幸運の一番星に憧れた者 (大夏由貴)
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序章 二人の日常
プロローグ


 

 

 

 

毎日が退屈だった。

 

 

 

幼い頃に母は交通事故で死に、父はそのショックで倒れ、意識が戻った今でも病院でカウンセリングを受け続けている。

 

甘えたい年頃だったが、甘える相手が居なかった。

 

初めは泣き叫んで暴れるやんちゃ坊主だったらしい。

 

 

祖母は娘を失い周りに当たり散らすようになり、祖父はそれが原因で家族との関係に亀裂が入り、実家に帰ったまま戻って来なくなった。

 

日々虐待を受け、誰も止めやしない。

 

最初は泣いていたが、次第にどうでもよくなっていた。この頃から俺は図太い性格を持ち初めたようだ。

 

 

性格の悪い姉二人はいつも嫌がらせをしてきて自分達だけで良い思いをしてきた。

 

何か良い物を手に入れてもすぐに持って行かれる。

 

特に気に入っていた玩具を取られた時は流石に腹が立った。

 

 

学校に言っても普段はあまり喋らない性格だったからか友達と言える人物もおらず、いつの時代にもいる悪ガキ連中には因縁をつけられた。

 

教師すら知らんぷりして、ずっと孤立していた。

 

退屈な日々を繰り返し、刺激を求めていた俺は正面から喧嘩を買い、再起不能になるまでぶちのめした。知らない内に大分ストレスが溜まっていたようだ。

 

 

別に何もかもが嫌になるなんて事は思ったりしなかったけど、このつまらない毎日には不満しかなかった。

 

 

 

そんな下らない日常を過ごし、モノクロな人生を送っていた俺に、

 

 

 

 

色を付けてくれたのは、何時だってお前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

毎日が充実していた。

 

 

 

お母さんはちっちゃい頃に死んじゃったけど、お父さんがその分沢山構ってくれたから、寂しいとは思わなかった。

 

何時も一緒にゲームしたり、一緒にアニメ見たりして笑い合った。

 

けどたまに仕事の事で部屋に籠った時は邪魔しちゃいけないから、一人でゲームをしたりアニメを見たりしたけど、何時ものように楽しめなかった。

 

 

小学校では何人か友達も出来た。

 

多いとは言えないし年の割に随分ディープな話をするから「よく分かんない」って言われる事もあったけど、気楽に話せる仲間達だった。

 

だけど友達から親友にはならなかった。クラスが変わった日からはもう会う事は無かった。

 

 

合気道の道場では一番強くなれた。

 

流石に師範代達には勝てなかったしリンゴを握り潰したりは出来なかったけど、同年代相手では一度だって黒星は取らなかった。

 

けれどもレベルに合った対戦相手には出会わなかった。だからか他の人達と話す事もあまり無かった。

 

 

 

それでも楽しい毎日だったし、面白い人生を過ごせたけど、何処か物足りなかった時、

 

 

 

 

とても面白そうなイベント真っ最中のキミに出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直馬鹿馬鹿しいって自分でも思うけど、

 

もしかしたらこれは、そんな未来に沈んでいた人間(俺 私)に、神様がくれたプレゼントなのかもしれない。



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少年の日常

先に注意しておきます。

オリ主は陵桜学園の生徒ではありません。転校生としてぶち込むかは後々考えます。
後半「コレホントにらき☆すたが原作!?」って位暴力的シーンがあります。基本的には日常系ですが時々このようなシーンが出てきます。
この時点で苦手な雰囲気を感じたらお帰り頂いて結構です。それでも挑む勇者はこのままお読み下さい。

それと『オリ主の一日を適当に書いていこう』って感じで執筆したら何故か10000文字以上というふざけた数値になりました。普段はもう少し短めですのでその辺りはご了承下さい。


夏休みのとある一日、朝十時半の事。

 

「・・・暑い。」

 

うだるような暑さが続く一日、俺、夜桜このはは部屋のベッドで一人ごちた。

 

我が家にクーラーなんて大層な物は無い。あるのは一昔前に発売した扇風機一台のみ。

だがこの蒸し暑い室内では生暖かい風が吹くだけで大して意味は無い。

涼もうとアイスを取り出したってこういう日はすぐドロドロに溶けてしまう。

この前それでカーペットに垂れてこのクソ暑い中汗だくになってシミを拭き取ったのは記憶に新しい。やはり多少高くても氷菓の方を買っとけばよかった。

 

「クソ・・・こんなんだったらこの前の給料ケチるんじゃなかった・・・。」

 

だがしかしパソコンを新調してしまったからにはこれ以上電化製品を買うのは流石にキツい。

そうなったら次の給料日まではモヤシで生活する事になってしまう。それだけは嫌だ。ていうか何故この時期にイカれた、我が戦友(パソコン)よ・・・。

 

「どうすっかな・・・なんか頭がグラグラしてきた・・・コレこのままじゃヤバくね?」

 

こういう日は友人の家に行って一日を過ごしたりするのがいいのだろうが、そもそも友人自体が非常に少ない俺にその選択は無理な話というものだった。

まず家なんて知らねぇし、知ってる奴は違う県に住んでる。これでどうやって戦えばいいんだ・・・。

 

「ホントどうすっかな・・・まさか涼みに行く為だけに電車賃払う訳にもいかねぇし・・・。」

 

あいつの家に行くこと自体はやぶさかではないし、向こうでも色々暇は潰せるだろうが・・・いかんせん神奈川から埼玉に遊びに行くのは移動費用がバカにならない。

電車賃だってタダではないのだ。

 

只今の室内温度四十五度・・・温度計ぶっ壊れてんじゃねぇの?もうサウナじゃねえか。

しょうがない、いつまでもこの家(灼熱地獄)に居る訳にもいかないし適当にどっかの店にでも行って時間を潰すしかないだろう。これ以上ココに居たら熱中症で死ぬ。

 

「ハァ・・・今日はできれば動きたくなかったんだけどな・・・昨日は遅くまで働いてたんだし。」

 

正直まだ若干寝不足気味だ。しかしこのまま寝転んでたら確実に病院送りになるのが関の山なのも事実。

そうと決まればいつまでもぶっ倒れている訳にもいかない。まだ寝たいと言う体を無理矢理叩き起こし、さっぱりするために洗面台に向かう。

 

顔だけを洗うのも面倒なので頭から水を被る。服まで濡れて少し後悔した。

タオルで水気を拭き取る時には微睡んでいた意識も覚めていた。

そのまま冷蔵庫に向かっていく。

 

「先週もそうだったけど今日もホントにヤバいな、『熱中症患者二百人越えて未だに急増中・・・』って昨年程じゃないけどその内追い越すんじゃねぇの?」

 

リビングにあるつけっぱなしだったテレビのニュースを見て少し引きながら冷えた麦茶を飲む。

そこで気づいた。

今ので最後の麦茶が切れたと。

念のためコンロに置いてあるやかんの中身を見る。空っぽだった。

 

「・・・茶葉は・・・無いな。帰りに買っておくか。」

 

デパートに出掛けようという時に気づいてよかった。このまま家に居たら少なくとも明日の晩までは大して冷えてもいない水道水で過ごす事になっただろう。

夜はネトゲで外出したくないし、明日の朝は早い時間からシフトが入ってるので何か買って帰る暇は無いからバイト帰りに買わなければいけなくなる。

 

そうなれば持って行く物もハッキリしてくる。部屋に戻り、箪笥の引き出しから通帳を取り出し、残高を確認する。

電化製品は無理だが茶葉位ならば問題無い程には余裕があった。

そのまま通帳をバッグに入れ、小銭ばっかり入ってる財布をポケットにねじこみ、メルアドが片手で足りる程しか登録されてない携帯電話を反対のポケットに押し込み準備完了。

 

扇風機の電源を切り、部屋の電気を消して玄関へ向かう。

 

「さて・・・行きますかっと。」

 

八階建てのマンションの一室から出て、鍵を閉める。

三階に住んでるのでエレベーターなどは特に必要性を感じず階段で降りる。

ロビーを出て駐輪場から自分の自転車を取り出す。鍵を抜き忘れていた事に自分の危機感が随分無くなっていることに気づいた。気を付けねば。

邪魔な自転車やバイクを退かして駐輪場から出る。

そして近くに新しく出来たというデパートに向かって漕ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デパートの隣に建っている銀行から金を引き出し、自転車を駐輪場へ運んで行く。

地下にある駐輪場に自転車を停めた後、そのまま階段から店の中に入っていく。

エレベーターもあったが俺自身も此処に来るのは初めてなので一階から何があるかを確認しながら上っていくつもりだ。

どうやら四階まであるらしい。外から見た時はかなり大きかったので一階一階がどんだけ広いんだと呟いた。

 

そうする内に店内へと続くドアを開いて進んで行く。

途端に冷房の効いた空気が肌に触れ、マトモに日射しを浴びて火照った体に心地よい快感を与える。

だがこのままだと逆に冷えてしまうのでバッグに入れていたハンカチで汗を拭き取っておく。

 

「さて・・・これからどうするか。」

 

茶葉を買いに来た訳でもあるから買い物をするのが普通なのだろうが、俺は今回今日一日の時間を潰す為にやって来たのだ。

始めに茶葉を買ったらそれまでの間荷物がひとつ増える事になる。つまり今より荷物が重くなる。

基本的に面倒臭がりの俺は最後まで楽に過ごしたいのでそれは後回しにする事にした。

しかしそうなれば何処で時間を潰すかだ。買い物は最後にしておきたいし、現在十一時六分。

昼飯を食べるにはまだ少し早い。

 

「・・・まずは店内の探索だな。店の中身位覚えねーと。」

 

とりあえずの方針が決まったのでひとまず一階を回ってみる事にした。

どうやら一階には基本的にその辺のデパートと変わらず肉、魚、野菜といった食品に菓子やカップ麺など色んな商品を売っているようだ。

他にも洗剤やトイレットペーパー、日焼け止めに絆創膏を売っているコーナーまである。

 

「そういやシャンプーも切れかけてたな・・・絆創膏も後少しだったし。包帯は・・・流石にねぇか。」

 

この前不良と喧嘩したばかりなので医療道具が少なくなったのだ。そろそろ買い占めないと底をつく。

バッグに入ってる手帳に追加の買い物をメモしていく。

 

「とりあえず一通り回ったし、二階にでも行くか。」

 

地図を見た所二階は服や小道具、さらに本にゲームなどを売っているらしい。

ちなみに三階は色んなチェーン店が並んでいる。昼飯はココにしよう。

四階にはゲーセンがあるようだ。午後はココで過ごそう。

 

「思った程退屈する事は無さそうだな。今後は此処を避難所にしよう。」

 

なんて事を呟きながらエスカレーターへと足を進める。途中カップルを見かけた。爆発してしまえ。

別に俺自身はどうでもいいと感じたのだが、数少ない、と言うよりただ一人の親友と呼べる少女曰く、カップルを見かけたら爆発しろって念じるのが正しい反応らしい。

 

そんなこんなで二階の本、ゲーム売り場にやって来た。本はほとんど新品だが、奥の方に立ち読みできる中古本があるらしい。

当然立ち読みする為に奥へ進もうとするが・・・。

 

「・・・あれ?これってあのシリーズの新カード?」

 

途中のカード売り場で足を止めた。昔から続いてる罠や魔法とモンスターを駆使して闘う大人気の某TCG(トレーティングカードゲーム)だ。

よく自分が使っているシリーズの最新カードを見かけ、興味がそちらに向いた。

 

「へぇ・・・最近こういうのが出てきたんだ。ちょっと欲しいかも。」

 

結局立ち読みには行かず、しばらく最新パックや売れ残りのカードを漁って気になったカードを買い占め、分別を終わらせた頃にはとっくにお昼時の時間になっていた。

 

「むう・・・思いの外使える奴等が当たったな・・・。どいつをデッキに組み込むか・・・いや、いっそ新しいデッキでも構築するか・・・?」

 

ひとまずは整理してバッグに詰めたが帰ったらどうするかを考えながら三階へ向かった。

色んな店があったが、今日は麺類な気分だったのでうどん屋に入る。

 

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「一人。出来るだけ奥の席をお願いしてもいい?」

「かしこまりました。ではこちらへどうぞ。」

 

まだそれなりに若い店員に案内され、あまり明るいとは言えないようなテーブルに連れて行かれた。

少し照明弱くないか?と思ったが席を指示した手前、口出しする訳にもいかなかった。

 

「ご注文が決まりましたらそこのボタンを押してください。」

「わかった。」

 

そう言うと店員は厨房に入って行った。メニューを確認し、これだという食品を探す。

 

「まぁやっぱりざるだよな。この時期頼むなら。」

 

と、大して悩む事も無く決めてサイドメニューも天婦羅の盛り合わせというありきたりな物を選んだ。

ちょうどさっきの店員が水を運んで来た。ついでに注文を頼もうと声を掛ける。

 

「すいません、ざるうどん大盛と天婦羅の盛り合わせお願いします。」

「分かりました。ざるうどん大盛一品、天婦羅の盛り合わせ一品で宜しいでしょうか?」

「ああ、それで頼みます。」

「かしこまりました。少々お待ちください。」

 

水を置いた後、頼まれた商品を素早くメモに書き写して、また厨房に入って行く店員。

五分後、大きめの器に乗ったうどんにつゆが入った器、海老や大葉といった様々な天婦羅が乗った皿がテーブルに置かれた。

店員は領収書を置いて厨房に戻って行った。

 

「そんじゃ、頂きます。」

 

うどんは喉ごしが良く、つゆも濃すぎず薄すぎずでちょうどいい味だった。天婦羅もサクサクとした食感が楽しめ、満足のいく昼食だった。

 

残らず食べ終え、領収書を手にレジへと向かう。

値段も高いという事も無く、中々いい店を選んだなと心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在午後一時十四分。最後に四階に行って適当に遊ぶかと上機嫌でエスカレーターに向かうと、下の階から怒鳴り声が聞こえた。

 

「・・・何だ?こんな白昼堂々に店の中で喧嘩か?」

 

と、冗談混じりに呟きながら野次馬根性さらけだして覗いて見ると、

 

「ですからこちらの商品はすでに完売しました。申し訳ありませんが、また後日ご来店して頂きたく・・・。」

「ふざけんな!!こちとら汗水垂らしてココまで走って来たんだ!さっきまであったのにもう在庫切れってどういうことだよ!」

 

「うわ・・・また面倒そうなクレーマーだな。」

 

随分と騒がしい光景が目に入った。

話を聞く限りどうやらあのクレーマーは最近人気の商品を買う為に二km程先の駅からすっとんで来たらしい。自分の足で走って。

いや、バスかタクシー使えよ。

なんて事思っている内に店長らしき人が出てきてなんとか話し合いの後、後日改めて用意するという事で渋々クレーマーは帰って行った。

 

「けどまぁ何処にでもこういう奴っているもんなんだな。迷惑だからもう来ないでほしいけど。」

 

という個人的感想を述べた後、今度はまっすぐ四階へと向かった。

 

ところ変わってゲームセンター。

どうやらココのゲーセンは他の所とあまり変わらず色んな台が置かれていた。

とりあえずは格ゲーの台に向かう。個人的にスト○ートファイ○ーやキ○グオ○ファイ○ーズといった昔から続いてるゲームは出来ない事は無いがあまり得意ではないのでギル○ィ○アやブレ○ブルーといったコンボゲーの方に足を向ける。

ブレイ○ルーの方が空いてたので、今日はそっちをプレイする事にした。

百円を入れてプレイ開始。

 

「早く新作出てくんないかなー。絶対あのヒャッハーってしてる奴強いだろ。」

 

スーツ姿で不思議鎖鎌を振り回している糸目の男を思い浮かべ、操作キャラクターを選択する。

選択したのはガラの悪そうな顔つきの大剣を腰に差した男。文章にすると只の雑魚キャラにしか聞こえないが、一応主人公である。

他のキャラはまだ使いこなしているという訳ではないので基本的にはこのキャラ一択だ。

難易度を最大にして始める。ストーリーはもう全部知っているので飛ばしていく。

 

「最初はどうしよ・・・やっぱ蹴りで牽制かな?距離とってジワジワ攻めるって手もあるけど・・・メンドイ、蹴りでいこう。」

 

初手をどうするか悩んだが、戦闘開始の合図が出てきたのでいつもの戦法で攻める事にした。

カウンターを食らった。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しくったな~。あまり上手くいかなかった。」

 

現在午後五時半。ゲーセンから出て一階で買い物中。

結局あの後一回もやられずにクリア出来たのだが、上手く技を繋げる事が出来ずグダグダな戦いだった。

やはり久々にやったもんだからどのタイミングで繋げばいいかを中々思い出せない。

しばらくあそこで鍛えるか?と馬鹿な事を考えながらカゴに茶葉を入れる。他の商品はすでに入れてあるので後はレジに向かうだけだ。

 

「しかしなー、そしたら出費も大分かかるだろうし・・・やっぱやめよう。別に毎日ココに来る訳じゃねぇし。」

 

ブツブツ呟きながら会計を済ます。後は帰って晩飯の支度でもしてゴロゴロしとけば今日という日は終わるだろう。

地下駐輪場に行って自転車を取り出す。外に出た途端にむわっとした風が吹きこんな空気をまた明日味わうのかと考えげっそりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暑い。ダルい。疲れた。眠い。さっきまで天国(仮)に居たってのになんでこんな目にあわにゃならんのだ・・・。」

 

帰り道、赤信号に捕まり車道の前で項垂れる俺。まだ家まで大分距離がある。近くと言っても家から一番近いという意味で一km半は離れているのですぐに辿り着く訳ではないのだ。

 

「あーもう、早くしないと折角買ったアイスが溶けるじゃねぇか・・・あん?」

 

もう既に表面が液体と化しているアイス(今度は氷菓)を見て鬱になりながら早く変わらないかと横の信号を見ると、何やら揉めている集団を見つけた。

 

「何してんだ?あいつら・・・っ!!」

 

集団がいるのは誰も使っていないような駐輪場。周りが高いマンションに囲まれているので外からは見えにくい位置にある。その中心で昼見かけたクレーマーが中学生位の少年に暴力を振るっていた。

 

「このっ役立たずがっ!てめえあの店だったら手に入るっつっただろうが!何俺に無駄足踏ませてんだっ!」

「べ、別に必ず手に入るとは言ってませ・・・ガッ!?」

「知るかそんなの!!ぶっ殺すぞ!!」

 

その光景を見て、スゥっと目を細める。そして状況を改めて確認する。

 

 

クレーマーは少年に暴力を振るっている。

 

少年は所々血を流し、倒れている。

 

集団はクレーマーを含め視認した所五人程度。その全員がその光景をニタニタと笑いながら傍観している。

いや、その内二人は少年を足蹴にしたり髪を掴んだりしているので明らかに共犯だろう。

 

状況から見るに不良グループとその舎弟といった所だろうか。舎弟から貰った情報をもとにあのデパートに行って、目的の商品が売り切れだったから情報をくれた舎弟に八つ当たり・・・と。

 

 

状況解析完了。誰がどう見ても悪いと言えるのは不良グループだろう。

 

つまり、『少年を助ける為にあの場に向かっても何処も可笑しく無い』

 

「・・・行くか。」

 

その場に自転車を停め、まだ変わっていない信号を渡る。端に停めたので通行の邪魔にはならないだろう。

真っ直ぐ駐輪場に向かう。途中で周りを確認する。仲間が近くにいるという事は無さそうだ。

 

中に入ると流石に気付いたようだ。全員が俺を睨み付ける。

 

「んだてめぇ?」

「コッチは取り込んでんだ。それ以上近づいたら殺すぞ。」

「・・・」

「オイ、聞いてんのか?」

 

無言でゆっくり近づく。

 

「シカトこいてんじゃねぇよ。」

「チッ、もういい。お前ら潰しとけ。」

「ケッ、メンドくせえ。」

 

クレーマーは少年に向き直り、俺の事は放置したようだ。周りの連中が近づいてくる。とは言え来るのは傍観していた二人だけだ。もう二人はニヤついた顔で此方を見ている。

大方俺がリンチされる所を眺めようとしているのだろう。

 

「オイコラシカトすんなっつっただろ。」

「ドコに目ぇ向けてんだコッチ見ろ。」

「・・・あぁ悪い。少し考え事をな。」

「あ?ナメてんのかてめぇ?」

「いやいや、別にそんな事・・・」

 

二人が目の前に来る。その瞬間

 

ドムッッ!!!

ズガンッッ!!!!

 

「オガッ!?」

「グゲッ!?」

 

左の方には腹を、右の方には顔面に拳を叩き込んだ。

 

「考えているに決まってんじゃねぇかバアァァァアアカ!!」

 

楽しくて仕方がないと言った顔で笑う。

 

「んなっ!?」

「てめぇ・・・!?」

 

二人が驚愕に目を見開き、クレーマーがこれまた驚いた顔して此方を見ている。

 

「何だよ、今日最高にツイてないって思ってたのにこんな面白イベントがあるなんて神様も粋な事するじゃねぇか!!」

 

ガンッ!と倒れている二人を思いきり踏みつける。既に気絶しているだろうが念のためだ。

 

嗚呼楽しい。

こうでなくては。

 

性根が腐った屑を徹底的に潰すのは本当に楽しい!!

 

「イイね、イイね、最高だね!!もっと楽しませてくれるんだろうなゴミ共!!」

「ナメんなゴラっ!」

 

傍観していた二人の片方が我に返り、突っ込んでくる。

 

が。

 

「遅ぇよ雑魚が!!」

 

ゴガッ!!

 

「ギァッ!?」

 

拳を避け、髪を掴んで顔面に膝をぶち込む。よろめいた所を横からぶん殴り、吹っ飛ばす。

 

ガシャァアン!!!

 

放置されていた廃自転車を巻き込んで盛大に倒れる。手応えからして顎が砕けただろう。

 

「ヒッ、ヒィッ!」

 

ここまでされて流石にヤバイと思ったのか、もう一人が逃げ出そうとする。

 

「逃がすわきゃねえだろ?」

 

落ちている砕けた煉瓦から手ごろな石を拾い上げ、

 

ブォン!!

 

背後に向け全力投球した。

 

ボゴッ!

 

「アギッ!?」

 

見事命中し、激痛にうずくまる片割れ。

そのまま近づいていき、目の前に立つ。

足を大きく振りかぶって、

 

「や、やめ」

 

バガッ!!

 

「ウガッ!?」

 

蹴り飛ばす。

 

「命乞いする暇があるんならどうやって相手をぶちのめすか考えろ雑魚。」

 

呆れて小言を呟く。逃げるんならせめてあのクレーマーを盾にすりゃよかったのに。

 

「・・・さて。」

 

足を下ろし、振り返る。

少年の髪を掴み、煉瓦の破片をその顔に押し付けているクレーマーがいた。

ニィ、と笑い、進む。

 

「ち、近づくな!」

 

叫ばれ、足を止める。

それを言うことを聞いたと判断したのかニヤリと笑い、続ける。

 

「て、てめぇが誰だか知らねぇが、コイツを助けに来たんだろう?コイツを傷つけられたくないならそこを動くな!」

 

破片をさらにグッと押し付けられ、少年が顔を青ざめる。

その光景を見て俺は、

 

さらに笑みを深めた。

 

「は・・・?え?」

 

てっきり苦い顔でもするかと思っていたのか、狼狽えるクレーマー。

 

「わりぃな、別に俺はそいつと知り合いでもねぇし苛められているから助けてやろう!って正義感溢れるヒーローでもねぇ。ただ単に性根が腐った悪党がいたからぶちのめす。正直そいつがどうなろうと知ったこっちゃねぇよ。」

 

こんな返答をするとは思わなかったのか、ポカンと間抜け面を晒すクレーマー。少年も唖然としている。

やがて俺の言った事が理解出来たのか、顔を真っ赤にして喚きだすクレーマー。

 

「ふ・・・ふざけんな!!だったら何でこんな真似すんだよ!」

「ん?何でって言われても・・・」

 

特に使命感とかも感じないし、金が手に入る訳でも無い。強いて言うなら・・・

 

「面白そうだからって事位しかねぇけど?」

 

無駄話を打ち切り二人に突っ込む。

急に動き始めたからかクレーマーがどうするか一瞬躊躇する。すぐに少年を放り出し、破片を俺の方に突きだしてくる。

悪くない判断だ。少年が人質にならないと分かり、持っていても邪魔でしかない少年を捨てて直接俺に武器を振るう。平和ボケした現代人が一瞬でここまで考えるとは大したものだ。俺?ちゃんとした現代人だけど?

 

だが合格にはほど遠い。

 

ボガッ!!

 

「ガッ!?」

 

難なく破片を避け、すれ違いざまに顔面に一撃入れて終了。

 

「・・・あ?何だ、もう終わり?・・・クソつまんねぇ。」

 

一発でのびたクレーマーに蔑みの眼差しを向けながら頭を踏みつける。

一応ボスキャラの位置にいるんだから三発位は耐えて欲しかった。

いや、そもそもこのグループ自体がショボイ。どいつもこいつも非情さが足りない。

 

まず最初の二人。いちいちメンチ切る暇があるんならその時点で殴りにかかればよかったのだ。何故に相手に先制攻撃を許す。

次の二人。先に突っかかって来た奴は突っ込む前にもう一人を正気に戻すべきだった。せっかく集団というメリットを持っているのだからそれを活かせば勝機はあっただろうに。もう一人はさっき言った通り逃げるんならクレーマーを盾にすりゃ少なくとも時間は稼げた。そしたら出来る事も増えた筈だ。それでも逃がす気ねぇけど。

最後にクレーマー。少年を放り出すなら、俺に向けて投げればよかったのだ。そしたら盾にもなるし時間稼ぎにもなる。人質をとったという事は相手は自分より強いと無意識的だろうが意識的だろうが理解した筈だ。マトモにやり合うのは得策じゃあない。プライドの問題もあっただろうがそれでもだ。

 

結論から言うとまるでなってない。不良失格。

 

「馬鹿馬鹿しい。不良になりきれない奴が何背伸びしてんだか。」

「あ・・・あの・・・。」

「あ?あぁ、すまん。すっかり忘れてた。」

「い、いえ。別にいいです。」

 

おずおずと少年が話掛けてくる。いかん、本気で忘れてた。

 

「それよりも・・・助けてくれてありがとうございます。」

「いいよそんなん。さっきも言ったけど別にお前がどうなろうがどうでもよかったし。」

「そ、そこまでハッキリ言われると流石に傷つきます・・・。けど、それでもです。助けてもらった事には変わりはないですから。」

「はぁ・・・ならその礼、頂いておきましょうかね。」

「そうしてください。」

 

にへら、と少年が邪気の無い顔で笑う。なんつーか・・・何故不良の舎弟のような立場にいるのが不思議だ。いや、だからこそ、か?

考えかけてすぐにどうでもいいかと打ち切る。

 

「んじゃ、暇潰しも終わったし、俺もう帰るわ。」

「ひ、暇潰しって・・・随分過激な暇潰しですね。」

「喧嘩だってゲームと同じだ。要は楽しみゃいいんだよ楽しみゃ。」

「そ、そうですか・・・。」

 

なんだろう。何やらドン引きされている気がする。

いいや、帰ろう。もうやる事無いし。

 

「じゃーな。帰ったら傷の手当て頑張れよー。」

「あ、ハイ。・・・あの、本当にありがとうございました!」

 

手をヒラヒラ振って駐輪場を後にする。もう六時を越えている。早く帰って晩飯を作らねば。

 

 

自転車のカゴに入れておいた買い物袋の中では完全に溶けたアイスがあった。せっかく買った氷菓が・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てれーまー。」

 

誰も居ない家に律儀に声を掛ける俺。

電気を付け、今日の戦利品をリビングに放り出す。アイスは冷凍庫にでも入れよう。氷菓だから凍らしゃ食える筈。

 

「あー疲れたー。もう寝たい。だが晩飯を抜く訳にもいかねぇ・・・。メンドくせぇなー。」

 

後はいつも通り。愚痴りつつも夕飯の支度をし、そのまま食事開始。食器を洗い、風呂を沸かし、その間に買った品物を仕分ける。お湯を張ったらすぐさま入る。

流石にカードのデッキ構築を考える体力は無かった。考えるというのに体力とはこれ如何に。

風呂から上がってお湯を抜き、部屋に戻って扇風機をつけたのち、ベッドに倒れこむ。

そうしている内に現在午後十時半。

 

「もう駄目だ・・・。ネトゲーやる気力もおきねぇ・・・。このまま寝よう・・・。」

 

と、夢の世界に旅立とうという時、

 

テロリン♪テロリン♪

 

・・・何やらメールが届いてきた。

 

「・・・誰だ、こんなクソ疲れている時に・・・。」

 

渋々携帯を取り、確認する。もし爺さんだったら無視して明日文句言ってやろう。

 

『泉こなた』

 

ガバッと起き上がりすぐにメール内容を開く。

たった一人の親友からの伝言は以下の通りだった。

 

 

『件名:まだ起きてる?

