ラフィンアート・エイトライン (狂笑)
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第一話 攻略組のレッドプレイヤー エイト

「や、やめてくれ、い、命だけは」

 

男の命乞いを無視し、紺色のポンチョを着た男は頭上に剣を振りかぶる。

その剣はとても歪な形をしていた。

先端は尖っていて、その刀身は中央にかけて曲湾状に曲がり、また中央を過ぎると広くなる。

 

「こ、紺色のポンチョに、魔剣、ブルートザオガー。ま、まさかお前、ラフコフ№2、『吸血鬼』――」

 

この言葉が、男の最期の言葉だった。

男をポリゴンに変えた、紺色のポンチョを着た男は――

酷く腐った目をしていた――

 

 

 

 

 

カルマ回復クエストを終え、俺はホームに帰宅する。

ベッドで横になりながら、ふと今の俺の状況を考える。

 

レッドギルド・ラフィンコフィンの№2

これが、俺の裏の顔。

攻略組トッププレイヤー。

これが、俺の表の顔。

このことを知っているのはラフコフ上層部と、俺と同じく攻略組に潜入している構成員(系統上は俺の部下)のみだ。

だから顔なじみの攻略組が真剣な顔しながらラフコフ対策を俺に相談したりしてくる。

これが面白くってしょうがない。最近の楽しみはコレと自作したMAXコーヒーと酒を飲むことになるまである。←オイ未成年。

 

話は変わるが、表の顔と裏の顔を使い分け、かつばれないようにするには二つの秘訣がある。

一つは、徹底した武器の交換。

俺の場合、攻略組として使う武器は伸縮槍、『神鉄如意』だ。

これは26層のLAボーナスで、使用者が望まなければ折れも曲がりもせず、一方使用者が望めば曲がったり、伸びたり、または分裂したりする。魔剣クラスの槍だ。(ただし、代償あり)

この槍を手に入れた瞬間、伸縮槍というスキルが表れたため、おそらくエクストラスキルだろう。伸縮槍手に入れた奴あと一人知ってるし。

そして、ラフコフの仕事で使うのは片手直剣、『吸血鬼(ブルートザオガー)』だ。

これは20層のLAボーナスで、コイツも魔剣クラスだ。

そして、コイツの真骨頂はPKにある(と、俺は勝手に思っている)。

 

コイツが魔剣クラスである所以は、この剣の能力(といかスキル)にある。

交戦者がこの剣に直接もしくは間接的に触れている時に自身のHPを注ぎ込むとその相手に傷をつけることができる。

その傷の大きさ・深さ・数は注ぎ込むHPの量に依り、大量のHP(高レベルのプレイヤー1人分)を込めれば強力なフロアボスでも一撃で倒すことが可能である(らしい)。

この能力の発動条件は、武器や防具で剣その物を防いでも満たされるため、武具で受ける形での防御は不可能。ただし、剣と剣を掠らせる・いなす・弾くなど、相手にHPを込める間を与えない防ぎ方ならば防ぐことは可能。

基本近接戦闘しかないSAOにとってはかなり有効に使えるものだ。

(因みに、どうやらこれはブルートザオガーを入手した者が手に入れられるユニークスキルのようだ。ただし、ブルートザオガーでしか発動しない)

 

 

もう一つは、情報統制だ。

これは簡単に言ってしまえばフレンドは極力作らないことだ。

ラフコフ上層部、攻略組潜入員、アスナ。

これは俺がフレンド登録しているメンバーだ。

ん、何か余計なのが混じってないかって?

実はその通りなのだ。

俺も消したかったのだが、消したらトラウマになるレベルで死ぬほど怒られた。(というか、圏内でソードスキルを大量にくらった)

詳細は割愛させてもらう。今のところは。

 

 

攻略も早70層台。

ラフコフの活動も活発になってきてるし、攻略組もラフコフ対策に本腰を入れつつある。

そろそろ、衝突する頃かな。

攻略組に長く籍を置いたため、情が湧いてしまったプレイヤーもいる。

衝突した時、俺はソイツ等を殺せるだろうか。

そのことが、ここ最近の俺の懸念事項となりつつある。

 

 

 

 

 

 

 

 

???side

 

「なあ、アルゴ、“あのプレイヤー”に関する情報は新たに入手できたか」

 

「イヤ、ダメだったネ。そもそも目撃して生きているのが少なすぎるネ」

 

「そうか……」

 

“あのプレイヤー”

俺たちがそう言ったプレイヤー、ソイツはラフコフ№2の男だ。

ソイツは紺色のポンチョを着ていること、ブルートザオガーと呼ばれる魔剣クラスの片手直剣を使うこと。『吸血鬼』と呼ばれていること。この三つしかわかっていない。

ラフコフは最高幹部が五人いるとされている。

首領のPoH、№3の赤眼のザザ、№4のジョニー・ブラック

この三人しかプレイヤーネームは明らかになっていない。

それでも俺が『吸血鬼』の情報を求める理由。

それは――

 

月夜の黒猫団の仇だからだ。

                       Side out

 

 




さて、サチは生きているのか死んでいるのか。
どうしようか......


