インフィニット・ストラトス・アストレイ (ichika)
しおりを挟む

プロローグ

初めての方は初めまして、ご存知の方はお久し振りです、
インフィニット・ストラトス 光の彼方という作品を書いておりました、ichikaと申します。

この作品は私めの個人的な趣味により書かれています、
MSVの機体を主に出していくんで、知らない機体が多いと思いますが、
お付き合いのほど、何卒宜しくお願いします。


noside

そこは何も無い真っ白な空間だった。

上も下も分からない、手前の空間が、すぐ近くにあるのか、

それとも、地平の彼方に見えるものなのかも分からない、

いや、もしかするとその空間にはそのような概念が無いのかもしれない。

 

そんな摩訶不思議な空間に、二人の男がいた。

 

「何処だここ・・・。」

「何処だろうね・・・。」

二人の男は互いに顔を見合わせた後、盛大に溜め息をついた。

彼らは何故自分がこんな不思議な所にいるのか分からないのだ。

 

「取り敢えず自己紹介だ、俺は宮本零士、年齢は二十歳だ、

大学生やってる。」

「俺の名前は中田俊哉、歳は二十、専門学生やってるよ。」

「俊哉だな、よろしくな。」

「こちらこそよろしく、零士。」

 

どういう訳か、二人は自分達の置かれている状況を吟味するよりも先に、

なんと自己紹介をし始めた。

 

状況に動じない豪胆なのか、それとも、ただの鈍感か。

どちらにせよ、彼等の反応は異常だった。

 

「お~い、そこの君達。」

「「ん?」」

 

呼ばれた声に振り向くと、そこにはピンク色の髪をした女性が立っていた。

だが、何処か浮世離れしたようなイメージを持ち、

よく言えば人形のように美しく、悪く言えば人間には見えない。

 

「貴女は?」

「おや?申し遅れたね、私は女神だよ~♪」

「「・・・・・・・・・・・・はぁっ?」」

俊哉の質問に女性は答えるが、二人は長い間を置き、

頭可笑しいんじゃないのこの人、みたいな声をもらした。

 

「ちょっ!?酷くない!?リアル女神だよ!?もっと驚こうよ!?」

「ごめんなさい、変態はノーサンキューなんで。」

「俺も。」

「えぇ!?なんでそんなに引いてるの!?あ!冗談だと思ってるんだね!?

違うよ~!私は本当の女神だよ~!」

 

二人の反応に女神と名乗った女性は慌てて彼らの気を引こうとするが、

二人は溜め息をついてまるで信じていない。

 

「で?そんな女神さんが俺達に何のよう?」

「そうそう、それにここ何処なの?」

「ふふん、よく聞いてくれました!ここは挾間の世界、

君達が生きる世界と、死者が生きる世界の中間地点よ!」

「「・・・。」」

女神が話す言葉を今だ信じていないのか、

はたまた驚き過ぎて反応できないのか、二人は黙って話を聞いていた。

 

「で、君達をここに呼んだ理由はね、私が間違えて君達を殺しちゃったの、テヘッ♪」

「「・・・、はあぁぁぁぁっ!?」」

一瞬何を言われたのか分からない様子だったが、

その言葉の意味を理解した二人は、今回初めて驚愕した。

 

「俺達を殺した!?いやいや、冗談だろ!?」

「そ、そうそう!現にこうやって存在してるじゃないか!!」

「やっと驚いてくれたね、でも本当に貴方達は死んでるの、

思い出して、ここに来る前、何をしていたか。」

 

そう言われ、二人は自分達が何をしていたかを思い返す。

(俺はたしか・・・、街を歩いてて、

車に轢かれそうになった子供を助けようと飛び出して・・・。)

(俺は・・・、溺れそうになってた子供を助けようとして海に入って・・・。)

「「・・・、あ、死んだわ俺。」」

「ね?死んだでしょ?」

 

零士と俊哉は自分達が生前(?)した事を思い出し、

左手の掌を右手の拳で打っていた、しかもまったく同時に。

 

「ホントだ、俺死んだわ。」

「そうだね、俺も死んだね。」

 

はははと二人は揃って笑い、腰を降ろす。

 

「んで?女神さんよ、俺らが助けようとした子供達は、ちゃんと生きてるのか?」

「え?うん、君達のお蔭で無傷だよ?」

「そっか、ならいいや。」

零士の質問に答えた女神の言葉に、俊哉は満足気に頷いた。

 

訳が分からない女神は零士の方を見ると、彼もまた、

満足気に笑っていた。

 

「なんで笑ってるの?」

「ん?そりゃさ、助けようとした命が生きていてくれてるならさ、

俺が死んだことも無駄じゃなかったって事だろ?」

「そうそう、それに、もう死んじゃったんだから小さい事でも喜んでないとね。」

 

二人は笑い、満足と言う。

そんな彼等の反応に、彼女は驚いていた。

自らの死の原因になった自分を恨まず、

むしろ、他人の心配するその心に、深い興味をそそられた。

 

「気に入った!君達、お詫びに今から転生させるけど、

行きたい世界とか無い?」

「変なとこ気に入るんだな、アンタ。」

「行きたい世界ねぇ、ねぇ零士、ISの世界はどうかな?」

「おっ、それいいな、女神さんよ、行き先は二人ともIS世界でヨロシク!!」

「良いよ~♪任せといて~♪」

 

二人のリクエストに笑顔で頷き、女神は早速準備に取り掛かる。

「あー女神さんよ、図々しい頼みだが、俺達を兄弟、

それも、織斑にしといてくれないか?」

「零士が一夏で、俺はその弟、名前は・・・、秋良で!」

「全然オッケー♪あ、でもその代わり、付加する能力が四つから三つに減っちゃうよ?」

 

女神曰く、誤って殺してしまった人間を転生させる時、

四つの能力を付加する事が出来るが、容姿なども能力に含まれてしまうらしく、

今ので二人が得る事の出来る能力は三つに減ってしまうらしい。

「まぁそれには全力で同意したいな。」

「そうだね、能力がえげつなくても顔が残念じゃねえ?」

 

何だか色々と失礼な事を口走りつつも、二人は更なるリクエストを考える。

 

「そうだ!ISなんだが、俺の機体はスターゲイザーのスウェンが使ってた、

ストライク再生機を使わせてくれよ。」

「あ、いいね、あれ普通より色が暗いからカッコいいんだよね、

じゃあ俺はストライクルージュをISにしてもらおうかな?」

「良いよ~♪これで後二つだよ~?」

 

そう言われ、二人は更に考えを巡らせる。

恐らくストライクと、ルージュの基本ストライカーはI.W.S.P.になるだろうと予測し、

他にオプションとして何をつけるかを考えた。

 

「因みに一つのリクエストでつけられる能力って一種類だけか?」

零士は女神に質問をする。

彼が聞きたいのはいくつまでストライカーパックを付けれるか、

ただそれだけであった。

 

「君の言いたいことは分かるよ、そのストライカーパックだっけ?

基本は全部、と言いたいけど、それじゃあ能力付加が出来なくなっちゃうから、

君達が考えたI.W.S.P.以外で二つ選んでね?」

「二つか、なら俺はエールとランチャーで頼んだ。」

「じゃあ俺はソードとライトニングで。」

 

零士はバランスの取れたエールと遠距離用のランチャーを、

俊哉は近接格闘用のソードと支援用のライトニングをそれぞれ選択した。

 

「OK~♪後一つ、何か考えてね~♪」

「と言われてもなぁ、思い付かねえ。」

「そうだね、なんか無いかな?」

 

二人は互いに首を捻って考えるが、なかなか良いものが見つからない。

(IS世界で固有結界とか使ったら完璧チートだし・・・。)

(かといって頭脳面強化しても意味無いし・・・。)

 

暫く唸った後、何か閃いたのか、二人揃って女神を見る。

 

「取り敢えずカナードみたいな、

スーパーコーディネーター並の反射神経と運動能力をつけといてくれるか?」

「良いよ~♪」

女神はその美しい顔に喜びと興味を浮かべつつも、

二人の周りに何やら光る粉の用な物を振り掛ける。

 

「ささっ!準備が出来たよ~♪」

女神の言葉に、二人は表情を引き締める。

 

「さてと、宮本零士はこれで本当に死に、織斑一夏として生まれ変わる。」

「中田俊哉は死んで、織斑秋良になる、か。」

二人は笑いながら肩を組み、拳をぶつけ合う。

 

「行こうぜ秋良、俺達の新しい人生へ。」

「あぁ、着いてくよ、兄さん。」

「それじゃあ、行ってらっしゃ~い♪」

 

光が強く輝きを放った直後、二人の姿は霞の如く消えた。

 

一人残った女神は、先程までの笑みを消し、

何かを憂うような表情をする。

 

「貴方達につけた能力は、かなり強力だけど、

それを見つけるのは、貴方達次第だよ、

それに、私が今飛ばした世界は・・・。」

 

独り言のように呟かれた声は、ただ白い空間に溶けてゆくだけであった・・・。

 

 

sideout

 

 




はいどーもです!

分からない装備があるとおもいますので、近い内に設定集を出します、
書いとかないと私めも忘れそうになるんで。

次回予告
転生した一夏と秋良は原作開始までの日常を過ごしていた。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
転生完了
お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

転生完了

side一夏

この世界に転生して既に十年近い年月が経った。

赤ん坊からのリスタートだったから、何となく長く感じられた。

 

その間にISが世界に向け発信されたり、白騎士事件があったり、

モンド・グロッソが開催されたりと、色々あった。

 

まぁそれはどうでもいいとして、

織斑兄弟として転生した俺達は、特にやることと言えば、

新しく姉になった千冬に連れてかれた、篠ノ之道場で身体を鍛えるか、

近くの山に入って、ISを稼働させる位だ。

 

しかし、ここである異変に気付いてしまった、

どうも新しく幼馴染みになった篠ノ之 箒の様子がおかしい。

 

なんか原作とは違い、部屋で本を読んでる方が多く、

性格も割りと社交的だが、一人で居ることを好む、深窓の令嬢みたいになってた。

 

原作のコミュ障からは全く想像も出来ない姿だったが、

その方が付き合いやすくて良かった。

 

箒の性格が良い方向に変わったのはありがたいが、

その一方で、駄目な方向に変わってしまった人もいた。

 

それは俺達の姉、織斑千冬だ・・・。

あの人、元から家事が全然駄目だったけど、それに拍車がかかったみたいで、

何か物を動かすと必ず何かしらの物が壊れるというレベルになってしまい、

俺と秋良はあの人に家事をさせない様にしている。

 

それだけならまだ良かった、けど、嫌な事は重ねられるそうで、

原作を遥かに超越するブラコンになってしまっていた。

 

なんか、俺達が素っ気ない態度を取ると床に突っ伏して、

『弟達に嫌われた弟達に嫌われた弟達に嫌われた弟達に嫌われた弟達に嫌われた。』

と、延々と呻くので、正直言ってかなりウザい。

 

つーかなんだよあれは、外に出れば無敵の戦乙女<ヴァルキリー>、

家の中ではただの駄姉って、洒落にならねぇんだ。

 

育ててもらってんのは確かにありがたいが、大人として、

いやその前に人間としてどうなのかと疑いたくなる。

だから俺は千冬の事を駄姉と呼んでいる。

 

さてと、そんなつまんねぇ説明やめて、

秋良と鍛練しましょうかね?

 

sideout

 

side秋良

兄さんに引っ張られ、裏山までやって来た俺は、

ルージュを起動させて兄さんのストライクと対艦刀で切りあう。

 

原作開始までの時間が長いから、充分訓練出来る時間はある、

今のうちにやっとけば、同年代には確実に負け無いからね。

 

繰り出される刃を紙一重で避け、蹴りを叩き込むけど、

どれもまた紙一重で回避される。

この肝を冷やすような戦いこそが、一度死んだ俺達に生の喜びを与えているのかもしれない。

 

正直、自分でも狂ってるとは思うけど、今はこれ以上の楽しみを見付けられない、

だから今はこれで良いと思ってる。

 

何せ、原作開始まで後五年はある、それまでは互いの肉体を苛め抜く事だけを考えていれば良いさ。

 

・・・・・・・・・、あれ?

なんでだろう一瞬スゴい寒気がした・・・。

 

殺気とか、怒気じゃなくて、なんかこう・・・、

『その絡み貰い!!デュフフッ!!』

みたいな、いや~な寒気だったな・・・。

 

「多分その元凶は箒だと思うぞ?」

「兄さん、思考読むのやめてよ?」

 

だけど、兄さんの言うことはごもっともだと思う。

何せこの世界の箒は、俺、もしくは兄さんへの恋心が無くなっている代わりに、

BでLな趣味に目覚めてしまっている。

 

剣の腕前が少し落ちている代わりに、その慢心と独善が無くなり、

おまけに絵の才能が身に付いていた。

 

余りにも変わりすぎていたので、何度も兄さんと互いを殴りあった事は記憶に新しい。

因みにその場面も、ネタにされかけたのは言わずもがな。

 

お陰で精神的に疲れたことが何度もある。

 

まあ暴力よりはかなりマシだから、俺も兄さんも何も言わない。

他人の趣味に口出しする気は一切無いからね。

 

・・・、でも、欲を言うならもう少し自重してほしい、色んな意味で。

 

「無理だろうな。」

「そんな遠い目をして言わないでよ。」

 

なんか溜め息が出てくるよ・・・、ハァ・・・。

 

sideout

 

side一夏

あれから更に二年と3ヶ月の年月が流れ、俺達の周りは変わった。

 

先ず、箒の姉、篠ノ之 束がコア千個を残し失踪、

その後要人保護プログラムにより篠ノ之一家は離散、

箒も何処かへ転校して行った。

 

そして、箒と入れ違いに、凰 鈴音が転校してきた。

 

因みに、第二回モンド・グロッソ時の拉致事件だが、

敢えて原作通りに拉致られる事にしておいた。

そうでもしないと、ラウライベントが発生しないからな。

イレギュラーとは言えど、自ら原作をねじ曲げるような真似はしない。

 

 

ここまでは原作開始までの回想通りなんだが、

やはり改変の波は鈴にも襲い掛かっていたようだ。

 

「あ・・・、その・・・、えっと・・・、ごめんなさい!」

「一々謝るなよ鈴、お前何も悪いことしてねぇだろうが。」

「いや・・・、でも・・・。」

 

そう、何故か原作の簪以上にネガティブになってしまい、

俺と秋良は彼女のお目付け役として、フォローに回る事が多くなった。

 

一年前に比べると、大分マシになったとは言え、

今だかなりのネガティブっぷりに俺達は頭を抱えている。

 

「もうヤダ・・・、布団の中に帰りたい・・・。」

「いや、今夏だからせめて部屋にしろって、熱中症になる。」

「いや兄さん、それに鈴も、その前に今帰ってるよね?」

 

なんか漫才のような事をしながら、俺達は帰宅の途に就く。

鈴のような気弱な女子を一人で帰す訳にも行かないので、

俺と秋良は毎日の様に鈴を家まで送っている。

 

「えっと・・・、また会えたら・・・。」

「また明日で良いだろうが、めんどくさい。」

「兄さん、それ鈴が泣くからやめたげてよ。」

「ううっ・・・、グスッ・・・。」

「ああほら泣いちゃったよ、鈴、大丈夫だから、兄さん怒って無いからね。」

 

はっきり言おう、ウチの姉より遥かにマシだが、

正直ウザい、怒りはしないけどイライラ来る。

 

けどまあ、何となくだが、小動物みたいで可愛いっちゃあ可愛いんだがな。

 

「そう言えば、弾はどうした?」

「えっと・・・、弾なら家の手伝いがあるって・・・。」

「そうなんだ、ありがとね鈴。」

 

俺の質問に答えた鈴を、秋良は軽く撫でていた。

 

因みに、キャラ改変の波は弾にも直撃していた。

なんと言うか、すごく懐が深く、面倒見が良い兄貴肌になっており、

お蔭で蘭がブラコンと化している。

 

「じゃあ、アタシはこれで・・・。」

「「おう、また明日。」」

 

鈴と別れ、俺達は家に帰らずに山へ入る。

 

今日は何をしますかね?

 

「今日は生身でスパーリングでもやろうよ、

技を磨いてないと楯無イベントとかがかなり厳しくなるからね。」

「そうだな、あの訳のわからん女を負かすのも、なかなか面白そうだしな。」

 

どうやら、俺達の性格はドSらしい。

まあ、元から分かってた事なんだがな。

 

「まぁ良いさ、俺達は成るように成れば良いんだからよ。」

「そうだね、じゃあ、行くよ兄さん?」

「上等!」

 

こうしてスパーリングが開始され、

俺と秋良は互いを打倒すべく拳を、蹴りを繰り出す。

 

原作開始まで、残り三年を切った、夏の話だった。

 

sideout

 

side秋良

そして、更に二年と半年が流れ、

俺と兄さんは藍越学園の入試を受けるべく、

会場となる市民会館を訪れていた。

 

それと、一年半前に鈴が転校していった・・・、

彼女は俺と兄さんにすがり付き、わんわん泣いて、

もう会えないかもって、すごく怖がっていた。

 

でも、兄さんが必ずまた会えると言ったお陰か、

最後は泣き止んで、再会を約束しながら中国へ渡った。

 

っと、回想はこれぐらいにしとこうかな?

今は感傷に浸っている場合じゃないしね。

 

原作開始は、今日ここからなんだからさ。

 

原作では一夏は誤って道に迷ってたけど

(多分本当に迷子になったんだと、俺と兄さんは予測している。)、

俺達はわざと道に迷い、打鉄が置かれている部屋まで辿り着いた。

 

「覚悟はいいか?」

「勿論だよ、兄さん。」

 

そんな事、聞かれるまでも無い、

でないと、兄さんと一緒にこの世界になんて来ないしね。

 

扉を開け、中に入ると、二機の打鉄が目に入った。

どうやら更に改編が起きたらしい、本当は一機しか置かれてない筈なのに、

 

「まあどうでも良いかな?」

「だろうな、恐らく、束さんが置いたんだろう、俺らが双子だからな。」

「そうだね、それじゃあ・・・。」

「ああ、やるぞ。」

 

俺と兄さんは顔を見合わせた直後、打鉄に触れた。

 

そして・・・、

キィィィィィン!!

駆動音を響かせながら、二機の打鉄が起動した。

 

「よし!」

「成功だね!」

 

喜びの声をあげた直後、試験官らしき女性の声が響く。

「嘘っ!?男がISを起動させてる!?」

 

その女性は俺達にここに居るよう言った後、

他の人を呼びに行った。

 

だから、気付けなかったのだろう、

俺と兄さんが薄い笑みを浮かべていたことを・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!
次回から原作開始です!

戦闘はもう少し先になると思いますが、もうしばらくお待ちください。

それでは次回予告
予定通りISを動かした一夏と秋良はIS学園に入学し、
そこで懐かしい顔と再会する。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
入学、そして再会

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入学、そして再会

noside

男がISを動かしたという世紀の大事件は、

すぐさま全世界に発信され、一夏と秋良は一躍時の人となった。

 

だが、当の本人達は特に驚いた様子もなく、

むしろ、終始余裕綽々と言う風にインタビューや質問に受け答えしていた。

 

転生者である二人にとって、ISを動かす事など元々仕組まれていた事であり、

その上、能力付加により強化され、素の戦闘能力は千冬に匹敵する。

 

だが、彼らはそれを隠し、これまでを過ごしてきたに過ぎ無い。

 

本当の物語は、これから始まるのだ・・・。

 

sideout

 

side一夏

と言うわけでやって来ましたIS学園。

 

漸くだよ、転生してから既に十五年以上経ってるし、

前世から通算してみると、俺達もう三十過ぎてるぜ?

 

まあそれはどうでも良いとして、今はこの超が付く程のアウェーをなんとかしねぇと。

 

見渡す限り女子女子女子女子女子、女子しかいない、

このクラスに限らず、学園全ての生徒が女子であろう事は想像に容易い、

男子生徒は俺と秋良だけだろうが、違うクラスに転生者がいるなら話は変わる。

 

だが、その確率はまず無い、何故なら一応同学年のクラス表を見ても、

駄姉を半ば脅して見せてもらった上級生のクラスにも、男の名前はなかった、

取り敢えず、これで一安心だ、何せ俺と秋良はチートとは言っても、

所詮はカナード・パルス等のスーパーコーディネーター並の身体能力があるだけで、

転生者同士の戦いになると、勝てる確率は低くなる。

 

まあそれも今はどうでも良いとして、

俺達は出席番号順では、三番目辺りに呼ばれるから、

さっさと自己紹介の内容を考えとかねぇと、原作一夏みたいになっちまう。

 

お、山田先生が入ってきた、

せめてこの人の性格は変わらないでいてほしい、

でないと確実にストッパーがいなくなる、

のほほんさん?あてにならない人を挙げないでくれ。

 

「皆さん揃っていますね、私はこの一年一組の副担任を務めさせて頂きます、山田真耶です、

これから宜しくお願いしますね。」

『・・・。』

おい、誰か一人ぐらい返事してやれよ、

山田先生涙目じゃねぇか。

 

え?お前も答えてねぇじゃねえかって?

悲しいかな俺も日本人なんだよ、大衆には合わせとくもんだ。

 

「そ、それでは名前の順で、自己紹介をお願いします・・・、グスッ・・・。」

おい、いい大人がその程度で泣くなよ、どんだけハート弱いんだ?

 

初日から頭の痛い日になりそうだ・・・。

 

sideout

 

side秋良

兄さんが頭痛を起こしそうになっているのを感じながら、

俺は自己紹介の順番を待っていた。

 

多分兄さんはクールに自己紹介するはずだから、

俺はちょいと明るめに自己紹介してみるかな?

 

「次は織斑秋良君、自己紹介をお願いします。」

「はい。」

 

真耶先生に呼ばれ、取り敢えず立ち上がる。

しっかし凄いね視線が、皆俺達が何て言うか凄く楽しみなんだろうけど、

別に普通の事しか言わないよ?

 

「織斑秋良です、趣味は三味線と自己鍛練、好きな食べ物は辛い食べ物かな?

男だけど遠慮せずに話し掛けてきて欲しいな、一年間宜しくね。」

 

こんなもんで良いかな?

 

『キャア~~!!』

ひぃっ!?なんだ今のソニックブームは!?

 

「イケメン!それも友達になりたい系!!」

「きゃあっ!!三味線とか渋い所も素敵!!」

 

いやぁ・・・、なんで人間の声でソニックブームが出せるんだよ、

普通にビックリしたよ。

 

さてと、次は兄さんだよ、頑張れ。

 

sideout

 

side一夏

何となくだが、秋良が要らん気遣いをしてるような気がするが、

ここはありがたく受け取っておこう。

 

「あ、ありがとうございました、次は織斑一夏君、自己紹介をお願いします。」

「はい。」

 

先程のソニックブームが効いたのか、山田先生はかなり及び腰になっていた。

 

まあ、そんな事はどうでもいいか。

そんな事より自己紹介するか。

 

「織斑一夏だ、そこにいる秋良の双子の兄だ、趣味はギター演奏と自己鍛練、

好きな食べ物は甘い物だ、まあ、宜しく頼む。」

 

まあこの程度で良いか・・・。

 

そう思って席に着こうとした瞬間、

『きゃあ~~!!』

またしてもソニックブームが響いた、耳が痛い・・・。

 

「来た!クール系来た!!」

「きゃあっ!!守って貰いたい!!」

「いや!笑わせてみたい!!」

「しかも甘い物好き!ギャップがいい!!」

 

いや、一応笑うぞ俺は?

そんな冷血人間じゃあるまいし、笑うからな?

大事な事なんで二回言わせてもらった。

そして男が甘い物食って何が悪い!

 

そんな時だった、教室の扉が開き、黒いスーツに身を包んだ女性が入ってきた。

 

「静かにしろ!!廊下まできこえて迷惑極まりない!!」

お~、一喝しただけで静かになるとは流石だな、

家ではだらしないくせして、外ではスーパーウーマンってさ。

 

「ふん、最初からそうしていろ馬鹿者共め。」

「あ、織斑先生、会議はもう終わられたんですか?」

「ええ、ホームルームを押し付けてしまって申し訳ありません、。」

「い、いえ、副担任ですし・・・。」

 

山田先生が照れてるぞ?まさかこの人は百合に目覚めているのか!?

それはそれでめんどくさいな・・・。

 

「諸君!私が一組担任の織斑千冬だ、諸君を若冠十五歳から十六歳まで育てる事が仕事だ!

ここでは私の言うことを聞いてもらう、わかったな?分かったなら返事をしろ!」

『はい!!』

 

なんと言う暴力発言してんだ、

そんな事より自分の生活スキルをどうにかしてくれ。

 

だってなぁ・・・。

 

sideout

 

side回想

『うわっ!?なんだよこれ!?』

『酷いね・・・、泥棒でも入ったのかな?』

『まじかよ・・・、って、なんだこのゴミの山は?』

『ん?腕が見えるね、・・・、ねえ兄さん、まさかとは思うけど・・・。』

『分かってる、引っこ抜くぞ。』

『分かった。』

『『せーのーでっ!!』』

ズルッ

 

『ぷはっ!!た、助かった!!』

『おい、何やってんだ駄姉。』

『いや、掃除をしていたら・・・、埋まった・・・。』

『普通は埋まらんでしょ!!』

『どんだけガサツなんだよ、この駄姉!!』

『うっ!』

ガクッ

 

『弟達に嫌われた弟達に嫌われた弟達に嫌われた弟達に嫌われた弟達に嫌われた弟達に嫌われた・・・。』

『また始まった・・・。』

『ほっとけ、めんどくさい。』

 

sideout

 

side一夏

そんな事もあったな・・・。

ってか、あれから何度か家事を教えようとしたけど、

全く直んなかったんだよな・・・。

 

そう思っている間に、ホームルームは終わり、

いつの間にか授業が始まろうとしていた。

 

sideout

 

noside

「ちょっと良いか?」

休み時間に入り、同じクラス以外の女子の視線も加わり、

ちょいとグロッキーになっている一夏と秋良の所に、

一人の女子が近付いて来ていた。

 

「ん?」

「はい?」

言葉は違えど、全く同じタイミングで返答し、声の主の方を見る。

 

そこには長い黒髪をリボンで縛り、ポニーテールにした女子生徒がいた。

 

「おー、モッピーじゃん、久しぶりだね。」

「久しいな、秋良、それに一夏も。」

「おい、俺の方が兄貴なのに何故に秋良を先に呼ぶ?」

「すまん、何となくだ。」

 

彼等に話し掛けて来たのは、彼等の幼馴染み、篠ノ之 箒であった。

因みに、この世界の箒は原作の鈴並みの対人スキルがあるため、

モッピー呼ばわりされても怒らない、むしろ何故か喜んでいる節がある。

 

それは置いといて・・・。

 

「にしても本当に久しぶりだね、六年振りかな?」

「そうだな・・・、もうそれぐらいになるな。」

「ま、こうやって三人揃うのも久々だ、再び会えて嬉しいぜ箒。」

「うむ、私もだ、何せ、再びお前達の絡みを見れるのだから!!」

「「・・・。」」

 

荒い鼻息を吹きながら、箒は自前のスケッチブックと鉛筆を取り出す、

その様子に二人は『変わってないけど、勘弁してほしい。』、

と思ったそうだ。

 

そんな彼等の様子を見て、互いを牽制しあっていた他の女子生徒達は、

一様に羨ましいという顔をしていた。

 

「それより、何故お前達はISを動かせたんだ?」

「さあな?そんなもん俺達の生体データ取りに来たおっさんに聞いてくれ。」

「まあ、全員コンクリート破壊したら尻尾を巻いて帰っちゃったけどね。」

「てか、あのコミュ障兎に聞かなかったのか?」

「・・・、聞いていない。」

 

箒は苦虫を噛み潰した表情をし、明後日の方角を向いた。

よく見てみれば、彼女は爪が食い込むほど強く拳を握りしめていた。

 

「あー、わりぃ、無神経過ぎたな。」

「いや、気にするな、これは私と姉さんの問題だしな。」

 

そう言い置いて、箒は自分の席に帰っていった。

 

sideout

 

 




はいどーもです!
原作突入です。
そろそろ設定集でも出そうかな・・・。

次回予告
一夏と秋良に絡んでくるセシリア、
しかしそれは絶望へのカウントダウンとなった。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
セシリアイベント
お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界観説明&キャラ紹介&機体説明

今回は世界観の説明と、
一夏と秋良の紹介、
ISとしてのストライクとルージュの説明をさせていただきます。


世界観説明

原作と殆ど同じだが所々違っている部分がある。

・コアの総数が千個になっている。

・一部を除き、キャラの性格や趣味が変わっている。

・束が原作より壊れている。

・一夏と秋良はアクタイオン・インダストリー社に所属している。

 

 

織斑一夏(15歳)

本名、宮本零士(享年20歳)

トラックに轢かれそうになった子供を助けた代わりに命を落とした、

その事が女神のミスだと知っても怒るどころか、自分が助けようとした子供の心配をするなど、

命が一つでも助かる事を喜んでいた。

 

女神の計らいで、ガンダムSEED系に登場するスーパーコーディネーターに匹敵する能力を持ち、

インフィニット・ストラトスの世界に、宮本零士としてではなく、織斑一夏として転生する。

 

転生前の記憶は全て継承しているようで、年齢不相応な判断力を持つ。

 

弟となった秋良とは転生前の中間世界で初めて会ったのにも関わらず意気投合、

本人曰く『何となくだが気が合うような気がしていた。』

 

性格はいたって冷静だが、決して無口ではなく必要最低限以上は必ず喋る、

また、熱くなると好戦的になるらしいが、本人はあまり気にしていない。

 

口癖は『それがお前の良いところ(もしくは良くないところ)だ。』。

 

趣味はギター演奏と甘い物の食べ歩き。

 

専用機としてストライク再生機を使用している。

 

キャラクターモチーフはガンダムSEED外伝に登場したルカス・オドネル

 

 

織斑秋良(15歳)

本名、中田俊哉(享年20歳)

 

夏休みを利用して訪れていた海で溺れていた子供を助けた代わりに命を落とした、

それが女神のミスだと知るが、子供を助けられた事を知りそれならいいと笑い飛ばした。

 

女神の計らいで、スーパーコーディネーター並の能力を持ち、織斑一夏の弟、織斑秋良として、

インフィニット・ストラトスの世界に転生する。

 

初対面の零士と意気投合し、彼に着いていく事を望んだ。

一夏同様、転生前の記憶は全て継承しており、冷静な判断の下、

一夏と行動している。

 

性格は気さくで、口数も一夏より多いが、考えは至って冷静、

戦闘時は戦いを楽しむ事に重きを置いている。

 

趣味は三味線演奏と睡眠、ついでに辛い食物を探すこと。

 

専用機としてストライクルージュを使用している。

 

キャラクターモチーフはガンダムSEED外伝に登場したグゥド・ヴェイア。

 

 

女神(年齢なんて物は無い。)

一夏と秋良を転生させた張本人。

 

掴み所がなく、自分の興味をそそる人間を見つけると、

その願いを叶え転生させることもしばしば。

 

一夏と秋良に何やら隠された能力を付けたらしいが、

見付けるのは本人達と自分は高みの見物を決めこんでいる。

 

女神の化身(年齢なんて物は無い。)

女神の命により、一夏と秋良のサポートをすることになった女性。

いらない所まで女神に似ているそうで、

一夏と秋良からは『女神本人ではないか?』と言われている。

 

仮の姿として、新興企業アクタイオン・インダストリー社社長を務めている。

 

 

機体説明

 

ストライクガンダム

 

ガンダムSEEDCE73スターゲイザー外伝に登場した、

ストライク再生機をモデルとしている。

フルスキンに近いが、顔はブレードアンテナ以外再現されていない、

しかし、一夏の感情が昂った時にだけガンダムフェイスが出現する。

色は彩度の低いトリコロール。

 

本来は全長十八メートルはあるモビルスーツを、

三メートルにまで縮小しているため、武装もそれに合った大きさになっている。

 

主にI.W.S.P.を装備して戦闘を行うが、

状況によりエールストライカーとランチャーストライカーに換装して戦う。

 

主武装

高エネルギービームライフル×1

アーマーシュナイダー×2

対ビームシールド×1

 

ストライカーパック

 

エール

高機動用ストライカー、

その出力はブルー・ティアーズのストライクガンナーに匹敵する程に強化されている。

武装は高出力ビームサーベル×2

 

ランチャー

遠距離砲撃用ストライカー、

攻撃力は最強クラスだが、それに比例してエネルギー消費量も高い。

武装は超高インパルス砲アグニ

コンボウェポンユニット

 

I.W.S.P.

エール、ソード、ランチャー、この三つのストライカーの特性を一つに盛り込んだストライカー、

一機でどのような局面でも戦える程の戦闘能力を持つが、

重量がかなりあるため、機体のモーメントが後部へ集中する事になり、

エースパイロットですら操縦が困難になってしまう欠点がある。

武装は1.5メートル対艦刀×2

レールガン×2

コンバインド・シールド×1

ビームブーメラン×1

 

 

ストライクルージュ

 

SEED本編及びMSVに登場した機体をモチーフにしている。

現時点でストライクガンダムとの差異はカラーリング以外殆ど無い。

尚、ストライカーパックは一夏のストライクと交換、使用が可能となっている。

 

主武装

高エネルギービームライフル×1

アーマーシュナイダー×2

対ビームシールド×1

 

ストライカーパック

ソード

近接戦闘用ストライカー、

近接格闘に重きを置いたストライカー、

本来は機動性を求められる近接格闘において、

あまり有効ではない巨大な対艦刀を装備しているが、

秋良や一夏はまったく問題なく使用している。

武装は2・5メートル対艦刀、シュベルト・ゲベール

ビームブーメラン、マイダスメッサー

ロケットアンカー、パンツァーアイゼン

 

ライトニング

遠距離砲撃及び支援用ストライカー、

超長距離狙撃と、友軍へのエネルギー供給と言った役目を負っている、

両サイドに張り出した大型測距システムの補助により、

地上では約20キロメートル、宇宙では最大2000キロメートルの射程距離を誇っている。

しかし、その装備故、近接武器を持た無いため、

装備している機体の標準装備に依存してしまうという弱点もある。

 

武装は70-31式電磁カノン砲

 

I.W.S.P.

ストライクガンダムの物と同様。

 

テーマソング

T・M・レボリューション『Zips』

もしくは『魔弾〜Der Freischütz〜(undercoverver.)』

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

セシリアイベント

side秋良

自分の席に戻っていく箒の背中を、俺は複雑な気持ちで見ていた。

 

やっぱり箒は原作以上に束さんを嫌ってる、

その原因は何なのかは分からないけど、良いことじゃないのは確かだね。

 

おっと、そんな事より次の授業の準備しねぇと・・・。

 

「ちょっとよろしくて?」

「「よろしくない。」」

 

来たよ~、セシリアイベント、

ここは原作の中でも五本の指に入る位めんどくさいんだよな。

 

読んで見てるのと、実際に体験するのじゃあウザさが違うね。

 

「まあ!なんですのその態度は!?

私がイギリス代表候補生セシリア・オルコットと知っての狼藉ですの!?」

「知らん。」

「知らないよ。」

 

知ってるけど、ここは原作通り知らないって言っとこう。

と言うか狼藉って、今時日本人ですらあんまり使わないのに。

 

「知らない・・・!?このセシリア・オルコットを知らないですって!?」

「ああ、知らん、俺がイギリス人ならいざ知らず、他の国の代表候補生如きを覚えるほど、

暇じゃ無いんでな。」

「そうそう、むしろ誰でも知ってるって考えてる方がイタいよね?」

 

おうおう、どんどん顔が赤くなってきてるよ?

肌が白いから分かりやすいよね。

 

「きぃぃっ!!もう許し―」

キーンコーンカーンコーン

 

お、いいタイミングで予鈴がなるな。

「ほれ、さっさと自分の席に帰りな。」

「くっ!また来ますわ、逃げない事ですわね!!」

「俺達が逃げる必要は無いね。」

 

ははっ、

あの程度の器量しかないのに、貴族の当主とはね、

ま、彼女の中にある闇は知ってるし、一度ケチョンケチョンにしてやりますかね。

 

sideout

 

side一夏

やっぱりと言うべきか、セシリアは俺達に突っ掛かって来たな、

しかしどんだけ高飛車なんだよ、見てて恥ずかしいわ。

 

そんな事を考えている内に授業が始まり、

一応覚える事はここ3ヶ月で頭に叩き込んでおいたので、

原作の様に全部分からないなんて事は無い。

 

てか、原作一夏よ、なんで電話帳と間違えるんだよ?

あんなもん間違っても捨てねぇって。

 

「ああそうだ、クラス代表を決めなければいけないのを忘れていた、

自薦、他薦どちらでもいい、誰かいないか?」

 

・・・、来た・・・、俺のめんどくさいランキングNo.2(因みに秋良はNo.3らしい。)、

クラス代表選出、これ俺らになんの得があるんだよ、想像した限り何もないぞ?

 

「はい!織斑一夏君を推薦します!」

「私も!!」

「私は織斑秋良君を推薦します!!」

「私も!!」

 

ほれ見ろ、案の定じゃねぇか、めんどくせぇなぁまったく・・・。

 

「推薦されたのは織斑兄弟のみだな?」

「やらんぞ駄姉、勝手な事ぬかしやがったら、一生姉と呼ばねえぞ?」

「そうだよ、俺達の意思を無視して出される票に、

なんの意味があるの?どうやら一生敬語で織斑先生と呼んでほしいみたいだね。」

 

俺と秋良がそう言った瞬間、駄姉の身体がぶれ、

次の瞬間には土下座をしていた。

 

「ごめんなさいそれだけは勘弁してくださいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」

 

「織斑先生!?」

そんな駄姉の様子に山田先生が驚きの声を上げていた。

 

見れば箒以外の女子全員があまりの光景に目を丸くしていた。

因みに箒はその様子を見て、腹か抱えて爆笑していた。

 

箒って駄姉の事をからかいの対象、もしくはBでLな観点で、

俺と秋良の仲を割こうとする敵、だったっけ?

 

そんな相手が弟達の脅しに対して即座に土下座をかますんだ、

ウケない筈が無いな。

 

「山田先生、放っときましょう。」

「そうですよ、これがこの人の本性ですから。」

「織斑君!?」

 

どっちを呼んだのかは知らないけど、悲鳴をあげる山田先生を放置して、

取り敢えず席に着こうとした時だった・・・。

 

「お待ちください!その様な選出は納得がいきませんわ!!」

「「入って来るの遅いな!?」」

 

あまりにもタイミングの悪い反論に、思わずハモってつっこんだ。

 

頭に血が昇っているのか、俺達のツッコミを無視し、

セシリアは叫び続ける。

 

「良いですか!?クラス代表に相応しいのは入試主席のこの私、

セシリア・オルコットですわ!!大体、こんな極東の島国にいることすら私にとっては耐え難い屈辱で・・・!!」

 

・・・、キレて良いか?良いよな?よしキレよう。

 

「さっきからピーチクパーチクうるせぇな、そんなに屈辱的ならとっとイギリスに帰れ。」

「なっ・・・!?貴方!私を侮辱しますの!?」

「先に侮辱しだしたのはそっちだろ?それに、自分が相応しいと思うなら何故立候補しなかった?