 

本文:やほやほー。お久しぶりー。って別にそんな久しぶりって訳でも無いか。いつもネトゲーで会ってるし。

それはそうとして今日はどしたの?いつもの時間になってもINしてないし、今日ってバイト休みだったよね?

どこか体調でも悪くなった?もしそうならお見舞いしに行こっか?異論は認めん!

けどまあそうじゃ無くても体は大事にね。このはは時々無茶するんだから。読んでたら返信ヨロシク。』

 

 

「・・・全く、いつも唐突だなオイ。」

 

呆れつつも俺は笑っていた。

この少女はいつもこうだ。急に興味を持つかと思えば、無関心になったり。無関心かと思えばどことなく気にしている。

今だってどうでもよさげに状況を聞いてきてさりげない心配が見え隠れする。

返信を打ち込みながら俺はずっと笑い続けた。そして思う。

 

あの時、彼女に出会って良かったと。

今の自分がこうした生活が出来るのも彼女が居たからだ。

彼女が居たから祖母と仲直りが出来た。

彼女が居たから祖父と憎まれ口を叩き合う事が出来た。

彼女が居たから一人暮らしをする事に許可が下りた。

慣れない暮らしで躓いた時も彼女が励ましてくれた。

彼女には助けられてばかりだ。

・・・本当に、

 

「ありがとうな。こなた。」

 

そして、今日が終わる。

これが夜桜このはの日常だった。




・・・如何でしたでしょうか。
作者はこういった小説は初めて書くので色々と可笑しな所があったと思います。
もし感想をくれるのであればそういった所の指摘を教えて下さると嬉しいです。
ご不満が無い方々はこれからもこのような駄文にお付き合い下さい。


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少女の日常

作者「あのさ、ネット小説で10000文字って多いと思う?」
友人「え、普通じゃね?少なくともうちは7、8000以上ないと満足出来ないかな。」
作者「・・・そ、そっか。」

という事でこれからの目標は10000文字という事になりました。精進します。

え?今回7000文字程度?知らんなそんなの。


夏休みのとある一日。朝八時の事。

 

「・・・暑い。」

 

うだるような暑さが続く一日、私、泉こなたはテーブルに一人項垂れていた。

 

「む~、なんだって最近はこんな日が続くのかね~。」

 

今日は結局暑くて大して寝る事が出来なかった。そもそも昨日だって四時間位しか寝ていないから流石に寝不足気味だ。いい加減クーラーをつけるべきか・・・。

 

「でも今日はお祭りに行かなきゃいけないんだよな~。お父さんも浴衣楽しみにしてたし。」

 

今日の夜は友達三人と一緒に夏祭りに行く予定だ。こんな面白そうなイベントをサボる程私は腑抜けてはいない。

しかしならばどうしようか。やはり仮眠をとるのが一番いいのだろうが、この暑さでは満足に眠る事も出来そうに無い。

 

「やっぱりクーラーつけるべきかな。メンドくさがってイベント逃したら元も子もないし。」

 

そう結論を出し、クーラーのリモコンを手にして電源を入れ、冷房が効き始めるまでしばらく待つ。

 

「だけどウチはクーラーあるからいいけどアッチはどうしてるのかな。」

 

そう呟き、神奈川に住んでる彼の事を頭に浮かべる。もしかしたら今頃廊下でバタンキューしているのかもしれない。

目を回して倒れている彼。

そんな場面を想像して、吹き出しそうになった。

 

「プクク・・・駄目だ、笑っちゃ駄目だ。向こうは真剣な問題なんだから・・・。でもやっぱりすごくシュールな光景・・・。」

 

そんな事を考えながら仮眠をとる為にベッドに倒れる。目覚ましを用意して設定をいじる。二時間も寝れば充分でしょ。

設定が完了して、枕元に置いておく。今日はお祭りを楽しむのだ。しっかり休んでおこう。

そうして私は再び夢の世界に旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まさか四時間も寝てしまうとは・・・。これが孔明の罠か!」

 

午前十二時八分。思いっきりタイムオーバーしてた。

どうやら目覚ましを見た所、時刻設定はしていたが、肝心のアラームがOFFのままだった。ううむ、我ながらうっかりしている。

ともかくお昼ご飯を作らねば。お父さんもお腹を空かせているだろう。急いでリビングに向かう。

 

リビングまで来たらまずはキッチンに入る。冷蔵庫の中には中華麺があったので、今日は冷やし中華にする。

 

鍋に水をたっぷり入れ、火にかけていく。沸騰するまでの間に二つ目のコンロでフライパンに火をかけ、サラダ油を敷いて溶き卵を用意し、広げていく。火を止めて広げた卵をひっくり返し、両面が焼けたらまな板に乗せてキッチンペーパーで油を取り除く。

それから胡瓜やトマト、ハムを取り出して切っていく。薄焼き卵も冷めてきたので他と同じように切っていく。

そうしている内に鍋が沸騰してきたので、具材を別の皿に乗せて鍋に中華麺を投入する。三分程たてば丁度いい感じに柔らかくなったのでざるに移し、お湯を捨てていく。

氷水で麺を冷やし、水気をきっていく。あとは器に盛って具材を乗せたら完成だ。

 

「お父さーん。お昼ご飯出来たよー。」

 

冷やし中華をテーブルに置き、お父さんを呼びに行く。

お父さんの部屋に来て、ドアが開いたままだったので中に入って呼び掛ける。

 

「お父さー・・・ん・・・?」

「むう・・・どうしたものか・・・。こなたに似合いそうなのはこのどっちかなんだが・・・こっちは清楚な雰囲気を釀し出し、こっちは逆に活発なイメージを抱かせる・・・どちらも凹凸つけがたい・・・。」

「・・・何してんの?お父さん。」

「ん?おお、こなたか。いやな、今日こなたに着せる浴衣をどうするか悩んでてな。」

「いや、端から見たら普通に気持ち悪いよ?」

「うぐっ、相変わらず厳しいな・・・。」

「まぁいいけどもうご飯だよ。早く来ないとタバスコかけるから。」

「地味に傷つく嫌がらせを!?わかったよ、すぐ行く。」

 

それからお父さんと一緒にお昼を食べて、お祭りが始まるまでの間、ネトゲーをしたり漫画を読んだりして時間を潰す。

途中で私に着せる浴衣を選んだお父さんがそれを私に見せに来て他はどうするかを聞いてきたり、ネトゲーで黒井先生がレアドロップ手に入れて大騒ぎしたりなど色々あった。

 

そして夜・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やふー。今来たよー。」

「遅い!あんたが最後よ。」

「こなちゃんこんばんは~。」

「お待ちしておりました、泉さん。」

 

どうやら私が最後のようだ。むう・・・少しソロ狩りに精を出しすぎたか・・・。

 

「皆お揃いで浴衣ですね。」

「まぁ、私達の帯はお手軽な完成品だけどね。すぐ付けられる奴。」

「着付けって浴衣でも難しいもんね。」

 

皆がお互いの浴衣を見て話し合う。

みゆきさんがほんわか笑いながら話初め、かがみが苦笑してそれに続き、つかさがのほほんと感想を言う。

すぐさま私達は雑談に花咲かせる。

 

「みゆきの帯はちゃんと結んだ奴ねー。流石というか。」

「いえ、これはお店の人に着付けてもらったんですよ。流石に帯を結ぶのは難しくって。」

「そっか。こなたはちゃんと結んでいるわね、意外な事に。」

 

意外とは失礼な。

 

「うん。」

「あんたもお店の人に着付けてもらったの?」

「いや、お父さんに結んでもらった。」

「あ、そう・・・」

「さぁ、いこー!」

 

・・・

 

(((どうしてお父さんが結べるんだろう・・・。)))

 

何やら皆が顔をひきつらせているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆と一緒に屋台を回って行く。かがみが色々買って食べていくけど、そんなに食べたらまた体重増えるよ?

なんて事思いながら歩いていると親戚のゆい姉さんに出会った。話を聞くとどうやらパトロール中らしい。

一緒に行動したが、射的屋でどうやって撃つか色んなポーズをしていた所で仕事仲間に見つかり強制連行されていった。

仕事中にそんなに遊ぶのはいけないと思うよ。人の事言えないけど。

 

結局射的で店員を狙うというお約束とも言える行動をとった後、適当なお菓子を手に入れ、次のお店に向かう。

 

「夏祭りといえばかき氷でしょ~。」

「暑いしね、食べよっか。」

 

という事でかき氷のお店で何を買うか話し合う。フム、しかしかき氷か・・・。

 

「そういえば前から思ってたんだけど、イチゴ、レモン、メロンとかは分かるんだけど、ブルーハワイって何の果物?何味?」

 

かがみに聞いてみたら、しばらくの間が空き・・・

 

「ブ、ブルーハワイ味、かな・・・。」

 

そうだよねー。そうなるよねー。

と予想通りの答えが帰ってくる。

 

「というわけでみゆきさん、ブルーハワイって何か知らない?」

「ブ、ブルーハワイですか?えーと・・・」

 

しばらく悩んでいたが、結局分からなかったのか、

 

「よく分かりませんね・・・。お役に立てずすみません。今度、調べておきますね。」

「うん、宜しくー。」

 

(いや、そこはみゆきじゃなくて知りたい本人が調べればいいんじゃ・・・。)

 

かがみが何か言いたそうにこっちを見ている。どったの?

 

「あの~、そのブルーハワイの事なんだけど・・・。」

 

と、ここでつかさがおずおずと口を開く。

 

「うん?」

「名前の由来は、同名のカクテルで同じ色をしているみたい。カクテルの方も、映画のブルーハワイを意識して付けたんだって。」

「そうだったんですか、参考になります。」

「えへへ・・・。」

 

・・・何だろう、何か、

 

(・・・つかさに教わると、何か、ヒジョーに負けたような気がする・・・。)

 

と、少し沈んだ気持ちが顔に出てたのか、つかさが不思議そうに此方を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も色んな屋台に顔を出して皆で楽しんだ。つかさが色々買いすぎて残りのお金が少なくなってかがみに小言を言われるというイベントもあり、しばらく歩き回った時の事。

 

「わたあめってフワフワで甘いから大好き~。」

 

と、つかさが美味しそうにわたあめを食べていた所から始まった。

 

「子供じゃないんだから、落ち着いて食べなって。」

「えへへ・・・。」

 

かがみがつかさの鼻先に付いていたわたあめを摘まんで口に含む。

・・・なんていうか、

 

「そういうのって女同士でやってもつまんないよね。」

「言うな・・・。」

「どうして私達にはロマンスって無いかね・・・。」

 

どこか遠い所を見るようにして呟く。

 

「夏で祭りで浴衣でしょ?これがギャルゲーだったらフラグの一つ位立つと思うんだけど。」

「ふらぐ?」

「あとイベントシーンとかね。浴衣だし、屋台だし。」

「ハイハイそこまで。」

 

かがみがストップをかけてくる。まぁ別にいいか。そんなに熱く語る事でも無いし。

 

「でもさ、実際こんな美少女揃いだったらナンパの一つ位あると思わない?かがみんはともかく。」

「うっさいな!!」

「イベントで例えるならつかさだったら色んな屋台で一緒に遊んだり、みゆきさんだったら射的を二人で一緒にやってあの巨乳が腕に当たったりしてさ。」

「ふぇっ!?」

「さりげなくセクハラ発言すんなっ!!」

「ちなみにかがみんだったら色んな食べ物を食い歩きして回るんだよね。」

「殴るぞ!?」

「きゃー、かがみんが怒ったー。」

 

わざとらしくかがみから怖がるように距離をとる。

 

「あんたね~!なら、そういうあんたはどうなのよ。」

「ん?私?そだねー・・・。」

 

言われて想像する。

夏祭り、浴衣で一人で歩いている時、『一緒に回らないか?』と男の人に誘われ、二人で笑いながら祭りの場を駆け抜ける・・・何か違うな。

なら迷子になり、一人沈んだ気持ちでベンチに座っていた所、『君、大丈夫かい?』と声をかけられ、そこから芽生える恋心・・・まず前提条件が厳しい。

 

じゃあどうだろうと悩み、ふと彼の事を思い出す。

 

あまり表情を変えず、人と関わるのが酷く不器用だったあの少年の事を。

 

「・・・いやいや、別に恋仲って訳じゃないし・・・。」

「・・・ふぅ~ん。何が恋仲だって?」

 

・・・うん?あれ?口に出してた?

 

気づけばかがみがニヤニヤとした笑みを浮かべ、

つかさがあたふたと慌てていて、

みゆきさんが顔を赤くしながらも興味深そうに此方を見ていた。

 

すぐさまかがみがさっきの仕返しのつもりか、質問してきた。

 

「で?今のはいったいなんの話よ。」

「ん~。別にそういった事じゃないんだけどね。ちょっと友達の事を思い出したんだ。」

「へ~。今の話から連想するような友達なのか~。」

 

とかがみが突っかかってくる。期待しているみたいで悪いけど・・・

 

「別に恋愛関係がどうのって話じゃないよ?そういうイベントは一度も起こらなかったし。」

「あんたね・・・。」

 

かがみが呆れたような目で私を見る。

 

「で?ならどういう関係だったのよ。」

 

まだ若干からかいを含んでいるけど今度は純粋な疑問を投げ掛けてくる。いや、からかいを含んでいる時点で純粋では無いかな?

 

「どういう関係って言われてもね~。ちょっと複雑な親友としか答えようが無いし。」

「どういう親友だ・・・。」

「起こったイベントといえば恋愛系じゃなくて格ゲー系だったし。」

「ホントにどういう親友だ!?」

 

かがみが若干引いてる。さっきのお返しはこんなんでいっか。

だが説明しづらいのも本当の事なのだ。彼との関係はホントに複雑すぎる。まず出会いからして唐突だったし。

結局その後も色々質問されたけど上手く答えられる自信が無いのでのらりくらりとかわしていった。

 

その後はかがみが金魚すくいでまだ手を伸ばしてもいないのに金魚が皆逃げたり、黒井先生と出会って私達の周りにはロマンスの欠片も無い事を再確認したり、ゆい姉さんと再会したりなど、いつもと変わらない時間を過ごした。

 

だけどその後も彼の事が頭から離れなかった。

・・・なんでかねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー。」

「おう、お帰りー。案外早かったな。」

 

お祭りから帰った後、とりあえず浴衣を脱いだ。

流石に暑苦しい。お父さんには悪いけどさっさと着替えよう。写真は出る前に散々撮ったから別に問題は無い筈。

 

「お父さん、浴衣ここに置いておくよー。」

「何!?もう脱いでしまったのか!?せっかくカメラも用意したのに!」

「えー?もう充分撮ったじゃん。」

「いや、せめてもう五十枚は保存しておきたい!せっかくの浴衣姿、ここで撮らずいつ撮る!」

「来年にでも撮ればいいんじゃない?」

「それじゃあ遅い!こういうのは鮮度が大切だ!」

「なら大丈夫だよ。来年もあまり変わらないだろうし。」

「いや、もしかしたら急成長という可能性も・・・!」

 

なんて会話をして部屋に戻る。買った商品などを整理したらお風呂に入らなきゃ。

袋の中から駄菓子が出てくる。これは冷蔵庫にでも入れておこう。今はそんなに食べたい気分じゃないし。

一通りの整理が終わったら、お風呂に入る為にパジャマを用意して部屋を出る。

 

「こなた、俺は諦めないぞ!絶対に愛娘の奇跡(写真)をこの手に掴みとってやる!」

「そんな事より仕事大丈夫?確か明日が期限って言ってなかった?」

「しまったぁ!まだ原稿出来て無いのに!!」

「・・・頑張ってねー。」

 

叫び出す父親を生暖かい眼差しで見つめた後、お風呂に入る。

シャワーを浴びながら考える。

 

彼は今、どうしているだろう。

朝は目を回して倒れているんじゃないかって想像して笑ったけど、もしかしたら本当に熱中症で倒れて病院に送られているんじゃないだろうか。

もしくは外に出ている時に不良の集団に襲われ、大怪我をしているのかもしれない。

逆に過剰防衛で警察に捕まっている可能性もある。

基本的にしっかりしているけど、変な所で抜けているから余計に心配だ。

・・・心配?

 

「・・・あ、そっか。」

 

そうか、私は心配しているのか。

頭の中でモヤモヤしていたなにかが急に吹き飛んでいった。

かがみ達と別れた後もずっとどこかで彼の事を考えていた。その理由がわかった。

あの時、彼の事を思い出して、その時一緒に思い出した罪悪感。

彼をあんな風に変えてしまった罪悪感。

それが今彼がどうしているかを考えさせる。

私のせいで変わった彼が理不尽な目にあっていないか。

それが心配だったのだ。

だから彼の事を考える。

 

「はは・・・私にも意外と女々しい所があったんだな~。」

 

自嘲気味に呟くが、分かってしまえばすぐにでも確認したかった。彼がどうしているかを。

体を洗うのもそこそこにしてすぐに風呂場から出る。

適当に水気を拭いてタオルを持って部屋まで走る。髪を拭くのは部屋でも出来る。

お父さんは既に自分の部屋に戻ったようだ。今は写真を撮る余裕があまり無いので有難い。

 

部屋に戻ったらすぐにパソコンを起動させる。

今の時間帯なら彼はネトゲーにINしている筈なのでサイトを開いてフレンド画面を確認する。問題がなければオンラインになっている筈・・・

 

『leaf:offline』

 

「ーッ!」

 

急いで自分の部屋から携帯電話を探す。普段は大して使わないから特に問題視していなかったが、今に限っては中々見つからない携帯電話に凄くイライラした。

そしてようやく見つけた携帯を開いてメール画面を開く。電話をかけたら上手く喋る事が出来るか自信が無かったからだ。

落ち着けと自分に言い聞かせ、ゆっくりメールを打っていく。

 

何とか打ち終え、可笑しな所が無いか確認して送信する。

一段落してから改めて自分の姿を見ると大分酷かった。

しっかり拭かないでパジャマを着たからか、布が肌に張り付いて気持ち悪い。

髪は未だにジットリ湿っていて床を濡らしている。

流石にこれは無いなとあまりの自分の焦りように苦笑する。

今度こそキチンと体を拭いていき、携帯を持ったまま洗面台に向かい、ドライヤーで髪を乾かしていく。

いつもの状態になり、部屋に入ってベッドに座ったその瞬間。

 

テレテン♪テレテン♪

 

すぐさまメール画面を開く。

彼からの返信は以下の通りだった。

 

『件名:起きてる

 

本文:よう。久しぶりだな。

ネトゲーでいつも会ってるっていってもこうしたメールのやりとりは随分やっていないから久しぶりって表現でいいと思う。

それはそうと連絡もせずネトゲーサボって悪かったな。

今日はちょっと帰りにステキイベントが発生したから張り切ってしまってな。終わった後上機嫌で帰ったら、せっかく買ったアイスが完全に液体化してちょっと死にたくなっただけだ。このまま寝るかどうか考えていたんだけどお前が言うならプレイするぞ?

あとお見舞いは止めとけ。こっちは本当に暑さで死ねる。今度クーラー買う予定だから心配すんな。』

 

・・・返信の内容を確認し、ハァ~、とため息を吐く。

大方不良が不良らしい行動をしている場面を見かけ、相手の事なんかお構い無しに乱入したんだろう。

嬉々として喧嘩しにいく姿が目に浮かぶ。

だが内容を見た所、どこか怪我をしたという可能性は無さそうだ。喧嘩した相手も大したレベルじゃないようだった。

そのまま寝ても構わないと返信を打ち、そして思う。

 

あの時、彼に出会ってよかったのかと。

別に、彼の事が嫌いという訳では無い。むしろどちらかというと好きの部類に入るだろう。

けれども私が彼の人生を滅茶苦茶にしてしまったかもしれないと考えると非常に沈んだ気持ちになる。

彼にこんな問いを投げかけても彼は絶対に「よかった」と答えるだろう。自惚れている訳では無いけど、彼はどこか私を神聖視しているフシがあるから。

勿論私が彼に出会い、「よかった」と思える事もあっただろう。彼は明らかに前より明るくなったし、虐待が無くなったのも私のアドバイスを彼が聞いてくれたからだ。

 

だけど「よくない」と思える事も沢山あった。

私が彼と知り合ったせいで彼はあれほど歪んだ性格になった。

私が彼に関わったせいで彼は前より不良に狙われるようになった。

私が彼と一緒にいたせいで彼と彼の姉二人との関係は修正不可能といえる位に壊れた。

 

彼女達はずっと後悔し、彼に謝り続けているけど、彼は絶対に彼女達を許しはしない。

私がいたからこうなった。

 

彼には迷惑をかけてばかりだ。

・・・本当に、

 

「ゴメンね、このは。」

 

そして、今日が終わる。

これが泉こなたの日常だった。




てな感じで今度はこなたサイドでした。
正直こなたらしさがちゃんと出ていたか不安です。
とりあえず序章はこれで終わり、次から本編に入ろうかと思います。
基本はオリ主視点で話を進めるつもりですが、時々アウターサイドを出すようにしています。
では、またお会い出来ると嬉しいです。


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第一章 夏の日々
一話目 海へやって来た少女達


これからは基本的にこのは視点で話を進めようって言った筈なのに何故か半分程こなた視点になっていた。
どういうことなの・・・。


それは唐突な事だった。

 

「・・・こっちに来る?どういう事だ?」

『だからね、そっちの海に皆と一緒に遊びに行くって話。』

 

あれから一週間後、あと二日もたてば給料日がやってくるので今度こそクーラーを買って快適な日々を過ごそうという決意を固めて今日も今日とて頑張ろうとバイトに出勤しようとした時に珍しくこなたから電話がかかってきた。

まだ時間に余裕はあるし、何しろこなたからの電話だ。無視するなんて選択肢はハナから存在せず、会話を初めてしばらくたった後、その話題が出てきた。

 

我が家の近くには海がある。近くと言っても一km程離れているが。

この季節、この時期には海水浴を楽しむ為に多くの人がやってくるのだ。

 

「皆ってお前の友達か?いくら何でも高校生数人だけで神奈川まで来るのは親がいい顔しないんじゃねぇの?」

『だいじょーぶ!担任の黒井先生とゆい姉さんが引率してくれるから。』

「あー、確かお前の親戚のお姉さんだっけか。でもこの前話聞いた時その人車に乗ったら暴走するんじゃなかったっけ?」

『うん。だからかがみとつかさには人柱になってもらう。』

「なにげにひでぇなお前。」

 

さらりと友人を生贄に捧げる少女に対し冷や汗を流す。彼女は時々さりげなく知り合いに負担を押し付ける事があるので約束とかをする時は前もってどこか抜け穴が無いか確認しなければならない。昔は俺もそれに引っ掛かって大変苦労した。

 

「で、予定はどうしてんだ?日帰りか?まさかノープランって訳じゃねぇよな。」

『いんや、もう旅館とかも調べてあるよ~。この前このはに教えてもらった所。あと一応日帰りの予定。』

「あーだからあの時色々聞いてきたのか。」

 

この前のメールのやり取りの時にこなたからここの近くで良い旅館とかが無いか、という質問をされて不思議に思っていたのだ。

すぐさま捨てる為に紐で結んでいた雑誌類を取り出してオススメの旅館、ホテル等を調べ、その中から気軽に海に来れる場所、ウチのマンションからさほど遠くない場所を割り出し、値段的にもあまり苦しくない数軒を探し当てたが。

 

『そそそ。だから特に問題は無いよ。』

「いつ来るんだ?」

『明明後日だよ~。』

「そうか。何か手伝う事とかあるか?荷物運び位なら手を貸すぞ。」

『んーん、別にそんな大荷物を持って行ったりはしないから大丈夫。けどせっかくだからお迎え宜しく~。』

「ん、わかった。」

 

そうして通話を終える。三日後か・・・その日からはバイトのシフトも特に入ってないし行けそうだな。

 

「ってヤベェ、そろそろ行かねぇと。」

 

随分長い間話してたのか、もうあまり時間がなかった。

これから出ようという時に電話がかかってきたので既に準備は終えている。

すぐに外に出て鍵を閉め、駐輪場に向かう。

自転車を取り出し、急いでバイト先に向けて走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして当日・・・

 

「・・・遅いな・・・そろそろ来ても可笑しくねぇんだが・・・。」

 

俺は一足先に海水浴場に来ていた。

現在午後三時四十七分。途中のパーキングエリアで昼食をとったとしても流石に時間がかかりすぎだ。

もしや事故でもおきたのか?と心配し始めた時、

 

テロリン♪テロリン♪

 

メールが来た。見てみるとこなたからだった。

 

『件名:ゴメン!

 

本文:ゴメンね~。ゆい姉さんをかがみ達に押し付けたのは良いんだけど黒井先生まで運転に問題があったからそっちに着くの夕方位になりそう。

今日は一晩旅館で泊まる予定だからお迎えは明日で良いよ~。』

 

・・・それは引率者としてどうなんだよ。

そう思わずにはいられなかったが、とりあえず今日の所は一旦帰った方がいいようだ。

 

「結局無駄足だったな・・・。いや、この日射しの中日傘か帽子、日焼け止めが必要だとわかっただけでも収穫か。」

 

ぶつぶつ呟きながら近くのスーパーに停めた自転車を取りに行く。

この炎天下の中、出来るだけポジティブに考えないとやってられなかった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

はぁ・・・迂闊だった。まさか両方ハズレだったとは・・・。

ようやく辿り着いた海水浴場は既に人が殆どおらず、今から泳ぐなんて事は当然出来なかった。

結局その日はそのまま旅館で一泊。折角県外に来たのだから皆お土産をどうするか話している。私も昼過ぎまで待ってくれた彼の為にお詫びの品を買わなければ・・・。

その後は部屋に案内され、荷物を置いたら後は晩御飯の時間までにお土産を買っておこうという話になった。

 

そしてやって参りましたお土産コーナー。

皆どのお土産を買うか話しているけど、私はその前に適当なお菓子売り場に向かう。

 

「あれ?こなた、あんたどこ行くの?」

「いや~、今日ちょっと友達を待ちぼうけさせてたから先にそっちの方を買っておこうかなと。」

「おまっ、今日神奈川に来る予定伝えるの忘れたの!?その人が不憫過ぎるわ!」

 

どうやらかがみは埼玉で友達が待ってる間、それをすっぽかして県外に出ていったとでも思ったのか、信じられないとでもいうようにツッコンだ後、ジト目で私を見つめる。って違う違う。

 

「いやいやそうじゃなくてね?その友達が神奈川に住んでるからお迎えを頼んだのだよ。」

「あ、そういう事。それで結局来るのが遅れたからその人のお詫びにって事?」

「そゆこと。流石に何時間も待たせちゃったから何か買ってあげようとね。」

「まぁ確かにこの暑い時期にそんだけ待たせちゃね。っていうか原因が違っただけで結局その人不憫ね・・・。」

 

かがみが呆れたように呟く。いや、私も予想外だったんだよ。まさかあんな落とし穴があるなんて・・・。

そうしている内につかさやみゆきさん、ゆい姉さんに黒井先生までやって来た。

 

「こなちゃん、どうしたの~?」

「なんか此処に住んでる友達と待ち合わせしてたんだけど結局時間が合わなかったからお詫びの品を買うらしいわよ?」

「そうなんですか。それは早めに決めませんとね。」

「うぐっ、それって多分ウチらが運転遅れたからやろうな・・・。」

「うぅ・・・そうでしょうね・・・。」

「さて、どれを買おうかな~?」

「普通にその人が好きそうなヤツを買ってあげればいいんじゃないの?」

「いやね?あやつは何渡しても私から貰ったのは全部嬉しいって言うからね?」

「へぇ~。何?男?」

 

かがみが笑いながら聞いてくる。冗談のつもりだったんだろうけど・・・

 

「うん、そだよ。」

「「「「「・・・えっ!?」」」」」

 

皆が一瞬で固まる。おおう、良い反応。もう少し様子を見てみよう。

やがて黒井先生が一番早く我に返り、

 

「泉ぃぃいい!!お前こんな所に彼氏なんかおったんか!?何でや!ウチと同じネトゲーの住人のお前に何で男がおんねん!」

「おおーうこなた、いつの間にそんな人が出来たんだい?お姉さんビックリだ!」

「え、遠距離恋愛ですか?泉さんがそういった事をされているとは・・・少し驚きです。」

「え・・・ええ~!?こなちゃん彼氏いたの~!?私初耳だよ~!?」

「は、ちょ、嘘、ホントにそうなの!?」

 

うむ、予想以上に良いリアクションが取れた。そろそろいいかな?

 

「ううん、男だけど彼氏じゃないよ?」

「「「「び、ビックリした・・・。」」」」

「ありゃ、なんだ違ったの?」

 

ゆい姉さん以外は何か凄く疲れた顔をしている。作戦大成功。

 

「かがみ達にはこの前ちょびっとだけ話したでしょ?夏祭りの時。」

「ああ~、あの時言ってた複雑な親友。」

 

そう言うと思い出したのか、三人がうんうんと頷く。

ゆい姉さんと黒井先生が頭にハテナマークを浮かべる。そういえば二人はあの時いなかったっけ。

 

「成る程ね~。その親友が此処に住んでるんだ。」

「そういえばそのような話もしましたね。一度会ってみたいです。」

「あ、そっか。だからこなちゃん此処にしようって言ったんだ。」

「そゆこと。こういう時じゃないと中々会う事出来ないからね~。」

 

しみじみと呟く。最後に直接会ったのは中学の卒業式だったっけ?

