影が薄くてもダンジョンを攻略する。のは間違っているだろうか? (ガイドライン)
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オリ主紹介

ざっくりと書いてみました♪
なので本編と違ってます!となんてことがあったら教えて下さい。
あっ、容姿については勘弁してください。
想像出来ますがそれを表現するのが難しいです。
どうかよろしくお願いします。


──章 time3に入ったところまでの設定──

 

 

 

トキサキ・(ハジメ)

Lv.1

 

力:I0→I0 耐久:I0→I0 器用:I0→I0 敏捷:I0→I0 魔力:S999

 

《魔法》

一時停止(サスペンド)

・全ての事象(出来事)を停める

・停めたものを再生させる

・再生する際は方向を変えられる

・必要とするもの以外はオート発動

 

《スキル》

【カミカクシ】

・所有者と主神が認めるもの以外は

存在(本人)を認識出来ない

・主神が子を思うかぎり持続する

 

 

 

普通。本人だけが思っているが周りからしたらクレイジーな主人公

顔は整っているが、かといって美形でもなく不細工でもなく、二度三度見ないと覚えられない。

髪は癖ッ毛があり伸ばしすぎると可笑しくなるのでショートカットを維持している。

服装は白のTシャツにグレーのシャツ、ズボンは黒

一時停止により防具は必要としないので常にラフな格好をしている。

 

性格はマイペースで人に合わせようとせずに周りからしたらとんでもないことを平然とやってしまう。

表情は全く変わらず喜怒哀楽が分かりづらい。

相手の名前を改名する癖がありベルは「ベルベル」、ベートは「ベベート」、女性に対しては「姉」とつけることが多いがエイナだけは「嬢」とつけて、アーニャに関しては「ちゃん」付けをしている。マトモなのはヘスティアやロキなどの神様とリューぐらいである。

 

 

家族は両親と姉が一人

しかし姉は失踪し、両親は姉を探しにダンジョンに向かい17階層で階層主に襲われハジメを助けようと18階層に通じる穴に投げ入れてハジメの目の前で土煙と共に消えた。

それから18階層で隠れながら姉の手掛かりを探し続けたが見つからず、久し振りに地上に帰ってきたが家は無くなっていた。それからどのようにしてヘスティアとあったかは未だに不明。

 

スキルである【カミカクシ】により姿は見えず、ハジメとヘスティアが認めた者にしか見えない。つまりダンジョンのモンスターも神でさえもハジメかヘスティアがアクション(キッカケ)を起こさない限りは姿・気配・存在すら捉えることは出来ない。

 

魔法である【一時停止】はあらゆる事象を止めることが出来る。コップから落ちる水も、叱られ殴られた衝撃も、一撃で跡形もなく消えてしまう攻撃さえも止めてしまう。一時停止で止められても再生すれば動きだし向かってきた衝撃などは方向を変えてカウンターのようにうちかえすことができる。

 

ステイタスに載っていない魔法でベートが氷付けにされたがそれがどういうものなのかは明かされてない。

 

 

 

変わったあだ名ファイル(まだあるかも?)

 

ベル →ベルベル

リュー →リュー姉 →リュー

シル →シル姉

アーニャ →アーニャちゃん

エイナ →エイナ嬢

アイズ →アイズ姉

リヴェリア →リヴェ姉

レフィーヤ →レフィーヤ姉

リリ →リーリ

フィン →ダ・団長

ガレス →ガレジイ

ティオネ →ネネ姉

ティオナ →ナナ姉



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time1 ここから始まる。
影の薄さでダンジョンに潜っています。


駄作です。見切り発車です。更新超遅いです。
もしかしたらこの一ページで終わるかもしれない
ようは気分次第でやるので期待しない方がいいかも。




迷宮都市オラリオ

 

『ダンジョン』と通称される地下迷宮を保有する、いや迷宮の上に築き上げられた巨大都市。

そんな『ダンジョン』では毎日が、1分が、一秒が、命懸けの場所であり、冒険者が集い自らの力と経験と仲間との団結力で攻略する場所。

もちろん全ての冒険者が成功を納めることはない。怪物にやられ、ダンジョンという災害に飲まれ、いくつもの命が散っていった。

 

 

それでも冒険者は衰えることはない。

生活のために、仲間のために、富や名声を求めて、自分の命を顧みずにその地へと一歩踏み出してしまう。

 

 

そんな中、ダンジョンに出会いを求める少年がいた。

きっと可愛い女の子と仲良くしたいとか、綺麗な異種族の女性と交流したいとか、英雄の冒険譚に憧れる男が考えそうなことだ。

それでも、不純な動機でも、こうして『ダンジョン』へ潜り、怪物と戦い、ステイタスを上げて、高みへと登っていく。

 

 

 

 

 

さてさて、前置きはここまでにしよう。

ようはどんな人でも『ダンジョン』は受け入れてくれる。

しかしその『ダンジョン』が受け入れてくれず、それでも冒険者で在ろうとする者がいたら、

 

 

 

 

その者は、()()()()()()いいのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、そこを通してくれませんか?」

 

 

 

小さな声が周りの騒音に消され誰も気づかない。それはそうだろう。いまこの『ダンジョン』ではモンスターと冒険者が戦っている

しかし、ただのモンスターではない。

いま冒険者達が闘っているのは…………

 

 

 

「足からだ!!まずは動けないようにしろ!!!!」

 

「上級魔法を準備しろ!!一発で決めるんだあ!!!!」

 

 

 

ここは17階層。そして目の前には階層主。

そういま冒険者が戦っているのは階層主だった

出口は階層主の足により塞がっていて通ることが出来ず、さらにその足はすでに冒険者の手によって片足がやられており動かすことは出来ないようだ

 

 

 

「困りました」

 

 

 

本当に困っているようには思えないほど淡々と言葉を発する少年。階層主が倒されれば出口に、上の16階層へ戻ることが出来るのだがそれはまだ時間がかかりそうだ

 

 

 

 

「攻撃が来るぞおおおおおおお!!!!」

 

「くそ!!!!後衛部隊がやられた!!」

 

「怯むな!!!!」

 

 

 

後衛部隊、つまりは上級魔法による撃退が出来なくなった。これでしばらくはここで足止めを食らうことにならそうだ。

 

 

 

「……………どうしましょうか………」

 

 

 

腕を組み悩む少年。しばらく地上に戻らなかったので神様も怒っているだろうなーと思い帰ろうとしたのだがタイミング悪く階層主が出てきたのだった。

どうしようかと悩んでいる少年だが、

 

 

 

「待つしかありませんかね」

 

 

 

と、その場で胡座をかきその場に留まることにした。

いや可笑しいだろう。そこには階層主がいて、後ろには冒険者達が…………

 

 

 

「いけええええええええええ!!!!」

「うおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

そして板挟みになった少年は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をやっていたんだキミはああああああぁぁぁ!!

あれほどダンジョンに潜ったらダメだっていったじゃないかああああああぁぁぁ!!!」

 

 

 

帰ってこられた。

しかし神様から有難いお説教をもらっている。

正座をしてただ説教を聞いていた少年だが、少しは言い訳をいいたくなったのだろう。

 

 

 

「友達が欲しかったので」

 

「だからダンジョンに出会いを求めたらダメだって言ってるじゃないかあぁ!!!

ただでさえベル君が夢を見てダンジョンに向かっているというのに………君までそんなことをしたらこのファミリアは簡単に潰れてしまうよ!!」

 

 

 

廃墟と化してある教会でまるで懺悔をしているように見えるが実際は聞き分けのない子供に大人が説教をしているだけ

 

 

 

「大丈夫ですよ。ベルベル一人でも問題ないんでしょう。最近はベルベルが稼いでくれていますので楽になりました」

 

「君も冒険者なら稼いできたらどうなんだ!!」

 

「僕のスキルじゃ無理ですよ」

 

「ッ!!!!

ご、ごめんよ……ついカッとなってしまって……」

 

「いえいえ、仕方ありませんから」

 

 

 

平然として言う少年に対して神ヘスティアは失態だと落ち込んでいた。この少年はベル・クラネルが入団するずっと前からいるヘスティア・ファミリアの一員。しかし少年のスキルが、少年自身を、ファミリアを()()()()を貫いていた。つまりは貧しい日々から一向に変わることはなかった。

 

しかしベルが入団したことにより、少しずつだがお金も入ってくるようになった。だからといって少年を責めるのは筋違いだ。だって少年のステイタスは、

 

 

トキサキ・(ハジメ)

Lv.1

 

力:I0→I0 耐久:I0→I0 器用:I0→I0 敏捷:I0→I0 魔力:S999

 

《魔法》

一時停止(サスペンド)

・全ての事象(出来事)を停める

・停めたものを再生させる

・再生する際は方向を変えられる

・必要とするもの以外はオート発動

 

《スキル》

【カミカクシ】

・所有者と主神が認めるもの以外は

存在(本人)を認識出来ない

・主神が子を思うかぎり持続する

 

 

 

 

(大体何なんだこの魔法は!!このスキルは!!!

この二つがあるからこの子は!!)

 

 

まず一時停止の因果の停止、そして認識によるオート発動

この因果(出来事)はステイタスにも影響するようであり、そこに()()()()()()()()()はオート発動してしまい、どうやら魔力以外は必要とされないと()()()に判断した。そして停止させられたステイタスはどうしても力などには付かなかった。なので方向を変えて魔力にすべて注ぎ込んだ。

 

そしてスキルである【カミカクシ】はヘスティアにとってハジメを苦しめているといっても過言ではない。主神であるヘスティアとハジメが二人が認めるもの以外はハジメを見ることも認識さえも出来ない。つまりいくらハジメが人間関係を深めようとしてもヘスティアが知らなければ誰もハジメを認識出来ない。ダンジョンではモンスターを不意打ちで倒せるかもしれないが……

魔力以外のステイタスを持たないハジメがモンスターを倒せるわけもなく、ただ防御一点だけでここまでやって来たのだ。

 

 

 

(酷すぎる……あんまりだよこんなのは……)

 

 

本人は気にしてないようだが、冒険者としてこれはあまりにも致命的である。モンスターを倒せない、ステイタスも上がらない、知り合いでなければ助けも呼べない。

 

それでもハジメは諦めていない。

 

 

 

「とりあえずステイタスの更新してもらってもいいですか?変わらないかもしれせんが」

 

「そ、そんなことないよ!!!必要となったら更新されるんだ。君がどれだけ求めているか君自身が分かっているはずだからね」

 

 

 

そうまだ諦めるのは早い。きっとこの子は誰もが驚く冒険者になるんだ!!!!



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影が薄くてもバイト出来ます。

『豊穣の女主人』。ドワーフの女性が店主をやっている冒険者の間では人気の酒場だ。そこでは様々な種族がウェイトレスをしている。その中で、

 

 

 

「勝手に3日も休むなんて……いい度胸してるじゃないかハジメ」

 

「すみません」

 

「謝る気持ちがあるなら休むんじゃないよ!!!」

 

 

 

ドワーフの店主、ミアがハジメの頭上に思いっきり拳を叩きつけた。その瞬間誰もがダメだと、周りからしたら死んでしまうかと思われる一撃だった為に目を閉じてしまったが、一向に響くような、壊れるような音がしなかったのでゆっくりと目を開けると

 

 

 

「危ないですよ、僕じゃなかったら死んでます」

 

「なに平然な顔をして言ってるのさ。さっさと着替えて仕事しな!!!」

 

 

 

その拳は確かに頭にあったがこれ以上は無意味だと分かったミアはその手を引っ込めてさっさと厨房へと戻っていく。

それを確認したウェイトレスの皆さんが駆け寄ってきて

 

 

 

「ハジメさん!!大丈夫ですか!!?」

 

「はい、問題ありません」

 

「全く貴方って人は……ミア母さんが怒るのを分かってやってますよね」

 

「仕方ありません、ダンジョンに向かうのは衝動ですから」

 

 

それを聞いたシル、リュー達ウェイトレスはハァ~とため息を付いた。これはこれ以上何を言っても無駄だと分かったからだ。とにかくここでクダクダと話していると自分達にも被害が及ぶと思ったリューは

 

 

 

「とにかく仕事をしてください。そうすればミア母さんも許してくれるはずです」

 

「分かりました」

 

 

 

素直に言うことを聞いたハジメはお店の奥へと向かった。そこで動きやすい服装へと着替えてまず倉庫の整理を始めた。ハジメがこのバイトをする前までは力のあるミアかリューなどがやっていたが、 ハジメがダンジョンで稼げないと分かってからここへバイトとして入った日から「男なら力仕事を進んでやりな!!!」とミアに一喝されてやっている。

まずは酒ダルや酒ビンを移動させた後に、小麦粉など重たいものから軽いものへと順番ずつに整理をしていく。二時間ぐらいかけて大まかな整理が終わったところで、

 

 

 

「トキサキさん、そろそろ開店の時間です。ウエイターの服装へ着替えてください」

 

「分かりました」

 

「それとあとでクラネルさんも来られるそうですのでその時間に休憩を取ってください」

 

「ベルベルが来るんですか、何も聞いてませんでした」

 

 

 

まぁ、ヘスティアにあの後ステイタスを更新してもらったが結局は変わらなかった。するとこの神様はまるで自分のように「もうーどうして変わらないんだ!!!」と怒りだし、バイトの時間になったのでヘスティアをそのままにして出てきたのだった

 

 

 

「………トキサキさん、一つよろしいですか?」

 

「なんですか」

 

「魔法やスキルを教えるのはタブーだとわかっています。ですがあえて聞きます、貴方は一体どんなものを持っているのですか?」

 

「そうですね、どちらも教えても問題はないんですけど神様に「絶対に教えたらダメだぞ!!!」って言われましたので………スキルだけ教えますね」

 

「……いや…聞いておいてなんですが、教えたらダメなのでは……」

 

「大丈夫です、僕が怒られるだけですから」

 

 

 

それがダメなのではと思ったが言うのを止めた。ハジメがバイトに来てから不思議なことは何度もあった。もちろんそれが魔法かスキルだとは思ったがそれが何なのかさっぱり分からない。もちろんただの興味本心なのでダメだと言われればそれまでと割りきっていたのだが、案外普通に教えてもらえることになった

 

 

 

「簡単に言えば自分と神様が認めた人しか僕は見えません」

 

「………そう、ですか……」

 

 

 

あまりのことに言葉を無くしたリュー。簡単に、まるで他人事のように喋るハジメに対してどういったらいいのか分からないからだ。確かにこの店でウエイターらしいことはほとんど出来ていない。注文を取ろうにもお客様には気づいてもらえず、だから仕方なく料理を運んだり皿を片付けさせると「いつのまに!!!!」とそのテーブルで物が増えたり減ったりして不気味と言われていた。

と、不気味だと言われていたのは初めだけでそれさえもお店の趣向だと思われ始め、今では名物だと言ってもいいほどそれを見たいとお客様が来て売り上げがグーンと上がった。つまりミアがハジメに対して怒った真の理由は売り上げ貢献であるハジメがいなくなった為である。

 

しかし、それはてっきりハジメの技術的なものだと思っていた。それはそうだろう、お店にいる皆はハジメを認識しているのにお客様は誰も気づかないのだ。何かあるとは思っていたがまさか、

 

 

 

(確かにトキサキさんがお店に初めて来たときは、神ヘスティアと一緒に来ていた。その時に私達は二人に認められたということですか)

 

 

 

なら説明がつくが納得というか理解というか現実を認めたくない。ハジメのスキルは本人だけではなく神ヘスティアが認めなければ認識されない。つまりはヘスティアが知らないもの、そしてヘスティアが嫌いなものに対してハジメは誰一人認識されないのだ。ここでリューには言っていないがヘスティアが(ハジメ)を想う限り効果は消えない。そうヘスティアがハジメを嫌いにならない限りはこのスキルは継続していく。

 

 

 

「教えてくださいましてありがとうございます」

 

「いえ、職場の仲間ですから」

 

「そう言ってくださると助かります」

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

「ベルベル、楽しんでますか?」

 

「えぇっ!!なんでハジメがここに!!!」

 

「ハジメさん、教えてなかったんですか……」

 

「バイトしてますとは言いました」

 

 

 

それは言っているとは言いませんよ…とシルとベルが嘆きながらハジメは首を傾げる。『豊穣の女主人』が開店し賑やかになったところでベルが入店し、ミアから大量の食事とシルの巧みな戦略を喰らい驚いていた所にハジメが現れ、もう疲れきっている様子のベルに対してハジメは

 

 

 

「そんなにダンジョン大変でしたか」

 

「……いや、確かに大変だったけど…今ほどじゃないよ」

 

「よく分からないことを言いますねベルベルは」

 

 

 

同じファミリアなのにどうしてこう話が合わないのかとハジメと出会ってから思っていた。なんか上手く掴めないような感じでキャッチボールをしているのに別のことをやり始めるような……

 

 

 

「ミア母さんから休憩取っていいと言われてますし、ハジメさんもベルさんと一緒に食事なんてどうですか?」

 

「元々そのつもりです。ベルベル、ゴチになります」

 

「なんで僕が払うの!!!??」

 

「………お客だから?」

 

「二人分も払うお金がないことぐらい分かってるよね!!!!」

 

 

 

どうやら冗談が通じないようなので「ベルベルの食べているものを少しもらいます」というとホッとした表情を見せる。しかし厨房からはミアの鋭い視線が向けられていたが無視することにした

 

 

 

「ってか、ハジメはこんな所で食べてて大丈夫なの?」

 

「お客の反応なら問題ないですよ。僕が知ってても神様が知っている人はいない。それに別々に認識して僕を認識した人はいないから見えてませんよ」

 

「それは気にしてないけど……あの店長に怒られないの?なんかすごくこっちを睨んでるけど…」

 

「あぁ、ベルベルが奢ってくれなくてお店に貢献できなかったから」

 

「それ僕のせいなの!!!?」

 

 

 

完全に被害者なのに可哀そうなベル。とハジメの同僚達は同情していた



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影が薄くてもケンカ売ります。

二日続けて書きました。
ただしばらくは書けないかも、もう一つの小説を進めたいのでよろしくどうぞ。




ベルと一緒に食事をしてさて休憩を終えようしたころ、どっと十数人規模の団体が酒場に入店してきた。

 その団体――ファミリアの主神を筆頭に小人族、アマゾネス、狼人、エルフ、ドワーフ、ヒューマンと他種族同士が案内された席へと歩いていく。

 

 

 

 

「ッ!!」

 

「どうしましたベルベル」

 

 

 

『豊穣の女主人』に入ってきた団体はオラリオ最強の一角【ロキ・ファミリア】

そのなかでも一人、ずば抜けてオーラの違う者が、其処らの女性よりも、美しい、綺麗、そういう言葉がしか当てはまらない女性冒険者がお店へと入ってきた

 

 

 

「……おい、もしかしてあれ……」

「…あぁ…巨人殺しのファミリア」

「第一級冒険者のオールスターじゃねえか」

「じゃ、あれが【剣姫】なのか……」

 

 

 

 

どうやらお客と同じようにベルベルもあの剣姫を見ているようだが、お客とは違い見る目が違うことに気づいた

 

 

 

 

「……へぇ、ベルベルは見る目はあるんですね」

 

「な、なに言ってるのハジメ!!!」

 

「いいんじゃないんですか、夢は見るものですから。それからどうなるかは知りませんが」

 

「フォローしたいの!!?落としたいの!!?」

 

 

 

 

誤魔化しているが明らかに好意があるのは分かる。すると休憩しているハジメに向けてミアが

 

 

 

 

「坊や!!仕事だよ!!いま入ってきた客に持っていきな」

 

「分かりました、それじゃベルベル楽しんで」

 

「う、うん……」

 

 

 

未だに真っ赤なベルは空返事をしながら料理を食べている。その様子に特に気にも止めずにハジメはミアから料理を受け取り先程来たお客「ロキ・ファミリア」のテーブルに料理を並べる。

 

 

 

「うおっ!!!料理がいつの間にかある!!!」

 

「おぉ!!!今日は「ステルス」がおるか!!!

相変わらず訳の分からん奴やな、この神でも見抜けないなんて一体なんやホンマに……」

 

 

 

その名前はハジメがバイトを始めてから一週間もせずに付いた名だった。誰にも気付かずにテーブルに料理が運ばれ知らないうちに空になった皿が無くなっている。

初めはオバケとか幽霊とか騒がれていたが、ミアから従業員になにいってるんだい!!と激怒されてそれからお客の間では存在するが見えないという意味をこめて「ステルス」と名付けれた

 

 

 

「それはともかく、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! 今日は宴や! 飲めぇ!!」

 

 

 

主神であるロキ様のもと、ロキ・ファミリアの宴が始まった。それからベルは目を皿のようにしてヴァレンシュタインさんを見つめていた。まるで夢心地のような表情に先程とは違う意味で笑みがこぼれる。

ハジメはというと次々と注文された酒や料理を運んでいた頃、宴が半ばに差し掛かりヴァレンシュタインの向かいの狼人が声を張り上げた

 

 

 

 

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

「あの話……?」

 

 

 

ヴァレンシュタインさんは心あたりがないのか首を傾げる。

 

 

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス! 最後の1匹、お前が5階層で始末しただろ!? そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

 

 

その瞬間、ベルが凍りついたように動きを止めた

 

 

 

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐに集団で逃げ出していった?」

 

「それそれ! 奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていったやつ!こっちは帰りの途中で疲れていたのによ~」

 

 

 

ハジメは未だにこの話がベルのことを言われていることに気づいておらず料理を運ぶ

 

 

 

「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせぇ冒険者(ガキ)が!

抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ! 可愛そうなくらい震え上がっちまって、顔をひきつらせてやんの!」

 

「ふむぅ? それで、その冒険者どうしたん? 助かったん?」

 

「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」

 

「……」

 

「それでその震えてた方、あのくっせー牛の血を全身に浴びて……真っ赤なトマトみたいになっちまったんだよ!」

 

「うわぁ……」

 

「アイズ、あれ狙ったんだよな? そうだよな? 頼むからそうと言ってくれ……!」

 

「……そんなこと、ないです」

 

「それにだぜ? そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまってっ………ぶくくっ! うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!」

 

 

ちょっと落ち着いてきたのでハジメはベルの所へ向かおうとしたのだがどうもがおかしい。

 

 

 

 

「しかしまぁ久々にあんな情けねぇヤツラを目にしちまって、胸糞悪くなったな。野郎のくせに、泣くわ泣くわ」

 

「……あらぁ~」

 

「ほんとざまぁねぇよな。ったく、泣き喚くくらいだったら最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての。ドン引きだぜ、なぁアイズ?」

 

「ああいうヤツラがいるから俺達の品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」

 

 

少しずつベルの表情が悪くなっていく。それに伴ってさっきから聞こえてくる声が、言葉が、耳に入ってくる

 

 

 

「いい加減にそのうるさい口を閉じろ、ベート。

ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利はない。恥を知れ」

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねぇヤツラを擁護して何になるってんだ?

それはてめえの失敗をてめえで誤魔化すための、ただの自己満足だろ? ゴミをゴミって言って何が悪い」

 

 

 

ほうーなるほどこの話の題材はどうやらベルのようだ。

 

 

「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震え上がるだけの情けねぇ野郎どもを。あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

 

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。……じゃあ、質問を変えるぜ? あのガキどもと俺、ツガイにするなら誰がいい?」

 

「うるせぇ。ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどの雄に尻尾振って、どの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」

 

 

すでにこのベートと呼ばれる獣人の声しか聞こえない

……なるほど、ファミリアの仲間をこんな風に言われるとこんな風になるんですね……

 

 

「黙れババアッ。……じゃあ何か、お前はあのガキどもに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」

 

「はっ、そんな筈ねえよなぁ。自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしてる雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねぇ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

一刻も早くその口を閉じさせたかったので()()を手にして獣人の所へ向かった。僕が見える人達は必死に止めようと言っているようだが、

 

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合

「五月蝿いから黙ってください。」

 

 

 

ハジメが持っていたのは真っ赤に染まった唐辛子たっぷりの液体。それはもう飲み物、食べ物の枠を越えていておりそれをベートの口の中へと押し込んだ。

 

 

 

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「ハ、ハジメッ!!!!」

 

「何してるんですかトキサキさん!!!?」

 

 

 

さっきまで落ち込んで苦しんでいたベルが、どういうわけか驚いている。おぉ、少しは元に戻ったかな?

 

 

 

「トキサキさん、貴方は何をしてしまったのか分かってるんですか!!!」

 

「五月蝿いワンコに躾です」

 

「ロキ・ファミリアの第一級冒険者なのですよ!!そこら辺のチンピラとは訳が違う!!」

 

 

 

リューからの説教をされていると苦しんでいたベートが近づいてきて

 

 

 

「そこにいるのかクソステルスが!!!

こそこそせずに文句があるなら直接向かってきたらどうだあぁ!!!」

 

「待ってください!!!この人には理由が!!!!!」

 

「知るかあ!!!

俺が誰か分かってやってんだよな!!!だったら出てきやがれ!!!!てめぇが売ってきたケンカだぁ、買ってやるよ!!!!」

 

 

 

完全に自分を見失っているベート。ロキ・ファミリアはベートの暴走に呆れかえっている。しかし主神であるロキは

 

 

 

「なにやってるんやベート。お店の邪魔になるやろうが、やるなら外でやらんか」

 

「止めないんですかロキ様!!?」

 

「無理や無理。あのバカ完全に頭に血が上って止められんわ。それに……ステルスの正体が見れるならベートの一人くらい問題ないわ」

 

 

 

何気に酷いことを言っているように聞こえるが、信頼しているからこそ言える言葉とも取れる。

すると厨房から出てきたミアがハジメに向かって

 

 

 

「坊や!!店に迷惑かけんじゃないよ!!!明日から一週間給料なしだからね!!!」

 

「はい、分かりました。」

 

「本当に分かってるのかい!!

負けたら一ヶ月タダ働きだよ!!!!!」

 

「分かりました」

 

「ミア母さん!!?何を言ってるんですか!!!」

 

「安心しな。流石に勝ちはしないだろうが()()()()()()()



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影の薄さで野良犬を倒しましょう。

もう一つの小説が上手く書けず、ストーリーが思いついたこちらを書いてみました。内容に疑問があると思いますがどうか優しい心で読んでください。

余談というか自分事ですが堂本光一のshock当選です❗
いや公演まで楽しみです❗
それではどうぞ。





「長期戦だと周りに迷惑をかけるからな

ルールはこっちで決めるからええな」

 

「勝手にしろ、あの野郎をぶっ飛ばせるなら何でもいい」

 

 

路上にはロキ・ファミリアや『豊穣の女主人』にいたお客、そして野次馬がぞろぞろと集まってきた。それはそうだろう、あのロキ・ファミリアがそれも第一級冒険者であるベートがケンカをするのだ。そんなものがダンジョン以外で見えると分かると誰もが見たくなる。

そしてその相手が、

 

 

 

「本当に大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫です」

 

「ミア母さんが大丈夫だと言ってましたが……貴方はまだ駆け出しの冒険者。十分に注意をしてください」

 

「はい」

 

 

 

ミア以外はハジメの応援の為に外に出ている。一人店にいるミアは未だに料理を続けている。それは誰のためなのか……

 

 

 

「……ハジメ…」

 

「せっかくの料理が不味くなりましたね。あっ、不味いはミア母さんに失礼ですね。うーん…………野良犬のせいで気分を害したというべきですかね」

 

「いくら聞こえないからって言い過ぎだと思うよ!!!!」

 

「ベルベルは優しいですね。明らかに向こうが悪いのに。」

 

 

 

そうベルは優しい。いくら自分が蔑まされようとも他の人のために一緒に考える。それはなかなか出来ることではない。だからこそベルのために

 

 

 

「だからこそベルベルの為に僕が怒るんです」

 

「……ハジメ……」

 

「そして再起不能にしてやります」

 

「完全に私情挟んでるよね!!!!」

 

 

 

最近はベルベルのツッコミが上手くなってきた気がするなと思いながらハジメは、人によるリングの真ん中にいるベートと対面するようにその場に移動した。もちろんそこにハジメがいると認識出来るのは仕事仲間であるリュー達だけであるために

 

 

 

「ロキ様。トキサキさんを見ることが出来るのは私達『豊穣の女主人』だけですので、私が審判をしても宜しいでしょうか?」

 

「構わへんけどヒイキはいかんで。いくらステルスが見えへんと言っても結果を確かめる術はいくらでもあるんやからな」

 

 

 

いつも惚けるような表情をしているロキがまるで獲物を刈り取ろうとする鋭い眼でリューを見ている。普通なら怯えたり何やら反応があるが全く臆せずに

 

 

 

「もちろんです。神ロキ様に誓ってそのようなことは致しません。」

 

「そうか、ならええで。ベートもええな」

 

「さっさと始めろ!!」

 

「短気な奴やな、今からルールを説明するからちゃんと聞きや」

 

 

 

クソッと舌打ちをしているベートだがそこはちゃんと割りきって大人しく聞くことにしたようだ。それを確認したロキはルール説明を始めた

 

 

 

「ルールは簡単や。相手に一撃を入れたら勝ちや。そやけどステルスは二回目が一撃と見なす。死に関わる攻撃は禁止。ええな?」

 

「あぁ」

 

「分かりました」

 

「了解したそうです」

 

「そか、なら準備はええか?」

 

 

 

戦闘体勢に入ったベートと特に構えもせずにただ立っているハジメを確認したリューはロキにOKの合図を送り、それを受け取ったロキは片手を空に向けて上げて開始の合図と共に手を振り降ろす

 

 

 

「開始や!!」

 

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

 

 

(さぁ、さっさと来やがれ!!!)

 

 

 

ベートは待っていた、ステルスが攻撃するのを。

無闇に周りを攻撃すればいつか当たるだろうがそれだと格好悪い。それに一発目ではなく二発目が一撃となっているのだ、たかが低レベルの冒険者の攻撃なんぞ喰らったところで何ともない。

 

 

 

(その一発目から二回目に移行する間に決めてやる!!!!)

 

 

 

ステルスが放つ一発目から二発目の間に攻撃しようと考えている。僅かな間しかないと思うだろうがベートにすれば十分な時間がある。だから今ベートが考えるのはただ一つ

 

 

 

(研ぎ澄ませ!!!何処から攻撃しようが直ぐ様反撃来てやるぜ!!!!!)

 

 

 

ロキがステルスへとハンデをあげたつもりだろうが所詮は低レベルの冒険者で自分は第一級冒険者、これぐらいハンデにもならない。

 

 

 

(側面から来るか、後ろから来るか、上から来るか、飛び道具でも使ってくるか……なんにしろその一発目を当てた時点でテメェは終わりだ!!!!!)

 

 

 

さっきまで頭に血が登っていたベートなら、もしかしたら少しの可能性があったのかもしれない。だが冷静なベートはすでに死角からの攻撃だろうとも対処できるぐらい頭が冷えていた。

全く負けるイメージがなかった。これは一方的なものであり、憂さ晴らし、どれだけ足掻こうが弱者は弱者だと知らしめるためものだと

 

だから思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二発目の、一撃の攻撃が入りました。勝者、トキサキ (ハジメ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ハァ?」

 

 

 

言っている意味が分からなかった。いまこのエルフは何を言いやがった………二発目が、一撃が入った…だと……!!!

気づいたときにはエルフの前に立ち思いっきり睨み付けながら

 

 

 

「ふざけたこと言ってるんじゃねぇ!!!!

二発目だぁ?そんなもの俺は喰らってねぇぞ!!!!!!」

 

「いいえ、確かに二発目が入りました」

 

「テメェ!!!!」

 

「貴方は気付かなかったかもしれませんが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、確かに当たったことを確認しました」

 

 

 

な、何を言っているのか分からなかった。ベートだけではない。周りの人達さえその真実が信じられなかった。確かに姿も認識出来ないとはいえ「攻撃」さえも感じれないというのか??

 

 

 

「そんな攻撃当たっても認識できへんという事か?

もう完全な暗殺者(アサシン)やないか」

 

「それは……違うようです神ロキ」

 

「どういうことや?」

 

「……………詳しくは教えてくれませんでしたがトキサキさんは力「0」だそうです。なので攻撃が当たっても感じられなかったと………」

 

「は、はぁー!!?なんやそれは!!!!いくら魔術専門やとしても力「0」なんて、というかファミリアに入ってきた子でも0なんてなかったで!!!」

 

 

ざわめきが走る。それはそうだろう、冒険者でもあるハジメが力0でいることに。そんなの……

 

 

 

「……はっ、なんだそりゃ……()()()ですらねぇってか!!!!!」

 

「ッ!!!そんな言い方!!!!」

 

「ウルセェよ雑魚が。あぁ、もしかして力がまったくない奴が化物を、ダンジョンを攻略できると、本気で思っているのか!!!?」

 

 

 

ベルの必死の言葉も簡単に崩された。それはベル自身が分かっているからだ。力無きものがダンジョンを攻略なんて、ましてやあの化物を倒すことなんて出来ないとその身にいくつも、いくつも、いくつも、いくつも、刻み込んできたのだから……

 

 

 

「……興が覚めたぜ、クソが……」

 

「ちょっとベート!!どこへいくのよ!!!!」

 

「ウルセェ!!!テメェには関係ねぇだろうが!!!!!!」

 

 

 

近くの木箱を蹴り飛ばして仲間の制止も聞かずに去っていく。その姿にファミリアの神であるロキは、

 

 

 

「あかんわ、あのバカいまからダンジョンに一人で行くつもりや」

 

「……私も、行ってくる」

 

「えぇ!!アイズたんも行くんか~酌してくれるっていったやんか~」

 

 

 

そういいながら第一級冒険者にフラれた神ロキはトボトボとお店の中に戻り、残りのファミリアと飲むことにした。そして二人の第一級冒険者はダンジョンへと向かう

 

その姿に困惑を隠せないベルは近くにいたリューへ話しかける。

 

 

 

「ど、どうして突然ダンジョンなんかに行ったんでしょうか?」

 

「……見ていられなかったからじゃないでしょうか?

力0という冒険者ではありえないステイタス。それでも冒険者であるというなら、あの人達にとってトキサキさんは冒険者としての()()だったんじゃないでしょうか」

 

「………戒め……」

 

 

 

考え込むベルの元へなん気なく戻ってきたハジメは

 

 

 

「さぁベルベル。食事の続きといきましょう」

 

「……ごめんハジメ!!これで支払いしておいて!!!!!」

 

 

 

ベルは手持ちのお金を全てハジメに渡して走り去っていった。いつの間にか店の外に残されたのはハジメとリューだけだった

 

 

 

「頑張りますねベルベルは」

 

「……貴方は、トキサキさんは、行かなくていいんですか?」

 

「バイトを抜け出したら今度こそクビですよ」

 

「ミア母さんがそう簡単に貴方をクビなんてしません」

 

「…………行きませんよ。これはベルベルの冒険ですから」

 

「トキサキさんは、冒険はしなくていいんですか?」

 

 

 

少し間が空いた後、表情も声も変わらずに淡々と答えた。

 

 

 

「僕は……冒険しているんですかね………」



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影の薄さはサポーター向きだそうです。

なんかストーリーを思い付いて、今なら一気に書けると思い書きました。さてさて読者の皆様、何人の方がハジメがサポーターになると予想出来ましたか??(笑)

………調子に乗りました。すみません。
それでは張り切ってどうぞ。




「な、に、を、やってるのよ貴方達はアァァァァァァァァ!!!!」

 

 

ダンジョンを運営管理する『ギルド』の窓口受付嬢、エイナ・チュールは、名物になっているだろうこの大声を出した後に頭を抱えていた。

目の前にいる白髪の少年は碌な装備もなくダンジョンに向かいボロボロになって帰ってきた。

そして黒髪の無表情な少年はバイト先でロキ・ファミリアの第一級冒険者にケンカを売りオラリオ中の話題になった

そして今ダンジョンから帰ったきたベルとその付き添いのハジメを叱っているエイナである。

 

 

 

「ベル君あれほど()()()()()()()()()()()だって言ったでしょう。只でさえ一人でダンジョンに向かっているのに……」

 

「僕もいますよ」

 

「ハジメ君も勝手にダンジョンに行っているでしょう!!

それもベル君よりも酷くて……もう~二人とも私をそんなに困らせたいの!!!!」

 

「そんなつもりはないですよエイナさん!!」

 

 

 

周りからしたらエイナは「二人に説教している」ように見えるが、そこには一人に対して二人分説教しているように見えている。以前にも同じようなことが何度もありエイナと同じ職員からは「エイナが仕事のし過ぎで壊れた」と見られてしまった。いくらそこにもう一人いると言っても誰も信じてくれない。

ハジメがエイナに会った時はヘスティアと共に来ており、ハジメの担当だということでヘスティアも認めてくれた。なのでエイナはハジメを認識出来る。基本的にハジメはどんな人でも好意的に思っている。しかし神であるヘスティアでも全てのものを好意的になんてことは出来ない。それに常にハジメと一緒にいることも出来ない。だから大抵のものにハジメを認識することは出来ない

 

ともかくそんな状況下においてもすでに免疫のついたエイナは気にせずに説教を続ける。

 

 

 

「ハァ~、とにかく二人とも今度からは一緒に行動すること」

 

「やめたほうがいいと思いますよ。僕ではベルベルの足手まといになるだけです」

 

「ハジメはまだそんなこと言ってるの!!」

 

「ハジメ君はベル君と一緒のファミリアなんでしょう。だったらベル君を頼ってもいいと思うなー。戦闘に参加しろって言っているわけじゃないの、ベルのサポーターとして手助け出来るんじゃないかな」

 

「………ベルのサポーター、ですか………」

 

 

 

ふむ、と考え込むハジメ。

サポーター、ベルと共に戦うではなくベルの手助けをする。確かにそれなら自分にも出来るかもしれない

 

 

 

「でもサポーターと言っても何をすればいいんでしょうか?」

 

「口で説明するのは簡単だけどこういうのは経験するのが一番じゃないかな。ベル君にとってのサポーターだから一緒にダンジョンに行って何をすればいいのか、どうしたら助けになるのか、実感するのが一番の近道だと思うの」

 

「なるほどですね」

 

 

 

今まで考えたことのないこと、自分がモンスターと戦うだけではなくベルの為に手伝いをする。そんな新しい事に挑戦すると考えたトキサキは表面では表情では分かり難いがかなり喜んでいる

 

 

 

「分かりました、前向きに考えさせてもらいます」

 

「前向きじゃなくてやってほしいところなんだけどな…」

 

「なるほど、つまりはエイナ嬢は「だから嬢ってつけないでって言ってるでしょう!!!!」今すぐにでもベルのサポーターとしてやってもらいたいんですよね」

 

「そうじゃないとベル君一人じゃ心配じゃない」

 

 

 

するとまた考え込むように唸るハジメ。それを見たベルは「あっ、ヤバイかも」と直感的に感じ取る。そしてその分かり難い表情のまま

 

 

 

「いま神様は『神の宴』でいません。そしてエイナ嬢はベルベルと担当者ですよね」

 

「そうだけど……」

 

「つまりは今現在僕達の行動の決定権はエイナ嬢にあるわけですよね」

 

「えっ、なに?何を言っているの?」

 

 

 

エイナが気づいたときにはもう遅かった。トキサキがこれだと思ったら誰も止められない。特にこういう面倒くさいことが起きるときは

 

 

「それではお願いします」

 

 

 

強制的に話が進んでいくのだ。

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

「僕は今日から1週間タダ働きをしないといけませんでしたが、ベルのサポーターとして付き添うことになりました。ベルがダンジョンに行ってお金を稼いで貰わないと食べ物さえ買えません。つまりはベルは絶対にダンジョンに向かう必要があります。そしてそんなベルのサポーターと僕も付き合わなければいけません。すみませんが1週間初日で休みを取ることになりました。

ということでベルのサポーターを()()()()()()エイナ嬢と一緒にこれからの僕のシフトを考えて頂きたいのですが宜しいですかミア母さん」

 

 

 

「…………………ほう」

 

「…………………………」

 

 

 

僕の目の前には今にも激怒しそうなミア母さん。隣には顔が真っ青になりかけているエイナ嬢。そして僕の後ろには呆気にとらわれているベルがいて、周りのお店の仲間も突然のことに驚いている。

 

 

 

「人様のバイトのシフトを勝手に変えるなんて、いい度胸してるじゃないか」

 

「ちょっ、ちょっとお待ちください!!勝手なことだとは分かりますが、ハジメ君も冒険者ですしバイトよりもダンジョンに行った方が……」

 

 

「つまり私達の仕事が冒険者より劣っていると言いたいのかい?」

 

「ち、違います!!!!ハジメ君にとってはダンジョンに行った方がいいと思うだけです!!!!ベル君一人でダンジョンに行かせるわけには行きませんし、だったらハジメ君がサポーターとして行ってくれると安心するんです」

 

 

「ちょいと心配し過ぎじゃないか。大体の男なら危険の一つや二つ自分の力で乗り越えなくて何が冒険者だい!!」

 

「ベル君はまだ初心者なんですよ!!!!そんな子が危険の一つあるだけでも向かわせたくないのに、二つも三つもあったら命がいくつあっても足りません!!」

 

 

「命張らずに何が冒険者だあ!!いいかい、冒険者ならダンジョンで冒険しなきゃ冒険者じゃないのさ!!!!」

 

「そういう考え方は如何かと思います!!!!初心者にも同じようなことを簡単に言えというのですか!!モンスターの倒し方も知らない子が簡単に命を落とすような場所なんですよ。冒険者は冒険をしない。これはダンジョンを冒険することに対して大事なことなんです!!」

 

 

「冒険者は冒険しない、なんて何バカなことを言ってるんだい!!この街は冒険者がいることによって賄っているといっても過言ではないんだよ!!あんただってギルドの人間なら分かっているはずさ、冒険者は冒険するからこそこの街が成り立っていることを!!」

 

 

 

「そうだとしても……」

「何を言っているんだい……」

 

 

 

「違います………」

「分かってないね……」

 

 

「いいか…」

「ちが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トキサキさんはどうしてこうもトラブルを持ってくるんですか?」

 

「そんなつもりはないのですが……解決しないと僕が怒られると思いまして」

 

 

 

ゆっくり近づいてきていたリューはハジメに愚痴をこぼす。そうでもしないとこの場の空気に耐えられないと感じたのだろう。実際リュー以外の店員は聞こえないふりして掃除を念入りにしている

 

 

 

「間違いなく後で怒られますよ、お二人に」

 

「……………あー………ダンジョンに行きましょうかベルベル」

 

「僕まで巻き込む気でしょうハジメ!!!!」

 

 

 

その後今日1日と明後日だけ休みをもらったハジメ。しかしその後に二人から別々にこってりと怒られたのは言うまでもない。



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影が薄いのにトラブルがやってきました。

あれから三日後

未だに神ヘスティアは帰ってこない。出掛ける前から何日か帰ってこないとは聞いていたがこんなに時間がかかるとは思っていなかった。

だからいまはベルベルと一緒に朝食を取り、今日も朝からダンジョンに向かうことになっていた。

 

ちなみに冒険以外はバイトをしているのだがどういうわけかリュー姉が「トキサキさん、休憩を取った方がいい。一体何時間働き詰めなんですか?」とか、シル姉が「ミア母さんも休んでいいって言ってますよ」とか、本人であるミア母さんが「元気なのはいいけど体を壊したらただのバカだよ!!いい加減に休みな!!!!」と激怒された。

キチンとバイトしているのにどうして怒られるのか分からないが、働いた分以上に給料をもらえたので気にしないことにしている

 

 

 

「神様、まだ帰ってきませんね……」

 

「あの方は抜けている所がありますから道に迷っているんじゃないですか??」

 

「……ハジメって神様に対してもブレないよね……」

 

「そうですか?」

 

 

 

朝食を食べ終わりダンジョンに向けて準備をして家を出る。失われるものは少ないが念のためにお金が入っている机には必ず一時停止で開かないようにしてあるので問題はない

 

 

 

「戸締りはいいですね、さて行きましょうか」

 

「本当にハジメの魔法って便利だよね。金庫番とか向いてるんじゃないの」

 

「失礼ですねベルベルは、これでも僕は冒険者。それに金庫番になっても泥棒が僕の姿を見えないから次々に現れて対処するのが面倒くさいです」

 

「今のバイトはいいの?大変じゃない?」

 

「ミア母さんやリュー姉にシル姉の皆さんは良くしてくれますから。それにお客さまをからかうのは楽しいです」

 

「そんなことしてるから怒られるんだよ……」

 

 

 

昨日のバイト中もベルベルが夕食を食べに来てくれたので知っているのだが、姿が見えずに料理がいつの間にか現れる「ステルス」は店の名物となっている。なのだからか……サービスとして背後から「うわっ!!」と脅かしたからか……サービスをしているのだがミア母さんに度々怒られている。サービ……からかっているだけなのだが。

 

 

 

「それはともかく」

 

「誤魔化したね……」

 

「ともかくこの前のダンジョンはなかなか良かったと思います。エイナ嬢が言ったように僕はサポーターに向いているようですね」

 

「……あれって()()()()()の仕事なのかな?」

 

「ベルベルの戦闘を効率よくしているじゃないですか」

 

「そうなのかな……」

 

 

 

納得いかない顔をするベルベル。何が不満なのだろうかと考えながら歩いていると『豊穣の女主人』の近くを歩いていることに気づいた。店から出できた猫人(キャットピープル)のアーニャちゃんがこっちに気づいて

 

 

 

「お~い、鉄仮面こっちにくるニャー」

 

「いい加減に鉄仮面は止めてくださいアーニャちゃん。それだと僕はあまり話さず、考えていることを表に出さない、無口な ・押し黙った ・ 寡黙な ・ あまり喋らない ・ 口数の少ない ・ 口が重い ・ めったに口を開かない ・ 感情を表に出さない ・ 何を考えているか分からない ・ 口数が少ない ・ 静かな ・ 物静かな ・ 喋らない ・ クールな ・ ポーカーフェイスみたいじゃないですか?」

 

「絶対に無口だけはないニャー……それにアーニャはアーニャだニャー!!年上だから「ちゃん」付けするなニャー!!!!」

 

「しかしリュー姉とシル姉とは違い、明らかに子供なので」

 

「失礼な事をいうなニャー!!!!」

 

 

 

両手を上げて威嚇をしてくるアーニャちゃんに何故かポケットに持っていた猫じゃらしをユラユラと揺らす。すると目の前に揺れている猫じゃらしに反応するアーニャは左右へと動くそれを追いかける。ある程度遊んだアーニャはまるで意識を取り戻したように「ハッ!!」と表情をして

 

 

 

「アーニャで遊ぶなニャー!!!!」

 

「すみません、つい」

 

「ついで遊ぶなニャー!!そこの白髪頭も見てないで止めろニャー!!!!」

 

「す、すみません!!!!」

 

「本当ですよベルベル」

 

「ハジメが悪いって分かってる!!??」

 

 

 

するとはぁーとため息をつきながらお店から出てきたリュー姉は、いまにも飛び付こうとするアーニャの肩に手を置いて

 

 

 

「落ち着いてください。トキサキさんが人をからかうのは今に始まったことではないはずですよ。毎回相手していると身が持ちません」

 

「それはそうだけどニャー…リューはそんな被害がないから言えるんだニャー!!」

 

「当たり前です。リュー姉は僕の憧れの方なのですから」

 

 

 

すると普段は冷静なリューの頬が若干赤く染まっているように見えたが、直ぐ様後ろへ向いたので本当だったのか分からない

 

 

 

「ちょっと待つニャー!!」

 

「待ちません。受け付けません。

早く用件を言ってください」

 

「む、ムカつくニャー……あぁもうー!!これをシルに届けろニャー!!!!!」

 

 

 

そういって悪意を込めてハジメに投げつけたのは財布。それも女の子らしい財布であり、これをシル姉に届けるということは

 

 

 

「お使いに行ったのに財布を忘れた愉快なシル姉、ということでしょうか」

 

「いえお休みを貰って怪物祭(モンスターフィリア)に行ったのですが財布を忘れたようで」

 

「なるほど怪物祭(モンスターフィリア)に向かったのに財布を忘れたドジっ子なシル姉、ということですね」

 

「………もう、それでいいですので渡してもらえませんか?私達は仕事がありますのでお願いしますクラネルさん」

 

「ええっ!?ハジメじゃなくて僕ですか!!!!」

 

「…………何故かトキサキさんに渡すとトラブルに巻き込まれそうな、そんな予感しかしませんので」

 

「酷いこと言いますね」

 

 

 

それでは僕がいつもトラブルに巻き込まれていると言っているようですね、本当に失礼です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう何処にいったのでしょうか?」

 

 

 

ここは闘技場の周りの一角。さっきまで一緒にいたはずのベルベルが勝手に何処かに行ってしまった。少し目を離した隙に……

 

 

 

「あっ、ハジメさん」

 

「シル姉、こちらにいたんですか」

 

 

 

ここでシル姉に会うということはやはり僕がトラブルを招くなんてないことが証明されましたね。うん。

 

 

 

「こちらって…私に用があったの?」

 

「ありましたがベルベルがいないと達成できませんね。ちなみにシル姉の財布を届けにきたんですよ」

 

「私はそんなドジじゃないですよ!ほらちゃんと……」

 

 

 

すると財布がないことに気づいたのかパタパタと身体中を調べ回っている。その現実に気づいたシル姉は

 

 

 

「……え~と……」

 

怪物祭(モンスターフィリア)に向かったのに財布を忘れたドジっ子なシル姉、ですね」

 

「事実だけど言わないでー!!」

 

 

 

可愛らしく真っ赤になったシル姉は両手で顔を塞いでその場に座り込む。

 

 

 

「可愛いですから問題ないですよシル姉」

 

「こ、こういう時にそんなこと言わないでください!!」

 

 

 

そんなやりとりをしているなか、周りがざわめきだしてきた。何事かと立ち上がったシル姉の不安は的中することになった。そして

 

 

 

「モ、モンスターが逃げ出したぞー!!!!」

 

 

 

その叫び声と共に少し離れた場所で爆音と粉塵が立ち上がった。次々と何かを追いかけるように立ち上がる粉塵。

 

 

 

 

「モンスターって……」

 

「どうやら本当にトラブルがやってくるなんて…うーん、これは困りましたね」

 

「ハジメさん、安全な場所に逃げましょう!!」

 

「そうですね、シル姉だけでも安全な場所に行って貰わないといけませんね。移動しましょう。」

 

 

 

その言葉に初めは唖然としていたシル姉だったが、その意味を理解したのかハジメの腕を取って

 

 

 

「ハジメさんもですよ!いくら冒険者でも相手はモンスターなんですよ!危険です!!」

 

「すみませんがベルベルを探さないといけませんので、あの子は迷子になっているようですし僕が見つけてあげないと」

 

 

その言葉とハジメの瞳を見たシルは分かってしまった。きっとこれ以上何を言っても聞いてくれないだろうと。それにハジメには「アレ」があるから……なら、

 

 

 

「ハジメさん………気を付けてください」

 

「はい、ベルベルを見つけて財布を渡さないといけませんので待っててくださいね」

 

 

 

さてさて、何処に行ったのかなベルベルは…



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影の薄さがついに主人公なしでストーリーを進めます。

こちらではお久し振りです。
ダンまち8をやっと読み終わり「書きたくなったな~」という気分でひさしぶりです。
うん、9巻?? アハハ!!!!いつ読み終わるやら~❗
それでは、よろしくどうぞ 


時間は遡り、大通りに面する喫茶店、その二階。

通りを一望できる窓際の席には長い紺色のローブを羽織っている『美の神』フレイヤと、淡色の朱髪にシャツとパンツというどこかだらしない男のような印象のロキと、鞘を収めた剣を携えロキの護衛するかのように位置に立っている金髪金眼の少女アイズがいた

そしてこの神同士が集まっている理由は、

 

 

 

「率直に聞く。何をやらかす気や」

 

「何を言っているのかしら、ロキ?」

 

「とぼけんな、あほぅ」

 

 

ロキはその細い目を猛禽類のように鋭くフレイヤを睨む

 

 

 

「最近動き過ぎやろ、自分。興味ないとかほざいておった『宴』に急に顔を出すわ………今度は何を企んどる」

 

「企むだなんて、そんな人聞きの悪いことを言わないで?」

 

「じゃかあしい」

 

 

 

視線の応酬が続くなか、おもむろにロキは脱力し、それまでの雰囲気を霧散させ、確信した口調で声を打つ。

 

 

 

「男か」

 

「……」

 

 

女神は答えない、ただフードの奥で微笑を称えるのみ。

だがロキはその笑みを肯定と取ったようだ。

呆れたように長く大きなため息をつく。

 

 

 

「はぁ………つまりどこぞの【ファミリア】の子供を気に入ったっちゅう、そういうわけか」

 

 

 

フレイヤの多情……いわゆる男癖の悪さは、神々の中でも周知の事実だった。

気に入った異性───もっぱら下界の子供達────を見つけてはすぐにアプローチを行い、その類ない『美』を用いて自分の()()とする。

そして今回目をつけたのは恐らく他【ファミリア】の構成員。

 

 

 

「ったく、この色ボケ女神が。年がら年中盛りおって、誰だろうがお構いなしか」

 

「あら、心外ね。分別ぐらいあるわ」

 

「抜かせ、()()どもも(たぶら)かしとるくせに」

 

「彼等と繋がっておけば色々便利だもの。何かと融通が利くわ」

 

 

かっ、とロキは喉を鳴らす。

しばらく間が空いたが再びロキが

 

 

 

「で?」

 

「…………?」

 

「どんなヤツや、今度自分の目に留まった子供ってのは?いつ見つけた?」

 

 

 

教えろ、とロキは口端を吊り上げる。

 

 

 

「…………」

 

「そっちのせいでうちは余計な気を使わされたんや、聞く権利くらいあるやろ」

 

 

 

強引な理由を振りかざすロキに、フレイヤは頬を左手、窓側に向けた。

メインストリートを行く大勢の子供達を眼下に置く。あたかも過ぎ去ったいつかの光景を思い出すように、フードの奥の銀瞳が遠い目をした。

 

 

 

「…………強くは、ないわ。貴方や私の【ファミリア】の子と比べても、今はまだ頼りない。少しのことで傷付いてしまい、簡単に泣いてしまう……そんな子」

 

「でも、綺麗だった、透き通っていた。

あの子は私が今まで見たことのない色をしていたわ」

 

「見つけたのは本当に偶然。たまたま視界に入っただけ」

 

「あの時も、こんな風に……」

 

 

 

 

日の光にが霞む早朝、西のメインストリート。

通りの向こうから、あの少年がこちらへとやって来て。

そう、たった今、視界の中を走り抜けていったように。

 

 

 

 

「────」

 

 

 

その銀の視線が、冒険者の防具を纏った『白い髪の少年』に釘つけとなった。

ひしめく人の群れに縫って時には減速しながら、時には足を止めながら、先へと駆けていく。

そんな中、その少年と同じように人の群れを抜けて、いや、「人が何故か避けて出来た、人と人の隙間」が並走しているように見えた。しかしそこには誰もいない。それもすぐに隙間はなくなり人で溢れる

ただの偶然だろう、とフレイヤは思った。

身を隠す物は存在し、それを使っている可能性もあるが、それがどうしても少年を追いかけていると判断出来ない。あの少年はまだ弱い。その少年ファミリアは小さく自分以外が目をつけることはあり得ないと自覚しているからだ。なので、そんな考えはすぐに消え再び少年の背中を見つめる

その足が向かう先は闘技場、怪物祭。周囲の流れに同伴するように少年は円形の巨大施設に進路を取る

その背中を見つめるフレイヤは、ゆっくりと、蠱惑な笑みを浮かべた。

 

 

 

「ごめんなさい、急用が出来たわ」

 

「はぁっ?」

 

「また今度会いましょう」

 

 

 

ローブでしっかりと全身を覆い隠し、店内を後にする

その場には残されたロキとアイズだけが残された。

 

 

 

「何や、アイツ。いきなり立ち上がって

ん? アイズ、どうした?何かあったん」

 

「……いえ」

 

 

 

何も、と続く言葉とは裏腹に、アイズは外を見続けていた。

彼女の金の瞳は、奇しくも女神の銀の瞳と同じように、見覚えのある白い髪を追っていた。

そして女神の銀の瞳が追うのを止めた()()も一緒に。

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

ヘスティアはヘファイストスから作ってもらった『神の(ヘスティア)ナイフ』を手に、『怪物祭(モンスターフィリア)』が開かれている東のメインストリートに向かっていた。

しかし東のメインストリートを目前にして一気に人の密度が増したために馬車が進まなくなった。その為裏道を使いメインストリートに向かっていたヘスティアの前に

 

 

 

「あれ、もしかして、フレイヤかい?」

 

「………ヘスティア?」

 

「君も怪物祭を見にきたのかい? こんな道を通るなんて、随分と急いでいるようじゃないか」

 

「……ええ。人通りが激しいところは堂々と出歩けないから、こうして人目を忍びながら先を急いでいるの」

 

「あー、『美の神』も大変だねぇ」

 

 

 

美の化身とも言える彼女が表通りを闊歩すればそれだけで周囲は大混乱だ。

フードの下で微笑するフレイヤに、ヘスティアはうんうんと頷く。

 

 

 

「あっ、そうだ。フレイヤ、ボクの【ファミリア】の()()を見なかったかい?今探しているところなんだ」

 

「…………」

 

「白い髪に赤目をしたヒューマンで………そうそう、こう、兎っぽい!」

 

 

 

手を振らながら嬉々とベルのことを説明するヘスティアに対し、フレイヤは一時の間笑みを消し、黙る。

だがすぐに再び微笑みを浮かべ、自分が辿ってきた道を示した。

 

 

 

 

「そういえば見かけたような気がするわ。この先の東の大通りで」

 

「本当かい!?」

 

「ええ。真っ直ぐに闘技場を目指していた様だから、この道を左に曲がれば、上手く先回り出来るんじゃないかしら」

 

 

 

嬉色満面にヘスティアは笑顔で「ありがとうー」と伝え、彼女の言葉を鵜呑みにする。

クスリと笑いヘスティアと別れるつもりだったフレイヤだが、ふっとヘスティアのある言葉が気になり立ち止まりヘスティアに問いかける

 

 

 

「一つ質問してもいいかしら?」

 

「な、なんだい……君がそんなことを言うときは決まって厄介事だからね………」

 

「そんな邪険に扱わなくてもいいじゃない。私は貴方に情報をあげた、ならわたしに一つくらい質問してもいいんじゃないかしら?」

 

「ぐっ……分かったよ………でもベルについては何も話さないからな!!!!」

 

 

 

それはそれで知りたかったことではあるが、今はそれ以上のものがある。始めは気のせいだと思っていたが何故か気になってしまったのだ。()()()()()()()……

 

 

 

 

「さっき【ファミリア】の()()って言ったわよね。この前の宴の時は一人しかいないように言っていたけど」

 

「ああ……いや…まぁ……そうだね……」

 

 

 

歯切れの悪いヘスティアにフレイヤは確信した。

ヘスティアの【ファミリア】には白い髪の少年以外に()()()()いることに

 

 

 

「別に隠さなくてもいいじゃない。冒険者ならいずれバレるのだから」

 

「……そうかもしれないけど…いや、あの子なら()()()()()()()()()()……」

 

 

 

その言葉に気になっていたものが一気に膨れ上がった。

今すぐにでも聞き出したい思いを押さえ込み冷静に気にしていたことを言葉に出す

 

 

 

「教えてくれるわよね?ヘスティア」

 

「いつにも増して笑みに凄みがあるよフレイヤ……

………分かったよ、別に隠している訳じゃないし…それに教えたところでどうにも出来ないしね」

 

 

 

どういうことなのかと首を傾げるフレイヤにヘスティアはふぅーと息を吐いて答える

 

 

 

「早くベル君の所に行きたいし簡単に言うよ。

確かに僕の【ファミリア】にはベル君ともう一人トキサキ・(ハジメ)という子がいる

ただその子は影が薄くてね…僕の【ファミリア】に入って契約を結んだときに………その、なんだい、スキルが発現してね…それからは見えなくなったんだハジメ君が」

 

 

 

その事実に衝撃が走る。普段は落ち着いているフレイヤの表情は明らかに何かを欲している。しかしフードのお陰でヘスティアには見えなかった。自分の表情に気づいたフレイヤはすぐに表情を戻して

 

 

 

「いいのヘスティア?他の【ファミリア】にそんな重要なことを話しても?」

 

「構わないよ。そのスキルは常に発動しているから隠しようがないし、それにさっきも言ったけど誰にも見えない、認識できないからね」

 

「それじゃヘスティアと【ファミリア】以外は見えないわけね」

 

「そういうわけじゃないけど……とにかく君が知りたい事は教えたから僕は行くよ!!くれぐれもハジメ君のことは他言しないように頼むよ!!あくまでもこれは情報の交換だからね!!!!」

 

「ええ、もちろん」

 

 

 

本当に頼んだからね!!と捨て台詞を吐くかのように走り去っていくヘスティア。その背が消えるまで見届けたフレイヤはフードの奥で微笑し

 

 

 

「言うわけないじゃない、誰にもね」

 

 

 

新たな玩具を手にしたような喜びが溢れ出す。まだ見たこともない少年と見ることも出来ない少年。自分のものにしたい衝動を押さえながらフレイヤもまた裏道から姿を消した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ………どこに行ったんだろう…」

 

 

 

ベルは闘技場周りを走り回っていた。途中からハジメを見失っていたベルは手掛かりもなしに手探りに探し回っていた。もちろんシルも一緒に探しているがどちらかというと影の薄いハジメを先に探しておきたい。

一度息を整えてもう一度探そうと考えていた所で突然に視界が真っ暗になった。

 

 

 

「だれーだ!!」

 

「え、えっ、ええ!!神様ですか!!??」

 

「なんだよベル君、もう少し「ええ~誰かな~」とか戯れてもいいじゃないか」

 

「す、すみません……というかどうして神様がここに!?」

 

「別にいいじゃないかベル君!それよりベル君、せっかくのお祭りなんだ僕とデ」

 

 

 

「モンスターが逃げ出したぞおおおぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

叫び声と共に地響きが鳴る。周りの人達も慌てて逃げ出す様子を見るととても危険な状況だと理解できる

そしてその一体、シルバーバックがどういうわけかベル達に向かってくる

 

 

 

 

「に、逃げますよ神様!!」

 

「ベ、ベル君!!いやデートを!!!!」

 

「何を言ってるんですか!!逃げますよ!!!!」

 

「ベル君とのデートがああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

きっとこれはフレイヤのせいだ!!と内心で叫びながらシルバーバックに追われる羽目になった





内容ではハジメは出てきましたが、本人なしでもストーリーは進められるようですね。
しかし、やり過ぎると「なんだこの小説は!?」と思われるので次からはちゃんと出ますよ。

というか、今回はただヘスティアがベルとデート出来ずに落ち込むさまを書きたかっただけです(笑)


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影が薄いからこそ出来ることがある。


一気に書きました‼
本当は2話に分けようとしましたが、ここはまとめてだ‼と思い少し更新に時間がかかりました。
それなりの出来かと思います。

あっ、超余談ですが堂本光一のshock、今日見に行きます。楽しみです‼!!


ダイダロス通り

オラリオの東と南東のメインストリートに挟まれる区画にある貧民層の広域住宅街。

奇人の異名を持つ設計者ダイダロスが担当による度重なる区画整理のせいで非常に複雑になってしまい、一度迷いこめば二度と出て来れないといわれ、もう一つの迷宮と称されている。

 

そんな中を現在、ベルとヘスティアはシルバーバックに追われている。

 

 

 

 

「それじゃハジメ君もここに来ているのかい?」

 

「でも途中ではぐれてしまいまして…」

 

「相変わらず身内でも見失う影の薄さなんて……」

 

「アハハ……」

 

 

 

格上のモンスターに追われているというのにまるで緊張感がない二人。さっきからシルバーバックの攻撃はベルの身体ギリギリ掠めており、それが一撃となれば大ダメージを受けて立ち上がることも難しいだろう

だけど、それでも、この二人には余裕がある。

 

 

 

「とにかくハジメ君がくるまで逃げるんだベル君

あのモンスターを迎え撃つにしてもハジメ君が来るまでは我慢するんだ」

 

「はい‼」

 

 

 

そう、二人は待っているのだ。

ハジメが来ることを、このダイダロス通りという名の迷路だというのに、来るということに対して疑っていない。

そしてハジメが来ればシルバーバックを迎え撃つという。レベル1であるベル、ここで迎え撃つことは冒険者として「冒険」しているだろう。しかしこの戦いはまるで「勝てる」という自信があるかのようにみえてくる……

 

 

 

「それにベル君!!君にはプレゼントを用意してるんだ‼これさえあれば君はハジメ君に追い付けるよ‼!!」

 

「本当ですか!!!??」

 

「もちろんだとも!!!あの子にも苦労かけたんだ………今度は僕達がやるんだ‼」

 

「はい‼」

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

「どこにいったんですかねあの二人は……」

 

 

 

ベルとヘスティアが意気込んでいるのに、全く緊張感がない声で二人を探しているハジメ。とりあえずモンスターが出てた為に騒ぎになっている所を探しているがいまだに見つからずにいる。すると目の前にさっきよりも人が集まりガヤガヤしているのを見つけた。

人混みの周りを見渡すがその姿はなく中心へと入っていくとそこにいたのは、

 

 

 

 

「これで終わりやね」

 

「もう、いないですか?」

 

 

 

そこには『豊穣の女主人』にお得意様であるロキファミリアの神ロキとアイズ・ヴァレンシュタインがモンスターを倒し終わり一息ついていたところだった。

もしかしたら二人を見ているかもと思い、アイズに近づいて肩に触れようとしたが

 

 

 

「ッ!!!!」

 

 

 

ハジメが近づいてくるを感じたのか一瞬のうちにその場から離れたアイズ。周りからしたらいきなり行動を起こしたアイズに対して何が起きたのか分からずにいた

 

 

 

「どないしたんやアイズさん?」

 

「………いま、誰かが私に触れようとした……」

 

「なんやてー‼

誰や!!うちのアイズさんを勝手に触れようとした罰当たりな奴はああああぁぁぁぁぁ!!!!

アイズたんに触れていいのはうちだけやあぁぁ!!!」

 

 

 

といいながらロキはアイズに抱きつこうとしたがスゥーと避けた。その行動にロキはムスゥーと頬を膨らませているがアイズはいつものことだと無視をしている。それにそれどころじゃない、全く気配がなく()()()()という行動が起きるまで気づかなかった。周りを見渡すがどこなもいない、気配もない。

しかし、足元にはさっきまではなかった地面に「溝」があった

 

 

 

[どうも、こんにちは]

 

「………え、えーと……こんにちは?」

 

 

 

自分でもどうして返事したのか分からなかったが、さっきまではなかった文字があったので何かが自分に話しかけているようだったからか……

すると本当に会話をしているようにまた地面に文字が

 

 

 

[こうして話すのは初めてですね]

 

「あなた……誰?」

 

[そうですね、『豊穣の女主人』の「ステルス」と言ったらいいですか?]

 

「おお‼なんやあんた喋れたんかい!!!」

 

 

 

ロキも気づいたようで地面に書かれた言葉に対して返事をする。

 

 

 

[もちろんです。今回はベルを探していましたのでこうして会話をすることにしました]

 

「なんやそれやと普段はしたくないみたいやな」

 

[したくないというか「こうして会話をする」しかないので面倒くさいので]

 

「確かにイチイチ紙に書くなんて面倒くさいしな」

 

 

 

それでもこうやって会話する方法があるなら少しは会話しろよと思うロキだが、賛同した手前口に出すことはやめた

 

 

 

「で、ベルって言ったか?それってあの白髪の男のことか?」

 

[はい、知りませんか?]

 

「そう言ってもな~」

 

 

 

するとガヤの中から「そういえばやたらデカイモンスターが白髪の少年とツインテールの女の子を追いかけていったな」「そうそう、確かダイダロス通りに向かってたな」と話が聞こえてくる

 

 

 

 

「どうやら分かったみたいやな」

 

 

……………………………………………………。

 

 

 

 

なんだろう………ハジメに話しかけているはずなのにどういうわけか返事がない。暫く沈黙が続く中痺れを切らしたロキは

 

 

 

 

「おい、返事せんかい‼」

 

「…もう、いないんじゃ……」

 

「だったら尚失礼や!!!!なに情報だけもらって消えとるねん‼!!」

 

 

 

イラッとしたロキはその場で地団駄を踏んでいる。その姿をどうでもいいような目で見ているアイズはその場から駆け出した。

 

 

 

「ちょっ、ちょっとアイズ!!!!置いていかんで‼!!」

 

 

 

ロキの言葉は届かずアイズの頭のなかではただシルバーバックに追われている白髪の少年の安否と、さっきまでいた「ステルス」の実力を見てみたいと考えていた

 

 

 

(……あなたは一体、どんな戦いをするの?)

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

「来ました神様!!!」

 

「あともう少しなんだ‼」

 

 

 

ベルとヘスティアはダイダロス通りにある隠れた空地でステイタス更新を行っていた。ステイタスによる能力上昇とヘファイストスに作ってもらったヘスティア・ナイフの所有者にすること

しかし思ったより時間がかかり、すでにシルバーバックは壁をよじ登りベル達に迫っていた

 

 

 

 

「まだですか!!?」

 

「上手くいかないんだよ‼

ベル君!!!僕がいない間にハジメとどれだけ一緒にいたんだい!!!!間違いなくベル君にも影響出てるよ‼!!」

 

 

「そんなことあるんですか!!!?」

 

「それしか考えられないよ!!実際ハジメ君のステイタス更新はやたら時間がかかるからね‼って、モンスターが来たああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

どうやら一時停止によるものか普段の更新速度より遅い。それがまさかハジメと一緒にいただけで影響が出るなんてそんなことあるのか!?

ハジメが悪いわけではないがどうしても考えてしまう。どうしてこんなときになんてことをしてくれたんだと‼!!と。

迫りくるシルバーバックに思わず目をつぶるヘスティア、馬乗りされていたベルは起き上がりヘスティアを覆い被さり守ろうとする。二人とももうダメだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず仲がいいですね」

 

 

 

ベルとヘスティアがゆっくりと目を開けるとそこにいたのはハジメだった。それもシルバーバックの拳を()()()()()()()()

あり得ないことが目の前で起きている。レベル1の冒険者がシルバーバックの攻撃を無傷で、片手で、平然としているのだから。

しかしそんな異常な事が起きているのにも関わらず

 

 

 

 

「ハジメ君!!僕のベル君に一体何をしたんだい!!!!!」

 

「いきなりですね。お久しぶりです神様。お元気で何よりです」

 

「ひ、久しぶりだねハジメ君……じゃないよ‼

ベル君のステイタス更新が遅くなってるんだよ‼」

 

 

 

ハジメのマイペースについつい乗せられてしまったヘスティアだが、それどころではないと直ぐに思考を戻して今起きている事を元凶かもしれないハジメに……

 

 

 

「あぁ、昨日ベルの背中に虫が寄ってきたので背中を叩きましたからその時じゃないですか」

 

「やっぱり君かいいいいいぃぃぃ!!!!!」

 

「何してるのハジメ!!!!!!」

 

 

 

元凶だった。

それも思いっきりハジメが関わっていた。

するとさっきまで突然の出来事に放心状態だったシルバーバックが後方へ飛んで距離を取った。目に写らない「何か」に恐怖したが直ぐ様それを「敵」と見なした

 

 

 

 

 

「よく分かりませんがステイタス更新しているなら、僕が時間を稼ぎますね」

 

「頼んだよハジメ君!!

ということだ、そこのモンスター君。

君は僕の、僕達の、「敵」として認識したよ‼!!」

 

 

 

その瞬間シルバーバックの瞳に何もなかった所から、いや、さっき「敵」と認識した場所からモヤが現れゆっくりとそのモヤが消えてくる。そして現れた「敵」は真っ直ぐこっちを見ている。見えるならその「敵」は脅威ではないと判断したシルバーバックはその者に向かって攻撃を始めた。

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

アイズが走り出して暫くすると目の前に人混みがあるのを発見した。ざわざわと隠し扉の向こう側を見ている野次馬に対して、アイズはそこに残り一匹のモンスターがいるのではないかと考えた。それと同時に白髪の少年と「ステルス」がそこにいるのではないかと。

近づくと野次馬達が何かを話している

 

 

 

 

「あれ、なにしてるんだ?」

 

「さぁ~練習してるんじゃねぇのか」

 

「はぁ、モンスターが!?ありえねぇー!!!」

 

「だけどよ、さっきからずっと何もないところを攻撃してるぞ」

 

「酒でも飲んで訳が分からなくなってるんじゃないのか!!!」

 

 

 

アハハ!!!とモンスターがいるのに全然怖がっている様子がない。不思議だと感じたアイズは人混みをかき分けて先頭に出ると、そこにはさっき聞いた通りのことが起きていた。

シルバーバックは何もない空間を「殴る」「蹴る」「噛みつく」「引っ掻く」「押し潰す」「体当たり」「物を投げる」などなど考えられる攻撃をひたすら()()にぶつけていた

 

それを見ていたアイズは直感した。

そこに「あの子」がいることが分かった。

そしてあのモンスターの攻撃が効いていないことも。

 

何十回も攻撃しているシルバーバックが息切れを起こし、何処と無く恐怖している表情を見せている。それでも攻撃を続けているのはそれを止めた時、死が待っていると悟っているからだろう

 

 

 

 

「………………………………」

 

 

 

見てみたいと思った。

特殊な子がどのような戦いをしているのかを…

それを目の前にしてアイズは言葉をなくした

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

「神様~まだですか~!!!!」

 

「もう少し!!!!」

 

「一分前にも同じこと聞きましたが」

 

「君のせいだろう!!!それにそっちは全然平気そうじゃないか」

 

「平気じゃないですよ、怖いですよ」

 

「変わらない表情で何をいってるんだい……」

 

 

 

 

さっきから「もう少し!!!」と聞いているが一向にステイタス更新が終わる気配がない。その間もずっとシルバーバックが攻撃をしているが一切効いていない。全く防御もしていないのにだ。

 

《魔法》【一時停止】はあらゆる事象(出来事)を止めることが出来る。つまりいまシルバーバックが殴ってきた衝撃を止めているのだ。「殴る」「蹴る」「噛みつく」「引っ掻く」「押し潰す」「体当たり」「物を投げる」も全てハジメにとっては何一つ攻撃とはならない

そしてオート発動により自ら防御する必要がなく、当たってきた攻撃を次から次へと止めている。

 

 

 

 

「よし!!!!ステイタス更新終わったよベル君!!ハジメ君!!」

 

「ありがとうございます神様!!!

ハジメ、いつも通りにいくよ‼!!」

 

「いいですよ、それではいきますよ」

 

 

 

ステイタス更新が終わったベルはヘスティア・ナイフを手に取り戦いの場に向けて走り出す。

ハジメはシルバーバックのパンチを片手で受け止めて懐に入る。そしてもう片手でシルバーバックの腹部近くに、掌を空に向けるように構える。

 

 

そして次の瞬間、シルバーバックは空へと吹き飛んだ。

 

 

 

 

『ガァアアアアッ!!!!??』

 

 

 

突然のことに思いっきり吠えて苦しむシルバーバック。

何もしていない「敵」が突然ノーモーションで吹き飛ばすほどの攻撃をしてきたのだ。驚くのも無理はない。

《魔法》【一時停止】の「停めたものを再生させる」と「再生する際は方向を変えられる」を使い、今まで受けた攻撃を掌から発するように設定したあと、止めていた衝撃を()()シルバーバックに返したのだ。

 

 

完全防御と100%カウンター

 

 

これがトキサキ・(ハジメ)の戦いである。

そして空中に飛ばされたシルバーバックの身体は重力に負けて落下して、下で待ち構えていたベルのヘスティア・ナイフによって胸部中央を貫かれて、魔石を破砕された肉体は灰へと還り、風に乗ってその姿を跡形もなく消滅させた

 

 

 

『──────────ッッ!!!!』

 

 

 

歓喜の声が、迸った。

よく分からないが突然吹き飛んだシルバーバックを仕留めたベルに対して、「あれもあの冒険者が何かをしたんだ」と思いベルを称えている。

ヘスティアは寝不足のためかその場に倒れ、それに気づいたベルはすぐさま駆け寄る。

 

 

 

「これなら………僕でもダンジョンを攻略できますかね……」

 

 

 

誰も聞こえない中、一人そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘスティアには悪いことをしたけど……もう、妬けちゃうわね」

 

 

とある人家の屋上。

ベルのいる付近一帯を一望できる高台で、フレイヤは呟いた。

 

 

「おめでとう。まだまだだけど……ふふっ、ええ、格好良かったわ。

そして………貴方も、すっごく良かったわ。」

 

 

脇目も降らず出口を目指し、通路を走り抜けていくベルとそこにいるだろう少年をアツく見つめながら、フレイヤは目を細める。

日の光を反射する銀の髪を翻し、彼女はその場を後にした。

 

 

「また遊びましょう───ベル。

そして、()()()もね。」



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影が薄いのに何かを求められる。

「どうですか神様は?」

 

「恐らく疲労と寝不足だと思います。寝ていれば大丈夫ですよ」

 

「ありがとうございますシルさん!!」

 

「さすがシル姉です」

 

 

 

 

倒れたヘスティアを『豊穣の女主人』に運び、シルに看病をしてもらった。幸いヘファイストスと一緒にヘスティア・ナイフを作った疲労と徹夜による寝不足が、モンスターを倒したときの安心感により一気に出たようだ。

 

 

 

「トキサキさん、ミア母さんが仕事をしろと」

 

「分かりました。それじゃベルベル、神様をお願いします。

後でご飯でも食べに来てください」

 

「うん」

 

 

 

リューとハジメは一緒に戦場(仕事場)に向かう。シルはベルと一緒にヘスティアを見てくれるようだ。お店を休憩場として使うため代わりにハジメが働くことになった

 

 

 

「トキサキさん、本当にクラネルさん一人であのシルバーバックを倒したのですか?」

 

「そうですよ。僕はベルのサポートしただけですから」

 

 

 

ここに運ばれた時、何があったかと聞かれたためシルバーバックをベルが()()()()()()ことにしたのだ。実際あの場ではベル・ヘスティア・ハジメしか本当の事を知るものはいない。周りからしたらベル一人で倒したように見えている。ならとそう伝えたのだが、

 

 

 

 

「そうですか…でも貴方も冒険者でありクラネルさんの仲間だ。そしてサポーターとしてクラネルさんの役にたったならそれは一人ではない。自分を貶めるのは止めなさい」

 

「…………そう、ですね。きっとこれをベルベルが聞いたら怒りますね」

 

「はい、怒ります」

 

 

 

クスッと笑うリューの顔にジィーと見つめるハジメ。見つめられているリューはその行動に驚きを隠せず

 

 

 

「な、なんですか……」

 

「いえ、笑った表情が可愛いと思いました」

 

「なっ!!!??」

 

 

 

突然の言葉に慌て頬を赤くするリューはハジメに見られないように顔を反らす。そして直ぐに平常心を取り戻すが追撃はまだ続いていた。リューの反応が気になったハジメは真正面に周り()()()()()()()()()()()()()()()

エルフであるリューは心を開かない人に触られたら鉄槌()がお見舞される。これはリューだけではなくエルフ全般を指すのだが、現在はリューを指すがそのリューが()()()()

 

 

 

「熱はありませんね。しかしならどうして顔が赤いのでしょうか??」

 

「そ、それはいいですから、手を離してください……」

 

 

 

弱々しく言うリューに本当に体調が悪いのだろうと思い、素直にリューの言葉通りに動いた。手が離れたことによりホッとするリューだが、何故か物足りなさを感じてしまった。まるでまだハジメに触って貰いたかったような………

 

 

 

「体調が悪いようでしたら休んだほうがいいですよリュー姉」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そうですか、何か出来ることがあればいってください。僕に出来ることならお手伝いします」

 

「そこまでは………」

 

 

 

しなくていいです、と続く言葉があったのだがどういうわけか言葉が詰まった。その時頭に「あんたの手を握れる男が現れたら逃しちゃ駄目よ!」という心に刻まれた亡き知己の言葉が過り、

 

 

 

「…………何でも、出来ることなら、いいんですよね」

 

「はい、どうぞ」

 

 

「…………を……ってくれませんか………」

 

「よく聞こえなかったんですが、もう一度いいですか?」

 

 

 

聞き直したハジメだが言葉を発したリューは少しうつむき表情を隠した。それでも頬が赤くなっているのだけは確認出来た。そしてゆっくりと右手をハジメに向けて付きだし

 

 

 

「…………手を握ってくれませんか?

もしかしたら、その、こんなことを頼んで失礼なのですが、えーと、殴ってしまうかもしれませんが…」

 

「分かりました」

 

 

 

 

少しの躊躇いもなく差し出されたリューの右手を両手で握るハジメ。突然すぎる行動に驚いているリューだと思ったがどうやらそれだけではないようだ。何故か握られた手をじっと見て、その手に力を入れたり緩めたりして何かを確かめているようだ。

 

 

 

「…………本当に、あなたは……

………あなたは、もう少し何を行動するにも考えて行動したほうがいい。

私に殴られるとは考えなかったのですか?」

 

「殴られてもダメージはありませんので。

それにリュー姉は僕にとって()()()()ですから殴られようとも問題ありません」

 

 

 

それがトドメをさした。

ハジメほどではないが表情が変わりにくいリューが完全に顔を真っ赤にさせて、表情もどうしたらいいのか分からないとあたふたしている。もうどうしたらいいのか分からなくなったリューは近くにあったモップを空いている左手で取って

 

 

 

 

「は、は、離して下さい!!!!!」

 

 

 

思いっきモップをハジメの頭にぶつけるリュー。モップはへし折れたが全くダメージを受けていないハジメ。しかし突然のこととリューの言葉に思わず手を離してしまった。その瞬間を逃さずにリューは全速力でその場から駆け出した。

 

一体何が起きたのかと戸惑っているハジメの元へ、厨房から現れたミアが

 

 

 

 

「やってくれたねハジメ」

 

「やはり何かやらかしたのですか??」

 

 

「………いや、むしろ()()()()()()()()というべきだね……

……しかしあのリューがね……こりゃあんたには責任を取ってもらわないとね」

 

「はい、リュー姉の分まで働きます」

 

 

 

その的外れな言葉に呆れるミアだが、すぐに豪快に笑いだしハジメの背中をバシバシと叩いて

 

 

 

「いまはそれぐらいが調度いいかもしれないね‼」

 

「それは、毎日リュー姉の分まで働けということですか?」

 

 

「ハジメがやりたいなら私は止めないよ」

「今日だけにしてください」

 

 

 

本気でやりかねないと悟ったハジメはすぐさま返事をして仕事場に向かう。しかし、

 

 

 

 

「そうだハジメに客だよ。料理を持って接待してきな」

 

「つまり話をしながら料理を注文させろということですね」

 

 

「分かってるじゃないか!!沢山注文させなよ!!!!!」

 

「僕の影の薄さ知ってますよね?」

 

 

 

それでもやり方があるだろう‼とミアに渇を入れられはぁ~とため息をつきながら向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

「こちらのテーブルとなると……ロキ・ファミリアですか……」

 

 

 

料理を運ぶ場所はと探してみるとそこはロキ・ファミリアが座っていた。この前のように大人数ではなく主神であるロキとアイズがいた。相変わらずハイテンションなロキは「お酌してくれんかアイズさん~」と駄々をこねており、アイズはアイズで変わらずドライな対応で話を無視して料理を食べている

そのテーブルの空いている場所に魚料理を置いてみると

 

 

 

「おお!!来たか「ステルス」!!!

ミア~ちょっとコイツ借りていいか~‼」

 

「私に断りいれるならドンドン料理を頼みな!!」

 

 

「今度来たとき子供達に死ぬほど食わせるわ‼」

 

「ならいいよ。しかしあまり時間をかけるんじゃないよ‼」

 

 

 

 

勝手に決められた感はあるがロキ・ファミリアがいると分かった時点で諦めていた。まぁミア母さんから許可も貰ったのでテーブルの席に着くことにした。すると着席を確認したロキがそこへ紙とペンを置いた

 

 

 

「それがないと会話できんからな。

しかし席に座っとるのに本当に見えんとはな」

 

[ですがこちらからしたらじっと見られているので、あまり直視してほしくないのですが]

 

「ええやんか、これからもよう会うんやから」

 

 

 

どういうことだろうと聞こうとしたが先にアイズから話しかけられた

 

 

 

「今日の戦い、おめでとう。」

 

[見ていたんですか?スゴいでしょうベルベルは]

 

 

「うん、戦いはまだまだだけど、いいと思う」

 

[それをベルベルが聞いたら卒倒しますね]

 

 

 

近くにいることだし後で呼びにいこうかな~と考えていると、

 

 

 

「でも私は貴方に興味がある」

 

[はい?]

 

 

 

紙にこれ以上何を書いたらいいのか分からず待っていると

 

 

 

「シルバーバックが何もないところで攻撃していた

そこには貴方がいたはず」

 

[いましたね]

 

「姿は見えないけど恐らく貴方は無傷」

 

[そうですね]

 

 

「私は、その()()を知りたい」

 

[はい?]

 

 

 

何を考えているのか良く分からない。

どうして上級冒険者であるアイズがどうして僕なんかに興味があるのか、ましてや強さを知りたいなんてどういうことなのか……

 

 

 

「そりゃそんな反応するわな。もちろんタダとは言わへん」

 

[と言いますと]

 

 

 

これが僕のダンジョンを攻略する第一歩になるなんて、次の言葉を聞くまでは思いもよらなかった。

 

 

 

「お前のところの主神次第やけど、今度の遠征に参加せんか?」



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time2 始まるからこそ、何か変わる。
影の薄さとスキルを売った場合は高値になるみたいです。



昨日ぶりです‼
まさか評価がまた7に戻り嬉しくて一日で書いてしまいました。それもまさかの6000字以上!!!!
自分でもビックリです。テンション上がればここまで書けるんですねーー書くのに三時間以上かかりましたが(笑)

結構面白く書けたと思いますので、楽しんでください。
それではどうぞ♪


黄昏の館。

ここはロキファミリアの家であり、威容な姿はオラリオで目を引く建物として、市民に親しまれている。

その中でも主神であるロキの私室は、様々な物が置いてあり珍しい絵画や置物、机や椅子なども一級品でありさすがオラリオの中でもトップクラスのファミリアであると納得してしまう

 

さて、そんなロキファミリアのロキの私室には今お客が来ており、そのお客と対面しているのはロキとアイズ、そしてエルフのリヴェリア。

で、その三人対してお客である三人はというと

 

 

 

 

「分かりました。行きます」

 

「勝手に決めるんじゃない!!!!分かってるのかいハジメ君!!!!ロキファミリアの遠征だよ、遠征!!!レベル1である君にそんなところに行かせるわけには行かないんだよ!!!!!!」

 

 

 

 

「大丈夫です、影薄いですから」

 

「そういう問題じゃない!!!!!

君が想像できないモンスターや環境があのダンジョンにはあるんだよ‼いくら君でもダメなものはダメだ!!!!」

 

 

 

 

「…………じゃベルも一緒ならいいでしょうか?」

 

「バカか君はああぁぁぁ!!!!

尚更行かせるわけには行かないよ!!!ベル君!!君も何か言ってやるんだ!!!!!」

 

 

 

 

 

「ア、ア、ア、ア、うわああああぁぁぁ!!!!」

 

「ちょっ、ベル君!!?」

 

「逃がしませんベルベル」

 

「グフッ!!」

 

「ああっ‼ベル君!!!!やり過ぎだよハジメ君!!!!」

 

「大人しくしてもらわないと話が出来ませんので」

 

 

 

 

目の前にいるアイズを目撃してから何か様子がおかしいと思っていたが突然に脱兎の如く逃げ出そうとしたベルをハジメが襟を付かんで制止させた。もちろん襟なんて掴まれた為に首が締まって気絶してしまった。

そんなコントのような光景をさっきから黙って見ていたロキ達だが、もちろんハジメの姿が見えるわけではないのでヘスティアとベルが夫婦漫才をしているようにしか見えていない。それでもヘスティアが誰もいない場所に話しかけたり、走り出したベルがあり得ない感じで急停止しているところを目撃すると

 

 

 

 

「……未だに信じられない……姿を消す魔道具(マジックアイテム)はあるが、気配も感じられないとは……」

 

 

 

 

『豊穣の女主人』で何度も「ステルス」を目撃をしているがそれは魔道具だと解釈していた。しかしそれは違うと主神であるロキやヘスティアに言われて改めてステルスを見よう(感じる)としたが全く分からなかった

 

 

 

 

「漫才はその辺で止めてくれんかヘスティア」

 

「別に漫才してるんじゃないよ!!!ハジメ君が話を聞いてくれないから」

 

 

 

「聞いてますよ、僕がロキファミリアと一緒に遠征に行く」

 

「全く聞いてないじゃないかああぁぁぁ!!!」

 

「こっちはステルスの姿が見えへんから何を言ってるのか分からへんわ‼」

 

 

 

 

話を進めようにもハジメは遠征に行こうといい、ヘスティアはそれをダメだといい、ロキ達はどんな状況なのかイマイチ分からずにいる。

 

 

 

 

「まぁ、正直にいうとハジメ君は遠征に行ってもいいと言ってるんだよ」

 

「ホンマかぁ!!!なら話は早いわ実は…」

「だけど僕は認めないからな!!!!!」

 

「なんやて??」

 

 

 

 

ぬか喜びしてしまったロキだが、遠征となるとかなりの危険が伴う。ましてやハジメはレベル1であるためロキファミリアのような上級冒険者がいくような場所に連れていくわけにはいかない。常識ある返答ではあるためロキも無茶なことを言っていると分かっている

 

 

 

 

「さっきも言った通りだよロキ。ハジメは遠征になんか行かせない。どうしてハジメをそんな場所に連れていくのか分からないよ」

 

「せやからそのレアスキルとレア魔法でうちらのファミリアを守ってほしいんや。」

 

 

「なにがレアなもんか、君はハジメの何を知っているんだい」

 

「何も知らんわ。だけどなこっちは現場でちゃんと見てるんや‼あのモンスターに攻撃を喰らっても無傷なステルスが居たのな!!!

実際に見えんでも分かるわ、その力はそこらのレアよりさらにレアなやつや。

しかし、ええんか、うちがボロッと他の神に話しても~」

 

 

「ひ、卑怯だぞロキ!!!!

ま、まぁ、言った所で相手にされないだろうけどね。何せハジメは「見えない」だからね♪」

 

「く、くそが……!!!」

 

 

 

 

待たしても言い負かされたロキは悔しそうな表情でとなりにいるリヴェリアを見つめる。その瞳でナニかを悟ったのか「……だから私が呼ばれたのか……」と小声で言ったあとため息をついて

 

 

 

 

「神ヘスティア。私達が無理で無茶苦茶なことを言っていることは十分に分かっているつもりです」

 

「ほら見ろロキ、君の子供のほうが随分利口なんだね」

 

「こ、このドチビがぁ…!!!」

 

 

「しかし無理で無茶苦茶だからこそ、私達はそちらにそれなりことをしたいと思います」

 

「例えばどういうことをしてくれるんだい??」

 

 

 

 

どんなことを言っても断る気満々なヘスティアは軽くその話を聞くことにしたが、リヴェリアにはその意思を崩してしまう策略を持っていた。

リヴェリアは(おもむろ)にロキの机の引き出しからあるものを取り出して見せた。

 

 

 

 

「遠征が終わりステルスが無事に帰ってきたのを確認できたなら、ここにある2億ヴァリスを報酬としてお渡しします」

 

「に、に、「2億ヴァリスウウウゥゥゥゥ!!!??」」

 

 

 

何故か遠征にいくハジメではなく気絶していたベルが反応してしまった。しかし目の前の袋の中には確かに2億ヴァリスはあると確認できる。

 

 

 

 

「えっ‼えっ‼ええぇ!!!?本当に言っているのかい2億ヴァリスだよ。2億ヴァリス!!!!!」

 

「か、神様!!!僕あんな大金見たことないですよ!!!!!」

 

「僕だって見たことないよ!!!!!」

 

 

 

現実離れしている金額が目の前ある事実に興奮を抑えられない二人。一方ハジメは相変わらず平然としているがロキ達には見えないため喜んでいると解釈している

 

 

 

「当然報酬だと思います。レベル1であるステルスをロキファミリアと言えども深層へ連れていくのですから。もちろん足りないというのならまだ金額は上げますが」

 

「ま、まだ上がるというのかい!!!??」

 

 

「もちろんです。私達はそれだけのことを頼んでいると理解してます」

 

 

 

 

リヴェリアの誠実な対応と貧乏ファミリアには喉から手が出てきそう大金。まさかこんなにも心が揺らぐとは思っていなかったヘスティアだが

 

 

 

 

「こ、こ、こんなものじゃハジメ君を遠征になんか連れていかせられないね」

 

「動揺してるやんか……」

 

「う、うっさい!!!!とにかくだ‼いくら大金を積まれても無理なものは無理なんだ!!!!!!」

 

 

 

 

さっきまで一緒に喜んでいまベルもうんうんと頷いて否定をする。しかし本当に危なかった……これ以上衝撃があると心が持たない…………

 

 

 

 

「しかし神ヘスティア、ファミリアに内緒で神ヘファイストスから借金2億ヴァリスもあるのは如何なものかと」

 

「に、に、に、に、2億ヴァリスウウウウウウウゥゥゥゥ!!!!!!!」

 

 

 

 

目の前の2億ヴァリスよりも大きな声を上げたベル。そして驚愕な表情でリヴェリアを見つめるヘスティア

 

 

 

 

「ど、どうして君がソレを!!!?」

 

「えっ‼神様!!!本当に2億ヴァリスも借金があるんですか!!!!??」

 

「し、しまった!!!」

 

 

「交渉するのですから相手より優位に立たないと行けません。ちなみに神ヘファイストスには今度の遠征に必要な武器類を大量に頼んでます」

 

「う、裏切ったなヘファイストスめ!!!!」

 

 

 

 

最初から黙っているようにと約束していなかったはずだがいまのヘスティアにはそれを思い出す術はない。ともかくまさかの衝撃が訪れたヘスティアの心は揺れに揺れていた

 

 

 

 

 

(ど、ど、どうする!!!まさかこんなところで借金がバレるなんて!!!!もちろん借金は僕が勝手に背負ったんだからベル君達には関係ないけど………問題は………)

 

 

 

 

と、恐る恐るロキの方を見てみるとニヤニヤと笑いながらこっちを見ていた

 

 

 

 

(あの断崖神に知られるなんて!!!!直ぐにでも借金を返さないと他の神に知られて僕達ファミリアは本当に貧乏ファミリアになってしまう!!!!それだけじゃない、ベル君やハジメ君が僕の知らないところで嫌味を言われるかも知れない…………そんなの僕は見てられない!!!!!)

 

 

 

 

 

本当に困ってしまった。ハジメを遠征に行かせないという決意はまだ固いが、あのロキに借金を知られてしまった。このままだと近いうちにこのファミリアは地獄を見ることになる。それだけは避けないといけないのだが

 

 

 

 

(どうする!!どうする!!!??

どうしたらこの状況をひっくり返すことが出来るんだ!!!)

 

 

 

 

 

必死に考えるヘスティア。その決断1つで今後のヘスティアファミリアが大きく変わるのだ。う~んと悩んでいるとさっきまで黙っていたハジメがロキ達がいる机の方へ向かって歩きだした。

「ちょっ!!!」と言葉にしようとしたがすでに遅く、ハジメは勝手にペンを手に取り紙にこう書いた

 

 

 

 

[神様を困らせるところに僕はいきません]

 

 

 

 

それを見たロキ達は、いや、ヘスティア・ベルは息を飲んだ。まさかこんな返事が返ってくるとは思っていなかったからだ

 

 

 

 

「しかし一緒に遠征にいけば借金は無くなります」

 

[構いません]

 

 

「だけどなうちがうっかり他の神に話してしまうかもしれないで~」

 

[その時は言ってくる者を全てを「停止させて(とめて)みせます」]

 

 

「………それはうちも入ってるんかな、この神ロキも」

 

[例外はありません、神だろうが僕のファミリアに手を出すなら…………全て止めます]

 

 

 

 

その文章を最後に誰もが黙ってしまった。言葉は聞こえなくても、表情が見えなくても、ハジメが本気であることはここにいる誰もが理解できた。

しばらく沈黙が流れるなかリヴェリアが

 

 

 

 

「………大変失礼なことをしました。遠征に来てもらうためにここまでしてしまった私達を許してください」

 

「おいリヴェリア!!」

 

 

「これ以上は無理です。意志が固すぎる。それにこれだけ愛されているファミリアから無理矢理引き離すなんて………ロキも出来ないと思うが」

 

「……………あぁ~もう~!!!好きにしたらええ!!!!!!」

 

 

 

 

負けを認めたロキは拗ねて誰も見えない方角へ体を向けた。その姿をみてリヴェリアはハァ~とため息をつき、ヘスティアは「子供か君は……」と呟いた

 

 

 

 

「しかし遠征ではなくても一緒にダンジョンに潜るのはダメでしょうか?私は彼のステルスの実力を見てみたい」

 

「…私も、見てみたい」

 

 

 

 

ここでやっと言葉を発したアイズ。その二人の誠実な思いにヘスティアはまた揺らぎ始めた

 

 

 

 

「もちろん報酬も払います。2億ヴァリスとはいきませんが5000万ヴァリスを」

「交渉成立だね!!!!」

 

 

 

まさかの成立に思わず転けてしまったベル。しかしこんなときでも平然としているのはハジメだった

 

 

 

「神様~‼勝手に決めたらダメですよ!!!!」

 

「いいじゃないか♪始めからハジメ君は行く気満々だったんだから。あっ、さっきのはうまかったな~‼」

 

 

「神様~‼」

 

 

 

 

ぐれているロキでも「アホとちゃうんか……」とヘスティアをバカにしているが全く聞こえてないし気にしていない。遠征にいかずにまさかの5000万ヴァリスが手に入るのだから喜ばずにはいられない

 

 

 

 

「ハジメ君!!!!僕達ファミリアの為に行ってくれるよね!!!!!!」

 

「神様がいうなら行きます」

 

「やったああぁぁぁ!!!5000万ヴァリスゲットだああぁぁぁ!!!!!」

 

「まだやるなんて決まってないやろうがこのドチビ!!!!!」

 

 

 

我慢できなくなったロキはヘスティアに向かって思いっきり罵声をいう。もちろんヘスティアもそれに対して

 

 

 

 

「決まったも同然だよ。ハジメ君には全く攻撃が効かないんだからね。いえーい!!これなら早く借金が返せるかな~」

 

「やっぱりレアスキルやんか!!!なら遠征に行ってもええやろうが!!!」

 

 

「バカをいうじゃないよ!!!遠征には行かせない!!!!だけどただの冒険ならきっちりとハジメ君の状況を見て潜ってくれる。ならハジメ君の安全は保障される。遠征みたいな団体思考より個人を見てくれるほうが安全なんだよ。

つまり、5000万ヴァリスは僕のものだ!!!!!」

 

「ふざけんな!!!ドチビじゃなくてファミリアの物や!!!!!」

 

 

 

 

と、また喧嘩を始めた二人に対して他の面子は無視をすることにした。

 

 

 

 

「短期間とはいえ行動を共にしますので色々契約を決めないといけないな。お互いに命を預けるわけだからある程度の情報共有をしないと」

 

[情報共有ですか?]

 

 

「あぁ一番の情報共有はステイタス。もちろん最小限の人数しか話さない、もし漏洩した場合は賠償金や体罰を受ける」

 

[なるほど、そうしてお互いを信頼するのですね]

 

 

 

「いや、その定義は……まぁ、ないとは言えないが……

しかし本当にいいのか?貴方のスキルや魔法はレア中のレア。もう少し考えた方がいいかと思うのだが……」

 

[神様が決めたなら構いません]

 

 

 

「………本当に神を愛しているのだな……

分かった、そちらがいいのならこちらも構わない。早速互いのステイタスの確認を………って、まだやっているのか………」

 

 

 

 

せっかく纏まってきたというのに未だに神同士は喧嘩をしていた。

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

「な、なんや、これ………」

 

 

 

 

 

トキサキ・(ハジメ)

 

Lv.1

 

力:I0→I0 耐久:I0→I0 器用:I0→I0 敏捷:I0→I0 魔力:S999

 

《魔法》

一時停止(サスペンド)

・全ての事象(出来事)を停める

・停めたものを再生させる

・再生する際は方向を変えられる

・必要とするもの以外はオート発動

 

《スキル》

【カミカクシ】

・所有者と主神が認めるもの以外は

存在(本人)を認識出来ない

・主神が子を思うかぎり持続する

 

 

 

 

ロキファミリア全員が言葉を無くしている。確かにレア中のレアだと想像していたが、まさかここまでのものとは想像できなかった………

 

 

 

 

「なるほど……これではハジメを認識することなんてできるはずがない………」

 

「ありえん……なんや……このステイタス……」

 

「……スゴい……」

 

 

 

「やっぱりスゴいんですか神様?」

 

「当たり前だよ…こんなの神の力に近いよ……」

 

 

「……ヘスティア、もしかしてワレ……」

 

「使うわけないだろう!!!」

 

 

 

 

疑ってしまうのは当然かもしれない。

それほどのものが目の前にあるのにそれを持っているハジメは変わらず平然としている

 

 

 

 

「とにかくこれで契約成立だな」

 

「というわけや、早速ハジメを見せろやヘスティア」

 

 

「ぐっ!!し、仕方ないのか……分かったよ!!!

この部屋にいるロキファミリアを()()()()君達を認める!!!!!!」

 

 

 

 

なにもなかった所から、いや、うっすらとモヤが現れそれがゆっくりとそのモヤが消えてくる。そしてそこにはさっきまで見えなかった人物が、トキサキ (ハジメ)がそこにいた

 

 

 

 

「初めまして、になるんですかね。トキサキ (ハジメ)です」

 

「あぁ、初めまして」

 

「初めまして」

 

「これからヨロシクな‼

……って、さっきの冒険の間ってなんや!!!それ以外は見えないっていうんか!!!?」

 

 

「当たり前だ!!!あくまでも冒険だから許したんだ。君に僕のファミリアを会わせること自体嫌なんだ!!!!!」

 

「なんやて!!!こっちだってなアイズをお前所のファミリアなんぞに見せたくないわ!!!!冒険やから仕方なくだってことを理解しとけボケェェェェ!!!!!」

 

 

 

また喧嘩を始めた神様達。

ベルとリヴェリアが「お互い大変ですね」と共感し合いハジメとアイズにいたっては特に会話することなく見守るだけだった。





長々とすみませんね。
最後にもう少しだけお付き合いください。
リヴェリアとロキの口調がおかしいかと思いますが
どうしても可笑しいと思われる方がいたら教えてください。
正直自分でも読み書き直すのは……大変なので。
もちろん他にも言いたいことがあれば書いてください。
出来るだけ否定的な感じだけはご勘弁を。
我が儘かな?とにかく読んでくれましてありがとうございます。


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影が薄いとか関係なく怒られるみたいです。


3連チャン!!!!!
フッとUAが多いな~と思って日間ランキングを見てみたら22位を取ってました!!!!
やっふふふふふふふううううぅぅぅ!!!!!!!
…はい、調子に乗りました。

でも、他の連載中の小説に続いて三作目になりました。読んでもらっているのに失礼かと思いますが、よくランキングに入ったな~というのが正直な感想です。

長くランキングに入って大九の皆さまに読んでもらうために頑張って三日続けて書きました。
さすがに四日は厳しいですが、早めに更新しますのでその時はよろしくどうぞ♪




ギルド本部

昨日決まったロキファミリアとの冒険について、アドバイザーであるエイナに話しておこうと朝から来てみたのだが、

 

 

 

 

「……どういうことなのか、もう一度、説明してくれるのよね……」

 

「ロキファミリアと一緒に試しに18階層まで()()()してきます」

 

 

「キィミィはっ!!!!本当にヴァカァなのオオォォォォ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

綺麗な顔が台無しだなーと思いながらエイナの説教を受けているハジメ。しかし何がダメなのかと思いながらエイナの言葉に耳を傾けることにした

 

 

 

「いくらロキファミリアとの冒険だとしても、ハジメ君はまだレベル1なのよ!!!なんでそういうことになるのよ!!!!!!!」

 

「ロキファミリアの神様からお誘いがありまして、初めは「遠征」に行く予定でしたが僕の神様が断りを入れました。

そのあと……えーと、うーん、色々ありまして「遠征」から「冒険」に変更になりました」

 

 

「面倒くさいと思わないでその色々を詳しく話なさい!!!!」

 

「神様から口止めされてますので、詳しくは話せません。どうしてもなら神様と神ロキに話を………」

 

 

「………もう、いいわ……また前みたいになりそうだわ………」

 

 

 

 

頭を抱えながら唸るエイナ。以前はミアと言い合いになりひどい目にあったことを思い出したのだろう。別に困らせるようなことはしてないはずなのだが……

 

 

 

 

「……それじゃ話せることだけでも話して。安心出来ないといくら神が許そうとも私が許しません」

 

「……………はい」

 

 

「ちょっと待ちなさい。なに、いまの間は?

まさか言いに来なければ良かったとか思ってないわよね?もしもそのあとでバレたら………どんな手を使ってもダンジョンに行かせないからね♪」

 

「了解です」

 

 

 

 

ものすごい可愛い笑顔なのだがその瞳の奥はさらにものすごい怒りが見えてくる。これは逆らったらダメだと本能的に悟ったハジメは無意識に返事をした。

 

 

 

 

「それでどうなの?ロキファミリアのことだからキチンと誓約みたいなことはしていると思うけど?」

 

「はい、お互いのステイタスを確認しましてその情報の漏洩防止についても話しました。あとは基本にモンスターとの戦闘はロキファミリアが行い、僕は勝てるだろうという状況とモンスターを見極めてからの戦闘になるそうです。あと18階層まで潜って三日間の冒険になるそうです」

 

 

 

「うーん、聞く限り問題はなさそうだけど……

ちなみにパーティーはどうなってるの?」

 

「えーと、アイズ姉にリヴェリア姉です」

 

 

「……………私の名前は?」

 

「エイナ嬢」

 

「だからどうして私だけ「嬢」って付けるのよ!!!!!」

 

 

 

 

机を思いっきり叩いた為に周りから視線が集まる。もちろんその視線はエイナだけであり、目の前にいるハジメはエイナ以外には見えていない。つまり「なんで誰もいないところで話ながらキレているんだあの人は?」と思われている。ちなみに同じ職員にはハジメがいることは知らせてある。

その視線に気づいたエイナは体全体が小さくなったと思わせるぐらい縮こまった。

顔を赤くしたままさっきの話の続きをする

 

 

 

 

「………どうして、私だけなのよ?」

 

「いつもお世話になってますので、誠意を込めて呼ばせてもらってます」

 

 

 

「……あのね、それは非常に迷惑だから止めなさい」

 

「分かりました。ではエイナ姉で」

 

 

 

「………だからね、どうして歳上の女性に対して「姉」を付けようとするのかな?

普通に名前でいいのよ、ほら、言ってみなさい」

 

「はぁ、………………………………………………エイナ姉」

 

 

 

「分かったわ………言えるようになったら言ってくれたらいいわ」

 

「はい、エイナ嬢」

 

 

「もう!!君は!!!本当に君は!!!!さっさとダンジョンでも行ってきなさいーーーー!!!!!!!」

 

 

 

 

最終的に、いや最初から最後まで怒られてしまったハジメは堂々とギルド本部を後にした。

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

「というとこで、明日から三日間お休みが欲しいので働きにきました」

 

「その心意気はいいとしてもだ、勝手に休みをいれるじゃないよ!!!!!!」

 

 

 

正直に話したのにまたしても拳骨をもらってしまった。ダメージはないが。それに明日から冒険に行くことになったのはロキファミリアが決めたことで僕ではない。と言いたかったがさらに怒らせるだろうと思い言うのをやめた

 

 

 

 

「ったく、だったら今から閉店まで休みなしの仕事だよ!!!」

 

「はい、了解です」

 

 

 

「…………あんたはちょっとは嫌がらないのかい、普通は文句の1つ言ってもいいぐらいだよ」

 

「はぁ、でも僕が悪いので仕方ないかと」

 

 

 

「その自己犠牲みたいな考えた方はやめな。嫌だと思うなら言ってもいいんだよ。全部抱えてしまうとその内に心が壊れてしまうよ」

 

「…………心、ですか………」

 

 

 

 

そう言いながら胸に手を当てるハジメ。

心が壊れると言われても見えないのにどうやって壊れるのかと考えてみるが分からない。

それに嫌だと思っていないから返事をしただけだ。嫌ならちゃんと否定している。どうしてそんなことをいうのか?

うーん、悩むが僅か二秒程で「分からない」と結論が出たので考えないことにした。

 

 

 

 

「心が壊れたときにはミア母さんに相談します」

 

「あんたは………壊れる前にいいな‼分かったかい!!!!」

 

「了解です」

 

 

「ったく………とにかく掃除でもしてな」

 

 

 

またしても怒らせてしまったと一瞬考えて、さあ掃除と切り替えたハジメはモップを持って掃除を始める。

するとアーニャーがゆっくりと近づいてきて

 

 

 

 

「ミア母さんにあそこまで言わせるなんてよくやるニャー」

 

「何かをしたつもりはないんですけど」

 

 

「そんなこというから鉄仮面って言われるのニャー」

 

「そんなこというのはアーニャーちゃんしか言いません」

 

 

「だから「ちゃん」はやめろニャー!!!!」

 

 

 

 

アーニャーがモップを振り回しそれがハジメの後頭部にぶつかった。まぁいつもの通りにダメージはなかったが今回はモップが脆かったのかボキッと嫌な音をたてて折れた

その折れたモップはグルグルと回りながら、嫌な場所へと飛んで行きガツン‼とさらに嫌な音が聞こえてきた。

その直後に地震かと思わせる振動がお店全体に広がる。その振動は少しずつ近づいてきており、最も大きな振動と共に現れたのは

 

 

 

 

「何を……やってるんだいいいいいぃぃぃぃ!!!!」

 

「ニャー!!!!??こ、これは鉄仮面が悪いんだニャー!!!!アイツが余計なことをしなかったら……」

 

 

「あぁ!?何処にハジメがいるんだい?」

 

 

 

 

現実を見たくないのかゆっくりとさっきまでハジメがいた場所へ顔を向けてみると、そこには誰もいなかった。本気で現実を受け入れたくないとさらにゆっくりと、いや、ブルブルと振動を加えながらミアの方を向いて

 

 

 

 

「……ニャーも休みなしで閉店まで仕事するニャー……」

 

「いい心掛けだね、だけど………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「許すわけないだろううううううぅぅぅぅ!!!!」

「ニャアアアァァァァァー!!!!!」

 

 

 

 

遠くから悲鳴が聞こえてくる。全く自分は悪くないと思いさっさとその場から投げ出してきたハジメ。いまは倉庫へ逃げてきたのでとりあえず品数でも数えようと扉を開けてみると

 

 

 

 

「ここにいたんですねリュー姉」

 

「トキサキさん……」

 

 

 

ビクッ‼と肩を上げたあと振り向くリュー。ハジメの姿を確認したあと何故か視線を外してしまった。どうやらこの前の事をまだ気にしているようだ

 

 

 

「……何か騒がしいようですが何かあったのですか?」

 

「アーニャーちゃんがミア母さんに怒られているだけです」

 

 

「………原因は貴方も関わっている、そうですね」

 

「一般的にはそうかもしれませんが、僕としては巻き込まれたんですがね」

 

 

 

いつものやり取りにふぅーと息を吐いた後、視線をハジメの元へ戻していままで通りに話始めた

 

 

 

「そこまで分かっているのなら後でアーニャーに謝るべきです。キチンと謝れば許してくれます」

 

「なるほど、分かりました。文句の10や20言われるかもしれませんが謝ります」

 

 

「いやそこまでは……言うかもしれませんね」

 

「言いますねアーニャーちゃんですから」

 

 

 

 

和やかになったところでハジメも品数を数えることにした。すでにリューがやっていたので殆ど終わっているようだ。

するとリューがふぅーと息を吐いた後、ハジメの方を向いて

 

 

 

 

「トキサキさん、この前はすみませんでした」

 

「????」

 

 

 

何のこと事なのか分かっていないハジメ

ただそんなことは予想していたようにリューは話を続ける

 

 

 

 

「モップで頭を殴ってしまったことです」

 

「そういえば……どうもモップで殴られる確率高いようですね」

 

 

「話を聞いてください。私は貴方に失礼なことをした、何か償いをしたいのですが……生憎金銭は持ってませんし私から出来ることは……こ、こ、この、から…」

 

「償いもなにも、僕はリュー姉から殴られても問題ないといいましたから問題すらないのですが。気にしなくていいですよ」

 

 

 

 

ハジメのその何気無い言葉に救われるのだろう。だけどリューも譲れないものがある

 

 

 

 

「しかしそれでは私の気がおさまらない。私に償う機会をください」

 

「と言われてましても…………あっ、それなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日からダンジョンに潜るので()()()を作ってください。」

 

「…………えっ??」



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影が薄くても目標になれるようです。

早めに更新出来てた良かったです!!
今日は久々のおやすみ!!何しようかな~
それではどうぞ!!!