まさかとは思うが、自分は指名されて当然だとでも思っていたのか?」

 

その言葉にセシリアだけではなく、クラス中の生徒がハッとしたような表情をする。

しかも・・・、

「確かに・・・。」

「自分でそう思ってるなんて、逆に滑稽よね。」

このクラスの連中には結構辛辣な奴が多いらしい、

所々からセシリアに対する批判が聞こえる。

 

まあ当然だわな、俺は正論しか言ってないし。

三十年以上生きてたらフツーに人を言いくるめる術位いくらでも見つかるさ。

 

で、当のセシリアはと言うと、顔を茹で蛸の様に真っ赤にしていた、

そんな顔をするぐらいなら最初から突っ掛かって来るな、阿呆が。

 

「決闘ですわ!!もし貴方が負けたら一生私の小間使い、

いいえ、奴隷にしてさしあげますわ!!」

机を叩きながら、苦し紛れに言った言葉は失笑に値したが、

ここで受けなければ話が進まんし、買っとこうか。

 

「良いだろう、受けてたつ、一週間の準備期間の後、

死力を尽くし、戦わせてもらおう。」

「良いでしょう、逃げない事ですわね!!」

 

話は纏まった、これでお膳立ては整ったな。

 

俺は内心高笑いをあげそうになるのを必死に堪えていた。

 

sideout

 

side秋良

兄さんの口角が僅かにつり上がったのを見て、

内心呆れると同時に、やっとやって来た機会にワクワクしてる。

 

十年以上待ったんだ、楽しみじゃない訳がないけど、

今回ばかりは兄さんに美味しい所を譲ろうと思う。

 

だって面倒じゃん、クラス代表なんてさ。

 

「それでは、織斑兄、オルコット両人は一週間後、

第一アリーナで模擬戦を行って貰う、良いな?」

「無論だ。」

「分かりましたわ。」

 

いつの間にか復活していた姉さんが、纏める様に尋ねると、

二人は頷きながら了承していた。

 

「織斑、お前達には日本政府から専用機が支給される事になった。」

そう言えばそんなイベントもあったね、小さいから完璧忘れてたよ。

 

けど、俺達の答えは決まっている。

 

「「必要ありません。」」

兄さんと見事にハモって返答した。

「何?」

姉さんが怪訝そうに聞き返して来る。

 

「俺も秋良も、既に専用機を持ってます、なので必要ありません。」

兄さんの言葉を合図に、俺は右腕を、

兄さんは首を隠すように着ていたタートルネックずらし、

首元を露出させる。

 

そこには紅いブレスレッドと、トリコロールに彩られたチョーカーがあった。

それは勿論、ルージュとストライクの待機形態だ。

 

「お前達、何処でそれを手に入れた?」

やっぱりそう聞かれると思ったよ、でも大丈夫、

女神の情報改竄が働いてイレギュラー的な企業が出てきてるからね。

 

「織斑先生、アクタイオン・インダストリー社はご存知で?」

「ああ、新興企業故に知らない事は多いが・・・。」

「そこの社長と俺達は知り合いなんですよ、俺達に適性があると分かった次の日位に、

テストケースとして新型機を渡して貰ったんです。」

「なんだと!?」

 

俺の言葉に、姉さんだけでなく、クラス中の人間がその顔に驚愕の表情を浮かべていた。

まあそうだろうね、いきなり現れた男性IS操縦者が、新興企業のテストパイロットだなんてさ、

まあ誰が聞いても驚くだろうね。

 

因みに、アクタイオン・インダストリー社は、SEED世界に実際有ったMS企業だったけど、

女神の改編能力で新興IS企業としてこの世界に出てきたらしい、

しかも社長は女神の化身らしい。

 

一度会ったことあるけど、女神に似て変なところを気に入る人(?)だった。

 

「そう言うわけなんで、専用機の話はなかった事にしといてください。」

これで問題なしだね、

さてと、兄さんの訓練に付き合わないとね。

 

sideout

 

noside

時間は移動し、放課後・・・、

第一アリーナに一夏と秋良、そして観客席にはモッピーがいた。

 

「長かったな・・・。」

「そうだね、長かった。」

 

互いにそう呟きながらも、一夏はストライクを、

秋良はルージュを起動させる。

 

「長いこと待たせたな、ストライク、これからは思う存分暴れさせてやる。」

「待たせちゃってごめんね、ルージュ、これからいっぱい楽しもうね。」

 

一夏と秋良はI.W.S.P.より対艦刀を一本ずつ引き抜き、正眼に構える。

 

「十五年越しの初戦闘だ、心置き無く暴れるぞ!」

「行くよ、ルージュ、君の力見せてくれ!」

 

叫びながらも、両者スラスターを吹かし、距離を詰める。

 

「織斑一夏、ストライク、行くぞ!!」

「織斑秋良、ルージュ、行くよ!!」

 

名乗りながら振られた刃が激突した瞬間、周囲にソニックブームが起こった。

 

sideout

 

side一夏

良いねぇ、やっぱり人目につかないように動かしてた時とは、

楽しさが段違いだ。

 

ストライクを動かすのは何も今日が初めてではない、

転生して、小学校に上がった辺りから、

人目を忍んでちょくちょく動かしてたからな、

大体の事は出来るし、空を飛ぶことにも慣れている。

 

とは言え、まだ高速戦闘に慣れている訳では無いからな、

ま、二日ぐらいあればなんとかなる問題だな。

 

そんな事より、今は目の前にいる最強の相手と戦う事だけを考えねぇと。

 

ウォーミングアップとは言え、身体が温まるだけじゃなく、

頭が沸騰しそうな位熱くなってる。

それと同時に、時折身体を掠める刃に背筋に冷たいものが流れる。

 

「これが恐怖か・・・!!」

絶対防御など、気休めにもならない、

本当の戦闘は殺し合いに尽きる。

 

俺の身体を、秋良が振るう刃が掠めるのと同時に、

俺が振るった刃が秋良の身体を掠めると、この上無く血がたぎる。

 

女神め、俺に静かなる虜獣のデータを仕込みやがったな、

お蔭で戦闘が愉しくて仕方がない。

熱くなりながらも、冷静な判断だけは出来るようで、

何処を狙えば確実にダメージを与えられるのかが直ぐに浮かんでくる。

 

右手に持つ対艦刀で秋良を弾き飛ばした瞬間、

左腕にコンバインド・シールドを呼び出し、

ガトリングの銃弾を浴びせかける。

 

だが、直撃を喰らうほど秋良もマヌケではない、

すぐさま自分もシールドを呼び出して銃弾を防ぎ、

ビームブーメランを引き抜き、投擲してくる。

 

俺は避けるでもなく、身を沈め、真上を通り過ぎようとしたブーメランのグリップを掴み、

逆に投げ返した。

 

「なにっ!?くそっ!!」

驚きながらもビームブーメランを対艦刀で叩き落とし、

両肩のレールガンで狙撃してくるが、俺は構わず対艦刀を両手に持ち、

一気に距離を詰めX字に切りつけた。

 

「ぐぁぁぁっ!!」

秋良はなす術なく地面に叩きつけられ、

ルージュは解除される。

 

「今日は俺の勝ちだな?」

「そうだね、でも、次は勝つよ?」

「楽しみにしておく。」

 

俺はストライクを解除し、秋良に手を差しのべ立ち上がらせる。

 

「よし、丁度いい時間だ、飯食いに行くぞ。」

「そうだね、モッピーも行こうか?」

「うむ、布仏や相川辺りが一緒に食事をしたがると思うが?」

「そん時はそん時だ。」

 

軽い会話をしながら俺達はアリーナを去った・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!

そろそろストックが無くなって来ました(汗)
一応いける所まで連日投稿していきます。

次回予告
遂に始まったクラス代表決定戦、
一夏はセシリアとどの様に闘うのか?

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
クラス代表決定戦

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クラス代表決定戦

side一夏

時は流れて一週間後、

ついに代表決定戦の日がやって来た。

 

「しかし・・・、なんでアリーナが満員になってるんだ・・・。」

どう考えてもおかしい、クラスの人間は多く見積もっても四十人程度、

その程度の数でアリーナが満席になる筈が無い、

つまり、クラスの女子共がこの事を広めたんだろう、

めんどくさいことこの上無いな・・・。

 

そんな事を考えていると、ピットに秋良が入って来た。

 

「兄さん、セシリアはもうアリーナに入ってるよ?」

「分かっている、そろそろ瞑想にも飽きたし、行くとするか。」

 

立ち上がり、首を回しながらストライクを起動させる。

 

「兄さん、負けたら承知しないよ?」

「無論だ、あの程度の小物、十分でケリを着けてくるさ。」

「一秒でもオーバーしたら?」

 

ちっ、嫌な事を嫌な笑顔で聞いてくる奴だな、

ま、慣れてるがな。

 

「晩飯奢ってやる。」

「ちゃんと聞いたからね?」

 

うるせぇなあ・・・。

嫌な奴だぜホントによぉ・・・。

 

そう思いつつもカタパルトへ機体を移動させ、

いつでも発進できる体勢を取る。

 

『進路クリアー、発進どうぞ!』

「織斑一夏、ストライク、行くぞ!!」

 

山田先生の合図を聞き、俺はカタパルトより飛び出し、

アリーナを舞う。

 

その瞬間、一気に歓声が湧き起こる。

良いねぇ・・・、まるでスターか何かじゃねえか、

注目されるのも思ったより悪くないな。

 

「なっ・・・!?フルスキンタイプですって!?

その様な機体は見たことがありませんわ!!」

 

ストライクを見たセシリアが、驚きの声を上げる。

 

「阿呆が、今まで見てこなかっただけだろうが、

科学は常に進歩している、ISもまたしかりだ。」

「くっ・・・、減らず口を・・・!!」

「なんとでも言え、どんな戯れ言でも、勝者が言えばそれは間違いなく名言だ、

そして、敗者が言う戯れ言は、ただの負け犬の遠吠えだ。」

 

弱肉強食、これこそいつの世界でも真理なのだと、

俺はそう考えている。

 

「っ・・・、ま、まあいいですわ、今この場で今までの非礼を詫びるのでしたら、

許して差し上げますわよ?」

「ふん、もう狙いを付けときながらよく言うぜ、

生憎だがその気はない、俺は俺の戦いをするだけだ。」

「そうですか・・・、それでは――――」

 

セシリアがそう言った直後、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

sideout

 

noside

「お別れですわね!!」

そう言いながら撃たれた光条は一夏に向け走るが、

彼は全く動かず、I.W.S.P.の左側より引き抜いた対艦刀の側面で、

ビームの軌道を逸らした。

 

「なっ!?」

あまりにも常識外れの対処をした一夏に対し、

セシリアは驚いたような表現をする。

 

当然だ、普通なら避けるなり、盾で防ぐなりするはずだが、

一夏はわざとそれらをせず、直撃する可能性も孕んでいるのにも関わらず、

ビームを逸らしたのだ。

 

「ま、まぐれですわ!!」

その事を信じることが出来ず、セシリアは更にスターライトMrk-Ⅲよりレーザーを撃ちまくる。

 

「甘いな。」

だが、一夏は開始ラインから全く動かず、少ない動きでビームを全て逸らすか、

切り落とすかしてやり過ごす。

 

「この程度か?そんなものでは代表候補生もたかが知れてるな。」

一夏は大袈裟に欠伸までしてみせる、勿論それは挑発として行ったに過ぎない。

 

「っ!!も、もう許しませんわ!!」

それにまんまと引っ掛かったセシリアは、

そう言いつつブルー・ティアーズの腰元より、四基のビットを射出、一夏の周囲に展開させる。

 

「踊りなさい!私が奏でるワルツで!!」

「いや、踊るのはお前さ、俺の手の上でな。」

 

一夏はその顔に、邪悪な笑みを浮かべながらポツリと呟いたのであった・・・。

 

sideout

 

side秋良

俺は今、管制室にいて、兄さんの試合を見ていた。

う~ん、兄さん、完璧遊んでるな~。

 

つまんないなぁ・・・、本気でやってくんないかなぁ。

 

「ひゃ~、凄いですね~、織斑君!」

「あ?呼びました?」

「い、いえ、秋良君じゃなくて、一夏君の事ですよ!」

「わかってますって、真耶センセ。」

「ええっ!?」

 

うん、やっぱりこの人からかい甲斐があるなぁ・・・。

 

「その辺にしておけ、織斑弟、あまり教師を虐めるな。」

「嫌ですよ、人をからかうのが俺の楽しみの一つでしてね、

ま、そろそろ飽きたし、やめときます。」

「お前・・・。」

 

姉さんは呆れた様に溜め息をつくけど、

性分なんだし、しょうがないでしょ。

 

「しかし、一夏は何故あそこまで戦えている?」

「確かに・・・、いくら企業所属とは言っても、

動かした時間はオルコットさんより圧倒的に短い筈なんですけど・・・。」

 

姉さんと真耶先生が怪訝の表情を見せつつも、

ブルー・ティアーズのビットから撃たれるレーザーを、

少ない動きで全て避けきるのを注視していた。

 

と言うより、兄さんまだ遊んでるし・・・、もうすぐ五分経つよ、兄さん?

 

次の瞬間、

俺の考えが通じたのか、突如として兄さんの動きが変わった。

 

sideout

 

side一夏

飽きたな・・・。

どの攻撃も拙い上、攻撃が当たらない事による焦りで、

拙い攻撃に更にムラが出来てきた。

 

そろそろ五分経つな・・・、よし、真面目にやるか。

 

「な、何故当たりませんの!?」

「答えは単純、お前が下手だからだ。」

 

セシリアの叫びに答えつつもビームブーメランを投擲、

放物線上にあった二基のビットを破壊しつつ、

ビームブーメランはセシリアの方へと向かっていく。

 

「っ・・・!?」

 

セシリアは驚きつつもビームブーメランを避けるが、

そこには俺が予め撃っておいたガトリングの銃弾が襲い掛かる。

 

「オラオラどうした!?まだまだいくぜ!?」

体勢を崩したセシリア目掛け、肩のレールガンを連射する、

その隙に対艦刀を収納、ビームライフルを呼び出し残る二基のビットを破壊する。

 

「そ、そんな・・・!!」

セシリアが怯んだ瞬間、ビームライフルを投げ棄て、

対艦刀を一本抜き、瞬間加速<イグニッション・ブースト>を発動、

一気に間合いを詰める。

 

しかし・・・。

 

「かかりましたわね!!ブルー・ティアーズは六基有りましてよ!!」

 

やはりと言うべきか、腰元からノズルの様な物が二本前に突き出してきた、

ミサイルビットだろうが、俺にはそんなもん関係無い。

 

ミサイルビットよりミサイルが発射されるが・・・、

「甘い!!」

飛んでくる二発のミサイルを、対ビームシールドを突き出し、

二つとも爆発させる、それと同時に発生した爆煙にまぎれ、

セシリアの背後に回り込む。

 

「なっ・・・!?」

「俺を甘く見たお前の慢心が、敗北の原因だ。」

 

ミサイルビットを二本の対艦刀で貫き爆発させ、

体勢を崩したセシリアにガトリングとレールガンを立て続けに撃ち込み、

地面へと落下させる。

 

そして、再びイグニッション・ブーストを発動させ、

勢いそのままにセシリアの腹部に蹴りを叩き込んだ。

 

セシリアが地面へと直撃した際、直径約15メートル位のクレーターが、

アリーナの地表に穿たれた。

 

土煙が晴れ、クレーターの中にはブルー・ティアーズが解除されたセシリアが倒れこんでいた。

微妙に呻いている事から、僅かに意識は残っている様だ。

 

『勝者、織斑一夏!!』

 

試合終了のアナウンスと同時にアリーナが割れんばかりの大歓声が起きた。

 

取り敢えず手を振っておき、動けそうもないセシリアをお姫さま抱っこし、

ピットに戻るべく飛翔する。

 

「お前の中にある卑屈な男に対する偏見、別に悪いとは言わんが、

全ての男がそうだと思い込むところがお前の良くないところだ。」

 

セシリアの父親の卑屈さが、セシリアに男に対する嫌悪感を与えていた事ぐらい、

原作を読んでたら分かる事だ。

 

届いているのかどうかなどどうでもいい、

だが、言っておかなければいけない事だ。

 

説教くさくなるし、この辺りにしておくか。

 

ピットに戻った俺を待っていたのは、秋良と箒、

それからストレッチャーの横に立つ駄姉と山田先生だった。

 

四人を一瞥し、取り敢えずセシリアをストレッチャーに乗せ、

待機していた他の教員に預けた後、秋良の所に歩いていく。

 

「時間は?」

「九分ジャスト、賭けは俺の敗けだね。」

「そうかい。」

ま、最初の五分は遊んでたし、まあまあのタイムだな。

 

「待て、賭けとはなんだ?」

ちっ、やっぱり要らん所だけ目敏いな、めんどくさい。

 

「そのままの意味だ、十分以内にオルコットを倒せるか否かを賭けていたにだけだ。」

「で、今回のタイムは九分ジャスト、つまり俺の敗けって事。」

「何故その様な事をした?」

 

うるせぇな、まったくよぉ・・・、

そんなことより自分の生活能力を考えやがれ。

 

「別に、あんな小物、本当なら五分以内でも殺れたさ、

さっきの戦闘だって本気からは程遠い。」

「で、兄さんの楽しみを増やすために俺が敢えて賭けをしてみただけの事だよ。」

「「・・・。」」

 

駄姉と山田先生は俺達の行動に、解せないと言うような表情をしていた。

 

「さてと、俺達はここら辺で失礼させてもらう。」

「そんじゃ、行こっかモッピー?」

「うむ。」

 

何か言いたげな二人を残し、俺は秋良と箒を連れ、ピットから去った。

 

sideout

 

sideセシリア

「うっ・・・?」

身体中に走る鈍い痛みに呻きつつ、私の意識は覚醒しました。

 

目を開けてみると、見知らぬ真っ白な天井が飛び込んで来ました。

ゆっくり身体を起こし、周りを見てみるとどうやら保健室のようでした。

 

(どうして私はこの様な所に・・・?)

私は確か・・・、織斑さんと戦って・・・。

 

『俺を甘く見たお前のその慢心が、敗北の原因だ。』

「ッ!!」

 

あの時、蹴り落とされる直前に聞いた彼の声が、

私の身体を震わせる。

 

何処までも冷たく、突き放す様なその言葉が私の矜持を砕いていく。

恐怖、ただそれだけの感情が私の中に染み渡る、

圧倒的な力量の差、それが絶望に変わっていく。

 

それと同時に、何やら別の感情が心の奥底から這い上がって来る。

それは歓喜、そして女としての悦びでした。

 

何故その様な感情が出てくるのでしょうか・・・?

 

恐い筈なのに、冷たい筈なのに、

それらが私に快感を与える・・・。

 

決して不快な快感では無く、寧ろ、

自ら手にいれたくなるような、甘美な物・・・。

 

そう思った瞬間、身体中に震えが走りました。

そして、理解してしまいました、

私は、織斑一夏という究極に、屈服したいのだと・・・。

 

sideout

 

side一夏

「うーっす。」

「おはよー。」

 

セシリアとの決闘の翌日、俺は秋良を伴い1組に入った。

その瞬間、教室中の視線が俺達に集まる。

 

そりゃそうだろうな、世界初の男性IS操縦者が代表候補生を下したんだ、

注目しない訳が無いわな。

 

「よお、どうしたよ?」

「なんでみんな黙ってるの?」

 

俺と秋良は意地悪く、近くにいた相川さんに聞いてみた。

 

「え!?え~と・・・!」

はははっ、焦ってる所も良いねぇ。

 

「あ、あのッ!!」

「ん?」

後ろから声をかけられ振り向くと、そこにはセシリアがいた。

 

「何か用か?それとも、言い掛かりでもつけに来たのか?」

俺が指を鳴らすと周囲に緊張が走るのが分かる、

そりゃそうか、俺の力が充分過ぎる程に伝わったんだろう。

 

「とんでもございませんわ、私は先日の非礼を詫びに来ただけですわ。」

「ほう?殊勝な心掛けだな?どんな風の吹き回しだ?」

取り敢えず話を聞くために臨戦体勢を解く。

 

「私は貴方様の事を何も知らないのに蔑んでしまいました、

その事を深く反省し、お詫び申し上げますわ、申し訳ありませんでしたわ。」

「そうかい、見た限り反省してくれてるみたいだし、

俺もこれ以上引き摺るのも女々しいからな、これで水に流そう。」

 

詫びを入れてきた相手に対して冷たくしたり蔑ろにしたりするのは、

幾らなんでも大人げないからな。

 

俺が右手を差し出すと、セシリアが何故か俯いた。

どうしたんだ?

 

「その・・・、これを・・・。」

そう言いつつ、セシリアが差し出して来たのはなんと首輪だった、

それも飼い犬に使うようなマジもんのだ。

 

「オイ、なんだこれは?」

「嫌ですわ一夏様、首輪ですわ。」

「そう言う事を聞いてんじゃねえよ、なんで首輪なんかを渡すんだ?」

「いえ、私をペットにしていただきたく・・・。」

 

頬を染めながら変態発言すんじゃねぇよ。

 

「黙れ牝犬が。」

「っ!!!」

 

取り敢えず罵ってみると、セシリアは恍惚の表情で身体を震わせていた。

・・・、どうしてこうなった・・・。

 

秋良、笑うな。

 

sideout

 




はいどーもです!

なんとか上げられました。
後二、三話は連日投稿出来そうです。

最悪、三日に一回は出しますので応援よろしくお願いします。

さて次回予告
クラス代表が決まり、クラスが本格的に動き出す中、
二組に転校生がやって来た。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
鈴イベント

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鈴イベント

side秋良

セシリアの兄さんの奴隷宣言から既に二日が過ぎた。

 

現在、俺達の所属する1組はアリーナで実技訓練を行っていた。

 

原作なら一夏とセシリアが呼ばれて手本で飛行しなきゃダメなんだけど、

どういう訳か、そのお鉢が俺に回って来ました。

 

「頑張れよ秋良。」

「応援してるだけの人は楽で良いよね。」

 

ちょっと文句を言いつつもルージュを0.3秒で展開する。

これにはクラスメイトだけでなく姉さんや真耶先生も驚いていた。

 

因みにストライカーパックはI.W.S.P.を使用しています。

 

「さてと行きますか、ね!」

 

スラスターを吹かし、一気に上空高く飛び上がる。

ん~、風が気持ちいいね。

 

『織斑弟、急降下と急停止をやってみろ、

目標は地表から十センチだ。』

 

十センチ?そんな離れてて良いの?

そんな事を思いながら兄さんを見てみると薄く笑っているのが見てとれた。

 

つまり好きにしろって事だよね?

なら、派手にやらせてもらうよ?

 

だってそうでもしないと、兄さんに埋もれて目立たなくなるしね。

 

「行くよ、ルージュ!!」

 

イグニッション・ブーストを発動させ、一気に急降下、

どんどん地表に近付いていく。

 

そして、地表まで残り一センチの所で急停止し、一息ついた。

 

「こんなものかな?」

「目標は地表十センチと言った筈だが?」

 

ちっ、やっぱり来るよねウチの姉は。

ホント、めんどくさいったらありゃしない。

 

「十センチなんて俺達に取っては朝飯前だ、

出来ることをやって何が悪い?」

 

兄さんが姉さんを少し睨みながら俺を弁護するように言ってきた、

 

ってか兄さん、流石にそれはやり過ぎなんじゃ・・・。

 

「・・・、ふん。」

ありゃ?何も言わずに行っちゃったよ、やっぱり俺らには強気に出れないのかな?

 

なんにせよ、めんどくさい事が一つ去ってくれたのは有り難いね。

 

その後、授業は恙無く進み、その日のカリキュラムは全て終わった。

 

sideout

 

side???

こ、ここよね?

ここで良いのよね、IS学園って・・・?

 

うん、間違いない、だって門の所に書いてるもん。

 

や、やっと来れたわ、頑張ってお偉いさんにお願いした甲斐があったわ、

取り敢えず綜合受付に・・・、ああダメだ。

迂闊に動いたら道に迷って、一晩中歩き回らなきゃいけなくなる!

 

でもじっとしてても意味ないし・・・、どうすれば良いの?

あぁぁぁぁ~・・・!

 

sideout

 

noside

「ん?」

寮の自室に戻ろうとしていた一夏はふと立ち止まった。

 

「どうしたの兄さん?」

前を歩いていた秋良と、一夏に付き従う様に歩いていたセシリアが一夏を見る。

 

「いや、なんか叫び声が聞こえたような気がしてな・・・。」

「え?いや、何も聴こえないけど・・・?」

「気のせいか・・・?」

 

気になる事はあったが、取り敢えず無視して部屋へと戻る三人であった。

 

sideout

 

noside

「織斑君、クラス代表就任おめでとう~!!」

『イェーイ!!』

 

その夜、一夏と秋良は食堂の一角にいた。

 

と言うのも、彼等はクラスの女子に引っ張られて来ただけなのだが。

 

「秋良、帰って良いか?」

「駄目だろうね、兄さんが主役だもの。」

 

秋良にそう言われ、一夏は深いため息をついた。

 

「まあ、そんな事言ってても無駄か、気を取り直して食うか。」

「そうだね、おっ、これカ○ムーチョだ!ん~!辛いっ!」

「ホント、辛い物に目がないなお前、お、チ○ルか、頂いとこう。」

「甘い物に目がない兄さんに言われたくないよ。」

 

秋良と一夏はそれぞれお菓子をつまんでいく。

 

その時・・・。

 

「はいはーい!新聞部でーす!噂の織斑君兄弟に取材に来ました~!」

「「お帰りください。」」

新聞部部員の女子生徒に、一夏と秋良はまったく同じタイミングで取材を拒否した。

 

「ええっ!?なんで!?」

「なんでって、俺はインタビューが何よりも嫌いなんで。」

「右に同じ。」

 

入学前に散々マスコミに追いかけられた二人は、

精神的にかなりまいっていたのだ。

 

「そ、そんな事言わずに一言だけでも!」

「ん~・・・、そうだ、箒に大まかな事聞いといてください。」

 

女子部員の必死の懇願に暫く唸った一夏は、

箒を彼女の前に置き、自分は食事に戻る。

 

秋良は既に立ち去ったらしく、食堂に姿はなかった。

 

「そ、それじゃあ箒ちゃん?質問していいかな?」

「ええ、構いませんが?」

「ホントに!?ありがとうね!!」

 

新聞部部員の女子生徒は少し気落ちしながらも箒に取材を申し込むと、

箒はあっさりと取材を了承した為さっそくレコーダーとペンを取り出す。

「じゃあまずは、箒ちゃんと織斑君兄弟の関係は!?」

「関係と聞かれれば古馴染みとしか言い様がありませんが、

しいて言うなら、ネタにする側とされる側ですね。」

 

箒の返答に一部の生徒が聞き耳をたてる。

 

「ほうほう、そのネタというのは?」

「それは・・・、これの事です!!」

 

箒はそう言いつつ、何処からともなくスケッチブックを取りだし、

中身をその場にいる全員に見せる様に開く。

 

その中身とは、一夏と秋良が裸で抱き合っている絵だった。

 

『ウオォォォォッ!!』

その瞬間、その場にいた腐女子達が一斉に狂喜乱舞し始めた。

 

因みに一夏は自分の判断ミスに頭を抱えていた。

 

「キタ!一×秋キタ!」

「これ秋良君が攻めよね!?」

「いや!一夏君のクール攻めよ!!」

 

腐女子談義が始まり、食堂は一瞬にしてカオス空間と化したのは言うまでも無い。

 

「おお!!良いねぇ!!因みに箒ちゃんは何派?」

「私は一夏と秋良の絡みなら全般いけます!!

でも強いて言うなら秋良が攻めですね!!」

 

箒は説明に異常なまでの熱を込めつつ質問に答えたり、

絵を売り捌いたりしていた。

 

一夏はこの時、後で肖像権絡みで売上の何割かを貰おうと思ったとか・・・。

 

余談だが、この夜から二日後には新聞が出来上がり、

一夏と秋良は再び頭痛に苛まれるのであった・・・。

 

sideout

 

side一夏

散々な目に合ったパーティーから一夜明けても、

腐女子達の熱は冷めるどころか逆にヒートアップしていた。

 

どうして俺は箒に委託してしまったんだ・・・、

アイツが腐女子だって事は判ってた筈なのによ・・・。

 

お蔭で秋良に凄く怒られた・・・。

 

いや、まあ俺が悪いんだけどな。

 

そんな訳でクラスに入り次の授業の準備をしていると・・・、

「ね~ね~イッチー、聞いた~?」

「ん?のほほんさん、どうかしたか?」

 

袖がダボダボな制服を着込んだら少女、

布仏本音(通称のほほんさん)が話し掛けてきた。

 

聞いた~?と言うことは、何か噂話の類いだろう事は予測できる。

 

「えっとね~、二組に中国の代表候補生が転校して来たんだって~。」

「ふーん、初耳だね。」

近くにいた秋良が俺達の所にやって来た、

それに気付いてか他のクラスメイトもぞろぞろと寄って来る。

 

群れるのはそんなに好きじゃないが、たまにはいいだろう。

 

「この時期に転校してくるなんてよ、普通は入学してきた方が早くないか?」

「そうでしょうけど、恐らく混みいった事情でもあったのでしょう、

それよりも一夏様、私を苛めてくださいませ。」

「黙ってろ牝犬が。」

「はぁぁん!!」

 

折角真面目な話をしていたのに台無しにしたセシリアを取り敢えず罵っておいた、

すると彼女は肩を抱き身悶えていた。

 

まあそんな事は置いといて・・・。

 

原作なら確実に鈴が転校してくる筈だが、

いかんせんこの世界は原作と少し違っているから、

あまりアテにしないのもいいかもな。

 

「どんな奴なんだろうな?」

「さあね、でも兄さんなら勝てるって。」

 

秋良がそう言って肩を叩いて来るのを笑って受け流し、

取り敢えず入口の方に目線を向けると・・・、

 

逆チョッパー状態でこちらを伺っている奴がいた。

 

・・・、間違いないな、あれは・・・。

 

「鈴、何やってんだよ?」

「ぴゃうっ!?」

 

なんかスゴい声を上げ見つかったと言わんばかりに顔を隠した、

だが、ちょっとしたらそーっと頭を出してこっちを見てくる。

 

「ひ、久し振り、一夏、秋良。」

「うん、久し振りだね鈴、こっちに来なよ、誰も悪さなんてしないからさ。」

 

秋良が手招きすると、鈴は躊躇いながらもこっちに歩いて来る。

 

クラスの面々は鈴のオドオドした感じにキュンッ!となっていた。

 

だが・・・。

 

「おい。」

「ふぁいっ!?」

背後から呼ばれた声に鈴が悲鳴をあげながら振り返った、

そこにいるのは駄姉なんだがな。

 

「再会を喜ぶのは構わんが休み時間にしろ。」

「あうぅっ・・・。」

 

駄姉の言葉に鈴は肩を落としながら二組に帰って行った。

 

因みに、駄姉はクラス中の全員から軽く睨まれていたのは内緒だ。

 

sideout

 

side秋良

取り敢えず授業が終わり、昼休みになったので一足お先に食堂に行こうとすると・・・、

「秋良~!」

「おうっふうっ!?」

 

後ろから突然体当たりされて思わず変な声を出しちゃったよ、

兄さんに見られたら間違いなく笑われてた。

 

「痛いよ鈴、何するんだよ?」

「だって、だって~・・・!」

 

涙目の鈴って結構可愛いよね?

でもなぁ、場所を選んで欲しいなあ・・・。

 

「鈴、俺腹減ったから食堂に行きたいんだけどさ、

動けないから退いてくれないかな?」

「逃げない・・・?」

「逃げないって、俺と兄さんが嘘ついた事あるか?」

 

俺の質問に鈴は無言で首を横に振る、

なんかちっちゃい子供みたいだね。

 

「さてと行きますか。」

「うん。」

 

俺は鈴を連れて食堂を目指した。

 

sideout

 




はいどーもです!

今日もなんとか投稿出来ました!

それでは次回予告
一組の面々と仲良くなる鈴、
一方、秋良はある人物と出会う。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ

存在しなかった展開

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

存在しなかった展開

side一夏

何時ものメンバーに鈴を加え、俺達は食堂にて昼食をとっていた。

 

「なるほど、私と入れ違いで転校してきたのだな。」

「そ、そうよ・・・、アタシも貴女のことを知ってる・・・。」

 

にしても原作とは感じが全然違うな・・・、

箒は箒でイメージが柔らかいし、鈴は只の引っ込み思案だしな。

セシリア?只のドMだ。

 

「そうだ、良かったら鈴と友達になってやってくれないかな?

鈴ってこんな性格だからちゃんとした友達が少ないんだ。」

 

秋良が鈴の頭に右手を置きながら箒やセシリア、

そして一緒に付いてきた相川さんやのほほんさんに向け、頭を下げていた。

 

そりゃそうか、誰よりも鈴を気にかけてたのは秋良だったな、

友達が出来るか心配になるわな。

 

「俺からも頼む、何か合ったときに頼れる奴は大勢いた方が良いしな。」

 

ま、俺も気にならない訳じゃ無いから頼もう。

 

「いいよ~、よろしくね~。」

「よろしくね凰さん、私の事は清香で良いよ!」

「同じ織斑兄弟の幼馴染みだ、これからよろしく頼むぞ鈴。」

「よろしくお願いしますわ鈴さん。」

 

上から順にのほほんさん、相川さん、箒、セシリアの順番で鈴に声を掛けていった。

 

「あ・・・、ありがとう・・・!」

 

鈴は感極まって喜びの涙を流していた。

そりゃそうか、小学校ではマトモな友達って俺と秋良だけだし、

中学は比較的マシとはいえど、弾と数馬と女子の友達がチラホラしか居なかったしな。

 

ま、これでちょっとは学園生活が楽になるだろう、

後のサポートは秋良に任せても良いだろうな。

 

sideout

 

side秋良

一日の授業を終えて、俺は一人でアリーナの整備室の近くを歩いていた。

 

特に意味は無いけど、いつか必要になった時に場所がわからなかったら恥ずかしいから、

下見と場所を覚える為にやって来たんだ。

 

因みに兄さんはランチャーストライカーの試運転をするために第三アリーナにいる。

 

と言うより、俺もそろそろライトニングストライカー使った方がいいかな?

この世界に来てから一度も使って無いんだよね、

なんかアクタイオン社じゃあ新しいストライカーパックを作ってるって報告が来てるし、

それに活かしてもらうためのデータを取らなきゃね。

 

そう思いながら曲がり角を曲がろうとした時、

角から出てきた人と思いっきりぶつかってしまった。

 

「きゃっ!?」

「うわっ!?」

俺は身体がそこそこ出来てるから大丈夫だけど、

向こうは見た限り小柄だったから、俺とぶつかった拍子にかなりよろけていた。

 

「おっと、大丈夫?」

なんとか腕を掴んでこちら側に引き寄せる事で彼女を安定させる、

倒れられたりしたら大変だしね。

 

「う、うん・・・、あ、ありがとう・・・。」

「そっか、良かった・・・、っ!?」

 

嘘でしょ?

なんでこんなに早くからこの娘に会うの?

 

緩いウェーブがかかった水色の髪に眼鏡型のディスプレイを掛けた少女、

そんな特徴を持つのは原作でただ一人しかいない。

 

「更識・・・、簪?」

思わず口走ってしまった。

 

同時に彼女の身体がビクッと震えた。

 

「私の事、知ってるの?織斑・・・、えっと・・・、一夏?」

「え、う、うん、一応ね、それと俺は一夏じゃないよ、弟の秋良。」

 

多分兄さんとセシリアの戦闘を見てたからか、簪は兄さんの名を口にした。

 

「そうなの・・・、ご免なさい・・・。」

「いや、仕方ないって双子なんだし、それに兄さんの方が有名だし。」

 

自分で言ってて少し悲しくなるけど、今はどう考えても兄さんの方が目立っている、

それだけはどうしょうもない事実だしね。

 

「取り敢えず、改めて自己紹介するね、俺は織斑秋良、よろしくね。」

「更識簪、日本代表候補生やってる、呼び方は好きにして。」

「じゃあ簪、よろしくね、俺の事は秋良って呼んでね。」

 

俺が自己紹介を兼ねた挨拶をすると、割りとマトモに返事を返してくれたのでひとまず安心する。

 

「それで、秋良はなんでこんな所に?」

「なんとなく施設の構造を把握しておきたかったから、ふらっと来てみただけだよ、

簪はどうしてこんな所に?」

 

そう尋ねた直後、俺は激しく後悔した、

原作じゃ一夏の機体の煽りを受けて機体の開発が後回しにされてたんだ、

しかも今の俺の立場ってどう考えても一夏に近いよね?

 

「私もそんな所、気分転換してみようと思って。」

「あ、そうなんだ。」

 

口ではそう言ってるけど、それが本音かどうかなんて判らないからちょっと怖い。

 

「そうだ、貴方のお兄さんに伝えてくれる?」

「何を?」

「クラス対抗戦は私が勝つって。」

 

え?そんな事を言うって事は打鉄弐式は完成してるのかな?

 

・・・、あ、そうか、俺らの機体ってアクタイオン社が製作したって事になってるから、

倉持技研は打鉄弐式だけを製作出来たんだな、

よし、これで後ろめたいことは無いね。

 

「分かった、伝えておくよ、だけど、兄さんを甘く見ない方が良いよ?」

「分かってる、彼はどう見ても普通じゃない。」

 

俺も普通じゃないんですけどね~。

 

そんな事より、今は聞きたい事が有るんだよね。

「さっきからこっちを見てくる人がいるけど、どうする?」

 

少し離れた場所にある物陰からジーっとこちらを見てくる人影に、

俺は溜め息をつきながら簪に訊ねてみた。

 

「放って置いて、どうせストーカーだから。」

「・・・。」

 

いや、あの髪型に髪色は簪の姉、更識楯無だよね?

この子、実の姉をストーカー呼ばわりしてるよ。

 

・・・、あれ?一瞬スゴいデジャヴが・・・?

なんか、俺の身近にいるよね、姉に対して辛辣な人。

 

「わ、分かった、放っておこうか、それじゃあまたね、簪。」

「またね、秋良。」

 

そう言って、俺と簪はそれぞれ別の方向へと歩いて行った・・・。

 

sideout

 

side一夏

一日の授業を終え、俺は一人第三アリーナにてランチャーストライカーの試運転をしていた。

 

展開されるターゲットをバルカンで、ミサイルで、そしてアグニの大出力ビームで、

全て撃ち落としていく。

 

一通り撃ち落とした後に息をつき、

エネルギーの減り具合を見る。

 

やはりと言うべきか、アグニを使った時だけ減りが大きい。

撃てる回数が十回とか、流石にエネルギー消費悪すぎだろうが。

 

そりゃそうか、原作で言うところの零落白夜みたいなもんだしな、

仕方無いと言えば仕方無いのだろうが、使いどころを考えないとな。

 

エールストライカーも試してみたいところだが、時間があまり無い事だしやめておく。

 

まあ、クラス対抗戦でI.W.S.P.の代わりに使っても良いんだが。

 

「考えても仕方無いな、もう一発。」

 

そう言いつつ、一つだけ射出されたターゲット目掛け、

アグニのトリガーを引いた。

 

赤い光条が迸り、ターゲットを貫きながらもなお走り続け、

アリーナのシールドに阻まれて止まった。

 

って、おいマジかよ、シールドに穴開きかけてんじゃねぇか、

下手すりゃ一人殺せるな、間違いなく。

 

やれやれ、無人機が来たときに使うとするかね、

こんなの対人戦闘で使えねぇよ。

 

そんな事を考えつつ、俺はストライクを解除しアリーナを去った。

だが・・・、

「ぶえっくしょん!!」

 

誰だ人の噂しやがった奴は・・・。

 

sideout

 

side簪

夕食時、私は本音に誘われて秋良達と食事をすることにした。

 

一緒に食事をする人達と自己紹介して、

お互いに下の名前で呼び合える様になった。

 

正直凄く嬉しい!

だって私、同年代の友達って本音以外にいなかったからね。

まあそれは良いの、今はそれよりも大変な事があるの。

 

驚いて良い?やっぱり似てるあの双子!

 

どっちがどっちかまったく判らない、

だけどなんとなく雰囲気だけが違う事に気付ける。

 

秋良が明るい雰囲気を纏っているのに、一夏はどこか冷たい、闇の様な雰囲気だった。

 

「ねーねーオリムー。」

「「ん?どうしたんだ(どうしたの)のほほんさん?」」

 

返事をするタイミングとかもまったく一緒なんだ・・・。

ある意味すごい・・・。

 

「どっちがイッチーで、どっちがアッキー?」

「本音、それ聞いたら駄目だと思う。」

 

本人達に凄く失礼だよ、どっちがどっちか分かってもらってないのって、

結構キツいらしい。

 

「「さあ?当ててみて?」」

『同じ口調で喋り出した!?』

 

一緒のテーブルにいたセシリア、清香、そして私も突っ込んでしまった。

 

と言うより、この二人同じ口調で喋ったら雰囲気まで一緒になるのね、

これって一つの能力だよね?

 

あ、でも判っちゃった、意地悪に笑うのが一夏で、

楽しそうにしてるのが秋良だ。

 

「えーっと、左が一夏で右が秋良!」

「「正解(だ)」」

「やった!!」

 

良かった~、これで外してたらかなり恥ずかしい所だった。

 

「っと、レクリエーションも程々にしといて、今は飯にしよう。」

「そうだね、朝食や昼食と違って時間に追われてる訳じゃないけど、

早く済ますに越したことは無いね。」

 

そう言いながらも、一夏と秋良は自分達の食事に手をつけていく。

 

私も早く食べて、皆ともっとお話しようっと。

そう思いながらもかき揚げうどんに手をつける、

うん、いい味してる。

 

sideout

 

side???

「あぁぁ!!簪ちゃん可愛いわぁ~!!あんなに無邪気に笑うのって何年ぶりかしら!?

随分と長いこと見てないわ!!おっと、写真撮らないと!!」

「なんの写真を撮る気なんですか?」

「決まってるわよ!簪ちゃんの可愛い笑顔を・・・、ってぇ!?

虚ちゃん!?いつの間に!?」

「つい先程からです、さ、行きますよ、さっさと仕事してください。」

「ちょっ!?待って!今は簪ちゃんの写真を~!!」

 

sideout

 

 




はいどーもです!

最近感想が減って少し悲しいとです。


さて次回予告
クラス対抗戦が始まり、一夏は鈴と対峙する。
しかし、そこに乱入する者がいた。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
クラス対抗戦

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クラス対抗戦

side秋良

簪と仲良くなってから既に二週間が過ぎ、

とうとうクラス対抗戦の日になった。

 

あれから鈴と簪が異様に仲良くなったり、

兄さんがセシリアに折檻していたりと、なんかこれまで以上にカオスな展開になってた。

 

いや、原作とかなり違うこの世界に来た時点で、

普通の展開なんてあり得ないと思ってはいたけどね。

 

現在、俺は兄さんのセコンドみたいな感じで、

一緒にピットの中にいる。

 

兄さんはどうやらI.W.S.P.で戦うらしい。

他のストライカー使わなくて良いのかな?

 

まあ兄さんなら大丈夫だよね。

 

「という訳で、頑張ってね兄さん。」

「どういう訳だ。」

 

兄さんがストライクを展開しつつ、俺の言葉にツッコミをいれる。

 

兄さんはこれから原作通り鈴と戦う事になっている。

でもまぁ、こっちは転生して相手の手の内が分かっるから、

正々堂々とはいかないだろうね。

 

ま、兄さんに言わせてみれば戦いに正々堂々なんて無い、

って言うだろうけどね。

 

「まあ良い、勝ってくる。」

「頑張れ~。」

 

兄さんは溜め息をつきながらカタパルトに移動していく。

そんな溜め息ばかりついてたら幸せが逃げるよ?

 

さてと、俺も待機しておこうかな?

原作ならこの後無人機が降って来るけど、

俺が出張らなくてもいいかな。

兄さんに全部任せておけば俺は楽だからね。

 

sideout

 

side一夏

さてと、クラス対抗戦か・・・。

 

無人機が来るかも知れんが頑張りまっせ。

 

なんせ優勝したクラスには食堂のスイーツ半年フリーパスが配られるんだ、

甘い物好きの俺からしたら是が非でも手に入れたいな。

 

『進路クリアー、ストライク、発進どうぞ!!」

山田先生のアナウンスが聞こえる、もうそんな時間かね。

さてと、行くとするか。

「織斑一夏、ストライク、行くぞ!!」

 

カタパルトから飛びだし飛行する。

アリーナに入ると、既に甲龍をを展開した鈴が待っていた。

 

ってか覇気がねぇな、本当にあんなので戦えるのかよ?