 

「うし!そんなら金はウチが払うで!元々ウチらがキチンと引率出来なかったからやしな。」

「それなら割り勘にしましょうよ。私にも責任はあるんだし。」

「おお!ホントに!?ありがと~先生!ゆい姉さん!」

 

そんな事でお詫びの品はショコラにした。何でも喜ぶって言っても彼の嗜好は理解しているつもりだ。結構甘党だからね、彼。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「あー疲れたー。アイス食おうアイス。」

 

家に帰って手を洗った後、すぐさま冷凍庫に入れてたアイスを取り出す。クーラーは買ったが届くのは明日の朝なので、それまでは扇風機一台で過ごさなきゃならん。

 

「ったく・・・折角今日どうするか予定立ててたのに・・・。プランの練り直しだな。」

 

ぶつぶつ呟きながら頭の中で予定表を組み直す。明日は今日より日射しが強いらしいからこなたに日焼け止めを持つように連絡を入れなければ。

 

「となるとフォローの為にこっちも色々持って行くか。他に持って行く物は・・・どっかで買うか。」

 

この前行ったデパートで色々売ってあったからそこで買い物でもしよう。食材も切れてきたし。

そうと決まれば行動も早くなる。アイスを食べ終わると財布を持ってかつてのデパートに旅立つ。

 

結局食材に加え、こなたの為に色んな小道具を買って帰った頃にはとっくに夕食の時間だった。急いで小道具を整理し、晩飯を済ませて風呂もさっさと入る。

 

そして夜、こなたに電話で明日の予定を聞いておく。

 

「それじゃあ昼前に海水浴場で現地集合って事でいいんだな?」

『そだね。今日は本当にゴメンね~。』

「気にすんな、こっちが好きでやっている事なんだから。」

『そう言ってくれると有難いね。けどこのはは泳がないの?勿体ない。』

「んな事言われてもまず俺水着持って無ぇから。昨日クーラー買ったから資金もほとんど尽きたし。」

『おお!ついにクーラー買ったんだ!』

「当然だ。この時期に扇風機一台で過ごすのは自殺行為だろ。」

『むしろよくここまでもったよね。』

「俺の鋼の忍耐力のおかげだ。誉めてくれてもいいぞ。」

『うんうん、偉い偉い♪』

「ありがと、それじゃあ明日会おう。」

『うん、じゃーね~。』

 

そう言って通話を切る。もうやる事は無いので今日は寝る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日・・・

 

「ふぁ・・・。・・・もう朝か。」

 

ベッドで目覚めた俺はとりあえず時計の針を確認した。

現在午前九時半。ヤバイ、そろそろクーラーが届く。その前に朝飯を済まさねば。

今日はさっさとこなたに会いに行く為、早い内に準備を終わらせておきたい。

キッチンに向かい、何を作るか考える。食パンが尽きた為、今日は和風な感じにしよう。ちょうど昨日の味噌汁も残っているし。ていうか昨日パン買っときゃよかった。

 

「そうなると魚がいるな・・・よし、一応ある。」

 

冷凍庫を見たら鮭が丁度一人前あった。朝食の献立を頭の中で組み立てる。

とりあえず鮭を解凍して、フライパンで焼いていく。味付けは適当に塩胡椒を振って済ませる。

次に卵焼きを作っていく。薄焼き卵を作ってそれを巻いていき、一口大に切ればハイ完成。

味噌汁を暖めておき、大根卸しを用意して米を茶碗についでおく。皿に鮭と卵焼きを移し、鮭に大根卸しを乗せて、暖まった味噌汁を器に入れたら完成だ。本当はお浸しも作りたかったがもうあまり時間が無い。

 

「とりあえず食おう。あんま時間かけたくねぇし。」

 

朝飯を食ったら着替え、顔を洗っておく。歯を磨き終わる頃に宅配便がやって来た。クーラーを受け取った後、すぐに取り出してリビングに取り付ける。これでもう暑さに悩まされる事もなくなる。

 

満足げに頷き、部屋に戻って準備が完了した事を確認し、アイスボックスと愛用のバッグを手に今日こそこなたを迎えに海水浴場へと向かった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ふぁ~・・・。よく寝た~。」

「寝過ぎよ。あとはあんたとつかさだけよ?ほら、つかさも起きなさい!」

 

朝、私は布団から抜け出して体を伸ばしていた。

うむ、今日も良い天気だ。絶好の海水浴日和だろう。

 

「う~ん・・・もうちょっとだけ・・・。」

「いつまで寝てる気よ!?泳ぎに行くんでしょ!早く起きなさい!」

「ん~・・・わかったよぉ~・・・。」

 

傍ではつかさがかがみに起こされている。そんな状態で海に行って大丈夫かなと思ったが、旅館から出る頃にはいつもの調子に戻るかと思い直し、そっちはかがみに任せる事にした。

 

「あ、みゆきさんおはよ~。」

「はい、おはようございます。今日も良い天気ですね。」

「そだね~。とりあえず布団を片付けるとでもしますか。」

 

まずは布団を片付け、まだぼんやりしている頭をシャッキリさせるために洗面台で顔を洗う。

戻った時にはつかさも布団から出ていた。まだ若干眠たげだが。

 

「おはよぉ~。今日って海に行く日だったっけ?」

「いや、それは何かおかしくないか?間違ってはないけど。」

「つかさ、もう神奈川には着いてるよ。今は此処来て二日目。」

「あれ?あ、そっか!」

 

と、妙なコントをして朝御飯を食べる為にテーブルを出した後、女将さんに頼んで朝食を出してもらう。

 

 

朝御飯を食べた後、海に行く為に荷物を整える。

 

「わぁー!よく晴れてて絶好の海水浴日和だよ~!」

「全く、昨日はどうなることかと思ったわよ。」

 

つかさが外の景色を見て声を上げる。かがみは昨日随分消耗したようだ。分かるよ。だから押し付けたんだし。

う~ん・・・いちいち向こうで着替えるのも面倒だし、

 

「私、最初っから水着着てっちゃおー。」

「あんたはまたそんな子供みたい・・・んなぁ!?」

 

スク水を着た私を見て驚愕の顔をするかがみ。

 

(コナタサン、それはマジッスか・・・!?)

 

「てか、その歳でスクール水着とか聞いた事無いぞ・・・。」

「そういうニーズもあるんだよかがみん。」

 

スクール水着の中央→[6-3 泉]

 

(い、一体いつの水着だぁ!?)

 

かがみが何故か冷や汗を流し始めた。どったの?

 

 

 

 

 

海の家で着替えを済ませた私達はとりあえずその辺をぶらつく事にした。ざっと見たところ彼はまだ来てないみたいだし。

ちなみにゆい姉さんと黒井先生はパラソルの下で談笑している。

 

「大体あんた、運動神経良い癖に何で浮き輪なんて持ってんのよ。」

「別に泳げるからって海の中はザンザンクロールしないじゃん?気分はレジャーなのだよ、レ・ジャ・ア。それにこのニーズに合わせるとビジュアル上スク水と浮き輪は外せないんだよ~。」

「そういうニーズの人は海なんて来ないんじゃないの?」

 

なんて事話しながら歩いていると、

 

「ねえねえ、そこの君達。ちょっと俺らと一緒に遊ばない?」

「おー、お前やるなあ。結構上玉揃いじゃん。」

「えっ?えと、私達ですか?」

「おおう!ナンパだ!」

 

と、二人の男の人達に引き止められた。まさか実際にこういうイベントを体験をするとは!

 

「あれ?もしかして子供連れ?」

「小学生?初めまして~。」

 

・・・うん、まぁそんなとこだろうと思ったよ。ロックオンされていたのは三人だけだったみたい。

 

「失敬な、同級生だよ。」

「ええ!?嘘!?このナリで!?」

「随分個性的なグループだなぁ。まぁいいや、それでどう?」

「え、えっと・・・どうしようお姉ちゃん。」

「ど、どうしようって言ったって・・・どうする?」

「す、すみません・・・こういった事にあったのは初めてなので・・・。」

 

フム、やっぱり皆ナンパされたのは初めてみたいだからどう対応すればいいか迷っているみたいだ。

 

「ねぇ良いでしょ?人数多い方が絶対楽しいし!」

「そうそう、遊ぼうよ。」

 

声を掛けてきた方の男性がしつこく誘ってくる。ニヤついた顔がちょっと気味が悪い。片割れの男性も便乗してくる。う~ん、どうしようか・・・。

 

・・・?うん?なんだろ?片割れの男の人、なんか見覚えが・・・?

 

と、ちょっとした違和感に首をかしげていると結局話がまとまらなかったのか、かがみ達が私に意見を聞いてくる。

 

「ああもう!どうしたらいいと思う?こなた。」

「・・・え?」

 

私の名前を聞いた瞬間、片割れの男性が硬直する。

 

「ねぇ、いいからとりあえず一緒に行こうよ。」

「ち、ちょっと!離して!」

 

ナンパしてきた男性が強引にかがみの腕を引く。その瞬間、

 

「やめろこの馬鹿!!」

 

ガンッ!

 

「痛っ!?」

 

片割れの男性がナンパの男性に拳骨を食らわせる。

いきなりの急展開に目を白黒させる私達。

殴られたナンパの男性が片割れの男性を睨み付ける。

 

「ちょっと、いきなり何スンですか!」

「お前こそ何するつもりだった!?今止めなかったらどうなっていたことか・・・。」

「ハァ?何言ってんスか?」

「いいから少し黙ってろ!」

 

怒鳴られて怯んだナンパ男。そして片割れが姿勢を正して私に向かう。え、私!?

急に礼儀正しい態度をとった男性に混乱する私。皆も何が起こっているのかが分からないようだ。いや、一番分からないのは私なんだけど!

そして片割れが口を開く。

 

「ご迷惑かけて申し訳ありませんでした!泉さん!」

 

・・・静寂が、この場を包んだ。

え、いや、ホント何?ドユコト?

 

「あ、あの~・・・?」

「どんな罰でも受けます!ですから総隊長にこの事を伝えるのは・・・!!」

「ちょ、ちょっと道背先輩?どうしたんスか?」

 

いきなり謝罪され、罰を受けると言われて何がなんだか分からなくなる。

・・・ん?総隊長?・・・あっ!もしかして!

 

「何急に謝っているんスか!そりゃ、少し強引だったかもしれなかったですけど・・・」

「バカッ!お前この人の事知らねえのか!」

「いや、知りませんけど・・・」

「総隊長のご友人の泉こなたさんだよ!!」

「ええ!?この人があの!?」

「そうだよ!お前も謝れ!」

「わわっ、す、スンマセンでした!」

「・・・えーっと、何が起きてる訳?コレ。」

 

かがみ達が凄く戸惑っていたけど今はちょっと置いておく。

 

「えっと、もしかして桜道警戒隊(さくらみちけいかいたい)の人?」

「ハイッ!三番隊隊長、道背(みちせ)はしのぶです!」

「お、同じく三番隊副隊長、鳴跳(なるとび)くぬぎです!」

「うわぁ、アレまだ解散してなかったんだ・・・。」

 

直立姿勢のまま自己紹介する二人の台詞を聞き、遠い目をする私。

思い出した。このはしのぶって人は中学の時、彼の喧嘩に巻き込まれた私が戦闘不能にした連中の内の一人だ。あの後彼の舎弟になるってしつこく彼に付きまとっていたから印象に残っている。

 

桜道警戒隊とは、そういった彼の舎弟になりたいという人達が集まって勝手に作り上げた親衛隊のようなものだ。殆どが彼に助けられた人だけど、中には彼と喧嘩して彼についていくと決めた人もいる。所詮烏合の衆のような軍団だったからそのうち勝手に瓦解するだろうと二人で結論付け、放置していたからとっくに無くなったと思っていたのだが・・・。

 

「よくまぁ続けられたもんだね。絶対に組織として成り立たないって思っていたんだけど。」

「一番隊隊長が規則、人員配置、各々の役割を作り上げたおかげです!」

「どこにそんな情熱があったのさ・・・。そんなの他の事に使えばいいのに。」

「いや、あんたが言うな。」

 

落ち着いたのか、かがみがツッコンでくる。心外だなぁ、私は他人に迷惑掛けるような情熱はそんなに持ってない。

っていうか一番隊とか三番隊とか総隊長とか、絶対その一番隊隊長ブ○ーチ好きだよね。

 

「まさか泉さんのご友人に迷惑を掛けるとは・・・!本当に申し訳ありませんでした!」

「い、いや、別にそこまで謝らなくても・・・。」

 

かがみ達にも頭を下げ、誠意を示すはしのぶ君。かがみ達はさっきと百八十度違う態度をとられ、反応に困っている。

 

「本当に申し訳ありません!ですから総隊長にこの事を伝える事だけはご勘弁を!」

「あーうん、分かった分かった。黙っておくからもういいよ。」

「ありがとうございます!」

 

感謝の為、また頭を下げる二人。いや、もういいから。

ちなみに同じ埼玉に住んでいたはしのぶ君が何故神奈川にいるのか不思議に思ったが、聞いたところ三番隊は彼の近くで敵対勢力がいないか調査し、本部に連絡を入れる役割を持っているらしい。

それで丁度夏休みだったので一週間程神奈川に滞在する事にしたようだ。

ナンパをしていたのも海に調査しに来て違和感無く妙な噂話がないか確認する為だったようだ。いやその前に本部って何、本部って。

 

結局その後また調査を再開する為に色んな人達に声を掛けて回ると言って、他の人達に話し掛けて行った。

 

「何ていうか・・・あんた一体中学の時何してたのよ。」

「誤解だよ~。私は殆ど何もやってないって~。」

「殆どって何だ、殆どって。」

 

かがみが呆れて私を見る。ホントだよ!八割位は彼のせいだって!

つかさとみゆきさんも返答に困ったように笑っている。うう・・・何でこんな事に・・・。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「やっと着いた・・・。途中でジュース買っといてよかった。じゃなきゃ脱水症状になる。」

 

駐輪場に自転車を停めて海水浴場に辿り着いた俺。あまりの暑さにジュースを買ってしまったがその選択は間違ってなかったようだ。アイスボックスの中身?これからこなたとその友人達に渡すのにバリエーション減らす訳にはいかないだろ。

バッグを持ち直し、こなたを探す。色々詰め込んだからか随分重く感じた。

 

「さて、こなたはどこかね?」

 

彼女は見た目が小さい割に髪は超ロングヘアーなので結構目立つ。

だがこんな日だからか、昨日より多くの人が集まっている。この中から彼女を見つけるのは少し骨が折れるかもしれない。

とりあえず海の家にでも行くか?と考えた時、

 

「お~い!このは~!」

 

と、間違える筈もないたった一人の親友の声が聞こえた。どうやらこっちから探す必要は無かったようだ。

 

「おう、こなたか。・・・お前まだそのスク水着てたのか。」

「いやいや、コレを捨てるっていう選択肢は無いって。絶対勿体無いでしょ。」

「そうだな、今でもソレを有効活用しているお前が言うとどこか説得力あるな。」

「むう、それ誉めてんの?」

「一応。」

 

こなたが声を掛けてきたが、その姿がスク水姿だったので一応ツッコミを入れておく。

 

「へー、その人があんたの言ってた親友?」

「うん、そだよ。」

「そいつらが友達か?確か引率の教師と親戚もいるって言ってたけど・・・。」

「先生とゆい姉さんはあっちでパラソル立てて駄弁っているよ~。」

 

後ろから三人の女子がやってきてその内の強気そうな一人が話し掛けてくる。どうやら引率係の二人は別行動しているようだ。

 

「紹介するね。友達のかがみとつかさとみゆきさんだよ~。」

「柊かがみよ。宜しく。」

「妹の柊つかさだよ~。」

「初めまして。高良みゆきと申します。」

 

少女達が各々自己紹介をする。かがみと呼ばれた少女がぶっきらぼうに、つかさと呼ばれた少女がのんびりと、みゆきと呼ばれた少女が丁寧な対応をした。

・・・高良みゆき?どっかで聞き覚えがあるような・・・。

 

「かがみとつかさは双子なんだよ~。」

「へぇ、珍しいな。二卵性か?」

「そうだけど・・・何で分かったの?」

「いや、あんま似てねぇし。」

「あはは~、確かにそうかも。」

 

柊妹が苦笑する。

 

「で、今度は皆に紹介するね。中学の頃からの親友のこのはだよ~。」

「夜桜このはだ。宜しくな。」

 

こちらも自己紹介を済ます。ひとまずは悪くない初対面だろう。

 

「あ、このは、何かジュースとか持ってない?ちょっと喉乾いた。」

「それならアイスボックスに何本か入れているぞ?お前達も何か飲むか?」

「え、いいの?」

「いいんだよ。結構な人数で来るって聞いていたから準備は怠らなかったし。」

「ず、随分用意周到だね・・・。」

「このははこういうのはあんまり手を抜かないからね~。」

「それでは、頂いても宜しいでしょうか?」

「おう、遠慮はしなくていいぞ。」

 

アイスボックスを肩から降ろし、中から様々な飲み物を取り出す。只の天然水から始まりお茶、果汁飲料、炭酸飲料、カフェラテ、コーヒーなどなんでもござれだ。

皆適当な飲み物を選んで飲み始める。

 

「ぷは~。キンキンに冷えてやがる!犯罪的だ!」

「満足してもらって結構だが所持金無くなるまで焼き鳥とポテチを買い漁ったりするなよ?」

「残念ながら今は財布を持っていないんだよ。誠に遺憾である。」

「いや、別にしなくていいから。」

「っていうかこなた!あんたお詫びの品は?」

「あ、海の家に置いたまんまだった。」

 

は?お詫び?

どういう事かさっぱり分からないという疑問が顔に出ていたのか、こなたがたはは、と笑って説明する。

 

「いやね?昨日このはを待ちぼうけさせちゃったからそのお詫びに何か買ってあげようかなと思ってね~。」

「何だそんな事か。俺が好きでやっている事だから別にいいって言ったろ?」

「ん~?何?私からのプレゼントは受け取れないとでも?」

「いや、そうじゃなくてな・・・。」

「ならいいじゃん♪コレだって私が好きでやっている事なんだから。」

「・・・ハァ、ホントお前には敵わないな。」

 

苦笑して飲み干して空になったペットボトルをしまう。後でその辺のゴミ箱にでも捨てよう。

 

「う~ん、なんか見れば見るほど恋人同士にしか見えないわね。」

「そうだね~。こなちゃん凄く楽しそう。」

「中学の間ずっと行動を共にしていたという位仲が良かったらしいですからね。久しぶりに会えて泉さんも嬉しいのでしょう。」

 

三人にそう言われ、俺とこなたは顔を見合わせる。

恋人同士か・・・。

 

「端から見たらやっぱりそう見えるのかね?」

「そうなんじゃない?警戒隊の人達も皆そう思っているみたいだし。」

 

こなたと一緒に顎に手を当てて考える。

・・・ん?警戒隊?

 

「・・・オイコラ、警戒隊ってどういう事だ。」

「あ、やっぱり知らなかった?さっき隊員二人に会ったけどアレ解散どころか進化してたよ。」

「知らねぇ。全っ然知らねぇ。は?何、あいつらずっとバラけずに組織紛いの事してたの?」

「そーみたい。一人中々頭が回る人がキチンと組織化させたらしいよ?」

「・・・マジか。」

「マジです。」

 

オイオイ、もうとっくに消えたと思っていたのにまだ絶滅してなかったのか・・・。

しかしそれならここしばらくの不自然さも納得できる。中学卒業後もしばらくは喧嘩ばかりの日々だったのだが、数ヶ月経つとその頻度が異様に少なくなったのだ。絡んでくる不良達が急に減ったので疑問に思っていたのだが・・・成る程、あいつらが先に処理していたのか・・・。

 

「にゃろう・・・俺に黙って喧嘩相手を潰しているとは・・・随分と舐めた真似してくれるじゃねぇか・・・。」

「お~い、このは~?顔が段々怖くなってきてるよ~?あとその理屈はおかしいと思う。」

「・・・あぁ、わりぃ。」

 

気付けば他の三人が若干引いてた。しまった、折角の悪くない初対面が・・・。

 

「すまんすまん、ちょっとしばきあげる連中が頭に思い浮かんだんでな。少し気が立ってた。」

「いや、今のは少しじゃないと思うけど・・・。」

「こ、怖かった~。」

「私、額に青筋たてる人初めて見ました・・・。」

「このははいつも通りだね~。」

 

その後は俺以外の四人が海を泳いだりして時間を潰し、お昼時となったので皆にも誘われ、一緒に昼飯を食べる事になった。折角なのでついでにこなたからのプレゼントも受け取っておくことにする。

 

そんなこんなで海の家。

 

「やっほー、お帰りこなた~。」

「ただいま~。それじゃ、お昼ご飯食べよっか。」

「失礼しまーす。初めまして、こなたの親友の夜桜このはっていいます。以後、宜しく。」

「おお~。アンタが泉の親友か!ウチは黒井ななこや。コイツらの教師やっとる。」

「初めまして~。こなたの親戚の成実ゆいだよ~。これから宜しくね~。」

 

中では引率者の二人が席を確保していた。

すぐにお互いに自己紹介を済ます。話に聞いたところでは完全駄目人間という印象しか持てなかったが・・・見たところどこか酷いという事はなかった。ひとまずは皆料理を頼んでおく。

 

「で、で?このは君、うちのこなたはどう?」

「どう・・・とは?」

 

何やら成実さんが近づいてきて話掛けてくる。

 

「決まっているじゃない!彼女にしたいかどうかよ!なにしろ中学の頃はべったりだったんでしょう?そこまで一緒だったなら付き合ってもおかしくないのに!それにこの子結構可愛いし!」

「ああ~、そういう事ですか。」

 

前言撤回。色々酷かった。

 

「あ~、ゆい姉さん。このはにそういう事言っても意味無いよ。」

「へ?どゆこと?」

「えーっと、今の質問に答えるなら・・・」

「あぁ、始まった・・・。」

 

こなたが頭を押さえてため息を吐く。

 

「そうですね、まず彼女にしたいかどうかって方はそもそも文字通り住んでる所が違いますからね。いくら此処から埼玉までが移動出来ない事はない距離と言ってもやはり学生の身分ですから色々キツいんです。付き合っても中々会う事は出来ないでしょう。やれる事といえばネトゲーで話をする位です。」

「いや待て、何故そこでネトゲーが出てくる。電話やメールでいいでしょ。」

「そして可愛いかという話ですが・・・」

 

柊姉がツッコンできたがスルーしておく。

そこで一旦区切り、息を吸って、

 

「可愛いのは当然でしょう、だってこなたなんですから。いや、それ以外でも戦っている時は凛々しいし、普段は凄く面白いし、たまに見せる柔らかい笑顔はもう綺麗としか言いようが無いです。そもそも性格からして最高ですし、一緒に喧嘩した時なんか叫びそうな位にワクワクしましたね。俺の知らない事を沢山知ってるし、子供みたいな無邪気なところもあれば大人みたいな静かな雰囲気を纏うところがあってとても良いです。一緒にいるといつも楽しい気分にさせてくれますし、嫌だった事もこなたがいると途端に面白く感じるから不思議です。俺にとってこなたは幸運の女神ですね。」

 

最後まで言い切ってふぅ・・・と息を吐く。少し喉が乾いたので水を取り出して飲んでおく。

 

「・・・いっつもこんな感じに熱弁するからさ、色々恥ずかしいんだよ。」

「な、なんか物凄く強烈だね・・・。」

「ここまで堂々とベタ褒めすると聞いているこっちまで恥ずかしくなるな・・・。」

「・・・ねえ、ホントなんでアンタ達付き合っていないの?」

「うわぁ~、今の凄くプロポーズっぽかったよ。」

「下手な告白よりもとても熱意を感じましたね・・・。」

 

ふむ、そうだろうか?俺にとって当然の事を言っただけなのだが。

 

「ていうか他はともかく戦っているとか一緒に喧嘩したとかは何なのよ。」

「・・・初めて会った時は衝撃だったな~。」

「・・・そういや夏祭りの時そんな事言ってたわね。」

 

何やらこなたが遠い目をしていた。そういや初めて会った時は俺と不良達との喧嘩真っ最中だったからな。

 

そんな事をしている内に頼んだ料理がやって来た。ちなみに俺が頼んだのはお好み焼きだ。

 

「おお!期待通りだ!」

「何がそんなに嬉しいのよ。」

「だって海の家を絵に描いたようなのが出てきたんだよ?見よこの具の無いカレー!流石海の家!」

「確かに普段食べるとどうかな~っていうのでも、こういう所で食べると美味しく感じちゃうよね~。」

「まぁ確かにそうだな。実際は凄く適当に作っているってのに何でかね?」

「いや、決めつけるなよ。」

 

色々意見を言いながら食べ始める俺達。うん、やっぱり改めて食うとそんなにうまくない。何でだろ。後でこなたのカレー一口貰おう。

 

「んっんっんっ・・・ぷは~、やっぱ海のビールは最高やな~!たまに冷えてない奴とかあんのんやけどな~。」

「大体、フランクフルトが一本三百円もするのもおかしいんですけどね~。」

「そうそう!生焼けとかだったりしてね?けど気にせず食べちゃう。」

「普通の店だったらクレーム来てもおかしくないよな。だけどここだと何故かあまり文句も出ないという。」

「せやな~。」

 

・・・納得するのはいいんですけど黒井さん、そんなに飲んで大丈夫か?一応今日帰る予定なんでしょう?

