獅子鎧、独りでに動きて (南瓜斧槍)
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§.0 サービス終了

 

 酔いの回った頭で家のドアを開く。真っ暗な室内に明かりをつけると見慣れた散らかし切った室内が俺を安心させる。そもそも、今日は早めに帰って、久方ぶりにPCゲームに興じる予定だった。そんなもの関係ないとばかりに飲みに連れていく上司さえいなければもっと早く帰れたのに。

 アップデートは朝、家を出る前にしておいたからあとはプレイするだけだが、いかんせんギリギリの時間だ。VRMMORPG「ユグドラシル」がサービスを終えるまであと30分も無い。ネクタイを外しながらランチャーを起動し、ギアをセットする。スーツのズボンとボタンを上まで閉めたままのワイシャツが煩わしいことこの上ないが、それを気にしている時間はないだろう。

 俺が職場環境の変化を理由にログイン過疎になってから約1年・・・ギルドの、「アインズ・ウール・ゴウン」のみんなは元気だろうか。ももんがさんから召集の連絡があったのだから、全員とはいかなくても半分くらいは、いや、10人くらいはいるのではないか。

 

 

 

 俺がログインすると、そこは灼熱の大地だった。周囲の地面は赤く赤熱し、川のように溶岩が流れている。背後では連なる4つの火山が噴煙を上げ続けている。

 そうだ、すっかり忘れていたが俺はこのエリアまでわざわざ出向いて、趣味用装備のひとつである鎧を入手しようとしていたのだ。鎧自体は無事に手に入れることができたのだが、拠点であるナザリック地下大墳墓に戻るのが面倒になって、火山のログアウトできるエリアでそのままログアウトしたんだった・・・新しい鎧を身にまとった状態で。

 これはまずい、ありとあらゆる転送手段を利用しても流石にここからナザリックまで戻るには時間が足りないかもしれない。《メッセージ/伝言》の魔法を使って先にモモンガさんに連絡しておくとしようか。

 

「えー・・・『遅れてすいません。今から行くんですがもしかすると間に合わないかも』」

 

 とりあえずはこれでいいだろう。いくらサービス終了直前とはいえこれくらいは届くはずだ。さて、さっさと移動してしまおうか。まずはナザリックに最も近い位置にある町に転移する必要があるだろう。俺が移動用の呪文を唱えると、視界から暑さをこれでもかと言わんばかりに主張していた火山地帯は消え去り、代わりに木々の生い茂った涼しげな森林が現れた。

 

 

 

 「・・・なんだこれ」

 

 

 

 この日、俺の人間としての人生は終わりを告げ、ユグドラシルの中でも立派な不人気種族『動く鎧(ワンダリングアーマー)』としての人生と呼べるのかもわからない何かが始まった。



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§.1 獅子鎧、森の中に迷う

 どういうことだろうか、町へと転移したと思ったらなぜか森の中に来てしまった。こんなことは今までの短くはないプレイ歴の中でも一度足りともなかったことだ。しかも恐ろしいことに、慌てて他の町へ転移しようとしても選択できないと来ている。まずは落ち着け、そしてGMコールを・・・しても一切の反応がない。どういうことなのだろうか。

 ここで俺はさらに恐ろしいことに気がついた。周辺状況を示しているはずのミニマップがない。それどころか、大きい全体地図さえも表示することができない。これは詰んだのでは、という思いが頭をかすめるがまだ俺は落ち着いている。強制シャットダウン・・・失敗。再度GMコール・・・失敗。コンソール入力・・・は入力画面すら出ない。ああ、詰んだわこれ。

 いや待てよ、モモンガさんはログインしていたはずだし、さっきは確認していなかったが他の面々だっていたはずだ。なぜ忘れていたのか。《メッセージ/伝言》の魔法を唱えるとログインしているギルドメンバーの名前が明るく表示されるはずだが・・・。

 駄目だ。誰一人として点灯していない。ついさっきログインしていた筈のモモンガさんでさえだ。ちらりと時計を見やると既に数字は本来ありえない筈の00:02という時間を示している。そりゃあモモンガさんがいるわけないよなあ、だってもうこのゲームはサービス終了してるんだからなー。ということは、だ。俺はこれから地図もなく、GMも、友人たちとの連絡も取れずにたった一人でこの森を自力で突破しなくちゃならんというわけか。

 なに、悲観することはないだろう。これも運営が最後まで残っているプレイヤーに向けたサプライズか何かに違いない。もしくは「ユグドラシル2」のようなもののクローズドβテストとかに参加させられているのかもしれないし。そうであればこの森だってそう広くはない筈だし、一時間も歩けば終わりが見えてくるだろう。そう思って俺は、あてもなく森を彷徨い始めた。

