今世紀エヴァンゲリオン (イクス±)
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本編じゃない何か
Fate/Sinji night 1


とある事情により最終回なので初投稿です。

※投稿日4月1日
 旧タイトル『最終回 「二人の戦い」』


イスラフェル戦からそれなりに時が立ち、一人を除いて全ての使徒を倒した僕はついに最終決戦というべき戦いを迎えていた。

 

 

「これで、わかっただろう?」

 

「何が?」

 

 

破壊され、燃やされ、消し飛ばされ。

全てが赤黒く染まり、その空を九体の白い化け物が円を描くように飛んでいる地獄絵図と化した第三新東京市。

その中心に初号機に乗った状態で立っている僕は、視線の先に浮かんでこちらを見つめるカヲルの問いに対して速攻で聞き返した。

 

 

「・・・僕と、いや、使徒とリリンは共存できないってことがだよ」

 

「どうして?」

 

 

再び間を開けずに質問を質問で返されたカヲルは不愉快そうに顔を歪め、僕を見つめる。

彼は僕が自分の言葉に対して何も考えずに、まるで子供の様に聞き返しているだけだと思っているのだろうが、それは違う。

僕はちゃんと、考えてから返答している。

 

 

「本当にわからないんだよ」

 

「・・・なんだって?」

 

 

確かに彼はこの地獄を作り上げた張本人だ。

しかし住民の避難は完璧に終え、さらに念のため初号機以外のエヴァは護衛として全てあちらに付いている。

つまりこの地獄の材料には、この町の建物しか使われていないのだ。

 

 

「確かにそれなりの時間を過ごしたこの町をめちゃくちゃにされたのは悲しいけど、カヲルを敵と見なす理由としては弱いかなって」

 

「・・・そうか」

 

 

僕の言葉を聞いたカヲルは能面のような表情を作って視線だけ上を向く。

僕も同じように上を見ると、旋回していた白い化け物のうち三体が円を描くのをやめて軌道を外れ、僕の真上を通って何処かに向かおうとしていた、ので。

 

 

倒した。

 

 

「・・・何をしたんだい」

 

「・・・君こそ何をしようとしたんだよ」

 

 

三体分の化け物の残骸が降り注ぐ中で僕等は再び視線を交わす。

 

僕がやったのは、ただ化け物の体内に小さなA.T.フィールドを作ってそれを限界まで引き延ばす、その作業を三回繰り返しただけに過ぎない。

彼がやろうとしたことは・・・考えたくも無い。

 

流石にこれは許容できない・・・結局、こうなるのか。

 

 

「うん、君は今から僕の敵だよ」

 

「そうか」

 

「喜ばないの?」

 

「・・・喜んでるよ」

 

「・・・そう」

 

 

その会話の直後、僕等はすでに動き始めていた。

カヲルは一瞬で上昇し、僕に向かって残りの化けものを全て突撃させた。

僕は先ほどの残骸の中から化け物が持っていた武器を素早く拾い上げ、空中にA.T.フィールドで足場を作ってカヲルを追うように飛び出し、化け物共を真正面から迎え撃つ。

 

 

「カヲルウゥゥゥウウウウッッ!!!」

「シンジイィィィイイイイッッ!!!」

 

 

僕等は全力でぶつかり合い、そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、僕の戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕こと間桐慎二は普通の高校生である。

 

成績はいつもトップだし、運動だってできるしさらには結構モテる。

だけど、僕が漫画やアニメ大好きな普通の高校生であることは揺ぎ無い事実なのだ。

 

・・・目の前の、事から、目を逸らせば。

 

 

「喜べ慎二、お前の願いはようやく叶う」

 

 

僕の目前には、それなりの厚さの本を持って不気味に笑う妖怪のようなジジイと無理しているとなんとなくわかる笑顔を作ってこちらに笑いかける妹がいた。

僕は、それを目の前にして言葉に詰まっていた。

 

 

 

僕の家は間桐、マキリという魔術師の名家・・・らしい。

 

らしい、と言っても別に疑っているわけじゃない。

ただ僕自身が確認作業を行っていない、人から聞かされただけの内容を事実の様に扱いたくないだけだ。

僕が間桐の魔術師ならなんやかんやでソレの事実確認が簡単にできるんだろうけど、僕はできない。

 

簡単なことだ。

何故なら、僕は魔術師じゃないから。

 

魔術回路とかいう魔術を使うための器官が無いんだか開いてないんだか忘れたけど、まぁ機能していないのだそうだ。

悔しくないわけじゃない。

そりゃ、魔術なんてオカルトを幼い子供の前にぶら下げたのなら飛びつかないわけがない。

僕だって喜んで飛びつき、その後才能が無いと言われて絶望した。

そして何処からか知らないがうちにやって来て僕の義妹になった桜が、可愛い妹として可愛がっていた桜が僕とは比べ物にならないほどの魔術の才能を持ってると知って、そりゃあもうひどく嫉妬した。

 

だけど、桜への態度は変えたりしなかった。

それどころかもっと完璧にいい兄貴を演じるように努力するようになった。

 

 

・・・『あんな』魔術の訓練をジジイに見せられて、さらに桜に当たり散らすなんて僕にはできなかった。

 

 

僕は魔術師の一族のくせして何故か機械類の扱いに長けていて、そのおかげで普通の魔術師が毛嫌いしている現代科学の産物に全く嫌悪感を持ってなかった僕は、その時すでに様々な趣味に手を出しており魔術師としては無駄極まりない知識を沢山持っていた。

そんな知識を持っていたせいでスーパーヒーローのような魔術師を勝手に理想としていた僕だからこそ、『あんな』ものを見せられた時の絶望は計り知れなかった。

少なくとも、魔術の才能が無いと告げられたことがどうでもよくなる程度には絶望した。

 

もし僕が、余計なものには手を出さずに魔術の事ばっかりを考えて日々を過ごしていたら、魔術を使えないことにこれ以上なく絶望して桜に辛く当たったりもしただろうが、僕は違った。

 

理想を、諦めきれなかったんだ。

 

僕はその日から隠れて桜を助ける方法を必死に考えるようになった。

ジジイに隠れながら、理想の兄貴を演じながら、さらに魔術の力を欲する馬鹿を演じながら、必死に考えた。

考えるだけではなく、ジジイが許す範囲で魔術の本を読み漁り、奴が興味を示さないネットで情報をかき集めたりもした。

 

・・・だけど、結局何も思い浮かばなかった。

高校二年のこの日まで、何の進展も無く過ごしてきた。

 

しかし今日、今この瞬間何かが動き出したのを僕は感じていた。

 

 

「お前の力だ、うまく使うが良い」

 

 

そう言って渡してきたジジイが渡してきたものを、僕は「ようやく欲していたものを手に入れたガキ」を演じながら受け取る。

複雑な表情でそれを見る桜を横目で確認しつつ、機嫌良さそうに早歩きで自身の部屋に戻った僕は、そこで演技をやめパソコンがドンと置かれたデスクとセットになっている椅子に深く座ると、ソレをベッドの上に乱暴に投げ捨てた。

乱雑に着地したソレを視界に収めつつ、僕はさっきジジイに言われたことを思い出す。

 

 

渡され、そして今放り投げたソレの名前は『偽臣の書』というらしい。

なんでも、桜が明日召喚するサーヴァントを僕のものにするのに必要なのだそうだ。

願えば何でも叶う聖杯を手に入れつため七人の魔術師とそのサーヴァントが争う聖杯戦争、その駒の一つを自分のものにできるのだから確かにそれは素晴らしい力だ。

過去の英雄を従えるという並の魔術師では到底できない事を成し得るのだから、魔術師に成りたがっていたガキはそりゃあもう好き勝手に暴れまわるだろう。

そして真の魔術師とそのサーヴァントの怒りを買って簡単に敗退、と・・・

 

つまり、ジジイが僕に望んでいるのは聖杯戦争に置いて見事な『かませ』として退場することってわけだ。

そうすることで間桐は敗退したと錯覚させ、戦いを有利に進めるつもりなんだろう。

あぁ、僕が魔術師では無いからこそできる不意打ちを行うことによって何処か適当な陣営が落ちればいいとも考えてたりするんだろうか?

 

もちろん、その通りに動いてやるつもりは無い。

 

僕はサーヴァントと共に聖杯戦争を勝ち抜き、そしてその過程でジジイを駆逐して桜を助けなきゃならない。

プライドを抑え込んで情けない演技を続けてきたこの数年間の清算を、キッチリとこの機会に済ませなければならないのだ。

 

 

・・・無理だ。

どう考えても無理だ。

 

ジジイが何から何まで用意して桜に召喚させたサーヴァントを、ジジイが用意した方法で僕に従えさせてる状態でジジイを倒せるわけがない。

どうせジジイは何か対処法を用意しているだろう。

自分では完璧だったと自負している演技も、何処か穴が合って僕の裏切りがジジイの予定の範囲内なんてことは十二分に有り得る。

僕とそのサーヴァントだけじゃ、絶対にジジイを倒すことなんてできない。

 

・・・ダメだ、いくら考えても他のマスターに協力を要請する最終手段以外思いつかない。

 

でもダメだ、殺し合いが基本の聖杯戦争でそんな人任せな作戦を実行に移すわけにはいかない。

 

でやっぱり・・・ダメ、だ・・・それ以外に方法なんて・・・ジジイの裏をかく方法なんて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――無い。

 

奇跡でも起きなければ、絶対にジジイは倒せない。

 

 

その結論に至った僕は椅子から静かに立ち上がり、机と壁の隙間から紙の束を取り出す。

紙の束をそれなりに広い自室の中心に置き、音を立てないように静かにそれに描かれた模様が意味を成すようにバラシて床に並べ始めた。

 

・・・そして数秒後に完成したのは幾枚の紙の上に書かれたサーヴァントを召喚するための召喚陣。

僕はその前に立つとこの屋敷内にいる全ての人間に悟られないような小さな声で詠唱を始めた。

 

 

「―――素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 」

 

 

僕にはサーヴァントを召喚するための令呪が無い。

 

触媒も無ければ、召喚するための魔力だってない。

 

 

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

どう考えても僕には英霊を召喚することはできない。

 

どう考えても他のマスターに縋り、その正義感やらプライドやらを頼りにした方が何倍も現実的だ。

 

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 

だけど、それは最終手段だ。

 

あらゆることを試した後に、縋るべき最後の手段だ。

 

 

「――――――告げる」

 

 

であれば、僕は全力を尽くさなければならない。

 

 

「――――――告げる!」

   

 

どんなに現実的じゃ無くても、

 

どんなに非効率的だったとしても、

 

それが過去にやろうとして諦めたボツ案だとしても!

 

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

まだ試していない事があるなら、僕は全力でそれを実行に移さなければならない!!

 

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 

何故ならヒーローとは・・・

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、」

 

 

・・・自分の力で奇跡を手繰り寄せる者なのだから―――!

 

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

最初は蚊の鳴くような声だった詠唱は、僕の気持ちの高ぶりに呼応するように大きなものになっていた。

詠唱をやめ耳をすませば、屋敷の住人が僕の部屋を目指して走ってくる音が聞こえそうなこの状況で、僕は奇跡を絶対に起こすという決意を持ち最後まで言葉にした。

 

すると、唱え終わると同時に義臣の書を投げたせいで不安定になっていたのか、ベッドの脇にある漫画やらアニメのビデオやらが収納してあった本棚が、うんともすんとも言わない召喚陣の上に倒れ込んで来た。

そして召喚陣を覆い隠すように漫画やビデオの山が出来上がった次の瞬間、それは大半を覆いつくされているにも関わらずは部屋を真っ白に染めるほどの光を発した。

光を発するまでの過程で完全に諦めかけていた僕にはそれが完全な不意打ちで、変な声を上げて後ろに倒れ尻もちをついてしまう。

尻もちをついたまま光にやられた目を擦り、数秒後慣れてきた目で何が起こったのか召喚陣の方を確認する。

すると、召喚陣の上の漫画とビデオの山に座ってこちらを眺める何者かがいるのを認識して、僕はさらに変な声を上げた。

 

 

「・・・なんだろう、こういうのって召喚された後すぐに言うべきなんだろうけど、なんかタイミング逃しちゃったな」

 

 

ソイツはすごく聞いた事のある声でそう言うと山から降りて僕の前に立ち、何処かカッコつけた様子で次のセリフを言った。

 

 

『―――サーヴァントライダー、召喚に応じて参上した。問おう、君が僕のマスターだね?』

 

「・・・あぁ、僕がお前のマスターだ」

 

 

僕は自分はやり遂げたんだという計り知れない達成感を噛み締めながら、ため息交じりになりつつもしっかりと返答する。

 

でも、アレだな。

よく見るとコイツ見覚えあるし、やっぱり声も聞き覚えがある。

僕はソイツに手を引っ張られて立ち上がりながら、ちらりと目線を下に向けてその疑問を一気に確信に変えた。

僕は立ち上がって僕よりも背が低いソイツを真正面から見据えると、思ったことをそのままに口にした。

 

 

「―――お前は、碇シンジなのか?」

 

「そういう君は間桐慎二―――」

 

 

ソイツは、いやライダーのサーヴァントである碇シンジは、『新世紀エヴァンゲリオン』のビデオを踏んづけながら何処か聞いた事のあるセリフを口にしたのだった・・・

 

 

 

Fate/Sinji night

 

 

―――ステータス―――

 

【クラス】ライダー

【マスター】間桐慎二

【真名】碇シンジ

【身長・体重】165cm、54kg

【属性】秩序・善

【性別】男性

【特技】楽観思考

【好きなもの】GOODEND

【嫌いなもの】BADEND

【天敵】ギルガメッシュ

【ステータス】 

 筋力D

 耐久E 

 敏捷C(B)

 魔力E(EX) 

 幸運A++ 

 宝具EX

 

【クラス保有スキル】

・騎乗A+

・対魔力E

 

【固有スキル】

・神殺しA

神の使徒の名を冠する存在との戦いを経て得た。

・高速思考C

敏捷のランクを1引き上げる。

・A.T.フィールドEX

クッソ硬い。破りたかったらラミエル並の攻撃をするんだな。

・自己改造D

なんで持ってるのかは気にしない方向で。

 

 

【宝具】

『破壊し救う審判の巨神(エヴァンゲリオン)』

ランク:EX

種別:対使徒宝具

レンジ:1~100

最大捕捉:100人

 

概要:完全に世界を間違えている宝具。

基本的な運用方法はアニメFGOのウィッカーマンのように別の空間から腕やら足やらを出して攻撃やら防御やらをする。

もちろん本気を出すと全身を出現させて乗る。冬木市がヤバい。

でもエヴァ初号機の特性上、機体にはマイナススキルでお馴染み『神性』が付加されてしまっているので無敵では無い。

師匠は帰って。

 

『■■器官』

ランク:EX

種別:生産宝具

レンジ:0

最大捕捉:1人

 

概要:例のあの器官。

エネルギーを無限に生み出す夢の器官。竜の心臓なんて目じゃない。

これのお陰で現界し続けられるし全力で戦闘できる。

魔力をEXに引き上げているのはもちろんコレ。

 

『サブカル知識』

ランク:B

種別:対展開宝具

レンジ:0

最大補足:1人

 

概要:その世界において娯楽に該当する物や文化の知識を召喚された直後に得ることができる宝具。

ほぼスキルみたいなものだが、降り立った世界の文明レベルや歴史を瞬時に把握できるというスキルにしては便利過ぎる代物のため、宝具認定。

他のクラスで召喚されることによってランクは上がったり下がったりし、今回はライダーなのでB。

そこそこマイナーな知識は得られない仕様になっている。

 

世界に




唐突に始まった慎二とシンジの聖杯戦争。
二人の戦いはどうなっていくのか?
最後まで勝ち抜くのか、それとも早い段階で敗退するのか。
というか、お互いがお互いの『原作』と言えるべきものを知っているという、このおかしな状況は何なのか!?
今後の展開が全く読めない(考えてない)Fate/Sinji night、次回もお楽しみにね!




以下、4月1日午前12:00分追記




・・・なぁ~んちゃって☆(真ゲス)

最終回ってのはもちろん嘘だよ!!
ジャンジャジャ~ン!今明かされる衝撃の真実ゥ!

・・・ってな感じで驚かそうと思ってたのによぉ。
殆どの読者様達が全く俺の最終回宣言信じてねぇんだから、可笑しくって腹痛いわ~!

なら見せてやろうかぁ?もっと面白い本編をよぉ!!

というわけで本編の方も(一応)絶賛執筆中ですので、気長に待っててね!


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Fate/Sinji night 2

令呪で命じられ今日からこっちが本編なので初投稿です。

※これは4月1日に投稿したものです。



「で……お前さんが、慎二が召喚したというサーヴァントなのじゃな?」

 

「はい、ライダーです!」

 

「むぅ……」

 

 

僕がライダーを召喚してから数分後。

家のリビングで僕と桜が見守る中、ジジイとライダーは何度も同じ問答を繰り返していた。

何でも、ジジイは僕がサーヴァントを召喚したのがどうしても信じられないらしい。

 

……奴に同意するのは癪だけど、僕も未だに実感が湧かない。

なんでサーヴァントを、ライダーを召喚できたのか僕自身さっぱりわからないからだ。

 

サーヴァントライダー、碇シンジ。

唯でさえシワだらけの顔をさらにシワくちゃにして考え込むジジイを前にして、ニコニコと人当たりの良い笑顔を顔に浮かべている僕のサーヴァントであるらしい奴の姿を見て、僕は先ほどの出来事を思い出す。

 

 

召喚した直後の事だ。

ライダーを召喚して、そのライダーが僕の名前を口にした次の瞬間、僕の目の前は一面薄いオレンジ色に染まった。

僕とライダーを囲むようにオレンジ色の壁が現れたのだと気づいたのは、事が終わってからだった。

 

突然の事態に、尻もちをついたまま混乱する僕の目線に合わせるように膝立ちになるライダー。

反射的に後ずさろうとした僕の肩を、逃がさないと言わんばかりに掴んだライダーはそのまま顔を至近距離まで近づけて話しかけてきた。

 

 

『ねぇマスター』

 

『な、なんで、お前、僕の名前、なんで―――』

 

『間桐臓硯が改心したら、許せる?』

 

『……は?』

 

 

そのあまりにも突拍子の無く、そして意味不明な問いに僕は思わず素に戻って反応してしまった。

多分間抜けな面を晒して固まっていただろう僕に向かって、ライダーはさらに語り掛ける。

 

 

『もしも間桐臓硯が改心して正義のために生きようとしたら……君は彼を許せるかな?』

 

 

なんで召喚できたんだ。お前はなんなんだ。なんで僕を知ってるんだ。なんでジジイの事を知ってるんだ。

 

頭の中は相変わらず疑問だらけでぐちゃぐちゃだ。

口を開けばきっと先ほどと同じように、形を成していない問いのような何かが飛び出るもんだと思っていたが、違った。

 

 

『許せない』

 

 

今思い出せば、それはほとんど即答だった。

混乱した頭でライダーの問いの内容を正しく認識した次の瞬間には、そう口走っていた。

 

あの邪悪の化身みたいなジジイが正義に目覚める?

ドラゴンボールみたいに、改心して仲間になるってことか?

 

……ふざけるな!!

 

桜にあんな仕打ちをしておいて今更正義に目覚めるだって!?

そんなのダメだ!許せない!!許さない!!!

たとえ桜が許したとしても、僕は絶対に許さない!!!

 

奴は、奴は……!

 

 

『奴は、殺されるべきだ!!!』

 

『わかった、あとは任せて』

 

 

僕の答えを聞いたライダーは真剣な表情でそう言うと、静かに立ち上がって手を翳す。

すると周りを取り囲んでいたオレンジ色の壁が消え、ジジイと桜が雪崩れ込むように僕の部屋に入って来たのだった。

 

 

粗方思い出し終わった僕は、改めてニコニコしたままジジイの質問に答え続けるライダーを見る。

 

一応、落ち着いて考えれば先ほどの出来事については、ある程度理解できる。

 

ライダーの真名は碇シンジ。

見た目と声、あと僕が名前を呼んだときに否定しなかったことからもわかるし、さっきジジイに聞かれて普通に名乗ってたことから、多分それは間違いではないだろう。

 

だとすれば、先ほどのオレンジ色の壁の正体も自ずと掴めてくる。

何故A.T.フィールドを人間であったはずの碇シンジが使えるかわからないが、割りとよくスーパーシンジ系の二次創作で巧みに操っているのを見るので、それについての違和感はそんなに無い。

 

A.T.フィールドを張った理由もわかる。

それは先ほどの会話を聞かれたくなかったのと、僕に問うための時間稼ぎがしたかったからだろう。

現に、大体聞かれたことにはほとんど正直に答えてるっぽいライダーだが、そこだけは「マスターが襲われていると勘違いした」と説明をしていた。

 

この通り考えればわかることもあるのだが、わからないところが致命的すぎる。

なんで僕や僕の周りの環境について詳しいのかわからないし、なんであんな問いを投げかけてきたのかもさっぱりだ。

というか、そもそも僕の知ってる碇シンジとライダーの性格が違い過ぎる。

 

なんだよ「わかった、後は任せて」って。

頼もし過ぎるわ! シンジは絶対そんなこと言わない!!

 

A.T.フィールドの事もあるし、もしかしなくてもこいつ二次創作出身なのか?

 

 

「……のぉ、そもそも何故魔力の無い慎二がお主を召喚できたのじゃ?」

 

 

と、勝手に心の中で考察を繰り広げていたところで、ジジイが僕自身気になっていた事についてライダーに質問したので意識をそちらに傾ける。

 

 

「あぁ、それはもちろん条件が揃ったから、ですね」

 

「慎二がふざけて行った召喚の儀で、サーヴァントを召喚するための条件が揃ったというのか?」

 

 

ジジイ、ちょっとイラついてるな。

まぁ、ジジイは確か召喚魔術が特に得意だったはずだし……「調子に乗って召喚の儀やってみたらできました!」なんて言われたらイラつきもするか。

ざまぁ。

 

 

「サーヴァントを召喚するにあたって必要なのは、召喚式、詠唱、令呪、触媒、魔力ですよね?」

 

「まぁ、大体は合っておるの……触媒については絶対必要というわけでも無いが」

 

「まず、召喚式と詠唱についてはマスターがふざけて行ったとはいえ、問題無いレベルでした」

 

僕の事情を知ってるが故に、僕がふざけて召喚を行ったという設定を大事にしてくれているらしいライダー。

 

敵であるジジイに一部誤魔化しているとはいえ、自身についての情報をほとんど開示したものだから敵か味方か判断に迷ってたけど……

……味方として見てもいいのか?

いや、まだ断定するには早計か。

 

 

「令呪に関しても、その……偽臣の書? というものがあったので問題ないでしょう」

 

 

多分偽臣の書についても知ってるだろうに、かなり完成度の高い知らないふりを披露するライダー。

 

こいつの演技力はなんなんだ?

シンジにあるまじきハイスペックっぷりで頭が痛くなってくる。

絶対二次創作出身だろ、こいつ。

 

……いや、一応両親はエリートだったはずだから血筋的におかしくない……のか?

ダメだ、わけわからん。

 

 

「触媒についてはこれですね、これが僕の触媒でした」

 

 

そう言ってライダーは何処からともなく『新世紀エヴァンゲリオン』のビデオを取り出すと、ジジイの目の前に置いた。

どうやら、僕の部屋から出る時に持ってきたらしい。

 

 

「そして問題の魔力ですが、これは全て僕が負担しています」

 

 

は?

 

 

「……召喚に必要な魔力を、呼び出される側のサーヴァントが負担した、じゃと?」

 

「はい、魔力を生み出す宝具を保有してるので可能です。まぁ、触媒無しだと召喚される英霊の選択肢が多すぎるので難しいですが、今回はこの触媒で大分絞られたのでこちら側から反応することができました」

 

 

んな触媒で召喚されるのはお前ぐらいだろうよ!

 

……いや待て。

あの時召喚式に倒れ込んだ物はエヴァに限らず色々あったはずだ。

だとしたら、他のキャラが召喚される可能性があったというのか……?

 

ヤバい、ちょっとテンション上がって来た。

 

 

「……ほう? 魔力を生み出す宝具とな?」

 

「それで現界するための魔力も補ってますし、全力で戦闘する際もマスターに全く負担をかけませんよ」

 

「それはそれは、なんとも都合のいい宝具じゃなぁ」

 

 

あ、ジジイ嬉しそう。

テンション下がった。

 

でも、確かに都合がいい。

つまり魔力が無い僕がマスターのままでも、ライダーは全力を発揮できるということなのだから。

 

……こいつの全力がどれほどの物かは知らないけど。

 

 

「ライダーよ、お主は何を求めてこの戦争に参加したのじゃ?」

 

「んー、変な言い方になってしまいますが、僕は聖杯戦争を求めてやってきました」

 

「どういうことかの?」

 

「だって面白そうじゃないですか、古今東西の英雄が集う戦争なんて! こりゃ参加しないわけにはいきませんよ」

 

「ほう……つまり、聖杯は要らないと?」

 

「僕は必要ないですね、もちろん参加した以上全てを賭して勝利を目指しますけど」

 

「……それは、なんとも」

 

 

都合がいい、と口にするのをなんとか押しとどまったらしいジジイだったが、その顔は気持ち悪い笑みで歪んでいた。

 

 

「あ、そうだ! マスターの願いはなんですか?」

 

 

別に願いが何だからといって戦いをやめるわけでは無いんですが、気になるので一応ね! と言ってこちらに顔を向けるライダー。

僕の願いはジジイを殺すこと、それもライダーは知っているはずだが、しらばっくれるというなら僕もそれに合わせることにする。

僕はいつもジジイに言っていた願いを堂々と口にした。

 

 

「僕はこの聖杯戦争で証明するのさ! 魔術師共に、この僕の力をね!!」

 

 

僕が普段ジジイの前で演技している『魔術の才能が無くてもそれを諦めきれないガキ』らしい願いを口にすると、ライダーは少し困った顔をした。

 

 

「そうですか……いえ、マスターの願いがいけないというわけではないんですが、マスターも聖杯を使う予定が無いとなると……」

 

 

どうしましょうかね聖杯、と困った様子で腕を組むライダーを見て、下手なことを言い出されては困るといった様子のジジイが少し焦った様子で口を挟む。

 

 

「実は、わしに叶えたい願いがあってのぅ……」

 

「あぁ、お爺さんが使うんですね! よかった! もう少しで適当な願いを考えるところでしたよ!!」

 

 

そう言って手を叩きながら先ほどにも増してニコニコしているライダーに、僕はジジイと二人で顔を引きつらせる。

 

適当な願いって……お前なぁ。

 

 

「で、どんな願いなんです? 莫大な富? 死者蘇生? 若返りとか?」

 

 

そう言って目をキラキラさせてジジイに詰め寄るライダーに、僕は呆れ果ててため息を吐く。

 

お前、願いは何でもいいとか言って置きながら興味津々じゃないか!

 

 

「若返りにちと近いかもしれんがのう……不老不死じゃよ」

 

「不老不死! いいですねぇ人類の夢です!!」

 

 

願いを言わなきゃ収まらないと判断したらしいジジイはライダーに願いを告げ、それを聞いたライダーは手を叩いてそれを肯定した。

 

不老不死なんてものになられたら、もう手が付けられなくなる!

ジジイにだけは聖杯を使わせちゃダメだ。

 

だってのにこのライダーは……信じようをした僕が間違いだったのか!?

 

 

「それで! それで! お爺さんの真の目的とは!?」

 

「……真の、目的?」

 

 

いきなり変な事を言い始めたライダーに、ジジイは質問の意味が理解できずに目を丸くする。

もちろん僕も意味がわからないので、我慢できずにライダーに問い返す。

 

 

「なんだよ真の目的って! お爺様の目的は不老不死! 今言ってただろうが!!」

 

「……あれ、そうなんですか? いや、てっきり何かを成すために不老不死になりたいんだと思ったもんで」

 

 

……僕はそれを聞いて、少しの疑問を抱いた。

確かに、と納得してしまったからだ。

 

僕の知っている不老不死を目指した存在、または不老不死の存在も何か別の目的のためにそれを目指す、もしくは成っていたのだから。

 

ドラゴンボールがいい例だ。

ベジータは永遠の闘争を求め、フリーザは永久の君臨を求めた。

多くの例に置いて、不老不死とは手段だった。

もちろん唯単に死にたくないから、という理由で求めたという例もあるがそれは少数派だ。

 

だからこそ僕は疑問を抱いた。

 

家族すら食い物にして長い時を生き永らえる、うちのクソジジイ。

そんなジジイも、もしかして僕の知らない願いを持っているのではないか? と。

 

 

「……お爺様、目的があるんですか?」

 

 

ここで初めて、僕の隣に座っていた桜が口を開く。

どうやら僕と同じ疑問を抱き、ジジイにそれを問うのを我慢できなかったようだ。

 

 

「……」

 

 

しかし、ジジイはそれに答えない。

というか、僕には桜の言葉はジジイには届いていないように見えた。

何故ならジジイはライダーの問いを聞いて茫然としてから、微動だにしていないからだ。

 

辺りにジジイを中心とした沈黙が落ちる。

ジジイに視線が集まったまま数十秒が経ち、そしてライダーの表情が気になりかけたところで、ようやくジジイは口を開いた。

 

 

「……そう、じゃ……わしには目的があった」

 

「やはりですか! で? 一体どんな目的なんです!?」

 

 

ジジイの言葉に衝撃を受ける僕等を置いて、ライダーはまた笑顔でジジイに詰めよる。

そこで僕は気が付いた。

ライダーの表情が先ほどの輝かんばかりの笑顔から、寒気を感じる張り付いたような笑みに変化していることに。

しかし、どう見ても普通の状態ではないジジイはそれに気づいた様子も無く話を続ける。

 

 

「……それが、思い出せんのじゃ……わしの目的が……」

 

「え!? それは大変ですねぇ……どうやらお爺さんは随分と長い時を生きていらっしゃったご様子、故に記憶が摩耗するのも仕方のない事なのでしょう」

 

 

そう言ってジジイから顔を離し、難しい顔をして腕を組むライダー。

 

ライダーの演技は完璧だった。

先ほどまでのジジイに対する対応は全く敵意を感じさせず、とてもスムーズに話を進めていた。

僕もその演技に飲まれ、ライダーに怒鳴った時なんか完全に素で反応してしまっていた。

 

だからこそ落差を感じてしまう。

今のライダーからは、先ほどまでのが全て演技だと確信できるほどに、ジジイに対する敵意を感じ取ることができた。

 

 

「んー! しかし気になりますねぇ、いったいお爺さんの目的なんだったのでしょう?」

 

 

ライダーはきっと、この話題に持ち込むために演技していたのだ。

敵意を隠さないのも、もはや勝ちも同然だからなのだろう。

何故、この話題でジジイがここまで茫然自失となるのかは「まだ」わからない。

しかし、次の瞬間には理解できるのだろうと、僕は静かにそのとどめの一撃がジジイに振り下ろされえる瞬間を見守る。

 

 

「根源への到達でしょうか?」

 

「世界征服でしょうか?」

 

「それとも―――」

 

 

その止めの一撃の衝撃が……

 

 

「―――この世の悪の、根絶でしょうか?」

 

 

僕と桜にも及ぶとは考えもせずに。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

その後、ライダーの言葉に全員が固まって動かない中、ライダーにねこだましを繰り出され誰よりも早く再起動した僕は、言われるがままに桜を自室に押し込めてから屋敷を出た。

そして、しばらくは人に道を尋ねながら歩みを進めるライダーの後ろを黙って歩く僕だったが、人通りが少なくなってきたところでタイミングを見計らい話しかけた。

 

 

「……なぁ、ライダー」

 

「どうしたのマスター」

 

「なんで、僕に道を聞かないんだ?」

 

「心の整理が必要かと思って」

 

 

こっちを見ずに歩きながら告げられたライダーの言葉に、僕は再び押し黙った。

 

先ほど、ライダーの手によってジジイへ振り下ろされた言葉の刃は、すぐ横で聞いていた僕と桜にも少なくないダメージを与えた。

何故、あの問いによってジジイが固まって動かなくなったのか?

その答えに行きつくのはあまりにも容易で、そして僕等にとってはあまりにも残酷だった。

 

 

「……さっきのあれ、本当なのか?」

 

「うん」

 

 

思わず口に出した曖昧な問いに、ライダーは相変わらずこちらを見ないままで答える。

その簡潔な返答で、僕は自分の考えが正しい事を悟った。

 

間桐臓硯の真の目的……いや、本来の目的はこの世に存在する全ての悪の根絶だった。

その不可能に限りなく近い偉業を果たすための時間を得るために、臓硯は不老不死を求めていたのだが、その場凌ぎの延命を行って長い時を生きた結果、記憶が摩耗し本来の目的を忘れ不老不死になることこそが自分の目的であると思い込んでいた。

 

これが、ジジイとライダーの会話から僕と桜が導き出した間桐臓硯の真実だった。

そしてそれが正しいと肯定された今、奴のやってきたことを知っている僕はやり切れない気持ちに襲われた。

 

 

今までの悪行は全部、ただの思い込みで行われてたっていうのか?

桜への拷問も、家族や関係のない一般人にやってきたことも全部?

 

……なんだよ、それ。

 

 

「一応、延命のため体を虫に置き換えた結果、心と体の違いに苦しんで記憶の摩耗がさらに加速したって理由もあるけど……」

 

「そんなの知るかッ!!!」

 

 

僕の考えを補足するようにライダーが記憶の摩耗の要因について説明するが、今の僕にはふざけた言い訳のようにしか聞こえなかった。

いつの間にか立ち止まって僕の方に向き直っていたライダーに、僕は掴みかかると至近距離まで顔を近づけて怒鳴りつけた。

 

 

「おいライダー!! 早くあのジジイを殺せ、殺してくれ!! じゃないと頭がどうにかなっちまいそうなんだよ!!!」

 

 

僕がジジイに直接何かされたわけじゃない。

しかし、ジジイに食い物にされた人の真実を知って部屋で茫然としているであろう桜の気持ちを考えると叫ばずにはいられなかった。

 

ライダーは自分より背が高い相手に迫られ、怒鳴られているというのにその真剣な表情を崩すことは無く、真っ直ぐに僕を見つめたまま口を開く。

 

 

「落ち着けとは言わないから取りあえず話を聞いてよマスター、僕はそのジジイを倒すためにここに来たんだから」

 

「……ここ?」

 

「うん、正確にはここにいるキャスターと同盟を結ぶために、だけどね」

 

 

そう言ってライダーが指示したのは長い石の階段とその先に佇む山門。

僕はここでようやく自分が柳桐寺の前にいることに気づいた。

 

 

「ここに……キャスターが……」

 

「ほら、ぼさっとしてないで行くよマスター! いくら時間稼ぎをしたとはいえ臓硯が何を仕出かすかはわからないままなんだからさ」

 

「わ、わかった」

 

 

僕は再び、先ほどのように先へ進んでいくライダーの後ろについていく。

が、今さらっとライダーが言っていたことを思い返し、階段を上りながらではあるがすぐに問いただす。

 

 

「っておい、さっきの問答って時間稼ぎのためだったのか?」

 

「そうだよ? さっきも言った通りなんか仕出かされたら困るし、監視されてもやりにくいからね」

 

 

だからちょっと行動不能になって貰ったんだ、と語るライダーに僕は後ろを歩きながら顔を引きつらせる。

 

時間稼ぎのために止めを刺すってなんかおかしくないか?

効果抜群なのはジジイの様子からしてわかるけど、納得がいかない。

 

そんな気持ちを込めて前を歩くライダーを睨みながら歩いていた僕だったが、その足は石段の中腹辺りで止まることとなった。

理由は簡単、ライダーがいきなり上ることをやめたからだ。

 

黙って上方を見つめるライダーの視線を追ってみても、その先にあるのは先ほど見えた山門のみ。

どうしたんだと問いかけようとしたところで、僕よりも一瞬早くライダーが口を開いた。

 

 

「……すみません、キャスターと同盟を結びたいので通ってもいいですか?」

 

「―――ほう、女狐の言った通りか」

 

 

ライダーの問いに答えるように返って来た声に、僕は弾かれた様に視線を上に戻す。

すると、先ほどまで誰も居なかったはずの山門の前には紺色の着物を着こなし、腰には見た事が無いほどに長い刀を差した侍が、まるで最初からそこに居たかのように佇んでいた。

 

 

「気配を探った様子も無ければ、鎌をかけたわけでもない……どうやら、本当に私がここにいるのを知っていたとみた」

 

「キャスターから聞いたんですね……しかし、随分と情報が早い」

 

「いやなに、数瞬前に女狐めが随分と慌てた様子で告げて来よってな……すぐそこまで来ているサーヴァントが、こちらの内情を知り尽くしている可能性がある、とな」

 

「まぁ聞かれてますよね、当然」

 

 

随分と饒舌に会話をするライダーと侍。

僕は二人の会話の内容から、なんとなく現状を理解し始めていた。

 

先ほどまでの僕達の会話はキャスターに聞かれていた。

目の前の侍はキャスターの仲間で、僕等が階段を上り始めた辺りで連絡を受けこちらを待ち構えていたが、その全てをライダーは予測、もしくは知っていたのだ。

 

これが多分、今の状況だと思う……女狐=キャスターで間違いなかったらだけどな!!

 

 

「……して、ここを通りたいのであったな? であればお主の力を示すがいい」

 

「あー、やっぱりそうなりますか」

 

「まぁな、女狐とて自衛すらできぬ荷物を抱え込むつもりなど無いだろうよ」

 

「そりゃそうだ……というわけでマスター、ちょっと下がってね」

 

 

突如として張り詰めだした空気に、頭をかきながら何処か困ったように僕にそう告げるライダー。

僕はそれに素直に従って一歩下がった。

 

一応、状況把握した時点でこうなることは予想できていた。

侍が山門の前から退く素振りは微塵も見せなかったのもあるが、そうホイホイと自身の根城に怪しい奴を招き入れたりはしないだろうからだ。

で、ここでライダーが負けたりキャスターの目に適わなかったりすれば、一巻の終わりなわけだが、それに関してはあまり心配していない。

 

まぁ、ここまで予想しておいて戦うことを想定していなかった、なんて事はバカなことはライダーに限って無いだろう。

一応、僕はもうそれなりにライダーの事を信頼しているのだ。

 

先の会話でライダーが本気でジジイを倒すために行動してくれているとわかった以上、いつまでも自分のサーヴァントを疑ってるわけにもいかないしな。

 

 

「――構えぬのか?」

 

「……構えが無い系サーヴァントなので気にしないでください」

 

 

刀を腰から引き抜き長い刀身を空気に晒しているのにも関わらず、何処か自然体を思わせる構えをしている侍よりも自然体な棒立ちを披露するライダー。

不思議そうな表情をして疑問を投げかけた侍だったが、ライダーの返答に小さく笑みを浮かべ「そうか」と呟く様に言った直後、その姿は掻き消えた。

 

 

ガキィン!!!

 

 

侍の姿が掻き消えたと僕が認識した一瞬後に、何かがぶつかり合ったような大きな音が辺りに響いた。

そして僕はそこで、ライダーが侍の刀をA.T.フィールドで受け止めているのにやっと気づいた。

 

 

「……早っ」

 

「――驚いた、まさかこうも完璧に防がれるとは」

 

 

ライダーが自身の斜め前に小さく展開したA.T.フィールドは、位置からして首を狙って行われたであろう攻撃を見事に防いでいた。

 

 

「お主――私の動きを完全に知覚していたな?」

 

「……」

 

「視線は動いていなかった、しかしなんとなく見られていると感じ――そして、防がれたことでそれを確信した」

 

「……えぇ、まぁ思考速度には自信があるので」

 

「そして極めつけはこの壁、不思議なものだ……向こうが透けて見えるほど薄いというのに、これは斬れんと確信できるほどに硬いときた」

 

「硬さには、自信がありますからね」

 

「うむ、誇るのに相応しい代物だろうよ――」

 

 

そう言うと侍は口を閉じ、刀を鞘に戻した。

そして虚空を見上げると朗らかに笑いながら、見ているであろうキャスターに向けて口を開いた。

 

 

「女狐よ、見ての通り私では手に負えん相手だ、せいぜい頑張るがいい」

 

 

そう言うと侍は再び視線をこちらに戻し、笑ったまま体をずらし道を開けた。

 

 

「通るがいい、ライダーとそのマスターよ」

 

「い、いいのか?」

 

 

思わず問いかけてしまった僕の言葉に、侍は何でもないように答えた。

 

 

「良いも何も、私ではそこのライダーに敵わぬからな……それしかあるまいよ」

 

「まぁ、相性の問題でしょうけどね」

 

「並のサーヴァントでは到底破れぬであろう防御を持ちながら、ぬかしおるわ」

 

 

そう言いながら早く行けと促す侍に従って僕とライダーはその横を通り、石段を上る。

そして一番上に辿り着き、山門を通ろうとしたところで後ろから声がかかった。

 

 

「――もし女狐との同盟が成立したならば、いつでも構わん……また、その壁に挑戦させては貰えぬか」

 

 

その問いに、ライダーは振り返らずに応対する。

 

 

「いいですけど、なんでですか?」

 

「なに、単純なこと……どうしても斬りたくなってしまった故にな」

 

「……生意気言うようですみませんが、燕より大変かもしれませんよ」

 

「……それは、なんとも――」

 

 

――斬りがいがある。

その言葉を背に受けながら、僕とライダーは柳桐寺へと足を進めた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「―――ようこそ、私の工房へ」

 

 

無表情の住職に案内されてやってきたのは、薄暗い部屋。

そしてそこで待ち構えていたのは、フードを深くかぶり顔を隠した女性だった。

 

 

「そこのサーヴァントが知っているでしょうし、自己紹介はする必要は無いわね」

 

「あんたが、キャスター……」

 

「えぇ、その通りよ」

 

 

僕はその返答に顔を顰める。

それは先ほどの言葉が、僕に大きなプレッシャーをかけているに他ならなかった。

 

 

「そこのマスターは魔術師の工房に足を踏み入れるという意味が、良くわかっているようだけど……」

 

 

そう言って僕を見てからライダーの方へと顔を向けるキャスター。

そこには先ほどの変わらず自然体のままのライダーがいた。

 

 

「まぁ僕は魔術で攻撃されようが何されようが、あんまり意味ないですからね」

 

「……宝具が本体だから、とでも言うつもり?」

 

「や、まぁ実際そんな感じなんですけどね」

 

 

と、いまいちハッキリとしない返事をして笑うライダー。

そんなライダーのおちゃらけた雰囲気は、次の瞬間には鳴りを潜めてしまった。

 

 

「すみませんが、ちょっと時間が押してるので本題に入ってもいいですか?」

 

「えぇ、いいわよ? 同盟の事ね」

 

 

僕が見たことのないライダーの様子に驚く中、キャスターは微塵も動揺することなく対応する。

 

 

「まず問わせてほしいのだけど、何故私と同盟が組みたいのかしら?」

 

「あなたにしか解決できない物事を抱えているからです」

 

「……そこの坊やが言っていた、「ジジイ」の抹殺ね」

 

「そうです」

 

 

僕の叫びを当然のことながら聞いていたらしいキャスターは、正確にこちらの要求を言い当てた。

 

……人通りがほとんど無いとはいえ、あんなところで物騒な事を叫んだのだからそりゃ聞かれてるよなぁ。

気持ちが抑えられなかったとはいえ、反省しなきゃな。

 

 

「あなたにはできないのかしら、攻撃手段が無いとか?」

 

「いえ、自分でもちょっとどうかと思うくらいの戦力はあるんですが、いかんせん攻撃が大雑把で……しかも物理なので、かなり難しいですね」

 

 

僕はそれを聞いて、まぁそうだろうなと一人で納得する。

 

ライダーの宝具は開示されていないため、憶測でしかわからないが十中八九エヴァ初号機だろう。

ならばA.T.フィールドについても、攻撃が物理で大雑把なのも理解ができるというものだ。

 

 

「そ、そう……ところで「ジジイ」というのは間桐の当主の事で間違い無い?」

 

「えぇ、合ってます」

 

「当主は老人、ということは調べがついているのだけど、その詳細についてはわかっていないの。説明して貰えるかしら?」

 

 

……キャスターが、ジジイの事を知らない?

てっきり知っているものだと思っていたのだが……

 

 

「……あのねぇ坊や、どう見ても聖杯戦争に向けて強化された結界を突破しての情報収集なんて、よほどの事が無い限りしないわよ」

 

 

どうやら考えていたことが顔に出ていたらしく、呆れた様子のキャスターに論されてしまった。

急いで表情を取り繕うが、もう遅いか……

 

 

「あはは……うちのマスターは事情があって、ちょっと魔術に疎い部分があるので……」

 

「別にいいわ、気にしてないから」

 

 

言うなライダー!

僕だって桜を助けるためにできる限り魔術の勉強はしたんだぞ!!

 

……実践ができない分、どうしても遅れがでるのは認めるけどな!!

 

 

「え、えーと、間桐の当主のことでしたね。彼は簡単に言えば体を虫に置き換え、そして多くの人を食い物にして300年の時を生きてきた妖怪です」

 

「体を虫にですって?」

 

「はい、今ある体は虫の集合体でその本体は、本体はえーと……マスターの妹さんの心臓に寄生、しているんです」

 

「……なるほど、大体はわかったわ」

 

 

僕の方をチラチラと見ながら、そしてとても言いにくそうにしながら説明をしたライダーの後に、キャスターが何かを言っていたがあまり聞き取れなかった。

もちろん、ライダーの言葉に衝撃を受けていたからだ。

 

またも溢れ出してくる強い感情に叫び出しそうになるが、それを何とかするための交渉の真っ最中だ。

今にも先ほどのようにライダーに掴みかかり、今言ったことの真偽を問いただそうとする体を必死に抑え、我慢する。

しかし、理性さえもが激情を訴えるこの状態ではそれも長く続かず、気づけば僕は床に頭を擦り付け叫んでいた。

 

 

「お願いだキャスター!! 僕にできる事だったら何でもする!!! だからジジイを殺してくれ!! 妹を、桜を助けてくれ!!! 頼む!!!!」

 

 

僕は今日まで自分の事を、基本どんな時でも物事を冷静に見ることができ、人並みにはプライドのある人間だと思っていた。

だからこそ、激情に身を任せ会ったばかりの人物に土下座をする自分に心の何処かで驚いたが、それさえも自分では何もできない悔しさとジジイに対する怒りによって一瞬で塗り潰された。

僕は涙を流しながら、恥ずかしげも無く交渉相手であるキャスターに大声を張り上げて懇願した。

 

 

「――顔を上げなさい」

 

「……」

 

 

叫び終わった後もひたすらに床に額を擦り付け続けていた僕だったが、何処か先ほどとは違う声色のキャスターの言葉に、僕はゆっくりと顔を上げる。

すると深く被っていたフードを取り払い、その素顔を表したキャスターのこちらを見下ろすとても冷たい視線と目が合った。

 

 

「いいこと坊や、魔術師に対して泣き落としなんてものは何の意味も成さないわ」

 

「魔術は等価交換で成り立つように、魔術師同士の取引も等価交換で成り立つのよ」

 

「魔術師が動くのは動くに相応しい対価を示された時だけ、私だって例外じゃ無い」

 

「だから、私を動かしたかったらそれに値する対価を用意しなさい!」

 

「……そして、ちゃんと対価を用意できたのなら、その時は私も坊やの望みを叶えるわ」

 

 

キャスターは、僕の目を真っ直ぐ見つめたまま氷のように冷たくも、何処か温かさを感じるような目でそう告げた。

そして僕は言われたことを理解すると同時に顔を伏せた。

キャスターにジジイを倒して貰うための対価を模索するためだったのだが、それは叶わなかった。

 

 

「君は最高のマスターだよ慎二!」

 

 

突然おかしなことを言い出したライダーに、呆気にとられたからだ。

視界の端でキャスターも目を丸くして驚いているのが見える。

変な事を言ったライダーは僕の横に膝立ちになると、肩を叩きながら次のように捲し立てた。

 

 

「いやぁ本当にすごいよ!」

 

「『対価があれば動く』……この言葉をどうすれば自然に引き出せるか、結構悩んだってのにこうもあっさり成し遂げるなんて!」

 

「本当に、本当に最高のサポートだよマスター!!」

 

 

そんな風に好き勝手言いのけたライダーは茫然とする僕をほっといて立ち上がると、いつの間にか立ち直り静かにこちらを見つめるキャスターと向かい合った。

 

 

「―――で、そこまで言うんだもの、私が納得する対価は用意してあるのよね?」

 

「はい、『この聖杯戦争に関与する全てのサーヴァントについての詳細な情報』を渡すことで、同盟を組み尚且つマスターの願いを叶えてもらうつもりでした」

 

「それなら確かに……待ちなさい、『でした』ってなによ?」

 

 

ライダーの示した対価に納得しかけたキャスターは、ライダーのおかしな物言いに疑問を抱いたらしく、言葉を切って問いかける。

それに対してライダーは、優しさ感じる笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 

「いやぁ、一応念のために切り札とも言える対価を用意したんですよ」

 

「ホントは最後までそれは使わずに交渉を終わらせるつもりでしたが、やめました」

 

「今回の交渉で僕達が差し出す対価は、『サーヴァント情報』とその切り札とさせていただきます」

 

 

見たことないくらいニコニコしながらそう言ったライダーに、キャスターは何が何だかわからないといった訝しげな表情のまま対応する。

 

 

「……私は情報だけで充分だと思うのだけど、一応その切り札については気になることだし、聞かせてもらっていいかしら」

 

「はい!」

 

 

その言葉を聞いたライダーは嬉しそうな雰囲気を纏ったまま、切り札について簡潔に説明した。

 

 

「僕がキャスターさんに差し出す対価、切り札とはズバリ! 『無限の魔力』です!!」

 

「「……は?」」

 

 

僕とキャスターの、思わず出てしまった間抜けな声が重なった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

後から説明を聞けば、それは簡単な話だった。

 

ライダー曰く全盛期のヘラクレス並に魔力を食う宝具、エヴァ初号機の全力を支えることが出きる魔力生産宝具を常にフル稼働させれば、大きな余剰魔力が生まれる。

それをキャスターにパスを繋いでもらって供給し続けるというのが、ライダーの言う「無限の魔力」の内容だった。

生産宝具をフル稼働させるのにデメリットも特に無い様だから問題無いし、キャスターの特性上……というかサーヴァントにとって魔力はいくらあっても困らない物なので、確かにそれは「切り札」足りえるものだった。

 

そして、それを受け取ったキャスターの行動は実に迅速だった。

この聖杯戦争は勝ったも同然だと喜ぶキャスターは、少し準備した後に僕とライダーを連れて転移し間桐家を急襲。

桜の自室に乗り込んだキャスターは、驚いて固まる桜を魔術で気絶させライダーに部屋を隔離させた。

A.T.フィールドに覆われ、誰も入ることのできなくなった部屋の中でキャスターは改めて桜に魔術を行使すると数秒後、皮膚を突き破ってワラワラと蟲が溢れ出してくる。

桜に魔術を使いながら片手間で蟲達を残滅していたキャスターは、しばらくその作業を続け他の蟲よりも一回り大きな蟲が出てきたところで素早くライダーに視線を滑らせた。

それを受けたライダーは囲うように張り巡らせていたA.T.フィールドの一部を操ってその蟲を覆い一瞬で捕獲し、その蟲に向かって「何か、言い残すことはあるか?」と告げた。

 

その一連の流れをずっと近くで眺めていた僕は、そこでこの蟲こそが臓硯の本体なのだと気づいた。

ゆっくりと近づく僕に相対するように、臓硯はこちらに向き直るとその体で話しているのかはわからないが、僕の耳に「すまなかった」という擦れた声を届かせた。

 

 

「死ね」

 

 

ほとんど反射で言い放ったその言葉に答えるように、ライダーがA.T.フィールドを取り払い他の蟲と同じようにキャスターが臓硯を焼き払った。

 

こうして、僕の戦いはライダーを召喚してから半日も経たずに終わりを迎えたのだった。

 

 

「……クソジジイ、僕に謝っても意味ないだろうが」

 

 

未だに冷めぬ憎悪を口から逃がしながら、キャスターに治療を施され気持ち良さそうに寝ている桜の頭を撫でる。

クソジジイを葬った直後は実感が湧かなかったが、こうして静かに寝息を立てる桜を見ていると段々全てが終わったのだと実感することができてきた。

 

長かったけど、あっという間だった。

 

そんな感想を思い浮かべていると、静かに扉が開き何者かが桜の部屋に入って来る。

振り返って確認すると、入って来たのはライダーだった。

 

 

「……キャスターはどうしたんだ?」

 

「蟲蔵を焼き尽くすついでに色々物色してる、使えそうなものが沢山あるとかなんとか、とっても楽しそうだったよ」

 

「そうか」

 

 

確かに地下には蟲以外にも、ジジイが集めた触媒やら何やらが置いてあったはずだ。

持ち主は当然もういないし僕が使うとも思えない。

同盟を組んだキャスターが有効に活用するのがベストだろうから、持ってかれても問題は無いだろう。

 

ライダーは僕のすぐ側までやってくると、桜の寝顔を覗くように見ると心底安堵したかのように優しい笑みを浮かべた。

 

 

「桜ちゃん、助かってよかったね」

 

「あぁ、こんなにガリガリになっちまったけど……本当に、よかった」

 

 

蟲が出て行った分痩せ細ってしまったが命に別状は無く、もうひどい目に合うことは無いであろう桜を撫でながら、僕はライダーの言葉に答える。

 

ライダーとキャスターには感謝してもしきれない。

桜を助けることに全力を注いでくれたライダーには、特にだ。

感謝の気持ちは尽きないが、だからこそ少し気になることがあった。

 

 

「なぁライダー、なんでお前は僕達のことにここまで協力してくれたんだ?」

 

「そりゃあ、それが召喚された理由だからだよ」

 

「……どういうことだ?」

 

 

ライダーはジジイに聖杯戦争自体が目的だ、と言っていたがそこも嘘だったのか。

てっきり本当だと思っていた。

 

 

「僕が召喚に応じたのは、君の「妹のを助けたい」って願いに共感したからなんだ」

 

「っ、つまり」

 

「うん、君達を助けるために僕はやってきたんだよ!」

 

 

ポーズを決めながらそう言ってのけたライダーは、クサさとかは微塵も感じられずとっても格好良く、頼もしく見えた。

 

 

「……ありがとうな、ライダー」

 

「ま、まぁ……僕も妹が大切だって気持ちは良くわかるからね」

 

 

真っ直ぐお礼を言われるのは予想外だったらしく、照れながら言い訳のように話すライダー。

 

しかし、ライダー……碇シンジに妹なんていたっけか?

 

 

「あぁ、確かに実の妹はいないけど、妹分はたくさん居たんだよ。レイと、トウジの妹のサクラちゃんでしょ? あとアスカもなんやかんやで子供っぽいとこあったし」

 

 

表情から僕の疑問を読み取ったらしいライダーに説明され、なるほどと納得する。

原作と全然違う性格のライダーなら、さぞ素晴らしいお兄ちゃんをやっていたのだろうと考えていると、その思考を中断するようにライダーから声を掛けられる。

 

 

「……ちょっといいかなマスター」

 

「どうした?」

 

「今後について、ちょっと真面目な話」

 

 

僕はその言葉を聞いて、桜の頭を撫でるのをやめライダーの方に向き直る。

視界に入ったライダーは、先ほどとは打って変わって真剣な表情をしていた。

 

 

「僕は今後、生き残ることを念頭において行動する」

 

「生き残ること……?」

 

「うん、消えるわけにはいかないからね」

 

 

その言葉の真意を汲み取れず、僕は首を傾げる。

 

ライダーは僕達を助けるためにやってきたと言い、そして僕等を脅かすジジイは死に桜が救われた今でも消えるわけにはいかないという。

真剣な表情からして、「まだ帰りたくない」だとかなんとかそんな理由で無いことを察した僕は、背筋が寒くなった。

 

 

「残念だけど、マスターが考えてる通りだよ」

 

「……まだ、安全じゃ無いってことか」

 

 

ライダーは語る。

僕等は決して、魔術の世界から逃れられないのだと。

 

聖杯戦争から生還する。

その事実は魔術の世界に置いてかなりの価値があり、それだけでその存在の名は魔術師達の間に広く知れ渡ってしまうらしい。

英霊から伝えられた知識を得ようとする者、殺して名を上げようとする者などからその身を狙われことになり、平凡な魔術師程度は圧倒できる力が無ければとてもじゃないが平穏には暮らせないのだそうだ。

情報操作をして参加した事実を誤魔化そうにも、間桐は聖杯制作に関わった御三家の一つなので、不参加はありえないということから難しいのだとか。

 

その事を説明し終えたライダーは、絶望に顔を歪めているであろう僕の目を真っ直ぐ見て力強く告げる。

 

 

「だからこそ僕は生き残らなきゃいけないんだ、マスターと桜ちゃんを守るためにね」

 

 

……僕は、本当にいいサーヴァントを召喚した。

ライダーの言葉を聞いて、僕は心からそう思った。

 

お前は僕の事を最高のマスターだと言ったが、お前こそ最高のサーヴァントだ。

長年苦しめられてきた桜だって救えたんだ、一緒に生き残るくらい楽勝だ!

 

希望を取り戻し、僕はその気持ちをそのまんま言葉にしようとしたが、それは叶わなかった。

 

 

「でもマスター、君はもう戦わなくていいんだ」

 

「……は?」

 

 

ライダーの言葉に、呆気に取られたからだった。

 

戦う覚悟を決めたところでそれと正反対の言われた僕は、盛大に動揺した。

 

 

「ど、どういうことだよ?」

 

「キャスターに偽臣の書と令呪を渡せば、僕のマスターは彼女になる。もちろん戦いが終わった後にマスター権を戻して貰えるように頼むけどね」

 

「お前はそれでいいのかよ!?」

 

「むしろそれが一番だと思ってるよ。君を危険から遠ざけられるし、やっぱり魔力があるマスターの方が何かと都合がいいし」

 

「ぐっ……」

 

「魔術師なら誇りだのなんだの言って参加するんだろうけど、君はそういうの無いだろ?」

 

「……」

 

「まぁ、すぐに令呪を渡せとは言わないよ。令呪の持ち主である桜ちゃんは眠ってるし、君の意思を無視して無理やり決めるのは嫌だからね……もう夜も遅いから、一晩ゆっくり考えるといいよ」

 

 

言いたいことを言い終えたらしいライダーはその言葉を最後に、くるりと僕に背を向け扉に向かって歩き出す。

思わずその背中に声を掛けそうになったところで、ライダーは立ち止まり顔だけをこちらに向け僕の目を見て告げる。

 

 

「念のため言って置くけど、もはや君にとってこの聖杯戦争は無意味な戦いだ。参加してもしなくても辿り着く結果はおそらく同じ、命を賭ける価値なんて微塵も無く、もし命を落としたのなら笑い話にすらならないだろう」

 

「……」

 

「どうか、後悔するような選択はしないでね」

 

 

そう言い残して、再びライダーは歩き出した。

 

僕は少しの間俯いて黙っていたが、ライダーがドアノブに手を掛けた辺りでその背中に声を掛けた。

どうしても聞きたいことがあったからだ。

 

 

「……なあ、ライダー」

 

「どうしたの?」

 

 

ドアノブに手を掛けたまま振り返り、僕の目を真っ直ぐ見つめるライダー。

 

 

「お前が、あの交渉で切り札を切った理由ってなんなんだ?」

 

 

そんなライダーは、僕の問いを聞くと驚いたように目を見開いた後にバツが悪そうな表情をして目を逸らした。

 

 

「あー……今、言わなきゃダメかな?」

 

「ダメだ」

 

 

適当な事を言って誤魔化すのも許さない、と視線で訴えるとライダーはしばらく唸ったのちに観念したように、視線を逸らしながら告げた。

 

 

「……嬉しかったから」

 

「嬉しかった?」

 

「うん、キャスターがマスターの事をちゃんと魔術師扱いしてくれたのが嬉しかったんだ」

 

「……!」

 

「僕は召喚された時の願いから、君が妹を助けるために努力してきたのを知ってたけど、キャスターはそれを知らないはずなのに察して、君を一人前の魔術師として扱ってくれた……それが、マスターの努力を知っている身としては、とっても嬉しかったんだよ」

 

「……」

 

「あはは……何様だお前って自分で言ってて思ったよ、うん」

 

 

そう言って照れ臭そうに苦笑いをするライダーを見て、僕は決心がついた。

一晩の猶予なんていらない、僕はここで答えを出す。

 

 

「ライダー」

 

「……なんだい、マスター」

 

 

僕の言いたいことを察したのか、露骨に顔を顰めながら答えるライダーに僕はハッキリと告げる。

 

 

「僕は、マスターとして戦う」

 

「……流れから察してたよ、だから言いたくなかったんだ!」

 

 

吐き捨てるようにそう言ったライダーは僕にずんずん近づくと、両肩を掴んで至近距離で僕の目を見て訴えるように説得を試みる。

 

 

「いいかいマスター! 魔術師でもない君がこの戦いに参加する意味は―――」

 

「僕が魔術師扱いされて嬉しかったんだろ?」

 

「ぐっ、そ、それとこれとは別、揚げ足を取らないでよ! だいたい魔力の無い君がマスターをしたって何も―――」

 

「じゃあキャスターなら何をしてくれるんだ?」

 

「え……そ、そりゃ僕にバフかけたりだとか、なんとか……」

 

「宝具が本体なお前じゃ意味ないだろ?」

 

「あ、いや、でも他にも色々問題が……」

 

「『全力で戦闘しても問題ないほどの魔力を作り出せる宝具』を持ってるんじゃなかったのか?」

 

「うっ、うぅ……でも、マスターやってると危険だし……」

 

「じゃあマスターやめると仮定して、何処に居れば安全なんだ?」

 

「え? あ、えーと……」

 

「この家は危険だよな? なんたって御三家の一つの間桐家なんだから、当然マスターは居るものとして扱われるだろう」

 

「あ……」

 

「キャスターに匿って貰うか? それもダメだ、キャスターはあそこから拠点を移すつもりは無いようだし、あそこにいたんじゃマスターじゃ無くとも戦闘に巻き込まれることがあるかもしれない」

 

「……」

 

「じゃあ、聖杯戦争のルールに従って監督者に保護を求めに行くか?」

 

「それはダメだッ!」

 

「っ!? ま、まぁ何処に行ったって同じだろうさ、「間桐」だからって狙われるだろうからな」

 

「……、……参加する意味のない戦いだよ」

 

「この時点で参加するしないも無い気がするが……まぁいいよ、意味ならあるさ」

 

「……どんな」

 

「お前という、生涯の相棒の命がかかった戦いだ、意味が無いとは言わせないぞ」

 

「……、…、………でも」

 

 

ここまで言ってもライダーは僕の参加を認めようとしなかった。

コイツは悔いのない選択を、とか言って置きながら最初から参加を認めるつもりは無かったのだ。

 

 

「……何処かに、隠れ続けてれば……きっと安全な場所は必ず……」

 

 

しかもコイツはこの期に及んでこんなことを宣っている。

頭が悪くないコイツなら僕よりも先に、下手に側から離れる方が危険だってわかってる筈なのに、なんでコイツはここまで僕を戦いから遠ざけようとするんだ?

 

 

「なぁ、結局お前は何が言いたいんだ?」

 

 

俯くライダーの肩を掴み、静かに問いかける。

ライダーは黙って何も言わなくなってしまったが、根気よく答えを待ち続けていると数十秒後、小さく何かを呟いた。

 

 

「……君は、僕と違って戦いは絶対じゃないんだ……選択肢が、あるんだ……」

 

「……」

 

「……君は、逃げてもいいんだよ……」

 

 

それが、お粗末な理由を沢山作って僕を戦いから遠ざけようとした、中学生の身で全人類の命を背負って戦った英雄の本音だった。

 

僕はその言葉をしっかりと受け止め、深く考え直して、もう一度選択肢を振り返ろうとして―――

 

 

 

   ―――やめた。

 

 

「ハッ、あほらしい」

 

「……えっ」

 

 

え? 今の僕の言葉を切り捨てるって嘘でしょ? みたいな表情をして僕の顔を見つめるライダー。

僕はそれを見て、もう一度鼻で笑ってやった。

 

 

「僕には選択肢があるぅ? 悪いけど僕はそんな選択肢見当たらないね」

 

「な、なんで」

 

「他の奴に任せて隠れてました! なんて桜に言えるわけないだろ?」

 

「そんな理由で!?」

 

「そんな理由だって? おいおいわからないなんて言わせないぞ、妹にカッコつけたい兄の気持ちが!」

 

「そ、そりゃわかるけど」

 

「わかるんじゃないか」

 

「わかるけど! もうちょっとしっかりした、シリアスな理由は!?」

 

「ねぇよんなもん! それにお前だって同じじゃないのか?」

 

「……同じ?」

 

「僕と同じような理由で、自分で選択肢を切り捨てた事、あるんじゃないのか」

 

 

ハッとした表情になったライダーを見て、僕はニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「ほらあるんじゃないか……二度と『僕には選択肢が無い』なんてカッコつけたセリフ言うなよ。似合わないにもほどがある」

 

「……ははははは、君ホントに間桐慎二?」

 

「お前にだけは言われたく無いね!」

 

「「はははははははははははははは!!!」」

 

 

そんな風に僕等はお互い肩を叩きながら笑い続けた。

人が寝てる横で何やってるんだと起きた桜に怒られるまで。

 

窓から差し込む月明かりは、そんな僕等を静かに照らしていた。

 

 

 

シリアスなんて今日限り。

 

笑って戦い、笑って生き残り、笑って余生を楽しんだ。

 

そんな笑いだらけな僕等の出発点、運命の夜。

 

記憶が摩耗する予定なんて無いけれど、例えそうなっても絶対に忘れない、そんな光景だった―――

 

 

 

 

 

―――――Fate/Sinji night――――――

 

 

 

 

 

「あ、ところでお前って『この世界の事が創作物として存在する世界の碇シンジ』であってるか?」

 

「さすがにわかっちゃうか」

 

「さっきまでは可能性の一つだったけど、さっきので確信した感じ」

 

「なるほどー」

 




そんなこんなでこっちが本編になりました。
許してネ♡

くそぅ、対魔力さえあれば……


以下、4月1日正午追記


まぁ、嘘だけどな!
去年以上に騙される人少なくてちょっと寂しいけど、騙す気そんなになかったからしょうがないね!

あ、信じてしまったとてもピュアな人はどうか、その心を大切に生きて行ってください。
そしてすんませんした。

本編の続きはちゃんと執筆中です!
忙しくなるのでそこまで早く投稿はできないと思いますが、一応4月5月に投稿したいとは思ってるので、楽しみに待ってくれたら嬉しいです!

ではッ!

……しっかし勢いで書いた駄作とはいえ、本編のどれよりも文字数多いとかこれもうわかんねぇな?


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本編はこちら
第壱話「シンジ、襲来」


友達「そういやさー、今年って使徒来る年だよな」
うp主「笹食ってる場合じゃねぇ!」

ホントにこんな感じ。


※現在全体的に手直し中で、3話辺りまで完了しています。
 なのでそれを過ぎてから書き方に違和感を感じてしまうこともあると思いますので、ご了承ください。


―――僕の名前は碇シンジ。

 

14歳の中学二年生、成績はそこそこ。

趣味は漫画を読むことや、アニメ鑑賞に2525動画視聴。

あぁ、あとそれなりに料理はできるしチェロも一応はイケる。

そんな何の変哲もない普通の中学生だ。

 

人影一つ見当たらない第3新東京市の道路の傍らで、誰に聞かせるわけでもなく自己紹介をする僕。

別に、これは二次小説の第一話とかの主人公による唐突な脳内自己紹介では無い。

自分自身の確認のためだ。

 

……しかし、もしこの確認を何らかの方法で観察している人物がいるとしたらと考えてみよう。

その人はきっと、僕こと碇シンジは何処にでもいる何の面白みも無い普通の中学生なんだなぁ……と思ってくれたに違いない。

僕自身、そんなことは確認するまでも無く分かりきっているはずの事なのだが、今だけは少し自信が無かった。

 

 

―――怪獣が目の前を歩いているのだから。

 

 

「なぁにこれぇ」

 

 

いや、ホントマジでなんだこれ。

僕は少し前に山の向こうからオスプレイ的な何かを沢山引き連れて現れた怪獣を眺めながら、どうしてこうなったのか考え続ける。

 

よし、じゃあとりあえず回想シーン行ってみようか(錯乱)

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「手紙?」

 

 

自分の部屋でゴロゴロしながら録画したアニメを見ていた僕。

そんな僕の所に、この家の家主である叔父さんがやって来て言ったのだ。

手紙が来てるぞ、と。

 

 

「今の時代に珍しいね、いったい誰から?」

 

「……あの男からだ」

 

 

あの男、叔父さんがそう呼ぶのは一人しかいない。

 

 

「父さんから?」

 

「そうだ」

 

 

叔父さんは顔を顰めながら頷く。

まぁ、叔父さんは父さんの事を嫌ってるからしょうがない。

年賀状すらくれない父さんからの手紙に何が書いてあるのかさっぱり想像できなかった僕は、とりあえず叔父さんから手紙を受け取って封を開ける。

 

 

「何が書いてあるんだろ……『来い』?」

 

 

 

中に入っていたのは来いと一言だけ書かれた紙。

なんか胸の谷間を見せつけてる女の人の写真。

そしてパッと見すごそうなカードの三つだった。

 

 

「開けても意味が解らないとはさすが父さん」

 

「『来い』だと? あの男め……実の息子を道具か何かと勘違いしてるんじゃないのか!?」

 

「まぁまぁ……しかし、どうしたもんかな」

 

 

感情的になって怒鳴り散らす叔父さんを宥めながら、僕は手紙の内容について考える。

ぶっちゃけヒントが無さすぎるので内容に関しての深い事情ついては考えるだけ無駄だが、これほど興味深い手紙を貰ってしまっては考え込まずにはいられないだろう。

だがいくら考えてもさっぱりわからない。でも興味は尽きない。

なるほど……召喚目的の手紙としては最適解みたいな内容だ。

 

まぁ、息子の顔が見たくなった! なんて理由でないことは確かだね、父さんだし。

 

 

「叔父さん、父さんがいるのは確か……」

 

「第三新東京市だ、何をしているのかは知らんがな」

 

 

そこまで電車で行くとして……あ、今あるお小遣いで電車賃足りるかな。

 

 

「……まさかお前、行くつもりか」

 

「来いと言われて即参上って、なんかカッコイイじゃない?」

 

 

そう言って僕はヘラヘラ笑うが、叔父さんは険しい顔をしたままだ。

なので僕は今度は笑わず、しっかりと叔父さんの目を見て言う。

 

 

「大丈夫だよ、ちゃんと連絡するしアレだったらすぐ帰って来るから」

 

「……お前はユイに似て頑固なところがあるからなぁ、何を言っても無駄だろう」

 

「じゃあ!」

 

「行ってもいいが、連絡をちゃんと寄越せよ? それと宿題も忘れるな」

 

「……」

 

 

あわよくばと思ってたけど、やっぱり置いてっちゃダメですかね。

 

 

「……ん? まさかシンジ、それが目的か!?」

 

「アハハ、そんなわけないじゃないかーやだなー」

 

「なるほど目的では無いが考えていたというわけか、全くいつもお前は嫌なことは後回しにして……」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

―――と、いった感じに叔父さんのありがたーいお説教を一時間ほど聞いてから家を出発。

そして電車に乗ってこの第三新東京市に来たわけだ。

 

女の人の写真には待ち合わせの時刻と場所が書いてあったのだけれど、その場所に行っても誰も来なかった。

そのうち非常事態宣言だとか色々と物騒な放送が鳴りはじめて、不安に駆られた僕は公衆電話を探し出して手紙に書いてあった電話番号に連絡しようとしたが失敗。

そして突然突風が吹いてその方向を見たら怪獣が登場、今に至るわけだ。

 

うん、やっぱり僕が別の世界に迷い込む場面なんて一切無かったね。

僕が生まれたこの世界が怪獣のいる世界だったと考えるよりは、気づかないうちによく似た世界に移動をしていたってことの方がまだ信じられるんだけど……違和感みたいなのは全く無かったしなぁ。

それともアレか、実はここは二次元で僕は神様転生してきたってパターンもあるな。

だけど生憎僕は神様に会ってチート能力なんて貰っていないし、前世の記憶だってもちろん無い。

もしかしたら何らかのトラブルで記憶を失っているだけの可能性も無くはないな。

それだったら自覚してないだけでチート能力が備わっていることになるから、非常に助かるんだけど。

 

……というかあの怪獣、どう見てもあの胸(?)の赤いのが弱点だよね。

なんであそこを狙って攻撃しないんだろう、日本の軍人の目は節穴なのか?