 

「おい鈴、お前本当に代表候補生か?」

「そ、そうよ!・・・、多分。」

自信無いのかよ!?ダメだこりゃ、簪や秋良に頼んでもう少しポジティブにしないと。

 

なんか色々と頭が痛くなってきた・・・。

 

っと、今はそんな事を考えてる場合じゃねえんだよな。

 

「鈴、本気で掛かってこい、でないと地獄を見るぞ?」

「や、優しくしてね・・・?」

「気が向いたらな。」

 

そう言いつつ、対艦刀を引き抜き、

試合開始のブザーと共に一気に加速、最も得意とする間合いに入る。

 

「はぁっ!!」

「キャアッ!?」

小手調べに防ぎやすい所に振った刀を、鈴は悲鳴を上げつつ青龍刀で防ぐ。

 

「へぇ、やるじゃねえか。」

 

感心しつつも鈴を蹴り飛ばし、追撃としてレールガンを撃ち込む。

 

「や~め~て~!!」

おいおい、叫びながら青龍刀でレールガンを弾き落としてやがる、

普通無理だろ。

 

「やるな、ならこいつはどうだ?」

ビームブーメランを投擲し、避けるであろう方向にガトリングを撃つ。

 

「みにゃ~!!」

また悲鳴を上げつつ、龍砲を撃ちながら全てを回避していく。

 

「ちっ!」

近付き、対艦刀二本による連続攻撃を掛けてみても、

青龍刀で捌いたり、後退して俺の間合いから上手いこと逃げている。

 

すげぇな、回避率だけだが・・・。

 

ネガティブになったが戦闘能力は原作以上か、

なかなか楽しまれてくれる。

 

しかしよぉ、さっきからかなり攻めたててるのになんで目立ったダメージがねぇんだよ?

 

いくら攻撃を受けて無いとはいっても、このままじゃジリ貧だぜ。

どうするかな・・・、原作通り一気にケリをつけるか。

 

そう思い、瞬間加速<イグニッションブースト>を発動、

一気に間合いに入る。

 

この距離なら龍砲は使えない、後は一気に墜とす!

 

必殺の意志を込めた刃が届く寸前、俺と鈴の間に太い光条が突き刺さった。

 

sideout

 

noside

その異形は、アリーナのシールドバリアーを突き破り内部に侵入した。

 

あまりに唐突過ぎた為、アリーナの観客席にいた人間は何が起こったのかわからなかった、

だが異常を察知すると、全員が悲鳴を上げながら我先にと出口に殺到する。

 

それとほぼ同時に生徒を守る為に非常用シェルターが展開された。

 

「な、何あれ!?」

鈴はかなり取り乱しながら一夏の後ろに隠れる。

 

「さあな、どう見ても友好的な感じじゃねぇのは確かだな。」

一夏はボヤきながらもレールガンを侵入者に向けて撃つ。

 

侵入者はそれを各所に装備されているスラスターを使い、

見事と呼べる様な回避を見せる。

 

「ちっ、やっぱりこの程度の砲撃は避けられるか、

鈴、お前はさっさと安全な場所に行け、こいつは俺が潰す。」

「だ、駄目よ!一夏も直ぐに逃げて!!」

「鈴!」

 

逃げるように言う一夏に、鈴は共に逃げようと言うが一夏は一喝する。

 

「アイツはアリーナのシールドバリアーを突き破る兵器を持っている、

ここで誰かが食い止めないと被害が広がるんだ、だから俺は戦う。」

 

一夏の言葉に何も言えなくなった鈴は、後ろ髪をひかれる様な思いを抱きつつも、

ピットの入口付近まで戻っていく。

 

だが、侵入者は彼女目掛け、右腕に装備されている荷電粒子砲を発射しようとした、

だが・・・。

 

「何処を見ている?」

一夏はビームライフルを侵入者に向けて撃つ。

その光条は寸分の狂いなく侵入者の右腕に着弾、

発射されようとしていた荷電粒子砲のエネルギーも相まって、

盛大な爆発を引き起こした。

 

「この俺を相手に余所見をするのは殺してくださいと言っている様なもんだぜ?

どうせなら玉砕覚悟で掛かってこい、でないと楽しめねぇんだよ。

それに、今の俺はスイーツ無料パスがおじゃんになったから、

かなりご立腹だ、だから・・・。」

 

一夏はI.W.S.P.を量子格納しランチャーストライカーに換装、

アグニをしっかりと構える。

 

「来いよ、俺がズタズタに壊してやる。」

 

侵入者は残った左腕の荷電粒子砲を一夏に向ける、

一夏もアグニの砲口を侵入者に向け、いつでも引き金を引ける様にする。

 

その様子はまるでウェスタンカウボーイの決闘の様に見えた。

 

(つっても、俺にはそんな気なんてさらさら無いんだがな。)

 

一夏がそう思った瞬間、侵入者の腕から荷電粒子砲が発射される。

だが、一夏はそれを回避しアグニのトリガーを引いた。

 

それは狙い違わず侵入者の左腕に直撃、盛大な爆発を上げ、左腕は完全に破壊された

侵入者の戦闘能力は完全に奪われた。

 

一夏は追撃として、もう一発を侵入者の右足に撃つ。

アグニの大出力ビームは狙い違わず侵入者の右足に直撃、

移動手段も完全に奪われた侵入者は、なす術なく地に倒れ伏した。

 

アリーナのシールドバリアーが突き破られてから、僅か三分足らずの間であった。

 

あまりにも呆気ない終わり方に、一夏のありありと不満の色が見てとれた。

 

「なんだよあっけねぇな・・・、つまんねぇ・・・。」

 

一夏は侵入者に近付き、アグニの砲口を顔面に向け、トリガーを引く。

 

迸る大出力ビームは侵入者の頭を吹き飛ばした。

 

(つまらん・・・、無人機は脆いな、まだ人間の方が強いぜ。)

 

一夏は冷めた目で侵入者を見下ろし、溜め息をついた。

 

「あ、そうだ、無事か鈴?」

「だ、大丈夫よ、ありがとう一夏。」

「気にすんな。」

 

一夏は鈴を連れ、ピットの中へ戻って行った・・・。

 

sideout

 

side秋良

「おー、来た来た、こっちだよ兄さん、鈴。」

 

あの後、兄さんと鈴は事情聴取の為に姉さんに呼び出され、

帰ってくるのがかなり遅くなっていた。

 

にしても、兄さんかなり苛立ってるね。

 

そんなにスイーツ半年フリーパスが欲しかったのかな?

まあ俺は甘い物が苦手だから別に良いけど、

辛い食べ物半年フリーパスならちょっと怒ってたかな。

 

だからなんと無く気持ちは分かる。

 

「兄さん落ち着きなよ、中止になるのも仕方ないって。」

そう言いつつも兄さんの前にさっき注文しておいたチョコレートパフェを置く。

 

糖分を採れば兄さんは落ち着くからね。

 

「すまんな、だが、流石にムシャクシャすんぜ。」

 

パフェを食べながらも兄さんは軽く文句を言う、

食べ物の恨みってやっぱり恐いね。

 

「い、一夏、落ち着いて・・・。」

鈴が兄さんを宥める様に話し掛けていた。

なんか娘が父親を気遣ってるみたいでほっこりするね。

 

「悪いな鈴、大丈夫だ。」

鈴には心配掛けられないのか、兄さんは微笑んで彼女の頭を撫でていた。

 

因みに今このテーブルにいるのは俺と兄さん、鈴と箒、簪とセシリアだ。

 

のほほんさんや相川さんは別の人と先に夕食にしちゃったらしいからね。

 

「にしても、簪と戦え無かったのはちょいと残念だな、

どれぐらいの腕か見てやりたかったのによ。」

「そうね、でも私が勝ってたよ?」

「はっ、言うじゃねえか。」

 

はははと笑ってるけど、なんか空気がスゴいピリピリしてきた、

さっさと飯にしてどっか行こうっと。

 

sideout

 

side???

「んー、束さんが作ったゴーレムをあっさりと倒しちゃうなんて、

いっくんが使ってるあの機体、束さんが作った白式じゃないね。」

 

一夏とゴーレムの戦闘映像を見ながら呟く人影がいた。

 

「ん~、あんな機体、見た覚えも作った覚えも無いなぁ。」

 

その人物は、興味に突き動かされるままにキーボードを叩いていく。

 

「この世界に束さんが知らない事なんて無い筈なのに。」

 

そんな呟きは、闇へと溶けて行った・・・。

 

sideout

 

 





次回予告
ゴーレムの襲撃より一ヶ月後、
一組に転校生がやって来た。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
ブロンド貴公子とプラチナ軍人

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ブロンド貴公子とプラチナ軍人

side一夏

ゴーレムの襲来から既に一ヶ月が過ぎ、

そろそろ長袖じゃあ暑くなってきた今日この頃。

 

俺と秋良は土日を利用して実家に戻り、

家の掃除をした後、持って行けなかったギターと三味線を持ち出し、

IS学園に戻った。

 

「ねぇ兄さん、良かったら久し振りにセッションしない?」

「良いだろう、早速軽音部の部室を借りるとするか。」

 

そんな訳で俺は秋良と共に軽音部の部室に向かった。

 

大体の場所はここ最近覚えたから迷わずに来れた、

 

「ちわーっす、世界で噂されてる織斑兄弟でーす。」

「おい秋良、いくらなんでも軽すぎだ。」

 

ったく、明るいのは良いがこいつは時々軽すぎる、

そんな所が兄弟としてどうかと思う。

 

「ええっ!?織斑君!?」

「嘘っ!?しかも兄弟で来てるの!?」

「なんでなんで!?」

 

おうおう、やっぱこうなるわな、

あんまり関わりの無い奴等だと余計にな。

 

ま、時間もあんまりねぇし、さっさと済ませるか。

 

「良ければ防音室を使わせてくれませんか?」

「代わりにと言っちゃなんだけど、俺と兄さんのセッションをお見せしますから。」

 

ダメ元で頼んでみると・・・。

 

『どうぞどうぞ!!』

 

ダチョ○倶楽部並の揃い方で許可してくれた。

 

「「ありがとうございます。」」

 

二人揃って頭を下げた後、それぞれの楽器の準備をする。

 

チューニングを合わせ、アンプにシールドを差し込み、

オーバードライブ目に音を歪ませる。

 

所謂、七十年代ロックのイメージが強い音色だ。

 

対して、秋良は三味線を用意し、

俺と同じようにアンプに繋いでいた。

 

「どうやら準備はできたようだな?」

「まあね、久し振りだからウォーミングアップからやろうよ。」

「いいぜ、じゃあimitationblackからな。」

 

前世で聞いてた曲が同じで良かったとつくづく思う。

知らなかったら合わせられねぇからな。

 

ギターの腕前も前世から継承してるみたいだし、

思いっきりやってやりますかね。

 

三味線の軽やかなメロディから始まり、ギターの旋律が混ざりあい、

空気を切り裂いていく。

 

暫く弾き続けた後は、互いにアドリブセッションを始め、

気が付けば三時間程弾き続けていた。

 

sideout

 

side秋良

セッションした翌日、

俺と兄さんは一組の教室に入った。

 

「あら、一夏様に秋良さん、おはようございます。」

「あ、おはようセシリア。」

 

いつの間にか、セシリアは兄さんの事を様付けで呼んでるよね、

兄さんも満更でも無さそうなのが見ててなんかウザい。

 

え?お前ら互いの事嫌いなのかだって?

嫌いというか、なんかお互いに似すぎてるから近親嫌悪ってとこかな。

 

まあ、どうでもいいかな。

 

さてと、姉さんがそろそろ来るだろうし座っておこうかな。

 

sideout

 

noside

一夏と秋良は自分の席に座り、

何時もと同じ様に千冬の到着を待っていた。

 

「おはよう諸君。」

『おはようございます!」

 

千冬の言葉に、一組の面々は一斉に挨拶をする。

 

千冬は満足気に頷き教壇に立つ。

 

「山田先生、SHRを始めてください。」

「はい。皆さん!今日は転校生が来ます!しかも二人も!!」

『えぇぇ~!?』

 

千冬に頼まれ、SHRを始めた真耶の言葉にクラス中の女子が一斉に驚いた。

 

因みに一夏と秋良はあまりの煩さに耳を塞いでいた。

 

「静かにしろ!!」

千冬の一喝に、先程まで喧しかった女子が一気に静まりかえった。

 

「最初からそうしていろ。」

「そ、それでは入って来てください!」

 

真耶が呼び掛けると、扉が開き二名の男女が入ってきた。

 

一人は美しい金髪を背中で束ねたスマートな体格の少年、

もう一人は美しい銀髪を伸ばしっぱなしにし、左目に眼帯を着けた軍人の様な少女であった。

 

「シャルル・デュノアです、フランスから来ました。

日本の事はよく分からないので、慣れないこともありますがよろしくお願いします。」

 

シャルルと名乗った少年は柔らかく微笑みながら自己紹介をしていた。

 

「お、男?」

クラスの誰かが呆然と呟いた。

 

「はい、こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、

本国から転入を『キャアァァァァッ!!』っ!?」

 

唐突に放たれた奇声に、シャルルはビクリと身体を震わせる。

 

「男!三人目の男よ!!」

「しかも美形!!守ってあげたくなる!!」

 

女子達は一斉に声を張り上げた。

それもそうだろう、今だ二人しか確認されていない男性IS操縦者以外に、

もう一人出てきたのだ、驚かない訳がない。

 

「静かにしろ!!まだ自己紹介が残っている!」

またしても千冬の一喝により鎮静化する。

 

「ボーデヴィッヒ、挨拶をしろ。」

「はい教官!」

 

ボーデヴィッヒと呼ばれた少女は千冬に向けて敬礼をする。

 

「私はもう教官ではない、織斑先生と呼べ。」

「はい!」

千冬への敬礼をやめ、生徒達の方を見る。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

「・・・、以上ですか?」

「以上だ。」

 

真耶の問い掛けにピシャリと答え、ラウラは一夏の方へ向かっていく。

 

「貴様が!!」

左手を振り抜き、一夏の右頬を叩こうとしたが・・・。

 

「ふん。」

一夏は鼻で笑った後、右手でラウラの左手を止める。

「なっ!?」

「この程度が攻撃か?攻撃ってのはな、こうやるんだよ。」

一夏はそう言いつつ立ち上がり、背負い投げの要領で何も無いところに背中から叩きつける。

そしてそのままラウラの頭に右足を乗せ踏みつけ、グリグリと押し込んでいく。

 

「ぐっ・・・、くそっ・・・!!」

「悔しいか?悔しいだろうなぁ?散々憎んでる相手に地に這いずらされてるんだからよぉ?」

呻くラウラを見る一夏の表情はまるで獲物をいたぶるハンターの笑みだった。

 

「み、認めない・・・!貴様達があの人の弟など・・・!」

「認めてくれなくて結構、望んでなった訳でもねぇからな。」

 

憎悪を籠めた視線で睨み付けるラウラを、

一夏は侮蔑と憐れみを籠めた目で見ながらも更に右足に力を込めていく。

 

クラスの雰囲気は一気に凍り付き、シャルルや真耶は青ざめながらその様子を見ていた。

 

一夏の雰囲気があまりにも恐ろしかった為に、千冬ですら止めに入る事が出来なかった。

そんな時・・・。

 

「兄さん、そろそろ止めとこう、次の授業に遅れるよ?」

「・・・、ふん。」

なんとも呑気な秋良の声に反応し、一夏は漸く足を退けた。

 

「悪いな秋良、迷惑掛ける。」

「気にしてないよ、兄さん。」

 

何時もの雰囲気に戻った一夏は、秋良に詫びていた。

 

だが、クラスの雰囲気は一向に凍ったままであった、

そんな時、SHRの終わりを告げるチャイムがなった。

 

「つ、次の授業は二組との合同授業です!遅れない様にしてくださいね?」

チャイムの音で我に返った真耶がそう締め括り、

歓喜と恐怖がごちゃ混ぜになったSHRは終わった。

 

sideout

 

side一夏

「は、初めまして、君達が織斑君だね?僕は・・・。」

「そんな事より行くぞ、女子達が着替え始める。」

 

空気を読まず話し掛けてきたシャルルの腕を掴み、

俺は秋良と共に一気に教室を飛び出した。

 

「えっ!?な、なんでそんなに急いでるの!?」

「男子はアリーナにある更衣室で一々着替えなきゃいけないんだ、

早く慣れないと疲れるよ?」

 

秋良が慌てるシャルルに説明をしながら俺達の隣を走る。

 

さてと、原作ならここで空気の読めない女子共が・・・。

 

「ああっ!?噂の転校生発見!!」

「しかも織斑兄弟と一緒にいる!!」

「者共!であえぃ!」

やっぱり来やがったな、ほんとめんどくせぇ。

 

「な、何これ!?」

「珍獣ハンダーだ。」

「そんな呑気な事言ってる場合じゃ無いって、兄さん、

俺が足止めするからシャルルを早く。」

「助かる、行くぞシャルル、着いてこいよ。」

 

女子達は秋良の方に流れ、俺とシャルルはアリーナを目指す。

 

「なんで皆あんなに騒いでるんだろう?」

「男子が俺達だけだからだ。」

「え?・・・、あ、そ、そうだね!」

 

ったく、コイツ化けるのが下手だな。

 

まあ良い、そんなのは後でじっくり聞けばいい。

 

そんだこんだしている内に更衣室に到着した。

 

「ふぅ・・・、大丈夫かシャルル?」

「う、うん・・・、なんとかね・・・。」

「いきなり走らせて悪かったな。」

「ううん、こっちこそありがとう、助かったよ。」

 

やべぇな、俺転生前はシャルロッ党だった、

こんな間近で微笑まれたらドキッとしちまうだろうが。

 

情けねぇな、何時もはクールキャラを気取ってるのによ。

 

「っと、さっさと着替えよう、ウチの担任は遅れてなくても遅いって言うからな。」

「そ、そうなんだ・・・、じゃあ急がなくちゃ!!」

「だな。」

 

シャルルに言われる前に彼女、いや、今は彼に背を向け、

制服を脱ぎ、あらかじめ着ていたISスーツに着替える。

 

これは俺なりの気遣いだ、さっさと着替えてくれ、

じゃないとキャラが崩れる。

 

「終わったよ、行こうか?」

「おう。」

 

さてと、面倒な事は勘弁だが、コイツの事は俺がしっかりと見てやるか。

 

sideout

 




はいどーもです!

ブラックラビッ党の皆様、ゴメンナサイ。


次回予告
合同授業の際、一夏はセシリアと組、
真耶と対峙する。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
模擬戦

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

模擬戦

side秋良

取り敢えず女子達は引き離したけど、

思いっきり兄さん達より遅れてる。

 

兄さんはシャルルと先に行っちゃったし、

俺もさっさと行かなきゃね。

 

「遅いぞ織斑弟!!」

なんで俺だけ~!?

 

着いた瞬間から早速怒られてるし。

仕方ないとはいえ泣きたくなるわ。

 

「(悪いな秋良。)」

「(良いよ別に、気にしてないもん。)」

 

小声で話し掛けてきた兄さんに返しつつ、

列の中に入る。

 

「それではこれより専用機持ちによる実演を見せてもらう、

織斑兄、オルコット、出てこい。」

 

ありゃ?原作じゃあ鈴が呼ばれる筈なのに、

・・・、ってそうか、アイツ自分から攻められないんだった。

 

簪は四組だし、シャルルは来たばっかりだからね、

なら手加減しまくった兄さんの方が良いよね。

 

ま、俺がやる訳じゃないからどうでもいいんだけどね。

 

「よろしく頼むぜセシリア。」

「はい!今日こそ当ててみせますわ!」

 

そう言えば、セシリアはクラス代表決定戦からずっと兄さんに一撃すら当てられてないんだよね、

今日こそは一矢報いたいよね。

 

でも、相手は兄さんじゃないよ~、

凄く天然で、何も無いところで転けそうな人だよ。

 

「お前達にはこれより模擬戦を行ってもらう、

相手は―――」

「ひゃぁぁぁ!!ど、退いてください~!!」

 

姉さんが言い終わる直前、

上空から悲鳴が聞こえ、頭が痛くなるのを感じつつ上を見る。

やっぱりね、ラファール・リヴァイヴを装着した真耶先生が墜落してきた。

 

って!?おいおい!?あまりにも的外れな所に墜ちようとしてる!?

 

兄さんは助ける気がないのか、セシリアを連れて落下予測地点から離れてる、

鈴はあてにならないし、シャルルは突然の事に固まってる。

ラウラはそもそも論外だ。

 

しょうがない、俺が助けますか。

 

飛び上がりつつもルージュを展開、

真耶先生の腕を掴んでスラスターを逆噴射して、地面との衝突を避ける。

 

「あ、ありがとうございます、秋良君。」

「いえ、大丈夫ですよ、気を付けてくださいね?」

「は、はいぃぃ・・・、」

 

なんでこの人が教員なんてやってるんだろう?

普通なら保母さんや花屋の店員やってる方が似合うよね?

 

・・・、いや、変な所でミスしそうだから無理かな・・・。

 

「ハプニングがあったが、お前達二人は山田先生と戦ってもらう、

制限時間は定めないが私が頃合いを見て止める、良いな?」

「「はい。」」

うわ~、兄さんスゴい不満そう。

なんせ思いつき眉間に皺がよってるもの。

 

ま、俺は見てるだけだし、頑張れ。

 

sideout

 

side一夏

やれやれ、面倒な事になったな・・・。

 

ま、セシリアの癖は大体分かってるし、

それを上手いこと引き出して山田先生と戦わせるか。

 

「セシリア、ビットは使わずに山田先生が避けたところを狙撃してくれ。」

「分かりましたわ、近接戦はお任せしてよろしいですか?」

「任せろ、俺はエールストライカーで行く。」

 

ストライクを起動し、I.W.S.P.からエールストライカーに換装する。

セシリアはブルー・ティアーズを起動し、俺の後ろに控える。

 

「それでは・・・、始め!」

駄姉の合図で俺は先に飛び上がり、

エールストライカーの機動性を活かし山田先生の背後に回り込み、

ビームサーベルを抜き放ち斬りかかる。

 

しかし、流石は元代表候補生と言うべきか、

俺の斬撃を見事と言うべき機体制御で回避し、

攻撃後の隙をマシンガンで攻撃しようとしてくる。

 

けど、俺は何も一人で戦ってる訳じゃねえんだよな。

意識を俺の方へ向けた山田先生を、少し離れた所にいたセシリアが狙撃、

俺への攻撃を妨げる。

 

その隙にビームサーベルで山田先生の両手に握られていたマシンガンを破壊、

追撃として左手にビームライフルを呼び出し発砲しようとするが、

距離が近すぎたせいか、ビームライフルを蹴り飛ばされてしまった。

 

マジかよ、原作より攻撃法が荒々しいな。

 

だが、おもしろい、そう来なくちゃな。

 

ならばと急接近し、両手にビームサーベルを持ち二刀流で攻める。

流石にビーム兵器は実体兵装では防げないのだろう、

俺から距離をとろうと後退する。

 

しかし、退路を阻む様に撃たれるセシリアの狙撃に、

山田先生の表情は苦いモノになっていく。

 

これだよ、これなんだよ!

相手の苛立つところ、苦い表情を見ることこそ、

対人戦の醍醐味なんだ!

 

「おもしろい、おもしろいぞ!」

 

思わず歓喜の言葉が口から飛び出てきた、

不謹慎だし、一応心の中で謝っておく。

 

そろそろ止められるだろうし、一気に勝負を掛けてみるか。

 

左手に持っていたビームサーベルをエールストライカーに戻し、

サイドスカートよりアーマーシュナイダーを取りだし、

山田先生目掛けて投擲する。

 

「ッ!?」

山田先生は咄嗟に回避するが、アーマーシュナイダーに気をとられ過ぎ、

セシリアの狙撃に当たる。

 

「終わりだ!!」

俺はスラスターを全開にし、間合いを一気に詰め、

二本のビームサーベルでトドメを刺そうとした。

 

 

まさにその時だった・・・。

 

「そこまで!」

駄姉が終了の合図を掛けやがった、

良いところだったのによ。

 

ビームサーベルは山田先生の機体に届くか否かという所で止めてある。

流石に終了の合図が掛かってるのにヤるのはどうかと思う、

たかが模擬戦だからな。

 

「セシリア、お疲れさん、いい援護だったぜ、

お蔭でかなりやり易かった。」

「ありがとうございます、お役に立てました様で何よりですわ。」

 

ふっ、コイツもコイツで可愛いところはあるから、

気にかけてやりたくなるんだよな。

 

「ですので、褒美として私を調教して――」

「黙ってろ牝犬が。」

「アァン!」

 

訂正・・・。

ホントダメだコイツ、早くなんとかしないと・・・。

 

sideout

 

sideラウラ

ありえない・・・。

教官の足を引っ張った男があれほどの力を持っているなど・・・、

あれほどの力があれば、教官の足を引っ張る事などありえる訳がない・・・。

 

では何故奴は教官の足を引っ張ったのだ・・・?

分からない、理解できない・・・。

 

sideout

 

side秋良

授業も終わり、何時ものメンバーにシャルルを加えた七人で屋上で食事をすることにした。

 

原作ならここで箒、セシリア、鈴が一夏の為に弁当を作って来るんだけど、

特にそんな事は無く、寧ろ兄さんと俺が弁当を作って来た。

 

兄さんて甘い物が好きだけど、弁当は結構しっかりと栄養バランスが考えられてる。

俺の場合、どうしても辛い物が多くなってしまうから、

ちょっと羨ましい。

 

「うわぁ!これ全部一夏と秋良が作ったの?」

料理の豪華さ――まあオムライスに唐揚げ、シーザーサラダにサンドイッチというラインナップだけどね――にシャルルは驚嘆していた。

 

「まあね、俺も兄さんも料理って結構好きだし、

皆で食べるんなら手作りの方が良いと思ってね。」

「御託は良い、さっさと食べるぞ。」

「ってコラ!何一人で勝手に食べようとしてんだ兄さん!?」

「動いてたから腹へってんだよ!!さっきの授業なんもしてねぇお前に言われたかねぇ!!」

「何おぉっ!?」

 

つまみ食いを阻止しようと兄さんの手を払い、

いつも通りの殴り合いに発展する。

 

「ね、ねぇ、止めなくていいの?」

「大丈夫だ、問題ない。」

 

モッピーがシャルルの質問に答える様に喋っていた。

因みに俺は今兄さんを卍固めで関節をキめている。

 

「痛い痛い痛い!!ギブ!秋良!痛い!!」

「だまらっしゃい!!兄さんがつまみ食いしようとしたのが悪いんだろ!!」

「ギャアァァッ!!」

 

断末魔が聞こえた気がするけど気にしない。

 

「ほ、本当に止めなくていいの?」

「何時もの事だ、気にしていたら付いていけん、

それにこれはこれで萌えるしな!!」

「「黙れよ腐女子!?」」

 

モッピーの台詞に俺と兄さんは揃ってツッコんだ。

 

ホント、モッピーなんでBでLな趣味に目覚めてんの?

なんか気色わるいわ。

 

「秋良、そろそろ食べよ?」

「分かったよ簪、じゃあ最後に!」

「ギャアァァァァッ!?」

 

兄さんがスゴい声をあげて沈黙する、

まあスーパーコーディネーターだし、大丈夫だよね。

 

「い、一夏?大丈夫?」

シャルルが兄さんを心配して、身体を揺らすが反応が返ってこない、

まるで屍のようだ。

 

「はわわわわ!?え、衛生兵!衛生兵~!!」

「五月蝿いぞシャルル、俺は大丈夫だ。」

「へっ?うわあっ!?」

 

テンパって叫ぶシャルルの声に、

五月蝿そうに顔をしかめながらゆっくりと起き上がる兄さんを見て、

シャルルはビックリしていた。

 

って言うか、回復ホントに早いね。

 

「お、脅かさないでよ一夏~!!」

「悪かったな、これが性分なもんでな。」

「嫌な性分だね!?」

シャルル、一々俺と兄さんにツッコんでたら疲れるよ?

まあそれがシャルルの性分なら仕方ないけど。

 

「そんな事より飯食うぞ、腹へった。」

「それじゃあ、皆、食べよっか?」

 

取り敢えず騒動を終わらせ、漸く昼食にありつく。

 

あ、そうだ。

「(ねぇ兄さん、シャルルの事なんだけど・・・。)」

「(俺に任せてくれないか?お前新党簪なんだろ?)」

「(分かったよ、シャルルの事、頼んだよ兄さん。)」

 

よし、これで何の憂いもないね。

 

後は兄さんが上手くやってくれるから、楽でいいや。

 

sideout

 





次回予告
シャルルと同室になった一夏、
正体を見破り、ある約束をさせる

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
約束

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

約束

side一夏

結局、シャルルは俺の部屋にルームメイトとしてやって来た。

 

まあそっちの方が色々と都合はいいんだが。

 

にしても荷物が少ないな、理由は分かるがな。

「これからよろしくね一夏。」

「こちらこそ、よろしくシャルル。」

 

俺とシャルルは互いに挨拶をし、

決まり事を幾つか決めておいた。

 

荷物の片付けが終わり、シャルルに緑茶を出してやった。

 

互いに向かい合う様にベッドに腰掛ける。

「これが緑茶・・・、本当に緑色なんだね。」

「まあな、慣れないかもしれないけど飲んでみてくれ。」

「うん、頂きます。」

 

取り敢えず話は落ち着いてからの方が良いと判断し、

なるべく緊張を解しておく。

 

しかし・・・、この世界に来て初めて悩んでるな、

どうやって切りだそうか?

 

何、彼女が悲しまない様にフォローはするさ、

その為に俺はここにいる。

 

「ふぅ・・・、緑茶って不思議な感じだね、紅茶とはまた違って美味しいよ。」

「気に入ってくれなら良かった。」

 

大分解れたか、なら、ちょっと切り出しても良いだろう。

 

「なぁ、シャルル、お前女だろ?」

「ッ!?」

分かっていた事ではあるが、彼女はビクリと身体を震わせていた。

 

「な、何言ってるの一夏?僕は――」

「見た目は仕方ないとして、まず男と女じゃ骨格が違うし、

この年頃の男にしては声も高い、

更に言うならお前は男としての意識が薄いってとこだな。」

「・・・。」

 

俺の推理――と言うよりは前世での知識――を聞き、

シャルルはどんどん青ざめていく。

 

「デュノア社は第三世代機を開発出来ていない、

フランスはイグニッション・プランから外されているため、

データが圧倒的に足りていない。

デュノア社は経営難に陥り、倒産の危機に陥った。

そこに俺と秋良という世界初の男性IS操縦者の出現、

そして、今までに無いバックパック換装システムを実装した機体、

これに目を着けたデュノア社長に無理矢理、って所か?」

「どうしてそれを!?」

「さあな?俺が所属してる企業を考えてみな?」

 

説明するように述べ、シャルルにヒントを与える。

 

「アクタイオン・インダストリー社・・・。」

「そう言うことだ、彼処には世界最高峰のハッカーや技術者が揃ってるからな。」

 

俺がそう言った瞬間、シャルルは何処か観念した様な表情を見せた。

 

「敵わないなぁ・・・、まさかこんなに早くばれちゃうなんて・・・。」

自嘲気味に呟きながらも、シャルルはジャージの中に手を入れ、

胸を抑えていたコルセットを取り外して俺に見せる。

 

「一夏の言う通り、僕は女だよ・・・、

そして、社長である父に命令されてここに来たんだ・・・。」

「ああ、大体察した、他に何か言いたい事はあるか?

全部聞いてやる。」

 

シャルルの口から語られた話は、

小説を読んでいる時よりも重く、そして何よりも痛々しかった。

 

織斑一夏にも親はいない、

一応俺と秋良は産まれた時、つまりは転生した時から意識はあったから、

何故消えたかとかは分かっている。

 

亡國企業の構成員だったこの世界の親父と御袋は、

裏を知りすぎたが故に消されたのだろう。

どうして駄姉や俺達に被害が無かったのかは分からないが、

それは良い、俺達には関わりの無いことだ。

寂しいとも悲しいとも思わない。

 

だがシャルルは違う。

 

シャルルは母親に先立たれた故の孤独だ・・・、

俺には分かってやる事は出来ない、

分かるなど言ってはいけないのだ。

 

「ふぅ・・・、話したら胸が楽になったよ、

騙しててゴメンね・・・。」

「・・・、何故泣かない?」

 

思わずそんな言葉が口から飛び出てきた。

自分でも驚いてる、けど、止まらない。

 

「えっ・・・?」

「辛いなら泣けば良い、苦しいなら吐き出せば良い、なのに何故、お前は泣かない?」

「で、でも僕は・・・、皆を、一夏を騙して・・・!」

「シャルル。」

 

気が付けば俺は立ち上がり、シャルルを抱きすくめていた。

 

「い、一夏・・・?」

「辛かったんだろ、苦しかったんだろ?

泣けよ、俺はお前を責めるつもりなど無い。」

「うぅ・・・、あァァ・・・。」

 

シャルルの声が、戸惑いから嗚咽へと変わり始めた、

後もう一押しだな・・・。

 

「今までよく頑張ったな、もう堪えなくて良い、

ここには俺とお前しかいない、だから、気が済むまで泣いていいんだ。」

「うァァァァ・・・!あァァァァっ・・・!!」

 

シャルルは俺の胸に顔を埋めて、思いっきり声をあげて泣いた。

俺は何も言わずに、彼女の背中を擦っていた。

 

暫くして、泣き声が治まりシャルルは顔を上げる。

 

「もう良いのか?」

「うん、ゴメンね一夏・・・。」

「気にするな、俺がそうしてやりたかっただけだからな。」

「ふふっ、ありがとう一夏。」

 

落ち着いたみたいで何よりだ、

でないと、やった意味が無いからな。

 

「一夏、心臓の音、凄かったよ?」

「ッ!何を馬鹿なことを・・・。」

「ずっと胸に耳を当ててたんだもん、分かるよ。」

「・・・。」

 

は、恥ずかしいぃぃぃ!!

クールぶってんのが裏目に出たぁ!!

 

くっ、地味にダメージ受けちまった・・・。

 

「ねぇ一夏ってば~?」

「分かったよ白状する、お前を抱き締めてたからドキドキしてたんだよ。」

「ふぇっ・・・?も、もう一夏ってば・・・。」

 

ッッ!!照れてる所とかマジかわいい!

女神よ、今更だけど転生させてくれてありがとう!

 

「悪かったよ、シャル。」

「シャル?」

「お前の本名、シャルルが男の名前なら女の名前はシャルロットだろ?

下手に使い分けてると何処かでボロが出るからな、親しみを込めて渾名を考えて見たんだが、

嫌だったか?」

 

と言うのは口実で、本当は俺がそう呼びたかったからだ。

 

「ううん!すごく良いよ!ありがとう一夏♪」

「喜んでくれて良かったぜ、ほら、顔洗ってきな。」

「うん♪」

 

シャルル改め、シャルは笑顔で頷き、

洗面台に向かっていった。

 

これで半分は解決、後はどうやって学園に留めるかだな。

 

取り敢えず、シャルが帰ってきたら取り敢えず話をつけるか。

 

sideout

 

sideシャルロット

洗面所に入り、僕は冷たい水で一気に顔を洗う、

散々泣いて火照った顔に、冷たい水は心地良かった。

 

タオルで顔を拭き、鏡を見ると、

目を真っ赤に腫らした僕の顔があった。

 

シャルルを名乗りはじめてから、自分の事が嫌いになった、

皆を騙していることが、そして何より、嘘をつかなくちゃいけない、

自分自身が嫌いだった・・・。

 

でも、一夏はこんな僕を赦してくれた、

泣いて良いと、優しくしてくれた。

 

(一夏・・・。)

彼を想うだけで心が暖かい気持ちで満たされていく、

何も感じる事が出来なくなっていた僕に、

歓びの感情が溢れていく。

 

赦されるのなら、僕は彼と一緒に居たい。

 

(このままフランスに戻っても、どうせ良いことなんて無い、

それなら、できる限り一夏の傍に居たい!)

 

僕の心は決まった、

後は彼と話をしよう。

 

そう思いながら洗面所から出た。

 

sideout

 

side一夏

新しい緑茶を用意していると、

シャルが洗面所から戻ってきた。

 

先程までの涙の後はすっかり消えていた。

 

「ようシャル、緑茶を淹れ直したんだが、飲むか?」

「ありがとう一夏、頂くよ。」

 

俺が差し出した湯飲みを受け取り、

シャルは緑茶を口に含む。

 

待っているだけでは退屈なので、

俺も緑茶を飲む。

 

さてと、落ち着いたところで話し掛けてみるか。

 

「お前はこれからどうするんだ?」

「決めたよ、僕は一夏と一緒に居たい!だからここに残る!」

「その言葉を待ってたぜ、俺はお前を歓迎する。」

 

俺は湯飲みを置き、決断したシャルの頭を撫でる。

 

これで良い、俺は彼女を救えた。

・・・、いや、まだだ、たとえシャルの心を救えていても、

まだ身体を求めてくる下衆がいるはずだ。

 

今の世界、男は普段虐げられている分、

こう言う女の弱味を握ったら凌辱の限りを尽くす筈だ。

 

自分で言っていてなんだが、ヘドが出るぜ。

 

だから、確実にシャルを守るには後もう一押し必要だ。

 

「それと、三つ約束をしてほしい。」

「約束?」

「ああ、何、身体とかそんなんじゃねぇから。」

 

不安そうな彼女を安心させる為に頭を撫でる。

 

「まず一つ目、学園の中にいる時も、外に行く時も、

なるべく俺から離れない事、二つ目、もし変な奴にこの事で迫られたら、

隠す事なく俺に言ってくれ、三つ目、俺に頼ったり甘えたりすること、

この三つを守ってくれないか?」

 

なんとか約束させていれば気休めになるしな。

 

「良いの・・・?僕、一夏にならなんでも・・・。」

「シャル、これは俺の為じゃねぇ、お前自身の為に言ってる事なんだ。

俺の事なんて考えなくて良い。」

「一夏ぁ・・・。」

 

シャルは湯飲みを置き、俺に抱きついてきた。

 

「シャル?」

「僕、甘えてもいいんだね?」

シャルは微笑んで俺に尋ねてくる。

 

そんな彼女の仕草が可愛くて、結構ドキドキしてきた。

 

「構わない、お前にはその権利がある、

だから、甘えたい時に甘えれば良いさ。」

「うん♪」

 

これで一件落着かね?

恋人関係になるかどうか分からんが、できる限り俺がサポートしますかね。

 

sideout

 

 

 




はいどーもです!

次回は閑話を入れます。

モッピー大暴走です。

それでは次回予告
IS学園の一角にある部屋、
そこである会合が行われようとしていた。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
番外編 腐女子組合

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 腐女子組合

noside

IS学園

 

そこはISに関わる少女達を育成する世界唯一の教育機関である。

 

日本はもとより、海外からも多くの生徒が日夜勉学、

訓練に励んでいる。

 

だが忘れてはいけない、

彼女達も所詮は十代の少女、

勉学以外にもやりたいことは多々ある。

 

ある者は裁縫、またある者は料理、そしてまたある者は音楽など、

それぞれ多種多様な趣味を持っている。

 

人様の迷惑にならない程度に、しかし自分が楽しめる様な活動を各々が行っていた。

 

だが、ある一団は特定の人物に極端に迷惑がられている。

 

その団体はIS学園のある一角を週に一度占拠し、

何やら会合を開いているそうである。

 

今日はそんな彼女達の活動を少し覗いてみよう。

 

sideout

 

noside

IS学園の大会議室、

本来ならそこは職員会議等に使われるのだが、

この日は別の事に使われていた。

 

集まっているのはざっと五十人程だろうか、

学年問わず相当数の女子生徒が揃っていた。

 

だが、何やら様子がおかしい。

全員顔を赤くし、荒い鼻息で何かを待っているようであった。

 

『んんっ!あーマイクテスト、マイクテスト、よし、聞こえてるな?』

 

会議室のブラックボードの前に一人の女子生徒が立つ。

その少女とは、世界初の男性IS操縦者兄弟である織斑兄弟の幼馴染み、

篠ノ之 箒であった。

 

彼女はその手にマイクとリモコンを持ち、

一度深呼吸した後、その場にいる全員に向かって喋る。

 

「さあ!皆様お待ちかね!!我ら薔薇の園の第四回活動です!

いつも以上に男と男の恋愛について熱く語りましょう!!」

『ウオォォォッ!!』

 

箒の掛け声に、十代女子とは思えない叫び声を上げる面々。

 

この場に一夏と秋良がいれば、その端整な顔は恐怖にひきつっていたであろう。

 

そう、彼女達こそある特定の人物、

つまり一夏と秋良に極端に迷惑がられている団体、

薔薇の園、通称、腐女子組合である。

 

「静粛に、それでは今日見ていただくのはこちらです!!」

 

そう言いつつ箒はリモコンを操作し、

何やらスライドを映す。

 

そのスライドには、一夏がシャルルに料理を食べさせている写真がデカデカと映し出されていた。

 

『ウオォォォォォォッ!!』

先程の比ではない大きさの叫び声が会議室を比喩表現ではなく揺らす。

 

「一シャルキター!!」

「良いわ!!凄く良いわ!!」

「モッピー、ナイスカメラワーク!!」

 

場の空気が一瞬にして騒がしくなる、

彼女達にとってはイケメン×美少年は高級食材(?)である。

 

「静粛にお願いします、では本日の議題!!