 

 

 

 ミリアは敏い娘だ。村の大人たちは彼女を、まだ14になったばかりなのによくできた娘だと言い、子供達は皆彼女をお姉ちゃんと呼び実の姉のように慕っている。そしてミリア自身も、どのように振る舞えば大人たちによくできた娘だと思われ、子供達に姉として慕われるのか、そのやり方を知っていた。

 だからであろうか、怖いと思いつつも彼女は森の奥にまで入り込んでしまっていた。まだ5歳の少女が誤って中に入って行ってしまったと聞いて森へ足を踏み入れずにはいられなかった。大人に伝えて村でおとなしく待つ自分と、無事に少女を助け出し皆に尊敬される自分。二つがミリアの頭の中で天秤にかけられ、大きく揺れていた。彼女もまた、14の少女でしかないのだ。

 

 気がつけば、ある程度は見慣れていた筈の森の中は全く見たことのない顔を見せていた。もちろん、一人で森に入ったことなどない。かろうじて帰り道はわかるものの、それさえ確かなものではない。木々の上を小動物が走り抜ける音が響き、彼女の精神力を削ってゆく。

 

 (ここまで来たのにいないんだから・・・あの子は先に村へ戻ったのよね。きっと入れ違いになったんだわ。)

 

 だから帰ろう。もし少女が帰っていなくても、それは自分のせいではない。自分はこんなに探したのだから。そうミリアが気持ちを整理して帰ろうとして振り向いた瞬間、大きなものが動き出し音を立てた。それは狼の魔物であり、休んでいたらしいイノシシの魔物に襲い掛かったのだった。

 とっさにその場にしゃがみ込んだミリアは木を盾にしその様子を見守ることにした。どちらが勝とうと、ミリアではこの場から無事に逃げきることはできないだろう。ちょっと賢いだけの村娘に、いや、普通の村娘なんかに魔物から逃げる術などないのだ。今できることはただ、共倒れになるか満足した勝者がその場を離れて行ってくれることを願うのみである。

 

「どうかしましたか」

 

 突然背後からした声にミリアは飛び上がりそうになる体をすんでのところで制御した。多少声は漏れたがそれも両手で抑えることで止める。どうやら正面の魔物たちには気付かれなかったらしい。安全を確認するとミリアは振り返った。状況を考えず、背後から急に声をかけてきた不注意な人物を睨みつけて、よくよくわかるように魔物たちを指差してこの状況がいかに危険か、教えてやろうとしたのだ。

 二足歩行で歩く獅子。初めはそう見えた。次いで、その獅子の顔も、二足歩行をする体も余すところなく鈍い黄色がかった金属の鎧であることがわかった。異形、というほどのものではない。確かにその獅子面の兜は全身鎧と比べると異彩を放っているがそれはただの兜にすぎない。ではなにか。何が原因で、このようなおぞましさを、近寄るだけで精神を破壊されそうな感覚を自分の脳が感じているのか、彼女にはわからなかった。開いた口から声を発することもできず、魔物たちを指さすこともできない。ただただ、全身をとめどなくいやな汗が濡らしていく。

 

「んー・・・あ、なるほど。」

 

 獅子面の口元から響くその声は奇妙なもので、人間が発しているものだとは思えない金属のすれるような鈍い音であったが、不思議と耳には言葉として意味が伝わってきていた。もっとも、何がなるほどなのかは彼女には全く意味のわからなかったが。動けない彼女を置いたまま、獅子鎧はそのまま奥へ歩いていく。その歩行音は見た目からは考えられぬほどに静かであり、横を通り過ぎて初めてミリアは正気を取り戻した。

 

 「行っては駄目です!魔物が」

 

 振り向いたミリアが叫ぶと同時に目にしたのは空中で襲いかかる姿勢のまま幾枚かに横にスライスされた狼の魔物と衝突の衝撃で木を粉砕しつつ自らの体も破裂し周囲に臓腑をブチまけているイノシシの魔物、そして身の丈よりも長い両手剣を片手に持って振り切った姿勢の獅子鎧であった。

 

 獅子鎧が振り返り、ミリアの方へと戻って来る。あれだけ血の飛び散るような戦闘を行ったというのにその体には一滴たりとも血は付いておらず、獲物であった両手剣などはいかなる原理かすでに手元にはない。完全に消え失せてしまっている。

 

「あの、倒しましたけど」

 

「あ、はい・・・」

 

