感じだ。僕は魔法カード、『融合』を発動!手札の『エッジインプ・チェーン』と『ファーニマル・ペンギン』を融合!融合召喚!現れ出ちゃえ!全てを封じる鎖のケダモノ!『デストーイ・チェーン・シープ』!」

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→2900

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力2500→2800

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ 攻撃力3000→3300

 

3回連続融合。現れたのは背からソーサーを伸ばし、目玉が飛び出した羊のぬいぐるみ。モコモコとした毛で地面をバウンドし、2体の『デストーイ』と並ぶ。しかし両隣共に肉食獣、羊の彼は怯えからか、プルプルと震える。

 

「『エッジインプ・チェーン』の効果で『デストーイ・ファクトリー』をサーチし、『ファーニマル・ペンギン』の効果で2枚ドローし、1枚捨てるよ」

 

紫雲院 素良 手札1→3→2

 

「墓地に送られた『デストーイ・ファクトリー』の効果により、除外されている『魔玩具融合』を回収、僕はカードを2枚セット、ターンエンドだよ」

 

紫雲院 素良 LP3000

フィールド『デストーイ・シザー・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』(攻撃表示)『デストーイ・チェーン・シープ』(攻撃表示)

『トイポット』『デストーイ・ファクトリー』『補給部隊』セット2

手札1

 

打って変わって戦況は一変、一気に柚子の不利となってしまった。彼女のフィールドに存在するのはプロディジー・モーツァルト1体のみ。対して素良の場には『デストーイ』融合モンスターが3体、かなり不味い。

 

「私のターン、ドロー!速攻魔法、『魔力の泉』!3枚ドローし、1枚捨てる!」

 

柊 柚子 手札1→4→3

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!2枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札2→4

 

「プロディジー・モーツァルトの効果発動!手札の『幻奏の歌姫ソプラノ』を特殊召喚!」

 

幻奏の歌姫ソプラノ 守備力1400

 

「特殊召喚時、墓地の『幻奏の音女カノン』を回収し、特殊召喚!」

 

幻奏の音女カノン 守備力2000

 

「そして3体目のソプラノを召喚!」

 

幻奏の音姫ソプラノ 攻撃力1400

 

「1体目のソプラノの効果発動!プロディジー・モーツァルトとこのカードで融合!至高の天才よ!天使の囀りよ!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台に勝利の歌を!『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』!!」

 

幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ 攻撃力1000

 

融合召喚、2体の天使が混じり合い、フィールドに花弁が出現、花開き、咲き誇ったのは可愛らしく、幼さが残る竜胆の少女。柚子の切り札たる融合モンスターだ。素良もこのモンスターを警戒しているのか、目を細める。

 

「ブルーム・ディーヴァ……!」

 

「このモンスターなら、貴方のモンスターがどれだけ打点を上げようと向かえ撃てるわ。そしてもう1体のソプラノとカノンを融合!融合召喚!『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400

 

「バトルよ!」

 

「この瞬間、罠発動!『マジカルシルクハット』!『デストーイ・チェーン・シープ』とデッキの魔法、罠2枚をモンスターとしてセット、シャッフル!」

 

「このタイミングで……?」

 

「そしてもう1枚の罠発動!『ダブルマジックアームバインド』!シルクハットをリリース、ブルーム・ディーヴァとマイスタリン・シューベルトのコントロールを得る!」

 

「なっ!?」

 

二重の罠が炸裂し、柚子の強力なモンスターが揃って奪われる。最悪の展開、折角のブルーム・ディーヴァもこうなってしまえば無力だ。

 

「マイスタリン・シューベルトの効果発動……!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400→3000

 

「墓地に送られた『トイポット』の効果で『ファーニマル・ドッグ』をサーチ」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドよ……」

 

柊 柚子 LP3600

フィールド

セット2

手札0

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『成功確率0%』!相手のエクストラデッキからランダムに2枚融合モンスターを墓地へ送る!」

 

「手札1枚を捨て、エクストラデッキの『デストーイ・シザー・ウルフ』と『デストーイ・シザー・ベアー』を墓地に送り、永続魔法、『デストーイ・サンクチュアリ』を発動!僕のフィールドの融合モンスターは、全て『デストーイ』モンスターへと変わる!」

 

「罠発動!『裁きの天秤』!私のフィールド、手札のカードはこれ1枚、貴方のフィールドのカードは9枚!よってその差8枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札0→8

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力2800→3400

 

デストーイ・ホイールソウ・ライオ 攻撃力3300→3900

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2900→3500

 

幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ 攻撃力1000→2500

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 攻撃力3000→4500

 

「『デストーイ・サンクチュアリ』の効果で私の融合モンスターを『デストーイ』に……まさか……!?」

 

柚子から奪った融合モンスターが『デストーイ』へ変わり、彼女の脳裏に次の展開が浮かび上がる。そう、素良が取るであろう次の手は――。

 

「そのまさかさ!墓地の『融合準備』を除外し、『デストーイ・ファクトリー』の効果発動!僕は『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』と『デストーイ』モンスターとなったブルーム・ディーヴァとプロディジー・モーツァルトで融合!」

 

そう、彼の狙いは最初からこれ。『デストーイ・サンクチュアリ』を引き込んだのは運が良かったとしか言えないが、これにて彼のコンボは完成する。

『マジカルシルクハット』で『ダブルマジックアームバインド』のリリース要員を揃え、柚子の融合モンスターを奪い、『デストーイ・サンクチュアリ』の効果で『デストーイ』へと書き換える。そして――『デストーイ』を素材としての融合召喚。彼等は知らないが、この融合召喚は融合の究極形態を、相手モンスターを素材とした融合召喚を擬似的に再現したものだ。

 

「悪魔宿りし非情の玩具よ、刃向かう愚民を根こそぎ滅ぼせ!融合召喚!現れ出でよ!全ての玩具の結合魔獣!『デストーイ・マッド・キマイラ』!!」

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力2800→3700

 

『デストーイ・ホイールソウ・ライオ』が『デストーイ』化により毛糸に変わった2体の『幻奏』モンスターの胸部を鋭い牙で貫き、大口を開けて貪り食らう。そして3体の毛糸がクルクルと空間に溶けるようにほつれ、重なり、新たな姿を紡ぎ出す。

質量を増し、より巨大でより圧倒的な体躯へと。メキメキと不気味な音を唸らせ、現れたのは3つの玩具が合体した合成獣。素良の切り札となる融合モンスターが、眼を赤くギラつかせ、空気を震撼させる遠吠えを轟かせる。

 

「私のモンスターを融合素材に……!」

 

「まだまだ!魔法カード、『魔玩具融合』!墓地の『エッジインプ・シザー』と3体の『ファーニマル・マウス』を除外し、融合!融合召喚!『デストーイ・シザー・ウルフ』!」

 

デストーイ・シザー・ウルフ 攻撃力2000→3200

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力2800→3100

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力3700→4000

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2900→3200

 

更に現れたのは青い毛色の狼型の『デストーイ』モンスター。素材の数だけ攻撃権を得る、『デストーイ・シザー・タイガー』と極めて相性の良いモンスターだ。元々の攻撃力は2000であるが、シザー・タイガーの効果によって攻撃力3000超えの4回攻撃権を持ったモンスターへ強化される。

 

「バトルといこうか!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

「チッ、ターンエンドだよ」

 

現在柚子の手札数8枚、充分に巻き返しの効く数だ。幸い彼のフィールドには妨害出来るリバースカードは存在せず、手札も0、邪魔はない。

 

「ここでそのカードか……!」

 

紫雲院 素良 LP3000

フィールド『デストーイ・マッド・キマイラ』(攻撃表示)『デストーイ・シザー・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・シザー・ウルフ』(攻撃表示)『デストーイ・チェーン・シープ』(攻撃表示)

『トイポット』『デストーイ・ファクトリー』『補給部隊』

手札0

 

強い、巧い、凄い。とんでもない奇抜で大胆、予想もつかない戦術で守り、攻めて来る素良に対し、柚子は苦戦を強いられる。

間違いない、この手の闘い方は、遊矢やコナミ、遊勝塾のものだ。敵も味方もワクワクさせる、エンタメデュエルなのだ。

彼は違うと、自分はアカデミアの人間だと言うが――それこそ違う。彼は最早、遊勝塾の色に染まり切ってしまっている。アカデミアに戻っても、彼のデュエルは嘘をつけない。まだ、望みはある。

 

「何度でも言うわ!帰って来なさい素良!貴方の居場所は、アカデミアなんかじゃない!」

 

「何度でも言うよ!僕は帰らない!僕の居場所はアカデミアだ!」

 

「なら……なら何で、貴方は笑ってないのっ!!」

 

「ッ!!」

 

互いの思いの丈を口から放つ素良と柚子、融合師弟。遊矢はその観察眼の高さから素良の嘘を見抜いたが――柚子は、素良の弟子だ。その付き合いの長さから嘘を見抜く。

 

「自分の居場所なら、何で貴方はそんなに苦しそうな顔をするの!?そんなの絶対におかしい!少なくとも私は嫌なの!大事な友達から笑顔を奪う居場所なんて、許せないから!」

 

「ぼく、は――」

 

このデュエル中、いや、素良は柚子と再会してから1度たりとも笑っていない。遊矢とのデュエルでは、虚勢であったとしても、不自然な笑みを浮かべていたのに、だ。

だから柚子は気づく。素良が本当は、アカデミアではなく、遊勝塾に帰りたいと悩み、苦しんでいる事に。

 

「何でなんだ……」

 

ポツリ、唇を震わせ、素良は思わず言葉を溢す。溢してしまう。それは――決壊の合図だったのだろう。ガバリと俯く顔を勢い良く上げ、目尻に涙を溜めながら思いの丈を叫ぶ。

 

「何で君達はそんなにも甘いんだ!僕は裏切り者なのに、恨んでくれても良いのに!何でこんな僕を……アカデミアの悪人を助けようとするんだ……!」

 

暖かさを知ってしまった。優しさを感じてしまった。罪悪感を覚えてしまった。友達に出会ってしまった。だから――アカデミアに戻り、戻った後で、どうしようもない後ろめたさが彼を襲う。

今の自分に嫌悪感が募り、吐きそうになってしまう。それでも、今まで重ねて来た罪は消えはしなくて、こんな自分が帰って良い筈が無いんだと首が締まっていく。どうしようもない悪循環が素良を縛りつける。

 

「こんな事なら、出会わない方が良かった……!そうすればっ!」

 

「馬鹿な事言わないで!」

 

出会わない方が良かったと言う素良の否定を、柚子は否定する。

 

「誰もそんな事思わない!私達は、貴方に出会えて良かったって胸を張れる!私も遊矢も、ううん、遊勝塾の皆が貴方に出会えて成長したから!貴方も一緒に成長したから、出会わなかった方が良かったなんて、絶対に思わないっ!」

 

「――ッ!」

 

「最初は確かに嘘だったのかもしれない……だけど、それでも良いじゃない……重ねて来たのは、嘘だけじゃないでしょう……?」

 

柚子は遊矢程甘くない。彼女達から逃げようとする素良の手を無理矢理にでも掴んで正面から向き合わせる。一切の逃げ道を許さない、優しさの暴力だ。

何度も殴られ、素良の仮面は砕けていく。彼の嘘から、本当を引き摺り出していく。

彼女の言う通り、出会いは嘘だったのだろう。たけど、彼等と、遊勝塾の皆と過ごす内に、その日々は嘘ではなくなっていったのだ。

 

「僕だって……僕だって本当は帰りたいさ!だけど駄目なんだ!こんな僕が、罪にまみれた僕が君達と共に歩める筈がない!何より――例え僕だけならまだしも、僕にだって守らなきゃならないものがある!」

 

「……知ってるよ」

 

最早虚構の仮面を砕かれ、本音を引き摺り出された素良が胸を掻き抱き、涙を溢しながら悲痛に叫ぶ。そう、素良だって柚子達の下に、遊勝塾に帰りたいのだ。だけど――彼等への罪悪感と、彼の守らなきゃならないもの――妹の存在がそれを拒む。

その事を――柚子も、知っていた。

 

「――え――?」

 

思わず素良は呆けて声を漏らす。柚子が、彼の事情を知っていたと言う事に。

 

「ユートから聞いた、貴方には、病気の妹がいるんだって……きっと、その治療費をアカデミアから受け取ってて、人質として使われてるんだろうって」

 

「……知ってたんだね……なら分かるだろう?僕は――美宇を置いて、君達の下へは帰れない」

 

「何で……?何で私達を頼ってくれないの!?」

 

「ッ!君達に、迷惑をかけられる筈ないだろうっ!重荷を背負わせられる筈がないだろうっ!」

 

「このっ、分からず屋ぁっ!私のターン、ドロー!」

 

互いに互いを想い合うからこそ、2つの線は交わらない。これ以上は分からせてやるしかないと踏んだのか、柚子がデッキよりカードを引き抜く。これで手札は8枚、素良のフィールドのカードも8枚。

 

「魔法カード、『独奏の第1楽章』を発動!自分フィールドにモンスターが存在しない事で、デッキから『幻奏の音女セレナ』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女セレナ 守備力1900

 

現れたのはピンク色の髪に黄色のドレスを纏った『幻奏』モンスター。本来なら『幻奏の音女アリア』を特殊召喚する所であるが、手札が手札だ。展開の為にこのカードを呼ぶ。

 

「特殊召喚したセレナの効果で、私はこのターン、通常召喚に加え1度だけ『幻奏』モンスターを召喚出来る!私は『クリスタル・ローズ』を召喚!」

 

クリスタル・ローズ 攻撃力500

 

次は柚子が好敵手、光津 真澄より譲り受けた水晶で作られた薔薇。攻守こそ低いが、『幻奏』においては重い融合素材をカバーする役割を持っており、優秀な働きをしてくれる。

 

「続けて2体分のリリース要員としてセレナをリリースし、手札の『幻奏』モンスターを召喚!天上に響く妙なる調べよ。眠れる天才を呼び覚ませ。出でよ!『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』!」

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 守備力2000

 

「プロディジー・モーツァルトの効果発動!手札の『幻奏の音女アリア』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女アリア 守備力1200

 

ここで現れたのは『幻奏』デッキのキーカード、強固な耐性を『幻奏』へと与えるモンスターだ。

 

「特殊召喚されたアリアがモンスターゾーンに存在する限り、私の『幻奏』モンスターは効果の対象にならず、戦闘で破壊されない!私は更に『幻奏の音女カノン』と『幻奏の音女ソナタ』を特殊召喚!」

 

幻奏の音女カノン 守備力2000→2500

 

幻奏の音女ソナタ 守備力1000→1500

 

幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト 守備力2000→2500

 

幻奏の音女アリア 守備力1200→1700

 

「『クリスタル・ローズ』の効果発動!デッキから『幻奏の音女タムタム』を墓地に送り、名前をコピー!」

 

クリスタル・ローズ 攻撃力500→1000

 

「そして魔法カード、『置換融合』を発動!フィールドの『クリスタル・ローズ』とカノンで融合!融合召喚!『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2400→2900

 

「『置換融合』を墓地から除外し、ブルーム・ディーヴァをエクストラデッキに戻して1枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札2→3

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!プロディジー・モーツァルトをリリースし、2枚ドロー!」

 

柊 柚子 手札2→4

 

「マイスタリン・シューベルトの効果発動!貴方の墓地のカードを3枚除外!」

 

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト 攻撃力2900→3500

 

「バトル!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外し、『デストーイ・チェーン・シープ』に攻撃を絞る!」

 

「やっぱりそう来たわね……だけど止まってあげない!マイスタリン・シューベルトで攻撃!」

 

「なっ!?ぐっ――『補給部隊』の効果でドロー!」

 

紫雲院 素良 LP3000→2700 手札0→1

 

『デストーイ・チェーン・シープ』は破壊されても強化されて蘇生されるにも関わらず、攻め込む柚子に目を見開く素良。一体何を考えているのか分からないが、素良にとって良い事では無いだろう。

 

「『デストーイ・チェーン・シープ』の効果で蘇生!」

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→2800→4000

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力2800→3100

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力2900→3200

 

デストーイ・シザー・ウルフ 攻撃力3700→4000

 

これで攻撃力4000、かつ攻撃反応系のカードを封じるモンスターが2体並んだ。強化したマイスタリン・シューベルトも超え、アリアで破壊を防げると言ってもダメージは逃れられないだろう。

 

「メインフェイズ2、魔法カード、『死者への手向け』を発動!『デストーイ・シザー・タイガー』を破壊!」

 

しかし、次なる一手で素良の戦術は一気に瓦解する。狙ったのは『デストーイ・チェーン・シープ』ではなく、『デストーイ・シザー・タイガー』。冷静な判断だ。最大攻撃力1500アップを『デストーイ』全体に与えるこのカードを崩せば、柚子としては何の脅威もない。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドよ」

 

柊 柚子 LP3600

フィールド『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』(攻撃表示)『幻奏の音女ソナタ』(守備表示)『幻奏の音女アリア』(守備表示)

セット2

手札0

 

素良が攻めれば柚子も攻め、互いに互いの上を行く。流石は師弟と言った所か。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

「罠発動、『貪欲な瓶』!墓地のカードを5枚、デッキに戻し、ドロー!」

 

柊 柚子 手札0→1

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地から5体のモンスターをデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

紫雲院 素良 手札1→3

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』!手札を交換、『デストーイ・ファクトリー』の効果で墓地の『魔玩具融合』を除外し、融合を行う!フィールドの『デストーイ・チェーン・シープ』と手札の『ファーニマル・ライオ』で融合!融合召喚!『デストーイ・サーベル・タイガー』!!」

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力2400→2800

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力2800→3200

 

デストーイ・シザー・ウルフ 攻撃力2000→2400

 

「効果で『デストーイ・シザー・タイガー』を蘇生!」

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力1900→3100→3500

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力2800→4000

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力3200→4400

 

デストーイ・シザー・ウルフ 攻撃力2400→3600

 

「そして魔法カード、『デストーイ・リニッチ』を発動!『デストーイ・チェーン・シープ』を蘇生!!」

 

デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→3900

 

デストーイ・マッド・キマイラ 攻撃力4400→4700

 

デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力3500→3800

 

デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力4000→4300

 

デストーイ・シザー・ウルフ 攻撃力3600→3900

 

フィールドに並ぶ5体の融合モンスター。壮観だ、しかも全てのモンスターが攻撃力3000超えと来た。どのカードも固有能力は強力で、マイスタリン・シューベルトに与えられた耐性が仇となり、サンドバッグにされかねない。

 

「バトル!」

 

「手札の『クリフォトン』を捨て、LPを2000払ってこのターンのダメージを0にする!」

 

柊 柚子 手札3600→1600

 

しかし、柚子の最後に託された手段が彼女のLPを削りながらもピンチを救う。攻撃する前に防がれてはマッド・キマイラやチェーン・シープでも追撃出来ない。アリアで与えられた耐性も今度は機能している。素良は歯軋りを鳴らしながらターンを終了する。

 

「ターン、エンドだ……!」

 

紫雲院 素良 LP3700

フィールド『デストーイ・マッド・キマイラ』(攻撃表示)『デストーイ・サーベル・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・シザー・タイガー』(攻撃表示)『デストーイ・シザー・ウルフ』(攻撃表示)『デストーイ・チェーン・シープ』(攻撃表示)

『トイポット』『デストーイ・ファクトリー』『デストーイ・サンクチュアリ』『補給部隊』

手札0

 

相手フィールドには5体の融合モンスター。比べて柚子のフィールドには戦闘補助は与えられてはいるものの、1番攻撃力の高いマイスタリン・シューベルトでも素良のモンスターには届いてはいない。このままでは防戦一方、何か大きな変化がなければ――。

 

「帰るんだ……皆が待ってる、日常に!皆で、一緒に!」

 

叶えたい望みがある。ささやかで、だけど何よりも大切なもの。その為に、何1つ失いたくないから――柚子は進む。

 

「お楽しみは、これからよ!私のターン、ドロー!」

 

天空に描かれる虹のアーク。降り注ぐ雨を晴らし、柚子は視線をカードに移す。来た――。

 

「墓地の『クリスタル・ローズ』の効果発動!墓地の融合モンスター、マイスタリン・シューベルトを除外し、このカードを蘇生!」

 

クリスタル・ローズ 守備力500

 

「そして効果発動!デッキのローリイット・フランソワをコピー!」

 

クリスタル・ローズ 守備力500→1000

 

「魔法カード、『融合』を発動!」

 

そして――この師弟の絆の証となるカードが、このデュエルに決着をつけるエースを呼び覚ます。

 

「フィールドの『クリスタル・ローズ』と『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』で融合!融合召喚!『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』!!」

 

幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ 攻撃力1000

 

咲き誇りしは竜胆の華の少女。美しき歌声を天へと捧げ、今フィールドに君臨する。素良のモンスターは確かに攻撃力が高く、強力なものばかり。対するこのカードの攻撃力は1000とかなり低いが、何の問題はない。

弱くても、この手は届くのだから。

 

「私は……私達は、貴方から色々なものを貰ったわ……」

 

「……」

 

「この融合だってそう、貴方は今までに色んなものを奪ったのかもしれない。だけど……こうやって与える事も出来る人なの。優し過ぎる事が自分の欠点だって貴方は言うかもしれないけど――優しい事が、貴方の、何よりも凄い事だって、私は言うわ」

 

素良は優しい。いや、遊勝塾の皆と出会い、アカデミアのデュエル戦士となる前の、本来の彼らしさを取り戻した。だからこそ、今苦しんでいる。罪悪感で押し潰されそうになるのだろうと柚子は思う。

仕方無い事だろう。彼はそれだけの事をしてきた。誰かの笑顔を奪って来たのだ。だけど――叶うならば。

 

「1人で苦しまないで、1人で背負い込まないで。辛いなら私達を――友達を、頼ったって良いんだから!!」

 

「僕、は――帰りたい!皆と一緒に、遊勝塾に帰りたいっ!!」

 

何度も、何度も、躊躇う事無く差し伸べられる手を、漸く素良が受け取る。彼が望んでくれた。遊勝塾へ戻る事を。アカデミアではなく、自分達を。それが嬉しくて、満面の笑みが咲き誇る。

 

「遅いのよっ……!意地っ張りなんだから……でも――うん!皆で一緒に、帰りましょう!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、『デストーイ・マッド・キマイラ』の効果を無効に!『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』で、『デストーイ・マッド・キマイラ』へ攻撃!」

 

口では呆れたように言うが、嬉しそうに笑う柚子を見て、ブルーム・ディーヴァが笑みを溢し、花弁を散らしながらクルクルと螺旋状に飛翔し、玩具の合成獣へ向かってフィールドを駆け抜ける。

 

「ブルーム・ディーヴァは戦闘、効果で破壊されず、戦闘で発生する自分へのダメージを0にし、特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージ計算時、そのモンスターとこのモンスターの元々の攻撃力分の差分ダメージを相手に与え、その相手モンスターを破壊する!リフレクト・シャウト!」

 

紫雲院 素良 LP2700→900 手札0→1

 

美しき歌声が響き渡り、『デストーイ・マッド・キマイラ』が崩れ落ちる。されど素良のLPは残っている。後1歩を、届かせる為に。

 

「罠発動!『幻奏のイリュージョン』!ブルーム・ディーヴァは魔法、罠への耐性を得、2回の攻撃権を得る!これでフィニッシュよ!ブルーム・ディーヴァで『デストーイ・サーベル・タイガー』へ攻撃!」

 

紫雲院 素良 LP900→0

 

「あーあ……負けちゃったか……」

 

限界突破、師を超え、最後の一撃が素良へ届く。勝者、柊 柚子。彼女は見事、友を取り戻した。悔しそうに、だけど晴れやかに笑みを浮かべる素良を見て、彼女の胸にも清々しい達成感が沸き上がる。

 

「でも……どうしよう、美宇の事……」

 

「心配ないわ」

 

尚も人質である妹を心配する素良に対し、柚子が笑みを向けたその時――。彼の背後より、黒いジャケットを纏う目付きの鋭い青年、万丈目が小さな少女を抱えて現れる。その少女の顔立ちは、素良に似ていて。

 

「そう言う事だ」

 

「美宇!?」

 

突如現れた妹を見て、素良が驚愕し、駆け寄る。何故こんな所にいるのか、病院にいなくて良いのかと口から出そうになるが、その前に万丈目の台詞が遮る。

 

「ユートに頼まれてな。可能ならば連れて来て、別のスタンダードの病院にでもと。妙だと思っていた。お前程のデュエリストが何年も治療費を稼いでいるのに、完治しない等……そこで調べればもう病気は完治して、隠蔽されているではないか。プロフェッサーも人の心があったのか、それとも生かす事でお前を利用し続けようとしていたのだろう」

 

「素良……私もう、大丈夫だから……素良のやりたいように、居たい所にいて……今までごめんね、私のせいで」

 

「良いんだ……良いんだ美宇……!ありがとう……ありがとう、皆……!」

 

抱き合い、互いの事を想い合う兄妹。全ては解決した。これで素良を縛るものは存在しない。帰って来た友の嬉し涙を見て――柚子の目尻に、雫が溢れる。




THEご都合主義。
美宇についてはまた別の話で補完しようと考えています。


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第170話 先んずれば人を制す

ふと思いついた小ネタ

沢渡「お前確か遊勝塾のインターホン改造してたよな?俺の家もゴージャスにしてくれよ」
沢渡パパン「頼んだゾイ」
コナミ「ゴージャス……ふむ……」

その後

フトシ「沢渡の家のインターホン、グランドジオウの変身待機音が鳴るらしいぜ!」
アユ「1人連続で100回鳴らしたらジラーチが出るってホント!?」

沢渡「ピンポンダッシュが止まんねーんだけどぉ!?」
コナミ「ハッハッハ」

タツヤ「あ、ホントにジラーチ出た」

コナミ「!?」


「……は?今、何と……?」

 

「言った通りだ。それとももうそんな歳か?」

 

時は、舞網チャンピオンシップ終了後、その翌日にまで遡る。

場所は融合次元、アカデミア。総帥であるプロフェッサーの玉座が存在する大広間でその主、赤馬零王と、彼の最も信頼する部下、アカデミア幹部、バレットが向かい合っていた。

 

「いえ、聞こえてはいます。しかし……セレナ様を無断で連れ去り、その上連れ帰れなかった私が、この程度の処罰とは……」

 

「確かに、お前のした事は本来であれば辞職ものだな」

 

「え、ええ。それが一週間にも満たぬ数日間の謹慎、他の幹部の部下への降格、減給など……」

 

バレットは納得がいかない、と言う渋い顔でむむむと唸る。

彼はこのアカデミアに戻る前、プロフェッサーの大事な計画に必要な少女を本人の意志があるとは言え、プロフェッサーの許可を得ずに連れ出し、敵地であるスタンダード次元へと置き去りにしたのだ。

本来であれば許される事ではない。せめて自分の失態は自分で取り返せと今すぐにでもスタンダード次元へと向かわせるなりなんなりあるだろう。

自分でやってしまった失態に対し、処罰が軽すぎると逆の意味で納得出来ない。如何にも真面目な彼らしい考えだった。尤も、今の彼を真面目と言えるのかは疑問であるが。

 

「長い付き合いだ、情故に、と言うのもある。しかしそれよりもお前と言う戦力を失う訳にはいかん」

 

「もったいなき言葉です」

 

「確かにこのアカデミアには戦力は幾らでもある。しかし、量より質と考えれば、な。何よりお前は最も信頼出来る。今回の失態を考えても尚な」

 

想像以上に自分を買われているプロフェッサーの言葉に、バレットが恐縮する。今までの積み重ね、と言う事だろう。真面目にやって来たからよー。年季が他と違うのだ。

 

「デュエルの腕は総司令や覇王、響姉弟に比肩し、仕事も早く、内容も申し分無い。教官としての腕も高く、故に人望もある。髪もある」

 

「……ん?最後の方、何と?」

 

「人望もある」

 

「……」

 

「使いやすい、動かしやすい。困ったら取り敢えずお前に頼ってしまう。だからだ。だからお前がいなくなった際、色々と穴を埋めるのに大変でな」

 

ハァ、と零王が普段は見せない、長い付き合いの部下にしか見せない顔で溜め息を吐く。これが他の者、特にプロフェッサーを信奉しているサンダースならば目を剥いていただろう。

 

「申し訳ありません」

 

「いや、完全にこちらの不手際だ。それと帳消し……と言う訳ではないが、故に処罰も軽減した。これからの仕事も出来る限り減らそう」

 

「そう言う訳には……」

 

「我々の事を思ってと考えてくれ。お前が仕事をし過ぎると、他が駄目になってしまう。聞いたぞ、普段は覇王が半分以上遊び呆けて、その割りを食らっていると」

 

「奴もやる時はやるのですが……」

 

「甘やかすな!兎に角、今日から暫くお前は謹慎とする。と言うのはまぁ、建前だ。反省は当然してもらうが、外で休んで来い。久し振りに家に戻ったらどうだ」

 

「と言っても家族もいませんし……」

 

零王なりの気遣いのつもりなのだろう。バレットは恭しく頭を下げ、何をすれば良いのだろうかと思案しながら広間を出ようとする。

するとガチャリ、ノックもせずに、影が1つ入って来る。威圧感のある、刺々しい黒い甲冑、赤いマントを纏った男、話題の男、覇王だ。

 

「ノックをしろと何時も言っているだろう……」

 

「ここにいたかバレット。お前の為に僕の仕事を半分残していたんだ」

 

「ふむ、見せてみろ」

 

「甘やかすな!」

 

しれっと自分の仕事を押しつける覇王に対し、自然と仕事を押しつけられようとするワーカホリック、バレット。

そんな彼等をプロフェッサーが一喝する中、パラリと落ちた1枚の髪に、いや紙にバレットの視線が吸い込まれる。

そこには今回の戦いでの結果や、それに貢献した者達の氏名が書き連ねられている。その中の1つを見て、バレットがそうだ、と真っ白だった予定を決める。紫雲雲 素良。と言う文字を見て。

 

――――――

 

「先んずれば人を制す、私のターン!」

 

シンクロ次元、シティ、柚子と素良がデュエルを始めたと同時に、遊矢とバレットもまた、デュエルを開始していた。先攻はバレットだ。彼が5枚のカードをデッキから引き抜く中、遊矢は冷静に自身とバレットの力量を分析する。

バレットとは1度闘った事があるが、それは2対1、権現坂と組み、やっとの思いで勝ったと言う程の実力。とは言えあれが彼の全力だったとは考えにくい。しかし遊矢とて数多くの闘いを経、成長しているのだ。互角に渡り合える筈と目を細める。

 

「私は永続魔法、『補給部隊』を発動。そして『漆黒の豹戦士パンサーウォリアー』を召喚!」

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー 攻撃力2000

 

先陣を切るのは輝くサーベルを持った2足歩行の黒豹。逞しい四肢に見合い、高い攻撃力を持ったモンスターだ。とは言えモンスター1体をリリースしなければ攻撃宣言出来ないデメリットを持っている為、それ程脅威とはならない。

 

「カードを2枚セット、ターンエンド。さぁ、君のターンだ」

 

バレット LP4000

フィールド『漆黒の豹戦士パンサーウォリアー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札1

 

静かな立ち上がりだ。場を整える程度。今まで闘って来た者が派手で強力なモンスターを呼んで来た為、少々拍子抜けしてしまう。だが、油断は出来ない。何せ相手はバレットなのだ。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』を発動!2枚ドローし、その中のペンデュラムモンスターを手札に!1枚のみだ」

 

榊 遊矢 手札5→7→6

 

「『時読みの魔術師』と『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』をでペンデュラムスケールをセッティング!」

 

「手札の『増殖するG』を捨てる」

 

早速得意のペンデュラム。彼のデュエルディスクの両端に2枚のカードが設置され、間にPENDULUMの文字が虹色に灯る。そして背後に2本の柱が出現、中に『魔術師』とオッドアイの不死鳥が姿を現し、天空に光の線を結び、魔方陣を描く。

準備は整った。遊矢はその瞳から静かに闘志を燃やす。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム、天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『相克の魔術師』!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

バレット 手札0→1

 

魔方陣から孔が開き、中より一筋の光が轟音を鳴らし、地に落ちる。現れたのは大剣を持った青年『魔術師』。いきなり攻撃力2500の上級の召喚。これこそペンデュラムの特性だ。

 

「『調律の魔術師』を召喚!」

 

調律の魔術師 攻撃力0

 

次は真っ白な法衣を纏い、桃色の髪を揺らした可愛らしい少女の『魔術師』。遊矢がサムから預かり、ジャックに返し損ねたチューナーモンスターだ。彼女はクルリとその場で舞い、横ピースをしてウィンクする。

 

「召喚時、相手はLPを400回復し、自分は400ダメージを受ける」

 

バレット LP4000→4400

 

榊 遊矢 LP4000→3600

 

そして空いたもう片方の手もピース、ハイテンションでイエーと1人盛り上がっているが、手に持っていた杖が滑り落ち、ガツンと遊矢の頭部を打つ。てへぺろと舌を出す調律。どじっ子である。

 

「おごぉ……!お、俺はレベル7の『相克の魔術師』に、レベル1の『調律の魔術師』をチューニング!剛毅の光を放つ勇者の剣!今ここに閃光と共に目覚めよ!シンクロ召喚!『覚醒の魔導剣士』!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500

 

バレット 手札1→2

 

ペンデュラムに続き、シンクロ召喚。『調律の魔術師』が光のリングとなって弾け、『相克の魔術師』を包み込み、シンクロモンスターへと進化する。白い鎧を纏う、二刀流の魔導剣士。彼が初めて会得したシンクロカードだ。このシンクロ次元で培ったものを引き出し、バレットへぶつける。

 

「ほう……シンクロまで会得していたか」

 

「効果で墓地の魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』を回収!発動!良し、両方ペンデュラムだ」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「バトルだ!『覚醒の魔導剣士』でパンサーウォリアーへ攻撃!」

 

「だが……甘い。罠発動、『幻獣の角』!パンサーウォリアーに攻撃力800アップの装備カードとして装備する!」

 

「なっ、しまった――!」

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー 攻撃力2000→2800

 

形勢逆転、『幻獣』としての力を得たパンサーウォリアーが『覚醒の魔導剣士』の白刃を剣で逸らし、返しの刃で胸を切り裂く。剣は圧倒的な力で鎧を砕き、心の臓までも届く。

 

榊 遊矢 LP3600→3300

 

「『幻獣の角』の効果でドロー」

バレット 手札2→3

 

最悪だ。折角出した新たな武器が初見にして、しかもカウンターで撃破されてしまった。闘いの勢いに乗る意味でも、この攻防の結果は重い。

片や低レベルの効果モンスター、片や高レベルのシンクロモンスターなのだ。ショックだが、何とか冷静になろうと息を整える。

 

「新たに得た力で私の意気を削ごうとしたか、それとも士気を上げようとしたか。まだまだ青いな。シンクロ召喚せず、『相克の魔術師』で攻めれば『時読みの魔術師』で罠を封じられただろうに」

 

僅かな落胆を見せ、目を細めるバレット。彼の言う通りだ。『覚醒の魔導剣士』で一気にダメージを与えようとせず、確実な方法を取れば変わっていただろう。急がば回れと言う事か。

 

「バトルフェイズ終了時、手札の『クリボーン』を捨てる事で、このターン戦闘破壊された俺のモンスターを呼び出す。来い、『覚醒の魔導剣士』!」

 

覚醒の魔導剣士 守備力2000

 

バレット 手札3→4

 

仕切り直しだ。遊矢はフゥと息を溢し、気持ちを切り替える。勝負は始まったばかりなのだ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド」

 

「速攻魔法、『スケープ・ゴート』を発動!私のフィールドに4体の『羊トークン』を特殊召喚する」

 

羊トークン 守備力0×4

 

バレットが『スケープ・ゴート』のデメリットを軽減する為、相手エンドフェイズでの発動を見せる。パンサーウォリアーのコストに使う為のトークンだろう。単純であるが有効な手だ。

 

榊 遊矢 LP3300

フィールド『覚醒の魔導剣士』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『時読みの魔術師』『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』

手札2

 

「私のターン、ドロー!速攻魔法、『手札断殺』!互いに手札を2枚交換、魔法カード、『置換融合』を発動!フィールドの『羊トークン』2体で融合!融合召喚!『始祖竜ワイアーム』!」

 

始祖竜ワイアーム 攻撃力2700

 

ここでバレットが最も得意とする融合召喚を披露。現れたのはワイバーンのように翼と一体化した腕を持ち、脚の無い巨大な竜だ。青い鱗を纏い、真っ赤な眼で遊矢のモンスターを射抜く姿は大迫力、正しく伝説上の生物だ。

 

「『幻獣機ブルーインパラス』を召喚」

 

幻獣機ブルーインパラス 攻撃力1400

 

続け様に召喚されたのはインパラとアクロバット飛行機をモデルにした青い戦闘機。彼がスタンダード次元に来て投入したカード群の1枚であり、レベル3のチューナーだ。

 

「ブルーインパラスを素材としてシンクロ召喚する場合、機械族シンクロモンスターしか呼べず、他の素材は手札、フィールドの『幻獣機』でなければならない。私は手札のレベル4の『幻獣機ブラックファルコン』に、レベル3の『幻獣機ブルーインパラス』をチューニング!シンクロ召喚!『幻獣機コンコルーダ』!」

 

幻獣機コンコルーダ 攻撃力2400

 

シンクロ召喚、遊矢も行った召喚法を使い、フィールドに飛翔せしはコンドル型の黄金旅客機。一気にシンクロと融合、2つの召喚法の披露、まるでセルゲイのようだ。

だが、この程度では今更驚きはしない。何しろこの男は融合、シンクロ、エクシーズと3種の召喚法を自在に使いこなす事が出来るのだ。一通りの召喚が終わった事により、彼はワイアームに騎乗、巨大な翼を羽ばたかせ、フィールドを飛翔しながら指示を出す。

 

「バトルだ、パンサーウォリアーで『覚醒の魔導剣士』を攻撃!『羊トークン』をリリース!」

 

「罠発動、『ハーフ・アンブレイク』!このターン、『覚醒の魔導剣士』は戦闘破壊されず、俺の受けるダメージは半分になる!」

 

「『覚醒の魔導剣士』は守備表示、切れ味も届かんか……良かろう。私はカードを2枚セット、ターンエンド」

 

バレット LP4400

フィールド『漆黒の豹戦士パンサーウォリアー』(攻撃表示)『始祖竜ワイアーム』(攻撃表示)『幻獣機コンコルーダ』(攻撃表示)『羊トークン』(守備表示)

『補給部隊』『幻獣の角』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『暗黒界の取引』、手札を交換、魔法カード、『ブラック・ホール』!相手モンスター全てを破壊!」

 

「カウンター罠、『魔宮の賄賂』!魔法、罠の発動を無効にし、破壊、相手は1枚ドローする!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「なら魔法カード『アームズ・ホール』!デッキトップを墓地に送り、デッキの装備魔法、『団結の力』をサーチ!魔法カード、『金満な壺』!墓地のペンデュラムモンスター3体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』をデッキに戻し、ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「『降竜の魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『相克の魔術師』!『EMドラミング・コング』!」

 

相克の魔術師 攻撃力2500

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600

 

振り子は勢いを増し、上級2体を同時召喚、見事なものだ。とは言えその攻撃力はワイアームよりは高くない。『魔術師』は技巧派であり、打点での突破は『EM』のコンボによる仕事の為、仕方無いだろう。

 

「『覚醒の魔導剣士』を攻撃表示に変更!装備魔法、『団結の力』を『覚醒の魔導剣士』に装備!」

 

「カウンター罠、『八式対魔法多重結界』!モンスターを対象とする魔法の発動を無効にし、破壊!」

 

「くっ、なら『降竜の魔術師』のペンデュラム効果でパンサーウォリアーをドラゴン族に変更!これで『幻獣の角』は墓地に送られる。バトルだ!『相克の魔術師』でパンサーウォリアーへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!ダメージを0に!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

バレット 手札0→1

 

「『覚醒の魔導剣士』でコンコルーダへ攻撃!そして戦闘破壊時、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 

「ほう……!」

 

バレット LP4400→2000 

 

「ぐぅぅぅぅっ!?」

 

『覚醒の魔導剣士』が魔法で宙を駆け回り、2対の魔剣でコンコルーダの巨体を真っ二つに切り落とす。見事な一撃。コンコルーダは火炎と黒煙を吹き出しながら地に沈む。

 

「コンコルーダの効果、トークンをリリースし、『幻獣機ブラックファルコン』を特殊召喚!」

 

幻獣機ブラックファルコン 守備力1700

 

「ドラミング・コングで攻撃!自身の効果で攻撃力を600アップ!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→2200

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP3300

フィールド『覚醒の魔導剣士』(攻撃表示)『相克の魔術師』(攻撃表示)『EMドラミング・コング』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『時読みの魔術師』『降竜の魔術師』

手札0

 

大ダメージを与え、一気に勢いに乗る遊矢。モンスターの質もドラミング・コングによって牽制は出来る。たがやはり油断は出来ない。

 

「私のターン、ドロー!見事なものだ。私も負けてられんな。『イピリア』を召喚!」

 

イピリア 攻撃力500

 

「召喚時、1枚ドロー!」

 

バレット 手札1→2

 

「バトルだ!ワイアームでドラミング・コングへ攻撃!」

 

「罠発動、『パワー・ウォール』!デッキトップからカードを3枚墓地に送り、戦闘ダメージを防ぐ!」

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

バレット LP2000

フィールド『始祖竜ワイアーム』(攻撃表示)『イピリア』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『EM・ドラミング・コング』!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600

 

「バトルだ!」

 

瞬間、バリィィィィンッと甲高い音を鳴らし、遊矢のフィールドのカードが全て砕け散る。ギョッと目を剥く遊矢。一体何が起こっているのか、一瞬で全てのカードの破壊、余りにも突然過ぎて理解が追い付かない。

 

「罠発動、『砂塵の大嵐』、『バーストブレス』。前者でペンデュラム2枚を破壊、そして後者でワイアームをリリースし、その攻撃力以下の守備力を持つモンスターを全て破壊させてもらった。『イピリア』も破壊されるが、『補給部隊』の効果でドローする」

 

バレット 手札0→1

 

成程、漸く理解した。2枚のカードを駆使し、『イピリア』もろとも遊矢のカードを破壊したと言う事か。これで互いにモンスター0、0からのスタートだ。バレットはワイアームからブロックへ飛び乗り、遊矢の行く手を観察する。

 

「豪快な……カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP3300

フィールド

セット1

手札0

 

「私のターン、ドロー!墓地の『置換融合』を除外、ワイアームをエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

バレット 手札2→3

 

「悪くない、私は『キャリア・センチネル』を召喚」

 

キャリア・センチネル 攻撃力1000

 

現れたのはトラック型の機械族モンスター。彼の『獣闘機』を中心としたデッキにおいて重要な位置にあるモンスターだ。

 

「召喚時、デッキから獣戦士族モンスター、『漆黒の豹戦士パンサーウォリアー』をサーチ、魔法カード、『融合』を発動!手札のパンサーウォリアーとフィールドの『キャリア・センチネル』を融合!獰猛なる黒豹よ、歴戦の番兵と1つとなりて新たなる雄叫びを上げよ!融合召喚!現れ出でよ、『獣闘機パンサー・プレデター』!!」

 

獣闘機パンサー・プレデター 攻撃力1600

 

ここで現れたのはバレットのエースモンスター。左半身を緑の機械でサイボーグ化し、翼を伸ばしたパンサーウォリアー。サーベルでガリガリと地を削り、火花を散らして、雄叫びを上げる。

 

「パンサー・プレデターの効果!このカードの攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

榊 遊矢 LP3300→2500

 

「うくっ……!」

 

「バトルだ!パンサー・プレデターでダイレクトアタック!」

 

「させるか!墓地の『タスケナイト』の効果発動!俺の手札が0の状態で攻撃宣言を受けた時、このカードを特殊召喚してバトルを終了させる!」

 

タスケナイト 攻撃力1700

 

「む……カードを1枚セット、ターンエンド」

 

バレット LP2000

フィールド『獣闘機パンサー・プレデター』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!エクストラデッキにペンデュラムモンスターが3種以上加わっている為、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

「良し、『EMディスカバー・ヒッポ』を召喚!」

 

EMディスカバー・ヒッポ 攻撃力800

 

現れたのは遊矢のデッキのマスコット。ピンク色のカバの『EM』モンスターだ。最近では同じくピンクな『調律の魔術師』にマスコット枠を食われ気味であり、デッキの仲間にも可愛がられているが、マスコットを譲るつもりは毛頭無い。その目に炎を燃やし、頼もしい所を見せる為、自分の背を叩き、遊矢に乗れと言わんばかりにアピールする。しかし。

 

「ディスカバー・ヒッポの効果で俺はこのターン、レベル7以上のモンスターを追加召喚可能!タスケナイトとディスカバー・ヒッポをリリース、アドバンス召喚!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

遊矢がそれを汲み取るとは限らない。直ぐ様リリース要員にされた事にガビンとショックを受けるも、自身の効果を有効活用されただけマシかと思い直し、前足を振るって退場するヒッポ。そして墓地でカバちゃんダサーいと『調律の魔術師』に煽られる彼と入れ替わりに現れたのは榊 遊矢のエースモンスター。

真紅の体躯を唸らせ、赤と緑の眼を輝かせるドラゴン。『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』だ。遊矢は『オッドアイズ』の背に飛び乗り、頭部から伸びる2本の角をハンドル替わりに騎乗、フィールドを駆ける。

 

「バトルだ!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』で『獣闘機パンサー・プレデター』へ攻撃!螺旋のストライクバースト!」

 

「通す訳にはいかんな!永続罠、『デモンズ・チェーン』!『オッドアイズ』の攻撃と効果を封じる!」

 

だがその鳥類の嘴を思わせるアギトに火炎を集束し、撃ち出そうとしたその時、首に鎖が巻き付けられ、縛り上げて地面に叩き伏せられる。反動でポーンと遊矢の軽い身体が投げ出されるも、その身体能力の高さで右腕を輝くブロックの上へ着地、そのまま押し出す要領でバック転を披露して立ち上がる。

 

「あっぶな……!クソッ、中々上手くいかないもんだな……ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP2500

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「私のターン、ドロー!パンサー・プレデターを守備表示に変更し、効果発動!」

 

榊 遊矢 LP2500→1700

 

「うっ……!」

 

「ターンエンドだ」

 

バレット LP2000

フィールド『獣闘機パンサー・プレデター』(守備表示)

『補給部隊』『デモンズ・チェーン』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『EMセカンドンキー』を召喚!」

 

EMセカンドンキー 攻撃力1000

 

「セカンドンキーの召喚時、デッキの『EMバリアバルーンバク』を墓地へ送る。そして『オッドアイズ』とセカンドンキーをリリース!出でよ!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

遊矢もバレットに負けじと融合モンスターをフィールドに呼び出す。獣骨の鎧を纏い、青い体毛を伸ばし、額に獣の眼を開く野性の龍。雄々しき咆哮を放ち、自らの首に繋がれていた鎖を引き千切る。

 

「バトル!ビーストアイズでパンサー・プレデターへ攻撃!ヘルダイブバースト!」

 

ビーストアイズが口内を発火、青い炎を生み出し、螺旋の回転を加えてパンサー・プレデターへ放つ。パンサー・プレデターもサーベルを振るうも抵抗虚しく着弾、爆発が巻き起こり、バレットの身をも焦がす。

 

「くっ、パンサー・プレデターの効果でこのカードの素材となった2体を蘇生、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

「ビーストアイズの効果により、このカードの素材となった獣族モンスター、セカンドンキーの攻撃力分のダメージを与える!」

 

バレット LP2000→1000 手札1→2

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー 守備力1600

 

キャリア・センチネル 守備力1600

 

「ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP1700

フィールド『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「私のターン、ドロー!流石に手強いな、魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに2枚ドロー!」

 

バレット 手札2→4

 

ビーストアイズが引き千切り、ガラクタと化した鎖に小さな光が灯り、光がバレットのデッキに移り、引き抜かれる。これで手札が3枚。

 

「魔法カード、『融合』を発動!私はフィールドの『キャリア・センチネル』と手札の『ヴォルカニック・バレット』で融合!融合召喚!『起爆獣ヴァルカノン』!」

 

起爆獣ヴァルカノン 攻撃力2300

 

現れたのは肩から赤い銃口を伸ばした鋼鉄の獣。この状況でこのモンスター。遊矢にとってかなり不味いカードだ。

 

「ヴァルカノンの融合召喚時、ビーストアイズとこのカードを破壊し、破壊したビーストアイズの攻撃力分のダメージを与える!」

 

「やらせて堪るか!罠発動、『レインボー・ライフ』!手札のアクションマジックを捨て、このターンのダメージを回復に!」

 

榊 遊矢 LP1700→4700

 

「かわすか……だがビーストアイズは消えた。『補給部隊』の効果でドロー!」

 

バレット 手札1→2

 

「モンスターとカードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

バレット LP1000

フィールド『漆黒の豹戦士パンサーウォリアー』(守備表示)セットモンスター

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!良し、『カードガンナー』を召喚!」

 

カードガンナー 攻撃力400

 

引き抜いた1枚に視線を移し、遊矢が直ぐ様フィールドに呼び出す。ガラスの頭部に赤いボディ、両腕から大砲を伸ばし、下半身が青いキャタピラになったモンスター。墓地肥やし、ドローブースト、加えてアタッカーとしても運用が可能なユニークなモンスターだ。

 

「効果発動!デッキトップの3枚を墓地へ送り、攻撃力を1500アップ!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

「バトルだ!『カードガンナー』でパンサーウォリアーへ攻撃!」

 

「罠発動、『デストラクト・ポーション』!パンサーウォリアーを破壊し、その攻撃力分回復!『補給部隊』でドロー!」

 

バレット LP1000→3000 手札1→2

 

「ならセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『幻獣機ハムスラット』!リバース効果により、『幻獣機トークン』を2体生成!」

 

「だが既にハムスラットの戦闘破壊は決定している!」

 

「承知の上だ!」

 

幻獣機トークン 守備力0×2

 

ハムスター型の給油輸送機が現れ、ポコポコと2体のトークンを生成、フィールドを飛翔、旋回するその1体にバレットが飛び乗る。

 

「ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP4700

フィールド『カードガンナー』(攻撃表示)

手札0

 

「私のターン、ドロー!『幻獣機ハリアード』を召喚!」

 

幻獣機ハリアード 攻撃力1800 レベル4→10

 

現れたのは鬣を持つ肉食獣と戦闘機を合成したモンスター。

 

「ハリアードの効果!『幻獣機トークン』をリリースし、手札の『幻獣機メガラプター』を特殊召喚!」

 

幻獣機メガラプター 攻撃力1900 レベル4→7

 

幻獣機ハリアード レベル10→7

 

次は小型肉食恐竜を模した青いステルス戦闘機。『幻獣機』の中でも優秀な効果を持ち、ハリアードとも相性の良いカードだ。

 

「メガラプターの効果!『幻獣機トークン』をリリースし、デッキから『幻獣機ブルーインパラス』をサーチ!そしてハリアードの効果!このカードの効果以外でモンスターがリリースされた事で『幻獣機トークン』を特殊召喚!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

幻獣機ハリアード レベル4→7

 

幻獣機メガラプター レベル4→7

 

「墓地の『ヴォルカニック・バレット』の効果!LPを500払い、同名モンスターをサーチ!」

 

バレット LP3000→2500

 

「そして魔法カード、『手札抹殺』を発動!手札を全て捨て、捨てた枚数分ドロー!魔法カード、『二重召喚』!再び得た召喚権で『エンジェル・トランペッター』を召喚!」

 

エンジェル・トランペッター 攻撃力1900

 

現れたのは獣戦士族でも機械族でもない、植物族のチューナーモンスター。通常モンスターの為、ワイアームの融合素材にでも使用すべく投入したのだろう。

 

「バトルだ!メガラプターで『カードガンナー』へ攻撃!」

 

「うぐぁっ!」

 

榊 遊矢 LP4700→3200

 

メガラプターが銃弾を乱射、雨のように降り注ぎ、『カードガンナー』を粉砕する。

 

「『カードガンナー』が破壊された事で、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「ハリアードでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを封じる!」

 

続くハリアードが空から襲撃を仕掛けるも、地面から光の剣が出現、柵のように重なり、遊矢を守る盾となる。『カードガンナー』の効果で落ちていたか、遊矢もつくづく悪運が強い。バレットが呆れるような笑みを溢し、これ位当然かとメインフェイズ2へと移行する。

 

「私はメガラプターとハリアードでオーバーレイ!」

 

「ッ!」

 

メガラプターとハリアード、レベル7となった2体の『幻獣機』が光となって天空で交差、空に開いた渦に吸い込まれ、小規模なビッグバンを巻き起こす。そして瞬間、バレットの右の手の甲に赤い光の線が浮かび上がり、42の数字を描き出す。今から現れるのは間違いなく――『No.』。

遊矢としては2連戦で『No.』と向き合う事となる。嫌が応でも思い出し、『No.』が放つ圧力が脳裏に過り、額から汗が伝う。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!発進せよ!『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』!」

 

No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク 守備力3000

 

エクシーズ召喚、黒煙を裂き、ゴゴゴゴゴ、と凄まじい音を鳴らし、姿を見せたのはエイを思わせる平べったい――とは言っても人間の目からすれば分厚い鋼のボディから尾を伸ばす、ステルス巨大母艦。その翼に42の赤い数字が浮かび上がり、圧倒的な存在感を見せつける。

 

「そしてレベル3の『幻獣機トークン』に、レベル4の『エンジェル・トランペッター』をチューニング!シンクロ召喚!『幻獣機コンコルーダ』!」

 

幻獣機コンコルーダ 攻撃力2400

 

エクシーズからシンクロへ、続け様に再び姿を見せる黄金の『幻獣機』。トークンより跳躍したバレットを受け止めるように飛行し、その背へと着地させる。これでバレットのコンボは揃った。

 

「『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』の効果発動!ORUを2つ取り除き、自分フィールドに風属性、機械族、レベル6、攻撃力2000、守備力0の『バトル・イーグル・トークン』を可能な限り特殊召喚する!」

 

バトル・イーグル・トークン 攻撃力2000×3

 

巨大母艦よりこれまた巨大な戦艦が飛び出す。『幻獣機』にも似たトークン生成能力と高い守備力。それがこの『No.』の能力だ。尤も、デメリットも大きく、発動後、与えるダメージが0になる――はバトルを行っている為、解消されているが、もう1つ、ターン終了時にこのトークンは破壊され、母艦の下へと帰ってしまう。だが、そこはバレット。対策済みだ。

 

「ターンを終了、この瞬間、『バトル・イーグル・トークン』は破壊されるが、コンコルーダの効果でトークンに破壊耐性が与えられている!」

 

つまり『バトル・イーグル・トークン』のデメリットは消えただけでなく、戦闘、効果破壊耐性を持った攻撃力2000のモンスターへと進化したと言う事だ。

モンスターの力を理解し、組み合わせる発想、そしてそれを実現させる力。流石はバレットと言った所か。遊矢は苦笑いを浮かべるしかない。

 

バレット LP2500

フィールド『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』(守備表示)『幻獣機コンコルーダ』(攻撃表示)『バトル・イーグル・トークン』(攻撃表示)×3

『補給部隊』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『金満な壺』を発動!墓地の『EMドクロバット・ジョーカー』、『曲芸の魔術師』、エクストラデッキの『時読みの魔術師』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「『EMギタートル』と『EMゴムゴムートン』でペンデュラムスケールをセッティング!ギタートルのペンデュラム効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「スケールは6と1、レベル2から5のモンスターが同時召喚可能と言う事か」

 

「ペンデュラム召喚!『EMドラミング・コング』!」

 

EMドラミング・コング 守備力800

 

このターンは壁となるモンスターを呼び出す事に専念したのか、遊矢のフィールドに膝をつけた胸がドラムとなったゴリラが現れ、遊矢を守るように前に出る。忠誠心からか、友情からか、どちらにせよモンスター達と充分信頼を築いている証だろう。

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動。ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP3200

フィールド『EMドラミング・コング』(守備表示)

『補給部隊』

Pゾーン『EMギタートル』『EMゴムゴムートン』

手札1

 

「私のターン、ドロー!悪くない布陣だ。だが……突け入る隙はある墓地の『ヴォルカニック・バレット』の効果発動!」

 

バレット LP2500→2000

 

「速攻魔法、『魔力の泉』を発動。君のフィールドの表側表示の魔法、罠の数4枚分ドローし、私のフィールドの表側表示の魔法、罠の3枚分を捨てる」

 

バレット 手札1→5→2

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』をエクストラデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

バレット 手札2→3

 

「『No.』を……!?」

 

理屈的には納得は出来る。ORUを失ったこのカードはトークンを生成出来ず、ただの守備力が高いエクシーズモンスターとなるだけ。素材として墓地に送り、例え蘇生してもORUが無いなら効果は使えない。

ならばエクストラデッキに戻す事でORUを持った状態でエクシーズ召喚した方が良いと思ったのだろう。『No.』を持っていても、この男はその力に頼り切りにならない。

 

「魔法カード、『融合回収』。墓地の『融合』と『キャリア・センチネル』を回収、そして召喚!」

 

キャリア・センチネル 攻撃力1000

 

「召喚時効果で『漆黒の戦士ワーウルフ』をサーチ」

 

これで手札は4枚、中々の回復力だ。

 

「魔法カード、『融合』を発動!フィールドの『キャリア・センチネル』と手札の『ヴォルカニック・バレット』で融合!融合召喚!燃え上がり飛翔せよ!『重爆撃禽ボム・フェネクス』!」

 

重爆撃禽ボム・フェネクス 攻撃力2800

 

現れしは黒鉄の翼を広げる太陽色の不死鳥。強力な効果を持っており、制限カードにも指定されているモンスターだ。このカードは遊矢も所属する遊勝塾のジュニア組の1人、山城 タツヤのエースモンスター。そして、彼に融合を教えたのはバレットだ。

バーン効果もある為、ヴァルカノン同様にバレットが使っていても不思議ではない。不思議では無いが……今この状況でこのモンスターの登場は重く、何よりこのモンスターの効果は遊矢にとって天敵と言って良い。

 

「君も私も、戦術的にフィールドに多くのカードを残しやすい。それがこのカードの真価を発揮させる!カードを2枚セット!そしてボム・フェネクスの効果発動!フィールドのカード1枚につき300のダメージを与える!フィールドのカードは13枚!よって3900のダメージだ!不死鳥大空襲!」

 

「墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、このターンの効果ダメージを半分に!」

 

榊 遊矢 LP3200→1250

 

炎の嵐が遊矢の身体に降り注ぎ、LPを大きく削り取る。半減しても1950、1枚のカードが与える効果ダメージとしては強力だ。

 

「堪えると思っていた。魔法カード、『一騎加勢』!『バトル・イーグル・トークン』の攻撃力を1500アップ!」

 

バトル・イーグル・トークン 攻撃力2000→3500

 

「バトルだ!『バトル・イーグル・トークン』でドラミング・コングへ攻撃!」

 

「モンスターが破壊され、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「コンコルーダでダイレクトアタック!」

 

「手札の『EMジンライノ』を墓地に送り、『EMバリアバルーンバク』を特殊召喚!」

 

EMバリアバルーンバク 守備力2000

 

「攻撃変更!」

 

「ゴムゴムートンのペンデュラム効果発動!戦闘破壊から守る!」

 

「アクションマジック、『ハイダイブ』!『バトル・イーグル・トークン』の攻撃力を1000アップ!」

 

バトル・イーグル・トークン 攻撃力2000→3000

 

「攻撃!」

 

「墓地の『EMジンライノ』を除外し、戦闘破壊から守る!」

 

「もう1体のトークンでバリアバルーンバク攻撃!」

 

巨大な戦闘機の強襲も何のその、モンスター達の力を合わせ、乗り越える遊矢。バレット相手に互角に渡り合っている。

 

「堪えると思っていた。私はこれでターンエンド。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を除外」

 

バレット LP2000

フィールド『重爆撃禽ボム・フェネクス』(攻撃表示)『幻獣機コンコルーダ』(攻撃表示)『バトル・イーグル・トークン』(攻撃表示)×3

『補給部隊』セット1

手札0

 

融合、シンクロ、エクシーズにペンデュラム。互いが得た全ての武器でぶつかる2人、今こそ、成長を見せる時。



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第171話 卒業デュエル

「ご苦労、後はこちらで何とかする」

 

『……何で君はそんなに偉そうなんだ……言っておくが僕の方が上官だぞ』

 

「フン、残念だったな、俺はアカデミアなど退職したわ」

 

『ノージョブじゃないか、全く勝ち誇れてないぞ万丈目』

 

「さん、だ!」

 

時は遡り、融合次元のとある街にて、万丈目はとある人物に連絡し、紫雲院 素良の事情と、その妹が入院していると言う病院を調査していた。

 

『全く、突然連絡しないでくれ、カモフラージュしているとは言え、君の名を見た時は心臓が飛び出しそうになったぞ……こっちは今忙しいんだ。切るぞ』

 

「うむ」

 

元上官……いや、現上官でもあるのか、男との連絡を終え、万丈目は頭をガシガシと掻き、目的地である病院を目指し、テクテクとのんびり歩き出す。その先で、意外な人物との再会が待っているとは知らずに。

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

スタンダード次元、ランサーズの一員、エンタメデュエリスト、榊 遊矢と融合次元、アカデミアの教導官、バレットのデュエルは未だ続く。

自らが生み出した武器、ペンデュラムを展開の起点にし、融合、シンクロ、エクシーズと多くの引き出しから予想外の手で攻める遊矢に対し、バレットは常に冷静だ。こちらはペンデュラムは無いにしろ、融合、シンクロ、エクシーズ、3種の召喚法を組み合わせ、自在に操っている。

 

正攻法のビートダウンに、隙があれば搦め手のバーンも織り混ぜる変則的なデュエルに遊矢は苦戦を強いられる。

しかも彼の操る融合モンスター、『重爆撃禽ボム・フェネクス』はフィールドに多くのカードを溜め込みやすい遊矢のデュエルとは相性が悪い。バレットもこのカードの効果を十二分に発揮させているのが拍車をかける。

 

それでも、それでも――遊矢はここで立ち止まる訳にはいかない。相手が如何なる強敵であろうと、彼の心は折れず、燃え上がるような闘志が2本の足を奮い立たせ、その指先でデッキから1枚のカードを引き抜く。

 

「一番厄介なのはボム・フェネクスか……ペンデュラム召喚!『EMドラミング・コング』!『EMオオヤヤドカリ』!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600

 

EMオオヤヤドカリ 守備力2500

 

現れたのはヤドカリ型のモンスター。守備力が高く、壁としては優秀だ。尤も、遊矢が頼りにしているのはその効果だろうが。

 

「オオヤヤドカリの効果発動!ターン終了時までドラミング・コングの攻撃力を、フィールドの『EM』モンスターの数×300アップする!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→2200

 

「バトル!ドラミング・コングでボム・フェネクスへ攻撃!攻撃宣言時、ドラミング・コングの攻撃力を600アップし、ゴムゴムートンのペンデュラム効果で戦闘破壊から守る!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力2200→2800

 

本来ならば相撃ちとなる攻撃だが、ゴムゴムートンの効果でラバーアーマーを纏ったドラミング・コングにはボム・フェネクスの攻撃は効かない。ドラムを叩く拳で鎧が砕かれ、不死鳥は炎と消える。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

バレット 手札0→1

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP1250

フィールド『EMドラミング・コング』(攻撃表示)『EMオオヤヤドカリ』(守備表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMゴムゴムートン』

手札0

 

「私のターン、ドロー!『カードガンナー』を召喚!」

 

カードガンナー 攻撃力400

 

「『カードガンナー』の効果発動!デッキトップから3枚を墓地へ送り、攻撃力アップ!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

「バトル!コンコルーダでドラミング・コングへ攻撃!」

 

「ドラミング・コングの効果で攻撃力アップ!ゴムゴムートンのペンデュラム効果は使わず、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→2200

 

榊 遊矢 LP1250→1050 手札0→1

 

「ドローを選んだか、私はこれでターンエンドだ」

 

バレット LP2000

フィールド『幻獣機コンコルーダ』(攻撃表示)『バトル・イーグル・トークン』(攻撃表示)×3『カードガンナー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『EMドラミング・コング』!『EMファイア・マフライオ』!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600

 

EMファイア・マフライオ 守備力800 

 

「オオヤヤドカリの効果発動!ドラミング・コングの攻撃力アップ!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→2500

 

「バトル!ドラミング・コングで『カードガンナー』へ攻撃!攻撃力アップ!」

 

「罠発動!『レインボー・ライフ』!手札を1枚捨て、このターンのダメージを回復に変える!そして『補給部隊』と『カードガンナー』の効果で2枚ドロー!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力2500→3100

 

バレット LP2000→4700 手札0→1→2

 

「くっ、ファイア・マフライオの効果発動!ペンデュラムモンスターが相手モンスターを戦闘破壊したダメージ計算後、そのペンデュラムモンスターの攻撃力を200アップし、続けて攻撃が出来る!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力3100→3300

 

「コンコルーダへ攻撃!」

 

バレット LP4700→5600

 

「……コンコルーダの効果は使わない」

 

「ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP1050

フィールド『EMドラミング・コング』(攻撃表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)『EMオオヤヤドカリ』(守備表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMゴムゴムートン』

手札1

 

「私のターン、ドロー!バトル!『バトル・イーグル・トークン』でドラミング・コングへ攻撃!」

 

「ドラミング・コングの効果発動!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→2200

 

「速攻魔法、『リミッター解除』!私のフィールドに存在する機械族モンスターの攻撃力は倍になる!」

 

バトル・イーグル・トークン 攻撃力2000→4000×3

 

ここで発動されたのは機械族御用達、攻撃力を大幅にアップする強力なフィニッシュカード。デメリットとしてこの効果を受けたモンスターはターン終了と共に破壊されるが、バレットのフィールドの機械族はあくまでトークン。巻き返しは充分に可能だ。

しかし遊矢としては不味い。攻撃力4000の『バトル・イーグル・トークン』の攻撃を攻撃力2200のドラミング・コングで受ければLP1050の遊矢は一気にゲームエンドまで持って行かれてしまう。

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!『補給部隊』の効果も使う!」

 

榊 遊矢 手札1→2→3

 

すんでの所で身を守り、デッキから2枚のカードを引き抜く。ドラミング・コングは破壊されたが、むしろそれで良い。的になる位なら破壊された方がマシ。ペンデュラムモンスターの為、痛くもない。

 

「なら残る2体で2体の『EM』へ攻撃!」

 

「ゴムゴムートンの効果でオオヤヤドカリを守る!」

 

「フム、メインフェイズ2、フィールド魔法、『融合再生機構』を発動。手札を1枚捨て、墓地の『融合』を回収し、発動。2体の『バトル・イーグル・トークン』で融合!融合召喚!『始祖竜ワイアーム』!」

 

始祖竜ワイアーム 攻撃力2700

 

再びフィールドに現れる翼竜。効果モンスターで倒せないこのモンスターは実に厄介だ。しかもこれで3体の『バトル・イーグル・トークン』の内、2体を処理、デメリットを上手く対処した。

 

「ターンエンド。この瞬間、『バトル・イーグル・トークン』は破壊され、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

バレット 手札0→1

 

最後の『バトル・イーグル・トークン』も手札に変換、隙がない。

 

バレット LP5600

フィールド『始祖竜ワイアーム』(攻撃表示)

『補給部隊』

『融合再生機構』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『バトル・イーグル・トークン』は消えたけど……有利になってる気がしない……!魔法カード、『金満な壺』!エクストラデッキの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『降竜の魔術師』、『相克の魔術師』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「ペンデュラム召喚!『EMドラミング・コング』!『EMファイア・マフライオ』!『EMスパイク・イーグル』!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600

 

EMファイア・マフライオ 守備力800

 

EMスパイク・イーグル 守備力900

 

揺れ動く振り子の軌跡が遊矢の仲間を次々と呼ぶ。ドラミング・コング達と共に呼び出されたのは鷲型の『EM』。攻守は低く、効果もかなりショッパイモンスターだ。

 

「魔法カード、『死者への手向け』!手札を1枚捨て、ワイアームを破壊!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

バレット 手札1→2

 

「オオヤヤドカリの効果発動!ドラミング・コングの攻撃力をアップ!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→2800

 

「バトルだ!ドラミング・コングでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『超電磁タートル』を除外し、バトルフェイズを終了!」

 

ドラミング・コングの拳がバレットを捉える瞬間、横合いから赤と青の電流を纏った円盤状の物体が飛び出し、ドラミング・コングにぶつかって弾き飛ばす。更に円盤から四散する電流が赤と青の電磁バリアを作り、バレットを包み込む。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP1050

フィールド『EMドラミング・コング』(攻撃表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)『EMオオヤヤドカリ』(守備表示)『EMスパイク・イーグル』(守備表示)

『補給部隊』セット1

『EMギタートル』『EMゴムゴムートン』

手札1

 

「私のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『風林火山』!」

 

「何っ!?」

 

ここに来て遊矢が発動したカードを見て、バレットが目を見開き、初めて驚愕を見せる。それもそうだろう、シンクロは予想がついたが、このカードは予想外の想定外。流石のバレットも考えが及ばない。

何故ならこのカード、かなり発動条件が厳しく、滅多にお目にかかれないものだからだ。別段レアカードと言う訳ではないが――コナミの『エレメンタルバースト』と同じく、デッキに組み込もうとする者が珍しい。

 

「フィールドに風、水、火、地属性のモンスターが揃っている事で、4種の効果から1つを発動する!俺が発動するのは、相手の手札をランダムに2枚捨てさせる効果だ!」

 

途端、オオヤヤドカリを中心に4体が輝き、フィールドに津波が押し寄せ、バレットの手札を2枚拐っていく。デュエルモンスターズにおいてハンデスは強力な効果だ。それを2枚分も使用出来たとなると遊矢にアドバンテージが傾く。

 

「クク、フハハハハ!まさか……まさかそのような手で来るとはな!面白い、面白いぞ榊 遊矢!」

 

「へへ、どうも……!」

 

手札1枚のピンチにも関わらず、おかしいと笑い声を上げるバレット。武人気質な彼がこうも笑うとは珍しい。

 

「さて、そろそろ教えてくれるかな、バレットさん。何で――何で貴方が、アカデミアの戦士として、俺達の前に立ち塞がるのか」

 

「……フ、そうだな……簡単に言えば、アカデミアにいないと出来ない事がある、と言う事と……私もデュエリストだ。本気の君と闘いたい。教導官としてどこまで出来るか、本当に君が自身の目的を達するに相応しい実力を持っているか、試したいと言った所か」

 

「……それで、俺の実力は……?」

 

「フッ、結論を急ぐな……デュエルはまだ、終わっていない!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『獣闘機パンサー・プレデター』、『重爆撃禽ボム・フェネクス』、『始祖竜ワイアーム』、『幻獣機コンコルーダ』、『ヴォルカニック・バレット』の5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

バレット 手札0→2

 

ここに来て手札増強カード。『風林火山』で捨て切れなかった事と言い、運が良い。

 

「墓地のブルーインパラスの効果!相手フィールドにモンスターが存在し、私のフィールドにモンスターが存在しない事で、このカードを除外し、『幻獣機トークン』を特殊召喚!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

「墓地の『ヴォルカニック・バレット』の効果!LPを500払い、同名カードをサーチ!」

 

バレット LP5600→5100

 

「そしてフィールド魔法、『融合再生機構』の効果で手札1枚と墓地の『融合』を交換!墓地に送られたオライオンの効果で『幻獣機トークン』を呼ぶ!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

「『幻獣機テザーウルフ』を召喚!」

 

幻獣機テザーウルフ 攻撃力1700 レベル4→10

 

現れたのは狼を模したヘリコプター。『幻獣機』において下級ながらも攻撃力2500までのモンスターを戦闘破壊可能なアタッカーだ。

 

「召喚時、『幻獣機トークン』を生成」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

幻獣機テザーウルフ レベル10→13

 

「そして『融合』を発動!手札の『ヴォルカニック・バレット』とテザーウルフで融合!融合召喚!『重爆撃禽ボム・フェネクス』!」

 

重爆撃禽ボム・フェネクス 攻撃力2800

 

「ボム・フェネクスの効果!フィールドのカード×300のダメージを与える!」

 

「手札の『EMレインゴート』を捨て、効果ダメージを0にする!更に手札の『EM』が墓地に送られた事で、墓地の『EMギッタンバッタ』を蘇生!」

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

油断すれば一撃必殺のダメージが飛んで来る。先程までピンチだったにも関わらず、驚愕の一手で攻めるバレット。恐ろしいデュエリストだ。

 

「ターンエンド。この瞬間、『融合再生機構』の効果で融合素材となったテザーウルフを回収」

 

「俺もギッタンバッタを墓地に送り、レインゴートを回収する」

 

バレット LP5100

フィールド『重爆撃禽ボム・フェネクス』(攻撃表示)『幻獣機トークン』(守備表示)×3

『補給部隊』セット

『融合再生機構』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!スパイク・イーグルの効果!ドラミング・コングに貫通効果を与え、オオヤヤドカリの効果で強化する!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→2800

 

「バトルだ!ドラミング・コングで『幻獣機トークン』を攻撃!」

 

「墓地の『ネクロ・ガードナー』を除外し、攻撃を無効にする」

 

「む、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP1050

フィールド『EMドラミング・コング』(攻撃表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)『EMオオヤヤドカリ』(守備表示)『EMスパイク・イーグル』(守備表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMゴムゴムートン』

手札1

 

「私のターン、ドロー!『幻獣機テザーウルフ』を召喚」

 

幻獣機テザーウルフ 攻撃力1700 レベル4→13

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!テザーウルフをリリースし、2枚ドロー!」

 

バレット 手札1→3

 

「フィールドの『幻獣機トークン』2体をリリースし、『幻獣機グリーフィン』を特殊召喚!」

 

幻獣機グリーフィン 守備力2500

 

現れたのはグリフォン型の爆撃機。メインデッキに唯一投入出来る最上級の『幻獣機』モンスターだ。

 

「墓地の『幻獣機オライオン』を除外し、手札の『幻獣機オライオン』を召喚!」

 

幻獣機オライオン 攻撃力600

 

次はライオン型の『幻獣機』、レベル2のチューナーモンスターだ。狙いはシンクロか。

 

「レベル7のグリーフィンに、レベル2のオライオンをチューニング!シンクロ召喚!『幻獣機ヤクルスラーン』!」

 

幻獣機ヤクルスラーン 攻撃力2700

 

現れたのは翼を伸ばした怪蛇と航空機を合成したレベル9のシンクロ『幻獣機』。今まで召喚された中でも最もレベルが高いモンスターだ。自然と遊矢の警戒も引き上がる。

 

「墓地に送られたオライオンの効果でトークン生成、ヤクルスラーンのシンクロ召喚時効果で『幻獣機トークン』をリリースし、相手の手札を捨てさせる!」

 

「くっ、手札の『EMレインゴート』を捨て、スパイク・イーグルを守る!ギッタンバッタを蘇生!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

「カードを1枚セット、ボム・フェネクスの効果発動!4500のダメージを受けるが良い!」

 

「受けるのはそっちだ!罠発動!『リフレクト・ネイチャー』!このターン、相手が発動したLPにダメージを与える効果を相手に跳ね返す!」

 

「何っ!?」

 

バレット LP5100→600

 

圧倒的なダメージに対し、遊矢はそれを待っていたとばかりにフィールドに巨大な鏡を呼び出し、不死鳥の炎を弾き返す。これでバレットの残るLPは600。後少しまで追い詰めた。

 

「クク、そう来るか……バトル!ヤクルスラーンでドラミング・コングへ攻撃!」

 

「自身の効果で攻撃力アップ!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→2200

 

榊 遊矢 LP1050→550

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「ターンエンドだ」

 

「ギッタンバッタの効果で自身を墓地に送り、レインゴートを回収!」

 

バレット LP600

フィールド『重爆撃禽ボム・フェネクス』(攻撃表示)『幻獣機ヤクルスラーン』(攻撃表示)『幻獣機トークン』(守備表示)

『補給部隊』セット1

『融合再生機構』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ペンデュラム召喚!『EMドラミング・コング』!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600

 

「スパイク・イーグルの効果でドラミング・コングに貫通効果を与え、オオヤヤドカリの効果で攻撃力アップ!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→2800

 

「バトル!ドラミング・コングでボム・フェネクスへ攻撃!」

 

「罠発動!『ドレイン・シールド』!ドラミング・コングの攻撃を無効にし、その攻撃力分LPを回復する!」

 

バレット LP600→3400

 

EMドラミング・コング 攻撃力2800→3400

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP550

フィールド『EMドラミング・コング』(攻撃表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)『EMオオヤヤドカリ』(守備表示)『EMスパイク・イーグル』(守備表示)

『補給部隊』セット2

Pゾーン『EMギタートル』『EMゴムゴムートン』

手札1

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

バレット 手札0→3

 

実力が拮抗している今、天秤を傾けるには充分なカードが発動される。3枚のカードがバレットの手札に渡り、彼はじっくりとその目に焼きつける。これならば。

 

「魔法カード、『ハーピィの羽帚』!君のフィールドの魔法、罠カードを全て破壊!」

 

「ぐっ、破壊された『運命の発掘』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「これでペンデュラムは使えんだろう。が、それでも君の布陣は固いか。『漆黒の豹戦士パンサー・ウォリアー』を召喚!」

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー 攻撃力2000

 

「バトル!パンサーウォリアーでファイア・マフライオへ攻撃!『幻獣機トークン』をリリースする!」

 

「くっ、通す!」

 

「ボム・フェネクスでオオヤヤドカリを攻撃!」

 

「墓地の『EMジンライノ』を除外し、オオヤヤドカリを戦闘から守る!」

 

「追撃だ!やれ、ヤクルスラーン!」

 

「ッ、オオヤヤドカリ!」

 

遊矢も防ぐが、一手二手と及ばず、遊矢のモンスターが撃破される。それでもモンスターが2体残っている辺りは流石と言うべきか。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド」

 

バレット LP3400

フィールド『重爆撃禽ボム・フェネクス』(攻撃表示)『幻獣機ヤクルスラーン』(攻撃表示)『漆黒の豹戦士パンサーウォリアー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

『融合再生機構』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『EMホタルクス』と『EMリザードロー』をセッティング!リザードローを破壊し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「バトル!ドラミング・コングでパンサーウォリアーへ攻撃!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→2200

 

バレット LP3400→3200

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

バレット 手札0→1

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP550

フィールド『EMドラミング・コング』(攻撃表示)『EMスパイク・イーグル』(守備表示)

セット1

Pゾーン『EMホタルクス』

手札1

 

「私のターン、ドロー!そろそろ楽にしてやろうか、『漆黒の戦士ワーウルフ』を召喚!」

 

漆黒の戦士ワーウルフ 攻撃力1600

 

現れたのは黒い毛並みを持ち、剣を手にした狼男。パンサーウォリアーと似た系列のモンスターだ。攻撃力は準アタッカー級、そしてこのモンスターの効果が、ピンチの遊矢を更に追い詰める。

 

「このモンスターがフィールドに存在する限り、君はバトルフェイズの間、罠を発動出来ない」

 

「ッ!」

 

一手一手、確実に遊矢の勝機を潰すプレイング。地味だが今の遊矢にはかなり痛い効果だ。

 

「さて、バトル!ワーウルフでスパイク・イーグルへ攻撃!」

 

「『EMホタルクス』のペンデュラム効果!スパイク・イーグルをリリースし、バトルフェイズを終了する!」

 

僅かな活路から希望を見出だし、遊矢はバレットの猛攻を回避する。とは言え依然として不利には変わらない。今は兎に角手数が欲しい。

 

「厄介なカードだな……私はこれでターンエンドだ」

 

バレット LP3200

フィールド『重爆撃禽ボム・フェネクス』(攻撃表示)『幻獣機ヤクルスラーン』(攻撃表示)『漆黒の戦士ワーウルフ』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

『融合再生機構』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!良し、バトルだ!ドラミング・コングでワーウルフへ攻撃!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→2200

 

「手札の『工作列車シグナル・レッド』の効果発動!このカードを特殊召喚し、攻撃をこのカードに変更、また、この戦闘ではこのカードは破壊されない!」

 

工作列車シグナル・レッド 守備力1300

 

罠の解放を狙うも、バレットも狙い澄ましたかのように1枚のカードで防御する。固い、遊矢も防御には自信があるが、この男も相当長期戦に慣れている。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ……!」

 

榊 遊矢 LP550

フィールド『EMドラミング・コング』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『EMホタルクス』

手札1

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満な壺』を発動!エクストラデッキから6体のモンスターを除外し、2枚ドロー!」

 

バレット 手札1→3

 

「シグナル・レッドを攻撃表示に変更、バトルだ!ヤクルスラーンでドラミング・コングへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『大脱出』!バトルを終了!」

 

「メインフェイズ2、『融合再生機構』の効果で手札を『融合』と交換、そして発動!フィールドのワーウルフとシグナル・レッドを融合!融合召喚!『獣闘機パンサー・プレデター』!!」

 

獣闘機パンサー・プレデター 守備力2000

 

「パンサー・プレデターの効果発動!」

 

「罠発動、『ピケルの魔法陣』!」

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

バレット LP3200

フィールド『獣闘機パンサー・プレデター』(守備表示)『重爆撃禽ボム・フェネクス』(攻撃表示)『幻獣機ヤクルスラーン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

『融合再生機構』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満な壺』!エクストラデッキから6体のモンスターを除外し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「ドラミング・コングを守備表示に変更、カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

「罠発動、『針虫の巣窟』!デッキトップから5枚のカードを墓地へ送る!」

 

榊 遊矢 LP550

フィールド『EMドラミング・コング』(守備表示)

セット3

Pゾーン『EMホタルクス』

手札1

 

「私のターン、ドロー!パンサー・プレデターの効果発動!」

 

「アクションマジック、『加速』!」

 

「墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外し、ホタルクスを破壊!」

 

「ッ!」

 

「これで君の命綱は消えた……パンサー・プレデターを攻撃表示に変更、加えて墓地の『ADチェンジャー』を除外し、ドラミング・コングを攻撃表示に変更、バトルだ!ヤクルスラーンでドラミング・コングへ攻撃!」

 

「ドラミング・コングの効果発動!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→2200

 

榊 遊矢 LP550→50

 

「パンサー・プレデターでダイレクトアタック!」

 

「永続罠、『EMピンチヘルパー』!攻撃を無効にし、デッキから『EMインコーラス』を特殊召喚!更にチェーンして永続罠、『竜星の極み』!攻撃可能なモンスターを強制的に戦闘させる!」

 

EMインコーラス 守備力500

 

発動されたのは遊矢の最強の防御札と言っても過言ではない永続罠。ピンチヘルパーとは良く言ったものだ。ソリッドビジョンのカードの中から3羽のインコが現れ、嘴から音波を放ってパンサー・プレデターを退ける。このカードは防御と共に展開を支える、コナミの『マジカルシルクハット』にあたるカード。防御札が豊富な遊矢のデッキだが、このカードの優秀さには敵わない。

 

「ボム・フェネクスでインコーラスへ攻撃!」

 

「インコーラスの効果!デッキよりペンデュラムモンスター以外の『EM』、『EMロングフォーン・ブル』を特殊召喚!」

 

EMロングフォーン・ブル 守備力1200

 

ボム・フェネクスに襲撃されるも最後の力を振り絞って音波を飛ばし、仲間である『EM』にSOSを送る。そして現れたのは音波を頭部の角にかけた受話器でキャッチした青い牡牛のモンスター。『EMドクロバット・ジョーカー』、『EMペンデュラム・マジシャン』には劣るが、『EM』をサーチする能力を持ったモンスターだ。

 

「ロングフォーン・ブルの特殊召喚に成功した事で、デッキのペンデュラムモンスター以外の『EM』、『EMスライハンド・マジシャン』をサーチする」

 

「ターンエンドだ」

 

バレット LP3200

フィールド『獣闘機パンサー・プレデター』(攻撃表示)『重爆撃禽ボム・フェネクス』(攻撃表示)『幻獣機ヤクルスラーン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

『融合再生機構』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!さぁて反撃開始と行こうか!魔法カード、『ペンデュラム・パラドックス』!エクストラデッキに加わっているペンデュラムモンスターの中から同じスケールで同名以外のカード2枚を回収する!ギタートルとリザードローを回収、セッティング!ギタートルの効果で1枚ドロー!更にリザードローのペンデュラム効果により、自身を破壊してもう1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3→4

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『竜星の極み』を墓地へ送り、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→5

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』で手札交換、『EMトランプ・ウィッチ』をセッティング!これでレベル5のモンスターを同時に召喚可能!ペンデュラム召喚!『EMオオヤヤドカリ』!『EMゴムゴムートン』!『EMドラミング・コング』!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600

 

EMオオヤヤドカリ 守備力2500

 

EMゴムゴムートン 守備力2400

 

「ロングフォーン・ブルをリリースし、『EMスライハンド・マジシャン』を特殊召喚!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500

 

現れたのは派手な赤の衣装に白い仮面、水晶の下半身を持ち、白い羽で覆ったマジシャンだ。手にボールとステッキを握り、フィールドに静かに降り立つ。

 

「スライハンド・マジシャンの効果発動!手札1枚を捨て、パンサー・プレデターを破壊!そのカードは戦闘破壊でしか素材を呼べない筈だ!」

 

「ふむ、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

バレット 手札1→2

 

「そして墓地の『EMギッタンバッタ』を蘇生!」

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

「オオヤヤドカリの効果でドラミング・コングの攻撃力アップ!」

 

EMドラミング・コング 攻撃力1600→3100

 

「オオヤヤドカリとゴムゴムートンをリリース、アドバンス召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

ヤドカリと羊が2つの竜巻に呑まれ、1つに合体、中より赤と緑の光が輝いた後、雄々しき咆哮が竜巻を引き裂き、2色の虹彩を持った真紅の竜が飛び出す。ここで遊矢のエースカード、『オッドアイズ』の登場。ボム・フェネクスやヤクルスラーンに攻撃力が及ばないものの、遊矢のフィールドにはそれを打破するカードがある。

 

「『EMトランプ・ウィッチ』の効果発動!フィールドの『オッドアイズ』とスライハンド・マジシャン』で融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

魔術の力が『オッドアイズ』の眼に宿り、金属に封じ込める。更に背に負った三日月状の突起が変化、満月を思わせる円となり、金色の光を放つ。『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』に並ぶ、遊矢が誇る3体の融合進化体、『ペンデュラム・ドラゴン』の1体だ。こちらは効果耐性と連続攻撃に優れている。効果耐性は現在抜け落ちているが。

 

「バトルだ!ルーンアイズでボム・フェネクスへ攻撃!この瞬間、ドラミング・コングの効果で攻撃力をアップ!連撃のシャイニーバースト!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→3600

 

バレット LP3200→2400

 

「ぐっ!」

 

ルーンアイズの背から伸びるリングの窪みに3つ、光の球体が出現し、咆哮を放つと共に球より熱線が飛来、天空を飛翔するボム・フェネクスの胸部を貫き、撃ち落とす。まずは1体、強力なバーン効果を持ったモンスターを倒した。

 

「次だ、ルーンアイズでヤクルスラーンへ攻撃!」

 

バレット LP2400→1500

 

「だが!ヤクルスラーンが破壊された事で、私はデッキの速攻魔法1枚をフィールドにセットする!」

 

「止まらないぞ!ドラミング・コングでダイレクトアタック!」

 

「させん!罠発動!『リジェクト・リボーン』!相手モンスターのダイレクトアタック時、バトルを終了、その後、シンクロモンスターとチューナーモンスターを特殊召喚する!来い、『幻獣機コンコルーダ』!『亡龍の戦慄ーデストルドー』!」

 

幻獣機コンコルーダ 攻撃力2400

 

亡龍の戦慄ーデストルドー 守備力3000

 

最後にドラミング・コングの攻撃でフィニッシュを決めようとした遊矢だが、バレットの前方の地面が隆起、火山の噴火のように爆発し、2体のモンスターが姿を見せる。黄金の『幻獣機』、コンコルーダと半身が剥き出しの骨になった赤い竜、レベル7の汎用チューナー、デストルドーだ。どちらもレベル7、エクシーズの布石と言う事か。抜け目のない男である。

 

「そう来なくちゃな……俺はこれでターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP50

フィールド『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMドラミング・コング』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

『EMピンチヘルパー』セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMトランプ・ウィッチ』

手札0

 

ぶつかる2人の漢、榊 遊矢とバレット。互いの全てを賭け、全力の激闘が火花を散らす。鉄と錆びが混じり合う闘いは今、佳境を迎えようとしていた。



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第172話 勲章ものだな

「私のターン、ドロー!」

 

榊 遊矢とバレットのデュエルは未だ続く。互いが持てる力、今までの激闘で得た力を総動員するデュエルは長きに渡り、火花を散らす。

ペンデュラム、融合、シンクロ、エクシーズ、4種の召喚法が幾度となく飛び交う中、バレットは遊矢のフィールドを睨みながらデッキのカードを引き抜く。

 

相手フィールドには攻撃力3000の融合モンスター、『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』とペンデュラムモンスター、『EMドラミング・コング』。直接攻撃を無効にし、デッキから『EM』をリクルートする強力な永続罠、『EMピンチヘルパー』。そしてセットカードと、レベル5が召喚可能なペンデュラムスケール。

中々の布陣だ。ルーンアイズの猛攻でバレットのモンスターは破壊されたものの、『リジェクト・リボーン』で窮地を乗り切り、シンクロモンスターとチューナーを蘇生した。

 

本当に、本当に――目の前の少年は成長した。感慨深いものだ。バレットは目を細め、感傷に耽る。初めて会った頃はまだまだ未熟な雛鳥であったと言うのに。

激闘を繰り広げたのだろう、死闘を乗り越えたのだろう。あの頃とは比較にならない程、その上で真っ直ぐに彼の心は、彼のデュエルは、多くの者と触れ、語り、解り合って進化している。

教導した、と言える時は僅かであったが、弟子のような彼が自身と互角に渡り合っているとなると胸から込み上げるものがある。

 

強い、今までバレットが闘って来た中でも遊矢は上位に食らい込むまで強くなった。だからこそ楽しい。本気の本気でぶつかり、勝ちたいと思えるデュエリストと出会えた事が。

そう――バレットは勝ちたいのだ。この若きデュエリストに。それが何よりの誉れなのだと血沸き肉踊る。

 

 

「行くぞ!榊 遊矢!スタンダード次元の誇り高き戦士よ!君の進む先は茨が伸び、飢えた獣が吠える果てしなき闘いのロード!自らの願いを叶えたくば、私を踏み越え、その先で待ち構える覇者共を打ち倒せ!君が倒れ、私の誉れとなるか!それとも君が私を倒し、踏み台とするか!このデュエルで、この眼に答えを見せてみろ!」

 

「――ッ!」

 

この誇り高きデュエリストに認められたと言う事が、遊矢の胸を熱く満たし、その意気に応えねばと想いが瞳に宿る。ここはあくまで両者にとっての通過点。

まだまだ先は長く、より強き者が待ち構えていると言う叱咤が飛び、遊矢の足が一歩前に踏み出される。

備えろ、構えろ、思考を止めるな、目の前のデュエリストに己の全力をも越えし先を見せつけろ。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『幻獣機ドラゴサック』!」

 

幻獣機ドラゴサック 攻撃力2600

 

現れたのはドラゴンと大型輸送機を合成した白い機体、ランク、素材条件、属性、種族は『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』と同じ。

しかしこちら呼び出すトークンが脆弱かつ半減する代わりとして、自身自らが戦線に加われると言うメリットと『幻獣機』を弾丸として撃ち出す大きな相違点がある。

『No.』でなくてもバレットの頼れる戦力の1つだ。無論遊矢も油断しない。

 

「ドラゴサックのORUを1つ取り除き、効果発動!『幻獣機トークン』を生み出す!」

 

幻獣機トークン 守備力0×2

 

「『幻獣機トークン』をリリースし、ドラゴサックの効果発動!セットカードを破壊!」

 

「破壊されたのは『運命の発掘』!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

「魔法カード、『融合回収』!墓地の『ヴォルカニック・バレット』と『融合』を回収し、発動!フィールドの『幻獣機トークン』と手札の『ヴォルカニック・バレット』で融合!融合召喚!『起爆獣ヴァルカノン』!」

 

起爆獣ヴァルカノン 攻撃力2300

 

「ヴァルカノンの効果により、このカードと『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を破壊!3000のダメージを与える!」

 

「手札の『クリアクリボー』の効果発動!ダメージを与える効果モンスターの効果を無効にする!」

 

「……君なら防ぐだろうと思っていた。バトル!ヴァルカノンで『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』へ攻撃!この瞬間、リバースカード、オープン!速攻魔法、『決闘融合ーバトル・フュージョン』!ヴァルカノンの攻撃力にルーンアイズの攻撃力を加える!」

 

「ッ、『EMピンチヘルパー』を墓地に送り、戦闘ダメージを0にする!」

 

起爆獣ヴァルカノン 攻撃力2300→5300

 

バーンに加え、ビートダウンの変則的な戦術が遊矢を翻弄、襲いかかる。どちらも今の遊矢には見逃せるものではない。持てる力を総動員、駆使して乗り越える。

 

「そうでなくては面白くない。私はカードを1枚セット、ターンエンドだ。かかって来い。エンタメデュエリスト、榊 遊矢」

 

「ギッタンバッタを墓地に送り、レインゴートを回収」

 

バレット LP1500

フィールド『起爆獣ヴァルカノン』(攻撃表示)『幻獣機ドラゴサック』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

『融合再生機構』

手札0

 

危うい所だった。バレットがドラゴサックの効果を使い、遊矢のバックを割らなければ負けていただろう。警戒心が生んだ命綱だ。彼が慎重な性格で良かった。しかし戦闘ダメージは兎も角、こうも頻繁にバーンを織り混ぜられては堪ったものではない。

現在ギッタンバッタとレインゴートのコンボで対策は出来ているものの、それもどこまで続くか分からない。勝つ為に使える手段は何でも使うと言わんばかりのバレットのスタンスは遊矢に多大なプレッシャーを与えて来る。

 

「俺のターン、ドロー!良し、ドラミング・コングをリリースし、『光帝クライス』を召喚!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

現れたのは黄金の鎧を纏う光の『帝王』。かなり分が悪いが、ここは賭けに出る。

 

「クライスの効果でこのカードとトランプ・ウィッチを破壊し、2枚ドロー!」

 

「ほう」

 

敵ではなく、自身のカードを破壊してドローを選ぶ遊矢にバレットがニヤリと笑みを浮かべる。どちらにせよこれは賭けに出る。バレットのモンスターを破壊しても、『補給部隊』を合わせ、3枚ドローされる。となればクライスを破壊され、遊矢のLPが削り取られる可能性は高い。だがこちらも2枚のドローで相応のカードを引かねば負ける。自身か、相手のデッキか、どちらを信じるかと言われれば前者を選ぶ。

 

「ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

己を信じ、デッキを信じるドロー。結果は――。

 

「来てくれたか……!『EMオッドアイズ・ユニコーン』をセッティング!ギタートルのペンデュラム効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「スケールは6と8、つまりレベル7のモンスターをペンデュラム召喚可能!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『降竜の魔術師』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

「『降竜の魔術師』の効果でこのカードをドラゴン族へ変更!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!二色の眼の龍よ!その黒き逆鱗を震わせ、刃向かう敵を殲滅せよ!エクシーズ召喚!出でよ、怒りの眼輝けし龍!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

エクシーズ召喚、『オッドアイズ』と『降竜の魔術師』が光の線となり、地面に出現した黒き穴へと飛び込み、大爆発、黒煙の中から赤と緑の光が灯り、怒号が煙を引き裂く。現れたのは遊矢の切り札。

白黒の鱗を持ち、鋭きアギトを伸ばし、背から桜色のエネルギーウィングを広げし竜。エクシーズペンデュラムモンスター。遊矢しか持ち得ぬ2つの次元をまたにかけるモンスターだ。

 

「バトル!覇王黒竜でドラゴサックへ攻撃!反旗の逆鱗ストライク・ディスオベイ!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!」

 

バレット 手札0→1→2

 

覇王黒竜がその眼を光らせ、雄々しき咆哮を放つ。空気を震撼させし、地鳴りを如きそれが響き渡った途端、覇王黒竜は背部の翼から桜色のエネルギーウィングを更に巨大化、目に止まらぬ速度で飛び立ち、ドラゴサックへと向かって突き進む。

 

ドラゴサックも大人しく止まっていてはくれない。白き翼から自らの分身たるデコイを空中に投影、本物と見分けのつかないそれを囮にし、ドラゴサックは大空を旋回、覇王黒竜がデコイに牙を突き立てている内に銃火器を口内から伸ばし、無数の弾丸を放って覇王黒竜を蜂の巣にしようとする。ガガガガガッ、と獣の唸り声の如く回転し、敵を撃ち抜くガトリング弾。

 

余りに激しい弾幕は敵の姿をも覆い隠すが――ゴウッ、覇王黒竜がその攻撃を煩わしく思ったのか、逆鱗に触れられ怒りを露にした竜は弾丸をものともせず鋼のような鱗で弾き返しながら猛スピードでドラゴサックへ突っ込み、アギトを使い真っ二つに切り裂き大爆発を起こす。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP50

フィールド『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMギタートル』

手札2

 

「私のターン、ドロー!フム……速攻魔法、『リロード』手札を交換、カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

バレット LP1500

フィールド『起爆獣ヴァルカノン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

『融合再生機構』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ!覇王黒竜でヴァルカノンへ攻撃!」

 

「罠発動!『奇策』!手札の『幻獣機ブラックファルコン』を捨て、覇王黒竜の攻撃力を1200ダウン!」

 

「何ぃっ!?くっ、アクションマジック、『ダメージ・バニュシュ』!ダメージを0に!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→1800

 

覇王黒竜が果敢に攻め、ヴァルカノンに牙を突き立てようとしたその時、突如空より黒い鳥型の『幻獣機』が来襲、ヴァルカノンの援護射撃を行い、覇王黒竜に隙を作り、そこを突いたヴァルカノンの一撃が胸部を貫く。余りに鮮やかな手並み。遊矢は虚を突かれ、歯軋りを鳴らす。まんまと相手の策にかかってしまった。

 

「『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』の効果発動!モンスターゾーンのこのカードが破壊された事で、ペンデュラムゾーンのカードを破壊、このカードをペンデュラムゾーンに設置する!」

 

だが遊矢もただでは転ばない。

 

「そしてペンデュラム効果発動!デッキから『EMキングベアー』をセッティング!ペンデュラム召喚!『EMドラミング・コング』!『EMオオヤヤドカリ』!『EMゴムゴムートン』!」

 

EMドラミング・コング 守備力900

 

EMオオヤヤドカリ 守備力2500

 

EMゴムゴムートン 守備力2400

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ。この瞬間、『EMキングベアー』のペンデュラム効果により、このカードを破壊し、墓地の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を回収する!」

 

榊 遊矢 LP50

フィールド『EMドラミング・コング』(守備表示)『EMオオヤヤドカリ』(守備表示)『EMゴムゴムートン』(守備表示)

セット2

Pゾーン『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』

手札3

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『獣闘機パンサー・プレデター』、『幻獣機コンコルーダ』、『重爆撃禽ボム・フェネクス』、『起爆獣ヴァルカノン』、『ヴォルカニック・バレット』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

バレット 手札0→2

 

「墓地の『ヴォルカニック・バレット』の効果発動!LP500を払い、同名カードをサーチ!」

 

バレット LP1500→1000

 

「魔法カード、『ブラック・ホール』を発動!フィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

「ッ、通す!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

バレット 手札2→3

 

「墓地のブルーインパラスを除外し、『幻獣機トークン』生成!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

「加えてLPを半分払い、墓地の『亡龍の戦慄ーデストルドー』を特殊召喚!トークンのレベル分レベルをダウン!」

 

バレット LP1000→500

 

亡龍の戦慄ーデストルドー 守備力3000 レベル7→4

 

「レベル3の『幻獣機トークン』に、レベル4の『亡龍の戦慄ーデストルドー』をチューニング!シンクロ召喚!『幻獣機コンコルーダ』!」

 

幻獣機コンコルーダ 攻撃力2400 

 

「『幻獣機エアロスバード』を召喚!」

 

幻獣機エアロスバード 攻撃力1600

 

現れたのはペンギン型の飛行船。準アタッカークラスの攻撃力であるが、今の遊矢には充分脅威となる。

 

「墓地の『幻獣機ブラックファルコン』を除外し、エアロスバードの効果発動!『幻獣機トークン』を生成!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

幻獣機エアロスバード レベル3→6

 

「バトルだ!エアロスバードでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『クリボーン』の効果発動!このカードを除外し、墓地の『クリアクリボー』を蘇生!」

 

クリアクリボー 守備力200

 

「ならばそのモンスターに攻撃変更!」

 

遊矢に危機が迫ったその時、彼の墓地から『クリボーン』が出現、白くふわふわとした丸い身体を光らせ、『クリアクリボー』へ変身。エアロスバードの攻撃を受け止める。

 

「コンコルーダでダイレクトアタック!」

 

「『クリアクリボー』を除外し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「そしてドローしたモンスター、『EMライフ・ソードマン』を特殊召喚し、攻撃を誘導!」

 

EMライフ・ソードマン 守備力0

 

「メインフェイズ2に移り、魔法カード、『七星の宝刀』を発動、コンコルーダを除外し、2枚ドロー!」

 

バレット 手札1→3

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

バレット LP500

フィールド『幻獣機エアロスバード』(攻撃表示)『幻獣機トークン』(守備表示)

『補給部隊』セット1

『融合再生機構』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!覇王黒竜のペンデュラム効果発動!デッキから『時読みの魔術師』をセッティング!ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『EMキングベアー』!『EMドラミング・コング』!『EMオオヤヤドカリ』!『EMゴムゴムートン』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

EMキングベアー 攻撃力2200

 

EMドラミング・コング 守備力900

 

EMオオヤヤドカリ 守備力2500

 

EMゴムゴムートン 守備力2400

 

5体同時召喚、これぞペンデュラムの本領発揮と言わんばかりの大技が炸裂し、遊矢のフィールドを賑やかに騒ぎ立てる。正攻法の1つ、物量作戦だ。

 

「分かりやすい……!」

 

「オオヤヤドカリの効果で『オッドアイズ』の攻撃力をアップする!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→3700

 

「バトルだ!キングベアーは俺のバトルフェイズの間、攻撃力をフィールドの『EM』の数×100アップする!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200→2600

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

「止められたか……!ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP50

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMキングベアー』(攻撃表示)『EMドラミング・コング』(守備表示)『EMオオヤヤドカリ』(守備表示)『EMゴムゴムートン』(守備表示)

セット2

Pゾーン『時読みの魔術師』『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』

手札3

 

「私のターン、ドロー!スタンバイフェイズ『黄金の天道虫』を公開し、LPを500回復」

 

バレット LP500→1000

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』で手札を交換、フム、エアロスバードの効果発動!墓地の『幻獣機タートレーサー』を除外し、『幻獣機トークン』を生成!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

幻獣機エアロスバード レベル6→9

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!エアロスバードをリリースし、2枚ドロー!」

 

バレット 手札1→3

 

「更に『幻獣機トークン』をリリースし、『光帝クライス』をアドバンス召喚!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

「効果は知っているな?このカードとトークンを破壊!『補給部隊』を合わせ、3枚ドロー!」

 

バレット 手札2→4→5

 

強力なドローソースの連続により、バレットの手札が見る見る内に回復、5枚まで膨れ上がる。余り回復手段がないデッキだと思っていたが、どうやら遊矢の思い違いだったらしい。

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

バレット LP1000

フィールド

『補給部隊』セット3

『融合再生機構』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『砂塵の大嵐』!ペンデュラムスケールを破壊する!」

 

「ッ!オオヤヤドカリの効果で『オッドアイズ』の攻撃力をアップ!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→3700

 

「バトルに入る!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200→2600

 

「『オッドアイズ』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地のエアロスバードに耐性を与え、蘇生する!更に罠発動!『邪悪なるバリアーダーク・フォースー』!君の守備表示モンスターを除外る!」

 

幻獣機エアロスバード 守備力400

 

遊矢が『オッドアイズ』に指示を出すと同時に真っ黒な光がフィールドを覆い、ドラミング・コング、オオヤヤドカリ、ゴムゴムートンの3体を次元の彼方に消し飛ばす。本来は権現坂対策に取って置いたカードだろうか?それともこの状況を読んでいたのか、いずれにせよ、意外なカードが突き刺さってしまった。

 

「くっ、『EMウィップ・バイパー』を召喚!」

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700

 

現れたのはポップな姿をした紫の毒蛇。ディスカバー・ヒッポや『調律の魔術師』に押され気味であるが、このモンスターも遊矢のデッキのマスコットポジションだ。

 

「ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP50

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMキングベアー』(攻撃表示)『EMウィップ・バイパー』(攻撃表示)

セット2

手札3

 

「私のターン、ドロー!エアロスバードの効果発動!墓地の『幻獣機レイステルス』を除外し、トークンを生成!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

幻獣機エアロスバード レベル3→6

 

「そして2体目のエアロスバードを召喚!」

 

幻獣機エアロスバード 攻撃力1600 レベル3→6

 

「効果発動!『幻獣機サーバルホーク』を除外し、トークン生成!」

 

幻獣機トークン 守備力0

 

幻獣機エアロスバード レベル6→9×2

 

「そして2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『幻子力空母エンタープラズニル』!」

 

幻子力空母エンタープラズニル 攻撃力2900

 

2体のエアロスバードが出現した穴に呑まれ、大爆発、巨大な黒雲を生み出し、激しい駆動音が鳴り響く。まるでドラマか何かに出て来る近未来のマシンの産声の如く吠え猛るそれは徐々に煙を晴らし、中より青白い光を陽光を思わせるように照らし出され――その全貌を、明らかとする。

遊矢の目に焼きつくのは、一面灰色の壁。壁しか目に入らない。それもそうだろう、このモンスターは、余りにも巨大過ぎる。あの『No.42スターシップ・ギャラクシー・トマホーク』でをも超える程の巨体が上空に浮かび上がる様は、夢か幻かと疑ってしまうだろう。

どんなモンスターか、どんな姿をしているのか、全くもって分からない、理解出来ない。

 

その事が歯痒く思った遊矢はウィップ・バイパーを腕に巻き付けソリッドビジョンの青いブロックを階段に見立てて駆け上がり――その頂きにて、漸くその姿を捉える。

その名の通り、超大型空母の巨体と、亀の甲羅を思わせるような、地平線まで続くかに思える――大袈裟であるが、平らな飛行甲板に、このカードが『幻獣機』と同種なのだろうと推測出来る虹色の光が漏れ出ている。その姿は甲板の存在もあり、海亀にも見られ、その巨体さから遊矢はフィクションの世界で出て来る島のように大きな亀を幻視する。

 

雄大で、どこか美しいモンスター。だが、このカードはフィクションの中の噛めと違い、機械的でどこまでも主人の命令に忠実。命じられれば自らが持つ兵力で敵と見なした全てを排除する。

 

「見惚れる暇があるのか」

 

と、そこで何時の間にか移動したのか、エンタープラズニルの背の甲板に乗ったバレットがギンと遊矢を射抜く。そう、今はデュエル中、気を抜く暇等無い。遊矢は直ぐ様気を取り直し、この巨大のモンスターの戦力を分析する。

攻撃力は見かけに反して余り高くない、2900と言う数値。ランク9と考えた上、自らのランク7エクシーズペンデュラムモンスター、『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』と比べても低いと感じる。

 

そこで遊矢はこの次元に来てから何度か見たシンクロモンスターを思い出す。確か、あのモンスターもレベルも9だった。鬼柳 京介が誇る満足竜の1体、『氷結界の龍トリシューラ』も。

 

瞬間、ゾッと遊矢の背に冷たいものが伝う。遊矢は気づいたのだ。このモンスターは、トリシューラと同種のカードだと。そしてこの遊矢の勘は的中していた。

 

「エンタープラズニルのORUを1つ取り除き、効果発動!4つの効果の中から1つを発動する!私が選ぶのは――相手フィールドのカード1枚を選び、除外する効果!君の頼れるエースには退場してもらおう!」

 

トリシューラと同じ、対象を取らない除外効果が炸裂、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』が成す術なく排除されてしまう。成程、これならばランク9に相応しい性能と言える。

加えてバレットは4つの効果と言った。これに比肩する効果が後3つあるのだ。遊矢は僅かに面倒そうな顔、鬼柳にトリシューラを出された時の対戦者と似たようなものとなる。

 

「言うなれば満足空母って所か」

 

「手札を1枚捨て、『融合再生機構』の効果で『融合』を回収し、発動!手札の『ヴォルカニック・バレット』とフィールドの『幻獣機トークン』で融合!融合召喚!『重爆撃禽ボム・フェネクス』!」

 

重爆撃禽ボム・フェネクス 攻撃力2800

 

「バトル!」

 

「その前にウィップ・バイパーの効果でボム・フェネクスの攻守を入れ替える!」

 

重爆撃禽ボム・フェネクス 攻撃力2800→2300

 

「エンタープラズニルでキングベアーへ攻撃!」

 

「罠発動!『攻撃の無敵化』!戦闘ダメージを0にする!」

 

「だがモンスターは別!ボム・フェネクスでウィップ・バイパーへ攻撃!」

 

「罠発動!『アルケミー・サイクル』!俺のモンスターの元々の攻守を0にし、この効果を受けたモンスターが戦闘破壊され、墓地に送られる度にドローする!」

 

EMウィップ・バイパー 攻撃力1700→0

 

「構わん、やれ!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「ターンエンド。この瞬間、『融合再生機構』の効果で『ヴォルカニック・バレット』を回収」

 

バレット LP1000

フィールド『幻子力空母エンタープラズニル』(攻撃表示)『重爆撃禽ボム・フェネクス』(攻撃表示)『幻獣機トークン』(守備表示)

『補給部隊』

『融合再生機構』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『七星の宝刀』!手札の『相克の魔術師』を除外し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→5

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』手札を交換、魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』を発動!」

 

榊 遊矢 手札4→6

 

「魔法カード、『龍の鏡』!墓地の『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『光帝クライス』を除外し、ドラゴン族モンスターを融合召喚する!」

 

「『龍の鏡』……懐かしいな」

 

発動されたのは過去、遊矢がバレットと対戦した際、スサノーOの効果でバレットの墓地から奪い、勝敗を別った因縁のカード。当然『ペンデュラム・ドラゴン』を呼ぶ事が出来る為、遊矢も自身のデッキに投入している。

 

「これにチェーンして速攻魔法、『ダブル・サイクロン』!『龍の鏡』と『融合再生機構』を破壊!融合召喚!現れ出でよ!気高き眼燃ゆる勇猛なる龍!『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

そしてフィールドに火炎と共に現れ出でたるはルーンアイズ、ビーストアイズに続く第3の『ペンデュラム・ドラゴン』。『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の姿をベースとして、他に2体と異なり、素材が持つ特徴を真っ直ぐに成長、正当進化させたような雄々しい真紅の竜。勇気をその眼に宿すカードが戦場に飛び出し、大気を震わす咆哮を放つ。

 

「『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の融合召喚時、相手モンスター全ての攻撃力を0にする!」

 

「む……!」

 

幻子力空母エンタープラズニル 攻撃力2900→0

 

重爆撃禽ボム・フェネクス 攻撃力2800→0

 

ブレイブアイズの全身が赤く発光し、光が何体かの竜を模して放射状に広がり、エンタープラズニルとボム・フェネクスを貫く。これこそがブレイブアイズの効果、このカード1枚でデュエルを終わらせかねない凶悪な性能だ。

 

「バトル!ブレイブアイズでエンタープラズニルに攻撃!灼熱のメガフレイムバースト!」

 

「甘い!その程度で我が不動のデュエルを崩せると思うな!墓地の『仁王立ち』を除外し、このターンの攻撃を『幻獣機トークン』に絞る!」

 

ブレイブアイズがそのアギトから火花を散らし、体内の発火器官を駆使し、口内に火球を生成、触れれば全てを溶かしかねないエネルギーを秘めたそれを放つも、攻撃は軌道の途中、ガクリと真横に曲がり何時の間にかエンタープラズニルの姿を模した『幻獣機トークン』へと引き寄せられる。エンタープラズニルもまた、『幻獣機』と同じような存在。こうしてホログラムを用意し、攻撃をかわす事も容易い。

バレットの言う通り、この防御力は権現坂の不動のデュエルと似ている。彼は元々権現坂道場に住み込みで働いていたのだ。これ位は当然だろう。

 

「そして『補給部隊』の効果でドロー!」

 

バレット 手札1→2

 

「俺は『EMドラネコ』をセッティング!カードを1枚セットしてターンエンド」

 

榊 遊矢 LP50

フィールド『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMドラネコ』

手札1

 

「私のターン、ドロー!エンタープラズニルの効果を……」

 

「無駄だよ、ブレイブアイズがフィールドに存在する限り、攻撃力0のモンスターは効果を発動出来ない」

 

「……成程、既に布石は打たれていたか。魔法カード、『手札抹殺』を発動!」

 

「ッ、墓地のギッタンバッタの効果で自身を特殊召喚」

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

「魔法カード、『成金ゴブリン』!相手のLPを1000回復させる代わりに1枚ドロー!」

 

バレット 手札1→2

 

榊 遊矢 LP50→1050

 

「そして装備魔法、『再融合』を発動!LPを800払い墓地の融合モンスター、『獣闘機パンサー・プレデター』を特殊召喚!」

 

バレット LP1000→200

 

獣闘機パンサー・プレデター 攻撃力1600

 

バレットが命を削り、フィールドに見参したのは半身をサイボーグ化した黒豹の獣人。美しき煌めきを見せるサーベルを握り、戦場を駆け抜ける。バレットのエースモンスターだ。攻撃力こそ低いものの、中々優れた効果を持っており、遊矢を確実に追い詰める。

 

「装備魔法、『巨大化』を発動!パンサー・プレデターへ装備!私のLPが君のLPより低い事で攻撃力を倍にする!」

 

獣闘機パンサー・プレデター 攻撃力1600→3200

 

バレットの削られた命の光がパンサー・プレデターの四肢をより逞しく強化する。ブレイブアイズを超えるモンスターを作り出した。

 

「そしてパンサー・プレデターの効果発動!このモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える!」

 

「手札の『ハネワタ』を捨て、このターンの効果ダメージを0にする!」

 

「相変わらずだな、エンタープラズニルとボム・フェネクスの2体を守備表示に変更、バトル!パンサー・プレデターでブレイブアイズへ攻撃!」

 

迫る剣線、本能を剥き出しにした黒豹が強靭な脚で地を蹴り、驚くべき速度でブレイブアイズへ肉薄、剣を持った腕を振るう。分厚い鋼をも細切れにするであろう凶撃だ。これを受ければ如何に生命の頂点に座す竜であろうと絶命し、遊矢にまで切れ味が届きかねない。

 

「させるか!永続罠、『強制終了』!ギッタンバッタを墓地に送り、バトルフェイズを終了!」

 

すかさず遊矢は伏せられていた最後の砦を発動。ギッタンバッタが持ち前の脚力で跳躍しブレイブアイズの盾となる。

 

「繋いだか……私はこれでターンエンド」

 

バレット LP200

フィールド『獣闘機パンサー・プレデター』(攻撃表示)『重爆撃禽ボム・フェネクス』(守備表示)『幻子力空母エンタープラズニル』(守備表示)

『再融合』『巨大化』『補給部隊』

手札0

 

LPは互いにデッドゾーン、正にギリギリの攻防、2人は荒い息を吐きながら獰猛な笑みを口元に浮かべる。恐らく――これがラストターン、遊矢にとってか、バレットにとってか。いずれにせよ、最後のチャンスと言って良い。だが――遊矢は迷う事なくデッキからカードを引き抜く。

 

「Ladies and Gentleman!お楽しみは、これからだ!」

 

引き抜かれる1枚のカード。遊矢はチラリと目を配らせ、少々、苦笑いを溢す。

 

「まさか、ここに来て博打をする事になるとはね……!魔法カード、『アドバンスドロー』!ブレイブアイズをリリースし、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

ここで遊矢が一種の賭けに打って出る。強力なモンスター、ブレイブアイズを手放し、新たな手札に変換。ここで引かねば負けは濃厚だ。

 

「魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地より『覚醒の魔導剣士』を蘇生!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500

 

ここで現れたのは遊矢が初めて所持したシンクロモンスターだ。しかしその光は失われ、目の前のパンサー・プレデターには届かない事が誰の目から見ても頷ける。

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『強制終了』をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

届かないなら、届くまで手繰り寄せるまで。決死の思いで勝利へ続く方程式に、1枚1枚カードを当て嵌めていく。

 

「『EMオッドアイズ・ライトフェニックス』をセッティング!スケールは3と1!つまりレベル2のモンスターをペンデュラム召喚可能!ペンデュラム召喚!『EMトランポリンクス』!」

 

EMトランポリンクス 守備力300

 

スケールはかなり狭いが、これで充分、ペンデュラム召喚で胴体がトランポリンになった山猫を呼び出す。これで準備完了だ。

 

「俺はレベル8の『覚醒の魔導剣士』に、レベル2の『EMトランポリンクス』をチューニング!」

 

「チューナー無しのシンクロ召喚……!?」

 

「このカードはペンデュラム召喚したペンデュラムモンスターをチューナー扱いでシンクロ召喚出来る!平穏なる時の彼方から、あまねく世界に光を放ち、蘇れ!シンクロ召喚!現れろ、『涅槃の超魔導剣士』!」

 

涅槃の超魔導剣士 攻撃力3300

 

そして――フィールドに光を放ち、顕現せしは鎧と法衣を纏った『覚醒の魔導剣士』をも超越した魔法剣士。シンクロペンデュラムモンスター、遊矢がこのシンクロ次元で新たに得た特異なるカードだ。現状彼が持つモンスターの中で最高の攻撃力を持っており、パンサー・プレデターの攻撃力を僅か100であるが上回る。

 

「シンクロ……ペンデュラムモンスター……!?」

 

「シンクロ召喚時、墓地のカードを1枚回収、装備魔法、『団結の力』を装備!」

 

涅槃の超魔導剣士 攻撃力3300→4100

 

「バトルだ!『涅槃の超魔導剣士』で『獣闘機パンサー・プレデター』を攻撃!」

 

『涅槃の超魔導剣士』が持つ剣に光と闇、白黒の輝きが集束し、世にも美しい煌めきを放つ刃を生成、パンサー・プレデターに向かい振るわれ、パンサー・プレデターもまた、自身が最も信頼する剣を振るう。ぶつかり合う剣と剣、交差する刃と刃。白銀の光が空中に軌跡を描き出し、何度も金属音を響かせ、火花を散らす。

 

超一流、いや一流をも超えた化物同士の剣撃だ。互角に渡り合い、このままではラチがあかないと思った両者が魔法と半身の銃火器を放ち、その中を刃が縫う。そして超至近距離で刃は交差、パンサー・プレデターが凄まじい膂力を四肢から発揮、両足、腰、両腕から全力を注ぎ込まれた剣は『涅槃の超魔導剣士』を抑え込み、空いた半身から伸びる火器から弾丸を放つ。

 

しかしここで『涅槃の超魔導剣士』は獣に勝る反射神経を発揮、左手で魔力球を作り出し、弾丸を呑み込み焼き尽くす盾とする。そのまま驚愕するパンサー・プレデターの顎目掛け、膝蹴りを食らわせ、怯んだ隙に白黒の剣が胸を討つ。そして剣から伸びる光はバレットへ向かい――。

 

「トゥルース・スカーヴァティ!」

 

バレット LP200→0

 

「ガッチャ、勲章もののデュエルだった……!」

 

決着、勝者、榊 遊矢。激闘に幕を下ろした彼は、息を切らしながらバレットに歩み寄る。

 

「貴方に、頼みがある」

 

「……フ、恐らくその問題なら……既に、解決済みだ」

 

――――――

 

「何故、お前がここにいる……」

 

「久々に顔を見せたと思いきや、随分とご挨拶だな」

 

融合次元、とある病院にて。万丈目は紫雲院 素良の妹、美宇をアカデミアから奪取。及び保護をしようと来訪したのだが――。

意外な人物を視界におさめた途端、目を見開いて驚愕、言葉と共に頭を猛回転させていた。

それもそうだろう、目の前にいる人物は、万丈目にとって敵であり、最上級に警戒すべき者だったのだから。

 

「バレット……教官……」

 