「うわぁ~………………おはようハジメ君……」

 

「おはようございます神様」

 

 

 

 

まだ眠たそうな神様はその小さな手で目元を擦りながらソファーに座った。目の前のテーブルには昨日の残りであるジャガ丸くんとハジメが作ったスープが用意されていた

 

 

 

 

「おお!!!ハジメ君が作ったのかい?」

 

「これをベルベルと神様が作ってくれると助かるのですが」

 

 

 

ハジメもソファーに座り食事をすることに。ベルはというとヘスティアが起きる前に、いやハジメが起きる前に出かけたようだ。一応朝ごはんを作りおきしている

 

 

 

「そんなこと言わないでくれよ~!ハジメ君の料理は美味しいからね~」

 

「そういって作るのが面倒くさいんですよね」

 

 

「な、な、なわけないじゃないか!!!」

 

「なら神様()()帰ってきたときにご馳走を作ってもらいましょう」

 

 

 

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれないか!!!さすがに練習なしに料理なんて出来ないよ!!僕にはバイトが!!」

 

 

「なら夜にすればいいだけですよ。それに二日間はベルベルと二人きり、ここでベルベルの胃袋を掴めば…」

 

「やるよハジメ君!!!!これからのヘスティアファミリアの食事は僕に任せたまえ!!!!!!!」

 

 

 

 

こんな簡単に乗せられていいのか?と一瞬考え直ぐに消し去ったハジメは、今日からの冒険について再度ヘスティアと話し合うことにした。誓約については問題はないようだが

 

 

 

 

「基本的にモンスターとはアイズ姉とリヴェリア姉が戦ってもらい、倒せるぞというときだけ戦闘に参加します」

 

「うん、そのそうがいいね。何度もいうけど君はレベル1なんだ。中層に向かう時点であり得ないことだってことは理解しておくように」

 

 

「…………了解です」

 

「ちょっと待つんだハジメ君!!なんだい、いまの間は!!!

君は一時停止のせいで嘘をついているのか分からないんだよ‼正直に言うんだ‼何を隠してるんだい!!!!」

 

 

 

 

ベルのステイタス更新を遅くしたり、神が子の嘘を見抜くその目が効かなかったりと、本当に一時停止は規格外である

 

 

 

 

「中層なら何回か行ったことあります。原因としては友達欲しさに冒険者に付いてって気づいたら中層の入り口にいてそこから何故かよく縦穴に落ちてしまい、帰りが遅くなってました。今まで話さなくてすみませんでした」

 

「そうかそうか…………って、誰が許せるもんかあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

テーブルをひっくり返しそうとしたのでその前にテーブルに触れて一時停止で固定。もちろんひっくり返そうとしたヘスティアは動かないテーブルに力を入れていたので指と腕と肩を一気に痛めた

 

 

 

 

「あ、あうううううぅぅぅぅ………」

 

「ダメですよ、食べ物を粗末にしたら」

 

「誰のせいだと思っているんだい……」

 

 

 

本当に痛そうだったのでハジメは「失礼します」といった後にヘスティアの腕を掴んで揉み始めた

 

 

 

 

「な、何をしてるんだい君は!!!!」

 

「こういうことは、神様はベルベルに触ってほしいと思いますが、いないんですから我慢してください」

 

 

「そういうことじゃなくて!!!」

 

「僕のせいですよね、ならこれくらいさせてもらいます」

 

 

 

 

なんとも強引な償いなんだと、思いながら言われるままハジメにその身を委ねた。なんとも力加減が上手く気持ちいい~と思いながら

 

 

 

 

「……これまでのことは仕方ないとしてもだ、これからはホイホイと冒険者に着いていかないこと。もう君にはベル君とダンジョンに潜ったり、ろ、ろ、ろ、ロキファミリアと冒険することだってあるんだ。勝手な行動すると周りが危険な目にあうんだ、よく考えて行動するように、分かったね??」

 

「はい、キチンと話してから行きます」

 

 

 

「まず、行かないことを前提に出来ないのかい君は……」

 

「出来たら……神様やミア母さんやエイナ嬢に怒られないのでしょうね」

 

「分かってやっているんだから、本当にいい性格をしてるよハジメ君は………」

 

 

 

 

はぁ、とため息をつきながら「ありがとう」と緊張した筋肉をほぐしてくれたハジメにお礼をいった。いえいえ、といいながら立ち上がろうとしたところをヘスティアが腕を握り引き止めた

 

 

 

 

「神様?」

 

「分かっていると思うけど()()だけは使わないようにするんだよ」

 

 

「あぁ、()()ですか」

 

「ハジメ君はやり過ぎる時があるからね、気を付けないと周りを巻き込んでしまうからね」

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

神様から助言をもらい出発前に寄るところがあるとヘスティアに言い残して後片付けを頼み出てきた。向かう先は昨日約束したものを貰うためだ

『豊穣の女主人』に近づくと外で掃除をしているシルを発見した

 

 

 

「シル姉、おはようございます」

 

「おはようございます」

 

 

「早いですね、営業準備はまだ先ですよね?」

 

「ふふふ、ちょっとお手伝いをしてたんですけどね、追い出されました♪」

 

 

「そうですか、いま御一人ですか」

 

「そうなんですよ、一人なんですよ♪」

 

 

 

 

お互い含みのある言い方をしながらも通じあっているようだ。それはそうだろう、ハジメがここに来た理由、お手伝い、一人、とくれば知っているものなら予想つくだろう。

 

 

 

 

「楽しみですね」

 

「あんなに頑張っている姿、初めてかも知れないですね」

 

 

 

「それだと普段がやってないように聞こえますよ」

 

「そんなわけないじゃないですか♪」

 

「おはようございますリュー姉」

 

「おはようございます」

 

 

 

 

リューがお店から出てきて失礼なことを言っていたシルを見ると、何か目で合図をしているようだったがすぐにハジメの方を見て丁寧にお辞儀をする。そのリューの手にはここに来た理由があった

 

 

 

 

「どうぞ、上手く出来ませんでしたがこれが私の精一杯です」

 

「どうもありがとうございます、お昼が楽しみです」

 

 

 

 

感謝を伝えて受け取ったそのお弁当箱を手にしてそれをどう見ても冒険には足りないバックに入れて集合場所であるバベルの前に向かおうとしたのだが、

 

 

 

 

「ちょっと待ってください。バックの中身が見えてしまったのですが…何も入ってませんよね?」

 

「はい、出来るだけ魔石やドロップアイテムを入れたいので」

 

 

 

「そういうことではなく……回復系のアイテムさえ入ってないのはどういうことですか?」

 

「そう言われても買ったことありません。それより大事なのはダンジョンでお昼ご飯です」

 

 

「……貴方には必要ないかもしれませんが、くれぐれもお弁当のために自分が危険な目に遭わないように」

 

「分かりました、それでは行ってきます」

 

 

 

 

全く話を聞かずにお辞儀をしてこの場から歩き出すハジメ。その後ろ姿を見てリューは

 

 

 

 

「……本当に分かっているのかどうか………」

 

「気になるなら付いていったら♪」

 

 

「……これは、彼の冒険ですので……」

 

「なら、今度はリューがお誘いしたらどう?」

 

 

 

ちょっとイタズラをしたような表情でシルはお店の中へ入っていったが、リューはトキサキの背中が見えなくなるまでその場に残ったあと

 

 

 

 

「………私は……許されない者だ………

………私では…彼の隣には………………」

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなりました」

 

「いや私達もさっき来たところだ」

 

「……おはよう……」

 

 

 

すでにバベルの前にはロキファミリアのアイズとリヴェリアが到着していた。そしてその隣にはロキとヘスティアがまたしてもケンカをしている。会えば必ずしないといけないのだろうか………

 

 

 

 

「リヴェリア姉、二人を止めなくていいんですか?」

 

「止めてもまた始めるから無駄だ。それよりその「姉」というのは止めてくれないか?」

 

 

「私は…このままでいい」

 

「…………ならリヴェリア母さん………」

 

 

「誰が母さんだ。それならまだ「姉」のほうがいい」

 

 

 

なにかを思い出したのかはぁ~とため息を付くリヴェリア。するとさっきまでケンカをしたいたロキが

 

 

 

「ハジメは見る目あるな~リヴェリアはロキファミリアのお母」

「ロキ、それ以上いうなら…分かっているな?」

 

「じ、冗談やでリヴェリア……なっ、機嫌治してな~」

 

 

 

何か弱味を握られているのかと思うぐらい神という立場を簡単に捨てて下手に出ているロキ。そんな姿を見たヘスティアは

 

 

 

「神としてそれは如何なものかと思うよロキ…」

 

「うっさい!!!リヴェリアが怒ったほうが重要や‼」

 

 

「つまり神様がベルベルにベタベタみたいな姿は、神という立場を捨ててまで重要なことなんですね」

 

「か、関係ないと言いたいのに否定出来ないなんて……」

 

 

「分かるでドチビ、アイズたんに抱きつくときは神なんて立場なんて捨ててもええと思うわ~」

 

「やっぱりそうかい!!!いや~初めてだよ、ロキと意見が合うなんて♪」

 

「こればかりは認めるしかないな♪」

 

 

 

 

何か変なところで意見が合った神達。お陰さまでリヴェリアは頭が痛くなったのか手で押さえている。

そんなことをしているとさっき話題に出てきたベルがこっちに向かって走ってきた

 

 

 

「良かった間に合って~!」

 

「ダンジョンに行っているかと思いましたが」

 

「ハジメに渡したいものがあって……」

 

 

 

 

するとベルの体で隠されていた物を目の前に差し出した。それはベルが使っているヘスティア・ナイフと同じ長さの剣を持っていた。剣と言ってもこのオラリオには珍しい「刀」であり「小刀」というものだった

 

 

 

 

「どうしたんですかこれ??」

 

「この前お店の中を見ていたらこれが目に入って。きっとハジメに合うんじゃないかな~って!!」

 

 

 

 

嬉しそうに話すベルだが身なりはボロボロでどうやらダンジョンに潜っていたようだ。そして換金したお金でこの小刀を買ってきたのだろう。

そんなベルは小刀をハジメの前に付きだし、それを受け取ったハジメは鞘から刃を抜いてみた

 

 

 

 

「高かったんじゃないんですか??」

 

「まぁ、ちょっとね…少しだけ足りなかったからローンを組んだけど……」

 

「ちょっとベル君!!!!只でさえ貧乏なファミリアに更に借金が!!!!」

 

「五月蝿いですよ、借金の9割9分である神様は黙っていてください」

 

 

 

真実なのは分かっているがこうも有無も言わさず言われてしまったヘスティアはガクッと落ちこんだ

 

 

 

「無理しなくてもよかったんですよ」

 

「無理なんて……無理なんてしてない。

それにこれは僕のためなんだ」

 

 

 

どういうことなのか分からないがベルの瞳は真剣そのもの。ハジメは黙ってベルの言葉を聞くことに

 

 

 

「僕はある人に、その強さに追い付きたい。

そしてハジメ……

……僕はハジメにも追い付きたい‼」

 

「僕…ですか?

僕なんてステイタスもレベルも上がらないんですよ」

 

 

「でもハジメはロキファミリアと一緒に冒険に、

ううん、遠征まで誘われている。それもレベル1で……

それはきっと魔法とスキルのお蔭だとハジメはいうかも知れないけど、それは()()()()()()手に入れたんだ。

それがハジメの強さだって思うんだ。

 

だからその強さに追い付きたい、

横に並んで戦えるように…………

でもただ追いかけるだけじゃダメだって、

ハジメも更に強くなってほしいって思ったから……だから………」

 

 

 

 

上手く言葉に出来ずに止まってしまったベル。それを見ていたハジメは

 

 

 

 

「分かりました。これを使えるぐらいに強くなります。だからベルも頑張ってください」

 

「う、うん!!!!!」

 

 

 

なんとも嬉しそうな表情をするベル、そして周りは微笑ましい表情でそれを見ていた。ハジメはその小刀をベルトに取りつけた

 

 

 

 

「おお!!!様になっているね~‼」

 

「………………皮剥きに使えそうですね」

 

 

「ちょっとハジメ!!!ちゃんと使ってよ!!!!!」

 

 

 

「冗談です」と言っているがここにいる誰もがやりかねないと思っているだろう。話が終わったところでハジメはアイズとリヴェリアの前に立ち

 

 

 

「それでは行きましょうか」

 

「そうだな、ではロキ行ってくる」

 

「行ってきます」

 

 

「気を付けてな~二人とも‼」

 

「頑張ってくるんだよハジメ君~‼」

 

「ハジメ!!頑張って!!!!」

 

 

 

 

バベルに向けて歩き出す三人。後ろではまだ見届けてくれる人達がいる。そんな中、誰も聞こえない声で

 

 

 

 

「……本当の強さというのはベルみたいな……」

 

「なにか言った??」

 

「……はい。冒険が楽しみです」

 

 

「うん、楽しみ」

 

「あぁ楽しみだな」

 

 

 

まるで冒険というよりピクニックにいけような感じだが、この時はまだ「あんな事があるなんて」ハジメは思っていなかった。

 

 

そう、これはただの冒険ではない。




はい、ハジメに小刀を持たせました。
初めは「刀」にしようと思いましたが、どうしても振り回すイメージが浮かばず、なら小刀でよくねぇ?と思いこちらにしました。
さて、どのように小刀を扱うのか?ハジメなら普通の扱いをしそうにないな~と思いながらも、それだと考える自分大変じゃねえと頭を抱えそうです。

ああ、何故刀や小刀を持たせたのかって??
るろうに剣心を見たからです!!!以上!!!!!

…………いつまで小刀持っているかな?


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影の薄さよりも僕が変だと思われている。


11月ですね。
昨日はハロウィンでしたが、皆さんは仮装されましたか??
はい、特にこれ以上話を広げられませんでした(笑)
それではどうぞ♪


「ふっ!!」

 

 

 

只今第16階層である。

上層ではモンスターはまるで紙切れかのように、アイズ姉の振るデスペレートに簡単に斬られていた。なので上層から中層までは最速で到達して今に至る

 

 

 

 

「アイズ姉だけでここまで来れましたね。あんなにモンスターがいたのに」

 

「アイズにとっては肩慣らししかならないだろう」

 

「……終わったよ」

 

 

 

ついさっきまで四方を囲んでいたアルミラージの群れがいたのだがあっという間に全滅した。それも苦労というものもなく準備運動をしてきたよ、という感覚しかないのだろう。目の前でこんな戦いを、レベル5の戦いを見たことなかったので本当に「スゴい」としかいいようがない。

 

 

 

 

「しかし………本当に見えていないのだな…

ここまで来たというのにハジメは一度もモンスターに()()()()()()()

それに普通は上層から中層に向かうに連れてモンスターのエンカウントが増えるというのに、減ってきている気がするのだが……これもハジメの影響だというのか??」

 

 

 

 

「だと思いますよ。影が薄いというのはその単体だけではなく周りもその影響がある。と誰かが言ってました」

 

 

「…………なるほど。ではずっといる私達も同じように周りから認識されなくなるのか?」

 

 

「いえ、影響があるだけですから。そうじゃないと神様やベルも誰にも認識されなくなりますよ。」

 

「なるほど、理解した」

 

 

 

 

良かったです、とリヴェリアの前を歩くハジメ。その姿を後ろから眺めるリヴェリアは

 

 

 

 

(そう誰にも認識されない。それはどれくらい辛いことなのか……普通に話せる事が出来ず、目にも止められず、そこにいても気づかずに通りすぎる……冒険者だろうが一人の人間……君にはどれだけの苦しみが………)

 

 

 

いくらスゴいスキルを持っていようが「人が人である」というそれを無くしてしまったら、人はそれを耐えることが出来るのだろうか…………

 

 

 

「どうしましたリヴェリア姉?」

 

「い、いや。何もない。さぁもう少しで18階層だ」

 

 

 

「ねぇハジメ」

 

「なんですかアイズ姉」

 

 

 

「貴方の力を見てみたい」

 

「あぁ、そうですね。ここまでアイズ姉がモンスターを倒してくれましたし、ここからは()()やりましょう」

 

 

 

そういってハジメはアイズとリヴェリアの前に先頭へ出てきた。確かにアイズはハジメの力を見てみたいとは言ったが

 

 

 

「ちょっとまて、いまの発言はハジメが一人で戦うようにしか聞こえない。確かにハジメの力はスゴいだろうがレベル1であることは変わらない。中層であるここで一人で戦うとなると契約違反になる」

 

 

 

契約では勝てそうな時だけ戦闘に参加する。となっている。中層でそれも一人で戦うなんて……無理にも程がある。この中層では上層とは違いモンスターの強さもそうだが数が一気に増えて出現確率も上がっている。アイズ達のようなレベル5ではないかぎりパーティではないと攻略できないのだ

 

 

 

 

「契約違反はいけませんね。でしたら数を減らして貰ったところで僕が戦う、というのはどうでしょうか?」

 

「なるほど、それならまだいいかもしれん。しかし危ないと思ったら強制的に終わらせるからな」

 

 

 

「僕の力を見るためなのに守ってもらっているというのは、なんか矛盾してませんかね?」

 

「気にするな。私も思っているが無茶はさせられん」

 

「それじゃ、あれでいいのかな?」

 

 

 

 

すると目の前に現れたのは先程と同じアルミラージの群れ。それを確認したアイズはゆっくりとデスペレートを抜き一気にアルミラージに近づく。そして近づくだけではなく何故か通りすぎた。立ち止まりデスペレートを鞘に納めた時アルミラージの胴体は切れ、中にあった魔石さえも切られた

 

 

 

 

「スゴいですね。全く見えませんでした」

 

 

 

 

そしてさっきハジメが提案した通りにアルミラージが一匹だけ残っている。そのアルミラージは圧倒的な敵に恐れているようでその場から動けないでいる

 

 

 

 

「さて、あの一匹でも大変だが周りには私達がいる。心配せずに思いっきりやってくれ」

 

「分かりました。それでは折角ですからベルから貰ったこの小刀《石火》の試し切りですね」

 

 

 

 

そういってハジメは石火を抜いた。そしてアルミラージに向けて歩いていく。普通に歩いているがアルミラージにはハジメのことは見えておらず目の前に近づいても気づいていない。そして石火をそのまま降り下ろした

 

 

 

 

 

「………えっ」

 

「まさかと…思っていたが……」

 

 

 

 

アイズ達の目の前にはハジメが降り下ろした石火がアルミラージの体を貫く、ところではなく刃先が当たった状態で止まっていた。一時停止で止めている訳でも、無意識でスキルが発動している訳でもない。

 

思い出してほしい。

ハジメのスキルや魔法は確かにレア中のレアではあるがその代わり、

 

 

 

力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:S999

 

 

 

と、変則過ぎるステイタスの持ち主であることを。

 

 

だからハジメがいくら攻撃しようがそれは蚊が刺した程度しかないのだ。刺されたことに気づいたアルミラージは一度距離を取って見えない敵に向かい、さっきいた場所よりも少し前に向かって飛んだ

思わず助けに行こうとしたアイズに対してリヴェリアはそれを阻止した。確かにレベル1ならアルミラージと言えども危険なものには確かだ。しかしすぐに危険な状態に陥るとは思っていなかった

 

そしてその予想は当たり危険なことに陥ることはなかった。アルミラージの攻撃はハジメの体に触れたとたんに停止させられていたからだ

 

 

 

 

「う~ん、やっぱり武器を持っても攻撃は当たりませんか」

 

 

 

ハジメも当たってないよね‼と、ここにベルベルがいたらそう言っていただろうな~と考えながら次から次へとアルミラージからの攻撃を防いでいる

そんな姿を見て驚いているのはアルミラージだけではない。

 

 

 

「本当に…本当にすべての攻撃を防いでいるというのか……」

 

「……スゴい…」

 

 

 

初めて見る光景に驚く二人。アイズとはいえアルミラージの攻撃をただ受けるだけとなると怪我をするだろう。なのにレベル1であるハジメは怪我もなく抵抗もせずにその場に立っているだけである

 

 

 

 

「この前アイズ姉が見ていた、と言いますか見るはずだった事を今からしますね」

 

「あのシルバーバッグの戦いのこと?」

 

 

「はい、これが僕の戦いです」

 

 

 

未だに攻撃してくるアルミラージの目の前に右の掌を翳した。そして今まで受けていた攻撃を、止めていた攻撃を、それを全て右の掌に集結させて一気に一時停止を解除(再生)させた。

その攻撃が、衝撃が、一ヶ所に集まったことにより一撃では倒せない攻撃を一撃必殺に変えてしまった。アルミラージの体はその場で吹き飛び魔石も粉々になって消えていった

 

「魔法」のような攻撃。それは一時停止は魔法ではあるが、さっきの一撃はレベル1では考えられないものである。だから信じられないのだろう、いくら頭で分かっていても、冒険に誘うとき()()()()()()()()の者だと分かっていてもだ。

 

 

そこにいる人物は何者なんだと考えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

「ここでお昼にしましょう」

 

「いやここでお昼を?」

 

 

 

 

いまハジメ達がいるのは三人が余裕で入れる横穴の中。奥行き5㍍ぐらいあり休憩するには持ってこいかも知れないがここはセーフティゾーンではない。ではなぜここでお昼を取ろうとしているのかというと、その横穴の入り口全体に一時停止による空気の壁を作ってモンスターの侵入を食い止めているからだ。もちろん壁からモンスターが出現しないように壁にも一時停止で止めている。

なので、アイズの目の前では空気の壁の向こうで爪を立てて攻撃したり火を吐いたりして中に侵入をしようとしている。だが一時停止によって止められたものは再生しないかぎり()()()()()()()。だからハジメは安心してバックを背中から下ろしてお昼を取ろうとしている

 

 

 

 

「まさか空気さえも止めることが出来るなんてな…」

 

「でもこういう「枠」というのがないと一時停止出来ません」

 

 

「流石に何からなんでもというわけではないのだな」

 

 

 

その言葉はなんか含みのある言葉に聞こえたが、それよりお昼を取りたいというのが優先されたため気にしないことにした。バッグからお弁当箱を取り出したところで

 

 

 

「………いいな」

 

「持っていないんですか?」

 

「18階層で食事を取ろうと考えていたからな」

 

 

「………食べますか?」

 

 

 

その言葉にハジメと同じぐらい表情が変わらないアイズが嬉しそうな表情になり、リヴェリアはすまないと頭を下げてお礼を言った。

元々一人で食べるつもりはなかったがこんなに欲しそうな表情を見ることになるなんて考えていなかった。お弁当箱を3人の座る中央に置いて蓋を開けると

 

 

 

 

 

「……………えっ」

 

「な、なんだこれは……」

 

 

 

 

そこ見えたものは到底食べ物には見えない。だってそれは真っ黒な物で、形は歪で……これ「大丈夫」という言葉が出てこない

 

 

 

 

「おぉ、サンドイッチですか」

 

「「サンドイッチ!!!??」」

 

 

 

「どうしたんですか二人とも?驚いているようですが」

 

 

 

「これ、サンドイッチじゃないよ」

 

「間違いなく食べた者の体を壊すための物だ」

 

 

「失礼なことを言わないでください。これはリュー姉が作ってくれたサンドイッチですよ。そんなことをいうのならあげられません」

 

 

 

 

いや食べられません、というか、食べ物でもありません。と言いたい衝動をグッと抑える二人。無表情なハジメがどこかワクワクしているように見えるのだ。食べるのを止めろなんて……言えなかった

ハジメはその黒色それを手に取り、なんの躊躇(ちゅうちょ)もなく、躊躇(ためら)いもなく、それを口にした。

普通では考えられない音がハジメの口からする。それでも表情が全く変わらずにモグモグと口を動かす

 

 

 

 

「……………」

 

「……どうなんだ……」

 

 

 

 

特に変わった様子もなく口に入っていた物をゴクッンと胃の中へ流して食べ終わった。しかし一切のアクションを起こさずにまるで一時停止により止められているように動かないハジメ。やっぱりヤバイものだったのではないかと思いリヴェリアが声をかけようとした時

 

 

 

 

「卵サンドの次は野菜にしましょうかね」

 

「……………ハジメって……」

 

「……味覚オンチなんだろう……」

 

 

 

 

ハジメの新たな一面を、見たくない一面を見てハァーとため息付く二人

 

 

 

 

「そうでした、リヴェリア姉とは少し呼びにくいのでリヴェ姉と呼びますね」

 

「全くの脈絡もないのか……」

 

 

 

 

頭痛が治まるまでここで休憩したことは言うまでもない。





小刀の名前を「石火」にしました。
意味は「きわめてわずかの時間、はかないこと、すばやい動作」
しかしハジメには勿体ない武器だったかも?
これから頑張ってほしいですね♪

…………他人事のようですが、これからどうするかは考えてなかったんですよ(笑)


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影の薄さと二人のお蔭で18階層まで来れました。

お昼ご飯を食べて?向かうは目的地である18階層へ。しかしその前に立ち寄るのは17階層であり、そこには階層主(ゴライアス)がいるはずだが

 

 

 

 

「今日はいませんね」

 

「運がいい。もう少しで出現するタイミングだったが」

 

 

 

 

階層主は一度倒されると復活までに期間があり、その間に少人数のファミリアなどはここを抜けるようにしている。もちろん階層主がいても逃げ切ってしまえばいいが、そう簡単にはいかないのが階層主である。一級冒険者であるアイズとリヴェリアでも倒すのは大変であり、牽制しながら17階層を抜けていく()()だった

 

 

 

 

 

「もう少しということは明日や明後日くらいに出現する可能性があるんですか?」

 

「期間的にはそうだ。安心しろ、流石にゴライアスと戦えとは言わない。完全な契約違反にあたる」

 

 

 

 

しかし17階層にもモンスターはいる。

ライガーファングの群れが現れハジメ達を襲う。デスペレートを抜き斬りかかるアイズ、自分が対象になるように攻撃をして一気に一時停止解除(カウンター)を喰らわせるハジメ。そしてリヴェリアは二人のお蔭でモンスターに襲われることもなく

 

 

 

 

【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地。

 

 

 

 

詠唱を続けもう少しで終わりを向かえようとしていた。それに気づいたアイズはハジメに近づいて

 

 

 

 

「魔法が来るから、離れて」

 

「了解です」

 

 

 

 

と、声をかけられたハジメは今まで溜まっていた一時停止を足裏に設定して、解除をしたことで衝撃が放たれてハジメの体は浮き上がりその場からの緊急脱出をした。そして詠唱は、

 

 

 

 

吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ】 

 

 

 

 

終わりを向かえた。

その瞬間17階層に、ライガーファングの群れに極寒の吹雪が襲いかかり、モンスターの動きを、時さえもいてつかせる無慈悲な雪波は一匹残さず凍りつかせた

 

 

 

 

「スゴいですね、これがリヴェ姉の魔法ですか」

 

「私はハジメの魔法の方がスゴいと思う」

 

 

「そうなんですか?」

 

「さっきのように魔法を発現するには詠唱が必要だ。強い魔法ほど詠唱は長くなる。しかしハジメの一時停止は詠唱要らずの自動発動(オート)。正直それは本当に「魔法」なのかと疑ってしまうほどだ」

 

 

 

 

魔法だからと、いってもいい。必ず詠唱が必要となる。例え詠唱要らずの魔法だとしてもその名を名乗ることになるだろう。しかしハジメの魔法は、それさえもない。

 

 

 

 

「魔法ですよ。ちゃんとステイタスにもありましたよね?」

 

「あぁ、それは分かっている。しかし人は違うものを見てしまうと疑ってしまう。気分を害したなら謝ろう」

 

 

「いいですよ。それより18階層にいきましょう」

 

「………そうだな」

 

 

 

 

凍りつたモンスターを通りすぎ18階層へと歩き出す。するとアイズがハジメの横に付いて

 

 

 

 

「……さっきのは、なに?」

 

「さっきのはと言いますと……あの場所から抜け出した時のですか」

 

 

「うん、普通の動きじゃなかった」

 

「確かに、まるで足元から何かが噴き上げて飛んだ。そんな印象だった」

 

 

 

「間違ってませんよ。衝撃を掌から足の裏に変えて解除しました」

 

 

 

「………やはりとんでもない魔法()だな……」

 

「使い勝手がいいだけですよ」

 

 

 

 

大したことはないと言っているハジメだが、アイズもリヴェリアもその一時停止はただ何かを止めるだけのものではないと理解している。そしてそれはリヴェリアが持つ魔法よりも群を抜いて強いのではないかと……

前を歩くハジメに気づかれないようにアイズはリヴェリアに近づいて

 

 

 

 

(………実行するの?)

 

(どうだろうか、正直問題はないとは思う)

 

 

(私もそう思う、ハジメは強い)

 

(あぁ、魔法も私よりも強いだろう。そして心も。

しかし決め手がない、実行するだけの決め手が)

 

 

(………私に、任せて)

 

(何か考えがあるのか?)

 

 

(………うん)

 

(分かった、だが慎重にすることだ

でないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメを殺してしまうかもしれないからな)

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

「テントを借りたいのだが」

 

「いや、それより宿に…」

 

 

「テントを借りたいのだが」

 

「……わ、分かりました。少し待ってください」

 

 

 

 

無事に18階層に到着したハジメ達は、まず今夜の宿を決めることにした。しかしセーフティゾーンである18階層だからこそ、地上にある宿屋より値段は高く、モンスターなどが襲撃でもしているのか宿屋自体もボロくマトモに休息を取れる場所ではない。なのでロキファミリアはここに来る旅にテントを張っている。しかし今回は少人数でテントを持ってきてはいない。

 

 

 

 

「す、すみませんが状態のいいテントはこのひとつだけなんですが……」

 

「構わない。これだけあれば足りるか」

 

 

 

 

と、テントを借りるにしては多すぎるお金を渡したリヴェリア。近くに宿屋があるのに泊まらないのだ、これぐらいはと多く支払ったようだ

 

 

 

 

「ありがとうございました‼」

 

「これで寝床は問題ないな」

 

「いや、問題しかありません」

 

 

 

 

テントを手にしたリヴェリアに対して間もなく答えたハジメ。しかしどういうことだろうと首をかしげるリヴェリアは

 

 

 

 

「どんな問題がある??このテントは三人でも充分なスペースはある。確かに食事は自炊になるかもしれないが……」

 

「そこは僕がやりますので問題ありません。問題なのはそのテントにどうして僕も一緒なんですか?」

 

 

「あぁ、そういうことか。ハジメは私達を襲いたいのか?」

 

「一級冒険者に、いえ、許可も、いえ、同意も、いえ、お互いが信じあい許しあいどんな時もその人を思い続けることが出来る相手ではないと」

 

 

 

「分かった、分かった。

私達はハジメと一緒でも問題ない、後はハジメ次第だが無理というなら宿を手配する」

 

「いえ、お二人がいいのなら僕も構いません。しかし簡単に異性と一緒でも大丈夫だと言わないでくださいね。いくら一級冒険者とはいえ女性なんですから自分を安くみないようにですね………」

 

「私が悪かった!!そこまで考えてくれるとは思っていなくてな。それに安くなんて見ていない。ハジメだからいいと私もアイズも思っている」

 

 

 

 

リヴェリアの言葉にアイズも頷く。「そうですか」とそれ以上は追求してこなかったが、

 

 

 

 

(冒険者としても人としても申し分もない。だが決め手が見えない……アイズに任せるしかないか……)

 

 

 

 

何を考えているのかハジメには分かるはずもなく、いまは夜ご飯の為に買い出しのことを考えていた。リヴェリアから充分なお金を貰っているためこの18階層の物価が高くてもそれなりの物は買える

 

 

 

 

「何を作りましょうか……」

 

「ハジメ」

 

 

「なんですかアイズ姉」

 

「ジャガ丸くん、作れる?」

 

 

「まぁ、神様がよく貰い物として食べてましたのでどの様な物かは分かりますから出来るかと」

 

「作って」

 

 

「いや、もっとちゃんとしたものを…」

 

「作って」

 

 

 

 

何か譲れないものがあるのだろう。真剣な眼差しでジャガ丸くんを作ってくれというアイズ。ハジメとしてはちゃんとした料理を作ろうと考えていたのだが

 

 

 

 

「………分かりました。メインはジャガ丸くんにしますので後は何かありますか?」

 

「特にない」

 

 

「そうですか、リヴェ姉は??」

 

「栄養のあるものを頼む。でないとアイズはそれだけしか食べないかもしれないからな」

 

 

 

 

「そんなこと、ない」と言っているがあんな眼差しでの後でそんなことを言っても説得力がない。とにかくハジメは買い出しを、アイズとリヴェリアはテントを立てた後水浴びに向かったのだった

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

それからしばらくしてアイズ達は水浴びを終えて帰ってみるとすでに料理は完成していた。そこにそこにあったのはアイズのリクエストであるジャガ丸くんとリヴェリアのリクエストである栄養のあるものということで野菜とお肉を一緒にスープで煮たものがあった

 

 

 

 

「おお、これは美味しそうだな」

 

「ジャガ丸くんだ」

 

 

 

「リクエスト通りに出来たと思いますが」

 

「正直、昼間のアレを見て心配だったが、これなら安心して食べれるな」

 

「それはどういうことなのかと聞きたいですが、お腹も空きましたし気にしないことにしましょう」

 

 

 

 

食事の前に感謝を込めて祈った後、直ぐ様アイズはジャガ丸くんを手にとって口に入れた。熱々だから一気に食べようとすると火傷してしまうが気にせずに食べ進める

 

 

 

 

「………ッ! 美味しい……」

 

 

 

 

リヴェリアはスープを手にとってスプーンで掬ったそれを口に入れる。

 

 

 

 

 

「これは美味しい。まさかここまでとは……」

 

「そんなにですか?普通に作っただけですよ」

 

 

「こんなことをいうのはなんだが、ダンジョンに潜ると料理を作ると雑になってしまうんだ。皆本業は冒険者。料理など食べて栄養があれば味はというやつが多いのだ」

 

「そうなんですね、美味しい方がいいのに」

 

 

 

 

言っていることは分かるが食事は大切である。それこそ一日を変えてしまうほどに。心を満たしお腹も満たし次の冒険の活力となる。だからキチンと食事をしたほうがいいと思う。

だけどロキファミリアにも事情というものがあるのだろう、これ以上はいわないことにした

 

 

 

 

「しかしそれを差し引いても本当に美味しい。なにかコツがあるのか?」

 

「う~ん、たまにミア母さんに強制的に試食で色々言われているからですかね」

 

 

「なるほど、それなら納得がいく」

 

「おかわり」

 

「はい、まだありますけど食べ過ぎたらダメですよ」

 

 

 

 

「うん大丈夫」というがさっきからスゴい勢いで食べ進んでいる。よほどジャガ丸くんが好きなんだろう。

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

食事を終え寝ることにしたのだが、どの位置で寝るかと少し騒ぎになった。どういうわけかハジメを二人の間に寝てもらうとなったのだ。だがハジメの主張は二人が並んだ隣で寝ること。まぁ結局はハジメが折れて二人の間で寝ることにした

 

しかし寝られるはずもなく、起こさないようにテントから抜け出した。この18階層を見渡せる丘を見つけてそこに座り景色を見渡す。

結晶がキラキラと光り、それが周りを照らし出して

 

 

 

 

「綺麗ですね」

 

「……うん、綺麗」

 

 

 

 

気づかなかった。一級冒険者だからだろう、気配を消して近づいてきたようだ。

 

 

 

 

「アイズ姉、ビックリしました」

 

「全然驚いているように見えない」

 

 

「顔に出ないタイプなので」

 

「私も、言われる」

 

 

 

 

そんな些細な話から少しずつ話題が膨らんでいく。ジャガ丸くんのことや仲間のこと神様の話など、大した話ではないかもしれないが楽しいと感じている

 

 

 

 

 

「………ねぇ、ハジメ」

 

「なんでしょうか」

 

 

「私はハジメの強さを、知りたい」

 

「前にもそんなことを聞いてましたね」

 

 

 

 

さっきまでの和やかな雰囲気から一変して真剣な眼差しでハジメを見るアイズ。

 

 

 

 

「僕の強さですか……スキルか魔法ですか?」

 

「違う、知りたいのは……」

 

 

 

 

そう言いながらアイズはハジメに向けて指を指す。正確にはハジメの胸の中央を

 

 

 

 

「その強い……心」

 

「心ですか?」

 

 

「うん」

 

「強いですね……ちなみにどの辺ですか教えてくれますか?」

 

 

 

 

一体何が強いのか自分では分からなかった。普通にしているだけなのだから強いと言われても答えられない

 

 

 

 

「普通はどんなモンスターでも襲って来たら逃げるか、戦うか、恐怖して立ち止まるか。

なのに逃げもせずに、戦うこともせずに、怖がることもなく攻撃を受けている。

どうしてそんなことが出来るの?」

 

 

 

 

冒険者なら戦うだろう。ヤバイと思ったら逃げることも大事であり、強敵が出てきたら動けなくもなるだろう。だから知りたいのだ。その強さを。

 

 

 

 

「どうしても何も、自分を信じているだけですから」

 

「信じている…だけ」

 

 

「普通ですよね。

信じているといいますか「自分」ですからね、迷うことなんてありませんよ」

 

 

 

 

本当に迷いなんてないとアイズはハジメの瞳を見て理解した。曇りもなく真っ直ぐに見ている。

 

 

 

 

「それがハジメの強さ……」

 

「強さ、なんですかね。僕はベルベルやアイズ姉のように「強くなりたい」と「強くありたい」と思えません。もちろん冒険者ですから強さを求めますよ僕も。でも二人のように高みを目指せない。僕はそれが羨ましい」

 

 

「……どうして、そんな……」

 

「こんなところにいたのか」

 

 

 

 

何かを聞こうとしたところでリヴェリアが現れて言葉を遮られた。どうやら二人がいなかったことに気づいて探していたようだ

 

 

 

「明日の為にも早く寝ることだ。ほら二人とも帰るぞ」

 

「そうですね、いきましょう」

 

 

「う、うん……」

 

 

 

そういって二人よりも早くその場から離れていくハジメ。その背中を見ながらリヴェリアはアイズに

 

 

 

 

「どうだアイズ?」

 

「………何よりも自分を信じている。だから強いのだと思う」

 

 

「なるほど、疑わない強さということか……」

 

 

 

 

それを聞いたリヴェリアは何かを決意したように頷いたあと

 

 

 

 

「なら、私達はやるしかないな」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハジメには、階層主(ゴライアス)と戦ってもらう」




長かったですよね~。
なので簡潔に、次も同じぐらいになるかも。
余談ですがハジメのツッコミはどうでしたか?
なんとか違和感なく出来たかと思います
次もヨロシクね♪


~追記~
11/7、6:00に新たな話を更新して読まれた方もいると思います。すみません、未完成の状態で投稿してしまいまして削除させてもらいました。
明日11/8に完成した話を更新しますので、あと少しお待ちください。よろしくお願いします。


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影が薄いからなんて言わせない。

昨日はすみませんでした。
一時間半近く更新してすぐ削除しましたがこれには理由があります。

………まだ書いてる途中でした‼それで投稿してしまいました!!!!期待させてすみません!!!!!!

折角更新したと思ったのに~と感じたと思います。
そんな思いを巻き返すだけの更なるストーリー作成が出来ました。(自信はないけど♪)
その分だけ文字数が多いです、過去最多です。
じっくりと読んでください。それではどうぞ。




少し時間が遡り、ここは『豊穣の女主人』

 

 

「今頃は18階層に着いているんですかね……」

 

「間違いないでしょう」

 

 

「気になるなら今からでも……」

 

「しつこいですよシル」

 

 

 

睨みをきかせるリューに対して少し舌を出して可愛く誤魔化すシル。今日はベルとヘスティア、話し相手としてリューとシルが同席している。お店は落ち着きをみせた所でベル達が入店して「休憩ついでに話してきな」と話相手は二の次で料理を注文させなという遠回しな言い方である

 

 

 

 

「でもスゴいなハジメは……同じレベル1なのにもう18階層なんて」

 

「ハジメ君が特殊なだけだよ」

 

「その通りです。ですから自分もいけるなんて考えないように」

 

 

「いえいえ!!!考えませんよそんなこと!!!!

ハジメのお蔭でエイナさんからキツく言われてますから……今日もどれだけダンジョンが危険なのか、モンスターの知識とか、もう頭が痛いです……」

 

 

「お疲れさまです」

 

 

 

 

ベルにはハジメみたいにならないようにエイナはまるで英才教育のように徹底的に「ダンジョン」について教えているようだ。なので最近では無茶なことはせずに地道にダンジョンの潜っている。

 

 

 

 

 

「しかしそれは必ず役に立ちます。知識が有るのと無いとでは大きな差がある」

 

「すぐには追い付かなくても地道なことが確実に1歩前進する。ってハジメ君がよく言ってたよ」

 

「ハジメがそんなことを……」

 

 

「いまではスキルや魔法があるけど、その前はごく普通の青年だったらしいよ。冒険者になった理由は話してくれなかったけど「友達が欲しい」って言ってたな」

 

 

 

「それ今でも言ってますよね?

ダンジョンに一人で潜る理由も友達が欲しいって」

 

「いま思えばそれが理由だったのかな、冒険者になりたかったというのが……」

 

 

 

 

しんみりとなったところでミアが大きな皿を持って「辛気臭い顔をするぐらいならもっと食べな!!!」と割って入ってきた。大きな魚の焼きたものがドンと皿に乗ってあり周りは香草によって飾られていて、その匂いが食欲をわかせてくれる

 

 

 

 

「ったく、いまじゃあんたらがいるんだ。昔がどうだったかなんて今が大事なんじゃないかい。そんなに心配なら契約でもなんでも見直して納得することだね」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 

 

アドバンスを告げたミアはまた厨房へ戻っていく。しかし美味しそうな料理ではあるが量が多い。これを食べきれるかな~と思いながら

 

 

 

 

「そういえば契約書って神様が持ってるんですよね」

 

「そうだよ、ちなみに今も持ってるよ」

 

 

「何で持ってきてるんですか!!!??」

 

「自分でいうもの嫌だけどあんな場所にこんな大事なものを置いておけるかぁ!!!」

 

 

 

 

といいながら自分の胸元に手を入れて何かを掴み引き抜くとそこには折り畳まれた契約書が入っていた。ベルはその突然のヘスティアの行動にビックリして直ぐに視線を外したが、隣にいるシルが小声で「ベルさんのエッチ……」と言われて少し赤くなっていた顔が更に真っ赤に染まった。

 

 

 

 

「何処に隠してるんですか神ヘスティア……」

 

「し、仕方ないじゃないか!!スリにあっても安全な場所なんてここ(谷間の中)しかないんだよ!!!!流石に神を襲うなんて輩はいないだろうからね、うん」

 

 

 

 

「クラネルさん、早く金庫を買えるように」

 

「は、はい!!!」

 

「そんなにダメだったのかい!!!」

 

 

 

むしろ何で大丈夫だと思ったのか?と思ったがこれ以上はヘスティアが可哀想だと言うのをやめた一同。とにかく話題を変えるために契約書を広げることにした。たださっきまであの中に(谷間に)入っていたため温もりが感じられる。それを意識したベルはまた顔を赤くする。

 

 

 

 

「ベ・ル・さ・ん~‼」

 

「さ、さぁ!!契約書を確認しましょう!!!!」

 

 

 

強引に誤魔化したベルだが、もうすでに遅く女の子全員から冷たい視線を浴びることになる。いや一人は熱い視線かもしれないが受け取っているほうは感じてないようだ。

契約書を広げて内容を確認する

 

 

 

 

1 お互いのステイタス情報を公開

だが最小限の人数だけにとどめること、もし漏洩した場合は賠償金や体罰を受ける

 

2 基本にモンスターとの戦闘はロキファミリアが行い、トキサキ (ハジメ)が戦闘する際は勝てるだろうという状況とモンスターを見極めてから行うこと

 

3 無事に冒険が終了したら報酬として5000万ヴァリス

 

4 契約違反を犯した場合は無条件の《命令》を受けること

 

 

 

 

立派な羊皮紙の枠には芸術的な模様があり、その真ん中に契約内容が書かれてある。何度も読み返したが特に問題はないと思われる

しかしそこで契約書を初めてみるリューが何かに気づいた

 

 

 

 

「この勝てるだろうという状況とモンスターの見極めと書いてありますが、これは「モンスターを弱らせてしまえば強いモンスターでも戦える」という解釈が出来るのですが」

 

「それはボクも気になったから聞いておいたよ。圧倒的なモンスターに限っては適用されない。つまりは一級冒険者しか倒せないモンスターや階層主との戦闘は「どんな状況であれ戦闘参加はない」と決めているよ」

 

 

「そうですか、それならいいのですが」

 

「まぁ、気になるのは仕方ないよ。まずレベル1の冒険者が18階層を目指す自体あり得ないんだから」

 

 

 

 

明るい感じで返しているが契約書を作成しているときはハジメの為を思ってロキに「め、目が血走ってるで…」と引かれながらも真剣に作ったものだ。そこへうーんと唸っているシルが恐る恐る声をかけた

 

 

 

 

「あの~、でもこれって階層主と戦うんじゃないんですか?」

 

「何を言ってるんだい?階層主はレベル1が何人集まろうとも倒せないだよ。どんなに階層主が弱っていたとしても……」

 

 

 

「でも、同行者二人が問題ないと判断したら階層主と戦闘になるんじゃないんですか?」

 

「あのね、さっきから何を言っているんだい!!何を聞いていたんだい!!!そんな契約書にも乗ってないことを勝手に」

「ここに書いてますよ」

 

 

 

 

そういってシルは指を指す。そこは羊皮紙の枠にある芸術的な模様が刻まれている。一体何があるのかとその指の先をじっと見てみるとその模様と同化しているかのように何やら小さな字で

 

 

 

《しかし2において同行者である二人が問題ないと判断した場合階層主(ゴライアス)との戦闘を認める。》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「は、はああああああああぁぁぁぁ!!!!!!!」」

 

 

 

 

思わず声を張り上げるヘスティアとベル。その声に奥からミアが「五月蝿いよ!!!!!」と怒鳴ってくる。シルはあわあわと慌てていてリューは頭を抱えている。

確かに契約書の内容に不備はなかった。ただ契約書自体に不備があるなんて思いも寄らなかった

 

 

 

 

「な、なんだよこれは!!!」

 

「これってつまりアイズさん達がハジメをゴライアスと戦えると判断したら………本当にやることになるんですか!!!」

 

 

「御二人とも、ここで話している場合ではない。一刻でも早く真意を聞かないとトキサキさんの命に関わります」

 

 

 

 

その言葉を聞いた二人は直ぐに立ち上がり

 

 

 

 

「すまないけどここで失礼するよ!!!」

 

「お支払は……これだけあればいいですか!!?」

 

 

「ちょっ、ちょっとベルさん!!?」

 

 

「シル、悪いが私も一緒に行ってきます。ミア母さん、必ず()()()()()()帰ってきます」

 

「ったく、貴重なバイトを見殺しにするんじゃないよ‼」

 

 

 

 

ミアから許可を貰い三人で黄昏の館に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

「……ということだロキ。明日にでも」

 

「頼むでフィン」

 

 

 

 

ロキの私室で団長であるフィンとロキが話し合いをしていた。その話も終わりを向かえようとしていたところで突然遠くの方から騒がしい音が聞こえドンドン近づいてきた。そのリューは店から持ってきたデッキブラシで

 

 

 

 

「な、なんや‼」

 

「これは……」

 

 

 

 

その近づいてくる音にフィンはどうやら聞き覚えがあるようだ。その音と同時にロキファミリアの冒険者の声が一緒に混ざり

 

 

 

 

「か、勝手に入っては、グハッ!!」

 

「な、なんだこいつは!!!」

 

「止めろ!!!これ以上進ませるな!!!!!」

 

 

 

 

必死に何かを止めているようだが止まることはなく更に私室に近づいてくる。そして大きな音と同時に私室の扉がぶっ飛び、一緒にロキファミリアの冒険者が気絶した状態で扉とキスしていた

そして次に現れたのは

 

 

 

 

「夜分にすみません」

 

「ちょっ、ちょっとリューさん!!!やりすぎですよ!!!!!」

 

「いやこれぐらいしても、やり足りないぐらいだよ‼」

 

 

 

 

今回契約を結んだヘスティアとその子ベル。もう一人は「豊穣の女主人」で働いているリューだった。そのリューは店から持ってきたデッキブラシでそこで伸びているレベル3である冒険者を叩きのめした。リューのレベル4ではあるが、ロキファミリアの冒険者がそう簡単にやられるはずはない。それでもやられているのは

 

 

 

 

「ここに来た理由は分かっているはずだ。納得いく説明をしてもらいたい」

 

 

 

 

いまリューはキレている。その怒りがこのロキファミリアの冒険者達を簡単に倒してしまうほどの力を与えたようだ。

 

 

 

 

「こんなに早く気づくなんてな~。せやけどちょっとやり過ぎとちゃうか?」

 

「ふざけるな。こんな騙し討ちをしてきた相手に言われる筋合いはない」

 

 

「ほう~それを()()()()()()()()

 

「ッ!!!!」

 

 

 

 

ヘスティアとベルには何のことなのか分からないが、リューが明らかに動揺しているのだけは分かった。そしてリューが只者ではないということも……

 

 

 

 

「リ、リューさん……貴女は……」

 

「悪いですがその話は後で。いまはトキサキさんのことです」

 

 

「そ、そうだ!!ロキ!!!これはどういうことなのか説明をするんだ‼!!!!」

 

 

 

 

ロキの前にある机に思いっきり叩きつけるように契約書を見せる。「知らない」というかと思ったが、逆に悪気もないように

 

 

 

「説明も何も書いてある通りやで。アイズとリヴェリアが問題がないと判断したらハジメに階層主と戦ってもらうってな」

 

 

 

 

 

その細い目を開き不気味に笑うロキ。それを見たヘスティアは完全にキレてしまい、二人の間にある机を気にすることなく手を伸ばしてロキの胸ぐらを掴む

 

 

 

 

「ふざけるんじゃない!!!何を勝手にしているんだ君は!!!!!ハジメ君はレベル1なんだぞ!!!!!それを階層主と戦わせるなんて………ハジメ君に何かあったらどうするんだ!!!!!!」

 

「だから何かが無いように二人の判断に任せてるんやろ。勝てる相手なら階層主でも戦わせる。それともなんやヘスティア、お前は自分の子供を信じられへんというか?」

 

 

「信じてる、信じてるよそれは!!!でもいまはそんな話をしてるんじゃない‼!!!!どうしてこんなことをしてんだロキ!!!!これは明らかな契約違反だぞ!!!!!!」

 

「何をいってるんや?ちゃんと「契約書」の「中」に「契約」を書いてるんや。なんの問題もないで」

 

 

 

 

その言葉にさらに身を乗り出そうとしたところをベルが必死に引き留める

 

 

 

 

「放すんだベル君!!!!」

 

「だ、ダメです神様!!!!!いまはちゃんと話を聞かないと!!!!!!」

 

 

「こんな分からず屋に話を聞くなんて、いや、最初から話をするべきじゃなかったんだよこいつとはね!!!!!!」

 

「それでも聞かないとハジメが!!!!!」

 

 

 

 

その名前を聞いたヘスティアはハッ表情を変えて落ち着きを取り戻した。すると今度はリューが

 

 

 

 

「確かに契約書としては問題はないかもしれない。だが「人」として「神」として、貴方は正しいことをしたと胸を張って言えるのですか?」

 

「契約の文句の次は人格の文句かいな」

 

 

「いい加減ふざけるのはやめてもらいたい。こっちは大事な人の命がかかっている」

 

「ほう~エルフであるあんたが「大切な人」っていうことは、ハジメはあんたの伴侶になる相手って言いたいんか」

 

 

 

 

ここまでくると流石にリューも我慢の限界だったのだろう。1歩前に出ようとしたのだがすぐにその前にロキファミリアの団長であるフィンが立ち塞がり

 

 

 

 

「悪いけどロキに手出だしするところを黙って見ているわけにはいかないんだ。さっきのは神同士だからいいとしてもね、侵入者である君達を「排除」する理由だってこっちにはあることを理解してもらいたい」

 

「なら私達がどのような思いをしているか理解しているはずです。それでも……それでもまだ私達を愚弄するとあれば……」

 

 

 

 

リューは手に持っているデッキブラシをフィンに、そしてロキに向ける。その瞬間フィンの周りから殺気が溢れてくるのが分かった。それ以上はどうなるのか分かるかと言っているように。

そしてリューも明らかに戦う意思があると相手に示している。これにはベルやヘスティアも驚いていた。同じファミリアならば分かる話だがリューはあくまでもバイトの仲間であり、さっきまでの話や行動を見ればハジメにそれなりの想いがあるのではと感じれるが、いま見ているのはまるで「冒険者が戦いを挑んでいる」ようである。

思い当たる事なら何度もあった。ロキファミリアの冒険者を叩きのめしたり、ベルがある女の子を助けようとしたときにリューが現れて追い払ったりなど……

 

 

 

 

(もしかしてリューさんって………)

 

 

 

 

 

そんなことが頭を過った時、さっきまで殺気を放っていたフィンがそれを解き

 

 

 

 

「ロキ、もういいんじゃないか?」

 

「……どういうことやフィン?」

 

 

「そんなに意地悪をしなくても、だよ。いきなり自分の領地に入ってきて機嫌が悪いのは分かるが先に怒らせたのはこっちなんだ。それにロキなら契約書にそれを書いた時点で()()()()ことは予想していたはずだ。なら……」

 

「全部言わんでもええわ。………ったく、遊び心の分からん奴やな~」

 

 

 

 

そういってさっきまで機嫌が悪かったロキもあっけらかんと態度を変えて、いつも通りのおふざけた感じに戻っていた。しかしそんな展開に三人は着いてこれず、とりあえずロキ達に向けたデッキブラシは下ろしたリューだが、その含みのある言い方に対して

 

 

 

 

 

「どういうことですか?」

 

「心配いらんということや。確かにアイズやリヴェリアには戦わせるようには言ってるけどな、それはあくまでも「階層主(ゴライアス)にトドメを刺すとき」って言ってある。せやからといって全く危険性はないと言うわけやないけど、ガチで戦うと違うから問題はないはずや」

 

 

 

 

 

そのトドメを刺すと言ってもレベル1が出来ることではない。それはハジメだから出来るだろうと考え、その判断をアイズ達に任せたということ。だが、

 

 

 

 

「だ、だとしてもだ!!!!契約を破るようなことはしなくても言ってくれればいい話だろ‼!!!!それにロキがハジメに階層主と戦わせる意味もないはずだ!!!!!!」

 

「ドチビに話したところでこうやって拒否するやろうが」

 

 

「当たり前だ‼誰がハジメ君を危険な目に」

「そこや、()()()()()

 

 

 

 

名前を言いながらヘスティアに向けて指を指す。不機嫌でもお調子者でもなく、真面目な表情で語りだすロキ

 

 

 

 

 

「……どういうことだい??」

 

「確か…ベルって言ったかあんたは」

 

 

「は、はい」

 

「よっしゃベル、質問や。初心者も一級冒険者にも必要な「冒険者として何が必要か」分かるか」

 

 

 

 

突然の質問に戸惑うベル。だが自分のやってきた冒険を思い出してその質問に答える

 

 

 

 

「つ、強さと決断と経験と心……でしょうか?」

 

「間違ってないわ、だがまだ足りんで」

 

 

「…………敵を知ること」

 

「そう、どんな弱くても強くても相手を知らんことには倒すことなんてできへん。そして敵だと判断すれば必ず体で、心で、感じるもんがあるはずや」

 

 

 

「…………恐怖ですか………」

 

「!!!?? ロキ、まさか!!?」

 

 

 

「今頃気づいたんかドチビ。そうや、ハジメにはその「恐怖心」が足りてない、いや、欠けとると言ってもええな。

恐怖心は情けないもんやない、攻撃されたときどうやって防御した回避する??圧倒的な敵と、死んでしまうかもしれない敵と戦うか??予想出来なかったもんが出てきたらどうやって判断するや??

 

恐怖心は「恐れているからこそ回避する力」や。

分かるか??ハジメは冒険者になった時点でどんな恐怖心からでも「一時停止」や「カミカクシ」に守られとる。せやからどんなモンスターでも攻撃でも平然としてられる。それは周りからしたら「強さ」やと思うやろうけど、ウチに言わせたらただの甘ちゃんや。

もし一時停止やカミカクシが効かない奴がおったらどうするんや。

完全に油断しとるハジメは……簡単に殺されるで」

 

 

 

 

そこ言葉を聞きヘスティアもベルも顔色が青ざめた。そう心のどこかで思っていたからだ。どんな状況でもハジメなら平気だと、一時停止やカミカクシがあるかぎり大丈夫だと………

 

だけど誰が一時停止やカミカクシが万能だと決めた?

誰がハジメは絶対大丈夫だと決めた?

 

 

 

そう、勝手な思い込みである

ヘスティアもベルも、そしてハジメも……

 

 

 

 

 

「ええか、その「慢心」をどうにかせん限りハジメが魔力以外のステイタスアップやランクアップすることはまずない。もう分かるやろ、あの魔力だけ()()()という意味が」

 

 

 

 

そう、ハジメは完全に頼りきっている。自分の力に。

それは確かに強さではある。自分を信じられる、信じぬくことは簡単には持てないもの。

だが裏返せば恐怖を知ることもなく、1歩間違えれば「死」が待ち構えている状況にある

 

そしてそれは身近にいる人ほど()()()()()

 

 

 

 

「それじゃハジメ君のステイタスが上がらないのは、一時停止の問題じゃなくて……」

 

「ハジメ自身の()にあったんや」

 

「そ、そんな……」

 

 

 

 

 

衝撃を受けているがヘスティアは前からそれに気づいていたのだ

 

一時停止にある因果(出来事)によってステイタスにも影響することは、そこに()()()()()()()()()はオート発動していることを、魔力以外は必要とされないと()()()に判断していることを。

 

 

 

知っていたのだヘスティアは、

ハジメが自分の力に溺れていたことを。

 

 

 

 

 

「だからや、あのハジメに恐怖心を与えるためには階層主ぐらいの奴と戦わせんとその身に刻まれんてな。せやけどホンマに戦わせる訳にはいかへん。だからアイズとリヴェリアにまず階層主と戦ってもらうんや。「自分がどれだけ愚かな思考を、思想を持っていたのか」目の当たりにさせるためにな。そして極めつけが階層主にトドメを刺すことや。恐怖して逃げずに戦う意思をもってもらうためにな」

 

 

 

 

やっと、やっとロキの思惑が、理由が分かった。

だけどあと一つだけ、これだけは分からなかった

 

 

 

 

「ロキの考えは分かったよ。でもどうしてだい?

自分のファミリアの子供でもないハジメに、どうしてここまでしてくれるんだい?」

 

「まぁ、言いたいことは分かるわ。

答えは簡単や、今後もハジメを貸してもらうためや!!

なんや激レアを簡単に手放せるか!!!!」

 

 

 

「結局はそれか!!!ロキだってハジメの力を利用する気満々じゃないか!!!!!」

 

「当たり前やボケ!!!!お前の所で腐られるくらいならウチが有効活用したるわ‼!!!!」

 

 

 

 

またガヤガヤと騒ぎ始めた神様達。というかこれが安定した状況だと感じたベルは一安心し息を吐いた。フィンはクスクスと笑っていてリューは

 

 

 

 

 

「トキサキさんの安全の保証は分かりました。ですが二人で大丈夫なのですか?実力を疑っている訳ではないのですが……」

 

「心配する気持ちは分かるよ。でも安心してくれ。明日僕を含めたパティーで18階層を目指すつもりだ。そして恐らく明日が階層主が出てくるはず。ハジメの身の保証はするよ。ただその際にヘスティア様には…」

 

 

 

「分かってるよ。迷惑ではないなら明日ダンジョンに向かう冒険者を集めてもらえるかな、僕だけでも()()を改めたら、あとはハジメ君に会って認めてもらったらいいよ」

 

「それでは今すぐに」

 

 

 

 

そういって部屋から出ていったフィン。ヘスティアとハジメ二人が認識しなければハジメを見ることは出来ない。つまりそれは応援しようにも出来ないのだ。だからヘスティアだけでもとフィンが提案した

それを見ていたリューは、

 

 

 

 

「神ヘスティア。私も明日彼らと同行させてもらいます」

 

「同行ということは……やはり君は」

 

 

「理由は…すみませんがまだ言えません。ですがトキサキさんの手助けにはなると思います」

 

「分かったよ、それに「まだ」ということは話してくれる気はあるんだろう。それだけ聞ければ安心できるよ」

 

 

 

 

こうして編成されたメンバーは

フィン・ディムナ、

ガレス・ランドロック、

ティオネ・ヒリュテ、

ティオナ・ヒリュテ、

ベート・ローガ、

レフィーヤ・ウィリディス

 

そしてアイズ・ヴァレンシュタイン

リヴェリア・リヨス・アールヴを加えたロキファミリアの主戦力達とリュー・リオンが、

 

 

 

たった一人の冒険者の為に、

 

その冒険者の命の為に、

 

 

 

ダンジョンに向けて立ち上がった。




はい、お疲れさまでした。
最後に一つだけ。
…………眠い……これ、八時間くらい考えながら作ったのでもう……キツい………
きっと、沢山の誤字脱字があると、思いますが、ゆ、ゆるし…………て………ね……ZZz…………


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影が薄くても怒る時は怒ります。

お久しぶりです!!
さてさて、中々物語が進みませんね~
予定ではそろそろ結末なんですけど、
書けば書くほどアレもコレもと
書いてしまい終わらない……
はい、愚痴もここら辺でどうぞ!!!!


あっ、明日も投稿しますのでヨロシク♪




 

「いくぞオオオオォォォォ!!!!!!」

「「「「「オオオオオオォォォォォォ!!!!!!!」」」」」

 

 

 

 

18階層から17階層への入り口では多くの冒険者が集まっていた。誰もが武器を手にして力強く叫んでいるのは気合いをいれるため。普通にダンジョンを進むだけならここまでしなくてもいいだろう。それをするということは、

 

 

 

 

「もしかして階層主が現れたんですか?」

 

「みたいですね」

 

 

 

 

その光景を離れたら場所からハジメとリヴェリア、アイズが眺めていた。ハジメには16階層辺りでモンスターと戦ってもらうことにしていた。

実際の所は階層主(ゴライアス)との戦闘

自分達が何を言って、何をやっているのかなんて分かりきっている。それでもやることにしたのは自分達の主神であるロキの言葉があったからだ。

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

「何を考えてるんだロキイイィ!!!!!」

 

「ヒィッ!!!ちょっ、ちょっと待つんやリヴェリア!!!

とりあえずその椅子を下ろすんや‼」

 

 

 

 

温厚で面倒見のいいリヴェリア、怒らせたらまるでお母さんに怒られているようなリヴェリア。しかしいまのリヴェリアは完全に冷静を失い感情に身を任せている。すぐさまガレスがリヴェリアが持つ椅子を握り

 

 

 

 

「落ち着けリヴェリア。お前らしくないぞ」

 

「この駄神が何を言っているのか分かっているのか!!?

レベル1にゴライアスをぶつけるなどとほざいているのだぞ」

 

 

 

「ロキが変な事をいうのはいま始まった訳じゃなかろう」

 

「助けるんか非難したいんかどっちなんやガレス!!!」

 

 

 

 

というよりも事実を言っているだけだと思うとここにいる皆は思っていた。

数時間前ハジメと冒険の契約をしたロキは、一級冒険者を全員ロキの部屋に集めて、これから行う計画について話したのだが

 

 

 

 

「しかしリヴェリアが怒るのも無理はない。こんなことをいうのは相手に失礼だが、僕はその子の心配ではなく「ファミリア」の心配をしているんだ」

 

「どういうことや?」

 

 

「分かっていて言っているのかい?ロキファミリアが認めたレベル1の少年を18階層へ一緒に連れていく。これだけでも大変なことなのに本人にも内緒でゴライアスと戦わせるなんて………

もしこの事がバレたら、いや、少年にもしもの事があったらロキファミリアの信頼は失墜して、最悪は解散なんて話にもなる」

 

 

 

 

その時誰もが息を飲んだ。皆が頭のなかで過っていたこと、しかしそれを口にすることはしなかった。もしそれを口にしたら「起きてしまう」と感じてしまったからだ。

しかしフィンはそれを口にした、誰もが拒んだことを、誰かが言わないといけないこと。だからこそいま話さなければいけない。

 

 

 

 

「そ、そんな大袈裟な……」

 

「けして大袈裟ではないよティオナ。普段は意識していないかもしれないが僕たちのファミリアはこのオラリオでトップの位置にいる。

そのトップであるロキファミリアがレベル1の冒険者を階層主と戦わせたなんて知られたらどう思う?

信頼も何もかも失うだろう、ギルドから目をつけられ二度とダンジョンに潜れない可能性もある」

 

 

 

 

真剣な眼差しに観念したのかふぅ~と息を吐きながらロキは

 

 

 

「考えすぎやフィン。そうならんこと皆に手伝ってもらうんやからな」

 

「……どういうこと?」

 

 

「そのままの意味や。第一、階層主に単独で戦わせるわけないやんか。もちろん冒険者としての資質がないとあかん。それをダンジョンで見極めてからや。まぁ問題ないやろうけどな」

 

「つまり階層主と戦わせる前に実力を判断して、ということか?で、誰がやるんだ?」

 

 

「アイズとリヴェリアや」

 

「ふざけるな‼」

 

 

 

 

すると今度はベートが反論を言ってきた。さっきまではイライラしながらも大人しく聞いていたのだが、

 

 

 

 

「なんであんな野郎のためにアイズがやる必要があるんだ‼」

 

「出たよ、ベートのいつものが」

 

 

「うるせぇ!!!大体なんであんな野郎のために俺達がそこまでやる必要があるんだ‼!そんなことしてファミリアを潰すつもりか!!!!!」

 

「おっ、珍しく正論を言ってる」

 

 

 

一回一回口出しをするティオナに「うるせぇ!!」と声を張り上げるベート。しかしここに誰もがベートと同じように感じている。どうしてそんなリスクを負ってまであのレベル1の冒険者を

 

 

 

 

「そうやな、そりゃ納得いかんか。

しかしな、ウチはあのステイタスを見る前からやるって決めてたんや」

 

「どういうことなんだいロキ?」

 

 

「ハジメを鍛えるため?ドチビに恩を売るため?いつかウチらプラスになるため?そんなん違う、ウチは単純に()()()()()()()()()()()()()()()()!!!!!!

分かるか!!あんな力を持った冒険者(子供)がまだレベル1なんやで!!もしレベルが上がったら一体どうやるんや?ウチはそれが見たいんや‼!!」

 

 

「……なるほど、ロキらしい……」

 

 

 

 

「せやろ!!せやろ!!」と言ってくるロキに対して誰もが呆れてこれ以上言葉を言えない。興味を持てばそれを追求したくなる。面白ければさらに盛り上げる。殆どの神様が自身の娯楽を最優先に行動し人格者な神は少ないが、その中でもロキは人格者なのだがやはりロキも神様である。目の前にある楽しみを逃さないようだ

 

 

 

 

「せやけど皆に迷惑をかけるわけにはいかん。だからハジメを守りつつ階層主と戦わせてランクアップさせる‼これがウチの真の目的やあああああぁぁぁぁ‼!!!!」

 

「……バカだ……バカがいる……」

 

 

 

 

頭を押さえて苦痛な表情を浮かべるリヴェリア。

 

 

 

 

「すでに巻き込んでおいて何が迷惑をかけるわけにはいかないだ。言っておくが私の査定は厳しいからな」

 

「やる気なのかいリヴェリア?」

 

 

「こうなったら聞かないだろう。それにロキがいった通りに戦いになっても私達が守ればいいだけだ」

 

「俺はやらねぇからなそんな茶番劇は!!!‼」

 

 

 

 

舌打ちをしながらベートはロキの私室から出ていった。

 

 

 

 

「あんなこといいながら絶対に着いてくるよベートの奴」

 

「ベートのことはいいとして、まず私とアイズがハジメと一緒にダンジョンに潜り階層主と戦えるか判断する。あとから来たフィン達と共に階層主との戦闘をして、トドメをハジメにしてもらう、ということでいいのか?」

 

 

「まぁ、1日目で階層主が出ても二人ならハジメを守りながら抜け出せるやろ」

 

「口でいうのは簡単だが、やるのはこっちなんだぞ……」

 

 

 

 

ったく……とため息をつくリヴェリア。

 

 

 

 

「しかしロキが気になる者か……」

 

「やっぱり強いの!!!!」

 

「ちょっと落ち着きなさい…」

 

「アイズさん、気を付けてくださいね」

 

「うん」

 

「二人だからね安心してのんびり向かわせてもらうよ」

 

「団長であるフィンまでそんなことをいわないでくれ……」

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォッッ‼』

 

 

 

 

その叫び声と共にリヴェリアは現実に戻ってきた。ぼぅーとしていたわけではないがどうしてこのタイミングで思い出したのかと頭をよぎったがそんな暇はもうなかった。

 

17階層、階層主ゴライアス

圧倒的な大きさと威圧感が離れていても伝わってくる。いくら一級冒険者だといえども油断したら命を落としてしまう、それだけ階層主というモンスターは特別である。

 

 

 

 

「ハジメは私から離れないように」

 

「了解です」

 

 

 

 

ハジメにはまだゴライアスと戦わせるなんてことは言っていない。階層主とはどういうものか?ということで見てみたほうがいいだろうと戦闘に参加している

アイズはというと前線でデスペレートを抜き

 

 

 

 

目覚めよ(テンペスト)

 

 

 

 

アイズの風属性の付加魔法(エンチャント)エアリアル。

発動する事で自身と武器に『風』を纏い、武器に纏えば「攻撃力と攻撃範囲の拡大」、体に纏えば触れる事すら出来なくなる。「鎧」に転じる事から攻防共に隙が無く、精神力の燃費も良い為に長期戦も可能である

 

 

そんなエアリアルを纏ったアイズはゴライアスに向かって跳躍して、デスペレートをつき出して膝に一撃を入れる。流石に貫くことは出来なかったがそのままその巨大な足を駆け降りながら切り裂いていく。

ダメージを受けたゴライアスは方膝をつきながら怒号を放ち、アイズは後退をして再度攻撃体制に入る

 

 

しかし、アイズが攻撃することは出来なかった。正確にいえばアイズの攻撃が邪魔されたのだ。目の前にはさっきまでいたアイズの後ろで待機していた18階層にいた冒険者達。アイズが階層主を膝をつかせたのを見計らって一気に自分達の手柄にしようとしているのだ。階層主を倒せばドロップアイテムや魔石は相当なものになる。

 

 

 

 

 

「今だぁ!!!畳み掛けろ!!!!!」

 

 

 

 

冒険者達は各々の作戦、タイミング、攻撃方法でゴライアスに向かっていく。ファミリアとは違いここにいるのは18階層にいた冒険者達は協力というものは存在しない。あるものは剣を、あるものは槍を、あるものは魔法を、そのバラバラな攻撃にアイズはゴライアスに攻撃出来ずにいた。いまここで飛び出せばゴライアスの攻撃ではなく冒険者達からの攻撃を受けてしまう

 

 

 

「アイツらは……」

 

「連帯ということ知らない、いい見本ですね」

 

 

「目の前のゴライアス(ドロップアイテム・魔石)しか見えてない。これだとアイズは攻撃できない」

 

 

「本当に、邪魔ですね」

 

 

 

 

ハジメがその言葉を放った瞬間、アイズがこちらに向かって振り向いた。その表情はまるで驚いたものでありながら、モンスターを刈るような強い表情でもあった。

そして一瞬の間が命取りになる。

 

 

 

 

「ッ!!!アイズ!!!!!!」

 

「ッ!!!」

 

 

 

 

リヴェリアの声が届いたときにはすでに遅かった。ゴライアスのような巨大なモンスターの時近くに寄らなければ攻撃が出来ない。というよりこれはどんなモンスターでも当てはまるだろう。しかし巨大なモンスターの近くにいると分からなくなるのだ、モンスターの攻撃が。

特に腕による攻撃は上を見上げなければ分からない。しかしずっと見ていると足から攻撃がくる。そしてアイズが一瞬目を離した時に腕による攻撃が始まった

冒険者達に迫りくる拳が次々に冒険者を撥ね飛ばしていく。回避しようにも間に合わないと判断したアイズは

 

 

 

 

目覚めよ(テンペスト)ッ!!!!!!!」

 

 

 

 

もう一度自身に風を纏わせて防御をあげることにした時にはゴライアスの拳がもう目の前にあり、振り抜かれた攻撃によりアイズの体は吹き飛び17階層の壁に激突した。

 

 

 

 

 

「アイズウウゥ!!!!」

 

 

 

 

まさかのことだった。いつも冷静なリヴェリアが声を上げてアイズが飛ばされた所へ駆け出した。こんなはずではなかった。油断していたわけではなかった。ただ「戦いだから」こういうことが起きたのだ。絶対なんてあり得ない。常に勝てる相手でも一瞬のことで殺られる。分かっていていたのに、頭にあったのに、後悔が止まらない。無事だという確信があるまで収まらないだろう

 

その場に取り残されたハジメは動けずにいた。

目の前には倒された冒険者、それを助けている冒険者、吹き飛ばされた冒険者、心配で駆け寄る冒険者。

様々なものが見えてくる。これが戦いの場と。

そんな生と死の場所で、ハッキリとしたものが目の前にいる

 

 

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼』

 

 

 

 

勝者の叫びなのだろうか、本能によるものだろうか、ゴライアスは先程よりも大きな声を張り上げている。

誰もが思った。こんなはずではなかったと。

あんな連帯感のない戦いでもここまで追い込まれたことはなかったと、一級冒険者がやられるなんてことを。

何かが違う、そう感じた時には皆が階層主を恐れた

そんな中、それを見上げていたハジメは

 

 

 

 

 

「あぁ、そうでした。ダメだったんですよね」

 

 

 

 

 

圧倒的な強者(階層主)に対して

 

 

 

 

「神様と約束していたんですよね」

 

 

 

 

 

絶対的な弱者(ハジメ)

 

 

 

 

「うーん……()()までならいいですよね、うん。まぁ流石に()()はやばいですから使わないですけど、()()なら問題ないはず、うん、よし、それでは」

 

 

 

 

 

一歩踏み出した。

あれに挑むために、いま感じている怒りに任せて。

 

 

 

 

 

「倒しますか」



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影が薄くても心配をかけるようです。

はい、昨日ぶりです。
やっぱり2日続けたの投稿はキツい……
僕のなかではもう一話書きたかったのですが
キツいね、うん、キツい。
まぁ、気分次第だね(笑)
それではどうぞ♪


「大丈夫かアイズ!!?」

 

「うん、大丈夫」

 

 

 

 

近くに寄ってみると特に怪我をしている様子はない。魔法を重ねたおかげで助かったようだが完全に衝撃を消すことは出来なかったようで、立ち上がることは出来ずに座ったままだ。ここはさっき戦っていた場所から随分離れており、さらに先程の攻撃により周り一帯に粉塵が立ち込めて巨大なゴライアスの様子さえも見えない

 

 

 

 

 

 

「一体どうしたんだ、あんな隙を見せるなんて…」

 

「…ごめんなさい…」

 

 

「いや、私も油断していたところがある、すまなかった。だが、アイズらしくない。戦闘中によそ見など、こっちを見ていたようだが何かあったのか?」

 

「……分からないけど、何か感じたの……」

 

 

「感じた……とは?」

 

「殺気とは違う…けど何か鋭いものが……」

 

 

 

 

それ以上は言葉に表せなかった。感じたとこのないものが背後から感じられ思わず振り向いてしまったのだ。そしてその先には、

 

 

 

 

「……ハジメから、感じたの……」

 

「ハジメからだと?私は何も感じなかったが…」

 

 

「私に、ううん、あそこにいた冒険者に向けてだと思う。だからみんな反応が遅くなっただと思う」

 

「一体何をしたんだ……」

 

 

 

 

殺気ではなく、鋭い何か。それは冒険者達に向けられ戦いに集中していたところを忘れさせ、迫りくる攻撃に対して反応を遅れさせた。

 

 

 

 

「リヴェリア、ハジメは??」

 

「す、すまない。アイズが心配で思わず駆け出してしまいあの場に……だが、大丈夫だ。ゴライアスでもハジメの姿は見えていない。攻撃をしない限りは…「ッ!!!!!??」」

 

 

 

 

二人に何かが襲ってきた。目に見えない何かが身体中を駆け巡り抜けていく。殺気よりも鋭く、しかしそれからは殺気のような「感覚」がなく、まるで「無」というのが、全てを消し去ってしまうようなものが、静かで鋭く、人を狂わせてしまう「闇」のようなものが流れ込み抜け去った

 

 

 

 

 

「……ハァ、ハァ、ハァ……大丈夫かアイズ……」

 

「……う、うん、大丈夫……」

 

 

 

 

耐えきれずにリヴェリアは膝をつきアイズも全身の力が抜けてしまったようだ。未だに身体の中にさっきの感覚が抜け出せていないように感じている。息を整えようとするが中々落ち着いてくれない。まるで死を間近で、いや、死を感じた、経験したような感覚に陥っている。いくら冒険者が死と隣り合わせだとしてもここまでハッキリとした感覚は初めてである

 

 

 

 

「まさか、これなのか?アイズ感じたのは」

 

「ううん、これは何倍も強くなっている。もしかしてハジメに何かが……」

 

 

「クソッ!!!力がまだッ!!」

 

「…ハジメ…」

 

 

 

 

ゆっくりと立ち上がることは出来たが万全な身体ではない。力が入らず走りたいのに歩くことしか出来ない状態。一体何が起きているのかと周りを見るが戦闘している所から離れているためどうなっているのか分からない。それでも確実に元いた場所へと足を進める

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!!なんじゃこれは!!!??」

 

「ち、力が……」

 

「抜けていく……」

 

 

 

 

16階層にいるフィン率いるロキ・ファミリアとリューだが、突然襲ってきた謎の感覚に誰もが力が入らなくなりその場に崩れた

 

 

 

 

 

「落ち着くんだみんな。誰か立ち上がれるものはいないか?」

 

「力が入らなくて…無理です……」

 

「クソッが!!!なんだこれは!!!!」

 

「不味いな、こんなところでモンスターが出てきたら……」

 

 

 

 

原因不明の症状はいま酷い状況を生み出した。誰もが力が抜けて立ち上がれない、こんなところでモンスターにでも襲われたらいくら一級冒険者とはいえ無事ではすまない。いや死んでしまうだろう

どうにかして立ち上がろうとする面々だが指先など動かせても腕や足には力が入らない。しかしその中で、

 

 

 

 

 

「………どうやら私が来て正解だったようですね……」

 

「なんで立ち上がれるの!!?」

 

 

 

どういうことなのか、リューだけがその場から立ち上がった。少し身体は重いが戦闘になっても問題はないぐらいはある。

 

 

 

 

「分かりませんが兎に角皆さんを一ヶ所に集めます。回復するまでモンスターは私に任せてください」

 

「………あぁ、頼むよ」

 

 

 

 

ロキ・ファミリア達を一ヶ所に集めながら何処からでもモンスターが来てもいいように警戒をする。だが一ヶ所に集めるのに時間がかかったのにも関わらずモンスターは襲ってこなかった。それどころか鳴き声も気配もなかった。

 

 

 

 

 

「どういうことでしょうか?モンスターが現れません……」

 

「さっきの感覚が影響してるんじゃないの?」

 

 

「そうだとしてもこんなのは初めてじゃ。一体ダンジョンで何が起きとる?」

 

「……………………………」

 

 

 

 

 

混乱する中リューだけは直ぐ様でもこの場から走り出したい衝動と戦っていた。こんなイレギュラーな事が起きているならハジメも同じようになっている可能性がある。それと階層主との戦いの中だとしたら……

そんなことを考えたらいてもたってもいられない。しかし、いまここで走り出したら未だに動けないロキ・ファミリアの人達は危険な目に……

そんなリューを見ていたフィンは、

 

 

 

 

「君は先に行ってくれ」

 

「ちょっ、ちょっと団長!!?何を言ってるんですか!!!!」

 

「いまここでいなくなられたら私達は‼」

 

 

「分かっている。だが僕達よりアイズ達の方が心配だ。いまもゴライアスと戦っていて同じ症状が出ていたら僕達よりも危険すぎる」

 

 

 

 

誰も動けない状況でリューにこの場を離れられたら、モンスターが出てきても誰も戦えずにやられてしまう。しかし自分達よりもアイズ達の方が、階層主との戦いの方が危険なのも確かだ。

 

 

 

 

「……いいのですか?」

 

「あぁ、それに僕はさっきよりも回復している。ほら立ち上がることも出来るからね」

 

 

 

 

そういいながらゆっくり立ち上がるフィン。しかしまだ体に力が入らないのかプルプルと腕や足は震えている。だがその目には闘志が宿っているのが分かる

 

 

 

 

 

「……分かりました。向こうで動けるものがいたら応援にくるように手配します」

 

「そうしてくれると助かるよ」

 

 

 

 

では、と一礼をしたリューはまるで風が吹き抜けるようにこの場から離れていった。その姿を確認したフィンの体は一気に崩れ落ち

 

 

 

 

「「「「団長!!!」」」」

 

「アハハ……やはりまだダメのようだ……」

 

 

「いやその根性、流石だフィン」

 

「俺だって……くそがああぁ!!!」

 

「ベートには無理よ、団長だから出来たの」

 

「うんうん」

 

 

「うるせぇクソアマゾネス共があぁ!!!!」

 

 

 

 

根性で立ち上がろうとするもやはり力が入らない。いまだモンスターの出現はないがいつまで続くか分からない。誰もが必死になって立ち上がろうとしている

 

 

 

 

「一体このダンジョンで何が起きているんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

駆け出したリューはすぐにダンジョンの異変に気づいた。すでに数分間走り続けているのにも関わらずに一向にモンスターが襲ってこない

 

 

 

 

(これは一体なにが……)

 

 

 

 

考えながら走っていると目の前で倒れている冒険者達が見えた。しかしその前方にはモンスターらしき影が見える。

 

 

 

 

(………ここで見捨てるなど……えっ?)

 

 

 

 

戦闘体制に入ったリューだったが危惧に終わった。そのモンスター達も冒険者達同様に動けなくなっているのだから。意識はあるものの体が動かせずにいる状態でありリューの冒険者の中の一人に声をかける

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「お、おう……体に力は入らないが問題ねぇ。それより目の前にいるモンスターをどうにかできねぇか?いくら襲いかからなくても不気味でよ……」

 

「分かりました」

 

 

 

 

それはそうだろう。敵であるモンスターが目の前にいるのだ。精神にキツいものがある。リューは小太刀を構えてモンスターを切り裂いていく。動かないモンスターだ、簡単に倒せたがやはりこんなのはおかしい

 

 

 

 

「すみませんが私は先へ行きます。どうやモンスターはいま出現しないみたいです。回復したらすぐに引き返すをオススメします」

 

「18階層のほうが近くて安全じゃねえか」

 

 

「18階層はいま階層主が出現している可能性がある。それにこの異常な時に戦うなんて死にに行くものだ」

 

「だがあんたも行くんだろう、なんで……」

 

 

 

 

いまならハッキリ分かる。

私がここまで来た理由も、危険をおかしても進む理由も、全て一つのことだと

 

 

 

 

 

「私の、大切な人がいる。だから行きます」

 

 

 

 

決意を新たにリューは再びその足を動かして17階層へ向かい走る。それもさっきよりも断然にスピードは上がっているが本人は気づいていない

 

 

 

 

 

「青春だね~」

 

「そんなこと言っている場合ですか!!?いつもモンスターが来るか分からないんですよ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……私達だけじゃないのか…」

 

「…………………」

 

 

 

 

周りには冒険者が倒れている、それもアイズ達が受けたように体に力が入らない状態のようだ。意識はあるようでお互いに確認を取り合っている

 

 

 

 

「お、おい、近づくな‼あそこには階層主がいる!!!!!!」

 

「分かっている。連れを探しているだけだ」

 

 

 

未だに粉塵が立ち込めていて近くにいる冒険者ぐらいしか見えない。しかしここまで近づけば巨大な影らしいものだけは分かる

 

 

 

 

「ならさっさと見つけろ、あそこに近づくと()()()()()()()

 

「巻き込まれる……だと?」

 

 

 

 

その言葉に疑問が残る。いまこの場所には多くの倒れている冒険者がいるのに、階層主と戦える人数も戦力もない。なのに今この冒険者は言った「巻き込まれる」と…

 

 

 

 

「おい、それはどういうことだ!!!!」

 

「な、なんだいきなり……」

 

 

「どういうことだと聞いている‼」

 

「な、何故かは知らねぇがゴライアスが暴れているんだよ。そこに何もいないのにまるで「幽霊」と戦っているような……」

 

 

「ッ!!ハジメ!!!」

 

 

 

 

すぐにその場所から走り出したらリヴェリアの後ろをアイズが追う。嫌な予感が当たってしまった。戦っているのだハジメが。レベル1であるハジメがゴライアスと戦っている。いくらレアな力だとしてもたった一人でゴライアスなんて………

 

 

 

 

「大丈夫…かな?」

 

「分からない、何もかも想定外過ぎて何も分からない。しかし大丈夫だと信じたい、ハジメなら大丈夫だと…」

 

 

「うん」



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影が薄いとしてもその存在は大きいです。

どうもです。
もう少しで今年も終わりですね~
あっ、今回アドバイスを頂きまして書き方を変えました。何かありましたらどうか教えてください。できるだけ皆さんが読みやすいようにしたいです。
それではどうぞ。




僕は怒ってます。アイズ姉が吹き飛ばされリヴェ姉が心配で追いかけた後、一人であの階層主に向かって。

 

 

僕はこのゴライアスこと、ゴースーに怒りを覚えていた。こんなにも良くしてくれたアイズ姉を吹き飛ばしリヴェ姉に不安を与えたゴースーに。

ただ完全に怒り任せでやってしまうと()()を使ってしまう。それは神様との約束で使わないことになっている。

だけど()()はダメかも知れないが()()なら大丈夫でしょう。

 

 

「まずはアイズ姉が受けた痛みをお返ししないと」

 

 

今まで受けた衝撃を分割し、まず足の裏に集めた後に一時停止を解除して高く跳躍する。ゴライアスの顔正真面まで飛び上がったが相手は未だに気づいていない。やはりこの《カミカクシ》はどんなものに対してもハジメと神様が認識したものしかハジメを見ることが出来ないようだ。

 

 

最高地点まで上がったハジメは()()()一時停止をかける。空気といってもそこには約8割が窒素、約2割が酸素で、また水蒸気が含まれており、それらがハジメ達の周りを、ダンジョンを、オラリオを、世界中を包んでいると言ってもいい。その僅か一部を一時停止させた。

 

 

それもただ一時停止させただけでは意味がない。それらを一ヶ所に集めて足場を作る。もちろん足場を作るほどの密度を持てば重力に負けて地に落ちるだろうが、一時停止は事象さえも停めるために「重力に引っ張られる」というものさえも停止させた。

要は空中に空気を圧縮させた足場を作りその場に立っているということ。空を飛ぶのではなく()()()()()()()

そしてハジメは残りの衝撃を右手の掌に集めて、

 

 

「お返しです。受け取ってください」

 

 

放たれた衝撃はゴライアスの顔面を、顔を、上半身へと。お返しと言っても明らかにゴライアスが攻撃した衝撃よりも強い。このダンジョンに入ってから、いや、

今まで少しずつ溜めてきた衝撃をこの一撃に使ったのだ。あまりの攻撃にゴライアスは仰け反り倒れそうになるが踏みとどまり、

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼』

 

 

怒り狂ったように叫びゴライアスは、さっき攻撃してきた場所へ巨大な拳を向け放つ。しかしその拳は振り抜くことは出来ずその攻撃してきた場所で止まった。なにも無いところで、姿も見えないところで、だが確かに何かがある。それは明きからに「敵」になると判断出来るものだった。だから何度もその拳を降った。何度も何度も何度も。

 

 

「……怒りたいのは」

 

 

蓄積していく衝撃。それはいまハジメが感じている怒りのように。冒険者がモンスターを、モンスターが冒険者をなんて当たり前かもしれないがそれでも目の前でアイズが吹き飛ばされて無関心でいられない。

ぶっ飛ばしたいと思うハジメだがゴライアスの攻撃が止まらず攻撃が出来ない。大きすぎる衝撃を一時停止すること自体は問題ないのだが、一緒に衝撃を放つことが出来ない。一時停止は2つ同時に停止と解除ができない。だからゴライアスが攻撃を止めるまで攻撃できないのだが、

 

 

『ッッッッ!!!!!??』

 

 

突然ゴライアスの動きが鈍くなった。これにはハジメも驚いたがこのチャンスを逃さずに、向かってきていたゴライアスの拳に向かって自分の掌を向けて。

 

 

「僕の方ですよ」

 

 

ゴライアスからの衝撃を纏めた攻撃を放ち、その瞬間にゴライアスの腕は吹き飛び肩から先が無くなっていた。それでも止まらない衝撃波はダンジョンの壁に直撃し巨大なクレーターを作り出した。叫ぼうとしてゴライアスだが直ぐ様に動いたハジメがゴライアスの顎に手を当ててさっきよりも強い衝撃波を放つ。それにより吹き飛ばされた顎、これにより叫ぶことが出来なくはなったがそれでもまだ生きているゴライアス。

 

 

「止めはコレです」

 

 

そういそういって腰に下げていた「石火」を抜きゴライアスに向ける。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「…………余計なこと、だったかしら?」

 

 

17階層と18階層を繋ぐ穴の前で、いまこの17階層で戦っている()()()()()()()()

 

 

「それにしても……こんなに()()()()()()()()()()いるなんて、随分信頼しあっているのね」

 

 

呟く声は誰の耳にも届かない。近くに、目の前に倒れている冒険者にも届かない声。いや、その姿さえ見えていない。姿無き者は18階層へ向けて歩き出した。

 

 

「早く私の元に来てね、ハジメ」

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「ここにも…影響が……」

 

 

17階層にたどり着いたリューは走りながら状況を確認、やはり16階層同様に冒険者は倒れているようだが違うのは大人数であること。そして粉塵でハッキリした姿は見えないが大きな影で分かる階層主(ゴライアス)。恐らく今起きている現象はハジメには効いていないはずであり、これこそ当たってほしくないがハジメはゴライアスの元にいると予想している

ハジメは仲間思いであり、ハジメの同行者がこの現象にやられていた場合ハジメはゴライアスを倒すつもりで立ち向かうだろうと……

 

 

「………………」

 

 

言葉に出来ない今の気持ちを。心にあるのに言葉に出すことが出来ない。その不安を言ってしまうと現実になりそうで、いまもこうして考えてしまっていることが現実になってしまうかと……

いつも間にこんなにも弱くなったのか?信じることがどれだけ大切なのか分かっているのにどうしても不安が優先して思い浮かぶ。

 

 

(それだけ、私はハジメに……)

 

 

同僚の関係ではない。

仲間の関係ではない。

私は、それ以上にハジメを………

 

 

「おい、待ってくれ!!」

 

 

その声の方を見るとよくお店に来ていた一級冒険者、そして今ハジメと共にいるはずのアイズ・リヴェリアがそこに立っていた。他の冒険者が倒れているのに自分と同じように立っている

 

 

「なぜリューがここに?

もしやハジメを心配して来たのか?」

 

「ええ、あなた達の仲間と近くまで……しかしその人達も周りにいる冒険者同様になりまして私だけでもと……」

 

「それはフィンの判断だろう。なら心配しなくとも大丈夫だろう。それより私達は」

 

「早くハジメの所に」

 

 

やるべき事を全員で再確認しゴライアスの、ハジメの元へ駆け出す三人。そこへ近づいていくといきなり突風と音と振動が三人を抜けていった。それのお陰でさっきまで舞っていた粉塵が消え去り、そこに見えたのは片腕を無くしたゴライアスと宙に浮いているハジメ

 

 

「無事でよかった」

 

「しかし宙に浮けるとはな……」

 

「デタラメ……というのは今更ですか……」

 

 

するとゴライアスが叫ぼうとした瞬間、一気に近づいたハジメはその手をゴライアスの顎に向けて衝撃を放つ。それはゴライアスの顎を吹き飛ばしたが未だに生きている。それを確認したハジメは腰の「石火」を抜きそれをゴライアスに向ける

 

 

「その得物では、いや、ハジメの力では倒せない」

 

「しかしハジメが意味もなくそんな行動するとは思えません」

 

「きっと…何かある」

 

 

ハジメを止めるはずなのに、どうして止めに入らない。ハジメを守るはずなのに、体が動こうとしない。いや分かっている、ハジメはゴライアスを倒せる力を持っていると。だから後は見守るだけだ。

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

小刀「石火」、これだけではゴライアスを倒せない。もちろん石火以外の物を使っても無理だろう。根本的にハジメの力が無いためだ。しかしそれでもこの石火を抜いた。

石火にまず一時停止による完全防御(コーティング)。石火の外側を一時停止することにより傷を付けることは出来ない。衣類はかけようにも一時停止による固定されるため体が動かなくなる。生物そのものにかけてしまうと同じように動かなくなる。だから使えるのは武器だけ。武器だけといっても武器としての性能自体失うのだが。そう完全防御は守っているものその物を覆い被せて「ただの物」にしてしまう。

一時停止は使い勝手のいいのもではない。一時停止はあらゆる事象を止めてしまう。つまりは止めたくないものさえも()()()()()()。アイズ達が気になっていたことが一つの例である。

 

 

どうして一時停止を使いモンスターを止めないのか??

 

 

動きを止めればこれほど簡単にモンスターを倒せることはない。いや必要ない戦闘もしなくてもいい。だがハジメは使わなかった。いや、使えないというべきである。モンスターに一時停止を使えば動きを止めれるだろう、しかし同時にモンスターに攻撃を与えられなくなる。モンスターの存在自体を止めてしまうのだ。止められたものは外側から何をしようとも動くことはない。つまりはモンスターに一時停止を使えば動かなくなるが、攻撃が当たらない、倒せないモンスターになってしまう。

もちろん人に使っても同じである。守ろうとして一時停止を使ってもその人自体を止めてしまい動くことは出来なくなる。ハジメの場合は衝撃自体を停めるために自身の体に影響はない。

ならば服はと思うが、服に一時停止をかけると「伸縮や折り曲げなどの特性そのものを止める」ために、まるで甲冑を着ているようになってしまう。

限定的にでも一時停止が出来ればいいが止める対象全てを止める。なので武器に使えば全く使い物にならない武器になってしまう。

 

 

しかしそれでも、問題ない。

 

 

「──貫いてください──

 

 

いくら刃の鋭さが無くなり切り裂くことが出来なくなってもゴライアスを倒すことは出来る。柄に今まで溜めた衝撃を集めてゴライアスの、モンスターの弱点である魔石がある体の中心に向けて、解放する。

 

 

────石火」

 

 

小刀としての役目を果たせない石火でも音速を越えるスピードなら壊れない小刀がゴライアスの皮膚に当たれば、

それを裂いて裂いて裂いて、

肉を貫き貫き貫き、

魔石を砕き砕き砕き、

そしてゴライアスの体を貫いた石火は地面に激突しクレーターを生み出してやっと停止した。

魔石を破壊されたゴライアスは両膝をつき、そして頭部から砂のようにサラサラと形が崩れていった。

 

 

「これは……大変なことになったぞ」

 

「ええ、もう隠しきれないでしょう」

 

 

目の前で起きた出来事

たった一人での階層主(ゴライアス)撃破。そしてレベル1の冒険者であること。アイズ達だけなら良かったが周りには倒れているが意識のある冒険者がたくさんいる。そう誰もが見ていたのだ、戦いの一部始終を。長年冒険者をしていればその戦いがどういうものか分かる。そう、ゴライアス相手に一人で戦ったという事実を。

 

 

「あれが……ハジメの強さ」

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

この功績は永遠に継がれることになるだろう。

しかし、その名は刻まれることはないだろう。

誰もが知っているのに、誰も知らない。

名の知らない冒険者、姿が見えない冒険者。

それでも誰も知ることになるだろう。

誰も知らないことを知っている。

誰も見えないことを知っている。

 

その冒険者は、影が薄すぎる冒険者であることを。



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影が薄くても相手を困らせてしまう。

どうもです。
久しぶりに日間ランキング入り出来ました。
色んな人から評価や意見をもらい
「なるほどな~」と思いながら書かせてもらいました。
…………特に話すことがねぇー(笑)
それではどうぞ。




ギルドの応接室。

他の人に聞かれないように、知られないように密談するために使用している職員達。しかしその目的も忘れて、

 

 

「貴方は一体何をやっているのよおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

机を両手で思いっきり叩きながら明らかにギルド全体に響く大声を出すエイナ。しかしこれが黙っていられる内容ではない。そんなエイナに対してハジメは相変わらず無表情で

 

 

「良かったです。応接室全体に一時停止かけておいて」

 

「怒られる前提で話してたのね!!?ハジメ君は私を怒らせるためにダンジョンに潜っているのよね!!!??」

 

「いや、そんなことはしません」

 

「だったら毎回毎回ここに来る度に酷くなっていく報告をどうにかしなさいぃッ!!!!!!」

 

 

もう初めに会ったときのエイナ嬢ではないな、と思いながら息を整えるまで話すのを待っているハジメ。ここへいたのはもちろんあの冒険について話をするためである。そしていまゴライアスを()()()()()()()()を話したところである。

 

 

「でも今回はアイズ姉が飛ばされてしまって怒ってしまったので不可抗力です」

 

「まぁ、それは分かるんだけど……いくら怒ったからって階層主(ゴライアス)は一人で倒せないわよ……普通は………」

 

「それでは僕が普通ではないように聞こえます」

 

「………怒っていいのよね?大人数でも大変なゴライアスを一人で倒した人が普通だという人に対して私は怒っていいのよね?」

 

 

ブツブツ何かを言っているようだが、いま話しかけたらさっきよりも怒られられると悟ったハジメは再びエイナが落ち着くまで待つことにした。

 

 

「本当になんてことをしてくれたのよ……すでに冒険者の間ではゴライアスを一人で倒したって噂が飛び交っているのよ」

 

「事実ですから」

 

「そういうことを言ってるじゃないの!!ハジメ君はレベル1なのよ!!そんなレベル1が一人でゴライアスを倒すなんて……もしかしたら強引にハジメ君を自分達のファミリアに入れようとする所も現れるかもしれないのよ。幸いそのスキルのお陰でハジメ君ってことは誰も知らないみたいだけど……」

 

 

はぁ~とため息をつきながら頭を抱えるエイナ。そうこの功績は正式にギルドから周りへ情報が流れる。つまりはレベル1でゴライアスを倒したハジメの名前が明るみになるのだ。

 

 

「ファミリアの名前も出るからベル君や神ヘスティアまで巻き込まれるかも……って有名になる冒険者なら誰もが通る道なんだけど……」

 

「通りたくないですねその道は」

 

「私も同じ意見だわ」

 

 

名が売れれば狙われる。自分のファミリアの為だったり、自分の実力を試したかったり、倒したことにより自分の名を上げたりなど、有名になるということはそういうことが起きるのだ。

 

 

「まぁ、そこは追々考えます」

 

「気楽にもほどがあるわよ……でもそうね……やっぱりここは神ロキに相談したほうがいいわね」

 

「なるほど、責任を取ってもらうということですね」

 

「あのね…言い方があるでしょう。でもロキファミリアに護衛してもらえるならヘタに手を出す人もいないではずだから聞いてみたらどうかしら?」

 

 

確かに発音したはずだ「聞いてみたらどうかしら?」と。なのにハジメはジィーとこっちを見てくる。ジィーっと眉ひとつ動かさずに。

いや、これは以前にもあったような気がする。ううん、気のせいよね‼と言い聞かすエイナだがすでに頭の中にはもうひとつの大きな考えがあった

 

 

「よろしくお願いします」

 

「綺麗にお辞儀しないで‼!!イヤよ私は!!!!前だって大変な思いしたのになんでまた」

「ギルドのお仕事が終わる頃にお迎えにいきますので」

 

「人の話を聞きなさいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

「そのあと思いっきり罵倒されました、ギルドから出るまで」

 

「貴方は……そうやって人で遊ぶのはやめたほうがいい」

 

「遊んでませんよ」

 

「本人にそんな気はなくとも相手が感じてます」

 

 

なるほど、と納得しているようだが本当に分かっているのかと思いながらリューはモップで床を磨いている。

昨日の夜に帰ってきたリューとハジメ。ロキファミリアは主神に報告があるとダンジョンから出たときに別れた。ハジメがゴライアスを倒した報告もあるが、もうひとつ「謎の集団脱力感」についてだ。

あれから三時間後、フィン達ロキファミリアのメンバーは何とか17階層までのモンスターを楽に倒せるぐらいまで回復した。幸い18階層以降に潜っている冒険者はおらず近くにいる冒険者は18階層へ、それ以外はダンジョンから脱出させないといけない。

脱出させるといってもこの17階層から地上まで、一体どれだけの冒険者が倒れているのだろうか……

と、普通なら悩むところだろうがここにはハジメがいるので

 

 

『………やり過ぎ…じゃないかい?』

 

『見過ごすわけにはいきませんので』

 

『いや…他にやり方かあるのではないか?』

 

『これが一番だと思いますが』

 

『じゃが、これじゃとワシら……』

 

『人命優先。言われた通りですよ』

 

『ダンジョンから抜け出すまでの我慢だ、みんな。

彼がいなければこの冒険者達は救えなかったのだから……』

 

 

そう我慢だ。倒れた冒険者の両手首にロープで縛り、中心の一本のロープに左右にロープが伸びてそこに先程の縛られた冒険者がついている。それはまるでというかそのままの「芋づる式」であり、各自冒険者達を引っ張っている。

 

 

『なんでこんなこと俺がしないといけないんだあああぁぁ!!!』

 

『ベートうるさいぃ!!!』

 

『でもこれを他の冒険者に見つかったら……終わりだわ……』

 

『うぅ…これ人さらいしか見えないですよ…』

 

『人助けですよ』

 

『うん』

 

 

この中で納得しているのはアイズだけのようだが、周りの反応が正しいだろう。まぁ結局はダンジョンから抜け出すまで誰一人見つからなかったのでみんな安心したようだ。それを思い出したハジメは正面をリューの方に向けて頭を下げながら、

 

 

「昨日は本当にありがとうございました」

 

「もういいですよ、トキサキさんが無事なら」

 

「分かりました。あっ、お弁当美味しかったです。またお願いします」

 

「は、はい。お粗末様でした」

 

 

近くにいるシルは「どんな会話をしてるんだろうー」と聞き耳をたてているが、持ち場を離れようとすると「ちゃんと仕事しな‼」とミアからお叱りを受けた。その周りからしたらなんとも初々しい会話をしている二人は気づいていない

 

 

「リュー姉、仕事終わったあと時間ありますか?」

 

「ええ、大丈夫ですが……」

 

「良かったらリュー姉の時間、僕にくれませんか?」

 

「………………………へぇ?」

 

 

なんともリューからしたら可愛らしい、ちょっと間抜けた声が出た。だってそれは言ってしまえばハジメからリューへの口説き文句のようなもの。

 

 

「な、な、な、な、なにを……」

 

「実は昨日の出来事についてロキファミリアの館で話し合いがありまして、僕としてはリュー姉に来ていただきたいのですが」

 

「……はぁ~……分かりました。行きましょう」

 

「どうしてため息ついてるんですか?」

 

 

なんでもありません。と少し感情を込めてしまったがハジメが気づくわけもなく。そのまま掃除も終わりあとは開店準備のために二人はそれぞれの持ち場に向かうのだが

 

 

「あっ、明日はリュー姉もお休みですよね、良かったら明日もお時間くれませんか?」

 

「構いませんよ、明日も話し合いがあるのですか?」

 

「いえ、明日はリュー姉と二人で買い物に行きますのでよろしくお願いします」

 

「…………………………ぇっ?」

 

 

完全に固まったリューを残してハジメは何事もなくその場から去ってしまった。残されたリューは周りから「ちょっとリュー!!!さっきのデートの申し込みじゃないの!!!?」「よくやった鉄仮面!!」「あんたら!!ちゃんと明日リューの勝負服を選びなよ!!!!!」と何故か豊穣の女主人は異常なほどの盛り上がりをみせた

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

「で、なんでその二人は疲れきっているんだい?」

 

「お、お気になさらずに……」

 

「気にして頂けるなら、そちらのファミリアの子をもう少しどうにかしてもらいたいです……」

 

「……あぁ……それはごめんよ……」

 

 

黄昏の館の近くで待ち合わせしていたヘスティアファミリアとギルドのエイナと豊穣の女主人のリュー。で、集まったのはいいのだが何故かエイナとリューはすでに疲れきっていた。まぁ、ハジメがあんなことをすれば疲れも溜まるもの。エイナの主張はいいたくなるのも当然である。

 

 

「ベルベル、言われてますよ」

 

「「ハジメ君「トキサキさん「ハジメのことです!!!!!」」」」

 

 

おお~と揃った声に感動するハジメだが、全員から睨まれ大人しく黙ることにしたようだ。とにかくここに留まる必要もないためそのまま館に向かうことに。

ロキファミリアの冒険者の一人がロキの私室まで案内されて部屋へ透された。そこにはすでに昨日まで一緒にいたロキファミリアの一級冒険者達と主神であるロキがいる

 

 

「時間通りやな」

 

「悪かったね、昨日の疲れもあるだろうに」

 

「構いませんよ。僕よりリュー姉とエイナ嬢に」

 

「あぁ、そうだね。お二人には感謝してます。………ところで「嬢」というのは……」

 

「ふ、触れないでください……」

 

 

そういいながらギロッとハジメを睨むエイナ。どうやらこの「嬢」というのはこれからは言わないほうがいいのだろう。うん、無理だろうが。

 

 

「それで話し合いって何を話すんだいロキ?ここにギルドの人間までいれて何を話すんだい?」

 

「そんなんいうたらその子が悪者やんか」

 

「誰もそんなことはいってないだろう。だけど気になるだろう、わざわざ呼ぶなんて……」

 

「わ、私も気になります。自分にいうのもなんですがここにギルドの私がいるのは……」

 

 

ギルドはファミリアにとって欠かせないものではあるが、同時に煙たがるものでもある。ファミリアの為にいろいろ手助けはするが、何かあれば罰することもする。そういう所だと誰もが分かっていて、もちろんギルドの人間であるエイナも分かっている。

なのにそんなギルドの人間であるエイナを呼び出した。ロキファミリアに取って不利なことを話すかもしれないこの場所に。

 

 

「なんやエイナちゃんもウチに話し合ったんやろ。なら問題ないやろ」

 

「そうですが……」

 

「それにな別に後ろめたいことを話すわけやないで。むしろ前向きや、前向きや」

 

 

前向きや、と言われても誰も「本当に?」というような目でジッーとロキに一点に集中する。

 

 

「なんやその目は!!!」

 

「いや、ロキのことだからまた…」

 

「ぶっちゃけ信用出来ないんだよ、残念だったねロキ」

 

「うっさいわドチビ!!!!

ウチが話したいんは………もちろんトキサキ・(ハジメ)の今後についてや」



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影が薄くても話題の中心に立てます。


はい、どうも。
今年もあと少しですね~仕事が忙しくて、書きたいことがありすぎて終わらなくて更新遅くなりました。
今度の更新は来年かなー、分からないけど(笑)
それではどうぞ!!





「それでは只今から『ハジメ会議』を始めます。司会進行は今回の議題である当人であるトキサキ (ハジメ)が勤めさせていただきます」

 

「いやなんでハジメ君がやってるんだい!!」

 

「ご指名がありましたから、こちらの神様から」

 

「いや~話題の中心がやったほうがええやろ。自分の思い通りに進められるんや、言いたくないことは言わんでよくなるやろ」

 

「………ただ面倒くさいだけじゃないだろうね?」

 

 

ヘタな口笛で誤魔化すロキに対してイラついているヘスティア。落ち着いてくださいと隣で宥めているベル。その隣にエイナ、ハジメ、リューが並んで座っている。

そしてそのテーブルの向かい側にフィン、リヴェリア、アイズとロキファミリア達が並び、上座にロキが座っている。そして皆の前には紅茶とケーキが並んでおり、長時間の話し合いが行われると思われる

 

 

「ホラホラ、さっさと進めようか」

 

「了解です。まずは……エイナ嬢からどうぞ」

 

「わ、私ッ!?いきなりなんて……」

 

 

しかしそれ以上は言わなかった。今からハジメの今後について話しをするなら、護衛については早めに終わらせたほうがいいだろうと考えた

 

 

「それでは私から。今回ハジメ君が起こした出来事(成果)は良くも悪くもこのオラリオ全土に広がると思います。その噂はハジメ君だけではなくヘスティアファミリアにも影響があると思われます」

 

「影響ねぇ……つまりはハジメを手に入れるために手段を選ばずにやらかす輩が出てくるって訳か?」

 

「はい、つきましてロキファミリア冒険者の誰かにヘスティアファミリアの護衛をと思いまして……もちろん!噂が落ち着くまでで構いませんし、断れても構いません。その時は私個人で探しますので」

 

「つまりはギルドの要請とは違うわけか、完全なエイナちゃんのお願いちゅうわけか」

 

 

腕を組み悩むロキ。オラリオの中でもトップクラスであるロキファミリアが、名も知られないファミリアを護衛するなど、

 

 

「ええで。ってか元よりその考えはあったけどな」

 

「宜しいんですか?」

 

「契約しておいて終わったら無関係なんて寂しいことは言わんわ。させやけどこちらも条件があるわ」

 

 

そう言いながらロキはヘスティアの方を向いて、

 

 

「ドチビ、ウチはイヤやけど仕方ないんやで」

 

「なんのことだいイキナリ?」

 

「……暫く、ヘスティアファミリアはここで過ごしたらええ」

 

「「「………ええええええぇぇぇぇぇ!!!!??」」」

 

 

大声で叫ぶヘスティアとベルとエイナ。ハジメは「おっ」とちょっと驚いているようだが顔は変わっていない。

 

 

「何を言っているのか分かってるのかいロキ!!?」

 

「分かっとるわ!!ウチだって誰が好き好んでドチビと一緒に生活せんといかんなや!!」

 

「なら言わなきゃいいだろうが!!!」

 

「アホ!!さっきも言ったけどな、ここまでしておいて後は知らへんってウチのプライドが許されへん。ウチも我慢するんや、ドチビも己の我が儘で断るなんて言わへんよな?」

 

 

痛いところをつかれたヘスティアは分かりやすくイヤそうな表情をしている。元を正せばロキが自分の我が儘のせいだっていうのにと思いながらも、現実ロキファミリアという強い護衛がいるのは物凄く助かる。しかしこれだとロキが優位に立っていると考えたヘスティアは

 

 

「分かったよ。その変わりにベル君とハジメ君に冒険者としての指導をしてくれないか?」

 

「なんでウチらがそんなことを!!」

 

「別にいいんだよ。僕はロキの所で守ってもらわなくても困らない。でも()()()()()()()が許さないんだろう。ならこれぐらいはいいじゃないか?」

 

 

と、強気に出ているヘスティアだがテーブルの下ではベルの手をギュッと握っている。「守ってもらわなくても困らない」な訳がない。非常に困る。だけどここで引いたらロキに負ける、という何とも小さなプライドの為に交渉している。そしてロキは本当にイヤそうな表情をしながら、口にも出したくないその口を開いた。

 

 

 

「……ええで。でもその変わり、ここではウチのいうことは聞いてもらうで」

 

「はぁ!!?」

 

「当たり前や、ここはウチの家なんやで。それともなんや、()()()()()()()()の為に子供の強くなるきっかけを潰すんか」

 

 

やったらやり返す。今度はヘスティアが本当にイヤそうな表情をしている。あのロキのいうことを聞き入れるなんて考えただけで身体中が拒否反応を起こしている。しかしベルやハジメのことを考えたら、

 

 

「……僕だって…僕だって嫌々だけど、二人のためだから……仕方なく…仕方なくなんだぞ!!」

 

「決まりやな」

 

 

結局ロキが優位に立ったまま決まった。ベルやハジメに取っては良いことずくめだろうが、ロキはプラマイゼロであり、ヘスティアにいたってはマイナスになってしまった。

 

 

「まぁ、あんなことを言っていたが無理なことなら例えロキの言葉でも断ってくれて構わない」

 

「ちょっ、リヴェリア!!?」

 

「分かっていると思うが今回の出来事は完全に私達が悪い。こちらとしては全面的に支援しなければならないんだぞ。」

 

「そうだね、リヴェリアの言うとおりだ。僕達ロキファミリアは全面的にヘスティアファミリアを支援させてもらいます」

 

「フィンまでなにいってんねん!!」

 

「代わりというわけではない、お願いといってもいいが今の僕達にそんなことも頼めない。だから気が向いたらでも、興味をもったらでも構わない。

…………トキサキ (ハジメ)君、僕達の遠征に来てほしい」

 

 

その言葉に誰もが驚いた。一度アイズやリヴェリア、ロキがその言葉を口にしたが今回はロキファミリアの団長であるフィンが直接口にしたのだ。いや口にすること自体いけないと分かっていても、それを口にするほどの思いが彼にはあった

 

 

「僕達はいま先陣を切ってこのダンジョンを攻略しようとしている。それはとても過酷なもので一瞬の油断、迷い、判断が生死を決める。本当の「強さ」を持ったものしか進むことの出来ない場所に足を踏み入れている。そして君はその「強さ」を持っていると僕は思っている」

 

 

その真剣な眼差しに思いが籠った言葉に誰もが息を飲んだ。誰もが言葉に出来ない中、クスッと笑ったのは意外にもリヴェリアだった。

 

 

「それはもう勧誘というものだぞフィン」

 

「ふふ、そうだね。すまないがさっきのは忘れてくれ。君達の安全は僕達が保証しよう。元を正せばロキが契約を破ったようなものだからね。これぐらいは最低限させてもらわないとこちらが困るんだよ」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 

その言葉にベルが頭を下げながらお礼をするがさっき言ったようにこれは罪滅ぼしみたいなもの。ベル達がお礼を言わなくてもいい。しかしベルだからこそこうやってお礼をいうのだろう。そう、()()だからこういうことが言える。つまりは他の二人は、

 

 

「そうだ契約だぁ!!5000万ヴァリスだよ、5000万ヴァリス!!!」

 

「神様、がめついですよ」

 

「正式な契約なんだよ!!ほらロキ!!!出すものを出すんだ」

 

「お見苦しいものを見せてすみませんリュー姉、エイナ嬢」

 

「い、いえ…」

 

「アハハ……」

 

 

ヘスティアファミリアは神様を入れて三人と少ないファミリアだとは理解していたが、まさか神様がここまでお金に執着しているなんて思わなかった。てか見たくなかった。そんな周りの視線なんか気にしてないのか、気づいていないのか知らないがロキにまだ噛みついている。痺れを切らせたロキは、

 

 

「もう~うっさいわ!!言われんでもちゃんと5000万ヴァリス払ったわ!」

 

「なにいってるんだよロキ!僕はもらっ」

「誰がドチビに渡すか、アホ。全額ヘファイストスに渡しといたわ」

 

「なんてことをしてくれたんだロキイイイィィィ!!!