この後、一夏シャルルはどうするのでしょうか!?」

何やら凄まじく危ない臭いがする議題だが、

当事者達がいないこの場ではそんな物など何の意味も為さない。

 

「はい!」

「会員番号25番!」

 

勢い良く手を挙げた女子生徒を箒は指名する。

 

「はい!一夏君が――

 

sideout

 

side妄想

『シャルル、旨いか?』

『うん♪とっても美味しかったよ一夏♪』

一夏の問い掛けにシャルルはニッコリ微笑む。

 

『そうか、そろそろ俺もデザートを頂くとするかな?』

『え?甘い物なんてもう無いよ?』

『何言ってんだよシャルル、あるじゃないか。』

『えっ・・・?あっ・・・。』

一夏はシャルルに近付き、首元に指を這わせる。

彼の目はまるで獲物を見つけた肉食獣のようであった。

 

『俺の目の前にこんなに旨そうなスイーツがな。』

『一夏・・・。』

『良いよなシャルル?』

『うん・・・。あっ・・・。』

 

sideout

 

noside

『キター!!!!!!』

 

会員番号25番の妄想に、

一部は狂喜し、一部は恍惚の表情で鼻血を流していた。

 

見た目麗しい少女達なだけに、行動が色々と残念である。

 

「うむ!素晴らしい!他には何か無いか!?」

箒自身も鼻から大量の血を流しながらも、

他に意見(?)がないか尋ねる。

 

「はい!」

「会員番号30番!!」

「私は寧ろシャルル君が――

 

sideout

 

side妄想

『美味しいね一夏♪』

『そうか、なら良い。』

『あっ、僕もう一品食べたいなぁ。』

『何言ってる?もう料理は無いぞ?』

『あるじゃない。』

『ッ!?シャルル!?』

シャルルは一夏を押し倒し、彼の胸板を指でなぞる。

 

『こんなに美味しそうなメインデイッシュがね♪』

『や、やめろシャルル・・・。』

『一夏は僕の事、嫌い・・・?』

『嫌いな訳ないだろ、寧ろ好きだから・・・。』

『嬉しいよ一夏♪大好き。』

『・・・、好きにしろ。』

 

sideout

 

noside

『も、萌えェェェェェッ!!』

 

先程とはまた違う叫びが会議室を揺らす。

 

今度は全員が荒い息を吐いていた。

 

「素晴らしいッ!!そろそろ時間も無いので、

最後、何か無いか!?」

 

箒は鼻血と涎を拭きつつも尋ねる。

 

「はい!」

「会員番号15番!!」

「私は秋良君も絡めた――

 

sideout

 

side妄想

『兄さん!!』

『秋良!?』

『俺との夜は嘘だったのか!?』

『お、俺は・・・。』

『たとえ秋良でも、一夏は渡さないよ!!』

『俺の方がシャルルより兄さんを気持ち良くしてやれるんだ!!』

『なら、一夏に決めてもらおう!!』

 

そう言いつつ、シャルルと秋良は一夏に詰め寄っていく。

 

『シャルル、秋良、やめろ・・・!』

『覚悟してね一夏?』

『俺とシャルル、どっちが良いか、ちゃんと決めてね?』

『俺は・・・、二人とも好きだから・・・、・・・、勝手にしろ。』

 

sideout

 

noside

『ムッヒョォォォォォッ!!』

 

もう何と叫んでいるかも分からない様な声を上げ、

組合員達は狂喜乱舞していた。

 

はっきり言って凄く恐い・・・。

 

「素晴らしいッ!!本日の結論!!

一夏はツンデレ受けが似合う!!」

『異議無し!!』

「本日はこれで閉会!以上!!」

 

最早何と言って良いかも分からなくなってきた。

 

薔薇の園、通称、腐女子組合の活動はこれからも続いていく。

 

 

 

 

 

同じ頃・・・。

 

「「うおぉぉっ!?」」

「うわぁぁっ!?」

 

凄まじい悪寒を感じた二名の男子生徒と、

一名の男装女子が居たとか、居なかったとか・・・。

 

「な、何今の!?」

「分かんない、て言うか分かりたくもない!!」

「腐女子恐い腐女子恐い腐女子恐い腐女子恐い。」

 

sideout

 

 

 

 





次回予告
一夏は秋良は専用機持ち達と訓練する、
そこに近付く影があった。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
因縁

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

因縁

side秋良

シャルル達が転校してきて既に5日が過ぎ、

どうやら兄さんはシャルルと上手くいったみたい。

 

だってシャルルは兄さんにべったりだったし、

兄さんは満更でもなさそうだった。

 

なんで兄さんだけがモテるんだ、凄くイラつく。

これでも中学時代は俺の方がモテてたんだよ?

 

でもまあ、一部の腐女子が歓喜していたのはご愛敬って所だね。

 

因みにセシリアは兄さんに構って貰ってるシャルルに若干嫉妬してたね。

後で兄さんに構ってもらったみたいだけど。

 

でも何故かセシリアのシャルルを見る目が困惑というか、

怪訝の色が見てとれるんだよね。

 

まさかとは思うけど、セシリア、シャルルの正体に気付いてるのか?

いや、それなら兄さんが気付いてる筈だし、無いよね?

 

 

まあそれは置いといて・・・。

現在専用機持ち組みは第一アリーナで模擬戦をしていた。

 

因みにモッピーは腐女子組合の会合があるらしく、

現在ここにはいない。

 

そんな訳で、俺と兄さんは四人を相手に無双してた。

 

「強すぎですわ一夏様~!」

「二人がかりでも余裕だったね・・・。」

 

そりゃそうだよセシリア、シャルル、

兄さんを常識で捉えちゃ駄目だよ?

 

まあ俺も人の事言えないけどさ。

 

「強いね・・・、秋良。」

「また負けたぁ・・・。」

 

簪はげんなりと、鈴は今にも泣きそうな顔で悔しがっていた。

うん、マジごめん二人とも。

 

「さてと、次は俺と秋良の模擬戦を見とけ、

言っとくが、秋良と俺の実力は殆ど同じだ。」

 

そう言いつつ兄さんはI.W.S.P.を起動、

全身に殺気をまとわせ、既に臨戦モードに入っていた。

 

良いね、この肌が痛くなるような殺気、

こんなの他の人間からは感じた事ない。

 

それに感化されたのか、俺も殺気を纏わせていた。

 

簪達が俺達二人の殺気に震えているのが分かるけど、

今は兄さん以外を見ると確実に殺される。

 

「行くよ、兄さん。」

「来いよ、本気でな。」

 

俺は一気に加速し、突っ込んできた兄さんと対艦刀で打ち合う。

 

互いの装甲を掠めながらも、

超高速の斬撃で打ち合う。

 

けどなぁ・・・、I.W.S.P.同士じゃどう考えても兄さんの方が上手だ、

正直言って勝てる気がしない。

 

なら、これを使うかな?。

 

兄さんの腹部を蹴り、一旦距離を取る。

そこでI.W.S.P.を量子格納してソードストライカーに換装する。

正直こっちの方がやり易い。

 

対艦刀<シュベルト・ゲベール>をバックパックから取り外し両手持ちで構える。

 

加速力は落ちたけど、小回りならこっちの方が上だからね。

 

「はあァァぁッ!!」

地面を蹴り、一気に間合いを詰め、

シュベルト・ゲベールで斬りかかる。

 

シュベルト・ゲベールはI.W.S.P.に装備されている対艦刀よりもリーチがあるから、

I.W.S.P.装備の兄さんよりワンテンポ早く攻撃ができる。

 

「クッ!」

兄さんはバックステップでなんとか回避するけど、

俺はそんなに簡単に逃がしはしない。

 

左腕を突きだし、ロケットアンカー<パンツァーアイゼン>を射出、

兄さんの肩口を捕らえた。

 

「しまった・・・!!」

「もらったよ!」

 

アンカーを巻き戻しながら左肩のビームブーメラン<マイダスメッサー>を引き抜き、

ビームサーベルと同じ要領で切りつける。

 

「オオリャッ!!」

「なッ!?」

身体をずらして自分を拘束しているパンツァーアイゼンのケーブルを切断させただって!?

 

決まったと思ったけど、

どうやら兄さんは俺の予想の斜め上を行くみたいだ。

 

「この距離なら避けられねぇだろ!!」

「やべっ!?」

 

こんな至近距離でガトリング撃ちまくる気か!?

勘弁してよ、只でさえあの武装の攻撃力高いのに!!

 

かくなる上は・・・!!

 

「「オオォォォォッ!!」」

 

全く同じタイミングで雄叫びをあげながらシュベルト・ゲベールを降り下ろし、

ガトリングのトリガーを引いた。

 

sideout

 

noside

「痛ェ・・・。」

「兄さん無茶しすぎ。」

 

一夏と秋良は各々の機体を解除し、

地面に座り込んでいた。

 

一夏はシュベルト・ゲベールの斬撃を、

秋良はガトリング弾の直撃を受け、互いにダメージを受けていた。

 

他の四名は二人の凄絶な戦いに身震いし、

彼等を畏怖の目で見ていた。

 

「一夏様、大丈夫ですか?」

「無茶しないでね、一夏?」

 

セシリアとシャルロットは一夏に駆け寄り、

タオルとドリンクボトルを手渡す。

 

「すまんな、助かるよセシリア、シャル。」

一夏は二人に微笑みかけながらドリンクボトルとタオルを受け取っていた。

 

「飲み物いる?」

「秋良、タオルあるよ・・・?」

「ありがとね、簪、鈴。」

 

秋良は簪と鈴からタオルとドリンクボトルを受け取り、

汗を拭きながら水を飲む。

 

「さてと、今日はこれぐらいにしておくか?」

「そうだね、それが良いと思うよ。」

一夏の提案に秋良達は同意し、

アリーナから去ろうとしていた・・・。

 

「おい。」

それを呼び止める者が居た。

 

シュヴァルツァ・レーゲンを展開したラウラ・ボーデヴィッヒである。

 

「どうしたよ、クソガキ?」

一夏は初日と変わらない侮蔑を籠めた視線をラウラに向ける。

 

あの一件以来、一夏はラウラの事をクソガキと呼ぶことにし、

突っ掛かってくる度にそう読んでいる。

 

「貴様等も専用機を持っている様だな、

丁度良い、私と戦え。」

右肩のレールガンを一夏達に向けつつ、

戦えと言ってくる。

 

「フン、どうしようもない駄々っ子だな。」

一夏はストライクを起動しようとするが、

秋良が彼の肩を掴んで止める。

 

「待ってくれ兄さん、ここは俺がやる。」

「・・・。」

 

秋良が前に出て叫ぶ。

 

「用があるならさっさとやってくれないかな?

でも、無抵抗の人間に攻撃したら君の教官はなんて言うだろうね?」

 

秋良は呆れた様な口調で話し、

ラウラを睨み付ける。

 

「・・・、フン。」

ラウラは興が冷めたのか、シュヴァルツァ・レーゲンを解除し、

アリーナから去っていった。

 

「・・・やれやれ、子供の相手は疲れるね。」

「まったくだな。」

 

秋良と一夏は溜め息をつきながら、

各々アリーナを去っていった。

 

sideout

 

side一夏

ガキに絡まれたがスルーし、

俺はシャルと共に更衣室に居た。

 

「なんでボーデヴィッヒさんは一夏達を憎んでるの?」

 

着替えている途中でシャルが尋ねてくる。

 

「ん~、話せば長くなるが聞くか?

聞くにしても気分が良いものじゃ無いがな。」

 

俺は別に気にしてもいないが、

アイツにとってそうはいかないのだろう。

 

「あっ、一夏が話したくないなら、僕は聞かないよ?」

「優しいなシャルは。そうだな、話したくなったら話してやるさ。」

「うん、それまで待ってるね♪」

 

シャルの奴、心から笑う様になってるな。

転校してきた時は何処か作り笑いじみていたからな。

 

そんなことを考えつつ彼女と少し離れて着替えていると、

ストライクに個別通信<プライベートチャンネル>で通信が入った。

 

相手は・・・、ブルー・ティアーズ、

セシリアか?

 

「(こちら一夏、どうしたんだセシリア?)」

『ご機嫌麗しゅうございます一夏様、実は少し気になる事が有りまして・・・。)」

「(気になる事?なんだ?)」

 

何となく嫌な予感がするが、

呼び出しに出た限り、しっかりと聞いてやらなければ失礼というものだ。

 

『はい、シャルルさんの事なのですが・・・、

彼は・・・、女性ではないでしょうか・・・?』

な、なんだと・・・!?

セシリアの奴、大分鋭くなってやがる!?

 

「どうしたの一夏?」

シャルが俺の方に近付いてくる。

 

取り敢えず持っていた紙にボールペンで、

『セシリアがお前の事勘づいている。』

と書いておいた。

 

それを見た瞬間、シャルの顔は一気に蒼くなっていた。

ヤバイな・・・、取り敢えずどうするか・・・。

 

「(何故そう思う?)」

『いえ、なんとなくそうではないかと思いまして・・・。』

 

確証は無いか、これならなんとかなりそうか?

 

ふとシャルの方を見ると、俺が渡した紙に何かを書いていた。

 

『セシリアに僕の事話そう。』

って、マジか!?

セシリアの事を信じていない訳では無いが、

知っている人間は少ないに越した事は無い。

 

だが、シャルがそう言うなら俺は止めることは出来ない、

俺はシャルを守ると言っているだけで、

保護者でもなんでも無い。

 

「(取り敢えず話をしよう、俺とシャルの部屋に来てくれ。)」

『分かりましたわ、それでは後程。』

 

通信が切れた事を確認して、

俺は思いっきり溜め息をつく。

 

こんなに疲れたのは久し振りだ。

 

「良いのか?」

「良いよ、騙していたのは僕の方だし、

騙し続けるのも辛いから・・・。」

「分かった、なら俺は止めん。」

 

彼女が頷いたのを確認し、俺は止まっていた着替えを再開する。

 

これからどうなるのやら・・・。

 

sideout

 

side秋良

兄さん達より先に更衣室を出た俺は寮に向けて歩いていた。

 

にしてもラウラの奴、恨んでるんだかなんだか知らないけど、

調子に乗りすぎたよね。

 

兄さんがセシリアにやった様にボコッてあげようかな?

 

いや、俺がやるともっと手酷くやりそうだし、

やめとこうかな?

 

「何故です!?何故この様な所で教師などされているのですか!?」

 

っと、ラウラが姉さんに叱られる場面か、

ならちょっと覗き見でもしようかね?

 

「はぁ・・・、何度も言っているだろう、これが今の私の務めだと。」

「この様な極東の地で何をすることがあるのです!?」

 

失礼な事を言うな、あのちびっこ。

自分の身の程を分かってないのかな?

 

どうせ周りを全く見ていない愚か者なだけなんだろうけどさ。

 

さて、姉さんはどう返すのかな?

 

「この学園の者はISをファッションか何かと勘違いしている!

その様な者に何を教える事が・・・!」

「その辺にしておけよ小娘。」

「っ・・・!」

 

ふーん、やっぱり覇気は凄いんだね、

兄さん程じゃないけど。

 

「十五やそこらでもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る、

だがな、この学園にいる以上、貴様も一生徒でしかないことを忘れるな。」

 

ごもっともだね、

慢心と独善はその内自分の身を滅ぼすからね。

 

「さっさと行け、私は忙しいんだ。」

「・・・、くっ!!」

 

何か言いたそうな表情をしながらもラウラは走り去って行った。

 

その方向をしばらくにらみ続けた後、

姉さんも校舎の方へと歩いて行った。

 

やれやれ、めんどくさい事は嫌いだけど、

俺達が撒いた種だ、何とかしますかね。

 

そう思いながらも、俺は寮に向けて再び歩きだした。

 

sideout

 

 

 

 

 




はいどーもです!

そろそろ新しいストライカーを出したいんですが、
如何せん、ストライカーだけじゃ数が少ないのですよ。

最悪シルエットかウィザードからいくつか出したいと思ってますが、
オリジナルも出したいと思ってます。

さてそれでは次回予告
セシリアにシャルの事を告げる一夏、
その頃秋良はラウラと戦っていた。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
狂戦士と軍人

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

狂戦士と軍人

side一夏

現在、俺は部屋にセシリアを招き入れ、椅子に座ってもらっている。

 

まさかセシリアがシャルの事を勘づいているとは思えなかった。

 

「ほれ、紅茶だ。」

「ありがとうございます、一夏様。」

「シャルの分もあるぞ、飲むか?」

「ありがとう一夏、頂きます。」

 

セシリアとシャルに紅茶を出し、

俺もマイカップに紅茶を淹れつつ二人と向かい合う。

 

・・・、何でだ、俺が二股掛けたみたいになってる・・・、

いや、あながち間違いじゃないか・・・。

 

「それで、セシリアよ、何故シャルが女だと思った?」

俺は最も気になっていた事をセシリアに尋ねる。

 

論理的に考えてもバレる確率は少ない筈だが、

女の勘とか言われたらそこはもう脱帽だ。

 

「その・・・、一夏様の態度と言いますか・・・、

シャルルさんへの接し方が女性に対する物でしたので、

もしやと思いまして・・・。」

 

・・・、俺かよ、俺が原因かよ!!

 

何故だ?

駄姉や鈴以外には殆ど同じ態度を取っている筈なんだが・・・?

 

「あ、それわかるよ、一夏ってば普段は素っ気ないって言うか、

クールに振る舞ってるけど、然り気無くドアとか開けて待っててくれてるしね。」

「いや、それぐらい普通だろ?」

「まあ私は一夏様と秋良さんのやり取りしか見たことはありませんが、

とても男性に対するような態度ではありませんでしたわよ?」

 

ったく、それ女の勘とか言うやつだろ?

敵わないな・・・。

 

「まあそれは良い、取り敢えずシャルが何故男装させられてここに居るのかだ。」

俺はシャルに確認を取り、セシリアに事情を説明する。

 

自分で話していてなんだが、やはり虫酸が走るな。

 

「――と言うことがあったんだ、シャルを責めないでやってくれ。」

「騙しててゴメンね・・・。」

 

シャルはセシリアに向けて頭を下げていた。

 

「シャルルさん、謝って頂かなくてよろしいですわよ、

貴女は何も悪い事など為されていないではありませんか。」

セシリアはシャルの肩を掴み、

シャルを許すような言葉を投げ掛けていた。

 

「一夏様、何故私に言って下さらなかったのです?

少し酷いではありませんか。」

「悪かったよ。」

 

確かに俺の事を信じていてくれているセシリアに教えなかったのは悪かったな、

それだけは反省しておこう。

 

「悪いとお思いでしたらこれで私を苛めて――」

「いい加減にしろよこの駄犬が。」

「ンハァァッ!!」

 

何故か鞭を手渡されたので罵りついでにひっぱたいておく、

なんて言うか本当に良い反応するよな、

 

嫌いじゃない俺もドSか・・・。

 

さてと、これで一件落着だな。

 

シャルだけじゃなく、たまにはセシリアも構ってやらないとな。

 

sideout

 

noside

翌日、簪と鈴は秋良と共に第三アリーナに居た。

 

二人共、代表候補生として強くなりたいのか、

もしくは別の事情かは判らないが、

秋良に訓練をつけて貰うようだ。

 

「それじゃあ用意は良いかな?」

「勿論。」

「良いわよ・・・!」

 

秋良はルージュを起動させ、

ビームライフルとコンバインドシールドを呼び出し、

二人に掛かってくるように促す。

 

「行くよ!」

 

秋良が動こうとしたその瞬間、

あらぬ方向からレールガンの弾丸が飛来する。

 

「チッ!!」

秋良はコンバインドシールドで弾丸を弾き飛ばす。

 

「何してくれてんのかな?」

秋良が腹立たしそうに飛んできた方向を見ると、

そこにはシュヴァルツア・レーゲンを展開したラウラが居た。

 

「何をだと?貴様らが戦おうとしないからな、

私から仕掛けてやったのだ、まさか断らんだろうな?」

ラウラはあからさまな挑発を秋良に向け投げ掛けていた。

 

「・・・、君の挑発に乗ってあげよう、

但し、どうなっても知らないよ・・・。」

 

ラウラの挑発に、秋良は全身に殺気を纏わせ、

今にも飛び掛かりそうな様子であった。

 

「鈴、簪、危ないから少し下がっていてくれ、

俺は・・・、アイツを倒す。」

 

秋良は二人にそう言い残した直後、

一瞬にしてラウラとの距離を詰める。

 

「なにっ!?」

 

あまりの速さにラウラは対応出来ず、

ハイキックをもろに顔面に喰らい、後方に大きく飛ばされる。

 

「ぐっ!嘗めるなぁ!!」

ラウラは体制を立て直し、

両腕にプラズマブレードを発生させ、秋良に猛然と迫る。

 

「上等!!」

秋良は対艦刀を引き抜き、ラウラを迎え撃つ。

 

プラズマブレードと対艦刀がぶつかり合い、

激しい火花を散らす。

 

ラウラは重さが殆ど無いプラズマブレードによる連続攻撃を仕掛けるが、

秋良はそれ以上の手数を以て攻め立てる。

 

「ほらほらどうしたんだい?俺達が憎いんだろ?

本気で掛かってこないと勝てないよ?」

「ッ!!黙れェェェッ!!」

 

秋良の挑発に激昂し、殆ど無意識にAICを発動させる。

 

AICは対象の物体を拘束、停止させる兵器である。

 

秋良はそれに絡めとられる。

 

「死ねぇッ!!」

ラウラは勝ち誇った様な笑みを浮かべ、

右肩のレールガンを秋良に向けるが・・・。

 

「君だけがレールガンを使えると思ったら大間違いだよ。」

秋良は嘲笑いながらラウラよりも速く、

両肩のレールガンを撃つ。

 

「なにっ!?」

ラウラは驚愕するが、レールガンの発射体制に入っていた為、

避ける事ができずに直撃する。

 

「知ってるよ、AICは対象に集中しないと効果が無いんだよね、

だからこうやって・・・。」

 

秋良は対艦刀を二本とも格納し、

ビームライフルとコンバインドシールドを改めて呼び出す。

 

「連続攻撃を掛ければ弱いんだよね。」

ガトリングを撃ちながらも、回避予想ポイントにビームライフルを撃つ。

 

「ぐあっ!!」

立て続けに襲ってくる弾丸の雨霰を回避しきれず被弾する。

 

「どうしたんだい?まさかもうギブアップかな?

もっと俺を楽しませてよ?」

 

秋良は端整な顔に邪悪な笑みを浮かべつつ、

ラウラに急接近、武器を使わずに攻撃する。

 

ラウラの後頭部を殴り、直後に膝で蹴りあげる。

上がった顔面を掴み、そのまま地面へと叩きつける。

更にバウンドした所を蹴り上げ、宙に浮かせた瞬間、

跳躍し、踵落としを叩き込んだ。

 

ラウラは起き上がる事すら出来ずに呻く事しか出来なかった。

 

「もう終わりかい?そんなんじゃ誰にも勝てないよ、

いや、君にはその誰が無いのか。」

 

秋良はつまらなさそうに呟き、ラウラの髪を掴んで持ち上げる。

 

「俺達に勝ちたいなら、自分に欠けている物を見付けてからにしなよ、

じゃないと、君は永遠に出来損ないのままだ。」

 

髪を掴んでいた手を離し、回し蹴りを腹部に叩き込む。

 

最早体力も尽きかけていたラウラは防御も出来ないまま吹っ飛ばされ、

壁に激突し地面に倒れこんだ。

 

「ちっ、無駄な時間をとっちゃったな。」

秋良が呟き、簪達の下へ行こうとした、正にその時・・・。

 

「ウアアァァァッ!!」

突如ラウラが絶叫し、シュヴァルツア・レーゲンの装甲がドロドロに溶けはじめ、

紫電を放ちながらラウラを呑み込み、別の姿へと変貌していく。

 

その姿は、ブリュンヒルデ、織斑千冬であった。

 

sideout

 

side秋良

まずったな・・・。

本当なら学年別トーナメントで起きる事件を前倒しさせちゃったよ、

これじゃあ大分原作から外れちゃうね。

 

まあこの世界が原作とは違う事位もう分かってるけどね。

 

さてと、どうしましょうかね?

セシリアとシャルルを連れて観客席にいる兄さんは、

恐らく高見の見物を決め込むだろうからあてにしない。

てかあの人本当に何がしたいのか判らない。

 

信じられない事は無いけど、目的が判らないのが恐い。

しないとは思うけどいつか後ろから撃たれるんじゃないかと思ったりもしている。

 

まあそんな事はどうでもいい。

兄さんは動かない。

ならば俺が解決してやりますか。

 

簪と鈴はもう退避している、

なら、存分に暴れてやりましょうかね?

 

物騒な事を考えつつ、I.W.S.P.からソードストライカーに換装し、

シュベルト・ゲベールを両手に持ち、真正面から一気に斬りかかる。

 

「ハアァァァァッ!!」

俺が振り下ろしたシュベルト・ゲベールに反応したのか、

黒い奴は雪片を振り、受け止める。

 

やっぱりね、データだけを真似てるからか、

重くも何ともない、ちょっとしたことで壊せるね。

 

距離を取り、

パンツァーアイゼンを射出して雪片を掴み体制を崩させる。

 

「俺に勝ちたいなら・・・、そんな物に囚われるなぁァァッ!!」

上段から一気に振り下ろし、真っ二つに叩き斬った。

 

黒い装甲が裂け、中から気を失ったラウラが放り出されてきた。

 

俺はシュベルト・ゲベールを地面に突き刺し、

ラウラが地面に叩き付けられる前に受け止める。

 

「君は自分を知らないんだ、だから弱い。

自分を知ってからもう一度俺に掛かってきな。」

 

独り言を呟きながら、

俺はラウラを抱えてアリーナを出た。

 

sideout




次回予告
秋良の代わりにラウラと話す一夏、
一方セシリア達は一夏と戦うためにコンビを組む。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
学年別トーナメントに向けて

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

学年別トーナメントに向けて

sideラウラ

「うっ・・・?ここは・・・?」

身体に走る鈍い痛みに叩き起こされ、

私は自分が保健室のベッドに寝ていた事を理解する。

 

私は・・・、一体何を・・・。

 

「気が付いたかい?」

呼び掛けられた声に目を向けると、

そこには織斑・・・、

 

「・・・、どっちだ。」

 

兄か弟か分からなかったので思わず聞いてしまうと、

奴はずっこけていた。

 

「お、俺は一夏だよ。」

・・・、怪しい、凄まじく怪しい。

 

私が記憶している限り、織斑一夏はこんなに軽薄な男では無いはずだ、

寧ろ常に不敵な微笑を浮かべている。

 

「ふぅ、秋良の真似も疲れるな。」

訂正、弟の真似をした本人だった。

何故真似をしていたのか謎だ。

 

「まあ良い、取り敢えず事情説明だ、

秋良はテメェの代わりに事情聴取を受けてるから代わりに俺が説明する。」

 

そうだ・・・、私は何をしていだんだ・・・、

織斑弟に蹴り飛ばされてからの記憶が無い・・・。

 

「質問から始めるが、VTシステムは知ってるよな?」

「ヴァルキリー・トレースシステムの事か・・・?」

「ああ、それがテメェのISに登載されていた、

だが、物の見事に秋良が壊してくれたから解析が出来なくなったがな。」

「そうか・・・。」

 

そうとしか言えなかった。

ヴァルキリー・トレースシステムは機体の損壊レベルと、

搭乗者の精神状態、つまりは願望が発動のキーとなる。

 

つまりこの事件は私が引き起こしてしまった。

 

教官に、織斑千冬に成りたかったから・・・。

 

兵器として生まれ、育てられ、

そして落ちこぼれの烙印を押された私を救ってくれた教官に・・・。

 

「もう一つ質問させて貰う、お前は誰だ?」

「私か・・・?私は・・・。」

 

質問されて、私は自分をラウラ・ボーデヴイッヒだと言えなかった。

何故かは判らないが・・・。

 

「言っとくが、お前は織斑千冬には成れん、

つーか成るな、あの駄姉みたいな奴が増えたら世界が困る、

家では何も出来ん粗大ごみだ、いるだけスペース取るしな、

掃除も料理も最低限すら出来ん、確実になにかが壊れる上に、

俺達の仕事が増える、それから・・・。」

「分かったもういい、頼むからそれ以上は止めてくれ。」

 

今ので何となく分かった、コイツらは教官の事をあまり好いていない様だ。

実の姉に対してここまで辛辣に成れる奴がいるのか・・・?

 

「いるぞ?俺の周りに後二、三人は。」

「今さらっと思考を読んだな?」

「そんな事はどうでもいい、駄姉を目指すのは結構、

だが、お前はお前のままで強くなれば良い、それが人間だ。」

 

人間・・・、そうだ、私は兵器である前に人では無いか、

私が教官に憧れたのも、コイツらを憎んでいたのも、

人間だから出来た事ではないか・・・。

 

「ま、俺はお前の考えをどうこう言うつもりは無い、

どうやって生きるか、どうやって歩くかはお前次第だ。」

 

そう言いつつ、一夏は席を立ち、

保健室から出ていこうとする。

 

「だが、期待はさせて貰うぜ?お前がこれからどうやって過ごすのかをな。」

そう言い残し、奴は出ていった。

 

「は・・・、はは・・・、はははっ!」

無意識に笑ってしまっていた、

だが、止めることは出来ない、本当に愉快だから・・・。

 

「ズルいではないか・・・。」

一夏にしろ、秋良にしろ、大事な事を言ってる癖に、

後は自分で何とかしてみろと言わんばかりの態度。

 

「これが・・・、敗北か・・・。」

 

初めて味わった敗北の味は、

この上無く新鮮だった。

 

sideout

 

side一夏

保健室から出た俺を待っていたのは、

セシリアとシャルだった。

 

二人ともどこかからかうような笑みを浮かべつつ、

俺の方に歩みよってくる。

 

「あの様な答え方でよろしいんですの?」

「良いさ、ヒントさえ与えとけばアイツはなんとかなる。」

 

意地悪く聞いてくるセシリアに答えつつ、

俺は歩き始める。

 

「示された道を歩くのは簡単だ、

だがな、自分で何とかして歩くからこそ、人は成長できるんじゃないかと、

俺は思っている。」

「深い言葉だね、なんだか重みが違うよ。」

「気にするな。」

 

やれやれ、本来なら秋良の役目なんだがな、こう言うのは。

 

ま、嫌いじゃないから良いんだが。

 

「そう言えば一夏様、学年別トーナメントがタッグマッチ形式に変更されたことをご存知ですか?」

「いや、初めて聞いた、誰が言っていた?」

「一年生の女の子達だよ、皆僕と組もうって来ちゃってね。」

 

あー、あの場面な。

なんか俺あからさまに舌打ちしてそうだったな。

 

そんな事はどうでもいいとして・・・。

 

原作なら一夏がシャルと組むんだが、

如何せん、イレギュラーが多いこの世界じゃあどうなるか判らん。

 

「僕はセシリアと組むって言ったら皆帰っちゃってね。」

「何?」

あまりに唐突に言われた為、柄でもなく軽く驚いてしまった。

 

「良いのか?セシリア?」

「はい、私もシャルさんも、一夏様と戦いとうございますから。」

 

そう言う事かい、俺に敗れたからこそ、

俺を倒したいねぇ・・・。

 

悪くない考え方だ。

 

「そう言う所がお前達の良いところだ、分かった、

誰と組むかは分からんが、俺も本気で行かせてもらうぞ?」

「勿論だよ、寧ろ、手加減なんかしたらダメだよ?」

「私達は貴方様に勝ちますわ。」

 

俺の好戦的な笑みを受け、セシリアとシャルも笑う。

それは慈愛ではなく、俺と同じ好戦的な笑みだ。

 

心意気は良し、

なら、ちょいとサービスしてやりますか。

 

「セシリア、ブルー・ティアーズの意味を探せ。」

「ブルー・ティアーズの意味を・・・、ですか?」

「それを見付けた時、お前はまた一つ強さという階段を昇るだろう。」

これはフレキシブル(偏向射撃)を行うのに重要なポイントだ。

それを見付けられたら上々だ。

 

「次、シャルは観客を湧かせる戦いをしてみろ。」

「観客を、湧かせる?」

「お前はどうしてもサポートに回りがちだ、

お前自身の能力が高ェのに勿体ねぇぞ?」

 

戸惑う二人を残し、歩き去る。

我ながらカッコいいんじゃね?

 

「さてと、誰と組むかな・・・。」

当面の問題はそれだな。

 

sideout

 

side秋良

無駄に長い事情聴取を終えて、

俺は外で待っていてくれた鈴と簪と合流した。

 

「待たせちゃってゴメンね、二人とも。」

「気にしてないよ、それより大丈夫なの?」

「大丈夫も何も、俺はただ暴走を止めただけだからお咎め無しだよ。」

「本当に本当よね!?」

 

簪の質問に答えると鈴が涙目で聞いてくる、

ネガティブって心配性って意味だっけ?

鈴のお蔭で意味を勘違いしそうだよ。

 

「大丈夫だって、鈴は心配性だな。」

鈴に笑いかけながら頭を撫でると、

彼女は嬉しそうな表情をしていた。

 

それとは反対に簪は面白くなさそうにしていたので、

簪の頭も撫でておく。

 

「むふぅ~♪」

「はふぅ~♪」

二人とも何処か小動物の様な耳と尻尾が見えるんだけど気のせいだよね?

 

兄さんは反応しないだろうけど、俺結構こう言うの好きだからマジでヤバイ。

現に俺以外にも少し離れた物陰にいる誰かさんが鼻血流しながらこっち見てるし。

 

いい加減出てきたら良いのに、

一生ストーカーでいる積もりなのかな?

 

まあ俺は別にそれでも良いと思うけどね。

 

「はっ、秋良、学年別トーナメントがタッグマッチ形式に変更されたって知ってる?」

「えっ?初耳なんだけど?」

「クラスの皆が言ってたの、アタシは簪と組むから。」

 

へぇ?

簪と組むのか・・・、

その目的ってやっぱり俺を倒す事だよね?

 

「勝ち負けなんてどうでもいい、私達は秋良と戦いたいから。」

 

へぇ、二人ともいい心構えだね。

そう言うの好きだな。

 

「なら、俺を楽しませてね?」

 

二人にそう言って、俺は背を向けて立ち去る。

 

「さてと、誰と組もうかな・・・?」

 

当面はこれを考えなきゃね。

 

sideout

 

sideセシリア

一夏様に宣戦布告致しました翌日、

シャルさんと一緒に第三アリーナで訓練をする事にいたしました。

 

「ブルー・ティアーズの本来の意味だっけ?

どういう意味なの?」

 

ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを展開したシャルさんが尋ねてこられました。

 

「ブルー・ティアーズは元々、ビットのレーザーを屈折させる事が出来るのです、

ですがそれは高稼動状態でないと撃てないのです。」

 

恐らくイメージが足りていないのでしょう。

いくら撃てども一向に曲がりはしませんでした。

 

だから一夏様は私にイメージをしてみろと暗に言ったのでしょう。

 

「なるほど・・・、どうすればいいんだろうね?」

「どうすればいいのでしょうか・・・?」

 

シャルさんと揃って首を傾げてしまいました。

 

ブルー・ティアーズの本来の意味・・・、

それはブルー・ティアーズの本質・・・。

 

「ブルー・ティアーズ・・・、蒼い雫・・・。」

「蒼い雫・・・、・・・!!」

 

シャルさんの何気無い言葉に、突如としてなにかが閃きました。

水面に落ちる水の一滴、それがブルー・ティアーズ!!

 

「そうですわ!!見えましたわ!!」

 

ほぼ無意識にスターライトMk-Ⅲを呼び出し、

トリガーを引くより僅かに早く流れる水をイメージする。

 

すると放たれたレーザーがほんの僅かですが屈折しました。

 

「凄いよセシリア!!出来たね!!」

「シャルさんのお蔭ですわ!ありがとうございます!」

まるで自分の事の様に喜んでくださるシャルさんに感謝しながら、

私は一夏様と出逢えた事に深く歓びました。

 

あの方のお蔭で私は新たな高みへと行けるから・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

セシリアが一夏から出された課題をクリアしたのは嬉しいけど、

まだ僕の課題は終わっていない。

 

観客を湧かせる戦いをしてみろ。

 

一夏はそう言っていたけど、どうすれば良いのかさっぱり判らない。

 

確かに僕にはラピッド・スイッチがあるけど、

それ以外に特出した物なんて何もない。

 

器用貧乏ともとれるんだよね・・・。

 

「シャルさん、心のままですわ。」

「えっ?」

「誰かのサポートではなく、自分の心のままに戦う事こそ、

貴女らしさが見えてくる筈ですわ、

貴女の愛機、ラファールの様に。」

 

ラファール、

疾風の名のままに戦えって事?

 

「自分勝手と、仲間を信じた上での自由気ままは違いますわ、

それだけは理解しておいて下さいな。」

 

なるほど、僕は無意識に仲間の補助しないといけないと勝手に思ってたんだ、

それはそれで良いかも知れないけど、どうしても陰に隠れてしまう、

なら、仲間を信じた上で、自分の心のままの戦い方をすれば良いんじゃないか。

 

「うん、分かったよセシリア、ありがとう。」

 

セシリアに感謝しつつ、僕は一夏の顔を思い浮かべていた。

 

あの意地悪な表情を少しでも崩せたら良いな♪

 

sideout

 

 

 




はいどーもです!

最近少し忙しくなってきて連日投稿が出来なくなりそうです。

最悪三日に一話は上げますんで暫く御待ちください。

次回予告
学年別トーナメントに向け、
一夏はある人物とタッグを組む。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
一夏と秋良の相方探し。

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一夏と秋良の相方探し

side一夏

さて・・・、

学年別トーナメントまであと数える程しかない、

なのに俺と秋良は今だ相方を見付けられていない。

 

専用機持ちは皆、俺、もしくは秋良と戦う事に深く執着してるから、

既に自分達でタッグを組んでいる。

 

俺達程では無いにしろ、あいつらの技量は高いし、

何しろ延び白がある、こちらがちょっとしたヒントを与えれば必ず物にしてくる、

だから見ていて面白いんだがな。

 

今はまだ余裕が有り余ってるが、

いつか必ず一対一でも苦い顔をしなければならないだろう。

 

それは置いといて。

 

今問題なのは相方を見付ける事だ。

別に秋良と組んでも良いんだが、

そうなると少しつまらんからな。

 

せめて墜とされる恐怖感も味わいたいからな。

 

知り合いにまだ組んでない奴がいないか確かめておくか。

 

やれやれ、面倒だな。

 

sideout

 

side秋良

ヤバイ。

そろそろ相方を決めとかないとまともな訓練が出来ない、

如何に俺が強いとは言っても、所詮一人での事。

 

相手が二人、それも付け焼き刃ではなく、

しっかりとした連携の取れたコンビなら俺や兄さんでも少しばかり苦戦を強いられる。

 

どうしたもんかな・・・。

 

いっその事、兄さんと組むのも一つの手段だ、

ギリギリまで粘って誰も見つからなかったら兄さんに頼んでみよう。

 

取り敢えず、モッピーに頼みに行くとしますかね。

 

sideout

 

noside

そして、タッグトーナメントのチーム申込み締め切り二時間前、

秋良は箒に頼んでコンビを組むことになった。

 

しかし、一夏は誰とも組むことが出来ず途方にくれていた。

 

(なんで皆組んでるんだよ・・・。)

 

一夏は半分ふて腐れ、一人カフェでワッフルを食べていた。

 

彼はイライラしている時は甘い物を食べる事で気を紛れさせている。

 

つまり、バニラアイスやホイップクリーム、

メープルシロップがふんだんに使われているワッフルは彼にとって最高のデザートである。

 

(決まってないのは別に良いんだ、だがな、秋良のあのドヤ顔は凄まじくムカツク。)

 

弟のドヤ顔を思い出し、やけ食いに近い勢いでワッフルを食べる。

 

(どうするかな・・・、いっその事、棄権てのも・・・、

いや、それはセシリアとシャルに失礼だ、俺には出来ん。)

一夏は妙に義理堅いが故にかなり苦悩していたのだ。

 

そんな時・・・。

「ちょっと・・・、良いか・・・?」

「ん?」

一夏に話しかける人物がいた。

 

一夏が顔を上げると、そこには長い銀髪に、

左目に眼帯をした少女がいた。

 

「お前が来るとは思わなかったぜ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。」

 

一夏はラウラの姿を確認すると、

一夏は一旦フォークを置き、席につくように勧める。

 

「で?何の用だ?」

「頼みがある、私とタッグを組んでほしい!」

「ほう?」

 

ラウラの唐突な頼みに、一夏は少し面白そうにする。

 

「理由を聞いてやる、話してみろ。」

「秋良に負けて、そして貴方に言われて気付いた!!

私に足りないのは仲間への信頼だ、だからそれを今からでも取り戻したいのだ!!」

 

ラウラの真摯な答えに、一夏はうっすらと微笑んでいた。

 

「よく気付いたな、合格だ、組んでやる。」

「ほ、本当か!?」

「ああ、構わんさ、お前は一つ成長した、

そして学んだ、だから俺はそれを確かめる為にお前と組む、間違った事があるか?」

 

一夏はさも愉快と言った風にラウラの頭を撫で、

豪快に笑う。

「あ、ありがとうございます!兄貴!」

「あ、兄貴?なんだその呼び方は?」

 

ラウラの唐突な呼び掛けに、一夏は少し困惑したような表情を見せる。

 

「?日本では尊敬する男性の事を兄貴と呼ぶのではないのですか?

私は兄貴の様に男らしくなりたいのです!!」

「ラウラ、その知識間違ってるからな?呼び方は別に兄貴で構わんが。」

「はい兄貴!」

 

頭の痛そうにする一夏に笑いかけるラウラに、

一夏は少し父性本能を擽られたらしい。

 

「まあ良い、早く申請しに行くぞ!」

「あ、待ってください!兄貴~!」

 

ワッフルを食べ終わった一夏はさっさとカフェから出ていこうとする、

それを見たラウラは慌てて彼の後を追った。

 

sideout

 

side一夏

タッグトーナメント三日前、

俺はラウラと訓練をしていた。

 

やはりアドヴァンスドと言うべきか、

反射能力や身体能力は俺達コーディネーターに迫る物がある、

だが、やはり若さ故か、直情的な部分が目立つ。

 

俺は前世からなら、もうすぐ四十路だからな、

そう言った衝動はあまり無いんだ。

 

そんな事はどうでもいいとして。

 

俺と訓練を始めて僅か四日とかからない内に、

基本的なコンビネーションプレイは出来るようになった。

 

そんな訳で今日は新しい事をしてやろうと思う。

 

「兄貴、その装備は何ですか?」

ラウラが俺の装備したバックパックを指さしながら尋ねてくる。

 

「こいつか?こいつは昨日アクタイオンから届いた新しいストライカーだ、

その名もガンバレルストライカー、セシリアのブルー・ティアーズのビットの様なオールレンジ攻撃専用装備なんだぜ。」

「つまり、類似品という事ですか・・・?」

「単純に考えたらな、だが、ちょいと違うんだわ、試して見るか?」

「ぜひともお願いします!」

 

ラウラの言葉を受け、俺はスラスターを吹かし飛び上がる、

それを追い駆ける形でラウラも飛び上がってくる。

 

「いくぜ?」

有線式ガンバレルを射出しラウラを取り囲む様に展開、

リニアガンとミサイルで攻撃する。

 

ラウラはオールレンジから迫る弾丸をギリギリのところで捌く。

 

(ちっ、流石にやりにくいな、俺、あんまり空間認識能力高くないんだがな・・・。

だが、装備の不利を言い訳にはしない!)