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第二話 決別とログイン

自身の中で奉仕部に見切りをつけ、部員を批判する。

これは八幡をラフコフ堕ちさせるための第一歩なので、御容赦ください。


修学旅行、戸部からの依頼と海老名さんからの依頼。

これらを果たすため、俺は俺のやり方で解決した。

だがそれは――奉仕部崩壊の始まりだった。

 

 

 

 

俺が悪い。勝手に信頼して、勝手に任された気になっていた。俺の独断で動いた。

そして俺のやり方は否定された。

いつからだろう、この関係を失いたくないと思ったのは。

何かあればすぐに切ることができる関係だと思っていたのに。

だけど――

 

――もう、いいんだ――

 

いずれは失う関係だったのだから。ただそれが早まったにすぎない。

延命させることに意味はない。

だから俺は――諦めた。

 

 

 

諦めると不思議なものだ、アイツらに対する不満が次々に浮かんでくる。

 

『……まあ、あなたに任せるわ』

 

雪ノ下は確かにこう言った。だから俺は俺のやり方を貫き通した。それこそ、俺に一任されたと思って。

 

『あなたのやり方、嫌いだわ』

 

なのに雪ノ下はこう言った。

おかしいじゃないか。あのセリフは俺に一任したと考えてもいいじゃないか。それを否定するならもう自分でやってくれ。自分で考えてくれ。だって、俺のやり方が嫌いなんだろ?

俺はお前に合わせてやり方を変える真似はしないから、俺のやり方が嫌いなら、お前のやり方でやれよ。

 

 

 

『人の気持ち、もっと考えてよ……』

 

確かに俺はお前の気持ちを一ミリたりとも考えなかった。

だけどさ、考える必要ってあったのか?

海老名さんの依頼はともかく、戸部の依頼は奉仕部への依頼だ。

それを承諾した以上、私情を挟んではならない。奉仕部という組織人として動かなければならない。

だから、考える必要はない。

 

 

俺はもう疲れた。休ませてくれ――

 

あの日以来、俺は奉仕部に足を運ばずにいた。

運ぶ気にすら、ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「おし、十二連勝。材木座、お前このゲーム弱すぎ」

 

「なにー、また我の足利義輝が負けただと―」

 

今俺は材木座の家で『BUYUU~歴史上の猛者たち~』というテレビゲームをやっている。

これは歴史上の猛者から五人選択し、それを指揮して戦うゲームだ。

材木座は足利義輝を大将に足利尊氏、足利直義、上杉謙信、柳生宗矩の組み合わせ。総大将クラスばかりだ。

ちなみに俺は徳川家康を大将に柳生十兵衛、本多忠勝、源義家、渡辺守綱だ。

……千葉の関係者、本多忠勝だけかよ。それも数年間上総大喜多の城主だっただけだし。

 

 

「ところで八幡よ、明日のことなのだが……」

 

明日、それは世界初の仮想大規模オンラインロールプレイングゲーム、通称VRMMORPGであるソードアート・オンラインが予定より約二週間遅れで開始されるのだ。

夏に商店街の抽選会でナーヴギアを当てた俺は、元々持っていた材木座と一緒に学校休んでまでしてソフトを手に入れたものだ。

 

遠い目をしながら回想していると、材木座が告げる。

 

「どうやら、明後日に鹿児島で曾祖父ちゃんの十七回忌があるらしいのでな、明日の午前中に家を出るそうだ。すまぬが、明日ログインできそうにない」

 

「そうか」

 

別に一緒にやる約束はしていなかったし、法事なら仕方がない。

なにより、沈んでいた俺を引き上げてくれたのだから、それで十分だ。

 

修学旅行後、他人に勝手に期待した癖に勝手に裏切られたと思って失望し、そんな自分に苛立っていたとき、材木座のこの発言が、俺を正当化させてくれた。

 

「お主の話を聞いて思ったのだが、雪ノ下氏も由比ヶ浜氏もお主を理解している気になっているだけではないのか。

我は『プギャーwww』と言ってやりたい。これはあくまでも我の見解だが、あのご仁どもは、いざ自分の想いと違う不都合なことが起きるとすぐ否定。お主の立場が低いことを利用して好き勝手しているし、可愛いから許してくれると勘違いしている。言っていいこと悪いこと、やっていいこと悪いことが色々な意味でわかっていない。お主から切って当然ではないか?」