あのお金は僕達のお金なんだぞ!!!」

 

「あれハジメとの契約や、渡したとしてもハジメに渡すわ。せやけどハジメが借金を返したいって言ってきたんやで。本当にええ子供やな~」

 

 

ワナワナと震えているヘスティアは、次の瞬間にギロッとハジメを睨む。それも泣きたくなるほど悔しそうな表情をしながら。

 

 

「少しだけでもと手元にあるとどんどん使う金額が上がるんです。まずは借金を返してからあるお金で慎ましく生活を」

 

「イヤだ!!折角貧乏生活から抜けれると思ったのに!!!!」

 

「皆さん本当にすみません。こんな残念な神様をお見せしまして」

 

 

それぞれ違った反応をしている。展開についてこれずに呆けてあるもの、苦笑いしているもの、ため息をついているもの、共感しているものとバラバラな反応していたがあるひとつだけは全員同じ思いだった。

 

 

『どのファミリアも神様に苦労しているな~』と。

 

 

………………………………………………………………

 

 

ひとまず用意された紅茶とケーキで一息ついた所で、

 

 

「さて、本題に入りたいと思います。

「謎の集団脱力感」についてなんですが、エイナ嬢」

 

「いまダンジョンに調査隊を派遣しております。安全が確保できるまでは入ることは出来ません」

 

「まぁ、しゃあないやろうな。どれぐらいかかるんや?」

 

「原因が分かりませんのでハッキリとは…」

 

 

あんな現象がまたダンジョンで起きてしまえば、今回みたいに誰もが動けずに、もしかしたらモンスターに殺られてしまう恐れがある。そんな不確かな状況でダンジョンに潜らせるわけにいかない。

そんな話をしているなか突然ベートが、

 

 

「原因もなにもソイツに決まってるだろうが!!!」

 

「おい、ベート。いきなり何を言い出すんだ?」

 

「何を言い出すだぁ?リヴェリア、てめえが一番分かってるんじゃねえか?

あんな芸当が出来るやつはステルスしかいねぇだろうが!!」

 

 

言いたいことは分かる。あのタイミングであの現象、起こせる人物がいるとすればそれはハジメしかいないだろう。すると主神であるヘスティアが

 

 

「ちょっと待ってくれ!!そんなことをしてハジメ君にメリットがあるとは思えないよ」

 

「だったら教えてくれよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()言ってみろよ!!?」

 

「うぅ…」

 

「……」

「……」

「……」

 

 

問いだされたヘスティアもハジメが起こしたかもと疑われる原因である三人も何も言えなかった。ハッキリとハジメは違うと言える。だが否定出来るものが何も無いために論理的に証明されそうになっている。

興奮したのかベートを突然立ち上がり、

 

 

「何も言えねぇじゃねえかよ!大体最初から俺は反対だったんだよ!!こんな得体もしれねえやつはよ!!あの時もこいつは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

ソイツはな、ただのインチキ野郎だあああぁぁ!!!!」

 

 

その瞬間、ベートの横を何かが通り抜けていった。あのベートが気づかずに何かが通りすぎたのだ。ベートの頬には新しい切り傷が出来ており、その切り傷を作った物が壁に突き刺さっていた

 

 

「インチキとは聞き捨てなりませんね。私やそちらの二人がトキサキさんを弁護できなかったのは認めましょう。肯定も否定も出来ないのですから。しかしあの勝負は正々堂々と行いました。それを今ごろになってトキサキさんをインチキ呼ばれなど……ふざけるのも大概にしろ」

 

 

ベートに向けてフォークを投げたのはリューだった。その目は完全にベートを敵と認識しており、すぐにでも戦う意志がある

 

 

「本性を見せやがったなエルフが」

 

「ベート!!いい加減しろ!!!」

 

「ウルセェ!!こんなレベル1の雑魚がゴライアスを倒せるわけがねぇ!!どうせてめえの勘違」

「いい加減にしてベート」

 

 

アイズの鋭く冷たい言葉がベートの言葉を止めた。いやそれだけではなく冷たい視線を向けている。まるで敵を見ているようだ

 

 

「……おいおい、マジかよ……こんな奴の為に仲間に(敵意)を向けるのか…アイズ……」

 

「ハジメは、倒したよ。ゴライアスを」

 

「認められるか!!こんな奴が!!!」

 

「いい加減にせえベート!!!!!」

 

 

ロキの激怒した声に流石のベートも口を閉じた。誰もが聞こえるような大きな舌打ちをして乱暴に椅子に座る。

 

 

「すまんなハジメ、ベートにはちゃんと言い聞かせとくわ」

 

「いいえ、僕よりリュー姉に」

 

「そうやな。すまんかったな、今度お店に貢献したるから勘弁してな」

 

「……トキサキさんが許すのなら」

 

 

これでなんとか収拾ついたかと思われたが、納得してないベートは明らかな態度でテーブルに膝をつき、掌で頭を支えながら皆とは違う方向を見ている。そんな姿にロキが注意をしようとしたがそこにハジメが、

 

 

「べベートさん」

 

「…………」

 

「べベートさん」

 

「…………」

 

「べベートさん」

 

「…………」

 

「べベートさん」

 

「…………」

 

「べベートさん」

 

「…………」

 

「べ・ベートさん」

 

「ぶっ殺すぞテメェエエエエエエエエェェェェェ!!!!!」

 

 

やっと反応したベートは激怒して立ち上がり、ずかずかとハジメの元まで来て胸元を掴もうと手を伸ばす。しかしオートによる一時停止で掴むことができないベート。それでさらに怒りが募ったベートは殴ろうとするが、

 

 

「喧嘩なら外でしましょう。前回が気に入らないならもう一度すれば納得しますよね?」

 

「あぁ!!?テメェ本気か?」

 

「そうしないとずっと不機嫌じゃないですか。納得してくれるならやりますよ」

 

「おもしれぇ、今度はテメェをぶっ潰す!!!」

 

 

すぐさまベートは部屋から退室し、そのあとをリヴェリアやアイズ達が追いかける。しかしロキだけは未だに残っていてふっと立ち上がったあと右手を上げて

 

 

「すまんかったなハジメ」

 

「いえいえ、構いませんよ。あぁしないとずっと不機嫌でしょうから」

 

「アハハ!!ベートのことよう分かっとるな!!!

ほな、アイツを適当に(しご)いてやってくれや」

 

 

手をヒラヒラと振りながら先に退室したロキ。

それを確認したヘスティアは、残ったメンバーは直ぐ様ハジメに駆け寄り

 

 

「何してるんだよハジメ君!!!」

 

「相手はロキファミリアなんだよ!!!」

 

「無茶をし過ぎです!!!」

 

「なんで毎回毎回問題を起こすのよ!!!」

 

「そんなことを言われましても今回はあっちが悪いですよ。それに僕はあんな風に人を見下す人は嫌いですから、お仕置きをしてやろうと思いました」

 

「相手はロキファミリアの一級冒険者なんだよ!!!」

 

「大丈夫ですよ、所詮は野良犬ですから」

 

「一級冒険者を野良犬扱いって……」

 

 

相当怒っているのだろう。ここまで毒舌を吐くなんて……それでも心配そうな表情をするヘスティアに対して

 

 

「大丈夫ですよ、それに()()の実験台になってもらいましょう」

 

「うわぁ……」

 

 

そこにいる誰もがアレが何のことなのか分からない。分からないが分かることがある。

 

 

この喧嘩、勝敗が決まっていると。



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影の薄さで再び野良犬を倒しましょう。

明けましておめでとうごさいますー❗
今年もよろしくお願いします。
新年一発目、張り切ってどうぞ♪




黄昏の館、訓練所

新人の指導から上級同士の試合など己を磨くための場所ではあるが、たまにファミリア内の喧嘩を決めるためにここで戦うことがある。それがまさにいま、ここで行われようとしていた。

すでに訓練所にはロキファミリア、ヘスティアファミリア、エイナ、リューが集まっているのだが、どうやらこの中で1人だけまだ来ていない者がいる。その者はこれから戦おうと意気込んでいたベートをイラつかせる人物

 

 

 

「なにやってるんだアイツは!!!」

 

「ドチビ、なんでハジメが来とらんのや?」

 

「ちょっと用意したいものがあるって……」

 

「もう1時間待たされてんやで!!何しとるんや!!!!」

 

 

ベートだけではなかった。ここにいる全員が未だに現れないハジメに対してイラつき出している。気の短いベートはもう血管が切れそうなほどイライラして、さっきから貧乏揺すりが止まらずにいる。

 

 

「お待たせしました」

 

 

その言葉と共に現れたハジメは背中に大きなリュックを背負って訓練所に現れた。そのリュックは中に入りきれずにお玉や木の枝やズボンなどが見える。

 

 

「遅ぇんだよテメェ!!ってか何だそれは!!?」

 

「べベートを倒す武器、になるかもしれないものです」

 

「…ビン…風呂敷……糸屑……

……ふ、ふざけるのも大概にしろよテメエエエエエエエエェェェェェェ!!!!」

 

 

襲いかかろうと一歩踏み出そうとすると、

 

 

「準備しますのでちょっと待ってくださいね」

 

 

と、こんな状況にも関わらずにマイペースにリュックを下ろして中身を取り出し始めた。出鼻を挫かれたベートを大きく舌打ちをしが大人しく待つことにした。ここで襲撃することは簡単だが、徹底的にハジメを潰すならこの準備さえも無意味だと分からせる必要がある。どんな準備をしようがレベル1が一級冒険者に勝てるはずがないとその身に刻み込ませるために。

 

 

「何を企んでいるかは知らねえが、小細工で俺に勝てるとでも思っているならさっさとここから出ていけ」

 

「至って真面目なんですけどね」

 

 

そんなことをいうがリュックから出てくるのは明らかにガラクタばかり。小さな木箱や複数のビンの中に様々な色の物が入ってたり、小さな銀色の球体までも出てきた。これでどうやってベートに勝つつもりなのか?

 

 

「……おい、ドチビ。ハジメ何がしたいんや?」

 

「ボクも知らないよ。でもふざけてやってるようには見えないのは確かだよ」

 

「なら、意味があるっていうわけか。楽しみやで。これでハジメの実力が見れるや、ベートには感謝せんといかんな~」

 

 

そんな呑気なことを言っているロキだがベートはその意味不明な行動にもう怒りが爆発しそうになっていた。それはそうだろう、目の前ではただリュックからガラクタを出しているだけ。そんな姿を見ていたらそれは怒りも蓄積していき、

 

 

「………いい加減にしやがれ!!!!」

 

 

我慢出来なくなったベートは跳躍し、そのフロスヴィルト、特殊金属「ミスリル」を加工したミスリルブーツでリュックを踏み潰した。跳躍からの攻撃でリュックの中身は弾け飛びガラクタが更にガラクタになる始末。

 

 

「ベート!!何をやっている!!!」

 

「うるせぇクソエルフ!!!こんなゴミを出しているのを待っていても何も変わらねぇよ!!!!」

 

 

いつものように誰に対しても毒ずくベート。しかし今回はやめて方が良かった。ここにはエルフが1人だけではないのだから……

 

 

「…トキサキさんといい、彼には一度痛い目にあった方がいいかと」

 

「…ハジメ君は意味のない行動なんてしません。なのに勝手に決めつけて、エルフだとバカにして……」

 

「…ここはどちら側にも付くつもりはなかったが……」

 

 

「「「その(無礼者)(狼人)(ベート)を泣かしてください!!」」」

 

 

よほど頭に来たのだろう、声ピッタリに合わせる三人。それに答えるようにハジメはベートの目をじっと見てながら、

 

 

「了解です」

 

「はぁ?雑魚が俺を泣かすだと…やれるならやって見やがれ!!!」

 

 

ベートの上段蹴りがハジメの頭を襲う。その一撃はもちろん手加減しているが、喰らえばハジメの身体は簡単に吹き飛び訓練所の壁も貫くだろう。しかしハジメの一時停止の前では無意味、手加減しようが本気だろうが全て停止させるのだから。

 

 

「チィッ……うらああああぁぁぁぁ!!!!」

 

 

予想外、というわけではない。でも舌打ちをせずにはいられなかった。話しには聞いてはいたが本当に攻撃を止めるなんて想わなかったからだ。しかしこうやって目の前でやられたからには()()を打つ必要があると考えていたのかベートはハジメに拳と蹴りの連打を繰り出す。だけどこんなことをしても全て一時停止により止められてしまうので意味がない。

しかし、その意味のないことをやるということに()()がある

 

 

「なるほど、考えたねベートは」

 

「どういうことですか、団長?」

 

「闇雲にやってるんじゃないんですか?」

 

「そうだね、ハジメの一時停止の前では攻撃は無意味だろう。だけど()()()()()()()()があるんだよ」

 

「……なるほど、そういうことか!!

ベートは一時停止の多用による精神疲弊(マインドダウン)を狙っているのか!!!」

 

 

ベートの考えはこうだ。どんな攻撃も一時停止により止めてしまう万能な魔法かもしれないが、()()()()()()()()()()()()()()と考えのだ。いくら攻撃を止めても精神疲弊すればハジメを守る盾はなくなる。

 

 

「精神疲弊すればハジメに攻撃せずに勝つことが出来る」

 

「一時停止が凄くて「魔法」だったことを忘れてました」

 

「でも、それならハジメに勝てる」

 

 

そんなことを言っている間にもすでに100回以上の攻撃をしている。それでも未だに攻撃の手を緩めないベート。対してハジメはまだ精神疲弊の兆しはない。

 

 

「アレだけの攻撃を喰らっても顔色一つ変えないとは…」

 

「流石レア魔法といったところか」

 

「で、でも、レアならむしろ消費が激しいんじゃ…」

 

「必ずしもそうとは限らない。現に僕達はいま一時停止というものを目にしている。だけどどんなレアでも魔法は魔法だ。必ず精神疲弊はくる」

 

 

そう魔法を使用するかぎり底が尽きる。身体を動かし体力が尽きるように魔法を使い精神力が尽きる。いくら体力があろうが精神力がなければ気絶してしまう。ベートはそれを狙っている。この無敵といっていい一時停止に対抗するにはこれしかないと判断したのだろう。

 

 

………………………………………………………………………

 

 

「……はぁ、はぁ、はぁ……くそが……」

 

「うそ…でしょう……」

 

 

あれからどれだけ時間が過ぎたのだろう。1分かもしれないし10分かもしれない。それだけ濃い時間が流れたのだが目の前の現実は残酷な真実を突きつけるだけ材料にしかならなかった。

 

 

「もう終わりですか?粘ったほうですけど()()()()じゃ足りないですよ」

 

「……ふざけやがって……」

 

「いえいえ、ふざけてませんよ。やり方は間違ってませんけど()()足りないだけですよ」

 

「………くっ……」

 

 

ケロッとした表情でハジメはベートに語りかける。それだけじゃ足りないと、ただ足りないと。つまりハジメにも精神疲弊(マインドダウン)はある。だが、

 

 

「あれだけやって……まだなのか……」

 

「ドチビ!!お前まだウチらに隠してることがあるやろう!!!」

 

「………あるよ。だけどこれは本当の秘密だ。打ち明けるつもりはないよ」

 

「こんだけのことをしてまだそんなことをいっ」

「だからこそだ!!

君なら分かるだろロキ。いくら契約を結ぼうが明かせない秘密があるってことを。全くないとは言わせないよ」

 

 

それを言われたロキは黙ってしまった。いくら契約を結んでも全て明かすことなんて出来ない。ましてやファミリア内でも明かせないこともあるのだ、自分の都合で明かるほど軽いものではない。

 

 

「じゃ次は僕の番でいいですよね。リヴェ姉、べベートに体力回復薬を渡してください」

 

「テメェ!!ふざけてるのか!!!!」

 

「いや、正々堂々とやるために…」

 

「これは喧嘩だぁ!!テメェの施しなんているかあぁ!!」

 

 

未だに肩で息をしている状況でもハジメを睨み付け吠えるベート。その姿に諦めたのかハジメは近く落ちていた小瓶を手に取った。

 

 

「それじゃ遠慮なくいかせてもらいますよ」

 

「いちいち聞くんじゃね!!」

 

「まだまだ元気ですね。それでは」

 

 

そういってハジメは小瓶の蓋を取り、右の掌に小瓶の中にある液体を流し落とす。その中身はどす黒いものであり掌に触れた途端に液体から固体へ、まるで屋根に出来る氷柱がその掌から生えてくるように高く高く積み上がっていく。そして小瓶の中身がなくなった時にはその黒い棒は1メートル近く出来上がっていた。

 

ハジメはそれを握りベートに向けて走り出す。ベートは未だに動くつもりもなく、いや逃げるつもりもないだろう、ただその場に立っている。そう完全にハジメを舐めているのだ。それでもハジメはベートに近づきその黒い棒をベートに向けて殴り付ける。

 

 

「はっ!遅せえよ!!!」

 

 

その場から動くことなく身体を最小限で動かすだけでハジメの攻撃は当たらない。単純な戦いで一級冒険者にハジメが勝てるわけがない。そう()()()()()()()

 

ハジメはベートがこの攻撃を避けることは分かっていた。だから避けた瞬間が狙いだったのだ。ハジメのこの一撃だけを避けたことによる体勢。それからもう一度避けることは難しい。例え避けれたとしても()()()()()()を避けることが出来るだろうか。

ハジメは黒い棒にかけていた一時停止を解除する。それと同時に黒い液体になった物に一時停止で止めていた衝撃を放つ。それにより黒い液体はハジメやベートを巻き込んで広範囲に撒き飛んだ。

 

その一瞬がベートに見えたのだろう。無理やり身体を動かして黒い液体から距離を置こうと飛び逃げた。その一瞬の判断、黒い液体がヤバイものだと直感で感じ取った為その場から逃げ出した。そしてそれは正解だった。

 

 

「な、何なのアレ!!?」

 

「床が……溶けているのか…」

 

 

黒い液体は床に当たった瞬間にそれを溶かし始めた。グツグツと気泡を立てながら溶かしていく。床も天井も柱も何もなかも。ヘスティア達は訓練所から出て観覧席から見ていたために液体が飛んでくることはなかったが、

 

 

「ベートがあれ避けなかったら……」

 

「あぁ、危なかっただろう……」

 

 

現に避けたベートの服にも液体が付いたようで溶けて穴が空いている。あと僅かでもズレていたら、僅かでも投げるのが遅れたらその身体に穴が空いていた。

 

 

「……て、テメェ……」

 

「安心してください、穴空いてませんよ。

それにベベートなら()()()()()避けられると分かってやったんですから、問題ないですよね?」

 

 

グッ!とそれ以上は言えなかった。これで「危なかった」と言えばベートはハジメを「強者」と認めることになる。今でも「弱者」だと思っているベートがその言葉を言うわけがない。

 

 

「さて次にいきましょう。ここにはべベートを倒すための色んな物がありますから」

 

 

今でもベートはハジメを「弱者」だと思っている。しかしその「弱者」の中でもこいつは「強者」だと認めてしまった自分にイラつきを覚えながら、これから始まる喧嘩に集中することにした。知らずに「弱者」ではなく「強者」だと気づかずに。

 

 





はい、話が終わりませんでした(笑)
しかし次回は遂にハジメ無双が!!!
そしてベベートの運命は!!?
お楽しみ~❗



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影が薄くても攻撃の術は持ってます。

久々です。
すみません、更新遅れました。
言い訳は……ない!!


次に床に落ちている物を、その手に取ったのは僅か0.5mmの小さな鉄の塊。それも掌に収まりきれないほどの量を手にしている。それを見たフィンは思わず叫んでしまった。

 

 

「今すぐに物陰に隠れろ!!!」

 

 

それと同時にハジメはベートに向けて鉄の塊を投げた。それもただ投げただけではない、衝撃を加えた鉄の塊が音速に近いスピードで飛んでいった鉄の塊はベートを襲う。すぐにその場から逃げようにも逃げられない。掌に収まらないほどの量を投げられ広範囲に広がり向かって来るのだ。逃げ切れないと判断したベートは咄嗟に脚を上げて向かってくる鉄の塊を蹴りだした

 

 

「うおおおぉぉぉぉ!!!」

 

 

飛んでくる鉄の塊は目に見えている。あとはそれを捌ききれるかどうか。ベートはすでに疲れきっているのだ、さっきまで全力の連続攻撃をしていたのだから。体力回復薬を拒んだベートにはいまの力でどうにかするしかない。

まずは顔面に迫ってくる鉄の塊を蹴り落とし、そのまま右肩に迫ってくる鉄の塊を蹴り落とし、腹部、左足、胸、次々に襲いかかる鉄の塊を蹴り落としていく。

だが最後の最後で、身体を支えたいた脚にガタがきたのか、力抜けてしまい左肩に迫っていた鉄の塊を蹴り落とすことが出来ずにその身体に受けてしまった。幸い鉄の塊はベートの身体を貫き留まることはなかったが、その勢いで飛ばされたベートの肩からは血が溢れ出ている。

 

 

「あ、危なかった……」

 

「コラー!ハジメ君!!危なかっただろうが!!!!」

 

 

物陰に隠れたヘスティアは誰も怪我はなかったが、物陰となった壁や柱は小さな穴とヒビが入っていて、これを受けていたらベートのように血を流していただろう。

 

 

「アイズ姉やリヴァ姉の一級冒険者の方々がいたので大丈夫かと思いまして、思いっきりやらせてもらいました」

 

「やり過ぎだよ!!」

 

 

確かにアイズなら簡単に捌ききることは出来ただろう。しかしあんな風に攻撃をするなんて予想出来なかった。そんな状態で本当に鉄の塊から守りきれたのかどうか……

 

 

「でしたらそちらに被害がないように訓練所全体に一時停止をかけておきましょうか?」

 

「出来るなら最初からなんでしないだよ!!!」

 

「言われなかったので」

 

「君って奴は……」

 

 

その答えに頭が痛くなったヘスティア。隣にいたベルもただ苦笑いするしかなかった。ハジメは床に手を置いて訓練所全体に一時停止をかけた。訓練所という空間から離れているヘスティア達はそこから眺めることは出来るが中に入ることは出来ない。逆も同じでハジメ達も訓練所から出ることは出来なくなった。

 

 

「それでベベート、まだやりますか?」

 

「……上から話してるんじゃねえ!!!」

 

 

怪我をしているので、といえば良かったと思ったがすでにベートはハジメに向かって走っていた。そしてベートが床に散らかっている物の一つ、木箱を踏んだのを確認したハジメは、

 

 

「あっ、それアウトです」

 

 

指を鳴らした瞬間にベートの足元が爆発した。それも訓練所全体が簡単に吹き飛ぶ火力と爆風がベートを襲った。突然のことでベートは避けることも出来ずにモロに喰らい、宙を舞うベートの身体は弧を描き地面に叩きつけられた。

 

 

「ベート!!」

 

「ちょっ、直撃したよ今の!!!」

 

 

いくら一級冒険者とはいえ間近で爆発を、直撃しなくとも確実にダメージを受けるだろう火力。それをハジメは指を鳴らすだけで、

 

 

「何ださっきのは!!?

ハジメの指で鳴らした音で木箱が爆発した!?

……新しい魔法が顕現した?いや、マジックアイテムなのか?」

 

 

困惑をしているロキファミリア。もちろん同じファミリアであるヘスティア達も何が起きたのか分かってない様子。すると爆煙が晴れた向こう側には相変わらずに無表情で怪我もなにもないハジメが立っており、ベートは傷ついた身体を動かしながら立ち上がろうとしていた。

 

 

「さすが一級冒険者です。結構強めだったんですけどね」

 

「……な、なんだ…さっきのは…」

 

「今まで使っていた一時停止の応用編ですよ。僕に与える衝撃を一ヶ所に集めて手や足裏から放出しますけど、今回は「衝撃」や「炎」や「氷」などを一ヶ所に集めて木箱に詰めて、後は一時停止解除。これで()()()()()の完成です」

 

 

「ふ、ふざけ……るな……」

 

 

ビックリ箱、要はビックリ箱(リモート爆弾)である。木箱に入れているのは中身が見えないようにするため。そうしないと色とかで推測されてしまうからだ。ちなみに炎や氷はダンジョンにいって冒険者が使っていた魔法を一時停止にしてきたもの。もちろんもらった魔法の代わりにモンスターを倒した。何とか立ち上がったベートだがいくら一級冒険者でもかなり体力が奪われているようだ。

 

 

「さっきから……なんだテメェは……」

 

「どうしたんですかベベート?」

 

「なんで攻撃してこねぇんだ、ああぁ!!?」

 

「はい??」

 

 

言っている意味が分からなかった。さっきからというのは今までの攻撃が()()()()()()とこを言っているのか??でもその攻撃を見事に喰らっているのはベートであり、どうしてそんな事をいうのかさっぱり分からない。

 

 

「攻撃当たってますよね?大丈夫ですかベベート?頭の打ち所が悪かったんですかね?」

 

「攻撃だぁ?はっ、こんなのが攻撃とは言わねぇ!!

攻撃ってのはな、拳や武器や魔法を使って、身体を、経験を、知識を使って敵をどうやってぶちのめすのか、ぶっ殺すのかを、全部出しきることだ。だがテメェはなんだ?そんな魔法(道具)しか使えねぇ奴が、喧嘩の最中に道具(一時停止)しか使えねぇ奴が攻撃なんて言ってるんじゃねぇ!!」

 

 

そうベートが一番気に食わなかったのは、レベルや人物や性格ではない。ハジメが一時停止しか使わないこと。まるでそれが唯一の攻撃だと主張していることが気に食わない。

 

 

「そんなこと言われましてもステイタスを見ているから知ってるはずですよ。僕の力は0。攻撃にならない攻撃を出しても勝てないなら魔法しか、一時停止をうまく使って戦うしか」

「試したのかよ!その攻撃をよ!!!

やってもねぇ奴が、努力しねぇ奴が、力もねぇ奴が、冒険者を名乗るんじゃねええええぇ!!!」

 

 

その言葉に黙ってしまったハジメ。ベートが言うことが分からない訳ではなかったから。何度も試したがダメだった。力が、魔法以外のステイタスが上がることはなかった。だから諦めたのだ。そして一時停止で戦うことを選んだ。その判断が間違っているとは思わない。だけどあの時諦めなかったらと考えたら……すると外野から、

 

 

「君にハジメ君の何が分かると言うんだい!!!」

 

「か、神様…落ち着いてください!」

 

 

ヘスティアが必死な悲しそうな表情でベートに食いかかる。隣ではベルやエイナが止めようとするが止まらず叫び続ける。

 

 

「何が分かるって言うんだい!!どれだけダンジョンに潜っても上がらないステイタス、誰にも見られない孤独感。それでも冒険者としてやって何が悪いと言うんだい!!!」

 

「うるせぇ!!神ごときが冒険者の何が分かるってんだ!!!!」

 

「ベート!!!貴様なんだその発言は!!!

今すぐにとり…け……せ………」

 

 

ベートを叱るリヴェリアの大きな声が掠れて聞こえなくなっていった。目の前で起きている出来事があまりにも有り得なかったからだ。

 

 

「……僕の、僕の悪口は構いません」

 

 

無表情でも明るさのあったハジメ。だがいまは凍りつくような眼差しでベートを見ている

 

 

「ですが僕の大切な神様の悪口は、」

 

 

そしてハジメの足元から霧が、いや冷気がハジメを中心にして訓練所全体に広がっていった。それを見ていたヘスティアの表情は豹変して

 

 

「止めるんだハジメ君!!()()は使ったらダメだああぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしヘスティアの言葉は届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「許しません。」

 

 

刹那、瞬間に訓練所は真っ白な空間へと変わった。ヘスティア達の目の前にはキラキラと氷の結晶が舞っている。

この一時停止の向こう側は極寒の世界が生まれていた。そう、ヘスティア達の目の前には生き物が生きれない環境が目の前にあるのだ。




はい、言い訳いいますー(笑)
今回は短かったと思います、急展開かもしれません。
上手く表現が出来ずに更新が長引いたので「とりあえずキリのいいところで」と思い投稿させてもらいました。
展開は………ストーリー構成が上手くいかなかっただけだよーー‼
とにかく、だから、続くからお楽しみに~❗


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影の薄さは周りの人によっては必ずではない。

タイトル変更しました。
理由としたら次回の話の為です。
前回のタイトルのままだと次回の話に合わないからです。というか、タイトル通りに出来なかった僕の力不足です。
僕にスミマセン!!



……

………

…………

 

 

あれはヘスティアとハジメが出会いファミリアとなってから何日か過ぎたある日のこと。

 

このときはヘスティアはハジメにダンジョンへ向かわせることを禁じていた。魔力以外0であるハジメをダンジョンに向かわせれるハズがない。例え一時停止があったとしても子を心配する親なら簡単に行かせれるわけがない。しかし一人から二人に増えたことにより食事も増えることになり、それはお金が必要となる。ヘスティア一人のバイトだけでは足りない為、仕方なくハジメもバイトをすることにした。だが、そう簡単に見つかるわけもなくこうやって街中を歩き回っていた。

 

夕方となり夜になりそうな夕方、結局バイトは見つからなかった。ヘスティアのバイトもそろそろ終わる頃だと思い迎えに向かったハジメだったがそこに、

 

 

「あぁ!?金が足りねぇだと??」

 

「そうだよ、ちゃんとボクは君達にジャガ丸くんを3つ渡したよ。でもここにあるお金は2つ分しかないんだ。キチンと代金は払ってもらうよ」

 

「テメェが落としたんじゃねえのか?それに俺達が2つ分しか渡してない証拠があるのかよ!!」

 

「知っているはずだよ、神様に嘘は効かないってことは。君達は嘘ついている、それは自分がよく分かっているはずだよ」

 

 

二人組のゴロツキに対して一歩も引かずに支払いを要求するヘスティア。目の前にいる神様を侮辱していることになんて罰当たりなと思いながらヘスティアに近づき、

 

 

「大丈夫ですか神様??」

 

「ハジメ君、あぁ問題ないよ。さぁキチンと代金を払うんだ」

 

「……うるせぇな!!こんな物のために誰が払うか!!!」

 

 

そういったゴロツキの一人が持っていたジャガ丸くんを地面に叩きつける。それを見たもう一人のゴロツキも同じように叩きつけた。

 

 

「なんてことをしてるんだ!!」

 

「さっきからウザいんだよ!!神だからってな、なにもできねえくせにいい気になってるんじゃねぇ!!!」

 

 

これは後から知ったことだがこのゴロツキ達はつい最近ファミリアから追放されたようだ。ファミリアの掟を破った罰として追放されたのに、自分達は悪くないと追放した神様へ逆恨みをしていたのだ。

だからこうしてヘスティアに対して暴言を吐いた。まぁヘスティアは怒りはするがきっとそのあと許してくれるだろう。しかしヘスティアの隣には、

 

 

「……訂正してください」

 

「あぁ??さっきからなんだテメェは!!関係ねぇやつは何処かに言ってろ!!」

 

「……訂正してください」

 

「うるせぇんだよ!!何回も言ってやるよ!!!

何にもできねえ(グズ)が、モンスターを倒せねぇ(ザコ)が、冒険者に逆らってんじゃねえ!!!」

 

 

無表情。喜怒哀楽が分かりづらいハジメだが今は間違いなく「怒」である。そしてハジメもそれが分かっている。こんなことを改めて言うのはおかしいが、周りが思っている通りハジメ自身も自分が感情を表に出すことはないと理解していた。だからこそなんだろう、()()()()()()()()()()()()()()()()その感情がハッキリと分かる。そしてだからこそ、その感情を抑える術を知らなかった。

 

 

「………僕の……」

 

「あぁ!!?なんだ、ハッキリ言いや……!!??」

 

 

小さく誰にも聞こえない声だったが、見えてしまったハジメの目がゴロツキの言葉を止めた。その目は明らかに人を殺める目だと、そしてそれが自分達に向けられていることを。

しかし、逃げることも叶わなかった。いや、逃げるという考えすら持てなかった。その恐怖を感じていたときにはすでにゴロツキ達は意識がなかったのだから。

 

 

「……な、何を……したんだい……ハジメ君…」

 

 

何が起きたのか分からなかった。確かについさっきまで変わらない景色だったのが、瞬きをした時には景色が、世界が変わってしまった。

ヘスティアとハジメを中心に周りが凍りついていた。ジャガ丸くんもお店も地面も草も、そしてゴロツキ達も、周りにあったものすべてが一瞬にして変わってしまった。そうゴロツキ達はまるで氷の彫刻のように完全に凍りついてしまっていた。

 

 

「こ、凍りついている……詠唱も言わずに魔法を……」

 

 

こんな広範囲で強力な魔法を無詠唱で使えるなんてありえない。どんなレアな魔法やスキルでも詠唱無しなんて…それこそ()ではないかぎり……

そんな状況に戸惑っている間にもハジメはゴロツキに近づき、その右手を握りしめて振り上げた。

 

 

「ちょっ、ちょっと待つんだハジメ君!!そんな事をしたら彼らが!!!」

 

 

しかしヘスティアの制止を聞かずにハジメはその右手を降り下ろし、周りに砕けるような音が響き渡った。

 

 

…………

………

……

 

 

「な、なんやこれは……」

 

 

ロキの目の前には一瞬にして訓練所が真っ白な世界へと変わってしまった。柱や床や天井は凍りつき空間は未だに冷気が漂っている。

そしてすぐにその冷気は消えていき、その先に見えたのはこの状況を作り出したと思われるハジメと、

 

 

「べ、ベート!!?」

 

 

訓練所と同じように凍りついてしまったベートがそこにいた。ただそこにある人形のように、色白く生きていると感じさせない。

そんな中いつの間にかベートの近くにいたハジメは、右手を握りしめ拳を振り上げた。

それを見ていたフィンはハジメが何をしようとしているのか分かった。

 

 

「や、止めるんだハジメ!!ベートの敗けだ!!さっきの言葉もキチンと謝罪させる!!!だからその手を降ろしてくれ!!!!」

 

 

その言葉に誰もがこれから何が起きるのか理解できた。特にリヴェリアは身に覚えがあった。

『ウィン・フィンブルヴェトル』

その魔法で凍りついたモンスターを叩けば瞬く間に粉々にくだけ散る。モンスターの体の芯まで、細胞一つ一つを凍らせてしまえばたった少しの衝撃でもその原型を壊してしまう。

そしてそれがいまベートに向けられている。凍りついてしまったベートが生きているかは正直分からない。分からないがいまこれを止めなければ生きている可能性さえもなくなってしまう。

 

しかしフィンの言葉は届くことなくその右手は降り下ろされる。

 

 

「やめろおおおおおおぉぉぉぉ!!!」

 

 

必死に壊すこと出来ない見えない壁(一時停止)に全身全霊を持って拳を叩きつける。何度も何度も殴り付ける。だが一時停止を壊すことは出来ない、そしてハジメの右手はベートの頭部へと落とされ、何もかも奪ってしまう無情な音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッぷは!!!て、テメェ何し…ってなんだこれはオイ!!体が動かねえ!!!!」

 

「おっ。目覚めも早いですし、すぐに状況把握。さすがベベート」

 

 

砕けたのはベートの頭部だけであり未だにその下は凍りついたままである。何とかその氷から抜け出そうとするベートだがまるで鋼を身にまとっているようで動かない。というか寒すぎる、というか痛すぎる、というか死んでしまうほどヤバい。すでにベートの顔色は青白くなっていく。

 

 

「……こ、これを…溶かし…やがれ……」

 

「神様に謝ってからですよ」

 

「…………り……」

 

「はい?」

 

「…………ワリ………」

 

「ベベートにしては及第点ですかね」

 

 

そしてハジメはベートの胸部を叩く、すると下半身だけを残して氷は砕けた。それと同時に訓練所周りにかけていた一時停止が解け、フィンは直ぐ様ベートの元へ駆け寄り無事であるか確認した。

 

 

「…無事、みたいだね」

 

「ったく…ヒヤヒヤさせて…お前は……」

 

「これは一体どういうことや?ベートは凍りついてヤバかったんやなかったんか?」

 

 

凍りついた体はまるでシャーベットのように細胞一つ一つを凍らせて衝撃を与えれば砕けてしまう。なのに氷が砕けてもその体は無事でありすぐに意識を取り戻した。

 

 

「凍りつく前にベートの周りに一時停止をかけました」

 

「なるほどな、だから凍りつかんかったんか…ってか、なんやさっきの魔法は!!?詠唱無しとかレアにもほどがあるわ!!!ドチビ!!ステイタスに細工したやろ!!!!」

 

「なわけないだろう!!それにこれに関しては完全にトップシークレットなんだ!!!見てしまったことは仕方ないとしてもこれ以上話すつもりはないよ!!!」

 

 

これに対してなんやて~!!と反論しようとしだがフィンが割り込んできた

 

 

「ロキこれ以上はやめておこう。さっきも見たはずだ、彼が大切に思うものに対しての()()を」

 

「……分かったわ……」

 

 

フィンとロキも周りもそれ以上は何も言わなかった。怒らせるとベートのように凍らされることを。詠唱もなく防ぐ術もなく、一瞬に終わってしまうその力を。その目で見て分かってしまったのだ。『絶対にハジメを怒らせたらダメ!!』だと

 

 

「オイテメェ!!!残りの氷も砕きやがれ!!!」

 

 

さっきから下半身の氷を砕こうとしていたのだが、一級冒険者の力を持ってもその氷を砕くことが、欠片を出すことさえも出来なかった。分かりましたと返事をしようとしたハジメだったがその言葉をリヴェリアが被せてきた。

 

 

「いやベート。しばらくそのままでいろ」

 

「何言ってや…」

「今回!!今回こんなことになったのは全てお前が原因だ。どんな原理かは知らないがずっと溶けないわけではないのだろう?」

 

「はい。凝縮した氷ですから初めは解けませんが、半日ぐらいしたら溶け始めますので」

 

「だそうだ。反省としては短い気がするがその氷による拘束を考えて半日で許してやる」

 

「ッざけんな!!!」

 

 

全然反省するつもりのないベートを見たファミリアの仲間はハァーとため息を付きながらベートから離れていく。普通なら氷の中で数時間いるだけで凍傷するのだが、一級冒険者の耐久力ならギリギリ大丈夫だろうという判断だ。なので全員ベートに反省してもらうべく、いや反省しろということで無視することにした。

 

 

「今回といい前回といいハジメには迷惑をかけてしまった。君達がよければ気がすむまでここで生活してくれ」

 

「……正直反対したいところやけど…仕方ないか……」

 

「ありがとうございます」

 

 

なんだいその態度は?とか、うっさいわボケ!!とかまた神様の喧嘩が始まったのだが、こう何回も見ていたら「もう無視していいんじゃないか?」ということでスルーすることにした。

 

 

「代わりというわけではないがあの日起きた出来事「脱力感」について調査をしようと考えているのだが、それに参加してくれないだろうか?」

 

「元よりそのつもりなので、よろしくお願いします」

 

 

これで一通り話が纏まり、早速ベルやヘスティアの元にロキファミリアの冒険者が集まり「舘の案内をするよー」とか「お部屋を案内します」など共同生活の話が進んでいる。ハジメはここまで付き合ってくれたエイナとリューの元へ行き、

 

 

「二人とも今日はありがとうございました」

 

「ううん、いいのよ。これで安心できるわね」

 

「何かありましたらいつでも言ってください」

 

 

帰る二人を見送ろうとハジメは一緒に黄昏の舘の外まで着いていった。エイナはそのまま家に帰るということで近くまで送っていこうと提案したのだが「私の家は近いからいいわよ」とさっさと帰っていった。残された二人は何となく「豊穣の女主人」の近くまで歩いてきた。

 

 

「ここでいいです、ありがとうございました」

 

「いいえ、明日はお迎えにあがりますのでよろしくお願いします」

 

 

その言葉に何か納得していないような表情のリューに、

 

 

「どうしたんですか?」

 

「……どうして私なんですか?他の女性と違い愛想もなければ好意を持たれることもない。私はトキサキさんに……好かれる要素を持ち合わせていない」

 

 

ここまでハッキリと言うとは思わなかったのかハジメにしては珍しく放心状態になっていた。だけどそんな状態はたったの1秒ぐらい。

 

 

「リュー姉だからですけど、何か?」

 

「いや何か…って、あのですね…」

 

「僕はリュー姉だから誘ったんですよ。だからそれが全てです。それではよろしくお願いします」

 

 

一礼をしたハジメは呼び止めようとしたリューの仕草をスルーしてその場から離れていった。残されたリューはどうしたらいいのか分からずにしばらく立ち尽くしていた。




前回から今回にかけて出てきました()()()()ですが、ストーリー的に追々話していきます。なので「それで合ってますよ!!」とかは言いません。もしもこの()()()()が出てきたときに「合ってただろう!!!」と叫んで頂いたら幸いです(笑)


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影が薄くても買い物を、デートをしたいのです。


前回のタイトル変更をしております。
何を言っているんだ?と思う方、別に気にしねえーと思う方はそのまま無視して頂いて構いません。

気になる方はちょっと立ち止まってくださいね。


ええ~と、ですね。
前回のタイトル、『影が薄い、という概念が薄くなったきたので次回に期待してください。』でしたが、今回ストーリーを作っていると「あれ?影が薄くなくねぇ?」ということになりタイトル変更しております。
ハジメの影の薄さを期待していた皆さま、本当にスミマセン!!!
絶対とは言いませんが近い内にそんなストーリーを書きますので、それまで待っててください。よろしくお願いします。


それでは張り切ってどうぞ!!




ベベート氷付けから次の日、今日は冒険日和と言いたくなるような暖かい陽気であり、気のせいか街の皆も明るい雰囲気を出していた。

 

そんな中、ここにもいつもより明るい雰囲気を出しているように見えるハジメが歩いていた。もちろん無表情であるため見た目では分からないが、普段一緒にいるヘスティアやベルなどからは「なんかいいことあったの?」と言われるほど明るい感じである。

 

それはそうだろう。なにせ今日はリューとのお買い物、いわばデートである。いくら無表情であろうと無関心というわけではない。それこそ「えっ、興味あったの? 」と言われるほどハジメという人間は周りからそんな風に見られているのは間違いない。でも確実にハジメは今日のリューとの買い物は「デート」だと分かって向かっている。

 

その場所は「豊穣の女主人」であり、リューの住んでいる場所から近くて集合場所には持ってこいである。まあデートするのにアルバイトしている場所が待ち合わせなんてセンスがないと思われるだろうが、どうやらこの「デート」を意識しているのはハジメだけではなく「豊穣の女主人」の皆も分かっている。もちろんリューも分かっているだろうが意識しないようにするだろう、つまりは服装も普通の服装かもしれない。いや、もしかしたらウェイトレス姿かもしれない。

 

なので今回本日はリューの服装はシルやアーニャーなどが担当しているのだが、

 

 

「おはようございます、リュー姉」

 

「……お、おはようございます…トキサキさん……」

 

 

そこに立っていたのはいつも見慣れたウェイトレス姿のリュー………ではなく、いつもとは違い白いレースの膝上までのワンピースに、腰周りが細くなっている緑のカーディガン、踵の高さが低い茶色のヒールを身に纏っているリュー。

その姿はいつものクールな感じだけではなく、そこにはリューの可愛いらしさが分かる。というかモジモジしながらチラッとハジメを見てくるリューの姿に「リュー可愛い~!!」「あれ誰かニャー!?リューの皮を被ったリューだニャー!!!」とか後ろで盛り上がっている豊穣の女主人のウェイトレス達。

 

 

「お似合いですよリュー姉」

 

「……本当のことを…言ってください……

こんなのは私らしくない。シル達は似合っているというがやはり私には……」

 

 

自信無さそうに話すリューだがハジメも後ろから様子を眺めているシル達も、その服装がとても似合っていると思っている。

 

 

「リュー姉は自分のことになると弱気になりますよね。いけませんよ、自分を悲観したら服を選んでくれたシル姉達に失礼ですから」

 

「………そうですね……」

 

 

理解はしたが納得はしていない、そんな表情だった。

自分のことは自分がよく分かっている、と言いたかったようだがハジメから注意され、特にこの姿を誉めてくれたことを何処と無く否定したくない。否定的な感情の片隅では嬉しさがあるがそれを出せずにいる。

 

 

「それではいきましょう」

 

「そういえば何を買われるつもりなんですか?」

 

「武器になりそうな安い物をです」

 

「…………はい?」

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

ここはヘスティアがバイトをしているお店の地域にある商業エリア。日常雑貨からちょっとした冒険者のためのアイテムなどが売られている。そしてこのエリアは他の所に比べると品物が安い。

 

 

「うーん、もう少し薄いものはありますか?」

 

「これなんてどうだ」

 

「おぉ、これは。これを30枚買いますのでさっき原値段にしてくれませんか?」

 

「おいおい、いくらなんでもそれは無理だぜ」

 

「なら50枚」

 

「…………いいだろう!!その代わりにまた買いに来いよ!!!」

 

 

そんなやり取りを少し離れた場所から眺めたいるリューの周りには沢山の買い物袋が置いてある。食料品から雑貨品、中にはゴミじゃない?と思わせるものさえも。

 

 

「いい買い物が出来ました」

 

「それはどのように使うのですか?」

 

「投げやすいように長方形に切り取って、手首のスナップで飛ばします。その時一時停止して硬直化させて衝撃解放によるスピードアップで攻撃力をアップ。これなら分厚い皮膚も貫通するはずです」

 

「なるほど……そのためにこのような薄い紙を大量に買ったんですね」

 

「はい、持ち運びが良くて攻撃性が高い。ベベートとの喧嘩で学んだことです。さすが一級冒険者です」

 

 

ベートが言いたかったことはそれではない。とは言えるわけもなく、足元の荷物を手に持ち移動する。ハジメからは買い物に付き合ってくれているのに悪いですと言われたが、

 

 

「私はトキサキさんの買い物に付き合っているのです。でしたら荷物持ちも含まれる、違いますか?」

 

「……確かに、そうですね。ではこの二つだけお願いします。

あっ、そうですジャガ丸くん食べませんか?奢らせてください」

 

「いえ、キチンとお金は払い…」

「神様がバイトしているので女性にお金を支払わせるところを見せたら怒られますので気にしないでください」

 

 

荷物を持ってもらうなんて本当はさせたくない。しかしリューも1度いったら変えない頑固な所がある。なので比較的に軽い荷物だけを持ってもらうことにして、これ以上言われないように何かを思い出したように話題を変える。

その何とも強引な話の変え方から、話を終わらせたハジメはそのままヘスティアがバイトしているお店に向かった。そのお店の近くまで来たのはいいのだが、何故だかお店の周りの人だかりが出来ていた。

 

 

「アレは……なんでしょうか?」

 

「ジャガ丸くんが大ブームになったならいいんですがね」

 

 

きっとそれは違うだろうと分かっているのだが、それならこの人だかりは一体なんだろうと近づいてみる。するとそこには一生懸命にジャガ丸くんを売っているヘスティアと、

 

 

「あぁー、忙しそうですねアイズ姉、レフィーヤ姉」

 

「本当に忙しいですよ!!なんで私がこんな……」

 

「…でも、楽しいよ」

 

「アイズさんが楽しんでいるならいいですけど、私達ヘスティア様の護衛ですよね?」

 

「いいじゃないか!ただ護衛するだけならバイト手伝ってくれても。ちゃんと給料払うからさ!!」

 

 

忙しくバタバタしているようでハジメ達に構っていられないようだ。これ以上はお邪魔になるだろう思ったハジメは、

 

 

「ジャガ丸くん二つください」

 

「こんな忙しい時に畳み掛けないでください!!!」

 

「鬼!!ハジメは鬼なのかい!!!」

 

「……あっ、三つでお願いします。アイズ姉の分も」

 

「って、目を離している隙に!!!アレほど商品を食べたらダメだって言っただろう!!!!」

 

「…お腹減った…から?」

 

「もうー!!君は!!!全く君は!!!」

 

 

と、本当に忙しそうだと判断したハジメ達はさっさとジャガ丸くんをもらってその場から離れた。しかし流石オラリオが誇る一級冒険者である。あんなに人を引き寄せるほど名が知られている。でもそれは同時に常に目をつけられていると同じであり、そうなると今回巻き込まれたヘスティアとベルには申し訳がないと感じていた。

 

で、そのベルはというと、

 

 

……

………

…………

 

 

「ほら、脇が甘いよ」

 

「腰構えが悪いわ!!」

 

「何チンタラ動いてやがる!!!」

 

「ひえええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

フィンとガレスとベートにしごかれていた。

ロキファミリアがヘスティアファミリアに対して支援することの1つ、ハジメとベルに冒険者としての指導することになっていた。で、さっそくベルはその洗礼を受けていた。ベルの戦い方は独学でそれが悪いというわけではないが()()()()()()()()()()()()()をいま徹底的に体に叩き込まれている所なのだ。

そしてそこへ分厚い本を持ったリヴェリアが訓練所に現れ、

 

 

「まだ終わらないのかフィン?」

 

「もうそんな時間かい。それじゃ最後にさっき教えたところを一通りしたら終わりにしよう」

 

「……は、はい……」

 

「ベル、30分休憩したら次は17階層までのモンスターの名前と特長と出現する階層について覚えてもらう。こういうのは繰り返し頭に入れることで反射的に言えるように……」

 

「待ちやがれ!!その兎は後で走り込みをやるって決めてるんだ!!さっさと終わらせろよ!!!」

 

「なにをふざけたことを言っている。冒険において大切なのは()()だ。それを今のうちに叩き込まなければならない」

 

「あぁ!?知識なんぞいるか!!!()()()()さえあればどんな敵でも関係ねぇ!!!」

 

「聞き捨てならんな。敵を一撃で粉砕する()。弱肉強食の世界は力が必要じゃわい」

 

「そんなことはない。確かに知識もスピードも力も必要だが、戦いを目の前にして必要なのは()()だ。どれだけ戦いに身を投じてその体に刻み込むかが肝となる」

 

 

「しかしいくら経験を積もうが知識がなければ…」

「知識があろうが捕まったら…」

「んなもん関係なく力で…」

「ただ力を振り回せずにその経験を生かし…」

 

 

どうやらベルの教育方針が上手く纏まらずに言い合いを始める一級冒険者達。ここから逃げるつもりはないが心ではものすごく逃げ出したい。そうしないといけないと本能が告げており、そしてその本能は正解だった。

 

 

「なら一時間ずつ時間を分けて、最終的にどの指導が良かったか決めてもらうというのはどうだい?」

 

「面白い」

「いいぜ」

「腕がなるの」

 

 

別にこの状況に対して不満があるわけではない。こんな自分に一級冒険者が指導してくれるのだ。しがみついても教えて欲しいところである。だけど、だけど、一言だけ言っていいのなら…たった一言だけ言っていいのなら……

 

 

「ハジメのバカアアアアアアァァァァ!!!!」

 

 

理不尽でも叫ばすにはいられなかった。

 

 

…………

………

……

 

 

「うん?」

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ、誰かに呼ばれたような気がしましたが…まぁどうせベルベルがベベート辺りにしごかれているところなんでしょう。で、僕に八つ当たりをしているじゃないですかね」

 

「こういう時のトキサキさんの勘はよく当たる。大丈夫なんでしょうかクラネルさんは」

 

「大丈夫ですよ、ベルベルですから。」

 

 

そしてこの「大丈夫です」はあまり当てにならないことも知っている。

現在二人はジャガ丸くん以外にも食べ物を購入して軽い昼御飯を取った。そして現在はリューの提案で防具を見ようということになりバベルの根元まで来ていた。ちなみに大量の手荷物はギルドに置いてきた。正確にはギルドにいるエイナに預けた。「な、何なのよこの荷物!!?……はぁ?預けるって、ここはそういうところじゃ!!」と何かを言っているようだったがすぐに他の冒険者が現れて対応することになってしまった。そしてハジメの軽くなった手はそのままリューの手を繋ぐ……ことはなかった。

 

気持ちとしては握りたい。これはデートなのだから。そういう行動をとってみたい。こんな言い方だとまるでその()()だけをしてみたいと聞こえるだろう。

その通りだ。もちろんリューが異性だから、大切な人だからというのはある。しかしその行動理由は()()()()という思いだった。

 

以前にリューに頼まれて手を握ったときモップで殴られたことがあった。あのあとミア母さんから「良くやってくれた」と言われて、あの行動は正しかったのか?と疑問を持つようになった。その後リューの手を握ってみようとは思ったが突然握ると間違いなくまた攻撃をされて逃げてしまう。そうならないように手を握って確認したかった。このデートで握る機会があると思ったとき試したくなった。

 

 

「良くやってくれた」という意味を知りたかった。

 

 

知りたいといっていま手を握ったらデートはそこで終わる可能性がある。なら今日デートが終わり時に実行するのが一番だろう。そう考えていたのかいなかったのか表情では全く分からないハジメに対してリューは、

 

 

「何か悩み事があるのですか?」

 

「……やっぱり防具は必要ないかと思ってまして」

 

「一時停止を、自分の力を信じることはいいと思います。ですが万が一ということを考えるべきです。この世に絶対なんてありませんから」

 

「………そうですね」

 

 

確かに()()ということはないだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()そう思うだろう。

とにかく品物を見なければ話は進まないということで、【ヘファイストス・ファミリア】バベル支店に向かうことにした。ここには一級の武器や防具が売っているが、駆け出したばかりの者達が作った武器や防具も売ってありうまくいったら掘り出し物が見つかる時もある。エレベーターから降りた二人はその安い物が売っているお店を目指そうとしたのだが、

 

 

「待ちかねたわよ」

 

「……あ、あの……」

 

「始めまして、リュー・リオン。そして…見えないけどいるのよね、トキサキ (ハジメ)

 

 

その言葉にリューは呆然となった。この人を、この方を知っている。しかしどうして()()()()()()()が分からない。そしてハジメの方を見ると、

 

 

「……あの人、やってくれましたね……」

 

 

どうやら心当たりがあるようだ。むしろ心当たりがなければハジメ達が、ハジメがここにいることを知るはずがないのだ。

 

 

「紹介が遅れたわね、私はヘファイストス。貴方の主神ヘスティアと同じよ」

 

 

大勢の鍛冶師(スミス)を育成し、一級品の武具を製作してオラリオに留まらず世界中にその名を知らしめる鍛冶師系ファミリア【ヘファイストス・ファミリア】の主神がそこにいた。






あれ?また急展開だったかな?


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影が薄いから対話に苦労します。

一ヶ月ぶりです。
………特に言うこと無し!!
それではどうぞ!!!


「そんなに警戒しなくてもなにもしないわよ」

 

「……………」

 

「まぁ、あんなところで私がいたら警戒もしたくなるのでしょうけどね」

 

 

自己紹介が終わり「悪いけどちょっと着いてきて」と言われハジメはすんなりと着いていったが、リューはヘファイストスに対して警戒をしている。説明も無しにただ着いてきてと言われたらそれは警戒するのが普通だろう。ただハジメが着いていったので黙って付いてきただけなのだが、

 

 

「なら理由を話して頂きたい」

 

「もう少し待って。部屋を押さえてあるからそこで話しましょう」

 

 

それならとリューもそれ以上はなにも言わなかった。そしてヘファイストスの言うとおり直ぐにお店に入った。1つ1つの武器が圧倒的な存在感を放ち、どれもこれも並みの冒険者では手が出ないほどの金額が書かれてある。

ここで話を戻すがヘファイストスとハジメが初めて出会った時はハジメの姿は見えていなかったが、すでにヘスティアから「ハジメを認識」出来るようにしてある。なのであとはハジメだけだったのでいまはハジメの姿が見えている。

で、お店に並んである武器に驚かせるのが普通なのだがハジメは()()()()()()()()()()。その姿を見たヘファイストスは思わずため息をつきそうになった。

 

 

(全く…自信無くすわね……)

 

 

ヘファイストスファミリアの中でも団長である椿の作った物が多く置いてあり、言ってしまえばヘファイストスが一番と認めていると言っていいだろう。それをいくら話があるからと言っても目に入れば魅力され凝視してしまう。元より武器に興味がなくとも引かれていきいつの間にか見ていたということが起きるのだがハジメにはそれがない。

かといって見なさいよなんて言うのはありえない。なのでそのままお店の奥へと案内する。そこには客間があり購入するさいに手続きをする場所だと思われる。客間に通しソファーに着いた二人と向かい側にヘファイストスが座った。するとこのお店の店員が飲み物を持ってきて、その場から離れたところで話し合いが始まった。

 

 

「さて、改めて自己紹介するわね。私はヘファイストス、貴方の主神であるヘスティアとは……まぁ腐れ縁よ」

 

「昔から神様がお世話になってます。いえあのダメ神が本当にご迷惑をかけて申し訳ありません。つきましては計画的に借金の方を……」

 

「ちょっと待って!別に借金の催促をしている訳じゃないの。………まぁ、ヘスティアにはハジメから話してもらいたいわね」

 

 

否定をするが現実問題この借金は金額が多過ぎであり、二人ともヘスティアの性格を知っているからこそお互いに申し訳がないという気持ちがある。

 

 

「でもハジメには感謝してるわ。それにロキにも。ヘスティアに大金を渡したらどうなっていたのか……」

 

「無くなります」

 

「いや、金遣いが荒いって訳じゃないでしょう…」

 

「ですがヘファイストス様に全額返すとも思いません」

 

「あぁ……否定できないわ……」

 

 

何かを思い出しているヘファイストスはそこでため息をついた。なんか大変なことがあったのだろうと思い追及するのはやめた。

 

 

「まぁ借金のことは…良くはないけど今はいいのよ。私があの場所にいたのはロキから聞かされていたからなの」

 

「ロキ様から?ですがここに来るなんて言ってませんが」

 

「今日買い物していたんでしょう。自分でいうのもおかしいけど()()()ならここに立ち寄るものよ」

 

「なるほど、今まで武器や武具を買ったことも「買う」という概念もありませんでしたからその発想はありませんでした」

 

「冒険者が武器や武具を買わないって……ロキやヘスティアに聞いた通りの鍛冶師(スミス)泣かせね……」

 

 

ここでまたため息をついたヘファイストス。鍛冶師は武器や武具を作る。それは己自身を磨くためでもあり冒険者を危険から救うことに繋がる。もっと言えば専属鍛冶師となれば冒険者のオーダー通りに作りダンジョンに向かう。その武器や武具のお陰で命を落とさずにすむ。鍛冶師はオーダーに応えるためにそれを作り、ダンジョンから帰って来た冒険者を見て自分の力を確認する。

 

もちろんそれだけだとは言わないがコレが冒険者と鍛冶師の関係といえるだろう。そんな中武器も武具も付けない冒険者がいたら、それはただの無謀な奴か、または鍛冶師に信頼を向けていないか

もちろん後者なんていないだろう。しかしヘファイストスは知っている。ハジメはただ無謀にダンジョンに言っている訳ではない、己の力を信じているからこそ武器や武具を使わない。両方とも当てはまらないが鍛冶師泣かせには間違いない。

 

 

「でも鍛冶師を泣かせだからあの子が惹かれたのかもね」

 

「それはどういう……」

 

 

リューがその質問を投げ掛ける前にノックの音がしたあと客間の扉が開き

 

 

「失れ……おお!!主神様!!!もしかしてそこにトキサキがおるのか!!?」

 

「落ち着きなさい椿。あなた興奮しすぎよ」

 

 

見えているわけではないようだが、事前にヘファイストスから話を聞かされていたのだろう。リューの右側が空いている場所にハジメがいると思いジロジロと観察するように近づいて凝視する。

 

 

「ごめんなさいね。この子普段は冷静なのだけど…」

 

「構いませんよ」

 

 

やっと満足したのか椿はやっとヘファイストスの隣に座り

 

 

「いやいやすまぬな。名は椿・コルブランド、ヘファイストスファミリアの団長をしておる」

 

「トキサキ ハジメです」

 

「…………………………と言ってます。私はリュー・リオンです」

 

「うむ、人伝の会話は変な感じがするの。お主には悪いがよろしく頼む」

 

 

リューの顔を見ながら喋る椿に軽く首を縦に振る。もとよりそうしなければハジメと会話することは難しいだろう。前にやったように何かに文字を書けばいいがそれはあまりにも効率が悪い。ということでこれからのハジメの言葉をそのまま椿に伝えることになったリューは、さっそく発した言葉を椿に伝える

 

 

「僕にどんなご用件でしょうか?」

 

「まずはお主らに謝らんといかんな。デートの邪魔をして悪かったな」

 

「なっ!!?ち、ち、ち、ち!!!」

 

「それは最後に言うつもりだったのですが」

 

「最後とは一体どういうことですか!!!今日は買い物をすると言ってましたよね!!?」

 

「……主神様、一体何を言っておるのだ?」

 

「ハジメはこのデートのことを隠していたみたいよ」

 

 

椿にはハジメが見えていないがリューの顔が少し赤くなり動揺している姿をみて、ハジメとは気が合いそうだなと感じた。

 

 

「話を進めてもよいか?」

 

「す、すみません…どうぞ」

 

「用件は簡単じゃ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

その言葉にリューは目を見開き、そのあとハジメの方を向いた。ヘファイストスファミリアの武器といえばオラリオが誇る一級品武器を作る。その中でも椿は己が作った武器を試し切りするためにダンジョンに向かいレベル5まで登り詰めた鍛冶師。その椿が自ら武器を作らせて欲しいと言ってきた。数多くの冒険者が求める武器が、力が、手の届くところにあるのだ。

 

 

「先程お主らが店内に入った来たのを見ていてのう、まさか全く武器に興味を示さないとは思わなかったぞ。だが、だからこそお主の」

 

 

「椿、ちょっと待ちなさい」

 

「なんじゃ、まだ話しておるだろう」

 

 

まだ肝心なことが言えておらずにムッとする椿。だが目の前にいるリューがどういうわけかまた顔を赤くしていることに気づき改めてヘファイストスへ視線を向けた

 

 

「ハジメが「そういう話はやっぱりキチンと顔を合わせた時にしたいので、明日改めて話してください。今日はデートなので」って言っているの」

 

「そうじゃった、そうじゃった!主らはデート中じゃったな!!明日でもいつでも話を聞いてくれるなら手前は構わぬ」

 

 

改めて「デート」という単語を意識してしまったリューだった。

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

「良かったのですか?聞きたいことがあったのでは?」

 

「そうですね、まぁ明日来てもらうことになりましたのでいいですよ」

 

 

バベルを出るまでリューの顔が赤いままだった。今は大分落ち着いたがやはり「デート」と単語はリューにとっては心を大きく揺らすものだった。

しかしハジメとしてはこのデートが優先させるもの。聞きたいことがあってもそれは後回しにする。例え重要なことだとしても、今はこれが重要なことなのだから。

気づけばもう日が落ち始めており、そろそろデートも終わりに近づいていた。リューは今日仕事をお休みにしてもらっていたがやはり人気のある所は常に人手が足りなくなる。特にリューのように優秀な作業員なら抜けた穴は大きいものだ。

 

 

「すみません、私が防具を買いにいこうと言わなければこんなことには…」

 

「気にしてませんよ。まぁ予定外なことはありましたがこれはこれでいいと思いますので」

 

「………トキサキさん、貴方は一体何を考えて……」

 

「あっ、そうです。実は最後に寄りたいところがあるんですがまだ時間はありますか?」

 

 

明らかな誤魔化しだが「大丈夫です」と返事を聞いたハジメはリューと一緒にこのオラリオを取り囲む外壁の最上部へと向かった。ここからは街を全体から見渡すことが出来て、

 

 

「やっぱり夕日が一番綺麗に見えます」

 

「……綺麗です」

 

 

オレンジ色に染まる街が、ゆっくりと黒へ変わる空が、ポツポツと夜の為にその人の生活が感じれる優しい灯りが心を打つ。

だからなのか……いままで聞けなかったことを、言いたかったことを言葉に出してしまったのは、

 

 

「…トキサキさん、どうして貴方は……こんな私に構うのですか?」

 

「どうして、といいますと?」

 

「前にもいいました。他の女性と違い愛想もなければ好意を持たれることもない。私はトキサキさんに……好かれる要素を何一つ持ち合わせていない。

……それに()()()()()()()()()()()()()()()()()、その意味が、その行動が、その背景がすでにお分かりになっていますよね」

 

 

ここでリューが言おうとする「何故ダンジョンにいたのか?」は、ハジメが心配だったからを指している訳ではない。

もちろんあの時はそれが一番ではあるが今は、

 

 

《ただのウェイトレスがどうしてダンジョンにいるのか?》

《どうして18階層まで降りてこれたのか?》

《どうして冒険者のように強いのか?》

 

 

そして、もしリューが冒険者だったのなら、

 

 

《どうして冒険者なのに「冒険」をしていないのか?》

 

 

その全てを分かった上でハジメは何も言わなかった。そしてそれを分かった上でリューはあえてその答えを口に出した。

 

 

 

「私は、私の名は、ギルドの要注意人物一覧(ブラックリスト)に載っています」

 



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影が薄くてもその手を握ることは出来ます。

昨日ぶりです。
さてここでお知らせです。
仕事やプライベートで更新がかなり遅くなります。
正確には7月始めまではかかるかと。
出来れば一ヶ月に一回は更新したいです。
なので応援よろしくお願いします。
作者は誉められて伸びる、調子に乗るタイプです(笑)

それではどうぞ!!


リューは元々【アストレア・ファミリア】と呼ばれるファミリアに所属しており、迷宮探索以外にも違法行為を取り締まっていた。それは正義として行う正しい行いだったのだが、同時に対立・敵対するものも多かった。

 

そしてある日、ダンジョンで複数の敵対ファミリアによる怪物進呈(パス・パレード)により、ファミリアは自分だけを残して全滅してしまった。

その復讐を果たすために主神のアストレアを都市外へ逃がし、

 

 

「仲間を失った私怨から、私は仇である【ファミリア】に一人で仇討ちしました」

 

 

そう、敵対ファミリアへの闇討ちをたった一人で敢行した。

 

 

「あれはもう正義ですらなかった。復讐に突き動かされた私は、彼の組織に与する者、関係を持った者、疑わしき者全てに襲いかかりました」

 

これがギルドのブラックリストにも載ったことの顛末。行き過ぎ報復行為は一般人も含めて多数の無関係の人間も闇討ちした事で冒険者の権利を剥奪されてしまった。

 

 

「復讐を果たした私は、力尽き、誰もいない、暗い路地裏で」

 

 

多数の追っ手との戦いで瀕死の重傷を負って、

 

 

「血に濡れて、汚泥にまみれ……愚かな行いをした者には、相応しい末路でした」

 

 

復讐をやり遂げ、主神も、仲間も失った彼女を「生」に繋ぎ止めるものはなく、

 

 

「けれど……」

 

__大丈夫?

 

 

 

あの日シルのその温かい手が、汚れ切った彼女の手を取った。その後シルがミアに頼み込み豊穣の女主人の店員として向かい入れられた。

 

 

「詰まるところ、私は恥知らずで、横暴なエルフということです。

だから私は、トキサキさんの好意を受け取るわけには、受け止めるわけにはいきません。このまま貴方の隣にいればいつか必ず私は貴方を不幸にしてしまいます。この手は、この身は、もう汚れきってしまった。だから──」

 

 

「むかし、むかし」

 

 

突然割り込んできたハジメに、一体何をと言おうとするがそれさえも言わせまいと話を続ける

 

 

「といってもそんなに時間は経ってませんが、ある少年とその家族がいました。」

 

 

その語りにリューは言いかけた言葉を忘れてしまった。何故いまこのタイミングでと問いかけよとするがハジメは続けてこう語る。

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

「その家族は貧しい生活を送ってはいましたが、いつも幸せでした。いつものように父が叱り、母が慰め、姉がちょっかいを出す、ありふれた家族で、大切な家族でした」

 

 

「姉はいつも言います。「いつまでも私に付いてこないの!!あんたも自分で「友達」を作りなさい」とまるで口癖のように言ってきます。それでも離れたくはなかった。姉のような人に少年はなりたかったから」

 

 

「しかし、ある日姉が夜遅くになっても帰ってきません。前日少年と姉がいつものように喧嘩をしてました。そしていつものように姉から叱られました。だから何でしょうか、次の日になると少年は姉に付いていかなかったのです。

心配になった両親は必死で姉を探しました。少年も一緒になって探しました。どうして姉に付いていかなかったのかと後悔しながら。しかし姉は見つからずにただ時間だけが過ぎました」

 

 

「一週間後、ある冒険者がいいました。「もしかしたらあの女の子が……それならダンジョンで見かけた」と。ありえない話でした。姉は冒険者ではなく一般人だったから。しかし情報がない今それにすがるしかありません」

 

 

「両親は家にある全財産をその冒険者に渡して「娘を探してください」と頼みました。初めは渋っていた冒険者ですが姉の捜索を手伝ってくれることなりました。ただその冒険者と姉だという確信もありませんでしたので、両親が荷物持ちとして一緒にダンジョンに潜ることになりました」

 

 

「その冒険者の所属するファミリアは大きく、大人数での捜索をしてくれました。両親から留守番するように言われた少年でしたがあの時の後悔をしない為に、自分で姉を見つけるために、見つけて喧嘩のことを謝るために、荷物に隠れて一緒にダンジョンへと向かいました」

 

 

「冒険者が見かけたのは16階層。もしかしたら18階層にいるのではないかということでした。それでもダンジョン内部を広範囲で捜索してくれました。しかし目撃した16階層でも姉に繋がるもの1つさえも見つかりませんでした」

 

 

「そして17階層へ到着した少年の前には」

 

 

……

………

…………

……………

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!』

 

 

『足だあああぁぁぁ!!足を狙えええええぇ!!!』

 

『攻めろ!!!攻め続けろ!!!階層主(ゴライアス)に反撃させるな!!!!』

 

『詠唱はまだ終わらねぇのか!!?』

 

『攻撃が来るぞ!!!防御しろ!!!!』

 

『うわあああああああああ!!』

 

『逃げるな!!戦え!!』

 

『くそ!!!退け!!ここから逃げろ!!!!』

 

 

『ちょっと待ってくれ!!!娘を探してくれるんじゃないのか!!!!』

 

『状況を考えろ!!!いまは逃げるんだよ!!!!それにこんなところにあんたの娘が生きてるわけがないだろうが!!!!』

 

『なっ!!!』

 

『貧乏の割には金払い良かったからな、適当に切り捨てるはずが………テメェが余計なことを言わなければこんなことにはならなかったんだよ!!!!』

 

『待ってくれ!!!置いてかないでくれ!!!!』

 

『あなた!!!あそこに逃げましょう!!!!』

 

『何を言ってるんだ!!あのバケモノの隣を通りすぎらないといけないんだぞ!!!』

 

『それでも今は他の冒険者に気をとらわれているわ!!それに18階層ならあの子が、あの子がいるかもしれないわ!!!!』

 

『…………分かった。いこう!!!』

 

 

 

『………待って、待って!!お父さん!!お母さん!!!!』

 

『!!!?? 何でこんなところに!!!!!』

 

 

………………

…………

………

……

 

 

「それからは本当に地獄絵図でした。何人も何人も冒険者が無惨にも死んでいくなか、両親は少年を連れて必死で走りました」

 

 

「だけどやはり一般人。冒険者とは違い18階層への穴にたどり着く前にゴライアスが冒険者を殺し尽くしたあとに3人へ攻撃を始めました」

 

 

「力無きものがそれを喰らえば、いや余波でさえも死んでしまうその攻撃が向かってくるときはもうダメだと思いました。しかし両親は諦めませんでした。息が切れて身体がボロボロでもう倒れそうな状態でも、最後まで諦めませんでした」

 

 

「結果からいうと少年だけは助かりました。攻撃が当たる直前に穴へ投げられた少年は無事に18階層へ到着したのです」

 

 

「だけど両親は、少年を投げた両親はその時優しい目をして「お姉ちゃんを頼んだぞ」と言い残して土煙に呑まれました」

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

 

「それから少年は18階層で生きていきました。誰にも見つからないように息を潜めて、冒険者が食べ残した残飯で命を繋ぎ止め、冒険者やモンスターに殺されないように木の上で寝て、姉が見つかるまで18階層で生き続けました。

しかし何年たっても手がかり1つ見つけられませんでした。それを意識してしまった少年は絶望に襲われ自殺まで考えるようになりました。

だけどしなかった。少年には()()()()があった。両親と、そして姉からもらった言葉が少年を「生」へと繋ぎ止めました」

 

 

『いつまでも私に付いてこないの!!あんたも自分で「友達」を作りなさい』

『お姉ちゃんを頼んだぞ』

 

 

まるで姉が自分がいなくなっても、少年を支えてくれる人を見つけるようにいってくれたようで。

両親が絶望ではなく、僅かな光でもそれを希望として生けていけるように。

 

少年はこのダンジョンに来たと同じように冒険者の荷物に紛れて数年ぶりに地上へと戻ってきた。しかしその数年が我が家を壊して、思い出の場所も建物などが建ち面影さえもなくなっていた。

それでも少年は諦めなかった。姉が言ったいたように友達を作るために、両親が言っていたように姉を見つけるために。

 

 

その少年は、冒険者になったのだった。

 

 

その壮絶な少年の話にリューは何も言えなかった。いや口出すことが出来なかった。それでも辛うじて言い出せた言葉は、

 

 

「……どうして、どうしてそんなに強いのですか?」

 

「強くないですよ。それに僕がそんな風に見えるならリュー姉もその強さを知っている。だったらリュー姉も強いです」

 

「そ、そんなことはありません。私は、私の心を抑えることが出来なかった。激情にかられて復讐という許されないことをしてしまったのです」

 

「だから僕と一緒にいられない、ですか」

 

 

自分で告げたことだというのにハジメから言われた言葉に衝撃を受けてしまった。しかしこれでいいのだと言い聞かせ

 

 

「私は罪人(つみびと)です。この罪を背負って生きていかないといけません。この罪があるかぎり私は幸せになってはいけないのです。私は」

 

 

すると突然ハジメはリューの頬を両手で挟み込んだ。それによりうまく発音出来なくなったリューは戸惑いどうしたらいいのか分からなくなっていた。

 

 

「そんなことを言わないで下さい。シル姉はミア母さんはきっとリュー姉が幸せになってほしいと願ってます。そのツラい過去があるからこそ人一倍に幸せにと。それでも自分が許せないなら、やっぱり幸せになるべきです。

罪を背負い意識して生きることは辛いです。でもさらに幸せを噛み締めたうえでその罪を背負うことはもっと辛いです。厳しいことを言っていると思いますが罪を背負うだけならリュー姉が所属していたファミリアの皆さんは納得しないと思いますよ。

罪を忘れろなんて、その手で殺めた人を忘れろなんて、過去を忘れろなんていいません。ただその手で幸せを、シル姉がリュー姉の手を取ったように、リュー姉が手に取りたいものを取ってもいいんですよ」

 

 

ハジメはその両手を頬から離して、そのままリューの両手を握った。冒険者だったとは思えない小さく守りたくなるような手。その手を握られたリューは

 

 

「……いいんでしょうか、こんな私が」

 

「はい」

 

「幸せを、温かさを求めても」

 

「はい」

 

「私は、私は一人で生きなくてもいいんですか。シルやミア母さんと一緒にいても……トキサキさんと一緒にいても」

 

 

 

「はい、いてください。

そして、リュー・リオン。僕は貴方の傍にいます」

 

 

 

不思議と涙は流れなかった。こんなにも嬉しいというのに、トキサキさんの腕の中で感情が高ぶって瞳から溢れそうになったのに流れることはなかった。きっと心の何処かでこうなることを望んでいたのかもしれない。私の大切な人の傍にいたいという、この幸せを手にしたいと望んでいたからと。

 

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

 

「すみません、こんな時間まで」

 

「いえ、ここで大丈夫です」

 

 

結局夕日が沈み空が闇に染まるまであの場所にいた二人。すっかりと夜になり少し離れた場所からでも聞こえるほどにすでに豊穣の女主人は賑わっているようだ。

 

 

「今日は本当にありがとうございました」

 

「いえ、なんかデートらしいことは出来ませんでしたが」

 

「なら良かったのでわ?私は買い物に付き合っただけですから」

 

「そうでした、今日は買い物でしたね」

 

 

お互いに苦笑をする。変わらずに無表情なハジメだが気持ちは自分(リュー)と同じだと思っている。

 

 

「それではリュー姉、また明日」

 

 

そういって去ろうとするハジメの手を、リューは温かさに触れたその手でハジメの手を掴んだ。

 

 

「リュー姉?」

 

「私が最初に手を振り払わなかったのは、貴方で三人目です」

 

 

 

──なに、名前はリュー?言いにくいわね、今日からあんたのことをリオンって呼ぶわ!──

一人目は、自分を【ファミリア】に誘った活発な少女の冒険者。

 

──大丈夫?──

二人目は、冷たくなっていく自分に温もりを、居場所を与えてくれた心優しい酒場の少女。

 

 

そして、三人目が……

──はい、いてください。

そして、リュー・リオン。僕は貴方の傍にいます──

私に幸せを教えてくれた、いつまでも傍にいてくれると言ってくれた無表情な少年

 

 

「私のことは、「リュー」と呼んでください

私は「ハジメ」と対等でありたい」

 

 

「リュー姉」だとハジメと同じ道のりを歩けない。一緒に歩くのならとまずは呼び方からだと考えたようだが、

 

 

「はい、「リュー」。明日は早めに出勤してきますから一緒に買い物にいきましょう。確か「リュー」が言ってきた物が無くなりそうでしたから。そうです、お店が終わったら今度は僕が「リュー」の為に料理を作りますね。二人ともお休みが会ったときは今度はデートをしましょうね「リュー」」

 

 

まさかの連続で名前を言われると思わなかったリューは今までの中でも一番の真っ赤な表情で、

 

 

「貴方はもう少し遠慮ということを知るべきです!!」

 

 

前のように殴るわけもなく、本当にただの女の子ようにプイッと視線を外して、身体を豊穣の女主人への方向へ向けて歩きだした。

その姿をただ眺めていたハジメはリューの姿を見えなくなるまでその場に立ち尽くしていた。

 



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time3 変わったものを無くさないように。
影が薄くても出会いのキッカケってこんな感じみたいです。


どもども。
速めに更新出来ました。
出来れば今月中にもう一話書きたいですねー❗


サポーター。ダンジョンの探索時における非戦闘員。

主に魔石やドロップアイテムといった戦利品を回収し、地上に無事に運び届けることが役目。

前線でモンスターと戦うパーティーに負担をかけぬように、バックアップの全般を担う裏方役。

詰まるところ、サポーターとは、()()()()()

 

 

「おい、何してやがる! とっととしろ!」

 

「荷物を運ぶくらいでちんたらしやがって、能無しが!」

 

 

膨れに膨れた大荷物を背負い、僅かに遅れた足取りを、冒険者である男は唾棄(だき)するように責めた。

ただの荷物持ちと非難する、傲慢な言葉は横暴な暴力にも変わる。常に上の立場にいる彼等は下敷きにされる者に痛痒(つうよう)などは覚えない。

 

冒険者はサポーターを(かえり)みない。

ましてや、専門職(落ちこぼれ)のサポーターなど嘲弄(ちょうろう)の対象でしかありえない。

 

 

「碌に仕事もこなせねえ足手纏いに、くれてやる報酬(かね)なんぞねえぞ!」

 

「いいか、モンスターに囲まれた時くらいはしっかり仕事しろよ───役立たず(サポーター)?」

 

 

いざとなればモンスターの囮にちょうどいい。

サポーターのありがたみを、サポーターの存在が冒険者の負担を軽くする一役を買っていることを、そんなことを一抹でも理解してくれる冒険者が、認識してくれるような殊勝な冒険者が、一体どこにいるのだろうか。

 

 

(なるほど、なるほど。

本当に、見限るのに困らない奴等(かたがた)だ。

冒険者というのは)

 

 

…………………………………………………………………

 

 

黄昏の館、ロキの私室。

そこには神であるロキ、ヘスティア、ヘファイストス。

そして各主神のファミリア代表、フィン、ハジメ、椿。

いまからここで話し合う課題は、

 

 

「ハジメ君の武器を作ってくれるって本当かいヘファイストス!!!」

 

「私じゃないわよ、作るのはこの子」

 

「だとしてもやヘファイストスじゃないとしても団長が作る武器やで。レベル1やというのに……ホンマにハジメは規格外やなー」

 

 

神である三人は元々知り合い・腐れ縁なのですぐに打ち解けるだろうが、

 

 

「ふむ、こう姿を見えるとなんとも普通だな」

 

「はい、普通が取り柄みたいなものですから」

 

「………君が普通というのは僕には到底思えないよ……」

 

 

なんか妙な空気の中でも普通に会話しているように見えるが、フィンにいたっては普段はしないツッコミ側に周りすでに疲れている。

 

 

「でもいいのヘスティア?この話はロキに教える必要はないはずよ。いくら居候しているとはいえ、ファミリアに関わる話になるのよ」

 

「別にええやないか、口外することはせんよ」

 

「ロキ、そういう問題じゃ…」

 

「うちらの子やって結構な情報を教えたんや。お互いに口外しないならええやろ」

 

「あなたね……」

 

 

頭をおさえるヘファイストスにヘスティアが苦笑いでフォローをいれる

 

 

「いいだよヘファイストス。ロキはともかくこっちの団長さんは信用出来るからね。もしもの時はキチンとしてくれるよ」

 

「ヘスティアがいいなら構わないけど……

でも気を付けることよ、いくら信用出来ても【ファミリア】関係に絶対はないから」

 

「せっかくまとまったところにいらんことを言わんでもええやないか~」

 

「そんな風に軽いから言わざるをえないのよ」

 

「「「「確かに」」」」

 

「おい」

 

 

ここで一致団結したことで「なんでうちだけが除け者なんやー!」と騒ぎ立てていたが、ヘファイストスはもう止めるのも面倒くさくなったのか無視して話を進めた。

 

 

「改めてトキサキ・(ハジメ)。貴方の武器を【ヘファイストス・ファミリア】で作らせてくれないかしら?」

 

「どうしてツバッキーは僕の武器を?」

 

「おい、ツバッキーとは手前のことか!!?」

 

「はい」

 

「……もう好きせえ……」

 

 

あまりにもハッキリと言われて拒否するのも馬鹿馬鹿しくなった椿はため息をついた後、気持ちを切り替えて話を進める。

 

 

「それで()()()()僕に武器を?」

 

「ど、どうして…じゃと……

手前が、手前が自身を言うのも可笑しいが手前は主神様の次の腕前じゃ。それを()()()()とは……分かっていたとしてもこれは……」

 

 

自分の力量をキチンと分かっているからこそ、こんなにもハッキリと言われると堪える。そんなことを知らずにハジメは──

 

 

「どうしましたか?」

 

「……普通なら一級冒険者でもなかなか手が届かない手前の武器を……手前自ら作ってやろうと言っておるのだぞ!」

 

 

そうなんですか?と聞こうとしたがその前に椿が「これでもか!!」と言わんばかりに持ってきていた大きな袋の中からあるものを取り出してテーブルの上に置いた。

 

 

「これを見てどう感じる?」

 

 

それはごく普通の短剣のように見えるが、()()()()()()()()()()()だということはここにいる誰もが分かった。派手な装飾はなく、しかし短剣から伝わる存在感が、下手に扱えば己さえも切られるような殺気を感じる。

だけど()()の中にはハジメは含まれていなかった。

 

 

「短剣ですよね」

 

「他に言うことがあるじゃろう!!」

 

「………普通ですよね」

 

「お主は本気で言っておるのか!!!」

 

 

いくらハジメが武器に対して無関心だとしてもこうも反応がないと腹が立つ。理屈ではなく感情が、プライドが許さないのだ。

 

 

「落ち着きなさい椿。最初から分かっていたことでしょう」

 

「し、しかし…これは…これは、あんまりではないか……」

 

「もう…だから止めなさいって言ったのよ……ほら、これから見返せばいいのよ。椿の武器が最高だって言わせればいいのよ」

 

「………そうじゃな。よし!!絶対に見返してくれるわ!!!

まずはハジメに合う武器を見つけ出さなければならんな!!!」

 

 

改めて意気込んだのはいいが椿は大きな袋から次々に武器を取り出した。武器に興味ないハジメがどの武器が合うか分からない今はとにかく手当たり次第に触って経験してもらうことが一番いい。だが椿はまだ知らない。ハジメに合う武器を探しても、いくら一級武器を作ろうが…ハジメには意味がないことを。

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

「な、なんじゃそれは……」

 

「あ、あり得ないわ…本当に鍛冶師(スミス)泣かせじゃないの……」

 

 

椿・ヘファイストスが()()()()()()を受け止められずにいた。そこには椿の傑作と言える武器が、長剣・短剣・大剣等やブーツや篭手などのあらゆる武器が勢揃いしているなかで()()()()()()()()()()()()() () () ()

 

 

「安心してください。触れてさえいなければ一時停止を解けますので元に戻ります」

 

「…なるほど、これじゃ武器や防具が意味を成さない」

 

 

ハジメが手に取る武器全てがその存在を停められた。触れれば何もかも切り裂くような剣も、硬いものでも粉砕する篭手でも、その武器にある力のようなものが、輝きが、その存在が停められていた。

 

 

「これは見事にガラクタになっとるなー」

 

「武器を必要としない。ではなく必要と出来ないというわけか」

 

「無意識による一時停止(スキル)が働いているので、僕にはどうしようも出来ません」

 

「…………それはホンマか?」

 

 

ロキの瞳がハジメを捉える。何かを確信しておりそれを確かめようと、それを聞き出そうとしているそんな鋭い目をしている。

 

 

「確かに無意識よる一時停止やからどんな不意討ちでも対応出来る。無意識やから触れたものは一時停止させてしまう。意識しとるわけやないから原因は分からない。せやけど全部が全部一時停止させとるわけやない。さっきまで飲んでいた茶は一時停止しとらん。それは自分に危害がないから一時停止が働かなかったとちゃうか。なら()()()()()()()()()()武器(もの)()()()()()()()()()()()()()()??」

 

 

 

「ハジメはそれを知っているハズや。いや理解している、本能で感じとるはずや。無意識というの意識しとるより質が悪い。意識なら自分でどうにかできるけど無意識は自覚がない。つまりは本能で動いとるわけや。反射神経がいい例えやな、無意識に身体が動くてそれを意識して止めることは出来ん。つまりは、」

 

 

答えを告げようとするロキに割り込んで、本人であるハジメが口を開いた

 

 

「無意識で武器を一時停止させている、つまりは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということですよね」

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

「お疲れさまです」

 

「随分と早かったじゃないか。今日は遅れるんじゃなかったのかい?」

 

「原因は分かったんですけど、それをどうすればいいのか分からない。そんな状況になりましてどうすればいいのか分からなくなって保留になりました」

 

「なんのことか知らないけど、その分からないことが大切なものならちゃんと解決しな。

さぁ、さっさと着替えて働きな!!今日のリューは使い物にならなくてこっちは困ってるんだ!!」

 

 

そういいながら豊穣の女主人のミアは厨房へと戻っていった。

ハジメが触れた武器全て元通りにはなったが、その後話し合いは続かなかった。根本的に武器を拒否している、そんなことを告げられた鍛冶師の二人はショックを隠せなかった。

ハジメがベルに貰った短剣も刀身は死に、ゴライアスを倒したときも短剣ではなく力業(一時停止)で倒した。ベートと戦ったときも武器ではなく道具(一時停止)を使った。ハジメは一度と武器を必要としていなかった。

 

 

「お疲れさまですハジメさん」

 

「シル姉、お疲れさまです」

 

「ねぇ昨日リューになにしたの?ずっと上の空で何回も仕事をミスしてるの。絶対に昨日のデートで何かあったと思って聞いても核心的なことを話してくれなくて」

 

「それは…」

 

 

と、言おうとした時シルとハジメの間にお盆が物凄いスピードを上げて通りすぎ、そのまま壁にめり込んだ。そのお盆が飛んできた先にいたのはいつものリュー、いや何か威圧感があるリューがそこにいた。

 

 

「すみません。手が滑りました」

 

「リ、リュー??これ手が滑ったどころの話じゃ…」

 

「すみません。手が滑りました」

 

 

これ以上深追いするなと言っているように、「すみません。手が滑りました」という短い言葉に強い警告を込めている。それを感じ取ったシルは「わ、私仕事に戻るわね…」とその場を離れていった。

 

 

「お疲れさまです、()()()()()()

 

「お疲れさまです、()()()()

 

 

その言葉だけを交わしてリューは仕事に、ハジメは着替えに向かった。まるで周りに見せつけるように、昨日は何もなかったと印象づけるように。

だが逆に周りからは「ちょっ、ちょっと二人かなりヤバイんじゃない!!?」「なんで険悪な雰囲気出してるニャー!!?」と仲が良くなるどころか悪くなったと思われることになったが、そんな二人に周りはどう聞き出したらいいのかと分からずに開店時間を迎えていつも通り慌ただしい仕事が始まった。

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

仕事が終わりハジメはいつも通りに帰宅していたが、その隣には落ち込んでいる人が、いつもよりよそよそしかった人がいた。

 

 

「今日はすみませんでした。どうも仕事場では、その、()()()とは呼びづらくてですね……」

 

「大丈夫ですよ()()()。それよりシル姉とミア母さんが僕達二人がケンカしてるのではと思ってますよ」

 

「私的にはいまはその方が……いえ、仕事に私情は禁物。………明日私から話しておきます」

 

 

そこでため息をつくリュー。昨日の出来事が影響していることは明らかだがそれを言葉に出すのは恥ずかしく、つい高圧的な態度に出てしまったリュー。それを分かっていた上でリューに乗っかったハジメもこれ以上刺激しないように昨日ことは話さないようにしている。

 

 

「それでハジメの武器はどうなったんですか?」

 

「うーん、どうなんでしょうか?作ってくれるようですが僕が使えるかは話が別みたいな感じです」

 

「……それだけでどんな事があったか想像出来ます。やはり一時停止は良くも悪くもハジメに大きな影響を与えたいるのですね」

 

 

それ以上はお互いに言葉を出さなかった。【一時停止】がどういうものか、リューにもハジメにもおおよその検討はついていた。だがそれを言葉にすることはしなかった。お互いに分かっているからこそ踏み出す必要はないと感じれたから。

すると路地の曲がり角からふっと小さな影が目の前を通り過ぎた。一瞬だったのでなんだったのかは分からなかったがリューにはそれが見えたようで、

 

 

「あれは…小人族(パルゥム)??」

 

「よく見えましたね……」

 

 

すると今度は同じ所から冒険者らしき人物達がさっきのパルゥムを追いかけるように通り過ぎた。どうやら何かトラブルがあったようだ。こういう時は関わらないようにするのが一番なのだが、

 

 

「数人で追いかけ回すなんていけませんね」

 

「…やっぱりいかれるんですね」

 

 

はぁーとため息をつくリュー。知り合いでもない、もしかしたらファミリアのいざこざかもしれない。ここは関わらないのが一番だが、ハジメが動き出したら止められない。それこそ一時停止をもっても止められないだろう。



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影が薄いといっても女の子の部屋に無断侵入はいけません。

お久しぶりです。
他の方々の「ダンまち」を読んでいると早く更新しないといけないな~と頑張って更新させてもらいました。
しかし、すまないねストーリーが(笑)
それではどうぞ。



「追い付いたぞ、この糞パルゥム!!」

 

「手こずらせやがって!!」

 

「もう逃がさねぇ!!」

 

 

路地裏の行き止まり、運悪く追い込まれたパルゥムの子は冒険者達に囲まれて怯えていた。体格のいい比較的大きい剣を背負っている男が三人の真ん中に立ち、左右はごく普通の体格だがそれでも短剣などの武器を持っている。

 

 

「もう逃がさねぇからな………ッ!」

 

 

今にでも襲いかかりそうなほど怒り悪魔のごとき表情をしていた。それでも襲いかからないのはもう追い詰めたと分かってなのか、それともじっくりと恐怖をあたえるためなのか、それは分からないが男は目の前で怯えているパルゥムの子に手をあげようと迫る

 

 

「止めなさい」

 

 

が、その手がパルゥムの子に届くことはなかった。

芯のこもった鋭い声が、場に割って入ってきたのだ。

はっと振り向いた男の目に映ったのは「爆裂」だった。

 

 

「う、うわああああああああああ!!!!」

 

 

とっさに腕を顔の前で重ねてそのまま座り込んだ。見たものは木箱が爆発している瞬間だった。反射的に体が動き少しでもダメージを生き残る為の手だてをと動いたのだが、一向に衝撃が、爆音が、痛みが襲ってこない。

もしかしたら気づかない内に死んだのかと思い恐る恐る目を開いてみると、

 

 

「……はっ?」

 

 

一瞬の出来事が、死さえも覚悟した光景がなくなっていた。木箱も爆炎も爆音も衝撃も何もかもなくなっていた。

一体何が起きたのか?と呆然としている間、5分弱の間は追い詰めたはずのパルゥムの子がいなくなっていることに気がつかなかった。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「上手くいきましたね」

 

「あんな使い方もあったのですね」

 

「これが本当の()()()()()です」

 

 

相も変わらずに無表情だが何故か今はそれがどや顔に見えてしまい、これ以上何かを言ったら負けだと思ったリューはこの話を切り捨て、何が起きたのか分からずに放心状態であるパルゥムの子に話しかけた。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「……は、はい……」

 

「今は動揺して的確な判断は出来ないでしょうが、貴女はもう助かりました」

 

「……あ、ありがとう…ございます……」

 

 

助かった現実を言ったことにも関わらずにパルゥムの子はいまだに放心状態だった。それもそうだろう、冒険者達に追い詰められ暴行されると思った瞬間に「爆裂」を見てしまった。死を覚悟したパルゥムの子は目を力一杯に閉じて、迫り来る恐怖、現実から逃れようとした。

だがいつまで経ってもいまだに現実にいる感覚があった。ゆっくりと力一杯に閉じた目を開けてみると声をかけてきたエルフがいた。

そのエルフからもう助かったと言われても何がどうなったのか、何が起きたのかと頭の中がぐちゃぐちゃになり上手く整理がつかない。

 

 

「良ければ何があったのか教えて下さい」

 

「い、いえ…大丈夫です……」

 

「しかし…」

 

「本当に大丈夫です!!ありがとうございました」

 

 

そういってパルゥムの子は逃げるかのようにその場を去った。そしてそれがリューに更なる疑問を増やす。

 

 

(冒険者に複数で追われることなど、そしてあの態度。必ずしもあの冒険者が悪だとは言い切れないということですか……)

 

 

リューの考えはあのパルゥムが冒険者達にキレられ追いかけ回されるほどの()()をしたということ。そしてそれは他者には知られたくないということ。リューから見た被害者であるパルゥムでさえも。

 

 

「どうしましょうかハジメ?」

 

 

後ろへ振り向くとそこにいるはずのハジメはおらず、変わりに壁に置き手紙が、正確には一時停止で硬化された紙が壁に突き刺さっていた。リューはそれを引き抜き書かれた内容を確認する。

 

 

【あの子が気になりますので追いかけます。この埋め合わせは近い内にしますので。】

 

 

そしてそのカードの裏面には【どんなことがあってもこれを出せば何よりも優先させます。】と書いてある。それを見たリューはクスッと笑い

 

 

「こんなことせずとも私は気にしてませんよ」

 

 

誰もその声は届かない、聞く人はいない。それでも無意識にその声をその人に伝えたかったのかもしれない。

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

「…何だったんでしょうか、あのエルフは……」

 

 

月の光も、街の明かりも、部屋の灯火さえもなく、荒れた部屋の片隅で座り込んでいる。

あまり覚えてないがあのとき誰の声が聞こえたあとに爆発が……

それを思い出すと体が恐怖で震える。これが夢だったなんてやっぱり信じられない。だけどあの爆発の中自分はどうして無事だったのか?例えあのエルフが助けてくれたとしても無傷なはずがないのに……

なにも分からない。あのときは無我夢中だったが冷静になったいま、あの冒険者にやられそうになったことや突然の爆発が……思い出せばこれまでどうしてこんなにも辛い目にばかり合わないといけないのか……

どうして自分だけがこんな目に合うのか…どうして、どうして、どうして、どうして、どうして………

 

 

「……もう…いや………」

 

 

頭の中がぐちゃぐちゃで、何もかも投げ出したくて、でも()()()()()()()()……

誰もいない部屋で一人、膝を抱えてすすり泣きが、静か深く部屋に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っ、いつの……間に………」

 

 

いつの間にか寝ていたようで頭が覚醒しないままリリは目を開けようとしたが何故か瞼の向こうが眩しい。それでもゆっくりと開いた瞳が見たのは闇を切り裂くような光だった。だがリリの部屋には元々外からの光が届かない。なのにどうして………

 

 

「……………エッ??」

 

 

何が起きたのか理解出来なかった。いま自分がいる場所が、あの廃墟と言っていいほどの部屋が、普通の部屋に変わっていることに。

すぐさまリリは玄関を出て自分が置かれている状況を把握することにした。もしかしたら誘拐でもされたのかと過ったからだ。しかし玄関を出た外の景色は変わらずに、振り替えればやはりリリが住んでいる廃墟と化した建物だった。しかし自分の部屋に戻ってみるとやはり綺麗になっているごく普通の部屋。

 

 

「何が……起きたんでしょうか……」

 

 

これは夢じゃないかと頬をつねるが痛みはあり現実でもあった。ではこの部屋の変わりようはどう説明すればいいのだろう??一通り部屋を見渡し調べてみたがリリの私物は全てあり、それどころか必要最低限のものさえも用意されてあった。

 

 

「こんなことをして……何が……」

 

 

何が目的なのだろう??と言葉にしようとしたがその時フッとテーブルに置いてある用紙を手に取った。

 

 

【女の子がこんな部屋で生活するなんていけません。勝手だとは思いましたが部屋をキレイにさせてもらいました。P.S.失礼かと思いましたがタンスの中を整理させてもらいました。で、あまり背伸びせずに年齢に応じた下着を…】

 

 

「余計なお世話です!!!!!」

 

 

用紙をぐしゃっと丸めて床に叩きつけるリリ。さっきまで悩んでいたことが一気にぶっ飛ぶほどの怒りが沸き上がってきた。今日は色々あったはずだったのにいまリリの中ではたった1つしか思い付かない。

 

 

「…何処の何方か知りませんが絶対に一発殴ってやります!!!!!」




どうでしたか?リリってそんなイメージがあったのですが可笑しくなかったかな?
はぁーGW中に更新出来たらいいなー❗


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影が薄くてもその反応が薄いのはおかしい。

はい、GWに更新出来ました~❗
休みの内に書き貯めたいですけど難しいだろうな…
まぁ、ボチボチやっていきますので7月上旬までは暖かい目で見てください。

それとここで改めてお礼を。
誤字脱字を訂正してくださる皆様、本当にありがとうございます。図々しいですがよければこれからもよろしくお願いします。


ダンジョンの5階層は1階層から4階層までとは異なりモンスターが産まれる間隔(インターバル)が比べ物にならないほどに短くなり、4階層までで緊張感が揺らいだ多くの駆け出しの冒険者が屍と化す。

物足りないといって易々と下層へ進出してはならない。冒険者の素養となる経験や武装や機転などあらゆる面全て求められるのだ。

 

つまりは駆け出しの冒険者にはまず地道な力の蓄えが求められる。

 

 

「………ふっ!!」

 

 

それが新米冒険者であり()()なのである。

いまこのダンジョンの7階層で一人の冒険している冒険者もまた新米冒険者。

そんな冒険者が戦っているのはキラーアント。4本の足に2本の細い腕、赤一色に染まってるその姿は蟻を連想させ、体を覆ってる外皮は鎧のように堅く、ゴブリンのような低級モンスターとは比べものにならない攻撃力を持つ。そのため冒険者の間では『新米殺し』と呼ばれている。

 

そう、いま新米冒険者が戦っているのは新米殺しと呼ばれるキラーアントであり、それも1匹ではなく4匹も出現している。それもこの新米冒険者はパーティーを組んでいるわけでもなく一人でダンジョンに潜っていたのだ。

 

一人で7階層など自分の力を過信しすぎたバカなのか、または自殺願望者なのか。どちらにせよこのキラーアントに出会ってしまったら逃げること。例えなんとか1匹倒せたとしてもすぐに出現するのだ。

そんなキラーアントに囲まれた冒険者。このままでは殺られるのも時間の問題だと思われる。

 

 

「……まずは、間接部分を……」

 

 

しかしこの冒険者は冷静にキラーアントの細い腕の間接部分を短剣で、襲いかかるその腕からスピードを生かした回避行動をした後にまるで大岩を割るような力強い攻撃を打ち込んだ。すると鎧のような外皮は破れ細い腕ごと切り落とした。切られた痛みによるものなのか、切られたことに対する激怒なのか、耳を塞ぎたくなるような騒音がキラーアントから放たれる。

 

 

「……落ち着いて、次の行動を……」

 

 

冷静を保ったまま冒険者はキラーアントの足をスピードとパワーで切り落とし、ぐらついた一瞬を狙ってキラーアントの首に目掛けて短剣を振り落とした。

その一撃によりキラーアントは絶命し、風化した後に残ったのは魔石だけになった。

 

 

「ふぅー。後は……これを軸にして攻撃を……」

 

 

独り言をいいながら襲いかかってきたキラーアントの攻撃を最小限の動きで回避し、さっきの力強い攻撃ではなくキラーアントに与えられる最小限の攻撃力で首に攻撃を行い倒してみせた。

 

 

「……よし、これなら大丈夫そうだ……」

 

 

自分の力を確認したように掌を閉じたり開いたりして、もう一度同じ行動をしたあとジリジリと近寄ってくるキラーアントに目を向けた。ゆっくりと息を吸って吐いたあと新米冒険者は「ベル・クラネル」は走り出した。

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

「ベルベルが7階層ですか……」

 

「あぁ、私達が保証しよう。いまのベルなら12階層までなら問題なくいけるだろう」

 

 

黄昏の舘の庭にはオシャレなテーブルと椅子があり、そこには一番似合うだろうリヴェリアと、真逆に似合うどころか周りからは姿が見えなず感想も言ってもらえないハジメが座ってお茶をしていた。

 

 

「リヴェ姉にそういってもらえるなら心配はいりませんね」

 

「しかし、ハジメといいベルといい……」

 

「なんですか?」

 

「いや、何でもない……」

 

 

それ以上は言葉に出来なかった。ハジメの一時停止にはリヴェリアや他の皆も驚かされぱっなしだ。だがヘスティアファミリアにはもう一人いたことに気づいた。

ベル・クラネル

ヒューマンにしても小柄でありあの性格と容姿は誰も一目では冒険者なのかと疑うだろう。だがリヴェリアは知ることになったのだ、この前の訓練の中で()()()()()()()()()()()

 

 

(あれは…あれは普通の成長ではない。確かに私やベート、ガレスやフィンが指導をしたが…それだけで、()()()()()()()l()e()v()e()l()2()()()()()()()()()()()……ありえるのか??)

 

 

初めは何ともいえない素人感が分かる戦い方だった。それでもスピードがあったので今までやってこれたと見ていた。だがベルを指導を初めて数時間後、どれどけ教えたことを吸収出来たかとテストしてみれば……

 

 

(経験はステイタス更新しなくともすぐにでも応用出来る。だがそれだけで()()()()()()()()()()()()()()()()()出来るのか?)

 

 

あの時は誰もが驚いた。本気ではないとはいえベートの攻撃を避けただけではなく受け流したのだから。もちろんそれにムカついたベートはベルに一撃を加えたのは言うまでもない。

これはリヴェリア達も、ハジメもベル本人も知らないことだがベルのスキル憧憬一途(リアリス・フレーゼ)は、誰かを想う限り驚異的な速度でステイタスの上限すら越えて成長させてくれるレアスキル。しかしあの時はステイタス更新もしておらず成長するわけがない。そうあの時のベルの成長は…

 

 

(……うらやましい限りの才能を持っている……)

 

 

スキルでもなくベル自身の力。だからこそ驚かされる。ベルといいハジメといい、スキルだけでなく自分自身の手で成長していくことがとてもうらやましく思える。

余談ではあるがその訓練後にステイタス更新をしたヘスティアはあまりにも成長した姿(数値)を見て気絶したという。

 

 

「どうしたんですか??さっきから嬉しそうな表情をしてますが……」

 

「いや、私も負けていられないと思ってな」

 

 

ハジメ達と出会ってから何度驚かされたことか。アイズやベート達もいい刺激を受けているようであり、少なからずリヴェリア自身も気持ちが高ぶっている。ある程度levelが上がれば急激な成長をすることもなく、その時の喜びを忘れていたのかもしれない。

ステイタスだけが成長ではない。それを自分がよく分かっていたつもりだったが、いやまだまだだと再認識させられた。

 

 

「あっ、そうです。リヴェ姉に聞きたいことがあったんですが」

 

「聞きたいこととは??」

 

「年齢に応じた女の子の下着を選びたいのですが、アドバイスしてくれませんか?」

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、ダンジョンから帰って来たベルが目にしたのは黄昏の舘の周りに大量の火柱が上がり、そして本当の柱のように聳え立っている景色だった。

そして必死に謝っているリヴェリアの姿と、(そび)え立つ火柱を見て呆然としているロキと、この火柱を有効活用出来ないかと考えているハジメの姿はまさにカオスだったという。

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

「何を間違えたのでしょうか?」

 

「間違えだらけだよ!!」

 

「しかもセクハラ紛いなことをよりによってリヴェリアに聞くとは……」

 

「俺はこんな奴に……」

 

 

あの火柱をそのままにするわけにもいかず、火柱の周りを改めて一時停止で囲み火柱にかかった一時停止を解除。これにより入る火柱は黄昏の舘を焼くことはなかったが、リヴェリア自身はかなりの精神的ダメージを受けていた。「まさか…私が……」と呟きながら仲間に支えられ部屋に戻っていく姿はレアだがもう見たくないと誰もが呟いた。

女性陣はリヴェリアを見てもらうことにして、男性陣は事情聴取ということで集まったのだが

 

 

「でもなんでそんな事を聞いたのハジメ??」

 

「昨日パルゥムの女の子の自宅を掃除・リフォームしていたんですが、その時にこの下着はこの子には合わないと思いまして………」

 

「ちょっ、ちょっと待つんだ!!

………それはその子の了解を得ているのかい??」

 

 

すると無表情なのに、何故かキョトンとしたように見えたのはこんな台詞を放ったからだ。

 

 

「僕、影が薄いですから」

 

 

空気が、凍った。

 

 

「無断侵入したの!!!??女の子の部屋に!!!」

 

「………ダメだ…これは女性陣には聞かせられない……」

 

「てめぇマジでふざけんなよ!!!!!」

 

「なかなか肝っ玉が据わっとるの」

 

 

あまりにも異常な行動に頭を抱える二人と、俺がこんな奴に負けたなんて…ふざけんな!!とキレている者と、まるで酒のつまみのように余興を聞いているように笑っている者。

これを見て自分が何を仕出かしたのかやっと分かったようで、

 

 

「分かりました。これは経験あるリヴェ姉ではなく同じ年齢ぐらいの」

 

「女の子に聞くこと自体が間違ってるの!!!

そして無断侵入はもう犯罪だから!!!!」

 

「………あぁ、なるほど。親切にしたつもりでしたが大きなお世話だったわけですか」

 

「間違ってはいないが…反省する点はずれている……」

 

 

本当に理解しているのかと疑いたくなる。

すると「あっ」と何かを思い出したベルは気になることを話し出した。

 

 

「そういえば今日犬人(シアンスロープ)の女の子からサポーターはどうですかって言われたんだけど、ハジメにサポーターしてもらってるし相談してから決めるから明日またバベルの前で会おうって約束したんだけど…」

 

「断らなかったんですか?」

 

「だっ、だって…なんか困ってたから…」

 

「相変わらずベルベルは優しいですね」

 

 

そう、ベルは優しいから誰だって助けようとする。だから周りの人は巻き込まれるのだ。それもこの先厄介なことに発展するなんて思いもしなかった

 

 

「だから…えぇーと、ハジメにも会ってほしいんだけど……」

 

「…………はい?」





余談ですが今日が誕生日です❗
はい、終わり❗❗


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影の薄さが暗躍には向いてます。

何とか書けました。
しかし7月上旬までは1回ぐらいしか書けないかも…
その分ちょっと長めに書きましたので、許してください。
あと新刊まだ読んでませんが楽しみです❗


「あれベル様?今日はベル様のお仲間を紹介してくださるのでは?」

 

「それが……逃げられて…アハハ……」

 

「そうなんですか、そのお方照れ屋さんなんですね」

 

「そ、そうかも…アハハ……」

 

 

ベルはバベルの前で待っていた犬人(シアンスロープ)の女の子、リリルカ・アーデにハジメを紹介するつもりだったが()()()()()()()()()()()()

 

「まぁ、それなら仕方ありませんね

それで今日はどこまで進みましょうか??」

 

「そうだね…昨日結局9階層までしかいけなかったから、今日は11階層まではいきたいな」

 

 

その言葉に営業スマイルのリリの表情が固まった。それに気づいたベルは自分が「あれ?おかしいこといったかなー??」と不安になってきた。案の定リリはその固まった表情のままでベルに聞き直した。

 

 

「すみませんベル様。ちょっと疲れていたのか上手く聞き取れませんでした。何階層まで進まれるんですか?」

 

「……え~と、出来たら11階層まで……」

 

「ちょっ!!何を考えてるんですかベル様!!?」

 

「ひぃっ!!」

 

 

まさか女の子からこんな風に怒られるとは思っていなかったベルはリリの迫力にビックリした。一体何を間違ったのかと思い恐る恐る聞くことにした。

 

 

「ど、どうして……怒っているの?」

 

「どうして??どうして…って何を言ってるんですか!!

ベル様とリリはまだlevel1なんですよ!それを11階層なんて自殺行為にしか受け取れません!!

いいですか、11階層にいくとするなら少なくともパーティー3人以上でlevel2が一人いないといけません。それを二人でいくなんて…何を考えているんですか!!!」

 

 

確かにlevel1が11階層になんていくのはおかしい。せめてlevel2がいなければいけないのに、いくら二人でもその階層にいくのは自殺行為に等しい。

 

 

「いや、リヴェリアさんにとかフィンさんから大丈夫だって言われてるし……」

 

「言われたから行くなんて何を考えてるんですか!!」

 

「だって…ロキファミリアの一級冒険者からのお墨付き……」

 

 

その言葉にさらにリリの表情が険しくなり

 

 

「べ、ベル様!!それ騙されてますよ!!!オラリオ上位のファミリアの人が私達みたいな下位の人に何かをするなんてありえません!!あぁいう人達は私達をバカにしてるんです!!利用するだけして利用していらなくなったら捨てるんですよ!!」

 

「いや、そこまで言わなくても……」

 

「現実を見てくださいベル様!!!」

 

 

必死に訴えてくるリリにベルはそれ以上言葉を出せなかった。

 

 

「ご、ゴメン。それじゃ9階層なんてどうかな?」

 

「それでも不安要素はありますが…ベル様の戦い次第でしょうか?」

 

「えぇーと…よく分からないけど、リリ今不機嫌だったりする?」

 

「そう思うなら聞かないでください!!!」

 

「ご、ごめんなさい!!!」

 

 

ふん、とそっぽを向いてサポーターが冒険者を置いてダンジョンへ向かう。サポーターならそんなことはしない。冒険者のサポーターであるなら後方を歩くものだ。だがいまのリリにそんなことを考える余裕はない。

 

 

(これも昨日のアレが悪いんです!!もう本当に腹が立ちます!!!)

 

 

昨日のことを思い出して更にイライラしているリリ。その後ろにベルが付いてきているが、なにやら小声で何かを、()()()()()()()()

 

 

(どうしてこうなったんだろう……)

 

(ベルベルがおかしいことをいうからですよ)

 

(ハジメだけには言われたくないよ!!)

 

(心外ですね。まぁ、()()()()()あるんですが)

 

(そ、そうなの?)