ガンバレルストライカー本体にはスラスターが装備されてないが故に、

機動力がI.W.S.P.に比べて10%以上も低下している。

 

こいつは乱戦状態になったら間違いなく邪魔だ、

これからは一対一の時に使うとしよう。

 

「くっ!流石ですね兄貴!一度目でここまで扱えるなど!!」

「まあな、だが、避けきれているお前も中々だ!」

 

オールレンジ攻撃の回避法を徐々につかんできたのか、

ラウラの動作に余裕が生まれ始めた。

 

(やるな、だが、ビットとは違う有線式ガンバレルの使い方を教えてやるよ。)

 

両サイドのサイドスカートよりアーマーシュナイダーを取りだし、

逆手持ちでラウラに迫る。

 

それに反応したラウラもプラズマブレードを展開し、

こちらに向かってくる。

だが、俺には切り結ぶ気など、まったく無い。

 

プラズマブレードが振られる刹那、機体を僅かに反らし、

ガンバレルのケーブルにシュヴァルツァ・レーゲンを絡ませる。

その瞬間、ガンバレルストライカーを強制排除する。

 

「しまっ・・・!?」

ラウラはそれを回避出来ずに拘束され、

地面へと落下した。

 

「ゲームオーバーだ、ラウラ?」

俺は今だ動けないラウラにビームライフルを突き付ける。

 

「くっ・・・!参りました・・・!」

ラウラの言葉を受け、俺は左手に持っていたアーマーシュナイダーでケーブルを切断、

拘束を外してやる。

 

「無線式には無線式の、有線式には有線式の使い方があるんだよ。」

「あれは正しい使い方なのですか・・・?」

 

俺の言葉にツッコむ様に、ラウラはぶっ壊れたガンバレルストライカーを指さす。

受領した翌日にぶっ壊すって・・・、流石に不味いよな?

 

「・・・、気にするな。」

 

俺はそうとしか言いようがなかった・・・。

 

sideout

 

noside

時は移ろい、学年別トーナメント当日、

秋良と箒はアリーナの更衣室で待機していた。

 

因みに、箒は秋良に誘われなければトーナメント自体を欠場しようと思っていたが、

秋良にお宝本三冊を餌に誘われ、参加する事にしたらしい。

 

「さてと・・・、兄さん達に勝てるかな・・・、

まさか兄さんがラウラを手懐けてるとは思わなかった。」

「確かにな、初日に頭を踏みつけていた男に懐くとはな。」

「セシリアとシャルル、それに鈴と簪も俺と兄さんに挑んで来るしね。」

 

秋良はベンチに座り込み対一夏用の作戦を考える。

「どう考えてもラウラが曲者だね、前みたいな唯我独尊じゃないからかなりやりにくいと思う。」

「確かにな、お前と一夏を除けば確実に学年最強だろう。」

秋良の説明に納得したように箒は呟く。

彼女とてラウラの強さを知らない訳では無いのだ。

 

「まぁね、モッピーは打鉄で行くのかい?」

「いや、ラファール・リヴァイヴに近接用の装備を幾つか積んで、

その上でショットガンや手榴弾を積もうと思っている。」

「高火力、高機動で攻めるつもりだね、分かったよ。」

「防御力はいささか心許ないがな。」

 

秋良の問い掛けに肩をすくめ、

おどけるような仕草を見せる。

 

「ま、俺はただ戦うしかないんだ、兄さんに勝つためにはね。」

 

sideout

 

side一夏

「ラウラ、準備出来てるか?」

「勿論です兄貴!」

 

秋良達より先に更衣室を出、ピットで待機していた。

 

俺達の試合は一回戦第三試合、

直ぐに順番が回って来るので、更衣室等で長々と待つよりもピットで待つ方が良い。

 

「一回戦の相手は一般生徒だ、あまり本気を出しすぎるな、

お前が本気になれば確実に人が殺せる、たとえISをつけている奴でもな、

それに、妹分が目の前で殺人沙汰起こすのを見るのは勘弁だ。」

「はい!ですが、代表候補生以外の意識の低さは・・・。」

 

あー、やっぱりそうだよな、こいつからしてみればISは戦争の道具、

人を殺めるための手段の一つでしかない。

それを何の躊躇いもなくスポーツだと言い切る者達に戸惑っているのだろう。

 

「分かってる、ここの奴等はまだISがスポーツの道具だと思ってる、

だが、実弾や真剣、ビーム兵器を使うスポーツが存在して良いのか?

俺もつくづく疑問に思う。」

 

それは本心だ、だが・・・。

 

「けどな、批判ばっかりしてても意味がない、

そうやってスポーツだと思ってる奴等は、無意識に平和を望んでるって事だろ?」

「そう・・・、ですか・・・?」

「そう言う事だ、今は分からなくて良いさ。」

 

そう笑いかけ頭を撫でてやると、

ラウラは嬉しそうに目を細めていた。

 

さてと、そろそろ行くか、レディを待たせるのは失礼だしな。

 

ラウラに先じてカタパルトに移動し、機体を固定する。

 

『進路クリアー、ストライク、発進どうぞ!』

「織斑一夏、ストライク、行くぞ!」

 

掛け声と共にカタパルトから飛び出し、I.W.S.P.の推力で飛行する。

 

その直ぐ後にラウラがシュヴァルツァ・レーゲンを展開し、

アリーナに飛び出してきた。

 

相手は一年四組の一般生徒、

両者共に打鉄を装着していた。

 

「ラウラ、俺が援護するからお前は攻めてみろ、

勿論、少し手加減してな?」

「分かりました。」

 

俺は両手にグレネードランチャー装備のビームライフルを呼び出し、

ブザーが鳴るまで待つ。

 

『試合開始五秒前!四・・・、三・・・、二・・・、一・・・、試合開始!!』

 

今、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

sideout

 




はいどーもです!
お待たせしました!

ガンバレルストライカーは僅か一話で犠牲になりました、
うん、もう少し出そうっと・・・。

さて次回予告
順当に勝ち進む一夏と秋良、
ついに秋良が簪と鈴のコンビと対決する。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
紅の戦い

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紅の戦い

side秋良

俺は兄さんとラウラの試合を更衣室のモニターで見ていた、

相変わらずえげつない戦いをするね。

 

兄さんがレールガンで撹乱したところをラウラが切り込み、

相手が回避したところを兄さんがビームライフルで狙撃、

直撃させて地面に落とす。

 

ラウラももう一人を地面へと叩き落とし、

兄さんがグレネードランチャーで攻撃、二人とも撃墜という、

見事な手際で勝利をその手にした。

 

いやぁ・・・、やっぱりデュエルのビームライフルはえげつないね。

ストライクのビームライフルとは違った戦い方があるね。

 

「秋良、そろそろ私達の試合だぞ。」

「分かったよ、今行く。」

 

箒に促され、更衣室を後にする。

さてと、相手は誰だっけ?

 

「二組と三組のコンビだ。代表候補生では無いらしい。」

「そっか、まあ頑張りましょうか。」

 

何としても勝たないと・・・、

なんせお宝本って凄い金かかるからね。

 

sideout

 

sideセシリア

「うわぁ・・・、一夏も秋良も凄いね・・・。」

「本当ですわね・・・。」

 

私とシャルさんは一夏様と秋良さんの試合をピットより拝見していました、

お二人とも相手を寄せ付けない圧倒的な戦いでした。

 

「それにしても、あのラウラが一夏に懐くなんてね。」

「それは私も驚きましたわ、一夏様の事を兄貴と呼んでいましたし、

何より一夏様との連携にも目を見張りますわ。」

 

やはりあの方は凄まじいと思いますわ、

人の心を畏怖と歓喜で支配するお方、それが織斑一夏という男性。

 

私はとんでもない方に廻り合いましたわね。

 

「さ、そろそろ僕達の番だよ、セシリア。」

「今参りますわ。」

 

シャルさんに呼ばれ、ブルー・ティアーズを展開し、

シャルさんの後に続いてカタパルトに機体を固定、

発進のタイミングを待ちます。

 

『進路クリアー、ブルー・ティアーズ、発進どうぞ!』

「セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ、参ります!!」

 

カタパルトから飛び出し、アリーナに入りますと、

ラファール・リヴァイヴを装着した鷹月さんと相川さんのチームが、

既にいらっしゃいました。

 

お二人には申し訳無いですが、ここは勝たせていただきます。

 

『試合開始五秒前、四・・・、三・・・、二・・・、一・・・、試合開始!!』

ブザーが鳴り響いた直後、私はライフルのトリガーを引きました。

 

sideout

 

side簪

私と鈴は順当に勝ち進んで遂に準々決勝まで上がってきた、

秋良や一夏達、専用機持ちのチームは全て準々決勝に上がり、

この準々決勝第二試合で私達は秋良と戦う事になった。

 

「やっと秋良と戦えるのね、長かったね鈴、・・・、鈴?」

 

鈴に話し掛けようとしたんだけど、鈴が近くにいない事に気付いた。

辺りを見回して探してみると、隅っこで小さくなっているのを見つけた。

 

「どうしたの鈴?」

「簪~!」

 

私が近寄って肩を叩くと鈴は涙目でに抱き付いてきた。

 

「ううぅ~・・・!」

「よしよし、秋良と戦うのが怖いの?」

 

私の問いに鈴は首を横に振る。

 

「じゃあどうして?」

「アタシ・・・、負けるのが怖い・・・。」

「分かるよ、私だって負けるのは嫌だし、怖い、

でもね、今の私達の力じゃあ、まだ秋良と一夏には勝てない。」

 

私は鈴の言葉に答える。

誰しも負けるのは好ましく無いだろう、

私だって負けるのは嫌だし、気分が良いものじゃない。

 

「だけど勝ち負けなんかを気にしてたら、いつまで経ってもあの二人には追いつけない、

秋良と一夏に追いつくためなら、私は負けたって構わない、戦いから逃げたくないの。」

 

嘗て、私は周りから常に姉と比べられてきた、

姉の能力は非常に高く、何をしても完璧だと思っていた。

 

そんな姉の陰に隠れてしまい、自分は誰からも評価されないと思い込んでいた。

そんな時、秋良と一夏に出逢った。

 

彼等にも姉が、それも世界最強の姉が居たけど、

別に何とも思ってないような素振りだった。

 

いつも姉の陰に隠れて怯えているだけの私は、

二人のヒーローの様なその輝きに憧れた。

 

何故そうあれるのと、一度秋良に尋ねたけど・・・、

 

『別に特別な事じゃない、姉は姉、自分は自分って割り切れば良いんだよ、

だってさ、ウチの姉って女らしい事を何一つ出来ないんだよ?

それに超が五つぐらいつくブラコンだし、うざいったらありゃしない、それから―――』

 

こっちが止めたくなるくらい織斑先生の事を散々に言っていた。

 

でもそこで気付いた、お姉ちゃんだって完璧なんかじゃない、

編物全然できないし、玉ねぎ嫌いだし、仕事サボるし、

シスコンだし、ストーカーだし、いつも虚さんに散々怒られてるし。

 

それに気が付いてから、今まで怯えてた自分が馬鹿らしく思えてきた、

自分の心が強くあれば、何も恐れることなんて無いって。

 

「私は私を変えるきっかけを与えてくれた秋良に応えるために、

戦いから逃げたくないの、戦うことが秋良に応える唯一の手段だから。」

「簪・・・。」

「鈴もあるでしょ?秋良に与えてもらった何かが、

それを別の物にして秋良に返すのは今戦うことだと思うよ。」

 

私より二人との付き合いが長い鈴にもそれがあると思い、

勇気づけるつもりで発破をかけた。

 

「ある・・・、いっぱいある・・・!アタシは・・・、秋良に着いて行きたい!」

「それで良いんだよ、そろそろ試合だから行こ?」

「うん・・・!」

 

小声ながらも決意の籠った言葉を聞いて、

私も頷き、鈴と一緒に更衣室を出る。

 

勝ち負けなんてどうでも良い、

私は、秋良の想いに応えるために戦う。

ただそれだけよ。

 

sideout

 

side秋良

さてと・・・。

モッピーの協力もあり、俺達は準々決勝で簪と鈴のコンビと対決する事になった。

 

漸くか・・・、二人とも何かを掴めていれば良いけど、

俺は何もしてあげられなかったんだよね。

 

兄さんはセシリアとシャルルにヒントをあげたんだよね、

あの人も大概お節介だよな。

 

何はともあれ、俺は本気で彼女達にぶつかろう。

それでしか彼女達の成長を感じられないんだから。

 

「さてと、そろそろ行こうか?」

「うむ、私は手を出さないでおこうか?」

「う~ん、じゃあお願いするよ。」

「わかった、決闘に一切手出しはしない。」

「恩に着るよ。」

 

ありがたいね、俺が一人で戦いたい気持ちを見極めてくれたんだろう、

こりゃ少し奮発してあげないとダメかな?

 

そんな事を考えながらもピットに入り、

ルージュを展開し、カタパルトに固定する。

 

『進路クリアー、ストライクルージュ、発進どうぞ!』

「織斑秋良、ルージュ、出るよ!」

 

真耶先生のアナウンスを受け、アリーナへと飛び出す。

 

俺に続いてモッピーがピットから飛び出して来る。

 

アリーナの上空には俺達より先にアリーナに入っていた鈴と簪が、

甲龍と打鉄弐式を展開して俺を待っていた。

 

「やあ、鈴、それと簪、俺は本気でいくよ?」

「い、いつもとは違うんだからぁ・・・!」

「勝てるとは思わないけど、心技体、全てを以て貴方に挑む!」

 

良いねぇ、このピリッとした空気、

兄さん以外で俺を楽しませてくれるのは初めてだね、

にしても鈴、可愛いな~、強がってるけど涙目だよ?

 

兄さんも言ってたけどどうしてあれで代表候補生になれたんだろ?

まあ技量は高いからなるのは当然だけどね。

 

ま、そんなことは今はどうでも良いや。

今は思考の中ではなく、戦いの中で彼女達に向き合おう。

 

「それじゃあいくよ!」

 

試合開始のブザーが鳴り響いた瞬間、

俺はビームライフルのトリガーを引いた。

 

sideout

 

side一夏

遂に始まったか・・・、

秋良の撃ったビームを二人は回避し、

簪が荷電粒子砲を撃ちながら接近、薙刀<夢現>で斬りかかる。

それに合わせる形で鈴も青竜刀で簪の反対側から斬りかかる。

 

戦闘における定石、挟み撃ちか、悪くない、寧ろ良いコンビネーションだ。

だが、お前らの狙う男はその程度じゃ堕ちないぜ?

 

秋良は直ぐに反応し、ビームライフルとコンバインドシールドを投げ棄て、

対艦刀を引き抜き二人の斬撃を受け止める。

 

拮抗状態が暫く続いた直後、秋良が動いた。

身体を捻り、その場で半回転し拮抗状態を破る。

 

鈴は弾かれた瞬間に龍砲を撃つが、

秋良は直ぐに身体を沈め、衝撃砲を回避する。

 

その隙を狙い、簪がショットガンやアサルトライフルを撃つ。

一瞬鈴を追撃しようとした秋良は咄嗟に回避するが、

避けきれなかった弾丸が装甲を掠める。

 

秋良の奴、無駄に愉しそうな顔をしてやがるな、

そりゃそうか、自分の認めた女達との戦いなんだからな。

 

ま、俺も人の事を言える口じゃねぇか。

 

「始まりましたね、兄貴。」

「そうだな、お前は秋良よりあの二人の戦いを見ておけ。」

「何故です?普通なら実力が上の秋良を見るべきでは・・・?」

「四の五の言わずに見とけ、お前が思ってる以上に、あいつらは強い。」

 

訳が分からないと言いたげなラウラの頭を撫で、

俺は画面に意識を向ける。

 

あの二人も何かを掴んだな、雰囲気で分かる。

流石だな、この調子ならセシリアとシャルも掴んでくれただろう。

 

「さてと、鈴と簪は何処まで秋良を本気にさせられるかな?」

そしてセシリアとシャルは何処まで俺を楽しませてくれるかな、

俺はそれだけが楽しみだ。

 

sideout

 

side秋良

こいつは想定外だね・・・!

 

ここまで回避後の僅かな隙を狙って来るなんて思わなかったよ!

 

兄さんの攻撃パターンを学んだみたいだけど、

二人がかりになると更にやりづらい!

 

「ハアァッ!!」

簪が薙刀<夢現>を振るい、鈴が龍砲を撃つ。

なんとか身体を反らして避けるけど、このままじゃ攻撃出来ない、

 

ちっ!せめてソードストライカーに換装できる隙があればなぁ!

 

ストライカーは換装する時、一瞬だけ攻撃、防御、そして回避共に不可能な隙ができてしまう、

その瞬間を攻撃されてしまえば、流石にまずい。

 

こんなことならもう少し考えてくりゃ良かった、

俺にはI.W.S.P.は合わないんだよな。

 

その点兄さんのI.W.S.P.使いの上手さには舌を巻くね。

ま、あの人は生粋の戦闘狂だからね。

 

っと、今はこの状況を切り抜けないとダメか!

 

「ゴメンよ、簪!!」

謝りつつ簪に急接近、腕を掴んで鈴の方に放り投げる。

 

あまりにも唐突だったからか、鈴は俺に攻撃しようか簪を受け止めようか躊躇い、

結局ぶつかってしまい地面に落ちた。

 

「今だ!」

その隙にソードストライカーに換装し、

シュベルト・ゲベールを右手に持ち、左手にビームブーメランを握り締め、

簪と鈴に攻撃を仕掛ける。

 

二人は反応するけど、ソードストライカーに換装した俺の反応速度には敵わない。

 

シュベルト・ゲベールの斬撃が甲龍のシールドエネルギーを削り、

マイダスメッサーが打鉄弐式のシールドエネルギーを削り取る。

 

「くっ・・・!!」

甲龍のシールドエネルギーは全部削れたけど、

簪が山嵐のミサイルを撃ってきたから、完全に削り切れなかった。

 

ルージュのエネルギー残量は約半分、まだ余裕がある、

対して簪はほとんど残って無いだろう。

 

「俺にここまで食らい付けるなんてね、流石だよ簪、

それと鈴もね。」

「でも、勝てそうにないね。」

「勝ち負けなんてどうでも良い、って言ったのは誰かな?」

 

ま、やるからには勝ちたいんだろうけどね。

 

「さてと、ケリをつけようか。」

俺はシュベルト・ゲベールを両手で構え、簪に急接近する。

簪も夢現を構え、俺に向かってくる。

 

対艦刀と薙刀が擦れ違い様に相手を切りつける。

 

結果は・・・。

 

sideout

 

side一夏

秋良と簪が擦れ違い、互いの得物を振るった体勢で止まり、

エネルギーが尽きた打鉄弐式が解除され、簪が地面に膝をついた。

 

つまり、勝者は秋良ということになる。

 

「ま、順当だわな、ラウラ、そろそろ俺達も行くぞ?」

これで秋良とは決勝であたる事になるな、

俺が勝ち進めばという前提付きだが。

 

「兄貴、何故あの二人はあそこまで強くあれたのですか?」

鈴と簪の戦いぶりを疑問に思ったラウラが尋ねてくる。

 

まだこいつは気持ちに応える為の戦い方を知らないんだよな、

いつか教えてやるか。

 

「別に特別な事じゃねぇよ、あいつらは秋良との戦いに自分の持てる全てを賭けただけだ、

あの二人にあったのはただ秋良の気持ちに応えるという純粋な気持ちさ。」

「・・・、兄貴の言うことは私にはまだ理解出来ません・・・、

ですが、それが二人を強くしたのなら、私はそれを知りたいです。」

「フッ、ゆっくり学べば良いさ、なんせお前は若いんだからな。」

 

さてと、俺達は準決勝でセシリア・シャルコンビと対決だ、

鈴と簪があれほど強くなったんだ、

俺を楽しませてくれよ?

 

sideout

 





次回予告
学年別トーナメント準決勝、
一夏はセシリアとシャルロットのコンビと激闘を繰り広げる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
静かなる猛獣

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

静かなる猛獣

noside

秋良が鈴・簪コンビを敗り準決勝に進出、

一夏とラウラのコンビは準々決勝第三試合にて、

一般生徒コンビを敗り準決勝進出を決めた。

 

そして、準々決勝第四試合・・・。

 

『試合終了!!勝者、セシリア・オルコット、シャルル・デュノアチーム!』

 

セシリアとシャルロットも準々決勝で勝利、

準決勝に進出し一夏とラウラのコンビと試合を行う事となった。

 

「やったねセシリア!」

「はい!」

 

シャルロットとセシリアはハイタッチを交わし、

勝利を喜び合う。

 

二人は一頻り観客に手を振った後、

ピットに戻りISを解除し、汗を拭う。

 

「次が一夏とだね、長かったね。」

「そうですわね、もう少し早く戦えると思っていましたが、

まさかここまでかかるとは思いませんでしたわ。」

 

来る決戦に向け、雑談を交わしながらも準備を始める。

 

彼女達の在り方を変えた男、織斑一夏という最凶に挑む為、

自分が持てる全てを賭けた戦いを行う。

 

そこに勝ち負けなどない、彼に自分達の戦いを見せつける。

ただそれだけの思いがセシリアとシャルロットを支配していた。

 

「今思ったんだけど、僕達って一夏に恋してるのかな?」

「どうでしょうか・・・?私は一夏様をご主人様とは思っていますが・・・。」

 

ふとシャルロットが話した言葉にセシリアは首を傾げる。

 

確かにセシリア自身も、そしてシャルロットも一夏を慕っているのは確かであるが、

セシリアは自分の主として、シャルロットは恩人としての情が強いのである。

だが、一人の女として織斑一夏という一人の男を想っている事も確かである。

 

まあ、一夏本人がどう想っているかは別なのだが。

 

「今はまだ分からなくて良い、いつか分かる時が来る、

と一夏様なら言うでしょうね。」

「あはは、絶対言うよね!」

 

何はともあれ、今は分からぬ事を考えるより先に、

前に進む事を選んだ二人は一夏との試合に向け、準備を進めていった。

 

sideout

 

side一夏

漸くか・・・、今まで退屈だったが、

やっと楽しめるぜ。

 

あまりに退屈だったから購買でアイスキャンディーをチマチマ買って食ってたからな、

因みに一、二本ラウラに餌付けしたのは言わずもがな。

 

さてと、やっとあいつらの戦いをこの身を以て感じられる。

これ以上の楽しみは中々無いからな。

 

「兄貴、そろそろ行きましょう。」

「オーライ、行くとするか。」

 

ラウラに呼ばれ、アイスキャンディーを食べきり、

棒を更衣室のゴミ箱に捨ててから移動を始める。

 

「ラウラ、お前に頼みたい事がある。」

「なんでしょう?」

「この準決勝と決勝、俺一人で戦いたい、だから手を出さないでほしい。」

 

ラウラにはちょいと酷な事だが、俺のやりてぇ事は俺一人でやりたいからな。

 

「それは、私に見ていろという事ですか・・・?」

「言い方は悪いがその通りだ。」

 

こいつとの連携も悪くはないが、本当の連携を磨いたセシリアとシャルには勝てないだろう。

それにラウラが先攻しても、露払い程度にしかならないだろうな。

 

ならば最初から俺が本気であいつらとぶつかれば良いんだよ。

 

「分かりました・・・、ですが、絶対に勝ってください!」

「当たり前だ、妹分の前でみっともねぇ戦いなんてするかよ。」

 

分かってくれたラウラの頭を撫ておく。

 

さてと、勝ちに行くとするか。

 

sideout

 

sideシャルロット

遂に運命の時がやって来た。

 

一夏と戦える、

それだけが僕の心を支配していた。

 

デュノアという闇から僕を救い上げてくれた一夏に恩返しが出来る絶好の機会、

ここで僕はシャルロット・デュノアという一人の女に戻る。

 

彼の事が好きかどうかなんて今はどうでも良い、

今はただ一人の戦士として、織斑一夏という最凶に挑むだけだね。

 

「それではシャルさん、お先に行かせていただきますね。」

「うん、お先にどうぞ。」

 

セシリアがブルー・ティアーズを展開してカタパルトから飛び出して行く。

そろそろ僕も行こうかな?

 

リヴァイヴを展開してカタパルトに固定する。

 

『進路クリアー、リヴァイヴ、発進どうぞ!』

「シャルル・デュノア、リヴァイヴ、行きます!」

 

カタパルトから飛び出しアリーナに入ると、

ちょうどラウラが飛び出して来るところだった。

 

ちょっと待っていると、

一夏がカタパルトから飛び出して来た。

 

相変わらずすごい歓声だね、

一夏って色んな意味で人気があるからね。

 

本人はちょっと迷惑そうにしているけどね。

 

「よおセシリア、それとシャルも、調子良さそうだな?」

 

一夏が通信を入れてきた、

本当に余裕そうな声だなぁ。

 

「ご機嫌麗しゅうございます一夏様、

貴方様のお陰で絶好調の一言に尽きますわ。」

「僕も絶好調だね、今までに無いくらいだよ、

これも一夏がヒントをくれたからだね。」

 

今まで僕は何をしてきたんだろうと思うぐらい、

一夏のアドバイスは僕を変えてくれた。

 

「フッ、ならばその力、俺に見せてくれ。」

一夏の身体から覇気が溢れ出す。

 

少しでも気を抜けば一瞬で呑まれそうな圧力、

まるで津波が目の前に迫って来ているような感覚を覚える。

 

だけど僕達は逃げない、

逃げるくらいなら呑まれる方が気分が良いからね。

 

僕がマシンガンを握り直した瞬間、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

sideout

 

sideラウラ

試合開始直後、

兄貴目掛けてシャルルがマシンガンを乱射しながら突っ込んでくる、

兄貴は何時もと同じ不敵な笑みを浮かべながらシールドを掲げ、

弾丸を防ぎつつシャルルとの間合いを詰めていく。

 

間合いが縮まった瞬間、

兄貴は対艦刀を引き抜きシャルルを狙うが、

シャルルはシールドで剣閃をずらし、兄貴の背後を取る。

 

だが、兄貴はバックパック(確かI.W.S.P.と言っていたか)のスラスターを左側のみ全開にし、

振り向きつつ回し蹴りをシャルルに叩きつける。

 

兄貴は体勢を崩したシャルルに追撃をかけようとしたが、

四方から襲い掛かるレーザーを凄まじい機体制御で避けきる。

 

恐らく今のはセシリアが駆るブルー・ティアーズのビットだろうが、

以前見た入試時の戦闘データよりも遥かに精度が増している。

 

シャルルからセシリアに狙いを変えた兄貴は対艦刀を格納し、

両手にビームライフルを呼び出しセシリア目掛けて撃つ。

 

セシリアは回避しつつもライフルで兄貴を狙撃、

それと同時に二基のビットを使い、レーザーを撃ちかける。

 

良い射撃だが、この程度では兄貴は墜ちないだろう。

 

兄貴は飛んでくるレーザーを紙一重で回避する、

だが、ビットから撃たれたレーザーが急に軌道を変え、

兄貴に襲い掛かる。

 

(あ、あれはまさか!?)

いや、間違いない、

あれはブルー・ティアーズが高稼働時に起きる偏向射撃<フレキシブルショット>!!

 

そんなバカな!データに無いぞ!?

 

不味い!!兄貴もこの事は知らない筈だ!!

いくら兄貴が強いからと言っても、未知の兵器とは戦い辛いはず!

 

「兄貴!!」

 

私は思わず叫んでいた。

気が付けば体勢を立て直したシャルルも、

アサルトライフルとショットガンで兄貴を攻撃していた。

 

時折兄貴の装甲をレーザーや弾丸が掠める。

だが、兄貴は攻める事を止めない。

 

そこで気が付いた、

兄貴の表情が何時もと違う、

あれは、戦うことが愉しくて仕方がないという笑みだった。

 

sideout

 

noside

一夏は攻撃を避けつつも、対艦刀でレーザーや弾丸を切り、

セシリアにレールガンを撃ち、シャルロットにコンバインドシールドのガトリング砲を撃つ。

 

(クッ、流石だよ一夏、こんな隙を突く攻撃を仕掛けてるのに!)

(まだ私達に攻撃する余裕があるのですね!)

 

シャルロットとセシリアは一夏から浴びせかけられる砲弾の嵐を回避しつつ、

自分の得意とする間合いを取ろうとするが、その先を読んだかの如く、

レールガンやビームブーメランが飛んでくる。

 

(チッ!ここまで追い込んで攻撃してんのに、

よく避けやがるぜ、流石と言うべきか!)

 

一夏は自分の想像以上の戦いに、

抑えていた闘争本能を完全に呼び醒ましていた。

 

(だが、良い!良いぞ!このギリギリの攻防!これこそが闘いだ!!)

 

彼は口元を吊り上げ、対艦刀を振るい続ける。

 

「どうだいシャル!俺のたぎりが伝わるかい!?」

「伝わってくるよ!熱く、ギラギラしてるのがね!」

 

一夏の斬撃をシールドを使って防ぎつつ、

ブレッドスライサーで一夏を切りつける。

 

だが、むざむざやられる一夏ではない、

腰部サイドスカートからアーマーシュナイダーを抜き取り、

ブレッドスライサーを防ぐ。

 

「でも、そろそろ終わらせるか!」

一夏はシャルロットの脇腹を蹴りつけ、

体勢を崩した彼女を踏み台代わりにし、一気にセシリア目掛けて跳躍する。

 

セシリアは四基のビットとスターライトMk-Ⅲから立て続けにレーザーを撃ち、

一夏の接近を阻もうとするが、その僅かな隙間を縫って一夏は遂に眼前に接近する。

 

「良いぜセシリアァ!たぎるぜ!」

「身に剰る光栄ですわ!ですが、まだ墜ちませんわよ!!」

 

インターセプターを瞬時に呼び出し、一夏のアーマーシュナイダーと切り結ぶ。

「驚いたぜ!まさか偏向射撃だけでなく、近接格闘も磨いてくるとはな!!

だが、まだ甘い!!」

 

一夏は叫びつつも対艦刀でインターセプターを叩き折り、

肩口にアーマーシュナイダーを突き立てる。

 

「くぅっ!?」

「オラオラ!!行くぜぇぇぇッ!!」

 

コンバインドシールドからビームブーメランを引き抜き、

ビームサーベルの様に切りつける。

 

高エネルギーの塊であるビーム刃をぶつけられ、

絶対防御が発動したブルー・ティアーズは遂に沈黙した。

 

だが・・・。

 

「もらったよ!!」

「何ッ!?」

 

シャルロットの声に振り向くと、

そこには瞬間加速<イグニッション・ブースト>で急接近したシャルロットが、

シールドピアースを展開して突っ込んできていた。

 

(不味い!あんなもん喰らったら一貫の終わりだ!!)

 

盾殺し<シールドピアース>、

現行する実体兵器の中でも最高峰の破壊力を誇る兵装、

如何にストライクでもこれを喰らえばただでは済まない。

 

「「ウゥオォォォォッ!!」」

一夏とシャルロットの叫びが重なった直後、

アリーナに盛大な爆発音が響きわたった。

 

sideout

 

sideシャルロット

「くぅっ!?」

 

いきなりの爆発に吹っ飛ばされ、

僕は地面に叩きつけられてしまった。

 

一夏の背後を取ってのシールドピアースでの攻撃だ、

これでかなりシールドエネルギーを減らせてるだろう。

 

もうもうと立ち上る土煙と爆煙が視界を悪くしている、

飛び出して来る気配は今のところ無い、

と言うことは、一夏はエネルギー切れ?

 

でも油断はしない、なんたって相手は一夏なのだから。

 

それにしても一体何が爆発したんだろう?

 

そう思った瞬間、煙の中から何かが飛び出して来た。

「えっ!?」

 

僕が反応するよりも先に飛び出して来た機体は、

ビームサーベルで切りつけてきた。

 

回避する暇も無く、リヴァイヴのエネルギーはゼロになってしまった・・・。

 

振り向くとエールストライカーに換装したストライクの姿があった。

 

まさか・・・。

 

「い、一体どうやって・・・?」

「お前にシールドピアース喰らわされる直前にI.W.S.P.をパージしてな、

爆煙に紛れたあの一瞬でエールストライカーに換装、爆煙から飛び出してバッサリってとこだな。」

 

は、ははは・・・、敵わないなぁ、一夏には・・・。

 

「良い戦いだったぜ、ギリギリまで俺を追い詰めたんだ、

シャル、セシリア、良い戦い振りだった。」

 

ふふっ、それだけ言って貰えれば満足かな。

 

でも、少し悔しいな。

 

sideout

 

side秋良

すごい試合だったね。

セシリアもシャルルも、兄さんに食らい付いていた。

 

危うく俺まで興奮するところだったよ。

 

だが、これで舞台は整った。

 

あとは兄さんとの一騎討ちだけだ、

今回は必ず勝つ!!

 

sideout

 




はいどーもです!

えー、一夏全然静かじゃねぇ!!
って思った方がいらっしゃいましたら、感想までどうぞ。

それでは次回予告
学年別トーナメント決勝戦、
遂に一夏と秋良が激突する。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
猛獣対猛犬

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

猛獣対猛犬

noside

試合を終えた一夏はセシリアとシャルロットを抱えてピットに戻って来た。

 

二人とも機体のエネルギー切れで動けなかった為に、

一夏が気をきかせたのだ。

 

「身体の方は大丈夫か?」

「大丈夫だよ、ちょっと背中が痛むけどね。」

「同じくですわ。」

 

シャルロットとセシリアを床に降ろし、

一夏は二人の身体の調子を尋ねながらストライクを解除する。

 

「ならいい、怪我でもされたら寝覚めが悪いからな。」

 

そんな事を言いつつ、一夏はピットの隅の方に置いていた自前のクーラーボックスの蓋を開け、

中で冷やしておいたモナカアイスを取り出して食べる。

 

「♪」

 

実は、一夏は激しい戦闘の後、無性に甘い物が食べたくなるらしく、

この大会中は何時も購買で買ったアイスの類いをクーラーボックスに入れて持ち歩いていたらしい。

 

「一夏ってさ、何時も甘い物食べてるのによく太らないね。」

「殿方だからでしょうか?羨ましい限りですわ。」

 

次々にアイスを平らげていく一夏を見て、

セシリアとシャルロットは自分の体型と一夏の体型を見比べながら呟いた。

 

「いやいや、普通これぐらい食べても太らねぇだろ?

それに気にしたら余計に太るぞ?」

「イヤァァァ!それ以上言わないでぇぇぇ!!」

「聞きたくありません!!聞きたくありませんわぁぁぁ!!」

 

一夏が二人の下腹を指しながら言うと、

二人は頭を抱えて踞った。

 

女性にとって体重、体型とは永遠の悩みであるようだ。

 

因みに一夏が太らない理由、それはエネルギーの消費が常人より多い為、

少々食べ過ぎても大丈夫なのだ。

 

「さてと、そろそろ行くとするか。」

 

合計六個目のアイスを口に放り込んだ後、

手をはたき、カタパルトの方へと歩いていく。

 

「行くぞラウラ、気が変わった、お前にも少し戦ってもらう。」

「!分かりました!」

 

半ば空気と化するところだったラウラの表情がパッと輝く。

人間忘れられる事程悲しい事は無い。

 

一夏は先立ってストライクを起動、展開させる。

 

「あれ?一夏、I.W.S.P.はどうしたの?」

「珍しいですわね、起動時からエールストライカーを装備なさるなんて。」

 

起動したストライクの姿を見たシャルロットとセシリアが一夏に尋ねる。

 

「さっきの戦いで修復不可能な状態になっちまってな、

予備のI.W.S.P.は無いから仕方なしにな。」

 

一夏は自分の落ち度を自嘲するかの様に言い、肩を竦める。

 

「だが、いくら装備が悪かろうが、勝つのはこの俺だ、

お前達を倒した男の戦いを見ていてくれ。」

 

首だけで振り返り、何時もと同じ不敵な笑みを浮かべながら言う。

 

「うん、ちゃんと見てるよ。」

「ですから、必ず勝ってくださいませ!」

「当たり前だ、お前達の想いも一緒に背負って戦うんだ、

無様な事など出来るかよ。」

 

シャルロットとセシリアの言葉にうなずき、

一夏はストライクをカタパルトに固定する。

 

『進路クリアー、ストライク、発進どうぞ!』

「織斑一夏、エールストライク、行くぞ!」

 

sideout

 

noside

一夏がセシリア達と話している頃、

秋良は反対側のピットで準備をしていた。

 

「ん~、さっきのあの爆発・・・、

間違いなくI.W.S.P.を盾代わりにしたね。」

 

秋良はルージュの待機形態から先程の一夏の試合を見ながら呟く。

 

「間違いなく次の戦いにI.W.S.P.は使ってこない、

ならこっちもソードストライカーに換装して行くかな。」

 

そう言いながら購買で買ったケバブ(チリソース+ヨーグルトソースがけ。)をかじる。

因みに彼の脳内には、グラサン男と金髪ガサツ娘に困ったような顔をしているスーパーコーディネーターの顔が写ったとか・・・。

 

まあそれはどうでも良いとして。

 

「秋良、そろそろ行かなくて良いのか?」

箒が秋良に近付きながら話し掛ける。

 

「ん、そうだね、ちょっと待ってて。」

そう言いつつ、秋良はケバブを食べきり、

ルージュをソードストライカー装備状態で展開させる。

 

「I.W.S.P.は使わないの?」

秋良達と共にピットにいた簪が何時もと違うルージュの姿を秋良に尋ねる。

 

「ん?兄さんはたぶんエールストライカーで来るからね、

高機動を相手にするからには、なるべく小回りの利くソードの方が良いからね。」

「何故そうだと思うのだ?」

 

秋良の説明を疑問に思った箒が尋ねるが、

秋良はさも当然と言った風に答える。

 

「あの時、兄さんはI.W.S.P.からエールストライカーに換装した、

何も無かったならI.W.S.P.のまま勝負をつけても良かった筈だ、

なのに何故エールストライカーに換装したと思う?

答えは簡単、I.W.S.P.が破壊されたからだよ。」

 

「よく見てるね、全然分からなかった・・・。」

「しょうがないさ、俺も今の今まで分からなかったんだ、

映像を見直さないと分からないレベルだったよ。」

 

簪の呟きに答えながらも、

自身の兄が行った行為を瞬時に読めなかった自分を嘲る様に肩を竦める。

 

「それじゃあ行ってくるとしますかね。」

「あ、秋良!絶対に勝って!」

「必ず勝ってね。」

 

カタパルトに行こうとする秋良に、

鈴と簪が応援の言葉を送る。

 

「任せてくれ、君達の気持ちも全部背負って戦ってみせるさ。」

 

二人に返した後、秋良はカタパルトに機体を移動させ、

発進体勢を調える。

 

『進路クリアー、ルージュ、発進どうぞ!』

「織斑秋良、ストライクルージュ、行くよ!」

 

sideout

 

side一夏

俺と秋良はほぼ同時にアリーナに飛び出した。

 

なるほど、ソードストライカーでやり合う気か、

そう来なくちゃ面白くない。

 

「よう秋良、久しぶりだな。」

「そうだね、大会中はなるべく会わない様にしてたからね。」

「まったくだな。」

 

そうじゃないと気持ちが鈍るからな、

戦いに情を持ち込まないのは鉄則だからな。

 

「本気の本気でやり合うぞ?恨みっこ無しだ。」

「当然、そうじゃないと面白くない。」

 

俺はビームライフルを構え、秋良はシュベルト・ゲベールを構える。

 

既にラウラと箒もアリーナに出てきている、

ブザーさえ鳴り響けば、何時でも戦闘を始められる。

 

『両チーム開始線まで移動してください!

試合開始まで―――』

カウントダウンが始まる中、

俺は何時でもトリガーを引ける様にしながらも、

ある別の行動を行える様に程よく力を抜く。

 

「(ラウラ、俺が投げるシールドをレールガンで撃て。)」

「(了解しました!)」

 

プライベートチャンネルで通信をした直後、

『試合開始!!』

試合開始を告げるブザーが高々と鳴り響いた。

 

sideout

 

noside

試合開始のブザーが鳴り響くと同時に、

観客席から盛大な歓声が発生する。

 

その中で先に動いたのは紅い機体、ストライクルージュを駆る秋良だった。

対艦刀<シュベルト・ゲベール>を構え、ストライクを駆る一夏に迫る。

 

それに対し一夏は身体を捻り、

コンバインドシールドを秋良目掛けて投げつける。

 

秋良はシュベルト・ゲベールを横薙ぎし、

シールドを叩き斬ろうとする。

 

対艦刀<シュベルト・ゲベール>の刀身は実体剣とビームソードで形成されているため、

対ビームコーティングが施されたシールドですらその威力を殺しきれない。

 

だが・・・、

秋良がシールドを斬ろうとした直前、

何処からか飛来したレールガンの砲弾がシールドを撃ち抜き、爆散させた。

 

コンバインドシール内部のエネルギージェネレーターが爆発し、

辺りを爆煙が覆う。

 

その中からビームが数発飛来し、ルージュの機体を襲う。

 

「なっ・・・!?」

あまりに予想外な出来事に回避もままならず、

二発程被弾してしまう。

 

「ガァッ・・・!!兄さん!!」

「誰がサシでやり合うって言った?

今の俺の装備じゃあお前を正攻法では倒せんしな。

ラウラ、攻め立てろ!!」

「了解しました兄貴!!」

 

秋良に追撃をかけるかの如く、

一夏はビームを撃ちかける、それと同時にラウラもプラズマブレードを両腕に展開し、

秋良を攻め立てる。

 

(クッ!なんて策士なんだよ兄さんは、完全にサシだと思ってた裏をかかれた!)