あぁそっか、コレ軍人役に立たないパターンの奴かぁ……光の巨人さんはよ!

 

混乱している頭で、纏まりのない事をずっと考え続ける僕。

これ文字にしたら絶対に読みにくいよねー飛ばす人絶対いるよねーとか空知のような事を考えていると、ふと、一瞬思考が止まって冷静になる。

 

そして冷静に考えるついでにあることに気づき、他の何かを考える間もなく僕は怪獣と反対方向に猛ダッシュ。

その次の瞬間、僕がさっきまで居た場所に怪獣と戦っていたオスプレイ的な何かが墜落した。

 

 

「ほあああああああああああ!?」

 

 

街の人が全員避難してるってのに道路のど真ん中に突っ立って考え事してるアホはここです誰かタスケテ!

 

突然だが当然な命の危機に僕はパニックになりながらも全力疾走をしてその場から逃亡を図る。

少し走ってから安全確認のために後ろをチラッと見ると、怪獣がふわっと浮かび上がりこっちに迫ってきているのが見えた。

 

 

「重力仕事しろぉおお!!」

 

 

僕はそのニュートンが憤死しそうな光景に驚いて転んでしまい、その怪物が着地したときに踏んづけたオスプレイ(仮)の爆発で巻き起こった熱風をその場で蹲って耐える。

しかしモロに直撃すると思われていた風は何故かしばらくしてもやってこない。

ゆっくりと顔を上げると目の前には一台の車が止まっていて、中からサングラスをした女性がこちらを覗いていた。

 

サングラスしてるけど一目でわかる、写真の人だ。

なるほど、僕と熱風の間にギリギリ車体を滑り込ませて守ってくれたのか。

 

 

「早く乗って!」

 

「あ、はい!」

 

 

すぐ考え込んじゃうのは僕の悪い癖だ。

アニメ見てる時に、今後の展開や隠された伏線を見逃すまいとしていたら付いてしまった癖だった。

僕は走って車の反対側に周ると、ドアを開けていてくれたのですぐに開き勢いよく補助席へと腰を降ろした。

 

 

「んじゃ行くわよ! しっかり捕まって!」

 

「はい!」

 

 

僕が答えるのとほぼ同時に車は急発進し、すごいスピードで怪物の元から走り去る。

僕はドンドン離れていく怪獣をサイドミラーで眺めながら、なんとか助かった……と一息ついたところで隣を見る。

写真とは違う、ピシッとした感じの服を着た女性が運転席に座り真剣な表情でハンドルを握っていた。

 

……そうだ、お礼をしなくちゃ。

 

 

「あの、ありがとうございました。えーっと……」

 

「葛城ミサトよ、ミサトでいいわ」

 

「ではミサトさんと……僕は知ってると思いますが碇シンジです。お好きに呼んでください」

 

「じゃあシンちゃんって呼ばせて貰おうかしら♪」

 

「うちのおばさんと同じ呼び方ですね」

 

「…やめときましょうか」

 

 

ちょっと意地悪だったかな?

さっきミサトさんは自分が遅れたみたいなこと言ってたけど、実際に遅れたのは僕……もっと詳しく言えば僕の乗ってきた電車だ。

少し前ならともかく、電車が遅れた理由が嫌でも理解できる今ミサトさんに八つ当たりまがいの事をするのはおかしいよね。

 

 

「まぁいいわ、じゃ! 飛ばすから何かに掴まっててねっ!!」

 

「おうっ!?」

 

 

返事する暇も無く加速した車の勢いで、どこぞの駆逐艦のような声を上げてしまう。

怪獣が暴れ回ったせいか、瓦礫が道路に散乱しているがミサトさんはほぼ減速させることも無くすいすいと間を縫うように車を走らせる。

普通、車ではありえないスピードで移り変わる外の景色。

特に理由も無くぼーっとそれを眺めていると視界の端に一瞬、何か『見慣れた』ものを見た気がして思わず目を見開いた。

 

この見知らぬ街で『見慣れた』もので、それでいてこの状況では『ありえない』もの。

そんなものが特に注目もしていなかった瓦礫の隙間から覗いていた気がしたのだ。

 

 

 

今のは―――

 

   ―――人の手じゃなかったか?

 

 

「止まってくださいっ!」

 

 

その考えに至った瞬間、僕は叫んでいた。

気のせいかもしれない。

だってチラッと見ただけだ、何かを見間違えた可能性の方が大きい。

僕自身十中八九そうだと思っている。

だけど僕は、そんなフラグめいた考えをそのままにして置けるほど心が強くは無かった。

だって普通の中学生だからね!

 

 

「どうしたのシンジくん!?」

 

「お願いします! 止まってください! 早くっっ!!」

 

「っ!」

 

 

僕の急かす言葉を聞いたミサトさんはブレーキを思いっきり踏みつけると、そのままハンドルを思いきり切る。

車はグルグルとアクションシーンの様に回転してから止まり、僕はミサトさんが何かを言う前にドアを開けて外に飛び出した。

回転の影響で少し足がふらついたけど、何とか堪えて僕は走る。

そして例の瓦礫の元へある程度近づくと、灰色の山の中に小さな肌色が存在しているのを見つけて、さらに走るスピードを上げた。

やがてその瓦礫の元に到着した僕は目の前の光景を見て、思わず茫然として呟く。

 

 

「幼女……だと……?」

 

 

そこにいたのは幼女だった。

幼女が瓦礫に埋もれ、血を流して倒れていたのだ。

 

 

「――っ!!」

 

 

僕は激情の余り叫びだしそうになるがなんとか堪えて瓦礫を退かす。

幸い瓦礫はそれほど大きなものでは無く、僕でも退かせる程度の大きさだった。

半分くらい退かしたところで、ミサトさんが追いかけて来た。

 

 

「シンジくん、いきなりどうしたの!?」

 

「ミサトさん! 幼j、ゲフン女の子が!!」

 

「っ、今車持ってくるから頼むわね!」

 

「はいっ!!」

 

 

そしてミサトさんが車を近くに止めるころには、僕は瓦礫を退け終え幼女を抱き上げていた。

柔らk、じゃなくて、幼女に意識は無いようだ。

 

 

「後ろに乗せて!」

 

 

ミサトさんの指示に従って、車の後部座席に幼女を寝かせる。

そして僕も助手席に乗り込むと、ミサトさんは再び車を走らせた。

 

 

「お手柄よシンジくん、良く見つけたわね」

 

「……はい」

 

 

ミサトさんは僕に声を掛けると、スマホを取り出して誰かに電話を掛けはじめる。

 

 

「私よ……えぇ、彼はちゃんと見つけて車に乗せたわ……えぇ、そうね……大丈夫よ、だから直通のカートレインを用意しといて……あ、あと救護班も入口に頼むわ、実はシンジくんが意識のない女の子を見つけて……」

 

 

最初はミサトさんの会話をなんとなく聞いていたが僕はすぐに意識を逸らし、後ろで眠る幼女を見てから視線を遠くに見える怪獣へと向ける。

少し前、あの怪獣を見てアニメみたいだとか思ったが前言撤回だ。

 

 

―――幼女を傷つけるのがアニメなものか!!

 

 

幼女とは世界、そして日本の宝だ。

枕草子にもそう書いてある。

その世界の宝である幼女を傷つけてはいけないなんてのは、暗黙の了解とかそういうのとはレベルの違う誰もが理解する当たり前の事だ。

絶対に犯してはならないルールだったはずだ。

・・・あ、ホラゲーとかは除く!

 

そのルールをあの怪獣は破ってしまった。

確かに怪獣にとってそんな人間が決めたルールなど知ったこっちゃないだろう。

しかし、だからと言って決して許容できるものではない。

奴がルールを破ったその時点で、僕にとっての奴の認識は二次元からの使者では無く、吐き気を催す邪悪でしかなくなっていた。

しかも、聞いたところによると日本人とは皆ロリコンらしいじゃないか。

つまり奴は、僕に限らず日本人全員を敵に回してしまったということになるのだ!

 

 

生きて帰れると思うなよ怪獣!!

 

 

僕は拳を血が出るほど……とまではいかないけど強く握りしめながら怪獣を睨み、奴がやられていく様を何通りも妄想し続けるのであった。

 

 

「(他人のためにここまで怒るなんて、よっぽど正義感の強い子なのね……報告とはちょっち違うけど、こっちのほうがおっとこの子らしくていいわね)」

 

 

と、ふと視線を感じたような気がして振り向くと、こちらを見ていたらしいミサトさんと目が合う。

ミサトさんは柔らかく笑うとすぐに視線を前へと向けて運転し始める。

 

今の見られてたの?

うわ、ちょっと変な子だと思われちゃったかな……

 

僕はカートレインとかなんとかに車が乗るまで、ずっとミサトさんが何を思ったのかを気にしていたのだった。

 

 

……ん?爆発?確かにあったけど、僕たちの居るところまでは爆風は来なかったよ。幼女がいるのにそんな危ない事あるわけ無いじゃないか。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「特務機関NERV?」

 

「そう、国連直属の非公開組織」

 

 

カートレインに乗ると、ミサトさんが向かっている場所について教えてくれた。

ここまで来るまでの予想から、非公開だろうとは思っていたけどまさか国連直属だとは思わなかった。

移動中にミサトさんが国家公務員だと言ってたけど、最初は半信半疑だった。

しかし、外に広がる広大な施設を見せつけられると信じざるを得なかった。

 

ホントだったんだ……

 

 

「すごいですね……あ、そこに父さんも?」

 

「えぇそうよ、お父さんのお仕事については何か聞いてない?」

 

「人類を守る大事な仕事だと聞いてたんですけど……」

 

「ん? けど、どうしたの?」

 

「てっきり子供騙しの嘘だと思ってました」

 

「ア、アハハ……」

 

 

これにはさすがのミサトさんも苦笑い。

だって、しょうがないじゃないか!

あの仏頂面から「正義の味方やってる」みたいなこと言われても嘘だとしか思えないだろ!

つまり僕は悪くない、だって僕は悪くないんだから!(激うまモノマネ)

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

あれからしばらく経って、僕は今近未来的な建物の中を進んでいる。

斜め前には地図を睨むミサトさん、どうやら僕らは迷ってしまったらしい。

 

 

「ごめんねぇシンジくん、迷っちゃって……」

 

 

僕の沈黙に耐えられなくなったのか、ミサトさんは肩を落としながら謝ってくる。

 

 

「別に大丈夫ですよ、僕は色々見れて楽しいですし」

 

 

これは心の底から思っている事だ。

あちこちに設置してあるSF的な機械を眺めるのは、それだけでとても楽しい。

 

きっと誰かに怒られるんであろうミサトさんには悪いけど、僕的にはもうちょっと迷ったままでいてくれた方が嬉しいかなって。

 

そのまましばらくミサトさんについて回って色々眺めていると、扉の向こうから金髪の白衣を着た女の人が現れた。

一見真面目そう、というかプライドが高そうに見えるが、良く見たら水着の上に白衣という奇抜な格好してるし、金髪なのに眉毛は黒い。

 

全然キャラが掴めない……なんだこの人。

 

 

「っ、あ、あらリツコ……」

 

「何やってるの葛城一尉。時間も無ければ人手も無いのよ」

 

 

やっぱり真面目キャラ?でも格好が……なんだこの人!?(二度目)

 

一人で勝手に混乱していると、そのリツコさんの視線がミサトさんから僕に向けられる。

 

 

「彼が、例の男の子ね」

 

 

例の?何の話だろう。

 

 

「そうよ、マルドゥック機関が選出した、サードチルドレン」

 

 

……サード、チルドレン?

 

 

「よろしくね」

 

「あ、はい」

 

 

また考え込みそうになった僕は、リツコさんに声を掛けられ咄嗟に返事を返す。

……そうだね、聞いたほうが早いか。

 

 

「あのー……」

 

「どうしたの?」

 

「サードチルドレンってなんですか」

 

「まだ答えられないわ、行くわよミサト」

 

 

そう言って僕から視線を外すとそのままエレベーターを操作し始めたので、僕とミサトさんは急いでエレベーターに乗る。

じっと見つめているのにこちらを見向きもしないリツコさんの顔を見つめながら、僕は心の中で困惑したように呟いた。

 

 

……なんだこの人。

 

 

 

 




みなさん一話何文字くらいなんでしょうね。
自分のが長いのか短いのかわかるん。


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第弐話「エヴァ、大地に立つ」

怪獣を見たことで、現実と二次元の認識の境界が歪み始めてしまったシンジくん。
そんなシンジくんの戦いが、今始まる……!




的な?


『繰り返す。総員、第一次戦闘配置、戦闘用意……』

 

「ですって」

 

「これは一大事ね……」

 

 

現在、大きな鉄板に柵が付いただけの色々とアレなエレベーターに乗っている僕達。

下を見ながらその高さに密かに恐怖する僕の隣では、ミサトさんとリツコさんが今の放送についてのんびりと話していた。

 

一大事だとか言ってるけど、口にした本人であるリツコさんに慌てた様子は全く見られない。

ミサトさんだってそうだ。

少し緊張しているような素振りもあるけど、それだけのようだ。

 

話を聞く限りでは、軍隊の持つ最大の兵器だとかいう『N2地雷』でも倒しきれなかった怪獣が今現在も暴れ続けているらしい。

なのにこの余裕っぷりは明らかにおかしい。

だとすれば、今のこの状況はNERVの人達にとって予測されていた事態ということになる。

それはつまり、この人たちは例の怪獣が来ることを知っていたという事になるのではないだろうか?

 

確かに知っていればこのNERVという組織の設立も、住人のほぼ完璧な避難も不思議じゃない。

さらに言えば、この第3新東京市はという場所は海から非常に近い。

あの巨大な怪獣は海から来たと考えるのが自然で、衛星からは海を進む様子が丸わかりだったに違いない。

だから怪獣が来ることだけじゃなくて、来る時期もわかっていたことは容易に想像できる。

 

さて、するとわからなくなってくるのは『何故そんな大変な時に僕が呼ばれたか』だ。

父さんは感情で行動するような人じゃない……と思うから、絶対に何か用があるはず。

 

さっきから、リツコさんとミサトさんの会話に何度が出てくる『初号機』。

もしかしたらその初号機が、僕がこのNERVに呼ばれた理由に大きく関わっていたり、なかったりするのかもしれない―――

 

 

―――と言った感じに、僕はリツコさん達の横でアニメ鑑賞で鍛えた技術である『展開の予想』を頭の中で繰り広げていた。

最初は現実の展開をアニメのように予想できるわけが無いと考え、暇つぶしに面白半分でやっていたのだが、これが結構当たるものだから今では癖になってしまっているのだ。

 

あ、そうだ(唐突)

さっきはサードチルドレンについて何故か誤魔化されちゃったけど、一応もう一回聞いておこうかな。

 

……このまま翻弄されてばっかりなのは嫌だから、今度は不意を突くような感じで。

 

 

「あ、ちょっといいですか?」

 

「どうしたの、シンジくん」

 

「セカンドやファーストはここにいるんですか?」

 

「っ」

 

 

僕がサードなら居て当然のはずだ。

答えてくれたら儲けもの、意味が分かったらパーフェクトだ。

 

 

「えっと、ファーストはいるけど、セカンドはここには居な「ミサトっ!」え、あぁ何でも無いわ!」

 

「へぇ……」

 

 

少なくとも、ただのNERVにやって来た子供の番号ではないようだ。

そんなものをここまでして隠し通すとは思えない。

 

うん、聞いてみてよかった。

 

 

「シンジくん? あなたはまだ部外者なの、あまり首を突っ込むのはやめて頂戴」

 

「わかりました」

 

 

ミサトさんを隠すようにして注意してくるリツコさんに、僕は素直に返事をしておく。

そして僕は彼女の探るような視線を横目で認識しつつ、また今得た情報を元に今後の展開の予想を始めるのだった。

 

 

「(やっぱり侮れないわこの子、報告書ではただの子供だったはずなのに……)」

 

 

とか思ってるのかな。

これだからやめられないよネ!

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

しばらくして、真っ暗な部屋に連れてこられた僕はここに立っていろと指示され、その言葉に従って指定の場所で棒立ちしていた。

数秒後、部屋がパッと明るくなり目の前に紫の厳つい顔が現れる。

何かあるなと予想して身構えていた僕でも、これには驚いてしまった。

 

 

「顔?これが『初号機』……?」

 

「そうよ……人の作りだした究極の汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン、その初号機よ」

 

 

……人造人間?

ロボットじゃなくて?

 

 

「建造は極秘裏で行われた」

 

 

建造、建造ねぇ……?

資材とか何使ったんだろう。

数字ヤバそう(艦これ脳)

 

 

「我々人類の、最後の切り札よ」

 

 

そう言ってリツコさんは言い切ったと言わんばかりに初号機の方へ向き直る。

僕はそんな彼女に棒立ち状態のまま疑問を投げかけた。

 

 

「……これの運用が、父さんの仕事なんですか?」

 

「そうだ」

 

「うわっ」

 

 

全く予想していない場所からの返答に、変な声を上げて周りを見回す僕。

 

い、いったい今のは何処から……?

無駄に広い場所だから声が響いて、何処から聞こえたのか全くわからなかった。

 

 

「えっと……シンジくん、上よ、上」

 

「あ、ホントだ」

 

 

ヤバい、ちょっと恥ずかしいや。

ミサトさんに指摘され先ほどの声の持ち主をやっと見つけた僕は、少し顔を赤くしながら目線を上げてこちらを見下ろす父さんと視線を交わす。

 

 

「例の日以来だな、シンジ」

 

「そうだね、父さん」

 

 

今までは母さんの命日にお墓で会うだけだったもんね。

 

 

「わかっているな?」

 

「うん、大丈夫」

 

 

そりゃ『初号機』の前まで連れて来られたら誰でもわかるよ。

実際に可能性としては考えてたしね……九割冗談で、が付くけど。

 

 

「ふっ……出撃」

 

 

そう言うと父さんは、もう言いたいことは言い終えたのかこちらにに背を向け窓の奥へと消えていった。

 

 

「出撃!? 零号機は凍結中のはずでしょ!?」

 

 

え、零号機なんてあるの? 初耳なんだけど。

てか紛らわしいな、零号機と初号機。

 

 

「他に道は無いわ」

 

「レイはまだ動かせないはずでしょ!?」

 

 

レイって人の名前なのかな。

名前からして女の子っぽいし、多分ファーストかセカンドのどちらかだね。

……そうだ、女の子に違いない、アムロなんとかさんは知らないネ!

 

と、バカなこと考えてる暇なんか無いか。

こうなった以上は時間が惜しい。

 

 

「リツコさん、エヴァの操縦の仕方教えて貰っていいですか」

 

「っ、やはりわかっていたのね」

 

 

さっきそれ聞かれて答えたじゃないですか、父さんに。

大丈夫ですから教えてくださいと言おうとすると、ミサトさんが僕の肩を引っ張って無理矢理向きを変えられる。

そしてミサトさんに両肩を掴まれ、言い聞かされるような形になった。

 

 

「シンジくん、その意味が解っているの?あなたが戦うことになるのよ!?」

 

 

そりゃそうでしょうよ、そんなのわかりきっている。

命がけの戦いになるなんてのはちゃんと理解してるってば。

 

正直なところ、最初怪獣を見たあの時から全て起こったことが本当に現実なのかわからずにずっと混乱していて、今もふわふわしたような感覚だ。

でも僕のゴーストがこれは現実だって囁いてるから、きっと現実なんだろう。

 

これから大仕事をするってのに、そんな様子じゃダメだってことはわかってる。

だけどこんな直前になってから覚悟を決めるなんて無理だし、現実味が無いからこそできる事だってあるんだ。

 

だから僕は今から中途半端に覚悟して盛大に自爆するよりも、ふわふわした気分のまま挑んで暴れ回る方がいい。

 

 

……『嫌な事を後回しにしている』とも言うけどネ!

 

 

とりま、ミサトさんを落ち着かせようか。

 

 

「大丈夫ですよ、ミサトさん」

 

「だけどシンジくん」

 

「僕は乗ります」

 

「本当に意味が解ってるの!?」

 

 

わかってるって言ってんでしょうがッ!

おっと、口調が荒くなってしまった。失敗失敗。

 

……さて、どうやって説得しようか。

適当に覚悟(笑)でごり押しするかな。

 

 

「……ミサトさん」

 

「シンジくん?」

 

 

一回俯いて、間を置いて……

 

そしてバッと顔を上げて、言い放つ!

 

 

「覚悟はいいですか、僕はできてます」

 

「っ!」

 

 

こいつには、やると言ったらやる……『スゴ味』があるッ!

的な感じで理解してくれたらうれしいんだけど、どうかな?

無いとは思うけど元ネタ知ってたら終わりだね。

 

ミサトさんは少しの間固まっていたが、すぐに動き出して恥ずかしそうに苦笑してから、僕の肩を放した。

 

 

「恥ずかしいところ見せちゃったわ、そうね……シンジくんの言うとおりだわ、引き留めちゃってごめんなさいね」

 

「あ、はい」

 

 

微妙に話しが噛みあってない気もするけど、まぁ放してくれたならいいや。

 

その時、大きな音と共にズシン!と大きな地震が発生する。

 

 

「ここに気づいたのね……時間が無いわ、説明するからこっちに来て」

 

「はい」

 

 

歩き出したリツコさんの指示に従って僕も歩く。

 

 

「(子供を戦場へ送り出すことに怯えていたミサトに、自分の覚悟を伝えることで説得した……これが普通の中学生? 冗談でしょ)」

 

 

リツコさん、何にも言わないなぁ。

説明あくしろよ。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「おい碇、お前手紙に何か書いたのか?」

 

「書いていませんよ、アレは色々と鋭いので」

 

「なんと……彼自身がこの事を予期していたというのか?ふむ……彼が諜報部の存在に気づいているという報告も、本当なのかもしれんな」

 

「えぇ……」

 

 

※貴様!見ているなッ!と言った感じに道で突然振り返ると偶然目に入っただけです。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

僕は今、エントリープラグ、という物の中にいる。

なんでも、これがエヴァンゲリオン……エヴァのコックピットになるらしい。

 

 

『エントリープラグ挿入……完了』

 

 

無線から声が聞こえたかと思うと、少し浮いたような感覚の後にガコンと何かが嵌ったような音が聞こえた。

内容を聞く限り、今本当の意味でエヴァに乗り込んだんだろう。

 

 

『エントリープラグ注水』

 

 

ちゅうすい……注水!?

聞こえた声を漢字に変換して驚愕した瞬間、足元からオレンジ色の水が溢れてくる。

 

なんだこれ……アレか! アニメでよくある息できる水か、培養液的な。

 

念のため軽く息を止めてリツコさんの指示を待つ僕。

 

 

『大丈夫、肺がLCLで満たされれば直接血液に空気を取り込んでくれます、すぐ慣れるわ』

 

 

肺に、ってことは飲む感じじゃなくて溺れる感じで逝けばいいのか(誤字に在らず)

泳げない僕としては溺れ慣れてるから、難しいことじゃないネ!

 

 

「……んー、思ったよりサラサラしてるんだ」

 

『どうしたの?』

 

「何でもないです」

 

 

アニメとかのアレってもっとドロドロしたイメージがあったからね。

しょうがないね。

 

 

『これより、初期コンタクトに入ります』

 

 

なんだろう……あ、さっき言ってたシンクロってやつか。

僕は先ほど受けた説明を思い返しながら、自分の頭につけられた猫耳的な何かに触れる。

 

シンクロを助けるものらしいけど……猫耳を男の僕がつけても意味ないでしょうに。

まだ見ぬレイちゃんに期待だね。

 

しかしシンクロ……シンクロかぁ。

 

いきなりそんな事言われても、シンクロ召喚とかアクセルシンクロォォォオオ!!とかしか思い浮かばないよネ。

そういえばさっき、シンクロするときは心を落ち着かせろとか言われたなぁ。

つまり、シンクロするのは心ってことでいいんだよね? 多分。

そういえばエヴァはロボットじゃなくて人造人間だし、シンクロする心が有ってもおかしくはない……のかな?

 

まぁそんな理由なんて今はどうでもいいか。

とにかく目を瞑って集中してみよう。

 

 

―――……

 

 

 

―――なんだろう、なんか温かい。

 

 

別に、LCLの温度が変わったわけじゃ無い。

エヴァの心を感じようと集中すると、急に何かに包み込まれるような感覚がして、それが温かかったんだ。

 

ずっとこうしていたい……っと危ない危ない。

それはダメになるやつだ。

少し、コンタクトを図ってみるか。

 

僕は包み込んでいる『何か』に語りかけてみることにした。

 

 

「(んー……エヴァくん?)」

 

 

少し、反応したかな? でも気のせいかもしれない。

 

そんな反応じゃダメだよね、何かどうしようもない違和感があるし。

……もしかして、見た目厳ついから心があるなら男だろうと決めていたけど、違うのかな?

 

 

「(……エヴァちゃん?)」

 

 

お、さっきよりもいい感じの反応、エヴァは女性なんだね。

 

でも、まだちょっと違和感があるんだよなぁ。

エヴァって名前で女の子だから、勝手に金髪ロリってイメージにしてたけど、もしかして年上だったり?

 

 

「(エヴァさん?)」

 

 

おお、すごくいい感じの反応が返ってきた!

 

エヴァは女性で年上だったみたいだね。

うん、これならいけそうだ。

 

 

「(エヴァさん!僕に力を貸してください!)」

 

『信じられません……シンクロ率76.5%!』

 

『これならいけるわ!』

 

 

力を抜いて目を開けると、そんな声が聞こえてくる。

僕にはそのシンクロ率が高いのか低いのかわからないけど、反応を見る限りかなりいいものみたいだね。

やったぜ。

 

 

そしてしばらくして、遂にエヴァの発進準備が整ったようだ。

エヴァの乗っている台が、射出口と言う所にたどり着いたらしい。

 

 

『発進!!』

 

 

ミサトさんの声が聞こえた瞬間、ものすごい重力が僕を襲う。

っぐぅ……先に言って欲しかったんですけど……!

 

目を閉じて耐えていると、少ししてからすごい音と共に伸し掛かっていた重力が無くなる。

ゆっくりと目を開けると、NERVに入る前とは違い真っ暗になっている街並みが見えた。

そして僕の乗っているエヴァが立っている道路のその向こうに怪獣が、使徒がこちらを見据えていた。

 

どこぞのモノアイのようにビコーンとコアを光らせている様子に少し怯みそうになったけど、血に濡れて倒れた幼女が頭を過って持ち直す。

 

 

「お前は……僕が裁くッ!」

 

『シンジくん、死なないで』

 

 

僕のセリフに被って、ミサトさんの声が聞こえた気がした。

 




零号機の奇襲と自らの命を懸けたトリックで、ついに使徒へ反撃の一撃を与えることに成功するシンジ。
重傷を負った使徒は時を止めながら逃亡をはかる。
シンジはラッシュ攻撃でトドメを狙うが、それこそが使徒が仕組んだ「逃走経路」だった。
シンジに吹っ飛ばされた使徒の先には、倒れ伏した幼女の姿が……!
幼女の血を吸い回復した使徒へ怒りを燃やすシンジは、己の感情の赴くままに時の止まった世界で使徒との最終決戦に挑む――!!

次回 爆熱戦記エヴァンゲリオン 最終回
『遥かなる旅路、さらば友よ』




……なぁ~んちゃって!お菓子食って腹いt(ry


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第参話「裁くのは、僕のエヴァだッ」

やあ (´・ω・`)
ようこそ、今エヴァへ。
このLCLはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。

うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、このサブタイを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この注意文を書いたんだ。

じゃあ、心して見て行ってくれ。
     ↓


※読みにくい長文注意。

                   



『いいわね、シンジくん』

 

「大丈夫です、問題ありません」

 

『最終安全装置解除!エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!』

 

 

ミサトさんの指示に合わせるようにして、今までエヴァを拘束したままだったリフトから解放されて自由になる。

 

 

『シンジくん、今は歩くことだけを考えて』

 

 

リツコさんの指示。

先程聞いた説明によると、エヴァは僕の想像した通りに動くらしい。

何処のザンダクロスだ、いや別にいいんだけどね。

 

 

「歩く、歩く……」

 

 

僕は外から見た初号機を思い出して、その巨体が歩くイメージをする。

すると、初号機はズシン!という大きな音と共に一歩踏み出した。

 

 

『動いた!』

 

 

リツコさんの嬉しそうな声や、オペレーターの人たちの歓喜の声が聞こえてくる。

僕はそれを聞いて調子に乗ってしまい、次の一歩はしっかりと想像せずに踏み出してしまった。

 

案の定次の一歩は不安定なものとなり、勢い余ってコンクリートの地面に顔面ダイブ。

おでこを何かに打ってしまったような痛みが伝わって来る。

 

ふぐっ……これがシンクロの代償、痛みのフィードバックか。

コンクリートに打ったにしてはあまり痛くないし、幾分か軽減されてるんだろうね。

 

しかし大勢の人の前でかっこ悪い所を見せてしまった。

「想像力が足りないよ」と言ってくる某龍使いトレーナーを思い出して少し反省。

 

しっかりしなくてはと起き上がるイメージをしようとした所で、ミサトさんの叫ぶような声が聞こえてくる。

 

 

『しっかりして! 早く起き上がるのよ!!』

 

 

僕はその声でいつの間にか目の前に使徒がいて、こちらに手を伸ばしてきていることにようやく気付いた。

 

掴み技だと!? 回避っ!!

僕はそれを掴み技だと認識して、つい癖でスマブラの前転回避を想像してしまう。

 

ってゲームなんて想像してる場合じゃないだろ!

 

そう自分に対して叱責し、もう間に合わないと思った瞬間、僕が見ている景色はぐるんと反転した。

 

いきなり素早く動き出したエヴァに混乱する僕、そして次の瞬間に見えたのは前の方へ何かを掴もうと手を伸ばし、空を切る使徒の後ろ姿だった。

 

 

『今の動きは!?』『後ろへ回ったの!?』

 

 

少しの間驚きで固まる僕だったが、ミサトさん達の驚きの声で何が起こったのか理解する。

僕が、エヴァが使徒の後ろに周りこんだのだと。

 

 

……なるほど、そういうことかっ!

 

 

僕がその事を理解すると同時に、使徒が振り返り始めている事に気づく。

 

僕はすぐにバトルアニメでよくあるバックステッポゥをイメージした。

すると思った通りエヴァは地面を蹴って後ろへと飛び、軽やかに着地する。

そして使徒がこちらに向き直るころには、離れた位置でファイティングポーズを取ることができていた。

 

 

『シンジくん!急に動きがよくなったけど、いったいどういうことなの!?』

 

「コツを掴んだ、唯それだけの事です」

 

『コツ……ですって?』

 

 

僕は最初、エヴァを動かすイメージは『エヴァ』を想像して動かさなければいけないと思っていた。

 

今日初めて見て、しかも動いた様子を見たことのないエヴァ。

そんなエヴァの歩く様子を考えるのは、慣れればそうでも無さそうだが今の僕にはそう易々と想像できるものでは無かった。

 

だけどそれは僕が勝手に思い込んでいただけで、実際は違った。

 

 

僕が気づいたことは二つ。

 

 

一つ目はエヴァを動かすには動作をイメージする『だけ』でいいという事。

 

使徒に掴まれそうになったあの時、僕は前転回避を思い出してエヴァはそれを実行した。

エヴァのことなんて考えず、ただ僕が良く使うキャラが前転回避をする様子を思い出しただけなのに、だ。

つまりは、別にエヴァを想像する必要は無いということ。

テレビ番組、アニメ、ゲームでも何でもいいんだ(漫画は多分NG)。

僕は見たことのある動きを思い出せばいいということになるんだ。

 

なんという僕得仕様。

 

 

二つ目はエヴァの運動神経は人間を超越しているという事。

 

僕は使徒から距離を取るあの時、さっきも言ったがバトルアニメの動きを思い出していた。

実の所、あの時は一瞬失敗したかなって思ってたんだ。

エヴァの簡単な動かし方はわかったけど、エヴァのスペックはわからない。

わからないなら確かめようぜ!って感じで、人間には到底無理なバトルアニメの長距離バックステッポゥを想像したわけなんだけど、今じゃなくても良くね?ってすぐに考え直したんだ。

 

だってほら、失敗したら盛大に転倒するわけだし、絶体絶命の状況から逃れた直後なわけだし?

多分失敗するだろうと思ってた僕は、地面を蹴ってからやっちゃったなーって思った。

でも結果は大成功、エヴァは見事に長距離バックステッポゥをやってのけた。

つまりエヴァは、アニメのほとんどの動きについてこれるというわけだ。

ファイティングポーズをイメージしながら心の中で僕はお祭り騒ぎだった。

 

だって僕と一心同体とも言えるエヴァで、ほとんどのアニメやゲームの動きが再現できるんだよ?

自覚ある中二病患者の僕としては、これほど嬉しい事は無かった。

というか今もテンションMAXだからね実は。

っべーちょーうれしいわ、っべーわマジべーわ。

 

……ふぅ。と、少しはしゃぎ過ぎたかな。

つーか何急に語り始めてるんだ僕、恥ずかしくなって来た。

纏めると「エヴァとアニメが合わさると最強に見える」だね。たった一行だ。

 

二つとも時間に余裕があればちゃんと説明されてた事なんだろうけど、自力で気づいたのはすごいと思う。すごいよね? すごい(確信)

 

 

ふと意識を前に向けると、使徒はまた近づき始めていた。

さっきはよくもビビらせてくれたな。(勝手にビビっただけじゃとか言っちゃだめだよ!)

今度はこっちの番だ!

 

僕はスマブラのとあるキャラをイメージして、走る様子を思い出す。

次の瞬間にはエヴァも同じように走り出していた。

一気に距離を詰めると今度は軽くジャンプ。

そして空中で拳を弓のように引いて……

 

―――ファルコ~ン……

 

コア目掛けて一気に突き出す!

 

―――ピャーンチ!!

 

スピードに乗った拳は、そのまま使徒のコアに突き刺……らなかった。

 

 

キィィィィイイイン!!

 

 

「なっ!?」

 

 

エヴァの拳は、突然使徒の前に現れた光の壁に阻まれていた。

まさかミラーフォース……

 

 

『A.T.フィールド!』

 

 

……じゃ、無いみたいだね。うん、知ってたよ?

 

パンチを止められたエヴァは使徒の目の前に着地するが、すぐにまたバックステッポゥで距離を取る。

 

そして使徒から目を離さないようにしてからさっきの壁について質問する。

 

 

「リツコさん、今のは!?」

 

『Absolute Terror FIELD、通称A.T.フィールド。使徒の持つ強力なバリアのような物よ』

 

「突破は可能ですか」

 

『理論上は極めて強力な攻撃をすれば突破できるはずなのだけど、今はお勧めできないわね。こちらもA.T.フィールドを展開して中和するしか無いわ』

 

「えっ、エヴァも出せるんですか!?」

 

『できるはずよ』

 

 

バリア出された時の絶望感はハンパなかったけど、こちらも持ってるとなれば話は別だ。

何処まで僕のツボを心得てるんだNERVは!

 

 

「どうやるんですか!!」

 

『強く相手を拒絶すれば出せるはずよ』

 

 

……マジですか。

まーたイメージの問題ですか、そうですか。

 

くそっ!ハッキリ言って嫌な予感しかしない!

 

僕はその予感を振り払うように使徒に意識を向ける。

拒絶、拒絶か。

 

 

何やお前ふざけてんのk……

《見るに堪えない脳内罵倒が続くのでカット》

……aんやこの厨パァ!

 

 

……ダメだ、やっぱり全然出る様子が無い。

意外に難しいな拒絶! どうやるんだ拒絶!?

と、ここで使徒に変化が訪れる。

なんとピカピカと目が光りはじめたのだ。

 

うん、どう見てもビームが来るよね、僕にはわかる。

 

圧倒的な絶望感が僕を襲う。

なんだろう、この絶望感どこかで……あ、魔王のスターライトブレイカーか。

そんなことを考えている間も使徒の目の光は強くなっていく。

 

拒絶、拒絶、拒絶……!やっぱりダメだ、何にも出ない!

念のためアニメのシールドを出すイメージをするけど、それでも出る様子は全く無かった。

使徒の目が今までで一番強く輝いた。来る!!

 

 

チクショウ!こっちみんなーーーっ!!!

 

 

 

 

 

次の瞬間、目の前で大爆発が起こり僕はその眩しさに目を細めた。

 

 

 

 

 

……って眩しいだけかよ、と自分に対してセルフツッコミをしてから前をよく見る。

爆炎とかで見にくいけど、そこにはさっき見たようなバリアが僕を守るように存在していた。

「こっちみんな」で正解か! 土壇場で正解とか僕マジ主人公。

 

僕は爆炎に隠れてA.T.フィールドを出したり消したりして、さっきの感覚を忘れていないか確かめる。

よし、問題ないな。

 

確認を終えると、僕は爆炎を突き抜けて使徒に接近する。

 

もう距離をとったりしない!

ここで絶対に止めを刺す!!

 

今度は近づいただけで展開された相手のA.T.フィールドに再びパンチを叩き込む。

そしてそのままこちらのA.T.フィールドを重ねるように展開。

するとA.T.フィールドは歪み出し、拳はぐにょ~んブチブチッとA.T.フィールドを突き抜けた。

 

なんか破り方にコレジャナイ感が…まぁいいや!

 

拳は突き抜けると、その勢いのままに使徒のコアへと叩きこまれる。

そして続けてもう一方の手で思いっきりアッパーを決め、使徒の体を浮かせた。

 

一発目を決めた後はA.T.フィールドを展開する様子は無い、どうやら極限まで近づけば展開できなくなるようだ。

 

ならば本当にこれで最後にしてやるッ!

 

僕は浮いた使徒の体に、もう一発もう一発とパンチを叩き込んでその体を地に付けさせない。

思い出すのは最強のスタンド。僕の記憶に呼応するようにラッシュの速さは増して行く。

ドンドン浮いていくその巨体を逃がすまいと、使徒の後ろにA.T.フィールドを展開!

 

 

これで準備は整ったッ!エヴァのパワーを全開だッ!!

 

 

「行くぜオイ!!」

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!」

 

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドコドゴドゴドゴドゴッ!!!

 

 

拳のスピードは人間の限界を軽く飛び越え、質量の持った残像を残し次々と使徒に襲い掛かる。

 

無差別に打ち込まれているように見える拳は、実はその半分以上をコアに向けており、着実にダメージを与えている(はず)。

 

ミサトさん達はその様子を息を飲んで見つめていた(さっきから何も聞こえないので恐らく)

 

僕はラッシュを続けながらその合間に見える、使徒の体を凝視する。

 

そして遂に、使徒のコアにヒビが入った。

 

 

―――今だッ!!

 

「オラァーッ!!!」

 

ドグォオン!!!

 

 

ラッシュを一端止め、A.T.フィールドに跳ね返って落下する使徒のコア目掛けて思い切りパンチを叩き込んだ。

 

エヴァの拳はミシミシと大きく音を立てて使徒のコアに突き刺さり、振りぬくと使徒の体を大きく吹き飛ばした。

 

A.T.フィールドは消したため、使徒の体を阻む障害物は無い。

 

使徒の体は遠くのビル群に突っ込み、多くのビルを薙ぎ倒しながらその場に倒れこんだ。

 

 

「……ハァ、ハァ……ハァ」

 

 

僕は叫び過ぎて息切れを起こしていたので、呼吸を整えながらピクリとも動かない使徒を見つめる。

 

 

「ハァ……ハァ……や、やったか?……ッ!!!」

 

 

自然に口から出たその言葉に、僕は身体を強張らせた。

 

 

し、しまった! つい言ってしまった!!

 

 

半分潰れたコアを赤く光らせながら使徒はガバッと起き上がる。

 

僕はすぐさまA.T.フィールドを張って待ち構えるが、使徒は起き上がった勢いで少し進んだだけですぐにベチッと倒れた。

 

えっ?

 

そしてそのままドッカ―ンと大爆発を起こした。

 

えー……

 

結構離れてるから爆風しか来ないし、それもA.T.フィールドで完全に防げている。

 

もしかして、最後のアレって僕を爆発に巻き込みたかったのか?

だとしたらちょっと悪い事したかな……

 

NERVが人類の勝利に沸き立つ中、僕だけが微妙な顔をしていたらしい。




熱い戦いだろ……これ、初戦なんだぜ……?

シンジくんテンションあがって変なことになってますが、次回から少し落ち着くので安心してください。

……え?元からこんなのだった?

ちょっと何言ってるかわかりませんね……


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第四話「見知らぬ、美少女」

まさかの日間ランキング2位。
感想で知って見た時は一周回って落ち着きました。

落ち着きはしましたけど、椅子にLのポーズで座ったまま何分か固まってましたね。

これも皆さんのおかげっ……!
感謝……!圧倒的感謝っ……!!




僕は今、生きている幸せを噛み締めている。

 

 

「お兄ちゃん! 助けてくれてありがとう!」

 

「ええんやで(にっこり)」

 

 

花が咲き誇ったように笑う幼女。

僕が爽やかスマイルを浮かべながら頭を撫でると、くすぐったそうに眼を細める幼女。

そして僕がバイバイと手を振ると、元気よく振り返して見送ってくれる幼女。

 

 

……ふぅ。

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)はここにあったか……」

 

 

僕は今出てきた病室の扉の前で、幸福に満ちた溜息を吐く。

 

あの戦いの後、NERVの人たちに労いの言葉を貰いながら検査のため病院に直行。

僕自身疲れているのは感じていたため、病院のベッドで死んだように眠った。

その次の日の夕方に目が覚めて、軽い検査をした後に看護婦さんに幼女の目が覚めたと聞かされた。

そしてすでに事情を聞かされていた幼女と面会、今に至るわけだ。

 

と、そうだった。

幼女の名前は鈴原サクラというらしい。

 

「いい名前だ、この響きは君によく似合っている」

と言った時の笑顔は実に素晴らしかった。

 

また会いに来ようと心に硬く誓い、僕は病室の前から離れる。

えっと……ミサトさんとの待ち合わせの場所は何処だったかな。

僕は歩くのをやめて壁にあった病院内の地図を眺めていると、向こうからガラガラという音が近づいてくる。

ふと見ると、ゴツイ担架が僕の方へ近づいて来ていた。

すれ違い様に担架に乗せられている人物を見る。

 

病院服を着こんで体の彼方此方に包帯を巻いた女の子が担架に寝ていた。

その女の子はまるで感情が無いかのような無表情だったが、それでもお釣りがくるくらいに可愛かった。

なんというか、眼鏡外したタバサ?

とにかく、僕が今までの人生で見てきたリアルの女の子の中でブッチギリで一位に躍り出るくらいに可愛かったのだ。

 

……だけど、なんなんだろう?なんでか初めて会った気がしない。

もし会ってたら忘れるようなことは絶対に無いと断言できるんだけど、今日初めて会ったと考えると少し違和感を覚えた。

 

自分で言うのもなんだけどすごいフラグっぽいよね今の。

絶対覚えとこう。僕はそう心に誓ってその場を後にした。

 

そういえばさっきも心に誓ってたね。デジャヴ。

 

 

 

・・・

 

 

 

「シンジくん、大丈夫?」

 

「!……はい、大丈夫です」

 

 

待ち合わせ場所のベンチに座って音楽を聞いてると、ミサトさんが声を掛けてきたからイヤホンを外して答える。

 

 

「そうだミサトさん、さっき女の子を見たんですが……」

 

「女の子? 昨日の子じゃなくて?」

 

「はい」

 

「もしかしてレイのことかしら、青い髪でしょ?」

 

「あ、はい」

 

「やっぱりね、その子が綾波レイよ」

 

 

そうか……彼女がレイなのか。

セカンドはここにはいないって言ってたから、彼女がファーストチルドレン。

 

 

「随分と気にしてるじゃな~い? 一目惚れ?」

 

「……いえ、なんというか初めて会った気がしなかったんですよ」

 

 

隠すことじゃないから正直に話す。

一目惚れじゃないとしても、すごくお近づきになりたいとは思いますよ(真剣)

 

 

「え? シンジくん会った事あるの?」

 

「無いと思います、彼女みたいな容姿の人は会ってたら忘れないと思いますから」

 

「そうよね……不思議な事もあったもんねぇ~」

 

 

動揺はしていない、ごく普通の反応だね。

ミサトさんはキラじゃない、じゃなくて知らないみたいだね。

……しょうがないだろ、最近ドラマやってるんだ。

影響されても仕方ないよね、デスノート。

 

 

「まぁここで考えてても仕方ないわ、行きましょうか」

 

「そうですね」

 

 

ミサトさんについて行く形でその場所を後にする。

そして先導されるようにエレベーターまで移動すると、ミサトさんがボタンを押したので僕は扉の前で待つ。

少ししてエレベーターが到着したので、扉が開くと同時に乗り込もうとするとそこにはグラサンを掛けた怪しいおっさんが!

……ってなんだ父さんか。

 

 

「びっくりした、父さんか」

 

 

思わずとそんな事を言うと、父さんはスッとエレベーターの壁に体を寄せる。

っと、そうだ乗らなきゃ。

僕が乗るとミサトさんも父さんを気にしながら乗り込む。

 

 

「父さんは綾波さんのお見舞い?」

 

「そうだ」

 

「さっきすれ違ったんだ、綾波さんが担架で運ばれててさ」

 

「そうか」

 

 

僕は扉をじっと見つめる父さんの背中に話しかけ、父さんは淡々と答える。

世間一般の家族の会話と比べるとあまりにも味気の無いものかもしれないけど、ちゃんと会話として成立してるし慣れてるから問題ない。

ペラペラといろんなことを話す僕と、言葉数は少なくともしっかりと受け答えをする父さん。

僕達親子の会話はこれで正しいんだ。

 

少し話すとミサトさんが押した階層とは違う場所でエレベーターが止まり、父さんが何も言わずに出ていく。

そしてそのまま振り返りもせずに歩いて去っていく・・・と思い込んでいただけに父さんが振り返ったときはすごく驚いてしまった。

 

 

「シンジ、大丈夫か」

 

「えっ、あ、うん」

 

「そうか」

 

 

驚きながらも返事を返すと、父さんは前に向き直り今度こそ何も言わずに去っていた。

扉が閉まり、エレベーターが動き出しても固まったままの僕にミサトさんが声を掛けてくる。

 

 

「……お父さんが自分のお見舞いに来たとは考えなかったの?」

 

「……その発想はありませんでした」

 

 

この僕が完璧に不意を突かれるなんて……

くそっ!父さんめ、こんな屈辱初めてだ!!(照れ隠し)

 

少しして落ち着くとエレベーターが止まり、またミサトさんの先導で歩き出す。

そして床に上から見たNERV本部が写っている大きな部屋にやって来た。

その中心には手を後ろで組んだおじさんが立っていて、ミサトさんと何かを話しはじめる。

多分僕の事を話しているんだろうけど、僕はそれ以上に下が気になって聞く気にはなれなかった。

 

これ映像なのかな……それともマジで上に居るのかな?

ぶっちゃけ現在地全然わかんないから判断の材料が無いんだよね。

しかし本当にSFは床光らせるの好きだよね、この部屋しかりアースラしかり。

普通に考えて不便だと思うんだけどなぁ……

 

 

「シンジくん、本当にいいの?」

 

「大丈夫です(キリッ」

 

 

ミサトさんからの唐突な問い掛けに、僕はあたかも話を聞いていたかのようにノータイムで答える。

思考がトリップしやすい僕はこの技で幾つもの修羅場を切り抜けてきたんだ。

するとミサトさんは納得できない!といった顔をして身を翻し出ていくので僕も急いで後を追う。

 

いったい何話してたんだろうね……?

 

 

 

・・・

 

 

 

誰も聞いちゃいないだろうけど先に謝って置くよ、いきなりネタに走ってごめんね。

 

 

 

 

 

あ……ありのまま 今起こった事を話すよ!

「僕は一人暮らしさせられるのかと思いきや、いつの間にかミサトさんの家で暮らすことになっていた……」

な……何を言っているのかわからないと思うけど、

僕も何をされたのかわからなかった……

頭がどうにかなりそうだった……僕の意思だとか周りの意見とか、

そんなものを気にする様子は断じてない。

かなり恐ろしいものの片鱗を味わったよ……

 

 

 

 

 

いや、ありがたいんだけどね?

そりゃあいつの間にか僕が一人暮らしすることになってた事については驚いたよ。

だけど同時に、父さん以外に知り合いがいないこの場所じゃしょうがないかなって納得しかけてたんだ。

だからすぐに聞かされたことが相談も無しに無かったことになって混乱してしまったというわけだ。

 

ミサトさんは今電話でリツコさんに怒られている。

やっぱりミサトさんが勝手に決めたことだったんだ。

 

あ、ミサトさんが冗談言ってさらに怒られてる。

中学生には手を出さないって・・・あたりまえだろ(真顔)

いくら綺麗でもミサトさんは守備範囲外だからね。

 

ちなみに僕の嫁は杏ちゃんだよ。

 

 

少し時間は進んで今はミサトさんの車の中、僕は未だに慣れない景色を眺めて過ごしていた。

今はミサトさんの家に向かっているそうだ。

さらに帰ったら僕のエヴァパイロット就任パーティなんてのもやってくれるらしい。

ミサトさんっていい人だよね、歳の割にちょっと子供っぽい所が目立つけど。

 

 

「シンジくん?」

 

「なっななななんですかっ!?」

 

 

考えていたことがアレだったがために声を掛けられてビビりまくる僕。

まさか感づいて……?

だがミサトさんはそんな僕の様子を気にすることなく話を続けた。

 

 

「パーティのご馳走をここで買っていくから、シンジくんも好きなのを選んでね♪」

 

「あっはい」

 

 

なんだ、神懸かったタイミングで声を掛けられただけか。

って、『ご馳走』を買う?『材料』じゃなくて?

僕はすぐに車が何処に止まっているのかを確認する。

 

……なるほど、理解したよ。色々とね。

 

僕は止まっているのがコンビニの駐車場だと気付くと、今までの観察結果からミサトさんがどんな人なのかすぐに理解して顔を引きつらせた。

 

明日から僕が料理しよう。

僕はそう心に誓うと、コンビニで惣菜を籠にほいほいと放り込んでいく姿が異様に様になっているミサトさんを横目に見ながら僕も食べるものを籠に入れていくのだった。

 

あ、もう三回目だね。心に誓うの。

 

 

 

・・・

 

 

 

買う物も買って、助手席でファ〇チキを食べているとミサトさんが少し寄り道をすると言った。

そしてやって来たのは夕焼けに照らされた第3新東京市が見える場所だった。

う~ん……あちこちにある大小の四角はなんなんだろう?

ビルの建造予定地か、それとももう使徒に壊されたか。

……どっちでなさそうだ。

 

 

「ミサトさん、あの四角いのって……?」

 

「今にわかるわ……時間よ、来たわ」

 

 

上から来るぞ!気をつけろ!!

何かが来るらしいので一応言って見る。

すると四角い場所が開いてビルが下から上ってきた。

 

下からじゃねーか。

 

そんな寂しいセルフツッコミをしていると、いつの間にか目の前は辺り一面ビルの森になっていた。

 

 

「これが使徒迎撃用要塞都市、第3新東京市……私達の街よ」

 

 

要塞都市……やっぱり日本ってすごいなぁ。

そう思わせられる光景だった。

 

 

「そして、あなたが守った街でもあるわ」

 

「!」

 

 

やっぱり日本ってすごいですね!! そんな感じでテンションMAXに返事を返そうとしたところで、ミサトさんの言い聞かせるような声。

えっ、もしかして今シリアスなシーンなの!?

僕は感情を押し殺してこっちをじぃっ見つめてくるミサトさんの目を見た後、覚悟を決めた(ような)表情をして街を見つめた。

 

 

「(今、この子は守り抜く覚悟を決めたのね……)」

 

「(大丈夫だよね? 僕、雰囲気壊すような行動してないよね? セーフだよね?)」

 

 

もしかしてコレ勘違い物じゃないだろうな。

僕はそんな事を思いながら表情に力を込めるのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「これは『試練』だ……ゴミに打ち勝てという『試練』と僕は受け取ったッ!」

 

 

そんな事を言いながら無限の塵製(アンリミテッド・ダストワークス)、ミサトさんの家の山のようなゴミを格闘を繰り広げたのが数時間前。

今はミサトさんに指定された部屋のベッドの上に寝転がっていた。

僕は今日の出来事について印象深いものから思い出していく。

 

幼女の笑顔に綾波さんの事。

 

うん、自分で言うのも何だけどブレないよね。僕。

そんな事を思いながら明日からもがんばろうと心に誓い(四回目)、本格的に眠ろうと……

 

 

 

……ん?

 

 

 

え、ちょ、あれ?ちょっと待って。

 

よく考えたらおかしいぞ、今の状況。

 

成り行きに流されるままにここまで来たけどさ、あれ?

 

 

 

えっと、今さらだけど。もしかして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

使徒ってまだ来るの?




だってしょうがないじゃないですか!

コレTV版エヴァ見ながら書いてるんですけど、使徒の説明されないままシンジくん寝ちゃったんですもん!

アニメシンジくんはそんなだから鬱るんですよ!

だから僕は悪くない! 俺は悪くねぇ! ノーカウント!!


すみません、「!」多かったですね。
でもワンピースの方がもっと多いですよ?

だから僕は悪k(ry


それと次回の投稿は来週の水曜日以降となりそうです。
お許しください!


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第伍話「男の戦い」

お待たせいたしました。

相も変わらずの読みにくい長文となっておりますが、それはまぁ私のスタイルということで納得してくれたらそれはとってもうれしいなって。

スタイルがダメならソウルでもいいですよ。

今回はアレですね、日常回?です。




学校……それは青春の舞台。

 

未成人が将来のための準備をするための場所でもあり、あらゆるラノベの舞台でもある。

そうじゃなくても、多くの物語で大事な役割持ってたりする場所だ。

 

それは地球に限った話では無く、異世界に行ったとしても大体は学校に行くことになる。

貴族の家に生まれレベルの高い学校に行ったり、金持ちの家に居候することになってその家の子供と一緒に入学など理由は様々ではあるけど。

 

 

とにかく、物語において学校がどれだけ大切かわかって貰えたと思う。

 

 

最近主人公っぽいことをしている僕こと、碇シンジも例外なく学校に通い始めていた。

 

 

「碇! おはよう!」

 

「おはよう!」

 

 

通い始めてから数日、歩きなれてきた朝の学校の廊下ですれ違い様に挨拶をされたので僕もしっかりと返す。

名字を呼ばれたことから今の男子生徒は僕の事を知っているらしいが、僕はよく知らない。

チラッと顔を見たかな?という程度だね、多分同じ学年なんだろうけど。

 

 

「おはよう碇くん」

「あ! おはよう!」

 

「うん、おはよう」

 

 

僕の在籍してるのとは違うクラスの前を通ったところで、教室の入口付近で話をしていた女子生徒が僕に挨拶し話し相手も釣られて挨拶をしてくる。

挨拶を返しながら二人の顔を見ても、やっぱりよく知らない顔。

さっきの男子生徒程度の認識だ……あ、でも可愛いから違うな、うん。

 

僕は相手を知らないけど、相手は僕を知っている。

こんなの事が多く起こるのは、僕が有名になっているからだ。

いや、自惚れとかじゃないよ?

 

 

理由は二つ。

 

 

一つは、僕自身がやったことが原因だ。

 

初めての登校日に、教団横に立ってクラスメイトに自己紹介をする時、僕は言ってやったんだ。

 

 

「では、自己紹介をお願いします」

 

「はい……転校生、碇シンジ。ただの人間に興味はありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら後で僕の所に来てください、以上」

 

「これ……笑うとこ?」

 

 

完璧だった。僕のこのセリフに対しての反応までもがパーフェクトだった。

もし僕のこれを見て「あぁ、テンプレだなぁ」って思った人はかなり転生物を読んでる人なんだと思う。ぜひ友達になってほしい……じゃなくて。

僕はこれを、現実でやってやったんだ。並の精神力でできることじゃない、と思う。

前の学校の友達にLINEで報告したら、「お前の精神力が怖い」「プラチナメンタルwww」とか言われたしね。

とまぁそういうわけで、このネタを知ってた人には一種の英雄視されてすぐに仲良くなることができたわけだ。

 

 

「みんなおはよう!」

 

「あ、おはよう!」「はよーっす」「おはよう碇くん!」「うほっ、いい碇」

 

 

夏なので開けっ放しだった教室の扉から入りながらそこそこの声量でクラスに挨拶する。

すると教室にいたほとんどの人が挨拶を返してくれた。僕ってばリア充。

自己紹介によって仲良くなったのは一部の人だけ、つまり一つ目の理由ではこうはいかなかっただろう。

僕はそれでもよかったんだけど。

 

 

「おっ? 来たかシンジ!」

 

 

挨拶を返してくれたクラスメイトにワンテンポ遅れて僕が来たことに気づいた男子生徒。

名前は相田ケンスケ。例の自己紹介にナイスな反応をしてくれたのはケンスケだ。

だからこの学校で一番最初に友達になったのもケンスケだった。

……僕がここまで有名になる原因を作ったのもコイツだけどね。

 

 

「今日は訓練無いのか?」

 

「午後からなんだ、だから午前は学校ってわけ」

 

 

そう、ケンスケは僕がエヴァのパイロットであることを知っている。

というか、みんな知ってる。

 

 

二つ目の理由は、僕がエヴァのパイロットであることをみんな知っているからだ。

 

 

僕がエヴァのパイロットであることはNERVが掛けた情報の守秘義務によって知られていなかった。

現に一日目は仲良くなった人と少し話した程度で終わったよ?

なのになんで知られてしまったのか。

 

……さっきも言ったけど、ケンスケが原因だ。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

ケンスケがやらかしたのは次の日の朝だった。

その日は学校の敷地内に入った途端、視線のようなものを感じた気がした。

僕はいつものように「貴様! 見ているなッ!」と脳内で叫びながらその方向を見た。

瞬間、僕の視線と複数の視線が交差する。

少し離れた場所に数人ほど生徒が集まっていて、全員で僕の事を見つめていたのだ。

 

……えっ、何?

 

僕はとりあえず露骨に視線を合わせてみることにした。

<●><●>といった感じで歩きながらも首だけその方向に向けて目を見続けると、七割くらいは耐えられなくなったのか少し笑いながら視線を逸らすが、残りは負けじと僕に視線を合わせて来ていた。

 

ほう、中々できるな……じゃなくて!

 

その集団も通り過ぎ、いい加減首が痛くなって来たので顔を前に戻すしいつもの推理的な何かを始めようとするが、それは叶わなかった。

ずっと同じ方向しか見て無かったから気づかなかった。

複数の視線というのはさっきの集団に限った話では無く、学校にいる生徒のほとんどが校庭を歩く僕を見ていた。

すぐ近くから、昇降口内から、そして教室の窓から。あらゆる場所から僕を見つめていた。

さっきの集団は転校生が僕だと誰かから聞いて、物珍しさから見ていたのかと思ったけど違うみたいだ。

だって視線の数があまりにも多すぎる、明らかに異常だ。

とてもそんなありふれた理由で僕を見ているとは考えられない。

であれば、みんなが僕を見つめている理由は普通ではない異常な理由があるということになる。

そして僕には、そんな異常な理由についてものすごく心当たりがあった。

 

どうやら、なんでか知らないが僕がエヴァのパイロットであることがバレてしまっているらしい。

 

そこまで考えた僕は、これ以上今ある情報で考えてわかることは無い、と思考を打ち切ると教室に逸早く向かうことに思考を切り替え、視線の雨に打たれながら歩を進める。

野郎の視線は無視し女の子には軽く手を振りつつ移動して教室にたどり着き、中へ入ると我が同志ケンスケの机を囲むように人だかりができていた。

一体なんだと興味深く観察しながら近づくと、輪を形成する生徒達の外側に位置していた数人が僕の存在に気づき、唯でさえ煩かった喧騒がさらに大きなものと成ったのちにパックリと人だかりが割れ、机に座った状態のケンスケが姿を現した。

 

 

「やぁ、おはようシンジ」

 

「うん、おはようケンスケ」

 

 

そんな挨拶を交わした後に、状況を見てこの視線の雨を作り出した原因はケンスケにあると判断した僕は、問い詰めようと詰め寄るが彼が僕の斜め後ろを指さしたことで足を止め、後ろを振り返り何を指しているのか確認した。

ケンスケが指示した先には、もうすぐでホームルームの時間になることを告げる時計があった。

 

 

「そういうことだから事情は昼休みにでも話す、今は我慢してくれ」

 

「じゃあ一言だけ質問、ばらした?」

 

「あー……うん、そうだな」

 

「把握した」

 

 

どういう経緯でそうなったのかは知らないが、ケンスケはどうにかして僕がエヴァパイロットであることを知りその情報を全校に知れ渡るレベルで広めてしまったらしい。

聞きたいことを聞けた僕は一先ずこれで納得し、素直に自分の席に座る。

座ってからケンスケの方をチラリと見ると、こっちを向き手を合わせて謝る様子が見えたので故意では無いと理解した僕は、ため息をつきながら頷くと視線を逸らし、僕と同じように席に座ったり自分の教室に帰り始めたりと大移動を始めた生徒達の動向を眺めながらホームルームが始まるのを待つのだった。

 

そしてその後の昼休み、人影が少ない屋上にて事情を聴いたところ、NERVで働いている親のPCの中身を盗み見たことで僕がエヴァの搭乗者であることを知ったケンスケは興奮のあまりうっかり知り合いに漏らしてしまい、瞬く間にそれが広まってしまった、ということらしい。

朝、ケンスケの周りに集まっていたのは、情報の出所を知った生徒が噂の信憑性を確かめに来ていたためらしい。

 

いや、いつまでも隠し通せるとは思ってなかったし、いいんだけどさ。

 

 

「……流石にバレるの早すぎるでしょ」

 

「いやぁつい……ホントにすまん! そのうちなんか奢るから!!」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

で、そこまでショックも受けて無かった僕はそれでケンスケを許して、その日からめっさ注目される学校生活が始まったわけだ。

流石に数日経った今じゃ最初の頃ほど注目はされてないけど、それでも普通の生徒と比べれば異常なレベル。

 

まぁ、そのお陰でとても新鮮な気持ちで学校生活を送らせて貰ってるけどね!

 

 

「おーいシンジ、そろそろ考えは終わったか?」

 

「あ、ゴメンねケンスケ、それで何さ?」

 

「それがな、今日からトウジも学校来るんだってさ」

 

「トウジが!?」

 

 

トウジは僕がこの街に来て一番最初に友達になった人だ。ケンスケは学校で一番ね。

フルネームは鈴原トウジ、分かる人にはわかったと思うけどサクラちゃんのお兄さんだ。

三回目くらいのサクラちゃんのお見舞いの時に病室でバッタリ会っちゃったんだよね。

そしてお互い自己紹介して僕の事情を話して仲良くなったんだ。

あの時は土下座されてお礼言われたから驚いたなぁ……

 

 

「まーたトリップしてる……まぁ俺もたまにあるからわかるけど、っと碇!うわさをすればなんとやらだぞ!」

 

「え?あ、トウジ!」

 

 

ケンスケに揺さぶられて現実に返って来ると、静かに教室に入ってくるトウジが見えた。

トウジは僕の声に気づいたのか、ゆっくりと顔をこちらに向けると幽鬼のようにフラフラとこちらにやって来る。

なんか元気無さそうだけど何があったんだ?

 

 

「お、おいトウジ、どうしたんだ?」

 

「おう……久しぶりやなケンスケ……いや、今はシンジや」

 

「や、やぁトウジ!一体何があったのかな……?」

 

「シンジぃ……わいはお前を一発殴らんとアカンのや……」

 

「なんでさ!?」

 

 

トウジのいきなりの暴力発言に思わず声を上げて驚く僕。

僕とトウジの共通する話題……まさか!

 

 

「サクラちゃんの身に何か!?」

 

「そこでサクラちゃんの話題が出るあたりホントシンジはブレないよな」

 

「そや!お前のせいでサクラがなぁ!!」

 

「え? マジなのか!?」

 

 

なんかケンスケがツッコミに周ってる・・・じゃなくて!

 

 

「一体何が!?」

 

「サクラがなぁ……うるさいんや!!」

 

「「は?」」

 

 

僕とケンスケの声が重なる。

いや、ホントどういう事?

 

 

「わいが病室に入るたびにアイツガッカリした顔しよんねん!!「シンジお兄ちゃんじゃないんかぁ」ってな! まぁそれはええわ! それだけならまだ我慢できるんや!! サクラの奴わいが病室にいる時なんかずっとシンジシンジ言っとんねん! なんやアレ!? どんなフラグの建て方したらあんなんなるんや!?」

 

「あぁ……それは悪い事したトリ―」

 

「お前全然反省しとらんやろ、叫んでスッキリしたから殴るのやめたろ思うたけどやっぱ殴るわ」

 

「シンジがなでポ……つまりシンジは踏み台……? 俺が主人公の可能性が微レ存!?」

 

「「それはねーわ」」

 

「なんだよお前ら!?」

 

 

この会話をした日の昼頃、使徒はやって来た。

 

 

 




原作よりも大分早くパイロットバレしてしまったシンジくん。
なお、実害は全くないもよう。

イクス±の次回作にご期待ください!





……8月21日か。小説書いてたらいつのまにか誕生日になってた件について。


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第六話「イメージするのは常に最強の自分」

やってまいりました。二回目の使徒戦!

私なりに最強のシンジくんをイメージして書きました。(小並感)


「なぁシンジ、俺すごいことに気づいたかも知れない」

 

 

一時間目が終わり、次の時間の準備をしていると何時の間にか近くにいたケンスケがいきなりそう言った。

 

 

「いきなりどうしたのさ?」

 

「授業中ずっと考えてたんだけどな?交番に落し物・・・まぁ百万円を拾って届けたとするじゃん?」

 

「うん」

 

「すると謝礼として落し物の一割から二割、十万か二十万くらい貰えるわけだ」

 

「そうなるね」

 

「ここまではいいな?」

 

「常識だしね」

 

 

言い聞かせるように話すケンスケの話を聞きながら相槌を打つ。

するとケンスケは眼鏡をキランと光らせて言葉に力を込めだした。

 

 

「ここからが本題なわけだが・・・俺が80歳のおばあさんを拾ったとするだろ?」

 

「え?」

 

「そして俺は交番におばあさんを届ける、すると俺は謝礼を貰えるわけだ」

 

「・・・なるほど」

 

「シンジはもうわかったか、謝礼は落し物の一割から二割。つまりは俺は8歳から16歳までの女の子が貰えるということになるんだ」

 

「ケンスケ・・・やはり天才・・・」

 

 

 

「いやお前らどんな話ししとんのや!?」

 

「あ、トウジ」

 

 

トウジの鋭いツッコミ。こうかはばつぐんだ。

 

 

「いや日本の常識についてね」

 

「途中から明らかにおかしいやろ!?」

 

「まぁケンスケだし」

 

「あぁそら仕方ないわ」

 

「待てコラ」

 

 

抗議の声を上げるケンスケは無視してトウジと会話を続ける。

 

 

「で、トウジどうしたの?僕等のどっちかに用事でも有った?」

 

「ん?あぁそうやった。さっき時間無くて殴れへんかったから改めてツラ貸せ言いに来たんやったわ」

 

「え?嘘、マジで殴るの!?」

 

「当たり前やないか(真顔)」

 

 

そう言ってトウジは椅子に座ってる僕の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

ちょ、ちょっとやめて怖い怖い怖い!

 

 

「ケンスケ助けて!」

 

「シンジ死すべし慈悲は無い」

 

「イヤーッ!!」

 

 

くそっ!こうなったら何としても二度殴らせてアムロのセリフを言うしか・・・!

 

 

「・・・ん?おわっ」

 

「アバーッ!?」

 

 

僕が覚悟を決めているとトウジがいきなり何かに驚いて手を放し、僕は軽く押されるような形で後ろに倒れてさっきまで座っていた椅子に勢いよく座る形になってしまった。

地味にお尻痛い!

 

 

「非常招集、先行くから」

 

「え?」

 

 

ダメージを受けたお尻をいたわる暇も無く、いつの間にか側に居た綾波さんの声に変な声を上げてしまう。

そんな僕を気にする様子も無く、綾波さんは用事が終わったと言わんばかりに教室から出て行ってしまった。

 

 

「いきなり現れたからビックリしたわ・・・なんやシンジ、綾波と知り合いだったんか?」

 

「そうかトウジは知らないんだったな、綾波もシンジと同じでパイロットらしいぜ?」

 

「マジかいな・・・ん?てことは非常召集って」

 

 

そこまでトウジが言ったところで、避難を促す放送が流れ始める。

 

 

「・・・こういうことやな」

 

「お、出番かな?」ガタッ

 

「お前それネタじゃ無くてガチだろうが」

 

 

そんなやりとりを最後に僕らはそれぞれの向かうべき場所へと走り出した。

・・・別れ際にケンスケが言った「応援するからな!」が妙に頭に引っかかるのはなんでだろう?