「今は覇王の下っ端だ」

 

バレット。アカデミアの幹部であり、この中でも5本の指に入るであろう実力者。それが今、美宇の前で何故かリンゴを下手くそながら剥いていた。

 

「おじさん、リンゴ剥くの下手っぴだね」

 

「練習しておこう」

 

「ええい緩い会話をするな!とっとと説明しろ!」

 

「ツンツン頭のお兄さんうるさいよ。おじさんの知り合い?」

 

「すまんな、基本悪い奴では無いんだが、根っこだけが腐って悪い奴なんだ。根は良い奴の逆だな」

 

「やかましいわ!」

 

「病室では静かにしろ」

 

リンゴを剥くのに苦戦しながら会話を続けるバレットに対し、万丈目は早く用件を終わらせたいのを含めてツッコミを入れる。どうやらここにいるのアカデミアの人間は彼だけらしい。

 

「はぁ……そう警戒するな、今の私はオフだ。仕事をするなとプロフェッサーにも言われている」

 

「……何が言いたい?」

 

「そう言えばここの警護の者は元々いなくてな、まぁ、やり手とは言えアカデミアも幹部以外の者の家族の警護をする程暇じゃないのだ。それに最近この病院の監視カメラが調子が悪いらしくてな」

 

「お前……」

 

口笛を吹きながら、自分は全く関係ないし何も見ていないと言わんばかりに呟くバレット。

これを聞き、罠かと疑うが――いや、結局行動しなければ何も始まらないだろう。

 

「礼は言わん」

 

「それは本当にやめて欲しいな、気色悪い」

 

「……お前は……いや、あんたは来る気はないのか?」

 

万丈目が思わず言った瞬間、バレットがギロリと眼帯をしていない方の眼で睨む。たったそれだけの事にも関わらず、込められし威圧感に一瞬怯む万丈目。しかし、それも僅かな間の事。直ぐ様空気は弛緩する。

 

「子供はな……望むならばこのような事、しなくて良いんだ。未来がある。だが大人は違う。ここまで来てしまえばやり直せない、いや、やり直すべきではない。特に私のような奴が1人はいるべきなんだ」

 

「……」

 

「罪を押しつけられる都合の良い大人がな」

 

「あんたは……」

 

「それに私はそうせずとも罪を重ねて来た。それが増えるだけだ。今更構わんよ。アカデミアの教官だったもの、全ては教官が教えた事とでも言えば彼等の罪は少しは軽くなり、向けられる憎しみも和らぐだろう。汚い大人は汚い事をやって来た責任を取るべきだ」

 

「それで、良いのか?」

 

「そうでなくともプロフェッサーには恩義がある。同情なんてするな、気色悪い。私はお前達の敵だ」

 

遠い目をして、バレットは呟き、剥いたリンゴを皿の上におく。ウサギを模しているのだろうか、それにしては余りにも下手くそだが。

それを見て美宇が「アンゴラウサギだね」と言う程である。

 

「そう言う事なんです。私を助けに来てくれた人ですよね。どうか……私を、私達兄妹を助けてください」

 

ペコリ、頭を下げて頼み込む美宇に、万丈目が更に驚く。この少女、知っていた、いや、知らされていたのか。それにしても気丈な態度。聡明な子なのだろう。

 

「……言われずともやってやるさ……バレット教官」

 

そう言って、準備を終え、部屋から出ていく万丈目と美宇。そんな彼等の背中が遠くなった後、バレットは誰にも聞かれぬような小声でつぶやく。

 

「……今まで1度も教官なぞ呼ばなかった奴が……全くもって、気色悪い……」

 

ふんと鼻を鳴らし、更に残されたリンゴを1つ、口に放り込むバレット。しゃくりを音を鳴らし、思考を切り替える。

 

「さて……オフは終わりだ。そろそろ……私の最後の教え子の顔を見に行こう。尤も、向こうがそう思っていてくれるかどうかは分からんが」

 

そうして彼は、シンクロ次元でエンタメデュエリストを名乗る教え子とぶつかる事となる。

 

――――――

 

融合次元、アカデミアからの刺客の手により、戦場に変えられたシンクロ次元、シティ。

パワーアップしてオベリスク・フォース達の侵攻をこれ以上進ませまいと多くのデュエリストが迎え撃つ。対アカデミア精鋭部隊、ランサーズ。三沢達反抗勢力。そしてシンクロ次元で暮らす鬼柳や牛尾、ツァン達。彼等の健闘に加え、オベリスク・フォースを巻き込んで闘う黒コナミ、白コナミ、覇王の3人の手でその数は見る見る内に減っていき、残るは僅かとなっていた。

 

ここにもまた――オベリスク・フォースを撃退するデュエリストが1人。白を基調とし、ライトグリーンと黄色のカラーリングを行ったDーホイールに股がり、白いライダースーツを纏った、こよシンクロ次元独自のライディングデュエルに魂を賭けたDーホイーラー、ユーゴだ。

遊矢と似た顔立ちをした彼はその大雑把で直情的な性格からは想像もつかないようなテクニカルで独創的なタクティクスで相手を翻弄、尚本人はデュエルタクティクスをデュエルスフィンクスと間違えるレベルのアホである。

 

「行け、『HSRチャンバライダー』!『イグナイト・アヴェンジャー』と『カクラリ大将軍無零怒』へ攻撃!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力3800→4000→4200

 

オベリスク・フォースG LP1300→0

 

オベリスク・フォースH LP800→0

 

「がはっ……!」

 

「またこいつに負けるとは……!」

 

日本刀の形状をしたバイクの下半身でフィールドを駆け、刃と化した両腕を振るうユーゴのモンスター。次の瞬間、両腕の刃は凄まじい速度で突き進む斬撃を放ち、オベリスク・フォースのモンスターである銃火器を模した戦士と機械の武将を切り裂く。

実はこの2人、スタンダード次元にてユーゴと桜樹 ユウと闘っており、ユーゴに敗北するのは2度目となる。とは言っても他のオベリスク・フォースと全く同じ姿の為、ユーゴには見分けがつかないのだが。

 

「いや、分かるかよ」

 

その上ユーゴは忘れっぽい為、余計に微妙な顔となる。白い光の粒子に包まれ、デュエルディスクの転送機能が作動したのだろう、倒れた2人がその姿を消す。

 

「さて、次はどいつだ?」

 

ユーゴが次の敵を倒す為、辺りを見渡すが、誰1人として周囲に存在しない。どうやらこの場にいたものは全て倒したようだ。そう思うとドッと疲れが肩にかかる。

正直言って数が多く、1人1人が手強くなっている為、かなりてこずってしまった。だが休む訳にはいかない。遊矢達他の皆も闘っているだろう。コキコキと肩を鳴らし、誰もいないならもうこの場に用はないと廃墟から出ようと足を動かしたその時。

 

「へぇ、中々やるじゃないか、君」

 

不意に、ユーゴの背後から声がかかり、彼の全身をゾッと寒気が襲う。ピタリと動かそうとした足がその場に縫い付けられ、脳が警報を鳴らす。そして同時に――ユーゴの胸がドクンと熱く高鳴り、腹の底から煮えたぎるかのように怒りが燃える。

忘れもしない、この遊矢と良く似ているものの、正反対のねっとりと首筋に絡みつく蛇を思わせる声。そして――頭から爪先まで、危険だと訴える前回とは違った存在感。背後にいるのは、ユーゴが唯一心の底から憎く、ブチのめしたい怨敵。彼は勢い良く振り向き、現れた少年をその目で捉える。

 

「確か……ユーリ、だったよなぁ……!」

 

はやる気持ちを抑え、デュエルディスクを構えるユーゴ。思ったより冷静だ。彼ならば振り向き、直ぐ様胸ぐらを掴みそうなものだが、目の前の少年、ユーリの存在が彼の怒りを抑え込んだのだ。

彼の存在が、前回会った時より、余りにも違っていたから。見た目こそ変わらない、紅い左眼と眼帯を着けた右眼。紫の軍服と赤いマントを纏い、軍靴の爪先で地面をトントンと叩く、ユーゴそっくりの顔をした少年。

だが――彼の内側から溢れ出る邪悪な気配がユーゴの理性を引き摺り出す。この少年は――今まで会った何よりも危険であると。気づかぬ内に大粒の汗を額から流すユーゴを見て、ユーリは皿のように目を細め、嘲笑うかの如くユーリを見下す。

 

「うん、そうだよ。僕の事知ってるんだねぇ、でも僕は君の事知らないや。どこかで会った事あるっけ」

 

本当に、ユーゴの事を覚えていないのだろう。ユーリは考え込む素振りを見せた後、キョトンとした顔でユーゴに視線を移す。それが、ユーゴの逆鱗に触れた。

 

「覚えてない、だと……!?ふざけんなテメェ!テメェがリンを拐った時、この面見せただろうが!忘れたとは言わせねぇぞ!」

 

「うーん、まぁ僕とそっくりな顔だし、忘れる筈ないんだけどなー」

 

「なら……思い出させてやるよ!コイツでな!」

 

「……良いねぇ君ィ。僕好みの答えだ。友達になれそうだね」

 

目を細め、余裕の表情で笑みを浮かべるユーリに対し、ユーゴが犬歯を剥き出し、苛烈なまでの闘争心を迸らせる。そしてユーリもまた、その答えを見てより笑みを深め、凄絶とも言える表情でユーゴを迎え撃つ。

 

「テメェの友達なんて願い下げだぜ!」

 

かくして――覇王を宿す少年はぶつかり合う。

 

「「デュエル!!」」



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第173話 未来を導くサーキット

後少し――後少しで目的の数値までデュエルエナジーが溜まりきる。プラシドはケープの下に笑みを隠し、頭の中の算盤を弾き、計画を完全なるものにしていく。

始めは少々不安が残ったが、蓋を開けて見れば随分とスムーズなものだった。それもこれも、予想外の乱入者であるコナミ達のお蔭だ。

鬼柳 京介とキース・ハワード。榊 遊矢と黒コナミ、バレット等の対戦カードも多くのデュエルエナジーを生成したが、彼等3人のぶつかり合いはその3倍はいく。

このままなら間もなくあれを呼び出せるだろう。皮肉なものだ。街を守る彼等が、街を滅ぼす物を作り出そうとは。

 

「さぁ……現れろ、未来を描くサーキットよ……!」

 

絶望の足音が、刻一刻と近づいていく。

 

――――――

 

かつて、こことは異なる次元、異なる世界で、誰よりもカードの声を聞き、カードと共に歩み、カードを愛した少年がいた。

その少年は優れたデュエルタクティクスやデュエルにおいての勘、ドロー力や運は人並み外れて長けていたものの、それ以外はどこにでもいる心優しい少年だった。

 

だがそんな彼はある事件を境として大きく変わる事となり――その果てに、人を越えた覇王となった。

そして、この場にいるのはなんの因果か、それとも必然か、覇王の魂を宿す似た顔立ちの少年。

異なる次元、異なる境遇で育ち、多くの強敵と凌ぎを削り、修羅場を潜り抜け、成長したデュエリスト。ユーゴとユーリ、シンクロ次元と融合次元の住人である2人がデュエルディスクを構え、睨み合っていた。

 

「先攻は俺が貰うぜ」

 

「どうぞ、しっかし、普通のデュエルは久し振りだなぁ。お互いLP4000なのが新鮮に感じるよ」

 

息巻くユーゴに対し、ユーリはどこまでもマイペースに自身のデュエルディスクに視線を落とす。彼がこう言うのも無理はない、何せこのシンクロ次元に来るまで魑魅魍魎が跋扈する闘技場で魂を削るような闇のデュエルを行っていたのだ。自身が不利なのは当たり前だったユーリとしてはフェアな闘いは最早違和感となっていた。

そんな彼を無視し、ユーゴは士気を高めたままデッキから5枚のカードを引き抜く。

 

「俺は『SRベイゴマックス』を特殊召喚!」

 

SRベイゴマックス 守備力600

 

現れたのは赤いベイゴマを数珠繋ぎにし、蛇のような形状となったモンスター。『スピードロイド』の中核となるカードであり、初手に引き込めたのは大きい。デッキもユーゴの意気に応えようとしているのだろうか。

 

「このカードは自分フィールドにモンスターが存在しない場合に手札から特殊召喚出来、また召喚、特殊召喚に成功した時、デッキからこのカード以外の『スピードロイド』モンスター1体を手札に加える事が出来る!俺は『SRタケトンボーグ』をサーチ、特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

ベイゴマックスの効果でデッキから1枚のカードが引き抜けと言わんばかりに排出され、ユーゴはその1枚を手にし、直ぐ様フィールドへ呼び出す。フィールドにソリッドビジョンのカードが出現し、中から姿を見せたのは懐かしい玩具、竹トンボ。瞬く間に音を立てて変形し、丸いガラスの目をしたロボットとなる。

 

「こいつは俺のフィールドに風属性モンスターが存在する場合、特殊召喚出来、このカードをリリースする事でデッキから『スピードロイド』チューナーを特殊召喚出来る!来な!『SR三つ目のダイス』!」

 

SR三つ目のダイス 守備力1500

 

タケトンボーグと入れ替わりに、クルリと回転し、火を吹きながら現れたのは通常6面のサイコロと違い、4つの面かろ構成された三角錐の青いダイス。レベル3のチューナーモンスターだ。早速彼の武器、高速展開からシンクロへ繋げるか。

 

「俺はレベル3のベイゴマックスに、レベル3の三つ目のダイスをチューニング!十文字の姿持つ魔剣よ。その力で全ての敵を切り裂け!シンクロ召喚!現れろ、『HSR魔剣ダーマ』!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200

 

シンクロ召喚、三つ目のダイスが光輝く3つのリングとなって弾け飛び、ベイゴマックスがその中を潜り、3つの星となる。その後一筋の閃光がリングごと星を貫き、眩い光がフィールドを覆う。光を裂き、中から現れたのはけん玉のような形状をした意思持つ青い魔剣。

攻撃力はあまり高くないが、条件さえ揃えば毎ターン蘇生出来る貫通効果を有したモンスターだ。攻めて良し、壁にして良しのカード。様子見としては向いているか。

 

「シンクロ召喚か……」

 

「そして俺はまだ通常召喚を行っていない。『SRーOMKガム』を召喚!」

 

SRーOMKガム 攻撃力0

 

続けて現れたのはタケトンボーグと同じ変形ロボットモンスター。今回はガムを包む白い箱。音を立てて変形し、機械戦士としてフィールドに立つ。これでフィールドにはレベル6の非チューナーとレベル1のチューナーモンスター。どうやら彼の狙いはエースモンスターを呼び出す事のようだ。

 

「俺はレベル6の魔剣ダーマに、レベル1のOMKをチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!」

 

ドクン、と両者の心臓が高鳴り、胸が締め付けられるような痛みが走る。2人にとっては因縁深きモンスターの登場が、彼等の本能に何かを訴えかけるのだろう。胸を掻き毟るように抑え、目を細める。

 

「シンクロ召喚!現れろ、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

薄いミントグリーンの光の翼を広げ、天空に向かって吠え猛るのはユーゴが最も信頼するエースモンスター。その青と白のカラーリングをした体躯に土を着けた事は数度と言う戦績を誇るだけあり、圧倒的なエネルギーを秘めている事が見るだけで分かる。そして――このモンスターを見た時、ユーリの眼帯に覆われた右眼がズキリと唸った後、何故か涙の滴が溢れていく。

 

「あ……れ……?」

 

「な……!」

 

いきなりの涙を見て、ユーゴが僅かに動揺し、ユーリは流れる涙に呆然とする。理由も分からない。まるで、前世の恋人と再びあいまみえた衝撃が、ユーリを襲っているのだ。

 

「……何でだろう、涙が止まらないね。それに……心の底から、そのカードが欲しくて堪らなくなって来たよ……!」

 

ギィ、途端にユーリは彼本来の邪悪な笑みを浮かべる。ゾッとするような笑みだ。ユーゴは怯まずにデュエルを続ける。

 

「……シンクロ素材となったOMKガムの効果でデッキトップを墓地へ。『スピードロイド』モンスターの為、『クリアウィング』の攻撃力を1000アップする!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→3500

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP4000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

いきなりのエースカードの登場。怨敵を相手に焦っているのかと見えてもおかしくないが、ユーゴにとってはこれ以上ない程慎重に事を運んでいる。

まず『クリアウィング』の存在。このカードは対モンスターに特化しており、不安な攻撃力もOMKガムで強化された。その上彼の墓地には自身を除外する事で攻撃を無効にする三つ目のダイスが存在し、もしもの時の為に蘇生可能なダーマが落ちている。ダーマを経由したのもこの為。

 

攻撃出来ない先攻だからこそ、迎撃の布陣を敷いたユーゴ。

至って冷静、いや、もしかすると今まで以上に冷静かもしれない。ユーリを憎んでいても、警戒は怠っていない。最初からフルスロットルでユーリを置き去りする勢いだ。足並みなんて揃えてやらない。

 

「ふぅん?何か企んでるみたいだね。反応が素直だ。そのドラゴンが厄介そうなのは勿論、フィールド、墓地にも仕込んでるね」

 

ジロリと睨む視線に、ユーゴの肩が僅かに揺れる。見抜かれた、とユーゴがユーリの観察眼に戦慄する中、ユーリはフ、と不敵な笑みを溢す。

 

「本当に反応が素直だねぇ、こんな分かりやすい手に引っかかってけれるなんて」

 

どうやらカマをかけられたらしい。意地の悪い少年だ。引っかかったユーゴはまたも分かりやすく、しまったと言う表情を作る。だがユーリは油断しない。この手のタイプは土壇場で思いもよらない戦術を見せるからだ。

 

「僕のターン、ドロー!始めようか、『捕食植物オフリス・スコーピオ』を召喚!」

 

捕食植物オフリス・スコーピオ 攻撃力1200

 

先鋒を任されたのは『捕食植物』にとってのベイゴマックスと言って良い、蠍の姿をしたモンスター。彼のデッキもまた、ユーゴのデッキを相手に意気込みは充分。

 

「召喚時、手札のモンスター1体を墓地に送る事でデッキからオフリス・スコーピオ以外の『捕食植物』をリクルートする。僕が呼ぶのは『捕食植物ダーリング・コブラ』」

 

捕食植物ダーリング・コブラ 守備力1500

 

次は蛇を模した『捕食植物』。ズルリと蔦を垂らしてフィールドに現れる姿は動物にしか見えない。

 

「ダーリング・コブラが『捕食植物』の効果で特殊召喚して事で、デッキから『融合再生機構』をサーチし、発動」

 

『融合』及び『フュージョン』魔法のサーチ。デュエル中1度しか使えないものの、融合使いであるユーリにとって生命線と言える効果だ。サーチするカードは迷うが、前半の為、消費を抑えられるこのカードを選ぶ。

 

「そして『融合再生機構』の効果発動。手札1枚を捨て、デッキから『置換融合』をサーチするよ」

 

こちらもユーゴに負けじと得意の召喚法の条件を整える。ユーリの手札に渡る『融合』魔法を見て、「融合じゃねぇ、ユーゴだ!」と叫びそうになるが、呑み込んで警戒に徹する。

 

「そして発動!僕はオフリス・スコーピオとダーリング・コブラで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

融合召喚、ユーリの背後に突如として青とオレンジの渦が広がり、2体の『捕食植物』が溶け、混ざり合う。そしてユーリが両の手を合わせた瞬間、中より牙を持った蔦が渦を裂き、激臭を放つ巨大な花弁が咲き誇る。

ユーゴが全力なのに対し、こちらは警戒してか様子見らしい。エースを温存、代わりに準エースとも言える、ユーリの頼れる1枚が登場した。

 

「さて……『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』を対象に、キメラフレシアの効果発動!対象のこのカードのレベル以下のモンスターを除外する!」

 

「それじゃ『クリアウィング』は倒せねぇぜ!このカード以外のレベル5以上のモンスターのモンスター効果が発動された事で、『クリアウィング』の効果発動!その発動を無効にし、破壊!そしてこのカードの効果でモンスターを破壊した事で、破壊したモンスターの元々の攻撃力をこのカードに加える!ダイクロイック・ミラー!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3500→6000

 

「ふぅん……?」

 

キメラフレシアの蔦が『クリアウィング』に向かって伸びた時、『クリアウィング』の背から伸びる翼に幾何学的な紋様が浮かび上がり、紋様が針のように尖り、キメラフレシアの蔦を突き刺し、蔦の中を光の線が駆け抜け、全身にラインが描かれた後、キメラフレシアの身体がボロボロと光のブロックに変わって崩れ落ち、『クリアウィング』の翼へと吸収される。

 

しかしプレイングミスで自分のモンスターを失い、相手モンスターが強化されたにも関わらず、ユーリは動揺らしい動揺も見せない。

 

「成程ね。僕はカードを2枚セット、ターンエンド。この瞬間、『融合再生機構』の効果で素材として使ったオフリス・スコーピオを回収」

 

「『クリアウィング』の攻撃力も元に戻るぜ」

 

ユーリ LP4000

フィールド

セット2

『融合再生機構』

手札2

 

「それで終わりか?肩慣らしだぜ、全く!」

 

「肩透かし、でしょ」

 

結局無駄足とも言えるユーリの融合を見て、鼻を笑うユーゴに対し、彼の間違いに半眼で呆れるユーリ。ユーゴは「う」と頬を染め、恥ずかしそうな表情を見せ、誤魔化すように右手を大きく回す。

 

「同じようなもんだ!俺のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズ、墓地に送られたキメラフレシアの効果でデッキから『融合回収』をサーチする」

 

「俺は『SRシェイブー・メラン』を召喚!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

現れたのはタケトンボーグ、OMKガムと同じく変形ロボット型の『スピードロイド』。ユーゴの手に巨大なブーメランが出現し、彼がそれを空に向かって投擲、クルクルと宙に舞う最中、ガチャガチャと変形する。

 

「シェイブー・メランの効果!このカードを守備表示に変更し、『クリアウィング』の攻撃力を800ダウン!」

 

「……何……?」

 

「そして『クリアウィング』の効果発動!フィールドのレベル5以上のモンスターを対象として発動してモンスター効果を無効にし、破壊!」

 

「2つの破壊効果……」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3500→5500

 

レベル5以上のモンスター1体のみを対象として発動したモンスター効果の無効、2つのモンスター効果対策を持つ『クリアウィング』。その全貌がユーリの前で明らかとなる。成程、これは予想以上に厄介な効果だ。キメラフレシアでは手も足も出ない。抜け道である打点は補強されているのも辛い。魔法、罠での攻略が肝となるか。

 

「バトル!『クリアウィング』でダイレクトアタック!旋風のヘルダイブスラッシャー!」

 

「相手モンスターの直接攻撃宣言時、手札の『捕食植物セラセニアント』を特殊召喚する!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

そしてユーリはもう1つの抜け道を見つけ、手札から背中に植物を伸ばす蟻を呼び出す。このモンスターは対『クリアウィング』と言って良いモンスターだ。

 

「はっ、そんなモンスターで俺の『クリアウィング』を止められるかよ!行け、『クリアウィング』!」

 

ユーゴに応えるように、『クリアウィング』はその推進力を高め、猛スピードでセラセニアントに向かって突き進み、風を逆巻かせた翼で切り裂く。まるで名工が鍛え上げた日本刀のような切れ味の鋭さだ。思わず得意気な笑みを浮かべるユーゴ。

しかし、これこそがユーゴの狙い。ユーゴはまんまと嵌まってしまった。

 

「セラセニアントと戦闘を行ったモンスターはダメージ計算後、破壊される!」

 

「何だと!?」

 

レベル5以上のモンスター効果でも、対象に取るモンスター効果でもない。弱者だからこそ出来た『クリアウィング』殺し。ユーゴが驚くのも束の間。

ユーリが凄絶な凶笑を浮かべるのを合図に、切り裂いた時に仕込まれていたのだろう、翼に絡みついた葉、植えつけられた種が急激に成長、『クリアウィング』を覆い尽くし、貪り食らう。まるで蝶の死骸を食らう蟻の如き光景。植物の恐ろしい生命力の前に『クリアウィング』な力なく倒れ伏す。

 

「更にフィールドのセラセニアントが戦闘、効果で墓地に送られた事で、このカード以外の『プレデター』カードを手札に加える。『プレデター・プランター』を手札に加える」

 

そして『クリアウィング』の死骸から1本の蔦が伸び、ユーリの手に1枚のカードを渡す。減った分の手札も回復する始末だ。流石のユーゴも苦い顔となる。

 

「これでキメラフレシアの分は取り返したよ」

 

「ハッ、そうじゃなきゃなぁ……!ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP4000

フィールド

セット2

手札1

 

「僕のターン、ドロー!魔法カード、『融合回収』を発動!墓地の『置換融合』とダーリング・コブラを回収!オフリス・スコーピオを召喚!」

 

捕食植物オフリス・スコーピオ 攻撃力1200

 

「召喚時効果により、ダーリング・コブラをコストにデッキから『捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ』を特殊召喚!」

 

捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ 守備力2300

 

オフリス・スコーピオに並ぶのは伝説上の生物、ヒュドラを模した上級『捕食植物』。墓地に置いて損はないモンスターだ。

 

「そして永続魔法、、『プレデター・プランター』を発動!効果でセラセニアントを効果を無効にし、蘇生!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

『融合』を使うデッキは揃えなければならないカードが多い為、展開に欠ける事が多いのだが、ユーリはそれがどうしたとばかりに展開、3体のモンスターを並べ立てる。

 

「そして『置換融合』を発動!フィールドのオフリス・スコーピオとセラセニアントで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「セラセニアントの効果で『捕食接ぎ木』をサーチ、発動。墓地のキメラフレシアを蘇生し、このカードを装備する」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「『融合再生機構』の効果で手札1枚をデッキの『置換融合』へ変え、発動。フィールドのキメラフレシアとドロソフィルム・ヒドラで融合!融合召喚!『捕食植物ドラゴスタペリア』!」

 

捕食植物ドラゴスタペリア 攻撃力2700

 

次は竜を模したスタペリアのドラゴン。少々消費が多くなってしまったが、その効果故フィールドに置きたかったカードだ。

 

「良いのか?そんなにカードを使って」

 

「構わないさ。取り戻す方法は幾らでもある。こんな風に墓地の『置換融合』を除外し、キメラフレシアを戻し、ドロー!」

 

ユーリ 手札0→1

 

「バトル!ドラゴスタペリアでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地のベイゴマックスに耐性を与え蘇生!」

 

SRベイゴマックス 守備力600

 

「効果で『スピードロイド』を――」

 

「ドラゴスタペリアの効果でベイゴマックスに捕食カウンターを乗せる。このカウンターが乗ったモンスターはレベルが1となり、ドラゴスタペリアはカウンター持ちのモンスターが発動するモンスター効果を無効にする!」

 

SRベイゴマックス レベル3→1 捕食カウンター0→1

 

「永続罠、『捕食惑星』を発動。捕食カウンターが乗ったモンスターがフィールドを離れた場合、『プレデター』カードをサーチする。墓地のドロソフィルム・ヒドラの効果、捕食カウンターが乗ったベイゴマックスをリリースし、蘇生」

 

捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ 守備力2300

 

ベイゴマックスが存在する地面が崩れ、鋭い牙を見せる穴が開く。ドロソフィルム・ヒドラの胸にある口だろう、擬態してこの機会をうかがっていた訳だ。ペロリと耐性のついたベイゴマックスをたいらげ、ユーリのフィールドに呼び出される。

 

「『捕食惑星』の効果で『プレデター』カードをサーチ。ターンエンド。『融合再生機構』の効果でオフリス・スコーピオを回収」

 

ユーリ LP4000

フィールド『捕食植物ドラゴスタペリア』(攻撃表示)『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)『捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ』(守備表示)

『プレデター・プランター』『捕食惑星』セット1

『融合再生機構』

手札3

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「キメラフレシアの効果で『融合回収』をサーチ」

 

不味い、これで0だったユーリの手札は4枚まで回復、一定の手札補充サイクルが出来た。しかもユーゴのモンスターを引き摺り込んだ上で、だ。このままだと一方的にやられかねない。ユーゴは何かないかと自らの手札に視線を落とす。

 

「速攻魔法、『魔力の泉』!お前のフィールドに存在する表側表示の魔法、罠の数、3枚分ドローし、俺のフィールドの表側表示の魔法、罠のカード1枚分を捨てる!」

 

ユーゴ 手札1→4→3

 

「悪くない手だ。だけど同時に、次のターン終了まで僕の魔法、罠は無効にならず、破壊耐性を得る」

 

「承知の上だ!『SR赤目のダイス』を召喚!」

 

SR赤目のダイス 攻撃力100

 

現れたのはその名の通り、赤い出目を光らせたサイコロのモンスターだ。

 

「リバースカード、オープン!速攻魔法、『スピードリフト』!俺のフィールドのモンスターがチューナー1体のみの場合、デッキからレベル4以下の『スピードロイド』をリクルートする!来な、『SRバンブー・ホース』!」

 

SRバンブー・ホース 守備力1100

 

今度は馬と竹馬を合体させたダジャレのようなモンスター。これでレベル1のチューナーとレベル4の非チューナーが揃った。

 

「レベル4のバンブー・ホースに、レベル1の赤目のダイスをチューニング!その躍動感溢れる、剣劇の魂。出でよ、『HSRチャンバライダー』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

今度は下半身が日本刀を模したバイクとなった侍のモンスター。廃墟の中をギュルリと駆け、ユーゴとユーリのモンスターの間に滑り込むように現れる。

 

「魔法カード、『ハイ・スピード・リレベル』!墓地の『SRビードロ・ドクロ』を除外、そのレベル×500、チャンバライダーの攻撃力をアップする!ビードロ・ドクロのレベルは7!3500アップだ!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000→5500 レベル5→7

 

「バトルと行こうぜ!」

 

「……ドラゴスタペリアの効果でチャンバライダーに捕食カウンターを乗せる」

 

HSRチャンバライダー レベル7→1 捕食カウンター0→1

 

「チャンバライダーでドラゴスタペリアへ攻撃!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!そしてドロソフィルム・ヒドラの効果で墓地のモーレイ・ネペンテスを除外し、チャンバライダーの攻撃力を500ダウンする!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力5500→5000

 

ユーリ LP4000→2850

 

「チッ……」

 

「そしてチャンバライダーは2回攻撃可能!チャンバライダーでキメラフレシアへ攻撃!攻撃時、攻撃力を200アップ!」

 

「キメラフレシアが戦闘を行う攻撃宣言時、その相手モンスターの攻撃力は1000ダウンし、このカードの攻撃力は1000アップする!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力5000→5200→4200

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→3500

 

ユーリ LP2850→2500

 

一気に2体の融合モンスターの破壊、圧倒的な逆境から覆したユーゴにユーリがニヤリと口角を上げる。強い、待ち望んでいた相手だ。

 

「良いね君……!退屈しなくて済みそうだ!」

 

「言ってろタコ助。カードを1枚セット、ターンエンドだ。『ハイ・スピード・リレベル』の効果で上がったチャンバライダーの攻撃力は元に戻る」

 

ユーゴ LP4000

フィールド『HSRチャンバライダー』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「僕のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、『プレデター・プランター』の維持コストとしてLPを800払い、キメラフレシアの効果で『融合回収』をサーチするよ」

 

ユーリ LP2500→1700

 

「そして『捕食接ぎ木』を発動!来い、『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「『プレデター・プランター』の効果でセラセニアントを蘇生する!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

「魔法カード、『融合回収』!墓地の『置換融合』とダーリング・コブラを回収、オフリス・スコーピオを召喚!」

 

捕食植物オフリス・スコーピオ 攻撃力1200

 

「手札のダーリング・コブラを墓地に送り、デッキから『捕食植物サンデウ・キンジー』をリクルート!」

 

捕食植物サンデウ・キンジー 守備力200

 

驚くべき展開力、現れたのはモウセンゴケとエリマキトカゲを合わせたモンスター。ドロソフィルム・ヒドラと並び、強力のカードだ。

 

「魔法カード、『置換融合』!」

 

「罠発動、『裁きの天秤』!お前のフィールドには10枚のカード。俺のフィールド、手札は2枚。その差8枚をドロー!」

 

ユーゴ 手札1→9

 

安定するユーリの手札調達に対し、ユーゴは爆発力で勝負する一気に8枚のドロー。迎撃に備える。

 

「良いカードは引けたかな?フィールドのキメラフレシアとセラセニアントで融合!融合召喚!『捕食植物ドラゴスタペリア』!」

 

捕食植物ドラゴスタペリア 攻撃力2700

 

「セラセニアントの効果で最後の『捕食接ぎ木』をサーチ、『融合回収』を発動。セラセニアントと『置換融合』を手札に加え、サンデウ・キンジーが存在する限り、捕食カウンターが乗った相手モンスターは闇属性となり捕食カウンターの乗ったモンスターとこのカードで融合する事が出来る。当然……君のチャンバライダーもね」

 

「!」

 

「サンデウ・キンジーとチャンバライダーで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「チャンバライダーの効果でビードロ・ドクロを回収!」

 

「まだまだ行くよ!『捕食惑星』の効果で『プレデター』カードをサーチ!『置換融合』を発動!キメラフレシアとオフリス・スコーピオで融合!融合召喚!『捕食植物ドラゴスタペリア』!」

 

捕食植物ドラゴスタペリア 攻撃力2700

 

「墓地の『置換融合』を除外し、キメラフレシアを戻し、ドロー!」

 

ユーリ 手札4→5

 

「2枚目の『プレデター・プランター』を発動。何でも良いや、サンデウ・キンジーを蘇生」

 

捕食植物サンデウ・キンジー 守備力200

 

「手札を1枚捨て、『融合再生機構』の効果で『融合』をサーチ!発動!サンデウ・キンジーとドロソフィルム・ヒドラで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「装備魔法、『捕食接ぎ木』!ドラゴスタペリアを蘇生し、このカードを装備!」

 

捕食植物ドラゴスタペリア 攻撃力2700

 

これでユーリのフィールドに4体の融合モンスターが揃った。酷いソリティアを見た。とは言え笑えない状況だ。何せ捕食カウンターを乗せ、効果発動を封じるドラゴスタペリアが3体も存在しているのだ。

 

「こんなもんかな?バトル!ドラゴスタペリアでダイレクトアタック!」

 

「手札の『SRメンコート』の効果!このカードを特殊召喚し、お前のモンスターを守備表示に変更する!」

 

SRメンコート 攻撃力100

 

ユーゴが手札より1枚のカードをデュエルディスクに叩きつけると共に、メンコの形をしたモンスターが出現、ユーリのモンスターが風圧で宙を舞い、地面に叩き伏せられる。

 

「ハッ、そう来なくちゃ!メインフェイズ2、ドラゴスタペリアの効果でメンコートに捕食カウンターを乗せる」

 

SRメンコート レベル4→1 捕食カウンター0→1

 

「更に魔法カード、『アドバンスドロー』!『捕食接ぎ木』を装備したドラゴスタペリアをリリースし2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札1→3

 

「更に魔法カード、『カップ・オブ・エース』!コイントスを行い、表が出れば僕が、裏なら君がドローする。表だ、2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札2→4

 

「メンコートをリリース、ドロソフィルム・ヒドラを蘇生」

 

捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ 守備力2300

 

「魔法カード、『マジック・ガードナー』を発動。『融合再生機構』に破壊耐性を与えるカウンターを乗せる」

 

融合再生機構 カウンター0→1

 

「カードを2枚セット、ターンエンド。『融合再生機構』の効果でオフリス・スコーピオを回収」

 

ユーリ LP1700

フィールド『捕食植物ドラゴスタペリア』(守備表示)×2『捕食植物キメラフレシア』(守備表示)『捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ』(守備表示)

『プレデター・プランター』×2『捕食惑星』セット2

『融合再生機構』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズ、キメラフレシアの効果で『決闘融合ーバトル・フュージョン』と『再融合』をサーチ」

 

「なら俺も手札のビードロ・ドクロの効果発動!エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドに存在する事で、スタンバイフェイズにこのカードを特殊召喚する!」

 

「手札の『増殖するG』を捨て、君がこのターン特殊召喚に成功する度にドロー!」

 

SRビードロ・ドクロ 攻撃力0

 

ユーリ 手札3→4

 

「魔法カード、『ハンマーシュート』!ドラゴスタペリアを1体破壊!そして『ハーピィの羽帚』!テメェの魔法、罠を全て破壊させてもらうぜ!」

 

「チェーンして罠発動、『強欲な瓶』!速攻魔法、『非常食』!逆順処理だ。『非常食』の効果でこのカードと『融合再生機構』以外の魔法、罠、計4枚を墓地に送り、4000回復。『強欲な瓶』の効果でドロー!」

 

ユーリ LP1700→5700 手札4→5

 

「次は『ハーピィの羽帚』の効果だけど――んん?僕の魔法、罠はカウンターに守られた『融合再生機構』と発動中の『非常食』だけだねぇ」

 

「小芝居やめろ!」

 

融合再生機構 カウンター1→0

 

ユーリの手札を補充する機関を潰しにかかるユーゴであるが、先を見越したかのようなユーリの手によって回避される。しかしこれで魔法、罠が消えた事は事実。バックを気にせずに済むと何とか持ち直す。

 

「魔法カード、『スピードリバース』!墓地の『スピードロイド』モンスター……『HSRチャンバライダー』を蘇生する!」

 

ユーリ 手札5→6

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

ここはベイゴマックスと迷うが、ドラゴスタペリアを視界におさめ、チャンバライダーへと切り替える。

 

「墓地の『SRバンブー・ホース』を除外、デッキの『SR電々大公』を墓地へ送る。装備魔法、『7カード』を2枚、チャンバライダーに装備!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000→2700→3400

 

「成程……!」

 

「バトルだ!」

 

「その前に、墓地の『捕食惑星』を除外、フィールドのドロソフィルム・ヒドラとキメラフレシアで融合を行う!」

 

「惜し気もなく……!」

 

融合モンスターも使い、何でもないとばかりに素材とする。手痛いとも思ってないのか、ユーリは表情を曇らせる事なく、決断を下す。地下でデュエルを行って来たユーリにとって、最早勝利しかデュエルに価値はない。

 

「魅惑の香りで虫を誘う二輪の美しき花よ!今一つとなりて、その花弁の奥の地獄から、新たな脅威を生み出せ!」

 

そして――ドクン、ユーリが召喚口上を述べると共に、2人の心臓が熱く脈打つ。『クリアウィング』の時のように、身体の奥から何か巨大なものが引っ張り出されるのような感覚。一体何がこの先にあると言うのか、ユーゴら不安に駆られ、ユーリは凶笑を深め、互いに異なる反応を見せる。

 

「融合召喚!現れろ!飢えた牙持つ毒龍!『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』!!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800

 

通常の融合の渦と異なる、漆黒の渦が出現、雷鳴が轟く中、2体のモンスターが吸い込まれ、バキバキと木々を重ねて折ったような音――違う、噛み砕き、咀嚼する音が響き、黒雲より深紅の光が灯り、放射状に広がるそれが渦を空中に溶かす。

 

そして中より姿を見せたのは、悪魔の化身。本来存在する筈の片眼は砕け散り、どこまでも深い闇が覗いている。紫の鱗を纏う肉は限界まで削ぎ落とされているが、その弱々しい姿とは裏腹に、竜の片眼は爛々と輝き、鋭い牙が唾液に濡れ、不気味に光っていてとても笑う事は出来ない。まるで手負いの獣。

圧倒的な存在感を放つ『スターヴ・ヴェノム』に、ユーゴが呆然とする。

 

「『スターヴ・ヴェノム』の融合召喚時、相手フィールドに特殊召喚されたモンスター1体を選び、その攻撃力を吸収する!チャンバライダーを選択!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800→6200

 

『スターヴ・ヴェノム』の背部の器官に赤い雷が迸り、食虫植物のように開き、眩き閃光を放つ。思わず両腕をクロスさせて視界を塞ぐユーゴ。その中で『スターヴ・ヴェノム』の影がチャンバライダーの影に食らいつき、貪り食らう。これでチャンバライダーの攻撃力を超えられたが、これは逆にチャンスだ。

 

「なら……ビードロ・ドクロで『スターヴ・ヴェノム』へ攻撃!」

 

「ッ、一体何を……!」

 

「ビードロ・ドクロの戦闘で発生する俺へのダメージは、代わりに相手が受けるのさ!」

 

「何っ!?くっ、ドラゴスタペリアの効果で捕食カウンターを乗せる!」

 

SRビードロ・ドクロ レベル7→1 捕食カウンター0→1

 

そう、これこそユーゴの狙い。本来ドロソフィルム・ヒドラへ攻撃し、その効果を発動させて2300のダメージを与えようとしたのだが、『スターヴ・ヴェノム』を出した事がユーリの仇となった。これが決まれば6200のダメージがユーリを襲う。ドロソフィルム・ヒドラの効果を使っても5700、ギリギリで削り切れる。

 

「無駄ぁ!この効果は永続効果だ!エースを出した事が運のツキだぜ!行け、ビードロ・ドクロ!」

 

ユーゴが拳を振り抜き、ビードロ・ドクロが列車の如く『スターヴ・ヴェノム』へ突っ込み、腹部に激突、その勢いのままユーリへと突き進む。そして、着弾。轟音と共に黒煙が上がる。

 

「しゃあっ!見たかこの野郎!」

 

凄まじい一撃を食らわせ、ユーゴが自然とガッツポーズを取る。漸く、ムカつく面に重い一発を与えてやった。肩で息を切らす中、彼の勝利を祝うかの如く、彼の最も大切な人が駆けつける。

 

「――ユーゴッ!」

 

「――この、声……!」

 

その、昔から聞き慣れた、鈴の音がなるような声を耳に入れ、ユーゴの身体がクルリと振り返る。そこにいたのは――。

 

「リン――!」

 

白いローブを纏い、ライダースーツを下に着込んだ緑のふわりとした髪、黄金の目を光らせ、息を切らした少女、リンの姿。

今まで記憶喪失となっていた筈の少女が、ユーゴを探し求め、ここまで駆けつけ、ユーゴの名を呼んだのだ。その事実に、ユーゴは感極まって彼女の下に走る。

 

「リン……!リン!お前、記憶が……!」

 

その瞬間だった。ユーゴの背後、リンから見て前方の黒煙より真っ赤な、禍々しい光が鈍く灯ったのは。

 

「フフ……ハハハハハ!ヒヒハハハハハ!」

 

「――ッ!?」

 

ズオッ、凄まじい勢いで黒煙が晴れ、その中より狂ったような哄笑が上がる。そんな馬鹿な、あの一撃を食らって立っている等――とユーゴが驚愕と共にリンを守るようにユーリの方へと向き直れば、そこにいたのは、ボロボロの姿になりつつも、フラリと幽鬼の如くこちらを射抜く、最悪の敵の姿。

 

「ハァ……凄い、凄いね君ィ。まさかこんな方法で勝とうとするなんて……思いもよらなかったよ。あぁ、期待以上だ……!ん?そこにいるのは――確か、リンだっけ?」

 

「!貴方は……」

 

ニィ、と口角を上げ、目を皿のようにしてこちらを見るユーリからリンを庇うように立ち、ユーゴは無理矢理に意識を自分に向ける為、そして謎を解く為にユーリを睨み、口を開く。

 

「一体どうやって、あの攻撃を堪えた?LPは減ってるが……」

 

「ん?あーうん、このカードをダメージ計算時に手札から捨てたのさ。『ガード・ヘッジ』。『スターヴ・ヴェノム』を戦闘から守る代償に、ターン終了まで攻撃力を半分にするカード」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力6200→3100

 

ユーリ LP5700→2600

 

「そう言う事かよ……!」

 

「そう言う事だねぇ。さて!これで勝つ事は出来なかったけど大ダメージを与え、ビードロ・ドクロは破壊された。次はどんな手で来る?もっともっと楽しませてよ!じゃなきゃ満腹になんてなれない!」

 

「ッ、ユーゴ……!」

 

未だ余裕を見せるユーリの姿に、彼に拐われた時の事を思い出したのか、リンが不安気にキュッ、と彼の袖を掴む。心配なのだろう、それ程に、この少年の狂気は底知れない。だが、ユーゴは惚れた少女のこんな表情を見て、引き下がる男ではない。守り通す。この少女だけは、何としてでも。例え、命が燃え尽きようと。

 

「上等だぜ……!リン、安心しろ、お前は俺が守るからよ……!」

 

「ユーゴ……!わ、私も……!」

 

「へぇ……格好良いねぇ。そうじゃなくちゃ!って言う事らしいからぁ……」

 

バチン、リンがユーゴを助けようと自らもデュエルディスクを構え、参戦しようとしたその時、ユーリがその瞬間を逃さず、その掌から赤い稲妻を放ち、彼女のデュエルディスクをショートさせる。

 

「きゃっ」

 

「リン!テメェ!」

 

「安心しなよ、ちょっと大人しくしてもらうだけさ。君と僕の楽しいデュエル、誰にも邪魔はされたくないしね」

 

「ハッ、そんなに食い足りなきゃ、腹が破れる位食らわせてやるよ!チャンバライダーでドラゴスタペリアへ攻撃!」

 

「2枚目の『ガード・ヘッジ』を切る!」

 

「2回目の攻撃ぃ!」

 

「3枚目の『ガード・ヘッジ』を切る!」

 

捕食植物ドラゴスタペリア 攻撃力2700→1350→675

 

「チッ、メインフェイズ2、墓地の『SR電々大公』を除外し、『SR赤目のダイス』を蘇生!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

ユーリ 手札3→4

 

「効果でチャンバライダーのレベルを6に変更!」

 

HSRチャンバライダー レベル5→6

 

「更に速攻魔法、『スター・チェンジャー』!赤目のダイスのレベルを1つ上げる!」

 

SR赤目のダイス レベル1→2

 

「僕は手札の『儚無みずき』を捨て、このターンのメインフェイズとバトルフェイズ中に君が特殊召喚した効果モンスターの攻撃力分のLPを回復する」

 

「レベル6のチャンバライダーに、レベル2の赤目のダイスをチューニング!神聖なる光蓄えし翼煌めかせ、その輝きで敵を討て!」

 

ズキリ、一瞬激しい痛みが胸を襲うも、グッと堪え、ユーゴは自らの切り札を呼ぶ。セクトとのデュエルの中、自分の全てを賭け、生み出した最強のカードが今、白き光を纏い、天に飛翔、水晶の輝きが散る。

 

「シンクロ召喚!出でよ!『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000

 

ユーリ LP2600→5600 手札3→4

 

神々しいとも言える光を放ち、水晶の鱗持つ竜は、頼もしき背をユーゴ達に見せ、『スターヴ・ヴェノム』と向かい合う。全力全開。己の全てで、守り抜く。クリスタルウィングの登場と共に、ユーゴとユーリが笑みを深める。

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

「『融合再生機構』の効果でキメラフレシアをエクストラデッキへ戻すよ」

 

「さぁ、かかって来やがれ!」

 

ユーゴ LP4000

フィールド『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

相対する輝きの竜と闇の竜。心に光を持つ覇王と邪悪纏う覇王。新たな切り札を手に、飢えし者を迎え撃つ。ユーゴを前に、ユーリは一段、闇を深め、堕ちていく。



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第174話 Close to you

シンクロ次元、シティの外れにある雑草が生い茂る廃墟の中で、2人のデュエリストが向かい合う。

1人はこの次元出身、高速シンクロを武器とする『スピードロイド』デッキの使い手、ユーゴ。彼は幼馴染みであるリンを背に守るように立ち、眼前の相手を睨む。

彼の名はユーリ。ユーゴの因縁の宿敵であり、風評被害の元。アカデミアでもトップクラスの実力を誇るデュエリストだ。

 

現在2人の場には互いのエースと切り札が対峙、動向をうかがうように喉を震わせ、唸り声を上げている。

『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』と、『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』。この2体の竜と、それを操る2人がどのような運命にあるのかは分からないが、良い事では無さそうだ。

ズキリと痛む胸を抑え、ユーゴはデッキから1枚のカードを引き抜くユーリを見る。

 

「僕のターン!」

 

「罠発動、『針虫の巣窟』!デッキトップからカードを5枚墓地へ!」

 

「キメラフレシアの効果でカードをサーチ、魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を交換。魔法カード、『闇の誘惑』!2枚ドローし、手札の闇属性モンスター、セラセニアントを除外」

 

ユーリ 手札4→6→5

 

「装備魔法、『再融合』!LPを800払い、墓地のキメラフレシアを蘇生、このカードを装備する!」

 

ユーリ LP5600→4800

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「『スターヴ・ヴェノム』の効果発動!レベル5以上のモンスター、クリスタルウィングの名前と効果をコピーする!」

 

「クリスタルウィングの効果発動!1ターンに1度、このカード以外のモンスター効果の発動を無効にし、破壊!」

 

「チェーンしてドラゴスタペリアの効果発動!クリスタルウィングに捕食カウンターを乗せ、捕食カウンターが乗ったモンスターの効果発動を封じる!」

 

「折り込み済みだっつーの!手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、ドラゴスタペリアの効果を無効にする!消えるのはテメェのドラゴンだけだ!そしてクリスタルウィングは効果破壊したモンスターの攻撃力を吸収する!」

 

「甘いねぇ!融合召喚された『スターヴ・ヴェノム』が破壊された事で、君のモンスターを破壊する!」

 

「させねぇよ!墓地の『復活の福音』を除外し、クリスタルウィングを破壊から守る!」

 

互いのドラゴンから放たれる光がフィールド中央でぶつかり、拮抗し合うも、ユーゴのクリスタルウィングが翼に蓄えた光は尋常ではない。主の助けもあり、光は『スターヴ・ヴェノム』を撃ち抜く。

 

「ドラゴスタペリアを攻撃表示に変更、バトル!キメラフレシアでクリスタルウィングへ攻撃!そしてこの瞬間、キメラフレシアの効果と手札の速攻魔法、『決闘融合ーバトル・フュージョン』を発動!その効果でクリスタルウィングの攻撃力を吸収、次にクリスタルウィングの攻撃力が1000ダウン、キメラフレシアの攻撃力を1000アップ!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→5500→6500

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→2000

 

その攻撃力の差、4500。一気に決着がつけられる数値だ。圧倒的な暴力が、クリスタルウィングに向けられるが――この竜に、小細工は効かない。

 

「無駄だぜ!クリスタルウィングがレベル5以上のモンスターと戦闘を行う際、攻撃力を吸収する!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2000→8500

 

「なっ……!?」

 

「迎え撃て!烈風のクリスタロス・エッジ!」

 

キメラフレシアの効果も、『決闘融合ーバトル・フュージョン』の効果も、打てるタイミングは攻撃宣言時、ダメージ計算時に攻撃力をアップするクリスタルウィングが相手では話にならない。キメラフレシアが奪い取った光が再びクリスタルウィングの下に集い、風を纏ってキメラフレシアへ突進、鋭い結晶の翼がキメラフレシアを切り裂く。

 

ユーリ LP4800→2800

 

「ぐっ!」

 

迂闊だったと言わざるを得ない。クリスタルウィングは『クリアウィング』の進化体だ。弱い筈が無い。無いが――流石にこれは予想外だ。

 

「厄介だな……モンスター効果無効と高い戦闘能力……下級で闘おうにも3000の攻撃力を越えなきゃならない。骨が折れそうだ。カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーリ LP2800

フィールド『捕食植物ドラゴスタペリア』(攻撃表示)

セット2

『融合再生機構』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズ、最後の『再融合』をサーチ、そして罠カード、『針虫の巣窟』!デッキトップからカード5枚を墓地へ!」

 

「墓地の『スピードリバース』を除外し、『SRベイゴマックス』を回収、召喚!」

 

SRベイゴマックス 攻撃力1200

 

「効果でタケトンボーグをサーチ、特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

「リリースし、デッキから『SR赤目のダイス』を特殊召喚!」

 

SR赤目のダイス 守備力100

 

「効果でベイゴマックスのレベルを4に変更」

 

SRベイゴマックス レベル3→4

 

「レベル4のベイゴマックスに、レベル1の赤目のダイスをチューニング!双翼抱く煌めくボディー、その翼で天空に跳ね上がれ!シンクロ召喚!現れろ!『HSRマッハゴー・イータ』!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000

 

現れたのはピンク色に輝く羽子板のようなモンスター。比較的容易な蘇生効果を持つ為、『SR』の中でも重宝するカードだ。相手がシンクロやエクシーズならばその効果も強力に機能するのだが。

 

「罠発動、『煉獄の落とし穴』!特殊召喚された攻撃力2000以上のモンスターを破壊する!」

 

「バトル!」

 

「ドラゴスタペリアの効果発動!」

 

「クリスタルウィングの効果でドラゴスタペリアを無効!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→5700

 

「分かんねぇ奴だな、クリスタルウィングにはモンスター効果が効かねぇんだよ!ダイレクトアタック!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ」

 

「チッ、この為か……カードをセット、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP4000

フィールド『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「僕のターン、ドロー!魔法カード、『ライトニング・ボルテックス』!手札を1枚捨て、君のクリスタルウィングを破壊する!」

 

「カウンター罠、『魔宮の賄賂』!無効にし、テメェは1枚ドローする!」

 

ユーリ 手札1→2

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のキメラフレシア1体、ドラゴスタペリア2体、オフリス・スコーピオ、サンデウ・キンジー、ダーリング・コブラをデッキへ戻し、2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札1→3

 

「装備魔法、『再融合』!LPを800払い、『スターヴ・ヴェノム』を蘇生!!」

 

ユーリ LP2800→2000

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800

 

「効果発動!クリスタルウィングの効果をコピーする!」

 

「クリスタルウィングの効果発動!」

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』!クリスタルウィングの効果を無効にし、攻撃力を400アップ!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→3400

 

「ッ!」

 

「そんな!?」

 

再びクリスタルウィングと『スターヴ・ヴェノム』の効果の応酬、今回軍配が上がったのら『スターヴ・ヴェノム』だ。背部の器官を光らせて辺りを包み込み、クリスタルウィングの影を貪り食らう。強力なクリスタルウィングの効果をコピーされ、リンが動揺の声を上げる。

 

「ハハッ!さぁ、『スターヴ・ヴェノム』でクリスタルウィングへ攻撃!」

 

「そんな紛い物の光が俺達の絆に届くかよ!墓地の三つ目のダイスを除外し、攻撃を無効に!」

 

「おいおい、〟俺達の絆〝にそんなものが届くとでも?モンスター効果を無効にする!」

 

「残念だったな、確かに1枚じゃ届かねぇが、2枚ならどうだ!」

 

「何……?」

 

クリスタルウィングの力を奪い取り、その猛威を奮う『スターヴ・ヴェノム』であったが、ユーゴの墓地から2体の三つ目のダイスが飛び出し、六角形の結界を作り出す。

 

「こんな所でお預けか、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーリ LP2000

『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)

『再融合』セット1

『融合再生機構』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトル!クリスタルウィングで『スターヴ・ヴェノム』へ攻撃!」

 

「罠発動、『バースト・ブレス』!『スターヴ・ヴェノム』をリリースし、その攻撃力以下の守備力のモンスターを破壊する!」

 

互いのドラゴンが向かい合い、弾かれたように翼と背部の器官を広げてフィールド中央でぶつかり、鋭き爪を振るう。ガキンッ、鳴り響く金属音。

 

防がれた――腹を空かせ、一秒でも早く目の前の獲物に食らいつきたい『スターヴ・ヴェノム』は苛つき、獰猛な雄叫びを上げながら回転、長い尾をクリスタルウィングの首もとめがけて振るう。しかしクリスタルウィングはこれを対処、変則的な動きをする尾を右腕に縛りつけ、左の拳を『スターヴ・ヴェノム』の顔面に振り抜く。

メキィッ、見事に『スターヴ・ヴェノム』の頬を捉えた拳の威力は留まる事を知らず、角をへし折り、骨を砕き、毒竜を吹き飛ばす。ヒュン、風を切り、ユーリの真横を通り過ぎ、壁に激突する『スターヴ・ヴェノム』。

砂埃が巻き起こる中、まるで掃除機のケーブルの如くピンとクリスタルウィングの右腕に絡みついていた尾が巻き上げられる。凄まじい速度でクリスタルウィングは引っ張られ、真横の壁へ激突。ガリガリと削りながら進み、待ち構えていた『スターヴ・ヴェノム』が咆哮、首もとに牙を突き立てる。

 

「道連れだ」

 

余程飢えていたのか。『スターヴ・ヴェノム』は肩に爪を抉り込ませ、離そうと抵抗するクリスタルウィングにも構わず、その牙を深く、深く沈み込ませ、その肉を食らう。

 

おぞましく恐ろしく、そして美しい光景だ。そのグロテスクな世界に思わずリンは小さな悲鳴を上げ、ユーゴの背中に隠れる。

 

その間にもドラゴン同士の闘いは続き、傷が深く、助からないと踏んだクリスタルウィングが今度は逃がすまいと『スターヴ・ヴェノム』に抱きつき――そんな事をしなくとも離れる気はなさそうだが、素早く水晶の翼を発光、天井を突き破り、天高く飛翔して大爆発を起こす。

 

命がけの自爆技。相討ちに持ち込んだと言うより、持ち込まされたように見える。

 

「くっ……!」

 

「そのドラゴンは思った以上に厄介だ。早い内に除去させてもらうよ」

 

「ハッ、面白いじゃねぇか……張り合いが出て来たな……俺のフィールドにカードが存在しない事で、墓地の『HSR魔剣ダーマ』を特殊召喚!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200

 

「効果発動!墓地のチャンバライダーを除外し、500のダメージを与える!」

 

「墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、効果ダメージを半分に」

 

ユーリ LP2000→1750

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP4000

フィールド『HSR魔剣ダーマ』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「僕のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドローだ!」

 

ユーリ 手札0→3

 

「『捕食植物スキッド・ドロセーラ』を召喚」

 

捕食植物スキッド・ドロセーラ 攻撃力800

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーリ LP1750

フィールド『捕食植物スキッド・ドロセーラ』(攻撃表示)

セット2

『融合再生機構』

手札0

 

「亀みたいに引っ込みやがって……!引っ張り出してやふよ!魔剣ダーマの効果発動!墓地のタケトンボーグを除外し、500のダメージを与える!」

 

ユーリ LP1750→1250

 

「そして『SRダブルヨーヨー』を召喚!」

 

SRダブルヨーヨー 攻撃力1400

 

「召喚時効果でベイゴマックスを蘇生!」

 

SRベイゴマックス 守備力600

 

「ベイゴマックスの効果でタケトンボーグをサーチ、特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

「リリースし、デッキから『SR電々大公』をリクルート!」

 

SR電々大公 守備力1000

 

「マッハゴー・イータはフィールドに『スピードロイド』チューナーが存在する事で蘇生!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000

 

「レベル3のベイゴマックスにレベル3の電々大公をチューニング!シンクロ召喚!『HSR魔剣ダーマ』!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200

 

「電々大公を墓地より除外し、『SRーOMKガム』を蘇生!」

 

SRーOMKガム 守備力800

 

「レベル3のダブルヨーヨーに、レベル1のOMKガムをチューニング!幾千の顔を持つ迷宮の影よ、その鋭き刃で混沌の闇を切り裂け!シンクロ召喚!『HSR快刀乱破ズール』!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300

 

「OMKガムの効果でデッキトップを墓地へ。残念ながら『スピードロイド』じゃねぇ、よって攻撃力は上がらない」

 

「成程、これが君の力って訳か」

 

「バトル!」

 

「永続罠、『強制終了』!スキッド・ドロセーラを墓地に送り、バトルを終了!そして表側表示のスキッド・ドロセーラが墓地に送られた事で、相手フィールドに特殊召喚されたモンスターに捕食カウンターを乗せる!」

 

HSR魔剣ダーマ レベル6→1 捕食カウンター0→1×2

 

HSRマッハゴー・イータ レベル5→1 捕食カウンター0→1

 

HSR快刀乱破ズール レベル4→1 捕食カウンター0→1

 

捕食カウンター、散布。『強制終了』の効果で絞り取られ、中から大量の種を放射状に発射。ユーゴのモンスターへと雨の如く降らせるスキッド・ドロセーラ。

その厄介さにユーゴは舌打ちを鳴らす。このカウンターが、かなり面倒だ。ドロソフィルム・ヒドラやサンデウ・キンジー等で対処し辛い方法で処理される上、シンクロ使いのユーゴにとってレベルを好き勝手いじられるのは枷でしかない。

 

「ターンエンドだ……!」

 

ユーゴ LP4000

フィールド『HSR魔剣ダーマ』(攻撃表示)×2『HSRマッハゴー・イータ』(攻撃表示)『HSR快刀乱破ズール』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「僕のターン、ドロー!罠発動!『貪欲な瓶』!墓地の『捕食接ぎ木』2枚、『プレデター・プランター』、『融合回収』2枚をデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

ユーリ 手札1→2

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『強制終了』をコストに2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札1→3

 

「魔法カード、『復活の福音』!『スターヴ・ヴェノム』を蘇生!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800

 

「そして手札のスキッド・ドロセーラを捨て、このターン、『スターヴ・ヴェノム』は捕食カウンターが乗った全てのモンスターへ攻撃可能!」

 

「何だと!?」

 

バキリ、『スターヴ・ヴェノム』の背から伸びる器官が開き、赤い閃光の糸を放射、細くありながらも剣のような鋭さを持つ糸はユーゴのモンスターを串刺しにし、動きを封じる。

 

「バトル!『スターヴ・ヴェノム』で全てのモンスターへ攻撃!」

 

「くっ、ズールが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う場合、ダメージステップ開始時に攻撃力が倍になる!更にマッハゴー・イータをリリース!フィールドのモンスターのレベルを1つ下げる!」

 

HSR魔剣ダーマ レベル6→5×2

 

HSR快刀乱破ズール レベル4→3

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン レベル8→7

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2600

 

ユーゴ LP4000→3800→3200→2600

 

「ぐおおおおっ!?」

 

「ユーゴッ!?」

 

バクリ、顎が外れんばかりに開いて『スターヴ・ヴェノム』がユーゴのモンスターに食らいつき、その度に赤い糸が砕け、針の雨となってユーゴに降り注ぐ。1、2、3、連打。ユーリが倒すべきデュエリストには及ばぬ連続攻撃ではあるが、その威力は凄まじく、ユーゴの身体に電流が走るような痛みが駆け抜け、苦悶の声を漏らす。ただ事ではない。ユーリと同等まで削られた彼に対し、庇われたリンが悲痛の声を上げる。だが――。

 

「……へぇ……!」

 

それでも彼は倒れない。それでも彼は弱い姿を見せる事をしない。ボロボロに傷つきながらも、ユーゴはリンを守るように立ち、頼れる背をリンに見せる。

 

「ユーゴ……!」

 

「負けるか……!俺を信じてくれてる奴の前で、情けねぇ姿なんて見せる訳にいかねぇんだよ!」

 

「フ、ハハハハハ!地下以外にもこんなに歯応えのある相手がいるなんてね……僕はカードを1枚セット、ターンエンドだ。さぁ、来なよ。ユーゴ」

 

「俺は……ズールの効果でベイゴマックスを回収……!」

 

ユーリ LP1250

フィールド『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

『融合再生機構』

手札0

 

「男に……それもお前なんかに名前を覚えられても嬉かねぇんだよ!俺のターン、ドロー!ベイゴマックスを特殊召喚!」

 

SRベイゴマックス 攻撃力1200

 

「タケトンボーグサーチ、特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

「リリースし、OMKガムをリクルートする!」

 

SRーOMKガム 守備力800

 

「マッハゴー・イータ蘇生!」

 

HSRマッハゴー・イータ 攻撃力2000

 

「賭けに出る……!レベル3のベイゴマックスに、レベル1のOMKガムをチューニング!シンクロ召喚!『HSR快刀乱破ズール』!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300

 

「OMKガムの効果でデッキトップを墓地へ。『スピードロイド』モンスターだ!よって攻撃力を1000アップ!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2300

 

「バトル!やれ、ズール!『スターヴ・ヴェノム』へ攻撃!」

 

「罠発動!『フローラル・シールド』!攻撃を無効にし、1枚ドロー!」

 

ユーリ 手札0→1

 

「チッ、カードを1枚セット、ターンエンドだ……!」

 

ユーゴ LP2600

フィールド『HSR快刀乱破ズール』(攻撃表示)『HSRマッハゴー・イータ』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「僕のターン、ドロー!これはどうかな?魔法カード、『ブラック・ホール』!フィールド上のモンスターを全て破壊!」

 

「ッ!」

 

「墓地の『復活の福音』を除外し、『スターヴ・ヴェノム』の破壊を逃れる」

 

発動された『ブラック・ホール』は『スターヴ・ヴェノム』の口内より発生、ユーゴのモンスターを吸い込んで噛み砕き、飢えを満たす。だが足りない。幾ら食おうと勝利するその時までは。

 

「足りない、足りない、足りないんだっ!僕も『スターヴ・ヴェノム』も!君を倒せば、少しは満たされるかなぁ?バトル!『スターヴ・ヴェノム』でダイレクトアタック!」

 

「テメェの事情なんざ知ったこっちゃねぇんだよ!罠発動!『波動再生』!このダイレクトアタックで受けるダメージを半分にする!」

 

ユーゴ LP2600→1200

 

「ぐはぁっ!?」

 

「ッ、ユーゴ!」

 

『スターヴ・ヴェノム』のブレスが放たれ、ユーゴを確実に追い込んでいく。ユーゴが膝をつき、リンがその身体を支える。

 

「こんなにボロボロになって、何で……!何で私なんかを守るのよ!私は貴方の事、忘れてたって言うのに……!それなのに……!」

 

「関係ねぇよ……俺は覚えてるんだ」

 

「ッ!」

 

支える手に手を重ね、息を切らしながらユーゴはリンの目を見つめ返す。真っ直ぐで、曇りなき眼。ユーゴらしい眼だ。

 

「お前と過ごした日々を、お前の優しさを、お前の笑顔を覚えてる。忘れっぽい俺だけど、全部覚えてる」

 

「何で……?何でそこまで……っ!」

 

「あー……もう、うるせぇな……!」

 

ガシガシと頭を乱暴に掻きながら、ユーゴは思い出す。彼女と過ごした日々を、その優しさを、その笑顔を。思い出して、心に抱いた想いをリンに告げる。

 

「惚れた女を守りたいって言うのは、そんなにおかしいかよ!?」

 

「……え――」

 

言った。言ってしまった。長年隠していた想いを。抱いていた恋を。盛大に叫んでしまった。戦場に似つかわしくない愛の告白。これには流石のユーリも目を丸くし、その成り行きに任せている。

 

「なっ、こんな時に冗談なんて――」

 

「冗談でこんな事言うか!本気だっつーの!」

 

「なっ!?」

 

「ずっと、ずっと前から、お前が好きなんだ!お前じゃなきゃ、駄目なんだ!」

 

「……そっ、か――」

 

ユーゴは本気だ。本気の本気でリンが好きなのだ。これだけは何があろうと変わらない。譲れない想い。例え相手がリンであろうと、この想いを嘘だと言う事は許さない。そんな真っ直ぐなユーゴの想いを前に、リンはフ、と頬を緩める。

 

「なら、勝たないとね」

 

その暖かく、柔らかな手がユーゴの右手の甲に乗せられ、ユーゴの頬に朱が差す。分かりやすい反応だ。それを見てリンはクスリと笑い、目の前のユーリを睨む。

 

「お、おいリン……」

 

「返事は、このデュエルに勝ってからにしましょう。そうなったら……もう1度、答えてくれる?」

 

「――おう!何度だって、何度だって言ってやるよ!」

 

リンの問いに答え、ユーゴは彼女に倣ってユーゴを睨む。するとユーリはやっと終わったかと言わんばかりに大きな溜め息を吐き、わざとらしく肩をすくめる。

 

「やれやれ……黙っていれば調子に乗ってくれちゃって……で?誰か誰に勝つんだい?」

 

「私達が!」

 

「お前に勝つんだよ!」

 

言葉を重ね、心を重ね、リンはボロボロに傷ついたユーゴを支え、2人でユーリを迎え撃つ。

 

「言ってくれるじゃないか……!フィールド、手札0の状態で勝算があるとでも?」

 

「あるさ……勝算なら、ここにある!」

 

「『波動再生』の効果により、『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』のレベル以下のシンクロモンスターを蘇生する!」

 

「ッ、まさか!?」

 

「「集いし絆の結晶、飛翔せよ!『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000

 

フィールドに白い雪のように、美しく輝く結晶を降らせ、今絆の竜が飛翔する。沈まぬ闘志、滅びぬ想い、揺るぎなき心が形と化した1枚のカード。それがこの、『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』。ユーゴとリンの切り札、最強のカード。

 

「ここで、クリスタルウィング……!面白い……!面白いじゃないか!メインフェイズ2、魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

ユーリ 手札0→3

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

「ズールの効果でベイゴマックスを回収!」

 

ユーリ LP1250

フィールド『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)

セット3

『融合再生機構』

手札0

 

激しい攻防が続き、最早ユーゴの体力は限界に近い。正直言って、ユーリは強い。今まで闘ってきたデュエリストの中でも、1、2を争う。

それでもユーゴは諦めない。勝機は充分にある。それに、彼が出会ってきた仲間は、デュエリストは決して諦める事はしなかった。敵も、味方も、互いに譲れぬ想いを賭けて、最後まで全力を賭した。

ならばそんな彼等と闘い、勝ち抜いて来たユーゴがここで諦める訳にはいかない。

勝者には、敗者の為にも、敗者が弱くなかったと、強者であったと示す為にも簡単に諦める訳にはいかないのだ。それが勝者の責任。勝利を築き、結晶を作り上げたものがすべき事。そんな彼を、リンが支える。

 

「勝とう、ユーゴ」

 

「あぁ!行くぞユーリ!これが、俺達の想いだ!」

 

2人の指先が重なり、デッキトップへ添えられる。そして――引き抜かれたカードが、虹色のアークを描き出す。

 

「「ドローッ!!」」

 

その未来を、ユーリはへし折る。

 

「罠発動、『マインドクラッシュ』!『はたき落とし』!ベイゴマックスとドローカードを捨てさせる!」

 

「ッ!」

 

一気に2枚の手札破壊。これでベイゴマックスまで失ってしまった。それでも、ユーゴのフィールドには最強の切り札が存在している。

 

「バトル!クリスタルウィングで『スターヴ・ヴェノム』へ攻撃!」

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』!クリスタルウィングの攻撃力を400アップし、効果を無効にする!更に墓地のドロソフィルム・ヒドラの効果で墓地の『捕食植物』を除外し、攻撃力を500ダウン!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→3400→2900

 

ユーリ LP1250→1150

 

「ぐぅぅぅぅっ!?」

 

例え効果が無効にされても、その水晶の翼は衰えず。再びフィールド中央に向かって突き進み、激突。火花を散らすクリスタルウィングと『スターヴ・ヴェノム』。

ユーゴが拳を振るうと同時にその挙動と連動、『スターヴ・ヴェノム』の頬めがけ、いきなり右ストレートが飛ぶも、ユーリと連動した『スターヴ・ヴェノム』の右手が拳を弾き、至近距離でブレスを放とうとする。

下手を打てば自らも危険に晒す恐るべき行為。クリスタルウィングが左手を突き出し、『スターヴ・ヴェノム』の首を掴んで無理矢理上を向かせる。

そしてそのまま一回転、尾で『スターヴ・ヴェノム』を吹き飛ばし、風を纏って真っ直ぐに飛行、刃の如き水晶の翼で切り裂く。

 

しかしその瞬間、ドクン、両者の心臓が何者かに鷲掴みにされたかのような痛みが走る。

 

「うっぐ……!」

 

「ユーゴ!?」

 

突如膝をつき、苦しみ出すユーゴを見て、リンが動揺する。それに対してユーリは、痛む胸を抑えながらも、倒れる事なく不気味な笑みを浮かべる。しかも、衝撃のせいか、右眼にあった眼帯が外れ、深紅の光を灯しているではないか。

 

「やっぱり、君もだったか……」

 

「貴方、眼が……!?」

 

リンの言葉もどこ吹く風。無視してユーゴだけを見つめるユーリ。その赤い双眸には明らかにユーゴ以外写っておらず、禍々しさとある種の執着が見てとれる。

 

「僕等が似ているのは偶然なんかじゃない……僕等は出会うべくして出会ったんだ」

 

「あ……ぐ……何、言ってやがる……!」

 

「君も本当は分かっているんだろう?僕等の胸に訴えかけるこの痛みは、渇望だ」

 

「……!」

 

「足りない、足りない。何が足りない?身体だ、魂だ、力だ。全てが足りない。取り戻せ、身体を、魂を、力を。そうこの右眼が言っている。魂に焼きついた叫びが木霊している」

 

早鐘を打ち、うるさく鳴り響く鼓動が、ユーゴの身体を駆け抜ける。自分じゃない誰かが内側から現れようと、ユーゴの身体を裂こうとする。彼の右眼にも、赤い光が灯る。

 

「うぐ、がぁぁぁぁっ!?」

 

「ユーゴ!しっかりして!ユーゴぉっ!」

 

震える足で地を踏み締め、朦朧とする意識の中でユーゴは獣のように叫ぶ。痛い、怖い――欲しい。足りない欠片が、足りない力が、欲しくて欲しくて堪らない。

 

「そう、それで良い。それがあるべき形なんだ。ユーゴなんて仮面はいらない。この渇望に身を任せるんだ!さぁ、今こそ我等が一つに!』

 

ユーリの声に、もう1人、誰かの声が重なり、ユーゴの理性を揺らす言葉を放つ。

 

「ぐぅ……!ひと……つに……?」

 

「そうだ!取り戻すんだ!本当の自分を!仮面の奥に潜む獣を!」

 

今ある自分を消し、自分ではない誰かとなる。そんな恐るべきユーリの言葉に、ユーゴは僅かな反応を見せる。いや――これはユーゴではない誰かなのか。そんな事すらリンには分からない。彼女の理解の外にある光景。だが、分からないけど、ここでユーゴを連れていかれては駄目だと彼女は察した。

 

「駄目……駄目よユーゴ!しっかりして!お願いだから目を覚まして!」

 

「チ、うるさい奴だ。昔からお前はそうだった……!』

 

「何を言って……」

 

ユーリとリンは誘拐の時以外ロクに話した事がない。にも関わらず、彼はまるでリンに誰かを重ねているのか、僅かに親しさを感じさせる口調で語る。支離滅裂、全くもってチグハグだ。

 

「くっう……!」

 

「ユーゴ!戻って来て!このデュエルに勝つって約束したじゃない!私の返事を聞いてくれるって、もう1度言ってくれるって約束したのに……!お願い……帰って来て……ユーゴ!ユーゴぉ!」

 

目尻に大粒の涙を溜め、ユーゴの身体を抱き締めて叫ぶリン。失いたくない、大切な彼を。自分が記憶を失っていても想ってくれたこの少年を。誰にも奪わせてなるものかと必死に抱いて呼び掛ける。掴むのだ。2人で、光差す未来を。絶対に、何としてでも。

 

「――」

 

「……チッ』

 

「ユー……ゴ……?」

 

「融合じゃねぇ……ユーゴだっつってんだろ……!」

 

「ユーゴ……!」

 

戻って来た彼を見て、リンは涙を流しながら微笑み、ユーリは露骨に顔を歪め、舌打ちを鳴らす。右眼に宿っていた光も消えている。自らの意志でユーリに従う事もないだろう。

 

「残念だったな……テメェと1つになるなんて気持ち悪くて願い下げだぜ!」

 

「フン、なら仕方無い……君を倒し、我の力を取り戻すまで!』

 

「ターンエンドだ!さぁかかって来な!テメェは俺が、俺達が倒す!」

 

ユーゴ LP1200

フィールド『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

手札0

 

その心に熱く輝く光を宿し、ユーリを迎え撃つユーゴとリン。そんな眩しい2人を見て、ユーリは僅かに自らの心に燻る想いに疑問を抱く。まさか、自分がこの光に焦がれていると言うのか。

 

「違う……』

 

違う。断じて否。そんな事はあり得ない。こんな、1人では強者足り得ない力にユーリが屈する事は無い。自分はそんなものは望まない。

彼が望むのは、全てを捩じ伏せ、希望をへし折る絶対的な力。この右眼で鮮烈に輝く、血に濡れた紅い闇こそ、ユーリの力の源。

 

「そんな吹けば消し飛ぶような力、弱さを含めた強さは認めない!』

 

瞬間、ユーリのエクストラデッキが、漆黒の光に覆われる。

ユートが憎しみを、弱さを受け入れ、ダーク・リベリオンを進化させたように。

ユーゴが弱い自分を認め、友との絆で『クリアウィング』を進化させたように。

彼にも、その時が来たと言う事だ。心に僅かに残った光を、果てなき闇が呑み込み、ユーリと『スターヴ・ヴェノム』を進化させる。

 

「この光、セクトと同じ……いや!」

 

「あの時、以上の……!?」

 

榊 遊矢、ユート、ユーゴ、ユーリ。この4人は姿形だけではない。心の根底が似ているのだ。

窮地に陥っても、決して諦めない不屈の魂。それが、ユーリにもあった。ただ、それだけの事。それだけの事に、勝利への渇望に、デッキが応えた。それだけの事だ。

 

「僕の……我のターン、ドロォォォォォ!!』

 

空中に描かれる、赤黒のアーク。まるで竜の体躯のように唸るそれは突風を引き起こし、ユーゴとリンの頬を撫でる。2人は確信する。間違いなく、ユーリが引いたのは、逆転のカード。

 

「魔法カード、『龍の鏡』!墓地の『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』と『捕食植物スキッド・ドロセーラ』を除外、融合!飢えた牙持つ毒龍よ。奈落へ誘う美しき花よ。今一つとなりて、思いのままに全てを貪れ!融合召喚!現れろ、『グリーディ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』!!』

 

グリーディ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力3300

 

フィールドに再び『スターヴ・ヴェノム』が復活。ユーリから溢れ出す闇の瘴気をその身に注がれ、ミシミシと音を立て進化していく。

黄金の角は紅く染まり、か細い肉に葉脈状の紋様が走り、背から伸びる器官には紅い蕾が生える。ひび割れた眼はそのままに。進化した毒竜が、耳を裂くようなおぞましい咆哮を放つ。

 

「チクショウ……!」

 

「『スターヴ・ヴェノム』が、進化した……!」

 

「これこそが君を倒す切り札!効果発動!クリスタルウィングの攻撃力を0にして、効果を無効にする!』

 

「そんなもんがクリスタルウィングに効くかよ!効果発動!」

 

「このカード以外のモンスター効果を無効にし、破壊する!」

 

襲いかかるグリーディ・ヴェノムの効果。背部の蕾が花開き、紅い光を放出、クリスタルウィングを貫こうとするが、クリスタルウィングの翼が輝き、光を反射、紅い光が逆にグリーディ・ヴェノムを貫き、呆気なく破壊する。

これがユーリが新たに得た切り札。こんなものだと言うのかとユーゴとリンが戸惑う。

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→6000

 

「グリーディ・ヴェノムが破壊され、墓地に送られた事で、フィールドのモンスターを全て破壊!墓地のレベル8以上の闇属性モンスターを除外し、このカードを蘇生する!』

 

「何だと!?くっ、墓地の『復活の福音』を除外し、クリスタルウィングを破壊から守る!」

 

グリーディ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力3000

 

そして、彼等の予測に応えるよう、グリーディ・ヴェノムが本領を発揮。再度フィールドに顕現する。死して蘇る。不滅の毒竜。これこそがユーリの切り札。

 

「最早、望みは絶たれた。グリーディ・ヴェノムの効果発動!』

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力6000→0

 

1度で駄目なら2度、それでも駄目なら何度でも。そんの、不屈の意志を感じさせるカード。ベエルゼの天敵として進化したのがクリスタルウィングならば、全てを食らい尽くすべく生み出されたのが、このモンスター。果てなき渇望を持つ毒竜が、絶望をもたらす。

 

「クリスタルウィングが……!」

 

「我が魂に弱卒はいらない。力を捧げ、消え去るがいい!『グリーディ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』で、『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』を攻撃!』

 

光を失い、力を封じられたクリスタルウィングに、グリーディ・ヴェノムが容赦なく背の蕾から美しい花を咲かせ、花より走る紅い光の根が空と地面に根差し、養分を吸収、膨大なエネルギーを食らい、腹を蛙のように膨らませ――極太の熱線として解き放つ。

圧倒的な力の濁流。それを見たユーゴは、トン、リンは巻き込ますまいと、肩を押し、突き放す。

 

「ワリィ、リン……約束、守れそうにねぇや……」

 

「ッ!ユー……ゴぉぉぉぉっ!!」

 

「だから――融合じゃねって言ってんだろ……」

 

ユーゴ LP1200→0

 

ゴウッ、リンが手を伸ばすも、その手は届かず。目の前で眉根を下げ、困ったように笑うユーゴを、絶望の波が呑み込み、食らい尽くす。

決着、ユーゴのLPと共に、希望が散る。勝者、ユーリ。



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第175話 肋骨の2~3本はもってかれたか!

榊 遊矢はシティを駆ける。赤いDーホイールで仲間の下へと。焦る想いを胸に疾走する。

 

あの後とんずらをこいたバレットから告げられた情報、それは遊矢を深く安心させたが――今は何故か、それとは別件で嫌な予感がする。

締め付けられるような感覚。この感覚には覚えがある。

 

あの時――ユートとユーゴがデュエルしている時。そして『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』が生み出された時のような感覚。自分が自分じゃなくなるような、理性と本能の境界が溶けてなくなるような感覚が遊矢を襲う。

胸が痛い位早鐘を打つ。頭が痛い位警報を鳴らす。

何故だが分からないが、このシンクロ次元に来て友となった少年に危機が迫っている気がする。

 

「ユーゴ……!」

 

そして、遊矢のこの直感は当たっていた。最短距離で自らの勘が告げる、ユーゴの下へと辿り着くだろう道筋を進み――彼は悲劇をその目にする。

 

着いたのはシティの外れにある、誰にも使われず、苔や植物が生えた廃墟。

その中で、三人の人物がいた。

 

1人は彼の知らない少年。遊矢、ユート、ユーゴと似た顔立ちをしており、恐ろしい竜を引き連れた紫の軍服を纏った少年。その右眼からは紅い光が漏れ出しており、その光を目にした途端、ズキリと遊矢の左眼が疼く。

次に目にしたのは柚子と似た顔立ちの少女。白いフードつきのマントとライダースーツを纏い、ふんわりとした緑の髪からアホ毛を伸ばしたリンだ。

 

そんな彼女が涙を流し、抱き着いて必死に肩を揺らしている少年こそ、探し求めた人物。ユーゴだ。その姿はボロボロに傷ついていて。

 

「ッ、ユーゴッ!」

 

嫌な予感が的中してしまった。遊矢は急いでDーホイールかれ飛び降り、ユーゴの下へと駆ける。彼の声にリンと軍服の少年、ユーリが目を見開いて遊矢に視線を移す。

 

「っ、遊矢……遊矢ぁ……!ユーゴが、ユーゴがぁっ……!」

 

目尻から大粒の涙を流し、言葉足らずながら遊矢に助けを求めるリン。遊矢も彼女の感情を剥き出しした表情を見て記憶が戻っているのかと戸惑うも、それよりもと頷き返し、ユーゴに視線を落とし、表情を歪める。

かなり酷い状態だ。身体中火傷だらけ、ライダースーツも所々破けている。流血もあり、かなり痛々しい。

 

「リン……ユーゴを俺のDーホイールに運ぶ。君はそのまま病院へ、俺は……」

 

そのまま遊矢は視線を横にして、目の前で殺気かと思う程の闘気を送るユーリを見据える。

 

「クク……忘れられてるのかと思ったけど、そうでもないみたいだねぇ」

 

「お前が、ユーゴを……!」

 

遊矢はユーリの姿を捉え、目を細める。怒りはあるが、冷静だ。遊矢の理性の強さもあるが、目の前の少年がそうさせる。

彼の放つ圧倒的な闘気。ユーゴを下したとあって強烈だ。間違いなく黒コナミやそのレベルに比肩する実力者。

少なくとも――遊矢にとって、格上の相手だ。

 

「今日は本当にラッキーだ。僕はユーリ、君、名前は?」

 

「……榊 遊矢」

 

「遊矢、良い名前だ。ユーゴだけじゃなく、2人目、遊矢にも会えるなんてねぇ。3人目もこの次元にいるのかな?何にせよ、君を倒せば、僕は更なる高みへ、より完成へ近づける訳だ」

 

「完成……だと……?」

 

「だけど、今日はやめておこう」

 

「ッ、逃がすと思っているのか!?」

 

「負けると分かっているのに?」

 

「……そんな事、分からない」

 

とは言ってみたものの、勝てるビジョンが全く沸かない。勝つ、ではなく、分からないと言ったのが証拠だ。

遊矢の実力は決して低くない。むしろ高い方だ。このシンクロ次元で多くのデュエリストとぶつかり成長して来た。

ジャック・アトラス、シンジ・ウェーバー、セルゲイ・ヴォルコフ、バレット。この短い期間で強者を倒した事により、デュエルの密度は濃くなっている。

 

しかし、それでも勝てない。これが数分前なら話は変わっただろう。数分前のユーリが相手なら、互角に渡り合えたかもしれない。

今のユーリは遊矢と互角レベルの実力を持つユーゴを下した事で、格段に進化したのだ。当たり前の事だ。遊矢も成長したように、ユーリもまた、成長している。一矢報いる事は出来ても、それまでだ。

 

「デュエルは終わるまで分からない!勝てる勝てないじゃない!俺はここで、お前を倒さなきゃいけないんだ!」

 

「フフ、良いねぇ……その気になっちゃいそうだよ。でも駄目だ。ユーゴとのデュエルが余りにも濃厚過ぎて胃もたれしてるみたいでね。これ以上は僕も不味い」

 

「だったら尚更だな!」

 

「止せ……遊矢……!」

 

尚もユーリに食い下がる遊矢の背に、予想外の人物から声がかかり、遊矢は振り返って驚愕の表情を浮かべる。

当然だ。声をかけたのは、ユーゴだったのだから。彼はリンに肩を預け、支えられながら遊矢だけに視線を合わせる。

 

「ユーゴ……!」

 

「……ふぅん?もう残りカスって感じだね。何時消えてもおかしくないのに……正直びっくりだよ。タフなもんだ」

 

「ッ!」

 

ギリッ、ユーリの一言に遊矢は表情を歪め、歯軋りを鳴らす。彼の他人事のような、罵倒するような口調もそうだが、もう、ユーゴは間に合わないと理解してしまったからだ。

怪我の状態ではない。前回、ユートとユーゴがデュエルした後のように、彼の存在そのものが消えてしまうのだ。

もしかすればユートのように復活するのかもしれないが、確証はない。

 

「失せなユーリ。テメェの顔を見ながら消えるなんてクソ食らえだ」

 

「負け犬の癖に偉そうだね君。まぁ良いよ、最期の願いだ。叶えてあげよう。じゃあね遊矢。また会おう、その時まで……どうか強くなってくれよ?」

 

ヒラヒラと手を振り、ユーリはデュエルディスクの次元移動装置を起動、リンにも見向きもせず、去っていく。

交わる遊矢の左眼とユーリの右眼。視線がぶつかり、両者は互いの胸に互いの名を刻む。何時か、2人は必ずどこかで激突するであろう事を予感して。

ユーリが素直に立ち去ったのは、ユーゴとの闘いで大きく消耗したのもあるが、最後まで彼は遊矢達にその事を悟らせなかった。

 

「……行ったか……ぐ……!」

 

「ユーゴ!」

 

「ッ、無茶するなユーゴ、早く病院へ……」

 

「そんな、隙はねぇ……!」

 

脇腹を抑え、眉を寄せるユーゴを見て、遊矢が駆け寄り、リンと共に心配をかける。が、ユーゴは彼等をはねのけ、自身のDーホイールまで歩み、背を預け、遊矢を睨む。

 

「自分の事は自分が一番分かってら……俺はこのまま、消えちまう。ユーリが言ったようにな」

 

「そんな……!」

 

両手で口を抑え、泣きそうな顔になるリン。現実離れした話だが、ユーリとのデュエルの後だ。ユーゴの真剣な表情も相まって信じざるを得ない。

 

「だけどその前に……」

 

「……まさか」

 

「察しが良くて助かるね……遊矢……俺と、デュエルしろ」

 

叩きつけられる友からの挑戦状。その余りにも突然の話を聞き、2人が更に驚く。

 

「何を……何を言ってるんだお前は!?そんな状態のお前とデュエルなんて、ふざけるのも大概にしろ!」

 

「そうよ何で……何で今……っ!」

 

「今だからだ。今しかねぇからだ。もう俺に残された時間は後僅か。その時間全部、テメェにくれてやる遊矢。本当はリンにやりてぇんだがな……感謝しろよ」

 

ユーゴはあくまで真剣だ。真剣に、残された時間を遊矢に捧げようとしている。その理由は、遊矢も分かっている。分かっているが――。

 

「俺はユーリと闘った。だから分かる。アイツと決着をつけるとしたら、お前かユートしかいねぇ。けど、ユートの奴はここにはいねぇし、任せるのは気に食わねぇ。だから……お前に任せる。その為に、ユーリと闘った俺を倒せ。俺を倒して、強くなれ。それ位出来なきゃ、お前はアイツに勝てねぇ」

 

理屈は分かる。分かってしまう。だけど、それではあんまりではないか。こんなボロボロなユーゴき、大切な友を相手に、まるで死人に鞭を打つような事をしなければならないなんて。

 

「同情なんていらねぇぞ。腑抜けてんじゃねぇぞ遊矢!お前、キングになるんだろ!このシティを1つにして、笑顔にすんだろ!?ユーリに食い下がった癖に俺には無理ですってか!?怪我がどうのなんて言うんじゃねぇぞ!この位唾つけりゃ何とかなんだよ!むしろ丁度良いハンデだ、来いよ遊矢。テメェの根性、叩き直してやる!」

 

「ユー……ゴ……」

 

「周りの事が気になるのは分かるさ……だが、俺を倒せねぇテメェに、誰かを助けられるとは思えねぇ」

 

ユーゴの事、今のシティの事。迷う遊矢に対し、ユーゴは敢えて突き放すような態度を取る。不器用なユーゴなりの叱咤だろう。幼馴染みであるリンはその事に気づき、覚悟を決める。ユーゴの覚悟に応える覚悟を。

 

「……闘ってあげて、遊矢」

 

「リン……?」

 

「こうなったら……1度決めたら、こいつ、意地でもやり通すんだから」

 

困ったように、その上でどこか誇らし気に彼女は笑う。男が闘うと決めたなら、それを見守り、待っているのもイイ女と言うものだ。何故なら、こんなにも待つ事は辛い事なのだから。

 

2人の絆を見て、遊矢もまた決心する。ユーゴと言う、目の前のデュエリストと正面から向き合う事を。

 

「……分かった、男と男の勝負だ、ユーゴ。本気で行くぞ!」

 

「へへっ、そう来なくちゃな!お前とは1度闘ってみたかったんだ!最高のエンタメデュエルを頼むぜ!」

 

「言っておくけど、私も乗るからね。文句なんて言わせないから。今のアンタ1人じゃ危なっかしいわ」

 

「そいつは良い……勝利の女神がついてんだ。負ける訳がねぇ」

 

ユーゴとリンが、遊矢が互いのDーホイールに搭乗し、遊矢がアクションフィールドを発動する。

ライディングデュエルはユーゴが、アクションデュエルは遊矢が、互いが最も得意とする2つを合わせたこれなら全力でぶつかれると判断しての事だ。

辺り一面が光の粒子に包まれ、カードが散らばっていく。『クロス・オーバー・アクセル』。2つの次元のデュエリストが、スピードの世界で交差する。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

Dーホイールが唸り声を上げて、一気に飛び出す。ライディングデュエルを得意とするユーゴならば最近始めたばかりの遊矢に負ける筈がないが――ズキリと脇腹が痛み、スピードが緩む。

 

「ユーゴ……!」

 

「安心しな、事故は起こさねぇよ……説得力ねぇか」

 

不本意ながら先攻を取った遊矢がデッキから5枚のカードを引き抜く。相手はユーゴだ。満身創痍とは言え、油断は出来ないし、怪我を理由に手を抜く等、男として、友として、デュエリストとしてしたくない。置き去りにする勢いで行く。

 

「俺のターン!『EMギタートル』と『EMユーゴーレム』でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

「融合じゃねぇ!ユーゴだ!ッテテ……!」

 

ユーゴでは無く、ユーゴーレムである。何時も通りの突っ込みをするユーゴであるが、この時ばかりは的外れだ。

リンはユーゴに対し、やや冷たい視線を向けた後、遊矢のDーホイールに追従するように現れた光の柱を見つめる。

中にギターの形状をした亀とU字をした命持つ岩石が出現、天空に光の線を結び、魔方陣を描き出す。これが遊矢の得意とするペンデュラム。こうして直に見るのは初めてか。

 

「気を抜くんじゃないわよユーゴ!蹴っ飛ばすからね!」

 

「分かってらぁ!へっ、おちおち出来ねぇな、こいつは……」

 

「ギタートルのペンデュラム効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「魔法カード、『手札断殺』!互いに手札を2枚捨て、2枚ドロー!そしてこれでレベル2から5のモンスターを同時に召喚可能!揺れろ魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMヘイタイガー』!『EMギッタンバッタ』!」

 

EMヘイタイガー 攻撃力1700

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

魔方陣に孔が開き、中から2本の光が降り注ぎ、フィールドを激震、晴れて遊矢の仲間が姿を現す。

赤い軍服を纏った虎の兵士とシーソーのようなバッタだ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMヘイタイガー』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMユーゴーレム』

手札0

 

「未来のキング様への挑戦だ、全力で行くぜ!」

 

「フフ、もうこの際勝っちゃいなさい、ユーゴ!」

 

「最初から負ける気なんてねぇよ!俺のターン、ドロー!」

 

互いに軽口を交わせながら、士気を高めるユーゴとリン。デッキトップから1枚のカードを引き抜き、前方を走る遊矢を睨む。

 

「行くぜ遊矢!『SRアクマグネ』を召喚!」

 

SRアクマグネ 攻撃力0

 

ユーゴの手札から飛び出したのは磁石の悪魔。固いギッタンバッタ相手なら充分に適したモンスターだ。

 

「アクマグネの効果!このカードとギッタンバッタで風属性シンクロモンスターをシンクロ召喚する!」

 

「そう処理して来たか……!」

 

相手モンスターを利用してのシンクロ召喚、ユーゴらしいトリッキーな戦法だ。そして予想外でもある、1ターンに1度の戦闘耐性を持ち、優れた壁として機能するギッタンバッタがこうも簡単に破られるとは。

 

「レベル4のギッタンバッタに、レベル1のアクマグネをチューニング!その躍動感溢れる剣劇の魂。出でよ、『HSRチャンバライダー』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

シンクロ召喚、遊矢のペンデュラムに対抗するように、ユーゴ得意の召喚法が炸裂、ギッタンバッタを1つのリングとなって弾け飛ぶアクマグネが包み込み、光の矢がリングごとギッタンバッタを撃ち抜く。5つの星が明滅し、1体のモンスターの姿が浮き彫りとなる。

 

日本刀を模したバイクの下半身を持った、二刀流の侍。ユーゴのDーホイールを抜き去り、遊矢の隣で並走、居合いの構えを取り、ヘイタイガーを狙う。

 

「バトル!チャンバライダーでヘイタイガーは攻撃!この瞬間、チャンバライダーの攻撃力は200アップする!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000→2200

 

榊 遊矢 LP4000→3500

 

「ヘイタイガー……!」

 

ヘイタイガーが戦闘の意志を示すチャンバライダーに対し、腰からサーベルを引き抜いて応戦。至近距離で互いの刃を振るい、激しい剣戟の音が響き渡る。

チャンバライダーが振るう右手の刃をヘイタイガーのサーベルが防ぎ、空いた手に持った長銃の引き金が引かれ、胸元に吸い込まれるように飛ぶ。

しかし、突如動きが速くなったチャンバライダーが左手の刃で弾丸を切り裂き、そのままヘイタイガーに突きを放つ。

だがヘイタイガーも負けてはいない。驚きつつも虎の牙で刃に食らいつき止める。

互角の勝負。そう思われた時、チャンバライダーが腰を浮かせ、第3の刃、日本刀バイクで燕返しを放ち、ヘイタイガーを真っ二つに斬り、光の粒子に変える。

 

「チャンバライダーは1度のバトルフェイズに2度攻撃出来る。食らいな遊矢っ!」

 

「まだだ、速攻魔法、『イリュージョン・バルーン』!俺のモンスターが破壊されたターン、デッキトップから5枚を捲り、その中から『EM』1体を特殊召喚する!来い、『EMゴムゴムートン』!」

 

EMゴムゴムートン 守備力2400

 

しかし光の粒子は遊矢のフィールドで逆巻き、グルグルと回転、球状となった後に弾け、嵐となって吹き荒ぶ。そして中より5つの風船が出現、視界を覆い尽くす。

チャンバライダーが斬擊を飛ばし、パァンと音を鳴らして割ると、中よりゴム質の毛を持った羊が登場。壁となって遊矢を守る。

 

「2回目の攻撃を行い、チャンバライダーの攻撃を上げておくぜ」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2200→2400

 

倒せはしないが、チャンバライダーの攻撃は無駄にならない。攻撃を続け、チャンバライダーを強化するユーゴ。冷静な判断だ。

 

「さて、カードを5枚セット、ターンエンドだ!」

 

「全伏せ!?」

 

何とここで5枚のカードをセット、これは遊矢も予想外。目を見開いて驚く。

 

ユーゴ LP4000

フィールド『HSRチャンバライダー』(攻撃表示)

セット5

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『地砕き』!チャンバライダーを破壊!」

 

「カウンター罠、『魔宮の賄賂』!魔法、罠の発動を無効にし、破壊。相手は1枚ドローする!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

「召喚時効果で『EMペンデュラム・マジシャン』を――」

 

「カウンター罠、『無償交換』!今度はモンスター効果の発動を無効にし、破壊。相手は1枚ドローする!」

 

「くっ、両方かよ……!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動!ペンデュラム召喚!『EMドクロバット・ジョーカー』!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 守備力100

 

遊矢のデッキのキーカード。継ぎ接ぎだらけのシルクハットと燕尾服を纏い、黒い仮面を被った道化師、ドクロバット・ジョーカーが登場するも、得意のマジックを披露する前にフィールドから追い出される。再度登場するも、ドクロバット・ジョーカーの効果は召喚時のみ。ポケットの中に何も入っていない事、マジックの種がない事を明かし、肩をすくめる。

 

「ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP3500

フィールド『EMドクロバット・ジョーカー』(守備表示)『EMゴムゴムートン』(守備表示)

『補給部隊』

Pゾーン『EMギタートル』『EMユーゴーレム』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!おいおいどうした?その程度かよ遊矢ぁ!フィールド魔法、『チキンレース』!LPを1000払い、ドロー!」

 

ユーゴ LP4000→3000 手札0→1

 

「今度は魔法カード、『成金ゴブリン』だ!相手のLPを1000回復させる代わりにドロー!」

 

榊 遊矢 LP3500→4500

 

ユーゴ 手札0→1

 

「3枚目、魔法カード、『一時休戦』!互いにドロー、次のターン終了までダメージを0に!」

 

ユーゴ 手札0→1

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「『SRシェイブー・メラン』を召喚!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

召喚と共にユーゴの手に巨大なブーメランが出現、フィールドに投擲すると音を立てて変形、刃を煌めかせるロボットと化す。

 

「バトル!チャンバライダーでゴムゴムートンへ攻撃!」

 

「ゴムゴムートンの効果で戦闘破壊を――」

 

「逃がさねぇよ!永続罠、『追走の翼』!チャンバライダーに戦闘、効果破壊耐性を与え、レベル5以上のモンスターと戦闘を行う際、ダメージステップ開始時に破壊!攻撃力をターン終了まで吸収する!おっと、チャンバライダーの攻撃力アップ効果も忘れずにな!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2400→2600→3500

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「返しの刃もあるぜ!やれ、チャンバライダー!ドクロバット・ジョーカーを攻撃!」

 

「チィッ!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力3500→3700

 

二刀流の剣技が炸裂し、ゴムゴムートンとドクロバット・ジョーカーが容易く撃破されてしまう。神速とも言える連擊。遊矢が減速し、ユーゴと並ぶ。

 

「来な、遊矢。テメェの本気、見せてみろよ」

 

クイクイと指先で遊矢を挑発するユーゴ。これではどちらが怪我人か分からない。とんでもないタフさだ。

 

ユーゴ LP3000

フィールド『HSRチャンバライダー』(攻撃表示)『SRシェイブー・メラン』(攻撃表示)

『追走の翼』セット2

『チキンレース』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!この野郎……!ちょっとは大人しくしろ!墓地の『ギャラクシー・サイクロン』の効果発動!このカードを除外し、『追走の翼』を破壊!ペンデュラム召喚!『EMドクロバット・ジョーカー』!『EMゴムゴムートン』!『EMボットアイズ・リザード』!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 守備力100

 

EMゴムゴムートン 守備力2400

 

EMボットアイズ・リザード 守備力1200

 

再び揺れ動くペンデュラム。遊矢のエクストラデッキの2枚、そして手札にある1枚のカードが天空の魔方陣へと光となって吸い込まれ、孔が開き、フィールドに降り注ぐ。

チャンバライダーとシェイブー・メランから遊矢を守るように現れるモンスター達。道化師にゴムの羊。モノクルをかけたリザードと実に個性豊かだ。

 

「ボットアイズ・リザードの効果!このカードを召喚、特殊召喚したターンのメインフェイズに1度、デッキから『オッドアイズ』モンスターを墓地に送り、そのモンスターの名前を得る!俺は『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を選択!」

 

「む……!」

 

「『EMトランプ・ウィッチ』を召喚!」

 

EMトランプ・ウィッチ 攻撃力100

 

今度はドクロバット・ジョーカーと対となるようにデザインされたトランプのマークを各所に散りばめたドレスを纏い、ステッキを持った幼い魔女。これでピースは揃った。

 

「トランプ・ウィッチをリリースし、デッキから『置換融合』をサーチ!」

 

「痴漢ユーゴ……最低ね」

 

「ち、違っ!遊矢が勝手にっ……!てか融合じゃねぇ、ユーゴだ!」

 

遊矢が手札に加えたカードを見て、リンが冷ややかな眼差しをユーゴに浴びせ、ユーゴが少しずつドキリとしながら弁明を始める。正直遊矢にとってはどうでも良い。

 

「発動!フィールドの『オッドアイズ』と化したボットアイズ・リザードとドクロバット・ジョーカーで融合!融合召喚!出でよ、秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

融合召喚、遊矢の背後に青とオレンジの渦が広がり、2体のモンスターが中にて溶け合い、1体の竜となって宙を駆る。魔を封じ込めた眼を金属で覆い隠し、背に満月を思わせるリングを伸ばした真紅の竜。ズシンと地に降り立ち咆哮、チャンバライダーを睨む。

 

「ユーゴーレムのペンデュラム効果!自分フィールドにモンスターが融合召喚された場合、エクストラデッキ、または墓地のペンデュラムモンスターの中から『オッドアイズ』、『EM』、『魔術師』の内1体を回収する!ここは『EMドクロバット・ジョーカー』を回収しようか」

 

「面倒なのが渡りやがったな……!」

 

「バトル!ルーンアイズでシェイブー・メランへ攻撃!」

 

「づぁっ……!」

 

「しっかりしないさいユーゴ!」

 

「分かって、らぁ!」

 

ルーンアイズの背のリングに2ヶ所、光が灯り、その内の1つが一直線に伸び、シェイブー・メランを撃つ。攻撃力3000のモンスターの攻撃だ。重く、ユーゴに響く。

 

「レベル4以下魔法使い族のモンスターを使用した事でルーンアイズは2回攻撃が可能!チャンバライダーへ攻撃!連擊のシャイニーバースト!」

 

「それでもっ、チャンバライダーは自身の効果で攻撃力を上げ、3000となる!よってこのバトルは……!」

 

「相撃ち、だぁっ!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2800→3000

 

ゴウッ、ルーンアイズが発射した光線とチャンバライダーが両の刃を合わせた斬擊がぶつかり合い、大爆発。互いのモンスターが壁となり、2人へのダメージを防ぐ。

豪快な戦法だ。折角召喚したルーンアイズを失ってまでチャンバライダーを破壊して来た。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「更に『置換融合』を除外し、ルーンアイズをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

「LPを1000払い、『チキンレース』を破壊」

 

榊 遊矢 LP4500→3500

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP3500

フィールド『EMゴムゴムートン』(守備表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMユーゴーレム』

手札3

 

「俺のターン、ドロー!誰がここまでやれと言ったよ……!チクショウが」

 

「あらユーゴ、諦めるの?」

 

「へっ、馬鹿言うな!こんなカッコ悪いまま終われっかよ!とは言えヤバいな……ここは守りに徹するか、カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP3000

フィールド

セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

「効果発動!」

 

「罠発動、『もの忘れ』!このターン、ドクロバット・ジョーカーの効果を無効にし、守備表示に変更!」

 

「やるな……!だけど……これはどうかな?チェーンして速攻魔法発動!『ディメンション・マジック』!ドクロバット・ジョーカーをリリースし、手札の『降竜の魔術師』を特殊召喚!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

ドクロバット・ジョーカーが棺のような装置に閉じ込められ、幾つもの鎖が巻きつき、締め付けて破壊する。次の瞬間、中から飛び出したのは竜の血をその身に宿す『魔術師』だ。

 

「『降竜の魔術師』の効果でこのカードをドラゴン族に変更!ゴムゴムートンと共にリリース!出でよ!野獣の眼光りし獰猛なる龍!『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

そしてルーンアイズに続き、融合『ペンデュラム・ドラゴン』がフィールドに呼び出される。獣骨の鎧と青い体毛を纏う野性の竜。大型モンスターの連続にユーゴの頬が引き吊る。

 

「この召喚は融合召喚じゃない為、ユーゴーレムのペンデュラム効果は使えない。ペンデュラム召喚!『EMドクロバット・ジョーカー』!『EMゴムゴムートン』!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

EMゴムゴムートン 守備力2400

 

「バトル!ビーストアイズでダイレクトアタック!ヘルダイブバースト!」

 

「させっかよぉ!罠発動!『リジェクト・リボーン』!バトルフェイズを終了し、墓地のシンクロモンスターとチューナーを効果を無効にし、蘇生!来い、チャンバライダー、アクマグネ!」

 

HSRチャンバライダー 守備力1000

 

SRアクマグネ 守備力0

 

「止めるか……ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP3500

フィールド『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMゴムゴムートン』(守備表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMユーゴーレム』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満な壺』!エクストラデッキから6枚のカードを除外し、2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→2

 

「チャンバライダーを攻撃表示に変更し、魔法カード、『ハイ・スピード・リレベル』!墓地のシェイブー・メランを除外、除外したシェイブー・メランのレベル×500の攻撃力をチャンバライダーに加え、レベルはシェイブー・メランと同じになる!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000→4000 レベル5→4

 

「バトル!チャンバライダーでドクロバット・ジョーカーへ攻撃!」

 

ゴムゴムートンが存在する限り、ビーストアイズを狙おうと戦闘破壊を防がれる。ならばよりダメージを与える為、ドクロバット・ジョーカーを討とうとするも、ドクロバット・ジョーカーは余裕の表情を浮かべ、クルリと自身のシルクハットの奥を見せるように持つ。

不味い、ユーゴの直感が警報を鳴らす。

 

「罠発動!『魔法の筒』!その攻撃を無効にし、チャンバライダーの攻撃力分のダメージを与える!」

 

斬擊がシルクハットの中へ吸収、ギュルリと渦巻き、跳ね返される。そのダメージは実に4000、一撃でゲームエンドとなる数値だ。攻撃反応系と言うのはタイミングが限定される為、デッキから抜かれる事が多いが――だからこそ、この奇襲のような形で活かされる。

 

「ユーゴ!何とかなさい!」

 

「やる事えげつねぇよアイツ。罠発動、『ピケルの魔法陣』!このターンの効果ダメージを防ぐ!」

 

「防いだか……」

 

「心臓に悪いぜ全く……」

 

「こっちの台詞よ……遊矢って意外と容赦無いわよね」

 

「敵味方問わずに笑顔にして来る奴だからな。オラ笑顔になれやって」

 

「風評被害だ!」

 

やや誇張が入った自身の評価に文句を言う遊矢。間違ってはいない気がする。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ。チャンバライダーの攻撃力は元に戻る」

 

ユーゴ LP3000

フィールド『HSRチャンバライダー』(攻撃表示)『SRアクマグネ』(守備表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトル!ビーストアイズでチャンバライダーへ攻撃!」

 

「永続罠、『強制終了』!アクマグネを墓地に送り、バトルフェイズを終了させる!」

 

「ハハッ、そう来なくちゃな!カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP3500

フィールド『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMゴムゴムートン』(守備表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMギタートル』『EMユーゴーレム』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『強制終了』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→2

 

「悪かねぇ、速攻魔法、『魔力の泉』!テメェのフィールドに存在する表側表示の魔法、罠は4枚!よって4枚ドローし、俺のフィールドに存在する表側表示の魔法、罠、2枚分を捨てる!」

 

ユーゴ 手札1→5→3

 

「『SRーOMKガム』を召喚!」

 

SRーOMKガム 攻撃力0

 

現れたのはレベル1のチューナー。基本、打点の低い『スピードロイド』においてギャンブル性があるとは言え重宝するカードだ。ガムの箱の状態から変形、ロボットとなってポーズを決める。

 

「レベル5のチャンバライダーに、レベル1のOMKガムをチューニング!十文字の姿持つ魔剣よ、その力で全ての敵を切り裂け!シンクロ召喚!現れろ、『HSR魔剣ダーマ』!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200

 

現れたのはけん玉の姿を模した魔を宿す剣。凄まじい速度でフィールドを駆け、ユーゴに並走する。

 

「チャンバライダーが墓地に送られた事で、除外されたシェイブー・メランを回収。OMKガムの効果でデッキトップを墓地に送る。『スピードロイド』モンスターだ。よってダーマの攻撃力は1000アップする!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200→3200

 

「ビーストアイズの攻撃力を超えた……!」

 

「そうやって誘導しようったって無駄だぜ。ダーマの効果でアクマグネを除外し、500のダメージを与える!」

 

榊 遊矢 LP3500→3000

 

「バトル!ダーマでドクロバット・ジョーカーへ攻撃!」

 

「手札の『EMバリアバルーンバク』を捨て、戦闘ダメージを0に!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「ここで防ぐかねぇ。カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP3000

フィールド『HSR魔剣ダーマ』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!ゴムゴムートンをリリース、アドバンス召喚!『EMダグ・ダガーマン』!」

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000

 

現れたのは短剣を持った奇術師のような出で立ちのモンスター。攻撃力は2000、中々のものだがダーマには敵わない。

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールドのビーストアイズとダグ・ダガーマンで融合!融合召喚!現れ出でよ!気高き眼燃ゆる獰猛なる龍!『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

3連続融合。最早ユーゴへの嫌がらせかと疑うレベルで融合を行う遊矢。魔天と野獣の竜に続き、炎を掻い潜って現れたのは勇者の竜。『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を正当進化させたような逞しい四肢と雄々しい角が特徴的なモンスターだ。効果も実に強力、これ1枚でデュエルに決着をつけるポテンシャルを持っている。

 

「融合召喚時、お前のモンスターの攻撃力を0にする!ユーゴーレムのペンデュラム効果でエクストラデッキから『EMドクロバット・ジョーカー』を回収!」

 

「次から次へと……!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力3200→0

 

「まだだぜ!墓地の『置換融合』を除外し、ビーストアイズをエクストラデッキへ戻し、ドロー!」

 

「永続罠、『便乗』!そいつを待ってたんだ。テメェがドローフェイズ以外でドローした場合に発動し、次からドローフェイズ以外でドローする度、俺はそれに『便乗』し、2枚ドローする!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「成程、刺さりそうなカードだ……!ペンデュラム召喚!『EMダグ・ダガーマン』!『EMゴムゴムートン』!」

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000

 

EMゴムゴムートン 守備力2400

 

「ダグ・ダガーマンがペンデュラム召喚した事で効果発動!手札の『EM』を墓地に送り、1枚ドロー!『EMギッタンバッタ』を蘇生!」

 

「早速来たか、『便乗』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

ユーゴ 手札1→3

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

「バトル!ブレイブアイズでダーマを攻撃!灼熱のメガフレイムバーストッ!」

 

「罠発動!『王者の調和』!その攻撃を無効にし、攻撃対象となったシンクロモンスター、ダーマと墓地のチューナー、OMKガムを除外し、その合計レベルとなるシンクロモンスターをシンクロ召喚する!」

 

ブレイブアイズがそのアギトに大気を吸い込み、発火。巨大な火球を作り出し、撃ち出したその時、ダーマが光輝き、そのシルエットが竜を模したものに変化、火球を突き破り、天空へ飛翔する。

 

「合計レベルは――7!来るか!」

 

「へへっ、レベル6のダーマに、レベル1のOMKガムをチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!」

 

ドクン、遊矢とユーゴ、2人の心臓が脈打ち、今白き影が閃光を放ち、そのシルエットが明らかとなる。

 

「シンクロ召喚!現れろ、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

ミントグリーンの薄く、刃のように鋭い双翼、青と白の美しいカラーリング、ユーゴの信頼するエースモンスターが今、雄々しく咆哮する。

 

「フッ、やっとエンジンがかかって来たか。カードを1枚セット、ターンエンドだ、さぁ来い、ユーゴ!」

 

榊 遊矢 LP3000

フィールド『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMダグ・ダガーマン』(攻撃表示)『EMゴムゴムートン』(守備表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

『補給部隊』セット2

Pゾーン『EMギタートル』『EMユーゴーレム』

手札1

 

変幻自在、千変万化、凄まじい速度で成長し、次々とモンスターを繰り出すエンタメデュエリスト、榊 遊矢。

予想もつかない、何が来るか分からないびっくり箱のようなデュエルをする彼に対し、ユーゴはズキズキと痛み、今にも消え去りそうな衝動を鋼の理性で抑え込み、遊矢とリンに心配をかけぬようにニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

尤も、この笑みは自然に溢れたもの。ずっと闘いたかったライバルとのデュエルだ。楽しくて堪らない。嬉しくてしょうがない。

 

前方を走る彼を追うべく、更に加速、大切な少女を背に、頼れるカードと共に駆け抜け、その背へと迫る。

まだだ、まだこんな所で終われない。せめて、この待ち望んだデュエルだけは、未来のキングとのデュエルだけは、最後まで。

 

(もってくれよ……俺の魂……!)

 

何が何でも、やり抜いてみせる。

 

「お楽しみは、これからなんだからよぉ!」



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第176話 もっと速く疾走れー!!