 

だから俺は、今も平然としていられる。

もしかしたら、そう振る舞っているだけかもしれないが。

 

 

 

 

 

二〇二二年十一月十九日、土曜日の十三時

 

俺は自室のベッドの上で、ナーヴギアを被り、電子によって作られた異世界へと行く魔法の呪文を唱えた。

 

 

「リンク・スタート」

 

 

これから俺に待ち受ける、様々なことを、この時は知るよしもなかった。

 

ただ一つ言えるのは、仮に知っていたとしても、行動は何も変わらなかったということだ。

 




うん、今回失敗したかも。

すいません


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第三話 喪失と高揚

SAOが始まり、早三週間が過ぎた。

 

「くらえッ」

 

はじまりの街から遠く離れたフィードで、俺はオオカミ型のモンスターに向かって槍のソードスキル、《ツイン・スラスト》を放つ。

ちなみに俺が使っている槍は《ダーリングスピア―》という下層最強の槍。

長さは三メートルほどである。

俺が槍を選んだ理由は簡単だ。

槍は戦闘時に相手との距離が取れ、また突くだけでなく斬る、叩くなど様々な用途があるからだ。

詳しく説明すると、槍は突き刺す以外にも、叩く、薙ぎ払う、掠め・叩き斬る、絡める、引っ掛ける、フェイント的に柄の側を使う等様々な用法が開発されている。

そもそも槍は戦闘時に相手との距離がとれることによる恐怖感の少なさや、振りまわすことによる打撃や刺突など基本操作や用途が簡便なため、練度の低い徴用兵を戦力化するにも適した武器であり、洋の東西を問わずに戦場における主兵装として長らく活躍した武器である。リアルで武器を振り回したことのない俺にとってぴったりなのだ。

 

断末魔とポリゴンの破砕音が聞こえ、アイテムに新たなドロップ品が加わる。

俺は三週間前、茅場晶彦が“あの宣言”を行って以来、寝るとき以外は常にフィールドまたは迷宮区に繰り出し、視界に入ったモンスターを一匹残らず駆除している。

自棄になっているのか。それともただ楽しんでいるのか。あるいは現実を受け入れることができなくて、それを考える暇すら与えないようにして現実逃避しているのか。自分のことなのに、自分がわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

三週間前、つまりSAOの正式サービスのチュートリアル初日の午後五時半ごろ、プレイヤー全員が突然《はじまりの街》に強制転移させられ、茅場のアナウンスを聞かされた。

茅場晶彦。

数年前まで数多ある弱小ゲーム開発会社の一つだったアーガスが、最大手とよばれ、東証一部上場企業まで登りつめた原動力となった、若き天才ゲームデザイナーにして量子物理学者。

彼はこのSAOの開発ディレクターであると同時に、ナーヴギアそのものの基礎設計者でもあるのだ。

各研究機関や大学、政界からもアプローチを受けているものの、アーガスから離れるつもりはないと明言していることでも有名だ。

そしてその言葉をもって、茅場のデスゲーム宣言が始まった。

曰く、俺ら一万人弱のプレイヤーはこのゲームに閉じ込められた。

曰く、ナーヴギアを外そうとしたり、分解、破壊しようとすると脳がナーヴギアによって焼き切られる。

曰く、もう二百十三人が死んでいる。

曰く、HPが0になったらリアルでも死ぬ。

 

それを聞かされれば、人によっては発狂してもおかしくない。

それに追い打ちをかけるように、自分で作り出したアバターから、現実での自分の姿にアバターを変更させられた。

それは否応なく、これが過剰なオープニング演出ではなく、現実であるということを意識させられる。

 

『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君の――健闘を祈る』

 

この言葉を最後に、茅場は消えた。

それを機に、多くのプレイヤーの感情が堰を切って溢れ出て、はじまりの街は阿鼻叫喚の地獄と化した。

その時俺の心にあったのは

――小町、材木座、一人にしてゴメンな――

罪悪感と喪失感

――もうこれで、完全にあの部屋に行くことは無くなったぞ――

解放感、そして

――デスゲームか何だか知らんが、ものすごく楽しくなってきた――

高揚感だった。

 

四つの感情に支配されるがままに動き、気付けばはじまりの街から遠く離れたフィールドでアインクラッド初の夜明けを迎えていた。

夜はちゃんと寝るようにしたとはいえども、四六時中狩りばかりやって今に至る。

 

前方の方で、次々とポリゴンの破砕音が聞こえてくる。

おそらくプレイヤーとモンスターの交戦中なのだろうが、何故か気になってその音源の方に近づいてみる。

そこで目撃したのは――

コボルトを全て倒し終えたプレイヤーが、不可視の麻痺攻撃を受けたかの如く、緩やかに地面へと崩れ落ちていく場面だった。

 




非常に遅くなりました。しかもいつもよりクオリティ低いです。すいません。


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第四話 救出?