 

 

 

・・・

 

 

 

 

『エントリースタート』

『LCL電化』

『圧着ロック解除』

 

「父さんいないのか・・・何してんだろう?」

 

 

エントリープラグの中で、独り言を呟く。

乗る前にリツコさんから今日はNERVに父さんが居ない事を教えられた。

何故態々そんなことを教えられたのか意味が解らず、何か支障があるのか聞いてみると特に無いとの事。

父さんェ・・・もしかして僕より仕事して無いんじゃないかあの人。

 

 

「(・・・嫌な予感がするんだよね、主にケンスケ関係で)」

 

 

僕はただ警戒するだけじゃ無く、行動に移すことにした。

ミサトさんに無線越しに問いかける。

 

 

「ミサトさん、ちょっといいですか?」

 

『どうしたのシンジくん、作戦を再確認したいのかしら?』

 

 

作戦ってライフルを乱射するだけじゃないですか。

僕が聞きたいのはそれじゃない。

 

 

「学校のみんなの避難は完了したかわかりますか?アレだったら確認するのは僕のクラスメイトだけでもいいんですけど」

 

『え?ちょっと待ってね・・・』

 

 

僕が心配なのは、ケンスケが避難もせずに何処かに隠れてるんじゃないか、という事。

「応援するって言っただろ?」とか言ってひょっこり現れそうな気がする。

 

 

『・・・大丈夫ね、係の職員がシェルター内で全員の点呼を確認済みよ』

 

「そうですか・・・ありがとうございます、態々すみません」

 

『これくらい別にいいわよ』

 

 

ケンスケのことだからやりかねないと思ったけど別にそんなことはなかったみたいだね。

よかった。さすがのケンスケでもそこから脱走しようなんて思わないよね(フラグ)

 

 

『出撃準備完了しました』

 

『よし!シンジくん、問題ないわね?』

 

「おk」

 

『敵A.T.フィールドを中和しながらパレットライフルの一斉射撃、練習通り大丈夫ね?』

 

「はい」

 

 

めっちゃリアルな映像での射撃訓練を何度もしたしね。

・・・でも的として映し出されてた前回の使徒。

コアじゃなくて何処を撃っても倒れる適当っぷりだったからちょっと不安だけど。

 

 

『発進!!』

 

「ぐうっ」

 

 

ミサトさんの声の後に襲ってくる重力。

発進するとき何かセリフ言いたいんだけど、多分舌噛むだろうから言えないんだよね。

ガクンと大きく揺れてエヴァが止まる。

そして目の前には虫のような形をした使徒。

 

んー・・・また近づいてオラオラすれば倒せるかな?

 

僕は地面からせり上がってきたライフルを手に持ち、構えながら考える。

リツコさん達には悪いけど、ライフルで倒せるとは思っていない。

めちゃくちゃに連射する攻撃はフラグだって王子が身を持って教えてくれてるからね。

 

 

『A.T.フィールド展開!』

 

『シンジくん、作戦通りに!』

 

「了解ぃ!!」

 

 

とりあえず今は攻撃しなきゃ。

僕は言われたとおりにライフルを連射した。

撃ち続けると、弾が着弾した時に巻き起こった煙で使徒が見えなくなってしまった。

 

 

『バカ!煙で前が見えない!!』

 

「バカとはなんですか!!」

 

『あっゴミン』

 

 

撃ちながらミサトさんの声に反論する。

こっちは作戦通りにやってるだけなんですからね!

しばらくしてライフルからは玉が発射されなくなり、僕はライフルを投げ捨てる。

 

まずいな・・・これは非常にまずい。

 

敵が煙で包まれるなんて、絶対に傷一つ無いフラグだ。

少しはダメージを与えられるかも!なんて思ってたけど甘かった。

「なんなんだぁ今のは・・・?」とか言って現れるに違いない!

やめろォ勝てるわけがない!!

 

僕は逃げるんだぁ・・・と言う暇さえ惜しかったのですぐにお馴染みバックステッポゥでその場を離れた。

すると離れた瞬間に煙を切り裂きながら光の鞭が飛び出し、僕がさっきまで居た場所を切り刻んだ。

 

鞭か・・・これはオラオラは諦めたほうが良さそうだね。

 

煙が晴れ完全に姿を現した使徒を睨みながら考察する。

あんなの殴ったら逆にこっちがダメージ受けそうだよ。

 

 

『シンジくん!新しいライフルよ!』

 

「わかりました!」

 

 

新しい顔だったら勝ちフラグだったのになぁ、と考えながらライフルを構える。

すると使徒はゆっくり前進しながらすごい勢いで鞭を伸ばし攻撃してきた。

僕は落ち着いてイメージを巡らせる。

エヴァは鞭が当たる直前に大ジャンプをして横宙返り、そして空中で逆さまになりながらライフルを発射。

撃ちながら着地すると、事前に教えられていた踏めばライフルが飛び出す仕掛けになっている場所を踏み抜きライフルを入手。

僕はライフルを二丁拳銃のように構えた。

 

人間の腕力じゃこんなことはできないよね!

 

そしてまた飛んできた鞭を軽やかなジャンプで躱し、また滞空しながらライフルを乱射した。

 

 

『すごいわシンジくん!』

 

『なんて動きなの・・・!』

 

 

昨日ブラックラグーンを見直してよかった!

想像しているのはレヴィの動きだからね!

 

・・・だけどこのままじゃダメだ。

 

A.T.フィールドもちゃんと中和して全弾命中しているはずなのに全く堪えていない。

やっぱりグミ撃ちじゃダメか・・・

 

しばらく跳ね回り続けると、使徒の周りを一周し終わりまた使徒の目の前にやって来る。

そこで両脇から二本の鞭が挟み込むように襲ってきたのでバックステッポゥで躱すと、鞭がいきなりグンと曲がって滞空しているエヴァの片足に巻き付いた。

 

バックステッポゥが読まれた!?と言うより誘導されたのか!!

 

後悔しても時すでにおすし。

グインと引っ張られるとすごい勢いで空中に投げ出されてしまった。

 

ふわっとした感覚を感じたのもつかの間、次の瞬間には背中から地面に叩き付けられた。

ぐえぇ・・・体育の柔道の時お手本で先生にひっくり返された時みたいだ。

 

 

『シンジくん!大丈夫!?』

 

「なんとか・・・ん?ちょっ!?」

 

 

ミサトさんの声に応答し一体何処に投げ飛ばされたのか辺りを見回すと、近くの山だと理解すると同時にエヴァの指の間で縮こまってるケンスケとトウジを見つけた。

ホントお前は予想を裏切らないなケンスケ!!

 

 

『シンジくんのクラスメイト!?』

 

『何故こんなところに!?』

 

 

驚くのはいいですから早く指示を・・・くっ!?

ミサトさんに指示を仰ごうとしたところで使徒が近づいて来ていることに気づく。

 

あっちいけ!

 

鞭で攻撃される前に、僕は手を動かさないように足を思い切り振り上げ使徒の顔?を蹴り上げた。

すると使徒は少し仰け反りながら大きく後退した。

 

ぃよし!!

今のうちに・・・!

 

 

『シンジ君、そこの二人を操縦席へ!二人を回収した後一時退却、出直すわよ』

 

「了解!!」

 

 

僕が答えた少し後に周りが暗くなり、エントリープラグが開く。

 

 

「二人とも!早く!!」

 

「お、おうすまんな・・・」

 

「あ、靴はそこで脱いでね」

 

「すみません、お邪魔しまーす」

 

「なんでお前ら遊びに来たみたいになっとるんや!?」

 

 

色々話しながら二人が中に入ると、扉が閉まり周りが明るくなる。

さっきと同じように使徒が映し出されるが、そこにはかなりのノイズが走っていた。

 

 

『神経系統に異常発生!』

 

『異物を二つもプラグに挿入したからよ、神経パルスにノイズが混じってるわ』

 

 

そんなのは気合いでカバーだ!!

 

 

『(というわけでエヴァさん!彼らは僕の大切な友達なんでなんとかなりませんか?)』

 

 

そこ、結局言ってることと違うとか言わない。

だが結果オーライ、ノイズはドンドン収まっていく。

 

 

『神経パルス回復!?』

 

『なんですって!?』

 

 

よしよし、さすがエヴァさんだね。

後は撤退して体制を立て直すわけだけど。

 

 

「ぶっちゃけケンスケ、逃げられると思う?」

 

「・・・無理だな」

 

 

やはりケンスケも同じ感想らしい。

 

 

「なんで逃げられへんのや!?」

 

「俺達みたいなお荷物がいる時、大体は撤退とか体勢を立て直すだとかはできなくてそのまま戦うことになるんだよな」

 

「そうそう」

 

 

でも、逃げられたならそれに越したことは無いよね。と付け加えてミサトさんに指示された撤退ルートを進もうとするが、使徒とは逆方向に意識を向けようとした瞬間鞭が飛んでくる。

 

なんとか避けたけど・・・

 

 

『ダメね、このままじゃ撤退する前に追撃されるわ』

 

『そんな、如何にかならないの!?』

 

「ですよねー」

 

 

知らなかったのか?使徒からは逃げられない!

そんな幻聴が聞こえてくる。

ダメージ覚悟で突撃するしかないか・・・

 

そこまで考え、突撃の許可を貰おうとしたところでちょうどミサトさんから指示が飛んでくる。

 

 

『シンジくん!』

 

「あ、はい!」

 

『とりあえず撤退は中止!今から安全なルートを割り出すからそれまで時間を稼いでほしいの。できるかしら?』

 

 

・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ。時間を稼ぐのはいいんですが―――」

 

『どうしたの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「別に、アレを倒してしまっても構わないのでしょう?」

 

「やっちゃって、アーチャー!」(ケンスケ裏声)

 

 

イメージしたのは最強の自分、そして今繰り出せる渾身の一撃。

次の瞬間には、エヴァは肩から取り出したナイフを構え走り出していた。

 

 

「おいいいいい!!今のはわいでもわかるで!?なんで死亡フラグ建てよった!?」

 

「「ついうっかり」」

 

「おまえらあああああああ!!!」

 

 

走り出したエヴァはそれなりに勢いが付いたところで軽くジャンプ。

滞空している僕等へ向けて鞭が襲い掛かって来るが、それよりも早く着地。

走り幅跳びのように着地したエヴァはしゃがむ様な形になるが、エヴァは急には止まれない。

勢いのまましゃがんだ体制のまま地面を抉りながら進み、滞空していたエヴァを狙っていた鞭は僕らの上を通過した。

 

 

「よし!!」

 

「トウジ!なんか叫ぶぞ!!」

 

「は!?」

 

 

よし、ケンスケも順調に勝ちフラグを建てる準備をしているみたいだ。

 

鞭を潜り抜けたためにコアはもう目の前。

エヴァは滑りながらも僕の想像通りのポーズでナイフを構えていた。

その構えは腰を深く落として相手に向かって半身の姿勢をとり、ナイフは左手のみで持ち刀身は地面と水平に保ち体の後ろに置き先端を使徒に向け、右手を前に突き出してナイフにやや重なるような位置に置いていた。

 

 

そして使徒のコアがナイフの間合いに入った瞬間、

 

 

「その心臓―――」

 

 

全体重を掛けて左片手一本突きを繰り出す!!!

 

 

「―――貰い受ける!!!」

 

「いっけえええええええええ!!!」

 

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

ナイフは勢いのままにコアへ深く突き刺さり、その衝撃は使徒を突き抜けて後ろの地面まで地割れのように大きく切り裂いた。

コアも時間差でパックリと真っ二つになり、使徒はグラリとこちらに倒れてきたので避けるとドスンと地に附してそのまま動くことは無かった。

 

 

「か、勝ったんやな?」

 

「あぁ、見事な牙突だったな・・・」

 

「花京院!イギ―!アヴドゥル!終わったよ・・・」

 

 

無線越しに聞こえる歓声をBGMに、今度は立ち上がらないように終わりフラグをしっかりと立てる僕。

 

こうして二回目の使徒は、僕等の友情(笑)の前に敗れ去ったのだった・・・




死亡フラグは勢いで殺す!

今回のタイトルは考えるのに苦労しました。

いや最初は「少年は荒野を目指す」にしようと思ったんですけどね?弓兵的に。
そしたらなんかそんな感じのタイトルの漫画があるらしんですよ、グーグル先生曰くですが。
なので、こんなタイトルになりました。

「あれ、内容とあんまり合って無くね?」とか思っても気にしないでね!



次回の投稿は水曜日・・・に、できるといいなぁ(希望的観測)


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第七話「ヒロインがラスボス」

学校が始まって投稿が難しくなってきた今日この頃。

今回はなんと、あの謎の美少女!綾波さんの正体をシンジくんが探りに行きます!

綾波レイ・・・一体何リリスなんだ・・・?


二回目の使徒の戦闘から数日が過ぎて、今は学校の体育の時間。

 

僕等男子はコンクリートの壁に寄り掛かるように座って休み、女子はここからでも覗ける場所にあるプールでキャイキャイと水遊びを楽しんでいる。

 

いつもなら帽子か何かで目の辺りを陰にして見えないようにしてから、クラスの女子のスペックを計りに行くのだけど今日はそんな気分じゃ無かった。

みんなのうちほとんど(トウジとケンスケはダイレクトに見てる)がチラチラとプールを見る中、僕だけが空を見て考え事をしていた。

 

ぶっちゃけキャーキャーうるさい。いつもより騒がしい気さえしてくる。

うんざりと言った感じでプールを見ると、一人ぼっちで体育座りをしている綾波さんが目に入った。

僕の考え事はズバリ綾波さんに関係がある事だったから、ついじぃーっと見つめてしまう。

 

 

「おいシンジぃー何見てんだよー?」

 

「綾波か?綾波をみてるんかぁ?」

 

「うん、君達と一緒にしないで貰おうか」

 

 

貴様らのように露骨に見て女子からの好感度を下げるなど、愚か者のすることだ。

僕はさっきも言ったようにしっかりと対策してからじっくり堪能するからね!

・・・じゃなくて。

 

 

「というかシンジお前さっきから何考えてたんだ?」

 

「それが綾波さんに関係することでね・・・」

 

「マジか!おいお前ら!!シンジが綾波のこと気になってるらしいで!!」

 

「ちょ!トウジ!?」

 

 

確かに気になるが今考えてることは別件・・・ってわけでも無い、のかな?

 

 

「なんだと!」「抜け駆けは許さんぞ碇!!」「綾波は俺の嫁」「いや俺の嫁だろ」

 

 

いやお前らも集まってくんな!

そんな声を出す暇も無く、瞬く間にクラスの男子が僕を囲むように集合した。

 

 

「さてキリキリ話して貰おうかシンジ」

 

「綾波のどこが好きになったんや?」

 

「いや、確かに僕が考えてたのは綾波さんに関係ある事だけど、別にそういう話じゃないよ?」

 

「じゃあなんなんだよ?」

 

「悩みがあるんだけど・・・」

 

「言ってみろよ、せっかくだし相談に乗るぜ?」

 

 

さてどうしようか、言ってしまっていいものなのかなコレ。

なんかみんなで僕の悩みを聞くふいんき(何故か変換できない)が出来上がってるし。

・・・まぁいいや、一人で考えてもしょうがないか。

 

 

「知っての通り僕と綾波さんはロボットのパイロット・・・NERVに通っているんだ」

 

「そりゃ訓練とかもあるらしいし」「お前らよく早退するもんな」

 

 

 

「んでNERVでの綾波さんなんだけど、ぶっちゃけこっちと変わらないんだよね」

 

「知ってた」「想像つかないもんな」「綾波のやつホントに笑わないからなぁ」

 

 

 

「でも一人だけ例外がいる・・・NERVの司令官だ」

 

「例外?」「例外ってなんだよ?」「綾波と仲いい・・・とか?」「ねーよ」

 

 

 

「実はそのとおり、綾波さんはその人とかなり仲がいいんだ」

 

「マジか」「司令官裏山」「司令官について詳しく」「そうだ司令官のスペックはよ」

 

 

 

「その司令官が・・・なんと厳ついおっさんなんだ、判決は?」

 

「ギルティ」「ギルティ」「圧倒的ギルティ」「事案発生」「通報しました」

 

 

 

「さらに言うとその人僕の父さん」

 

「碇家ギルティ」「また碇か」「納得の碇」「お前らギルティ」「その血の運命」

 

 

何故僕までギルティなのか。

まぁトウジの妹についてはかなり大声で話してたからなぁ・・・

 

 

「つまり僕の悩みは「なんか父親がクラスのアイドルと親密なんだが」ってとこだね」

 

「これはひどい」「なんかラノベっぽくね?」「こんなラノベはいやだ」「やったね碇!家族が増えるよ!」

 

 

 

「おいやめろ」

 

「おいやめろ」「おいやめろ」「おいやめろ」「おいやめろ」「おいやめろ」

 

 

 

・・・

 

 

 

とまぁそんな感じで相談を続けた所、結局現状じゃどうしようもないから情報収集する、ということになった。

みんなから今までの綾波さんの事を聞くと、まさに人形、といった感じらしい。

体育の後に女子からも聞いたけど同じような感想。

それについてケンスケと一緒に考察したけど、綾波さんはあまりにも人間性が無さすぎるという結論に至った。

 

・・・どんな可能性もあり得ないとは簡単に断じることはできないってことだよ。

クローンとか、NERVの科学力ならあり得ない話じゃないだろうし。

 

こんなことで悩み始めたのも、父さんが似合わない行動をするからだ。

綾波さんを身を挺して助けようとするなんてなぁ・・・

 

ま、聞いた時は素直にカッコイイと思ったけどね。

父親の武勇伝?を聞けたのは純粋に嬉しかったりもしたんだ。

父さんカッコイイなー憧れちゃなー。

 

 

「シンジくん、完全に現実逃避してるわね・・・」

 

「逃避じゃないです考え事です」

 

「なんでよー?こんなにおいしいのにー」

 

 

くそっ!父さんをいくら褒めても目の前の毒物は減らない!

やっぱり父さんはダメだね(暴論)

 

僕は今リビングでミサトさんの作ったカレーをお客さんとして来ているリツコさんと共に処理している。

何を入れたらレトルトをここまでひどくできるんだ・・・?

 

 

「すみませんリツコさん」

 

「大丈夫よ、あなたは悪くないわシンジくん」

 

「ありがとうございます・・・でも、ここまでとは思いませんでした」

 

「あら?ミサトの料理のこと知ってたの?」

 

「ガサツな人が料理だけはうまいなんて奇跡は起こりませんよ」

 

 

それにちゃんとした根拠だってあるんだ。

 

 

「少し前に料理失敗して微妙な味に仕上がっちゃった時、ミサトさんそれをいつもと同じように食べてくれたんです」

 

「なるほどね、味覚障害の事に気づき、そこから芋蔓式にってわけね?」

 

「はい」

 

「あんたら失礼ねー!あたしの味覚はふつーよふつー」

 

「無いわね」

 

「ミサトさんがそう思うならそうなんでしょうね、ミサトさんの中ではですが」

 

「・・・」

 

 

ミサトさんが青筋を浮かべて震えている。

おーこわい。でもね、食べ物の恨みは深いんですよ?

僕はトリコの読者でもあるからして、食事は本当に味わって食べてるんです。

トリコのグルメタウン回を見ながら食う飯はマジでうまい。

 

 

「あ、忘れるところだったわ・・・シンジくん、頼みたいことがあるのだけど」

 

「なんでしょう?」

 

「綾波レイの更新カード渡しそびれたままになってて、悪いんだけど本部に行く前に彼女のところに届けてもらえないかしら?」

 

「あー、明日召集が掛かってたんでしたっけ・・・その時にですね?」

 

「そうよ」

 

「綾波さんにも明日召集を?」

 

「零号機の起動実験だからもちろん呼んであるわよ・・・そうね、一緒に来てもらえると助かるわ」

 

 

狙ったかのようなタイミングで綾波さんと接触するチャンスが。

こんな機会中々無いだろうし思い切ってかなり踏み込んでみようかな・・・?

 

 

「どうしちゃったの、レイの写真をジーと見ちゃったりして?」

 

 

どうやら僕は渡されたカードを見つめたまま固まっていたらしい。

さっきの仕返しとばかりにミサトさんにそこをツッコまれてしまった。

何勘違いしてるんですか?僕のターンは終了していませんよ?

 

 

「いや、綾波さんってやっぱりかわいいなーと」

 

「あ、そ、そうよね、かわいいわよね」

 

「(うまいわね、ハッキリと感想を言われたことでミサトはその話題で弄れなくなった)」

 

 

僕が上!ミサトさんが下ですッ!

そこの所を勘違いしないで貰いたいですね。

 

・・・しかし、綾波さんの家、か。

 

きっとミサトさんとは比べ物にならないくらいに整っているんだろう―――

 

 

 

 

 

―――と、思っていた時期が僕にもありました。

 

リツコさんに教えて貰った綾波さんの住んでいるマンションは、なんとなくスラム街を彷彿とさせる小汚さがあった。

 

うん、これは勝手に期待した僕が悪いかな。

綾波さんは人間味が無いってケンスケと話したばかりだったのに。

外でもこれなんだ、中も部屋としての機能を果たしていれば問題無いって感じに色々散らかってると思っておいた方が良さそうだね。

 

僕は散乱しているゴミを避けながら進み、綾波さんがいるであろう部屋の前にたどり着くとインターホンを押した。

・・・あれ、鳴らない。

 

 

「綾波さーん?」

 

 

他に住んでる人は居ないみたいだし、少しうるさいくらいの声で呼びかけるが返答無し。

おかしいな・・・リツコさん曰く、綾波さんは学校と召集以外で外出なんかしないって聞いてたのに。

 

 

「綾波さーん・・・うわ、開いた」

 

 

もう一度呼びかけながら、なんとなくドアを開けようと試みる。

するとすんなりと開いてしまい予想外で驚いてしまった。

不用心ってレベルじゃねーぞ!

 

さすがにもうわかった。

綾波さんはかわいいけど、ミサトさん以上にアレだってことがわかった。

 

 

「・・・入るよ」

 

 

と、いうわけなのでお邪魔します。

僕は扉を開けて中に入り、靴を脱いで揃えて置く。

そっちが気にしないと言うなら僕も気にしないで入らせてもらおうじゃないか。

僕だって私情で来てるわけじゃ無いし、あんなところで立往生しているわけには行かないんだ。

 

だ、だから部屋に入って無造作に散らかってるであろう下着とか見てしまっても不可抗力のはずだ!

綾波さんだって気にしないよね!ね?

 

僕は自然と足が速くなるのを感じながら、ゴミだらけの廊下をずんずん進み、薄暗い部屋にたどり着いた。

 

 

「・・・」

 

 

その部屋をぐるりと見回した後、僕は首だけを回し自分の入ってきた玄関を見る。

 

うん、確かにここはマンションの一室だよね。牢屋とかじゃ、無いはずだよね・・・

 

確かに、僕のお目当てである脱ぎ捨てられた下着もそこには合った。

だけどそれ以上にコンクリートが剥き出しになっている壁と、ゴミ箱に山積みになった血の付いた包帯が気になってしまう。

 

いや、どんなプレイだ。

そんな感想を頭に浮かべながら、本来の目的である綾波さんを探そうと部屋の入り口から中へと進む。

 

部屋の真ん中辺りに立ってぐるりと見回しても綾波さんは見当たらない。

まぁ脱ぎ捨てられた服から綾波さんが今何しているかは大体わか、ん?

 

そこまで考えた所で、あるものが目に入る。

 

僕のお腹辺りまでの大きさしか無いタンスの上に置かれた、壊れた眼鏡だった。

綾波さんがしていることを考えれば、僕は早くこの部屋から出て行かなければならない。

それがわかっているというのに、僕はその眼鏡が気になってしょうがなかった。

 

 

「綾波さんの、じゃないよね・・・?」

 

 

デザインからしてとてもジジ臭いそれは、とても綾波さんに似合わない代物だった。

さらに言えば、こんな無駄な物がここにあるのもおかしい。

部屋を見回して僕はここには生活するにあたって必要最低限の物しか無いと感じた。

だから壊れたジジ臭い眼鏡なんて物は、かなり浮いた存在に思えた。

 

・・・まぁ、綾波さんからしたら無駄な物じゃないのかな?

 

僕はそう結論付け、他の物に意識を逸らす。

もし僕がここに閉じ込められて、脱出ゲームのような事をやっていたのだったらこんな意味深な物にはすぐに触っただろう。

だけど今はそんな事してないし、意味深な物は地雷だったりすることもある。

だから僕は壊れた眼鏡をスルーして、その下の引き出しから覗く下着の山を凝視していた。

 

 

 

・・・だけど何故だろう?ものすごいイベントを逃してしまったような気分になるのは。

 

 

 

ガラッ

 

その時、後ろから物音がした。

誰か僕の後ろにいる・・・いや、綾波さんが僕の後ろにいる!

 

しまった!遅かった!!

 

素早く退出する手筈のはずが、この眼鏡のせいで機会を逃してしまった。

全部この眼鏡のせいだっ!つまりこの眼鏡は父さんの物だね!!(暴論)

ノリで持ち主が決定してしまった眼鏡だったが、多分あってる気がする。

 

って今はそんな事考えてる場合じゃないか。

 

僕があんなにも急いでいるのは、脱ぎ散らかしてあった衣服から綾波さんはお風呂に入っていると推理したからだ。

だから鉢合わせしないよう急いで出ようとしたのに、父さんのせい(決定)で綾波さんが出て来てしまった。

つまりは・・・

 

 

「・・・何してるの?」

 

「勝手に上がっちゃってゴメンね?ちょっと用事があったんだ」

 

 

声を掛けられ、ずっと背を向けているわけにはいかなくなった僕は瞬間的に覚悟を決めて爽やかな笑みを浮かべて振り返る。

 

 

「リツコさんから綾波さんの更新カードを預かって来たんだけど」

 

 

そう言いながら『一糸纏わぬ状態で』廊下に立っている綾波さんの横をスッと通り過ぎ、踵を潰して素早く靴を履いて玄関のドアノブに手を掛けてから笑みを崩さないように振り返った。

 

 

「僕は外で待ってるからNERVに行く支度をして出て来てね、カードもその時に渡すからさ」

 

 

僕はそう言い残して外に出てから扉を閉め、その場から離れるように少し歩いたところで大きな溜息を吐いた後に側の壁に寄り掛かった。

 

 

・・・し、死んだかと思った。(社会的に)

 

 

あんな状況になった原因を辿れば変かもしれないけど、今この瞬間だけは綾波さんに人間味が無いことに感謝していた。

普通の女子だったら騒がれて僕の人生は終了していた確信がある。

 

 

ぶっちゃけ使徒との戦いより緊張したんだけど!

 

・・・もう綾波さん最後の使徒でも僕は驚かないよ。

 

 

僕は綾波さんが着替えて出てくるまで、ずっとギリギリの体験をした後に良くある興奮状態に陥っていた。

 

 

 




今回は使徒、でませんでしたね(すっとぼけ)

次回はなんと!みんな大好き◇さんがでます!

お楽しみにねっ!!



学校で疲れたので変なテンションになってるのは自覚してます。

サーセンしたwww


次回の投稿は土曜日を予定しております。


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第八話「NERVの闇、親子の絆」

発売したドラクエ8リメイクを早速プレイするシンジくんとアスカ。


「イベントに声があるとかなり新鮮だな・・・」

「声付きしか知らないアタシからしたら何とも言えないわね」

「「それにしても」」

「「ヤンガスの声父さん(碇指令)だよな(よね)・・・」」


父さんの策略に嵌って九死に一生、いや奇跡体験!アンビリバボーな瞬間を乗り越えてからしばらく。

僕は斜め前を歩く綾波さんに先導されるような形でNERV本部への道を進んでいた。

 

 

「・・・」

 

「・・・^^;」

 

 

黙って歩く綾波さんに、黙って続く僕。

 

自分で言うのも何だけど、僕はそれなりにコミュ力がある方だと思っている。

だけどこの何とも言えない空気を打破するような策も勇気も僕には無かった。

 

もしこの状況を視聴者視点、所謂神様視点で見ている人がいたとする。

多分その人は「シンジはヘタレてるな」とか「話しかけるくらいできるだろ!」とか「ニコポなでポでやりたい放題だぐへへ」とか「ちくわ大明神」とか思っているんだろう。

誰だ今の。

 

 

とにかくだ。

僕に対してそういう『転生者』のような視点で物事を語られても何の意味も無い。

 

 

小説とかアニメだとかを見て、「この場面は自分なら~」とか思う人は少なくないと思う。

だが、その場面にいる自分をリアルに想像する人はいないだろう。

無意識に美化し、その場面に佇む自分はリアルの自分とはかけ離れた容姿になっているに違いない。

さらにその自分には、場面を思い通りに進められる『原作知識』。

苦労もせずに物事を進めるための『能力』も当たり前にように保有しているのだろう。

 

 

これを『転生者』と言わずになんというのか。

 

 

そんな場面を思い通りに進める妄想をしている人達に、僕は問いたい。

 

 

自分はリアルそのままの容姿で、原作知識の無い知らない世界なのにもかかわらず能力無し。

そんな自分の前をこちらを見向きもしない絶世の美少女が歩いていた。

しかしその美少女は謎が多く、勇気を出して話しかけても十中八九無視されるだろう。

 

その状況であなたは、

 

 

 

『彼女に話しかけることができますか?』

 

 

 

「(誰か助けてーっ!!!)」

 

 

そこまで考えた所で僕は心の中で絶叫した。

あまりの緊張で誰に話しているわけでも無く、偉そうに意味の無い問い掛けを繰り広げていた僕。

しかしそれは「これはひどい」なんて言葉では片づけられない状況をLIVEで体験していることを態々再確認するハメになるという結果に終わった。

 

 

▼ しんじ は げんじつ から にげだした! 

 

▼ しかし まわりこまれてしまった!

 

▼ げんじつ の こうげき!

 

▼ つうこんのいちげき! ←今ここ。

 

 

もうチート転生者でも父さんでも何でもいいから助けてほしい。

誰か綾波さんが気になる話題とか教えてくれないかな・・・

 

自分で解説するのも可笑しいけど、僕が父さんに助けを求めている時は大体諦めている時だ。

父さん助けて!→しかし何も起こらなかった!→やっぱり父さんはダメだね(暴論)といった流れはもうすでにお約束だからね。

 

というわけで助けを求める事をかなり時間をかけて諦めた僕は、爆砕覚悟で綾波さんに話しかける!

 

 

 

 

 

 

「綾波さん!今日はいい天気だね!」

 

あ、やっちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

「そうね」

 

え?

 

 

 

 

 

 

 

返事が返ってきた。

会話が・・・成立した。

 

絶対に失敗すると言っても過言じゃない、あの言葉。

その言葉に返事が返ってきた。

 

無視されると勝手に確信していた僕は驚いて固まるが、『今回は』止まっているわけには行かなかったのですぐに歩き出す。

 

 

ん?『今回は』?

 

 

・・・そうだった、思い出した。

今のやり取りとこの驚きを僕は知っている。

 

 

『と、父さん!今日はいい天気だね!』

 

『ああ、そうだな』

 

 

母さんのお墓の前で、初めて父さんと交わした会話。

沈黙に耐えられなくなり勇気を出して話しかけ、返事が返ってきて驚きその場に固まってしまったあの時。

 

あの時と、全く同じ感覚だった。

 

・・・と、いう事は。

 

 

「綾波さんはいつもこの道でNERVに向かうの?」

 

「違うわ」

 

「あ、そっか。学校からの時もあるもんね」

 

「そうね」

 

 

言葉数は少なくとも、僕の言葉に対してしっかりと返事を返してくれる綾波さん。

 

やっぱり思った通りだ。

綾波さんは、父さんと同じタイプの人だったんだね。

そうとわかれば話は早い。

僕が感じていた重い空気は、いつの間にか消え去っていた。

 

NERVへの道を歩きながら、何でも無いような会話に花を咲かせる僕と綾波さん。

僕がしゃべって、綾波さんが答える。

そんな会話を続けていると綾波さんがエスカレーターに乗ったので、僕も3段くらい遅れて乗る。

 

下へと続く、異常に長いエスカレーター。

まだ此処へ来て日が浅く、方向感覚がまだ掴めていない僕でもNERVがもうすぐそこだという事はわかった。

 

・・・じゃあそろそろ、少し踏み込んだ話をしたほうがいいかな。

 

 

「もうすぐで着くね」

 

「そうね」

 

「綾波さんは零号機の起動実験、大丈夫?」

 

「どういうこと?」

 

 

今までと同じように、YESかNOで答えられる質問をすると初めてそれ以外の答えが返って来る。

質問に質問で返すなーッ!!とは言わない。

確かに少し、分かりずらかったかな・・・?

 

 

「前に起動実験で大怪我したって聞いたから、平気なのかなって思ってさ」

 

「・・・」

 

 

話しをしていて、初めての沈黙。

少し綾波さんの纏っている空気も変わった気がした。

あれ・・・もしかして地雷踏んだ・・・?

 

 

「・・・あなた、碇指令の子供でしょ」

 

「え、あ、はい」

 

 

唐突なその言葉に、つい改まった返事をしてしまう。

それに何の関係が・・・?

 

 

「信じられないの?お父さんの仕事が」

 

「・・・そっか、父さんの仕事なのか」

 

 

父さんはNERVの司令官だから、これも父さんの仕事になるのか。

何処か心の中で、勝手な区切りをつけてしまっていた。

そんな風に少し考え込んでから意識を綾波さんへと向け直すと、綾波さんは振り返って僕を見つめていた。

 

・・・今は、地雷を踏まないようにする事に専念するか。

 

 

「父さんの事は信じてる・・・けど、実験は別だよ」

 

「どうして?」

 

「だって、一回大怪我してるんだよ?」

 

「・・・?」

 

 

ほんの少し眉を顰める綾波さん。

普通の人にはわからないかも知れないけど、父さんで慣れている僕には頭の上に「?」が浮かんでいるのまでハッキリ理解できた。

・・・って、なんでわかってないんだ?

 

 

「今回も失敗しちゃったら、もっとひどい怪我するかもしれないじゃないか!」

 

 

理解でき無さそうな反応が逆に理解できなかった僕は、つい声を荒げてしまう。

しかし、綾波さんは不思議そうに「?」を浮かべたままだ。

 

・・・僕と綾波さんで話題がすれ違っている気がする。

なんかこう、アンジャッシュ的な。

 

 

「あなたは何の心配をしてるの?」

 

「綾波さんの心配に決まってるじゃないか」

 

 

むしろ他に何があるんだと聞きたいのを堪えて、「おまえは何を言ってるんだ」と言わんばかりに返事を返す。堪えられてないな。

僕の返事を聞いた綾波さんは、何に驚いたのか目を少し見開いた。

 

アレかな。

自分が傷つく事は気にして無くて、僕が気にしているのは綾波さんじゃ無く実験の成功だとか他の事だと思っていたとか?

 

・・・少し、イラッと来た。

今なら某正義の味方の周りの人の気持ちが、良-く理解できる気がする。

 

 

「・・・どうして」

 

「あたりまえだろ?友達じゃないか」

 

 

綾波さんの問いに、僕は間髪入れずに返事をする。

その質問はすでに予想済みだったからだ。

綾波さんは少し見開いていた瞼を、さらに少し開いて驚いた。

 

 

普通だったら「何言ってるんだ?コイツ」と言った反応が返って来るような、恥ずかしいセリフを言ってしまっているのはわかっている。

だけどその反応は少しでもアニメや漫画を知っている人の反応であって、綾波さんのような純粋無垢な人には当てはまらない。

 

だから綾波さんが変な感情抜きで、僕の言葉をそのままに受け取っているのは理解している。

理解しているからこそ、その「予想もしていなかった」的な反応は嫌だった。

 

父さん式会話術だけど、結構な量の話をしたんだ。

僕はもう、綾波さんとはそれなりに仲がいいと思っている。

 

 

「少しとはいえ、一緒に歩いて話したんだ」

 

「・・・」

 

「僕はもう、とっくに友達だと思ってるよ」

 

「・・・」

 

 

驚いた表情のまま黙っている綾波さんに、畳み掛けるように続ける。

少し無理矢理な気がするけど、なのはさん式ということで勘弁してほしい。

それでも固まったままの綾波さんに、視線を合わせジッと見つめて返事を待つ。

すると少し経って、綾波さんの視線がほんの少しずれた気がした。

 

・・・もしかして今、目を逸らしたのかな。

 

照れているのか、それとも嫌だったのか。

どっちなんだろう。

 

 

「・・・もしかして、嫌だった?」

 

「・・・違うわ」

 

「ならよかった」

 

 

僕のテンプレな問いに対して、望んでいた返答が返って来る。

一応本当に心配だったので笑みを浮かべてそう言うと、綾波さんの視線がさらに数ミリずれる。

嫌じゃないという事はこの反応が消去法で照れている、という事になるのでつい和んでしまう。

 

そして綾波さんも僕も、何も言う事が無くなったので最後の締めとして僕は笑ってこう言った。

 

 

「綾波さん、実験がんばってね。応援してるから」

 

「・・・」

 

 

綾波さんは何も言わず前を向き、少しした後にほんの少し頭を上下させた。

僕は綾波さんが頷いたんだと理解し安心して、少し声を出して笑ってしまった。

 

うん、よかったよかった。

シンジも綾波レイもここからドンドン仲良くなっていくんだろうね。

続きが実に楽しみだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・ふぅ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところでこれ、なんてゲーム?

 

 

最後なんて恋愛もののVRMMOゲームなんてものがあったらこんな感じなのかーとか思いながら話してたからね。

いやこれ現実だよね?

ケンスケ達とかとふざけているわけじゃ無く主人公ロールをして、しかもそれが完璧に機能しているとか現実味なさすぎでしょう?

 

綾波さんも人間味が無いからちょうどいいってやかましいわ。

 

今のでわかったけど、綾波さん自身は普通の女の子だ。

じゃあ人間味が無いのは何だったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・周りの、扱いだろうなぁ。

 

ごめん綾波さん。

さっきは「父さんの事信じてる」って言ったけど、少し不安になって来たよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまぁシリアスはここまでにして置いて、と。

 

 

ねんがんの あやなみさんとなかよくなったぞ!

 

殺してでも まもりきる!

 

 

地雷踏みかけたっぽいしこれ以上の情報収集は諦めるとして、これは大きいな。

これも父さんとの会話で会得した、父さん式会話術のお蔭だね。

 

・・・ん?という事は、これは父さんに助けられた事になるのか?

父さん助けて!→しかし何も起k(以下略)が成立しなかった事になるのかな?

 

・・・すごく嫌な予感がする。

フラグ回収ならずという事態に僕のライダー(宝具はエヴァ)としてのスキル、直感A(偽)が警報を鳴らし始めた。

僕の中で旗回収不可避と信じられていたフラグが折れてしまったんだ。

絶対によからぬ事が起こるに違いない。

 

 

僕はエスカレーターを降り、再び歩き始めた綾波さんの後ろを歩きながら見えない何かに対してずっと警戒していた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「成功、か・・・」

 

 

暴れることも無く、固定されたままの零号機を見て僕は呟く。

あれから少し歩くとNERVに到着、そしてすぐに綾波さんが乗り込んで起動実験が始まり、そして成功に終わった。

 

 

「なぁに?うれしくないのシンジくん」

 

「そんなことないですよ」

 

 

僕のおかしな反応に、となりで同じく零号機を見ていたミサトさんが問いかけてくる。

何でも無いと返すとミサトさんは「そうなの」と言って零号機に目を戻した。

 

・・・ハッキリ言うと、僕はこの実験が失敗すると思っていた。

 

例の嫌な予感、それがこの実験の失敗に対するものだと考えていたからだ。

これじゃないならいつ、何があるんだろう?

そうやって考え込もうとして、やめた。

 

そうだよね、嫌な事なんて無い方が良いに決まっている。

いくら僕の予想の的中率がこの街に来てからかなりの物だったとしても、それをスキルと呼んで勝手に深く考え直ぎたかな。

そんな風に自分の考えにやれやれと溜息をついたところで、放送が響き渡る。

 

 

《総員、第一次戦闘態勢についてください、繰り返します・・・》

 

 

・・・これこそがフラグ、だったか。

 

僕は自分の考えの迂闊さに嘆きながらミサトさんと共にその場を後にした。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

『初号機発信準備!』

 

『第一ロックボルトを外せ』

 

「解除確認!」

 

『了解!第二拘束具を外せ』

 

 

僕も慣れたもので、最初の頃とは違いオペレーターの指示に対してキリッとした声で答える。

気合十分。気力も十分で体に力を込める。

まぁエヴァの視界からは、こっちをじっと見ている綾波さんが見えてるから気合いが入るのはしょうがないよね。

 

そのうちエヴァの発進準備は整い、ミサトさんの声でエヴァが発進する。

いつものように襲い掛かる重力に耐える僕。

だけど今日は耐えながらも、無線越しに聞こえるミサトさん達の声を聞きとろうと必死に意識を集中した。

 

さっき僕が立ててしまった、「嫌な予感の回収フラグ」。

絶対に回収しないために、そのための努力は怠るつもりは無いのだ。

視界が遮られている以上、気にする部分がそれしか無いとも言えるけど。

 

 

・・・ん?なんか向こうが騒がしい。

何かに対して慌てる声がするが、周りの轟音でよく聞き取れない。

やめてよ怖いじゃんか!

 

僕は何が起こるかわからない恐怖と重力に耐えていると、ガコンとという音と共にエヴァが止まり外の景色が視界に飛び込んできた。

地上に着いた。

 

何があったのか。

それを聞こうとしたがそれよりも早く、ミサトさんの叫び声が聞こえた。

 

 

「ダメ!!避けてっ!!!」

 

「っ!!?」

 

 

次の瞬間、僕の視界は白一色に染まった。




原作でゲンドウに絆を求めたレイ。
そしてシンジと少しの触れあいで感情を見せるようになったレイ。

私は綾波レイ自身には何の問題も無く、悪かったのは環境だと信じています。
そんな普通の女の子に対して、シンジくんの主人公ロールは効果抜群だったようです。


そしてレイを通して、NERVの闇を垣間見たシンジくん。
さすがのシンジくんも、そして私も一時的にとはいえシリアスのならずには居られませんでした。


ですが皆さん、安心してください。

皆さんは知らなかったと思いますが、実は私はシリアスを書くのが苦手なのです。
そのうち、反動が倍返しで返って来ると思うので、それまでお待ちくださささささ(禁断症状)


それとすみませんでした。
◇さんビームしか出てないですね。
次回こそ本格的に出てきますので本当にサーセンwww
(シリアスは死んだ、もういない)

・・・と、思っていた時期が私にもありました。(追記)

皆様の御感想を読ませて頂き、執筆中の九話の内容に思う所が有ったので最初から書き直すことにしました。
なので投稿がかなり遅れると思います。
ご了承願います、そして本当にすみませんでした。


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第九話「スーパーシンジ、略してスパシン」

書き直すことになった流れ。


今回はイナイレ回だー必殺技でビーム止めてやるぜ!
               ↓
感想で避けるOr当たるしか存在しておらず、誰も止めるのを予想していない事に気づく
               ↓
あれ・・・これ止めちゃいけない流れじゃね?
               ↓
やっべ、A.T.フィールドで止めるの無理な気がして来た
               ↓
でも今さら避けるのは間に合わないよね、止めるしかないよね
               ↓
あ、Fate/GOでヴラドさん当たった。わーい
               ↓
ヴラドさん霊基再臨で限界突破した。やったー
               ↓
あ、シンジくんも限界突破させれば少しは止められるんじゃね?


というわけで今回はシンジくん覚醒回!

何時にも増して読みにくい長文だけど、勘弁してくだせぇ!


「あああああ↑あああああっああああぁぁぁ・・・」

 

『シンジくん!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・おk、大丈夫です」

 

『よかったわ・・・』

 

 

僕は俯せになった状態の初号機の体を起こしながら何ともない事を伝える。

今のは我ながら素晴らしい身のこなしだったと思う。

 

最初の「あああああ↑」でA.T.フィールドによる防御。

だけどすぐに次の瞬間には破られると悟った僕は、「あああああっ」の時に踵でリフトの根元を粉砕。

そして最後は叫びながら横にローリングで退避したというわけだ。

あ、背中にくっ付いたままだったリフトの残骸は転がってる時に粉々になった。

いやぁハリウッド映画並みのアクションだったね。

 

 

・・・でも冷静に考えると、不思議だ。

 

 

あの目の前が真っ白に染まった時、一応だけど警戒していた僕はA.T.フィールドを展開しようとしたけど直感的に間に合わない、そして間に合ったとしても止められないと感じた。

 

そして周りの動きが突然ゆっくりになったような気がして、自然と色々な思い出が浮かんで来た。

これが走馬灯ってやつか・・・と考えながら思い出に浸っていると、思い出の叔父さんと僕は段々若く、そして二人の関係がぎこちなくなって行く。

思い出が過去に遡っているんだと理解した時、一人ぼっちで泣き叫ぶ僕の姿が通り過ぎて行く。

 

そこで何か、いや誰かの姿を思い出しそうになったんだ。

 

その誰かの姿が段々とハッキリし始めて、やっと顔が見えるってところで目が覚めたというか、我に帰ったというか何というか。

とにかくそこで感覚が戻ってきて忘れかけていた今の状況を思い出した。

そして前を見ると、A.T.フィールドが僕を守っていた。

何故かわからなかったけど、そのA.T.フィールドは前よりも強くなっていたんだ。

でもやっぱり押し返すのは無理だったみたいで、すぐに破られると感じた僕は必至に回避行動を取ったというわけだ。

 

 

・・・

 

いや、まぁ誰かって暈しても意味無いよね・・・大体わかるし。

 

 

 

『目標に再び高エネルギー反応!』

 

『っ!リフトすぐに下げて!!シンジくん一時撤退よ!!』

 

「っ・・・了解です」

 

 

リフトの床部分はすぐに奥へ引っ込み、僕も間髪入れずその穴に飛び込んだ。

真っ直ぐに落ちて行かないように壁に手や足を添えてゆっくり降下しながら僕は上の方で爆発音を聞いた。

 

 

「シンジくん!大丈夫!?」

 

「ミサトさん・・・」

 

 

エヴァから降りると、走って来たのか肩で息をするミサトさんに迎えられた。

特に怪我は無いけど、そんなことはどうだっていいんだ。重要な事じゃない。

 

 

「怪我はしてませんが、ちょっと疲れたので休んでもいいですか・・・?」

 

「えぇ、作戦が決まったら呼ぶからゆっくりしてくれていいわ」

 

「ありがとうございます」

 

 

僕はエヴァの搭乗スペースから離れ、自分の荷物とか着替えとかが置いてある更衣室へやって来た。

室内に入り、ベンチに座り項垂れるようなポーズを取る。

そして近くに置いてあった僕の荷物に手を伸ばし、財布を散り出してさらにその中から一枚の写真を取り出す。

その写真には茶色の髪を持つ綺麗な女の人が幼児を抱いて笑っていた。

 

 

「・・・母さん」

 

 

僕はこの部屋に盗聴器が仕込まれていようとも聞き取れない程度の声量で呟く。

この写真は僕が生まれた後に、一度だけ僕を連れて顔を見せに来た時に叔父さんが取った写真らしい。

何度目かの誕生日で叔父さんがくれた、宝物だ。

僕は写真の中の母さんの顔をじっと見つめてから目を閉じて、さっきの走馬灯を思い出す。

まだまだぼんやりとした状態で、思い出せなかったあの人。

途中で途切れた走馬灯を宝物の写真が補完していく。

そして、今度こそその姿がハッキリと見えるようになった。

 

 

「・・・やっぱり、母さんだよなぁ」

 

 

僕が走馬灯で思い出しかけたのは母さんだった。

そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エヴァさん=母さん、かぁ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまで来ればさすがに気づく。

(意味深)というか直球過ぎる走馬灯だった。

確かに今までも気づける要素はいくつか有った。

 

母さんの事を思い出しかけた途端にA.T.フィールドが強化された事。

トウジ達が初号機に入ってくる時に、遊びに来た感覚と言った事。

そして・・・最初からずっと感じていた、包み込んでくれるような温かさ等々。

 

・・・いや、僕の事だから最初から気づいていたに違いない。

 

一番最初にシンクロしたあの時、実は中途半端でやめてたんだよね。

自分の感覚に頼ってシンクロ率を高めようとした時、「エヴァさん」という結論を出したが僕はまだ違和感を感じていたんだ。

確かに今までとは比べ物にならないくらいに帰ってくる反応は大きかったんだけど、まだ追求できるってなんとなくわかっていたんだと思う。

だけど基本「嫌な事は後回し」、「イチゴは真っ先に食べる派」の僕は無意識にそれを避けていた。

 

その結果がコレだよ!!

 

 

「あ”ー・・・凹むわ・・・」

 

 

考えている間にベンチからずり落ち、床の海に沈んでガチ凹みする僕。

「今明かされる衝撃の真実~www」とかのネタをやるチャンスではあるけど、それをやる気力すら沸いてこない。

いや・・・だってねぇ・・・衝撃的過ぎるよ。

一瞬現実から逃げるように母さんを限り無く再現したデータとも考えたけど、すぐに理性が否定する。

なんとなく本物だって感じるのもあるけど、何よりキン〇ダムハ〇ツで心はデータ化できないって言ってたしね。

 

 

「父さん・・・あー↓・・・」

 

 

いつものテンプレをやって元気出そうかと思って実行したけど、今の僕にとっては父さんが地雷でさらに凹む。

 

だって父さん絶対知ってる。

絶対初号機に母さんが居る事知ってるもん。

そうじゃなきゃ父さんがここに居る理由が考えられない。

 

昔、何回目かの例の日に僕は父さんに母さんの事を尋ねたんだけど、その時初めてYESかNOかじゃない返答が返って来たもんだから僕は喜んでドンドン踏み込んだ質問をしちゃったんだよね。

そのことに関しては反省も後悔もしている。本当にさ、男のヤンデレとか誰得だっての。

ひぐらしとかスクールデイズとかを見ていくらか耐性をつけてたからなんとかトラウマにはならずに済んだけど、まだまだ幼い僕のSAN値を削るのには十分すぎる狂気を感じたよ。

あんなのを殺したいほどに愛してるって言うんだろうね、エセ神父とはかなりベクトルが違うけど。

両親が愛し合ってる(母さんの方は叔父さん情報)のは子供としては嬉しいけど、あまりにも行き過ぎているソレはかなり怖かった。

 

そんな父さんだからこそ、NERVに居る意味が解らずに混乱した。

母さんの居ない世界など生きていてもしょうがない、なんて言って自殺しそうな父さんが正義のロボットを保有する組織の司令官とかアホかと、馬鹿かと。

似合わな過ぎて笑えて来るほどだった。

だけど実際は正義の組織なんてものは存在せず、有ったのはトンデモナイ秘密抱え込んでやがった怪しすぎる組織NERV。

そしてそこには父さんが愛してやまない母さんが存在していた。

 

 

うん、これ以上無いってほどに似合ってるね父さん!

 

 

・・・よし、少し調子が戻って来た。

 

実の所、僕はそこまで心のダメージを受けていなかった。

理由はコレまた僕が胸糞展開に耐性が有ったってのもあるけど、碌な前置きも無かったから現実味が無さすぎるっていうのが一番だろうね。

ほら、内容の重さ的に知るのも戦いの終わり間近か、または知らないで終わってたかもしれない事実だからさ。

信じた存在に裏切られた!みたいなダメージも本来受けるんだろうけど、NERVに関わった日が浅すぎてショックはほぼ無いんだよなぁ。

自分の無駄過ぎる推理力を恨めばいいのか、鬱展開回避できたことを喜べばいいのか。

・・・まぁ、喜んでおけばいいか。じゃ、喜ぶ方向で。

 

 

「・・・あ」

 

 

項垂れるような体制からそのまま体を倒しベンチに寝転がり、そのままずり落ちたために母さんの写真を押しつぶしてしまっていた事に気づく。

我ながら宝物の扱い雑だな、おい。

 

僕は身体を起こして自分の陰になって写真が周りから見えないようにしながら拾い上げ、そのまま腕を伸ばして荷物を引き寄せゴソゴソと写真を仕舞い込んだ。

NERVが信じられるような組織じゃないとわかった以上、行動には気をつけないようにしないとね。

エヴァを降りた瞬間からずっと行動には気をつけているから、僕が母さんの事に気づいたことはバレて無いはずだ。

 

僕は荷物を持ってベンチによじ登り、そのまま荷物を枕にして仰向けに寝転がって目を閉じる。

薄目を開けて天井や壁を見て見るが監視カメラのようなものは見つからない・・・が!NERVの脅威の科学力は僕が気づけないような超小型カメラとかを開発しているかもしれないので警戒するなら徹底的にする。

こんな風に四六時中警戒するのは普通なら疲れるだろうけど、僕はむしろその状況を楽しむ自信がある。

なんかこう、初期の夜神月みたいな感じでさ。

・・・よし、帰ったら隠し事があると悟られた場合のフェイクとして、デスノートもどきでも用意してやろうかな。一晩じゃ無理だろうけどね!

 

 

よーし完璧に調子が戻って来た。碇シンジ完全復活だね!

 

 

さて、このまま前向きな思考を続けるとしようか。

母さんの事を隠していた事からNERVの中身は真っ黒だと確信できるけど、黒一色では無いと思っている。

本部の中で出会い少し話したり、初号機についての説明をして貰ったりなどで僕は数人のNERVの職員と会話したことがあるけど、そのほとんどが良い人たちだった。

ミサトさんに紹介されたオペレーターのマヤさん、青葉さん、日向さんもとても良くしてくれたりして最近は訓練の後などに愚痴や学校での話などを聞いたり喋ったりするほどの仲だ。

NERVを完全に怪しんでいる今も、彼らに裏切られた!とかの思いは全く無い。

 

だって知らないだろうしね、母さんの事とか。

 

何故なら人類を守るこの仕事に誇りを持ってるんだ!と熱く語ってくれた青葉さんとか、家でビールを飲みまくるミサトさんとかの行動はとても演技だとは思えないからだ。

もし演技だったら人間不信になる自信がある。

そんな自信持っててもしょうがないけどね・・・ともかく彼らは母さんの事だけじゃなく、NERVの黒い部分を全く知らないんだと思うんだ。

時空管理局みたいに一枚岩じゃ無いってことだね。

 

敵に成り得ない人とそうでない人を見分けて置けば、いざという時にかなり楽になる。

そう考えると、ミサトさんの家で暮らしているという現状はかなりいい方向に事が動いていると思う。

一応ミサトさんも軍人、そしてNERVでもかなり上の位置にいる人物だ。

そんなミサトさんの家に無断で監視カメラをつけるなんて事は無いでしょ。

・・・僕の生活の様子が記録されている冊子はすでに見つけてあるから、それも裏付ける理由となる。

実行した時は知らなかったとはいえ、ミサトさんの部屋を軽く漁るのはカメラがあったかもしれないと考えるとリスクが高過ぎたね。

今後はそういうことは無いだろうけど、気を付けなきゃ。

 

そこまで考えた所で、扉の向こうの廊下から声が掛けられる。

 

 

 

「碇くん」

 

「っ!・・・綾波さんか」

 

 

気を付けなきゃ、と意識したその次の瞬間だったために驚きで体が強張るが、すぐに平静を取り戻し違和感が無いように返事を返す。

綾波さんか・・・綾波さんはこのNERVでどんな位置にいるんだろう?

 

 

「作戦について説明があるそうよ、ついて来て」

 

「わかった、今行くよ」

 

 

僕はその思考を一端中止してから返事を返し、身体を起こして荷物を軽く移動させる。

そして邪魔にならないような位置に移動させると、寝てたがために少し跳ねた髪の毛を抑えながら扉へ向かう。

帰ったら母さんの写真を別の物にすり替えて置いたほうがいいかな・・・?

演技をすることに対してノリノリな自分に思わずと言った感じに苦笑を漏らす。

 

・・・面白くなって来た、次に解き明かす秘密はどんな内容なのか楽しみですらあるよ。

 

 

覚悟してね父さん、そしてNERV。

正直者を謀ろうとした罪は重いんだよ?

 

ふっふっふっふっふっふっふ・・・!

 

 

最近読んだFateの二次創作で気に入ったセリフを頭の中で言いながら、これまた頭の中で不気味に笑う僕。

頭の中の笑いを絶やさないまま外では爽やかな笑みを浮かべ、扉を開けて廊下に出た。

 

 

「やぁ綾波さん、待たせてごめっ!?」

 

ふっふっふっふっhふぐっ!?

 

 

 

噛んだ。頭の中でも、外でもだ。

 

いやどっちも噛むような言葉言ってないとか、そもそも頭の中で噛むってなんだとかツッコミたい所をはいくつもあるが、そんなことはどうだっていいんだ。重要な事じゃない。

 

・・・そっか。あの時の伏線を回収したことになるのか。

 

 

「・・・碇くん?」

 

「あっ、いや何でもないんだ」

 

「そう?じゃあ行きましょう」

 

 

そう言って身を翻して歩き始めた綾波さんの後ろを歩きながら、僕は再び思考に耽る。

さっき僕が取り乱したのは、言うまでも無く綾波さんが原因だ。

髪の色、雰囲気共にかけ離れているから気づかなかったけど写真を見た直後の僕には気づくことができた、

綾波さんの顔があまりにも母さんにそっくりだったんだ。瓜二つだと言っていい。

 

 

・・・道理で初めて会った時、初めて会った気がしないわけだ。

綾波さんは母さんのクローンなんだから。

もちろんだが偶然似ているだけな可能性もあり、現実的に考えれば遥かに後者が有力だろう。

だけどそんな『普通』がこのNERVでは罷らず、前者の方があり得ると考えてしまう。

というか多分正解だ。じゃないと綾波さんが初号機を動かせるという事が説明できない。

 

法律どうした仕事しろ!とか、NERVの科学力おかしいだろ!とかは今さらだから気にしないけどこれは辛いな・・・

僕は綾波さんがクローンだからと言って態度を変えるつもりは無いし、変に思ったりもしていない。

むしろそれはそれでアリだと思う・・・口には出さないけど。

 

 

辛いのは、綾波さん本人だ。

 

 

僕は父さんと綾波さんが話しているのを遠目で見たことがあるけど、二人とも楽しそうに見えた。

母さん信者の父さんが楽しそうに話しているのは強烈な違和感を感じたけど、楽しそうに話してるのなら息子として僕は喜ぶべきだろう。

そう、思っていたのに・・・綾波さんの顔を見た時、僕は直感的にわかってしまった。

 

父さんは綾波さんを通して母さんを見てただけなんだ、って。

 

これではあまりにも綾波さんが可哀想だ。

今すぐ指令室に走ってオラオラしたい衝動に駆られるが、それでは僕が母さんの事に気づいたことがバレるので実行することはできない。

父さんが何を考えて綾波さんを誕生させたのか気になるところではあるけど、今は綾波さんにしてあげられることを考えなくては。

と言っても、僕ができるのは綾波さんが寂しくないように友達としてフォローすることぐらいだ。

であれば、僕は保有する全ての知識を持って最高の友達になって見せよう。

 

 

もしこれが物語で、僕が本当に主人公だったのなら。

鬱展開を回避して楽な道を進もうとする僕は主人公失格だろう。

二次創作だとしても、駄作もいい所だ。

 

だけど、それでいい。いやむしろ・・・それがいい。

 

駄作なら駄作らしく、『ご都合主義』ってやつを存分に使わせてもらう。

ただし顔も名前も知らない、居るかどうかもわからない作者に頼るんじゃ無く僕自身の手で『ご都合主義』な展開を手繰り寄せる。

 

僕はもう今までの碇シンジじゃない。

スーパーシンジ・・・略してスパシンって所かな。

僕の本当の戦いはこれから始まるんだ。

 

 

―――いくぞ父さん。野望の貯蔵は十分か・・・!

 

 

僕は黙って歩く綾波さんの背中を見つめながら、戦い抜く覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで綾波さんってもしかしたら僕の妹になったりするのかな?友達じゃなくて。

 

僕の妹がこんなに可愛いわけがない。





すみませんで!もう一回すみません!
いくら最初から書き直すにしてもさすがに遅すぎですよねすみません!
仄めかさせていた内容と全く違う内容ですみません!
ラミエル最初しか出てませんねすみませんでした!
ヴラドさん当てたこと何気に自慢しててサーセンwww
次からはもっと計画的に頑張りますすみません!
でも多分遅れたりはこれからもあると思いますすみません!
あ、感想はいつでもお待ちしておりますすみません!
図々しいとは思いますが、これからも今エヴァをよろしくお願いしますすみません!

生きていてすみませんでしたァーー!!!

(うるさくてすみません)


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第拾話「月の綺麗な夜に」

長らくお待たせ致しました!
前の投稿からもう一カ月弱も経ってて・・・本当に申し訳ないです。

そして、今回でヤシマ作戦と共にシリアスも終了です。
最後を飾るような怒涛のシリアスが有りますが、綾波回という事で勘弁してください!


あと、今さらではありますがシンジくんが親が親なのでかなりハイスペックな頭を持っております。
だから思考スピードは通常の三倍・・・とはいかなくてもかなり早いのです!

では本編を・・・ゆっくり読んで行ってね!


あ、今回はいつもより長めでーす。


「・・・以上が今回行うヤシマ作戦の内容よ。何か質問はあるかしら?」

 

「ありません」

 

「僕もありません」

 

 

ミサトさんの問いに、僕と綾波さんは答える。

 

綾波さんの案内でまた例の下から光が入る部屋にたどり着くとそこにはミサトさんとリツコさんが居り、そこで今日行う作戦の説明を受けた。

何でも日本中から電力をかき集め陽電子砲とかいうのをA.T.フィールドをぶち抜いて叩き込むという作戦だとか。

 

・・・ゴリ押しかよ、なんて思ってないんだからね!

あと陽電子砲ってわかりにくいな、なんかわかりやすい例え考えとこ。

 

 

「それでは本作戦に置ける各担当を伝達します」

 

「・・・」「・・・!」

 

 

「・・・と言いたい所なんだけど」

 

「・・・」「?」

 

 

「実はまだ決まってないのよね~」

 

「・・・」「」ズルッ

 

 

いきなり気の抜けた・・・ミサトさんが素の声で言い放った言葉に、漫画のように体制を崩してしまう。

姿勢を正しながらこちらを見て苦笑いを浮かべているミサトさんを少し睨んで置く。

 

・・・まさかミサトさんにシリアスを崩されるとは、予想外だったよ。

 

 

「役割としては砲手と防御の二つがあるんだけど、誰がどっちをやっても作戦の成功確率の違いは誤差の範囲なのよ」

 

 

そう言ってミサトさんは横に居るリツコさんに目を向ける。

するとリツコさんは手に持ったボードを見ながらミサトさんの言ったことについての詳しい説明を始めた。

 

 

「シンクロ率の高いシンジくんが砲手を担当すれば精密性が上がるわ・・・だけどシンジくんは使徒の加粒子砲を一瞬だけど止めて見せた、だから防御を担当すれば作戦の安定性が上がるのも事実なの」

 

「そういうわけで役割は決まって無いのよ、どっちを担当するかは自分達で決めて貰って構わないわ」

 

 

ミサトさんがそう言って僕達の方を見る。

僕はミサトさんから視線を外して綾波さんの方を見ると、綾波さんも僕と同じようにこちらを見ていた。

 

きっと綾波さんは防御をやるって言うんだろうね・・・なんか嫌だな。

 

 

「ミサトさん、僕に防御をやらせてください」

 

「ちょっと意外ね・・・まぁいいわ、じゃあ砲手はレイが担当でシンジくんはその防御担当!それでいいわね?」

 

「はい!」「・・・ハイ」

 

 

横から送られてくるプレッシャーを気にしないようにしながら、僕は元気よく返事を返した。

 

 

 

・・・

 

 

 

しばらく経って、僕は男女合同の更衣室のベンチに座っていた。

白いカーテンで仕切られた向こうでは、綾波さんがプラグスーツに着替えている。

初号機降りてからプラグスーツを着たままの僕は着替える必要が無いので、綾波さんを待っているような状況だね。

 

しかし陰で着替えている様子が丸わかりなのはいったいどういう事だ。

狙っているとしか考えられない部屋の作りに、僕は頭を抱える。

作った奴頭おかしいんじゃないか?法律の手が届かないって恐ろしいねホント。

 

え?綾波さんの着替えが気にならないのかって?

午前中にもっとダイレクトに見てるからこの程度じゃ動揺しないさ!

 

 

「なんであんなこと言ったの?」

 

「・・・防御担当を申し出た事、だよね?」

 

「そうよ」

 

 

何の前振りも無い突然の質問に一瞬固まるが、すぐにその内容を頭の中で再確認しさっきの事について聞かれているのかと考え念のため確認する。

突拍子も無く何か行動を促される事に大分慣れて来たなぁと考えながら綾波さんへの返答も同時に思考する。

 

と言ってもその事について聞かれるのは一応予想してたんだけどね。

僕は用意して置いた答えを口にする。

 

 

「男なら誰かのために強くなれってね!自然と言葉に出ちゃったんだ」

 

「・・・」

 

「ま、まぁ砲手をやるのが自信無かったってのもあるけど・・・」

 

「・・・そう」

 

 

綾波さんはそのまま何も言わなくなった。

真実を織り交ぜた嘘は信憑性が上がるという・・・これで納得してくれると嬉しいんだけど。

え?どの辺がホントなのかって?

「砲手をやるのが自信無い」って所だよ!言わせんな恥ずかしい。

 

 

・・・まぁホントの事言うと、綾波さんに防御をやらせたくないって言うのが一番の理由なんだけどね。

 

 

ミサトさんに役割をどうするか聞かれて綾波さんの方を見た時、僕は綾波さんがどっちの役割をやりたがるかすぐに理解した。

僕には綾波さんは絶対に防御を担当するという確信が有った。

綾波さんの行動は某正義の味方の行動を当てはめて考えると予測しやすい部分がある。

自身を蔑ろにする、という点で共通してるから自らの危険を無視して防御担当を志望してくるのは容易に想像できるんだよね・・・

 

それが僕的に嫌だったし、綾波さんを危険な目に合わせたくなかったんだ。

いや、格好つけてるとかじゃなくて本当に綾波さんだと危険なんだよ?

 

敵の攻撃を防ぐために使う盾なんだけど、リツコさんの話では17秒しか防げないらしい。

そしてこっちの超電磁砲は一発撃ってから、次の攻撃を放つまで20秒掛かるとか。

つまりは確実に3秒、生身で攻撃を止めなきゃならないという事なんだよね・・・エヴァなのに生身って言うのも可笑しな話しかもしれないけどさ。

たった3秒とはいえあの威力だ、どんなことになるか想像もできない。

だからA.T.フィールドで防げる僕がやるってわけだね!

 

僕のこの考えを誰かに聞かせたら、絶対に「なんで二発目撃つ前提で話してんの?」と聞いてくるだろう。

この作戦では使徒は超電磁砲(陽電子砲)の一撃で沈むと想定されていて、防御なんてのはもしものための予備でしかないのだからその疑問は当然だ。

 

 

しかし僕は逆に聞きたい、「当たると思っているのか?」と。

 

 

絶対に一発目は外れる。誰が撃ってどんなに気をつけても、だ。

外れた時の対応についてミサトさんから説明された時点で、僕はそれを察した。

アニメや漫画に置いて、もしもの時の備えというのはこれ以上に無いフラグとなる事がある。

今さら二次元の出来事が現実で、なんて一々考えるのは無粋だ。

故に僕は瞬間的に二発目の可能性では無く、確信を持った。

しかし、僕の中では絶対と言い切れるほどの理由でも他の人からすればバカな子供の虚言でしかない。

だから綾波さんにはさっきの理由で納得して貰わなくちゃいけないんだよね。

バカだって思われたくないからね!!

 

と、そこまで考えた所でカーテンに映る綾波さんのシルエットが大きくなっている事に気づく。

 

 

「着替え終わったわ、行きましょう」

 

「わかった」

 

 

カーテンのすぐ向こう側に立った綾波さんは僕の返事を聞くと、スタスタと扉の方向へ歩き始めたので僕も立ち上がり扉へと歩く。

綾波さんにさっきの話を続ける様子も無く、追及されずにこの場を超えることができた。

一先ずは安心していいだろうと考え、廊下に出て歩く綾波さんの後へと続いた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「どうしてあんなこと言ったの?」

 

 

少しでも気を抜いたらフラグになるとかちょっと厳しすぎやしませんかねぇ(半ギレ)

 

あの後それぞれのエヴァに乗り込み、暗くなり始めた地上へ出て移動し待機場所へ向かいすぐに到着。

作戦開始まで自由にしてくれていいと言われたのでエントリープラグから出て外の風に当たっていると、初号機の横に並んで立っていた零号機からも綾波さんが出てきて僕の側に座った。

また何か話す雰囲気になってしまい、僕が戦慄していた所に掛けられた言葉は無情にも先ほどの問いかけと一字一句違わない物だった。

 

全然納得してないじゃないですかヤダー!

 

 

「えー・・・と、その、それはさっき言ったと思うんだけど・・・?」

 

「・・・」

 

 

綾波さんは何も答えず、じっと僕の目を見るばかり。

まるで言わなくてもわかるだろ?あ?とでも言っているみたいだ。

 

そうだね!言いたい事がすごく伝わって来るよ!!

 

僕は話題を止めることを諦め、逸らす方向で何か手は無いか考える。

某サッカーやろうぜ!さんも言ってたからね。止められないなら逸らせばいいって。

・・・さて、話題はこのままで僕が答えなくていい方向に持って行く方法か。

そうだ、逆に聞いてみようか。

 

 

「逆に聞くけど、綾波さんはどうしてそこまで防御をやりたがるのさ?」

 

「・・・」

 

「僕が言わなくてもわかってると思うけど、防御はかなり危険な役割なんだよ?」

 

 

一応だが僕は先ほどこの質問に対してちゃんと答えたことになっている。

つまり僕の思惑抜きで考えるとこの状況は、「しっかり答えた質問をもう一回された」と考えることができるんだ。

だから僕が逆に問いかけても、何らおかしくは無いはずなんだ。

 

綾波さんは「質問に質問で返すなーッ!!」などと文句を言う様子も無く、僕から目を逸らして俯いた。

それはそうだろう、ここで下手な答えを返せば僕が綾波さんの秘密にたどり着いてしまう可能性があるんだから。

綾波さんは母さんのクローンだってほぼ確信してる僕には意味をなさない考えなんだけどね。

 

まぁ何が言いたいのかというと、答え辛いのは相手も同じことなんだよ!

誤魔化すような答えを返されても追及するような事を言えば苦しくなり、きっと綾波さんの方から話題を切り上げてくれるはずだ。

つまり僕はこの危機を脱したも同然!どうだL!完全に僕の勝ちだッ!!

 

僕の!勝ちだ―――・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・私が死んでも、代わりは居るもの」

 

 

 

 

 

 

 

・・・―――あ?

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

今、なんて・・・ファッ!?

 

 

「ッ!?」

 

 

僕は目を限界まで見開いて俯いたままの綾波さんを凝視する。

そして次の瞬間にはその言葉の意図に気づき、嵌められたのだと悟る。

本来は意味不明であるはずの発言に心のまま驚いて見せてしまった。

そんなの、「僕は綾波さんの秘密を知っています」と自白したようなものじゃないか・・・!

 

残念!僕の冒険はここで終わってしまった!

 

不吉なメッセージが頭を過る。

きっと気を失い目を覚ましても、次に目の前にいるのは王様では無く父さんなんだろう。

そんな死刑宣告に等しい状況を想像しながら、僕は目の前で冷たい視線をこちらに向けているであろう綾波さんを意識を向けると、そこには依然下を向いたままの綾波さんが!

声はギリギリ上げていなかった、そして僕の驚いた様子を綾波さんは見ていないだって?

つまりはさっきの痛恨のミスは・・・ノーカウント?

 

ノーカン!ノーカン!ノーカウントなんだ!!

 

心の中で絶叫しながら僕はしれっと平静を装う。

班チョーネタはフラグな気がしないでも無いが、何とかなったと思いたい。

まぁ未だに下を向いたままの綾波さんを見てきっと大丈夫だろうと判断する。

 

しかしどういうことなんだ?