 獅子鎧の言葉に彼女は肯定することしかできない。もはや、何を言っていいものなのかわからない。一方で獅子鎧もまたどうしていいものか思案しているように見えた。

 

「えっと、クエストの進行とかはどうなってるんですかね」

 

「くえ、すとですか。すいません、なんのことだか私には・・・」

 

 獅子鎧の口にした言葉は(もっともそれが口から出ているものなのかは疑問ではあるが)ミリアにはわからないものだった。死にたくないという思いからとっさに謝るものの、相手がどう思ったかはわからない。表情はその獅子の面で察することはできず、声色も人間のもののようで違う異質なものだ。人間の考え方が当てはまるかもわからない。魔物に道をふさがれていた先ほどの状況よりも、はるかに悪い状況にミリアはもう神に祈るほかなかった。彼女の命など、先ほどの魔物を屠ることに比べれば道端のアリを踏みつぶすようなものである。

 

「なるほど・・・まったくわからん。とりあえず、あなたに頼みがあるんだが」

 

 ミリアは14年の生涯で初めて、神の存在を感じた。頼みがあるということはここで殺されるということはないだろう。一先ず命が保証されたのだ。あとはこの鎧を満足させ、気付かれぬように村へと帰るだけだ。無事に帰れたのならば、これから毎日神様とやらに祈りを捧げよう。少ない蓄えの中からお供え物も捧げよう。

 

「あなたが拠点としている町、ないしは村まで私を連れて行ってはもらえないだろうか?」

 

 ミリアは14年の生涯で初めて、神を殺してやりたいと思った。



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§.2 獅子鎧、察す

『猛る獅子の兜』
今にも噛み付いてきそうな獅子の顔を模した兜。
目の部分や口の部分にも穴は開いていないが、かけられた魔法によって視界と呼吸を確保している。
防御力はその装飾からあまり高いとは言えないが、素材に使われた金属の特徴により火への耐性が極めて高い。
そのため、火口に誤って落とされたあとも100年間一切性質に変化がない。


 村娘ミリアと会話をする中でいくつかわかったことがある。まず一つ目に彼女はNPCではないということ。発見した当初はNPCだと思い込んでいたために気がつかなかったが、彼女がこちらに返す反応はまさしく人間のものだ。これがプログラミングされたNPCであるというのなら世界的なニュースになるはずだが、現状全くそのような話はないし、秘密裏に開発する利点もないだろう。

 こちらの問いにできる限り答え、わからなけらばわからないと言うが、そのパターンは複数あり一定ではない。そして、警戒心や不安感、・・・不本意ながら恐怖心をも備えている。こんなNPCは「ユグドラシル」はおろか他のVRMMORPGでも見たことがない。

 彼女の心に恐怖心を植え付けてしまったのは完全に俺のミスだ。戦闘用に発動していた精神作用系のオーラが恐怖の状態異常を引き起こしてしまったのだろう。オーラを解き、落ち着かせて話をすることで、ある程度話をしてくれるようにはなったみたいだ。敬語であったこともそれに拍車をかけたらしい。明らかに格上の相手が下手に出てくることほど不信感を抱くことはない。自然体が一番なのかもしれない。

 

「それにしても、お強いんですね。騎士様たちでさえ数人がかりで戦うような魔物をあんな簡単に、あっという間に倒してしまうだなんて・・・」

 

「まあな。俺にかかればあの程度の敵は何体かかって来ようが準備運動みたいなもんだ。」

 

「じゅ、準備運動ですか・・・」

 

 そしてわかったこと二つ目。この世界の人間は「ユグドラシル」基準で考えると非常に弱い。駆け出しのプレイヤーかそれ以下のステータスであることが一般的みたいだ。魔物は人間に比べれば確かに強いが、それもたかがしれている。ミリアに言ったことは誇張でもなんでもなく事実で、今の俺の戦闘能力からすれば準備運動、いやそれ以下かもしれない。ミリアの話ではこの世界の騎士よりも強い存在はいないことはないらしいが、それでも俺のような戦闘能力を持った存在は稀だとか。

 

「あ、見えてきました。あれが私が住んでいる村になります。」

 

「おー、あれか。・・・どうしたんだそんな顔して。」

 

「いえ、先ほども話したとは思いますが・・・リリがまだ戻ってなかったらどうしようかと・・・」

 

「なあに、その時は俺も探すのを手伝ってやるさ。だからお前さんは村でおとなしくしとくんだな。魔物のいる夕暮れの森の中をうろつくなんてのは村娘のすることじゃねえんだろ。」

 

「・・・そうですけど」

 

「おーい!ミリア、無事だったか!?」

 