シンクロ次元、シティ。夜の闇も明け始める頃、未だアカデミアの侵攻を防ぐ中、遊矢とユーゴのアクションライディングデュエルは続く。

 

遊矢のフィールドにはペンデュラムと言う大量展開により呼び出された3体の『EM』に加え、強力な融合モンスター、『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』が存在。

対し、ユーゴのフィールドには彼が憧れるデュエリストのカード、『王者の調和』で呼び出されたエース、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』が飛翔している。

攻撃力、戦力においてはユーゴが不利であるが、『クリアウィング』には自身を強化する効果がある。勝負はまだ分からない。

 

「『SRシェイブー・メラン』を召喚!」

 

SRシェイブー・メラン 攻撃力2000

 

「シェイブー・メランの効果発動!このカードを守備表示に変更し、ブレイブアイズの攻撃力を800ダウン!『クリアウィング』の効果!レベル5以上のモンスター1体を対象とするモンスター効果を無効にし、破壊。破壊してシェイブー・メランの攻撃力を自身に加える!ダイクロイック・ミラー!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→4500

 

『クリアウィング』の翼が光輝き、幾何学的な紋様が出現、紋様は浮き出て光の針と化し、シェイブー・メランを突き刺しエネルギーを吸収する。

シェイブー・メランの効果でも事は足りるが、守備力の低いこのモンスターは次のターンには破壊されかねないと思っての行動だ。

 

「バトル!『クリアウィング』でブレイブアイズへ攻撃!旋風のヘルダイブスラッシャー!」

 

榊 遊矢 LP3000→1500

 

「ぐっ、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

「『便乗』するぜ、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

ユーゴ 手札3→5

 

「メインフェイズ2、速攻魔法、『ツイン・ツイスター』!手札を1枚捨て、ペンデュラムスケールを破壊するぜ!」

 

「ペンデュラムまで……!」

 

「これで展開の肝は潰したぜ?カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP3000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

『便乗』セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「永続罠、『竜の束縛』!互いに『クリアウィング』の元々の攻撃力、2500以下のモンスターを特殊召喚出来ない!」

 

「ッ、これは……!?」

 

『クリアウィング』が天高く飛翔、翼を光輝かせ、咆哮する。対象のドラゴン族、最大攻撃力2500以下のモンスターの特殊召喚の封印。つまり、遊矢のペンデュラム対策。遊矢のメインデッキに投入されているモンスターで攻撃力2500を越えるモンスターはそうはいない。ユーゴも『クリアウィング』を維持する事については特化している。これは苦しくなりそうだ。

 

「さぁ、どうする遊矢?」

 

「成程……強敵じゃないか……このドラゴン退治、受けさせてもらおうか!『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

「ドクロバット・ジョーカーの効果で『EMラディッシュ・ホース』をサーチ、セッティング!ペンデュラム効果発動!ダグ・ダガーマンの攻撃力2000分、『クリアウィング』の攻撃力をダウン!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→500

 

「ほーう……!」

 

今度は『クリアウィング』の攻撃力がダウン、下級モンスターでも充分に破壊可能な数値まで落ちてしまった。初見で『竜の束縛』に対応して来る所は流石と言うべきか。

 

「バトル!ダグ・ダガーマンで『クリアウィング』へ攻撃!」

 

「甘いぜ遊矢!速攻魔法、『旗鼓堂々』!俺の墓地の装備魔法をフィールドのモンスター1体に装備する!『ドラゴン・シールド』を『クリアウィング』に装備!このカードを装備したモンスターは戦闘、効果では破壊されず、互いが受けるダメージも0にする!」

 

「ちょっとトリッキー過ぎるぞ……!『竜の束縛』といい、『クリアウィング』とクリスタルウィングしかドラゴン族いない癖に……!」

 

しかしユーゴの戦術は2歩先を行く。瞬間に『クリアウィング』に青い鎧が装着され、ダグ・ダガーマンが投げるナイフを弾き返す。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、『旗鼓堂々』の効果で装備して『ドラゴン・シールド』は破壊される」

 

榊 遊矢 LP1500

フィールド『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMダグ・ダガーマン』(攻撃表示)『EMゴムゴムートン』(守備表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

『補給部隊』セット3

Pゾーン『EMラディッシュ・ホース』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『局所的ハリケーン』!フィールドにセットされた魔法、罠を持ち主の手札に戻す!」

 

「罠発動、『仁王立ち』!ドクロバット・ジョーカーの守備力を倍に!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 守備力100→200

 

「ドクロバット・ジョーカーに……?魔法カード、『アームズ・ホール』を発動。デッキトップを墓地に送り、『月鏡の盾』をサーチ、『クリアウィング』に装備、バトル!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外し、攻撃をゴムゴムートンに絞る!」

 

「そっちを選ぶか、行け!『クリアウィング』!『月鏡の盾』の効果でゴムゴムートンの攻守の内、高い方の数値に100を加えた攻撃力を『クリアウィング』に与える!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力500→2500

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

「『便乗』!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

ユーゴ 手札0→2

 

「ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP3000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

『月鏡の盾』『竜の束縛』『便乗』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!互いに手札を捨て、捨てた枚数をドローする!」

 

「『便乗』の効果!」

 

ユーゴ 手札2→4

 

ユーゴを相手取るには少しでも手数が欲しい。そう思い、遊矢は相手にドローさせるデメリットにも目をつむり、新たなカードを引き込む。そして視線を落として。

 

「!これは……賭けに出るか……『EMラ・パンダ』をセッティング!そして魔法カード、『プレゼント交換』を発動!」

 

「何……?」

 

「あのカードは……!」

 

ここで遊矢が発動したのは予想外の想定外。ユーゴも目を見開くバラエティカード。その気になる効果は――。

 

「互いのプレイヤーはそれぞれ自分のデッキからカードを1枚選んで裏側表示で除外、このターンのエンドフェイズに除外したカードを互いの手札へ交換する!」

 

「何を考えているのか分からねぇが……お前の事だ、何も考えていない筈がねぇか。良いぜ、乗ってやるよ!」

 

「俺はカードをセット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP1500

フィールド『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMダグ・ダガーマン』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMラ・パンダ』『EMラディッシュ・ホース』

手札1

 

ユーゴが遊矢の手札に加えたのは『SRベイゴマックス』。『スピードロイド』のキーカード。恐らく捨てさせる事で回収を図っているのだろう。そして遊矢がユーゴの手札に加えたのは。

 

「俺のターン、ドロー!早速使わせてもらおうか……!『EMドラミング・コング』をセッティング!」

 

ユーゴにも使えるペンデュラムカード。つまりペンデュラムゾーンに置いて来るであろうカード。かなりの賭けだったが、これで遊矢の狙いは達成された。これこそが遊矢の待っていた展開。

 

「この時を、待っていた!速攻魔法、『揺れる眼差し』!」

 

「――そう言う事か……!」

 

『クリアウィング』は現在戦闘で無敵と言って良い。それを差し引いても蘇生されたら厄介だ。だからこそ、除外を狙う。しかもこれは、防ぐのが難しい。対象を取らない効果。

 

「互いのスケールを破壊し、破壊したカードの数まで効果を適用!1つ、相手に500ダメージを与える!」

 

ユーゴ LP3000→2500

 

「2つ、ペンデュラムモンスターのサーチ!『EMペンデュラム・マジシャン』をサーチ!そして3つ――『クリアウィング』を除外!」

 

『クリアウィング』、撃破。見事な攻略法で逆境を覆す遊矢。とんでもないコンボだ。一歩間違えれば自分が不利になっていたと言うのに。

 

「やってくれたな……!」

 

「へへ……!」

 

「だけどこんなもんで俺は止まらねぇ!対象のモンスターがフィールドを離れた事で『竜の束縛』は破壊される。俺は『ジェスター・コンフィ』を特殊召喚!」

 

ジェスター・コンフィ 攻撃力0

 

「『BFー東雲のコチ』を召喚!」

 

BFー東雲のコチ 攻撃力700

 

「レベル1の『ジェスター・コンフィ』に、レベル4の東雲のコチをチューニング!シンクロ召喚!『HSRチャンバライダー』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

「魔法カード、『二重召喚』!もう1度召喚権を得、『SRオハジキッド』を召喚!」

 

SRオハジキッド 攻撃力1000

 

今度はオハジキを手に遊矢を狙い撃とうとするガンマン風のモンスター。

 

「召喚時効果で相手の墓地のチューナーを特殊召喚!そのカードとこのカードでシンクロを行う!」

 

「俺の墓地にはチューナーモンスター、『調律の魔術師』がいる……!」

 

調律の魔術師 守備力0

 

ユーゴのフィールドに白い法衣を纏ったピンク髪の『魔術師』少女が横ピースで登場する。

 

「俺はレベル3のオハジキッドにレベル1の『調律の魔術師』をチューニング!幾千の顔を持つ迷宮の影よ、その鋭き刃で混沌の闇を切り裂け!シンクロ召喚!『HSR快刀乱破ズール』!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300

 

今度はパズルを人型に組み立て直したようなモンスター。攻撃力は低いももの、特殊召喚したモンスター相手では強力なアタッカーと化す。

 

「だが調律の効果を受けてもらう!」

 

「ぐがっ!?」

 

榊 遊矢 LP1500→1900

 

ユーゴ LP2500→2100

 

シンクロの際、調律が手からスッポリと落とした音叉がユーゴの頭部に激突、ヘルメット越しでも衝撃が伝わり、頭を抱える。

 

「バトル!チャンバライダーでドクロバット・ジョーカーへ攻撃!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000→2200

 

榊 遊矢 LP1900→1500

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

ユーゴ 手札1→3

 

「2回目の攻撃!ギッタンバッタを狙う!」

 

「特殊召喚したギッタンバッタは1ターンに1度、戦闘で破壊されない!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2200→2400

 

「ズールでダグ・ダガーマンへ攻撃!特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う場合、攻撃力倍加!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2600

 

榊 遊矢 LP1500→900

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP2100

フィールド『HSRチャンバライダー』(攻撃表示)『HSR快刀乱破ズール』(攻撃表示)

『便乗』セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外し、『便乗』を破壊!魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』!」

 

榊 遊矢 手札3→5→4

 

「魔法カード、『金満な壺』!トランプ・ガール、ギタートル、ドクロバット・ジョーカーを回収し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→5

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を交換!ここからが勝負だ!『EMキングベアー』と『EMブランコブラ』をセッティング!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMダグ・ダガーマン』!『EMラディッシュ・ホース』!『EMラ・パンダ』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000

 

EMラディッシュ・ホース 守備力2000

 

EMラ・パンダ 守備力800

 

呼び出される4体のモンスター。赤い衣装を纏い、振り子を手にしたマジシャン。『EM』のキーカードであり、ドクロバット・ジョーカーと並んで『EM』サーチ、3種の神器とも言えるモンスターだ。もう1枚は牢獄の中である。そしてこの中で最も攻撃力が高いダグ・ダガーマンとこれまでのデュエルで他のモンスターをサポートしてきた大根の角持つ馬。ラッパを身体に巻いたパンダだ。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果!このカードとラ・パンダを破壊し、2枚の『EM』をサーチ!」

 

「おっと、そいつには退場してもらうぜ!カウンター罠、『大革命返し』!カードを2枚以上破壊する効果の発動を無効にし、除外する!」

 

「ッ、アリト並みのカウンターだな……!なら今度はラディッシュ・ホースの効果発動!チャンバライダーの攻撃力をラディッシュ・ホースの攻撃力分ダウンし、ダグ・ダガーマンの攻撃力を逆にアップ!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2400→1900

 

EMダグ・ダガーマン 攻撃力2000→2500

 

「バトル!ダグ・ダガーマンでチャンバライダーへ攻撃!」

 

「チャンバライダーの攻撃力をアップ!」

 

「それでも届かない!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力1900→2100

 

ユーゴ LP2100→1700

 

「ぬぁっ……!」

 

「踏ん張るのよユーゴ!」

 

ズラリとダグ・ダガーマンが袖よりナイフを取り出し、チャンバライダーへ投擲、チャンバライダーは巧みなライディングテクニックで隙間を縫ってかわし、二刀流で切りかかる。しかしダグ・ダガーマンはナイフを何本も重ねる事で強度を高めて防ぐ。

だが流石はチャンバライダー。両腕の刃の切れ味は恐ろしく、ナイフを纏めて真っ二つにしてしまう。このままではダグ・ダガーマンが負ける。そんな時、パチンてダグ・ダガーマンが指を鳴らすとチャンバライダーのいる地面からナイフが飛び出し、バイクがズタズタに傷つけられる。

機動力を失ったチャンバライダーに向かい、ダグ・ダガーマンは全てのナイフを投擲、ハリネズミのような姿になる。

 

「チャンバライダーの効果!除外されている『SRアクマグネ』を回収!」

 

「ターンエンドだ。この瞬間、キングベアーを破壊し、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を回収!」

 

榊 遊矢 LP900

フィールド『EMダグ・ダガーマン』(攻撃表示)『EMラディッシュ・ホース』(守備表示)『EMラ・パンダ』(守備表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

『補給部隊』

Pゾーン『EMブランコブラ』

手札2

 

「『SRアクマグネ』を召喚!」

 

SRアクマグネ 攻撃力0

 

「効果でお前のダグ・ダガーマンをシンクロ素材に!レベル5のダグ・ダガーマンに、レベル1のアクマグネをチューニング!シンクロ召喚!『HSR魔剣ダーマ』!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200

 

「ダーマの効果!墓地のオハジキッドを除外し、500ダメージを与える!」

 

榊 遊矢 LP900→400

 

「くっ……ヤバイな……!」

 

残る遊矢のLPは僅か400。デッドゾーンに腰まで、いや、胸元まで浸っている所だ。何としてでも回復系のカードを引きたいが、その前にこのターンを越える事が前提だ。

 

「バトル!ダーマでギッタンバッタへ攻撃!」

 

「墓地の『ネクロ・ガードナー』を除外し、攻撃を無効!」

 

「粘るじゃねぇか……!ラ・パンダはペンデュラムモンスターへの攻撃を無効にする効果があったな……カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP1700

フィールド『HSR魔剣ダーマ』(攻撃表示)『HSR快刀乱破ズール』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『打ち出の小槌』手札を交換!」

 

遊矢が額から汗を流しながらデッキからカードを引き抜く。このターンでダーマに対し、何らかの手を施さなければ、効果を使われて終わってしまう。それだけは避けたい所だ。チラリと引いたカードに目を配らせ、これならばと息を呑む。

 

「ギッタンバッタとラ・パンダをリリース!雄々しくも美しく輝く二色の眼!アドバンス召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

現れたのは遊矢が最も信頼するエースカード。赤と緑、左右で異なるオッドアイ、額と背に角を伸ばし、嘴のようなアギトが特徴的な胸に宝玉を抱いた赤い竜。登場と共に2人の心臓がドクンと跳ね、僅かな痛みが走る。

 

「ラディッシュ・ホースの効果!ダーマの攻撃力をダウン、『オッドアイズ』の攻撃力をアップ!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200→1700

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→3000

 

「ッ、『オッドアイズ』にはダメージを倍にする効果がある……!」

 

「そう!この攻撃が通れば……!」

 

「ユーゴのLPは0……!」

 

今度は一転して遊矢の有利。ユーゴの不利となった。デュエルは何が起こるか分からない。たった1枚のカードで劣性を覆す事も有り得るのだ。一体どちらが勝つか分からない。先の見えないワクワクが3人の胸を打つ。

 

「バトル!『オッドアイズ』でダーマへ攻撃!螺旋のストライクバースト!」

 

「やらせるかよっ!まだまだ、こんな楽しい事は終わらせねぇ!罠発動、『シンクロ・バリアー』!ズールを墓地に送り、次のターン終了まで、俺が受けるダメージを0に!」

 

「だが、ダーマは破壊させてもらう!」

 

「チィッ!」

 

ダメージを抑える事は出来たが、2体のシンクロモンスターを失い、ユーゴのフィールドはボロボロ。しかしまだ勝機は充分に残っている。

 

「ターンエンドだ!」

 

「ズールの効果で赤目のダイスをサルベージ!」

 

榊 遊矢 LP400

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMラディッシュ・ホース』(守備表示)

『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMブランコブラ』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!装備魔法、『D・D・R』!手札を1枚捨て、除外されている『クリアウィング』を特殊召喚!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

向かい合う2人のエース、『オッドアイズ』と『クリアウィング』。二竜が揃い、互いの胸が激しく締め付けられる。まるでこの時を昔から待っていたかのような咆哮が轟く。間違いなく、このドラゴン達には何かがある。

 

「バトル!『クリアウィング』でラディッシュ・ホースへ攻撃!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「アクションマジック、『セカンド・アタック』!『クリアウィング』で『オッドアイズ』へ攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!攻撃を無効に!」

 

『クリアウィング』が翼を広げて飛翔、その勢いのまま急降下し、鋭い刃となった翼で『オッドアイズ』を切り裂こうとするも、『オッドアイズ』もそのアギトに炎を集束、螺旋のブレスを解き放つ。極太の熱戦を前に、『クリアウィング』が飛び退き、体勢を整える。

 

「ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP1700

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

『D・D・R』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!行くぜユーゴ!」

 

「来い、遊矢ぁ!」

 

「装備魔法、『団結の力』!『オッドアイズ』に装備!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→3300

 

「バトル!『オッドアイズ』へ『クリアウィング』へ攻撃!螺旋のストライクバースト!」

 

「くっ、迎え撃て!旋風のヘルダイブスラッシャー!」

 

「ダメージを倍に!リアクション・フォース!」

 

ユーゴ LP1700→100

 

再び2体が咆哮、互いに闘志を剥き出しにし、2人の指示を受けた途端、弾かれたようにフィールド、中央でぶつかる。『クリアウィング』がつばさで斬撃を放ち、『オッドアイズ』がブレスを放つ。

鬩ぎ合う互いの必殺、徐々に『オッドアイズ』のブレスが押していき、爆発。『クリアウィング』を粉々に砕き、ユーゴに激痛が走る。

 

「ぐうっ!?」

 

「ユーゴッ!」

 

強力なダメージを受け、ユーゴのDーホイールがキュルキュルと音を鳴らして回転、姿勢を大きく崩すが、何とか持ちこたえる。

しかし、『オッドアイズ』と『クリアウィング』がぶつかり合った影響か、ユーゴに闇の瘴気が流れ込み、正気を失わせようとユーゴではない、何者かの意志が浮かび上がろうとするが――。

 

「グ……邪魔はさせねぇ!誰にもこのデュエルの邪魔はさせねぇ!漢の勝負に、野暮な真似すんじゃねぇ!」

 

鋼のような意志で、闇を振り払う。何と言う自我の強さか。何と言う鉄の理性か。流れ込む闇の誘惑を一喝で黙らせる。行き場を失った闇はユーゴに支配され、1枚のカードを生み出す。

 

「ユーゴ……?」

 

「心配すんなリン……このデュエルだけは絶対に……決着をつける!」

 

「ユーゴ……そう来なくちゃな!俺はカードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP400

フィールド『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)

『団結の力』『補給部隊』セット1

Pゾーン『EMブランコブラ』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『魔力の泉』!4枚ドローし、2枚捨てる!」

 

ユーゴ 手札0→4→2

 

「『SR三つ目のダイス』を召喚!」

 

SR三つ目のダイス 攻撃力300

 

ユーゴのフィールドに飛び出したのは三角錐の形状で角から炎を噴射させたモンスター。

 

「マッハゴー・イータを落としておけばクリスタルウィングに繋げられたんだが……しゃあねぇ、速攻魔法、『エネミーコントローラー』!三つ目のダイスをリリースし、『オッドアイズ』のコントロールをエンドフェイズまで得る!」

 

「何っ!?」

 

「デッキトップをコストに墓地の『グローアップ・バルブ』を蘇生!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

「バトル!『オッドアイズ』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『カウンター・ゲート』!1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「引いたカードは『EMアメンボート』!召喚!」

 

EMアメンボート 攻撃力500

 

遊矢を守るようにアメンボモチーフのモンスターが颯爽と現れる。己や仲間と共に考え抜いて作り出したデッキは応えてくれる。

 

自らのエースカードが遊矢に牙を剥く。味方であれば頼もしいが、敵となれば予想以上に恐ろしい。ダイレクトアタックを受ければダメージ倍加もあって初期値のLPでもゲームエンドに持ち込まれてかねない。ただ自分のカードだけあり、その回避方法も理解している。

 

「罠発動!『緊急同調』!バトルフェイズにシンクロを行う!」

 

「――追撃か!」

 

が、逃してなるものかと遊矢の背に迫るユーゴ。まさかの加速に息を呑み、リンは驚いた表情となる。

現在ユーゴのフィールドにはレベル7の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』とレベル1のチューナー、『グローアップ・バルブ』。合計レベルは8だが、ユーゴが持っているレベル8のシンクロモンスターは『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』のみの筈。

そしてクリスタルウィングは素材にシンクロモンスターが無ければ出せないのだ。一体何を召喚するつもりなのか。

 

「レベル7の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』に、レベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!光の翼持つ眷属よ。その鋭利なる両翼で敵を討て!」

 

瞬間、ユーゴのエクストラデッキから、先程闇の瘴気を吸収し、生み出されしカードが排出される。ドクン、遊矢とユーゴの心臓が脈を打つ。

『オッドアイズ』と『クリアウィング』が向かい合った時のような、不吉な感覚、いや、これは――『覇王眷竜オッドアイズ』が発現した時と同じ。

 

「シンクロ召喚!現れろ、『覇王眷竜クリアウィング』!!」

 

覇王眷竜クリアウィング 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、美しく、鋭き両翼を闇で染め、雄々しい体躯に緑のラインを走らせたドラゴンが飛翔する。その姿は正しく『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』。覇王の力を得た白竜が咆哮する。ユーゴはこの力を自らの下に制御してみせた。

 

「『覇王眷竜』……『クリアウィング』にもこの姿が……!」

 

「『覇王眷竜クリアウィング』のシンクロ召喚時、相手フィールドの表側表示のモンスター全てを破壊する!」

 

「なっ!?」

 

シンクロ召喚時、『ライトニング・ボルテックス』と同じ効果を炸裂させる超攻撃的な効果。元となる『クリアウィング』のモンスター破壊効果を進化させたのだろうが、余りにも強力で理不尽。暴力的な嵐が吹き荒れ、アメンボートが破壊される。今回フィールドにアメンボートしか存在しなかったのは運が良かったと考えるべきか。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「『クリアウィング』でダイレクトアタック!」

 

「手札の『護封剣の剣士』の効果発動!相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを特殊召喚する!」

 

護封剣の剣士 守備力2400

 

「なら『クリアウィング』で攻撃!この瞬間、ダメージ計算前に相手モンスターを破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!ま、そいつの攻撃力は0みてぇだがな」

 

「ッ、嘘だろお前!?誰だよ!」

 

ジャックの持つ『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』に似たバーン効果。最早原型が分からない程凶悪さを増したカードだ。思わず遊矢が戦慄する。

 

「俺はこれで、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP1000

フィールド『覇王眷竜クリアウィング』(攻撃表示)

手札0

 

心の闇を、限界を超え、ライバルに勝負を挑むユーゴ。かかって来い、まるでそうやって挑発するような彼のデュエルを前にして、遊矢も更に加速する。決着の時は、別れの時は――近い。




これにて今年の投稿は終了です。よいおとしをー。


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第177話 OZON

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


佳境を迎える遊矢VSユーゴ。互いの記憶の芯に刻みつけるかのような本気同士のぶつかり合いは激化していく。

ペンデュラムとシンクロ、互いの最も得意とする武器で凌ぎを削り、『オッドアイズ』と『クリアウィング』の激突を経て、ユーゴら自らの内に眠る覇王の因子を物とし、『覇王眷竜クリアウィング』をシンクロ召喚。

苛烈とも言える凶悪な効果で遊矢を攻める。『クリアウィング』も対モンスターとして強力なカードであったが、このカードは最早別物。破壊力が段違いとなっている。

 

「俺のターン、ドロー!カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP400

フィールド

『補給部隊』セット1

『EMブランコブラ』

手札1

 

「ハッ、どうした遊矢!そんなんじゃユーリどころか俺も倒せねぇぞ!俺のターン、ドロー!バトル!『クリアウィング』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ホーリーライフバリア』!手札1枚を捨て、このターン受けるダメージを全て0に!」

 

ビュオンッ、烈風を纏い、闇に染まった翼で低空飛行、遊矢を切り裂こうとする『クリアウィング』に対し、遊矢はギリギリで防ぐ。このターンのダメージを逃れたが、何時までも防げるものではない。どこかで反撃にでなければ――。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

ユーゴ LP100

フィールド『覇王眷竜クリアウィング』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→3

 

文字通り、命を削る思いでデッキよりカードを引き抜く遊矢。特殊召喚が封じられるのは痛いが、今は兎に角、少しでも手数が欲しい。この『クリアウィング』はユーゴの手もあってカード1枚で倒せるようた甘い相手じゃない

 

「良し……!速攻魔法、『ダブル・サイクロン』!俺のフィールドのブランコブラとお前のフィールドのセットカードを破壊!モンスターをセット、『EMギタートル』をセッティングし、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP400

フィールド セットモンスター

『補給部隊』

Pゾーン『EMギタートル』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!バトル!『クリアウィング』でセットモンスターへ攻撃!効果発動!」

 

「セットモンスターは『クリアクリボー』!攻撃力は300だ!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 LP400→100 手札0→1

 

ギリギリ、本当にギリギリの所で踏み留まった。が、風前の灯火には変わりない。とは言えそれはユーゴも同じ。LP100同士、勝負はどう転ぶか分からない。

 

「堪えるか……!そうじゃなきゃな……魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→3

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

ユーゴ LP100

フィールド『覇王眷竜クリアウィング』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

止めを刺し切れなかったと言うのに、ユーゴはニヤリと笑みを浮かべて笑う。心の底から嬉しそうに、楽しそうに。

そんな彼の横顔を見て、リンは一瞬見とれて、泣きそうになりながらも優しく微笑む。このデュエルが、ずっと続けば良いのに。彼がずっと、笑ってられたら良いのに。

次があるデュエルだったら、良かったのに。言いたい事、伝えたい事、山程ある。だけど、決めたのだ、最後の時まで、彼の望みを叶えようと。最後の時まで、彼と同じ夢を見ようと。

 

「やるなユーゴ……!本当に、本当に強い!だけど、俺だって負けるもんか!」

 

「それはこっちの台詞だぜ遊矢!まだまだこんなんじゃ満足出来ねぇ……もっともっと、楽しませてくれ!もっともっと、速く!風よりも、光よりも!」

 

まるで、昔からの友のように、仲の良い兄弟のように、2人は笑みを浮かべ、よりデュエルの深みへ進む。激しいモンスター同士のぶつかり合い、知略の重ね合い、ロマン溢れるコンボも、予想の上を行くプレイングもある。このスピードの世界で。ライディングデュエルは繰り広げられる。

 

「Ladies and Gentleman!お楽しみは、これからだっ!」

 

ライバル同士のエンタメデュエルの、幕が上がる。

 

「『EMオッドアイズ・ユニコーン』をセッティング!ギタートルのペンデュラム効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!『降竜の魔術師』!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

再び現れる遊矢のエースと竜の血を継ぐ『魔術師』。どちらもレベルは7、そして『降竜の魔術師』には、ドラゴン族モンスターへと変化する効果がある。

 

「『降竜の魔術師』の効果発動!このカードをドラゴン族に変更!」

 

これで、準備は整った。相手が覇王だと言うのなら、こちらも覇王をもってして立ち向かうのみ。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!二色の眼の龍よ!その黒き逆鱗を震わせ、刃向かう敵を殲滅せよ!エクシーズ召喚!出でよ、怒りの眼輝けし龍!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

エクシーズ召喚、遊矢の後方に星を散りばめたような渦が広がり、『オッドアイズ』と降竜の2体が光となって吸収され、渦は一気に集束、大爆発を引き起こし、立ち込める白煙の中から、赤と緑の閃きが灯る。

白の覇王に対するは、黒き覇王。左右で異なる白黒の鱗を震わせ、遊矢の覇王竜がフィールドに見参する。

 

「来たか……!」

 

凄まじき怒号が轟き、白煙が晴れる。鋭き牙を持ち、背から伸びる機械翼から桜色の炎を展開する竜。『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』。遊矢の切り札が姿を見せる。

 

「遊矢の切り札……!」

 

「だがどんなモンスターだろうと、この『クリアウィング』は破壊する!」

 

そう、ユーゴの言う通り、遊矢がどれ程のモンスターを出そうと、『覇王眷竜クリアウィング』らダメージ計算前に攻撃モンスターを破壊した上、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果がある。ここで遊矢が攻撃しても、『クリアウィング』に破壊され、ダメージを与えられ、敗北してしまうだけだ。

 

「それはどうかな?」

 

「何……?」

 

「手札の『EMレインゴート』を捨て、このターン、『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』は戦闘、効果では破壊されない!」

 

「そう来たか……!」

 

「更にギッタンバッタを蘇生!」

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

だが、遊矢とて何も考えていない訳ではない。破壊して来るならば破壊されない手を打てば良いだけだ。レインゴートの力によって覇王黒竜に耐性がコーティングされる。これで覇王の力は遊矢へと傾いたが、まだユーゴの余裕の表情は崩れない。

 

「バトル!覇王黒竜で『クリアウィング』へ攻撃!」

 

「だけどそれだけじゃ足りねぇぜ!墓地の『SR三つ目のダイス』を除外し、その攻撃を無効に!」

 

鋭き2本の牙で地を削り、快音を立てながら凄まじい速度で『クリアウィング』に迫る黒竜。その勢いのまま大きく跳躍、牙を白竜の喉元に突き立てようとした時――ユーゴの墓地より三つ目のダイスが出現、高速回転して三角形の結界を作り出し、『クリアウィング』を守る。

ぶつかる牙と障壁、火花を散らす。これだ、ユーゴの墓地にはこのモンスターが存在していたのだ。これで黒竜の攻撃は防がれ、ターン終了時には与えられた耐性も消える。

そうなれば次のターン、『クリアウィング』の効果で破壊され、ダメージによって遊矢は負ける。

ここまでがユーゴの筋書き通り、そして、遊矢の筋書きの途中。

 

「分かっていたさ、そのカードがある事は!」

 

「何……?」

 

「速攻魔法、『ダブル・アップ・チャンス』!攻撃が無効になった時、そのモンスターの攻撃力を倍にし、もう1度攻撃出来る!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→6000

 

この展開を、遊矢は読んでいた。だからこそ、レインゴートの効果を使い、勝負に打って出たのだ。予測の上を行く遊矢の手に、思わずユーゴが驚愕する。

これが榊 遊矢。予測不可能なデュエリスト。攻撃力6000。怒濤の数値で結界を破る。

 

「ユートに返しそびれたけど、お蔭で助かったぜ……!さぁ、行け、反旗の逆鱗!ストライク・ディスオベイ!」

 

覇王黒竜の背から吹く炎がより強大なものとなり、唸り声を上げて推進する。強く、速く。『クリアウィング』に牙を突き立て、切り裂く。

 

「いっ、けぇぇぇぇぇっ!!」

 

「くっ、おおおおおっ!!」

 

互いの叫びが木霊し、Dーホイールが更に加速、『クリアウィング』の雄々しい体躯が破壊、大爆発を引き起こす。これで決着か、遊矢がそう思った時。

 

「勝手に、終わらせてんじゃねぇ!」

 

頭上に白いDーホイールが鳥の如く跳躍し、目の前に躍り出たのは。

 

「うっそだろ……!」

 

「ちょっとユーゴ!アンタ何て乱暴な運転してんのよ!」

 

「イテテ、悪かったってリン!」

 

何と、目の前にいるのは無傷のユーゴの姿。まさかあれでも倒し切れなかったと言うのか、とんでもないタフさに自分の事は棚に上げ、遊矢は苦笑いする。

 

「俺は『ガード・ブロック』を発動し、ダメージを防ぎ、1枚ドローしたのさ」

 

ユーゴ 手札0→1

 

「マジか……だけど、『クリアウィング』は倒したぜ」

 

「そうだ、お前は『クリアウィング』を破壊した。だから――このカードの発動条件は満たされた!」

 

「ッ!」

 

「罠発動!『シャドー・インパルス』!俺のフィールドのシンクロモンスターが戦闘、効果で破壊された事で、そのモンスターと同じレベル、種族のシンクロモンスターを、エクストラデッキから特殊召喚する!」

 

「『覇王眷竜クリアウィング』はレベル8のドラゴン族モンスター……まさか!?」

 

「そのまさかだ!」

 

しまったと気づいた時にはもう遅い。覇王が産み落とした闇は影より一筋の光を生み、今天へと飛翔する。眩き閃光を纏う白い竜。空中で螺旋回転し、纏う光をフィールド中に流星の如く降り注がせる。

 

「神聖なる光蓄えし翼煌めかせ、その輝きで敵を討て!出でよ!『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000

 

全ての光を振り払い、姿を見せたのは美しき輝きを放つ水晶の鱗と翼を持つ『クリアウィング』の進化形態。ユーゴとリン、セクト達の絆の結晶である切り札。『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』が今、光臨する。

 

「まさか反撃の手まで整えるとはな……!面白い、面白いぜユーゴ!」

 

「俺もだ!俺も楽しくて堪らねぇ!一秒ごとに限界を超えるのが手に取るように分かる!」

 

「俺とお前のドラゴン!どっちが強いか、勝負といこうか!カードを2枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP100

フィールド『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

『補給部隊』セット2

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMギタートル』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札1→3

 

「速攻魔法、『サイクロン』!『オッドアイズ・ユニコーン』を破壊するぜ!そして魔法カード、『シンクロ・クラッカー』!クリスタルウィングをエクストラデッキに戻し、その攻撃力以下の相手モンスターを全て破壊する!悪いが勝ち逃げさせてもらうぜ!」

 

ユーゴが1枚のカードを発動した途端、それに呼応するかのようにクリスタルウィングが雄々しく咆哮、水晶の翼を煌めかせ、自らが光の球となって弾け飛ぶ。放射状に広がる光は遊矢のフィールドに降り注ぎ、尚も抗う覇王黒竜の四肢を砕き、左眼を撃ち抜いて沈黙させる。

 

クリスタルウィングは相手モンスターの攻撃力を吸収する強力なモンスターであるが、無敵と言う訳ではない。吸収出来るのはレベル5以上のモンスターと自身の効果で破壊したモンスターのみ。

つまりレベルを持たず、ランクを持つエクシーズモンスターに対しては受動的なのだ。だからこそユーゴはこの手を選んだ。面倒な戦闘耐性を持つギッタンバッタもいる事だ。正解と言って良い。フィールドにモンスターが存在しなくなってしまった事にも、一応の対策はある。

 

「くっ、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地より『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』を蘇生する!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

空中に残った光の球が風を纏い、ギュルギュルと回転、中より緑色の刃が出現し、切り裂いてモンスターが姿を見せる。

『シンクロ・クラッカー』によって力を失い、退化してしまったのか、クリスタルウィングから『クリアウィング』へ戻っている。

しかしそれでも今の遊矢には充分だ。とは言え彼の墓地にも『クリアクリボー』が存在している。ギャンブル性があるとは言え、彼の事だ、モンスターを引き当てて来るだろう。

ならばユーゴも、賭けに出る。

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、セットカードをデッキに戻し、1枚ドロー!」

 

ユーゴ 手札0→1

 

引き抜かれる1枚のカード。そのドローは、空に白と緑の美しい軌跡を描き、ユーゴへ応える翼と化す。

 

「『SRーOMKガム』を召喚!」

 

SRーOMKガム 攻撃力0

 

現れたのはレベル1のチューナー、OMKガム。これでユーゴのフィールドにレベル7のシンクロモンスターと、レベル1のチューナーが揃う。

合計レベルは8、つまり、クリスタルウィングを再び呼ぶ準備が整った。

 

「さぁ、行くぜ!レベル7の『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』に、レベル1のOMKガムをチューニング!シンクロ召喚!『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000

 

飛び散った光を絆で埋め、再び『クリアウィング』が進化する。美しくも雄々しい、ユーゴが持つ最強のモンスター。これで遊矢の『クリアクリボー』の効果も封じられた。

 

「OMKガムの効果により、デッキトップを墓地に。『スピードロイド』じゃねぇ。よって攻撃力はそのままだ」

 

OMKガムの効果により、デュエルディスクの機能で自動的にデッキトップのカードが墓地に排出される。残念な事に『スピードロイド』じゃないが、悪くないカードが落ちた。尤も、使い時があるかは分からないが。

 

「バトル!クリスタルウィングで、ダイレクトアタック!」

 

そして、ユーゴが自らの切り札に止めを指示し、応じたクリスタルウィングが天高く飛翔、上空に立ち込める黒雲を切り裂き、晴らす。

陽光を翼に受け、反射して煌めくそれを広げて急降下。まるで流星と見間違えるような姿だ。風を突っ切って速度を増し、勢いのままに遊矢へとダイブした時。

 

「罠発動!『ペンデュラム・リボーン』!エクストラデッキに送られた覇王黒竜を特殊召喚する!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

空中の魔方陣が突如ひび割れ、次元の穴が開く。そして中より白黒の光がフィールドに猛スピードで堕ち、クリスタルウィングの行く手を遮る。

そして、咆哮。現れた黒竜が翼を広げ、地を踏み砕き、宿敵、クリスタルウィングを射抜く。

遊矢の危機を救う為、次元の壁を破って駆けつけたと言うのか。その勇姿に感服、敬意を払い、クリスタルウィングもまた吠える。

 

「勝ち逃げは許さないぜ……!」

 

「ハッ、ハハハハハ!この土壇場で……上等だ!『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』で、『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』へ攻撃!烈風のクリスタロス・エッジ!」

 

「迎え撃て!反旗の逆鱗、ストライク・ディスオベイ!」

 

激突、まるで爆発が起こったような轟音がフィールド中央で響き渡る。ぶつかる牙と翼を。極上の得物をも真っ二つにしてしまいそうな刃がギリギリと鍔競り合う。

互いに翼を広げ、推進力を高めようとしても、互角。実力は拮抗し、ピクリとも動かない。

心臓に悪い光景だ。しかし、クリスタルウィングの水晶の翼に、ユーゴのデッキのカード達、そして彼等の絆が写し出され、その輝きは更に増す。

まるで夜空に輝く星の如く、その光は有無を言わさず覇王を切り裂く。

 

「なっ!?」

 

攻撃力は同じ、にも関わらず、破壊されたのは覇王黒竜のみ。LPも削られていない。一体何故、遊矢は思考を張り巡らせ、辿り着く。あの時、先程OMKガムの効果でデッキトップのカードが墓地に送られた時。可能性はあったのだ。

 

「『復活の福音』……!」

 

「その通り!俺はこいつを除外し、クリスタルウィングの破壊を防いだのさ!」

 

確かに『スピードロイド』は当たらなかった、しかし相手はユーゴ。この豪運の持ち主が、ただの外れを引くと言う事の方が可能性が低い。

 

「この野郎……!」

 

ユーゴは本当に運が良い。実はこの時、OMKガムの効果が成功していれば、逆にユーゴは敗北していたのだ。彼は外す事で敗北を逃れた。その事実をしっている遊矢は冷や汗を垂らす。

 

「超えてみな遊矢!俺達の絆を!俺達の夢の結晶を!」

 

『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』。ユーゴの切り札にして、彼を支える絆の結晶とも言えるモンスター。

それを越えろとユーゴは言う。越えられるなら、越えてみせろと。ここで越えなければお前はそこまでだと彼は言う。

しかし、このモンスターを倒すのは容易では無いだろう。

だが、ユーリは倒した。だから遊矢はやらなければならない。ユーリを倒す為に。ユーゴの想いを、砕かねばならない。

 

「……」

 

「出来ねぇなんて言うんじゃねぇぞ……漢なら!この程度の壁、笑って乗り越えてみせやがれ!」

 

ユーゴは強い。その意志が、その心が、何者にも屈する事が無い。不屈と言える程に。だからこそ、遊矢は押し黙る。

果たして自分は、この凄いデュエリストに勝てるのか、と。

 

負けたくない、と思う。足りない。追いつきたい、と思う。足りない。乗り越えなければ、と思う。足りない。全力をぶつけ、この少年に、勝ちたいと思う。並みのデュエリストなら足りる。榊 遊矢なら、あっと言わせ、笑わせたいと思う。

 

「上等だ!」

 

「来いよ遊矢!テメェの全力を!俺の全力にぶつけてみせろ!」

 

ユーゴ LP100

フィールド『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)

手札0

 

正真正銘、これが遊矢にとってラストドロー。ここで引かなくても、クリスタルウィングは倒せるだろう。しかし、それだけでは駄目だ。このターンにユーゴのLPを削らねば、彼は逆転の手を引きかねない。

このターンだ、このターンで勝たねばならないのだ。次はない。

 

「行くぞユーゴ――これが俺の、ラストドローだ!」

 

右手が流れるように動き、遊矢のデッキから1枚のカードが引き抜かれる。宙に結ばれる鮮やかな虹の軌跡。夜空に輝くそれは、何色にもなる遊矢を表しているようで。

 

「来たか……!」

 

遊矢が引いたのは、なんの変哲もない上、強力な効果も持たない、弱い部類に入るカード。このシンクロ次元において、コモンズにお似合いと言われるであろうカード。

だが遊矢は知っている。どんなカードにも、輝けるステージがある事を。そしてそれは、今だ。

 

「俺は『EMドクロバット・ジョーカー』をセッティング!これで、レベル7のモンスターをペンデュラム召喚可能に!」

 

『EMドクロバット・ジョーカー』のスケールは8、ギタートルのスケールは6、そして遊矢の手札には、モンスターが存在せず、エクストラデッキにレベル7のモンスターは存在しない。だが、それでも呼べるモンスターが1体いる。

 

「ギタートルのペンデュラム効果で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「ペンデュラム召喚!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

再び現れ、咆哮を上げる覇王黒竜。このモンスターは、エクシーズモンスター。レベルを持たず、ランクを持っている為、一見すればペンデュラムで呼べないかと思えるが、このカードはレベル7がペンデュラム召喚可能な際、呼び出せる特徴がある。

流石はエクシーズとペンデュラム、二種類の力を持ったカードと言う事か。

そしてこのカードであれば、『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』と互角に渡り合える。あくまで、互角。モンスターを倒すだけなら充分だが、遊矢が倒すべきは、真に超えるべきは『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』ではなく、ユーゴと言うデュエリストだ。

 

互角では、彼に届かない。ならばどうするか、答えは、フィールド、手札にある。ドクロバット・ジョーカーから引かれた線がギタートルに繋がり、次に覇王黒竜へと渡る。そして線は、遊矢が引いたカードへと移る。

 

「魔法カード、『スマイル・ワールド』を発動!」

 

発動されたのは、かつて遊矢の父、榊 遊勝の手にあったカード。強さも弱さも度外視したようなカード。

だが実はこのカード、デュエルモンスターズにおいて醍醐味と言える、カードとカードの重ね合い、コンボ向きのカードである。そう考えれば、自分も相手も見る者も楽しませる、エンタメデュエル向きのカードと言える。

 

「その効果で、互いのフィールドのモンスターは、フィールドのモンスターの数×100、攻撃力をアップする!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→3200

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3000→3200

 

『スマイル・ワールド』から溢れる光が辺り一面へと広がり、ポップの表情が咲き乱れる。やはりと言うか、何と言うか、随分と気の抜ける闘いから程遠い光景だ。予想外の一手にユーゴが困惑する。

 

「一体何を考えていると思ったら、おいおいどうした?こんなんじゃ俺を倒せねーぞ?」

 

「いいや、倒せるさ」

 

『スマイル・ワールド』から結ばれる線、それはそのまま、遊矢のフィールドのセットカードへと移る。

 

「既に勝利の方程式は完成した!」

 

「へぇ……なら見せてもらおうか!お前のエンタメデュエルを!」

 

どうする?どう出る?遊矢の勝利宣言を受け、ここからどう『スマイル・ワールド』の効果を活かすのかとユーゴの瞳に興味が移る。ただ発動したと言う訳じゃないだろう。

間違いなく、勝利に必要なパーツとして発動した筈だ。ワクワクするではないか、何の変哲もないカードで『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』を倒し、ユーゴに勝利しようと言うのだ。

 

「さぁ、フィナーレと行こう!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』で、『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』へ攻撃!」

 

互いのフィールドから2体の竜が飛翔し、摩天楼の中を駆け巡る。凄まじい速度で繰り広げられるドッグファイト。時折ぶつかっているのか、空中で火花が散り、甲高い事が響く。

そして高層ビルを螺旋状に飛ぶクリスタルウィングを覇王黒竜が追い、黒と白の影が交差する。その度、2人のデュエリストの魂が高揚する。熱く燃え上がるような熱が灯る。

 

「行け、クリスタルウィングッ!!」

 

「決めろ、オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン!!」

 

叫ぶ。心の底から、喉が裂ける程、熱を乗せ、勝鬨の咆哮を上げる。

 

「「オオオオオオッ!!」」

 

そして2人に応えるかのように、竜は交差し、ぶつかり、天高く飛翔を繰り返し、僅差で覇王黒竜がオッドアイを輝かせ、そのアギトから紫電の光線を放つ。

 

「これが、最後のカードだ!罠発動!『燃える闘志』!覇王黒竜に装備し、相手フィールド上に元々の攻撃力より高い攻撃力を持つモンスターが存在する場合、装備モンスターの攻撃力を倍にする!」

 

「――ッ」

 

昔、ある男が言った。デュエルとは、モンスターだけでは勝てない。罠だけでも、魔法だけでも勝てはしない。全てが一体となってこそ、意味を為すのだと。そして、その勝利を築き上げる為に最も大切な物は。

 

「全てだ!俺は全てを信じた!俺のカードも、お前のカードも!全てを信じる魂が、ここにある!」

 

「フ、ハハハハハ!そう、か……これが、お前のデュエルか……」

 

「革命のイカヅチ、ライトニング・ストライク!」

 

今、全てを解き放ち、極太の雷光がシティの夜空で輝き、水晶の竜を飲み込む。そして。

 

「持っていく、お前の夢も……!」

 

「ああ……出来れば、勝ちたかったんだけどなぁ……」

 

ユーゴ LP100→0

 

ユーゴへと命中、残ったLPが削り取られ、Dーホイールが停止、『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』のカードが光の粒子となって消え、彼の身体からも抑え込まれていた光が漏れ出す。

 

「ユーゴ……」

 

「……ごめんなぁ、リン。俺、カッコ悪い所ばっか見せられなくて」

 

「ッ、そんな事っ、そんな事ない!格好良かった!セクトとのデュエルも、ユーリとのデュエルも、今だって、格好良かった!」

 

溜め息を吐き、夜空を眺めて、ユーゴは背中のリンに謝る。だがそんな彼の背にすがりつき、リンは涙を流す。

勝っても負けても、こうなる事はユーゴには分かっていた。自分がこうなる事で、リンが悲しむ事も。全てを理解、した上で。

 

「遊矢」

 

「ユーゴ……」

 

後悔は無い。晴れやかな心で、自身に勝利したライバルを讃えようと彼の名を呼ぶ。そこにいたのは、眉を伏せた曇り顔の遊矢、ではなく、デュエル前よりも成長した漢の顔。

 

「あぁ、そうだ。その顔じゃなきゃ、俺がデュエルした意味がねぇもんな……でも逆に何か癪に触るなこのヤロー」

 

「どっちだよ」

 

「別に……ただ俺も、お前を励ましてやりたかっただけだよ」

 

「!」

 

あの日、フレンドシップカップ1回戦で、ユーゴはクロウを相手に惜敗した。そしてその後、遊矢と語り合ったのだ。思えばあの時が、遊矢とユーゴの友情の始まりだった。

 

「いいや、充分、励まされたよ」

 

「……そうか……なら良いや。ほら、コイツを持ってけ」

 

フ、と互いに薄く笑い、ユーゴが自分のデッキから2枚のカードを引き抜き、遊矢へと手渡す。

 

「リンには、コイツを返しとかなきゃな」

 

「……『幸運の笛吹き』……」

 

リンへ渡されたのは彼女から借りていた思いでのカード、『幸運の笛吹き』。そして遊矢へと渡ったのは――。

 

「『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』と、『覇王眷竜クリアウィング』……」

 

「本当はクリスタルウィングもやりたかったんだけどな……消えちまった。そうだ、このDーホイールも預ける。へへ、ユートの奴はカード2枚だったか、俺はカード2枚にDーホイールだ。太っ腹だな。持っていけよ、俺の夢を」

 

鼻頭を指で擦り、彼は笑う。遊矢に、友に、望みを託す。

 

「あぁ、大切に使わせてもらう」

 

「へへ……本当は俺がキングになりたかったんだけどよ。譲ってやらぁ。遊矢、俺の代わりにリンを守ってくれ。泣かせたりしたら承知しねぇぞ」

 

「現在進行形でアンタが泣かせてんでしょぉ……!」

 

「言えてら」

 

「勿論だ。必ず守るよ。ユーゴが帰って来る時まで」

 

「……色々言いたい事あったけど、いざこうなると何言って良いか分かんねぇな。あぁ、そうだ、最後に1つだけ」

 

「……」

 

「憎しみで闘うな。俺はやっちまったけど、ユーリとデュエルする時、敵討ちなんて考えるんじゃねぇぞ。それじゃアイツにゃ勝てねぇ。お前の最高の武器は……エンタメデュエルなんだからよ」

 

「うん」

 

「後は柚子の事、頑張れよ!あ、これじゃ2つか……」

 

こんな時でも抜けているのが彼らしい。明るく元気で、熱くて。そんな何時も通りなユーゴを見て、笑ってしまう。

このまま、何時も通りが続くと錯覚してしまう。

 

「またな、ユーゴ」

 

「――ああ、まただ」

 

別れの言葉はいらない。また何時か、ひょっこりと彼が帰って来る事を信じて遊矢は笑いかける。

そんな彼に、ユーゴは目を見開いた後、光となって消え、光は遊矢の手元の『覇王眷竜クリアウィング』に吸い込まれ、その姿を書き換える。

 

「この、カードは……」

 

闇と光、相反する2つを2人の絆が調和させる。恐らく、これがユーゴが本当に渡したかったカード。最後まで、自身へ希望を与えてくれた彼の有り様に、遊矢の胸の奥から熱い何かが込み上げて来る。

 

「ありがとう、ユーゴ……!」

 

シンクロ次元で出会ったデュエリスト、ユーゴ。遊矢はその存在を魂に刻み付ける。その姿は、遊矢が知る誰よりも強かった。

 

――――――

 

時は遡る。遊矢達がまだオベリスク・フォースを撃退していた頃、地下にて。

シンジ・ウェーバーとジャック・アトラス、そしてクロウ・ホーガンの3人の姿がそこにはあった。

 

シンジとクロウはジャックが語る真実を聞いていたのだ。あの日、フレンドシップカップ開催前夜、榊 遊矢をチャレンジャーとしたエキシビションマッチが終わった後、彼が現在ジャックにすり代わっている偽物、ジャック・アトラス・Dに敗北後、秘密裏に独房に入れられた事を。

その事実にクロウは絶句。対するシンジの反応は、眉を寄せ、額に青筋を浮かべている。明らかに怒り心頭と言った様子だ。

ジャックは話を終え、これで満足か?とでも言いたげに渇いた笑みを張りつけ、生気の抜けた眼で虚空を見つめる。

そんなジャックを睨み、ズカズカと乱暴に歩み寄ったシンジが彼の胸ぐらを掴み上げる。

 

「お、おいシンジ!?」

 

「止めるなクロウ。俺は今、過去最高に苛ついているんだよ……まさかあのジャック・アトラスがたった2度負けただけてを腑抜けちまうような男だとはなぁ……これならコモンズにいるオバハンの方が根性逞しいぜ」

 

どうやら、自身が打倒しようとしていたジャック・アトラスへの失望から苛立っているらしい。シンジは自分より背の高いジャックを見上げながら罵倒する。

 

「……何とでも言え。地位も名も、存在さえ奪われた俺だ。プライド等、残っている筈もない」

 

「ハッ、なら言ってやるよ。プライドがないだ?そんな訳ねぇだろ!残ってなかったら、そんな独り善がりな事しか言えねぇんだよ!」

 

ガッ、ストレスの限界を超え、一体何を思ったのか、シンジがジャックの左手を掴み、背負って放り投げる。突如空中に投げ出されたジャックが受け身を取れる筈もなく、目の前にあったスクラップの山に命中。ガシャァァァァンッと激しい音を立てて突っ込み、崩れ落ちる。

 

「なっ、何やってんだシンジ!?もうちょっとやりようってもんが……」

 

「うるせぇっ!何で俺がこんな奴に気をつかわなきゃならねーんだ!そもそも俺はそんな器用じゃねぇし、遊矢達みたいに甘ちゃんでもねぇんだよ!」

 

クロウの静止も聞かず、またズカズカとジャックに歩み寄り、仁王立ちして見下ろすシンジ。チンピラそのものである。

 

「立てや。まさか励ましてもらえるとでも思ってねぇだろうな、キング様よ」

 

「……俺はもう、キングではない」

 

「なら何て呼べば良い?元キングか?それとも元ジャックか?」

 

「好きに呼べ」

 

「ならキングだ」

 

「だから俺はキングじゃないと……!」

 

反論しようとするジャックの口を、突如シンジが掌で塞ぎ、ギリギリと力を込めて締め上げる。

 

「甘えた事言ってんじゃねぇぞ。地位も名も奪われた?それ位、コモンズじゃ当たり前だろうが。何なら日常茶飯事だ。お前キングになってヌルくなってんじゃねぇの?その程度で腑抜けるなんざよ」

 

「ッ……!」

 

「それでも俺達は泥水すすって、汗水流して不幸話なんざ酒の肴にして馬鹿笑いしてんだよ。何でか分かるか?覚えてるか?あるからだよ。プライドが、魂が、守りてぇもん、叶えてぇ夢が。何より、デュエルが」

 

「――」

 

指先を自分の胸に当て、シンジはジャックの魂に語りかける。それはどこか、自分達コモンズの事を誇りに思っているようで。

 

「来いよキング。丁度良いぜ、俺がテメェをぶっ倒して、キングになってやるよ」




クリスタルウィングとか言う強すぎて絶対に渡しちゃいけない奴。コイツいるとあのカードの出番がなくなっちゃうし……。


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第178話 独り善がり

シティ地下にて、2人の男が対峙する。

1人はこのシティの革命を望むコモンズの人間、シンジ・ウェーバー。

そしてもう1人は、キングの座から転落した男、ジャック・アトラス。

クロウ・ホーガンが見守る中、シンジは鋭い眼でジャックを射抜き、対するジャックは明らかな動揺を表情に浮かべている。

 

「デュエル……だと?馬鹿な、言っただろう!今の俺はキングではないと!そんな俺とデュエルして何になる!」

 

「ハァ?お前こそ何言ってやがる。デュエルをするのに、大層な理由が必要か?」

 

馬鹿馬鹿しいと、シンジの挑発を切り捨てるジャックだが、シンジの意志は固い。元々1度決めたら突っ走っていく性格だ。この状態の彼はクロウとて止められない。

 

「それとも尻尾巻いて逃げんのかキング?まぁ、逃がさねぇけどよ」

 

「シンジ……」

 

「止めんなよクロウ。なぁ、キング様よ。お前だって分かってんだろ?このまま逃げても何にもならねぇってよ」

 

「……」

 

無言、シンジの問いかけに対し、ジャックは目を伏せ、だんまりを貫く。彼も実際分かっているのだろう。それでも、立ち上がる気力がない。

 

「立てよキング、それとも1人じゃ立てねぇか?」

 

「……良いだろう、そこまで言うなら、デュエルでも何でもしてやる」

 

「へっ、そう来なくちゃなぁ!さぁ、始めようぜ!」

 

シンジの挑発を何度も受け、漸くやる気になったのか、それでも弱々しい動作であるが、クロウが奪取していたデュエルディスクを構え、光輝くプレートを展開する。この状態だったのだ。デッキは没収されなかったのだろう。

シンジもデュエルディスクを構え、好戦的な笑みを浮かべ、口火を切る。

 

「「デュエル!!」」

 

互いに5枚のカードを引き抜き、デュエルが始まる。先攻はジャックだ。彼は手札に視線を落とし、考え込む。気が進まないが、勝てばシンジも口を出すまいと戦術を練る。

 

「魔法カード、『強欲で金満な壺』。エクストラデッキから6枚のカードを除外し、2枚ドロー」

 

ジャック・アトラス 手札4→6

 

「モンスターをセット、カードを2枚セット、ターンエンド」

 

とは言え手札が悪い。様子見を兼ね、ここは守備を固める。堅実ではあるが、ジャック・アトラスらしさとはかけ離れた1ターン目だ。

 

ジャック・アトラス LP4000

フィールド セットモンスター

セット2

手札3

 

「俺のターン、ドロー!おいおい、何だそりゃあ、本当腑抜けちまったなぁ。これならガキでも勝てちまうぜ!俺は永続魔法、『補給部隊』を発動、『B・F早撃ちのアルバレスト』を召喚!」

 

B・F早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800

 

現れたのは固める。『B・F』の下級アタッカー、アルバレスト。蜂を模したモンスターだ。ブブブと羽を震動させ、シンジの手札より飛び出す。モンスターとは言え、子供程度の大きさを持つ蜂。見るだけでおっかない。

 

「バトル!アルバレストでセットモンスターへ攻撃!」

 

「……セットモンスターは『ダーク・リゾネーター』。1ターンに1度、戦闘で破壊されない」

 

「チ、カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP4000

フィールド『B・F早撃ちのアルバレスト』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を交換し、『マッド・デーモン』を召喚!」

 

現れたのは赤い髪を逆立たせ、腹部に持った口からドクロが覗く恐ろしい出で立ちの悪魔。アルバレストと同じく攻撃力は1800。しかしシンジのモンスターとは違い、こちらはメリットとデメリットを持っている。扱い辛さのあるカードだ。

 

「レベル4の『マッド・デーモン』に、レベル3の『ダーク・リゾネーター』をチューニング!新たなる王者の脈動、混沌の内より出でよ!シンクロ召喚!誇り高き、『デーモン・カオス・キング』!」

 

デーモン・カオス・キング 攻撃力2600

 

シンクロ召喚、『ダーク・リゾネーター』が両手に握る音叉を重ねて鳴らし、自身の3つの輝くリングに変化、その中を『マッド・デーモン』が潜り抜ける事で、7つの星が煌めく。

そして、閃光がフィールドを覆い、現れ出でたるは紅蓮の悪魔。

か細い体躯とは裏腹に、凄まじい熱気を纏い、背に炎の翼を、頭部からはマグマを吹き出している。

 

「バトル!『デーモン・カオス・キング』で、アルバレストへ攻撃!この瞬間、フィールドの全てのモンスターの攻守をバトル終了まで入れ替える!」

 

B・F早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800→800

 

「チ、罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを防ぎ、1枚ドロー!『補給部隊』の効果で更に1枚ドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札2→3→4

 

「もう一丁!アルバレストが破壊された事で、手札から同名モンスターを特殊召喚!」

 

B・F早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800

 

ダメージを防ぎつつ、ドロー、特殊召喚と次の展開を支えるシンジ。実に上手い組み立て方だ。ジャックが相手でも一歩も譲らない。

 

「……ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP4000

フィールド『デーモン・カオス・キング』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!『B・F必中のピン』を召喚!」

 

B・F必中のピン 攻撃力200

 

アルバレストの隣に並んだのは対照的に小さく、可愛らしいとも言える『B・F』。アルバレストがスズメバチだとすればこちらは蜜蜂か。低レベルに見合った低ステータス。効果も弱いと見た目通りのカードであるが、レベル2以下の『B・F』と言うだけでシンジにとっては戦力となる。

 

「ピンの効果!1ターンに1度、相手に200のダメージを与える!」

 

ジャック・アトラス LP4000→3800

 

「……フン」

 

微弱なダメージが入り、ジャックが僅かに眉を動かす程度。やはり200と言うダメージでは大した傷にならない。

 

「バトル!アルバレストで『デーモン・カオス・キング』へ攻撃!そして罠発動、『奇策』!手札の『デーモン・イーター』を捨て、『デーモン・カオス・キング』の攻撃力を捨てたモンスターの攻撃力分ダウンする!」

 

デーモン・カオス・キング 攻撃力2600→1100

 

ジャック・アトラス LP3800→3100

 

「ちぃっ……!」

 

「続け、ピンでダイレクトアタック!」

 

「させん!罠発動、『リジェクト・リボーン』!バトルフェイズを終了し、墓地のシンクロモンスター、『デーモン・カオス・キング』とチューナーモンスター、『ダーク・リゾネーター』を蘇生!」

 

デーモン・カオス・キング 攻撃力2600

 

ダーク・リゾネーター 攻撃力1300

 

シンジが『奇策』を使う事により、ジャックの不意を突いて『デーモン・カオス・キング』を撃破。『デーモン・イーター』の名に恥じぬ活躍を見せるが、調子に乗らせるかとばかりに二の矢をへし折る。効果こそ無効化されたが、高い攻撃力は健在。再び高き壁がそびえ立つ。

 

「へっ、そう来なくちゃなぁ。このままじゃ物取りねぇと思ってた所だ。カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP4000

フィールド『B・F早撃ちのアルバレスト』(攻撃表示)『B・F必中のピン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『ランサー・デーモン』を召喚!」

 

ランサー・デーモン 攻撃力1600

 

ジャックの手札から飛び出したのはドクロの兜を被り、紫の鎧を纏う両腕が槍と化した悪魔。腰から伸びる赤マントを翻し、騎士の如く槍を縦に構える。

 

「バトルだ!『デーモン・カオス・キング』でアルバレストに攻撃!」

 

「させねぇよ!罠発動、『聖なるバリアーミラーフォース』!相手モンスターの攻撃宣言時、相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊!」

 

「何っ!?」

 

ジャックが仕掛けたその時、シンジがニヤリと笑みを浮かべ、罠を発動、ご存知ミラフォが完璧に決まってジャックのモンスターを全滅させる。迂闊、常のジャックであれば踏まなかった失態だ。

 

「くっ、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、墓地の『デーモン・イーター』の効果発動!アルバレストを破壊し、蘇生!」

 

デーモン・イーター 攻撃力1500

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札1→2

 

「アルバレストの効果で同名を呼ぶ」

 

B・F早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800

 

ジャック・アトラス LP3100

フィールド

セット1

手札2

 

上手いコンボだ。アルバレストが破壊される事のみを利用し、場を整えるプレイング。これにはジャックもほうと舌を巻く。成程、粗削りながら高い才気で一流以上の実力は持っているらしい。プロデュエリスト相手だろうと退けをとらないだろう。

 

それでも、ジャック・アトラス・Dには劣るが。

アレは別格だ。パワーのみならず、高いレベルで基礎が完成しており、テクニカルな手も使って来る。しかもジャックを相手に勝利宣言を行う余裕からして、完全に遊ばれていた。正直、タイマンでアレに勝てるビジョンが浮かばない。

 

「俺のターン、ドロー!ヌルいぜジャック!テメェの実力はそんなもんだったかぁ!?俺はまだシンクロ召喚もしてねぇぞ!俺はピンの効果発動!」

 

ジャック・アトラス LP3100→2900

 

「くっ……!」

 

「バトルだ!アルバレストでダイレクトアタック!」

 

「手札の『バトル・フェーダー』の効果発動!このカードを特殊召喚し、バトルを終了させる!」

 

バトル・フェーダー 守備力0

 

手数を増やし、果敢に攻めるシンジに対し、ジャックは手札から鐘と一体化した悪魔を呼び出して何とか防ぐ。完全に押されている。

クロウはジャックを圧倒するシンジに驚く――事はなく、ジャックの不調に目を見開く。果たしてジャックはこんなにも脆かったのか。

心の内に違和感が溜まり、首を傾げる。

 

違う筈だ。自分の知るジャック・アトラスは、もっと――もっと、何だ?考えた所で、今度は自分に疑問が生じる。クロウ・ホーガンとジャック・アトラスには、接点等無い筈だ。なのに何故、違和感等覚えるのか。

 

「しぶとさだけはキングってか?魔法カード、『命削りの宝札』を発動。カードを3枚ドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札0→3

 

「カードを3枚セット、ピンを守備表示に変更、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP4000

フィールド『B・Fー早撃ちのアルバレスト』(攻撃表示)『B・Fー必中のピン』(守備表示)『デーモン・イーター』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『バトル・フェーダー』をリリース!アドバンス召喚!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』!」

 

ストロング・ウィンド・ドラゴン 攻撃力2400

 

『バトル・フェーダー』と入れ替わりに現れ、地を踏むのは緑に染まった強靭な体躯を誇るドラゴン。逞しい筋肉で膨れ上がった身体を持ち、グルルと獰猛な唸り声を喉から鳴らす。

 

「バトル!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』で、ここはアルバレストを狙う!ストロング・ハリケーン!」

 

『ストロング・ウィンド・ドラゴン』には貫通ダメージを与える効果がある。守備表示のピンを狙えば大ダメージを狙えるが、ここは定石通り、相手の最大全力を削る。

 

シンジ・ウェーバー LP4000→3400

 

「チッ、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札0→1

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP2900

フィールド『ストロング・ウィンド・ドラゴン』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!罠発動、『強欲な瓶』!2枚だ!2枚のカードをドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札2→3→4

 

「フン……ピンの効果!」

 

ジャック・アトラス LP2900→2700

 

「『アーマード・ビー』を召喚!」

 

アーマード・ビー 攻撃力1600

 

クルリとカードの中より巨大な蜂が宙を舞い、シンジのフィールドで羽を揺らす。『B・F』と同じく蜂をモチーフとしたモンスター。攻撃力こそ下級アタッカーより落ちるが、このカードの持つ効果は上級モンスターさえ落としかねないものだ。これ1枚で最大3200の攻撃力を処理出来る。

 

「『アーマード・ビー』の効果発動!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』の攻撃力をターン終了まで半分に!」

 

「させん!罠発動、『スキル・プリズナー』!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』を対象に取るモンスター効果を無効にする!」

 

『アーマード・ビー』から射出される毒針が『ストロング・ウィンド・ドラゴン』に襲いかかったその時、『ストロング・ウィンド・ドラゴン』は自らの筋肉を膨張、針を胸筋で挟むと言う離れ業を披露し、ポイと捨てる。最初のターンからセットしていたのはこのカードだったか、シンジは舌打ちを鳴らす。

 

「『デーモン・イーター』を守備表示に変更、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP3400

フィールド『B・Fー必中のピン』(守備表示)『アーマード・ビー』(攻撃表示)『デーモン・イーター』(守備表示)

『補給部隊』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!『ツイン・ブレイカー』を召喚!」

 

ツイン・ブレイカー 攻撃力1600

 

現れたのは手の甲から3本の剣を爪のよう伸ばしたに武士風のモンスター。一時はユートも使っていたカード、攻撃力こそ低いが、その性能は下級モンスターとしては一級品だ。

 

「バトル!『ストロング・ウィンド・ドラゴン』で『アーマード・ビー』へ攻撃!」

 

「罠発動、『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!」

 

シンジ・ウェーバー LP3400→3000

 

「そして『補給部隊』の効果でドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札2→3

 

「次だ!『ツイン・ブレイカー』で『デーモン・イーター』へ攻撃!『ツイン・ブレイカー』も『ストロング・ウィンド・ドラゴン』同様、貫通効果を持っている!」

 

シンジ・ウェーバー LP3000→2300

 

「ぐっ……!」

 

「そして守備モンスターを攻撃した『ツイン・ブレイカー』はもう1度攻撃が可能!ダブル・アサルト!」

 

「この時を待っていた!永続罠、『B・F・N』!レベル2以下の『B・F』、ピンを対象に発動!対象のモンスター、そしてその同名モンスターが攻撃対象になった場合、デッキより同名モンスターを特殊召喚し、バトルを終了させる!」

 

B・Fー必中のピン 守備力300

 

「チッ、ターンエンドだ……!」

 

ジャック・アトラス LP2700

フィールド『ストロング・ウィンド・ドラゴン』(攻撃表示)『ツイン・ブレイカー』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!2体のピンの効果発動!」

 

ジャック・アトラス LP2700→2500→2300

 

「ッ……!」

 

チクチクと突き刺さるピンのバーン効果、ダメージこそ低いが、これを続けられては堪ったものじゃない。実際にジャックは追い詰められているのだ。この、小さなモンスターに。

 

「塵も積もれば山となる。山も針でつつき続ければ崩れるってな。非効率がなんぼのもんじゃい!これがコモンズ魂だぜ!」

 

「分からないな、もっと手はあるだろうに……!」

 

2体並べて400、3体並べたとしても600にしかならないピンの効果にジャックは目を細め、鼻を鳴らす。

『B・F』と言うカテゴリに入っているとは言え、もっと他に手はあるだろうにと言う疑問だ。何故そうまでしてそのカードを使うのか、と。

 

「悪いが、他に手があろうが俺はコイツ等を使うぜ。俺はコイツ等を好きで使ってるんだ。コイツ等と一緒に勝ちたいから使ってるんだ。お前もそうじゃねぇのか?ジャックよぉ!」

 

「……何……?」

 

「デュエルを見れば、誰だって分かるぜ。テメェの持つ『レッド・デーモン』。あれは本当にテメェの魂だ。共に闘い、共に勝つ。魂が認めたフェイバリットカード。だからテメェのデッキはあのカードを中心に構築されてんだろ?」

 

「……」

 

デュエリストは数多くの目的でデッキを構築する。その中で最も多いのは、勝ちたいから、と好きだから。ジャックもシンジも後者になるデュエリストだ。

 

「魂が泣いてるぜ、ジャック。負け犬のままで良いのかってな」

 

「…口が過ぎるぞ、シンジ・ウェーバー」

 

「ごまかすなよ。それともテメェの魂は、テメェのカード達は声を重ね合わせても聞こえない程度のタマか?」

 

「口ではなく、手を動かせろ」

 

「フン、上等だ。墓地の『アーマード・ビー』を除外し、『ジャイアントワーム』を手札から特殊召喚!」

 

ジャイアントワーム 攻撃力1900

 

地面から勢い良く飛び出したのは緑色の体躯の巨大ムカデ。ズゾゾゾゾ、と地面を這い、好戦的にキチキチと歯を鳴らす。見る者からくれば嫌悪感を抱く虫型のモンスターだ。

 

「やれ、『ジャイアントワーム』!『ツイン・ブレイカー』へ攻撃!」

 

ジャック・アトラス LP2300→2000

 

「そして『ジャイアントワーム』の効果でテメェのデッキトップ1枚を削る」

 

戦闘ダメージを与えた際に相手のデッキトップからカード1枚を墓地に送る強制効果。一見メリットのように見えるが、これはデメリットにもなり得る。デッキ破壊として微妙な上、墓地肥やしを助けてしまうからだ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド!さぁ来な、ジャック・アトラス。今のテメェ程度、軽くひねってやるよ」

 

シンジ・ウェーバー LP2300

フィールド『B・Fー必中のピン』(守備表示)×2『ジャイアントワーム』(攻撃表示)

『補給部隊』『B・F・N』セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!そこまで言うなら良いだろう、貴様にも味合わせてやる!圧倒的な力と向き合う絶望のショーを!」

 

「遊矢1人倒せてねぇ癖に良く言うぜ!」

 

「貴様こそ良く吠える!『レッド・リゾネーター』を召喚!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

召喚されたのはジャックが持つ『リゾネーター』の中でも代表的で優秀なモンスター。炎を纏い、音叉とステッキを手にした赤い小悪魔。

守備力200の炎属性チューナーと言うだけで価値があるが、召喚時、特殊召喚時と対応する召喚によって2種の効果を発揮する。とは言えこの盤面では効果を使えないが。

 

「これでジャックのフィールドにレベル6の非チューナーとレベル2のチューナーが揃った……」

 

クロウがゴクリと唾を呑み込む。合計レベルは8。と来ればジャックのエースが脳裏に浮かび上がる。

シンジのフィールドには3体ものモンスターが存在している。つまり全体破壊効果を持つあのカードの格好のカモ。間違いなく仕掛けて来るだろう。

 

「レベル6の『ストロング・ウィンド・ドラゴン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!王者の咆哮、今天地を揺るがす。唯一無二なる覇者の力をその身に刻むが良い!シンクロ召喚!荒ぶる魂、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

フィールドを炎の幕が覆い尽くし、奥より巨大な竜の影が出現する。そして次の瞬間、野太い腕が炎を引き裂き、深紅に燃える竜が咆哮する。

側頭部から伸びる角。山羊のような、悪魔を思わせるそれの左角は途中で折れており、左腕に巻かれ、赤い光を灯しているギプス同様痛々しさを感じさせる。巨大な翼を広げ、長い尾を振るう赤黒の悪魔竜。

スカーライト、これこそがジャック・アトラスの魂のエース。このカードが纏う覇気は凄まじいとしか言いようがない。

 

「スカーライトの効果発動!このカードの攻撃力以下の攻撃力の特殊召喚された効果モンスターを全て破壊し、その数×500のダメージを与える!アブソリュート・パワー・フレイム!」

 

「永続罠、『スクラム・フォース』!俺のフィールドに表側守備表示のモンスターが2体以上存在する場合、俺の守備モンスターは相手の効果の対象とならず、効果で破壊されない!そして墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、効果ダメージを半分に!」

 

シンジ・ウェーバー LP2300→2050

 

『B・F・N』に『スクラム・フォース』。攻撃も効果による攻略も防ぐ二段構えの盾。面倒な布陣だ。思わずジャックは舌打ちを鳴らす。

 

「そして『ジャイアントワーム』が破壊された事で『補給部隊』の効果発動!」

 

シンジ・ウェーバー 手札2→3

 

「バトル!スカーライトでピンへ攻撃!灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング!」

 

「『B・F・N』の効果発動!デッキよりピンを特殊召喚し、バトルを終了!」

 

B・Fー必中のピン 守備力300

 

スカーライトがジャックの指示に従い、自らの掌に火球を生み出し、叩きつけようとするも、シンジのフィールドに根差す蜂の巣より数多くの蜂が飛び出し、球状のドームとなってピンを守る。表面の蜂は焼き尽くされるが、中に存在するピンは無事だ。

 

「だがこれでそのカードの効果は使えまい」

 

「まぁな、『B・F・N』は2回効果を適用した事で破壊される」

 

「ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP2000

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『スクラム・フォース』をコストにドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札3→5

 

「3体のピンの効果発動!」

 

ジャック・アトラス LP2000→1800→1600→1400

 

「チッ……!」

 

「魔法カード、『蘇生の蜂玉』!墓地の『B・F』モンスター、アルバレストの効果を無効にし、蘇生!このターン中の戦闘、効果破壊耐性を与える!」

 

B・Fー早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800

 

「そして『B・Fー毒針のニードル』を召喚!」

 

B・Fー毒針のニードル 攻撃力400

 

次は『B・F』のチューナーモンスター。今までのものとは違い、ターゲットマークを持つ一つ目と毒液を溜め込んだ下半身のガラス瓶等機械にも見えるモンスターだ。

 

「レベル4のアルバレストにレベル2のニードルをチューニング!その羽で爆風を巻き起こしその一刺しで真実の道を切り拓け!シンクロ召喚!来い、『B・Fー突撃のヴォウジェ』!」

 

B・Fー突撃のヴォウジェ 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、ついに勝負に出たのか、シンジが得意の召喚法を使い、召喚されてのは青い鎧を纏い、奇妙な形をした赤い槍を構える蜂の戦士。攻撃力こそスカーライトに劣るが、だからこそ反撃の狼煙となるカードだ。

 

「ピンを攻撃表示に変更、バトル!ヴォウジェでスカーライトへ攻撃!このダメージ計算時、攻撃対象の攻撃力がヴォウジェより上回っている事でスカーライトの攻撃力を半分にする!」

 

「何だと!?」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト LP3000→1500

 

ジャック・アトラス LP1400→400

 

加速、ヴォウジェの速度がスカーライトへ向かう一瞬にして増し、姿を見失った竜が驚愕する隙に、その頭部に槍が突き刺され、倒れ伏す。余りにも呆気なくジャックのエースモンスター、スカーライトが破壊された。

 

「スカーライトを倒した……!」

 

「ハッ、相当腑抜けてやがるぜ。スカーライトを守る事だけは達者だったのになぁ!」

 

「ぐっ……!」

 

「こんなものがキングか!こんなものに俺達はなりたかったのか!こんなものに、今までチャレンジャーは負け続けてたのか!」

 

余りにも腑抜けてしまったジャックのデュエルに、シンジが怒りを露にして叫ぶ。その感情を大きく占めるものは、失望。ジャック・アトラスと言う男への軽蔑だ。

 

「何が、何が言いたい!」

 

「負け犬が……!ハッキリ言わなきゃ分かんねぇのか!テメェに負けていった奴は所詮負け犬のテメェに勝てねぇ程度の野郎だって事だ!」

 

ジャックではなく、ジャックに負けていった者達を、シンジは罵倒する。それは直接ジャックを罵倒する事よりも響く言葉だ。ジャックの心を激しく揺さぶる。

 

「応えなジャック!僕はたくさんの雑魚を倒してなった、お飾りのキングですってなぁ!ハハハハハ!笑わせるぜ!テメェは勝者の責任も果たそうとしないクソ野郎だ!」

 

「ッ、俺、は……!」

 

「文句が言いたきゃ踏ん張って見やがれ!この独りよがりが!3体のピンでダイレクトアタック!」

 

シンジの指示を受け、3体のピンが弾丸のようにジャックに猛スピードで向かって突き進む。現在ジャックのLPは僅か400。ピンの合計攻撃力は600。このままでは負ける。少なくとも、今のジャックでは。

 

「罠発動!『カウンター・ゲート』!相手の直接攻撃宣言時、攻撃を無効にし、1枚ドロー!それがモンスターならば召喚出来る!」

 

「ハッ、引けるか?今のテメェに!」

 

発動されたのは『ガード・ブロック』と似た効果のカード。ただしこちらは運の要素が強い。モンスターを引かなければダメージを受ける事もあるが、引いても上級モンスターなら、ジャックは終わる。

 

「確かに、お前の言う通りだ。今までの俺なら引けないだろう。だが、一歩先、いや、二歩、三歩先の俺ならどうだ!」

 

ギン、俯いていたジャックの顔が上がり、その鋭き眼に光が宿る。そして彼は自らのデッキに右手を添える。

 

「礼を言う、シンジ・ウェーバー。お蔭で、目が覚めた。そうだ――俺は例え負けても、止まる訳にはいかんのだ!俺が倒して来た者達の為にも、俺と共に闘うカード達の為にも!誇り高き、ジャック・アトラスでなければならない!」

 

そう、これがシンジが伝えたかった事だ。勝者とは、倒して来たデュエリストにとって、闘って胸を誇れるような者でなければならない。強者でなければならない。それを忘れ、自分を失っていたジャックは確かにシンジの言う通り、独りよがりだった。

しかし、ジャックは敗者であっても、愚か者ではなかった。

 

「フッ、格好のつけてる所悪いが、引けなきゃテメェが負ける事に変わらねぇ!」

 

ニヤリと笑みを浮かべ、不敵な表情を見せるシンジ。こうは言っているが、シンジはもう、ジャックがモンスターを引かない事等考えてはいない。むしろ、確実に引くだろうと想定している。

 

「知らないなら教えてやろう。キングのデュエルは、エンターテイメントでなければならない!逆転の引き金を引く事等、容易い!」

 

ジャック・アトラス 手札0→1

 

迷う事なく、ジャックは自らのデッキから1枚のカードを引き抜く。こご勝負の別れ道。ジャック・アトラスの復活を決める賭け。モンスターか、それ以外か、下級か上級か。『チェンジ・デステニー』。運命を今、変える。

 

「俺が引いたのは――」

 

ゴクリ、デュエルを見守るクロウの喉が鳴る。一体何を引いたのか、ジャックの鋭い表情からは読み取れない。モンスターを引いた事による不敵さか、それとも引けなかった不満さを表しているのか。ポーカーフェイスが惑わせる。

 

「上級モンスター」

 

「ッ!」

 

ピッと引いたカードを見せるジャック。そこには確かにレベル5のモンスターが描かれている。引けなかった、クロウがグッと奥歯を噛み締め、シンジがチッと舌打ちを鳴らす。

 

「この野郎……!」

 

しかし、その表情にな隠し切れない喜びがあった。

 

「『ビッグ・ピース・ゴーレム』は、相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、リリース無しで召喚出来る!」

 

「魅せてくれるじゃねぇか、クソッタレ!」

 

ビッグ・ピース・ゴーレム 攻撃力2100

 

ジャックが引いたのは上級モンスター。条件を満たす事でリリース不要で召喚出来る上級モンスターだ。下げてから上げる展開、ニクい演出にシンジの心が沸き上がる。地面から巨大な生命持つ白銀の巨人、『ゴーレム』が現れ、ピンの道を防ぎ、壁となる。

これがジャック・アトラス。シンクロ次元が誇る遊矢が言う所のエンタメデュエリスト。

 

「全く、エンタメデュエリストってのは厄介なもんだぜ……!」

 

「フ、何の、まだまだお楽しみはこれからだ。次のターン、貴様は真のキングを目撃する!」

 

「面白いじゃねぇか!俺はカードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

シンジ・ウェーバー LP2050

フィールド『B・Fー突撃のヴォウジェ』(攻撃表示)『B・Fー必中のピン』(攻撃表示)×3

『補給部隊』セット1

手札2

 

復活のキング、ジャック・アトラスVSシンジ・ウェーバー。勝負は、果たして。



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第179話 我が魂

プランダラの作画が心配過ぎる……クソ面白いのになぁアレ。大変だけどアクションシーン頑張ってくだせぇ……!


ジャック・アトラスVSシンジ・ウェーバーのデュエルは中盤に入る。現在優勢なのはシンジだ。LPは2050、フィールドにはシンクロモンスターが1体、下級モンスター3体の計4体。モンスターの破壊時にカードをドローする『補給部隊』とセットカードが静かに設置されている。

対するジャックのフィールドには『カウンター・ゲート』と自身の効果で妥協召喚された『ビッグ・ピース・ゴーレム』だけ。手札は0、LPも400と大ピンチだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

ここで引かねば敗北は確実。正念場を乗り切る為、ジャックは決死の想いでカードを引き抜く。引いたカードは、悪くはない。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスターを5体デッキに戻し、2枚ドロー!」

 

状況を打破する為には足り得ないカードだが、1枚でも手札が欲しい今この時では充分なドローカード。少々賭けになるがこのピンチだ。この位の賭けも仕方あるまい。新たに2枚のカードを手札に加え、ジャックの眉が吊り上げる。

 

「『ダブル・リゾネーター』を召喚!」

 

ダブル・リゾネーター 攻撃力0

 

現れたのはレベル1、2つの頭部を持ち、炎を帯びた『リゾネーター』。レベル1『リゾネーター』には他に『シンクローン・リゾネーター』や『チェーン・リゾネーター』が存在しており、このカードは比べると少々劣る。だがこれでレベル5の非チューナーとレベル1のチューナーが揃った。狙うはレベル6のシンクロモンスターを呼び出す事。

 

「罠発動!『サンダー・ブレイク』!手札1枚を捨て、『ビッグ・ピース・ゴーレム』を破壊する!」

 

「甘いぞシンジ・ウェーバー!俺のフィールドのモンスターが破壊された事で、手札の『異界の棘紫竜』を特殊召喚!」

 

異界の棘紫竜 攻撃力2200

 

現れたのはその名の通り、身体中から棘を伸ばした醜い紫の竜。『ビッグ・ピース・ゴーレム』と同じくレベルは5、この駆け引きを制したのはジャックだ。

 

「レベル5の『異界の棘紫竜』に、レベル1の『ダブル・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100

 

決死の想いでカードを繋ぎ、シンクロ召喚。フィールドに降り立ったのは炎で形作られた紅蓮魔竜。『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』を模したようなモンスターだ。だが所詮は紛い物。ステータスは劣っている。が、それでも構わない。何故ならこのカードはあくまで繋ぎ。アタッカーとして運用しようとする方が間違いだ。

 

「『レッド・ライジング・ドラゴン』のシンクロ召喚時、墓地の『レッド・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「そして『レッド・リゾネーター』の効果発動!貴様のフィールドに存在するヴォウジェを選択し、この攻撃力分、LPを回復!」

 

ジャック・アトラス LP400→2900

 

LP逆転、大量回復し、立場が変わる。ここからが本番、ジャック・アトラスの本領発揮だ。

 

「レベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

真打ち、スカーライトの登場。先程よりも威圧感を増した獄炎魔竜が牙を剥き、地の底から響くような唸り声を溢す。たった1ターン、たった1ターン与えただけで立ち直ったジャックは逆境を覆してみせた。とんでもないデュエリストだ。その才覚を身をもって味わっているシンジは嫉妬を交え、歯軋りを鳴らす。

 

「この野郎……!」

 

「これがジャック・アトラスのデュエルだ!特等席で味わうが良い!スカーライトの効果発動!」

 

シンジ・ウェーバー LP2050→50

 

「ぐぅぅぅぅっ!?『補給部隊』の効果で、ドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札1→2

 

スカーライトが鋭い爪を地面に突き立て、炎を流し込む、炎は高速で地面を走ってシンジのモンスターに突き進み、真下を捉えた瞬間に噴出。黒焦げになるまで燃やし尽くす。自身より格下のモンスターを破壊し、その数×500のダメージを与える効果。大量展開を行うシンジの天敵と言える効果だ。派手に逆転され、残るLPはたったの50。ギリギリもいいところだ。

 

「スカーライトでダイレクトアタック!」

 

「させるかよ!手札の『速攻のかかし』を捨て、バトルを終了!」

 

「フ、そう来なくてはな……ジャック・アトラスが本気を出せば勝負は一瞬……などでは面白くない」

 

「ハッ、調子に乗るなよ、さっきまであんだけへこんでた奴が!」

 

「はて、何の事だ?俺はこれでターンエンド」

 

ジャック・アトラス LP2900

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!この野郎……とぼけようったってそうはいかねぇ、ツケ位は払ってもらうぜ!」

 

ニヤリとシンジが若干青筋を立てて笑ったその時、観戦していたクロウが「いや、そいつツケを払うような奴じゃないし、人に払わせるような奴だから」と口に出そうとし、思い止まる。何故、そのような事を知っているのか、僅かな疑問が浮かび、広がっていく。

 

「『アーマード・ビー』を召喚!」

 

アーマード・ビー 攻撃力1600

 

「効果発動!スカーライトの攻撃力を半減!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外、その効果を無効にする!」

 

「そいつがあったか、魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札0→3

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ!」

 

シンジ・ウェーバー LP50

フィールド『アーマード・ビー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『紅蓮魔竜の壺』を発動!2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札0→2

 

「魔法カード、『予見通帳』を発動。デッキトップから3枚を除外、スカーライトで『アーマード・ビー』へ攻撃!」

 

「罠発動、『魂の転身』!通常召喚したレベル4のモンスター、『アーマード・ビー』をリリース、2枚ドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札0→2

 

「ダメージを逃れ、その上手札を回復したか、スカーライトでダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ロスト・スター・ディセント』!ヴォウジェの効果を無効、守備力を0にし、レベルを1つ下げ、守備表示で特殊召喚する!」

 

B・Fー突撃のヴォウジェ 守備力800→0 レベル6→5

 

「構うな、粉砕せよ!」

 

「『補給部隊』の効果ぁ!」

 

シンジ・ウェーバー 手札2→3

 

「メインフェイズ2、カードをセット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP2900

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『蘇生の蜂玉』を発動!アルバレストを蘇生!」

 

B・Fー早撃ちのアルバレスト 攻撃力1800

 

「ニードルを召喚!」

 

B・Fー毒針のニードル 攻撃力400

 

「レベル4のアルバレストに、レベル2のニードルをチューニング!シンクロ召喚!『B・Fー突撃のヴォウジェ』!」

 

B・Fー突撃のヴォウジェ 攻撃力2500

 

再びフィールドに飛来する突撃のヴォウジェ。高い攻撃力を誇るジャックのモンスター相手ならばこのカード以上の適役はいない。

 

「バトル!ヴォウジェでスカーライトへ攻撃!」

 

「罠発動!『攻撃の無敵化』!スカーライトを戦闘破壊から守る!」

 

「だがダメージ計算時、ヴォウジェの効果発動!スカーライトの攻撃力は半分となり、ダメージも受けてもらう!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000→1500

 

ジャック・アトラス LP2900→1900

 

「ぬぅっ!?」

 

ヴォウジェが羽を震わせて超高速で低空飛行を繰り返してスカーライトへ迫る。スカーライトも指先から火炎弾を撃ち出すものの、炎の間を縫ってヴォウジェが移動、直角に飛翔しながら槍を振るい、真下からスカーライトを切りつける。思わずたたらを踏むスカーライト。小兵と言えど、戦い方を工夫すれば竜にも勝る。

 

「俺はカードを3枚セット、ターンエンド!」

 

シンジ・ウェーバー LP50

フィールド『B・Fー突撃のヴォウジェ』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『予見通帳』のカウントが1つ灯り、魔法カード、『紅蓮魔竜の壺』!2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札0→2

 

「スカーライトの効果発動!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!スカーライトの効果と攻撃を封じる!」

 

「魔法カード、『シンクロ・クラッカー』!スカーライトをエクストラデッキに戻し、その元々の攻撃力以下の攻撃力の相手モンスターを破壊する!」

 

「そう来たか……『補給部隊』の効果でドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札0→1

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP1900

フィールド

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに2枚ドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札1→3

 

「墓地の『ジャイアントワーム』と『アーマード・ビー』を除外し、『デビルドーザー』を特殊召喚!」

 

デビルドーザー 攻撃力2800

 

現れたのは昆虫族の中でも代表的なモンスター。『ジャイアントワーム』の最上級となる大型の百足だ。ピンク色の体躯から伸びる無数の脚を蠢かせ、シンジのフィールドでとぐろを巻く。

 

「バトル!『デビルドーザー』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動、『ガード・ブロック』!ダメージを防ぎ、1枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札0→1

 

「これも防ぐか、おればターンエンド」

 

シンジ・ウェーバー LP50

フィールド『デビルドーザー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!カウント2つ目……永続魔法、『補給部隊』を発動!『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

フィールドに飛び出したのは炎の鬣を持った赤い馬。ジャックのデッキにおいて、展開を支えるモンスターだ。

 

「『レッド・スプリンター』の効果発動!」

 

「罠発動、『奈落の落とし穴』!『レッド・スプリンター』を破壊し、除外!」

 

「ッ、『レッド・リゾネーター』を蘇生し、『補給部隊』の効果でドロー!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

ジャック・アトラス 手札0→1

 

「そして『レッド・リゾネーター』の効果で『デビルドーザー』の攻撃力分回復!」

 

ジャック・アトラス LP1900→4700

 

「カードをセット、ターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス LP4700

フィールド『レッド・リゾネーター』(守備表示)

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『名推理』!相手はレベルを1つ宣言!」

 

「4だ」

 

「デッキトップから通常召喚可能なモンスターが出るまでカードを墓地に送りモンスターが出た場合、宣言したレベルなら墓地へ、それ以外なら特殊召喚する。良し、『ハチビー』を特殊召喚!」

 

ハチビー 攻撃力500

 

現れたのは小型の蜂のモンスター。昆虫族ではコストは少々重いものの、ドローソースとなるカードだ。

 

「『ハチビー』で『レッド・リゾネーター』に攻撃!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札0→1

 

「『デビルドーザー』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動、『王魂調和』!攻撃を無効にし、墓地から『異界の棘紫竜』と『ダーク・リゾネーター』を除外して合計レベルとなるシンクロモンスターをシンクロ召喚する!来たれ!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

再び現れるスカーライト。流石はジャックと言った所か。エースの扱いが上手い。

 

「メインフェイズ2、『ハチビー』の効果で『デビルドーザー』をリリースし、2枚ドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札2→4

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP50

フィールド『ハチビー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動、『針虫の巣窟』。デッキから5枚のカードを墓地へ」

 

「スタンバイフェイズ、『予見通帳』で除外した3枚のカードを手札に加える」

 

一気に3枚の手札を確保。時間はかかるものの、デメリット無しに大量の手札を手にする事が出来るのがこの『予見通帳』の強みだ。パワースタイルで手札を消費しやすいジャックにありがたい1枚だ。

 

「『シンクローン・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

「スカーライトの効果発動!」

 

「罠発動、『もの忘れ』!効果を無効にし、スカーライトを守備表示に変更!」

 

「まだ手は緩めんぞ!『レッド・ミラー』を召喚!」

 

レッド・ミラー 攻撃力0

 

「墓地の『ダブル・リゾネーター』を除外して『レッド・ミラー』をチューナーに変更!」

 

スカーライトの下へ、眷属である小さな悪魔と赤い鏡が降り立つ。そして『ダブル・リゾネーター』の効果でチューナー化。これでスカーライトと2体のチューナーが揃った。

 

「ダブル……チューニング……!」

 

「ご名答!特と味わうが良い!シンクロの高みを!レベル8の『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』と『レッド・ミラー』をダブルチューニング!王者と悪魔、今ここに交わる。赤き龍の魂に触れ、天地創造の雄叫びを上げよ!シンクロ召喚!現れろ!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500

 

ジャックだけが持つ、チューナーモンスターを2体必要とする異例の召喚。白コナミのアクセルシンクロと対を為すシンクロの高み。燃え盛る熱き魂がジャックの胸に灯り、彼はそれを掴み、天へと掲げ、今、スカーライトが進化する。

 

魔竜の全身が迸る火炎に舐めあげられ、二重に重なったリングが拘束、凄まじき力で破り、巨大な翼が広がり、突風が吹き荒れる。

頭部からは何本もの角が伸び、4枚の翼を持つ、暴君の名を刻む『レッド・デーモン』。ジャック・アトラスの切り札がフィールドに降り立ち、咆哮する。

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果で『レッド・リゾネーター』を回収、タイラントの効果発動!このカード以外のフィールドのカードを全て破壊!アブソリュート・パワー・インフェルノ!」

 

「破壊された『運命の発掘』の効果でドロー!墓地にあるのは2枚だ!」

 

シンジ・ウェーバー 手札3→5

 

「タイラントでダイレクトアタック!獄炎のクリムゾンヘルタイド!」

 

「させっかよ!墓地の『超電磁タートル』を除外し、バトルを終了!」

 

「カードを2枚セット、ターンエンド」

 

ジャック・アトラス LP4700

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!『リード・バタフライ』を特殊召喚!」

 

リード・バタフライ 守備力600

 

「墓地のチューナーを除外し、手札から『泣き神の石像』を特殊召喚!」

 

泣き神の石像 守備力500

 

「次はコイツだ、『BFー疾風のゲイル』!」

 

BFー疾風のゲイル 攻撃力1300

 

「ゲイルの効果でタイラントの攻守を半減!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500→1750

 

「レベル2の『泣き神の石像』に、レベル3の『BFー疾風のゲイル』をチューニング!蜂出する憤激の針よ、閃光と共に天をも射抜く弓となれ、シンクロ召喚!現れろ!『B・Fー霊弓のアズサ』!」

 

B・Fー霊弓のアズサ 攻撃力2200

 

シンクロ召喚、現れたのは桃色の身体の弓引く女王蜂。シンクロモンスターであり、チューナーでもある特殊な立ち位置のモンスターだ。

 

「レベル1の『リード・バタフライ』に、レベル5の霊弓のアズサをチューニング!シンクロ召喚!『B・Fー突撃のヴォウジェ』!」

 

B・Fー突撃のヴォウジェ 攻撃力2500

 

「バトルだ!突撃のヴォウジェでタイラントへ攻撃!」

 

「フン、やはりそう来るか。罠発動、『和睦の使者』!モンスターの戦闘破壊、ダメージを防ぐ!」

 

ヴォウジェが高速で羽ばたいて大型のタイラントを翻弄、背後を取り、槍で貫こうとするも、身体を捻り、裏拳を放つタイラントの前に吹き飛ばされ、ゴミの溜まり場へ墜落する。

しかし、ヴォウジェもただ退いていない。インパクトの瞬間、咄嗟に下がった事でダメージを軽減、それでも身体中に激痛が走る辺りタイラントの恐ろしさが分かるが、多少は動ける。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

シンジ・ウェーバー LP50

フィールド『B・Fー突撃のヴォウジェ』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!カードをセット、タイラントの効果発動!」

 

「させっかよ!永続罠、『デモンズ・チェーン』!タイラントの効果と攻撃を封じる!」

 

「ならばこれだ!『レッド・リゾネーター』!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

「効果で手札の『レッド・ガードナー』を特殊召喚!」

 

レッド・ガードナー 守備力2000

 

「レベル4の『レッド・ガードナー』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!赤き魂、ここに1つとなる。王者の雄叫びに震撼せよ!シンクロ召喚!現れろ、『レッド・ワイバーン』!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

悪魔の盾と音叉が1つとなり、現れたのは後頭部から炎を吹き出した深紅の翼竜。ジャックのデッキでは様子見等で利用されるカードであるが、シンジの実力は認めるところだ。その必要はない。

 

「この瞬間、墓地の『レッド・ミラー』を回収、そして『レッド・ワイバーン』の効果でヴォウジェを破壊!」

 

「へっ、ヴォウジェじゃねぇ!破壊されるのは、テメェの方だ!速攻魔法、『禁じられた聖槍』!ヴォウジェの攻撃力を800ダウン!完全耐性を与える!」

 

B・Fー突撃のヴォウジェ 攻撃力2500→1700

 

遊矢も見せた『レッド・ワイバーン』の攻略法、自身のモンスターの攻撃力を下げる事で、フィールドで最も攻撃力が高いモンスターは『レッド・ワイバーン』となり、その効果で自爆する。

ヴォウジェの手にした槍に聖なる光が灯り、投擲して翼竜の頭部が貫かれ、放とうとした火炎が暴発し、撃破される。

 

「チッ、タイラントを守備表示に変更、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP4700

 

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』(守備表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに2枚ドローする!」

 

シンジ・ウェーバー 手札0→2

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のアルバレスト2体、ピン2体、ヴォウジェをデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札1→3

 

「バトルだ!ヴォウジェでタイラントへ攻撃!」

 

「罠発動、『スカーレッド・コクーン』!タイラントに装備し、装備モンスターが戦闘を行う場合、ダメージステップ終了まで相手フィールドのモンスター効果は無効となる!そして手札の『レッド・ミラー』と墓地の『レッド・リゾネーター』を交換!」

 

「これで終わると思うなよ!手札の『B・Fー追撃のダート』を捨てる事で、戦闘で破壊したタイラントの攻撃力分のダメージを与える!」

 

ジャック・アトラス LP4700→2950

 

「ぬぅぅぅっ!?」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、墓地に送られた『スカーレッド・コクーン』の効果で『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』を蘇生する!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

シンジ・ウェーバー LP50

フィールド『B・Fー突撃のヴォウジェ』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!そしてスカーライトの効果発動!」

 

「罠発動、『ピケルの魔法陣』!このターンの効果ダメージを0にする!」

 

「だがモンスターは別!これでがら空きだ!スカーライトでダイレクトアタック!」

 

「罠発動、『リジェクト・リボーン』!バトルを終了し、墓地から『B・Fー霊弓のアズサ』と『B・Fー突撃のヴォウジェ』を特殊召喚する!」

 

B・Fー霊弓のアズサ 攻撃力2200

 

B・Fー突撃のヴォウジェ 攻撃力2500

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP2950

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!やるじゃねぇか……ジャック・アトラス……!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスターを5体回収し、2枚ドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札0→2

 

「『ハチビー』を召喚!」

 

ハチビー 攻撃力500

 

「このカードとヴォウジェをリリースし、2枚ドロー!」

 

シンジ・ウェーバー 手札1→3

 

「『B・Fー追撃のツインボウ』を特殊召喚!」

 

B・Fー追撃のツインボウ 守備力500

 

「こっちも切り札を見せてやろうか!レベル3のツインボウに、レベル5のアズサをチューニング!呼応する力、怨毒の炎を携え反抗の矢を放て!シンクロ召喚!『B・Fー降魔弓のハマ』!!」

 

B・Fー降魔弓のハマ 攻撃力2800

 

両者、限界を越え、自らのエースを呼び出す。ジャックは赤き魔竜、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』を。

シンジは深緑に染まる甲殻を纏い、魔を射つ矢をつがえる蜂の勇者を。

これが、デュエルの決着と言わんばかりに。

 

「魔法カード、『地割れ』!スカーライトを破壊!」

 

粉砕されるジャックのエース、スカーライト。これでジャックのフィールドはがら空きとなり、ハマの攻撃が突き刺さろうとした最中、ジャックの封印された記憶が呼び起こされる。

 

消えいくスカーライト。その深紅の欠片に、忘れ去っていた仲間達が写り出す。長身の青年、瓜二つの双子、赤いドレスを纏った少女、不敵な笑みを浮かべた小柄な青年、そして――ライバルの背。

それは、クロウも同じ。

 

「バトル!ハマでダイレクトアタック!」

 

「見事だ、シンジ・ウェーバー。だが……言った筈だ!キングの、ジャック・アトラスのデュエルは二歩、三歩、いや……四歩先をいく!見せてやろう!空前絶後のエンターテイメントを!罠発動、『王魂調和』!相手モンスターの直接攻撃宣言時、攻撃を無効にし、墓地のチューナーと非チューナーをレベル8以下になるよう除外、合計レベルとなるシンクロモンスターをシンクロ召喚する!」

 

輝くエクストラデッキ、間違いなくこの光は、ジャック・アトラスの魂のカード。

 

「レベル6の『レッド・ワイバーン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!王者の鼓動、今ここに列を成す。天地鳴動の力を見るが良い!シンクロ召喚!我が魂、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3000

 

まるで、逆再生の如く、散り去った光がスカーライトの肉体を形成、更に紅い光が身を包み、傷が舐めあげられて消えていく。

そして、真の王者が目覚めの咆哮をあげる。

 

「新たな、『レッド・デーモン』……!?」

 

「いや、違う……」

 

「クロウ……?」

 

シンジの台詞にクロウが反応し、思わず振り返る。知っている。クロウは、このモンスターの事を。ジャック・アトラスの事を。何故なら、彼は、彼等は。

 

「これが、ジャックの、本当のエースなんだ……そうだろう、ジャック!」

 

断ち切れぬ絆で繋がれた、伝説のチームの仲間なのだから。

 

「フ、俺とした事が、こんなにも大切な事を忘れてしまっていたとは、これでは確かに、奴も失望しよう。だが全て、思い出した。来い、シンジ・ウェーバー。まさか、これで終わりではあるまいな。俺は墓地の『レッド・ミラー』を回収する」

 

「何だか分からねぇが……当然だ!ハマは2回攻撃が可能なモンスター!『レッド・デーモン』へ攻撃!」

 

「手札の『レッド・ミラー』を墓地の『レッド・ガードナー』と交換!」

 

「墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、攻撃力を800アップ!」

 

B・Fー降魔弓のハマ 攻撃力2800→3600

 

プライドを賭けて、シンジが巨大な壁として立ちはだかるジャックの魂に向けて吠える。

この攻撃で打ち倒し、更に手札のダートを切ってとどめを刺す。

 

「――見せてやる、これが俺の全力だ!罠発動、『プライドの咆哮』!攻撃力の差分、LPを払い、その数値に300プラスした数値を『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の攻撃力に加える!」

 

だが、ジャックはその先を行く。

 

ジャック・アトラス LP2950→2350

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3000→3900

 

死力を尽くし、今、デュエルに終止符が打たれる。

 

「アブソリュート・パワー・フォース!!」

 

矢を弾き、ハマの全身を貫く魔竜の掌底。勢いは衰えず、シンジへと向かい、そのLPを削り取る。

 

シンジ・ウェーバー LP50→0

 

決着、勝者、ジャック・アトラス。

 

――――――

 

時は遡り、シティのとある一角。近未来的な掲示板や噴水が設置された広場では、次々と襲い来るオベリスク・フォース達を退け、一息つく柊 柚子達の姿があった。

連戦に続く連戦、歴戦の猛者である彼女達も流石に疲労が溜まり、木陰で腰を下ろし、肩で息をしている。

尤も、こんな事になれている、ユートや元アカデミア組はまだ余裕が見られる。汗は垂らしていても、息は乱れていない。そんな彼等に羨望の眼差しを向ける柚子の耳元に、カチャリ、金属の音が響く。

 

「ッ!?」

 

その場にいた全員が驚愕と警戒を浮かべながらデュエルディスクを構え、振り向く。するとそこにいたのは柚子へと手を伸ばす、純白のローブを身につけた青年、プラシドの姿。

一体何時の間に、先程まで確かに、この場には柚子達以外はいなかった筈なのに、突如として現れた敵の存在に動揺が走る。その僅かな隙を縫い、プラシドは瞬時に舌打ちを鳴らしながらも判断を下す。

 

「見つかったか……だがお前だけでも来てもらうぞ……!」

 

「きゃっ!?」

 

グイッ、柚子の手首を掴んで引き込むプラシド。不味いと万丈目と三沢が咄嗟に飛び出すも、プラシドが流れるような動作で腰元の剣を引き抜き、柚子の首筋にあてる。

 

「動くな」

 

「ッ!」

 

ギリッ、してやられた。悔しさに歯軋りを鳴らし、急ブレーキをかけてその場に踏みとどまる2人。人質、単純ながらも、だからこそ通じる策だ。情に厚い彼等なら尚更に。

 

「そう、それで良い」

 

「貴様、アカデミアの者か」

 

「そうだ、アカデミア幹部、プラシド……と言っても、こんな名にもう意味はないだろうが」

 

言って、プラシドは剣を天空に掲げると共に、刃の中より眩き光を解き放つ。光はグングンと空に昇り、黒雲に巨大な孔を開く。余りに現実離れした光景、誰もが呆然と宙を見つめ、絶句する中、それは、後光を背に出現した。

 

「何だ、あれは……!?」

 

それは、シティを覆い尽くさんばかりの、街だった。逆さまに吊るされた、ビル群の集合体。シティに落ちれば間違いなく壊滅するであろう脅威が鎌首をもたげていた。

 

「榊 遊矢に伝えろ」

 

プラシドの声が、静寂の中で響き渡る。現実離れした光景を見つめる彼等にとって、その声は酷く、遠く感じられるものだった。

 

「決勝戦、チームネオ5D'sに勝利しなければ、柊 柚子はアカデミアに送られ、このアーククレイドルは、シティに落ちる」

 

今度は、シティを。何万にも命を人質にとった余りにも馬鹿げた脅迫。ゴクリとユート達が唾を呑み込み、額から汗が伝う。

そんな中、ドシュン、プラシドの背後から白き流星が飛び出す。ライトグリーンの光の尾を引き、現れたるは一機のDーホイール。2人の少年少女を乗せたそれは、プラシドの頭上を飛び越え、彼とユート達の間に躍り出る。

 

「その必要はないぜ!」

 

「ユーゴ……?いや、お前は……」

 

「遊矢っ!!」

 

柚子がパッと顔色を輝かせ、白い鉄馬に跨がる少年の名を呼ぶ。そう、ユーゴのDーホイールに乗っているのは、彼女がずっと待ち望んでいた存在、榊 遊矢だ。彼は跳躍の途中、デッキから1枚のカードを引き抜き、投擲する。しかしプラシドは即座に反応、剣を盾として突き出し、その刃にカードが突き刺さる。

 

「ぬぅっ……!」

 

「運転荒いわよ遊矢!」

 

「悪いねリン、柚子の姿が見えたからつい」

 

遊矢の背中をポカポカと殴るリンを横目に、遊矢がニヤリと挑戦的な笑みをプラシドへ向ける。

対するプラシドは剣をブンと振るって刃に刺さったカードを遊矢へ返す。

 

「おっと、それで……俺としては、このままやっても良いけど?」

 

「悪いが、お前の相手をしている暇はないんだ。予定通り、待っている。フレンドシップカップ決勝で、勝てればの話だがな」

 

「逃がすと思って……!」

 

闘争心を剥き出しにしてプラシドに襲いかかろうとする遊矢だが、瞬時にその眼が大きく見開かれる。何故ならば、先程プラシドが剣を振るった事で彼の前に次元の裂け目が作られているのだ。

裂け目はそのまま広がって、中より複数の影が飛び出す。

 

「フハハハハ!ムシケラ共よ、ごきげんよう!俺こそがオリジナルを超えた最強のゴースト、プラシド・ゴーストだ!」

 

「ヒャハハハハ!プラシドったら元気だねぇ、調子に乗って胴体千切れても知らないよ?」

 

「放っておけ、そう言う年頃なのだろう」

 

「なっ!?」

 

現れたのはプラシドと同じ姿をしているが、髪色や眼は彼とは異なる銀髪、赤目の青年。赤い髪の子供。2メートルを遥かに超える巨体の老人。そして、黒いローブをにそれぞれ異なる色のラインを走らせた、6人の男女だ。

一気に人数による形勢を逆転させるプラシドに、遊矢の表情が歪む。

 

「新型の力、とくと味わえ。俺は準備にかからねばならんのでな。貴様の足止めはこの特別製のゴースト達に任せよう。尤も、足止めで済むかは貴様等次第だがな」

 

「くっ、待て!」

 

「遊矢!」

 

「柚子、待ってろ!絶対、必ず、お前を取り戻すから!」

 

再びプラシドが剣を振るい、今度は自身と柚子を転送させる。遊矢はそんな彼を見て、焦りを浮かべながら駆けるも、巨体の老人に阻まれてしまう。

間に合わない、ならば遊矢は声だけは、この思いだけは届けようと吠え、柚子へと約束する。何があっても、彼女を救い出すと。

そうして、月下のシティで、遊矢と柚子は、再び別れる事となった。




ジャックがAVからゴッズへと変わる……元のジャックに戻ると言う意味では結局元ジャックのままなのでは……(無慈悲)?
取り敢えず今回で暫く更新停止です。次回の更新再開で一気にシンクロ次元終わらせたいです。はい(遠い目)。


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第180話 大いなる蟹の味噌汁

大変お待たせしました。遅れてしまい申し訳ありません。
シンクロ次元終盤戦、開始です。


夢を見る。己が魂が敗北し、消滅した夢を。行き先が閉ざされ、黒き闇に覆われた夢を。

自身が最も恐れる悪夢。彼はそれを目の当たりにして――逃げ出すように、目を覚ました。

 

「ッ!」

 

「お、起きたか旦那」

 

ガバリと勢い良く身体を起こし、荒くなった息を整え、べったりと額に貼りついた汗を拭う。

すると同時に彼が横になっていたであろうベッドの横でカラカラと軽い調子の笑い声がかけられる。

 

視線を寄越せば、そこにいたのは人ならざる存在。黒い獣を思わせるスーツを纏った戦士の姿。

一瞬驚愕で瞠目するも、彼は今までの経験によって直ぐ様冷静さを取り戻す。

 

「お前は……ここは……?」

 

「俺の事はろーちゃんとでも呼んでくれよ。ここは俺達が暮らす『摩天楼』の中さ。旦那は俺の家の前でくたばってたんだよ」

 

どうやらこのろーちゃんと言う人……人?戦士が彼の事を助けてくれたらしい。

彼はそうか、と頷き礼を言う。ろーちゃんは獣の顔面をニコニコとさせ、軽い調子で良いって事よと返してくれる。

良い奴だな、と思いながら、彼はベッドの横に置かれた自身の帽子を手にとって被り、キョロキョロとろーちゃんの部屋を見渡す。

部屋中にはアメコミのヒーローを思わせるポスターがいくつも貼られており、床には筋トレに使っているであろうダンベル等が散らばっている。

 

「いやぁしかし嬉しいねぇ。デュエリストに会ったのは久し振りだよ俺。皆も喜ぶだろうよ」

 

「……何故、オレがデュエリストだと?」

 

「何でって、旦那の腕に着いてるじゃない、デュエルディスク、デッキは無いみたいだけど」

 

ろーちゃんの言葉と共に、彼は自身の左腕に取りつけられたデュエルディスクを見て、目を見開く。

黄金に輝くデュエルディスク。本来自身のデッキが嵌め込まれているであろう部分に、1枚もカードが存在していないのだ。どうした事か、これにはろーちゃんの存在を見て取り乱さなかった彼も激しいショックを受ける。

 

しかし――彼がショックから立ち直らぬ内に、事態は大きく動き出す。

部屋の外からけたたましいサイレンの音が鳴り響き、赤い光が窓から漏れだしたのだ。

 

「ッ、やっべぇ……アイツ等が来やがったのか!」

 

「……アイツ等……?」

 

「『壊獣』の奴等さ!ああクッソ、エリクシーラーさん達はいねぇしZero師匠達は行方不明だし……そうだ!」

 

頭を抱え、地団駄を踏むろーちゃんは、彼の姿を見て何を思ったのか、ポンと両手を叩き、その肩に手を乗せる。

 

「旦那ぁ、力を貸してくれよ!」

 

――――――

 

ドサリ、アカデミアからの刺客、プラシドの手によって拐われた柚子は、遊矢達の目の前から消えた後、不意に地面へと投げ出された。

「あうっ」と小さな悲鳴を上げて倒れた彼女は、気丈にもプラシドを睨み付けた後、彼の背後に広がる光景に目を点にする。

これは一体どういう事か、先程まで確かに街中にいた筈なのに、今は何とビルの屋上にいるではないか。見開かれた目をキョロキョロと忙しなく動かせ、眼下に広がるネオンの光を見渡す。

瞬間移動、とでも言うのだろうか、とんでもない事態に頭が追い付かない。この男は何をしたのかと、今度は呆然とした表情でプラシドを見つめる。

 

「チ、榊 遊矢め、もうこれは使えんか」

 

対するプラシドは柚子には一切興味がないのか、手に持つ剣を見つめ、無造作に宙に放り投げる。剣は遊矢が突き刺したカードのせいでひびが走っており、バチバチとスパークしており、ボンッ、と爆発を起こし、バラバラに砕け散る。

遊矢の行動が不幸中の幸いを引き起こした訳だ。これでプラシドほ自在に移動する事が不可能になる。彼は小さく舌打ちを鳴らし、懐からデュエルディスクを取り出し、自身の左腕に装着する。

 

「ッ、やる気って訳……てっきりデュエルなんてしないと思ってたけど、貴方もデュエリストなのね」

 

「勘違いするな、俺の相手は、お前じゃない」

 

「?何を言って……」

 

デュエルの意志を見せるプラシドを見て、柚子は身体に鞭を打って立ち上がり、デュエルディスクを構えるも、プラシドはそんな彼女を無視、ツカツカと歩み寄って、彼女の背後を睨み付ける。

すると――空に浮かぶアーククレイドルから光の鎖のようなものが射出され、地面に突き刺さり、巨大な赤の光を引き摺り出す。

赤い光は鎖から逃れ、あっという間にプラシドの眼前に移動、小さく集束していき、人の形を作り出す。

 

「来たか、赤き竜……!」

 

『私は赤き竜のしもべ……我が主を呼び起こしたのは、貴方ですか?人間……!』

 

まるで炎が人の形を取っているような、文字通り人外の登場、赤き竜のしもべを見て、柚子はペタリと腰を抜かし、力なく伏す。

プラシドに対して向けられている敵意にも関わらず、余りの気迫に、この場から逃げ出したいのに足が動かない。そんな超常の存在に、明確に敵意を向けられているプラシドとは言うと、臆する事なく、竜を睨み付ける。

 

「そうだ、俺がこの地にアーククレイドルを呼んだ元凶、お前の敵だ、赤き竜!さぁ、デュエルといこうか!」

 

『良いでしょう!その身で受けよ!我が主の怒りを!』

 

プラシドとしもべがデュエルの合図を出すと共にしもべの周囲に巨大な石板、カードがクルクルと纏わりつくように回転しながら出現、次々とカードが躍り出る。

 

『魔法カード、『調和の宝札』!手札の攻撃力1000以下のドラゴン族チューナー、『ラブラドライドラゴン』を捨て、2枚ドロー!加えて『トレード・イン』!レベル8モンスター、『竜核の呪霊者』を手札から捨て、2枚ドロー!』

 

赤き竜のしもべ 手札3→5→3→5

 

『『ドラゴラド』召喚!』

 

更に続けて手札から1体のモンスターを召喚、1枚の石板が弾丸のようにプラシドへと降り注ぎ、空中で光に覆われ、中に封じ込められた魔物を解き放つ。

胸に宝石を持つ、黒い鱗の小型竜だ。

『ドラゴラド』は口を大きく開き、プラシドを呑み込もうとするも、瞬時に飛び退く事で回避され、ベチャリと地に落ちる。

 

『『ドラゴラド』の召喚時、攻撃力1000以下の通常モンスター、『ラブラドライドラゴン』を蘇生!』

 

ラブラドライドラゴン 守備力2400

 

続けて現れる、宝石の鱗持つ竜を見て目を細め、プラシドは「だろうな」と小さく呟く。流れるようなデュエル運びだ。ここまで無駄がない。そして『ドラゴラド』の胸の宝石に、『ラブラドライドラゴン』が吸収される。

 

『『ドラゴラド』の効果発動!『ラブラドライドラゴン』をリリースし、レベルを8に変更!』

 

ドラゴラド レベル4→8

 

『魔法カード、『黙する死者』!墓地の通常モンスター、『竜核の呪霊者』を守備表示で蘇生!』

 

竜核の呪霊者 守備力3000

 

『レベル8の『ドラゴラド』に、レベル8の『竜核の呪霊者』を、マイナスチューニング!』

 

「マイナスチューニング!?」

 

『竜核の呪霊者』の姿が突如として光となって弾け飛び、光のリングが出現、『ドラゴラド』を呑み込み、1枚の石板が天へと昇る。

これこそはシンクロを超えたシンクロ、原初のシンクロ召喚。

シンクロ召喚はチューナーとチューナー以外のモンスターがのレベルの足し算、ダークシンクロはダークチューナーとチューナー以外の引き算、しかし、ダークシンクロモンスターはマイナスのレベルを持つ、このシンクロは、0だ。

 

『混沌の次元より沸き出でし力の源!原点にして全ての頂点!この現世でその無限の渇望を暫し潤すがよい!神臨せよ!究極神、『アルティマヤ・ツィオルキン』!!』

 

アルティマヤ・ツィオルキン 守備力0

 

現れしは空を覆う程に巨大な、赤い、紅い、朱い、緋い、炎で創造されたような、竜。レベル0のシンクロモンスターが、解き放たれ、神々しい咆哮を放つ。

 

「早速か……!」

 

『カードをセット!この瞬間、我が主の効果発動!エクストラデッキから決闘竜を呼ぶ!』

 

プラシドの言葉に応えるように、赤き竜は喉を震わせ、とぐろを巻く。するとセットされたカードより光が昇り、新たなモンスターをフィールドへ呼ぶ。

 

『星海を切り裂く一筋の閃光よ!魂を震わし世界に轟け!『閃光竜スターダスト』!』

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

フィールドに来たるは星屑を纏いし白き閃光竜。このカードはその全ての根源、コナミが持つ閃光竜はあくまでこのカードの分身に過ぎない。白き翼を広げるその姿に、プラシドほ目を細め、柚子はゴクリと喉を鳴らす。

 

「コナミのカード……!」

 

「よりにもよって最初がそいつか……俺への当てつけか?」

 

『ターンエンドです……さぁ、かかって来なさい、人間!』

 

赤き竜のしもべ LP4000

フィールド『アルティマヤ・ツィオルキン』(守備表示)『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

セキュリティの屋上で繰り広げられる人外とプラシドによるデュエル。神とも呼ばれる圧倒的強者を前にしても、プラシドの余裕は、崩れる事はない。

 

――――――

 

走る、駆ける、夜のシティを、全速力で。ユーゴより譲り受けたDーホイールに跨がり、遊矢はフレンドシップカップのスタジアムに。

柚子を救う為、シティを守る為、プラシドの言う事が真実ならば、決勝でチームネオ5D'sに勝たなければ上空に浮かぶ逆さの街、アーククレイドルはシティへと墜落する。そうなれば、考えただけでゾッとする。

それだけは阻止しなければとあの場は皆に任せて飛び出したのだ。敵もすんなりと遊矢だけは通してくれた。エンジン音を轟かせ、スタジアムへと帰還する遊矢を――1人の男が待ち受ける。

 

「フン、逃げずに来たか」

 

白いライダースーツをその身に纏い、高貴さを表すブロンドの髪をヘルメットで覆う長身の男、ジャック・アトラス・D。

このシティのキングが自らの愛機、漆黒のボディを輝かせるホイール・オブ・フォーチュン・Dに搭乗し、赤の眼で遊矢を睨む。

 

「しかし、1人とはな。てっきりチームメイトを連れて来ると思ったが、貴様1人で俺達3人を相手にするつもりか?」

 

ニヤリと口角を上げるの彼の傍に、機械的な視線を向けるクロウ・ゴーストが並び、彼等の背後に巨大なDーホイールを飛行させ、降り立つ白コナミ。

そう、3人――この化け物を相手にしなければならないのだ。チーム5D'sの放つ威圧感に思わず遊矢がゴクリと喉を鳴らす。せめてユーゴとセレナがいれば。

 

「俺の相手はユーゴになると思っていたのだがな、まぁ良い貴様で満足させてもらおう」

 

そんな、時だった。

 

「そいつで、満足されて堪るかぁっ!」

 

ドシュンッ、遊矢の背後から2機のDーホイールが飛び出し、遊矢の味方をするように前に降り立ったのは。

1つはジャック・Dのホイール・オブ・フォーチュンの黒と対を為す純白、そして兄弟機とも言える程似た形状をした独特のDーホイール、ホイール・オブ・フォーチュン。

そしてもう1つはクロウ・ゴーストのブラック・バード・アルビオンの白の逆、漆黒のボディを輝かせるブラック・バード。

この2機を操るDーホイーラーは、少なくとも遊矢が知る中ではそれぞれ1人しかいない。そう、彼等は。

 

「ジャック!クロウ!」

 

ジャック・アトラスと、クロウ・ホーガン。偽りの魂にその存在を示すように、本物の輝きが見参する。

彼等の姿を目に捉え、ジャック・Dが表情を分かりやすく歪める。まるで、今更何をしに来たと言わんばかりの視線をジャックは真っ向から受け止め、跳ね返す。

何をしに来たか、そんな事、ジャックにとっては決まりきった事だ。

 

「名誉挽回、と言う訳ではないが、貴様に勝ち、ジャック・アトラスを取り戻しに来た!」

 

「……何?」

 

「今宵の俺はチャレンジャー、この挑戦、まさか逃げる訳ではあるまい、キングよ!」

 

右手の指先を己の偽物に向け、高らかに挑戦を宣言するジャック。その姿にはチャレンジャーであると言うにも関わらず、遊矢と闘う前以上に王者としての誇り高き意志が見てとれた。

知っている、ジャック・Dは彼を。これこそが己に忘れ得ぬ敗北を刻んだ男、正真正銘、本物のジャック・アトラス。

復活した宿敵の魂の輝きに、ジャック・Dは嬉しさの余り、口角が破けんばかりの笑みを浮かべる。これだ、この男こそを、待っていた。

 

「クク、フハハハハ!良いだろう、まだ名を持たぬデュエリストよ!己の存在を証明したくば、この俺に勝ち、ジャック・アトラスの名を奪い取って見せろ!俺こそがチームネオ5D'sのジャック・アトラス・D!このシティのキングだ!」

 

「へっ、俺達に許可も得ず5D'sを名乗る不届き者が言ってくれるぜ!」

 

高らかに笑うジャック・Dに対し、クロウがニヤリと笑い、ジャック・Dとクロウ・ゴーストを睨む。彼に、彼等にとってチーム5D'sの名は遥かに重い。勝手に名乗る彼等を見過ごす訳にはいかないのだ。

 

「なら俺達も名乗ればいい」

 

「あいつ等がいないのに名乗れるかよ。つーかこいつ等3人しかいないのに良く5とか言えるな」

 

「挑発しているのだろう、俺達を……さて、そう言う事だ。榊 遊矢。このデュエル、俺とクロウが手を貸そう」

 

「ありがたく思いな」

 

彼等も遊矢の知らぬ因縁があるのだろう、まるで親友のように軽口を交わしながら手を差し伸べる2人に、遊矢は目を丸くした後、ふにゃりと表情を緩ませる。

 

「……はは、何でジャックが2人とか、2人は知り合いだったのかとか、聞きたい事がいっぱいあるけど……うん、2人が力を貸してくれれば頼もしい」

 

「フ、そう言われると頑張らなくてはいけないな」

 

「お前もしっかりと大将努めな。前は俺達に任せてよ。チーム5D'sは駄目だが、そうだな、こう言うのはどうだ?」

 

クロウが悪巧みをした子供のような笑みを浮かべ、眼前の敵に向かい、雄々しく名乗りを上げる。

 

「チームARCー5D's!ぶち抜かせてもらうぜ!」

 

こうして、チームARCー5D'sとチームネオ5D's。2つの5D'sならざる5D'sが激突する。

先鋒はジャック同士の対決、2人は互いのホイール・オブ・フォーチュンを並ばせ、同時に疾駆させる。弾かれたような爆発的スタートダッシュ。制したのは、何とジャックだ。

機体差では改良機であるホイール・オブ・フォーチュン・Dの方が高性能、ライディングテクニックも決してジャック・Dは劣らない。なのに、僅か一歩が届かない。

 

「馬鹿な……!」

 

「先攻は譲ってもらうぞ!キング!」

 

「ッ、面白い……!」

 

互いに5枚のカードを引き抜き、今デュエルが開戦する。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

フィールド中に弾けた光が広がり、その姿を舐め上げるように変えていく。アクションフィールド、『スターライト・ジャンクション』がこのシティを光で満たす。

 

「俺のターン、ドロー!『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

ジャックが召喚したのは炎の鬣を持つ黒馬。主人の隣に並んで駆ける姿を見て、ジャック・Dがフンと鼻を鳴らす。

悪くはないが、このモンスターを召喚した後の展開が容易に思い浮かんだが為の失望だった。

 

「このカードの召喚時、俺のフィールドに他のモンスターが存在しない事で手札のレベル3以下の悪魔族チューナー、『レッド・リゾネーター』を特殊召喚する!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

思った通り、続いて現れたのは炎のローブを纏い、音叉とステッキを持った小さな悪魔の姿をしたチューナーモンスター。

思い通りの展開にジャック・Dは期待をし過ぎたかと内心で舌打ちを鳴らす。

 

「『レッド・リゾネーター』の効果!特殊召喚時、『レッド・スプリンター』の攻撃力分、LPを回復する!」

 