 

(教えませんけど)

 

(教えてよ!それが分からないと冒険中ずっと気まずい状態が続くんだよ!!)

 

(そんなことを言われましても()()()()()()()()()()()()()())

 

(それってどういうこと?ってか「リーリ」って……)

 

 

「なにゴチャゴチャ独り言を言ってるんですかベル様!!冒険者なんですからリリより前を歩いてください!!!」

 

「は、はい!!!」

 

 

サポーターなら冒険者に対してそんな事をいうのか?とベルの頭にはなく、直ぐ様リリの前に移動して先導することにした。そんな二人の後ろを気配もなく、音もなく、一定の距離で歩いている姿(ハジメ)は見守るように付いていく。

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

「ハアァッ!!」

 

 

ダンジョンの9階層、そこにはベルとリリの周りにキラーアントが5匹集まっていた。二人でのパーティーなら直ぐにでも逃げるべき状況なのだが、それに対してリリは意見を述べなかった。

この目の前で起きている戦闘は安心出来た。

襲いかかるキラーアントを最小限の動きで、それもとてもlevel1のスピードではないと思われる動きで背後を取り、その小さな体に合わないパワーでキラーアントを一刀両断。

そんなベルの背後から別のキラーアントが襲いかかってきていたが、まるで後ろに目があるかのように腕だけが反応してキラーアントの攻撃をナイフで受け止めた。そしてキラーアントの間接部分を的確に攻撃し動けなくなったところにトドメを討つ。

 

その流れるような戦闘にサポーターであるリリは全く動けずに、働かずにいた。この場合サポーターはベルへ死角からの攻撃をさせないように援護したり、撹乱させたりして冒険者により良い環境を作るのだが…

 

 

(ま、全くの必要なしですか…)

 

 

バベルの前で声をかけたときリリのようなサポーターを知らずにいたようだった。それにオドオドしたその態度に間違いなく駆け出しの冒険者だと思ったのだが、この戦闘を見てしまうとその考えは全否定することになった。

 

 

(本当に駆け出しの冒険者?こんな動きlevel2じゃないですか!!?)

 

 

こんなことを考えているとすでにキラーアントを倒し終わったベルが魔石を拾い集めていた。それを目にしたリリは表情が固くなり

 

 

(そうです。別にlevel2だったとしても関係ない。リリはやることがあるんです!!)

 

 

そのためにもまずはこの冒険者を、ベル様を油断させないといけない。あの腰にあるナイフ(ヘスティア・ナイフ)を手にするために。

するとそこへダンジョンの壁からキラーアントが産まれようとしているのを見つけたリリは、キラーアントの眉間にボウガンの矢を突き立てた。一撃では倒れなかったキラーアントは悲鳴に似た声を上げる。聞くにも耐えないその声を止めようともう一度矢を突き立てるとやっと絶命したが、

 

 

「ありがとうリリ。全然気づかなかったよ」

 

「いいえ。生まれ落ちたとしても今のベル様なら何の問題もないじゃないですか。むしろ壁にぶら下がった状態にしてしまって、魔石が取りにくくなりました」

 

「これなら……うん、僕が届きそうだから大丈夫だよ」

 

 

そういいながらベルをヘスティア・ナイフを手に取りキラーアントから魔石を取り出そうと近づく。これはチャンスだと判断したリリは

 

 

「ベル様ベル様。そちらよりこっちのリーチの長いナイフを…」

 

 

と、言おうとした瞬間にベルが持っていたヘスティア・ナイフが一瞬ぶれたように見え、そしてそれと同時にキラーアントが大きな音を立てて爆発した。

何が起きたのか分からなかったリリは呆然とした表情で瞳をパチパチさせながら

 

 

(な、なんですかさっきのは!!?

魔剣でもないのにキラーアントが爆発したなんて、いやそれよりもモーションが全く見えませんでした!!!本当にこの冒険者はlevel1なんですか!!?)

 

 

騒然としているリリのその姿を見て、仕掛けた張本人として、これは裏があると睨んだ。但しその瞳は、視線は届くことはない。例え()()()()()()送ったとしても。

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

「…なるほどね、ベル君にサポーターか。

それも犬人(シアンスロープ)の女の子って……君達は女の子に出会うために冒険者になった訳じゃないかと疑ってしまうよ……」

 

「ええやんかドチビ、出会うためにダンジョンに潜る。これも立派な動機と違うか?」

 

「無責任なことを言うじゃない!!!第一ベル君には僕がいるんだあああああ!!!」

 

「分かった分かった、うるさいから黙れこのドチビ。周りの客に迷惑やろ、ホンマにうるさいやつや」

 

「なんで二度もうるさいって…ウゴッ」

「神様、それ以上はミア母さんに怒られますので」

 

 

神だろうが客に変わらないのだろう。ジッと睨み付けるミアの視線にシュンと黙りこんだヘスティア。そんな姿を肴に酒を飲むロキ。

流石に神二人だけではない。少し離れた場所にはフィン・ベート・アイズが席を取り食事していた。

今日は二人、いや()()と話がしたくて集まってもらった為、このお店を貸し切りにしてもらっていた。

機密というわけではないが他言無用ということでミアやハジメ、リュー、シルの少人数で対応している。

 

すると、そこにもう一人の神が現れた。

 

 

「へぇ、いいお店じゃない」

 

「いらっしゃいませ、ヘファイストス様」

 

 

ここに集まったのは神の集会でも滅多に揃わないメンバー。ついこの前その滅多にが起きたばかりだが、

 

 

「しかしこうして三人が集まるなんて奇跡やな」

 

「あぁ、ロキに賛同するのは癪だけどね」

 

「私はそうとは思わなかったわ。ハジメがヘスティアのファミリアで、そのファミリアがロキの所で一緒に住んでいるなんて。それだけで奇跡のようなものなんだからこうして三人で会うなんて必然みたいなものよ」

 

「「そんな必然はいらないよ(へんわ)!!!」」

 

 

ほら、息ピッタリ。とヘファイストス言うと睨み合いながらお互いこれ以上は無意味だと分かり、フン!とお互いそっぽを向いた。

 

 

「それで私達を集めた理由はなに?」

 

「今日ベルベルがサポーターであるリーリとダンジョンに潜ったんですが、どうやらリーリの目的はベルベルの神のナイフ(ヘスティア・ナイフ)を盗むためみたいです」

 

「な、なんだいそれは!!?」

 

「なかなか大胆なことをする奴やな~」

 

 

驚くヘスティアにそのサポーターに興味を示すロキ。

そしてヘファイストスは何かに気づいたようで

 

 

「なるほどね、だから私が呼ばれたわけね」

 

「??どういうことやヘファイストス?」

 

「悪いけどこれについては話せないわ。だからロキ、席を外してくれない?」

 

「おいちょっと待てや!!うちやってハジメに呼ばれたんや!!聞く権利はあるやろう!!」

 

「はい、ロキ様には後で聞きたいことがありますので。

それではロキ様、ご退場です」

 

 

するとアイズが席を立ち此方に近づいてきて、ハジメから袋を手渡しされた

 

 

「よろしくお願いします、アイズ姉」

 

「………うん」

 

 

そしてその袋には「ジャガ丸くん」と書いてある。

 

 

「賄賂か!?賄賂なんか!!?」

 

「………何のこと?」

 

「かわええ!!」

 

 

首を傾げながらジャガ丸くんを頬張って(隠蔽して)ロキを立たせて強制退場を執行。しかしなかなか見られないアイズの表情にメロメロなロキはそのままテーブルから離された。

 

 

「いいの?あんな扱いして」

 

「いいんじゃないのかい、ロキは喜んでいるみたいだし」

 

「それではお願いします。リーリが何故あの武器を狙うのか、そして()()()()()()()()()について教えて下さい」



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影が薄くても許せないものがあります。

お久し振りでございます❗
やっと更新できました❗これで更新が進むぞ❗
………と思いきや、すみません。謝ります。

ある行事といいますか、サービス業なのですが、とにかくその市の大会で優勝してしまい、県大会に出場になりました❗9月の始めにあるので更新が遅れます。
少なくとも今月1回、来月1回と更新しますのでどうかお許しください。





「それじゃどうして神のナイフ(ヘスティア・ナイフ)を狙うかというとだったかしら。まあそれは私が作った子供(武器)だから」

 

 

ヘファイストス・ファミリア

大勢の鍛冶師(スミス)を育成し、一級品の武具を製作してオラリオに留まらず世界中にその名を知らしめる鍛冶師系ファミリアであり、【ヘファイストス・ファミリア】の主神がこのヘファイストスである。

そのヘファイストスが作る武器、売りに出回ることもなく、ましてや作られることさえないと言われるその武器

腐れ縁であるヘスティアだからこそ実現したと言っても過言ではない幻の武器である。ならそんな武器を持つベルが狙われるのは必然というべきなのだが、

 

 

 

「と言いたいところだけど素人が見ただけじゃ、いいえ、一級の鍛冶師でも私の武器だって分かる者は少ないわ。ましてや持ち主以外には「なまくら」になるんだから………本当になんて物を作らせてくれたのかしら」

 

「いや~ヘファイストスには頭が上がらないよ」

 

「それも折角大きな返済チャンスが来たのに返す気なかったのでしょう。いい加減にしないと利息つけるわよ」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれないかヘファイストス!!返すから!ちゃんと返すからそれだけは勘弁しておくれ!!!」

 

 

必死なのは分かるが神様が利息のために土下座をするなんて、それと子供(ハジメ)の前でやるなんて。それを遠くから見ていたロキが

 

 

「うわぁ~プライドはないんかいアイツは…」

 

「プライド?はっ!!プライドでお金が減らないなら、増えるなら、プライドなんて要らないよそんなもの!!!」

 

「格好いい感じで言ってますが、クズってますよ神様」

 

 

その言葉にぐうの音も言えないヘスティア。「利息取らないからさっさと頭を上げなさい」とヘファイストスに言われるまで頭を上げなかった。

 

 

「ならどうしてベルベルが、ヘスティア・ナイフが狙われるんですか?」

 

「そうね……憶測だけどベルが普通のlevel1の冒険者とは違うからじゃないかしら?」

 

「あぁ……あれだけ一級冒険者にしごかれたらステイタスも上がるよ……」

 

「やっぱりステイタス上がっていたんですね。なんか大きいアリを次々に斬り倒してましたよ」

 

 

ベルのステイタス、それはビックリするほど上がっていた。まぁフィン、ベート、リヴェリア、ガレスにしごかれたら嫌でも上がるだろう。ましてや憧憬一途(リアリス・フレーゼ)の効果、その効果対象が手に届かないと思っていた相手がこんなに近くにいる。やる気も沸いてくる。

そんなベルのステイタスはというと、

 

 

ベル・クラネル

Lv.1

力:H118→B726

耐久:I 99→A830

器用:H162→B771

敏捷:H193→A835

魔力:I 0

《魔法》

 

《スキル》

【】

 

 

「ってか、上がりすぎている……」

 

「そんな頭をかかえるほど上がったの?」

 

「いい加減に見せろやドチビ。いくら成長期ってもあの吸収力はハンパないわ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「見せるわけないだろう!普通ならハジメ君のステイタスを見せるだけでもあり得ないんだから!!」

 

 

なに食わぬ顔でいつの間にか離れたテーブルから元に戻ってきたロキはチィッと舌打ちをした。しかしロキの気持ちも分かる。ハジメ達を自分のホームに住まわせることになったあの日、売り言葉に買い言葉でハジメやベルに訓練をつけることになった。

そして一級冒険者による指導がベルにどれだけ影響を与えたのか気になるだろう。

 

 

「まぁええわ。よく聞こえんかったけどベルのサポーターがなんや悪さしたというわけか」

 

「はい。よく考えたら誰が見ても「お人好し」という言葉を全身に被っているようなベルベル(人物)ですから、リーリ的には簡単に盗めるだろうと思ったんじゃないかと思います」

 

「なるほどな~。そりゃソーマファミリアの子ならやりかねんわ」

 

 

一人納得をしながらロキは目の前にあるお酒を手に取り一気に飲み干した。ぷはっ~と爽快感を感じながら「もう一杯!!」と注文した。そんなロキの発言が気になったハジメは

 

 

「どういうことですかロキ様?

ソーマファミリアならやりかねないとは?」

 

「そうやな。

……ハジメは酒はどういうもんやと思っとるか?」

 

「日頃のストレスを発散させるための飲み物です。by神様」

 

「なんで僕で例えるんだい!!!」

 

「いや間違ってへんやろうがドチビ。

楽しく飲んだり、嫌なことを忘れるために飲んだり、人が変わったようになったり、ようは人それぞれ飲み方は違うわ」

 

 

リューが持ってきたお酒が目の前に置かれると直ぐ様に手に取りそのまま口に運ぶ。グビグビと半分まで飲んだロキはその酒を置いて続きを話す

 

 

「だけどや、ソーマファミリアが作る酒は違う

あの酒は「酒に依存させられる(酔わされる)」酒なんや」

 

「酒に酔わされる酒??ですか…」

 

「そうや。簡単にいうと「ソーマ」という酒に()()してしまうんや。たった一口飲んだだけでその美味さに理性が壊れてただ飲みたいという欲求の為だけに駆り立てられる。ソーマの所の子が必死になっとるのはその「ソーマ」を飲みたいいう欲求のためや。まあソーマ自体酒以外には興味を持たんみたいやからな」

 

「……それは、どう意味ですか??」

 

 

この場にリューがいなかった。いや厨房にはいるのだがこの話の場にいなかったのが不味かった。この後に起こる出来事を早めに止めることが出来たのに。声のトーンも表情も変わらない、だが変わったハジメにロキが気づくこともなく

 

 

「子がどんなことをしてても見向きもせんやろうな。ソーマは酒を作ってくれたらそれだけでええんや。だからそれ以外のことは無関心という訳やな。かといってやりたい放題させとるわけやないし、今回の話はちょっとしたイタズラでええとちゃうか」

 

「何を勝手に終わらせてるんだロキ!!こっちは被害が出そうになったんだぞ!!!」

 

「そうはいうけどなドチビ、お前そのパルゥムに罰を与えるつもりか?そんなことしてみい、お前頃なんて簡単に潰されるで。第一うちらは手は貸さんからな、全く関係ないことまで関わらへんわ」

 

「くっ!!だ、だけど…」

「いりませんよ、神様。

()()()()()()()()()()()()

 

 

そんなことをいいながらハジメは立ち上がりお店の出口に向かって歩き出す。それを見たロキは

 

 

「ちょっ、ちょっと待たんかい!!何をするつもりやハジメ!!!」

 

「簡単ですよ。ソーマ・ファミリア、()()()()()()

 

「なっ!!?」

 

「何バカなことをいってるんやお前は!!たった一人でそんな事、いや、その行動をするなんて馬鹿げとるわ!!!」

 

「大丈夫です、僕の姿は見えませんから。突然一夜にしてソーマ・ファミリア消滅。いやこれこそ「神隠し」という感じに何もかも消しさります」

 

 

その異常とも思われる言葉にロキはアイズやベートやファイに視線で合図を送りハジメを止めるように促す。そして真っ先にベートがハジメを止めようと

 

 

「出来もしねえことをいってんじゃねえ!!」

 

 

その手で肩を掴んで止めようとしたのだが、止められたのはベートの方になってしまった。ベートがハジメに触れた瞬間にまるで人形のように固まり動かなくなってしまったのだ。ハジメの肩に触れようと伸ばした手から顔を残した全てを【氷付けにされた(停められた)

 

 

「ベート!!!!」

 

「何しやがるテメェ!!!」

 

「邪魔しないでください」

 

「ちょっとハジメ君!!待つんだ!!!」

 

 

ベートが稼いでくれた僅かな時間の間にヘスティアはハジメの前に立つことが出来た。ただそれだけでも充分にハジメの足を止めることが出来た。だが未だにハジメの心を止めることは出来ていない。

 

 

「今回は僕達には被害はなかったんだ。だから無茶なことはしないでおくれ」

 

「神様のお願いでも無理です。

僕はベルのことについては気にしてません。

ですがこのソーマファミリアはについてはそうはいきません、あまりにもイカれてます。たかがお酒の為に子をまるで道具のように扱うなんて許せません」

 

 

その言葉にヘスティアは言い返せなかった。ハジメが言っていることは間違っておらずヘスティアもそう感じているからだ。だがそれでも、

 

 

「だからといってどうしてハジメ君がそんな事を!!!」

 

「僕がそうしたいからです。理由なんてそんなものです」

 

 

それにはヘスティアもどうしようもなかった。ハジメが一度決めたら止まらないことは知っている。だからと言って物理的に止められることは出来ない。むしろこちら側が止められるだろう。どうすればいいのかと顔が歪みそうな時

 

 

「何をしてるんですか()()()

 

「……()()()……」

 

 

料理を運んできたリューがこの現状を見てハジメが何かをしたのかと話しかけてきた。そのリューの考えは当たりで現れたリューを見て少し一歩引いた感じに見えた。

 

 

「何か騒がしいと思えば……」

 

 

手に持っていた料理をテーブルに置いてリューはハジメの前に立ち、

 

そして空いた手でハジメの頬を叩いた。

 

もちろんハジメにはダメージはなかったが、そんな事は今はどうでもいい。あのリューがハジメに手をあげた事実が信じられなかった。そしてそれを受けたハジメはかなり驚いている

 

 

「私は、私はハジメのやること対して止めるつもりはありません。ですがいまハジメがやろうとしていることは()()()()()()()()()

 

「そんな事はありません」

 

「あります。そのやり方は誰も幸せにはなりません。

ただ感情に任せたその先には何もありません。残るとするなら後悔と罪、それも一生背負い続けないといけせん。

それを、私にあの言葉を言ってくれたハジメが、それを背負うとするなら()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

本気なのだろう、リューからは殺気に似たものがハジメに向けられていた。そしてそれを受けとるハジメもリューの真剣な瞳を見つめていた。

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 

そしてそれを周りは見守るしかなかった。

いまこの状況で発言出来るものはいないだろう。例え神だとしても許されないような空気が漂っている。

そしてゆっくりと空気を吸い、何かを決めたようにゆっくりと息を吐く

 

 

「それは嫌ですね。リューとやり合うつもりなんてありません」

 

 

リューが叩いたその手を、ハジメを叩いたその手を、

 

 

「しかしリューがこんなに積極的になるなんて僕は嬉しいです」

 

 

両手でゆっくりと優しく包むこんだ。

初めは睨み付けていたリューだったが、いま自分が置かれている状況を理解していくにつれて顔が真っ赤になっていき

 

 

「ち、違います!!何をバカなことを!!!」

 

「照れてるんですか?可愛いですよリュー」

 

「かわッ!!?変なこと言わないでください!!!それにいい加減に手を離してください!!!」

 

 

いつの間にかハジメのペースに呑まれたリューは、なかなか離さないハジメの手から必死に振りほどこうとする。しかし一時停止によるものか全く離れない。

 

 

「ハジメ!!離してください!!!」

 

「離すとソーマファミリアを潰しに行ってしまいそうなので離せません」

 

「それは私が言うことであり!!」

 

「離してくれないんですね」

 

「ッ!! 離しません!!!離しませんから離してください!!!」

 

「なんかややこしいですね」

 

貴方(ハジメ)のせいだと自覚しなさい!!!」

 

 

それを見ていたヘスティア達はホッとして力が抜けたように席についた。ソーマファミリアへ奇襲をかけることよりリューとの戦い(喧嘩)が無くなったことが一番ホッとした。

 

 

「ホンマにハジメにはヒヤヒヤさせられるわ~」

 

「でもこのままにしておくといつか襲撃するわよあの子」

 

「そんなこと言わないでくれよヘファイストス…」

 

 

一先ずは安心出来たが恐らくハジメはソーマファミリアへ襲撃するだろう。もうベルのことだけではなく「ソーマファミリア」自体をどうにかしなければ解決出来なくなった。



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影が薄くても調子に乗っている奴はムカつきます。

お久しぶりです。
前回は中途半端なものを投稿してしまいすみませんでした。
1ヶ月と言うのもあり長めに書かせてもらいました。
9月中旬からペースを上げていきますのでよろしくお願いします。




「そう。また強くなったのね」

 

 

壁一面をまるまる占領する長方形の硝子。その窓際に立つ人物の立ち姿を、スポットライトようにはっきりと浮かび上がらせた。

黒く薄いナイトドレスに包まれた、細身でありながら豊満な体つき。

冷たい月の光を浴びて一層神秘さを帯びるきめ細やかな白皙(はくせき)の肌

腰まで届こうかという銀の長髪は、氷の結晶を散りばめたかのように輝いていた。

 

 

「それでいい。貴方はもっと輝ける……」

 

 

巨塔バベルの最上階。

塔の中でも最上品質にあたる一室で、部屋の主である彼女(フレイヤ)はベルを見下ろしていた。

 

 

「もっと、もっと輝いて? 貴方には、私に見初められた故の義務がある……」

 

 

フレイヤには、『洞察眼』というべき下界の者───『魂』──の本質(いろ)を見抜く瞳がある。

 

 

「より強く、より相応しく……それが貴方の義務」

「私も強い男は好きよ?」

 

 

ベルを目にしたのは偶然だった。

ある日の早朝。メインストリートを歩む彼の姿を、その銀の瞳が捉えたのだ。

 

───欲しい。

 

一目見た瞬間、そう思った。

ベルはフレイヤの眼が今まで見たことのない色をしていた。透明の色だ。

これからどのような色に変わるのか、それとも透き通ったままでいるのか、『未知』を前にした神の興味がつきることはない。

 

 

「楽しみだわ。貴方がどこまで強くなるのか、どこまで輝けるのか……どんな色に変わるのか」

 

 

しかしフレイヤには一つだけ気に食わない事があった。成り行きとはいえ今ヘスティア・ファミリアはロキ・ファミリアのお世話になっている。そしてここ最近ベルの成長が一段と上がったのはそのロキ・ファミリアの一級冒険者によるもの

 

 

「強くなってくれるのは嬉しいけど……ロキの手でというのは気に食わないわね」

 

 

とは言ってもロキ・ファミリアと、同格の相手と荒事を構えたくなかった。しかしそれでも自分のオモチャがとられたという感覚にイラつきはあった。

だが、その成り行きは悪いだけではなかった。

 

そう、フレイヤにはもう一人、興味をもった者がいた。

それこそ『未知』であり、フレイヤの『洞察眼』でも見ることが叶わない。

だけどハッキリと捉えたその存在を、見えずとも感じることが出来るその存在を。

それを考えるとベルとはまた違う感覚に襲われるフレイヤ。まだ見ぬ宝石を求めているような、それを手にしたときに感じるだろう幸福感を、想像すればするほどに堪らなくなる

 

 

「…あぁ……どんな姿をしてるのか、どんな強さなのか、どんな本質(いろ)をしているのか──見てみたいわ」

 

 

フレイヤはその蠱惑(こわく)的な唇に折り曲げた人差し指を含め、甘く噛む。

扇情的で強く濃い香りが一瞬で辺りを満たした。

間違いなく近くに男が、いや、女でも、性欲あるものなら全て虜になる。

フレイヤの魔性の美に逆らえる者は、()()()()()()()()()

 

 

(ヘスティアには悪いことするけど……もらうわね、()()()())

 

 

すぐにでも取り込んでしまっても良かった。

しかしそれをしなかったのは、少年のバックにいる神の存在を確かめていなかったためか──その無邪気な笑顔を見て毒気が抜かされてしまい、気が乗らなかったからか。

何にせよ、今回は趣向を変えて影ながら見守るのも悪くない。フレイヤはそう思う。

 

所詮、そこは自分の箱庭だ。

いつでも手出しはできる。

 

 

「貴方達を私のモノにするのは待ち遠しいけど……複雑ね、来ないでほしくもある。今この時こそが、一番胸の踊る時なのかもしれない」

 

 

しかしフッと何かを思い付いたような表情を見せたフレイヤは

 

 

「……でも、そうね。『魔法』はそろそろ使えてもいいのかもしれない」

 

 

フレイヤの『眼』は他神による【ステイタス】の正体を看破できるわけではないが、色と輝きの具合を見ておぼろげながら見当をつけることはできる。

見るに、ベルの『魔力』は加算されていない。フレイヤにはそれが少し頼りなく見えた。

早速、()()()することにする。

 

 

「これがいいかしら?」

 

 

部屋の隅に鎮座しているのは本棚だ。幅は広く、高い。彼女の体を容易に覆いつくすほどに。

細い指が棚の中段に伸ばされ、ある分厚い本の背表紙に引っかけられる。コトンと音を鳴らして倒れ込み、彼女の手の中に収まった。

頁をめくり中身を確認すると、フレイヤは満足そうに頷いた。

そしてその隣の同じ本も取りだし、

 

 

「……ふふっ、楽しみだわ」

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「聞いてよハジメ!

今日二人で56000ヴァリスも稼いだんだよ!」

 

「そうですか、それなら今日はベルベルの奢りですね」

 

「うん、なんでも頼んで!!」

 

「……調子が狂いますね……嫌がって貰うためにも、【豊穣の女主人】の為にも高いお酒を買い取りして……」

 

「やめて!!嫌がらせでそんなことしないでよ!!」

 

 

リリとパーティーを組んでから稼ぎがよくなったらしく、今日は一段と稼ぎ気分が良いベルはハジメに晩御飯を奢ることにした。

ヘスティアはというとバイトがまだ終わらないらしく先に初めることしたのだが、

 

 

「なんですか、僕と組んでいたときよりも稼ぎが良いというアピールさせられていることは嫌がらせではないというんですか?」

 

「うっ…ご、ごめん……」

 

「いいですかベルベル。調子が良いのは分かりますが乗りすぎるのは如何なものかと…

「お待たせしました、当店における最高級のワインです」

 

 

そういってリューが持ってきたのは豊穣の女主人が置いている中でも一番高いお酒。それを見たベルは口を開けたまま固まりハジメは満足そうにしている。

 

 

「ありがとござい…

「ちょっとなんでそんな高いお酒を頼んじゃっているのハジメ!!!!」……はぁ、五月蝿いですよベルベル」

 

「五月蝿くないよ!!

なに勝手に頼んでるのさ!!!」

 

「嫌がらせです」

 

「素直に言えば良いっていうことにはならないからね!!」

 

 

頭をペコペコと下げながら持ってきた高級ワインをリューに下げさせた。その際に「僕が買い取りますので後で一緒に飲みませんか?」と声をかけるハジメ。その問いにリューは「えぇ」と嬉しそうな表情をしていたのだが、このやり取りはテンパっていたベルは気づかなかった。

何故なら高級ワインを下げるタイミングで大量の料理が運ばれ、明らかにベルが予想していた金額を越えておりパニックに陥っていたのだ。

 

 

「ちょっ、ちょっとハジメ!!!」

 

「はいはい、頼みすぎと言いたいんですよね。

大丈夫です、全部食べれます」

 

「そこの問題じゃないよ!!頼みすぎだよ!!!」

 

「ベルが「なんでも頼んで」といったので頼んだですよ。どうして文句を言われるのか分かりません」

 

「常識を考えたら分かるよ!!」

 

「人の、ましてやベルの常識を僕に当てはめないでほしいですね。あっ、これ美味しいですね」

 

「僕が調子に乗ったのが悪かったから本気で僕を困らせようとしないで!!!!」

 

 

「はいはい」と軽く受け流しながら新メニューである料理はどんなものかミア母さんに聞いているハジメ。それに対して「……悪いことしてないのに……」と凹んでいるベルと「ファイトですベルさん!」と応援しているシル。

 

 

「今日は割りとツイていると思ったのに……」

 

「そうだったんですか?」

 

「今日はサポーターのリリって子と一緒にダンジョンに行ったんですけど、昨日よりも順調にモンスターを倒せたんで今日の稼ぎはいいなと思ったんですよ。そして実際に換金したら今までの中で一番高かったんですが、その時にエイナさんに「ナイフはどうしたの?」って言われたときはビックリして焦って探し回って…」

 

 

「それで私達にあったんですね」

 

「はい。本当にシルさんとリューさんには感謝してます。もうナイフを無くしたら僕どうしようかと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ナイフを、無くしたって…言いましたかベル??」

 

 

そのハジメの言葉にビクッと肩が上がり、額からは汗が滝のように流れる。シルは「あっ、ごめんなさい♪」とお茶目な表情でその場を離れ、リューはハジメに「ほどほどにしてあげてください」と言い残して厨房へと戻った。

そうここにはハジメとベルしかおらず、もう完璧にベルが悪い状況のなかで最後の足掻きとして

 

 

「今度からは浮かれても持ち物検査はキチンとします」

 

「はい、素晴らしい回答です。

では……覚悟はいいですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く何をしてるんですかね」

 

「まぁ、そこら辺で許して上げてください。

本人も深く反省しているようですから」

 

「………す、すみませんでした……」

 

 

何事もなかったように目の前にある料理を食べるハジメと休憩時間になりハジメの隣でお酌をしているリュー。

そしてその足元にはボロボロになり横たわっているベルと介抱しているシルの姿があった。

 

 

「今度無くしたら……永久冷凍ですからね」

 

「その際には是非是非ベルさんにはこの店の保冷体になってください」

 

「これで食材が腐らなくてすみます」

 

「やりませんからね!!!!」

 

 

皆さん酷いです……と割りと本気で落ち込んでいるベルをやり過ぎたとシルが慰めている。もちろんそんなベルをハジメが気に止めることはなく今まで通りに食事をしている。

 

 

「鬱陶しいですよベルベル。食事中なんですか落ち込むぐらいなら出ていってください」

 

「その原因となったのはハジメだって分かってるよね!!」

 

「はいはい、正しい言葉を使えるように書物を読んだ方がいいですよ。例えばあそこにある本とか読んだら頭が良くなるんじゃないんですか?あっ、でもベルベルですから効果は五分以下かもしれませんが」

 

「……この先絶対無くさないので許してください」

 

「……仕方ありませんね……」

 

(とうとうクラネルさんが折れましたか……

ハジメは完璧に遊んでいただけのようですが…)

 

 

そんなことを思いながらハジメが言っていた()()()()()()を手に取ったリューは、

 

 

「しかし本読むことはいいと思います。知識は大いにあった方がこの先にも役に立ちますから

ということでトキサキさんも読んだ方がいいかと」

 

「僕はいいんですがその本、忘れ物じゃなかったんですか?」

 

 

そうリューが持ってきたのは本が置いてあったのはお客が忘れ物をしたときに一時的に保管しておく所だった。保管とはいうがただ置いてあるだけでありお客が勝手に持っていくことが出来る。

そしてハジメとリューの会話を聞いていたミアが入り込み

 

 

「持っていきな。()()()()()忘れた奴が悪いんだ、読まれても文句を言われる筋合いはないよ」

 

「ですが……」

 

「いいのではないですか?お店の店主であるミア母さんがOKを出したのですから」

 

「いうじゃないかリュー。それじゃまるでいざとなったら私が責任を追うみたいじゃないか」

 

「その責任はお客にある、と言われたんですから責任は取らなくてもいいのではないですか?」

 

 

違いはないね、と少し不機嫌になりながら厨房に戻っていったミア。許可も降りたところでリューは二人に一冊づつ本を渡した。

 

 

「分かりました、明日にはお返しします」

 

「あ、明日って!!明日ダンジョンに行くから読む暇は無いよ?」

 

「なに言ってるんですか?今から読むんですよ、徹夜してでもこの本は明日までにはお返ししないといけませんから」

 

「ちょっ、ちょっと!!!」

 

「お客様にご迷惑をかける気ですか。さぁ帰って読みますよ。お代はここに置いておきますね」

 

「僕まだ夕御……ちょっと待ってよ!!!」

 

 

強制的にベルを連れて帰ったハジメの姿を見て、リュー達は皆「ハジメがいうことかな……」と小さく呟いたという。



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影が薄くても何か変化が起きようとしてます。


お久しぶりです!
やっと終わったよ~❗これで更新アップ出来ます。
今回はちょっと短いですが更新します。





黄昏の館に戻ったハジメ達はそれぞれ自分の部屋に向かい貸してもらった本を読むことにした。もちろん最後まで抵抗したベルには(衝撃波)(衝撃波)を使い大人しくさせて部屋にぶちこんだ。

 

本来ならヘスティアファミリア一人部屋に三人が住まう形だった。ロキファミリアという格上のファミリアの元へヘスティアファミリアという格下のファミリアが宿を取ろうとしているのだ、周りからしたらそれ事態があり得ないことであり、ロキファミリアとしても威厳が損なわれると考えるものもいるだろう。

だがフィンが、リヴェリアが、アイズが口を揃えて「客人」として招くようにと申し出たのだ。確かにハジメが起こした功績を考えれば当然かもしれないがヘスティアファミリアではない。だからこそベートが反抗したのだが、

 

 

「そんなベートさん、キライです」

 

 

とアイズの一言で陥落した。

まぁ身内であるヘスティアも反抗したのだが「一人部屋がいいです!」とベルの一言でこちらも陥落した。

 

ということで静かに本を読める環境の中でテーブルの上に本を置き、そのとなりにワインを入れたグラスを取りそれを口に含む。舌で味わい喉ごしを味合ったところで豊穣の女主人で買い取った高級ワインの事とリューと一緒に飲む約束を思い出した。

 

 

「明日謝らないといけませんね」

 

 

軽くため息をつきもう一度ワインを飲む。グラスを置き本に手を伸ばしてページをめくる。

 

 

 

『魔法は先天系と後天系の二つに大別することが出来る。先天系とはいわずもながら対象の素質、種族の根底に関わるものを指す。古よりの魔法種族(マジックユーザー)はその潜在的長所から修行・儀式による魔法の早期取得が見込め、属性には偏りが見られる分、総じて強力かつ規模の高い効果が多い』

 

 

共通語(コイネー)編纂(へんさん)されているためかろうじて読めるが、一文一文の間に細かく走っているこの文字は……数式みたいなもの……

 

 

『後天系は『神の恩恵(ファルナ)』を媒介にして芽吹く可能性、自己実現である。規則性は皆無、無限の岐路がそこにはある。【経験値(エクセリア)】に依るところが大きい』

 

 

一つとして共通した形のない複雑怪奇な記号群。

文体に…文字の海に、引きずり込まれる。

 

 

『魔法とは興味である。後天系(こうしゃ)にこと限って言えばこの要素は肝要だ。何事に関心を抱き、認め、憎み、憧れ、嘆き、崇め、誓い、渇望するか。引き金は常に己の中に介在する。『神の恩恵(ファルナ)』は常に己の心を白日のもとに抉り出す』

 

 

【絵】が現れた。

顔がある。目がある。鼻がある。口がある。耳がある。人の顔だ。

真っ黒な筆跡で編まれ描写すれた、瞼の閉じた人の顔。文章の絵。

 

 

『欲するなら問え。欲するなら砕け。欲するなら刮目せよ。虚偽を許さない醜悪な鏡はここに用意した』

 

 

違う。【僕の顔】だ。額から上が存在しない自分の顔面体。

違う。【仮面】だ。自分のもう一つの顔。自分の知らない、もう一人の本心(じぶん)

 

 

『じゃあ、始めましょう』

 

 

瞼が開いた。僕の声が聞こえた。

文字で綴られた何の関心のない瞳が見てくる。

短文で形成された小さな唇が言葉を紡ぐ。

 

 

『僕にとって魔法とは何でしょうか?』

 

 

自分の身を守るためのものですね

あらゆるものから、痛みや、苦しみから

そして守りたいものを守れるもの

 

 

『僕にとって魔法とは何でしょうか?』

 

 

あの日から止まった時を動かしてくれるもの

何も出来なかった自分を変えてくれたもの

大切な人に巡り合わせてくれたもの

 

 

『僕にとって魔法はどんなものですか?』

 

 

さぁ、分かりません

いま持っているものは…「拒絶」ですから

あの日から僕は僕を「拒絶」した

だから生まれた魔法だと思ってます

 

 

『なら僕はどんな魔法を望むのですか?』

 

 

僕と同じ思いを無くすための魔法を

取り返しのつかないことが起きないための魔法を

過去も今も未来も守れるための魔法が欲しい

 

 

『随分と強欲なことをいってきましたね』

 

 

分かっていますよね。

トキサキ (ハジメ)とはそうなんだということは

 

 

『そうですね、だからこそ「僕」なんです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………メ………ハ……君…………ジメ………」

 

 

誰かが呼ぶ声が……あれ、確か僕は………

 

 

「……メ君………ハジ………ハジメ君!!」

 

 

目を開けてみるとそこにはドアップに写し出されたヘスティアの姿があった。お互いに至近距離で見つめ合いながら数十秒後

 

 

「…………はぁ」

 

「なんだいそのため息は!!!?」

 

「いえ、なんでもないですよ」

 

「君は何もなくてため息をつくのかい!?それもボクの顔を見ながら!!!」

 

「自意識過剰ですよ神様。ただ僕の目に写ったのがリュー姉なら良かったなと、ちょっと考えただけです」

 

「原因はそれだよぉぉ!!!」

 

 

朝から大声を出して元気だなーと思いながらヘスティアの事をスルーしてグラスに手を向ける

 

 

「ちょっと何を飲もうとしてるのさ!!」

 

「いいじゃないですか飲んでも」

 

「君は朝からお酒を飲むつもりかい?それに今日はバイトがあるっていってたじゃないか」

 

「……朝……」

 

 

もしかしてと、嫌な予感を感じながらもいつも通りの落ち着いたスピードで窓まで移動してカーテンを開けてみる。すると開いた隙間から光が差し込み、窓の向こうは明らかに夜の顔ではなく朝の清々しい顔だった。

 

目の当たりにした現実にハジメは、

 

 

「……今日は休みましょう」

 

「ダメに決まってるだろう!!」

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「ということで遅刻しました」

 

「ふざけるんじゃないよ!!!!」

 

 

問答無用でミアに殴られるハジメ。もちろんダメージはないのだが目の前にいる鬼ような表情と威圧感は一時停止でも止められない。

 

 

「ったく、飲めない酒を飲むからこういうことになるんだよ」

 

「いつもは一時停止である程度でしか酔わないですけど……」

 

「魔法頼りにしてるからだよ。冒険者ならもっと体と酒に強くなりな!!!」

 

 

冒険者に酒は関係ないですよね。と言いたかったが【豊穣の女主人】で働いている以上そんなことをいったらヤバいなと判断して言うのをやめた

 

 

「怒られてしまいましたね」

 

「怒られない方法があるんですか?」

 

「遅刻せずに来ることですよトキサキさん」

 

「なるほど、だから怒られたんですね」

 

 

なるほどと今になって納得したハジメ。「今度は気を付けましょうね」と明るくフォローするシルと、「さぁ、仕事をしましょう」と切り替えてくれるリュー

そしてそんな三人に近寄ってきたのが、

 

 

「なにをやってるニャー鉄仮面。アーニャを手本にすればいいニャー」

 

 

と、いいながらついさっき洗ったばっかりのコップを運んでいたのだが、いつものように調子に乗っていたために足元を見ていなかったアーニャはテーブルの足に引っ掛かり

 

 

「に、ニャアアアアアアァァァー!!!」

 

 

見事に転倒し宙に舞う複数のコップ。不幸中の幸いなのか飛んでいった方向がハジメやリュー達のいる方向であった。シルが少し慌てたようにコップを取り、リューは冷静に何個もコップを掴み、ハジメは立っているだけでまるで磁石のようにハジメに当たったコップはくっついた。

しかしすべて拾えたわけではなく一つのコップだけがハジメ達の頭上を通りすぎてそのまま地面に吸い込まれるように落ちて砕け散った。

 

 

「あんたは何をやってるんだい!!!!」

 

「ニャアアアァァァー!!!」

 

 

背後から現れたミアの拳骨を思いっきり喰らったアーニャはその場にうずくまった。その拳骨から聞こえてきた衝撃的な音は他の者にも効果があり

 

 

「何ボーとしてるんだい!!さっさと仕事しな!!!」

 

 

その一言ですぐさま仕事に取りかかる。もちろんリューもすぐに仕事に戻り残されたハジメはこの割れたコップを片付けようとしたのだが

 

 

「…………うん?」

 

 

一体何が起きたのだろう。割れたコップの残骸の上に何故か「5」と数字が浮かんでいた。さっきまでこんなものはなかったのにこれは…

 

 

「ハジメもさっさと仕事しな!!」

 

「あの、この数字ってなんですか?」

 

「はぁ?何いってるんだい。いいからさっさと着替えてきな!!!で、あんたは早く後片付けしな!!!!」

 

「はいニャー!!!!」

 

 

ミアの圧に怯えているアーニャはホウキとチリトリでさっさと割れたコップを片づけて離れていった。あの数字は一体何だったのだろうと思ったのだが、まぁ仕方ないなということで気にしないことにした。





余談ですが、KinKi Kidsアリーナコンサート、福岡当たりました❗でも最終日が当たって欲しかったぜ❗❗


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影が薄くても他人を悩ませてしまう。



はい、更新遅れてすみません❗
言い訳ありません❗
こんな僕ですがこれからもよろしくお願いします。
それではどうぞ。




カキン、カキンと甲高い音が鳴り響く。真っ赤に燃え上がった鉄の塊が鎚に叩かれ姿を変えていく。何度も叩かれち鉄はまた業火の中に入れられ後、再び鎚に叩かれ鍛えられその姿を「刃」へと

椿はあの日からずっと工房で作業を続けている。

 

 

「……………」

 

 

あの日以来、すっかりと自信をなくしてしまった…ということにはならなかった。確かにこれまで積み上げてきたものが全て崩し落とされた。だけどそこにはただの瓦礫ではなく次に繋がるための土台があった。

そしてその土台にいま必死に【自信】を積み上げようと抗っているのだが、

 

 

「……ダメじゃ……」

 

 

途中でこのままだとダメだと分かってしまう。まだ完成もしない鉄の塊はただの鉄屑となってしまった。そうやってすでに()()()()()()()()椿()()()()()()()()()()()

 

思い出してしまう…

自分の自慢の武器()に興味がないと、あの【無】しか移らない瞳を。

あの輝いていた武器()があっという間に光を無くしたことを。

 

それを思い出してしまうとどうしても自分の武器に魂を打ち込むことが出来ない。全て拒否しているあの力を、あの少年の似合う武器を、この手で作り上げるイメージが出来ない。

そんなことが頭を過ってしまい手が止まってしまうのだ。

 

 

「またダメだったみたいね」

 

「主神様……」

 

 

振り向くとヘファイストスが立っており、その手には2つのコップを持っていた。その一つを椿に渡して口に含むヘファイストス、それにつられるように椿もコップを口に運んだ。

 

 

「もう、よく分からぬ……ハジメという者を考えるとどうしても出来ぬのだ」

 

「今まで見たことのないタイプよね」

 

「一体……どうしたらよいのだ……」

 

「………………」

 

 

いつも生き生きと武器を作る椿がこんなにも自信を無くし迷っている姿は見たことがなかった。どんなに辛くとも自分を信じ打ち続けた椿だが、その信じてきた自信はあの時の、武器から光が消えてしまったあの光景が、全く武器に対して興味を示さないあの瞳が浮かんできてしまう。

ヘファイストスもその光景を見ている。見ているからこそ下手なことは言えなかった。あくまでもハジメの武器を作るのは椿であり、そこにヘファイストスがアドバイスをしてしまうとそれはもう違う武器に変わってしまう。それを一番嫌う椿に発言するつもりはない。

だが、ここまで自信喪失した椿を見たことはなかった。故に発言をしないのではなく、かけるものが浮かばなかったのだ。

だから武器に関してではなく、椿に対してアドバイスをかけることにした。

 

 

「迷っているのならちょっと外へ出なさい。

気分を変えるだけでも違うものが見えてくるわよ」

 

「……それで打てるとは思えぬ……」

 

「だからといってここに籠っても変わらないわよ」

 

「そんなことは分かっておる!!!」

 

 

大声を出しながら持っていたコップを地面に叩きつける。ハァハァと息を切らす椿、それだけでも追い込まれていることはハッキリと分かる。

 

 

「す、すまぬ…主神様……」

 

「いいのよ。私もこんな時にごめんなさいね」

 

 

今は一人にした方がいいと工房から去ろうと動き出すヘファイストス。扉に手をかけて工房から出ようとした時ふっと思ったことを口にした。

 

 

「……もしかしたら、ハジメという人を知らないから打てないのかもしれないわね……」

 

「……………」

 

「冒険者のレベルに違いがあっても本質的なものは変わらなかったけど、ハジメの場合はそれが見えてこない。なら、自分で見るしかないと思うのよね。まぁ、思い違いかもしれないけど」

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

最近、リリはおかしいんじゃないかと思う。

いつものように冒険者に媚を売ってサポーターとして雇ってもらい、物のように扱われながらも最後には武器やドロップアイテムを盗んでお金に変える。たまに危険な目に合うときもあるが【シンダー・エラ】により姿を変えているため見つかることはない。

だから今回も同じようにするつもりだったのに…

 

 

どうしてダンジョンで稼いだお金を独り占めしないのか?

どうしてそんな当たり前のように簡単に大金を渡せるのか?

どうしてリリを他の冒険者のように「物」として扱わないのか?

 

 

不信があるのにどういうわけか未だにあの冒険者、ベル・クラネルの元でサポーターをやっている。一度武器を奪うことに失敗したのに、逃げることもせずにここにいるのは、こうして確かな収入を手にすることが出来るから?それともお人好しすぎるあの人に甘えてしまっているのか?

 

あの優しい笑顔が目に浮かび、否定するように首を左右に振って現実に戻る。とにかく明日はまたあの人とダンジョンに向かうことになっている。準備をするために買い出しに言っていたリリは明日に備えて早めに就寝しようと家に帰って来た。扉を開こうとドアノブに手を伸ばしそうとした時あることを思い出した。

 

 

(そういえば…あれはなんだったんだろう……)

 

 

ベルのサポーターになる前、突然酷かった部屋が綺麗になり置き手紙にかなり失礼な事が書いてあったあの日。

それからというものずっと警戒をしていた。特に下着は鍵がついた引き出しに入れるようにしていたのだが、あの日から全く変化がなった。

 

一体何が目的であんなことをしたのか?

ただの嫌がらせにしては意味が分からない、かといってリリに恩を売るためにしたとは思えない、むしろあの置き手紙は喧嘩を売っているとしか思えない。

 

 

(気にしても仕方ありません……とにかく明日も稼いでもらわないと……)

 

 

気づかないうちにリリは「盗む」という目的から「稼ぐ」に変わっていた。どちらともお金は手にはいるが無意識に心が痛まない方へ向かっていた。だけどそれももう終わりを告げることなんてまだ知らない……

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「………コレは、魔導書(グリモア)じゃないか」

 

「ぐ、ぐりもあっ?

な、何なんですか、ソレ……」

 

「簡単に言っちゃうと、()()()()()()()()……

『発展アビリティ』なんて言ってもわからないと思うけど、とにかく『魔道』と『神秘』っていう希少なスキルみたいなものを極めた者だけしか作成できない、記述書なんだ……」

 

 

ヘスティアの手にあるのは昨日持ち帰った一冊の本。半分も読まずに寝てしまい、ヘスティアに起こされるまで熟睡していたようだ。「ベル君は勉強が苦手なのかな♪」と弄りながら今日ダンジョンに向かうベルのステイタス更新を行うと提案した。

ダンジョンでは何が起こるのか分からない。特にいま怪しいと感じているあのサポーターには気を付けたほうがいい、そう直感が囁いている。

そうやってベルを説得してステイタス更新を行ってみると、

 

 

《魔法》

【ファイアボルト】

・速攻魔法

 

 

とついこの前までなかったステイタスに新たに魔法が追加されていた。これにはベルもヘスティアも驚き今にも使いそうなベルを止めてお互いに落ち着かせた。

ダンジョンで試し撃ちにするにしろいきなり使うのはマズイ。かといって使うなと言っても使うのが男の子何だろうなーともう一人の男の子を思いだしどう説得しようかと悩んでいたところで、この本が目に留まり何気なく本を開き読んでみたところ、とんでもないことが発覚したのだった。

 

 

「君の魔法の発現はこれが理由か……。ちなみにベル君、この魔導書は一体どういう経緯で今ここに存在しているんだい?」

 

「知り合いの人に、借りました。……誰かの落とし物らしい、デス……」

 

「……」

 

「ネ、ネダンハ……」

 

「【ヘファイストス・ファミリア】の一級品装備と同等、あるいはそれ以上……

ちなみに、一回読んだら効能は消失する。使い終わった後はただ重いだけの奇天列書(ガラクタ)さ……」

 

 

それを聞いたベルの額には大量の汗が、いや身体中に冷や汗が流れていた。見た目はそんな風に見えないのにこれがそんなスゴいものなんて……それも持ち主に返すことも出来ないなんて……

 

 

「い、今すぐに謝って…」

 

「何を言ってるんだいベル君!!

聞けば落とし物なんだろう、その落とした人が悪いんだよ!!!」

 

「で、でも……」

 

「よく聞くんだいベル君!!落とした人もそうだが、それを持っていっていいと言った者も悪いんだ。言うならばベル君は三番手であってまず罪には問われない」

 

「流石に都合がよすぎますよ神様!?」

 

 

あくまでもベルには罪がないと言っているヘスティア。それについてはもちろん嬉しいが真面目なベルからしたらそれは罪悪感が残りどうしても人のせいに出来ない。

本を手に取り謝りに行こうとするが、その本をヘスティアが掴み離さない。もちろんベルの方が力がありどんどん引きずられているヘスティアだが絶対に離そうとしない。

 

 

「…………何してるんですか?」

 

「は、ハジメ!!本から神様の手を外して!!」

 

「ダメだよハジメ君!!!ベル君を止めるんだ!!その本を持っていかれる訳にはいかないんだ!!!」

 

 

その痴話喧嘩みたいな状況を見たハジメは「ハァー」とため息をついて

 

 

「それでは終わったら教えて下さい」

 

「なんで立ち去ろうとしたるの!!」

「君はこの状況を見て何も思わないのか!!?」

 

 

「それを分かってるならちゃんと話し合えばいいだけですよね。

バカらしいことに巻き込まないでください、僕もその本を早く読み終わらないといけないんですから。今日返す予定がまさか本を読みながら寝てしまうなんて……失態です。神様がこっそりとお店のジャガ丸くんを食べてしまうぐらい失態です。ベルがサポーターを信じるあまりに任せていた分け前を誤魔化されてそれに気づかないほどの失態です。」

 

 

 

「出鱈目なことを言わないでよハジメ!!

リリが、神様がそんなことするわけないですよ!!」

 

「そ、そうだよハジメ君!神である僕がそんなことを………というか、ハジメ君。さっき君「その本を早く読み終わらないと」って言ったかな?」

 

「言いましたけど、なにか?」

 

 

その時のヘスティアの表情は、口をポカーンと開けた間抜けな表情はしばらく脳裏から離れなかったという。



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影が薄くて仕方なく話してしまうのは罪ですか?



ギリギリになりましたが更新です。
ってか、明日で11月かよ!
自分の周りが色々と変化していき自分も大変な目にあってます。それでも更新は続けるよ、期待しててください‼
それではどうぞ!!!




結局昨日はヘスティアが寝込んでしまいダンジョンに向かうことが出来なかった。ベルはヘスティアの看護を行いハジメはヘスティアの変わりにバイトに向かった。

そして今日になってもうなされているヘスティア。ベルはリリとダンジョンに向かう約束をしているためハジメにヘスティアを任せてバベルの前まで来たのだが、

 

 

「ベル様?」

「!? あっ……リ、リリ、おはよう」

 

 

ヘスティアの容態と看護を任せたハジメのことが気になってリリに声をかけられるまで気づかなかった。そんなベルを気にも止めずにニコニコしていた。

 

 

「ベル様、今日は10階層へ行きませんか?」

 

「えっ、でも10階層はダメだって……」

 

「ここ最近のベル様の実力を見させてもらいましたが、本当に10階層にいっても問題ない実力の持ち主!

でしたら躊躇う必要はありません。もちろんちゃんとした準備や注意をしないと簡単にやられてしまいますが、そこはこの私がしっかりとサポートさせてもらいます」

 

 

その押しの強さに思わず頷いてしまったベル。いつも押しの強いリリだがなんだか今日は一段と強い感じがする。何かあるのかと気になったがそれを聞く暇もなくリリから話しかけてくる。

 

 

「心配なさらないでください。さっきも言いましたがベル様は十分に10階層に行けるほどの実力はあります。それにリリは何度か10階層へと行った経験があります。それにあくまでも経験を積むのが目的ですのですぐに9階層に戻れるように入り口近くだけですので」

 

 

「………リリがそういうなら……」

 

「はい!それでは行きましょう!!」

 

 

先頭を切って歩き出すリリの後ろを置いてかれないよう歩き出すベル。リリのそのやる気に満ちた後ろ姿はどういうわけか何かに焦っているように感じられた。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「うぅ……ううぅ………」

 

「なんやなんや、まだ寝込んどるのか」

 

「はい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

額には置かれた濡れタオルを新しい物に取り替えていたところで、明らかにヘスティアをからかいにきたロキが現れた。

その後ろにはアイズも一緒のようだが部屋に入ってきたのはロキだけであり、アイズは部屋の外で待機しているようだ。

 

 

「何かあったんですか?」

 

「何かあったのはそっちやろ、昨日はずいぶんと騒いどったやないかないか。うちらは遠征前にドチビの様子見にきたんや」

 

「遠征…ですか。それはまた随分と急ですね」

 

「前から決めとったやつやし、それに直ぐに帰ってくるからな」

 

 

そうなんですか、と話し合っていると不意にアイズと目があったのでゆっくりとお辞儀をしてみると、向こうも返事するようにお辞儀を返してきた。でもその表情はちょっと不満そうな顔である。どうしたのだろうと思っているとそれに気づいたロキが、

 

 

「アイズたんは今回の遠征から外したんや。それやからチョイと拗ねとるんや。それはそれでかわええやけどな!!」

 

「それはどうでもいいんですけど、どうしてアイズ姉を外したんですか?」

 

「どうでもいいってなんや!アイズたんはもうめちゃくちゃ可愛いやろ!ジャガ丸君を食べれなかったときのアイズたんの表情はもう最高やで」

 

「………とりあえず、ロキ様もなかなかのお人だということは改めて分かりました」

 

「なんや誉められとる気はせんな。まぁアイズたんはそこのドチビの護衛や。ハジメやベルと違って神達は一般人並みやからな。それにドチビの護衛ならジャガ丸君も食べられるっていったら機嫌直してくれたしや」

 

 

あぁ、だから不満そうな顔をしてる割にはしっかりと護衛のスタイルをしているのか。その姿に本当にジャガ丸君好きなんだなと思っていたら「う、うぅ……」と(うな)されながらヘスティアがゆっくりと目を覚ました。

 

 

「……こ、ここは……」

 

「なにベタなことをいってるんですか神様。

しっかりしてください。昨日のことは覚えてますか?」

 

「き、昨日……

………あっ!ベル君!!ベル君はいまどこにいるんだい!?

まさかあの本を持ち主に返したんじゃ!!!」

 

 

「大丈夫ですよ。とりあえずは保留にして起きましたから」

 

「そうかい、なら良かったよ。

………って良くないよ!!ハジメ君、君も読んだのかい!?」

 

「はい」

 

 

それを聞いたヘスティアは頭を抱えて苦しみだした。

なんのことなのかと気になったロキはハジメに聞こうとしたが、

 

 

「ハジメ!!手前と一緒にダンジョンへ向かうぞ!!」

 

「突然どうしたんですかツバッキー」

 

 

その突然現れた椿に驚きもせずに平然としているハジメだが、その椿の後ろには「勝手に入ってもらっては困りますよ!!」とロキファミリアの団員が息を切らしていた。どうやら許可もなくここまで突っ切ったようで、現れた椿に対してロキも驚いているようだ。

 

 

「あまり好き勝手にしても困るで。いくら友好関係にあっても限度ちゅうもんがあるんや」

 

「それはすまぬ」

 

 

といいながら全く謝った感が出ていない椿。それを見たロキはハァ~とため息をついて「ここはええから戻っときー」と団員に下がらせた。

 

 

「それでどうしたんですか?

武器が出来たから試し切りみたいなことをするんですか?」

 

「いやまだ武器は出来ておらぬが…

だからこそお主とダンジョンにいかなければならぬのだ」

 

「すみません、どうも意味が分からなくて…詳しく教えてくれませんか?」

 

「簡単な話じゃ。手前はおぬしのことが知りたいんじゃ」

 

 

周りから聞いたらある意味告白に取れるセリフを簡単に言ってきた椿。案の定ヘスティアは「なっ!?」と驚いている。ロキはなんか面白そうだなと楽しんでいる表情をしてアイズとハジメは変わらずな表情でいる。

 

 

「僕のことを知ることと武器を作ることは関係あるんですか?」

 

「分からん!」

 

「またハッキリと言いましたね」

 

「分からんもんは分からんのだ。ただ普通に武器を作っていただけでは作れぬということが分かっておる。なら少しでもおぬしの側で見続ければ何か分かると思っての」

 

 

「はぁ…そんなものなんですか……」

 

 

曖昧な回答に戸惑うハジメだが、まぁ一緒にダンジョンに向かうことぐらい問題ないだろうと考え、

 

 

「分からないならやってみないと分かりませんね。神様ももう大丈夫そうですし」

 

「一緒にいってくれるのか?」

 

「はい」

 

 

そうか!そうか!とハジメの手を握りブンブンと上下に振る椿。その姿に面白くないと感じたのだろうヘスティアが頬を膨らませながら、

 

 

「椿君といったかな?いくらハジメ君の武器を作ると言っても、ハジメ君がいいと言ったとしても、主神である僕がいる前でよくも堂々と」

 

「うむ、それは失礼した。ヘスティア様にはこれを見せれば素直に応じると言われておったので気にしていなかったのでな」

 

 

なんのことを言っているのだろうと疑問に思ったヘスティアだが、椿が取り出したある一枚の紙を見たとたんに表情が一変した。

 

 

「なっ!?」

 

「我が主神からの伝言からは「普通ならこれだけの金額をタダにするのだから協力しなさい」だそうだ」

 

「こんなの脅迫じゃないか!!大体武器を作ってくれなんて頼んでないし、そっちが勝手に…」

 

「そんなことを言い出したときはコレを見せろと」

 

「なあっ!!?

なんでヘファイストスがそれを!!!」

 

 

さっきまで強気でいたヘスティアが一変して弱々しくなり苦笑いしながら、

 

 

「………ハジメ君、よろしく頼むよ………」

 

「そうですね。これ以上神様はクズだといわれないようにしないとですね」

 

「ぐぅ!!よろしくお願い…します……」

 

 

これが神様なのか?と思うぐらいの姿に、ロキは若干引いてる。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「さて、ハジメも行ったことやし」

 

「……なんか用があるのかい?」

 

「そんな嫌な顔をするなや、こっちやて好きで話したくないわ。

しかし今回はそうはいかんのや、。ちゃんと説明しろや()()()()()。なんで()()()()()()()()()

 

 

部屋にはロキとヘスティアだけとなっていた。

ハジメと椿はダンジョンへ、アイズには二人で話し合うために部屋の外で待たせることにした。

真剣な表情のロキが指を指したのはヘスティアが倒れる原因となった魔導書(グリモア)。それは一級の武器が買えるほどの貴重品。それはヘスティア達借金持ちが手に入るものではない。

 

 

「こ、これはハジメ君達がバイト先から借りきてきた物らしいんだけど魔導書とは知らずに読んだらしくて……

けして盗んだじゃないよ!!それにベル君もハジメ君も魔導書だって知らなかったわけだし」

 

「そんな所まで聞いてないわボケ!!

……あの色ボケ女神が、狙いはこれやったんか……」

 

 

その悪口でヘスティアもそれが誰のことなのか、そしていま何が起きているのか分かったようで、さっきまで焦っていた表情がさらに険しくなった

 

 

「ちょっ、ちょっと待つんだロキ!!

狙いってなんのことなんだい!!君は何を知ってるんだい!!!」

 

「うるさい、先にウチの質問に答えろ。あとからちゃんと話したるわ。

自分、いつハジメのことを話したんや?」

 

「たしか……怪物祭(モンスターフィリア)の時だったような……」

 

「ちぃっ!あのときか……

このドチビが……一体どこまで話したんや自分は!!」

 

「は、ハジメ君のことは姿が見えないってことぐらいで……し、仕方なかったんだよあの時は!!それに見えなきゃ大丈夫だろうって……」

 

「アホか自分はあぁ!!!

あの色ボケ女神が神の興味をひく奴(ハジメ)を見逃すわけがないやろうが!!!」

 

 

ご、ごめんなさい…と自分のファミリアでもないロキに激怒されて凹んでしまったヘスティア。しかしそんな姿を見ようがいっこうに怒りがおさまらないロキ。

魔導書を手に取りそれを自分の顔の近くに持っていき三秒、何かを確信したように目を開き

 

 

「ご丁寧にウチだけに分かる香水を吹きかけとる…」

 

「ど、どういうことなんだい…」

 

「この香水はな、あの色ボケ女神と話し合いで会ったときに付けとったもんや。それをわざとつけとるということは……」

 

 

その真意に気づいたロキは魔導書を地面に叩きつけた。古いものなのだろう、背表紙は折れ曲がれ数ページは破れて飛び散った。

 

 

「面白いわ、実に面白いわ。なんでウチにケンカを売っとるかは知らんけど、ケンカを売っとるなら買ったるわ!!」

 

「ちょっと!勝手に完結しないでくれよ!!!」

 

「安心せいドチビ!!もううちらは完全に自分らを100%サポートしたるわ!!!誰にもあの二人を渡したらあかんで!!!」

 

「気持ち悪い!!気持ち悪いよロキ!!!そんなことをいうなんて君じゃない!!!」



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影の薄さはきっと、色んな影響を与える。



どうも。早くに更新出来ました。
それも今までの中では一番文字数長いと思います。
伏線を回収したり、伏線を張ったりと色々書いてます。
……これこの先大丈夫かなと思いながらもやっていきますので、分からないことは遠慮なく聞いてください。
それではどうぞ。




「本当、余計なことをしてくれたわ……」

 

 

暗く暗く、漆黒の闇よりも暗く、

深く、深く、抜け出せない闇の中で、

何も、誰も、生命そのものがいない中で、

小さく、小さく、響くこともなく、消え行く声

その姿を見えることはなく、現すことなく、

ただ一人、ある人を思う。

 

 

「あの子は、強くなる。きっと私よりもずっと」

 

 

だから許せなかった。あの子の力で成長する過程を異物(魔導書)によって変えられたことが。

あの子の器はすでに昇華できる。しかし、その芯たるものが見えてこない。まるであの子のカミカクシ(スキル)のような…

そしてその原因を【私】は知っている。それをどうすればいいのかも【私】は知っている。

だけどそれは、あの子が見つけなければいけないもの。そうじゃないとこれまでのあの子のやって来たことが無駄になる。

 

だから見極める必要がある。

あの子に身に付いた魔法(異物)が成長させる起爆剤になるのか、それとも成長の妨げとなる足枷になるのか。もしも後者なら、

 

 

「神と言えども()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

 

微かに微笑む表情、しかし微笑むといってもその顔は無表情そのもの。そうまるでハジメのような感じである。一歩、二歩と歩みを進めていき、抜け出すこともない闇の中を歩き続ける。

そして突然開けた明かりの下に出てきた者。まるで闇から光へ()()()()()()()()()()

そこはダンジョンであることは間違いないようだ。何故ならその場所には、目の前には一体のモンスターがいたからだ。

 

 

「あら、もしかして17階層辺りに出たのかしら?」

 

 

目の前のモンスターには見覚えがあった。そのモンスターはミノタウロス。その者との差は明らかでありミノタウロスが振るう拳が少しでも当たれば絶命するぐらいの力の差がみえる。

 

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 

ミノタウロスの咆哮。レベル1の冒険者なら怯み体が動かなくなるほどの威嚇。その者も逃げることもせずにその場を立ち尽くしてしまっている。

 

 

『ヴォオオオオオオオオオオウッ!!!!』

 

 

そしてミノタウロスはそれを嘲笑うように拳を振り上げてその者へと拳を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりダメね。モンスターには品がないわ」

 

『ヴゥオ!?』

 

 

そんな言葉が今度は確実に届いた。届いたといってもそこにいる地に這ったミノタウロスに届いただけである。何が起きたのかミノタウロスは分かっていないだろう。ただその者は自分に向けられたミノタウロスの拳を()()()()()だけだった。一度でも触れただけで絶命するだろう拳に対して2度触れた。

 

その2度触れたことがミノタウロスを地に這うことにさせたのだ。1度触れた時に体に異常を感じ、2度触れたと感じたときにはすでに地面にいた。

得体の知れない恐怖に恐れたのか、みっともない姿を去らせ出しているのにも関わらずにミノタウロスはその者から離れようと必死にもがいている。

 

 

「モンスターいえども【生】にすがるのね。

……そうだわ、それならその【生】をもっと感じさせてあげるわ」

 

 

もがくミノタウロスにゆっくりと近づくその者はさっきの立場が逆転したように、ミノタウロスに対してその手をミノタウロスへと向ける。

 

 

「生きたいのならもっともがいてみなさい。

あの子が味わったことを、皆知るべきなのよ。

そして願わくは、あの子の成長への糧にならんことを」

 

『ヴッ、ヴォ、ヴォオオオオオオオオッ!!!!!!』

 

 

無情にも響き渡るミノタウロスの咆哮は、まるでこれから始まる惨劇の合図だと後に知ることになる。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「何か聞こえたリリ?」

 

「いえ、私には何も。それよりも前から来てますベル様」

 

「今度は9匹か……」

 

 

順調にダンジョンを進んで9階層、すでに前回の半分の時間でここまでこれた二人の前には現れたキラーアント。しかしすでにキラーアントはベルにとっては準備運動にしかならなかった。

まずは先頭のキラーアントを一撃で仕留めたあと左右から攻めてきたキラーアントの足を即座に切り落とす。動けなくなった所で確実に急所を狙い仕留める。残り6匹は少し離れておりこれならとベルは右手をキラーアントに向けて

 

 

「ファイアボルトォォォ!!!!」

 

 

掌から放たれた炎雷(えんらい)は目の前のキラーアントをあっという間に殲滅させた。本来魔法とは詠唱を行った後で発現するもの。しかしベルの【ファイアボルト】は「速攻魔法」であり、その魔法の名を唱えただけで発現する魔法。

リリに話したらやはりこんな魔法は初めて見たようで、この魔法の威力とどのように使うかを決めるために()()()()()()使()()()()()

 

 

「やっぱり唱えるだけで発現する魔法みたいですね。すごいですよベル様。これなら不意討ちで魔法を使えるので奇襲にもってこいです!!」

 

「なんかそれは悪いような……」

 

「何を言ってるんですか!!ダンジョンで良いも悪いもありません!!それにこの魔法はベル様にとっての【切り札】です。不用意に使わないようにしてココだ!っていうときに使えるようにしないといけません。そのためにはまずこの魔法に慣れて、まるで手足のように使いこなさないと……」

 

「なんかリリって、本当の仲間みたいだよね」

 

 

ベルの何気ないその言葉にリリの体がビクッと揺れた。その言葉を言われて気がついたのだ。どうしてここまで私が真摯になって考えているのかと。そしてベルから言われた「仲間」という言葉はリリの心の奥へ突き刺さる感じがした。

 

 

「な、何を言ってるんですかベル様は。私達はあくまでも契約の元で一緒にいるだけですよ。それにベル様がもっと強くなったらさらにダンジョンの奥へ行くことも出来ます。それはつまりお金をもっと稼げるんです。私とベル様は利害が一致しただけの関係です。本当の仲間がお望みでしたら他の方を探してください」

 

「ご、ごめん…リリ……」

 

 

明らかに落ち込んでしまったベルに対してやり過ぎたと後悔するリリ。しかし言ったことは本当のことだ。私はベル様を騙して稼いだお金を誤魔化して盗んで、そして今日はベル様と決別すると決めたのだ。

しかし逆を言えば今日までのこと。いまここで士気を落とされて危険な目にあうのは困る。そう結論に達したリリはベルにも分かるようにため息をつき、

 

 

「しかしいまは私がベルの仲間です。お互いの命を預けあって一緒にダンジョンに潜ってこうして進んできたんです。ベル様はそれだけでは「仲間」とは呼ばないのですか?」

 

「そ、そんな事ないよ!!改めてよろしくねリリ!」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いしますベル様」

 

 

簡単に機嫌が治ったベルは10階層へ向けて歩き始める。その後ろをリリは歩きながら

 

 

(ベル様が悪いです。リリにあまりにも深く入ってきたから……だからこれでいいんです……)

 

 

その決意は揺るがない。今までの冒険者と同じだと言い聞かせてその冒険者の背中を追いかける。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「もうー本当になんだったんだロキのやつは!!!」

 

「……ごめんなさい」

 

「いやヴァレン某君が悪い訳じゃないんだよ……っていつの間に僕は僕のベルを取ってしまうだろう相手に話しかけてるんだ……」

 

「??」

 

 

これまでがあまりにも衝撃が強すぎた為に、恋敵であるヴァレン某(アイズ)と普通に話していた。いつもならその姿を見るだけで警戒するのだけど…分かってしまったのだ。黄昏の館で住んでから常に警戒して少しでも欠点がないか観察していたのに

 

 

「くそ!こんなに、こんなに良い子だと分かってしまったら……否定しようにも出来ないじゃないか!!

はっ!!?もしかしてこれもロキの策略なのか??あの貧乳め……」

 

「……大丈夫ですか?」

 

「いや大丈夫だよ。君とこう話してるのもあのロキ(貧乳)のせいだと分かったからね。だけどね!絶対にベル君は渡さないから覚悟しておくんだよ!!!」

 

「………はい」

 

 

よし!!と宣戦布告して満足なヘスティアだが、アイズは訳も分からずに返事しただけである。伝わっていないことに気づいていないヘスティアはアイズと共にお昼からのバイトに向かって歩いていた。

すると目の前にからこちらへ向かってくる一人のエルフ。それも見覚えのある姿にヘスティアをジィーと見つけてすぐそばに近づいた所で

 

 

「ここで会えて良かったですヘスティア様。それにアイズさんにも会えるなんて…」

 

「確かエイナ君だったね。どうしたんだこんなところで?」

 

「ベル君は今日ダンジョンに行ってますか!?」

 

「それは行ってるけど…ベル君がどうしたんだい?」

 

「先ほど偶然に聞いたんですけど……」

 

 

そこで語れたのはソーマファミリアの会話だった。そこにはベルのサポーターであるリリが同じファミリアからお金を催促されていること。そしてそのリリが今日ある行動に移すだろうということ。

 

 

「一体何をするのかは分かりません。ですが間違いなくベル君に何かが迫っていると思われます。私ではクエストを頼めません。ですからこうしてヘスティア様の元へ急いでいました」

 

「……何かあるとは思っていたけど…ベル君……」

 

 

いくらロキファミリアの訓練を受けていようが不意討ちをされたらどうなるのか分からない。何よりもベルは純粋である。そこに漬け込まれた結果だと知ったらベルは……

そんなことを考えているとエイナはアイズの方へ

 

 

「こんなことをお願いするのはおかしいと分かってます。ですがお願いします。ベル君を助けてくれませんか!!」

 

 

勢いよく下ろされたエイナの頭に思わず目を開くアイズ。それを見たヘスティアは

 

 

「僕からも頼むよヴァレン某君!!ベル君を助けてくれないか!?」

 

「でも、私はヘスティア様の護衛を…」

 

「ベル君の為ならバイトだって休むさ!!黄昏の館で大人しくしている。なんならロキと仲良く……するように努力だってするさ!!だからお願いだ!!ベル君を助けてくれないか!!!」

 

 

その勢いのまま頭を下げようとしたヘスティアの前にアイズが

 

 

「分かりました。私も心配だから」

 

「本当ですか??」

 

「ありがとうヴァレン某君!!」

 

「それじゃ、行ってきます」

 

 

流石一級冒険者というべきなのだろう。あっという間に走り去ってしまったアイズ。その走り去る前、表情が軽く微笑んだように見えたが気のせいだろう……

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「アイズには悪いことしたな」

 

「仕方ない、これもヘスティアファミリアを守るためのことだ。それにバイトでジャガ丸くんをつまみ食いするのが目に見えている」

 

「アイズはアレには目がないからの!!」

 

 

ロキファミリアの遠征。

構成員とし一級冒険者のみが選抜されたこの遠征は「ダンジョンの調査」をするためのものだった。すでに50階層まで進出したロキファミリアだが未だにその階層全てを見回ったわけではない。もしかしたら新しい道、新種のモンスター、珍しいアイテム、セーフティゾーンが見つかるかもしれない。

普段なら遠征のためにヘファイストスファミリアの一級鍛治師と共に遠征へ向かい武器や防具の調整などをしてもらうのだが、あくまでも今回は中層の調査をするためものである。なので少人数で一級冒険者である彼らが選ばれたのだ。

 

 

「チィッ、なんで今さら中層の調査なんか…」

 

「未だに「あの時の現象」が何なのか分かっていない。ギルドに要請はしたが調査は難航しているようだ。ならば経験者である私達がというのが今回の調査だ」

 

「でもそれならなんでハジメはいないわけ??」

 

「言っておくがハジメはまだレベル1だ。いくらゴライアスを倒せる実力があってもそう簡単には中層に連れていくわけにはいかない。フィンは調査に連れていくようだったが私がそれを止めたのだ。それとも何か?何か意見があるなら話を聞くが……」

 

「う、ううん。何にもありません!!」

 

 

リヴェリアの凄みにティオナはそれ以上何も言わない方がいいと判断した。これがよくロキが言っていたお母さん力かぁーと感じながら

 

 

「今日はベルもダンジョンに行ってるんだよね。フィンにリヴェリアにガレスにベート、四人の先生から訓練されてるんだから10階層ぐらい楽勝なんじゃない」

 

「そういう油断が命取りになるって知ってるわよねティオナ」

 

「もう!揚げ足とらないでティオネ!!

でもベルってもうレベルアップしてもおかしくないよね。どうしてレベルアップしないんだろう?」

 

「どうなんだろうね。確かに器は出来上がっている。しかし何かが足りない…いや妨げているというべきなのか……」

 

「フィンも同じように感じていたのか。訓練中どうしても「何かから抜け出せない」という感じが見えていた。恐らくそれが原因だろう。しかしそれはベル自身が抜け出すしか、乗り越えるしかない」

 

「そうだよね。あぁ、ベルもハジメも早くレベルアップしないかな~」

 

 

そんな事を言っていると遠くからざわつき始めた。なんだろうとティオナが振り向くと道の奥から土煙を上げて近づいてくる何かが……

 

 

「……アレって、アイズ?」

 

「なに??まさかヘスティア様の警護を無視して遠征に行くつもりか?」

 

 

リヴェリアも振り向いてみると向こうからアイズがトップスピードで近づいてくるのが分かる。だがさっき自分が口にした遠征に付いてくるとは何かが違うように見えた。

 

 

「なんじゃい、なんか必死になっとるように見えるぞ」

 

「そのようだね。おーいアイズ、どうしたんだい?」

 

 

アイズもフィン達に気づいたようでトップスピードから減速をして合流をした。トップスピードで走った割には汗一つかいてないとは流石一級冒険者だというべきだろう。

 

 

「おい、アイズ。いくら遠征に行きたいからってトップスピードで走ってくるなんてなに…」

 

「もうベートうるさい!!どうみても違うでしょうが!!」

 

「そうですよ!!アイズさんは遠征に行きたかったのにキチンとヘスティアの護衛に勤めたのです!!ここに来たのだって訳があるんですよ!!!そうですよねアイズさん!!」

 

 

レフィーヤの熱の籠った言葉に一瞬「あっ」という表情になりかけたがグッと堪えて本来の目的を話すことにした。いまベルと共にダンジョンに向かっているサポーターが何かを起こす気だということ。そしてそのサポーターはソーマファミリアであり、金銭的にかなり困っており追い詰められているようだということを話した。

 

 

「ロキから話は聞いていたが…」

 

「そのサポーター、バカじゃねえのか?あの兎の奴から俺達がいるって聞いてねえのか??それとも分かってやってるのか??」

 

「あぁ~それ多分分かってないよ。この前ベルと話したんだけど「全然信じてくれなかったんですよ!!」って嘆いていたもん」

 

「ベルみたいに純粋な子なら騙されている、なんて考えるわよね。それもロキファミリアから訓練を受けているなんて話したら、同じ立場だったら信じてないわよ」

 

「なるほど。やはり普段のダンジョン探索から一人でも護衛につけるべきだったか。ベルという人柄を含めるべきだった」

 

「そんなこと言っている場合ではないぞフィン。ベルがダンジョン向かった時間を考えると恐らく10階層に到着しているはずだ。あそこは霧が出て視界も悪い、不意討をかけるならそこが一番適している」

 

 

その話を聞いたアイズは一目散にバベルへ入っていった。後ろから声が聞こえたがそんな事は気に止めなかった。いまアイズの頭の中ではベルの安否しかなかった。

 

 

(無事でいて……)

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「なんていう奴じゃ…

これでは本当に武器も防具も必要ではないではないか……」

 

「ですから初めから言ってましたよ?」

 

 

椿と共にダンジョンに潜っているハジメは先ほどまで『オーク』『バッドバット』『インプ』の群れを相手していた。椿としてはここでハジメの【本質】を見極めようとしたのだが失敗に終わった。

 

理由は簡単である。()()()()()()()()()()()()からである。

 

モンスターから攻撃は全て一時停止のより完全防御。そして喰らった衝撃をそのままお返ししているだけ。周りから見たらただ佇んでいるハジメにモンスターが群がり自滅しているようにしか見えない。

まるで光に集まる虫がその光の熱に殺られているのと同じだと感じた。

 

 

「しかもその「石火」という短剣。完全に使い物にならん筈なのにモンスターに貫通しておるし……」

 

「力業なんですけどね」

 

「何なんじゃおぬしは!!これでは手前は何も作る必要がないではないか!!!」

 

「ですから作らなくてもいいといったんですけど」

 

「ふざけるではない!!そんな事をしたら手前のプライドが許さぬ!!絶対に作ってやるから覚悟しておけ!!!!」

 

「ということはまだ潜るんですね」

 

 

やっと帰れるかと思いきやまだ諦めていない様子の椿の姿を見ながらため息をつき、次にハジメ達が向かうのは9階層。

 

 

「もうベル達に会っても良い頃なんですが…どうやらかなりのペースで進んでますね」

 

「それをおぬしがいうのか?おぬしこそ本当にレベル1なのか疑わしいぐらいのペースで潜っておることに気づいておるか?」

 

「そうなんですか?ベルと一緒の時は合わせて潜ってましたし、アイズ姉の時は同じスピードだったので特に気にしてませんでした」

 

「いや一級冒険者と同じペースの時点でおかしいと……思わんからこうしておるんじゃったな……」

 

 

あの時はアイズもリヴェリアも特には何も言ってこなかった。それもそうだ、あの時はハジメの一時停止に驚いており、尚且つハジメのようなレベル1と一緒にダンジョンに潜る機会もない。なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

椿は武器の試し切りなどでこういう機会もあったからこそ言えるのだが、それでも初めは普通のペースで潜っていたために気づくのが遅かった。

 

 

「しかしどうしてベルと一緒に行かぬ。おぬしの実力なら三人でいけば中層へもいけるだろう」

 

「それは無理ですね。リーリが隠し事している間は一緒にいけません。というか僕の姿は見えませんから」

 

「確かそれがおぬしのスキルだったの。なるほど信用に値せぬものと共に行っても三人ではなく二人になるの」

 

「はい、まぁベルにはある意味()()()()()()()と思ってリーリと一緒にダンジョンに潜ってもらってますが……さて、そのソーマファミリアはどうしてくれましょうか………」

 

「な、なんじゃい、おぬし……なんか急に雰囲気が変わったぞ……」

 

「すみません、ちょっと苛立つことを思い出しまして」

 

 

平然としているように見えるハジメだが、未だに頭の中ではソーマファミリアを文字通りに【消し去ろう】と考えていた。だがリューに嫌われたくないという理由が今のハジメをとどめている。

もし、そのとどめているものが決壊したら恐らくソーマファミリアは……

 

 

「!!!?」

 

 

突然何かを感じたハジメ。殺気や視線、虫の知らせとは違う、何かを忘れていた大事なモノを突きつけられたような感覚が……

 

 

「どうしたんじゃ手前。よく分からんが気分が悪そうに見えるの」

 

「大丈夫です。ちょっと何かを感じたような気がしたので」

 

「特にはなかったが…気を付けた方がええかもしれんな。大体こういうのは生死に関わることが多い。おぬしではなく周りかもしれんしの」

 

「……ならツバッキーも危ないですね」

 

「そうじゃな!!しかしおぬしの武器や防具を作るためじゃ!多少の危険なぞ知ったことか!!」

 

 

高笑いしながら先頭を行く椿。その姿を見ながらさっきの感覚についてハジメは何か思い出しそうとしていた。しかし何かが引っかかりそれ以上思い出せないと感じたハジメはそれを頭の片隅に残しダンジョンの深みへと歩みを進めた。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「ふふふ、面白くなってきたわ」

 

 

『神の鏡』と呼ばれる、下界で行使を許された『神の力(アルカナム)』がある。本来は天界から下界を覗くための千里眼めいた一方通行の能力。

神が催しのみしか使用を許されていない、バレたら即刻天界へ強制送還である。

しかしそれでもフレイヤは『神の鏡』を使用していた。

周囲にいる(おとこ)を誑しこみ『今日1日限り』『どの【ファミリア】にも不利益をださない』『ダンジョンの一部分』という誓約のもと、リスクを承知で一本の抜け道を作り出していたのである。

 

 

「さぁ、私に見せてあなたの輝きを。あなたの魂の輝きを」

 

 

これから始まるだろう一戦。

見逃すわけにはいかない。

全てはベルの魂が、その魂の輝きを見るために。



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影が薄いからこそ登場シーンがカッコいいです。

「霧……」

 

「気を付けてくださいベル様。離れると合流が難しくなります」

 

「うん、リリも気をつけて」

 

 

10階層

深くない、けれど視界を妨げるには十分の白い靄がダンジョン中に立ち込めていた。

10階層のダンジョンの作りは8~9階層の形態をそのまま引き継いでいる。

 

 

(それにしても…案外としっくりとくるなぁ、コレ)

 

 

見失わないようにリリの気配を割くのと並行して、手の中にある《バゼラード》を見やった。

使い勝手は上々で、リーチの長さあり安全地帯から楽に攻撃を仕掛けられる気分になる。しかし威力はやっぱり《神様のナイフ》ほど見込めないが十分である。

ベルが《バゼラード》に意識していることに気づいたらリリは、

 

 

「ソレ、気に入ってもらって良かったです」

 

「うん、ありがとうリリ。でも良かったの貰っても?」

 

「はい、言ってしまえば慰謝料みたいなものですから」

 

「慰謝料って、なにを…」

 

「ベル様!!来ました!!」

 

 

リリの言葉の真意を聞こうとしたがモンスターは待ってはくれない。低い呻き声とともに大型級のモンスター『オーク』が姿を現した。

 

 

「はぁ……大きいね……」

 

「逃げてはいけませんよ、ベル様?」

 

「もちろん、ここで逃げたらガレスさんに怒られるよ!!」

 

 

そうガレスさんが言っていた、いつかは当たるだろう大型級のモンスター。一度怯んでしまうと懐に踏み込むのに躊躇してしまい、その一瞬が命取りになると。

そしてリヴェリアが教えてくれた。この10階層のオークは『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』を使うということを。迷宮の自然の一部を武器に変えてしまうダンジョンの厄介な特性を。そして『迷宮の武器庫』を使わせる前に倒すか『迷宮の武器庫』事態を破壊するということを。

 

だからベルはまず距離的に近い『迷宮の武器庫』を破壊することにした。《バゼラード》で一閃による攻撃で『迷宮の武器庫』は半分になり追い討ちをかけるように連撃をする。その間に近づいてきた『オーク』はベルに近づこうとするがリリがボーガンによる牽制をして近づかせないようにしている。

その状況を見て判断したベルはオークに近づき、首筋に深く切りつけた。全く反応出来なかったオークは訳も分からないまま絶命した。

 

 

「ありがとうリリ、助かったよ」

 

「私は何も…」

 

「そんな事をないよ。よし!今のうちに『迷宮の武器庫』を減らせるだけ減らして……」

 

 

そう言いながらベルは周りの『迷宮の武器庫』を破壊しようと動き出す。もちろんリリとの距離を考えて範囲を決めて

 

 

(……やはりベル様は、他の冒険者とは違う……)

 

 

あの状況でまず『迷宮の武器庫』を壊すことはしない。壊している間にさっきのようにオークが近づいて攻撃をしてくるからだ。ならまずはオークを倒して『迷宮の武器庫』を破壊するのが定石である。

しかしベルは違った。まるで「リリを信用しきっている」ようだった。さっきまでいた8~9階層とは違いこの10階層は初めてなのだ。出てくるモンスターも初めて。なのに完全に任せたのだリリに。

 

 

(……だから、ダメなんですよ…ベル様……)

 

 

ベル様は今までの冒険者とは全然違う。冒険者としても、人としても……

だから辛かった。私がしていることが知られたらきっと幻滅する。いや、それならまだいい。一番耐えられないのは……

 

 

(……私を、恨んでもいいです…ですから……)

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「ふぅー。これだけ削れば」

 

「お疲れさまです、ベル様」

 

 

粗方の『迷宮の武器庫』を破壊し、その間に出てきたオークはまず機動力を削ぎとっていった。そして後で脳天を《バゼラード》で貫っていった。普通は頭蓋骨もあり簡単ではないが、力の入れ方・角度などでかなりやり易くなる。絶命したオークの後には魔石が残り回収をしようと思っていたが

 

 

「ちょっと休憩しませんか??

魔石はリリが回収しますので、少し休んでいてください」

 

「でもまだオークが…」

 

「離れた所にはいきません。ベル様が見える範囲内だけですから」

 

 

そういって魔石を回収に向かったリリ。ベルは近くの岩に腰かけてダンジョンに入る前にリリから渡された飲み物を手に取った。

流石に疲れて喉がカラカラだったのかその飲み物をイッキ飲みして喉を潤した。その間もリリが遠くに行っていないか気配を感じながら視界に入れながら注意をする。

 

 

(今日のリリ、なんか様子が変だよな……)

 

 

こうして休憩して思った。

モンスターと戦っていたときは気づかなかったが、何だか自分から避けているように感じてきた。いつもは自分の近くで戦っていたのに複数との戦いになると一番遠いモンスターと戦おうとする。その時はリリの元へいち早く向かおうとして《ファイアボルト》を使い一掃したり、スピードを生かしてリリの近くに向かい一緒に戦うことにしていた。

 

でもそんな事をリリがするなんておかしい。

そんな効率の悪いことをするなんて……

ましてやサポートが、冒険者のサポートを避けているみたいで……

 

 

(……あ、あれ……??)

 

 

すると突然眠気がベルを襲う。

疲れたといっても軽い運動が続いた程度。眠気が襲うほど身体も心も疲れていない。

 

 

(……ど、どうして……)

 

 

考えもできずにベルはそのまま眠りに落ちた。

そしてそれを見計らってリリがベルの元へ戻ってきて、大胆にベルから『神様のナイフ』を抜き取る。ついでに金目になるものは全部抜き取り、《バゼラード》と防具だけの状態になってしまった。

 

 

「…もし、これでもまた会えたら……」

 

 

それ以上の言葉は言わずにリリはその場にベルを残して9階層へと戻っていった。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「……な、何だ…この臭い…は……」

 

 

何かしらの強い異臭により目が覚めたベル。それは本当に運が良かったとしか言えない。あの【睡眠薬】を通常の二倍に濃くされたモノを飲んだのに関わらず短期間で目覚めたのだから。

そして目覚めて脳が未だに覚醒してない中で、細めた目で見えたものは拳を振り下ろそうとした【オーク】だった。

 

 

「!!?」

 

 

頭で考えずに反射神経で行動出来るようにとベートから仕込まれた緊急回避。何が起きたのか頭で考えるよりも早くに身体が動きだし【オーク】からの攻撃を間一髪で真横に転がり回避した。

やっと思考が追い付いて来たときには状況が最悪であることに気づいたベル。周りには10体以上の【オーク】がベルを狙って来ていた。いやベルではない、正確にはベルの足元にある生々しい血肉。狩りの効率を上げるためにモンスターを誘き寄せるトラップアイテム……。

そうこれがここに集まった【オーク】を引き寄せたのだ。

 

 

「━━━━━」

 

 

こんな最悪な、死にも繋がる状況。

それでもまだベルは絶望はしていない。

すぐに自分の持っているものを把握する。

どうやら持っているのは防具とこの《バゼラード》の2つだけ。金品もドロップアイテムもマジックポーション

も、そして『神様のナイフ』も持っていなかった。

 

それでもまだ絶望はしない。

【オーク】は10体以上いるが全て倒す必要はない。いまはここにいないリリを探し出すことが先決である。ならこの場から逃げ出せればいい。そして【オーク】の周りには『迷宮の武器庫』はなく天然武器(ネイチャーウェポン)を持っている【オーク】もいない。

 

なら、まだ絶望よりも希望が大きい。

フィンがよく言っていた。どんな絶望があっても小さなものが大きな希望にもなりえる。だから常に頭を働かせて僅かでなものでも見過ごしてはいけないと教えてくれた。

 

 

「………ど、け……」

 

 

手に持った《バゼラード》を強く握る。

朝からリリの様子がおかしかった。でもそれを知らないフリしていた。例えこういう状況がリリが起こしたとしてもそれは自分が止めれたことはず。

ならリリはきっと苦しんでいる。苦しまなくてもいいのにきっと苦しんでいる。ならそこから助けないといけない。もうリリを苦しませないためにも僕は、

 

 

「そこを、どけええええええぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

リリの元に行かないと行けないんだ!!

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「人が良すぎですよ、ベル様」

 

 

リリは9階層へ戻り一人呟いていた。

荷物の中にはベルから盗んだ金品とドロップアイテムと『神様のナイフ』が入っている。これを質に入れればきっと目標金額に届くはず。

 

リリは最初からベルのお金と『神様のナイフ』が目当てだった。いまいる環境から抜けだすために、ソーマファミリアから脱退するために売り払い金を集めていた。

それならひったくりだけでいいのだが、自分をこんな風に陥れた冒険者に仕返しがしたくてあえてサポーターとよそい盗みを働いていた。

 

しかし、ベルと出会ってしまい罪悪感が生まれた。

どうしてリリを蔑んだりしないのか?

どうしてリリをもの扱いしないのか?

どうしてリリをこんなに信じてくれるのか?

 

一緒にいればいるほどその罪悪感は募っていき、もうリリの心は限界に近かった。だから選んだのだ、ベルから離れようと。ただのお別れではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() を選んで。

 

 

「これで、良かったです。こうしないとリリは……」

 

「何が良かったんだよ、この糞パルゥムよ!!」

 

 

突然の声に振り向いたリリの身体に衝撃が走る。どうやら相手から腹に向けて殴れたようであまりの痛さにその場に踞ってしまった。

 

 

「そろそろあのガキから離れるころだと思ってよ。てめえが使える道は限られている。仲間と網を張っていたがオレの所に来てくれるなんてな。」

 

「……… (ァ…ッ)………」

 

「コレも旦那が色々教えてくれたお陰ですわ」

 

 

その冒険者の視線の先、リリも苦しみながらも向けた視線の先を見てみるとそこには

 

 

「よぉ、アーデ。元気にしてたか?」

 

「……カヌゥ様……」

 

 

そこには同じ()()()()()()()()である中年の獣人カヌゥだった。そう全てバレていた。ベルから盗みを働くのもそしてリリがどうして盗みをしているのかという理由も。

 

 

「最近えらく調子いいみたいだな。だからよ、オレにもちょっと分けてもらえねぇか?」

 

「リ、リリは別に調子いいわけじゃ……」

 

 

するとカヌゥは有無も言わさずにリリの腹におもいっきり蹴りを喰らわせた。喘ぎ声も出ないほどの苦痛にのたうち回るリリを尻目にカヌゥは持っていた荷物を奪い取り

 

 

「ほう、なかなかの金額じゃねえか。それもこんなにドロップアイテムもある。これのどこが調子が悪いんだ、ええ??」

 

「……か、かえ……」

 

「それにてめえ魔剣まで持ってやがったのか!!これどうしたんだ?冒険者から盗みとったのか!!」

 

 

次々に持っていかれる荷物にリリは何も出来なかった。

いつの間にか他の冒険者も集まっており、どうやってもどうすることも出来ない。そんな中冒険者同士で山分けを始めており、それを見たリリはあるものだけは守ろうとした。

まだ気づかれていない。ただあれだけは、この懐にある()()()だけは渡せない。そう力んでしまったのかナイフがある所を無意識にギュッと握ってしまったリリの姿を冒険者が見てしまった。

 

 

「旦那、こいつまだ何か隠してますぜ」

 

「だろうな。おいアーデ、お前が溜め込んだ大金どこにある?」

 

「な、なんのこと……」

 

 

するとリリから奪ったボーガンを手にしたカヌゥは、リリの肩に向けて矢を放った。あまりの激痛に声を上げるリリに対して静かにさせようと再びカヌゥがリリの腹を蹴り上げる。

 

 

「惚けるんじゃねぇ、こっちは分かってるんだよ。てめえがソーマファミリアから脱退するために貯めている大金があることをな。そうじゃなきゃわざわざてめえみたいなパルゥムの相手なんざしねえよ!!持っているだろ、大金を隠している鍵をよ。さっさとだせ!!!」

 

 

出すわけにはいかなかった。確かに鍵は首からかけて持っているがこれを渡したら今までの苦労が……

 

 

「なるほどな、出さねえつもりか。ならこっちにも考えがある」

 

 

そういってカヌゥが大きな袋からあるものを取り出してリリの元へ放り込んだ。それはキラーアントの子供でありすでに死にかけていた。ただそれだけならなんの脅威にもならないがキラーアントにはある習性がある。

 

瀕死のキラーアントは仲間を呼び寄せる。

 

 

「分かってるだろう、もう少しでここにキラーアントの大群が現れる。どうやってもてめえじゃ勝てねぇ。さていまここで俺達が離れたらどうなるか分かるよな?」

 

「……そ、そんな……」

 

「さぁ出せアーデ。別にてめえが喰われた後にキラーアントを片付けて鍵を取ってもいいんだぜ。それをあえてこうして選択させてるんだ。答えは分かるはずだ」

 

 

そうリリに残された選択は1つしかない。

それを逃したら間違いなく死んでしまう。

震える手で首からかけた鍵を外してゆっくりとカヌゥへと渡す。

 

 

「それでいいんだよ、アーデ。所詮てめえは道具なんだからよ」

 

「ッ!」

 

「ほらよアーデ。これでてめえは助かるぜ」

 

 

そういってカヌゥはもうひとつの袋をリリの前に放り込んだ。それはここから抜け出すためのアイテムかと思ったが、それは()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ま、まさかこれって……!?」

 

「助かるぜ。もう何にも縛られなくてすむんだからな!!!!」

 

 

袋の中身を見なくても分かる、この中身は瀕死のキラーアント。ただでさえ大群がくるというのにその二倍がいまここに向かっているのだ。

 

 

「長居は無用だ。さっさと離れねえと巻き添えをくらうぞ」

 

「そうですね旦那」

 

「リリを!!リリを助けて下さい!!!なんでもしますから!!お金も何とか渡しますから!!!」

 

「そりゃ魅力的だが、もうパルゥム(道具)には用はねえよ」

 

 

その言葉で気づいた。最初からリリをここで殺すつもりだったと。その絶望に血の気が引くリリの表情を見て笑い出す冒険者達。

いつもなら悔しくて恨んで憎しみで心が張り裂けそうになるのに、もうなにも考えられないくらい頭が真っ白になっていた。

そして笑っていた冒険者達の一人があることに気づいた。さっきまでいたカヌゥがいないことに。

 

 

「お、おい。旦那はどこにいった!!」

 

「し、知らねえよ!!」

 

「やべぇぞ…もうキラーアントが近くまで来てるはずだ」

 

「に、逃げろおおぉ!!!」

 

 

突然慌てて駆け出す冒険者達。この冒険者達もカヌゥ無しではキラーアントの群れから切り抜けないと言うことが分かっていたようであり、そして走りだした先で

 

 

「ぎ、ぎゃああああぁぁぁぁ!!!」

 

「や、やめがぁぁぁぁぁ!!!」

 

「誰か助けてくれ!!!」

 

「………だれ………か……」

 

 

断末魔が聞こえてきた。ついさっきまでリリをバカにしたいた冒険者が次々に死んでいったのだ。そしてカサカサと多くの重なりあった音が近づいてくる。

 

 

「………………」

 

 

声もあげられなかった。目の前に大量のキラーアントがいるのにも関わらずに。もう少しで死んでしまうかもしれないというのに不思議と恐怖がなかった。

そういまリリが感じているのは恐怖ではなく、諦めだったから。

 

 

「……やっぱり、天罰ですかね……そうですよね。こんな悪いことをしたリリが…最後を向かえるには丁度いいかもしれません……」

 

 

自分の死を受け入れていた。これまでやってきた悪行を考えると仕方ないと、受け入れるしかなかった。

 

だけど一つだけ後悔があった。

この懐にある『ナイフ』、そしてこの持ち主に対してどうしても後悔しか思い浮かばないのだ。

 

 

「……べ、ベル様……ごめんなざい……リリは…リリは……とても悪いパルゥムでしだ……でも、でも、もう一度……会えたら……生まれ変われたら……リリは……」

 

 

リリの周りを取り囲むキラーアント。すでに狩れる範囲まで迫っていた。リリは死を覚悟して目を瞑り、

 

 

「……もう絶対に嘘は…つきまぜん……裏切りまぜん……だがら……リリをもう一度……」

 

 

キラーアントの牙がリリの身体を、

 

 

「……仲間とよんでぐれまぜんか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら本人に聞いてみないといけませんね」

 

 

声が聞こえた。まだ身体に痛みはこない、まだ死んでない。誰かは分からないがその声が気になってゆっくりと目を開けるとそこにはキラーアントが襲いかかろうとしていた。

 

 

「き、きゃああああぁぁぁぁ!!!」

 

 

命が助かったと安心したため、襲いかかろうとするキラーアントに対して命が欲しくなったリリは本能的に離れようと後退する。しかし後退してもキラーアントは襲ってこない。それどころか襲いかかろうとしたところで動いていないのだ。

 

 

「……一体、なにが……」

 

 

よく周りを見るとキラーアントの群れの一番前の個体だけが同じように固まっている。まるで作り物のように。

 

 

「僕の姿は見えないと思いますが声は聞こえますよね」

 

「だ、誰ですか!!あなたがこれをしたんですか!!

なにが目的ですか!!リリのお金ですか!!!」

 

「さっきまで死にかけていた人がいう割には元気がありますね。意外や意外にベルベルは人を見る目があるんですね」

 

「……ベルベル…って、……もしかしてベル様………」

 

 

姿は見えない。見えないけど確かに()()ことは感じる。そして何故だがそれに対して恐怖心がない。もしかしてベル様の関係者だから……

 

 

「初めまして。ヘスティアファミリアのトキサキ (ハジメ)といいます」



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影が薄くても仲間の為に行動します。


どうも!!
結構早く更新できました。
やはり盛り上がるところは一気に書けますね。
久しぶりに「とある」も更新しまして、「あっ、こんな感じて書いていたなー」と思い出して昔の感覚が百戸ってような気がします。
よし、この調子で更新頑張ります‼




「ヘスティア…ファミリア……」

 

 

確かにそう名乗った。ベル様と同じファミリア。

いつかベル様が紹介してくれると言ってくれた仲間

その人がいま、見えないけどいまここに、いる。

するとキラーアントの群れの向こうから声が聞こえてきた。

 

 

「こらー!!!儂を置いて先に進むではない!!!」

 

「すみませんツバッキー。後始末はよろしくお願いしますね」

 

「ふざけるではない!!あぁーもぅー!!手前ら邪魔じゃー!!!」

 

 

椿は手に持った刀でキラーアントを切り裂いていく。

先ほど殺られた冒険者とは違い、苦戦することもなくただ邪魔だから切るという発言道理に動作をしているだけ。

 

 

(す、スゴい……キラーアントを簡単に……)

 

 

今まで冒険者と一緒にダンジョンに潜ってきたがあんなに強い人は見たことない。ならいまこっちに向かってきているのは、

 

 

(……一級冒険者……それもツバッキーって…何処かで……)

 

 

そんな事を考えているとキラーアントの群れを一直線に切り開いてきた椿は、ハジメが停止させたキラーアントを飛び越えて安全圏へと入ってきた。

 

 

「どれだけキラーアントを呼び寄せとるのじゃ!

儂とてあれだけの数は骨が折れるぞ!!」

 

「ご苦労様です。ですが後ろ見てください」

 

「なっ!?」

 

 

この安全圏を作った防波堤(停止したキラーアント)の上を器用に登ってきたキラーアントは、その足をうじゃうじゃと動かす姿が丁度視線の高さにあるため、もうなんかちょっと、

 

 

「き、気持ち悪い!!」

 

「もう少しリーリと話すことがあるので少しの間よろしくお願いします」

 

「それを後回しにして手伝わんか!!って、無視をするな!!」

 

 

ハジメの姿が見えないのでどういうことが起きているのか分からないが、どうやらこの女の人を無視してリーリ()??の方を見ているみたいだ。確かに異様な視線が前からある気がするのだが全く見えない。

 

無視をされた椿は「覚えておれ!!」と叫びよじ登ってくるキラーアントを左右に移動しながら安全圏に侵入されないように撃退している。

 

 

「足が、足が気持ち悪いのじゃ!!はよ、話すことを話して手伝え!!!」

 

「了解です。

さてリーリ、君には聞かないといけないことがあります」

 

 

この状況下でハジメがリリに聞きたいこと。

なんとなく、いや、言われることが想像出来ていた。

 

きっとここにいないベル様ことだと。

ならどうしてここにいないのかと。

何故一人でいるのかと。

 

それを聞かれたらもう素直に話すしかない。

誤魔化してその場をやり過ごそうが、正直に話そうがきっとどちらとも同じ罰を受けることになる。

なら、ここは正直に話してしまおう。

 

そう決めたリリはゴクリと唾を飲み込みその言葉を待った。

 

 

 

「リーリ、君は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃんと年齢に応じた下着履いてますか?」

 

「貴方があの時の犯人ですかああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「何を変態じみたことをいっとるのじゃ手前はああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

それはもうこの絶叫でキラーアントを倒せるじゃないかと思うぐらいの大声を上げる二人。現にキラーアントが少し後退をして何故か進行を躊躇っているようだ。

それを確認したのか、もう言わずにおれなくなったのか、椿はハジメの所に近寄り胸元を掴んで吊り上げた。

 

 

「そんな下らない事を言うために儂にあんな気持ち悪いものと戦わせておったのか手前は!!!」

 

「重要ですよ?」

 

「下らない事とは何ですか!!?この人は人の部屋に無断で入って来たんですよ!!!それも勝手に乙女の部屋を物色して下着まで見られたんですから!!!!」

 

「女の子が住むにはあまりにも酷かったもので」

 

「酷いのは手前の頭じゃ!!!」

「酷いのは貴方の頭です!!!」

 

 

正直殴ってやりたかったが攻撃が効かないと分かっている椿は、考えも無しに安全圏からハジメをキラーアントの群れに向かって投げ飛ばした。

姿が見えないリリだが、椿の動作を見てそこにハジメがいることは分かっていた。しかしそのハジメが椿の手により投げ飛ばした動作を見てしまうと流石に血の気が引き

 

 

「な、な、何をしているんですか貴女は!!!

確かに死に値することをしましたけどキラーアントの群れに投げなくても!!!あのままだと死んじゃいますよ!!!」

 

「…なんじゃ、手前は優しいの。

あれぐらいのことをせんと腹の虫が収まらぬと思っておったが」

 

「し、下着を見られたのは嫌でしたが…部屋はもう快適になりましたので………って、言っている場合ではないですよ!!!はやく助けないと!!!」

 

「心配入らぬ。あれぐらいで死ぬなら儂は苦労しとらんわ」

 

 

それはどういう意味なのかと思っていると飛ばされた位置から突然に土煙が上がり、次の瞬間にはキラーアントの群れの一部が直径三メートルの穴を開けるように()()()

比喩でもなんでもない。言葉の通りにキラーアントの群れが何かに押し潰されたように倒されたのだ。

そして次から次へと同じように群れが潰され丸い穴が空いていき最終的にすべてのキラーアントが潰された。

唖然としていたリリの近くに何が落ちてきた音がし、そこへ椿が近寄っていき、

 

 

「手前、一体何をしたのじゃ?

あんな倒し方見たことがないぞ」

 

「空気を一時停止させた後にその上から止めていた衝撃を解除さてました。するとまるで階層主級に潰されたみたいになります」

 

「……全然参考にならん戦いじゃ……」

 

 

はぁーとため息をつく椿。だがリリはそれどころではなく、

 

 

「く、空気?一時停止??衝撃???

一体何を話しているのですか??」

 

「リーリは知らなくてもいいですよ」

 

「いや、あんなの見せられて!!」

 

「それより言わないといけないこと、ありますよね?」

 

 

それには思わず身体がビクッと反応した。さっきの衝撃的な発言で忘れていたがリリにとっては未だに危機から逃げていない。仲間であるベル様を置いてきたなんて、それも盗むことを目的として近寄り、自分の身が危ないと感じてベル様を窮地に追い込んだなんて……

 

 

「そ、それは……」

 

「でも僕に話しても何も解決しませんし、こういうのは本人に話さないといけませんね。ということでベルベルがいるところまで案内お願いします」

 

「えっ??で、でも…ベル様は………」

 

「何をしたかは聞きませんよ。聞くとしても僕の目でリーリの目で確認してからです。まぁ、大方()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってところじゃないですか?」

 

「ッ!!!??」

 

 

図星に身体がまたビクッと震えた。いやそれだけではない。いま自分の身に起こったことを自分がベルにしたという現実が襲いかかってきた。あの恐怖を孤独をベルが味わっていると思うと、罪悪感や孤独感や恐怖が頭や心を埋め尽くしていく。

だから気づかなかった。その言葉を聞いてビクッと震えただけではなく今もずっと全身が震えて顔が青ざめていることに。

 

 

「あら?当たってしまいましたか」

 

「んな呑気に言っている場合かあ!!

手前の仲間は手前とは違い普通の冒険者(レベル1)じゃろうが!!」

 

 

すると椿はリリの胸元を掴んで吊り上げ

 

 

「言え!!はよ行かなければ並みの冒険者では死ぬぞ!!!」

 

「……もう…無理…ですよ……」

 

「!!!手前はぁ!!!!」

 

 

思わず手を出してしまう椿に対してリリは目を瞑らなかった。こうなることは分かっていた。リリはダメな子だから仕方ない。それにベル様を殺してしまったのだから暴力されても…

 

 

「はい、ダメですよツバッキー」

 

「なっ!!?止めるなハジメ!!!」

 

 

何をしたのか分からないが当たるハズの拳が途中で止まっていた。それも拳を受け止めて止めたようには見えず、まるで拳そのものを、攻撃を、動きを止めてしまったような止まり方をしている。

 

 

「こんな事をする前に確認です。

確認しないことには何も始まりませんから」

 

「手前はそれで良いのか!!?

間違いなくこの手前は仲間を裏切り、さらに何かの方法でモンスターを大量に呼び寄せて一人にしたのだぞ!!!

それがどういうことか、手前でも分かるはずじゃ!!

なのに何故そんな冷静でいられる!!?手前は仲間ではないのか!!!!」

 

 

そうだ。この姿の見えない冒険者はおかしい。

仲間が死んだかもしれないのに、こうしてその原因が目の前にいるのにどうして冷静にいられるのか?

あのベル様のお仲間ならきっとベル様を大事にしていると思ったのに……

 

 

「大丈夫ですよ。今日ステイタス更新したそうですから。それに()()()()()()()()()()()()()。」

 

「確かにステイタス更新すれば強くはなる。だが、」

 

「とにかく行きましょう、見てみれば分かります」

 

 

その自信満々な言葉と冷静な態度に椿はこれ以上は言わなかった。もしかしたら何かあるのかと思ってしまったのか、呆れてものが言えなくなったのか…

何も言わずに掴んだ手を離してリリを解放した。

それと同時に椿の腕自体も動くようになったようだが、リリはそれどころではなく未だに顔が青ざめていた。

すると何処からか声が、見えない冒険者から、優しい声が、

 

 

「ベルベルなら大丈夫ですよ。

なにせ()()()()()()()()()()()()()()()()()から徹底指導されてましたから」

 

「………誰ですかそれ……」

 

 

その声は、更なる不安しかなかった。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「そ、それでは貴女はヘファイストス・ファミリアの団長なのですか?」

 

「そうじゃ、団長の椿・コルブランドじゃ」

 

 

10階層に走りながら自己紹介をしてもらったリリは衝撃を受けた。ヘファイストス・ファミリアといえばヘファイストスが主神であり、鍛冶の神としては他の追随を許さないほどの技術を持っており、それに裏打ちされたヘファイストス・ブランドは冒険者の間で最も信頼が厚いと言われている。

 

その中でも【ヘファイストス・ファミリア】の頂点に君臨するのが椿・コルブランドであり名実ともにオラリオ最高の鍛冶師。ダンジョンで自らの武器の試し斬りを続けたことで強くなり、鍛冶師でありながら第一級冒険者級の戦闘力を誇ると聞いたことがある。

 

そんな凄い方がどうして名も知れないファミリアの、それも聞いた話だとレベル1の冒険者と一緒だなんて……

 

 

「どうして椿様が、その……えーと……」

 

「言いたいことは分かるわい。しかし手前もさっき見たはずじゃ、あれはレベル1ではありえん力だと」

 

「そ、それは……」

 

「まぁ、一番の理由はそんな規格外の奴の武器や防具を作ってみたくなったのじゃ!!それだけでは理由としては弱いかの??」

 

「い、いいえ!そんなことはないです!!!」

 

 

それだけの理由とはいうがきっとそれは自分では想像できないほどの思いがあるのだろうとリリは感じた。

実際椿は規格外すぎて何をどうしたらいいか分からなくなっている。だなんて言えない。言う必要がない。

 

そこからしばらく黙ったまま走っていたが、

 

 

「リリと、申したな。儂はまだ手前を()だと思っておる」

 

「は、はい……」

 

「それでもこうして一緒におるのはベル坊の安否を確かめるためじゃ。もし最悪、いや、冒険者としての生命が絶たれておったら……儂は手前を切る」

 

「ッ!!!」

 

 

分かっていた。分かっていたいたがこうもハッキリと言われると恐怖で身体が動かなくなりそうだった。恐怖で息を止めてしまいそうだった。それでも心の何処かでベルの無事を信じている希望があるからなのか…その足を止めずにすんだ。

 

 

「何を言っているんですかツバッキー」

 

「手前は黙っとれ。

手前のファミリアの問題だということは分かっとる。

しかし儂は手前のように冷静ではいられぬ。この感情を押し殺したままではおられぬ。やったらやり返すなどと子供じみたことだとは分かっていてもなお儂は……」

 

「ツバッキーはいい人ですね」

 

「な、なんじゃいきなり!!!??

大体手前が罵声の1つでも言わんから儂が!!!」

 

「……そこまでいうのでしたら1つ」

 

 

何故だろう。さっき椿様が怒ったような恐怖の感じではなく、冷たく、痛く、まるで氷のようなものがリリの周りを………

 

 

「この先、また同じようなことをしたときは止めます」

 

「……えっ、それは……どういう……」

 

「言葉の通りですよ。()()()()()()()

 

 

分かった。分かってしまった。

これは殺気だった、それも氷ように冷たく、肌にヒリヒリと感じる、本当に()()()()()()()()()()()()()()じゃないかと思わせる殺気が伝わってたのだ。

それを感じた時にはリリの足は動かなくなり、呼吸さえも忘れてしまい、その場に倒れてしまった。

 

 

「お、おい!!!」

 

「……やっぱりやり過ぎましたね……」

 

「なんじゃさっきの殺気は!!?」

 

「うまいですねツバッキー。「さっき」と「殺気」をかけたんですね」

 

「て・ま・え・はー!!!!」

 

「すみません。どうも昔から感情をコントロールするのが難しくてですね。とくにこういう感情を出すときがやり過ぎてしまいまして」

 

 

だから抑えていた。

なんて言葉では簡単だが感情をそうも簡単には抑えることが出来るのか??そしてコントロール出来ないほど強い感情を持っているということなのか?