様子から察するにさっきの発言は僕を陥れるためでは無いらしい。

だけど他の意図があるとか言われても割とマジでわからないんだが・・・

そこまで考察したところでようやく顔を上げ、僕と綾波さんの視線が交差する。

僕を見つめるその瞳は不安そうに揺れ動いていた。

綾波さんは一体何がそんなにも不安な、の・・・え?

 

 

息を吐くように自然に綾波さんの心境を考察しようとした僕は、その答えの断片を掴んだ瞬間に頭が真っ白になったような感覚に襲われた。

僕は今どんな顔をしているんだろう?間の抜けた顔を綾波さんに晒しているんだろうか。

さっきまでの僕の悩みが全て無駄になるような事をしているが、もはや気にする必要は無い。

 

 

綾波さんに僕が想像するような感情は無いんだ。

 

 

その発想に至った過程でも振り返りながら心を整理しよう。

 

私が死んでも代わりがいる。

そんな言葉を言うときに感じる不安とは何か。

僕がさっき考えたのはそんな内容だ。

そして幾つかの可能性を僕はすぐに思い浮かべることはできた。

 

 

 

『僕がしっかりとボロを出すか不安なのか?』

違う。僕を疑っていたのなら俯いて顔を見ないなんてことは絶対に無かったはずだ。

 

 

『』

違う。

 

 

『俯いてしまい、作戦が失敗してしまって不安だったのか?』

違う。ていうか日本語的におかしいだろ。そこにあるのは失望であるべきだ。

 

 

『僕が予定よりも頭が良かったがために、作戦が成功するか不安だったのか?』

違う。というか自画自賛やめろ。しかもほとんど一個目と内容一緒じゃないか。

 

 

 

 

途中からバグったように可笑しな考えに至り、考察による否定がどんどんツッコミになっていく。

僕の無駄に回転する頭がこんな風にバグる時は大体現実逃避している時だ。

一体僕は何から逃げているんだ?いや、まて。

思考がバグりはじめる直前、一瞬考えて間髪入れずに否定した可能性は何だった?

あの時に思い浮かべた可能性は・・・

 

 

 

『ただ純粋に秘密を知られるのが不安だったんじゃないか?』

違う。

 

 

 

 

その可能性をもう一度考え、僕はまた否定する。

だけどハッキリとその可能性を考えた時点でもう逃げることはできなくなっていた。

もしかしたら?もしも、それが本当の事だったとしたら?正解だとしたら?

それはあまりにも酷いと言えるだろう。僕にとっても、綾波さんにとってもだ。

 

 

だってそれは、僕に特別な感情が無いと成り立たない可能性なんだから。

 

 

僕が秘密を知られてもいいようなどうでもいい奴だったら。

それは不安を感じないだろう。言いふらす心配があるならNERVが黙らせるだけだ。

そこに綾波さんが不安を感じる要素は無い。

ただ単純に綾波さんが知られていい気分がしないだけ、という可能性もあるがそれだけであの綾波さんがここまで不安な感情を表に出すだろうか?きっと、出さないはずだ。

 

だから綾波さんは僕に特別な感情を抱いているという事になる。

友愛?信愛?それとも恋愛?そこまではわからないがとにかく僕が綾波さんにとって失ったら惜しい存在になっているのは間違いないんだ。

 

第三者が僕の考えを見ているのなら、都合が良いただの妄想だと言われるかもしれない。

だが僕の知識を総動員して導き出した答えなんだ。

自画自賛するようだが間違ってはいないと思うし、今も不安そうに見つめてくる綾波さんがその可能性を有力な物にしている。

踏み台転生者みたいに目が腐ってるつもりも無い。

それにさっきも言ったがこれはあまりにも酷い事実だ。

僕自身、できるならこの可能性を感情に任せて否定してしまいたい。

 

 

僕の事を大切に思ってくれていた綾波さんに僕は一体何をしたのか。

 

意地悪な質問をして嫌な事を無理やり言わせ、そして意図とかなんとか言って綾波さんの事を疑いまくる。

これを酷いと言わずになんて言うのか。

 

・・・最低だ、僕って。

 

 

確かに綾波さんがこの短期間で僕に特別な感情を持ってたのは予想外だったさ。

でもそんなのは言い訳にすらならない。

綾波さんの純粋さを見誤っていた僕が悪かったんだ。

友達だと言ったのは僕の方なのに、誰よりも僕は綾波さんを疑っていた。

その事実がとても辛かった。

 

 

 

 

稀に様々なアニメ、漫画のネタを理解し使用する人の事を「汚れている」と表現することがあるが・・・

 

 

・・・僕は今この瞬間ほどに、自分が汚れていると感じた時は無かった。

 

 

 

 

「・・・ごめんね」

 

「?」

 

 

謝らずにはいられなかった僕は、聞こえるか聞こえないかの大きさで綾波さんに謝罪する。

案の定よく聞こえなかったのか、不安な表情から一転して不思議そうな顔をして首を少し傾ける。

本当に最初見た時とは大違いだ・・・まともに話してまだ一日経ってないのにここまで感情を表してくれるようになった。

・・・それほどに僕は影響力を及ぼしていたのかと、改めて実感した。

 

自身の考えの無さ具合に落ち込む僕。

しかし大事な作戦の前だ。こんなマイナス思考では綾波さんを守りきれないかもしれない。

だから無理矢理テンションを上げなければならないんだ。

ひどい事をしておいて、簡単に切り替えるのはあまりにも薄情な事かも知れない。

でも、だからとはいえ腐ったままでいるのもダメだと僕の知識が告げる。

それに謝罪の気持ちは古来から言葉では無く行動で示すものだとされている。

ならば僕はすまないと言う気持ちでいっぱいである事を示すために、焼き土下座ならぬ焼きビームに20秒間耐えて見せよう。

 

・・・と、綾波さんを僕の事情で放って置くのもダメだよね。

僕は思ったことをそのまま言葉にする。

 

 

「・・・綾波さんに代わりなんていないよ」

 

 

そう言うと綾波さんは少し困ったような顔をする。

自分には当てはまらないとか思ってるんだろうけど、それは違う。

僕が言いたいのはそんな事じゃない。

 

 

「仮に綾波さんに瓜二つの人がいたとしても、それは変わらないよ」

 

「・・・どうして?」

 

「色んなことを話して、仲良くなって、そして友達になったのはここにいる綾波さんだけだからね」

 

 

様々な場面で使い古されたような臭いセリフ。

しかしそんなセリフでも、純粋な綾波さんに限っては僕のこの気持ちを正確に伝えてくれる素晴らしいセリフだ。

僕の言葉を聞いても綾波さんはじっと僕を見るばかりだ。

だけどその目は、もう不安を感じさせるようなものでは無くなっていた。

 

 

「僕達のこの思いは、決して他の誰かが変わることはできないんだ!」

 

「・・・そうね」

 

「っ、そうそう!そうだよ!」

 

 

ぐっとガッツポーズのようなものをしながら少し格好つけたように言うと、綾波さんは僅かに口元を緩め微笑を浮かべる。

僕はそれを見て少し照れ臭くなり、捲し立てるように言葉を続けた。

・・・それに、ちょっと救われた気がした。

 

僕はこの勢いのまま、少し気になっていたことを問おうと話しを進める。

 

 

「えっと、綾波さんは―――」

 

 

―――どうしてエヴァに乗るの?

 

 

それを言い切る前に、綾波さんの視線が下を向いていることに気づいた。

支給された端末を見ているらしい綾波さんに習って僕も話すのをやめて自分のを見る。

すると作戦開始時間がすぐそこまで迫っていた。

 

 

「時間だね」

 

「そうね」

 

 

そう言って立ち上がりつつ、自分がまた地雷を踏むような事を聞こうとしていたことに気づいた。

調子に乗るとすぐコレだもんなぁ。

呆れかえりながらさっきまでの会話をさらっと振り返ると、少し思う所が有ったので僕と同じように立ち上がった綾波さんに声を掛ける。

 

 

「綾波さん」

 

「どうしたの?」

 

 

さっきまでの会話を振り返ると代わりだとかなんとか、どうにも綾波さんが死ぬ前提で話が進んでいたように思えた。

だから僕は、どうしても言って置きたいことが有った。

 

 

「綾波さんは死なないよ」

 

「・・・」

 

「だって、僕が守るんだから」

 

「・・・!」

 

 

僕の言葉を聞いて、目を見張って驚く綾波さん。

その驚いた表情を見て、よく考えもせずに言い放った今の言葉を思い返して急に恥ずかしくなった。

何を言ってるんだ僕は・・・!?

 

 

「え、えと、またね!」

 

「・・・」

 

 

黙ったままの綾波さんを置いて僕は逃げるようにエントリープラグの方へと進みだす。

無意識にあんな格好つけた言葉を言っちゃうなんて・・・主人公っぽいかもしれないけど、素直に喜べないなぁ。

しかも最後の最後で締まらないし。

 

 

「儘にならないなぁ・・・」

 

 

僕はエヴァに乗り込みながら、ため息を吐くように呟いた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

『只今より、0時、0分、0秒をお知らせします』

ピッ、ピッ、ピッ、ポーン!

 

 

初号機の中で、某ニコニコする動画の時報を思い出しながら放送を聞く。

作戦開始の時間が来た。

 

 

『作戦開始時刻です!』

 

『レイ!あなたに日本中のエネルギーを託すわ。がんばってね』

 

『了解』

 

 

そんな会話を無線を通して聞きながら、僕は盾を持つ手に力を込める。

一発目が当たるかも、なんて期待は一切持たない。

何時でも走り出せるように腰を低くするイメージをして置く。

 

周りはさっきまでの静けさが嘘のように指示が飛び交い、着々と超電磁砲を撃ちだす準備を進めていく。

そして遂に発射のカウントダウンが始まったと言う所で無線からマヤさんの慌てたような声が聞こえて来た。

 

 

『目標に高エネルギー反応!』

 

「なんだって!?」『なんですって!?』

 

 

僕とリツコさんの驚きの声がダブる。

まさか、一発目を撃つ暇もないのか!?

そう考えている間にもカウントダウンは進み、そして―――

 

 

『発射!!』

 

 

ミサトさんの凛とした声が無線から響き、超電磁砲が発射される。

だが相手のビームもほぼ同時に発射された。

僕は走って零号機に近づきながら、相手のビームの行く先を目で追う。

飛んできたビームはこちらの超電磁砲と交差するように通り過ぎるか思いきや、お互い二つの光の線は突然ぐにゃあ~っと曲がり軌道が逸れてしまった。

そして逸れた二つの光はそれぞれ目的の場所とは違う所に着弾した。

 

その瞬間目の前は真っ白・・・いや手持ちが瀕死になったとかじゃなくて視界が白に染まり、ドーンとか普通の効果音では表現できないような衝撃が初号機を襲った。

この光の中でキンハネタやジョジョネタを言ってみたい衝動に駆られるが、さすがに空気は読むしそもそも揺れる機体のせいでしゃべったら舌噛みそうだ。

 

そんなことを考えているうちに視界は晴れ、僕は再び零号機の方へ初号機を走らせる。

無線の向こうでは、急いで二発目の準備を進めているみたいだ。

焦った様子で飛び交う指示の中、マヤさんの相手のビームを予告する声を聞く。

だが僕はすでに零号機の前に到着して、余裕を持って盾を構えていた。

 

 

『碇くん!?』

 

「っ」

 

 

綾波さんの悲鳴のような声を聞いて、つい「大丈夫だ、問題ない」と言いそうになってしまうのを堪える。

フラグなんて万が一でも建てるわけには行かないからね!

そして次の瞬間、菱形をした使徒の角が強く光った。

 

 

「(行くよ母さん!!)」

 

 

視界を白に塗り潰しながら飛来するビーム。

僕はそれを盾では無くA.T.フィールドで受け止めた。

盾が無くなってから残りの三秒をA.T.フィールドで凌ぐのが正しいやり方かも知れないけど、せっかくだから僕は最初に使うぜ!

Fateでもパズドラでもスキルは使えたらすぐに使うタイプだからね!脳死プレイ言うな!!

 

心なしか午前よりさらに強力になったA.T.フィールド。

だけどそれも5秒ほどで突破されてしまった・・・いや十分すぎるけどね。

僕は今度こそ盾でそれを受け、死に物狂いで耐える。

めっちゃ熱い!!A.T.フィールド越しではわかんなかったけどめっちゃ熱いよコレ!?

 

僕はたまらず再びA.T.フィールドを展開した。

 

こんなの十秒以上盾で止めるなんてできるわけないよ。LCL沸騰するわ!

・・・ていうか思わずでやっちゃったけど、よく考えればA.T.フィールドって何回も出せるよね。

これ繰り返してれば超安全じゃね?ということで考えたら即実行!

 

その考えは的を射ており、もう二回くらい繰り返すことで余裕で20秒を耐え抜くことができた。

遠くを見れば爆発を起こす使徒がいた。

ビームに気を取られて綾波さんが超電磁砲撃ったの気づかなかったよ。

 

 

終わったー!と気を抜くとそれがエヴァにも伝わったのか、ちょっとだけ前面が溶けている盾を取り落しながら前のめりにゴシャッと倒れた。

いや、質量的にそんな軽い音じゃないけどね。

僕は倒れたままペタペタと地面を触り、エヴァを通して外の状況を探る。

んー・・・ほんのり温かい程度だし外に出ても大丈夫かな?

少し暖かくなったように感じるLCLだけど、血の味がする以上生暖かいと気持ち悪くてしょうがないんだよ。

初号機と同じで周りの地面もビームの高熱に晒されたのは一瞬だった筈だしね。

もちろん盾の向こうに行くつもりは無いけど。

 

 

僕は俯せに倒れたエヴァから半分だけエントリープラグを出して、そこから転がるように地面へと降りた。

空気がむわっとしてて気持ち悪いな・・・まぁ中にいるよりは良いけど。

僕はエヴァの装甲に寄り掛かるようにして地面に座る。

 

約束はちゃんと守ったよ綾波さん・・・!

 

そんな当たり前の事考えていると、誰かが近づいてくる音が聞こえた。

その方向を見ると、こちらに走ってくる人影とその向こうにしゃがんでいる零号機。

まぁ一人しかいないよね。

 

 

「やぁ綾なm「碇くん!!」・・・おおう」

 

 

綾波さんの印象からは想像できないほど大きな声で呼ばれ変な声を出してしまう僕。

ビーム受ける前のアレも、やっぱ聞き間違えかなーとか思ってたんだけどマジだったか。

そんな風に軽く考える僕だったが、綾波さんの必死な表情を見て気持ちを切り替える。

近くまで来て立ち止まり、息を整えている様子の綾波さんに僕はハッキリとした声で告げる。

 

 

「僕は大丈夫だよ、綾波さん」

 

「・・・!」

 

「心配してくれてありがとう」

 

 

その必死な様子からそこまで僕の事を心配してくれていたのかと嬉しくなった僕は、つい綾波さんが何かを言う前にそのお礼を言ってしまった。

綾波さんに悟り妖怪を相手にしているかのような不快感を与えてしまったかと心配になった僕だけど、柔らかな笑みを浮かべてこちらを見るその様子を見て安心する。

あ、いや、僕はさとりん大好きだよ?

 

 

「・・・よかったわ」

 

 

こっちを見て綺麗な笑みを浮かべながらそう言った綾波さんの瞳から、一滴の涙が零れる。

綾波さんはそれに気づいたのか、指で拭いながら不思議そうに呟く。

 

 

「なんで、涙が出るの・・・?」

 

「・・・涙はね、嬉しい時にも出るんだよ」

 

 

状況的に僕がそれを指摘するのは無粋かもしれないけど、僕はその疑問の答えを言う。

すると綾波さんは、さっきよりも綺麗な笑みを浮かべてこう言った。

 

 

「・・・そう、わたしは碇くんが無事で嬉しいのね」

 

「っ」

 

 

綾波さんの言葉に照れ臭くなって目を逸らしそうになるが、ふとさっき聞きそびれた質問を思い出した。

・・・今なら、聞いても大丈夫かな。

 

 

「・・・ねぇ綾波さん」

 

「どうしたの?」

 

「綾波さんは、どうしてエヴァに乗るの?」

 

 

僕の唐突な質問。

でも綾波さんは嫌な顔をせずに答えてくれた。

 

 

「絆だから」

 

「絆?」

 

「わたしには、他に何も無かったから」

 

 

絆というのは、きっと父さんの事だろう。

でもそれよりも後に続いた言葉が、過去を指す言葉だったのが嬉しかった。

「何も無い」というのが本来の形だったとなんとなくわかるその言葉が、「無かった」と変わっていることが堪らなく嬉しかった。

 

 

「綾波さん」

 

「なに?」

 

「これからもよろしくね」

 

「・・・ええ、よろしく、ね」

 

 

笑いながらお互いの顔を見る綾波さんと僕。

そんな綾波さんと見る月は、今まで見たことが無いくらいに綺麗だった。




いやぁ、◇さんは強敵でしたねぇ。

心象についての得写ばっかりで戦闘があっさりしすぎかもしれませんが、原作エヴァもそんな感じなのでしかたないね!

次回からシリアスはほとんど無しです。

ですが、信じるなよ!ソイツの言葉をッ!!

訓練された読者の皆様ならばもうお分かりでしょう。

作者の言葉は信じちゃあいけません!

次回の投稿もできるだけ早くがんばりますがいつになるかわからないので、あんまり期待しないでくださいね。

そして最後にもう一度、お待たせしてすみませんでした。


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第拾壱話「僕の綾波がこんなに可愛いはずがレイ」

お待たせしましたー!

よかれと思って今回は日常回!

よかれと思って一話で終わらせたために時間がかかってしまいましたが、
よかれと思ってなんとか十一月中に投稿することができたので
よかれと思って勘弁してください!

さぁ!よからぬ内容を読み始めようじゃないか!!


それと、ふと思いついた謎の言葉をそのまんまサブタイにした系の話があるらしいぞ?



「碇、何やらシンジくんがお前と会いたがってるらしいぞ」

 

「・・・なに?」

 

 

ヤシマ作戦が完遂した次の日、指令室に入ってきた冬月の言葉にゲンドウは眉を顰めた。

 

 

「何の用だ」

 

「レイの事を聞きたいそうだ・・・どうするんだ?碇」

 

 

ゲンドウはその返答を聞いて納得すると共に、思考を始めた。

真実を話すなどという選択肢は微塵にも考えず、如何にして真実から遠ざけるかを考える。

シンジの察しの良さ、頭の回転の速さにはゲンドウ自身も一目置いていた。

故に下手に誤魔化してしまえばシンジの疑いは強まり、変態的な推理力で真実に到達してしまう所まで容易に想像できてしまう。

忙しいと言って面会を拒絶し、この場を凌ぐことはできるだろうがそれはこの場限りの事。

拒絶し続ければまたシンジは疑い始めるに違いない。

 

では、どうするか。

 

 

「・・・冬月、奴をここに呼べ」

 

 

シンジの方から拒絶させてしまえばいい。

 

それがゲンドウの出した結論だった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「・・・」

 

 

指令室へ足を踏み入れたシンジは、何も言わずに前へへと進む。

そして椅子に座って机に両肘をついて口元の前で手を組む、お馴染みのポーズをしたゲンドウの目の前まで来て立ち止まり、そこでやっと口を開いた。

 

 

「・・・父さん」

 

「何の用だ」

 

 

真面に話す気など無いと、要件を言う事を急かすゲンドウ。

シンジはそれに対した反応を示さずに話を進める。

 

 

「父さんにとって、綾波さんはどんな人なの?」

 

 

シンジのその質問に、ゲンドウはすぐには答えない。

ゲンドウの意図で作りだされる重い空気。

並の人間ならここで自ら引き、その問いを撤回するがシンジはそれを見透かしているようにゲンドウの目をサングラス越しにじっと見つめていた。

シンジに引く様子は無い。それを確認したゲンドウは十二分に間を開けてから用意していた答えを口にする。

 

 

「家族だ」

 

「っ」

 

 

ゲンドウの言葉を聞くとシンジは顔を破顔させ、そしてそれを隠すように俯いた。

俯いたまま肩を震わせ、何かに耐えている様子のシンジはしばらく経ってから声を絞り出すように返事をする。

 

 

「・・・わかった(震え声)」

 

 

そしてシンジは俯いたまま振り向き、ゲンドウに背を向けて歩き出す。

一連の流れを斜め横に立って見ていた冬月は、扉へと歩くシンジの背中を痛ましそうに見つめていた。

立っていた位置が悪かったのか俯く前の表情は見えなかったが、その心境は容易に想像できたからだ。

 

父親が息子である自分を差し置いて、他の人間の事を家族だと言って突き放す。

その事実は父親に呼ばれやって来たシンジにはあまりにも残酷な仕打ちだろう。

父親の言葉にひどく傷つき、居た堪れずに悲しみで肩を振るわせながら黙って出口へと歩くその様子を見て冬月は思った。

 

 

「(彼はもうレイと普通に接することはできないかもしれないな)」

 

 

まさにそれは、ゲンドウの思惑通りだった。

ゲンドウに手を貸す身で有りながら自身の良心に苛まれ、心の片隅ではシンジが良い意味で予想外の反応をする事に期待していた冬月だったが、それは叶わぬ思いだったと理解した。

ゲンドウもまた、去っていくシンジの背中を何も言わずに見つめる。

 

二種類の視線を背中に受けながらその場を後にするシンジ。

そのシンジの今の心境は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(だ・・・駄目だ、まだ笑うな・・・こらえるんだ・・・!))」

 

 

今さらではあるが、「破顔」というのは顔をほころばせて笑う事を指す言葉だ。

シンジは笑い出しそうになるのを堪え切れずに肩を震わせながら指令室から退出し、しばらく廊下を歩いたのちにダッシュでその場を後にした。

 

ちなみに破顔したシンジの表情を真正面から見ていたゲンドウは、絶賛混乱中である。

 

 

 

・・・

 

 

 

「綾波さんっ!!」

 

「どうしたの?」

 

 

僕は途中まで一緒に帰ろうと約束をし、予定があると言って待たせていた綾波さんの元へと走り寄り声をかけた。

綾波さんは息を切らしている僕を見て不思議そうにしながら返事をしてくれた。

 

いやそれがね?

綾波さんの扱いについて一言物申してやろうと敵地に乗り込んだらとんでも無い返事が返って来たんだよ綾波さん!!

・・・と、馬鹿正直に捲し立ててもドン引きされるだけだろうから、結論だけを伝えることにする。

 

その内容が色々アレだというのは自覚しているしずっと迷っていたんだけど、父さんの言葉に背中を押され(錯覚)僕はようやく決心がついたんだ。

僕は相も変わらず不思議そうにこちらを見つめる綾波さんに、僕は思い切ってその思いを伝えた。

 

 

「僕のことを・・・」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんと呼んでくれないかな!?」

 

「・・・?」

 

 

たっぷりと間を開けてからその言葉を言い放つ。

それに対して綾波さんは少し考えるような素振りをした後、先ほどと同じように不思議そうにこちらを見てきた。

 

綾波さんには意味が解らなかったようだ。ちょっといきなり過ぎたね。

僕は急ぎ過ぎたことを恥じながら綾波さんにその発想に至るまでの過程を説明する。

 

 

「実はね?今父さんに用事が有って会いに行ってたんだけど、ちょっと気になって綾波さんをどう思ってるか聞いてみたんだ」

 

 

本当はそれがメイン・・・というか他に用なんて無いわけだけど、あくまで他の用事が有って父さんに会いに行ったという事にする。

普通に「綾波さんの事を聞きに行った」なんて言っちゃったら嫌な思いをさせちゃうかもしれないからね。

 

 

「父さんは綾波さんの事を家族だと思ってるって言ってた・・・つまりは、僕の妹になるわけだよ!」

 

「そうなの?」

 

「そうだよ!」

 

 

わかってる。僕だってわかってるんだ。

何が「つまりは」だよ!って感じに話が飛んでしまってるのは十分理解してるさ。

でもしょうがないじゃないか・・・ほぼ私情なんだよ!

いくら綾波さんが純粋だからって、僕のキモさ爆発な内面をそのまま吐露する勇気なんて無いね!

 

このまま押し切るぞ!

 

 

「・・・そうなのね」

 

「うん!そうなんだよ!!」

 

 

考え事をしながら「そうなの?」「そうだよ!」のやり取りを某陽炎の日々の如く何度も繰り返していると、ようやく納得(?)してくれた。

よーし・・・では、もう一回。

 

 

「綾波さん!僕の事をお兄ちゃんと呼んでくれないかな!?」

 

「・・・おにいちゃん?」

 

「!!!」

 

 

僕は感動のあまり言葉を失い、そのまま無言でコロンビア(AA略)のポーズを取る。

頭の中ではガッツポーズ淫夢くんでお馴染みのUCの曲が僕の偉業を褒め称える様に鳴り響いていた。

そんな中綾波さんは、恥ずかしがる様子も無く相変わらずキョトンとした様子で僕を見るばかりだ。

 

いや、うん・・・そうだよね。家族になったんだから、僕も呼び方を変えなきゃね!

 

 

「レイ、今日から僕たちは家族だ!」

 

「ええ、そうね」

 

 

昨日の夜と同じように笑みを浮かべて綾波さ、じゃなかったレイは笑う。

嬉しそうに笑う彼女を見て僕も同じかそれ以上に嬉しくなった。

 

あー、ヤバイ・・・うちの妹が可愛すぎる。

 

 

「お願いが有ったら何でも僕に言ってくれていいからね!」

 

 

自分でもテンションがいつも以上に可笑しなことになっているのはわかっている。

だけど僕は自重なんてしないし、するつもりもない。

ここからは僕のステージだッ!最初からクライマックスだったけどね!!

 

僕が勢いで言った「もしも妹がいたら言ってみたいセリフランキング」上位に食い込んでいるであろうセリフを聞いてレイは、少し考える素振りをした後に不安そうに僕を見た。

 

 

「・・・お願い、いいの?」

 

「え?」

 

 

正直言って意外だった。

このセリフを言う全国のお兄様は大体妹にスルーされるか、もしくは無理難題を押し付けられるかの二択を選ぶことになるのだが僕はてっきりレイは前者だと思っていたのだ。

 

しかし予想外ではあるけど、悪いわけでも無い。むしろ大歓迎だ。

たとえ無理難題を言われたとしても、どんなことをしてでも叶えて見せるという意気込みを込めて勢いよく返事を返す。

 

 

「いいよ!」

 

「・・・じゃあ、お兄ちゃん」

 

「なんだい?」

 

 

僕はずいっと身を乗り出す様にして、どんな小さい声であろうと聞き逃すまいと耳を澄ませた。

するとレイは恥ずかしそうに小さな声で言う・・・なんてことは無く普通に聞いていても余裕で聞き取れるくらいの声量で言った。

 

 

「お兄ちゃんみたいに友達がほしい」

「任せろ!」

 

 

なんて可愛い願いだろうか?思わず一瞬の間も開けずに答えてしまった。

しかし、なんの問題も無い。

お約束としては何も考えずに妹のお願いに返事を返し、その無理難題を死に物狂いで何とか成し遂げようと奮闘するものだがレイに限ってはそんな事は無かった。

「任せろ!」の「ろ」の時点で解決方法が思いつく程度のお願いだ。

問題無く叶えることができる。

 

ホントに良くできた妹だよ!

 

 

「よし、じゃあ僕等の家に帰ろうか!」

 

「?」

 

「兄妹だからね、一緒に暮らしても何の問題も無いさ」

 

「そうなの?」

 

「『家族』だからね!」

 

 

僕は強引にレイを言いくるめ、二人でミサトさんの家へと続く道を歩み出した。

 

 

「・・・そう、なんたって『家族』だから、ね?」

 

 

その場を後にする時、最後に僕は指令室の方を見てそう言った。

これで少しは作戦の成功率が上がったかな?とか思いながら。

 

 

 

・・・

 

 

 

「碇」

 

「・・・なんだ」

 

 

シンジが指令室にやって来たその日の午後、再び指令室に入って来た冬月は何故か笑いながらゲンドウに声を掛ける。

それに対してゲンドウは唯でさえ厳つい顔をさらに渋いものに変え答えた。

笑顔の冬月に対して、ゲンドウは嫌な予感を感じ取ったからだ。

 

 

「葛城一尉から連絡が有ってな・・・なんでも、レイが今日から葛城一尉の所で暮らすそうだ」

 

「・・・何!?」

 

 

一瞬何を言われたか理解できなかったゲンドウは、少し間を開けたのちに椅子から飛び上がるようにして立ち上がった。

取り乱すゲンドウを面白そうに眺めた後に、冬月は態とらしく肩を竦めながら話を進める。

 

 

「承諾したのか!?」

 

「承諾せざるを得なかった・・・これもお前のせいだぞ、碇」

 

「どういう事だ!」

 

「お前がレイを『家族』などと軽はずみに言うからだ。司令のご家族をあのような場所に住まわせるわけには行きません、だそうだ」

 

「・・・!!」

 

「彼女に要らん不信感を与えては今後の計画に関わるかもしれんからな、承諾するしかなかったのだよ」

 

 

それを聞いてゲンドウは午前中に見たシンジの笑顔が見間違いでは無かった事を悟った。

もし計画通りにシンジがゲンドウの言葉で心に傷を負っていたのなら、その原因となった言葉の内容を決して人に伝えることはせずに他人を拒絶するだろう。

つまり、本来ならミサトがシンジとの会話の内容を知ることは絶対に無かったはずなのだ。

 

何故、シンジは自分の発言で傷ついていないのか。

 

 

「冬月、奴は様子はどうだった」

 

「ん?シンジくんの事かね」

 

「・・・あぁ」

 

 

それを聞いて冬月は目を細め考え込むような動作をした後に、何かを思い出したのか楽しそうに語り始めた。

 

 

「レイと二人で実に楽しそうにしていた」

 

「・・・」

 

「連絡してきたのは葛城一尉だったので直接は話していないが、後ろで二人仲良く話している声がこちらまで聞こえて来たよ」

 

 

やはり子供は元気が一番だな碇、と計画の事などすっかり忘れ唯のお年寄りになって話し続ける冬月は無視してゲンドウは頭を抱える。

とても「問題無い」などと言える状況では無かった。

どうしてこうなったのか?

 

この指令室でその問いに答えられる唯一の存在である冬月は、一人でじじ臭い事を語り続けるばかりだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「・・・ふー」

 

 

時は経ち、とっくの昔に日が沈み真っ暗になった部屋で、僕はベッドの側に敷いた布団に寝転がった体制のまま溜息を吐いた。

午前12時に行われた作戦だったから、アレからまだ一日も経って無いってのに動き過ぎて疲れた。

 

・・・だけど後悔はしていない。

溜息も疲れから来るものでは無く、自分の行動が齎した結果を考えての達成感から自然と零れた物だった。

 

僕のベッドで横になっているレイを横目で見ながら、僕は今日一日の行動について振り返る。

 

 

 

僕がレイを連れて家に帰り、まずしたことは家主であるミサトさんに連絡することだった。

 

子供な僕達と違って大人でしかも作戦部長であるミサトさんは今めちゃくちゃ忙しいはずだ。

しかしレイがここに住めるようにするにはミサトさんの協力が必要不可欠、この時ばかりは僕は空気の読めない子供になるしか無い。

 

ゴメンミサトさん・・・何日かはお酒を大量に飲むの見逃してあげるから・・・!

 

レイに無難な漫画を数冊渡し、読み始めるのを確認してから僕は家の固定電話からミサトさんの携帯に電話を掛ける。

そして数秒後受話器からミサトさんの声が聞こえて来た。

 

 

『シ、シンジくん?どうしたのかしら』

 

「レイをうちに住ませて貰っていいですか?」

 

 

ミサトさんは疲れているのを僕に悟らせまいと無理をして元気な声を出しているのが丸わかりだったが、僕はそれをスルーして話の内容を少しの前置きも無く伝える。

KYモードの僕には容赦なんてものは一ミリも無いのだ。

 

 

『・・・え?ちょ、え、どういうこと?』

 

「レイをうち、ミサトさんの家に住ませて貰っていいですか?」

 

『いえ、そこは別に言い直さなくていいんだけど・・・』

 

 

ええ、分かっていますとも。だけど今の僕は空気読めませんから。

 

 

『というか何時の間にレイの事を呼び捨てに』

 

「ミサトさんってレイの部屋見た事あります?」

 

『え、えっと・・・そう言えば、見た事無かったわね』

 

「でしょうね」

 

 

ミサトさんがあの状況を知ってて放置しているなんて、とてもじゃないけど考えられないからね。

 

 

『・・・ひどいの?』

 

「酷いです」

 

 

僕の言葉から大体の事は察したらしいミサトさんの言葉に、その考えは合っていると暫定の言葉を返す。

するとミサトさんは少し黙った後に真面目な声で話しだした。

 

 

『わかったわ、場所は知ってるし今やってる事をちゃっちゃと片づけて見てくるから、レイの事お願いね?』

 

「任せてください」

 

 

そう言って電話を切ると、僕は夢中になって漫画を読んでいるレイの元へと向かい同じように寛ぎ始めた。

 

そしてしばらくした後に怒った様子のミサトさんが帰宅。

あんな所にレイは住ませられない!と勢いのままに抗議の電話を掛けようとするミサトさん。

そんなミサトさんを呼び止め、僕は朝の会話の内容を軽く伝えた。

 

本当に軽く話しただけなんだけど、ミサトさんも父さんの意図を悟ったんだろうね。

先ほどと一転して心配そうになり僕に大丈夫かと聞いくるミサトさんに一体何の事かわからないと言った風に返すと、安心したのか落ち着いた様子で電話を掛けはじめた。

ミサトさんと電話の向こうの誰かの会話を頭の片隅で聞きながら、僕はわかばシューターの使い方が大分うまくなってきたレイの事を褒めまくっていたのだった。

 

 

 

・・・で、電話し終わったミサトさんからいい返事を聞いた僕達はこうやって同じ部屋で寝てるわけだね。

 

回想を始めてからどれくらいの時間経ったのかわからないが、レイを見る限りそれなりに時間は経ったと見ていいだろう。

さっきまでは生きてるかどうかが心配になるくらい何も聞こえなかったのに、今では気持ち良さそうな寝息が聞こえてくるからね。

 

これなら少し物音を立てたとしても起きないだろうと判断した僕は、そぉ~っと布団から抜け出して襖を開けて部屋から出る。

そこから忍び足で玄関まで進み、流れるような動きで靴を履き扉の鍵を開け外に出た。

ゆっくり扉を閉めた所で無意識に息を止めていた僕は、扉に寄り掛かるようにして大きなため息をついた。

 

スニークミッションも楽じゃない、と当たり前の事を考えながら布団に入る前ポケットに忍ばせて置いたスマホを取り出し電話を掛ける。

そして何回かコールが鳴った後に相手が電話に出る音と共に声が聞こえて来た。

 

 

『合言葉を言え』

 

「合言葉」

 

『よし』

 

 

いや、何が?

乗った自分もアレだけど、なんだこれ。

僕の混乱など歯牙にも掛けず電話の相手、ケンスケは感心したような声で話を続ける。

 

 

『即答とはさすがだな』

 

「まぁね、僕ってば素直だから」

 

『何言ってんだコイツ・・・』

 

 

今、電話の向こうでケンスケがどんな顔してるか手に取るようにわかる。

絶対ムカつく顔してるんだろうけど、今はスルーする。

いつも三時くらいまで起きているらしいケンスケとは違って僕は眠いのだ。

 

 

『で、何の用だシンジ』

 

「実はケンスケにしか頼めない事が有って電話したんだ」

 

『俺にしか頼めない事?』

 

「うん、やる事なんて無いくせに学校に行くのが無駄に速いケンスケにしかできない事だよ」

 

『電話切っていいか?』

 

 

 

・・・

 

 

 

次の日、僕は学校への道をレイと二人で歩いていた。

 

 

「レイ、挨拶されたらちゃんと挨拶で返すんだよ?」

 

「わかったわ、お兄ちゃん」

 

「・・・あ、結婚してくれとか言われたらしっかり嫌だって言ってね?」

 

「ええ」

 

 

そんな話をしているうちに学校へ到着。

僕が先頭で教室に入ると、いつかのパイロットバレの日みたいにケンスケの周りに人だかりが出来ていた。

その中の一人が僕達が入って来たのに気付くと、少ししてざわざわしていたみんなが急に静かになる。

すると人だかりの中からクラスの委員長が緊張した様子で出てきて、僕等の前・・・正確にはレイの前で立ち止まった。

 

 

「お、おはよう綾波さん!」

 

「・・・おはよう?」

 

 

意を決した様な表情で挨拶した委員長に、少し不安そうにしながらもしっかりと挨拶で返したレイ。

それを見て、ケンスケの周りに集まっていたクラスメイト達はレイの周りに一気に群がった。

 

 

「おはよう綾波さん!」「おはよう」

 

「おはようさん!」「おはよう」

 

「綾波!おはような!!」「おはよう」

 

「綾波ー!俺だ!結婚してくれ!!」「いや」

 

「おはよー!!」「おはよう」

 

 

我先にと挨拶をするクラスメイト達に戸惑いながらも、丁寧に返事をするレイ。

そんな様子を僕はニヤニヤと少し離れた場所から見ていると、肩を叩かれたので振り返るとそこには同じくニヤニヤしたケンスケがいた。

 

 

「いやー、大成功だなぁシンジ!」

 

「そうだね、ケンスケのお蔭だよ」

 

「そ れ ほ ど で も な い」

 

「謙虚だなーさすがだなー」

 

 

僕が学校に来る前から居たレイだが、最初挨拶されてもそのまま無視をしてしまったらしい。

『挨拶を返す』という常識をその時は知らなかったと言うのだからしょうがないのかも知れないが、それがレイがぼっちになってしまった切っ掛けでもあるのだろう。

だから今回はケンスケに協力して貰い、僕等が学校に来る前にクラスメイトへレイに挨拶をするように促して貰うことでその失敗をやり直したのだ。

 

前からレイと仲良くしたいというのはクラスの皆から聞いてたし、昨日話を聞いてレイもそう思っていた事を知った。

ならば切っ掛けさえ作れば、他に余計な事をしなくとも自然と友達はできるだろうと僕は考えた。

 

挨拶大会も終わり、クラスメイト達と多少ぎこちなくとも楽しそうに話すレイを見て、僕はその考えが間違いでは無かった事を確信するのだった。

 

 

 

 

 

 

そしてこの後、レイが僕の事をお兄ちゃんと呼ぶ事で教室が阿鼻叫喚の地獄絵図と化すのだがそれはまた次の機会に・・・

 

いや、次の機会とか無いけどね。




いやーホントにお待たせしました。

色々忙しかったと言うのもありますが、シンジくんのはっちゃけ具合を調整するのに時間を食ったというのが一番の理由ですね。

ご都合主義と言ってもそこまでハジけたものにしないようにするというか、自分の許せる範囲からはみ出さない程度に好き放題させるのに苦労しました。

ま、ンな事言っといていつかは盛大にやらかすでしょうけどね!

すでにやらかしてるとか言うのは無しですよ!


さーて次回はJA回!

速く投稿できるように頑張りますが下手したら来年になるので、気長にお待ちください!!

お疲れっしたー!!!


次話、執筆進行率・・・90%(120%で投稿)

コメント:やっとこさ・・・やっとこさここまで来たぜ・・・(2月13日)


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第拾弐話「なんだっていい!自重させるチャンスだ!」

なんて遠い回り道・・・

   ・・・ありがとうドクシャ=サン・・・
                
             ・・・今までの空白はこのために・・・


アイルビーバック!(出ていく時に言うべきセリフ)
私は帰ってきた!!

色々と忙しかったのもすべて終わってこの度十弐話を投稿することができました!
(何がとは言わないけど合格したぜ!)

さて今回の話は、なんとシンジくん自重回!

かなりアレな内容となってますが・・・ゆっくり読んで行ってね!!



レイがシンジの妹になってからしばらく経ったある日の朝。

部屋に差し込む朝日を一身に浴びながらスヤスヤと眠っていたシンジは、何の予備動作も無く突然飛び起きた。

 

 

「鼻糞付いた指でアッチ向いてホイを仕掛けて来るなケンスケェェェエエ!!!」

 

 

掛ける意味が無さそうな薄い布団を跳ね除け、上半身だけ起こし絶叫するシンジ。

叫び終わるとガクッと脱力して俯き、荒くなった息を整えた後に何か恐ろしいものを探す様に辺りをキョロキョロと見回す。

そしてしばらくすると自分の見た物が夢だとようやく理解したのか、安心した表情でベッドに倒れ込んだ。

 

 

「出会いがしらに一発お見舞いしてやろうか・・・?」

 

 

シンジの中で誰かにワンパン叩き込む事が決定した所で、シンジの部屋とリビングを仕切る扉が開く。

 

 

「お兄ちゃん?」

 

 

扉を半分開け顔を出したのはレイだった。

部屋を覗くレイはいつもより何処か眠そうな表情をしており、それを見たシンジは自分の叫び声で起こしてしまったのだろうかと思考する。

そして横目で時計を見やり現在の時刻が妹の起床時刻よりも早い事を確認することによって、予想を確信に変えた次の瞬間レイに申し訳なさそうに謝っていた。

 

この間僅か一秒ほど、思考速度が無駄に速いシンジにしかできない芸当だった。

 

 

ちなみにだがレイはすでにシンジの部屋には寝泊まりして居らず、壁が間を隔てた隣の部屋に自分の荷物ごと移動している。

物置状態だった部屋を整理するのが一日で終わらなかっただけで、シンジの部屋で寝たのはあの一日だけだった。

 

 

シンジの謝罪を聞き、問題無いと返したレイはふと何かに気づいたようにリビングを振り返る。

そして数秒眺めた後に自分が気づいた事柄をシンジに伝えた。

 

 

「葛城一尉が起きてないわ」

 

「え、ホント?」

 

 

これはシンジの大声で起きなかったのか?という意味では無い。

熟睡したミサトがその程度で目を覚ますことは無いという事は二人ともすでに承知の上。

二人が疑問に思ったのは、ミサトがこの時間になってもまだ起きていないという事に対してだ。

 

 

「今日はミサトさんが朝食の当番だったはずなのに・・・」

 

 

立ち上がりながら言ったシンジの言葉にレイもコクンと頷き同意する。

どうせお酒の飲み過ぎで起きられないだけだろうと当たりを付けながらシンジはリビングに移動する。

そんなシンジがリビングで最初に見たのは、テーブルに積まれたビールの空き缶の山だった。

 

何の捻りも無く予想通りの展開。

シンジはそれ少し不満に思うが、予想外の展開なんて来られたら逆に困るとすぐに思い直した。

特に今日はね、と自分の考えに一言付け足しながらシンジはレイにミサトの様子を見てくるように頼む。

 

 

「今日の進路相談、大丈夫かなぁ・・・」

 

 

シンジのひとり言は誰もいなくなったリビングの中で、誰にも聞かれることなく消えていった。

 

 

 

・・・

 

 

 

のそのそと起きてきたミサトさんに朝食を出してから学校に向かった僕こと、碇シンジ。

そんな僕の学校生活はケンスケとのクロスカウンターから始まった。

 

 

「いやおかしいやろ!?」

 

 

「やるな」「おまえこそ」的な感じで不敵に笑い合っていると、さっそくツッコミが使命を果たさんと意気揚々と近寄ってきた。

 

 

「来たか、ツッコミ」

 

「いっぺんしばいたろかケンスケェ!」

 

 

同じことを考えていたであろうケンスケはその心の声を思わず口に出してしまったらしく、ツッコミもといトウジに肩を掴まれガクガクと揺さぶられていた。どうどう。

 

トウジをケンスケから引き剥がしながら宥めると、数秒後にはトウジも落ち着きを取り戻した。

それに対して「やれやれだぜ」みたいな事を言いたくなってしまったが、ここでまたトウジをキレさせると流石にグダって来てしまうので自重することにした。

 

 

「スゥー・・・ハァー・・・で?さっきのはなんなんや」

 

「1」

 

 

大分落ち着いてきた所でトウジは大きなため息を最後に、仕切りなおす様にそう切り出した。

僕とケンスケはトウジの言葉に顔を見合わせるとお互いを指さしてほぼ同時に答えた。

 

 

「ケンスケが鼻くそついた指であっち向いてホイ仕掛けてくるから・・・」

「シンジが間違えて焼きそばじゃなくて焼きサバを買ってくるから・・・」

 

「いつの話やソレ・・・昨日そんなことしとらんかったやないか、絶対夢か嘘やろ」

 

 

腕を組みながらムスッとした態度でそう告げてくるトウジ。

夢で合ってるとトウジに伝えると、さっきと同じくらい大きなため息を吐いて肩を落とした。

 

 

「2」

 

「夢の事で殴り合うとかお前らアホやろ・・・いや知っとったけどな」

 

 

後半何が面白いのかにやっと笑いながらそう言ったトウジに思うところがあった僕は、何かを思い出した素振りを見せた後に申し訳なさそうな顔をして話し始める。

 

 

「実は、トウジに謝らなきゃいけない事があるんだ・・・」

 

「あ、俺も」

 

「え、あ、なんや?どないしたんや?」

 

 

続く様にして顔を伏せたケンスケと同じすごく申し訳なさそうな表情をしてるであろう僕を見て、トウジは一体何なんだと目に見えて焦りだす。

 

 

「実は夢のことなんだけどな・・・」

 

「な、なぁんや夢かいな!お前ら夢でもわいの扱い雑そうやからなぁ!」

 

 

どうせ転ばしたとかそんなんやろ!な?と気丈に振る舞いながらも、チラッチラとこちらを見て夢の中の自分はどんな目にあったんだ、早く言えと目で訴えてくるトウジ。ちょっとうざい。

そんなトウジを尻目に僕はケンスケにアイコンタクトで合図して、タイミングを合わせ苦言を呈した。

 

 

「「トウジの事、つまようじで刺し殺してごめん」」

 

「お前らそれは無いやろぉぉおおお!?!!」

 

 

教室のほぼど真ん中でトウジは大絶叫した。

 

 

「いやさすがにおかし過ぎるやろ!あのくっだらない流れで殺傷事件が起きとるのもおかしいしそもそもなんでつまようじで人が死ぬんや!?」

 

「まぁトウジだし・・・」

 

「わしゃスペランカーか!!雑っつーかもうそんなレベルやないやんか!?んでお前ら絶対打ち合わせしとったやろ!!!」

 

 

その言葉を聞いて、僕は顔には全く出さないながらもさすがトウジだと心の中で感心した。

トウジの言うとおり登校中にLINEで

 

     (夢がアレだったから殴らせて?)

 

(じゃあ俺も殴るわ)

 

       (つまりクロスカウンターか)

 

(トウジどうする?)

 

          (じゃあつまようじで)

 

(把握した(*´ω`*))

 

       (流行らないし流行らせない)

 

みたいなやり取りをしていたからだ。

まぁそれをトウジに教えるつもりは無いから適当に誤魔化すんだけどさ。

 

 

「はぁー・・・全くお前らの相手してると疲れるわ・・・」

 

「3」

 

「でも退屈もしないでしょ?」

 

「限度ってもんがあるやろ・・・」

 

 

本当に疲れた様子のトウジとまだまだ余裕のある僕等。

これから進路相談があるというのに全くいつもと変わらない光景だった。

 

・・・あとさっきからケンスケが何かを数えているけど、トウジの溜息を数えてるっぽいね。

面白いのかそれ。

 

 

「全くおのれ等は・・・今日ぐらい静かにできへんのかいな!今日はミサトさんが来るんやで!?」

 

「そういえばそうか!笹食ってる場合じゃねぇ!!」

 

「ゑ?」

 

「「え?」」

 

 

ケンスケまでトウジに同意してテンションを上げる様を見て、つい素で疑問の声を上げてしまう僕。

不思議そうに見てくる二つの視線をスルーして、なんで二人の中のミサトさんはそこまで評価が高いんだ?と考えるとすぐに気が付くことができた。

 

そうか・・・外面だけ見ると美人なのかあの人。

 

僕の場合はあの如何にも古臭いポーズの写真が初めて見たミサトさんだったからなぁ。

今考えると僕の中のミサトさんの評価って「センスが古そうな美人」から始まって「方向音痴な人」「家事が壊滅的な人」「女性として終わってる人」的な感じでどんどん落ちていて一回もプラスになった事無いね。気づかないのも道理だね。

 

いや、いい人なんだけどね?

 

さて、真実を黙っておくのが二人のためにも、そしてミサトさんのためにもいいんだろうけど・・・

 

 

ざんねん ! しんじ の こうかんど が たりなかった !

 

 

「ミサトさんってアレで結構だらしない所あるんだよ?」

 

 

・・・でもまぁ、迷惑はかけられてるけどそれでもお世話になってるわけだし、少しオブラートに包んで言うことにした。

 

 

「・・・マジか」

 

「そ、そんなん関係あらへんわ!あんな美人さんやったらバッチコイやで!!」

 

「やめとけってトウジ、杏Pのシンジが許容できないレベルって相当だぞ」

 

「・・・そうなんか?」

 

「ちっひ押しのお前じゃ無理な事は確かだ」

 

 

が、一を聞いて十を知るレベルで察したケンスケに台無しにされてしまった。

それにしてもすごい説得力だね今の。

ぐうの音も無いよ。

 

 

「やっぱどんな人にも欠点てあるんやなぁ・・・はぁ」

 

「4」

 

 

そしてこの後ミサトさんがカッコつけて登場し学校中が騒がしくなるのだけど、僕達三人だけは普通のテンションだったのは語るまでも無い。

 

 

 

・・・

 

 

 

『ハイ、ハイ、ハイ!』『『『『ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!』』』』

 

『かもね♪』『『『『かーもね!ハイ!』』』』

 

 

三者面談も、そしてその後のエヴァのシンクロテストも問題なく済ませた僕はNERVのエレベーターに乗りながらゲームをしていた。

イヤホンをしてリズムゲームに没頭している僕の横ではミサトさんとリツコさん、そしてオペレーターのマヤさんとマコトさんが四人で固まって話をしていた。

 

・・・まぁ、こんなことを考えてる時点で没頭している『フリ』なのは誰でもわかるだろう。

音量をギリギリまで小さくしてゲームの方へ向けている僕の意識は半分以下にし、他は全てミサトさん達の会話を聞くことに集中していた。

それではゲームの方が疎かになるのが当たり前なのだろうが、僕はたとえ画面を見なくともハイレベルな結果を叩き出すほどにこのゲームはやりこんでいるので問題ない。

万が一疑われるような事があってもリズムゲームで最高得点を叩き出しているのを見せれば疑いは掛からないだろう。

 

意識し過ぎだとはわかっているんだけど、三体目の使徒を倒してから続けているこの・・・スネークごっこ?が結構楽しくてやめられなくなっちゃってるんだよねぇ。

「スネークしてる僕かっこいい!」・・・みたいな。

バレたらすごく恥ずかしいのはわかってるんだけど、それなりに結果が出てるからやめられない。

 

 

「そういえばミサト、アレは予想通り明日やるそうよ」

 

「・・・はぁ、わかったわ」

 

「え?アレってなんですか?」

 

「なんでしたっけ・・・そうだ!ジェットアローンの完成披露会、ですよね?」

 

「あぁ、通産省や防衛庁とかが協力して作り上げたとかいう対使徒のロボットですね、完成したんですか」

 

「そうよー、今から憂鬱だわ・・・」

 

 

そうそう、ちょうどこんな感じに思いもよらない情報が・・・

 

 

「ロボットだって!?」

 

「シンジくん!?」

 

 

日本の技術で作られたロボット。

そんな美味しい話題に僕が飛びつかないわけがなかった。

 

 

「シンジくん聞いてたの!?」

 

「そんなことはどうでもいいんです!それよりもロボットですよロボット!!」

 

「シ、シンジくん!気持ちはわかるが少し落ち着いてくれ!」

 

「マコトくんわかるんだ・・・」

 

 

そりゃそうでしょうよ!

もし日本人の男性で日本製ロボットと聞いて興奮しない不届き者がいるのなら、そいつにはオリーシュ直伝『タンスに小指をぶつけやすくなる呪い』をくれてやる!(オリーシュは僕らの心の師匠。いいね?)

 

 

「それでその、なんとかの完成披露会?には僕が同行することはできないんでしょうか!?」

 

「・・・どうするの?リツコ」

 

「公の場だからダメよ。それに付いてきたって碌な事がn・・・ちょっと待って」

 

 

何処か疲れたような表情で拒否しようとしたリツコさんは途中で何かを思いついたように目を細め、顎に手をやり後ろを向いてしまった。

・・・どうやら何かブツブツと呟いて考え込んでいるようだ。

 

突然リツコさんの様子が変わったのをミサトさん達も不審に思ったのか、みんな静まり返ってリツコさんの背中を見つめる。

どうしてもその言葉の内容が気になった僕は、なんとか聞き取れないかとその場で身を乗り出してリツコさんに意識を集中する。

すると「計画の変更は・・・しなくていいわね」「面白くなりそうだわ・・・」などと言っているのが聞こえてきた。

 

 

初めてNERVにやってきたあの日、初見で僕に大きな衝撃を与えたリツコさんを僕はかなり警戒している。

いや、金髪黒眉水着白衣だからって警戒するのはおかしいかもしれないけど、結果としてその判断は間違いではなかった。

 

他の人と違い、明らかに分からない部分が多いからだ。

 

関わりのある人物が極端に少なく、リツコさんの親友を自称するミサトさんも過去のリツコさんはともかく今のリツコさんはよく知らない様子だったからだ。

そして止めは、少し前にオペレーターの皆さんと談笑している時にマヤさんが言った「そういえば先輩(リツコさんの事)って、司令のとこよく行くんですよねー」という言葉だ。

その発言で周りの空気は凍り、マヤさんも言ってからまずいと思ったのか必死で撤回していたが「それが逆に信憑性を高めている」というのは微妙に同志のかほりがするマコトさんの談である。

つまり何が言いたいのかというと・・・

 

 

黒幕(仮)のガールフレンド(仮)とか警戒しないわけないじゃないですかヤダー!

 

そんな人の「面白い」事なんて碌でも無いことに決まってるじゃないですかヤダーー!!

 

 

頭の中で絶叫しながらもリツコさんから目を逸らさずにいる僕。

すると次の瞬間リツコさんはくるっと振り返って僕の方を向き、口を開いた。

 

 

「・・・そういうことだから同行を認めるわ、宜しくねシンジくん」

 

「・・・ふぁい」

 

 

しっかりと返事をしなかったのは、頷くことしかできない僕の僅かな抵抗である。

 

自分で言い出したんだもん!断ることなんてできないよチクショウ!!

 

僕は心底楽しそうな笑みを浮かべてこちらを見るリツコさんから逃れるようにゲームを再開する。

そしてふと、某万屋さんの『一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼす』という言葉を思い出して、苦労するであろう未来の僕に向けて頭の中で土下座をして謝り倒していた。

 

 

 

・・・

 

 

 

過去の僕よ。

ストレスが溜まっていてなんとかして溜飲を下げたいって時に、そんな殴る前に謝られたんじゃ殴るに殴れずストレスは溜まるばかり・・・つまりは逆効果だ。

 

 

「まさか、科学と人の心があの化け物を抑えるとでも?本気ですか」

 

「ええ、勿論ですわ」

 

「人の心と言う曖昧なものに頼っている限り信用できませんなぁ」

 

 

「祝、JA完成披露記念会」と書かれた看板が吊るされたステージの上に立っている、時田という人と僕の隣にいるリツコさんがマイクを通して言い争っているのを半目で眺めながら、僕はコップに注いだジュースをちびちびと飲んでいた。(ミサトさんは横で鬼の形相をしている)

 

エレベーターでミサトさんは何をそんなに嫌がってるんだと頭の片隅で疑問に感じていたけど、今ならハッキリ理由がわかる。

 

いわばここは相手側が用意したNERVの吊るし上げ祭りの会場だったのだ。

ここにたどり着くまでにすれ違った人たちの視線が不可解だったことから疑いはじめ、会場にやってきて『ネルフ御一行様』と立札が置かれた机だけに飲み物や食べ物が置かれていないのを見て、僕はそれを確信した。

 

こんなところに誰が来たがるというのか。

 

 

・・・でもまぁ、僕は来なければよかったとは思わない。

 

 

確かに嫌な思いは現在進行形で味わっているよ?

リツコさんの言い分に対して全く持って見当違いの反論を自信満々に話す、あの時田という人の顔を見てると僕が言われてるわけでもないのに腸が煮えくり返る思いだ。

だけど、その憎たらしい顔を僕の行動によって歪ませることができると考えると・・・我慢できないほどでは無い。

 

 

Q1,なぜ僕はここにいるのか?

 

A,元を辿れば僕が言い出したからなのだけど、最終的にはリツコさんが許可を出したからだ。

 

 

Q2,なぜリツコさんが許可を出したのか?

 

A,それはこの状況を僕に台無しにさせるためだ。

 

 

ここまでくれば何をさせたいかなんて丸わかりだし、あの時エレベーターでリツコさんが考えていた事だって簡単に予想できる。

 

多分「公の場だからダメだ。来ても碌なことが無い」と言おうとして途中で切ったリツコさん。

きっとNERVを好意的に思い信じきっている(様に見える)僕では、馬鹿にされてじっとしていることはできないとか考えたのだろう。

当たり前だ、公の場で騒ぐような子供を連れて来たとなれば品が疑われる事になるのだから。

しかしリツコさんは話している途中で思いついてしまった。

 

 

別に騒がれたとしても問題無いのではないか、と。

むしろ騒いでくれた方がこちらとしては都合がいいのではないかと考えたのだ。

 

 

相手のペースも崩せるし自分の気も少しは晴れるだろうしで一石二鳥、それに言い訳だってエレベーターで僕が考えたように「子供」だからでどうにかなるし、連れて来た責任だってそこまで大きく問われないだろうと。

品を疑われたとしてもじっと耐えるよりはマシだとリツコさんが考えそうな事は、顔をしかめ悔しそうにしている今の様子を見ればすぐに分かった。

 

そして今リツコさんは、悔しそうにしながらも同時に焦っていた。

他の人から見ればただ難しそうにしているようにしか見えないだろうけど、レイで鍛えた観察眼を持っている僕には丸わかりだ。

きっとリツコさんの計画では僕はすでに我慢の限界を超え、体裁を投げ出して野郎オブクラッシャーしてるのだろうけど現実は違った。

僕はリツコさんの考えを早めに察することで後に待つ『お楽しみ』の存在に気づくことができた。

故にマラソンとかで辛い時によく使われる、『あの電柱までは頑張る作戦』と同じような形で我慢することができた。

 

まぁ詰まる所、僕は『まだ』騒がないだけであって騒ぐ気は満々だという事だ。

リツコさんの心配は不要なものだってことだね。

 

・・・まぁ僕の感情を利用しようとした事に関しては何も思わないわけじゃないし、無償でやるつもりも無い。

事が済んだ後に、リツコさんにはそれ相応の清算をしてもらう予定だ。

 

 

そんなことを考えていると、周りから大きな笑い声が上がった。

 

 

軽く周りを見回すと、言いたいことは言い終えたらしくとても楽しそうな様子で周りの参加者と一緒に笑う時田博士と、悔しそうに顔をしかめながら椅子に座るリツコさんが目に入る。

時田博士に散々言われた上に、僕が計画通りに動かなかったことで二倍悔しい!という所かな?

そんなリツコさんを見てると、いくら警戒している相手とはいえ少し良心が疼いてしまう。

 

だけどそんなことを考えている場合じゃない、行動を起こすならば今だからだ。

時田博士や周りの人が最高に「ハイ!」になってる今こそ僕が待ち望んでいたタイミング!

 

そして動き始めようと目線を逸らそうとしたときに、こちらを見たリツコさんと視線が交わる。

僕に対する困惑が込められたリツコさんの目を見つめながら、僕はにやりと笑って頷く。

するとリツコさんは驚いた表情をした後に僕と同じように笑い小さく頷いた。

 

それは僕の考えていることを一瞬で理解した、リツコさんからのGOサインだった。

今度こそ僕はリツコさんから視線を逸らし、俯く様にして顔を手で覆う。

ステンバーイしながら僕は頭の片隅で、誰かに向けてるわけでもない答え合わせのようなものを思考していた。

 

 

Q3,どうしてここまで騒がずにじっとしていたのか?

 

A,前に、どこぞのカレー曹長が言っていたからだ。(元を辿ればその敵だけど)

 「相手がスッカリいい気になったトコロで一気に突き落とすのが超クールだ」と

 

 

 

・・・全くもって、同感だ。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

その瞬間、NERVに対する大きな嘲笑で包まれていた会場は凍りつくように静まり返った。

 

 

「こんなにも部外者とNERVの人で意識の差があるとは思わなかった・・・!」

 

 

そんな言葉が、壇上にいる時田博士に聞こえるかどうかギリギリの音量で、シンジの口からとても悲痛そうに言い放たれたからだ。

シンジの表情は俯き、両手で顔を覆っているため確認することはできない。

それに対して壇上で楽しそうに笑っていた時田は、その表情を引き攣らせながらシンジを見ていた。

 

どうやら、しっかりと聞こえていたようだ。

 

黙って大人しくすることもできない子供を連れて来たNERVに対しての嫌味がいくつも時田博士を脳内を駆け巡るが、口から出る直前でそれを飲み込んだ。

NERV関係者にパイロットが付いて来ると直前で報告を受け、大人の余裕を見せつけいい印象を持たせようと考えていたのにも関わらず、いざ赤城博士に嫌がらせを始めると調子に乗ってしまいパイロットの少年の事などすっかり忘れ好き放題言ってしまったことを思い出したからだった。

そして今からでも遅くは無いかと考え直した時田は、次のように言った。言ってしまった。

 

 

「何か、言いたいことがあるなら遠慮せずに言いたまえ・・・パイロットくん?」

 

 

大人の余裕を見せつけようと、シンジに発言権を与えた時田。

顔を覆う両手の下でシンジはとても楽しそうに顔を歪めてから、シンジは両手をどけてゆっくりと立ち上がる。

大勢の前の前で晒したシンジの表情はとても悲しそうに歪められたものだった。

中性的な少年の悲痛な表情は、先ほどまで嘲笑していた者たちのなけなしの良心を大きく揺さぶった。

 

そこでシンジはいったん俯き、大きな深呼吸をしてから顔を上げる。

その表情はさっきと打って変わって自信に満ち溢れており、時田はその力強さに圧倒された。

 

 

「さっきの時田博士が言ったことで気になることがあるんですけど、いいですか」

 

「・・・なにかね?」

 

 

開戦である。

 

 

「さっき時田博士は、リツコさんの質問に対して「JAは150日間連続して稼働が可能だ」と切り返していましたよね」

 

「それがどうしたのかな?」

 

 

先ほどのように圧倒されるわけにはいかないと、比較的強く返した時田の言葉に対してシンジはすぐには答えなかった。

そこに生まれた間は、少し前に放送されていた某ドラマに登場した執事の「お嬢様は馬鹿でございますか?」というセリフの前の間を彷彿とさせた。

 

 

「そんなことはどうだっていいんだ、重要な事じゃない」

 

「は?」

 

 

たっぷりと貯めてから言い放たれた言葉は、さっきまでの丁寧な物言いとはかけ離れていたがために聞いていた者達を呆然とさせた。

そんな周りを全く気にせずにシンジは続ける。

 

 

「今まで僕は三回怪物と戦って来ましたが、一度だって活動時間で不便を感じたことはありません」

 

「っ・・・」

 

「だから150日動けるとか言われても、今一ピンと来ないんです」

 

 

第四使徒との戦いでうまく立ち回り、原作と違ってアンビリカルケーブルを切断されていないシンジは活動時間で追い詰められた経験は一度も無かったのだ。

 

 

「いつか役に立つはずだ・・・!」

 

「「いつか」なんて曖昧な事言われてもこっちは納得できませんよ」

 

「っ!!」

 

 

何処か先ほど自分が言った言葉を彷彿とさせる言い回しで返され、羞恥に顔を歪ませる時田。

子供にそんなことを言われる筋合いはないと感情に任せて言おうとしたところを、先に話し始めることで防ぐシンジ。

 

 

「あと、さっきも言ったはずですけど重要なのはそこじゃありません」

 

「なにぃ?」

 

「リツコさんが聞いたことは「リアクターを内燃機関として内蔵することに対しての安全性」だったはずですよ」

 

「っ!!」

 

 

言外に質疑応答も満足にこなせねぇのか?と言われた時田は、それがあまりにも正論だったが故に言葉を詰まらせた。

 

時田も反論が思いつかなかったわけではない。

だがその思いついた内容が「攻撃を受けなければいい」だとか「人類を守るためには仕方がない」などといった、目の前の少年に燃料を注ぐようなものばかりだったのだ。

多少的を射てなくとも自信満々に切り返せば、体裁を気にして食い下がって聞き返すこともできないリツコとは違い、シンジはこの場では失うものは何も無いに等しいが故にその反論を控える道理は無かった。

だからこそ時田は適当なことを言って場を流すなど、とてもではないができなかった。

 

どうすればいいのかと黙って考え込む時田。

そんな彼への救いの手は、意外にもシンジから差し伸べられた。

 

 

「・・・次の質問に移っていいですか?」

 

「あ、あぁ許可しよう」

 

 

応答がいつまで経っても来ないので、シンジはあからさまに呆れたという表情を作って次に移ることを提案した。

その表情に思うところが無かったわけではない時田だったが、窮地から逃れるためにこれ幸いと飛びついた。

 

たった一つの質問で追い詰められ、参りかけていた時田は気づかない。

「子供の質問に答えられず黙り込んだ」という事実がどれだけ参加者に影響を与えていたかを。

それを全て理解して次の質問、いや次の攻撃に移ったシンジの計画性を。

 

 

だがシンジの計画とて全てが計画通りに進んでいるわけでもなかった。

 

なんというか・・・明らかに時田がダメージ受け過ぎだったのだ。

たった一つでそこまでか!?と問いたくなるぐらいに衝撃を受けている様子の時田に、シンジはかなり計画を繰り上げることにした。

霧が濃くなりそうなセリフを交えて着実にじわじわとダメージを与えていくのを取りやめ、最後のトドメをぐだぐだしないうちにちゃっちゃと刺してしまおうというのだ。

 

 

「確か、A.T.フィールドの実装も時間の問題だと仰っていましたよね」

 

「それがどうかしたのかね?」

 

「えと・・・怪物、使徒と戦うための兵器なんですよね?」

 

「だからなんだというのだ!?」

 

 

心底不思議そうな顔をして問うシンジに、追い詰められ余裕がない時田は激高した。

別にシンジはそれを狙ってそんな表情をしているわけではない。

この質問はトドメでもあり、シンジのJAに対する最大の疑問でもあった。

つまりシンジは演技をしているわけではなく、文字通り心の底から不思議だと思っているのだ。

 

 

「じゃあなんでA.T.フィールドを全く研究していないんですか?」

 

「・・・は?」

 

 

そのシンジの質問は、それを聞いていた発表会の参加者にとってはとても不可解なものだった。

時田博士はA.T.フィールドに関して「時間の問題」だと言ったのにも関わらず、シンジは「全く研究していない」と言い切ったからだ。

もちろん時田も言い返す、が、その様子は明らかに不自然だった。

 

 

「な、何を勘違いしているn「してるんですか?」っ!!?」

 

「絶対に研究してないですよね」

 

「何を根拠にそんなことをっ!?」

 

 

泡を吹きそうな勢いで激高する時田をシンジは冷めた目で見つめる。

その二人の様子を会場にいる人間は固唾を飲んで見つめることしかできないでいた。

 

 

「何を根拠にしているかは・・・情報の守秘義務があるので言えません」

 

「っ!!ふざけるn「ですが!!」あぁっ!?」

 

「僕は絶対の自信を持って宣言しましょう、あなたはA.T.フィールドの研究を一ミリたりとも進めていない!」

 

 

シンジの勢いに完全に圧倒されている時田をビシッと指さし、シンジは今までにも増した大声で宣言した。

 

 

「何故なら!少しでも研究していたのなら絶対に「あんなこと」は言わないからだっ!!!」

 

 

論破ッ!!という文字が後ろに見えそうになる勢いで言い放ったシンジ。

そこにいる誰もが、シンジが絶対の確信を得るような言葉を時田が言ったのだと信じ込む。

 

そしてその中でリツコだけが納得した顔でほくそ笑んでいた。

 

 

「(そうよね・・・本当に少しでも研究していたのなら、絶対に「人の心なんて曖昧なものを~」なんて言ったりしないわよね)」

 

 

もしここで守秘義務など気にせずにシンジが理由を述べていたら、先ほどと同じように曖昧だとか信用できないだとか言われてここまでの説得力は発揮できなかっただろう。

シンジの判断はこの場に於いて最適なものであった。

 

誰もがシンジの勢いに飲まれて動けないでいる中、時田がか細い声で話し始める。

 

 

「だから・・・だからなんだ」

 

「え?」

 

 

そう聞き返したのは誰の声だったか、そんな気の抜けた声の後に時田は先ほどまで固まっていたのが嘘かのように大声で喚き始めた。

 

 

「だからなんだというのだ!?そんなものはJAには必要ない!そんなものが無くともJAは戦える!!!」

 

 

開き直ってシンジに向けて怒鳴る時田。

その様子に会場は騒然となった・・・が、シンジは全く動じずに鬼の形相で自身を睨む時田を相変わらずの冷めた目で見つめていた。

 

 

「A.T.フィールドはいりませんか」

 

「いらないと言っている!!」

 

「そうですか、じゃあJAはポジトロンライフル並の攻撃ができるんですね?」

 

「もちろ・・・はぁ?」

 

 

なんでもないことのように言ったシンジの言葉に、勢いのままに答えようとした時田はその言葉の意味を理解した瞬間、気の抜けたような声を出してしまう。

その様子に、シンジは冷めた表情になってから初めて別の表情を見せる。

それは悪戯に成功した子供のような笑みだった。

 

 

「だってそうでしょう?そうでなければ話になりません」

 

「確かにA.T.フィールドが無くたって使徒は攻撃できます」

 

「ですがそれはN2爆弾やポジトロンライフルだったからで、それより弱い兵器じゃ相手のA.T.フィールドを越えられず掠り傷一つ付けられません」

 

「だからこそ攻撃できるようにするためにA.T.フィールドが必要だったんですが・・・」

 

「いらないんですよね?必要ないんですよね?」

 

「じゃあそれらに匹敵するほどの攻撃をJAはできるんですよね!」

 

「だって「完成」披露発表会ですからね!まさか使徒に傷一つ付けられない状態のままで「完成」だなんて言ったりしないですよね!?」

 

「そんな攻撃をJAはできるんですか!それともやっぱりできないんですか!?」

 

「そこん所どうなんですか!?時田博士!!」

 

 

「え?・・・あ、あぁ・・・え?」

 

 

さっきまでの冷めた様子がまるで嘘のように笑顔で捲し立てるシンジに、時田はまともな反応ができないでいた。

そのシンジの勢いと反論ができない自分に押しつぶされそうになった時田は眩暈を覚え、壇上でふらふらと後退をする。

 

これは現実なのか?と働かない頭の片隅で時田はぼんやりと考える。

ふと手で顔を触ると、冷たい感覚の後に灼熱のような熱を感じた。

・・・あぁ、私は汗をかいているのか。いつの間に汗をかいていたのだろうか?