ジャック・アトラス LP4000→5700

 

「そしてレベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!赤き魂、ここに1つとなる。王者の雄叫びに震撼せよ!シンクロ召喚!現れろ、『レッド・ワイバーン』!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

そしてシンクロ召喚、『レッド・リゾネーター』の姿が光のリングとなって弾け飛び、『レッド・スプリンター』を包み、閃光が貫く。

中より飛び出したのは後頭部から火炎を吹かせた深紅の飛竜。ジャックが持つシンクロモンスターの中でも最も先攻に向いているカードだ。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP5700

フィールド『レッド・ワイバーン』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!今更『レッド・ワイバーン』か……そいつの攻略法は既に榊 遊矢が見せている!そんなもので俺を止められると思うな!俺は『戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン』を妥協召喚!」

 

戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン 攻撃力1500

 

ズズンと音を鳴らし、現れたのは巨大な悪魔の王。血色の刀身を持つ剣を構える上級モンスターだ。雄々しい角を頭、肩、更には膝にある髑髏から伸ばし、赤い眼が『レッド・ワイバーン』を射抜く。その力が半減されていると言うのに凄まじい威圧感だ。

 

「お次はこのカードだ。魔法カード、『手札抹殺』を発動。手札を交換、ジェネシスの効果発動!墓地の『デーモン』を除外し、『レッド・ワイバーン』を破壊!『レッド・ワイバーン』の攻略法等いくらでもある!」

 

「ならばこそだ!罠発動!『スキル・プリズナー』!『レッド・ワイバーン』を対象に取るモンスター効果を無効にする!」

 

「魔法カード、『モンスターゲート』!ジェネシスをリリースし、デッキトップから通常召喚可能なモンスターが出るまでカードを墓地に送り、通常召喚可能なモンスターが出れば特殊召喚する!6枚のカードを墓地に送り、『デーモンの将星』を特殊召喚!」

 

デーモンの将星 攻撃力2500

 

今度は凶皇の部下である『デーモン』の将。苦し紛れの策か、『レッド・ワイバーン』の効果射程圏内だが。

 

「バトルだ!」

 

「『レッド・ワイバーン』の効果発動!フィールドで一番攻撃力が高いモンスターを破壊!」

 

「速攻魔法、『収縮』!将星の攻撃力を半分に!」

 

これが『レッド・ワイバーン』の攻略法、遊矢やシンジが見せた技だ。敢えて、自身のモンスターの攻撃力をダウンさせるテクニック。

これによってフィールドの一番攻撃力が高いモンスターは『レッド・ワイバーン』自身となり、自爆する事になるのだが。

 

「俺が何時までも同じ手を食らうか!カウンター罠、『見切りの極意』!相手の墓地のあるモンスター、魔法、罠と同名カードの発動を無効にし、破壊!」

 

「ッ!」

 

既にジャックはこれを2回食らっている。ならば3度目が通るか?否、復活したジャックに、この手はもう通じない。

舐めているのはこちらの方だったかとジャック・Dが舌打ちを鳴らす。

 

「だが残念だったな!速攻魔法、『デーモンとの駆け引き』!レベル8以上のモンスターがフィールドから墓地に送られたターン、デッキから『バーサーク・デッド・ドラゴン』を特殊召喚する!」

 

バーサーク・デッド・ドラゴン 攻撃力3500

 

『デーモン』達の死肉の臭いを嗅ぎ付け、フィールドに現れたのは痩せ細った黒竜のゾンビ。攻撃力3500、1ターン目からとんでもないモンスターを呼び出してしまった。

 

「『バーサーク・デッド・ドラゴン』で『レッド・ワイバーン』へ攻撃!」

 

「墓地の『復活の福音』を除外し、破壊を防ぐ!」

 

「だがダメージは受けてもらう!」

 

ジャック・アトラス LP5700→4600

 

『バーサーク・デッド・ドラゴン』が勢い良く飛び出し、大きく口を開いて『レッド・ワイバーン』に食らいつこうとする。バキリ、激しい音が響くもそれは『レッド・ワイバーン』自身ではなく、その姿を模した像、身代わりに破壊されて砕かれる。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド。この瞬間、『バーサーク・デッド・ドラゴン』の攻撃力は500ダウンする」

 

バーサーク・デッド・ドラゴン 攻撃力3500→3000

 

ジャック・アトラス・D LP4000

フィールド『バーサーク・デッド・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『フォース・リゾネーター』を召喚!」

 

フォース・リゾネーター 攻撃力500

 

ジャックのターンに移り、彼のフィールドに新たな『リゾネーター』が飛び出す。孫悟空の頭部を模した球体を背に負い、両手からバチバチと電撃を迸らせたモンスターだ。

レベルは2、『レッド・リゾネーター』と同じだが、こちらは水属性、使いやすさは劣るが、どうせチューナーとして利用するのだから問題ない。

 

「レベル6の『レッド・ワイバーン』に、レベル2の『フォース・リゾネーター』をチューニング!王者の咆哮、今天地を揺るがす。唯一無二なる覇者の力をその身に刻むが良い!シンクロ召喚!荒ぶる魂、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

2ターン連続シンクロ召喚、ジャックの声に応えるかの如くフィールドに上がる火柱を裂いて現れたのは、彼のエース。

雄々しく、力強い体躯の左半身は痛々しい傷が走り、その腕にはギプスが巻かれており、背から伸びた翼が天を覆う。額、側頭部からは山羊角が捻れ立ち、鋭い牙が並ぶ口から荒い息が白い霧となって漏れ、火花が散る。

『レッド・デーモン』。赤い悪魔の異名を持つ竜が今、深紅の光を纏って君臨する。

 

「スカーライトか……」

 

「今までの俺も、決して無駄にはしない。無駄な闘いも、無駄な勝利も、俺もこのカードも刻んでいないのだから!」

 

今までの自分も受け止めて、ジャックは更に突き進む。ただ今までは回り道をしていただけ、決して、このシティのキングでいた事は無駄ではない。

それは例え自分でも否定させない。それを否定すると言う事は、闘って来た者達を否定してしまうのと同じだと、ジャックは気づいたから。

 

「良かろう、それこそが勝者の責、キングの絶対条件!真のキングとは、地位に宿るものではない、魂に宿り、それが地位へと表れるのだ!さぁ、貴様の魂の輝きを、このキングに見せてみろ!」

 

「言われずとも!貴様こそ、眩き輝きを前に目を逸らすなよ!スカーライトの効果発動!このカードの攻撃力以下の特殊召喚された効果モンスターを破壊し、その数×500のダメージを与える!アブソリュート・パワー・フレイム!」

 

「アクションマジック、『ミラー・バリア』!『バーサーク・デッド・ドラゴン』を効果破壊から守る!」

 

互いの竜のアギトに大気が集束し、深紅と紫の炎が放たれる。鬩ぎ合う炎は中央で爆発を引き起こし、吹き荒ぶ黒煙が両者の視界を奪う。

 

「ならば!スカーライトで攻撃!アクションマジック、『ハイダイブ』!スカーライトの攻撃力を1000アップ!」

 

「アクションマジック、『フレイム・チェーン』!スカーライトの攻撃力を400ダウン!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000→4000→3600

 

「闇を晴らせ!クリムゾン・ヘル・バーニング!」

 

だがジャックに迷いはない、指先をジャック・Dへと向けると共に、スカーライトが飛翔、獄炎を纏ってダイブ、煙を晴らし、スカーライトの突撃が狂える竜の胸部を撃ち抜き、絶命に至らせる。

 

ジャック・アトラス・D LP4000→3400

 

「ぐっ、おのれぇ……やってくれる……!」

 

「カードをセット、ターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス LP4600

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!俺も主役を出すとしよう、『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

ジャック・Dの手札から現れたのはジャックも使用した炎の黒馬。準アタッカー級の展開効果を持ったカードだ。当然彼の墓地にはこのモンスターの射程範囲におさまる相方が既に送られている。

 

「効果発動!来い、『レッド・リゾネーター』!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

並ぶスプリンターと『リゾネーター』のコンビ。合計レベルは6、ここからジャックも召喚した『レッド・ワイバーン』の登場か、いや違う。ジャックは目を細める。この男の性格からして、自分と同じ事をする確率は低い。ならばここは、状況も考えてあのカード。

 

「『レッド・リゾネーター』の効果により、スカーライトの攻撃力分回復する!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、無効!」

 

「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ライジング・ドラゴン』!」

 

レッド・ライジング・ドラゴン 攻撃力2100

 

ジャックの予想通り、シンクロ召喚されたのは『レッド・デーモン』の姿を模した炎の竜。スプリンターと同じく展開手段として活用されるカードだ。

 

「効果で『レッド・リゾネーター』を蘇生!更に墓地の『レッド・ミラー』の効果により、このカード自身を回収!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「そしてレベル6の『レッド・ライジング・ドラゴン』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!漆黒の闇を裂き天地を焼き尽くす孤高の絶対なる王者よ!万物を睥睨しその猛威を振るえ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

爆炎を巻き起こし、逆巻く炎を背に現れたるはジャック・アトラスのエースモンスター。ジャックの持つ『レッド・デーモン』とは異なる、もう1つの『レッド・デーモン』。決闘竜の名を誇る赤き魔竜がスカーライトを睨む。

スカーライトと違い、この竜は格下のみならず、格上にも牙を剥く絶対王者。逆らわず、地に頭を擦り付ける事だけが逃れる一手だ。

 

「許しを乞うが良い、『レッド・デーモン』の効果発動!このカード以外の攻撃表示モンスターを全て破壊する!真紅の地獄炎!」

 

「ぐおっ……!」

 

炎魔竜が炎を纏った右腕でスカーライトの首を掴んで締め上げ、ボキリと首の骨を折り砕く。そしてそのまま凄まじき腕力でスカーライトの全身の骨を引き摺り出し、獄炎で焼却。派手な火葬を見せつける。

 

「バトル!炎魔竜でダイレクトアタック!極獄の絶対独断!」

 

「させん!罠発動!『カウンター・ゲート』!攻撃を無効にし、カードを1枚ドロー!モンスターならば召喚出来る!」

 

ジャック・アトラス 手札0→1

 

「引いたカードは『ダーク・リゾネーター』!」

 

ダーク・リゾネーター 攻撃力1300

 

まるで炎魔竜からジャックを守る盾になるかの如く、両者の間に飛び出したのは始まりの『リゾネーター』。ジャックお気に入りのチューナーモンスターだ。彼は小柄な身体にも関わらず、両手に持った音叉とステッキを重ね、炎魔竜を睨む。

 

「アクションマジック、『セカンド・アタック』!炎魔竜で『ダーク・リゾネーター』を攻撃!」

 

「ぬ、おぉぉっ!」

 

ジャック・アトラス LP4600→2900

 

しかし所詮は下級モンスター。圧倒的な力を誇る炎魔竜を前にしては余りにも無力、頼りなく『ダーク・リゾネーター』の背に負われたでんでん太鼓が揺れると共に、衝撃が撃ち抜き、ニヤリと弧を描いていた口元が一瞬で歪む。

更に裂波は背後のジャックにまでおよび、クルクルとホイール・オブ・フォーチュンが回転、大きく姿勢を崩す。

 

「く、『ダーク・リゾネーター』は1ターンに1度、戦闘で破壊されない……!」

 

「フ、今度は俺の有利だな」

 

「直ぐに抜いてやる、その余裕の笑みを崩してな!」

 

なんとか気合いで持ちこたえ、回転を逆利用して体制を立て直すジャック。その間にもジャック・Dは疾駆、ジャックを追い抜く彼の背を見て気丈に吠えて見せる。

 

「ターンエンド、貴様のターンだ!」

 

ジャック・アトラス・D LP3400

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!俺の墓地の闇属性モンスター、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』を除外する事で、手札の『輝白竜ワイバースター』を特殊召喚!」

 

輝白竜ワイバースター 守備力1800

 

スカーライトの屍を蛹の如く食い破り、登場したのは青い体躯に純白の鱗を纏わせた光輝く翼竜。闇属性と光属性を混合する事で真価を発揮するカオスモンスターの一種だ。

 

「レベル4のワイバースターに、レベル3の『ダーク・リゾネーター』をチューニング!新たなる王者の脈動、混沌の内より出でよ!シンクロ召喚!誇り高き、『デーモン・カオス・キング』!」

 

デーモン・カオス・キング 攻撃力2600

 

『レッド・デーモン』に対するは頭部から爆炎を起こす細い体躯の魔王。王者の名を刻む『デーモン』だ。本来ジャックのカードではないが、彼が力を貸してくれていると言う事か、今更ながら記憶を取り戻して思い知る。

ジャックのシンクロモンスターには格上を打倒出来るモンスターは少ない、だからこそこの1枚はありがたい。

 

「ワイバースターがフィールドから墓地に送られた事で、デッキより『暗黒竜コラプサーペント』をサーチする!そして墓地の光属性モンスター、ワイバースターを除外して手札から特殊召喚!」

 

暗黒竜コラプサーペント 攻撃力1800

 

ワイバースターがグルリと回転し、その姿を大きく変える。ブラックホールの発生器官を胸部に持つ刺々しい黒竜。ワイバースターと対をなすカードだ。ワイバースターが死せばこのモンスターが産声を上げ、コラプサーペントが消えればワイバースターが蘇る。二身一体、2体あってこそ真価を発揮するカードなのだ。

 

「バトル!『デーモン・カオス・キング』で炎魔竜へ攻撃!この攻撃宣言時、お前のモンスターの攻守を入れ替える!魔竜を切り裂け!ファイアソード!」

 

「攻撃宣言時、手札から『レッド・ミラー』を墓地に送り、『レッド・スプリンター』を墓地から回収!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000→2000

 

ジャック・アトラス・D LP3400→2800

 

突如炎魔竜の周囲の重力が倍加し、勢い良く叩き伏せられ、身動きを封じられる紅蓮魔竜。

その隙を突き、魔王が両手に炎の剣を生成、赤と青の二刀流、踊るように回転して投擲し、直撃した途端、大爆発を起こす。

フィールドへ吹く爆風を受け、今度はジャック・Dの黒き機体が風見鶏の如く回転し、フラフラと千鳥足を踏む。

 

「更にコラプサーペントで攻撃!」

 

「調子に乗るな!罠発動、『パワー・ウォール』!デッキから4枚のカードを墓地に送り、ダメージを0にする!」

 

続くコラプサーペントが爆風に流れ、ジャック・Dの背後から襲いかかるもジャック・Dは見抜いていたのか一回転して罠を発動、デッキから投げ出された4枚のカードが宙を舞い、盾となって彼を守る。

 

「かわすか、俺はこれでターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP2900

フィールド『デーモン・カオス・キング』(攻撃表示)『暗黒竜コラプサーペント』(攻撃表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!クク、良いぞ。これだ、これが俺の求めていたもの!だがまだだ!まだ足りん!もっともっとジャック・アトラスをさらけ出せ!言った筈だ、俺は貴様がジャック・アトラスだろうと踏み潰すと!あの時のままでは進化した俺を倒すには至らん!永続魔法、『補給部隊』を発動、『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

「『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「『デーモン・カオス・キング』の攻撃力を吸収!」

 

ジャック・アトラス・D LP2800→5400

 

「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!赤き魂、ここに1つとなる。王者の雄叫びに震撼せよ!シンクロ召喚!現れろ、『レッド・ワイバーン』!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

天空に巨大な火の玉が逆巻き、引き裂いて中より現れたのはジャックも使用した翼を広げし赤い翼竜。

ここでこのカードの登場、ジャックはぐ、と奥歯に力を入れる。

 

「『レッド・ミラー』をサルベージ、『レッド・ワイバーン』の効果発動!『デーモン・カオス・キング』には退場してもらおう。王者はこの俺ただ1人、ジャック・アトラス・Dだ!」

 

「やってくれる……!」

 

「この程度では終わらんぞ?墓地の『レッド・ライジング・ドラゴン』を除外する事で、墓地から『バリア・リゾネーター』と『シンクローン・リゾネーター』、2体のレベル1『リゾネーター』を蘇生する!」

 

バリア・リゾネーター 守備力800

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

放電する2本の角を背負った『リゾネーター』と奇妙な音符のようなオブジェクトを背負った『リゾネーター』が現れる。

『パワー・ウォール』の際に送られていたのか、最悪の展開だ。

 

「レベル6の『レッド・ワイバーン』に、レベル1の『バリア・リゾネーター』をチューニング!王者の叫びが木霊する!勝利の鉄槌よ、大地を砕け!シンクロ召喚!羽ばたけ!『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』!」

 

エクスプロード・ウィング・ドラゴン 攻撃力2400

 

『レッド・ワイバーン』から進化を遂げ、天空を飛翔するのは後頭部が隕石のように膨張したエイリアン染みたドラゴンだ。

このカードで大ダメージを狙うつもりかとジャックは目を細めるが、直ぐ様横にいる『シンクローン・リゾネーター』に視線を写し、その考えを正す。

 

「ほう、勘が良いな、無論このまま攻めはしない。貴様相手だ、ここはダメージより妨害を取る!レベル7の『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!王者の決断、今赤く滾る炎を宿す、真紅の刃となる!赤き波濤を超え、現れよ!シンクロ召喚!炎の鬼神、『クリムゾン・ブレーダー』!」

 

クリムゾン・ブレーダー 攻撃力2800

 

颯爽と見参したのは真っ赤な甲冑を纏う炎の剣士。クルリと華麗な剣舞を見せ、恭しく礼をした後、剣を構える。

召喚をも許さぬ上級殺し。成程、このカードで確実にジャックを仕留めるつもりらしい。

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果により、墓地の『レッド・リゾネーター』回収。さぁ、バトル!『クリムゾン・ブレーダー』でコラプサーペントへ攻撃!引き裂け炎よ!レッドマーダー!」

 

「くぁっ!?」

 

ジャック・アトラス LP2900→1900

 

「ッ、コラプサーペントの効果でワイバースターをサーチする!」

 

「だが同時に『クリムゾン・ブレーダー』の効果が起動、次の貴様のターン、貴様はレベル5以上のモンスターの召喚、特殊召喚が封じられる。ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP5400

フィールド『クリムゾン・ブレーダー』(攻撃表示)

『補給部隊』

手札2

 

ぶつかり合う熱き魂、ジャックとジャック・D。王者の咆哮を轟かせる2人の対決に、遊矢の心が魅せられ、熱気を帯びる。

フレンドシップカップ決勝戦、チームARCー5D'sとチームネオ5D's、激闘を制し、勝利するのはどちらか。それは、大いなる神のみぞ知る。




今後の更新についてなのですが、エクシーズ次元編が全く進んでいません。オリジナルマシマシにしたばかりに……!
こりゃヤバい、と思いせめてシンクロ次元だけでも終わらせようとした次第です。
エクシーズ次元編からはキリが良いところまで書き上げ次第投稿しようと思います。
勝手ながら申し訳ありません。


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第181話 キングのデュエルはエンターテイメントでなければならない!

遊戯王ニューロン君は本当に良い子だなぁ……。


「本当なんだ!アトランティスは本当にあるんだ!」

 

「嘘乙」

 

「嘘じゃねぇよ!嘘なら鼻でスパゲッティ食ってやる!」

 

「お前鼻ねぇじゃん」

 

「ないよぉ!アトランティスないよぉ!」

 

季節は夏、人々でごったがえすワイキキっぽいビーチの中心で、頭部にヒレを、右手首にボウガンを装着した青い肌の魚人、『アトランティスの戦士』が必死に演説を行っていた。

その内容は自身が仕える海底神殿、アトランティスの存在の証明。

 

しかし力説する彼を小馬鹿にするように三匹の『舌魚』が良く回る舌でそれを否定して来る。

アトランティスは存在しない。それが『アトランティスの戦士』以外が認識する絶対のルールなのだ。

 

グスリと目尻から一粒の涙を流す彼の赤い目に、彼が密かに思いを寄せる、白と黒の衣装を纏う青髪のデカチチ美少女――『海神の巫女』が写る。この乳で巫女は無理でしょ。

 

「あっ、『海神の巫女』ちゃん!巫女ちゃんなら信じてくれるよね!アトランティスがあるって!」

 

「え、えっと……貴方誰ですか……?」

 

「たった今海の戦士になりそうな『アトランティスの戦士』だよぉ!」

 

「えっ、『アトランティスの戦士』さん……?でも貴方『海』をサーチ出来ないから海の戦士にはなれないんじゃ……」

 

「アトランティスはないし『海』をサーチ出来ないってもう俺何者でもなくない!?」

 

そそくさと去っていく『海神の巫女』を見て、『アトランティスの戦士』――最早ただの戦士(水族)が膝から崩れ落ちる。名前を覚えられてないのもかなりのダメージだった。

 

「うう……クソ……何で俺だけアトランティスを知ってるんだよ逆に……俺以外アトランティスを知ってる奴何処かにいないのかよぉ……」

 

無情なる悲劇を前にして、心が折られ、傷つく『アトランティスの戦士』の前に――彼は、姿を見せた。

左腕に、黄金に輝くデュエルディスクを装着した、彼等が慕う、最も信頼する相棒が。

 

「ッ!あ、あんたデュエリストか!?そ、そうだ!デュエリストのあんたなら!アトランティスの事知ってるだろ!アトランティスはあるんだ!なぁ、デュエリストさん!」

 

「ないです」

 

「なんでだっ!?」

 

――――――

 

「一体何が起こってるんだよ!」

 

「何なんだよアレは!?」

 

「もしかしてアレって落ちて来たりしないでしょうね……!?」

 

シンクロ次元、シティにて。真夜中にも関わらず、街中では人々の恐怖と混乱の声が飛び交っていた。

その原因は勿論、夜空の月をも覆い隠し、曇天を突き抜けるように現れたアーククレイドルの存在だ。

街の真上で浮かぶ巨大都市が、現実離れした光景が人々の目に嫌でも目に入る。

 

最初は誰もが夢だと思った。しかし、残酷な事に悪夢は覚めてくれない。面白がって写真を撮り、SNSに投稿する者も、今では不気味がり街から逃げ出そうとする始末。

だがそれも無意味、嘲笑うかの如くシティが紫色の炎に囲まれ、檻に閉じ込められたかのように脱出を許さない。

 

パニック状態になった人々を尻目に、フレンドシップカップの司会進行、メリッサ・クレールはヘリへ飛び乗り、MCと共に事態の解決に急ぐ。

そんな中、彼女の目が、スタジアムの光を捉えた。

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

一方、シティの沿岸部に続くデュエルレーンにて、そこでは2機のホイール・オブ・フォーチュンが白と黒の軌跡を描きながら火花を散らしていた。

両機体を操縦するのはこのシティにおけるキング。いや、元キングと現キングと言っておこうか、2人のジャック・アトラスが互いのプライドを賭け、ライディングデュエルに望んでいるのだ。

 

現在ターンはジャック・アトラス。彼は先行する自らの偽物、と言うには余りにも強力過ぎる男、ジャック・アトラス・Dを睨み、引き抜いたカードへと視線を落とす。

 

「魔法カード、『名推理』!相手にレベルを1つ宣言させ、自分はデッキトップからモンスターが出るまでカードを墓地に送る。そしてモンスターかつ相手が宣言したレベル以外の通常召喚可能なモンスターならば特殊召喚が可能!」

 

「レベル2を選択」

 

「1、2、3、4……良し、『インターセプト・デーモン』を特殊召喚!」

 

インターセプト・デーモン 守備力1600

 

「そして墓地のコラプサーペントを除外、ワイバースターを特殊召喚!」

 

輝白竜ワイバースター 守備力1800

 

「フン、それで守りを固めたつもりか。キングのデュエルに守りはいらん!攻めて攻めて攻め尽くす!苛烈なまでの攻めこそ至上のエンターテイメントになるのだ!」

 

「甘いな、ピンチを演出する事も、エンターテイメントだと思わんか?」

 

「ほう、吐いたな?しかしその唾、この俺に、天へと吐くと言う事は流星となって降り注ぐ事と知れ!このアーククレイドルのように!」

 

「未来の墓標アーククレイドル、貴様の墓にしてやろう!歴史に埋もれろ、偽りの王者!」

 

繰り広げられる舌戦、回りくどい言い回しもジャックの持ち味の1つ。この舌戦1つをとってもどちらがよりジャック・アトラスなのかを決めるもの、なのかもしれない。

 

「俺はこれでターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス LP1900

フィールド『インターセプト・デーモン』(守備表示)『輝白竜ワイバースター』(守備表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『地割れ』!『インターセプト・デーモン』を破壊!早くも防御が崩れたな!」

 

「クッ……!」

 

「バトルだ!『クリムゾン・ブレーダー』でワイバースターを攻撃!」

 

「コラプサーペントをサーチする!」

 

「ターンエンドだ、何時まで続くか見物だな……それともこのまま見せ物となるか?」

 

ジャック・アトラス・D LP5400

フィールド『クリムゾン・ブレーダー』(攻撃表示)

『補給部隊』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!下級モンスターで上級モンスターを倒す、か……フン、この俺が奴の真似事をするハメになるとはな。良いだろう!ジャイアントキリングもまたエンターテイメント!ワイバースターを除外、コラプサーペントを特殊召喚!」

 

暗黒竜コラプサーペント 攻撃力1800

 

「魔法カード、『フォース』を発動!『クリムゾン・ブレーダー』の攻撃力を半分にし、コラプサーペントに加える!」

 

クリムゾン・ブレーダー 攻撃力2800→1400

 

暗黒竜コラプサーペント 攻撃力1800→3200

 

「バトルだ!コラプサーペントで『クリムゾン・ブレーダー』へ攻撃!」

 

「チィッ!『レッド・ミラー』を墓地に送り、『レッド・スプリンター』を回収!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス・D LP5400→3600 手札2→3

 

コラプサーペントが今までのお返しとばかりに宙を這い、『クリムゾン・ブレーダー』の喉元に噛みつき、漆黒のブレスを放つ。傷口に塩を塗るような強烈な攻撃、これには流石の剣士も苦悶の声を漏らし、倒れ伏す。

 

「ターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス LP1900

フィールド『暗黒竜コラプサーペント』(攻撃表示)

手札0

 

「俺のターン、ドロー!やってくれたな……!俺は『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

「効果発動!墓地の『フォース・リゾネーター』を蘇生!」

 

フォース・リゾネーター 守備力500

 

「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『フォース・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ワイバーン』!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

「……とことん手堅く来るな」

 

2枚目の『レッド・ワイバーン』、ジャックが逆転の手を打って来ても詰めるように考えての事だろう、抜け目のない男だ。

 

「『レッド・ミラー』を回収、ワイバーンでコラプサーペントへ攻撃!」

 

ジャック・アトラス LP1900→1300

 

「最後のワイバースターをサーチする!」

 

「カードをセット、ターンエンド。来るなら来い、全てねじ伏せてやろう」

 

ジャック・アトラス・D LP3600

フィールド『レッド・ワイバーン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札3

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札1→3

 

「装備魔法、『D・D・R』を発動!手札を1枚捨て、除外されているスカーライトを特殊召喚!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

次元の間より帰還するジャックのエース、スカーライト。圧倒的な力を持つこのカードなら逆転も狙えるが、それは維持出来ればの話。

 

「『レッド・ワイバーン』の効果発動!」

 

「させん!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外する事で『レッド・ワイバーン』の効果を無効にする!」

 

「『名推理』の時か……!」

 

「さぁ、焼き払え!スカーライトの効果発動!」

 

ジャック・アトラス・D LP3600→3100

 

「くっ、『補給部隊』の効果発動!」

 

ジャック・アトラス・D 手札3→4

 

「スカーライトでダイレクトアタック!」

 

「手札のミラーとスプリンターを交換!そして永続罠発動!『デプス・アミュレット』!手札を1枚捨て、攻撃を無効に!」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ。さぁ、今度は貴様の番だぞ?」

 

ジャック・アトラス LP1300

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)

『D・D・R』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!上等だ、『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

「効果発動!手札の『クロック・リゾネーター』を特殊召喚する!」

 

クロック・リゾネーター 守備力1300

 

もう何度目か分からないスプリンターの登場。過労気味な表情を浮かべ、相方となる巨大な時計を負った『リゾネーター』を先導する。正直、このデュエル中、ジャック・Dの戦術の要となるのはこのカードとこのカードを回収する『レッド・ミラー』だ。後者がある限り、ジャック・Dの手札は常に1枚増加しているようなものだ。

 

「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル3の『クロック・リゾネーター』をチューニング!天頂に輝く死の星よ!地上に舞い降り生者を裁け!シンクロ召喚!降臨せよ!『天刑王ブラック・ハイランダー』!」

 

天刑王ブラック・ハイランダー 攻撃力2800

 

再びシンクロ召喚、ジャラリと鎖の音を鳴らし、舞い降りたのは黒い鎧とマントを纏う巨大な鎌を持つ悪魔の王。『レッド・デーモン』に相対しても威風堂々として姿勢を崩さず、睨みをきかす。

 

「『レッド・ミラー』の効果を……」

 

「させん!罠発動、『悪魔の嘆き』!貴様の墓地の『レッド・ミラー』をデッキへ戻し、俺のデッキの悪魔族モンスター、『魔サイの戦士』を墓地へ送る!」

 

「ほう、そう来るか……!」

 

「そして『魔サイの戦士』の効果で更にデッキの悪魔族モンスター、『魔神童』を墓地へ!そしてデッキから墓地に送られた『魔神童』の効果で自身をセット!」

 

「壁を作ったか、だがモンスターは全滅させる!ブラック・ハイランダーの効果!装備カード、『D・D・R』を破壊!400のダメージを与える!」

 

ジャック・アトラス LP1300→900

 

ブラック・ハイランダーが大鎌に連結した鎖に手をかけ、ブンブンと鎌を振り回し、ジャックのフィールドのカードに狙いを定める。

撃ち抜くべきは『D・D・R』。カッと目を見開き、鎌を投擲、『D・D・R』を切り裂くと共に『レッド・デーモン』が光となって消える。

 

「バトル!ブラック・ハイランダーでセットモンスターへ攻撃!死兆星斬!」

 

「『魔神童』の効果でリバース効果でデッキより『レッド・ミラー』を墓地へ!」

 

「それが狙いか!」

 

ブラック・ハイランダーが煌びやかなローブを纏う悪魔の貴族を切り裂く中、ジャックは本来の目的を達成させる。

墓地へ送られるは『レッド・ミラー』。このカードに苦戦したと言うなら同じ手段で敵を追い詰め、有利に事を運ぼうと言う腹積もりなのだろう。

 

「だがブラック・ハイランダーがいる限り、シンクロ召喚は封じられる。ターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス・D LP3100

フィールド『天刑王ブラック・ハイランダー』(攻撃表示)

『補給部隊』『デプス・アミュレット』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札0→3

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動。モンスターとカードをセット、ターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス LP900

フィールド セットモンスター

『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『復活の福音』!墓地から炎魔竜を蘇生する!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

再び君臨するジャック・Dの『レッド・デーモン』。こうして見ると本当にジャックのスカーライト、いや、彼が持つ真のエース、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』にそっくりだ。

しかし闇のカードとして纏う瘴気が、このカード独自の気配を醸し出している。シグナーの竜と決闘竜。似て非なる存在だ。大元である存在も姿が似ているのは偶然で片付けられる事ではないだろう。

 

「バトル!ハイランダーでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『魔導雑貨商人』だ!リバース効果でデッキトップから魔法、罠カードが出るまでカードを墓地に送り、出た魔法、罠カードを手札に!3枚のカードを墓地へ送り、『復活の福音』を我が手に!そして『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札1→2

 

「やれ、『レッド・デーモン』!ダイレクトアタック!」

 

「墓地の『ネクロ・ガードナー』を除外!攻撃を無効に!」

 

「ターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス・D LP3100

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン』(攻撃表示)『天刑王ブラック・ハイランダー』(攻撃表示)

『補給部隊』『デプス・アミュレット』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『復活の福音』!墓地よりスカーライトを蘇生する!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

「貴様もか……!」

 

1ターン目の再来、互いの『レッド・デーモン』がフィールドに相対する。どちらも互いのターンでは無類の強さを誇り、攻め手が変わると優劣が入れ替わる面白い関係、無論この状況で有利なのはジャックの方だ。

 

「スカーライトの効果発動!」

 

「墓地の福音を除外し、破壊を防ぐ。そしてハイランダーが破壊された事で『補給部隊』の効果発動!」

 

ジャック・アトラス・D LP3100→2600 手札2→3

 

「バトル!スカーライトで炎魔竜へ攻撃!」

 

「『デプス・アミュレット』の効果発動!」

 

攻撃力はどちらも同じ、しかしジャックの墓地には先程ジャック・Dも使用したばかりの『復活の福音』が存在している。除外すればドラゴン族の破壊を肩代わりに出来る墓地発動効果。これを使われればジャックのスカーライトのみが一方的に殴り勝つ。

だからこそ攻撃をかわし、返しのターンで手札の『レッド・リゾネーター』を呼び、炎魔竜をベリアルに進化させて反撃しようと考えたのだが。

 

「甘い!キングのデュエルは2歩先を行く!さぁ、今宵は特別ゲストを招待しよう!罠発動、『バスター・モード』!」

 

「何だと!?」

 

このデュエル、初めての驚愕がジャック・Dに襲いかかる。アクセルシンクロ、ダブルチューニング、ペンデュラムシンクロと導き出されて来たシンクロの発展系、この大会、トニーも使ったその中の1つがジャックから放たれたのだ。

ダブルチューニングならば想定内だったがまさかこのカードを使用して来るとは。

想像を超えるジャックはその手を緩まさせる事なく自らの相棒を進化させる。他のシンクロモンスターが『バスター・モード』に至れるのだ。ならばこの『レッド・デーモン』に出来ぬ訳がない。ジャックの背後に眩き光が立ち上ぼり、中より炎が飛び交い、スカーライトの体躯に纏わりつく。

 

「『レッド・デーモンズ・ドラゴン』扱いのスカーライトをリリース!デッキより、『レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター』を呼び出す!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター 攻撃力3500

 

炎は深紅の鎧となり、スカーライトに装着、更に傷を舐め上げ、ギプスがひび割れ砕け散る。これがこれこそが進化した『レッド・デーモン』の姿。その雄々しい姿にジャック・Dが乾いた笑いを漏らす。

 

「クク、ハハハハハ!面白い!まさかそう来るとはな!良いぞ、良いぞ!それでこそチャレンジャーを名乗るに相応しいと言うものよ!」

 

「さぁ行くぞ!『/バスター』で炎魔竜へ攻撃!」

 

「やらせるか!『デプス・アミュレット』の効果を発動!手札を1枚捨て、攻撃を無効に!」

 

「チ、守るか。俺はカードを1枚セット、ターンエンドだ。この瞬間、貴様の『デプス・アミュレット』は破壊される」

 

ジャック・アトラス LP900

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!炎魔竜の効果発動!」

 

「墓地の福音を除外し、破壊を防ぐ!」

 

「折り込み済みだ。魔法カード、『アドバンスドロー』!我が『レッド・デーモン』をリリースし、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→3

 

エースカードを犠牲にするのは心苦しいが、このままでは勝てないのも事実。ここは少しでもカードを引き込み、対策を練る時だ。

『/バスター』はそれだけ厄介な存在だ。例えこのカードを倒しても、進化元となるカードが蘇るのだから。

 

「悪くない。魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地の『レッド・デーモン』を蘇生!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

「そして『シャッフル・リボーン』の第2の効果!『補給部隊』を戻し、1枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札2→3

 

「『バリア・リゾネーター』を召喚!」

 

バリア・リゾネーター 攻撃力300

 

現れたのは背から発電機のようなものを伸ばした『リゾネーター』モンスター。これでジャック・Dのフィールドには『レッド・デーモン』とレベル1のチューナー。

カード無効果効果を持つアビスが来るか、しかしアビスを出したとしても攻撃力は3200、ベリアルでも攻撃力は3500、前者は『/バスター』にも届かず、後者は良くて相討ち。成功してもジャックだけが後続となるスカーライトを呼ぶ事となる。

しかも炎魔竜の効果を使用した以上、他のモンスターでは攻撃出来ない。手詰まりか、それとも他の手があるのか。

 

「永続魔法、『共鳴波』を発動!」

 

どうやら他の手があったらしい。発動されたカードを見て、ジャックの顔色が苦いものとなる。何せこのカードはジャック・Dが有利になるだけではなく、ジャックの展開をも妨害しうる。

 

「ならば俺はここで罠発動、『貪欲な瓶』!墓地のカードを5枚デッキに戻し、ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札1→2

 

「レベル8の『レッド・デーモン』に、レッド1の『バリア・リゾネーター』をチューニング!深淵の闇より解き放たれし魔王よ!その憤怒を爆散させよ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

ジャックが新たな『レッド・デーモン』を呼び出したのと同じように、ジャック・Dも対抗し、自身の『レッド・デーモン』を進化させる。

炎魔竜を一回り大きくし、胸部に竜の顔を模した装甲、両腕からは戦斧の刃を伸ばした魔王竜。深淵より飛翔し、己が敵を見下す。

 

「『共鳴波』の効果!『リゾネーター』がシンクロ素材として墓地に送られた事で『/バスター』を破壊する!」

 

「くっ、『補給部隊』の効果で……!」

 

「無駄だ!アビスの効果で『補給部隊』の効果を無効にする!」

 

「やはりそいつが一番厄介だな……破壊された『/バスター』の効果により、スカーライトを蘇生する!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

『共鳴波』の効果で『/バスター』を破壊し、スカーライトに備えてアビスを呼び出しておく。成程、嫌らしい手だ。何せアビスがいるだけで最低2枚のカードを消費させられる。

高い攻撃力と無効効果、正しく鬼に金棒なモンスターだ。早々に除去したいが、このカードを除去したとしても、このカードの進化体が出ればそれも無為に終わる。このカードを除去した上で、進化体の召喚を防がねばならない。

 

「ターンエンドだ。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を除外する」

 

ジャック・アトラス・D LP2600

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)

『共鳴波』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動。デッキトップから10枚のカードを除外し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札2→4

 

「『レッド・ノヴァ』を特殊召喚!」

 

レッド・ノヴァ 守備力0

 

『レッド・デーモンズ』の隣に飛び出したのは赤い妖精のようなモンスター。フィールドにレベル8のドラゴン族モンスターが存在する事を条件に特殊召喚が可能になる。

 

「更に『グローアップ・バルブ』を召喚!」

 

グローアップ・バルブ 攻撃力100

 

続いてレベル1、植物から目を生やした不気味なチューナーが召喚される。優秀な汎用チューナーと言う事でジャックも例に漏れずデッキに投入しているカードだ。

これでジャックのフィールドに『レッド・デーモンズ』とレベル1チューナーが2体揃った。ジャックの狙いを理解し、ジャック・Dがニヤリと笑みを浮かべる。

 

「レベル8の『レッド・デーモン』に、レベル1の『レッド・ノヴァ』と『グローアップ・バルブ』をダブルチューニング!」

 

チューナー2体を使用したジャックのみに許された荒業、バーニングソウルが炸裂する。

今では思い出せる。ジャックがこの奥義を会得した時の事を。かつて仲間と共に強大な敵を打ち倒す為、この魂を焦がさんばかりに燃やした日々を。

 

(そうだろう、我が宿命のライバルよ!)

 

今はいない彼を想い、自らのエースを進化させる。2体のチューナーがリングに変わり、『レッド・デーモン』を閉じ込めるように交差、リングは集束して魔竜を縛り上げ、その姿をより紅く、より巨大なものとする。

 

「王者と悪魔、今ここに交わる。赤き竜の魂に触れ、天地創造の雄叫びを上げよ!シンクロ召喚!現れろ!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500

 

頭部からは雄々しい角が何本も伸び、より逞しさを増した巨体を覆い隠す程の双翼が月下で広がる。炎の化身を思わせる、燃える紅蓮魔竜。これこそがスカーライトの進化した姿だ。

 

「シンクロ召喚した事で墓地の『レッド・ミラー』を回収、更にダブルチューニングを行った事で『レッド・ノヴァ』の効果発動!デッキから『レッド・リゾネーター』を守備表示で特殊召喚する!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「『レッド・リゾネーター』の効果!タイラントの攻撃力分回復!」

 

ジャック・アトラス LP900→4400

 

「タイラントの効果発動!このカード以外のフィールドのカードを全て破壊する!」

 

「やらせん!アビスの効果で無効にする!」

 

「そう来ると思っていた!バトル!タイラントでアビスへ攻撃!獄炎のクリムゾンヘルタイドォッ!」

 

「それも断る!墓地の『ネクロ・ガードナー』を除外し、攻撃を無効に!」

 

一刻でもアビスを削りたい所だが、そう簡単にはいかせてくれないらしい。2回に及ぶ異なる方向による攻略を振り切るジャック・D。押しているのはジャックだが、直ぐに切り返されてもおかしくない。

 

「墓地の『グローアップ・バルブ』の効果発動!デッキトップをコストに自身を蘇生!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

「装備魔法、『ドラゴン・シールド』をタイラントに装備。カードをセット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス LP4400

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』(攻撃表示)『レッド・リゾネーター』(守備表示)『グローアップ・バルブ』(守備表示)

『ドラゴン・シールド』『補給部隊』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「永続罠、『サモンリミッター』!このカードがある限り、互いに2回しか召喚、特殊召喚を行えない!」

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札0→2

 

「『アタック・ゲイナー』を召喚!」

 

アタック・ゲイナー 攻撃力0

 

ここでジャックが逆転の一手を引き抜く。ヘルメットから赤い髪をはみ出させた戦士族チューナー。このモンスターの強みは戦闘補助だ。

 

「アビスの効果で『ドラゴン・シールド』を無効にし、レベル9のアビスにレベル1の『アタック・ゲイナー』をチューニング!泰山鳴動!山を裂き地の炎と共にその身を曝せ!シンクロ召喚!『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル 攻撃力3500

 

更に進化、ただでさえ巨大なアビスの筋肉が膨張し、その鱗が強固な鎧となって身体を照らす。かの大悪魔、ベリアルの名を刻んだ、悪魔よりも凶悪な魔竜。新たな『レッド・デーモン』として君臨し、右腕をタイラントへ翳し、手の甲から炎の剣を生成、射出する。

 

「シンクロ素材となった『アタック・ゲイナー』の効果により、タイラントの攻撃力を1000ダウン!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500→2500

 

「バトル!ベリアルでタイラントへ攻撃!割山激怒拳ッ!」

 

刃が胸に深く突き刺さり、弱体化したタイラントへ向かい、ベリアルが飛翔、今度は両腕の手甲より剣を生み出し、回転斬で襲いかかる。

 

「手札から『レッド・ミラー』を墓地に送り、『レッド・スプリンター』回収、更に墓地の『仁王立ち』を除外し、攻撃を『グローアップ・バルブ』に絞る!」

 

しかしその瞬間、『グローアップ・バルブ』が飛び出して盾に変わる。タイラントを失えば再びペースを握るのに時間がかかる。それどころか運が悪ければそのまま敗北に繋がるかもしれないのだ。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札0→1

 

「メインフェイズ2、カードを1枚セット、ターンエンドだ。この瞬間、『共鳴波』は破壊される」

 

ジャック・アトラス・D LP2600

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『サモンリミッター』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札1→3

 

「魔法カード、『手札抹殺』!タイラントの効果発動!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!タイラントの効果と攻撃を封じる!」

 

「ッ!」

 

タイラントを封じる方法、効果と攻撃を同時に潰す一手。成程、かなり有効だ、だが、まだ手はある。

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!タイラントをリリースし、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札1 →3

 

時に堅実に、時に大胆に。タイラントもジャックの手に文句はないのか、効果が使えなくなった自身を有効に活かせと頷き返す。

ジャックもそれに応え、新たな希望を引き込む。

 

「賭けに出ようか……魔法カード、『モンスターゲート』!『レッド・リゾネーター』をリリースし、通常召喚可能なモンスターが出るまでテッキトップを墓地に送る!」

 

『モンスターゲート』発動と共に、ジャックのデッキからカードが次々と削られていく。1枚、2枚、3枚、4枚、良い落ちだ。墓地は第2の手札と言う言葉もある。デュエルを上手く進める為にも少しでもカードを送り込みたい。

 

「運は俺に傾いているらしい。来い、『レッド・スプリンター』!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

「『レッド・スプリンター』の効果発動!墓地の『レッド・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「『レッド・リゾネーター』の効果でベリアルの攻撃力分回復!」

 

ジャック・アトラス LP4400→7900

 

「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ワイバーン』!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

怒濤の『レッド』モンスター連続召喚。勢いづいたジャックの背に1つの影が飛翔し、翡翠の眼を光らせる。このデュエルにおいて両者召喚し、目覚ましい活躍を見せる『レッド・ワイバーン』の再登場。容赦なく格上を破壊可能な効果を持つこのカードは彼等が持つシンクロモンスターの中でも非常に優秀だ。

 

「『レッド・ミラー』を回収、『レッド・ワイバーン』の効果発動!ベリアルを破壊!」

 

「ぬぅっ!?」

 

『レッド・ワイバーン』が後頭部から伸びる火柱の火力を爆発的に上げ、そのまま押し出すように口から発射、灼熱の火炎弾がベリアルの胸部を撃ち抜き、絶命に至らせる。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ。この瞬間、墓地に送られた『スカーレッド・コクーン』の効果で墓地のスカーライトを蘇生!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

スカーライトも取り戻し、フィールドの状態は万全、次のターンの反撃を防ぎ、このまま一気にとどめを刺したいところだ。

 

ジャック・アトラス LP7900

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)『レッド・ワイバーン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札1

 

ターンを越える度に加熱する2人のデュエル。両者のエースであり、魂である『レッド・デーモン』を中心とし、派手なバトルが繰り広げられ、進化体が飛び出していく。

一時も油断出来ない息もつかせぬハイレベルな攻防の応酬。

しかし驚くべき事に、両者共にまだ奥の手を隠している。常に爪を研ぎ、喉元を狙う王と魔王。その奥の手を見せた時が、決着の時。



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第182話 バーニングソウル

ラビィは森の切り株がお気に入り。いつも登ってまわりをきょろきょろ。

おや?今日は先客がいるみたい。メルフィーの森のお友達に囲まれている帽子の人がいるよ。

 

左腕につけているのはデュエルディスクかな?どうやら彼はデュエリストさんみたい。

ラビィはデュエリストを見るのは初めて。恥ずかしいけど、勇気を出して声をかけてみよう。

デュエリストさん、お友達になってください!

 

「構わぬ」

 

わーい、やったやった!デュエリストさんはラビィのほっぺを掴んでむにむに、くすぐったいけど嬉しいな!

今日はとっても嬉しい日。だけどそれだけじゃ終わってくれないみたいで……?

 

森の奥からおっきなライオン現れた!『獣王アルファ』だ!

アルファは何だか怒っているみたい。森の中で大暴れ!大変、このままじゃメルフィーの森が滅茶苦茶になっちゃうよ!

デュエリストさんもお友達を抱え込んで逃げ出します。

帽子の上に乗ったラビィはそこで良いこと思いついた!

 

デュエリストさんの袖を掴んで案内します。あれを使おう!デュエリストさんならあれを使えるはずだから。

森の奥の切り株まで走って上に乗ったラビィ。ぴょんぴょん跳ねればあら不思議。何かのスイッチが出てきたよ?

 

「これを押せば良いのか?」

 

首を傾げてデュエリストさんが聞いてきます。ラビィがコクコク頷くとちゃんと伝わったみたい。

 

「承知」

 

ポチッと押せばもーっと不思議。地面に大きな穴が開いて、中からメルフィーの森のおっきなお友達、金と白のロボット、『天霆號アーゼウス』が飛び出し、アルファにパンチをおみまいだ!

 

「……ええ……?」

 

――――――

 

「フハハハハ!そぉらどうしたどうした!もっと足掻いたらどうだムシケラぁ!『ワイゼルA』で『RRフォース・ストリスク』を攻撃ィ!」

 

「ぐぉっ!」

 

混乱渦巻くシンクロ次元、シティにて。黒咲達ランサーズは突如現れた強敵達を前に苦戦を強いられていた。

彼の目の前では5体のモンスターが合体した特殊なモンスター、白く輝くボディの人型巨大ロボット、『機皇帝ワイゼル∞』がその主、プラシド・ゴーストの一声で猛威を奮っているのだ。

無論、彼以外にも『機皇帝』やセルゲイの使っていた『地縛神』を操るデュエリスト達が思う限りにその力を奮っている。

正直ビッグ5以上に手強く、恐ろしいデュエリスト達だ。彼等がデュエルを始めた途端にシティを紫色の炎が囲み、市民も逃せなくなってしまった。

黒咲は一般市民を背にその身を盾にして強要されてしまっているも当然。

 

「ククク、正義の味方は大変だなぁ?愚かな者でも守らねばならない!守ったとしても何にもならぬと言うのに!」

 

プラシドの言葉に黒咲の背後で震える2人の人間がビクリと肩を揺らす。

1人はフレンドシップカップ、遊矢VSシンジの闘いの中、コモンズを見下していたトップスの人間だ。

そしてもう1人は、シンジの思想に賛同したトップスを憎むコモンズの人間。

争い合う者達を、このシティの醜さを表すような者を、黒咲は守っていた。

 

「貴様もこのシティを見ただろう、このシティの現状を。差別による悲劇、憎悪の連鎖を。俺を倒したとして、次の敵はそいつ等になるかもしれんぞ?」

 

2人を指差し、プラシドは侮蔑するように嘲笑する。実質、彼等を守っているからこそ黒咲は動きを封じられ、折角発動したアクションデュエルを有利に進められていない。勝利を目指すならば見捨てるべきだろう。

 

「言いたい事はそれだけか?」

 

だが、黒咲はそれをしない。いや、ランサーズの皆、それをしない。プラシドの挑発を鼻で笑い、デュエルディスクを構え直す。

 

「くだらん挑発はやめろ。お前も、分かっているだろう」

 

「……」

 

「彼等を見捨てれば、それこそ愚か者だ。それこそ醜い者だ。それに……かつては俺も愚か者だった。そんな俺でも救ってくれた奴がいる。そんな俺でも前に進めた。ならば、彼等もまたそうなれる筈だろう」

 

人は変わる。変われるのだ。かつて黒咲がそうであったように。だから黒咲は手を差し伸べる。彼が黒咲にそうしてくれたように。

 

――――――

 

一方、シティのスタジアムから連なるデュエルレーンにて。2人のDーホイーラーが凌ぎを削り合っていた。

チームARCー5D'sとチームネオ5D'sの先鋒、ジャック・アトラスとジャック・アトラス・Dだ。

彼等2人は己がエースカードである『レッド・デーモン』とその進化体を次々と呼び出し、駆使し、ハイレベルな攻防を繰り広げていた。

 

現在優勢なのはジャック。『レッド・リゾネーター』の効果で大量のLPを回復し、フィールドにはスカーライトと『レッド・ワイバーン』、2体のシンクロモンスターが存在している。

対するジャック・Dのフィールドには対象を失った『デモンズ・チェーン』のみ。手札0と劣勢だ。LPは余裕があるものの、ジャックの三分の一程しかない。

このまま押せば倒せるだろうが、彼がそれを許すとは思えない。デッキトップの1枚へ手を伸ばす彼を見て、ジャックが眼を細める。さて、どう出るか。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札0→2

 

不要になった『デモンズ・チェーン』を活用し、新たな手札を引き込む。ここでこのカードを引くとは悪運の強い男だ。追い込んでいるのに安心できない。

 

「『イピリア』を召喚!」

 

イピリア 攻撃力500

 

「召喚時、1枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→2

 

「魔法カード、『星屑のきらめき』!墓地の『戦慄の凶皇ージェネシス・デーモン』と『フォース・リゾネーター』を除外し、合計レベルとなるドラゴン族シンクロモンスター、『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』を蘇生!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル 攻撃力3500

 

再びフィールドへ帰還する大悪魔の名を冠する紅蓮魔竜、ベリアル。『レッド・デーモン』を中心にデッキを構築しているだけあり、呼び出す手段も豊富に揃えているのだろう。相手取る身としては厄介この上ないものだ。

そしてこのベリアル自身も、『レッド・デーモン』にして『レッド・デーモン』を呼ぶカード。

 

「ベリアルの効果により、『イピリア』をリリース、墓地の『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』を蘇生!!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

そして2体目の『レッド・デーモン』が飛翔し、咆哮を上げる。アビスとベリアル、並ぶ2体の『レッド・デーモン』。

高い攻撃力を持つモンスターを複数体並べられるだけで強力だと言うのに、それが優秀な効果持ちとなると頭が痛くなってくる。

無効と蘇生、どちらも早々に除去しておきたいモンスターだ。

 

「バトル!ベリアルでスカーライトへ攻撃!」

 

「永続罠、『一族の掟』!ドラゴン族を宣言し、宣言したモンスターの攻撃宣言を封じる!」

 

「アビスで無効にする!」

 

「『レッド・ミラー』を『レッド・スプリンター』と交換!そして罠発動、『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!『補給部隊』も合わせ、2枚ドローだ!」

 

「チッ」

 

ジャック・アトラス 手札1→2→3

 

ジャックの手札が見る見る内に回復する様を見て、ジャック・Dが舌打ちを鳴らす。

手札を潤うと言う事はアビスの効果を空打ちさせる可能性があるカードが引き込まれると言う事だ。逆に手札が1枚だけしかない状況ならアビスの独壇場なのだが、ジャックもそれが分かっている。アビスの警戒を第一に戦術を組んでいる。

 

「しかし、これでスカーライトが消えた!アビスで『レッド・ワイバーン』へ攻撃!深淵の怒却拳!」

 

スカーライトへ剣を振るったベリアルの背後よりアビスが飛び立ち、猛スピードでダイブ、勢いを利用し全体重を乗せた拳を『レッド・ワイバーン』に食らわせ、頭蓋を砕く。

 

ジャック・アトラス LP7900→7100

 

「ッ!そんな、ものか……!」

 

「強がりを。アビスが戦闘ダメージを与えた事で墓地のチューナーモンスター、『シンクローン・リゾネーター』を蘇生する!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

戦闘ダメージを起動としてチューナーを蘇生する効果。まだこんなものを持っていたとは。恐らく本来はこの効果を使ってベリアルへ繋げるのだろう。アビスとベリアル、連携力の高い2枚だ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

ジャック・アトラス・D LP2600

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』(攻撃表示)『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)『シンクローン・リゾネーター』(守備表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『一族の掟』を破壊!『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

「効果発動!」

 

「防ぐ!アビスの効果で無効!」

 

「なら今度はこれだ。魔法カード、『名推理』!相手はレベルを1つ宣言し、俺はデッキトップからモンスターが出るまでカードを墓地に送る。そしてそのモンスターが宣言したレベルなら墓地に送り、それ以外なら特殊召喚する!」

 

「レベル2を宣言」

 

「1枚目……からか。レベル4、『トップ・ランナー』を特殊召喚!」

 

トップ・ランナー 守備力800

 

ホイール・オブ・フォーチュンとスプリンターに並走するのはマラソン選手を模した人型ロボット。走行用に開発されただけあり、凄まじい速度でスプリンターと並ぶ。正しく馬力、馬と互角の速度だ。残像まで放っている。

これでチューナーと非チューナーが揃った。合計レベルは8、スカーライトは1枚のみ。『クリムゾン・ブレーダー』では『レッド・デーモン』には届かない。残る1体は、手札の1枚と合わせる事で。

 

「魔法カード、『アースクエイク』!フィールドのモンスターを守備表示に変更!さぁ、見せてやろう、我が魂のエースを!」

 

「まさか……!?」

 

ジャックの宣言を受け、ジャック・Dがまさかと眼を見開く。しかし同時に納得する。記憶を取り戻しているのならば、彼がジャック・アトラスとして復活したのなら、相棒たるあのカードが駆けつけてもおかしくはない。

来る、来る、来る。あのカードが、最も長く最も近く、ジャック・アトラスと苦楽を共にし、連れ添い、逆境を打ち破り数多の勝利を刻んで来た半身。

 

「刮目せよ!真の王者の姿を!レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル4の『トップ・ランナー』をチューニング!王者の鼓動、今ここに列を成す。天地鳴動の力を見るがいい!シンクロ召喚!我が魂、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』ッ!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3000

 

天に8つの星が煌めき、列を成して竜の星座と化す。星座は炎を帯びてフィールドへ降り立ち、火の粉を払い、全貌を見せる。

黒と赤の硬い鱗。身体の半分以上を占める翼に鋭い爪と牙。そして、傷一つない体躯。そう、傷一つない『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』が、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』がそこにいた。

 

「『レッド・デーモンズ・ドラゴン』……!」

 

「『レッド・ミラー』を回収。さぁ、バトル!『レッド・デーモンズ・ドラゴン』で、『シンクローン・リゾネーター』へ攻撃!アブソリュート・パワーフォース!」

 

『レッド・デーモンズ・ドラゴン』が右の掌に巨大な火の玉を作り出し、握り潰す事で拳に炎を纏わせる。そして『シンクローン・リゾネーター』に向かって拳を振り抜き、地面へ激突、大地に蜘蛛の巣状のひびが走る。

 

「そして『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の効果発動!守備表示モンスターを攻撃したダメージ計算後、相手フィールドの守備表示モンスター全てを破壊する!デモン・メテオ!」

 

これこそが元祖『レッド・デーモン』の効果。スカーライトは格下を、炎魔竜は逆らう意志ある者を、そしてこのカードは闘う意志なき者には容赦をしない。

『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の握った拳から炎が漏れ出し、2体の『レッド・デーモン』を呑み込む。

これで厄介な『レッド・デーモン』を2体揃って倒す事が出来た。

 

「チッ、『シンクローン・リゾネーター』の効果で俺は墓地の『バリア・リゾネーター』を回収」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

ジャック・アトラス LP7100

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→3

 

「永続罠『ウィキッド・リボーン』!LPを800払い、墓地よりシンクロモンスター、『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』を効果を無効にし、攻撃表示で特殊召喚!」

 

「永続罠、『死の演算盤』を発動!フィールドのモンスターが墓地に送られる度、プレイヤーに500のダメージを与える!」

 

ジャック・アトラス・D LP2600→1800

 

炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル 攻撃力3500

 

「『チェーン・リゾネーター』を召喚!」

 

身体を丸め、翼を折り畳んで蛹のように滞空するベリアルの肩に背中から鎖を伸ばした『リゾネーター』が飛び乗る。

『チェーン・リゾネーター』は鎖をジャック・Dのデッキへ連結させ、鎖を引っ張り上げる。

 

「シンクロモンスターが存在する状態でこのカードの召喚に成功した事で、デッキから同名以外の『リゾネーター』1体をリクルートする!俺が呼ぶのは『レッド・リゾネーター』!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

引き上げられた1枚のカードから、2体目の『リゾネーター』が飛び出す。このデュエル、両者にとって何度も呼ばれているチューナーモンスターだ。『レッド・リゾネーター』はクルリと宙を舞い、ベリアルの左肩に乗る。

 

「『レッド・リゾネーター』の効果でベリアルの攻撃力分回復!」

 

ジャック・アトラス・D LP1800→5300

 

「ベリアルをリリースし、墓地のアビスを特殊召喚!」

 

「『死の演算盤』の効果発動!」

 

ジャック・アトラス・D LP5300→4800

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『ウィキッド・リボーン』をコストに2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札1→3

 

「アビスの効果で『死の演算盤』の効果を無効に!さぁ、見せてやろう、真の王者の勇姿を!」

 

「何……!?」

 

「俺はレベル9の『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』に、レベル1の『チェーン・リゾネーター』とレベル2の『レッド・リゾネーター』をダブルチューニング!」

 

「何だとッ!?」

 

ジャック・Dが己の胸に拳を当て、心臓を掴むような動作をしたその途端、胸に真っ赤に燃える炎が宿り、ジャック・Dの拳へ移る。この力、そしてダブルチューニング。これは正しく。

 

「バーニング・ソウル……!?」

 

「機械に魂は宿らんか?否!貴様は見てきた筈だ!例え機械として生まれようと、未来を想い、友を想い、己が魂が命ずる熱き想いに従った者達を!言った筈だ!俺は、貴様がジャック・アトラスだろうと倒す程、進化したと!」

 

そう、彼はジャックとのデュエルに敗北し、復活した。そしてこの日、この時、ジャックとのデュエルにおいて勝利するが為に、進化に進化を重ね、ついに彼は会得したのだ。ジャックと同じ火力を。ジャックを倒せる力を。胸の奥で燃える魂、熱血回路を。

 

「その目に焼きつけろ!孤高の絶対破壊神よ!神域より舞い降り終焉をもたらせ!シンクロ召喚!『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』!!」

 

炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ 攻撃力4000

 

全てを塗り潰すような黒き炎がアビスを呑み込み、中でバキバキと軋む音を鳴らしながら進化を促す。

鱗はベリアルよりも強固な、まるで要塞の如き硬度を持つ漆黒に染まり、肩からは2本の腕が生え、計4本の逞しい剛腕を得、背から伸びる両翼は天を覆う程に巨大に広がり、首回りには鬣が伸び、頭部に3本、四肢に幾本もの血色の角が反り立つ。

その姿は正しく炎の魔王。魔竜を統べし魔竜王が下界に降り立った。

 

「これが……貴様の切り札か!」

 

圧倒的威圧感。王者の風格、力の権化。例えるならば漆黒の太陽。レベル12、攻撃力4000と言う破格のステータス。

シンクロモンスターにおいて頂点を狙えるであろう事がヒシヒシと伝わって来るようだ。思わずジャックがその巨体を見上げ、ゴクリと唾を呑み込む。

 

「カラミティがシンクロ召喚に成功したターン、貴様はフィールドで発動する効果を使用出来ない!更に、カラミティにはモンスターを破壊した際、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果がある!さぁ、バトルだ!カラミティで『レッド・デーモンズ・ドラゴン』へ攻撃!真紅の絶対破壊!」

 

「手札の『レッド・ミラー』を墓地の『レッド・スプリンター』と交換!更に墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外!ぐっおおおおおっ!?」

 

ジャック・アトラス LP7100→6100

 

カラミティが4本腕を胸の前で構え、漆黒に燃える太陽を作り出す。そして太陽を射出、圧倒的な力を前にして『レッド・デーモンズ・ドラゴン』でも抗えず、瞬く間に呑まれ、焼失する。

 

「カラミティの効果を食らえ!地獄の災厄炎弾!」

 

「ぬぅ、ぐぅぅぅぅ!?だが、除外された『ダメージ・ダイエット』により、効果ダメージを半分になる!」

 

ジャック・アトラス LP6100→4600

 

更に太陽の中から黒く染まった『レッド・デーモンズ・ドラゴン』が出現、炎で生み出された竜はジャックに着弾し、身を焦がすような熱が駆け回る。

 

「クハハハハ!これこそが最強の『レッド・デーモン』!貴様を倒す究極の破壊神だ!」

 

「調子に乗るな!そのモンスターを倒し、俺は俺を取り戻す!」

 

「クク、威勢が良いな。速攻魔法、『グリード・グラード』!シンクロモンスターを破壊した事で2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札2→4

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換し、墓地に送られた『髑髏顔天道虫』の効果発動。LPを1000回復」

 

ジャック・アトラス・D LP4800→5800

 

「俺はカードを2枚セット、ターンエンドだ。さぁ、闇の炎に抱かれて消えるが良い!」

 

ジャック・アトラス・D LP5800

フィールド『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

最強の『レッド・デーモン』。カラミティ。言うだけあってその力は強力だ。だが攻略法はある。かつてジャックが、ジャック・Dを倒した時のように。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札1→3

 

「『ミスティック・パイパー』を召喚!」

 

ミスティック・パイパー 攻撃力0

 

「自身をリリースし、1枚ドロー!引いたカードはレベル1モンスター、よってもう1枚ドロー出来る!」

 

ジャック・アトラス LP4600→4100 手札2→3→4

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『死の演算盤』をコストに2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札3→5

 

「魔法カード、『二重召喚』!『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

「墓地の『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「カラミティの攻撃力分回復!」

 

ジャック・アトラス LP4100→8100

 

「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『レッド・ワイバーン』!」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400

 

再び現れる『レッド・ワイバーン』。幸い、カラミティにはアビスのような防御的な効果や耐性は無い。例え攻撃力4000のモンスターでも、効果で対処すればいい。

 

「墓地の『レッド・ミラー』を回収!行くぞ!『レッド・ワイバーン』の効果発動!」

 

「罠発動、『肥大化』!『レッド・ワイバーン』の攻撃力を倍に!」

 

「ッ!」

 

しかし、ジャック・Dがそんな抜け道を許す筈がない。カラミティが最強の『レッド・デーモン』なら、この男は最強のキング。この2つが合わさる事により、隙を突く事も否定される。

 

「これで」

 

レッド・ワイバーン 攻撃力2400→4800

 

「フィールドで一番攻撃力が高いモンスターは『レッド・ワイバーン』だ」

 

『レッド・ワイバーン』破壊。効果を逆手に取り、ジャックのモンスターが0になる。だがまだだ、『レッド・ワイバーン』はただ破壊されただけではない。身体が砕かれても、残った炎がジャックの手に渡る。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札4→5

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換。魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地の『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を蘇生!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3000

 

今度はジャックのエースが蘇る。しかしカラミティに比べれば攻撃力3000のこのカードですらムシケラに近い。それでもジャックの想いに応える為、巨大なカラミティを見上げ、敵意の唸り声を上げる。

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『補給部隊』をデッキに戻し、ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札3→4

 

フィールドにはエース、『レッド・デーモン』。手札は4枚。欲しいパーツは後1枚。だがその1枚はデッキに存在すらしていない。いや、正確に言うならば今現在、ジャックのデッキに宿っていない。

何せあのカードは気まぐれだ。だが、間違いなく勝利に必要不可欠。

呼ぶしかない、しかし、今のジャックに呼べるのか?1度、惨めに敗北し、ジャック・アトラスを忘れていた己に、仲間との絆を断ち切られた己に。

激しい葛藤、自問自答が浮かんだその時。

 

『あぁーっ!やっぱりデュエルしてるぅ!?』

 

突如上空から、大きな声が反響する。ビクリと肩を震わせ、見上げたそこにあったのは、バリバリとプロペラを回転させ、飛行するヘリ。そしてそれに搭乗する、メリッサ・クレールとMCの姿。

スタジアムの光を見てやって来たのだろうか、マイクを片手にジャックとジャック・Dを見て、その目を大きく見開く。

 

『って言うかジャックが2人ィ!一体全体どうなってるのぉ!?』

 

「フン、俺と言う奴は、どうやっても目立ってしまうのだろうな。嗅ぎ付けられてしまった」

 

やれやれと首を振り、みょうちきりんな事をほざくジャック・D。ジャックはそんな彼に反応も出来ず呆けていると、ヘリの奥からユサユサと特徴的な長いリーゼントを揺らし、MCが姿を見せ、ジャックを見下ろし、ニヤリと笑う、

 

『いや、違うぞメリッサ。私は知っている。今まで忘れてしまっていたが、知っている。ジャックは1人、彼だけだ!』

 

そして、決して間違う事なくジャックを指差す。本物の、ジャック・アトラスの事を。根拠はない。例えDーホイールが違っていても、間違えてしまうであろう事に、2人はそっくりなのに、彼はジャックが本物だと分かった。一体、何故。

 

『私の魂がそう言っている!彼が、彼こそがジャック・アトラスだと!今まで何度も世界を救って来た英雄の仲間であり、ライバルであるチーム5D'sのジャック・アトラスだと分かるんだ!』

 

「――ッ!」

 

あの時、記憶を取り戻したのは、ジャックだけではない。クロウも、彼も、そしてこのシティに住む人々の中に。記憶を取り戻した者がいた。未来を掴み取る為に闘ったジャック・アトラス達を思い出した者が。

 

『シティの皆、安心してくれ!今この時、シティを守る為に闘ってくれている者がいる!あの時、チーム5D'sがアーククレイドルを止めたように!だから信じて応援しよう!私達の為に、闘ってくれている彼等を!』

 

「チーム5D'sが……?」

 

「ジャックだ、ジャックが闘ってるんだ!」

 

「チーム5D'sって?」

 

「ああ!」

 

伝わっていく、希望の想い。チーム5D'sと言う伝説を知っている者も、そうでない者にも。希望が広がり、シティ中が声を上げる。

 

「頑張れジャック!」

 

「勝って満足させてくれよぉ!」

 

「アトラス様負けないで!」

 

「ったく、おめぇを応援するのは癪だが、気張れよジャック!」

 

「ジャックー!俺も龍可も応援してるからね!」

 

「勝って!私達の未来を掴む為に!」

 

街中が、ジャックに、チームARCー5D'sへ声援を送り、騒々しくなっていく。その中には懐かしい声もあって、ジャックの胸に、熱い想いが宿っていく。

 

「ジャックー!」

 

そして、このスタジアムにも、1人の少年の姿が。

 

「サム……!?」

 

遊矢が観客席を見て、驚愕で目を見開く。そこにいたのはかつてジャックが『調律の魔術師』を渡した少年、サムの姿。彼は身を乗り出し、ジャックと視線を交わす。

 

「勝って、僕の、僕達のヒーロー……ジャック・アトラス!!」

 

その言葉が、切欠だった。ジャックの腕に、そしてクロウの腕にも、赤き輝く紋様が走り、翼と尾のような痣が描かれたのは。

 

「ッ、クロウ、それは……!?」

 

「赤き竜の痣……あの時、消えた筈なのに、力を貸してくれるってのか……!ジャック!受け取れぇっ!」

 

クロウがガタリとベンチから立ち上がり、右腕をジャックに掲げる。そしてこの街にいる仲間達も。すると彼等の腕から痣が消えていき――。

 

「フ、人気者だな、ジャック・アトラスよ……!」

 

「当然だ!この俺はジャック・アトラス!そしてジャック・アトラスは……応援してくれる者の期待を、裏切らない!」

 

ジャックの背に移り、赤き竜の地上絵となる。

 

「魔法カード、『名推理』!」

 

「足掻くか……レベル2を選択!」

 

「1、2、3……!来たか、『救世竜セイヴァー・ドラゴン』を特殊召喚する!」

 

救世竜セイヴァー・ドラゴン 守備力0

 

ジャックのデッキが光輝き、彼の手に渡る。これこそがジャックの求めた最後のピース。赤き竜の力の一端、桜色の小さな竜がフィールドに現れ、夜の闇を光で照らす。

 

「『セイヴァー』……!再び俺の前に立ち塞がるか……!」

 

「墓地の『ヘルウェイ・パトロール』を除外!手札の攻撃力2000以下の悪魔族モンスター『レッド・ミラー』を特殊召喚!」

 

レッド・ミラー 守備力0

 

「さぁ、行くぞ!レベル8の『レッド・デーモンズ・ドラゴン』とレベル1の『レッド・ミラー』に、レベル1の『救世竜セイヴァー・ドラゴン』をチューニング!」

 

今放たれるはダブルチューニングにも比肩するシンクロ召喚。救世竜がクルリと宙を舞って巨大化し、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』達を包み込み、眩き光を広げていく。

 

「研磨されし孤高の光、真の覇者となりて、大地を照らす!光輝け!シンクロ召喚!大いなる魂、『セイヴァー・デモン・ドラゴン』!!」

 

セイヴァー・デモン・ドラゴン 攻撃力4000

 

現れしは『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の進化体、燃え盛るような美しい深紅の翼を4枚広げ、光に包まれし救世の魔竜。

『セイヴァー・デモン・ドラゴン』、『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』と互角の赤が目を覚ます。

 

「『セイヴァー・デモン・ドラゴン』……!」

 

天に飛翔し、光輝く『セイヴァー・デモン・ドラゴン』を見上げ、ジャック・Dが憎々し気に目を細め、睨む。それもその筈、ジャック・Dはかつてこのモンスターによって敗北を喫したのだ。

 

「『セイヴァー・デモン・ドラゴン』の効果発動!ターン終了まで『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』の効果を無効にし、その攻撃力を吸収する!パワー・ゲイン!」

 

セイヴァー・デモン・ドラゴン 攻撃力4000→8000

 

『セイヴァー・デモン・ドラゴン』の翼から光が広がり、カラミティの胸を貫く。そしてカラミティから力を奪い取り、『セイヴァー・デモン・ドラゴン』の体色が更に赤く染まる。攻撃力8000、カラミティと同じく、自身の攻撃力を無理矢理ぶつけるような効果だ。

 

「バトル!『セイヴァー・デモン・ドラゴン』で『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』を攻撃!アルティメット・パワーフォース!」

 

『セイヴァー・デモン・ドラゴン』が光と炎を纏い、猛スピードでカラミティに突撃し、貫こうとする。全てを乗せた魂の一撃、これでカラミティを破壊する。その時。

 

「甘いわぁっ!貴様が何歩進もうと、俺は常に、その先を行く!罠発動、『プライドの咆哮』!」

 

「何、だとぉっ!?」

 

「言っただろう、貴様がジャック・アトラスであろうと倒すと!同じ手で敗北する俺ではないわぁっ!」

 

そうだ、ジャック・Dはかつてこのモンスターの前に敗北した。ならば、プライドの高い彼の事だ。同じ手による敗北を許す筈がない。

その事実を示すかのような名の罠が発動され、カラミティが吠え猛り、大気に波紋が広がっていく。

 

「ダメージ計算時、俺のモンスターの攻撃力が相手モンスターより低い事で、その差分のLPを支払い、差分+300の攻撃力をカラミティに与える!」

 

ジャック・アトラス・D LP5800→1800

 

炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ 攻撃力4000→8300

 

負ける位なら命を削る。まるでそう言わんばかりの効果が炸裂し、カラミティの攻撃力を2倍以上に跳ね上げる。攻撃力8300、『セイヴァー・デモン・ドラゴン』をも食らう漆黒の太陽が咆哮、4本の腕で四肢を掴み、巨大なアギトを開きブレスを放つ。

 

「くっ!」

 

「粉砕せよ!」

 

ジャック・アトラス LP8100→7800

 

救世の竜が破壊された反動、そしてカラミティの迎撃の激痛がジャックの身体に襲いかかり、ホイール・オブ・フォーチュンが猛回転する。意識が吹き飛びそうなところを何とか堪え、肩で息をしながらも立ち上がる。

とは言え最悪中の最悪。自身のターンにモンスターが破壊され、その上そのモンスターがこのデュエルにおける希望だったのだ。それがいとも容易くへし折られてしまった。

戦況でも士気においてもこの状況は不味い。その証拠に今の光景を映像で見ていたシティの市民に絶望が走る。

ジャック・アトラスでも、勝てないのかと。

 

「希望を与え、それを奪う。これも一種のエンターテイメントか。悪趣味だがな」

 

しかし。

 

「まだだ……!」

 

ジャック・アトラスは諦めない。その瞳に確固たる意志を持ち、ジャック・Dを睨み付ける。そんな彼に応えるように、背中に浮かぶ竜の痣、その中のドラゴンヘッドの眼が光輝く。

 

「まだデュエルは終わっていない!」

 

「ほう……!」

 

「必ず貴様を倒す!ターンエンドだ!『シャッフル・リボーン』の効果で手札を1枚除外する!」

 

ジャック・アトラス LP7800

フィールド

手札1

 

「俺のターン、ドロー!クク、そうでなくてはな……闘う意志無き者を倒したところで誇りにならん。魔法カード、『暗黒界の取引』、互いに1枚ドローし、1枚捨てる。更に魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップの10枚を除外し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス・D 手札0→2

 

「魔法カード、『強欲で謙虚な壺』!デッキトップから3枚をめくり、その内の1枚を手札に!『ディメンション・ウォール』を選択!」

 

「『ラプテノスの超魔剣』をカラミティに装備!バトル!カラミティでダイレクトアタック!」

 

ジャック・アトラス LP7800→3800

 

「がぁぁぁぁっ!?」

 

『レッド・リゾネーター』で回復していたLPがカラミティの猛攻で半分まで減少する。幸いなのはこれ以上の追撃がない事か。

 

「どうしたどうした!その程度か!?カードをセットし、ターンエンドだ!」

 

「この瞬間、墓地に送られた『スカーレッド・コクーン』の効果発動!『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を蘇生!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3000

 

ジャック・アトラス・D LP1800

フィールド『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』(攻撃表示)

『ラプテノスの超魔剣』セット1

手札0

 

圧倒的なパワーで攻め立てるデュエリスト、ジャック・アトラス・D。間違いなくジャックが今まで闘って来た中で一番の強敵だ。たった、1人を除いて。彼の宿命のライバルを除いて。

確かにジャック・Dは強い。だがそれでも、ジャックには負けられない理由がある。このシティを、彼がいないシティを守りたいのだ。

今はまだ、街にもなっていない街だ。だが未来は分からない。これから先、この街が街となる未来を守りたい。彼が帰って来る街を守りたいのだ。それに。

 

(貴様に恥じぬ、デュエルがしたい!それだけだ、それだけで充分だ!文句は言わせんぞ、遊星!)

 

「俺の、タァァァァンッ!」

 

紅蓮のアークが、ドローの軌跡が宙に浮かぶ。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

ジャック・アトラス 手札1→3

 

「『ミスティック・パイパー』を召喚!」

 

ミスティック・パイパー 攻撃力0

 

「効果発動!ドローしたカードは……レベル1!更にドローする!」

 

ジャック・アトラス 手札2→3→4

 

「魔法カード、『二重召喚』!『チェーン・リゾネーター』を召喚!」

 

チェーン・リゾネーター 攻撃力100

 

「効果発動!デッキから『ダーク・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

ダーク・リゾネーター 攻撃力1300

 

フィールドに揃う『レッド・デーモン』と2体の『リゾネーター』。狙うはレベル9か、レベル11のシンクロモンスターか。否、そうでない事は、2人のデュエルの中で分かっている。『レッド・デーモン』とチューナーが2体、ここから導き出される答えは。

 

「来るか、バーニングソウル!」

 

ジャック・アトラス、真の切り札の登場。ジャック・Dが口角を上げると共に、ジャックの背中に浮かぶ竜の痣が胸部に集束、燃え盛る魂となる。

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』!手札を交換し、俺は、レベル8の『レッド・デーモンズ・ドラゴン』に、レベル1の『チェーン・リゾネーター』とレベル3の『ダーク・リゾネーター』をダブルチューニング!王者と悪魔、今ここに交わる。荒ぶる魂よ、天地創造の叫びを上げよ。シンクロ召喚!出でよ、『スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン』!!」

 

スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン 攻撃力3500→6000

 

フィールド中央で、シンクロの輪が大爆発。響く轟音の中、黒煙を裂き、現れたのは鮮やかな赤の竜。紅蓮よりも尚紅く、赤く、朱く、緋い、4枚の翼を広げる、紅蓮魔竜。

太陽をも焦がす超新星。『スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン』。ジャック最強の切り札が今覚醒する。

 

「これが……そうか、これが『スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン』……貴様の切り札か!ジャック・アトラス!」

 

「そうだ!これが俺の、俺が誇る最強の切り札!さぁ、決着をつけよう!ジャック・アトラス・D!」

 

向かい合うジャックとジャック・D。対峙する『スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン』と『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』。2人のキングとその最強の切り札。存在と誇りを賭けた闘いに、今決着をつける時。

 

「俺は墓地の『レッド・ミラー』を回収し、バトル!『スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン』で、『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』へ攻撃!バーニング・ソウル!」

 

「迎え撃て!真紅の絶対破壊!」

 

真紅の竜と漆黒の竜が大激突、熱い火花が飛び散っていく。スカーレッドが鋭い牙をカラミティの首に突き立て、業炎を流し込めばカラミティが苦悶の咆哮を上げながら2本の腕で引き剥がし、残る2本の腕でどす黒い球体を生み出してスカーレッドの胸部に押し込んで爆発させる。

吹き飛ばされたスカーレッドは持ち前の気力でカラミティを睨んで飛翔、太陽にも匹敵する熱量の炎を纏い、カラミティに突撃する。

 

「速攻魔法、『魔力の泉』!」

 

「罠発動、『ディメンション・ウォール』!この戦闘で受けるダメージを押し付ける!」

 

「3枚ドローし、2枚捨てる!」

 

ジャック・アトラス 手札1→4→2

 

「俺は手札から墓地に送ったカウンター罠、『超速攻!』の効果発動!デッキからカードを1枚ドローし、魔法カードならば速攻魔法として扱う!これが、ラストドローだ!」

 

「ならば俺は、カラミティの最後の効果で『炎魔竜レッド・デーモン』を蘇生!!」

 

ジャック・アトラス LP3800→1800 手札2→3

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

引き抜かれる、運命のカード、それは。

 

「『シンクロキャンセル』!スカーレッドをエクストラデッキに戻し、その素材を呼び戻す!来い、『チェーン・リゾネーター』!『ダーク・リゾネーター』!そして……我が魂、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3000

 

チェーン・リゾネーター 攻撃力100

 

ダーク・リゾネーター 攻撃力1300

 

ジャック・Dの『炎魔竜レッド・デーモン』に対抗するように、ジャックのフィールドに『レッド・デーモンズ・ドラゴン』が姿を見せる。

鏡合わせの『レッド・デーモン』。確かに攻めては増えたが、攻撃力は同じ3000、相討ちは狙えても、ジャック・Dの喉元に届かない。

 

「クク、確かに面白い手ではある。しかし、この俺には届かん!」

 

「いいや、届く!俺は『ダーク・リゾネーター』で『レッド・デーモン』に攻撃!」

 

ジャック・アトラス LP1800→100

 

「『レッド・デーモンズ・ドラゴン』で、『炎魔竜レッド・デーモン』へ攻撃!アブソリュート・パワーフォース!」

 

「良いだろう!迎え撃て!極獄の絶対独断!」

 

『スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン』と『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』の対決の次は彼等の原点たる『レッド・デーモン』のぶつかり合い。

両雄、拳に炎を灯して力を溜め込み、振り抜いて解き放つ。拳と拳が激突し、爆発が起こったような轟音が響き渡る。何たる威力か、重なった拳を中心にスパークが散っていく。

だが、勝負は互角、拳はピタリと静止したまま動く事すらしない。

 

「どうしたジャック・アトラス!それが貴様の限界か!?」

 

「貴様が俺の限界を決めるな!速攻魔法発動、『旗鼓堂々』!俺の墓地に存在する装備魔法、『巨大化』を『レッド・デーモン』に装備する!」

 

「LPは俺が上、この状態で『巨大化』を装備したモンスターは……!」

 

「攻撃力が倍となる!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3000→6000

 

「――クク、ハハハハハ!ハーハッハッハッハッ!そうだ、これが俺の求めていた者、最強の宿敵――ジャック・アトラス……!」

 

全てを捩じ伏せるかのようなパワーデュエルと、劇的なまでのエンターテイメント。これ等を融合、昇華させたものこそが、ジャック・アトラスのデュエル。

ジャック・Dはそのデュエルを特等席で観戦し、満足そうに高笑いする。これが彼が真に求めたもの。最も欲したもの。

これに辿り着くまで長かった、これと再び闘うまで、本当に長かった。この魂が焼けるような感動を味わうが為に、ジャック・Dは今までの全てを注いで来たのだ。

それだけ、待った介があった。ジャック・アトラスとのデュエル、心踊るライバルとのデュエル。それだけで全てが報われる。

彼のようになりたかった、彼を超えるキングになりたかった。彼に勝ちたかった。悔しくて悔しくて堪らない。だけど、もう、打つ手はない。たった一歩、届かなかった。ならばもう認めるしかない。

 

「今日のところはな……」

 

それでこそ、倒しがいがある。流石は俺のライバルだと胸を張れる。

 

「ジャック・アトラス・D……俺は貴様と闘い、勝利出来た事を、誇りに思う」

 

「……そうか……」

 

そして、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の拳が『炎魔竜レッド・デーモン』の拳を砕き、胸部を貫く。穴が開いた炎魔竜の胸部から、赤い光が溢れていき、その姿が空気に溶けていく。

 

ジャック・アトラス・D LP1800→0

 

燃え盛る炎、その圧倒的な奔流に呑まれ、ジャック・Dは自らのボディを焦がし、溶かして消えていく。

そんな中でも、ジャック・Dは苦しむ事なく、逆に微笑んで己の最期を認める。最後に、天に飛翔せし赤き魔竜に手をかざして――。掴めずに、空を切る。

 

「次は、必ず」

 

そしてジャック・Dは――己の魂を完全燃焼させる。

 

フレンドシップカップ、決勝戦、ファーストホイーラー対決、ジャック・アトラスVSジャック・アトラス・D。勝者、ジャック・アトラス。




サム「最初から僕はジャックの事を信じてましたよ、ええ」


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第183話 CROSS GAME

「おお立派な屋敷。色々思い出すな……」

 

「おお、そこにいるのはもしやツァン殿の友人の!」

 

帽子を被る不審者、デュエリストがやってきたのは大きな武家屋敷だ。

阿呆の下に現れたのは、青い武者鎧を纏った槍使いの阿呆、『六武衆ーヤリザ』。

彼はニコニコと笑みを浮かべ、ガッシャガッシャと鎧を鳴らして彼の傍に近づく。

 

「ハッハッハッ、いやまさかこんな所で会えるとは!」

 

「何だ、随分と機嫌が良いな」

 

「丁度良かったんで御座るよ。ニサシ殿が最近名刀を買って毎日毎日自慢して来たんでパクって来たで御座る」

 

「クソ野郎だなお前」

 

「パクったは良いものの、どうしたものかと思ってて、良ければ受け取って下され。ニサシ殿もデュエリストに渡したとなれば口を出せまい」

 

「クソ野郎だな」

 

そう言いつつヤリザから刀を受け取るデュエリスト。まじまじと見れば何か感じるものがあったのか、目を見開いてカードに変換、デッキへとおさめる。

 

「ところでこの後お暇で?よろしければお茶でも」

 

「いや良い」

 

ニコニコとニサシを陥れた事で機嫌を良くするヤリザを見て、デュエリストは呆れたような表情を浮かべ、彼の背後を顎で差す。

 

「背中には気をつけろよ」

 

時既に遅し、卑劣なヤリザの背中に、赤く目を光らせたニサシの二刀流が襲いかかった。

 

当然デュエリストはトンズラをこいた。

 

――――――

 

ジャック・アトラスとジャック・アトラス・Dのデュエルが終わった頃、治安維持局、屋上にて、ここでもまた、1つのデュエルが終局を迎えていた。

それは、プラシドと赤き竜のしもべのデュエル。

 

「そんな……」

 

あれから、赤き竜のしもべは主の力を十全に引き出し、多様な力を誇る数々の決闘竜を呼び出しプラシドを追い詰め……その結果として、敗北を喫した。

 

ボロボロのマントを靡かせ、尚も堂々と立つプラシドと身体を穴だらけにされ、文字通り風前の灯火となり倒れ伏すしもべ。

 

その光景を目の当たりにし、柚子は絶句する。赤き竜は強かった、柚子が見て来たどんなデュエリストよりも。正しく神の領域。

 

だがプラシドは神の試練を事如く打ち破り勝利した。まるでお伽噺の勇者のように、世界を救った英雄のように。

追い詰められ逆境に陥る度、その魂は輝き運命を覆した。神話の如き闘いに……柚子は見惚れてしまったのだ。

 

『馬鹿な……私が……赤き竜が敗北するなど……!』

 

あれだけ哄笑を上げていた赤き竜のしもべもこの結果に表情を歪ませ、憎々しげにプラシドを睨み付ける。

神が人に敗北したのだ。有り得ていけない結末を、認められる筈がない。屈辱を露とする彼に対し、プラシドは鼻を鳴らして彼に近づく。

 

「神と言えど、カードである以上無敵ではないと言う事だ。さぁ、いただこう。神の力を」

 

『……良いでしょう、善であろうと悪であろうと、勝者にはその権利がある』

 

ドスリ、プラシドの腕が赤き竜のしもべの胸を貫き、1枚のカードを抜き取る。そのカードは、『アルティマヤ・ツィオルキン』。シンクロモンスター最高峰のカードが彼の手に堕ちる。

 

――――――

 

「ヒャハハハハ!君の実力はその程度かい?『機皇帝スキエル∞』で『魔界劇団サッシー・ルーキー』へ攻撃ィ!」

 

「くっ……!」

 

沢渡 シンゴ LP3400→2900

 

沢渡のペンデュラムモンスター、青い毛むくじゃらの髪を揺らし、オーバーオールを着用した『魔界劇団サッシー・ルーキー』が敵である赤髪の少年、ルチアーノが誇る青き合体ロボットモンスター、『機皇帝スキエル∞』に吹き飛ばされ、ビルに激突する。

 

プラシドのワイゼルと同じく5体のモンスターからなるモンスターは、あちらと異なり鳥のような飛行型をしており、攻撃力はやや低い。

だがその分機敏性に長け、こうして沢渡を追い詰めていると言う訳だ。

 

「「「沢渡さん大丈夫ッスかーっ!?」」」

 

「当然だっつーの!テメェ等はそっちの奴等を守っとけ!」

 

沢渡のピンチに子分達が声を上げる。彼等の周囲にはシティの市民達の姿。黒咲と同じく、力なき者をルチアーノの手から守っていると言う事だろう。数は黒咲と違い、かなりのものだが。

それをカバーする為子分達が警戒していると言う訳だ。

当然、アクションカードを取りには行けないが。アクションデュエルを得意とする沢渡としてはかなりの痛手だ。

 

「足手纏いを守らなきゃいけないのは大変だねぇ。同情するよ!まぁ君自身も大した事ないみたいだけど!警戒していたペンデュラムってのも使い手が悪くちゃあねぇ」

 

「何だとクソガキィ!」

 

あからさまな挑発であるが、沢渡には効果覿面。顔を真っ赤にして歯軋りを鳴らす。

 

「他のお仲間もシティ市民を守って苦戦中、守ったところでシティが変わる訳じゃないのにさぁ」

 

「あん?守らなかったら、変わる事も出来ねぇだろうが」

 

ルチアーノの言葉に沢渡はこのシンクロ次元に来る前に、遊矢と会話した事を思い出す。

 

あれはLDSで彼と特訓をした後だったか。2人共にベンチに座り、スポーツドリンクを飲んでいた時、ふと沢渡が彼に問いかけたのだ。

 

「……そういやさお前、俺が昔ペンデュラムカードを奪った事、どう思ってんだ?」

 

「?そんな事あったか?」

 

「……は?」

 

それは遊矢と沢渡が出会った時の事。今思えば最悪の出会いをした時の事だ。その事を、遊矢をすっかり忘れていた。

思わず沢渡はううん?と唸る遊矢を冷めた目で見る。

 

「あーっあったあった。で、何?謝ってくれんの?多分謝らないんだろーけど」

 

「何その嫌な信頼……謝りたくねぇけど」

 

「だろ?まぁ柚子達には謝って欲しいけど、俺は気にしないよ。だって沢渡、変わったじゃん」

 

「……俺が?」

 

くしゃりと微笑む遊矢と呆ける沢渡。確かに、沢渡は悪い事をした。だけど遊矢にはそれを許すだけの訳がある。

 

「舞網チャンピオンシップで皆を助けた。落ち込んでたコナミと俺を励ましてくれた」

 

だから良いんだ、と彼は笑う。それで良いんだと彼は言う。だって沢渡は。

 

「言葉よりも、行動で示すタイプなんだよ」

 

「……」

 

「人は変わる、変われるんだよ」

 

そう言って、嬉しそうに笑う彼の横顔を、沢渡は無言で見つめていた。

 

「人は変わるんだよ。その権利を奪う資格なんざ、テメェにはねぇ!」

 

「「「丸パクリッスよ沢渡さぁーん!」」」

 

あの時の遊矢の言葉をパクりつつ、沢渡はビシリとルチアーノを指差す。そして更に、口を開く。

 

「俺はゲームとかで敵が正論もどきを言うのが大っ嫌いなんだよ!口は一丁前の癖に行動は正しくなんざねぇんだからよ!どんな可哀想な理由を持ってようが、そんな奴等にアレコレ並べ立てられて襲われるコッチの方が可哀想だ!」

 

ルチアーノはかつて未来を救おうと、必死で足掻いた者の1人だ。その為に多くの人間を犠牲にする道を選んだ。何度も何度も試行を繰り返しその果てにその道を選んだ。

それは決して許されない事。ルチアーノとて自覚はしている。

だけどそれしかなかったのだ。犠牲の果てに未来を掴み取る他なかった。彼等を否定する事は出来ても、糾弾する事は誰にも出来ない。

 

「コイツ等は変わるんだよ!俺様のファンに!」

 

いやそれは知らない。感動的な場面にも関わらず、そう叫びたいシティ市民であった。

 

――――――

 

一方、フレンドシップカップ会場、スタジアムにて。ジャック・アトラスとの激闘の果てに敗北し、その魂を燃やし尽くしたたDーホイーラー、ジャック・アトラス・Dの姿を見て、感傷に浸る遊矢の姿があった。

 

「……」

 

遊矢からすれば彼の素性は良く分からないにしろ、敵である事だけは確かだった。彼は倒すべき悪だった筈だ。

だが――遊矢はジャック・Dの事を、いや、ネオ5D'sの事をそこまで嫌いにはなれていない。

 

ロボットだからと言って、命がないとは限らない。その命に、価値がないとは思えない。

だから――彼の死は、遊矢の心に複雑な喪失を抱かせた。

 

もっと自分が何かすれば――彼は、死なずに済んだのではないか。

ジャックを悪役にする訳ではないが、分かり合える道があったのではないかと、烏滸がましいと思っても考えてしまう。

涙は流れない。流す権利は自分には無いから。

 

「あいつ、スゲェ奴だったな」

 

「……クロウ……」

 

そんな遊矢の肩に乗った、何か重たいものを奪うように、隣のクロウが目を細め、遊矢に語りかける。

それは遊矢に話しかけているようで、死したジャック・Dに語りかけているようだった。

 

「確かに悪い奴だろうけどよ、アポリアとか、ZONE……ああお前は知らねぇか……あいつ等と違って、未来を善くしたいとは思ってなかった、正義じゃねぇ悪だ。だけど……スゲェ奴だったよ」

 

「……うん」

 

「だから、可哀想とか思ってやるなよ?あいつはきっと、ジャックと本気のデュエルが出来て満足だったんだ。あいつを本気で理解出来たのは、きっとジャックだけだ。だから――ジャックがあいつを、その、殺しちまったって言う結果は間違いじゃないと思う。正しくはなくても、な」

 

ボリボリと頭を掻いて、クロウは学がないなりに、自分なりに子供である、だけども認めてはいる遊矢を励まそうとする。

お前が気にする事じゃないと、お前が背負う罪じゃないと、大人らしく振る舞おうとする。

遊矢も、それを分かっていて。

 

「……うん」

 

「それによ、あの偽者……いや、あのジャックもそれを受け入れたんだ。ジャックとあっちのジャックが納得した結果なら――俺にもお前にも、誰にも文句を挟む権利はねぇと思う」

 

「……そう、だな」

 

そして、クロウも、あの2人の間で繰り広げられた熱きデュエルの語り合いに、余り口を挟みたくはなかった。

 

「悪い奴だから、ロボットだからって命がない訳じゃねぇし、殺して良い訳はねぇけどよ。お前が気負う必要もねぇんだ……それにあいつもジャックならよ、同情等俺に必要ない!ってキレると思うぜ」

 

「……」

 

それでも不器用に笑うのは、彼なりの遊矢と、ジャック・Dに対する優しさだった。

 

「悲しむな、とか。忘れるな、とかは言わねぇよ。だけど――憐れむな。あいつはスゲェデュエリストだった。スゲェデュエルをした。違うか?」

 

「……ああ」

 

クロウの言葉と共に――遊矢は気持ちと共に、前を向く。頼れる仲間が切り開いてくれる、光差す道を。

 

更に敵地のピットを見ればジャック・アトラス・Dの後続であるクロウ・ホーガンが己のDーホイールに乗り、白コナミと会話する姿があった。

 

「奴だからこそジャックをここまで追い込めた」

 

「……ジャック・Dは負けた割には満足そうだった」

 

白コナミは彼が負けた事は気にする事なく、ボディを半壊させ、己の魂を燃やし尽くしたジャック・Dを見て悲しむ事なく、機体を調整。クロウ・ゴーストの方はそれよりも疑問が先立ち、白コナミへと問いかける。

 

「さて、何故だろうな。お前も、クロウと闘えば分かるのではないか?お前の場合、その辺のこだわりはないようだがな」

 

「……」

 

「成長してみろ、このデュエルで」

 

白コナミの言葉に対し、クロウ・ゴーストはコクリと頷き、白く染まったブラック・バード・アルビオンに搭乗、猛スピードでジャックの背を負う。その背中を、白コナミは無言で見つめていた。

 

「まるで兄弟だな……お前達は……」

 

向けられた白コナミの呟きに――ジャック・Dが答える事は無かった。

 

「さて、次は貴様か、クロウのコピー!」

 

「否定。俺はオリジナルを越えたゴースト。このデッキは新型の『BF』である『ABF』と旧型の『BF』を混合したハイブリッド。更にこの機体はブラック・バードの性能を大きく上回っている」

 

「フ、性能で計れる程デュエルは甘くない」

 

現在のフィールドの状況はクロウ・ゴーストが0。ジャックがエンドフェイズがスキップされた事で破壊を逃れた『巨大化』を装備したエースモンスター、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』と『ダーク・リゾネーター』、『チェーン・リゾネーター』の3体。そしてLPは100。

手札5枚でスタートするクロウ・ゴーストなら簡単に狩れるだろう相手だ。これもジャック・Dのお蔭だろう。負けはしたものの、ギリギリまで削ってくれた。

 

「俺のターン、ドロー。永続魔法、『黒い旋風』を発動」

 

彼の手から1枚のカードが発動され、フィールドに様々な鳥獣の羽を帯びた風が吹く。『BF』を『ガジェット』化する強力なサーチカード。展開力に富み、手札消費が激しい『BF』において必要不可欠なカードだ。当然クロウ・ゴーストもデッキに3枚投入している。

 

「『BFー蒼炎のシュラ』を召喚」

 

BFー蒼炎のシュラ 攻撃力1800

 

現れたのは青と黒の羽毛で覆われた鳥獣戦士。攻撃力は1800。『黒い旋風』内で使うなら優秀なアタッカーだ。

 

「『黒い旋風』の効果発動、『BF』の召喚時、その攻撃力以下の『BF』をサーチする。『BFーそよ風のブリーズ』をサーチ。ブリーズの効果発動、このカードがカード効果によって手札に加わった場合、このカードを手札から特殊召喚する」

 

BFーそよ風のブリーズ 攻撃力1100

 

次は『BF』と言うには余りにかけ離れた明るいオレンジと黄色の羽毛を持ったモンスター。

その効果故に『黒い旋風』とは抜群の相性を誇るカードだ。そしてこのカードはチューナーモンスター。

高速シンクロを狙う『BF』ならば、特殊召喚可能なチューナーと言うのはありがたい。

 

「『BFー黒槍のブラスト』はこのカードと同名以外の『BF』がフィールドに存在する場合手札から特殊召喚が可能」

 

BFー黒槍のブラスト 攻撃力1700

 

更に展開、今度はその異名通り巨大なランスを手に持つ鳥人。赤く染まった頭部とは対照の黒い翼、雄々しい脚部を広げ、ジャックのモンスターを睨む。

シュラには攻撃力では劣るが、特殊召喚が容易な点ではこちらが優れていると言える。

 

「そして『BFー疾風のゲイル』はブラストと同条件で特殊召喚が可能」

 

BFー疾風のゲイル 攻撃力1300

 

『BF』の展開速度はこれだけではおさまらない。恐るべき速度で4体目のモンスターがフィールドに並ぶ。頭部からは緑の羽毛を、体には紫の羽を伸ばしたブラスト同様、群れをなして現れる『BF』。

 

と言ってもこちらはブラストと違い、レベル3のチューナー。しかも戦闘を有利に進める効果を持っており、そのレベルからブリーズの上位互換と言えるカードだ。

成程、クロウを名乗るだけあって彼に劣らぬ『BF』の使い手と言う事かとジャックは口を一文字に結ぶ。

 

だが本当に恐ろしいのは、ここまで彼が一切新型の『BF』を使っていないと言う事だ。旧型の完成度が高いと言う事もあるが、これで新型を織り混ぜればどれ程の速度と化すのか。

 

「レベル4のブラストに、レベル3のブリーズをチューニング。漆黒の翼翻し雷鳴と共に走れ!電光の斬擊!シンクロ召喚!降り注げ、『ABFー驟雨のライキリ』!」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600

 

そして新型が現れる。稲光がフィールドに降り注ぎ、人影が見えた時には既に遅く、クロウの隣に新たなモンスターが姿を見せる。

これまでの『BF』とは大きく異なる外見に、ジャックが目を細める。

 

人型に鳥を模した鎧兜を纏わせ、背から漆黒の鳥羽の左翼、機械の右翼を伸ばし、美しい波紋を輝かせる日本刀を手にした武人のモンスター。

しかしただの人間と言う訳ではないらしく、脚部は鳥のそのものと化している。

『ABF』より鋭く、より攻撃的になった『BF』がジャックを襲う。

 

「『ABF』……成程、これが新型か」

 

ジャックもクロウも、クロウ・ゴーストに関しては情報がない。ベンチで控える遊矢がクロウへた彼の情報を伝える。未知の敵程怖いものはない。

 

「『BF』モンスターを素材としてシンクロ召喚したこのカードはチューナーとして扱う」

 

「シンクロチューナーか……それだけであるまい?」

 

「ライキリの第2の効果。1ターンに1度、このカード以外の『BF』の数まで相手フィールドのカードを対象に取り、破壊する」

 

「何だと……!?」

 

クロウが持つ『BF』とは異なる破壊的な効果にジャックが目を見開く。これが『ABF』、新型だ。

今までの『BF』とは違う切り口のアプローチ。従来の『BF』を活かしつつ、足りない部分を補う実に利にかなった強化。展開力を伸ばしつつ手が届かなかった所を補助するコンセプト。

 

これは中々不味いかもしれない。クロウが彼の相手をするとなると、単純に言えば『ABF』がある分クロウ・ゴーストが有利になるかもしれないと言う事だ。

 

同じ『BF』使いなら、強い方が勝つ。

 

「破壊するのは『レッド・デーモンズ・ドラゴン』と『ダーク・リゾネーター』」

 

ライキリが刀に雷を纏わせ、居合いの要領で飛来する斬擊を放つ。まるで横薙ぎに降り注ぐ稲妻。目にも止まらぬ速さで魔竜と『ダーク・リゾネーター』を貫き、ズドン、と遅れて雷鳴が轟く。

 

「チッ、ここまでか……!」

 

残るジャックのモンスターは『チェーン・リゾネーター』1体のみ。これではクロウ・ゴーストの猛攻は防げないだろう。あのジャック・Dとの激戦の後だ、仕方無いと言えばそれまでだが。

 

「レベル4のシュラにレベル3のゲイルをチューニング!シンクロ召喚!『BFTー漆黒のホーク・ジョー』!」

 

BFTー漆黒のホーク・ジョー 攻撃力2600

 

2連続シンクロ召喚。次に現れたのもクロウが持たぬ『BF』モンスター。テイマーの名の通り、『BF』達を活かす事に長けたモンスターだ。

 

獅子の鬣のように伸びた赤髪に左肩が鳥の嘴になるように作られた黄金の鎧。左手ではギラギラと猛禽の爪が輝いており、背中からは黒い羽が広がっている。

ライキリと後1体を合わせ、『BF』の3羽烏の1枚だ。

 

「カードを2枚セット、バトル。ライキリで『チェーン・リゾネーター』へ攻撃!」

 

ジャック・アトラス LP100→0

 

「ッ!」

 

ライキリが翼を広げて滑空、その勢いのまま刀を振るい、ジャックのLPを削り取る。これで一対一、勝負はまだイーブンだ。

ジャックの愛機、ホイール・オブ・フォーチュンが白煙を上げて停止し、クロウ・ホーガンへとバトンを繋ぐ。

 

「ナイスファイトだジャック!アイツの事は俺に任せな!」

 

「気をつけろ、相当やるぞ」

 

「ハッ、強敵相手なんぞ慣れてるっつーの!むしろその方が燃えるってもんだろ?」

 

「違いない、さぁ行けクロウ!チーム5D'sの鉄砲玉の力、思い知らせてやれ!」

 

「応よ!」

 

パン、クロウとジャックがハイタッチを交わし、乾いた音が響く。そんな中、クロウはブラック・バードを走らせながら過去に思いを馳せる。

 

チーム5D'sの皆で、互いの夢に向かって走り、それぞれ異なる道へ進んだ時の事を。自らの誇りでもあるチーム5D'sのリーダーとハイタッチを交わした時の事を。

 

(お前は今どこで何をしているのかねぇ……おっと、昔を思うのは後だ。今は……過去より未来の事を、だ!)

 

だが相手は新型の『BF』使い。つまり未来の『BF』を使う者。何とも皮肉な話だ。未来を掴み取る為に、未来と闘うとは。まるであの時のようだ。

 

「行くぜ偽物野郎!この鉄砲玉のクロウ様がぶち抜いてやるぜ!」

 

「否定、旧型しか扱えないクロウ・ホーガンが俺に勝つ確率、17%」

 

「充分だ!」

 

『チームARCー5D's、セカンドホイーラーはクロウ・ホーガン!『BF』使い同士が今対決する!』

 

ユーゴ相手に圧倒的な速度を見せつけたクロウ。

しかしクロウ・ゴーストは新たな『BF』を所持している以上、更に上の速度を行くだろう。あの時のように、デッキ切れは狙えなさそうだが。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

クロウ・ゴーストのターンが強制的に終了し、クロウにターンが渡る。デッキよりカードを1枚引き抜き、手札が6枚に。

だが残念な事にこの中に『黒い旋風』はない。ここで遅れを取るのは少々不味い。

 

「ライキリが破壊効果持ちでホーク・ジョーが対象変更と蘇生効果持ち。ここでアーマード・ウィングまで来たら確かに面倒だな……」

 

遊矢から聞いた情報を元に戦術を組み立てる。新型と旧型の『BF』を合わせたクロウ・ゴーストは本当に厄介だ。

 

破壊のライキリに蘇生のホーク・ジョー。更にここにクロウも持っている『BFーアーマード・ウィング』が加われば戦闘破壊耐性と相手モンスターの弱体化が揃い、真っ先に蘇生効果を持っているホーク・ジョーを狙っても、アーマード・ウィングへ対象を移され、攻撃であれば弱体化に繋がる。面倒なものだ。

ここはセオリー通り、ホーク・ジョーを集中して狙うべきだ。

 

「墓地の『アマリリース』を除外し、『BFー追い風のアリゼ』のリリースを軽減し召喚!」

 

BFー追い風のアリゼ 攻撃力1200

 

「俺のフィールドに同名以外の『BF』モンスターが1体のみ存在する場合、手札の『BFー白夜のグラディウス』は特殊召喚出来る!」

 

BFー白夜のグラディウス 守備力1500

 

次は白銀の鎧を纏い、二振りのナイフを握るモンスター。レベルは3と同条件で特殊召喚出来る非チューナー、ブラストと差別化が出来る。

 

「次は同名以外の『BF』が存在する事で、『BFー突風のオロシ』を特殊召喚!」

 

BFー突風のオロシ 守備力600

 

続けて現れたのはレベル1チューナー、顎から赤く染まった瘤を生やした特徴的な鳥獣族モンスター。

 

「あらよっと、『BFー疾風のゲイル』を特殊召喚!」

 

BFー疾風のゲイル 攻撃力1300

 

そして4体目、クロウ・ゴーストと同じように『BF』が群れをなして並ぶ。単体でも充分に優秀なチューナーだ。

 

「ゲイルの効果発動!ホーク・ジョーの攻守を半分にする!」

 

「通す」

 

BFTー漆黒のホーク・ジョー 攻撃力2600→1300

 

ターン1の相手モンスターの攻守半減。ちなみにこの効果は永続だ。ターンを跨いでも半減された攻守は戻らない厄介極まりないもの。

にも関わらず、クロウ・ゴーストは通した。いや、通さざるを得なかったのだ。クロウのフィールドにはチューナーと非チューナーが2体揃っている。つまり2体のシンクロモンスターを警戒しているのだ。

ホーク・ジョーさえ死守すれば巻き返しは充分に効く。

 

「レベル3のグラディウスに、レベル3のゲイルをチューニング!シンクロ召喚!『BFー星影のノートゥング』!」

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2400

 

そしてシンクロ召喚、現れたのは逞しい人間の肉体に猛禽の頭部、手に美しい波紋が広がる剣を持ったモンスター。汎用レベル6シンクロモンスターであり、『BF』で使用すればより真価を発揮すると言う優秀なカードだ。

『BF』の召喚権を増やす効果を持つ為、『黒い旋風』と相性が良く、展開力の底上げが出来る。

 

「ノートゥングが特殊召喚に成功した事でお前に800のダメージを与え、ライキリの攻守を800ダウンする!そして墓地の『レッド・ミラー』を回収!」

 

クロウ・ゴースト LP4000→3200

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600→1800

 

バーンと対象を取らない弱体化。効果発動の条件はシンクロ召喚ではなく、特殊召喚の為、ホーク・ジョーの蘇生でとOKな訳だ。

クロウ・ゴーストがこの事を知らない訳がない為、狙う事もあるだろう。

頭に警戒すべき項目を増やし、クロウは更なる加速を求める為に右腕を天に掲げる。

 

「レベル5のアリゼに、レベル1のオロシをチューニング!漆黒の力!大いなる翼に宿りて、神風を巻き起こせ!シンクロ召喚!吹き荒べ、『BFーアームズ・ウィング』!」

 

BFーアームズ・ウィング 攻撃力2300

 

2連続シンクロ、ノートゥングと並んで現れたのは頭部から赤い羽根を伸ばし、嘴の中に青く輝くビー玉のようやモノアイ、黒い鎧と機械の翼、肩と尾羽を生やしたシンクロモンスター。その手には銃剣を持っており、軽装甲と合わせて攻撃的なカードである事がうかがい知れる。

 

「シンクロ素材として墓地に送られた突風のオロシの効果発動!ライキリを守備表示に変更!更にアリゼの効果でLPを600回復!」

 

「罠発動、『ブラック・リターン』!」

 

「何ぃ!?」

 

しかし、クロウ・ゴーストはこの瞬間こそを待っていた。チャキリと彼のマシンアイが鳴ると共にリバースカードが静かに立ち上がり、その正体を見た途端にクロウは驚愕する。『ブラック・リターン』。その効果は。

 

「このカードは『BF』モンスター1体が特殊召喚された時、相手フィールドのモンスター1体を対象とし、発動可能。対象モンスターの攻撃力分、LPを回復し、対象モンスターをバウンスする」

 

ライフゲインとバウンス効果。そしてこの状況で最も肝となるのは『BF』が特殊召喚された時と言う起動条件。

 

そう、この『BF』、何も自分のとは書かれていないのだ。敵味方問わず、『BF』の特殊召喚時に発動可能。

つまりこのカードは『BF』のサポートカードでありながらメタカード、『ガトムズの緊急指令』等と同じカードなのだ。

 

「『BF』使いだから、その弱点を知ってるって事かい……!」

 

「先程の盤面においてクロウ・ホーガンがノートゥングとアームズ・ウィングを並べる確率、91%」

 

「読まれてたって訳か、ムカつく野郎だ……!」

 

「対象に取るのはアームズ・ウィング」

 

クロウ・ホーガン LP4000→4600

 

クロウ・ゴースト LP3200→5500

 

アームズ・ウィングには守備表示モンスターを攻撃した際、攻撃力アップ効果と貫通効果を持つ。オロシの表示形式変更効果も合わせ、大ダメージを与えつつ、2体の攻撃でクロウ・ゴーストのモンスターを全滅させようとしていたのだろうが、クロウ・ゴーストはその考えを見抜いていた。

 

「クソッ、バトルだ!ノートゥングでホーク・ジョーへ攻撃!」

 

「ホーク・ジョーの効果発動。攻撃対象をライキリへ変更」

 

ノートゥングが大剣を振り回し、ライキリが持つ刀を折り砕き、返す刃で鎧を切り裂く。

しかし現在ライキリはオロシの効果で表示形式を変更してしまった為、ダメージを与えられない。

ライキリ自体も次のターン、ホーク・ジョーの効果で蘇生されるだろうが、シンクロ素材を蘇生される事もあるだろう。ライキリを蘇生出来るより、蘇生せざるを得ない状況にしておきたい。

多少の差だろうが、やらないよりマシだ。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、罠発動、『デルタ・クロウーアンチ・リバース』」

 

「ッ!?」

 

更にクロウを追い詰める一手が放たれる。絶句し、苦虫を噛み潰したような表情となるクロウ。無理もない、このカードの効果は。

 

「自分フィールドに『BF』が存在する場合、相手フィールドにセットされた魔法、罠を破壊する」

 

セット限定、罠カードの『BF』専用『ハーピィの羽帚』。魔法カードと違い、速度は違うが、だからこそ罠の利点、エンドサイクのような真似が出来る。

 

それも全体除去でだ。セットされたばかりのカードは発動出来る筈もなく、バキリとガラスがひび割れるようにソリッドビジョンのカードが砕け散る。

 

「クロウ・ホーガンが2枚以上のカードをセットする確率、75%」

 

「ハッ、そうかよ。だがこれは予想出来たか!?破壊された罠カード、『BFーマイン』の効果発動!セットされたこのカードが相手カードの効果で破壊された時、俺のフィールドに『BF』がいる事でテメェに1000のダメージを与え、俺はデッキから1枚ドローする!」

 

クロウ・ゴースト LP5500→4500

 

クロウ・ホーガン 手札1→2

 

「ッ!」

 

「ちったぁ顔色変わったか?」

 

仕掛けられていた地雷がクロウ・ゴーストにダメージを与え、クロウに新たな手札を与える。

これは流石のクロウ・ゴーストも予想していなかったのか、眉を伏せ、表情を歪める。

 

クロウ・ホーガン LP4600

フィールド『BFー星影のノートゥング』(攻撃表示)

手札2

 

互いに互いの1ターン目を終える。しかし同じ『BF』使いと言えど、現在有利なのは――新型を持つ、クロウ・ゴースト。

やはりカードプールから違う以上、数歩の遅れが差を別つ。この差をどうにかして埋めないとクロウに勝ち目はないと考えて良い。

 

デッキタイプが全く異なるジャックとジャック・Dとは違うのだ。浮き彫りになるスペックの差に、クロウが悔しげに表情を歪める。

それでも何とか追いすがれているのは経験の差、百戦錬磨のクロウだからだ。

 

「俺のターン、ドロー!『BFー上弦のピナーカ』を召喚」

 

BFー上弦のピナーカ 攻撃力1200

 

クロウ・ゴーストの手から召喚されたカードを見て、クロウが小さく舌打ちを鳴らす。それもその筈、ニヤケ顔で弓をつがえるこの鳥獣は『BF』の中では優秀なサーチカードなのだから。

だがサーチにはこのカードをフィールドから墓地に送らねばならない。

シンクロ素材にするならばもう1体『BF』が必要。『黒い旋風』で相方を呼ぶとしてもその攻撃力は1100以下、しかも召喚権を使った今、特殊召喚出来る。モンスターでなければならない。

クロウの知る限りそんなモンスターは――。

 

「『黒い旋風』の効果により、『BFー砂塵のハルマッタン』をサーチ、同名以外の『BF』が存在する事で特殊召喚する」

 

BFー砂塵のハルマッタン 守備力800

 

「ああ……そういや遊矢が言ってたなぁ!」

 

クロウが知る限りでいなくとも、相手はクロウも知らない『BF』を使う敵。癪なものだ。幼き頃から共に闘った『BF』の情報でクロウが劣るとは。子供染みた独占欲が沸いてくる。

 

「パクリ野郎が……事務所に許可通してねぇだろ!裁判になったら勝てるぞ!弁護士呼べ弁護士!」

 

「否定、俺は決してパクリではない。強いて言うならばミュウとミュウツーのような……」

 

「俺の思い出を汚すな!」

 

「ではウォーグレイモンとブラックウォーグレイモン……いやむしろウォーグレイモンとウォーグレイモンX抗体のような……」

 

「ええい、いきなり親しみやすくなるようなギャップを出すな!」

 

少々サブカルに染まっているのはロジェのせいである。

 

「ターンを続行、レベル2のハルマッタンに、レベル3のピナーカをチューニング。黒き烈風よ、絆を紡ぐ追い風となれ!シンクロ召喚!飛び立て、『ABFー五月雨のソハヤ』!」

 

ABFー五月雨のソハヤ 攻撃力1500

 

雷が降り注ぎ、光の柱から飛び出したのは青い甲冑を纏った鳥人剣士。複数枚積む事で真価を発揮する面白いカードだ。

 

「『BF』を素材としたこのカードはライキリ同様、チューナーとなる。そしてこのカードのシンクロ召喚時、墓地の『ABF』モンスター、『ABFー驟雨のライキリ』を蘇生する」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600

 

「ライキリの効果発動。ノートゥングを破壊する」

 

「チィッ!」

 

切り裂かれるノートゥング。先のターンのお返しとばかりの一撃だ。クロウは下唇を噛み、眉を吊り上げる。認めたくないが、確かにこのカードは『BF』の弱点を補っている。それにホーク・ジョーも厄介だ。

 

これでクロウのモンスターは0、対するクロウ・ゴーストはシンクロモンスターが3体。

更にクロウ・ゴーストの場にはチューナーと非チューナーが揃っている。手を緩める事なく更なる展開へ移る。

 

「レベル7のライキリに、レベル5のソハヤをチューニング!漆黒の翼よ!雷の力宿して鮮烈に轟け!シンクロ召喚!切り裂け!『ABFー神立ちのオニマル』!!」

 

ABFー神立ちのオニマル 攻撃力3000

 

シンクロモンスターとシンクロチューナーの2体を組み合わせてのシンクロ。ライキリとソハヤ、2体分の雷を纏って現れたのは最高レベル12の『ABF』。

 

漆黒の鎧の各所に引かれた山吹色の線が映え、右肩からは美しい黒の翼、左肩からは幾つもの鋭い刃の鎌を重ねたような翼が伸びており、肩、手甲、脚部の装甲で輝く稲妻模様からバチバチと電光が迸っている。

その手に握るは雷のジグザグ軌道を象った黒い刃の刀。

 

荘厳でありながら、どこか荒々しさを感じさせるモンスターを前に思わずクロウが息を呑む。

レベル12、攻撃力3000の超大型シンクロ。つまりクロウの『BF』には無い、切り札級のパワー。1体で全てをねじ伏せるであろう突破力だ。序盤からここまでのカードを出して来るとは。

 

「『BF』を素材とした事でチューナー化、そしてオニマルは効果で破壊されない。ホーク・ジョーの効果発動。墓地のライキリを蘇生する」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600

 

「バトル。オニマルでダイレクトアタック。シンクロモンスターのみを素材としてシンクロ召喚したこのカードが攻撃する場合、ダメージステップの間、このカードの攻撃力は3000アップする。サンダーボルトフラップ」

 

「させるかよ!墓地の『光の護封霊剣』を除外し、このターンのダイレクトアタックを防ぐ!更に手札の『レッド・ミラー』を墓地に送り、墓地の『レッド・スプリンター』を回収!」

 

あわやワンショット・キル、頭上から降り注ぐ雷をオニマルが刀で受け止め、グルリと回転して電撃を黄金の刃として発射、クロウを狙い撃つ。

しかしこの程度で終わる程クロウ・ホーガンはやわじゃない。

 

彼等のチーム、5D'sのリーダーとバーニングソウルを持ち、圧倒的なパワースタイルで闘うジャック・アトラスとは違い、クロウには彼だけが持つ派手な個性はない。

確かにスピードやテクニック、展開力は一級品。

だが、チーム、5D'sの敵は何時もその一級品以上、クロウはそんな格上達が相手でも一歩も引かず、とんでもないしぶとさを武器に闘って来たのだ。縁の下の力持ち、と言うのは間違いなく彼だ。

 

彼がいなければツートップの個性が強いチームは瓦解する可能性すらあった。船頭多くして船山に上ると言うように、クロウは2人の間を繋ぐ巨大な橋、ダイダロスブリッジだった。

 

そんな持ち前のしぶとさで墓地の罠を使うと言うトリッキーさを披露、地から出現した光の剣が今度はオニマルの斬撃を防ぐ盾となる。

コモンズの泥臭さも思わせる、トリックスターの妙技、そんな何時も通りの彼のデュエルを見て、ジャックが得意気に鼻を鳴らす。

 

「これ位は当たり前だ。奴は昔からそうだった。確かにクロウはクリアマインドやバーニングソウル等のシンクロの先もなければ鬼柳のような圧倒的な実力を持っている訳でもない。だがそれでも奴は俺達と常に肩を並べて来た。それで推して知るべしだろう」

 

それがどれだけとんでもない事か、ジャックは知っているのだから。

 

「奴が仲間でいる。それがどれ程頼もしい事か。貴様等には分かるまい。だから……奴が敵でいる事がどれ程の脅威か、身をもって知るが良い」

 

ニヤリ、とジャックが底意地の悪い笑みを浮かべる。だが。

 

「知るのは貴様等だ」

 

その上で、白コナミは嘲笑う。

 

「貴様等が相手にしているのは、そのクロウ・ホーガンの先を行くものである事を」

 

オリジナルとコピー、どちらが勝るのか、それはこのデュエルの結果にこそ表れる。

 

「ターンエンド。この瞬間、ピナーカの効果でデッキから『BFー月影のカルート』をサーチ」

 

クロウ・ゴースト LP4500

フィールド『ABFー神立のオニマル』(攻撃表示)『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)『BFTー漆黒のホーク・ジョー』(攻撃表示)

『黒い旋風』

手札1

 

襲いかかる『BF』使い、クロウ・ゴースト。自らのデッキを強化し、神速の域に達した敵を相手に、クロウ・ホーガンは苦戦を強いられる。

ジリジリと力負けしていく中、果たしてクロウは活路を見出だす事が出来るのか。

セカンドホイーラーのミラーマッチは、更に続く。

 



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第184話 飛べ、ブラック・バード

改めて考えると

中断以外負けなし、カードを組み合わせたコンボで爆発的なデュエルをし、スターダスト系列による強固な防御力を誇るクリアマインド&セイヴァー持ちの遊星。

パワーパワーとワシのじゃ……的な事を言っているがテクニカルなデュエルも出来、口も達者なバーニングソウル&セイヴァー持ちジャック。

そんな2人に対してクロウはシグナー竜以外特殊なカードを持っていないにも関わらず、明確に食い下がって、時として勝利に貢献しているんですよね。
とんでもねぇ化物だなコイツ。

尚この3人+場合によってコナミ君とか言う癖のありすぎるイカれメンバーを纏め上げ、中断さえなければ遊星に黒星をつけた鬼柳とか言う一般人。
なんなのコイツ……?