 村に近付くと大人の男が4人ほど走ってきた。4人とも古めかしい農民の装いといった様子で、綺麗な身なりとは言えない。中には農業用の鍬やフォークのようなものを肩に担いでいる男もいる。

 

「お前が森に入っていったと聞いて驚いたぞ。もう少し戻ってくるのが遅ければ捜索に行くところだった。」

 

「ごめんなさい、アンドレイおじさん。・・・あの、リリは?」

 

「リリならお前が森に入ったあと少しして戻ってきたらしい。まったく、二人ともお転婆はほどほどにしてくれよ。」

 

 そしてもう一つわかったこと。それはこの世界が「ユグドラシル」ではなく、「地球」でもなく、「ユグドラシル2」なんかでもなく。まったく別の世界で、なおかつこの世界はゲームでもなんでもないということだ。ログアウト機能など、ゲームと現実をつなぐ機能はすべて動かない。NPCもいない。生きた人間がいる。地理を聞いてみてもまったく知らないものばかり。なぜなのかはまったくわからないが、俺はこんな歳になって別次元への移動を成し遂げたらしい。どうせならもっと早く、高校生くらいの時期に起きて欲しかった。その頃はVRMMORPGすらやってなかったけど。

 そうなると疑問に思うのはこの体のことだ。なぜ俺は本来の人間の体じゃなく「ユグドラシル」のプレイヤーとしてここにきたのか。戦闘能力が高いのは助かっちゃいるが、不便なことも多すぎて困る。ほら、村人たちが不可解なものを見る視線を俺に向けている。人間とのコミュニケーションが初っ端から躓いてしまうのはこの体の不便なところの一つだな。もっとも、ヘロヘロさんみたいな人間からかけ離れた見た目よりはマシなんだと思うが。

 

「それで・・・こちらの鎧のお方はどちら様かね?」

 

「あ、この人は私を助けてくれた人で、えっと・・・」

 

 アンドレイと呼ばれた50代くらいの男の質問に、ミリアが困り顔でこちらを見る。そういえば俺からは名乗っていなかったな。

 

「俺の名前はスパイク・ヘッド。スパイクと呼んでくれればいい。こちらの娘さんが魔物に道をふさがれて困ってたところに通りかかったんでな。魔物を倒してやったのさ。」

 

「なるほど。それは我が村の娘がお世話になりました。私はこの村の代表のようなものをしているアンドレイと言います。えー・・・なんと言いますか、冒険者の方でしょう、お礼の方は何かご希望はありますかな?」

 

「いや、冒険者というよりもただの流れ者みたいなもんさ。わざわざお礼なんてもんはいらん。ただちょっとこの辺りの情報に疎いんでな。その辺りを教えてくれるか?」

 

「もちろんです、こちらも大した蓄えはありませんので、そう言っていただけるのはありがたい。ですが、それだけというのはなんですし、夕食ぐらいは食べていってください。どうぞこちらへ。」

 

 アンドレイは笑いながらついてくるように言い、男たちとミリアを連れて歩き出した。善意からの発言だろうがこれはまずい展開だ。さて、どうしたものだろうか・・・。

 

 

 

「なるほど、では一番栄えている都市は王都リ・エスティーゼで、そこに行くまでは二つほど別の都市を通って行くと。」

 

「ええ、情報が集まるところとなればやはり、王都が一番でしょうな。失礼ですが、何かお探しのものでも?もしかしたら何かお力になれるかもしれませんし・・・」

 

「そうだな。アインズ・ウール・ゴウンという名前に聞き覚えはないか?」

 

「・・・申し訳ありませんが。」

 

同様にナザリックに関しても聞いてみたが、知っていることは何もないとのことだった。駄目元で聞いてみたが、やはりギルドも、ナッザリック地下大墳墓もこの世界にはないのかもしれない。俺は、この世界で一人ぼっちになってしまったんだろうか。

 

 

 

 

アンドレイには傷があって醜い顔を見られたくないから、と言って仕切られた部屋に一人きりにしてもらい、そこに夕飯を運んでもらうことになった。なにせ、人間の前でこの兜を取ることができない。俺の兜は中身がないからだ。

動く鎧(ワンダリング・アーマー)という種族は文字通り、自ら動く鎧そのものであって、中身はがらんどうである。兜をとればあっという間に首なし騎士の出来上がりだ。もっとも、目立つという点ではこの獅子の兜も大差ないのだろうが、こればかりは仕方ない。今付け替えれば替えの兜をどこに持っていたのか不審がられるかもしれないからな。とはいえ、他の兜では隙間の部分が多く中身がないことがバレるかもしれないし、たまたまこの兜をつけていたのは幸運だったのかもしれないな。