秋良は自身の思慮の甘さを痛感しながらも、

被弾を避けるべく機体を動かす。

 

「ハアァァッ!」

ラウラはプラズマブレードだけではなく、

ワイヤーも加えた攻撃を繰り出す。

 

一つ一つの攻撃力は高くないが、

連続して続くことによりヘタな攻撃よりも通算ダメージ量は増える。

 

「グゥッ!!」

「もらった!!」

 

ラウラの猛攻にてこずっていたところに、

一夏がビームサーベルを引き抜き迫る。

 

「そうはさせない!」

だが、ショットガンを撃ちながら割り込んで来た箒のリヴァイヴに反応し、

一夏とラウラは一旦距離をとる。

 

「ちっ、後ちょっとで秋良を墜とせたんだがな、

ま、割り込んで来るのも計算の内だ。」

 

一夏はボヤきながらもビームライフルを格納し、

右手にビームサーベルを持って箒に肉迫する。

 

「よぉ箒、調子良さそうじゃねぇか?」

「お前達程ではないさ、だが!」

 

繰り出されるビームサーベルを捌きつつ、

箒は機体を後退させ、ブレッドスライサーを三つ呼び出し、

一夏目掛けて投擲する。

 

投擲した直後、グレネードランチャーを呼び出し、

狙いを定める。

 

「ヤバッ・・・!?」

 

一夏はそれを視認すると身体を捻り、

投擲されたブレッドスライサーの一つを人差し指と中指の間に挟み、

身体を更にもう一捻りし、箒に投げ返す。

 

それは発射されたグレネード弾に直撃し盛大に爆発した。

 

「なにっ!?」

「オォォォッ!!」

まさかの対処に怯んでしまった箒は一夏の無慈悲な斬撃の嵐に襲われる。

 

そして、遂にリヴァイヴのエネルギーは底をついた。

 

「くっ・・・!力及ばなかったか・・・。」

「だが、良い攻撃だった、さてと、秋良を倒しに行くとするか。」

 

悔しそうに項垂れる箒に声をかけた後、

一夏は秋良とラウラの戦いの中に飛び込んで行った。

 

sideout

 

side秋良

クッ!流石に前の様にはいかないか!

 

両腕にプラズマブレードを発生させて俺に斬り込んで来るラウラをいなしつつ、

俺はシュベルト・ゲベールとマイダスメッサーを使い攻め立てるが

中々喰らってくれない。

 

左目のヴォーダン・オージェを解放しているせいか、

前回より遥かに反応も良い。

 

兄さんめ、一体何を吹き込んだんだよ、

お陰で俺は苦戦中だよまったく!!

 

まずいな・・・、

最初の不意討ちでエネルギーの4分の1が削られちゃったから、

これ以上戦いが長引いてしまったらたとえラウラを退けられても、

兄さんを相手にすれば確実に負ける。

 

ここは攻めてみますか!

 

シュベルト・ゲベールを大振りして、

ラウラとの距離を離す。

 

その隙にマイダスメッサーを投擲し、

回避した所をパンツァーアイゼンのロケットアンカーで捕らえる。

 

「・・・!!」

「もらったよ!!」

 

ケーブルを巻き取りながらこちらも動き、

シュベルト・ゲベールを横薙ぎした。

 

だが・・・。

 

「ラウラァァァ!!」

「兄貴!!」

「何!?」

 

兄さんが俺とラウラの間に割り込んでシュベルト・ゲベールをビームサーベル二本で受け止めた。

 

あら~、もうちょっと止めててよ箒・・・!!

 

って!?なんでランチャーストライカーに換装してんだよ!?

まさか・・・!!

 

「ラウラ!!トリガーを引け!!」

「はいッ!!」

 

こんな至近距離でアグニを撃つつもりなのかよ!?

ヤバイ!!あれを喰らったら一貫の終わりだ!!

 

「「オォォォォォッ!!」」

 

sideout

 

side一夏

――ズドォォォォンッ!!――

 

ゼロ距離でアグニを撃った反動で、

俺とラウラは吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 

ラウラを庇った為、予想以上のダメージを喰らってしまった。

 

「大丈夫ですか兄貴!?」

「ああ、なんとかな。」

 

あーあ・・・、ランチャーストライカーまで駄目にしちまったな・・・、

こりゃ開発部にどやされるな。

あー嫌だ嫌だ。

 

「だが、これでアイツも動けんだろ・・・、っ!?」

勝ちを予想した俺の目に、シュベルト・ゲベールを杖の様にしながら立ち上がる秋良の姿が写る。

 

左半分の装甲と、バックパックが失われていたが、

シュベルト・ゲベールを保持する右腕だけはしっかりと残っていた。

 

(まさか・・・、あの一瞬でバックパックを排除して目の前まで持って来たのか・・・!?)

だとすれば恐ろしいことこの上無い。

あれで決めるつもりだったんだ、こっちにもエネルギーはほとんど残っていない。

 

だが、秋良とてエネルギーはもうゼロに近いだろう、

その証拠に、シュベルト・ゲベールにはビーム刃が展開されていない。

 

つまり、戦いを挑むにしても実体剣だけで挑んで来る。

 

なら、俺も覚悟を決めるか。

 

ランチャーストライカーを排除しアーマーシュナイダーを取り出す。

 

「ハァ・・・、ハァ・・・ッ!!兄さん・・・、これが俺の、

最後の一撃だ・・・!!」

 

秋良が息も絶え絶えに叫びながらも、

シュベルト・ゲベールの切っ先を俺に向けて来る。

 

「あぁ・・・、俺もこれが最後だな・・・、勝負だ!!」

「上等!!」

 

俺と秋良はほぼ同時に走り出した。

 

お互いに相手を打倒するため、己が持てる全てをぶつける。

 

けどなぁ、アーマーシュナイダーごときでシュベルト・ゲベールと打ち合えるなんざ思わねぇ、

だから、俺は別のやり方で戦う!!

 

「「オォォォォッ!!」」

雄叫びと同時に秋良はシュベルト・ゲベールを横薙ぎし、

俺の首を狙ってくる。

 

俺はそれを身体を沈める事で回避する。

シュベルト・ゲベールは大型故の強大な威力を秘めているが、

素早さで攻められればひとたまりも無い。

 

「ウオォォォォッ!!」

逆手に持っていたアーマーシュナイダーを残っていた装甲部分に突き立てる。

 

これで終わり・・・、っ!?

 

「アァァッ!!」

「ぐぁっ!?」

アーマーシュナイダーを突き立てたのと同時に、

秋良が背中でシュベルト・ゲベールを持ち変え、俺の脇腹に一閃を叩き込んできた。

 

技の発動直後だった為、回避する事も出来ずにまともに喰らってしまった。

 

強烈な衝撃の後、俺の身体は宙に浮き、

ストライクは強制解除された。

 

「兄貴!!」

ラウラの声が聞こえ、気がついたら俺はラウラに抱き抱えられていた。

なんか情けないな・・・。

 

「・・・、俺は・・・、どうなったんだ・・・?」

身体を起こしてみると、ルージュが解除された状態で秋良が倒れていた。

 

「相討ちか・・・、って事は・・・。」

「私達の勝ちです!」

 

勝つには勝ったが、釈然としねぇ勝ちだな・・・。

 

sideout

 

noside

『学年別トーナメント、優勝は織斑一夏、ラウラ・ボーデヴィッヒチーム!!』

 

決勝戦後、すぐに表彰式がおこなわれた。

 

「あーしんど・・・、早くシャワー浴びて眠りてぇ・・・。」

「兄貴、優勝したのに全然嬉しそうじゃありませんね。」

「バーロー、俺はもっとスタイリッシュに勝ちたかったんだよ、

あんな相討ちで勝ちなんて認めるか!」

 

一夏はラウラと並びながらもボヤく。

本人にとってはこの優勝は素直に喜べないのだろう。

 

因みに秋良は気絶していた為、医務室に運ばれていった。

 

「そういやぁ、優勝賞品は何なんだ?」

「確か、本人の希望品が送られるそうですが、兄貴は何が欲しいのです?」

「ほぉ?良いこと思いついたッと。」

 

自身の質問に答えたラウラの言葉に、

一夏は悪どい笑みを浮かべた。

 

「それでは、織斑君!希望品は!?」

「それはですね・・・。」

 

マイクを持って尋ねて来る真耶に、

一夏は浮かべていた笑みを更に深い物にする。

 

彼の望みは・・・。

 

「俺に、生徒会長と同等の権限を与えて頂きたい。」

『!?』

 

彼の発言に、アリーナにいた全ての人間が一様にざわめく。

 

生徒会長と同等の権限を持つ、

つまり、一夏は新たに自分の生徒会を創ろうとするようなものである。

 

「それは・・・。」

「許可できないとか言っちゃ駄目ですよ?

優勝賞品は優勝者の意向なんですよね?」

「そ、それはそうですけど・・・。」

 

渋る真耶に向け、一夏は威圧的な雰囲気を醸し出す。

その雰囲気は真耶だけではなく、彼の近くにいたラウラですら震え上がった。

 

「ま、駄姉と相談してください、俺の望みは以上です。」

 

一夏はそう言ってラウラを前に立たせる。

 

会場の空気は困惑一色に包まれていた・・・。

 

因みにラウラの望みは一夏の望みを叶える事になったらしい。

 

sideout




はいどーもです!

いやー、一夏さん結構調子に乗り始めました。
まぁ書いている私めが言うことでは無いのですが・・・。

さて次回予告
医務室で目を覚ました秋良に一夏の真意を問う簪、
一夏の真意とは?

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
第二生徒会

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二生徒会

side秋良

「うっ・・・、ここは・・・?」

 

身体に走る鈍痛に眠りから醒まされた俺の目に飛び込んできたのは、

見たことはあるが、世話になった事の無い場所の天井だった。

 

あー・・・、そう言えば俺、兄さんに負けたんだっけ・・・?

今回は勝てると思ってたんだけどなぁ・・・。

悔しいなぁ・・・、でもまぁ、今回は俺の読み負けだからね。

 

あー、もうちょっとだけふて寝しておこうかな・・・。

 

「あ、起きたの秋良?」

・・・、やっぱり眠れそうにないや。

 

今の声は簪だね、着いててくれたのかな?

なんだか嬉しいね。

 

「ああ、今起きたよ、心配かけてゴメンね。」

「良かった・・・、大丈夫そうで・・・。」

 

まあ普通の人間より身体は頑丈だからね、

ちょっとやそっとじゃ死ねないし、傷付かないしね。

 

転生してスーパーコーディネーター並の身体能力持ってたら当然か・・・。

 

まあそれは俺達の事を話さなきゃいけない時が来たら、

その時にまた語れば良いかな。

 

「さて、俺が気絶してからどれぐらい経った?」

「大体二時間位、表彰式も終わったよ?」

「そっか・・・、かなり長いこと寝てたね、こりゃ夜更かししても良いかな。」

 

つってもやること無いけどね。

 

「そう言えばさ、優勝者の賞品ってなんなの?」

訓練しか興味なくて、そう言う雑事は耳に入れてなかったからなぁ・・・。

 

まあ負けたんだし、俺には関係無いことだけどね。

 

「本人の望む物、つまり、一夏の意向次第。」

「・・・・・・・・・はい?」

 

え?なにそれヤダー、兄さん絶対無茶な要求するじゃん、

例えば・・・。

「生徒会長と同等の権限をくれとか言ってそうだね。」

 

まああくまで予想でしか無いんだけど・・・。

 

「よく分かったね・・・、その通りよ。」

「・・・。」

 

なんでだろう、急に頭痛が・・・、

嫌な所だけ似るなぁホント!!

 

「けど、一夏はなんのために姉さんと同等の権限を・・・?」

「さあ?俺にもまだ・・・?」

 

待てよ?会長?

ここの会長は更識楯無・・・、

彼女と同等の権限を持つ、ってことは・・・。

 

「なるほど、そう言う事か。」

「え?」

 

そういう事か!

良いね、俺も参加しようかな。

 

「ど、どういう事?」

 

兄さんの考えを読めなかった簪がちょっと慌ててた。

うん、可愛い可愛い。

 

「ちょっと難しかったけど、やっと分かったよ、

簪のお姉さん対策だよ、兄さんはあの人を嫌ってるからね。」

「え?」

 

さてと、ここから原作棒読みターンだね。

 

「推測になるけど、もしこのまま俺と兄さんがどの部活にも属さないとしよう、

簪や鈴、それにセシリアやシャルルは別に何も言わないと思うけど、

俺達と接点の無い他の生徒の不平不満が教師、それも学園長にまで届くとなると、

生徒会は何がなんでも俺達を何処かの部活に所属させようとするだろうね、

つまり、会長がてっとり早く入会させられるのは?」

「・・・、生徒会・・・。」

「そう言う事、俺もそれには反対だし、俺達の意思を完全無視した行為は頭にくるよ。」

 

あー、久しぶりに頭使った気がするなぁ・・・、

主に記憶方面でだけど・・・。

 

何はともあれ、これで一悶着来そうだな、

ま、楽しそうだから良いんだけどね。

 

sideout

 

side真耶

一夏君の要望を検討していた会議が終わり、

その結果を伝えるために私は彼を探していた。

 

会議の結果だけを言うと、

学園長の鶴の一声で一夏君の要望は承認された。

だけど・・・、

やっぱりと言うべきなんでしょうか、織斑先生は良い顔をしなかったんです。

 

あの人も何処か過保護な所が有りますからね、

弟の意図が読めないのは気に食わないんでしょう。

 

けど・・・、一夏君は一体何がしたいんでしょうか?

 

「山田先生?どうしたんですか?」

「はい?」

 

呼ばれた声に振り向くと、

デュノア君とオルコットさんが立っていました。

 

「あ、デュノア君にオルコットさん、一夏君を見ませんでしたか?」

「いえ、表彰式が終わってからずっと探しているんですけど、

何処にもいないんですよ。」

 

困りましたねぇ・・・、

別に急ぎの用事でもないんですけど、

私も一応教師なので他の仕事もあるんです・・・。

 

「そうですわ、私とシャルさんが一夏様に用件を伝えますわ。」

「そうだね、山田先生もお仕事があると思いますから、

僕達が一夏に伝えておきます。」

「ありがとうございます、それじゃあお願いします。」

 

sideout

 

sideセシリア

「一夏君の要望が認可されました、と伝えていただけますか?」

「わかりましたわ、では私たちはこれで失礼致します。」

「はい、よろしくお願いしますね。」

 

山田先生に一礼してから、

私とシャルさんは一夏様を探すために再び歩き出しました。

 

「しかし・・・、一夏様は一体何をお考えなのでしょう?」

 

何故生徒会長と同等の権限を欲したのか、

それから先が読めないのは、霧の中にいるようで少し気味が悪いですわ。

 

「僕にもさっぱり分からないよ、でも、何となく一夏がやりたい事は分かるかも。」

「なんですの?」

「自分が権力<チカラ>を持つことで、他の誰かを牽制するつもりなんだよ。」

「他の誰かとは・・・?」

 

確かに一夏様には敵が多いですわね、

IS委員会から敵視されているのは目に見えています、

この学園ですら、一夏様と秋良さんをよく思わない方は大勢いるでしょう。

 

まさか・・・、一夏様はその方々に対する牽制を?

 

「そこまでは分からないよ、でも一夏のやることは信頼できると思うよ。」

「そうですわね・・・、私達はあのお方を信じてここにいますものね。」

「うん。」

 

私は一夏様を信じております、

ただそれだけですわね。

 

「それにしても、何処にいるんだろうね?」

「分かりませんわ・・・。」

 

もうかれこれ二時間は探しているんですけど、

影すら見えませんわ。

 

もしや一夏様はジャパニーズニンジャなのでしょうか?

 

「いや、ニンジャじゃないと思うよ?」

「心を読まないでくださいまし。」

 

ですが、本当に何処に行かれたのでしょうか・・・?

 

「む?セシリアにシャルル、どうしたのだ?」

そんな時、曲がり角からひょっこりとラウラさんが顔を覗かせました。

 

「あ、ラウラ、一夏を見なかったかな?」

「いや、見ていないぞ、と言うより私も兄貴を探しているのだ。」

 

ラウラさんが見失うなんて・・・、

一夏様はやはりニンジャなのでしょうか?

 

「誰がニンジャだ、俺は侍だ。」

「うわぁぁっ!?」

「キャアァァっ!?」

「兄貴!?」

 

し、心臓に悪いですわ・・・、

まさか音もなく私達の後ろに近付くなんて・・・。

 

「お、脅かさないでよ一夏!」

「いや、お前らがラウラと合流した辺りから近くにいたぞ?」

「余計に質が悪いですわ!!」

 

いや、まあ気付かなかった私達が悪いんでしょうけど、

意地悪なお人ですこと。

 

「そんなことより、何処に行かれていたのですか?」

確かに、一体何処に行かれていたのでしょうか?

今はそちらの方が気になりますわ。

 

「ん?ついさっきまで調理室の冷蔵庫で冷やしてたプリンを取りに行っててな、

ちょいと多目に作ったからお前達も呼ぼうと探してたんだ。」

「いつの間に作っていたのですか?」

「今朝少し早起きしてな。」

 

このお方は何処までマイペースなのでしょうか・・・?

自分が興味の無い事には関わらず、

それでいてやりたい事は完璧にやり通す。

 

自由な生き方なのでしょうが、

私にはそれが眩しいくらい輝いて見えますわ。

 

「今から俺の部屋に来るか?茶でも出してもてなすぜ?」

 

そんな事を言いながら、一夏様は私達に背を向け先に行ってしまう。

 

「あ、待ってください兄貴!」

一夏様の後を慌てて追い掛けるラウラさんの様子は、

まるで兄を慕う妹の様でした。

 

「ねぇセシリア。」

「どうしました?」

 

私も後に続こうとした時、シャルさんが私を呼び止めました。

 

「半日前に、僕がした質問覚えてる?」

「一夏様を男性として好いているかどうかでしたか?」

 

覚えていますとも、寧ろ戦いが終わってからずっと考え続けていましたわ。

 

一夏様はこれ迄に見て来たどんな殿方より、

圧倒的な存在感、信念、そして力を持っていらっしゃる、

まさに覇王と呼べるお方。

 

私はあのお方に心奪われました、

そして、強い殿方に支配される悦びを知った。

ですが、それが恋情だとは気づけなかった。

 

如何に名家の当主とは言っても私は所詮十代半ばの小娘、

経験も、そして知識も何もかも足りていないのだから・・・。

 

でも、今ならはっきりと分かります、

私は・・・。

 

「答えは出ましたわ、私は、一夏様をお慕い申しております。」

 

これが私の素直な気持ち、

一夏様の言う、あるがままの自分ですわ。

 

「僕も・・・、一夏の事が好きなんだ・・・。」

「シャルさん・・・。」

「でも、セシリアの事も、好きなんだ・・・。」

「シャルさん?」

 

少し悲し気に呟くシャルさんに、

私は違和感を覚えました。

 

「こんな、男装して皆を騙してる僕を、一夏とセシリアは受け入れてくれた、

最初は一夏だけだったけど、セシリアも僕を許してくれたんだ・・・、だから・・・。」

「?」

「だから、セシリアと一夏を奪い合って、セシリアとの仲を壊したくないんだ!

でも、一夏の事を諦めるなんて絶対に嫌だ!」

 

っ・・・!!

シャルさんは・・・、私よりももっとこの事を考えていらしたのですね・・・。

 

私にとってもシャルさんは友人、いえ、もしかしたら一夏様と同じ位、

お慕いしている女性なのでしょう。

そんな方と仲違いなど、私はしたくありません!

 

「私も、シャルさんの事をお慕いしておりますわ!

私はまだ狭量で、到底一夏様と釣り合うような女ではありません、

ですが、シャルさんは私と共に一夏様に追い付く為に戦ってくださいました!

私は、貴女の事を一夏様と同じ位信じております!」

「セシリア・・・。」

 

今、やっと分かりました、

私は恐れていたのです、共に戦った友人、

それも心の底から分かり合えている親友と呼べる女性との、

心の解離を恐れていたのですわ。

 

「私も、シャルさんとの絆を壊したくはありませんわ、

ですが・・・、一夏様の事も諦められません。」

「うん、なんだか似てるね僕達 。」

「ふふっ、そうですわね。」

 

似ている、確かにそうかもしれませんわね、

同じ殿方に自らの在り方を変えて頂いたのですから。

 

「似てる似てない云々の前に、来るか来ないかの選択をしてもらいたいんだがな・・・。」

「「・・・・・・えっ?」」

 

やれやれと言った風にボヤく声に、

私とシャルさんは同時に振り向きました。

 

やはりと言うべきなんでしょうか、

そこには呆れた様に笑う一夏様がおられました。

 

「い、いいい、一夏様・・・!?」

「い、いいい、いつからそこに!?」

 

如何にシャルさんに意識が向いていたとは言っても、

ここまで気配を隠されるなんて・・・。

 

「ん~、確かセシリアが俺の事が好きなんだって言った辺りからかな?」

 

お、思いっきり最初の方から聞かれていましたわ・・・!!

 

恥ずかしいですわ~!!

 

「やれやれ、俺の事を好いてくれるのは嬉しいんだが、

その前に来るのか来ないのかハッキリしてくれよ、

先に行かせたラウラが不憫だ。」

 

そう言いながら、一夏様は私達に背を向けられて、

先に歩き始められました。

 

確かにそうですわね・・・。

ラウラさんにも悪いですし、行かせて頂きます。

 

シャルさんと歩き出そうとした時、一夏様が立ち止まられました。

「セシリア、シャル、お前達二人の気持ち、よく分かった、

これからは俺の両隣で俺のとっておきを味あわせてやる、いの一番にな。」

「「!!」」

 

つまり、一夏様は私達二人を・・・?

 

「何ぐずぐずしてんだ?早く来いよ?」

「うん!」

「はいっ!」

 

私は、親友を傷付けずに一夏様の隣に居ても良いんですね?

 

ならば、それに応える事ができる様に、私は全てを差し出しますわ。

 

sideout

 

side一夏

セシリアとシャルを連れ、

寮の自室に戻り、四人分の紅茶を用意してプリンを机に並べる。

 

「一夏って何でも出来るね、正直言って羨ましいよ。」

「そうですわね、私なんて料理などしたことすらありませんから・・・。」

 

なんかシャルとセシリアが落ち込んでるが、

流石に出来る事を謙遜するほど俺は低姿勢じゃない。

 

「まあな、昔から料理をしければならなかった環境で育ったからな、

それに、旨い物を作って誰かを喜ばせてやることも好きだからな、

これぐらいになって当然だ。」

 

まあ最初の方はそりゃ酷かった、

俺も秋良も料理は人並み以下にしか出来なかったから、

ここまで上達するまで、何度指を切ったり火傷したりしたか。

 

まあ、駄姉に任せるよりも圧倒的に安全だったからな、

自分でやった方が何も壊れないからそれで良い。

 

傷付くのは、俺一人でいい。

 

「ま、温くなる前に食ってくれ、

味の方は保証出来ないがな。」

「「「頂きます。」」」

 

本日のデザートはカスタードプリン、

カラメルは加熱した物をそのままかけ、

冷やした物だから焼いてパリッとした物と少し違う味わいがある。

 

「ふわぁ・・・、おいしい・・・!」

「美味しいですわぁ・・・!」

「こんなに美味しいプリンを食べたのは初めてです・・・!」

 

まあ、そうだろうな、

一応並みの料理人よりも腕は立つと自負してる。

 

因みに辛い食い物は食うのも作るのも苦手だ、

あんなもんを秋良はよく喰うよな。

 

まあ、そんな事はどうでも良い、

今はそんなことより大事な事がある。

 

「そう言えば、お前達も俺を探していたようだが、

一体なんの用だ?」

「「あっ!」」

「?」

 

セシリアとシャルが揃って何かを思い出した様にし、

ラウラは?を頭の上に浮かべていた。

 

「忘れる所でしたわ、山田先生から伝言を預かっておりますの。」

「会議で一夏の要望が承認されたみたいだよ。」

「成る程な、確かに承った、二人とも、有難う。」

 

よし、これでこの先の面倒な事を一つ回避出来るな、

なんせあのシスコン会長はマジで面倒なんだよ、

俺達をダシにしやがるからな。

 

さてと、これで手は打った。

こっから先は俺の腕次第だな。

 

「兄貴は・・・、これから何をしようとしているんですか・・・?」

「別に大層な事じゃねえさ、この先に起こる何かを予防する為にな・・・。」

 

俺の意図を尋ねるラウラの頭を撫でておく。

あんまり深入りすればコイツらは間違いなく傷付く、

俺は彼女達にそんな思いをしてほしく無い。

 

だから・・・、今はまだ俺の意図に気付かなくて良い。

 

まあ、なんにせよこれで第二生徒会を創れる、

それだけで十分だな。

 

「あれはなんですか兄貴?」

ラウラが部屋の隅に置いていたギターを指差しながら尋ねてくる。

 

そう言えばセシリアとラウラには俺がギターを弾けると言ってねぇな、

誇れる腕でも無いが、一応言っておくか。

 

「俺のギターだ、一応趣味程度にやってるだけだが、

少し弾いてみるとしようか。」

 

そう言いつつ、俺は立て掛けてあったギターを取り、

チューニングを合わせる。

 

一応メンテはしっかりと行っているからな、

音も悪くは無いんだ。

 

「・・・、それでは一曲・・・。」

 

深呼吸してからギターを爪弾く。

 

かつての俺、宮本零士が作曲しながらも、

誰にも発表する事なく死んだ為、この曲の存在を知るのはこの俺ただ独りだ。

 

何処かレクイエムの様な響きの曲だと、

この世界で弾いてみると改めて感じる・・・。

 

そう言えば・・・、アイツらはどうしてんのかな・・・、

俺が死んだから、新しいギタリストでも加入させたのか・・・、

それとも解散したのか・・・。

 

今となってはもう遅い話だな・・・。

 

「どうしたの一夏・・・?」

「何がだ?」

「それ・・・。」

 

シャルが俺の頬を指しながら言うので、

俺はギターを弾くのを止め、頬に触れた。

 

するとどうだろう、自分でも気付かない内に涙が零れていた。

 

無様だな・・・、過去を、転生以前の事を振り返る事など無かったのにな・・・。

「・・・。」

「何か・・・、辛い思い出でもありますの・・・?」

 

セシリアが尋ねてくるが、

俺は何も話せなかった・・・。

 

俺は一度死んで、別の人間として甦ったんだ・・・。

誰がそんな話を信じるだろうか・・・?

 

「今はまだ話せない・・・、昔に別れた、友の友との記憶だ・・・。」

 

今は、それしか言えなかった・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

セシリアとラウラが自分達の部屋に戻った後、

僕はある決意を一夏に話そうとしていた。

 

そう、僕のこれからだ。

 

僕は一夏やセシリアとずっと一緒に居たい、

もう国の事、デュノアの事なんてどうでも良い。

 

僕は一夏にこの身を捧げる覚悟がある、

だからもう恐れる物は無いんだ。

 

「ねえ一夏・・・、僕ね、一つ決めた事があるんだ・・・。」

「なんだ?」

 

一夏は僕の目の前に立ち、僕の言葉を待っていた。

 

「僕ね、シャルル・デュノアからシャルロットに戻ろうと思ってるんだ、

これ以上皆に嘘を吐きたく無いし、自分自身も辛いんだ。」

「そうか、お前が決めたならそうすれば良い、

正誤の判断は周りが勝手に付けるもんだ、自分の正しいと思った事をすれば良いさ。」

 

一夏は突き放す様な言葉を、何処か優しい口調で言ってくれる。

彼は表面だけを捉えてしまえば、ただ冷たい男にしか見えない、

でも、その心は温かく、優しさだけではなく時には厳しさを持って相手と向き合う、

それが本当の織斑一夏という男性。

 

僕も彼の心に救われた一人の女だ、

だから、僕は一夏を支えられる様な女でいたい、

セシリアもそう望んでいる筈だから。

 

「うん!これからよろしくね、ご主人様♪」

 

sideout




はいどーもです!

さてと、四日後はバレンタインデーと言うことなので、
前作の光の彼方でバレンタインデー特別短編を執筆させて頂きます、
その為、アストレイは短編が書き終わってから書き始めますので、
暫くお待ちください。

さて次回予告!
臨海学校直前の休日、
一夏と秋良は別々に水着を見て廻る事にした。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
海だ水着だ!

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海だ水着だ!前編

side一夏

学年別トーナメントの翌日、

シャルは自らの性別を明かしてシャルロットとして再入学してきた。

 

俺とセシリア、ついでに秋良はシャルが女だと知っていたが、

知らなかった他の連中の驚き具合と落ち込み具合は半端無かった。

 

まあ・・・、落ち込んだ方々の大半が腐の方々なんだろうがな。

 

そんな事はどうでも良いとして・・・。

 

それから何事も・・・、いや、夜な夜な、

セシリアとシャルが俺のベッドに潜り込む様になった事以外特に何事もなく、

季節は夏に移り変わって行った・・・。

 

で、俺は寝苦しさと日の光を浴びて目を覚ました。

 

朝に強い訳ではないが、すんなりと目は覚める方だ。

 

だが、最近そうではなくなってきた、

それには訳がある。

 

俺の両サイドで穏やかに寝息をたてている金髪美少女二人組だ。

 

右腕にはセシリアが、左腕にはシャルが抱き着き、

しかも今日はラウラが俺の上に乗っかってるから余計に寝苦しい。

 

まったく・・・、自分の欲求に素直なのは構わんが、

朝になったんだからとっとと起きやがれ。

 

「おら起きろ、セシリア、シャル、ラウラ。」

彼女達を叩き起こす様に、俺は無理矢理身体を起こし、

腕を大きめに揺らす。

 

「あ・・・ん・・・?」

「う・・・ん・・・?」

「む・・・ぅ・・・?」

 

三人揃って寝惚けてんな、似たような声が漏れてんぞ。

 

「あ・・・、おはようございます一夏様・・・。」

「おはよう一夏ぁ・・・。」

「おはようございます兄貴・・・。」

 

「おうおはよう、目が覚めたらとっとと着替えろ、

こんな所誰かに見られでもしたら面倒だ。」

 

と言うより、なんで三人とも裸なんだ、

眼福とは思いたいが、如何せん童貞には刺激が強すぎる。

 

悪いか!?転生前も転生後もそう言った関係の女はいないんだよ!!

中身三十代だが、身体は十代半ばなんだよ!

 

ってそんな事はどうでもいい、

もしこの状況で誰かが入って来たら・・・。

 

「おーい、起きてるかい兄さん?」

 

いぃっ!?

一番めんどくさい奴が来やがった!?

アイツに見られたらある意味一貫の終わりだ!!

 

「待て!開けるな!!」

 

俺の叫びも空しく、扉が開かれる。

 

「なんだよ、鍵かかってないじゃん、

不用心にも程があるよ兄さ・・・ん?」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・。」」」」

 

秋良が部屋に入って来た瞬間、

部屋の空気が死んだ・・・。

 

秋良の目線は俺と、それぞれの下着を履いたり、

着けたりしようとしていたセシリア達の間をさまよう。

 

「お邪魔しました~、ごゆっくり~♪」

「待てぇぇぇぇぇ!!」

 

ニヤニヤしながら部屋を出ていこうとする秋良を必死に呼び止めるが、

それも空しく扉が閉じられる。

 

あぁぁぁぁぁ・・・!

 

絶対に勘違いされた・・・!

いや、ネタにされた・・・!

 

廊下から笑い声が聞こえてくるから確信できる、

恐らく秋良が腹抱えて笑ってやがるんだろう・・・!

 

ぜってぇ後で絞めてやる・・・!

 

sideout

 

side秋良

いやぁ、久し振りに兄さんの慌てる顔を見れて気分が良いや。

 

にしても兄さんはスゴいね、三人も女の子を囲うなんてさ。

 

でもなぁ・・・、鈴も簪も夜這いかけて来ないから、

夜を共になんて今までに無いからなぁ・・・。

でも羨ましいなんて思ってないよ、思ってないったら思ってない!

 

で、俺は今、鈴と簪と一緒に朝食を摂っている。

俺の朝食はカレー、しかも辛さ指数5の激辛カレーだ。

 

これぐらい辛くないと俺はカレーと認めないよ。

 

「一夏っ、早く行こうよ♪」

「そうですわ、そろそろ急がなければ遅刻してしまいますわよ?」

「むぅ、それは嫌だ、何せSHRは教官が担当だからな。」

 

そんな事を思ってると、薄金、濃金、銀の髪色をした美少女三人を回りに侍らせた色男、

織斑一夏がやって来た。

うわぁ、見ててなんだかイラって来る。

 

え?人の事言えないって・・・?

まあ確かにね・・・。

 

「おーい、兄さん、こっちだ。」

取り敢えず兄さん達をこっちに呼び寄せるつもりで手を振る。

 

「テメェ秋良この野郎・・・!」

「まあまあ落ち着きなよ、さっきのは俺が悪かったって、

それより早く朝飯食べた方がいいよ?」

「本当にムカつく野郎だな・・・。」

 

とか言いつつ、兄さんは両サイドにセシリアとシャルロットを侍らせ、

朝食を食べ始める。

 

にしても、兄さんの朝飯・・・、

フレンチトーストにフルーツサンドにココア、

どう考えても糖尿病になるようなメニューだ・・・。

 

「兄さん・・・、太るよ・・・?」

「この程度で太るかよ、と言うより、テメェもなんで朝からカレー喰うんだよ?」

「身体に良いんだよ?兄さんもやれば?」

 

つってもやらないだろうけどね。

 

「生憎だが、俺は辛い食い物が苦手なんだよ、

それに、塩分の採りすぎは身体に毒だ。」

「糖分も同じだと思うんだけど?」

 

まあ・・・、どっちも生活習慣病の原因の最たる物だから張り合っても無駄か・・・。

 

「あ・・・、ヤベ、俺もう行くわ。」

兄さんが急に焦った様な表情を見せ、席を立つ。

 

「あ、待ってよ一夏ぁ!!」

「お待ちください一夏様ぁ!」

「兄貴~!」

 

兄さんを追いかけてセシリア達は席を立つ。

なんでだ・・・?

 

訳が分からず壁に掛けられた時計を見ると、

SHRの四分前だった・・・、ってぇ!?

 

「ちょっ!!なんで言ってくれないんだあのバカ兄貴!!」

 

不味いぞ、あの出席簿アタックは死ぬ程痛いんだよな・・・、

まあ兄さんのグーパンチよりはマシなんだけどね。

 

ってそんな事言ってる場合じゃない!!

 

「鈴!簪!早く行こう・・・、っていない!?」

慌てて周りを見渡すと、もう既に出入口から出ていこうとする後ろ姿が見えた。

 

ヤバイ・・・。

 

道連れがいない・・・、いや、道連れはいない方が良いんだけどね。

 

ええい!こうなりゃ自棄だ!!

 

食器とトレーを返却し、大慌てで寮の外に出る。

朝からあんまりやりたくないけど、背に腹は代えられない!!

 

「そりゃ!!」

跳躍し、校舎の近くに植えられていた二階の窓ぐらいの高さの木の枝に掴まる。

そこから懸垂の要領で跳ね上がり、枝の上に立つ。

そこから更に飛び上がり、教室がある三階の窓縁に掴まる。

 

よし、後は窓を開けて入るだけ・・・、

って・・・、鍵がかかってる・・・。

ツイてないなぁ・・・。

 

流石に三階から落ちたらタダじゃ済まないよなぁ・・・、

いや、そもそも窓から進入しようとする方が間違いなんだけどね・・・。

そんな事はどうでも良いとして・・・、

これかなりキツいんだよな・・・。

 

兄さ~ん・・・、助けて~・・・。

 

俺の祈りが通じたのか、窓の鍵が解除され、

窓が開いた・・・。

 

窓から顔を覗かせたのは、やはりと言うべきか兄さんだった・・・。

「お前よぉ・・・、走って来いよ・・・。」

「ゴメンよ・・・、流石に間に合わないと思ってさ・・・。」

「まあ良いがな・・・、ホレ、掴まれや。」

 

有り難い・・・。

差し出された兄さんの手を掴んだ。

 

やれやれ、なんとか間に合った・・・。

 

因みに廊下にいたセシリア達に驚愕の目で見られたのはご愛嬌・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

放課後、

僕と一夏とセシリアは訓練をするために、

アリーナに向かっていた。

勿論、僕とセシリアは一夏の両腕にしがみついてる。

 

左が僕で、右がセシリアの立ち位置だ、

急に変わったりしたら物凄く収まりが悪い。

 

それは一夏も分かってるみたいで、

もう僕達がしがみついても何も言わなくなった。

 

だから僕達も何も言わずに彼の腕にしがみついてるんだ♪

 

「あ、そう言えばなんだが、お前ら次の土曜日暇か?」

一夏が立ち止まり、僕達に尋ねてくる。

 

「え?僕は大丈夫だけど?」

「私も特に用事はありませんわ、それがどうしまして?」

「いや、来週の水曜から臨海学校だろ?自由時間に使う水着を持ってなくてな、

だから買い物がてらお前達とデートモドキでもしようかと思ってな。」

 

あー、そう言えばそうだったね、

僕も水着持ってないから買いに行きたかったんだよね。

 

「僕は行きたいな♪セシリアは?」

「私は既に水着を持っていますが、

折角の御誘いですし、御一緒させていただきますわ。」

「決まりだな。」

 

一夏は満足気に頷き、先にアリーナに入っていった。

僕とセシリアもその後を追い、アリーナに入った。

 

sideout

 

side簪

金曜日の夜、

私は秋良の部屋を尋ねた。

 

実は昨日、シャルロットとセシリアが明日、

一夏とデートに行くって嬉しそうに話していたから、

羨ましかったから、私は秋良と一緒に買い物に行こうと誘いに来たの。

 

「秋良、いる?」

「居るよ~、鍵掛かってないから入ってきて良いよ~。」

「お邪魔します。」

 

扉を開け、部屋の中に入る。

その途端、軽快な津軽三味線の音色が耳に飛び込んで来る、

 

いつも思うんだけど、どうして秋良ってあんなに三味線が上手いんだろ?

聞いてみたいけど、私音感無いから正直言って音楽が出来ないんだよね。

 

「いらっしゃい簪、鈴とラウラはさっき来て今そこで寝てるよ。」

 

彼の視線の先を見ると、ベッドの上で穏やかな寝息をたてている鈴とラウラが居た。

 

鈴はともかく、どうしてラウラが秋良の部屋で眠ってるんだろ?

 

「兄さんがラウラと話を着けろって言ったらしくて、

部屋に来たのは良いんだけど、何かやってたのか、疲れて眠っちゃったんだ。」

 

一夏が・・・?

何のために?

 

「まあそんな事はどうでも良いとして、俺に何かご用かな?」

そうだったわ、思いっきり忘れる所だったわ・・・。

 

「秋良、明日か明後日のどっちか暇?

良かったら臨海学校の時に使う水着を買いに行きたいんだけど・・・。」

「明後日なら良いよ、兄さん達と鉢合わせにならないからね。」

「!」

 

一夏達と会わない様に考えてくれるなんて・・・、

秋良って結構色々考えてくれてるんだ・・・。

 

「ま、二人っきりって訳にはいかないよ?

鈴とラウラも連れてくけど、それでも良いなら。」

「鈴はともかく、なんでラウラも?」

「ラウラが明日用事があって兄さん達と一緒に行けないから、

俺が連れていってやれって言われてさ、それに兄さんよりも俺達の方がセンス有るからね。」

 

なるほど・・・、と言うより、

一夏って結構人に面倒事を押し付けるのね・・・、

 

二人っきりなんて望んでないよ、

むしろ鈴もいなきゃ楽しくないしね。

 

それにしても、楽しみだなぁ~。

 

sideout




はいどーもです!

えー・・・、一話で海まで行けるかと思ったら、
バランス的に分解した方が良いと判断して、
四部構成になります。

さて次回予告
海だ水着だ!一夏編

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海だ水着だ!一夏編

noside

臨海学校前の最後の土曜日、

この日は雲ひとつ無い青空が広がり、

気温も25度と、夏の訪れを感じさせる。

 

そんな絶好の行楽日よりに、

IS学園発のモノレールに乗り込む三人の男女が居た。

 

黒髪の青年、織斑一夏と薄金髪の少女、セシリア・オルコット、

濃金髪の少女、シャルロット・デュノアの三人だ。

 

「ところで一夏様、どの様な水着を買われるおつもりでして?」

「ん?まあ無難な物にしようかと思うんだが、あんまり海に縁が無かった物でな、

正直言って、水着の良し悪しには疎いんだ。」

「そうなの?」

 

セシリアの質問に肩を竦めながら笑う一夏を見て、

シャルロットは少し驚いた様に尋ねる。

 

「ああ、一応は泳げるんだが、この世界に来てから海に行った事が無いんでな。」

一夏が海に近寄らなかったのには訳がある。

それは彼の弟、秋良の前世での死因が溺死であった為、

一夏もそれを汲み取り、なるべく海に近寄らなかったのである。

 

「「この世界・・・?」」

「あっ・・・、いや、何でもない、気にしないでくれ。」

 

一夏が無意識に発した言葉に反応した二人が聞き返すが、

彼は曖昧に笑って受け流した。

 

(以前から思っていましたが、一夏様は時々不自然な言葉を呟かれますわね・・・。)

(それに、どう考えてもこれから先の事を知ってる様な気がするし。)

(今の言葉、<この世界>と言っておられましたわね、と言うことは・・・。)

(一夏は僕達に言えない何かを黙ってる・・・?)

 

だが、彼の態度に何処か不自然な物を感じたセシリアとシャルロットは、

一夏との付き合いで徐々に研ぎ澄まされてきた勘で推理をする。

 

(ですが、例えそうでも一夏様は機会が来ればきっと話してくださいますわね。)

(だからその時まで、僕達は待っていれば良いよね?)

 

一夏に自身の有り様を変えられ、彼を心より信頼している二人は詮索を止めた。

 

「さてと、着いたみたいだな、行くとするか?」

「はい♪」

「うん♪」

 

差し出された一夏の手を掴み、

セシリアとシャルロットは彼の隣に並んだ。

 

sideout

 

side一夏

危ない危ない・・・。

無意識の内に言葉が出ていた・・・。

ドジって正体を明かす所だった・・・。

流石に今のは無かった・・・、自分で自分をぶん殴りたくなった。

 

まぁ、セシリアとシャルには、俺の正体を明かしても良いと思ってる。

だが、今はまだ時期尚早だ。それに俺の踏ん切りがつかないのもあるがな。

情けないこった、何時まで躊躇ってる・・・?

 

・・・、いや、今はそんな事はどうでも良いか。

今は目の前に集中していればいい。

 

そんな事を思いながらも、俺は二人と並んで歩く。

 

・・・、にしても視線が凄いな・・・。

そりゃそうか、金髪美少女を二人も侍らせてれば誰でも注目するわな。

 

そんな事を考えつつ、俺達は水着売場までやって来た。

 

やはりと言うべきか、前世でも現世でも、

このシーズンの水着の販売量には気圧されるな。

 

どの世界でも、人間考える事は同じなんだな。

「うわぁ!凄い品揃えだね!」

「まあそうだな、この辺りでは一番の品揃えだろうな。」

 

物珍しそうに目を輝かせるシャルの言葉を聞きつつ、

俺はシャルに似合いそうな水着を探してみる。

 

やっぱ無難に原作と同じヤツにしとくか?