何故、と『失楽の聖女』は考える。

何故、神はこの身を見捨てたもうたのか。

 

神が夕食後に楽しみにしていた聖杯を盗み、一気にあおって飲み、いや不味いわと捨てたからか?

否、そんな事はない筈だ。

 

ならば神が大事にしていた聖槍を盗み出し、勢い良く投げ過ぎて地上にポイしてしまったからか?

否、そんな事もない筈だ。

 

ならば神の宝物である聖典を盗んでくしゃみをし、鼻水をべっとりとつけたからか?

むしろ感謝して欲しい。

 

考える度に理由が思いつかない。何故、神は聖女に怒り、この身を堕天させたのか。

もしかしたら神の器は思った以上に小さいのかもしれない。

そう思えばふつふつと彼女に怒りが沸いて来る。沸いているのは頭だと思うが(辛辣)。

何故聖女たるこの身がこんな目に合わなくてはならないのか。

彼女は神への復讐を誓い、その為に仲間を集う。

 

「と言う訳よ。デュエリスト、私と共に神を倒し、この世界の神となりましょう!」

 

「頭おかしいんじゃねぇのお前」

 

類友である。

 

ーーーーーー

 

「ふむ……予想していた事とは言え、凄まじい事になっているな、外は」

 

シンクロ次元、シティ、治安維持局デュエルルームにて。長官、ジャン・ミシェル・ロジェは目を細めながら外界の様子を観察していた。

遥か上空に浮かぶアーククレイドルの存在。プラシド曰くこの地に根差す守り神、赤き竜とやらを捕らえる為に用意したと言っていた為、ロジェに動揺はないが、こうして見るとやはり恐ろしいものだ。

ゴクリと生唾を呑み込む中、ガタリ、背後のドアが開き、1人の男と少女が現れる。

 

「来たかプラシド。そして初めまして……」

 

ニヤリと口角を持ち上げ、実に悪役らしい笑みでこちらを睨む少女を見据える。

ピンク色の髪をツインテールに結び、サファイアの瞳、白とピンクのライダースーツを身につけた少女、そう、彼女こそロジェ達アカデミアが狙う者の1人。

 

「柊 柚子さん……?」

 

「……貴方は……?」

 

「失敬、早とちりしてしまいましたね。私は治安維持局長官、ジャン・ミシェル・ロジェ。また、アカデミアではシンクロ次元における全指揮を担当させていただいております」

 

アカデミア、と言う言葉を聞き、柚子の唇がキュッ、と固く引き締められる。

この男が、このシンクロ次元におけるアカデミアの親玉。柚子が警戒を引き上げる中、ロジェはハァ、と溜め息を吐き、頭を抑える。

 

「最初は大変だったのですよ?少ない部下と共にここに来て、何とか長官まで登り詰め、なったらなったで部下は引き上げ、プラシドと2人だけで頑張って。それは良い、それは良いのです。必要な苦労なら問題ない。だが……だがっ……!お面ホイーラーは、あの阿呆の世話だけはっ……!長官の仕事じゃないだろうっ!無駄な苦労だろうっ!」

 

「た、大変なのね、悪の親玉も……」

 

ダンッ、机に拳を叩きつけ、最早涙すら流すロジェに対し、柚子が頬を引き吊らせて同情する。黒咲や沢渡辺りが聞けばザマァねぇぜと呟くだろうが。

 

「同情する必要はないぞ。悪の親玉なんだからな」

 

「プラシド貴様っ!」

 

尤もである。

 

「ですがそれも報われる。プラシドが手に入れた赤き竜の力を使い、このシティを私の国に……!」

 

瞬間、ズカンッ、大きな音を立て、部屋のドアが木っ端微塵に破壊される。

 

「なんなんだよもぉぉぉぉぉっ!!」

 

膝をつき叫ぶロジェ。そんな彼を、ダイナミック入室してきた赤馬 零児は、冷たい目で見下していた。

 

――――――

 

「どうした小僧、その程度か」

 

「ぐっ……!」

 

シティの中心部、ビル群が並ぶ高層エリアにて。権現坂 昇がボロボロになって膝をついていた。

彼が相手取るデュエリストは巨大な体躯を誇る老人。そう、老人だ。イリアステル三皇帝、ホセ。長く伸ばした髭を手ですき、マスクで覆われた口からくぐもった声を出す。

 

彼のフィールドに存在するのはプラシド、ルチアーノも扱う『機皇帝』が一角、『機皇帝グランエル∞』。下半身が戦車のような車両型となっている合体ロボットだ。

眩いオレンジカラーを煌めかせ、右腕に盾を、左腕が銃となったモンスター。その胸部には何と、権現坂のエースモンスター、『超重荒神スサノーO』の姿。

 

黒咲達に対しては効果を発揮出来なかったが、彼等の『機皇帝』シリーズが持つ異名はシンクロキラー。つまりシンクロモンスターの力を吸収してパワーアップすると言う個性を持っているのだ。

当然シンクロ使いである権現坂にはその効果が深く突き刺さり、苦戦を強いられていると言う訳だ。

しかもこのホセは三皇帝の中でも最強。一番の年長者だけあり、慎重なデュエルタクティクスを練り、隙を見せてくれない。

 

そして権現坂の背後には、コモンズとトップスの少年の姿。恐らく2人で遊んでいたのだろう。幼いからこそ垣根を気にしていない彼等は、今では怯えて肩を震わせている。

 

「もう諦めたらどうだ?貴様等がどう足掻いてもアーククレイドルはどうにも出来ん。その子供達のように、例え最初は希望にすがっていも、私のように成長するにつれ、自らの無力に絶望するのだ。皮肉なものだ。もしも今その子供を守っても、彼等は未来で学び、知り、格差を自覚する。そして貴様は絶望する。争う彼等を見て、何の為に闘っていたのだと」

 

ホセが目を細め、自らの過去、いや、この場合は未来だろうか。を思い返し、経験を元に権現坂達に忠告する。

絶望と言う名の毒を、優しく、権現坂に勧めているように。

お前は良くやった、と。だから休めと。その姿はまるで、人々に絶望を与える番人か、若人を想う先人か。

優しく甘い誘惑。差し伸べられた手に、権現坂は。

 

「……年寄りの世迷い言だ」

 

「……何?」

 

鼻で笑って、切り捨てる。

 

「何故貴様がこの子達の未来を決める?何故貴様が俺の未来を決める?貴様のデュエル、大樹のように地に根差したデュエル、尊敬すらした。だがどうやら間違いだったようだ」

 

「何が、言いたい……?」

 

「貴様のデュエルは不動などではない!ただ諦めただけだ!希望にすがる事を、未来に進む事を!自ら枯れ果てた樹が、若葉の芽を摘もうとするな!」

 

思い返すは自らの親友。どこまでも諦めの悪い少年の事。彼は例え自分が傷つき、ボロボロになったとしても、決して絆を諦めない。

倒れても倒れても、立ち上がって来た。不動の心で突き進んで来た。

最早自分が守る事も必要のなくなった彼。権現坂はそんな彼の成長に深く感動し、同時に少し嫉妬してしまった。まるで自分が置き去りになったかのように思って。

自分はどうすれば良いのだろうと迷って。そんな中、多くのデュエリストと出会い、闘う間、権現坂は様々な想いに触れ、決心した。

彼は守る必要がない程成長した。自分よりも前に。ならば彼と肩を並べられるよう、努力しようと。彼に負けない男になろうと。

 

「見せてやる……俺達の、未来の可能性を!」

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

一方、シティを包むように設置されたサーキット。ビル群の明かりが浮かぶ中、クロウはDーホイールのデュエルディスク、デッキホルダーからカードを1枚引き抜く。

相手は自らをコピーし、その上で強化したクロウ・ゴースト。そんな彼のデュエルに苦戦は必至、状況は不利に傾いている。

だがここでクロウが負ければ……その時点でチームARCー5D'sは敗北するだろう。

遊矢は決して弱くない。過去を忘れていて、情報の差があったとは言えジャックを倒す程の実力らある。

だが、このクロウ・ゴーストを倒した上でラストホイーラー、白コナミの相手をしなければならないと来れば。そんな事、ジャックにもクロウにも出来ない。

 

「ここでコイツを止めなきゃゲームオーバーってか。とんだクソゲーだぜ……!魔法カード、『シンクロ・クリード』!互いのフィールドにシンクロモンスターが3体以上存在する事で2枚ドロー!」

 

クロウ・ホーガン 手札1→3

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』を発動。『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

確かに『BF』の戦力、カードプールはクロウ・ゴーストの方が広く深い。対応力の差は大きいが、これはチーム戦。

ジャックが残してくれた『レッド・ミラー』を活用し、カードプールの差を埋める。

ジャックもチームプレーを覚えたんだなと謎の感動をしながら炎の黒馬を呼び出す。

 

「『レッド・スプリンター』の効果発動。墓地の『レッド・リゾネーター』を特殊召喚するぜ!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「『レッド・リゾネーター』の効果発動!オニマルの攻撃力分、回復!」

 

クロウ・ホーガン LP4600→7600

 

ジャックが愛用するモンスター、『レッド・リゾネーター』が現れ、音叉を鳴らす。波打つ音はオニマルへと響き、力を吸収、クロウへと注がれる。

 

「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『BFー星影のノートゥング』!」

 

BFー星影のノートゥング 守備力1600

 

「ノートゥングの効果発動!ライキリの攻守をダウン!『レッド・ミラー』を回収!」

 

クロウ・ゴースト LP4500→3700

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600→1800

 

少しずつ、少しずつだがダメージを与えていく。地道であれど、800のダメージは馬鹿に出来ないのだ。

 

「バトル!ノートゥングでライキリへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『回避』!攻撃を無効に!」

 

「カードを1枚セット、墓地の『ADチェンジャー』を除外、ノートゥングを守備表示にする。ターンエンドだ」

 

クロウ・ホーガン LP7600

フィールド『BFー星影のノートゥング』(守備表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー。ライキリの効果発動。ノートゥングとセットカードを破壊」

 

「アクションマジック、『ミラー・バリア』!ノートゥングを効果破壊から守るぜ。更に破壊されたリバースカードは『運命の発掘』!墓地に存在するこのカードの数までドローする!墓地には……このカードを合わせ、4枚だ!」

 

「4枚……ジャック・アトラスの『モンスター・ゲート』……!」

 

ジャックのカードを最大限に利用しての大量ドロー。上手い立ち回りだ。このチーム戦のメリットを活かすのもクロウの強みと言える。

 

クロウ・ホーガン 手札1→5

 

「『BFー月影のカルート』を召喚」

 

BFー月影のカルート 攻撃力1400

 

現れたのは黄色と赤の鶏冠を持つゲイルに似たモンスター。本来は強力な手札誘発としての運用が基本となるが、手札のモンスターがこのカードのみの登場だ。

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー疾風のゲイル』をサーチ」

 

「特殊召喚」

 

BFー疾風のゲイル 攻撃力1300

 

「効果発動。ノートゥングの攻守を半分に」

 

BFー星影のノートゥング 守備力1600→800

 

「レベル3のカルートに、レベル3のゲイルをチューニング。漆黒の力!大いなる翼に宿りて、神風を巻き起こせ!シンクロ召喚!吹き荒べ、『BFーアームズ・ウィング』!」

 

BFーアームズ・ウィング 攻撃力2300

 

守備固めすら許さない。そう言わんばかりに新たなモンスター、アームズ・ウィングが呼び出される。

攻撃力アップに貫通効果を持ったこのカードを呼ぶと言う事は、防御に徹しても無駄と威嚇しているのだろう。

 

「ホーク・ジョーの効果により、ソハヤを蘇生」

 

ABFー五月雨のソハヤ 攻撃力1500

 

「カードをセット、バトル、アームズ・ウィングでノートゥングへ攻撃。この瞬間、攻撃力を500アップ。ブラック・チャージ!」

 

「『レッド・ミラー』を『レッド・スプリンター』と交換!更に手札の『BFー蒼天のジェット』を捨て、ノートゥングを戦闘破壊から守る!」

 

「だがダメージは受けてもらう」

 

BFーアームズ・ウィング 攻撃力2300→2800

 

クロウ・ホーガン LP7600→5600

 

「ぐぁっ!?」

 

アームズ・ウィングがノートゥングの振るう剣をかわして接近、高速で切り結ぶ中、一瞬の隙を突き、右足を潜り込ませ、ノートゥングの剣をかち上げる。

ノートゥングが宙をクルクルと舞う剣に気を取られる中、アームズ・ウィングは銃剣の切っ先を向け、カシャリとスライド、がら空きの腹に向かって銃撃を連射する。

ズドドドド、と激しき音が轟いてノートゥングが後退、余りにも強い衝撃は背後のクロウにも伝わり、体勢がふらつく。

 

「ホーク・ジョーでノートゥングへ攻撃」

 

だがクロウ・ゴーストの猛攻は終わらない。アームズ・ウィングの背後でホーク・ジョーが飛び立ち、翼を折り畳み、弾丸の如く飛来、神速の突きでノートゥングの耐久力の薄くなった腹を破る。

 

「オニマルでダイレクトアタック」

 

「この瞬間、手札の『BFー熱風のギブリ』の効果発動!特殊召喚する!」

 

BFー熱風のギブリ 守備力1600

 

ピンチの連続、一撃防いでも次の一撃がクロウに降りかかり、気を休める事も許してくれない。それにオニマルの、攻撃力6000の攻撃だけは防がなければならない。

クロウの手札からふさふさとした赤い鶏冠と身の丈以上ある巨大な羽を6枚3対伸ばした雛鳥が現れ、翼を前方に突き出し、オニマルの刀を防ぐ盾となる。

 

「攻撃変更、オニマルでギブリへ攻撃」

 

しかしどんな盾を使ってもこのオニマルの攻撃は防げまい。容易くギブリが切り裂かれ、直ぐ様がら空きになってしまう。

 

「ライキリでダイレクトアタック」

 

「アクションマジック、『フレイム・チェーン』!ライキリの攻撃力を400ダウン!」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力1800→1400

 

クロウ・ホーガン LP5600→4200

 

「うっ……!」

 

「ソハヤでダイレクトアタック」

 

クロウ・ホーガン LP4200→2700

 

「ずあっ……!?」

 

淡々と、ただひたすら機械的な声と共に『BF』が群れをなしてクロウへ襲いかかる。『レッド・リゾネーター』の効果で回復していなかったら今頃LPは0を刻んでいただろう。

 

「ターンエンド」

 

クロウ・ゴースト LP3700

フィールド『ABFー神立のオニマル』(攻撃表示)『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)『ABFー五月雨のソハヤ』(攻撃表示)『BFTー漆黒のホーク・ジョー』(攻撃表示)『BFーアームズ・ウィング』(攻撃表示)

『黒い旋風』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満な壺』!エクストラデッキから6体のモンスターを裏側表示で除外し、2枚ドロー!」

 

クロウ・ホーガン 手札3→5

 

「良し、引けたぜ、こっちもな!永続魔法、『黒い旋風』!『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

「『レッド・リゾネーター』を蘇生!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「『レッド・リゾネーター』の効果により、オニマルの攻撃力分回復!」

 

クロウ・ホーガン LP2700→5700

 

「レベル4の『レッド・スプリンター』に、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『BFー星影のノートゥング』!」

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2400

 

「ノートゥングの効果発動!オニマルの攻守をダウン!『レッド・ミラー』も回収だ!」

 

「罠発動、『シンクロ・バリアー』。ソハヤをリリースし、次のターン終了までダメージを0に」

 

ABFー神立のオニマル 攻撃力3000→2200

 

「そしてノートゥングの効果により、『BF』の召喚権を増やす。俺が召喚するのは『BFー極北のブリザード』!」

 

BFー極北のブリザード 攻撃力1300

 

現れたのは広い嘴と白い羽毛が特徴的な『BF』。『BF』なのに白とは如何に、と思いかもしれないが、このカードはかなり優秀だ。

 

「ブリザードの効果発動!このカードの召喚時、墓地のグラディウスを特殊召喚する!更に『黒い旋風』の効果でオロシをサーチ!」

 

BFー白夜のグラディウス 守備力1500

 

「レベル3のグラディウスに、レベル2のブリザードをチューニング!シンクロ召喚!『BFー煌星のグラム』!」

 

BFー煌星のグラム 攻撃力2200

 

2連続シンクロ召喚。相も変わらず飛ばすクロウの元に現れたのは、金を散りばめた白銀の鎧を纏う鳥人剣士。ノートゥングの大剣とは対をなす片手剣。柄が鳥の脚を模した片刃の得物を振るい、クロウ・ゴーストに敵意を示す。

 

「グラムの効果発動!手札から『BFー鉄鎖のフェーン』を特殊召喚!」

 

BFー鉄鎖のフェーン 守備力800

 

「魔法カード、『モンスター・ゲート』!フェーンをリリースし、デッキから通常召喚可能なモンスターが出るまでカードを墓地へ!1、2……『BFー蒼炎のシュラ』!」

 

BFー蒼炎のシュラ 攻撃力1800

 

「オロシを特殊召喚!」

 

BFー突風のオロシ 守備力600

 

「突き放してやるよ!レベル5のグラムに、レベル1のオロシをチューニング!シンクロ召喚!『BFーアームズ・ウィング』!」

 

BFーアームズ・ウィング 攻撃力2300

 

続けて3連続シンクロ召喚。クロウ・ゴーストに負けじとギアを上げ、アクセルを全開にする。スタミナ切れもお構いなしだ。

 

「オロシの効果でオニマルを守備表示に変更。バトル!蒼炎のシュラでオニマルへ攻撃!」

 

高い攻撃性を誇るオニマルであるが、弱点はある。例えばその守備力。2000と案外打たれ弱く、弱体化すれば簡単に下級モンスターに負けてしまう。これでオニマル突破。厄介なモンスターを倒した。

 

「シュラの効果により、デッキから『BFー尖鋭のポーラ』をリクルート!」

 

BFー尖鋭のポーラ 攻撃力1300

 

ここはピナーカを出し、次なるシンクロへ繋げたい所だが、それでは厄介なモンスターを1体残す心配がある。我慢し、召喚したのはスカーフを巻いたキザっぽい鳥人だ。

『BF』では珍しい墓地発動効果を持った上級モンスター。攻撃力は1300とかなり低い。

 

「ノートゥングでホーク・ジョーへ攻撃!」

 

「攻撃変更!ライキリに移す!」

 

「ハッ、気づきやがったか!ならポーラでホーク・ジョーを、アームズ・ウィング同士で相撃ちを狙うぜ!」

 

相撃ちと言うかなり泥臭い攻撃だが、これでクロウ・ゴーストのモンスターを全滅させた。一気に形勢逆転。『BF』使いのベテランとして意地を見せる。

 

「どうだ!腕じゃ負けねぇんだよ!俺はこれでターンエンド!」

 

クロウ・ホーガン LP5700

フィールド『BFー星影のノートゥング』(攻撃表示)『BFー蒼炎のシュラ』(攻撃表示)

『黒い旋風』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!デッキから10枚のカードを除外し、2枚ドロー!」

 

クロウ・ゴースト 手札0→2

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』を発動。『BFー逆巻きのトルネード』を召喚!」

 

BFー逆巻きのトルネード 攻撃力1000

 

ピンチに陥り、計算が狂ったのかクロウ・ゴーストが珍しく声を荒げながら新たなモンスターを呼び込む。ブリザードと似た効果を持ったレベル4の『BF』。尤も、こちらは非チューナーであるが。

 

「トルネードの効果でピナーカを蘇生!旋風の効果で『BFー大旆のヴァーユ』をサーチ」

 

BFー上弦のピナーカ 守備力1000

 

「レベル4のトルネードに、レベル3のピナーカをチューニング!漆黒の翼濡らし、そぼ降る雨に響け、雷鳴の一撃!シンクロ召喚!突き抜けろ!『ABFー涙雨のチドリ』!」

 

ABFー涙雨のチドリ 攻撃力2600→6800

 

1枚で直ぐ様素材を確保し、シンクロ召喚。現れたのは翼に何枚もの刃を隠した鳥人剣士。ライキリと同じ刀剣の銘を持つカードだ。攻撃力も同じ。と思いきや、登場した途端、爆発的に跳ね上がる。

 

「他の『ABF』同様、チューナー化する効果を持ち、墓地の『BF』の数×300攻撃力をアップする!」

 

「それで攻撃力6800か……次々とヤバい奴出しやがって……!」

 

オニマルを倒したと思ったら今度はオニマルより高い攻撃力を持つモンスターの登場。クロウとしては勘弁して欲しい所だ。

 

「バトル!チドリでシュラへ攻撃!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外、ノートゥングに攻撃を絞る!」

 

「ノートゥングへ攻撃!攻撃宣言時、アクションマジック、『オーバー・ソード』!チドリの攻撃力を500アップ!雷鳴の一撃ライトニング・スラッシュ!」

 

BFー涙雨のチドリ 攻撃力6800→7300

 

クロウ・ホーガン LP5800→800

 

「『レッド・ミラー』と『レッド・スプリンター』を交換っ、ぐわぁぁぁぁっ!?」

 

一刀両断。チドリが目にも止まらぬ速度で空を駆け、降り立ち際に切れ味鋭い刀でノートゥングを真っ二つに切り裂く。更に刀から青い雷光がバチバチと広がり、クロウに大量のダメージを与える。プスプスと黒煙を上げ、苦悶の表情を浮かべるクロウ。間一髪命を繋いでいるが、風前の灯火だ。

 

「上等だぜクソッタレ……!百倍返しにしてやらぁ!」

 

「ターンエンド。ピナーカの効果で『BFー月影のカルート』をサーチする」

 

クロウ・ゴースト LP3700

フィールド『ABFー涙雨のチドリ』(攻撃表示)

『黒い旋風』

手札2

 

クロウのLPは800、対するクロウ・ゴーストのLPは3700。かなりの差が開いているが、それで諦めるクロウではない。この程度の逆境は昔から慣れているからだ。

それに先程のホーク・ジョー+オニマルの布陣よりは遥かにマシ。チドリ1体のみなら気が楽だ。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『一時休戦』を発動!」

 

クロウ・ホーガン 手札1→2

 

クロウ・ゴースト 手札2→3

 

「『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

「魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

クロウ・ホーガン 手札0→3

 

骨が何本折れようが、気骨さえ残っていればクロウにもそれで充分なのだから。肋骨がイカれていてもライディングデュエルを続ける男は違うのだ。

 

「墓地の『ネクロ・ディフェンダー』を除外し、『レッド・スプリンター』に耐性を与え、同じく墓地のポーラを除外し、シュラを対象に効果発動!このターン、対象のモンスターは戦闘破壊されず、ダメージも0になり、戦闘を行ったモンスターをダメージ計算後に破壊する!バトル!シュラでチドリへ攻撃!」

 

「ッ!」

 

先程のターン、シュラの効果でポーラを選んだのもこの時の為だ。また強力なモンスターが出た際の、先を見越した対策。流石は年期が違うと言う事か。

経験の差が物を言う。チドリがシュラの喉突きを受け、爆発し、黒煙が吹き上げクロウ・ゴーストの機体が揺れる。

 

「よっしゃあ!見たかこのヤロー!新型だか何だか知らねぇが、鉄砲玉のクロウ様を嘗めんじゃねぇ!」

 

しかし。

 

「あ……ん?」

 

黒煙が逆巻き、クロウ・ゴーストのフィールドでどんどん凝縮。人型の影を作り出し、その背中から漆黒の翼が伸びていく。そして――バシュン、竜巻のようになった煙が、内部から切り裂かれ、次なる刺客を呼び起こす。

 

ABFー神立のオニマル 攻撃力3000

 

「ッ、蘇生効果かよ……!」

 

「チドリが破壊された事で、墓地の鳥獣族シンクロモンスターを蘇生する」

 

「そういや遊矢が言ってたなぁ……俺はカード3枚をセット、ターンエンドだ」

 

クロウ・ホーガン LP800

フィールド『BFー蒼炎のシュラ』(攻撃表示)『レッド・スプリンター』(攻撃表示)

『黒い旋風』セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動!『ゴッドバードアタック』!シュラをリリースし、オニマルと『黒い旋風』を破壊する!」

 

「ッ!だがオニマルは効果で破壊されない!」

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』!オニマルの効果を無効にするぜ!更に罠発動!『異次元グランド』!このターン墓地に送られるモンスターは除外される!これで突破だ!」

 

ABFー神立のオニマル 攻撃力3000→3400

 

抜け目のなさも一流。速度で負けても上手さで負けていない。

 

「魔法カード、『強欲で謙虚な壺』。デッキトップの3枚を確認し、『虚無空間』を手札に。モンスターをセット、永続魔法、『強欲なカケラ』を発動。カードを1枚セットしてターンエンド」

 

クロウ・ゴースト LP3700

フィールド セットモンスター

『強欲なカケラ』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動!2枚ドロー!」

 

クロウ・ホーガン 手札0→2

 

「『レッド・スプリンター』をリリース、アドバンス召喚!『BFー漆黒のエルフェン』!」

 

BFー漆黒のエルフェン 攻撃力2200

 

現れたのは真っ黒に彩られた鳥の被り物と翼を広げたホーク・ジョーと同じ異名の『BF』。仲間がいればリリース無しで召喚出来る優秀さを持つのだが、クロウのフィールドに他の『BF』はいない。

 

「エルフェンの効果でセットモンスターを攻撃表示に変更、『黒い旋風』の効果発動!」

 

「永続罠、『虚無空間』を発動!」

 

「『BFー月影のカルート』をサーチ!」

 

エルフェンの効果でクロウ・ゴーストのフィールドにセットされていたモンスターの正体が明らかとなる。学ランを纏い、下駄を履いた小さな鳥獣族モンスター。

クロウの思った通り、『BFー大旆のヴァーユ』だ。攻撃力は僅か800。だがこのカードをセットしていたと言う事は、クロウ・ゴーストの手札にあるのは自分『BF』の攻撃力を1400アップする『BFー月影のカルート』。つまりヴァーユは攻撃力2200となり、エルフェンと相打つ事となる。

クロウもそうなる事を見越し、手札にカルートを呼んだのだが。

 

「速攻魔法、『魔力の泉』!3枚ドローしてアクションカードを含めた3枚を捨てる!」

 

クロウ・ホーガン 手札2→5→2

 

「バトル!エルフェンでヴァーユへ攻撃!手札のカルートを切る!」

 

BFー漆黒のエルフェン 攻撃力2200→3600

 

「ッ」

 

クロウ・ゴースト LP3700→900

 

ここでカルートを切ってもダメージを抑えるだけ。攻撃を受けてもLPは残ると踏んだのだろう、クロウ・ゴーストは一瞬考え込んだ後、無言で攻撃を受け止める。

 

「カードをセット、ターンエンドだ!」

 

クロウ・ホーガン LP800

フィールド『BFー漆黒のエルフェン』(攻撃表示)

『黒い旋風』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!カケラに強欲カウンターが乗る!」

 

強欲なカケラ 強欲カウンター0→1

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『虚無空間』をコストに2枚ドロー!」

 

クロウ・ゴースト 手札1→3

 

「墓地に存在するヴァーユの効果を発動!このカードと墓地のチドリを除外し、合計レベルとなる『BF』シンクロモンスターをエクストラデッキから特殊召喚する!吹き荒べ嵐よ!鋼鉄の意志と光の速さを得て、その姿を昇華せよ!『BFー孤高のシルバー・ウィンド』!」

 

BFー孤高のシルバー・ウィンド 攻撃力2800

 

呼び出されたのは銀色の翼を持ち、嘴状の被り物を纏ったレベル8の『BF』シンクロモンスター。素材が重く、シンクロ召喚しにくいが為、こうしてヴァーユを経由して呼び出される事が多いモンスターだ。

クロウ・ゴーストも例に漏れず、クロウと似た方法で召喚に出た。

 

「この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効となる。カードをセット、バトル!シルバー・ウィンドでエルフェンへ攻撃!カルートを墓地に送り、攻撃力アップ!」

 

BFー孤高のシルバー・ウィンド 攻撃力2800→4200

 

「罠発動!『パワー・ウォール』!デッキから4枚のカードを墓地に送り、ダメージを0にする!」

 

「止め、られたっ……!?」

 

粘り強く、自身の猛攻に耐え抜くクロウのデュエルにクロウ・ゴーストが動揺を見せる。

何故、開始時点では間違いなくクロウ・ゴーストは優勢だった筈。にも関わらず、たった1ターンで逆転され、今ではクロウ・ゴーストの方がペースを握ろうと焦っている。

狂う計算、想定を超える戦術。一体何が起こっているのか分からない。性能ではクロウ・ゴーストが上回っており、これは事実なのに、新型のクロウに、旧型のクロウが互角以上に渡り合っている。

 

「どうした新型、何時まで経っても自分が勝てねぇのが、そんなに不思議か?」

 

「ッ」

 

「分からねぇなら教えてやるよ。それはテメェに、テメェ自身がねぇからだ」

 

「俺、自身……?」

 

「自分が自分自身である個性、それが余りにも薄っぺらいんだよ。自分の意志が、闘う理由が、負けられねぇ理由がねぇんだよ。それに、テメェが『BF』を使う理由もな!」

 

「何を……」

 

「デッキに自分がこれっぽちも乗ってねぇ。勝ちたいからとかデッキが好きだからとか、何だって良い。だがテメェはそのデッキを使えと言われたから使ってるだけだろうが!」

 

クロウ・ホーガンとクロウ・ゴーストの違い。その最も大きいのはこれだろう。クロウは自らが望んだからこそ闘っている。シティで暮らす仲間や子供達を守りたいから闘い、『BF』が好きだから使っている。仲間以前に自分自身が望んだからここにいる。

 

だが、クロウ・ゴーストにはそれがない。自分の意志もなく、そうしろと言われたから闘い、使えと言われたから『BF』を使い、自分自身の意志で何かをしたいと思った事もない。

そこには大きな壁がある。いくら性能を上げても決して埋まらぬ差が。

 

ジャック・Dにはそれがあった。自分自身の意志が。彼はジャック・アトラスの偽物であったが、同時に本物のジャック・アトラス・Dだった。

ジャック・Dとクロウ・ゴーストは偽物同士。そこに違いはない?否、違うのだ。

 

「俺が俺である理由……そんなもの、教えてもらって……」

 

「それは教えてもらうもんじゃねぇ。自分で見つけるもんなんだよ」

 

ジャックは己の偽物と闘った訳じゃない。ジャック・アトラス・Dと言う1人のデュエリストと闘った。

ただの偽物ではなく、ジャック・Dだからこそ1度敗北したのだ。ただの偽物ごときに、誰かも分からぬ者に、クロウは負けない。

 

「墓地へ送られた『絶対王バック・ジャック』の効果でデッキトップを操作するぜ!」

 

「~~~ッ、ターンエンドだ!」

 

「バック・ジャックを除外しデッキトップの罠をセットだ」

 

クロウ・ゴースト LP900

フィールド『BFー孤高のシルバー・ウィンド』(攻撃表示)

『強欲なカケラ』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『BFー精鋭のゼピュロス』を召喚!」

 

BFー精鋭のゼピュロス 攻撃力1600

 

現れたのはエルフェン達と同じく嘴の被り物を被り、強固な鎧を纏った鳥人。攻撃力は1600。準アタッカークラスと決して高くないが、このカードの強みは別の所にある。

 

「『黒い旋風』の効果でデッキからゲイルをサーチ、特殊召喚する!」

 

BFー疾風のゲイル 攻撃力1300

 

「ゲイルの効果発動!シルバー・ウィンドの攻守を半分にする!」

 

BFー孤高のシルバー・ウィンド 攻撃力2800→1400

 

「レベル4のゼピュロスに、レベル3のゲイルをチューニング!黒き旋風よ、天空に駆け上がる翼となれ!シンクロ召喚!『BFーアーマード・ウィング』!」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、クロウのフィールドに現れたのは鳥獣と言うには余りにも生物感のない、機械族と思ってしまうような2足歩行の黒い機械鳥。

漆黒に煌めく美しいボディに頭部の嘴の中で赤のマシンアイが怪しく輝く。

『BF』の中で、クロウが最も信頼し、長い間連れ添って来たシンクロモンスターだ。

 

「『レッド・ミラー』を回収。墓地の『ギャラクシー・サイクロン』を除外して『強欲なカケラ』を破壊!バトル!アーマード・ウィングで攻撃!ブラック・ハリケーン!」

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!戦闘ダメージを0に!」

 

「こっちもアクションマジック、『セカンド・アタック』!アーマード・ウィングに2回目の攻撃権を与える!ダイレクトアタックだ!」

 

「罠発動!『フェイク・フェザー』!手札の『BF』を墓地に送り、お前の墓地に存在するカード、『リジェクト・リボーン』の効果をコピーする!」

 

「ッ、こいつは……!」

 

クロウ・ゴーストのマシンアイが音を鳴らし、クロウの墓地のカードを捉える。『リジェクト・リボーン』。このカードはクロウのカードではない。『モンスター・ゲート』により、ジャックのデッキから落とされたカードだ。

クロウがジャックのカードを利用したように、クロウも墓地のカードを利用して来た。しかもこちらは、相手のカードを。

 

「相手のダイレクトアタック時、墓地のシンクロモンスター、『ABFー五月雨のソハヤ』と『シンクローン・リゾネーター』を特殊召喚する!」

 

ABFー五月雨のソハヤ 守備力2000

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

『BF』専用の『墓荒らし』のような効果。トリッキーな罠カードを前に、クロウの猛攻が遮断される。『リジェクト・リボーン』の効果で蘇生したモンスターの効果は無効化されるが、素材として使用するなら問題はない。

 

「ターンエンドだ」

 

クロウ・ホーガン LP800

フィールド『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)

『黒い旋風』セット1

手札1

 

サーキットを駆け抜ける黒と白のDーホイール。本物と偽物のデュエリスト。

自分を持たぬ敵を相手に、クロウは自分を武器に優勢に立つ。

そんな中、クロウ・ゴーストは冷静さを欠き、己のアイデンティティーに大きく苦悩する。このまま彼は負けるのか、それとも。




まさかアームド・ドラゴンが強化されるとは……効果がサンダーを意識しまくってて面白いですね。
こう言うの見るとつい作中で使いたくなります。万丈目さんや沢渡さんはデュエル構成も楽しいですし。


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第185話 我が名はクロウ

シャーマンキングが再アニメ化するとか何とか。
完全版集めたりしてたんで嬉しいです。



まるで、黒い大海だと『切り込み隊長』は考える。

見渡す限り敵、敵、敵、敵意の波が戦場を濡らす。部隊とは分断され、今や彼の背後を任せられる仲間は数人。敵は数千。

絶望しか感じないだろう、そう、彼と出会う前ならば。

今は不思議と恐怖すらも感じない。

 

「フフ、参っちゃうわね全く……!」

 

「余計な口を叩くなマッスラー」

 

彼の右隣で巨大な注射器なメスを構えるのは、隆々とした筋肉で衛生服を弾けんばかりに膨らませた男、『衛生兵マッスラー』。

普段ならば遥か背後の陣営にて戦士の治療を行う者だが、今は彼の好意で戦場に参戦している。その腕は正しく一騎当千。そんな力があるならば最初から戦士として志願しろと言いたくなって来る。

 

「そう言うな、お前も彼には助けられているだろう」

 

「……フッ、そうですね……」

 

左隣で剣を構える、金の長髪と口髭、銀の鎧が特徴的な彼等の将、『無敵将軍フリード』が軽い口調で『切り込み隊長』をたしなめる。

彼もまた、将ながらも前線で残ってくれた。ならば、ここで負ける訳にはいくまい。

 

「ハッ、安心しな、この俺様が全員薙ぎ倒してやるからよぉ!」

 

「頼もしいな、ガガギゴ……!」

 

『切り込み隊長』の前で啖呵を切ったのは、煌めく鎧を纏う竜人、彼とフリードの戦友、『覚醒の勇士ガガギゴ』だ。

少し前は敵軍に洗脳され、敵として立ち塞がった事もあるが――今ではそれが頼もしい。

彼とこうして肩を並べ、共に戦えるのも――『切り込み隊長』の背後にいる男のお陰と言って良い。

 

「お前にも暴れてもらうぞ……デュエリストよ!」

 

「……ああ!」

 

背中を合わせた帽子の、デュエルディスクを構えた少年が言うと共に、彼等は地を蹴り、敵軍に襲いかかった――。

 

ーーーーーー

 

「何故だ、何故、何故、何故私の邪魔をする!赤馬 零児ィッ!」

 

シティの中心部に建築された巨大なビル。治安維持局のデュエルルームにて、1人の男が半狂乱になりながら侵入者を睨み付け叫んでいた。

男の名は、ジャン・ミシェル・ロジェ。このシティにおける権威者、治安維持局の長官であり、融合次元、アカデミアの幹部、シンクロ次元統括指揮官だ。

そして侵入者は、アカデミアに対抗するスタンダード次元精鋭部隊、ランス・ディフェンス・ソルジャーズ、通称ランサーズを纏めるリーダーにしてアカデミアの親玉、赤馬 零王の息子、赤馬 零児。

敵対する2つの組織におけるリーダーが今、相対していた。

 

「何故、だと?決まっている。貴様達の目論見を全て、叩き潰す為だ!アカデミア!」

 

ロジェの疑問に、零児が一喝する。彼にしては珍しく感情を剥き出しにし、怒りを露にしている様子だ。

眉間に皺を寄せ、眉を吊り上げる零児を見て、柚子が呆然とする。何時も冷徹とも言える彼の鉄面皮しか見ていない為、意外に思っているのだろう。

 

「くっ、プラシドォッ!」

 

「悪いが無理だな。赤き竜を相手に消耗しているんだ。そんな状態で赤馬 零児と闘うとなると厳しい。それに……俺も俺で、こいつの相手をせねばならん」

 

焦りを浮かべ、プラシドに助けを求めるも、一蹴される。流石のプラシドも神を相手にして、タダで済んでいる筈がない。既にボロボロの状態。とは言えそれでも零児相手に厳しいで済ませる辺り、実力の底が見えないが。

 

しかもプラシドの前に立つは、零児の部下、風魔 月影。

彼がプラシドをマークするようにデュエルディスクを構えている。

 

グッ、と唇を噛むロジェ。どうすればと悩む中、零児の背後に大きな影が現れる。

 

「ッ!?」

 

「おお、セルゲイ!」

 

銀色の短髪に、巨大な体躯。顔から首元にかけて幾つものマーカーを刻んだ男、セルゲイ・ヴォルコフ。

遊矢との対決で大破し、今まで治療を受けていたロジェの忠実なる僕が無感情な表情を浮かべ、そこに佇んでいた。

 

「ククク、フハハハハ!よくぞ来てくれたセルゲイ!さぁ、お前の前にいる赤馬 零児を叩き潰してやれ!」

 

心強い味方の登場に、180度態度を変え掌を返して哄笑を上げるロジェ。

彼にとってセルゲイは実力を度外視して信頼する部下だ。プラシドよりも、白コナミよりも。何故なら彼が、一から手塩をかけて育て上げた者なのだから。だから。

 

「……お断りします」

 

「……は?」

 

彼の言葉が、理解出来なかった。

 

「……き、聞き間違いか?セルゲイ。今、お前が私の命令を拒んだように聞こえたが……」

 

頬を引き吊らせ、プルプルと指先を震わせながらセルゲイを差すロジェ。誰の目にも分かる程の動揺っぷりだ。

いや、ロジェだけでなく柚子や零児、プラシドまでもが動揺していた。無理もない、セルゲイは、ロジェの忠実なる僕なのだ。それが反抗するとは誰も思うまい。

 

「お断りしますと言ったのです。ロジェ長官」

 

「何故だ……何故、お前が裏切る!」

 

「榊 遊矢と言う男に、惚れたからです」

 

「な、に……!?」

 

「ええっ!?」

 

思わず柚子が頬を赤らめ、声を出す。セルゲイがロジェに歯向かう理由、それは。

 

「俺は榊 遊矢とデュエルしました。彼と剥き出しの裸でぶつかり合いました。彼の心に触れました。その中で俺は彼を好きになってしまいました。だから彼の夢を手伝いたいのです。彼が悲しむ事をやりたくないのです。彼の笑顔を見たいのです」

 

遊矢とデュエルしてしまったから。真っ直ぐな想いに触れたから。彼と言う男に、惚れ込んでしまったから。彼を、美しいと思ったから。だからセルゲイは、ロジェを止めに来た。

 

「本当の美しさを教えてくれた彼を、俺を救ってくれた彼を、今度は俺が救いたい。だから、間違っている貴方を、止めに来ました。貴方には助けてもらった恩義も、長い年月を共にした情もある。だからこそ、俺が貴方を止めに来たのです」

 

「反抗期と言う訳かセルゲイ……!許さん、許さんぞ!貴様をたぶらかした榊 遊矢等認めるものか!」

 

「子は何時しか巣立つもの、それが今になっただけの事です!」

 

向かい合う父と子、その姿を見て、零児は少々羨ましいと思い目を細める。何時かセルゲイのように、怯む事なく父と向き合えるだろうかと唇を引き締めて、彼に負けぬよう、隣に並ぶ。

 

「止まるなら今の内だぞ、ジャン・ミシェル・ロジェ!」

 

「誰が、誰が止まるものかっ!今更止まれるかぁっ!我等がアカデミアの前に、私の野望の前に立ち塞がると言うなら、セルゲイ!例え貴様が相手だろうと倒してくれるわ!私自らの手で朽ち果てるが良い!」

 

激情のまま、デュエルディスクを構えるロジェ。しかしプラシドから見れば赤馬 零児とセルゲイ・ヴォルコフを相手に、ロジェが勝てる筈がないと判断する。だから、その手にある1枚のカードを、ロジェへと投げ渡す。

 

「ッ!プラシド……っ?」

 

「受け取れ、ロジェ。赤き竜の力、その身に宿すが良い」

 

渡したカードは神のカード。赤き竜の力本体を宿した白いカード。『アルティマヤ・ツィオルキン』が、ロジェのデッキに入り込む。

 

「お、おお……これは……力が、力が漲る!漲るぞぉぉぉぉっ!!」

 

突如として深紅に染まったオーラがロジェを包み込み、彼の背中に赤き竜の痣が浮き出る。吹き荒れる赤黒の突風がビシビシと壁を軋ませ、窓ガラスをひび割る。更にロジェの足元から雷光が迸って砕く。

とんでもない力の奔流、氾濫した激流のような光景に零児とセルゲイが腕を交差させて顔を守り、ジリジリと後退させられる。

 

「くっ、何が……!」

 

「オオオオオッ!!」

 

そして、ロジェが雄叫びを上げると共に、服の内部にある筋肉が膨張、貧弱だった筈のロジェがボディビルダーも顔負けの肉体を得、服を破り捨てる。

 

「フハ、ハハハハハ!これこそが王の力!私こそがこの国をおさめる王、いや、神だぁっ!」

 

事態、急転。

 

――――――

 

「ヒャーハッハッハッハァッ!やれぇ!『地縛神CcapacApu』!ダイレクトアタック!」

 

「やらせるかよぉ!墓地の『仁王立ち』を除外し、その攻撃を『インフェルニティ・デス・ドラゴン』に移す!」

 

シティの下層、コモンズ街にて。ここでもプラシドが用意したゴーストと闘うデュエリストがいた。

グレーのコートを纏う、淡い水色の長髪の男、このシンクロ次元において最強格とされる男、鬼柳 京介だ。

そんな彼と対するは淡い水色の髪に、青いラインが走ったローブを羽織る、黒い眼に金の瞳と言う、異常な虹彩の男、鬼柳 京介。

そう、ジャックやクロウと同じ対本人用に作られたゴーストだ。とは言えジャック・Dのような異常進化していないゴースト程度で鬼柳の実力が引き出せる筈もなく、当然数段劣るが。

 

「チッ、まさかダークシグナー時代の俺が相手とはなぁ!」

 

「そうだ!この時こそが、鬼柳 京介が最も輝いていた時!永続罠、『ディメンション・ガーディアン』の効果で、俺のCcapacApuは戦闘、効果で破壊されねぇ!」

 

「冗談キツいっつーの!墓地の『復活の福音』を除外し、『インフェルニティ・デス・ドラゴン』の破壊を防ぐ!」

 

天を突く程に大きな巨人が身体に浮き上がった青いラインを輝かせ、腕を鬼柳へ振るう。しかしその直前、間に昆虫のような腕を持つ黒い竜が滑り込み、スモークのブレスを放って押し戻す。

この通り猛攻をしかけるダークシグナー鬼柳であるが、オリジナル鬼柳には上手くかわされるばかり。このままでは埒があかないと考える中、彼等の傍に忍び寄る影が1つ。

 

「クク、流石は鬼柳 京介と言った所か、奴相手に1人でな分が悪いか……」

 

銀にも近い白髪に褐色の肌、ダークシグナー鬼柳と同じく、死者である事を示す黒い眼。赤いラインを走らせた黒のローブ。

ルドガー・ゴドウィン。かつてジャック達がチーム5D'sと呼ばれる前に死闘を繰り広げた男だ。その性格は策略家にして冷酷非道。

味方には慈悲を与えるが、敵には苛烈なまでの悪意を見せる男だ。蜘蛛の巣の如く張り巡らせた2重3重もの策で獲物を絡め取る慎重さを持つ男、今回も最も脅威となる鬼を仕留める為、こうして出向いたのだ。

 

「余裕そうだが、2人相手ならば貴様とて苦しいだろう?鬼柳よ!」

 

バサリ、ローブを翻し、2人の鬼柳が対峙する場に降り立つルドガー。ニヤリと悪意を込めた笑みを浮かべる彼に、2人が振り向き、似て非なる表情を見せる。

 

「ルドガー……テメェまでいるとはな……ゴーストとは言え、複雑な気分だぜ……!」

 

「チッ、俺1人で充分と言いたい所だが……仕方ねぇ、来たからには手伝ってもらうぜ。勝って満足させてもらおうか!」

 

「言われるまでもない。さぁ鬼柳。貴様を闇の底に叩き落としてやろう……!」

 

ダークシグナーNo.1とNo.2の揃い踏み。この2人相手では流石の鬼柳だろうと勝てるか分からない。例え1人落としても、その隙に鬼柳が倒れる事は充分にありえる。頬に汗を垂らし、ギリッ、歯軋りを鳴らす鬼柳。

そんな、彼の下に。

 

「させっかよぉっ!」

 

「ッ!誰だッ!?」

 

新たなる来客が降り立つ。この場の誰よりも小柄な身体、頭にはヘルメットとゴーグルを被り、ライダースーツとスカーフを巻いた少年。彼は鬼柳を守るように彼の背後に、そしてルドガーの前方に割り込み、左腕に装着したデュエルディスクから光輝くプレートを展開する。

 

「貴様はっ!?」

 

「セクト……ッ!」

 

伊集院 セクト。チームサティスファクションのメンバーで、鬼柳 京介の弟分だった少年だ。

そう、だった。彼はプラシドによって憎悪を刺激させられてたとは言え、鬼柳に対して明確に敵意を持ち、それをぶつけてしまった。切欠はどうあれ、その負の感情は本物だったのだ。どの面下げて……と言う気持ちはある。だがそれでも。

 

「アニキ……俺……」

 

鬼柳を助けたいと言うこの思いも、本物だ。

 

「伊集院 セクト。貴様何をしに来た?まさか今更鬼柳を助けようと等言うまい?裏切り者の貴様が!」

 

「そぉうだ。俺には分かるぜぇ。信じていた仲間に裏切られ、陥れられたんだ。憎くて仕方ねぇよなぁ。俺もお前も同じ鬼柳なんだ。言ってやれよ!もうお前の面なんざ見たくねぇってなぁ!」

 

「ッ……!」

 

その脇からダークシグナー2人が口元を歪め、セクトの罪悪感を重くする。策謀家のルドガーと、鬼柳の想いを代弁するかのようなダークシグナー鬼柳の言葉が、深くセクトの心に突き刺さる。

 

「確かに、そうだな」

 

「ッ」

 

ポツリと鬼柳が溢す。誰でもない本人の言葉だ。セクトは思わず泣きそうになる。仕方ない事だ。セクトはそれだけの事をした。それだけの事を言ってしまった。許されない事は重々承知している。

 

「昔の、俺ならな」

 

「え……?」

 

「……何?」

 

だが、その先の言葉に、全員が戸惑い、鬼柳へ視線を向ける。それは、どう言う。

 

「人間、変わるもんなんだよ。確かに、昔の俺なら間違いなく憎んでたろうなぁ。その結果がお前だ。だけどよ、所詮過去の残像でしかねぇテメェ等が今の俺を決めんじゃねぇ。今の俺達の繋がりを決めんじゃねぇよ。俺達の絆は、俺達が決める」

 

「アニ、キ……」

 

ダークシグナー鬼柳も、ルドガーも、既にこの世に存在しない。そしてこの2人は、彼等のゴーストでしかない。そんなものに鬼柳は自分達の事を語らせる事は、断固として許さない。

 

「背中、任せたぜ、セクト」

 

トンッ、鬼柳がその大きな背中を、セクトの小さな背中に預けるように軽くぶつける。その瞬間、セクトはまた、思わず泣きそうになる。

あんな事をしたのに、彼はこんな自分を心から信頼してくれている。

苦しい。許される事が。嬉しい。彼の背中を守れる事が。

自分には過ぎた背中。セクトとは違う大きな背中。今はまだ、セクトとは吊り合わないものだ。だけど、何時か、この背中が、この重みが軽くなるように、大きな男に、なりたいと思った。未来を守りたいと思った。

 

「へへっ……!アニキも負けんじゃねぇぞ!アンタを倒すのは、この俺なんだからよぉ!」

 

シンクロ次元、最強のコンビが駆け抜ける。

 

――――――

 

ジャック・アトラス・D、クロウ・ゴースト。この2人は他のゴースト同様に、プラシドが製造したもの……と言う訳ではない。

詳しく言うのならば、プラシドが破壊されたこの2人を別次元からサルベージし、改造したものだ。

 

もしもジャック・アトラスやクロウ・ホーガンが記憶を取り戻した際、対抗出来るように現在に合わせて発展させた機体。

 

しかし――改造の際、大きな誤算があった。ジャック・アトラス・Dの自我の発現である。

プラシドはそもそも、2人を意思なきロボットとして、使いやすい兵士として改造したつもりだった。

だが、何が原因か、ジャック・Dには失われた世界の記憶があり、ジャック・アトラスに対するライバル意識があった。

 

自我を消そうかとも悩んだものの、ジャック・Dには自らを復活に至らせたプラシドに対する恩義があり、ジャックと闘えさえすれば彼の命令には特別逆らう事もない。

何より彼は強かった。ひたすらに、単純に、強かったのだ。

 

これを手放すのは惜しいとプラシドは考えた。偶然の、奇跡で産み出された最強のゴースト。

不安要素の自我はあれど、充分な範囲でコントロールは可能。

彼はジャック・アトラスとは全く異なる個体であれど、ジャック・アトラスに勝るだろうとさえプラシドは確信した。

 

しかし、プラシドはこの偶然に頼る事を良しとはしなかった。

故にクロウ・ゴーストは本来のコンセプトで開発する事にしたのだ。

本来のコンセプト――それは、オリジナルであるクロウ・ホーガンを単純に上回る事。プラシドの目論見通り、それは叶った。

ジャック・Dの時のように、過去の記憶が蘇るような奇跡もなく、彼はクロウ・ホーガンの上位互換として産み出されたのだ。

 

当時の……いや、現在の性能で至ってもジャック・Dはクロウ・ゴーストを上回る。

しかし、プラシドはクロウ・ゴーストは学習の果てにジャック・Dをも超えるだろうと考えた。

クロウ・ゴーストはジャック・Dより最新の機体だ。ジャック・Dは機械にして天然の怪物なれど、クロウ・ゴーストの成長性は目を見張るものがある。

 

別次元にて、破壊される前のクロウ・ゴーストを開発した男はこう語る、「こいつこそ、最強のゴースト」だと。

故に、プラシドはクロウ・ゴーストの成長性に賭けた。

 

だが――同時に、彼の本心が訴えていたのだ。心なき機械に、オリジナルを超える事は出来るのか?と。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

シティを囲むように建造された巨大サーキットにて。荒くなった声が木霊する。

その持ち主の名はクロウ・ゴースト。伝説のチーム5D'sの1人、鉄砲玉のクロウ・ホーガンを倒す為に作られた新世代のゴーストだ。

 

彼が搭乗するDーホイール、クロウとは異なり、純白の装甲を煌めかせるブラック・バード・アルビオンはブラック・バードを改造した機体であり、そのスペックは総合能力だけなら上を行き、マシーンデュエリストであるクロウ・ゴーストの手に渡る事によりその能力は十全に発揮される。

そして使用デッキはクロウ・ホーガンと同じく『BF』。しかし内容はプラシドの手によって製造された新型の『BF』を投入した最新最強の『BF』。旧型であるクロウ相手ならば負ける筈がないのだが――。

 

「くっ……!」

 

勝てない。それどころかクロウがベテランの実力を発揮して食い下がり、互角以上の闘いを繰り広げている。計算や性能外の力、デュエリストの魂の差がクロウ・ゴーストを追い詰めているのだ。

クロウ・ゴーストには無いのものが、クロウ・ゴーストを追い詰めている。クロウ・ゴーストには理解出来ないものが、実力の差を埋めている。

 

「レベル5のソハヤに、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!シンクロ召喚!『BFー星影のノートゥング』!」

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2400

 

現れたのは汎用レベル6のシンクロモンスターにして『BF』には必須級のモンスター。煌めく大剣を持つ鳥頭の鳥人だ。

クロウのLPは800、この状況でこのカードを出されてはかなり不味い。

 

「ノートゥングの効果と『シンクローン・リゾネーター』の効果発動!800のダメージを与え、墓地の『レッド・リゾネーター』を回収!」

 

「罠発動、『レインボー・ライフ』!手札を1枚捨て、ダメージを回復に!」

 

クロウ・ホーガン LP800→1600

 

だが、彼は堪える。何故ならクロウ・ホーガンだから。

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』。カードを1枚セット、ターンエンド!」

 

クロウ・ゴースト LP900

フィールド『BFー星影のノートゥング』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!どうした?機械の癖に表情豊かだなぁ。余裕そうな顔が崩れてるぜ!ま、アイツ等もそうだったけどよ!墓地のゼピュロスの効果発動!『黒い旋風』を手札に戻し、このカードを蘇生!」

 

BFー精鋭のゼピュロス 攻撃力1600

 

「その後、俺は400のダメージを受ける」

 

クロウ・ホーガン LP1600→1200

 

「バトル!アーマード・ウィングでノートゥングへ攻撃!ブラック・ハリケーン!」

 

「罠発動!『ブラック・ソニック』!自分フィールドの『BF』が攻撃宣言を受けた事で、相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て除外する!」

 

「何ィ!?」

 

発動されたのは『BF』専用の『聖なるバリアーミラーフォース』。尤もあちらと違い、こちらはモンスターを除外する。再利用も難しくなるものだが。

 

「やるじゃねぇか……!俺はカードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

クロウ・ホーガン LP1200

フィールド

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『カップ・オブ・エース』!コイントスを行い、表を選択、当たれば俺が、外れればお前が2枚ドローする。……当たりだ、2枚ドロー!」

 

クロウ・ゴースト 手札0→2

 

「『BFー銀盾のミストラル』を召喚!」

 

BFー銀盾のミストラル 攻撃力100

 

クロウ・ゴーストの手より飛び出したのは銀色に輝く鎧を身に纏い、盾のような姿をした『BF』モンスターだ。

 

「レベル6のノートゥングに、レベル2の銀盾のミストラルをチューニング!漆黒の風を纏い、末世から飛翔せよ!シンクロ召喚!『玄翼竜ブラック・フェザー』!!」

 

玄翼竜ブラック・フェザー 攻撃力2800

 

現れたのは彼が持つ決闘竜の1体、クロウの持つシグナー竜。『ブラック・フェザー・ドラゴン』と酷似し、対をなす漆黒の翼を広げた竜。赤と黒の羽、鳥の嘴に胸から腰にかけて生やした6本の鋭い爪、これこそが彼のエース、『玄翼竜ブラック・フェザー』だ。

 

「ブラック・フェザー……『レッド・デーモン』と似たような奴か!」

 

「カードをセットし、バトル!ブラック・フェザーでダイレクトアタック!」

 

「させねぇよ!罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを防ぎ、1枚ドロー!」

 

クロウ・ホーガン 手札1→2

 

「ッ、ターンエンドだ!」

 

クロウ・ゴースト LP900

フィールド『玄翼竜ブラック・フェザー』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!永続魔法、『黒い旋風』を発動し、『BFー暁のシロッコ』を召喚!」

 

BFー暁のシロッコ 攻撃力2000

 

「旋風の効果でゲイルをサーチし、特殊召喚!」

 

BFー疾風のゲイル 守備力300

 

「ゲイルの効果発動!ブラック・フェザーの攻守を半減!」

 

玄翼竜ブラック・フェザー 攻撃力2800→1400

 

「そしてシロッコの効果発動!ゲイルの攻撃力を吸収!」

 

BFー暁のシロッコ 攻撃力2000→3300

 

「カードをセット、バトル!シロッコでブラック・フェザーへ攻撃!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!シロッコの攻撃と効果を封じる!」

 

互いに息もつかせぬ攻防。シロッコの攻撃力がブラック・フェザーに2倍以上に跳ね上がり、あわやワンショット・キルとなろうとした所に鎖が飛び出し、翼を巻き取って動きを封じ込める。クロウもしぶといが、クロウを模して作られた為か、クロウ・ゴーストも堪える。いや、これは――クロウから学習していると言う事か。

曲者同士の知略がぶつかり、攻防が更に加速する。クロウ・ゴーストは確かにクロウの言う通り、クロウを倒す為に生み出され、プラシドの命令通りに動いて来た。

だがこうして本物と相対した事で、彼の心は動き出す。

 

「お前の、言う通りだ」

 

「あん?」

 

「俺は、自らの意志を持たず、他者の望むままに闘って来た」

 

「……」

 

「なら、ここから俺を始めよう。お前を倒し、そこからクロウ・ゴーストの意味を探すとしよう!彼の……ジャック・Dのように!」

 

クロウ・ゴーストの眼に、僅かな光が宿る。その四肢に、逞しい力が宿る。クロウ・ゴーストはまだ生まれてもいないから。このデュエルを生まれるものにしようと彼の心が産声を上げる。

 

「へ、上等だぜ!勝負だ、クロウ・ゴースト!」

 

「ああ……クロウ・ホーガン!」

 

何の為に生まれたか、何の為に生きるか、結局それは自分の意志で決める事。クロウ・ゴーストにとってこのデュエルは、自分の事を知るデュエルだった。

 

「お前の心意気に、俺も応えようか!俺は、レベル5のシロッコに、レベル3のゲイルをチューニング!黒き疾風よ!秘めたる思いをその翼に現出せよ!シンクロ召喚!舞い上がれ、『ブラック・フェザー・ドラゴン』!!」

 

ブラック・フェザー・ドラゴン 攻撃力2800

 

そして、クロウのフィールドに現れたのは、眼前に立ち塞がる『玄翼竜ブラック・フェザー』と全く同じ姿をしたモンスター。

黒と白の両翼に、鳥類の嘴を模したアギト、胸部から腰にかけて生えた6本の昆虫の如き爪。『ブラック・フェザー・ドラゴン』。

『レッド・デーモンズ・ドラゴン』と同じく、赤き竜に連なるシグナーの竜にして、クロウのエースモンスターが雄々しく咆哮を上げる。

鏡写しの光景、似て非なる竜の共演にこのデュエルを見ていた市民達が感嘆の息を漏らす。

 

「クロウ・ホーガンのエース、『ブラック・フェザー・ドラゴン』……!」

 

「ここからが本番だ!『レッド・ミラー』を回収、ターンエンドだ!」

 

クロウ・ホーガン LP1200

フィールド『ブラック・フェザー・ドラゴン』(攻撃表示)

『黒い旋風』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

デッキからカードを捲り、引き抜く行為に思わず熱が込められ、クロウ・ゴーストが僅かに動揺する。あれだけ冷え切り、淡々とデュエルをしていた自分が、驚く程高揚している。

これが、自分を持つと言う事、身体が軽く感じる。性能以上に速度を引き出せる。デュエルが、楽しい。

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに2枚ドロー!」

 

クロウ・ゴースト 手札0→2

 

捕らえる者を失った鎖が砕け散り、新たな手札に変わる。悪くない、これならば状況を動かせる。

 

「魔法カード、『アゲインスト・ウィンド』を発動!墓地のオロシを選択、その攻撃力分のダメージを受け、対象のモンスターを回収する!」

 

クロウ・ゴースト LP900→500

 

肉を切って骨を断つ。回収するカードによれば大ダメージを受けようこのカード。低攻撃力で優秀なモンスターが多い『BF』ならば『ダーク・バースト』の方がまだ使い勝手が良く、汎用性が高いだろう。それでもクロウ・ゴーストがこのカードを採用しているのは。

 

「この瞬間、『玄翼竜ブラック・フェザー』の効果発動!」

 

自らのエース、玄翼竜とのコンボを考えているからだ。

 

「1ターンに1度、自身がダメージを受けた際、デッキトップからカードを5枚墓地に送り、その中にモンスターが存在する場合、攻撃力を400アップする!送った中にはモンスターが存在、よって強化される!」

 

玄翼竜ブラック・フェザー 攻撃力1400→1800

 

5枚もの墓地肥やしと攻撃力アップ。戦闘ダメージでも起動する緩い条件がクロウの『ブラック・フェザー・ドラゴン』と異なる。

打点アップは物足りないが、本命は墓地肥やしだ。

クロウの『ブラック・フェザー・ドラゴン』はダメージ自体を無効にしてしまう為、『アゲインスト・ウィンド』とは噛み合わないが、このカードならば共存出来る。

攻撃力での爆発力は見込めないが、墓地肥やしの点では強力なモンスターだ。打点で突破の『ブラック・フェザー・ドラゴン』と、サポートの『玄翼竜ブラック・フェザー』。姿や効果の条件は似ているが、用途は大きく違う。

 

「墓地のヴァーユとシロッコを除外し、エクストラデッキのノートゥングを特殊召喚!」

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2400

 

本来であればレベル5のシンクロモンスターを呼び、オロシとシンクロさせ、アームズ・ウィングを呼び、2体のコンボで『ブラック・フェザー・ドラゴン』を突破し、大ダメージを与えての勝利を狙うのだが。

生憎クロウのシンクロモンスターはノートゥングとソハヤ以外ピン刺しだ。このノートゥングも2枚の投入となる。

エクストラデッキもそろそろ切れて来た。決着を急ぎたい。クロウ・ゴーストは確かに『ABF』を得た事で様々な戦法を取れるが、ほとんど1枚積みの為、どうしても薄くなってしまう。

 

「突風のオロシを特殊召喚!」

 

BFー突風のオロシ 守備力600

 

「レベル6のノートゥングに、レベル1のオロシをチューニング!黒き旋風よ、天空へ駆け上がる翼となれ!シンクロ召喚!『BFーアーマード・ウィング』!」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500

 

「オロシの効果で『ブラック・フェザー・ドラゴン』の表示形式を変更!」

 

「チィッ!」

 

「バトル!アーマード・ウィングで『ブラック・フェザー・ドラゴン』へ攻撃!ブラック・ハリケーン!」

 

「手札の『レッド・ミラー』をスプリンターと交換!更に墓地の『復活の福音』を除外、破壊を防ぐ!」

 

「アーマード・ウィングの効果で『ブラック・フェザー・ドラゴン』に楔カウンターが乗る」

 

ブラック・フェザー・ドラゴン 楔カウンター0→1

 

何とか破壊を逃れるが、この効果はあくまで1度きり、それにアーマード・ウィングは離れる際、自らの翼を1枚毟り取り、鋼鉄の楔として『ブラック・フェザー・ドラゴン』の胸部に打ち付ける。

余りの激痛に絶叫する『ブラック・フェザー・ドラゴン』。しかしクロウ・ゴーストは容赦なく次の手に移る。

 

「『玄翼竜ブラック・フェザー』で『ブラック・フェザー・ドラゴン』へ攻撃!」

 

休む暇なく黒羽の竜が強襲し、『ブラック・フェザー・ドラゴン』の喉に噛みつく。『ブラック・フェザー・ドラゴン』は数秒反応が遅れるものの、空中で体躯を唸らせながら翼を玄翼竜の顔面に打ち付けて怯ませ、尾を振るって胴を打つ。

しかし『ブラック・フェザー・ドラゴン』の反撃には力がなく、容易く受け止められ、玄翼竜が羽をクナイのように射出、胸部の楔を更に食い込ませ、『ブラック・フェザー・ドラゴン』を絶命に至らせる。

 

「『ブラック・フェザー・ドラゴン』まで……!」

 

「速攻魔法、『グリード・グラード』!シンクロモンスターを破壊した事で2枚ドロー!」

 

クロウ・ゴースト 手札0→2

 

「メインフェイズ2、魔法カード、『七星の宝刀』を発動。アーマード・ウィングを除外し、2枚ドロー!」

 

クロウ・ゴースト 手札1→3

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスターを5体デッキに戻し、2枚ドロー!」

 

クロウ・ゴースト 手札2→4

 

「更に魔法カード、『カップ・オブ・エース』!当たりだ、2枚ドロー!」

 

クロウ・ゴースト 手札3→5

 

「『ゴブリンドバーグ』を召喚!」

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

「効果で手札のオロシを特殊召喚し、自身を守備表示に!」

 

BFー突風のオロシ 守備力600

 

「レベル4の『ゴブリンドバーグ』に、レベル1のオロシをチューニング!シンクロ召喚!『ABFー五月雨のソハヤ』!」

 

ABFー五月雨のソハヤ 守備力2000

 

「ソハヤの効果発動!墓地の『ABFー驟雨のライキリ』を蘇生!」

 

ABFー驟雨のライキリ 攻撃力2600

 

「ライキリの効果発動、セットカードを破壊!」

 

「破壊されたカードは、『やぶ蛇』!相手の効果で破壊された事で、エクストラデッキか、モンスターを呼び出す!」

 

「何だと……!?」

 

次々と『BF』を呼び出し、布陣を整えるクロウ・ゴーストだが、ここに来て除去が文字通り『やぶ蛇』となってしまった。

これがトリックスター、クロウ・ホーガンの口元に笑みを描き出す。

互いに一歩も退かぬ効果の応酬、今度はクロウの番だ。自らの意志で闘うクロウ・ゴーストに、クロウが応える番。

彼に勝ちたい、彼を倒したいと言う想いが、形となり、クロウのエクストラデッキに1枚のカードを生み出す。

 

「現れろ――『BFーフルアーマード・ウィング』ッ!!」

 

エクストラデッキから光に包まれたカードが引き抜かれ、デュエルディスクに叩きつられた瞬間、天に光の柱が立ち上る。

そして――光を裂き、現れたのはクロウ・ホーガンだけの新型。『ABF』よりも新しい、最新鋭の『BF』。

頭部から薄紫の長髪を伸ばし、漆黒の鎧を身に纏う鳥獣騎士。右手には剣を、左腕は銃へと変形させ、巨大な翼を背から広げしアーマード・ウィングの進化形態。

『BFーフルアーマード・ウィング』が、覚醒する。

 

「『BFーフルアーマード・ウィング』だと……!?ここに来て、新たな力に目覚めたのか!?」

 

「そう言う事らしいな!これでテメェとのスペック差、埋めてやるぜ!」

 

「ぐっ、カードを3枚セット、ターンエンド!」

 

クロウ・ゴースト LP500

フィールド『玄翼竜ブラック・フェザー』(攻撃表示)『ABFー驟雨のライキリ』(攻撃表示)『ABFー五月雨のソハヤ』(守備表示)

セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地から5体のモンスターをデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

クロウ・ホーガン 手札1→3

 

「魔法カード、『シンクロ・クリード』!2枚ドロー!」

 

クロウ・ホーガン 手札2→4

 

「魔法カード、『手札抹殺』!手札を3枚捨て、3枚ドロー!そして墓地の『BFー南風のアウステル』を除外し、効果発動!」

 

またも新たな『BF』の効果が炸裂する。クロウ・ゴーストの持たない『BF』。その効果は。

 

「相手フィールドのモンスター全てに、楔カウンターを乗せる!」

 

玄翼竜ブラック・フェザー 楔カウンター0→1

 

ABFー驟雨のライキリ 楔カウンター0→1

 

ABFー五月雨のソハヤ 楔カウンター0→1

 

相手モンスター全てに、楔カウンターを乗せる効果。楔カウンターはアーマード・ウィングによって使用されるもの、アーマード・ウィングの進化体であるフルアーマードも、楔カウンターを利用する効果を持っていると言う事か。

 

「フルアーマード・ウィングの効果発動!1ターンに1度、楔カウンターを乗せたモンスター1体のコントロールを得る!俺が奪うのは、『ABFー驟雨のライキリ』!」

 

「コントロール奪取効果!」

 

強力なコントロール奪取により、クロウのフィールドへ電光の剣が渡る。『BF』では無類の強さを誇る。そしてクロウもまた、『BF』使い。

 

「ライキリの効果発動!セットカードを破壊!」

 

「罠発動、『ハーフ・アンブレイク』!ブラック・フェザーの破壊を防ぐ!」

 

「永続魔法、『強者の苦痛』!相手モンスターの攻撃力はレベル×100ダウン!」

 

玄翼竜ブラック・フェザー 攻撃力1800→1000

 

ABFー五月雨のソハヤ 攻撃力1500→1000

 

「カードを1枚セット、バトル!ライキリでソハヤを、フルアーマードでブラック・フェザーへ攻撃!」

 

「罠発動、『ホーリージャベリン』!フルアーマード・ウィングの攻撃力分回復!『ハーフ・アンブレイク』の効果でダメージは半分に!」

 

クロウ・ゴースト LP500→3500→2500

 

フルアーマード・ウィングは効果を受けないが、対象に取る事自体は可能だ。よって『ホーリージャベリン』の効果が通り、クロウ・ゴーストのLPが回復。更に。

 

「ダメージを受けた事で、ブラック・フェザーの効果発動!」

 

ブラック・フェザーの効果が起動する。これで大量のカードを墓地に落とし、逆転を狙うクロウ・ゴースト。しかしクロウはここまでの流れを読んでいた。

 

「待ってたぜ、この時を!手札からカウンター罠、『ブラック・バード・クローズ』を発動!」

 

「手札から、カウンター罠!?」

 

これこそがクロウの十八番。相手の予想の上を行く奇襲。罠カードを自在に操る技。クロウと言えば高速シンクロが頭に浮かぶが、忘れてはいけない、彼は罠を扱う事にも長けているのだ。

 

「相手モンスターが効果を発動した時、俺のフィールドの表側表示の『BF』、『ABFー驟雨のライキリ』を墓地に送る事で、その発動を無効にし、破壊!そしてエクストラデッキの『ブラックフェザー・ドラゴン』を特殊召喚する!!」

 

「何だと!?」

 

クロウ・ゴーストのブラック・フェザーがライキリの特攻を受け、楔を打ち付けられたカ所を中心としてひび割れ、粉々に砕け散る。そして空中に飛び散った光の粒子はクロウのフィールドへと渡り、再構成、竜の星座を描き出す。

 

「舞い上がれ!『ブラックフェザー・ドラゴン』!!」

 

ブラックフェザー・ドラゴン 攻撃力2800

 

現出する黒き翼。クロウのエース、『ブラックフェザー・ドラゴン』。このカードこそが、彼等のデュエルに決着をつけるカードと化す。

 

「これで終わりだ!『ブラックフェザー・ドラゴン』で、ダイレクトアタック!ノーブルストリームッ!!」

 

『ブラックフェザー・ドラゴン』が広げた翼から幾枚もの羽がクロウ・ゴーストへと降り注ぎ、彼の周囲を舞い踊るように吹雪、竜巻を起こし、羽の刃がクロウ・ゴーストに突き刺さる。

 

「俺の、負けか……!」

 

クロウ・ゴースト LP2500→0

 

クロウ・ゴースト、敗北。しかしその顔色は、今までのどんなデュエルの後よりも晴れやかで輝いていて、彼の心を成長させてくれた。

きっと、彼も、ジャック・Dも同じ気持ちだったのだろう、彼がいれば、自分の事のように喜んでくれたのだろうかと想って、クロウ・ゴーストは意識を手放す。

 

(今、行くよ……ジャック……)

 

最後の瞬間に、彼は未来を想い、夢を見る。遥か先の、未来の世界で。

荒廃した世界を救おうとする、4つの星。青いオールバックと赤いバイザーが特徴的なDーホイーラーと、巨大な体躯をした青年、金と紫の髪の男に赤いヘルメットを被った、誰かに似た青年の元で、自分がジャック・Dと共に未来を変える夢を。

素敵な夢だな、と思って。彼もまた、短い人生を走りきる。人生と言う名の、ライディングデュエルを。何時かの未来に繋がる、サーキットを。

 

「……じゃあな、クロウ・ゴースト……テメェとのデュエル、悪くなかったぜ」

 

これでチームARCー5D's、2勝1敗。残るはラストホイーラー、白コナミのみ。

クロウ・ゴーストとデュエルした後だ。この化物相手にどこまで通じるかは分からないが、後続の遊矢を少しでも楽にさせてやらねばとクロウは気合いを入れ直す。

 

「さぁっ……て、かかって来な、コナミ!」

 

「面白い……予想以上に楽しいデュエルになりそうだ……!」

 

サーキットに巨大なDーホイールが降り立ち、爆発的な速度でクロウ・ゴーストを追う。シティの命運を賭けて、最後の敵が動き出す。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」




平行世界のどこかで、復活したジャック・Dとクロウ・ゴーストが不動遊星を名乗る男とジョニーと言うDーホイーラーに拾われたとか何とか。


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第186話 ライディングデュエル、アクセラレーション!(大嘘)

ドライトロンを見たミザちゃんはんほるのかんほらないのか。
機械族だからなぁ……ドラゴン族だったら使わせてたかもしれません。
もしかしたらドラゴンメイド使ってんほるのかもしれません。


世界の決闘者、デュエリスト。いくつもの世界を巡り、その瞳は何を見る?

 

「この世界は誰の世界だ?」

 

「覇王!覇王じゃないか!珍しいな、こんな所で!丁度良かった!助けてくれ!」

 

破壊者気取りのデュエリストがやって来たのは宇宙の見える異界の星。彼にとってどこか見覚えのある場所である。

彼に声をかけたのはイルカの顔面を張りつけた人型の生命体。仮に名をつけるのならキモイルカだろうか。

 

「何だキモイルカ、何のようだ」

 

「早々に酷いな。いやそれよりも大変なんだ!『サテライト・キャノン』の奴が暴走してこの衛生イオに狙いを定めてる!今から僕と『銀河恐竜』と共に迎撃に向かって欲しい!」

 

「スペースザウルスに進化するドン!」

 

キモイルカと共にデュエリストを急かすのは銀色に輝く機械の恐竜。

彼等は訳の分からぬ事をのたまい、訳の分からぬ展開へとデュエリストを導こうとする。

 

「……成程、大体分からん」

 

――――――

 

「ジャック……どこなの……私の愛しのジャック……」

 

「トビー……どこにいるの……姉さんをおいてどこにいってしまったの……?」

 

シティ、コモンズ達が暮らす下層エリアの、とある廃墟周辺にて。ここでも2人の亡霊がさまよっていた。

1人は黒髪を眉にかかるように切り揃え、黒いローブにオレンジのラインを走らせた女性、カーリー・渚。

もう1人は美しい黒髪を流す黒いローブに緑のラインを走らせた美女。かつての世界では名の知れたトップモデル、ミスティ・ローラ。

 

両者共に愛する者を求めるダークシグナー。その、亡霊である。2人はブツブツと呟きながら、自らの信奉する『地縛神』を呼び出し街を蹂躙しようとしていた。

そんな彼女等の下に、近づく影が2つ。

 

「ったく、同じような依頼が舞い込んで来てるから現場に向かってみりゃあ……何だぁ、この胸糞悪い光景はよぉ……!」

 

「昔を懐かしむ暇すら与えてくれないようね」

 

ザッ、土を鳴らし、現れたのはこのシティでは有名な決闘探偵2人組。褐色の肌に太い眉、垂れ目に頬についた傷が特徴的な男。上着を肩にかけ、Yシャツを纏った筋肉質な彼の名は、牛尾 哲。狭霧探偵事務所に所属する肉体派の探偵だ。

もう1人は青い髪に金の瞳。スーツにタイトスカートとカジュアルな着こなしの美女。狭霧探偵事務所所長にして頭脳派探偵、狭霧 深影。

 

2人はシティ中の人々から舞い込むこの事態収拾の依頼を受け、解決にやって来たのだ。視界にダークシグナーを捉えた2人は眉間に皺を寄せ、怒りを露にしている。

 

「カーリーは確かに私の恋敵だったわ……だけど、その彼女を、彼女の望まぬ過去を利用する事は、許せない……!」

 

「同感ですぜ……こんな悪趣味な事を思いつくような奴は、クズ野郎だ!」

 

何故ならこの亡霊達の顔は牛尾達の知る者だからだ。偽物とは言え、彼等を、彼女達をこんな形で利用する者を許せない。

 

「しょっぴいてやるぜ……来な、紛い物共ぉ!」

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

フレンドシップカップ、サーキットにて、そこでは2つのDーホイールが猛スピードで駆けていた。

1つは鳥を模し、翼をとりつけた黒いDーホイール、ブラック・バード。

現行のDーホイールと比べても高い性能を誇るこの機体を巧みに操るのは、チームARCー5D'sのセカンドホイーラー、鉄砲玉のクロウ・ホーガン。このシンクロ次元の中でもトップスピードのシンクロ使いだ。

 

対するはブラック・バードと比べて余りにも巨大。まるで戦闘機のような翼と、二股に別れた先端が特徴的な白と緑を基調としたDーホイール。

ホイーラーは白い帽子を目深に被り、同色のジャケットを纏った青年、白コナミ。

チームネオ5D'sのラストホイーラーだ。

 

クロウ・ゴーストとのデュエルで消耗し、その上ターンは白コナミに。クロウのフィールドにはエース、『ブラックフェザー・ドラゴン』と切り札級のシンクロモンスター、『BFーフルアーマード・ウィング』の2体。『強者の苦痛』にセットカードは1枚。LPは1200。

対する白コナミのフィールドはセットカードが1枚。しかしLPは4000、手札は万全の6枚。

 

「リバースカード、オープン!魔法カード、『強欲で金満な壺』を発動。エクストラデッキから6枚のカードを除外、カードを2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札6→8

 

「俺は手札のモンスター1体を墓地に送り、手札の『クイック・シンクロン』を特殊召喚!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

白コナミの手札の1枚を撃ち抜き、現れたのはテンガロンハットを被り、真紅のマントを靡かせたガンマン人形。

フッ、手に持ったピストルから上がる煙に息を吹きかける姿は少々キザだ。このチューナーモンスターは彼のデッキの中核を担っている。

 

「速攻魔法、『地獄の暴走召喚』を発動し、更に墓地に送られた『ダンディライオン』の効果発動!まずは『ダンディライオン』の効果で2体の『綿毛トークン』を特殊召喚!」

 

綿毛トークン 守備力0×2

 

『クイック・シンクロン』が吹き飛ばした煙の中から愛らしい顔を持った綿毛が地に根差し。

 

「『地獄の暴走召喚』の効果でデッキから2体の『クイック・シンクロン』をリクルートする!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400×2

 

更に2体の『クイック・シンクロン』が白コナミのデッキから飛び出し、空中でクルクルと回転、フィールドに着地する。これで早速、白コナミのモンスターゾーンが埋まった。

 

「『地獄の暴走召喚』の効果で相手は自身のフィールドのモンスターを1体選択し、同名モンスターを手札、デッキ、墓地から特殊召喚出来るが……」

 

「俺のフィールドのモンスターはシンクロモンスター。墓地にも同名がいない為、特殊召喚は不可能ってか」

 

「そう言う事だ。更に俺はアクションフィールド、『スターライト・ジャンクション』の効果発動!チューナーモンスター、『クイック・シンクロン』をリリースし、リリースしたモンスターと異なるレベルの『シンクロン』モンスター1体をデッキからリクルートする!来い、『シンクロン・キャリアー』!」

 

シンクロン・キャリアー 守備力1000

 

ここに来て、今までただの飾りと化していたアクションフィールドの効果が発動される。どうやらこのフィールドは白コナミにとって有利なものだったらしい。

クロウが小さく舌打ちを鳴らす中、フィールドに現れたのはクレーンを背負った小さなロボット。このカード自体はチューナーではないが、『スターライト・ジャンクション』でリクルート出来る『シンクロン』はチューナーに限らない為、問題はない。

 

「そしてレベル1の『綿毛トークン』に、レベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし絆が更なる力を紡ぎ出す。光差す道となれ!シンクロ召喚!轟け、『ターボ・ウォリアー』!」

 

ターボ・ウォリアー 攻撃力2500→1900

 

まずはシンクロモンスター、1体目。

まるでリーゼントのように膨らんだ頭部に自動車を変形させ、人型にした赤いボディ、腰からタイヤを下げ、マフラーを伸ばした身体に鋭い爪を持つ機械戦士がフィールドに降り立つ。

半上級以下の効果の耐性と、上級シンクロモンスターへの戦闘優位効果を持ったモンスターだ。

 

「そして『シンクロン・キャリアー』の効果発動!このカードがモンスターゾーンに存在する中、1ターンに1度『シンクロン』モンスターが戦士族、機械族のシンクロモンスターの素材となった事で、『シンクロントークン』を特殊召喚する!」

 

シンクロントークン 守備力0

 

「フルアーマード・ウィングの効果発動!このカードがモンスターゾーンに存在する限り、効果を発動した相手モンスター1体に楔カウンターを乗せる!」

 

シンクロン・キャリアー 楔カウンター0→1

 

「チ、こんな効果も隠していたか。俺はレベル1の『綿毛トークン』とレベル2の『シンクロントークン』に、レベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし希望が新たな地平へいざなう。光差す道となれ!シンクロ召喚!駆け抜けろ、『ロード・ウォリアー』!」

 

ロード・ウォリアー 攻撃力3000→2200

 

2体目、今度は美しいプラチナの鎧を身に纏う機械戦士。背中、肩から棘を伸ばし、マントを羽織る『ウォリアー』。攻撃力は3000、フルアーマード・ウィングと並んだ。

 

「『ロード・ウォリアー』の効果!デッキからレベル2以下の機械族、または戦士族モンスターをリクルートする!来い、『ニトロ・シンクロン』!」

 

ニトロ・シンクロン 守備力100

 

ロード・ウォリアー 楔カウンター0→1

 

「レベル2の『シンクロン・キャリアー』に、レベル2の『ニトロ・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『アームズ・エイド』!」

 

アームズ・エイド 攻撃力1800→1400

 

3体目、腕の姿をしたシンクロモンスターがジェット推進でフィールドに現れる。汎用レベル4シンクロの中でもかなり優秀なモンスターだ。

 

「『アームズ・エイド』の効果により、このカードを『ロード・ウォリアー』に攻撃力1000アップの装備カードとして装備する!」

 

ロード・ウォリアー 攻撃力2200→3200

 

ガチャリ、『アームズ・エイド』が『ロード・ウォリアー』の左腕に装備され、フルアーマード・ウィングの攻撃力を超える。正面突破で来たか。尤も、フルアーマード・ウィングは完全効果耐性を持っている為、こうする他ないのだが。

 

「カードを1枚セット、バトル!『ターボ・ウォリアー』で『ブラックフェザー・ドラゴン』へ攻撃!この瞬間、『ターボ・ウォリアー』の効果により、『ブラックフェザー・ドラゴン』の攻撃力を半分にする!ハイレート・パワー!」

 

「させねぇよ!罠発動!『シンクロ・バリアー』!『ブラックフェザー・ドラゴン』をリリースする事で、このターン受けるダメージを0にする!」

 

「チッ、『ロード・ウォリアー』でフルアーマード・ウィングへ攻撃!ライトニング・クロー!」

 

何とかダメージを逃れたが、モンスターは別。頼もしかったフルアーマード・ウィングも破壊され、クロウのフィールドががら空きになってしまう。折角の強力なモンスターがたったの1ターンで撃破されてしまった。

 

「『クリバンデッド』を召喚」

 

クリバンデッド 攻撃力1000

 

「ターンエンド。『クリバンデッド』をリリースし、デッキトップから4枚のカードを墓地へ送り、『大革命返し』を手札に」

 

白コナミ LP4000

フィールド『ロード・ウォリアー』(攻撃表示)『ターボ・ウォリアー』(攻撃表示)

『アームズ・エイド』セット1

手札4

 

「俺のターン、ドロー!上等じゃねぇか……!魔法カード、『闇の誘惑』!2枚ドロー!」

 

クロウ・ホーガン 手札0→2

 

「その後、手札の闇属性モンスター1体を除外。良し、南風のアウステルを召喚!」

 

BFー南風のアウステル 攻撃力1300

 

現れたのはクロウ・ゴーストのデュエルでフルアーマード・ウィングのサポートを担った南国風の鮮やかな羽を持つ小鳥。墓地発動効果として黒羽カウンターと楔カウンター、2種のカウンターに関する効果を持つが、このカードはフィールドに呼び出されても優秀な効果を持つ。

 

「召喚時、除外されている『BFー二の太刀のエテジア』を特殊召喚する!」

 

BFー二の太刀のエテジア 守備力1600

 

除外されている『BF』の帰還、つまりこのカード1枚でシンクロ素材が揃うと言う事だ。自身もレベル4のチューナー。一粒で何度も美味しいモンスターだ。

呼び出されたのはその名の通り、2本の刀を持つ武士風の『BF』だ。レベルは3、アウステルと合わせれば7となる。

 

「『黒い旋風』の効果で『BFー上弦のピナーカ』をサーチ!レベル3のエテジアに、レベル4のアウステルをチューニング!シンクロ召喚!『BFーアーマード・ウィング』!」

 

BFーアーマード・ウィング 攻撃力2500

 

「アーマード・ウィングの効果発動!『ロード・ウォリアー』の楔カウンターを取り除き、攻撃力を0にする!」

 

ロード・ウォリアー 攻撃力4000→0

 

アーマード・ウィングが猛スピードで飛行し、掌底を『ロード・ウォリアー』に打ち付けられた楔に放ち、白金の鎧にひびを走らせる。

元々楔カウンターはこのカードのもの。フルアーマード・ウィングに使えるものは、このカードにも使える。こちらはコントロール奪取ではなく、攻撃力ダウンだが、それでも充分だ。

 

「バトル!アーマード・ウィングで、『ロード・ウォリアー』へ攻撃!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

白コナミ 手札4→5

 

「チッ、だが『ロード・ウォリアー』は倒した。ターンエンドだ」

 

クロウ・ホーガン LP1200

フィールド『BFーアーマード・ウィング』(攻撃表示)

『黒い旋風』『強者の苦痛』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『ネクロフェイス』を召喚!」

 

ネクロフェイス 攻撃力1200→800

 

「互いに除外されているカードをデッキに戻し、攻撃力をその数×100アップ!」

 

ネクロフェイス 攻撃力800→4200

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『ネクロフェイス』をデッキに戻してドロー!」

 

白コナミ 手札5→6

 

「魔法カード、『調律』を発動!デッキから『ジャンク・シンクロン』を手札に加え、デッキトップを墓地に送る!そして魔法カード、『二重召喚』を発動!『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300→1000

 

所々へこんだガラクタのオレンジボディに丸眼鏡、マフラーを巻き、背にバックパックを取り付けたモンスターがフィールドに飛び出す。

彼の『シンクロン』チューナーを中心にしたデッキの中では最初期のカードにして、今でも通用するレベルのカードだ。

 

「『ジャンク・シンクロン』の召喚時効果発動!墓地よりレベル2以下のモンスター、『チューニング・サポーター』を守備表示で蘇生!」

 

チューニング・サポーター 守備力300

 

『ジャンク・シンクロン』の隣に並んだのは『ジャンク・シンクロン』よりも小さく、中華鍋を被ったモンスター。白コナミが良く使うカードの1枚だ。

低ステータスである事を活かし、このカードを大量展開、シンクロ素材に使う事で次の展開の為の手数を整える、と言うのが彼のデュエルの定石となっている。

 

「魔法カード、『機械複製術』!『チューニング・サポーター』を対象として発動!対象モンスターと同名のモンスターを2体、デッキからリクルートする!」

 

チューニング・サポーター 守備力300×2

 

「『地獄の暴走召喚』の次はそいつか……!加減ってもんを知らねぇのか!」

 

「お前相手に加減は出来ん。俺は『チューニング・サポーター』の効果により、シンクロ素材となるこのカードのレベルを2として扱う。レベル1の『チューニング・サポーター』1体と、レベル2の『チューニング・サポーター』2体に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!集いし闘志が怒号の魔神を呼び覚ます。光差す道となれ!シンクロ召喚!粉砕せよ、『ジャンク・デストロイヤー』!」

 

ジャンク・デストロイヤー 攻撃力2600→1800

 

4体もの素材を使い、現れたのはまるでスーパーロボットのような見た目のモンスター。王冠の如き金の3本角に、赤く輝くマシンアイ、胸にはオレンジのコア、その両隣に4つの緑のコアを並べ、4本の腕とX字の白銀の翼、膝から赤い角を伸ばしたモンスター。

白コナミの持つシンクロモンスターの中でも破壊力だけなら『シューティング・スター・ドラゴン』にも並ぶカード。彼を相手取るなら、まずこのカードを警戒せねばならない。

 

「『ジャンク・デストロイヤー』のシンクロ召喚時、このカードのシンクロ素材としたカードの数までフィールドのカードを破壊する!アーマード・ウィングと『強者の苦痛』、『黒い旋風』を破壊!タイダル・エナジー!」

 

「チィッ!」

 

「更にシンクロ素材になった『チューニング・サポーター』の効果により、3枚ドロー!」

 

白コナミ 手札3→6

 

恐ろしい破壊力とドローブースト。これこそが白コナミの実力だ。小さな下級モンスターを組み合わせ、様々な角度から攻めて来る。

まるでかつての仲間、チーム5D'sのリーダーのように。

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動。更に魔法カード、『ネクロイド・シンクロ』を発動!墓地のチューナー1体と、チューナー以外のモンスター2体まで除外し、そのレベルの合計となる『スターダスト』をシンクロ召喚する!レベル4の『BFー蒼炎のシュラ』とレベル3『クリバンデッド』に、レベル1の『バリア・リゾネーター』をチューニング!集いし願いが新たに輝く星となる!光差す道となれ!シンクロ召喚!飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

ジャック・Dとクロウ・ゴースト、2人のチームメイトのカードを使い、白コナミが呼び出したのは自らのエースモンスター。

煌々と美しく輝く星屑を風に運ばせ纏う、女性的な天使を思わせる、線の細い純白の竜。

シグナーの竜が1柱。そしてチーム5D'sのリーダーだった男のエースカードだ。

 

「『スターダスト・ドラゴン』……まさか敵に回るとはな……!」

 

「『ネクロイド・シンクロ』で呼び出した『スターダスト・ドラゴン』の効果は無効化される。カードを2枚セット、バトル!『スターダスト・ドラゴン』でダイレクトアタック!シューティング・ソニック!」

 

『スターダスト・ドラゴン』が渦巻く大気をアギトに集束させ、風のブレスをクロウに放つ。迫る脅威、圧倒的な力の奔流を前に、クロウは必死で抵抗する。

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

地面より光の剣が飛び出し、ブレスを防ぐ柵となる。これで最悪の事態は逃れた。クロウの目的は一発でも多く白コナミにダメージを与える事、まだ一撃入れぬ内に退場は出来ない。

 

「ターンエンドだ。手札のアクションカードを除外。思った以上に粘るな」

 

白コナミ LP4000

フィールド『スターダスト・ドラゴン』(攻撃表示)『ジャンク・デストロイヤー』(攻撃表示)『ターボ・ウォリアー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『闇の誘惑』を発動!2枚ドローし、ピナーカを除外……良し……!『ファントム・オブ・カオス』を召喚!」

 

ファントム・オブ・カオス 攻撃力0

 

現れたのは不定形の泥のような、闇そのものと言えるモンスター。低いレベル、攻守0と召喚手段が豊富なカードであり、コピー能力を持つ。

召喚する事が難しく、強力なモンスターを墓地に落とし、コピーする。と言った使用法が主となるモンスターだ。そのコピー先は幅広い。

 

「『ファントム・オブ・カオス』の効果発動。コピーするのは、『ブラックフェザー・ドラゴン』!」

 

フルアーマード・ウィングも悪くないが、コントロール奪取するとなると、元々のレベルが4の『ファントム・オブ・カオス』だ。

レベル6以下のモンスター効果の対象耐性を持つ『ターボ・ウォリアー』を奪えず、必然的に『ジャンク・デストロイヤー』を奪う事になり、『スターダスト・ドラゴン』に攻撃、100のダメージしか与えられない。となるとここは、このエースで勝負に出る。

 

「墓地のアウステルを除外し、相手フィールドのカード数だけ黒羽カウンターを『ブラックフェザー・ドラゴン』に乗せる!」

 

ブラックフェザー・ドラゴン(ファントム・オブ・カオス) 攻撃力2800→0 黒羽カウンター0→7

 

「さぁ、たっぷり食らいな……!黒羽カウンターを取り除く事で、『ジャンク・デストロイヤー』の攻撃力を2600ダウン!その数値分ダメージを与える!ブラック・バースト!」

 

白コナミ LP4000→1400

 

「――ッ!」

 

黒羽の一撃が白コナミに襲いかかり、LPに多大なダメージを与える。余りにも大きい一撃。白コナミの機体が大きく揺れ動く。

 

「バトル!『ブラックフェザー・ドラゴン』で『スターダスト・ドラゴン』へ攻撃!」

 

『ブラックフェザー・ドラゴン』の姿を模した『ファントム・オブ・カオス』が天高く飛翔し、『スターダスト・ドラゴン』へとダイブ、鉤爪を『スターダスト・ドラゴン』の身体に食い込ませて掴み、必殺のブレスを至近距離でお見舞いする。

本来なら効果が無効になった『スターダスト・ドラゴン』より、『ターボ・ウォリアー』を狙うのだが、『スターダスト・ドラゴン』を放って置けば『シューティング・スター・ドラゴン』に進化されるかもしれない。一番先に除去しておきたい。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

白コナミ 手札2→3

 

「速攻魔法、『グリード・グラード』!シンクロモンスターを破壊した事で2枚ドロー!」

 

クロウ・ホーガン 手札0→2

 

「魔法カード、『ナイト・ショット』。セットカードを破壊し、カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

クロウ・ホーガン LP1200

フィールド『ファントム・オブ・カオス』(攻撃表示)

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!やってくれる……!魔法カード、『アドバンスドロー』!デストロイヤーをリリースし、2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札3→5

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』!手札を交換、『シンクロン・エクスプローラー』を召喚!」

 

シンクロン・エクスプローラー 攻撃力0

 

現れたのは赤い球体に手足を生やした機械族のモンスター。胸部には穴が空いており、ゴソゴソと手を突っ込んで何かを取り出そうとしている。

 

「召喚時効果で、墓地の『クイック・シンクロン』を蘇生する!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

何と穴から現れたのは万能『シンクロン』であるガンマン人形だ。身体の大きさ的に『クイック・シンクロン』が入る訳がないのだが、恐らくこの穴は異次元に繋がっているのだろう。ともすれば納得出来る。

 

「レベル2の『シンクロン・エクスプローラー』に、レベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし想いがここに新たなる力となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!燃え上がれ、『ニトロ・ウォリアー』!」

 

ニトロ・ウォリアー 攻撃力2800

 

3ターン連続シンクロ召喚。エクストラデッキのモンスターを使い切る気なのか、次々とシンクロモンスターが姿を見せる。

炎を吹かせて飛行し、フィールドに降り立ったのは今までの機械戦士と言った風貌の『ウォリアー』モンスターと違い、まるでエイリアンのような2足歩行の戦士。

緑色の逞しい肉体に、頭部と後背部からバイクのマフラーの如き器を生やし、2本の角を伸ばし、岩石の如き腕と蜂の下半身を思わせる尾を持ったモンスター。

攻撃力2800、白コナミのデッキでは攻撃的で頼りになるアタッカーだ。

 

「フィールド魔法、『光の護封陣』!獣族を宣言し、カードを2枚セット、バトル!『ニトロ・ウォリアー』で『ファントム・オブ・カオス』へ攻撃!ダイナマイト・ナックル!」

 

残るクロウのLPは1200、『ニトロ・ウォリアー』の攻撃力は2800。対する『ファントム・オブ・カオス』の攻撃力は、0。

セットカードはこの状況では意味はない。元よりこのカードは遊矢へ託すつもりだったのだ。ここまでか、クロウは悔し気に顔を歪ませるが、クロウ・ゴースト、白コナミと言う連戦では良くやった方だ。

誰も彼を責める事は出来ない。目を伏せ、フゥ、と溜まった疲労を吐き出すようにし、息をつく。

そして『ニトロ・ウォリアー』が身体の各所から炎を吹き出して加速、猛スピードで『ファントム・オブ・カオス』に襲いかかり、必殺の右ストレートを放つ。

 

クロウ・ホーガン LP1200→0

 

チームARCー5D's、セカンドホイーラー、クロウ・ホーガン敗退。これで、シティの未来を救う残された希望はあと1人、榊 遊矢にかかっている。

 

「見事だった。ジャック・アトラス、クロウ・ホーガン。さぁ、残るはお前だけだ、榊 遊矢」

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる白コナミ。彼はDーホイールのスイッチをカチリと押すと共に、巨大ホイールの後部ブースターに炎が点火。側部のウィングが広がり、Dーホイールが浮き上がり、何と空を飛翔した。

 

「さぁ、折角だ。決戦はアーククレイドルでつけようじゃないか!スリップストリームでついて来い!」

 

「無茶言うな!」

 

無茶苦茶を言いながらも空を飛行しだす白コナミを見上げ、遊矢が視線の先、アーククレイドルの周囲に何かを見つけ、その目を大きく見開く。

アーククレイドルの周りで光る物、アクションカードが何枚も浮かんでいる。これは一体どう言う事かと疑問に感じ、遊矢は1つの答えに辿り着く。このデュエル、このコースの中で、アクションカードの数は驚く程少なく、逆にアーククレイドルには大量に存在する。まさかとは思うが。

 

「このアーククレイドル自体が、アクションフィールド、もしくはその投影装置なのか……?」

 

だとすれば不味い。このままでは飛行出来る白コナミが、大きく有利となる。敵はもしかすると、白コナミの勝率を上げる為にこのアーククレイドルを作ったのかもしれない。となると空を飛べない遊矢の敗北は濃厚。どうする、と考えた時、遊矢のデッキが赤い輝きを放つ。

 

「ッ!?これは……」

 

光を放つのは、月影から手渡されたコナミのカード。遊矢がデッキからその1枚を抜き取った途端、そのカードから放たれる光はより輝きを増し、赤い光のリングを出現させ、ユーゴのDーホイールに重なり、ホイール部分から翼が広がる。

 

「こりゃあ、あの時と同じ……」

 

「ああ、アポリアのものだ」

 

クロウとジャックが呆然と呟く中、遊矢は導かれるようにDーホイールに搭乗し、ハンドルを握る。コナミが渡したカードより与えられた力。

となるとコナミは、こうなる事を分かって月影にカードを渡していたのだろうか。

 

「……やはり、な」

 

遊矢が考え込む中で、白コナミがポツリと溢す。やはりどう言う事だろう、遊矢が彼に視線を移す共に白コナミが神妙な面で口を開く。

 

「奴も俺も同じ存在、となると俺がやりそうな事を察していたのだろう。腹立たしい事だがな」

 

「同じじゃないさ……」

 

「……何?」

 

「俺の友達とお前を一緒にしないでもらおうか!あいつは、コナミは、俺達の大事な友達だ!」

 

「……フ、どうだろうな?俺も奴も、根は変わらんと思うがな!」

 

吠える遊矢に、不敵な笑みを浮かべる白コナミ。両者譲る事はない。ならば、デュエルで証明するまで。

シティの命運を賭け、今、遊矢がDーホイールを駆り、翼を羽ばたかせ、アーククレイドルへと乗り込む。

両雄、激突する時。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

ところで、空を飛んでおいてライディングデュエルとは何だろうか?

 

白コナミ LP1400

フィールド『ニトロ・ウォリアー』(攻撃表示)『ターボ・ウォリアー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

『光の護封陣』

手札0

 

――――――

 

「「「デュエル!!」」」

 

一方、治安維持局、デュエルルーム。そこでは3人のデュエリストがデュエルディスクを構え、デュエル開始の口上を上げていた。

1人は銀髪に赤緑の眼鏡、赤いマフラーが特徴的な少年、赤馬 零児。

2人目はやや後退した銀髪に顔から首にかけて無数のマーカーを刻んだライダースーツの巨漢、セルゲイ・ヴォルコフ。

そしてこの2人に対する3人目は、黒く充血した眼に黄金の瞳を持ち、セルゲイよりも更に膨張した筋肉を誇る男、ジャン・ミシェル・ロジェ。

 

零児とセルゲイはロジェを倒す為、立ち上がったのだが、ロジェはプラシドから1枚のカードを渡された途端、このような姿に豹変してしまったのだ。

変わったのは見た目だけでないだろう。零児は冷静に分析しながら凄まじい威圧感を放ち、デッキから5枚のカードを手札とするロジェの挙動を警戒する。

 

ルールはバトルロイヤルルール。

零児として自分のデッキはタッグデュエル向きではないと思っているが、今回は共闘するのがセルゲイの為、ダメージを様々なアドバンテージに変える彼と組めないのは少々惜しいと考え込む。先攻はロジェ。彼はニヤリと笑みを浮かべながら手札を切る。

さて、どのような戦術で来るか。

 

「私のターン、私は魔法カード、『強欲なウツボ』を発動。手札の水属性モンスター2体をデッキに戻し、シャッフル、そして3枚のカードをドローする」

 

一気に3枚のドロー、と言えば聞こえは良いが、このカードが行っている事はあくまで手札交換。それに手札に水属性モンスターが2体以上なければ発動出来ないと使い勝手は良くない。

しかしこれでロジェのデッキの方向性が少しだけ分かった。彼のデッキは水属性モンスターを主軸にしたデッキ。アカデミアの人間の為、『アンティーク・ギア』と思ったが、違うらしい。

 

「たった今手札に加わった『彩宝龍』の効果発動。このカードが手札に加わった場合、このカード自身を特殊召喚出来る!」

 

彩宝龍 守備力2600

 

現れたのは美しく輝くサファイアの鱗を持つ水棲の龍。その幻想的な姿を目に捉え、セルゲイが思わず「美しい……!」と呆然と呟く。

守備力2600ものチューナーモンスター。このまま壁としても使えるが、勿論零児とセルゲイを相手にそんな悠長な真似をする筈がない。

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動。そして『カードガンナー』を召喚」

 

カードガンナー 攻撃力400

 

今度は透明なガラスのヘッドからサーチライトを輝かせ、赤い上半身と両腕に砲塔を、青いキャタピラの下半身を持つ玩具染みたモンスター。ここまで一貫性がないカードばかり、少々計りかねる。

 

「魔法カード、『機械複製術』。『カードガンナー』をデッキから2体、リクルートする」

 

カードガンナー 守備力400×2

 

水属性サポートの『強欲なウツボ』に、機械族サポートの『機械複製術』。水属性、機械族を中心としたデッキだろうか。

 

「3体の『カードガンナー』の効果を発動!計9枚のカードをデッキトップから墓地に送り、各々『カードガンナー』の攻撃力は墓地に送ったカード1枚につき500アップする!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900×3

 

一気に9枚の墓地肥やし、強力なコンボだ。本来デュエリスト向きではない。ロジェだが、彼は元々策略家、デュエルよりも向いている分野があるだけでデュエルが出来ない訳ではない。

 

「そして墓地の『水晶機巧ーサルファフナー』の効果発動!手札のサルファフナー以外の『クリストロン』カード、『水晶機巧ーリオン』を捨てる事で、このカードを守備表示で蘇生する!」

 

水晶機巧ーサルファフナー 守備力1500

 

次に現れたのは黄金に染まった機械の獣竜。四足歩行に翼を持ったドラゴンを模した機械竜と言った所だろうか。

身体中に水晶の鱗を持っており、刺々しい見た目のモンスターだ。水属性、機械族。成程、このカード、『クリストロン』が彼のデッキのテーマか。

 

「そしてその後、私のフィールドのカードを1枚破壊する。『カードガンナー』を破壊し、『カードガンナー』自身と『補給部隊』の効果で2枚ドロー!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札0→1→2

 

「魔法カード、『カップ・オブ・エース』!コイントスを行い、表ならば私が、裏ならば貴様がドローする。当然表!神たる私に隙はない!2枚ドロー!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札1→3

 

上手いコンボだ。デメリット効果を活かし、即座に手札を回復させている。更にドローソースまで引き、これでロジェの手札は3枚、いや。

 

「魔法カード、『サルベージ』!墓地の水属性モンスター2体を回収し、魔法カード、『強欲なウツボ』!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札1→4

 

これで――。

 

「2枚目の『カップ・オブ・エース』!表を選択し、当たりだ、2枚ドロー!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札3→5

 

5枚。とんでもない回復力だ。

 

「そして、フィールドのレベル5以上で同レベルのチューナーとチューナー以外のモンスターを墓地に送り、エクストラデッキからあるモンスターを呼び出す!レベル5のサルファフナーに、レベルマイナス5となった『彩宝龍』をマイナスチューニング!」

 

「マイナスチューニングだと!?」

 

正の数字にて行われるシンクロではなく、正と負にして行われるマイナスチューニングに驚愕する零児。

無理もない。彼等からしてみればこれは異常な事だ。いや、シンクロ次元でもか。アクセルシンクロ、ダブルチューニングとシンクロ次元だけあって、その先を見せてくれる。

これはその中でもダークシグナー達のダークシンクロに近い。マイナスのレベルを持つダークチューナーを使うあちらと異なり、こちらはシンクロモンスター本体の力で、通常のチューナーをマイナスレベルに変えるものであるが。

そしてこちらは結果として生まれるモンスターは、マイナスレベルを持つダークシンクロではなく――レベル0のシンクロモンスター。

 

「混沌の次元より沸き出でし力の源!原点にして全ての頂点!この現世でその無限の渇望を暫し潤すがよい!」

 

『彩宝龍』の身体が黒く染まった後、光となって弾け、闇色の星となる。星の数は5つ、5つの星はサルファフナーの周囲を回転し、サルファフナーの身体に埋め込まれ、悲痛な断末魔が上がる。

これは贄だ。神を地上に君臨させる為の尊き贄。サルファフナーの身体は内部から発光する星が持つ闇色のへと変わり、灰となって空中に昇る。そして灰の煌めきは竜の星座を作り出して――今、浮かび上がる。

 

「神臨せよ!究極神、『アルティマヤ・ツィオルキン』!!」

 

アルティマヤ・ツィオルキン 守備力0

 

広大とも言える、デュエルルームいっぱいに――今、赤く燃え盛る竜の神が君臨する。その名は『アルティマヤ・ツィオルキン』。ナスカの地上絵に刻まれた、冥界の王を滅ぼす赤い守護竜。その神が、零児達に牙を剥く。

 

「レベル0の、シンクロモンスター……!」

 

「さぁ、我が神の力を見せてやろうではないか!カードを3枚セット、ターンエンド!1ターン1度、魔法、罠カードがセットされた事で、『アルティマヤ・ツィオルキン』の効果発動!エクストラデッキから『パワー・ツール』シンクロモンスター、またはレベル7、8のドラゴン族シンクロモンスター1体を呼び出す!魔神を束ねし蝿の王よ!ムシズの走る世界に陰りを!『魔王龍ベエルゼ』!」

 

魔王龍ベエルゼ 攻撃力3000

 

赤き竜の咆哮を受け、フィールドに呼び出されたのはセクトのエースモンスター。双頭の黒竜に女性を磔にした異形のモンスターだ。

この魔王でさえも神の前では配下の1体に過ぎないと言う事か。1ターンに1度とは言え、カードをセットするだけで強力なモンスターを呼ぶ効果に零児が戦慄する。

 

「何と言う効果だ……!」

 

「当然だろう、私こそが神なのだから!私はこれでターンエンド。さぁ、神の威光の前に足掻いて見せよ、か弱き人間共よ!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ LP4000

フィールド『アルティマヤ・ツィオルキン』(守備表示)『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)『カードガンナー』(守備表示)×2

『補給部隊』セット3

手札2

 

襲いかかる脅威、ジャン・ミシェル・ロジェ。神の力を得、決闘竜を自在に操る彼を前に、零児とセルゲイはどう出るのか。

苦戦は必至、今、榊 遊矢と白コナミのシティの命運を賭けた決戦の裏で、語られざる闘いの幕が静かに上がる。

 

「私の、ターン……!」



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第187話 赤き竜

好きな子はいじめたくなる小学生メンタル。
それがユートとか沢渡さん、ロジェに適用されているのかもしれません。コイツ酷い目にあってるなってキャラは大体好きなキャラ。
明日はもーっと不憫になるよね、ナス太郎?