しかし、そもそもこの体になってから食欲に加え、睡眠欲もまったくないようなのだがこれはアンデットになってしまった影響だろうか? 三大欲求のうち残る性欲だけは検証するタイミングがないからまだわからないけども。

 

「失礼します。ご夕食をお持ちしました。」

 

今日助けた村娘のミリアが夕食を持ってやってきた。おそらくだが、顔も知らないものよりはいいだろうというアンドレイの配慮だろう。小さな村の長にしては頭の回る男だ。

彼女が机の上に並べていくのは黒色のパンと具の少ない質素なスープ。だが干し肉が入っているようにも見えるあたり、やはり村人を助けた客人としては扱われているのだろう。

 

「・・・あの、すいません、さっき聞いてしまったんですが王都に行かれるんですか?」

 

食事を並べ終えたミリアが木でできたトレイを抱きかかえるようにして言う。

 

「ああ、そうだな。ここには欲しい情報はなかったし、一回王都とやらに行ってみるかと思ってるが。」

 

「あの、でしたら途中で水都ボーネンに寄りますよね? できたら、あの、そこまで私も一緒に連れて行っていただきたいのですが・・・」

 

「構わないが、理由は?」

 

「・・・この村は、そろそろ限界なんです。戦争のために毎年騎士様たちがやってきて男の人たちを連れて行ってしまうから人手は足りないし、それでもやっと作った麦と野菜は税だと言って徴税官様に持って行かれてしまうんです。大人たちは毎日辛そうな顔をしているし、リリみたいな子供たちだって仕事を手伝わないとこの村はやっていけないんです。なので、ここの徴税官様がいる水都ボーネンに行って、今年の税を少しでも減らしてもらいたいと思って・・・」

 

ミリアの顔に浮かんでいるのは、14歳の少女のものとは思えないほど複雑な表情だった。不安と期待、そして何かを諦めているような。おそらくだが、彼女はその徴税官とやらに減税を訴えでた結果、自分がどうなるのかわかっているのだろう。しかし、彼女以外の子供は皆まだ10にもなっていないらしいし、大人たちは皆30を超えている。彼女以外の人間では、今彼女が想像している方法で減税を請うことすらできないのだ。

彼女の考えていることは容易にわかったし、かつての俺だったらこの少女にひどく同情し、彼女とこの村を救うために力を貸したのだろう。だが、なぜか彼女に対する同情心は「ああ、かわいそうなんだな」と思う程度でしかなく、村のために何かしてやろうなんて気持ちは一切起きなかった。だからなのだろうか。

 

「ああ、いいぜ。護衛して欲しいんだな。」

 

軽くそう答えた。

 

 

 

朝日が昇る。睡眠欲がなくなったせいで結局一睡もしていないが体の調子に影響はなさそうだ。あのあとミリアと二人でアンドレイに話をし、彼は難色を示したもののミリアの強い押しで同行の許可を得ることができた。アンドレイ宅の前で待っていると、荷物を背負ったミリアがやってきた。なぜか大きめの鞄を二つ持っている。

 

「お待たせしました! これ、スパイクさんの分です。」

 

「ん? ああ・・・別にいいんだがなあ。」

 

無理やり気味に持たせられた鞄には保存食の類が入っているようだ。そうか、人間の足で二日かかるとは聞いていたが、自分に飲食の必要がないからすっかり忘れていた。ギリギリの状態の村から必要のない一人分の食料を捻出させたことには心が痛むべきなんだろうが・・・道理ではわかっているのだが痛まない。これも種族が変わってしまっている影響なんだろうか。

 

「では、道案内いたしますので水都まで宜しくお願いします。」

 

「おう、道中の安全は任せな。」

 

ひとまずはミリアと水都を目指そう。そこでアインズ・ウール・ゴウンもしくはナザリックの情報を集める。なければ王都に行けばいいし、そこにもなければこの世界中を回ってもいい。今の俺には他にするあてがない。あの時ログインしていたのは俺とモモンガさんだけ。もしも俺と同じくこの世界に転移していたとするなら・・・ま、大丈夫だろう。なんせあの曲者ぞろいのアインズ・ウール・ゴウンを纏め上げていた人だ、きっとこんな状況でも俺より早く順応しているに違いない。




主人公の名前発表。
攻撃力1800、守備力1700程度の名前で個人的に気に入っています。
名前だけだと賞金稼ぎっぽいのも魅力。

こんな感じで進んでいきますがどうぞよろしくお願いします。


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