 

「私このチキンの油っぽいのとかスパイスかかりすぎているのとか実は好きだったりして。」

「こういったプレーンの焼きそばも中々いいですね。」

 

他にも色々感想を言って同意したりして話し合っていたのだが、唐突に柊姉がジト目で、

 

「・・・ねえ、」

 

と呟く。

 

「そんな盛り上がる程美味しい?」

「別に?褌一丁で海を走る程じゃないよ。」

「また何かのアニメネタか?」

 

呆れた顔でこなたにツッコむ柊姉はどこか疲れているような気がした。もっとテンション上げていこうぜ。

 

 

 

 

 

その後こなたからお詫びのショコラを貰った。流石こなた。俺の好物を理解してる。

しばらく海を泳ぎ、夕方になり帰路につく。

結局黒井さんは飲みすぎてフラフラになり、こなた達はもう一泊旅館で過ごすようだ。

だがその時こなたが驚くべき発言をした。

 

「ねえ、折角だし今日はこのはの家に泊まっていい?」

「良いぞ。」

 

しまった、即答してしまった。



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二話目 家への帰り道

今回ちょっとシリアス入ります。
あと六割程がこなた視点です。
そして6、7000文字程度・・・次は頑張ります。



現在旅館の目の前。

こなたの家へのお泊まり発言につい反射的に了承してしまったが、じゃあ早速行こうかという話にはならず、

 

「いやいやいや、いきなりそんな事言ってもすぐに許可なんて出せんからな!?ウッ・・・気持ち悪・・・。」

「そ、そうだよ~!?大体このは君の家ってどこなの?」

 

と、引率係二人がストップをかける。まぁそりゃそうだ。あと黒井さん、ココで吐かないで下さいね。

 

「こっからはそんなに離れてませんよ?海から大体一km程でしたがこっちの道を通れば大分距離を短縮できますから。その代わりに階段とかもあるから徒歩でしか通れませんけど。」

 

携帯電話から地図アプリを開いて詳しい場所を教える。恐らく五、六分程歩けば着くだろう。

 

「う~ん、一応問題は無さそうだね。けどそしたらこのは君だけさっきの道を走らなきゃいけなくなるよ?自転車で来たんでしょう?」

「大丈夫ですよ。急げばそんなに時間はかかりませんから。」

「むう~、交通安全課としては今の発言はあまりいただけないな~。」

「・・・これはツッコんだ方が良いのか?こなた。」

「いや~、そっとしといた方が良いんじゃない?」

 

念のためこなたに確認をとるが別に無理に深入りしなくてもいいみたいだ。

 

「あ、それなら私達も少し遊びに行っても良い?どういう所か気になるし。」

「うんうん、皆で遊んだ方が楽しいよ~。」

「ご迷惑でなければですが、御一緒させても宜しいでしょうか?」

 

好奇心からか柊姉妹と高良も来たいと言ってきた。

 

「おう、別に構わねぇぞ。なんなら全員泊まりに来てもいい。布団の数なら無駄にあるし。」

「このはって一人暮らしの癖に随分大きいマンションに住んでるからね~。」

「えっ、そうなの?」

「婆さんが『住むなら立派な所がいいわよね』って言ってここら辺で特に良い物件を選んだからな。お陰さまで毎週掃除が大変だ。」

「あ、いや、今の『そうなの?』は一人暮らしをしているのかって意味。家族は?」

「ここから何十kmか離れた所に実家がある。皆そこに住んでるよ。高校この近くだからここにしたんだよね。ちなみに母さんは事故って死んだ。今頃天国で苦笑しながら見守っていると思う。」

「随分重い話をサラッと流すわね・・・。」

「そういう性分なんで。」

 

柊姉がどう返答すればいいかと微妙な顔をしている。そんなに気を使わなくていいのに。

 

 

引率係二人は随分悩んだが子供達だけで行かせるのもどうかという結論に至ったらしく、自分達もついていくと決めたようだ。

 

「けどまぁ確かに問題はあらへんし、ウチらが先に来てしもうたら近くのコンビニにでも入って時間潰せばええんやないの?」

「そうですね。それじゃ、私ちょっと旅館の方に連絡してきます。」

 

そう言って成実さんが旅館の中に入って行った。では俺も自転車取りに行きますかね。

 

「じゃあ俺も家に向かうから後で落ち合おう。」

「分かったわ、それじゃ。」

「おう。」

 

柊姉が返事をし、そのまま駐輪場に向かう。

地下に停めたので階段を降りる必要がある。上りは坂だ。

 

「あ、このは、荷物持とっか?」

「いや、大丈夫だ。これくらい持てる。」

 

傍を歩くこなたに返事をする。

 

・・・。

 

「待て、何でお前がいんだ。」

「どうせだし一緒に行こうかなと。」

「いや、あいつらどうすんだよ。」

「場所は分かっただろうし、かがみに『このはと一緒にドライブ(二人乗り)してくる』って伝えたから大丈夫だよ。」

「成実さんにどう説明するつもりだ?」

「『風になりたくなった』って言えば大丈夫だと思う。」

「チョロイなあの人。」

 

気付けば隣にこなたが居た。ビックリした、本気で気づかなかった。

機械に自転車を停めた場所の番号を打ち込む。四時間につき百円だったのでまだギリギリ二百円で事足りた。

 

「お前やっぱ前世は猫だったんじゃねぇの?気配消すの上手いし、気まぐれだし、獲物で遊ぶ事あるし、猫口だし。」

「後半は別に言う必要無くない?」

「間違ってはいないからいいだろ。」

「私そんなに嗜虐趣味持ってるように見えるのかな~?」

「結構平気で毒吐くからなお前。」

「このはも結構毒舌家だよね。」

 

ぶつぶつ呟くこなた。何やら「このはを動物に例えたら蛇かな・・・いや、毒蛇の方がしっくりくる。」なんて言っている。失礼な。

そんな事を言っている内に自転車に辿り着いた。鍵を外して取り出した後、荷物を籠に入れて出口に行き、坂を上っていく。

 

「自転車押すの手伝おっか?やる事無いし。」

「そうか?なら頼む。」

 

こなたに手伝ってもらい、重い荷物が乗った自転車を坂の上まで押していく。

上りきった時にはお互い少し汗をかいていた。この暑い中、大した距離が無くても坂を上るという行動は半端なく疲れる。

 

「ふぃ~、意外と疲れるもんだね~。」

「そうだな。けどお前が手伝ってくれたから昨日より大分楽だったぞ。」

「ホントにごめんね~。あれは完全に予想外だったんだよ~。」

「いいよ別に。それじゃ、出発するから後ろ乗ってくれ。」

「りょーかーい。」

 

こなたが後ろに乗った事を確認して自転車を走らせる。

いつもより重くなった筈なのに何故かペダルが軽く感じたのは後ろにいるのがこの少女だからだろう。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

このはと一緒に家まで向かっている道中、色々話した。

最近起こった事、高校の事、・・・家族の事を。

この前私がメールした日は予想通り不良と喧嘩をしていたようだ。喧嘩にしてはやけに一方的だったが。

学校では既に高校一の厄介者として扱われているみたいだった。まぁ成績は良い癖にいつも喧嘩ばっかりしていたらそうなるだろう。

家族は相変わらずだった。時々お婆さんやお爺さんと連絡をとって笑ったり、おじさんと会ったら出来るだけ会話を続けて元の状態に戻そうと尽力しているらしい。

・・・姉妹の話は最後までしなかった。もう口に出すのも嫌みたいだ。

それからも話し続けたけど、話しながらもずっと私はその事を考えていた。

 

もうこの関係を直すのは不可能なのかもしれない。

だけど私は出来れば何とかしたいと思っている。

元々は私が原因でこうなったのだ。それなら私がその関係を修復しなければいけないのも当然だろう。そうじゃなくても手伝いはしないといけない。

 

だけど出来ない。

 

今まで色々手を尽くしてきた。時にはさりげなく会話に姉妹の話を入れたり、時には実家に行きたいと言ってなるべく三人が出会うよう誘導したり、時には思いきって仲直りしようと言ったりなど、それ以外にも沢山。

 

けれども会話を続けても巧みな言葉使いで別の話に持っていかれ、実家に来ても二人の部屋には絶対に入らなかったし視界にすら写さなかった。

どれだけ手を打っても切っ掛けにすらならなかった。

だけど一番辛かったのは仲直りを提案した時、

 

『・・・わりぃ、こなたからのお願いでもそれは、それだけは絶対に聞く事が出来ねぇ。

 

もう会うなと言われれば二度と会わないようにしよう。

こなた以外の全てを捨てろと言われれば全部捨て去ろう。

死ねと言われればこなたの望むように死のう。

だけどその要求だけは無理だ。俺は・・・

 

 

俺は絶対に、絶対にあいつらを許さない。』

 

・・・はっきりと姉妹に対して憎悪の感情を剥き出しにして呟いた事だ。

悲しくて仕方がなかった。必死に表情を崩さないように頑張った。

私の失敗一つで彼にとって彼女達は構ってくれるが迷惑な姉二人ではなくこの世で最も嫌悪する人間達に変わったのだ。

あの時程深く自己嫌悪した時など無い。

何故あんな行動をしたのか。

何故何もしようと思わなかったのか。

せめてあの時、もっと上手く動いていればここまで酷くはならなかっただろうに。

ただ怖がってうずくまっていただけの自分を殴りたいと何度思っただろう。

その後も彼の家での家族会議に参加せず、部屋で震えていただけの自分を蹴飛ばしたいと何度考えただろう。

思い出しただけで苛つきが止まらない。

 

彼は私を尊敬しているがその眼差しを受けるたびに私は自分自身を許せなくなる。

彼女達を指し置いてどの面下げてお姉さんぶっているのかと。

 

ふと、さっきの海の家での会話を思い出す。

彼が私と付き合いたいかという話をした時、他の皆はあの後の彼の熱弁に注目していたが、気付いているのだろうか。

 

 

あの時、彼は一言も私を彼女にしたいとは明言していない事に。

 

 

別に、私の事が嫌いという訳では無いだろう。もしかしたら付き合えるならば付き合いたいと思っている可能性もある。これは流石に考え過ぎかな?

恐らく気付いたのは私と発言した彼自身だけだろう。皆特に何も聞いて来なかったし。

 

私も彼と付き合うかと言われたら『ノー』と答えるだろう。

多分、私も彼も意味は違えど考えている事は同じだと思う。

 

『自分にそんな資格は無い』と。

 

彼の方は純粋にレベルが釣り合わないと思っているのだろうけど、私はそんな事は無いと言い切れる。彼は私を高く見すぎなのだ。そもそも自分自身だって相当凄い事を彼は理解しているのだろうか。いや、していない気がする。

 

けれど私には本当にそんな資格が無いのだ。彼の明るい未来を潰した癖にそんな場所に居ていい筈が無い。

もし付き合うとしてもその前に彼と彼女達の関係を良好な状態にしてからだ。

 

・・・彼にとっては彼女達はもう家族では無いのだろう。もう顔も見たくないとハッキリと口でも態度でも告げているのだ。

けど彼女達はやっぱり彼の家族なのだ。どれだけ彼が拒絶してもその縁は決して切れはしない。それは彼女達が仲直りを諦める瞬間までずっと続く。

そして彼女達は決して諦めないだろう。昔から意地っ張りなのは良く知っている。

難しいかもしれない。不可能かもしれない。けれど絶対に諦める事だけはしない。

 

「・・・ねぇ、このは。」

「ん?どうした?」

「・・・いや、帰ってからもいっぱい遊ぼうね。」

「・・・?おう、わかった。」

 

彼が彼女達を赦すか、

 

彼が一生彼女達を拒絶し続けるか、

 

どっちに転ぶにしろ諦める事だけはしてはいけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に着くまであと少し。そんな所でちょっとトラブルが起きた。

 

「おい、テメー夜桜だろ?テメーにゃ随分ウチの奴等が世話になってんだ。ちょっと面貸せよ。」

 

・・・ここまで堂々とした喧嘩の誘いは最近中々見なかった気がする。

 

なんの事は無い。彼を敵視する不良が出てきただけだ。

現在路地裏のど真ん中。信号に捕まりこのはが「こっち通った方が早いかもしれないな。」と進路変更をした所から始まり、そこを通過中に目の前にガラの悪い如何にも『俺、問題児!』って感じの男が現れ、今に至る。

で、そんな誘いを受けて彼が反応しない筈もなく・・・

 

「ハッ!そりゃ悪かったな。良い感じに盛り上がっていたからな、ついつい一緒に遊んじまった。」

「このは、一般的にそれは蹂躙って言うんだよ。」

「別に良いだろ。有象無象が泣き叫んだって楽しいだけだ。」

「今何か思いっきり私情が入った気がするんだけど気のせい?」

「気のせいだ。」

 

絶対嘘だ。

そんな会話を余裕と受け取ったのか、不良が顔を歪め、威嚇してくる。

 

「テメーナメてんのか?状況分かってねーなら教えてやる。こっちは六人、しかも挟み撃ちだ。逃げられるもんなら逃げてみろよ。」

 

そう、今私達は出入口を封鎖されている。前に三人、後ろに三人。不良の隙間を自転車で抜けるのは難しいだろう。跳ね飛ばすのも無理そうだ。

・・・けど相手も相当馬鹿だな、自分達の人数言ってどうすんの。これで相手はこの六人しかいない事が分かった。ひとまず前の三人はリーダー、不良A、不良Bと名付けよう。後ろは不良C、不良D、不良Eだ。

脇に通路は無い。つまりどっちかを押し通るしか方法は無さそうだ。

すぐさま彼が目の前の三人をねじ伏せようとした時、

 

「ねぇこのは、私が代わりにやってもいい?」

「・・・は?こなたが?」

 

私は彼を呼び止め、そう言っていた。

少し驚いた表情を見せる彼。そりゃそうだろう。私が自分から喧嘩しにいくなんて滅多に無い事を彼は知っているのだから。

だけど今は少し暴れたい気分だった。多分さっき『あの時』の自分を思い出したからだろう。

 

「ん~、別に構わねぇけど、だったら後ろの三人で暇潰しさせてもらうぞ?。」

「いーよ、遊んでて。」

 

お互い自転車から降りて反対の方向に向かう。

それを見た瞬間、リーダーは顔を真っ赤にして怒鳴り出す。

 

「バカにすんのもいい加減にしろ!こんなクソチビ一人で俺らを潰すだと!?ガキにやられる程俺らは落ちぶれてねえ!」

「残念でした~、私はこれでも高校二年生だよ~。不正解者には罰としてジュース一本ね。」

「ふざけんな!」

 

我慢ならなかったのか正面から殴りかかってくる不良A。

 

「遅い。」

 

ヒュッ、ガシッ!

 

「んな!?」

 

冷静に顔を左に傾けて拳を避ける。そのまま腕を掴んで一気に背負い投げをかます。

 

ズダァン!!

 

「ゴハッ!?」

 

地面に叩き付けられ過呼吸を起こす不良A。起き上がる前にとっとと決着つけちゃおう。

リーダーと不良Bは私が予想以上に戦える事に驚いたのか硬直している。

・・・やっぱり馬鹿でしょ、敵の目の前で動きを止めるなんて。

すぐさま不良Bに対して鳩尾に正拳突きを叩き込む。

 

ドンッ!!

 

「ウゴッ!?」

 

体をくの字に曲げて倒れる不良B。思いっきり急所に打ち込んだからしばらくはマトモに動く事が出来ないだろう。

 

「ッ!テメーよくも・・・!」

 

ガシッ!

 

ようやく我に帰ったのか、私の腕を掴み取るリーダー。

うん、殴るんじゃなくて先に動きを止める為に掴んだのは良い判断だ。

 

けど、もっと力込めないと駄目だよ?

 

グルンッ!!ズルッ!

 

「ハァ!?」

 

掴まれた腕を捻り、リーダーの手を外す。あっさりと拘束を外されたからか、リーダーが信じられないとでも言うような顔をする。私を止めるには少し握力が弱かったね。

 

ダンッ!!

 

「グォッ・・・」

 

間髪入れずにリーダーの胸部に掌底を打ち込む。よろめいた所で渾身の回し蹴りを頭に叩き込んだ。

 

ズガンッッ!!!

 

「ガッ!?」

 

少しの間ふらついた後、バタリと倒れるリーダー。脳震盪を起こしたのかそのまま気絶したようだ。う~ん、ちょっと力込め過ぎたかな?

 

とりあえず未だにうめいているAとBは放っといて彼はどうしているか確認をする。

 

「オラオラどうした!!まだまだつまんねぇぞ!!」

「う、うああぁぁあああぁぁぁ!!??」

「な、何なんだよコイツ!?」

「ば・・・馬鹿げている・・・。」

「・・・うん、問題無さそうだね。」

 

・・・不良Eの両足を掴んで思いっきりぶん回していた。不良Cは既にボロボロになって倒れており、不良Dは涙目のまま逃げ続けていた。ていうか人間一人を振り回すって相変わらずの怪力だな・・・。

 

「お~い、このは~。こっちはもう終わったよ~。」

「は?もう?早いなオイ。」

「逆に聞くけどその早い時間の間でどうしたらそうなったの?」

「一人ぶちのめして二人目の頭揺らした後に足掴んで今に至る。」

「実に分かりやすい解説ありがとう。もういいから早く行こう?皆待っているだろうし。」

「それもそうだな。・・・オラァ!!」

「ぎゃああああ!!」

「ちょっ、こっち来ん・・・ガフッ!」

 

あ、Dに向かって投げた。うわぁ痛そう・・・。

Eは完全に目を回している。後で吐くんじゃないの?絶対にさっきの気持ち悪いよね。

そしてこのはは気にせずこっちへ歩いて来る。あれだけ動いて息切れ一つおこしていない。やっぱりこのはって肉体面のスペックおかしいよね?

 

もう此処に残る理由も無いので自転車に乗り、その場を去って行く。途中でこのはがリーダーに蹴りを入れていた。何故に死体に鞭打つような真似を・・・。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

あの雑魚数名で遊び終わった後、ようやく我が家に辿り着いた。しまった、もう八分は経ってる。少しはしゃぎ過ぎた。

皆もうとっくに着いているだろう。ひとまずマンションの下にある駐輪場に自転車を停めて荷物を回収する。すぐそこにあるコンビニに行ったら予想通り全員暇潰しをしていた。

 

「少し時間かかったわね。そんなに距離あったの?」

「いや~、ちょっと信号に捕まってて。」

「そだね~、途中で荷物の中身がバラ撒いちゃったり色々あったのさ。」

「・・・何かもっともらしい理由の筈なのに何処か白々しさが感じられるのは気のせいか?」

「かがみん、きっと疲れているんだよ~。」

 

むぅ・・・柊姉は中々鋭いらしい。

全員集まった所で俺の家に向かう。黒井さんは待っている間に天然水を買って飲んでいたらしく、大分顔色が良くなっていた。それでも若干気持ち悪そうだったけど。

 

ロビーの機械にパパッと暗証番号を入力して中に入る。人数が多い為、階段ではなくエレベーターを使用する。

三階に上がり、一番奥の部屋に向かって鍵を開け、中に入って行く。

 

「てれーまー。」

「「「「「「お邪魔しまーす。」」」」」」

 

さて、忙しくなりそうだ。



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三話目 我が家で大騒動

ちょっと投稿が遅れました。これからはこういう事が多々あると思うのでご了承下さい。
それと後半が少し無理矢理な感じになったと思いますが、その辺りも目を瞑ってもらえると有難いです。

追記:デュエルシーンに間違いがあったので改竄しました。申し訳ありません。


ひとまず電気をつけて皆をリビングに案内する。そして今朝届いたばかりのクーラーを起動させる。

 

「おお~!これが噂の新クーラー!この真新しい感じが妙に気分を盛り上げてくるね~。」

「だろ?こういうのって何故か異様にテンション上がるよな。」

「クーラー一つで随分楽しそうねあんた達・・・。」

 

柊姉が呆れていた。仕方が無いだろ、今日までずっと扇風機一台で過ごしていたんだから。

少し時間が経てばすぐに涼しい風を送り始める。うおっ、扇風機とは全然違う。本当にクーラーだ!

 

「クッ・・・地道に金貯めて本当に良かった・・・!」

「おーい、感動するのは別にいいけどとりあえず部屋に案内してもらっていい?」

「おお、そうだった。悪かったな、こっちに来てくれ。」

 

いかんいかん、幾らクーラー手に入れて嬉しいとは言え客を待たせる訳にはいかない。

皆を部屋に案内する。と言っても俺の部屋ではなく別の部屋だ。

我が家には部屋が三つも存在する。寝室も入れたら四つか。ぶっちゃけそんな多く無くても、一人暮らしだから全くと言っていい程使っていない。寝室に至っては俺の部屋にベッドが置いてあるから掃除の時位にしか入らない。

 

「ひとまずはこの部屋を使ってくれ。狭かったらもう一部屋あるから何人かそっちに移ってくれればいい。」

「うわ~、本当に大きい家に住んでいるんだね。」

「これで一人暮らしって言うんやから贅沢なもんやな~。」

 

柊妹が感想を言った後、黒井さんがそう呟くが、黒井さん、それは違います。

確かにこんな大きいマンションに住ませてもらっていますけど家賃だって相当な額だから俺の給料殆どそっちに消費されるんです。婆さんも出してくれるけどホントにちょっとしか出さないから基本的に俺が払わなくちゃいけないんです。だから俺結構貧乏なんです。昨日までクーラーすら無かったし。

 

「それじゃあ私達大人組はそっちの部屋で過ごそうかな?」

「せやな。流石にこの部屋に六人はキツいやろ。」

「じゃあ付いて来てください。案内するんで。」

 

黒井さんと成実さんを連れて残りの部屋に案内する。使っていないとは言え常に掃除はしているので埃が積もっているという事はない。

 

「おお~!さっき程やないけどこの部屋も中々広いやん!」

「そうですね~、ココなら充分寛げると思います。このは君、中々良いチョイスするじゃん!」

「元々物置部屋なんですけどね。そんなに大量に荷物を持ってる訳じゃないんでそういうのは全部自分の部屋にぶち込んで過ごしています。」

「・・・それって逆に面倒だと思うんだけど。」

「慣れたらそんなに邪魔とは思いませんから。」

 

うん、どうやら満足頂けたようだ。

案内も済んだので一旦さっきの部屋に戻ってこなた達と合流する。

 

「んでどうする?とりあえずは風呂にでも入るか?此処来る前に旅館で一回シャワー浴びたって言っても体はちゃんと洗いたいと思うし。」

「それもそうですね、此処までの道のりで皆さんも少し汗をかいたと思いますし。」

「ならパジャマはどうするの?流石にもう一度この服着る訳にはいかないでしょ。」

「フッフッフ、そんなあなた達にお姉さんからプレゼントだよ~!」

 

そう言って成実さんがバッグから人数分の寝巻きを取り出した。うん?成実さんのバッグってそんなにパンパンでしたっけ?

 

「あれ?ゆい姉さん、それ旅館の寝巻きじゃないの?」

「うん、それがね?旅館の人に話をつけに行ったら一日だけ貸し出ししてもOKって許可貰ったんだ~!車も明日の昼までなら停めても良いって!」

「へぇ~、随分と気前がいいですね。」

「『親戚の子が友人の家で一夜を過ごしたいらしく、私達も一緒に二人の行く末を見届けようと思います。』って言ったら女将さんが笑って『しっかり応援してあげなさいよ!』って言って快く渡してくれたんだ~。」

「いやそれ絶対女将さん違う事想像してますよね!?」

 

柊姉の的確なツッコミが入る。うむ、今のはタイミング、リアクション、共に良いツッコミだった。

ひとまず皆風呂に入るようなので先に風呂を沸かしておこう。風呂場に移動して湯沸かし機をいじる。今日は俺一人ではなく追加で六人もいるのでいつもより多くのお湯を入れるように設定する。

その時、こなた達も今は特に遊ぶ気にはならなかったのか、こっちにやって来た。

 

「お~、何時見てもハイテクな風呂場だね~。」

「え、今の何なの?もしかしてアレだけでお風呂沸かせちゃうの?」

「こういうのってみゆきみたいな人しか所持していないって思っていたわ・・・。」

「私の家のとはまた少し違うみたいですね。」

「なんだ?お前らまだ風呂沸いてないぞ?」

「いやいやこのは、私達は最先端技術を見に来たのだよ。」

「いや別に最先端じゃねぇから。」

「ていうかココまで来たら風呂場が凄く大きくても驚かないわよ・・・。」

「別に期待する程じゃねぇよ。精々大人四人が入れるって位だ。」

「いや充分大きいから。」

 

その後は風呂が沸いてまずはこなた達四人組が、次に引率者二人組が入って最後に俺が入った。普段は見れないこなたの風呂上がりの姿はとても新鮮だった。流石にカメラとかは撮らねぇけど。

 

 

そして現在午後六時半。

いい加減今日の晩飯を作らなきゃ不味い。何しろ七人前だ。俺以外全員女性とは言えそれでも相当な量を作らなければ足りないだろう。

と、早速台所に向かった所・・・

 

「・・・?何でこなたと柊妹がいるんだ?」

「お、来たね。」

「あ、夜桜君。」

 

何故かこなたと柊妹がエプロンを掛けて立っていた。ちなみにどう見てもそのエプロンは俺が使っている奴ではない。

 

「えっとね、こなちゃんだけじゃなくて私達まで泊めてもらうんだから何か出来る事ってないかな~って思っていたんだけど、折角だし晩御飯作るの手伝おうって話になったの。」

「私は単純にこのはと一緒にご飯作ろうって思っただけだけどね。」

「お、マジか。そいつは助かる。・・・ん?じゃあ他の皆は?」

「黒井先生はまだ少し気持ち悪いらしいからご飯出来るまで横になってるって。ゆい姉さんは黒井先生の付き添い、かがみとみゆきさんは後でお皿とかお箸の準備をする予定だよ~。」

「そうか。まぁ流石に五人は入りきらないからな、ココ。」

「まぁみゆきさんはともかくかがみんは料理作れないからね~。」

「・・・あぁ、自然な人員配置になっただけか。」

「ふ、二人共、その辺りで・・・。」

 

柊妹が苦笑している。苦笑しただけで否定しなかった辺りを見ると本当の事らしい。

成る程、話は分かった。が、

 

「・・・エプロンどうした?家にそんなのあったっけ?」

「あ、これはね、成実さんが寝巻きと一緒に借りて来たんだって。」

「成る程、そういう事か。」

「んふふ~、結構似合ってるでしょ?」

 

二人が着ているエプロンは旅館の物というだけあって中々本格的な奴だった。清潔感がある真っ白な布は二人の無邪気さを連想させるようでとても似合ってる。

 

「まぁそもそも素材(着る人)が良いからな。大抵の物は似合うだろ。」

「えっ!?そ、そうかな・・・?」

「嬉しい事言ってくれるね~。けど前も似たような事言われた気がするんだけど。」

「別に嘘は言ってないから問題ねぇだろ。」

 

確か前はこなたの家に行った時に一緒に晩飯作ろうって話になって、その時のエプロン姿のこなたに『こなたなら何着ても可愛い』って言ったんだっけ。

 

「まぁお喋りはこの辺りにしてそろそろ作ろっか。このは、材料何使っていい?」

「食パン以外なら何でも。」

「何故に食パンをNGに指定した。」

「昨日デパートで買うの忘れたから。」

「それ使っちゃ駄目っていうよりもう無いだけじゃないの?」

「そうとも言う。だからシチューとかグラタンとかはオススメしないな。」

「えっと、この時間からそれを作るのは難しいんじゃないかな・・・。」

「大丈夫だ、柊妹。今から近くのコンビニかデパートに行けばなんとかなる。」

「あれ?私達がエプロン着た意味は?」

「冗談だ。」

 

結局豚肉が結構あったので冷しゃぶを作る事にした。ついでに冷奴も追加しておく。流石にお客様が居る時に冷凍モノやインスタントを出すわけにはいかない。

 

三人でパパッと作った後は柊姉と高良の二人を呼んで皿と箸を用意してもらって引率者二人組を呼ぶ。黒井さんはどうやら完全に回復したようだ。

テーブルに料理を運び終わったら全員分の席を用意して食事にとりかかる。

 

「んじゃ、頂きます。」

「「「「「「頂きます。」」」」」」

 

手を合わせた後、食べ始める。

む、調理中でも思ったがやはり柊妹は相当料理が得意らしい。味付けがしっかりしてる。

 

「う~ん、やっぱりこの時期に食べる冷しゃぶは美味しいわね~。」

「そして近日中に体重計に乗って悲鳴をあげるかがみんであった・・・。」

「うっさいわね!」

「成る程、柊姉は食べる専門なのか・・・。」

「『あ~、納得』みたいな顔してしみじみ言うな!」

「どうどう、まぁまずはこの冷しゃぶでも食べて落ち着きたまえ。」

「餌付けみたいな事すんじゃないわよ!」

 

それでもちゃんと食べる辺り結構食い意地はってる気がする。

 

「あ、みゆきちゃん、ちょっとそこの醤油取ってもらっていい?」

「はい、どうぞ。」

「いや~、この冷奴の薬味と鰹節がまたいい感じにマッチしとるな~。」

「夜桜君、そこのポン酢もらっていいかな?」

「ほい、ついでに醤油もいるか?」

「うん、ありがとう。」

 

柊妹に追加で醤油も渡して豚肉をもう一枚食べる。

そうやって雑談をしながら食事を進めていき、こうやって大人数で一緒に食べるのも悪くないなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして晩飯を食べ終わり、食器を片付けた後、俺とこなたは・・・

 

「バトル!私は超魔導剣士-ブラック・パラディンでレッド・デーモンズ・ドラゴンに攻撃!お互いのフィールド、墓地に存在するドラゴン族はフィールドのレッド・デーモンズ一体のみ!よってブラック・パラディンの攻撃力は500ポイントアップし、攻撃力は3400となる!」

「なんのこれしき!リバースカードオープン!永続罠、スクリーン・オブ・レッド発動!このカードが魔法、罠ゾーンに存在する限り、相手モンスターは攻撃宣言出来ない!」

「カウンター罠発動!盗賊の七つ道具!ライフを1000払い、罠カードの発動を無効にして破壊する!攻撃は続行!超魔導無影斬!!」

「だああ畜生!!何でそのロマンデッキでそんなに回るんだよ!」

 

カードゲームでバトルしてた。

 

「やっぱりこういうのは愛が必要なんだよ、このは。信じればデッキは必ず応えてくれる。」

「それにしたって好かれ過ぎだろ・・・。絶対お前の主人公補正がかかっているって・・・。」

「私としては何でこのデッキで皆回らないのかが不思議だよ。」

「いや、それが普通だから。」

「・・・あんた達何やってんの?」

「あ、かがみ。」

 

俺が渋々レモンドラゴンを墓地に置いた所で柊姉がこっちにやって来た。呆れ顔で。

 

「さっきっから大声でよく分かんない事言っているけどよくそんなテンション保てるわね。」

決闘者(デュエリスト)たるもの心・技・体を常に高水準を保つ事は当たり前だ。」

「いやそんなの知らないから。」

「二人共何やってるの~?」

TCG(トレーティングカードゲーム)ですか?面白そうですね。」

 

柊姉に熱く語ろうとしたら柊妹と高良もやって来た。柊妹は何をやっているのかさっぱり分からないらしく、高良はどういったゲームなのかは理解しているようだ。

 

「フフフ、ギャラリーも増えてきた所で決闘(デュエル)再開といこうじゃないか、このは君。私はこれでターンエンドだよ。」

「クッ、俺のターン、ドロー!」

 

引いたカードをチラリと見て目を見開く。これならいける!

 

「ククク・・・こなた、お前のカードの引きは中々良かったが俺もそう捨てたもんじゃないらしい。さっきのターン、お前はドロー系統のカードを引いておくべきだった。そしたら更に高度な戦術も取れただろうに・・・。」

「なぬっ!一体何を引き当てたというんだ、貴様!」

「永続罠、リビングデッドの呼び声を発動!これにより墓地に存在するレッド・デーモンズは再びフィールドに特殊召喚される!」

 

墓地に置いたレモンをフィールドに移動させる。フフフ、これが俺の新たな切り札だ!