「おーおー、『クリッター』じゃねぇか。まぁた戻って来たのかぁ?」

 

「ハハハ、おかえりサンガンちゃん!」

 

とある監獄の中で、3つの目を持った悪魔、『クリッター』が哀れにも迷い込み、炎に覆われた竜や紫色の羽を持つ烏等、一目見ただけでろくでもない雰囲気を漂わせた囚人達に下卑た声で歓迎されていた。

 

「うっ……うっ……うっかり乗るバスを間違えたばっかりに……!頼むよぉ、オイラ何もやってねぇよぉ!」

 

「ええいうるさい!キリキリ歩け!」

 

「お前に言われるとムカつくなぁ、『ゴヨウ・ガーディアン』!」

 

そう、ここは禁止カード達の監獄。

セキュリティである『ゴヨウ・ガーディアン』や『ゴヨウ・ディフェンダー』に連れられた『クリッター』が3つの目から涙を流しながらこの世の終わりのような表情となる。

彼はただ行き先のバスを間違えただけなのに。

ここに入れば最後、デュエルに顔を出す事が出来なくなるのだ。何だかんだとデュエリスト以上にデュエルが好きな彼等からすれば地獄のような環境だ。

 

「おら!貴様はこの573号室だ!」

 

「お前の同部屋の囚人番号573番は超凶悪な奴だからなぁ!墓地送りにされないよう気をつけろよぉ!」

 

ガシャン、無情にも罪のない『クリッター』が独房へと入れられる。

相部屋の奴もろくでもない奴と言う始末。最悪である。

 

「ふ……新入りか……」

 

「!」

 

部屋の奥、黒く闇に包まれたベットの上で、もう1人の囚人が『クリッター』へ声をかける。噂を聞いた『クリッター』はビクビクとしながらゆっくり振り返る。

 

「えらいハリキリボーイが来たじゃないか……」

 

そこにいたのは、お察しの通り――黄金のデュエルディスクを左腕に嵌めた、デュエリストであった。

 

ーーーーーー

 

「何故だ……何故貴様等はっ……!」

 

シティ中で、多くの者が闘っている。現在、シティ上空に浮かぶアーククレイドルを何とかする為に、遊矢、ジャック、クロウ達が闘い。

混乱の中それに乗じてシティの人々を襲うゴースト達から彼等を守る為に、ランサーズやそれに協力する現地の者達が闘っているのだ。

 

ここシティ地下に設立された賭けデュエル場でも、3人の勇士が1人の大男と大男が引き連れたゴーストとデュエルを行っていた。

その中で、紫のラインを刻んだ黒のローブを纏った筋肉質の大男、ボマーが歯軋りを鳴らし、トップスと思われる高価なスーツを着た恰幅の良い裕福そうな男を庇い立つ青年を睨む。

 

「貴様等はそいつ等が憎くないのかっ!?シンジ・ウェーバーッ!」

 

その青年の名は、シンジ・ウェーバー。今やフレンドシップカップでの遊矢との激闘を見て、シティ中の誰もが知るコモンズのデュエリストだ。

シティの構造を、トップスを憎む誇り高きコモンズの男。そんな彼が、凛々しい表情で、トップスの人間を守っている。

いや、彼だけじゃない。彼の仲間、トニーもデイモンも、トップスを守る為に闘っている事に、ボマーは驚愕し、同時に苛立っている。

 

このゴーストの人格を作る為にコピーされたボマーと言う男は、復讐者であった。故郷を滅ぼしたであろう者を憎み、復讐を遂げようとしていた彼からすれば、憎き敵を庇う彼等の行動は理解できず、自らを否定するものに見えてしまうのだ。

 

「貴様は自らの誇りを捨て、その男達の奴隷にすらなると言うのか!?」

 

「あん?」

 

「ひっ、ヒィッ!た、助けれくれッ、き、君ぃ!早く奴等を倒してくれっ!」

 

「あぁ?」

 

ボマーが怒りを露にして叫び、トップスの男が悲鳴を上げてシンジにすがりついた時、シンジは額に青筋を浮かべ、目付きを鋭くして男を睨み、ドスの効いた声で唸る。

そしてシンジは右手で男の顔面を掴み、あり得ない馬鹿力で持ち上げる。俗に言うアイアンクロー状態。シンジは心外だと言わんばかりの表情で男を掴みながら、今度はボマーを睨む。

 

「イダダダダ!?き、君ぃ!?何をやって……イダダダダ!」

 

「テメェもおっさんも、勘違いしてんじゃねぇぞ。俺は今でもトップスは憎いし、こんな奴等本当は守りたくねぇ」

 

「なら何故!」

 

ギリギリと自身が締め上げる腕を必死でタップする男に視線を移し、呟くシンジ。当然の事だ、シンジ達はそれだけトップスに虐げられて来た。その過去は変わらないし、この憎しみは今でも消えない。

 

「だからテメェ等がコイツ等をかっさらうってのも気に食わねぇ」

 

「ッ!?」

 

「コイツ等が消えたらそれで俺の憎しみも消えんのか?んなもんテメェが決めんじゃねぇ。コイツ等には償ってもらわなきゃいけねぇんだよ。新しくなるシティでな」

 

今も昔も、彼等を許すつもりはない。だが未来はどうなるか分からない。未来ではトップスは償い、コモンズは許しているかもしれない。そんな可能性を潰す事こそ、シンジは許さない。

 

「分かったかデカブツ、分かったら手を退きな。分からねぇなら、お前も俺に、殴られてみるかい?」

 

そう言って不敵に笑う彼は――どこか晴れやかであった。

 

――――――

 

一方、治安維持局のデュエルルーム。そこでは赤き竜神、『アルティマヤ・ツィオルキン』とその配下である『魔王龍ベエルゼ』をフィールドに並べた治安維持局長官――いや、ビルドアップした今、超官と呼ぶべきジャン・ミシェル・ロジェと、彼と対立するランサーズリーダー、赤馬 零児と、ド変態デュエルマシーン(賢者モード)のセルゲイ・ヴォルコフの姿があった。

 

シティの混戦の裏で行われるもう1つのデュエル。ターンは零児に移り、彼はデッキから1枚のカードを引き抜く。

 

「私のターン、ドロー!」

 

ロジェのフィールドには強力なモンスターが2体、下級モンスターが2体、永続魔法、『補給部隊』とセットカードが3枚。

よくも1ターンでここまでの布陣を敷いたものだ。敵であっても感心する。

まずは激闘竜を呼び出す『アルティマヤ・ツィオルキン』を撃破し、長期戦での不利不安を取り除きたい所だが――神と呼ばれるにも関わらず、レベル、攻守共に0のモンスターだ。何か耐性がある事は間違いない。

 

となると次の不安は伊集院 セクトのエースモンスターである『魔王龍ベエルゼ』。攻撃力3000の上、ダメージを攻撃力に変える強固な耐性のモンスター。

試合を見ていた限り、突破は難しいだろうが、このカードの除去も考えなければならない。

幸い、決闘竜は『アルティマヤ・ツィオルキン』に無理矢理フィールドに呼び出された為、正規の召喚を通さず、蘇生制限を満たしていない。1度破壊すれば回収しない限り、復活出来ない。

 

如何に敵は神だろうと、それを操っているのはあくまでデュエリスト。プレイヤー自身は無敵ではない。

ロジェのLPを0にすれば問答無用で勝てる。

 

「結局動いてみないと分からんか、私は『サンダー・ドラゴン』を手札から捨て、同名カード2枚をサーチ!カードをセット、そして――」

 

「罠発動!『砂塵の大竜巻』!そのセットカードを破壊しようか!」

 

「くっ!」

 

「おっと、『地獄門の契約書』か。良いカードを砕けたなぁ」

 

専用サーチカードで盤上を整えようとするも、『アルティマヤ・ツィオルキン』が咆哮し、その影響で生まれた竜巻が『契約書』を砕く。これはかなり痛い。

 

「君は試合に出ていないから情報がないと思ったか?だからこそ私は評議会を部下に攻めさせたのだよ。君のデュエルスタイルを暴く為にね。尤もそのまま倒せるだろうとあれだけ送ったのだが、それも全て倒し、ここに来るのは予想外だったが。榊 遊矢等より君の方がよっぽど化物染みている」

 

「お褒めの言葉受け取っておこう。今の貴方も充分化物だが」

 

「化物ではない!神だ!さぁ、崇めよ!『砂塵の大竜巻』の続く効果で手札の魔法、罠カードをセットし、カードがセットされた事で、『アルティマヤ・ツィオルキン』の効果発動!次はこのカードだ!星海を切り裂く一筋の閃光よ!魂を震わし世界に轟け!『閃光竜スターダスト』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

ロジェが『砂塵の大竜巻』を発動した本当の狙いはこちら。カードをセットし、『アルティマヤ・ツィオルキン』の効果で新たな決闘竜を呼ぶ事。

神の勅命を受け、フィールドに推参したのは星屑纏う線の細い天使のような白い竜。白コナミのエース、『スターダスト・ドラゴン』に酷似した姿を持つ、零児の仲間、コナミの操るシンクロモンスターだ。

 

「『スターダスト』……!」

 

「ククク、貴様の仲間、ダニエルのカードとの再会だ。感動的だろう?」

 

「そうだな……より一層貴方を倒したくなった。魔法カード、『手札抹殺』!」

 

「カウンター罠、『魔宮の賄賂』!魔法、罠の発動を無効にし、破壊!相手は1枚ドローする!」

 

赤馬 零児 手札5→6

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札5→6

 

「くっ、速攻魔法、『リロード』!手札を交換!そして魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップから10枚のカードを除外、カードを2枚ドローする!」

 

赤馬 零児 手札4→6

 

「魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』!2枚ドロー!」

 

赤馬 零児 手札5→7

 

「2枚ともペンデュラムモンスターの為、そのまま手札に加える。手札の『DD魔導賢者ニュートン』の効果発動!このカードを手札から捨てる事で、墓地の『地獄門の契約書』を回収、発動!『DD魔導賢者ケプラー』をサーチし、召喚!」

 

DD魔導賢者ケプラー 攻撃力0

 

「ケプラーが召喚、特殊召喚に召喚に成功した事で効果発動!『闇魔界の契約書』をサーチし、発動!効果により墓地の『DD魔導賢者ニュートン』をペンデュラムゾーンに設置する!更に『DDD極智王カオス・アポカリプス』をセッティング!これでレベル5から9のモンスターを同時に召喚可能!我が魂を揺らす大いなる力よ。この身に宿りて、闇を引き裂く新たな光となれ!ペンデュラム召喚!『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』!」

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 守備力3000

 

零児の背後に2本の光の柱が出現し、その中に弧を描いた機械に色とりどりの宝玉を吊るしたモンスターと振り子を模した悪魔が現れ、上空に魔方陣を描き出す。

そして魔方陣に孔が開き、中から1本の光が降り、地響きを鳴らす。光の粒子を散らし、君臨するのは頭部と肩から角を伸ばした人型の悪魔。静かに玉座に腰掛け、圧倒的な存在感を放つ。

 

「そしてアビス・ラグナロクの効果発動!」

 

「棒立ちになっているケプラーをリリースし、『アルティマヤ・ツィオルキン』を狙うか?それとも破壊耐性を持つベエルゼを除外する、か?悪いがそうはいかん。『アルティマヤ・ツィオルキン』には他のシンクロモンスターが存在する限り、攻撃、効果への耐性がある!それに……アビス・ラグナロクの特殊召喚時、私は罠カード、『ツイン・ボルテックス』を発動!私のフィールドの機械族モンスター、『カードガンナー』と君のモンスター、アビス・ラグナロクを破壊!」

 

「ッ!」

 

常に一手先を行くロジェの妨害で、零児の戦術が瓦解する。折角のベエルゼに対抗出来るモンスターが失われてしまった。しかもロジェの戦術はこれだけに終わらない。

 

「『カードガンナー』と『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札1→2→3

 

敵の一手を潰すだけでなく、自分は新たな手を引き込む。ロジェはこの一手だけに留まらず、更に先の大局を読もうと言うのだ。まるでチェスでもするかのように、一つ一つに隙がない。

 

「クク、どうしたね、それで終わりか?」

 

「くっ、カードを2枚セットし、ターンエンドだ……!」

 

赤馬 零児 LP4000

フィールド『DD魔導賢者ケプラー』(攻撃表示)

『地獄門の契約書』『闇魔界の契約書』セット2

Pゾーン『DD魔導賢者ニュートン』『DDD極智王カオス・アポカリプス』

手札2

 

結局このターンは大した戦果は上げられなかった。バトルロイヤルルールでは全てのプレイヤーは最初のターン、バトルを行えないとは言え、せめてベエルゼだけでも倒したかった。そしてターンはセルゲイへと回り、彼はデッキから1枚のカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!そしてフィールド魔法、『暗黒界の門』を発動!フィールドカードが存在する事で、『地縛囚人ストーン・スィーパー』を特殊召喚する!」

 

地縛囚人ストーン・スィーパー 守備力1600→1900

 

現れたのは黒い影の身体に青く輝く紋様を持つイルカ型のモンスター。セルゲイのデッキは『地縛』カードを中心とし、大型モンスターを次々と展開するもの。遊矢を追い込んだだけあり、かなり強力だ。

 

「続けて『地縛囚人ライン・ウォーカー』を召喚!」

 

地縛囚人ライン・ウォーカー 攻撃力800→1100

 

次は黒い人型の影にオレンジの光を纏わせたモンスター。下半身はプツリと途切れており、紫の炎が漏れ出している。このモンスターはチューナー。シンクロの準備を整えてきた。

 

「そして魔法カード、『異界共鳴ーシンクロ・フュージョン』を発動!俺のフィールドからシンクロモンスターと融合モンスターに記された素材一組を墓地に送り、そのシンクロモンスターと融合モンスターをそれぞれシンクロ、融合召喚する!レベル5のストーン・スィーパーに、レベル3のライン・ウォーカーをチューニング!地の底から蘇れ、戒め放つ翼持つ巨獣よ!シンクロ召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグリフォン』!」

 

地縛戒隷ジオグリフォン 攻撃力2500→2800

 

ライン・ウォーカーが3つのリングとなってストーン・スィーパーを包み込み、その中を潜り抜けると共に閃光が炸裂、光の中より鋭いアギトを拘束された漆黒の翼獣が飛び立つ。

身体中に刻んだ緑の光に巨大な翼、鋭い爪と尾となった蛇が特徴的なモンスター。

その隣でたった今シンクロ素材となった一組のモンスターが渦を巻き、無数の触手が飛び出す。

 

「地を這う囚人よ、刑場への道を歩き続ける囚人と1つとなり戒めを与える巨獣となれ!融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオクラーケン』!」

 

地縛戒隷ジオクラーケン 攻撃力2800→3100

 

現れたのは巨大なイカの姿をしたモンスター。『アルティマヤ・ツィオルキン』やベエルゼもいる事で、広いデュエルルームも少々狭く感じる。

 

「確かに……私が与えた力だけあってそのモンスター達は強力だが、それでもベエルゼは倒せんぞ。それが分からない貴様ではあるまい」

 

「魔法カード、『終わりの始まり』!墓地の闇属性モンスター5体を除外し、3枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札1→4

 

「除外された『ネクロフェイス』の効果で互いにデッキから5枚のカードが除外される。俺はカードを4枚セットし、ターンエンド」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4000

フィールド『地縛戒隷ジオグリフォン』(攻撃表示)『地縛戒隷ジオクラーケン』(攻撃表示)

セット4

『暗黒界の門』

手札0

 

「私のターン、ドロー!」

 

「永続罠、『サモンリミッター』!互いに1ターンに2度までしか召喚、特殊召喚を行えない!」

 

「魔法カード、『強欲で金満な壺』を発動!エクストラデッキから6枚のカードを除外、2枚ドロー!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札3→5

 

「『カードガンナー』の効果発動!デッキトップから3枚のカードを墓地へ!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

「手札の『水晶機巧ースモーガー』を捨て、『水晶機巧ーサルファフナー』を墓地より蘇生!」

 

水晶機巧ーサルファフナー 守備力1500

 

「そして『カードガンナー』を破壊!墓地のスモーガーを除外し、『クリストロン・インパクト』をサーチ!そしてカードをセットする事で、『アルティマヤ・ツィオルキン』の効果発動!清廉なる花園に芽吹き孤高の薔薇よ蒼き雫を得てここに開花せよ!『月華竜ブラック・ローズ』!」

 

月華竜ブラック・ローズ 攻撃力2400

 

恐るべき速度でロジェのフィールドを侵食する決闘竜。今度は鮮やかな深紅に染まった薔薇の鱗を持つ黒い竜。

 

「ブラック・ローズの特殊召喚時、または相手のレベル5以上のモンスターが特殊召喚した時、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体をバウンスする!消えるが良い!ジオグリフォン!退華の叙事歌!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!ブラック・ローズの効果を封じる!」

 

「それ位はやってもらわないと困る。では今度はバトルにしようか!まずは赤馬 零児!愚かな貴様に神の鉄槌を!仲間の力をその身に受けよ!『閃光竜スターダスト』でケプラーへ攻撃!流星突撃!」

 

セルゲイのフィールドより鎖が飛び出してブラック・ローズの動きを封じ込めるのも束の間、隣に並ぶ『スターダスト』が飛び立ち、急降下、猛スピードのダイブでケプラーに迫る。

 

「させない!罠発動、『威嚇する咆哮』!攻撃宣言を封じる!」

 

「チッ、流石にケプラーを棒立ちさせる訳がないか。私はカードを3枚セットし、ターンエンドだ」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ LP4000

フィールド『アルティマヤ・ツィオルキン』(守備表示)『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『魔王龍ベエルゼ』(攻撃表示)『月華竜ブラック・ローズ』(攻撃表示)『水晶機巧ーサルファフナー』(守備表示)

『補給部隊』セット4

手札1

 

「私のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、2枚の『契約書』の効果により、私は2000のダメージを受ける」

 

赤馬 零児 LP4000→2000

 

「ほう、手札を得る為ダメージを許容するか。涙ぐましいなぁ。いじらしくて、邪魔したくなってしまう!希望を捨て、楽になれ!罠カード、『砂塵の大嵐』!『地獄門の契約書』と『デモンズ・チェーン』を破壊する!」

 

「ッ、罠発動!『契約洗浄』!私は全ての『契約書』を破壊し、その枚数分ドローし、LPをドローした数×1000回復!」

 

赤馬 零児 LP2000→4000 手札3→5

 

ロジェが零児を地獄に突き落とそうと『アルティマヤ・ツィオルキン』から激しき嵐を放つ。幸いにして零児はこれをかわし、新たな手札を得るが、これならばダメージを受ける前に使った方が良かったか。『地獄門の契約書』での手札補給も不発に終わり、零児の勝利へのポートフォリオが崩れていく。

ジャン・ミシェル・ロジェ。零児にとって強力な天敵だ。

 

「おや、かわされてしまったか。まぁしかし――」

 

ニヤリと笑みを浮かべるロジェの背後で、セルゲイが仕掛けた『デモンズ・チェーン』から解き放たれし竜。『ブラック・ローズ』が荒々しい咆哮を放つ。これもまた、零児の天敵。

 

「このカードが解放されたから良しとしよう」

 

「……!魔法カード、『強欲で金満な壺』を発動!エクストラデッキから6枚のカードを除外、デッキより2枚ドロー!」

 

赤馬 零児 手札4→6

 

「魔法カード、『ポルターガイスト』!セルゲイの場から『サモンリミッター』をバウンスし、ペンデュラム召喚!『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』!『DDD反骨王レオニダス』!」

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 守備力3000→3300

 

DDD反骨王レオニダス 攻撃力2600→2900

 

再び揺れ動く振り子の軌跡、現れたのは決闘竜への唯一の対抗株、アビス・ラグナロクと黄金の鎧兜と赤いマントを纏い、槍と盾を手にした騎士王の姿。

 

「ブラック・ローズの効果発動!アビス・ラグナロクをバウンス!」

 

「だがアビス・ラグナロクの効果までは無効に出来ない!このカードが召喚、特殊召喚に成功した事で、墓地の『DDD覇龍王ペンドラゴン』を蘇生する!」

 

DDD覇龍王ペンドラゴン 攻撃力2600→2900

 

アビス・ラグナロクと入れ替わるように現れたのは漆黒の鱗を狂気で震わせる強靭な竜王。このような見た目だが、悪魔族と言う、デュエルモンスターズにありがちなややこしさを持つ。

 

「魔法カード、『置換融合』を発動!フィールドのレオニダスとペンドラゴンで融合!神々の黄昏を打ち破り、押し寄せる波の勢いで、新たな世界を切り開け!融合召喚!出現せよ!極限の独裁神、『DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク』!」

 

DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク 攻撃力3200→3500

 

融合召喚、零児の背後に青とオレンジの渦が発生し、黄金の騎士王と漆黒の竜王が混ざり合い、新たな王を誕生させる。進化前となるアビス・ラグナロクの面影を残しつつ、筋肉を雄々しく隆起させ、背から更なる角を伸ばし、水のオーラを纏う魔王。

このモンスターで、ロジェの布陣を突き崩す。

 

「バトル!カエサル・ラグナロクでブラック・ローズへ攻撃!この瞬間、ケプラーを手札に戻し、カエサル・ラグナロクの効果発動!ベエルゼをこのカードに装備し、その攻撃力分、カエサル・ラグナロクの攻撃力をアップ!」

 

「ほう……?罠発動!『レインボー・ライフ』!手札を1枚捨て、このターンのダメージを回復に変換!更に『スターダスト』の効果を使い、ブラック・ローズを破壊から守る!波動音壁!」

 

DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク 攻撃力3500→6500

 

ジャン・ミシェル・ロジェ LP4000→8100

 

対象を取らない、相手モンスターの装備化、如何に戦闘、効果で破壊されないベエルゼだろうと一瞬で無力化され、更に糧とする効果だ。魔王が魔王に食らわれる。

生き残った王はその身体から漆黒のオーラを滾らせ、巨刀を薔薇の竜に振り下ろす。これを食らえば決闘竜でもすり潰され、ミンチにされる。ロジェにも大ダメージが入るだろうと思われたその時、ロジェは2つのカードを駆使し、完璧にかわしてみせる。

 

ブラック・ローズの周囲に光のバリアが発生し、巨刀とぶつかって飛び散る火花が虹色の雨となりてロジェに降り注ぐ。

手強いが――厄介なベエルゼを打破した。

 

「メンイフェイズ2、『DD魔導賢者ケプラー』を召喚!」

 

DD魔導賢者ケプラー 攻撃力0→300

 

「召喚時効果により、デッキより『地獄門の契約書』をサーチ、発動!デッキから『DDナイト・ハウリング』をサーチ。墓地の『ADチェンジャー』を除外し、ケプラーを守備表示に変更。カードをセットし、ターンエンド」

 

赤馬 零児 LP4000

フィールド『DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク』(攻撃表示)『DD魔導賢者ケプラー』(守備表示)

『魔王龍ベエルゼ』『地獄門の契約書』セット1

Pゾーン『DD魔導賢者ニュートン』『DDD極智王カオス・アポカリプス』

手札4

 

「俺のターン、ドロー!『暗黒界の門』の効果を発動!墓地の『地縛囚人ストーン・スィーパー』を除外し、手札の悪魔族モンスターを捨て、1枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札1→2

 

「更に墓地に送られた『魔サイの戦士』の効果発動!デッキからこのカード以外の悪魔族モンスターを墓地に!『地縛囚人ライン・ウォーカー』を選択!魔法カード、『アームズ・ホール』!デッキトップをコストに装備魔法、『メタルシルバー・アーマー』をサーチ!カードを1枚セット、墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、セットカードをデッキに戻し、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札1→2

 

「『メタルシルバー・アーマー』をジオクラーケンに装備!」

 

「『スターダスト』の効果発動!ブラック・ローズを守る!」

 

「そして墓地に存在するライン・ウォーカーを除外し、ブラック・ローズを再度特殊召喚させる!」

 

「ブラック・ローズの効果発動!ジオクラーケンをバウンス!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、効果を無効!更にもう1体のライン・ウォーカーを除外、『スターダスト』を再度特殊召喚させ、ジオクラーケンの効果発動!自分のターンに相手モンスターが特殊召喚された事で、このターン特殊召喚したモンスターを全て破壊し、その数×800のダメージを与える!」

 

「やらせんさ、カウンター罠、『大革命返し』。フィールドのカードを2枚以上破壊するカードの発動を無効にし、除外する!」

 

「ぐっ……!」

 

「それで終わりか?セルゲイよ。貴様では私には勝てん。誰がお前にデュエルを教えてやったと思っている?誰がお前にそのカード達を渡したと思っている?」

 

そう、例えロジェが赤き竜の力を得ていなかったとしても、セルゲイではロジェは倒せない。それはロジェがセルゲイの師である為、今現在セルゲイが行っているデュエルは、ロジェによって教えられた為。セルゲイの全てを知り尽くしているロジェには、セルゲイは勝てない。

 

「そんな事を忘れてしまったのか?嘆かわしいな。榊 遊矢に誑かされ、育ててもらった恩を仇で返すとは」

 

わざとらしく頭に手をやり、溜め息を吐き出すロジェ。そんな彼の力を前にして、セルゲイは歯軋りを鳴らし、手札から新たなカードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!ジオグリフォンをリリースし、2枚ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→2

 

「折角の上級モンスターを良いのか?」

 

「お忘れですか?俺が安定よりもスリルを求めるデュエリストである事を」

 

「ふん、言うではないか。なら私にもスリルを味わわせてもらおうか。出来るものならな」

 

「言われずとも魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札1→3

 

「魔法カード、『ブラック・コア』!手札を1枚捨て、ブラック・ローズを除外!」

 

「ぬぅっ!?」

 

零児に続き、セルゲイも決闘竜を攻略する。毎ターンこちらの戦力をバウンスしてくるこのカードは実に強力だ。ベエルゼ同様、早期の除去が求められる。これで残る決闘竜は、星屑纏う『閃光竜スターダスト』のみ。

 

「永続罠、『闇次元の解放』!除外されている『地縛戒隷ジオクラーケン』を帰還させる!」

 

地縛戒隷ジオクラーケン 攻撃力2800→3100

 

次は戦力の復活を。異次元に繋がる穴が開き、中から食い破るように触手が飛び出し、無理矢理穴を広げて巨大な海魔が現れる。

 

「バトル!ジオクラーケンで『スターダスト』へ攻撃!」

 

「墓地の『シールド・ウォリアー』を除外、『スターダスト』を守る!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ LP8100→7500

 

「くっ、神たる私に傷をつけるか……!」

 

「貴方は神などではない!俺と同じただの人だ!」

 

「デュエルマシーンが世迷い言を……!」

 

「魔法カード、『一時休戦』!互いにドローし、次のターン終了までダメージを0に!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→1

 

赤馬 零児 手札4→5

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札0→1

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』を発動。ターンエンド」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4000

フィールド『地縛戒隷ジオクラーケン』(攻撃表示)

『闇次元の解放』セット1

『暗黒界の門』

手札0

 

「私のターン、ドロー!罠発動!『クリストロン・インパクト』!除外されている『水晶機巧ーシストバーン』を特殊召喚!」

 

水晶機巧ーシストバーン 守備力1500

 

現れたのは紫水晶、アメジストで身体を構成した光輝く翼竜。翼獣、サルファフナーに並び、2体揃って零児とセルゲイのモンスターを威嚇する。

 

「続くインパクトの効果により、お前達のモンスターの守備力を0に!」

 

DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク 守備力3000→0

 

地縛戒隷ジオクラーケン 守備力1200→0

 

「そしてシストバーンの効果発動!サルファフナーを破壊し、デッキから『水晶機巧ーリオン』を特殊召喚!更に破壊されたサルファフナーの効果で2体目のリオンをリクルート!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札2→3

 

水晶機巧ーリオン 守備力500×2

 

次は黒銀のボディを輝かせた小さな人型のロボット。しかも2体だ。今度はどのような戦法で来るか、零児とセルゲイに緊張が走る。

 

「尤も、シストバーンの効果発動後、私は機械族シンクロモンスターしかエクストラデッキから呼べなくなるがね」

 

「決闘竜を呼ぶメリットを無くしてまで……何をする気だ?」

 

「魔法カード、『強欲なウツボ』!手札の水属性モンスター2体をデッキに戻し、3枚ドロー!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札0→3

 

「更に魔法カード、『カップ・オブ・エース』!当然表!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札2→4

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』を発動……手札を交換。さて、答えてやろう。何をする気か、こうするのさ!私はレベル3のシストバーンに、レベル3のリオン2体を――ダブルチューニング!」

 

「何だと!?」

 

チューナー2体を、1体のモンスターに注入する、ダブルチューニング。それはあのキング、ジャック・アトラスしか持ち得ぬ異色のシンクロ召喚。それを、目の前のロジェは驚く零児とセルゲイを尻目に容易く行う。

 

「これこそが私が開発したシンクロ最強のデッキ、『クリストロン』の力!シンクロ召喚!『水晶機巧ーグリオンガンド』!!」

 

水晶機巧ーグリオンガンド 攻撃力3000

 

2体のリオンが6つの光輝くリングとなって弾け飛び、シストバーンを包み、真っ赤な炎が一面を照らす。燃える地平線より姿を見せたのは、黄金に輝く竜。

8枚の翼を伸ばす、逞しき体躯の竜人。

これがロジェ本来の切り札。フレンドシップカップの対戦データを元として作り上げた最強のシンクロデッキ、『クリストロン』だ。古き『アンティーク・ギア』から最新の力へ。それでも機械族と言う共通点は彼がアカデミアの人間である事を示しているのか。

 

「グリオンガンドのシンクロ召喚時、素材としたモンスターの数まで相手フィールド、墓地のモンスターを除外する!私はカエサル・ラグナロクとジオクラーケン、更に赤馬 零児の墓地のペンドラゴンを除外!」

 

「させるか!罠発動、『スキル・プリズナー』!カエサル・ラグナロクを対象とするモンスター効果を無効に!」

 

流石はチューナー2体を求めるダブルチューニングのシンクロモンスターと言った所か、恐るべき効果が飛び出し、零児が何とかこれをかわす。

決闘竜にも比肩するモンスター。こんなカードまで出されては堪ったものではない。

 

「魔法カード、『デビルズ・サンクチュアリ』!『メタルデビルトークン』を特殊召喚!」

 

メタルデビル・トークン 攻撃力0

 

「『水晶機巧ースモーガー』を召喚!」

 

水晶機巧ースモーガー 攻撃力1000

 

今度は煙水晶、スモーキークォーツを身体に埋め込んだ白虎のモンスター。背中や尾から突き破るように水晶が生えている。シストバーンと対をなすモンスターだ。

 

「スモーガーの効果発動!トークンを破壊し、『水晶機巧ーシトリィ』をデッキから特殊召喚!」

 

水晶機巧ーシトリィ 守備力500

 

恐るべき展開力。スモーガーが咆哮すると共にトークンが見る見る内に成長し、黄水晶、シトリンで構成された少女型のロボットとなる。

 

「レベル3のスモーガーに、レベル2のシトリィをチューニング!シンクロ召喚!『水晶機巧ーアメトリクス』!」

 

水晶機巧ーアメトリクス 攻撃力2500

 

再びシンクロ召喚。フィールドに現れたのは紫水晶と黄水晶が混じり合い作られたアメトリンの鎧を持つ女性型のロボット。

シストバーンをモチーフにしたような角、翼、そして尾を持っており、羽の代わりに生えた水晶は紫と金の美しい輝きを放つ。

 

「アメトリクスのシンクロ召喚時、貴様のフィールドの特殊召喚されたモンスター全てを守備表示に変更する!」

 

「しまった……!」

 

現在、零児とセルゲイのフィールドのモンスターは『クリストロン・インパクト』の効果により守備力が0となっている。

その状況でのこのカード。如何にカエサル・ラグナロクの攻撃力が高まっていても防ぎようがない。

 

「フィールド魔法、『クリスタルP』を発動!私の『クリストロン』の攻撃力を300アップ!」

 

水晶機巧ーグリオンガンド 攻撃力3000→3300

 

水晶機巧ーアメトリクス 攻撃力2500→2800

 

「バトルだ!グリオンガンドでカエサル・ラグナロクへ、『スターダスト』でケプラーを、アメトリクスでジオクラーケンへ攻撃!」

 

「ぐっ……!」

 

「ぬぁっ!?」

 

シンクロモンスターによる総攻撃。見事零児達のモンスターを全滅させ、またもロジェが優位に立つ。2人を相手に一方的とも言って良い展開。

流石は神の力を得たと言うだけはある。いや、もしかすれば、神の力などなくとも、この男は零児1人が相手ならば互角に渡り合っていたのではないか。そう思わずにはいられない。

 

「ターンエンドだ。この瞬間、『クリスタルP』の効果発動!このターンにシンクロ召喚した『クリストロン』モンスターの数だけドロー!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札0→2

 

更に展開した後の手札補充も万端、間違いなく一流のデュエリストだ。

 

ジャン・ミシェル・ロジェ LP7500

フィールド『アルティマヤ・ツィオルキン』(守備表示)『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『水晶機巧ーグリオンガンド』(攻撃表示)『水晶機巧アメトリクス』(攻撃表示)

『補給部隊』

『クリスタルP』

手札2

 

絶対的な力を持つ赤き竜、『アルティマヤ・ツィオルキン』。神の力を手にしたロジェが、恐るべき執念で零児達に襲いかかる。

果たして彼等は、ロジェを倒す事が出来るのか。




ドラグーン「遊戯と城之内くんの友情のカード!友情のカードだよ!」

ホープゼアル「俺が禁止になったのはヌメロンのせい、ぜってぇ許さねぇドン・サウザンドォ!」

鰻「助けてくださいデュエリスト……私達が禁止にされたのは冥界の王の罠に違いありません」

デュエリスト君「ほんとぉ?」

FWD(俺もしかしたら生まれたらその時点で死ぬのでは?)



龍可「エンシェントフェアリーのカードが反応しない……精霊界で何かが……?」

レグルス「エンシェントフェアリーは逮捕されました」

龍可「逮捕!?」


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第188話 みらいいろ

予約投稿を間違える痛恨のミスの巻。


「フハハハハ!残念だったなデュエリストよ!もう既に我が神の復活の条件は揃った!」

 

長き旅路の中で、デュエリストは世界を脅かす者と対峙する。

その名は『邪神官チラム・サバク』。下半身が蛇の塊となった異形の神官である。

彼はモンスター達のエネルギーを奪い取り、世界を支配すべく邪神の一柱を復活させようとしたのだ。

 

デュエリストはそれを阻止すべく、闘いを挑むが――時既に遅し、チラム・サバクの背後より、赤黒に染まった竜が雄叫びを上げて現れる。

 

「来たれ、『邪神イレイザー』!!」

 

それは世界を呑み込む邪なる神。無限を超える闇の竜。最悪がデュエリストの前に立ち塞がる。

 

「そして貴様が持っていただろうデッキは我が手にある!この意味が分かるか!?最早貴様に勝機は無い!」

 

チラム・サバクの左腕に闇色のデュエルディスクが生え、デュエリストが本来持っていた、今まで失われていたデッキがセットされる。

状況は最悪。だが、デュエリストの眼に、絶望はない。

 

「いいや――勝機は、ここにある!」

 

その言葉と共に――今まで色を失っていた彼の帽子が赤く染まり、彼の背後に、数多のモンスター達が揃い踏む。

 

黒き獣の英雄、ろーちゃんや『壊獣』の面々。

『アトランティスの戦士』に『舌魚』、『海神の巫女』。

『メルフィー・ラビィ』に『獣王アルファ』、『天霆號アーゼウス』。

『六武衆ーヤリザ』に『六武衆ーニサシ』。

『失楽の聖女』。

『切り込み隊長』に『衛生兵マッスラー』、『無敵将軍フリード』、『覚醒の勇士ガガギゴ』。

キモイルカ、『銀河恐竜』、『サテライト・キャノン』。

『クリッター』と『ゴヨウ・ガーディアン』、『ゴヨウ・ディフェンダー』。

他にも大小、色様々な今まで彼が出会い、救って来たモンスターが彼に味方し、最後に――彼の傍に、白と黒の竜が参戦する。

 

『閃光竜スターダスト』と、『暗黒界の龍神グラファ』が。

 

「ッ!おのれデュエリスト……このモンスターたらしめ……!」

 

「いくぞ皆!オレ達の満足は、これからだぁっ!」

 

デュエル!!熱き口上が、木霊した。

 

――――――

 

「やれぇっ!『地縛神Cusillu』!少年のドラゴンへ攻撃!」

 

シティの一角、とある孤児院の近くにて、ここでもまたゴーストの1体が来襲し、2人のデュエリストと対峙していた。

ゴーストの名はディマク。黄色いラインが走った黒いローブを身に纏う男だ。

彼は自らのエース、猿の姿をした『地縛神Cusillu』を操り、敵である山吹色の鱗を持つ竜を倒そうとするも、Cusilluの巨大な拳を受け止める。

 

「Cusilluの攻撃を受け止めただとっ!?」

 

「『ライフ・ストリーム・ドラゴン』は墓地の装備魔法を除外する事で、破壊を逃れる!」

 

ディマクと相対するデュエリストの1人、少年、龍亞が雄々しく吠える。すると彼のエースである『パワー・ツール・ドラゴン』の進化体、『ライフ・ストリーム・ドラゴン』が見事にCusilluを殴り飛ばす。

 

「くっ、Cusilluが戦闘破壊される代わりに私のフィールドのモンスターをリリースする事で、貴様等のLPを半分にする!」

 

龍亞 LP7000→3500

 

龍可 LP20000→10000

 

Cusilluの戦闘破壊を逃れ、更に敵のLPを半減するディマクだが、全く減っている気がしない。

 

「頼もしくなったわね、龍亞」

 

「へへ、龍可だっておっかないよ」

 

「……それって褒めてる?」

 

龍亞の隣に並ぶ少女、彼と瓜二つの双子である龍可がクスリと微笑みながら声をかける。

そう、ディマクが闘っているのは2人合わせて彼の年に届くかと言った幼き兄妹。そんな子供を相手に、ディマクは苦戦していた。

別段、ディマクが弱い訳ではない。劣化コピーであるディマク・ゴーストの実力は本物のディマクより劣るが、それでもダークシグナーとして強力な力を有している。

にも関わらず、何故彼がここまで手をこまねいているか、簡単だ。この双子が、大人顔負けな程、強いからだ。むしろディマクは良くやっていると言える。

何故なら彼は、自分よりも強い2人を相手に健闘しているのだから。

 

「くっ、何故だ!シグナーの少女はまだしも、少年の方は何故こんなにも強い!」

 

「何でって?へへっ、だって俺もシグナーだし!」

 

2人とは言え、子供を相手に苦戦している事からか、悔しさと焦りを表情に浮かべ、ギリリと口元を歪めて歯軋りを鳴らすディマク。そんな彼の疑問の声に、龍亞が無邪気な笑みを浮かべ、右腕に刻まれた赤い痣を自慢するように見せつける。

 

「何だと!?」

 

「貴方が知らない間にも色々あって、私達も成長したって事!」

 

「そー言う事っ!こんな俺だって成長したんだ。だったらシティだって変われる!ジャックやクロウ、そして――俺達のリーダーがかつてシティを繋げたみたいに!」

 

「絶望だって、希望に変えられる!」

 

この2人は、ただの子供ではない。シグナーであると言う前に、この2人は数々の激闘を潜り抜けて来た。頼もしい兄や姉のような背中を見てきた。

だから知っている。どんな絶望も、希望に変えられる事を。

その胸にありったけの勇気を込め、小さな2人は巨大な闇を打ち砕く。

 

「龍可、覚えてる?」

 

「何を?」

 

「昔、ジャックが言ってたじゃん。チーム5D'sの結成時、俺達は半人前だから、2人合わせて一人前って」

 

「フフ、そんな事もあったわね」

 

「だけど今ならジャックも認めてくれるよね!俺達は1人ずつ一人前だって!」

 

「だったらチーム6D'sになっちゃうかもね」

 

「それはちょっとやだなぁ。やっぱチーム5D'sは5D'sじゃなきゃ」

 

巨大な敵を前にしても、2人は軽口を交わし合い、明るく笑う。だって未来は希望に満ち溢れているのたから。

笑わずにはいられない。見事な連携でディマクの猛攻を退け、圧倒する双子。

そんな彼等のデュエルを見て、キラリと装着したサングラスを輝かせながら、遠目に見つめるなんちゃってシスター少女、ツァン・ディレはニヤリと笑う。

 

「2人は僕が育てた」

 

大胆不敵にホラを吹くツァン。別段そんな事はないのたが、彼女のセリフにディマクは彼女を2人の師とみなし、「では奴はどれだけの強さなのだ……!?」と戦慄するのだった。

 

――――――

 

「私のターン、ドロー!」

 

そんな中、ここ治安維持局、デュエルルームでも闘う者がいた。

ランサーズリーダー、赤馬 零児。アカデミア幹部、治安維持局長官、ジャン・ミシェル・ロジェ。そしてそんな彼に反旗を翻した男、セルゲイ・ヴォルコフ。

神を操るロジェを打倒すべく、零児とセルゲイは手を組み立ち向かう。現在、ターンは零児へ渡る。

 

「スタンバイフェイズ、『地獄門の契約書』の効果により、私は1000のダメージを受ける」

 

赤馬 零児 LP4000→3000

 

「そして『地獄門の契約書』の効果発動!デッキから『DD』モンスターをサーチ!」

 

「させん!手札の『灰流うらら』を捨て、その効果を無効にする!」

 

「ッ!」

 

「そんなものか?赤馬 零児ィ!」

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』を発動。手札を交換し、手札の『DDスワラル・スライム』の効果発動!このカードと手札のアビス・ラグナロクを墓地に送り、融合を行う!」

 

「手札の『増殖するG』を捨て、このターン相手が特殊召喚する度にドロー!」

 

「融合召喚!『DDD烈火大王エグゼクティブ・テムジン』!」

 

DDD烈火大王エグゼクティブ・テムジン 攻撃力2800→3100

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札0→1

 

融合召喚、零児の手札から2体のモンスターを飛び出し、その場でクルクルと回転、混じり合って炎の渦となり、渦の中より新たなモンスターが歩み出る。

炎を纏う大剣に、幅広の盾。肩からは4本の腕が伸びており、剣と盾を持つ手を除いた2本には小太刀が握られている。ブラウンの鎧纏うこのモンスターは、零児が今まで隠していた奥の手。

『DDD烈火王テムジン』を進化させたカードだ。

 

「エグゼクティブだと……?まだそんなものを隠していたとは、抜け目のない奴だ。だがどんなカードでも、この神を前にしては紙切れ同然!」

 

「それはどうかな?私は更に『DDナイト・ハウリング』を召喚!」

 

DDナイト・ハウリング 攻撃力300→600

 

次は鋭い牙が生え揃う、顎のみのモンスター。レベル3のチューナーだ。零児もロジェに対抗し、もう1つの武器を取り出す。

 

「ナイト・ハウリングの効果により、墓地の『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』の攻守を0にし、特殊召喚する!」

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 守備力3000→0→300

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札1→2

 

「この瞬間、アビス・ラグナロクとエグゼクティブ・テムジンの効果発動!墓地より『DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク』と『DDD覇龍王ペンドラゴン』を特殊召喚!」

 

DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク 攻撃力3200→3500

 

DDD覇龍王ペンドラゴン 攻撃力2600→2900

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札2→3→4

 

「ッ、次から次へと……!」

 

次々と現れる零児のモンスターを見て、流石のロジェの表情にも焦りが見え始める。当然だ、1ターンで5体の展開。その内4体が大型である『DDD』なら動揺もする。

 

「アビス・ラグナロクの効果発動!ペンドラゴンをリリースし、『スターダスト』を除外!」

 

「『スターダスト』の効果でグリオンガンドに耐性を与える!」

 

「魔法カード、『アドバンス・ドロー』!アビス・ラグナロクをリリースし、2枚ドロー!」

 

赤馬 零児 手札1→3

 

「ペンデュラム召喚!『DDD反骨王レオニダス』!」

 

DDD反骨王レオニダス 攻撃力2600→2900

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札4→5

 

「次だ!レベル7のレオニダスに、レベル3の『DDナイト・ハウリング』をチューニング!シンクロ召喚!『DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー』!」

 

DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー 攻撃力3000→6000→6300

 

シンクロ召喚、フィールドに見参したのは新たなエグゼクティブの名を冠する風の大王。傷一つない銀の鎧に緑のマント、手には巨大な剣が握られている。

『DDD疾風王アレクサンダー』の進化体だろう。剣を構え、『アルティマヤ・ツィオルキン』を睨む。

 

「エグゼクティブ・アレクサンダーはフィールドに『DDD』モンスターが3体以上存在する事で、攻撃力を3000アップする!」

 

「ぬぅっ……!」

 

「更に墓地の『DD』モンスターを2体除外し、ペンデュラムゾーンのカオス・アポカリプスを特殊召喚!」

 

DDD極智王カオス・アポカリプス 攻撃力2700→3000

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札5→6

 

揃う王達、これで零児のフィールドに4体の『DDD』が並んだ。とんでもない威圧感だ。

 

「バトル!カエサル・ラグナロクでアメトリクスへ攻撃!この瞬間、『DD魔導賢者ニュートン』をバウンスし、グリオンガンド装備!」

 

DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク 攻撃力3500→6500

 

ジャン・ミシェル・ロジェ LP7500→3800

 

見事粉砕、カエサル・ラグナロクの一撃がグリオンガンドとアメトリクスの2体を破壊する。これで残るは『アルティマヤ・ツィオルキン』のみか、と思われたその時。

 

「調子に乗るなぁッ!シンクロ召喚してアメトリクスが破壊された事で、シンクロモンスター以外の『クリストロン』を蘇生する!来い、『水晶機巧ークオン』!」

 

水晶機巧ークオン 守備力500→800

 

「更に『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札6→7

 

ビキビキとロジェがその額に青筋を浮かべ、咆哮すると共に、フィールドに新たなモンスターが登場する。破壊されたアメトリクスの内部から、水晶を帯びた小さな人型ロボットが降り立つ。

 

「クオンの効果発動!手札のチューナー以外のモンスター1体を効果を無効にして特殊召喚し、そのモンスターとこのカードで機械族シンクロモンスターをシンクロ召喚する!来い、スモーガー!」

 

水晶機巧ースモーガー 守備力1800→2100

 

「レベル3のスモーガーに、レベル1のクオンをチューニング!シンクロ召喚!『水晶機巧ークオンダム』!」

 

水晶機巧ークオンダム 守備力2000→2300

 

水晶を生やした白虎が登場し、直ぐ様クオンと1つになり、新たなモンスターを呼ぶ。白い鎧を纏った人型ロボット。その姿はスモーガーを纏ったクオンと言った所だろうか。華麗に着地し、『アルティマヤ・ツィオルキン』を守る。

 

「くッ、固い……!」

 

「当然だ。貴様が如きが神を崩すなど100年早い!」

 

これでシンクロモンスターが増え、ロジェを守る壁となる。凄まじいプレイングだ。クオンを呼び出しただけで零児の王の猛攻を防ぐ壁を生み出すとは。

 

「ならばカオス・アポカリプスでクオンダムへ攻撃!」

 

「クオンダムが破壊された事で、墓地の『水晶機巧ーシトリィ』を蘇生!」

 

水晶機巧ーシトリィ 守備力500→800

 

「シトリィの効果発動!墓地より『古代の機械工兵』を効果を無効にし、蘇生!」

 

古代の機械工兵 守備力1500

 

「2体を素材に機械族シンクロモンスターをシンクロ召喚する!鋼の逆鱗に触れたい奴はご自由に!シンクロ召喚!『機械竜パワー・ツール』!」

 

機械竜パワー・ツール 守備力2500

 

次は龍亞が操る決闘竜。黄色い鋼の鱗にショベルとドライバーの腕を持つ、玩具のような機械竜。決闘竜の中で唯一機械族である異色のカードだ。だからこそこうして『クリストロン』で呼べたのだが。

 

「エグゼブティブ・テムジンで『パワー・ツール』へ攻撃!」

 

「チッ!」

 

「道は開けた!エグゼクティブ・アレクサンダーで『アルティマヤ・ツィオルキン』へ攻撃!」

 

届く刃、エグゼクティブ・アレクサンダーの剣が今、赤き竜神に襲いかかる。どれだけ強力な効果を持っていても、このカード自身の攻守は0。

 

「ならば閉ざすまで!手札の『工作列車シグナル・レッド』の効果発動!このカードを特殊召喚し、このカードに攻撃を移行させる!尚、この戦闘でシグナル・レッドは破壊されない!」

 

工作列車シグナル・レッド 守備力1300

 

足掻きに足掻くロジェ。とんでもない固さだ。神へ攻撃するだけでも苦労させられる。

 

「メインフェイズ2に移行!」

 

「その前に、手札の『クリボーン』を捨て、破壊された『水晶機巧ークオンダム』を蘇生!」

 

水晶機巧ークオンダム 守備力2000

 

「魔法カード、『アドバンス・ドロー』!テムジンをリリースし、ドロー!」

 

赤馬 零児 手札3→5

 

「墓地の『置換融合』を除外、テムジンをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

赤馬 零児 手札5→6

 

「まだまだぁ!速攻魔法、『グリード・グラード』!このターン、シンクロモンスターを破壊した事で2枚ドロー!」

 

赤馬 零児 手札5→7

 

「もう1枚だ!」

 

赤馬 零児 手札6→8

 

「魔法カード、『ライトニング・ボルテックス』!手札を1枚捨て、相手の場の表側表示モンスターを全て破壊する!」

 

「クオンダムの効果により、相手ターン中にシンクロ召喚を行う!レベル3の『工作列車シグナル・レッド』に、レベル4の『水晶機巧ークオンダム』をチューニング!太古の森よりフィールドを制圧する精霊よ、かりそめの姿にその身をやつし降臨せよ。『妖精竜エンシェント』!」

 

妖精竜エンシェント 守備力3000

 

「そして墓地から『復活の福音』を除外、我がフィールドのドラゴンの破壊を防ぐ!」

 

とんでもない執念。あの状況から猛攻を防ぐなど、馬鹿げているにも程がある。

フィールドに現れたるは龍可が持つ決闘竜。水色の体躯に蝶のような翼を広げた森を守護するドラゴンだ。

 

「貴様等がどれだけ足掻こうと、神が残っていればいくらでも巻き返しが効くのだ!フハハハハ!ハァーハッハッハッハァッ!」

 

「手札のニュートンを捨て、『闇魔界の契約書』を回収、発動。効果で墓地のニュートンをセッティング!カードを3枚セット、ターンエンド」

 

「『クリスタルP』の効果でドロー!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札5→6

 

赤馬 零児 LP3000

フィールド『DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー』(攻撃表示)『DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク』(攻撃表示)『極智王カオス・アポカリプス』(攻撃表示)

『水晶機巧ーグリオンガンド』『地獄門の契約書』『闇魔界の契約書』セット3

Pゾーン『DD魔導賢者ニュートン』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札0→2

 

「『暗黒界の門』の効果発動!墓地の『魔サイの戦士』を除外し、手札を交換!『暗黒界の狩人ブラウ』の効果でドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札2→3

 

「魔法カード、『地縛救魂』を発動。墓地から『手札抹殺』とストーン・スィーパーを回収。手札の『サンダー・ドラゴン』を捨て、同名を2体サーチし、『手札抹殺』を発動!『暗黒界の狩人ブラウ』が捨てられた事で、ドロー!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ 手札4→5

 

次々と魔法カードを駆使し、手札を入れ替える。流石の腕だ。

 

「魔法カード、『ミラクルシンクロフュージョン』を発動!墓地のジオグリフォンとジオクラーケンを除外し、融合を行う!融合召喚!現れよ、『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』!!」

 

地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス 攻撃力3000→3300

 

融合召喚、墓地に眠る天空を飛翔する魔獣、ジオグリフォンと、海を支配せし魔物、ジオクラーケンが混ざり合い、地獄の底から大悪魔が産声を上げる。

黒い巨影にオレンジのラインを走らせた、山羊のような角と天を覆う翼、4本の腕に尾と竜のような姿のモンスター。

セルゲイの切り札が今、登場する。

 

「更に『天帝従騎イデア』を召喚!」

 

天帝従騎イデア 攻撃力800

 

現れたのは白銀の鎧を纏う女性型のモンスター。沢渡も使用する『帝王』に連なる系譜のカードだ。アドバンス召喚を行う際、優秀なサポートとなる為、上級モンスター、『地縛神』を使うセルゲイもデッキに投入している。

 

「イデアの召喚時、デッキより攻撃力800、守備力1000のモンスターを守備表示で特殊召喚する!俺は『冥帝従騎エイドス』を選択!」

 

冥帝従騎エイドス 守備力1000

 

イデアの影がその場でうねり、人型となって登場する。イデアと対照的な、闇そのものと言える漆黒の甲冑を纏うモンスター。このカードとイデアを合わせる事によって容易に最上級モンスターのリリース要員を揃える事が出来る。

 

「そしてエイドスが特殊召喚に成功した事で、このターン、俺はもう1度アドバンス召喚の為の召喚権を獲得!2体をリリース、積年の恨み積もりし大地に眠る魂達よ!今こそ穢された大地より出でて、我に力を貸さん!アドバンス召喚!降臨せよ、『地縛神ChacuChallhua』!」

 

地縛神ChacuChallhua 攻撃力2900

 

そしてこの2体を贄として、現れたのは『アルティマヤ・ツィオルキン』、赤き竜に敵対する冥界の王の僕、ジオグラシャ=ラボラスに匹敵する黒き巨影に、紫の紋様を刻んだ鯱の地上絵から生まれたナスカの邪神。

このカードはあくまでコピーカードであるが、何か感じるものがあるのか、『アルティマヤ・ツィオルキン』が咆哮する。

 

「バトル!ジオグラシャ=ラボラスで、『妖精竜エンシェント』へ攻撃!」

 

妖精竜エンシェント 守備力3000→0

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札6→7

 

ジオグラシャ=ラボラスが大きく翼を羽ばたかせ、4本の腕で森を守護する妖精竜に殴りかかり、見事破壊する。これでロジェのモンスターは、『アルティマヤ・ツィオルキン』のみ。

 

「やめ……やめろセルゲイッ!」

 

「ChacuChallhuaで、『アルティマヤ・ツィオルキン』を攻撃!罠発動、『ブラック・アロー』!攻撃力を500ダウンし、貫通効果を与える!」

 

地縛神ChacuChallhua 攻撃力2900→2400

 

ジャン・ミシェル・ロジェ LP3800→1400

 

そして今、『地縛神』が赤き竜を打ち倒す。崩される神の牙城。ロジェの野望がガラガラと音を立てて破壊されていき――フ、とロジェの頭に血が昇り、ビキリと青筋が浮かび、激怒する。

 

「おのれおのれおのれぇっ!この私に、この神に逆らいおってぇぇぇぇぇっ!!」

 

ゴウッ、怒号と共にロジェの周囲から一陣の風が吹き荒れ、闇色のオーラが発生する。神を倒しても尚、いや、神を倒したからこそ、彼の闇は膨れ上がる。

 

「呑まれたか……むしろここまで良く自我を保ったものだ」

 

プラシドがポツリと溢したのを、零児は拾い上げる。呑まれた?まさかロジェは、神のカードに意識を取り込まれているのではないか。

 

「長官!それ以上は駄目です!戻れなくなる!」

 

「黙れぇっ!この神に逆鱗に触れた事、己の死をもって思い知るが良い!」

 

「くっ、カードを2枚セットし、ターンエンドだ……!」

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4000

フィールド『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』(攻撃表示)『地縛神ChacuChallhua』(攻撃表示)

セット2

『暗黒界の門』

手札0

 

「私のターン、ドロー!『機巧牙ー御神尊真神』をリリース無しで召喚!」

 

機巧牙ー御神尊真神 攻撃力2150

 

「罠発動、『落とし穴』!そのモンスターを破壊!」

 

「だがこのカードが破壊された事で、除外された6枚のカードをデッキに戻す!更に『補給部隊』の効果でドロー!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札7→8

 

「魔法カード、『シャッフル・リボーン』を発動。墓地の『水晶機巧ーアメトリクス』を蘇生!」

 

水晶機巧ーアメトリクス 攻撃力2500→2800

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『補給部隊』をデッキに戻してドロー!」 

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札7→8

 

「そして魔法カード、『アイアンコール』を発動!『水晶機巧ークオンダム』を蘇生!」

 

水晶機巧ークオンダム 守備力2000

 

「そしてレベル5のアメトリクスに、レベル4のシンクロチューナー、クオンダムをチューニング!アクセルシンクロ!『水晶機巧ーフェニキシオン』!!」

 

水晶機巧ーフェニキシオン 攻撃力2800→3100

 

ダブルチューニングの次はアクセルシンクロ。シンクロモンスターとシンクロチューナーを素材とするこの召喚法は、白コナミとコナミのものだ。

彼等の対戦データを元に開発されたこのカードは、真紅の装甲を纏い、肩からクリスタルを生やし、背中から鞭のようにしなるペンデュラムを翼の如く伸ばしたロボット。と言う見た目だ。

その姿はまるで不死鳥。一種の美しささえも感じる。

尤も、ロジェはダブルチューニングに必要なバーニングソウルは勿論、アクセルシンクロに必要なクリアマインドも会得していない。人の科学によって限界を超えたもの。それがフェニキシオンとグリオンガンドの2体だ。この2枚に、特別な力は必要ない。

 

「フェニキシオンのシンクロ召喚時、相手フィールドと墓地の魔法、罠を全て除外!」

 

「速攻魔法、『捕違い』!このターン中、相手のドロー以外でデッキからカードを手札に加える効果を封じる!」

 

「3枚の罠発動、『契約洗浄』!2枚の『契約書』を破壊し、LP2000と2枚の手札を獲得!『ダメージ・ダイエット』!このターン受けるダメージを半分に!そして『貪欲な瓶』!墓地のカードを5枚デッキに戻し、ドロー!」

 

赤馬 零児 LP3000→5000 手札0→2→3

 

「速攻魔法、『大欲な壺』!除外されているモンスター3体をエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札5→6

 

「装備魔法、『D・D・R』!手札を1枚捨て、除外されているシトリィを復活!」

 

水晶機巧ーシトリィ 攻撃力500→800

 

「速攻魔法、『地獄の暴走召喚』!デッキより2体のシトリィを特殊召喚!」

 

水晶機巧ーシトリィ 攻撃力500→800×2

 

「そして墓地の魔法カード1枚を除外し、『マジック・ストライカー』を特殊召喚!」

 

マジック・ストライカー 守備力200

 

「レベル3の『マジック・ストライカー』に、レベル2のシトリィ3体をトリプルチューニング!シンクロ召喚!『水晶機巧ーグリオンガンド』!!」

 

水晶機巧ーグリオンガンド 攻撃力3000→3300

 

「効果により、エグゼクティブ・アレクサンダー、カエサル・ラグナロク、セルゲイの『地縛』モンスター2体を除外する!」

 

「私は墓地の『スキル・プリズナー』を除外、その効果を無効にする!」

 

揃うシンクロと『クリストロン』の極致、フェニキシオンとグリオンガンド。真紅の不死鳥と黄金の邪竜。更に。

 

「まだだ!こんなもので許すと思うなよ!魔法カード、『二重召喚』!『幻木龍』を召喚!」

 

幻木龍 攻撃力100

 

次は木で作られた龍のモンスター。高いステータスが多いドラゴン族の中では貧弱とも言える攻撃力のカードだ。

 

「次ぃ!フィールドに地属性モンスターが存在する事で、『幻水龍』を特殊召喚!」

 

幻水龍 守備力2000

 

『幻木龍』の隣に並んだのは水で作られた龍。緩い条件で特殊召喚出来る高レベルモンスター。レベル8、『トレード・イン』や『アドバンスドロー』の効果にも対応しており、優秀なカードと言える。

 

「墓地のチューナー、『水晶機巧ーシトリィ』とフィールドの『幻木龍』を対象に、速攻魔法、『ユニゾン・チューン』を発動。対象になった墓地のチューナーを除外し、残ったフィールドのモンスターにそのレベルとチューナーである特性を与える!」

 

幻木龍 レベル4→2

 

これでフィールドにレベル9のモンスターとレベル8のモンスター!レベル2のチューナーが揃った。ここはレベル10か11の大型シンクロモンスターを出して攻めにかかるか、零児が身構える。しかし、ロジェが取るのは、どちらでもない。

 

「そして『幻木龍』の効果でこのカードのレベルを、水属性ドラゴン族モンスター、『幻水龍』と同じ8に変更!」

 

幻木龍 レベル2→8

 

「レベル8……?まさか『アルティマヤ・ツィオルキン』をまた……!?」

 

ロジェの狙いが再び『アルティマヤ・ツィオルキン』にを呼び出す事と踏む零児だが、直ぐ様その思考に疑問が加わる。

また『アルティマヤ・ツィオルキン』を出したとして、どうなる?『アルティマヤ・ツィオルキン』は自身が強力なステータスを持たない代わりに、カードをセットするだけで決闘竜を出すカード。そう、カードを魔法、罠ゾーンにセットして。

現在ロジェの手札は0、セットするカードも持たない状態で、態々戦闘能力のない『アルティマヤ・ツィオルキン』を出すだろうか?それも計算高いロジェが。

それに『アルティマヤ・ツィオルキン』は墓地にある。2体目と言う考えも、このカードが神であると言う特性から否定出来る。

零児の推測は途中まではあっていた。ロジェは、その上をいく。

 

「甘いなぁ、赤馬 零児!そんなもので、私が貴様を許すと思ったか?私はレベル8の『幻水龍』に、レベル8の『幻木龍』をマイナスチューニング!決闘の地平に君臨する最初にして最後の神!混沌を束ね姿無き身を現世に映さん!シンクロ召喚!『究極幻神アルティミトル・ビシバールキン』!!」

 

究極幻神アルティミトル・ビシバールキン 攻撃力0→8000

 

フィールドに再び赤き竜が復活し、その身を無数の黒き光に貫かれる。悲痛な雄叫びを上げる中、赤き竜の胸に黄金のコアが露出、更に頭部、型、腕に黒き装甲が纏われ、より攻撃的なフォルムに生まれ変わる。

これが、『アルティマヤ・ツィオルキン』が堕天した姿、アルティミトル・ビシバールキン。ロジェの最後の切り札。その事を示すように、ロジェの肉体が何時の間にか消え、竜の頭部にて現れ、一体化を果たす。

 

「これがぁ、我が神の真の姿!さぁ、天の裁きを受け入れるが良い!」

 

「モンスターと1つに、そんなものが神の姿と言うのか!」

 

「そうだとも!素晴らしいと思わんかね!」

 

「思わないな!貴様は神などではない……私と、僕達と同じ人間だ!」

 

「一緒にするなぁ!私は人を超えたのだ!アルティミトル・ビシバールキンは効果では破壊されず、フィールドのモンスターの数×1000、攻撃力をアップする!」

 

零児が己を奮い立たせ、ロジェに食ってかかるも、彼にとってその反抗的な態度が癪に触ったのか、図星を突かれたのか、青筋を浮かべてロジェが吠える。

 

「バトル!この一撃で滅ぶがいい!まずはセルゲイ!貴様だ!アルティミトル・ビシバールキンで、『地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス』へ攻撃!」

 

「ジオグラシャ=ラボラスは戦闘するシンクロ、融合モンスターの攻撃力を0にする!」

 

「当然知っているとも!速攻魔法、『禁じられた聖杯』!ジオグラシャ=ラボラスの攻撃力を400アップし、効果を無効にする!さぁ、受けろ!天聖雷撃!」

 

地縛戒隷ジオグラシャ=ラボラス 攻撃力3000→3400

 

進化した神の一撃。天から降り注ぐ漆黒の雷が一直線にジオグラシャ=ラボラスへ襲いかかり命中する。邪に堕ちたとは言え、竜を束ねし神の力だ。邪神を模した悪魔ごときでは勝てる筈もなく、一瞬で黒焦げになり粉砕される。

そして、雷はそれで止まる事なくセルゲイにも牙を剥く。

 

「ッ、セルゲイ!」

 

これを食らえば怪我では済まない。それどころか命に関わる。零児が珍しく声を荒げるも遅い。

呆然と立ち尽くすセルゲイの下へ雷は駆け抜け彼を撃つ――瞬間に、セルゲイを守るように鯱の『地縛神』が飛び出し、その身を盾にする。このモンスターはコピーと言えど邪神。雷の威力を削ぐ事位は出来る。されど雷は消失されず、セルゲイに命中、半分程に残った力がセルゲイを大きく吹き飛ばして壁に激突させる。

 

セルゲイ・ヴォルコフ LP4000→0

 

ワンショット・キル。LP4000を根こそぎ奪い取る一撃は伊達でなく、2体の『地縛』を沈め、壁に蜘蛛の巣状の亀裂を走らせる。

セルゲイの強靭なサイボーグボティの骨格にもひびが入った程だ。良く見れば頭部からも出血している。しかしその顔は――何故か頬を桜色に染めて舌を出した汚ならしいものだが。

 

「んほぉ……しゅごい……!」

 

どうやら大丈夫のようだ。零児はうむと頷いて彼から目をそらす。

 

「さぁ、次は貴様だ赤馬 零児!貴様をじっくりとなぶり倒した後でセルゲイには再教育を施してやろう。この神に忠実なる天使として生まれ変わるのだ!」

 

天使セルゲイ。何やらとんでもないモンスターを生み出そうとしている。

 

「そんな事、させてなるものか……!」

 

「グリオンガンドでカエサル・ラグナロクを!フェニキシオンでエグゼクティブ・アレクサンダーを攻撃ィ!」

 

赤馬 零児 LP5000→4950→4900

 

「くっ……!」

 

続けてダブルチューニングモンスターとアクセルシンクロモンスターによる挟撃が零児のフィールドの最重要モンスターを破壊する。吸収と攻撃力アップ。どちらもアルティミトル・ビシバールキンに通じる効果だ。狙われるのは分かりきっていた。

 

「墓地の『ADチェンジャー』を除外し、グリオンガンドとフェニキシオンを守備表示に変更する。ターンエンドだ。『クリスタルP』の効果でドローする」 

ジャン・ミシェル・ロジェ 手札0→2

 

ジャン・ミシェル・ロジェ LP1400

フィールド『究極幻神アルティミトル・ビシバールキン』(攻撃表示)『水晶機巧ーフェニキシオン』(守備表示)『水晶機巧ーグリオンガンド』(守備表示)

『クリスタルP』

手札2

 

圧倒的力を誇る究極神、アルティミトル・ビシバールキン。その攻撃力は絶大。最上級モンスターに相応しい4000もの数値。対する零児のモンスターはカオス・アポカリプスのみ。このままでは敗北は必至だ。

 

「このメインフェイズ、アルティミトル・ビシバールキンの効果発動!互いのフィールドに同じ数だけの『邪眼神トークン』を特殊召喚する!天聖風軍!」

 

「何だとっ!?」

 

邪眼神トークン 守備力0×4

 

究極幻神アルティミトル・ビシバールキン 攻撃力4000→8000

 

赤き竜の咆哮と共に、互いのフィールドに目玉の化け物がゾロゾロと呼び出される。これでアルティミトル・ビシバールキンの攻撃力は4000アップ。かなり不味い事になった。

 

「私はっ、魔法カード、『手札抹殺』を発動!手札を交換!そして墓地の『置換融合』を除外、カエサル・ラグナロクをエクストラデッキに戻してドロー!」

 

赤馬 零児 手札3→4

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』。手札を交換し、魔法カード、『死者蘇生』!墓地の『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』を蘇生!」

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 守備力3000

 

究極幻神アルティミトル・ビシバールキン 攻撃力8000→9000

 

「アビス・ラグナロクの効果でエグゼクティブ・アレクサンダーを蘇生!!

 

DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー 攻撃力3000→6000

 

究極幻神アルティミトル・ビシバールキン 攻撃力9000→10000

 

「そしてアビス・ラグナロクの第2の効果!カオス・アポカリプスをリリースし、アルティミトル・ビシバールキンを除外!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、アルティミトル・ビシバールキンを対象とするモンスター効果を無効!」

 

「次だ!魔法カード、『アドバンスドロー』!フィールドのアビス・ラグナロクをリリースし、2枚ドロー!」

 

赤馬 零児 手札1→3

 

「墓地の『DDネクロ・スライム』の効果発動!このカードとペンドラゴンを除外し、融合!融合召喚!『DDD烈火大王エグゼクティブ・テムジン』!!」

 

DDD烈火大王エグゼクティブ・テムジン 攻撃力2800

 

究極幻神アルティミトル・ビシバールキン 攻撃力8000→9000

 

「まだまだ!『DD』モンスターが特殊召喚された事でエグゼクティブ・アレクサンダーの効果発動!墓地の『DDプラウド・オーガ』を蘇生!」

 

DDプラウド・オーガ 攻撃力2300

 

究極幻神アルティミトル・ビシバールキン 攻撃力9000→10000

 

零児のフィールドに現れたのは眼に当たる部位から角を生やした戦斧を持つ黒き悪魔。展開に次ぐ展開。だがアルティミトル・ビシバールキンの前では逆効果の筈だ。

 

「『邪眼神トークン』をリリースし、『DD魔導賢者ニコラ』をアドバンス召喚!」

 

DD魔導賢者ニコラ 攻撃力2000

 

今度は黒いマントを纏い、胸に巨大な赤の球体を露出させたモンスターだ。これで、レベル6が2体。シンクロ、融合と続き、零児は己が持つ全ての力を解放する。

 

「ニコラとプラウド・オーガでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『DDD怒涛大王エグゼクティブ・シーザー』!!」

 

DDD怒涛大王エグゼクティブ・シーザー 攻撃力2800

 

究極幻神アルティミトル・ビシバールキン 攻撃力8000→9000

 

炎と風の大王に並ぶは荒ぶる水流の大王。頑強な青、紫、銀の鎧を纏い、巨大な剣を担いだモンスターだ。零児が持つ『DDD怒濤王シーザー』の進化形態。そしてこれでフィールドに3体の大王が揃う。

この布陣で、ロジェを倒す。

 

「行くぞ、ジャン・ミシェル・ロジェ!私は墓地のスワラル・スライムを除外し、手札の『DDD』モンスターを特殊召喚する効果を発動!この効果をエグゼクティブ・シーザーのORUを1つ取り除き、無効にし、エグゼクティブ・アレクサンダーとこのカードの攻撃力を1800アップ!」

 

DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー 攻撃力6000→7800

 

DDD怒涛大王エグゼクティブ・シーザー 攻撃力2800→4600

 

「そして『DD魔導賢者ニコラ』をセッティング!手札の『DDD』モンスターを捨て、エグゼクティブ・アレクサンダーの攻撃力を更に2000アップ!」

 

DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー 攻撃力7800→9800

 

「馬鹿なっ……!」

 

これが、零児の全力全開。ランサーズのリーダーの真の実力。ただの人間が神を打ち倒し、今英雄となる。そう、零児の『DDD』達のモチーフのように。

 

「これで、終わりだ!」

 

「神たる私が、こんな所で!」

 

「言った筈だ!私もお前も、間違え迷い、それでも進む人間だと!バトル!シーザーてテムジンで『邪眼神トークン』を攻撃、アレクサンダーで、アルティミトル・ビシバールキンを攻撃する!」

 

三位一体、炎と水、風の英雄が力を合わせ、虹色の剣を作り出し、巨大な刃で赤き邪竜を一刀の下に両断する。

 

ジャン・ミシェル・ロジェ LP1400→0

 

決着、勝者、赤馬 零児。彼の想いが、見事神を切り裂いた。

 

「負け……私が、負けただと……?」

 

「ええ、私達の負けです、長官」

 

「セル……ゲイ……私は……私は、間違っていたのか?」

 

アルティミトル・ビシバールキンが消滅し、投げ出されたロジェが地に仰向けになって倒れ、天井を見つめてポツリと呟く。完全なる敗北。

ぐうの音も出ず、憑き物が落ちた気分だ。そんな彼の下に、セルゲイが歩み寄り、手を伸ばす。

 

「はい。ですが人間、間違いに気づいて終わりではありません。ここから、もう一度始めましょう。私も貴方もここから償いましょう」

 

「……これから、か。出来るだろうか、私に」

 

「出来るも出来ないもない。やってもらわねばならない」

 

その手を取り、起き上がろうとするロジェの下に、今度は零児が歩み寄る。少なくとも零児は、この男ならば出来ると思っている。

ジャン・ミシェル・ロジェ。彼は長官として極めて有能な人材だったのだ。ここで倒れていては困る。シティを再興するにせよ、彼の力は必要なのだ。

 

「まずはあのアーククレイドルを止めてもらおう。出来るのだろう。貴方達に焦りがなかったと言う事は、このシティを自らのものにしようとしたと言う事。つまり

止める手段もある」

 

そう、アーククレイドルがシティに落下すれば、ロジェ達もただでは済まない。シティを支配するとも言ったのだ。止める手立ても必ずある。

 

「ああ、勿論だ。私とてシティそのものを滅ぼすつもりはない。アーククレイドルにはもしもの時の空間転移システムがある。これを使えば……」

 

そんな、時だった。ロジェが絶句し、モニターに写し出されたそれを見たのは。

一体何をと零児が彼の視線を追うと――そこにあったのは、想像を絶する信じられないものが、シティの上空を支配していた。

 

「何だ、あれは……!」

 

 




デュエリスト君は多分伴竜と一緒にバスブレに拾われたり超量戦隊の一員になったり2、3回死んだり生き返ったりと満喫してますね。
リンクがあればイビルツインに対して大量のスパチャ送って何だコイツ……とかひかれるに違いない。


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第189話 どうしてDーホイールと合体しないんだ……?

シティ、遥か上空に浮かぶ脅威、アーククレイドル周辺にて。2つのDーホイールが飛翔し、旋回していた。

1つは赤い光の翼と尾を伸ばした白とライトグリーンのDーホイール。ユーゴのDーホイールを継いだ、チームARCー5D'sのラストホイーラー、榊 遊矢だ。

もう1つは二又に別れた先端と一対の翼が特徴的な巨大なDーホイール。戦闘機のようなそれに搭乗するのは、チームネオ5D'sのラストホイーラー、白帽子のデュエリスト、白コナミ。

彼等は今、シティを命運をかけた最後のデュエルを始めようとしていた。

 

「さぁ、来るが良い。榊 遊矢!お前の未熟な力で、俺を倒せると言うのならな!」

 

「やってやるさ!皆が繋げてくれた想いを、無駄になんかしない!俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動、『針虫の巣窟』!デッキトップから5枚のカードを墓地へ!墓地へ送られた『絶対王バック・ジャック』の効果でデッキトップから3枚のカードを操作し、除外する事でデッキトップの罠カードをセットする!そして発動!『ゴブリンのやりくり上手』!5枚ドローし、1枚デッキボトムへ!」

 

白コナミ 手札0→5→4

 

遊矢がデッキより1枚のカードを引き抜く。

彼のフィールドにはクロウが残してくれたセットカードが1枚。

対する白コナミの場には『ニトロ・ウォリアー』と『ターボ・ウォリアー』のシンクロ『ウォリアー』が2体。『補給部隊』とセットカードが2枚、それに『光の護封陣』。少々固いが、絶望的と言う訳ではない。

 

むしろ、希望で満ち溢れている。深呼吸を繰り返し、冷静に努める。このシンクロ次元で学んだ全て、このデュエルで活かしてみせる。

 

「キングとなるのは、この俺だ!」

 

まずは、このフレンドシップカップにて、最初にぶつかった巨大な壁、偉大なるエンターテイナーにしてこのシティのキング、ジャック・アトラスの背中を追う。

ロード・オブ・ザ・キング。ジャックが駆け抜けた道を辿る。

 

「リバースカード、オープン!魔法カード、『闇の誘惑』!2枚ドローし、手札の闇属性モンスターを除外!」

 

榊 遊矢 手札6→8→7

 

「魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札6→8

 

「ドローしたカードは両方ペンデュラムモンスターだ。よってそのまま手札に加え、魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスターを5体デッキに戻してドロー!」

 

榊 遊矢 手札7→9

 

「魔法カード、『カップ・オブ・エース』!当たりだ、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札8→10

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』!」

 

「ならばこちらはアクションカードを捨てる!」

 

「考える事は同じか……こっちもアクションカードを捨てる!永続魔法、『補給部隊』を発動。そして魔法カード、『復活の福音』を発動!墓地に眠るレベル7か8のドラゴン族モンスター1体を蘇生する!来たれ、王の魂!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

フィールドに呼び出されたのは強者との激闘で負った傷を持つ、深紅の魔竜。ジャック・アトラスのエースモンスターだ。敵に回せば恐ろしく強いが、味方となればこれ以上に頼もしいカードはない。

 

「『レッド・デーモン』……!」

 

「確かに俺はお前達に比べればまだ未熟かもしれない。だけどこれはチーム戦!俺は皆と一緒に闘っているんだ!行くぞ、スカーライトの効果発動!このカードの攻撃力以下の、フィールドに特殊召喚された効果モンスターを破壊、その数×500のダメージを与える!」

 

「罠発動、『スターライト・ロード』!カード2枚以上を破壊する効果を無効にし、破壊する!」

 

「墓地の『復活の福音』を除外し、スカーライトの破壊を防ぐ!」

 

だが当然、白コナミにはこのカードに対抗する手もある。襲いかかる深紅の炎を、白コナミの墓地から飛び出した『スターダスト・ドラゴン』が一身に受けて防ぐ。

遊矢もまた、スカーライトの破壊は逃れた。優秀なアタッカーだけは失わずに済んだようだ。所詮今のは前哨戦。遊矢も通じるとは思っていない。

 

「どうした、それで終わりか?」

 

「いいや……まだまだこれからさ!俺は『EMモモンカーペット』と『曲芸の魔術師』をペンデュラムスケールにセッティング!これでレベル3から6のモンスターを同時に召喚可能!」

 

遊矢がデュエルディスクに2枚のカードを叩きつけると共に、背後に2つの光の柱が出現し、その中に滑空するモモンガと派手な衣装の『魔術師』が浮かび上がる。

そして2体が天空に光の線を結び、魔方陣を描き出す。遊矢得意の武器、ペンデュラム。この華々しい召喚法こそが榊 遊矢の最大の特徴にして戦術の基盤だ。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム。天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMロングフォーン・ブル』!『聖鳥クレイン』!」

 

EMロングフォーン・ブル 攻撃力1600

 

聖鳥クレイン 攻撃力1600

 

魔方陣に孔が開き、中から2本の光が飛び出して遊矢のDーホイールに並走する。光の粒子を散らし、姿を見せたのは頭の角に受話器をかけた牡牛。『EM』の基本戦法、サーチ効果を有したモンスターと真っ白な翼を持つ鶴のモンスターだ。

 

「ロングフォーン・ブルの特殊召喚時、デッキからペンデュラム以外の『EM』を手札に加える!俺は『EMスライハンド・マジシャン』をサーチ!クレインが特殊召喚した事で1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札5→6

 

牡牛が受話器を手にとり仲間に連絡、遊矢の手札に向かわせる。本来ならペンデュラムが揃っている時、召喚時に『EM』をサーチする『EMセカンドンキー』が狙い目なのだが、遊矢の手札にはそれより狙う価値があるカードがある。

 

「『音響戦士ドラムス』を召喚!」

 

音響戦士ドラムス 攻撃力700

 

現れたのはその名の通りドラムに命を吹き込んだチューナーモンスター。更にデュエルを盛り上げるべく遊矢が奮起する。

 

「さぁ、ぶち抜いてやるぜ!レベル4の『聖鳥クレイン』に、レベル2の『音響戦士ドラムス』をチューニング!シンクロ召喚!『BFー星影のノートゥング』!」

 

BFー星影のノートゥング 攻撃力2400

 

今度はクロウの模倣を行い、『BF』のシンクロモンスターを呼び出す。レベル6の汎用シンクロモンスター。遊矢のデッキではその真価を発揮出来ないが、それでも充分に優秀なカードだ。

 

「ノートゥングの特殊召喚時、相手に800ダメージを与える!」

 

「アクションマジック、『加速』!効果ダメージを0に!」

 

「これも止めるか、俺はシンクロ召喚に成功した事で墓地の『レッド・ミラー』を回収。ロングフォーン・ブルをリリースし、手札の『EMスライハンド・マジシャン』を特殊召喚!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500

 

次は遊矢本来が持つモンスター。派手な赤の衣装に白い仮面、下半身が水晶に変化し、天使の羽で包み込んだマジシャンのモンスター。手にしたボールを上空に放り投げ、もう片方の手で持つステッキをビリヤードのキューへと変化、一直線に並んだボールを撃ち抜き大爆発を起こす。

 

「スライハンド・マジシャンの効果!手札1枚を捨て、『補給部隊』を破壊!」

 

「アクションマジック、『ヒートアップ・サウンド』!魔法カードを破壊する効果を無効に!」

 

攻める、攻める、攻める。今までの激闘で培って来たもの、学んだものを全て使いきる勢いで遊矢の力を炸裂させる。

されども白コナミも何とか防ぐ。だが、LPは1400、遊矢の戦力から白コナミの戦力を引いてもこのターンで決められる。

 

「装備魔法、『ワンショット・ワンド』をスライハンド・マジシャンに装備!攻撃力を700アップ!」

 

EMスライハンド・マジシャン 攻撃力2500→3200

 

「バトル!スライハンド・マジシャンで『ニトロ・ウォリアー』へ攻撃!」

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニュシュ』!戦闘ダメージを0に!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

「戦闘後、『ワンショット・ワンド』を破壊し、ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

白コナミ 手札4→5

 

「『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』で、『ターボ・ウォリアー』へ攻撃!」

 

白コナミ LP1400→900

 

スカーライトも遊矢に力を貸し、雄々しく咆哮を放って天空を華麗に舞い、『ターボ・ウォリアー』に接近。火炎纏う掌底にて吹き飛ばす。

余りの威力に『ターボ・ウォリアー』の身体がひしゃげ、空中で分解、パーツの一部が白コナミの機体にぶつかり、大きく揺れる。

Dーホイールはそのままシティに落下、ビル群にぶつかる寸前で姿勢を持ち直し、空へと帰還を見事果たす。危ない所だった。白コナミはあの程度では何ともないだろうが、遊矢の一撃でシティに甚大な被害が及ぶ所だった。もう少し考えねばなるまい。

 

「ノートゥングでダイレクトアタック!」

 

「罠発動、『リジェクト・リボーン』!相手の直接攻撃時、バトルを終了させ、墓地の『炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ』と『クイック・シンクロン』を特殊召喚する!」

 

炎魔竜王レッド・デーモン・カラミティ 攻撃力4000

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

やはりそう簡単に倒せる相手ではない。遊矢がワンターン・キルを決めようとしたその時、白コナミの墓地からジャック・Dの操る紅蓮魔竜の最終形態とガンマン人形がノートゥングの行く手を遮る。

 

「チームメイトと闘っているのはお前だけではないと言う事だ」

 

「……ならメインフェイズ2、スライハンド・マジシャンを対象に魔法カード、『七星の宝刀』を発動!スライハンド・マジシャンを除外し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→5

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)『BFー星影のノートゥング』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

Pゾーン『EMモモンカーペット』『曲芸の魔術師』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!『サンダー・ドラゴン』を捨て、2枚に増やす。カードをセットし、魔法カード、『手札抹殺』!アクションカードごと捨ててドロー!魔法カード、『星屑のきらめき』!墓地のモンスターのレベルが9になるように除外し、『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』を蘇生する!」

 

「罠発動、『竜嵐還帰』!除外されている『エンド・オブ・アヌビス』を特殊召喚!これで墓地のカードを対象とする『星屑のきらめき』は不発となる!」

 

エンド・オブ・アヌビス 攻撃力2500

 

「リバースカード、オープン!魔法カード、『シンクロ・クラッカー』!カラミティをエクストラデッキに戻し、貴様のモンスターを全滅させる!」

 

「罠発動、『因果切断』!手札のアクションカードを捨て、カラミティを除外!」

 

「魔法カード、『ブラック・コア』!手札のアクションカードを捨て、アヌビスを除外!魔法カード、『星屑のきらめき』!来い、アビス!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200

 

アビスはベリアルよりも攻撃力は低いものの、1ターンに1度、フィールドのカード1枚を無効にする効果を持つ。相手ターンでも発動可能な為、発動した魔法カードを無効に、等と言う芸当も可能なこの効果は極めて強力で制圧能力が高い。

 

「『ダークシー・レスキュー』を召喚!」

 

ダークシー・レスキュー 攻撃力0

 

現れたのは『チューニング・サポーター』と互換性を持つ救命ボート型のモンスターだ。ここに来てドローソースを引き込むとは、やはり白コナミは侮れない。

 

「罠発動、『連鎖除外』!」

 

「アビスの効果で無効に!」

 

「魔法カード、『機械複製術』を発動。『ダークシー・レスキュー』をコピーする!」

 

ダークシー・レスキュー 守備力0×2

 

「速い……!」

 

相変わらずペンデュラムにも匹敵する展開力。シンクロ次元トップスピードの力が炸裂する。このモンスターを大量に展開し、エース級のカードに繋げる戦法はコナミに似ている。

 

「決勝で……か」

 

かつて遊矢は、親友でありライバルでもあるコナミと、スタンダード次元、舞網チャンピオンシップにて彼と闘う約束をした。

果たされる事のなかった約束。それが今、フレンドシップカップの決勝で彼と酷似した青年、白コナミと闘っている。だが。

 

「お前じゃないな……俺が待っているのは、お前じゃない!」

 

「何を言っている!俺はレベル1の『ダークシー・レスキュー』2体に、レベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし怒りが忘我の戦士に鬼神を宿す。光差す道となれ!シンクロ召喚!吠えろ、『ジャンク・バーサーカー』!」

 

ジャンク・バーサーカー 攻撃力2700

 

白コナミの隣に『クイック・シンクロン』が変化した5つのリングが並び、その中に2つの星が閃く。そしてリングの中を一筋の光が通り過ぎ、リングを破壊、現れたのは真紅の鎧を纏い、角つきの兜、黒い翼、手に身の丈を越える巨大な斧を握った狂戦士。

遊矢が様々な召喚法によって多くの戦術を繰り出すのに対し、この男はジャック・Dとクロウ・ゴースト達と同じくシンクロ召喚一極化。ただし異なるタイプのシンクロモンスターを使う事で様々な状況に対処している。

 

「シンクロ素材となった『ダークシー・レスキュー』の効果で2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札1→3

 

加えてこのリカバリー能力の高さ。シンクロの素材展開で失った手札を直ぐ様取り戻し、また次のシンクロへ。と言う理想の戦術。これがかなり厄介だ。

 

「『ジャンク・バーサーカー』の効果発動!墓地の『ジャンク・デストロイヤー』を除外し、その攻撃力分、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』の攻撃力をダウン!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000→400

 

「ッ、スカーライトが……!」

 

ここで取り逃してもスカーライトの効果を封じられるよう、白コナミが『ジャンク・バーサーカー』によって弱体化を図る。折角の強力なモンスターもこうなってしまえば的となる。

 

「更に『ジャンク・シンクロン』も除外し、ノートゥングの攻撃力をダウン!」

 

「アクションマジック、『透明』!ノートゥングを守る!」  

 

「バトル!アビスでスカーライトへ攻撃!」

 

「モモンカーペットがペンデュラムゾーンにある限り、俺が受ける戦闘ダメージは半分になる!」

 

榊 遊矢 LP4000→2600

 

「戦闘ダメージを与えた事でアビスの効果発動!墓地の『クイック・シンクロン』を守備表示で特殊召喚!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

「速攻魔法、『グリード・グラード』!こちらも2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札2→4

 

榊 遊矢 手札2→3

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

天空で繰り広げられる赤き魔竜同士のぶつかり合い、スカーライトがアビスの真上を取る事で優位に立とうとするも――ガシリ、腕を掴まれて振り回され、挙げ句に放り投げられ、アーククレイドルに激突。力なく落下する途中、光の粒子になって消える。

 

「『ジャンク・バーサーカー』でノートゥングへ攻撃!」

 

榊 遊矢 LP2600→2450

 

「どわっ……!」

 

更にアビスの影に隠れて飛行していた『ジャンク・バーサーカー』がノートゥングの真上から襲いかかり、斧の一振りでノートゥングを切り裂く。予想外の奇襲を受けて倒れるノートゥング。これで遊矢のモンスターは0になってしまった。

 

「そしてメインフェイズ2、魔法カード、『暗黒界の取引』を発動」

 

「なら俺は手札のアクションカードを捨てる!」

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『光の護封陣』を戻してドロー!」

 

白コナミ 手札3→4

 

「レベル1の『ダークシー・レスキュー』に、レベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!疾風の使者に鋼の願いが集う時、その願いは鉄壁の盾となる、光差す道となれ!シンクロ召喚!現れよ、『ジャンク・ガードナー』!」

 

ジャンク・ガードナー 守備力2600

 

再びシンクロ召喚、『ジャンク・バーサーカー』と共にアビスを挟むように登場したのは深い緑の装甲を纏い、背中から2つの砲塔を伸ばしたモンスターだ。

その名の通り、腕には分厚い手甲を装着している。モンスター回収効果を持つ『ドリル・ウォリアー』よりもこのカードを優先したと言う事は、守りを固め、万が一にもアビスが破壊されないようにする為だろう。

 

「『ダークシー・レスキュー』の効果でドロー!」

 

白コナミ 手札4→5

 

「魔法カード、『シンクロ・クリード』!2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札4→6

 

「装備魔法、『レプティレス・アンガー』を『ジャンク・バーサーカー』へ装備。種族を爬虫類族に変更し、攻撃力を800アップ」

 

ジャンク・バーサーカー 攻撃力2700→3500

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ。『シャッフル・リボーン』の効果で手札のアクションカードを除外する」

 

白コナミ LP900

フィールド『炎魔竜レッド・デーモン・アビス』(攻撃表示)『ジャンク・バーサーカー』(攻撃表示)『ジャンク・ガードナー』(守備表示)

『レプティレス・アンガー』『補給部隊』セット3

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「俺は永続罠、『召喚制限ー猪突するモンスター』と手札の『増殖するG』の効果を発動!」

 

「魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』発動!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→6

 

「1枚を墓地へ。『EMシール・イール』を召喚!」

 

EMシール・イール 攻撃力100

 

現れたのはメガホンからぬるりと身体を出した鰻のモンスター。口元にバッテンのシールを付着しており、そのシールをプッ、と吐きかけ、白コナミのフィールドにセットされたカードめがけて投げる。

 

「シール・イールの召喚時、相手フィールドにセットされた魔法、罠カード1枚をこのターン、使用不可にする!この効果に対し、互いにチェーン出来ない!」

 

「ほう」

 

「そしてペンデュラム召喚!『光帝クライス』!『BFー疾風のゲイル』!」

 

光帝クライス 攻撃力2400

 

BFー疾風のゲイル 攻撃力1300

 

白コナミ 手札1→2

 

更にペンデュラムにより、遊矢のフィールドに光輝く鎧を纏う黄金の『帝王』と、緑の鶏冠と紫の羽毛の猛禽が登場する。

逆転の準備は整った。

 

「『光帝クライス』の効果でアビスと『ジャンク・ガードナー』を破壊!」

 

「させるか!アビスの効果で無効!」

 

「充分さ、ゲイルの効果発動!アビスの攻守を半減!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・アビス 攻撃力3200→1600

 

「チッ」

 

「更に俺はレベル1のシール・イールとレベル6のクライスに!レベル3のゲイルをチューニング!シンクロ召喚!『BFーフルアーマード・ウィング』!」

 

BFーフルアーマード・ウイング 攻撃力3000

 

白コナミ 手札2→3

 

続けてフィールドに羽ばたくはクロウが得た新たな力、全身装甲に巨大な剣と銃を装備した漆黒の鳥人。

完全耐性にコントロール奪取、加えて全体破壊と強力な効果をこれでもかと盛ったカードだ。このカードを味方にした事で発生する頼もしさと安心感は遊矢を大いに奮い立たせてくれる。

 

「『レッド・ミラー』を回収。バトル!フルアーマード・ウィングでアビスに攻撃!」

 

「調子に乗るな!罠発動、『レインボー・ライフ』!アクションカードを捨て、このターンのダメージを回復に変換する!」

 

白コナミ LP900→2300

 

ここに来てこのカード。とんでもない悪運の強さだ。白コナミ自身に適用する効果の為、フルアーマード・ウィングでも止められない。

それでも押しているのは遊矢の方だ。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

「速攻魔法、『グリード・グラード』!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

白コナミ 手札3→4

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP2450

フィールド『BFーフルアーマード・ウィング』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

Pゾーン『EMモモンカーペット』『曲芸の魔術師』

手札1

 

「仲間の力を自分のものに……いや、これは……成程、だとしたらお前は確かにエンタメデュエリストだ。俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動、『針虫の巣窟』!デッキトップから5枚のカードを墓地へ送り、墓地へ送られた『絶対王バック・ジャック』の効果により、デッキトップを操作!除外してトップの罠カードをセット!」

 

「魔法カード、『成金ゴブリン』!相手のLPを1000回復し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 LP2450→3450

 

白コナミ 手札4→5

 

「俺は『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300 

 

「『ジャンク・シンクロン』の召喚時、効果発動!墓地のレベル2以下のモンスター、『クリア・エフェクター』を蘇生する!」

 

「フルアーマード・ウィングの効果で楔カウンターを乗せる!」

 

ジャンク・シンクロン 楔カウンター0→1

 

クリア・エフェクター 守備力900

 

現れたのは民族衣装を纏った美しい黒髪の女性。このモンスターも『チューニング・サポーター』や『ダークシー・レスキュー』同様、シンクロ素材にする事でドローするカードだ。ここまで手札を切らさないと、逆に引くレベルである。

 

「更に俺の墓地のモンスターが特殊召喚に成功した事で、手札の『ドッペル・ウォリアー』を特殊召喚する!」

 

ドッペル・ウォリアー 攻撃力800

 

次は黒いコートとヘルメットを纏った戦士のモンスター。『ジャンク・シンクロン』とは極めて相性の良いカードだ。

 

「レベル2の『クリア・エフェクター』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!集いし星が新たな力を呼び起こす、光差す道となれ!シンクロ召喚!出でよ、『ジャンク・ウォリアー』!」

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300

 

次に登場したのは彼が誇るフェイバリットカード。赤い眼光を放たせる丸眼鏡に風になびく白のマフラー、『ジャンク』の名を持つにも関わらず、煌めく青の装甲を纏う機械戦士。肩からは薄い翼を伸ばし、背部にバーニアを、更に左拳に鈍い光に包まれたナックルダスターを嵌め込んでいる。

 

「『ジャンク・ウォリアー』のシンクロ召喚時、レベル2以下のモンスターの攻撃力をこのカードに加える!更に『クリア・エフェクター』がシンクロ素材になった事で1枚ドローする!パワー・オブ・フェローズ!」

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300→3100 楔カウンター0→1

 

白コナミ 手札3→4

 

「『ジャンク・ガードナー』を攻撃表示に変更、バトル!『ジャンク・ウォリアー』でフルアーマード・ウィングに攻撃!スクラップ・フィスト!」

 

『ジャンク・ウォリアー』の攻撃力は3100、僅かであるがフルアーマード・ウィングの攻撃力を上回っている。どんなに強力な効果を持っていても、攻撃力で上回ればそこまでだ。

 

「くっ、手札の『レッド・ミラー』を墓地に送り、『レッド・スプリンター』を回収!」

 

榊 遊矢 LP3450→3400

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

「速攻魔法、『グリード・グラード』!」

 

白コナミ 手札3→5

 

榊 遊矢 手札1→2

 

何て男だ。折角呼び出した強力なモンスターも、たった1ターンで次々と攻略されていく。正しく光速のDーホイーラー。しかしフルアーマード・ウィングを失ったのは実に不味い。頼もしい味方が倒されたと言うのもあるが、それ以上に遊矢のフィールドががら空き。白コナミのフィールドはまだ3体残っている。

 

「『ジャンク・バーサーカー』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動、おまちかねの、『カウンター・ゲート』!この直接攻撃宣言時、攻撃を無効にし、俺は1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「そのカードがモンスターなら召喚する!来い!『EMインコーラス』!」

 

EMインコーラス 攻撃力500

 

「ならばアクションマジック、『セカンド・アタック』!再攻撃権を与え、『ジャンク・バーサーカー』で攻撃!ガードナーの効果で守備表示に変更し、バーサーカーの効果で破壊!」

 

アリト直伝のカウンター。放たれたのは色鮮やかな3羽のインコだ。遊矢を守るように『ジャンク・バーサーカー』の眼前に踊り出るも、巨大な戦斧の前に散る。

 

「『ジャンク・ガードナー』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動、『ペンデュラム・リボーン』!エクストラデッキからインコーラスを特殊召喚!」

 

EMインコーラス 攻撃力500

 

「チッ、ならインコーラスを撃破!」

 

榊 遊矢 LP3400→2950

 

「インコーラスが戦闘で破壊された事でデッキからペンデュラムモンスター以外の『EM』をリクルートする!来い、『EMセカンドンキー』!」

 

EMセカンドンキー 攻撃力1000

 

そしてインコーラスが最後の力を振り絞り、遊矢のデッキに助けを呼ぶ。すると遊矢のデッキからポンと煙を上げて1頭のロバが飛び出し、鼻息荒く『ジャンク・バーサーカー』を睨む。

 

「セカンドンキーの召喚、特殊召喚時、ペンデュラムゾーンにカードが揃っている事で、『EM』をサーチする!俺が選択するのは『EMペンデュラム・マジシャン』!」

 

「罠発動、『イクイップ・シュート』!『ジャンク・バーサーカー』の装備カードをセカンドンキーへ装備する事で、2体を戦闘させる!」

 

EMセカンドンキー 攻撃力1000→1800

 

「『ジャンク・バーサーカー』でセカンドンキーへ攻撃!」

 

榊 遊矢 LP2950→2500

 

「ぐあっ!?」

 

「『ドッペル・ウォリアー』でダイレクトアタック!」

 

榊 遊矢 LP2500→2100

 

モモンカーペットのペンデュラム効果でダメージが半分になっているとは言え、このターンでLPを大幅に削られてしまった。クロウ相手に消耗しているのにこの実力。成程、強い。が、遊矢とて負けてはいない。

 

「更に魔法カード、『マジック・プランター』!永続罠をコストに2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札4→6

 

「魔法カード、『ハーピィの羽帚』!」

 

「カウンター罠、『大革命返し』!『ハーピィの羽帚』の発動を無効にし、除外!」

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP2300

フィールド『ジャンク・ウォリアー』(攻撃表示)『ジャンク・バーサーカー』(攻撃表示)『ジャンク・ガードナー』(攻撃表示)『ドッペル・ウォリアー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

手札2

 

「俺のターン、ドロー!フィールド魔法、『チキンレース』!LPを1000払い、ドロー!」

 

榊 遊矢 LP2100→1100 手札3→4

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『チキンレース』を戻してドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→5

 

「魔法カード、『シンクロ・クリード』!シンクロモンスターが3体以上存在する事で2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札4→6

 

「魔法カード、『ナイト・ショット』右のセットカードを破壊!」

 

「チェーンして墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、このターンの効果ダメージを半分に!更にチェーンして永続罠、『不協和音』!互いのシンクロ召喚を封じる!」

 

「『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

「『レッド・リゾネーター』を蘇生する!」

 

レッド・リゾネーター 守備力200

 

「『ジャンク・ウォリアー』の攻撃力をLPに変換!」

 

榊 遊矢 LP1100→4200

 

「ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMインコーラス』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 守備力800

 

EMインコーラス 攻撃力500

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』が特殊召喚に成功したこの瞬間、モモンカーペットと『レッド・スプリンター』を破壊する事で、2枚の『EM』をサーチする!」

 

「甘いな、カウンター罠、『大革命返し』!そのカードの効果を許せば貴様が波に乗る事位知っている。フィールドのカードを2枚以上に破壊する効果を無効にし、除外!」

 

「インコーラスで『ドッペル・ウォリアー』へ攻撃!」

 

「罠カード、『進入禁止!NoEntry!!』発動!フィールドのモンスターを守備表示に!」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ!『シャッフル・リボーン』の効果で手札のアクションカードを除外」

 

「『ジャンク・ガードナー』の効果で『レッド・リゾネーター』を攻撃表示に!」

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、『ジャンク・ガードナー』の効果を無効に!」

 

榊 遊矢 LP4200

フィールド『EMインコーラス』(守備表示)『レッド・スプリンター』(守備表示)『レッド・リゾネーター』(守備表示)

『補給部隊』セット2

Pゾーン『EMモモンカーペット』『曲芸の魔術師』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『不協和音』をコストに2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札2→4

 

「バトル!」

 

「その前に手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、バーサーカーの効果を無効に!」

 

「『ジャンク・ガードナー』の効果でインコーラスを攻撃表示に変更。全てのモンスターを攻撃表示に変更し、『ドッペル・ウォリアー』で『レッド・リゾネーター』へ、『ジャンク・ガードナー』で『レッド・スプリンター』へ、『ジャンク・ウォリアー』でインコーラスへ攻撃!」

 

「やらせるか!『ジャンク・ウォリアー』の攻撃時、罠発動、『ガード・ブロック』!戦闘ダメージを0にし、ドロー!そしてインコーラス自身と『補給部隊』の効果発動!デッキから『EMソード・フィッシュ』を特殊召喚!」

 

EMソード・フィッシュ 守備力600

 

榊 遊矢 手札0→1→2

 

「ソード・フィッシュの召喚、特殊召喚時、相手モンスター全ての攻守を600ダウンする!」

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力3100→2500

 

ジャンク・バーサーカー 攻撃力2700→2100

 

ジャンク・ガードナー 攻撃力1400→800

 

ドッペル・ウォリアー 攻撃力800→200

 

「『ジャンク・バーサーカー』へソード・フィッシュを攻撃!」

 

「ぐっ、くっそ……!」

 

遊矢の背から鋭い刃をもつ太刀魚が引き抜かれて敵に投擲、その中で分身して白コナミのモンスターに突き刺さり、弱体化させるも――直ぐ様破壊され、遊矢のモンスターが全滅されてしまう。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP2300

フィールド『ジャンク・ウォリアー』(攻撃表示)『ジャンク・バーサーカー』(攻撃表示)『ジャンク・ガードナー』(攻撃表示)『ドッペル・ウォリアー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「罠発動、『荒野の大竜巻』!『曲芸の魔術師』を破壊!」

 

「カウンター罠、『ギャクタン』!罠の発動を無効に!魔法カード、『暗黒界の取引』!ペンデュラム召喚!『EMインコーラス』!『EMシルバー・クロウ』!」

 

EMインコーラス 攻撃力500

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

登場したのは鋭い鉤爪を持つ銀色の毛並みの狼とインコーラス。リクルーターかつペンデュラムと言う特性のインコーラスは実に優秀だ。

 

「そして『調律の魔術師』を召喚!」

 

調律の魔術師 攻撃力0

 

次は白い三角帽と法衣を纏ったピンク髪の『魔術師』少女。

ジャックがサムに渡したカードを、遊矢に託されたと言う経緯を持ち、遊矢が初めて手にしたチューナーだ。

サムの頼み通り、デュエル前にジャックに返そうとしたが――今の遊矢にこそ必要だと改めて渡されたのだ。

彼女は横ピースしながら遊矢に笑いかけるが――遊矢には彼女の声は聞こえない。やはり中の人がいないと分からないようだ。眉をひそめる遊矢を見て、『調律の魔術師』は頬を膨らませて音叉を遊矢の頭部に振り抜く。

 

「ぐふっ」

 

白コナミ LP2300→2700

 

榊 遊矢 LP4200→3800

 

「ぐ……『調律の魔術師』の召喚時、相手は400回復し、俺は400ダメージを受ける。そして俺はレベル3のインコーラスとレベル4のシルバー・クロウに、レベル1の『調律の魔術師』をチューニング!剛毅の光を放つ勇者の剣!今ここに閃光と共に目覚めよ!シンクロ召喚!『覚醒の魔導剣士』!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、新たに現れたのは遊矢が初めて会得したシンクロモンスター。白と黒の法衣を纏う、魔剣を手にした魔導剣士。エース級のステータスとフィニッシャーに適した効果を持つカードだ。

 

「『レッド・ミラー』回収。魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』を発動!俺のエクストラデッキに3種類以上のペンデュラムが加わっている事で2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「さぁ、お楽しみはこれからだ!魔法カード、『拡散する波動』!LPを1000払い、『覚醒の魔導剣士』はモンスターしか攻撃出来なくなる代わりに全体攻撃権を得、破壊されたモンスターは効果を発動出来ず、無効化される!」

 

榊 遊矢 LP3800→2800

 

「バトル!『覚醒の魔導剣士』で『ジャンク・バーサーカー』へ攻撃!」

 

「『ジャンク・ガードナー』の効果発動!『覚醒の魔導剣士』を守備表示に!」

 

「墓地の『チューニングガム』を除外し、シンクロモンスター1体を対象に取る効果の発動を無効に!」

 

「何っ!?くっ、墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外!このターンの効果ダメージを半分に!」

 

ザンッ、『覚醒の魔導剣士』の剣が『ジャンク・バーサーカー』の鎧を容易く切り裂き、爆発が巻き起こる。強力な攻撃、にも関わらず、白コナミへのダメージは……0。

 

「永続罠、『スピリット・バリア』を発動していた……これで俺への戦闘ダメージは0だ……!」

 

「だけど『覚醒の魔導剣士』が戦闘でモンスターを破壊した場合、その攻撃力分のダメージを与える!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

白コナミ LP2700→1350 手札2→3

 

「ぐう、あっ……!」

 

「まだまだ!『ジャンク・ガードナー』、『ドッペル・ウォリアー』へ攻撃!」

 

白コナミ LP1350→650→250

 

「ごあっ……!」

 

一撃一撃が重く突き刺さり、白コナミのLPを大きく削り取る。残るモンスターは『ジャンク・ウォリアー』のみ。

攻撃力は『覚醒の魔導剣士』と同じ。ここで止まるか、否、このチャンスを逃す訳にはいかにい。

 

「『ジャンク・ウォリアー』へ攻撃!」

 

「迎え撃て!」

 

フィールド中央で背中のバーニアから炎を吹かせた『ジャンク・ウォリアー』と足元に発生させた魔方陣から爆発を起こして加速した『覚醒の魔導剣士』が火花を散らして激突する。

金属音を鳴らす魔剣とナックルダスター。互いにピシリとひびが走り、砕け散って『ジャンク・ウォリアー』が爆発。傍にいた『覚醒の魔導剣士』と白コナミも巻き込まれ、機体が吹き飛ばされて大きく損傷。

アーククレイドルにぶつかり轟音が鳴り響き、パラパラと破片が舞う。

 

「がはっ……!?」

 

「これで、どうだぁっ!」

 

「ぐっ……!」

 

「バトルフェイズ終了時、手札の『クリボーン』を捨て、『覚醒の魔導剣士』を蘇生する!」

 

「……こちらも『クリボーン』を捨て、『ジャンク・バーサーカー』を蘇生……」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500

 

ジャンク・バーサーカー 攻撃力2700

 

「ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP2800

フィールド『覚醒の魔導剣士』(攻撃表示)

『補給部隊』

Pゾーン『EMモモンカーペット』『曲芸の魔術師』

手札1

 

凄まじい展開力を見せる白コナミに対し、遊矢もまたジャック、クロウ、仲間達の力を重ね、追いすがる

現在白コナミのLPを大きく削り取り、遊矢が優勢に立った。このまま押しきりたいが、そう上手く行くかどうか。白コナミは全力を出してはいない。その理由はコナミとのデュエルで彼が見せた、Dーホイールとの一体化。彼の奥の手が未だに疲労されていない。

だからこそ油断できない。しかし違和感を感じる。白コナミも遊矢もラストホイーラー。互いに倒れれば後はないと言うのに、何故。

 

(どうしてDーホイールと合体しないんだ……?)

 

奥の手を出し惜しむ理由が分からない。黒コナミのシャイニング・ドローと違い、彼の合体はデメリットも無いだろうに。

それがどうにも不気味で、不安をあおる。一体何を考えているのか、遊矢が未だにアーククレイドル表面に埋まる白コナミを睨み、口元を引き締める。

 

「……クク……!」

 

そんな彼の思考を見透かし、嘲笑うように――白コナミが触れているアーククレイドルの表面に、淡い光のラインが走り、天空を覆うサーキットが妖しく輝く。

 

「……?これは……」

 

「さぁ……お楽しみは、これからだ……!」

 

ガコン、シティ中に何かが動き出す音が響き、全ての住民が天を見る。まるで、神に許しを乞うが如く。そしてその時、シンクロ次元を脅かす災厄が、降りかかる。



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第190話 光差す道

ガコン、とシティ中に奇妙な音が響き渡る。一体何の音なのか、ただ1人を除き、この音の正体を分からぬ者達が音の発生源、天を見上げ眉をひそめる。

ガコン、2回目。またもや響く音に反応し、空を見つめる者が増える。シンクロ次元、シティの住民、ランサーズメンバー、ロジェ達アカデミアの人間。全ての者が奇妙な音を怪しみ――。

ガコン、3回目の音が伝わると同時に、それは起こった。

シティの上空を覆うアーククレイドルに、ミントグリーンに光輝くラインが走り抜け、サーキットが完成する。

どよめく人々、そしてそんな彼等を嘲笑うように、アーククレイドルが――動き出す。

 

「ッ、何が……!?」

 

『な、な、何コレーッ!?』

 

『一体何が起こっているのでしょう!?突如上空の物体を光が包み込み、動き、いや、変形しだしぞぉーっ!』

 

そう、変形。これは変形だ。アーククレイドルのパーツがまるでルービックキューブのように別れ、回転し形を変えていく。

現実離れした圧倒的な光景に、遊矢を始めとし、誰もが呆然と口を開く。

 

ただ1人、この異変を作り出した男である白コナミを除いては。

彼は驚愕する遊矢をニヤリと笑いながらアーククレイドルの変形を続け、自身の持った巨大Dーホイールごと呑み込まれる。そして轟音が鳴り響き終わった後、それはシティ上空で完成する。

 

鋭く尖った頭部に、巨大な翼、長い尾、まるで天使を思わせる姿の神々しき竜――『スターダスト・ドラゴン』が、君臨した。

 

「これは……!?」

 

何と巨大で美しく、雄々しく神々しい存在か。ゴクリと唾を呑み込む遊矢に対し、巨大『スターダスト』の頭部から上半身をさらけ出した白コナミがデュエルディスクを構え、不敵な笑みを浮かべる。

 

「ククク、ハハハハハ!これこそが俺の新たなDーホイール、アーククレイドルだ!」

 

これがデュエルディスクだと言うのか、白コナミが愉快そうに笑う。これが彼言う通りデュエルディスクと言うならば、世界一巨大なデュエルディスクだろう。

まるで天より舞い降りし神のような姿に、一部のシティの人間の心が折れ、許しを乞う者達までもが現れる。

 

遊矢とて、心が挫けそうになる。だけど――どれだけ巨大で強大な敵が相手だろうと、彼が諦める訳にはいかないのだ。

彼が諦めては、シティが、シンクロ次元が終わる。背負っているものは余りにも重い。それを投げ出す事は許されない。

震える手でDーホイールのハンドルを握り締め、自在に動くようになったアーククレイドルにぶつからないように周囲を旋回する。

 

「それが、どうしたぁっ!」

 

「そうだ、その意気だ!俺は『ジャンク・アンカー』を召喚!」

 

ジャンク・アンカー 攻撃力0

 

現れたのはまるで宇宙服のような姿をした赤と白のカラーリングのロボット。アーククレイドルに比べれば余りに小さなモンスターだ。とは言え油断は禁物、彼がDーホイールと合体したと言う事は、全力で遊矢を倒しに来ていると言う事なのだから。

 

「『ジャンク・アンカー』の効果発動!手札を1枚捨て、墓地の『ジャンク・サーバント』を蘇生する!」

 

ジャンク・サーバント 攻撃力1500

 

続けて現れたのはどこか不格好に作られた赤いロボット。『ジャンク』を寄せ集めて作られたと言う事だろうか。頭部や肩が左右非対称になっている。

 

「そしてその後、蘇生したカードとこのカードでシンクロ召喚する!『ジャンク・アンカー』は『シンクロン』モンスターの代わりに出来る!レベル4の『ジャンク・サーバント』に、レベル2の『ジャンク・アンカー』をチューニング!集いし力が大地を貫く槍となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!砕け、『ドリル・ウォリアー』!」

 

ドリル・ウォリアー 攻撃力2400

 

アーククレイドルの一部の壁がぶち抜かれ、中より姿を見せたのはオレンジ色のボディを持ち、肩、右腕、脚部にドリルを伸ばし、首に黄色いマフラーを巻いた戦士。『ウォリアー』シンクロモンスターの中でもフットワークが軽く、攻防、更には展開にも使える優秀なモンスターだ。

 

「『ジャンク・バーサーカー』の効果発動!墓地の『ジャンク・ウォリアー』を除外して『覚醒の魔導剣士』の攻撃力を2300ダウン!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500→200

 

「バトル!『ジャンク・バーサーカー』で『覚醒の魔導剣士』へ攻撃!」

 

榊 遊矢 LP2800→1550

 

「づぁっ……『レッド・ミラー』を『レッド・スプリンター』と交換、そして『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「『ドリル・ウォリアー』でダイレクトアタック!ドリル・ランサー!」

 

榊 遊矢 LP1550→350

 

「ぐあっ!?」

 

『ジャンク・バーサーカー』の鉄斧が『覚醒の魔導剣士』を切り裂き、背後から猛スピードで加速する『ドリル・ウォリアー』が赤い翼を貫き、遊矢の体勢が大きく崩れる。

翼は炎のように形を取り戻したもの、LPがかなり削られてしまった。勝負は互角、いや、モンスターの数では不利になっている。

 

「ターンエンドだ」

 

白コナミ LP250

フィールド『ドリル・ウォリアー』(攻撃表示)『ジャンク・バーサーカー』(攻撃表示)

『補給部隊』『スピリット・バリア』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満な壺』!エクストラデッキからカードを6枚除外し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

「『レッド・スプリンター』を召喚!」

 

レッド・スプリンター 攻撃力1700

 

「召喚時、墓地の『レッド・リゾネーター』を蘇生する!」

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

「効果発動!『ジャンク・バーサーカー』の攻撃力分回復!」

 

榊 遊矢 LP350→3050

 

「ペンデュラム召喚!『EMインコーラス』!『EMシルバー・クロウ』!『EMオオヤヤドカリ』!」

 

EMインコーラス 攻撃力500

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

EMオオヤヤドカリ 攻撃力500

 

インコーラスとシルバー・クロウと共に現れたのは巨大な貝殻に籠るヤドカリ型のモンスター。大家のヤドカリの名の通り、自らの貝殻に子ヤドカリを住まわせている面白いモンスターだ。

 

「オオヤヤドカリの効果によりシルバー・クロウの攻撃力をフィールドの『EM』モンスターの数×300アップする!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→2700

 

「バトルだ!インコーラスで『ドリル・ウォリアー』へ攻撃!」

 

榊 遊矢 LP3050→2100

 

「インコーラスの効果でデッキから『EMハンマーマンモ』をリクルートする!」

 

EMハンマーマンモ 攻撃力2600

 

肉を切らせて骨を断つ。ダメージ覚悟の自爆特効。インコーラスも遊矢の意図を汲み、仲間を呼び出す。そして傍に現れたのは鼻先がハンマーになったマンモス。

『EM』の重鎮とも言えるモンスターだ。実際、遊矢がペンデュラムを手にする前には優秀なアタッカーとして重宝したカードである。

 

「ハンマーマンモで『ドリル・ウォリアー』へ攻撃!この攻撃宣言時、相手フィールドの魔法、罠カードをバウンスする!いただきマンモー!」

 

「ッ!」

 

白コナミのフィールドの『補給部隊』と『スピリット・バリア』が弾け飛び、彼の手元に強制的に戻される。これが遊矢の狙い。手札補充とダメージ遮断が封じられた。

 

白コナミ LP250→50

 

「やってくれる……!」

 

「次!シルバー・クロウで『ジャンク・バーサーカー』に攻撃!この瞬間、俺の『EM』達の攻撃力はターン終了まで300アップする!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力2700→3000

 

EMハンマーマンモ 攻撃力2600→2900

 

EMオオヤヤドカリ 攻撃力500→800

 

「アクションマジック、『ダメージ・バニッシュ』!戦闘ダメージを0に!」

 

「くっ、オオヤヤドカリでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『クリボーン』を除外し、『クリアクリボー』を蘇生する!」

 

クリアクリボー 守備力200

 

「攻撃続行、破壊し、次は、『レッド・スプリンター』でダイレクトアタック!」

 

「『クリアクリボー』の効果発動!このカードを墓地から除外し、1枚ドロー!」

 

白コナミ 手札3→4

 

「そしてそのカードがモンスターならば特殊召喚し、攻撃を移し変える!来い、『スターダスト・ファントム』!」

 

スターダスト・ファントム 守備力0

 

ここで白コナミが引き抜いたのは、遊矢の予想の上をいく最悪の一手。正しくディステニードロー。この強運、いや悪運の強さはやはり、コナミを思わせる。

現れた『スターダスト・ドラゴン』を模した法衣を纏う魔法使いが攻撃を受け止め、天空に飛翔、眩き光に包まれ、晴れたそこにいたのは――。

 

「『スターダスト・ファントム』が相手によって破壊された事で、墓地の『スターダスト・ドラゴン』を守備表示で呼び出す!飛翔せよ!」

 

スターダスト・ドラゴン 守備力2000

 

神に仕える天使のように舞い降りる『スターダスト・ドラゴン』の姿であった。

 

「ッ、メインフェイズ2、レベル5のオオヤヤドカリに、レベル2の『レッド・リゾネーター』をチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!現れろ、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

「『クリアウィング』……!?」

 

ここで姿を見せたのは薄いミントグリーンの翼を広げた青と白のカラーリングが美しい竜。このシンクロ次元で絆を培った友、ユーゴから受け取った彼のエースだ。

対モンスターに対して強力な効果を発揮する汎用性の高いカード。それが今、遊矢の手で飛翔する。

 

「『レッド・ミラー』を回収、ターンエンド」

 

榊 遊矢 LP2100

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『EMハンマーマンモ』(攻撃表示)『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)『レッド・スプリンター』(攻撃表示)

『補給部隊』

Pゾーン『EMモモンカーペット』『曲芸の魔術師』

手札3

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札断札』を発動、『金華猫』を召喚!」

 

金華猫 攻撃力400

 

現れたのは数あるカードの中でも珍しいスピリットと呼ばれるカードの一種。このカードは青い毛並みを逆立たせた猫の姿をしている。レベル1モンスターを大量に投入している彼のデッキならばかなり優秀なモンスターだ。

 

「『金華猫』の効果により、墓地のレベル1モンスター、『シンクローン・リゾネーター』を蘇生する!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

「レベル1の『金華猫』に、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』をチューニング!集いし願いが新たな速度の地平へ誘う。光差す道となれ!シンクロ召喚!希望の力、シンクロチューナー、『フォーミュラ・シンクロン』!」

 

フォーミュラ・シンクロン 守備力1500

 

そしてシンクロ。遊矢の得意分野がペンデュラムなら、白コナミはシンクロ。互いに競うように放たれた召喚法により、フィールドに登場したのはF1カーを模した『シンクロン』モンスター。

他の『シンクロン』と同じようにこのモンスターもチューナーの特性を持つ。そう、シンクロモンスターであり、チューナーである特性を。

これは遊矢達が過ごすスタンダード次元では見られなかったカードだ。本場シンクロ次元なら、シンクロチューナー程度は驚くべきものではないようだが。エクシーズ次元の『RUM』と同じようなものだろう。

 

「『フォーミュラ・シンクロン』のシンクロ召喚時、1枚ドロー!『シンクローン・リゾネーター』の効果で『レッド・リゾネーター』を回収!」

 

白コナミ 手札3→4

 

「さぁ、来るか……!」

 

そしてこのチューナーがなければ出せないモンスターと言うのが存在する。シンクロモンスターとシンクロチューナーを使ってのシンクロを越えたシンクロ。その名を、アクセルシンクロ。

 

「レベル8の『スターダスト・ドラゴン』に、レベル2の『フォーミュラ・シンクロン』をチューニング!集いし夢の結晶が新たな進化の扉を開く。光差す道となれ!アクセルシンクロ!」

 

「消え……た!?」

 

そして、白コナミがアーククレイドルごとフッ、と消え、遊矢の背後に巨大な穴が出現。中よりヘルメット状の頭部と戦闘機のような翼、逞しい四肢を持つ白亜の竜と、アーククレイドルが飛び出し、遊矢が目を見開く。

このままではアーククレイドルが遊矢に激突し、大破するのは確実。遊矢は歯を食い縛って天高く飛翔、ジェットコースターのように逆回転、アーククレイドルを回避する。

 

「生来せよ、『シューティング・スター・ドラゴン』!!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!」

 

「ッ!」

 

そして発動される、流星竜の効果。彼とコナミの激闘を見ていた遊矢はゴクリと喉を鳴らす。

 

「デッキトップから5枚のカードをめくり、その中のチューナーモンスターの数まで攻撃権を得る!」

 

聞けば誰もがギャンブル性の高いものだと思う効果。実際その通りだ。特に厄介なのは攻撃権を増やす、のではなく、得る点。5体引き込めば5回攻撃とロマンはあるが、逆に1枚も引けなければ1度も攻撃出来なくなるのだ。

2枚引ければ充分、3枚以上ならお釣りが来る。5枚はあくまでロマンの域だろう。普通ならの話であるが。この男は、普通ではない。

 

「1枚目、チューナーモンスター、『ドリル・シンクロン』!2枚目、チューナーモンスター、『灰流うらら』!3枚目、チューナーモンスター、『ターボ・シンクロン』!4枚目、チューナーモンスター、『ハイパー・シンクロン』!5枚目、チューナーモンスター、『エフェクト・ヴェーラー』!」

 

5回連続チューナーモンスター。化け物染みた豪運が炸裂する。中々どうして、ふざけている。

 

「本当にそれ、喧嘩売ってんのかって位当てるよな……!」

 

「売っているのさ、喧嘩をな!バトル!『シューティング・スター・ドラゴン』で、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』へ攻撃!スターダスト・ミラージュ!」

 

榊 遊矢 LP2100→1700

 

「ぐあっ!?」

 

『シューティング・スター・ドラゴン』が急上昇し、急降下。アップダウンを繰り返しながら『クリアウィング』の眼前で分身、それぞれ赤、青、緑とまるでオーロラのような色合いに変化し、突き貫く。まずは一撃、エース級の『クリアウィング』を狙って来た。

召喚したばかりなのに直ぐ様破壊され、ユーゴに申し訳ない。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

「こちらは速攻魔法、『グリード・グラード』を発動!」

 

白コナミ 手札3→5

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「次だ!『EMハンマーマンモ』へ攻撃!ダイニダァッ!」

 

榊 遊矢 LP1700→1350

 

「づぅっ!」

 

続けて青い『シューティング・スター・ドラゴン』が弾丸の如くハンマーマンモに突撃。凄まじい速度でハンマーマンモを吹き飛ばし、落下の途中で消滅させる。

 

「『EMシルバー・クロウ』へ攻撃!ダイサンダァッ!」

 

榊 遊矢 LP1350→600

 

「くぅ……!」

 

更にもう一撃、怒濤の連続攻撃は例外なくシルバー・クロウにも襲いかかり、インパクトの瞬間に大爆発。黒い煙が遊矢の視界を覆い尽くす。

 

「とどめだ!『レッド・スプリンター』へ攻撃!ダイヨンダァッ!」

 

黒煙を裂き、『シューティング・スター・ドラゴン』が出現、これを食らえばいくら『EMモモンカーペット』の効果でダメージを半減しているとは言え、800のダメージを受けて終わり。そんな事を許せる筈がない。

 

「お断りだ!手札の『EMバリアバルーンバク』を捨て、ダメージを0に!」

 

遊矢の周囲を紫色のバクが現れて覆い、薄い風船の中にいるようなバリアを作り出す。破れはするも、中にいる遊矢にダメージはない。見事攻撃をかわした。

 

「ダイレクトアタック!グォレンダァッ!」

 

「それも嫌だね!手札の『EM』を捨て、墓地の『EMバリアバルーンバク』を守備表示で特殊召喚!」

 

EMバリアバルーンバク 守備力2000

 

バリアバルーンバク大活躍。ダメージを防いだ上に『シューティング・スター・ドラゴン』の猛攻を防ぐ壁となり、その身を盾にして遊矢を守る。何とか5回連続攻撃を回避したが、実に肝が冷える体験だった。遊矢は胸を撫で下ろす。

 

「魔法カード、『打ち出の小槌』を発動。速攻魔法、『異次元からの埋葬』を発動。除外されたモンスター3体を墓地へ戻す。カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP50

フィールド『シューティング・スター・ドラゴン』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!やってくれるよ本当に……!魔法カード、『星屑のきらめき』!墓地のモンスターのレベルが7になるように除外し、『クリアウィング』を蘇生する!」

 

「手札の『増殖するG』を捨てる!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

白コナミ 手札0→1

 

「除外された『電脳堺姫ー娘々』の効果で除外されているカード1枚をデッキへ戻す。ペンデュラム召喚!『EMシルバー・クロウ』!『EMインコーラス』!『EMオオヤヤドカリ』!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

EMインコーラス 守備力500

 

EMオオヤヤドカリ 守備力2500

 

白コナミ 手札1→2

 

「レベル7の『クリアウィング』に、レベル3のインコーラスをチューニング!平穏なる時の彼方から、あまねく世界に光を放ち、蘇れ!シンクロ召喚!現れろ、『涅槃の超魔導剣士』!」

 

涅槃の超魔導剣士 攻撃力3300

 

白コナミ 手札2→3

 

ペンデュラム召喚したペンデュラムモンスターをチューナー扱いとするシンクロ召喚。白コナミのアクセルシンクロに対抗し、遊矢もまたシンクロの先、そしてペンデュラムの先を放つ。

シンクロペンデュラムモンスター。2つの特性を持つ、極めて特異なモンスターだ。

青い鎧を纏う超魔導剣士が剣を振るう。

 

「そしてペンデュラム召喚したペンデュラムモンスターをチューナー扱いとしてシンクロ召喚した事で、『涅槃の超魔導剣士』の効果発動!墓地のカードを回収!」

 

「手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、その効果を無効に!」

 

「『レッド・ミラー』を回収。オオヤヤドカリの効果発動!『涅槃の超魔導剣士』の攻撃力を600アップ!」

 

涅槃の超魔導剣士 攻撃力3300→3900

 

これで『涅槃の超魔導剣士』の攻撃力が『シューティング・スター・ドラゴン』の攻撃力を越えた。

 

「バトル!『涅槃の超魔導剣士』で『シューティング・スター・ドラゴン』へ攻撃!トゥルース・スカーヴァティ!」

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!このカードを除外し、攻撃を無効に!」

 

「シルバー・クロウでダイレクトアタック!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→2100

 

EMオオヤヤドカリ 攻撃力500→800

 

「罠発動!『星墜つる地に立つ閃光』!特殊召喚された相手モンスターの直接攻撃宣言時、その攻撃力が俺のLPを越えているならば攻撃を無効にし、ドロー!」

 

白コナミ 手札2→3

 

「その後、墓地の『スターダスト』モンスターを呼ぶ!来い、『スターダスト・ドラゴン』!!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

再び白コナミのピンチに駆けつける星屑の竜。何度も遊矢の前に立ちはだかり、白き翼で火の粉を払う。

 

「更に罠発動!『バスター・モード』!」

 

「ッ!?」

 

ダメ押しとばかりに発動される罠。その正体は遊矢にとって最悪の手。アクセルシンクロと同じく、シンクロモンスターの先を行く一手。『スターダスト・ドラゴン』を更に異なる姿に進化させるカードだ。

 

「『スターダスト・ドラゴン』をリリースし、デッキから『スターダスト・ドラゴン/バスター』に進化させる!来い、『スターダスト・ドラゴン/バスター』!!」

 

スターダスト・ドラゴン/バスター 攻撃力3000

 

『スターダスト・ドラゴン』の身体を眩き閃光が覆い、光が格納され青い鎧として纏われる。ターン終了までリリースする事で、モンスター、魔法、罠の効果発動を無効にする万能カウンターとなるカード。面倒なものの出現を許してしまった。

 

「くっ……!カードを2枚セット、ターンエンドだ……!」

 

「この瞬間、『シューティング・スター・ドラゴン』が帰還する」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

榊 遊矢 LP600

フィールド『涅槃の超魔導剣士』(攻撃表示)『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)『EMオオヤヤドカリ』(守備表示)

『補給部隊』セット2

Pゾーン『EMモモンカーペット』『曲芸の魔術師』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『リロード』!そして墓地の『スターダスト・ファントム』を除外し、『シューティング・スター・ドラゴン』を選択しておく。『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!1枚目、チューナーモンスター、『灰流うらら』!2枚目、チューナーモンスター、『ジャンク・シンクロン』、3枚目、チューナーモンスター、『ハイパー・シンクロン』!4枚目、チューナーモンスター、『エフェクト・ヴェーラー』!5枚目、チューナーモンスター、『ターボ・シンクロン』!」

 

再び5回の連続攻撃権を得る『シューティング・スター・ドラゴン』。最早何時もの事なので驚きはしないが、脅威には変わらない。この攻撃をどう防ぐかが問題だ。

 

「バトル!『/バスター』でシルバー・クロウへ攻撃!」

 

「カウンター罠、『攻撃の無力化』!その攻撃を無効にし、バトルを終了させる!カウンター罠なら『/バスター』の効果でも追いつけない!これこそが不動の守りだ!」

 

「考えたな……カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP50

フィールド『シューティング・スター・ドラゴン』(攻撃表示)『スターダスト・ドラゴン/バスター』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『カップ・オブ・エース』成功だ、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