 

しかしそれ以上は聞かなかった。

そこからはプライベートなことであり、きっとハジメも聞かれたくないだろう。

そう思いとにかく倒れたリリを背中で担ぎあげた椿は

 

 

「しかし手前が起きんと正確な場所が分からんぞ」

 

「……そうでもなさそうですよ」

 

 

小さな声で言ったハジメに何かあるのかと言葉を止めて静かに耳を澄ませてみた。すると遠くの方からザザザザと何かが駆けるような音と、ザスッと肉を裂くような音が響いてきた。

 

 

「どうやら近いみたいですね」

 

「急ぐぞ!!」

 

 

その音は恐らく10階層の入り口から聞こえて来るものだろう。そしてその音は恐らく………

音が聞こえてくる距離だからだろう、10階層に近づいてきたようで二人の視界では遠くの方に小さな光が見えていた。

 

洞窟を走り抜けて拓けた所に出てきたら突然に眩い光が視界を奪った。あまりの眩さに一時見えなくなっていたが少しずつ視力が戻ってきた。そしてそこで椿が見たものは、

 

 

「こ、これは……」

 

 

そこには恐らくオークと思われる真っ黒に焦げた三体の死体があった。そしてその前には息を切らしているベルは未だに戦闘態勢を崩さずにいた。そうまだ周りにはオークが複数存在している。

 

 

「ぶ、無事であったか!!いま手助けに」

 

「ダメですよツバッキー。手を出さないでください」

 

「な、何を言っておる!!?もう立っているのもやっとではないか!!」

 

「ダメです。いまベルベルは戦っているんです。

そしてそれは……リーリがキチンと見ないといけないことなんです」

 

 

その言葉に椿の背中で動きがあった。それを感じた椿は何も言わずにしゃがみこむとリリはゆっくり背中から降りた。未だにその目で映る光景が信じられないのか確かめるように一歩一歩ともっと見える場所へと歩きだす。

 

 

「……うそ…です……」

 

 

信じられなかった。確かにそこいらのレベル1よりもベルは強いと思っていた。だが、それでもレベル1の枠から離れているなんて思っていなかった。そしていま息を切らしながら再びオークへ駆け出すベルは

 

 

「…あの方は…本当に…本当にレベル1なんですか……」

 

「そうですよ。間違いなくレベル1です」

 

「でもあの動き、スピード、判断、力どれもレベル1なんて思えません!!!」

 

「それはそう感じますよね。ステイタスには()()()()()()()()()()()()なんて書いてませんからね

あっ、ステイタスに影響してないというわけではないですよ。ただですね、いまのベルの戦い方は間違いなくレベル1ではないでしょうね」

 

 

そんな屁理屈で…と思うが現に、今現在ベルはオークと戦っている。そしてそのオークを

 

 

「……圧倒している……」

 

 

囲まれた状況にも関わらずにベルはまるで何処から攻撃が来るのか分かっているかのように回避して、そのままスピードを上げて確実な急所を狙い攻撃が当たる瞬間に力を一気に加えて致命傷を与える。それを繰り返しながらあっという間に囲んでいたオークを全滅させた。

しかしまだ正面には五体のオークが近づいていた。

そしてベルはもう倒れそうである。あれだけ動けばもう倒れ込んでもおかしくないのにまだ立っている。

 

 

「……こを……け………」

 

 

何かを言い一歩、一歩とオークに向かって歩く。それを見ていたリリも思わず駆け寄ろうとしたが何かに遮られた。

 

 

「なっ!?ど、退いてください!!もう十分じゃないですか!!ベル様はもう」

「いえ、まだです。ベルベルはまだ立ってます。そしてまだ戦おうとしてます」

 

 

その言葉にリリはもう一度ベルの方を見る。未だにベルはオークに向かって歩いている。もしかしてベルは「逃げる」という選択肢が見えていなく「オークを倒す」と言うことしか見えていないのか?

 

 

「……そこを…どけ……」

 

「……えっ……」

 

 

違う。ただ倒すだけならそんなセリフは言わない。

ならどうしてオークが何かに対して()()()()()かのようなことを……

 

 

「……リリを……リリを助けるんだ……」

 

「……べ、ベル…様……」

 

 

自分の名前を言われてやっと分かった。

一体なんの為にわざわざオークと戦っているのかを

 

 

「……リリは苦しんでいるんだ……苦しまなくてもいいのに……苦しんでいるんだ……」

 

「……私の……私……は……」

 

 

逃げてもいいのに、ベルはオークから逃げない。

逃げたらリリを助けられないと思っているから。

すでに満身創痍で思考もまともに働いてなくても、ベルはただリリを助ける為に、

 

 

「……だから…だから僕は……そこから助けないといけないんだ……もう…リリを苦しませないためにも……僕は………」

 

 

あんな酷いことをしたのに。裏切ったのに。

お金を騙し取ったのに。大事なナイフも盗んだのに。

ベルはまだ、疑うこともなく、大切な仲間を、リリを、

 

 

「そこを、どけええええええぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

助ける為に戦っているのだ。



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影の薄さを忘れるほど出来事です。

「ファイアボルトオオオオオォォォォォォォォ!!!!」

 

 

あれからどれくらい時間が経っただろう。

ギリギリの戦いをしていたベルは最後の力を振り絞り、掌から放たれた炎雷(えんらい)を最後のオークに命中させる。魔石の回収などいまのベルにはなかったのか、【ファイアボルト】の威力が強すぎたのか、オークの上半身は吹き飛び絶命した。

それを見届け力尽きたのかベルはその場に倒れ、近寄ることを我慢していたリリや椿が駆け寄る。

 

 

「ベル様!!ベル様!!!」

 

二重回復薬(ダブルポーション)じゃ!口を開けい!!」

 

 

その声に反応したのか僅かに開いた口の中に無理矢理飲ませる。二重回復薬は体力と精神の両方を回復させるものでありベル達にはあまりにも高い一品である。

 

 

「いいんですかそんなものを飲ませても。言っときますけど僕もベルも買い取るお金ありません」

 

「んなことを言っとる場合か!?」

 

「言っている場合です。別に大した怪我もありませんので自然回復させとけばいいんですよ」

 

「……手前、本当に仲間なのか?」

 

 

「当たり前ですよ」と平然と返してくるハジメに「お、おぉ…」としか言えなかった椿。その返しにそういうものなのかと逆に考えてしまい、よく考えるとハジメの言ったように別にそこまでしなくても良かったのかと自分のやったことに少し疑問を持ってしまう。

レベル1がオークを複数、それも一人で相手して生き残った。その奇跡といえる光景を目の前にして椿も興奮したのは確かだった。だからいてもたってもいられなくなったのだろう。

ちょっと冷静に考えているとベルが意識をハッキリさせたようで、

 

 

「……あ、あれ、ハジメ?

…今日は神様と…一緒じゃなかったっけ?」

 

「僕のことはいいですから、ほら隣の子に意識を向けてください」

 

 

目の前にいたハジメが気になり話しかけてきたのはいいが、今までなんの為に戦ってきたのかとツッコミそうになったハジメ。しかし少なくとも混乱もしていない、そして頑張ったご褒美として優しく誘導してあげることにした。

ハジメに言われて視線を横にずらすとそこにはさっきまで会いたかった人物がいた。

 

 

「……あっ……」

 

「べ、ベル様……わ、わたし……」

 

 

視線が合い、思わず外してしまったリリ。どうしたらいいのか分からずにいると突然身体に衝撃と何かに包まれた。

 

 

「無事で良かったよリリ!!!」

「べ、ベル様!!?」

 

「突然いなくなったから心配したんだよ!!もしかしたらオークになんて思ったけど、無事だったんだね本当に良かったああぁ!!!」

「ベル様!!ちょっと痛いですよ!!!」

 

 

感動で力加減が分からなくなっているベルにハジメは持っていた【石火】でその頭を叩いた。鈍く痛そうな音が鳴り響き思わずリリを抱き締めていた手を離して頭へと回す。

 

 

「はい、やりすぎはダメですよ」

「ッ!!!??………ぜ、絶対にハジメのほうがやりすぎだよ!!」

 

「僕は人に応じて対応を変えてます。ちなみにベルにはまだ物足りないぐらいです」

「僕がこういうのはおかしいけど、今まで戦っていたんだから優しくしてもいいと思うけど!!!?」

 

 

流石二重回復薬は違うなーと感心しながら適当にベルの愚痴を聞き流すハジメ。すでに蚊帳の外に出されてしまったリリは何と話しかければいいのか分からずじっと待っていたが、

 

 

「………あ、あの…ベル様……」

「だからハジメは!!!って、ごめんリリ、どうしたの?」

 

「……ご、ごめんなさい!!!!」

 

 

勢いよく頭を下げるリリに対してちょっと驚くベル。一体何について謝っているのかと思っているとリリから話始めた。

 

 

「り、リリは悪い小人族(パルゥム)なんです!!私は報酬金の山分けを2/5を3/5に誤魔化していたり、ベル様が大事にしていたナイフを盗んだりしたのです!!!」

 

 

そういってリリは懐から神様のナイフ(ヘスティア・ナイフ)を取りだした。リリから貰ってついさっきまで一緒に戦った《バゼラード》は刃がボロボロにかけてしまい使い物にならなくなっていた。

もしリリが神様のナイフを盗まずにいたらきっとベルはここまで窮地に立たされることはなかっただろう。

そしてリリは震えだしそうな身体を必死に押さえつけ、一番謝りたかった罪深いことをベルに告げようと言葉を、

 

 

「そして私はベル様をこ」

「もう帰ろうっかリリ。流石に疲れたよ」

 

 

言いかけたところでベルが遮ってきた。どうしてと頭にあったが言わないといかないと思いもう一度、

 

 

「私はベル様を」

「ハジメはどうするの?一緒に帰る?」

 

「……ベルが帰るなら帰りましょうか」

「……儂もただの付き添い、異存は無いわ」

 

 

まるでそれ以上言わせないようにこの場を去ろうとする。でもリリはキチンと言わないといけない。あんな酷いことをしておいて何もなく終わるなんて出来ない。

 

 

「聞いてくださいベル様!!私はベル様を」

「……知っているよ、リリ」

 

「そうですか……リリは」

「誤って道具を落としたんだよね。そして道具を拾うとしたけどオークが近くにいて僕も爆睡していて。なんとか近くに冒険者がいないか探してくれたんだよね。でもやっぱり霧があるから道に迷ってちょっと遅くなったけど無事だったんだから気にしないでいいよリリ」

 

 

…違う、全然違う。

あの道具、トラップアイテムはわざと置いた。冒険者を探しに行っていない、リリは逃げ出した。遅くなった訳じゃない、助けなんて、迷うことなんて、探そうなんて、

 

 

 

「…違います……リリは、リリは……リリはベル様を!!」

「ありがとうリリ。仲間になってくれて」

 

 

その言葉にリリは固まった。

どうしてそんな言葉がいま出てくるのか分からなくて、優しい表情でリリを見てくるベルが分からなくて。

 

 

「リリがいたからいっぱい稼げたし、ハジメとは違うサポーターだったからなんか新鮮で楽しかったし」

 

「…………そうでした、サポーターでしたね」

「なんで手前本人が忘れておるのだ……」

 

 

最近はベルのサポーターしなくても良かったので、と隣で言っているのが聞こえるがいまはそれどころではない。

 

 

「言いましたよね!!リリは誤魔化していたです!!

たまにはベル様より多くお金を取ったり、何度もこのナイフを盗もうとしたんです!!!」

 

「うん、でもそれは僕の危機管理が足りなかったから。

それを知れたのはリリのおかげだから」

 

「何を言っているんですか!!貴方はバカなのですか!!!

リリは盗人なんです!!罪人なんです!!!なんで優しくするんですか!!リリが子供に見えるからですか!!!こう見えてもベル様の1つ上なんですからね、このロリコン!!!!!」

 

「ええぇ!!!?」

 

 

「ええぇ!!!?ってどういうことですか!!?」とちょっと路線が外れて話し合いになっており、「なるほど、だからあんな下着を…」「手前は黙っとれ!!!」と隣ではちょっとしたコントをしていた。

 

 

「だからこんなリリを仲間だなんて……何を考えてるんですか!!!」

 

「何をって……僕のサポーターはリリがいいんだ

ううん、違う。サポーターじゃなくても、リリは僕の仲間なんだ」

 

 

サポーターじゃなくてもリリがベル様の仲間。

それを聞いただけで嬉しさが溢れて涙が出そうになる。

それを必死に押さえ込んでリリはベルに問いかける。

 

 

「リリは、リリはいつかベル様を裏切るかもしれません。ベル様の命を奪うことになるかもしれません。それでも……それでもリリをまだ仲間っていうんですか?」

 

 

自分でももうそんなことはしないって分かっている。分かっているけど聞いておきたいのだ。いまベルがどんな風に思っているのかを、リリを本当に仲間だと思っているのかを。そしてその返事もリリは分かっていた。

 

 

「それはしてほしくないけど……でもやっぱりリリは僕の仲間だよ。だから僕はリリを信じるよ。違うかな、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そのあとのことはよく覚えていない。ただ大泣きをしたリリを二人が慰めてくれたことは覚えている。だけどもう一人、姿を見えないあの人は何をしていたのかは分からなかった。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「リーリはベルベルに任せておいていいですね」

 

 

ベルの言葉を聞きやっぱりベルベルはベルベルだと思ったハジメは10階層の、ベル達から離れた場所を歩いていた。

ダンジョンを降りていたいた時に感じたアレがどうもここから感じる。何かは分からない、だけどそれは何かを思い出すきっかけような、気が……

 

 

「思い…出す……僕は何か忘れている……」

 

 

僕の過去の記憶は全部覚えている。なのにどうしてそんなことを思うのか?よく分からないがこの霧の先にその答えがあると思い歩いていたのだが、

 

 

「いいのよ、まだ思い出さなくても」

 

 

遠くから、この霧の向こうから聞こえたきた声。そしてゆっくりと靄に映るシルエットが見えてきた。

 

 

「誰かは知りませんけど、僕のことを知っているんですか?」

 

「それは知りたいでしょうね。でもそれはダメ。あなたはこれから更に強くなってもらわないといけないの。だからダメなのよ」

 

「なら、言わせるまでです」

 

「強気ね。()()()()()()()()ここまで強くない。やっぱり知りたいのね自分のことを」

 

 

徐々にハッキリしてくるシルエット。

間違いなくあの感覚はこの人である。

そしてこの人は僕の何かを知っている。

 

 

「追加です。貴女が何者か知りたくなりました」

 

「……ふふふ、いいわね。なら予定を変更しましょう。()()は貴方に当てるつもりだったけど、私が直々にお相手してあげるわ」

 

 

するとその人型のシルエットとは別に遠くから何かが近づいてくる。それもかなり速くあっという間に人型のシルエット抜き去って現れたのが、

 

 

「ミノタウロス!?」

 

 

まるで意志があるように、目の前にいるハジメの横を通りすぎて何かに向かって走り去った。そしてその先にはベル達がいる。

 

 

「一体何を考えているんですか??」

 

「さっきのモンスターを貴方に当てるつもりだったの。でも()()()()()()()()()()()()()()、だからアレは貴方のお仲間に当てるわ。いい経験になるわよ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

それを聞いたハジメは有無を言わさずにシルエットに向けて衝撃波を放った。霧はその衝撃波により飛散していく。そして衝撃波はその人物に当たったのだが、どういうわけか全く効いていない。防御の姿勢もせずにまるで()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

「酷いわね。でも冒険者としては間違ってないわ。容赦なんていらない。少しでも甘えを見せたらやられてしまう。少しは()()()()()()()()()()()()??」

 

「……さっきから何を言って………」

 

「気にしなくていいのよ。でも知りたいなら…」

 

 

霧が晴れたその先にいた人物。身体を覆うマントからでも分かる華奢な体つきで、顔が見えないほど深くフードを被っている。

それなのにどうしてなのだろう?なぜ()()()()()()()()と、この人を()()()()()と感じているのだろうか?

 

 

「向かってきなさい。

ただし、今までの戦い方で勝てると思わないことよ」






ダンまち、今年最後です。
すみません、この章を終わらせたかったのですが残念です❗でも面白さは変わらずやっていきますのでよろしくお願いいたします。

余談ですが、「とある」も今年中にあと一話更新しますのでよろしくどうぞ。



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影が薄くて再び主人公無しのストーリーです。

ヤバイ、リュー成分が足りない。
ストーリー的に出しにくいがリューとイチャイチャしたい。
リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー、リュー……………

………はぁ、まだかな………




「全く…何処にいったのじゃ手前の相棒は?」

 

「スキルがなくてもハジメを探すのは難しいですよね…よくダンジョンで離れ離れになることが多くて……」

 

「なんか笑い話になっとるようじゃが、ダンジョンでは命取りであることは分かっとるのか」

 

「それは大丈夫です。今まですっかり忘れていたんですけど、僕ハジメにこれを持たされているんです」

 

 

ベルの容態も良くなり地上へと戻ろうと思ったのだがいつの間にかハジメがいないことに気づいた。とりあえず周辺を探しているのだが全く見当たらずにハジメへの愚痴を言っていたところで、ベルが何かを思いだしポケットから小さな箱を取り出した。

 

 

「何ですかそれは?」

 

「ええーとね、赤いマークがあるからこれが爆発物で、こっちの黄色が閃光弾だったかな」

 

「………すみません、言っている意味が分かりません」

 

「あはは…僕も同じ反応したよ…」

 

 

苦笑しているベルを見て適当に言っている訳では無いことは分かったが言っていることは分からない。それをさせているのがハジメと分かっている椿は頭を抱えていた

 

 

「でも便利なんだよコレ。同じ階層で光を遮るものがなければ閃光弾で知らせるし、爆発物は…あまり使いたくないけどコレはコレで音とか振動とか凄いから」

 

「ハジメを見つけるのに大層なものを…」

 

「あっ、爆発物は階層主にダメージを与えられるぐらいはあるっていってたような……」

 

「手放せ!!それ危険なものじゃ!!!」

 

 

ハジメはおかしいと思っていたがもしかしたらベルもその影響を受けておかしくなったのか……

まるでコントをしている三人が一斉に何かを感じ取った。

 

 

「「!!!!??」」

「なっ!!?」

 

 

それは死に直結してしまうような圧倒的な殺気が、この霧の奥から襲ってきたのだ。その殺気に耐えきれずにリリは気を失い、ベルはやっとのことで意識を保っているが力が抜けて片膝を付いてしまい体が上手く動かせずにいる。椿は流石だというべきだろう、脂汗をかいているが体も動きおり現に気絶したリリの元へ駆け寄った。

 

 

「つ、椿さん、こ、これは…」

 

「分からぬ!!じゃがこの階層にいるべき存在がおるのは確かじゃ。逃げるぞ!!いくら手前が動けても勝てぬ!!!」

 

 

それは椿を含めてその気配()に挑んでも勝てないということ。一級冒険者がそんなことをいうことは間違いなく……

 

 

「何をしておる走るのじゃ!!」

 

「は、はい!!!」

 

 

リリを背中に乗せた椿は先頭をきって霧の中を駆ける。その後ろをベルが追いかけるがゆっくりと離されていく。

 

 

(やはりまだ体力が回復しきれておらぬのか……

このままでは追い付かれ…!!!?)

 

 

ベルの様子を見るため振り向いた椿はその先に迫り来るものを見た。()()がもうベルの近くまで近づいていた、それもものすごいスピードで未だにベルは気づいていない。もう考えている余裕などない!!

雑ではあるが背負ったリリを走りながら背中から落とし身軽になったところで一気にベルと()()の間に入り込んだ。

そこでベルも何かが起きたことに気づいたようだが、次の瞬間には目の前にいた椿は姿を消していた。

 

 

「………えっ?」

 

 

何が起きたのか分からず動きを止めてしまったベル。周りを見渡すといつの間にか吹き飛ばされ壁に激突している椿。口から血を流しておりビクリとも動かない。

椿の元へ近寄ろうとした時、頭ではなく体が勝手に反応したのだろう。何故か倒れるように姿勢を低くしたベルの上を何かが物凄いスピードで横切った。

それを感じ取ったベルは身体中から冷や汗を流した。すぐさまその場から離れて距離を取った。そしてそこで気づいた、椿は戦闘不能にさせてベルを襲ってきたものは……

 

 

「……ミ、ミノタウロス……」

 

 

その目に映るミノタウロスにベルの身体は震え始めた。甦る記憶、迫り来る恐怖と死を連想させる対象がいま目の前にいる。そして一級冒険者を一撃で戦闘不能に落とすほどの異常性。

 

 

(な、なんで……こんな…ところに……!!?)

 

 

思考が上手く回らない中ミノタウロスは先程の猛スピードではなくゆっくりとベルに近づいてくる。まるで恐怖というものを時間をかけて味合わせるように。

 

しかし恐怖はあるものベルは少しだけ心を落ち着かせ考える時間を手に入れた。昔のままのベルなら何も出来ずに殺られていただろう。しかし混乱の中、ある言葉がベルの心を落ち着かせることに繋がった。

 

 

……………

…………

………

……

 

 

 

(いいかいベル、人は恐怖する生き物だ)

 

 

ある訓練の休憩中だった。フィンから突然そんな話を振られた。いま思えば突然ではなかったのかもしれない。

 

 

(人が人である所以といってもいい。だから恐怖することを恥じることはないだ。怯えて、逃げ出しても、それは思考を働かせているからね)

 

 

ロキ・ファミリアの主力メンバーとの訓練。何度死ぬ思いをしたか覚えていないほどやりあった。向こうからしたらただの訓練なんだろうがベルにとってはまさしく自分の命を刈ろうとする恐怖の対象しか見えなかった。

特にベートが殺気を放ってくるのだ。何度逃げ出したくなったか……

それをフィンは感じ取ったのだろう。だからこうしてベルにアドバイスをくれたのだろう。

 

 

(だけどその恐怖に負けて思考を停止させてしまってはいけない。たった一秒でもそれをしてしまったら死に繋がることもある。

だから()()()()()()()()()()。心に深い傷を負うとも、現実から逃げ出したくとも、思考を止めなければ少なくとも最悪を回避することは出来る)

 

 

そしてベートの殺気は本物ではない。未だに経験していない本物の殺気を、恐怖をベルが味わった時にそこに誰もいなかったら間違いなくベルは殺られるだろう。

それを見越したのか、予知したのか、フィンは告げたのだ。

 

恐怖をから逃げるな。恐怖を受け止めろ。と

 

 

……

………

…………

……………

 

 

(お、落ち着け!!とにかく落ち着くんだ!!!)

 

 

震える身体、頭で分かっていても心が、体が目の前のミノタウロスという恐怖に怯えている。それでもその恐怖から逃げたら間違いなく三人は殺られる。

 

 

(どうすれば…どうすればいい!!?

考えろ!考えろ!!考えろ!!!思考止めたらダメだ!!!!

生き残るんだ!こいつから、このミノタウロス(恐怖)に勝って神様のところに帰るんだ!!!)

 

 

必死で考える中ミノタウロスはあと2.3歩というころまで近づいている。攻撃範囲内に入ったら危険なことは分かっているがそれでもベルは動かない。少しでも一秒でも思考を巡らせて生き残る手段を見つけるために。

 

 

(持ってるのは神様のナイフに閃光弾と爆発物。不意討ちの攻撃を避けたということはスピードは僕に優位なはず。それを生かして攻撃を……いや椿さんがやられたときは見えなかった!!過信して突っ込むと殺られる!!)

 

 

自分が持っているもの、自分の生かせるもの。それを最大限に活用して勝つしかない。

 

 

(違う!!こいつに勝たなくてもいいんだ!!!

まずは椿さんとリリを安全な場所に!!!)

 

 

方針が決まりすぐさまベルは手札の一つを使うことにした。あと一歩、ミノタウロスの攻撃範囲に入る前に小さな箱をミノタウロスの顔面目掛けて投げた。

もちろんミノタウロスはそれを防ごうと手を出すが()()()()()()()()()()

 

防ごうとした小さな箱はその手に触れた瞬間に眩い光を放った。まるで太陽を直視するかのように。

地下にいるミノタウロス達モンスターはこういう明るいところにいることはないため、わずかな光でも敏感に反応する。

 

だからそれを逆手に取った方法。

地上にいるベル達でも眩しい光をミノタウロスに直視させてまずは視界を奪う。

 

 

『ヴォオオオオオオオオオオウッ!!!!』

 

 

突然の出来事にミノタウロスは狼狽え我を忘れて暴れまわる。その被害はベルにもありいくら目を瞑っていても至近距離からの閃光は視界を奪ってしまう。バックステップでミノタウロスから距離を取り視界が戻ってきたところで椿の元へ駆け寄る。

 

 

「つ、椿さん!!」

 

「……… (っ…ぁ…ぁ)……」

 

 

何かないのかと椿の体をまさぐるベル。すでに自分の手元には回復材はない。でも椿さんならと思い失礼だと分かって、後で殴られる覚悟で女性の体を触る。

もちろんわざと胸や尻など触らないようにしているが今は緊急事態。未だに混乱しているミノタウロスがいつ襲いかかってくるか分からない今早くしないと!!

 

焦りながら数回胸に触ってしまった手がようやく何かを見つけた。ポケットから取り出すと安物の体力回復材。瀕死の椿に使っても大した効果はないかとしれないが、少しでも遠くへ逃げれくれるならと思いビンの蓋を開けて椿の口へ無理矢理流し込む。

 

 

「………………くっ……」

 

「…つ、椿さん!!」

 

「……て、手前は…無事じゃな……」

 

「僕の為に……椿さん、逃げて下さい。

僕が、僕がミノタウロスを足止めします」

 

「……な、何を…言っておる……」

 

 

瀕死から回復したといえども、未だに大ダメージは残ったまま。力の入らない手でベルの胸元を握り必死に言い聞かせる。

 

 

「に…逃げるのじゃ……アレはマズイ……

……一級冒険者言えども……あれはマズイのじゃ……

それを…手前がどうにか…出来るはずがない……」

 

「分かってます。でも全員が生き残るには…」

 

「……生き残るじゃと……」

 

「そうです!!まだ爆発物がありますからコレを使って……」

 

「…手前は…手前はまだ分からぬのか!!

………全員生き残るじゃと??…… (くっ)!甘えるな!!!」

 

「!!!??」

 

 

軋む体を無理矢理動かして気力を振り絞り椿は襲いかかるようにベルに詰め寄る。それをベルは驚きながら戸惑うしか出来ない。

 

 

「儂らを切り捨てろ!!すれば手前だけでも助かる可能性がある!!」

 

「な、な、何を言ってるんですか!!?みんなで生き残るですよ、そ、そうですよ!!

それにハジメを見つければみんな助かります!!!」

 

「……手前は………

…なら、なぜ助けに、ハジメはなぜ助けにこんのじゃ!!使ったんじゃろう閃光弾を!!!」

 

「そ、それは……」

 

「甘えを切り捨てるのじゃ!!

考えたくないのは分かる、じゃがハジメが来ないというきとは()()()()()()()()!!!

よいか!!!今は手前だけでも助かる方法を優先せい!!!」

 

 

一番考えたくなかったことを言われ動揺するベル。

そう閃光弾を使ったのだ。それなのにハジメが来ない。それはハジメがこの階層にいなければ意味はないがあの短時間で抜けるとは思えない。

 

なら、ハジメが来ないのは………

 

 

(ち、違う!!ハジメが…ハジメに限って!!)

 

「儂が時間を…稼ぐ……

あの娘は……抱えてゆけば重りに、重荷になる…

……冒険者となった時から分かっておるはずじゃ…儂らは……いつか……こうなることを……」

 

(ダメだ!!……諦めるな!!……思考を…思考を止めるな!!!)

 

「なら一番助かる可能性のある手前が生き残るのが筋じゃ……ヘファイストス様に…「世話になった」だけ言ってくれ……」

 

(……生き残るんだ…生き残るんだ!!

みんなで……みんな一緒に……)

 

 

「……頼むぞ……()()()()()()()……」

(生き残るんだあああぁ!!!)

 

 

椿が一歩踏み出した瞬間、ベルはその倍を、いや数倍先を進んでミノタウロスに突っ込んだ。

 

 

「やめるんじゃ!!!!」

 

 

椿の必死の訴えも聞かずに未だに視界を奪われ暴れまわるミノタウロスの攻撃範囲に近づく。

 

いま出来る事を、全員が生き残るために、

ベル持っている手札で、活路を見出だす。

 

暴れまわるミノタウロスの、じたばたさせる手足を、一度でも当たれば致命的になるその攻撃を、ベルはこれまでにもなく集中を行い、

 

 

(少しでいい!!懐に、ミノタウロスの懐に入れば!!!!)

 

 

僅かな、ほんの僅かな隙を見つけたベルはその体を無理矢理押し込めるイメージで突っ込んでいった。もちろんその隙はミノタウロスの手が足が動き回る僅かな隙間。

直撃とは言わなくとも掠めた攻撃はまるでオークの攻撃をマトモに喰らったような衝撃

 

 

「ぐっ!!!」

 

 

グッと堪えたベルは上手くミノタウロスの懐に入り込むことができた。しかし流石のミノタウロスも自分の懐に入られたりすれば視界を奪われても攻撃は出来る。

つまりさっきの混乱の攻撃ではなく、死を与えるための攻撃がベルに向かってくる。

 

だがその前にベルを片手をミノタウロスの腹部に向けて大きく息を吸い込みあの言葉を叫ぶ。

 

 

「ファイアボルトオオオオオオオオォォォ!!!!」

 

 

掌から放たれた炎雷(えんらい)は至近距離からミノタウロスの腹部へ直撃する。それにより攻撃をしようとした手は、体はその衝撃に耐えきれずに吹き飛ばされる。もちろんベルも衝撃に耐えきれずに吹き飛ばされるがゴロゴロと地面に叩きつけられながら勢いを殺して、体が止まったところで再びミノタウロスに向かって駆け出した。

 

ベルがミノタウロスに追い付いた時には、ミノタウロスの体は丁度地面に仰向けの状態で叩きつけられたタイミング。マウントポジションを取るためにミノタウロスの頭部へジャンプをして、

 

 

「ファイアボルトオオオオオオオオォォォ!!!!」

 

 

噛み千切られると分かっていながらベルのミノタウロスの口へとその手を突っ込み、その瞬間に魔法名を叫んだ。

先程の腹部にぶつけた時とは違う。分厚い肉の塊でダメージが通らない訳でもない。

 

()()()()()()()()()()

 

咄嗟に機転を効かせたのだ。マトモにやれば負ける。

でも自分にはこのスピードと魔法があると。

 

 

思った通りベルの放った魔法はミノタウロスの内側から壊していった。顎を、喉を、鼻を、目を、耳を、あらゆる箇所から炎雷が飛び出て、そして最後は頭部全てを吹き飛ばした。

 

 

「………はぁはぁ……ぐっ、はぁはぁ……」

 

 

ふらふらになりながら何とか立つことが出来ているベル。そしてその姿を、まるで夢を見ているかのような光景を椿が目撃した。

 

 

「あ、ありえん……なんじゃアレは……

……あれが本当に、駆け出しの冒険者というのか……」

 

 

話は聞いていた。ベルがフィンやガレスなどの一級冒険者に特訓をつけてもらっていたことを。

だが本当にそれだけで、一級冒険者でも危険と感じたミノタウロスを倒すことなんて出来るのか??

 

 

………ベル・クラネル、そして、ハジメ………

 

 

一体この、このファミリアは何なのだ………

 

 

戸惑う椿の共へベルはゆっくり近づいてくる。

そしてたどり着いたところで力尽きたように倒れこむベルを咄嗟に椿が受け止めた。

 

 

「…こ、これで、みんな………帰れます…」

 

「て、手前は……手前は……バカじゃ……」

 

「……ハジメよりも……ですか……」

 

「………いや、ハジメ方がバカじゃ…」

 

「……そうかもしれんの……」

 

「ですから……生きてますよ…ハジメは……」

 

「………なら、探さなければっっっっ!!!??」

 

 

何かおぞましいものを見たかのような衝撃と表情をする椿。その直後ベルも感じた、背後から甦るかのように殺気が充満していることに。

 

恐る恐る背後にある何かを確認するために振りかえるが頭ではあり得ないと考えているが、心ではずっと警戒音が鳴り響いている。

 

そしてその警戒音は正解となした。

ぶっ飛んだはずの、ベルのファイア・ボルトで跡形もなくぶっ飛んで死んだはずのミノタウロスが、

 

 

ミノタウロスの上半身が起き上がっていた。

 

 

確かに体は、全身地面に付いていてそして殺したはず。なのにいま目の前にはミノタウロスが首なしで上半身だけ起き上がっているのだ。

 

それだけでもあり得ない筈なのに、まるで生きているかのように、不自然さも無いかのように立ち上がったのだ。

 

 

そして無いはずの首から嫌な音が、不快に、気持ち悪くさせるような音が。

そして無いはずの首から吹き出す血が、マグマのように、冷えて固まるかのように、何かを形成するかのように。

 

その異常な出来事に時間が経つのを忘れてしまったのか、目の前で起きている出来事なのにいつの間にか無くなっていたはずのミノタウロスの頭部が生えていた。

 

 

「……なっ、なんで……」

 

「再生するモンスターは知っておったが……あり得ん!!頭部が再生など、ましてや、こんなにも早く!!!」

 

 

動揺を隠せない二人に対してミノタウロスは意識がハッキリしたのか二人を視界に入れると威嚇するかのように激怒し雄叫びをあげる。

 

 

『ヴォオオオオオオオオオオウッ!!!!』

 

 

そして体力も気力もない二人はその場から動けない。

ミノタウロスは生まれ変わったためか先程のダメージなど関係無いかのように、そしてベルを襲うとした時のように恐怖を与えるためにゆっくり行動するわけでもない。

 

ライオンがウサギを刈るかのように、

全力で目の前のものを殺るために、

一瞬で、刹那で、気づいたときには振り下ろされる拳。

 

椿は未だに抵抗するかのように目を見開き、ベルも諦めずにこの現実を受け止めるのように目を見開いて、迫り来る攻撃を受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…大丈夫??」

 

 

しかしその攻撃は当たらなかった。

キチンと目を開いていたから何があったのか分かっていた。それでもこれは現実なのかと疑っている自分がいるが、

 

 

「ア、アイズ…さん……」

 

「もう、大丈夫だから。あとは、まかせて」

 

 

確かにこの目に映る人は、ベルが憧れているアイズ・ヴァレンシュタイン本人だった。



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影が薄いってことはいない状況が続いても話が成立する。

「どうして……ここに……?」

 

 

ベルの目の前にはアイズ・ヴァレンシュタインがいた。

どうしてこんな所にいるのか?遠征はどうしたのか?と考えているとベルの肩にトンと何が触れた。その方向へ視線をやるとそこにはフィンとリヴェリアがそこにいた。

 

 

「遅くなってすまないベル」

 

「フィンさん、リヴェリアさん…」

 

「後は私達に任せてベルは休んでいなさい」

 

 

そう言いながらリヴェリアはハイ・ポーションと取り出してベル渡した。そして体を動かすのが難しい椿には瑞からハイ・ポーションを飲ませてリリの元へ連れていきレフィーヤと共に前線から離れた。

その時ベルが見たのはロキ・ファミリアの一級冒険者の面々がそこにいた。

 

 

「皆さん…」

 

「あらー派手にやられたみたいだね」

「でも無事で何よりだわ」

「てめぇが殺られたら教えた俺も下で見られるってことを分かってのかてめぇは!!!」

「すまんの、ベートは素直に心配だったと言えないからの」

 

 

 

ティオナにティオネが両サイドからベルの腕を取り立ち上がらせ、ベートがベルに接近して睨み付けたあとガレスがそんなベートを拳骨してベルに謝る。

 

こんないつものやり取りみたいな雰囲気があるのに、次の瞬間には全員がミノタウロスに向けて戦闘体勢に入った。こんな会話をしている中でもアイズはすでにミノタウロスを討伐してついさっきミノタウロスの胴体が真っ二つに別れて絶命したとこだったのだ。

 

 

「!!!??」

 

 

しかし次の瞬間にはベルと椿が感じ取ったあの異常な殺気が放たれたのだ。そして別れた筈の胴体から吹き出す血がまるで糸のように別れた胴体を繋ぎ始めた。そしてまるで磁石に引き付けられるように再び重なった胴体。その切口はグツグツと血が溢れては肉となり凄まじい勢いで切口を塞いでいく。完全に元に戻るまでに5秒ほどかかったというのに何倍もの時間を過ごしたと錯覚した。

 

思わずその光景に固まるアイズ。だがすぐに思考を変えて再びミノタウロスの懐へと入る。ミノタウロスもすぐさま攻撃を仕掛けるがやはりアイズの方が上手であり、振り落とされる腕を切り落としすぐさまミノタウロスの頭部を切り飛ばした。

そしてすぐさま距離を取り様子をみようとすると、ベル達が見たように切られた腕と首から血が溢れては肉となりあっという間に元の姿に戻った。そして再生を繰り返す度に凄まじい殺気が膨れ上がる。

 

 

「フィン、これって……」

 

「間違いなく突然変異したミノタウロス。しかしこの再生速度は見たことがない。だが、もしかして…」

 

 

そこで考え込むフィンの姿にリヴェリアもいま自分が考えている事を口にした。恐らく考えていることは同じであると確信して。

 

 

「今回の遠征に関係がある。と言いたいのかフィン」

 

「あぁ、そう感じるんだリヴェリア。全く関係出来事だけど、何か裏で繋がっているような……」

 

「この手の勘はよく当たる。しかしあっちは大人しくしてくれそうにもないようだが」

 

「ミノタウロスはここで討伐する。元より……捕らえるなんて冒険者には似合わないからね」

 

 

冗談を言っているような口調だったがその目は間違いなくミノタウロスを刈る目だった。

それを見て聞いたティオネとティオナはアイズの隣に立ち、ベートとガレスはいつでも追加攻撃出来るようにすぐ後ろで控えている。

 

 

「アイズ、ティオネ、ティオナ。普通ミノタウロスと思わないようにするんだ。あれは未知のモンスター、まだ何かあるのかもしれない、油断せずやってくれ」

 

「大丈夫ですって団長!私がサクッと倒しますから!!」

 

「ちょっとティオナ!!?」

 

 

ニコッと笑いながら大剣を手に駆け出すティオナ。「あぁーもうー!!」と愚痴りながらもすぐさまティオネも走りだし後ろからアイズも追いかけるように走り出す。

そしてこの異常なミノタウロスも普通のミノタウロスではあり得ないスピードでティオナ達に向かって駆け出し

 

 

『ヴォオオオオオオオオオオウッ!!!!』

 

 

雄叫びを上げながらミノタウロスはまず先頭にいるティオナにその拳を振り下ろした。

確かに普通のミノタウロスよりも速い攻撃ではあるがティオナはその振り下ろされる右の拳をギリギリで避けたあとすぐさま機動力である(左足)を切断させた。

 

そしてティオネは繰り出された右手の(けん)をズタズタに切り込み、アイズは怯んだミノタウロスの頭部に強烈な突きを放ち粉砕させた。

 

 

「よし、このままやっちゃ……」

 

 

普通なら一級冒険者にとってミノタウロスは簡単に倒せる相手。例え普通ではなくとも三人も束になれば楽に殺れるだろう。しかし普通でも普通ではなく、異常なミノタウロスは先程のスピードよりも早く受けた傷を再生させた。

 

 

腱は一瞬で、足は1秒で、頭部は3秒で。

 

 

異常ではあるが余裕で倒せると思っていたティオナ達。あまりの再生速度に驚いていた所をミノタウロスは一番早く再生した腕を使い間合いにいたティオネを吹き飛ばした。次に再生した足を使い強烈な一撃を、地面を踏みだことにより地震のような揺れが起きてティオナはその場から動けなくなってしまい、そこへミノタウロスは足蹴を喰らわせてティオナを吹き飛ばす。

 

アイズはすぐにミノタウロスの四肢を切り落として攻撃をさせないようにしたあと距離を取るために後退するが、更に速まった再生速度により切り落とされ宙に浮いている両腕を再生した手が掴みそれをアイズに向かって投げ込んだ。

 

これには流石のアイズもあり得ない状況に頭が追い付かずに防御した取ることが出来ずモロにミノタウロスの両腕が激突した。

 

吹き飛ばされると思っていたアイズだが後ろで控えていたガレスがアイズの肩を掴かみ飛ばされないように止めてくれた。同様にティオナ・ティオネも壁に激突することなくガレスが止めてくれたようで大した怪我はなかったようだ。

 

しかし、アイズが吹き飛ばされ正常でいられなくなった奴がいる。

 

 

「このくそ牛が!!!」

 

 

そう、ベートである。

怒って我を忘れているようだが頭の中は冷静なようで真っ正面からではなくミノタウロスの周りをウロチョロと動き周り隙を伺っている。

そこでガレスも加わり、ガレスは正面からやり合うために真っ直ぐに突き進む。それを利用しようとベートも範囲を両サイドと背後に絞り動き回る。

 

 

しかしまたそこで予想外のことが起こる。

 

 

残っていた自分の足を手に取るミノタウロス。さっきのように投げつけてくると思い警戒する二人だったのだがその足はぐねぐねと形を変えていき、

 

 

その足は、大剣と姿を変えた。

 

 

「「!!!??」」

 

 

僅かな動揺が、動き回るベートの体に影響を与えた。

ミノタウロスは自分の周りに動き回るベートを刈るかのように大降りで、大剣を横殴りの攻撃として打ってでた。ベートもそれをギリギリで避けることは出来たのだが回避直後、思いもよらない行動に体がついていかなかった為か僅かな時間足が硬直してしまった。そこを逃さなかったミノタウロスは大剣の先をベートに向けて大砲のような突きを放ってきた。

その一撃を喰らったら無事ではすまない。死ぬ可能性がある一撃をだと判断ししていたのかガレスは、自分の斧を盾にベートの前に立つ。そしてミノタウロスの突きはガレス、ベート共にかつて無いほどの衝撃が撃たれて吹き飛ばされた。

 

 

「ガレス!!ベート!!!」

 

「なんだアレは……自分の体を…武器に変えただと……」

 

 

只でさえあの再生速度に驚かされていたのにまさか『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』を、迷宮の自然の一部を武器に変えてしまうダンジョンの厄介な特性を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()など誰が予想出来ただろうか。

壁に叩きつけられヒビが入り崩れ落ちた瓦礫が二人を襲う。その姿にフィン、リヴェリアは近づこうとするが瓦礫に埋もれた二人はすぐさま出てきた。だがその体は明らかにダメージを受けていることが分かった。

 

 

「……くそ、が……」

 

「やられたわ。まさか自分の一部を武器に変えるとは……」

 

 

まだ戦うつもりである二人を理解したのかミノタウロスはすぐさま二人に向かって駆け出す。

しかし、進行方向を妨げるようにアイズ達が妨害しようとするがミノタウロスはそれにより更に興奮しているようだ。大剣を振り回し防御するアイズ達も吹き飛ばす。

 

 

「アレは……本当にミノタウロスなのか?一級冒険者があそこまで追い詰められるなど……」

 

「突然変異にしても異常すぎるね……さて、どうしたものか……」

 

 

追い詰められる。という表現の割にはその場から動こうとしないフィンとリヴェリア。その後ろにはベルや椿がいるため離れないというのもある。しかし勝てないかもしれないというだけで()()()()()()()()()考えはなかった。

 

だからミノタウロスを倒すための算段を考えているのだがあの再生速度を上回る攻撃をするためにはどうすればいいのか?

リヴェリアの魔法を使えばと思ったが即死レベルの攻撃でないと意味がないだろう。ならいま無駄打ちをするわけにはいかない。それにあのスピード、避けられる可能性が最もある。

次にアイズ達の総攻撃でミノタウロスを微塵に切り落とす考えもあった。だがさっきのように己の一部を武器にするならただ敵に攻撃手段を与えるだけになる。それにますます攻撃速度を増してきたミノタウロスを微塵に出来るほどの余裕はない。

 

決定的なものがないまま戦闘は続いている。

攻撃が当たらないわけではないのに、その攻撃された箇所は急所ではないかぎりすでに瞬時に治る。

そんな様子を見ていたベルや椿、そしてリリを見ていたレフィーヤから声がかかる。

 

 

「リヴェリアさん。ベルがミノタウロスの倒し方があるようで……」

 

「本当か!!?」

 

 

ベルに詰め寄るリヴェリア。普段はこんなことをしないリヴェリアに驚きあたふたするレフィーヤ。それもそうだろう、リヴェリアはベルの顔に近づいてその唇と唇がくっつきそうにみえるのだから。

だからベルの顔も真っ赤になり離れようするがダメージは回復しておらず離れることも出来ない。

 

 

「リ、リヴェリア!!!ち、近いです……」

 

「す、す、すまない……」

 

「珍しいね。リヴェリアがそこまで取り乱すなんて……」

 

「こんな状況の中でも冷静すべきなのだろうが、私もまだまだ甘いな……」

「反省は後にしよう。それでベル、ミノタウロスの倒し方とはなんだい?」

 

「コレを使えば……倒せると思います」

 

 

ベルが差し出したのは1つの小さな箱。

フィンやリヴェリアは一体何を言っているのかと疑問を持っていたがそれを見た椿は驚いた様子だった。

 

 

「お、おいそれは!!?」

 

「椿さん、これしかありません。

フィンさん、これはとても扱いが危険なものなんですけど…」

 

「……状況が状況だ。どういうものか分からないがこの状況を続かせるわけにはいかない。手段を選んでいる場合ではないだろう」



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影が薄いなー。主人公いらずでボス倒しました。



ちょーーーー遅くなりました。
はい、リボーン書いてます。それが原因です。
だって書きたくなったので仕方ありません。
でもこっちも負けてませんよ!!
タイトル通り決着しました。

どんな感じに終わらせたのか?
皆さんの予想から外れていたら幸いです。
それではどうぞ!!!




「な、何を考えてるんだ!」

 

「で、ですけど、これしか…」

 

「いま自分が言ったことが分かっているのか!?

それをやったら間違いなく無事ではすまない!!」

 

「ですけどあのミノタウロスを一撃で仕留めるにはそれしかありません。

リヴェリアさんの魔法でも一撃は難しいんですよね?」

 

「くっ!

だが、だがそれとベルが負うリスクが…」

 

 

 

作戦内容を説明したベルにリヴェリアは真っ向から反対した。それはあまりにもベルが負うリスクが高すぎる為だ。

しかしリヴェリアにもその作戦しかないということは分かっている。だが納得が出来ないのだ。

 

 

 

「ならその役目は他の者にやらせよう。

満身創痍とはいかなくともベルの体調は万全ではない。

そんな状態でやらせるわけには……」

 

「これは僕にしか出来ません。

どういうわけかあのミノタウロスは僕を()()()()()()()()()()()()()()()()傾向にあるんです。

油断している間にやるにはこれしかありません」

 

「だ、だが…」

 

 

 

その作戦は利にかなっている。

だがそれは人として同意するものではない。

死ぬかもと分かっていてそれに挑む愚か者。

まさにベルはそれをしようとしているのだ。

 

 

 

 

「リヴェリア、君も分かっているはずだ。

そして僕もベルと同じ立場なら同じ選択をしていた。

そして君はそれを止めようとはしないだろう」

 

「当たり前だ!!

ベルはまだ冒険者として」

 

「だがもう冒険者だ」

 

「!?」

 

「それに僕はこれがベルへの試練じゃないかと思っている。

ならベルの成長の為、僕達が後押しするものじゃないか?」

 

 

痛いところをつかれて黙ってしまったリヴェリア

「冒険者」になったなら必ず訪れる試練

それはフィンもリヴェリアも体験したものである。

それがいまベルに向けられた。

それから逃げることは「冒険者」として終わりを意味してしまうだろう。それはリヴェリアもここにいる者達も望まない。

 

だからいまリヴェリアが出来ることは

 

 

 

「……分かった。ベルを信じよう。

だが、ギリギリの判断は私が決めさせてもらう。いいなフィン」

 

「あぁ、リヴェリアに任せる。

だからベルは思いきってやってくるんだ。」

 

「はい‼」

 

「リヴェリアはベート達にこの事を伝えたくれ。

僕はアイズ達に伝えてくる」

 

 

 

アイズ、ティオナ、ティオネは吹き飛ばされたベート達からミノタウロスを近づけないようにと交戦しているが、致命的な攻撃が当たってもすぐに再生してしまい体力だけが削られている。

 

そこに近づいてきたのはベル。

それによりミノタウロスの目標がベートやアイズ達よりもベルが敵としての対象が上となった。

 

 

 

「来い!!ミノタウロス!!!」

 

 

 

ベルの声と共に駆け出していくミノタウロス。

何かが始まったとしか分からないアイズはとにかくベルの援護に周り、ティオナとティオネはフィンも元へ戻り何が起きているのかを確認する。

 

そして説明が終わったタイミングでベート達もリヴェリアから説明を受けて戻ってきた。

 

 

 

「そんな無茶なことをベルに!!」

 

「それしかないと思う。

現に致命傷を与えても傷が治るミノタウロスには確実に一回の攻撃で殺らないと復活するだろう。

それに今もベルに対しては攻撃の手を緩めている。

それが()()()()()()()()()()()()()()ともかく、その隙を狙うが一番だと思う」

 

 

 

ベルがミノタウロスと対峙しているときは、死に至る攻撃をしているが「当たれば絶対に死ぬ」ものではない。

そしてフォローに回っているアイズが来ると全力の攻撃をしている。

 

 

 

「で、要は俺達は何をすればいいだフィン」

 

「アイズと一緒に援護に回って出来るだけミノタウロスの機動力を削いでくれ」

 

 

 

…………………………

 

 

 

「はぉはぁ…くっ、はぁ……」

 

 

 

間違いなくミノタウロスはアイズさんと比べて手加減をしている。

それでもマトモに攻撃を喰らえばもう立ち上がれない力はある。

 

僕を簡単に殺さないようにしているのか?

それとも何かの意図があるのか?

 

それは分からない。

分からないけど、そのミノタウロスの行動を利用して倒すしかない!!

 

 

 

駆け出すベルはミノタウロスが振り下ろす大剣をギリギリに避けたあと腹部に目掛けて更に加速した。

とにかくさっきと同じようにミノタウロスを仰向けに持っていく作戦なのだが、それはただのミノタウロスなら通ったのだろうがこのミノタウロスは違った。

 

その体型からはあり得ないスピードでバックステップをして距離を置いたミノタウロスは、天井にある氷柱のような形をした岩をジャンプしてつかみ取った。

 

 

 

(や、ヤバい!!!)

 

 

 

ベルの本能が叫んだのと同時にミノタウロスの掴んだそれはすぐさま形を変えて大剣となり、地上にいるベルに向かって投擲してきたのだ。

反応が出来ず動けないベルの元へアイズ、そしてベートがとっさに飛んで来る大剣に衝撃を与えて軌道を反らした。

しかし大剣が突き刺さった瞬間の衝撃は消すことは出来ずにベルは吹き飛ばされる。

 

 

飛ばされたベル方向へ向かい地上に着地したミノタウロスは駆け出す。

体勢を立て直せないベルの援護にティオネ、ティオナ、ガレスが行く手を阻もうとするが、

 

 

 

「なっ!!!」

 

 

 

誰が声を出したのか分からないがその驚いた声の通りのことが起きた。

先ほど突き刺さった大剣により盛り上がった岩盤をミノタウロスが殴ったり蹴ったりしてティオナ達飛ばしてきたのだがそれが巨大な矢じりとなって飛んで来たのである。

 

流石に回避に間に合わないと判断した各々はその矢じりに対処する羽目になり、その間にミノタウロスが駆け抜け突き刺さった大剣を手にとってベルに向かって突き進む。

 

 

しかし先ほどのミノタウロスの行動が、その走りから足止めに割いた時間がアイズとベートが追い付く時間として足りた。

 

 

 

「このくそウシがああああぁぁぁ!!!」

 

「行かせない」

 

 

 

アイズが両足を目にも止まらぬスピードで切り裂き、ベートが大剣を持った腕に向かって渾身の一撃を叩きつける。

それにより僅かな時間動けなくなったミノタウロス

しかしすぐさま再生能力が働き、二秒もかからず治りかけていた。

 

 

だがその二秒がミノタウロスとって更に追い詰められることになる。

 

 

その僅かな二秒の間にアイズはミノタウロスの足から背中にかけて切り刻み付け、ベートはそのまま頭部や肩周りを蹴りで打ち付ける。

そして矢じりを対処した三人も加わり、腕、足、腹部と一体のモンスターに対しては一級冒険者が五人も攻撃を仕掛けている。

 

 

まるで階層主との勝負のように。

だが、明らかに階層主よりもその再生スピードは上回っている。

現に五人で攻撃をしているのにも関わらず受けた攻撃はすぐさま再生をしており攻撃をしている意味を感じなくなる感覚が出てきてしまう。

 

それでも攻撃をしているのは足止めをするため。

体勢を立て直しているベルのために一級冒険者が全力で援護に回っている。

 

 

 

 

「さっさとしやがれクソ兎があぁ!!!」

「ベルならきっと大丈夫だよ!!」

「団長が認めたのだからしっかりね」

「コレぐらいの試練、さっさと終わらせんか」

「……頑張って、ベル」

 

 

 

その声援もありベルは立ち上がった。

もうボロボロでナイフ持つにも限界がきている。

しかし倒れるわけにはいかない。

こうして皆が助けてくれているから。

 

 

 

「アイズさん!!

皆が離れて、僕がたどり着く時間を」

 

 

 

稼いでください‼と言われる前にアイズは一旦ミノタウロスから距離をとり

 

 

 

目覚めよ(テンペスト)

 

 

 

エアリアル

風属性の付加魔法(エンチャント)を唱えたアイズは全ての魔法をデス・ペレートに集中させて

 

 

 

「リル・ラファーガ」

 

 

 

エアリアルの風を纏って放つ突撃による刺突技をミノタウロスの腹部に向けて喰らわせた。

とっさにミノタウロスから離れた面々は巻き沿いになることなくミノタウロスのみ吹き飛ばされて壁へ激突した。

 

 

粉塵が舞いミノタウロスの様子は見えないが間違いなくミノタウロス腹部には大きな穴が空いているはずだ。

そしてその粉塵へとベルが駆け出す。

 

 

 

 

(気を付けてねベル…)

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

アイズの予想通りミノタウロスの腹部には大きな穴が空いてあり、魔法の影響のためか再生速度が落ちている。

 

しかしなんの障害もない。

穴が空いていようが体は動く。

首吹き飛ばされた時も動いたミノタウロスには腹部に穴が空いていようが関係はない。

 

 

 

立ち上がりこの粉塵から抜け出そうとするミノタウロスの元へ

 

 

 

「ファイアボルトオオオオオオオオォォォ!!!!」

 

 

 

ベルの掌から放たれた炎雷は再びミノタウロスの腹部へと直撃する。

これにはさすがのミノタウロスも悲鳴を上げてもがく。

その間にベルは一気にミノタウロスに近づいて《バゼラード》を突き刺さるだろう眼球に突き立ててもう一度魔法名を言い放った。

 

 

 

「ファイアボルトオオオオオオオオォォォ!!!!」

 

 

 

剣に魔法が伝わりながらミノタウロスの脳天に魔法が放たれる。

地獄以上の苦しみを味わいながら頭部が吹き飛んだミノタウロスと共に消し炭となった《バゼラード》は形を崩していく。

 

頭部がなくなったミノタウロスは未だに腹部と頭部の再生をしようともがいているが、ベルはその傷口に()()()()を埋め込んだ。

その異物を取り込むように傷口は、その細胞は異物を覆い被さろうと動いている。

 

 

そしてその傷口が塞がる前にベルは掌をミノタウロスの腹部に向ける。

取り込まれる前に、この位置で、このタイミングで、魔法をその異物に放つ必要がある。

 

 

 

その異物とは「ゴライアスを一撃で仕留めることの出来る爆発物」である。

 

 

 

「うおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

それもミノタウロスには2つも爆発物が埋め込まれてある。

その1つにベルの魔法を打ち込めば間違いなくミノタウロスは倒せるだろう。

しかし至近距離からの魔法を打てない状況にあるベルにはその凄まじい爆発を

 

 

 

 

「ファイアボルトオオオオオオオオォォォ!!!!」

 

 

 

その身に受けることになる。

 

 

しかしただその爆発を受けるわけではない。

ファイアボルトが爆発物にぶつかり破裂、凄まじい衝撃と爆風が飛び出した瞬間にもう一度放ったのだ。

 

 

 

 

 

「ファイアボルトオオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!!!」

 

 

 

 

相殺するとは出来ないが爆風と衝撃を、

ファイアボルトのぶつかり合いによりベルの体は爆発物によるものに巻き込まれる前に吹き飛ばされた。

そしてその凄まじい爆発はダンジョンの内壁を大きく崩して吹き飛んだミノタウロスの真上へと降り注いだ。

 

 

吹き飛ばされたベルはアイズにより壁へ叩きつけられることはなかったがもう見る限り体はボロボロ。

ファイアボルトを放った腕に関しては酷い火傷を負っている。

 

それでもベルは、嬉しそうな表情で、

 

 

 

「……や、やりました…よ……アイズさん……」

 

「うん、よく頑張ったね」

 

 

 

満足そうな表情をしてベルは気を失った

そんなベルの頭をアイズはゆっくり優しく撫でた。

その姿は姉が弟を介抱しているかのようだった。



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影が薄い、と言われていた主人公がピンチです。

「う、う……ん………」

 

「ベル様!?ベル様!!!!」

 

「……リ、リリ……」

 

 

 

ボヤける視界、その先には涙をボロボロと溢しているリリの姿が見えた。

体を起こそうとするがまるで鉄のように重たくて指一本動かせない。

 

 

 

「無理しない方がいい。

ついさっきまで生死の境をさ迷っていたんだ。

いまはゆっくり休むといい」

 

 

 

確かにいまベルは何も出来ない。

だけどまだ、まだ、やることがある。

 

 

 

「ハ、ハジメを…ハジメを探さないと……」

 

「気持ちは分かるがいまは安静だ。

ベート達がハジメを探している」

 

「だけど……」

 

「とにかく見つかるまでは安静することだ。

それにいま君が行ったところで何が出来るんだい?」

 

「………分かりました……」

 

 

 

理解はしたが納得していない。

それは明らかに分かっていた。

だが、いま行かせるわけにはいかない。

 

 

 

「フィン、その指……」

 

「あぁ、かつてないほど震えているよ……

……この階層でなることはまずない。

ならいまハジメがここにいないことと関係していると思って間違いないだろう」

 

「それほどの敵と……」

 

 

 

その瞬間、いや刹那、ダンジョンの壁が大きな音をたてて爆発し、衝撃に目を開けていられないフィン達の横を何がものすごいスピードで通りすぎた。

 

それは壁にぶつかり止まったが、そこにいたのはさっきまで探していた

 

 

 

 

「ハジメ!!!??」

 

「……くっ、ベ、ベル……」

 

 

 

そこにいたのは()()()()()()()()()()()()()()()()

 

あり得ない状況だった。

ハジメが吹き飛ばされたというだけでも衝撃的なのに、あのハジメがダメージを受けているなんて…

 

 

 

 

「おい‼ なんださっきの爆発音は!!!」

 

「ハ、ハジメ!!?

ええ!!? もしかして怪我してるの!!」

 

「信じられない……」

 

「ハジメが……ケガ……」

 

 

 

爆発音で戻ってきたベート達はケガをしているハジメを見て驚きを隠せないでいた。

 

それはそうだ。

いままで一回も攻撃が通ることもなく、ましてやケガなんて見たこともなかった。

なのにいま目の前にはケガしているハジメがいる。

 

 

 

 

「アイズ姉にベベート……

……皆さん…ここから…逃げてください……」

 

「おい‼何があっ…」

 

 

 

最後まで言葉を言い終わる前に先ほどハジメが飛び出てきたダンジョンの壁が、瓦礫の山が吹き飛ばされ粉塵の中から何かがこちらに近づいてくるのが見える。

そして粉塵も晴れていき少しずつ姿が見え始めると、その者は身体を覆うマントからでも分かる華奢な体つきで、顔が見えないほど深くフードを被っていた。

 

一体誰なのか分からないが近づいてくるその者に警戒していたのだが、誰かが近づこうとしたのか、後退りしたのか分からないがその一歩が()()()()()()

 

 

 

「なっ!!?」

「これ、って…」

「………き…ました…」

 

 

 

世界が遅くなった。

いや、違う自分達が遅くなったんだ。

それに気づくのにはそんなに時間はいらなかった。

何故なら経験しているからだ。

ここよりも深い階層で、こんな風に経験した。

 

 

 

 

「だ、団長……」

「…あ、あぁ…」

「こいつは…キツイの……」

「以前よりも…強い……」

 

 

 

フィンやベート達と同じようにあの時動けたアイズとリヴェリアさえも今動けずにいる。

指一本動かすのにも出来ない状況。

 

そしてそんな中をフードを被った者は何事もなかったように歩いている。

 

 

 

「……あれが……」

「……元凶って…わけね…」

「…くそ…が……」

「……うぅ……」

 

 

 

誰もが動けない中をフードの者はハジメに近づいていく。

阻止をしようにも動けない体を動かそうとするが筋肉の痙攣さえも起こせないほど動かない。

 

 

 

 

「無理に動かない方がいいわよ。

一時停止とは違って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、皮膚が、血管が切れるほど力をいれないと無理だから止めることをオススメするわ。」

 

 

 

とはいえ、そんな事が出来るわけもなく相手を睨み付けるしか出来ない。

フードの者はそのまま進みハジメの前に後何歩かというところで、

 

 

 

「………くっ……」

 

「……べ、ベル…??

……何を…やって……」

 

 

 

ふらふらになりながらもベルを神様の(ヘスティア)ナイフを手に取り、フードの者に向けて背後にいるハジメを守ろうとしている。

 

 

 

「この影響化でも……

……そう、貴方がその子と同じファミリアなのね」

 

 

 

何か考える顔をしている仕草だったが表情はフードによって見れない。

ベルも警戒を緩めないようにしてきたのだが

 

 

 

 

「でも、いまは邪魔よ」

 

 

 

手を前に、ベルに向けて、でも掌は完全向けられてはおらず、どちらかというと地面に向けているかのように……

 

そんな動作をした瞬間にベルの体がまるで地面に押さえつけられるかのように、上から何かで押さえつけているかのように叩きつけられた。

 

 

 

「ガアッ!!!」

 

 

 

体を動かそうにも()()()()()()()()()()ベルの体を動かさなくしている。

そしてフードの者はその掌を右へと向けるとベルの体もそれに合わせるかのように、地面を抉りながら壁に激突するまで吹き飛ばされた。

 

 

 

「…べ、ベル……」

 

 

 

もう限界だったベルは壁に激突したあとまだ押さえつける力に抵抗したが力尽き気絶してしまった。

ベルの事を気にしていた間に2つの大きな音が聞こえてきた。

その方向を見るとハジメの近くにいたアイズとベートも壁に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

「…く、くそが……なんだ、これは…」

 

「……うごけ、ない……」

 

 

 

一級冒険者でもその力に逆らえない。

それでも必死に動かそうとするが更にその力に押し潰される。

 

 

 

 

「邪魔しないでほしいわ。

私はまだこの子に用があるの」

 

 

 

そういってフードの者はハジメに近づく。

そしてハジメも力を振り絞って立ち上がろうとするが、体はふらふらしており立ち上がるのさえも限界ではないかと思わせる。

 

 

 

「手足の骨を粉々にしたのに…

そういう使()()()()上手いみたいね」

 

「……舐めないで…ください……」

 

 

 

分かっている。

戦っている時に何度も何度も骨が砕ける音が、衝撃がきたことを。

それでもすぐに一時停止で無理矢理繋ぎ止めているが()()()()()()()()()()()()()()ため、体を自由に動かせないでいる。

 

そして激痛は自動による一時停止で止めているが体力的にも精神的にもハジメはもう限界に近かった。

 

それでも立ち向かうのは冒険者だからなのか?

自分でも答えを見いだせないがいまは戦うだけだと、ポケットから薄い紙を取り出した。

 

 

 

 

「……はぁ、無意味って分からないかしら?」

 

 

 

相手が言っていることは分かるが抵抗しないわけがない。

紙を一時停止で硬直させて手首のスナップで相手に向けて飛ばす。

その時衝撃を解除させて回転とスピードを強化された紙はあらゆる物に突き刺さり、物によっては切り裂き貫通させるほどのもの。

 

 

 

だが、

 

 

 

 

「私は貴方と()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

紙はフードの者に近づくにつれてスピードを落として行く。

そして一メートル手前で、僅かに動いているだけ。

空中で、回転しながら、ゆっくりと。



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影の薄さと、この想いは、反比例してます。



お久しぶりです!!
ここから更新を増やしていきたいと思います。
まぁ、あまりあてにならないかもですがやる気はありますのでよろしく!!

またまた余談ですが、KinKi Kidsの20周年コンサート横浜スタジアム最終日当たったああああああぁぁぁぁぁー!!!!!

もうテンションめちゃくちゃ高いです!!!
もうー!!もうー!!もうー!!
くうううぅー!!!!


………鬱陶しですね。すみません。
それでは、どうぞ。





「…な、んだ、あれは……」

 

「……止まっては、いないのか……」

 

 

 

フードの者に当たると思われたカードはまるで一時停止のように空中で止まっている。

いや正確には空中から地面に落ちずに、そしてゆっくり回転しながら近づいている。

 

 

 

「ふふふ。

それはそうよ、一時停止とは訳が違う。

でも()()()()とも思っているのでしょう?

じっくり観察して推理すればいいわ。

分かったところでどうしようもできないのだから」

 

 

 

フードに隠れて見えないが微笑みながらさらにハジメに近づいている。

ハジメは抵抗するかのように更にカードを投げつけるが全て止められて、いや、速度を落とされている。

 

 

 

「無駄だと分からないの?」

 

 

 

意地になっているのか次から次へとカードを投げつけるが、しかし全てのカードは速度を落とされてしまっている。

 

 

 

「いや、違うわね。

諦めて自棄になっているわけじゃない。

そんな人のする目をまだ貴方はしていない」

 

 

 

そう、自棄になってカードを投げていたわけではない。

カードを投げた際にそのカードによってフードの者に見えないタイミングである方向へ投げていた。

 

それはフードの者の周りを囲むように四方八方に散らばっており、そのカードを起点に一時停止の展開したハジメはポケットから小さな箱を両手合わせて6個取り出して投げ込んだ。

 

 

その瞬間に大爆発が起きた。

投げ込んだそれはベルが使った爆発物。

階層主(ゴライアス)を一撃で仕留められるものを6個も使ったのだ。

ものすごい爆発が起きたが取り囲むカードによる一時停止により周りには影響は出なかった。

しかし地面には一時停止がかかっていなかったようであり、そこには大きな大穴が空いていており下が見えないほどの深さ。

 

 

一体どれだけの階層まで縦穴が空いたのか分からないがそれほどの大爆発だ、流石にこれならフードの者も無事ではいられないだろうと誰もが思っていた。

 

粉塵で見えなかったが少しずつ薄まっていき現場の状況がハッキリと見えてきた。

そしてそれと同時に誰もが()()()()

 

 

 

「ハッキリいって失望ものよ。

()()()()()()()()()()()本当に思っていたの?」

 

 

 

炎で出来た球体が現れた。

そして次の瞬間にはその球体もまるで何もなかったように消えてしまい球体の中からフードの者が現れた。

 

 

 

「どうして分からないの?

貴方と似ている力なら()()()攻撃効かないってことが。

そして理解しなさい。

私の攻撃は貴方に通じるということを」

 

 

 

宙で浮遊しているカードを一枚手に取るフードの者。

そしてそのカードをハジメに向けて

 

 

 

「さて、そろそろ終焉としましょうか?」

 

 

 

そして軽く手首を振るった。

そう、ただそれだけだった。

なのにその刹那、持っていたカードが無くなり、

そして、同時にハジメの体から左腕も無くなった。

 

 

 

「ッ!!!!??」

 

 

 

正確には切り離された。

飛び散る血はまるで噴水かのように吹き上がる。

すぐさま一時停止により出血を抑えたが、気力も体力も尽きたのか、腕を無くしたことにより体内感覚が狂ったのか。

ふらふらとふらつきながら二歩、三歩と千鳥足のあとに座り込んでしまった。

 

 

 

 

「ここまできたというのに何も変わらなかった。

いえ、変わろうとしなかった。

だったらもう、必要ないわ」

 

 

 

大穴が空いているのにも関わらず何もなかったように宙を歩きゆっくりと近づきながらフードの者はその手をハジメに近づける。

 

誰もが分かった。

あの手が触れたらハジメは死んでしまうと。

どんな原理、理屈かは分からないが直感が警告している。

 

誰もが無理矢理体を動かそうとしている。

完全に止められてないため抵抗出来るが、その代わりに血管が破ける程の力を入れてやっと少しずつ動く位なのだ。

それでも皆はハジメの為に動く。

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 

一体何をしているのだろうか?

ハジメが今、置かれた状況とこの目で見える光景でそう感じた。

目の前に迫ってくるフードの者が自分の事を知っている。

そしていま僕を殺そうとしている。

 

 

知りたかった、自分の事を。

一体このフードの者は何を知っているのかを。

だから自棄になって自分らしくもなく頭に血が回っていた。

 

だけど腕を切り落とされて血が浮き出て血の気が引いた為かいまは頭がスッキリして何でも考えられる。

 

 

そう、今は、今は一番優先することを考えるんだ。

間違いなく負けるだろう相手にこれ以上挑む必要があるのか?

答えはNOだ。僕は僕なのだから今すぐ僕を知る必要はない。

 

ならここまでやられて黙って終わられる事が出来るか?

出来る、つまりはYESだ。

別に負けることが恥だなんて思わない。

 

 

なら、いまは生き残る事を考えろ。

ここにいる皆を助ける事を考えろ。

帰るべき地上に、待っていくれている人の元へ。

 

 

 

 

 

 

『私は、私は一人で生きなくてもいいんですか。

シルやミア母さんと一緒にいても……トキサキさんと一緒にいても』

 

 

『はい、いてください。

そして、リュー・リオン。僕は貴方の傍にいます』

 

 

 

 

 

帰らないといけない。

僕はあの人の元に帰らないといけない。

 

 

 

 

「さよなら、ハジメ」

 

 

 

 

フードの者が伸ばす手を、手首を掴み取った。

その行動に驚いている感じはしたがすぐに元に戻り

 

 

 

 

「なに、まだ抵抗するの?」

 

「……か…ない…」

 

 

 

よく聞き取れないと顔を近づけようとしたフードの者だったが何か違和感を感じた。

 

足元が動かない。

そしてどんどん体が、下半身から動かなくなっている。

一時停止ではこんなことはならない。

 

 

 

「……僕は、帰らないといけません……」

 

 

 

フードの者を動かなくさせているのは氷。

そう氷付けにしているのだ。

一時停止によるこの現象は空気中の分子を停止させることによって対象物を氷付けにさせる。

そしてさらに今回は氷になると同時にその分子に一時停止をかけているためまず溶けることがない。

 

あっという間にフードの者の体は頭部を残し凍りついた。

 

 

 

 

「……出来る…じゃない……」

 

「…アイス…ゼロ……」

 

 

 

 

なんの事を言われているのか分からなかった。

いや、分からなくても良かった。

 

フードの者を最後まで凍りつかせたハジメは地面に衝撃を与えて大穴の縁を更に広げた。

それにより凍りついたフードの者は瓦礫と共にダンジョンの底へ落ちていった。

 

 

それを見届けたハジメは視界が歪む中、自分の名前を呼び駆け寄ってくるアイズ達に「…大丈夫ですよ」と声になったか分からないままその場に倒れた。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「……見ていたかしらオッタル……」

 

「はい」

 

 

 

 

『神の鏡』と呼ばれる、下界で行使を許された『神の力(アルカナム)』がある。本来は天界から下界を覗くための千里眼めいた一方通行の能力。

 

 

それにより全てを見ていた。

もちろんハジメの戦いも、姿は見えずとも、そこにある()だけは微かだが見えていた。

フレイヤには、『洞察眼』というべき下界の者───『魂』──の本質(いろ)を見抜く瞳がある。

 

恐らくハジメの瀕死の状況により『カミカクシ』の力が弱まったと思われるが、それを確かめることは出来ないだろう。

それでも確かに、僅かではあるが見えたハジメの魂。

いや、それも()()()という表現も当てはまるか分からなかった。

 

 

 

 

「……あれは、なんなのかしら……

……あんな、魂……見たことがないわ……」

 

 

 

 

何故なら魂そのものを()()()()()()()なのだ。

ベルのように純粋な魂とかそういうものではなく、そこに魂があるだけしか分からなかった。

 

だからこそフレイヤは歓喜していた。

自分に見れても分からない魂。

そんなものがあるなんて天界にいたときでも見たことがなかった。

 

 

 

「……いいわ…すごくいいわ………」

 

 

 

歓喜から恍惚へと移ろわせるフレイヤ。

 

 

一人の魂はフレイヤの瞳を焼くほどに輝きながらも、その色は澄みきった透明色。

 

一人の魂はフレイヤの瞳でも確認出来ず、それでも確かに存在する霞かかった魂。

 

 

汚れも穢れも知らない、純然な意志。

二人の中で、『可能性』が芽吹いた。

 

 







はい!!!!

以前「ハジメの力」はこういうのですよね!と、推理された数名のお方。

いやーもうー、バレたのかとヒヤヒヤしてました~。
中々正体を明かす機会がありませんでしたがやっと出来ました。
そして名前は「アイス・ゼロ」です。
凍らせるのと同時に分子を一時停止という絶対冷凍させる恐ろしい技です。

まぁ、一時停止さえ使わなければ凍らせるとだけなので安全な攻撃です(笑)


さて伏線を回収できたところもありながらもまた伏線を張ったりといつ終わるんだと思われるかもしれませんが、少なくともまだまだ続きますので。

なのでこれからもよろしくお願いします。


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影を薄くしたい思ったのは初めてです。



どうもです‼
頑張りました!久しぶりに約一週間ぶりの更新を!
やっぱり勢いって大切ですね~
書けるときにはバシバシ書けるのに、ふっと書けないときがあるので……

まぁ、話はコレぐらいにしてどうぞ!!!





「そこに正座してください」

 

「正座ですか?」

 

「そうです正座です。

どうやら一度キチンとダンジョンという脅威と()()()()()()()()()をハジメにはしっかりとお話をしないといけません」

 

「なるほどですね。

でもバイトの方もしないといけませんが」

 

「それは大丈夫です。

無理を言って三時間程、時間を頂きました。

さぁ、話し合いましょうか。

いや一方的になると思いますが覚悟してください」

 

 

 

 

 

…………後日談である。

 

 

どれから話をしたらいいのか迷うところだがまずはあの戦いの後について話をしよう。

 

 

 

フードの者がハジメによる撃退により全員の拘束が解けた。

しかし重症であるベルとハジメはその時の記憶がない。

あとから聞いた所によるとベルにはハイ・ポーションを2本3本必要としただけですんだそうだが、

 

 

 

 

「だ、団長!!

ハイ・ポーションが効きません!!!」

 

「……無意識に一時停止によって効果を消しているのか……」

 

「こんなときまで一時停止ってあるの!!」

 

 

 

 

どうやらハイ・ポーションを飲ませようとしていたが一向に傷が治ることがなかったようだ。

切れた腕からの出血を一時停止で止めていたのだが、その作用が効いているとその時は判断してとにかく地上に戻ろうということになった。

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

「…まさか、ハジメが怪我というか重症で帰ってくるなんて思わんかったわ……」

 

「それほどの敵だったよ。

正直僕らが束になっても勝てなかっただろうね。

ハジメだからこそ倒せた敵、というところだったよ」

 

「チートやチートやとは思っとったけど…

……まぁその敵は倒せたんやからしばらくはあの現象はないと考えてもええな」

 

「あぁ、大丈夫だと思うよ。

それよりもまだ目覚めないハジメが気がかりだよ」

 

「せやな。

腕一本無くしとる状態の瀕死でハイ・ポーションも受け付けんって……良いも悪いも話題には尽きん男やな~」

 

 

 

軽く口を叩いているがかなり心配しているロキ。

それもそうだろう。

今まで怪我一つ負わなかったハジメが重症、それも片腕を無くしている状態なのだ。

 

ヘスティアに至っては「は、ハジメ君!?しっかりするんだああああああぁぁぁぁ!!!!」と顔をぐちゃぐちゃにして付き添いながら今も看病をしている。

 

 

 

 

「……で、士気は大丈夫なんか??」

 

「正直空元気といったところかな。

全く手も足も出なかったんだ……

しばらくは冒険を控えようと考えているよ」

 

「それがええやろうな。

ハジメが回復して宴会やったら元に戻るやろ!!!」

 

「そうだね。

皆にもそう伝えておこう」

 

 

 

 

見るからにフィンも空元気の状態だった。

それはロキも分かっている。

だけど口にはしなかった。

戦いの話を聞いただけでもあり得ないというのに、それをまじまじと味わったのだ。

 

守るはずのハジメから守られた。

あのフードの者は始めからハジメだけだったようだが、もし自分達が狙われたら誰も手が出せずに殺られていたいただろう。

 

それをすぐに割りきることなんて出来ない。

だから今は時間が必要なんだろう。

そしてハジメが意識を取り戻す時間も……

 

 

 

「フィンもしっかり休んどき」

 

「ッ!!?

………バレて…たか………」

 

「何年一緒におると思っとるのや?

……焦っても何も出来へんで……」

 

「分かったよ、少なくともハジメが意識を取り戻すまではね」

 

 

 

 

そういってフィンは部屋から出ていったあとロキは深くため息をついた。

 

ハジメと同じような者。

そして圧倒的な力の差。

 

それは今まで培ってきた経験や自信を無くしてしまう。

それはこれからの冒険にも支障が出てくるだろう。

 

だから焦りも出てくる。

不安も出てくる。

恐怖も出てくる。

 

 

それでもそれを押し退けて、時には受け止めて、やっていくしかない。

だけど今は休息の時だ。

 

 

 

「……ホンマに話題の尽きない男やな……」

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

それから一週間が過ぎた。

まだハジメは目覚めない。

 

当初と比べればロキ・ファミリアも明るくはなったがどことなく何かが欠けている感じであった。

そしてそんな中、一人の小人族(パルゥム)が現れた。

 

 

 

 

「……この度は…私のせいで……」

 

「それはいい。

……とはいえないね。

今回君がやったことは許されないものだ」

 

「………はい」

 

 

 

 

ここにはヘスティアとリリ、ベルに屋敷の主であるロキがいる。

ロキはあくまでも同席というだけで口を挟まないことになっている。

 

 

 

 

 

「ハジメ君の事に関しては仕方ないとしてもベル君のことは許されないってことは分かってるよね」

 

「神様!!

それついては僕は」

 

「ベル君!!

いくらベル君が優しくてもケジメをつけないといけないことはあるんだよ。

いままさにこれがそうなんだ」

 

 

 

 

リリの手は震えている。

どうなるのか分からない恐怖もあるが、いまは後悔の念が押し寄せてくる。

ベルはそれを見て心苦しくなっている。

 

 

 

 

「………はぁ、これだと僕が悪者みたいじゃないか……」

 

「ええやんか。

そのままファミリアしてベルとハジメをウチにくれんか!?」

 

「やるわけないだろう!!

ってか、口を挟まないんじゃなかったのか!!!」

 

 

 

 

また口喧嘩が始まった二人にリリはどうしたらいいのかと見ているとベルが二人が宥めている。

 

 

……謝罪に来たのにどうしてこうなっているのか……

 

 

 

 

「とにかく君の謝罪よりも僕は誠意を見せてもらいたい」

 

「……誠意…ですか……」

 

「これからもベル君とハジメ君のサポートをすること。

二人とも好奇心旺盛ですぐに無茶をする。

ダンジョンではそれが命取りになることだってある。

だから君には二人のサポーターとして一緒にダンジョンに潜ること。

それが僕達ヘスティア・ファミリアへの誠意だよ」

 

 

 

 

その言葉にリリの瞳から涙が溢れてきた。

もう一緒にいられないかと思っていたから。

あんなに楽しかった冒険は初めてだったから。

何よりもこれからもベルと一緒にいれることがとても嬉しかったから……

 

 

 

「……あり…がと…う……ございます!」

 

「お礼を言われることはしてないよ。

これは贖罪なんだ、しっかりやること、いいね?」

 

「はい!!」

 

 

 

 

その姿にベルはホッと胸を撫で下ろした。

それと同時にやっぱり神様を選んで良かったと心の底から思った。

涙を拭うリリの姿にヘスティアが慰めようと近づくと

 

 

 

 

「……これからはキチンとベル様と()()()()()()()()()()()安心してくださいねヘスティア様??」

 

「……ダンジョンだけで大丈夫だよリリ君。

ベル君は僕の()()なんだならね??」

 

 

 

 

小声で何を言っているのか分からなかったが何故か二人がバチバチと睨み合っている。

 

え、えぇーと…どうしたらいいのかと悩んでいると

 

 

 

 

「こちらはいずれキッチリと話をつけるとして。

私はハジメ様にもお礼を言いたいのですがどちらに?」

 

「そうか。

君はあれからの事を知らなかったんだね」

 

「どういうことですか…

……ハジメ様に何かあったんですか!!?」

 

「それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません。

腕が見つからないんですけど、何処にあるんですか?」

 

 

「「「「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」」

 

 

 

突然部屋の隅に現れたハジメ。

それもまだボロボロの状態で当然現れるものだから完全にホラーである。

 

ちなみにリリは、ハジメの姿は見えませんが真後ろから言われたのでかなり驚いていたということでした。



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影が薄いはずなのにしっかり怒られます。



今月、三、回、目えええぇぇ!!!
いいね、好調だね。
これで久しぶりにランキングに入ったら……
ないね!

さて、どうぞ。





「君は全く!!

本当に君は!!!」

 

「何を怒ってるんですか神様?」

 

「君は!君は!!君はあああああぁぁぁぁ!!!」

 

「もう止めたってな。

流石にウチもドチビが可哀想に見えてきたわ」

 

 

 

 

まだ回復していないハジメをソファーで横にさせてヘスティアはさっきからずっとハジメを怒っているのだが全然聞く耳持たないどころかヘスティアを弄っている。

 

それの姿は流石に可哀想に思えてきたロキは、ハジメに止めるように声をかけてきた。

 

 

 

 

「リーリも無事だったんですね、良かった」

 

「は、はい……

……えぇーと、いま酷い状態なんですよね?」

 

「そうですけど?」

 

「姿が見えないので声しか聞こえないんですけど…

……声だけなら普通なのかなーと思いまして……」

 

「見ますか?

神様に頼んだら見れますけど…」

 

「い、いえ……

なんか今は止めたほうがいいよな気がしますので……」

 

 

 

 

ボロボロと言っても冒険者なら必ず通る道である。

まぁ、腕がないというのはそうそうないのだろうが。

それでもリリがハジメの姿を見たくなかったのは直感的に嫌な予感がしたのだろう。

 

 

 

「でも、そんな状態ならなんでポーションを使わないんですか?」

 

「使わないじゃないくて、使えなかったんだよ」

 

「あぁ、やっぱり一時停止が作用しましたか」

 

「しましたかって……自分のことなんだよハジメ君……」

 

 

 

 

どうしてこう自分の事を他人のように話せるのか。

明らかに自分の事を言われているのにだ。

それがハジメだからと言われたら、まあそこで話が終わってしまうのだが。

 

 

 

 

「それで意識がある今ならポーションの効果は表れるのかい?」

 

「大丈夫だと思います。

意識がないときは防衛本能といいますか、とにかくあらゆるものからシャットダウン(一時停止)するようになっているみたいですので、今なら必要とするものならキチンと作用すると思います」

 

「ならちょっと待っててな。

ハイ・ポーションとハジメ腕を持ってきてくるわ」

 

 

 

 

そういってロキは部屋から出ていった。

それを見計らってなのかハジメがリリの方を向いて

 

 

 

「リーリ、あれからソーマ・ファミリアとはどうなりましたか?」

 

「リリは行方不明か死亡扱いの状態になってます。

あのダンジョンには他にもソーマ・ファミリアの冒険者がいたようで、リリはモンスターに殺られたようになってまして……」

 

「なるほどですね…

…それでこれからリーリはどうするんですか?」

 

「それについてはさっき話しあったよ。

この子の犯した罪を償う為にベル君とハジメ君のサポーターとしてこれからも一緒にダンジョンに潜ってもらうってね」

 

「なるほど。

それはいい償いになりますね」

 

 

 

 

その言葉を聞いてホッとしたリリ。

もしかしたら拒否をされるのかと思っていた。

でもこうやって受け入れてくれて少し頬が緩んでいるのを感じていた。

 

コンコンとドアがノックされたあと、部屋に入ってきたのはハイ・ポーションを持ったロキとハジメの腕を持ってきたアイズだった。

 

 

 

 

「持ってきたで~」

 

「ハジメ…良かった……」

 

「心配をかけてしまったようですね」

 

 

 

 

腕を持ってきた。

と言ってもそれはリリには見えていないようでアイズが何かを持っている姿しか見えない。

 

それでもヘスティアに頼んでハジメの姿を見てみたいという気にはなれなかった。

見てしまうといまこうして恩を感じている自分がいなくなりそうだから。

 

実際そんなことにはならないとは分かっている。

分かっているがハジメと他の人達のやり取りを見ていると間違いなく自分はハジメに翻弄されるだろう。

いまは姿が見えてないので恐縮しているが見えたら絶対に容赦なく言葉が出てくるだろう。

 

 

さっき言っていることと矛盾している。

きっと後者のほうが自分なんだろうと。

そう、私はハジメを見たらツッコミをいれてしまう。

 

 

 

 

 

「リリ、どうしたの?

難しい顔をしてるけど…」

 

「なんでもありませんよベル様。

ただこれから大変だろうなーと思っていまして」

 

 

 

 

もちろん、この大変というのは冒険ではない。

まあそれをわざわざいう必要はないだろう。

これも償いの一つと考えるべきなのだろう、ベル様やヘスティア様達の苦労を少しでも和らぐのならと。

 

 

 

 

「さてハジメ。

その腕どうする気や?

まさかくっ付ければ治るとか言わんやろうな」

 

「えっ?」

 

「思ってたんかい!!?

…まぁ、キレイに切られとるし一時停止のお陰で腕やその傷口が腐る事がなかったことが幸いやな。

腕をくっ付けて一時停止を解除した瞬間にハイ・ポーションを大量にかければ……まぁ治るちゃうか?」

 

「曖昧ですね」

 

「そんなん言ってもこんなことは初めてや。

それでもフィンがこうして腕を回収してくれたんから良かったんやで。

あとでフィンにはお礼を言っておき」

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

ということで、腕は元通りに戻った。

キチンと手首や指も動いた。

以前と同じように動いている。

 

もちろんハイ・ポーションを飲んだことにより体の傷も治った。

これはスゴいなーと思いながら早速バイトに向かおうとしたら「ふざけるのも大概にしろおおおおぉぉぉ!!!」と怒られたのでその日は休むことにした。

 

 

そして翌日

久しぶりにバイトに向かい休んだ理由も聞かずにミアに怒られて、落ち着いたところで事情を話すと今度はリューが正座しろと言ってきた。

 

 

そして正座して三時間後。

 

 

 

 

「貴方はもっと自分を知るべきです。

何もかも一時停止という守られた戦い方をしたためにこのような事が起きたのです。

いいですか、冒険者に慢心は必要ありません。

常に最悪を想定すること、もちろん生き残る為のプラスとして考えることです。

そして勝てないかもしれない敵と戦わないこと。

それでもやらないといけないことがあると思います。

 

なら、勝つために、守るために、生きるために戦うべきです。

私情で命を落とすことは愚かなことだとは思いません。

ですが私情で仲間を危険な目にあわさることは愚かなことだと思います。

 

 

ハジメはそんな愚かな人ではありません。

仲間のために戦う人だと私は知ってます。

だからこそ今回貴方が取った行動は許せません。

ハジメは私の傍に居ていいと言ってくれた。

そんなハジメが居なくなるなど私は認めません、許しません。

どうしても譲れないものがあって命を落とすことになるとしても生きてください。

貴方の命は貴方だけのものではありません。

 

 

その命には私がいます。

貴方が死ぬというなら私も死にます。

いいですか、私はまだ死にたくありません。

ですから私を生かすためにもハジメは生き抜いてください」

 

 

「はい」

 

 

 

 

 

「なのでまずは防具を買いましょう。

確かに一時停止によって防具としての機能は無くなるかもしれませんが、ただの服装よりも防具ほうがいいのは分かりますね?

しかし甲冑のようなものでは動けなくなりますし、一部的に防具を着けるにしてもまずは防具を着けても自由に動けるように体力をつけないといけませんね。

 

明日から走り込みをしましょう。

そうですね筋力もつけたほうがいいですね。

いや一層、基礎という基礎を叩き込んだ方がいいのかもしれません」

 

 

「はい」

 

 

 

 

 

「大体いくらステイタスを更新して変わらないとしてもそこで何もしないというのが間違いです。

いいですか、いくらステイタスが更新しないとしてもハジメの基礎というものは変わっていくんです。

一時停止に依存してないとしても、それでハジメが何もしなくてもいいという理由にはなりません。

 

それにです、基礎が上がればやれることも増えてきます。

戦いも変われば、考え方も変わって、それによって一時停止の使い方も変わるかもしれません。

 

それにはまずはハジメが変わらないといけません。

ステイタスによるものではなく、ハジメ自身が変わっていくのです。

そうすればハジメはきっと強くなります。

今の強さとは別の強さを持つんです。

それが色んなことからハジメを守って、大切なものを守って、何者にも負けない強さを持ちます。

 

 

私は、ハジメにそうなってもらいたい」

 

 

「はい」

 

 

 

 

こんな感じで三時間もの間、こうして話し合いがあっていた。

お店も忙しくなり「手伝いな!!」と言おうときたミアもこの状況を見て何も言わずに去るほど今回のリューはかなりキレていたようであり誰もリューを止められなかった。






やっと、この章も終わったー!!!
さてさて、次の章はどうしようかなー
まだ上手く出来ないので次は7月になるかと。
早めに投稿しますねー


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time4 無くすことを恐れず、突き進むために。
影が薄い時でも人は何か為に頑張れる。



どうもー!
早めの更新出来ましたー!!

さて始まりました、新しい章が!!
一体ハジメはどんな運命を辿っていくのか?





カンカン

カン高い音が部屋全体に鳴り響く。

何度も打ち付ける鉄は赤く時間が経つに合わせて黒く染まる。

しかしその前に業火にその鉄を入れ込み、また真っ赤に染まった鉄を金槌で打ち込む。

 

それを何度も繰り返し、繰り返し、繰り返し。

いつ終わるのかときが遠くなるほど時間を費やしてもまだ打ち続ける。

 

 

そんな中、コンコンとドアを叩くが聞こえた。

その音で誰が来たのか分かったとしても振り向かずにまだ打ち続ける。

 

 

 

「なんじゃい主様。

もう一週間も経ったと言うのか?」

 

「そうよ。

ずっと打ち続けていたのね……」

 

 

 

一週間前。

椿は工房へ籠るとヘファイストスに告げていた。

それはたった一人の為の武具を作るために。

その為には誰にも邪魔をされずに集中する必要があった。

かといっていつ終わるか分からない作業を見過ごすわけにも行かずにこうして一週間後のこの日に様子を見に来たわけである。

 

 

 

 

「打ち続けなければこの鉄は死ぬからの」

 

「分かっているとは思うけど、もう貴女も限界なのよ。

一緒に心中するつもりじゃないわよね?」

 

「なわけがあるか。

……しかしもう少しなのじゃ……

やっとこの鉄に馴染んできたからの」

 

「そう。

ならこれ以上は言わないけど私も見届けさせてもらうわ」

 

 

 

そういってヘファイストスは椅子に座り椿の作業を見守る。

 

 

カンカン、カンカン

 

 

止まることない一定のリズムを刻みながら打たれる鉄に、少しずつ少しずつある素材を加え続けていた。

 

それは()()()()()()()()()()

それは燃えている鉄に触れるとまるで時間が止まったようにその部分が動きを止める。

 

椿をその場所を叩き続ける。

何度も何度も叩き続ける。

すると少しずつ、ほんの少しずつではあるが鉄に染み込んでいく。

 

 

 

 

「なかなか厄介な素材みたいね」

 

「素材の元がアレだからの

ったく、こんなに先が見えぬ物を作るのは初めてじゃ」

 

 

 

 

そういいながらも椿は嬉しそうに鉄を叩く。

今まで経験したことのないもの。

それは鍛冶師(スミス)として心踊るもの。

出来上がったものが一体どんなものになるのか打っている者すら分からない物。

だが間違いなくそれは今までの中で最高のものが出来ると確信している。

 

 

 

 

「手前は、これを打ち抜く」

 

「ええ」

 

「あやつを守るものは()()()()()と言わせる、思わせてやる」

 

「そうね」

 

 

 

鍛冶師としてプライドをズタズタにさせられた。

しかしそれ以上に見返してやりたいと思った。

今までは頼まれたもの以上のものを作ったり、自ら思い作った物を試したりした。

 

しかしこんなにも悔しくて、こんなにも高揚したことはない。

 

だからこの鉄は、この鉄を、最高の物にするために。

 

 

 

 

「手前を最高の鍛冶師(スミス)と言わせてやる!!!」

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

「おはようございます」

 

 

 

黄昏の館、門の前。

日も昇らない朝早くからハジメとリューは待ち合わせをしていた。

リューに説教されてから毎日トレーニングをしている。

ロキ・ファミリアでもトレーニングは出来るのだが、()()()()()()()()ハジメを制御出来るのはリューしかいない。

 

正直リューとしてもこうしてハジメと入れる時間が増えて、心なしか嬉しい様子であるとバイト仲間から話が上がっているが、そのことは絶対にリューの耳に入らないように細心の注意を払っている。

 

 

バレたらツンデレ所ではない。

真っ赤になった顔が元に戻るまでモップを振り回して周りを壊してしまう。

 

 

ということで、こうして二人で誰もいないだろう時間を見計らって集まっている。

 

 

 

 

「今日は東側を走りましょう。

そのあとはいつも通りです」

 

「分かりました」

 

 

 

自分でもこの症状(行動)をどうにかしないといけないことは分かっている。

分かっているがこれはどう鍛練すればいいのかさっぱり分からない。

その前に鍛練でどうにかなるものなのか?

鍛練をするにしても精神的に鍛えるものなのか?

 

こんな風に悩み始めると周りが見えなくなるなり、ハジメが呼びかけるまで瞑想していた。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「ふはぁ~……」

 

「おはようございます神様」

 

「おはようベル君……

……ハジメ君はまだ帰ってきてないのかい?」

 

「みたいですね」

 

 

 

寝ぼけ眼で起きたきたヘスティアに挨拶をするベル。

そこにはまだ朝の運動に出掛けたハジメの姿はなかった。

 

するとそこに勢いよく扉が開き、近くにいたヘスティアを吹き飛ばして入ってきたのは

 

 

 

「ぎゃぁっ!!!」

 

「おはようさん!!!

……なにしてんのやドチビ?」

 

「お前が僕を吹き飛ばしたんだよ!!!

なんだい朝から喧嘩でも売りにきたのかい!?」

 

「そんな暇なことはせんわ。

ウチは親切に教えにきてやっただけや」

 

 

 

そういってロキは一枚の紙をヘスティアに見せた。

そこには2つ名を決める会議が開かれると書いてあった。

 

 

 

 

「……うわっ」

 

「おいおい。

いまドチビの顔が酷いことになっとるで」

 

「いや、ベル君が()()()()()()()()ことで来るとは分かっていたけど……」

 

「なんや。

そんなに2つ名が付くのが怖いんか??

まぁ、悪いようにはせんわ」

 

 

 

あははは、と笑うロキだがヘスティアは浮かない顔のままである。

ベルもベルアップした時に聞かされており、正直ウキウキしていたのだが、ヘスティアの様子を見て何かあるのかと不安になり

 

 

 

 

「か、神様……

…そんなに酷い2つ名になるんですか……」

 

「それは僕が全力で阻止するよ!!!」

 

「ならどうしてそんな顔をされているんですか?」

 

「……いや、これで間違いなくターゲットにされるんだろうなーと思うと……胃が……」

 

 

 

 

それは2つ名が付くぐらい実力も付き、さらにベルはあのアイズ・ヴァレンシュタインのレベルアップよりも早くレベルアップしたのだ。

 

これからは狙われることになる。

それもいまよりも、色んなものに狙われる。

 

それは元より覚悟はしていた。

ベルが冒険者になってから考えていた。

 

 

だが、それでも想定出来なかったことがある。

いや、想定することを()()()()()()()が起きた。

 

 

 

 

ヘスティア・ファミリア

 

ベル・クラネル

レベル1→レベル2

 

ハジメ・トキサキ

レベル1→レベル2

 

 

 

 

「……痛い…胃が……痛い……」

 

「か、神様!!?しっかりしてください!!」

 

「まぁ、しゃあないか…

ウチも望んどったけど…これからの事を考えるとな……」

 

 

 

 

さて、何でこうなったのか……

それはハジメが全快して次の日、ステイタス更新から始まる。



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影が薄い、でも個性は強い人はいる。



どうもです❗
おもいっきり私情ですが今月はKinKi Kids祭りだぁ!!
テレビにラジオにコンサート!!!!
テンションアゲアゲで更新を頑張ります❗


「もう、一度……いいかな?」

 

「はい。

僕とベルベルはレベル2になりました」

 

 

 

 

朝のギルドは騒々しかった。

基本的に朝からダンジョンに向かうための話し合いなどで色んな人が集まっている。

 

そんな中をベルとハジメはエイナに報告のために来ていたのだが、まぁどうせ騒がしくなるだろうとギルドの人達が気をきかせて個室を用意してもらったのだが

 

 

 

 

「レ、レ、レ、レ、レベル2ううぅぅぅ!!!??」

 

 

 

 

大正解だった。

ご迷惑をかけないようにハジメが部屋全体に一時停止をかけているので防音対策はバッチリである。

しかし毎回のことだがよくもこう驚くことが出来るなーと思っていたハジメにエイナがまだ呆然としながら話しかけてきた。

 

 

 

 

「えぇーと、ごめんなさいね。

…流石に1ヶ月半で【ランクアップ】はね……

……ちょっとまだ、整理出来ないというか……」

 

「いいですよ、待ってますから」

 

「……なんかバカにしてない?」

 

「どうしたらそうなるのか分かりませんが、ベルがこんな成果を出したんですから当然かなと思っただけですよ」

 

 

 

 

それでもエイナはジトーとした目で見てくるがすぐに視線を外して深呼吸を始める。

ハジメはハジメで首を傾げているのだが、ベルからしたら普段の態度だよとツッコミを入れたかった。

 

 

 

 

「……ふぅ、もう大丈夫よ。

えー色々と話があるかもだけど、先に私の方から聞いてもいいかしら?

このあとも仕事もやらなきゃいけないし」

 

「はい、僕達は報告に来ただけですので」

 

「エイナ嬢も大変ですね」

 

「何でかな?

ハジメ君にだけはそれを言われたくないわ……」

 

 

 

 

それにはベルも同意してウンウンと頷いている。

 

 

 

 

「それじゃ今日までの冒険者の活動記録を教えてほしいんだ」

 

「えっと………?」

 

「大雑把でいいよ。

どんなモンスターと戦ったとか、こんな冒険者依頼(クエスト)をこなしてみたとか」

 

 

 

 

羊皮紙と羽根ペンを用意されながらそう告げる。

冒険者の質の向上に繋がるならば、ギルドは各【ファミリア】に不都合が生じない範囲で情報を公開する。

今回のベルの場合は特に周りから注目されるため、その【経験値(エクセリア)】の傾向が焦点となってくる。

もちろん名前は伏せられて他の者の目に晒される。

 

 

で、二人共最近あった事を書いているのだが、なんかどんどんエイナの顔色が悪くなってきている。

 

 

 

 

「ちょっ、ちょっと待って……

…ひ、一つずつ整理させてくれないかしら?」

 

「だ、大丈夫ですかエイナさん?」

 

「私のことはいいから、ちゃんと答えてねベル君。

このミノタウロスって……あのミノタウロスよね?」

 

「……は、はい……」

 

「で、この異常な再生速度を持ったミノタウロスを…

…ロキ・ファミリアに協力してもらいながら倒した…

…………………これ、本当なの?」

 

「……は、はい……」

 

 

 

 

激しい頭痛が…

グラグラと頭がふらつく中で必死に情報を整理する。

只でさえミノタウロスはレベル1のベルでは倒せないのに、それを異常な再生速度を持ったミノタウロスを倒したって……

いくらロキ・ファミリアが協力したとしても…

 

 

これだけでも異常だというのに…

まだこれから聞かないといけないことがあるのだ。

 

 

 

 

「……ハジメ君。

この正体不明の人を倒したらランクアップしたのよね?」

 

「そうだと思います。

あと他でランクアップするものはないはずです」

 

「……でもね、これに書いてあるのが本当なら……

…あのロキ・ファミリアが誰も手も足も出なかった相手を一人で倒したことになるのだけど……」

 

「そうですけど、ダメでしたか?」

 

 

 

 

ダメかイイか、どちらかと言えばダメに決まっている。

いや、ロキ・ファミリアが全く歯が立たない相手を一人で倒すなんて……

 

それでいて今回やっとレベル2。

あ、あり得ない………

 

 

 

 

「べ、ベル君はともかく……ハジメ君の情報だけは隠さないといけないわね……」

 

「やっぱりそうですよね…」

 

「そうなんですか?」

 

「「むしろなんで大丈夫だと思えるわけ!!!??」」

 

 

 

 

いつも思う。

どうして僕に対して言うときだけこんなに息ピッタリで声が揃うのかと……

はぁ、とため息をついているエイナとベルだが、ベルはそこで何かを思い出したようで

 

 

 

 

「あっ、エイナさん。

一つ相談したいことがあるんですけど…」

 

「なにかなベル君?」

 

「その、『発展アビリティ』のことで……」

 

「そうか、そうだったわね……

二人共、レベル2になったんだもんね。

それじゃあ、もしかして選択可能のアビリティが複数出てきちゃったのかな?」

 

「はい。

神様とも話し合ったんですけど、エイナさんの意見も参考にしてから慎重に選んだ方がいいって……」

 

 

 

 

今回二人はレベル2になったことによって発展アビリティが発現した。

一度の【ランクアップ】につき得られる項目は一つで、発現はあくまで任意なのだ。

発展アビリティは【ランクアップ】を経た【ステイタス】上に発現したのだが、厳密にいえばまだ二人はレベル2に到っていない。

 

今のアビリティを選ぶ為の猶予期間。

最後の能力更新を終えて、後はヘスティアの手で【ステイタス】が一新されることを残す、いわば保留の状態だ。

 

 

 

 

「選択可能なアビリティはいくつ?」

 

「3つですね。

それでちょっと、よく分からないアビリティがありまして……」

 

 

 

 

ベルが羊皮紙に書いたものをエイナは確認してみる。

そこには『耐異常』『狩人』『幸運』と書かれてあった。

 

『耐異常』『狩人』は見たこともありベルに説明出来るのだが、最後の『幸運』というものは見たことがなかった。

おそらくレアアビリティだろう。

その事も含めてベルと話し合い、最終的にベルの考えで『幸運』を選んだ。

 

 

 

 

「どっちのアビリティを選んだって間違いじゃない。

だから、ベル君が自信をもって決めてごらん?

その選んだアビリティが、きっと今のキミに必要なもののはずだから」

 

「……はいっ、ありがとうございます」

 

 

 

いくらレベル2に上がろうとベルはベルのままだと分かったエイナは嬉しい気持ちになった。

しかしそのあとこれからあることを考えて一気にテンションが下がる。

 

 

 

「……もしかしなくてもハジメにも発展アビリティが発現したんだよね?」

 

「そうですけど、さっきと表情が変わってませんか?」

 

「き、気のせいだよっ!!

で、ハジメ君はいくつ選択可能のアビリティが発現したのかな?」

 

「同じ3つですね」

 

「……なら、まだ大丈夫かな……」

 

 

 

と、甘い考えだったなと思い知るのはハジメの羊皮紙を確認し書かれている内容を見てしまったためだった。

 

『再生』『拒絶』『削除』

 

一体何だこれは??と何度も見直した。

もしかしたら見間違えかもしれないと思ったが何度見ても書かれているのは同じ。

 

 

 

 

「………ナニコレ?」

 

「やっぱり見たことありませんよね」

 

「イヤイヤ!!

見たことないけど明らかに恐ろしいのがあるんだけど!!?」

 

「僕的には『削除』を」

 

「絶対にダメェェェェ!!」

 

「……ベルベルと言っていたのと反応が違うんですけど……」

 

 

 

 

3つとも初めてみるレアアビリティ。

しかし絶対にこの『削除』だけは選んではダメだ!!

これを選んだら、狙われるどうこうではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

 

 

 

「僕もハジメには『削除』は選んで欲しくないな……」

 

「二人共なんでそんな事を言うんですか?」

 

「とにかくダメだからね!!」

 

「…………………………分かりました。

………………他の人にも聞いてみます」

 

((全然諦めてない!!?))

 

 

 

 

せっかくの発展アビリティだ。

もっと悩んで決めた方がいいかもしれないが…

……どうしてだろう…この『削除』は怖い気がする。

 

二人は祈った。

絶対に『削除』を選ばないようにと。






さて、さて、さてさて。
ハジメはどれを選ぶのやら?


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影の薄さはこういう時、厄介である。


どうも、どうもどうも!!!
今日は楽しい1日になりますように。

…KinKi Kidsのコンサート、どうなることやら。

それではどうぞ!!





「そうかー

やっとハジメもレベル2になったんか~」

 

「元々ハジメ君はレベル1では()()()()()()はあったんだけどね。

やっぱりあの一時停止は良くも悪くもハジメ君に影響を与えすぎるよ」

 

 

 

黄昏の館の中庭で二人の神がお茶をしていた。

以前は目を会わせるだけで喧嘩をしていた二人だが同じ屋根の下で生活をすれば無意味なことは無くなるらしい。

 

それでも意見がちょっとでも合わなければすぐ喧嘩をするというのは、やはりというべきなのだろう。

 

 

 

 

「まぁ、こうしてレベル2になったんやしええやんか。

そ・れ・よ・り・や!!!

どうやったんやステイタスは!!?」

 

「べ、別に普通のレベルアップだったよ…」

 

「嘘はあかんで~

あのハジメがレベルアップしたんや。

普通のステイタスなわけがあるか!?」

 

「そ、そういっても……」

 

「これからも持ち持たれつの関係なんやからな!!

それにレベルアップしたことでこれから更にベルやハジメは狙われることになったんや。

もちろん護衛は変わらずにやってやるわ」

 

「……つまり代わりにステイタスを教えろって言うのかい?」

 

 

 

いつかはレベルアップすることで起きることは予想していた。

だけどきっとヘスティアの予想以上の事が起きる可能性はあると思っている。

そのためにはロキ・ファミリアのようなものが護衛してくれたらそれは心強い。

 

 

……だからと言って簡単ステイタスを教えることは……

 

 

 

 

「……はぁ~

どうせハジメが相談しにくるだろうから、発展アビリティぐらいは教えてもいいかな」

 

「やっぱり発展アビリティが発現しとったか。

一体いくつ、いやどんなもんが発現したんや?」

 

「3つだよ、それもどれも聞いたこともないものばかりのね」

 

 

 

 

その言葉にロキの目はギラリと光った。

明らかに面白そうなオモチャを見つけたような瞳である。

それを見たヘスティアはこれだから嫌だったんだと後悔をしながら諦めてロキに話すことにした。

 

 

 

 

「分かっていると思うけど他の人に話すのはダメだからね」

 

「分かっとるわ。

そんな面白そうな事を他の者にいうか」

 

 

 

やっぱり楽しんでいた……

はぁ~とため息をつきながら続きを話す。

 

 

 

 

「ハジメに発現したのは『再生』『拒絶』『削除』の3つだよ」

 

「なっ!!?

………聞いたこともないわ……

というか、それホンマに発展アビリティなんやろな?」

 

「僕だってそう思って何度も見直したよ。

でも間違いなく発展アビリティだったよ」

 

 

 

 

二人共そこで黙ってしまった。

だってそんな発展アビリティなんて聞いたこともない。

というか、名前からしてヤバイのが含まれている。

 

 

 

 

「……おい、ヘスティア」

 

「……なんだい、ロキ」

 

「絶対に『削除』だけは選択させたらあかんで」

 

「もちろん分かっているよ。

そんなものを選んだら……」

 

「選んだらどうなるんですか?」

 

 

 

 

なんか突然入ってきた声の方を見てみると、すぐ近くにハジメが立っていた。

 

 

 

「ハ、ハジメ君!!?」

 

「なんや!!

いつからいたんや!?」

 

「ついさっきですよ。

先ほどエイナ嬢にお話ししてきました」

 

「そ、そうかい……

…で、彼女なんて言ってたんだい?」

 

「『削除』はダメだと言われました。

でも僕は『削除』がいいんですけど……」

 

「「絶対にダメだああぁぁ!!!」」

 

 

 

 

見事にシンクロした二人。

それにちょっとムッとしている感じに見えるハジメは

 

 

 

 

「どうしてダメなんですか?

この中で一番面白そうなのは『削除』なんですよ」

 

「キミは面白さで選んだらダメだよ!!

ちゃんとダンジョンでハジメ君の身を守れるものにしないと!!!」

 

「そうやで!!

例えば『拒絶』とはどうや??

攻撃とかを一切受け付けへんもんかもしれへんで」

 

「一時停止がありますので大丈夫です」

 

 

 

 

確かにその通りである。

 

 

 

 

「なら『再生』ならどうや?

恐らく怪我した時にでも元に戻す力が」

 

「確かにこの前は怪我をしましたが、その時にポーションを飲めば治るようなので大丈夫です」

 

 

 

 

一理ある。

 

 

 

 

「せやかて『削除』はな……」

 

「そうだよ。

わざわざ危ないかもしれないものを」

 

「そうですか?

僕的には自分が入らないものを『消す力』がある思うんですけど。

これなら邪魔なものは一気に消し去ることができるんですよ」

 

 

 

 

予想通りなことを言っている!!!??

と、二人は同時にそんなことを心の中叫んだ。

まさにヘスティアとロキ、エイナが恐れているのはそれである。

 

何度も目の当たりにしたことがある。

自分よりも他人が傷つけられたとき、ハジメは周りが見えずに突き進んでしまうことに。

もしハジメが『削除』を手にして、予想通りの効果だった場合

 

 

 

 

((手当たり次第に消されるうぅ!!!!!))

 

 

 

 

それは大袈裟かもしれないがハジメの逆鱗に触れれば消されるなんてことは想像がついてしまう。

 

だからそれだけは、それだけは阻止しないと!!

 

 

 

 

「せ、せやけどな、そういうのはもっと考えて決めた方がええで」

 

「そ、そうだよ!!

ハジメ君は一度決めてしまうと突き進む傾向にあるからね。

今回みたいなのは慎重に選ぶべきだよ」

 

「……そうですね。

確かにお二人の言うとおりですね」

 

 

 

 

どうやら納得してくれたようで安心していると

 

 

 

 

「なら皆さんに聞いてみます。

もちろん僕は他の人に口外しないようにしときますので」

 

「間違ってないけど、間違ってるよ!!!」

 

「あかん!!

もういなくなった!!!」

 

 

 

 

煙がフッと無くなるようにその場から消えたハジメ。

一人でも『削除』を選ぶようなら間違いなく、もう梃子でも動かなくなり『削除』を選んでしまう。

 

二人の神はとにかくハジメを、というかハジメに関わりのあるものに余計なことを言わないようにと走り回る羽目になってしまった。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「ダ・団長、いまいいですか?」

 

「ハジメ、いま団長の前に余計な「ダ」を入れなかったかい?」

 

「「THE」を入れるとまさに団長になりそうですけど、それだと個性がなくなりそうな気がしましたのでここは思いきって「ダ」を入れました」

 

「そ、そうかい……

(ここはツッコミは入れないほうがいいかな……)」

 

 

 

そこにはフィン・リヴェリア・ガレスの3人がいた。

ハジメの発現にリヴェリアは笑いそうになり、ガレスは豪快に笑っていた。

ここで余計に首を突っ込むと酷くなると考えたフィンはそのあだ名を受け入れるしかなかった。

 

 

 

 

「それでですね、発展アビリティが発現しまして『再生』『拒絶』『削除』のうちどれが僕に合うと思いますか?」

 

「なっ!!!??」

 

「これはまた……」

 

「とんでもないもんが発現したの……」

 

 

 

今度はリヴェリアが一番驚いていた。

博識なリヴェリアでもそんな発展アビリティは聞いたことがないのだろう。

それともその3つの異常性を早くも見つけた為か。

 

 

 

 

「その様子だとリヴェリアも聞いたことがないようだね」

 

「あぁ……

……しかし、またとんでもないアビリティを……」

 

「お主は本当に話題に尽きない男だな!!」

 

「ハジメ、少しそこで待ってくれないか?

三人で話してみたいから」

 

「分かりました」

 

 

 

 

という事で、フィン達は部屋のスミに集まって会議を開くことに。

相談をするということはすぐに決める訳ではない。

だが、発言を間違えるとハジメがとんでもない「力」を手にして抑えられない事態がくると全員が考えていた。

 

 

 

 

「間違いなく『削除』は無しだね」

 

「勿論だ。

しかし残り2つも怪しいぞ」

 

「なら『再生』を選んだらどうだ。

『拒絶』よりもずっと安全じゃ」

 

「それは僕も考えたけど、ハジメのことだ。

何かの拍子でモンスターを再生するなんてことが…」

 

「いやフィン、それは考えすぎだ。

いくらハジメとはいえモンスターを再生するメリットがない」

 

「しかし再生というのは必ず()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

……正直、さっきから親指の震えが止まれない……

……どれを選んでも僕達の想像以上のものが現れるはずだ……」

 

 

 

 

それを聞いて誰もが悩み黙った。

下手に選ぶ訳にはいかない。

 

そんな状態に気づいたのか遠くからハジメが

 

 

 

 

「僕は他の人にも聞いてみたいと思ってますので、また後で聞き来ますね」

 

「あぁ分かっ……って待ってくれ!!」

 

「あやつもうおらんぞ!!!」

 

「追いかけるぞ!!」

 

 

 

誰もが思う。

こういう身勝手にというか、周りの目を気にしないというか、悪意がないからどういったら理解してくれるのかと頭を悩ませる。

 

とにかくいまは他の者に余計な事を言わせない為にも、ハジメの追跡者はさらに追加した。





あっ、この発展アビリティの話は次ぐらいまでかな?
さてさて、ハジメは何を選ぶのやら?