 

「罠発動!バスター・モード!レッド・デーモンズ・ドラゴンをリリースしてデッキからレッド・デーモンズ・ドラゴン/バスターを特殊召喚出来る!」

「な、何だってー!?」

「灼熱の鎧を身にまとい、王者ここに降臨!出でよ!レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター!」

 

再びレモンを墓地に送り、デッキからこの前デパートで買った新カードをお披露目する。

 

「・・・何?今の。」

「口上覚えるのは当然だよ~。私も殆どのカードの口上は覚えてるし。」

「その努力をもっと勉強に生かせば成績も上がるだろうに・・・。」

「わぁ~、今のかっこよかったよ~。」

「そのカードのイメージが明確に現れていますね。」

 

三人共其々違った反応を見せた。いやいや柊姉よ、これで難しい漢字とか覚えてる人とか結構いるんだぜ?

 

「だがレッド・デーモンズバスターがフィールドに召喚された事により、ブラック・パラディンの攻撃力はさらに500ポイントアップする・・・そこでだ、魔法発動!フォース!」

「しまった!私の手札は零、ブラック・パラディンの魔法の発動を阻止する効果は使用できない!」

「その通り!ブラック・パラディンの攻撃力を半分にし、その数値分レッド・デーモンズバスターの攻撃力をアップさせる!」

「ブラック・パラディンの攻撃力が1950に下がって、逆にレッド・デーモンズバスターの攻撃力が5450になっただと・・・!?」

「更にレッド・デーモンズバスターは攻撃した時、相手モンスターを全て破壊させる!たとえ融合解除を使って融合素材二体を守備表示で出したってお前のフィールドはがら空きになる!」

「ここにきてそんなカードを引き当てる辺りこのはの主人公補正も中々だね。」

「主人公補正?」

「つかさ、真面目に聞いちゃ駄目よ。」

「神は言っている、ここで死ぬ定めでは無いと!レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスターの攻撃!エクストリーム・クリムゾン・フォース!!」

「ほい、魔法の筒(マジック・シリンダー)。」

「ざけんなチクショオオオォォォ!!!」

 

こなたが発動した罠で俺のライフが一瞬で消滅した。今のは通ったと思ったのに・・・。

 

「むふふ~、展開は良かったけど詰めが甘かったね。」

「クソ、絶対仕掛けているの融合解除だと思ったのに・・・。」

「それだったらさっきの攻撃が入った時点で使っているって。まぁ引いてたのがこのカードだったから勝てたんだけどね。」

 

こなたがしみじみ呟く。やっぱコイツの引きの良さは異常だ。どこぞのオシリスレッドのHERO使い並じゃねぇの?

 

「・・・なんかあそこまでかっこよく登場したのに随分とあっさり決着がついたわね。」

「え、あれ?夜桜君負けちゃったの?」

「ええと、攻撃を跳ね返されたみたいですね。」

 

三人がいきなりの急展開に呆れ、戸惑い、苦笑している。まぁ確かにあそこまで盛り上がったら逆転劇が始まるって思うよな。残念、こなたの方が一枚上手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは、実際にあった話らしいんだけど・・・」

 

夜、こなた達の部屋の電気を消して全員がこなたの話に耳を傾ける。所謂怪談話だ。

 

「ある映像ソフト卸会社の人が仕事を終えて帰ろうとして、いつものように夜遅くバスに乗ったのね・・・。」

 

こなたはこういう演技とかは凄く上手いので、かなり雰囲気があった。目とか完全に死んでいるし。アレどうやってんだろ。

 

「その人の家は路線の終わりの方にあったんだって。で、途中他のお客さんが段々降りていって、ついには乗客はその人一人だけになったんだけど・・・。」

 

柊妹と高良の二人は抱きしめ合ってガタガタ震えている。そりゃ俺でも結構ゾッとするのにあまり気が強くない二人は相当怖いだろう。

逆に気が強そうな柊姉と引率者二人(成実さんは気が強そうと言うよりマイペースなだけだが。)は生唾を飲み込み、こなたの話の続きを聞く。

 

「運転手さんはもう、誰も乗っていないって勘違いしたらしくて・・・なんと・・・」

 

そこで溜めを作るこなた。

・・・オチが見えてきた。運転手はそのまま自殺をする為に崖に向かって・・・

 

「大声で『DANZEN!ふたりはプリ○ュア!』を歌い出したんだよ!!」

「「「「「キャアアアア!!!」」」」」

「いやある意味怖ぇよ!?」

 

違う意味でゾッとしたわ!!絶対にそんな現場に居たくねぇ!!

 

「っていう噂があったんだよ~。」

 

こなたが電気をつけていつもの調子に戻って喋る。

皆『なんだ~』と安心してたけど俺はまだ少し鳥肌が立ってた。サッサとさっきの話を忘れたい。

黒井さんと成実さんはそろそろ寝るというらしく、自分達の部屋に戻るらしい。

 

「いや~、皆いいリアクションしてくれたよ~。」

「こっちは本気でビビったわ。その二人気まずいどころの騒ぎじゃねぇだろ。」

「ちょっとビックリしたわね・・・。」

「こ、怖かったよ~。」

「とても現実味があったので凄く緊張しました。」

 

テロリン♪テロリン♪

 

と、そこで俺の携帯の着信音が響く。丁度怪談が終わったタイミングだったのでこなた以外の全員がビクッと肩を震わせた。

 

「な、なんだ?こんな時間に。なんか臨時報告とかあったっけ?」

「ち、ちょっと夜桜!驚かせないでよ!」

「いやこれは俺のせいじゃ無いような・・・。」

 

柊姉に怒鳴られた。そんな理不尽な・・・。

とりあえずメールの内容を確認する。

 

「・・・これまた珍しい奴から来たな。」

 

メール内容は以下の通りだった。

 

 

『件名:夜分に失礼します。

 

本文:こんばんは。夜遅くにすみません。

少しこのはさんにご相談したい事があったので連絡させて頂きました。

今日、お昼頃に交差点で車にぶつかりそうな子供がいたので助けたのですが、その子に別に助けてくれなくても自分でどうにか出来たと文句を言われました。

私から見たら絶対に交通事故になってたように見えましたが、もしかしたら本当に余計なお世話だったのかもしれないと思うと気になって眠れないんです。

このはさん、私は間違っているのでしょうか?返信してくれると嬉しいです。』

 

 

・・・また唐突な。なんだろう、どこかデジャヴを感じた。

 

「相変わらず固い考え方してんな~。ま、だからメルアド教えたんだけどな。」

 

ククク・・・と笑いながら返信を打っていく。やっぱりコイツは面白い。

 

「ねぇねぇこのは、誰からのメール?お婆さんから?」

「いや、只の知り合いからだ。」

「ほほーう、いつの間に『只の知り合い』を携帯に登録するようになったの?少しお姉さんに話してごらん?」

「あー、確かに只の知り合いってのはちょっと違うか。じゃあ何だろ、後輩か?それもしっくりこないような・・・。」

 

ぶつぶつ呟きながら考える。あ、分かった。弟分ならぬ妹分だ。

じれったくなったのか、こなたが単刀直入に聞いてきた。

 

「で、結局何なの?一言で簡潔に述べたまへ。」

「女。」

「酷いっ!私とは遊びだったのね!」

「違うんだ!俺はそんな軽い気持ちでお前と一緒にいる訳じゃない!」

「嘘よ!きっと貴方にとって私は使い捨ての駒なんでしょう!?」

「嘘じゃない!他の奴等にそういう目を向けても、お前だけは特別だって断言できる!」

「このは・・・。」

「こなた・・・。」

「・・・ねぇ、この茶番いつになったら終わるの?」

「いや、ここは流れ的にこういう話になるかと。」

「そうそう、この後はもう一人の女の人が出てきて『その女はいったい何!?』って言うんだよね。」

「あんた達ね・・・。」

 

何やら柊姉が頭を抱えている。柊姉はもっと柔軟に思考を進めた方が良いと思う。。

 

「で、もう一回聞くけど何だったの?」

「アレだ、正義の味方からだ。」

「具体的に言うと?」

「暫く東京に住んでた時に知り合った女子中学生。」

「東京に住んでた?どして?」

「コミケ。」

「成る程。」

「それだけで理解出来るあんた達っていったい・・・。」

 

柊姉よ、ツッコミが疲れるならもう少しスルースキルを身に付けた方がいいと思うぞ?

 

「ちと高速を予約すんの忘れてな?仕方ないから電車を乗り継いで移動してたらなんともまぁ面白そうなイベントを見かけたもんなんで。」

「・・・あぁ、うん、もう分かった。」

 

こなたの目が急に呆れた目に変わった。見るな・・・!そんな目で俺を見るな!!

仕方ないじゃん!ガラの悪い男達に囲まれて小学生を庇っている中学生!これは乱入(大暴れ)するしかないっていう状況で無視する事なんて俺には出来ない!それと楽しかったです!

 

「けどそれにしたって珍しいね?このはがすぐに帰らずに話をするなんて。」

「あぁ、なんか俺の行動が腑に落ちなかったのかちょっとした口論になってな?そこから色々話している内に中々面白そうな奴だなって思って試しにメルアド教えたら、いっそ交換しようって話になって時々こういったメールのやり取りしている。」

「ふ~ん。今度会ってみたいな。」

「運がよかったら会えるんじゃねぇの?」

 

そんな話をしてもう特にやることも無いのでそのまま寝ようって話になった。

もう十一時だ。いい加減寝ないと明日起きれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、なんでお前が俺の部屋にいんの?」

「どうせだし一緒に寝ようかなと。」

「昼も似たような事言ってなかったかお前?」

 

ネタの使い回しはよくないと思う。

 

「てか引率者がいるのに流石にそれは不味くねぇか?」

「大丈夫だよ、ゆい姉さん言ってたでしょ?『親戚の子が友人の家で一夜を過ごしたいらしく・・・』って。引率者公認だよ。」

「ホントお前ってそういう抜け穴探すの得意だよな。」

「いや~、それほどでも。」

「誉めてねぇから。」

 

ハァ・・・と溜め息を吐いて現状を改めて再確認する。

 

只今十一時十三分。

 

現在位置、俺の部屋。

 

目の前には愛用のベッドに座っているこなたの姿が。

 

・・・何度見直しても状況は変わらない。もう一度溜め息を吐く。

 

「まあまあ、そんなに溜め息をつくと幸運が逃げてっちゃうよ?」

「あー、そうだな。それは勘弁願いたい。」

「じゃあそろそろ寝よっか。明日は昼前には起きなきゃいけないんだし。」

「ハイハイ。全く、随分と慌ただしい一日だったな。」

「そだね。けどこういう一日も悪くないんじゃない?」

「・・・まぁな。」

 

いつの間にか呆れていた筈の顔が笑っていた。

やっぱこなたはすげぇな。一緒にいるとホントに何もかもが楽しく感じる。

そのまま電気を消して俺達は一緒に眠る事にした。

 

 

 

 

・・・余談だが夜中に柊妹と成実さんがトイレに行った帰りにこなたがドッキリを仕掛けたらしい。俺も起こしてくれれば協力したのに・・・。



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四話目 共にいた証

朝、目を覚ます。

 

「・・・眠い・・・あと五分位寝るか・・・?・・・今何時だよ・・・。」

 

時計を確認する為に隣に顔を向ける。

 

 

こなたが熟睡していた。

 

 

首を横に向けながら思考停止する。一瞬で目が覚めた。

 

「・・・・・・・・・」

「くかー・・・、くかー・・・。」

「・・・あぁ、そういや昨日一緒に寝たんだっけ。」

 

一瞬天使が居たのかと思った。ヤバイ、普通に可愛い。お持ち帰りしたい。あ、此処俺ん家だった。

落ち着け、とりあえず現在時刻の確認だ。現在時刻午前七時四十六分。よし、もう暫くこの寝顔を堪能しよう。

 

「・・・しかし無防備だな・・・。もうちょい警戒しろって、一応俺男なんだぞ。」

 

まぁそれだけ信頼されているって証拠でもあるから嬉しいんだけどな。俺だけの特権だと思えば妙な優越感が込み上げてくる。

・・・いや、俺だけじゃ無いな。そうじろうさんもだ。寧ろあっちの方が一緒に寝る事が多いからそうじろうさんの特権とも言える。

 

「・・・信頼、か。」

 

思い返すのは中学一年目、下校の時に不良に喧嘩売られたあの頃。俺にとって運命の分岐点とも言えるあの瞬間。

初めてこなたに出会った時は心底どうでもいいって思った。

ちょっと腕に自信がある小娘が乱入してきたって認識しかしてなくて、二度と話す事は無いって決めつけていた。

けど翌日、凄く楽しそうに話しかけてきたこなたがどうも邪険に扱え切れずかなり戸惑った。

初めは適当に追い払ったが、何度もしつこく付きまとわれたので遂には根負けしてキチンと向き合って話すようになったのを覚えてる。

 

「最初は一般人Aだったのに気がついたら大親友だもんな。本当に人生何が起こるか分かんねぇな。」

 

結局その後もこなたが起きるまでずっと寝顔を見続けて気がついたら八時半になってた。不味い、朝飯作らねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビックリしたよ~、起きたらこのはがガン見してたんだもん。」

「悪い悪い、こなたの寝顔なんて中々見れないからな。貴重なシーンを頭に刻み込むようにしてたらいつの間にかこんな時間に。」

「ん~、確かに今日帰るからね。また会うまで暫くかかるかもしんない。」

「寂しくなるな~。今の内に写真でも撮っておくか?」

「まぁ何にしろまずは朝御飯作ろっか。」

 

雑談をしながらキッチンに向かう。着替えはちゃんと部屋を出る前に済ました。

 

「今日はとりあえずシンプルにベーコンエッグでも作るか?」

「でも食パン無いんじゃなかったの?」

「そうなんだよな、代わりに白米でも出しておこうかって考えてるんだけどどう思う?」

「他の料理考えるの面倒だしそれでいいんじゃない?」

「じゃあそうするか。」

 

エプロンを着て準備をする。こなたはサラダを作り、俺はベーコンエッグを作る。

と言ってもやる事は単純だ。フライパンに油を少し入れて熱した後、薄切りのベーコンと卵を入れたら塩胡椒を振って水を少量加えて蓋をし、弱火にして三十秒程放置すれば完成だ。

まず最初に四人前を作り、その後三人前を作る予定だ。流石に一気に七人前を作れる程うちのフライパンは大きくない。

ひとまず出来上がったベーコンエッグを一つずつ皿に移して次のベーコンエッグを作る。ベーコンエッグを乗せた皿にこなたが千切ったレタスと千切りにしたキャベツ、プチトマトを乗せてテーブルに運んでいく。

第二弾のベーコンエッグも完成し、それらを皿に移してテーブルに運んだら茶碗に米をついでいく。

 

「残りは俺がやるからこなたは皆を起こしに来てくれ。」

「りょーかーい。じゃあ後は頼んだよ。」

 

そう言ってキッチンから出ていくこなた。俺もサッサと準備を終わらせなければ。

テーブルに皿と茶碗、全員分の箸を用意して醤油とドレッシングを置けばミッションコンプリート。

ついでに冷蔵庫から麦茶を出しておく。コップに氷と一緒についで一息つかせた所でこなたが戻ってきた。

 

「このは~、皆起きたよ~。」

「おはよう。いい朝ね。」

「おはよ~。ふぁ~・・・まだ眠い・・・。」

「おはようございます。夜桜さん。」

「よく眠れたか~?ちなみにウチはぐっすり眠れたわ!」

「おっはよ~!今日も張り切っていこうか~!」

 

丁度皆が起きたようだ。黒井さんももう体調は悪くないようなので今日こそ帰れるだろう。

 

「おはよう。もう朝飯の準備は出来ているから座ってくれ。」

「へぇ~、美味しそうね。」

「私とこのはの合作だよ~。存分に味わいたまへ。」

「はい。しっかり味わいますね。」

「けどやっぱり食パンがあったら良かったね~。」

「まぁ合わない事はないからええんちゃう?」

「あ、このは君、お茶貰ってもいいかな?」

「どうぞ。コップはそっちに置いてあるから勝手に取って下さい。」

 

全員を席に案内し、手を合わせて「いただきます」と言った後に朝飯を食う。

 

「にしてもあんたって随分ハイスペックなのね。つかさ程じゃあないけどかなり料理出来るみたいだし。」

「むふふ~、少なくともかがみんよりかは出来ると思うよ。」

「余計なお世話よ!」

「一応一人暮らしをしている身だからな。それ位出来なきゃそもそも節約すら出来ねぇよ。このマンションの家賃どんだけかかると思ってんだ。」

「そ、そんなに此処の家賃って高いの?」

「おう。全く、婆さんももう少し金出してくれればいいのに・・・。」

「けどお婆さんが少ししかお金を出さないのは事実だけどそれってこのはが色んな漫画とかゲームを大人買いをするからじゃなかったっけ?」

「仕方ないだろ、こなたが教えてくれるヤツって全部面白いんだから。後それらプラス小説な。」

「・・・それって自業自得ちゃうんか?」

「き、きっとお婆さんは夜桜さんの事を思ってそういった行動をとられているんですよ。」

「みゆきちゃん、それ多分フォローになってないと思うよ。」

「けどまぁ一応夜桜も学生の身分なんやから遊んでばっかいんと、ちゃんと勉強もせなあかんで~。」

「あ~センセ、このはの成績は学校全体で上から数えた方が早い順位にいますよ。少なくとも十五位以内にはいると思います。」

「えっ!?こいつそんなに頭良かったの!?」

「柊姉よ、お前が俺を一体どんな風に見てたのかをちょっと小一時間程問い詰めたい。」

「いや、だって『総隊長』よ?」

「しばくぞコラ。」

「そういえば警戒隊って今どれくらい人数がいるんだろ?」

「何だ?お前その辺聞いてなかったのか?」

「うん。少なくとも三番隊まではいて隊長、副隊長が存在するって位しか聞いてない。一つの隊に何人いるのかすら分かんない。」

「・・・これで某死神漫画と同じ十二番隊までいたら流石に俺でも引くわ・・・。」

「・・・それは無いって言い切れない辺りがなんともね~・・・。」

「あんた達ってホントに中学の頃何してたのよ・・・。」

「「純粋に青春を謳歌していた。」」

「嘘つけ!!」

 

そんな事を喋りながら時間が過ぎていき、あっという間に朝飯を済ませた俺達は各自食器を洗った後、荷物を纏める為に部屋に戻っていった。俺は見送りに行く為に色々用意するつもりだ。

 

「ん~、どうせなんだし何かお土産みたいなのでも渡しておくか。」

 

となると何がいいだろうか?一応この前デパートで色々買ったので『それっぽい』って物はある。

だがそんな適当なヤツを渡すのもどうだろう?渡すならちゃんとした物の方がいいような気がする。だけどちゃんとした物ってどんなのがいいだろうか。

 

「悩むな・・・。こういう菓子類を渡すのもどうかと思うし、かといってキチンと包容されている物なんて無いし・・・。」

「お~い、このは~。」

「んあ?こなたか?どうしたんだ一体?」

「いや、そろそろ帰るから旅館まで一緒に行こうよ。」

 

途中でこなたがやって来た。どうやら皆もう準備が出来たみたいだ。

 

「あ~、もうそんな時間か。わかった、すぐ行く。」

「うん?どしたの?」

「いやな?折角だから何かお土産でも渡そうかって思っていたんだけどな、何を渡すかが全然決まらなくてどうしようかと悩んでいた所だ。」

「別にいいよ~、そんなの無くたって充分お世話になったんだから。」

「う~ん・・・けどな・・・。」

「あっ!ねぇ、それならちょっといいこと思い付いたんだけどいいかな?」

「ん?何だ?」

「あのね・・・」

 

こなたからの提案を聞いていく。ふむ、それなら確かに悪くない。

 

「いいんじゃないか?別に俺は構わないぞ。」

「おけおけ、それじゃあ向こうに着いたら作戦実行という事で!」

「別に作戦っていうほどじゃねぇだろ。」

「いいんだよ、こういうのは気分の問題なんだから。」

「まぁそれもそうか。」

「じゃあ私先に出とくね~。」

「おう。」

 

そうとなれば持って行く道具も決まりだ。『それ』をサッサとバッグに詰め込んで部屋を出る。

 

「あら、夜桜さん。」

 

と、そこで高良とばったり出会う。

 

「ん?高良、お前まだ出てなかったのか?」

「ええ、少し荷物を纏める為に部屋に入ろうとしたらドアの所で転んでしまいまして・・・。」

「・・・で、何処かぶつけて痛みが引くまで待ってたって感じか。」

「はい。もう皆さんは先に行ってしまわれたのでしょうか?」

「多分な。丁度さっきこなたが出た所だ。」

「そうですか、それなら私が最後みたいですね。」

「だな。時間にルーズなあいつが出たなら他の奴等は全員出ているだろうし。」

 

そう言いながら玄関に向かう。確か中学の時に一緒に映画でも見に行こうって話があって待ち合わせ場所に来たはいいが、いつまで経ってもこなたが来ずに待ちぼうけする事になったのを覚えている。

結局こなたが来たのは約束の時間の三十分も後の事だった。理由を聞くと読んでた漫画が面白く、気が付いたらこんな時間になってたとのことだ。

いや、それなら持って来ればよかったのにって思ったけど口には出さず、心の中に留めるようにした。言っても論破される気がしたからだ。

 

「けどまぁこなたから聞いた通りお前って結構天然なんだな。」

「そ、そうですか?自分ではあまり意識した事は無いのですが・・・。」

「いや、それは直さない方がいい。その方が絶対需要あるから。」

「フフッ、泉さんと同じ事をおっしゃるのですね。」

「そりゃあな。一部の人達にとってお前は『現実にいて欲しい女性』の象徴みたいなもんだろうし。」

「そ、そう言われると照れますね・・・。」

 

高良が顔を赤らめる。うん、大抵の男達はこれでもう落ちるだろうなって確信が持てる。

つーか何でこいつ今の今までフリーなんだ?告白された事とか無いって説得力が無さ過ぎる。

 

「ホント謎だよな~。お前位の女なら惚れる男なんて大量にいるだろうに。ナンパされた事とかねぇの?」

「えっと、実は昨日海で遊んでいたら男性二人に誘われました。」

「ん?そうなのか?こなたはそんな事全然言って無かったけど。」

 

あいつがそういうネタを会話に出さないなんて珍しい。俺に心配かけまいとでも思ったんだろうか?それにしては何か違和感があるけど・・・。

 

「・・・あっ!」

 

高良が何やら「しまった!」とでも言いたげな声を上げた。

・・・オイ、何だその反応は。まるで『俺に知られてはならない』って事を今思い出したような顔は。

 

「・・・高良クン、ちょっと今の話を詳しく聞きたいんだけどいいかな?」

「い、いえ!別にそんなに面白いお話でもありませんし!」

「まぁまぁ、そんな事を言わずにお兄さんに教えてごらん?別にお前に被害がくる訳じゃないんだし。」

「今『被害』って言いませんでした!?」

「気にするな。で?何があったか吐け。」

「あうう・・・じ、実は・・・」

 

半目になって声のトーンを若干下げ、脅し紛いに聞いたら高良は涙目になりながら正直に話してくれた。

内容を聞き終え、警戒隊に対するお仕置きのレベルが更に上がった。こいつが天然で助かった。じゃなきゃ全く気付かずに日々を過ごす事になる所だった。

 

「いやぁ~、ありがとな高良!お前のお陰で明日からどう過ごすかが決まったよ!」

「うう・・・すみません、道背さん、鳴跳さん・・・。」

 

玄関に辿り着き、靴を履いて外に出る。う~ん、明日が楽しみだ!

マンションから出ると皆が待っていた。

 

「あ、このは。準備は出来たの?」

「ああ、バッチリだ。」

「・・・?何か良い事でもあったの?凄くいい顔してるけど。」

「ええと・・・泉さん、実は・・・」

 

高良がこなたに事情説明をしている間に人数を確認しておく。よし、全員いるな。

 

「・・・という事でして・・・。」

「あ~、みゆきさんのドジっ子属性が仇になったか~。」

「本当に申し訳ありません・・・。」

「別にいいよ。私達に被害が来る訳じゃないんだし。」

「い、泉さんも夜桜さんと同じ事をおっしゃるのですね・・・。」

「ん?そなの?」

「はい。・・・フフッ、お互いを理解し合っているようで微笑ましいです。」

「・・・そっか。」

「・・・?泉さん?」

「お~いお前ら、もう行くぞ~?」

「あ、うん。今行く。」

 

旅館に出発する為にこなた達を呼んでおく。すぐに二人共やって来た。

 

「こなた、あんな面白そうな事隠したりすんなよ。あのまま警戒隊(あいつら)に厳重注意で済ます所だったじゃねぇか。」

「このはの厳重注意って絶対に過激なシーンが入るから大して変わらない気がするんだけど。」

「馬鹿言え。ちゃんと手加減してるっての。」

「いや、手加減してたら問題無いって意味じゃ無いからね?」

「善処しまーす。」

「是非そうしてくれると有難いね。」

「・・・?何かお前さっきより機嫌良くないか?」

「そう?ならそうかもね~。」

「何だ?何か良い事でもあったか?」

「むふふ、内緒だよ~。」

 

むぅ、さっきの高良との会話で何かあったらしい。出来れば聞いておきたいがこなたが内緒だと言うのなら無理に聞く訳にもいかないだろう。

その後は皆と雑談をしながら歩いて行った。向こうに着いたら『アレ』を使うし、天気が曇らない内に着いておきたい。出来るだけ早く着く為に先頭を歩いて皆を案内していく。

 

 

「・・・理解し合っている、か~。」

 

後ろでこなたが嬉しそうに何か呟いたが内容を聞き取る事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして五分後、旅館に着いた。う~ん、次から特に荷物が多くない時はこっちから来ようかな?

 

「それじゃあそろそろ帰るとしますかね?皆~、忘れ物は無い~?」

「まぁ全員そんなに荷物は多ないし、大丈夫なんちゃう?」

「いやいやゆい姉さんに黒井センセ、帰る前にちょっとやっておきたい事が。」

「何よ?あんた今度は何する気?」

「違うよかがみ、実際にやるのはこのはだよ~。」

「こなた、別によからぬ事を始める訳じゃねぇんだからからそんな誤解されるような物言いすんなよ。」

「何々~?何の話?」

「そういえば夜桜さん、家から出るのが随分遅れていましたがそれと何か関係が?」

「お、鋭いね、みゆきさん。」

 

こなたがニヤリと笑う。ていうかこいつ、皆に伝えて無かったのか?全員完全に戸惑ってるだろ。

 

「フッフッフ、旅行と言えば記念撮影でしょ~!」

「まぁ要するに俺達全員で思い出の写真を撮ろっかって話だ。」

 

そう言ってバッグに詰め込んだ『アレ』・・・カメラを取り出す。うん、どこも異常は無い。キチンと動く。

こなたに持ちかけられた提案とはズバリこの事だったのだ。お土産をどうするか悩んでいた時、朝飯を作る前の会話を思い出したらしい。

 

「おお~!悪くないんじゃない?」

「ええやん!折角の海や、波を背景に一枚撮るのも悪うないやろ!」

「へぇ~、あんたにしては結構良い事思い付くじゃない。」

「うん、折角なんだから撮ろうよ!どうせなら最後まで楽しくしたいし。」

「ええ。とても良い提案だと思います。」

 

皆もこの提案は賛成のようだ。

 

「じゃあ早速撮るか。えーっと、タイマーを設定して・・・。」

「あ、それなら此処の女将さんに頼もうよ。多分協力してくれると思うし。」

「あー、確かにそうだな。なら頼むだけ頼んでみるか。」

「それじゃあ待っててね、今呼んでくる。」

 

成実さんが旅館の中に入って行く。ならその間にどの辺りを背景にするかを決めておこう。

皆と話し合い、撮る場所、其々の位置を決めた時には成実さんが出てきた。後ろに女将さんらしき人もいる。

 

「やっほ~!OK貰ったよ~!」

「よし、これで準備完了だな。」

 

どうやら無事に許可を貰えたようだ。成実さんに位置を教えた後、女将さんにカメラを持たせて構えてもらう。

其々の位置は黒井さんと成実さんが後ろで立って、俺達高校生組がしゃがんで並ぶ。カメラから見て左から高良、柊妹、柊姉、こなた、俺という順番だ。

 

「準備はいいかい?それじゃあ、ハイ、チーズ!」

 

女将さんが号令をかけてシャッターを切る。

 

パシャッ!