「召喚時効果により、『EMガンバッター』をサーチ!」

 

「止めよう、『/バスター』をリリースし、効果を無効!」

 

どうやら遊矢はペンデュラム召喚で押しきるつもりなのだろう。ドクロバット・ジョーカーを呼んで『EM』を増やし、オオヤヤドカリの効果でシルバー・クロウかドクロバット・ジョーカーの攻撃力を1200アップ。攻撃力3000となったどちらかと『涅槃の超魔導剣士』で『シューティング・スター・ドラゴン』と『スターダスト・ドラゴン/バスター』を相討ちに持ち込む。

当然『シューティング・スター・ドラゴン』は自身の効果でエスケープするも、『/バスター』だけでも倒せる。そしてこの作戦の厄介な所はオオヤヤドカリの効果を無効にしても破壊されたオオヤヤドカリは再びペンデュラム召喚で現れると言う事。ならばせめて遊矢の手札に目当てのカードを渡さない為、ここで効果を使う。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

「魔法カード、『手札抹殺』!手札を交換!魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「ペンデュラム召喚!『EMドクロバット・ジョーカー』!『EMインコーラス』!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

EMインコーラス 守備力500

 

「そしてオオヤヤドカリの効果発動!シルバー・クロウの攻撃力を1200アップ!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→3000

 

「バトル!シルバー・クロウで『シューティング・スター・ドラゴン』へ攻撃!この瞬間、攻撃力をアップ!」

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力3000→3300

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800→2100

 

EMインコーラス 攻撃力500→800

 

EMオオヤヤドカリ 攻撃力500→800

 

「除外された『スターダスト・ファントム』の効果により、『シューティング・スター・ドラゴン』に戦闘耐性を与える!尤も、この効果を使用した後、攻守が800ダウンするがな」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300→2500

 

「『涅槃の超魔導剣士』で追撃!」

 

「攻撃を無効!」

 

「ドクロバット・ジョーカーでダイレクトアタック!」

 

「罠発動、『星屑の残光』!墓地の『スターダスト・ドラゴン』を蘇生する!!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

これで4度目。再び飛翔する白き翼、『スターダスト・ドラゴン』。まるで繭のように翼を折り畳み、白コナミを守ろうと防御体勢を取る。これでは進もうにも進めない。遊矢は仕方なく攻撃を止める。

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、シューティング・スターと『/バスター』が帰還する」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

スターダスト・ドラゴン/バスター 攻撃力3000

 

榊 遊矢 LP600

フィールド『涅槃の超魔導剣士』(攻撃表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMインコーラス』(守備表示)『EMオオヤヤドカリ』(守備表示)

『補給部隊』セット3

Pゾーン『EMモモンカーペット』『曲芸の魔術師』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『天輪の葬送士』を召喚!」

 

天輪の葬送士 攻撃力0

 

現れたのはまるで棺のような形をした天使族のモンスター。レベル1、攻守0、相変わらず低ステータスのモンスターを主軸とした戦術。次はどんな効果が飛び出すか。

 

「召喚時、墓地の光属性、レベル1モンスターを特殊召喚!来い、『救世竜セイヴァー・ドラゴン』!」

 

救世竜セイヴァー・ドラゴン 守備力0

 

棺の中から現れたのはクリアピンクに輝く小さな竜。まるで蜻蛉のような昆虫に見える。これもレベル1、攻守0と低いステータスには恵まれているものの、サポートが無ければ本当にちっぽけなカードだろう。

そんなモンスターを見て、遊矢の目が見開かれ、ゾッ、と背筋が凍りつく。『シューティング・スター・ドラゴン』や『スターダスト・ドラゴン/バスター』と言う最悪の脅威と出会った時のように。

このちっぽけなモンスターを前に遊矢が怯えにも似た感情を浮かべる。

 

「まさか……!」

 

「そのまさかだ。レベル8の『スターダスト・ドラゴン』とレベル1の『天輪の葬送士』に、レベル1の『救世竜セイヴァー・ドラゴン』をチューニング!集いし星の輝きが、新たな奇跡を照らし出す。光差す道となれ!」

 

救世竜の身体が膨張し、その中に『スターダスト・ドラゴン』が入り込む。そして『スターダスト・ドラゴン』の周囲に光が満ち溢れ、パンクするかのように眩き光が漏れ出し、1体のモンスターの姿を照らし出す。

 

「シンクロ召喚」

 

光が流星のように降り注ぐ中、姿を見せたるはクリアブルーの鱗持つ4枚の翼の神々しき竜。星の滅亡を救う究極のシンクロモンスターが今、覚醒する。

 

「光来せよ、『セイヴァー・スター・ドラゴン』!!」

 

セイヴァー・スター・ドラゴン 攻撃力3800

 

『スターダスト・ドラゴン』の進化形態、3体目。最悪の絶望が遊矢の前に立ち塞がる。

 

「上等だよ……!本当にエンタメってくれるよなぁ!」

 

最早ヤケクソ気味に叫び、己を奮い立たせる遊矢。確かに状況は絶望的、だが僅かでも希望はある。

 

「『セイヴァー・スター・ドラゴン』の効果により、『涅槃の超魔導剣士』の効果を無効にし、コピー!サブリメーション・ドレイン!『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!当然全てチューナーだ」

 

ピッ、説明は不要だとばかりにデッキトップから5枚のカードをめくり、遊矢に見せつける白コナミ。彼の言う通り、全てチューナーのカードだ。

 

「バトル!『セイヴァー・スター・ドラゴン』でドクロバット・ジョーカーへ攻撃!」

 

「罠発動!『次元幽閉』!攻撃を仕掛けた『セイヴァー・スター・ドラゴン』を除外!」

 

「『セイヴァー・スター・ドラゴン』の効果発動!このカードをリリースし、その効果を無効にして相手フィールドのカードを全て破壊!スターダスト・フォース!」

 

「チェーンして罠発動!『EMショーダウン』!俺のフィールド上に存在する表側表示の魔法カードの数まで相手モンスターを裏側守備表示に変更!『シューティング・スター・ドラゴン』と『スターダスト・ドラゴン/バスター』を選択!」

 

「ならばチェーンして『/バスター』の効果発動!このカードをリリースし、その効果を無効にして破壊!」

 

相次ぐ効果の応酬。凄まじいまでの攻防に打ち勝ったのは白コナミだ。無効に無効を重ね、遊矢の策を見事突破。更にフィールドのカードを全滅させる。これでペンデュラムも破壊し、遊矢の逆転は難しくなった。

 

「勝負は決まったか?」

 

「いいやまださ!モンスターゾーンで破壊された『涅槃の超魔導剣士』の効果でこのカードをペンデュラムゾーンへセッティングし、相手の効果で破壊された『運命の発掘』の効果発動!墓地のこのカードの枚数分、5枚のカードをドローする!」

 

そう、遊矢はこの時『セイヴァー・スター・ドラゴン』の効果でこのカードが破壊される事こそを待っていた。

このドローで――『シューティング・スター・ドラゴン』の5回攻撃を防ぐカードを引き抜く。実に分の悪い賭けであるが、今これしか手がない。

 

「お楽しみは、これからだぁっ!」

 

榊 遊矢 手札0→5

 

引き抜かれる5枚のカード。遊矢は視線を運び――ニヤリと笑みを浮かべる。どうやら運命は彼をここで終わらせないらしい。

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』で、ダイレクトアタック!」

 

「参ったな……こんなの……」

 

迫る流星、『シューティング・スター・ドラゴン』を前にし、遊矢は瞼を閉じ顔を俯かせる。一体どうしたのだろうか、先程の様子を見る限り窮地を覆すカードは引けている筈だが。それにしては様子がおかしい。

ハッタリだったのか、白コナミが訝しみながらも止めを刺そうとした、その時。

遊矢の両目が開き、瞬間、翡翠に輝く左眼から、紫電が迸る。

 

「熱くならない訳がない!そうだろ――ユーゴォッ!」

 

遊矢が口角を持ち上げ、叫んだその時。

 

『融合じゃねぇ、ユーゴだっ!』

 

友の声が、聞こえた。

 

『「手札の『SRメンコート』の効果発動!相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを攻撃表示で特殊召喚し、相手フィールドのモンスターを守備表示に変更する!」』

 

SRメンコート 攻撃力100

 

遊矢の手札から1枚のカードがデュエルディスクに叩きつけられ、基盤が輝く。そしてフィールドにメンコのようなモンスターが降り立ち、神風を起こして『シューティング・スター・ドラゴン』を吹き飛ばす。

『スピードロイド』。古き良き玩具を模した、風属性機械族のカード群。遊矢がこのシンクロ次元で友になった、自分と良く似た顔立ちの少年、ユーゴが使用するモンスターだ。

 

「『スピードロイド』……だとっ……!?」

 

思わず白コナミが動揺して叫ぶ。その驚きは、『クリアウィング』を呼び出した時よりも、更に大きい。

遊矢のデッキは『オッドアイズ』、『EM』、『魔術師』の3種を混合し、いくつかの汎用カードを投入したデッキの筈。その中に、新たに『スピードロイド』が入っている等と、誰が思う事か。

 

『これがエンタメって奴よぉ!なぁ相棒!』

 

そんな予想外の一手を打つ遊矢の口から、彼のものとは違う声が放たれる。どこまでも底抜けに明るく、無鉄砲で調子者な声、そう、ユーゴの声が。

遊矢の中に眠っていた彼が、遊矢のピンチに今、駆けつけてくれたのだ。

 

「全く、調子の良い相棒だよ……!」

 

そんなユーゴに対し、呆れ様子を見せながらも、声を弾ませる遊矢。その口元からは隠し切れない嬉しさが表れている。

 

「その声、その左眼、ユーゴと融合したと言うのか……!」

 

『ユーゴと融合……ブフォッ!ゆ、融合じゃねぇつってんだろ……ブフーッ!』

 

「笑いのハードル低いな」

 

ギリッ、偶然ハマったダジャレに対し吹くユーゴを見て、白コナミが歯軋りを鳴らす。茶化されている事に対してではない。榊 遊矢が、まるで伝説のデュエリストのように、2つの魂をその身に宿している事に対してのものだ。

だが白コナミはその口元を今度は笑みに変え、獰猛に牙を剥く。

 

「いや、面白いじゃないか……!俺も奴を吸収したのだ。2人のデュエリスト!このデュエル、楽しませてもらおう!」

 

「言った筈だ、俺達は1人で闘ってるんじゃないって!行くぞ、ユーゴ!」

 

『応よ兄弟、お望み通り、たっぷり楽しませてやろうじゃねぇか!』

 

「ターンエンド。『/バスター』を帰還」

 

スターダスト・ドラゴン/バスター 攻撃力3000

 

「さぁ、満足させてもらおうか!」

 

白コナミ LP50

フィールド『シューティング・スター・ドラゴン』(守備表示)『スターダスト・ドラゴン/バスター』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

シティの命運を賭けた究極のライディングデュエル。アーククレイドルと一体化を果たした白コナミに対し、遊矢はユーゴと共に闘う。デュエルは更に続いていく――。



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第191話 遊星粒子

シティの遥か上空にて、巨大な竜の形を模したDーホイール、アーククレイドルと、それに比べて余りにも小さなDーホイールが飛び交い対決していた。

アーククレイドルに搭乗、否、一体化しているのは白コナミ。このシティをも滅ぼしかねない圧倒的な力を誇るデュエリスト。

対する赤い尾を伸ばすDーホイールに乗るのは榊 遊矢。今やこのシティを救う、たった1つの希望だ。

やや白くなりつつ夜空でさながら流星の如く飛行し、時よりアーククレイドルを破壊した事で落下する残骸を処理し、アーククレイドル自身が街にぶつからないよう誘導し、不格好に飛ぶ彼を見上げ、シティの住民が胸を抑える。

 

「……まだあんな若い子供が、シティの為に、俺達の為に闘ってくれている……」

 

「そうだよ、シティ生まれでもないのに、命懸けで……」

 

彼等は、遊矢の試合を見ていた者だった。遊矢の言葉を聞いていた者だった。だから彼等は知っている。榊 遊矢が彼等シティの住民の事を余り快く思っていない事を。

実際そうだ。遊矢はユーゴやシンジ、ジャックやクロウ、牛尾達の事を好んでいても、フレンドシップカップを見ていた観客達のようなシティの人間を好んでいない。むしろ嫌いとも言える。それは遊矢が彼等の事を知らない事を差し引いても当然の事だった。

だからこそ遊矢は彼等に少しでも変わる事を望んだのだ。

 

そんな、彼等を嫌っている筈の遊矢が――彼等の日常を守る為に命を賭け闘っている。そんな姿を見てしまっては、彼等の心にも何とかしなければ、どうにかしなければと言う焦りも生まれる。

遊矢やジャック、クロウの助けになりたいと言う想いも生まれてくる。

 

シティの構造を嘆き、怒るだけしかせず、行動を起こそうとしないコモンズ。コモンズを侮蔑し、自らの地位を守る事だけに頭がいっぱいなトップス。そんな人間としての愚かしさを持つ彼等が、遊矢や今、彼等を守るランサーズを見て、変わっていた。

 

「チクショウ!あんな子供が必死で闘ってくれているって言うのに……俺達は、俺は……!何か出来る事はねぇのかよ!俺が、アイツ等の為にしてやれる事は!」

 

無力なままでも構いもしなかった彼等が、無力さに地面に拳を打ち付ける。されど後悔は先に立たず、今更悔やんでも、無力な彼等に出来る事など――。

 

「あるぞ!」

 

「うむ!」

 

あったよ!出来る事が!でかした!と彼等の前に駆けつけたのは、1人の男と1人の少女、そして一匹の小猿の姿。

オールバックの黒髪の男と、紫の髪をポニーテイルに結んだ少女。そしてデュエルディスクを背負った猿だ。

 

「あ、あんたは確か、榊 遊矢と一緒のチームだった……!」

 

「セレナだ!」

 

「そしてこの猿は……」

 

「キキー」

 

「ああ!コイツは猿のSAL」

 

「SAL?」

 

「アカデミアでは伝説になっているデュエルをするSALだ」

 

「ふーん、伝説って?」

 

「ああ!」

 

そう、彼等の前に現れたのはセレナとSAL。一回戦、二回戦と遊矢とユーゴと共にチームランサーズとしてフレンドシップカップで闘ったデュエリストだ。

突然現れた彼等に対し、シティの住民は驚き、訝しみつつも、彼女等が言う遊矢の助けになる方法について訪ねる。

 

「ところであいつ等の助けになれる事って?」

 

「ああ!」

 

「いや、だからその方法を……」

 

「それって『ハネクリボー』?」

 

「ダメだコイツ!話が通じねぇ!」

 

住民の質問に対し、聞いているのかいないのか、良く分からない問答を続けるセレナに対し、頭を抱える男達。

一体どうすれば良いのか、そんな時――チョンチョン、男の肩が何者かに控えめに突かれ、「んんっ」とわざとらしい咳払いが響く。

反射的に振り返ると、そこにいたのは今の今までガン無視されていたオールバックの男、三沢 大地だった。

 

「……ええと、あんた誰?」

 

「三沢 大地」

 

「……何時からいたの?」

 

「ずっと」

 

「む、いたのか。えーっと……うん……」

 

「だから三沢だって言ってるだろ!忘れたなら忘れたと言え!そっちの方がマシだ!」

 

「そんな事よりあいつ等の助けになれる方法って何だよ!?」

 

「そんな事って……まぁ良い、シティ住民、全員の力を貸せ」

 

「い、一体何を……」

 

「なぁに、自分の事は自分で守る。自分の街は自分で守る。ただそれだけの事だ」

 

ニヤリ、不敵な笑みを浮かべる三沢。その左腕に装着したデュエルディスクが、キラリと光を反射させた――。

 

――――――

 

『「俺のターン、ドロー!」』

 

一方、上空でぶつかり合う遊矢と白コナミのデュエルは後半戦へともつれ込んでいた。

2人のLPはどちらも3桁を切っている。互いに何時終わってもおかしくない程の数値だ。

そんな中、白コナミは圧倒的な実力を見せつけ、自らのエースである『スターダスト・ドラゴン』の進化体3種を召喚。『シューティング・スター・ドラゴン』、『セイヴァー・スター・ドラゴン』、『スターダスト・ドラゴン/バスター』と言う過剰戦力で遊矢を追い詰めるが――遊矢も足掻きに足掻く。

 

『セイヴァー・スター・ドラゴン』の効果でフィールドを全滅させられるも、彼の中に眠っていたユーゴが覚醒、『SRメンコート』の効果によって遊矢を助けてくれたのだ。

現在の脅威は『シューティング・スター・ドラゴン』と『スターダスト・ドラゴン/バスター』の2体。この2体を叩かねば遊矢に勝利はない。

されど不安もない。今の遊矢には頼もしい味方、ユーゴがいるのだ。

 

『よっしゃ、ここは『クリアウィング』を出して大逆転だぜ!え?墓地……?マジで?』

 

頼もしい……のだろうか?だがこの相変わらずの馬鹿さが良い感じに緊張をほぐしてくれた。

 

「全く、気が抜けるよ。俺は魔法カード、『振り出し』を発動!手札を1枚捨て、『/バスター』をバウンスする!」

 

「『/バスター』をリリースし、その効果を無効!」

 

「当然そうするしかないよな!俺はたった今墓地に送った『シャッフル・リボーン』の効果発動!」

 

『墓地のこのカードを除外し、フィールドに存在する『SRメンコート』をデッキに戻して1枚ドロー!』

 

榊 遊矢 手札3→4

 

『まだまだ飛ばしていくぜぇっ!』

 

「『EMダグ・ダガーマン』をセッティング!そのペンデュラム効果で墓地のセカンドンキーを回収!」

 

「俺は手札の『増殖するG』を捨て、このターンお前が特殊召喚する度にドローする!」

 

スケールを整えつつ、手札を補充。これが遊矢の基礎となる戦術だ。彼らしさがここになって出て来た。ここからが本番と言う訳か。

 

『「ペンデュラム召喚!」』

 

そしてペンデュラム召喚。榊 遊矢の代名詞と言える技が炸裂する。『涅槃の超魔導剣士』のスケールは8、ダグ・ダガーマンのスケールは2。つまりレベル3から7のモンスターまでを召喚可能だ。

 

「『EMボットアイズ・リザード』!『EMセカンドンキー』!『EMシルバー・クロウ』!『EMオオヤヤドカリ』!『EMインコーラス』!」

 

EMボットアイズ・リザード 攻撃力1600

 

EMセカンドンキー 守備力2000

 

EMシルバー・クロウ 守備力700

 

EMオオヤヤドカリ 守備力2500

 

EMインコーラス 守備力500

 

白コナミ 手札0→1

 

幾度も揺れる振り子の召喚法。遊矢のフィールドに次々と光の柱が舞い降り、光の粒子を散らしてモンスター達が姿を見せる。

モノクルを装着した紫のリザードマン。シルクハットを被ったロバに、鋭い鉤爪を持つ銀狼。マンションのように子ヤドカリを住まわせる親ヤドカリに、カラフルな色合いの3羽のインコ。一気に5体の召喚。正しくペンデュラムの本領発揮だ。

 

『セカンドンキーの効果で『EM』をサーチする!』

 

「止める。手札の『灰流うらら』を捨て、その効果を無効にする!」

 

『通しちゃくれねぇか……!』

 

「ならこじ開ける!」

 

『俺好みだな、そいつぁよ!オオヤヤドカリの効果発動!シルバー・クロウの攻撃力を1500アップ!』

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→3300

 

「そしてボットアイズ・リザードの効果発動!デッキから『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を墓地に送り、名前をコピーする!」

 

ボットアイズ・リザードが身につけたモノクルを操作し、彼のエース、赤い鱗と真紅と翡翠の眼を持つ竜、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の姿を空中に投影、ボットアイズ・リザードに重なる。

 

『魔法発動!『龍の鏡』!フィールドの『オッドアイズ』となった『ボットアイズ・リザード』と、墓地のクライスを除外し、融合召喚を行う!て、俺にやらすんじゃねぇ!何か恥ずかしいだろ!』

 

「ええ!?そっちが勝手にやったんだろ!?」

 

ユーゴが融合召喚を口にし、そのネタ感に妙に気恥ずかしくなって文句を言うも、こればっかりは本人の問題だ。遊矢は一言返して無視し、ユーゴが止めた融合召喚の続きを繋げる。

 

「今一つとなりて新たな命ここに目覚めよ!」

 

遊矢の背後に発生した青とオレンジの渦。その中にボットアイズ・リザードと『光帝クライス』が呑み込まれ、混ざり合った瞬間、眩いばかりの光が炸裂、フィールドに炎が出現して逆巻き、新たな渦を作り出す。

 

『「融合召喚!現れ出でよ!気高き眼燃ゆる勇猛なる龍!『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」』

 

ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

白コナミ 手札0→1

 

そして炎の中り誕生するのは深紅の炎を思わせる鱗を鎧の如く纏う、赤と緑のオッドアイを輝かせた、巨大な角を持ちし竜。

『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を一回り大きくしたかのような『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』だ。

 

「……何だよええ?なんだかんだノリノリじゃないか、融合」

 

『ううううっせー!融合じゃねぇ、ユーゴだ!』

 

融合召喚の際、ユーゴが共に声を重ねた事に気づき、遊矢がニヤニヤとした笑みを見せ、ユーゴが狼狽える。どちらも遊矢が行っている為、何とも面白い百面相だ。他人が見れば危ない奴だろう。

冷静に遊矢を導いてくれるユートと、一緒に馬鹿をやりながらも助けになってくれるユーゴ。タイプが異なるが、どちらも遊矢と相性が良く、頼りになる仲間だ。

 

「さぁてブレイブアイズの効果発動!このカードの融合召喚時、相手フィールドのモンスターの攻撃力を0にする!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300→0

 

「そしてこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、攻撃力0のモンスターが発動した効果は無効になる!」

 

これで『シューティング・スター・ドラゴン』を弱体化させた上に攻撃無効効果を封じた。その代わり、このターン遊矢はブレイブアイズでしか攻撃出来なくなったが。

 

『さぁ行くぜぇ!ブレイブアイズで、『シューティング・スター・ドラゴン』へ攻撃!』

 

「灼熱のメガフレイムバーストッ!」

 

ブレイブアイズがそのアギトに大気を集束、口端でバチリと小さな火花が散り、巨大な火球に変化させて撃ち出す。

 

「罠発動、『ガード・ブロック』!戦闘ダメージを0にし、ドロー!」

 

白コナミ 手札1→2

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

「だが俺にはまだ、『/バスター』が残っている!」

 

スターダスト・ドラゴン/バスター 攻撃力3000

 

榊 遊矢 LP600

フィールド『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMシルバー・クロウ』(守備表示)『EMセカンドンキー』(守備表示)『EMオオヤヤドカリ』(守備表示)『EMインコーラス』(守備表示)

セット1

Pゾーン『涅槃の超魔導剣士』『EMダグ・ダガーマン』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!楽しいじゃないか、バトル!『/バスター』でブレイブアイズへ攻撃!」

 

「相討ち狙いか……迎え撃て!」

 

星屑纏う『スターダスト・ドラゴン/バスター』の風のブレスと、勇猛なる『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の火炎のブレスがフィールド中央でぶつかり、大爆発を巻き起こし、近場にいた2体を粉々に吹き飛ばす。

が――吹き飛ばされたのはブレイブアイズと、『/バスター』の鎧のみ。立ち込める黒煙の中から、一切の傷の無い『スターダスト・ドラゴン』が飛び出す。

 

「『/バスター』が破壊された時、その進化元のモンスターを蘇生する!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

「『スターダスト・ドラゴン』で、セカンドンキーへ攻撃!」

 

「ぐっ!?」

 

「メインフェイズ2、魔法カード、『アドバンスドロー』!『スターダスト』をリリースして2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札2→4

 

「魔法カード、『ライトニング・ボルテックス』!手札を1枚を捨て、相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊!」

 

『チッ!』

 

「速攻魔法、『サイクロン』!『涅槃の超魔導剣士』を破壊!カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP50

フィールド

セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『EMリザードロー』をセッティング!ペンデュラム召喚!『EMドクロバット・ジョーカー』!『EMシルバー・クロウ』!『EMオオヤヤドカリ』!『EMインコーラス』!『曲芸の魔術師』!」

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800

 

EMオオヤヤドカリ 守備力2500

 

EMインコーラス 守備力500

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

ペンデュラム召喚。再び大量展開が炸裂し、遊矢のフィールドに5体のペンデュラムモンスターが現れる。

しかし、白コナミはこの時こそを待っていた。

 

「罠発動、『裁きの天秤』!俺のフィールドと手札、そしてお前のフィールドのカードの差分ドローする!俺のフィールドはこのカードとアクションフィールドの2枚、お前のフィールドは9枚!よって7枚のドロー!」

 

白コナミ 手札0→7

 

『コナミのこう言う所が厄介だぜ……』

 

ペンデュラム召喚を逆手にとって大量ドロー。7枚もの手札補充にユーゴが呆れたような声を出す。ペンデュラム召喚は確かに強力だ。何せ召喚権を使わず、高レベルのモンスターだろうとスケールがあれば最大5体まで呼び出せる。

しかし、同時にこう言った相手フィールドのカードに依存する効果には弱い。モンスターに加え、スケールまであるのだから。

 

「『EMリザードロー』のペンデュラム効果!このカードを破壊し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

『そしてオオヤヤドカリの効果発動!シルバー・クロウの攻撃力を1200アップ!』

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力1800→3000

 

「バトルだ!シルバー・クロウでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『クリボーン』を除外、『クリアクリボー』を蘇生!」

 

クリアクリボー 守備力200

 

EMシルバー・クロウ 攻撃力3000→3300

 

EMドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800→2100

 

EMオオヤヤドカリ 攻撃力500→800

 

EMインコーラス 攻撃力500→800

 

「くっそ……!破壊してドクロバット・ジョーカーでダイレクトアタック!」

 

「『クリアクリボー』の効果発動!」

 

白コナミ 手札7→8

 

「引いたカードは『ジャンク・ブレーダー』だ」

 

ジャンク・ブレーダー 守備力1000

 

「破壊してメインフェイズ2へ。カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP600

フィールド『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)『EMシルバー・クロウ』(攻撃表示)『EMオオヤヤドカリ』(守備表示)『EMインコーラス』(守備表示)『曲芸の魔術師』(守備表示)

セット2

Pゾーン『EMダグ・ダガーマン』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『リロード』!魔法カード、『調律』!デッキから『ジャンク・シンクロン』をサーチ!俺のフィールドにモンスターが存在しない事で手札の『ジャンク・フォアード』を特殊召喚!」

 

ジャンク・フォアード 守備力1500

 

白い装甲を纏った機械戦士がフィールドに飛び出す。特殊召喚が容易な下級モンスターの1種だ。

 

「『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

「召喚時、墓地の『チューニング・サポーター』を蘇生!」

 

チューニング・サポーター 守備力300

 

「レベル1の『チューニング・サポーター』と、レベル3の『ジャンク・フォアード』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!集いし叫びが木霊の矢となり空を裂く!光差す道となれ!シンクロ召喚!出でよ、『ジャンク・アーチャー』!」

 

ジャンク・アーチャー 攻撃力2300

 

シンクロ召喚、白コナミのフィールドに現れたのは鳥帽子を模した縦長の頭部にオレンジ色のボディ、弓矢を持った機械戦士だ。

これで白コナミが呼び出したシンクロモンスターは14体。残るシンクロモンスターは1体、恐らく切り札であるあのモンスターだろう。随分と掘り出したものだ。

 

「『チューニング・サポーター』の効果でドロー!」

 

白コナミ 手札5→6

 

「『ジャンク・アーチャー』の効果発動!『EMオオヤヤドカリ』を除外!ディメンジョン・シュート!」

 

『ジャンク・アーチャー』が矢をつがえ、『EMオオヤヤドカリ』に狙いを澄まして放つ。すると矢が命中したオオヤヤドカリがギュルリと渦巻き縮小、最初から何もなかったように消えてしまう。

 

「速攻魔法、『大欲な壺』!除外されている『EMオオヤヤドカリ』、『ジャンク・ウォリアー』、『ジャンク・デストロイヤー』をデッキに戻し、1枚ドローする!」

 

白コナミ 手札5→6

 

『ジャンク・アーチャー』の効果は一時的なもの。そこで白コナミは『大欲な壺』を併用する事でデッキバウンスとドローに変換する。

オオヤヤドカリは最大1500ポイント、ペンデュラムモンスターの攻撃力を上げる厄介なモンスターだ。守備力も高く、潰しておくに越した事はない。

 

「魔法カード、『磁力の召喚円LV2』を発動!手札からレベル2以下の機械族モンスター、『シンクロン・キャリアー』を特殊召喚!」

 

シンクロン・キャリアー 守備力1000

 

「『シンクロン・キャリアー』がいる限り、『シンクロン』モンスターの召喚権が増える。来い、『シンクロン・エクスプローラー』!」

 

シンクロン・エクスプローラー 攻撃力0

 

「エクスプローラーの召喚時、墓地の『ジャンク・シンクロン』を蘇生!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

「場にチューナーモンスターが存在する事で、墓地の『ボルト・ヘッジホッグ』を蘇生!」

 

ボルト・ヘッジホッグ 守備力800

 

次々と白コナミに低レベルモンスターが現れ、ついにモンスターゾーンが埋まる。相変わらず凄まじいものだ。とは言えその代償も大きく、中々の手札を消費してしまったが。

 

「レベル2の『シンクロン・エクスプローラー』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『ジャンク・ウォリアー』!!」

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300

 

再びフィールドに登場する白いマフラー、青いボディの機械戦士。『スターダスト・ドラゴン』程じゃないにしろ、白コナミはこのモンスターにただならぬ想いを持っており、重宝しているカードだ。

何よりこのカードでし突破出来ない状況がある、と言うのも大きい。

攻撃力に関する効果なら『ニトロ・ウォリアー』や『ジャンク・バーサーカー』がいるが、前者は制限があり、後者は相手に作用するもの。底抜けに攻撃力を高める『ジャンク・ウォリアー』には爆発力がある。

 

「『ジャンク・ウォリアー』の召喚時効果にチェーンし、『シンクロン・キャリアー』の効果発動!『シンクロントークン』を特殊召喚!」

 

シンクロントークン 守備力0

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300→4100

 

フィールドに存在するレベル2以下のモンスター3体。攻撃力0、『シンクロン・キャリアー』。攻撃力800、『ボルト・ヘッジホッグ』。そして攻撃力1000、『シンクロントークン』。合わせて1800の数値が『ジャンク・ウォリアー』に加わり、4100。

レベル5のシンクロモンスターにしては脅威的の数値だ。

 

「バトル!『ジャンク・ウォリアー』でシルバー・クロウへ攻撃!手札の『ラッシュ・ウォリアー』の効果発動!攻撃力を倍に!」

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力4100→8200

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!」

 

『戦闘ダメージを0にし、1枚ドロー!』

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「『ジャンク・アーチャー』でドクロバット・ジョーカーへ攻撃!」

 

「ぐぅ――!」

 

榊 遊矢 LP600→100

 

『ジャンク』モンスター2体の猛攻が遊矢に襲いかかり、少ないLPが削り取られる。残り100、白コナミと並んだが、戦況としては遊矢の方が不利だ。

 

「アクションマジック、『セカンド・アタック』!『ジャンク・ウォリアー』に戦闘権を与え、『曲芸の魔術師』を攻撃!」

 

「こっの……!」

 

「メインフェイズ2、墓地の『ラッシュ・ウォリアー』の効果発動!『ジャンク・シンクロン』を回収!」

 

「手札の『D.D.クロウ』を捨て、『ジャンク・シンクロン』を除外!」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP50

フィールド『ジャンク・ウォリアー』(攻撃表示)『ジャンク・アーチャー』(攻撃表示)『シンクロン・キャリアー』(守備表示)『ボルト・ヘッジホッグ』(守備表示)『シンクロントークン』(守備表示)

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚のカードをドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→3

 

「良し……魔法カード、『金満な壺』!墓地の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、エクストラデッキから『EMシール・イール』、『EMドクロバット・ジョーカー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→4

 

『乗って来たぜ!『EMディスカバー・ヒッポ』を召喚!オラ出ろカバッ!』

 

「やめたげてっ!」

 

EMディスカバー・ヒッポ 攻撃力800

 

『命削りの宝札』と『金満な壺』の効果でこのターン、遊矢は特殊召喚が封じられた。だが、アドバンス召喚は可能。

と言う事でその道のスペシャリスト、ピンク色のカバ、『EMディスカバー・ヒッポ』を呼ぶ。ペンデュラムが戦術の主軸である彼には相性が良くないと思われがちであるカードであるが、それでも昔から何度も遊矢を支えてくれたカードだ。ユーゴに雑に扱われる事を庇う位には気に入っている。

 

『カバの召喚時、俺達はもう1度最上級モンスターを呼ぶ権利を得る!オラ働けカバッ!』

 

「やめたげてっ!」

 

『カバとインコを生け贄に――』

 

「アドバンス召喚!来てくれ。誰をも笑顔にしてくれる楽しい仲間。『EMラフメイカー』!」

 

EMラフメイカー 攻撃力2500

 

現れたのはレベル8、ステッキを手にしたマジシャン風のモンスターだ。ゴーグル付きのハットを深く被り直し、帽子の奥でニヤリと不敵に笑う。

ペンデュラムモンスターであるが、遊矢のデッキに投入されているペンデュラムモンスターの最大スケールは8なので、サポートカードを使わなければペンデュラム召喚出来ないのが欠点だ。

 

「魔法カード、『スマイル・ワールド』!互いのモンスターはフィールドのモンスターの数×100、攻撃力をアップする!」

 

EMラフメイカー 攻撃力2500→3100

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力4100→4700

 

ジャンク・アーチャー 攻撃力2300→2900

 

シンクロン・キャリアー 攻撃力0→600

 

ボルト・ヘッジホッグ 攻撃力800→1400

 

シンクロントークン 攻撃力1000→1600

 

遊矢の手から放たれたのは、母、洋子より譲り受けた、父、遊勝のカード。

その効果は――実に弱い。冗談抜きで、どこに使い道があるんだと言いたくなるようなカードであるが、そこはデュエルモンスターズ。無数とも言えるカード群ならばこのカードと相性の良いカードも見つかるだろう。

 

「バトルだ!ラフメイカーで『ジャンク・ウォリアー』へ攻撃!この攻撃宣言時、このカードと相手モンスターの内、元々の攻撃力より高い攻撃力を持つモンスターの数×1000アップする!ラフィングスパーク!」

 

EMラフメイカー 攻撃力3100→9100

 

「ぐっ……!」

 

『スマイル・ワールド』によって発生した笑顔が、ラフメイカーのステッキへ集まり充填。バチバチと鳥の囀ずりのように鳴り響き、『ジャンク・ウォリアー』に向かって発射、胸部を貫き黒焦げにする。

『命削りの宝札』の効果でダメージは与えられないが、高い攻撃力を持つ『ジャンク・ウォリアー』は倒せた。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

「罠発動、『奇跡の残照』!『ジャンク・ウォリアー』を蘇生する!」

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300

 

榊 遊矢 LP100

フィールド『EMラフメイカー』(攻撃表示)

セット2

Pゾーン『EMダグ・ダガーマン』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『ジャンク・アーチャー』の効果発動!ラフメイカーを除外!」

 

「永続罠、『デモンズ・チェーン』!『ジャンク・アーチャー』の攻撃と効果を無効にする!」

 

「魔法カード、『七星の宝札』!『ジャンク・アーチャー』を除外し、2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札1→3

 

「バトルだ!『ジャンク・ウォリアー』で『EMラフメイカー』へ攻撃!この瞬間、手札の『ラッシュ・ウォリアー』を墓地に送り、『ジャンク・ウォリアー』の攻撃力を倍にする!」

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300→4600

 

「罠発動、『パワー・ウォール』!デッキから5枚のカードを墓地に送り、戦闘ダメージを0にする!加えてアクションマジック、『奇跡』!ラフメイカーを戦闘から守る!」

 

「止めるか……カードをセット、魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→3

 

「『ジャンク・アンカー』を召喚」

 

ジャンク・アンカー 攻撃力0

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ。残る手札を捨てる」

 

白コナミ LP50

フィールド『ジャンク・ウォリアー』(攻撃表示)『ジャンク・アンカー』(攻撃表示)『シンクロン・キャリアー』(守備表示)『ボルト・ヘッジホッグ』(守備表示)『シンクロントークン』(守備表示)

セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!墓地の『キラー・スネーク』を自身の効果で回収。魔法カード、『マジック・プランター』!『デモンズ・チェーン』をコストに2枚ドローする!」

 

『さぁ、来い来い!』

 

榊 遊矢 手札1→3

 

『ここからが勝負だぜ!『カードガンナー』を召喚!』

 

カードガンナー 攻撃力400

 

現れたのはガラスの頭部にサーチライト、両腕が砲身になった赤いボディ、下半身は青いキャタピラと玩具のようなモンスターだ。

ユーゴも自身の扱う『スピードロイド』のような見た目と優秀な効果からデッキに投入しているカードだ。遊矢もまた投入しているのを見て、何だか嬉しくなってしまう。

 

「『カードガンナー』の効果発動!デッキトップから3枚のカードを墓地に送り、攻撃力を1500アップ!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900

 

『バトルだ!『EMラフメイカー』で『ジャンク・ウォリアー』へ攻撃!』

 

「罠発動、『緊急同調』!このバトルフェイズ、俺はシンクロ召喚を行う!」

 

『あいつのエクストラデッキで残っている中でフィールドのモンスターを素材に出せるモンスターは……やべぇぞ遊矢!』

 

「レベル2の『シンクロン・キャリアー』、『ボルト・ヘッジホッグ』、『シンクロントークン』に、レベル2の『ジャンク・アンカー』をチューニング!シンクロ召喚!『ジャンク・デストロイヤー』!」

 

ジャンク・デストロイヤー 攻撃力2600

 

再び現れる怒号の魔神、『ジャンク・デストロイヤー』。この状況で考えうる中で最悪のシンクロモンスターが起動、赤く輝く眼光を迸らせ、凄まじい速度で遊矢のフィールドへ接近、4本の腕でラフメイカーとダグ・ダガーマンを掴み上げる。

 

「ジャンクションの効果で『カードガンナー』をバウンス!シンクロ召喚時、ラフメイカー、ダグ・ダガーマンを破壊!」

 

「墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、ラフメイカーの攻撃力を800アップ!」

 

「このタイミングで……?」

 

EMラフメイカー 攻撃力2500→3300

 

破壊されるにも関わらず、遊矢が発動したのはモンスターの攻撃力を上げるカード。普通ならば温存すべきカードだろう。

だが――ラフメイカーに使うならば、何の問題はない。

 

「元々の攻撃力より高い攻撃力となったラフメイカーが破壊された事で、墓地のモンスター1体を蘇生する!」

 

「そう言う事か……!」

 

「俺が呼ぶのは、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

遊矢が選んだモンスターは高い攻撃力と殲滅効果を持つ悪魔竜。確実に2体を倒せ、効果ダメージもあるこのカードに託そうと言う事だろう。

 

「速攻魔法、『リロード』!アクションカードと共に手札を交換し、スカーライトで『ジャンク・デストロイヤー』に攻撃!」

 

「罠発動、『デストラクト・ポーション』!デストロイヤーを破壊し、LPを2600回復!」

 

白コナミ LP50→2650

 

「チッ、なら『ジャンク・ウォリアー』へ攻撃!」

 

白コナミ LP2650→1950

 

スカーライトの一撃が『ジャンク・ウォリアー』に突き刺さり、見事突破。しかしその時、大爆発が起こった事でアーククレイドルの一部が崩れ、巨大な瓦礫がシティに向かって落下し始める。

 

「ッ、しまった……!」

 

『やべぇぞ遊矢!あんなもん落ちたら……!』

 

「くっ……!」

 

最悪の展開、このままではシティどころか、そこに住む人々まで傷ついてしまう。遊矢はさぁっ、と顔を青くし、スカーライトを連れて瓦礫の下まで向かおうとする。

スカーライトならばこの程度、破壊出来る筈だ。だが――届かない。しかも更に最悪なのは、瓦礫が1つではない事だ。

四方八方に飛び散り、流星の如く降り注ぎ、牙を剥いている。

駄目なのか、そんな諦めが頭に過った、その時だった。

 

「クサナギソード・斬!」

 

遊矢の眼前に、深緑の装甲を纏う機械武者が現れ、その手に持った薙刀で瓦礫を木っ端微塵に切り裂いたのは。

 

『っ!?』

 

「『超重荒神スサノーO』……!?って事は!」

 

その正体は『超重荒神スサノーO』。遊矢の良く知る、彼の最も信頼を寄せる親友が使う切り札のシンクロモンスター。

このモンスターがいると言う事は。遊矢がバッと声をした方向に振り返るとそこにいたのは、ビルの屋上でデュエルディスクを構える、長いリーゼントと頭に巻いた鉢巻、キリリとした太い眉と大きな身体、白い学ランと下駄が特徴的な少年、権現坂 昇の姿があった。

 

「権現坂!」

 

友の危機に、シティの危機に駆けつけた彼の登場に、遊矢がパッと顔色を明るくする。

すると権現坂はニヤリと笑みを浮かべ、遊矢に応えるように親指を立てる。

 

「フルムーンクレスタァ!」

 

更に遠くに落下しようとする瓦礫が黄金色の熱線に焼かれ、跡形なく消え去る。見ればそこにいたのは、赤毛を揺らす踊り子のような姿をした猫の獣人、『月光舞猫姫』とその主、セレナの姿。

 

「セレナ!」

 

「俺も忘れてもらっちゃ困るぜぇ!『BK拘束蛮兵リードブロー』!」

 

続けて全ての拘束を解き放ち、恐るべき速度となった『BK拘束蛮兵リードブロー』が、アリトの指示の下、瓦礫を次々と殴り砕く。

 

「アリト!」

 

何故、一体、彼等がどうして。疑問が湧き出る中、遊矢の傍に巨大な影が現れる。

双頭の竜に、女性を磔にしたようなモンスター。『魔王龍ベエルゼ』だ。

 

「榊 遊矢!」

 

『セクト!?』

 

「あん?その声、ユーゴか!?一体どうして……」

 

『細かい事は後だ!それより聞きたいのはこっちの方だ!こりゃ一体どう言う事だ!』

 

現れたのは伊集院 セクト。ユーゴの親友にしてライバルとなる少年だ。彼はユーゴにまくしたてられ、へへへと鼻を掻きながら誇らしそうに胸を張る。

 

「リアルソリッドビジョンとデュエルの乱入だよ。それとアクションデュエルって言ったら分かるか?」

 

「ソリッドビジョンと、乱入?……まさか!?」

 

『?ど、どう言う事だよ!?』

 

遊矢達ランサーズのデュエルディスクには、アクションデュエルの為にアクションフィールドを展開させる機能がある。

この機能の強力な所は、相手のデュエルディスクが対応していなくても作用し、相手もアクションフィールドを使ったデュエルが出来る点だ。つまりはランサーズのデュエルディスクを通して相手のデュエルディスクを最新性能のものにアップデートしているに等しい。

そしてアクションデュエルはリアルソリッドビジョン。モンスター達を実体化し、現実に介入する。

権現坂達のモンスターはこれで瓦礫に干渉している。そしてセクトの『魔王龍ベエルゼ』もランサーズの誰かからアクションデュエルを繋げて実体化しているのだろう。

つまり、今このシティは、ランサーズ達が駆け回り、アクションフィールドを繋ぎに繋げていると言う事で、その結果は。

 

『乱入ペナルティ、2000ポイントダメージ』

 

シティ中でも響く機械音声。そしてその直ぐ後に、住民達の「シンクロ召喚」の声が重なっていく。

 

「何つったっけ、三澤?って奴がさ、これを使って乱入に乱入を重ねて、シティ中なアクションフィールドを繋げれば……俺達のモンスターで、降り注ぐ脅威から自分の身を守れるって言ったんだ。まぁ、お前達のデュエルには流石に乱入できねぇみたいだがな。だからよ、お前は思う存分暴れて来い!俺達の事を気にせずにな!」

 

「シンクロ召喚!『ジュラック・ギガノト』!」

 

「シンクロ召喚!『甲化鎧骨格』!」

 

「シンクロ召喚!『ゴヨウ・ガーディアン』!!」

 

「シンクロ召喚!『PSYフレームロード・Z』!」

 

「シンクロ召喚!『アンデット・スカル・デーモン』!!」

 

「シンクロ召喚!『ドラグニティナイトーヴァジュランダ』!」

 

「シンクロ召喚!『フレムベル・ウルキサス』!」

 

「シンクロ召喚!『インフェルニティ・デス・ドラゴン』!!」

 

「シンクロ召喚!『花札衛ー五光ー』!!」

 

「シンクロ召喚!『C・ドラゴン』!」

 

「シンクロ召喚!『宇宙砦ゴルガー』!!」

 

「シンクロ召喚!『転生竜サンサーラ』!」

 

「シンクロ召喚!『真六武衆ーシエン』!!」

 

「シンクロ召喚!『B・Fー決戦のビッグ・バリスタ』!!」

 

「シンクロ召喚!『ブラック・ローズ・ドラゴン』!!」

 

『シンクロ召喚ッ!!』

 

次々とシティ中に現れる、それぞれの切り札、それぞれのエース。まるで流星群のように姿形が異なるモンスターが空から落ちる凶星を打ち砕く。

ハナテ、モンスター。どんなもんだと言わんばかりのシンクロパニック。

最早ここにいる住民は、ただ与えられる明日を待つ愚かさを捨てた。これこそが本当のシティ、本当のシンクロ次元だと、誇り高きシンクロ召喚を炸裂させる。

その様子はまるで、地上で光輝く星空のようで。思わず本物の空を飛ぶ遊矢が呆然と見惚れてしまう。

 

『……綺麗だな……』

 

「……ああ」

 

不意に思った事をそのままに漏らしたユーゴに、遊矢が同意する。この光景を表すには、とても安っぽくて陳腐な言葉。

だけど、遊矢にもそんな当たり前の台詞しか飛び出さない程に、目の前の景色は美しくて。

 

『俺さ、今まで別に、自分の故郷の事なんて何とも考えてなかった。ただリンやセクト、知ってる奴等さえいれば良いって思ってた』

 

「……うん」

 

ユーゴの口から溢れる本音。それは誰にも責められる事のない、普通の少年が思う普通の事だ。

遊矢だって、そう思っていた。だから静かに、地上の星空を見つめて頷く。

 

『だけど、だけどよ……!今は思うんだ!俺はシンクロ次元のシティで生まれて良かったって!胸を張って言える!ここが俺の故郷だ!守りてぇ、失わせたくねぇ、この光を!』

 

「ああ!」

 

そしてその思いは、遊矢も感じている事で。今このシティでいる誰もが想う意志だった。

善人も悪人も。男性も女性も。子供も大人も。トップスもコモンズも。

例外なく、明日をこの手に掴みたいと言う、未来へ向けた叫びが光差す道を作り出す。

 

「~~~っ!何か、元気出て来たぁっ!漲るなぁっ!」

 

『ああ!例え俺達に残るLPが少なくとも!このシティに貰った気合いで一億ポイントだあっ!!』

 

エンタメデュエリストが目指し、守り、その力の源になるものはこれだと、遊矢は確信する。

それは皆の声援。それは皆の勇気。それは皆の光。それは皆の笑顔。

地上に浮かぶ星々で作られたサーキットが、遊矢達に力をくれる。

 

「ッ、これは……そうか……榊 遊矢!やはり貴様は……っ!」

 

地上の光を目にし、白コナミが眩しそうに、鬱陶し気に帽子の奥の目を細め、遊矢を睨む。そんな白コナミの敵意を受けても――遊矢にはもう、怯えはない。

 

「何度も、何度だって言おう!俺は、俺達は……1人で闘ってるんじゃないってな!」

 

『魔法カード、『一時休戦』を発動!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

白コナミ 手札0→1

 

「カードを2枚セット、さぁ……ここからが最終ラウンドだ!』

 

榊 遊矢 LP100

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

地上に星空が輝く中、暗き空が白く晴れていき、今、太陽が昇る。




これが誇り高きシンクロ召喚の力!掌セットからのリバース?知らんなぁ。


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第192話 ハナテ

一時間スペシャル風1日2話投稿。
この話に辿り着く為だけにシンクロ次元編を書き続けたと言っても過言ではありません。
推奨BGMとかはハナテ以外でも別段構いませんが、出来る事ならば自分が心から好きなモンスターやエースを思い浮かべて読んでくだされば嬉しいです。

ん?ドラグーンが好き?それならあそこら辺に禁止カード流星群エリアがあるじゃろう?ほらあそこのドラグーンだらけで黒くなってる所(適当)。



「俺のターン、ドロー!」

 

榊 遊矢対白コナミ。シティの命運を賭けたフレンドシップカップ決勝戦、天空のライディングデュエルも、いよいよ佳境を迎える。

襲いかかる脅威、アーククレイドルと一体化した白コナミに対し、ユーゴとシンクロした遊矢が果敢に立ち向かう。

 

そんな姿を見て、シティも今漸く変わり始めた。

自分の事は自分で守る。誰かがピンチならそれも纏めて守る。そんな暖かな思いやりを、シティにいる全員が行っている。

最早トップスもコモンズも関係ない。全ての境界を、垣根を、障害を乗り越えてそれぞれのエースモンスターがアクションフィールド内で放たれ、降り注ぐ流星群を砕く。

 

ランサーズが展開したアクションフィールドを、シティの誰かが繋ぎ、別の誰かが受け、また繋ぐ。さながらサーキットの如く地上に描かれた絆。未来を描くサーキット。

光差す道を一瞥し、白コナミは感嘆の息を漏らす。

 

「認めよう。お前の実力を、この光景の素晴らしさを。だが……敗北は認めんっ!」

 

『上等!』

 

「シティが今、1つになった!それ以上に難しい事なんて何もない!奇跡だって起こして見せる!」

 

「俺は『カードガンナー』を召喚!」

 

カードガンナー 攻撃400

 

「魔法カード、『機械複製術』!デッキから2体の『カードガンナー』を特殊召喚!」

 

カードガンナー 攻撃力400×2

 

「そして3体の『カードガンナー』の効果発動!デッキトップから9枚のカードを墓地に送り、攻撃力をアップ!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900×3

 

「墓地の『絶対王バック・ジャック』の効果でデッキトップを操作、更に墓地の『ラッシュ・ウォリアー』を除外し、同じく墓地の『ジャンク・シンクロン』を回収。カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP1950

フィールド『カードガンナー』(攻撃表示)×3

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「バック・ジャックを除外し、デッキトップの罠カードをセットする!」

 

「スカーライトの効果発動!フィールドに存在するこのカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ特殊召喚されて効果モンスターを全て破壊し、その数×500のダメージを与える!」

 

「罠発動、『ハイレート・ドロー』!俺のフィールドのモンスターを全て破壊し、その中の機械族モンスターの数だけドローする!更に『カードガンナー』の効果発動!合計6枚のカードをドロー!」

 

白コナミ 手札1→4→7

 

『魔法カード、『星屑のきらめき』!墓地からシュラとゲイルを除外し、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』を蘇生する!!』

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

スカーライトの隣に並ぶのは、ユーゴのエースモンスター、白と青、ミントグリーンの色が映える竜。誇り高きシンクロの名を持つモンスターの登場に、シティ中が沸き起こる。

 

『バトル!『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』でダイレクトアタック!旋風のヘルダイブスラッシャー!』

 

「甘い!罠発動、『リジェクト・リボーン』!墓地の『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』と『シンクローン・リゾネーター』を蘇生!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル 攻撃力3500

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

榊 遊矢 LP100

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)

セット3

手札1

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、墓地に存在する3枚の『堕天使マリー』の効果でLPを600回復し、墓地の『キラー・スネーク』を自身の効果で回収」

 

白コナミ LP1950→2550

 

「『スターライト・ジャンクション』の効果により、『シンクローン・リゾネーター』をリリースして『シンクロン・キャリアー』をリクルートする!」

 

シンクロン・キャリアー 守備力1000

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果により『バリア・リゾネーター』を回収。『シンクロン・キャリアー』の効果により、『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

「『ジャンク・シンクロン』の効果で墓地の『フォーミュラ・シンクロン』を特殊召喚」

 

フォーミュラ・シンクロン 守備力1500

 

「『シンクロン・キャリアー』をリリースしてモンスターをセット、ベリアルの効果でリリース!そしてアドバンス召喚した『タン・ツイスター』の効果により、2枚ドロー!」

 

「永続罠、『便乗』!この後相手がドローフェイズ以外でドローする度2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札8→10

 

「墓地の『ラッシュ・ウォリアー』を除外して『シンクロン・エクスプローラー』を回収、魔法カード、『打ち出の小槌』を発動!アクションカードと共に手札を交換!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

「魔法カード、『シンクロ・クリード』!」

 

白コナミ 手札10→12

 

榊 遊矢 手札3→5

 

「装備魔法、『愚鈍な斧』を『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』に装備!攻撃力を1000アップし、効果を無効にする!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→3500

 

「魔法カード、『無情の抹殺』!『ジャンク・シンクロン』を墓地に送り、相手の手札1枚を墓地へ!」

 

「アクションマジックが……!」

 

「3枚の魔法カード、『復活の福音』!墓地の『スターダスト・ドラゴン』と『炎魔竜レッド・デーモン』、『玄翼竜ブラック・フェザー』を蘇生!」

 

スターダスト・ドラゴン 守備力2000

 

炎魔竜レッド・デーモン 攻撃力3000

 

玄翼竜ブラック・フェザー 守備力1600

 

揃う5体のシンクロモンスター。圧倒的、圧巻の光景に遊矢がゴクリと喉を鳴らす。が、白コナミの猛攻は、更に続く。

 

「永続魔法、『カイザー・コロシアム』を発動、楽しもうか。魔法カード、『下降潮流』を3枚発動!ベリアルと炎魔竜、玄翼竜のレベルを1に変更!」

 

炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル レベル10→1

 

炎魔竜レッド・デーモン レベル8→1

 

玄翼竜ブラック・フェザー レベル8→1

 

「レベルを……1に……!?」

 

「更に墓地の『妖怪のいたずら』を除外、『フォーミュラ・シンクロン』のレベルを1つダウン!」

 

フォーミュラ・シンクロン レベル2→1

 

『今度は『フォーミュラ・シンクロン』を……何考えてやがる!』

 

「……待て、今、アイツのフィールドのモンスターの合計レベルは幾つだ?」

 

『あぁ?えっと、『スターダスト・ドラゴン』が8、ベリアルと炎魔竜、ブラック・フェザーが1で、『フォーミュラ・シンクロン』も1、12か?……待て、待て待て待て……!?』

 

「そして全てのモンスターがシンクロモンスター。もう、それしかないだろう……!」

 

執拗に自らのモンスターのレベルを下げ、調節を行う白コナミに対し、遊矢が何か勘づく。何か、とんでもない事に。

アクセルシンクロとは、シンクロモンスターとシンクロチューナーによるシンクロ召喚を超えたシンクロ。

その上には、デルタアクセルシンクロがある。シンクロモンスター2体に、シンクロチューナーを1体チューニングする事で生み出されるのだ。1回戦で白コナミが出した技がこれに当たる。

そして――そのデルタアクセルの更に上を行く究極のシンクロがあったとしたら?それはどのようなシンクロなのか。

答えを出そう。それは、シンクロモンスター4体と、シンクロチューナー1体によるシンクロ召喚だ。

 

「レベル8の『スターダスト・ドラゴン』と、レベル1の『炎魔竜レッド・デーモン・ベリアル』と『炎魔竜レッド・デーモン』、『玄翼竜ブラック・フェザー』に、レベル1の『フォーミュラ・シンクロン』をチューニング!集いし星が1つになる時、新たな絆が未来を照らす!光差す道となれ!」

 

その名を。

 

「リミットオーバー・アクセルシンクロォーッ!!」

 

5体のシンクロモンスターの姿が弾け飛び、シティ中を眩き光が包み込む。流れる光の奔流は、やがて一ヶ所、白コナミの傍に集束し、巨大な竜の星座を描き出す。

そして光は竜の中に格納されていき、その全貌が明らかとなる。

 

「進化の光、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』ッ!!」

 

シューティング・クェーサー・ドラゴン 攻撃力4000

 

アーククレイドルにも負けぬ純白の巨躯、頭部から鋭い角を伸ばし、胸には翡翠に輝くコアを抱き、陽光を反射する白銀の翼を広げる光輝く神々しい竜。

白コナミが誇る、最強のシンクロモンスターが、君臨した。

 

「完全体と化した『シューティング・クェーサー・ドラゴン』は、4回の攻撃が可能!スカーライトへ攻撃!天地創造撃ザ・クリエーションバースト!」

 

「永続罠、『強制終了』!『便乗』をコストにバトルを終了!」

 

「『シューティング・クェーサー・ドラゴン』の効果発動!その効果を無効にし、破壊!」

 

「罠発動、『パワー・ウォール』!良し、墓地に落ちたバック・ジャックの効果でデッキトップを操作し、トップの罠カードをセットする!」

 

「『クリアウィング』に攻撃ィ!」

 

「墓地の『超電磁タートル』を除外、バトルを終了!」

 

「かわすか……!墓地の『ADチェンジャー』を除外してクェーサーを守備表示に。カードを3枚セット、ターンエンドだ!」

 

白コナミ LP2550

フィールド『シューティング・クェーサー・ドラゴン』(守備表示)

『愚鈍な斧』『カイザー・コロシアム』セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、クェーサーの効果を無効に!魔法カード、『スタンピング・クラッシュ』!『カイザー・コロシアム』を破壊!相手に500ダメージを与える!」

 

「墓地の『プリベントマト』を除外し、効果ダメージを防ぐ!」

 

「魔法カード、『魂の解放』!お前の墓地から『シューティング・スター・ドラゴン』と『スターダスト・ドラゴン』、3枚の『復活の福音』を除外!」

 

「罠発動、『貪欲な瓶』!対象のカードをデッキに戻し、ドロー!」

 

白コナミ 手札0→1

 

「魔法カード、『モンスター・スロット』!『クリアウィング』を選択し、墓地の同じレベルのモンスター、『相克の魔術師』を除外し、1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札3→4

 

遊矢のフィールドにモンスターの姿を模したスロットマシーンが出現、レベル7、『クリアウィング』と『相克の魔術師』を写し出し、7の文字へと変わる。

残るは1つ、このドローでレベル7のモンスターを引けばスリー7だ。デュエルの勝敗を賭けたギャンブル。成功しないかで行き先が決まるが――。

 

『悪いが、俺ぁこう言うのに強くてね!』

 

ユーゴがいる限り、遊矢に失敗の2文字はない。

 

「引いたカードはレベル7!よって特殊召喚する!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

『クリアウィング』の隣に並ぶ、遊矢のエースモンスター。赤い鱗、真紅と翡翠のオッドアイを輝かせる、2本の角を伸ばす竜。

『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』。フィールドで二大エースが雄々しく咆哮し、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』を射抜く。

 

「やっとエースの登場か。だがその程度では、俺の『シューティング・クェーサー・ドラゴン』は倒せない!」

 

「そうはどうかな……?」

 

「何……?」

 

「今こそ2つの力を、1つに合わせる!『EMオッドアイズ・シンクロン』をセッティング!」

 

遊矢のフィールドに、シルクハットを被ったオッドアイの機械が現れる。これこそが、この1枚が、遊矢とユーゴの力を1つにする。

 

「そして『EMオッドアイズ・シンクロン』のペンデュラム効果発動!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をチューナーにし、レベルを1に変更!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7→1

 

「お前もレベル調節を……?」

 

「そして墓地の『アマリリース』の効果で『マジック・キャンセラー』をリリース無しで召喚!」

 

マジック・キャンセラー 攻撃力1800

 

「これが!」

 

『俺達の全力全開!』

 

遊矢も白コナミに対抗するように、エース、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』のレベルを変更。

てっきりレベル7同士でオーバーレイ、切り札、『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』をエクシーズ召喚するのかと思ったが――遊矢の狙いは別の所にあるようだ。

 

『オッドアイズ』はチューナーとなり、『クリアウィング』との合計レベルは8。『覚醒の魔導剣士』か?いや、あのカードは既に倒され、墓地に送られている。それに遊矢のシンクロモンスター『涅槃の超魔導剣士』と『覚醒の魔導剣士』、そして『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』の3体の筈。

……本当にそうだろうか?元々、彼のエクストラデッキには『クリアウィング』は無かった。白コナミ視点では何時の間にか『クリアウィング』を手にしていたのだ。ならば『クリスタルウィング』も、と考えるのが自然だが。

加えて前者2体も遊矢が創造したカード。ならば――4体目がいても、おかしくはない。

 

遊矢が、『クリアウィング』と同じく、ユーゴから受け取った4体目が。『覇王眷竜クリアウィング』が変化したカードが。

それを今こそ、解き放つ。

 

『「レベル7の『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』に、レベル1となった『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をチューニング!」』

 

『オッドアイズ』が赤い光となって弾け飛び、『クリアウィング』の周囲を回転、シンクロ召喚の際に見られる調律リングを描き出した後、ギュンと宙を走り、『クリアウィング』の左眼に吸い込まれ、真紅の輝きを放つ。

 

『「二色の眼の竜よ!光輝く翼を得て。覇道の頂へ舞い上がれ!シンクロ召喚!」』

 

そしてリングから光の線が針の如く尖り、『クリアウィング』を貫き集束、その体躯を縛り上げ、眩き閃光が『クリアウィング』を覆い尽くし――見る見る内にシルエットが変化。

カッターナイフのような鋭利な刃を新たに装着した両腕を広げ、拘束を切り裂き破る。

 

『「烈破の慧眼輝けし竜!『覇王白竜オッドアイズ・ウィング・ドラゴン』!!」』

 

覇王白竜オッドアイズ・ウィング・ドラゴン 攻撃力3000

 

それは、シティの天空を舞い、人々の視線を釘付けにする程、雄々しく美しい竜だった。頭部、身体、翼、腕、尾、身体中に青白く輝く水晶の刃を身につけた、攻撃的なフォルム。それを調和させる陽光を反射する純白のボディ。

『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』とは違う、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』の面影を残しながら進化した姿に、赤と緑のオッドアイ。

 

最初に人々の頭に浮かんだのは、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』。そして『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』の3体。

そう、覇王黒竜が『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を合わせた姿なら、このカードは『オッドアイズ』と『クリアウィング』、ペンデュラムとシンクロを調和させた、覇王白竜。

遊矢とユーゴの絆の竜が、フィールドに飛翔した。

 

「覇王……白竜だと……!?」

 

「これが――俺達の新たな切り札!」

 

『未来を切り開く、光の刃!』

 

「成程……だとしても貴様の前に立ち塞がるは、究極のシンクロモンスター!人々の未来を願う想いが生み出した、希望のカードだ!」

 

そう、『覇王白竜オッドアイズ・ウィング・ドラゴン』も確かに特別な力を持つカードだが、彼のフィールドに存在する『シューティング・クェーサー・ドラゴン』はそれ以上に特別なモンスター。

未来を、世界を救った英雄の切り札。神である赤き竜をも超えるべく、人々の想いが造り出したカード。遊矢のカードとは、規模が違う。

 

「それがどうした!未来を願う希望なら、今このシティに溢れてる!」

 

『このシティ中に放たれた切り札1つ1つが1人1人にとっての特別なカードなんだよ!』

 

だが、そんな事は関係ない。例え相手が神のカードでも、普通の者が使う、心から信頼し愛着を持つ普通のカードが敵わぬと、誰が決めたのか。

小さき者が大きな者を打ち倒す。それが――デュエルモンスターズの醍醐味の1つだろう。

 

「なら――そのカードも、数ある特別の1枚に過ぎない!」

 

「ッ!言ってくれる……!」

 

「『レッド・ミラー』を回収し、バトル!この瞬間、覇王白竜の効果発動!」

 

『シンクロ召喚したこのカードが存在する場合、お互いのバトルフェイズに、相手フィールドのレベル5以上のモンスターを全て破壊する!』

 

「ぐっ……!?」

 

覇王白竜が青く輝く翼を広げ、電子基板のような紋様が浮かび上がり、針となって『シューティング・クェーサー・ドラゴン』を突き刺し、身動きを封じて突進、鋭き翼の刃で切り裂く。

爆発し、黒煙を上げる『シューティング・クェーサー・ドラゴン』。だがまだだ、まだこのモンスターの効果は残っている。

 

「『シューティング・クェーサー・ドラゴン』がフィールドを離れた事で、エクストラデッキから『シューティング・スター・ドラゴン』を呼び出す!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

「覇王白竜で、『シューティング・スター・ドラゴン』を攻撃!」

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!このカードを除外し、攻撃を無効に――」

 

『させるかよ!罠発動、『もの忘れ』!その効果を無効にし、『シューティング・スター・ドラゴン』を守備表示に変更!』

 

「しまっ――!?」

 

攻撃力で劣る覇王白竜で攻撃、何かあると思い、その攻撃を無効にしようとする白コナミだが、それこそが遊矢の狙い。

効果を無効にした上で覇王白竜の攻撃力より低い守備力を剥き出しにさせ、青い刃で切り裂く。一歩間違えれば反射ダメージを受け、敗北していたと言うのに。

 

「『マジック・キャンセラー』でダイレクトアタック!」

 

「墓地の『クリアクリボー』を除外し、1枚ドロー!」

 

白コナミ 手札1→2

 

「ドローしたカードは『絶対王バック・ジャック』!特殊召喚し、戦闘を引き継ぐ!」

 

絶対王バック・ジャック 守備力0

 

「墓地に送られたバック・ジャックの効果でデッキトップを操作し、デッキトップの罠カードをセットする!」

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

「罠発動、『集いし願い』!!」

 

「ッ!」

 

だが――白コナミも負けてはいない。『シューティング・クェーサー・ドラゴン』が倒されたと言うなら、更に強大なモンスターを呼び出せば良い。

彼の、真の切り札をもってして。

 

「俺の墓地に5種類以上のドラゴン族シンクロモンスターが存在する事で、エクストラデッキから『スターダスト・ドラゴン』をシンクロ召喚扱いで呼び、このカードを装備する!集いし願いが新たに輝く星となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

最後に立ち塞がるは、白コナミのエースモンスター。かつて『シューティング・クェーサー・ドラゴン』と共に、未来を切り開いた白き竜。

『スターダスト・ドラゴン』は直ぐ様アーククレイドルに宿り――機械のボディが光で塗り潰され、本物の『スターダスト・ドラゴン』に変化する。

見ようによれば、白コナミと巨大『スターダスト・ドラゴン』が一体化したような姿だ。

 

「そして装備モンスターの攻撃力は俺の墓地のドラゴン族シンクロモンスターの攻撃力の合計分アップする!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500→30100

 

「攻撃力……」

 

『30100……!』

 

圧倒的攻撃力。圧倒的巨体を前に、遊矢とユーゴが冷や汗を浮かべる。何と言う男だ。ここに来て――とんでもない手を使って来た。

 

「更に永続罠、『王宮の鉄壁』を発動!これで互いのカードを除外出来ない……つまり、『集いし願い』のデメリット効果は無くなった訳だ」

 

榊 遊矢 LP100

フィールド『覇王白竜オッドアイズ・ウィング・ドラゴン』(攻撃表示)『マジック・キャンセラー』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMオッドアイズ・シンクロン』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、『堕天使マリー』の効果でLPを回復!」

 

白コナミ LP2550→3150

 

「『彼岸の悪鬼アリキーノ』を召喚」

 

彼岸の悪鬼アリキーノ 攻撃力1200

 

「召喚後、自壊し墓地に送られた事で覇王白竜の効果を無効にする。バトル!『スターダスト・ドラゴン』で『マジック・キャンセラー』へ攻撃!」

 

「手札の『レッド・ミラー』の効果を発動し、罠発動、『ガード・ブロック』!ダメージを0にして1枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→2

 

「魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→3

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ。残る手札を捨てる」

 

白コナミ LP3150

フィールド『スターダスト・ドラゴン』(攻撃表示)

『集いし願い』『王宮の鉄壁』セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「永続罠、『エンジェル・リフト』!墓地の『レッド・リゾネーター』を特殊召喚し、それにチェーンして永続罠、『輪廻独断』を発動!墓地のモンスターの種族をドラゴン族に、『スターダスト・ドラゴン』の攻撃力アップ!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力30100→60600

 

レッド・リゾネーター 攻撃力600

 

「そして『レッド・リゾネーター』の効果で『スターダスト・ドラゴン』の攻撃力分回復!」

 

白コナミ LP3150→63750

 

攻撃力60600に加え、LP63750。圧倒的な数値が遊矢達の前に立ち塞がる。対する遊矢のLPは100。限界ギリギリまで追い詰められてしまっている。

なのに何故、何故かこの少年の口元には――満面の笑みが浮かべられているのだろうか。

 

「スゲェ……!」

 

『遊矢……?』

 

そして、直ぐ様寂しそうな顔を見せる遊矢に、ユーゴが思わず彼の名を呼ぶ。

遊矢が思うのは自身の友、コナミの事。白コナミのデュエルを見て、やはり彼もコナミなんだなと唇を噛み締める。

見ているだけで、心のどこかがワクワクするデュエル。遊矢が目指す。いや、目指したデュエル。こんなものを見せられては――じっとしていられない。

 

「だからこそ、超えたい!この凄いデュエルより更に凄いデュエルがやりたいんだ!やめられないな!これだから……デュエルは!」

 

『……へへ、そうだよなぁ。こんなもの見せられて、デュエリストの血が、騒がない訳がねぇ!』

 

遊矢は、この光景を前にしても絶望よりも、希望を見る。

シンクロ次元に来たばかりの彼ならばここで、いや、ここに来るまでに折れていたかもしれない。

だが、遊矢はこのシンクロ次元で様々な人と会い、デュエルをし、想いをぶつけ合って成長した。

ジャックやシンジ、セルゲイ、ユーゴと闘い、彼の、彼等の想いはシティをも変えた。ならば、

やれない事など何もない。

後一歩、後一歩なのだ。後少しで届くのに――ここで止まれる訳がない。明日はもう、目の前にあるのだから。

 

「魔法カード、『光の護封剣』!速攻魔法、『リロード』!そして魔法カード、『命削りの宝札』!」

 

『こっちも3枚ドロー!』

 

榊 遊矢 手札0→3

 

「バトル!」

 

「その前に罠発動、『弩弓部隊』!『レッド・リゾネーター』をリリースし、覇王白竜を破壊!」

 

「ッ、モンスターゾーンで破壊されたこのカードはペンデュラムゾーンに置かれる!俺はカードを3枚セット、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP100

フィールド

『光の護封剣』セット3

Pゾーン『覇王白竜オッドアイズ・ウィング・ドラゴン』『EMオッドアイズ・シンクロン』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!『堕天使マリー』の効果で回復!」

 

白コナミ LP63750→64350

 

「速攻魔法、『サイクロン』!『光の護封剣』を破壊!バトル!」

 

「させるか!罠発動、『威嚇する咆哮』!」

 

「チッ、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP64350

フィールド『スターダスト・ドラゴン』(攻撃表示)

『集いし願い』『王宮の鉄壁』『輪廻独断』

手札0

 

強い、強い、強い――目の前に存在するは、間違いなく今までで闘って来た中で最強のデュエリスト、最強のモンスター。

だが、少年の心に絶望はなく、むしろ心が踊る、心が騒ぐ。この圧倒的危機を乗り越えるのは正しく奇跡に等しいだろう。

ならば――起こして見せよう、奇跡を。この手で。想いを繋いだ、この両手で。

 

「Ladies and Gentleman!」

 

さぁ、榊 遊矢のエンタメデュエルの終幕だ。シティ中に響き渡る程の声量で放たれたそれに、全ての人々が表情を明るくし、遊矢とユーゴと共に、お決まりの台詞を轟かせる。

 

『「お楽しみは、これからだぁっ!!」』

 

皆、一斉にカードを引き抜き、虹の軌跡が天にかかる。皆の切り札が、想いが、今遊矢の周りに集まっていく。

 

「ペンデュラム召喚!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』ッ!!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500

 

「シンクロ召喚!『ナチュル・ガオドレイク』!」

 

「ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!『RRーレヴォリューション・ファルコン』!!」

 

「シンクロ召喚!『トライデント・ドラギオン』!」

 

「シンクロ召喚!『パワー・ツール・ドラゴン』!!」

 

「シンクロ召喚!『ラヴァル・ステライド』!」

 

現れたのは二色の眼を輝かせる遊矢のエース。『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』。その周囲に、モンスターが集まっていく。

 

「今更『オッドアイズ』だと……?何のつもりだ!」

 

「こう言うつもりだ!リバースカード、オープン!魔法カード、『ギャップ・パワー』!『オッドアイズ』の攻撃力を、お前のLPから、俺のLPを引いた数値分アップ!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力2500→66750

 

「融合召喚!『CCC武融化身ウォーターソード』!!」

 

「シンクロ召喚!『ライトエンド・ドラゴン』!」

 

「シンクロ召喚!『魔聖騎士皇ランスロット』!!」

 

「シンクロ召喚!『妖精竜エンシェント』!!」

 

「シンクロ召喚!『神海竜ギシルノドン』!」

 

いきなり『スターダスト・ドラゴン』の攻撃力越え、『オッドアイズ』の周囲に、更に皆のモンスターが集まり、騒がしくなって来る。だが、まだまだこれから。

 

「ッ!」

 

「更に罠発動、『不屈の闘志』!『オッドアイズ』の攻撃力を、『スターダスト・ドラゴン』の攻撃力分アップする!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力66750→127350

 

「融合召喚!『デストーイ・サーベル・タイガー』!!」

 

「エクシーズ召喚!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

「融合召喚!『ゴヨウ・エンペラー』!!」

 

「シンクロ召喚!『武力の軍曹』!」

 

「アドバンス召喚!『スカル・フレイム』!!」

 

更に高く、最早『オッドアイズ』の姿が見えぬ程、無数のモンスターが天を舞う。

 

「さぁ、バトルだ!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』で、『スターダスト・ドラゴン』を攻撃!」

 

「させるかぁ!アクションマジック、『回避』!攻撃を無効にする!」

 

「ペンデュラム召喚!『魔界劇団ービッグ・スター』!!」

 

「シンクロ召喚!『ゼラの天使』!」

 

「融合召喚!『おジャマ・キング』!!」

 

「エクシーズ召喚!『LLーアセンブラリー・ナイチンゲール』!!」

 

「シンクロ召喚!『ヴァイロン・エプシロン』!」

 

この一撃を食らえば、即死。流石に白コナミも焦りを浮かべ、『オッドアイズ』の攻撃を防ぐ。が――ニヤリ、遊矢は悪どい笑みを浮かべる。

 

「無効に、したな?」

 

「何を――まさ、か……!?」

 

「そのまさかだ!速攻魔法、『ダブル・アップ・チャンス』!」

 

「シンクロ召喚!『カラクリ大将軍武零怒』!」

 

「儀式召喚!『リトマスの死の剣士』!!」

 

「シンクロ召喚!『デーモンの招来』!」

 

「シンクロ召喚!『WWーウィンター・ベル』!!」

 

「シンクロ召喚!『獣神ヴァルカン』!」

 

「俺の攻撃が無効になった事で、『オッドアイズ』の攻撃力を倍にし、再攻撃する!」

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力127350→254700

 

「攻撃力……254700だとぉっ!?」

 

ぞくぞくと、空いっぱいに、シティ中にモンスターが怒濤の展開を見せ、『オッドアイズ』に集まり――今、アーククレイドルにも負けない程の巨大な『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を作り出す。

これが――榊 遊矢、いや、シティ全体が1つになったエンタメデュエル。超弩級のデュエルに、白コナミも帽子の奥の眼を見開き、パクパクと口を開く。

 

「さぁ、ハナテ!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』で、『スターダスト・ドラゴン』へ攻撃!螺旋のストライクバーストォッ!!」

 

『まだまだ行くぞぉっ!『覇王白竜オッドアイズ・ウィング・ドラゴン』のペンデュラム効果で、『スターダスト・ドラゴン』の攻撃力分、『オッドアイズ』の攻撃力をアップする!』

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力254700→315300

 

そして――最後に、シティ上空に星屑纏う純白の竜が現れ、『オッドアイズ』の一部と化し、全てのモンスターによる攻撃が、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』のアギトより、螺旋状の光線として放たれ――白コナミを呑み込む。

 

「最後だ。『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の効果により……この戦闘ダメージは倍、509400となる。リアクション・フォース!!」

 

白コナミ LP66750→0

 

全てを呑み込む、超弩級の一撃必殺。虹色に染まった光の熱線が、アーククレイドルを吹き飛ばし――直線上の黒煙を消し飛ばし、快晴の青空が広がる。

何てとんでもないデュエル。文字通りに、シティ中の想いを乗せた攻撃、単純にして豪快、相手にするには余りに馬鹿馬鹿しいダメージ量を受け、崩れていくアーククレイドルの中から、ボロボロになったDーホイールと共に、落下する白コナミが今になって漸く現実を受け止めて、クスリと吹き出す。

 

「くっ、ははっ、はははははっ!50万っ、50万までいくか!脳筋にも程があるだろう……っ!ハハハハハ!ここまでの相手は久し振りだ……!ここまでやられたら、満足するしかないな。くく、あぁ――羨ましいものだ」

 

最早ここまで来ると笑うしかないと、白コナミが大爆笑し、腹を抱える。50万、これに比べれば、自身の何とちっぽけな事か。

白コナミは天をあおぎ、晴れ晴れとした笑みを浮かべる。そして、その帽子の奥の目を細め、口を開く。

 

「お前は仲間に恵まれているんだな」

 

あの日、自身がコナミと闘い、勝利し、彼から全てを奪った日を思い出す。

コナミが、最後に放った台詞を。

戯れ言と笑った、彼の予言を。

 

――話は済んだか?言い残した事も――

 

――……ハッ、優しい事だな。あぁ――言い残す事か、なら、お前にくれてやる――

 

――?――

 

――貴様は――

 

「榊 遊矢に、負ける……か」

 

スッ、と、何かが抜け落ちる感覚が、白コナミを襲った。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

あれだけ巨大だったアーククレイドルが、一撃で消し飛んだ光景を見て、遊矢の身体にこれまで溜まった疲労が襲いかかる。

当たり前だ。勝ちはしたが、白コナミは間違いなく遊矢より格上。そんな敵を相手に、遊矢はシティの命運と言う特大のプレッシャーを背負い、闘い抜いた。

ハイになって忘れていた、蓄積された疲れで力が抜け、Dーホイールがふらつき、そのショックで気を取り戻して何とか姿勢を正す。見ている者からすれば冷や汗ものだ。

 

「……勝った……のか……?」

 

何度も何度も、ピンチを凌ぎ、不死鳥の如く蘇り、遊矢を苦戦に陥らせた相手に勝利した事に、未だ半信半疑なのか息を切らせて呆然とする遊矢。

無理もない。これでとどめ、と言う所で防がれ続けたのだ。そんな遊矢の独り言に――答えたのはこのデュエル、誰よりも傍で遊矢と共に闘い、導き、見守った少年、ユーゴだ。

デュエルが終わった事でシンクロが解かれたのか、以前までのユートのように半透明な身体を宙に浮かせ、呆れたように笑う。

 

『何言ってんだ。あんなとんでもねぇ一撃カマしておいて……勝ったんだよ、俺達が。へへ、良く頑張ったな……おめでとう、遊矢』

 

「――あ――」

 

暖かい祝福の言葉を受け、漸く遊矢が勝利を受け止める。それと同時に、頑張ったなと言う労いの言葉が、本当に遊矢の今までの頑張りを認めてくれる事を感じて。

報われた事を、理解して。つぅー、と遊矢の目から自然と涙が溢れ出す。

 

『お、おい!?』

 

「あ、え……うん……俺、頑張って……本当に頑張って……!シティを何とかしたいって思って……でも出来なくて……!」

 

『……おう』

 

「俺1人の力じゃ何にも出来なくて……!皆が俺を助けてくれてっ、支えてくれてっ!……うっ、ぐ、うぅ~っ!」

 

『……おう』

 

それは、遊矢が漸く見せた、本音の弱音。14歳の少年が、今の今までシティの命運を背負っていたのだ。その重責は如何なるものか。大粒の涙を溢れさせ、泣き崩れる友を見て、ユーゴは暖かく彼に応える。

これも本当の遊矢だ。誰かの不幸を嘆き、怒り、誰かの幸福を喜び、どんな逆境でも笑顔を失わず、優しい人も、愚かな人も守ろうとするデュエリスト。誰かの為に勇気を出せる者。

 

そして――本当は、ほんの少ししかないなけなしの勇気を振り絞る、不安と恐怖に押し潰れそうになる、どこにでもいる普通の少年。

それが――榊 遊矢だったのだ。胸を張る姿の、何と勇ましい事か。不安に押し潰れようとする背中の、何と小さな事か。

榊 遊矢は――最強で、最弱のデュエリストだった。

 

「でもやっと……シティが1つになって……!俺、俺……っ!」

 

『……あー、もう!分かったからメソメソすんな!折角勝ったのに気分が台無しだろ!シャンとしろ!お前は今日からキングなんだからよ!』

 

「ぐぅぅ……!分かっ、てる、よぉ……!」

 

そんな遊矢を見て、元気になって欲しい、笑っていて欲しいと、ユーゴが檄を飛ばす。

何とも強引な、彼らしい発破のかけかただ。

 

遊矢はライダースーツの袖で涙を拭い、息をつく。そうだ、白コナミに勝ったと言う事は、決勝戦に勝ち、優勝したと言う事。キングの称号を得ると言う事だ。

皆が見ている、情けない姿を見せる訳にはいかないと、目を赤く腫らしつつも表情を引き締める。

 

『そーそー!俺に似た男前の顔してんだ!それに晴れの舞台に涙は似合わないぜ!』

 

「……ああ、ありがとな、ユーゴ」

 

頼もしいユーゴに叱咤に頷き、今、遊矢がDーホイールをスタジアムに停止させ、地面に降り立つ。

今まで空を飛んでいたからか、未だにフワフワとした感覚が残る。たたらを踏みながらも立ち、目の前の観客席には何と、シティ中の人々が溢れかえらんばかりに存在しているではないか。

 

「良くやったじゃねぇか遊矢っ!この野郎!」

 

「うわっ!クロウ!?」

 

呆然とする遊矢の下に、クロウが駆け寄りワシャワシャと子供達にするように力強く撫で回す。少々痛く、くすぐったいが悪くない感覚だ。

まるで兄にされる弟のように受け止めていると、今度はジャックが歩み寄る。

 

「皆、お前の事を出迎えたかったのだろう。シティの新たなキングをな。おめでとう、遊矢」

 

「ジャック……」

 

「だが忘れん事だ。その座、直ぐ様俺に奪い取られる、一瞬の栄光である事を――」

 

「まぁまぁ、コイツの事は置いといて」

 

「おいクロウ貴様!」

 

「今は真面目な話をしてんだよ!」

 

「貴様俺の話は真面目でないと言うのか!?」

 

「……」

 

ギャーギャーとうるさく騒ぎ、喧嘩をし始める2人に対し、遊矢が戸惑いながらも、何故かこれが本来の2人なんだと納得、安心してしまう。

と、そんな時、スタジアム上空でヘリが羽ばたき、メリッサが姿を見せる。

 

『さぁさぁ喧嘩し始めた2人はもう放っといて……長きに渡るフレンドシップカップ!激闘を勝ち抜き、決勝戦、シティの未来を賭けた最後の闘いに勝利したのは――』

 

それは、雲一つない、青空の下での出来事だった。近未来的な建築物が並び立つ中、長いデュエルレーンと繋がった巨大なスタジアム。

どこもかしこも観客で満席、街中には中継が写されている中、人々は忘れられていた伝説を目撃する。

スタジアム中心のサーキット、人々の目が釘付けとなっているのは、そこにいる3人のデュエリストの存在。

 

1人は、長身の男、金髪に白いライディングスーツ、鋭い眼光は王者の如し、ジャック・アトラス。

1人は箒のような髪型をした、小柄な男、バンドで髪を留め、額にM字のマーカー、それらと同じようなマーカーが顔中に刻まれている、クロウ・ホーガン。

そしてもう1人は――赤と緑の髪にゴーグルを頭にかけた少年、榊 遊矢。

人々はこの衝撃的な光景をその目にし、記憶に刻みつけ、忘れる事はないだろう。

彼等は――。

 

『チーム、ARCー5D's!!』

 

鳴り止まぬ歓声が、スタジアムに降り注ぐ。そんな時、遊矢の視界の端に何かが写り、途端に慌てた彼が再びDーホイールに乗り、空を飛翔した。




コナミ「……」
遊矢「……謝れよ、ユーゴ」
ユーゴ「!?」

最早白コナミいじめ。それだけ痛い目を見る事やらかしたからしょうがないね。多分生きてるし。


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第193話 一撃

ウルトラマンゼットが面白過ぎて辛い……神回しか作れないの?


ここはどこだろう。少年の脳裏に疑問が過る。いや、それは少年なのかも分からない、何者でもあり、何者でもない。そんな歪な者の独白。

そんな誰かが首を傾げる中、目の前の光景は異常だった。空、地面、壁、全てが無数のカードで作られた空間だったのだから。

見渡す限り、カードの荒野、カードの海。モンスター、魔法、罠、様々なカードが彼を出迎える。一体ここはどこなのか、再び疑問が過ったその時――。

 

「ここは君の心の中さ」

 

「ッ、誰だ!」

 

不意に背後から声が聞こえ、思わず振り向いてしまう。そこにいたのは、黒いモヤで包まれた人影だった。

 

「ッ!?」

 

「ああ、すまない。こんな姿だが、別に君に敵意は無いから安心してくれ。と言っても信用出来ないかな?言っておくが、こっちも望んでこんな姿をしている訳じゃないんだ」

 

息を呑む少年に対し、人影は朗らかに話しかける。どうやら本当に敵意はないようだ。表情は分からないが、ニコニコと笑っているのが理解出来る。

 

「……オレの、心の中……?」

 

「ああ、凄いね君は。こんなにも多くのカードの事を想っている。こんなにもデュエルが好きだって言う想いが伝わってくるよ」

 

「……そうか」

 

辺りを見渡し、ストンとふに落ちたように納得する。ここが自身の心の中と言うなら、そうなのだろう。言われてみれば、そうであるとしか思えない。

 

「なら、お前は誰なんだ」

 

と、ここで新たな疑問が生じる。ここが自身の心の中ならば、そんな所にいる者は、何者なのか。

 

「さぁ?」

 

しかし、帰って来るのは、すっとぼけたような答えのみ。思わず呆然としてしまう。何か隠しているのか、敵意は無いようだが。

 

「さぁ……って」

 

「そう睨まないでくれ。本当に分からないんだ。記憶喪失って奴かな?」

 

「……そうか」

 

どうやら嘘はついていないらしい。アハハと苦笑しながら頭を掻く影。何やら初めて会った気がしない存在だ。自然とこちらの警戒心も薄れていく。

 

「おや……?」

 

「?どうした……?」

 

「どうやら、君に迎えのようだ」

 

「え……?」

 

そんな時、影が上空を指差し、その方向へ顔を向けると――何やら暖かな光が差し込んでいるではないか。

ふと、そこに行かなければならない気がした。

 

「行くんだ、君の仲間が、呼んでいる」

 

「……ああ、そのようだな」

 

「うん?フフ……君と行きたいと言うカードが何枚かいるらしい。良かったら、連れていってあげてくれ」

 

影がそう言うと、天井の、床の、壁にあるカードの何枚かが周囲を回転し、ついていこうとしているではないか。

 

「ああ、折角だ。共に行こう」

 

そして――それは、天に昇り、光差す道へと進んでいく。帰るべき、場所へと。

 

「行ってらっしゃい」

 

――――――

 

――ナミ――

 

声が、する。懐かしい、聞き覚えのある声が。これは一体誰の声だろうか。膨大な記憶の中から掘り起こす。

太陽のような笑みを浮かべる少年か、未来を掴んだ英雄か、それとも挑戦を続けた2つの魂か。

 

――ナミ――

 

どれもこれもが違う。この声は――。

 

「コナミッ!」

 

最高のエンタメデュエリストの声だ。

 

「ああ――そこにいるんだな、遊矢っ!」

 

目を開き、こちらへと伸ばされた手を掴む。すると――目の前の少年、榊 遊矢は少しだけ驚いた顔をした後、満面の笑みを浮かべる。

ああ、この笑顔だ。この笑顔が榊 遊矢なのだ。つられてコナミも笑い、遊矢によって引き上げられる。

 

「フ、随分と立派なDーホイールに乗ってるな」

 

「誰かさんのお蔭でね。おかえりコナミ」

 

「ああ、ただいま、遊矢」

 

コナミが遊矢が搭乗した赤い翼を広げるユーゴのDーホイールを見て、クスリと笑みを浮かべる。

まるでどこぞのシティの英雄のようだ。この様子や自身が帰って来られた事を考えると――どうやら遊矢はやってくれたらしい。

 

「優勝おめでとう、キング」

 

「!あぁ、ありがとう。コナミや皆のお蔭だよ」

 

「さて、とするとオレも決着をつけねばならないな」

 

「行くんだな、あの白いコナミの所に」

 

「お前が奴に勝って、オレが負けっぱなしと言うのは格好がつかないだろう?」

 

だが、コナミにはまだやるべき事が、白コナミとの決着が残っている。遊矢もそれを察したのだろう、頷き返し、白コナミが落下したであろう場所を指差す。

 

「あいつはあそこに落ちた筈だ」

 

「落ちた……?遊矢お前、何をやらかしたんだ?」

 

「……」

 

眉をひそめ、訝しむコナミに対し、ひょっとして俺とんでもない事しでかしたんじゃ……?と今更ながらダラダラと滝のような汗を垂らす遊矢。

ひょっとしないくても50万のダメージを叩き出しているのはシンクロ次元でもコイツ位である。

 

「おい」

 

「……」

 

「こっちを見ろ」

 

顔を背向け、無言を貫く遊矢を見て、コナミが深い溜め息溢す。こうなっては仕方無い。後で沢渡辺りにでも聞こうと諦め、自らのデュエルディスクを取り出し、パネルを操作し始める。

すると――どこからか彼のDーホイール、グラファ号Rが現れ、コナミ達のいる真下を走り抜ける。

 

「変な機能つけてる……」

 

「お前のこれも充分変の内に入るんじゃないか?」

 

呆れる遊矢を見て、次はコナミがユーゴのDーホイールから生えた赤い翼を指差し指摘する。ごもっともであるが、そもそもこの機能をつけたのはコイツである。

 

「行ってくる」

 

「ああ、皆で一緒に融合次元に行こう」

 

カツン、拳をぶつけ合い、約束する2人。そして――コナミはその場から飛び降り、グラファ号Rに搭乗、白コナミがいる場所へ向かうのを見送る。そして、遊矢もまた。

 

「と言う訳で、シンジーッ!!」

 

「……あん?」

 

観客席へと振り返り、その中にいるシンジ・ウェーバーに向け、大声で叫ぶ。

 

「後は任せた!」

 

「……は?……はぁぁぁぁっ!?」

 

遊矢達はこれから融合次元に向かうだろう。その為キングの荷を僅か3分で降りる事になる。まぁ遊矢のキングとしての仕事はもうほとんど無くなっているので問題はないだろうが。色々後始末は信頼出来るシンジに任せ、遊矢は柚子を救う為、治安維持局へと進む――。

 

――――――

 

「つ……全く、やってくれる。榊 遊矢……やはり奴は……」

 

場所は変わり、シティの外れ、コモンズも近寄らないようなゴミ溜めにて、遊矢に敗北した白コナミはコキコキと身体中の骨を鳴らし、ボロボロになった自らのDーホイールに背を預けていた。

流石にあれだけのダメージを受ければこの男でも身体が痛む。デュエリストじゃなければ危なかった。自慢のDーホイールもこの状態ではもう飛行出来ないだろう。やれやれと溜め息をつき、帽子を被り直していると――。

 

「見つけたぞ」

 

「……驚いたな、こんなに早く来るとは」

 

背後からかかる、自身と同じ声。振り向けば自身と同じ姿。いや、正確には身につけているものが白から赤へ変わった己の姿、コナミがいた。

 

「だが、また俺に挑むと言うのか?2度も敗北したと言うのに……俺としては若干呆れているんだが」

 

「安心しろ、今回は――貴様を完膚なきまでに叩き潰す」

 

ゴウッ、今まで以上の闘志を燃やすコナミに対し、ニヤリと白コナミの口角が持ち上がる。成程、確かに強くなっているようだ。これならこの男を再度取り込み、あの榊 遊矢に再戦を挑むのも悪くないとDーホイールに飛び乗り、デュエルの意志を見せる。そして――。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 

今、最後の闘いが幕を開ける。ゴミ溜めを抜け、トンネルに入り、また抜ける。

シティの沿岸部、カーブに差し掛かり、コーナーを取ったのは――白コナミだ。彼は内心成長が見られないコナミに僅かな失望をし、デッキから5枚のカードを引き抜く。

 

「俺のターン、手札の『サンダー・ドラゴン』を捨て、同名カードを2体サーチ、魔法カード、『手札抹殺』!互いに手札を交換だ。魔法カード、『調律』!デッキから『クイック・シンクロン』をサーチし、デッキトップを墓地へ送る!そして手札のモンスターをコストに『クイック・シンクロン』を特殊召喚!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

白コナミの手札の1枚が撃ち抜かれ、白煙が上がる。その中から登場するのは、彼のデッキの主軸となる『シンクロン』チューナーの1体。

テンガロンハットに赤いマント、ガンマン人形の姿をしたモンスターだ。

キザったらしく煙を出す銃口に息を吹き掛け、指先でクルクルと回転、ガンホルダーへ拳銃を収納する。

 

「墓地の『ラッシュ・ウォリアー』を除外し、墓地の『ジャンク・シンクロン』を回収し、召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

次は所々凹んだオレンジ色のボディに丸眼鏡、背負ったバックパックが特徴的なモンスター。かなり昔に登場したカードであるが、今でも一線級の働きが見込めるチューナーだ。

 

「召喚時、墓地のレベル2以下のモンスター、『チューニング・サポーター』を守備表示で特殊召喚!」

 

チューニング・サポーター 守備力300

 

『ジャンク・シンクロン』に呼ばれ、シュタリとフィールドに降り立ったのは中華なべを被り、マフラーを風に靡かせた1頭身のモンスター。所謂忍者走りで白コナミのDーホイールに並ぶ。

 

「レベル1の『チューニング・サポーター』に、レベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし力が大地を貫く槍となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!砕け、『ドリル・ウォリアー』!」

 

ドリル・ウォリアー 攻撃力2400

 

そして白コナミ最大の武器にして十八番、シンクロ召喚が炸裂する。

『クイック・シンクロン』の眼前に、光輝くサイバーパンクなイメージが浮かぶだろうカード達が並ぶ。そこには『ジャンク・シンクロン』や『ニトロ・シンクロン』と言った『シンクロン』チューナーの数々。

『クイック・シンクロン』が拳銃を取り出し、撃ち抜いたのはその中の1枚、『ドリル・シンクロン』だ。弾丸は『ドリル・シンクロン』を貫いた後、空中で光のリングに変化、『チューニング・サポーター』と『クイック・シンクロン』を包み込み、更に5つのリングと1つの光となり、フィールドを照らす。

閃光の霧を晴らし、現れたのは1人の戦士。右手、両肩、両足にドリルを取り付け、黄色いマフラーを風に流す、ブラウンのボディの機械戦士、『ドリル・ウォリアー』だ。

 

「『チューニング・サポーター』がシンクロ素材になった事で、1枚ドローする!」

 

白コナミ 手札3→4

 

「墓地の魔法カード、『調律』を除外する事で、手札の『マジック・ストライカー』を特殊召喚!」

 

マジック・ストライカー 攻撃力1600

 

更に続けて召喚。白コナミの墓地の『調律』に写るハープが弾かれ、中より飛び出したのはヴァイキング帽に赤いマント、鎧にステッキ、剣とSDキャラのような見た目とあいまって一昔前のゲームの中の勇者を思わせる姿をした戦士。

容易な特殊召喚条件を持ち、リリース、シンクロ、エクシーズと様々な召喚法の素材に使えるカードだ。

 

「レベル3の『マジック・ストライカー』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!疾風の使者に鋼の願いが集う時、その願いは鉄壁の盾となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!現れよ、『ジャンク・ガードナー』!」

 

ジャンク・ガードナー 守備力2600

 

2連続シンクロ召喚。今度は『ジャンク・シンクロン』が背中のリコイルスターターを引っ張り、バックパックが振動、『ジャンク・シンクロン』が3つのリングとなり、『マジック・ストライカー』を包み込む。

白コナミとコナミがトンネルに入り込み、姿が見えなくなり、抜け、次に視界に捉えた時には既に3つの光に変化、一筋の閃光がリングの中を撃ち抜き、2体目のシンクロモンスターが現れる。

 

深緑の装甲を纏い、背中に2対の砲塔を伸ばした機械戦士。

防御に特化したカードだ。先攻でこのカードをフィールドに残す事で、コナミの攻め手を削ぐつもりなのだろう。

特殊召喚が容易な低レベルモンスターを素材に、次々とシンクロモンスターを呼ぶ、高速のデュエル。それが白コナミの戦術だ。

 

「手札を1枚捨て、『ドリル・ウォリアー』の効果発動。このカードを除外する。そしてカードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

白コナミ LP4000

フィールド『ジャンク・ガードナー』(守備表示)

セット1

手札1

 

これで白コナミのフィールドは『ジャンク・ガードナー』とセットカードの2枚。中々の布陣であるが、手札は1枚だけになってしまったのは痛い。

対するコナミがどう出るか、これは白コナミがコナミを試していると言っていい。この程度、軽く越えてみろと挑発的な笑みが横顔から見れる。

 

「オレのターン、ドロー!スタンバイフェイズ、墓地の『キラー・スネーク』の効果で自身を回収。そして――」

 

その想いは、今この瞬間に。

 

「手札を1枚捨て、魔法カード――『一撃必殺!居合いドロー』を発動!」

 

「……は?」

 

粉微塵に、切り刻まれる。

 

「待て、待て……!それは、そのカードは……っ!」

 

思わずフリーズしていた白コナミが漸くそのカードの登場を理解し、けれども動揺を隠せない。それもその筈――フレンドシップカップの対決では、このカードの影も形もなかったのだから。

 

そしてこのカードは、白コナミの驚く通り、コナミが新たに得たカード、新たな力、『エレメンタルバースト』や『魂を吸う竹光』と同じ、勝負を左右する切り札。

それを――1ターン目の1枚目に、発動して来た。

つまりこのカードは、コナミが初めて得た、軽い準備で積極的に使える武器と言える。そして、このカードの存在を、白コナミは知っている。知っているからこそ驚いたのだ。その、効果は。

 

「相手フィールドのカードの数だけデッキトップからカードを墓地に送り、その後、オレはカードを1枚ドロー。互いに確認し、それが『一撃必殺!居合いドロー』だった場合、そのカードを墓地に送る事で、フィールドのカードを全て破壊、その後、この効果で破壊したカード×2000のダメージを相手に与える!」

 

正しくギャンブル。成功した場合、相手フィールドを一掃した上でその数×2000ものダメージを与えるカード。

2枚破壊すれば4000のダメージを与えて勝利出来ると言う訳だ。そして、このカードが成功した場合の利点はそれだけではない。それは――墓地肥やし。ドローの前に、大量の墓地肥やしを狙えるのだ。墓地発動系のカードを大量に投入したコナミ向けのカードと言える。

 

「ッ……!罠発動、『針虫の巣窟』!デッキトップから5枚のカードを墓地へ!更に墓地の『ダメージ・ダイエット』を除外し、このターンの効果ダメージを半分にする!」

 

「賢明だな、さぁ、引こうか――!」

 

コナミのデッキから、『ジャンク・ガードナー』と『針虫の巣窟』、フィールド魔法、『スピード・ワールドーネオ』の3枚分のカードが墓地に送られる。そして、コナミがまるで居合い術を見せるかのようにデッキトップに指先を翳し、今、1枚のカードが引き抜かれる。

一瞬の緊張、白コナミがゴクリと唾を呑み込むと共に、そのカードが姿を見せる。

 

コナミ 手札5→6

 

「引いたのは、『一撃必殺!居合いドロー』!」

 

「馬鹿、な――!?」

 

見事成功を果たし、指先に掴まれた『一撃必殺!居合いドロー』が光を纏って変化、一振りの日本刀としてコナミの手に握られ、抜刀、汚れ一つない煌めく白刃が白コナミのフィールドを切り裂く。

カチャリ、日本刀が鞘におさまり、遅れて『ジャンク・ガードナー』が真っ二つになり、大爆発を巻き起こす。

 

白コナミ LP4000→2000

 

「ぐぅぅぅぅっ!?」

 

一気にフィールドが全壊し、その上2000のLPが削り取られた。正しく一撃必殺の名に相応しい威力。今までコナミは強力な奥の手を持っていたが、奥の手は下準備がかかるもの。今のコナミはその奥の手にも比肩する強力な、その上直ぐ様使えるカードを手に入れた、更に、だ。

 

「くっ、墓地に送られた『絶対王バック・ジャック』の効果でデッキトップを操作し、2体の『髑髏顔天道虫』の効果でLPを2000回復する……!」

 

白コナミ LP2000→3000→4000

 

「ならばオレも、墓地に送られた『妖刀竹光』と『E・HEROシャドー・ミスト』の効果で『黄金色の竹光』と、『E・HEROエアーマン』をデッキからサーチしよう」

 

「ッ!」

 

この『一撃必殺!居合いドロー』は一撃だけでは留まらない。こうして墓地に送られたカードが、更なる一撃を呼ぶ。

たった1枚、されど1枚で――コナミのデュエルは大きく変わった、進化したのだ。

 

「『E・HEROソリッドマン』を召喚!」

 

E・HEROソリッドマン 攻撃力1300

 

そして、コナミが得た新たな力はこれだけではない。そう言わんばかりにコナミの手から、見た事のない『HERO』が現れる。

黄金の鎧を纏う戦士。その姿に白コナミが更に警戒を示す。

 

「『E・HEROソリッドマン』の召喚時、オレは手札からレベル4以下の『HERO』を特殊召喚する!」

 

「来い、『E・HEROエアーマン』!」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

ソリッドマンの隣に並ぶのは、青い機械的な鎧に背中かれファンの翼を伸ばした風の『HERO』。『HERO』デッキでは必須級のサーチ効果を持つカードだ。

 

「エアーマンの特殊召喚時、デッキから『HERO』モンスター1体をサーチする!」

 

「墓地のバック・ジャックを除外し、デッキトップの罠をセット!」

 

「オレは2枚目のエアーマンをサーチ!魔法カード、『ナイト・ショット』!セットカードを破壊!」

 

「破壊されたのは『荒野の大竜巻』!効果でソリッドマンを破壊!」

 

「ならば速攻魔法、『マスク・チェンジ』を発動!」

 

「『マスク・チェンジ』だと……!?」

 

発動されたのは更にコナミのデュエルを大きく変革させるカード。今までの『HERO』による戦術を変身させる力。

 

「オレのフィールドの『HERO』1体を墓地に送る事で、墓地に送ったモンスターの属性に対応する『M・HERO』1体をエクストラデッキから特殊召喚する!オレが選択するのはソリッドマン!属性は地!変身召喚!『M・HEROダイアン』!」

 

M・HEROダイアン 攻撃力2800

 

ソリッドマンが光に包まれ、その強固な鎧を自ら砕く。姿を変え、新たに登場したのは軽く、その上でソリッドマンより強固なダイヤモンドの仮面と鎧を纏い、レイピアを握った英雄。

融合ではなく、変身。これこそがコナミが得た新たな『HERO』。進化前との大きな変更点だ。

 

「まだだ。魔法カードの効果でモンスターゾーンから墓地に送られたソリッドマンの効果発動!墓地に存在するこのカード以外の『HERO』モンスター、すなわち『E・HEROシャドー・ミスト』を蘇生する!」

 

E・HEROシャドー・ミスト 守備力1500

 

絶え間ない展開、ダイアンの影が逆巻き、人の形となる。ダイアンやソリッドマンとは対照的な漆黒の鎧と赤く輝く眼、そして風に靡く美しい青の長髪が印象的な『E・HERO』だ。

変身召喚を会得したお蔭でこのカードの真の力も発揮出来るようになった。

 

「何故だ、何故ここまでの力を……!」

 

「お前のお蔭だ」

 

「……何だと?」

 

短い間、それも吸収されていたにも関わらず、前とは比べ物にならない力を得たコナミに、白コナミが疑問を浮かべ、コナミが答える。

『一撃必殺!居合いドロー』等はコナミの心から連れて来たカード。しかし、この『M・HERO』は違う。このカードは白コナミのお蔭で得たカードだ。

 

「お前は闘った筈だ。オレじゃない、お前でもない、他のコナミと」

 

「それがどうし……まさ……か……!?それが、俺の中にいたお前にも影響を与えたと言うのか!?」

 

そう、白コナミは決勝戦前に黒と紫、エクシーズと融合を使うコナミと闘った。その結果、白コナミも強くなり、中にいたコナミにも変異を与えたのだ。

白コナミとの闘いで、コナミがシンクロチューナーを得たように。コナミの成長に、カードがついて来てくれた。

 

「そう言う事だ。貴様は言ったな、成長するのは、進化するのはオレだけではなく、お前もだと!ならばオレは貴様が追いつく事も出来ない速度で進化を続けるまでだ!」

 

「面白い……!」

 

新たな力で、白コナミを追い詰めるコナミに対し、白コナミは獰猛な笑みを見せる。確かに、コナミは強くなった。だが白コナミとてあれから強くなっている。これで漸くイーブンと言った所だろう。

勝敗は、このデュエルの中の成長にかかっている。

 

「魔法カード、『クイズ』!相手はオレの墓地の一番下に存在するモンスターを当て、外れればオレのフィールドに特殊召喚、当たれば除外する!」

 

「俺は『キラー・スネーク』を選択する」

 

「残念!『ジャンク・コレクター』を特殊召喚!」

 

ジャンク・コレクター 攻撃力1000

 

「装備魔法、『妖刀竹光』をエアーマンに装備、魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!『竹光』装備魔法が存在する事で2枚ドロー!」

 

コナミ 手札1→3

 

「魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!デッキトップの10枚を裏側で除外して2枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→4

 

「更に魔法カード、『カップ・オブ・エース』!コイントスを行い、表が当たれば2枚ドローだ。……当たりだ」

 

コナミ 手札3→5

 

「永続魔法、『魂を吸う竹光』を発動!『竹光』装備魔法を装備したモンスターが戦闘ダメージを与えた場合、次の相手のドローフェイズをスキップする!」

 

「チィッ!」

 

容赦はしない。そう言わんばかりにコナミが早速奥の手を見せる。成長前にも持っていた強力な武器。コナミが捨てる訳もない。

エアーマンが握った『妖刀竹光』より闇色の瘴気が噴き出し、亡者の呻き声が木霊する。ドロースキップ効果。成長前でも白コナミが厄介に思っていた力だ。

 

「バトル!エアーマンでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『クリアクリボー』を除外し、1枚ドロー!」

 

白コナミ 手札1→2

 

「引いたカードは、モンスターではない」

 

「ならここで終わりか?」

 

「終わらせる訳がないだろう!墓地の『光の護封霊剣』を除外し、このターンのダイレクトアタックを封じる!」

 

流石に1ターンでは終われない。白コナミが地面より光輝く剣を引き抜き、妖刀片手に襲いかかるエアーマンの斬擊を防ぐ。

鳴り響くは甲高い剣戟の音。すかさずエアーマンの足元から更なる剣が飛び出し、退かせる。

 

「フン、ここで終わったら拍子抜けも良いところだ。今まで溜まった鬱憤、たっぷり晴らさせてもらうぞ!」

 

「ほざけ!今回も俺が勝たせてもらう!」

 

「カードを3枚セット、ターンエンド!」

 

コナミ LP4000

フィールド『M・HEROダイアン』(攻撃表示)『E・HEROエアーマン』(攻撃表示)『E・HEROシャドー・ミスト』(守備表示)『ジャンク・コレクター』(攻撃表示)

『妖刀竹光』『魂を吸う竹光』セット3

手札1

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『魔力の泉』!スピード・ワールドを含め、3枚ドローし、2枚を捨てる!更に『増殖するG』を捨てる!」

 

白コナミ 手札1→4→2

 

「手札から捨てられた『魔轟神獣キャシー』の効果で『ジャンク・コレクター』を破壊!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、『ジャンク・コレクター』を対象とするモンスター効果を無効に!」

 

「スタンバイフェイズ、墓地の『キラー・スネーク』を回収し、自身の効果で除外された『ドリル・ウォリアー』を特殊召喚!その後、墓地のモンスター1体を手札に。『ジャンク・シンクロン』を回収。魔法カード、『暗黒界の取引』。手札を交換し、捨てられた『魔轟神獣キャシー』の効果でダイアンを破壊!」

 

「こちらも墓地に送られた『絶対王バック・ジャック』の効果でデッキトップを操作し、速攻魔法、『フォーム・チェンジ』!ダイアンをエクストラデッキに戻し、同じレベルの『M・HERO光牙』を変身召喚!」

 

ドリル・ウォリアー 攻撃力2400

 

M・HERO光牙 攻撃力2500→3000

 

白コナミ 手札3→4

 

「『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

M・HERO光牙 攻撃力3000→3500

 

「効果発動!『チューニング・サポーター』を蘇生する!」

 

「『ジャンク・コレクター』と墓地の『メタバース』を除外し、効果をコピー!デッキからフィールド魔法、『サモンブレーカー』を発動!更に墓地のバック・ジャックを除外して罠をセット!」

 

チューニング・サポーター 守備力300

 

M・HERO光牙 攻撃力3500→4000

 

「ターンプレイヤーが3回目の召喚、反転召喚、特殊召喚に成功した時、『サモンブレーカー』の効果でエンドフェイズに移行する!」

 

「速攻魔法、『コズミック・サイクロン』!LPを1000払い、『サモンブレーカー』を除外!」

 

「速攻魔法、『マスク・チェンジ』を発動!」

 

発動される2枚目の『マスク・チェンジ』。不意を突かれた形となり、白コナミの表情が歪む。次は果たしてどのような『M・HERO』が現れるか、闇か風の『HERO』。嫌な予感がする。

 

「シャドー・ミストを墓地に送り、変身召喚!『M・HEROダーク・ロウ』!」

 

M・HEROダーク・ロウ 攻撃力2400

 

白コナミ LP4000→3000 手札2→3

 

シャドー・ミストが眩い光に包まれ、新たに漆黒の装甲を纏い姿を変える。黒豹を模した仮面と胸当て、ショルダーアーマー、野性味を感じさせる『M・HERO』が、黄色いラインを輝かせ、ビルの屋上へと跳躍、腕を組み、白コナミを見下す。

 

白コナミもこのモンスターの登場と共に『増殖するG』の効果でドローするが――瞬間、手札から闇の渦が発生、逆巻いて1枚のカードが呑み込まれる。

 

「ダーク・ロウの効果。1ターンに1度、ドローフェイズ以外で相手がデッキからカードを手札に加えた場合、相手の手札を1枚除外する」

 

「チッ……!」

 

「そして墓地に送られたシャドー・ミストの効果で『E・HEROソリッドマン』をサーチ!」

 

「ならば俺はレベル1の『チューニング・サポーター』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『アームズ・エイド』!」

 

アームズ・エイド 攻撃力1800

 

M・HERO光牙 攻撃力3000→3500

 

呼び出されたのは噴射機能がついた、赤い爪を煌めかせる腕型のモンスター。ジェット推進でフィールドに駆けつけ、白コナミに並走する。見た目通り、他のモンスターの腕となる事で真価を発揮するカードだ。

 

「『チューニング・サポーター』の効果でドロー!」

 

展開でカードを消費したかと思いきや、直ぐ様補充する。これが白コナミのデュエルだ。強力な戦術。

だからこそ、コナミはここに対策を取る。

白コナミが『チューニング・サポーター』の効果発動を宣言したその時、墓地に闇の渦が広がり、『チューニング・サポーター』のカードを呑み込んでいる事に気づく。

 

「何……!?」

 

「ダーク・ロウのもう1つの効果だ。このカードが存在する限り、相手の墓地に送られるカードは除外される!」

 

「ッ……!」

 

これぞダーク・ロウが敷く闇の法。白コナミの戦力を大きく削ぐ対抗策。白コナミの高速連続シンクロの肝である墓地を潰す手だ。

 

「やってくれる……!『アームズ・エイド』の効果発動!このカードを攻撃力1000アップの装備カードとして『ドリル・ウォリアー』に装備!」

 

ドリル・ウォリアー 攻撃力2400→3400

 

『アームズ・エイド』がジェット噴射で飛翔、『ドリル・ウォリアー』の右腕に装着しようとするも、そこにはお前の席ねぇからと言わんばかりのドリルが存在。仕方無く左腕に装備される。両腕が右腕の男の完成である。何とも格好がつかない。

 

「バトル!『ドリル・ウォリアー』でダーク・ロウへ攻撃!ドリル・ランサー!この瞬間、手札の『ジュラゲド』の効果発動!」

 

「カウンター罠、『無償交換』!『ジュラゲド』のモンスター効果の発動を無効にし、相手は1枚ドローする!」

 

白コナミ 手札1→2

 

「速攻魔法、『コズミック・サイクロン』!LPを1000払い、セットカードを除外!」

 

「罠発動!『マジカルシルクハット』!デッキの魔法、罠とエアーマンをセット、墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ!」

 

白コナミ LP3000→2000 手札1→2

 

「攻撃続行、ダーク・ロウを狙う!」

 

「光牙の効果発動!墓地の『HERO』モンスター、ソリッドマンを除外し、ターン終了まで除外したモンスターの攻撃力分、『ドリル・ウォリアー』の攻撃力をダウン!」

 

「速攻魔法発動!『ハーフ・シャット』!ダーク・ロウの攻撃力を半減し、戦闘耐性を与える!」

 

ドリル・ウォリアー 攻撃力3400→2100

 

M・HEROダーク・ロウ 攻撃力2400→1200

 

コナミ LP4000→3100

 

相変わらずの『マジカルシルクハット』戦法に、『M・HERO』で戦況を作り上げる強力な力が加わった。

ダメージは食らったが、ダーク・ロウは健在。流れはまだコナミに傾いている。初手で『一撃必殺!居合いドロー』を成功させた事が効いている。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ……!」

 

「この瞬間、オレの墓地から『キラー・スネーク』を除外する」

 

白コナミ LP2000

フィールド『ドリル・ウォリアー』(攻撃表示)

『アームズ・エイド』セット1

手札0

 

2度の敗北から蘇り、新たな力を会得、再び白コナミに挑むコナミ。最早2人の間に大した実力差は無い。それ程までコナミは成長した。

もう、負ける気がしない。誰が相手だろうと何が立ち塞がろうと、この歩みを止めるつもりはない。例えこの闘いで、白コナミがどれだけ成長しようが構わない。

それならば自らも更に成長するまでだ。

 

シティ外周を激走し、熱き火花を散らす2人のデュエリスト、互いに猛スピードで並走し、視線を交わす。

 

「お前を倒す!絶対に!」

 

「面白い……!だがこの程度で勝った気になられては困る。さぁ、貴様の進化とやらを見せてみろ!俺はそれを全て叩き折って、吸収して新たなステージに辿り着く!」

 

己が全てを賭けた赤と白、2人のコナミの激突。シンクロ次元、最終局面――。




白コナミ「榊遊矢に50万ダメージを食らわされて負けた……せや!もう1回デュエルしたろ!」

アホかな?