いや、それだとあんまり面白くないか・・・?

 

かと言ってあまりにも大胆過ぎるのは勘弁だな。

 

こう言う時は水着を欲しがってるシャルの意見と、

同性のセシリアの意見を基にしよう。

 

「で?シャルはどんな水着が欲しいんだ?」

「えっ?一夏が選んでくれるんじゃないの?」

 

そう言う事になってたのか?

まあそう言うことならちょいと頑張ってみるか。

 

「分かった、俺好みなのはこれだな。」

結局俺が渡したのは原作と同じ水着だった。

 

だってあれが一番似合ってるんだもの・・・。

 

「わあっ、可愛いね!どう?似合ってるかな?」

俺の手から水着を受け取ったシャルは、

自分の身体に水着を当て似合うかどうかを尋ねてくる。

 

「ええ、似合っておりますわよシャルさん♪」

「似合ってるぞ、それで良いか?」

「うん!じゃあお金払って来るね♪」」

 

俺とセシリアの褒めに嬉しそうな顔をし、

彼女は早速レジに会計に行った。

 

さてと、俺達も着いて行くか。

 

売場から去ろうと思い、歩き出そうと思った時・・・。

 

「ちょっとそこの貴方、これ片付けときなさい。」

「あぁ?」

 

呼ばれたので振り向いてみれば、いかにも女が偉いと思い込んでる様な二十代の女だった。

うわ・・・、嫌な臭いの香水使ってやがんな、鼻が曲がりそうだ・・・。

 

「断る、見ず知らずのアンタに尽くす義理は無い。」

まったく、コイツ俺が誰だか分かってないな?

なら、自分が誰に喧嘩を吹っ掛けたのか判らせてやるか。

 

「ふぅん?歯向かうんだ?なら・・・。」

俺の言葉を受け、女は警備員を呼ぼうとする。

 

その隙に俺は学生証を取り出しておく。

この俺の名を知らない人間など、恐らくいないだろうしな・・・。

 

だが、セシリアが俺より先に動き、女の腕を掴んでいた。

「な、なによ!?」

「まったく・・・、貴女はどなたに因縁をつけているのかお分かりなのですか?」

「そこの男に決まってるじゃない!!なによ!?アンタは男の肩を持つわけ!?」

「当然ですわ、このお方は・・・。」

 

喚く女を睨み付けるセシリアの目は、

卑屈な奴を侮蔑するような目だった。

 

「失礼しますお客様、どうされましたか?」

騒ぎを聞きつけた男性警備員がこちらに寄ってきた、

正しい判断だ、だが、今回ばかりは間違いなんだけどな。

 

さてと、あんまりやりたくは無いんだが、

痛い目にあっていただこう。

 

「失礼した、俺はこう言う者です。」

「はぁ・・・、ッ!?あ、IS学園の学生証!?

と言うことは・・・!?」

 

俺の学生証を見た警備員の顔がどんどん青ざめていく、

なんだろう、物凄くデジャヴを感じるんだが・・・。

 

「俺は織斑一夏です。この女が俺にいちゃもんをつけて来たんですよ、なあセシリア?」

「ええ、イギリス代表候補生として嘘は吐きませんわ。」

「・・・!」

 

俺の名前が判り、さらにイギリス代表候補生のセシリアが加わると、

女は嫌な汗を滝の様に流していた。

 

「さて、俺を顎で使おうとしたんだ、それなりの代償は覚悟していただこうか、

明後日の朝には職場の椅子が無くなってるだろうな。」

 

そう言いつつ、俺は携帯を取りだして電話をかけるフリをする

 

その瞬間、女は踵を返し逃げようとする。

だが、それを逃がす俺達じゃないんだよ。

 

俺とセシリアが両肩を掴み、逃げられない様にする。

 

「因縁吹っ掛けるのは大いに結構だがな、相手を選べよ。

それにテメェは勘違いしているようだがな、

女が偉いんじゃねぇんだ、ISを使える奴が偉いんだよ、

ISに乗った事もないテメェなんざ何の価値もねぇんだよ、それを理解しておけ。

今回だけは見逃してやるがな、次に同じことをしてみろ、

テメェを八つ裂きにしてこの道に晒してやる、良いな?」

「・・・!!」

 

女は顔面蒼白で頷き、俺とセシリアが手を離した瞬間に脱兎の如く走り去って行った。

 

ふん、自分が偉いと思うならちったぁ歯向かってみろよ?

俺を楽しませる事ができる位まで歯向かってくれれば、

俺は喜んで従ってやるのによ。

 

まあそれはさておき、

虎の威を借る狐が増えてるのは確かだろうな。

女だから、ISを使えるから、そんな理由で威張る輩が出てきている。

 

かつて漢達は自らの理想を実現すべく、争い、

血を流し、その果てに傷付き倒れて逝った。

 

だが、今の女はどうだ?

理想を持たず、ただ力を振りかざすだけだ、

自分達の手を汚そうともしない。

 

だから世界に歪みができている。

それを見過ごせない質なんだよな俺は。

 

「いっその事・・・、俺が壊してやろうか・・・?」

「?どうされましたか一夏様?」

 

俺の独白に聞き耳を立てたセシリアが尋ねてくる、

コイツの耳も侮れんな・・・。

いや、俺の声がデカイだけか・・・?

 

「何でもない、行くぞ、シャルが待ってる。」

「はい♪」

 

俺の差し出した手を取り、嬉しそうに微笑むセシリアを見て、

俺は一瞬頭を過った考えを思考の隅の隅に追いやった。

 

今はただ、彼女達を喜ばせたいからな・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

一夏様とシャルさんの水着を買い終えた後、

私達は近くの喫茶店に入りました。

 

喫茶店の名前は@クルーズと言うらしく、

メイドや執事の服装をした店員が働いておりましたわ。

 

一夏様は早速季節のパフェ(葡萄のパフェ)とチョコレートパフェの二つを注文しておりました。

 

因みにシャルさんは紅茶とチョコレートケーキを、

私はロイヤルミルクティーとレアチーズケーキを注文しました。

 

何時も思う事なのですが、

どうして一夏様はいくら甘い物を食べても太らないのでしょうか?

 

女の身としては羨ましい限りなのですが、

個人的に御体の健康の方は大丈夫なのかとも思います。

 

まあ私がどうこう考えなくとも、

一夏様はわかっておられますわね。

 

「お待たせしました、こちらが季節のパフェとチョコレートパフェ、

レアチーズケーキとチョコレートケーキでごさいます、お飲み物は後程お持ちします、

ごゆっくりどうぞ♪」

 

メイド服を着た店員が私達が注文しました品を、

テーブルの上に置いて厨房へ戻って行かれました。

 

「さてと、いただくとしようか。」

一夏さんはそう言いつつスプーンを持ち、

生クリームやフルーツ、そしてアイスクリームを次々と口に入れて行きました。

 

その食べっぷりは、見慣れている私達でさえ舌を巻く物でした。

 

「はぁ・・・、やっぱり凄いね一夏は・・・、

僕達には考えられない食べっぷりだもん。」

「ですわね、さ、私達も食べましょう?」

「そうだね。」

 

そんな会話をしながら私達もケーキを口にしました。

ふむ・・・、一夏様が作ってくださったケーキよりは劣りますけど、

中々の味ですわね・・・。

 

「ねぇ一夏、そのパフェどんな味なの?」

 

シャルさんが一夏様の食べている季節のパフェを指差し、

味を尋ねられておりました。

 

少し食べてみたいとは思いますが、

少し言い出し辛いですわね。

 

「まあまあだな、なんなら、お前達も食べてみるか?」

「えっ!?良いの!?」

「宜しいんですの!?」

 

シャルさんと揃って身を乗り出してしまいましたわ。

あまりにも声が大きかったのか、店内にいた人達の視線が集まってしまいました。

 

「落ち着け、取りあえずホレ。」

そう言いつつ、一夏様はスプーンをシャルさんの目の前に差し出しました。

所謂ハイアーン♪ですわ。

 

「あーん♪ふわぁ、美味しいねぇ♪」

「そうか、次はセシリアだ。」

 

そう言って一夏様は私の前にアイスクリームと生クリームが乗ったスプーンを差し出してくださいました。

 

さ、流石に人目がある中では少し恥ずかしいですわね・・・。

ですが、折角の御厚意を無下にはできませんわ!

「あ、あーん・・・。」

 

意を決して一口食べました・・・。

正直に言いまして、味なんて分かる訳がありません・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

一夏とセシリアとお茶会を終えて、

僕達はIS学園に帰ってきた。

 

「ふぁ~!歩きすぎて足がクタクタだよ~。」

「本当ですわね、疲れましたわ。」

「そうだな、疲れたな、それは良いんだよ、だがな・・・。」

 

一夏がベッドに腰掛ける僕達を見て、

なんだか呆れたような顔をしていた。

 

「なんで俺の部屋にいるんだよ?」

そう、僕とセシリアは今、

一夏のお部屋にお邪魔してるんだ♪

 

「なんでって、彼氏の部屋にいちゃいけないの?」

「そうですわ、私とシャルさんは一夏様の女、

つまり貴方様の彼女と言う事ですわ。」

 

セシリアの言う通り、僕達は一夏を愛してる。

だからここに居て、手を出して欲しいとも思ってる。

 

「お前らなぁ・・・、年頃の女が男の前でそんな言葉を使うんじゃねえよ、

俺だってよぉ、性欲って物は有るんだぜ?」

 

一夏がその端整な顔に薄い笑みを浮かべ、

僕達が腰掛けてるベッドに近寄り、自分も腰を降ろす。

 

「良いよ、僕は一夏に抱いて欲しいよ?」

「私も、貴方様に抱いて頂きたいですわ、それが私達の望みですわ。」

 

僕とセシリアは一夏の左右に座り、

彼の肩にもたれ掛かり、自分達から誘う様な仕草をしてみる。

 

「・・・、本当に俺で良いんだな?

俺はお前達を愛してる、だから・・・。」

 

一夏はセシリアを抱き寄せ、彼女の唇に自分の唇を重ねる。

 

むぅ~・・・、羨ましいなぁ・・・。

 

暫くセシリアと口付けを交わした後、

唇を離し、今度は僕の方に唇を重ねる。

 

乱暴な、それでも彼の優しさが伝わって来るような口付けだった。

 

「セシリア、シャル、お前達の気持ち、しかと受け止めた。

俺も初めてだから、加減は出来ないぞ?」

「大丈夫ですわ。」

「だから、僕と。」

「私を。」

「「抱いてください。」」

 

この日、僕とセシリアは、彼の手で女にされました・・・。

 

sideout




次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
海だ水着だ!秋良編

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海だ水着だ!秋良編

side秋良

兄さん達が水着を買いに出た翌日の日曜日、

俺は鈴、簪、そしてラウラを連れてモノレールに乗り込んだ。

 

ラウラは昨日兄さん達と買い物に行けなかったのが少し寂しいのか、

少しいじけていた。

 

「ラウラ、落ち込んでたら駄目よ?」

簪がラウラの頭を撫でながらそう言う。

 

「むぅ・・・、だがな、兄貴と行けなかったのは少し悔しいぞ。」

「そこまで?」

「うむ、では聞くが、お前達ならどうだ?

秋良と行けないから兄貴と行くことになったらどうなのだ?」

 

その問いに簪は複雑な顔をし、

鈴は?を頭の上に浮かべていた。

 

「なんで?一夏と遊んでも面白いよ?御菓子買ってくれるし。」

「鈴、そういう事を言ってるんじゃないからね?」

鈴・・・、完全に兄さんに餌付けされてるなぁ・・・、

まあ、それを言うならラウラもそうなんだけど・・・。

 

「そう言えば、秋良って泳げるの?」

「ッ!!」

 

アァァァ!!

忘れてた!俺泳げないんだった!!

 

ヤバイぞ・・・、兄さんに触発されて来たのは良いけど、

前世での死因が原因で俺泳げないんだった!!

 

「お、俺は泳ぐよりビーチバレーとかの方が好きなんだよ!

兄さんは物凄く泳ぐの上手いけどね。」

「そうなの?」

 

兄さんの件は本当だけど、俺の件は殆ど嘘だよん。

 

取り敢えずそろそろ着くし、三人を促して席を立った。

 

sideout

 

sideラウラ

モノレールを降り、レゾナンスと言う名のショッピングモール内を四人で暫く歩いていくと、

目当てとしているらしい水着を取り扱っている店までたどり着いた。

 

因みに秋良はトイレに行くとか言って、

何処かに行ってしまった。

 

今まで軍の中でしか生きていなかった私にとって、

これ程までの量の水着が列べられているのは初めて見る物だった。

 

「皆はどんな水着が良いの?」

簪が自分も陳列されている水着の中から自分に合いそうな物を探しながら、

私と鈴に向けて言葉を投げ掛けてきた。

 

「むぅ、そう言えばまったく決めて無かったぞ。」

大真面目にそう返すと、

鈴も簪も何故か呆れたような顔をしていた。

 

「ラウラ、それじゃダメ、ラウラも女の子なんだから、

しっかりと身嗜みを考えないと、一夏や秋良に構ってもらえないよ?」

 

むっ、それは嫌だな、

兄貴にも秋良にも構ってもらいたいな。

 

「しかし・・・、正直言って私はこういう物に疎いんだ・・・、

どういった物を選べば良いのかもまったく分からないんだ・・・。」

 

そう考えれば、私はどれだけ無知であったのかがよく理解できた。

それと同時に自分の生まれを少し呪った・・・。

 

「じゃあこう言うのは?ラウラならこれぐらい着ても良いと思うよ?」

そう言いながら簪が渡してくれたのは、黒いレースで飾られた水着だった・・・。

 

いや、それはいいんだが・・・。

「布の面積が少し小さいのではないか?」

 

水着の良し悪しに疎い私でも、

パッと見で感じるのだから・・・。

 

「これぐらいでも大丈夫、

だって私達、身体の起伏殆ど無いしね・・・。」

 

簪がそう呟いた瞬間、

私は何かが割れる様な音を聞いた。

 

多分、割れたのは私達のハートだろうな・・・。

 

「言うな・・・、言わないでくれ・・・、

今まで気にした事はなかったが、最近気にする様になったんだ・・・。」

「うぅ・・・、なんで私達には胸が無いの・・・。」

 

空気が一気に通夜の様になってしまった・・・。

鈴もかなりヘコんでる・・・。

 

「と、取り敢えずそろそろ決めるとしよう。」

「そうね、私はどれにしようかな・・・?」

 

死んだ空気をなんとか持ち直させ、

私達は互いに議論しながら水着を選んでいった。

 

sideout

 

side秋良

「やれやれ、あの人は何処かなっと・・・?」

 

俺は一人、レゾナンスの喫茶店まで歩いてきた。

 

と言うのも、ついさっきアクタイオンの関係者に呼び出されただけなんだけどね。

 

なんで今日に限ってとは思うけど、

一応俺も社員だから呼び出されたら従う以外無いからね。

 

「おっ、いたいた。」

目当ての人を見つけ、俺は彼に近付く。

 

「見付けましたよ、ロウ・ギュール。」

「んぁ?おお、呼び出してワリィな秋良!」

 

長めの茶髪を立たせ、額に緑色のハチマキを巻いた男性が席から立ち上がり、

俺を呼び寄せる。

 

彼の名前はロウ・ギュール。

本来ならSEEDアストレイシリーズの主人公だが、

恐らく女神がこの世界を創るにあたって、呼び寄せたのだろう。

 

しかし、彼ほどのメカニックがこの世界での味方ならかなり心強い。

 

「元気そうで何よりです、兄さんは思いっきり羽伸ばしてますよ。」

「ははは、アイツらしいな。」

 

雑談を交わしつつ、俺はウェイトレスに珈琲を注文。

長い話になりそうな予感がしたからね。

 

「それで、今日呼び出しのって、やっぱり仕事の事ですか?」

「おう、まあ早い話、これを見てくれりゃぁ分かる。」

 

そう言いつつ、彼は書類の束を俺に渡した。

 

何事と思い、それを読んでみる。

 

そこには目を疑いたくなるような内容が書かれていた。

 

一つは新型ストライカーの設計図、

だが、もう一つは違った。

 

「ガーベラストレート、タイガーピアスのどちらでもない刀、

なんですかこれは・・・?」

「ガーベラストレート、タイガーピアスは元々俺が打ったIS用の日本刀だ、

違う銘の刀を打つことなんて楽なモンだ。」

 

ロウはオレンジジュースを口に含みながら語り始める。

 

「だが、ガーベラストレートとタイガーピアスはお前らに折られちまったからな。」

「・・・、面目の次第もございません・・・。」

 

実は、俺達はIS学園に入学する前、

アクタイオン社で本格的な訓練と、アストレイ世界の武装を試していた。

 

その際、ストライクとルージュを、

ガーベラストレート系の刀を扱う為にチューンし、

お互いに満身創痍になるまで打ち合った事がある。

 

それだけなら良かったんだが、

加減を知らない俺達は、ガーベラストレートとタイガーピアスの両方を折ってしまったんだ。

 

「まあそれは良いんだ、取り敢えずお前らに決めて欲しいのはコイツの銘だ、

なんだっていい、二つ考えてくれ。」

「良いんですか?普通は打った貴方が考えるべきでしょう?」

「まあお前達が使うんだ、それぐらいはさせてやりたいんだ。」

 

そう言われてもなぁ・・・、

兄さんの意見も聞きたいし、パッと思い付く物でもないしね。

 

「取り敢えず決まりましたら連絡するんで、

今日はこれで失礼します。」

「おっ?女の子と待ち合わせでもしてるのか?」

「ええ、かなり待たせてますよ。」

 

ヤバイな・・・、かれこれ三十分も経ってる、

こりゃ皆怒ってるだろうな・・・。

 

「そいつは悪い事をしたな、ここは俺が払っとくよ。」

「すいません、樹里さん達にもよろしく言っておいてくださいね?」

「おう、じゃあな。」

 

手を振り、見送ってくれるロウに頭を下げながら俺は水着売場までの道程を走る。

 

さて、どう言い訳するかな・・・。

 

sideout

 

side簪

三人ともようやく水着を選び終え、

私達は店の外に出た。

 

因みに選んだのは、ラウラは私が選んだ黒のレース。

鈴は橙色のタンキニ、私は水色のワンピースタイプ。

 

会計を終えた私達は、

今だ帰って来ない秋良を探しに行く事にした。

 

「何処にいるのかな・・・?」

「分からん、だが、この中にはいるだろう。」

「この中ってかなり広いのよ?」

 

何度も来てるから分かる、

ここは色んなお店があるから一つ一つ回ってたら日が暮れる。

 

「だが、探さない訳にもいかんしな・・・。」

「まあそうだけど・・・、なんで勝手に何処かに行くのかな・・・。」

 

まあ一夏ほどじゃないとは思うけど・・・。

 

さて、困ったなぁ・・・、

下手に動いたら確実に迷子になる。

 

そんな時だった・・・。

 

「オーイ!」

秋良が向こう側から手を振り、走ってくる。

 

手には何かの書類が握られていた。

「ごめんごめん、ちょっと仕事で呼び出されちゃってさ。」

「もう・・・、それならちゃんと言ってよ。」

 

それなら仕方ないと言ったら仕方ないかな?

 

「ごめんね、何か埋め合わせはしっかりするからさ。」

「分かった、でもその前に、秋良の水着を買いに行こっ?」

「そうだね、行こうか?」

 

私達は男性用水着を取り扱っている売場まで行き、

秋良の水着を選んだ後、秋良行き付けのカレー店で昼食を取った後、

IS学園に戻った。

 

sideout

 

side秋良

買い出しから戻った俺は、

ロウから渡された資料を兄さんに報告すべく、

兄さんの部屋を訪れていた。

 

「兄さん、俺だよ?居るかい?」

扉をノックし、呼び掛けても中からの反応は無い。

 

「兄さん、居ないのかい?」

さっきより大きめの声で呼び掛けるけど、

あい変わらず反応は無い。

 

いないのか?

おかしいな・・・、今日はアリーナも開いてないし、

何かトレーニング施設を使うとも言ってなかったし・・・。

 

・・・、もしかして寝てるのか?

 

そうなら叩き起こしてやるかな?

 

そう思い、ドアノブに手を掛け、回してみると、

どういう訳か、向こう側から扉が開いた。

 

「五月蝿いぞ秋良・・・、折角気持ち良く眠ってたのによ・・・。」

 

扉が開き、上半身裸の兄さんが気怠そうにしながらも出て来た。

 

「ちょっ・・・、兄さん、不用心だよ?

もしそんなところを腐の方々に見られたらどうすんだよ?」

「良いじゃねえか別に、俺達に実害が有るわけでも無いしな。」

 

・・・、なんだ・・・?

なんか兄さんの様子が変だな・・・?

 

「兄さん、昨日の夜何してたの?」

「知りたいか?」

「まあ一応。」

 

だって気になるし。

 

兄さんは俺の言葉に暫く考えた後、

溜め息をつきながら扉を一際大きく開ける。

 

「後悔すんじゃねぇぞ?」

「?」

 

何を後悔するんだ・・・?

 

そう思いつつも兄さんの後に続き、

部屋の中に入る。

 

「なっ・・・!?」

兄さんのベッドの上で穏やかに寝息をたてているセシリアとシャルロットが眠っていた。

 

しかも胸元が見えてるって事は、全裸という事になる・・・。

 

「兄さんこれはどういう事だよ!?」

「黙れ、寝てるレディを起こすな。」

 

思わず怒鳴り声とも取れる声をあげた俺を、

兄さんはめんどくさそうに制した。

 

他人に迷惑をかけるのはあまり好きでは無いし、

取り敢えず落ち着く。

 

落ち着いてこの状況を吟味すると、

ある一つの絶対的な結論が浮かび上がる。

 

「まさか兄さん・・・、ヤッたのか・・・?」

 

どう考えてもそうとしか考えられない。

二人は兄さんに惹かれている、それに兄さんは二人を受け止める度量がある。

 

「まあな。」

 

うわぁ・・・、ドヤ顔ウゼェ・・・。

この人は俺の上を行き続けるのか・・・。

 

「朝までヤッてたから、寝たのはテメェらが出たのと同じよう位だな。」

「そんな事聞いてないよ、まあ良いさ、取り敢えずこれを見てくれ。」

 

頭を掻きつつ、俺はロウに渡された資料を兄さんに手渡す。

 

資料を読み込んだ兄さんの眼が細められる。

 

そりゃそうだろう、なんせ新型ストライカーの設計図と、

ガーベラストレート系の武装のデータだからね。

 

「ディバインストライカー・・・、こんなの何に使うんだ?

それならまだバズーカストライカーの方が役にたつ。」

「そうだけどさ、無いよりはマシじゃないかな?

でも、俺個人としてはエールストライカーが欲しいね。」

 

なんせI.W.S.P.は扱い辛いし、ライトニングストライカーは使いどころが無いし、

今ではソードストライカーしか使って無いしね。

 

「ま、そう言うのは技術屋に任せるとしよう、

でだ、これをどうしろと?」

 

兄さんはストライカーの設計図をしまい、

ガーベラストレート系のデータを指差す。

 

「ロウがさ、俺達に銘を考えて欲しいんだとさ。」

「成る程な、なら、俺は景光にちなんで、シェイドリュミエールと銘打つとするか。」

 

シェイドは英語で蔭(景)、リュミエールは仏語で光か・・・。

兄さんめ、自分の女の母国語に掛けたね。

 

流石と言うしか無いんだけどね。

 

「で?もう一本はどうすんだ?

俺のは決めちまったし、テメェが決めな。」

 

と言われましても、そんなポンポン浮かんで来るもんじゃありませんぜ?

 

「んー、御神刀の石切丸にちなんで、ロックスライサーにするかな?」

「良いんじゃねぇか?それで?」

 

俺と兄さんはそれぞれ、茎(なかご)に景光と石切丸の銘を書き加える。

 

これで後はロウに渡すだけだね。

 

「んじゃ、用も済んだことだし、邪魔者は去るとするよ。」

「まあ待て、取り敢えずテメェにもこれをやる、

簪達と励むこった。」

 

帰ろうとする俺を引き留め、兄さんが渡した物は、

煙草の箱の様な物だった。

 

うん、見ただけで分かる、

これってもしかしなくてもゴムだな。

 

「こんのバカ兄貴・・・!」

「とっとと出てけアホ弟。」

 

殴り掛かろうとしたけど、

兄さんの方が先に動き、気がつけば俺は部屋の外に放り出されていた。

 

「クソッ!嫌がらせかよコンチクショー!」

 

そう思いつつも、一応ありがたくもらっとくよ。

俺だって男だし?事前策さ。

 

sideout

 




はいどーもです!

次回は番外編として腐女子組合会合第二回を書きたいと思います。
だって箒の出番無いし・・・。

ではまた次回に!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 腐女子組合会合その2

noside

腐女子組合。

 

IS学園生の約五分の一が所属していると言われている、

一大組織である。

 

彼女達はその有り様から、

一夏と秋良、そして彼らの周りに居る者達の一部に極端に迷惑がられている。

 

さて、今日はそんな彼女達の会合を見て頂こう。

 

sideout

 

noside

時はシャルルがシャルロットとして再入学して来た日の放課後まで遡る。

 

IS学園大会議場は、何やら嫌な雰囲気にに包まれていた。

悲嘆、困惑、様々な感情が入り乱れていた。

 

そんな中、壇上に腐女子組合参謀、篠ノ之箒が立つ。

因みに会長は新聞部と掛け持ちしている、二年の黛薫子である。

 

「皆様、これより我ら薔薇の園、第十回会合を行います・・・。」

『・・・。』

箒がマイクで呼び掛けるが、

空気は通夜の様な雰囲気であった。

 

「えー、皆様、悲しいお知らせなんですが、

三番目の男性IS操縦者、シャルル・デュノアは女の子でした・・・!」

『イヤァァァァァッ!!!!』

 

箒の言葉に、会議室内にいた全ての腐女子が悲鳴をあげた。

 

「うぅっ・・・!夏コミ用に仕込んだ薄い本が台無しに・・・!」

「終わった・・・、何もかも・・・!」

 

一夏が見れば、何が終わったんだよこのヤロウ、

と悪態をついたであろう。

 

無駄にテンションが高い為、一般人は間違いなく気圧されてしまうだろう、

と言うかこんなところに一般人はいねぇよ!!

 

「はいっ!」

「会員番号51番!」

 

そんな空気の中、挙手した会員を箒が指名する。

 

「終わった事は諦めて、次はこれです!!」

そう言いつつ、彼女はスライドを操り、

ある一枚の写真を画面に映し出す。

 

そこには一夏達と同年代であると目される、

赤髪の青年が映し出されていた。

 

「彼の名は五反田弾!一夏君と秋良君の親友です!」

「何ぃっ!?」

 

会員番号51番が放った言葉に、会議室内にいた全ての腐女子が立ち上がる。

 

その迫力は、先程の悲哀の絶叫を凌駕する物であった。

 

「これは・・・!兄貴系の男か!?」

「いや、お兄様タイプよ!」

「織斑兄弟の親友・・・!グフフ!いいわ~!!」

 

ネタを与えられた腐女子達は一気にヒートアップする。

各々が妄想を始め、ストーリーを作ろうとする。

 

と言うより、花盛りの女子がグフフとか言って大丈夫なのだろうか?

 

「はいっ!」

「会員番号30番!」

「こんなのはどうでしょう!?」

 

sideout

 

side妄想

『弾、久し振り~。』

『よぉ秋良!久し振りだな!』

『寂しかったよ弾・・・。』

『俺もだ秋良・・・!』

『弾・・・。』

『秋良・・・。』

二人の顔が近付き、そして・・・。

 

sideout

 

noside

『ムッヒョーー!!』

会議室内にいた七割の人間が鼻血を噴きながら歓喜し、

もう二割の人間は歓喜のあまり失神し、

残りはまだ足りん、と言うような表情をしていた。

 

「良い!良いぞ!!他には何か無いか!?」

箒はこれまでに無いほど鼻血を噴きながら、

会員達に意見を求める。

 

「はいっ!」

「会員番号95番!!」

「五反田君には妹がいるそうです!ですから―」

 

sideout

 

side妄想

『お兄!何やってるの!?』

『ら、蘭!?』

『私だって!お兄の事好きなの!!』

『ゴメンね蘭?俺は弾を譲る気なんて無いからね?』

『私もです!この際、お兄に決めてもらいましょう!』

『それが良いね。』

二人は手をワキワキと動かしながら弾に近寄って行く。

 

『お前らなぁ、俺が一人だけで満足すると思うか?

お前ら二人は俺の物だ。』

『お兄・・・。』

『弾・・・。』

 

sideout

 

noside

『キタァーーッ!!!!』

まさかの女を絡めたネタに、

全員が発狂したように叫ぶ。

 

「秋良君と弾くんを取り合う妹ちゃん!萌え~!!」

「アリだわ!次のコミケのネタはこれね!!」

 

見た目麗しい十代女子が鼻血を噴きながら歓喜し、

腐について語り合う姿はかなり残念な絵である。

 

いや、そもそも彼女達は自分が女である前に、

男と男の絡みを求める事で頭が一杯なのかも知れない。

 

「よしっ!最後は私が締めよう!!」

箒はそう言いつつスライドを操り、

自身が描いた、秋良×弾×一夏の絡みを映し出す。

 

「女を混ぜるのは大いに結構!

だが!忘れてはならない!男と男の絡みこそ至高なのだと!!

立てよ会員!シャルル・デュノアの悲しみを乗り越え、立てよ会員よ!」

『ジーク・モッピー!!』

 

どこぞの総帥が行った様な掛け声と共に、

室内にいた全ての腐女子が立ち上がり、拳を突き上げる。

 

かくして、IS学園は今日も平和であった・・・。

 

 

 

「「ウワァァァ!!」」

『!?』

IS学園某所では、ネタにされていた一夏と秋良が同時に悲鳴をあげた。

彼らの周りに居るレディースは全員驚いた様に身体を震わせた。

 

「ま、またかよ・・・!!」

「何度目になるだろうかねぇ!?」

一夏は悪態をつきながらも汗を拭い、

秋良は悪寒を止める為に身体を抱きすくめていた。

 

「い、一夏様?だ、大丈夫ですか・・・?」

「凄い汗・・・!それに顔色も悪いよ・・・?」

「大丈夫だ、セシリア、シャル、心配かける・・・。」

 

セシリアからハンカチを、シャルロットから水の入ったペットボトルを受け取り、

一夏は荒い呼吸をなんとか治める。

 

「あ、秋良?大丈夫?」

「少し休もう?」

「ゴメンね鈴、簪?大丈夫だよ・・・。」

 

鈴は秋良の背中を擦り、簪は彼の冷や汗を拭いていた。

 

セシリア、シャルロット、鈴、そして簪。

自分達に献身的に尽くしてくれている彼女達の姿を見た一夏と秋良は・・・。

 

(あぁ、セシリアとシャルが天使に見える・・・。)

(鈴、簪・・・、なんて優しいんだ・・・。)

 

自分達の幸福を改めて噛み締めたとか・・・。

 

 

さて、上記を一部訂正しよう。

IS学園は今日も平和であった・・・。

ではなく・・・。

 

IS学園は一部を除き今日も平和であった・・・。

 

 

 

 

 

一方、別の場所では・・・。

 

 

「うぉっ!?何だぁ!?」

やはりネタにされていた赤髪の青年、五反田 弾が身体を大きく震わせていた。

 

「何だったんだよ今のは・・・?」

自分がBでLな会合のネタにされていた事を、

彼は知る術は無い。

 

「お兄♪クッキー焼いたから食べて・・・って!?

どうしたのお兄!?顔色が悪いよ!?」

「ら、蘭か、大丈夫だ、大丈夫だぜ・・・。」

 

 

 

 

これからも、知らず知らずの内にダメージを与えられていく彼等に、

救いの手はあるのだろうか・・・?

 

それは誰にも分からない・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!

書いてる途中で何を書きたいのか、自分でも分からず頭を抱えました、

調子を取り戻したいです割と真面目に。

さて、それでは次回予告
遂にやって来た臨海学校当日、
一夏と秋良は浜辺で何を成す?

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
海だ水着だ!後編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海だ水着だ!後編

side秋良

「海!見えたぁ!!」

そう叫んだのは誰なのだろうか・・・?

 

そう思いながらも窓の外に目を向けて見ると、

そこは既に煌めく海と砂浜が映っていた。

 

「へぇ、中々凄い所だね、あ゛、ブダった・・・。」

「そうだな、ドイツにいた頃は中々見ることが出来なかったが、

来てみれば良いものだな、むぅ・・・、2のスリーカードか・・・。」

 

俺達は現在、一番後ろの座席に座り、ポーカーをしながらそれぞれ話す。

 

「ラウラさんは軍属でしたものね、仕方ありませんわ、

10のスリーカードですわ。」

「でも、これから楽しめば良いよ、僕も海なんて久しぶりだし、

7と8のフルハウスだね。」

「ま、俺達はそれぞれ特殊な立ち位置にいるから仕方ねぇッちゃあ仕方ねぇわな、

良し、ロイヤルストレートフラッシュだ!」

「ぐぁ~!!また俺ビリかよ!!」

 

これで何回目になるだろうか、

運が無いのか、それとも実力がないのか、

ポーカーを始めて既に13戦目になるんだけど、

俺は今だ五位と四位にしかなれていない。

 

つーか何だよ!?兄さんのあの勝負運!?

ほぼ全てで1位とってるし!?

 

しかもロイヤルストレートフラッシュって、フォーカードより出すの難しいだろ!?

 

「さてと、まだやるのか秋良?お前いまのところ勝ち星無だぞ?」

「ぐっ・・・!」

 

因みに最多勝は兄さんで、次点でセシリア、シャルロット、ラウラが一勝ずつで続いてる。

 

鈴と簪はクラスが違うからここにはいない。

だからセシリアとシャルロットを両隣に侍らせてる兄さんが凄まじくウザい。

 

・・・、やめよう、そろそろ愚痴を通り越して僻みになってくるしね。

 

そう思い、トランプを回収して、シャッフルしようとした時だった・・・。

 

「静かに!もう少しで旅館に着く!」

姉さんが座席から立ち上がり、バスの中に響く様な声で注意する。

 

もう着くのか、早い物だね。

ついさっき学園を出た気がしてならないよ。

 

そんな事を思ってる間にバスは立派な旅館のすぐ近くにある駐車場に停まった。

 

へぇ、中々良いところじゃないか、

三味線持ってきた甲斐があったよ。

 

「こちらが今回お世話になる旅館の女将さんだ!

従業員の方の仕事を増やさぬよう、注意しながら行動しろ!いいな!」

『よろしくお願いします!』

 

姉さんの言葉の後、一組全員で挨拶をする。

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね。」

 

いやぁ、年齢は三十程だろうけど、仕事柄の笑顔のせいか、

より若く見えてくる。

 

女将さんがバスを降りた後、俺達は荷物を手に持ちバスを降りた。

 

「ね、ね、アッキー、アッキー達の部屋って何処なの~?」

旅館に行こうとした俺に、のほほんさんが部屋割りを尋ねてくる。

 

そう言えば知らないなぁ、何処になるんだろうか?

 

「ゴメンよ、俺もよく分からないんだ。」

「俺達の部屋は教諭室の真隣だ、下手に来ると不味いぞ?」

 

俺がのほほんさんに説明していると、

何処からともなく兄さんが現れた。

 

やっぱりそうなるよね。

羽目を外した女子って怖いもん。

 

「そうだね~、でもでも~、消灯時間前に遊びに行っても良いよね~?」

「良いよ、男二人っきりも嫌だしね。」

「どうせなら簪や鈴も連れてきてやれ、こいつが喜ぶからな。」

 

兄さんめ、なんてこと言ってくれやがんだ・・・、

まあ否定できない俺も悲しい・・・。

 

「さてと、俺達は荷物を置いてくる。」

「それじゃあまた後でね。」

 

のほほんさんに告げ、

俺と兄さんは旅館の部屋へと歩いて行く。

 

うん、流石にいい旅館だね、

最新設備と木造建築が見事に合わさってる。

 

そんな事を考えている内に、俺達は部屋へとたどり着いていた。

 

兄さんが部屋の鍵を開け、中に入って行く。

俺もそれに続いて部屋の中に入る。

 

そこは海を一望できる広々とした部屋だった。

シャワーやトイレも完備していて、悪くない。

むしろかなり贅沢だね。

 

う~ん、こんな眺めの良い部屋に来たんだ、

折角だし、ここいらで一曲するのも一興だね。

 

「さてと、荷物も置いた事だし、さっさと海に行くぞ。」

「あ、いや、俺は良いよ、やっぱり海はまだ怖いしね。」

 

実際、俺は前世で子供を助ける為に溺れ死んだ。

別にその事はもうどうでもよくなってる、

でも実際、まだ海への恐怖心は捨てられてない。

 

なんか、小さい事で悩んでる事には変わりはないよね。

 

「そうかい、ま、自分の女を喜ばせる事ぐらいやってみろよ?

泳がなくても、できる事はあるだろう?」

 

兄さんはそう言いつつ着替えを始める、

男の着替えを見る趣味は無いが、我が兄ながら鍛え抜かれた身体だと思う。

 

俺は格闘戦のみに特化した身体つきになってるけど、

兄さんは全ての領域において最適な戦いができる様な身体つきだ。

 

「まあ良いさ、俺は先に行くぞ。

俺はお前と違って自分を殺せるからな。」

 

どう意味だろうか、兄さんは意味深な言葉を呟きつつ、

先に部屋を出ていった。

 

ま、恋人サービス位はちゃんとしてあげないとね、

男が廃るってもんだ。

 

そんな事を考えながら、俺も着替えを始めた。

 

sideout

 

side一夏

やれやれ、我が弟ながら、めんどくせぇ限りだ、

恐怖に打ち勝ってこそ、輝く物が掴めるんだ。

 

なのに、恐れてばかりで、逃げる事しか出来ねぇようでは、

この俺を越える事なんて、もう一度転生シテも無理だな。

 

まあ良いさ、俺は俺、アイツはアイツだ。

何を考え、何をするかはアイツ次第だ。

 

そんな事を考えている内に、俺は中庭に面した場所にやって来ていた。

それは良い、だが、どう考えてもその場に似合わない物が刺さっていた。

 

ウサ耳が、地面に生えてる・・・。

何を言ってるのか分からねぇとは思うが、

俺も何が何だか分からねぇ。

 

いや、冷静になって考えてみれば分かるか・・・、

こんな阿呆な事をするのはこの世でただ一人だ。

 

篠ノ之 束以外にいないわな。

 

さてと、どうするか・・・、

駄姉に報告しても良いんだが、時間を取られるのも嫌だし、

見て見ぬ振りをしておこう。

 

俺は取り敢えずその場を去り、海へと出た。

ん~、15年ぶりだな・・・。

 

「うわ・・・、一夏君の身体すっごい・・・。」

「逞しい、でも、しなやか・・・。」

「どうやったらあそこまで鍛えられるんだろ?」

 

そうかそうか、逞しいか。

十年かけて徐々に鍛えた甲斐があったというものだ。

この身体は、その気になれば空中で跳躍したり出来るからな、

結構便利で気に入ってるんだ。

 

そんな事を思いつつ、ビーチマットを敷き、準備体操を行う。

こんなところで溺れ死んだらかっこつかねぇしな。

 

「あっ、一夏~!」

「一夏様~!」

 

呼ばれた声に振り向くと、

そこには青いビキニに腰元にパレオを巻いたセシリアと、

オレンジのセパレートの水着を着たシャルが立っていた。

 

「おぉ、似合ってるぜ二人とも、流石だ。」

「ふふっ、ありがとう♪」

「ありがとうございますわ♪」

 

嬉しそうに微笑む二人は、海辺で水着という組み合わせという事もあり、

何時もより美しく見えた。

 

「お前達、日焼け止めは塗ったか?」

「うん、セシリアに塗ってもらったよ。」

「私もシャルさんに塗って頂きましたわ。」

「そうか、なら良いさ。」

 

俺は取り敢えずパラソルの下に寝転がり、

海へと視線を向ける。

 

ふっ、隣には最高の金髪美少女が二人もいるなんてな、

良いねぇ、バカンスとしては悪くない、それどころか最高だな。

 

「風が気持ちいね、それにすごく晴れてるし。」

「そうだな、絶好の海水浴日和だな。」

 

あー、泳ぎたくなってきた。

でもコイツら日焼け止め塗ってるし、海に入るのは躊躇われるだろうがな。

 

「よっと、取り敢えず泳いでくる。」

起き上がり、砂を叩いてから海に向かう。

 

「い、一夏~!」

「うん?」

 

呼ばれた声にまた振り向くと、

そこにはワンピースタイプの水着を着た簪と、

彼女の後ろに隠れている鈴と、

バスタオルオバケがいた・・・。

 

「おう、秋良を探してるんだろ?

アイツならそろそろ来るぞ?と言うより、出てこいラウラ。」

「うわぁっ!?」

 

タオルの結び目を思いっきり引っ張る。

その余波なのか、ラウラはすっとんきょうな声をあげ、

独楽の様にくるくると回った。

 

バスタオルが全て取れた時、

原作と同じ水着を着ているラウラが現れた。

 

やはり似合うな、良い感じだ。

 

「うぅ~、兄貴~・・・。」

「ぐっ!?」

な、涙目になってるラウラ、

凄いキュンキュン来るんだが・・・!?

 

・・・、いや、秋良じゃああるまいし、

そんな事は無いな・・・。

 

「おう、似合ってるぞラウラ、

だが、何故バスタオルに隠れていたんだ?」

「いや・・・、その・・・、恥ずかしいですし・・・。」

 

くっ・・・、やべぇな、

こう言う小動物系がタイプじゃない俺でもクラッと来るんだ。

ラウラ・・・、恐ろしい子・・・!