伝う汗はこんなに冷たいのに、肌はその汗が蒸発しそうなほどに熱かった。

きっと、私には見えないがトマトのように真っ赤に染まっているのだろう。

そしてまるでフルマラソンを走破したかのように息も荒いようだ。

 

意識がぼうっとして、自分の事なのにまるで他人事のように感じる。

どうしてこうなったのかと考えようとしても、そんな難しいことを麻痺した脳みそは考えてくれないようだった。

 

 

「さぁ!!時田博士!!!」

 

 

ふと、自分をこんな状況に陥れた元凶の声が聞こえた。

嬉々とした表情で自分にトドメを刺そうとする少年の顔が目に入る。

しかしその声を聴いても、その顔を見ても先ほどのように烈火のごとく怒ることはできなかった。

 

一度冷静になって考えれば、悪いのは自分だった。認めよう。

 

悪いのは私だった。謝る。謝るから―――

 

 

「『できる』のか!『できない』のか!ハッキリと言葉に出して貰おうッ!!」

 

 

―――もう、勘弁してくれないか。

 

 

時田は真っ白になり、その場で膝を付いた。

 

 

 

・・・

 

 

 

「ざまぁみろってのよコンチクショー!!」

 

 

発表会の会場と同じ建物の中にある待合室の中で、ロッカーをガンガン蹴りながら笑うミサトさんをドン引きしながら、会場からくすねてきたジュースを飲んでいた僕は、ちょっとやりすぎたかなーと後悔していた。

 

最初はアトリーム語を適当に混ぜながら淡々と質問して会場の空気を悪くしてやろうぐらいの気持ちだったんだけどさ。

あまりにもいい反応するんだもん時田博士、途中で歯止めが利かなくなっちゃったんだよね。

 

トドメのジョジョネタの後にリツコさんに止められて退出してなかったら、もっと暴れてたかもしれないしね。トドメなのに。

 

さらに思い出すと、最近ちょっと調子に乗り過ぎていた気もするなぁ。

自重することも覚えねばと深く反省していると肩に手が載せられたので振り返ると、リツコさんがとてもイイ笑顔で立っていた。

 

 

「よくやってくれたわシンジくん」

 

「期待には応えられましたか?」

 

「ええ、予想以上よ」

 

 

僕はそう言って微笑むリツコさんの目の前に、ピッと人差し指を立てた。

それを見て意図を測りかねているのか眉を顰めるリツコさんに、僕はニヤリと笑って言った。

 

 

「貸し1です」

 

「っ!」

 

 

意図に気づいたリツコさんは目を見開いて驚き、顔を見つめてくるが僕はその表情を崩さない。

 

確かに利害は一致していた・・・だけど僕はあの時、何もしないでじっとするという選択肢もあったんだ。

その中で僕はリツコさんの事を尊重し、行動を起こした。

ケチ臭い事を言う様だけど、これは確かに『貸し』になる事柄だと僕は考えている。

 

さて、リツコさんはどうだろうか?

 

 

「・・・ふふっ、そうね。わかったわ、いつかしっかりこの借りは返すわね」

 

「いよぉっし!」

 

「あら、そんなにうれしい?」

 

「こういうやり取りに憧れてましたからね!」

 

「そう、よかったわね」

 

「はい!」

 

 

憧れていたのも間違いではないけど、本当の目的は別の所にあった。

 

リツコさんは見た目に反して・・・いや見た目通り?まぁとにかくプライドが高い人だと思う。

そんな人が『借り』がある人物に対して不利な行動をするか。答えは否だ。

つまり僕に『借り』がある間、リツコさんが僕に不利な行動をする可能性はとても低くなるということだ。

少なくとも、表立っては。

 

限りなく黒に近いグレーだったリツコさんに楔を打ち込むことができたというのは、とても大きい成果だ。

今回の事で僕自身も今までより警戒されるようになるだろうけど、それを含めてもお釣りがくるような成果だと思う。5円くらい。

心から笑ってリツコさんと話していると放っておかれて寂しくなったのか、ミサトさんが会話に割り込んできた。

そしてこれからどうするかという話題に切り替わるまで、それほど時間がかからなかった。

 

 

「で?どうすんのよリツコ」

 

「もちろん帰るわよ、これ以上いる意味は無いわ」

 

「え?JAの試運転はこれからなのに?」

 

「僕は嫌ですよ、あんなに騒いだ後会場に出戻りするなんて」

 

「あぁーそれもそうね・・・じゃ、帰りましょうか!」

 

 

そういってズンズンと歩き出したミサトさんの後ろを歩きながら、僕はエレベーターのリツコさんの言葉を思い出す。

 

あの時リツコさんは計画の変更はしなくてもいい・・・とかなんとか言っていた。

話の流れ的に考えると僕のやったこととその計画の目的は同じだと考えられるから、多分JAの発表会を台無しにする計画はすでにあったのだと思う。

そしてその計画は変更される事無く始動していて、それを唯一知っているリツコさんは「帰ろう」と言ったんだ。

 

こりゃ帰るしかないっしょ!というわけで、JAを見たい気持ちを押し込めてリツコさんの意見に賛同したというのが先ほどの行動の理由である。

まぁもし僕らが巻き込まれる前提の計画だったらアウトなんですけどね・・・

 

そんな感じで考え事をしているうちに会場に来るときに乗ってきたオスプレイ的な何かの元へとたどり着いたのでリツコさん達の後に続いて乗り込んだ。

そして飛び立ち、どんどん小さくなっていく建物を見ながら何かセリフを言いたくなった僕は、外を眺めながら小さく呟いた。

 

 

「楽しい発表会でしたね・・・」

 

 

この後何事も無くNERVにたどり着き、そして家に帰りレイとゲームをして寝たのだった。

 

 

そして次の日、ミサトさんからあの後JAは試運転で暴走したが被害が出る前に収まったと聞かされた。

 

それを聞いて一つの確信を得た僕は、いやーあの時帰っててホントよかったわーと笑うミサトさんの後ろで、その報告書を眺めていたリツコさんをジト目で睨む。

 

すると僕の視線に気づいたリツコさんは「やっぱりわかる?」と言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべたのだった。




はい!シンジくん自重(を覚える)回でした!

さらに詳しく言えば、自重(してもらうために本人が後悔するくらい暴れてもらった)回ですね!

暴走し過ぎなシンジくんですが、次回からは大人しくなる・・・ねーよ。

まぁとにかくです!
調子に乗るだけでは世界など救えないのがこの世の道理!
つまりは自重を覚えたシンジくんに敵はいないという事ですね!!(超理論)

というわけ(?)で人類の未来のために犠牲になった時田博士に敬礼!(`・ω・´)ゞ


・・・さて、次回の十参話ですがいつになるんでしょうねー。
まぁさすがに今回よりは早く投稿できると思います、よ?

ではまた会いましょう!さらばっ。


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第拾参話「えっ?LASってレイ、アスカ、シンジの事じゃないの!?」

いやぁ毎度のことながらお待たせしました!

どーも!最近までLASの意味を間違えて覚えていたアホでございます。

話数を重ねるごとに文字数が増え、そしてそれに比例するように執筆時間が伸びていく傾向にありますね。
最終的にどこまで伸びるんでしょうね笑えません!

まぁその他にも四月からの新生活で忙しかったとか、サタスぺのシナリオ作成で忙しかったとか、ロボボプラネット100%クリアで忙しかったとか事情は様々あるのですがそれはまぁ置いといて!


今回はオバm、じゃないアスカが到☆来!

内容が内容なだけにものすっごい難産だった今回の話、例によって例のごとく色々とアレですが・・・

ゆっくり読んで行ってね!


「なんなんだろうね・・・この使徒戦にあるまじきグダり具合は」

 

 

広い海のど真ん中。

その海上に立つエヴァンゲリオン二号機のエントリープラグの中にいる僕は溜息を吐く様にそう呟き、言ってからヤバイと思って口を押えた。

 

 

「相手が海中にいるんだからしょうがないでしょ!?っていうかアンタは余計なこと言わずにちゃんと集中しなさいよね!!」

 

「へーい」

 

 

案の定同じく二号機に搭乗しているアスカに超至近距離で怒鳴られ、ただでさえ降下気味だったテンションがさらに下向きになった僕はやる気のない返事で答える。

それを聞いて機嫌を悪くしたアスカは前を向くのもやめて僕に文句たれ始めたので、それを軽く聞き流しながらアスカの代わりに前を注視していた。

 

すると次の瞬間、前方向の水面に大きな影が現れたのを見た僕はあっ、と声を上げる。

僕の様子を見て瞬時に意識を前方へと切り替えたアスカに続く様に、僕は前を指さし叫んだ。

 

 

「エリック!上だ!!」

 

「前でしょ!?」

 

 

適当な事言ってんじゃないわよ!!と叫びながら使徒を殴り飛ばすアスカを眺めつつ、僕はどうしてこうなったと今までの事を思い出すのだった。

 

 

 

 

 

・・・時は遡って少し前・・・

 

 

 

 

 

「おー!海や海や!!」

 

「ウェミダー!」

 

 

今NERVから飛んだオスプレイ(仮)に乗って海を全力疾走している僕達は第三東京市立第壱中学校に通うごく一般的な男の子。

強いて違うところをあげるとすれば、僕はエヴァ初号機のパイロットってとこかナ・・・

 

JAの発表会が終わって間もなく。

今週の日曜日にエヴァ弐号機とそのパイロットを迎えに行くと、レイと一緒に朝食を食べている時にミサトさんから伝えられた僕は驚きでむせ返ってしまった。

 

_人人人人人人人_

> 突然の来訪 <・・・と騒ぐほどでも無い、かな?

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

 

でも行き成り「前も言ったと思うけど」みたいな感じで言われたのだから、僕の驚きもおかしいものでは無い筈だ。

決して僕のスニークミッションもどきにその情報が全く引っ掛からなかったのが悔しいわけじゃない。

何事かと僕を見つめる二つの視線の前で僕は深呼吸をして落ち着きを取り戻し、平静を装ってミサトさんを問いただした。

 

すると案の定、ミサトさんは言ったつもりになって実際には僕に伝えるのを忘れていたのだった。

 

溜息を吐く僕に平謝りするミサトさん。

するとミサトさんはご機嫌取りのつもりなのか、こんな提案をしてきたのだ。

「今回はそこまで堅苦しいとこでもないからお友達連れて来ていいわよ!」と。

 

そんなわけで翌日、学校で二人に「行かないか」と誘うと二人はホイホイと付いて来ちゃったのだ。

 

 

「おお!なんか見えて来よったで!?」

 

「空母が5に戦艦4か!大艦隊じゃないか!!」

 

「うわぁ、一回の出撃でどれだけ資材溶かすのか考えたくもないね・・・」

 

「艦これ脳乙」

 

 

そんな感じで僕達が機内でわいわい騒いでるうちに、オスプレイ(仮)は船の上へ着陸。

僕達は風がびゅんびゅん吹き荒れる甲板に降り立った。

 

 

「今日は・・・風が騒がしいな・・・」

 

「でもこの風・・・少し泣いています・・・」

 

「どうやら風が町に良くないものを運んできてしまったようやな・・・」

 

「何してるのよ、って風つよっ!?」

 

 

打ち合わせをしていたかのように一斉にネタに走った僕等を呆れるように見ていたミサトさんは、風に帽子を攫われかけ慌てて押さえつける。

その様子を見たトウジは安心したように肩を竦めた。

 

 

「いやー、ギリギリで思い直してよかったわぁ・・・」

 

「ん?何が?」

 

「あんな?最初はお気にの帽子でも被ってキメたろかとか考えてたんやけど、一緒に来る人はミサトさんだけ言うたやんか、だから途中でやめたんや」

 

「あーなるほど・・・うん、多分風で飛ばされてただろうね」

 

「せやろ?危機一髪やでホンマ」

 

 

僕らの格好は見事にいつもの格好(僕とケンスケは制服でトウジはジャージ)だもんね。

しっかしなんやかんやでトウジも順応するの早いよなぁ。

ミサトさんの扱いがもうマイナス方向に傾いてるし。

 

 

「・・・ってケンスケどこ行った」

 

「すぐそこで飛行機眺めとるで?」

 

 

トウジが指さした先には戦闘機を興味深そうに眺めるケンスケが確かにいたので僕らは近寄って声を掛ける。

すると僕らに気づいたケンスケはとても晴れ晴れとした顔で話し始めた。

 

 

「いやぁ、知識では知ってても実際で見ることは出来ないと諦めてた代物を、こうやって実際に見ることができるなんてなぁ・・・持つべきものは友達だぜ!」

 

「さっきも思ったんやけど、なんでそんな詳しいんや?」

 

「ガルパンの予習で戦車調べた時、そっち系にハマっちゃってな」

 

「さすケン(さすがケンスケ)」

 

「いやそれはおかしいやろ」

 

 

そんなこんなで無駄知識を披露し始めたケンスケの話を聞いていると「こんなとこでなにしてんのよ」と真後ろから声を掛けられたので、僕とトウジは180°向きを変えて振り返る。

するとそこには呆れた表情をしたミサトさんとこちらを勝気な表情で見ている美少女がいた。

 

ふむ、流れからして彼女がセカンドか。

 

 

「まぁいっか・・・えーと紹介するわね、この子がエヴァンゲリオン弐号機専属パイロットの惣流・アスカ・ラングレーよ」

 

 

へー。といった感じにミサトさんの説明を綺麗に横並びになって聞いていた僕等は次の瞬間、目を見開いて彼女を凝視することとなった。

なんと、説明が終わると同時に強い風が吹いてラングレーさんのスカートが思いっきり捲れ上がり、魅惑のデルタ地帯が完全に露わとなったのだ。

 

パンチラなどではない、パンモロである。

 

完全に目が釘付けになり固まった我等男三人衆。

その中で一番早く動き出したのはやはりというかなんというか、ケンスケであった。

 

忍者の印結びのように素早い動きで手を動かし何かを淡々と表していくケンスケ。

その無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きの真意を捉えるのは素人には至難の業なのだろうが、この僕に限ってはそれはない。

僕ことシンジは、その動きに込められていた意味を完璧に読み取ったのだ。

 

僕でなきゃ見逃しちゃうね!

 

 

「パンツ丸見え?」

 

「「YEAAAAAAAAH!!」」ピシガシグッグッ

 

スパァン!スパァン!「フラン」スパァン!!

 

 

相変わらず息の合った僕等のコンビネーションを称え合っていると、案の定ラングレーさんの平手打ちが飛んできたので甘んじてそれを受け入れた。

やることやれたから満足だ。なんなら次回が1クール目最終話でもいいよ!

 

トウジ→僕→ケンスケの順番で平手打ちを喰らわせ満足そうにするラングレーさん。

そんなラングレーさんに顔を腫らしたまま食って掛かろうとするトウジを、不満を感じてない僕等二人で押さえつけた。

「そんなもんこっちも見せたらぁ!」って誰得だよホント・・・あ、委員長得か。

 

 

「見物料よ!・・・で?噂のサードチルドレンはどれ?」

 

「この子よ」

 

 

ミサトさんが僕の事がサードだと示すとラングレーさんはぐいっと顔を近づけ見つめてきたので、負けじとその品定めする視線に真正面からぶつかっていった。

そしてしばらくすると「冴えないわね」と言ってラングレーさんは顔を離していった。

 

しかし冴えない・・・冴えないとな?

 

 

「・・・冴えないって初めて言われたかもしれない」

 

 

自分で言うのもなんだけど、たとえ初対面の人でも警戒はしても遠慮はしない性質だからなぁ。

パッと見は冴えない顔なのはわかってるし、まともに話す前の評価を下されればこんなもんか、と一人でうんうんと頷いて納得しているとケンスケがニヤニヤと笑ってこちらを見ている事に気づいた。

 

 

「シンジの初めてが奪われたと聞いて」

 

「なっ!?へ、変な言い方するんじゃないわよ!!」

 

 

ケンスケの物言いに顔を真っ赤にして怒鳴るラングレーさん。

そんな可愛い反応をするラングレーさんをトウジは腕を組み難しい顔をして見つめていた。

 

 

「シンジが冴えないとか・・・コイツ頭沸いてんとちゃうか?」

 

「ふんっ!」ドゴォ

 

「うごげッ!?」

 

 

そう呟くように言ったトウジの顔面には次の瞬間、それを漏らさずに聞いていたラングレーさんのグーパンが突き刺さる。

間抜けな声を上げて倒れるトウジを拳を振りぬいた体勢で見下ろしながら、ラングレーさんは頭に怒りマークを浮かべ(幻覚)ていた。

 

 

「歯を食いしばりなさい!!」

 

「そ、それ殴ってから言うもんちゃうやろ・・・」

 

 

甲板の上で倒れ伏しながらもツッコミを欠かさないトウジに僕とケンスケはさすがだと拍手を送る。

そんな僕等のやり取りの一部始終を見ていたミサトさんはお腹を抱えて大笑いしていたのだった。

 

 

しばらくして僕等はミサトさんに連れられて如何にも頭の固そうな船長さんの所へ連れていかれたり、その艦長さんと話をしている時に加持さんとかいう謎の人物が登場したりしたけど特にピックアップするような内容でもないのでスルーする。

まぁそもそも僕等は僕等で話をしててまともに話を聞いちゃいないんだけどね。

 

 

「なんかラングレーさん見てるとニセコイの千棘思い出すんだよね」

 

「あ、なんかわかるわ」

 

「誰よソレ?」

 

 

みたいな感じでずっと話をしていたから、大人達の話なんて加持さんがミサトさんの元カレっぽいことしか覚えてないよ。(これまた興味が無いので華麗にスルー)

 

しばらくすると大人達の会話も終わって加持さんと一緒にアスカ(話してる途中でラングレーは呼ばれ慣れてないからアスカでいいと言われた)は離脱。

それから少し経ってミサトさんの加持さんに対する愚痴を聞きながらエスカレーターに乗っていると、もう少しで登りきるという所で再びアスカが姿を現した。

アスカは僕達が何かを言う前に「シンジ、付いて来なさい」と言って歩き出し、それを断る理由も特に思い浮かばなかったので歩いていく彼女の後ろに僕は黙って続きその場を去った。

立ち去る時後ろから「また碇してるぜシンジのやつ」とか「ホンマにアイツは碇ってばかりやな!」とか聞こえたが、アスカがドンドン進んで行ってしまうので追及するのは後回しにしたけど・・・

 

いつの間に僕の苗字は動詞の様に扱われるようになったんだ?

絶対に碌な意味じゃないぞ「碇」

 

一体何スケが考えたんだ・・・?と少しふざけた考え事をしながら何処か不機嫌そうに歩くアスカの背中を黙って追いかける僕。

やがてたどり着いた場所にあったのは、液体に浸かるように俯せになった赤いエヴァンゲリオンだった。

 

ここでまさかの主人公カラー来るか・・・と戦慄する僕を見てニヤッと笑ったアスカは、軽い身のこなしでエヴァの上に飛び乗るとぴょんぴょんと一番高い所まで登って行ってしまった。あぁ^~。

 

 

「どう?これが弐号機よ!」

 

「まさか赤いとは思わなかったなぁ・・・」

 

「違うのは色だけじゃないわ、アンタ達のプロトタイプやテストタイプとは違って弐号機は世界初の実戦用のエヴァなのよ!」

 

「つまりその性能は初号機や零号機を三倍くらい上回る、と」

 

「えっ!?さ、さすがにそこまでじゃないと思うわよ・・・?」

 

「なに?機体が赤ければその性能は三倍になるのではないのか!?」

 

「どこの世界の常識よ!!」

 

 

得意げな顔を一転させてうがーっと怒鳴るアスカ。

しかし、どこの世界と聞かれたら答えてやるのが世の情け。

アスカが日本のサブカルチャーに疎いことが先の会話で分かっていたので、機動戦士について一から熱く詳しく語ってやろうと口を開きかけたその時、大きく鈍い音が辺りに響くと同時に足場が大きく揺れ始めた。

僕は咄嗟に姿勢を低くして揺れに耐えながら顔を上げ、足場が不安定な場所にいたアスカの安否を確認する。

すると狭い足場にも拘らず微塵も体勢を崩さずにその場に堂々と佇むアスカが目に入った。

 

大した奴だ・・・やはり天才か。

 

先の会話でエリートであるらしいこともわかっていたのでそんな賞賛の言葉を頭の片隅で考えながら、今もなお続いている揺れの原因について考察する。

まぁ多分使徒が来たんだろうと適当に当たりを付けながら僕はアスカに問いかける。

 

 

「これは!?」

 

「水中衝撃波・・・しかも近いわ、外行くわよ!」

 

「了解!」

 

 

答えると同時に走り出した僕にアスカはすぐに追いつき、ほぼ同時に甲板の手すりにたどり着く。

身を乗り出して戦艦が沢山浮かぶ海を睨むと、巨大な水しぶきを上げて移動しながら戦艦を破壊する何かの存在を確認することができた。

 

うん、知 っ て た。

 

 

「やっぱ使徒かぁ・・・」

 

「アレが?本物の!?」

 

「・・・さて、どうしようか?」

 

 

アスカの性格を大体把握済みの僕には、次に彼女が何をするのか手に取るようにわかる。

僕の問いを聞いたアスカは、少し考える素振りを見せた後に弐号機を見てニタリと笑って走り出し、思い出したかのように僕の方を向いて「付いて来なさい!」と言った。

 

弐号機に乗るんですね、わかります。

 

少し走った後に非常用・・・かどうかはわからないけどとにかくそれっぽい階段を見つけるとアスカは「ここで待ってなさい!」と言って荷物を抱え降りて行った。

そしてしばらくして聞こえてきたゴソゴソという音でアスカがプラグスーツに着替えていることを確信した僕は、背負っていたリュックから自分のプラグスーツを取り出してカカッと着替えた。

 

まぁ、前日ミサトさんからもしもの時のためにエヴァの電源ソケットを荷物としてオスプレイ(仮)に積んでいくことを聞かされた時点で察してたからね。

もちろんアスカだけ乗って僕は置いてかれる可能性もあったけど、もともと何かと理由をつけて連れて行ってもらうつもりだったのだ。

 

スピードワゴンさんじゃないけど、傍観者でいるのは嫌なんだよ!

 

大方置いてかれるだろうと考えていただけに、アスカの方から「付いて来い」と言って一緒に乗せようとしてくれたのはうれしい誤算だったと言える。

 

やがて、男であるが故にアスカより遅く着替え始めたのにも拘らず先に着替え終わって待っていた僕の元へ同じく着替えたアスカが姿を現した。

僕は自分のプラグスーツを持って来ていたことに対して用意していた言い訳を口にしようとするが、僕を見たアスカは軽く目を見開いた後に気に入らないといった風に顔を歪め「ほらさっさと行くわよ!」と言って走り出してしまった。

 

うーんやっぱり過度な先読みは逆効果だったか・・・気をつけなきゃ。

 

そう反省しながら後を追う僕だったが、あからさまな不機嫌オーラを発しながら前を走るアスカを見てふと疑問に思った。

少し前まで仲良く話をしていた仲だというのに、一つ気に入らない行動をしてしまったぐらいでそこまで機嫌が悪くなるものなのかと不思議に思ったのだ。

そこで少し今までのアスカの様子を思い出してみると、エスカレーターで合流した時から何処か雰囲気がおかしかったように感じた。

 

・・・離脱してた時にアスカが不機嫌になる何かがあったと考えるのが自然だよね。

 

そこまで考えたところで弐号機があった場所にたどり着いたのに気付いた僕は、思考を中断して軽く見回す。

すると僕より早く弐号機にたどり着いたアスカが手慣れた様子でエントリープラグを操作しているのが見えた。

僕がアスカの元へ駆け寄るのとエントリープラグの扉が開くのはほぼ同時で、軽く息を整える僕を見向きもせずにアスカはエントリープラグに乗り込んでしまった。

 

 

「何ボサッとしてんのよ!早く来なさい!」

 

「サーセン!」

 

 

アスカに急かされながら彼女の座る椅子の背もたれに掴まるようににして乗り込む。

扉が閉まりエントリープラグがエヴァに挿入されるのを大きな揺れで感じ取った所で、アスカが日本語ではない言葉で言語入力を始めた。

所々聞いたことがあるような発音が混ざって聞こえたことで、これはドイツ語だと判断したところで慌てて止めに入る。

聞き流しかけたけど、ドイツ語なんてわからない僕が居ては言語入力でエラーは免れないからね。

 

 

「なによ!」

 

「僕、日本語以外はオンドゥル語とかFB語ぐらいしかわからないんだ」

 

 

ごめんウソ、やっぱFB語もわかんないや。

 

アスカはバッとこちらを向き、怒ったような呆れたような表情をして僕を見る。

自分で言うのもなんだけど、僕は多国語をしゃべれるような人には到底見えないと思っている。

そんなあからさまに感情を前に出してしまうくらいに意外だったとは考えられないのだけど・・・

 

 

「アンタドイツ語わかんないの!?」

 

「恥ずかしいことにバームクーヘンぐらいしか・・・」

 

「ったくしょうがないわね!日本語に設定しなおしてあげるから感謝しなさいよ!!」

 

「かたじけない・・・」

 

 

意識して申し訳なさそうな表情を作りながら少し下を向き、さらに肩を落としながら謝る僕を見たアスカはフイと前を向いて言語入力に関しての操作を始めた。

数秒で変更し終わり、気を取り直して設定をやり直すアスカは先ほどよりも何処か機嫌が良い様だった。

その様子を見て僕は小さく溜息を吐き、そして苦笑する。

 

一先ずご機嫌取り成功・・・かな。

人に当たって凹ませるだけで簡単に溜飲を下げる辺り、まだまだ子供だけどね。

 

数日前の自分を棚に上げてそう考える僕のことなど気にせずにアスカは操作を進める。

そして数秒後、エヴァ弐号機とのシンクロを始めたアスカを見て、彼女の邪魔をしない程度にエヴァへと意識を集中させる。

しかし、エヴァからは何の反応も返って来なかった。

 

まぁ予想済みなんだけどね・・・というか返ってきた方が困るよ。

 

初号機と弐号機では『中の人』が違う、というのは少し考えればわかることだ。

おそらく弐号機の『中の人』はアスカの親族なんだろう、これも当然と言えるだろう。

詰まる所僕は完全にアウェイな状況に晒されているのであって、「アスカと一緒に戦う!」なんて冗談でも言えない状態に置かれているというわけだ。

 

つまり何が言いたいのかというと、僕はシンクロすることを・・・強いられているんだッ!

 

一見無謀だと感じるかもしれないけど、僕はそうでもないと思っている。

なんたって僕はトウジとケンスケっていう先駆者を知ってるからね!できない道理は無い、はず。

母さんを説得して二人を受け入れてもらった様に、僕も弐号機のエヴァさんを説得して受け入れてもらうのだ。

アスカじゃないとエヴァさんとの対話なんてできないのかもしれないが僕はシンクロするのに慣れている。

同じ感覚でやれば、きっと声ぐらいは届かせることはできるだろう。

 

僕は頭の中で作戦を再確認しながらシンクロに意識を集中させているアスカの様子を見守る。

同時にシンクロを図るなんてことはしない。

だって(おそらくだけど)弐号機のエヴァさんはアスカのことを大切に思ってるんだよ?

そんな彼女のシンクロの邪魔してみろ、それこそ説得どころじゃなくなるよ!

 

そして数秒後、アスカがシンクロを終え力を抜いたのを確認すると僕は一気に意識をエヴァへと集中させた。

初号機の感覚で大体母さんと対話ができるくらいの場所まで意識を沈めても、当然のことながら反応は何も返って来ない。

しかし僕は構わずに、たとえ注意が向けられていなくとも相手に伝わるように頭の中で絶叫した。

 

 

『(ドーモエヴァ=サン!!碇シンジです!!!)』

 

 

どんな時でも最初はアイサツ、古事記にもそう書いてある。

 

すると何者かが驚いたような反応を僅かに感じることができた。

どうやらエヴァさんにとって今のアイサツは完全に不意打ちだったらしい。

しかし僕は構わずに言葉を続ける。

 

 

『(アスカさんの、友達です!!)』

 

 

なのはさん式で僕等が友達なのは確定的に明らか、名前も呼び合ってるし間違いではないはずだ。

少なくともレイの時よりは自然だよね。

 

その僕の声を聞いてさらに驚いたような反応が返ってきたのを感じて、そんなにアスカに友達ができたのが変なのかと笑いそうになったけど必死で堪えた。

こんなこと考えてるのバレたら確実にアウトだからね。

 

自己紹介を終えた僕は、一気に本題へと入ることにした。

 

 

『(僕に友達を、アスカを守ることに協力させてはもらえませんか!?)』

 

 

その僕の言葉に帰ってきたのは沈黙だった。

一瞬焦るが拒絶されないだけマシだと、畳み掛けるように訴えかける。

 

 

『(どうか!お願いします!!)』

 

 

僕の声に返ってくるものはやはり何も無かった。

さすがにこれ以上叫ぶのは失礼だと思うので、もう僕にできることは何もない。

この沈黙はエヴァさんが悩んでいるからであることを、そしてその答えが良い返事であることを僕は祈って待つしかできなかった。

 

そして、ジョジョの時間停止中並に長く感じた数秒を得て沈黙は破られる。

なんと弐号機との間に僅かではあるが繋がりを感じることができたのだ。

初号機とは比べ物にならないくらい浅いものだけど、僕は今確かに弐号機とシンクロしている!

 

 

『(ありがとうございます!)』

 

 

そう伝えるとさっきよりも存在を近く感じるエヴァさんから明るい感情が伝わってくる。

僕はもう一度お礼を言ってから意識を内側から外側へと向けると、アスカが弐号機を起動させているのが確認できた。

この僅かなシンクロで何ができるのか確認するために、僕は弐号機の視界の端に一瞬だけA.T.フィールドを発生させる。

ほんの一瞬だけだったので肉眼ではキチンと確認できなかったけど、感覚で無事に発生させることができたのを確信することは出来た。

A.T.フィールドを張る以外は出来そうに無いと判断し、どうやってアスカをサポートしていこうかと考えようとしたところで、僕はアスカの様子がおかしいことに気づく。

そして、僕が一つの可能性を思いつくのとアスカが振り返るのはほぼ同時だった。

 

 

「シンジ!アンタ弐号機とシンクロできたの!?」

 

「っ!!」

 

 

その可能性は一瞬にして確信に変わった。

アスカは僕が瞬間的に展開したA.T.フィールドを正確に認識したうえに、それを僕が展開したものだという答えを僕に匹敵するかそれ以上の思考スピードで導き出して見せたのだ。

これが、ネタ抜きのマジな天才ってやつなのか・・・?

 

負けたよアスカ、お前がナンバーワンだ・・・!

 

 

「・・・なに悟ったような顔してんのよ」

 

「え?あ、ごめん」

 

「というか、さっさとアタシの質問に答えなさいよねっ!なんでアンタなんかがアタシの弐号機とシンクロできんのよ!!」

 

 

今までに見たことが無いくらいご立腹なアスカ。

これは下手な言い訳をしたらダメなやつだな・・・しょうがない。

 

 

「弐号機のエヴァさんに頼みこんでシンクロしてもらったんだ」

 

「・・・アンタバカァ?」

 

 

ホントの事言ってるのにバカとはひどいじゃないかアスカ!

まぁ、当然の反応だし僕もわかってやってるけどね?

ここで適当な嘘を言って誤魔化すのもいいけど、そうしてしまうと後々面倒なことになる。

だから本当の事を言ってしまうことにした。もちろん大事なことは伏せるけど。

 

ここでの会話はもちろん記録として残ってしまうのだろうが、それに関しても問題は無い。

実は元々僕の異常なシンクロ率に関しては疑われている節があったんだ。

故にいつまでも理由をひた隠しにしていても疑われるより、痛くない程度にカミングアウトして信用を得たほうがいいと考えていたわけで・・・

このアスカの問いかけは、自然に秘密を話すことができるいい機会だと言えるわけだ。

 

そういう事情で僕はアスカに感謝をしながら、嬉々としてエヴァに心があることを説明していく。

最初は胡散臭そうに聞いているアスカだったが、「これでシンクロ率が上がったんだ!」と一転して真剣に話を聞いてくれた。なんで?

 

そしてじゃあ実際に試してみようということで、アスカがエヴァさんに話しかけてみる事になった。

 

 

「・・・えっと、アンタみたいに頼みこんだ方がいいのかしら?」

 

「アスカは普通に話せばいいと思うよ?僕じゃないんだし」

 

 

さりげなくヨイショしながら説明する僕の言葉を聞いたアスカは目を閉じて集中し始め、数秒後驚きで目を見開いた。

 

もうシンクロしたのか!はやい!これで勝つる!

 

 

「―――すごく温かい、アンタの言ってたことはホントだったのね」

 

「僕はこの技術を、『アクセルシンクロ』と呼んでいるんだ」

 

 

アスカが今までしていたシンクロが普通なのなら、僕のシンクロはその先を行っていたわけだから別におかしくは無いはず!

次にシンクロするときは絶対に「アクセルシンクロォォォオオ!!」と叫ぼうと心に決めながら誇らしげにそう告げた僕を見て、アスカは急に悄らしくなり顔を伏せてしまった。

 

 

「・・・よかったの?アタシにこんな事教えちゃって」

 

「かz、仲間だからな!」

 

「仲間・・・そうね」

 

 

打算アリアリな親切だからして、そう申し訳なさそうな表情を見せられると非常に良心が疼いてしまう。

家族と言いかけながらも明るい調子で励ます様にそう言うと、呟くように何かを言った後にアスカは勢いよく顔を上げ、先ほどまでの悄らしさを忘れさせるような勝気な笑顔を見せた。

 

 

「よし!じゃあシンジにはお礼に、このアタシの華麗な戦いを特等席で見せてあげるわ!」

 

「・・・あぁそういや居たんだっけ、使徒」

 

「正直アタシも忘れそうになってたわ」

 

 

一応外で戦艦がドンパチやってる音は聞こえてくるんだけど、集中すると周りの音なんて本当に聞こえなくなるからね。

まだまだ外が煩いことに安堵しながらも、僕とアスカはVS使徒のための作戦会議を始めた。

 

 

「シンジもA.T.フィールドを張れるのよね?」

 

「うん、できる。でも他は何もできないから後は全部アスカに丸投げになっちゃうだろうね」

 

「そんなの望むところよ!・・・で、アンタに頼みたい事があるんだけど」

 

「よっしゃ任せろ!」

 

「まだ何にも言ってないわよ!!」

 

 

つい勢いで言ってしまった僕の言葉にそれを上回る勢いでツッコミを返してくるアスカ。

なんというか、ハリセンとか似合いそうだねアスカ!(彼女は柚子ではない)

・・・と、バカやってる場合じゃないか。

 

 

「僕にできる事なら喜んでやらせてもらうよ!何をすればいいのさ?」

 

「シンジには足場を作ってほしいのよ」

 

「・・・なるほど、そういうことね」

 

 

エヴァが水陸両用だって話は聞いたことも無いし、相手に合わせて戦ってやる道理も無い。

僕がA.T.フィールドで弐号機の動きに合わせて足場を作れば、リスクも少なく戦えるというわけか。

断る理由は無いね。

 

 

「戦艦なんかよりずっと安定した足場になると思うんだけど、どうかしら?」

 

「うん、任された!」

 

「よし!じゃあさっそく行くわよ!エヴァンゲリオン弐号機、起動!!」

 

 

覆っていた布を退かして立ち上がった弐号機の視界から見える海に浮かぶ戦艦は、さっき見た時と比べてかなり減っているように見えた。

 

 

「・・・少しゆっくりし過ぎたかしら?」

 

 

思わずと言った調子で呟いたアスカの言葉に同意しようとした次の瞬間、無線が起動して向こうからごちゃごちゃと声が聞こえてきた。

ミサトさんの声や艦長さんの声、そしてその部下っぽい人の声などが色々混じって聞こえることから向こうで揉めているらしいことが分かった。

 

 

「出撃許可が~とか言ってるね」

 

「どーせ許可なんて下りないわよ、勝手にやっちゃいましょ!」

 

 

そう行って海に飛び出そうとしたアスカの行動は、無線から聞こえてきた「許可が下りたわよ!」というミサトさんの言葉に中断されることとなった。

こちらが疑問に思っているのを読んだかのように入ったケンスケのフォローによると、どうやら多くの戦艦が沈められたのが大分堪えていたらしく、やむを得ずと言った感じに許可を出してくれたそうだ。

「電源ソケットを甲板に用意しておくからなんとかこっちまで来て!」というミサトさんの言葉を聞いて、今度こそ弐号機は船上から海面へと飛び出した。

僕はすかさず着地地点にA.T.フィールドを展開し、弐号機はそれを蹴って前へと跳躍する。

 

 

「シンジ次!」

 

「了解!」

 

 

そして再び展開したA.T.フィールドを蹴ってさらに前へ進む弐号機。

それを三回ほど繰り返すと、ミサトさん達のいる空母の真横へとたどり着くことができた。

弐号機はA.T.フィールドの上から甲板へと手を伸ばし、ソケットを引っ張ってくると背中にしっかりと装着した。

一先ずこれで電源の心配は無くなったと一息ついたところで、僕達はほぼ同時に真後ろから巨大な何かが波を掛き分けて近づいてきていることに気づいた。

 

 

「来たッ!」

 

「っ!!」

 

 

凄まじい反応速度で振り返った弐号機の視界で、すぐそこまで近づいて来ている使徒の巨大な影を捕えた。

真後ろに空母がある以上、下手な対応をしたら皆を巻き込んでしまう。

僕がそんな不安を抱いている中、アスカは自信満々の表情で使徒を睨んでいた。

 

 

「大丈夫?」

 

「当然!」

 

 

やがて使徒はその巨体を海面から覗かせ、飛び上がって弐号機に襲い掛かってくる。

弐号機はA.T.フィールドの上で思いっきり体を捻り、飛び掛って来た魚のような姿をした使徒の鼻っ面を横から思いっきり蹴りつけた。

つま先が使徒の顔?に突き刺さり、そのまま勢いを殺される事無く振りぬかれた蹴りによって横へ大きく逸れながら吹き飛んだ使徒の巨体は、戦艦からそれなりに離れた海面へと倒れこむように着水した。

使徒の巨体によって発生した津波で眼下で空母がぐわんぐわん揺れているのが見えるが、弐号機はA.T.フィールドの上にいるので全く影響は無かった。

 

 

「すごいよアスカ!」

 

「当ったり前よ!・・・まぁ、アクセルシンクロのおかげでいつもより調子が良いのもあるわね」

 

『ぶっ!!』

 

 

あ、無線の向こうでケンスケが噴出した。

幸いアスカは気にしちゃいないようだけど気をつけなきゃ。

いや何をどう気を付けるかなんてわからないけどさ。

 

とにかく今は使徒に集中だ。

 

 

「アスカ!ここに居ると皆を巻き込んじゃうから離れよう」

 

「アタシ達を狙ってるようだからそうした方が良さそうね」

 

 

そう言ってしばらく周りを眺めたアスカは「見つけた!」と呟くと同時に弐号機を跳躍させ、戦艦や空母が周りに存在しない海上に降り立った。

直後、移動した僕等を追うようにやってきた使徒が先ほどと同じように飛び掛って来るが、先に察知して身を低くして待ち構えていた弐号機のアッパーで完全に勢いを殺され、背中から海面に倒れ沈んでいった。

 

 

「図体がでかいだけで大したこと無いわね!」

 

「・・・アスカ、大丈夫?疲れてない?」

 

「な、なによ急に」

 

 

確かにちょっと急すぎたね、反省。

アスカは「図体がでかいだけで大したこと無い」と言ったけど、今回に関しては「図体がでかいから厄介」なんだよなぁ。

 

 

「コアが見当たらないんだ」

 

「コア?コアって・・・使徒の弱点の?」

 

「うん、それが見当たらない」

 

 

コアが見当たらないのは前回の使徒も同じだけど、違う点が有り過ぎる。

前回は地上戦だったうえに様々な作戦を立てる時間も有ったし、サポートしてくれるNERVの人たちも大勢いたし強力な武器も用意されていて、さらにはエヴァは二体在った。

つまり今回は、前回有利だった点を全て潰された状態で同じ状況に放り込まれたようなものだと言っても決して過言じゃない。

 

 

「アンタ使徒を何体も倒したんでしょ?コアの場所とかわかったりしないの!?」

 

「今までのコアは例外無く全て使徒の中心に存在してたから、多分今回もそうだと思うんだけどね」

 

「・・・中心って、何処よ?」

 

「何処なんだろう・・・」

 

 

前回の使徒みたいなわかりやすい姿をしてくれてたらよかったのに!

飛び掛ってくるときに使徒の全体を確認できたけど、あの魚のような図体の何処か中心なんだ!?

 

 

「そのまんま使徒の中心を狙う・・・のもダメね、手段が無いわ」

 

「ナイフしかないからね・・・」

 

 

唯一の装備であるプログレッシブナイフじゃ、どう足掻いても使徒の中心部まで刃を届かせることは出来ない。

他に何か作戦を考えようにも無線の向こうには使徒に関してはド素人の船長さん、ツッコミのトウジと色々頼りになるケンスケ、人格者だけど戦いに関しては頼りないミサトさんしか居ない。

ケンスケが居ることはシンジ的にポイント高いんだけど、わがままを言わせてもらえるならリツコさんが居てほしかった!

 

一体どうすればこの状況を打破できるんだ・・・?

このまま突破口を見つけられずにズルズル戦闘が長引けば、それだけアスカに負担を掛けてしまうことになる。

こうなったらもっとシンクロ率を上げて―――

 

 

「そんなことしなくたってアタシに任せとけばいいのよ」

 

「でもそれじゃアスカに・・・ん?」

 

 

・・・僕、声に出してなかったはずなんだけど。

不思議そうに首をかしげているであろう僕を見ながら、アスカは不敵に笑った。

 

 

「シンジは考え込むのが露骨過ぎるのよ、状況によっちゃ何を考えてるか予想できるくらいにはね」

 

「うぐっ」

 

 

痛いところを突かれた僕は、つい呻き声を上げてしまう。

軽く何かを考える程度では問題ないけど、一度深く思考し始めてしまうと周りの事を忘れて考え込んでしまうのは僕も自覚している自分の悪い癖だったからだ。

相手が何かを考えてることがわかれば前の会話や周りの状況から考えてることは予測できるできるだろう。

実際に今それをアスカにやられたわけだし。

一応うまく誤魔化してるつもりではいるんだけど、ケンスケやリツコさんのような色々と鋭い人物を欺くことはできない程度の技量ってことだね。

 

そんなまるでダメージを受けたかのような僕の様子を見てアスカは自信に満ちた笑みを浮かべると、大げさな動作で胸に片手を当てると力強く言った。

 

 

「アンタは黙ってアタシに任せとけばいいの!アタシに丸投げするとか言ったのはウソだったのかしら?」

 

「だってそれは・・・」

 

「あーハイハイ心配してくれてアリガトウ!・・・全く、日本人がメンドクサイってのはホントね!ミサトとは大違いだわ」

 

 

無線から『あたしだって日本人よ!』と声が聞こえた気がしたが、アスカは全く気にする様子が無いので僕も気のせいだろうと無視する。

 

 

「とにかく、アンタはひたすら下を気にしてればいいの!作戦なんて後回しよ!!」

 

「だけど・・・」

 

「アタシがイイって言ってるんだからイイの!それ以上言ったらぶっ飛ばすわよ!?」

 

 

何処までも強引なアスカの言葉。

その態度も乱暴そのものだったが、僕の事を気遣ってくれているだろう事はなんとなくわかった。

アスカは不器用だなぁと思ってつい笑ってしまい、それを見たアスカは少しムスッとした表情をしたがそれを指摘し合う事はお互いにしなかった。

そして数秒後、仕切りなおす様に僕は先の事をアスカに尋ねる。

 

 

「で、アスカはどうするつもりなのさ?」

 

「とりあえずぶっ飛ばし続けて、後はなるようになれって感じね」

 

「やっぱりか」

 

「何よ、文句あるの?」

 

「・・・あ!ほら使徒が来たよアスカ、早く構えて構えて!」

 

「・・・バカシンジィ!!」

 

 

そんな感じで笑いながら会話する僕等の片手間で再び殴り飛ばされる使徒。

倒れこむように海中へ姿を消した使徒を注視していた僕だったが、やっぱりコアは見つからなかった。

 

そしてアスカの言った通り、その後も使徒が飛び掛って来てぶっ飛ばすという行為を何セットも繰り返して―――

 

 

 

 

・・・現在に戻る・・・

 

 

 

 

―――今に至るわけだけど。

 

 

「ああもう!いつまでやってればいいのよ!?」

 

「本当にね」

 

 

癇癪を起したようなアスカの言葉に思わず同意する。

最初のころは色々な色々な吹き飛ばし方をして使徒の様子を窺っていたアスカだったが、途中から面倒になったのか蹴り上げるだけになっていた。

 

 

「でもまぁ、さっき見たら使徒の顔?の辺りはボッコボコになってたし、一応ダメージは与えられてると思うよ?」

 

「倒せなきゃ意味無いのよ!!」

 

 

ごもっともで。

 

そんなイライラしているアスカから目を逸らす様に海を見ると、使徒がまた向かってきているのが見えたので言葉に出す。

 

 

「アスカ、また来たよ」

 

「ほんっっとにしつこい奴ね!!嫌われるわよ!!!」

 

「女の子に?・・・使徒って性別あるのかな」

 

「知るか!!!!」

 

 

アスカのセリフに付いている「!」が某漫画並に増えているのを体で感じる中、使徒はドンドン近づいてくる。

そしてその使徒を迎え撃つために構える弐号機は、何処か先ほどより力が込められているように思えた。

 

・・・あぁ、ついにキレたのか。

 

 

「いい加減にぃ!!しろぉっっっ!!!」

 

 

今までとは比べ物にならないほどに力が込められた下からの蹴りは、完全に相手の勢いを殺し使徒の巨体を空中に留めたままひっくり返し、目の前に現れた使徒の腹部?に弐号機は先ほどの蹴りに負けず劣らずの威力を持っているであろうパンチを叩き込んだ。

思わず息を飲んでしまうほど綺麗に決まったコンボに思わず顔を顰めてしまった僕の前で、使徒は「うげぇっ!」といった感じで口を開けながら無様に吹き飛んで行く。

口とか有ったんだ・・・とぼーっと考えていると突然アスカがすごい勢いで振り向き、鬼気迫る表情で捲し立て始めた。

 

 

「シンジ!今の見た!?」

 

「く、口のこと?」

 

「その中よ!アイツの口の奥に赤い何かが見えたの!!」

 

 

赤い何か?それって・・・

 

 

「コアだ!」

 

「そうよね、コアよね!ついに見つけたわ!!」

 

 

超嬉しそうにガッツポーズをするアスカを視界の端に収めながら僕は一人考えに耽る。

口の中の弱点、という特徴になんとなく既視感を覚えたからだ。

そしてその答えはすぐに出た。

魚のような形状に攻撃方法、口内に弱点という特徴含め全てがゲーム『モンスターハンター』のとあるモンスターを彷彿とさせたのだ。

 

潜口竜、ハプルボッカだ。

 

そしてハプルボッカの詳細を軽く思い出す過程で、使徒に大きなダメージを与えられるかもしれない一つの作戦を思いついた。

僕はその作戦が実行可能か一人では判断できそうになかったので、無線の向こうのケンスケに相談を持ちかけることにした。

 

 

「ケンスケ、今の聞いてた?」

 

『コアの話か?ここにいるみんな聞いてたぜ』

 

「あの使徒、ハプルボッカにそっくりだよね」

 

『・・・言われて見ればそうだけど、それが?』

 

「爆弾無いかな?」

 

『あ~、そういうことか!』

 

 

無駄な言葉を限界まで省いた僕とケンスケの会話。

周りの人達にはよくわからないだろうけど、僕はケンスケに言いたいことを全て伝えることができたという確信があった。

 

ハプルボッカは様々なモンスターが登場する『モンハン』の中でも、群を抜いて変わった特徴を持つ存在で、色々な特徴があるのだがその中でも特に際立った特徴(個人的感想)なのが、「突進してくるのを利用して爆弾を食べさせると大きく怯む」という点である。

早い話が、僕はこの使徒に同じことができるのではないかと考えたのだ。

 

僕はわけがわからないよ的な表情をして首を捻っているアスカを視界の端に収めながら、無線から聞こえてくる会話に耳を傾け集中する。

 

 

『艦長、魚雷を安全装置の解除をしないままで発射する事ってできます?』

 

『できなくはないが・・・』

 

『んじゃもちろん遠隔操作での解除も?』

 

『できるが、それがどうしたんだね?』

 

『サンキューです艦長!てなわけで爆弾は確保できたぜ!これでいいかシンジ?』

 

「うん、ありがとう!」

 

「・・・なるほど、それを使徒に食べさせるのね?」

 

 

そつなく場を整えてくれたケンスケとの会話を終え、いざ作戦の内容を説明をしようとしたところで発せられたアスカの言葉に僕は一瞬固まったが、すぐに苦笑に変えて「さすがだね」と称えた。

どうやらアスカは横から聞いた情報だけで大体の内容を把握したらしい。

アスカは当然だと言わんばかりのドヤ顔で先の質問の答えを早く言えと僕を促すので、しっかりと頷きながら言葉で暫定する。

 

 

「Exactly(そのとおりでございます)」

 

「よぉし!じゃあサッサとやっつけるわよ!」

 

『準備は任せろーバリバリー』

 

 

反射的に「やめて!」と反応しそうになったが、変に場を混乱させかねないので自重する。

ケンスケもそこら辺のことはわかっていたのかこちらの返事など全く気にせずに、船長さん達と魚雷の準備を進め始めたようだ。

 

 

「じゃ、掴み易い場所に移動しましょう」

 

「そだね」

 

 

僕らも僕らで作戦遂行のために動き始めようするが、次の瞬間に無線から聞こえてきた怒鳴り声にその行動は遮られてしまった。

 

 

『ちょ、ちょっと何するつもりなのよアンタ達!?』

 

『そやそや!ワイ等にもわかるように説明せんかい!!』

 

「「(めんどくせぇ・・・)」」

 

 

こっちの顔が見えてないのをいい事に、露骨に嫌な顔をする僕とアスカ。

アイコンタクトで素早く会話し、説明しなきゃしつこく聞いてくるに違いないと結論を出した僕らは片手間で海上を移動しながら簡潔に作戦を説明する。

そして説明を終えるころには、指定された戦艦の魚雷発射口の直線状に二号機は到着していた。

本当は質問タイムも設けたかったのだがいつ襲ってくるかわからない使徒の存在がある以上、一分一秒でも惜しいこの状況ではそんな暇はなかったようだ。

 

 

『では、発射するぞ!いいな!?』

 

「アスカ!」

 

「オッケーよ!!」

 

 

地味に会話するのは初めてだった艦長さんの声にアスカが返事をした数秒後、ドン!という音と共に戦艦から魚雷が発射される。

海面スレスレを水飛沫を巻き上げながら近づいてくるソレを必死に目で追う中、突如として無線から声が聞こえてきた。

 

 

『・・・って、使徒の口に魚雷を突っ込むってどうやるつもりなのよ!?』

 

 

今それ聞きますかミサトさん!?

そんなツッコミを頭の中で叫びながら僕は完全に向かってくる魚雷から目を逸らしてしまった。

しかしアスカはそんな中でも驚異的な集中力で魚雷から一ミリたりとも目を逸らさずに弐号機を構えさせていた。

 

 

「そんなのどうでもいいでしょ!閉じてたら無理やりこじ開けてでも食べさせるまでよ!!」

 

 

さらには集中した状態のまましっかりと返事を返すこの余裕っぷり。

「貴様!エヴァの操縦をやり込んでいるなッ!?」と問えば「答える必要は無いわ・・・」と返してくれるだろうと確信してしまうほどの気迫を誇るアスカ。

僕はそんなアスカの後ろ姿を見守ることしかできないのだが、そこに不安を感じることは微塵も無かった。

 

そして数秒の時を経てV兄様のように働かn、もとい動かなかったアスカがついに動いたと僕の頭が認識した時には知らぬ間に海水に浸かっていた弐号機の右腕が海面から姿を現し、そこにはいくつかの魚雷がしっかりと握られていた。

 

 

「取ったッ!!」

 

 

思わずといった風に上がったアスカの嬉しそうな声。

それを聞いた僕は、まずは作戦の第一段階はこれでクリアだと軽くため息を吐く。

そしていつの間にか緊張で硬くなっていた体から力を抜きつつ意識を前から少し外した辺りで、僕は水飛沫の上がる音が止んでいないことに気づいた。

 

 

なんでまだ水飛沫の音が?

          音は、後ろから?

                 しかも結構近―――

 

 

「アスカッ!後ろだッッ!!!」

 

使徒が後ろまで来ていると理解した瞬間に、僕は前を向いたまま叫んだ。

その僕の声を聴いたアスカが後ろを振り返るのと大きく口を開けた使徒が海面から飛び出すのは、ほぼ同時だった。

 

みんな揃って魚雷の動きに集中していたせいで、完全に真後ろから迫ってきていたせいで、水飛沫の音が魚雷と重なっていたせいで・・・

 

今の状況に陥った原因はいくら考えても状況は変わらない。

このピンチを如何にかできるのはこの場において、操縦機を強く握りながら襲い掛かってくる使徒を睨んでいるアスカと彼女が操る弐号機しか存在しないのだ。

 

 

僕やアスカが振り返るのに一瞬遅れて振り返る弐号機。

二号機の機体に噛り付こうと体を捻りながら突っ込んでくる使徒の姿を捉えたメインカメラには、振り返りながらA.T.フィールドの上で大きく踏み込んだ二号機の足が写り込んでいた。

咄嗟の事にも関わらず、使徒の目の前で綺麗な投球フォームを作り出した弐号機は踏み込むと同時に振り上げていた右腕で、魚雷を使徒の口の中めがけて思いっきり叩き込んだ。

 

突然口の中に物凄い勢いで異物を投げ込まれた使徒は思わず口を閉じてしまい、空中で大きく体勢を崩しその勢いは大きく殺されることとなった。

しかしそれでも向かってくる使徒を出迎えたのは、魚雷を投げた体勢からさらに一歩踏み込み振り上げられた弐号機の左足だった。

一連の動作の勢いがそのまま乗った強烈な蹴りを顎?に相当する部分に叩き込まれた使徒は、ひっくり返りながら吹き飛ばされ少し向こうの海面に背中から着水。

そして着水した瞬間、その衝撃で吹き飛んでいる間に安全装置が解除された魚雷が作動し大爆発を引き起こした。

 

籠った爆発音が辺りに響き渡り、その振動で発生した津波をアスカは自身のA.T.フィールドで防ぐ。

荒ぶる津波を無視して使徒の真横まで移動した僕らが見たものは、口とか顔がはじけ飛びボロボロの姿で海面に浮かぶ使徒の姿だった。

 

 

『使徒は?使徒はどうなったの!?』

 

「倒しました!!」

 

「いま確認中よ」

 

 

意地でもフラグを立てたくないがためについ大きくなってしまった僕の声をスルーしたアスカは、A.T.フィールドの端に立ってゲシゲシと使徒の体を蹴りつける。

そして動く様子がないことを確認してから使徒の残骸をA.T.フィールド上に引っ張り上げ、口だったものを引きちぎり無残な姿になったコアを発見したところで二人そろって大きなため息を吐いた。

 

 

「長く厳しい戦いだったね・・・」

 

「使徒と戦うってこんなにキツイものなのね・・・正直嘗めてたわ」

 

「いや今回のは異常だから、ほんとに」

 

 

そんな気の抜けた僕らの会話を聞いて使徒を倒したことを悟ったのか、無線の向こうはお祭り騒ぎになっていた。

無線を通じて掛けられる労いの言葉に疲れた様子も隠さず適当に答えていたアスカは、ふと思い出したように僕の方を見て笑顔を浮かべると両手を上げながら「アレやりましょ!」と突然言ってきた。

両手の角度からアスカのやりたいことは理解した僕は、アスカにできるのかと一抹の不安を覚えながらも言われるがままにアレをすることにする。

 

 

「「YEAAAAAAAAH!!」」ピシガシグッグッ

 

 

勢いに任せて最後までやってしまったが、アスカのソレは完璧だった。

一回見ただけで覚えたアスカに今更ながら戦慄を覚えた僕だったが、「実は一回やってみたかったのよね~」と無邪気に笑うアスカを見てどうでもよくなってしまった。

 

 

「アンタもナイスサポートだったわよ、シンジ!」

 

「君の活躍に比べたら霞んじゃうくらいのだけどね、アスカ」

 

 

使徒の残骸を引きずりながら海面を歩く弐号機の中で、僕とアスカは笑いながらお互いを称えあう。

さすがに謙虚過ぎだと笑うアスカの表情からは、搭乗前の荒涼とした態度などもう完全に消え去っていた。

 




(原作より)被害が増えたよ!やったねたえちゃん!

戦艦は犠牲になったのだ・・・シンジとアスカの関係改善、その犠牲にな・・・

これも全部加地って奴の仕業なんだ!
(エレベーターでの合流前にアスカのシンジに対する敵対心を煽ったのは加地さん)

アレ、でも使徒を倒すときに沈めなかった分一応まだマシなんでしょうか?


・・・まぁとにかくです!
今回の話を書き上げるのは本当にキツかったです。 
何がキツイって本編でシンジくんが言っていたとおり、前回と違って状況が不利すぎるんですよこの戦い。
上で上げた内容もそうですが、何より「シンジくんが思うように動かせない」というのがツラかった!!
シンジ裏方に回すのがここまで大変だとは思いませんでした・・・
初号機だったら多分お馴染みの変態軌道で海なんてスイスイ泳いでるでしょうし。

「A.T.フィールドは一人一枚」なんてアニメ版設定の裏をかく形でどうにかシンジくんも戦闘に参加させましたが、それもなんか少し無理やりな気もしますし。

もう二度とシンジくんが暴れまわれない使徒戦なんか書かねぇ・・・

え?イロウル?
んなもんカットだゴルァ!!

・・・はぁ、なんか愚痴っぽい後書きになってしまいましたが、読んでいただきありがとうございました。
今更ですが後書きは飛ばして読んでくれてもオッケーですのでよろすく。

さーて次回はなんだ!?
・・・ホントなんだ?どうしよう。


ま、まぁとにかくできるだけ早く投稿しますのでお楽しみに!

あ、それと感想お待ちしております!
暇な方もそうでない方も是非に!できるだけお返しいたしますので!
(できるだけって言葉、素敵ですよね)


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第拾四話「人類の希望、誰かの絶望」

新年明けましておめでとうございます。
お久しぶりです、年内投稿を掲げて置きながらギリギリ?間に合わせることができなかった負け犬でございます。


あぁ・・・


私は来た!(採集決戦のその向こうへ)

私は見た!(手フェチ殺人鬼の死に様を)

ならば後は勝つだけの事!(年内投稿完遂)


とか言ってかっこよく投稿したかったなぁ・・・


あ、今回のテーマは「シンジくんの失敗」なので割とシリアス多めです。

それと時間かけただけに文字数は前回の約二倍となっておりますので、ゆっくり暇な時によんでいってね!


その日、とある場所のとある密室。

真っ暗な密室の中心に設置されているSFでお馴染みの光る机を囲むようにして座る、六つの影があった。

その陰の持ち主達はそれぞれの目の前に置かれていた資料に目を通す。

 

 

 

『第3新東京市街戦』中間報告書

責任者 作戦課長 葛城ミサト一尉

《その結果として我々の損害は極めて少なく、未知の目標に対し経験ゼロの少年が初陣に挑みこれを完遂せしめた事実、碇シンジ君の功績は特筆に値するものである。》

 

第3使徒及び初号機におけるA.T.フィールドの発生を確認。

初号機、目標のA.T.フィールドを侵蝕。

使徒、殲滅。

迎撃施設、一部破損。

エヴァ初号機、破損は見られず。

 

鈴原トウジの作文より抜粋

《わいの妹はまだ小学2年生で、こないだの騒ぎで死にかけました。逃げるときに瓦礫の下敷きになって、それに気づかんかったアホな大人たちに置いてかれてしもうたんです。そんな妹を助けてくれたのがあの怪物をぶっ倒してくれたロボットのパイロットでわいの友達、シンジでした。アイツは妹と町の住民を一気に救ってみせたくせに全くけったいな態度を見せないヒーローの手本みたいな奴なんです。わいはいつか絶対この恩を返したいと思っております!》

 

 

 

第4の使徒。シャムシエル襲来。

当時、地対空迎撃システム稼働率48.2%。

第3新東京市、戦闘形態への移行率96.8%。

 

洞木ヒカリの手記(役割はクラス委員長)

《いつもは友達と学校とかで避難訓練ばかりやってたから、今更って感じで実感なかったです。男の子は遠足気分で騒いでいたし私たちも恐いって感じはしませんでした。何より、怪物と直接戦うはずのシンジくんが全然恐がって無かったのですから、それは当たり前なのかもしれません。》

 

使徒、第3新東京市上空へ到達。

第二次直上会戦。多少のアクシデントに見舞われるも、使徒、殲滅。

NERV、原型を留めた使徒のサンプルを入手。

だが、分析結果の最終報告は未だ提出されず。

 

 

 

第5の使徒。ラミエル、襲来。

難攻不落の目標に対し、葛城一尉、ヤシマ作戦を提唱、承認される。

一人目の適格者《ファーストチルドレン》エヴァ零号機専属操縦者、綾波レイ。

凍結解除されたエヴァ零号機にて、初出撃。

同深夜、使徒の一部、ジオフロントへ侵入。

NERV、ヤシマ作戦を断行。

 

相田ケンスケの個人資料より抜粋

《シンジは簡単そうに言うけど、あの土壇場でA.T.フィールドの活用法を思いついたのは本当にすごいと思うし、それを即座に実行に移す行動力も飛び抜けている。いや、この場合は想像力かもしれないがとにかく異常だ。しかし異常だからこそ、僕等の日常は変わらずに存在しているのだと思う・・・と、トウジに話したら「お前が言うなお前が」と言われた。解せぬ。》

 

ヤシマ作戦、完遂。

エヴァ零号機、初号機、共に無傷。

パイロットにも異常は見られず。

 

 

第6の使徒。ガギエルに遭遇。

2人目の適格者《セカンドチルドレン》エヴァ弐号機専属操縦者、惣流・アスカ・ラングレー。

エヴァ弐号機にて、初出撃。

この時3人目の適格者《サードチルドレン》も同乗、共にシンクロを実行。成功を収める。

A.T.フィールドを応用した海上での近接戦闘。

旧伊東沖遭遇戦にて使徒、殲滅。

 

 

少しの時が過ぎ、全員がその素晴らしい結果が記された資料に目を通し終わる。

が、その資料の内容とは裏腹に室内はどこか重い空気が立ち込めており、誰もすぐに口を開く様子は無かった。

また少し時間が過ぎた後、代表するようにして長方形の机の先端部分、所謂誕生日席と呼ばれる場所に座った老人、秘密結社ゼーレの中心人物であり人類補完委員会議長キール・ローレンツが話し始める。

 

 

「・・・今回、予定より早く会議を開く事になったわけだが、その理由はすでにここにいる全員が理解していると信じている」

 

 

相も変わらず重苦しい様子で言い放たれたその言葉に、続くようにして一人の議員が口を開いた。

 

 

「先の戦闘での国連海軍の被害がヤバい件について」

 

「それは君の国の話だろう!」

 

「左様。黙っておれ」

 

「ちょ、おま」

 

 

再び辺りに静寂が訪れる。

最近、何故か妙な言葉を口走るようになった可哀そうな議員を他の議員達が養豚場の豚を見るような目で蔑む中、キールがため息を吐きながら話を進める。

 

 

「・・・サードチルドレン、碇シンジについてだ」

 

 

その言葉と同時に机の中央にスクリーンが投影され、そこにはクラスメイトと談笑しながら登校するシンジの様子が映し出された。

 

 

「彼の力は素晴らしい、ここまでの戦闘データを見ても他のチルドレンとは比べ物にならん」

 

「左様。未知の敵に対してほとんど無傷で圧勝、まさに人類の希望ですな」

 

「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」

 

 

戦いの疲れなどまるで感じさせず楽しそうにしているシンジを見ながら議員は思ったことを口にする。

もっとも、心の底から思ったことを口にしている者はただの一人もいないのだが。

シンジへの賞賛は、老人たちによる唯の皮肉だった。

 

 

「だが、我々にして関してはそうも言ってられん」

 

「結果はシナリオ通りだ・・・だが過程があまりにも綺麗すぎる」

 

「まだ一度も暴走していないのだろう?彼女はいつ目覚めるというのだね!」

 

「どちかと言うと大問題だな」

 

「このままではシナリオから大きく外れてしまうぞ!」

 

 

議員達は次々に己の感じた不安をそのままにぶちまけ、相乗効果のようにしてそのテンションを上げていく。

最初は特定の誰かへ向けてのものではなかったその言葉達は、次第にキールの反対側に位置する誕生日席・オルタに座ってじっとしているその人物へと矛先を集めていく。

 

 

「我々のシナリオはどうなるのかね!」

 

「君の息子だろう、どうにかならないのか!?」

 

「左様。これは責任問題になるかもしれんぞ」

 

「あーもうめちゃくちゃだよ!」

 

 

「・・・」

 

 

言葉の集中砲火を喰らってもゲンドウは顔色を変えない。

しかし動揺して無いわけでも無かった。

最初から今まで一番静かだったのは彼だったが、一番内面穏やかじゃないのも彼だったのだ。

しかし幸いにも、同じ計画を進める者だというのに彼らはあまり親しくない。

最初から悪かった顔色に気づく者などここには居なかった。

 

 

「問題ありません、全てはゼーレのシナリオ通りに」

 

 

結局、その後もゲンドウはそれ以上の事は言わずにそのまま集会は終了した。

ゲンドウは不満を隠そうともしない議員達を残してその場を後にすると同時に、端末を取り出し加持に連絡を入れる。

 

端末のコールを聞きながら、ゲンドウは先ほどのスクリーンのシンジを思い出す。

集会が終わり、役目を失ったスクリーンが消えうせる直前。

曲がり角を曲がり、スクリーンに背を向けていたシンジが突然振り返り、確かにこちらを見たことを―――

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

「つまりや、わいは次はこう来ると・・・ん?どうしたんや急に振り返りおって」

 

「新手のスタンド使いの攻撃かぁ?」

 

「いや、そろそろアスカが追いつくころかなーって」

 

 

僕は振り返ったままそう答える。

負けず嫌いのアスカのことだ、置いてかれたままでいるのを嫌がってきっと全速力で追いかけてくる。

彼女のスペックの高さから僕の想像する普通を二回りぐらい上回る速度で走ってくると仮定すれば、きっともうすぐそこの角を・・・

 

と、そこまで考えたところで視線の先にあった僕等が先ほど曲がってきた曲がり角から茶髪の美少女が飛び出してきた。

 

 

「いたぁーっ!!」

 

「うわ、ホントに来よったで」

 

「何か薄ら寒いものを感じたのは俺だけか?」

 

「失礼だなぁ」

 

 

そんな会話をしているうちにアスカは僕等の元へ到着して、膝に手を突き肩を上下させ荒くなった息を整えていた。

どうやらアスカでも家からここまでの距離を全力疾走するのは辛かったらしい。

 

 

「お疲れ様、アスカ」

 

「んな事いう前に・・・まず置いてくなっての・・・」

 

「僕が必死で起こしたのに起きなかったアスカが悪い」

 

 

あの海での戦いの後、なんやかんやで僕等と同じようにミサトさんの家に住むことになったアスカは、空き部屋が無かったためにレイと同室で寝ることになった。

そんな女子部屋で眠るアスカは今朝、いくら呼んでも起きてくる気配が無かったために僕はリビングの机の上にアスカの分の朝食を用意してから玄関先で待っていた二人と共にさっさと登校してしまったのだ。

まぁ家を出るときには動く気配がしたから遅刻の心配も無かったしね。

 

 

「起こしたって・・・アンタまさか部屋に入ったんじゃないでしょうね!?」

 

「部屋の外から呼びかけただけで、そんな自殺行為はする気にもなれないよ」

 

「ならいいわ、ってレイはどうしたの?いつも起こしてくれるのに・・・」

 

 

アスカとレイは結構仲がいい。

 

ミサトさんの家で初めて二人が顔を合わせた時に、僕の妹だと説明するとアスカはそれを普通に信じてしまった。

実の妹では無いんだけどそれと同じかそれ以上に大事にしていると言うと、アスカはとても驚いた顔を見せた。

なんでもアスカが言うには、僕等はかなり似ているので本当の兄妹にしか見えなかったそうだ。

余計な知識無しで見ると似ているのだろうか?少し実感がない。

そして似ていると言われたレイはそれを嬉しく思ったらしく、それでアスカの印象が良くなった・・・のが原因かどうかはよくわからないけどとにかく二人はすぐに仲が良くなった。

 

まぁ、仲が悪くなる理由なんて特に無いわけだしね。

 

 

「レイは借りた本を返すために僕より早く学校に行ったよ、多分今頃図書館で本でも選んでるんじゃない?」

 

「そういえば昨日の夜そんなことを聞いた気が・・・まぁいいわ、この話は終わりよ!」

 

 

事前に早く出ることを聞いていたらしいアスカは自身の不利を悟ったのか話を切った。

隙があるのか無いのかわからない女の子である。

 

話を終えたアスカはいつものようにずんずんと先頭に立って歩き始めたので僕等もそれに続くように歩き出す。

僕は振り返りもせずに前を歩くアスカから目を逸らし、僕等そっちのけで話を進めていたケンスケ達の会話に混ざることにした。

 

 

「で、僕等が話してるうちになんか新しいの思いついた?」

 

「俺は特に何も・・・」

 

「わいはあるで!「とにかくとんでもなく強い奴」ってのはどうや!?」

 

「コレどう思う?シンジ」

 

「結構あり得ると思うよ?もしかしたら幹部的な存在がいるかもしれないし」

 

「えー・・・?」

 

 

「ちょっとちょっと、何アタシ抜きで面白そうな会話してんのよ!」

 

 

横に並んで相談するように歩いていた僕等がその声に促されるように前を向くと、先ほどの無関心っぷりがウソのように笑顔のアスカが期待に目をキラキラさせながらそこにいた。

どうやら、僕等の会話から楽しそうな気配を感じとったらしい。

 

 

「この後に来る使徒を予想してるんだ」

 

「これに纏めてるんやで!!」

 

「・・・アンタらバカァ?」

 

 

僕の後に続くように自信満々で表紙に「よげんのしょ」と書かれたノートを見せられたアスカは一転して渋い顔を見せそう言った。

 

確かに何の説明も無く聞けばそう言われてもしょうがない話だろうね。

 

 

「次に来る使徒なんて予想できるわけないでしょ?」

 

「それは違うよ!」

 

 

僕はびしっとアスカを指さして強く否定する。

側でケンスケが「BREAK!」とか言ってるけど気にしないで僕はアスカに話かける。

 

 

「な、何が違うっていうのよ?」

 

「僕等は次に来る使徒を予想するなんて言ってないよ」

 

「せやせや、この後に来る使徒をわい達は考えとんのや」

 

 

そう、トウジ言う通りの「後」に来るかもしれない使徒を予想しているんだ。

 

 

「・・・ってことは何?アンタ達はいつ来るかもわからない使徒を何の根拠も無く妄想し続けてるってわけ?」

 

「言い方はアレだけど大体あってるかな」

 

 

一応根拠が無いわけじゃ無いんだけど、二人にも言ってないしアスカに伝える必要は無いかな。

 

 

「・・・何よ?」

 

「何でもないよ」

 

 

無駄に鋭いからオチオチ考え事もできやしない。

まぁケンスケレベルでは無いけど言いたいことをすぐに察してくれるからありがたいんだけどね。

 

 

「曖昧な部分は数でカバーってことで、思いついたのを手当たり次第にコレに纏めて同時進行でソレの攻略法を考えてるってわけさ」

 

「初見で相手にするより、似た相手を想定して先に攻略法を用意しておけばかなり有利になるからね」

 

「せや!わい等の希望シンジのための全力サポートってやつや!!」

 

 

ケンスケ、僕、トウジの順番でそう締めくくる。

仮想使徒を考えてるのは9割僕とケンスケなわけだけど、トウジの好きなように言わせて置こう。

 

アスカはそれを聞くと一瞬顔を顰めた後、すぐにいつもの勝気な顔に戻ると自信満々といった感じで言い放つ。

 

 

「フン!全部無駄になるっていうのにご苦労なことね」

 

「なんやと?何が言いたいんや!」

 

「どんな使徒が来たってアタシがアクセルシンクロですぐに倒しちゃうから無意味って事よ!」

 

「ほ~お?そんなら次の使徒戦楽しみにしといたるわ!」

 

「なによ!」

 

「なんや!」

 

「「ぐぬぬぬ・・・!」」

 

 

通学路のど真ん中で腕を組んで睨みあっている仲のいい二人。

そんな二人を僕とケンスケは被害が及ばない様に距離を保って眺めていた。

 

先の戦いの後に一応、ちゃんとアクセルシンクロの元ネタが存在することを伝えたんだけど、アスカ曰く「カッコイイし気に入ったから良い」だそうだ。

彼女は僕と同じ「使徒戦エンジョイ勢」なのだろう。

多分僕が何も言わなくてもそのうち気に入ったアニメやらスポーツから技の名前を拝借して使っていたに違いない。

 

ホント、殴られなくてよかったよ。

 

腕を組んで睨みあいながら歩くという無駄に器用な事をやっている二人から少し距離を取って後ろに続く僕とケンスケ。

いつもの事だけど、学校に着くまでには止めなきゃなーと考えていると前を歩く二人には聞こえないような小さな声でケンスケが話しかけてきた。

 

 

「言わなくていいのかよ?」

 

「何がさ」

 

「使徒うんぬんの根拠だよ、別に無いわけじゃないだろ?」

 

 

前の話を盛り返すというのはケンスケにしては少し、いやかなり珍しい事だった。

何故そんなことを聞くのかと考え込もうとしたところで、今は答えるべきだと思い直し口を開く。

 

 

「別に態々言うような事じゃないと思うけど・・・僕の仮説なんだし」

 

「シンジの仮説とそんじょそこらの仮説はわけが違うだろ」

 

 

そんなことは無いと反射的に否定しかけて、止める。

何故なら一応その仮説は結構自信があるものだったからだ。僕と周りの違いは置いておいて。

 

僕等が言っている仮説とは《全ての使徒が何らかの形での繋がりを持っている》というものだ。

最初にこの仮説が思いついたのは二番目の使徒戦の真っ最中、光の鞭で投げ飛ばされた時だった。

一番目の使徒戦で僕が多用したバックステップを誘導して態と使わせ、ジャンプしてから着地までのその隙を突くという実際にやってのけた作戦は、当たり前だが最初の使徒戦を二番目の使徒が知っていないと成り立たない。

僕が誘導されたと勘違いしているだけという可能性ももちろんあるけど、後ろに飛び退いた後の使徒の対応はあまりに早かった。

だから勘違いという線はほぼ無いと思う。

 

使徒が情報を共有していると考えると、今までの使徒の姿にも何処か思うところが生まれてくる。

 

最初の使徒はなんというか、すごくシンプルだったような気がする。

やってきた技と言えば掴みかかりとそこそこの強さのビームと自爆。

もしかしたら僕がさっさと倒し過ぎたせいで披露してない技とかあるのかもしれないけど、色々と標準的で偵察係染みているように思えた。

特に自爆する辺り。

 

次の使徒は今思えば、先の戦いをすごく意識していたように感じる。

さっき取り上げた部分もそうだけど、前回の使徒への主な攻撃方法であり死因の近接攻撃を露骨に牽制した姿をしていた。

まぁ結局無理やり近づいてナイフで一突きだったんだけどね。

 

そして次の使徒、「もう絶対に近づかせんぞ!」という感じだった。

が、しかし僕とレイの華麗なコンビネーション、そしてNERVのサポートの前には無力で二番目と同じように一撃で沈んでいった。(外したのは含めない)

 

最後に一番新しい海の使徒だけど、これは大変だった。

前にも言った、いや考えたような気がするけど今までで有利だった場所を殆ど潰して来たんだから。

アスカの怒りの一撃でコアを見つけ出してからは、あっという間だったけどね。

 

こんな風に学習している前提で考えれば、次に来る使徒も自ずと見えてくる。

僕とケンスケの予想の中で一番有力なのは《一撃で死なない使徒》だ。

今までの使徒はコアを狙われたら大体一撃かすぐにやられていたので、次はここをカバーしにくる可能性が一番高いと考えているのだ。

 

これはあくまで仮説の上に立つ予想だ。

それに使徒がどんなふうに情報を共有していて、しかもその情報をもとに新たに使徒が生まれているのかすでに居る中から条件に合っている者を寄越しているのかわからないなど、不確定な部分が多すぎる物だ。

 

だからこれは例外であるケンスケを除く他の人たちには伝えない。

 

 

それに、なによりだ。

 

 

「自信満々に言って間違ってたら恥ずか死ぬ」

 

「それが本音か」

 

「うん」

 

 

速攻で暫定する僕の横でケンスケは呆れ顔でため息を吐いた。

 

だってしょうがないじゃないくぁ!(久しぶり)

今までだって色々考えてきたけど、それを基本誰かに言ったりはしてこなかったんだから!