と言う訳で今回からコナミのデッキが更にパワーアップしました。
TFSPでは今回のデッキと似たようなものを組んでいたんですがストーリーモード位なら結構互角に渡り合えます。
オリジナル版の居合いドローとM・HEROのカードパワーのお陰ですね。
魔術師少ないのでペンデュラムは役割果たさずオッドアイズは手札コストになってたのは内緒。

笑ったのは居合いドロー成功を食らった相手が刃&真澄ペアとユートだった事です。幻影騎士団無いから……。


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第194話 ハイスピード・ライダーズ

チームARCー5D'sとチームネオ5D'sによるフレンドシップカップ決勝戦、特に遊矢と白コナミのデュエルはシティに大打撃を与えた。

無論、死者や負傷者は各々の活躍によって0。だが、建築物はそうはいかない。大なり小なり、白コナミの暴走で壊れてしまったものはある。

が、復興する時間はそうかからないだろう。今やシティは1つとなり、トップスもコモンズも多少の確執は残ったにしろ、協力し合おうと言う想いは同じなのだから。

 

変わらないものもあり、変わったものもあり、変わろうとしているものがある。

今のシティは、以前より傷ついているが、今の方が、余程街らしい。そんな様子を見て、行政評議会議長、ホワイト・タキは好々爺のような笑みを浮かべ、これからのシティを住民達に任せようと締め括ろうとして――ガシリ、肩を誰かに掴まれた。

 

「?一体誰だね――って、何でイェーガー君がここに!?」

 

その正体は、ピエロのような顔に小さな背丈の男、イェーガー。ペガサス達と共にスタンダード次元にいたが記憶を取り戻し、遊矢達の助けになろうと駆けつけたのだが、その必要はないらしい。

彼は何故だかニコニコとした笑顔を浮かべ、その小さな背に見合わぬ圧力を放っている。

 

「イェーガー君!?君確かに治安維持局を辞めてから家族と共に行方不明になった筈じゃ……」

 

「まぁ、私にも色々ありましてね。少し心配して様子を見に来てみれば、彼等には本当に感謝しかないですねぇ。おっと、今はそんな事は後にしましょう」

 

「いや結構重要な事じゃ……」

 

「タキ議長」

 

「な、何かな?」

 

何やら彼等にも色々あるらしい。旧知の仲のように話し合い――イェーガーが改めてタキへと向き直る。

 

「これからのシティを若者達に任せる。素晴らしい事だと思います」

 

「あ、ありがとう?」

 

「させませんよ」

 

「え?」

 

ニッコリとした笑顔が一瞬で引っ込み、イェーガーの目が据わる。とんでもない威圧感だ。流石に老体には堪えるのか、タキが初めて動揺し、怯えた表情に変わる。

 

「いきなり全責任を住民に任せ、自分達は伸び伸び隠居しようたってそうはいきません。これからの若者の為に……貴方達先人には、私と共に粉骨!砕身!たぁっぷり働いてもらいますよぉ……?」

 

「ヒェッ」

 

タキ達の丸投げにも近しい行為を諌め、シティの礎にしようとするイェーガー。ピエロのような顔のメイクもあいまって悪魔に見える。

 

「安心してください。当時私は何も出来ず、逃げ出した。償いとして、私も働きますよ。ですな、議長?」

 

「は、はい……」

 

シティは変わる。ならば先人として、正しく変わると言う事を導かねばならない。イェーガーは爽やかな笑顔を浮かべ、ホワイト・タキ達をこき使うのであった。

 

――――――

 

「オレのターン、ドロー!」

 

場所は変わって、シティ湾岸、白コナミの暴走でガードレールがボロボロに穴開き、ひび割れた公道で2人のデュエリストが激走していた。

1人はコナミ。友の愛機、重厚な黒のボディと山羊のような捻れた角が特徴的なDーホイール、グラファ号Rに搭乗した、赤い帽子のデュエリスト。

もう1人は白コナミ。今や大破し、通常のDーホイール並みに小さくなった純白のDーホイールに乗る、白帽子のデュエリストだ。

 

彼等は今、決着をつける為、3回目のデュエルに臨んでいた。

1戦目、スタンダード次元では圧倒的な白コナミの力を前に、コナミは敗北寸前まで追い詰められ、中断。

2戦目、シンクロ次元、フレンドシップカップでの連戦で、コナミが白コナミの進化を前に敗北。

そして不死鳥の如く復活を果たし、3戦目にて激突する。

 

今や白コナミと互角になる程パワーアップしてコナミのデュエルにより、現状彼の優勢。とは言え油断は出来ない。相手は白コナミなのだ。2回も敗北しておいて、調子に乗るなど愚かな事は出来ない。

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『魂を吸う竹光』を戻してドロー!」

 

コナミ 手札4→5

 

「手札の『サンダー・ドラゴン』を捨て、同名カードを2体サーチ!速攻魔法、『リロード』!手札を交換する。『E・HEROソリッドマン』を召喚!」

 

E・HEROソリッドマン 攻撃力1300

 

「ソリッドマンの召喚時、手札のエアーマンを特殊召喚!」

 

E・HEROエアーマン 攻撃力1800

 

並ぶ2体のモンスター、地と風の『HERO』。先のターンと同じような光景だ。

 

「そしてエアーマンの特殊召喚時、お前のフィールドの『アームズ・エイド』とセットカードを破壊!」

 

「罠発動、『裁きの天秤』!俺のフィールドと手札、そしてお前のフィールドのカードの差分、ドロー!俺のフィールドは4枚!お前のフィールドは6枚!よって2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→2

 

「ダーク・ロウの効果発動!1ターンに1度、相手がドローフェイズ以外でデッキからカードを手札に加えた場合手札1枚を除外する!」

 

「っ!」

 

白コナミのドローを削る、ハンデス効果。相手のみの墓地除外も合わせ、頼もしいカードだ。ダーク・ロウがいる限り、白コナミの勝手は許されない。

 

「面倒なカードだ……!」

 

「セット状態のエアーマンを攻撃表示に変更、バトル!光牙で『ドリル・ウォリアー』へ攻撃!」

 

白コナミ LP2000→1400

 

「くっ……!」

 

光牙がガードレールを踏み台にして飛び上がり、『ドリル・ウォリアー』に向かって急降下、朝陽をバックにして視界を塞ぎ、手の甲から伸びる刃を交差、X字に切り裂く。

 

「エアーマンでダイレクトアタック!」

 

「手札の『バトル・フェーダー』の効果発動!相手モンスターのダイレクトアタック時、このカードを特殊召喚し、バトルを終了させる!」

 

バトル・フェーダー 守備力0

 

M・HERO光牙 攻撃力2500→3000

 

リン、ゴーン。鐘の音と共に現れたのは福音を抱く小さな悪魔。エアーマンの攻撃を遮り、白コナミのフィールドに鎮座する。やはりそう簡単にはいかせてくれないらしい。

 

「メインフェイズ2、オレはエアーマンとソリッドマンでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!我が戦いはここから始まる!白き翼に望みを託せ、現れろ『No.39』!エクシーズ召喚!『希望皇ホープ』!」

 

No.39希望皇ホープ 攻撃力2500

 

コナミの背後に星を散りばめた渦が発生し、小さな銀河の中にエアーマンとソリッドマン、2体の『HERO』が光となって突入、同時に渦が収束して爆発。

辺り一帯を黒煙が覆う中、鋭い剣閃が煌めき、スモークを切り裂いて見参したのは新たなモンスター。

黄金の鎧纏う、白き翼の騎士。左肩に39の紋様を刻む、『No.』の1体だ。

黒煙の中から飛び出し、コナミと白コナミのDーホイールに追従するように剣を構え、雄々しく咆哮する。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド!『シャッフル・リボーン』の効果で手札を除外する」

 

コナミ LP3100

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『M・HERO光牙』(攻撃表示)『M・HEROダーク・ロウ』(攻撃表示)『E・HEROエアーマン』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、『大欲な壺』!除外されているモンスターを3体、デッキに戻してドロー!」

 

白コナミ 手札0→1

 

「魔法カード、『命削りの宝札』を発動!手札が3枚になるようにドロー!」

 

白コナミ 手札0→3

 

「ダーク・ロウの効果発動!」

 

「魔法カード、『カップ・オブ・エース』。……当たりだ」

 

白コナミ 手札1→3

 

「永続魔法、『補給部隊』を発動。モンスターをセット」

 

M・HERO光牙 攻撃力3000→3500

 

「カードをセット、ターンエンド!」

 

白コナミ LP1400

フィールド『バトル・フェーダー』(守備表示)セットモンスター

『補給部隊』セット1

手札0

 

「オレのターン、ドロー!『ジェット・シンクロン』を召喚!」

 

ジェット・シンクロン 攻撃力500

 

コナミの手札からジェットエンジンを模した青と白のカラーリングのモンスターが飛び出す。コナミが良く使用するレベル1のチューナーだ。白コナミがデッキの主軸にしている『シンクロン』の1種でもある。

 

「レベル4のエアーマンに、レベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『ジェット・ウォリアー』!」

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力2100

 

融合、エクシーズに続き、コナミが持つ第3の召喚法が炸裂する。シンクロ召喚、白コナミも得意とする召喚法だ。

この分野では白コナミに劣るものの、コナミも決して負けはしない。

 

翼を広げるエアーマンの真上に『ジェット・シンクロン』がリングとなって弾け飛び、エアーマンが潜ると共に閃光が放たれる。

そして風と炎が混じり合い、飛び出したのは重厚な黒のボディを輝かせた機械戦士。背部に取り付けたエンジンから炎を吹かせ、ジェット機のように猛スピードで白コナミの眼前まで移動。ギャリギャリと脚部の刃が地面を抉り、足跡を描き出す。

 

「『ジェット・ウォリアー』のシンクロ召喚時、セットカードを対象として効果発動!対象のカードをバウンス!更に『ジェット・シンクロン』がシンクロ素材になった事でデッキから『ジャンク・コレクター』をサーチ!」

 

そして『ジェット・ウォリアー』は己の拳を勢い良く地面に下ろす。瞬間、ドドドと地面を裂いてソニックブームが発生、白コナミのセットカードを吹き飛ばそうとする。

 

「おあいにく様だな。罠発動、『強制脱出装置』!ダーク・ロウをバウンス!」

 

「チッ……!『ジェット・ウォリアー』で『バトル・フェーダー』へ攻撃!」

 

「モンスターが破壊された事で『補給部隊』の効果発動!カードを1枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→1

 

『ジェット・ウォリアー』が再度鉄拳を振るい、白コナミに追従する『バトル・フェーダー』を殴打、鐘がひしゃげて歪な音色が響き渡り、白コナミが鐘の中から飛び出したカードをその手に取る。

 

「続けて『希望皇ホープ』でセットモンスターへ攻撃!ホープ剣・スラッシュ!」

 

「セットモンスターは『スケープ・ゴースト』!リバース効果で俺のフィールドに4体の『黒羊トークン』を特殊召喚する!」

 

黒羊トークン 守備力0×4

 

M・HERO光牙 攻撃力2500→4500

 

更に『ジェット・ウォリアー』の背後から、『ホープ』が飛び立ち、回転しながら急降下、2つの刃でセットモンスターを切り裂き――黒い毛並みの羊が分裂、4体になって行く手を遮る。

 

「そう来るか……残るは光牙!『黒羊トークン』へ攻撃!」

 

「だがそれでも俺の場には3体のトークンが残る」

 

「ターンエンドだ」

 

コナミ LP3100

フィールド『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『M・HERO光牙』(攻撃表示)『ジェット・ウォリアー』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『カップ・オブ・エース』!……当たりだ!」

 

白コナミ 手札1→3

 

「速攻魔法、『手札断殺』!互いに手札を2枚交換。手札のモンスターを墓地に送り、『クイック・シンクロン』を特殊召喚!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

「レベル1の『黒羊トークン』3体に、レベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし闘志が怒号の魔神を呼び覚ます。光差す道となれ!シンクロ召喚!粉砕せよ、『ジャンク・デストロイヤー』!」

 

ジャンク・デストロイヤー 攻撃力2600

 

ズズン、激しい地鳴らしを響かせ、コナミのモンスター達の前に巨大なシンクロモンスターが姿を見せる。

頭部には王冠のように伸びる角、胸には幾つかのコアを持ち、4本の腕とX字の翼を広げた巨大ロボットのようなカードだ。

その名の通り、強力な破壊力を秘めている。

 

「『ジャンク・デストロイヤー』のシンクロ召喚時、チューナー以外に素材にしたモンスターの数まで相手フィールドのカードを破壊する!3体のモンスターを破壊!タイダル・エナジー!」

 

「読んでいたさ!墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、『ホープ』を対象に取るモンスター効果を無効!」

 

「チッ、ターンエンドだ!」

 

白コナミ LP1400

フィールド『ジャンク・デストロイヤー』(攻撃表示)

『補給部隊』

手札0

 

「オレのターン、ドロー!『貴竜の魔術師』を召喚!」

 

貴竜の魔術師 攻撃力700

 

コナミがデュエルディスクに1枚のカードを叩きつけると共に、汚れ1つない純白の法衣を纏う、幼い顔立ちの『魔術師』が現れる。

融合、エクシーズ、シンクロに続き、今度はペンデュラムモンスター。更にこのカードはペンデュラムの特性を持ちながらチューナーでもある。

 

「バトル!光牙で『ジャンク・デストロイヤー』を攻撃!」

 

「墓地の『超電磁タートル』を除外し、バトルを終了!」

 

光牙が鋭い爪で『ジャンク・デストロイヤー』に襲いかかるも、眼前に赤と青の光を放つ円盤状の物体が出現。

クルクルと回転して電磁バリアを発生させ、攻撃を防ぐ。

 

「相変わらずだな……!」

 

「互いにな」

 

「フッ、メインフェイズ2に移り、レベル5の『ジェット・ウォリアー』に、レベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!星海を切り裂く一筋の閃光よ!魂を震わし世界に轟け!シンクロ召喚!『閃光竜スターダスト』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、『貴竜の魔術師』が手に持った音叉を振るうと共に『ジェット・ウォリアー』が5つの星に分裂、貴竜も3つのリングに変化、リングが星と光に撃ち抜かれ、天空に竜の星座を描く。

そして浮き上がり、フィールドに降り立つは星屑纏う純白の竜。まるで天使のような見た目の竜だ。

白コナミのエース、『スターダスト・ドラゴン』に酷似した決闘竜の1体、『スターダスト・ドラゴン』と互換の関係にあるが、汎用性では軍配が上がるだろう。

 

「ターンエンドだ」

 

コナミ LP3100

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『M・HERO光牙』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『アドバンスドロー』!レベル8以上のモンスター、『ジャンク・デストロイヤー』をリリースし、カードを2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→2

 

「面倒なモンスターが揃ったものだ……『ミスティック・パイパー』を召喚!」

 

ミスティック・パイパー 攻撃力0

 

「効果発動!自身をリリースし、ドロー!ドローカードはレベル1モンスター、よって更にドローする!」

 

白コナミ 手札1→2→3

 

「カードを2枚セット、ターンエンド!」

 

白コナミ LP1400

フィールド

『補給部隊』セット2

手札1

 

「防戦一方か?オレのターン、ドロー!バトル!」

 

「バトル前に手札の『エフェクト・ヴェーラー』を捨て、このターン中、光牙の効果を無効に!」

 

「光牙でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『星堕つる地に立つ閃光』!特殊召喚された相手モンスターの直接攻撃宣言時、そのモンスターの攻撃力が俺のLPを上回っている場合、攻撃を無効にし、俺は1枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→1

 

白コナミが光牙の攻撃に反応し、デッキからカードを引き抜くと同時に海面から一筋の閃光が上昇、ギュルリと螺旋回転してフィールドに降り立ち、粒子を散らして竜の影を作り出す。

 

「その後、エクストラデッキから『スターダスト』モンスターを呼ぶ。飛翔せよ!『スターダスト・ドラゴン』!!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

その正体は白コナミが誇るエース、『スターダスト・ドラゴン』。今、『閃光竜スターダスト』と睨み合い、一触即発の空気を醸し出す。

先に動いたのは――『閃光竜スターダスト』だ。

 

「『閃光竜スターダスト』の効果発動!このカードに1ターンに1度の破壊耐性を与える!波動音壁!そして『スターダスト・ドラゴン』を攻撃!流星閃撃!」

 

「永続罠、『ディメンション・ガーディアン』!『スターダスト・ドラゴン』の戦闘、効果破壊を防ぐ!迎え撃て、シューティング・ソニック!」

 

『閃光竜スターダスト』が、『スターダスト・ドラゴン』が、互いに光と風をアギトに集束、増幅させて解き放つ。

鬩ぎ合うブレスは中心で爆発、辺り一面を黒煙で染め上げる。

 

「防いだか……ターンエンド!」

 

コナミ LP3100

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)『M・HERO光牙』(攻撃表示)

セット1

手札3

 

「俺のターン」

 

M・HERO光牙 攻撃力2500→3000

 

「ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!永続罠、『ディメンション・ガーディアン』を墓地に送り、2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札1→3

 

「『金華猫』を召喚!」

 

金華猫 攻撃力400

 

ピョンと白コナミの手札から飛び出し、彼の肩に乗ったのは毛を逆立たせた青い猫。珍しいスピリットと呼ばれるモンスターの1体だ。ターン終了と共に手札に戻る習性を持っている。

 

「召喚時、墓地のレベル1モンスターを特殊召喚する。『スケープ・ゴースト』を蘇生!」

 

スケープ・ゴースト 守備力0

 

「!」

 

『金華猫』がゴロゴロと喉を鳴らし、ペッと何かを吐き出す。その正体は『スケープ・ゴースト』。ヨダレで汚れ、ヌラヌラと光っている。

 

「レベル1の『金華猫』に、レベル1の『スケープ・ゴースト』をチューニング!集いし願いが新たな速度の地平へ誘う。光差す道となれ!シンクロ召喚!希望の力、シンクロチューナー、『フォーミュラ・シンクロン』!」

 

フォーミュラ・シンクロン 守備力1500

 

白コナミの背後に光輝く渦が発生し、中より一筋の光が矢の如くフィールドを駆け抜ける。

その正体はF1カーの姿を模した『シンクロン』カード。シンクロモンスターでありながら、チューナーでもあると言う特異性を持つカードだ。

 

そしてこれで――フィールドにシンクロモンスター、『スターダスト・ドラゴン』とシンクロチューナー、『フォーミュラ・シンクロン』が揃った。

ここから導き出される答えは――シンクロモンスターとシンクロチューナーによる、シンクロの先を行くシンクロ、アクセルシンクロ。

 

「『フォーミュラ・シンクロン』のシンクロ召喚時、カードを1枚ドロー!」

 

白コナミ 手札2→3

 

「レベル8の『スターダスト・ドラゴン』に、レベル2のシンクロチューナー、『フォーミュラ・シンクロン』をチューニング!集いし願いの結晶が新たな進化の扉を開く。光差す道となれ!アクセルシンクロ!」

 

ゴウッ、白コナミのDーホイールが疾風を纏い、段々とその姿がズレ、分身したかのように変化、そして――プツン、と、突如姿が空気に溶けるように消える。

その直後、コナミの背後が陽炎のように揺らめく。

 

「生来せよ、『シューティング・スター・ドラゴン』!!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

その中から弾丸の如く2つの影が飛び出す。

1つは勿論白コナミ。そしてもう1つは――空気抵抗を抑えるべく発達したヘルメットのような頭部と戦闘機を思わせる翼、逞しい四肢を持つ『スターダスト・ドラゴン』の進化体と思われる白亜の竜。

空を翔る流星が、コナミの前に立ち塞がる。

 

「来たか……!」

 

「ここからが本当の勝負と言う事だ!」

 

ガンッ、白コナミとコナミのDーホイールがぶつかり、火花を散らして並走する。荒っぽい運転だ。

白コナミのDーホイールが元の巨体を保っていればコナミの方が弾き飛ばされていただろう。だがもうそうはならない。2人の力は、互角だ。

 

「オレは最初から、そのつもりだっ!」

 

ガンッ、コナミのDーホイールが競り勝ち、白コナミのDーホイールが弾かれる。と、そこで丁度トンネルへ突入、壁を伝い、コナミの真上を走る白コナミ。

見事なテクニック、そのままグルリと回転移動し、コナミより前方を走る。

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!デッキトップから5枚のカードをめくり、その中のチューナーモンスターの数だけ攻撃権を得る!当然……!」

 

ギャンブル性の高い、連続攻撃効果。ちなみに攻撃権を増やす、ではなく得るものなので1枚もチューナーが引き込めなければ攻撃が不可能となってしまうのだ。尤も。

 

「全てチューナーだがな」

 

この男には縁遠い話であるが。白コナミが5枚のカードを引き抜き、扇のように広げて見せつける。

『ニトロ・シンクロン』、『ドリル・シンクロン』、『エフェクト・ヴェーラー』、『ロード・シンクロン』、『幽鬼うさぎ』。彼の言う通り、5枚全てチューナーモンスターだ。

そのまま白コナミはトンネルの前でDーホイールをコナミの眼前に立ち塞がるように横に倒し、背後に存在する『シューティング・スター・ドラゴン』に指示を出す。

 

「バトル!『シューティング・スター・ドラゴン』で『M・HERO光牙』へ攻撃!スターダスト・ミラージュ!」

 

「光牙の効果発動!」

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』!光牙の攻撃力を400アップし、効果を無効にする!」

 

「罠発動、『スキル・サクセサー』!光牙の攻撃力を400アップ!」

 

M・HERO光牙 攻撃力3000→3400→3300

 

「ッ!」

 

『シューティング・スター・ドラゴン』が赤、青、黄とオーラロを思わせる色合いで5体に分裂し、その内の一体が光牙へと来襲。応戦し、相討ちとなる。

 

「『補給部隊』の効果でドロー……!」

 

白コナミ 手札2→3

 

「バトルを終了。手札の『クリボーン』を捨てる事でこのターンに破壊されたモンスター、『シューティング・スター・ドラゴン』を蘇生する……!!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

光牙を道連れにした『シューティング・スター・ドラゴン』が直ぐ様復活し、上空へと飛翔する。とは言え押しているのはコナミ。その証拠に1度とは言え『シューティング・スター・ドラゴン』に土をつけられた白コナミが歯軋りを鳴らしている。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP1400

フィールド『シューティング・スター・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット2

手札0

 

「オレのターン、ドロー!装備魔法、『妖刀竹光』を『希望皇ホープ』に装備!魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→4

 

「『竜脈の魔術師』を召喚!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

コナミが『黄金色の竹光』の効果で引き抜いた2枚の内、1枚をデュエルディスクに叩きつけ、同時にフィールドに魔方陣が出現、中より白い法衣を纏った金髪の青年『魔術師』が登場し、両端に刃がついた剣を振るう。

 

「そして手札を1枚墓地に送り、墓地の『ジェット・シンクロン』の効果発動!このカードを特殊召喚!」

 

ジェット・シンクロン 守備力0

 

「レベル4の『竜脈の魔術師』に、レベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『アクセル・シンクロン』!」

 

アクセル・シンクロン 守備力2100

 

カッ、コナミの真横に1つのリングが出現し、その中を極太の光の柱が通り抜け、1体のモンスターがコナミの目の前を走行する。

紅白のバイク――いや、Dーホイールのタイヤより、手足を生やした『シンクロン』モンスターだ。両の眼を輝かせ、Dーホイールに変形、コナミの隣で並走する。

白コナミが持つ『フォーミュラ・シンクロン』と同じ、シンクロチューナーだ。このモンスターを召喚して来たと言う事は白コナミのアクセルシンクロに対抗するつもりなのだろう。

 

「『アクセル・シンクロン』の効果発動!デッキから『シンクロン』モンスターを墓地に送り、墓地に送ったモンスターのレベル分、このモンスターのレベルを変化させる!オレは『ジャンク・シンクロン』を墓地に送る事で、『アクセル・シンクロン』のレベルを3つダウンする!」

 

アクセル・シンクロン レベル5→2

 

『シンクロン』モンスターを墓地に送りつつ、レベルを変化させる効果。これこそがコナミが持つシンクロチューナーの力だ。白コナミの『フォーミュラ・シンクロン』よりも更にシンクロ向けのカードと言える。

 

「『スターダスト』の効果発動!『希望皇ホープ』に破壊耐性を与える。さぁ、行くぞ!レベル8の『閃光竜スターダスト』に、レベル2の『アクセル・シンクロン』をチューニング!星流れる痕に紡がれる全ての想い……!絆と共にこの世界を満たさん!アクセルシンクロ!」

 

コナミが先程の白コナミのように、風を纏い、猛スピードで駆け抜け、白コナミへと激突しようとしたその時、スウッと空気に溶けてなくなるように消え、疾風が白コナミの頬を撫でる。

一体どこに行ったのか、白コナミが辺りを見渡したその時、彼の真横に黄金の光が輝き、風となって吹き荒れる。

 

「光来せよ!『真閃光竜スターダスト・クロニクル』!」

 

真閃光竜スターダスト・クロニクル 攻撃力3000

 

風の中より現れたのはコナミと姿を変えた『スターダスト』。『シューティング・スター・ドラゴン』と対をなすような眩い黄金の光を放つ竜が降臨した。

 

「面白い……!」

 

ニヤリ、白コナミが獣のような獰猛な笑みを浮かべると共に、互いのDーホイールとアクセルシンクロモンスターが交差するように駆け抜ける。

シンクロ次元においても珍しいアクセルシンクロモンスター。それが敵味方、2人のフィールドに存在し、今正に激突しようとしている。信じられない光景だ。

黄金と白金、高貴な光を放つ2竜が上空に軌跡を描く。どちらもまだ睨み合いの状況。先に動くのは――。

 

「バトル!」

 

コナミだ。

 

「『希望皇ホープ』で、『シューティング・スター・ドラゴン』へ攻撃!ホープ剣・スラッシュ!」

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!相手モンスターの攻撃宣言時、そのモンスターを対象とし、このカードをエンドフェイズまで除外し、対象モンスターの攻撃を無効にする!」

 

現在コナミの墓地には先のターン使われた『スキル・サクセサー』が存在し、その上で『希望皇ホープ』には『スターダスト』に与えられる耐性がある。

このまま放置すれば『シューティング・スター・ドラゴン』が攻撃力3300となった『希望皇ホープ』に一方的に破壊される。そう考えた白コナミは直ぐ様攻撃を無効にし、『シューティング・スター・ドラゴン』を逃がす。

が、同時にこれで白コナミのフィールドががら空きになってしまった。一方のコナミのフィールドには、アクセルシンクロモンスター、『真閃光竜スターダスト・クロニクル』が健在。千載一遇のチャンス。

 

「クロニクルでダイレクトアタック!流星煌閃撃」

 

「させん!罠発動!『パワー・ウォール』!デッキトップから戦闘ダメージが0になるよう、ダメージ500につき1枚カードを墓地に送る!ダメージは3000!よって6枚のカードを墓地へ!」

 

しかし、これも防がれる。白コナミは直ぐ様デッキからカードを引き抜き、空に向かって投げる。6枚のカードは重なってバリアを作り出し、クロニクルの攻撃を何とか逸らす。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、『シューティング・スター・ドラゴン』が帰還する」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

コナミ LP3100

フィールド『真閃光竜スターダスト・クロニクル』(攻撃表示)『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示)

『妖刀竹光』セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→3

 

「魔法カード、『ガルドスの羽根ペン』!墓地の風属性モンスター2体をデッキに戻し、フィールドのカード1枚を手札に戻す。確かそのドラゴンには完全耐性を得る効果があったな。ここはセットカードをバウンスしよう。墓地からは『スターダスト・ドラゴン』と『クイック・シンクロン』を回収!」

 

「チッ!」

 

「そして『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!『ジャンク・シンクロン』、『デブリ・ドラゴン』、『ジャンク・アンカー』、『灰流うらら』、『ニトロ・シンクロン』、5体全てチューナーだ。5回の攻撃権を得、バトル!『シューティング・スター・ドラゴン』で『真閃光竜スターダスト・クロニクル』を攻撃!」

 

「墓地の『仁王立ち』を除外し、『希望皇ホープ』を対象に効果発動!相手はこのターン、対象のモンスターしか攻撃出来ない!」

 

「チッ、ならそいつに攻撃する!」

 

「『ホープ』の効果発動!ORUを1つ取り除き、攻撃を無効にする!ムーンバリア!」

 

『仁王立ち』で攻撃対象を絞った上で『ホープ』が翼を展開、『シューティング・スター・ドラゴン』の眼前に盾として突き出す事で攻撃を防ぐ。

が、余りにも強力な一撃。防いだは良いが、盾には巨大な穴が空き、摩擦熱で黒煙が吹き出しているではないか。こうなっては仕方無い。直ぐ様盾を捨て、もう一方の翼を展開する。が。

 

「第2撃!」

 

「ORUを1つ取り除き、無効!」

 

一瞬の内に破壊、『ホープ』を守るものが全てなくなってしまう。凄まじい一撃だ。だが息つく暇など与えてくれない。

 

「第3撃!」

 

「ORUのない『ホープ』が攻撃対象となった事で、このカードは破壊される。そして墓地に送られた『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチ!」

 

3回目の攻撃が突き刺さろうとしたその時、翼を失った『ホープ』の身体が崩れ、砕け散る。『仁王立ち』の効果を受けた『ホープ』が破壊された事で、同時に『シューティング・スター・ドラゴン』が標的に出来るモンスターがいなくなってしまった。

 

「モンスターとカードをセット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP1400

フィールド『シューティング・スター・ドラゴン』(攻撃表示)セットモンスター

『補給部隊』セット2

手札0

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『アームズ・ホール』!『妖刀竹光』を回収し、クロニクルに装備!魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→4

 

「『手札抹殺』!互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分ドロー!尤もお前の手札は0、ドローするのはオレだけだかな。オレは3枚のカードを捨て、3枚ドロー!『暗黒界の狩人ブラウ』の効果でドロー!」

 

コナミ 手札3→4

 

「オレは『曲芸の魔術師』と『竜穴の魔術師』をセッティング!」

 

コナミがペンデュラムカードをデュエルディスクの両端に叩きつけると同時に、デュエルディスクに虹色の光が灯り、PENDULUMの文字が浮かび上がる。

そして彼の背後に2本の柱が出現。中に錫杖を構える『竜脈の魔術師』の師にあたる『竜穴の魔術師』と、派手な衣装の『魔術師』が現れ、それぞれの得物を天に掲げ、天空に光で線を結び、輝く魔方陣を描き出す。

 

これぞコナミが誇る第4の召喚法。融合、シンクロ、エクシーズに続く、ペンデュラムの力だ。

他のコナミが持たぬ、コナミだけの特別性。

 

「これでレベル3から7のモンスターを同時に召喚可能!揺れろ、光のペンデュラム!虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!『竜脈の魔術師』!『貴竜の魔術師』!」

 

竜脈の魔術師 攻撃力1800

 

貴竜の魔術師 守備力1400

 

そして魔方陣に巨大な孔が開き、中から2つの柱がコナミのフィールドに降り注ぎ、粒子を散らしてモンスターとなる。

『アクセル・シンクロン』の素材となり、エクストラデッキに送られた『竜脈の魔術師』と、自身の効果でデッキに戻り、『手札抹殺』で引き込まれた『貴竜の魔術師』の登場だ。

 

「チューナーと非チューナー……!」

 

「レベル4の『竜脈の魔術師』に、レベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!シンクロ召喚!『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

そしてペンデュラムからシンクロへ。これこそがペンデュラムの真価。展開されたモンスターを使い、更なる召喚法へ昇華させる。ペンデュラムはコナミにとって土台となる戦術なのだ。

これによりズシンと地響きを轟かせ、脚部の爪で力強く大地を抉り砕いて降臨したのは、赤と青、異なる虹彩のオッドアイを輝かせる、炎を思わせる真紅の鱗持つ竜。

流星砕きし『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』だ。

登場した途端、耳をつんざくような咆哮を放つ。

 

「『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』は特殊召喚時、自身の攻撃権を放棄する代償にペンデュラムゾーンのモンスター1体を特殊召喚する!来い、『竜穴の魔術師』!」

 

竜穴の魔術師 守備力2700

 

瞬間、光の柱の中にいた『竜穴の魔術師』がフッ、と姿を消し、『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』の背に飛び乗る。そして自身の手の中の錫杖をクルリと回し、柄を竜の背に突き刺す。

 

「魔法カード、『シンクロ・クリード』!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札0→2

 

「メテオバーストと竜穴でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800

 

更にシンクロからエクシーズへ。『竜穴の魔術師』が『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』に突き刺した錫杖から氷が走り、全身を凍てつかせる。そして中のメテオバーストが氷を粉砕し、新たな姿へ変化する。

蒼銀の氷を鱗と化した二色の眼の竜。『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』だ。

 

「魔法カード、『シンクロキャンセル』!『シューティング・スター・ドラゴン』を選択!」

 

「罠発動、『亜空間物質転送装置』!『シューティング・スター・ドラゴン』をエンドフェイズまで除外!」

 

「バトル!『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』でセットモンスターへ攻撃!この瞬間、アブソリュートのORUを1つ取り除き、効果発動!この攻撃を無効に!続くアブソリュートの効果で、手札、墓地から『オッドアイズ』モンスター1体を特殊召喚する!来い、『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

アブソリュートが氷の結晶を模した盾を作り出し、その中から結晶を砕き、再びメテオバーストが現れ、2体の『オッドアイズ』がフィールドに並び、3体のドラゴンが揃う。

 

「メテオバーストでセットモンスターへ攻撃!」

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

白コナミ 手札0→1

 

「クロニクルでダイレクトアタック!」

 

「罠発動、『リジェクト・リボーン』!相手モンスターの直接攻撃宣言時、バトルを終了させ、墓地のシンクロモンスターとチューナーモンスターを効果を無効にし、蘇生する!来い、『ジャンク・ガードナー』!『フォーミュラ・シンクロン』!」

 

ジャンク・ガードナー 守備力2600

 

フォーミュラ・シンクロン 守備力1500

 

バトルフェイズこと終了する最上級の防御に加え、2体のモンスターを蘇生する効果。これで白コナミのフィールドに更なるシンクロ召喚の為の布石が揃った。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』を帰還」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

コナミ LP3100

フィールド『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』(攻撃表示)『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』(攻撃表示)『真閃光竜スターダスト・クロニクル』(攻撃表示)

『妖刀竹光』セット1

Pゾーン『曲芸の魔術師』

手札0

 

コナミのフィールドには強力なドラゴンが3体、対するコナミのフィールドにも3体のシンクロモンスター。内2体の効果は無効になっているとは言え、『シューティング・スター・ドラゴン』が存在する。

コナミのモンスターはどれもこのモンスターの攻撃力には届かず、その上このモンスターは毎ターンの如く5回の攻撃を仕掛けてくる。恐らく次のターンも成功してくるだろう。

つまりコナミはこの『シューティング・スター・ドラゴン』の5回攻撃を防がなければ勝機はない。

現状コナミと白コナミの戦況は互角に等しい。ここからペースを握るのはどちらになるか。

 

「さぁ、どこからでもかかって来い!」

 

堂々と、雄々しく啖呵を切り、白コナミを迎え撃つコナミ。そんなコナミに対し、白コナミはフッ、と笑みを溢し、ふつふつと熱き闘争心を燃やす。

シティ中を駆け巡る、熱戦、ライディングデュエルは更なる速度に突入し、2人は更なる高みへ突き進む。

 

「面白い……!」

 

新たな力を手にし、自身を相手に果敢に攻め立てるコナミを見て、白コナミはデッキよりカードを引き抜く。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

勝者はどちらか。



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第195話 進化の光

壱時砲固定式のテキストを見た勝鬨君の反応

勝鬨「……?……!?!?!?」

この小説内では絶対使わないカードですねきっと。




シティ湾岸エリア、騒動によって半壊したレーンでは、フレンドシップカップが終わりを告げた今でも激しいデュエルが繰り広げられていた。

 

1人はコナミ。フレンドシップカップ、白コナミとの対決で敗北し、吸収されていた少年だ。

尤も、今は遊矢が白コナミに勝利したショックか、こうして復活し、もう1人のデュエリスト、白コナミとの3度目の決戦に臨んでいる。

敵は強大、しかしコナミも新たな力を手にし、白コナミと互角にまでなった。勝負は決して分からない。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『打ち出の小槌』。そしてレベル6の『ジャンク・ガードナー』に、レベル2の『フォーミラ・シンクロン』をチューニング!集いし願いが新たに輝く星となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

ターンは白コナミ。彼は自ら引き抜いたカードを一瞥した後、自らのエースモンスターである『スターダスト・ドラゴン』を呼ぶ。

これで彼のフィールドには進化前の『スターダスト・ドラゴン』と進化後の『シューティング・スター・ドラゴン』が揃う事になった。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→2

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!当然、全てチューナーだ!」

 

白コナミがニヤリとした笑みと共に、5枚のカードを引き抜き、コナミに見せつける。

『ロード・シンクロン』、『幽鬼うさぎ』、『ジャンク・シンクロン』、『クイック・シンクロン』、『灰流うらら』。確かに全てチューナーモンスターだ。まぁここまで来れば当然だろう。むしろ外れる方が驚きの域に達している。

 

「『シンクロン・エクスプローラー』を召喚!」

 

シンクロン・エクスプローラー 攻撃力0

 

白コナミが次なるモンスターを呼び出す為、カードを叩きつけ、現れたのは胸部に穴が開いた赤いボディのロボットだ。

『シンクロン』モンスターはその名の通り、ほとんどがシンクロ召喚の為のチューナーであるが、このモンスターは珍しく非チューナーだ。たが当然、『シンクロン』の名を持っているだけあり、シンクロ召喚を手助けする効果を有している。

 

「召喚時、墓地の『クイック・シンクロン』を効果を無効にし、蘇生する!来い、『クイック・シンクロン』!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

『シンクロン・エクスプローラー』の胸部の穴からテンガロンハットを被り、マントを翻したガンマン人形が飛び出す。万能『シンクロン』チューナー、『クイック・シンクロン』。

白コナミのデッキにとって必須級のカードだ。

 

「レベル2の『シンクロン・エクスプローラー』に、レベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし怒りが忘我の戦士に鬼神を宿す。光差す道となれ!シンクロ召喚!吠えろ、『ジャンク・バーサーカー』!」

 

ジャンク・バーサーカー 攻撃力2700

 

フッ、とコナミの真上に影が差し、見上げた先には昇ったばかりの太陽とその中に浮かび上がる黒き影、気を取られる中でも猛スピードで急降下。

ズシンッと大地に轟音を鳴らし、その全貌を見せる。深紅に染まった全身鎧を装備し、黒き翼を広げ、巨大な戦斧を振り回す狂戦士。コナミの眼前に立ち塞がる。コナミは舌打ちを鳴らし、その場で急ブレーキ。フルスロットルで再発進し、白コナミの背を追う。

 

「『ジャンク・バーサーカー』の効果発動。墓地の『ジャンク』モンスター1体を除外し、その攻撃力分、相手モンスター1体の攻撃力をダウンする。『ジャンク・ジャイアント』を除外し、『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』の攻撃力を2000ダウン!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500→500

 

「『ジャンク・バーサーカー』がまるで爆発したかのような怒号を放ち、空気中を震撼させ、『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』が存在する地点に凄まじい重力を発生させる。ゴシャッ、メテオバーストが地に倒れ伏し、地面が陥没する。

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』でメテオバーストへ攻撃!」

 

コナミ LP3100→300

 

「くたばれ、『シューティング・スター・ドラゴン』で『真閃光竜スターダスト・クロニクル』へ攻撃!」

 

「くたばるのは貴様だ!罠発動、『迷い風』!特殊召喚された表側表示のモンスター1体の効果を無効にし、攻撃力を半分にする!」

 

「何ッ!?」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300→1650

 

白コナミ LP1400→50

 

「ぐうぅぅぅぅっ!?」

 

5回の攻撃権を得た『シューティング・スター・ドラゴン』が異なる次元の自身を撃ち貫こうとしたその時、『真閃光竜スターダスト・クロニクル』が突如発光、閃光纏う風で『シューティング・スター・ドラゴン』の目を眩ませ、超光速の流星となって逆に撃ち貫く。

一気に大ダメージを与え、白コナミのLPは残り50、少し押せば倒れる数値まで削った。まさかこんなものを温存していたとは。

 

「小細工を……!『補給部隊』の効果でドロー!」

 

白コナミ 手札1→2

 

たった1つのミスで、自らのエースに加え、LPを失う結果となった。その怒りはどれ程のものか。

白コナミは歯軋りを鳴らし、コナミを睨み付ける。アクセルシンクロモンスター同士の対決で競り負けた。自身が最も得意とする場で負ける。

他の融合、エクシーズ、ペンデュラムならば良い。だが――シンクロを極めた彼が、シンクロで負ける事は許されない。

 

「半端者が、調子に乗ってくれる……!カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

白コナミ LP50

フィールド『スターダスト・ドラゴン』(攻撃表示)『ジャンク・バーサーカー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札1

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満な壺』!エクストラデッキから3枚のカードを除外し、ドロー!」

 

コナミ 手札0→1

 

「バトル!」

 

「罠発動、『威嚇する咆哮』!このターン、相手は攻撃宣言が出来ない!」

 

「相変わらずだな……!」

 

相変わらず逆境に立つと、後一撃入れればと言う場面でその一撃を通す事を許さない。

LPも、モンスターも、コナミが勝っている。だがそれでも油断出来ない。ここで油断すれば全てが終わる。

優勢に見えて、その実綱渡りだ。一瞬でも緊張を解けない。

 

「……」

 

だがそれは、白コナミも同じ。

 

「ターンエンドだ」

 

コナミ LP300

フィールド『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』(攻撃表示)『真閃光竜スターダスト・クロニクル』(攻撃表示)

『妖刀竹光』

Pゾーン『曲芸の魔術師』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

「召喚時、墓地の『ダークシー・レスキュー』を特殊召喚!」

 

ダークシー・レスキュー 守備力0

 

『ジャンク・シンクロン』の効果で呼び出されたのは既に死体と見られる人と乗せた救命ボート。

シンクロ素材となった際、カードを1枚ドローする手札補充効果を有したモンスターだ。この効果を持ち、似たステータスの『チューニング・サポーター』と言うカードも白コナミは積んでおり、あちらはレベルを変化出来る為、下位互換にも見れるが、このカードが闇属性、攻守0、『悪夢再び』等のサポートを受けられる為、一概にはそうは言えない。白コナミは激しい手札消費を克服する為、どちらも投入している。

 

「速攻魔法、『地獄の暴走召喚』!相手フィールドに表側表示のモンスターが存在し、俺のフィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体のみが特殊召喚された時、その特殊召喚されたモンスターの同名カードを手札、デッキ、墓地より可能な限り特殊召喚し、相手は自身のモンスター1体を選び、そのモンスターの同名カードを手札、デッキ、墓地より特殊召喚する。2体の『ダークシー・レスキュー』を特殊召喚!」

 

ダークシー・レスキュー 攻撃力0×2

 

「お前も特殊召喚出来るが……」

 

「オレのフィールドにいるのがエクストラデッキから特殊召喚されたモンスター、墓地にいない限り、特殊召喚は出来ない」

 

「それに見る限り、お前も俺と同じエクストラデッキのモンスターは全てピン差しのタイプだろう。ハナから呼び出せやしないさ。俺はレベル1の『ダークシー・レスキュー』3体に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『ジャンク・ガードナー』!」

 

ジャンク・ガードナー 守備力2600

 

ここは『アームズ・エイド』でも構わないが、そうすると1体の『ダークシー・レスキュー』が剥き出しの状態になってしまう。このターンで決められなかった時の為、手札の補充と防御手段は持っておきたい。

 

「シンクロ素材となった『ダークシー・レスキュー』の効果により、カードをドロー。3体の『ダークシー・レスキュー』が素材になった為、3枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→3

 

「お前のフィールドにエクストラデッキからモンスターが特殊召喚された事で、墓地の『迷い風』をセットする」

 

「『ジャンク・バーサーカー』の効果発動!墓地の『ジャンク・シンクロン』を除外し、『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』の攻撃力を1300ダウン!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 攻撃力2800→1500

 

コナミのLPは僅か300、つまり『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』を攻撃され、ダメージを与えられた時点で敗北するラインまでダウンさせられたと言う訳だ。絶体絶命――。

 

「『ジャンク・ガードナー』の効果発動!『真閃光竜スターダスト・クロニクル』を守備表示に変更する!」

 

「クロニクルの効果発動!墓地のシンクロモンスター1体を除外し、このカードにターン終了まで完全耐性を与える!オレは『閃光竜スターダスト』を除外!」

 

「構わん、バトルに入る!『ジャンク・バーサーカー』で『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』へ攻撃!」

 

「『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』のORUを1つ取り除き、効果発動!攻撃を無効にし、墓地から『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』を蘇生する!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

「だがこれはどうかな?『スターダスト・ドラゴン』で『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』へ攻撃!」

 

『スターダスト』が大気を吸い込み、アギトに集束、一気に解き放ち、地に叩き伏せられた氷の竜へ攻撃する。

迫る光の嵐、これを受ければコナミの敗北。ただの敗北ではない。3度目の敗北だ。そこまで来ればもう何をやっても勝てないと言う意識が刻み込まれる。

次は2度と蘇る事は出来なくなるだろう。それだけは――嫌だ。

 

「手札の『虹クリボー』の効果発動!相手モンスターの攻撃宣言時、その攻撃モンスターにこのカードを装備する!」

 

「ッ!」

 

そんな彼の想いに応え、虹色の角を持つ珍妙な生物が登場、風船のように身体を膨らませ、『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』を守る。

白コナミもしぶといが、それはコナミにも当てはまる。何故なら2人は同じ存在なのだから。

 

「装備モンスターは攻撃が出来なくなる……!」

 

「やってくれる。俺は先程引いた3枚のカードを全てセット!ターンエンド!」

 

白コナミ LP50

フィールド『スターダスト・ドラゴン』(攻撃表示)『ジャンク・ガードナー』(守備表示)『ジャンク・バーサーカー』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

手札0

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札0→2

 

「飛ばしていくぞ。手札を1枚捨て、魔法カード、『一撃必殺!居合いドロー』を発動!」

 

「3枚目だと……?」

 

ここに来て発動したのは最初のターンに使われ、見事ペースを握る切欠となったコナミの新たな切り札。

だが白コナミが訝しむ通り、3枚目に発動されるこのカードはその真価を発揮する事は出来ない。このカードは2枚以上あってこそのカードなのだ。

コナミは絶対に外れる博打を打っているようなもの。そんなものに、何の意味があると言うのか。

 

「ハズレのポケットティッシュにも価値があるのさ。相手フィールドのカードの数だけ、オレのデッキトップからカードを墓地に送る」

 

「っ、俺は罠カード、『シンクロ・バリアー』を発動!『ジャンク・バーサーカー』をリリースし、次のターン終了まで俺が受けるダメージを0に!」

 

「お前のフィールドのカードは7枚!7枚墓地に送り、その後、1枚ドロー!」

 

コナミ 手札0→1

 

「当然、当たりではない。だが『一撃必殺!居合いドロー』がハズレた時の効果もオレにとって、相当美味い。この効果で墓地に送った枚数だけ、墓地のカードを選んでデッキに戻す!」

 

「?それに何の意味が……あ、る……まさ、か!?」

 

「気づいたか。そう、この効果でデッキに戻すカードは必ずしも墓地へ送ったカードではない!」

 

実質墓地のカード枚数は変わらない。だがこの効果のミソはコナミの言う通り、この効果で墓地に送ったカードの数だけ墓地のカードを選んでデッキに戻すと言う所にある。

つまりは、墓地に送った、新たにメリットを持つカードはそのままに。再利用したいカードはデッキに戻せる、と言う事だ。墓地肥やしと回収。コナミの戦術に、これ以上なく相性が良い。

 

「7枚のカードをデッキに戻す。当然、2枚の『一撃必殺!居合いドロー』を含んでな」

 

これで再び居合いドローが可能になった。更にコナミの墓地には新たな7枚のカード。墓地は第2の手札と言われる事もある。その考えに則ればコナミは7枚の手札を得た事になる。

 

「墓地に送られた『絶対王バック・ジャック』の効果発動。デッキトップより3枚のカードを確認し、操作する。バトル!クロニクルで『スターダスト・ドラゴン』へ攻撃!」

 

「『補給部隊』の効果で1枚ドローだ!」

 

白コナミ 手札0→1

 

「『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』で『ジャンク・ガードナー』へ攻撃!墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、攻撃力を800アップ!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500→3300

 

これで白コナミのモンスターは全滅。一方のコナミは3体のドラゴンが残る事になった。

 

「メインフェイズ2、『ADチェンジャー』を墓地から除外し、クロニクルを守備表示に。アブソリュートを守備表示に変更、ターンエンドだ」

 

「罠発動、『強欲な瓶』!カードを1枚ドローする」

 

白コナミ 手札1→2

 

コナミ LP300

フィールド『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』(攻撃表示)『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』(守備表示)『真閃光竜スターダスト・クロニクル』(守備表示)

『妖刀竹光』セット1

Pゾーン『曲芸の魔術師』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!俺は『カードガンナー』を召喚!」

 

カードガンナー 攻撃力400

 

「魔法カード、『機械複製術』!攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選択し、その同名モンスター2体をデッキから特殊召喚する!」

 

カードガンナー 攻撃力400×2

 

白コナミのフィールドに、ガラスの頭部の奥からサーチライトの眼を輝かせ、赤い上半身と両腕の砲身、下半身は青いキャタピラとなった玩具モンスターが登場。3体並ぶ。とんでない爆発力、これだから侮れない。

 

「3体の『カードガンナー』の効果発動!デッキトップから3枚墓地に送り、送った枚数分攻撃力を500アップする!」

 

カードガンナー 攻撃力400→1900×3

 

一気に9枚ものカードを墓地へ。コナミの『一撃必殺!居合いドロー』を凌ぐ強力な墓地肥やしが炸裂する。

しかも『カードガンナー』の墓地肥やしは効果ではなく、あくまでコスト。無効に出来るのは攻撃力アップでしかない。白コナミの本命は当然墓地肥やしなので、そちらを無効に出来ねば意味はない。

 

「更に罠発動、『ハイレート・ドロー』!」

 

「ッ!」

 

そしてここで発動されたのは、白コナミにとって超強力。コナミにとっては最悪と言えるカード。その効果は――。

 

「俺のフィールドのモンスターを全て破壊し、破壊された機械族モンスター1体につき、1枚ドローする!」

 

モンスター、機械族を手札に変換する効果。5体の機械族が揃っていれば5枚のドローとなる訳だ。

白コナミが破壊した数は3体。よって3枚のドローになるのだが――たった3枚だけならば、コナミがこうも苦い表情を浮かべる訳がない。

 

「そして『カードガンナー』は破壊された場合、1枚ドローする。破壊された『カードガンナー』は3体。ああ、『補給部隊』もあったな。さて、この意味が分かるか?」

 

「7枚のドローか……!」

 

『ハイレート・ドロー』の効果で3枚、『カードガンナー』の効果で2倍の6枚、更に『補給部隊』でおまけのドローを行い7枚のドロー。コナミが『一撃必殺!居合いドロー』で墓地と言う7枚の手札を手にしたと言うなら、こちらも手にしよう。本来の手札を。

1度に9枚の墓地肥やしと7枚のドロー。とんでもないスーパープレイングだ。

 

白コナミ 手札1→8

 

「さぁ、お楽しみはこれからだ……!」

 

「……!」

 

「相手フィールドにレベル5以上のモンスターが存在する事で、手札の『ジャンク・ジャイアント』を特殊召喚!」

 

ジャンク・ジャイアント 攻撃力2000

 

ズズン、激しい土煙を上ゲ、地面の中から1体のモンスターが姿を見せる。青く輝く球状のボディに手足を伸ばした機械人形。肩からはドリルが装備されており、その巨大な姿からは力強さが感じられる。

とは言え当然この程度のモンスターでコナミのフィールドのモンスターを倒せる筈もない。強固なバックがついているなら尚更だ。

 

「魔法カード、『二重召喚』。俺は再び召喚権を得る。『ライティ・ドライバー』を召喚」

 

ライティ・ドライバー 攻撃力100

 

その為の準備を整える。白コナミが手札から呼び出したのは青いロングヘアーを靡かせた小型のロボット。右肩にはドライバーを装着している。

レベル1のチューナーモンスター。『ジャンク・ジャイアント』と合わせればレベルは7となる。

 

「『ライティ・ドライバー』の召喚時、俺は手札、デッキ、墓地より『レフティ・ドライバー』を特殊召喚する。デッキから『レフティ・ドライバー』を特殊召喚!」

 

レフティ・ドライバー 攻撃力300

 

今度は黄色い髪を団子に纏め、左肩にドライバーを装着したモンスター。『ライティ・ドライバー』の相方、姉妹機にあたる機械族のモンスターだ。

 

「『レフティ・ドライバー』の特殊召喚時、このカードのレベルを3に変更!」

 

レフティ・ドライバー レベル2→3

 

「魔法カード、『波動共鳴』を発動。ターン終了まで『ジャンク・ジャイアント』のレベルを4に変更する!」

 

ジャンク・ジャイアント レベル6→4

 

レベル調節を繰り返し、これでフィールド上のモンスターの合計レベルは8となった。『スターダスト・ドラゴン』は墓地に送られている。とすれば他のレベル8は『ロード・ウォリアー』と『ジャンク・デストロイヤー』の2体。だがこの2体には専用の『シンクロン』モンスターが必要となる筈だ。

 

「『ライティ・ドライバー』は『シンクロン』チューナーの代用となれる」

 

「そう言う事か……!」

 

「レベル3の『レフティ・ドライバー』と、レベル4の『ジャンク・ジャイアント』に、レベル1の『ライティ・ドライバー』をチューニング!シンクロ召喚!『ジャンク・デストロイヤー』!」

 

ジャンク・デストロイヤー 攻撃力2600

 

再びフィールドに降り立つ、機械の破壊神。強力な破壊効果を有するこのカードは白コナミの戦力であり、コナミにとって厄介なカードだ。

だが現在コナミのフィールドにはモンスターの攻撃力を半減し、効果を無効にする『迷い風』がセットされている。いくら『ジャンク・デストロイヤー』と言えども突破は出来ない。

 

「『ジャンク・デストロイヤー』の効果発動!」

 

「罠発動、『迷い風』!……出来、ない……!?」

 

筈であった。

 

「消えてもらおう、『迷い風』、『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』!」

 

『ジャンク・デストロイヤー』によって、コナミの盾が砕け散る。だが一体何故『迷い風』が発動出来なかったのか。

デュエルディスクの故障か、それとも白コナミが何か仕掛けたのか。

 

「『ジャンク・ジャイアント』を素材としたシンクロ召喚は無効に出来ず、そのシンクロ召喚時に相手モンスター、魔法、罠の効果を発動出来ない」

 

「成程な……だが『曲芸の魔術師』のペンデュラム効果でこのカードを特殊召喚!」

 

曲芸の魔術師 守備力2300

 

『ジャンク・デストロイヤー』の効果を確実に通す為、とんでもない手を使って来た。『オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン』の効果も『強欲で金満な壺』によって『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』が除外されている以上使えない。

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!レベル8以上の『ジャンク・デストロイヤー』をリリースし、2枚のカードをドローする!」

 

白コナミ 手札3→5

 

「魔法カード、『星屑のきらめき』!墓地の『サンダー・ドラゴン』2体を除外し、合計レベルとなるドラゴン族シンクロモンスターを蘇生する!合計レベルは10!来い、『シューティング・スター・ドラゴン』!!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

更にエース、『シューティング・スター・ドラゴン』が浮上、逞しい体躯に纏った星屑をフィールド中に散らし、圧倒的な存在感を放つ。

先程のアクセルシンクロモンスター対決では遅れを取ったが、何もなければ攻撃力で勝る『シューティング・スター・ドラゴン』に『真閃光竜スターダスト・クロニクル』は勝てない。

 

「チッ……!」

 

「第2幕の始まりだ。『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!」

 

形勢逆転。白コナミがデッキから5枚のカードを引き抜き、天に掲げる。『ジャンク・シンクロン』、『ニトロ・シンクロン』、『ターボ・シンクロン』、『ロード・シンクロン』、『ドリル・シンクロン』。脅威の5回攻撃がコナミを襲う。

 

「バトル!」

 

「墓地のバック・ジャックを除外し、デッキトップの罠をセット!」

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』で『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』へ攻撃!」

 

「罠発動『マジカルシルクハット』!メテオバーストを守る!」

 

「手はいくらでもある。クロニクルを撃ち抜け!」

 

「『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』をサーチし、クロニクルが相手によって破壊された事で、オレは除外されているドラゴン族シンクロモンスター、『閃光竜スターダスト』を蘇生する!」

 

閃光竜スターダスト 守備力2000

 

襲来する流星を前にして、砕かれたクロニクルが宙を舞う。

が、コナミも転んでもただでは起きない。クロニクルのひび割れた鱗の隙間から、眩い金色の光が漏れ、黄金の鎧を捨て去り、中より1体のドラゴンが天へ飛び立つ。

 

「速攻魔法、『グリード・グラード』!」

 

白コナミ 手札3→5

 

「『スターダスト』を攻撃!」

 

「『スターダスト』の効果発動!このカードを破壊から守る!」

 

「だがこちらの攻撃はまだ残っている!『スターダスト』と2枚のシルクハットを破壊!」

 

「ッ、メテオバーストまで……!」

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』!手札を交換、魔法カード、『シールド・クラッシュ』。曲芸を破壊し、カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP50

フィールド『シューティング・スター・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

手札0

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『打ち出の小槌』。魔法カード、『カップ・オブ・エース』!当たりだ!」

 

コナミ 手札1→3

 

「魔法カード、『復活の福音』!墓地の『スターダスト』を蘇生する!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

「耐性を与え、『閃光竜スターダスト』で『シューティング・スター・ドラゴン』へ攻撃!」

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!その攻撃を無効に――」

 

「させる訳がないだろう。墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、『シューティング・スター・ドラゴン』の効果を無効、そして墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、攻撃力を800アップ!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500→3300

 

『スターダスト』が翼を広げ、天高く飛翔、螺旋回転して降下し、流星の如く『シューティング・スター・ドラゴン』を撃ち抜く。ただのシンクロモンスターでアクセルシンクロモンスターを倒す見事な戦術を見せつけた。当然、カード消費は多いが。

 

「『補給部隊』の効果でドロー!」

 

「速攻魔法、『グリード・グラード』!」

 

コナミ 手札1→3

 

白コナミ 手札0→1

 

「カードを3枚セット、ターンエンドだ」

 

コナミ LP300

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

「俺のターン、ドロー!罠発動、『強欲な瓶』!『貪欲な瓶』!前者で1枚ドロー!後者で墓地のカードを5枚回収し、1枚ドロー!」

 

白コナミ 手札2→3→4

 

「魔法カード、『手札抹殺』!手札を捨て、捨てた枚数分ドロー!更に墓地の『レフティ・ドライバー』の効果発動!このカードを除外し、デッキから『ライティ・ドライバー』を手札に加える。そして召喚!」

 

ライティ・ドライバー 攻撃力100

 

「効果発動だ。『レフティ・ドライバー』を呼ぶ!」

 

レフティ・ドライバー 守備力100

 

「レベルを変更」

 

レフティ・ドライバー レベル2→3

 

「まだだ、『ジェスター・コンフィ』を特殊召喚!」

 

ジェスター・コンフィ 攻撃力0

 

次々とモンスターを展開。恐るべき展開速度。コナミはこの光景を見て、何かに気付く。

 

「まさか……オレは罠カード、『魔獣の大餌』を発動!エクストラデッキの竜脈を除外し、相手のエクストラデッキのカードをターン終了まで1枚除外!」

 

「レベル1の『ジェスター・コンフィ』に、レベル1の『ライティ・ドライバー』をチューニング!シンクロ召喚!『フォーミュラ・シンクロン』!」

 

フォーミュラ・シンクロン 守備力1500

 

「シンクロ召喚時、1枚ドロー!」

 

白コナミ 手札2→3

 

「オレも墓地の『迷い風』をセットする」

 

「永続罠、『エンジェル・リフト』!墓地のレベル2以下のモンスター、『ライティ・ドライバー』を攻撃表示で蘇生!更にチェーンして罠発動、『ロスト・スター・ディセント』!墓地のシンクロモンスター、『ジャンク・バーサーカー』の守備力を0にし、レベルを1つ下げて守備表示で蘇生!」

 

ジャンク・バーサーカー 守備力1800→0 レベル7→6

 

ライティ・ドライバー 攻撃力100

 

「魔法カード、『シンクロ・クリード』!2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札2→4

 

「レベル3の『レフティ・ドライバー』に、レベル1の『ライティ・ドライバー』をチューニング!シンクロ召喚!『アームズ・エイド』!」

 

アームズ・エイド 攻撃力1800

 

これにて、準備は整った。

 

「さぁ、行くぞ……!俺はレベル4の『アームズ・エイド』と、レベル6の『ジャンク・バーサーカー』に、レベル2の『フォーミュラ・シンクロン』をチューニング!集いし星が1つになる時、新たな絆が未来を照らす!光差す道となれ!デルタアクセルシンクロ!」

 

シンクロモンスターとシンクロチューナーを使ったシンクロがシンクロの先、アクセルシンクロ。そしてこれは、そのアクセルシンクロを超える、シンクロモンスター2体とシンクロチューナーによる更なる奥義。デルタアクセルシンクロ。白コナミはこれを狙っていたのだ。

 

「ここで来るか……!」

 

白コナミを赤いオーラが包み込み、加速するごとに空気で作られたリングが発生していく。そして――クリアマインド同様、トップクリアマインドの域に達した白コナミはその姿を消失、瞬間、コナミの背後が黄金に輝く。

 

「進化の光、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』ッ!!」

 

シューティング・クェーサー・ドラゴン 攻撃力4000

 

コナミを追い抜き、黄金の光を放つ白コナミが、新たなモンスターを引き連れて帰還する。

そのモンスターは彼が誇る最強最大の切り札。恒星の如き光を纏う神々しき竜。まるで光を具現化させたような鋭角な角や肩、翼を広げた純白の竜。

『シューティング・クェーサー・ドラゴン』。かつて英雄が人々の未来を切り開く為、仲間達の絆で呼んだモンスターが、フィールドで雄々しく咆哮する。

 

「『シューティング・クェーサー・ドラゴン』……!」

 

圧倒的な存在感を放つ巨体を前に、コナミがゴクリと息を呑む。白コナミとの2戦目で登場し、コナミを苦戦させたモンスターの1体。あの時は何とか倒したとは言え、それでもコナミにとって手に余る強敵には変わらない。

 

「『シューティング・クェーサー・ドラゴン』はチューナー以外に素材としたモンスターの数まで攻撃権を得る。本来は5体からなるリミットオーバーアクセルシンクロモンスターだが、今回俺が素材としたのは3体。その内チューナー以外は2体だ。よって2回の攻撃権を持つ。バトルだ!」

 

「罠発動、『マジカルシルクハット』!」

 

「『シューティング・クェーサー・ドラゴン』の効果発動!1ターンに1度、モンスター、魔法、罠の効果発動を無効にし、破壊!」

 

「ぐぅっ!?」

 

「やれ、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』で『スターダスト』へ攻撃!天地創造撃ザ・クリエーションバーストッ!!」

 

『シューティング・クェーサー・ドラゴン』の周囲に2つの星が回転し、巨大な掌の中に握り潰され、神々しき光を放つ。そして腕を振りかぶり、極太の光線としてコナミに向かって撃ち出す。迫る凶撃、これを食らえばコナミは終わる。何としてでも防がねば次のターンは来ない。

 

「罠発動、『パワー・ウォール』!オレが受ける戦闘ダメージ500につき、デッキトップからカードを1枚墓地に送り、ダメージを0にする!受けるダメージは1500!よって3枚のカードを墓地に!そして墓地に送られたバック・ジャックの効果でデッキトップを操作、除外してデッキトップをめくり、それが罠ならセットする!」

 

「良くかわしたものだ。だが……2回目はどうかな?やれ、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』!」

 

更なる攻撃。もう1度『シューティング・クェーサー・ドラゴン』の掌から光が撃ち出される。だがこの攻撃に対する策なら既にコナミの墓地に送られている。

 

「この瞬間、墓地より『虹クリボー』を蘇生する!」

 

虹クリボー 守備力100

 

「ならば『虹クリボー』へ攻撃!カードを3枚セット、ターンエンドだ!」

 

「『魔獣の大餌』で除外された相手のカードはエクストラデッキに戻る」

 

白コナミ LP50

フィールド『シューティング・クェーサー・ドラゴン』(攻撃表示)

『補給部隊』セット3

手札1

 

立ち塞がる最強のシンクロモンスター、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』。最大の脅威を前に、コナミは全ての力を引き出し、立ち向かう。ここからが本当の勝負。




後2話でシンクロ次元完結となります。


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第196話 Clear Mind

ウルトラマンゼットのゼット語がちん◯ん亭語録に汚染されてたら、みたいな作品を作りたいんですが言語パターンが難解過ぎて作れないんですよね……。



遊矢は駆ける。治安維持局のビルの中を、いてもたってもいられずDーホイールのまま突入し、猛スピードで走り抜ける。

全ての闘いに決着をつけ、漸く彼女に会えるから。誰よりも何よりも守りたかった大切な人を求めて。

失うまで自分がこんなにも彼女の事を想っていただなんて思わなかった。ただ昔から一緒にいた幼馴染みで、気の置けない友人の1人だと思っていた。

 

それが決定的に変わったのはスタンダード次元、舞網チャンピオンシップで彼女を失った時。大きな喪失感が胸を襲い、モヤモヤとした気持ちが生まれた。

 

その想いの正体が分かったのは何時だろう、間違いなくあの時。

ユーゴとデュエルした時、彼とリンの想いに触れた時だ。

彼の男らしい真っ直ぐな想いを見て、自分もそうなのだと確信した。

 

だから――伝えよう、彼女と会った時、ユーゴのようにじゃなく、自分らしく。

もう2度と彼女を手放さないように。

そうして彼は、如何にも厳重な扉に辿り着く。

 

「遊矢!」

 

その前にいたのは権現坂、素良、セレナ、アリト、ユート、リン、瑠璃、万丈目、ジルの姿。どうやら近くにいたのが彼等だったらしい。

遊矢は何やら扉前のセキュリティと悪戦苦闘する素良と視線を交わす。

 

「遊矢……僕は……」

 

「お前は後!」

 

「ええ……?で、でも取り敢えずこのセキュリティを何とかしないと……」

 

「んなもん……知ぃるぅかぁぁぁぁぁっ!!」

 

「うっそぉぉぉぉぉっ!?」

 

ドガァッ、素良の注意を聞き流し、その場でDーホイールのアクセル全開、猛スピードで加速し、無理矢理に扉をぶち破る。

何故敵の出したルールに乗らねばならんのだと言わんばかりの強行突破。今の遊矢を止められる者は何もない。

ドン引きする一堂の中で、権現坂と素良、リンの3人が何かを察して表情を浮かべる。

 

「全く……漸くか、やきもきさせられる」

 

そんな権現坂の呟きに、素良がクスリと笑みを溢して頷く中で――遊矢は視線の先で、ずっと求めていた少女の姿を見つけ、輝くような笑みとなる。

 

「柚子ぅぅぅぅぅっ!!」

 

「遊矢っ!」

 

この想いを、届かせる。

 

――――――

 

「オレのターン、ドロー!」

 

シンクロ次元、シティの湾岸エリアにて。コナミと白コナミ、記録に残さぬライディングデュエルが今、佳境を迎えていた。

 

現在優勢なのは――白コナミ。彼のフィールドには最強のシンクロモンスター、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』が堂々たる存在感を放っている。

この光を纏う純白の竜は本来リミットオーバーアクセルシンクロモンスターと言うシンクロの頂点に座すカードであるが、今は1つ下のデルタアクセルシンクロモンスターへスペックダウンしている。

にも関わらず、その力は未だ強大にして絶大。

 

それに加え、このモンスターを操る白コナミも最速のDーホイーラーに相応しい力を有している。

成長し、進化したコナミのデュエルにも互角以上に渡り合っているのだ。規格外の一言に尽きる。

 

対するコナミのモンスターは0。先のターン、『閃光竜スターダスト』を残す事も出来たのだが、その手を取れば敗北が確実になってしまう事が原因だ。

だが、コナミの手はまだ残っている。

 

「スタンバイフェイズ、1ターン前に墓地に送られた『アークブレイブドラゴン』の効果発動。このカード以外のレベル7か8のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する。来い、『閃光竜スターダスト』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

「『パワー・ウォール』の時か」

 

コナミの背後にペンデュラムが出現し、1度揺れ動いた後、ペンデュラムの水晶から『スターダスト』が復活する。

時間を飛び越える振り子の軌跡。これがコナミの得たペンデュラムならざるアークだ。

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!『スターダスト』をリリースし、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札0→2

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、セットカードをデッキに戻してドロー!」

 

コナミ 手札2→3

 

「今度は手札からだ。魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地の『アクセル・シンクロン』を効果を無効にして特殊召喚!」

 

アクセル・シンクロン 守備力2100

 

「魔法カード、『アームズ・ホール』。デッキトップを墓地に送り、墓地から装備魔法である『妖刀竹光』を回収。『アクセル・シンクロン』に装備し、魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!2枚のカードをドロー!もう1枚だ!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札0→2→3

 

次々と手を繰り出すコナミ。白コナミとしては『シューティング・クェーサー・ドラゴン』の効果で無効にしたいが、それにチェーンされて『迷い風』を発動されては目も当てられない。『迷い風』が白コナミを牽制している。

 

「魔法カード、『復活の福音』!墓地のレベル7か8のドラゴン族モンスターを特殊召喚する。来い、『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン 攻撃力2500

 

これでコナミのフィールドにもシンクロモンスターとシンクロチューナーが揃った。アクセルシンクロモンスターを出し、白コナミの『シューティング・クェーサー・ドラゴン』に対抗するつもりか。

しかしスペックダウンしているとは言え、それでもデルタアクセルシンクロモンスターであるこのモンスター相手に、アクセルシンクロモンスター程度で勝てるのか。

それにコナミが持つアクセルシンクロモンスターは『真閃光竜スターダスト・クロニクル』のみ。例えこのカードがエクストラデッキあっても、『迷い風』があっても勝てはしない。

そう、ただのアクセルシンクロモンスターならば。

 

「速攻魔法、『リミットオーバー・ドライブ』を発動!」

 

ならば『シューティング・クェーサー・ドラゴン』と同格のアクセルシンクロモンスターならば話はどうか。

 

「オレはフィールド上に存在するシンクロモンスターとシンクロチューナーをエクストラデッキに戻し、その2体の合計レベルとなるシンクロモンスターを、召喚条件を無視してエクストラデッキから特殊召喚する!」

 

「『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』のレベルは7、『アクセル・シンクロン』のレベルは5……合計レベル……12!俺の『シューティング・クェーサー・ドラゴン』と同等のシンクロモンスターだと!?」

 

コナミの持っているアクセルシンクロモンスターは『真閃光竜スターダスト・クロニクル』のみ。この事実に嘘偽りはない。が、それ以上のシンクロモンスターを持っていないと言う事実はない。

 

「さぁ、行くぞ……貴様のいる領域まで、オレは加速する!」

 

コナミは進化した。白コナミのいる世界まで、辿り着く程に。その為の切符は既に手の中にある。

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる彼に対し、白コナミはギリッと音が響く程に強く歯軋りを鳴らす。シンクロだけは、この男に負ける訳にはいかないと言うのに、この男は――。

 

「貴様ぁっ……!」

 

「レベル7の『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』に、レベル5の『アクセル・シンクロン』をチューニング!古の天空を彩る星々よ!神雨となりて世界を祓え!アクセルシンクローッ!!」

 

白コナミ同様、コナミの身体に赤いオーラが纏われ、加速、加速、加速。音をも越えて、光の速度で白コナミの背を追い抜き、次元の扉を破る。

 

「超来迎!『聖光神竜スターダスト・シフル』!」

 

聖光神竜スターダスト・シフル 攻撃力4000

 

そして、黄金の光が白コナミの背後で輝き、神なる竜と共にコナミが帰還する。

『閃光竜スターダスト』の面影が残る、白金の鱗に、背から広がる花弁のような大輪の翼。『シューティング・クェーサー・ドラゴン』と同等の巨躯と力を誇る、もう1の最強の名に相応しいシンクロモンスターが、空高く飛翔する。

 

「『聖光神竜スターダスト・シフル』……だと……!?本当に――手にしたと言うのか、限界を越えたシンクロを!?」

 

「そうだ!これがオレのリミットオーバー!今オレが誇る、最強のモンスター!」

 

レベル12、攻守4000。『シューティング・クェーサー・ドラゴン』と同じ、圧倒的なステータスのモンスター。このモンスターと共に、コナミは白コナミを倒し、更なる高みへ行く。

 

「『妖刀竹光』の効果で、『黄金色の竹光』をサーチ!バトル!『聖光神竜スターダスト・シフル』で『シューティング・クェーサー・ドラゴン』に攻撃!超新星撃!!」

 

「相撃ちか……良いだろう、迎え撃て!『シューティング・クェーサー・ドラゴン』!天地創造撃ザ・クリエーションバーストッ!!」

 

互いの最強モンスターが黄金の光の線となって螺旋状に空へ旋回。上空で熱き火花を散らして閃光が爆発する。

鳴り響く轟音。まるで神話の激闘だ。神の力を宿すモンスター同士の対決は正に凄まじいの一言に尽きる。

2体のモンスターに呼応するかのようちコナミと白コナミのDーホイールも加速、激突を繰り広げ、デッドヒートする。

加速、加速、加速。ぶつかる度に2人は進化を繰り返していく。

 

そして――シティの上空で『聖光神竜スターダスト・シフル』が煌めく星の如く激しく発光、背中の翼から無数の光を放って束ね、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』へ。

『シューティング・クェーサー・ドラゴン』は右の掌から眩い光線を解き放ち、互いを攻撃。

光は中央で爆発し、それを合図に2体の竜が互いに向かって突撃する。攻撃力は同じ、ならば結果は相討ちになるのが常だ。だが。

 

「『聖光神竜スターダスト・シフル』が存在する限り、オレのフィールドのカードには、1ターンに1度の戦闘、効果耐性が与えられる!波動聖句!」

 

「何だとぉっ!?」

 

今、コナミのフィールドに存在するカード全てには耐性が与えられている。そう、全てだ。

『聖光神竜スターダスト・シフル』だけでない。全てのカードに耐性が与えられている。とんでもない効果、これこそがリミットオーバーの力。

しかも――この効果は永続効果。『シューティング・クェーサー・ドラゴン』では無効に出来ない。

つまりこのモンスターは『シューティング・クェーサー・ドラゴン』と同じリミットオーバーでありながら、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』の天敵であると言う事だ。

それによって『聖光神竜スターダスト・シフル』が競り勝ち、撃ち貫く。

 

「くっ、『補給部隊』の効果と『シューティング・クェーサー・ドラゴン』の効果発動!」

 

「させん!シフルの効果発動!1ターンに1度、相手が発動したモンスター効果を無効にして相手フィールドのカード1枚を破壊する!『補給部隊』を破壊!光波動反撃!」

 

「ッ、後続も出せんか……!」

 

正しく天敵。『シューティング・クェーサー・ドラゴン』が手も足も出せずに崩れ落ちる。

 

「言った筈だ。お前を倒すと。その為の力は身につけたつもりだ!」

 

「口先だけではないと言う事か。俺もお前を侮っていたようだな」

 

2回の闘いを経て、2回の勝利を得て、自然と白コナミはコナミを格下と見て、心のどこかで侮っていたのかもしれない。

この『シューティング・クェーサー・ドラゴン』がいれば問題ないと、所詮2回目の闘いで見せた奮戦は散り際の輝きだったのだろうと頭の片隅に忘れて。

実際、コナミがあの時のままなら実力差は開き、そうなっていただろう。しかし、そうはならなかった。

カードだけではない、コナミ自身もカードを使いこなせる程の実力を持っている。

 

僅かな油断と慢心が、この結果を生んだ。針の穴にも満たない隙を、コナミが突いたのだとしても――デュエリストとして、恥ずべき事だ。

少なくとも白コナミはそう思ったのか、表情に苛立ちを浮かべ――直ぐ様呼吸を整え、冷静に努める。ここで冷静さを欠いてはそれこそコナミの思うつぼ。またしても恥を晒す所だった。この失態を挽回すべく、新たに現れた脅威、『聖光神竜スターダスト・シフル』を睨み付ける。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

コナミ LP300

フィールド『聖光神竜スターダスト・シフル』

セット2

手札1

 

「俺のターン、ドロー!調子に乗っていたのは俺の方か、榊 遊矢と貴様が教えてくれた。今度は俺が挑ませてもらう番だ!永続罠、『輪廻独断』を発動!俺の墓地のモンスターをドラゴン族に変更!」

 

「ドラゴン族……まさか……!?」

 

発動されたのは自信の墓地に存在するモンスターを宣言した種族に変更する強力なカード。このカードを使えば種族指定の蘇生カードも『死者蘇生』に変わると言うものだ。

尤も、このカードの使い方はそれだけでは留まらない。このカードがあれば白コナミのデッキでは出来ない芸当も出来るようになる。

 

「そのまさかだ!罠発動、『集いし願い』!!」

 

それがこの、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』をも超える最強のシンクロモンスターを生み出す、白コナミの真の切り札。

 

「自分の墓地に存在するドラゴン族シンクロモンスターが5種類以上の場合、エクストラデッキより『スターダスト・ドラゴン』をシンクロ召喚扱いとして呼び出す!飛翔せよ、『スターダスト・ドラゴン』!!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

煌めく星屑をフィールド上に降り注がせ、地上に立つは純白の双翼を広げる天使のような竜。白コナミが最も信頼するエースカードだ。

赤き竜の系譜であるモンスターとは言え、アクセルシンクロでもない、ただのシンクロであるこのカードで、リミットオーバーに比肩する『聖光神竜スターダスト・シフル』に敵う筈がないのだが――。

 

「そして『集いし願い』を『スターダスト・ドラゴン』に装備、装備モンスターの攻撃力を墓地のドラゴン族シンクロモンスターの攻撃力分アップする!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500→12600

 

絆が、『スターダスト・ドラゴン』を強くする。その攻撃力、12600。『迷い風』で半減したとしても11350。『聖光神竜スターダスト・シフル』を軽く越え、まるで蟻のように扱う所業が炸裂する。

 

「そのモンスターが『シューティング・クェーサー・ドラゴン』の天敵である事は認めるが……これは防げるかな?」

 

ニヤリ、白コナミがコナミに見えるように並走し、挑発的な笑みを浮かべる。今度はこちらがやってやる番だと言わんばかりの表情だ。

しかし追い込んだと思えば相変わらずとんでもない事をやってくれる。ギリギリの攻防の中で、この男も進化していると言う事か。厄介極まりない。

 

「バトル!『スターダスト・ドラゴン』で『聖光神竜スターダスト・シフル』へ攻撃!シューティング・スパイラル・ソニック!」

 

『スターダスト・ドラゴン』がアギトに大気を集束し、一気に解き放ち、シフルに攻撃を仕掛ける。星屑纏う風のブレス。螺旋状に渦巻き、最強のシンクロモンスターに迫り来る。

『ガード・ブロック』のようなカードで防いだとしても『集いし願い』には連続攻撃効果がある。コナミの墓地に『仁王立ち』や『光の護封霊剣』がある場合もシフルが持つ耐性が逆にコナミの足を引っ張っている。このままではサンドバッグ状態だ。

 

「罠発動、『攻撃の無敵化』!戦闘ダメージを0に!」

 

だから、断腸の思いでシフルを手放す。やっとの想いで手に入れ、呼び出したカードを犠牲にするプレイング。だがこれもまた、デュエリストとして必要な事だ。

 

「『集いし願い』の効果で『ジャンク・ガードナー』を除外し、再攻撃!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力12600→11200

 

「カードをセット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP50

フィールド『スターダスト・ドラゴン』(攻撃表示)

『集いし願い』『輪廻独断』セット2

手札1

 

「オレのターン、ドロー!カードをセット、墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、セットカードをデッキに戻してドロー!」

 

コナミ 手札2→3

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地のモンスター5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札2→4

 

「魔法カード、『地割れ』!」

 

「チ、『スターダスト・ドラゴン』をリリースし、破壊効果を無効にし、破壊!更に永続罠、『星屑の願い』を発動!自信の効果でリリースされた『スターダスト』シンクロモンスターを蘇生する!」

 

スターダスト・ドラゴン 攻撃力2500

 

「墓地の『聖光神竜スターダスト・シフル』を除外し、効果発動!墓地のレベル8以下の『スターダスト』モンスターを特殊召喚する!来い、『閃光竜スターダスト』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

コナミも星屑纏う閃光の決闘竜を帰還させ、互いのフィールドにて2体の『スターダスト』が向かい合い、咆哮する。

攻撃力は同じ、しかし『閃光竜スターダスト』には1ターンに1度、フィールドのカードに破壊耐性を与える効果がある。

『スターダスト・ドラゴン』は無効にした上で破壊し、自身をエスケープさせる効果を持つが、汎用性で言えば『閃光竜スターダスト』の方が高い。『スターダスト』同士のミラーマッチになれば、コナミが押し勝つ。

 

「『スターダスト』に耐性を与え、バトル!『閃光竜スターダスト』で『スターダスト・ドラゴン』へ攻撃!罠発動、『迷い風』!」

 

「カウンター罠、『トラップ・ジャマー』!その効果を無効にし、破壊!」

 

「なら正面突破か、流星閃撃!」

 

「迎え撃て!シューティング・ソニック!」

 

先程の『聖光神竜スターダスト・シフル』と『シューティング・クェーサー・ドラゴン』の対決のように、互いの『スターダスト』が天高く飛翔し、ドッグファイトを繰り広げる。

空中でぶつかる度に火花を散らし、羽ばたきから散布される星屑が光線へと変化、撃ち出される閃光の弾丸に対し、今度はもう1体の『スターダスト』が翼を折り畳み、まるで繭のように自身を覆う盾として防ぐ。着弾し、大爆発が巻き起こり、黒煙が空を染める。

 

やったか、そう思ったか時、スモークを切り裂いて『スターダスト』が現れ突撃、もう1体を勢いのまま押し出し、共にシティの海面に沈む。

飛び散る水飛沫は煌々と星屑を纏って、コナミと白コナミに降り注ぎ、水に濡れた道路をスリップしないよう、しかし減速せずに走り抜け、コーナーを曲がった所で揺らめく水面の奥より光の柱が出現、中より腕を掴みアウトドア2体の白竜が現れる。

 

そして2体は口内に溜め込んだブレスを至近距離で同時発射、またも激しい大爆発が発生する。そして黒雲から、2体の『スターダスト』が弾き出されるような形で吹き飛ぶ。

 

「何……?『スターダスト・ドラゴン』まで破壊されないだと……!?」

 

そう、2体の『スターダスト・ドラゴン』が、だ。多少の傷はあれども、戦闘耐性を持たない筈の『スターダスト・ドラゴン』が無事な事実にコナミが確かな驚愕を見せる。これは一体、どう言う事か、隣で並走する白コナミを睨む。

 

「良い反応だ。そろそろネタばらしとするか。『星屑の願い』によって復活した『スターダスト・ドラゴン』は攻撃表示の場合、戦闘で破壊されなくなる!」

 

「成程、な。これで『閃光竜スターダスト』に比肩する耐性を得たと言う訳か」

 

効果破壊は自身で防ぎ、『星屑の願い』の効果で耐性を得て復活。結果的に『閃光竜スターダスト』を超える耐性を備えたと言う訳だ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を除外」

 

コナミ LP300

フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『マジック・プランター』!『輪廻独断』をコストに2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札1→3

 

「魔法カード、『暗黒界の取引』を発動。『シンクロン・エクスプローラー』を召喚!」

 

シンクロン・エクスプローラー 攻撃力0

 

「効果で『フォーミュラ・シンクロン』を蘇生!」

 

フォーミュラ・シンクロン 攻撃力200

 

強固な耐性を持っていても、このままでは『閃光竜スターダスト』を倒せず膠着状態が続くのみ。そう判断した白コナミは攻め手に出る。彼のDーホイールに並ぶように駆けつけたのはシンクロチューナー、『フォーミュラ・シンクロン』。

 

「墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『シンクロン・エクスプローラー』を戻してドロー!」

 

白コナミ 手札1→2

 

「レベル8の『スターダスト・ドラゴン』に、レベル2の『フォーミュラ・シンクロン』をチューニング!アクセルシンクロ!『シューティング・スター・ドラゴン』!!」

 

シューティング・スター・ドラゴン 攻撃力3300

 

ドシュウッ、猛スピードで消え去り、白コナミがコナミの背後より『シューティング・スター・ドラゴン』を引き連れて現れる。

これは――かなり不味い展開だ。この男の手にかかれば、このカードはデルタアクセルシンクロした『シューティング・クェーサー・ドラゴン』よりも攻撃的なモンスターへ生まれ変わる。

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!1枚目、チューナーモンスター、『ジャンク・シンクロン』!2枚目、チューナーモンスター、『灰流うらら』!3枚目、チューナーモンスター、『幽鬼うさぎ』!4枚目、チューナーモンスター、『ドリル・シンクロン』!5枚目、チューナーモンスター、『チューニングガム』!当然全てチューナー、5回の連続攻撃を得る!」

 

「もう慣れたな……」

 

「バトル!『シューティング・スター・ドラゴン』で『閃光竜スターダスト』へ攻撃!」

 

「罠発動、『パワー・ウォール』!カードを2枚墓地に送り、ダメージを0に!」

 

『シューティング・スター・ドラゴン』が5体に別れ、次々と流星群の如く降り注ぎ、『閃光竜スターダスト』を撃ち抜き破壊する。

本当ならば効果で破壊は逃れたかったが、まだ『シューティング・スター・ドラゴン』の攻撃は残っている。『スターダスト』の攻撃を防ぐと言う事は、サンドバッグにするも同然、そうなれば『スターダスト』どころかコナミまで倒されてしまう。そうなる事だけは避けなければならない。

 

「ダイレクトアタック!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、ダイレクトアタックを封じる!」

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

白コナミ LP50

フィールド『シューティング・スター・ドラゴン』(攻撃表示)

『星屑の願い』セット2

手札0

 

「オレのターン、ドロー!魔法カード、『強欲で貪欲な壺』!」

 

コナミ 手札1→3

 

「魔法カード、『復活の福音』!来い、『閃光竜スターダスト』!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500

 

「またそのモンスターか……」

 

「お前程じゃないさ。魔法カード、『アームズ・ホール』!デッキトップをコストに『妖刀竹光』を回収、『妖刀竹光』を『スターダスト』に装備し、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札0→2

 

「『スターダスト』の効果で自身に耐性を与え、バトル!『スターダスト』で『シューティング・スター・ドラゴン』へ攻撃!」

 

「『シューティング・スター・ドラゴン』の効果発動!」

 

「墓地の『ブレイクスルー・スキル』を除外し、効果を無効。更に『スキル・サクセサー』を除外し、『スターダスト』の攻撃力を800アップ!流星突撃!」

 

閃光竜スターダスト 攻撃力2500→3300

 

今度はこちらの番だ。先程のターンに破壊された『スターダスト』がそう言わんばかりに四肢に力を滾らせ、閃光を纏い『シューティング・スター・ドラゴン』目掛けて突撃、胸部を貫き破壊する。

 

「罠発動、『スクランブル・エッグ』!俺のフィールドのモンスターが戦闘、効果で破壊された場合、手札、デッキ、墓地から『ロード・ランナー』を特殊召喚する!」

 

ロード・ランナー 守備力300

 

『シューティング・スター・ドラゴン』の破壊と同時に白コナミのフィールドに卵が出現。殻を破ってピンク色のミチバシリと言う鳥が飛び出す。

攻守は低いものの、高い攻撃力を持ったモンスターとの戦闘では破壊されない壁モンスターだ。立ち位置としては遊矢の『EMディスカバー・ヒッポ』に似ている。白コナミのマスコットモンスターと言う訳だ。

実用性は余りないが――彼の手にかかれば一線級になりうる。

 

「魔法カード、『アドバンスドロー』!『スターダスト』をリリースし、2枚ドロー!」

 

コナミ 手札1→3

 

「『妖刀竹光』の効果で『魂を吸う竹光』をサーチ。魔法カード、『グリード・グラード』!2枚ドロー!」

 

コナミ 手札3→5

 

「そして魔法カード、『手札抹殺』!手札を全て捨て、その分ドロー!これで新たに4枚のカードを手に入れた。魔法カード、『ギャラクシー・サイクロン』!セットカードを破壊!」

 

「セットカードは『リミッター・ブレイク』!墓地に送られた事でデッキの『スピード・ウォリアー』をリクルート!」

 

スピード・ウォリアー 守備力400

 

今度は古びた白い装甲を身につけた戦士が駆けつける。低レベルの戦士族モンスター、余り強いとは言えないが、白コナミが長い間愛用しているモンスターだ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンド!」

 

コナミ LP300

フィールド

セット1

手札2

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『強欲で金満な壺』!2枚ドロー!」

 

白コナミ 手札0→2

 

「魔法カード、『調律』!デッキから『ジャンク・シンクロン』をサーチしデッキトップを墓地へ送る。そして『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

「召喚時、墓地の『ソニック・ウォリアー』を特殊召喚!」

 

ソニック・ウォリアー 守備力0

 

次々と低レベルモンスターが集まり、新たに現れたのは深い緑の装甲を持つ機械戦士。展開されていくモンスターが並ぶ光景を見て、コナミが何かに気づく。

 

「!これは……」

 

「そしてフィールドにチューナーが存在する事で、墓地の『ボルト・ヘッジホッグ』を特殊召喚する!」

 

ボルト・ヘッジホッグ 守備力800

 

最後に針ネズミのように、背中にボルトを突き刺したネズミのモンスター。並ぶ5体に対し、ゴクリとコナミが喉を鳴らす。

それはかつて街を救い、未来を導いた英雄をずっと支えて来た仲間達。

苦しい時も、楽しい時も、多くの激闘を誰よりも傍で共にして来た 歴戦の勇士達。

 

そして――コナミと白コナミ、最初の闘いで、最後に呼び出されたモンスター達の姿。あの時の再来、だとすれば、これから起こるのは。

 

「レベル2の『ソニック・ウォリアー』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!」

 

あの時、決着がつかなかったデュエルの続き。すなわち、コナミの敗北なのではないか。

 

「集いし星が新たな力を呼び起こす。光差す道となれ!シンクロ召喚!」

 

『スターダスト・ドラゴン』はエースカード。『シューティング・クェーサー・ドラゴン』は切り札。『集いし願い』は奥の手。

だとすればこのカードは何か。特別な力も、古くから続く伝承も存在しない、本当にどこにでもある、普通のカード。普通のシンクロモンスター。

だが、デュエルを終わらせるに相応しいモンスター、白コナミの、英雄のフェイバリットカード。

 

「出でよ、『ジャンク・ウォリアー』!!」

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300

 

青き装甲に真っ赤な眼、首につけた白のマフラーが風に舞い、拳のナックルダスターを陽光に反射させる機械戦士。

立ち塞がる最後の壁、『ジャンク・ウォリアー』だ。

 

「来たか……!」

 

「『ジャンク・ウォリアー』のシンクロ召喚時、このカードの攻撃力を俺のフィールドに存在するレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分アップする!そしてこの効果にチェーンにし、墓地に送られた『ソニック・ウォリアー』の効果発動!レベル2以下のモンスターの攻撃力を500アップ!」

 

スピード・ウォリアー 攻撃力900→1400

 

ボルト・ヘッジホッグ 攻撃力800→1300

 

ロードランナー 攻撃力300→800

 

「逆順処理だ。チェーンは戻り、『ジャンク・ウォリアー』の攻撃力がアップする!パワー・オブ・フェローズ!」

 

ジャンク・ウォリアー 攻撃力2300→5800

 

小さき者達の力が『ジャンク・ウォリアー』を強化し、攻撃力を爆発的に上げる。攻撃力5800。

『集いし願い』を装備した『スターダスト・ドラゴン』には劣るものの、今のコナミには脅威的な数値、ゲームエンドに持っていける攻撃力だ。

 

「バトル!『ジャンク・ウォリアー』でダイレクトアタック!貴様のLPをジャンクパイル送りにしてやる!スクラップ・フィストォッ!!」

 

グン、強大な力を得た『ジャンク・ウォリアー』の右腕が膨れ上がって巨大化し、コナミに向かって迫り来る。あの時のデュエルの続き、コナミの敗北が今、再び――。

 

「罠発動、『攻撃の無敵化』!ダメージを0にする!」

 

再現させる事は、コナミが許さない。2度ある事は3度ある。そんなものは完全否定しよう。クソ食らえだと、唾を吐きかけて。

勝つのだ。今度こそ、この男に今勝つ。

 

「フ、そうでなくては……!カードをセット、ターンエンドだ!」

 

白コナミ LP50

フィールド『ジャンク・ウォリアー』(攻撃表示)『スピード・ウォリアー』(守備表示)『ボルト・ヘッジホッグ』(守備表示)『ロードランナー』(守備表示)

『星屑の願い』セット1

手札0

 

見事あの時の続きを超え、その先へと漕ぎ着けたコナミ。あの時からの成長を感じさせるプレイング。ここから先は正しく未知の領域だ。

 

「オレは……未来に突き進む!」

 

だが、怯えはない。そこにあるのは遥か高みへ挑戦する向上心のみ。立ち塞がる未来を今乗り越える。

その為にデッキトップに指先を添え、一気に引き抜き――天空に、虹色のアークを描き出す。

 

「オレのターン、ドローッ!」

 

ディステニードローが、炸裂する。

 

「魔法カード、『ブラック・ホール』!」

 

「させん!カウンター罠、『魔宮の賄賂』!その発動を無効にし、破壊。その後相手は1枚ドローする」

 

コナミ 手札2→3

 

「『ADチェンジャー』を召喚!」

 

ADチェンジャー 攻撃力100

 

フィールドに現れたのは黒と赤の旗を持った応援団長風のモンスター。このカードから勝利へ繋げていく。

 

「墓地の『ジェット・ウォリアー』の効果発動!オレのフィールドのレベル2以下のモンスター、『ADチェンジャー』をリリースする事で、このカードを守備表示で特殊召喚する!」

 

ジェット・ウォリアー 守備力1200

 

ズドン、遥か上空から黒き戦闘機人が推参し、重厚なボディを陽光に反射させる。

見据える敵は『ジャンク・ウォリアー』。どちらも良く似た姿をしているから来る対抗心からか、眼光を鋭くする。

特別でも何でもない、ただ普通のシンクロモンスター。何の変哲もないこの2体が、このデュエルにピリオドを打つ。

 

「墓地の『ADチェンジャー』を除外し、フィールドのモンスター1体の表示形式を変更する。『ジェット・ウォリアー』を攻撃表示に!」

 

『ジェット・ウォリアー』スタンドアップ。しかし当然攻撃力は『ジャンク・ウォリアー』に比べては低く、半分にも満たない。

これでは倍なっても届かないだろう。が、手はある。

 

「バトル!『ジェット・ウォリアー』で『ジャンク・ウォリアー』へ攻撃!」

 

「仕掛けて来たか……迎え撃つ!『ジャンク・ウォリアー』!スクラップ・フィストォッ!!」

 

「墓地の『タスケルトン』を除外し、この攻撃を無効、そして速攻魔法、『ダブル・アップ・チャンス』!攻撃が無効になった場合、その攻撃モンスターの攻撃力を倍にし、再攻撃を可能とする!」

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力2100→4200

 

これで攻撃力は倍。しかし依然差は開いている。それでも『ダブル・アップ・チャンス』を発動したのだ。何かがあると白コナミが様子を窺う中、コナミが再度、打って出る。

恐らく次がコナミのラストプレイング。このターンで決めねば、コナミに明日はない。

 

「『ジェット・ウォリアー』で、『ジャンク・ウォリアー』へ再攻撃!」

 

今、運命の時が迫る。互いに飛翔、天空でぶつかり合う『ジェット・ウォリアー』と『ジャンク・ウォリアー』、2体の機械戦士。

2体は己の拳をぶつけ、回し蹴りを交差させ、互いの武器をぶつけ合う。そして『ジャンク・ウォリアー』が『ジェット・ウォリアー』を弾き飛ばし、墜落する姿に巨大化して拳を振り抜こうとした、その時。

 

「手札の『ラッシュ・ウォリアー』の効果発動!」

 

「何……!?」

 

クルリ、『ジェット・ウォリアー』がその場で一回転し、背のジェットエンジンから火炎を噴射、『ジャンク・ウォリアー』に向かって空を駆ける。

発動された最後のカード、それは白コナミも知っているモンスターだ。当然その効果は。

 

「オレのシンクロ『ウォリアー』モンスターが相手モンスターと戦闘を行う、ダメージ計算時、このカードを手札から墓地に送り、その戦闘を行うオレのモンスターの攻撃力を倍にする!」

 

逆転へと繋がる一手。

 

ジェット・ウォリアー 攻撃力4200→8400

 

『ジャンク・ウォリアー』の拳に対抗するかのように『ジェット・ウォリアー』の拳も巨大化。見る見る内に膨れ上がり――今『ジャンク・ウォリアー』の拳をも超え、殴り砕く。

 

「馬鹿、な……!」

 

「この程度の攻撃力、オレ達の間では些細なものだろう?」

 

それはかつて白コナミがコナミに向かって言った台詞。それを皮肉のように、彼に返す。

 

「小さき者に、敗れ去れ」

 

特別でないカード達が、特別な彼等の激闘に、決着をつける。さぁ、高らかに叫べ、特別ではないこのカードに送るべき、特別な必殺の名を。

 

「ジェット……フィストォッ!!」

 

白コナミ LP50→0

 

魂を乗せた鉄拳が、因縁を断ち切り白コナミのLPを削り取る。

コナミVS白コナミ、長きに渡る対決、勝者は――今、スモークを上げる白コナミのDーホイールを見据え、停止して降り立ち、歩み寄る。

 

「そう言えば、名乗り忘れていたな」

 

1度目も、2度目に至ってはダニエルと言う偽名を使い、相対した。だが今は、今彼に勝利したのはダニエルでも、名もなきデュエリストでもない。

 

「オレはコナミ。貴様と同じ、ただのデュエル好きのデュエリストさ」

 

ニヤリ、不敵な笑みを浮かべるコナミを見て、白コナミはおかしそうに喉を鳴らして吹き出す。

全てを賭けた。このデュエルに、今までの自分の全てを。本気で、全力で、全開で、ここまで培って来た己が持てる知略と力を振り絞り、ただ1人のデュエリストとして彼と闘った。

そして――負けた。

 

なのに何故だろうか。こんなにも心が清々しいのは。こんなにもワクワクした、高揚した気分なのは。

ああ、そうだ、何でこんな当たり前の事を忘れていたのだろうか。

 

「これが、デュエルだったんだな……」

 

かつて、榊 遊矢が言った言葉を思い出す。勝っても負けてもデュエルは俺達を成長させてくれる。デュエルと言うのは1回だけでは終わらない。勝ち負けを繰り返し、楽しむもの、それがデュエル。

 

「光のデュエルを……か」

 

命を賭ける事も、魂を削る事もない。誰もが楽しめるエンターテイメント、それがデュエル。その事を思い出し、だけど照れ臭くて、負け惜しみにコナミと同じ不敵な笑みを見せ、皮肉を叩く。

 

「小さき者に、負けてしまったな……」

 

榊 遊矢に比べれば。と、内心で付け加えて彼は上空に掌を伸ばしてその姿を消していく。これで1つの因縁に決着がついた。

後に残った光の粒子は、コナミに渡る、その前に。

 

ズドンッ、彼等の前に現れたのは黒き影に呑まれていく。

白きマントを翻す、黒い帽子のつばを指で抑えた彼等と似た顔立ちのデュエリスト。彼はまるでブラックホールの如く白コナミを吸収し、その身から圧倒的な闘志を放ちコナミに振り向く。

 

「さぁ、デュエルだ……!」

 

黒コナミ、襲来。




素良「この詰めデュエルを解けば先に進めるぞ!」

遊矢「敵の策略に乗っかる必要なくない?リアルソリッドビジョンとかでさぁ」


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第197話 愛と正義

シンクロ次元編最終話。長かったね……。


離れ離れになる前は、何時も一緒だった。

父親同士が親友で、家が近くてデュエル塾も同じ。小学校も中学校も、更にはクラスまでずっと一緒だった。

所謂幼馴染み。そんな関係だからか、自然と仲良くなっていったし、喧嘩する事だって少なくなかった。男と女だから、お前等付き合ってるの?とからかわれたりする事もあって、何時も唇を尖らせ2人揃って違うと言うのだ。

 

だけど互いに言葉を交わさずとも相手の言いたい事が分かってしまう。異性と言うより姉弟のような間柄。

互いに互いを支え合って、感謝はあれど貸し借りと言う想いはなかった。そんな感じなのでからかわれても別段距離を置くと言う事もなく、むしろ互いの家を行ったり来たり、互いの所持品が互いの家にあるなんてザラだった。

何時も一緒なのが当たり前とも思わない程当たり前で。

 

そんな日常の中、中学一年の下校時間、一緒に帰ろうと声をかけようとしたけど、何時の間にかいなくなってて、クラスメイトに居場所を聞くと、さっき出ていったと言う。

何時も通りからかわれながら、「声位かけてくれたって良いじゃんかー」と唇を尖らせ拗ねながら彼女の下に向かうと――何やら知らない奴と一緒にいるではないか。

 

告白だった。思わず隠れて様子を見守っていると、男の方はイケメンでスポーツ万能、頭も良い、デュエルの腕まで少年より上と非の打ち所のない奴だった。

何故か胸がチクリと痛んでいるのを自覚する中、少女はその男の告白を断った。

とても丁寧に、親身に、最後に好きな人がいるからと付け加えて。

 

その言葉を聞いて、何故か胸にポッカリと穴が開いた気分だった。

アイツにも好きな人がいるんだ、とか。ふーんだとか、ほーんだとか。

正直少年はかなりテンパった。同時に、怖くなった。少女がどこか遠くに行ってしまう気がして、自分を置いて離れてしまう気がして。

でもその時はどうせ何時かは離れ離れになるんだと無理矢理に納得した。

 

それを期に、少しずつ、少しずつ行動を別にして、友人達との出会いが増えていき――ある時に、少女がいなくなった。

拐われていなくなったのだ。会う事もままならない。少女を失った感覚――最悪だった。

全てがどうでも良くなって、投げ出したくなった。

 

だけど友に支えられ、次元を渡り、ある少年と少女の絆を見た。

美しい恋を見た。純粋な愛を見た。

それを見て気づいたのだ、自分の想いに、少女への想いに。この想いは、嫉妬でも独占欲でもない。この想いは――。

 

「柚子ぅぅぅぅぅっ!!」

 

バキィィィィィッ!友が託したDーホイールを使い、猛スピードで駆け抜け、少年は厳重にセキュリティがかかった扉を無理矢理にぶち破る。

何と言う強引さ、何と言う力技。背後に浮かぶ親友の影が「もうちょっと丁重に……」と呟くが今の彼は聞く耳を持たない。

そのまま少年、遊矢は急ブレーキ、眼前に立ち塞がる、零児達から逃れた――プラシドを射抜き、彼に連れられる少女、柚子へと視線を移す。

 

「遊矢っ!」

 

そして柚子は遊矢へと振り返り、泣きそうな笑顔で彼の名を呼ぶ。

この時を、どれだけ待った事か。

舞網チャンピオンシップで柚子がオベリスク・フォース達――と言うかユーゴに連れ去られた形だったのだが、そんな彼女を追い、このシンクロ次元に辿り着き、多くの激闘を経て、今、再会した。

 

「榊 遊矢……ここまで来たか……!」

 

「お前も後!」

 

「……何?」

 

口を挟もうとするプラシドに対し、遊矢は邪魔はさせまいと指を差して黙らせる。

これには流石のプラシドも戸惑いを見せる。遊矢らしくない行動だ。

彼はそのまま再びエンジンを吹かせ、プラシド目掛けて走り出す。

 

「柚子、俺は……っ」

 

ずっと、言おうと思っていた。彼女に再会した時に。

 

「俺は……っ!」

 

この想いを、伝えようと。

 

「俺は、お前が、好きだぁっ!!」

 

ガシリ、プラシドの手から柚子を奪い取り、だけど壊れ物を扱いように丁寧に、顔と顔を向き合わせ盛大に愛の告白をした。

思いの丈を乗せた情熱の籠った、榊 遊矢一世一代の大勝負。その戦場に似つかわしくない叫びが木霊すると共に、当の本人である柚子、ランサーズ、更にはプラシドまでもが呆気を取られて硬直する。

 

「え、あ、う……~~~っ!?」

 

真っ先に硬直を解いたのは張本人、柊 柚子。

彼女は遊矢の腕の中であわあわと目を白黒させた後、今度は耳まで真っ赤にして両手で顔を覆う。

そんな彼女につられてランサーズがハッと正気に戻る。瑠璃とリンは両手を繋いでキャーキャーと騒いでいるが他の連中はそうはいかない。特にアリトはずずいと飛び出し口を開く。

 

「へ、返事は!?」

 

彼等の急かすような声音も耳に入らず、柚子はあうあうと金魚のように口を開閉するのみ。

最早オーバーヒート寸前、だが遊矢は更には追い討ちをかけるかの如く、その場でDーホイールを急停止、彼女の肩に顔を埋め、精一杯力強く、かつ傷つけないように優しく抱き締める。

 

「~~~ッ!?」

 

「気を失って初めて、君の大切さに気づいた。君と離れて初めて、自分の想いに気づいた」

 

「遊、矢……?」

 

ぐっ、更に肩に顔を押し付ける遊矢の様子に、柚子が正気に戻る。触れ合う肩が生暖かく、何かに濡れている。遊矢の身体が、僅かに揺れている。声が、震えている。

 

「それからは怖くて怖くて仕方無かった。当たり前のように傍にいた君がもう2度と会えなくなる程に遠くに行ってしまいそうで、この想いを伝えられないまま、終わってしまいそうでっ……!」

 

「うん……」

 

震える唇から告げられる、柚子への想いと弱音。それ等全てが柚子へ暖かく染み渡っていく。

情けないとは思わない。彼の優しさを、情けないだなんて誰にも言わせない。

おずおずと柚子は遊矢の背中に腕を回し、ポンポンと幼子をあやすように軽く叩く。

 

「男らしいんだが、泣き虫なんだか」

 

クスリと微笑み、「あ」と気づく。今までは、遊矢の身長は柚子よりも僅かに低かった。だけど、何時の間にか、その背は高くなっていて。触れる背中は、大きく暖かい。

 

「男子三日会わざればって奴かしら」

 

「君と一緒にいたい」

 

「うん」

 

「君の笑顔が見たい」

 

「うん」

 

「君と共に歩みたい」

 

「――はいっ」

 

2人の想いは、重なり合う。まるで最初からこうなる事が自然だったかのうに。顔を合わせて笑い合う。

 

「私がいないと、駄目なんだから」

 

「君じゃないと、駄目みたいだ」

 

「えへへ」「うふふ」とニヤケっ放しとなる2人。そんな砂糖が吐けそうな位いちゃつくバカップルに、漸く正気に戻ったプラシドが咳払いをして申し訳なさそうに割り込む。

 

「……ここが敵陣である事を忘れていないか」

 

「「……あっ」」

 

どうやら忘れていたらしい。2人は顔を見合わせて声を出し、にへらと表情を崩す。

 

「忘れてたなぁ」

 

「忘れてたねぇ」

 

そしてこの台詞である。流石のプラシドもイラついたのか、ひくひくと頬が歪んで見える。仲間達も呆れて物が言えない。

ただ1人、アリトを除いては。

 

「俺の天使が……遊矢が寝取られた……コイツはボディに効くぜ……!俺は祝福すれば良いのか?俺はどうすれば良い、答えろ!」

 

「流れ弾を寄越すなっ!」

 

激しく動揺、何故か敵側であるプラシドを糾弾する。対するプラシドはらしくもなく焦り、ごもっともな意見を叫ぶ。

彼は悪くない、だが遊矢達が悪いとは一概にも言えない。

 

「さて……2人を今まで見守っていた俺としては直ぐにでも祝いの席を用意してやりたいが、残念な事にそうもいかん。だから――憂いを取り除いてやろうと思うのだが、貴様はこの数を相手に勝てると思うか?」

 

カンッ、特徴的な下駄の音を鳴らし、遊矢と柚子の幼馴染みである権現坂が彼の肩に手をポンと乗せ、プラシドを睨む。

そう、突然の告白で話が大いに逸れてはいたが、彼等ランサーズとプラシドは敵同士。プラシドがどれだけ手練れだろうと、この数相手では敗北は確定したようなもの。

プラシドは赤き竜との対決で消耗しているのだから尚更だ。本人も自覚しているのか、権現坂の指摘を否定しない。

 

「思わんな。だから……ここに来たんだ」

 

「……何?」

 

その言葉に、ユートが眉をひそめたその時、プラシドが懐から何かを取り出し、そのスイッチを押す。

すると部屋の奥より赤い光が灯り、光の元である巨大な装置が起動する。

 

「これは……っ!?」

 

「次元転送装置、これで俺とお前達を、アカデミアに転移させる」

 

「!」

 

数で劣るならば、その数を逆転させようと、ホームで迎え撃とうと至極単純な手に打って出る。

そんな事になれば全滅は必至。一瞬にしてユートがデュエルディスクからワイヤーを射出、デュエルアンカーで装置を壊す強行に出る。

 

「何だとっ!?」

 

プラシドが驚愕の声を上げると共に、装置は激しくスパーク。眩い閃光が部屋中を覆い、歪な音色が響き渡る。そして――装置より巨大な闇色の津波が広がり、プラシド以外の全員を呑み込む。

 

「ッ、間に合わなかったか……!」

 

「ぬ、ぉぉぉぉぉっ!」

 

「きゃぁぁぁぁっ!?」

 

全員が足場が崩れるような感覚に陥り、次元の渦に呑み込まれる中――榊 遊矢は柚子を手繰り寄せようと必死でもがく。

 

「柚子ぅぅぅぅっ!」

 

「遊矢ぁっ!」

 

その手を掴み、手繰り寄せ、ギュッと力強く抱き締める。今度は離れないように、2度と彼女を失わぬように。

そうして――彼等は、闇の中に消えていった。

 

「……エクシーズ次元、か」

 

ポツリと、残されたプラシドはプスプスと黒煙を上げる装置に写し出された座標を視界におさめ、小さく呟く。

そんな彼の下に――新たなデュエリスト達が駆けつける。白いライダースーツを纏った金髪の青年、ジャック・アトラスと、箒のように逆立った髪をバンドで留めた小柄な少年、クロウ・ホーガンだ。

 

「無事か遊矢っ!」

 

「遅くなっちまってワリィ!って、テメェはプラシド!?」

 

「……やれやれ、騒がしいな全く……」

 

休む暇なく現れる、シンクロ次元でも5本の指に数えられるだろうDーホイーラーの登場に、プラシドが深い溜め息を吐く。

あの数のランサーズもそうだが、この2人を相手はかなり不味い。

転送装置も壊れてしまった。ここは奥の手を出すしかないだろう。懐からもう1つのスイッチを出そうとして――ビュンッ、クロウの手からカード手裏剣が飛び、姿勢を崩したプラシドのケープを切り裂く。

ハラリ、めくれ上がり、地へ落ちるケープ。その間に――彼の今まで隠されていた正体が、明らかとなる。

 

「……は?」

 

「馬鹿な……」

 

思わず呆然とするジャックとクロウ。それもそうだろう、だってこの男は――。

思い出されるのは積み重ねて来た過去の日々、辛くも楽しかった、激闘、死闘を仲間達と共にした何よりも大切な日常。

そして、その日々の中心にいた彼。

 

蟹のような髪型と、鋭く勇ましい青い瞳。この状況にあっても冷静沈着を崩さぬ、彼は――。

 

「遊……星……」

 

その時、彼の手元のスイッチが押され、部屋の壁を突き破り、3つの影が飛び出した――。

 

――――――

 

場所は変わり、シティ湾岸沿いのレーンにて、そこには2人のデュエリストの姿があった。

1人はコナミ。白コナミとの激闘の果て、見事勝利を掴み取った赤帽子のデュエリスト。

そんな彼と対峙するのは――彼等の激闘を虎視眈々と睨み続け、敗北した白コナミを吸収すると言うハイエナのような行為に出た黒帽子の少年、黒コナミ。

彼は白コナミの力を余さずその身に取り込み、溢れ出す力の波に口元を緩める。

 

「ハ、ハ、ハハハ、ハハハハハハ!素晴らしい……最高だ!力が溢れる……そうだ、これだ!欠けていたものが見事に嵌まる感覚!たった1つ戻っただけなのに、何て甘美な感覚だ!」

 

狂ったように笑い声を上げ、白黒の稲妻を走らせる黒コナミを見て、コナミが頬から顎にかけて冷たい汗を垂らす。

状況は最悪も良いところだった。コナミは白コナミとの死闘で消耗し、その上彼の力が無傷の黒コナミに渡る。

間違いなく、今黒コナミと闘えばコナミは負ける。そんな確信があるのに、コナミの足はこの場に縫い付けられたように動かない。

目の前の圧倒的な存在を前に、息すらも忘れそうになる。

 

「次は、お前だ……!」

 

そして黒コナミは都合良く彼を見逃してはくれない。

ニヤリと獣のような獰猛な笑みをその口元に描き、無慈悲な宣告をする。最悪も最悪、これ以上なく最悪な状況。

それでも、コナミに逃げの一手は残されていない。

ギリ、歯軋りを鳴らし、口を一文字に結んで黄金のデュエルディスクを構える。

 

「安心しろ、白も、貴様の力も私が有効に活用してやる」

 

「何故だろうな、あれ程敵対していた奴だが、ポッと出の貴様に踏み台のように扱われる事には苛立って仕方無い」

 

白いコナミも相当アレだったが、この男は輪をかけて不味い。

何よりもコナミの勘がこの男にだけは負けてはならないとうるさい程に警報を鳴らしている。

この男がコナミの力までも奪えば――何か、全てが滅茶苦茶に、台無しに崩壊してしまう気がして――酷い不安がコナミの背筋を襲う。

勝たねばならない。絶対に、何としてでも。

 

「「デュエル!!」」

 

両者が声を合わせ、デュエル開始の合図を出した、その時だった。

 

「「ッ!?」」

 

彼等の間に、天使のような姿の、白い竜が割って現れたのは。

 

「『スターダスト・ドラゴン』……!?」

 

その正体は、白コナミのエース、『スターダスト・ドラゴン』。消え去りそうな程薄くなった姿をした竜が、か細い咆哮を放ち、光の吹雪を放ち、2人の姿を呑み込む。

 

「ッ、最後の最後で、余計な真似をっ!」

 

「……奴の、仕業なのか……?」

 

黒コナミが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、コナミが気づく。これはまさか、白コナミが最後に残した力なのかと。

そう、彼は最後に、黒コナミの暴挙を止めるべく、自らのエースに全てを託したのだ。せめて、コナミが万全な状態で黒コナミと闘えるよう、この場は逃そうと。それは恐らく、白コナミの情だろうか。いや、少なくともコナミには――自身に勝ったのだから負ける事は許さないと言う、叱咤に感じた。

しかし黒コナミは邪魔が入った事に明らかな怒りを示し、舌打ちと歯軋りを鳴らし、止めどなく放出する光の中、必死に足掻く。

 

「じゃ、ま、だぁぁぁぁぁっ!」

 

両腕にシャイニング・ドローに似た光を纏いながら、光を切り裂くように振るい、コナミに向かって突き進む黒コナミ。

この状況を前にして尚諦めるつもりはないらしい。しつこい男だ。亡者か悪鬼羅刹か。恐るべき執念を見てコナミがゴクリと喉を鳴らす。

するとその音を合図に『スターダスト』の光は更に増大、コナミの眼前に迫る黒コナミの右腕を丸呑みにする。

 

「ぐっううぅ!?」

 

それでも諦める事なく抵抗の意志を見せる黒コナミだが、苦痛に表情を歪ませ、完全にその姿が消え去っていく。

そして光に呑まれるのはコナミとて例外ではなく、巨大な津波を受け、その姿をこの次元から消し去った。

 

――――――

 

ピチョンと、自らの頬に何か冷たいものが触れた感覚を受け、少年――榊 遊矢の意識は浮上する。

 

「う、うん……」

 

再度、彼の頬に先程と同じ感覚が走り、今度こそ眠っていた意識は完全覚醒。ハッ、と瞼を上げ、両の眼を開いて勢いよく起き上がる。

 

「――ッ!」

 

瞬間、ズキリと鋭い痛みが脳天を貫き、思わず顔をしかめ、左手で額を抑える。

そして開いた片目に写ったのは、ボロボロに壊された都市の姿。この光景、何時かどこかで見た事があるような。あれは一体、何時だったか。

 

「ここは――俺は……確かあの時、装置の暴走で……そうだ!柚子!」

 

直前までの記憶を手繰り、ハッとして辺りを見渡す遊矢。あの時の記憶通りなら、彼女の無事が何より気になる。

自身は今度こそ彼女を守れたのか。彼女は大丈夫なのかと不安に駆られて行動を起こすと――いた。しかもかなり近くに。

正確に言えば、遊矢は彼女の、柚子の手を放さないようにとガッチリ握り込んでいたのだ。見た目も外傷はなく、すうすうと寝息を立てている。

 

「良かったぁぁぁぁ……」

 

安心で肩から力を、いや、全身から力を抜き、その場に座り込んで深い溜め息を吐く。だが繋いだ手がどうにも恥ずかしく、頬を染め、ポリポリと掻く。

 

「そうだ……皆はどうしたんだろ……それここはどこなんだ……?」

 

昇って来た熱を逃がすように辺りを見渡す遊矢。この様子だとシンクロ次元やスタンダード次元では無さそうだ。

勿論次元転送装置が暴走したのだから他の次元についた可能性はある。だとすれば、と遊矢が思い出した瞬間。

 

「グワーハッハッハァッ!」

 

「きゃぁぁぁぁっ!?助けてぇっ!」

 

響き渡るうら若き乙女の悲鳴。一体何だと遊矢が声の方向へ視線を移せば――そこにいたのは鉄の仮面を被るモヒカンを生やした筋骨隆々の怪人と、そんな怪人の下、叫ぶアイドルのような衣装を纏った少女の姿。

1度は現実離れした怪人の存在に驚愕する遊矢だが、今までの超常的な現象を見て来て耐性がついたのか、直ぐ様冷静さを取り戻す。

 

「あの子が危ない……!」

 

「助けてぇっ!ナンバーズハンターッ!」

 

「……うん?」

 

しかし、次なる少女の台詞が遊矢の足を地に縫い付けて止める。今、彼女は何と言ったのか、助けての後に、何だか聞き慣れない単語がついていた気がするが――。

 

「そこまでだ!七皇のギラグ!」

 

「むっ、何奴!」

 

固まる遊矢の頭上のビル屋上より、少年の声が響き渡る。反射的に遊矢と怪人、ギラグが振り返ると――七色の光が輝き、小さな影に格納されていく。

 

「フォトン・チェーンジ!とうっ!」

 

そして、タンッ、軽やかな足取りでビルから飛び降り、ギラグの眼前に降り立ち、その姿を明らかとする。

逆立つ青い髪に、赤いマスク、水色のマントと白いスーツを纏う、まるでヒーローのような少年だ。

 

「広い銀河の地球の星にピンチになったら現れる!イキでクールなナイスガイ!行くぜ、正義の大盤振る舞い!ナンバーズハンター、エスパーロビン、定刻遅れてただ今到着!」

 

高らかに自らの名乗りを上げ、ポーズを決めるヒーロー、ロビン。更にそんな彼の隣に、もう1つの影が颯爽と現れる。

白いコートを纏う、オッドアイの青年。

 

「人の心に澱む影を照らす眩き光、人は俺を、ナンバーズハンターと呼ぶ……」

 

「カイト先輩!」

 

「先走るなと言った筈だぞ、ロビン」

 

その青年の登場に、ロビンがパッと顔を輝かせ、カイトと呼ばれた彼はそんなロビンをいさめる。

 

「来てくれたのね、ナンバーズハンター!」

 

「ぐっ、ぬぬぬぬ……またしても貴様等かナンバーズハンター!何時も何時も邪魔しに来おってぇぇ……!さなぎたんは俺が作ったラヴソングを歌うんダァーッ!」

 

正義のヒーロー、ナンバーズハンターの登場に、さなぎと呼ばれる司会のお姉さ、少女が笑みを見せ、ギラグが表情を歪ませ叫び声を上げる。

 

「そんな事させるもんか!」

 

「今日こそ狩らせてもらおう、貴様等、七皇の『No.』、その魂ごと!」

 

「返り撃ちにしてやるよぉ、天城カイトォ!『銀河眼の光子竜』を失ったテメェなんざ怖くねぇ!」

 

「懺悔の用意は出来ているか?」

 

目の前で行われるヒーローショー顔負けの超展開、訳も分からない状況を見て遊矢は唖然としながら声を絞り出す。

 

「なぁにこれぇ」

 

当然の感想だった。




エクシーズ次元?誰それ、俺特撮次元ん!

くぅ~(以下略)
取り敢えずこれにてシンクロ次元終了です。消化不良な所もありますが、エクシーズ次元編でその後シンクロ次元はどうなったの?的な話もすると思うので気長に待ってください。

この先は私的な総まとめです。
当初の予定ではジャックのスポットライトが多くなるかな、と思ってたんですが彼よりも遊矢君やユーゴが活躍したなと思います。

後はシンジですね。この作品ではシンクロ次元再興するにあたって彼とロジェの力は必要不可欠です。ジャックやクロウと言った過去キャラに思い入れはありますが、ARCーVだからARCーVのキャラを中心に回したいなって。

大まかなストーリーとしては自分は書きたいラストを想定して間に中ボス役を添えながらその後の肉付けをしています。他の人もこんな感じなのだろうか。

取り敢えずこの章のラスボスとしてはなんちゃって5D'sのネオ5D's達。中ボスはセルゲイとかシンジとかバレットとかですね。
シティを纏める為に遊矢達が奔走し、ラストの白コナミの決戦でシティが纏まり、それが遊矢の力となるみたいな。

まるでかつての主人公が立ち塞がるように敵となったスターダスト。
白コナミのアーククレイドル私物化(ZONE激おこ案件)。
遊矢とユーゴの融合(激ウマギャグ)。
シティ中に広がるシンクロ召喚、乱入ペナルティ等の有効活用。
今こそ1つになったエースの攻撃で決着。

みたいな事を書きたいが為でした。後はフィーリングよフィーリング。
コナミはボコボコにして暫く退場させとこう。
白コナミはラスボスとか言う大役やったからもっとボコボコにしとこう。
零羅はすまねぇ!的な。

反省点はあほみたいなあるけどな!ガハハ!

プレイングミスやルールミス、テキスト間違いはヤバかったですね。これについては本当に申し訳ありません。多分これからもすると思います。

ストーリー面では描写不足が目立ったと思います。デュエルばっかりが中心になってしまった……。その癖零羅とかにスポットを当てられなかったと言う……彼?については原作通り頑張ったと補完してください。

デュエル描写も似たような文章になってしまってたと思います。ターンを跨いだキャラクター同士の掛け合いも少なかったなと。小説なのにね。

何より中々話が進まない、終わらないのは読んでいて苦痛だったかなと思います。申し訳ございません。

次回以降直すとは言えませんが少しずつ改善したいと思います。

没になった話もそこそこありました。
遊矢&リンvsアキ&ブレイブとか、ユーリvsアビドスとか、コナミvs藍神とか。犠牲になったのだ……。コナミvsチラムサバクはちょっと書きたかったな。

プラシドの中身については今まで彼については瞳の色等に関して描写してなかったりコナミが◯◯がいた発言とかでそれなりに匂わせてはいました(次の瞬間いなくなっているのはワープ剣を使えるから)。
色々ネタバレになるので質問されたとしてもああ!としか応えられません。

色々頑張った遊矢君にはご褒美を、サボってたコナミ君はリザルトを奪われました。お前がパワーアップするのか……。

長くなりましたが次回からはエクシーズ次元。遊矢君はすっかり成長したので前半は前作主人公のように先輩っぷりを見せてくれるでしょう。コナミは知らん。
ユートやナンバーズハンター達がアカデミアとバリアン達とバチバチする予定です。息がつまるので日常回も書きたいなと思ったり。

ではここまで読んでくださった読者の方々、感想、お気に入り、評価を下さった皆様に感謝を。
ありがとうございました。




次回予告

七皇のドラゴン使い、ミザエル。俺とカイト先輩は奴に挑み、俺が足を引っ張ってしまったせいで敗北。カイト先輩のエースカード、『銀河眼の光子竜』が奪われてしまった!
カイト先輩は気にするなと励ましてくれるがそうはいかない。そんな中、バリアン七皇、ギラグが襲来!俺とカイト先輩は迎撃に出動するが、その場には怪しい奴もいて……?

アカデミアが使うペンデュラムを操る少年、榊 遊矢!きっと融合次元の手先に違いない!

次回、ナンバーズハンター ロビン

第39話 敵か味方か、エンタメデュエリスト、榊 遊矢!

次回も俺と、ナンバーズハント!


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