 

フラッシュが光り、一瞬目が眩む。その後も何枚か撮り、上手く撮れなかった写真は削除してもらい、カメラを返して貰った。引率者二人はそのまま車を取り出しに行くと言い、駐車場に向かって行った。

 

「お、中々良い感じに撮れてるじゃねぇか。」

「うんうん♪じゃあこのは、帰ったら印刷ヨロシク。」

「おう、任せとけ。」

「それにしても随分濃い三日だったわね~。」

「お疲れさん。柊姉も帰ったらゆっくり休めよ?」

 

そう言うと不意に柊姉が俺を見て話しかけてきた。

 

「・・・ねぇ、ちょっといい?」

「ん?何だ?」

「仮にも一泊させてもらった仲なんだしそんな他人行儀な呼び方じゃなくて名前で呼び合う事にしない?こなたと一緒にいるんだからこれからあんたとも関わるだろうし。」

「あ、そうしようよ~。そっちの方が堅苦しくないし。」

「私は基本的に苗字で呼ぶ癖がついてるのでこれからも変わらないと思いますが、良い提案だと思います。」

「・・・!」

 

柊姉達からの提案に俺は目を見開いた。

俺にとって名前呼びとは一つの境界線だ。本当に信用出来る人間にのみそうする事を認める。

つまり、『他人』から『友達』へ変わる時に初めてそれを許可する。

今の所それを許可しているのはこなたともう一人の少女だけだ。

正直柊姉妹と高良はまだたったの一日半しか行動を共にしていない。普通ならまだ見極めの段階でその境界線に入れるかどうかは迷っている最中だ。

 

しかし、

 

この三人はこなたの友達だ。それなら話は簡単。

 

「・・・こなた。」

 

こなたの方を見る。こなたは優しく微笑んで俺を見つめ返す。

そして、

 

「大丈夫だよ。皆凄くいい人だから。」

 

ゆっくりと、言い聞かせるように答えた。

 

「・・・そっか。」

 

そっと呟く。こなたが言うなら間違い無い。こいつらは『大丈夫』だ。・・・きっと。

ならば答えは一つだ。改めて三人に向き合い、ニヤリと笑って答える。

 

「それじゃあこれから宜しくな。かがみ、つかさ、みゆき。」

「ええ、これから宜しくね。このは。」

「これから宜しく~。このは君。」

「宜しくお願いします。夜桜さん。」

 

皆で同じ事を繰り返し答えるもんだからまたククッと笑ってしまう。皆も笑っていた。

うん、こいつらとなら仲良くなれそうだ。

 

「お~い、四人共~!もう帰るよ~!」

「はよせぇよ~!それと夜桜はおおきにな~!」

「あっ!もう出る準備できたんだ。それじゃこのは、写真忘れないでね!」

「当たり前だ。解像度最高にして送ってやるから覚悟しとけ。」

「それは楽しみね。もし少しでも荒い所があったらクレームつけてやるわ。」

「それじゃあこのは君、また会おうね~!」

「この二日間はありがとうございました。また会う日を楽しみにしています。」

 

そう言って四人は車に向かって走って行く。俺も帰ったらカメラの写真をプリントせねば。

皆が車に乗ったのを確認し、そのまま家に向けて足を運ぼうとした時、

 

「・・・このは!」

 

後ろからこなたが呼び止めてきた。こっちに走ってくる足音が聞こえる。何か忘れ物でもしたのだろうか?

振り向いて「どうした?」と言おうとした瞬間、

 

 

こなたが抱きついてきた。

 

 

驚いて少しよろめいた。すぐにふらついた体を立て直す。

 

「このは、大丈夫だからね。皆、このはの味方なんだから辛い事があっても私達がついてるからね。」

「・・・ああ、分かってる。」

 

・・・どうやら彼女はまだ若干残っていた『疑惑』の感情を見抜いたらしかった。本当に、敵わない。

ゆっくりとこなたを引き剥がし、今度こそ迷いなく答える。

 

「もう大丈夫だ。ありがとうな、こなた。」

「・・・ううん、こっちこそごめんね。余計なお節介だったかも。」

「いや、今ので完璧に信用できた。・・・お前がいてくれて良かった。」

「そっか・・・安心してね。もうこのはは昔と同じじゃないんだから。」

「・・・だな。」

 

苦笑して呟く。もうそろそろ帰らないといけないと思い、こなたに戻るように促す。

 

「ほら、あいつらが待ってるぞ。早く行ってやれ。」

「うん、じゃあまたね!」

「ああ、また会おう。」

 

こなたが車に戻って行く。途中で振り返り、手を振ってくる。

俺も手を振り返したら満足気に頷き、車に入っていった。二台の車はすぐに発進して高速道路に向かって走っていった。

車が見えなくなるまで見送ったら今度こそ家に向かう。

 

「さて、とりあえず帰ったらプリンターを起動させなきゃな。」

 

のんびり歩きながらこの二日間の事を振り返る。

まさか友人が一気に三人も増えるとは思わなかった。正直これ以上そういう奴等ができるなんて欠片も期待していなかったので今でも信じられないという気持ちが残っている。

けど、こなたがああ言ったからには問題は無いだろう。話した限りでもかがみもつかさもみゆきも皆面白い奴等だ。

ふと、あと一人の少女の事を思い出す。

昨日急なメールを送ってきたあの妹分。

 

「・・・作業が終わったら久しぶりに電話で話でもしてみるか。今何やってんのかな~、みなみの奴。」

 

 

夏休みだってのにこれからやる事は大量にある。けれども俺に不満なんて全く無かった。忙しいだろうけど面倒だとは感じなかった。

ケラケラ笑いながら帰路につく俺は他人から見たらさぞかし不気味だっただろう。

 

 

 

 

 

ちなみに翌日に警戒隊を探したはいいが主犯の道背と鳴跳は危険を察知し、埼玉に帰郷したようだった。チッ、勘のいい奴め。




という事でこれで海水浴編は終了です。次回はちょくちょく伏線として出していたみなみとの絡みを出そうと思います。


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五話目 正義の味方と戦闘狂

投稿が遅れました。申し訳ありません。


こなた達が帰って四日が経った。

あれからこの夏休み中での方針も決まり、警戒隊を探してしばく日々を繰り返しているある日の事。

 

「・・・は?じゃあみゆきってお前の幼馴染みだったのか?」

『・・・はい、みゆきさんの家は私の家の向かい側にありますから。・・・このはさんにも時々話しましたよ?』

「あ~、だからあいつの名前聞き覚えがあったのか。」

 

現在午前十一時二十三分。俺は妹分(俺が勝手に決めた)である岩崎みなみと電話で話していた。

あの日、帰った後に写真をプリントしたのはよかったが、こなたに送った後にかがみ、みゆきに俺のメルアドを教える事になったのだ。つかさはいいのかと聞いた所、まだ携帯を持っていないとの事らしい。

お互いのメルアドを登録してしばらく話し終わった時には既に夕方。みなみを無駄話に付き合わせるような時間でも無かったので後回しにしていたらすっかり忘れてしまった。

 

「そういやお前この前超唐突なメール送ってきたけど結局あの後どうなったんだ?」

『・・・?・・・ですからその子に文句を言われて終わったと・・・』

「違う違う、お前がだよ。ちゃんと眠れたのか?」

『・・・!・・・わ、私はそんなに子供ではありません・・・!』

「そうか?気になって眠れないんじゃなかったのか?」

『・・・あ、あれは気の迷いといいますか・・・打ち間違いです・・・!』

「そうかい、じゃあそうしときましょうかね。」

『・・・こ、このはさん、からかわないでください・・・。』

 

みなみが困ったように答える。やめろよ、もっといじりたくなるだろうが。

 

『・・・そ、それよりこのはさんに聞きたい事があるんですけど・・・。』

「なんだ?喧嘩のイロハならみっちり叩き込んでやるぞ?」

『・・・違います、そうじゃなくてこのはさんが言っていた警戒隊っていう隊の事で・・・。』

「あぁ、あいつらの事か。」

 

そういやみなみには昔何回か話したんだっけ?けどなんで今更その話題が出てくる?

 

『・・・その人達って今も幾つかのグループに分かれて何処かにいるんですか?』

「・・・?なんでそんな事知ってんだ?」

『・・・実はこの前駅で十二人位の人達が集まっていたんですけどその内の一人がそんな事を・・・。』

「・・・あいつら本当に十二番隊までいたんかい。」

『・・・い、いえ、まだ全員が隊長って決まったわけではないので決めつけるには早いかと・・・。』

「で?その後どうなった?」

『・・・「総隊長に感付かれたのでほとぼりが冷めるまで三番隊と四番隊の人員を最低限に減らす」と言ってました。』

「・・・三番隊以外にもまだ神奈川(ココ)にメンバーが配置されてたのかよ・・・。」

『・・・えっと、このはさん、大丈夫ですか?』

「大丈夫だ、問題無い。有力な情報の提供に感謝する。」

『・・・いえ、たまたま見かけただけですし・・・。』

「それでもだ。これでしばらく大人しくすればまた馬鹿共がやって来るって事が分かったからな。」

『・・・また喧嘩ですか?』

 

電話口から心配そうな声が聞こえてくる。相変わらず心配性だなコイツは。

 

「なんだよ、まさか俺があんな奴等に遅れをとるとでも思ってんのかお前?」

『・・・いえ、警戒隊の人達も不憫だなと。・・・一応味方の筈なのに。』

 

そっちの心配かい。

 

「余計な行動さえしなけりゃ俺だって手は出さねぇよ。」

『・・・敵対勢力の排除ってどう考えても友好的な行動だと思うんですけど・・・。』

「俺にとっちゃ不粋な真似だ。命令した時だけ実行してくれればいい。」

『・・・それならそう命令すればいいのでは?・・・このはさんがリーダーなんですから。』

「メンドイ。とりあえずもうしばらくは罰として狩らせてもらう。その方が面白いし。」

『・・・相変わらず喧嘩が好きなんですね。』

「一番好きなのは屑を叩き潰す事だ。」

『・・・そんな事を誇らしげに言わなくてもいいです。』

 

ハァ・・・と溜め息が聞こえる。なんだよ、聞いてきたのはそっちだろ。

 

『・・・大体どうしてそんなに喧嘩をする事が多いんですか?・・・普通不良ってそんなに遭遇する事なんて無いでしょう?』

「これでも昔よりかは減っているぞ?今はその原因を叩いている所だ。」

 

まあある程度楽しんだらその内ちゃんと連絡するつもりだけどな。それまでは俺の暇潰しとなってもらおう。

 

『・・・もう少し自分の体を大事にしてください。』

「ククッ、まさかお前にそんな事を言われるなんてな。その言葉そのまま返すぜ、もう少し自分の体を大事にしろ。」

 

一瞬の空白。それだけでみなみがビクリと肩を震わせたのが手に取るように分かる。

 

『・・・なんですか、いきなり。』

「しらばっくれんな。この前のメールの餓鬼、どうやって助けた。」

『・・・。』

「お前の事だ。大方自分も飛び出して車がぶつかる前に連れ出したって所だろ。」

『・・・はい。』

「その場面で躊躇しないのはお前の美点でもあるけどな?同時に欠点でもある。正義感溢れるのは結構だがそれでお前が倒れたら悲しむ人がいんのを忘れんなよ?」

 

しばらくの静寂。不意にみなみが『質問』をしてきた。

 

『・・・肝に命じておきます。・・・でもこのはさんこそ無茶はしないでくださいね?』

 

ーこのはさんならそんな時はどうしますか?

 

「そん時は遠慮なくこなたかお前にSOSを出すから問題無い。」

 

ー信用できる奴等に助けてもらう。

 

『・・・多分すぐには助けれませんよ?』

 

ーどんな時だろうと助けが来るのは時間がかかりますし、必ず助けてくれるとは限りませんよ?

 

・・・随分間抜けな事を聞いてくるなコイツ。それならどうするかなんて分かりきっているだろうに。

 

「なら助けてくれるまで持ちこたえればいいだけだろ?」

 

ーやらないよりかはマシだし、友人を信じないでどうする。

 

『・・・それもそうですね。』

 

みなみがクスリと笑ったのが分かった。まあこれで何かが起こっても自分一人でなんとかしようとは考えない筈だ。困った時は助けてもらうのが一番だし。

 

『・・・すみません、そろそろお昼ご飯の時間なので切りますね。』

「おう、朝から急に悪かったな。」

『・・・いえ、久しぶりにこのはさんと話せて面白かったです。』

「そいつは良かった。お前も暇だったらたまには連絡してくれてもいいぞ?」

『・・・では次からは出来るだけそうしてみます。』

「・・・つっても夏休み終わったら流石に真っ昼間には無理かもしれねぇけどな。」

『・・・フフッ、じゃあその間に沢山お話でもしますか?』

「お好きにどうぞ。俺基本的に暇だからいつでも歓迎だぜ?」

『・・・一応バイトもあるんですからそっちをサボったりしてはいけませんよ?』

「当然だ。俺はまだ此処(マンション)から追い出されたくねぇよ。」

『・・・そうですか、それはよかったです。』

「それじゃ、またな。」

『・・・はい、また今度。』

 

通話を切り、俺もそろそろ昼飯を作るかと思いキッチンへ向かった。今日は何を食おうかね?

 

「・・・久しぶりに少し高級な食事にでもするか。」

 

あのブルジョワと話してたら無性に高そうな奴が食いたくなってきた。今日位は贅沢するか。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

受話器を置いて「ふぅ・・・」と息を吐く。

あの人と話したのは本当に久しぶりだったから少し緊張してしまった。いきなり「暇か?暇なら駄弁ろうぜ。」なんて言ってきた時には一瞬夢でも見ているのかと思い、頬をつねりかけた。

 

「みなみ~、ご飯よ~?」

「・・・うん、今行く。」

 

お母さんに呼ばれ、リビングに足を向ける。リビングに入ったらチェリーが入り口のすぐ側で寝そべっていた。

 

「・・・チェリー、ご飯の時間だから起きて。」

「・・・。」

「・・・チェリー、起きて。」

「・・・ワウ。」

「・・・。」

 

一回鳴いただけでその場から微動だにしないチェリー。

・・・なんでいつも私の言うことを聞かないんだろう。他の人の話ならちゃんと聞くのに・・・。

無視されて沈んだ気分のまま席につく。既にテーブルにはお昼ご飯が並んでいた。

 

「相変わらずチェリーはみなみの言うことを聞かないわね~。」

「・・・何がいけないんだろう・・・私、嫌われてるのかな・・・。」

「それはないと思うわよ?嫌われてるなら近づいただけで威嚇するんだから。」

 

お母さんが苦笑した後、二人で「頂きます」と合掌してご飯を食べ始める。

 

「随分長い電話だったわね?お友達からかしら?」

「・・・ううん、少し知り合いの人から話があったから。」

 

今日のお昼ご飯はミートスパゲティー、サラダ、コンソメスープのようだ。まずはスープを手に取り一口飲んでいく。

 

「あら、もしかして愛しの夜桜君かしら?」

「・・・ッ!?ゴホッ、ゴホッ!!」

 

突然の発言に驚き、むせてしまう。『いきなり何!?』と言おうとするけどまともに呼吸が出来ず、しばらく喋る事が出来なかった。

ようやく落ち着いた時にはスープが殆ど冷めていた。ひとまずティッシュを取り出して口元を拭いていく。

 

「・・・お、お母さん、愛しのって何?」

「あら?違ったかしら?」

「・・・ち、違う。別にこのはさんとはそういう仲じゃない。」

「そうなの?この前家に来た時はあんなに嬉しそうだったのに。」

「・・・た、確かにそうだけどそれはこのはさんに日頃のお礼が出来たからで・・・あの人そういうのって中々受け取らないから・・・。」

 

お母さんが微笑ましげに私を見ながら問いを投げてくる。戸惑いながらもなんとか返答していく私。

聞いてきたのがお母さんで良かった。これがゆかりさんから聞かれたのならそこから絶対にいじられるのが容易に想像出来る。

 

「・・・それにそもそもこのはさんはもう好きな人がいるみたいだから。」

「そういえば家に来た時もお友達の女の子の事をとても誉めていたわね。」

 

そう。あの人と話せばかなりの確率でその『お友達の女の子』の話が出てくるのだ。話を聞けば聞くほどあの人は本当にその『女の子』が好きなんだなという事が分かる。

 

「・・・大体このはさんを尊敬しているのは確かだけどそういう目で見た事は無いよ。」

「そうなの?意外とお似合いだと思うのに。」

「・・・お、お母さん、からかわないで。」

 

改めてスープを飲むようにして器で顔を隠す。多分今、私の顔はかなり赤くなっているだろう。

 

そうやって雑談しながら昼食を食べ終え、食器を片付けた後に部屋に戻る。

ふと、机を見たらある一枚の写真が飾ってあるのが目に入った。

それには慌てている私と私の肩に腕を乗せて不敵に笑っているあの人の姿が写っていた。

 

(・・・そういえばこのはさんと出会ってもう一年も経つのか。)

 

写真を手に取り心の中で呟く。初めてあの人に出会った時はひたすら混乱したのを覚えてる。なにせ突然やって来て不良達を薙ぎ倒したのだからどうやって対応すればいいのか分からなかったのだ。

そのまま帰ろうとしたあの人を慌てて引き留めたは良かったが、咄嗟に出てきた台詞があの人の行動にかなり否定的な言い方になってしまい、更に慌てた。

けどあの人は特に不快感を感じなかったのか、逆に私の話を正面から聞いてきた。

 

(・・・今思えばあの時に否定的に話しかけたからあれからもこのはさんと関われたんだろうな。)

 

何回か話して分かった事だけど、あの人はどんな事にしろ兎に角面白さを求めている。

言ってしまえばあの時、お礼を言ったり怖がったり等、そういう『当たり前の行動』をしたら途端に興味を無くしたりするのだ。

改めて考えると中々面倒な性格をしている。そんな性格をしているからか、あの人には一般人の友人どころか知人すらいない。あの人の知り合いは皆何処か個性的な部分があるのだ。

 

(・・・私もそう思われているのがちょっと複雑だけど。)

 

確かにいつも無表情だけどそう言われたら少し落ち込んでしまう。今度表情を変える練習でもした方がいいのだろうか。

 

(・・・けど多分、どちらかというとあの人は私の性格の方に興味を持ったんだろうな。)

 

ふと、あの日あの人に言われた台詞が頭に思い浮かぶ。

 

 

『お前面白いな。まさに正義の味方って称号がピッタリだ。』

 

 

(・・・正義の味方、か。)

 

正直に言うと大袈裟としか思えない。別に私なんかよりもその称号が似合う人なんて他にいくらでもいるだろうに。

けどあの人は他でもない私にそんな大層な称号を与えた。その理由は今でもよく分からない。

 

・・・だけど、

 

(・・・だけど、このはさんにそう思われているなら、これからもそう思われるように頑張ろう。)

 

そう改めて決心する。きっと、その方が後悔しないだろうから。

写真を元の場所に戻して出かける準備をする。今日はチェリーと散歩する日だ。いい天気だからチェリーも喜ぶだろう。

 

(・・・また、このはさんに会いたいな。)

 

少しだけ口許に笑みを浮かべて玄関へ向かって行った。今日はなんだか良いことが起きそうだ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「どういう・・・ことだ・・・?」

 

今、俺の目の前に有り得ない光景が広がっている。何度も目を擦っても俺が見る光景は変わらない。間違い無くこれは現実だ。

しかしどうしても信じられず、混乱しかける。必死に思考を混雑させないように現状を再確認する。

 

襲いかかる敵の軍勢、対して此方の戦闘員はたったの三人。

 

戦場は平地で逃げ場なんて何処にも無い。

 

それでも俺達は決して諦めない。どれだけの敵が襲って来ようが隅から隅まで叩き潰す予定だ。

 

・・・そう、本来なら。

 

「・・・やはり、これが現実か。」

 

力無く項垂れ、もう一度前を向く。

 

目の前には共に戦う戦友の二人。片方の少女はこれから始まる戦争を前にして己の武器の最終確認をしている。

 

彼女はこの世界で英雄と呼ばれても可笑しくない強者だ。彼女が立てた数々の武勳は最早伝説となっている。

 

そんな彼女もこれから望む戦いは厳しい物だと感じているようだ。次々と取り出していく装備品はどれも最強と呼ばれる品々。彼女の気合いの入れようが伺える。

 

そして、すぐ側にいる『元凶』を見る。

 

そこには一人の女性が立っていた。

 

この女性も少女と同じく圧倒的強者だ。彼女が操るのは一撃で大軍を滅ぼす大魔術。この人がいるだけで殆どの戦いは有利に進められる。

 

だが、その大魔術師である彼女は虚空を見つめたまま動かない。もうすぐ敵が襲って来るというのに微動だにしない。

 

少女の方は準備が終わったのか、こちらへやって来る。

 

「・・・。」

 

女性に回復薬を差し出す。戦闘では欠かせない一品だ。しかし女性は動かない。

 

女性に補助系のマジックアイテムを差し出す。これで戦闘を有利に進められる。それでも女性は動かない。

 

女性に伝説級の武器を差し出す。ぶっちゃけ今回の戦闘では使う場面なんて全く無いが彼女が欲しがっていた一級品だ。やっぱり女性は動かない。

 

・・・もう疑う余地も無い。彼女は、この人(黒井さん)は・・・

 

 

『・・・ぐがー・・・ぐがー・・・』

「このタイミングで寝落ちかよおおおぉぉぉおおお!!!」

『・・・みたいだね。ほら、このはも準備して。』

 

 

・・・爆睡していた。戦闘イベント真っ最中に。

只今現在ネトゲーをプレイ中。時刻は午後十一時六分。

俺、こなた、黒井さんの三人で限定イベントに行こうという話があがったのはつい昨日の事。三人だけとはいえ全員レベルは充分高いので計画通りに動けば問題は無かったのだが、今からクエストが始まるという時に黒井さんがまさかの寝落ちをしてしまった。

 

「つーかなんでココで!?せめて平地エリア以外で落ちてくださいよ!え、コレどうすんの?まさかこの人庇いながらコイツら全滅させろと!?」

『それしかないでしょ。一人でも死んだらクエスト失敗だし。』

「ざけんなゴラァッ!!このクエスト黒井さんの火力が頼みだったんだぞ!?前衛二人でチマチマやってたら日付が変わるわ!!」

『まあ今更転職なんて出来ないし、出来たとしても魔法職用の装備は全部ホームに預けちゃってるしね~。』

「呑気に言ってる場合か!?折角のプランが台無しじゃねぇか!!こなた!お前一発逆転系のマジックアイテムってどれくらい持ってる!?」

『う~ん、全部黒井センセ任せだったから二、三個位しか無いね。』

「・・・一応聞くけどそれって攻撃系?」

『いんや?防御系だけど?』

「ですよね畜生!!やっぱり物理で殴るしかないのか!!」

『それじゃ、私センセ守るから殲滅ヨロシク。このはの方が範囲攻撃強いし。』

「いや手伝えよ!?ていうか手伝ってくださいお願いします!!」

『ほら、もう進軍してきたよ~。一応回復薬は腐る程あるから体力調整位はするよ。だからガンバってね。』

「無情な死刑宣告!!だああもう、やってやるよ!!絶対勝ってやる!!」

 

蘇生薬が使えない事に苛立ちながら現時点での最強装備に切り替える。明日黒井さんに消費した分のアイテム要求してやる。

そうこうしている内に戦闘開始の合図が出てきた。来やがれ、片っ端からぶちのめしてやる!!

 

 

 

 

 

~一時間後~

 

 

 

 

 

「お・・・終わった・・・。」

『お疲れ~・・・。流石にキツかったね・・・。』

 

最後の敵に必殺技を叩き込んでこの戦闘に終止符を打つ。ホントに疲れた・・・もう二度とやりたくない。

 

『・・・ごがー・・・ごがー・・・』

「・・・いい加減腹立ってきたな。こなた、ちょっとこの人PK(プレイヤーキル)してもいいか?」

『どうどう、明日色々アイテム貰うから落ち着こう。』

「ハァ・・・この人何もしていないのに報酬を貰えるっていうのがマジで納得いかない。」

『いいじゃん、私達はその分経験値稼げたんだから』

「そう思わないとやってらんねぇよ。」

 

消耗品は殆ど無くなった。中にはレアドロップでしか手に入らない物もあったので出来ればそれらを中心に貰いたい。

 

「じゃあそろそろ俺落ちるわ。いい加減寝たい。」

『そだね~。私も今日はもう切り上げるよ~。』

「ああ、お休み。」

『お休み~。また明日会おうね~。』

 

お互いサイトを閉じてパソコンの電源を切る。そのまま寝たいがその前に喉が渇いたので冷蔵庫に向かって麦茶を取り出す。コップについで飲み干したらコップはシンクに入れた後麦茶を冷蔵庫にしまって部屋に戻る。コップは明日の朝に洗おう。

だが、部屋に戻ってそのままベッドで寝ようとした時、

 

ガッ!

 

「・・・おわっ!?」

 

ゴシャアッ!

 

・・・椅子に足を引っかけ、盛大に転んだ。机の一部を巻き込み、色んな本がこぼれ落ちる。

なんだろう、今日は厄日なのだろうか?あ、もう今日じゃなくて明日だ。

 

「痛ってぇ・・・あん?」

 

うつ伏せの状態から起き上がり、落ちた本を片付けようとした時、ある一冊に目がいく。

広げた所、今まで撮った写真が入ってる写真集だった。

 

「へぇ、懐かしいな。コレって中学の頃のヤツじゃねぇか。」

 

ページをめくっていき、色んな写真を見る。中学三年の時まで撮ってきたのが入っている。確か他にもこういうのがあった筈。この前こなた達と一緒に撮った写真も飾りたいのでついでに探していく。

 

「えーっと、確か高校からのヤツは青い表紙だった筈・・・。」

 

写真集を探し出し、空いてる部分を探す。丁度半分辺りの所に空きスペースがあったので引き出しから例の写真を取り出して丁寧に入れていく。

満足して閉じようとした時、あるページに挟まっている写真が目に入った。

 

「・・・あぁ、あの時の写真か。」

 

それにはニヤリと笑っている俺と慌てているみなみの姿が写っていた。随分と懐かしい。あれからもう一年経ったと思うと時代の流れを感じる。

 

「いや~、それにしてもコイツ慌てすぎだろ。たかが肩に腕置いただけだろうに。」

 

正直ここまで慌てる理由が分からない。やっぱり女子はこういうのは結構気にするのだろうか?

 

 

その後も写真観賞していたらいつの間にか三十分も経っていた。ヤバイ、明日バイトあるから休まねぇと。



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六話目 夏休みの終わりに 前編

申し訳ありません。投稿が滅茶苦茶遅れた上に内容が結構グダグダです。
今後はこういう事がないように努力します。


それは朝飯を食い終わって食器を洗い、食材の買い出しに出掛けようという時の事だった。

 

『このは~!助けて~!』

「・・・うん、まあそろそろ来ると思っていたけどな。」

 

もうすぐ夏休みも終わり、学校が始まるまで後少しというある日の事。こなたから救援要請(宿題の手助け)の電話がかかってきた。

 

「つーかよくまあ毎年毎年同じ事繰り返せるな。お前はいい加減学習したらどうだ?」

『仕方ないじゃん!やりたいゲームとか見たいアニメに漫画とかがいっぱいあるんだから!』

「気持ちはよく分かるがそれなら初日に終わらせるように努力しろ。」

『そんな事選ばれた賢者にしかできないから!』

「いや、誰でもできるから。」

 

あんなんノートに書いてあるのをそのまま写せば終わるって。数学に至っては計算式解くだけなんだから楽なもんだ。

 

『いやいや、普通そんなホイホイ進める事なんてできないからね!?』

「まあその辺はどうでもいいんだよ。で?一体何教えればいいんだ?数学か?それとも化学か?」

『・・・全部。』

「・・・すまん、聞き間違えたみてぇだ。何だって?」

『・・・出された宿題全部。』

「・・・さてと、昼飯の買い出しに出掛けないと・・・」

『待って!お願いだから見捨てないで!』

 

電話を切ろうとしたらこなたが必死にストップをかけてきた。仕方なく電話機に置きかけた受話器を再び耳に当てる。

 

「・・・お前さ、何をどうしたらそこまで酷い状況になるんだよ?」

『いやね?最初はちゃんと終わらせようって思ってキチンと計画を立てていたんだけどね?』

「うん、それで?」

『それでいざやろうとした時にハ○ヒが始まってね?見逃す訳にはいかないから一旦中断して見終わったらやろうって思ったんだよ。』

「成る程、確かにそうだな。」

『それで見終わったら次はネトゲで限定イベが始まったからそっちに手を出したんだ。』

「ほうほう、そして?」

『キリよく終わったしもう遅い時間だったから宿題は明日やろうって寝たらこんな風に段々先伸ばしになっていって・・・。』

「で、今に至ると。」

『そゆこと。』

「よし、今日の昼飯は蕎麦にでもするか。確かネギが無かった筈。」

『頼むから切らないで!かがみに断られてもうこのはしか頼る人いないんだよ~!』

「そりゃ断るわ。誰が好き好んで残りの夏休みを宿題消化の為に潰さなきゃならん。」

『ホントにお願い!今度レアアイテムあげるから!』

 

こなたが余裕の無さそうな声を上げる。どんだけ追い詰められてんだよ・・・。

けどまあ別に夏休み中はもう何かする予定は無いし手伝ってやってもいいかな?