 

 

「・・・まぁ俺が煩く言えるような事じゃないかもしれないけどさ、できるだけ早めに言ってくれよ?」

 

「なんでさ?」

 

「俺らの希望であるシンジが考え無しのバカだと思われてんのはいい気分じゃないってことだよ」

 

「ケンスケまでトウジみたいな事を・・・」

 

 

ケンスケの言葉に苦笑しながらAAの「御冗談を」みたいなポーズをしながら話を続けようとしたが、最後まで言い切ること無く途中で僕は口を閉じた。

その理由は簡単、辺りにもはやお馴染みとなった使徒襲来を知らせる警報が鳴り響いたからだ。

 

警報に逸早く反応したアスカはバッと振り返ってこちらに走り寄り、トウジもそれに続いて走り出すのが見える。

 

 

「シンジッ!」

 

「一体何がフラグだったのか・・・」

 

「んな事言ってる場合かッ!!」

 

 

今日もアスカのツッコミが光る。

普段ならここからさらに2、3個ボケを重ねていくのだがアスカの言う通りそんな場合ではない。

僕はすぐに思考を切り替えて話を進める。

 

 

「どうするアスカ、このまま行く?」

 

 

僕等をNERVに送り届けるように指示されたらしいNERVのボディガード達が姿を現して走ってくるのを横目で確認しながらアスカに問う。

本当ならこのまま案内されるがままにNERVに直行するのが一番なんだけど、兄としてレイに対して何も言わずに先に行くのはどうにも気が進まなかった。

するとそんな葛藤を見抜いたのか、アスカが口を開く前にトウジが割り込むようにして答えた。

 

 

「綾波はわい等に任せとけや!」

 

「ここから全速力で学校に走れば、同じくNERVに向かう綾波とかち合うだろうしな」

 

「シンジ達は先に行くようにわい等が説得したって伝えるから問題なしや!」

 

 

そんな事を言ってサムズアップをするトウジとケンスケに、同じくサムズアップして軽くお礼を言ってから少し機嫌が悪くなったアスカと共にNERVへと向かう。

その場を後にする時に後ろから、

 

 

「というわけでトウジ!後は頑張れ」

 

「お前は来んのか!?」

 

「この世には言い出しっぺの法則というものがあってだな・・・」

 

 

とかなんとか聞こえたが気にしないことにした。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

「アスカ、着替えるの遅いよ」

 

「うっさいわね、アンタが無駄に早すぎるのよ!」

 

 

時は少し過ぎ、NERV内部の更衣室前にて。

アスカよりも先にプラグスーツに着替え終わったシンジは女子更衣室の前に立ち、中にいるまだ着替えている途中のアスカに呼びかけていた。

 

 

「着替え終わったんなら先に行ってて!レイが来たらどうすんのよ!」

 

「そんなレイが入るときに中を覗くなんてセコイ真似しないってば・・・」

 

「いいから行け!」

 

「はいはい・・・」

 

 

シンジはしぶしぶといった感じでその場を去り、誰もいなくなった廊下に扉越しで籠ったため息だけが静かに木霊する・・・かと思われた、が。

 

 

「やぁアスカ、お着替え中かい?」

 

「か、加持さん!?」

 

 

声だけで扉の向こうに立つ存在が誰かわかったアスカは今までとは比較にならないスピードで着替え終わり、加持の前に姿を現した。

加持の現れる速さから、シンジがこの場にいた時からすでに加持がこの近くに潜伏していたことは明白であったがテンションが異様に上がりまくっているアスカはそれに気づけない。

それも計算のうちといった様子でおかしな様子を微塵も見せない加持は、そのままアスカとの会話を進めていく。

 

 

「加持さんはどうしてここに!?」

 

「人類代表として使徒と戦う勇者を激励しに来ただけだよ、シンジくんはいないのかな?」

 

 

アスカはその言葉を聞いて思わず顔を顰める。

なんとなくだが、加持の言う勇者はまるで自分では無くシンジだと言われているように感じてしまったからだった。

 

 

「シンジはうるさかったので追っ払ったんですよ」

 

「う~んそうか、彼にも声を掛けたかったんだが・・・」

 

「アタシがいるからいいじゃないですか!」

 

 

自分が目の前にいるというのに憧れの人は他の奴の話ばかり。

そんな状況にイライラしたアスカはつい感情に任せて声を荒げてしまった。

加持はそんなアスカを見てニコリと笑うと、アスカが望む言葉を口に出す。

 

 

「それもそうだな、ごめんなアスカ」

 

「い、いえ!アタシもおっきな声出しちゃってすみません」

 

 

チョロイ。

誰がとは言わないが、確かにそう思った。

 

 

「言うのが若干遅くなったが、応援してるよアスカ」

 

「はい!アタシに任せてください!!」

 

 

もしここにシンジかケンスケがいたら、アスカにブンブン揺れる犬の尻尾がついているのを幻視しただろう。

それほどにアスカは自分のほしい言葉を受けて喜んでいた。

だが、次の言葉でその尻尾はだらりと項垂れることになる。

 

 

「シンジくんもいることだし、心配ないさ」

 

「・・・」

 

 

あげて落とす。

アスカが受けた仕打ちはまさにソレだった。

予想だにしなかったその言葉に固まっているアスカを気にせずに、加持は聞かれてもいないというのにペラペラと話を続ける。

 

 

「シンジくんは本当にすごいね、NERVのスタッフ達はずっと彼の話題で持ちきりだよ」

 

「『あの子がいれば大丈夫だ』『シンジくんが負けるところを考えられない』『もう彼一人で十分なんじゃないかな?』」

 

「シンジくんの戦闘記録は見たけど、俺自身もそう思っちゃいそうなくらいの戦果だからね」

 

「それにこの間彼が語った《アクセルシンクロ》・・・だったかな、それも革新的なものなんだろう?」

 

「本当に感心させられるよ」

 

「もちろん、そんなシンジくんと同じくらいにアスカもすごいと俺は思うけどね」

 

 

コイツ絶対激励するつもり無いだろ。

その余りにも露骨過ぎるシンジに対しての賞賛と、取ってつけたような意味成さないゴミみたいなフォローに、もしこれを聞く第三者がいたらそう突っ込まずにはいられなかっただろう。

 

そんなクソフォローを聞いたアスカは固まっていた状態から再起動を果たすと、淡々と感謝を述べその場を走る様に去っていった。

加持に背を向け突き進むアスカの脳内を支配するのは、彼女のプラグスーツのように真っ赤な感情。

憧れの人にいいように褒められるシンジに対しての嫉妬と怒りだった。

 

前回の使徒との戦いで、最初は運良く使徒に勝ち続けてきた自分の踏み台としか認識していなかったシンジ。

しかし戦いの最中でシンジの今までの勝利は決して偶然などでは無かったのだと悟りその認識を改め、強敵をともに倒したことで仲間意識を持っていた。

だがその仲間意識もコッチに来てからは段々と鳴りを潜めていくこととなる。

 

その原因はアウェイ過ぎるこの環境にあった。

 

未知の強敵を次々に倒していくヒーローというのは不定期に襲来する怪物達に日々心をすり減らしていく人々にとっては劇薬のようなもので、そのシンジの戦いを知るNERV職員達やクラスメイト達からの信頼は凄まじいものになっていた。

特にNERV職員なんかは、最初こそ平和のために中学生を戦わせることからの罪悪感から事務的な関りしか無かったものの、シンジがNERVの闇を知ってからは信用できる人を見極めるために多くの職員達と関わろうとするようになったため、今ではシンジと話した事が無い職員の方が珍しいという状況になっており信仰に似たものを獲得していたのだった。

最初は恥ずかしそうに賞賛を受け取っていたシンジもアスカが来る頃には慣れ始め、簡単に対応できるまでになっていたのだがそれを横で見せられるアスカはいい気分ではなかった。

 

しかしアスカも天才の部類、そんな周りの反応もシンジのやってきたことを考えれば当たり前だろうと理解して不快には思うものの決して表に出すことは無かった。

だが、シンジに対する鬱憤が確実に溜まっていっていた。

 

そして今、アスカはキレていた。プッツンしていた。

味方だと信じていた加持までもがシンジを褒めるようになった今、もうアスカは我慢などすることはしない。

仲間だとか一部認めているだとかそんな感情はもうアスカには無い。

 

シンジは敵だ!倒すべき敵!!

 

加持のあまりにもおかしい言動に疑問を抱く余裕などアスカには無い。

唯々シンジに対する真っ赤な敵対心で感情は完全に支配されてしまっていた。

 

そんな内も外も真っ赤に染まったアスカの背中を見送った加持は一仕事終えたという風にため息を吐き、端末を取り出して耳に当てた。

 

 

「・・・終わりましたよ、全く。こんな面倒な事ばかり押し付けることはやめてくれませんか?」

 

 

加持は愚痴を吐きながら事の顛末を説明しつつ、アスカを追いかけるように彼もその場を後にした。

 

 

・・・そして、そんな内も外?も真っ黒な加持の背中を見送るように見つめる赤い瞳が一つ。

 

 

「・・・やっと、いなくなった」

 

 

更衣室の前から邪魔者が居なくなったのを確認し加持の死角に位置する曲がり角から出てきたのは、トウジの伝言を受け取り一人でNERVに遅れてやってきたレイだった。

さっさと更衣室に入り、シンジよりも遅くアスカよりも早い速度で着替え終わったレイはふと、先ほどの結局一から十まで聞くことになってしまった会話を思い出して、一言呟く。

 

 

「・・・わたしの名前、一回も出てこなかった」

 

 

この事実はレイにとっては地味にショックだった。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

突然だけど、僕こと碇シンジは今少し困った状況に置かれている。

 

あらゆる準備が終わり、エントリープラグの中で出撃指示が下されるまで秒読み状態の中僕は自分を落ち着かせるために、今一度頭の中で状況を整理することにした。

 

まずは左を見てみよう。

 

体を操縦席の背もたれに預けたまま首だけを左に向けた僕の視線の先には、外部カメラから映し出された弐号機の横顔・・・の少し手前辺りの空間に投影されている弐号機の操縦席の映像がある。

今までの訓練ではこれを通してアスカと連絡を取り合ったりしたのだけど、今日は露骨なまでに不機嫌なアスカの様子が映し出されていた。

 

先に言っておくけど僕は悪くない。

だって僕は悪くないんだから、じゃなくて心当たりが無い。

 

この「少し目を離した隙に機嫌悪くなっているアスカ」という状況から感じるデジャヴに従って推測をすると犯人は加持さんだということになるけど一体何がしたいんだろうか?

(先の戦いで合流前に何をしていたのかは戦闘後にアスカから聞き出していた)

しかしヒントが全くないこの状況ではこれ以上推理しようがないのでひとまずこの問題は置いて置き、ぐるりと首を180度回転させもう一つの問題へと顔を向ける。

 

先ほどとは逆方向の右を向いた僕の視線の先には反対側と同じ位置に投影された零号機の操縦席の映像があり、そこに移るレイは何処か沈んだ顔をしていた。

レイと家族になったあの日から時は経ち、少しずつ感情が表に出るようになってきたレイだがそれでも付き合いが短い人から見れば常に無表情に見えるらしいレイ。

そんなレイが今は誰が見てもわかるくらいに暗いオーラを纏っていた。

 

これに対しても言わせてもらうけど僕は悪くない。

そう、心当たりがないのだ。

 

いや、一応トウジ達に伝言を託したとはいえ置いて行ったのは少し申し訳なく思ったけど、それでここまで落ち込むとは思えない。

仮に気にしているとしてもレイはその程度の事で燻ってしまうような妹では無いと兄として断言できるので僕に何かしら文句を言ってくるはずだ。

つまりレイは僕に言うまでもない何か、または言うことができない何かが原因で落ち込んでいると考えられる。

 

普段なら兄として放っておくわけにもいかないのだが、状況が状況だ。

 

エントリープラグに乗る前に話せればよかったんだけどレイが来たのは僕等が搭乗した後だったから無理だし、今ここで聞き出すのはリスクが高い。

内容的に話したことが記録されるここではまずいものかもしれないし、その行動が反対側のアスカを刺激してしまう可能性もある。

僕は「今はまだ私が動く時ではない・・・」と働かないお兄様のセリフで自分を落ち着かせながら前を向きなおした。

 

困った状況に置かれている・・・というか挟まれていることを再確認した僕は頭の中を整理する前と同じ、ひたすら出撃指示を待ち続ける作業に没頭する。

 

今この瞬間だけは無駄に早い自分の思考速度が憎い。

状況整理の真の目的である出撃までの現実逃避がまるで成されないまま考えることは無くなってしまった。

いや、本当は考えることは山ほどある。

管理局、じゃないNERVの黒い部分だとか母さんがどんな状態で初号機の中に存在しているのかとか当事者として色々と悩まなければならないことは沢山あるのだが、いつか言ったように僕は「嫌いなものは後回しにする派」だ。

今の段階じゃ憶測でしかものを言えないとかそんな感じのしっかりした理由もあるにはあるが、やはり

一番の理由は「嫌だから」だった。

確かに僕は展開の先読みは好きだが、誰が好き好んで自分を取り巻く真っ黒な状況を看破したいというのだろうか?

いや、できるのならばやったほうがいいのは僕自身しっかりと理解している。

理解してるけど・・・まだ、いいでしょ?

だって使徒は今回のを含めてもまだ5体目、襲い掛かる新手のスタンド使いにしたって仮面ライダーの敵にしたってまだまだ序盤もいいとこだ。

であればまだソレをする必要は無いだろう、僕は空気が読めるチルドレンだから展開を壊す真似はしない。

そうだ、いつぞや「自分の力で都合のいい展開を引き寄せる!」みたいな事を言ったけど「都合の悪い展開」に関しては何にも言ってないからほっといたって大丈夫さ。

まだ、まだ慌てる時間じゃない・・・はずだ。

 

そんなこんなで主人公にあるまじき醜態を頭の中で晒すことによって時間を潰すことに成功した僕は、ついにミサトさんに出撃許可が下りたことを知らせる通信を受けたのだった。

 

 

『三人とも、準備はいいわね?』

 

「はい!」

 

「・・・いいわ」

 

「・・・ええ」

 

 

三体のエヴァが地上に続くリフトに固定された後の最後の確認。

それに対して僕がいつものように返事をする中、二人は相変わらずの温度差を保ちながら答える。

しかしさすがに二人とも戦闘が始まればきっと変わってくれるはずだ、僕はそう信じてる。

 

そう考えないとやってられないだけなんだけどね。

 

そして三体のエヴァはリフトで地上に運ばれ、リフトから解放されると同時にかなり遠くに佇む使徒に対してそれぞれ作戦としてミサトさんに伝えられていた戦闘態勢に入る。

零号機はいつかお世話になったライフルを使徒に向けて狙いを定め、弐号機は薙刀のような武器を構え腰を低くしている。

それに対して僕は素手で何かこうそれっぽいポーズをして構えているだけ。

一応戦闘に於いて使用できる武装がいくつか用意されていたのだけど、ミサトさんからは「最初は素手で、あとは柔軟に対応していって!」と言われたからだった。

 

何か僕だけ雑な気がするのは決して気のせいではないと思う。

 

・・・でもまぁ、今はそんなことは重要ではない。

今この瞬間に重要なのは、アレな状態の二人に対して命令が下っているということだ。

さすがの二人もミサトさんの命令を無視して勝手な行動をしたりはしないだろう。

さらには「今回は使徒についての情報が少ないから慎重に行きましょう」というリツコさんからのありがたーい言葉も貰ってるし、きっと大丈夫はずだ。

うん大丈夫さ、今回の使徒戦は僕が注意していれば何の問題も無く終了するはずだ―――

 

 

『お先!貰うわよ!!』

 

 

―――と思ったけど全然そんなことは無かったぜ!!!

 

 

『アクセルシンクローッ!!!』

 

 

僕の気づかないうちにクラウチングスタートのような体勢に移行していたらしいアスカは、ロケットのように飛び出していくとその途中でシンクロ率を引き上げ異常な加速をつけて使徒に突撃していった。

無いとは思いつつ予測していた展開に僕は茫然としてしまいそうになるのを何とか堪え、レイにアスカの援護をするように頼んでから数秒遅れてアスカを追うように走り出す。

 

 

「何してるんだよアスカッ!!」

 

『アンタは黙ってアタシが使徒を倒すところを見てなさい!』

 

 

走りながら前を行くアスカに問いかけるが、取りつく島もない返答を返されたので僕は指令室へ繋がっている無線に意識を切り替えた。

その態度からアスカの異変は大きく僕に関係しているらしいことがわかった今、彼女を止めることができるのは作戦本部長であるミサトさんしかいないからだ。

 

というかミサトさんは何をしているんだ!?

アスカが命令無視してからすでに数秒経った!

茫然とするにしたってそろそろ再起動して叱責をとばしてもいい頃合いのはずだ!!

 

そう考えた僕の耳に、予想通り再起動したらしいミサトさんの声が聞こえてくるが、その内容は僕が期待したものとは真逆の物だった。

 

 

『―――そうね、ここでアスカの地上戦を見ておくのもアリかもしれないわね・・・このまま行きなさいアスカ!』

 

 

・・・はぁー(クソでかため息)

ホンマつっかえんなぁッ!辞めたらこの仕事?

 

思わずやさぐれてしまったが僕は悪くないと思う。

仲間の命令無視が不問にされた(っぽい)ことは喜ばしい事なのかもしれないが、全然嬉しくない不思議。

いや、不思議でもなんでも無いか。

 

僕は注意をアスカの方へ戻すと母さんに呼びかけ、彼女と同じように加速して赤い背中を追う。

しかし意識をアスカから逸らしていた数秒で弐号機との距離はそれなりに広がり、アクセルシンクロの精度が高い僕でも彼女が使徒に到着する前に追いつくことが不可能なのは、火を見るよりも明らかだった。

 

 

『貰ったッ!』

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「やったわ!!」

 

 

NERV本部の指令室にて、アスカの全力を込めた一撃で真っ二つにされた使徒をモニターで確認したミサトは思わずといった声を出し、それにつられるように周りのスタッフ達も歓声を上げた。

最初はシンジを差し置いて勝手な行動を起こしたアスカに一抹の不安を覚えたスタッフもいたが、人類の敵が一撃で打倒されたのを見て素直に彼女の事を褒め称えていた。

そんな歓声を聞いたアスカは地面に薙刀のような武装、ソニックグレイブを突き立てると誇らしげな表情をして体から力を抜いた。

遠距離から援護をしていたレイもまた、歓声とアスカの様子を見て心の中で静かに彼女を称えながら使徒に向けていた銃口を下し武装解除しようとして―――そこで兄の、シンジの様子に気づいた。

 

誰もが勝利を確信し安堵のため息を吐いたり脱力したりしているこの状況で、戦闘時と変わらずに何も言わず只管にアスカの元へ向かうシンジの様子はとても異質だった。

レイとほぼ同時にシンジの様子に気づいたアスカも不可解そうな表情をして自分のいる場所を目指す初号機を、そして険しい顔のままそれを操縦するシンジを見ていた。

 

スピードに乗った初号機が弐号機、そして使徒との距離をドンドン詰めていく中、レイは下ろしかけていた銃口を倒れている使徒に向け直す。

兄が突拍子も無い行動に出るのはいつもの事だが、それらには必ずと言っていいほど意味があった。

今回の兄の行動にも意味があるとすれば、この場に置いてその意味を追求するのは難しくない。

 

戦闘は終わっていない。

使徒はまだ・・・倒されてはいないのだ。

それが、敬愛する兄に倣って思考し導き出したレイの答えだった。

 

アスカはそんな初号機と零号機の様子を見て、自分が倒した使徒に対して他の二人が警戒を緩めていないのを鋭く感じ取る。

せっかく勝利に余韻に浸っていたところに水を差されたアスカの心境は、戦闘前と同じかそれ以上に煮えたぎっていた。

 

 

 

そんなに自分の栄光に泥を塗りたいのか!

 

 

そんなに自分の邪魔がしたいのか!

 

 

そんなに・・・アタシが信じられないの?

 

 

 

アスカの目から一滴だけ流れた涙は、流した本人にすら気づかれないままLCLの中に溶けていく。

自分が泣いたことに気づかないアスカは、もう目と鼻の先まで近づいてきている初号機を操縦するシンジに怒りのままに怒鳴りつけようとする。

 

 

ドガァッ!!!!!

 

 

そしていざ叫ばんとしたところで、走り寄ってきた勢いのままに自分が真っ二つにした使徒の片割れを思い切り初号機が蹴とばしたのを見てアスカは唖然とした表情で固まることとなった。

シンジが使徒の元まで辿り着く過程でこの戦闘を見ている全ての存在が初号機の行動に違和感を覚え、注目していたがためにNERV本部のスタッフ達もアスカ同様に固まり、すごい勢いで吹き飛ぶ使徒の片割れから目を逸らせば辺りはまるで時が止まったような状態にあった。

そんな固まった空気の中いち早く動いたのは、なんとケンスケ・・・なわけもなく、意外にも蹴り飛ばされなかったほうの使徒だった。

 

今初号機はかなりの勢いをつけて使徒を蹴り飛ばしたがために少し体が地面から浮きバランスが崩れた状態であり、しかも位置的に初号機の死角に倒れていたので動かれてもシンジはそれに気づくことは難しいだろう。

 

自身の片割れに突然攻撃を仕掛けた存在が大きな隙を晒している。

これを使徒が逃さないわけが無かったのだ。

 

何の抵抗もせずにアスカの攻撃を受けた様子からは全く想像できない俊敏さで初号機に襲い掛かる使徒。

しかしその攻撃は初号機に届くことは無かった。

何故なら動いた次の瞬間にはずっとライフルを構えていたレイがそれに反応し、奇しくも初号機と同じような隙を晒すこととなってしまった使徒を正確に狙撃したからだった。

そしてレイの攻撃で怯んだ使徒はその間に体勢を立て直しその存在に気づいたシンジが繰り出す渾身のパンチによって、片割れとは別々の方向へ吹き飛ばされることとなった。

 

 

「レイ、助かったよ!」

 

「気にしないで、お兄ちゃん」

 

 

華麗な連携によって使徒が吹き飛ばした後にその会話が行われている場所が戦場でなければほのぼのとするやり取りを兄妹がしている中、時が止まっていたように動かなかった周りの人々はやっとのことで動き始める。

 

 

「一体どういうこと!?」

 

「し、使徒反応未だに健在!そして反応が二つに増えています!?」

 

「んなもん見ればわかるわ!!」

 

「まるで意味が分からんぞ!」

 

「解析急いで!!」

 

「なんなのだ、これは!どうすればいいのだ?!」

 

 

正に阿鼻叫喚、瞬く間にそんな状態に陥ったNERV本部。

そんな状況を抑えるために、そして何が起こったのか正確に知るために作戦本部長であるミサトはエヴァに通じる無線のマイクを取る。

まるで使徒が健在であることを知っていたかのような行動を起こしたシンジに話を聞くために。

しかしミサトが聞くよりも早く、このパニックに台風の目にいるといえるだろうアスカがシンジに問いただしていた。

 

 

「アンタ!なんでッ・・・」

 

 

安心したように力の抜けた表情をしているシンジにアスカは感情のままに問いただそうとするが、その言葉は途中で詰まることとなった。

何故使徒が生きていることを知っているかを問うべきなのに、何故自分の事を信じられなかったのかと怒鳴りつけそうになったからである。

この状況でそんな事を問うのはあまりにも滑稽で筋違いだったがために、アスカは荒れ狂う感情をプライドで蓋をして無理やり押し込めたのだ。

 

そんなアスカの様子を見たシンジは、彼女が言いかけた内容が前者の方であると錯覚してしまいそのままに用意していた言い訳を口にする。

 

 

「別に知ってたわけじゃないよ、ただアスカの攻撃を使徒が避けようともしなかったのが気になってアスカにもしものことが無いように動いただけさ」

 

 

普段のアスカならコレに対して文句を言いつつお礼を言ったのだろうが、今の彼女にとって的外れなその言い訳は火に油を注ぐこととなりただでさえ不機嫌丸出しなアスカの顔にさらに影が増えることとなった。

そんなアスカの表情を見てやっちまったことを悟ったシンジは何がいけなかったのか、何が言いたかったのかを導き出そうと考え込むが、その答えが出る前にそれを打ち切って後ろに飛び退いた。

視界の端に収めていた使徒の片方が起き上がり、そしてこちらに目標を定め動き始めたのに気付いたからだった。

 

レイは片方に向けてライフルを再び打ち始め、アスカは先ほど使徒を攻撃した武器とは別の槍状の武器を構えレイが攻撃している方とは別の方の使徒に向かって投擲する。

そしてシンジは飛んだ先で入手したライフル二丁をいつかの使徒戦でやったように両手で二丁拳銃のように構え、臨機応変に両方の使徒へ攻撃を始めた。

三人の攻撃はどれも見事に使徒に直撃するが、少し怯むだけでとてもダメージが入ってるとは思えなかった。

近寄って直接攻撃を加えれば状況は好転するかもしれない、と誰もが一瞬考えるがそれを指示したり行動に移したりする者はいない。

リツコを筆頭とした解析班が必死に使徒の情報を探っている今この状況での最善の行動は、解析が終わるまで現状を維持することだからだ。

接近攻撃、または一定以上のダメージを与えられることによって際限なく増える使徒である可能性がある以上、現状を維持するには遠距離攻撃を続けるのが最も有効だといえるだろう。

そして三人がそれぞれの役割を果たし、使徒が最初の場所からほとんど動くことを許さずに時間を稼いだことによって解析班は使徒の特性を導き出すことに成功した。

 

 

『解析結果が出たわ!』

 

 

無線から聞こえたミサトの声に、三人は攻撃の手を緩め耳を傾ける。

攻撃が緩んだのをこれ幸いと使徒が体勢を立て直すのをモニターで確認しながら、リツコは時間を取らないように簡潔に解析結果を告げた。

 

 

『まず、懸念していた二回目以降の分裂だけどその心配は要らないわ。分裂前と分裂後を比較しながら解析してみたら元々コアが二つに分かれる仕様だったことがわかったの。だから分裂する数は有限で今の二体が限界だからここからさらに増えることはまず無いわね』

 

 

それを聞いたシンジとアスカはほぼ同時にため息をつく。

そのため息は懸念していた最悪の状況がただの妄想で終わったことによる安堵からくるものだった。

しかしその後に説明するリツコの声色が沈んだものになったのを聞いて二人は表情を硬くする。

 

 

『それで攻撃が意味をなさない理由だけど・・・恐らく二体の使徒はお互いがお互いを補い合っているんだと考えられるわ』

 

『それってどういうことなの?』

 

『あの使徒は二体同時に致命傷を与えるか、元の一体に戻った瞬間に攻撃するかしないと全てのダメージが無効化されるってことよ』

 

『「なんてインチキなの!?」』

 

 

リツコによる使徒の特性に関する説明に対して思わずといった調子で声を上げるアスカとミサト。

その二人の言葉はここにいるほとんどの人間の心情を代弁したものでもあった。

「特定の条件下でのダメージの無効化」という能力は、アニメや漫画の中ではあまりにもありふれ過ぎた能力と言えるだろう。

この戦いを見ている人間の三分の一は何かしらの創作物で見て知っているであろう、そんな能力だ。

 

しかし知っているから取り乱さないかというと、決してそうではなかった。

 

簡単な話、あまりにも今更な話ではあるが二次元と三次元の間、もしくは空想と現実の間を隔てる壁というものは誰もが想像しているよりも高く、そして誰もが夢想しているよりも厚いのだ。

「あり得ないなんて事はあり得ない」という、たとえ元ネタを知らずとも多くの人が知っているような有名なセリフも、それを心の底から暫定している者など二次元の中を除いて誰一人として存在していないのだ。

故に、現象の無効化などという反則的な力を現実で見せられればたとえ知識で知っていようとも取り乱す。

もしかしたら知っている人の方が取り乱しやすいなんてこともあるかもしれないが・・・いまはどうでもいい話だ。

とにかく普通の人は、常識の上に立っている人は全員今現在誰一人として例外なく取り乱していると理解してもらいたい。

もしこの場にケンスケがいたら彼だって例外無くパニックになるであろう、そんな場面だと。

そんな大変な状況でもしも平然としている存在がいるとしたら、間違いなく異常認定されるであろうそんな場面だ。

 

 

だから、決してアスカや他の皆さんを責めないであげてください。

 

 

「なんだ、そんな能力だったのか」

 

 

だから、決してコイツを普通だと思わないでください。

 

 

「その程度の能力なら」

 

 

だから、決してコイツを称えようとしないでください。

 

 

「どうにでもなるさ」

 

 

決してコイツに餌を与えないでください、図に乗って非常に危険(めんどう)ですので。

 

 

 

 

 

「何か打開策があるの!?」

 

 

三人がやられてしまった時のために用意していたN2爆弾を使っての一時撤退を指示しようとしていたミサトは、何でも無いようにそう告げたシンジに食い気味に問いかける。

それに対しても彼は、またもや何でもない様に答えた。

 

 

『まぁ一応は・・・つまるところ、片方が死ぬときにもう片方が死んでれば倒せるんですよね?』

 

「えぇと、リツコ?」

 

「あってるとは思うけど・・・」

 

 

それは一体どういう意味で言っているの?と続けようとしたリツコだったが、その言葉を口に出すことはかなわなかった。

何故なら次の瞬間に、モニターの中のシンジが勝利を確信したような笑みを浮かべて「それなら行けます!任せてください!」と断言していたからだった。

それを見たリツコは苦笑して考えることを放棄すると、同じく苦笑してこちらを向いたミサトと視線を交わした。

リツコが自分と同じ結論に達したのをそれで理解したミサトはマイクに口を近づけハッキリとした声で指示を出した。

 

 

「シンジくんに任せるわ、好きにやりなさい!!」

 

『っ、はい!!』

 

 

全く、これじゃ作戦本部長である私の立場が無いわね・・・と困ったような笑みを浮かべたミサトの口から零れたその言葉は、使徒の片方に狙いを定めるシンジの耳には届かなかった。

シンジは先ほどの弐号機のようなクラウチングスタートの体勢をとるようイメージしつつ、他の二人に言葉を投げかける。

 

 

「レイとアスカはもう一体の方を頼んだ!」

 

 

そう言うと同時に初号機は使徒に向かって一直線に走り出す。

ある程度近づくと使徒の目が光り、それに一瞬遅れる形で怪光線が飛んでくるがそれを初号機は走りながら使徒に向かって跳躍することによって危なげなく躱した。

そしてそのまま飛び掛かった初号機は使徒を押し倒し、仰向けに倒れた使徒に対して馬乗りのような体勢で押さえつけた。

 

 

使徒は自身に乗りかかる初号機に対して怪光線を放とうとするが、顔面(?)を殴られることによって無理やり中断させられた。

 

 

「要は、すごく優秀なヒーラーが二体同時に襲って来たってだけの話なんだよね」

 

 

初号機は自身を引きはがさんと襲ってきた使徒の腕を、地面に縫い付けるように殴りたたき伏せた。

 

 

「ここがゲームの中で、しかもターン制とかだったらそれでもすごく面倒臭いんだけど・・・生憎ここは現実でルールなんて皆無だ」

 

 

何とかして逃れようと身を捩る使徒を、初号機はその体に無数の拳を叩き込むことで黙らせた。

 

 

「まぁ、何が言いたいかいうと、だ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――貴様がいくら回復しようと関係の無い処刑法を思いついたッ!!」

 

 

使徒が正常に機能する目の役割を持つ器官で最後に見た光景は、視界を埋め尽くすようにして自身に襲い掛かる無数の拳だった。

 

 

「アクセルシンクロッ!!!」

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッッ!!!」

 

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴッッ!!!

 

 

殴る。殴る殴る。殴る殴る殴る。只管殴る。

拳で。肘で。掌で。とにかく殴って殴って殴りまくる初号機。

何時ぞやのオラオラから威力、精密さ、重さともに増したそれを地面を背にした逃げ場の無い状態でくらった使徒は、合計百回ずつの無駄無駄とドゴドゴの中でいったい何度致命傷を負ったのだろうか。

しかも百回なのは文字だけの話で、実際の所は区切りの良さなど全く気にせずに永遠と殴り続け使徒をミンチよりもひでぇ状態にしてしまっていた。

 

この惨劇を目の当たりにすれば、いやでもシンジの先ほどの言葉の意味と思いついた作戦の内容を理解させられた。

いくら死なないとはいえ致命傷という言葉がゲシュタルト崩壊しそうな有様の使徒はもう死んでると言っていいだろう。

故に今の使徒の状態を言葉で表せば、「死に続けている」ということになる。

つまり今この瞬間もう片方の使徒を再起不能にすれば、「同時にとどめを刺す」という絶望的とも思われた条件を見事達成できるというわけなのだ。

 

戦略もくそも無い圧倒的な力技だが、シンジは確かに希望をこの場にいる全員に示して見せた。

後は、レイとアスカがもう一人の使徒にとどめを刺すだけだ。

 

二分の一になった使徒(弱体化してるかは知らないが)に二人掛りだ。

こんなもん楽勝だろうが!一瞬で勝負がつくのは当たり前だよなぁ?

勝ったな、風呂入ってくる。

 

きっと、誰もがそんな事を考えたのだろう。

それがいけなかった・・・というわけでもないが、やはりダメだった。

 

シンジの言葉を受けたレイはすぐさまもう片方の使徒に狙いを絞り、自らの役割である使徒の妨害に努めた。

しかしアスカは・・・微動だにしなかった。

そして今この瞬間、全員にシンジの作戦((ちから))の内容が知れ渡った今でさえ動くことは無かった。

 

弐号機のエントリープラグの中で顔を俯かせ、動きたくても動けないといった風に体を震わせるアスカ。

アスカの内面は自分から伸びた鎖によって雁字搦めにされ動けずにいた。

 

理性ではわかっている。

今ここで動かなければ自分をさらに追い詰めることになるだけだと、体面なんて捨てて人類のためにシンジの作戦に乗るしか無いのだと。

本能でもわかっている。

今ここで動かなければ後で自分は絶対に後悔することになると、というかそんな後すら訪れずに人類が滅ぶ可能性すらあるのだと。

しかしプライドがアスカを許さなかった。

加持の罠とシンジの勘違いによって限界近くまで刺激されたソレは、アスカの理性と本能に真っ向から対抗し押さえつけるまでに成長し根を張っていたのだ。

 

そんなアスカの状態に正しく気づくことができたのはこの場で三人だけ。

人間の感情に飛びぬけて詳しいリツコと、ある意味今の状態を引き起こした原因であるシンジと加持だった。

 

モニターに映るアスカの様子を指令室の入り口付近で見ていた加持は静かに冷や汗を流す。

碇指令から指示された今回の行動。

どんな事を企んでいて何故彼らが仲良くなると不都合なのかはわからないが、アスカを刺激するだけなら特に難しいというわけでも無いし、自身の目的のため借りを作って置いて損は無いと実行に移したが・・・

タイミングがあまりにも悪かった、今回の使徒だけは仲間割れをさせるべきでは無かった!

この使徒を倒すにはお互いに協力し合うことが必要不可欠だとかなり早い段階で見抜いていた加持は、自身の軽率な行動を静かに反省していた。

 

ところ変わって初号機のシンジ。

初戦とは違い、強烈なラッシュを他の事を考えながらでもできるくらいに操縦に慣れたシンジは、アスカの様子を見てぼくのかんがえたかんぺきなさくせん(ちから)のお粗末さ加減に嘆いていた。

 

シンジはまず、この使徒の攻略法を考えるに当たって敵の能力をゲーム風に例えることから始めた。

そしてそこからゲームによくあるルールを取り払い、自重抜きで勝率が十二分に有り尚且つ自分がやってて楽しい作戦を経てたわけだが、最初の「ゲーム風に例える」という部分がいけなかった。

ヒーラーうんぬんの発言からわかってもらえると思うが、シンジはまず自分たちの状況を丸ごとRPG系のゲームに当てはめて考えた。

敵に集中するあまり、RPG系の基本である「戦闘員全員を自分の好きなように動かせる前提」が当てはまらないことを見落としたまま作戦を立ててしまったのである。

まぁRPG系の戦闘でも操作できないお助けキャラだったりとか、行動不能の状態異常だとかが存在するが先ほども言った通り、敵に集中するあまり味方の状態が頭の中からすっぽ抜けてしまっていたのだ。

 

嘆きながらもラッシュを続けていたシンジだったが、腕が疲れを訴え始めたことにより嘆くのをやめ思考を前へ向ける。

生身でラッシュをしているのと同じくらいに疲れる、というわけではないが両手をずっと上に挙げ続ける程度には疲れるのでいつまでもやれるわけではないし、レイも巧みにもう一方の使徒を妨害し続けているが少しづつこちらに近づいて来ているようだ。

このままではいけない、と焦るシンジ。

そしてリツコの声にも歯を食いしばるのみで碌な反応もできないでいるアスカを見て、彼はついに決断した。

 

何をしてでもアスカに動いてもらう。

その結果、誰かの思惑通りに僕等の仲が落ちるとこまで落ちてしまったとしても、絶対に修復して今まで以上に仲良くなってみせると。

 

シンジだって男だ。

可愛い娘とは仲良くなりたいし、できる限り嫌われたくないのである。

しかし、シンジは今この瞬間、その気持ちを投げ捨てた。

シンジは覚悟を決め顔を引き締めると、この煩いラッシュ音の中でも聞こえるように通信機器の音量を引き上げる。

そして言葉一つ一つに全力で『凄み』を込めながら全力で叫んだ。

 

 

「アスカッ!よく聞け!!」

 

「『自分一人の力だけで勝負を決めたい』とか『華麗で優雅にとどめを刺したい』とか!」

 

「そんなミサトさんの作るカレーにも匹敵するくだらない考えが命取りになるんだよッ!!」

 

「この僕にはそれはないさ・・・あるのはたった一つの思想だけだ!」

 

「『勝利して平穏を手に入れる』!!」

 

「それだけだ・・・それだけが満足感だッ!!」

 

 

がむしゃらに叫ぶシンジと、信じられないといった風な驚愕の表情で顔を上げたアスカの視線が画面越しに交差する。

そしてシンジはそんなアスカの視線から目を逸らさずに、とどめの一言を無慈悲に告げた。

 

 

「過程や・・・方法なんて・・・どうでもいいんだァーッッ!!!!」

 

 

その叫びが無線を通じて辺りに響き渡った次の瞬間、弐号機は弾かれた様に駆けだしてレイの妨害を受ける使徒に急接近した。

 

 

「オラァァアアアーーッッ!!!」

 

 

そして使徒の目の前まで近づきソニックグレイブを思い切り振り上げると、アスカは雄叫びのようでありながら何処か悲鳴を思い出す声を上げながら思い切り振り下ろした。

それに合わせシンジも「勝った!死ねいッ!!」と言いながら思い切り拳を叩きつけ、その拳はすでにボロボロだった使徒の体をコアごと突き抜けた。

そして二体同時にとどめを刺された使徒は、もう先ほどのように再び動き出すことは無く、そのままミサトの作戦終了という言葉によってこの戦いの幕は下ろされたのだった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「・・・遅いなぁ、アスカ」

 

 

僕は真っ暗になった自分の部屋でベッドに寝転がった状態でそう呟いた。

いったい今は何時なんだろう。

ベッドに寝転がって消灯したのは11時頃だったと記憶しているけど、かなりの時間眠れずにこうしているので現在の正確な時間はわからなかった。

少しベッドから降りて机の上にあるスマホを取れば時間はわかるが、僕が今一番気になっていることは別のことだ。

とてもじゃないが体を起こす気にはなれなかった。

 

 

「・・・遅いなぁ、アスカ」

 

 

数時間、数分、数秒。

どれだけの間、寸分違わぬこのセリフを繰り返し口にしたのだろう。

わかっているのは一つだけ。

アスカはまだ家に帰って来ないという事実だけだ。

 

使徒との戦いが終わった後、エントリープラグを下りた僕はすぐにアスカが居るであろう別の搭乗口に方向へ向かった。

それは戦いが終わってエヴァの格納庫に戻るまで、ずっと俯いた状態で表情が確認できなかったアスカの様子を確認するためであり、一言謝るための行動だった。

ぶっちゃけ様子の確認なんか二の次だ、あの時はとにかくアスカに謝りたかった。

もちろん有名すぎる元ネタがある言葉ではあったが、アスカに暴言を吐いた事は変わりない。

そう、女の子に暴言を吐いたのだ・・・僕が。

フェミニスト、もしくは最近ハロエリが可愛いFGOに出てくるDr.ロマンのようなヘタレである僕が人生で初めて女の子に暴言を吐いたのだ!

僕は死にそうなほどの罪悪感に追われていた。

 

それで楽になれると考えるほどお気楽な思考回路はしていないつもりだけど、一刻も早くアスカに謝りたかったんだ。

 

しかしそれは叶わなかった。

ミサトさんに行く手を阻まれたからだ。

 

 

「アスカは少し用事があるから、レイと先に帰ってなさい」

 

 

・・・わかってはいた。

戦闘中に立ち止まるのは人類の命を背負う僕等には許されない行為なのだと。

その許されない行為に何にも罰が無いということは無いだろうと。

ミサトさんの真面目な顔を生で真正面から見たのは久しぶりかもしれないな、なんて現実逃避染みたことを頭の片隅で考えながらミサトさんと視線を交わす。

目を見て僕がミサトさんの言った言葉の深意を正しく認識しているのを認識したのか、少し悲しそうな顔をして言葉を続ける。

 

 

「・・・どんな事情があったとしても、あそこで立ち止まることはとっても危険なことなのよ」

 

「でも「見逃すわけにはいかないの、責任者としても、家族としてもね・・・わかってちょうだい」・・・はい」

 

 

自分でも何を言おうとしたのかはわからない。

しかしその内容がどうであれ、悲痛そうな表情でミサトさんにそう言われてしまえば黙るしかなかったであろうことはわかる。

そのあと僕は「大丈夫よ!私も好きにやれ、なんて言っちゃったわけだし大事にはさせないから」と無理に笑うミサトさんに見送られその場を後にして、更衣室前でレイと合流しそのまま二人で僕等の家に帰り今に至るわけだ。

・・・眠れるわけが無かった。

 

 

「・・・遅いなぁ、アスカ」

 

 

何度目かわからない回想を終えた僕はまた何度目かわからないセリフを吐き、とうの昔に傷の数を数え終えた天井を見つめる。

そしてまたループの様に回想に入ろうとしたところで、玄関のドアが開く音が僕の耳に届いた。

その音の主は何も言わずに靴を脱ぐと、そのままリビングへと移動する。

もしこの人物がミサトさんだったのなら、ドアを開ける時に小さく「ただいま」というはずだ・・・何度か聞いているからわかる。

しかしそれは今回聞こえなかった、つまり今リビングにいるのは、帰って来たのはアスカだということになる。

 

アスカが帰って来た。

その事を理解した僕は安心するのと同時に、今日の疲れが津波のように押し寄せてきたのを感じ思わず目を閉じる。

ダメだ・・・ダメだ、眠っちゃいけない。何のためにここまで起きてたと思ってるんだ。

謝らなきゃいけないとわかっているのに、今まで眠れなかったのが噓みたいに眠い。

僕は起き上がろうと体に力を込めようとするがうまくいかず、結局そのまま眠気に負ける形で夢の中へと落ち―――

 

 

「シンジ、起きてる?」

 

 

―――てはいかなかった。一瞬で目が覚めた。眠気なんて吹き飛んだ。

 

 

「う、うん、起きてるけど?」

 

「・・・中に入っていい?」

 

「いいよ、うん、全然いいよ」

 

 

咄嗟に返事を返しながら起き上がりベッドの端に座る僕、その頭の中は一転してメダパニ状態に陥っていた。

 

まさかアスカの方から来るとは!一体何故だ・・・彼女は気まずく無いのか?少なくとも僕はすっごい気まずいぞ!というか僕の部屋にアスカが入ってくるなんて初めて、では無いな!元から勝手に漫画持ってったりしてプライベートなんて無いに等しかったしそこはおかしくなんか無い・・・ん?ああそうか一発殴らせろとかそういう感じか!うんいいよドンドン殴ってくれていい!さぁ!バッチコイ!

 

そんな大混乱の渦の中で溺れる僕だったが、ドアを開けて入って来たアスカの様子を見て頭の中は速攻で沈静化した。

なんというか、すごくしおらしいのだ。あのアスカが。

たっぷりとミサトさんに怒られた後だと思うから状況的に考えればおかしくは無いのかもしれないけど、しおらしくなっているアスカというのは途轍もない違和感を感じるなぁ。

 

 

「え、と・・・どうしたの、かな?」

 

 

沈静化した(混乱していないとは言ってない)

まず謝罪しようと思っていたのに、僕の口から出てきたのは別の言葉だった。

確かに僕の中でアスカに対する罪悪感と一二を争うレベルで彼女の行動に対する疑問が膨れ上がっているけど、最初に謝るべきだと回想の中でアレだけ思っていたじゃないか僕のバカ!

僕の頭の中でのランキングの第三位が自分に対する嫌悪感で決定しようとしている中で、アスカは僕の質問に対する返答を口にする。

 

 

「・・・今日、ここで寝てもいい?」

 

「」

 

 

絶句した。

咄嗟の返事が出ることも無く、疑問の声が上がることも無く、唯々絶句した。

 

・・・なんでそーなった!?

 

僕が硬直状態に陥っているのを見て、アスカは顔を真っ赤にしながら慌てて捲し立てる。

 

 

「べ、別に変な意味じゃないわよ!?ただ、その・・・レイを起こすのも悪いし、い、今あっちの部屋に行くのは気まずいし・・・」

 

 

最後の辺りはもうギリギリ聞こえるか聞こえないかの音量で非常に聞き取るのが困難だったが、なんとか聞き取った僕。

そんな僕からひと言。

 

 

「・・・ちょっと何言ってるかわかんないです」

 

「はぁ!?」

 

 

「はぁ!?」じゃねーよ「はぁ!?」じゃ。

なんか知らないけど、僕の中で大切な何かが切れた。というか壊れた。

 

 

「な、何がわかんないっていうのよ!」

 

「レイと会うのが気まずいって所、普通僕と会う方が何倍も気まずいと思うんだけど?」

 

 

多分僕の中で壊れたのは暫定ランキング一位のアレだ。

まさに死ぬほどの罪悪感に襲われていたというのに、被害者ともいうべきアスカがソレについて気にもしてない様子で意味の分からないことを宣うのだからしかたないのかもしれない。

いや、しかたなくはない、何処か自分でも理不尽な事を言っていると理解している。

理解してるが暴走しているに等しい僕は止まらないのだ。

 

少しいつもの調子に戻ったアスカは何かを隠すように顔を逸らして捲し立てる。

というかいいの?そんな大きな声出しちゃって・・・会うのが気まずい相手が起きてくるよ。

 

 

「い、いいの!アンタはいいのよアンタはっ!!」

 

「なんでさ?」

 

「そ、それは・・・っ!」

 

「それは?」

 

「・・・そ、それは」

 

 

彼女への負い目なんてなんのその、空気なんて最初から読む気も無いと言わんばかりにどんどん追い詰めていく僕にさすがの彼女も観念したのか、諦めたようにその理由を語った。

 

 

「・・・アンタにはもう、敵わないって認めちゃったから」

 

「―――」

 

 

それは、彼女が決して言うはずのない言葉だった。

 

先ほどは少し調子が戻ったなんて思ったが決してそんなことは無かった。

それどころか、僕は今アスカが本人かどうかすら疑い始めている。

失礼過ぎることだとは理解しているが、それでも疑わずにはいられなかった。

 

 

「・・・顔に出てるわよシンジ、残念だけどわたしは正真正銘アンタの知ってるアスカよ」

 

「だ、だって」

 

「自分だってらしく無いこと言ったのはわかってる・・・でもアンタに張り合ってるのが「らしいアタシ」なら、もうそのアタシは死んだも同然よ」

 

 

苦渋の判断で認めるとか、開き直って認めるだとか、カカロットお前がナンバーワンだとか。

そういったライバル的なアレではなく、アスカは完全に諦めていた。

この長くて短い時間の中でどうしてそんなことになってしまったのか、僕は問わずにはいられなかった。

そして僕の問いに、アスカは僕の横に座ってから静かに答え始める。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

最初に見たシンジの印象は「冴えない奴」

 

あの時口にしたまんまの印象だったわ。

ちゃちゃを入れてきたケンスケのせいで思うように言いたいことが言えなかったけど、多分そのままだったら悪口の2つや3つを言ってバカにしてたと思うの。

 

 

「こんなに冴えない奴がアタシと同じ所にいるなんて納得できない!」

 

 

そう思ってたから。

事前に加持さんやミサトから活躍っぷりを聞かされてたから、猶更ね。

ホントは活躍の度合いからして、ぽっと出の私が同じ所にいるわけなんか無いのに、ね。

 

 

でも海上での使徒戦が終わって見るとシンジの印象はガラリと変わっていた。

そうね、「中々やる奴」ってとこかしら?あの時のアタシじゃそこらへんが限界ね。

 

自分の機体でもないのにシンクロしてみせる驚異的な精神力と、同じく自分のでもないのにサポートを完璧にこなす技量。

あと、会ってすぐの私に順応してみせた柔軟性もずば抜けてると言っても過言じゃないわね。

そんなにシンジはすごいのに、あの時のアタシはまだ自分が勝ってるって信じていたわ・・・

本当に、心の底から。

 

 

そしてここでの生活が始まるわけだけど、ハッキリ言って辛かったわ。

シンジの評価だって「気に食わない奴」まで落ちてた。

 

確かにレイという友達もできたし、楽しいことだってたくさんあった、でもやっぱり辛かった。

頼りにされてるシンジを見ると、自分が劣ってるって思い知らされてる気がしたわ。

人類の希望ってシンジが言われるたびに、じゃあアタシは?って考えちゃうの。

アタシはまだ一回もこの町で戦ってないからしかたないってわかってるはずなのに、どうしても気に食わなかったの。

確かに何度も横で聞いているうちに多少は慣れたわ・・・でもやっぱり気に食わないのには変わりなかった。

 

 

「後でその場所にいるのはアタシ、人類の希望だってアタシなんだから!」

 

 

そんな風に、ずっと自分に言い聞かせて毎日を過ごしてたわ。

・・・そうね、だからこそ自分の晴れ舞台になるはずだった今日の戦いで、あんなことになっちゃったんでしょうね。

 

 

今日は朝から機嫌が悪かった。

誰よりも使徒との戦いを待ってる癖して、アタシはなんの準備もしてないんだって朝のアンタ達との話で自覚させられちゃったんだもの。

 

そして待ちに待った使徒がやって来て、加持さんから激励?を受けて。

もう我慢できなかったわ・・・今までため込んでたものが一気に爆発する感覚だったわ。

 

 

「アタシが、アタシの力だけで使徒を倒すんだ!!」

 

 

そんな感情でいっぱいになって自分でも自分を止めることができなくなってた。

 

その結果が『アレ』よ。

 

自分の頭の中がぐちゃぐちゃになって動きたくても動けない。

そんな状態になっちゃって、それをよりにもよってシンジに助けられた。

 

それにあの言葉・・・そう、過程や方法なんて!ってやつよ。

 

アタシはなんてバカだったんだろうって思い知らされたわ。

人類の未来をかけた大切な戦いで、バカみたいな事気にしてバカみたいなことやってるんだもの。

 

そこでやっと、アタシは自分がシンジに勝てないのは当たり前だってことが理解できたのよ。

そもそも、勝ち負けを気にしてる時点でどうしようも無いってことに、ね。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「・・・まぁ、こんなところね」

 

「―――」

 

 

言葉が出なかった。

というか、なんていえばいいんだろうコレ。

 

結果として、彼女は僕の言葉を真摯に受けとめ自分を見つめなおし成長した・・・様に見える。

多分覚醒回とかそんなのなんだろうが、何か違う。コレジャナイ感が凄まじい。

例えるならば・・・そう、例えるならばグレイモンがスカルグレイモンに進化してしまった感じだと言えばわかりやすいだろうか。

いや、まだなんか違う気がするがそんな感じだ。

未だ混乱状態にある頭では答えを出すことはできないが、アスカの考えは何かが間違っていると僕のスキル『直感(偽):A』が囁いているのだ。

 

絶対にこのまま話を終わらせるわけにはいかない。

 

今は聞きに徹してアスカの一言一言に注意を払おう。

 

そしてなんとしても彼女の言葉の中に違和感の元を見つけ、それを正さなければ、論破(ロンパ)しなくてはいけないのだ・・・!

 

 

「やっぱりアンタは人類の希望だわ」

 

「的確に相手のダメなところを突いた叱責なんてそう簡単にできるものじゃないもの」

 

「今まで、迷惑かけたわね」

 

「アタシも心を入れ替えて、ゼロから始め直すから・・・」

 

 

「それは違うよッッ!!!」

 

 

見つけた。

まるでアスカらしくない言葉の数々で頭が変になりそうだったが、それでも根気強く聞くことでやっとおかしな点に気づくことができた。

 

 

「い、いきなりどうしたのよ・・・?」

 

「アスカ、無理しなくてもいいんだ」

 

 

今彼女は無理をしているのかもしれない。

僕はそれを気遣う・・・振りをする。

不意を突くために。

 

 

「ア、アタシは無理してなんか・・・」

 

「嘘なんかつかなくてもいいよ」

 

「ッ、だからアタシは無理してなんかいないわよ!!」

 

「あぁ、今言ったのはそっちの事じゃないんだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――僕に負けたのを認めたって部分だよ」

 

「ッ!!!」

 

 

アスカは完全に不意を突かれたのか大きく目を見開いてこっちを見ると、動揺しているのを隠すためにすぐに視線を逸らし平静を装った・・・が、もう遅い。

僕は彼女の言っていたことの一部が心にも思ってない嘘だったのだということを確信した。

 

 

「・・・デタラメ言わないでくれるかしら」

 

「それは僕のセリフだよ、アスカ」

 

「・・・」

 

 

アスカは視線を合わせようとしないままで押し黙る。

 

多分、全部が全部嘘だったってわけじゃなんだろう。

むしろほとんどが本当の事だったはずだ・・・だがもちろん、違う部分もあった。

それがアスカが僕に負けたことを認めた、というところだ。

真実を織り交ぜた嘘って言うのは本当に気づけないから怖いものだよね、僕自身もよく使う手だから痛いほどわかるよ。

 

僕がそんな感じの事を言い切るころには僕は立ち上がってアスカの前に立ち、彼女はベッドに座ったまま俯いていた。

好き勝手言ったのにも関わらず、僕に対して文句の一つも言わないアスカ。

しょうがないから僕が話を続けようとしたところで、もごもごとした声が耳に入る。

 

 

「なんで、わかったの」

 

「・・・」

 

「なんで、嘘だってわかったのよ!?」

 

 

その言葉は途中で悲鳴のようなものに変わっていた。

そして言葉を紡ぎながらこちらに向き直り、アスカの目元に涙が溜まっているのを確認した僕は正直に白状する。

 

 

「君の言ってることがめちゃくちゃだったからだよ」

 

「・・・え?」

 

 

そう、めちゃくちゃだ。

最初にアスカが長々と語った部分を聞かされた後は、言いようのない違和感を感じていただけで特にコレといった疑問は持っていなかった。

きっとそこまでは順調に僕を騙せていたのだろう、結果的にその時点ではわからなかったわけだから。

しかし、元々アスカの性格は人を騙すのには向いていないものだったのでそこで限界が訪れた。

しゃべってるうちに彼女自身が熱くなり、結果的に無理する形となってボロが出た。

僕と勝負することがおかしい、という話だったのにゼロからやり直すなどというおかしな話になってしまっていたからだ。

そこから僕はこの話の根底自体が嘘という可能性にたどり着き、カマをかけてみた結果正解だった。

 

というようなことを説明すると、アスカはスッと立ち上がり目に明確な怒りを宿し僕と視線を合わせてきた。

 

 

「それは違うわ」

 

「何ッ!?」

 

 

アスカの物言いに僕は思わず声を上げる。

いつもの彼女なら僕が驚いたのを見て気を良くしたりするのだが、今のアスカはニコリともしない。

アスカは今、怒っていた。

 

 

「呆れた・・・まさか偶然で嘘を見破るなんて悪運の強い奴ね」

 

「確かにあの時アタシはアンタに助けられたわ、一応感謝だってしたし、言葉の内容に思うところがあったのだって本当だわ」

 

「だけどアンタの言う通り、アタシはアンタに負けたなんてこれっぽっちも思っちゃいないわ!」

 

「でも、他人から見たら・・・アンタやミサト、リツコや他の職員から見ればアタシは完全に負けていた」

 

「どう見てもアタシの負けだった!!」

 

「自分で負けだのなんだの言うのは簡単!痛くも痒くも無いわ!!だってそんなの微塵も思っちゃいないんだから!!」

 

「でも他人から言われるのは嫌・・・!アタシが負けたって他人から言われるのは嫌なの!!」

 

「リツコやミサトから散々言われたわ!!シンジと張り合うのはやめなさい、いい加減にしなさいって!」

 

「目が言ってたの!諦めろって!勝てるわけがないんだって!!」

 

「その上アンタからも同じようなこと言われたらなんて考えると限界だった!」

 

「だから認めてやったのよ!アタシから!!」

 

 

僕は魂の叫びというべきソレに唯々圧倒されていた。

他人がここまで感情的になり、それを真正面から受け止めたのは初めての経験だった。

アスカの叫びは終わらない。

 

 

「アンタさっきアタシがゼロからやり直すのはおかしいって言ったわよね?」

 

「全くおかしくなんかないわ!何も知らないくせに偉そうなこと言わないでよ!」

 

「アタシは小さい時からエヴァに乗って訓練してきたの、アタシにとってはエヴァは全てなのよ!」

 

「そのエヴァで負けたらゼロから始めなきゃいけないのは当たり前なの!!」

 

「だって私にはエヴァしかないんだから!!!」

 

 

「それは違うよッッッ!!!!」

 

「ッ!?」

 

 

気が付けば僕はアスカに負けないくらい大きな声で叫び返していた。

それは原作《ダンガンロンパ》にだって無い、渾身の論破(ロンパ)だった。

それが思わず出てしまうくらいに、彼女は僕が許せないことを言っていたのだ。

 

 

「何が・・・何が違うっていうのよ!?」

 

「アスカ!君は可愛いッ!!」

 

「・・・は?」

 

 

空気が凍ったのを感じたが、僕の中はこれ以上ないくらいに熱くなっているので無視して続ける。

 

 

「君はクラスで一二を争うくらいに可愛いのはもちろんのこと、街を歩けばすれ違った人が軒並み振り返るくらいの超美人だッ!」

 

「ちょっ!アンタいきなり何言って」

 

「髪だって僕が今までの人生で見た中で一番艶やかで綺麗だし、声だってすごく透き通っていて聞いているだけで安心できる!!」

 

「ア、アンタいい加減にッ」

 

「それに頭もいい!僕が解けない問題なんかその内容さえ理解すればすぐにやってのけるし、すでに大学だってでている!」

 

「もうやめっ」

 

「日本語もホントは外国語のはずなのにスラスラしゃべるし、さらには運動神経もいい文武両道を簡単にこなす完璧超人、いや美人だ!!」

 

「っ、っ」

 

「まだまだ言い足りないけどここでやめておこう!そんな色々できるアスカが、自分にはエヴァしかないなんて悲しいこと言うなよッ!!」

 

「あ、あぁ・・・それが言いたかったわけね・・・」

 

 

僕は迸るパトスを口にし終えると、なんか知らないけどアスカがぐったりしていた。

あるぇ~?なんかイメージと違う。

いや、こんなこと言われた相手がどんな反応するかなんて想像もつかないけどさ。

 

 

「アンタ、自分がとんでもなく恥ずかしいこと言ってるって自覚あるの・・・?」

 

「そりゃ後で一人になった時に転がりまわって悶絶する程度には恥ずかしいこと言ってるってわかってるよ」

 

「あぁ、わかってるのね・・・」

 

「でも、全部本気で思ってることだから後悔はしないよ」

 

「ッ!!」

 

 

後になってから「あの時しっかりと気持ちを伝えてれば~」なんて言うことになるのはまっぴらごめんな僕は、ここまで言って自分が言いたいことをほとんど言い終えたのを感じて一息吐く。

 

いやホント、後になってテンションが元に戻った時が怖いね!

言った通り後悔はしないんだけどさ。

 

しばらく真っ赤になって固まっていたアスカだったが、しばらくすると大きなため息をついて脱力し僕のベッドの上に寝っ転がった。

 

 

「なんかもうアンタのせいで話を続ける気が失せちゃったわ・・・今日はもうこのまま寝るわ、アタシ」

 

 

などと宣わって僕のベッドを完全に占領したアスカを見た僕はため息を吐きつつ、押し入れから布団を取り出して敷いていく。

 

 

「というか、この部屋で寝るってのは嘘じゃなかったんだね」

 

「レイんとこ行くのが気まずいのはホントなのよ」

 

 

そんなことを話ながら布団を敷き終えた僕はすぐに寝っ転がり寝る態勢に入る。

なんか舞台裏みたいな雰囲気で収まっちゃったなぁ、なんてことを考えながらそのまま寝ようと目を閉じるが、ふと思うところがあったので目を開ける。

 

 

「ねぇ、アスカ起きてる?」

 

「まぁ怒鳴りあった後すぐに眠れるわけないわよ」

 

「道理だね」

 

 

僕は寝る前にアスカにどうしても言っておきたいことがあった。

 

 

「アスカはさ、僕に負けたなんて思ってないって言ったけど、僕もアスカに勝ったなんて思ってないよ」

 

「正直に言えば、どうしても勝ち負けを意識して考えられないんだ」

 

「アスカは僕にとって初めての頼れる仲間だったからね、どうあがいても背中合わせで戦うことを望んじゃうんだよ」

 

「レイは・・・なんていうか、やっぱり僕が守らなきゃいけない存在って認識なんだ」

 

「初見の時も怪我してたし、その後も見事に妹枠に収まったし、やっぱりどうしてもそんな風にしか見ることができないんだ」

 

「だからアスカは僕にとっては初めての存在なんだよ」

 

「言い方を変えれば、いつぞやケンスケが言ってた通り初めてを奪われたってことになるかな・・・非常に癪だけど」

 

「まぁそんな感じで、アスカを助けたとしても勝ち負け関係なく純粋に嬉しいとしか考えられないんだよね」

 

「これでも精神的には結構柔軟だったつもりなんだけど、どうしても無理なものがあるんだって思い知らされたよ」

 

「うん、僕にとって色々な初めてを齎してくれたアスカは、まさに僕の希望だったんだ」

 

 

僕にはアスカの真意はわからない。

 

僕にはアスカの言った、人類の希望になりたいという言葉が嘘か本当か、

結局わからなかったから僕の判断が正しかったかの答え合わせはできないだろう。

 

でも、それを抜きにしても―――

 

 

「僕にとって、すでにアスカは希望なんだよ」

 

 

―――これだけは、どうしても言いたかったんだ。

 

 

 

「僕の言いたかったことはこれで終わり、長い事時間とってごめんね?おやすみ」

 

 

僕はそう言って締めくくったが、アスカに反応は見られない。

途中で寝てしまったんだろうと当たりをつけた僕は、また自分のセリフを振り返り恥ずかしい事を言ってしまってる自分に呆れ返りながら、アスカが居る方向とは逆方向に寝返りをうつ。

すると寝たはずのアスカの声が耳に届く。

 

 

「・・・やっぱり、シンジには敵わないわね」

 

「アスカ?」

 

「大丈夫、今度は嘘じゃないしゼロから始めるなんてことも言わないから心配しないで」

 

「え、え?」

 

「じゃ、おやすみ」

 

 

僕が言いたかったのは完全に不意打ちとなった最初の言葉が聞き取れなかったから、もう一回言ってほしいってことなんだけど・・・まぁいいか。

後の言葉から何を言ったか大体想像できるし、丸く収まったみたいだし。

いい加減眠いし・・・もう、眠・・・・・・

 

 

その夜、僕の意識はそこで途絶えた。

 

 

そしてその次の日の朝、昨日の事が嘘のように機嫌がよくなったアスカと共に、目元にクマを作って明らかに不機嫌なレイに頭を下げて謝るのだった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「・・・なるほど、アスカがその日のうちに帰ることができたのは加持さんが庇ったからだった、と・・・」

 

 

戦闘の次の日の夕方、僕は誰よりも早く学校から家に帰り一人リビングで自身が纏め上げた情報を眺める。

機嫌が良くなったアスカに聞かされたのだ、加持さんが庇ってくれたお陰で帰れたのだと。

しかしその前にレイからアスカを刺激したのも加持さんだと聞かされている。

でも加持さんは誰かに指示されてそれを実行に移しただけで、黒幕は別にいる、と。

 

僕は全ての情報を総合して加持さんの罪に対して判決を下す。

 

そして僕は、0.1秒ほど悩んでから電話を取り、ミサトさんに電話を掛けた。

 

 

 

加持さんがクロに決まりました。

これよりおしおきを開始します・・・なんてね。

 

 

 

その少し後、NERV本部にミサトさんの怒鳴り声が響き渡ったらしいことを、後でマコトさんに聞いた。

 




シンジくん的に実行犯はクロ。

なんだろう、最後の所アスカを軽く慰めて終わる程度で終わる予定だったのにどうしてこうなった。
作者の中のシンジくんがアスカとの蟠りを今夜で決着をつけると駄々をこねたのがいけなかったんやなって。


FGOしながら書いたのもいけなかったんでしょうね、所々影響受けてるし、なんか途中でアスカが人理焼却式杉田みたいなこといいそうになりましたし。


次回もできるだけ早く投稿できるよう頑張りますので超気長に待ってね!