というか、いつの間にか50話目だった!!?


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影が薄くても望み通りに行くことと、行かないことはあるものだ。



8月だあああぁぁー!!!
恋の季節?ですねー
いや、プライベートうまく行かないなー
なので、久しぶりに甘々?を入れたよ。

もしかしたら甘々足りないかな?

ちなみに今回の話は指向をちょっとだけ変えました。

まぁ、とにかくどうぞ!!!





①アイズ、レフィーヤ

 

 

 

 

レフィーヤ姉の部屋でお茶をしていたアイズ姉とレフィーヤ姉に話を聞くことにしたのだが、何故かレフィーヤ姉がものすごく睨んでいる。

 

僕が一体何をしたのか、よく分からないがとにかく話を聞いてみよう。

 

 

 

「アイズ姉、どれがいいと思いますか?」

 

「う~ん………削除…かな??」

 

 

 

流石アイズ姉である。

このスキルならさらに強くなれると思う。

 

 

 

「アイズさん!!

それは絶対に危険ですよ!!!」

 

 

 

やっぱりレフィーヤ姉はダメだって言ってきたな。

 

 

 

「それじゃレフィーヤ姉はどれですか?」

 

「ううーん………再生かな?

この中でもマトモそうだし……」

 

「きっと……マトモなもの…ないと思う」

 

「それを言ったらダメですよアイズさん……」

 

 

 

失礼である。

 

 

 

 

②ガレス、ベート

 

 

 

 

訓練場にいたガレジイとベベートがいた。

今度はベベートが睨んでくる。

一体僕は皆に何をしたというのだろうか?

 

 

 

「ベベートはどれですか?」

 

「あっ!!?

俺に聞くんじゃねえ!!勝手に決めやがれ!!!」

 

 

 

それもキレられた。

何故かベベートの時はよくキレられる。

今にも飛びかかりそうな勢いである。

 

 

 

「やっぱりカルシウムが足りないんですかね……

ガレジイはどうですか?」

 

「……その一時停止がなかったらぶん殴っとたわ……

……そうじゃのー、拒絶というものは興味があるの。

一時停止とは違うものなのか見てみたいわい」

 

 

 

あれ?

なんかガレジイからも睨まれている。

とにかくここから離れたほうがいいみたいである。

 

 

 

 

③ヘファイストス、椿

 

 

 

ヘファイストス・ファミリアの応接室に来ている。

ツバッキーが工房にいると聞いたので向かおうとしたらヘファイストス様に止められた。

それも三時間も応接室で待たされたあと、なんかボロボロなツバッキーが現れたのだがその理由は教えてもらえなかった。

 

まぁ、今日は発展アビリティの事を聞きにきたので問題はない。

 

 

 

「ヘファイストス様、どうでしょうか?」

 

「……あ、あのね、そんなに簡単に自分のステイタスを教えたらダメよ……もう……」

 

 

 

なんかヘファイストス様はお疲れのようである。

まぁ三時間もお話をしてくれたのだから、疲れもみえてしょうがないのかもしれない。

元々神様なのだから、僕の知らない所で色々と忙しいのだろう。

 

それでも僕のために時間を裂いてくれた。

本当にありがたい話である。

 

 

 

「でも聞かないと分かりません。

それにヘファイストス様とツバッキーは大丈夫だと分かってますので……」

 

「……そうね、再生かしら。

それ以外は…選んで欲しくないわね……」

 

 

 

やっぱり「再生」がいいのだろうか?

 

 

 

「ツバッキーは?」

 

「……手前も再生かの。

どの程度の…ものが再生……するかは知らんが…それは…きっと……いいものだと思うぞ……」

 

 

 

ヘファイストス様よりももっと疲労しているツバッキー。

もしかして二人とも疲労してマトモな判断が出来ないかもしれない。

 

 

よし、さらに意見を聞いてみよう。

 

 

 

 

④リュー、シル

 

 

 

 

今度は豊穣の女主人。

バイト休憩中のリューとシル姉に話を聞くことにした。

何故かミア母さんから鉄拳制裁を受けたのだが、まぁ一時停止で痛くないのでスルーすることに。

 

で、リューに発展アビリティを話したのだが

 

 

 

「前にも言いましたがハジメが手にしたいのもでいいと思います。

私はハジメを信じてますので」

 

 

 

と、流石リューだなーと思った。

僕の事を一番信じて、知っていると。

 

するとシルが少し頬を赤くさせて

 

 

 

「リ、リュー……

……もう~…私の前ならノロケるのも平然としてるのね……」

 

「……ノロケ、なんでしょうか?」

 

 

 

その言葉がどう言うことなのか分からずに言ったようだ。

リューはそんなちょっと抜けている所がカワイイ。

 

 

 

「はいはい、ご馳走さまです」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくださいシル!!??

私そんなことしてませんよ!!!

そうですよねハジメ!!!」

 

 

 

訴えてくるリューだが、僕もキチンと思っていることを言わないと失礼だなと思い

 

 

 

「ここまで思ってもらえて光栄です」

 

「そこは「好き」とか「愛している」とか言わないとリューには伝わらないですよ?」

 

 

「……う、う、うわあああぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

久しぶりにリューの真っ赤な表情を見て、僕もシル姉も満足した。

 

 

 

 

⑤リリ、フィン

 

 

 

 

豊穣の女主人からの帰り道。

まさかの組み合わせに遭遇。

それもフィンとリリが手を繋いでいる。

 

 

 

「あぁ、デートの邪魔でしたね。

すみません、それではお幸せに」

 

「ち、違います!!!

転びそうになった所を助けてもらっただけです!!」

 

「僕はそれだけではなかったけどね」

 

「と、いってますけど」

 

 

 

するとウッ!?と何かを隠していたようである。

話を聞いてみるとどうやら結婚を前提に付き合ってくれないかと言っているようだ。

 

どこかの姉妹の片割れが聞いたら発狂しそうですね。

 

 

 

「確かに色々言われましたけど……

私はベル様がいるんです!!

でもフィン様が聞いてくれないんですよ!!!!」

 

「同じ小人族(パルゥム)、それもこんなにも意志が強く美しい女性はそう巡り会わない。

僕は未来のパルゥム達のためにも君を諦めるわけにはいかないんだ」

 

 

 

そんな話を前に聞いた……ような気がする。

 

 

 

「それでは私はベル様のものなんです!!!」

 

「確かに彼は強い。

これから先もきっと、この冒険に必要な存在になるだろう。

それでも僕は諦めないよ。

君が望むなら僕は何だって出来る」

 

「そんなものはありません!!!

いま私に必要なのはベル様だけです!!!!!」

 

 

 

なんか夫婦漫才をしているしか見えない。

ここはお邪魔かなーと思い

 

 

 

「……………お邪魔しました………」

 

「ああああぁぁぁっ!!!!

お願いですから二人きりしないで下さいハジメ様あああああぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

最後のこれは何だったのだろうかと思いながら、途中で走っていた神様二人に捕まり黄昏の館に連行された。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

………………………

 

 

 

……………………

 

 

 

…………………

 

 

 

………………

 

 

 

……………

 

 

 

…………

 

 

 

………

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

ということで、結論です。

 

 

 

「神様、とりあえず「再生」でお願いします」

 

「そ、そうか…「再生」を選んで……

………とりあえず、って、どういうことかな?」

 

「次のレベルアップの時に「削除」にします」

 

「……………………」

 

 

 

 

あっ、神様が白目向いて気絶した。

 

 

 

「……あかん……

……この……フラグ……間違いなく回収されるわ……」







『フラグ』ってどういう意味だったかな(笑)


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影が薄くたってお祝い事には参加したい。



どうも!!!
お盆休みですね、いかがお過ごしですか?
こちらは初盆が重なり出掛けることは1日だけです。
その代わりにお盆休み内に更新しますよ!

それではどうぞ!!!!





「「「「かんぱーい!!!」」」」

 

 

 

ジョッキのぶつかる音が鳴り響く。

今日はレベルアップ初のダンジョンだった。

そこではベルの【英雄願望(アルゴノゥト)】の力が発揮された。

 

 

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

 

 

これはベルが持っていた【ファイヤボルト】のチャージすることを意味していた。

お陰で滅多にでないモンスターを一撃で仕留めることが出来た。

 

そんなベルとサポーターであるリリ、そして今回から新しくメンバーになったヴェルフ、そして椿が席を囲んでいた。

 

 

 

「まさかあのヴェルフが、ヴェル吉がパーティーを組むなんぞ……手前は嬉しいぞ」

 

「うるせぇー!!

ってか、なんで椿がここにいるんだよ!!!」

 

「祝いの席なのだ、構わんだろう?」

 

「てめぇ……」

 

「い、いいじゃないヴェルフ!!!

こういうのは多いほうが楽しいよ!」

 

「……ベルがいいなら……いいけどよ……」

 

 

 

それでもまだ納得していないヴェルフ。

椿はバイトをしているハジメを待つために豊穣の女主人にいたのだが、後からきたヴェルフをみつけてこうして相席をしている。

 

 

 

「しかしまさか椿と知り合いだったんてな……」

 

「知り合いというか、ハジメの武器を作っているんですよね」

 

「ふむ。

今日はその武器と防具が出来たのでな。

しかし、手前はヴェル吉がベルの専属になるほうが驚いたぞ」

 

「色々あってな……

ってか、椿が執着していた冒険者がベルの仲間だったことがビックリしたぜ」

 

 

 

執着というか鍛冶師としてのプライドだろう。

あんなもの目の前で見せられたら鍛冶師は黙ってはいられないだろう。

 

 

 

「……というか、私は (ベル様と二人が良かったのに……)

 

「何か言ったリリ?」

 

「な、なんでもないで」

「ベルベルと二人がいいと言ったんですよリリィは」

 

 

「「うわああああぁぁぁぁ!!!!」」

 

 

 

突然現れたハジメにビックリするベル。

しかしもう一人ビックリしたものがいた。

 

 

 

「な、な、なんださっきのは!!?

突然声がし……」

「余計な事を言わないでくださいハジメ様!!!」

 

 

 

ヴェルフの後ろの方を見ながら叫ぶリリ。

それに一体何が起きているのか理解していないヴェルフ。

 

 

 

「気にするなヴェル吉。

そのうちに慣れる」

 

「いや、慣れるって……」

 

「どうして毎回毎回リリにちょっかいをかけるのですか!!?」

 

「ちょっかいのつもりはないのですがね」

 

「たちが悪すぎです!!!」

 

 

 

一体誰と話しているのか……

リリの向いている方角には誰もいない。

しかし確かに誰かと話している、声も聞こえる。

 

 

 

「あ、あれかマジックアイテムってやつか……」

 

「そんなもんだと理解としておけばよい」

 

「含みがある言い方だな」

 

「今のヴェル吉では無理な話ということじゃ。

まぁ、しばらく付き合えば()()()()()()()()

 

 

 

どういうことなのか聞こうとしたがこうなった椿が話すことはないと分かっているヴェルフは聞くことを止めた。

 

 

 

「えぇーとね、ヴェルフには見えないだろうけどここに仲間のハジメがいるんだ」

 

「初めましてトキサキ (ハジメ)です」

 

「お、おう……」

 

 

 

見えないが会話をしている不思議な感覚に戸惑うヴェルフ。

それを見て誰もが「そんな時期があったな…」と思い返していた。

 

 

 

「今日はすみません。

どうしてもバイトから抜けられないもので。

もう少ししたら休憩にはいりますので待っててください」

 

「分かったよハジメ」

 

「手前は元よりハジメに用事があったから構わぬ」

 

「ベル様がいいなら私は文句はありません」

 

「い、いいんじゃねえか……」

 

 

 

ヴェルフ以外普通に会話をしているためなんかのけ者感が凄い……

 

 

 

「な、なぁベル。

まだ…その、いるのか?」

 

「ハジメのこと??」

 

「見えねぇからな……どうなんだ?」

 

「もうキッチンに戻ったけど」

 

「そ、そうか……

……はぁ、なんか見えねぇと妙に緊張するからよ~」

 

「それについてはヴェルフ様に同意見です。

ハジメ様はもっと他人との付き合いについて知っておくべきです!!!」

 

「あれでも良くなったほうなんだけどな……」

 

「「絶対に嘘だあぁ!!!」」

 

 

 

そんなに息ぴったりにつっこまなくても……

苦笑いをしているとシルとリューが料理を持ってやって来た。

 

 

 

「この度はレベルアップおめでとうございます」

 

「ありがとうございます!!」

 

「本当におめでとうございます!!

今日はジャンジャン注文してくださいね!!」

 

「アハハハ……」

 

 

シルのいうジャンジャンはとんでもない量になるので、想像しただけで苦笑いになってしまう。

 

 

「それで今日がレベルアップ初のダンジョンだったのですよね?」

 

「はい、思っていた以上にスキルが良くて!!!」

 

「そうですか。

ハジメも早く試したいと言っていました。

今度はハジメも一緒に連れていって………ってどうしましたかクラネルさん?」

 

 

驚いた表情をするベルに疑問を持ったリュー。

するとベルの手助けをするかのように隣にいたシルがリューに耳打ちをする。

 

 

「リュー、また「トキサキ」から「ハジメ」になってるよ」

 

「なっ!!!!??

………し、仕事に…戻ります………」

 

 

頬を少し赤めた状態でキッチンに戻っていったリュー。

その様子にリリ、椿はどういうことなのか悟った様だが

 

 

「おい、ベル。

なにか変なことでもいったんじゃねえか?」

 

「ええっ!!?

そんなことはないはずだよ!!ねぇリリ!!!」

 

「乙女心が分からないベル様は知りません」

 

「じゃな」

 

「私もちょっと……」

 

「えぇー!!!」

 

 

すぐさまヴェルフの方を見たが知らぬとばかりに視線を外す。

どうして僕だけど落ち込んでいると休憩上がりのハジメがやってきた。

 

 

 

「早かったのハジメ」

 

「リューが代わりに仕事をするから早めの休憩をと」

 

「……ねぇ、リューさん怒っていた?」

 

「……怒っていませんが、いま怒らせるようなことを言ったと白状したのでベルベルは罰ですね」

 

「なんでそうなるの!!!!??」

 

 

 

問答無用で衝撃入のチョップを喰らいもがくベル。

それにはその他の人達も同情したという。

 

 

 

「そういえば今日が神の会合(デナトゥス)の日なんですよね」

 

「そうじゃの、手前の神ヘファイストス様も行っておる」

 

「僕の神とロキ様は喧嘩しながら行ってました…」

 

「本当に犬猿の仲ですよね……」

 

 

 

…………………………

 

 

 

「調子に乗るなやドチビ~!!!」

 

「そっちこそ過去の栄光にいつまで浸っているんだい~!!!」

 

 

隣り合っている二人は言い合いをしていた。

それを眺めていた神々は関わらないようにと離れて様子を見守っておりそこに

 

 

 

「何してるのよ貴女達は……」

 

「ヘファイストス!!」

 

「このボケがまるで自分の手柄のように言い寄ったからや!!

どう考えてもうちのアイズたん達のお陰でやろうが!||!|」

 

「何いってるんだい!!

手も足も出なかった相手に僕のハジメ君が倒したんだ!!!

むしろ足を引っ張ったんじゃないか!!!!」

 

「なんやて!!!!」

「なんだよ!!!!」

 

「はぁ~………」

 

 

一緒に住んでいるのにどうしてこう喧嘩をするのか?

お互いがお互いを助け合う。

きっとこの言葉を知らないだろうなーとヘファイストスは思っているとまだ奥のほうが騒がしくなってきた。

 

そこにはまだ席に付いていない男共を誘惑し集まったいたことの道を開けさせてこちらに向かって歩いてくるのは

 

 

 

「ずいぶんと仲良くなったのね」

 

「どこをどう見たらそう見えるんだい!!」

 

「その目は節穴か!!!!」

 

「いまは関わらないほうがいいわよフレイヤ」

 

 

 

そうみたいね、とクスリと笑うフレイヤ。

するとそこで暑苦しいあの神が席をたった。

 

 

 

「俺がガネーシャだ!!

さっそくだが、2つ名を決めたいと思う!!!」

 

「「「うおおおおおぉぉぉぉ!!!」」」

 

 

 

そして更に暑苦しくなった。

いつもは少し話してからなのに今日はいきなりなんて…とヘスティアは頭をかかえた。

 

そうヘスティアのファミリアには二人レベルアップした。

そして一人は世界最速として話が流れており、一人はあのロキファミリアが手出し出来なかったものを倒したと大きな話になっている。

 

そのためか他のファミリアの2つ名をつけるのにどうも気が入っていないようで、適当につけられた2つ名に崩れ落ちる神が続出していた。

 

 

それを見て震えていたヘスティアにとうとう出番がくる。






言っておくけど、2つ名の募集なんてしてないんだからね❗


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影が薄い……よね?最近、悩んでしまう。



お盆休み、どうお過ごしですか?
僕は今日までお盆休みだったのでなんとか更新間に合いました?が、皆さんはどうでしょうかね?

さて、タイトルの通り最近…というかもう「影薄い?」と思う人がいると思いますが、一応「カミカクシ」で見えない設定ですので悪しからず。

それではどうぞ!!!!




「はぁ、はぁ、……なんとか、マトモなものが……」

 

 

 

アイズを抜き世界最速として話題になったベルの2つ名はいい的になり、それは様々な神が自分の娯楽のためにそれはヒドイ名前を上げた。

 

それでもなんとか勝ち取った名は

 

 

未完の少年(リトル・ルーキー)

 

 

無難な名だとは思うがこれ以上神経をすり減らすのはキツイ。

何故ならこれからが本番なのだ。

 

 

今の今まで、スキルと本質のお陰で影が薄く神でさえも見つけられなかったトキサキ・ハジメ。

 

その男が隠しきれないことをやらかした。

ロキファミリアの一級冒険者でも手足も出せなかった敵をたった一人で倒したという事実。

 

その噂はあっという間に広がり今ではハジメとは何者かと騒ぎだしている。

 

それはそうだろう。

ベルのように見えればいいが、ハジメはハジメ自身とヘスティアの許可がなければ誰であろうと見ることのできない。

 

ハジメ一人でやっと声が聞こえる程度であるが、余計な事をするなとヘスティアから釘をさされたので大人しくバイトをしているのだ。

 

だが、そんなことは神には関係ない。

これほど話題性があり面白そうなネタを弄らないわけがないのだ。

 

 

 

「それでは……おまちかねのトキサキ・ハジメだあああぁぁぁ!!!!!!」

 

「「「「いええええええぇぇぇぇい!!!!!」」」」

 

「頼むから、マト…」

「楽しむぞおおおおぉぉぉぉ!!!!!」

 

「「「「いええええええぇぇぇぇい!!!!!」」」」

 

「楽しむな!!!!」

 

 

ぶっ続けの強制イベント。

すでに頭が痛いのに、このままだと胃までも痛くなりそうである。

 

横では「いええええええぇぇぇぇい!!!!!」と一緒に騒いでいるロキには一発殴りを入れたい気分だ。

 

 

 

異常探求者(クレイジー・ボーイ)

 

「的はずれではないかも知れないけどダメだ!!」

 

「なら常識外れ(ノーリアリティー)だな!!」

 

「外れてるのは君達の頭だぁ!!!」

 

 

 

すでにマトモなものがない……

頭を抱えるヘスティアに更なる追い討ちがくる。

 

 

 

「なら私からもいいかしら?」

 

「フ、フレイヤ?

なんで君が………」

 

「神でも見えないなんて……ふふふ。

そんな心を動かす子を見逃すわけがないでしょう」

 

 

なっ!!?と驚くヘスティア。

いや、ヘスティア以外の神も驚いている。

あのフレイヤが動く、と。

 

 

「じゃフレイヤ様からも一言!!」

 

女神の初体験(ルージング・ヴァージニティ)ってのどうかしら?」

 

「ふ、ふざけるなあああぁぁぁ!!!!

誰がなんの初めてを奪ったっていうんだ!!!!!」

 

「だってこんなにも釘付けにされたのは初めてだから……」

 

「だとして君なんかに渡すかあああぁぁぁ!!!」

 

 

 

や、ヤバい…!!!

あんなことを仕出かしたのだから覚悟はしていたが、こんなにもフレイヤに目をつけられたなんて……

 

というか、この2つ名決めはヤバい!

絶対にマトモなものが出ない!!!

 

すると隣からすぅーと手をあげるヘファイストス。、

 

 

 

「ヘ、ヘファイストス!!!?

君もかい!!?」

 

「私も困らせられたのよ、一言言わせてもらうわ。

………鍛冶師泣かせ(スミス・クレイ)なんてどう??」

 

「間違ってはないかもだけど、2つ名にはしないでくれえええええぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

まさかの伏兵にとうとう胃までも痛くなってきた。

ど、どれだけ周りに影響を与えるんだ……

さっさといい2つ名を出してもらって即決しないとヤバい…本当にヤバい………

 

 

すると、今度はロキがバッと手をあげる。

一番言ってほしくない奴かと思っていたが、なにやら真剣な表情にヘスティアは制止するのをやめた。

 

 

 

「……普段やったらうちもふざける側に回る所やけど、今回はハジメに助けられたさかい…マトモなを言ったる」

 

 

 

その真面目な表情に誰もがちょっかいを出さずに見守る。

あのロキが真剣な表情なのは珍しいのもあるが、こんな状態のロキがどんな名前をつけるのか興味がある。

 

 

 

続行不可能(サスペンデッド)

 

 

 

誰もが停止してしまった。

 

 

 

「サスペンドは一時停止で、デッドは死や。

一度停止させれば死ぬことさえもするされへん、相手も自分もな。

そんな誰も干渉できへんやつにはピッタリやと思うけどな」

 

 

ヘスティアとしてなんて事をバラしてくれたんだ!!と言おうとしたが、誰もが言葉を失い静寂が広がっていた。

 

一体何が起きているのかと心配していると

 

 

 

「……う、うおおおおおぉぉぉぉ!!!」

 

「サスペンデッド!!サスペンデッド!!!」

 

「ってか、なんだその力!!?

マジでそんな超ーレア持ってるんか!!!」

 

「一体どんな力なんだあぁ!!!??」

 

「お、お、落ち着……落ち着け!!!

ロ、ロキ!!なんでそんな……」

 

 

 

そんな事を言ったんだ!!と問いかけようとした。

しかしロキの目を見たとき悟った。

あのギラリと光る目は明らかにこれを狙っていた。

 

 

つまり、

 

 

 

「は、図ったなーロキイイイイイィィィ!!!!!」

 

「言いがかりや。

それにええ2つ名が出来たからええやろ」

 

 

 

それからは2つ名どころではなく、ハジメの一時停止の説明に追われた。

なんとかふんわりと説明だけですんだが、「相手を停止させる」というだけでもかなりの衝撃を与えることになった。

 

誰もがこれで2つ名が決まったと思いきや、突然会場の扉が開き怒濤が声が響いた。

 

 

 

「ヘスティアアアアアアアァァァ!!!!」

 

「あ、アポロン!!?」

 

 

血相を変えて入ってきたアポロン!!

一体何事かと誰もがざわめく中でアポロンはずかずかとヘスティアの前まで歩いてきたが、その前にロキが進路を防いだ。

 

 

 

「なんやアポロン?

姿を見せんかと思ったら血相を変えてヘスティアに求婚でも求めでもきたんか?」

 

「ああぁ、ロキよ。

いまは君を相手している暇がない。

そしてこの下らない催し物も中止だ!!」

 

 

 

その一言に神々が騒ぎだした。

せっかく面白く楽しんでいたというのに。

トキサキ・ハジメに2つ名を付けたというのに。

なんの権限で中止にするのかと騒ぎたてるとアポロンがテーブルを思いっきり叩いて騒動を止めた。

 

 

 

「ヘスティア」

 

「な、なんだい、アポロン?」

 

「私の…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

その言葉にさっきとは違うざわめきが広がった。

いきなりのことにヘスティアは戸惑いながら

 

 

 

「なっ!!!?

そんな事するはずっ!!」

 

「言い訳は無用だ!!!

現に傷つけられたのは私の子だ!!!」

 

 

 

いきなり何のことを言って来たのか分からない。

しかしそんな事をするはずがないと分かっているヘスティアは

 

 

 

「するもんか!!!

僕のファミリアにそんな子はいない!!!!」

 

「言ったな。

確かにヘスティア、そんな子はいないと言ったな。

しかし現に私の子はやられ、面子は丸つぶれだ…

それでもなお、違うと言い張るか?」

 

「くどい!

だいたいそんな証拠ないことを言って!!!」

 

 

端麗な容貌には相応しくない嫌らしい笑みを深め、口角をつり上げた。

 

 

「ならば仕方ない。

ヘスティア━━━━君に『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を申し込む!」

 

 

 

━━━『戦争遊戯(ウォーゲーム)

 

対戦対象(ファミリア)の間で規則(ルール)を定めて行われる、派閥同士の決闘。

眷族を駒に見立てた盤上遊戯(ボードゲーム)のごとく、対立する神と神が己の神意を通すためのぶつかり合う総力戦。

 

 

 

「アポロンがやらかしたァ━━━━!!」

「すっっげーイジメ」

「逆に見てみたい」

 

 

 

などと、周囲の神々はにわかにざわついていた。

それはそうだろう。

娯楽好きの神様達はこういうのが大好きであり、誰もがニヤニヤと笑いだし、面白くなってきたとばかりに囃し立てる。

 

 

 

「詳しいことはまた明日、この場所で話す。

ヘスティアも一度状況を確認したいだろうからな」

 

 

 

そういって出ていったアポロン。

しかし未だに騒ぎ立てる神々と、呆然としているヘスティア。

 

 

 

「な、なんなんださっきのは!!!??」

 

「まさか『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を仕掛けてくるなんてね……」

 

「冗談じゃないよ!!!

見覚えのないことで受けるわけが」

「ほんまか?」

 

 

 

そんな声がした方を見ると細い目を開けてヘスティアを見てくるロキ

 

 

 

「どういうことだいロキ?

返答次第では君だって許さないよ」

 

「ちっと頭が血が流れすぎとるわドチビ。

………考えてもみい、あのアポロンがなにもなくあんなこと言ってくると思うか?」

 

「………………」

 

「こんなところで騒いでいるよりもしっかり確認した方がええとちゃうんか?」

 

 

 

そんなロキの言葉に動かされたヘスティアは礼も言わずにその場を後にした。

残されたロキ、ヘファイストス、フレイヤは

 

 

 

「貴女にしては優しいことをいうのね」

 

「他人事…ではすまなそうやからな……

……ヘファイストス、確認しておくのはヘスティアだけやなさそうやで……」

 

「……………」

 

 

 

ロキとヘスティアはその後一言も話さないまま会場を後にした。

そして残されたフレイヤはさっきからあることを考えている。

 

 

 

(………そういうことね。

……アポロン、貴方は手を付けてはいけない物に手を付けたようね……)

 

 

 

その人を惑わす妖艶と微笑みは、黒く光り闇へと惑わせてしまうようなものだった。






2つ名、気に入ってもらえました?
こんな展開ですのでハッキリとした決定ではありませんが有力候補です。

あとは物語次第や読者次第で変わるかも?
今は作者的に面白い展開なのでドンドン更新したいけど………信用しないでね(笑)



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影が薄い奴は、とバカにするのはいいが仲間は許さない。



更新が速い!
自分でも驚くぐらいに!!
いま展開的に面白くてドンドンかけますね~
さて、いま書けるうちに書いておかないといつ失速するか……

さて、どうぞ!!!!






時間を少し戻し豊穣の女主人ではハジメを含めてお祝いをしていると、そこに見覚えのある人達がお店へと入った来た。

 

 

 

「いたぁー!!

おーい、ハジメーベルー!!!」

 

「あっ、ナナ姉とネネ姉」

 

「……あのね、その呼び方やめなさいって言ったわよね?」

 

「無理だって言いましたよね?」

 

「あ・ん・た・ね~!!!」

 

「落ち着きなってティオネ!!!

でも可愛いじゃんネネ姉って♪」

 

「「ネ」の数が多いのよ!!!

あんたはいいわよね!!!

ナナ姉ってほうが可愛いし!!!!」

 

 

 

そうかな~と照れながら歩いてくるティオナにイラッとしているティオネ。

そしてそれを見て固まる一人の男。

 

 

 

「マジでロキ・ファミリアと知り合いなのか…

ってか、フレンドリーって感じだな……」

 

「分かりますよヴェルフ様…

……私だって初めは信じられませんでした」

 

 

 

共感するリリは思いっきり否定していた。

そんな事あるはずがないと言っていたが…

 

 

 

「でもハジメ様を見ていたらどんな人でもあんな風に引き込まれる気がします……」

 

「それは間違いねぇな。

しかしリリ助はリーリだろ…

俺はヴェルフォードってなんか本当の名前よりカッコよくなって気持ち悪いんだからな……」

 

「よかったじゃありませんか、ヴェルフォード様?」

 

「喧嘩か?喧嘩を売っているのか?」

 

 

 

今まで変わっているあだ名ばかりだったのに、何故かヴェルフだけは「ヴェルフォード」と名前負けさせてしまったあだ名を付けられた。

 

カッコいいかもしれないが言われる度に恥ずかしい気持ちになり、いまだに呼び慣れていないようだ。

 

 

 

「ねぇねぇ、一緒に食べてもいい!?」

 

「やめなさいティオナ。

ハジメにはハジメのパーティーがあるのよ」

 

「ええぇー!!」

 

「いいからこっちに来なさい。

ハジメと食事なら後からでも出来るでしょうが!!」

 

 

 

引っ張られるティオナは「またあとでね~」と元気よく手を振り離れた席へと連れていかれた。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「出来上がったですか?」

 

「うむ、やっとな。

今まで打ってきた中でも一番大変じゃった…」

 

 

 

やっと今回の二つ目の本題に入った。

一体どんなものが出来上がったのか正直楽しみにしていたハジメの前に武器がお披露目となった。

 

 

 

「これは……」

 

「こっちの短剣が[時喰い(タイム・イーター)]で、こっちがガントレットが[時止め(タイム・アウト)]じゃ」

 

 

そこには2つの武器があった。

1つは赤と黒で禍々しい姿をした短剣[時喰い]

1つはモノクロでありながらも透明感のあるガントレット[時止め]

 

2つとも見たこともない、対照的な2つ。

 

 

 

「どうして2つも?

てっきり短剣のみかと思いましたが…」

 

「それはこの[時喰い]に原因がある。

[時喰い]は名の通りに時を喰ってしまう、あらゆる時を、な。

それはハジメが一時停止したものさえも」

 

「おぉ」

 

「しかしそれは強すぎた。

時を喰らいということは寿命を喰らうのじゃ。

つまり、ハジメいえどもこいつを使えば時を喰われる、寿命が喰われるのじゃ」

 

 

 

それを聞いたハジメは無表情だったが周りは息を飲んだ。

使うだけで寿命を削られる、そんなのは魔剣、いや邪剣と言ってもいいだろう。

 

 

 

「それを防ぐために作ったのがこの[時止め]じゃ。

対照的に常に一時停止を張り続けるため[時喰い]を使っても時を喰われることはない」

 

「でもそれなら常に一時停止を張ればいいのでは?」

 

「何をいってるのだ!!!

常になど!!そんな事をすればすぐに精神疲弊(マインドダウン)するぞ!!!!!」

 

 

 

そう、いくらハジメが一時停止というチートな魔法を使えたとしても必ず精神疲弊は訪れる。

[時喰い]から時を喰われないようにしようとすれば精神疲弊が訪れて倒れてしまう。

 

 

 

「正直、この武器ではなく普通の武器を作りたかったのじゃが……

ハジメのその一時停止が全てを邪魔する。

いまの手前ではこれが精一杯の武器じゃ……」

 

「そう、ですか……」

 

 

 

つまり椿でもハジメの為の普通の武器は作れなかった。

やはり普通では無理なのだろうと、誰もが少し重たい空気を漂せる中で

 

 

 

「それでもありがとうございます。

武器を持てるというのは嬉しいです」

 

「お、おお、おおっ!!!

そうか!そうか!!!

なら作った甲斐があったわ!!!!」

 

 

 

そういってハジメの背中をバシバシ叩くが一時停止によりもちろんダメージはない。

 

 

 

「お代はおいくらなんですか?

時間はかかるかもですが必ず払いますので」

 

「いや、いらん」

 

「………いや、いらんと言われましても……」

 

「いらんもんはいらん!!!

強いていうならその武器の使い心地や改良点を言ってもらいたい。

……安心せい、ヘファイストス様にも許可は貰っとる」

 

「そうですか……では、使わせてもらいます」

 

 

 

ここまでやってもらっているのならとハジメも素直に武器を手に取った、

するとまるで欠けていた自分の一部が戻ってきたような感覚に襲われ思わず椿の方を見て

 

 

 

「ツバッキー……これって……」

 

「お主の体の一部、「血」をその鉄に混ぜ打ち込んである。

しかし鉄と馴染もうとせんからの……馴染むのに随分と時間が必要じゃった」

 

「「「ああぁ~」」」

 

「なんですか、その「やっぱりな」みたいなリアクションは」

 

 

 

不服そうな感じを出しているハジメだが周りからしたら、ハジメの化け物じみたことに対してあぁ~と納得してしまうのだ。

 

そんな事をしていると近くの席から声がした。

いやしたというか、明らかにこちらに対して、椿に向けて話しかけてきた。

 

 

 

「そいつはいいなー

なら俺の武器もタダで作ってくれよ!!」

 

「……なんじゃ主は?」

 

 

 

いきなり失礼な事を言ってきた男はどうやら冒険者のようであり、その冒険者がつけていたエンブレムが『アポロン・ファミリア』だということはすぐに分かった。

 

 

 

「アポロン・ファミリアか……

……主らでは話にならん。

手前が打ちたい物しか打たん」

 

「つまりはそこの低俗冒険者よりも俺達が落ちぶれていると言っているのか?」

 

「……何が目的で挑発しとるのかは知らんが、主らが()()()()()()()()()()()()()()()()()()の話じゃ」

 

「はっ。

魔道具を使っておいて何を言ってやがる。

知ってるんだぜ、ハデス・ヘッドをな。

装備した物を完璧な『透明状態(インビジリティ)』する。

どこで仕入れたは知れねぇがてめぇが使うにしては勿体ないぜ」

 

 

 

その言葉にベルが立ち上がろうとするがヴェルフがそれを止める。

こんなところで喧嘩を売ったら何を因縁にされるか分かったものではない。

所詮は酔っぱらいのうわ言だと言い聞かせる、

 

 

しかし相手はベルの行動を見逃さない。

 

 

 

「なんだ、本当のことを言われてムキになったのか??

てめぇリトル・ルーキーだよな?

お前こそどんな手を使ったかは知れねぇがインチキなんざしてんじゃ………………………………………」

 

 

 

その瞬間、刹那。

その席に座っていたアポロン・ファミリアの冒険者が全員凍り付いた。

 

ハジメが席を立ち、アポロン・ファミリアの一人の肩に手を置いて、瞬間的に、刹那の時間で凍りつかせたのだ。

 

 

 

「アイス・ゼロ」

 

「ちょっ、ちょっとハジメ!!!!!」

 

「このバカ!!やり過ぎた!!!!!」

 

「何してるんですか!!!!!」

 

「お主ってやつは……」

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「という感じで凍りつけにはしましたが、1日もあれば溶けます………ってどうしましたか神様?」

 

「……そういえば君はそういう子だったことを忘れていた僕がとてつもなく情けないなーと思っているのさ……」

 

「大丈夫です神様。

知ってましたから」

 

「殴っていいんだよね!!?

いくら子だからって殴ってもいいんだよね!!!!」

 

「止めときドチビ……

……なんでウチが止めに回らんといかんのや……」






この前のサマーウォーズ面白かった❗
なんど見てもいいねー


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影の薄さがここにきて裏目に出ました。



マジかぁ━━━!!!
久々のランキング入りだあああぁ!!
みんな戦争遊戯(ウォーゲーム)好きだね。
もちろん僕も好きですよ!

よし思いっきり暴れさせますか!!
誰とはいいませんが(笑)

それではどうぞ!!





「これ…大丈夫かな……」

 

「えらい弱気やな……

…まぁ、向こうから仕掛けてきたんや。

こっちには証言者もおるしな」

 

 

 

気が重い。

向こうが仕掛けてきたとはいえ、手を出したのはこちらである。

確かにアポロンの言うとおりに手を出してしまったかもしれないが、こちらにも証言者がいるからイーブンにはもっていけるはず。

 

ここには第三者の証言者としてティオナとティオネ。

加害者としてハジメとベル。

そしてその神様()であるヘスティアとロキ。

 

 

昨日行われた会場に向かうために歩いているのだが

 

 

 

「大丈夫なんですか?

第三者の証言者としてありがたいですけど、これ間違いなく身内扱いにされますよ」

 

「そんな事はないと思うで。

だってウチ、ドチビ、キライやからな」

 

「うっさい!!!

僕だって嫌いだよ!!!!」

 

「なんや気が合うな!!

そうなら近づかんでくれんか!?」

 

「そっちこそ距離を取ってほしいね!!!

言っておくけどこれで恩を売れるなんて考えないことだね!!!!」

 

 

「なるほど。

これなら大丈夫ですね」

 

(……僕だけなのかな…不安なのは……)

 

 

 

ティオナとティオネは二人でおしゃべりをしている。

ヘスティアとロキはにらみ合い、言い合いをしている。

それを横で観察しているハジメ。

 

そしてそんな中で一人にツッコミ役を引き受けてしまう(強制的にやる)ことになったベル。

 

 

ここにもう一人いたらきっとこういうだろう。

 

 

カオス!!!と。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「来たようだなヘスティア」

 

「あぁ」

 

 

 

そこには昨日と変わらずに神様達が集まっている。

変わっているとするならヘスティア・ロキ・アポロンの元に眷族がいるということである。

 

 

 

 

「ということは分かったのだろう。

ヘスティア、君の子が私の子を傷つけたことが」

 

「……否定はしないよ。

だけど仕掛けてきたのそっちだ!!」

 

「手を出したというのにそんな事をいうのか?」

 

 

 

予定通りにアポロンが手を出したことを言ってきた。

だがこちらには証言がある。

 

 

 

「こっちの非は認めるよ。

だけどアポロンも認めるべきだ!!!

こっちには証言者としてロキ・ファミリアの眷族を連れてきたんだ!!!」

 

「証言します。

私ティオネ・ヒリュテはアポロン・ファミリアが先に喧嘩を仕掛けたことを見ました」

 

「ティオナ・ヒリュテも見ました!!!」

 

 

 

その言葉に神様達はそれが真実だと知った。

いまの神様には大した力はないが本当か嘘か見極めることができる。

 

これは確実な承認となる。

 

 

 

「ほう、あのロキがヘスティアを手助けか…」

 

「変な掻い潜りはやめてもらおうかアポロン。

言っておくけどな基本的にウチはドチビがキライや。

しかし子が親に頼まれたんや。

ウチの意地で無視するわけにはいかんやろ」

 

 

 

最もらしいことを言っているが、来る前に「やっぱり止める!!」と言ったロキを「いい加減にせんか!!!」とリヴェリア(お母さん)に怒られたのだ。

 

そんな事は誰も知らずに、ただロキの評価が上がる中でアポロンがまるで計画通りに進んでいるようであり嬉しくなったのか口の端が上がっていた。

 

アポロンが一人の眷族に、【太陽の光寵童(ポエプス・アポロ)】ヒュアキントスを顎で指示して、扉の向こうからある人を引っ張ってきた。

 

 

そのものは同じアポロン・ファミリアであり、全身が包帯でぐるぐる巻きになっており、苦しい表情と歩き方でこちらに向かっている。

 

 

 

 

「しかしだ、ここにいる我が子は凍結して大怪我をしている」

 

「なっ!!!?

そんな訳がないだろうが!!!」

 

「何を否定している?

現にこうして大怪我しているだからな」

 

「ハジメ君がそんな加減知らずな訳がないだろう!!!」

 

 

 

するとさらにアポロンの口角が上がった。

それに気づいたロキはすぐさまにヘスティアに助言をしようとしたが遅かった。

 

 

 

「ほう、ならばその()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ッ!!!!??」

 

(アポロンの奴……それが狙いやったわけか……)

 

 

 

そういくらここでティオネやティオナやベルが発言しようとも、実際手を出したハジメではなければ確認できないことがある。

 

アポロンは大怪我ではないことを知っておりながらわざと演技をさせて、ハジメをその目で確認するためにこうして罠を張ったのだ。

 

 

 

「そ、それは……」

 

「知っているぞヘスティア。

貴様のところのトキサキ・ハジメは、姿が見えない事を。

そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!!!」

 

「な、なんでそれを知っているんだアポロン!!!!」

 

 

 

テーブルを叩いて抗議するヘスティア。

周りの神様は「マジかよ!!」「レアスキル!!!」「てか、俺達にも見えないなら超レアスキルだ!!!」などと騒いでいるがそんな事はどうでもいい。

 

誰にも明かしていないことをどうしてアポロンが……

……ッ!!!!??

 

 

 

「ロキッ!!!!」

 

「う、ウチやない!!!」

 

「ヘファイストスッ!!!!」

 

「わ、私も違うわよ!!!!」

 

 

 

いま知っているのはこの二人ぐらい。

もちろん自分の子の可能性もあるかもだが、そんな事をするメリットがない。

 

つまりは、誰がこの情報をリークしたのか分からない。

 

 

 

「……どこだい、アポロン。

それを……一体どこで聞いたんだあぁ!!!」

 

「それを知りたければ戦争遊戯(ウォーゲーム)を受けるんだなヘスティア。

まぁ、こんなことせずともこちらはヘスティアに受けてもらうことが出来ると思うのだがな」

 

 

 

完全に嵌められた。

イーブンに持ち込み、和解に引き込むつもりが完全にアポロンに持っていかれた。

それもハジメのカミカクシが何処からか漏れてしまっている。

 

ただバレたならまだいいが、このタイミングで知られたということは完全に仕組まれたことを意味する。

 

この2つに挟まれたヘスティアに選択する余地はなく

 

 

 

「………分かった、受けるよ。

アポロン、僕は戦争遊戯(ウォーゲーム)を受けるよ!!!!」

 

 

 

その言葉に一気に神様達が沸き上がった。

 

 

 

『ギルドに戦争遊戯(ウォーゲーム)の申請をしろ!!』

『臨時の神会(デナトゥス)も開くぞ!

他の神々(ヤツラ)も招集だ!!』

『ほとんど来てるぜ!!!』

『ヤッハアアアッ!!

漲ってきた━━━━ッ!!』

『久々の(まつり)やーー!!』

 

 

 

これでヘスティアは逃げることは出来なくなった。

するとアポロンは看破いれずに

 

 

 

「我々が勝ったら……君の眷族、ベル・クラネル。

そしてトキサキ・ハジメをもらう」

 

「なっ!!!??

……最初からそれが狙いかっ………!」

 

「何を言っている?

さぁ、ヘスティアは何を望む?」

 

「……………………」

 

「まぁいい。

臨時の神会(デナトゥス)までに決めてもらえばいい。

こちらとしては要求は何でも呑むつもりだ」

 

 

 

これを聞くだけならアポロンは何てバカげたことをとなるが、むしろそれぐらいしないと割りが合わない。

それぐらいアポロン・ファミリアとヘスティア・ファミリアには差があるのだ。

 

 

 

「ベル君、ハジメ君、一週間だ」

 

「えっ?」

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)が開催されるまで、一週間、ボクがなんとしてでも時間を稼いでみせる。

その一週間の間に、ベル君、ハジメ君、出来る限り強くなってくれ!!!」

 

「は、はい!!!」

 

「分かりました!!!」

 

 

 

決意したヘスティアはアポロンの方を向いて叫んだ。

 

 

 

「いいかいアポロン!!!

絶対にこんなことして申し訳なかったと頭をすり減らしても、どんなに謝っても許さないと分からせるぐらいに徹底してやってやるからなあああああぁぁぁぁ!!!!!」






アポロンってフラグを立てるの上手いですよね。


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影の薄さのせいでまた怒られました。



調子がいいですよ。
また更新しますね。

日間ランキングに入っているとこんなにも頑張れるだな~。

それではどうぞ!!!




「えぇー!!!

リリが連れていかれた!?」

 

「すまねぇ……

…ソーマ・ファミリアの奴らにな。

こっちの言い分も聞かずに……くそがっ!!!」

 

 

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)が決まりただでさえ戦力が必要なヘスティア・ファミリアに取ってリリが連れていかれたことは大きな痛手になった。

いま黄昏の館ではヘスティア・ファミリア、ロキと一級冒険者、ヴェルフと椿が話し合っていた。

 

 

 

 

「どうするんやヘスティア?

まぁ、あのパルゥム(リリ)がいたところで『改宗(コンバージョン)』せな参加も出来んかったけどな」

 

「そ、それは…そうだけど……」

 

 

 

かといって、リリをそのままに出来るわけがない。

しかしいま出来ることはないだろう。

するとハジメが立ち上がり部屋から出よう歩きだすのをロキが制止する。

 

 

 

「待て待て!!

ハジメどこにいくつもりや!!!」

 

「散歩です」

 

「見え透いた嘘をつくな!!

いまソーマ・ファミリアの所にいっても何も出来へんで!!」

 

「関係ありません。

……前から気に入らなかったんですあのファミリアは。

いい機会です、誰にも気付かれずに()()()()()()()()

 

「待ったああああぁぁぁ!!!!

出来るからこそ止めええええぇぇ!!!」

 

 

 

そうだった。

間違いなくハジメが本気でやれば誰にも気付かれずにソーマ・ファミリアを壊滅することは出来るだろう。

 

しかしそれは

 

 

 

「いまそんな事をしたらギルドに間違いなくバレる。

これはハジメのカミカクシがあるからなんて関係ないで!

この戦争遊戯(ウォーゲーム)は間違いなく仕組まれとる!

それもおそらく、パルゥム(リリ)が連れていかれたことも」

 

 

 

その言葉にハジメはロキの方に振り向いた。

リリが連れていかれたことは仕組まれていた。

そしてソーマ・ファミリアに何かあればギルドに連絡がいき間違いなく不利になる。

 

 

 

「………つまりは正攻法ではないと無理だということですか」

 

「その正攻法がないから困っとるんやろ

言っておくけどな、ウチは金は貸さんで。

ただでさえこんな風に作戦会議しとるだけでもヘスティア・ファミリアに加担してるんやからな。

この戦争遊戯(ウォーゲーム)はあくまでもヘスティア・ファミリアとアポロン・ファミリアやからな」

 

 

 

そうだからなのか。

さっきからロキ・ファミリアの一級冒険者は誰一人として言葉を発することがなかった。

参加するにはヘスティア・ファミリアに入る必要がある。

 

つまりはロキ・ファミリアを抜けるということだ。

そこまでしてヘスティア・ファミリアを助けるとなると天秤はどちらに傾くかは簡単に分かる。

 

 

 

「……ヘスティア、分かってたはずやで。

明日の神会で有利に条件が飲めたとしてもウチらが手を貸すことは出来へんということはな」

 

「……あぁ」

 

「まぁいつも通り部屋は貸したる。

せやけど、それだけや。

戦力として考えてもらっても無理やからな」

 

「……分かってるよ」

 

 

 

分かっていてもその事実を突きつけられると落胆する。

いまの現状、戦力はベルとハジメだけ。

いくらハジメが強くても限度がある。

強くても、無敵というわけではないのだ。

 

するとベルが意気込む表情で

 

 

 

「フィンさん!!ガレスさん!!ベートさん!!アイズさん!!

僕に……僕と()()()()()()()()()()()!!!!!」

 

 

 

その言葉にヘスティアは驚いた。

いつもなら稽古をつけてもらっていると言っていたのに、いまハッキリと戦ってもらえませんかと言ったのだ。

 

稽古と戦いとは全く違う。

それを分かってベルは発言したのだろう。

 

そしてその思いはフィンに届いたようで

 

 

 

「……君がそこで稽古と言っていたら何もするつもりはなかったよ」

 

「それって……」

 

「時間がない。

ベル・クラネル、限界を超えてもらうよ

戦いというなら()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は、はい!!!!」

 

 

 

ベルとベルに呼ばれた者達は部屋から出ていった。

その時のベルの顔はいつもよりも意気込んでいたのが分かった。

 

 

 

「……タダの冒険者というわけやなかったみたいやな」

 

「当たり前だ、ベル君なんだから」

 

 

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加することも手助けも出来ないロキ・ファミリア。

でも、ロキ・ファミリアの冒険者と()()ことは別である。

 

その裏に気づいたベルはもう昔のベルではない。

 

するとヴェルフが何かを決めたような表情で立ち上がり歩こうとしたところで椿に腕を掴まれた。

 

 

 

 

「……よく考えたんか」

 

「あぁ。

戦争遊戯(ウォーゲーム)が決まったときから考えていた……

……考えて考えて、考え抜いた答えだ」

 

「……そうか。

でももう少し我慢せえ」

 

「椿っ!!!!!」

 

「手前に考えがあるんじゃ。

ええから少し待て、ヴェル吉にとっても悪い話じゃないわ」

 

 

 

そのいつもの弄ってくる椿とは違うことに気づいたヴェルフは素直に頷いた。

 

 

 

「そういうことでな、ヴェル吉は借りていくぞ」

 

「元々ヴェルフォードはヘファイストス・ファミリアですので」

 

「アハハハッ、そうだったの!!」

 

 

 

バチッバチッとヴェルフの背中を叩きながら二人も部屋から出ていった。

椿の考えとはどんなものか気になるがハジメには考えないといけないものがあった。

 

 

 

「ハジメ君。

正直、君を強くするために何が出来るか僕には分からない」

 

「せやな。

ウチも多くの眷族はおるけどサッパリ分からんで

お母さんはどうなんや?」

 

「誰がお母さんだ。

……全く想像がつかない。

ベルと同じように誰かと戦わせるのが一番なのだろうが………正直なところ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

それを聞いたティオネもティオナも思わず頷いた。

相手にならないというのは勝てないということではない。

戦っても無意味なことだと分かっているからだ。

 

確かに戦闘経験を積ませれば変わるかもしれない。

しかしそれではハジメにとって経験するものが一生では足りない。

誰もがそう感じているのだ。

 

 

一級冒険者さえも手も足も出なかった相手を倒したハジメに対して。

 

 

するとハジメはいつも通りの表情であることを頼んできた。

 

 

 

「僕としては博識であるリヴェ姉とネネ姉、ナナ姉には協力してもらいたかったのですが」

 

「私達に?」

 

「でも何も出来ないわよ?」

 

「そんな事はありませんよ。

僕なりに強くなれる?かは分かりませんが、この状況を変えられることが出来るかも知れないことを思い付きました」

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「どうしてこのようなことを……ザニス様……」

 

「一つはアポロン派から依頼を受けたのだ。

報酬を約束する変わりに【ヘスティア・ファミリア】との抗争に協力してほしいとな。

そして一つは……アーデ、お前だ」

 

 

 

それを聞いたリリは悟った。

リリは死んだことになっていたが、何処かで生きていたことに気づかれたのだろう。

そして未だにリリはソーマ・ファミリアの一員。

そんな一員がヘスティア・ファミリアに唆されたと言えば………

 

大義名分が出来上がってしまっている。

それはリリのせいでヘスティア・ファミリアひ、ベル様に迷惑をかけてしまう。

 

 

 

「……お願いです、ザニス様……」

 

「なんの事だ?」

 

「……ベル様には、ヘスティア・ファミリアにはこれ以上……

リリは、ソーマ様の元に戻りますので……」

 

「……あぁ、アーデは()()()()()()

 

 

 

正直そんな言葉は聞きたくなかった。

その言葉はベルやハジメから聞きたい言葉。

でもなにも出来ない自分が情けなくて波だが溢れてきそうになる。

 

連れてこられた部屋に入れられたリリは抵抗することなくそのまま部屋に鍵をかけられて出られなくなった。

 

それでもいいと思った。

リリさえ動かなければこれ以上みんなに迷惑を……

 

すると扉の格子の向こうからザニスが不適な笑顔で

 

 

 

「仲間だからこそ、こんな風にされたアーデのためにヘスティア・ファミリアは潰さないとな」

 

「そんなッ!!!??

約束が違います!!!!!」

 

「分かっているアーデ。

私達を気遣ってくれているのだろう。

それは大丈夫だ、ソーマとアポロン……2つの派閥にかかればすぐに終わらせれる」

 

「違いますッ!!

待ってください!!ザニス様!!!!」

 

 

 

リリの制止の言葉は届くことなくザニスは闇の向こうに消えていった。

 

 

 

「……ベル様…ハジメ様……」

 

 

 

届かないその名を呟くリリ。

自分が出来ることはもう祈ることしか出来ないのかと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、なんですか?」

 

「キャアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!!!!」

 

 

 

直後に思いっきりリリに叩かれたが一時停止によりダメージ0であるが、リリに思いっきり説教されるなかで叫び声に気づいたソーマ・ファミリアの団員を見られる前にアイス・ゼロで凍らせて黙らせたら、またそのことでリリに説教を受けることになり……

 

 

 

「……リリの……リリの悲しみにくれた時間を…返してください……」

 

「僕でもそれは無理ですね」

 

 

 

ハジメのペースに乗せられてしまい、さっきまでの時間はなんだったのかと後悔するリリであった。






そういえば日間ランキング、最高5位までいきました!!
皆さんの応援のおかげです!
ありがとうございますm(._.)m


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影の薄さってこんな時に厄介である。


調子いいですね~
プライベートもこれぐらい上手くいけばいいんですが(笑)
それではどうぞ!!!






「な、なんだいっ!!!

このめちゃくちゃな戦争遊戯(ウォーゲーム)の内容はっ!!!!??」

 

「何を言っているヘスティア?」

 

 

 

次の日、緊急の神会(ディナトゥス)が開かれたのだが、アポロンが羊皮紙に書かれた戦争遊戯(ウォーゲーム)の設定が非常識すぎた。

 

 

 

「これはヘスティアが眷族の勧誘を怠慢し、ロキ・ファミリアという後ろ楯に甘えた結果だ

もちろんヘファイストス・ファミリアも同じ理由だ」

 

「だ、だからって……」

 

「言っておくがギルドに抗議しようとも無駄だ。

()()()には大義名分がある。

そしてその原因は、ヘスティア・ファミリアである」

 

「ぐっ!!!」

 

 

 

 

羊皮紙に書いてあった内容は

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

・今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)における対戦は、ヘスティア・ファミリア対アポロン・ファミリア、ソーマ・ファミリアとすること。

 

(ソーマ・ファミリアにはリリルカ・アーデという眷族をヘスティア・ファミリアに無理矢理サポートとして雇われていた為である。)

 

 

・ヘスティア・ファミリアは現在ロキ・ファミリアとヘファイストス・ファミリアとの深い繋がりがある。今回の戦争遊戯に2つのファミリアから手助けがあった場合ペナルティを要求する。

 

(ペナルティはヘスティア、ソーマの合意の上であることとする)

 

 

・アポロン・ファミリアが勝利した場合、ベル・クラネル、トキサキ・ハジメをもらい受ける。

 

 

・ヘスティア・ファミリアが勝利した場合、2つのファミリアは要求を何でも呑むこと。

 

 

・戦争遊戯の方法は『攻城戦』とする。

 

 

・ヘスティア・ファミリアに手助けするファミリアは許可するが、負けた場合はその眷族はアポロン、もしくはソーマ・ファミリアに入ることとする。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

あり得ない条件だ。

確かにアポロンの言い分は分かるが

 

 

 

「リリ君はソーマ・ファミリアに苦しめられていた!!

彼女は自ら僕達のファミリアのサポーターになったんだ!!!!」

 

「そんな言い訳、誰が聞くというのだ?

事実はリリルカ・アーデはソーマ・ファミリアの眷族であり、そのリリルカ・アーデは死んだと偽りヘスティア・ファミリアのサポーターをした。

これが事実ならソーマ・ファミリアが参加する理由は十分にある」

 

 

 

なんともめちゃくちゃな事を言っている。

そしてソーマときたら一言も喋らずにアポロンだけが発言している。

 

 

 

「百歩譲ってソーマ参加は分かったとしてもどうして勝手に功城戦になっているのか説明してくれるんだろうね」

 

「はぁ~ヘスティア……

……失望させてくれるな、簡単なことだ。

我らアポロン・ファミリアとソーマ・ファミリアが集まるのだぞ。

そして誰もが戦いを望んでいる。

親にとってその願いを叶えるのは当然だろう?」

 

「何が望みだ!!!

そっちから仕掛けておきながら!!!!!」

 

「それについてはもう終わりだヘスティアよ。

いくら話しても平行線だ。

さぁ、これで戦争遊戯(ウォーゲーム)を始めていいな?」

 

 

 

強引なアポロンの言葉攻めに何を言ったらいいのか分からず言葉が出ないヘスティア。

しかしこのままでは間違いなく悪条件で戦う羽目に

 

 

 

「発言、いいかしら??」

 

「……珍しいなフレイヤ」

 

 

 

妖艶な笑みに周りの神々(男共)が魅力されている中で、フレイヤがとんでもないことを発言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その戦争遊戯(ウォーゲーム)、参加するわ」

 

「なっ!!!??」

「はっ!!!??」

 

「「「「「はあああああああああああぁぁぁぁ!!!??」」」」」

 

 

 

あり得ない、考えられないことが起きた。

あのフレイヤ・ファミリアが戦争遊戯に参加する。

それもヘスティア・ファミリアという弱小ファミリアの為に。

 

 

 

「何を考えているフレイヤ!!!」

 

「たまにはこういうのも参加したくなったのよ。

それともなに?この戦争遊戯の内容通りに参加することはいけないというの?」

 

「言わずとも分かっているだろう!!

フレイヤの眷族には猛者(おうじゃ)がいるのだぞ!!!!」

 

 

 

唯一のlevel7、猛者オッタル。

この者が一人入っただけで戦力は一気にひっくり返る。

勝てると見込んでいたアポロンが焦るのも無理はない。

 

 

 

 

「だから??

アポロン、貴方が勝手に決めたことに従ってやっているのにどうして文句を言われる筋合いがあるのかしら?」

 

「…そ、それは……」

 

 

 

 

完全に想定外。

まさかフレイヤ・ファミリアが参加するなど思ってもいなかった。

ヘスティア・ファミリアに誰も参加させないためにペナルティをつけたというのに……

 

まさかフレイヤ・ファミリアが戦争遊戯に参加することでこんなにも猛威になるとは……

 

 

どうにかしようと必死に考えるアポロンの表情に思わず笑みを溢したフレイヤに

 

 

 

 

「何がおかしいフレイヤ!!!」

 

「ふふふ、ごめんなさい。

あまりにも必死に考えているようだったからつい…」

 

「貴様ッ…!!!!!」

 

「そんなに怒られても私は何も悪いことはしてないわ。

でもそうね、貴方の言うとおりパワーバランスが悪くなるというなら、引いてもいいわよ」

 

「ほ、本当か!!!??」

 

「ええ、ただしヘスティアにも優位になることを一つは提示させてあげること。

もちろんアポロン、貴方が許可することが条件というのはどうかしら?」

 

 

 

 

破格な条件だ。

いくら無茶苦茶なことをいってもアポロン自身が許可しなければいくらでも優位にたてる。

 

 

 

 

「いいだろう。

ヘスティア、何かあるなら聞こうではないか」

 

 

 

 

あまりにも態度が急変したアポロンにイラつきはあるが顔に出さずに考えるヘスティア。

 

 

 

 

「こちらが「止める」というまで戦争遊戯を止めないというのはどうかな?」

 

「は、はっ、ハハハハハハハハッ!!!!

そんなものでいいのか!!!??

もう取り消しはきかんぞヘスティア!!!!!!」

 

「あぁ、構わない」

 

「諦めずにやれば勝てるとでも思ったのか!!?

ヘスティア、君はもっと賢いものだと思っていたのだがな!!!!!

それでは一週間後、楽しみにしておくぞ!!!!!」

 

 

 

大笑いしながら去っていくアポロン。

周りの神々も『こりゃある意味見ものだな』『どっちにかけるよ』などと既に賭け事に花を咲かせていた。

 

 

 

「良かったのヘスティア?」

 

「いいんだよ。

それよりもありがとうフレイヤ。

君のお陰で希望が見えてきたよ!!」

 

「いいのよ。

私としては参加してもいいのは本当だったんだから」

 

「そ、それは、凄いことになってただろうね……」

 

 

 

それじゃここで、とフレイヤも去っていき、残されたヘスティアの元へロキとヘファイストスが近づいてきた。

 

 

 

「時間無制限か……

ドチビ、なんか策でもあんのか?」

 

「ない!!!」

 

「だろうと思ったわ……」

 

「分かっとるのか!!

負けたら二人連れていかれるんやで!!!」

 

「分かってるよ!!

でも後は、信じるしかないじゃないか……」

 

 

 

そう後は信じるしかない。

ヘスティアに出来ることはこれからは祈ることと、信じることしか出来ないのだから。

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「という感じでベルベルもヴェルフォードも頑張ってますよ」

 

「分かりました。

分かりましたが……どうしてまたここに来たんですか!!!??」

 

 

 

 

捕らえられているリリ。

しかしハジメにはそんなものは関係ない。

見えないということはそういうことが出来るのだ。

 

 

 

 

「いや、気になるかなーと思いまして」

 

「心遣いありがとうございます!!

でもハジメ様もこうしている間にも強くなられたほうが」

 

「僕、どうやってもステイタス向上しないんですけど」

 

「そうでした!!すみません!!!」

 

 

 

なんでこうキレられているのか分からない。

でも元気で良かったと思っているとはぁ~とため息をしたリリは

 

 

 

 

「本当にこんなことしてて大丈夫なんですか?

いくらハジメ様がステイタス向上しなくてもやれることはあると思うのですが……」

 

「それは大丈夫ですよ。

明後日にでも僕のほうは準備できますので」

 

「そうなのですか?」

 

「はい、なので準備しておいてくださいね」

 

「準備、ですか?」





今回の戦争遊戯の設定難しかったッ!!!!
言葉遣いも多分色々間違っているかも。
よければ、気になったら訂正をお願いします。
こんなこと書くこと時点で「努力しろや!!」と言われそうですがお願いします~




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影の薄くても皆に支えられてます。


どうも!!
もう9月ですね、早いですね。
プライベートが上手くいかず、どうすればいいのか分かりません!
皆さん、がんばれーと応援お願いします❗

何をや、といいたくなるでしょうけど(笑)
それではどうぞ!!!





「な、なんで怒蛇(ヨルムガンド)に、大切断(アマゾン)九魔姫(ナイン・ヘル)がこんなところにッ!!!!??」

 

「ちょっとね、ヘスティア様にお願いされてね」

 

「ソーマ様にお会いしたいのだけど」

 

「もちろん通してくれるのだろうな」

 

 

 

大きな風呂敷を背負うティオネとティオナ。

そして少しびくつくヘスティアの側に立っているリヴェリア。

 

そのメンバーに圧倒された門番の男はすぐさま屋敷に向かい、その屋敷の前に立っているのはこの5()()である。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「それで…今日はどうしたのだヘスティア?

そんな護衛を連れて何か大事な用か?」

 

「あぁ、そうだ。

今日ここにきたのはサポーター君、いやリリルカ・アーデを『改宗(コンバージョン)』するためにお願いにきた」

 

 

 

それを聞いて壁に拳をぶつけたのはザニスだった。

何かあるのではないかと同席をしたのだが、予想通り、いや予想以上の事を言ってきたことに思わず力が入ったようだ。

 

 

 

「何を言っているのだ!!!!

たかが小人族(パルゥム)のために『改宗(コンバージョン)』を申し入れると言うのか!!!!」

 

「そうだよソーマの眷族君」

 

「ふざけるな!!

あんな奴にそんな価値はない!!!!!」

 

 

 

その言葉にティオナが思わず攻撃をしようとしたところをティオネが制止させる。

そう、一番怒りを感じているのはヘスティアであり

 

 

 

「なら『改宗(コンバージョン)』は問題ないようだね」

 

「ふざけるなッ!!!!

あれは我らの物だぁ!!!

勝手な事を言うのならこちらとて…」

「勝手な事を言っているのは、そちらですよね」

 

 

 

その刹那、ザニスは氷付けになった。

そんな事が出来るのはただ一人。

 

 

 

「なんだ…それは……

……それにこの声は……」

 

「ヘスティア様、お願いします」

 

「あぁ」

 

「「僕は貴方を承認する」」

 

 

 

するとソーマの目の前に靄がかかり、そしてゆっくりと姿が現れた。

 

 

 

「初めまして、トキサキ・ハジメです」

 

「お前が…あの……」

 

 

 

自己紹介も済みハジメはティオネとティオナの元に近づきながら

 

 

 

 

「先程も言いましたがリーリを『改宗(コンバージョン)』させてください。

もちろんただとは言いません。

そちらに有利になるものを持ってきました」

 

 

 

 

そういってハジメが二人に風呂敷を結び目を外してもらう。

するとその中に入っていたのは

 

 

 

「こ、これは……」

 

「これだけあれば十分に『改宗(コンバージョン)』の条件に似合うと思いますが、どうでしょうか?」

 

 

 

そこにあったのは大量の骨が現れた。

それも尋常ではないほどの量が……

 

 

 

「な、なんだ…これは……」

 

「えぇーと、ウダイオスでしたっけ?

その骨ですね、()()()()()()()()()()()()()()

 

「な、何を言っているのだ……

ウダイオスは37階の迷宮の孤王(モンスター・レックス) なのだぞ……

それをこの量を…たった1日だと……」

 

 

 

嘘は言っていない。

それは神であるソーマには分かる。

分かるからこそ理解しがたいのだ。

 

ついこの前アイズ・バレンシュタインがレベルアップしたと聞き、その時倒したモンスターがそのウダイオスと聞いていたのだ。

 

それをたった、1日で、大量のドロップアイテムを……

 

 

 

「一体何をしたのだ…」

 

「それは教えられませんよ。

それは『改宗(コンバージョン)』とは関係ありませんよね?

それでいいですよね、リーリを『改宗(コンバージョン)』させてもいいですよね?」

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「俺に……魔剣を作れっていうのかぁ!!!??」

 

「そうじゃ。

ヴェル吉に魔剣を作れといっておるのじゃ」

 

 

 

ヘファイストス・ファミリアの作業場にいる二人は言い合っていた。

それもヴェルフが椿の胸元を掴んで睨んでいる。

 

 

 

「ふざけんなっ!!!

俺は魔剣を作られねぇ!!!!」

 

「クロッゾ家の末裔であり《魔剣血統》 のスキルにより作製することができるのになぜ作らぬ?」

 

「知ってるだろう!!

魔剣は主をおいて先に逝ってしまう

剣は持ち主を守る為の武器だ!!」

 

「だから言っているのだ。

守るために作れと、なぜ拒む必要がある?」

 

 

それを言われて言葉を閉ざすヴェルフ。

頭では分かっている。

勝つためには必要なものがこの手にかかっていると。

それでも魔剣を作ることを拒んでしまう。、

 

 

 

 

「お主が守りたいのは…プライドか?仲間か?」

 

「お、おれは……」

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……はぁ……」

 

 

 

両膝をついて呼吸を整えようとする。

しかしすぐさまベートがベルの腹部を蹴り飛ばした。

吹き飛んだベルは肺にあった酸素を無くし必死に呼吸をしようとする。

しかし飛んだ先にはガレスが待ち構えており、このままだと斧で真っ二つにされる。

 

 

空中で体制を変えて振られた斧がギリギリで神様のナイフで防げた。

だが刃こぼれがなかったとしてもそのパワーはベルの身体全体に襲いかかり再び吹き飛ばされる。

 

 

壁に激突したベルはそのままずれ落ちて気を失ってしまった。

 

 

そこへフィンがポーション入りの水をベルをぶっかける。

すると軽い傷口は塞がっていき青く変わった皮膚も赤へ戻った。

 

 

 

「起きるんだベル・クラネル」

 

「……くっ……」

 

「まだ足りない。

君が求める強さにはまだ足りない」

 

「……は、はい……」

 

 

 

自分から願い出てなんだがこれは拷問に近いと感じていた。

吹き飛ばされ、殴られ、蹴られ、刺されて、気絶をしたら水をかけられて動けなくなったところでポーション入りの水をかけられる。

 

それを繰り返し繰り返し、何度も何度も行う。

正直気が狂いそうになる。

 

それでもやらないといけない。

やらないと…自分はヘスティア・ファミリアの抜けることになる。

それだけじゃない、ハジメも一緒にいなくなる。

 

 

それだけは絶対にダメだ!!

ハジメにはまだ何も返せていない!!

ずっと助けられてばかりで、何も出来なくて……

だから絶対に強くなって……

 

 

 

「お、お願い、します!!!」

 

「あぁ、いくよ!!」

 

 

 

僕がこの状況を変えるんだぁ!!!

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「自分の立場が分かってないのかい?」

 

「いえ、十分に分かっています」

 

「……………」

 

 

 

豊穣の女主人ではミアがリューを睨み、シルは黙って成り行きを見ていた。

こうなったのはついさっきの話である。

 

突然リューがミアに休みがほしいと話したのだが、理由も言わずに言ってきたミアがリューに問い詰めた。

 

そして素直に話したのだ。

ヘスティア・ファミリアがアポロン・ファミリアに喧嘩を売られたと。

そしてそのゲームに参加をしようと思っていることを。

 

 

するとミアがあの言葉をかけてきたのだ。

 

 

 

「なら、どうしてそんなリスクを負ってまで参加するんだい?

ただあの小僧(ベル)のためなんじゃないんだろう」

 

「言わなくとも分かっていると思いましたが」

 

「分かっていても聞かないと分からないもんだよ」

 

 

 

分かっていてあえて理由を話せという。

その決意を確かめたいのか、その想いは本物なのかと知るために。

 

 

 

「……ハジメのためです。

ヘスティア・ファミリアやベル・クラネルは二の次です。

薄情者だと罵られようが、私は私のために動きたいのです。

トキサキ・ハジメのために私は動きます。

何を言われようとも揺るぎません」

 

「…リュー」

 

「…………」

 

 

 

 

真っ直ぐな瞳はミアの瞳に映る。

そしてはぁ~とため息をついたミアはリューに背中を向けて

 

 

 

「戻って来たらハジメと一緒に倍、働かせるから覚悟しとくんだね!!」

 

「はい!!」



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影が薄くても準備に余念はありません。

あれ?
タイトルの「余念」の使い方あってるかな?
まぁ、いいか。
それではどうぞ!!!!






「いや、『改宗(コンバージョン)』はさせない」

 

「なっ!!?

どうしてなんだいソーマ!!

君にとっても悪い条件ではないはずだ!!!」

 

 

 

まさかの返答に驚くヘスティア。

ティオネ、ティオナも驚いているなかでヘスティアがソーマに理由を聞こうと躍起になる。

 

 

 

「これだけのドロップアイテムがあるのに……」

 

「あったとしてもさせられない。

リリルカは私の眷族だ。

それだけで十分ではないのか?」

 

 

 

それを言われると何も言えない。

きっと同じ状況におかれたら同じ事をいうと思ったのだ。

そしてそれだけ眷族を愛している。

 

だがソーマは違う!!

なんて言葉を並べてもそれは証明出来ない。

もしかしたら眷族を…と思うと何も言えなくなる。

 

するとソーマがゆっくりと立ち上がり

 

 

 

「しかしそれではヘスティアも納得しないのだろう?」

 

「あ、あぁ…」

 

「リリルカに聞かないと分からないが、もし抜けたいとリリルカがいうなら……ある条件で『改宗(コンバージョン)』してもいいだろう」

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「えっ?」

 

「言った通りだ。

リリルカ・アーデ、ヘスティアの元へ『改宗(コンバージョン)』したいのか?」

 

 

 

突然現れたソーマとヘスティア達に驚いているリリは、さらにソーマからの言葉に驚きを隠せないでいた。

 

 

 

「そ、それは……」

 

「正直に話すんだリリルカ・アーデ」

 

「……ヘスティア・ファミリアにいきたいです」

 

「理由を話してもらおう」

 

 

 

何が目的なのか分からないがどうせ神様の前では嘘は分かってしまう。

なら自分が思っていることを話そうと決めたリリは

 

 

 

「私は、私はベル様に、ハジメ様に救われました。

小人族(パルゥム)と、サポーターいうだけで蔑んだ人達と違い、私を見て私と話してくれて、私を助けてくれた。

リリはそんなヘスティア・ファミリアの元へ行きたいのです!!!

 

お願いです、ソーマ様!!

リリをヘスティア・ファミリアの元に行かせてください!!!!」

 

 

 

思いのこもった言葉をソーマにぶつける。

するとソーマは無言で部屋から出て行き、少したったら何かを持って戻ってきた。

 

 

 

「これを飲み、同じことが言えるかリリルカ・アーデ」

 

「こ、これは、神酒(ソーマ)……」

 

 

 

神の名が付くほどの名酒。

そのほどこの酒は人を狂わす。

一口飲んだだけで()()()()何もかも捨ててでもこの酒を飲もうと躍起になる。

そしてそれは命を落とす結果になろうともだ。

 

ソーマ・ファミリアはこの神酒を基盤に動いている。

誰も彼もが酒を飲みたいがために動いている。

 

そんな酒をリリが飲む。

人を狂わせる酒を飲めとソーマが言う。

 

これを飲み、同じような言葉を、思いを言えるか?

人を狂わせる神酒の飲み意識を保てるか?

 

 

そんな無謀なことをリリにさせようとしている。

 

 

しかし飲まなければ何も変わらない。

なにより自分を変えるために飲むしかない。

そう決めたリリはソーマから神酒を受け取り、杯に酒をつぎ

 

 

 

「頂きます」

 

 

 

酒を口に含んだ。

次の瞬間、全身からこの神酒を飲みたいと求める欲求と酒に溺れてしまうほどの幸福感、意識を保てなくなるほどの目眩が一気に襲いかかってきた。

 

どうしようもなくふらつく身体を必死に堪えて、深い霧で抜け出せなくなる位に意識を持っていかれそうになる。

 

 

 

 

(………リリ…は、……リ、リは……)

 

 

 

それでも意識を保とうするのは消え行く意識の中にベルとハジメの顔が浮かんできたか。

それを掴もうと必死にリリはもがいて、足掻いて、手を離してしまいそうになる意識を繋ぎながら、

 

 

手を伸ばす二人の手に向かって、その手を伸ばして

 

 

 

 

「………い、か……」

 

「!!!??」

 

「……行かせて…ください……」

 

 

 

 

はっきりと聞こえた、リリの思いが。

神酒に打ち勝ちいま求めている思いをソーマへと。

 

 

 

「………ヘスティア」

 

「なんだい、ソーマ」

 

「これは取引だ。

私はヘスティアが持つ()()()()()()()()()()()()

代わりにヘスティアが望むリリルカ・アーデを差し出そう」

 

「……いいのかい、ソーマ?」

 

 

 

何も言わずに頷く事をみて安心したのかリリはそのまま倒れこんだ。

すぐさまティオネとティオナが介抱に向かい、ハジメはリリのもとではなくソーマの前にたち

 

 

 

「もう一つ取引をお願いします」

 

「まだ私から奪う気か」

 

「いいえ。

僕がやってしまった貴方の眷族への仕打ちを帳消しにして欲しいだけです。

もちろん、僕もその神酒を飲みます」

 

 

 

そういってソーマから神酒を奪い取り、瓶ごと一気に口に流しこんだ。

「何をやっているんだ!!」と止めるヘスティアを無視してハジメは最後の一滴まで神酒を飲む干した。

 

ハジメの行動に驚き言葉も出せずにいたソーマへ

 

 

 

「意外に甘い感じなんですね、神酒というのは」

 

 

 

平然と、ただ水を飲んだように、言葉を放った。

その姿に思わず笑いだしたソーマ

 

 

 

「アハハハハハッ!!!!」

 

「ソ、ソーマ……」

 

「面白い眷族を持ったものだなヘスティア。

いいだろう、我が眷族への仕打ち手を引こう。

しかし、間違いなく戦争遊戯(ウォーゲーム)は参加し仕返しと狙ってくるぞ。

 

それを分かって提案しているのだな?」

 

「元々戦うわけですので問題ありません」

 

「そうか、ならばもう言うまい」

 

 

 

そういってソーマは部屋から出ていこうとしたが立ち止まり振り向かずにリリへと

 

 

 

「いままで、悪かったなリリルカ」

 

「……ありがとございました、ソーマ様」

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「規格外だとは思ってましたが想像以上でした。

まさかあんないっぱいドロップアイテムを集めるなんて……

それに神酒をイッキ飲みして平気なんて……」

 

「普段お酒飲むときは無意識に一時停止解除してますけど、流石神酒というだけのものですね」

 

 

 

 

なんで上から目線なんですか!?とツッコミを入れたかったが、入れたら負けだと思いグッと堪えた。

 

 

 

「しかしどうやってあんなに沢山のドロップアイテムを集めたんですか?」

 

「集めたのは私達なんだからね!!」

 

「そう、ハジメはただモンスターを倒していただけ」

 

「いやいや、ただモンスターではなくウダイオスは迷宮の孤王(モンスター・レックス)ですよね!!?」

 

 

 

ティオナに背負われて帰宅している四人。

ヘスティアは用事があると一人でどこかへ向かったがすぐ近くだからと護衛をつけずに走り去った。

 

そしてドロップアイテムの経緯を聞いたら本当に想像以上のことで頭が痛くなるリリである。

 

 

 

「……あぁ~そうだったねー」

 

「……なんか、ハジメといると全部ただのモンスターに見えてくるのよねー」

 

「遠い目をしないでください!!!

現実逃避はダンジョンでは命取りですよ!!!!」

 

「大丈夫大丈夫!!

ほら、攻撃がきても全然痛くないし」

 

「私達はただドロップアイテムを集めれば……」

 

「ハジメ様!!!!

お二人に何をしたんですかああああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

間違いなくこの姉妹にトラウマ的な何かが生まれたと言える。

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「どうしたのかしら、ヴェルフ?」

 

「お別れを告げにきました」

 

 

 

ヴェルフはヘファイストスのいる部屋に入り、用件を手短に確実に伝わるように言い放った。

それをヘファイストスは分かっていたように驚きもせずにゆっくりと立ち上がり、ヴェルフの前に立ち問いかける。

 

 

 

「来るとは、思っていたわ。

でもそんな事許すとでも思う??」

 

「ここで行かなければ貴女はきっと叱りつけてくるでしょう。

俺を【ヘスティア・ファミリア】にの元へ行くことを許してください」

 

 

 

改めてハッキリと口に出して告げた。

それに対してわざと聞かせるかのようにため息をついたヘファイストスは

 

 

 

「どうしてそこまでするの?

今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は『改宗(コンバージョン)』せずとも参加することが出来る。

どうして私も元を去ってまでいく必要があるのか説明してくれるのよね?」

 

 

 

負けた場合のペナルティを差し引いても、『改宗(コンバージョン)』する必要はない。

ヘファイストスの問いにヴェルフは笑い、

 

 

 

「友のため」

 

 

断言された言葉に、ふっとヘファイストスも笑みをこぼす。

 

 

 

「いいわ。許しましょう」

 

 

 

ヘファイストスはいくつもの金槌(ハンマー)が並べられた棚に近づく。

自身の髪、そして瞳の色と同じ、紅の鎚を彼の眼前に突き出す。

 

 

 

「餞別よ。持っていきなさい」

 

 

 

鍛冶師(スミス)(ぶんしん)を差し出し、送り出すヘファイストスに、ヴェルフはもう一度笑みを浮かべ

 

 

 

「お世話になりました」

 

 

 

ヴェルフは迷いない足取りで部屋を後にし、崇敬する女神のもとを発った。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「もっと渋るかも思ったがの」

 

「趣味が悪いわよ椿」

 

 

 

ヴェルフが去ったあとに入ってきたのは椿。

そしてヘファイストスはどこか嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

 

「それは悪かったの。

聞くつもりはなかったのだが」

 

「それだけじゃないでしょう。

あの子、目に迷いがなかったわ。

今までずっと迷い苦しみ、もがき続けたあの目が輝いていた。

一人じゃあの迷いは抜け出さなかったはずよ」

 

「それはヴェル吉をバカにしすぎじゃ。

あやつならきっと自分自身で越えれた壁。

手前はちょっと後押ししただけじゃ」

 

「そういうことにしてあげるわ」

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「ほ、本当かいタケミカヅチ!!!」

 

「あぁ、助けてもらった礼だ。

全団員とはいかないが一人、どうしても恩を返したいと言ってくるものがいてな」

 

 

 

狭い街路に面して建てられた古ぼけた集合住宅。

そこには六名の団員達と慎ましやかに暮らしている派閥(ファミリア)本拠(ホーム)の中で、ヘスティアは一人である交渉にきていた。

 

 

 

「今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)、『改宗(コンバージョン)』せずとも参加出来る。

もちろん同じように団員を奪われる可能性がため、人数は限られてくるがそれでもいいのか?」

 

「もちろんだ!!!」

 

「そうか、では(ミコト)!!!」

 

「はい、タケミカヅチ様!!!!」

 

 

 

立ち上がった女の子はタケミカヅチ・ファミリアは、ついこの前というよりも昨日ヘスティア・ファミリアに助けられたのだ。

 

 

 

「ハジメ殿に救われたこのご恩、精一杯やらせてもらいます!!!!」

 

 

 

多くのモンスターに囲まれていたところをハジメが助けた。

本人としては「何かあったのかな?」と興味本位で助けただけなのだが、命にとっては大恩義を感じているのだ。

 

 

 

「それじゃよろしく頼むよ命君」

 

「はい、よろしくお願いします!!」

 

「ヘスティア、人数も必要だが勝てる秘策などはあるのか?」

 

「どうなんだろうね。

でもなんだろう、ハジメ君なら何かしてくれるだろうと思ってるんだよね」




あれ、ソーマって本編より明るい感じというか話が分かる人にになったかな?
その分、眷族が眷族だからなー

それと命、どう関わらせようかなーと思ったけどなんかヴェルフォードみたいに簡潔に終わったな。
しかし命とハジメか……
なんか水と油みたいに合わなそうなイメージがある。

まぁ、なんかなるでしょう(笑)



~追記
リリルカ・アーデを、リリカル・アーデと何度も間違えましてすみませんでした。


リリ「ハジメ様と同じようにわざとではないのですか!!!?」

ハジメ「わざというか真剣です」

リリ「たちが悪ですよ!!!」


みたいなやり取りがあってますが、作者として本当にすみませんでした。






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影が薄くとも作戦会議は発言しましょう。


リリルカ?リリカル?
作者は訳が分からなくなった。
読みなおした。理解した。
最初から読みなおせと!!!


本当の本当にすみませんでした!!!!!
今回は大丈夫です!!!
それではどうぞ!!!!!





「み、見ないうちに変わったな…ベル……」

 

「そ、そうかな……」

 

 

 

 

ベルを見るかぎり生々しい傷痕がいくつもあった。

一体どれだけ追い込んだらそんな風に変わるのか…

 

そして一方でヴェルフも変わっていた。

 

 

 

「で、でも、スゴいねヴェルフ…

そんなに凄そうな魔剣を作るなんて……」

 

「やるからには勝たないとな。

といってもこの一振だけじゃ心元ないが我慢してくれ」

 

「そんな事ないよ!!

僕たちの為にありがとうヴェルフ」

 

 

 

ニコッと笑うベルに微笑み返すヴェルフ。

すると(やつ)れて現れたのは

 

 

 

「な、何なんですかあの人は……」

 

「あっ、……お疲れリリ」

 

「大変だったみたいだなリリ助」

 

「……ベル様、リリは改めてベル様を見直しました。

あんな訳の分からない人と一緒にいられるなんて……」

 

「「あぁ……」」

 

 

 

二人とも遠い目をする。

何せリリがこんなにも疲労した相手というのが

 

 

 

「言いがかりは止してくださいリーリ。

ただ僕はもっと子供じみたものを……」

 

「それが余計なお世話なんです!!!

リリはハジメ様よりも歳上なんですよ!!!

なんでこんなフリフリのスカートを履かないといけないんですか!!!??」

 

「大丈夫です。

スカート中は下着が見えないように薄いズボンのようなものを」

 

「そんなことをいってるんじゃありませんこの変態ッ!!!!」

 

 

 

怒り任せに物を次から次へと投げるが全て一時停止に止めれる。

完全に弄ばれていると分かっていながらも、抵抗せずにはいられないのだった。

 

 

 

「リリ!!

やりすぎだって!!」

 

「止めないでくださいベル様!!!!」

 

「に、賑やかですね……」

 

「正直にバカらしいっていってもいいんだぜ」

 

「いえ、そんなことは!!!

ただ、こんな風に笑いあえることは減ったなと思いまして……」

 

 

 

リリを止めようと離れたベル。

そして残されたヴェルフの元へ命が近づいてきた。

 

 

 

「ハジメに助けられたみたいだな」

 

「はい。

初めは異形の者かと驚いていた私が恥ずかしいです」

 

「気にすることはねぇ、俺も驚いた」

 

「ですが、それだけではないのです。

あの圧倒的な力の前で私達は力の無さを知ったのです。

それからどうしてもその光景が離れずに……」

 

 

 

誰もあの光景を見ればそう思うだろう。

だけど

 

 

 

「いまはそれでいいじゃねえか?

きっと通る道だったんだ、それが早かっただけのこと」

 

「…ヴェルフ殿……」

 

「どうせ明日の戦争遊戯(ウォーゲーム)でとんでもないことをやらかすぞアイツは」

 

「……そうですね」

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「まさか自分から志願してくるとはな……」

 

「ご冗談を。

貴女は私の行動を読んでいた」

 

「買いかぶりすぎや。

何かの形でやるとは思ったけどな」

 

 

 

リューはロキとヘスティアから話があると呼び出されていた。

そこは3人だけで誰もここに入らないように話してある。

 

 

 

「それで私に用とは」

 

「これや、一応設定上はオラリオ外からの参加にしとるからな。

そこに書かれとる内容を覚えておいてくれ」

 

 

 

ロキから渡されたのは戦争遊戯に参加するにあたってリューの身分をどうするかというものの答えだった。

 

リューはギルドからブラックリストとして目をつけられている。

 

こんなオラリオ全体が見るなかでリューのまま出ることは自殺するようなもの。

なので、仮面を被り偽るつもりだったのだが「それだけじゃ足りんわ!」ということでロキが用意したものだった。

 

 

 

「細かく書かれているのですね」

 

「何を聞かれても答えられるようにな。

これなら神やないかぎりは誤魔化せるやろ」

 

「私から志願をしたというのに、どうしてここまで…」

 

「間違いなくハジメは暴走するで」

 

 

 

その言葉にリューの眉はピクッと反応し、ヘスティアもハァーとため息をついた。

 

 

 

「なるほど。

私はハジメのストッパー役ということですか」

 

「そんなつもりはないで

でも、何かやらかすのは間違いないやろ」

 

「そうですね。

そして止められるのは、自惚れではないのなら私しかいない。

最初から私を参加させる気だったというのは間違いではなかったようですね」

 

 

 

そこでニヤリと笑うロキに睨みをきかすリュー。

分かったいたとはいえここまでコケにされるのは正直に腹が立つ。

 

しかしどうしようとなくハジメを助けたいという思いからハァーとため息をついて

 

 

 

「どちらにせよ、ハジメの力になる。

それなら道化になり操られてもやることには変わりません」

 

「ほな、頼むで」

 

 

 

一礼をして部屋から出ていったリューを見ていたヘスティアは、すぐさまロキに近づいて

 

 

 

「このバカロキ!!!

どうして喧嘩を売るようなことをしたんだい!!!」

 

「い、いや~軽いジョークのつもりやったんやけどなー

なんかついスイッチが入ってしまって……」

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「リ、リヴェリア……」

 

「どうしたフィン?」

 

「えぇーと……椅子に座ったらどうだい?」

 

「大丈夫だ。

私はいま、立っていたい気分でな」

 

「そ、そうかい……」

 

 

 

どうしてフィンが気遣ってリヴェリアを席に着かせようとしたのだが、余計なことをしたかもしれないと思うほどいまのリヴェリアに落ち着きはなかった。

 

ずっと同じ場所を行ったり来たり、そして立ち止まり考えて閃いたと思いきや悩んで、また歩き出して行ったり来たりを繰り返す。

 

 

初めはそんな姿にベートが「うっとおしいんだよババッ!!!!」と発言した瞬間に地に伏せて死んだ姿をそこにいるメンバーが目撃してからはフィンが話しかけるまで30分近く沈黙が続いたのだ。

 

 

 

 

「それじゃその状態でいいから話を聞いてくれないか?」

 

「あぁ、始めてくれ」

 

「それではまずはベル・クラネルだが……あの子はレベル2として頂点に達したと言ってもいい」

 

 

 

 

その言葉に予想していたが改めて聞いたことで驚いているメンバー。

フィン、ガレス、ベート、アイズの徹底的指導があったのだ

かなりステイタス向上するとは思っていたが

 

 

 

「ねぇ、流石に向上しすぎるんじゃ…」

 

「私も。

団長、ヘスティア様から何か聞けましたか?」

 

「流石に無理だった。

でも否定はしなかった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「言っておくがそれ以上の詮索は不要だからな」

 

 

 

リヴェリアの睨みを効かす言葉にまた沈黙が降りた。

ハジメとのダンジョンから帰ってベルの様子を見に来てからずっとこんな風に過保護のようなものが進行している。

 

ティオネやティオナも訓練のときは異常に攻撃的になったり、防御など忘れてしまったかのように突き進める攻撃に誰もが恐怖するぐらい変わっていた。

 

 

……間違いなく、ハジメが何かをした。

 

 

だが、直接的にしているわけではなく一緒にいたことによる影響だと思う。

 

 

 

「えぇーと、リリルカ・アーデはウダイオスのドロップアイテムの取引により『改宗(コンバージョン)』することが出来た。

 

さらにヴェルフ・クロッゾもヘファイストス・ファミリアから『改宗(コンバージョン)』をした。

そしてみんなも知っているように彼はあのクロッゾの家系だ。

魔剣の一本を仕上げて戦争遊戯に参加すると聞いている」

 

 

 

クロッゾの血筋

希少かつ非常に強力な『魔剣』を製造することが出来たことから、クロッゾの一族は『鍛冶貴族』として高い地位を得ていた。

 

しかしすでにクロッゾの血筋はヴェルフを残して途絶えた。

 

そしてそんな貴重な血筋を拒否していたヴェルフは友のために再び魔剣を打つことにした。

 

 

 

 

「タケミカヅチ・ファミリアから命、そして()()()()()()()()()()()()()の二人が参加することになった」

 

 

 

 

誰もが知っている。

そしてその名は使わないと決めた。

向こうもこちらも、たった一人のために。

 

 

 

 

「そしてトキサキ・ハジメだが……

……彼は間違いなく暴走する」

 

「あぁ……」

 

「だよね~」

 

「ワシは知らんぞ」

 

「問題ない」

 

 

 

全員がこの言葉だけで納得する。

すでに戦争遊戯前日になる今日まで沢山の準備をしてきた。

そしてその準備は普通の冒険者がする準備ではない。

 

 

皆が止めた。

彼は聞く耳を持たなかった。

 

皆が制止しようとした。

止まることなど彼の意思しか無理だと悟った。

 

一番の理解者に頼んだ。

見事に丸め込まれてさらに状況が悪化。

 

 

ということで、結論。

 

 

 

(((((死なないといいけどな……)))))

 

 

 

相手に同情するというおかしなことになっていた。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「というのが作戦です」

 

「「「「「「「…………………」」」」」」」

 

 

 

それはとても作戦とは呼べるものではなかった。

初めからハジメが考える作戦の時点でマトモではないとは予測したが、これは………

 

 

 

「うわぁ……」

 

「死んだなこいつら」

 

「私も流石に…同情します……」

 

「……えっ、これ、やるのですか?」

 

「やりますよ。

これぐらいしないと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





さぁ、始まります戦争遊戯!!!
……トラウマにならないように次回作から気をつけてお読み下さい(笑)


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影が薄いという前提がなくなるとこうなります。




どうもー!
皆さんの期待に応えられるか分かりませんが、楽しめる展開を書いていきたいですね。
それではどうぞ!!




『あー、あーー!えーみなさん、おはようございますこんにちは。

今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)実況を勤めさせて頂きます【ガネーシャ・ファミリア】所属、喋る火炎魔法ことイブリ・アチャーでございます。

2つ名は【火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】。以後お見知りおきを』

 

 

 

待ちに望んだ戦争遊戯当日。

ギルドの本部前庭では仰々しいステージが勝手に設置され、実況を名乗る褐色の肌の青年が魔石製品の拡張器を片手に声を響かせていた。

 

 

 

『解説は我ら主神、ガネーシャ様です!

ガネーシャ様、それでは一言!』

 

『━━━俺が、ガネーシャだ!!』

 

『はいっありがとうございました!!』

 

 

 

白亜の巨塔『バベル』三十階。

戦争遊戯を誰よりも楽しみにしていた神々は、多くが『バベル』に赴いていた。

代理戦争を行う両主神ヘスティアとアポロン、ソーマもこの場で待機している。

 

 

 

「ヘルメス様……本当に私がこの場にいてもいいのですか?」

 

「ああ、構わないよ。

固いこと言うやつはこの場にいないさ」

 

 

 

神ヘルメスと、眷族であるアスフィ。

男神女神の中に一人だけ交ざるアスフィは居心地悪そうにしていたが、ヘルメスは笑い飛ばす。

 

するとそこに現れたのは

 

 

 

「ヘルメスやないか。

なんや何してたんやお前!」

 

「やぁロキ。

ちょっと野暮用でね。

しかし知らないうちに大騒ぎになっているね。

聞いているよ、ヘスティアを匿っているって」

 

「言い方が悪いわ。

うちが興味あるのはハジメだけや。

ヘスティアはあくまでもオマケ」

 

「誰がオマケだ、誰が!!」

 

 

 

そこには今日の主役であるヘスティア。

そして隣にはヘファイストスが一緒についてきた。

 

 

 

「ヘファイストス。

君も関わっているんだってね。

まさかこの3人がこうして集まるなんて昔じゃ考えられなかったよ」

 

「そうかしら?

私はあるんじゃないかと思ってたわよ」

 

「冗談じゃないよヘファイストス!!!

君には悪いけどこのロキと仲良くなんて出来るか!!

すぐにハジメ君を引き合いにだして脅してくるこの貧乳とは!!!!」

 

「うるさいわドチビ!!!

お前もハジメを使ってウチの眷族を使い回しとるやろうが!!!」

 

 

 

 

また言い合いが始まり全く緊張感がないと感じてしまう。

そんな様子をヘファイストスとヘルメスは苦笑いしながら見ていると、少し真剣な表情でヘファイストスに問いかけるヘルメス。

 

 

 

 

「……ハジメという子はそんなに神々を引き寄せる子なのかい?」

 

「……そうね、少なくとも私は…魅せられたかもね」

 

 

 

冗談のようにフフフと笑うヘファイストス。

納得したような表情をしているヘルメスだが

 

 

 

(……トキサキ・ハジメ……

…………()()………)

 

 

 

そんな事を考えながら服の懐に手を伸ばして取り出した懐中時計を確認する。

時計は正午に控えていることを告げていた。

 

ヘルメスは顎を上げ、宙に向かって話しかける。

 

 

 

「それじゃあ、ウラノス、『力』の行使の許可を」

 

 

 

空間を震わせた彼の言葉に、数秒を置いて応える声があった。

 

 

 

【━━━━許可する】

 

 

 

ギルド本部の方角より、重々しく響き渡る神威のこもった宣言を聞き届けたかのように。

 

オラリオ中にいる神々が一斉に指を弾き鳴らした。

瞬間、酒場や街角、虚空に浮かぶ『鏡』が出現する。

 

 

 

『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~‼』

 

 

 

都市に至る場所で無数に現れた円形の()に、人々が色めき立った。

下界で行使が許されている『神の力(アルカナム)』━━━『神の鏡』。

 

千里眼の能力を有し離れた土地においても一部始終を見通すことができる。

 

 

 

『では(えいぞう)が置かれましたので、あらためて説明させていただきます!

今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は【ヘスティア・ファミリア】対【アポロン、ソーマ・ファミリア】、形式は攻城戦!!

両陣営の戦士は既に戦場に身を置いており、正午の始まりの鐘が鳴るのを待ちわびております!』

 

 

 

酒場や大通りなど場所に合わせて大きさが異なる円形の窓には、太陽の(エンブレム)を掲げた古城、そして平野が映しだされている。

 

そしてここでもう一つ。

 

 

 

 

『それではここで神ヘスティア様に皆さんが()()()()()()()()して頂きます』

 

 

 

誰もが何を言っているか分からなかった。

しかしヘスティアは納得したようで、ヘスティアの鏡だけ映像が変わりそこに映し出されたハジメに問いかけた。

 

 

 

 

「ハジメ君、いくよ」

 

『分かりました』

 

 

 

二人のタイミングが合わさり鏡見ているもの全てにこの声が届けられた。

 

 

 

 

「『戦い終わるまで許可をする』」

 

 

 

 

すると鏡の映像がヘスティアの見ていたものに変わり、ただ平野だけが映る中でモヤがかかり、徐々に何かが形を成していき、そしてそこに現れたのが

 

 

 

 

「来ましたぁぁぁぁ!!!!

あれがオラリオの幽霊であり、今回の2つ名がついた「続行不可能(サスペンデッド)」の━━━━トキサキ・ハジメだあああぁぁぁ!!!」

 

『うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

 

 

 

その()()()()()()()をみて歓喜が上がる。

この世に姿を消せる物があると知っているものもいるだろうが大半はそれをしらない。

 

つまりこれはパフォーマンスとして最高のもの。

突然現れたハジメに誰もが驚き、言葉にしている。

『さっきのはなんだ!!』『どこから現れた!!!』『無表情にもほどがあるだろう!!!』などなどと。

 

 

そんな中、一人の女神が無意識に妖艶を放ち周りの男共を落としていく。

その頬を赤め物欲しそうな瞳はたった一人の魂とその姿を焼き付くすかのように見つめる。

 

 

 

 

(いいッ!!いいッ!!いいわッ!!!!!

何にも捕らえられないほどの無垢で透明な魂!!

欲しいわ、トキサキ・ハジメ、欲しいわ!!!!!)

 

 

 

欲望を必死に抑えるフレイヤ。

ずっと見てみたいと思ったいたが、見れたのは霞にかかった薄い魂だけ。

ヘスティアから教えてもらったハジメを見るためには何かあると思っていたが、

 

 

 

 

(………ヘスティアには悪いけど…手に入れるわよ、あの子は……)

 

 

 

 

その姿を、その表情を見られないように会場から離れていったフレイヤ。

 

そんな中、別の盛り上がりが始まっていた。

 

 

 

 

「もういいかァー!?

賭けを締め切るぞ!!」

 

 

 

実況の声が外から響くなか、街の数多くの酒場では、商人と結託した冒険者主導で賭博が行われていた。

 

 

 

「アポロン、ソーマ派とヘスティア派、50対1ってところか……」

 

「【ヘスティア・ファミリア】の予想配当が50倍以上………むしろよく賭けるやつがいるな」

 

 

 

胴元の冒険者達が金と睹券を集計し賭博の状況を確認する。

流石に名のある2つのファミリア対、無名に近いヘスティア・ファミリアではどうしてもこうなってしまう。

 

それでもヘスティアにかけているのは異常といっていいほどのバカな神々(ギャンブラー)だろう。

 

 

そんな中にアポロンがソーマを連れてヘスティアへと近づいてきた。

 

 

 

 

「よく逃げ出さずにきたなヘスティア」

 

「………………」

 

「ベル・クラネルとは別れを済ませてきたかい?」

 

「………………」

 

 

 

 

あくまでも無言を通すヘスティアに代わりロキが口を出すためにアポロンの前に立ち

 

 

 

 

「ヘスティアに加担していると思われるのは癪やからな、忠告しといたるわ」

 

「なんだいロキ

まさか負けるかもしれないから注意しろというのか?」

 

「あぁ、その通りや。

いまからでも掛け金を変更したほうがええで」

 

「バカにしないでもらおうか。

ハッキリいってこの戦力差で勝てるとでも?

むしろ追加してあげるよ!!

負けた時はソーマ・ファミリアにも同じ条件で取引することをな!!!!」

 

 

 

その言葉に一気に神々が騒ぎだした。

強気の発言に揺らいだ神々はヘスティアに賭けていた睹金をアポロン側へ変更し始めた。

 

慌てて止めようとするがその時にはほとんどのものがアポロン側へ賭けることになりヘスティアの予想配当が75倍にはねあがった。

 

 

 

 

「知らんで。

ウチは忠告したからな」

 

「あぁ、構わないよ。

それより負けたときの言い訳でも考えておくんだな」

 

 

 

 

そういって高笑いしながら離れていったアポロン。

一方ソーマはまだその場に止まり

 

 

 

 

「ええんか、あんな勝手に決められて」

 

「………あぁ。

……それが()()になるなら…構わない……」

 

 

 

 

アポロンとまではいかなくても余裕ある表情をしてもいいソーマだが、終始強ばった表情でいた。

それを見ていたロキやヘファイストスはため息に似たものを吐き出したあと

 

 

 

 

「……分かっていて、やるつもりなのね」

 

「ええんやないか。

実際、勝負は最後まで分からんもんや。

ただウチらと他のもんの考えと情報が違うからな。

あの一本槍(ハジメ)がどれだけ引っ掻き回すか。

あとはやってみらんと分からんわ」

 

「その割にはヘスティアに賭けているのね」

 

 

 

ロキの手には睹券が握りしめられていた。

あそこでロキが言った意味はこうして合法として賭けるためでもあったのだ。

 

それにはヘスティアは知っていたが、

 

 

 

「当たり前や!!!

お前も賭けんかヘファイストス!!!

ええかヘスティア!!絶対勝てや!!!!!」

 

「言われなくても、あの子達は負けないよ!!!」

 

 

 

 

いまはそんな事はどうでもいい。

ベルとハジメ、いやあそこにいる皆のために出来ることはこうして見守ることしか出来ないと目の前に出現している自身の『鏡』だけを見つめる。

 

 

 

『それでは、まもなく正午となります!』

 

 

 

冒険者が、酒場の店員達が、神々が、全ての者の視線がこの時『鏡』に集まった。

 

 

 

戦場遊戯(ウォーゲーム)━━開幕です!』

 

 

 

号令のもと、大鐘の音と歓声とともに、戦いの幕は開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次に映った映像には城壁だけではなく城の1/4が巨大な氷によって潰されたところだった。

 

 

 

『…………………はっ?』

 

 

 

誰もが理解出来ない中で、誰もが呆然とするなかで、氷の上に立つ影が一つ。

その者は無表情であるがゆえに見下ろされているものからみたらただの恐怖の対象しかない。

 

 

 

「さて始めましょうか。

挨拶は不要ですよね、先ほどの映像で皆さん分かったと思いますから。

それでは()()()()()()()()()()()()()()()どうぞよろしくお願いします」






ひとまずこれ、予想できた人手を上げて~(笑)
自分でも思う、めちゃくちゃやって!!(笑)


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影が薄いからこそ暗躍出来るのです。




皆さまのお陰でまた日間ランキングに入れました!
やはり戦争遊戯編は面白い話ですよね~
さてさて、余談ですがKinKi Kids新曲出します。

小説関係ないだろう!!と思いでしょうが僕にとってはテンションが上がり更新速度も上がる出来事です。

まぁ、本当に読者に関係ない話でしたね(笑)
それではどうぞ!!




「な、何の音だぁぁ!!」

 

「ッ!!?」

 

 

 

慌てているソーマ・ファミリアのザニスと、アポロン・ファミリアのリーダーであるヒュアキントスは先ほどの騒音と揺れに驚いていた。

 

すると慌てた様子で部屋に入ってきたのはソーマ・ファミリアの眷族の一人だった。

 

 

 

「ほ、報告しますッ!!!!

巨大な氷の塊が城壁と城の一部を()()()()()()()!!!!」

 

「なっ!!!??

何を言っているのだッ!!!!」

 

「…………………」

 

 

 

 

同様しているザニスに比べてヒュアキントスは冷静に状況を確認するために小窓から外を確かめる。

するとそこには報告通りに巨大な氷の塊が、この戦場の1/5を押し潰しているのが見えた。

 

 

 

 

「一体どんな手を使ったか知らないが、()()であんなことができるとはな……」

 

 

 

 

冷静に分析して可能性を考えた。

魔法ではルール違反となる。

なら魔剣によって作られたと考えるべきだろう。

 

もしくは()()()()()()()()()()()と考えたがそんな事はありないとすぐに切り捨てた。

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

「……すげぇな……

聞いていたけどよ、こうして目の前でやられると驚くしかねぇな」

 

「同感です。

あの人の異常差は知っていたつもりでしたが…改める必要がありますね」

 

「これから同じファミリアなんだから、これくらいは慣れないと持たないと思うよ……」

 

 

 

 

ヘスティア・ファミリアの3人は冷静に分析をしていた。

もちろんテーマはハジメについてだ。

この奇襲作戦はハジメから聞いていたがまさかここまでとは思わずに驚いている。

 

それでも少し離れたところで固まっている命を見ればまだマシなほうである。

 

そしてもっとも冷静に対応しているのが

 

 

 

「それではクロッゾさん、魔剣の方を」

 

「あ、あぁ……」

 

「貴女は驚かないんですね…」

 

「ハジメはやると言ったことはやる人です」

 

「確かに……」

 

「なら私は信じるだけだ。

そして作戦通りに進めなければいけません」

 

 

 

そういって魔剣を手にしたリューは城へ向かって歩きだした。

その背中を見つめるベルは「スゴいな…」と呟いてしまうほどリューのハジメに対する想いの強さに驚いていた。

 

 

いつもいるベルとはまた別のものなんだろうと感じていると、リューが魔剣を構えて、そして振り下ろした。

 

魔剣から放たれた業火は巨大な氷を砕き、砕かれた氷は城全体へと砲撃のように吹き飛ばされた。

氷の散弾は城内まで届き次々に冒険者を倒していく。

 

 

 

「よ、容赦ないですね……」

 

「だな……」

 

 

 

戦力がある程度減るまではリューとハジメ以外は待機することになっていたが、これでは減るどころか終わるのではないかと考え始めた。

 

しかしそこは上手くはいかない。

相手も対抗するためにアポロン・ソーマの冒険者が魔法を一斉に詠唱し初めてた。

そしてタイミングをずらしての複数による連続魔法はベル達の方へと放たれた。

 

 

しかしそれらの魔法はリューが振るう魔剣により次々と相殺される。

いや相殺どころか影響は敵陣地に及んでおり、少しずつ押され始めている。

 

規模では魔法の方が大きいというのに押されているのは、止まることをしらない魔剣からの猛激である。

 

 

 

「一体いくつ魔剣を持ってるのだ!!?」

 

「い、いいえ!!

相手は魔剣を……たった一振しか使っていません!!!」

 

「ふ、ふざけるなッ!!!!

魔剣は数回使えば崩れ消えるものなんだぞ!!!」

 

 

 

一向に止まない魔剣の追撃についに逃げ出した冒険者達。

リューの手はそれを止めることなく、直撃はせずとも外観を破壊することにより隠れる場所を無くして追い詰めていく。

 

それでもその仲間の魔法の中から襲撃を成功させ辛うじてリューに届いた攻撃は、フードに僅かに切口をあたえて一瞬あらわになる木の葉のように尖った長い耳が、同胞である冒険者に目にうつりそして激怒した。

 

 

 

「き、貴様ぁ!!?

同胞(エルフ)でありながらよりによってあの忌々しき魔剣を手にするなど、恥を知れッ!!!!」

 

 

 

怒りに身を任せて振り下ろされる短剣を簡単に交わしたリューは、短剣を弾き落としたのち

 

 

 

「生憎、一族の怨襲(おんしゅう)より私には大切なものがある」

 

 

 

間近で魔剣を振り下ろして冒険者を吹き飛ばした。

直撃ではなく、地面に向けて放ったことにより五体満足ではあるが戦闘不能となった。

 

 

 

「……大切な人のためなら、その恥、受け入れましょう」

 

 

 

誰にも届かない小さな声。

それでもその決意を持ってリューはさらに進撃していく。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「反則…ですよね……」

 

「俺が作ってなんだが……同意するぜ……」

 

「僕達、出番ありますかね……」

 

「どうなんでしょうか……」

 

 

 

未だに待機している四人。

いま、たった二人で城を攻めておよそ1/3の戦力を削ったと思われる。

 

 

 

「しかし本当に崩れないのですね」

 

「あぁ。

ハジメからアイデアをもらったときは「何いってやがる」

と思ったが……アイツのお陰で踏ん切りがついた。

まだ、一人では作れねぇが……いつか()()()()()()を作ってやる!!!」

 

 

 

 

いまだに壊れない魔剣はあるアイデアにより原型を留めていた。

 

ハジメからのアイデア。

魔剣に一時停止をつけるという方法だった。

触れただけですべてを止めていたハジメだったがこの度レベルアップによりコントロールが可能となり、止めるものと止めないものの区別が出来るようになったのだ。

 

しかし無意識に行う一時停止においては制御は出来ないため、自分自身への一時停止はコントロール出来ないようである。

 

 

それでもコントロールが出来るようになり、ハジメは魔剣の崩壊する現象を一時停止することにした。

しかしいきなりその現象のみを一時停止することなど出来ることではないため、いくつもの魔剣を試していた。

その魔剣はロキ・ファミリアが提供してくれたが、全て無くなるまで続けてしまったためにロキが嘆いたことがついこの前の出来事である。

 

 

そしていまその損失を補うために賭け事をしているのだが、後でリヴェリアに怒られるのは……またの話となる。

 

 

とにかくそのお陰でこうして猛攻が出来ているのだが一向に出番のない四人の元に、空に放たれた業火が光放ったのだった。

 

 

 

「うしッ!!!!

やっと出番がきたぜ!!」

 

「いいですか、作戦通りにお願いしますね」

 

「分かりました」

 

「それじゃ、行きましょう!!!」

 

 

 

走り出した四人はバラバラに城に向かって駆け出す。

そして各自その手にはある物が持たされており、これが更なる城の崩壊へと繋がることになる。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「前線は終わったようですね」

 

 

 

ハジメは氷の塊が砕けたあと城内を散策していた。

見かけた冒険者は手当たり次第気絶させているが、どういうわけか見えている筈なのに至近距離まで来ないと気づかないようである。

 

その他にも氷の犠牲になった冒険者、魔剣で吹き飛ばされた冒険者を含めて、半分近くの冒険者が倒されているがそれでも未だに勢いは止まらない。

 

それを止めるためにハジメは四人にある作戦を伝えた。

それが終えればあとは最終決戦になるだろう。

 

 

なのでそれまでにもう一つ、仕掛けを施す必要があった。

だから城内を散策している間もこうして壁に手を当てながら歩き回っている。

 

 

すると広々とした部屋にたどり着いたハジメ。

そこには顔を知っている二人の冒険者がいた。

一人は訳の分からない恐怖に怯え、一人は冷静を装っているが冷や汗をかいていた。

 

二人もまたハジメの存在に気づいていない。

【カミカクシ】の影響がなくともハジメは影が薄いということが改めて分かる。

 

かといって近づけば気づかれる、そしてあの二人を倒すのはベルである。

 

ハジメはあくまでも「サポーター」として今回の戦争遊戯に参加しているのだ。

 

 

 

なぜならハジメがメインで行うなら、

すでにこの城は完全に最短で、

落とされているのだから。

 

 

 

「この部屋だけは()()がないようにしておかないとですね」

 

 

 

そういい部屋に一時停止をかけたあと誰にも気づかれずにハジメは離れていった。



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影が薄くても計画通りに進みます。

どうも久しぶりです!
うまく話が纏まらなかった!
というか投稿しておいて「大丈夫かな?」と心配してます。
質問、疑問があったら教えて下さい。
今回はちょっと自信がありません。

こんな感じて始めるのはダメなんでしょうが、よろしくお願いします。
それではどうぞ!!!






「しかし、やるとは思ったけど……やりすぎや…」

 

「……ロキ、これはまだ序の口だよ…」

 

「……これ以上酷くなるって……」

 

 

 

神々が集まる所では大騒ぎ、いや、各地が大騒ぎになっていた。

圧倒的な戦力差だったのに追い詰められているアポロン・ソーマファミリア。

そして対するこの三人の神は他の神よりかは落ち着いているが、それでも起きている事に対して現実逃避をしたくなっている。

 

そこに離れていたヘルメスが近づいてきて

 

 

 

「な、なんだいあの子は……」

 

「自慢の子だよ、ヘルメス」

 

「それは分かるが……

……あの巨大な氷を詠唱なしで作り出したように見えたんだが……」

 

「なら大丈夫だよ、あれはハジメがやったから」

 

「言っておくけどな、それ以上はマナー違反やで」

 

 

 

その口振りからロキはその出来事がどのようになったのか知っていることに勘づいたヘルメスだがそれ以上は聞かないことにした。

 

誰もがあの光景を目の当たりにして『なんだあれはあああああああぁぁぁ!!!!』と叫び、ヘスティアに詰め寄ろうとした。

しかしそこにロキやヘファイストスが睨みをきかして庇ってくれたお陰でこうして観戦できている。

 

そこで一人だけ、いや、ロキの言うとおり他のファミリアの情報を聞くなんて論外である。

 

 

 

『ヘスティア・ファミリア、残り四人も参戦するようです!!