 

「ハァ・・・仕方ない。こなた、お前夏休み終わるまでの間に空いてる日ってあるか?」

『・・・?一応最終日までは特にこれといったイベントはないけど?』

「なら問題無いな。明日そっちに行くから準備頼む。」

『え!?直接家に来るの!?』

「電話越しにやっても分かりづらいだろ。ならいっその事そっちで教えた方が楽だ。ついでにお前が本当に宿題を進めているかを監視できる。」

『本音は?』

「夏休み中にもう少しこなたと一緒に遊びたい。それと泊まり込みする予定だからそのつもりでそうじろうさんに交渉してくれ。」

『嬉しい事言ってくれるね。けどそれなら大歓迎だよ!お父さんも泊まる相手がこのはだったらそんなに渋らないだろうし。』

 

やっと一筋の希望が見えたと言わんばかりに安堵が混じった声が聞こえる。頼りにされるのは嬉しいけど次からはちゃんと早い内に終わらせろよ?

 

『けど大丈夫なの?このは、お金そんなに余裕あったっけ?』

「おう、実はこの前バイトでお客さんが大量に来てな?一日中ずっと働いてたら給料がかなり増えてたんだよ。」

『へぇ~、良かったネ。けどなんでいきなりそんなにお客さんが来たの?』

「何でも高校野球のチームメンバーが試合に勝ったらしくてな?応援団含めての大人数が打ち上げしに来たらしいぞ?」

『ナルホド、野球も高校野球ならこっち(見る側)にも得する事もあるんだネ。』

「相変わらずのスポーツ嫌いだな・・・。」

『違うよ、スポーツ中継が嫌いなんだよ。』

「さいですか。」

 

正直どっちでもいいけどな。けどまあこなたにとっては中継は本当に嫌いな物なんだという事はよく知っている。オリンピックの時なんて無茶苦茶不機嫌だったし。

 

「それじゃあ明日の朝に出発するから待っててくれ。」

『おけおけ。お昼ご飯はどうするの?こっちで作っておいとこうか?』

「あー、じゃあ一応食材の用意だけしといてくれ。もしかしたら途中で何か食うかもしれないからな。」

『いや、このはは途中で何か食べても絶対家のも食べるでしょ。』

「何故ばれたし。」

『中学の時、私の奢りで外食した筈なのにウチの家に来てご飯をねだったのを私は忘れてないよ。』

「その節はどうもゴチになりました。あとうまかったぞ。」

『それは良かったね。代わりに私のゲーム代が消えたけど。』

「それは仕方ないだろ?賭け勝負を持ちかけたのはそっちなんだから。」

『だからってウチの冷蔵庫の中身が半分以下になるってどういう胃袋してんのさ。』

「食べ盛りだったんだよ。」

『今も大して変わらないでしょ。この前そっち(神奈川)に来た時に家の帰りにコンビニでカップラーメン買って晩御飯の後にこっそり食べたのを私は知ってるよ。しかも二個も。』

「塩味って中々売ってないからな、あれは良い買い物をした。それはそうと持っていくのは一通りの勉強道具でいいのか?」

 

このままだと俺の食事の量についての話になるのでそろそろ軌道修正しておく。こなたもそれが分かったのか話を蒸し返すような事はしなかった。電話口から『逃げたね・・・。』なんて声がしたがスルーしておく。

 

『そうだね、あとついでにゲームソフト一式持ってきて。久しぶりに色々通信しようよ。』

「俺の記憶が正しけりゃ俺達はたしか勉強会を開く予定だった筈だが。」

『このは、息抜きも必要だよ?』

「あーはいはい。とっとと全部終わらせて遊びましょーね。」

『うぅ・・・ゲームならともかく勉強で徹夜なんてしたくないよ~。』

「溜まったツケが返ってきただけだろうが。俺も消化手伝うからやる気出せよ。」

『はーい。』

「それじゃ、また明日。」

『うん、またね~。』

 

電話を切る。思いの他長話をしてしまった。しかも明日に埼玉に向かうという予定まで出来たので今日中に準備を終わらせなければ。

・・・といっても急いでやる必要はない。ここ最近、そしてこれからも夏休み中は予定が入ってないから時間なら腐る程ある。

ぶっちゃけ警戒隊で遊ぶのも飽きてきたのでこなたからの誘いは渡りに船だったのだ。

 

「勉強会が終わったらいい加減に連絡取るか。この前しばいた奴から電話番号は聞き出せたからいつでも話す事は出来るし。」

 

まあとりあえずは食材の買い出しだ。今日の晩飯を何にするか。昼飯は蕎麦で決まりだけどな、それでもネギは買わなきゃいけねぇ。

 

「ついでにお土産も用意しておくか。資金は充分あるし。」

 

そうして俺はデパートに向かって出掛けた。さて、何を買うかな。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

電話が切れて受話器を元に戻す。思いの他長話になってしまった。

いや~、しかし勉強を教えてもらうだけの予定だったのに思わぬ大収穫になっちゃったネ。

早速お父さんの所に向かって行く。今はたしかリビングでゲームしてた筈だ。

 

部屋から出て移動する間に彼に何のアイテムを渡すかを考える。たしか彼はこの前魔剣を手に入れたって言ってたからやっぱり強化素材だろうか。しかし巻物も欲しがっていたからそっちをあげるべきかな。ううむ、結構迷う。

そうしている内にリビングに辿り着く。予想通りお父さんは格闘ゲームをしていた。

 

「お父さん、ちょっといい?」

「ん?どうした?」

 

敵キャラに向かって上手く必殺技のコンボを入れながら返事をするお父さん。HPはどっちもギリギリ、このままいけば丁度削りきる事ができそうだ。

 

「明日このはが泊まりに来るから。」

 

ピシッ!!

 

お父さんの動きが一瞬止まる。あ、反撃されて負けた。

 

「こ、こなた!どういう事だ!?このは君が来る!?それも泊まりで!?」

 

コントローラーを放り出して私に詰め寄ってくるお父さん。うん、まあ予想出来た。

 

「うん、そだネ。」

「そんな事認めん!!確かにこのは君はしっかりした子だがこなたと交際するどころか閨を共に過ごすなど!!」

「お父さーん、別にこのはとエロゲー的な展開する訳じゃないから落ち着いて。」

「いいか、こなた!例えこなたにその気が無くともこのは君がこなたの魅力にかかってしまえばエロゲー的な展開になる事だって充分有り得るんだ!!」

「大丈夫だよ。このははこういう変な所で紳士的なんだから。」

「いや、これまでがそうだったと言ってもこれからもそうだとは限らない!いつの間にか猛獣になる可能性だって・・・」

「そぉい。」

 

ズドン!

 

「ガフゥ!!」

 

面倒なので一回背負い投げをして黙らせた。勿論手加減はしている。まあしなくても受け身取れただろうけど。

 

「大体このははそういう事にあんまり興味出さないから別に平気だよ。万が一襲われても一応反撃出来るし。」

「うぐ・・・こなた、段々容赦が無くなってきたな・・・。ここは『お父さん、大丈夫?』って心配する場面なのに・・・。」

「いや、自分で投げたのに心配するのもどうかと思うけど。それにそんなに痛くないでしょ。」

 

衝撃はそこまで強くなかった筈だ。『そういう風』に投げたのだから。

案の定お父さんは特に苦労せずにむくりと立ち上がった。

 

「けどまあ確かにこのは君なら別にそういう事態にはならないか。だが!寝る部屋は別々にしてもらうぞ!これだけは譲れん!!」

「ちえー。折角一緒に寝ようと思ったのに。」

 

未だにお父さんはぶつぶつ呟いているけど放置しておく。許可はもらったからもういいだろう。

 

さて、それなら明日の準備をしなければなるまい。部屋に戻って残っている宿題を全部取り出していく。

・・・改めて見るととんでもない量だ。コレ本当に明日中に終わるのかナ?

 

「・・・まあやるしかないか~。このはに『続きは明日』とかは通じないだろうし。」

 

彼が『とっとと全部終わらせる』と言ったからには絶対に明日はマトモに遊ぶ事はできないだろう。むぅ・・・、やっぱり自力で解決すべきだったか・・・?・・・いや、駄目だ。再提出の未来しか予想できない。

ひとまずは勉強道具、お菓子、テーブル、ゲームを出しておく。準備はこんなもので充分だろう。足りない物があったら追加すればいいし。

 

「う~ん、とりあえず今の内に明日の分までゲームでもしようかな?」

 

明日はきっと勉強漬けになるだろうからその分ストーリーを進めときたい。今更宿題始めたって殆ど消化できないだろうし。

 

「そうと決まれば早速始めよう!いや~、続きが結構気になってたんだよネ~。」

 

パソコンの電源を入れ、最近ハマっているソフトを起動させる。さぁ、楽しくなってきたぞ~!

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ行くか。」

 

翌日、俺は部屋で準備を整えていた。

持って行く物を全部バッグに詰め込んでから全ての部屋の電気、カーテンが閉まっているか、電化製品の電源が切れているかをチェックしていく。

問題が無い事を確認したら荷物を持って外に出る。

鍵をかけたら階段を降りて駅に向かうが、少し遠いので途中でバスに乗る必要がある。正直クソ面倒だ。

 

「海水浴の時と比べて最近は随分気温も安定してきたな。それでもまだ結構暑いけど。」

 

相も変わらず日射しは強いが汗だくになるという程ではない。もうしばらく経てば涼しいと感じる事もあるかもしれねぇな。そうなればクーラーに頼る事もなくなる。

 

「意外と早いもんだな。てっきりあと一ヶ月は暑苦しい日々が続くと思ってたんだが。」

 

まあそれならそれに越した事はないがな。そしたら外に飲み物を持って行く時にいちいち凍らせる必要もなくなる。

そんな事を考えている内に停留所に着く。丁度バスもやって来た。

すぐに乗り込んでPASPYをかざす。残り残高五百円か・・・後でチャージしておこう。

駅に着き、電車に乗りに行く。ついでに駅弁でも買っておくか。朝飯あんまり食ってねぇから腹減ってんだよな。

しかし向こう(埼玉)に着くまで暇になるな。一応暇潰しに何冊か小説を持って来たけど多分着く前に読み終わる気がする。

 

「まあそうなったら外の景色でも見ながら駅弁でも食うか。どうせ特にやる事ねぇし。」

 

数分待ち、電車がやって来た。さて、小旅行でもしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・どうしてこうなった。」

 

現在午前十二時十四分。埼玉県久喜駅での事。

目の前には不良が一名。その目にはハッキリと敵意が浮かんでいる。

しかしこう、なんていうか、空気が違う。

なんかいつもの『テメーナメてんのか?』『当たり前だろバーカ。』『ぶっ殺す!』『出来るもんならやってみろバーカ。』的な流れじゃなくて・・・

 

「夜桜ァ!!此処で会ったが百年目!俺と勝負しろ!」

 

・・・なんか決闘申し込まれた。

 

「・・・すまん、誰だっけ?」

「うおおい!?忘れたってどういう了見だ!中学の時、お前俺と何回喧嘩したと思ってる!」

「あー、そういやなんかそんな奴いたな。えーと、確か・・・思い出すの面倒だな、撲滅だっけ?」

弓滅(ゆみめつ)だ!!何だその『この前Drマ○オやったからこれでいいか』みたいなノリは!?」

「すまんな、モブキャラは基本的に無視するスタンスで生きてるんで。それと一昨日Drマ○オで自己最高記録を叩き出したぜ。」

「誰がモブだゴラァ!!ていうか本当にDrマ○オやってたんかい!」

 

全くギャーギャーうるせぇな。もう少しボリューム下げろよ。

けど思い出した。コイツ中学の頃に何回も俺に喧嘩しに来た馬鹿だ。まあその度にぶちのめして捨てたけど。確か『弓滅はやて』だっけ?いやーこんな所で会えるとはおどれーた。とりあえず帰ってくれ。

 

「久しぶりだな~。じゃあ俺用事あるからこれで。」

「いやお前俺の話聞いてた!?勝負だってっつってんだろ!?」

「ふざけんな。こちとらあんまり時間を無駄にしたくねぇんだよ。喧嘩なんて迷惑な事は今すぐやめなさい。」

「絶っ対にお前だけには言われたくねぇよ!!」

 

失敬な、俺は迷惑かけていい奴にしか喧嘩しねぇよ。

しかし面倒な事になった。こなたの家まであと少しって所なのになんでこんな馬鹿相手にしなけりゃいかんのだ。あー、久しぶりにこなたかみなみと喧嘩してぇな~。

 

「兎に角!俺と勝負しろ!中学の時とは違うって事を分からせてやる!」

「あーハイハイ、分かったからちょっと黙ろうか。いい加減にしないと警察が来る。」

「あ、皆さんお騒がせしてすみませんでした。」

 

少しずつ増えていく野次馬達に礼儀正しく頭を下げる弓滅。常にそのテンションでいてくれると非常に助かる。

 

「で?勝負って結局何するんだよ。」

「当然喧嘩だ!!」

「メンドイ。パス。」

「オイコラ話が違うぞ!?さっき『分かった』って言ったじゃん!」

「だからあんまり時間を無駄にしたくねぇって言ってんだろ。もうパッパとじゃんけんで決めようぜ。」

「待て!!それはおかしい!いや確かに勝負だけど何か違う!」

「我が儘な奴だな、一体何ならいいんだよ?」

「喧嘩だって言ってんだろ!!人の話聞いてる!?」

「聞いてるに決まっているだろ、すぐに忘れているだけで。」

「駄目じゃねぇか!!」

 

とりあえず駅から出る。弓滅もついてきた。いやついて来んなし。

 

「しつけーぞ、とっとと離れろ。」

「なら俺と勝負しろ!」

「せいっ!」

 

ガン!!

 

「ガハァ!?」

「よし、決着ついたな。じゃあ俺はこれで。」

「ま、待て!まだスタートしてないから!今のフライングだから!」

 

むぅ・・・結構強めに入れたのに立ち上がるとは・・・。確かに中学の頃とは違うらしいな。随分頑丈になってる。

・・・少しは楽しめるかもしれねぇな。

 

「仕方ねぇな、その喧嘩引き受けた。ただしさっきも言ったがあまり時間をかけたくないんでな。一回だけだ。」

「上等だ!!来い!こっちに廃ビルがあるからそこでやるぞ!」

 

そう言って鼻血を拭きながら歩き出す弓滅。随分良識を持った不良だなオイ。中学の頃は所構わず殴りかかってきた癖によくまあここまで礼儀正しくなったもんだ。

 

 

そして案内された廃ビルに辿り着き、俺達は喧嘩を始めた。

・・・と言うより・・・

 

「オラァ!!」

 

ブォン!!

 

「ほい。」

 

ビシッ!

 

「あ、」

「ふんっ!!」

 

ズガンッ!!

 

「ゴフッ!?」

 

バタッ。シーン・・・。

 

・・・終了。

結論から言うと瞬殺だった。あれ?もう少しもつかと思ったんだけど。

ちなみに今の一連の流れは

 

弓滅が殴りかかる

俺がその拳を流すように弾く

そのまま顔に一発ぶちこむ

弓滅K.O

 

って感じだ。オイ早すぎだろ。さっきより『少し』強めに殴っただけだろうが。

 

「頑丈になったと思ったがまだそれほどじゃあねぇな。せめて今のを二発位耐えてくれなきゃ話になんねぇ。」

 

みなみなんか本気の一撃食らっても耐えたんだぜ?少しは見習って欲しいもんだな。

しかしこれならもう少し遊んどきゃよかった。パンチのキレはともかく打たれ強さを鍛えれば将来化けるかもしれん。

まあ今はこなたの家に行かなきゃいけないからそれはまた今度会えたらにしよう。いい加減腹減ってるからサッサと飯食いたい。駅弁?食ったけど何か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてようやくこなたの家に辿り着いた。なんか無駄な体力使った気がする。

 

ピンポーン

 

インターホンを押して待つ。すぐに中からドタバタと足音をたててこなたが出てきた。

 

「ヤフー。やっと来たね。随分遅かったけど何かあったの?」

「馬鹿に付きまとわれた。」

「・・・また喧嘩?いつも思うんだけどこのはってどうしてそういうイベントに遭遇する確率が高いの?」

「知らねぇよ。体質じゃね?」

「全く違和感が無い体質だね。まあとりあえずあがってよ。」

「おう、お邪魔しやーす。」

 

家の中にあがっていく。さて、どうなる事やら。



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七話目 夏休みの終わりに 中編

誠に申し訳ありません。
前回あんな事ほざいた癖にとんでもなく投稿が遅れました。
けど言い訳させてください。本文自体は二週間程前に出来てはいたんです。ですが諸事情によりしばらくネットが繋がらなくなったんです。
お陰でここ最近は動画は見れないわゲームのログインボーナスは取れないわでかなりヘコみました。
随分お待たせしましたがなんとか復帰できたので引き続きこの小説を読んでくれると有難いです。

前書きが長くなりましたがここから本編です。


こなたの家にあがり、まずはそうじろうさんに挨拶をする為にリビングに向かう。

 

「お、このは君!久しぶりだね。こなたから話は聞いてるよ。今日はゆっくりしていきなさい。」

「お久しぶりです。お土産持って来たんでこなたと一緒に食べてください。」

「お~!何々?どんなお土産?」

「生チョコ。とりあえずは冷蔵庫にしまっとけ。」

「らじゃ~。」

 

バッグからお土産を取り出してこなたに渡す。多分今食っても若干溶けてると思うし、冷えてる方が上手いだろ。冷蔵庫に向かうこなたを尻目にそうじろうさんに今のより少し高級なチョコを渡す。

 

「それとこっちがかなたさんの分ってことで。」

「うん、ありがとう。かなたもきっと喜ぶよ。」

 

笑いながらチョコを受け取るそうじろうさん。本当はもうちょっといい奴を買いたかったのだが、コレ以外の物は全部売り切れていたので仕方なく妥協した。

そうしている内にこなたが戻って来る。何やらその手にはジュースらしき物が握られている。

 

「ほれ、暑かったでしょ?丁度余ってたからあげるよ。」

「・・・!?待て、こなた!それは確かこなたの飲みかけだっただろう!?駄目だ!たとえ相手がこのは君でも間接キッスなんてお父さんは認めません!」

「そうじろうさん、その辺は既に手遅れだと思います。」

「そうそう。大体中学の時から今までずっとそういうの続いているのに今更ストップかけられてもネ。」

「こなた、その発言はちょっと危ない。聞きようによってはいかがわしい台詞に聞こえる。」

「知ってる。」

「だろうな。」

 

こなたからジュースを受け取って飲み干す。そうじろうさんが「あああああ!!!」と奇声を上げてうるさかったが無視しておく。

 

「さて・・・それじゃあこなた、飯くれ。」

「いきなり図々しい要求だね。」

「だって腹減ったし。」

「だからって親友にお昼ご飯たかるのはどうかと思うよ。」

「親友だから気楽にたかる事ができるんだよ。そもそもお前だって宿題の消化頼んでるじゃねぇか。お互い様だろ。」

「むー、わかったよ。まあそう言うと思ったからあらかじめ作っておいたんだけどネ。」

「流石こなた。抜かりねぇな。」

 

そう言って台所に向かうこなた。俺も料理をテーブルに運ぶのを手伝う為についていく。

コンロに置いてある鍋に火がついている。恐らくさっきジュースを持って来た時につけたのだろう。中身を見た所どうやらチキンカレーのようだ。

 

「なぁ、これって朝作り始めたのか?結構サラサラしてるし。」

「そだよ~。どうせだし夜の分も作ろうかなって思ってネ。」

「それって俺、夜も同じ物食わなきゃいけなくね?」

「なら別に食べなくてもいいよ?」

「食うに決まってんだろ。」

「それなら文句言わないの。このはが来るって言うからいつもより多めに作ったんだから。」

「そいつはどうも。」

 

沸騰するまで待ったら器を取り出し、炊飯ジャーから白米を盛り付けてカレーをかけてテーブルまで持っていく。こなたは冷蔵庫の中からサラダを取り出していた。

 

「しっかしこの家も随分懐かしいな。最後に来たのっていつだっけ?中二の時以来か?中三の時はどっちかというとお前が俺の家に来てた記憶がある。」

「そだね。確かクリスマスの時じゃなかったっけ?」

「あー、そうだそうだ。なんかお前が家に誘ってきてさ、玄関開けた瞬間に目の前でクラッカー鳴らされたからその辺が印象に残ってる。」

「アレはかなり面白かったね~。あの時はこのはがまだ無表情な頃だったから驚いた顔が凄く新鮮だったよ。」

「言うなよ恥ずかしい。」

「ムフフ、あの頃のこのはは結構可愛かったネ。」

「そうか?ぶっちゃけ無茶苦茶尖ってた気がするんだが。」

「そこがよかったんだよ。ぶっきらぼうな雰囲気出しながらもなんだかんだ言って気を使う所とかさ、もうホントにツンデレだった。」

「マジでか、俺って実は萌えキャラだったのか。」

「いや、そういう意味じゃないから。」

 

雑談をしながらカレーを食べ始める。うん、旨い。夜になったら更にいい出来になりそうだ。

とりあえずサッサと昼飯を済ませてこなたの部屋に向かう。パパッと終わらせて自由時間を増やそう。

そして部屋のドアを開け、中の惨状を見回して俺から出た第一声は・・・

 

「・・・うん、まあ相変わらずだな。一部を除いて。」

 

・・・である。これは酷い。主にテーブルの上が。

前来た時と同じく積み上げられた漫画やゲームの数々(ただし種類が変わり、量が増えている)が雑多に置かれてあるがそれは別にいい。こなたの部屋がすっきりしていたら逆に違和感を覚える。

問題はテーブルの上に見慣れないノートやプリントが置いてある事だ。なんか量が半端無く多い。恐らくコレが溜まっている宿題なのだろう。

 

「そ、そんな事言わなくてもいいじゃん。これでも夏休み初日よりかは減ったんだよ?」

「だからってこれはないだろ。なんだよこの紙束の量。お前夏休み終了まであと何日残ってると思ってんだ。」

 

呆れの溜め息を吐いてプリントの束を手に取る。うわ、これって全部数学のプリントか?てことはこれで一教科なのかよ。しかも全部何も書かれてねぇし。

しかもこなたの机にも似たようなノート類がある。オイ、まさかこれら+そいつらってワケじゃねぇだろうな?ワケだろうな畜生。

 

「全く・・・本当にどうしてこんなになるまで放置してたんだよ。一応聞いておくが答えが載っているプリントはあんのか?」

「無いから呼んだんだけど?」

「だろうな。今すぐかがみ呼んでこい。全部写しても今日中に終わるか分かんねぇぞコレ。」

「だからかがみには断られたんだって。」

「報酬に適当なケーキでも渡せば釣れるだろ。」

「さりげに酷い事言ってるね。」

「間違ってねぇから別にいいだろ。」

 

現に海水浴の時も晩飯食い終わった後にショコラを出した時、二番目に食ってたのかがみだったし。ちなみに一番は俺だ。

 

「それじゃあさ、このは。そのケーキ代の事なんだけど・・・。」

「・・・ハァ、分かったよ。半分は出してやる。提案したのは俺なんだし。」

「さっすが~!いや~、今月は正直結構キツかったんだよネ~。」

「そいつはよかったな。分かったならサッサとかがみに連絡しとけ。ついでに金渡しとくからケーキ買ってこい。その間に俺はある程度やっておくから。」

「まかせたまへ~!それじゃあこのは総隊長、あとは頼みましたぞ~!」

「誰が総隊長だ、さすらいの傭兵と呼べ。」

「あ、確かに今はどっちかというとそっちの方がしっくりくるネ。」

 

ケーキ代を受け取って部屋から出て電話機を取りに行くこなた。いや、携帯使えよ。もしかしてまたどっかに無くしたのか。

さて、俺もとっとと宿題終わらせるとしますか。俺のじゃなくてこなたのだけど。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

さーて、それじゃあかがみに電話しよっか。その後に買収用のケーキも買わなきゃいけないから手早く終わらせなければ。

早速受話器を手に取り、かがみに電話する。2コール待ったら繋がった。早いな、もしかして丁度携帯使っていたのカナ?

 

『ハイもしもし、柊ですけど?』

「ヤフー、私だよ~。かがみ、今日暇?」

『唐突だな・・・いきなり何よ?』

「いやね?ちょっと宿題見せてほしくて。」

『アンタね・・・この前の私の言葉忘れたのかしら。』

「ケーキ買ったからついでにさ。どうせだしつかさも一緒に。」

 

(ホントはまだ買ってないけどどのみち食べるんだし別に問題ないよネ。)

 

『・・・・・・・・・ま、まぁお誘いのついでに見せてあげない事もないわね。ただし!私は手伝わないからね!!』

「やっぱりかがみって結構簡単だよネ。」

『うっさいわね!!宿題写したくないの!?』

「冗談だよ~。そうだ、ついでに泊まる?前から話に上がっていた私の家でのお泊まり会の話あったじゃん?あれ少し早めて今日やろうよ。」

『は!?今から!?』

「うん、今から。」

『まぁ確かに準備はもう終わっているけど流石に急じゃないの?』

「平気平気。こっちはまるで問題無いよ~。」

『えらく楽観的ね・・・。こっちの親への説得の事も考えなさいよ、全く・・・。そういえばアンタの家に行くのってよく考えたら初めてだけど、大丈夫なの?』

「大丈夫って何が?」

『いやさ、遊ぶ時っていつもウチの家だからもしかして親がその辺り厳しかったりするのかと・・・。』

「んー、別に厳しくはないんだけどね?ウチのお父さん職業柄家にいる事多いし。」

『へ~、そうなんだ。』

「私も責任負いきれなくなると困るし。」

『何のだよ!?』

 

その後も少しの間雑談して電話を切る。よし、じゃあ次はケーキを買いに行こう。四人分だから四個・・・って普通は思うけど彼がいるので五個買っておこう。・・・いや、いっその事1ホール買おうかな?そんなに買うならそっちの方が安上がりだろうし。

そうと決まれば早速出かける準備をする。確か近くのデパートにそういうケーキ類があった筈だ。

 

「お父さーん、後で友達が追加で二人泊まりに来るから~。」

「む、他の友達が来るのは別の日じゃなかったのか?」

「うん、ちょっと予定が変わったから。あ、それと私ちょっと買い物しに出掛けてくるね~。」

「何!?まさかジュースを買ってきてまたこのは君と間接キッスを・・・」

「いい加減それから離れようよ。ケーキ買ってくるだけだって。」

 

どうやらまださっきの出来事を引きずっているようだ。だから今更そんな事で騒がれてもなあ・・・。

適当に答えて外に出る。まだ時間は充分あるし歩いて行こう。早く帰ったら休む間もなく宿題やらなきゃいけないし。

 

 

 

 

 

しばらくの間歩いていたが、途中の道路で信号が赤になったので青に変わるまで待つ事になった。

 

(この赤から青に変わるまでの時間ってミョ~に長く感じるんだよネ。渡らない時はすぐに変わるように見えるのに。何でだろ?)

 

立ち止まって何もしていないからか、いろんな事を考えてしまう。彼が久しぶりに家に来たからか、中学時代に彼と過ごした日々が頭に浮かんでくる。記憶を遡れば遡る程彼が今と昔でどれだけ変わったのかが分かる。まさに劇的ビフォー・アフターだ。

 

お昼ご飯の時に話をしたからか、ふと前に彼が家に来た時の事を思い出す。あの頃は彼はまだそんなに感情豊かではなくて、ひたすら静かだった。暗いという訳ではなく、無感情で、無関心で、全てに飽き飽きしていたように見えた。事実大方は間違ってなく、彼と知り合い始めた時は彼が何かに興味を示すという場面を見た事がない。

 

(このはが初めて興味を示した反応を見せたのは確か、知り合ってしばらく経った後の私の一言だっけ・・・。)

 

 

 

 

 

『へぇ~、夜桜君ってそういう小説読むんだ。』

『・・・いきなり何の用だ?見ての通り俺、コレの続き読むのに忙しいから用が無いなら帰れ。目障りだ。』

『そう言わずにさ、少し面白い情報を届けに来たんだよ?ついでだし聞いていってよ。』

『・・・チッ、なんだよ一体。』

『うん、まずはコレを見てほしいんだけどーーー』

 

 

 

 

 

と、考えている間に信号が青に変わった。慌てて横断歩道を渡る。

しばらく歩道に沿って歩くと目的のデパートが見えた。やはり昼頃だからか、結構客が多い。中に入ると冷房が効きすぎているのか、かなり空気が冷たく感じた。ていうか寒い。

あまり長居はしたくないしサッサと買って帰ろう。すぐにケーキを売っているコーナーに向かう。丁度チョコレートケーキが1ホールあったのでそれを手に取る。値段的にも問題は無さそうだ。そのまままっすぐにレジに向かっていく。

それにしても寒い。確かに外はまだ少し日射しが強いから冷房つけるのは分かるんだけどそれにしたって限度があるでしょ、コミケじゃないんだから。

会計を済ませてすぐに外に出る。途端に空気の温度が変わってウッと顔をしかめるがすぐに慣れ、帰り道を歩いていく。

 

ひとまずの目標は達成したし、後は帰るだけだ。早めに帰らないとケーキのクリームが溶けちゃうし。

 

「じゃあ帰るか~。私も少しは手伝わなきゃいけないし。」

 

そう呟いて家に向かって歩いていく。彼はどれくらい終わらしてくれたカナ?