あと、感想お待ちしております!
では!今年も宜しくお願いします!
みなさんも良いお年を!


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第拾伍話「選ばれたのは」

皆さんお久しぶりです!
毎度のことながらお待たせしました!!

今回の話は・・・まぁ、日常回みたいなもんですネ。

諸事象によりちょっと短めとなっていますが、ゆっくり読んで行ってね!



「あぁ^~生き返るわぁ~」

 

 

浅間山近辺の温泉宿にて、想像していたよりも広い男湯の露天風呂に一人で浸かっている僕は、思わずそんな言葉を口にした。

 

ミサトさんがよく言っている、いつもは軽く聞き流していた「風呂は命の洗濯」という言葉も、今ならAランク級の名言に見えてくるね。

 

そんなことを夜空を見上げながらボーっと考えていると、男湯と女湯を隔てる敷居の向こうから僕を呼ぶ声がした。

 

 

「シンジ、シンジってば!」

 

「・・・どうしたのさ」

 

 

声のする位置からして敷居のすぐ近くまで来ているらしいアスカに合わせるように、僕も敷居に近づくように移動しながら返事をする。

すると、「備え付けのシャンプーが気に食わないから僕の持ってきたシャンプーを寄越せ!」みたいな事を言われた。

気に食わないってなんだよ・・・と、言葉に出しそうになるが僕自身似たような理由でシャンプーを持ってきたのを思い出し、素直に桶に入れてお湯に浮かべていたシャンプーを手繰り寄せ女湯に投げ込んだ。

 

 

「・・・よしっ、サンキューシンジ!」

 

「後で僕も使うから返してねー」

 

 

うまくキャッチしたらしいアスカが、ザバザバと音を立てて敷居の側から離れていくのを見送った・・・聞き送った?僕はこちらに背中を向けているであろうアスカにそんな言葉を投げかけてから、先ほど浸かっていた位置にノロノロと戻っていく。

元の位置に戻り肩まで浸かり一息吐いた僕は、唐突に今日あったことの回想を始めた。

特に理由は無い。ああ、理由なんて全く無い。

敷居の向こうから聞こえてくる黄色い・・・いや、ピンク色の会話から気を逸らすためだとかそんなことは、決してないのだ―――

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

シンジが温泉に浸かりながら現実逃避をしている日と同日の午前中、エヴァパイロットである三人のチルドレンは濡れた髪を空気に晒しながらプール施設の入り口から姿を現した。

 

 

「貸し切りにして泳ぐプールは最高ね~」

 

「いくら掛かるか知らないけど大丈夫なの?」

 

「大丈夫よ、こっちに来てからあんまり使ってないからこの程度じゃ痛くも痒くも無いわ!」

 

「それもそっか、レイも楽しかった?」

 

「・・・えぇ、ありがとうアスカ」

 

 

いつ使徒が来るかわからない状況ではとてもじゃないがこの街を離れられない三人は、学校の修学旅行に行けなかった。

その腹いせにアスカは金に物を言わせて貸し切りにしたプールに二人を誘って、思う存分泳いだのだった。

 

・・・まぁ、正確には二人は、なのだが。

 

レイのお礼を笑顔で快く受け取ったアスカは次の瞬間には意地の悪い顔をして「それよりも・・・」と続け、シンジを見る。

それを見てシンジは露骨に顔を顰め、諦めたように肩を落とす。

 

 

「まさか泳げなかったなんてビックリだわ!無敵のシンジ様にこぉ~んな弱点があったなんて!!」

 

「僕にだって・・・できないことぐらいある・・・」

 

 

プールで泳げないことを自ら自白してから定期的に煽り続けるアスカに、露骨に落ち込んだ様子でネタを添えて返答するシンジ。

どうやら全く堪えてはいないようだと、密かに心配していたレイは安心して小さくため息を吐く。

アスカ自身もそんなことはわかっていたが、数少ないシンジで遊べるチャンスなのでアスカは煽ることをやめない。

 

 

「どうりでおかしいと思ったのよねぇ、アタシ達に比べて修学旅行に行けないことにダメージ受けて無かったんだもの」

 

「まぁ沖縄に行くってのに泳げなかったんじゃそれもしょうがないわよねぇ!」

 

「よかったじゃない行けなくて!委員長達にバレなくてよかったわね!!」

 

 

これ以上ないほどに生き生きとした様子のアスカ。

そんなアスカに対してシンジは歯ぎしりをしながら低い声で告げる。

 

 

「・・・今度ぷよぷよやるときは覚えてろよ」

 

「いや、画面外で連鎖組んでくるやつにどうやって勝てってのよ」

 

「わたしもやりたいわ」

 

「レイもとんでもない連鎖仕組んでくるから無理なんだけど」

 

 

一瞬で真顔になってツッコミを入れるあたり、やはりアスカも本気で怒らせようとしているわけでは無かったのだった。

 

漫才を繰り広げながらNERVへの道をゆっくり歩くシンジ達。

そんな三人の髪が完全に乾いてきたところで、突然それぞれの携帯端末の着信音が同時に鳴り響く。

シンジ達は素早く顔を見合わせると、緩んでいた空気をすぐに引き締め端末を操作して情報を得つつ、NERVへと急いだのであった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「―――今回の作戦は以上よ、理解できた?」

 

 

そのリツコさんの言葉に、作戦会議室でリツコさん達に対面する形で作戦内容を聞いた僕等は、視線で全員理解してることを確認してから頷く。

 

使徒の幼体を見つけたから後学のために捕まえる。

 

実にわかりやすい作戦内容だ。

もっとも、前回の作戦の方が何倍もシンプルでわかりやすいし、その使徒の幼体がいるのが火山の火口内、しかも溶岩の中らしいので側はわかりやすくても作戦の中身はかなり複雑になっているようだ。

 

結論:くっそめんどくさい。

 

となりのアスカも同じ考えに至ったのか渋い顔をする中、レイが涼しい顔でリツコさんに質問する。

 

 

「・・・作戦中に羽化した場合は?」

 

「即残滅よ、いつものように倒して貰って構わないわ」

 

 

簡単に言ってくれる。

作戦中に羽化、ということは十中八九戦闘は溶岩の中で行うことになるだろう。

とてもじゃないが「いつものように」は無理だ。

 

そう考えていると、それが顔に出てしまっていたのかミサトさんが気を使って「だいじょーぶだいじょーぶ!よほど運が悪くない限りそんな状況にはならないわ!」と言ってくれた。

 

言って、くれやがった。

 

 

「作戦中に羽化した場合の詳しい対応を考えましょう!!」

 

「「賛成」」

 

 

僕の突然の提案にも動揺すること無く賛同してくれる横二人。

 

どうやら、君達にフラグの危険さをケンスケと共に熱く語ったのは正解だったみたいだね・・・!

 

 

「・・・今のあたしの言葉聞いてた?」

 

「聞いたからこそです(迫真)」

 

「無駄なことに時間を費やすわけにはいかないわ」

 

「きっと無駄じゃないですし、すでに作戦案は何個か考えたので時間はあまり取らないと思います」

 

「・・・へぇ、いいわ言ってみて頂戴」

 

 

僕は寒気のする笑みを浮かべて続きを保すリツコさんに答えるように、話してるうちに考えた作戦の説明を始めた。

「いつの間に考えたんだコイツ・・・」みたいな三つの視線をスルーしながら。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

あの後僕がいくつか作戦を説明した結果、一番低予算で済む作戦の準備を進めることとなった。

急すぎる上にほぼ無駄に終わるであろうそれに多大な予算を割くわけにはいかない、だそうだ。

まぁ準備して貰えるだけありがたいし、後は僕等がうまくやるだけだからそこは問題は無かったのだが、別の問題が発生した。

 

レイが一緒に行けなくなったのである。

 

会議も終わりに近づき、作戦の場所は浅間山らしいし終わった後は温泉に入ろうか!なんて話をしている時にリツコさんが突然言い放ったのだ。

 

レイは今回の作戦で不要だから本部で待機だ、と。

 

もちろん僕とアスカは猛抗議した。

零号機も出撃した方が成功する確率上がるだとか、温泉に入りに行くくらいいいじゃないだとか、『借り』をここで返して貰ってもいいんですよだとかなんとか様々な理由を並べて説得しようとしたが、その日は零号機で行う実験があるのだと予定表を見せられ失敗に終わった。

こんな大事な作戦を実行するって時に実験だなんて不自然極まりないが、さすがに実験をやめろとは言えないので黙るしか無かった。

そして僕等は気にしてないと言って気丈に振舞うレイに見送られ、浅間山にやって来た、のだが・・・

 

 

「「なんでレイがいるの!?」」

 

 

浅間山の作戦基地でテンションの下がった僕等を迎えたのは、なんと微笑んでこちらに手を振るレイだった。

 

すぐさま詰め寄って事情を聴いたところ、予定されていた実験が突然中止になって混乱していると突然国連軍の人に呼び止められ、案内されるがままにジェット機に乗せられここまで運ばれたのだという。

 

まるで意味が分からんぞ!

 

近くにいた何処か不機嫌そうなリツコさんに事情を問いただすと、「冬月副司令にお礼を言って置きなさい」とだけ告げて行ってしまった。

 

冬月先生が手配してくれた、っていう解釈でいいのかな?

 

 

「・・・今度持ってくお弁当、腕によりをかけて作らなきゃね」

 

「私も手伝うわ」

 

「応援してるわよー」

 

 

アスカは手伝わないのか、とは言わない。

彼女が朝に弱いのは僕とレイも承知の上だからだ。

 

だから二人で意味有り気な視線を送るだけに止めてやろう。

どこ吹く風でスマホを弄るアスカには全く効果が無いようだけど。

 

そんな風に話をしながら時間を潰していると、突然アスカがスマホの電源を切ってバッグにしまいつつこちらに背を向ける。

 

 

「・・・作戦開始までもうちょっと、そろそろ移動しなきゃ」

 

「あ、もうそんな時間なんだ」

 

「お兄ちゃん、アスカ、がんばってね」

 

 

レイの声援に答えながらその場を後にして、僕とアスカはエヴァが運び込まれている場所へと向かう。

浅間山に来る前にプラグスーツに着替え、そのまま過ごしていた僕等はこのままエヴァに乗り込めば準備完了、あとは作戦開始までエントリープラグ内で待機しているだけなので、気を引き締め直しながら歩く僕だったがそこで隣を歩くアスカの様子がおかしい事に気づく。

そしてその原因となり得る事柄を思い出した僕は、苦笑しながらアスカに話しかける。

 

 

「やっぱり、嫌?」

 

「・・・当たり前じゃない」

 

 

アスカは自身のプラグスーツの右手首に存在するスイッチを睨みながら、ため息を吐くように答える。

 

ここに来る前に見せて貰った、というか成り行きで見ることになったのだが、今回溶岩に潜る役目を担ったアスカが今着ているプラグスーツは耐熱仕様が施されている特別製で、そのスイッチを押せばたちまちスーツが耐熱モードへと移行する仕様になっている。

そしてその、耐熱モードの見た目がものすごく『丸い』。

本当に、『丸い』としか言い表せないような、そんな見た目なのだ。

 

 

「もうちょっとこう、いい感じにスリムな見た目にならないのかしら・・・!」

 

「所詮現代の技術なわけだし、用意できただけマシって考えるしか無いよ」

 

 

なんというか、SF度が足りなかった!って感じの見た目だよね。

 

 

「それにアタシの弐号機まであんなことになっちゃって・・・」

 

「僕はアレはアレでいい思うけどなぁ、霊子甲冑みたいでさ」

 

 

アスカの相棒である弐号機も耐熱仕様になっていて、いつもの装甲の上から宇宙服を着たような見た目になっていた。

彼女はプラグスーツと同じくらいショックを受けていたけど、僕はそんな感じのロボットにはサクラ大戦で慣れてたので「ほーう」という反応しかできなかった。

 

 

「やっぱシンジじゃダメね・・・レイ、レイに慰めてもらいたい・・・」

 

「兄に勝る妹など・・・」

 

「いるでしょ」

 

「いるね」

 

 

普通にいるよね。

 

そんな感じの会話をしながら、僕等はゆっくり移動するのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

シンジとアスカがそれぞれのエヴァに乗り込んだ数分後に開始された捕獲作戦は、使徒をキャッチャーで捕獲するまでは原作と全く同じように特に大きなトラブルは無く進んだ。

 

しかし原作と違うところも存在しており、予定を超えた無理な沈降で弐号機がプログナイフを紛失する、という事態が起こらなかったのである。

そもそも持っていかなかったのだから、当たり前の事ではあるのだが。

 

浮上中の弐号機が持つキャッチャーの中でピクリともしない使徒の姿を見ても、NERV職員達はモニターから目を離さない。

作戦開始前にシンジ自身から説明された羽化した場合に行う作戦を思い出しながら、誰よりも使徒を注視する子供たち三人を見て「負けていられない」と気を引き締め直す職員達の士気はいつもよりも高いほどだった。

使徒は捕獲したも同然なのにも関わらず、異様な緊張感を醸し出す周囲にミサトが圧倒され、恐る恐るあまり気を張り過ぎないようにと声を駆けようとしたところで、穴が開きそうなほどにモニターを注視していた職員、日向マコトが声を張り上げた。

 

 

「使徒が動き始めましたッ!!!」

 

 

普段の彼からは想像もつかないような声量で告げられた報告を聞き、アスカは目視でキャッチャー内の使徒に変化が現れたのを確認しつつシンジの作戦通りに動き始める。

 

この作戦に置いて彼女に任せられた行動はたったの一つだけ。

『プログナイフの代わりに装備していた予備の耐熱パイプをキャッチャーに軽く巻き付ける』

これだけだった。

 

もし原作通りに進んでいたのなら使徒、サンダルフォンの羽化に一番最初に気づいたのはアスカとなり、そんな小細工を行う時間など在りはしなかった。

が、大人の意地というものを示して見せたマコトの働きにより、何倍も早く使徒の動きに気づけたことによってパイプを巻き付ける時間は十二分に取れた。

 

普段とあまりにも違う環境の中でも素早く、それでていて丁寧に己の役割を終えたアスカはキャッチャーの角を軽く蹴飛ばし、ある程度の距離が開いたことを確認してから「OK!」と無線に向けて告げる。

それを聞いた真面目モードへの再移行を済ませたミサトは素早くマイクを切り替えて初号機へと繋ぎ、シンジに合図を送った。

 

そして火口の淵に立ち、左腕に溶岩の中から伸びた予備パイプをグルグルに巻き付けた状態の初号機の中で、今か今かとその時を待っていたシンジは待望の合図をミサトより受け取ると、彼は空いていた右手で左腕から伸びる予備パイプを引っ掴み思いっきり力を込めて引っ張り上げるイメージをした。

その完璧なイメージに応えるように初号機は力を入れやすいよう中腰になり、全力を振り絞って予備パイプを引き上げた。

化け物染みた、というか化け物そのものな馬鹿力で引っ張られたキャッチャーはものすごいスピードで溶岩の中を移動するとあっと言う間に地上へと顔を出し、勢いをそのままに空中へと飛び出した。

 

全力で引っ張り上げたために崩れてしまった体勢を立て直しつつ、使徒の行方を目で追うシンジ。

そして負担をかけ過ぎてしまったのか空中分解してしまったキャッチャーと、体に予備パイプを絡ませながらも完全に姿を現した使徒を頭上に確認したシンジはくるりと初号機の体の向きを回転させると、背負い投げをするようにして今度は予備パイプを下向きに引っ張る。

すると解け掛けていた予備パイプは使徒の体に強く食い込みなおし、摩擦の力で完全に捕らえるとそのでかい図体を地上に急降下させた。

 

地上に真っ逆さまに転落した使徒はその勢いのままに地面に叩きつけられる・・・ことは無く、地面スレスレに展開されたA.T.フィールドに受け止められた。

受け止められた、と言ってもそれは地面よりも全然硬かったのでそれだけで羽化したばかりのエイのような姿をした使徒は大ダメージを受けてしまい、仰向けの状態でピクピクと痙攣している。

そんな使徒のすぐ側まで近寄ったシンジはプログナイフを構えた状態で見下しながら、静かに呟いた。

 

 

「・・・さぁ、使徒解体ショーの始まりや」

 

 

こうしてNERVは、使徒の生体サンプルを手に入れることは叶わなかったものの、綺麗に下ろされた魚型の使徒のサンプルを手に入れることは成功したのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「―――うん、うまくいってよかったな」

 

 

温泉の中で湯空を見上げながら今日の作戦について一通り思い返した僕は、小さなため息を吐きながらそう呟いた。

 

変に意地張って溶岩から出さないように戦闘して苦戦するよりも、さっさと引きずり出して地上戦に持ち込み素早く倒した方が安全じゃね?という考えから生まれた低コスト作戦である、通称『僕に釣られてみる?作戦』。

NERVの皆に僕の考えてることを説明するのは今回が初めてだったからね・・・本当にうまくいってよかった。

 

今までの使徒戦で一番緊張した気がするな・・・と呟いた僕を労う様に近寄って来た温泉ペンギンのペンペンを撫でながら、僕は温泉に肩まで浸かり直す。

するとリラックスしたことで、壁の向こうの会話が再び耳に入って来た。

 

 

「ん・・・気持ちいい」

 

「遅いわよレイ、アンタ体洗うのに時間かけ過ぎじゃない?」

 

「そうよー?こーゆー時はね、後に入る人の事なんか考えずにドーンと入ればいいのよドーンと!」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 

えぇ・・・(困惑)

 

 

「・・・」

 

「・・・アンタ、最低ね」

 

「・・・え?子供ってこういうの喜ぶんじゃないの?」

 

 

公共の場で保護者が言う台詞じゃ無いと思うんですけど(名推理)

 

ミサトさんの言葉を聞いて呆れ返った僕はゆっくり立ち上がると、その変な空気をぶち壊すように「先に上がるから一旦シャンプーを返せ」と声をかけるのだった。

 

べ、別にミサトさんに助け舟を出したわけじゃ無いんだからね!

僕も聞いてたアピールをして止めを刺しただけなんだからね!!(鬼畜の所業)

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

カツ、カツ、カツ、カツと誰もいない廊下に私の靴音だけが響き渡る。

自分の私室に向かう途中の私は、歩きながら前を向いていた視線を落とし左腕に抱えているまだ温もりを感じる弁当を見て、何度目かわからない笑みを浮かべた。

 

シンジ君達から弁当を貰う様になったのはいつからだっただろうか。

確か、葛城一尉の家にお呼ばれをして彼らの手料理をご馳走になった次の日からだったはずだ。

 

シンジ君の手料理が美味しい、と葛城一尉が他の職員に自慢している場面にちょうど居合わせ、元教師として子供の作る手料理に興味が沸いた私は彼女に話しかけ、「なら、食べに来ませんか?」と言う言葉に誘われるがままにシンジ君達が住む家にお邪魔した。

そして私が来ることを事前に連絡を受けていたらしいシンジ君達は、とても素晴らしい手料理の数々で私を温かく迎えてくれた。

それが嬉しかったのもあるし、気を使ってレイがお酌をしてくれたワインで酒が入ったのもあってか、ついつい帰り際に「冬月先生と呼んではくれないか」と言ってしまった。

すると子供達は理由も聞かずにそれを快く了承し、次の日から私の事を冬月先生と呼んでくれるようになり、「毎日でも食べたいくらいだ」と料理を褒めたからかお弁当まで作ってくれるようになった。

それだけでも十二分に幸せだというのに、今日はレイが自分が作ったおかずについて説明しながら昨日の礼と共にお弁当を渡してくれたのだ。

 

昨日、廊下で寂しそうに歩いているレイの後ろ姿を見かけた私は、いつも見ているシンジ君達と一緒にいる時の楽しそうな様子との落差に胸が苦しくなり急ぎ足で葛城一尉に事情を問いただすと、すぐに国際連合軍に連絡を取って小型ジェット機を手配しレイを乗せて浅間山へ行くように指示をした。

連合軍に私個人の借りを作ることになってしまったが、浅間山温泉での子供達の楽しそうな様子を同行したスタッフ達から聞いて私は満足した。

だというのに、子供達は私が手配したことを何処からか聞きつけたのか、態々お礼をしに来てくれたのだ。

アスカ君にまで感謝の言葉を述べられ、心がとても満たされた私は子供達の行く末をこれからも見守って生きたいものだと改めて考えることができた。

 

・・・おっと、もうここまで来ていたか。

 

思い返しているうちに私室のすぐ近くまで来ていた私は、一度立ち止まってチラリとお弁当を見ると気を引き締めて再び歩き出す。

 

さて、ここからはしっかりと仕事に取り組むとしよう。

大人として、教師として子供達に情けない姿を見せないようにな。

なに、昼に最高の楽しみが待っているとなれば、いくらでも頑張れるというものだ。

 

そう考えて廊下を歩く私を迎えたのは、もはや見飽きた無機質なドア・・・ではなく、厳格な表情をしてこちらを見るリツコ君だった。

 

・・・一瞬、私が抱えているお弁当を見て眉を顰めたのは気のせい、では無いのだろうな。

 

 

「おはようございます副司令」

 

「・・・おはようリツコ君、何か用かな?」

 

 

単刀直入な私の問いにリツコ君はピクリとも表情を動かさないままに視線を私に合わせると、嘘は許さないといった様子で問い返してきた。

 

 

「昨日の零号機の実験を中止したのは、副司令でしょうか?」

 

 

・・・あぁ、そのことか。

わかりきったことを態々聞き返さないでほしいものだ。

 

 

「ああ、そうだが?」

 

「・・・」

 

 

私の正直な物言いにリツコ君は目を閉じて沈黙すると、「理由は何でしょうか?」と少し間を開けてから尋ねて来たので私は平然とその理由を説明する。

 

 

「昨日の予定を確認したら、前日までは無かったはずの実験が予定に組み込まれでいたのでね」

 

「何の実験だと職員に聞いたら、誰も何の実験か知らないというじゃないか」

 

「だから私は何かの間違いで予定に組み込まれてしまったのだと判断して、すぐに消させたのだが・・・」

 

 

「何か、まずかったかな?」

 

「・・・っ、いいえ」

 

 

悪びれない様子で理由を語り問いかける私にリツコ君は思わずといった様子で顔を歪めるが、すぐに表情を取り繕って返答する。

 

全く、彼女のレイに対する執着にも困ったものだな。

 

私はそれを見て小さくため息を吐くと、「他に何か用が無いようなら失礼するよ」と言って彼女の横を素通りしドアを開く。

そして私室へ入り、あと一歩進めばセンサーの範囲から出てドアが閉まるというところで背中に声が掛かり立ち止まった。

 

 

「あなたは・・・」

 

「・・・」

 

「冬月副司令は、誰の味方ですか?」

 

 

おかしな問いを受けた私は、ゆっくりと振り向くと険しい表情をしたリツコ君の顔を見て笑って答えた。

 

 

「もちろん、私は生徒の味方だとも」

 

 

そう答えた私は前に向き直って歩き出し、ドアの閉まる音を聞きながら作業机の上に弁当を優しく置き、備え付けの椅子にゆっくりと腰を下ろした。

 

私は優秀な生徒だったユイ君にもう一度会いたいと願い、同じく生徒だった碇の計画に賛同し今ここにいる。

故に先ほどの問いに対して一切迷うことなく、一片の嘘を混ぜることも無く答えることができた。

 

だが、その答えを聞いたうえで、もし。

 

 

『今と昔、どちらの生徒の味方をするのか』

 

 

と、問われたとするならば。

 

きっと私は即答できず、ひたすら悩むだろう。

悩んで、悩んで、悩み続け・・・そして―――

 

 

「私は・・・どちらを選ぶのだろうな」

 

 

―――答えはまだ、でなかった。

 




はい、というわけで日常回(戦闘回)でした!

まぁ内容薄いですよね、すみません。
でも覚醒回でも無い話でこれ以上盛り上げるのは私の技量では無理ですので許してくださいなんでも島村卯月頑張ります!

あ、そうそう、んで短くなってしまった理由なんですけどね?
簡単に説明すると、本当はもっと長くなる予定だったのを二つに分割して投稿することに急遽変更したからなんです。
つまりは、今回投稿したのは二つのうち一つだった、というわけですね。

詳しい事説明させていただきますと、原作のアニメを見た感じ、今回みたいな感じの内容が薄い話が続きそうだなーと書く前からなんとなくわかってたので、じゃあアニメ二話分纏めて投下しよう!という感じで最初は進めてたんですよ。
でも、めっちゃ書き直すわ課題多すぎるわPCの勉強めんどくさ過ぎるわドラクエ11面白すぎるわFGO夏イベ大爆死するわで全然作業が進まない状況が続いてしまい、どう考えてもこのままじゃ8月以内に投稿無理だな、ということになったのでパ〇コのごとく話を二つにぽっきり折って先に一話投稿した、というわけなんですね。

まぁ、だからと言って次回もうっすい話になる、ということにはならないように一応何度も書き直しつつがんばってるので楽しみに待ってくれたら幸いです。
あとドラクエ11はマジで面白いからみんなも、買おう!(唐突な宣伝はファンの特権)

それでは第十伍話を読んでいただき、ありがとうございました!
半分こにしたから次回の投稿はめっちゃ早いとか、そういうことは多分無いと思うのでいつもと同じように気長に待っていただけるとありがたいです!!
あと、感想とかくれたらそれはとっても嬉しいなって・・・

ではッ!


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第拾碌話 「どいつもこいつも馬鹿ばかり」

お待たせしました!

長い期間時間が空いてしまい、前回の内容など忘れてしまってる読者の皆さんも多いと思うので、超簡単に振り返ります!

超簡単前回のあらすじ。
「使徒フィッシュ! 大人の鑑と化した冬月先生」

長い時間かけた割には短いですが、
ゆっくり読んで行ってね!!


「なぁ、ちょっと気になったんやけど」

 

「ん?」「あー?」

 

 

生徒のほとんどが思い思いの時間を過ごす学校の昼休み。

先日の席替えで奇跡的に一か所に集まる形となった、いつもの3バカの一人であるツッコミバカが自分の席でスマホを弄りながら他二人に話しかける。

そして、同じくスマホを弄っている二人のバカが気の抜けた反応をしたところで、ようやくツッコミバカは画面から目を離し、一つの疑問を口にした。

 

 

「YESロリータNOタッチの、YESって必要なんかな?」

 

 

あまりにも突然過ぎて、それでいてあまりにもアホらしいその質問に、教室は静まり返る……なんてことはない。

 

3バカがバカな話をするのはいつものことだ。

最初のうちは誰もが奴らの正気を疑ったらしいが、今では気にする人などほとんどいない。

せいぜい、時間を持て余しその近くでボーッとしてた奴が暇つぶしに耳を傾ける程度だ。

つい、人の適応能力というものは中々に侮れないものだと謎目線で考えてしまう。

 

 

「……何言ってんだお前」

 

 

ツッコミバカの質問から数秒後、少しフリーズしていたオタクバカが冷静に問い返した。

レジェンドバカ、もといバカシンジも「うんうん!」といった感じにしきりに頷いている。

 

どうやら先の質問は流石のバカ二人にとっても意味不明なものらしかった。

外野からすればいつもとあまり変わらないように聞こえるのだが。

 

 

「だってYESが無くたって意味通じるやん、幼女触ったらアカン! って意味やろ?」

 

「そう言われれば……」

 

「いらない気もしてきたね」

 

 

ツッコミバカの説明を聞いて、詳細を理解したらしいバカ二人はスマホをしまって腕を組んで悩みだす。

3バカが腕を組み顔を顰め悩むその姿は、内容が内容だけに実にバカらしかった。

 

 

「……あれだ、きっと『ロリータ最高! でも触っちゃダメ!』って意味なんだよ」

 

「あぁ、トウジの解釈がそもそも違ったってことか?」

 

「はー、そういうことなんか……」

 

 

バカ一人のバカらしい答えをバカ真面目に聞いて納得するバカ二人。

 

……いけない、バカバカ考え過ぎてバカがゲシュタルト崩壊起こしてきた。

 

 

「これで解決だね」

 

「そうだな、YESは必要不可欠ってことで」

 

「お陰様でようわかったわ」

 

 

3バカの会話を真面に考えながら聞くんじゃなかった。

奴らの会話を終わったみたいだし、ここらで一休み……

 

 

「あ、そうだ」

 

 ん?

「え?」

「なんや?」

 

 

「じゃあさ、YESプ〇キュアのYESってなんなんだろうな?」

 

「ほう」

「謎やな」

 

 

……ほんっとーにバカね、アイツ等。

 

 

「楽しい?」

 

「……行き成りなによ」

 

 

頭の上から突然声をかけられ、少し固まってしまったアタシは自分の机に座り頬杖をついていた体勢から上体を起こし、声の主……レイの方に向き直る。

 

 

「楽しいって、何が?」

 

「いつもお兄ちゃん達を見てる」

 

 

アタシが3バカをいっつも見てるぅ?

まぁ、暇な時は大体あっちを見てる気がしないでもないけど……

 

 

「……そんなに見てるかしら」

 

「アスカがお兄ちゃん達を見てる時は、邪魔しない方がいいって委員長さん達が言ってたわ」

 

「何よそれ!?」

 

 

レイの言葉を聞いたアタシは立ち上がって詰め寄り詳細を問いただす。

すると、前にアタシが3バカを眺めている時に話しかけようとした時に、そう言われ止められたのだとレイは話した。

 

アイツら変な勘違いしてるんじゃないでしょうね!?

あくまで暇だから見てるのよ、暇だから!

話しかけてくれれば、ふっつーに話に付き合うわよ!!

 

 

「今度から普通に話しかけろって言っといて!!」

 

「わかったわ」

 

「まったくもう、なんなのよ……」

 

 

レイが素直に頷いたのを見届けたアタシは、勢いよく椅子に座り直しそのまま力を抜き倒れ込むようにして、机に体を預けた。

今のやり取りだけで妙に疲れてしまったアタシは、このまま授業が始まるまでだらっとしていようかと一瞬考えるが、ふと気になりその体勢のままレイの方に顔だけを向ける。

 

 

「そういや、なんでレイは話しかけてきたのよ? 話しかけるなって言われてたんでしょ?」

 

「どうしても気になったから」

 

 

「なにが?」と聞き返しそうとしたところで、アタシは先ほどレイが楽しいかどうかを聞いてそれに答えていないことを思い出した。

 

 

「アタシが、アイツらの事を見て楽しいかどうかが?」

 

「えぇ」

 

 

コクリと頷いてこちらをじっと見つめて答えるのを待っているレイ。

アタシはそんなレイの視線から一旦逃げるようにして、3バカの方に向き直る。

 

……「別に」と答えれば終わる話だ。

 

何も考えず感情的に否定するような事を言って、こんなのはただの暇つぶしだと伝えればこの話はそこで終わり、アタシは授業が終わるまでだらだらと過ごすことができる。

 

しかし、結局それは口にせずアタシはだんまりを決め込んでいる。

 

特に機嫌がいいわけでも無い。

というか、一瞬前までは変なことを宣ったヒカリ達への不満を抱えていたわけだからむしろどちらかといえば、マイナスかもしれない。

 

だけど何故か、アタシは当たり障りのない言葉を選び始めていた。

口に出してもあまりアタシのイメージに反しない程度で、本心を伝える言葉を。

 

そして少ししてから、アタシはレイの方に向き直らないままで答えた。

 

 

「……エヴァの訓練してる時よりは、楽しいわ」

 

 

アタシは、「ポテチに小型テレビを仕込む方法」について話し合い始めた3バカを眺めながら、そう答えたのだった。

 

 

 

 

 

『非常事態宣告が発令されました。ただちに近くのシェルターへ避難してください。繰り返します……』

ピリリリリッ! ピリリリリッ!

 

 

「……アスカ、非常招集」

 

「あーもう締まんないわね!! レイ、行くわよ! バカシンジもね!!」

 

「えぇ」

 

「あ、うん……ところで今なんでバカってつけたの?」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

市民に避難を促す放送が第三新東京市に響き渡っている中、NERVの中のいつもの会議室でリツコとミサトはそれぞれの作業を進めていた。

 

ミサトは資料を片手にモニターに移された遥か上空に佇む使徒の姿を睨み、リツコはその横で裏にNERVのマークが刻まれたタブレットを操作している。

そんな状況が数分続いた後、タブレットの操作を続けながらリツコはミサトに声をかける。

 

 

「どう? 何か思いついたかしら」

 

「……全然ね、さっきの以外全く思いつかないわ」

 

 

ミサトは使徒の姿を見つめながら苦虫を噛み潰したような表情でそう答えると、腕を組んでリツコの方へと向き直る。

 

 

「それで、声をかけて来たってことは結果出たんでしょ? さっき作戦の勝算は?」

 

「ジャスト1%」

 

「……ちょっち、命を賭けるのには心許ない数字ね」

 

 

そう呟いたのを最後にミサトは腕を組みなおし、さっきよりも一段と渋い顔をしてモニターを睨み始めた。

何か話しては睨み、また何か確認しては睨む。

限られた時間の中で同じ行動を何度も何度も繰り返すミサトを、リツコは呆れた様子で眺めていた。

 

 

「……よし、シンジくんに聞こ」

 

 

そう言って電話をかけるため、スマホを取り出そうとするミサトだったが、ガシャン!という音が突然辺りに響き渡ったことでその行動は中断される。

何事かと振り返ると、先ほどまで操作していたタブレットを取り落としたリツコが目に入った。

 

 

「大丈夫? それ、高いんじゃなかったっけ?」

 

 

ミサトのなんとなくズレた心配にリツコは答えること無く、逆に質問をぶつける。

 

 

 

「ミサト、あなたそれでいいの?」

 

「……あぁ、作戦本部長のくせにってこと? そんなの今更でしょう、シンジくんの作戦やアドリブに助けられたことが何度あったと思ってるのよ」

 

 

苦笑いを浮かべながらそう言ったミサトは再びスマホを取り出そうとするが、「違うわ」とリツコが否定したことで、また中断を余儀なくされた。

ポケットに手を突っ込んだまま困惑した表情で自分を見つめるミサトに、リツコは感情を感じさせない様な表情で静かに問う。

 

 

「あなたは自分の手で使徒に復讐したいんじゃなかったの? 今までのあなたなら、誰かに作戦の全てを委ねるなんて絶対にしなかったわ」

 

「……そういうことね」

 

 

その問いを受けてミサトは先ほどのリツコの言葉の意味を理解し、何処か様子のおかしいリツコを不思議に思いながら、とにかく正直に答えようと真面目な顔をして軽く考えを巡らせる。

しかし返事をするために思い出した事が原因でその表情は無意識のうちに一瞬で崩れ、ミサトはそれに気づかないままリツコに決定的な一言を告げた。

 

 

「……それも、私にとっては今更なのよ」

 

 

そう言ったミサトは、親友でさえ今まで見たことが無いような穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

『―――以上が今回の使徒の情報よ』

 

 

いつもの警報が鳴り、NERV職員の人が運転する車に乗り移動する中、突然僕のスマホにミサトさんから電話がかかってきた。

そして簡単な事情を聴いてから通話をスピーカーに切り替え、後部座席のチルドレン三人で今接近している使徒についての説明を受けていた。

 

 

『何か、使徒に関して聞きたいことはあるかしら?』

 

「……いえ、特にありません」

 

 

ミサトさんの言葉を受け、三人で視線を交わしお互い聞きたいことが無いのを確認してからレイが代表して答える。

 

 

『わかったわ、それでさっきも言った通り碌な作戦が無くてね、あなたたちにも考えてほしいのよ』

 

「任せてくださいミサトさん」

 

『ごめんねぇ、本来は私の仕事なのに……』

 

 

僕の言葉を聞いたミサトさんは申し訳なさそうな声で謝ってきたが、それに対してアスカが正反対のような明るい声で返事を返す。

 

 

「なーに辛気臭い声出してんのよミサト! この前約束したでしょ?」

 

「そうですよ、ミサトさん」

 

「それに、大分今更」

 

『人から言われると結構クるわね!!』

 

 

そんなミサトさんの叫び? を聞いて一頻り笑った僕等は、思考を切り替えて真面目に作戦を立て始める。

 

 

「受け止めるのはダメなのよね?」

 

『そうね……ダメってわけじゃないけど成功率はかなり低いわ』

 

 

ミサトさんが言うには、その作戦は不確定要素があり過ぎるのだそうだ。

着地地点にエヴァが間に合うかわからない、間に合ったとして無事に受け止められるかがわからない、受け止めて一時的に持ちこたえたとしても使徒がなんらかのアクションを起こしてくるかもしれない……などなどキリがない、のだそうだ。

移動速度と受け止めるためのパワーに関しては、アクセルシンクロを計算に組み込むことでグンと成功率が上がったらしいが、それでも一桁だというのだからよほどの数なのだろう。

 

受け止めるというのは個人的に面白いと思ったんだけど、それなら仕方ない。

……というか、それがダメなら答えは一つじゃないか。

 

 

「空中で撃破」

 

「やっぱり、それしかないよね」

 

「そうね」

 

 

レイの言葉に、同じ考えに到達していた僕等も頷きながら賛同し、いざその方向で作戦を立てようとしたところで、ミサトさんから待ったがかかった。

 

 

『待って! 空中で使徒を倒すのは難しいわ』

 

「……やっぱりすでに出た案でしたか」

 

「えー!? 何がいけないのよ?」

 

『火力が足りないわ……今ある対空兵器じゃ、使徒へのダメージは期待できないの』

 

「んなの最初から当てにしてないわよ! エヴァを何とかして空に運べないの?」

 

『国連に連絡すれば用意できるかもしれないけど……今は時間が無いわ、無理ね』

 

 

その会話に続くように、レイとアスカは次々にミサトさんに提案していく。

 

 

「この前みたいにA.T.フィールドを足場にして飛ぶのは?」

 

『それなら何処までも飛べるんでしょうけど、移動速度がかなり遅くなってしまうと思うわ……使徒が着弾するまで間に合わないでしょうね』

 

「アクセルシンクロを使用した状態で再計算」

 

『……ダメね、アクセルシンクロ状態の出力の振れ幅が大きすぎて、正確な計算は難しいけど多分無理、間に合わないわ』

 

「アクセルシンクロ状態で走った勢いのまま思いっきりジャンプなんてどう?」

 

『それの倍近い高さと勢いが必要ね』

 

「……ちょっと厳し過ぎない? なんでこんな八方塞がりなのよ!?」

 

「前回楽した分?」

 

「最悪ねソレ!!」

 

 

アスカとレイの会話で、僕は前回の使徒について一瞬思い出す。

確かにアレは楽過ぎた……停電と使徒襲来が被って当時はかなり焦ったけど、エヴァで通路を駆けあがって地上に出たら、瞬殺できたんだもの。

確かに、そこで楽した分今回が難しくなってるならそれは仕方ないかも……って、いつまでも関係ない事考えてる場合じゃないか。

 

 

「ちょっといいです?」

 

 

思考がずれ掛けていた僕は気を取り直すように、さっきの会話で気になった部分についてで割り込んで質問をする。

 

 

『どうしたのシンジくん』

 

「倍近い高さと勢いがあれば、いけるんですか?」

 

『……えーと、正確にはアクセルシンクロ状態の約1.6〜1.7倍くらいでなんとか間に合うと思うわ』

 

 

倍近くあって越したことはないんだけどね。というミサトさんの声を聴きながら、僕はよくお世話になっているメモアプリを開き、今聞いた情報や自身の考えを書き込んでいく。

 

 

「……できるの?」

 

「できる、と思う」

 

 

メモしながらアスカの言葉に答え、区切りの良い所まで書いたところで切り上げミサトさんに話しかける。

 

 

「いいですか?」

 

『聞かせてちょうだい』

 

「僕が思いついたのは、エヴァを踏み台にしてエヴァがジャンプする作戦です」

 

『……詳しく教えて』

 

「はい」

 

 

僕はミサトさんに言われるがままに自分の考えを口に出していく。

 

倍のジャンプ、と聞いて一番最初に思いついたのは「イナズマおとし」だった。

「イナズマおとし」とは超次元サッカーアニメ、イナズマイレブンの中に登場する二人一組で行う必殺技で、サッカーボールを遥か高くに蹴り上げてから二人がジャンプし、一人が空中でもう一人を踏み台にしてさらに飛び上がり、ボールに辿り着いてそれをそこからゴールまで一気に蹴り落とす、という技だ。

それと同じようにして飛び上がればいいのではないか? と一瞬考えたがきっとそれでは高さも勢いも足りない。

そこで僕は、じゃあただ踏み台にするのではなく、お互いの両足裏を合わせトランポリンのようにして打ち上げるのはどうだろうか? と考えた。

これも元ネタの必殺技があるのだが、今は割愛しよう。

しかしそれを空中で行うのはとても難しい。

とてもじゃないが即興でできるようなことではないと考えた僕は、それを地上で行えばいいと考えたところで、思い出した。

 

そういえばそういう技あったな、と。

 

僕が考えている方法をそのまんま形にした技が、イナズマイレブンの原点とも言える漫画に存在していたことを思い出したのだ。

 

 

『……わかったわ、この作戦で行きましょう。何か作戦名みたいなものはあるかしら?』

 

「SLH作戦」

 

 

何故か、レイが答えた。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「……あれ? リツコさんは居ないんですか?」

 

 

会議室にやってきた私達を迎えたのは、葛城三佐……ミサトさんと普段はオペレーターを務めているはずの伊吹マヤ二尉だった。

確かに赤木博士が不在で、かわりを務めるかのように伊吹二尉がいるのは違和感が拭えない。

 

 

「先輩……えーと、赤木博士は現在エヴァの最終点検を行っていますので、作戦立てるに当たっての補佐はかわりに私が行っているんです」

 

「……なるほど?」

 

 

伊吹二尉の説明に対して、釈然としない返答を返すお兄ちゃん。

 

納得はしたけど、やっぱり違和感、という感じ?

 

 

「それより作戦は? SLH作戦で決定なの?」

 

 

アスカはそんなことはどうでもいいと言わんばかりに、ミサトさんに問いかける。

 

……私が名前を決めた作戦。

でも、明らかにお兄ちゃんもSLHを意識して作戦を立てていたから、私が考えたとは言えないかもしれない。

 

 

「えぇ、SLH作戦で決定したわ」

 

「MAGIシステムからも承認され、SLH作戦は正式なものとされました……条件付き、でしたけど」

 

 

……シミュレーションゲームは好き。

好きだから、イナズマイレブンについて調べた。

そこからの関連付けで例の漫画、そしてSLHの事を知った。

でもそれはシミュレーションに関係なさそうだったから、知識だけ。

 

 

「条件付き? どういうことなのよ?」

 

「MAGIシステムが条件付きで作戦を承認したんです、この条件が満たされなければ作戦の実行は認められないと」

 

「……どんな条件なんですか?」

 

 

……お兄ちゃんが言っていることの元ネタがわかる、というのはかなりレア。

つい出しゃばってしまった。

あとで、謝るべき?

 

 

「レイが、踏み台の役目を務める事よ」

 

 

! 

私の話題? 大変、聞いてなかった。

視線が私に集まっている。

何の話か分からないから、どうすればいいのかわからない。

取りあえず、顔に出さないようにする。

 

……全員が真剣な表情で私を見る中、お兄ちゃんだけ半目。

お兄ちゃんにはバレたらしい。

でも他の人にはバレてない。

これはセーフ? アウト? 

でも、このままでは確実にアウト。

 

 

「……レイが作戦の中で踏み台役を務める事が、なんで条件なんですか?」

 

 

!!

お兄ちゃんが説明口調でミサトさんに質問をしてくれたことで、状況が理解できた。

あとでお兄ちゃんには謝罪とお礼、決定。

 

それにしても、私が踏み台役をするのが条件、というのはよくわからない。

私が踏み台役をやると、作戦に欠かせないはずの高さと勢いが足りなくなる可能性がある。

私は、アクセルシンクロが使えないから。

 

 

「アクセルシンクロが使えるアスカとシンジくんが踏み台役と迎撃役をやってくれれば高さと勢い、そして火力は十二分に確保できるわ……でもそれだけじゃダメなの」

 

「当たり前だけど作戦は一度きり、使徒が地上に辿り着く前に撃破できなければアウトよ」

 

「もちろん二人ならやってくれると信じてるけど……それでも保険はかけて置かなければならないわ」

 

「だから、もしも間に合わなかったときのために受け止める役が必要なの」

 

「使徒の着地予定地点に間に合う可能性が高い、アクセルシンクロの使えるパイロットが一人、受け止める役をしなければいけないのよ」

 

「もちろん迎撃役もアクセルシンクロが使えなければならないわ、撃破するためには火力が必要不可欠だもの」

 

「なので、消去法で踏み台役はレイがやる、ということになるわ……高さと勢いはそれでも十分だから」

 

 

……私が踏み台役をやらなければいけない訳はは理解できた。

それに、ミサトさんが何処か言い辛そうだった理由も今ではわかる。

 

 

「ちょっとそれ、大丈夫なの?」

 

「ええと、高さとスピードはどちらも問題は……」

 

「そっちはもう聞いたわ! 私はレイに掛かる負担について言ってるのよ!!」

 

 

高さと勢いに問題は無い、と言ってもそれは私と迎撃役が全力を出せた場合の話だろう。

私は、アクセルシンクロ状態のエヴァの全力を受け止めなければならないのだ。

地面と板挟みの状態で。

 

 

「レイは、零号機とのシンクロ率がそこまで高くは無いわ……だからフィードバックでの負担もその分軽減されるはずよ」

 

 

そう告げながら悲痛そうに私を見つめるミサトさんに釣られるようにして、私に視線が集まる。

皆が私を心配するような表情をしている中、今回もまたお兄ちゃんだけは違った表情をしていた。

とても真剣な表情で私を真っ直ぐに見つめていた。

 

お兄ちゃんは激情家で感情的。

だけど常に何処か冷静で理性的に物事を見ている節がある、不思議な人。

だからお兄ちゃんは、わかっている。

作戦を変える時間なんて無い事も、他の人に無理を言って代役をしてもらうことができない事も。

 

そして私が、踏み台役を辞退する気が欠片も無い、ということも。

 

 

「大丈夫です、やります」

 

 

私は、アクセルシンクロを使えない事に対する引け目は感じていない。

私にしかできないこともあるし、何よりお兄ちゃんとアスカが私の事を心から仲間だと思ってくれていることを、知っているから。

 

でも、だからこそ―――

 

 

 

      ―――私は、自分のできることからは決して逃げない。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

作戦会議を終え、プラグスーツに着替えてからエヴァの元へ向かうチルドレンの三人は、綺麗に並んでエレベーターに乗っていた。

最初は三人とも黙って立っていたが、半分くらいまで下りたところでふと、何かを思いついたかのように一番右側に立っていたアスカがシンジ達の方に顔を向ける。

 

 

「そういえばさ、シンジはなんでエヴァに乗るの?」

 

「……いきなりどうしたのさ?」

 

「単純に気になっただけよ、あと暇だし」

 

 

その言葉に、とりあえず納得したシンジは腕を組んで考え込む。

うんうん唸るばかりで一向に答える様子の無いシンジに痺れを切らしたアスカは、助け舟を出すように自分の理由を口に出す。

 

 

「ちなみにアタシは自分のためと例の約束のためね、ほら……アンタもなんか無いわけ?」

 

「……世界の平和を守るため?」

 

「あっきれた……碌な理由も無しに戦ってたのね」

 

 

あまりにも適当でクサい回答に、ジト目で睨むアスカに対して困ったように苦笑するシンジ。

 

 

「やっすい正義感に任せて戦ってるくせに、そんなに強いなんて反則よ反則!」

 

「そうかな」

 

「そうよ!」

 

 

呆れながらも怒るという器用なことをしているアスカに、何故か照れた様子のシンジはそのままの状態で目的地に着き止まったエレベーターから出ていく。

 

 

「私、聞かれなかった」

 

 

密かにショックを受けてるレイを置いて。

 

……まぁ、レイの戦う理由については、二人ともそれぞれ別の場所でだが聞いたことがあったから問わなかっただけなのだが。

もちろんレイもそれがわかっていたが……なんか、アレだった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

時は経ち、作戦開始直前。

 

エヴァ三機はそれぞれの配置に着き、そのうち二機はクラウチングスタートの体勢でその時を待ち構えていた。

 

そして、子供達だけに任せて逃げるわけにはいかないと残ったNERV職員達が見守る中、ミサトの作戦開始の合図に反応して二機はアクセルシンクロによるロケットスタートを決めた。

 

アスカはミサトによる指示とNERVのサポートを受けながら現在進行形で観測、計算され絞られていく落下予測地点へと急行。

 

そしてシンジはスタート地点から真っ直ぐに走り、その先で待機していた零号機の元へたどり着こうとしていた。

 

完全に勢いづいた初号機は、シンジが肉眼で零号機を捉えた瞬間に思いっきりジャンプ。

 

同じく初号機を視界に収めた零号機は地面に仰向けになり、足の裏を空に向けた体勢になった。

 

射出準備が完了した踏み台、というよりは発射台と化した零号機に向けて初号機は重力に身を任せながら正確に落下して行く。

 

そして初号機がジャンプしてから数秒後、二機の足裏は完全に重なり合った。

 

 

「「ッ!!!」」

 

 

技の名前を叫ぶことすら許されない刹那の瞬間を二人は逃さず、お互いに渾身の力を下半身に込め思いっきり蹴りだした。

 

零号機は上半身を地面にめり込ませ、初号機は二機分の全力が生み出した圧倒的な勢いで空へ飛びあがっていく。

 

勢いを殺さぬ程度に編み笠状のA.T.フィールドを頭上に展開し、摩擦熱から身を守りながら上昇していく初号機は落下する使徒を一瞬で追い越した。

 

使徒を追い越してなお上昇を続ける初号機は数秒後、勢いとスピードが少し落ちたと感じた瞬間に空中で一回転。

 

そして頭上に展開していたA.T.フィールドをそれなりの大きさに展開し直すと、それを蹴って今度は使徒に向けて急降下を始める。

 

A.T.フィールドを一瞬横に展開し蹴ったり殴ったりすることによって、自身の軌道を修正しつつまっさかさまに落ちる初号機。

 

そしてある程度狙いが定まったところで初号機はまた一回転し、真っ直ぐに揃えた足を使徒に向けるとシンジは搭乗するときに渡された小型装置のスイッチを押した。

 

するとシンジの要望によって急遽右足に取り付けられたポインターから赤い光が迸り、落下する使徒の背中? の一部を赤く照らし出す。

 

シンジはそれを目印にさらに微修正を加え、赤い光が使徒の中心を捉えブレも無くなったところで真っ直ぐに伸ばした足の片方を引き、某ヒーローキックの体勢にする。

 

そして仕上げと言わんばかりに伸ばした足の先から体を覆うようにA.T.フィールドを錐形に展開し、空気抵抗を極限まで減らした初号機は圧倒的なスピードで使徒に向かって落下して行く。

 

空気摩擦によって赤く染まったA.T.フィールドを纏う初号機の姿は、モニターの向こうからそれを見ていたNERV職員の隠れ特撮オタク達をとても興奮させた。

 

 

「クリムゾンスマッシュ!!!」

 

 

その台詞と共に使徒の中心部に突入したシンジは、次の瞬間には同じ体勢のまま突き抜けて外へ飛び出し、その足に深々と突き刺さった使徒のコアは初号機が弐号機の横へ着地した時の衝撃で粉々に砕け散った。

 

それを横目で確認したアスカは使徒を見上げながら、自分達を覆うように大きめにA.T.フィールドを展開。

 

その一瞬後に起こった大爆発から身を守りながらシンジに労いの言葉を投げかけ、少々ダメージを受けたものの平気な様子のレイに通信を繋げて、無事に作戦が終了したことを喜ぶのだった。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

作戦が決行され、そして無事終了した当日の夜。

私は自室でゼーレに提出する報告書を作成していた。

ある程度区切りの良いところまで纏めると、一息吐くために立ち上がってコーヒーを入れてからまた座り直す。

そしてコーヒーを飲みながら、自分の斜め上に設置されたモニターをぼーっと見つめる。

 

そこには、それぞれ自室にて思い思いに時を過ごすチルドレン達の姿が映し出されていた。

 

私はその映像を眺めながら、静かにミサトが変わってしまった日の事を思い出す。

 

 

数日前の事だ。

ミサトの昇進パーティーなるものに呼ばれた私は、同じく招待された冬月副司令と共に盛大に祝われるミサトの様子を見せつけられた。

チルドレン全員で作った料理、碇シンジの同級生二人が披露する芸、そしてそれぞれ用意してきたプレゼントや日々の感謝の言葉を受けて、ミサトは大人気無く泣き始めてしまった。

チルドレンや他の参加者は嬉し泣きだと考えているだろうが、私はそれだけでは無いことを知っていた。

 

あの涙の大部分は、罪悪感から来るものだと。

 

ミサトがチルドレン達の事をよく気にかけていたのは、自分の復讐のためだ。

自分の家にチルドレンを住まわせ、家族のように接してきたのも全てチルドレンを手なずけ、実際に戦うことができない自分の代わりに忠実に指示に従い戦う道具を仕立て上げるためだったのだ。

だというのに、ここ最近のミサトときたら度々私の自室を訪れては私に子供達のすごい所を語ったり騙していることについての弱音を吐いたり、とてもじゃないが見ていられなかった。

今まではなんとかそこで初心を思い出させ、調教師、そして監視者としての役割を果たさせてきたが、もうダメだろう。

今回で完全に止めを刺されたと判断した私は、その場を静かに離れトイレに向かう振りをして家のあちこちに監視カメラを設置した。

もちろん、ミサトに伝えるつもりなど無かった。

 

そして次の日の朝、私は監視カメラの向こうからミサトが子供達に謝り倒す様子を眺めていた。

それは概ね予想通りの光景だった。

罪悪感に耐え切れず、ミサトは近いうちに子供達に全て白状するだろうとふんだから、監視カメラを設置したのだから。

 

……まぁ、ここまで早いとは思ってなかったけど。

 

とにかく、私の予測通り白状して謝り倒すミサトを子供達はあっさりと許した。

当然だ、ミサトは後ろめたい理由があったとはいえ今までほとんど素で過ごしてきたのだから、たとえそのことを告白されても「利用されてきた実感」など微塵も沸かないだろう。

故に、子供達が許すところも私は予想していた。

「ミサトの復讐は自分達が果たす」などという約束を子供達の方から切り出し、結んだのは意外ではあったが別にどうでもいい。

まぁ、監視カメラの件を悟らせないために今日は一芝居打つ羽目になったが、タブレットも壊れて無かったし特に苦でもなかった。

 

 

今現在私の中で大きな問題として議題に上がっているのは、碇シンジの異常性についてだ。

 

 

彼は普通の中学生だと周りの人間は考えているが、私からすればそんなことは絶対にありえない。

というか、普通に常識と照らし合わせて考えればわかるはずだ。

 

普通の中学生が、初の実戦で完全勝利を収めることができるはずがないでしょう?

普通の中学生が、あらゆる戦いに於いて有利に立ち回れるわけがないでしょう!

普通の中学生が、未知の脅威に対して異常な耐性を持っているわけないでしょ!?

 

そんな奴はフィクションにしか存在しない!

目の前で起こってるんだから、実際に存在してるんだからとそこで考えることを諦めるんじゃないわよ!!

その異常性をカリスマ性と勘違いして崇めるのはやめなさい!!!

 

碇シンジも碇シンジよ!

作戦や戦術はアニメや漫画に書いてあったことを参考にしました?

動きや技はフィクションの物を参考にしましたですって?

 

ふざけないで!!

空想上の知識を命がかかった実戦で用いるなんて頭がおかしいんじゃないの!?

そもそもエヴァの操縦はそんなに単純じゃないわ!!

実際に生身で経験した事が無いような動きが、そう簡単にできるものですか!!!

もし可能だったのなら、エリートとして育てられたアスカは今頃重度のオタクにされてるわよ!!!

 

どいつもこいつも馬鹿ばっかりだわ!!!

 

 

……ダメよ、熱くなってはいけないわ。

今、私は休憩中なのよ。

冷静に、心を落ち着かせなくては……

 

 

……それでだ。

私はその異常さの原因を、今回解明できるのでは無いかと考えていた。

今までは碇シンジの日常を過ごす様子は、ミサトや諜報部から上がってくる報告書を通して又聞きでしか把握できていなかったが、監視カメラを仕掛けたことによって直接見ることができるようになった。

だから碇シンジを異常たらしめる何かの正体を、掴むなり垣間見るなりできるんじゃないかと思ったのだが……

 

 

……彼の日常は、NERV関連の事を除けば全く以って普通の中学生の日常そのものだった。

ミサトや、諜報部から伝え聞く通りの光景だった。

 

 

もういや、全部投げ出したい……

碇シンジならしょうがないと、考えるのをやめた馬鹿共の一員になりたい……

 

……でも、それは許されないわ。

馬鹿共と私では、立場が違う。

投げ出すことは絶対に許されないのよ。

私のために、あの人のために。

 

そのために碇シンジはどうにかしなければいけない。

作戦を成功させるためには碇シンジがプラチナメンタルの持ち主では困る。

もしもの時のための予備であるアスカのメンタルも、碇シンジのそれが伝染するように強固になって来てるから本当に手に負えない。

 

早々になんとかしなくては……でも、碇シンジがいないと他二人も機能しなくなるだろうから使徒が倒せなくなるし……あれ、これって本当にどうしようもないんじゃ……?

 

 

 

 

………

 

 

……

 

 

 

 

 

 

……そう、そうね。

そういえば私、報告書を作ってる途中だったわ。

まずはそれを片付けなきゃね。

 

こうして私は、チラリとモニターを見てから逃げるように再び報告書を作り始めるのだった。

 

 

……そういえば彼、なんで今勉強してるのかしら?

いつもこの時間はアニメを見ているはずなのに、碇シンジは今ポテチを食べながら勉強中。

まぁ、大したことじゃないか……。

 

 

頭の片隅で、そんなどうでもいい疑問を抱えながら。

 




別に転生者でもなんでもないから、見られて困ることは何も無いシンジくんでした。

あと、本編で描写するチャンスが無かったのでここで説明させていただきますが、シンジくんが迎撃役に抜擢された理由は、空中戦ではA.T.フィールドをどれだけうまく使うかが重要と考えられたためですね。
なので、A.T.フィールドの扱いに誰よりも長け、かつ柔軟性があるシンジくんが選ばれました。


えー、本当にかつて無いレベルで投稿が遅れてしまい本当にすみませんでした。
正直に白状しますと、二月中旬まで全っ然進んでませんでした。はい。
色々忙しかったのもあるんですが、何より自分の集中力が続かなくてプロットだけが貯まるばかり……という状況がずっと続いていました。
ですが!二月中旬、身の回りの忙しさが一旦鳴りを潜め始めたところで、画期的な執筆方法が思いつき、それからはもう驚異的なスピードで執筆を進めることができました!
ええもう、私にしては驚異的なスピードで、超楽しく執筆できました!

……夜寝る前に書こうとするからダメだったんだよなぁ。
なんで気づかなかったんだろ。

とにかく! もうこれほど投稿が遅れることは無い!……ようにがんばりますので、これからも読んでいただけると嬉しいです!!


ではッ!!!





あ、感想待ってまーす!


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第拾七話 「碇シンジ:オリジン」

お待たせしました。

今回の話はぶっちぎりで過去最長なので、時間があるときにゆっくり読むことをお勧めします。

内容としては、前半が日常? で後半が戦闘? です。
本来なら別々に投稿するはずだったものを、変な意地張って1話に押し込んだので、場面が飛んだりしますが、ご了承くださると嬉しいです。

では、ゆっくりお読みくださいね!


……あ、あと何故か『魔法少女リリカルなのは(無印)』についてのひどいネタバレがあるので、お気をつけて!


違う、と感じた。

 

第一回機体相互互換試験という、エヴァパイロットがいつもとは違うエヴァに乗った場合の変化や互換性を調べる実験に置いて初号機に乗ったレイは、零号機とは何かが決定的に違うと感じていた。

 

……温かい。

とても温かい。

私は、この温かさを知っている。

これは家族の……

 

 

「レイ、初めて乗った初号機はどう?」

 

 

リツコの呼びかけによって我に返り思考を中断されたレイは、乗ってみて思ったことをそのまま素直に答える。

 

 

「お兄ちゃんの匂いがする、温かい」

 

 

結果として、レイは初号機と普段を上回るシンクロ率を叩き出し、『とある計画』を裏で企てている身としてそれはかなりの朗報であったのでリツコは喜んだが、それに反するようにレイの気持ちは沈んでいた。

 

あの温かさを知ったからこそ、猶更に感じてしまう。

自分は零号機にまともにシンクロできていないと。

自分は、零号機に嫌われているのだと。

 

 

その数分後、今度はシンジが零号機に搭乗する実験が行われていた。

エントリープラグに入ってLCLの注入も終わり、あとは実験を開始するだけという状況でシンジは静かに自身の気持ちを振り返る。

 

シンジが思い出すのは前回の使徒戦で感じた気持ち。

使徒がNERVを攻めてきているというのに何もできなかった、という悔しさだった。

 

NERVの設備を全て掌握しようと攻め込んできたコンピュータウィルスのような使徒は、リツコの機転や職員の奮闘によってなんとか対処されたが、その時チルドレン達は安全のためにNERVの外へ放り出されていた。

もちろんシンジも適材適所という言葉は知っているし、わかってもいるのだが、今まで襲来してきた全ての使徒との戦いに関わって来た身としては、何もできなかったことに悔しさを感じずにはいられなかったのだ。

 

故に、とシンジは高ぶりだす気持ちを一旦落ち着かせ、冷静になる。

 

シンジはこの機会に「レイがアクセルシンクロできない」という問題を完璧に解決するつもりでいた。

この零号機とのシンクロでその原因を掴み、解消することで汚名(と言っても自分で勝手に思ってるだけだが)を返上するつもりでいたのだ。

 

数秒後、零号機とシンジ、共に異常が無いことを確認し終わったリツコの合図に従ってシンジは静かにシンクロを始める。

そして零号機の中の人にコンタクトを取ろうと、いつもの感覚で意識をエヴァの深い所に向けていたシンジは、引きずり込まれるようにあっさりとその意識を失った。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

「パ、パイロットの意識、消失を確認!!」

 

「なんですって!?」

 

「はやっ」

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

緊急事態にも関わらず、アスカが思わず口に出してしまうレベルの速度で意識を失ったシンジは、白一色の空間で目を覚ました。

 

 

「……すごい」

 

 

オサレな死神漫画の背景のごとく、何処までも真っ白なその景色にシンジは思わず小学生並の感想を漏らしながら軽く辺りを見回す。

 

そんなシンジを死角から静かに見つめる小さな影があった。

それは、綾波レイをそのまま5歳くらいまで幼くしたような姿をした少女だった。

 

不意にくるりと振り向いたシンジはその少女を視界に収めると、目を見開いた後に少し首を傾げる。

 

 

「(レイ……なんか小さくない?)」

 

 

二人の距離はそれなりに離れていたので、判断が遅れただけであった。

 

視線が交差した二人は、お互いがお互いに向かって歩き出す。

シンジは少女の詳細を確認するために、そして少女は自分の欲しいものを手に入れるために。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

「零号機動き出しました!」

 

「シンジくんは!?」

 

「気を失ったままです!!」

 

「アレは……何をしてるの?」

 

「何かに、手を伸ばしているように見えますが……」

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

お互いがお互いに向けて歩いているため、すぐにその距離は縮まりシンジの目の前に迫る少女。

ある程度の距離を詰めたところで、シンジは立ち止まる。

 

 

「……ちっちゃいなぁ」

 

 

己の疑問、目の前の少女の大きさを知るのに十分な距離まで近づいたからだった。

しかしシンジは立ち止まったが、少女は立ち止まらない。

最近レイがあまりすることの無くなった無表情のまま、とてとてと近づいてくる少女をシンジは微笑ましいものを見るような目で見つめながら、膝立ちになった。

小さな子供と接するときは、まず目線を合わせるのが大事。

ネットで得た知識であり、二年ほど前には低学年と話をする時に実践していたシンジは、ごく自然に少女を受け入れる体勢に移行した。

 

やがて、シンジの元に辿り着いた少女は何も言わずに、そして吸い込まれるように抱き着き、シンジも優しい顔をして少女の頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

「……止まった?」

 

「シンジくんは!?」

 

「依然気を失ったままです!」

 

「何が起こってるの……」

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

何も無い世界でシンジに抱き着き、大人しく撫でられている少女の話をしよう。

ずばり、この少女の正体は「一人目の綾波レイ」である。

 

かつて、その姿よりも幼い精神をしていた綾波レイは、その無垢さ故に命を散らすこととなった。

その魂はあらゆる情報を削ぎ落としてから、NERVの奥深くに存在する予備の肉体に乗り移り、そこで新たに二人目の綾波レイ、今のレイとしての生が始まった。

 

しかし、一人目のレイは消えたわけではなかった。

僅かだが、レイの中にそれは残っていたのだ。

とはいえ雀の涙よりも遥かに小さなそれは、二人目の生きていくうえで得る情報がある程度積み重なれば、あっという間に押しつぶされ消えてしまう様なものだった。

 

だが、結果として彼女は消えることは無かった。

そのまえに、零号機の起動実験が行われたからだ。

 

誰の魂も入っていない、シンクロする何かなど何処にもいない、ぽっかりと穴が空いたような状態のそれとシンクロを試みることとなったレイ。

その時に、一人目のレイは零号機の中へと入り込んでしまったのだ。

空いた穴を埋めるように。

 

結局、最初の起動実験は失敗に終わった。

しかし、零号機という誰も害するものがいない自分だけの場所を得た一人目のレイは、少しずつではあるが自我を取り戻してその存在を強固なものにし、二回目の起動実験でレイは見事に零号機とのシンクロを成功させた。

『自分自身』というシンクロに置いて最高クラスの相手を得たレイは、それから零号機とのシンクロ率はシンジとアスカには遠く及ばないレベルではあるものの、安定した数値を叩き出し続けた。

 

しつこいようだが、相性が良いのだ。

これ以上ないほどに……そして、双方の感情など関係なしにシンクロができてしまうほどに。

 

そう、一人目のレイは今現在のレイにあまり良い感情を抱いていないのだ。

理不尽な出来事によりあっと言う間に死んでしまった自分と違い、掛け替えのない家族を得て楽しそうに毎日を過ごす二人目の自分。

そしてその様子をシンクロする度に見せつけられ、相性が良すぎる故に拒否することもできない。

レイを通して自我と感情を得た彼女にとって、それはまさに拷問だった。

どうして自分に拷問を行う人物を好きになれようか?