投稿遅れました。


失神とは、脳の血流が瞬間的に滞り、機能が一時停止する現象だ。

虚血の原因は、心臓の血管の機能異常、貧血や低血圧、過換気など色々あるが、VR世界にフルダイブしている間は、現実の肉体はベッドやリクライニング・チェアで完全に停止している。

まして、このデスゲーム《SAO》に囚われているプレイヤーの体は現在各所の病院に収容されていると予想され、当然健康状態のチェックや継続モニタリング、必要に応じて投薬すら行われているはずだ。

肉体的な以上で失神するとは考えにくい。

つまり、いきなりパタリ、と倒れるプレイヤーはほぼ存在しないだろうし、もし現れたのならNPCの可能性を、クエストの可能性を疑うべきなのだ。

だが周囲を見渡してもどこにも他のNPCは見当たらず、近づいても遠ざかっても金色のクエスチョンマークは出てこない。

今俺の前で倒れた奴は何度見直してもグリーンカーソルしかない。

つまり、こいつはプレイヤーなのだ。

これが何かのクエストの合図ではないのだ。

まあ、そんなことはどうでもいい。問題はこいつをどうするか、だ。

 

助けるか、見捨てるか。

 

このフィールドはモンスターの湧くスピードが速く、もしここで俺が見捨てればコイツはモンスターに殺されるだろう。

だが、コイツを抱えながらモンスターと殺り合い、生きて帰れる自信はない。

この世界はデスゲーム。今日命があっても明日命があるかは分からない世界。

故に、皆生きるのに必死だ。

もしここで俺が見捨てたとしても、特に糾弾されることはなかろう。

だが、ここで見捨てるのは何かマズイする気がするのだ。

ふと時間を確認すると、日没までもう一時間を切っていた。

日が暮れるまでにこのフィールドからは立ち去ったほうがいい。

何処かの街に置いてあった攻略本にそう書いてあった。

通常よりも強い、夜行性のモンスターが徘徊し始めるからだそうだ。

仕方がない。死に急ぎのプレイヤーなぞそうはいないだろうし、コイツも死にたい訳ではないだろう。

情けは人の為ならず、ってことで、助けるか。

俺の持っていないマップデータとか持っているかもしれないしな。

覚悟(?)らしきものを決め、一応の言い訳を考えた俺は、周囲に他のプレイヤーがいないことを確認(誘拐犯に仕立てあげられないようにするため)すると、左肩に倒れたプレイヤーを、右肩に槍を担ぎ、一目散に《トールバーナ》郊外にある宿へ走っていった。

……隠蔽を発動させながら。

 

 

 

 

「ふう」

俺の宿の前に無事たどり着いた俺は隠蔽を解き、一息つく。

郊外にあるこの宿は、農家の二階部分全部である。

少々値段は高いものの、風呂ありシャワーありと、様々な特典がついている。

最大の特典は何と言ってもマックスコーヒー飲み放題である。

これがあるからここに決めたと言っても過言ではない。

何故この世界にマックスコーヒーがあるのかは不明だが。

茅場もマックスコーヒー好きだったりするのだろうか。

もしそうならマックスコーヒー談義とかしてみたい。

どんな談義だオイ。

 

担いできたやつを一旦、部屋のソファーに寝かせておき、俺は一旦自室に戻った。

ベッドに倒れこみながら何気なく、メインウィンドウを開く。

そこには――

 

「ついに来たか」

 

俺にとっては、召集令状の赤紙とも思える知らせ。

デスゲーム開始後初の会議、《第一層フロアボス攻略会議》開催の知らせだった。

 



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第五話 出会い

遅くなりました、すいません。


???side

ダンジョンの床に倒れる瞬間の思考は、「仮想空間で気を失うのはどういう仕組みなんだろう」という、いたって散文的なものだった。

失神とは、脳の血流が瞬間的に滞り、機能が一時停止する現象だ。虚血の原因は、心臓の血管の機能異常、貧血や低血圧、過換気など色々あるが、VR世界にフルダイブしている間は、現実の肉体はベッドやリクライニング・チェアで完全に静止している。