ここまでの戦況、どう思われますかガネーシャ様?』

 

『俺がガネーシャだぁぁ!!』

 

『聞いたこちらがバカでした!!』

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「いたぞ!!リトル・ルーキーだあぁぁ!!!」

 

 

 

4方向へ分かれたベル達はそれぞれの持ち場に向かっていた。

これはハジメがたてた作戦なのだが、成功させるには一人一人が目的地に到着しなくてはいけない。

 

つまりは目の前にいる敵を倒さないといけない。

 

 

ベルは神様のナイフ(ヘスティア・ナイフ)を抜いて一気に敵の懐に駆け込む。

相手は五人、向こうもまさか突撃するとは思わず一瞬怯んだがすぐに戦闘体制に入った。

 

 

一人の冒険者が弓を使い矢を放つ。

真っ正面から飛んでくる矢をベルを正面から弾き落とした。

しかしそれは予想ずみ、僅かな隙をついて魔法の詠唱を終えた。

放たれた魔法は双方からベルを挟むように飛んでくる。

 

これで決まったと思っていた冒険者達だが、ベルが片手を出して構えたとき身震いをしたのだ。

まるで圧倒的な力に怖じけずくような……

 

 

 

「ファイア・ボルトオオオオオオォォォ!!!!!」

 

 

 

詠唱破棄。

まさかの魔法に驚く冒険者達。

 

ベルの魔法は迫り来る魔法を相殺して爆風が発生した。

煙幕の中を突っ切ったベルは正面の冒険者から溝尾に一撃を喰らわせたあと、そのままその冒険者を横にいる冒険者の元に吹き飛ばす。

 

その間に接近してきた冒険者の強烈な一撃をかわして、片手を地面につけたあとに逆立ちからの、相手の首元に蹴りを打ち込んだ。

 

倒れた冒険者を踏み台にして詠唱をしている冒険者に一撃を喰らわせたあと、残りの冒険者からの魔法がベルに襲いかかる。

 

 

 

「はああああぁぁ!!!!」

 

「なっ!!!??」

 

 

 

 

飛んできた魔法を神様のナイフで真っ二つにしたあと、そのまま冒険者の元に駆け込む。

しかし倒した筈の二人目の冒険者が立ち塞がる。

振り抜かれた斧はベルの体を引き裂こうと迫り来る。

 

しかし反射神経と言うべきなのか本能なのか、それとも今までフィン達に叩き込まれたお陰なのか、気づいたときには斧の真下を滑り込んでいた。

 

この行動に冒険者は反応しきれずにベルは相手の懐から一気に立ち上がり、顎に強烈な一撃を喰らわせた。

 

 

残り一人の冒険者は自棄になったのだろう。

持っていた杖をふりおろしたのだが簡単に避けられて気絶させられた。

 

 

 

「………ふぅ」

 

 

 

汗も欠かずに一気に五人を倒した。

今までなら考えられないことなのだが、今のベルはそれさえも当たり前のような気分でいた。

 

あの地獄のような特訓。

自分から志願しておきながらもう二度としたくないと感じるほど恐ろしかった。

 

それのお陰でこうして汗もかかずにこれたのだが、

 

 

 

 

「やっぱり派手に動くと……そうなるよね……」

 

 

 

一息つく暇もなく次の敵が現れていた。

しかしこれは作戦通り。

敵を一掃するためには多くの冒険者をおびき寄せる必要がある。

 

ただしその代わりに大勢と戦うリスクが発生するのだが

 

 

 

 

「これぐらいあのときに比べれば!!!」

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「チッ!!

分かってはいたがこんなにウジャウジャと来やがると!!!!」

 

 

 

ヴェルフの周りには冒険者が次から次へと現れている。

しかしそれはたった一人に対して一気に終わらせるためではない。

()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「な、な、何なんだアイツは!!!」

 

「あんなもん見たことねぇぞ!!!」

 

「とにかく使()()()()()!!!」

 

 

 

ヴェルフの持っている物に警戒しながら近づく冒険者達だが、ヴェルフは地面に向けて別の物を叩きつけた。

その瞬間に眩しい閃光が放たれ視界を奪われた。

 

 

 

「う、うわぁッ!!!!!」

 

「ま、眩しいッ!!!!!」

 

 

 

周りの冒険者は視界を奪われ踞っている。

その隙にヴェルフはもう一つ持っていた物を投げつけた。

その瞬間に爆発が起きて敵は吹き飛ばされる。

 

 

これはハジメが作った閃光弾と爆発弾。

さすがに爆発弾はゴライアスを倒すほどの物ではないが、並の冒険者なら簡単に倒してしまうほどの威力はある。

 

早めに回復した冒険者はヴェルフに襲いかかろうと剣を振りかざしたが、瞬間にヴェルフは敵の前から消えた。

 

 

 

 

「こっちだッ!!!!」

 

 

 

声が聞こえた方へ顔を向けると空から落ちてくるヴェルフが大刀で冒険者の頭を打ち抜いたところだった。

不意打ちによる攻撃に冒険者は倒れこみ、ヴェルフ以外の冒険者は全員ダウンしてしまった。

 

 

 

「っなんつう物を作ってるんだアイツは……」

 

 

 

ハジメに緊急に渡していた物を使ったのだがそれはヴェルフの体を瞬間に移動させるものだった。

足元にあるものを投げつけた瞬間に衝撃波が発生してヴェルフの体を上空へ飛ばした。

 

お陰で奇襲には成功したがトラウマになるんじゃないかと思うほどビックリしたようである。

 

 

 

「これが終わったら文句いってやるからな……」

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

【掛けまくも(かしこ)き━━】

 

「いたぞぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

走りながらの詠唱を唱える命を追いかける冒険者。

迫り来る冒険者の攻撃を避けながら詠唱を続ける。

 

 

 

 

【いかなるものも打ち破る我が武神(かみ)よ、尊き天よりの導きよ。】

 

 

 

命一人でこの人数を相手するにはこの長い詠唱を唱える必要がある。

しかし相手もその詠唱を止めようと躍起になってくる。

走り回る命に対して接近しようにも逃げ回り捕らえられないため少し距離をおきながら矢は放つ。

降り注ぐ矢はすでに命の体には無数の切り傷があるのだが、それでも致命傷にはいたっていない。

しかしそれでも痛みと疲労の中で詠唱を続けるのはキツイ

 

 

 

【卑小のこの身に巍然(ぎぜん)たる御身の神力(しんりょく)を。】

 

 

 

それでも詠唱を続ける命に冒険者達は警戒していた。

詠唱が完成した際に起きる魔法を。

それがどのようなものかを。

 

 

 

【救え浄化の光、破邪の刃。払え平定の太刀、征伐の霊剣(れいおう)

今ここに、我が()において招来する。】

 

 

 

だからここは叩くべきだと命を取り囲む一斉に命に近づく。

一方命は立ち止まり詠唱を続けていた。

これなら間に合うかと思いきや

 

 

 

【天より(いた)り、地を()べよ――

神武闘征(しんぶとうせい)

 

 

 

命の目が見開いた。

マズイと武器を振り下ろすのではなく降り投げた冒険者。

これなら詠唱前にやれるかと思っていたが

 

 

 

 

【フツノミタマ】

 

 

 

 

先に詠唱が完成した。

天に現れた光の剣が地面に向かって落ちてくる。

しかしこのままだと光の剣が落ちてくる前に投げ飛ばされた武器が命の体を貫く。

 

 

 

 

(これで、終わりだッ!!!)

 

 

 

武器を投げつけた冒険者達、誰もがこれで仕留めたと思った。

しかし突然目の前にいた命が消えた。

そして目の前には細い鉄が螺旋を描き()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その訳の分からないものに目を捕らわれている間に光の剣が地面に刺さり中心に半径10mの重力場のようなものを発生させた。

 

 

 

「ぐうわあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

押し潰される冒険者達は誰も立てずに地面に膝をついていおり、立ち上がろうとも降り注ぐ重力場に動くことは出来ない。

 

苦しんでいる冒険者達の一人が空から何が落ちてくるものを見た。

それはこの重力場から逃れたようで立ち上がり、こちらに向かって振り向いた。

 

 

 

「……お、お前…は……」

 

「すみませんがしばらくそこにいてください」

 

 

 

そういって命はその場から離れる。

追いかけようとするが重力場により動くことが出来ない。

冒険者達はたださりゆく命を見るしか出来なかった。

 

 

走りながら目的地に近づく命は残っている冒険者から逃げながらさっきの出来事を考えていた。

 

 

 

 

(先ほどのものは……

……いや、深く考えない方がいいでしょう……)

 

 

 

 

すぐに考えるのを止めた命。

ハジメから仕込まれた()()の説明を聞いたのだがどうしても理解出来ない。

緊急的に逃げることが出来ることは分かったが、どうしてそれを思いつき作ることが出来るのか…

 

そしてそれをいまさっき思い付いた素振りだったのだから尚更驚いた。

 

だから思わず聞いてしまった。

そしてその答えを聞いてしまった。

 

 

 

 

「僕は凡人なので色々考えないといけないんです」

 

 

 

 

いや、絶対に凡人ではない。

ツッコミを入れたかったが今はそれどころではないと思い止まった。

そして強制的に仕込まれたアレが役に立つなんて思わなかった。

 

 

 

 

「これが終わったらお礼を言わなければ……」

 

 

 

 

ヴェルフとは違いこちらは感謝の気持ちがある。

といってもヴェルフがおかしいわけではない。

ハジメという人種がおかしいと聞く人全員がいうだろう。

 

もちろん感謝している命もその一人であるのは間違いない。

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

(面白いように上手くいってますね)

 

 

 

 

リリはアポロン・ファミリアのルアンというものに姿を変えていた。

ルアン本人とは四日前、昏倒させ街外れの倉庫に閉じ込めている。

正確には氷付けしているので倉庫に閉じ込める必要はないのだが念のため。

 

 

 

 

「城外西にいるぞ!」

 

「向かええええぇ!!!」

 

 

 

 

ルアンに変身したリリは敵の冒険者達を上手く分散させて戦力を有利に向けていた。

これにより城の中にいる冒険者はほぼいなくなった。

残っているのはヒュアキントスとザニスと僅かな冒険者のみ。

 

そしてその者達はみな同じ場所にいる。

 

 

 

 

「準備完了」

 

 

 

 

リリは持っていた赤い筒を地面に叩きつけると中身が弾け飛び空へと羽上がった。

そしてそれは空で爆発を起こして赤い閃光が夜空を彩った。

 

 

そしてそれを確認して5秒数える。

それと同時に出来るだけ城から離れるリリ。

何が起こるか分からないが指示通りに行動を起こしているのだが、あと3秒後に手に持っている黒い球体を城に向けて投げる算段になっている。

 

そして3秒経ち黒い球体を城に向かって投げた。

 

リリ的には嫌な予感しかしなかった。

それでもこれなら勝てるというハジメの話を信じて。

そして壁にぶつかった黒い球体は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大爆発を起こした。

 

 

 

 

「予想通りですかあああああああぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

ルアンに変身していたということを完全忘れて素が出てしまっているリリ。

もしかして、いや、そんな、でも、まさか、とか何度も思っていたがそんな不安を押し退けて投げたというのに大正解。

 

それも大爆発はここだけではない。

同時に三ヶ所から大爆発が起きている。

そうこれをベル、ヴェルフ、命も持っており、閃光を合図に球体を投げたのだ。

ツッコミと同時に爆風に吹き飛ばされてしまったリリはもう1つ持たされていた白い球体を、自分の体が壁にぶつかる前に叩きつけた。

 

すると破裂した球体の中からモコモコしたものが現れてリリの体を包み込み衝撃を吸収。

何処から集めてきたのか大量の羽毛があったことは知っていたけどこんな風に使うなんて……

 

 

 

 

「あの人は……やっぱりおかしいです……」

 

 

 

 

目の前では大爆発で吹き飛び消えてしまった城の後。

唯一残ったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ハジメの一時停止により宙に建っている建造物はこの世ではまず見れない景色となっていた。

 



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影が薄い、のにやる気満々です。

すみませんーーー!!

かなり、もうかなり更新遅れました!!!
なんとか納得いくお話になりました。
今年はこれが最後の更新となります。

一年間ありがとうございました。
また来年もよろしくお願いします。




「……スゴいね……」

「……スゴいな……」

「……スゴいですね……」

「……スゴすぎます……」

 

 

 

 

城が大爆発を喰らい芸術的なオブジェに変わり果てた姿を四人は呆然と眺めていた。

あの球体を持たされた時点で何かが起きると思っていたがまさか……城がほぼ壊滅しているものを目の辺りにすることとなるとは。

 

その光景はもちろんオラリオ全てに流れていて、予想していたはずのヘスティアさえも開いた口が塞がらなかった。

 

と、まぁ異常すぎる光景に圧倒されている四人の元へハジメとリューが近づいていた。

 

 

 

 

「こういう風にやるなら最初からやれば良かったのでは」

 

「今回は()()()が目的ですのでまずは戦力差というものを見せようかと」

 

「なるほど。

ならこの魔剣を使用し圧倒させながらも城へ攻め込まない理由が分かります。

ですが、始めの氷はいりませんよね?」

 

「あれは、ノリです」

 

「なら仕方ありませんね」

 

「仕方ありません」

 

 

 

そんなカップルのような会話をしている二人に、この目の前の惨状について聞いた。

 

 

 

「ハジメ、これはやり過ぎじゃ…」

 

「まだ足りませんよ」

 

「だがな、わざわざ城をほぼ崩壊させる必要は…」

 

「あります」

 

「しかしもし他の冒険者がいたら」

 

「それを防ぐためにこうして派手に暴れてもらい情報操作で城から()()()()()以外を出したんですが」

 

「だとしてもどうしてリリ達に話さなかったんですか!!?」

 

「………あっ、話してませんでしたね。すみません」

 

 

 

 

その言葉に脱力感を感じる四人。

頭が物凄く痛い、どれだけハジメと接してもその人柄が掴めない。

 

隣にいるリューはなんかハジメという色に染まってきたようで、「話忘れはないかと確認しましたよね??」「抜けていたようです」「……気を付けてください」と強く言ってくれない。

 

しかしこれ以上何かをいうと話が拗れる。

特にリューがハジメに甘いという内容をいえば否定をする行動の際に恥じらいで暴れる可能性がある。

無意識にいちゃついている事を意識させたときには周りに被害が及ぶことはすでに経験づみ。

 

 

 

(((……なんだこのカップルは……)))

 

 

 

と状況を知らない命を除き三人は心の中でもツッコミを入れた。

もちろん口に出したら真っ赤になってリューが暴走してしまうリスクがあるために絶対に言葉には出さない。

 

 

 

 

「さて、決着をつけにいきましょうか」

 

「だな」

 

「油断してはいけませんよ、相手は各ファミリアの中核なんですから」

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「糞が!!どうして開かねぇ!!!?」

 

「……………」

 

 

 

 

内心ヒュアキントスは焦っていた。

定期連絡する筈の冒険者が来ないところからおかしいと感じていた。

例え倒されたとしても周りのやつがくるはずだ。

なに、いくら待とうとも誰も来ない。

 

それはザニスも同じように感じ取っており、自ら出撃しようと扉に手をかけた時にやっと異変に気づいた。

 

叩こうが、蹴ろうが、魔法を放とうがビクともしない。

扉だけではない、この部屋全体が同じようにキズ一つ受けないのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

考えられることは一つ。

 

 

 

 

(トキサキ・ハジメ……

やはり、アイツがこの勝敗のカギとなるのか……)

 

 

 

倒すべき相手、そして未知なる相手。

どういう()()を使えばこんなことが起きるのかは分からないが、あの男を倒さないとこの戦いが終わることはない。

直感的にそう感じているとき、突然体が宙に浮くような感覚に襲われる。

 

 

 

「な、なんだッ!!!?」

 

「ッ!!!?」

 

 

体が宙に浮いているわけではない。

これは()()()()()()()

城内いるというのにこれは間違いなく落ちている。

 

得体の知れない恐怖に声を出してしまいそうになる前に、視界は真っ暗になり全身に強い衝撃が走った。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「………ねぇ、ハジメ」

 

「なんですかベルベル?」

 

「あれをするためにお城をあんな風にしたの?」

 

「意外と怖いものですよ。

城が崩れ落ちる想像は出来ても、()()()()()()()()()()……いいアイデアですよね」

 

「………うん、ソウダネ……」

 

 

 

もう何を言ったらいいのか分からずにいま地面に激突した城を虚ろな目で眺めていた。

 

 

 

「ほらベルベル、現実逃避している場合ではありませんよ。

向こうも冒険者としてはプロのはず。

そろそろ襲いかかってきますよ」

 

「う、うん……」

 

 

 

全員が武器を構えて待ち受けていると瓦礫の中から立ち上がった一つの影。

 

 

 

「く、クソガアアアアアアァァァァァ!!!!」

 

 

 

現れたのはザニスであり完全にぶちキレている。

ふぅ、とハジメがため息をついて

 

 

 

「あれは僕が相手します。

ベルベルはヒュルヒュルをお願いしますね」

 

「……ハジメ、ヒュアキントスですよ」

 

「アハハ……

うん、分かったよ」

 

 

「皆さんはベルベルのサポートを。

まぁ、よっぽど追い詰められてない限りは一人でいいので」

 

「だろうな」

 

「ベル様も、ハジメ様も負けるイメージが出来ませんし」

 

「ご武運を」

 

 

 

皆に見送られながらハジメはザニスの元へ。

向こうもハジメが近づいてくるのに気づいたようで、ぶちギレたザニスは走りながら、ハジメを歩きながら、二人はベル達から少し離れた場所へと向かった。

 

そしてザニスがいた場所から爆発がおき、粉塵の中からヒュアキントスの姿が現れた。

 

 

 

「………俺をよくもコケにしたな……」

 

「貴方の相手は、僕です」

 

「……レベル2が、レベル3に勝てるとでも思っているのか!!」

 

「勝ちます」

 

 

 

冷静を保っていたヒュアキントスはとうとうキレて、ベルに向かってくる。

ベルも駆け出してヒュアキントスへと。

 

こうしてそれぞれのファミリアの中核が激突する。






毎回余談で、なんだとは思いますが一言。
KinKi Kidsのカウントダウンコンサートに行ってきます!


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影が薄いために終わりを迎えるのに気づきませんでした。



お待たせしました。待たせ過ぎました!!!
本当に申し訳ありません!!
まだ読んでくれるなら、どうかこれからもよろしくお願いします。


ヒュアキントスは驚愕していた。

この目の前にいる男はつい最近レベル2になったばかりのはずだ。

 

なのに、どうして自分の攻撃についてきている?

打ち出す攻撃を防ぎ、受け流し、回避している?

 

私はレベル3なんだぞ。

なのに少しずつ私が押され始めている。

攻撃の速度が上がってきている。

 

 

━━誰だ?

 

 

攻めていたはずの攻撃はいつの間にか攻守交代しており、私が攻撃を防いでいるなんて。

 

 

━━誰だ?

 

 

そして小さな傷を受け初めて、それが少しずつ大きくなり、だんだん急所を狙われ始めていた。

 

 

━━誰だ?

 

 

なんなんだ、これは?

これはまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ありえない!!

 

 

 

「私は、レベル3なんだぞ!!!」

 

「はい。

……なので()()()()()()()()()()()()

 

「ッ!!!??」

 

 

ふ、ふざけるな……

これが全力ではないというのか……

私が、レベル2に弄ばれていたというのか……

 

 

「ふざけるな!!!!」

 

 

 

…………………………

 

 

 

「圧倒的ですね」

 

「いくらレベルが高くても、いまのベルを止めるのは骨が折れるだろうな」

 

 

 

ハジメが言っていたように近くで援護できるように待機しているが、どうみてもその必要はない。

初めはヒュアキントスの実力を見るために攻撃を受けていたようだが、少しずつ攻撃に出始めたベルは今では完全を押している。

 

 

 

「あのロキ・ファミリアの一級冒険者に手解きを受けたのです。

そしてそれにしがみつき、自分の力の糧にしたベル様にあの人が勝てるとは思いません」

 

「だな。

まぁ、俺達はベル達の邪魔になる奴等を片付けるとするか」

 

 

 

リリ・ヴェルフの二人の視線の先にはさっきまで気絶していた両ファミリアの冒険者が起き上がり、いまにもこの戦いの邪魔をしようとしていた。

 

 

 

「命様は3時の方を、ヴェルフ様は9時の方を、私は12時の方を対処します。

後方は、まぁハジメ様がいますし問題はないと思いますがリュー様お願いします」

 

「分かりました」

 

「任せとけ!!」

 

「…………」

 

 

 

それぞれの返事を聞いて全員が散り散りに別れて対処することに。

しかしリューに至ってはその場を動かずにベルの後方、リューからして正面で戦っているハジメの姿を見ていた。

 

もちろんハジメの戦いにも邪魔をしようと両ファミリアの冒険者が攻撃を繰り出しているが、相手はハジメなのだ、攻撃が効くはずがない。

 

それでも例外がついこの前あったばかりだ。

ハジメも油断はしていないだろうだが、すぐにでも援護出来るように神経を尖らせている。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「なんだこいつは!!?」

「攻撃が効かないなんて!!?」

「魔法だ!!魔法を放て!!」

「効きません!!塞がれてます!!」

「この防御も無限じゃないはずだ!!やり続けろ!!!」

 

 

ザニスに当たらないようにハジメのみの攻撃が続いている。

しかし一向にハジメにダメージを与えられている感触はない。

それでもいつか来るだろう限界を信じて攻撃を続けているが

 

 

 

「くそが!くそが!!くそがああぁっ!!!!」

 

「言葉使いが悪いですね。

こんなに1人対複数の戦いでも文句も言わずに戦っている僕に対してもう少し配慮を……」

 

「黙れッ!!!

その訳の分からない防御壁を破ったときは貴様にこの世では生きられないと思わせるほどの地獄を見せてやる!!!」

 

「丁重にお断りします」

 

 

 

必死にハジメに攻撃を当てようとするが、等の本人は呑気な表情で……いや、相変わらずに無表情で様々な攻撃を受けながらも平然としている。

 

それがザニスの怒りを買ったのだろう。

さっきからどれだけ自分が隙だらけの攻撃をしているか。

一撃の攻撃力は確かに強いかもしれないが、なにせ大振りで攻撃をしているため、戦闘に関しては低いハジメでも狙ってカウンターを喰らわせれるぐらい雑なのだ。

 

まあそんなことしなくても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のでいつでも攻撃可能なのである。

 

ならなぜさっさと勝負を決めないかというと、

 

 

 

(……どうやら僕の()()になる人はいないみたいですね……)

 

 

リューと同じようにこの多い冒険者の中からハジメに攻撃を喰らわせることが出来る者がいないか確認していたのだ。

今まではどんな攻撃でも防ぐことが出来ると自負していたが、あの戦いでその考えは変わった。

 

どんな相手でもどんな攻撃をして、どんな力を使っているか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()確認する必要がある。

 

しかし両ファミリアの冒険者の中にはいないようだ。

それさえ分かればザニスと戦いもこれで終わらせても問題ない。

 

 

 

「これ以上、状況も変わらないようですし、終わらせましょうか?」

 

「戯れ言を!!

こっちにはまだ奥の手があるッ!!!」

 

 

 

………………………

 

 

 

 

【我が名は愛、光の寵児(ちょうじ)

我が太陽にこの身を捧ぐ。】

 

 

平行詠唱を始めたヒュアキントス。

この戦いで勝てるとするならばこれしかない。

完全に押されている状況の中で、ベルから距離をとり詠唱を始めたのだが、

 

 

 

【我が名は罪、風の悋気(りんき)

一陣の突風をこの身に呼ぶ。】

 

 

 

もちろんベルがそれを許すはずはなくヒュアキントスを捕らえようと駆け出してくる。

いまのベルの速度ならあっという間にヒュアキントスとの距離を縮めることが出来る。

 

しかしその時、ベルの前に複数の冒険者が現れた。

そうヴェルフ達が食い止めていた冒険者が数人突破してきたのだ。

 

いまのベルにはこの人数ぐらい問題なく捌くことは出来るのだが、その僅かな時間がヒュアキントスの詠唱を完成させることになった。

 

 

 

【放つ火輪(かりん)の一投

――――来れ、西方(せいほう)の風】!!

 

 

 

倒した冒険者をすり抜けてヒュアキントスに向けて左手を突き出した。

 

 

 

【アロ・ゼフュロス】!!

【ファイアボルト】!!

 

 

 

西風の火輪。

太陽光のごとく輝く、大円盤はとっさに放たれたベルの魔法を打ち破りそのままベルに向かっていく。

ギリギリで避けたベルだが、そのヒュアキントスの魔法は自動追尾型であり、弧を描いてベルの元へと戻ってきた。

 

そこでベルは立ち止まった。

それはヒュアキントスにとって好機であり、諦めたにしろ避けるにしろ防ぐにしろこれで勝ったと悟った。

いまからどうこうしようともあの魔法の()()にいる、間違いなく仕留めることが出来る。

 

アロ・ゼフュロスは自動追尾の他にもう1つ。

 

 

 

「【赤華(ルベレ)】!!」

 

 

 

瞬間、円盤は眩い輝き放ち、大爆発した。

それに巻き込まれたベルの姿は見えず、誰もが終わったと思っていた。

 

 

 

だが、

 

 

 

「あれぐらいでベル君が終わるはずがない」

「やな。負けるわけがないわ」

「こういうときのための剣を、あの子は持っていて、そしてそれを正しく使う子なのだから、問題ないわね」

 

 

 

3人の神は慌てる様子もなく、ただ映像に映るものではなくベルを信じ、

 

 

 

「ちぃっ!!」

「あれ、ベート何処にいくのー」

「うるせぇ!!俺の勝手だろうが!!!」

「………ダンジョンね」

「間違いないだろうな」

「ワシも体を動かしたくなったな!!」

「それじゃみんなで行こうか」

「………うん」

 

 

 

あるファミリアはむしろこれで勝利を確信したかのように、いま映る映像から目を放してダンジョンへと向かい、

 

 

 

「さて、宴会の用意をするよ!!」

「気が早くないですか?」

「なに言ってるんだい!!

これから大人数がこの店に来るんだ、さっさと用意しないと地獄をみるよ!!!」

 

 

 

あるお店では勝利を確信したのと同時に、確実に来るとは分からないお客のために料理を作り始めて、

 

 

 

「終わったな」

「終りましたね」

「終わりですね」

「…これで終わりのようですね」

 

 

 

同じ戦場にいる仲間は、ただ一言だけ。

それで全てが終わると、周りの敵を一掃することに専念する。

 

 

ベルを知っているものは誰も負けるとは思っていなかった。

むしろその行動がこの戦いを終わらせるものだった。

 

 

ヒュアキントスはベルにトドメを刺そうと一歩踏み出そうとしたのだが、その瞬間身体全身が震えだした。

まるで何かを警戒、いや、「死」というものに逃れるための本能的な警告が、本能的にとっさに反応したような……

 

 

曇りが晴れたその先に、傷ついたはずの、絶望しているはずの相手(ベル)が、右手をこちらに向けて、集束する白光がベルを照らしている。

 

たった3秒。

しかしその僅かな蓄力(チャージ)を与えたヒュアキントスはそこで終わりを告げたのだった。

 

 

 

「【ファイアボルト】」

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

「……あ、ありえない……」

 

 

 

いまヒュアキントスが倒された。

それも相手(ベル)のレベルはレベル2だったはず。

なのにどうして無傷で立っている。

 

そして目の前にいる相手(ハジメ)も無傷で立っている。

 

 

 

「……ありえない……ありえない……」

 

 

 

こんなことがあって言い訳がない。

あんな弱小ファミリアがこんなに強いわけが…ない!!

 

 

 

「ありえるわけがないッ!!!!!!」

「ありえない、ことなんて、ありえませんよ」

 

「ッ!!!??」

 

 

 

気づかないうちに、いや、さっきまで離れていたはずのハジメが()()()()()()

目を離した覚えはない、間違いなくずっと見ていた。

なのに、どうして、目の前にいる!!!??

 

 

 

「何なんだお前らはあああああああぁぁぁ!!!!!」

「貴方たちがバカにしていたヘスティア・ファミリアです。ちゃんと覚えておいてくださいね」

 

 

 

ザニスが奥の手があると言っていたがそんな事は関係ない。

ハジメはただザニスに触れるだけでいい。

それだけでザニスは再び凍りつき、この戦いは呆気なく終わりをむかえたのだった。






タイトルでは「えっ、終わるの?」みたいな風に思うかもですけど、あくまでもこの戦いはということなので!!


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影が薄くても簡単には終わらせられません。



多くは語りません。
まずは読んでください!
よろしくお願いしますー!





オラリオの上空に、大歓声が打ち上がった。

古城跡地で打ち鳴らせれる激しい銅鑼の音と共に、決着を告げる大鐘の音が都市全体に響き渡る。

観衆である多くの亜人(デミ・ヒューマン)が『鏡』の中に立つ少年二人へ興奮の叫びを飛ばした。

 

 

「エイナ、やったぁー!?」

「ベル君……ハジメ君……!」

 

 

ギルド本部前庭では、エイナがミィシャに横から抱き着かれた。

 

 

 

 

 

『戦闘終了~~~~~~っ!?

これは大判狂わせ(ジャイアント・キリング)にもほどがあるぞ!!!

戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝者は【ヘスティア・ファミリア】━━━━━!』

 

 

そして舞台上、何故か主神(ガネーシャ)が雄々しく姿勢(ポーズ)を決める横で、実況者イブリが身を乗り出して真っ赤になって拡声器へ叫び散らす。

 

 

『『『『『『ヒャッハァ━━━━━ッッ!!』』』』』』

 

 

酒場では、ヘスティア達に賭けていた神々が勢いよく立ち上がり勝利の歓声を上げる。

 

 

 

『『『『『『ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおっ!?』』』』』』

 

 

一方で、アポロン達に賭けていた冒険者達は無数の賭券を破り捨て頭上に放り投げた。

 

 

 

 

 

「「「ッしゃあ!」」」

 

 

 

西の大通り『豊穣の女主人』ではアーニャ、クロエ、ルノアの定員娘達が三人一緒に手の平を叩き合う。他の従業員や厨房の猫人(キャットピープル)達も手を取り合い笑い合った。

 

 

 

「……ベルさん……

……リュー……良かったね…」

 

 

 

シルもまた、薄鈍色の瞳を細め、唇に喜びの微笑を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

「………勝ちやがった」

 

 

 

ホームの外から響いてくる歓声を耳にしながらベートは不機嫌そうにそう言い捨てる。

 

 

 

「ベート、どこに行くんだい?」

「どこだっていいだろ」

 

 

 

団長であるフィンの問いにまともに取り合わず狼人(ウェアウルフ)の青年は応接間から出ていった。

 

 

 

「ダンジョンか」

「ダンジョンじゃのう」

「ダンジョンだな」

 

「ですね……」

 

 

 

フィンとガレスが苦笑を浮かべ、リヴェリアは両目を閉じ、ティオネも呆れた顔を作る。

 

しかし気持ちは分かる。

いま『鏡』の向こうで喜んでいるのは強くなるためにロキ・ファミリアの訓練を耐え抜いたものだ。

そしてその少年は、力の半分も出さずに勝利をもぎ取った。

それにはもちろん、もう一人の少年が関わってるのだが……

 

 

 

「しかし規格外だとは知っていたが……なんだあの氷の塊は……」

 

「しかもあれは魔法ではなのだろう。呆れるわい……」

 

「……是非、ロキ・ファミリアに欲しい人材なんだけど……梃子でも動かないだろうね彼は……」

 

 

 

分かっていても言葉に出してしまう。

それほどハジメの起こしたことは大きかった。

 

 

 

「………やったねっ」

「うん………」

 

 

つい先ほどまで喚い続けたいたティオナがゆっくりと振り返り、にししっ、と満面の笑みを浮かべる。

頷き返すアイズは、駆け寄ってくる仲間に囲まれるベルとハジメの姿を見て、顔を綻ばせた。

 

 

 

「おめでとう………」

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

「な………が、ぁ………?」

 

 

 

お祭り騒ぎの中で一人、アポロンは顔を真っ白にして立ち尽くしていた。

己の子供達が力なく両膝を地についている『鏡』の光景が、彼を現実から逃避することを許しはしない。

二歩、三歩後退する彼の頭から、ぽろりと被っていた月桂樹の王冠がこぼれ落ちる。

 

 

 

「━━━ア~ポ~ロ~ンッ」

 

 

 

そして、ゆらぁ、と。

ここまで沈黙を貫いてきたヘスティアが、不気味な動きで近づいてくる。

うつむき加減の前髪の奥、瞳から邪神と見粉うような眼光を放ち、茫然自失とするアポロンに近付いた。

 

 

 

「ひ、ひぃいっ!?」

「覚悟はできているだろうなぁ?」

 

 

 

尻餅をつき後ずさるアポロンはゆっくりと近づき壁まで追い詰められた。

そして必死にこの状況を打開しようと

 

 

 

「ま、まて!!軽い出来心だったんだ!!

もう二度とお前らファミリアには手を出さない!!

だから許してくれ!!俺とお前の仲だろうッ…」

 

「だ・ま・れ」

 

「ッ!!!??」

 

 

 

このままでは何もかも失う。

するとアポロンの頭の中で電気(閃き)が駆け巡った。

 

 

 

「じょ、情報だ!!

見逃してくれたらヘスティアが知りたかった情報をやるッ!!」

 

 

 

それを聞いたヘスティアの顔が一瞬動揺をみせた。

これはチャンスだと睨んだアポロンは一気に畳み掛ける。

 

 

 

「知りたかったのだろう、あの情報を!!

どうして漏れないはずの情報が漏れたのか!!」

 

「……何が、望みだい?」

 

 

 

その言葉に流石のロキやヘファイストスも驚きを隠せずヘスティアに駆け寄った。

 

 

 

「待てやヘスティア!!

そんなもん、いまからアポロンに命令すればええやろうが!!」

 

「そうよ!!

ヘスティアが勝ったときはどんな要求も出来るのよ!!」

 

「言っておくがどんなことされようが私はこの情報だけは吐かないからな」

 

 

 

完全にやられた。

完璧に有利に立っていたというのにアポロンの持つ情報一つで状況が変わってしまった。

アポロンも明らかな悪い顔をしているがヘスティアは気にもせずに、

 

 

 

「いいから言うだけ言ってみてごらんよ」

 

「簡単だ。

………再戦を求める」

 

 

 

その言葉に全体がざわついた。

あれだけやられたというのにまだ戦いを求めている。

それだけ自信があるのかは分からないが

 

 

 

「あかんでヘスティア!!

こいつ何を考えとるか分からんで!!」

 

「そうよ。

ここは情報は諦めて終わらせるべきよ」

 

 

しかしこんなめちゃくちゃな要求にも関わらず即答しないヘスティア。

するとヘルメスの方を向いて

 

 

 

「ヘルメス、ハジメ君と繋いでくれないか?」

 

「あ、あぁ、いいよ」

 

 

 

突然の指名に困惑をしたが何かあるのだろうと思ったヘルメスはハジメの方に受信側の『鏡』を送った。

これで互いに会話が出来るのだが一体何を話すつもりなのか……

 

 

 

「ハジメ君聞こえるかい?」

 

「はい聞こえます」

 

「プランBだ。準備は出来ているだろうね?」

 

「問題ありません。じゃ()()()()()()()行いますね」

 

 

 

まるでこうなることを予知していたのか二人の間にはすでに作戦があったようだ。

しかしそれはベルや他の仲間も誰も知らず一体何が起きるのかと不安になってきた。

 

それはそうだろう。

だってあのトキサキ・ハジメなのだから。

プランとか知らされていない時点で絶対にマトモではない。

 

それを感じ取った二人の神はそぅーとヘスティアに

 

 

 

「何を考えとるかは知らんが止めとき……

絶対にマトモなことやないやろう、なぁ??」

 

「そうよヘスティア。

怒っているのは分かるけどこれ以上は……」

 

 

 

すると俯きながら「ふふふ……」と笑いだしたヘスティアにこれは不味いと悟った。

 

そう、ヘスティアは完全にキレている。

あれだけ好き勝手に言われて負けた途端に我が儘を言い出して再戦しろ。

これを聞いて穏やかな心のままでいられるわけもなく

 

 

 

「そうだよハジメ君。

今回は特別に許可するよ。

見せつけてやるんだ、君の力を!!!」

 

 

 

するとハジメは左手人差し指をつきだして()()()()()にゆっくりと円を描いていく。

すると人差し指の先端から光が現れ、徐々に光の円が作られていく。

 

そしてそれと同時にある現象が起きていた。

 

 

 

「な、なんやこれは……」

 

 

 

ロキが見ている『鏡』には映る映像に驚愕していた。

何故なら倒壊した筈の古城のガレキはなくなり、倒れていた支柱もなくなり、一瞬、刹那で()()()()()()()()()()()()()()

 

そして驚くのはそれだけではない。

倒れていたアポロン・ファミリア、ソーマ・ファミリアの冒険者達の傷も治り、一体何が起きているのか周りの人や本人達も理解はしておらず恐怖している。

それはそうだろう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 

 

 

「な、なによ…これ……」

 

「発展アビリティ『再生』の力だよ」

 

「ちょっ、ちょっと待てやッ!!?

発展アビリティはこんな魔法みたいなもんやない!!!」

 

 

 

 

そう、発展アビリティはいわば補助的であること。

 

 

例えば《耐異常》は毒を始めとした様々な異常効果を防ぐ

 

例えば《魔導》は威力強化、効果範囲拡大、精神力効率化。魔法を使用する上で様々な補助をもたらす魔法円(マジックサークル)を作り出すことが出来る

 

 

つまり身体や魔法等の補助的な役割を持つのだが、ハジメの《再生》は補助どころではなくメインのような働きをしているのだ。

 

 

 

「僕だって驚いたよ。

でも間違いないよ、発動条件もあるし、すべてがすべて再生できる訳じゃないからね」

 

「それでも……異常よ、これは……」

 

「今更だよヘファイストス。

……ハジメ君に常識はないって知っているだろう……」

 

「……そうやったな……」

 

 

 

3人の神が遠い目をしている。

現実逃避したいのは分かるけど目の前に起きているのは現実ですからねー

 

するとベル達の方でも何が起きているのか分かっていないようで皆がハジメに駆け寄ってくる。

 

 

 

「こいつは一体何なんだよ!!」

 

「徹底的に潰すためにですけど」

 

「そんなことは聞いてません!!

また非常識なことをしてることについて聞いてるんです!!!」

 

「神様に許可が降りたのでやりました」

 

「あのですね、結果についてではなくこの現象を聞いているのですが……」

 

「発展アビリティ《再生》です」

 

「皆さん、ハジメにこれ以上聞いてもマトモに返事が返ってくるとは思いません」

 

「ちょっと失礼じゃないですか」

 

「普段の行いのせいだと思うよハジメ……」

 

 

 

しかし誰もが説明を求めているだろう。

だっていまこの状況はほとんどゲーム開始直後と変わらないのだから。

 

 

 

「さて、第2ラウンドにいきましょうか」






どうでしたか?タイトル通りでしたか?
終わらせませんよー屑とも。
ここからが本番ですよー!!


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影が薄くても倍返し、いや10倍返しをしたいのである。

超久々ですね。
こんな状態でも読んでくれている方、感想をくれる方、本当にありがとうございます。

ブランクはあるかもですがどうぞ楽しんでください。
それではどうぞ!!


ハジメが使った再生には次のような制限がある。

 

 

①無機物、有機物関わらず再生出来るが『死』を迎えたものは戻せない。

②使用者が『一時停止』を使用中に再生に必要な触れる(マーカー)を付けなければならない。

③マーカーの効果は1日24時間、ただし日にちが変われば効果は時間内でも消える。

④マーカーは使用者が取り除かないかぎり付いたままである。

 

 

マーカーが付いてれば『死』さえ迎えていなければその時点に戻ることが出来る。

 

 

 

『再生』

 

生物学なら身体の一部が損傷、破壊してしまった組織や身体部位の再成長。

それ以外だと何かを記録したものを視認するため行動と言われる。

 

しかしこれはそんなものとは違う。

まるで過去に戻りやり直すような、現実を拒絶し抗うために行っているような……

 

 

 

…………………………

 

 

 

『これはどういったことでしょうか!!?

崩壊したはずの古城やアポロン、ソーマ・ファミリアの冒険者達がまるで戦いの前の状態に戻っております!!!

いえ、まるでではなくまさしく『()()()()()()()()()()()()!!!!』』

 

 

 

その言葉にさっきまで映像を見て騒いでいた者たちは静まり返った。

それはそうだろう、いま起きていることはまるで『神の力』ではないか。

それをただの冒険者が一人で……

 

 

 

『これは…一体どういうことなのでしょうか……

…まるでこれは…神様の力ではないかと……

……どうなんでしょうか、ガネーシャ様??』

 

『………俺がガネーシャだあぁ!!!』 

 

『はいっ聞いたのが間違いでしたッ!!』

 

 

 

しかしこれは問題ないじゃないのか?というレベルではない。

この現世では神様は力を使ってはいけないと決まっている。

そしていま見ている『鏡』もウラノスが許可をしたからこそ使える力。

その力はギルドからの制限もあるようだが、どうやらそれだけではない。しかしそれがどういうことなのかは未だに分からずにいる。

 

なのでこれがもし神様の力なら、ギルドから厳罰がくるはずなのだが

 

 

 

【━━問題は、ない】

 

 

どこから聞こえてくるウラノスの声。

つまりこれは神様の力ではなく、インチキなものでもなく、キチンとした発展アビリティであること。

 

 

 

『ぞ、続行です!!

再起不能となったはずの2つのファミリアと古城は元に戻りましたので『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を続行ですッ!!!!』

 

 

 

こうして二度目の戦争遊戯が開始された。

 

 

 

…………………………

 

 

 

戦争遊戯の再開を待つ間にハジメは仲間に『再生』について話したのだが、

 

 

 

「………規格外過ぎるよ、ハジメ……」

 

 

頭を抱えるベルとそれぞれ呆れてものが言えない面々。

それを見てハジメが一言。

 

 

「でも、これで徹底的にやれますよね?」

「「「「そんなことについて今は言ってません!!」」」」

 

 

と、全員から一喝をもらい流石に黙りこんたハジメ。

とにかく状況とこれからのことを話すためにリリが仕切り始める。

 

 

 

「とにかくなってしまったことは仕方ありません。

いまはこれからのことです、相手もそうですが戦略を見られていますので同じ手は通じないと見るべきです」

 

「ええ、その認識でいいと思います。

そしてさらにハジメに対しての警戒が強くなったはず」

 

「加えてこの隠し玉もバレているってわけか……

……状況は不利だが…やれるだろう!!!」

 

「そうかもしれませんが、ここは相手の様子を見るべきでは?

なにやら相手には奥の手があるようでしたので……」

 

「ならそれごと潰せばいいですね」

 

 

 

さも当たり前のように発言したハジメに誰もがハッ?と呆気にとられてしまった。

その間にハジメは勝手にリリのバックパックを中身を漁り始めた。

 

 

 

「ちょっ、何をしてるんですか!!」

 

「こんな時のために入れておいた物を取り出そうと」

 

「なんでリリのバックパックに勝手に物を入れてるんですか!!?」

 

「??

パーティーを組んでいますので必要なものはバックパックにいれますよね?」

 

「はい、それは間違ってません。

間違ってませんが一言ぐらいリリに言っても……」

 

「あっ、ありました。

あと替えのした…」

「これ以上言うならぶち殺しますよっ!!!!!!」

 

 

 

滅多にキレないリリを「気持ちは分かるが飽きらめろ」とヴェルフが宥めて、ハジメはそんな事を気にせずに取り出した大量の「紙」を破き始めた。

 

 

 

「…………えー、ハジメ殿。

これは何をしているのですか?」

 

「紙を破ってます。あっ、良かったら手伝ってくれませんか?」

 

「構いませんが……何をするつもりなのでしょうか?」

 

「あっ、リュー。

この紙を古城上空全体に飛ばせますか?」

 

「それは出来ますが……まさか…アレをするつもりですか!?」

 

「そうですね。

こっちのほうが手間もかかりませんし」

 

「………分かりました。

だが、キチンと加減をするように」

 

「ちょっと待ってください!!!

お二人で納得されても私が分かりません!!!!」

 

 

 

と、命が言っているのだがそんな事は二人の耳に入るはずもなく、リリが命に「すでにあの(彼女)はハジメ様の影響を強く受けてますので…」と言われて諦めるしかなかった。

 

リュー本人は絶対に否定するだろうがすでに遅し、もうハジメに侵食をされて染められている。

 

それを一般的には恋や愛の力だというのだろうが、そのリューの相手があのハジメであることから、一般的な目で見られるわけもない。

 

まぁ、本人が問題ないのなら周りがとやかくいう必要はないのだが、

 

 

 

「……なんでしょうか…普通に二人で紙を破いているだけですのにこのモヤモヤ感は……」

 

「気にしたら負けだリリ助」

 

 

 

この戦場でイチャイチャ感を出されては周りがイライラしてしまうことは仕方がないのだ。

そしてそれは向こうも同じなのか、圧倒的な勢力がハジメ達に向かって走り出していた。

 

 

 

「ハ、ハジメ!!

早くしないとこっちに来てるよッ!!!」

 

「せっかちですね。

まぁ、これぐらいあれば問題ないですね

それではリューお願いします」

 

 

 

4つの袋に破れた紙を沢山詰め込みそれをリューに渡す。

するとリューはそれを敵対する陣地側の上空へ四方へ投げて、その袋に向けてさらに小石を投擲する。

 

ハイスピードの小石は簡単に破れて破けた紙が宙を舞う。

 

もちろんそれはザニスやヒュアキントスにも見えている。そしてそれはなんの脅威にもならないと判断して視線を戻して突撃を続ける。

 

だがすぐひヒュアンキトスはその足を止めた。

「おかしい」と脳裏に浮かんできたのだ。なんの意味もなくあんな紙くずを空に舞わせる必要性があるのか?

そんな無駄なことをする必要があるのか?

 

まるで雪のように落ちてくる紙くずを見つめているとふっと気づいてしまった。

 

 

 

「止まれええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

必死に叫ぶ声だが時すでに遅し。

 

 

 

紙屑の雨(ダスト・レイン)

 

 

 

不規則に舞う紙くずはその言葉に従うように一直線に地上に向けて降り注いだ。

この紙くず全てにハジメの一時停止を()()()()()

 

停止させ、方向を変えて、相手に返す。

停止させた力を己のタイミングで放つ。

 

それを今回は紙くず一つ一つに力を止めた一時停止を貼付したのだ。そして紙くずを地上に向けて放つように一時停止を解除すれば出来上がりである。

 

もちろん狙いを定めて放つのは無理なので大量の紙くずが必要であり、あくまでも地上に向けてなのでいくら敵陣の上空だったとしてもハジメの方にも飛んでくるわけで

 

 

「なっんて恐ろしいものを使ってやがる!!!」

 

「被害がこちらにもあるじゃないですか!!!」

 

「皆さんなら問題ないと思いましたので」

 

「「だったとしても前もって言ええぇ!!!!」」

 

 

 

リリとヴェルフはツッコムが他のもの達は言っても聞いてないだろうなーと諦めて降り注ぐ紙くずを払い落とす。

 

敵陣のほうも半分以上が不意討ちにより倒れたがまだ立ち向かってくる。未だに心折れてはいない。

 

 

 

「やっぱり格上の方々には無理でしたか。

なら圧倒的なものをぶつけますね」

 

 

 

そういってハジメは前線に立ち掌を地面に付けた。

そしてある「衝撃」を、階層主の一撃を放った。

 

 

 

大地の怒り(グランド・クラッシャー)

 

 

 

それは圧倒的な衝撃を停止させたものを敵陣に向けて、それも大地を変形させるほどの衝撃を放った。

地面は揺れ盛り上がり、亀裂は走り裂け目が現れ、水柱のように大地が天に向かい伸びる。

 

それと同時に衝撃波が襲いかかり一気に敵陣は壊滅させられた。

 

 

 

「ふぅー、スッキリしました」

 

 

 

その光景は味方であるはずのベル達にも恐怖を覚えさせた。

圧倒的な力の差、それはハジメだからと割りきっていたがこんなにも見せられるは思ってもいなかった。

 

 

 

『あっ、圧倒的だあああああぁ!!!

たった一人でこの戦争遊戯を終わらせ』

 

「では、再生っと」

 

『るつもりはないいいいいいぃ!!!

悪魔です!!あれは人間の皮を被った悪魔ですううぅ!!!!』

 

 

 

そして誰もがハジメが悪魔だと感じた瞬間だった。






新しい魔法が(いや、魔法じゃないからありえないんだよなー)出てきましたね(笑)。
こういう技命は苦手で何かピッタリのがありましたら、よければ採用させてもらいたいと考えてます。

………皆さんー、もちろんまだ終わるなんて思ってませんよね(笑)


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影が薄い、それだけで人を判断するのは愚かだ。

 

 

 

それからどれだけ時間が経ったのだろうか…

もう一層殺してくれと何度思ったか……

それでも繰り返し、繰り返し、繰り返し、終りない戦いは続いていく。

 

何を間違えたのだろうか、その原因さえも思い浮かべることが出来ないほど疲労していた。

 

復活すれば圧倒的な攻撃で全滅させられ、すぐさま元の状態に戻る。もちろん色んな戦略や攻撃パターンを変えて対処していた。

 

いたのにアレはその全てを簡単にねじ伏せていく。

戦略も攻撃も全部止められ、何をしても無駄ではないかと心が折れるまで永遠にやらされるのではないかと思うほどに。

 

主神のために、ファミリアのためにやっていたはずなのに……本当に何を間違えたら、こんな悪魔に手を出してしまうのだろうか………

 

 

しかしそんな絶望している中でもハッキリ分かるのは、まだ我らのリーダー(ヒュアンキトス様)は諦めていないということだ。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「粘りますね。降参、もしくは負けたと宣言してくれたら終わりますよ」

 

「……ふ、ふざけるな……

そんなこと……言える…はずがないだろうが……

第一、まだ…負けてないッ!!!!!!」

 

 

 

ソーマファミリアはすでに心折れており、ザニスはヒュアンキトスの隣で膝をつき頭を垂れていた。

 

 

「ザニスッ!!!立てえぇ!!

このガキを殺るまでは終りではないぞぉ!!!」

 

「………くっ……」

 

「こんな屈辱を受けて終わらせるのか!!

こんな底辺の奴らにいいようにさせていいのか!!!!

貴様はこんな男に、やられたままでいいのかッ!!!!」

 

 

 

ヒュアンキトスの叫びが届いたのかゆっくりと立ち上がるザニス。その瞳はまだ闘志がある。

 

 

 

「お前に、言われなくとも……」

 

「だったらさっさと立て。

でなければ私が先に倒すぞ」

 

「ほざくな、倒すのは俺だ」

 

 

 

周りからみたら友情が芽生えたように見えるが、その二人に対峙しているハジメからしたら

 

 

 

「いや、もう諦めてもらってもいいんですけど」

 

 

 

正直な感想であった。

この戦い誰がどう見てもハジメ達、ヘスティアファミリアの圧勝だということは。

それでも『再生』で戦争遊戯を続けるのはこの二人から「負けた」や「ごめんなさい」という敗北宣言をさせること。

一番はザニスがリーリに、ヒュアンキトスというよりもアポロンファミリア全員に謝って貰いたいのだ。

 

 

しかし、この二人の(プライド)が折れない。

さっきから敗北宣言すれば終わりますよ、と説明しているのに未だに立ち向かってくる。

 

 

これではこっちが悪者のように見えるかもしれないが、仕掛けてきたのも原因を作ったのも向こう側である。

謝れば許すとかなり優しい条件のはずなのにどうしてこう頭が、プライドが高いのか……ハジメには理解出来なかった。

 

 

もうすぐで0時を、1日が終わってしまう。

すると『再生』に使うマーカーが消えてしまう。

そうなるとまた付けなおさないといけない。

別にそれをやることは問題ないのだが、この戦争遊戯に関わっている人達皆が精神的に疲れていないだろうかと考える。

 

いつまで経っても終わらない戦争遊戯。

この戦争遊戯を見ている人達もまだ終わらないかと待っていると思うのだ。

だって現場にいる仲間も、いや、ハジメを除く仲間はすでに疲弊しているのが分かるのだから。

 

あのリューも疲れの色が出ている。

それは戦闘によるものというか、いつくるか分からない敵を前にして緊張がずっと続いているのだ。疲れないわけがない。

 

ハジメ?

無表情でそんな表情が分からないだけだと思うだろうが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……仕方ありませんね」

 

 

するとハジメはヒュアンキトス達に背を向けて仲間の元へ戻っていく。

もちろん後ろから攻撃しようとザニスは一歩踏み出そうとしたがそれをヒュアンキトスが止める。

 

すでに小細工しても勝てないと分かっている。

かといって正面からいっても勝てる可能性が上がるわけではない。それでもそこだけはいらないプライドの中でも僅かにマトモなプライドがそうさせているようだ。

 

そんなことも知らずにハジメはまた何も言わずにリリのバックパックをあさりはじめた。

 

 

 

「ですから私のバックに勝手に入れないでください!!」

 

「大丈夫です。もう私物は入れてませんので」

 

「聞いてますか?私の話を聞いてますか?」

 

「なにかイライラしてますか?

長い戦いに疲労が溜まるのは分かりますが相手に当たるのは間違いですよ」

 

「その…その……その原因がハジメ様だということがどうして分からないですかああああああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

「お、落ち着けリリ助!!」

 

「怒ったら負けだよリリ!!!」

 

 

「離してください!!!

今日という今日はこの唐変木にハッキリと分からせてやらないと気がすまないんです!!!!」

 

 

「気持ちは分かるがやめろ!!!」

 

「相手はハジメだよ!!

話を聞くわけがないんだからやめた方がいいよ!!!」

 

 

「リーリを止めるためかもしれませんが何気に酷いことをいいますねベルベル」

 

 

「「自分が悪いと自覚しろおおおおおおおぉぉぉ!!!」」

 

 

 

何をいっても分からないと分かっているのに言わないとやってられない二人だった。

 

そんな様子を命はアワアワと見ており、リューに限っては全く見ておらずいつ襲いかかるかと警戒しながらヒュアンキトス達を見ていた。

 

 

「大丈夫ですよリュー。

もう色々小細工しても無駄だって分かっているようですので」

 

「その慢心がいつかハジメに襲いかかると思いますが」

 

「慢心というより、事実だと思いますけど?」

 

「……ハジメなら大丈夫だと分かってますが……」

 

 

言葉が途切れるリュー。

その様子にハジメはリューの隣に立ち

 

 

「ありがとうございます。心配してくれているんですよね」

 

「……私は、もう…何も失いたくない……

……ただの怖がりになってしまったのです……」

 

「それはいいことですよ。それがあれば立ち向かうことも出来るんですから」

 

 

無意識にハジメはリューの手を取って

 

 

「僕の分も怖がってください。

それはとても辛いかもしれませんが、その代わり僕は絶対にリューの隣に戻ってきますから」

 

「……ハジメは卑怯だ。

そんなこと言われたら……耐えるしかなくなるじゃないですか……」

 

 

リューもハジメの手を握り、強く握り、そして離した。

別にこの戦いでハジメが負けることはない。

それでもこれから先のことは分からない。

そう、万が一この戦いだって負けるかもしれない。

 

そんなことを考えると不安がドンドン募っていくリューにハジメが約束をする。

特別なことをしたわけではない。ただ戻ってくると言っただけ。確かめるように手を握っただけ。

 

それだけでリューの心は晴れた。

 

 

「早く終らせて戻ってきてください」

 

「はい、分かりました」

 

 

 

…………………………

 

 

 

「別れの挨拶は終わったか?」

 

「それ、敗北フラグですよ」

 

「ふん、そんな風にしていられるのも今だけだ」

 

「ですから敗北フラグ立ちますよそれだと」

 

 

 

とにかく強気に出ようと考えているのか、さっきから完璧に負けてしまうようなお決まりセリフを吐く二人。

もしかしたら本当に大逆転するものを持っているのかもしれない。

 

だが、そんなことはどうでもいい。

 

なぜならハジメが本気でこの二人の心を折りにかかるからだ。

 

 

 

「いまさらそんな()()を持った所で何も変わりはしない!!」

 

「そうですね、ずっと負けてますからね」

 

「負けを認めるなら手荒な真似はしないが」

 

「いや、すみません。それ今から僕が言おうとした言葉だったんです。」

 

 

 

変わらずどうしても負けを、自分達が不利だということさえも認めない。

そしてハジメがこのタイミングで手にした()()さえも一切警戒していない。

 

その高すぎるプライドさえなければこの先に待ち受けている現実を受けることはなかったのだろう。

 

 

「それでですね、本当に負けを認めることはしないんですよね」

 

「ふん、認めるもなにも敗北受けるのは貴様らだ!!」

 

「あっ、もういいです。分かりました。

全く認める気はないということなので実力行使に移らせていただきます」

 

 

ハジメは持っていた武器を、短剣を構えて二人に近づく。

もちろん二人はその攻撃に対して警戒していた。

しかし、気づいたときには終わっていた。

 

さっきまで近づいたハジメの姿が突如消え、気づいたときには二人の背後にいた。

 

すぐさま方向転換して攻撃を仕掛けようとしたが、もう遅かった。

 

 

 

「忠告はしましたからね、恨まないでくださいね」

 

 

 

何を言っているのか分からなかったがとにかく背中を向けている今を!!と足を動かそうとしたが

 

 

「なっ!!?」

 

 

どういうわけか足が重い。

それどころか両手両足が重くなっている。

麻痺効果のあるものをつけられたと思った。

 

実際ハジメが背後に現れた直後に両手両足に一太刀受けていたのだ。それでもちょっと傷が入っただけだと思い特に気にしていなかった。

 

 

 

だがそれが絶望の始まりだった。

 

 

 

 

「僕は昔から影が薄かったのでこうして認識されずに攻撃は出来るんですよ」

 

 

その傷口から麻痺効果のあるものを受けたと思っていた。たがその傷口が徐々に大きくなっている。

 

 

「ただ、攻撃しても意味がなかったんですよ。

攻撃が全くない僕が攻撃しても意味がありませんから。

一時停止の攻撃も別にこうして見えなくなる必要もありませんし、正面からぶつければいいだけだったので」

 

 

 

火傷のようなものかと思った。

しかしいつまでたっても収まらず、それどころか痛みは酷くなり傷口も大きくなっていく。

 

 

 

「ですけどこの攻撃なら意味があります。

止められてもいいですけど、目的はその部分を止める(終わらせる)ことが目的ですから」

 

 

 

広がっていく傷口。

それもドンドンスピードが上がっている。

そこでやっと気づいたのだ、ハジメから受けた恐怖の正体を。

しかしもう止めることは出来ない、すでにその傷口は皮膚の表面からドンドン皮膚深くへと進行し、そしてそれは骨が見えるまでに………

 

 

 

「や、やめてくれええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「だからいいましたよね。もう遅いですよ」

 

 

そして絶望の叫びと共にザニスとヒュアンキトスの両手両足は、完全に人としての役割を終えた。止まったのだった。

 

 

 

「「ギャアアアアアアアアァァァァ!!!!」」

 

 

 

僅かな傷口から広がってきた傷口は二人の両手両足を落とした。まるで傷口がドンドン腐りかけていくのが速まっているかのように。

 

 

 

「[時喰い(タイム・イーター)]

お二人の傷口、その進行に対する時間をこの短剣に喰わせました。

普通ならあっという間に治る傷口でも、治るという進行を止めてしまったら、そして傷口の悪化をしてしまうだろう先の未来の時を奪われたら……ということです」

 

 

 

誰もが言葉が出てこなかった。

確かにすでに圧倒したハジメの戦いだったが、それでもここまで残忍なことはなかった。だが、これは……

 

 

 

「か、かえせ………」

 

「無理ですよ。

マーカーさえもこの短剣が喰らいましたから」

 

「ふ、ふざけるなああああああああぁぁぁ!!!!」

 

「いいましたよね。

負けを認めるだけでよかったんです。

今までのことを許すとはいきませんが、少しは配慮があったはずですよ。

 

でも貴方達はそれを捨てたんです。

あとはどうなるか、分からなかったんですか?」

 

 

 

そうハジメが言っていることは間違ってない。

この戦いはそういうことが起きても文句が言えない戦い。

それを回避させようと何度も忠告したのに一切聞かなかった二人が悪い。

 

しかし、それでも、これは……

 

 

 

「僕がどう思われようとも構いません。

ただ僕の大切なものに手を出すということはこういうことだと()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

それはこの二人に向けたものなのか。

それともここにはいない、この様子を見ているものに向けたものか。

それはハジメにしか分からないが、

 

 

 

『し、終了~!!!!

ソーマ、アポロンファミリア両者のリーダーが戦闘不能ということでこの勝負はヘスティアファミリアの勝利ですッ!!!!!』

 

 

 

この戦いで、トキサキ ハジメという者がどういうものかが知られることになった。

 

 






どうでしたか?
この結末、予想できましたか?
……悪魔か……まだ可愛いですよね?


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影が薄い、という認識はここまで。そして…

「……アッ……アッ……アァ……」

 

 

 

徹底的に圧倒的な程に徹底的にやられたアポロンファミリア。その主神であるアポロンは放心状態になっており、口からヨダレを垂らして目が白目をむいて完全にやられていた。

 

 

 

「聞こえているかいアポロン?

まぁ、聞こえてなくてもここで言わせてもらうよ、僕達の勝ちだ」

 

 

 

ヘスティアのその声は届いておらず様子も変わらないのを見て先にもう一つのファミリアの主神の元へ向かった。

 

 

 

「ソーマ、僕達の勝ちだ」

 

「あぁ、そのようだな」

 

「あまり驚いてないみたいだね」

 

「もともと勝ち目がないと分かっていた。しかしここまでとは……驚いてはいる」

 

 

 

それでもあの戦いを見て、当事者としてここまで落ち着いていると何かあるのかと思ってしまうほど。

それを見て冷やかすようにロキが近づいてきて、

 

 

「あれやろ、ソーマ。

お前ファミリア解散させるつもりやろ」

 

「ほ、本当かいソーマ?」

 

「あんなの見せられ、あの子達(子供達)は体験したんだ。もう冒険者としてやっていけないだろう」

 

「それはあまり自分のファミリアを信じなさすぎと違うか?」

 

「……ファミリアというより私が私を信じれないというべきか……」

 

 

 

そんな姿を見てどう言葉をかけるか分からなくなった。

いままでソーマは神酒(ソーマ)を使いファミリアの士気を上げていた。

だが、それは必ずしもいいことだけではなく神酒のために汚いことにも手を出していた。そしてそれをソーマは見て見ぬふりをしていたのだ。

 

リリが抜けたことにより、そして戦争遊戯によってどれだけのことをしてきたのか理解したソーマはもう何を信じればいいか分からなくなっていた。

 

 

「確かに君がリリ君のしたことは、子供達にしたことは間違っている」

 

「………」

 

「だけど僕は解散させるほど怒ってはないよ

むしろこれからのソーマファミリアを見せてくれないかな?」

 

「……ヘスティア……」

 

 

そんな様子を見てロキは明らかにバカにしたため息をついた。

 

 

「なんだいロキ。僕の判断に不満があるのかい?」

 

「それはあるわ。

そこにちゃんと神酒(ソーマ)を作るように付け加えてもらわんとな!!」

 

「ロ、ロキ……

しかしわたしはそれが原因で……」

 

「それやからさらに管理を徹底させたらええやんか!!

言っておくけど、ウチはあの酒がめっちゃ好きなんや!!

勝手に無くなせるなんて許させんからな!!!」

 

 

その言葉に涙を流すソーマ。

もう出来なくなると思っていた神酒もファミリアもまだ続けることが出来るなんて想像していなかったのだから。

 

 

「……お、恩に、きる……」

 

「まずは一週間の合間に神酒を10本……」

「なんで君が決めてるんだ!!!!??」

 

「ええやんけ!!

こうなったら一蓮托生やろうが!!!」

「だとしてこれに関しては口を出すな!!!」

 

「なんやと!!!」

「なんだよ!!!」

 

 

また子供みたいなケンカが始まった二人。

それを見ていたソーマはどうしたらいいのか分からず立ち尽くすしかなかった。

 

 

…………………………

 

 

とりあえずケンカが収まり次に未だにトリップしているアポロンの頭に大量の氷が入った水を頭から一気にかけるロキ。

 

 

「さっさと戻ってこんか!!」

 

「ひゃぁッ!!!!何をするだいロキ!!?」

 

「じゃかわしいわ!!」

 

「アポロン!!僕は君に色々聞きたいことがあるんだ。

だから正直に答えるんだ、君達は負けたんだ僕には聞く権利がある!!!!」

 

 

その言葉に苦虫を噛むような表情をするアポロン。

今から聞かれることがどういうものなのか分かっているからだろう。そうヘスティアがもっとも聞きたかったこと、それは

 

 

「どうして君はハジメ君のことをそんなにも知っている!!?」

 

「ッ!!?

そ、それは……」

 

「答えるんだアポロン!!!」

 

「言っておくけどな、言うまで逃がさへんで」

 

 

さらに苦悩する表情を見せるアポロン。

しかし明らかな敗北に難癖もつけられない。

顔が歪むほど苦しむアポロンは、遂に観念したのか地面に腰を下ろして頭も項垂れた。

 

 

「………つい最近のことだ。

私の前にあるフードを被った(ヒューマン)が現れた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『初めまして神、アポロン。

貴方に耳よりの情報を持ってきたのだけどどうかしら?』

 

『それを私に教えて貴様に何の得がある?』

 

『あるわ。()()()()()()

やっと動き始めたあの子の成長をもっと進めたいの。

そのための情報、自由に使っていいわ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━。

………どうかしら、お役にたちそう?』

 

『……もちろん役にたつ。

たつがそれを教えたら私がハジメを物にすると考えなかったのか?』

 

『別にどこに付こうが関係ないわ。

私とあの子の間は()()()()()()()()()()()()

 

『ならばハジメは私がもらい受ける』

 

『お好きにどうぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それだけだ。

私がその者に会ったのはその一度だけだ」

 

 

その話に覚えがあるのか、ヘスティア、ロキ、ヘファイストスは真剣な表情であることを思いだろうとしていた。

 

 

「もしかしてだけど、そのフードの者って…」

 

「間違いないやろうな……チッ!やっぱ生きとったか…」

 

「ということはこの街に、いるってことなの?」

 

 

「そう考えるのが妥当だろうね。ロキ、ヘファイストス」

 

「言われんでも分かっとるわ。

せやけど動かせるのはウチらだけやで。

こんなん曖昧な情報でギルドが動くわけやしな」

 

「とにかく情報が必要よ。

少なくともそんなに日にちはたってないはずだわ」

 

 

「でも、ハジメ君でもギリギリ勝てた相手だよ。

迂闊に接触なんてしないように…」

 

「んな分かっとるわ!!!

………今は情報集めと、厳重警戒をするしかないな……」

 

「と、いってももう相手もこの近辺にはいないでしょうね。安全が確保するまでは仕方ないかもしれないけどね……」

 

 

はぁ、とため息をつく三人。

周りの神々は一体何の話をしているのかついていけてない。

しかし三人の中では話は終わったのでさらにアポロンに詰め寄る。

 

 

「さて、ハジメのことはまぁ、ここまででええな」

 

「ま、まだ、あるのか……」

 

「それはそうでしょう。

確か何でも言うことを聞くんでしょう」

 

「そ、それは……」

 

「無かったことになんてしないよアポロン。

さて、僕からの要求は4つだ!」

 

「よ、4つもッ!!?」

 

 

驚いているようだがそんなことはヘスティアには関係ない。なんかヘスティアのほうが悪者みたいな、本当に悪い表情で要求を告げる。

 

 

「まず1つ目、君が保有している財産を全て引き渡すこと!」

 

「なっ!!?」

 

「2つ目はファミリアの解散だ!!!」

 

「ま、待ってくれ!!!」

 

「ま・た・な・いッ!!!

3つ目はアポロン!!!君はオラリオからの永久追放だああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「イヤだああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

ヘスティアの容赦ない要求に耐えられなかったアポロンはまた気絶してしまった。

しかしまだあと1つある。なのでヘスティアはさらに容赦なくテーブルにあった水の入ったコップを手にとって頭からアポロンに水をかけた。

 

 

「………も、もう、やめてくれ……

これ…以上……私が支払うものは………」

 

「残念ながらまだあるよ。

最後は要求というよりも、命令だ。いや、強制、決定事項、()()()()()()()()()()()

 

 

怯えるアポロン。

そしてヘスティアの告げる言葉は正に()()()()()()()()()()()()

 

 

「最近ねハジメの一時停止の解除を時限式に出来るようになったらしくてね。

アポロン、君の身体中に一時停止で止まっている衝撃をつけさせてもらう。段階的にちょっとずつ衝撃が大きくなるんだけど……さて、アポロン。君はどれだけの衝撃でその肉体は…………」

 

「イヤだ、イヤだ、イヤだああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

恐怖のあまりに逃げ出すアポロン。

しかし流石にそんなことは許されるわけもなくすぐに捕まったが、その時にはすでに廃人のようにブツブツと呟いていた。

 

 

「……イヤだ…イヤだ………イヤだ………」

 

「………ちょっと…やり過ぎたかな……」

「ようそんな出鱈目出てきたなー」

「そ、そうね…これはちょっと……」

 

「だってこれさえいえば絶対に相手は落ちる。ってハジメ君が……」

「それも本人からかい!!?

………あいつのことや、ホンマは出きるかもしれんな……」

「さ、流石にそれは無いんじゃない?

だってそれもう神殺しよ……流石に………」

 

 

 

「「「…………………………」」」

 

 

 

「「「………………いや、うん……出来そう、というか、やりそう………………」」」

 

 

 

こうして遊戯戦争は終了した。

しかしこの遊戯戦争から再びあのフードの者と出会うのはそんなに時間は掛からなかった。

 

 

そしてその出会いがハジメの「時」を大きく変えることになる。



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time5 突き進もう、その蕀道を。
影の薄い、きっとそれが一番怖い気がする……


都市はざわめいていた。

 

「……一ヶ月?」「本当かよ……」

 

 

冒険者達は、ギルド本部巨大掲示板に張り出された、とある羊皮紙(しらせ)を唖然と見上げる。

 

 

「あの野郎共ッ………!!」

「ちょっとベート、早く見せてよー!?」

 

 

とある第一級冒険者は、仲間の催促の横で、ある記事が書かれた情報紙を握り潰す。

 

 

「ひひひっ、()()だぁ~」

 

 

そして神々は、とある冒険者の公式昇格(ランクアップ)の報せに、盛大にニヤけ、はしゃぎ回る。

戦争遊戯(ウォーゲーム)の興奮と()()()()が醒めやらない中、多くの者達を騒がせる情報が都市中を駆け巡った。

 

 

━━━━ベル・クラネル、Lv.3到達。

そして、トキサキ・(ハジメ)、Lv.3到達。

 

 

 

…………………………

 

 

 

「…………はぁ~」

「ため息はやめたほうがいいですよ、幸せ逃げますから」

 

「誰のせいだ、誰の!!」

 

「あまりからかうのはやめなさい。自分の神様なのですよ……」

 

 

 

またはぁ~とため息を着きながら街中を歩く神ヘスティアとハジメとリュー。

あの一件からヘスティア・ファミリアの面々はフードの者を警戒するために必ず二人で行動することになった。

 

ヘスティアとハジメとリュー、ベルとリリ、ヴェルフと命がペアになっている。

命はヘスティア・ファミリアではないが公に晒されたことにより狙われる可能性があるということで安全が確保されるまでヘスティア・ファミリアで過ごすことになった。

 

リューに関しては変装しており身元はバレていない。

ただ何かあったときのためのストッパー。そうハジメの暴走を止めるために共に行動している。

 

 

「神様ですけどキチンと言わないといけませんよね」

「だとしてももう少し言い方があるはずです」

 

「……確かに。ありがとうございますリュー」

「そ、そんなお礼を言われるほどは……」

 

「??どうして顔が赤くなって…」

「ち、近づかないでください!!大丈夫ですので!!」

 

「神ヘスティア様、リューの体調が悪いようなのですがどのようにしたらいいのでしょうか?」

「ちょっ!!ちょっと少し離れてくださ……」

 

 

「なんで君らのデートに付き合わないといけないんだよおおおおぉぉ!!!!」

 

 

そう、これはデート。

リューは絶対に「ただの買い物です!!」と言い張るがこれはデート。

そんな中でヘスティアも一緒って……これは拷問に近いものがある。

 

 

 

…………………………

 

 

「それでハジメ様とリュー様の「デート」にヘスティア様が同行していると……

私としてはザマァーですが、どんな仕打ちを…いや、この場合は天然で仕出かしたんですよね………」

 

「アハハ……」

 

 

ベルとリリは黄昏の館へ向かっていた。

あの一件からロキ・ファミリアとヘファイストス・ファミリアの二大勢力であのフードの者を捜索・警戒をしている。

今日は現状報告を聞くために向かっているのだがリリの足取りは重い。

 

 

「どうして私達が出向かないといけないんですか?

明らかにこうして出歩くほうが危険なのに…」

 

「まぁまぁ、つい最近まで外出禁止だったんだからちょっとでも出歩いたほうが体にはいいよ」

 

 

「……確かに未だにダンジョンの許可も下りませんから…少しは体を動かしたほうがいいかもしれませんが……」

 

「あっ、どうせならリリも一緒に訓練つけ」

 

 

 

 

「お・こ・と・わ・り・し・ま・す!!!!!」

 

 

あんな一級冒険者との訓練なんてしたらリリの体が動かなくなってしまうだろう。

 

そんな大きな声に気づいたのか離れた所からこちらに向かってくる二人組。誰が見ても明らかに合わない二人ヴェルフと命だ。

 

 

「なに大きい声を出してるんだリリ助??」

「なにかあったのですか?」

 

「お二人でしたか。いまベル様から()()()()()()()のお誘いがあったのですがお二人は……」

 

「「結構です。」」

 

「……強くなれるんですけどね……」

 

その言葉に()()()()()()()()()()()()と全員が悟った。どういうわけか戦争遊戯が終わってから狂ったようにロキ・ファミリアの訓練に参加するようになったベル。

レベルアップもあり一段と訓練に付いてこれるようになったかもしれないが、それでもまだ一級冒険者には追い付かない。なのに、その姿勢は、吸収力は一級冒険者も迫る勢い。

 

そんな地獄の訓練に巻き込まれたら……ダンジョンで死ぬより先に死ぬ。

 

 

「それでまた沢山買い物されたんですね」

 

「おぉ、世話になってるからな。

ツマミぐらいはと思ったんだが」

 

「どうせなら晩御飯をと思いまして。

ヴェルフ殿が私の国の料理を食べたいと言ってましたので」

 

「あっ、それリリも気になります」

 

「だろ!!

確かハジメも命と同じ出身なんだよな。二人なら大人数の料理作れるだろうと思ってよ」

 

「しかしハジメ様って料理作れるんですか?」

 

 

 

………………………………

 

 

 

「はい、これが肉じゃがになります」

 

「う、うめぇええええぇぇぇぇぇぇ!!!」

「なんだよ、この優しくて、それでいてしっかりした味はあああ!!!」

「ホクホクしてて、それでいてメチャクチャ酒に合う!!!」

「おかわりや!!どんどん料理と酒を持ってこい!!!!!」

 

 

もう大盛り上がりだった。

それはそうだろう。リューではないにしろあの豊穣の女主人で働いているのだ。そしてその主人であるミア母さんに認められるほど毎日の賄いを作っていた腕前。

 

そしてそんな中、面白くないと拗ねているのがヘスティアである。

 

 

「ったく、ヴェルフ君は余計なことをしてくれたよ……」

 

「す、すまねぇ……」

 

「そういえばちょっとだけヘスティア・ファミリアで食事をいただきましたけど、てっきりヘスティア様が作っているものかと……」

 

「ぼ、僕だって本気を出せばこれぐらいッ!!

…でも、この味をあのロキには知られたくなかったんだよッ!!!!!」

 

「本気で悔しがってるんですね……」

 

 

もうやけ酒になっているけどそれでもちゃんとハジメの料理を食べている。

ちなみにメインがハジメ、サポートで命とリューが。

えっ、なんでリューがいるのか?

 

今日のお買い物(デート)はキチンと休みを取っているからです。ハジメに至ってはあのミアが「もう勝手にしな……」と匙を投げ出した。

 

 

「なんやヘスティア。こんな上手い飯毎日食ってたんか!!」

 

「そうだね……君がハジメ君に目をつけなければ僕は毎日楽しく美味しい料理を食べていたんだ!!!」

 

「なんや、まるでウチが邪魔みたいな言い方やな?」

 

「まるで、じゃないよ。事実だよ」

 

 

 

「「…………………」」

 

 

 

「「やるんかい!!あぁ!!!??」」

 

 

また始まった下らない喧嘩。もうそれは名物となりそれを肴に酒を飲んでいる。

流石のリヴェリアも呆れてもう楽しんだもの勝ちと一緒に酒を飲んでいる。これを止めるのはもうあの男で十分だからだ。

 

 

「はいはい、喧嘩は駄目ですよ」

 

「そこを退けやハジメ!!!」

 

「ハジメ君退くんだ!!!」

 

 

酒を飲んでいるからもうこの絡みがウザい。

これを毎回毎回リヴェリアが相手していたのだがもう大丈夫!!なぜなら

 

 

「いい加減にしないと『加工』しますよ」

 

「「す、すみませんでしたああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」」

 

 

速攻土下座をするヘスティアとロキ。

それを見ていた冒険者達は「いいぞハジメ~!!」と盛り上がっているが

 

 

「これ以上五月蝿いと『加工』しますよ」

 

 

「「「す、すみませんでしたああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」

 

 

と、もう脅迫並みに効果がある。

そうハジメはレベルアップにより発展アビリティが発現した。出てきたのは『拒否』『削除』『加工』

 

もちろん『削除』はもってのほか。『拒否』も響きが怖い。なので前回と同じように一番安全そうな『加工』にしたのだが………これが一番怖かったのだ。

 

その内容はのちほど。

とにかく恐ろしいというのは分かってもらえたと思う。

 

 

「……なんか見慣れた光景になりましたね……」

「だな」

「これ、慣れていいんでしょうか?」

「確実にハジメの影響を受けてますね」

「……リューさんが、一番かと……」

 

「なにか言いましたかクラネルさん?」

「い、いえ!!何もありません!!!」

 

 

有無を言わせない。これは似た者カップルなのかな?

 

 

「また変なことをいったんですかベルベル??」

「少くてもハジメよりはマトモだよ」

 

「最近言葉にトゲがつくようになりましたね」

「それはハジメのお陰だよね、っとうに!!」

 

「さて明日はいよいよお屋敷の完成ですか」

「その話を無視して進めるの止めてくれない!!?」

 

「??あれ、もう根を上げたんですか?」

「……もう、敗けだから…やめて……」

 

「ハジメ。ハジメの相手は私がしますからもうやめてあげてください」

「そうですか。ならやめてあげましょう」

「……ありがとう、ございます………」

 

 

この場においての勝者はこのカップルです。



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影が薄いとゆったりとお酒を飲めるのです。

「最近は前よりも一段と騒がしくなったのに、明日には出ていくのか」

 

「なんか染々に言ってるとオジサンに見えますよ」

 

「ふふふ、まぁ年齢としてはそうだろうね」

 

 

寝静まった真夜中。

フィンとハジメはサシで飲んでいた。

前からフィンがハジメを誘っていたがその度に断っていたのだが、どういう風の吹き回しなのかいまはこうして対面して飲んでいる。

 

 

「でもどうして今日は一緒に飲んでくれるんだい?

君の性格上なら最後まで飲んでくれないと思っていたけど」

 

「どうしてですかね。気まぐれですよ、たぶん」

 

 

「そんな事いうとなにか裏があると思うよ」

 

「どうなんですかね」

 

 

妙にはぐらかすハジメにフィンは違和感を持っていた。

しかしこうして飲んでくれるのだ、無粋なことは聞かないようにと話題を変えた。

 

 

「発展アビリティ、本当に毎回君には驚かされるよ……」

 

「余談ですけどこの前御披露目した内容よりさらに使いこなせるようになりましたよ」

 

 

「……あまりこういうことは言わないけど、君を本当に敵に回したくないものだよ。()()()()()()()()

 

「それ本当に言わないほうがいいですよ。ダ・団長を慕っている人が聞いたら、僕に襲いかかってきますよで」

 

 

「ハジメなら問題ないだろ」

 

「問題あるなしの話じゃないですよ」

 

 

返しもいつもの刺が強いものではない。

人をおちょくるような返しでもない。

 

やはり今日のハジメには違和感がある。

 

 

「……聞かずにいようと思ったけど何かあったのかい」

 

「何がですか?」

 

 

「気づかないと思ったのかい?明らかにいつものハジメじゃないよ」

 

「??」

 

 

「あれ?本当に気づいてないのかい?」

 

「……そうですか、違いますか……」

 

 

どうやらハジメ自身気づいていなかったようだ。

フィンに言われてやっと自身の違和感に気づいたようで

 

 

「ダ・団長も普段言わないことを言いましたので自分も言ってみましょうか」

 

「何を……」

 

 

「これでも緊張してるんですよ僕、この空間に」

 

「…………君が、緊張………」

 

 

「まぁ、意外だと思われると思いましたけど。

そんなに驚くことですか?」

 

「君は神の前でも、それこそどんな危険な場所でも緊張なんてするとは思っていなかったからね……」

 

 

本当に驚いているらしくフィンは無意識にワインをイッキ飲みして気持ちを落ち着かせようとしていた。

 

 

「いや、あの神に緊張する意味が分かりませんし、危険な場所に行っても一時停止がありますから」

 

「さりげなく自分の神をディスるのはやめたほうがいいよ」

 

 

「ですけどダ・団長はどうしてか緊張するんですよね。

正直僕自身もどうしてか分からないですけどね」

 

「それは僕が怖いということかな?

 

 

「あっ、それはないです」

「ハッキリいうな……」

 

 

「多分ですけど、きっと僕はダ・団長を自分の上司的な感じで見てるかもしれませんね。こんなスゴいファミリアの団長にいるダ・団長のスゴさに緊張してるのかもですね」

 

「それは……ありがたいことだね……」

 

 

そんな風に思ってくれていたなんてフィンはなんかくすぐったい思いだった。少くてもハジメが他人に対してどんな風に思ってくれているのか分かりずらかった所があるからこうして言われると何だかくすぐったいのだ。

 

 

「こんな時間にまだ飲んでいたのか?」

 

「リヴェリア」

 

「リヴェ姉、どうですか一緒に」

 

 

扉が開き顔を覗かせたのはリヴェリア。

二人がサシで飲んでいる所をみて珍しそうな表情をしていたリヴェリアは

 

 

「どうやら貴重な時間のようだ。私は失礼するよ」

 

「気にしなくていいよリヴェリア。

せっかくだ、君もどうだい?」

 

 

「何か話があったんじゃないのか」

 

「いや、ちょっと意外なことが聞けたからね。今日はそれで十分だよ」

 

 

そういいながらクスクス笑うフィンに少し機嫌が悪そうに見えるハジメ。何かあったのか気になったところだが掘り下げないほうがいいだろうと何も聞かずにフィンのとなりに座る。

 

 

「ついに明日か…寂しくなるものだな」

 

「別に会えなくなるわけではないですよ?」

 

 

「それでもあんなバカ騒ぎが聞こえなくなるのも、その時は嫌でもいざとなると寂しくなるものだ」

 

「あぁ、リヴェ姉はツンデレでしたね」

 

 

「ツ、ツンデレ??…なんだそれは?」

 

「気にしないでください、誉め言葉ですので」

 

「………絶対に違うな、意味は分からんが……」

 

 

まったく…といいながらもそれ以上追及はしなかった。

三人ともここからしばらく会話をせずにこの空気を惜しむかのようにゆっくりとお酒を飲みながら過ごした。

 

そして次に言葉を出したのはハジメだった。

 

 

「………本当にお世話になりました。

色々返さないといけないものはありますので引き続きよろしくお願いします」

 

「そんな事を改めて言わなくてもいつも通りに来るだろ君は」

 

 

「来ますね。またベベートの相手をしてあげないといけませんから」

 

「まだ絡んできているのか……あれはもう向上心というよりもただのやけくそになってないか……」

 

 

「そうですね、昨日は『死ねぇコラアアァ!!』としか言わなかったので。いつもは『ぶっ殺すぞコラアアァ!!』なんですが」

 

「いや、それ何も変わってないしむしろいつもそんな事いっていたのかい……」

 

 

ここにきて仲間の不手際に頭を痛めるフィン。

リヴェリアは「アイツはいつもこんな感じだ」と分かっていて止めなかったようだ。まぁ暴走してもハジメならという安心感はあるが

 

 

「あまり苛めないでくれよ……あれでも他の仲間の見本となるんだ」

 

「………………ハッ、冗談ということに気づかずにリアクションが出来ませんでした」

 

 

「よくー分かったよ。君がベートに対しての態度が……

というか、どうしてベートに対してはそこまで毒つけるんだい君は……」

 

「ハッキリいえば合わないです、酷い表現だと生理的に無理です」

 

 

「……そ、そうだろうね……」

 

 

「……まあ、大丈夫だと思いますよ。

あれだけやられてもむしろ燃えてくるタイプですから。

それを見ている皆さん、なんかやる気に満ちてましたし、それに実際に強くなってるんじゃないんですかね?多分?」

 

「その疑問系はなんなんだ、まったく……」

 

 

そこまで嫌がっているのにハッキリと「嫌い」とは言わないハジメに、つくづく優しい奴だと思うフィン。ベートは口も悪ければすぐに手を出す性格の悪さ。そこでハジメが嫌いにならないのが少しでも後輩や実力者、成長の兆しがあるものには手を差しのべるというか優しくなれるというか……言葉にするのは難しいが根っからの「悪い人」だとは思っていない。

 

だから暴言を吐かれてもそうそう怒ったりはしない。たまに神様やリューについて吐いてしまうときは()()()に指導するので問題はない。

 

 

「あと一つダ・団長にお願いがありまして。せっかくですのでリヴェリア姉にも」

 

「なんだい?」

 

 

するとハジメはここに来るときに一緒に持ってきた袋を取り出して中身を出す。そこには前回使った短剣[時喰い(タイム・イーター)]とガントレット[時止め(タイム・アウト)]だった。

 

 

「これを預かってくれませんか?

()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……理由を聞いてもいいかな?」

 

 

「いやガントレットを使わずに短剣を使ってしまってツバッキーに怒られまして。「寿命を減らすような真似をするでない!!!」と。一時停止を使っていたのですがそんな分かっていてもヒヤヒヤするからと結局怒られました」

 

「それは間違いないなくハジメが悪い……」

 

 

「なのでしばらく預かってもらえませんか?

あっ、もちろん時喰いを使うときは時止めを装備してくださいね。あっという間に生気や寿命を奪われますので」

 

「………本当に恐ろしいものを……

……分かった、預かっておくよ……」

 

 

時喰いと時止めを預かったフィンは時止めを装備して時喰いを手にした。興味本心だったのかもしれない、それが間違いないだった。その鞘を抜いた瞬間

 

 

「ッ!!!!!??」

 

 

自分自身がその刀身に吸い込まれる感覚に襲われ、フィンの全てを、これまでの人生や存在全てを持っていかれるような感覚が襲ってくる。本能的にすぐさま鞘に納めた。しかし力が抜け全身に冷や汗をかき呼吸が荒くなる。

 

 

 

「どうしたフィン!!?」

 

「………なんだい…さっきのは………」

 

 

「すみません、どうやら時を奪う相手もおらずに短剣を抜いたのでダ・団長に狙いを定めたみたいですね」

 

「い、意思を持っているというのか……」

 

 

「いえ、それは流石に。

でも時止めを持たないと簡単に時を奪う短剣ですから……あまり無闇に抜かないほうがいいかもです」

 

「あぁ、……身をもって分かったよ……」

 

 

こんな恐ろしいものを椿が作った。いやハジメの血が、存在がそれを作ったといったほうがいい。つまりはこの武器は()()()()()()のようなもの。

 

 

(改めて…分かった……

ハジメを野放しにするわけにはいかない。最低限今の状況を保たないと……もし、ハジメが時を奪うと決めた時は……)

 

 

簡単にその命を、時を奪われるだろう。

この時喰いや時止めがなくてもハジメ一人でも簡単に。

 

 

「それではお願いしますね」

 

 

そういって部屋を出ようとしたところをフィンが慌てて引き留める。

 

 

「ま、待ってくれ!

……どうしてこれを渡したんだい?」

 

「?? さっき言った通りですが」

 

 

「君がそれだけでこれを、危険なものを預ける訳がない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ハジメ、君は一体これから何をしようとしてるんだい??」

 

 

その問いかけにも振り向こうとせずに背を向けたままハジメはこう答えた。

 

 

「明日は新しいホームに行くわけなのでまずは心機一転、新しいことにチャレンジですかね

あと、それは()()ですかね?」

 

 

それじゃと言い残し扉が閉まり、残された二人をしばらく言葉が出なかった。

そして始めに話始めたのはフィンだった。

 

 

「……どう思うリヴェリア?」

 

「確証はないが……今まで以上の事が起きる…と考えたほうがいいかもしれないな」

 

 

「…まだ他の団員には話さないようにしよう。

憶測で動くにはまだ早い」

 

「そうだな……」

 

 

…………………………

 

 

「フィン!!リヴェリア!!!!

ウチの秘蔵の酒が無いんやあぁ!!!!!!!!」

 

「………これって………」

 

「一つは分かったが……面倒なことを…………」

 

 

そういえばこの館に来てからハジメが酒飲みになっていた。飲み仲間としてロキ達と飲んでいるうちにその美味しさに魅力されたようだ。

いやきっかけである神の酒(ソーマ)を飲んでからのようだ。一時停止により酔わないことがハッキリ分かってから上手い酒を探していたような………

 

そこら辺は分からないけど「前金」という言葉はきっとこれを指す

 

 

「ウチの酒がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!!」



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影が薄い、でも見えてる人には苦労しかないかもです。


どうも!!!
最近ONE PIECEばっかりでご無沙汰です。
こちらは今年最後になりました。

一番書きたいことを書いたのできっと面白いかと。
それではよいお年を。


「こ、これが新しい僕達のホーム……」

 

 

ベル達の前にそびえ立つのは旧アポロン・ファミリアの館を改装した拠点「竈火(かまど)の館」

さらに、エンブレムも作成し、描かれていたのは「重なり合った炎と鐘」であり、炎がヘスティアで鐘がベルという意味が込められている。

 

実際はハジメを印象づける影も刻もうとしたのだが、それでは「影」の意味をなさないとエンブレムから外された。実際はもうハジメの事を知らないものがいないので「影」というイメージもないためこちらでいいかも知れないが

 

 

「うーん、やっぱりエンブレムに「影」いれても良かったんじゃないかな。ほらそしたら立体的でカッコよくなるし、なによりここまでファミリアが成長したのはハジメ君の功績が大きいだから」

 

「いやです。なんでそんな見せ物にならないといけないんですか?僕は静かに過ごしたいので却下です」

 

(((なら、あんな目立つ行動しなければいいのに…)))

 

 

心で思っても絶対に言葉には出さない。

そんなことを言ったら絶対に面倒くさいことになる。うん間違いなくなる。

 

 

「そうかい。でもその分内装は期待してくれよ!!」

 

「そうですね。ゴブニュ・ファミリアは間違いないですし」

 

 

鍛治と建築を司る主神ゴブニュ率いるこの派閥は依頼があれば建設作業も受け持つ都市でも珍しいファミリアでる。

そんなファミリアに改装の依頼をして約一週間。

外装も素晴らしく一流の腕だというのが分かる。

 

 

「さてさて、どうなってるんでしょうかね」

 

 

…………………………

 

 

「おおっーー!!」

 

 

そこには大きな十人は軽く入れそうな大浴場、極東式の檜風呂があった。

新品の木材の香りが帆のかに漂ってくる中、じゃ~、という音をたてて湯口から温かなお湯が流れ込んでくる。

 

このお風呂は何でか懐かしさを感じる。

遠い昔、家族で過ごしていたとき一人用の木材で作った五ェ門風呂と呼ばれるのには入っていた。それを連想されるお風呂だけど明らかにこの檜風呂は凄い。

 

どういうわけか無性に入りたくなるのを我慢していると扉がガラッと勢いよく開き物凄い勢いで檜風呂に近づいてきたのは、この檜風呂の発祥である極東出身の命だった。

 

 

「こ、これはッ!!?」

 

「懐かしいですよね。昔僕の家では五ェ門風呂?というのがあったのでそれに近くて大きいお風呂をって言ったらこんな風になりまして」

 

 

「檜風呂ッ!!!まさかこんなところでこれが拝めるなんて………」

 

 

感動しているようでハジメの言葉は耳に入っていないようだ。四つん這いになり水面を眺めている命にこれ以上何を言っても無駄だろうなーと思いこの場から去ろうと歩きだした。

 

なんとなくこのままいると男してはラッキー、しかしハジメとしては死亡フラグが起きそうだと何となく直感が働いた。

 

そのあと再びお風呂の近くを通った時「はああぁ~」と気持ち良さそうな命の声が聞こえてきて、本当にあの場から去って良かったと思った。

 

 

…………………………

 

 

「どうですかヴェルフォード??」

 

「……なぁ、名前負けしてしまうあだ名やめてくれねぇか?」

 

「イヤです」

 

「清々しいほどハッキリだなクソッ!!!!」

 

 

新しく出来た自分の工房で感動していたヴェルフだったが、そこに現れたハジメによって感動は消え去った。

というか、間違いなく面倒事を持ってきたと分かっていたのでテンションが下がったのだ。

 

いや、だってハジメの手には物騒なものがあるから。

 

 

「で、なんだそれは?」

 

「これはリヴェ姉の魔法を止めた物です」

 

「………そっちは?」

 

「これはゴライアスの衝撃波を詰めた物です」

 

「…………………で、何のようだ?」

 

「これで武器を作ってください。希望的には遠隔操作ができ」

「るわけあるかああああぁぁぁ!!!!」

 

 

思わず鎚を投げつけてしまいそうになったヴェルフ。

そんなところを見てもあっけらかんにしているハジメ。というかどうしたの?とよく理解できていない…

 

 

「いや、実際僕は簡易的ですが作れましたよ」

 

「それは自分の能力だからだろうが!!!

俺じゃ勝手が違うんだよ!!ってか殺す気かぁ!!!」

 

「いや、一時停止してますから破裂的なことはありませんよ」

 

「んなもんテメェだけが言ったも信用出来るかッ!!!」

 

 

頑なに拒むヴェルフにハジメはハァーとため息をついて。

 

 

「使えませんね」

「おい。喧嘩売ってるなら買うぞ。勝てなくてもな買うときには買うんだぜ!!」

 

「じゃ、軽くて簡単に攻撃が出来そうな物を。

もちろん一時停止を使って出来るような物で」

 

「……勝手に話を変えやがって……

で、一時停止を使った武器だぁ??そうか椿の武器はいま預けていたな」

 

 

それについては考え始めたヴェルフ。

突拍子もないことだがそういう道なるものに対して好奇心が溢れてくるようだ。

 

 

「確かに面白そうだが…これ鍛冶師としてこれは武器とはかけ離れている気がするんだが……」

 

「人が使って相手を倒すもの。武器ですよね」

 

「間違ってないが……はぁ、考えさせてくれ」

 

 

頭を抱えているが少し楽しそうな顔をするヴェルフ。

変わった武器、普通なら断る事ができるがヴェルフ自身が見たあの光景に心が動かされたのだ。武器とは剣や籠手などだけではないと。

 

 

…………………………

 

 

「大体部屋が多すぎです…これでは掃除にどれだけ時間がかかるか……」

 

 

リリは館の状況を確認していた。で、アポロンファミリアが使っていたこともあり部屋数は多くいまの団員だけでは余るのが現状のようだ。

しかしその部屋も何もしなければ埃がたまる。

そんなのはリリとしては嫌なのでどうにかしたいが部屋を省いたとしても館としてでも広いので掃除だけでどれだけ時間がかかるのか……と悩んでいた。

 

 

「掃除をしてくれる人を雇いましょうか…ですがそれではお金がかかりますし……」

 

 

神ヘスティアから話を聞いたところ昔は本当に貧乏で、ハジメが入ってから少しずつではあるが楽は出来たという。それでもこの館を維持出来るほどの財力があるかといえばそれは今後の働き次第。

 

 

「しばらくは自分たちでやってから、見通しがついてからでしょうか……」

 

 

このファミリアには金勘定出来る人間がいない。

なら自分がやるしかないと思っていたが、予定していたよりも大変そうだと自覚した。

そんな事を考えながらまた一つ部屋を見て、次の部屋へと事務作業的に見て回っていると。

 

 

「ここは思っていたよりも散らかってますね。まずはここを片付けますか」

 

 

その部屋には無駄だと思われる大量の紙とよく分からない物、酷くいえばゴミがありこれは徹底してやらないといけないなーと思い扉を閉めて次の部屋と移動。

 

 

「…………うん?」

 

 

いや、なにかおかしい。

そう直感したリリは再びさきほどの部屋の扉を開いた。

そこにはさっきみた紙があったが、よく見るとそれはこの前見た気がする。

 

 

「……は、は、ハジメ様ああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

怒鳴った。それはもう館全体に響くほどに。

すると一分も経たずにリリの元へ来たハジメは何でしょうかと何もわからない表情で

 

 

「どうしましたかリーリ?」

 

「……何ですかこれは?」

 

「武器です」

「これはゴミって言うんですよッ!!!!

ってか、こんなに入らないでしょうがッ!!!!!!!」

 

 

そう紙一枚がいくら安いとしても、床から天井まで重なったものが複数もありそれが部屋の半分も占めていたらそういいたくなるだろう。

 

 

「いや、この武器は消費するのでストックを」

「この前は5~6枚を破って使ってましたよね」

 

「ダンジョンでは大型やモンスターの大量発生に役にたちます」

「その前にこんなもの使わなくても対処できますよね」

 

「……マンネリ化は良くないと思います」

「ただ使いたいだけですよねッ!!!!」

 

 

珍しくハジメが論破された。

そうハジメとしては一時停止した衝撃を放つというのに飽きた。だからこうしてバリエーションを増やそうと思ったようだ。

 

 

「あのですね、やりたいからだといって限度というのがあるんです!!一体これにどれだけお金を使ったんですか!!!!」

 

「使ってませんよ。

これ神ロキがいつも間違ったと捨てようとした紙ですから」

 

「……あっ、本当ですね。ここもここも間違ってる」

 

「よく間違えてリヴェ姉に怒られていましたね。

もちろん他の団員の物もありまして、これをただ廃棄するのも勿体なかったので貰いました」

 

 

リサイクル精神。そうだと分かると強くは言えない。

そう紙以外のゴミもハジメから見たら武器になる。

そんなことを言われたら強く言えない。ぐぐぅと押し殺すように喉から出ようとした言葉をやめた。

 

 

「………ではしばらくはこの紙を使ってください」

 

「はい。ダンジョンにロキファミリアの汚点を振り撒く。了解です」

「言い方ッ!!!ってそんなこと分かっているなら最初から貰ってくるなッ!!!

 

「リーリにこれを言わせたい為に貰ったきたので。

ちゃんと処分しますよ。」

「もうッ!!!!貴方はもうッ!!!!!!」

 

 

ちなみに一時停止で囲んだ空気の檻の中にゴミを入れてリヴェリアの炎魔法をぶちこんで廃棄したそうだ。

 

………一体魔法をどんなものだと思っているか………



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影が薄いと、きっと普通の入団試験はクリア出来ない。



お久しぶりです。
さて次の展開、誰が予想できたか…
書いた本人も予測出来なかった(笑)
それを踏まえて読んでくださいね。





「本当にスゴいですね神様ッ!!!」

 

「そうだろう、そうだろう!」

 

「別に神様が何かしたわけではなく、頼んでここまで仕上げてもらったので感謝するならそちらにいうべきではないかと。ちなみに無駄遣いしないように管理したのは僕とリーリですが、そこに関してはいうことはありませんか?」

 

「……ありがとう、ございます!!!」

 

 

館内を散策して全員が集まった大広間。

気分よく誉められたと思ったら横から大きな落とし穴に落ちていき気分が落ち込んだヘスティア。

実際この館にかかった費用はヘスティアがバカみたいに金をつぎ込んだ金額の約1/3は削減されたのだ。本当に感謝してもらいたい。

 

そしてその残りのお金は

 

 

「しかし…ハジメ様が気づいてくれて助かりました…

まさか…1億5000ヴァリスもあるなんて……」

 

「そ、それは個人的な借金だから…」

 

「何を言ってるんですかッ!!!

神ヘスティアはこのヘスティア・ファミリアの顔になるんですよ!!いくら個人の借金でも周りからしたらファミリア全体の借金だと思われるぐらい分からないんですかッ!!!!!」

 

「リリッ!!落ち着いて!!!」

 

 

 

キレても仕方ないと思う。

 

 

 

「はぁはぁ……はぁ~……

…本当にハジメ様に感謝してくださいね。全部返済しきれなかったとはいえ、()()()()()()()()()()()減ったんですから」

 

「……ねぇ、ヴェルフ。一般的な借金の金額っていくら?」

 

「したことねぇからな……」

 

「そこッ!!!いまそんな問題じゃないんですから私語は謹んでください!!!」

 

「「はいっ!!!!」」

 

 

リリはいままで貧しい生活をしていたのでとってもお金のことに関してシビアになっている。それを見込んでハジメがお金の管理をしてくださいといったかは分からないが…いい方向へ向かってよかったなーと感じていると

 

 

「あのですね、のんびりと聞いているようですがハジメ様。

豊穣の女主人で頂いている給料はどうされているんですか?」

 

「必要に応じて使ってますが」

 

「必要に応じてですか…そうですか、そうですか……

なら聞きますが……」

 

 

スタスタと部屋の扉の奥へ消えたリリは、ガラガラと何かを引きずりながら部屋に戻ってきたのだが、その引きずりながら持ってきたものは

 

 

「これは、なんですかッ!!!??

 

「リリの洋服一式。季節別バージョン」

 

「これが、無駄遣いだと、分からないんですかッ!!!!!」

 

 

そこには彩りの洋服があり、その洋服一点一点がいままでリリが着たことのない良いものばかり。もちろん高額とはいわず一般的より少しいいぐらいだがそれでも数が多い。50着以上はあるんじゃないかと思うぐらいに。

 

 

「リューやシル姉、エイナ嬢に聞いたのですが女性は着飾ってやっと一人前の女性になると聞きました。

リーリは早く大人になりたいといってました。だから僕はお手伝いを」

 

「余計なお世話です!!!」

 

 

あれ?と首を傾げるハジメ。

本気で悪いことをしたと思っていない。

 

 

「でもよく買い物をしているときによく服屋さんの前で立ち止まって最近の流行りである服装を見て……」

「だあああああっ!!!!

分かりました!!分かりましたからそれ以上言わないでくださいー!!!!!」

 

 

はぁはぁと息をつかせるリリ。

深呼吸をして気持ちを落ち着かせたあと

 

 

「……まぁ、ハジメ様が働いて稼いだお金です。

ダンジョンとは別の収入ですし、とやかく私が言うべきではなかったかもしれません。

ですが……服を買うときは私に一言言ってください

私にも、好み、というものがありますので

 

 

「分かりました」

 

(((買ってもらって嬉しいんだ……)))

 

 

表情に出さないようにしているが誰が見ても嬉しさ爆発しているように見える。これまでちゃんとした服を着れなかったから尚更だろう。

 

 

「とにかく当面は借金をコツコツと返していきましょう。あとは入団希望者ですかね……」

 

 

そういいながらカーテンを開けて窓の外を見ると門の前に人だかりがあった。そうこれはヘスティア・ファミリアに入団したいと希望している冒険者達。

 

実はロキ・ファミリアにいたときにも数名ぐらいヘスティア・ファミリアに入団したいと言ってきた()()がいたのが、そんなやつにはハジメとヘスティアが直々に説教かつ二度と来るなと言っておいたので来なくなった。

 

それはそうだろう。

ロキ・ファミリアの敷地なのだ。そしていくらヘスティア・ファミリアがあの戦争遊戯で活躍したとはいえロキ・ファミリアは格上である。そんな格上であるロキ・ファミリアを差し置いて「ヘスティア・ファミリアに入団したい」なんていってくるやつ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

と、ハッキリ言ってやったそうです。

 

 

で、こうして館を手にしたことでこんなにも入団希望者が集まったのだが手放しで喜べない。

いまこうして入団希望者は「ハジメがスゴい」という一点しか見てない。そうベルやリリ達もいるのに全く見えていない。

 

それでは入団したとしてもチームとして成り立たない。

 

 

ということで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「各チームに別れてダンジョンにいってもらいます。

ヘスティア・ファミリアに入りたかったら「僕達が欲しいもの」を持ってきて証明してください。

もちろん個人でも、複数でも、チームとしてもいいですよ。

ただし()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを守れなかったら即失格です」

 

 

そう言って門の前に集まった入団希望者はチームごとに集まり、そのチームにいる先生の言うことを聞きながら欲しいものを探してくる、という意外と単純な入団試験となった。

 

ただ()()()()()()()()というだけ。

 

 

 

「いいかテメェら!!!

ハジメの言うことなんぞ聞く事態嫌だが、アイツとの再戦がかかってるんだッ!!!!!なんでもいいからさっさと見つけてこいッ!!!!!」

 

「「「「は、はいぃぃぃぃぃッ!!!!!」」」」

 

 

1チーム目、先生「ベート」

 

 

 

 

 

「酒やッ!!!!!絶対に酒に決まっとる!!!

ウチはダンジョンに入れんが絶対にダンジョンに究極の酒を作るための材料があるはずや!!!

ええか、絶対にベートよりも早く見つけてこいー!!!」

 

「「「「は、はいぃぃぃぃぃッ!!!!!」」」」

 

 

2チーム目、先生「ロキ」

 

 

 

 

 

「……階層主、倒すから……」

 

「……う、う、う、うおおおおおっー!!!!!!!」

 

 

3チーム目、先生「アイズ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ナニコレ?」

 

「入団試験ですけど」

 

 

ダンジョン入り口前で困惑するヘスティア。

それはそうだろう。ハジメが「入団試験、いい方法を思い付きました」といってさっさと出ていったのだ。

 

追いかけてみればいつの間にか見慣れたもの達が、それぞれチームの先生というかリーダーとして気合いを入れている。

 

 

「いや、なんでロキがいるのさ?」

 

「僕達が審査するとなると甘くなる、というのがロキ様の発言で、なら審査お願いします、一つ出来ることを叶えますよと言ったらアイズやベートも寄ってきたので、ならチーム対抗にしようと………ノリで」

 

「ノリでッ!!!??

……もう、ここまできたら仕方ないけど……」

 

 

仕方ないですむんだな~と呑気に考えているリリとヴェルフ。そしてさっきから気になっていた命がいる。

 

 

 

「……あの、命様。どうして貴女様は今日の朝からまるで同じファミリアのようにいるのですか?」

 

「そ、それは……タケミカヅチ様から「しばらくヘスティアの元で修行してこい」と言われまして……私も強くなりたいと思ったので……」

 

「なので朝からお風呂に入ったと」

 

「……すみません……」

 

「いいじゃねえか。別に」

 

「まぁ、ハジメ様の行動に比べたら…そうですね」

 

 

そんなことを考えているとどうやら入団試験が始まるようだ。

 

 

「あと、僕以外の団員からこの赤いハンカチを取れたら入団を認めますのでー!!!」

 

「「「「ふ、ふざけるなー!!!!」」」」

 

 

 

勝手に試験に組み込まれた三人。

ベルはちょっと放心状態だったので安静のためにそのままにしていたが、このとんでもない言葉のせいで目が覚めたようだ。

そして自分は巻き込まれてないとホッとしている命に

 

 

「あっ、命さんもよろしくです」

 

「いやややややぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

巻き込まれた。簡単に。

こうして10分前にダンジョンに入ったベル達。

そして10分後にダンジョンに入る入団希望者と先生。

 

そしてそれを見守るヘスティアが一言

 

 

「……やっぱりナニコレ?」

 

「ですから入団試験ですよ」

 

「いや、大丈夫なの!!ベル君達は!!!??

あれ間違いない無くしてしまう単独で行動してるよ!!!

ダンジョンで一人なんて!!!」

 

「僕もよく一人でしたよ」

 

「君とベル達を一緒にしないッ!!」

 

 

「ですけど、普通に中層手前までなら楽勝ですよ。

といいますか、普段から個人で動き回ってますし」

 

「……僕の知らないところで……強くなりすぎだよ……」

 

 

正確にはハジメが作ってくれた武器(規模の低い爆弾とかよく切れる紙とか)を持たせているので楽勝なだけでまだ個人で中層前までいくには早すぎるのだ。

 

それでも文句の一つも言わないで(??)行くのはベル達もずいぶんハジメに染められたようだ。



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影が薄いのは他の人が濃いせいではないのか?

「ふっざけんなッ!!!」

 

「ひぃいい!!!」

 

「たかがミノタウロスの角程度であのファミリアに入れると思ってるのか!!!やり直しだああああぁぁぁ!!!」

 

「はいいぃいい!!!」

 

 

せっかくの冒険者がミノタウロスの角を持ち帰ったのにそれを握力のみで砕いたベート。その姿にビビり腰を抜かしながらも必死にダンジョンへと逃げていく冒険者。

正直ここよりダンジョンの方が安全と直感したのだろう。

現在ベートの頭の中は「他のチームより先にお題をクリアしてハジメとの再戦をすること」で一杯になっている

 

なのでいつもなら「チッ」と舌打ち程度ですんでいたことも敏感に反応してしまう。例えばコレ。

 

 

「ならこれだよね」

「……おい、てめぇ……」

 

 

次に現れたのはキザな冒険者。

その冒険者の手元には大金があった。

 

 

「ふっ、素晴らしい回答だろう。

あのファミリアは少なくてもお金に困ってるはず。

ならこの私のポケットマネーで……」

 

「こんな紙切れで入れるほど甘くねぇんだよおおおぉぉぉぉぉー!!!!」

 

「パ、パパのお金がぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

見栄をはった冒険者はベートの怒りの鉄拳によりその札束が吹き飛ばされて、泣きながらその札束を追いかけていった。

 

なんだかんだいってベートはヘスティア・ファミリアを、ハジメを好評価しているのだ。ただそれを言葉に顔に出さずに、むしろ逆の事を言ってしまうというツンツンしているだけ。

 

もちろんこんなことをしてたら不満に思う冒険者も現れて、

 

 

「……なんだよこのくそ試験はよ………

……やっぱり、こんなファミリア……やめと」

「てめぇごときが、アイツのファミリアを語ってんじゃねええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!

 

 

ぶちギレた。なんか、なんとかくだけど、ベートが可愛いことを言っている感じに聞こえてきた。

ツンツンを極めるといま自分がどれだけハジメ達を認めているのか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいだ。

 

まぁ、そんなこと周りの人は知っている。

リヴェリア達はそんなベートを温かく見守っている。

もちろんそれをベートには絶対に言わない。言ったら暴れるだけですむとは思えない。

 

プライドが高いから下手したら自殺するかもしれない。

なので周りの人は大変だと思うがベートにはベートのままでいてもらうしかない。自分で自分のことに気づくのはまだまだ先の話である。

 

 

 

「てめえ…軽い気持ちでこのファミリアに入るつもりか??今までがどうだったかは知らないが、このファミリアに入りたかったら……少しはマトモな思考をしてからやり直してきやがれ!!!」

 

「な、な、何なんですか!!?

別に貴方には関係ないですよね!!!」

 

「あぁ。関係ねぇな。

だから手抜きしろってか、ふざけんなよ!!

そんなことしてみろあのくそ野郎に「あぁ、その程度でしたか。程度()()()の間違いかもしれませんね」とか言われてみろ!!!!!俺はテメェを生きることを後悔させるほどギタギタにしてやるぞ!!!!」

 

 

「で、でも……」

 

「でもくそもねぇッ!!!!!

あのバカはバカでも見る目はあるんだよ!!!!

そのバカが俺が見抜ける奴を合格させてみろ!

毎日のように冷やかしにきたら………本当にテメェをこの世の地獄に送るからなッ!!!分かったらさっさといけけけけけけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!