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「さて、とりあえずこんなもんか。」

 

プリントの束の一つをテーブルの脇に適当に置いて呟き、体を伸ばす。ひとまず数学の『プリントは』終わらした。意外と時間かかったな。

しかしテーブルの上にはまだまだ大量の宿題が置かれている。少し休んだらまたやらなきゃいけないので、面倒な事この上ない。

 

「ただいま~。どう?調子は。」

「おう、お帰り。ちなみに調子はぼちぼちだ。さっきようやくそのプリントが終わった。」

「いや早いね!?私確か部屋を出たの二十分位前だった気がするんだけど!?」

「二十分もありゃこの程度簡単に処理できるっての。OP何曲分あると思ってんだ。」

「普通はもっと時間かかると思うんだけど!?」

 

そうだろうか?現代文や英語とか、そういう文章をどうこうするっていうヤツに比べたら数学って結構早めに終わると思うんだけど。

 

ピンポーン

 

と、そうやってしばらく二人で雑談してたらかがみがやって来たようだ。意外と早かったな。

 

「ほら、あいつ来たみたいだからサッサと呼んでこい。」

「お、来たね。じゃあ少し待ってて。」

 

すぐに玄関まで走っていくこなた。転んだりすんなよー。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「こなたの家、どんなのか少し楽しみよね。」

「そうだね~。どんな家なんだろ。」

 

私達は今、こなたの家に向かって歩いている最中だ。場所は事前に電話で教えてもらっているから特に迷ったりもしなかった。

全く、急に宿題教えろなんて言うからビックリしたわよ。ケーキくれるって言われなきゃ断るつもりだったんだから。

 

「あ、あそこじゃないかな?こなちゃんの家。」

「お、アレっぽいわね。暑いし早く行くわよ。」

 

こなたから教えてもらった家の特徴と一致する家を見つけて足を早める。ちゃんと『泉』と書かれているので間違いないだろう。

インターホンを鳴らして少し待つ。そしたら家の奥からドタドタと足音をたてて近づいてくる気配を感じた。どうやらこなたがやって来たみたいだ。もう少し落ち着けばいいのに。

 

『入ってきていいよ~。』

 

中からこなたの声が聞こえる。もう入ってもいいようだ。ドアを開けて泉家に上がる。

 

「おーす。」

「お、いらっしゃーい。二人共上がってってよ。」

「こんにちは~。今日は誘ってくれてありがとね~。」

 

ひとまずこなたの親に挨拶する為にリビングに向かう。そこでは髭を生やした中年のおじさんが新聞を読んでた。恐らくこの人がこなたのお父さんなんだろう。

 

「お邪魔します。今日はお世話になりますー。」

「いらっしゃい。話はよく聞いているよー。」

 

笑って歓迎するこなたのお父さん。意外と優しそうな性格をしている。正直こなたが意味深な発言をしてたからちょっとだけ警戒していたけど結構まともそうだ。

 

「家が神社で巫女さんなんだって?」

 

(どういう説明してんだー!!というか第一声がそれですか!?)

 

まともそうだと思った途端にコレかよ!いや間違いではないけど・・・。

謎発言に苦笑いを返しながら部屋に向かうこなたについていく。流石にあんな質問をされるとは思わなかった。

 

「アンタの家ってホントにいろんな意味で凄いわね・・・。」

「す、少しビックリしたけど面白い人だね。」

「フッフッフ、つかさ、驚くのは早いよ。今回はスペシャルゲストが来てるんだから。」

 

こなたの発言に私もつかさも頭に疑問府を浮かべる。スペシャルゲスト?みゆきでも来てるのかしら?

そうしている内にこなたの部屋の前に辿り着く。そのドアを開けると・・・

 

 

「このは~、かがみとつかさ連れてきたよ~。」

「あん?つかさも付いて来たのか?」

「うん、折角だしネ。流石にみゆきさんは呼べなかったけど。」

「みゆきは仕方ねぇだろ、東京に住んでんだから。」

 

 

・・・数日前に神奈川で出会ったこなたの親友、『夜桜このは』がいた。

 

「「・・・えっ!?」」

 

全く予想だにしなかった人物がいる事に私達は同時に驚愕の声を上げた。

 

「え、な、なんでこのは君がいるの?」

「おー、特に久しぶりでもないな、二人共。」

「いやいやいや、なんでアンタがいるのよ!?アンタが住んでる所神奈川でしょ!?」

「んなもんこなたのピンチに駆けつけたに決まってるだろ。」

「コイツが一生成長しないからやめなさい!」

「大丈夫だ。ちゃんとこなたでも解ける問題を最低限残しているから問題無い。」

「問題しかないわよ!」

「ねぇ、二人共さりげなく私をバカにしてない?」

 

こなたが口を挟んできたがひとまず置いておく。え!?コイツまさか本当にこなたの宿題手伝う為だけにわざわざ埼玉に来たわけ!?どんだけこなたの事好きなのよ!?

 

 

 

 

 

しばらく部屋の中で騒いだが一通りツッコンで少しだけ冷静になった。そしてこなたとこのはからどうしてこのはが居るのか詳しく話してもらう。

 

「・・・つまりバイト先で大金を手に入れたから普段は電話やメールで済ますのをわざわざ此処(埼玉)までやって来て直接宿題教えに来たって事?」

「大体合ってる。」

「大体っていうか普通に全部合ってるけどネ。」

「そ、それは凄いね・・・。」

 

それはまぁ・・・よく実行したわね・・・。大金が手に入ったって言っても神奈川から埼玉に来るのはかなりの出費なのは変わらないでしょ。それをあっさり決断するって・・・。

 

「まぁその辺はどうでもいいんだよ。とりあえずは休憩ついでにかがみへの報酬を前払いしておくか。」

「ってあの誘い、アンタも一枚噛んでたんかい!」

「むしろ買収提案したの私じゃなくてこのはだよ?」

「ほほーう、アンタが私をどう見てるかがよーく分かったわ。」

「安心しろ。別にどんだけ食おうとそれは個人の自由だし、そもそも体重がたかが2、3kg変わっただけで気がつく奴なんて誰もいねぇよ。」

「そんなフォローいらないし、他が気にしなくても私が気にするのよ!」

 

全く、コイツは女心というものをまるで分かってない。そういうのを気にしないのはこなたみたいな一部の人達だけよ。

 

(ハァ・・・なんかこういうデリカシーが無い所とかこなたにそっくりね・・・。一体どっちがどっちに似たのかしら・・・。)

 

そうこうしている間にこなたがテーブルの上に置いてあるビニール袋からケーキを取り出していく。へぇ、チョコレートケーキか。しかも1ホール丸々買ったみたいだ。随分太っ腹だな。

 

「それじゃあ切り分けちゃう?」

「だな。丁度四人いるし四等分にするか。」

「それにしてもよくこんな物買ってきたわね。普通に四個買えばよかったじゃない。」

「いや、かがみとこのはがいるから足りないかなと思って。」

「うっさいわね!どうせ私は大食いよ!」

「フッ、かがみよ。その程度で大食いとは笑わせる!そんな事は三人前以上の料理を食ってから言え!」

「何を張り合っているんだアンタは!?」

「ま、まあまあ、お姉ちゃん落ち着いて。」

 

このはがケーキを切り分けて全員に渡していく。さりげなく自分のケーキに余ったチョコプレートを乗せている辺りちゃっかりしてる。くっ、私も切り分け手伝えばよかった。

 

 

 

 

 

そうして騒ぎながらケーキを食べていき、その後こなたとこのはに宿題の答えを要求されて渋々渡し、皆で時々遊んだりしていたらあっという間に夜になっていた。

側で見て分かったが、このはが頭がいいという話は本当だったようだ。私の宿題を見ているのは殆どこなたで、このはは大体の問題を答えを見ずに解いている。しかも字をこなたに似せて書いているのに淀みがまるで見えない。

話を聞いた所こういう宿題の手伝いは中学の頃からしょっちゅうやっているので、こなたの字なら違和感無く書く事が出来るらしい。どう考えてもこなたがすぐに宿題写したりする癖がついたのはコイツのせいだ。

 

「いや~、結構いいペースで進んだな。正直徹夜は覚悟してたんだけどな。」

「やっぱりかがみ呼んどいてよかった~。これなら十時辺りには終わりそうだネ。」

 

晩御飯を食べる為にリビングに移動している最中に二人が呟く。そんなに苦労する位なら最初から宿題終わらすよう努力しなさいよ。

 

「けどこのは君凄いね~。あんなに早く問題解いていくんだもん。私あんなの真似できないよ。」

「まぁ流石に文系は時間かかるけどな。あれって自分で文章考えて書かなきゃいけない問題とかあるから。」

「アンタって理系の中でも数学の問題解くの早いわよね。あれって何かコツでもあるの?」

「かがみん、このはのコツは言葉にするのは簡単だけど実行するのは凄く難しいようなヤツばかりだよ。」

「ん?アンタそのコツが何なのか知ってるの?」

「『一問目を解き終わったらその答えを書いている内に二問目を解いていく』っていうふざけた理論。」

「ず、随分ハードル高いわね・・・。」

「まぁ確かに最初の頃は手こずったけど、慣れれば案外出来るもんだぜ。」

 

このはが何気なく言ったが、平行思考はそんなに簡単に出来るような代物じゃないでしょう。全く、聞けば聞く程とんでもない奴ねコイツ。

そうしてリビングに辿り着く。どうやら既にそうじろうさんが盛り付けをしてくれたらしい(名前は夕方頃にこなたから聞いた)。

それじゃあ食べるとしますか。そろそろお腹減ってきたし。



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八話目 夏休みの終わりに 後編

もう遅れたりしないと言ったな。あれは嘘だ。

申し訳ありません。半年近く遅れました。これも全部試験やら仕事やらのせいなんです。俺は悪くねぇ!!

あ、私のせいですね。

無駄な前置きはこれくらいにして本編へどうぞ。


「はぁ~・・・。疲れた・・・。」

 

現在九時四十七分。晩飯を食い終わり、宿題を残り三割程度まで終わらした後、休憩ついでに風呂を頂いている最中。俺は湯船に浸かりながらため息を吐いてた。

晩飯のチキンカレーは絶品だった。やはり時間をかけて寝かせたからか、昼より格段にうまかった。

食後にこなたが息抜きにゲームしようと言ってきたが当然却下した。始めたら真夜中まで続くのが目に見えている。やるなら宿題を終わらせてからだ。

 

しかし思っていたより随分と宿題の消化スピードが早い。これなら日を跨ぐ前に終わらせられるだろう。少なくとも明日は思いきり遊ぶ事ができそうだ。

 

「つっても昼には帰る予定だったんだけどな。満足するまで遊べるかね?」

 

予定では今日の夜はこなたと馬鹿騒ぎをする筈だったのだが、想像以上に宿題が多かったので遊ぶ暇なんて殆ど無かった。もし明日帰る予定のままなら、遊べる時間は精々半日。正直俺としては割に合わないように感じてしまう。

 

「ん~・・・、正直もう一泊したいのは山々なんだが・・・こなたはともかくそうじろうさんが許してくれるかねぇ・・・。」

 

風呂から上がって体を拭いた後、着替えてこなたの部屋に向かう。そろそろ一気に終わらせたいところだ。

 

「おーい、風呂上がったぞ。」

「あ、このは。もう上がったんだ。」

「結構早かったわね。」

「今ね、こなちゃんのアルバム見てる所なの。」

 

部屋に入ったら三人がそれぞれ返事をする。テーブルにはつかさが言うようにこなたのアルバムが広げてあった。

 

「お~懐かしいな、そのアルバム。久しぶりに見たわそれ。」

「そだネ。さっきまで見事に埃被ってたから。」

 

宿題の手を止めてこなたが呟く。まぁ少し位の休憩はいいかと思い、俺もアルバムに目を向ける。

 

「中身見てビックリしたわよ。こなたとそうじろうさんの二人が写っていると思ったら、こなたじゃなくてこなたのお母さんだったんだもの。」

「あぁ、初見じゃ絶対間違えるよな。コイツとかなたさん、似てるってレベルじゃねぇから。クローンって言われても信じるぞ俺。」

「・・・?ねぇお姉ちゃん、『くろーん』って何?」

「あー、まあコピーみたいな物かしら。」

「正確に言えば1個の細胞又は生物から無性生殖的に増殖した生物の一群の事だ。ざっくり言っちまえば人工的に作られた生物って感じだな。ニュースとかでもクローン牛とか放送された事あっただろ?」

「ええと・・・あんまりそういうの見なくて・・・。」

「ていうかなんでそんなに詳しいのよ・・・。」

「読んでた小説にそういうのが出てきてな、読み進めていたら覚えた。」

「ああそう・・・。」

 

かがみに呆れたと言わんばかりの眼差しを頂く。やめろよ、照れるじゃねぇか。

 

「ん~、やっぱり私とお母さんって似てるんだ。」

「超似てる。お前のそのアホ毛と泣き黒子が無くなったらもう見分けがつかん。」

「あ、確かにそこが違うわね。」

「ホントだ~。このは君、よく分かったね。」

「最初は俺も分からなくてな、何度も見比べてようやく気付いたんだよ。逆に言えばそれ以外は全く分からなかった。精々表情の違いか?」

「あ~、確かにちょっとだけ笑い方が違う気がする。」

「そうね、かなたさんは微笑んでいるって感じだけどこなたはニヤついているって感じよね。」

「むぅ、失礼な。」

 

まぁ確かに女性に対してニヤついているは酷いとは思うけど、コイツの場合否定できる所が一部たりとも無いからな。

 

雑談もそれくらいにしてとっとと宿題の続きをする為に机に向かい合う。とりあえず十分以内に済ませるか。

 

「そういやこのはってさ、家にアルバムとか持ってんの?」

 

ふとこなたがこっちを向いて聞いてくる。オイコラ宿題の続きをしろ。

 

「あ?一応あるっちゃあるぞ?」

「へ~、アンタの少年時代って気になるわね。」

「うんうん、見てみた~い。」

 

かがみとつかさも会話に入ってくる。やめなさい、コイツが仕事しないでしょうが。

仕方なく会話を続ける。勿論手は止めない。

 

「やめとけやめとけ、クソつまんなくてすぐ寝るぞ。虫の標本見てる気分になるから。」

「いやどんなアルバムよ。逆に気になるんだけど。」

「まぁ確かに子供の頃のこのはってかな~り陰気な雰囲気してたしね。」

「え?このは君って昔は暗かったの?」

「ああ、暗いな。どれくらいかというと続きを進めたかったゲームが無くなって必死に探したのに見つからず、結局新品を買って最初からプレイを始めたこなたと同じくらいに暗いな。」

「ゴメン、その例えは分かんないわ。」

「な、なんか想像つくようなつかないような・・・。」

「いやだってもう少しで主人公の戦いがいよいよクライマックスに!!っていう時に無くなっちゃったんだよ!?折角スキル集めまくって仲間も育てたのに!」

「だから自分が好きなヤツや進めたいヤツは覚えやすい所に仕舞うか常に持ち歩いとけって言ってんだろ。何度やらかしゃ気がすむんだよお前。」

「いや、それ以前にもうちょっと数を減らしなさいよ。」

 

かがみが呆れながらつっこむ。かがみよ、それは無理だ。そんな事出来たらコイツは最初(ハナ)からオタクになんぞなっとらん。

 

「それにまず俺のアルバムって超薄いぞ?中身スッカスカでビックリするレベルだ。」

「それでも家族写真くらいはあるでしょ?どうせだし今度見せなさいよ。」

「・・・家族写真、か。」

 

確かに無い事は無い。が、アレを見ていい気分になれるかどうかは分からない。だってほぼ全員が死んだ目をしてる上に無表情だし。ギスギスした時代の時しか撮ってなかったから自然とそういう写真しか無いのだ。

 

「・・・まぁ見たいんなら今度ウチの家来た時にでも探せば?ちなみに言っておくが昔のアルバムは物置部屋に放ってあるから掘り起こすのに一時間はかかるからな。」

「このは君の物置部屋ってそんなに物多いの!?」

「んー、いらんガラクタとかは全部入れてるから巨大ゴミ箱と言ってもいいかもしれん。」

「ガラクタって思うなら捨てなさいよ!」

 

いやまあそうなんだが。なんか捨てるには勿体ないヤツとか、結構愛着湧くヤツとかよく手に入るんだよなぁ。

 

「つーか俺のアルバムの話もいいけどさ、いい加減宿題終わらさねぇか?もう残ってんのこなたのヤツだけなんだが。」

「え、嘘!?もう終わったの!?さっきまではこのはの方にも結構あった筈なのに!?」

「ベラベラ駄弁っている間に終わらしたよ。ほら、しっかり見張ってやるからサッサとやれ。」

「う~。」

 

唸り声を上げながらのそのそと宿題の続きを書いていくこなたをぼんやり眺める。

 

「このは君ホント早いね~。」

「ていうかそもそもさ、なんでアンタはそんな頭良いのに不良みたいな事してんのよ。」

「んあ?随分とまた唐突だな。」

 

そしたらかがみ達に話を振られた。仕方なくこなたから目を離して二人と向き合う。

 

「いや、前から気になってはいたのよ。だってそんなに学力高いなら卒業した後も色んな所に行けるでしょうに。なのにわざわざ退学されそうな事をするのが分かんなくてね。」

「なんでと言われても・・・趣味としか言い様がねぇな。中でも屑をいたぶるのが大好きです。」

「・・・真面目に聞いた私が馬鹿だったわ。っていうか随分酷い趣味だな・・・。」

「あ、あはは・・・。」

 

なんか正直に話したら完全にドン引きされた。なんだよ、話せっつったのそっちでしょうが。

 

その後も二人と雑談をしてこなたの宿題が終わるまで時間を潰していき、気が付けば十分程経っていた。思いの外会話にのめり込んでいたみたいだ。

 

 

だからかがみ達に話を振られた時、こなたがしばらくの間顔を強張らせた事に俺は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日・・・

 

「んじゃ、そろそろ帰りますかね。」

 

時刻は朝の十時。俺は荷物を纏めて泉家の玄関に立っていた。

結局昨日は夜中の二時まで遊び、色々話しながら寝た。つっても俺は別の部屋で寝たがな。一緒に寝るのは流石にそうじろうさんが黙っていなかった。

 

部屋から出た途端にドアの側でそうじろうさんが血の涙でも流しそうな顔で睨んできたのにはビビッたなー。と思いながら明後日の方向を見つめていたら、見送りの為に集まってくれたこなた達が話しかけてきた。

 

「もうちょっと遊んでいけばいいのに。せめてお昼ご飯位食べていけば?」

「こんだけおにぎり作って貰ったんだから充分だ。まぁ多分道中にまた適当な飯買い食いすると思うけど。」

「・・・気のせいかしら?私の目と記憶が正しければそのバッグの中には八つ程おにぎりが入っていた筈だけど。それもかなり大きめの奴が。」

「気にしちゃ駄目だよ。だってこのはなんだから。」

「このは君ってお腹いっぱいになる時ってあるのかな・・・?」

 

失礼な。これくらいの量、腹空かした男子高校生ならあっと言う間に食い尽くすっての。

 

「ていうかホントに大丈夫?いくらこのはでも電車の往復代に昨日のケーキ代、それに今日のお昼ご飯代って流石にキツいと思うんだけど。」

「別に財布の中がスッカラカンになる訳じゃねぇから大丈夫だって。」

「いや、でももうすぐ家賃も払わなきゃいけないんじゃなかった?」

「・・・まぁモヤシ生活になる訳じゃねぇし。」

「・・・その顔は忘れていたね。」

「・・・まぁなんとかなるだろ。」

「このは、それはフラグだよ。」

「アンタ達最後まで仲良いわね。」

「いい事じゃないの~?」

 

クソ、コイツら他人事だと思って・・・。

っていかん、そろそろ出ないと帰りの電車に遅れる。

 

「じゃあな。暇な時にまた来るぜ。」

「うん、また来てね~。」

「次来た時はちゃんと知らせなさいよ?」

「このは君またね~。」

 

それぞれから別れの言葉を聞き、手を振りながら駅へ向かう。

 

 

こなた達と別れてしばらくすると先程後回しにしていた問題が再び浮上してくる。

家賃か。完全に忘れてた。そういやそろそろ月末だ。払えない事は無いだろうが自由に使える金がグンと少なくなる事は間違い無いだろう。

いや、でも最近『コレ買いたい!』っていう物も無いし・・・・・・あれ、そういや今バッグに入れてる小説の最新作って明日だっけ?それに家にある本も幾つか新しいの出た気が・・・ヤバイ、早速『コレ買いたい!』って物が出てきた。どうしよう。

 

(落ち着け、とにかく今思い付く限りの選択肢を出すんだ。)

 

・・・1、小説を諦める。

却下。買える金があるのに買わないなんてあり得ん。

・・・2、小説を買う。

微妙。確かに買えるがその場合確実に一日二日はモヤシコースまっしぐらだ。なんせ買うのは一冊二冊じゃないからな。

・・・3、誰かから金を借りる。

あまりやりたくない。出来るだけ借金とかしたくない。奢ってもらうのは万々歳だが自分から頼むのはなんか気が引ける。

・・・4、不良から金をぶんどる。

正直一番惹かれる案だが流石の俺でも毎日不良に絡まれる訳では無いので可能性は低めだろう。

・・・5、食費を浮かせる為にもうしばらくこなたの家に泊まらせてもらう。

これも却下。もう帰ると言った手前、戻って頼むのもアホらしい。

 

(駄目だ、なんかどれも『これだ!』っていう決心がつかん。)

 

ハァ、と溜め息を吐いて2にするかと決めようとしたその時、ふと頭にある人物の顔がよぎり、ピタリと動きを止める。

 

そしてポツリと呟く。

「あれ?コレって名案じゃね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つー訳でしばらく泊めさせてもらうから。」

「・・・せめて事前に連絡くらいしてください・・・!!」

「したよ。ほのかさんには。」

 

思い立ったが吉日、現在俺は岩崎家に来ていた。

 

俺が思い付いたのはこうだ。

『選択肢5でこなたの家が駄目なら他の奴の家に泊まればいんじゃね?』

 

そしてこの案が簡単に通りそうかつ頼みやすい家なんて俺の知ってる連中の中では岩崎家しかない。

案の定ほのかさんにはアッサリOKを貰った。やっぱあの人の懐深いなー。流石金持ち。まあ当然家事や買い出しの手伝い等をする事にはなったがタダで泊めてもらえる事に比べれば安すぎるもんだ。

 

んで今はさっきまでリビングでチェリーを枕にして絶賛お昼寝中だったみなみが自室の中でバタバタ(お掃除)しているのを部屋の外で聞いていた。

 

「んな騒ぐなよ。近所の人達に迷惑だぜ?」

「・・・誰のせいだと思っているんですか・・・!?」

「なんだ?まだ寝顔見られた事気にしてんのか?あれは近付かれたのに起きないお前が悪い。」

「・・・睡眠中に近付かれたら飛び起きて臨戦態勢とれるなんて芸当出来るのこのはさんか軍人か本の中の世界の人達ぐらいでしょう・・・!」

「寝顔見られたくらいで慌てすぎだ。アホ面見られたって思ってんなら気にすんな。可愛かったぞ?」

「・・・っ!・・・女の子にそういう事簡単に言わないでください・・・!・・・口説き文句だと思われますよ・・・!」

「ハッハッハ、俺に惚れる女なぞそうそうおらんて。」

 

まずそもそも知り合いと呼べる人物がまるでいないのだ。その上目付きの悪さに加えて性格の悪さ。少なくとも一目惚れとかする要素なんて欠片もないだろう。つーか一目惚れされたとしてもそんな全く知らない奴と付き合うつもりなんて更々ねぇけど。

 

「・・・それでも要らぬ誤解を受ける可能性はあるでしょう・・・!」

「ご心配どーも。まぁけど安心しろ。こんな台詞特別仲が良い奴にしか言わねぇから。」

「・・・~~~っ!・・・・・・(だからそんな不意討ちみたいな事を言うなって事で)・・・・・・。」

「あ?なんだって?」

「・・・兎に角注意してくださいって事です・・・!」

「あーはいはい。分かりましたよっと。」

 

相変わらずの心配性だなこいつ。そんなに俺が恋愛トラブルに巻き込まれやすいように見えんのか。喧嘩のならともかく、そっち方面ではかすりもした事ねぇよ。

 

しばらくすると部屋の中が静かになってきた。どうやらようやく掃除が終わったらしい。

 

「お、もういいか?」

「・・・い、一応済みました・・・。」

 

じゃ遠慮無く。と心の中で呟き、ガチャリとドアを開けて中に入る。

 

「・・・って、いきなり入らないで下さい・・・!」

「別に俺とお前の仲だし、こんくらいいいだろ?それにお前の部屋って基本的に綺麗だから、そもそも掃除する必要も無い気がするし。」

「・・・わ、私にもプライバシーという物があるんです。・・・それに見知った仲って言ってもこのはさんは一応お客様ですから。」

「そんな堅苦しくなるような事言うなって。メンドイ事この上ない。」

 

中央にある丸テーブルの側に座りながら言う。俺がそういう雰囲気あまり好きじゃない事くらい知ってるだろうに。

 

「・・・それで、当然のように座っていますけどどうしてこのはさんが私の部屋に来てるんですか?・・・たしかこのはさんはお父さんの部屋を使わせて貰うって聞いたんですけど・・・。」

「んあ?いや、だって暇だし。」

「・・・ハァ、そんな事だろうと思いましたよ。」

 

あからさまに呆れたと言わんばかりの溜め息を吐くみなみ。なんだろう、最近色んな奴にやけに呆れられた態度をとられてる気がする。

 

「そんな溜め息吐くなよ、ハゲるぞ。」

「・・・前から思っていましたけどこのはさんって女性に対してデリカシーが無いですよね。」

「基本的に男女平等主義を掲げてるもんなんでその辺は大目に見てくれ。」

「・・・そうですね。昔私と喧嘩した時、容赦無く殴ってきましたしね。」

 

みなみが若干遠い目をしながら呟く。多分会って間もない頃、意見の相違による小競り合いの事だろう。「そんなのもあったなー。」と返しながら当時の敗北(・・)の記憶を思い出す。

 

「あん時は驚いたな。まさかすぐに起き上がるとは思ってもいなかった。結構力には自信あったんだけどな。」

「・・・言っておきますけどアレ本当に痛かったんですからね?・・・二日間まともにご飯食べれなかったんですよ?」

「そりゃ悪かったな。つかなんでアレが二日で治るのか本気で気になるんだけど。自分で作っておいてなんだがスゲェ青痣出来てなかったか?」

「・・・出来ましたし痛かったですし夜は凄くうなされました。」

「そうか、なら喧嘩の基本を知る為にも少ししごいてやろうか?」

「・・・どうして今の流れでそんな話になるのかが凄く気になります。」

「いや、もっと鍛えればそんな悩みも持たずに済むかと思ってな。」

「・・・いや、まずは謝罪をして下さい。」

 

ジト目で見つめるみなみを華麗にスルーして俺はバッグから適当にゲームを取り出す。とりあえずはパズルゲームでいいだろ。

 

「おし、んじゃ通信対戦でもすっか。」

「・・・無視した上に拒否権は無しですか。」

「へーへー、悪かったって。あん時は俺もまだ結構荒れてたんだよ。てか結局勝ったのお前だから別にいいだろ、んな昔の事。」

「・・・勝ったって言われましても、あれは私が・・・いえ、もういいです。・・・あの時の事をこのはさんにああだこうだ言っても無駄になりそうですし。」

 

やれやれと首を振って俺が出したゲーム機を手に取るみなみ。なんか馬鹿にされたような気がするが気のせいという事にしておこう。

 

 

こうして俺は無事に岩崎家に泊まる事ができたのだった。

晩飯の時、みなみとほのかさんに二泊程厄介になった後、そのまま神奈川に帰ると告げると、ほのかさんは

 

「ならその間に沢山働いてもらおうかしら。」

 

と微笑みながら言ってきた。タダ飯食わせて貰ってる身だし、出来る範囲の事ならなんでもやろうと返しておいた。

そしてみなみは

 

「ならその間に色々お話を聞かせてもらっていいでしょうか。」

 

と無表情のまま、だが目には期待を籠めながら聞いてきた。なにこいつ可愛い。

特に断る理由も無かったし暇な時ならいいぞと返しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてあっという間に時は流れ、二泊三日の居候生活は終わり、俺はみなみ達に見送られながら神奈川へと帰還したのであった。




ちょっと無理矢理な感じで終わらせましたがこれで勘弁してください。
ちなみにもう分かっていると思いますが不定期ゾーンに入りました。次話の投稿はかなり遅れると思ってください。
え?もう充分遅れてる?・・・頑張ります。


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