レイがレイを嫌うのは、道理であった。

 

もちろん、レイにもう一人の自分を苦しめたいなどという感情が微塵も無いことは、シンクロしている彼女もわかっている。

しかし、だからといって許せるような事ではないのだ。

だが許せないからといって彼女ができることはほとんど無い。

いくらレイが望もうとも、アクセルシンクロするのを拒否し続けること、それくらいしか彼女にできる抵抗は無かったのだ―――

 

 

 

    ―――今までは。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

「あっ! 零号機、再び動き出しました!!」

 

「今度はなに? アレは何をしてるの!?」

 

「……私には、自分を抱きしめているように見えますが」

 

「俺も、そう見える……」

 

「どういうことなの……?」

 

 

「……ねぇレイ、シンジは大丈夫なの?」

 

「きっと、大丈夫」

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

「……お兄ちゃん」

 

「へ?」

 

 

そのあまりにも突然な言葉に、僕は思わず変な声を出した。

そしていつの間にか宙に向けていた視線を下に戻すと、抱き着いた状態のままこちらを見上げる少女と目線が交わった。

 

 

「……お兄ちゃん」

 

「……どうしたんだい?」

 

 

思わず「あ、幻聴じゃ無かったんだ」と口に出しそうになったのを何とか堪え、僕は少女に笑顔で応答する。

すると少女も、それに続くように花が咲いたような笑みを浮かべ口を開いた。

 

 

「大好き」

 

「……あぁ、僕も大好きだよ」

 

 

やはり幼女はイイ。

さっきの倍ぐらいの勢いで少女の頭を撫でながら、シンジはしみじみとそう考えていた。

 

別に僕はロリコンではない。

ただ、可愛い存在として愛でているだけなのだ。

その純真無垢さから溢れ出す光に、あらゆるサブカルチャーに塗れた、世間一般に汚れていると称されている心を晒し癒されているだけなのだ。

いわば、洗濯だ。

ミサトさんは入浴を命の洗濯と言っていたが、幼女を愛でるというのは僕にとって心の洗濯なのだ。

あぁ、やはり幼女はイイ……

 

緩んだ笑みを浮かべながら同じく緩んだ頭で、そんな緩んだ思考をループさせるシンジ。

そんなゆるゆるなシンジは、少女の抱きしめる力がどんどん強くなってきていることには気づいていたが、その力が普通の少女の域を脱していることには気づけないでいた。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

「一体何が起こって、あ、え!? プ、プラグ深度に異変!!」

 

「深度上昇! 危険域へ近づいていきます!!」

 

「緊急停止はできないの!?」

 

「ダメです! 先ほどから試していますが、全く……!」

 

「シンジくん! 目を覚まして!! シンジくん!!!」

 

 

「ね、ねぇ……ホントに、大丈夫なのよね?」

 

「大丈夫」

 

 

「お兄ちゃんなら、大丈夫」

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

碇シンジは守備範囲の広い男である。

 

別にシンジが野球に置いて守備担当だとか、恋愛対象が上から下まで何でもいけるだとかそういう意味ではない。

特殊な事情に置いての、シンジが許容できる範囲のことだ。

 

彼自身にそのことを問いかけたら、まず間違いなく「使徒と出会ってからは常識を投げ捨てた」みたいなことを宣うだろうが、それは間違いだ。

シンジはこの第三新東京市に来た時からおかしかった。

未知の怪物を見て、ネタを叫びながら逃げる余裕のある奴が普通なわけが……

 

……いや、これはまだ語るべきことでは無いか。

少し、時期尚早だった。

 

とにかく、重要なのは碇シンジが特殊な事情に対しての耐性を持ち合わせているということだ。

彼は非常識を「受け入れる」ことで対処してきた。

 

巨大な怪物が街を襲っていることを受け入れた。

ガンダムよりでっかい人型決戦兵器の存在を受け入れた。

自分が戦い続けなきゃいけないことを受け入れた。

母のクローンの可能性がめちゃくそ高い美少女を受け入れた。

異常なまでに勝ちに拘る勝気美少女を受け入れた。

自分を利用しようとしたとか言ってるけど、未遂なうえに色々と助けてくれた保護者を普通に受け入れた。

明確な拒絶をしたのはエヴァの中にいる母親の存在に気づいた時だけで、それですら理性で動揺を抑え込みやがて受け入れた。

 

変に考え込んで自滅したり、動揺し行動が遅れ取り返しのつかない事態になったりしないようにまず「受け入れる」……なんて大層なことをシンジは考えちゃいないが、事実として彼はそうやって今までの困難を乗り越えて来た。

「受け入れる」ことこそが、この非常識がまかり通る世界では実に有効or効果的だったのである。

 

 

しかし、それは「有効or効果的」なだけだ。

 

 

「お兄ちゃん大好き」

 

「僕もだよー」

 

 

相も変わらず素敵な笑顔を披露して抱き着く少女と、返事を返しながら優しく撫で続けるシンジ。

シンジはこの白く何もない空間と自分に好意を示し抱き着いてくる少女のことを、あっさりと受け入れた。

だからこそ彼は、目の前の少女に殺されかけていることに気づけない。

 

もう一人の自分に幸福を齎した目の前の存在を二度と逃れられない奥深くまで引きずり込み、自分も幸せを得ると同時にもう一人の自分からソレを取り上げることで復讐を果たす。

そんな思惑を以てして少女が自分に抱き着いていることに、シンジは全く以て気づいていない。

シンジの腹に顔を擦り付けている少女の顔が、笑顔という仮面を脱ぎ捨てゾッとするような無表情を浮かべていることにも気づけないのだ。

それは、角度的な問題だが。

 

 

「お兄ちゃんは、私が大好き」

 

「うん、そうだね」

 

 

少女が自分の心を癒す天使ではなく、地獄に引きずり込もうとしている悪鬼の類であることを察することができずにいるので、シンジは迷うことなく返事をする。

普段の彼なら、この不可解な空間に来たところで流されつつも頭の中に一部だけ冷静な部分を残し、そこで冷静に分析だのなんだのをするのだろうが、眩しい笑顔により隅々までドロッドロに溶かされた脳味噌では、もはやそんな芸当は不可能だろう。

 

 

「お兄ちゃんは私の家族」

 

「うん、僕達は家族だ」

 

 

返事をすればするほど深度は進み、状況が悪くなっているなどこれっぽっちも思ってないシンジは実に素直だった。

少女の言葉を受け入れ、思ったことをそのまま口にする。

 

 

「私はお兄ちゃんの妹」

 

「そうだね」

 

 

つまるところ、受け入れるだけではダメなのだ。

今現在、表面上は明るくとも少しでも深入りすれば抱えきれないほどの闇が溢れるこの世界に限らず、それではうまく生きていくことなど到底不可能なのである。

 

 

「私は、レイ」

 

 

受け入れるだけでは、何も救えないのだ―――

 

 

「あ、それは違うかな」

 

 

―――まぁ、そんなことはシンジも百も承知なのだが。

 

 

「……え?」

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

「ぜ、零号機止まりました……」

 

「プラグ深度も、ギリギリ安全圏で踏みとどまってる状況です」

 

「何があったの……?」

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

突然の否定に、思わず上を向き茫然とした表情を晒す少女の頭をシンジは構わずに撫で続ける。

しばらくその状態のまま撫でられ続けていた少女だったが、我に返ると緊迫した声で告げる。

 

 

「違う! 私はお兄ちゃんの家族、お兄ちゃんの妹、お兄ちゃんのレイ!」

 

「確かに君は家族で妹だ、でもレイじゃない」

 

 

相変わらず撫で続けながらもそう返したシンジに、少女は不思議そうな表情を浮かべた。

彼が何を言っているのか、理解できなかったのだ。

それに対してシンジは優しい表情のままに語る。

 

 

「一応、君が何者なのかは大体のとこは察しがついてるつもりだ……そのうえでもう一度言わせてもらう、君はレイじゃない」

 

 

まるで少女の存在を否定するような物言いであったが、シンジは依然として優しい表情のままだった。

少女も今度は取り乱すことなく、そのままの様子で疑問を口にする。

 

 

「でも、家族で妹?」

 

「うん、君は僕の家族で妹だよ……見た目が見た目だし、レイの妹でもあるけどね」

 

 

少女はその言葉を聞くと、その瞳にやっと理解の色を示し再び茫然とシンジの顔を見つめた。

 

結局のところ、シンジはとりあえず「受け止める」だけなのだ。

受け止めてから、それらをどうするか考える。

彼にとって「受け止める」ということはゴールではなく、スタートですらもなくもっと前の前提的な何かだったのだ。

 

この変な空間だとか少女の存在だとか少女の好意だとか。

まぁそんなこともあるだろうと適当に受け入れてから、やっと彼の基準で有りか無しか考え出すのだ。

 

そして、シンジはそれらを認めて、彼女がレイであることは否定した。

理由は単純。

彼にとって目の前の少女は、レイの妹なのだから。

 

先の問答は、流されているとかでは無く馬鹿正直に答えていただけなのだった。

 

 

「私も、家族……」

 

 

真に自分という存在を焦がれて止まなかった家族に認められて、先ほどとはまた別の自然な笑顔を顔に浮かべ撫でられ続けるレイ妹。

そんな彼女を微笑ましく見つめながら、シンジは考えを巡らせていた。

 

 

「名前、どうしようかなぁ」

 

 

今、僕の目の前で撫でられる少女は無名の存在である。

レイであることを自分が否定したが故にそうなったのだから、責任を持って自分が名付けねばなるまい。

しかし、自身のネーミングセンスはあまり良いものではないと自覚しているので、どうしたものか……などと考えていた。

うんうん悩みつつも妹の頭を撫でていたシンジだったが、彼女の前髪が撫でられたことによって位置が変わり片目が一瞬隠れたのを見て、その脳内に電流が走ったように一つの名前を閃いた。

 

妹、青い髪、片目が隠れている。

その三つの情報によって、シンジの脳内にはとある小説のヒロインの一人である少女の姿がハッキリと浮かび上がった。

頭を撫でつつ、故意に綺麗な青髪を外側から寄せ片目をもう一度隠してみれば確かに似ている……気がする。

もうすぐアニメが始まるということで、つい先日予習したばかりだから印象が強い、というのも理由の一つだろうがなんとなく特徴も一致しているし、なにより彼女の名前ならば今までレイと名乗って来た彼女も名乗りやすいのではないだろうか。

うん、きっと気に入ってくれる。

 

 

「名前、新しくつけてもいいかい?」

 

「名前? うん、つけて」

 

「よし、じゃあ君の名前は……」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

その後、動きを止めた零号機の中でシンジは無事に目を覚まし、すぐさま運び出され精密検査されたが心身ともに異常は診られなかった。

あの意識を失っていた間に何があったのか、とリツコが尋ねると何処か満足げなシンジはよく覚えていないと前置きを置いてから、こう答えた。

 

 

「大切な妹に会っていました」

 

 

その言葉を聞いて、本来の搭乗者であるレイの残り香のような何かと接触したと仮説を立てつつリツコはさらにシンジに詳しい内容を問いかけるが、他は覚えていないの一点張りだった。

当然、それが嘘であることを察していたリツコだったが、シンジに答えるつもりが無いことも同時に察していたうえに自分に利益のある情報でも無さそうだと考え、足早にその場を後にした。

 

しかし、その一週間後にリツコはまたもシンジに同じことを問いかける羽目になった。

その日に行われた零号機のシンクロテストにて、レイが一発でアクセルシンクロを成功させたからであった。

思いもよらぬ結果が出たことによって慌ただしくなった外を余所に、レイはエントリープラグの中で穏やかで幸せそうな笑みを浮かべていた。

 

 

「……ありがとう、レム」

 

 

大切な兄を、家族を助けたい……その一心で複雑な心境を抑え込み自らシンクロしてくれた、愛しい妹に感謝を告げながら。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

「……来たか」

 

「ごめん、遅れちゃった」

 

「……大丈夫だ」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「二人共ここに来るのは、一年ぶりか」

 

「毎年この日にキッチリね」

 

「そうだな」

 

「母さんかぁ……顔も見たこと無いから、こうしてお墓を前にしてもやっぱり実感わかないなぁ」

 

「……お前は、写真を持っているのではなかったか?」

 

「あ、知ってた?」

 

「……」

 

「えーっと、これこれ」

 

「……」

 

「あ、取ろうとしないでよ! 燃やす気でしょ!?」

 

「そうだ」

 

「『ここにはユイが教えてくれた、決して忘れてはいけない事を確認するために来ている』って言ってたじゃんか……母さんの事忘れたいわけでも無いのに、なんで燃やすかな?」

 

「……」

 

「……言えない?」

 

「……渡せ」

 

「……燃やさないって約束するなら、渡す」

 

「……どういうことだ?」

 

「いいから、約束?」

 

「……する」

 

「おーけー信じる、はい」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……お前は」

 

「ん?」

 

「お前は、ユイの事をどう思っている?」

 

「僕と、父さんの事を心から愛してくれていたっぽい人」

 

「……」

 

「叔父さんから聞いただけだからねぇ……顔を知ってても、やっぱり、さ……」

 

「……そうか」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「もしもだ」

 

「うん?」

 

「もしも、ユイに会えるとしたら……会いたいか?」

 

「そりゃもちろん」

 

「……」

 

「顔も知らないし、人柄も、愛してくれているかもわかんないってなら躊躇するけどさ」

 

「……」

 

「顔は写真で知ってるし、人柄も優しい人だったって父さんや叔父さんから聞いて知ってる」

 

「……」

 

「そして、愛してくれてたことだってわかってるんだ……そりゃあ会いたいさ」

 

「……そうか」

 

「父さんは?」

 

「……なに?」

 

「父さんは会いたい? 母さんに」

 

「……」

 

「……これも、答えられない?」

 

「……いや、私もユイに会いたいよ」

 

「そっか」

 

「あぁ」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……そろそろ、帰るか」

 

「……そうだね」

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

ドンッ!

 

「たっだいまー!」

 

 

とある日の午後。

隣の部屋に誰も住んでいないことをいい事に、豪快にドアを開け帰宅するアスカ。

サンダルを玄関に散らかすように脱ぎ、リビングまで移動しショルダーバッグをそこらへんに置いてから、ソファにこれまた豪快に座り込んだ。

そして、シンジに録画させておいたアニメを見ようと近くにあったリモコンを掴み、いざ操作しようとしたところで、ふと気が付いた。

 

周りが、静かなのだ。

 

 

「……シンジのやつ、この時間は家に居るんじゃなかったっけ?」

 

 

その瞬間、アニメの続きに対しての興味よりも今シンジが何をしているかへの好奇心が上回ったアスカは、ソファから飛び上がる様して立ち上がると、シンジの部屋に方へと足を進めた。

 

 

「シンジーいるー?」

 

 

シンジの部屋の扉の前に立ち、そこそこの声量で問いかけるアスカだったが返事は帰って来なかった。

アスカはその事に顰めつつ扉を開けようと試みると、考えていたような突っかかりは無くあっさりと開いてしまった。

そして大方何処かに遊びに行ってるんだろうと当たりをつけながら、ゆっくりと部屋の中を覗き込んだアスカの視界に飛び込んできたのは、机に向かいこちらに背を向けてノートパソコンを弄るシンジの姿だった。

 

 

「なぁーんだ、いるんじゃない!」

 

 

そう言いながらバンッ!っと音を立てて扉を全開にするアスカ。

するとシンジはビクッとしながら振り返り、驚きで目を丸くしたまま装着していたヘッドホンを外した。

 

 

「アスカ? 早かったね帰るの……デートってそんなもんなの?」

 

「ううん、あまりにも低レベルだから抜け出してきてやったのよ」

 

「……わぁ、お相手カワイソ」

 

 

友達のヒカリから、先輩に噂の美少女を紹介してほしいと頼まれたということで、友人として顔を立ててあげるために一日デートに繰り出したアスカ。

そんなアスカはデート開始時刻から30分足らずで抜け出したのだった。

デートに関してあまり知識の無いシンジは一瞬、今どきのデートはそんなにもスピーディなのかと考えたが、アスカの返答に必死に彼女を探すお相手さんを想像して、気の毒そうな表情を浮かべた。

 

 

「もうどうだっていいじゃない! で、シンジは一人で何やってたのよ?」

 

 

そんなシンジをスッパリ無視したアスカは、ノートパソコンの画面を覗き込みつつ問う。

画面内は非常にゴチャゴチャしており、アスカには何をしているのか全くわからなかった。

 

 

「歌作ってるんだ、Pだからね」

 

「あー、ボ〇ロってやつね?」

 

 

前にシンジの趣味を聞いた時に、数ある趣味の中の一つとしてソレについて教えられたことを思い出したアスカ。

シンジと会話しながらPCの画面を眺めるアスカだったが、やがてその内容がさっぱり理解できずに目を逸らした。

そこで彼女は、PCの脇に置かれたA4サイズの用紙の存在に気づき、それについてシンジに尋ねる。

 

 

「それ、歌詞?」

 

「あぁこれ? うん、そうだよ」

 

「へぇー、ちょっと見せなさいよ」

 

「いいよ」

 

 

何処か自信を感じさせる態度で歌詞の書かれた用紙を渡すシンジ。

その様子に少し期待を膨らませながら内容に目を通し始めたアスカだったが、次の瞬間には顔を顰め不機嫌そうにシンジに問いかけていた。

 

 

「『残酷な社会の底辺、少年よニートになれ』……アンタふざけてんの?」

 

「あ、ごめんそれ替え歌の方だった、こっちこっち」

 

「なんでもう替え歌作ってんのよ……」

 

 

しかも、自分で作るもんじゃないでしょ……と呆れ返った様子でツッコミを入れながら、紙をもう一枚受け取るアスカ。

そして先ほどと同じように目を通した彼女は、先ほどとは別ベクトルに顔を顰めるのであった。

 

 

「どうしたのさ?」

 

「……いや、良いんだけどシンジが書いたと考えるとなんかイタイのよねー……アンタ中学生?」

 

「中学生ですけどなにか(憤怒)」

 

「あ、ごめん何でもない」

 

 

コイツ疲れてんな、という憐みの視線から逃げるように歌詞に意識を集中させるアスカ。

そんな彼女を見兼ねて、シンジは先度つけていたヘッドホンを手に取ってから声を掛けた。

 

 

「歌詞だけじゃ良し悪しなんてわからないって、一応1番は出来てるから聞いてみてよ」

 

「ふーん?」

 

 

それを受け取ったアスカは耳に装着し、やがて歌が流れ始めるとその内容に合わせるように手に持った歌詞を視線で追い始める。

そして1番のサビが終わり、歌、曲共にヘッドホンから流れなくなったところで彼女はシンジに向き直り、感心した様子で感想を告げた。

 

 

「聞いてみると結構いい感じ! ホント無駄に多芸よねシンジって!」

 

「無駄にってつける必要あった? まぁいいや、ありがと」

 

 

素直に褒めないアスカにシンジはいつものことながらもツッコミを入れるが、さすがに慣れたのか返答を聞く前にさらりと自分で流す。

そんな様子を横目で見ながら歌詞にもう一度目を通していたアスカは、ふと一つの気になることが浮かびシンジの方へ顔を向ける。

 

 

「そういやシンジ、このことレイには言った?」

 

「え? このことって、歌作ってること?」

 

「そうよ」

 

「まだ完成してないし、言ってないよ」

 

 

あ、でもアスカに知れちゃったし、別に隠してるわけでもないから言ってもいいかもね、と語るシンジを見つめるアスカは軽く思考してから口を開く。

 

 

「それ、クラスメイトに言う予定は?」

 

「え、無いよ」

 

「完成しても?」

 

「うん、別に自慢したいわけでも無いし」

 

「ふーん」

 

 

アスカは脈略のない話題展開に少し混乱した様子のシンジを見て、一つの事を確信した。

そして、少しシンジに同情した。

 

 

「……歌の事、レイに言うならしっかり口留めしときなさいよ? それじゃあね」

 

 

そう言いつつ歌詞の書かれた用紙をフリーズしているシンジに無理やり返し、部屋から出ようと背を向け歩き出したアスカ。

しかし、その歩みは数歩進んだところで後ろから肩を掴まれ、止まることとなった。

 

 

「待って、え、どういうこと? え、そうなの?」

 

 

混乱しつつも話の流れから言葉の意味を理解しかけている様子のシンジを振り返り見て、アスカは憐みの感情を瞳に宿しながら告げる。

 

 

「アンタの想像通りよ……そして、その想像の十倍くらいはおしゃべりね」

 

「マジか」

 

「レイと仲のいい子は、多分あなたの私生活のほとんどを知り尽くしてるんじゃない?」

 

「マジか」

 

「まぁシスコンブラコンでお似合いの兄妹じゃない!」

 

「マジか」

 

 

動揺を抑えられないのか、マジかしか言わなくなったシンジ。

そんな彼を見て、アスカは苦笑しながら肩に置かれた手を振りほどき、ドアを開いて部屋の外に出てからまた振り返る。

 

 

「あの子の話題のほとんどを取り上げるなんて真似はやめなさいよ? せいぜいがんばりなさいお兄ちゃん♪」

 

 

アスカは嫌な笑み(シンジ主観)を浮かべてそう告げると、ドアを閉めリビングへと戻って行った。

そして茫然とした様子でドアを見つめたまま固まっていた、アスカの言葉によって逃げ道を塞がれたシンジは、しばらくしてから大きなため息を吐きつつ机に戻り作業を再開した。

 

 

「……知られて困ることなんかレイに言ってないから、別にいいし」

 

 

そう口では言いつつも、なんともいえない恥ずかしさが込み上げてくるのを感じたシンジは、それから逃げるようにして作業に没頭した。

 

その後、家に帰って来たレイにやんわりと話題について注意するアスカが居たことを、彼は知らない。

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

・・・・・

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

その日、事件は起こった。

リツコが懸念し、そして誰もが一度は考え即座にありえないと吐き捨ていた大事件が現実で起こってしまったのだ。

 

サードチルドレン、碇シンジの消失である。

 

直前まで執り行われていた10回目の使徒戦の途中、使徒が発生させたと思われる影のようなものに初号機ごと飲み込まれ、生死不明となってしまったのだ。

 

これまで、ほとんどの戦闘に置いて圧倒的な強さを示し続けて来た碇シンジ。

未知との戦いに晒され続ける職員達が、シンジを心の拠り所とするのはなんらおかしな事ではないのだろう。

だからこそ、そんなシンジを失ったNERVはこれ以上に無い大混乱に見舞われ、使徒に対応できるほどの余力は無くなった……かと思いきや。

 

結構、そんなことは無かった。

 

もちろん、初号機が成す術も無く影に飲み込まれた直後の指令室の様子は酷かった。

リツコは目を見開き、ミサトはシンジの名前を叫び、その他職員達は悲鳴をあげたり黙って崩れ落ちたりなど阿鼻叫喚だった。

ミサトが取り乱しながら残されたチルドレン二人に撤退指示を出し、基地内に戻ってくるまでにその悲報は瞬く間に広がりNERV全体がパニックに陥っていた。

しかし、それはすぐに鎮静化されることとなった。

 

この事件に置いて、誰よりも当事者であったチルドレン二人が、全く取り乱していなかったのだ。

その様子を見た、よく初号機のメンテについての話をせがまれては話をしていたシンジと仲の良かった整備士は、居てもたってもいられずに話しかけた。

何故、君たちは動じていないんだ? 彼が心配じゃないのか? と。

その問いに対して、アスカはいつもと変わらない様子で答えた。

 

 

「別に大丈夫でしょ? アイツがやられるところ想像できないし」

 

 

そう、一片の曇りもない表情で言ってのけたのである。

その言葉からは、彼の無事を一切疑っていないのを感じ取れたが、それだけでは納得できないのが大人である。

さらに食い下がって整備士が問いただすと、彼女はめんどくさそうにシンジが沈み切る最後まで慌てた様子が無かったことと、今回の事態は二度目であることを語った。

 

それを聞いた整備士は思い出した。

碇シンジが生死不明の状態に陥ることは、初めてでは無くついこの前に一度目があった事を。

そう、零号機での互換試験の事である。

そこで整備士は、一度生死不明の状態に陥ったにも関わらずケロっとした様子で生還したどころか、レイのアクセルシンクロ成功という手土産まで持ってきたシンジを思い出したのだ。

 

そこまで考えた彼の脳裏には、今回も手土産引っ提げて無事生還を果たす我らがヒーロー碇シンジがハッキリと映し出され、今まで抱え込んでいた不安はまるで無かったかのように飛散していった。

整備士は穏やかな表情でアスカに礼を言って引き下がると、不安そうな表情をしている仲間達に彼女の言葉を伝えていった。

アスカの詳細な言葉の内容は早い段階で省かれ、「碇シンジは無事である」という言葉のみが瞬く間に広がって行き、悲観に暮れていた職員達はその好都合な情報に餌に群がる魚のように飛びついた。

そしてシンジを妄信する職員を筆頭として業務が普通かそれ以上に稼働し始め、NERVはすぐに機能を取り戻したのだ。

 

ちなみにレイは無表情のまま、いつの間にか姿を消した。

 

そうしてNERVの混乱はかなり早く収まり、シンジ消失から2時間ほど過ぎた今、使徒討伐及びシンジ救出作戦を立てるための会議が取り行われる目途を、休憩室でプラグスーツのままで待機していたアスカはミサトから告げられていた。

 

 

「なるほど、それにアタシ達も参加すれば良いのね」

 

「えぇ、戦闘直後だけど大丈夫?」

 

「あんなの戦闘のうちに入んないわよ、んでレイは?」

 

「えーと、確か更衣室にいるはずね」

 

「わかったわ、アタシが呼びに行く」

 

「あ、お願いしてもいい?」

 

「いいわよ、一緒に行くから先に行って参加するって伝えといて」

 

「じゃ、頼んだわね」

 

 

そう言ってミサトが去っていくのを見送ったアスカは、それを追うようにして休憩室を出ると更衣室の方向へ歩き出した。

 

 

「……救出作戦なんて、必要ない」

 

 

歩き始めてしばらくした後、聞かせる相手が居ないにも関わらずアスカは突如として言葉を紡ぎ出す。

 

 

「アイツはやられるタマじゃない、アイツは負けるような奴じゃない」

 

 

アスカは前を睨みながら、普段より少し早いペースで目的地へと歩みを進みながら一人呟く。

 

 

「アイツは、死ぬような奴じゃないんだから……!」

 

 

そう口にするアスカは、今にも泣きだしそうな表情をしていた。

つまるところ、整備士を始めとした他の職員への彼女の対応は全て演技だったのだ。

アスカは、シンジの消失にこれ以上無いほどに動揺していたのだった。

 

何故、彼女はこれほどに動揺しているのか?

もちろん、シンジの消失というだけでも彼女が取り乱す理由足りえるのだが、もう一つ大きな理由があった。

 

 

「アタシが、アタシが油断しなければ……!」

 

 

アスカは、シンジの消失が自分のせいだと考えているのだ。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

時は少し遡り、使徒戦開始直後。

まだアクセルシンクロを使い始めて日が浅いレイを後衛にして、空中に浮かぶ謎の球体に対して接近するアスカとシンジ。

 

 

『気を付けてね二人共、アレがまだ使徒かどうかもわからないんだから』

 

 

じりじりとにじり寄る2機に通信を入れるミサト。

突如都市上空に出現した不思議な模様が刻まれた謎の巨大球体だが、それからは使徒反応が検出されず使徒と断定できずにいたのだ。

 

 

「あんなの使徒じゃなかったらなんだってのよ!?」

 

「ここに来て新たな敵は勘弁してほしいかなぁ……」

 

 

もっとも、誰もが十中八九使徒だろうとは考えていたのだが。

そんな軽口を叩きつつも着実に距離を詰める二人に使徒は、そこで動きを見せた。

 

 

「シンジ、下!」

 

「なにコレ」

 

 

いつの間にそこに現れたのか、黒い影のようなものが地面を侵食し伸びて来ていた。

アレに触れてはまずいと直感的に、というか見た目的に咄嗟に判断したシンジは、地面の少し上にA.T.フィールドの足場を作り出し退避。

少し大きめに作られたそれに弐号機も飛び乗ったところで、通信が入った。

 

 

『三人とも、たった今パターン青が検出されたわ! アイツは使徒よ!!』

 

「知ってるわよ!」

 

 

アスカはミサトに向かってツッコミを入れながら、持っていた薙刀型の武器を槍のように持ち直す。

そして、後方のレイによる射撃と同じタイミングで使徒らしき球体に向けて投擲するが、その攻撃は全て使徒をすり抜け向こうのビル群に着弾した。

 

 

「外れた? 躱された?」

 

「どうなってんのよ!?」

 

 

皆の視線が使徒に集まる中、シンジだけは別の所を見ていた。

近くに存在していた一つのビルが影に晒され、ずぶずぶと飲み込まれる様をじっと見つめていたのだ。

そして、耳で場の状況を把握したシンジはA.T.フィールドの下に広がる影に視線を移し、

使徒についての考察をし始める。

 

 

「(触れたものを無差別に飲み込む影……もしかしたら、使徒はこの影に潜んでいるのか?)」

 

 

武器を構え球体を睨むアスカと影を見つめ頭を働かせるシンジ。

この二人の視線の行先が、次の瞬間の二人の行動を大きく分けた。

 

 

「(一先ず、レイに射撃武器を投げて貰って先端を影に突っ込んで乱射してみるか……?)」

 

 

そこまで考えたところだった。

シンジの視界を埋め尽くしていたオレンジ色が消え失せ、代わりのように浮遊感が突如として襲ってきたのだ。

 

 

「っ!!」

 

 

足場に使っていたA.T.フィールドが消えたのだと気づいたのは、足が影に触れ浮遊感が消えてからだった。

飲み込まれ始めた足に動揺しつつも、もう一度A.T.フィールドを目の前に作り出し、それを支えにして脱出を試みるが掴む前にA.T.フィールドはまた消え、手は空を切る結果となった。

 

ここでシンジは、自分がA.T.フィールドを過信し過ぎていたことに気づいた。

 

A.T.フィールドはA.T.フィールドで中和できる。

それは何度も使徒相手にやってきたのでもちろん知っていたが、逆に中和され破られたことは一度たりとも無かった。

ビームによる圧倒的な火力で破られたことはあったものの、それは例外と捉え無意識にA.T.フィールドの防御力、そして持続力を最強の物であると思い込んでいたのだ。

A.T.フィールドを足場として戦闘を行い、無事に倒すことができた経験もその過信を後押ししていた。

 

シンジは己の浅はかさを悔やみつつ、視線を横に向けた。

そして、視界の邪魔にならないように斜め前に投影されたディスプレイの中で、状況を理解できずに慌てふためくアスカの様子を確認すると同時に、シンジは初号機を大きく動かした。

 

 

「アスカごめん!」

 

「えっ!?」

 

 

アスカの驚く声に何も答えず、初号機は手の届く距離にいた弐号機の腕を掴むと、そのまま体を捩じる。

そしてそのまま機体を前に倒しつつ、弐号機を背負い込むようにして掴んだ腕を思い切り引っ張った。

 

 

「キャアアアアアアアアーッ!?」

 

 

それは、不安定な状況下とは思えないほど綺麗な背負い投げだった。

弐号機は影から抜け出し勢いのまま空中を突き進み、仲間が飛んできたことで咄嗟に武器を投げ捨てた零号機によって受け止められた。

安全地帯まで無事に送り届けることができたことを確認したシンジは、とりあえず自分の不注意にアスカを巻き込んでしまうことは避けられたと、安堵のため息を吐く。

 

 

「シンジッ!!」

 

「お兄ちゃんっ!!」

 

 

影の届いていない地面にて体勢を立て直したレイとアスカが見たものは、背負い投げを繰り出したことでバランスを崩し、機体のほとんどを影に沈めた初号機だった。

悲痛な声で自分を呼ぶ二人の顔をディスプレイ越しに視界に収めながら、シンジは自分の状況を冷静に分析する

 

何かをまともに伝える時間はおそらく無い、ならばどうするか?

 

シンジはにやっと笑うと、自分を観測する全ての人に向けて堂々と言い放った。

 

 

「I'll be back」

 

 

初号機は、上に向けてサムズアップをしながら影の中に姿を消した。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

当初、アスカはシンジの消失が自分のせいでは無いことをわかっていた。

 

確かに彼女は影に捕らわれた瞬間、取り乱し冷静な対処ができずにいたが、アレはA.T.フィールドが消える瞬間を見ていたシンジだからこそ咄嗟の行動ができたのであって、全く別の方向を見ていたアスカでは状況を理解するのは不可能だった。

 

さらに、もしアスカが冷静に行動できたとしても状況は何も変わらない。

二人共影に捕らわれ周りに掴むものも無い状況では、『2人共沈む』か『1人助けて1人沈む』かの二択しか存在しなかったのだ。

つまり、アスカが助かりシンジが消えた今の状況は、最善の結果だと言えるだろう。

 

しかし、アスカはそれを最善だとは思えなかった。

 

安全地帯で体勢を立て直し、状況を理解してレイと共に沈んでいく初号機を見送った時に考えてしまったのだ。

 

 

『シンジの代わりにアタシが沈めばよかった』

 

 

聡明な彼女はシンジの消失を見届けた直後に、彼無しで戦うNERVを想像しようとした。

そして、できなかった。

シンジという大きな支えを失ったNERV職員達がまともな働きをできるとは思えなかったのだ。

 

情報規制は敷かれるだろうが、必ず何処からかシンジが消えたことが漏れてパニックになる。

職員達が大混乱に陥れば、作戦立案や機体の整備や設備による支援などのありとあらゆるサポートがまともに機能しなくなってしまう。

シンジの代わりに自分達がやるんだ! と奮起する者も少なからず現れるだろうが、少数ではどうにもならない。

やがて侵攻してくるであろう使徒に残ったエヴァで対抗しようにも、支援が無い状況ではじり貧だ。

防衛ラインは崩れ、見てられなくなったミサトの帰還指示で自分は逃げかえる様にNERVへ戻り、そして人類滅亡まで後わずかとなり、そして……

 

……そして、責められるのだ。

何故シンジを助けなかったのかと、何故お前が代わりに消えなかったのかと。

口々に罵られ、泣きわめかれ、そしてそれらを咎める者からも、何か言いたいことがあるような視線で責められることとなるのだ。

 

 

アスカはその光景、その未来に心底恐怖した。

 

 

もちろんこれは最悪の事態の想像である。

シンジがいつもの調子でひょっこり帰ってくることもあれば、これから使徒の弱点が判明しあっさり倒せるかもしれない。

しかし、一度最悪の結末を想像してしまったアスカはとてもそんな楽観視はできなかった。

彼女はミサトによる帰還命令が下るまで、何度も何度も自分が代わりに沈み、気迫のようなものを放つシンジがなんかこうイイ感じのすごい作戦であっと言う間に助け出してくれるのを想像し、現状に絶望した。

 

その後、帰還指令で正気を取り戻したアスカは、目の前に迫る問題をどうにかしようと頭を動かした。

とりあえず、NERV職員達がパニックになるのを防ごうと考えたのだ。

そして、堂々とした態度で根拠のようなものを並べて押し切ろう作戦は結果的に成功し、なんとか最悪の事態への一歩を踏み出すことは回避できた。

……そのNERVに到着するまで必死に考えた言い訳で、自分自身を納得させることができれば一番だったのだが、根拠になっていないのを自覚してしまっていたので無理だった。

 

なんとか誤魔化し通して休憩室の椅子に座り込んだアスカは、一人でシンジを助けるための作戦を練っていたのだが、どうしても彼のようにうまくできなかった。

少し冷静に考えれば、作戦を立てるには情報が足りないことがわかっただろうが、彼女は『シンジならできた』と思い込み、自分の持つ知識を何か今の状況に活かせないかと考え込むことしかできなかった。

 

そしてしばらくした後にやってきたミサトに対して必死に取り繕って応対すると、言った通りにレイが居るという更衣室の方へと向かって歩き出し、今に至る。

 

 

「シンジは……シンジは大丈夫……ケロッとした顔で帰ってくるんだから……」

 

 

アスカはとても追い詰められていた。

先ほどまで必死に考えていた救出作戦を必要無いと断じ、考えていることを無意識に口に出してしまうほどには参っていた。

 

もちろん、この様子を誰かに見られれば今までの演技が全て無駄となってしまうだろう。

しかし、彼女は先の通り考えを口にしているのは無意識故に気づき正すことはできないし、頭の中は自身に対する罵倒でいっぱいだった。

 

まともな救出作戦を立てられず慌て始めた辺りから、アスカの頭の中では自分を責める声が響き始めた。

霧がかかったように姿のハッキリしない何者かが、只管に彼女を罵倒するのだ。

お前のせいだ、シンジを返せと。

焦れば焦るほど大きくなって襲い掛かるその声に、アスカはかなり追い詰められ憔悴していた。

気を抜けば、地面にうずくまって泣きながらその誰かに謝り倒してしまいそうだった。

そんな彼女を今支えているのは、レイだった。

 

ミサトからレイについての話題が出た時、アスカは思ったのだ。

 

レイなら、味方になってくれる。

彼女なら私を責めないに違いない、何故ならシンジの帰還を心から信じてるから。

不安そうにしている私を見て、前の時のように力強く言ってくれるのだ。

「お兄ちゃんなら大丈夫」と……

 

そう考えたらもう止まれなかった。

もしあっさりとミサトが立ち去らなかったら、無理やりにでも追い払ってレイの元へ向かっていただろう。

アスカは異様に重く感じる体を引きずってレイの元へ向かう。

自分の今一番欲しい言葉を求めて。

今の自分の思考が、アスカの根拠のような何かを信じたNERV職員達のソレと同じものになっていると気づかずに。

 

 

そして、やがてアスカはレイの元へたどり着く。

 

 

レイは情報通り更衣室に居た。

 

しかし普段自分達が使っている女子更衣室では無く、その隣の男子更衣室の方で見つけた。

 

彼女は、シンジの所持品がしまい込んであるロッカーの前に座り込み、震えて泣いていた。

 

シンジの予備のプラグスーツを抱きしめながら、傷つけるはずが無いと信じていた既知の相手では無く、全く以て未知の存在に連れ去られた兄を思って泣いていたのだ。

 

 

それを見たアスカは、自分の中で何かがぽっきりと折れた音を確かに聞いた気がした。

そして、それと同時に頭の中で自分を罵る何者かを覆っていた靄が消え去り、その姿を現した。

なんとなくわかっていた。

姿を現したのは、涙やら鼻水やらでひどく顔を汚したアスカだった。

他でもない自分自身が、シンジを求めて自分を責めていたのだ。

そこでアスカは、最悪の事態があそこまで恐かったのは、ただ他人から責められるからだけではなく、シンジが帰って来ないという部分に大きな恐怖を感じていたのだと理解した。

 

それを自覚したアスカは、『どうやらアタシは自分で思ってるよりもあのバカに依存してるらしい』と何処か他人事のように考え、力の無い笑みを浮かべるとその場に崩れ落ちた。

 

 

……そしてその後、一向に二人が会議室に来ないのを不審に思い確認したミサトが二人を見つけると、駆け寄って抱きしめて慰め続け、作戦会議はリツコによって三人抜きで行われた。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

「……またか」

 

 

僕は目を覚ますと同時にそう呟いた。

目の前に広がるのは、つい先日見たばかりの真っ白な世界。

不思議世界はこれでまだ二度目だけど、こうもハイペースだと流石に驚きより呆れが勝ってしまう。

……何せ、ここにいるってことは暢気に寝ちゃったってことだからネ!

 

 

「あの状況で寝たのか僕は……」

 

 

真っ暗な空間に閉じ込められた僕は、とりあえずまず初号機の手足を適当にバタバタ動かした。

それだけでは何の変化も無かったので、泳いだり走ってるイメージをしてみたけど移動できてるか否かもわからなかった。

なので今度は念のため、初号機を生命維持モードに移行させてから叫んだり念じたりして見たがそれもダメ。

そして、あとはどうするかと目を瞑ってうんうんと悩んだ結果……そのまま寝てしまったらしい。

 

やっぱ夜更かしはするもんじゃないネ!

もう少しで曲が完成するからって張り切り過ぎたな!

 

そう自分の行いに軽く反省したところで、僕は周りをもう一度見まわす。

見れば見るほど何もない空間だった。

前回の経験からして、初号機の中だとしたら母さんでもいるのかと思ったが全く見当たらない。

ちょっと期待しただけ、物悲しさを感じてしまう。

 

 

「なんで、僕はここに居るんだろう?」

 

「僕が呼んだからかな」

 

「ッ!?」

 

 

僕の独り言に反応するかのように今見まわして誰も居なかったはずの後ろから突然声が聞こえてきたので、僕は弾かれるように振り返った。

 

するとそこには……『僕』がいた。

 

 

「……ペルソナ?」

 

「一瞬で飛躍し過ぎだってば」

 

 

彼の言う通り、もう一人の自分からペルソナに辿り着くのは流石に飛び過ぎか……と考え直したところで、僕は改めて目の前に立つ『僕』を見る。

 

目の前で自然に笑う『僕』は、何処からどうみても僕だ。

こっちはプラグスーツで、あっちは学校の制服という違いはあるものの、上から下まで完璧に僕だった。

そして、さっきの僕に対してのツッコミから察する限り、どうやら僕の考え方にまで『僕』の理解は及んでいるようだ……

 

 

「……ホントに、君は僕なの?」

 

「あー、それは難しい質問だね」

 

「え」

 

 

ほぼ確信めいたものを感じながら問いかけると、目の前の僕は悩んだ様子を見せる。

 

……てっきり、人の悪い笑みを浮かべながら肯定されると思ってたんだけど、違うの?

 

 

「まぁ答えはわかってるんだけどさ、君はアリシアとフェイトが同一人物だと思うかな?」

 

「……リリカル?」

 

「うん、マジカル」

 

 

……『魔法少女のリリカルなのは』の登場人物であるアリシア・テスタロッサとフェイト・テスタロッサ。

アリシアは活発な女の子で、フェイトは彼女のクローンだ。

しかし、アリシアの記憶を持っているにも関わらず、フェイトは彼女とは全く違う性格だった。

 

ぶっちゃけ、本編どころか二次創作ですら彼女たちを同一人物として扱ってるのを見た事無い。

もちろん僕自身も二人は別人だと考えている。

 

 

「……答えはNoだよ」

 

「なら僕達は別人だね」

 

 

……言いたいことはわかった。

 

 

「僕がアリシアで、君がフェイトなの?」

 

「うん、一応そんな感じ」

 

 

『君は僕の記憶を持った存在なのか?』という意味でそう口にすると、彼はハッキリしない返事を返した。

これまた肯定されると思っていた僕は、少し顔を顰めながら結局君は何者なんだと問いかけた。

すると彼はきょとんとした顔をしてから一転して困ったように笑いながら僕に近づくと、さっと肩に手をまわして横から至近距離で僕の目を覗き込む。

そして、僕が出したことの無い様な低い声で言い放つ。

 

 

「わかりきってる事聞くなよ」

 

 

……まぁ、ここまで言われたら流石にわかるけど、一つ言いたい。

 

 

「ピンチな僕を助けるために現れた初号機の化身の可能性」

 

「無いよ……あったとしても母さんじゃない?」

 

「息子の恰好して現れる母さんなんて嫌だ」

 

「そりゃそうかもだけどさぁ」

 

 

納得してない様子の僕を見て、困ったように頭をかく使徒。

そんな使徒を尻目に、ぼくはもう一度辺りを見回す。

疑問が一つ解決したことで、次の疑問についての話題に移るためだ。

 

 

「ところでさ、ここって何処なの?」

 

「……あぁ、ここね」

 

 

使徒は僕の質問を受けると、気を取り直すかのように再び笑みを浮かべてから回答を口にした。

 

 

「ここは君の心の中……心象風景って奴だよ、Fate的な意味の方のね」

 

「……嘘でしょ?」

 

 

Fateにおいて、心象風景とは主にその人物の精神や心を表した風景の事を指す。

澄んだ心の持ち主の心象風景には青空が広がり、暗い人なら逆に真っ暗といった具合だ。

 

だから信じられなかった。

僕の心象風景が何もない真っ白な空間なんて。

 

僕はそこまで空虚な人間だっただろうか?

 

 

「あぁ、何も無いわけじゃないんだよ?」

 

 

僕の内心を見通すかのようにそう言った使徒が軽く腕を振るうと、僕等を取り囲むかのように幾つかの『山』が現れた。

そして、その『山』を構成するのは僕の馴染み深い物達だった。

 

 

「こう見るとすごいよね……君が見た世界の数ってやつはさ」

 

 

僕の目の前に『山』となって現れたのは漫画やゲーム、ブルーレイにDVDなどの一般的にサブカルチャーや創作物と称される物だった。

そして使徒の言動や、目に映るもの全ての物が見覚えのある物であることから、これらは全て僕が読んだり見たりしたことのある物らしい。

 

確かに、使徒の言う通りこうやって目に見える形に纏められると、自分の事とはいえ少し感心してしまう。

 

 

「で、面白いのはここからだよ」

 

 

そう言って使徒は山の一つから漫画を一つ手に取ると、それを何もない場所に放り投げた。

すると真っ白な地面は、まるで液体であるかのようにトプンと音を立てて漫画を取り込み、その瞬間辺りの風景は一変した。

 

僕と使徒が居た真っ白な空間は、一瞬にして何処かの家の一室に姿を変えた。

足元は畳になり、近くの窓からは青空と向かいの家が見え、僕の近くには開ければ青狸が寝ていそうな襖や、引き出しの中身が未来や過去に通じてそうな机まであった。

 

 

「ここは……もしかして」

 

「ふーん……適当に取ったけど、どうやらドラえもんの単行本だったみたいだね」

 

 

なんとなく暈して表現したのに、ド直球に答えを言われてビクッとする僕をスルーして使徒は何処からともなく漫画を取り出すと、また適当に放り投げる。

そして、のび太の部屋から今度は天下一を目指す大会が開かれそうな場所のステージ上に切り替わったのを満足げに見届けると、複数の創作物を手に取りながら僕の方へと向き直った。

 

 

「まぁ、これでここの仕組みはわかったよね?」

 

 

そう言いつつ使徒は手に取った創作物を一気にばらまいた。

それにより、ヒーローを目指すアカデミア前、サウザンドでサニーな海賊船の上、巨大な壁に守られた町など、次々形を変えていく世界を見せつけられることとなった僕の息は荒くなっていた。

 

こんな、好き勝手に景色が変わるのが僕の心象風景だって?

確かに僕の心象風景なんて自分じゃ想像もつかないけど、こんなのはおかし過ぎる。

 

だって、こんな、創作物以外何も無いような……

 

いや、落ち着け……落ち着くんだ僕!

 

ここが僕の心象風景だとは限らないぞ。

判断材料はアイツの発言だけだから、なんの証拠も無いじゃないか!

だから、僕は……僕は……

 

 

……でも……もしそれが本当だとしたら……

 

 

……僕は……僕は……………?

 

 

「さてと」

 

「っ」

 

 

考え過ぎて深みに嵌りかけていた僕は、使徒の声で意識が外側に向き周りの風景が目に入った。

歯車が幾つも浮かぶ錆色の空に照らされ、様々な剣が墓標のように佇む何処までも続く荒野。

そこは、錬鉄の英霊の心象風景だった。

 

そんな場所で自分と同じ姿をした存在と向き合う、という状況に嫌なものを感じて顔を顰める僕を、比較的地面が盛り上がった場所に立った使徒は笑いながら見下ろしていた。

そして使徒はそのまま先ほどの言葉の続きを口にする。

 

 

「そろそろ本題に入ろうか」

 

「本題だって……?」

 

 

使徒が、僕をここに引きずりこんだ理由を僕は知らない。

しかし今まで命のやり取りをしてきた存在が、このそこら中に武器がある状況で『本題』を切りだしてきたことに、僕はひやりと背筋が冷たくなったのを感じた。

 

 

「そう警戒しないでよ……僕は質問したいだけなんだ」

 

「……何が聞きたいのさ」

 

「君は、碇シンジについてどう思ってるんだい?」

 

 

僕は、その質問に対して顔を顰めるだけで答えられなかった。

もちろん、意味が分からないからだ。

 

 

「まぁ、そういう反応だよね」

 

「……」

 

「じゃあ、ここらで質問の意図を話すついでに改めて自己紹介をさせてもらおうかな」

 

 

そういうと、その言葉の通り使徒は自身について話し始めた。

 

 

「君も知ってる通り僕は使徒だ」

「僕等使徒はNERVの地下に眠る最初の使徒と融合し、世界を滅ぼして唯一の生物になることが目的なんだけど」

「僕はそれに当てはまらない」

「もちろん余裕があったら人類は滅ぼすけど、僕の主な目的は人間を知ることだった」

「偵察係だね、ちょっと遅すぎる気もするけど敵を知ろうと思ったわけ」

 

「ここまでは大丈夫かい?」

 

 

うん、大丈夫。

使徒がそれぞれ記憶を共有してるのは確定したし、使徒がNERVを目指す理由とか初めて知ったけど大丈夫大丈夫。

話には着いて行けてる。

 

 

「人間をエヴァごと取り込み、その頭の中を隅から隅まで読み込んで情報を得る」

「無事にそれを終えて、役目を果たしたところまではよかったんだけどね」

「人間の感情というものを理解した僕の中で、一つの疑問が浮かび上がった」

「どうしても本人にそれを問いたくて仕方が無くて、君を呼んだんだ」

「そして今、その質問を問いかけてるわけだ……」

 

「おーけー?」

 

 

経緯はわかった。

だけど、相変わらず質問の意味はわからないままだった。

 

 

「結局、僕は自分自身についてどう思ってるか答えればいいの?」

 

「いや、僕が聞きたいのは君が碇シンジについてどう思っているかだよ」

 

 

僕はその言葉に対して、また顔を顰める事しかできなかった。

その表現の違いに一体何の意味があるんだ?

 

まるで、僕とは別に碇シンジが居るような……

 

そこまで考えたところで、使徒の笑みがさらに深くなった。

そしてゆっくりと口を開く。

 

 

「……ねぇ、アリシアとフェイトって同一人物だと思うかい?」

 

 

それは先ほど受けた質問そのままだった。

しかし、僕は同じ答えを言う気に慣れなかった。

何故このタイミングでその質問をするのか考えると、答えた結果返ってくる言葉が容易に想像できてしまったからだ。

 

だが、その恐怖にも勝る好奇心が僕の口を動かしてしまった。

 

 

「……別人だよ」

 

「そうか、なら君と碇シンジは別人だね」

 

 

そして使徒の口からは、僕の思った通りの答えが返って来たのだった。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

昔話をしよう。

とある少年の話だ。

 

その少年は両親とではなく、叔父と叔母の家で暮らしていた。

自室に籠って塞ぎ込み、二人を困らせていた。

 

少し前までは両親と共に暮らしていた少年だったが、母は仕事の途中で消失し残った父にも捨てられてしまったのだ。

正確には、父は叔父にその少年を預けたのだが、少年は捨てられたと認識していたし周りも同様だった。

元は年相応に元気に満ち溢れていた少年が、塞ぎ込んでしまうのは道理だと言えるだろう。

 

叔父はなんとかしようと考えるが、今どき珍しい古い考え方の人だったので下手したら体罰扱いされかねない対処法しか思いつかず、叔母に止められ何もできずにいた。

叔母も少年を気にかけ、積極的に声を掛けるも碌に返事もしないのがデフォルトで困り果てていた。

 

しばらく経って、ずっとこのままだと二人が諦めかけた時だった。

ある日、少年は自ら二人の前にやって来て口を開いた。

 

「これの続きがみたい」と。

 

それは、何かのきっかけになればと叔母が買って来て渡した漫画だった。

叔母は初めて少年が自ら話しかけてきたのを大層喜び、次から次へと漫画を買い与えた。

そのうち、アニメやゲームにも興味を示しだした少年に合わせて、それらもドンドン買って少年に与えた。

買うための資金は、少年の父から無駄に多めに送られてきて有り余っていた養育費で十分に足りる程度のものだったので、そちらの心配は皆無だった。

 

やがて、暗い雰囲気を纏っていた少年は少しずつではあるが元気を取り戻し、陰のある表情をあまり見せなくなった。

しかし、部屋に籠りがちなのは変わりなく、通わせている小学校でもいつも一人でいるらしかった。

叔父も叔母もそれを何とかしてやりたかったが、急ぐ必要は無いと考えていた。

ゆっくりと時間をかけて心の傷を癒し、少しずつでもいいから前に進んでくれればいい……そう願っていたのだ。

 

 

そして、それは起こった。

 

学年も変わり、クラスも変わり、新学期初日の始業式の日の出来事だった。

 

 

「叔父さん! 叔母さん! おはよう!!」

 

 

別人のように明るくなった少年が、元気いっぱいに起きてきたのだ。

それは何の前触れも無く突然のことだったので、叔父と叔母は大層驚き用意された朝食を美味しそうに食べる少年をしばらく茫然と見つめることとなった。

先に正気を取り戻した叔父が少年に何があったのか問いかけたが、少年ははぐらかしてさっさと学校に行ってしまった。

 

それから少年は、今までの彼が嘘であるかのように元気な少年となった。

 

まず、叔父と叔母を本当の親のように慕い、言われなくとも自ら家事や料理、その他手伝いなどをするようになった。

学校でも始業式の日には手本のような笑顔で自己紹介をし、今までの少年を知らなかった者とはあっと言う間に仲良くなり、去年から引き続きクラスメイトの者も驚きはしたものの特に深く考えることはせずに受け入れた。

友達を得た彼は、叔父と叔母に許可を貰ってから彼らを家に招いたり、共に外で遊んだりなどをごく自然に行い、今までの名残は全く感じさせなかった。

 

最初は、あまりの変化に慌てふためき少年の事を心配していた叔父と叔母だったが、やがて少年を笑って見守る様になった。

変わった理由は一度誤魔化された後では聞きづらく結局わからないままだったのだが、たくさんの友人に囲まれ楽しそうな彼の様子を見たらどうでもよくなってしまったのだ。

 

こうして、三人は何事も無く幸せな日常を歩み始めましたとさ。

めでたしめでたし……

 

 

 

……まぁ、オチはわかるでしょ?

 

別人のような、じゃなくてまさしく別人だったってワケだ。

二重人格みたいなものだよ。

 

知っての通り二重人格は歴とした実在する病気で、これ以上ないほどに追い詰められた時にする現実逃避が元となって発症する仕組みだ。

その例に洩れず、少年もとっても追い込まれてた……追い込んだのは少年自身だけどね。

 

部屋に引きこもり、サブカルチャー付けの生活を送っていた少年は、一つの妄想をしてた。

まぁ、誰もが一度はする理想の自分って奴さ。

読んでいくうちに主人公やヒーローに憧れる少年がソレを想像してしまうのは、まさに道理ってやつだろう。

 

絶望で塞ぎ込んでいた少年は、数々の物語から色んなことを学んだ。

 

強大な敵に立ち向かう地球育ちの宇宙人で『勇気』の強さを知り、

海賊の王を目指す麦わら帽子のゴム人間から『自由』の意味を教えられ、

多くの仲間と共に世界を救った忍者に『友情』の素晴らしさを見て、

よろず屋を営む天然パーマのダメ人間の『人情』に深いものを感じ、

理想の背中を追ってヒーローを目指す少年から『努力』の大切さを学んだ。

 

そんな風に本当に様々な事を学んだ少年は、それらを元に理想を形にしていったんだ。

 

熱血漢でありながら柔軟な思考を持ち、心の何処かはいつも冷静沈着。

誰とでも仲良くなることができ、周囲の人を笑顔にする。

どんな困難も乗り越え、世界を救ってしまえるような主人公。

 

それがやがて完成した少年の理想の英雄だった。

しかし結果的に見れば、それは完成させちゃいけないものだったんだ。

 

少年はソレに憧れ手を伸ばし続けた。

理想をなぞる様に、叔父と叔母とコミュニケーションを図ろうと試みた。

しかし、親しいものに裏切られた過去の絶望が頭を過って踏み留まってしまった。

 

動きたくて動けない、やりたくてやれない。

そんなことを少年は入学式の日まで何度も何度も繰り返したんだ……

少年にとっては、まさに絶望の日々だったよ。

足踏みする度に理想と現実の差異を感じさせられ、自分はソレのようにはなれないと強く実感させられるんだからさ。

 

そして、始業式当日の日、少年の気持ちは類を見ないほどに沈んでいた。

理想では叔父と叔母とのコミュニケーションなんてとっくに済ませて、今日はその経験を元に学校で友達を作る予定だったのに、現実では何にもできずにいるんだからさ。

自己紹介すらまともにできず、前と同じかそれ以下の学校生活を送る自分を想像して少年は、これ以上に無く絶望した。

一生自分はこのままなんだと悟って、いっそ消えてしまいたいとも思った。

 

その過去最高レベルの絶望と現実逃避がトリガーだったんだろうね。

ついにソレは、少年の内側から表に出たのさ。

少年の意識を押しのけて、体を動かし始めたんだ。

おそらく、ソレはもっと前から少年の中に存在していたんだ。

ソレと自分が別だっていうのは、少年が常日頃から感じてたことだしね。

 

ぶっちゃけ、何が原因かなんて詳しい事は僕にもわからない。

だって君は精神学者じゃないだろう?

それなら僕にもわからないさ。

 

結果的にソレは、少年とは別の存在として体を動かし始めた。

後はさっき語った通り、ソレは皆に受け入れられ叔父と叔母と幸せに過ごした。

その様子はまさに理想の通りで、少年も草葉の陰で喜んでるだろうさ。

 

……あぁ、そうだよ。

本物の少年は消えたよ。

 

もし、本物の少年を求める誰かがいれば、彼の人格が表に戻ってそれこそよくある二重人格みたいに、人格の切り替わりが起こり得たかもしれない。

しかし実際にはソレが少年として生き、本物の少年を求める人は誰もいなかった。

二度と日の目を見ることが無い人格なんて、いつまでも残る必要も意味も無いだろう?

やがて、眠りにつくように消えていったよ……誰にも悟られず、ソレにすら気づかれずにね。

 

まぁ、仕方がないんじゃないかな?

ソレは元々少年にとっての理想の自分だったわけだし、自分が本物の少年だと思い込んで内側に潜む彼に気づけなかったのはしょうがない。

別にソレが悪いわけじゃ無いし、この話を聞く人によっては少年の自業自得だって言う人もいるかもしれない。

 

だからさ、これでこの話は終わりだ。

そろそろ例の質問に戻らせて貰っていいよね?

 

君は碇シンジについてどう思う?

 

ねぇ、答えてよ。

彼の理想の英雄さん。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

使徒は薄い笑みを浮かべながら、その言葉を最後に黙り込んだ。

言いたいことは全て口にした、次はお前の番だと言わんばかりであった。

 

対するシンジは……いや、使徒曰くソレは俯き黙り込んだままだった。

気持ちを言葉にできず、目を合わすことすらできない様子のソレを見て使徒は満足そうに頷くと、何かを話そうと口を開く。

が、それよりも早くソレが話し出し、使徒は耳を傾けた。

 

 

「……正直、自分でもわからないよ」

 

「ふーん?」

 

 

曖昧な答えに対して、同じく曖昧な反応を返す使徒。

それを続きを早く話せという意味と受け取ったソレは、思いの丈を言葉にする。

 

 

「君は悪くないって言ったけど、誰にも悲しまれず消えて行ったシンジくんの事を思うと罪悪感は消えないよ……」

「でも、ひどいようだけどその裏でスッキリした感情もあるんだ」

「散々異常だのあり得ないだの言われて、自分でもどうかと思い始めてた頃だったから」

「だから、自分についての謎が解けてよかったって思ってる部分もある」

「他にも彼の事に気づけなかった自分に対しての怒りだとか、全ての元凶であるマダオへの怒りだとか」

「色んな感情が浮かび上がって来て、どうしようもなく心苦しいんだ」

「そして、多分この気持ちは一生整理がつかなくて、ずっと背負っていくものなんだと思う」

 

 

胸に手を当てながら、俯いたまま吐き出すように心境を語るソレを、使徒は気持ち良さそうに眺めていた。

そしてにやけた表情のまま口を開こうとするが、ソレが突然張り上げた「でも!」という声に邪魔をされた。

 

 

「……でも、一つ自信を持って言えることがある」

「僕は、碇シンジだ」

 

「はぁ?」

 

 

使徒はソレの言葉に、理解できないという風に顔を顰め思わず声を上げた。

実際、使徒は消えて行った碇シンジの存在を認めながら、自分がシンジだと言い張るソレの気持ちが理解できなかった。

何故ならその言葉は、先ほど二回にも渡って行ったアリシアフェイトうんぬんの問答が全て無意味になるからだ。

 

 

「おいおい、どういうつもりだよ……さっきの問答はもう忘れたのかい?」

「君は『僕はシンジに理想の自分として作られたから僕は碇シンジだ!』なんて言うつもりなんだろうけどさ」

「さっき君はアリシアとフェイトは別人だと答えた」

「つまり君は、『たとえ同じ記憶を持って同じ姿だろうが歩んだ道や性格が違えば別人だ』って言ったのと同義なんだよ?」

「それを、自分に都合が悪いからって否定するつもりかよ」

 

 

そう言って睨みつける使徒の視線を受けて、ソレは苦笑しながら「そうなるかな」と答えた。

何か別の根拠を持って反論してくると考えていた使徒は、それを受けると呆れ果てた表情でソレを見つめた。

するとソレは慌てながら弁解を始めた。

 

 

「いや、ほらフェイトはアリシアであること否定したけどさ、僕は別に拒否るつもりは無いわけだし!」

 

「……」

 

「それに、シンジ以外に名乗るものも無いから困るというか……」

 

「……理想の英雄ってのは?」

 

「それは恥ずかしい」

 

 

自身の存在を称する名を真顔で拒否するソレを見て、馬鹿々々しくなった使徒は苦笑しながら一つ尋ねる。

 

 

「その理屈なら、僕も碇シンジを名乗っていいってことかな?」

 

「え? あ、うん、お好きにどうぞ?」

 

「ぷっ……くくく……」

 

「……えへへへ」

 

 

偉くあっさりと名を渡され笑い始めたシンジと、それにつられて自分も笑い始めるシンジ。

しばらく笑いあったあと、ソレであった方のシンジは何かをふと何かを思い出すと、使徒であった方のシンジに話しかける。

 

 

「そうだ、君も僕なら一応伝えとかなきゃ」

 

「ん、なにさ」

 

「僕、戦う理由ができたんだ」

 

「……あぁ、アスカに前聞かれて答えられなかったやつか」

 

 

適当な返事しか返せなかった、というのが正しかったのだが、ソレであったシンジの方も同じ認識だったので素直に頷いた。

 

 

「僕は、碇シンジという名前を英雄の名にする」

「一人の少年の英雄を、誰もが知る世界の英雄にするんだ」

「彼の死に意味を持たせたいとか、贖罪を果たしたいって気持ちも無くはないんだけど」

「なにより、僕は最後まで彼の思い描いた英雄で有り続けたい」

「そう思ったんだ」

 

 

「だから、僕は自分の意思で世界を救うよ」

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

碇シンジ消失から数時間後、NERVの会議室にて。

 

ミサトが欠席した状態のままで行われた作戦会議で『それしか方法は無い』という体勢でシンジのことを一切考慮しない、初号機の回収だけを目的とした作戦をリツコが口にしようとした時だった。

緊急事態ということで、状況に進展があればすぐに連絡が来るよう電源を切らずにいたリツコの端末から、通信が入った事を知らせる音声が響き渡る。

通信相手がオペレーターのマコトであるのを確認したリツコは、内容が自分個人に向けられたものでは無いと判断すると、通話を繋げると同時にスピーカー機能をONにした。

 

 

「どうしたの?」

 

「大変です! シンジくん、初号機との通信が回復しました!」

 

「なんですって!?」

 

 

その連絡を受けたリツコと会議に参加していた人々は会議室を飛び出すと、すぐさま通信指令室へと急いだ。

そして辿り着いた彼女達を待ち受けていたのは、画面に映し出された以前と変わらない様子の使徒と通信機器から響き渡るノイズ音だった。

 

 

「状況を詳しく」

 

「先ほど突如として通信が回復したのですが、電波状況がかなり悪いらしくノイズ音だけで……使徒も変わった様子はありません」

 

 

リツコがオペレーターから説明を受けた直後、同じように連絡を聞きつけてやってきたミサトにも状況を説明すると、彼女は通信機器のマイクに顔を近づけ呼びかけを始めた。

 

 

「シンジくん聞こえる!? 聞こえるなら返事をして!!」

 

『――――――――』

 

 

そう呼びかけた後に、彼女は黙り込んで耳を傾けるが聞こえるのはノイズ音ばかり。

オペレーターがすでに何回か呼びかけを行っているであろうことはミサトもわかっていたが、通信の向こうにいるのが自分の家族に等しい存在なのだから、黙っていられるはずも無かった。

彼女はその後も呼びかけを続け、その数が二桁に差し掛かろうというとき、丁度涙を拭いてからやって来たレイとアスカが入室してきた時、状況は進展の兆しを見せた。

 

 

『―――ォ――――』

 

「今、何か聞こえませんでしたか?」

 

 

オペレーターの一人であるマヤがノイズ音の中で何かを聞き取り、その言葉を受けて室内の全員が黙り込んで耳を澄ます。

 

 

『――ォ―――ォ―』

 

 

「聞こえた!」「俺にも聞こえたぞ!」「僕も!」

 

「シンジくん! 聞こえてる!?」

 

 

ノイズ音の中に隠れた声を職員と共に聞き取ったミサトは、呼びかけるのを再開する。

するとそれに反応するかのように、今まで停滞していた状況が嘘みたいな速度で通信状況が回復していく。

 

 

『―ォ―ォ――――』

 

『ォォ――――ォオ』

 

『―ォ―ォォ―ォォオ!』

 

 

そして、ついにその咆哮は完璧な状態で彼らの元に届いた。

 

 

『オォォォォォォオオーーーッ!!』

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!』

 

「これは、シンジくんのオラオラ!?」

 

「見てください、使徒に変化が!!」

 

 

久しぶりに聞いたそれに驚きの声が上がる中、一同の視線はモニターの使徒に集まる。

モニターに映し出された使徒はいつの間にか大きく形を変えていた。

 

黒い球形に不思議な模様を浮かび上がらせていたそれは、いつの間にかただの真っ黒な球体と化し、今では球体ですらなくなっていた。

ボコボコと一部分が不自然に盛り上がり、巨大な何かが突き破って出てこようとしていた。

いや、もはや何かなどと暈す必要は無いほどに、出てくる者の正体を誰もが確信していた。

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!』

 

『オラァーーッ!!!!!!!』

 

 

そして通信機の向こうから聞こえてきた、一度息を吸ってからのトドメの咆哮と共に初号機が飛び出してきたのを見て、通信指令室は歓声に包まれた。

 

やっぱり彼は俺達の希望だと称えあう職員達に、それを見て呆れるリツコ。

安堵で崩れ落ちるレイと、帰って来るのが遅いと文句を言いながら泣き笑いするアスカ。

そして通信でしっかりと安否を確認してから、本当に良かったと盛大なため息を吐くミサト。

 

そんな風に思い思いの反応でシンジの生還を喜んだ彼女達は、この後これまた思い思いに通信越しで彼に声を掛けた。

それをシンジは苦笑しながら受け取り心配をかけたことを謝ると、後ろを振り返り崩れていく使徒の体をしばらく見てから、不自然に一部の装甲が剥がれた初号機を動かして帰還した。

 

そして、エントリープラグから出てきたシンジを迎えるようにしてそこに立っていたレイとアスカを見て、シンジは誰よりも早く口を開くと笑いながらこう言った。

 

 

僕にも戦う理由ができたよ、と。

 

 

なお、この後にリツコによって行われた質問攻めでは「変な夢を見たけど覚えてない、目が覚めた後暴れまわったら出られた」と供述した模様。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

そうか、それが僕の答えか……うん、応援するよ。

話してくれてありがとうね。

 

……そうだ、僕も聞いてほしい事があるんだった。

まぁ、どっちかっていうとお願いなんだけどね?

 

僕を……食べてほしいんだ。

 

あーはいはい引かない引かない、わかってるわかってる自分でもアレな事言ったのは自覚してるから。

でも、そのまんまの意味だし?

 

これから君はエヴァの中で目を覚ますわけだけど、そのエヴァの前に小さな物体があるはずなんだ。

うん、それが僕の使徒としての本体で、さっきも言った通りそれを食べてほしいんだ。

 

……なんでって?

世界を救うためにはエヴァを強化する必要があるんだよ。

 

君も知っての通り、僕達使徒は学習する生き物だ。

そしてここ最近は搦め手戦法の使徒を君達に仕向け、それら全てを撃退されてきた……

その次はどうするか、わかるだろう?

 

そう、搦め手がダメなら真正面から。

近いうちに君達を暴力の権化のような使徒が襲う。

 

……三人に勝てるわけ無いだろって?

確かに君達も僕等の予想以上に強いけど、それでも多分足りない。

何か奇跡でも起きなきゃ絶対に勝てないと思う。

 

だから、少しでも奇跡が起こる確率を上げるために、仕込みをしておくのさ。

僕等使徒には、無限のエネルギーを生み出す器官があってね?

それを僕ごと食べて、エヴァに取り込むって寸法さ。

そうすればたとえ電力供給が途切れても戦闘を続行することができ、奇跡までの時間稼ぎだってできるはず。

 

だから……え? 僕?

もちろん死ぬけど? 食べられるわけだし。

 

あぁ、心配しなくてもいいよ。

僕は偵察係、9割やられること前提でやってきた使徒だからね。

僕にすれば今更だって。

 

君の味方をする理由?

 

おいおい、僕は碇シンジだぜ?

僕が世界を滅ぼしたいわけないじゃないか! HAHAHA!

 

……まぁ、ね?

僕等使徒の目的は、さっき話した通り世界で唯一の生命体になることなんだけどさ。

ほら、ね?

本能のままにやってきたけど、ね?

冷静に考えると……ね?

 

うん、まぁそういうこと。

ぶっちゃけそんな意味わからん事するより、一人の碇シンジとして君に協力した方がいいんじゃないかと思ったんだよ。

 

うんうん、くるしゅうないくるしゅうない。

その時が来たら、僕に存分に感謝しながら世界を救ってくれたまえよ。

 

 

……さて、もう話すことも無いし、そろそろ目を、え?

エヴァの口?

あるよ! 装甲の下にちゃんとあるから!

装甲なんて気にしないで壊せばいいから!

 

……よし、じゃあ今度こそお別れだよ。

君が目覚まそうと思えばここから出られるし、出た後僕を食べれば僕の体はゆっくり崩れて君は脱出できるはずだ。

 

じゃあね、頑張って世界救えよ!

 

……何さ、僕?

だから大丈夫だって……はぁ?

無い無い、僕が生き残るルートとか無いから。

これが最善だって!

 

……しつこいなぁ。

無理なもんは無理なの!

生き残っても行く場所なんて無いし、都合よく人化なんてできないから。

いい加減行けよ! んでさっさと食べろ!!

連れて来た僕が言うのもなんだけど、待ってる人がいるだろう!?

 

……ふぅ、やっと行く気になったか。

 

うん、がんばってね。

適当に応援してるよー。

 

ん? なんだって?

別の出会い方?

人間と使徒の僕等に別に出会い方なんてあるわけないだろ!

 

いいから行けよ!

行けって!!

はいはい、じゃあね!!!

 

 

……。

 

 

……。

 

 

……やっと行ったか。

後は、僕の言う通りにしてくれることを祈るだけだね。

 

自分の事は自分が一番知ってるって言うし、僕の事はわかってたつもりだけど……

どうやら、全然わかって無かったみたいだ。

 

自分でもひどい八つ当たりだと思ってたけど、まさかそれをプラスに変えるなんて。

さすが僕ってとこかな! なぁーんて……

 

 

……。

 

 

……遅いな、何してんだ僕のヤツ。

さっさとやれって言ったのに、何ぐずぐずしてんだよ。

早くしないと……

 

 

……うぅ。

 

 

……くそっ!

早くしてくれないと余計な事考えちゃうだろ!?

 

あぁ、誰かと話すのって良いなぁ!

ほとんど自分相手とは言え、本当に楽しかった!!

 

他にも、色々……楽しい事いっぱいあるんだろうなぁ……

記憶の中の僕、毎日が本当に楽しそうだったもんなぁ……

 

 

……僕だって、僕だって……!

 

僕だって! 僕みたいに友達が欲しいよ!!

僕だってケンスケやトウジみたいな奴と毎日バカやりたい!!

僕だって可愛い妹が欲しいし、アスカみたいな可愛い子とも話したい!!

 

色んなこと知って、自我が芽生えて! 楽しいって感情を実際に知って!!

やりたいことなんて山ほどできたのに、ここで終わりだなんて!!!

そんなの……そんなのって……!

 

 

……でも、でも仕方が無いんだ。

僕は、使徒なんだ。

本来なら壊すことしかできないけど、何かの間違いで守る手助けができたんだ。

なら、これで……これが、一番なんだよ。

 

 

……。

 

 

……こんな、こんな思いするぐらいなら自我なんか……

 

 

……いや、違う。

僕は自我が芽生えて良かった。

 

多くの命が生きるこの世界を滅ぼして、唯一の生命体になる。

自我のおかげでそれがどれだけ残酷で悲しく、そして無意味なことか理解できた。

本能の赴くまま、なんとなくでこの世界を滅ぼすなんておかしいに決まってる。

僕達使徒は間違ってる……僕は自我が芽生えたおかげでそれを知ることができた。

そして、その間違いを止める手助けをして死ねるんだ。

僕は、それをすごく幸せなことなんだと思っている。

少なくともなんとなくでやってきて、僕に倒された使徒なんかよりはずっとね!

 

だから、僕は自我が芽生えてよかった。

同じく生まれたばかりの心の底から僕はそう思っている。

 

 

……やっと、動き始めたな僕のヤツ。

 

うん、それでいい。

 

僕は、僕の中に渦巻く何もかもを抱え込んだまま死ぬ。

 

これは僕だけのものだ、他の使徒になんてくれてやらない。

 

読み取ってる最中の簡単な心の仕組みぐらいは本能のままに共有しちゃったけど、それだけだ。

 

おそらく、僕が僕であることのマイナス要素は一切無いはず。

 

だから……

 

 

 

だから、

 

 

 

だから、僕が生きたいと思った世界を絶対に守ってくれ。

負けたら許さないぞ、僕め。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、そういえば。

僕の過去に関しては大体嘘で、本当は『大胆なイメチェンして成功したけど、それをすっかり忘れてただけの正真正銘サブカルクソ中学生』だってことをなんやかんやで伝え忘れたけど……

まぁ、いいか!!

 




自分で書いたシリアスに耐えられなくなって、最後の最後で台無しにした作者が居るらしい。

というのは冗談で、理由はあります。
簡単な話、どちらにするか決められなかっただけです。
『わけありシンジくん』と『結局普通シンジくん』どちらで話を進めるか、今回の話を書きながら悩んでいたのですが、結局最後まで決められませんでした。
なので一応、最後の文章の有無でどちらにでもなる様に書かせていただいたつもりです。

感想で言って戴ければ、つけたりとったりするつもりです。
あと、どっちにしても今後の展開は変わりませんのであしからず。

……まぁ、一応?
元から用意してたのは前者のシンジくんで、番外編の方のステータスで『自己改造』スキルを持っているのは、元は別人格だから的な意味がありました。

ですが、なんとなく今世紀エヴァンゲリオンらしさは『さんざん引っ張っといて実はそんなことは無かった』的な後者の方がそれっぽいかなぁ、と思っているので結局決められなかった感じです。

というわけで、感想と評価を貰えたらそれはとっても嬉しいなって……
貴重なお時間を使って読んでいただき、ありがとうございましたッ!!

そしてくっそお待たせしてすみませんでしたぁ!!!
もうシリアスなんて二度と書かねぇからな!!!


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