 

「はいいぃいい!!!」

 

 

 

そんな周りから見たら地獄と思えるベートのチーム。

しかし上には上がいる。

 

 

 

「んなもんが酒に必要あるかあああああああああああ!!!!!!」

 

 

隣ではベートと同じ事をしている。せっかく手にした素材をロキの握力で握りつぶした。

どうやらいまロキ・ファミリアでは握りつぶすというのが流行っているようだ。恐らく。

 

で、ちなみにロキの元へ持ってきた素材というのは普通なら高級なお酒に()()()()()もので入っている。

しかし……

 

 

「最高の酒を作るや。今まで使っていたような素材を使ってどうして最高の酒が出来ると思ってるんや!!!!」

 

「で、ですが…こういうのは素人が」

 

「誰が素人やッ!!!

ウチはなどれだけ神酒(ソーマ)を飲んだと思っとる!!!そんなウチやからこそ出来る酒があるんや!!文句言わずにもう一回探してこんかああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

こっちはこっちで面倒くさい。

キチンと冒険者はお酒の素材を持ってきているのだ。

なのにどうしてそれが駄目なのか。

簡単である。

 

 

「おい、ロキ!!それ新築祝いに持ってきたお酒じゃないか!!?なんで君が飲んでるんだよッ!!!」

 

「ええやんか。どうせ一緒に飲んむや」

 

「……キミ、ここに来る前から酔ってるね」

 

「……だって、だって………

…だって寂しいんやもん!!ハジメ達がおらん館はもうごっつい寂しいんや!!!アイズたんも落ち込んでるし相手してくれん、リヴェリアに至っては上の空で全く相手にならん………そうなったら酒しかないやん!!!!!」

 

「まぁ、良くも悪くもハジメの影響はスゴいからね……だとしてロキそれは飲み過ぎたよ……」

 

 

 

あのヘスティアさえも心配になるぐらいグデグデになっているロキ。まるで愛娘が家から出ていった親父のように寂しがり屋と化している。

そのおかげでロキのチームの冒険者達はクリア出来るはずが全くクリアできない。

 

 

「……はぁー僕がキミのお酒に付き合うからちゃんと採点してあげなよ」

 

「失礼やな。いくら酔っていてもちゃんとしてるで」

 

「でもさっき持ってきた素材ってなかなかの物じゃ」

 

「あかん。それじゃあかん。

()()()()ぐらいやったらそこら辺の酒ぐらい簡単に出来る。ウチの目指す酒は()()()()()()()()()()()()()()()()()なんや。最低でも神酒(ソーマ)と同じぐらいはないとな」

 

「……ロキ、キミは……」

 

「そして一緒に飲むんやッ!!!」

 

「ロキ、キ・ミ・は!!!」

 

 

どうしてそんなことしか考えられないんだ!!!とか、うるさい!!何も考えとらんお前よりはましや!!!とかいつものように喧嘩しだした神二人。

 

これを止めるものはおらず、ロキのチームはただ収まるまで待つしかなかった……

 

 

 

そして残り1チームはというと

 

 

 

「ぐわっ!!!」

 

「後退しろッ!!!!」

 

「魔法を打てッ!!!!その間に体制を立て直せ!!!」

 

 

ゴライアス。その階層主と戦ってます。

それも普通は連携の取れるファミリアや良く相手を知っているもの通しでやること。

それを全く知らない者通しでやれば……苦戦するのは当たり前。

 

というか入団するために来た冒険者達だ。

大したレベルもあるわけでもない。

それなのにいまどうしてゴライアスと戦っているかというと

 

 

「………上から、くるよ」

 

「た、退避ッ!!!!」

 

 

アイズの言葉にすぐさま逃げまとう冒険者。

いった通りにゴライアスの拳が振り落とされた。

その衝撃波により何人かは吹き飛ばされてしまったが直撃しなかっただけでもよかった。

 

 

「ア、アイズさんッ!!!!

どうして手伝ってくれないんですか!!?」

 

「ハジメは、強い人、選ぶと思うから」

 

「だとしてもこんな無茶苦茶なッ!!!」

 

「えっ。

……私たちのところ、普段やってるけど?」

 

 

とんでもないカミングアウト。

 

 

「に、逃げろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「あっ、ちょっ……」

 

 

アイズはダンジョンでひとりぼっちになる。

 

 

「ベルなら…やってくれるのに……」

 

 

あいつはすでに規格外です。

という感じで誰もクリア出来るやつはいない。

でもあと一つ方法がある。そうダンジョンに散らばったベル達を見つけて赤いハンカチを奪うこと。

 

大半がそれを狙っているが、こっちもこっちで()()()()()



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影の薄さって、日々を過ごせば濃くなる。(byベル)


超ー久しぶりです!
いつの間にかアニメ始まりましたねー
ヤバい、間違いなく追い付かれる……

しかし、アニメで見てもザニスとヒュアンキトスはウザイ顔してましたねー
よかった!この小説で両手両足消しておいて(笑)





「結果発表―。

全員脱落、お疲れ様でしたー!!」

 

「ふざけんなッ!!このクソ野郎がッッ!!!!」

 

 

結果、誰もヘスティア・ファミリアに入ることはなかった。

 

ベート、ロキ、アイズの課題は難問で最後の方は誰も残っていなかったのだ。というか中には「これじゃロキ・ファミリアの程度が知れるな」とほざいた奴が現れてそいつは、その後ロキ・ファミリアの三人に連れられて消えていったという。

 

ちなみに、帰る間際に

 

 

「もう二度とこんなことで呼ぶんじゃねぇぞ!!!」

「また極上の酒、よろしくな~」

「……また、ね……」

 

 

と、口々に言ってから帰っていった。

ベートに関してはツンデレと化している。

…言ったら即否定で手を上げるだろうなー

 

 

「せ、せっかくの…入団者が……」

「ちょっ、ちょっとハジメ様ッ!!」

 

 

落ち込んでいるヘスティアに、流石に気の毒と感じたリリはハジメを引っ張りだし

 

 

「なんであんなことしたんですかッ!!

入団者0って、やりすぎですよッ!!!!」

 

 

そう、やり過ぎである。

しかしリリは分かってなかった。

だって、その入団試験にはもちろんリリやベル達も関わっていたのだから。

そしてもちろんそこをハジメは、どうして誰も入らなかったのか、知っているのだ。

 

 

 

「でも、リーリ。ノリノリだったんですよね?」

 

「ッ!!?」

 

 

その言葉にリリはすぐさまヴェルフの顔を見た。

口笛を吹いて誤魔化しているが、そんなの誤魔化しになるはずもない。

 

 

「とある鍛治師から聞きましたよ。

色んな人に変身して撹乱させて、皆が疑心暗鬼になってるところにモンスターをつかせてみたりとか。終いには「今ですヴェルフ様ッ!!」と叫んで魔剣を振るわせて入団者をダンジョンごと破壊してしまいそうになっていたと。とある鍛治師から聞きました」

 

 

「ヴェ、ヴェルフ様アアアアアァッッ!!!!」

「内緒にしてられねぇのかてめぇはアアアアアァッッ!!!!」

 

 

ハジメに内緒話など無駄なのである。

こうなると予想出来なかったヴェルフが悪い。

 

 

「し、仕方ないじゃないですかッ!!

こっちだって簡単に捕まるわけにはいかないんですよ!!

混乱させるのは戦略的なものであって、魔剣に至ってはヴェルフ様の加減が悪いんです!!!」

 

「お前ッ!!

ストレス発散をするかのように「みんな困ってしまえばいいんですよ!!」とかいってたじゃねえか!!!」

 

「うわああああぁぁぁ!!!!」

 

 

ヴェルフに飛びかかり「この口ですか!!塞いでほしいのはこの口ですかッ!!」と針と糸を取り出して縫い合わせようとするリリ。それは流石に不味いとベルが止めるが抵抗しながら

 

 

「離してくださいベル様!!!

あの口の軽さは一度ギュッと縛り付けたほうがいいんですよッ!!」

 

「それだったらハジメにもやれよなッ!!」

 

「出来るわけないですよ!!!まず針がもったいないですッ!!」

 

 

ちょっと失礼なことを言われた気がしたがスルーすることにした。で、あっ、と思い出してもう一組のことも話してみる。

 

 

「ベルベルもいけませんよ。

相手が赤いハンカチを取れそうになるたびに超加速して逃げて、取れそうになると逃げて、取れそうになると逃げて、もう希望と絶望を交互に与える。もうドSの境地ですね」

 

「ち、ぢがううううううぅぅぅぅッ!!!!」

 

 

もう真っ赤な顔をするベル。

他の皆は一歩二歩と下がった。流石のベルの性癖にドン引きである。

 

 

「だ、だって!!簡単に取られるわけにはいかないでしょう!!!僕だって必死だったんだから!!」

 

「なるほど。つまり楽しんだと」

 

「言ってないッ!!?」

 

 

しかしそんなこと聞くわけない。

ベルの評価はやる時はドSになると分かったことだった。

 

で、今度の標的になったのは命。

ヒィッとビクついた命を見ても構わずに

 

 

 

「そういえば命さんは…」

「「「ちょっと待ったアアアアアァッッ!!!!」」」

 

 

いきなりのことで流石のハジメも驚いている。

いきなり制止させられる理由が思い付かない。

 

 

「何ですか。何か変なこと言いましたか?」

「言ってますよ。ええ、言ってますよ」

「まぁ、普通はそれがおかしいけどな」

「でもハジメに関してはそれだと納得していかない」

 

 

リリ、ヴェルフ、ベルの三人はギロッとハジメを睨みながら言ってくる。これには命もヘスティアも訳が分からない表情をしていた。

 

 

「一体何ですか?ただ命さんの…」

「「「なんで命(様)だけ普通に呼んでるんだアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!!」」」

 

 

誰もが引くぐらい大声で言ってくる三人。

呼ばれた本人はもうビクビクしている。

 

 

「おかしいだろうッ!!人の名前をネーム負けぐらいに変えたくせによ!」

「そうですよ!!リリなんて安直にもほどがありますッ!!!!」

「神様やリューさんは分かるとしてもなんで命さんは変わらないのが納得いかないッ!!!!」

 

 

……確かに、ヘスティアやリューは変わらない。

それは何となくハジメの中で「特別」な人だからだろう。

しかし命はこの前一緒に戦った中とはいえ、ハジメの「特別」に入るようなことをしたようには見えなかった。なのに変なあだ名がないなんて納得いかないのだ。

 

 

そしてその答えは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ。一応「みこっちゃん」や「みこりん」とかあったんですけど可愛すぎて合わないので」

 

「「「「…………あぁ……」」」」

 

「なんか…納得いきません……」

 

 

普通は嫌がるものだけど、この反応や可愛すぎて合わないという言葉に、どうしても納得いかない命。

別にあだ名が欲しいわけでもなく、可愛いと言われたい訳でもない。でも……どうしても納得いかないのだった。

 

 

……………………………

 

 

「それでハジメ君、どうして誰もいれなかったんだい?」

 

 

混乱が治まり新しい新居に各々やりたいことをやろうとバラバラに散った。そしてハジメはどうしようかなーと悩んでいるとヘスティアから呼ばれて誰もいない客間でこんなことを聞かれた。

 

 

「試験に合格出来なかったからですよ」

 

「それもあるだろうけど、君は何かを隠してる」

 

「そうですね。神様には話しておきますね」

 

 

そういってヘスティアの正面に座り

 

 

「しばらくここを離れようと考えてます」

「ッ!!!ど、どうしてッ!!?」

 

「僕を狙っているフードの者。

どんな形で僕の前に現れるか分かりません。

もしかしたら神様やベルベル達も狙われるかもしれません」

 

「それは分かってるだろう!!

だからロキの所の子供達に護衛を」

 

「そうです。

でもいまここで余計な新入団員を増やしたら……もしかしたらそれがフードの者だったら?」

 

「!!?……そこまで……」

 

 

ヘスティアも警戒はしていた。

しかしこの入団試験に紛れているという考えまではいたらなかった。新しい新居や環境に誰もが浮かれていた。そこに間違いはない。

そんな中でもハジメは、危険を排除しようと無理難題な試験を用意したのだ。

 

 

「でも、この試験を突破する()()()()()はいませんでした。ということは内側ではなく外側から攻めてくる。なら分かりやすいです。僕がこのファミリアから離れれば大丈夫です」

 

「なにを言ってるんだいッ!!!!

君だって危険なんだ!!そんなこと認められるか!!!」

 

「でも、過信でなければあれを倒せるのは僕だけ。

他の人は巻き込まれてしまったら…死んでしまう可能性があるんですよ」

 

「ッ!!?……それでも…それでもダメだッ!!!!」

 

 

ハジメの言っていることは分かる。

それでも大切な子でもあるハジメを危険なところに送り出すことなんて…出来るわけがない。

 

 

「すぐには離れませんし、勝手にいなくなりません。

少なくともベルベル達が僕なしでも大丈夫と思えるまでは」

 

「………僕は認めないよ……」

 

 

そっぽをむきハジメを見ようとしない。

それでも自分の思いは伝わったと頭を下げたハジメは部屋から出ていった。

 

 

「………出来る、わけ…ないじゃないか……」

 

 

誰にも聞こえない声は、静かに、部屋に広がり消えていった。

 

 

…………………………

 

 

「うん??チグーに命さん?」

 

 

千草と命が玄関先でなんか慌てたように話していた。

その瞬間ハジメの頭の中で「面白いことかも!」と閃いたの。"カミカクシ"で二人の認識を解除したハジメは堂々と二人に近づいた。

そんな二人、もちろんハジメに気づくわけもなく秘密の話を続けていた。

 

 

「ほ、本当なのですかッ!!」

 

「わ、分からない…でも…特徴は…スゴく似てるよ……」

 

「確かに……あの方の種族は珍しい……」

 

 

何のことか分からないが続きの話にハジメの興味がある言葉が出てきた。

 

 

「でも…"歓楽街"に…本当にいるのかな?」

「分かりません…しかし無視出来る話ではない」

「そうですねー」

 

「ねぇ、命。一緒に来てくれない?」

「そうですね。一人であそこには…危険です」

「そうなんですねー」

 

「ありがとう命!」

「いえ。私も知りたいのです。本当にあの場所にいるのか?」

「それじゃ行きましょうー」

 

「「………………ええええぇッ!!?」」

 

 

途中から存在を認識出来るようにしたのだが、話に夢中で全然気づかれなかったハジメ。何度か会話に入ってやっと気づいてもらったが、時すでに遅し、二人が聞かれたくない人物に聞かれてしまった。

 

 

「ハ、ハジメ殿…こ、これは……」

 

「ちょっと待っててくださいね。

流石に場所が場所なので、リューに話してきますのでー」

 

 

「「絶対にダメええええぇぇぇぇぇッッ!!!!」」

 

 

そんなこと聞くわけもなくハジメは去っていった。

ただ二人は祈るしかなかった。

ハジメがダンジョンよりも命が消えるかもしれない所へ向かったことに、僅かでも生きて帰ってくるようにと………



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影が薄いと周りにも影響を及ぼす。



どうも。
アニメを見て「これだ!」と思い書きました。
出来るだけ早く更新したいと思いますが……どうか長い目で見てください。






「ここが歓楽街ですかー」

 

 

ハジメが来たのはギルドも手出し出来ない場所"歓楽街"

そこは男が夢を見て、女がそれを貪る場所。

さらに言えば……

 

 

「ここはいわば…」

「「ダメですッッ!!!!」」

 

 

口を二人から塞がれるハジメ。

ここには命と千草もいて真っ赤な表情でハジメに詰め寄る。

 

 

「なんてことをッ!!?なんてことを言おうとしてるんですかッ!!!!」

 

「自然の摂理みたいなものですよ??恥ずかしがる必要は…」

 

「だとしても言葉に出さないでッ!!!」

 

 

強く二人に言われたので言うのをやめる。

しかしここまで大声を出したのに誰もハジメ達を()()()()()

 

 

「…しかし、凄まじいものですね…"カミカクシ"というものは……」

 

「うん。誰も私達を見てない」

 

「いいですか。僕から離れたらダメですよ。

お二人は僕の側にいるので"カミカクシ"の影響を受けてないだけなので、少しでも離れたら僕が見えなくなりますからね」

 

 

ハジメのカミカクシによって誰にもバレずにここまでこれたのだ。レベルアップにより新たに見つけた機能みたいなもの。ステイタスには乗ってないがどうやらハジメの近くに入ればその者も一緒に消えることが出きるようだ。

 

 

「で、どこにいるか分からないんですよね」

「はい。見かけたとしか…」

 

「特徴は"狐人(ルナール)"ですか。

確かに珍しい人種ですよね」

 

 

歓楽街に来たのはいいがどこにいるか宛がない。

分かっているのは命達と同じ出身地で狐人という珍しい人種ということだけ。そして名前が

 

 

「春姫。まぁ聞き込めばすぐに見つかるかもですけど」

「流石にそれは……」

「うん。私達場違いだし……」

 

「ですから僕が聞き」

「ダメ。絶対にダメ」

 

 

今度は大声ではなくもう冷えたような声で言ってくる。

相当怒っているのだろうとそれ以上言わないことにした。

 

ということで手探りで探すことに。

しかし右を見ても左を見ても娼婦がいっぱい。

もちろん女性を相手するために着飾った男性いて商売しているようだがほとんどが娼婦が多い。

 

春姫を見つけるためとはいえ周りを見ると娼婦を目にすることになる。命も千草もそんな娼婦を見て顔を赤くしているようだが

 

 

「いませんねー」

「……流石ですハジメ殿。全く動じぬとは」

 

「だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……それ、絶対にこの者達に言わないでください……」

 

 

娼婦としているのに"普通の女性"なんていったらどんな目に合うか……本当に規格外な人だと改めて思った命だった。

 

それからしばらく探し回ったが全然見つからず。

歓楽街とはいえ規模は大きく、それも命も千草もハジメから離れることは出来ないために実質一人で広範囲を探しているようなもの。

 

それをハッキリと分かったのか命が

 

 

「ハジメ殿。今日はありがとうございました。

明日からは私と千草で探します」

 

「手伝いますよ」

 

「いえ。こうして全体を見渡したお陰で二人で行けると分かりました。もちろん()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………」

 

 

その言葉にあのハジメの表情が僅かだが変わった。

それでもよく見ないと分からないもの。

現に命と千草にはそれを気づけなかった。

 

 

「……そうですか。でも気をつけてくださいね」

 

「ありがとうございます」

 

「でもベル達に見つからないようにしてくださいね。

きっと見つかったら追いかけてくるかもですし、その時は僕も参加しますよ

ベルをこの歓楽街になんて……ふふふ」

 

「ゲスいですよハジメ殿」

 

 

おっと。とちょっと想像してしまった事が表につい出てしまったようだ。気を付けないと。

 

 

…………………………

 

 

「ハジメッ!!!こいつを持っていきな!!」

 

 

前回の戦争遊戯でハジメどころかリューまで参戦し"豊穣の女主人"の売上を下げたとミア母さんから怒られ、減らしてもらっていた仕事が元通りになってしまった。

 

なので今日は1日中こちらでお仕事。

 

 

「さっさと動きなッ!!ダンジョンに潜りたいならあと一週間分の貢献をしていきな!!!」

 

「なんか厳しくないですか?」

 

「当たり前だ!!そいつはリューの分も上乗せしてるからね。男なんだから女の分までやりなッ!!!」

 

「なるほど。分かりました」

 

 

リューの為。それなら納得する。

しかしそれを納得出来ない人もいる。もちろんリュー。

 

 

「ミア母さん。私のことは私が…」

「しつこいよリュー!!私がいいと言ってるんだ!

それにあんたの男もいいと言ってるんだ、文句は言わせないよッ!!!」

 

「わ、わ、私とハジメはそ、そ、そんな関係ではッ!!!!」

 

 

いや、何を今さら。とここにいる誰もが思った。

あんだけイチャイチャしていて恋人ではないなんて……

きちんとこれから共に生きていこうとプロポーズをしたというのに……

 

 

「そうですよ。まだキチンと告白してOKもらってませんからまだですよ」

 

「……ょっと、ちょっと待つニャ!!

リューとハジメはこれからずっと一緒にいるって約束したニャよなッ!!!」

 

「あれ??アーニャちゃんに話しましたっけ?」

 

「それ……リューが口を滑らせたの……」

 

 

シルからそれを聞いたハジメはリューを見るとそっぽむいている。いるが耳が真っ赤になっていて恥ずかしそうにしていた。

 

 

「なるほど。でも"永遠の誓い"と"プロポーズ"と"告白"ってどれも違いますよね?」

 

「違うわね」

 

「ですから正式には最初の恋人でもないんです。

でもずっと一緒にいますからリューがこういうのを少しずつ慣れてからだと考えていたんですよ。

見てください。こんな話をしただけで全身が真っ赤になるぐらいに……」

 

「も、もうやめてくださいッッ!!!!////」

 

 

「んなことより、仕事をしなこのバカ共ッッ!!!!」

 

 

 

…………………………

 

 

「……すみません。口を滑らせてしまいまして」

「いいですよ。でも珍しいですね」

 

 

仕事も終わりリューを家へ送る途中。

もちろんリューに限って悪いやつらから狙われても返り討ち出来るけど、「女性を家まで送るのが男性です」とハジメが押しきりずっとこうして送っている。

 

 

「……少しお酒を…」

「確かそんなに強くは…」

 

「ないです。ですがシルから進められて…で、つい…」

 

「話したことには全然気にしてません。

でもシル姉から言われてもお酒を断るかと思ってました」

 

 

そう、そこが意外なのだ。

いくら親友から進められてもリューなら断るかと思ったのだが

 

 

「………しくて……」

「えっ。なんて言いました?」

 

 

小さな声でいうリュー。

聞き取れなかったハジメはリューに催促するが、下へうつむき耳を赤くした状態で

 

 

「……あの時の、言葉が嬉しくて……

…そ、の……その日に……////」

 

 

それを聞いて納得した。

リューとあの日、ずっと一緒にいようと約束したあの日。

 

「リュー姉」から「リュー」と呼び方を変えて畳み掛けるように連呼し怒って帰ったあの日。

 

 

実はシル達に捕まり根掘り葉掘り聞かれたのだ。

そしてその時シルにお酒を進められてやらかした。

 

 

「かわいいですねリュー」

「からかわないで下さいッ!!!!」

 

「事実なんですけどね」

 

 

それでも堪らなく嬉しくなったハジメは、珍しくリューに断りも入れずに手を握った。

 

普段はそんなことすればハジメでも投げられる場合がある。これはただ単に恥ずかしいからなのだが。

 

リューの手を握ったときビクッと反応したが、その手は優しく力を入れて握ってくれた。それからリューの家まで何も放さなかったがたまにキュッと強く握ってくることに嬉しさをお互い感じていた。

 

 

…………………………

 

 

「ありがとうございます」

「いいえ」

 

 

リューを家まで送り帰ろうとしたハジメ。

しかしその足は途中で止まり不思議に感じたリュー。

 

 

「どうしました?」

「………止められましたが、やっぱりリューには隠し事したくないので」

 

 

そういって振り向きリューと向き合う。

 

 

「すみません。いま命さんの友達を探しに"歓楽街"に行ってます」

「ッ!!!??」

 

「もちろん友達を探すだけですが、そんな所に行っているだけでもいけないということは分かってますし、行く前にリューに話すべきでした。すみません」

 

 

頭を下げて謝るハジメ。

もしかしたらもの凄く怒られるかもしれない。

もしかしたら嫌われるかもしれない。

もしかしたら軽蔑されるかもしれない。

 

そんなことがハジメの頭の中を巡るなか

 

 

「そうですか。早く見つかるといいですね」

「……リュー……」

 

「……すみません。ハジメが友人のためにしていることは分かってます。分かってますが……気持ちを抑えられないッッ!!!!」

 

 

とても苦しい表情をするリュー。

素っ気なく放った言葉に、自分が許せなく。

それから溢れくる思いにどうも制御できなくて苦しくて……

 

ハジメはリューにそういう思いをさせなくなかった。

だけどそれでも自分が選んだことだった。

あの話を聞いて知らぬふりなんて出来なかった。

 

でもそれでリューが苦しんでいる。

だから、いま、出来ることを。

 

ハジメはリューをゆっくりと抱き締めた。

 

 

「……本当に、すみません……」

「何度言われると…私が悪くみえる……」

 

「違いますよ。いつも軽率と言われますが……今日のは一番酷いと自覚してます」

 

「……本当です……」

 

 

ハジメの腕の中でゆっくりだが落ち着いてきたリュー。

それでもまだ胸の痛みは消えない。

 

 

「…まだ、苦しいですよね……」

 

 

リューの首がゆっくりと縦に降った。

だからハジメはリューの顔が見えるように肩に手を置いて距離をあけて

 

 

「だから今日は、リューの苦しみが無くなるまで一緒にいます」

 

「………えっ」

 

「いまはまだ隣で寝ることしか出来ませんけど、それでも良ければ今日は一緒に居たいんです。どうですか?」

 

 

その言葉に顔を真っ赤にして口をパクパクして動揺するリュー。しかしハジメの真剣な表情に少しずつ落ち着きを取り戻し小さく息を吐いたあと

 

 

「……何かすれば…斬ります……」

「何もしませんよ」

 

「それは、それで……ちょっと…」

「すっかり乙女ですよね」

 

 

そういうことをいうからまたリューに睨まれるハジメ。

しかしそれは落ち着かせようとした言葉だと理解したリューはそれ以上何も言わずハジメの手を握り自宅へと招いた。

 

 

「……男性では…貴方が初めてです……」

「光栄です」

 

 

…………………………

 

 

「絶対になにかあったニャ、あれは」

「それしかないニャ」

「うん。凄く嬉しそうな表情してる」

 

 

翌日、ハジメと一緒に出社してきたリューはお昼休みまた嵐のように質問攻めにあったそうだ。

何を答えたかは……また、お話することに。



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影が薄いのですが、神様に怒ってもいいですよね??



ちょ――――――う、久しぶりです。(こちらは)
なんとか今年までに更新出来て良かったです。
ストーリー的には進まないです。ラブは進むかも(笑)
それではどうぞ!






「ロキ様に、ですか?」

 

「あぁ。最近来ないと思ったら酒を飲み過ぎて謹慎を受けているみたいでね。その謹慎を出したリヴェリアも飯くらいはって頼み込んできたのさ。

こっちは出前とかしてないけど常連のよしみだ、ハジメが持っていけば元気になるよ」

 

 

ここ一週間。

未だに命さんの友人は見つからず、ベルもまだ動きを見せないためにのんびりとバイトをしていたそんなある日。

ミア母さんからそれを聞かされて確かに来ていないなーと思ったが、まさか謹慎とは……

 

いや、あれだけお酒を飲めば言われても仕方ない。

それに一週間前にロキと会っている。あの時は上機嫌で帰っていったけど、そのままテンションを下げずむしろ上げて飲んだのだろう。

 

 

「仕方ないですね。ここは1つ渇を入れてきます」

 

「あはははッ!ハジメが言えば聞くだろうね!!

荷物も多いからリューも連れていきな」

 

 

という事でリューと一緒に出前を持ってロキ・ファミリアへ。

 

 

…………………………

 

 

「で、この惨状はなんですか、クソ神」

 

「ヒドッ!!!

…い、いやー謹慎食らって酒も飲めんくてな。で、今日ハジメが出前持ってくるーって聞いたら……つい…」

 

 

館に入りロキの部屋にたどり着いたのはいいが、部屋を開けてみればすでに酒の空き瓶が散乱。ロキもぐでぐでに酔っていて……

 

 

「部屋、片付けるまで没収。

早く片付けないとアイズ達と一緒に全部食べてしまいますから」

 

「ちょっ、ちょっと待って!!!せっかくの出前がッ!!!」

 

 

そんなの知らない。ロキ様が悪い。

叫ぶロキ様を無視して大広間へ向かうとそこには紅一点、上級冒険者である四人の女性達がいた。

 

 

「お邪魔してます」

 

「あっ、ハジメ」

「来てたんですね」

「いらっしゃい」

「ヤッホーハジメ!!」

 

 

それぞれ挨拶を済ませたあと、とりあえず手前を置いて一言。

 

 

「あと昨日から正式に"彼女"となりましたリュー・リオンです」

 

「ハ、ハジメッッ!!!!」

 

「「「えっ?…ええええぇぇぇぇッ!!!?」」」

 

 

大声で叫ぶ三人。うるさい。

アイズは首を軽く傾けるだけ。うん、君はそのままでいいよ。

 

 

「いや、正式にって…まだ付き合ってもなかったの!!?」

「あれだけイチャイチャしておいて!!?」

「うわわわわわッ」

 

 

ティオネもティオナもハジメとリューのイチャつきの否定に疑問を持つ。

どうしてレフィーヤ姉だけ慌てているのかしないけど、そんなにイチャイチャしてたかな?とハジメは

 

 

「してましたか?」

「「してた!」」

 

「してましたか?」

「……(コクンコクン)」

 

「してましたかね?」

「どうして私に振るんですか/////」

 

 

最後に振られた質問に顔を赤くして怒るリュー。

それを見てティオネやティオナは「はいはい、お熱いことで」と冷やかす。

 

 

「それで、それはナニ?」

「ロキ様への差し入れみたいなもの。だったんですが部屋が汚いので片付けるまでお預けになった料理です。

皆さん、どうですか?食べませんか?」

 

「いや、それダメでしょう…」

「いいんですよ。だらしない神なんて神じゃないですから」

 

「うわぁ…ハジメだから言えるセリフだ……」

「言ってやらないと分かりませんからね。

あと躾のために料理を減らそうと思ったのでどうぞ」

 

「……美味しい」

「ア、アイズさんッ!!?」

 

 

流石アイズ姉。すでに食べ始めていた。

それを見たレフィーヤ達も遠慮しながらも食べ始めた。

 

 

「にしても、なんか精進料理みたいね…」

「お肉は入ってませんから」

「えっ。これお肉じゃないのッ!!?」

「工夫すればお肉に近い食感とか出来ます」

「と、いってもミア母さんが作ったので」

「ハジメが作ったような言い方だったよ……」

 

 

何気ない会話をしながら黙々と食べ続ける。

そこにドタバタと足音が聞こえてきた。そして扉が勢いよく開き

 

 

「ああッ!!!ウチの料理があッ!!!!」

「速かったですね。もしかしてクローゼットや収納スペースに詰め込んだとかじゃ……」

 

「舐めたらあかんで。よく母ちゃんから言われていたからな。片付けは手慣れとるんや」

 

「それを最初からしろ」

 

 

ぐうの音も言えず、ハジメの周りの女性からもウンウンと頷かれて誰も助けてはくれなかったロキだった。

しかしそれぐらいでめげないのがロキ。

すぐに気持ちを切り替えて料理へ手を伸ばした。

 

 

「なんやこれッ!!?肉は?ウチの肉は?」

「元々入ってませんよ。ミア母さんはどうせ隠れて酒飲んでるだろうから胃に優しいものって作ってくれたんですから味わって食べてください」

 

「そんな~。久しぶりに食べれると思ったのに~」

 

 

どうやら謹慎中は肉も食べられずにいたようだ。

さすがリヴェリアである。ちゃんとしている。

 

 

「というか、謹慎中にまたお酒飲んで大丈夫なんですか?リヴェ姉に見つかったら断酒に断食もあり得ますよ」

 

「大丈夫大丈夫!!キチンと片付けたから問題ない!」

 

 

こんなに自信があるということは…展開的にバレるかな~と内心期待してしまったハジメだった。

 

 

 

…………………………

 

 

「おや、ハジメ。来てたのかい」

「はい。もう帰りますけど」

 

 

食事も終えて帰ろうと部屋を出たところでフィン、ガレス、リヴェリアに出会った。

 

 

「どうやらロキも満足したようだな」

「ですね。文句をいいながらも良く食べてました」

 

「たまにロキが子供に見えるわい」

「子供ですよ。頭の中もがい…」

 

「五月蝿いわボケッッ!!!!」

 

 

よく悪口が聞こえたなーと。感心する。

扉閉まっていたから聞こえないと思ったのにどこで聞いていたのか扉を開けてハジメの頭を叩きながら叫んだ。

 

 

「それ以上いうならいくらハジメでも許さんで!!」

「分かりました。デリカシーというやつですね」

 

「ハジメの手綱ちゃんと握っとけや!!!」

「す、すみません……」

 

 

何故かリューにまで当たるロキ。

それになにか違和感を覚えたリヴェリアはそぅーとロキに近づき"匂い"を確める。

 

 

「…ほぅ。酒で謹慎を受けていたのにも関わらず…酒、飲んだのか?」

 

 

リヴェリアはロキの頭を片手で掴み持ち上げる。

その姿、鬼のよう……

 

 

「リ、リヴェリア……そ、そんな…して……」

「なら何故酒の匂いがする?」

 

「し、しらん…そんな、しらん……」

 

 

ぶるぶると震えるロキ。しかしリヴェリアは許さない。

 

 

「言っておくがハジメには指定したものを一時停止出来るようになったと聞いている。ならそれでロキからする酒の匂いを止めた匂わなかったら……」

 

「な、なんやそれッ!!?そんな聞いてないでッ!!!!」

 

 

そういって思わず自分の匂いをかいで本当に匂いがするか確認するロキ。しかしそれが悪かった。

 

 

「な、わけがあるか。そんな都合のいいものが」

「り、リヴェリア!!」

 

「しかし自分の匂いを嗅いだということは、酒を飲んだ自覚があるからだ。つまりロキ、酒を飲んだことになる」

 

「だ、騙したなーッ!!」

 

 

……というか、誰もロキが酒を飲んでいることに気づいていた。リヴェリアが言うとおりロキの近くにいれば酒の匂いがハッキリとするのだ。それだけ飲んでいるということが分かるぐらいに。

 

しかしリヴェリアはそれを敢えて追及した。

じゃないとこの神は同じ事を何度もやるからだ。

 

 

「ということでお仕置きだ。

部屋の酒全て没収する」

 

「待って!!やめてくれーッ!!!!」

 

 

アイアンクローを食らわせたままロキの部屋に向かうリヴェリア。それを見えなくなるまで眺めていたハジメは

 

 

「帰ります」

「……本当にいい性格してるよ……」

 

 

と、フィンに厭きられたという。

 

 

…………………………

 

 

それから何事もなく一日が過ぎようとしていた。

バイトも終えてリューと一緒に帰宅している途中の出来事

 

 

「……あれは命さん…??」

 

 

なにやらコソコソしながら歩いている命。その後ろを千草も追いかけている。

 

 

「その後ろにクラネルさん達もいますが」

 

 

リューが指す方角には命達を追いかけるベルとヴェルフとリリの姿。どうやら命の行動に疑問を持ちやっと行動を開始したようだ。

 

 



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影が薄いって、こういう時に実力を発揮します。



どうも。こちらではお久しぶりです。
フッと浮かんできた内容があったので思いきって書きました。
出来るだけ早めに更新頑張りますので応援よろしくお願いします。
それでは、どうぞ。





「ベルベル達が帰っていない?」

「何してるのか…ちょっと心配でね……」

 

夜になり夕御飯の時間も過ぎたのにも関わらずにベルが帰ってきていないと神様から噺を聞いたハジメ。

 

今日はダンジョンに行くとは聞いていないし、買い物などの話も聞いていない。だからこそ心配だという神様に対して

 

(ということは、まだ()()()()帰ってきてないと……)

 

何してるんだと思い頭を抱えたくなる。

確かにベルベルがあの場所に行けば()()()()()()()()()とは期待したが、神様を心配させてまでことではない。

 

だといって『いまベルベルは◯◯◯に行ってます』と言えば驚くを通り越して気絶、もしくは大暴走してその場所にいく。

 

どのみち嫌な予感しかしないためそれは伏せることにして

 

「じゃ、探してきましょう。僕はこういうの得意ですから」

「ゴメンよハジメ君。ベル君をよろしく頼むよ」

 

自分で探したほうがマシである。

しかしそうなると、キチンと話を通さないといけない人がいる。

 

…………………………

 

「ということなのですが、着いてきてくれませんか?」

「事情は分かりましたが……正直首を縦に振りたくないものですね……」

 

仕事の休憩を狙ってリューに◯◯◯……面倒臭さい、歓楽街にベルベルが行っていると思うので連れ帰ようと思いますので着いてきてください。と説明をしたところ。

 

「でも、リューは僕にその場所には行ってほしくないんですね。

それでも僕は帰りの遅いベルベル達を迎えに行かないといけない。

なら、心配してくれるリューが僕と一緒になら。と思ったのですけど」

 

「頭では理解出来ているのですが……すみません。わがままをいって……」

 

「???

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっッッ!!!??//////」

 

一気に耳の先まで真っ赤にするリュー。

あれ?なんでそこで顔が赤くなるのだろうか……??

 

「アハハ…容赦ないわね………」

「シル姉。僕悪いことしましたか?」

 

「天然なところが悪かしら?」

「天然と言われても普通なんですがね」

 

何処から聞いていたか知らないが苦笑いしながら話しかけてきたシル姉にリューの様子がおかしいと聞いてみたのだが…結局答えは分からなかった。

 

「そんな風にメロメロにさせてるんだし今日ぐらいは一人で言っても大丈夫よ」

 

「えっ。しかしですね…」

 

有無を言わせる前にシル姉がリューの方を指差すと

 

「……そ、それは…そういう……か、かんけい…には……なりましたけ…ど……もう少し……いや、……いやでは…ないん……ですけど……その……//////」

 

うつむいたままボソボソと何かを言っている。

そして表情は満更でもないような、幸せそうな……

それを見たハジメも「あぁ~」と納得して

 

「では行ってきますね」

「はい。いってらっしゃい」

 

未だにトリップしているリューの手を取って変わりに手を振ってくれた。可愛いリューの姿をまた一つ見つけた日となった。

 

…………………………

 

「さて、どこにいったのやら……」

 

歓楽街に入ったのはいいが一つの大きなファミリアが取り締まっている場所。なので無駄に広く、そして多くの建物とお店が顕在している。

 

ここからたった一人。ベルベルを見つけるとなると…と考えていたがすぐにそれは消された。

 

「まぁ、ベルベルですから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

と、完全に自分のことは棚にあげていうハジメ。

しかしその予感は的中することになるのだった。

 

「………って!!!……まえろッ!!!」

「おっ。さっそく騒がしくなってきましたね」

 

こんな予感は当たってほしくないが、ここにはそれをツッコミを入れる要員がいないために、ただ更なるトラブルメイカーを引き寄せる形となった。

 

余談だが、前回の戦争遊戯においてハジメに劣らずベルも多くの人に知れ渡ったのだ。つまりそんなベルを狙う娼婦()は多くいるもので

 

「いやああああああぁぁぁぁッッ!!!!!」

「逃げるんじゃないよリトル・ルーキーッ!!!!!」

 

「天井のシミを数えてる間に終わらせてやるよッ!!!」

「とびきりに気持ちよくなる特典付きだよッ!!!!」

 

「いりませんんんんんんんんんんッッ!!!!!」

 

絶叫しながら屋根から屋根に逃げている兎を一匹見つけた。

その後ろを複数の獣達、もとい娼婦が追いかけていた。

それを見たハジメは

 

「頑張れです」

 

無視をすることにした。

ここで助けに入るとベルベルを追いかける娼婦に自分も巻き込まれる。それはリューに対して絶対にあってはならないこと。

ベルベルには悪いが……と思い、ベルが通ってきただろう方向へ歩いてみるとそこにはここに一瞬に来ていたヴェルフとリリ。そして命達が走って逃げていた。

 

「ハ、ハジメ様ッ!!!」

「何やってるんだこんなところでッ!!!!!」

 

「こっちの台詞なんですけどね。

いつまで経っても帰ってこないから神様が心配してましたよ」

 

「わ、わりぃ……でもよベルがッ!!!」

 

「大丈夫です。そちらは僕に任せて帰ってください」

 

「しかしですね……」

 

「こんな大人数が移動するなら目立ちます。

さらに僕は隠れられますからね。問題ありません」

 

「えっ?でもそれなら……」

 

と、千草が余計なことを言おうとしたのでニコッと笑って制止させた。ヒィッ!!と声を出して言うのを止めた千草に命が心配しそうに声をかけるが何も言わなかったので許してあげましょうと満足そうな表情したハジメに

 

「ヴェルフ様…これ、絶対になにかやからしますよ……」

「だな。でも止める方法、あるか?」

 

「ありませんね……」ということで諦めたヴェルフ達はハジメの言うとおりにこの場から逃げ出すことにした。

そして残されたハジメは未だに声が上がっている方向へ振り向き

 

「さて、ベルなら何処かに身を潜めようとするとして……」

 

ベルがどんな動きをするか頭に過らせながらこの街の影に消えたハジメだった。

 

…………………………

 

パリンッ

 

高い、高い塔の一室。

その広い一室の中でグラスが割れた。

 

謝ってグラスを落としたのでない。

ある出来事に我慢できずに八つ当たりのように壁にその手に持っていたグラスを叩きつけたのだ。

 

グラスに入っていたワインは壁に添って床へ向かって伝って落ちていく。それはまるで血のように……

 

グラスの割れた音に気づいた一人の冒険者は主の元へ馳せ参じ

 

「どうかなさいましたかフレイヤ様」

「この前の戦争遊戯で、牽制したつもりだったのだけど…」

 

フレイヤの側に常にいるオッタルでさえも萎縮してしまいそうになるほどいま神・フレイヤはキレていた。

 

フレイヤが見ていたのは水晶。

そこに映るのは遠くにいる者の行動を見るため。

そしてその目的である二人。ベル・クラネルとハジメ・トキサキ。

 

すぐにオッタルは分かった。

その二人のどちらかが、もしくはどっちもが、奪われそうになっている。もしくは奪おうとしていると。

 

「すぐにというのならばいつでも」

 

だからオッタルはいまフレイヤが一番望むことをいった。

それはフレイヤ様が気になる二人を奪おうとする者を……

 

「いえ。それはいいわ」

 

するとまさかの答えにオッタルは一瞬驚いた。

何もかも手にしようとする神。そして奪われそうになるなら全力をもってそれを阻止しようとする。

 

なのにも関わらずに、その命令を出さない。

しかしすぐに何か考えがあるのだろうと頭を切り替えたオッタルは

 

「では、如何様にしますか?」

「そうね。ロキといつでも話せるようにしたおいて。もちろんヘスティアもよ」

 

「かしこまりました」

 

何を考えているのか分からない。

しかし神様のためにとオッタルはすぐに行動するために部屋から出ていった。

 

そしてまた一人になったフレイヤは

 

()()()()()()()()()()()()

なら、()()()()()()()であるあの二人に恩を売ってもお釣りがくるわ」

 

ふふふ。と笑うフレイヤはこの状況を利用しようと考えたのだ。

すぐにでも手にしたい気持ちを抑えてまで、この先のことを見据えて。







はい。久しぶり書いて久しぶりにフレイヤです。
きっとハジメが関わるならこんな感じかなーと思い付きましたので。

さて、次回はどうなるのか。僕にもまだ分かりません(笑)




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影の薄い人がいるといい雰囲気は台無しです。


どうも。
結構早めに更新出来ました!
今後の展開もなんとなく思い付いてますので少しは(少しは)速く書けると思いますよ(多分……)
では、どうぞ。


イシュタル・ファミリア

歓楽街を牛耳るファミリア。

そしていま、ベル・クラネルを狙おうとしているファミリア。

 

「さっさと捕まえなッ!!イシュタル様に献上するんだよッ!!!」

「というわけで、逃げるなリトル・ルーキーッ!!!!」

 

「いやああああああぁぁぁッッ!!!!」

 

未だに逃げまとうベルと、それを追いかけるイシュタルのアマゾネス達。

戦争遊戯で目撃し、その"強さ"を知ったアマゾネス達はベルを"味見したい""食べたい"と胸が高鳴り興奮した。

 

そしてそのベルがこの街に、目の前にいるのだ。

どうにかして手に入れたいと望むのは本能である。

しかし神・イシュタルに引き渡すということもありいまは神の為に動いている。

 

しかし圧倒的な数で追い込もうとしているのにも関わらずに未だに冒険者一人も捕まえられない。

 

その逃げ足の速さもあるが"動物的本能"なのか罠を仕掛けてもギリギリで気づかれて回避されてしまう。

だからいまもこうして屋根の上を走ったりしているのだが

 

「アイシャッ!!このままだと埒があかないよッ!!!」

「だったら"向こうから来てもらうように"すればいいのさ」

 

その言葉の意味を理解したアマゾネス達は一斉に行動した。

アイシャ・ベルカはイシュタル・ファミリアのNo.2。

信頼できる人物だからこそ、誰もが疑わずに動いた。

 

そうしてアマゾネス達は"ある場所"へ誘導するために隙間なく逃げ道を塞いでベルを誘導する。それに気づいていないベルは目論見通りに動いておりそれを見ていたアイシャは呟いた。

 

「さぁ、楽しませてくれよ。リトル・ルーキー」

 

…………………………

 

「離してッ!!離してくださいッ!!!!!」

 

まんまと罠に引っ掛かったベルはとある屋敷に飛び込んだ。

逃げる道を一点に絞られたベルは仕方なくその屋敷に飛び込んだのだがそこには追いかけていたアマゾネス達が待ち構えていたのだ。

 

すぐに逃げようとするもすぐに押さえられたベル。

必死に抵抗するも相手はアマゾネス。

それも複数に取り押さえられては動けない。

 

「ベル・クラネル。いい顔してるわね」

 

その美しい声にその場にいたアマゾネス達は一斉に黙った。

さっきまでベルを"味見したい""食べたい"などとベルにとって恐怖しかない言葉を発していたアマゾネス達が黙った。

 

その声の先には階段から降りてくる麗しき女性。

そしてこの世のものではないかと思わせるその美貌。

ベルは直感した。この人は神・ヘスティアと同じ存在だと。

 

「嬉しいわ。こんなにも早く会えるなんて」

 

ドンドン近寄ってくるイシュタル。

このままだと不味いと本能が告げておるのだがどうしても逃げ出せない。

そんなことをしていると迫ってくるイシュタルへある人物が声をかけた。

 

「イシュタル様。"終わったら"その男を私に贈れよ」

 

フリュネ・ジャミール。

おかっぱ頭の2メートルを超える巨女の戦闘娼婦(バーベラ)。大きな目と裂けた口、短い手足と顔と胴体がずんぐりと太っており、モンスターと思われても無理のない体格をしていて一目見たベルが思わず声に出して悲鳴をあげたくなるほど。

 

そしてこのフリュネがイシュタル・ファミリアのNo.1。

 

「ふざけんじゃないよフリュネッ!!あんたに捕まったら男はみな"再起不能"に乗るだろうがッ!!!」

 

「うるさいねアイシャ。

こんな上玉をみすみす逃せというのかい?

こいつは私が"食べるんだよ"ッ!!!!!」

 

その口論が他のアマゾネス達まで広がりパニック状態に。

イシュタルもはぁ~とため息をつきどう収拾するか悩んでいた。

そんな中、一瞬の気の緩みかベルを拘束していた手が緩んだ。

それを見逃さなかったベルは捕まっていた手を払い、自由になった手で拘束されている手を全て払いその場から一気に駆け出した。

 

「何をやってるのッ!!!!!」

「逃がすんじゃないよッ!!!!!」

 

ベルはさっきイシュタルが降りてきた階段を一気に駆け上がる。

後ろからはアイシャとフリュネから激を食らったアマゾネス達が追いかけてくる。

 

もう一度捕まったらおしまいだ。

ベルは必死になって階段を駆け上ったあと廊下を走り抜け、ジグザグに、追手から逃げるために、"迷う"という概念を取っ払って走り抜ける。

 

そしてとある一室に飛び込み、アマゾネス達がその場から離れていく音を緊張しながら聞いていた。

幸いベルの入った部屋にアマゾネスは立ち寄らず足音も聞こえなくなった。

 

ひとまず安心したベルほはぁ~とため息をついた。のだが。

 

「あの、どちら様でございましょうか?」

 

そこにはこの部屋の主がいたのだった。

 

…………………………

 

「見つからないだぁ?ふざけんじゃないよッ!!!!!」

 

報告したアマゾネスを理不尽に殴り付けるフリュネ。

この屋敷をくまなく探しても見つからず、外に出たのかと探しているのだがいまだにベルを見つけられずにいた。

 

「この街は封鎖してるんだッ!!何処かに隠れてるんだよッ!!!

さっさと見つけて私の所に持ってきなッ!!!!!」

 

「なにいってるんだいフリュネ。あのリトル・ルーキーはイシュタル様に渡すんだよ」

 

「いいじゃないかい。ちょっとぐらい"味見"してもさ」

「あんたの"味見"は男を"殺す"と"同義"なんだよ」

 

「……さっきから舐めた口ばかりだねアイシャ。

どっちが上なのか、ハッキリさせようか?」

 

「私はイシュタル様が上だと思ってるわ。

それとも、そんなことして後でイシュタル様に怒られてもいいってわけなの?」

 

睨みあう二人。

自分勝手に動き回り男を再起不能にするレベル5のフリュネ。

アマゾネス達から信頼がありフリュネを除けばNo.1になれるアイシャ。

 

互いが互いを煙たがっている。

だからこそ、そんな二人を止められるとしたら一人しかいない。

 

「2人とも止めなさい」

 

それはもちろん神・イシュタルしかいない。

あのわがままなフリュネさえもイシュタルの前では大人しいのだ。

 

「フリュネ。アイシャが言った通りにまず私の所に連れてきなさい。その後は、貴女の好きにしたらいいわ」

 

「イシュタル様ッ!?」

「ありがとうございますイシュタル様」

 

その言葉に満足したのかフリュネはその場から悠々とした表情で去っていった。納得できないアイシャはイシュタルに

 

「どうしてそのような事を。フリュネに取られればリトル・ルーキーは再起不能に」

 

「私はね。誰も()()()()()()()()()()()()()()()

 

その言葉にアイシャは理解した。

ベルは囮。もちろんベルも欲しいのだがあのファミリアにはもう一人魅力的な男がいる。

 

続行不可能(サスペンデッド)。あの子が一番欲しいのよ」

 

…………………………

 

「それでは()()()も英雄譚がお好きなのですね」

「はい。まさか春姫さんも好きだなんて」

 

突然現れたベルに春姫は"客"として迎えた。

しかしベルの"鎖骨"を見ただけで気絶してしまい何故かベルが春姫を介護することになった。

 

その後春姫に誤解していると話し、ベルがここにいること。追われていること。を話している内に打ち解けあい、世間話をするほどになっていた。

 

話していて思った。春姫はあのアマゾネス達とは違うと。

こんなにも優しく、見ず知らずの自分を受け入れてくれたのは。

そんのことを考えていると春姫が

 

「とりあえず朝になるまでここにいてください。

そうすれば人も少なくなり私が知っている抜け穴からこの街の外へ抜け出せます」

 

「……どうしてそこまでしてくれるんですか?」

 

「私は娼婦です。この身はすでに穢れてます。

でもそんな私を貴方様は一人の"女"として見てくれた。看病してくれた。

それは私にとってはとても、とても嬉しいことなのです」

 

ニコリと笑う春姫。しかしベルはその笑顔に曇りがあると感じた。きっと何かを抱えている。助けを求めていると。

何か出来ないかとベルはその口を開けようと

 

「帰りますよベルベル」

「ッ!!!??ハ、ハジメッ!!!!!」

 

突然二人の間に現れたハジメに驚くベル。

春姫も突然のことで後ろへとお尻から倒れてしまった。

 

「いい雰囲気を壊すのは野暮かもしれませんが、このまま朝待つとベルベルの貞操がなくなりそうですし」

 

「な、な、何言ってるのハジメッ!!!////」

 

「おっ。そこは理解しているんですね。よかった。

ということで、神様に怒られたくないのでベルベルは連れて帰りますね」

 

「は、はい……」

 

驚きはしたがハジメかベルの仲間だと知って安心した春姫。

そんな春姫にハジメは手を差しのべてきた。そこで自分が尻餅をついていることに気づいた春姫はちょっと慌てながらもその手を掴み起こしてもらった。

 

「先程は失礼しました。ベルベルと同じファミリアのハジメです」

 

「サ、サイジョウノ・春姫です……」

 

「なるほど。狐人(ルナール)ですか……

……まさか、ベルベルを探して()()()()()()()()()に会うなんて……」

 

「どういうことなのハジメ?」

 

命や千草から名前は聞いていなかった。

しかし特徴のある狐人、そしてこの歓楽街。

探していた人物だとするなら、ほぼ間違いはないだろう。

 

「ハルルは…」

「ハ、ハルル?」

「ハジメッ!!!いきなりすぎるよッ!!!」

 

「ハルルは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

…………………………

 

『ハルルは、命さんやチグーを知ってますよね?』

『どうして命様のことを!?それにチグーというのはもしかして千草様では』

 

『言いましたよね?』

『言ってないから…いきなりあだ名は分からないよ……』

 

そんな声が部屋の中から聞こえた。

すぐにでも中へ入りリトル・ルーキーとサスペンデッドを捕まえるつもりだった。しかしサスペンデッドがいったい名前は以前に春姫から聞いたことがあった。

 

ここより遠くの国、そこで友達だった二人の名前。

その時のことを話すときは何よりも笑顔で話していた。

だからこそ、いま春姫はその名前が出て来て驚いている。

 

『この歓楽街まで探しに来てましたよ。ハルルに会いに』

『お二人が……こんなところに……』

 

『ハルルも一緒に行きましょう。二人が待ってます』

 

その言葉にアイシャは思わず部屋に突撃しそうになった。

だが、まだ春姫の言葉を聞いていない。

無理やり連れていかなかったという点で、アイシャはまだハジメをただの"お人好し"程度の認識ですんでいる。

 

しかし無理やりでも連れていこうなら…と考えていると

 

『……それは出来ません』

『どうしてですか?』

 

『私は娼婦です。私がこの街から出るときは"死"か"身請け"だけですので……』

 

その言葉を聞いてアイシャは安堵した。

と、言っても春姫は"娼婦"ということをいまだにやったことがない。いつもすぐに気絶してしまい()()()()()()()()()()()。それでも自分をキチンと娼婦として分かっている。

 

安堵したと同時に何とも言えない感情が湧いてきたのだが

 

『身請け、ですか。ならベルベルが買いますよ』

『ちょっ、ちょっとハジメッ!!!!!』

 

『なんですか?困っている女の子を助けられないですか??

そうですか、そうですか。そんなにヘタレだったとは。仕方ありませんね。では僕が買いましょうか。リューに激おこされるかもしれませんが話せば分かって……』

 

『それは絶対ダメッ!!!!!』

 

『ベルベルに止められる筋合いはありませんよね?』

『突然だったからビックリしただけだよッ!

……春姫さん。僕は貴女を買ってここから外へ連れ出しますッ!!!!!』

 

 

言ったね。リトル・ルーキー。

 

 

…………………………

 

ベルが春姫を身請けすると口にした瞬間

 

「ずいぶんと、ウチの春姫を高く買っているみたいだね」

 

そこにいたのはさっきまでベルを追いかけていたアイシャ。

すぐにベルは戦闘体勢に入る。春姫は未だにベルの言葉にクラクラ来ているのか上の空。

 

「でも分かってるのかい?身請けにどれだけ金がかかるのか?」

「そこらの娼婦とは訳が違う」

「金額はその5倍だ」

 

その金額に驚くベルだったが絶対に払えない金額ではない。

 

「……払えます」

「そうかい。でも、残念だ。その子は身請けさせられない」

 

「どうしてですかッ!!!??」

「簡単さ。その子はファミリアにとって()()()()()なんだよ。もうすぐ満月。その子はその日に()()()使()()があるのさ」

 

「それが終わったら、身請けしても…」

「構わないよ。過ぎれば()()()()()()()()

 

「……分かりました」

「ならさっさと帰りな。イシュタル様には悪いけどリトル・ルーキーよりその子のほうが大切だからね」

 

そういってアイシャは塞いでいたドアから身体を離した。

本当にここから出てもいいということなのだろう。

 

「春姫。途中まで案内してやりな。

それと"殺生石"は手に入ったとイシュタル様から伝言だよ」

 

「ッッ!!!??…………分かりました」

 

驚く表情を見せ悲しい表情へと変わった春姫。

春姫が先に部屋を出てベルが警戒しながらそれに続く。

ハジメも一緒に出ようとしたが

 

「あんたはダメだ」

「ハジメッ!」

 

部屋出ようとしたハジメをアイシャは肩を掴み止めた。

それにベルは近づこうとしたがハジメが手を上げて制止する。

 

「イシュタル様がお呼びだ」

「つまりベルベルがこの街から出るには僕が言うことを聞いたほうがいい。というわけですか」

 

「そういうことだ」

「ベルベル。先に行っててください」

 

「でもッ!!!」

「いいから。真っ先にリューに帰るのが遅れるって伝えてくださいね」

 

その言葉にベルは悔しそうな表情をしながら頷いた。

いま自分が人質になっていることを理解している。

そしてここで抵抗するならきっとハジメに迷惑をかける。

いま出来ることはすぐにでも神様のところに帰ることだ。

 

「すぐに、戻ってきますッ!!!」

「期待してますよ」

 

そういって春姫をお姫様抱っこして駆け出したベル。

そっちの方が速いのかもしれないがお陰で春姫の顔は真っ赤になっていた。

 

「ずいぶんと聞き分けがいいね」

 

「どのみちハルルを身請けにしようとも改宗(コンバージョン)を神・イシュタル様にお願いしないといけませんからね。

それに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そこら辺も詳しく聞こうかと」

 

「へぇー。頭もかなり回るようだね」

 

付いてきな。とアイシャに言われその後ろを付いていくハジメ。

この先何が待っているのか、というか僕の()()()()()()()()()()()()()()()()()と軽く考えている。

 

しかし、ハジメの予想よりも遥かに上だった。

誤算はハジメ自身が()()()()()()()()()()()()ということを理解していなかったためであった。





さて、イシュタル破滅フラグ。立ちました!
あっ、明日か明後日には別の小説(ONE PIECE)を更新予定!
その翌日には"とある"を予定してますよ。

どちらとももう少しで書き終えますのでお楽しみに!





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影が薄くても心配してくれるのは嬉しいことです。




どうも。
……アニメ、始まってしまった……
すみません、全然ストーリーが進まなくて……
少しずつでも頑張って書いていきますので今後ともよろしくどうぞ。

ではでは、どうぞ。





「やはり私達もベル様を探しにッ」

「いったところでどうなる?ハジメの邪魔になるだけだ」

 

「………ハジメ殿……ベル殿……」

 

ハジメに言われた通りに大騒ぎになる前に歓楽街から抜け出したリリ達。しかしそれでも二人を心配しファミリアには戻らずにここを通るだろう帰り道で待っていたのだ。

 

すでに何時間も経っている。

ハジメに対しての無事は心配していない。

あんな規格外をどうにかできる人などいないと信用している。

しかしそれでもそこにはベルもいる。

ベルの無事も心配はしていないが、なにかやらかしていないかと………いや、どちらかといえばこれはハジメの方で……

 

「皆様!!あれをッ!!!」

 

そう心配して視線が下に向かっていた所を命が呼び掛けた。

すぐさま視線をあげるとこちらに向かってくる一人の少年。

その姿はボロボロでありながらも、それでもしっかりとした足取りで走ってくるベル・クラネルの姿であった。

 

「ベル様ッ!!!」

「ベルッ!!!!!」

「良かった…ベル様……」

「はい、良かった、です……」

 

別のファミリアである千草もベルの姿を見て安堵する。

しかし走ってくるベルの表情はどこか、追い詰められているようで……そしてそこにはいるべき人物かいないことに気づいた。

嫌な予感がした。自分達の元で止まったベルに問いかけた。

 

「おい、どうしたんだベルッ!!それにハジメは一緒じゃ…」

「ハ、ハジメが僕の代わりにイシュタル・ファミリアにッ!!!」

「そ、そんなッ!!!??」

 

息を切らしながらベルは早口になりながらも事の顛末を説明した。

自分がイシュタル・ファミリアの、それも神イシュタルに目をつけられたこと。

一度捕まり逃げ出したこと。そこで春姫に会ったこと。

そして、ベルを逃がすために追いかけてきてくれたハジメが捕まったこと。

 

それを聞いたヴェルフはその拳を壁に叩きつけながら

 

「ふざけろッ!!!」

「イシュタル・ファミリアはバカなんですかッ!!!そんなことしたら…あのロキ・ファミリアが攻めてくる可能性があるんですよッ!!!!!」

 

ヴェルフはハジメを捕まえたイシュタル・ファミリアに。

リリィはそのイシュタル・ファミリアの軽率な行動に激怒している。

 

「春姫殿……ッ!!!」

「身請けって、そんなお金……」

 

そして春姫を知っている二人はせっかく見つけた春姫の現状に困惑していた。

これからどうすればいいのか?まだその段階に到っていない段階で、この状況をさらに悪くしてしまう人物がのらりくらりと現れた。

 

「どうやら大変なことになったみたいだね」

「ヘルメス様ッ!!!??」

 

やぁ。と胡散臭い笑顔で現れたヘルメス。

先ほどの話を全部聞いていたようで

 

「さっき言っていた"殺生石"

ベル君はこれがどういうものか知っているかい?」

「い、いいえ…これは一体何なんですか?」

 

「殺生石。狐人専用のマジックアイテムで、その石に狐人を、その魂を封じ込めることによって()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()ってわけさ」

 

「ま、待ってくださいッ!!!

魂を封じ込める…それに、欠片ってッ!!!??」

 

「あぁ。殺生石を砕くんだよ。

その欠片を持っているだけでいいんだからね」

 

「そ、そんなッ!!!!!」

 

それは春姫の命を使いその殺生石を使おうとしているのだ。

あまりのことに千草が膝から崩れ、すぐに命が支えに入ったがその命も顔色が悪い。

そして、さらに追い討ちが、その酷い現実がその耳に入ってくる。

 

「それとその儀式だけど"満月"にやるんだ」

「ちょっ、ちょっと待ってください!!

それって!!今日じゃないですかッ!!!??」

 

「あぁ、そうだね。このままだと……」

 

淡々と喋るヘルメスにキレたのか、ヴェルフがヘルメスの胸ぐらを掴み

 

「なんでそう平然としてられるんだッ!!!!!」

「ヴェルフ様ッ!!!ダメです!!!」

 

すぐにリリィがヴェルフを止めようとするが、ヘルメスは胸ぐらを掴まれたまま

 

「…ファミリアの向上のために一人の狐人が犠牲になる。

確かに人道的には恐ろしいものだ。

だけど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう。これはファミリアが決めたこと。

それを覆そうとなると重たい処罰が待っている。

それだけじゃない。その出来事は広まり生きにくい生活が待つことになる。

 

もちろんそんなことほヴェルフにも分かっている。

だけど改めて突きつけられた現在。

それを分かったヴェルフはその手を離し悔しそうな表情をするなか

 

「助けます!」

 

そんな所にベルが真っ直ぐにヘルメスを見つめて言い放った。

それを分かっていたようにニヤリと笑ったヘルメスは問いかける。

 

「分かっているのかい??

そんなことをしたら君だけじゃなく、ファミリアにもヘスティアにも迷惑がかかるってことを」

 

「だからといって見捨てるぐらいなら、ここにいる皆に、他の人達に責められても構いません!!

それに…あそこにはハジメもいるんです!助けないと!!」

 

その言葉にヴェルフの顔色も変わり、いやそこにいる誰もが決意し

 

「だなッ!!!行くぜヘルメス様よッ!!!」

「仕方ありませんね。それにイシュタル・ファミリアに向かいにいかないとハジメ様が何をやらかすか……」

 

「そうですね…どちらかというとそっちが心配です……」

「二人とも助けましょうッ!!!」

 

一致団結となったヘスティア・ファミリア。

それを見て満足したのかヘルメスはその場から去ろ…と、したところヘルメスの肩にガシッと手がかけられ、とんでもない握力で握られた肩は悲鳴を上げ、ヘルメスは額から汗をダラダラをかきながら肩を握ってきた人物の方を見てみると

 

「何処に行くつもりだい?ヘ・ル・メ・ス

「へ、ヘスティア……って、ロキに…フレイヤまでッ!!!」

 

これから傍観しようと決めていた所にまさかの神三人が現れたのだ。そしてその中でも驚いたのはフレイヤの存在だった。

男も女も"魅力"し惑わすフレイヤは深めのフードを被っているがそれでもヘルメスを魅力してしまうほどの美貌を持っていた。

 

そしてここにもう一人いる男であるヴェルフは無条件にリリと命に反対側を向けられて魅力されずにすむ。

 

「なに、ヘルメス。私がいたらダメなの?」

「い、いや…ダメってわけじゃないけど……」

 

その美貌と妖しげな瞳に思わず一歩引いてしまうヘルメスに、グイッと近づいてくるのは不機嫌なロキ。

 

「なぁヘルメス。さっき、あれだけこの子らを持ち上げておいてまさか、関わらんつもりなんか、お前は?」

 

「ロ、ロキ…しかし、僕のファミリアはそんなに強くは……」

 

するとズシン!ズシン!と足音が聞こえてくるようにヘルメスに近づくヘスティアは二言、こう言った。

 

「ヘ・ル・メ・ス。来るんだ!

「………はい……」

 

完全に参加決定したヘルメス・ファミリア。

しかしいきなりの展開に他の誰もついていけてない。

その中でもすぐに冷静になれたリリが

 

「ち、ちょっと待って下さいヘスティア様ッ!!!!!

まさかロキ・ファミリア、ヘルメス・ファミリア、それにフレイヤ・ファミリアまで参戦するつもりなんですかッ!!!??

といいますか、どうして事情を知っているのですかッ!!!??」

 

「あ、あぁ…これはフレイヤからの情報だよ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、いまはそれどころじゃないからね。

イシュタルは昔からフレイヤに因縁をつけていてね、今回の事はイシュタルがフレイヤに喧嘩を売るためにやったことらしい。それでそんなフレイヤを潰すために"殺生石"を使うつもりだったみたいなんだ」

 

「潰すって……一体どんな魔法を……」

「そこまでは知らないようだよ。そうなんだろうフレイヤ」

 

「ええ。流石に調べても出てこなかったわ。

でも、ハジメをモノにしようとしていることはだけは分かっているわ」

 

するとロキが「ヨッシャー!!」と気合いを入れて

 

「それだけ分かれば十分や!!

なに勝手にウチのハジメを……」

「ふざけるなッ!!!

ハジメ君は僕のファミリアの一員だあああああぁぁぁ!!!!!!」

 

「そうよロキ。ハジメはいつか私の元にくる大切な子……」

「ハジメ君はずっと僕のファミリアしかいませんんんんんんんんんッ!!!!!」

 

要は、ハジメが捕まった。

それだけで、いや、それだからこそこうして集まったのだ。

 

「ハジメさんって…凄く人望に長けた方なんですね……」

「………どうなんだリリ助?」

「………勘違いなのでは?」

「………好き勝手にやるお方だけは間違いないですね……」

「み、みんな……」

 

あまりのハジメに対しての評価の低さに千草は疑問をもった。

これだけのファミリアを動かしているのに信用がないなんて、一体何をどうすればそうなるのかと……

 

「とりあえずや。流石にウチとフレイヤは全団員を投じるわけにはいかんからな。最大限の人数"3人"でどうや?」

 

「ええ。構わないわ」

 

「ドチビは手助けしてくれる人を集められるだけ集めてこい!

イシュタルがハジメを拐って救出するためということならギルドからの罰も少なくなるやろう!」

 

「わ、分かったよ!

ってか、なんでロキが仕切るんだよッ!!!」

 

「うっさいわドチビッ!!!

ええな!!一時間後にここに集合やッ!!!」

 

 

…………………………

 

「私が、いく」

「私もいくぞ」

「俺もいってやる」

 

ロキは自分の屋敷に戻り主要メンバーにいま起きている状況を話したところ、アイズ・リヴェリア・ベートが参加すると言ってきた。

 

「なら、僕とガレスはギルドにいって少しでも罰の軽減を図ってみるよ」

 

「頼むで。ウチはフレイヤとドチビと一緒いくからな」

 

その言葉に一瞬誰もが固まったが

 

 

「な、なに言ってるんだロキッ!!!??」

「心配するなや。フレイヤの所で守ってもらえれば安心やろ」

 

「だがッ!!」

「あのフレイヤが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

絶対なにかやらかす。それも()()()()()()()()

 

「……神フレイヤも()()()()()()()()()()()()()

「だからこそドチビも一緒に連れていくんや」

 

ハジメを救出と思いきやまさかの伏兵。それもあのフレイヤ。

どうにも嫌な予感がするフィンは

 

「……分かった。ならフレイヤの護衛として僕は付いていくよ。すまないがガレス……」

 

「こっちは気にせんでいい」

 

いつものようにハジメを中心に動き出す。

そして今回も同じことが起きたが

 

(……どうしてか…それだけで収まらない気がしてならない……)

 

長年の冒険者としての勘か、それともずっと収まらない親指の疼きか……






ヘルメスの扱い、こんな感じでもOKですよね(笑)




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影が薄くても必要なら強行手段です。


どうも。
なんとか速めに更新できましたけど、次は……今年中に出来るかな…………頑張ります。

それではどうぞ。





パリンッ

 

その音が店内に響き渡った。

普段は賑わう店内も必死に駆けつけたベルを見てバカ騒ぎが収まり、そしてベルから語られた言葉に辺りが騒然として、そしてその中心にいたリューが持っていたお皿を落としてしまったのだ。

 

ここにいるものなら誰でも知っているイシュタル・ファミリア。

そしてその神であるイシュタルにハジメが捕まったという事実。

そのことを告げたベルは続けたこう話した。

 

「で、でも、安心してください!

ロキ・ファミリアと()()()()()()()()()()がハジメ奪還に協力してくれることになったんですッ!!!!」

 

「「「「「なっ!!なにいいいぃぃぃッ!!!!??」」」」」

 

今度は店全体がその驚きに満ちた。

あのフレイヤ・ファミリアが急上昇してきたファミリアとはいえ団員も経験も少ない弱小ファミリアを、たった一人の者の為に"最強"と言われる二大巨頭が手助けするなんて……

 

そんな前代未聞な出来事に一気に客達は騒ぎ

 

「五月蝿いよッッ!!!!!」

 

だそうとしていたが、ミア母さんの一言で一気に静まり返った。

そしてそのままベルの前まで歩くと、ベルの頭に手を乗せて

 

「ったく、逃がすにしても自分のことも考えろって話さ。

あんたはよくここまで帰ってきたね」

 

「い、いえ、僕は……」

 

「素直に受け取りな。まぁ、ハジメには迷惑料として飯をおごってもらいな。もちろんここでだよ」

 

「はいッ!!!!!」

 

ベルの頭を強く撫でたあと放心状態のリューの元へ向かい強くその背中を叩いた。

 

「ッ!!!!??な、なにをッ!!」

「さっさといきなッ!!!!!」

 

「し、しかし…私は……」

「今回はハジメもリューも被害者さッ!!

それでも店を抜けるのに躊躇いがあるなら帰ってきてからこき使ってやるよッ!!!!!」

 

その言葉に少しだけ生気を取り戻したのか顔色が良くなったリューは

 

「……いえ。ミア母さんのこき使いは修行よりもキツイ」

「だったらさっさとあのバカを連れ戻してきなッ!!!」

 

はい!とその場で前掛けを外したリューは改めてミア母さんに一礼をした。そのタイミングで、まるでリューが助けに行くのが分かっていたようにいつの間にかいなくなっていたシルがリューの武器を両手に抱えて持ってきた。

 

「これがないと。でしょう?」

「シル……ありがとう」

 

「顔が割れたらダメなんだニャー。このコートと布も持っていっくニャー」

「助かります」

 

アーニャからはウェイトレス姿を隠す為の丈の長いコートと、顔を隠す為の布を渡された。すぐさまそれを身に纏い

 

「――クラネルさん。先に向かいます」

「えっ。ちょっ」

 

突然の、いや、予測はしていたけどこんなにも速く飛び出すなんて予想出来ずにリューを引き留めることが出来なかったベル。

しかしそれを見てミア母さんとシルは

 

「ったく……リューをこんな風にしちまって……」

「ええ。責任、とってもらわないといけませんね♪」

 

「いいかいあんたらッ!!!ここで話したことを他言してみなッ!!!!!二度とこの店、いや、他の店でも飲食出来ないと思いなッ!!!!!」

 

その一言で一瞬静かになってものの、すぐさまに元の活気に戻った店内。まるで()()()()()()()()()()()()……

 

するとシルは店の奥に向かい戻ってくるとその手にはバスケットが、それをベルに手渡して

 

「何処かで食べてください。無事に皆さんが帰ってこれることをここで祈ってますね」

 

「ありがとうございます!行ってきますッ!!!」

 

…………………………

 

「というわけじゃ」

「い、いくらトキサキ氏を奪還のためだとはいえそれはッ!!!」

 

「んなもんは分かっとるわ。

ワシらのファミリアも、フレイヤ・ファミリアも罰を受けることを分かってでも協力すると決めたんじゃ。

それでもちっとは軽くなるためにと、報告する必要があるとこうしてきたんじゃろうが」

 

いきなり現れたロキ・ファミリアのガレスに誰もが驚きビビる中で真っ正面から対応しているのだが、正直こんな大物が目の前にいるだけでエイナもかなりビビっている。

 

それでも冷静にいられるのはそれは担当しているハジメがイシュタル・ファミリアに拉致されたからである。

正直なところハジメなら大丈夫だと思うが、相手はイシュタル・ファミリアである。フレイヤ・ファミリアのフレイヤが持つ"魅力"は無くともその美貌はどんな男も落としかねない。

 

しかしそれはそれとしてファミリアによる抗争はギルドにおいて禁止されている。もしあるとするなら以前行われた戦争遊戯をすることになっているのだ。もし勝手な行動によって抗争が始まるとするなら……

 

「だ、だとしてもギルドとしては見逃せませんッ!!!!!」

「あぁ。なら構わん。

報告はした、それだけじゃ」

 

そういって立ち去ろうとするガレスに「待ってください!」とエイナは引き留める。振り返るガレスに息を飲みながら

 

「……どうして他のファミリアである貴殿方がトキサキ氏を……」

 

「それだけの価値がある男。ということじゃ。

それはお主も分かるはずじゃと思うがな」

 

するとエイナは決心したような表情でガレスに向き合い

 

「……トキサキ氏を、ハジメ君を、よろしくお願いします……」

「あぁ。任せとけい!!」

 

真っ直ぐに正した姿勢からお辞儀をして、ギルドではなく、個人的にガレスにお願いをした。何も出来なくてもその言葉だけでガレスは満足したのかその場を後にした。

 

…………………………

 

「なんやドチビ。戦力はそれだけなんか?」

「五月蝿いなッ!!!これでも集めた方だよッ!!!!!」

 

そこにいたのはヘスティア・ファミリアからヴェルフ・リリ・命。タケミカヅチ・ファミリアから桜花・千草。ヘファイストス・ファミリアからは椿。ロキ・ファミリアからアイズ・ベート・リヴェリア・フィン。そしてフレイヤ・ファミリアから"最強"と呼ばれるオッタルがこの場にいるのだ。

 

「ここで最強と呼ばれるオッタル殿に会えるとは光栄じゃ!」

「……………」

 

「やめろ椿ッ!!!目的は同じだが馴れ合う感じじゃないぐらい分かるだろうがッ!!!」

 

「五月蝿いのヴェル吉は。ちょっとした挨拶じゃ」

「頼むから大人しくしててくれよ……」

 

怖いもの知らずなのかあのオッタルに話しかける椿に、急いで引っ張って連れ戻したヴェルフ。同じようにリリ達もハラハラとしてここで何か始まるんじゃないかと恐怖さえ覚えた。

 

「ごめんなさいね。オッタルは少し人見知りなの。

それに私達は直接イシュタルに会いにいくわ。ロキもヘスティアも一緒に行くんでしょう??」

 

「読まれてたか……あぁ、いくで。こっちはフィンをつける」

「ふふふ。まさかそちらもトップを出すなんてね……」

 

「敵地に乗り込むんや。これぐらいはいるわ。

そっちとこっちが入ればヘスティアのほうは出さんでええやろ?」

 

「もちろん」

「聞いた通りや。ヘスティアはハジメ奪還に戦力を使えばええ」

「あぁ。よろしく頼むよ」

 

後はヘスティア・ファミリアの戦力が全て揃えばと思っているとこちらに向かって走ってくる人影が……一気に駆け抜けて抜き去っていった。

 

「……おいおい。さっきのは……」

「はい。間違いなくリュー様です」

 

「あっ。ベルさんですッ!!!」

 

そのあとを追いかけるように走ってきたのはベル。

こちらも全速力で走っているのだろうが、さっき駆け抜けたリューのスピードには全く追い付かなかったようだ。

 

「お、お待たせしました……」

「ベル様。さっきのはリュー様でしたが……」

 

「た、体力が切れる前にポーションで回復させながら…常にトップスピードで走って……追い付きませんでした……」

 

「後先考えずにやっとるな~。

まぁ、ハジメが捕まったんや。動揺せんほうがおかしいな」

 

…………………………

 

「お、おい……なんだアレ……」

「こっちに向かってくる、わね……」

 

逃げ出したベル・クラネルを探しているイシュタル・ファミリアのアマゾネス達。出入口付近で見張っていたのだが一向に見つからずにどうしようかと悩んでいたところであった。

土煙が上がるほどのスピードで迫ってくる何か。

それが人影だと分かったアマゾネス達は武器を取り警告した。

 

「これ以上来るんじゃないよッ!!!」

「いまはここに誰も入れ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の、邪魔を、するな」

 

一瞬の内に懐に入られ、その声を聞いた時にはすでに彼女達の体は宙に浮いていた。

気付かれない内に、持っていた武器で吹き飛ばされていたのだ。

そしてそれを理解したのは気絶して二時間後の話である。

 

…………………………

 

「来てくれて嬉しいわ」

「そうですか。僕もお話したかったので」

 

ハジメの目の前には妖艶な姿をした神イシュタル。

普通の男なら同じ部屋の中、至近距離にいられたら恐れ多い神だとしても、その人間の、動物的な性的本能に抗うことは出来ずに押し倒しそして行為に及ぶだろう。

 

しかし目の前にしても一向に変わらないハジメの態度に内心動揺するイシュタル。そしてそれと同時にハジメが欲しいという欲求と高揚感に包まれていた。

 

「私の美貌に靡かないなんて……あの子と同じなのね……」

「ベルベルと一緒なんて心外です」

 

「同じファミリアなんじゃないの?」

「だからといってヘタレベルベルと一緒してもらいたくないですね」

 

「へぇー。ならヘタレじゃない貴方は私を……楽しませてくれるのかしら?」

 

ゆっくりと、ゆっくりと、近づく。

焦らして焦らして、向こうから飛び付くように。

いくら欲求に耐えようとも全快で攻めてくる"美の女神"に抗うことなんて出来ない。

 

骨の髄まで魅力し、行為が終わったころには、指一本動かすにもイシュタルの指示がいるほどに……

しかしハジメの顔色は、いや、眉1つ動かさない。

これはあまりの魅力に体が動かなくなるほどに心奪われたのか、それとも……

 

真相が分からないとイシュタルはゆっくりとその手をハジメの顔に………

 

 

カンッ!!カンッ!!カンッ!!!!

 

 

突然鳴り響く鐘の音に引き戻されたイシュタル。

そしてそこで()()()()()()()()()()()()()()()()()()

いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()と疑問に思った瞬間に一気に全身から寒気と冷や汗を感じ取った。

 

(い、いま…何をしようと、したッ!!?

……私はこの子を、み、魅了しようと………

それなら…どうして………音が聞こえるまで()()()()()()()ッ!!?)

 

無意識にやろうとしていたことに動揺したイシュタルは一歩、二歩と後退をする。

それを見たハジメは首を傾げながら

 

「どうしましたか?顔色が悪いようですが」

「き、貴様……私に、何をしたッ!!!!!」

 

「何もしてませんけど…」

「嘘をいうなッ!!!神である私に嘘なんて………ッ!!!??」

 

そう。ハジメは嘘をついていない。

何もしていないのだ。何も。

それなのにまるでイシュタルがハジメに"魅了"されたような…

 

そのことが頭を過った瞬間、急にハジメの存在が怖くなり、そして自分が、女神である自分が、魅了しようとした自分が逆に落とされかけたことに恐怖し始めた。

 

「な、なんなの…何者なの……お前はッ!!?

こんなものにフレイヤは…手を出そうとしているというのッ!!!?」

 

「こんなものとは、失礼ですね」

 

全く底が見えないハジメにイシュタルは完全に怖じ気づいた。

そしてそんな二人がいる部屋に突然イシュタルファミリアのアマゾネスが慌てて入っていた。

 

「た、大変ですッ!!!」

「な、なんなのいきなりッ!!!!!」

 

「す、すみませんッッ!!!!!!

し、し、しかし、いまこの歓楽街に侵入者がッ!!!!」

 

「侵入者ぐらいでこの部屋に……ッ!!!」

 

許可もなく入ってきたアマゾネスに、さっきから溜まりに溜まっていた不安や恐怖などのストレスを発散させようと、その手をアマゾネスの頬に……

 

「たった1人のエルフに街が壊滅状態なんですッッ!!!!!!」

「な、………な、なに………」

 

あり得ない言葉に耳を疑うイシュタル。

すぐさま街が見える窓に移動して外を見るとそこには

 

「……な、なんなの……これは………」

 

華やかで、活気に満ち溢れていた街は、叫び声と、真っ赤な炎があちこちで見られ、冒険者の、男共の楽園と呼ばれる街は、戦場と化していた。

 

「それに、あの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!()!()!()!()!()

 

「……は………は………」

 

今頃になって、気づいた。

自分がとんでもないものに手を出したのだと……

しかし時既におそい。街は壊滅状態。

そして自分は、手を出そうとしたものに、逆にやられそうに……

 

それを理解した瞬間に味わったことのない恐怖感が体を駆け巡り、みっともなく転んで倒れて、それでも立ち上がりながら、瞳に涙を貯めて声にならない奇声をあげながら逃げ纏うように部屋から逃げ出した。

 

「い、イシュタル様ッ!!!!!」

 

突然のことにアマゾネスは驚き動き出すのに遅れたがすぐさま追いかけた。そして残されたのはハジメだけ。

 

「なるほど。やっぱりリューを怒らせるのだけはダメですね」

 

うんうんとこんな状況でも冷静に判断し、暴れているリューを止めようと部屋から出ていったハジメ。

メラメラと燃えゆく街並みと()()()()()()()()()()()()()が二度と誰も戻ってこないだろうという静けさが残った。





リューの愛の無双とハジメの無自覚巻き込み無双。
イシュタルファミリア、死す。
まだ本格的な戦闘もしてないのにね(笑)



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影が薄い。それは時に、一波乱起こすことになる。



どうも。
なんとか年内に更新間に合いました!!
さてさて、どうぞお楽しみに下さい!!!どうぞ。





「こ、これは……」

「暴れまわってますね…」

「いいか。お前ら。あの人の前でハジメを敵に回すなよ」

「り、リューさん……」

 

ベル達が歓楽街に来てみればすでに街は大惨事になっていた。

建物は崩壊し、燃えあがり、そして複数のアマゾネス達は倒れている。

これをたった一人で、リューが一人でやってのけたのだ。

 

「……確か、あのエルフは……」

「ミア母さんのいる店の従業員だ」

 

「どっかのファミリアに入ってる。わけやないな…」

「今は詮索はしないほうがいいだろう。それよりも……」

 

「せやな。フレイヤのやつ勝手に行きよって……

いくでドチビ。イシュタルに引導を渡すんやろ」

 

「あぁ、その通りだ。ベル君、くれぐれも気をつけてね」

「はいッ!!!」

 

ここでヘスティア達はイシュタルの元へ。

ベル達はハジメ救出と春姫の奪還へと向かう。

 

………………………

 

「なんだいッ!!一体何が起きているんだいッ!!!??」

 

フリュネはイシュタルからベル(おこぼれ)を貰おうと向かっている最中だった。突然街の方から轟音が聞こえ次々に街が赤く染まっていくのだ。

 

原因が分からないいま、フリュネは近くにいたアマゾネスに聞くが

 

「分かりませんッ!!風が吹いたと思ったら次々に仲間が倒れて……」

「ふざけた事を言ってるんじゃないよッ!!!!」

 

そのアマゾネスに手を上げようとする瞬間、別の者が現れフリュネにこう進言した。

 

「た、大変ですッ!!!

ロキ·ファミリアとフレイヤ·ファミリアが襲撃してきましたッッ!!!!!!」

 

「なっ!!!!??」

 

流石のことにフリュネも驚きを隠せない。

しかしすぐさま表情を変え、ニヤリと笑いながら

 

「いい度胸だね。ここに足を踏み入れることがどういうことか教えてやるよッッ!!!!!」

 

…………………………

 

「……春姫。言い残すことはないかい??」

「いえ。あの人に会えましたから。それだけで……」

 

「………そうかい。始めるよッ!!!」

 

街が炎に包まれようともアイシャは儀式を始めようとしていた。

これはイシュタルからの命令。逆らうことなど出来ない。

いくら街が焼かれようが、これから手に入る力があれば何度でもやり直すことは出来る。

 

それが春姫の命を捧げることになるとしても。

自らの意思でそれを止めることは出来ない。

そう、これを止める英雄が来ない限りは……

 

「春姫さんッッ!!!!!」

「ッ!!? ベル様ッ!!!!!」

 

「来たかいリトル·ルーキー」

 

ベルを初め、リリ、ヴェルフ、命など春姫を助けるために集まったメンバーがそこに来ていた。

それを見たアイシャは周りにいるアマゾネス達にアイコンタクトで指示を出しベル達に襲いかからせた。

 

ベルもそれに対して戦闘態勢をとるがヴェルフが片手をベルの目の前に上げて

 

「コイツらは任せろ」

「ですね。ベル様は春姫様を」

「お願いいたしますベル殿」

 

「分かりました!お願いしますッ!!!」

 

アマゾネスの攻撃をくぐり抜け、それを追いかけようとする者達をヴェルフ達が阻止する。

 

「わりぃが行かせねぇよッ!!」

「貴女達にはリリ達の相手をしてもらいますッ!!!」

「ご覚悟をッ!!!」

 

戦闘が始まり残されたのは儀式に捕まった春姫と、それを守るアイシャ、そして春姫を助けるために立つベルだけだった。

 

「……そこをどいてください」

「できないね」

 

「春姫さんを失うことになるんですよ」

「その代わりに力が手に入る」

 

「そんな力、僕は認めないッ!!!」

「認めなくてもそれがいるんだよッッ!!!!」

 

言葉を交わしても平行線で、どちらかが譲ることはない。

決めるには、戦って倒すしかないのだ。

 

「来な、リトル·ルーキー。春姫が欲しいならね」

「……春姫さんを、助けますッ!!!!」

 

…………………………

 

「はぁ……はぁ………はぁ……」

 

何処に逃げているのか……それさえも分からなくなっていた。

ただフレイヤが気にしていたものが欲しかった。

美の神である自分よりも、フレイヤがもてはやされているのが我慢できなかった。

 

だからここにベル·クラネルが来た時は心が踊った。

そしてそれに釣られてトキサキ·ハジメも来たことに歓喜した。

ハジメは先の戦争遊戯でとんでもない力を見せた。

欲しかった。フレイヤに取られる前に奪いたかった。

 

だから魅了し、身も、心も、全て自分の物にしようとした。

 

だというのに……………なんだ、アレは……

 

魅了が効かず、さらにいつの間にか、自らがハジメを求めていたなんて………

そしてあの目の奥に潜む、何か………

 

(あんな…あんな化物………何を考えてるのフレイヤはッッ!!!!)

 

間近にしたからこそ知った。ハジメの奥底にあるだろうナニかを。

女神である自分でも全く分からず、ただ恐れるものを……

 

「…手を、出しては、いけなかった……アレは……アレは……ッッ!!!!」

 

ロキ·ファミリアやフレイヤ·ファミリアが攻めてきたという恐怖なんかより、もっと恐ろしいものをみたイシュタルの頭の中にはそれ以外の事は考えられなかった。

 

だから………気づかなかったのだろう。

階段一段の差に迫るまで、目の前に立つ者に。

 

「ッッッ!!!!!??」

 

気づき驚き反射神経により後退しようとしたその体。

しかし体と頭の反応とは別に、その場から動けなかった。

動かせるのは首から上だけ。そしてその目には写っていた。

 

()()()()()()()()()()がそこに現れた。

 

「な、なんだ貴様は……ッッ!!!!?」

「それは、貴女が気にすることではないわ。

そして、もう何も、()()()()()()()()()()()()()()

 

………………………

 

「さて、騒ぎが大きいほうに向かうべきなんでしょうけど…」

 

すぐにでもリューの元へ向かいたい。

そんな気持ちが溢れているのに、どうしても気になることがある。

胸騒ぎというべきか、何かが、呼んでいる気がする。

 

そんな曖昧なものに振り回されずにいけばいいのだが、そのちょっとした考え込む時間のせいでハジメはリューとの再会が遠くなってしまった。

 

「こんな所にいたのかい」

「………あっ」

 

そして嫌な人に(ヒキガエル)に会ってしまった。

見てるだけでも気持ち悪いという、ある意味奇跡的な人物を目の前にしたハジメは

 

「さようなら」

「おいッ!!!!?どこに消えたッ!!!??隠れるんじゃないよッッ!!!!!」

 

初めて、このスキルに感謝したハジメだった。

 

…………………………

 

「ガバッ………ハァ…ハァ……」

「へぇ。神様って頑丈なのね」

 

イシュタルの全身はボロボロになっており、着ていた服ももう大事な部分だけが隠れているだけの布切れと化していた。

 

「自分が、何をやっているか……分かっているのッッ!!!?」

「まさか、神様だから。なんて言わないでよね」

 

「絶対に許さない……天界に返させられてもお前をッッ!!!!」

「そう。それは面倒ね。でも……」

 

イシュタルがその神の力を使おうとしたのだろう。

しかし何も起きない。

それにイシュタルは何が起きているのか分からなかったがすぐに再度試そうとするが何も出来ない。

 

「ど、どうしてッッ!!!!??」

 

「神様は、万能。なんて思っていたのかしら??

いまの貴女はただの人にしか過ぎないのよ」

 

そういいながら手を横に振るうとイシュタルの両腕が裂けた。

激痛に悲鳴をあげながら倒れ込むイシュタルに近づくフードの者。

 

「…あ、あぁ……ああぁぁぁ……ッ!!!」

「まさか、神様が命乞い??無様ね……」

 

ハァとため息をつきながらもゆっくりとその手をイシュタルへ向ける。もう恐怖しかないイシュタルには逃げることも逆らうことも出来ずに、ただ涙を流しこれからくるだろう死を受け入れるしか………

 

「なにを、しているのですか??」

 

その言葉に、手を止めるフードの者。

そしてその言葉がする方に視線を向けるとエルフがそこにいた。

 

「……貴女……」

「お見受けしたところ、その方は神様ですよね。

……その神様に、何をしようとしていたのですか??」

 

自分の最も大切な人を探しに、助けにきたエルフ。

どんなことがあっても優先して向かわないといけないのに、それを見てしまったエルフは立ち止まるしか無かった。

 

(…ここで、見過ごしたら……あの人に顔向けできませんね……)

 

気持ちの問題なのかもしれない。

しかしその大切な人の前では嘘を、薄情な者でいたくなかった。

 

たとえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

止まらない冷や汗、緊張でなかなか動けないエルフに

 

「そう……そうなのね……」

 

ふふふ。と、静かに笑い出したフードの者は徐々に声を大きくしていき、そして

 

「ア、アア、アハハハハハッッ!!!!!

まさか!!まさかこんなところで会うなんてッッ!!!

これこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()ッッ!!!!!!!」

 

周りを気にせずに高笑いするフードの者。

一体なにがあったのか分からないが今のうちにと

 

「…早く、ここから去ってください……」

「お、お前は……」

 

「私のことは気にせず。

それに貴女には()()()()()()()()()()()()()()()()()

ハジメを、私の大切な人に、手を出したのだから……どんな人でも、例え神でも………私は、それを許さない」

 

ハッキリとイシュタルの目を見て、殺気に似た凄みを乗せて圧力をかける。何者か知らないイシュタルは、目の前のエルフ、リューに怯えて切られた手をだらりとさせながらも必死に逃げ出した。

 

その間にも笑っていたフードの者は、リューが深呼吸して落ち着きを取り戻すまで笑い続けていた。そしてピタッと笑いを止めて視線で殺すかと思うぐらいに睨みながら

 

「……そんなに、そんなにも、たっぷり……許せないわ……」

「なにが、ですか??」

 

「……長い時間をかけたのよ。圧倒的な"孤独"を。

見えたとしても、その心は、ずっと孤独だと……

なのに、今のあの子は、"幸せ"しか感じない……」

 

何を言っているのか分からない。

分からないが、一つだけ、分かった。

このフードの者は、明らかに、"敵"だということ。

 

「………ふざけないで……

あの子は、孤独だからこそ、強さを得たのよ……

貴女がいるからあの子は弱くなった。だから…許せないわッッ!!!!!」

 

その瞬間に、周りが全て、()()()()

火も、煙も、空気も、空間も、全てが時を止めた。

まるで、ハジメが使う"一時停止"のような……

 

「これ、は、一体……」

「やっぱり、貴女には、効かないのね…」

 

しかし停止した世界で、リューは動いていた。

フードの者から見える範囲が止まった世界でたった二人。

 

「ますます、気に食わないわ…」

「誰かは、知りませんが……ハジメの敵なら、容赦しません」

 

改めて戦闘態勢を取るリュー。

そしてハッキリと、ここで、フードの者は、敵であることを告げるのだった。

 

「容赦しない??それは、私のセリフよッッ!!!!

あの子は、私の物なのッッ!!!!誰にも、あの子は、あげないわッッ!!!!!!」






さて、この者は誰なのか??
この章で明らかに!なるといいな(笑)
なので、皆さんお楽しみにね〜!!


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影が薄いためにあれやこれやの出来事に関わらない。



どうも。
当作者の小説三本立て!!!
というか、本当にお久しぶりです。
すみませんね更新遅れまして……

そしてハジメはまだ出てきません(笑)

次のアニメが始まる前にはこの章を終わらせたいですねー
………出来るかな(笑)では、どうぞ。





「……な、なんなの…何なのよ…一体……ッ!!!??」

 

ボロボロの身体にムチを打ち遠くへ逃げようと移動するイシュタル。さっきからずっとどうして!どうして!と疑問の嵐で頭の中がいっぱいになっており、自分がいま何処を歩いているのかさえ分っていない。

 

簡単に墜ちるはずだった。

フレイヤの負け顔を見るつもりだけだった。

美の神は私一人で十分だと思い知らせるつもりだった。

なのに、ただ、それだけなのに……

 

あの男に少し手を出しただけで歓楽街は崩壊寸前。

恐らく自分の子供達も多くが倒されただろう。

そしてどういうわけか自分のこんなにボロボロになっている。

 

後悔してもしきれない……

とにかくいまはここから逃げようと動いているが

 

「………なんや、お前……それ……」

「!!?イシュタル!!どうしたんだいそれはッ!!」

 

ここにきて見つかりたくない者に出会ってしまった。

ロキにヘスティア、そしてその後ろにはフレイヤ。

そしてロキファミリアのフィンとフレイヤファミリアのオッタル。

 

「随分と、やられたようねイシュタル」

「フレイヤ……ッ!!!」

 

恨みを、憎しみを、怒りを込めたような表情でフレイヤを睨むイシュタル。()()()()()()()()

そうイシュタルがフレイヤを毛嫌いしていたことは誰もが知っていた。だから誰もがそんな反応をすると思っていたのだ。

しかしイシュタルの表情は驚きはあるが、それ以上変わることがなかった。その怪我と何かあるのかと思いフレイヤは

 

「でもその様子だとあと一撃かしら?天に帰るのは」

「…………んなの………」

 

しかしフレイヤの嫌味にも聞こえる言葉を無視してボソボソと何かを言い出したイシュタル。誰の耳にも届かないその声は恐怖という感情により爆発し

 

「何なのよアレはッッ!!!!!!

あんなのがこの外界に存在していいわけがないわッ!!!!!」

 

突然の激怒。それもそれはフレイヤに向けられたものではない。きっとそれはイシュタルにその怪我を負わせた相手。

 

「ちょっ、ちょっと落ち着けや………」

「あの男を狙ったのが悪かったのよ……じゃないと、あんな化け物がこんな………」

 

「化け物……ちょっい待ち!イシュタル!!そいつはッ!!!!」

 

「……ここにいたら殺される……壊されるわ……いや、いやあああああああああああぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!」

 

突然発狂し何かから逃げるようにフレイヤ達から離れていくイシュタル。しかしその先、壊れた建物の瓦礫が頭上から………

 

「イシュタルッッ!!!!!」

「……もう、いや………」

 

確かにヘスティアの声は届いた。しかしもうこれ以上耐えられないと避ける行動を起こさずにそのまま落ちてきた瓦礫に飲まれてしまい、そしてその後にその瓦礫から眩い光が天へと登った。

 

「………ヘスティア、こいつはヤバいで……」

「みたいだね……すぐにベル君達と合流して撤退だ!!」

 

イシュタルの天界へ送られたという事実を前にしても、ロキとヘスティアの思考はすぐに切り替わった。

そうしないといけない。判断を間違えると()()の可能性のある……

 

…………………………

 

「……あの、光は………」

「………はぁ…もうやめ。やめ……」

 

攻防につぐ攻防。

必死にしがみついたが決め手にならずにどうしようかと悩んでいた。フィンやガレス達から訓練されていたお陰で未だに立ってはいられるが……

 

アイシャはあの光を見たあと武器を捨てた。

その行動に警戒するベルはまだ緊張を解かない。

 

「どういうこと、ですか…」

「あれは、イシュタル様よ。繫がりが、切られたわ」

 

「分かるんですか?」

「神が天界へ戻ると同時にステータスが封印される。

このままやってもメリットがないわ」

 

つまりは………

 

「ベル様ああああぁぁぁぁッッ!!!!!」

 

飛び抱きついてきた春姫を上手くキャッチするベル。

涙を流しながら一生懸命に感謝の言葉を告げる。

それを見ていたアイシャは

 

「春姫。何処へでもいきな」

「アイシャさん……」

 

()()·()()()()()。春姫を泣かしたら私がアンタを殺すからね」

 

「はいッッ!!!!!!!」

 

…………………………

 

あらかたの戦闘は終わった。

イシュタルファミリアの負けとして。

しかし、そんなことは関係ないと未だに続く戦闘があった。

……………いや、ほぼ終わりを見せていた。

 

「……はぁ、はぁ、…………くっ!!」

 

見たことのない攻撃。魔法だったらどれだけ良かったか…

フードの者の周りには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(あれは、間違いなく……ハジメと同じ力……)

 

フードの者が指先でリューの方へ向けると浮いていた物が一斉に襲いかかる。ビンや石、鉄くずやブロック、人や生き物、テーブルから建物まで………

 

フードの者がリューを追い詰めている時に無作為に吹き飛ばした物が全て宙で止まっているのだ。さっきまで上級冒険者と並ぶ力を持つリューをまるで稽古をしているかのように実力を隠したまま襲いかかっていたフードの者。普通に戦闘するだけでも追い込まれていたのに、ハジメと同じ力を持っているとなると………

 

(不用意に魔法が、使えない…ッッッッ!!!!)

 

魔法を使えばきっとそれも止められ、そして利用される。

同じ力を持つ者ならきっとそうするに違いないと。

だがそれでも、力の差は歴然であった。

 

「いつまでも避けれるとでも思っているの」

 

かわせるものはかわし、捌けるものは叩き落とし、なんとか最小限で飛んでくるものを避けていたが、最後の大きな壁を切り落とした先に炎が目の目の前に迫っていたのだ。

 

(やはり!保存していた魔法ッッ!!!!!!)

 

ハジメもリヴェリアの魔法を保存していたことを知っている。だからもしかしてとは思っていたが、目の前にきた魔法を避けるほどの時間はなかった。

 

とっさに杖を前に出して防御を図るが、そんなものは些細なもの。あっという間に炎に飲み込まれそのまま後方へ吹き飛ばされた。

 

「グッ!!!」

 

壁に激突し意識が飛びそうになるのを唇を噛み意識を保つ。

そうしないと次の攻撃がよけれそうになかったからだ。

目の前には全方位からの薄い物体が回転しながら飛んできている。

 

これもハジメが使っていたトランプに回転力を加えて一時停止させて、それをさらにまた回転させた後に一時停止停止を解除することによってのハイスピード。鉄も切り裂く兇器の完成である。

 

めり込んでいる壁を壊し、その壁の一部を投げつけた。

しかしそれはすべて切り裂かれてしまったが、その分回転力が落ちたことにより、リューの力でも叩き落とせる事ができた。

 

しかし、それをただフードの者が見てるわけがない。

 

「そこ、アウト」

「しまっ!!」

 

これも知っていた。

なんでもない箱のような物の中に凝縮された魔法が閉じ込められていることを。そして指をパチンッと鳴らすと一時停止が解除されて………

 

「ぐあああああぁぁッッ!!!!」

 

まともに魔法を喰らったリューの身体は宙を舞い受け身を取れずに木箱へと落下した。

フードの者ははぁーとため息を付きながらリューの方へと歩きながら

 

「ダメね。まるでダメ。あの子の使う物をやっただけよ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()やはり貴女じゃあの子の隣に置かせることなんてありえないわ」

 

ふふふ。不敵に笑うフードの者に違和感を感じたリューは

 

「どうして、どうしてそこまでして…」

 

「なに。あの子に執着するのかとか言いたいの??

言わせれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()これは私とあの子の問題」

 

「ならば!!どうしてまた一人にさせようとする!!!!!」

 

そう。そこが分からないのだ。

どうみてもこのフードの者はハジメに執着している。

しているのにどういう訳かハジメを孤独にさせようとしている。

それが分からないのだ。大切に思うならそんな……

 

「するに決まってるじゃない。()()()()()()()()()()()()()

 

「な、なにを……言っている…………」

 

「知らないの??強く気高いある動物は自分の子供を崖へと落とすのよ。それはこれから先の未来を生き抜くために。つまりはそういうこと。この先の未来を絶対に生き残るためにどんな犠牲を払っても強くなってもらうのよ

 

うっとりと、まるでそれが幸せのような表情で語る。

表情は見えない。見えないのにその声が、動作がそのように見せてくるコイツは

 

明らかに、狂っている!!

 

だから悲鳴を上げている身体を無理矢理言うことをきかせて立ち上がりフードの者に向かって

 

「よく分かりました。貴女はハジメに近づけてはダメだと。

ハジメの隣に立つのは私だ。

 

「言ってくれるじゃない。貴女を消してハジメを私の元へ戻すわ








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影が薄いことをここで後悔しないように。



どうも。
久々の投稿です。
いやー年終わり前に書けて良かったです!!!!

それとこの小説を読んでる皆さーん!!
僕が書いている"ONE PIECE"ですが誤って全削除してしまいました。いまはバックアップにより復活してますのでどうか見てくださいねーー!!!!!

というのも書きたかったので投稿した。なんてことはありませんよ(笑)

ではでは、どうぞ。





「こいつは、一体何なんだい……??」

 

アチラコチラと火の手が周りフリュネはその中で一番面白いと感じた場所向かっていた。しかしどこもかしこも外れ。その間に春姫はベルの元へ、神イシュタルは天界へ帰ったのだが、今のフリュネには()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

強い男。

勘だが近くにいると踏んだフリュネはこの辺りを探していたのだが、突然建物が吹き飛び地面は荒れ、幻想的だったあの遊郭は見る影を無くした。

 

その元凶となるのはフードを被った何者かと、傷を負っているエルフの戦いだった。

主にフードを被った者の攻撃が辺りを破壊しエルフはそれを避けているのだが、その一つ一つの攻撃が見覚えのないものばかり。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()·()()()()()()()()()()·()()()()()

 

「ッセイ!!!!!!」

 

近くの瓦礫を持ち上げまずフードの者に投げ、次にエルフの女に投げつけた。もちろんそんなもの簡単に避けたがフリュネはこっちに意識を持ってもらえれば良かったのだ。

 

「…………貴女の、仲間ではないようですね」

「そっちも違うみたいね」

 

「アンタ達に聞きたい事があってね。割り込ませてもらったよ」

 

全く悪切れもないフリュネはニヤリと笑いながら

 

「そっちのエルフ。アンタがコレを起こしたんだよね??」

「………だとしたら」

 

「その目、男を探してるね。どんないい男なんだい??」

 

フリュネの頭には男を()()()という欲求しかない。

それもこうして戦いをやっているのが、あの目が、強く強く、愛しい人を求めていると分かる。

 

腐ってもフリュネもこの娼婦街にいる人間。

男と女のことは手に取るように分かるのだ。

 

「それにそっちのフードの奴も、同じだね。

もしかして同じ男で争ってるのかい??いいね、とびっきりの男みたいだ!!!」

 

舌なめずりをするフリュネ。

もう完全にフリュネは二人の男が欲しくて、欲しくて、たまらなくなっている。さっきまでベルやハジメを求めていたのに、どうも目の前で起きていることがとてもとても甘美だと感じているのだ。

 

「あぁ〜美味しそうだ!!そんな男を骨の髄までしゃぶり尽くして再起不能になるまでたっぷりと……ッッッッ!!!!!??」

 

その瞬間、フリュネの頬に何かが当たり皮膚が切れた。

通り過ぎたのは何の代わり映えのないただの紙。

その紙が瓦礫に刺さるとまるで花が絞れるようにしなった。

 

それに気づいたフリュネはそっと自分の頬を触りそこから血が、傷がついたことを確認したところで顔が一気に真っ赤になり

 

「こ、このアマがああああああぁぁぁぁッッッ!!!!!!!」

 

怒りにまかせて突撃しようとするフリュネ。

しかし、フリュネが気づいたときには目の前に杖が

 

「ゴブッ!!!!!」

 

顔面にクリーンヒットしたフリュネは無様に倒れる。

鼻から大量の鼻血を出しながら醜く暴れまわる。

それを見下ろすリューが

 

「どうやら貴方を先に倒す必要があるみたいですね」

「さっさと終わらせましょう。次は貴女なのですから」

 

………………………………………

 

「ベルッッ!!!!」

「ベル様ッ!!!!」

 

春姫をつれてリリとヴェルフと合流。

周りのアマゾネス達もベル達が勝ったも理解し戦いを止めたのだ。

 

そして一番再開したかった命と春姫は互いを抱きしめ合い再会を喜んでいた。

 

「良かった……本当に、良かった……!!!」

「………会いたかったのです………ッッ!!!!」

 

感動している二人だがいまだにここは敵の領地。

早く脱出しないと何が起きるか分からない。

それにいまだにハジメを見つけていないのだ。

 

「感動は後だぜお二人さん」

「そうです!!早くハジメ様を見つけないと!!!!」

 

そう意気込んでいるリリとヴェルフに対して、何故か一番やる気を見せていたベルが何も言わずにいる。

それを不思議と感じたヴェルフがベルの肩を叩きながら

 

「どうしたベル。早くハジメを……ッッ!!!??」

 

するとベルの表情が険しくなっているのを見た。

まるで恐怖なものを見たようなそんな表情を……

 

「ベル様!!!??」

「どうしたんだベル!!!何があった!!?」

 

二人の呼びかけに気づいたのか、短く激しく息をしているのを落ち着かせようとするベルの様子は明らかにおかしい。

周りは何も起きていない。なのにこんなにも怯えているなんて………

 

すると震えた唇を必死に動かしながら

 

「……か、感じ……ないの………?? 」

「な、何をだ………」

 

「………あの時、の………あの……」

「………ベル様!しっかりしてくださいッッ!!!!」

 

流石に命も春姫もそんな様子をみて心配してベルの近くに来てみると確かに見たことないほどに怯えているのだ。

 

「一体何が……」

「わからねぇ……だがコイツはヤベェってことか……」

「何が起きているんですか………」

 

状況が理解出来ずにいるなか、やっと落ち着いてきたベルが

 

「……ここ、この場所に、います……」

「何が………」

 

「あの……フードの者です………」

 

「「ッッッ!!!!!??」」

 

それを聞きて驚愕する二人。

しかし未だにピーンと来ていない命と春姫だが表情が変わった二人を見てとんでもないことが起きているということだけは分かった。

 

「そ、そんな……ダンジョンの穴へ落ちていきましたよねッッ!!!!!」

「生きていたのかよッッ!!!!………おい、ちょっとまて!!ならッッ!!!!!」

 

「…………ハジメが、危ないッッッ!!!!!」

 

……………………………………

 

「あ"ぶげざぇッッ!!!!!!」

 

聞いたことのない声を上げて倒れるフリュネ。

それはフードの者が放ったある一撃によるもの。

攻撃動作も勢いも覇気もなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それを見てリューは気づいた。

ハジメがもっと使う攻撃だと。受けた攻撃を一時停止して、それを相手に向けて解除する攻撃。

 

ゴライアスなどの一撃さえも、上位の魔法でも全てを止めてしまい自分の攻撃にしてしまう反則といっていい攻撃を知っている。

 

「言っておくけど、これは()()()よ」

「…………………………」

 

「一時停止がそれだけの攻撃なわけがない。

もっと最近になってやっと1つ覚えたようだけど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()??」

 

どうしてそんなことを言ってくるのか……

その答えがすぐに、分かった。

 

「こういうのは、見たことないかしら??」

「ぐうぅっ!!!!」

 

突然左肩に激痛が走る。

気づくと左肩に何かが貫いていたのだ。そこから血が溢れ出している。

攻撃された動作が全く見えなかった。ただ分かったのが肩に攻撃された瞬間にフードの者から何かが一直線に飛んできたこと。

 

「いえ。()()()()()()()()()()

これはそういう類のものだから」

 

「なにを、した……!?」

 

「この世で最も速いものって知ってるかしら??

それは"光"。それを一つに纏めただけのものよ」

 

そういって今度は右脚の股を撃ち抜いてきた。

堪らずリューは膝をついてしまったが素早く股を布で止血し、杖を使って立ち上がった。

 

相手に隙を見せたら、簡単にやられると本能が告げている。

 

「光は鏡やガラスといったもので反射や軌道が変わるの。

ガラスは光を通すけど、歪曲なガラスならその光を広げたり1箇所に集めたり出来る。言っていること分かってるかしら??」

 

聞いていても何の事かは分からない。

分からないがリューの知らない知識で相手は攻撃していることはすぐに分かった。

 

「そしてその光はどこにでもある。一番は太陽かしら。

そしてその光を1箇所に集めれば高熱を帯びた光の攻撃の完成って訳ね。それをこうして………」

 

また攻撃をされた。今度は杖を折られてしまった。

そのためにまた地面に膝をついてしまったリューはすぐさま折れた杖を両手で握り牽制をする。

 

「一時停止して好きなときに解除すれば狙うだけで一撃必殺の攻撃が出来る。分かったかしら??()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そしてリューは気づいた。

自分の真上にその光が、待機していることに。

見えるわけではない。ただ本能が、経験が伝えてくる。

 

「さぁ、お遊びは終わりよ。消えてちょうだい」

 

真っ直ぐ指を自分に向けてくるフードの者。

抵抗したくともあんなに速く強い攻撃を受けることも逃げることも出来ない。

 

だから、リューは

 

「……………どうしてそんな目をしているの??」

「……………………………」

 

相手を見ることしか出来なかった。

しかしそれがフードの者には分からなかった。

 

「これから死ぬのよ。泣け叫びなさい。醜く命乞いしなさい。

そうすればもしかしたら助かるかもしれないわよ」

 

「…………いらない」

「…………はぁ??」

 

「そんな姿を、私はハジメに見せたくない」

 

そう、例えここで死ぬと分かっていても。

それでも惨めに最後を迎えるなんて真似はしない。

 

「何を言っているの………ハジメの何を知っているというのッッッ!!!!!!!???」

「私がハジメを好きだからだッッッ!!!!!」

 

「ッッ!!!!??」

 

「私がそうしたい。あの人の隣に立つ女ならそう有りたいと、()()()()()()()()()()()()()()

 

こんなにもハッキリ分かっている。

どれだけハジメが好きか。どれだけハジメを想っているか。

言葉に出来なかったことを後悔するが、それでもきっと幸せな時間だったと感じている。

 

「…………そう。そうなのね………

やはり、貴女は嫌いよ。私のハジメを奪った貴女は………ここで消えなさいッッッ!!!!!!!

 

振り上げた腕が一気に振り下ろされる。

それと同時に指が真下へ向けられる。リューの頭上にある光が落ちてくる合図である。

 

(……………………ハジメ………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな、愛の告白は。僕の目を見て言ってください」

 

攻撃された時も目は開いていた。

だけどその声がするまで全く見えていなかった。

どうして、どうして、こんなに近くにいたのに姿を現さないかと………

 

でも、そんなことよりも、きっと、ずっと、この言葉を、言いたかった。

 

「………好きです。好きなんですッ!!!!私はハジメが好きなんですッッッッッ!!!!!!!」

 

もう、何も怖くない。きっとコレを伝えたかったから。

ずっと、ずっと、言いたかった言葉。

きっと前にも言った事があったかもしれないけど、こんなにも心の底から伝える言葉はきっとないと…………

 

右手を空にかざし、光の攻撃を受け止めたハジメはフードの者の方には視線をやらずに真っ直ぐリューを見て

 

「ありがとうございます。僕もリューが、好きですよ」

 

 

………………その言葉を、きっと、ずっと、忘れない。







と。まぁ、なんかあまーーい感じになりましたね。
ちょっとツンデレなリューを素直にしてみたかったという。作者の願望が出てしまった感じです(笑)

いやーーーー。もっと早く二人が進展しないかなーー(笑)


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