ましてや、このデスゲーム《SAO》に囚われているプレイヤーの体は現在各所の病院に収容されていると予想され、当然、健康状態のチェックや継続モニタリング、必要に応じて投薬すら行われているはずだ。肉体的な異常が原因で失神するとは考えにくい――

 

薄れゆく意識の中でそこまで考えてから、最後に、そんなことどうでもいいや、と思った。

そう、最早何もがどうでもいい。

だって自分はここで死ぬのだ。夕方になれば通常時よりも凶暴かつ凶悪なモンスターが徘徊し始めるこの草原で気絶して、無事でいられるはずがない。すぐ近くに槍で戦っているプレイヤーがいたが、自分の生命を危険に晒してまでも、倒れた他人を助けようとするとは思えない。

――思考がそこに至った時点で、ようやく気付く。

強烈なめまいに襲われ、地面に倒れこむ刹那の思考のしては、やたらと長くてのんびりしている。

だいたい、体の下にあるのは少し硬めの、ちょっとチクチクするような草であるべきなのに、背中を押し返す感触が妙にフカフカ……とはちょっと違うけど、なんていうか、ソファーっぽい。夕焼けの赤い光も、夜の月明かりのような青白い光もなく、あるのは電灯のような白い光……。

 

……

 

って、ソファー、電灯!?

明らかに屋外にあるべきものではないものの感触が頭によぎったことに驚き、フードの中からそっと周囲をうかがう。

白い光を放つ電灯に、私の下にあるソファー、マックスコーヒーが置いてある机。

窓から見える空は既に暗くなっていて、現実世界にいた頃には見たこともないほどの綺麗な星空が見える。

 

って、なんでここにマックスコーヒーがあるのよ、というか、ここは何処!?

 

私の部屋ではなく、誰かの部屋であることしか分からない。

そこまで考えて、私が倒れたとき側にいた、槍を持っていたプレイヤーの存在を思い出す。

顔を確認したり、声を聴いたわけではないから確証はないが、男のプレイヤーだったはず……。

もしかして此処は、その人の根城……

サーっと、血の気が引いていくのがわかる。

色々と、嫌な想像が頭を駆け巡る。

兎に角、急いでここを出た方が賢明ね。

そう思って、立ち上がろうとしたその瞬間、

 

「お、目覚ましたみたいだな」

 

「ひゃぁっ」

 

いきなり部屋の扉が開き、男のプレイヤーが声をかけてきたのに驚き、ソファーから転落してしまった。

 

「おいおい、大丈夫か」

 

そう言って、男の人は手を差し出してくれる。

 

「は、はい、ありがとうござ――」

 

その手を取ろうとすると、必然的に彼の顔を見ることになる。

するとその……彼の濁った目が視界に入り、それと同時に一つのことを思い出す。

彼がどんな人かは分からないが、この部屋に私を連れ込んだのがこの人であるのは確実。

手を取るのを止め、壁際へと後退する。

そして、レイピアを構える。

 

「わ、私に何をするつもりだったんですか!?」

 

私がそう言うと、彼はキョトンとした表情でこう返した。

 

「何をって言われてもなぁ……何もしてねえし、するつもりもないぞ」

 

「じゃ、じゃあ何で私は此処にいるんですか!?」

 

「ん?ああ、そりゃあお前さんが草原で寝ていたからだ。最初は放置しようと思ったんだが、そのまま死なれても目覚めが悪いし、かといって圏内に転がしておくのもよくないと思ったんで連れてきた」

 

「……それはつまり、私を助けたってことですか?」

 

余計なことを、とつい悪態をつきそうになるがなんとか抑える。

 

「いや、それは違う。俺が助けたのはお前ではなく俺の精神だ。あの時放置したせいであのプレイヤーは死んだんじゃないかとか、いちいち考えたくないからな。だからおまえが助かったと思うなら、それはお前が勝手に助かっただけだ」

 

彼は、今まで声を掛けてきた他のプレイヤーとは違うようだ。

命の大事さがどうとか、プレイヤー全員が力を合わせればとか、そんなことは一切言わず、自分の為だと言い切った。

だからだろうか、私は彼に興味を抱いた。

 

「名前、何て言うんですか?」

 

「相手に聞くときは、自分から名乗るものじゃないか?あと、敬語はいならいぞ」

 

まるで、『人生で一度は言ってみたい言葉の一つを言ってやったぜ』みたいな顔を浮かべる彼。

癪だけど、私から名乗った。

 

「私の名は、アスナ、よ」

 

「そうか、俺の名は――エイト、だ」

 

 

私にとってこれは重要な出会いであることは、この時は知る由もなかった。

 

 



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