 

「さてと、俺は泳ぎたいからな、後は秋良に相手してもらいな、」

「あ、兄貴~!」

 

ラウラの声を聞きながら、俺は海へと飛び込んだ。

 

sideout

 

side簪

海に飛び込んだ一夏を見送り、

私達はセシリアとシャルロットがいるパラソルの下にやって来た。

 

二人とも寝転んでいて、その豊かな胸が強調されていた。

・・・、何で同い年なのにこんなにも違うんだろう・・・?

 

ちょっと・・・、いや、かなり悔しい。

私の周りにいた女の人って、全員巨乳なのよね。

だから、何時も謎の敗北感を味あわされてる。

 

隣を見ると、鈴も、そしてラウラも、

二人の胸元を見て悔しそうな表情をしていた。

 

分かるよ、分かるよその気持ち・・・!!

 

「お、ここにいたんだ。」

柔らかい声が聞こえ、振り向いて見ると、

そこには黒い水着を履き、白いシャツを羽織った秋良がいた。

 

はだけたシャツの間から見える、

見事に鍛えられた肉体美に、私達の目は釘付けになってしまった。

 

「おっ、三人共水着似合ってるね、可愛いよ。」

「あ、ありがとう・・・。」

「ふふっ、ありがとう♪」

「うむ、当然だ。」

 

秋良の誉めに、私達三人は照れつつお礼を言う。

だって好きな人の前では素直でいたいしね。

 

「兄さんはどうしたんだい?」

「一夏様なら海に行かれましたわ、

暫くは帰って来ないかと思います。」

「そっかなら良いんだ。」

 

秋良はそう言うと、自分は砂浜に腰を下ろす。

 

私達も彼の隣に座り、海を眺める。

私も泳ぐより、海辺でゆっくりとしてる方が好きだからこれで良い。

 

「秋良くーん!ビーチバレーやろうよ~!」

「あれ~!?一夏君は何処よ~!?」

相川さんや谷本さんがこっちに来てビーチバレーに誘ってきた、

と言うより、一夏や秋良と遊びたいんだろうなぁ・・・。

 

「兄さんなら今海に潜ってると思うよ、

あの人、息継ぎ無しで五分以上潜れるからねり」

『えェ!?』

えェ!?普通無理だよね!?一夏って何者なの!?

 

「流石ですわ一夏様・・・。」

「カッコいいね・・・。」

いや、セシリア?シャルロット?

そこは惚れ惚れする所じゃないと思うよ?

 

?ちょっと待って、一夏がそれぐらい出来るって事は・・・。

「ま、まさか秋良も・・・?」

「いやぁ、俺は息を止める事は出来ても、潜るのが苦手でね。」

 

それってつまり、潜る事さえ出来たら自分も出来るって事?

 

『・・・。』

私は、セシリア、シャルロット、ラウラ、そして鈴の順番で顔を見合せ、

深々と溜め息をついた。

 

なんで私達は人外に惚れてしまったんだろう・・・?

いや、嫌って訳じゃないよ?

 

寧ろ、秋良が私の手の届かない高みまで行ってしまいそうで、

寂しいと言うのかな?

 

それは置いといて・・・。

ビーチバレーかぁ・・・、私もやろうかなぁ・・・?

 

「まあ兄さんは放っておいて、俺達だけでやってようよ。」

「「!!」」

 

秋良はやるんだ!だったら私も参加しようかな!!

 

sideout

 

sideセシリア

簪さん達が秋良さんに着いて、

即席のビーチバレーコートに歩いて行かれました。

 

その様子は何やら兄に付き従う妹達に見え、

微笑ましくもありました。

 

簪さん達が秋良さんの事を慕っていらっしゃるのは承知しておりますが、

秋良さんはどう見ても友人か、それとも妹としてしか彼女達を見ていらっしゃらない気がしますわ。

 

少し気の毒と言えば気の毒ですわね・・・。

 

「そうでもないさ、秋良はチキン野郎でな、

女に手を出すのを躊躇ってるだけだ。」

 

はぁ・・・、そうなんですの・・・、って!?

「一夏様!?いつからそこに!?」

 

驚いて身体を起こしてみますと、目線の先に、

海水で全身を濡らしている一夏様がいらっしゃいました。

 

と言うより、水に濡れてる一夏様も色っぽいですわ・・・。

 

「ついさっきだな、五分位潜ってたから丁度良いと思ってな。」

本当に五分も潜れるんですね・・・、

心を読まれた事よりそちらに驚きますわ・・・。

 

「ま、アイツなら、ラウラも含めて受け止める器量は有るだろうし、

俺達がどうこう口出す様な事はねぇさ。」

「そう、ですか?」

「ああ。」

 

確かに、一夏様の言う通り、

他人の恋路に口を挟むのは御法度ですわね。

 

彼女達は秋良さんに惹かれている、

なら、秋良さんが解決しますわね。

 

「ところで、秋良達はどこ行ったんだ?」

「秋良達なら、相川さん達に誘われてビーチバレーをしに行ったよ?」

 

そう言えばそうでしたわね。

一夏様はどうされるんでしょうか?

 

「なら、俺も行くとするか、お前達はどうする?」

「僕は行くよ?」

「私も参りますわ。」

 

差し出された一夏様のお手を取り、

私とシャルさんは立ち上がりました。

 

sideout

 

side秋良

相川さん達の誘いで、誰が描いたのか分からないビーチバレーコートにやって来た。

 

「それね~、私が描いたの~。」

・・・、だからか、かなり遅くなったのは・・・。

 

「まあ良いや、四対四形式で良いかい?」

「良いよー!」

 

軽いなぁ、これが女子校特有のノリか・・・。

もう慣れたけどね・・・。

 

で、チーム分けの結果、

俺のチームには簪、鈴、ラウラが入る事になった・・・。

 

始めようとした、丁度その時・・・。

 

「ほう、大層ご立派なのが出来上がったな。」

「やあ兄さん、案外早かったね?」

「まあな、潜ってるだけっつうのもつまらないしな。」

 

そう言いつつ、兄さんは一人足りなかった相手チームに入る。

こりゃあ、少し本気を出さなきゃね。

 

「ほう、ビーチバレーか・・・、面白そうだな。」

あ、やっぱり来るよな、我が姉は・・・。

 

声のした方に向き直ると、山田先生を引き連れた姉さんがいた。

やはりと言うべきか、原作と同じ水着を着ていた。

 

「楽しそうですね。」

「あ、先生方もビーチバレーされますか?」

「折角のお誘いなんで、参加しますか?織斑先生?」

「うむ。」

 

あー、姉さんと山田先生が敵か・・・。

かなりめんどうだな・・・。

 

俺が頭をかきむしろうとした時・・・、

兄さんが此方にやって来た。

 

「秋良、あの駄姉は駄目人間とはいえ、

戦闘能力だけは一流を越えてる、俺達二人が力を併せきらなけりゃ負ける。」

「そうだね、悪いけど、鈴、ちょいと抜けてくれるかな?」

 

鈴を下がらせ、兄さんに入ってもらう。

「さて、姉弟対決と洒落こむか?」

 

兄さんの身体に闘気がまとわりつく。

 

ヤバくなりそうだ・・・。

 

sideout

 

side箒

「むっ?この気配は・・・!?」

他の奴等が騒いでる喧騒から少し離れた場所にいた私は、

何やら特別な気配を感じ、脚をその気配の方へと向けた。

 

間違いない、この気配は・・・!!

 

その気配に近付くに連れ、より鮮明に対象が見えてくる。

 

『キャアッ!千冬様~!!頑張ってくださーい!!』

『ヤマヤガンバレー!!』

『オリムーガンバレー!!』

 

なるほど、千冬さんと織斑兄弟がビーチバレーでもやってるのだろう。

浜辺にいる生徒の目が全てそちらに向いてる事から推察出来る。

 

「おーい、シャルロットー。」

「あ、箒!」

「今どうなってる?」

「今ねー・・・。」

 

――バシィィィン!!――

――ドシャァァッ!!――

 

「・・・、一夏達が十点連続で得点した所。」

「まさか?千冬さんが得点出来てないのか?」

 

まあ納得と言えば納得なんだがな。

一夏と秋良の超人的能力を省みれば納得だな。

 

「しかし・・・、この写真は売れそうだな!!」

私は薫子先輩から渡された一眼レフで写真を撮りまくる。

 

汗をかきながらも、二人揃って笑いあうその場面!!

最高だ!!我々には最高のご褒美だ!!

「グフフ!これは売れるぞぉぉ!!」

 

薔薇の園の同志達よ!!

私はこの写真を持って帰る!!待っていてくれ!!

 

 

結局、織斑先生と山田先生は一夏と秋良から一点しか取れずに負けた。

 

 

sideout

 




はいどうもでーす!!

さて、言うことも無いので次回予告
臨海学校二日目、
遂に天災が姿を現す。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
箒、怒る

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

箒、怒る

side一夏

駄姉にビーチバレーで快勝し、

良い気分のまま俺達は夕食を採るべく、

浴衣に着替え大広間にやって来た。

 

IS学園は国際校としての側面が強いため、

様々な文化、宗教が入り乱れている。

 

その為、座敷での正座に慣れていない生徒の為に、

テーブル席もしっかりと用意されている。

 

まあそれは置いといて・・・。

 

原作と同じと言うべきか?

刺身やら吸い物、他には天ぷら等、かなり豪華なメニューになっている。

 

「うん、旨いな。」

流石は一流旅館、調理法も味付けもかなり巧い。

 

「ふわぁ、美味しいねぇ♪」

「美味しいですわねぇ♪」

 

俺の両隣でシャルとセシリアが初めて食べる刺身に舌鼓を打っていた。

そりゃ、ヨーロッパじゃあ魚を生でとかあんまり無さそうだもんな。

 

個人的には大好きなんだがな?刺身・・・。

 

まあそんな事より・・・。

「セシリア、シャル、脚大丈夫か?」

 

欧州人の二人の事だ、正座にも慣れていないだろう。

自惚れている訳ではないが、俺の為に無理してもらう必要など無いからな。

 

「いえ、平気ですわ。」

「一夏がお仕置きとかで正座させるから慣れちゃったよ。」

 

そういやぁそうだったな。

シャルが性別明かした翌朝から、

この二人は俺のベッドに忍び込む様になったんだ。

 

最初の二週間は起きる度に正座させてたんだよな、

しかも一日ずつ時間を少しずつ延ばして・・・。

 

まあその成果(?)か、二人は普通に正座が出来るようになったんだ、

いやぁ、有り難い事この上無いな。

 

因みに秋良の隣にはラウラしかいない。

クラスの違いと言う壁は越えられないのか、

鈴と簪は別の場所で血の涙を流しながらこの旨い料理を食してる。

 

因みに秋良は俺を凄まじい形相で睨んでくる、

まあしょうがねぇって、お前の女が違うクラスなんだしな。

 

その点、俺は恵まれてるな、アイツを見てつくづく思うよ。

 

ま、今は食事を味わう事だけを考えるとするか。

そう思い、俺は箸を進めた。

 

sideout

 

noside

夕食後、

一夏と秋良は露天風呂を使用した後、

部屋に戻る途中においてあった卓球台で卓球をすることにした。

 

ピンポン玉の跳ねる音がその空間に響く。

 

「いや~、いい湯だったね。」

「そうだな、湯治にも悪く無さそうだ。」

 

一夏と秋良は軽めの言葉を交わしつつ、互いに玉を打ち返す。

延々と続くラリーの最中、一夏があの話題を切り出す。

 

「そう言えば見たか?」

「何を?」

「中庭に機械のウサ耳が刺さってるのを。」

 

一夏の発言に、秋良は跳ね返された玉を打ち損ねる。

 

「・・・、そう言えばそうだった・・・、明日福音事件と紅椿の件が有るんだった・・・。」

「俺もあれを見て思い出した、なんつーか、イヤな予感しかしないんだよな・・・。」

 

再び始まったラリーを続けながらも、

一夏と秋良はボヤく様に話す。

 

「そう言えばさ、箒って原作以上に束の事を嫌ってないかな?」

「あぁ、薄々感じてたが、恐らくそうだろうな。」

「やっぱり、俺達が知らない所で何か有ったんだろうね。」

 

そう言いつつも、ラリーは続く。

 

「アイツは、ISの存在を嫌っているのかもな・・・。」

「え?」

 

独り言の様に呟かれた一夏の言葉を僅かに聞き取り、

秋良は聞き返そうとするが、それに気を取られたが故に、またしても失点を赦してしまう。

 

「・・・、お前、本当に集中力無いな。」

「ちくしょー!!」

 

一夏の言葉に、秋良は床を叩いた。

 

 

sideout

 

sideシャルロット

一夏が露天風呂に行ってる頃、

僕達一夏と秋良の取り巻きは織斑先生に呼ばれ、

教諭室に来ていた。

 

一体何の用だろう?

この気持ちは織斑先生を除いたここにいる全員が思ってる事だと思う。

 

「お前達、アイツらの事をどう思ってる?」

ビールを呑みながら尋ねてきた内容に、

僕は危うく溜め息をつきたくなった。

 

忘れてた、この人ブラコンだった・・・。

一夏と秋良が織斑先生と関わりたくない理由の一つがそれなんだよね・・・。

 

「私はネタの対象としてですかね。」

「私は一夏様の下僕ですわ、一夏様にどう思って頂いても、それは変わりませんわ。」

「あ、アタシは、ふ、二人とも、す、好き・・・、です!」

「僕、いえ、私は一夏の心に惹かれました。」

「私は二人を尊敬できる師であると思っています!」

「私は光明を諭してくれた秋良が好きです。」

 

分かりにくいと思うから説明するね、

上から箒、セシリア、鈴、僕、ラウラ、簪の順番になってるよ♪

 

「確かに、アイツらは料理も出来れば掃除洗濯は完璧にこなす、

それに、マッサージ等も最高の一言に尽きる。

しかも腕っぷしはお前達も知っているだろう、ま、付き合える女は得だな、

どうだ?欲しいか?」

 

意地悪く聞いてくるけど、僕達は欲しいとは言わない、

何故なら、彼らが僕達を導いてくれるって知ってるから。

 

「要りません、私は現実の男に恋愛感情は抱かないので。

それに、一夏達を盗られたら困るのは千冬さんでしょう?」

「そうですわね、聞けば織斑先生はご自分で家事も料理もなされないそうですし、

一夏様と秋良さんがいなくなればご自分が苦労しますからね。」

 

箒とセシリアの言葉に、織斑先生は左胸を押さえる。

確実に言葉の矢が刺さったね。

 

因みに、セシリアは一夏の傍に着いてから料理の腕前がかなり上達しているから、

最近では一夏と僕とでよくお菓子を作ってる。

だから、織斑先生の事をボロクソに言っても、誰からも責められない。

 

「それに、一夏と秋良に頼りすぎて織斑先生は往かず後家ですし、

更に言えばブラコンは間違いなく弟から嫌われますからね。」

「あー、分かる、ウチの姉もシスコンなの、ウザったいったらありゃしないわ。

弟妹の為とか言うけど、結局は自己満足の方が強いもの。」

 

僕と簪の容赦無い言葉に、織斑先生は仰け反る。

なんだか少し楽しくなって来ちゃった。

 

あー、そう言えば簪のお姉さんも織斑先生と同類なんだっけ?

めんどくさそうだね・・・。

 

「教官の事は確かに尊敬していますが、兄貴と秋良が迷惑がっているのは事実です。」

「あ・・・、えと・・・、アタシ達の恋路、邪魔しないで、ください・・・!」

 

織斑先生に対して何も言わなさそうなラウラと鈴の言葉がトドメになったのか、

織斑先生は思いっきり後ろに倒れ、陸に打ち上げられた魚みたいに大きく痙攣していた。

 

「織斑先生、失礼します・・・、って、きゃあぁぁぁっ!?

しっかりしてください織斑先生~!!」

 

山田先生が涙目になりながら織斑先生をがくがく揺らしてる、

あー、お酒呑んでた人にそれをするのは駄目ですよ?

 

「私は・・・、ダメ人間なのか・・・?」

「そうです!・・・、じゃなくて、しっかりしてください!!」

『本音が出た!?』

 

僕達がツッコミをいれるのと同時に、

織斑先生は山田先生の腕の中で力尽きた。

 

「それでは。」

「私達はこれで失礼しますわ。」

「一夏達を探したいですし。」

 

箒、セシリア、僕の順番で山田先生に告げた後、

僕達は教諭室を去った。

 

 

因みに、この事を一夏と秋良に教えたら爆笑しながらサムズアップしてくれた、

・・・、ちょっと嬉しいな。

 

sideout

 

side秋良

翌日、旅館から少し離れた崖で、

俺達はISの機動試験を行う事になった。

 

各国の軍艦が、それぞれの代表候補生に追加パッケージを持ってきてる事から、

かなり大がかりな事になりそうなのは目に見えてる。

 

当然、アクタイオンインダストリー所属の俺と兄さんにも、

新型ストライカーの試験はある訳で・・・。

 

俺は現在、ルージュを微調整しつつ、ストライカーを装備しない状態にしておく。

 

少し離れた所では兄さんが俺が渡したライトニングストライカーのテストをしている。

あれの射程距離はエグいからね~。

 

「待たせたわね、秋良。」

俺に声をかけて来たのは緩いウェーブがかかった茶髪をした三十路位の女性、

エリカ・シモンズ技術主任だ。

 

元々はSEED世界でアストレイシリーズの開発者だった女性、

この世界ではアクタイオン社で俺達の機体の追加装備や、整備を主に請け負ってくれている。

 

「いえ、待ってませんよ、それで、頼んでおいたエールストライカーは出来ていますか?」

「ええ、一夏が使ってる物と全く同じ物を製作してきたわ、今からセッティングするわね。」

「お願いします。」

 

すぐさまインストールが開始され、

俺は流れ込んでくるデータに目を通す。

 

高出力な分、旋回等に気を配らなければならないか、

大体理解できたし、後は実践あるのみだね。

 

「インストール完了、私は一夏の方にいるから、

何か問題があれば教えてね?」

「あ、はい、ありがとうございます。」

 

エリカさんは俺の機体の調整を終わらせると、兄さんの方へ歩いて行った。

 

sideout

 

side一夏

秋良がエリカ・シモンズ主任にエールストライカーの調整を行って貰っている頃、

俺はストライクにライトニングストライカーを装備し、十キロ離れた沖合いにある岩を狙い撃っていた。

 

流石は超長距離狙撃用のストライカーと言うべきか、中々良い感じだ。

その気になれば二十キロ先も狙い撃てるからな、本当に便利だ。

 

「調子良さそうね、ライトニングストライカーの使い心地はどうかしら?」

「問題ない、寧ろ良好だ。」

 

砲を分割収納し、話しかけてきたエリカ主任に向き直る。

どうやら秋良の方の用事は終わったらしい。

 

「依頼していた装備は?」

「ご免なさい、I.W.S.P.はパーツが足りなくて再生産出来なかったわ。」

 

やはりか、新しいストライカーにパーツを回さなければいけない中で、

損傷機の修復、生産は困難を極める。

 

つまり、I.W.S.P.は諦めろと言う事だ。

 

「代わりと言ったらなんだけど、ノワールストライカーのテストモデルを持ってきたわ、

正式機とほとんど変わらないと思うから、使ってみて?」

「助かります、こいつがあるだけでもかなりの戦力になるでしょう。」

 

発展機ならなんとかなるか?

いや、今のストライクでは性能の半分も引き出せるかどうかも怪しい。

 

まあ、無いよりマシなんだが・・・。

 

「さてと、セッティングしますかね・・・。」

そう思い、手を着けようとした時・・・。

 

「ちーちゃーーーーーーん!!」

アホみたいな叫び声と共に、天災が飛び降りてきた。

 

「うるさいぞ束。」

駄姉は鬱陶しそうにしながら、束にアイアンクローをかましていた。

ほう、飛んでくる人間を鷲掴みにして振り回せるのか、

ま、俺も似たような事は出来るがな。

 

「やあやあちーちゃん!会いたかったよ!!さあさあ、はぐはぐしよ~!!」

うわ・・・、鬱陶しい・・・、いくら美女にされたからと言っても、

確実に嬉しくないな・・・。

 

まあ、俺にはあんな鬱陶しい友人はいないから別に良いんだが。

 

俺が呆れている内に、コミュ障兎は駄姉のアイアンクローから逃れ、

誰かを探す様な素振りをしている。

 

「やーや~箒ちゃ~~ん!!」

 

大きい岩影に隠れていた箒は、

束にみつかっていた、南無三。

 

「っ!!」

箒は束に見つかった瞬間、何処からか取り出した木刀で殴りかかっていた。

おいおい・・・。

 

「イタァァッ!!何するの!?箒ちゃん!?」

「黙れ!!」

 

頭を押さえながら唸る束に、箒は追撃と言わんばかりに木刀を振り上げる。

死にはしないだろうか、間違いなく重症になるだろうが、別に構わない。

それが箒の望みだと、俺は薄々感じ取っていたからな。

 

「やめなよ箒、そんな事をしても何の意味も無いよ。)

だが、寸での所で秋良のヤローが木刀を握り、

箒を止めやがった。

 

「何をする秋良!?止めるな!!」

「こいつを殺すなら木刀じゃなくて真剣を使いなよ。」

 

秋良は遠回しに諦めろと言っているのか、

箒から木刀を取り上げ、自分の腕で叩き折る。

 

さてと、何が起こるのかねぇ、

原作なら紅椿が箒に譲渡されるだろうが、

この世界では原作などアテにならない。

 

だから、俺はもっと凄絶で、心踊る様な場面を期待している。

 

俺は事の成り行きを見守るべく、

ストライクを待機形態に戻し、喧騒の方へと脚を向けた。

 

sideout

 

noside

「さあさあ、ご覧あれ~!!」

 

調子を取り戻した束が上空を指さしたと同時に、

コンテナが一つ落下してきた。

 

「ふふーん!オープンセサミ~!!」

コンテナが開き、中から紅いISが姿を現す。

 

「聞いて驚けぃ!その名も紅椿!!現行する全てのISを越える機体だよ~!!」

我が子の晴れ舞台を喜ぶ母親の様に誇らしげに語る束とは対照的に、

箒はうつむき、肩を震わせていた。

 

無論、歓喜では無い、憤怒から来る震えだった。

 

彼女と比較的親しい者達は、彼女の様子を見て何かを察した様な表情を見せた。

 

「一夏・・・、秋良・・・。」

「なんだ?」

「なんだい?」

 

静かに、だが、ハッキリと聞こえる声に反応した一夏と秋良は、

声の主である箒の方を向いた。

 

「あのISを壊してくれ。」

その瞬間、辺りが驚愕に包まれた。

 

「な、何言ってるの箒ちゃん!?」

「了解した。」

 

自身の妹の発言に驚く束を尻目に、

ストライクを展開した一夏はエールストライカーからビームサーベルを抜き放ち、

紅椿を破壊しようと動く。

 

「やめろ一夏!!」

千冬の制止も聞かず、一夏は腕を振り抜く。

 

だが・・・。

「・・・、何しやがる秋良、邪魔をするな。」

憎々しく呟く一夏の目線の先には、

シュベルト・ゲベールを用い、一夏のビームサーベルを止めた秋良がいた。

 

「いや、気付いてよ、俺達の機体はこの世に無い技術を使ってる、

あのアホウサギに見せる訳にはいかないだろう?」

「失念していた、すまんな。」

 

小声で言われた言葉に一夏は納得し、

ビームサーベルを戻し、ストライクを解除する。

 

「箒ちゃん!専用機だよ!?欲しくないの!?」

「そんな物!!私には必要無いっ!!」

 

訳が分からない様に叫ぶ束に、

激情を剥き出しにした箒が殴りかかろうとする。

 

「箒さん!!」

「落ち着いて!!」

しかし、セシリアとシャルロットが止めに入る。

 

「放せ!!放せぇ!!」

彼女達の拘束から逃れようともがくが、

代表候補生として鍛えられている彼女達の拘束は巧く、

どれだけもがいても逃れられない。

 

(こいつは相当だな、嫌ってると言うより、憎んでると言う事か?)

(なるほど、だから束の話題が出る度に拳を握り締めていたのか。)

 

一夏と秋良は、箒が時折見せていた怒りの表情の由縁を理解した。

 

そんな時だった・・・。

 

「た、大変です織斑先生!!」

真耶が息を切らせながら走ってくる。

 

その手には何やらディスプレイの様な物を持っている。

 

「これは・・・!!注目!!稼働試験は中止!!用具を片付け、即刻旅館に戻れ!!」

 

ディスプレイに表示されていた情報を読み取った千冬の表情が一気に険しくなり、

彼女は手を叩き、一般生徒に指示を出す。

 

「え?いきなり中止って・・・。」

「訳が分からないよ・・・。」

 

いきなりの指示に戸惑いの声がちらほら上がる。

 

「ぐずぐずするな!!迅速に行動しろ!!指示に従わない者は容赦なく懲罰を与える!!良いな!?」

『は、はい!!』

 

千冬の怒号に震え上がった少女達は、

直ぐ様旅館の方へと戻っていく。

 

「専用機持ちは私と来い!!篠ノ之!!お前もだ!!」

 

指示が下り、今だ怒りが収まらない箒を含めた専用機持ち達は、

千冬の後に続き旅館の方へと走っていく。

 

(篠ノ之 束の登場、そして福音事件、

この二つは間違いなく繋がっている・・・。)

 

一番最後にその場を去った一夏は、

束を軽く睨みながら思案する。

 

(さてと、俺は何処まで守りきれるだろうか・・・。)

 

一夏はこれから先に起こる事件を憂い、

溜め息をついた。

 

sideout




はいどーもです!

特に何も言うこともないので次回予告!

迫り来る福音に対し、
一夏達専用機持ちは作戦をたてる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
想いを力に 前編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

想いの強さ 前編

side一夏

「先程、日本政府より米軍用IS、シルバリオ・ゴスペル、

通称、福音が米軍の管理下に離れ、

日本近海を目指し飛行中、これを迎撃、捕縛、もしくは破壊せよという命令が下った。」

 

旅館の広間に設けられた仮設の指令室で、

俺達専用機持ちと箒は日本政府からの通達を聞いた。

 

だが、やはり何か引っ掛かる物がある。

と言うのも、前世での知識を吟味してみると、

何故俺達IS学園の生徒が迎撃しなければならないのだろうか?

 

俺が行き着いた理由は酷く単純、

あのアホ兎がただ単に紅椿を活躍させたいと言う目論見の下、

福音を暴走させ、日本政府、もしくはアメリカ政府の通達が歪められた形でここに届いたのだろう。

 

ハッキリ言って、迷惑この上無いな。

 

「まあ迎撃しろと言われれば参加はするが、

その前にスペックカタログの詳細を開示していただきたい。」

「良かろう、だが、決して口外はするな、もし情報の漏洩が確認されれば、

諸君らには査問会と最低でも二年の監視が着くことになる。」

 

おうおう、御大層なこって。

まあ破る気も無ければ、ベラベラと喋る気も無いんだけどな。

 

俺達は一斉に開示されたデータに目を通す。

 

ふむ、やはり原作同様、機動力はかなり高い、

エールストライカーの出力と同等かそれ以上と言う度合いか。

 

それに火力も高い、このシルバーベルと言ったか?

一発一発がI.W.S.P.のガトリングのレーザー版と言ったところだな。

 

ああ、厄介だ、俺にはエールストライカーとライトニングストライカーしか装備がない。

 

エールで出撃しても良いんだが、

帰りのエネルギーが心許ない。

 

「セシリア、追加パッケージのインストールは終わっているか?」

「はい。高機動強襲用パッケージ、ストライクガンナーの準備は万端、

何時でも参りますわ。」

「シャル。」

「勿論終わってるよ、防御用パッケージ、ガーデンカーテン、防御なら任せて。」

 

セシリアとシャルは準備万端、他はどうだろうか?

 

「簪。」

「一応、追加スラスターのインストールなら終わってる。」

「ラウラ。」

「砲撃用パッケージ、ブリッツのインストールは終わっています。」

「鈴。」

「お、終わってる!・・・、多分・・・。」

 

さて、鈴以外はアテになりそうだ。

 

ま、もう少し情報を集めとくか。

「因みに織斑先生、福音はどの辺りを通過するんだ?」

「敬語を使え、通過地点はここから沖合い二キロの所を通過する、

しかし、通過速度が剰りにも速い為、なるべく速度の出せる機体が望ましい。」

 

成る程な、まあそんな事をせずとも、

引き留めさえすればなんとかなるな。

 

「分かった、エールストライカー装備の秋良が先行し、

その後にセシリア、簪が鈴とシャルを運んでこい、

ラウラはここからブリッツでの狙撃で援護しろ。」

 

俺は全員を見回しながら言い、最後に箒を見る。

 

こいつがISを嫌っているのは百も承知だ、

だが、今は戦力を出し惜しみしている場合じゃ無い。

 

「箒、お前はどうする?ここに来ちまった以上、

作戦に参加するか、それとも、降りるか、このニ択以外無い。」

 

酷な言い方だが、流石にハッキリしない奴を戦闘には参加させたくない、

出て死なれちゃ寝覚めが悪すぎだ。

 

「無理に、とは言わん、だが、出来ることならお前の力を借りたい。」

 

この場にいた全ての人間の視線が俺に向けられる、

そこには驚愕の色が見てとれる。

 

まあ当然だろう、素人をいきなり戦場に放り込もうとする事自体間違いと言う事は俺も承知している。

 

「私は・・・。」

俯き、拳を握り締める箒は、嫌悪する物を使う事に抵抗を示している。

 

無理にとは言わん、と言ったはずなんだがな?

 

「一夏、答えてくれ。」

「何を?」

不意に、箒が口を開く。

何を答えれば良いのかさっぱりだが。

 

「力は、ただ相手を傷付ける物なのか?」

成る程な、そう言う事を聞きたかった訳か、

道は自分で見付ける物だが、手助け位はしよう。

 

「俺はそう思う、だが、力は使い方次第では何にでも使える、

秋良、お前はどうする?どう思う?」

 

「ん~、俺はどちらかと言えば兄さんに近い思考だけど、

力は守る事にも使えると思うよ。」

俺のパスを上手いこと繋げてくれた秋良の言葉に、

箒は握り締めていた拳を開き、掌を見つめる。

 

「力とは振るう者の心で決まる、お前はあのアホ兎の様子を見て、

自分は他人を傷付けないと誓ったんだろ?」

 

あの時の箒の様子を見て、そして、今、この質問を受け、

この結論に至った。

 

「その心意気は上等だ、その心さえあれば、

お前は決して人を傷付けない、俺が確約してやる。」

「一夏・・・。」

 

俺は仲間だけは必ず助ける、

敵やその他は知らんがな。

 

「もう一度聞く、お前は来るか?それとも、来ないか?」

俺は立ち上がり、箒に手を差し出す、

友人として、そして、戦友としてこれぐらいはするさ。

 

「私は、戦いたい!!この力で誰かを守れるなら、私は喜んでこの力を使う!!」

「分かった、その心意気、この織斑一夏が受け取った。」

 

俺の手を取り、箒は決然と立ち上がる。

これで専用機が八機、上等な戦力じゃねぇか。

 

「全員注目!!これよりIS学園第二生徒会長として指令を出す!」

俺の言葉に、全員が立ち上がる。

 

「秋良と箒は先行し、福音の足を止めろ!

セシリア、簪はシャルと鈴を連れて後発、戦線に参加!

俺とラウラは長距離狙撃パッケージで砂浜より狙撃する!」

『了解(ですわ)!!』

 

全員から了解の意を受け、俺は踵を返し旅館の外へ出る。

 

sideout

 

side秋良

兄さんの指示を受け、俺と箒は砂浜に立っていた。

 

「一夏の戦術、まるで隙が無いね。」

俺達の後ろに控える簪が兄さんの下した陣形に驚嘆していた。

 

確かに、あれが最も確実且つ、効率の良い作戦だからね。

 

「各機に通達、これより、作戦を開始する、

尚、全員の帰還を以て作戦の成功とする!」

兄さんらしいな、全員の帰還を以て作戦の成功か、

良いねぇ、なら、その気持ちに応えるとしますかね。

 

「織斑秋良、ストライクルージュ、行くよ!!」

「篠ノ之 箒、紅椿、参る!!」

 

空を切り裂き、俺は箒と飛んだ。

 

sideout

 

side一夏

秋良と箒が飛び、俺とラウラは長大なレールガンを構える。

 

「一夏、私達もそろそろ出撃する?」

「いや、まだだ、俺とラウラが第一射を撃ってからだ。

後少し待ってろ。」

 

俺はライトニングストライカーの補助を受け、

スコープを覗き込む。

 

まだ福音は見えない、だが、近付いて来るのが分かる。

 

何故かは分からないが、物の数秒で秋良達と接触するだろうという気がする。

 

そんな時だった。

 

『こちら秋良、福音を目視した、これより攻撃体勢に入る!』

「了解した、セシリア、シャル、簪、鈴、頼んだぞ。」

 

秋良からの通信を受け、

待機していたセシリア達に出撃を促す。

 

四人とも、決然たる意志を込めて頷き返し、

秋良と箒に加勢すべく飛び立った。

 

「ラウラ、俺達も援護射撃を開始する、用意は良いな?」

「はい!!」

 

ラウラの言葉を受け、俺はカノン砲のトリガーを引いた。

 

圧力を掛けられた砲弾は、音速の三倍以上のスピードで、

福音目掛けて飛んでいく。

 

秋良達と交戦していた福音は、

予想外の攻撃に対処できず、カノン砲とレールガンをもろに喰らっていた。

 

スコープの向こうで、体勢を崩した福音に秋良達が一斉に襲いかかる。

リンチの様だが、気にも留めない。

 

これで良い、後は何事も無ければ、俺達の勝ちだ。

 

・・・、待てよ、何か引っ掛かる。

何か忘れている様な気がする・・・。

 

この作戦の成否に関わる大切な事を・・・。

 

「・・・!!しまった・・・!!」

 

失念していた!!あいつらが戦ってる真下の海域に、

密漁船が入り込んで来るんだった・・・!!

 

不味い!!このままでは要らん犠牲が出る!!

 

「クソッ!!要らん手間をかけさせやがって!!」

言うが速いか、俺はライトニングストライカーを解除し、

直ぐ様エールストライカーに換装する。

 

「ラウラ!このまま撃ち続けろ!」

「は、はい!!」

「間に合ってくれよ・・・!!」

 

ラウラに命じ、俺はスラスターを吹かし一気に跳躍した。

 

sideout

 

side秋良

兄さんに通信を入れた直後、俺はエールストライカーの大型スラスターの出力を上げ、

一気に福音に迫る。

 

ビームサーベルを抜き放ち、福音の翼を狙い斬りかかる。

 

俺の動きに気付いたのか、福音は後方宙返りでビームサーベルの刃を回避する。

やるね、けど、それぐらい読んでるさ。

 

兄さん達がいる方角からカノン砲と、レールガンの砲弾が飛来し、

回避直後の福音に直撃する。

 

「よしっ!箒!!攻めるよ!!」

「勿論だ!!」

 

兄さんが造ってくれたこの好機!!

無駄にはしない!!

 

俺と箒は多角から攻め入り、

福音になるべく攻撃する暇を与えない。

 

「ハアァァッ!!」

シュベルト・ゲベールのみを呼び出し、

福音に迫る。

 

「秋良っ!!」

 

簪達も合流し、一気に攻める!

この調子なら勝てる!

 

そう思った時だった。

 

『秋良!!そこから即刻退避しろ!!』

「どうしたんだ兄さん!?」

 

突然、兄さんからほ通信が入る。

 

『失念していた!!真下に密漁船が入り込んでる!!』

「・・・!!」

 

しまった・・・!!

なんでそんな事を忘れてたんだ・・・!!

 

真下を見てみれば、やはりそれらしき船が見えた。

 

不味い!!このままじゃ、余計な被害が出る!

どうする!?どうすれば良い!?

 

『直ぐに合流する!!箒に言って船を退避させろ!!』

「り、了解!!」

 

有り難い!どんな状況でも兄さんは冷静だ。

お陰で俺もなんとか冷静になれる。

 

「箒!!真下の海域に密漁船が入り込んでる!!

君が彼等を逃がしてくれ!!」

「なっ・・・!?」

 

俺の指示に、箒達が愕然と真下を見る。

やはり気付いていなかったか、恐らく今目視出来る場所に入ってきたのだろう。

 

「頼む!」

「わ、分かった!!」

 

箒は俺の頼みを受け入れ、漁船の方へと向かう。

それに気付いた福音が箒の方に行こうとする。

 

「させるか!」

ビームライフルを呼び出し、俺は福音へと迫る。

 

当たらなくても良い、今は箒達を逃がす事だけを考えろ!!

 

「La~♪」

突如、福音がシルバーベルを乱射してくる。

 

「っ!!」

回避する事に精一杯で、

俺達は攻撃の手を緩めてしまった。

 

その僅かに出てしまった隙の内に、

福音は箒の方へ急速に接近していく。

 

「箒ぃぃ!!」

間に合わない!!

 

そう思った時、箒の前に影が割り込んだ。

 

sideout

 

side箒

何が起きたか分からなかった。

 

秋良の叫びが聞こえ、福音が接近してくることが分かった。

 

なんとか船を守ろうと、身体を盾にしようとした。

 

奴の腕は、私の身体を貫くコースだった。

思わず目を瞑り、来る痛みに備えた。

 

―ザシュッ―

肉を切り裂く様な嫌な音が聞こえた、

しかし、いつまで経っても痛みが来ない。

 

まさか剰りにも激痛なせいで、

脳が痛みを認識出来ないのか・・・?

 

恐る恐る目を開くと、翼を背負った白い機体が映った。

 

私達の中で白い機体を使うのは一人しかいない。

間違いない、あれはストライク・・・。

 

「一夏っ・・・!!」

 

彼の右脇腹に福音の腕が突き刺さっている

本当なら腹のど真ん中を貫通するコースだったが、

彼の根性で方向を逸らしたのだろう。

 

だが、やはり重傷なのは目に見えている、

つき出している福音のアームの先から血が滴り落ちている。

 

「ぐっ・・・、ほ、箒・・・、

さっさと、離脱・・・、しろ・・・!!」

「だが!!」

 

掠れた声で言うが、私の身体は動かない。

恐怖、ただそれだけに支配されていた。

 

「命令だ!離脱しろ・・・!!」

「っ!!了解・・・!!」

 

確かに、今は一夏が福音を止めているが、

いつまでもつかわからない・・・。

 

クソッ!!私は、無力だ・・・!!

 

私は後ろ髪を引かれる思いで船を押し、

一気に浜まで戻った。

 

sideout

 

side一夏

離脱していく箒を見送り、俺は渾身の力を籠め福音を殴り飛ばした。

 

その瞬間、福音の腕が脇腹から抜け、今までに感じた事の無い激痛が襲いかかる。

 

「・・・っ!!グゥ・・・!!」

 

意識が飛びそうだ・・・、いつまで意識を保てるかは分からない。

 

だが、今の俺では、間違いなく福音を倒せない・・・。

どうする・・・?

 

脇腹を押さえ、荒い呼吸をする俺目掛け、

福音がシルバーベルの発射体勢に入ろうとする。

 

不味いな・・・、避けきれない・・・。

 

「兄さん!!」

秋良が瞬間加速<イグニッション・ブースト>で福音に接近し、

ビームサーベルで斬りかかるが、福音はヒラリとそれを避け、

俺達に興味を無くしたかの様に飛び去っていった・・・。

 

「お待ちなさい!!」

「逃がさない!!」

 

セシリアとシャルが追撃しようとするが、

やはり福音の速さには追い付けないらしく、

一撃も撃てなかった・・・。

 

「ぐっ・・・!!あぁ・・・。」

それを認めた瞬間、目の前が闇に包まれ、

自分が頭から墜ちていくのが判る。

 

「兄さん!!」

 

俺を呼ぶ秋良の声を最後に、

俺の意識は途絶えた・・・。

 

sideout

 

side秋良

「作戦は失敗、兄さんは意識不明・・・、

俺達のボロ敗けだね・・・。」

 

姉さんに報告しに行った後、

俺は兄さんが眠る部屋にやって来た。

 

兄さんの傍らにはセシリアとシャルロット、

それに兄さんに救われた箒がいた。

 

「「「・・・。」」」

三人とも何も言わず、兄さんを見詰めている。

 

セシリアとシャルは自分が力に成れなかった事を、

箒は自分の不甲斐なさを悔やんでいるのだろう・・・。

 

かく言う俺も悔しくて堪らない、

俺は兄さんと同等の力を持っている。

 

それなのに、何も出来なかった・・・。

 

それが悔しくて堪らない。

 

だけど、俺はこの位で終わる気は無い。

 

さっきラウラに頼んで、福音の捜索をして貰っている。

 

後少しで見付かる筈だ・・・。

 

「秋良、見付かったぞ、ここから二十キロ離れた沖に滞空している。」

「ありがとうラウラ、そろそろ機体エネルギーの回復も終わる、

行けない事はないか・・・。」

 

俺は外で待機しているだろう簪達にも聞こえる様に言う。

 

「俺達はこれより、兄さんの弔い合戦に出る!

行ける奴だけ着いてこい!!」

『!!』

 

全員の顔が驚愕に染まる、

そりゃそうか、ろくな休憩もせずに挑むもんだからね。

 

「秋良さん!!一夏様は亡くなってませんわよ!!」

「そうだよ!!勝手に殺さないでよ!!」

 

え?驚く所ってそこ?

確かに弔い合戦はおかしいか。

 

では言い直そう。

 

「ごめんごめん、言い直すよ、

俺達はこれより、兄さんの仇討ちに出る!着いてこい!!」

『了解!!』

 

箒も立ち上がり、決意を籠めた視線を送ってくる。

兄さんが落とされて悔しい気持ちはあるだろうけど、

俺達はこんなことで立ち止まれないんだ!

 

「さあ行こう!」

 

sideout

 

side一夏

暗闇の中・・・。

 

俺は頭から墜ちていく・・・。

 

指先一つ動かない。

まるで自分の身体ではない様だ・・・。

 

何も考えられない・・・。

何も・・・。

 

ただ、眠りに墜ちていく・・・。

 

sideout




次回予告
一夏の仇討ちの為、
出撃する秋良達、その時一夏は・・・。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
想いの強さ 中編

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

想いの強さ 中編

noside

司令室では、千冬や真耶、教員達が福音に対する作戦を立てていた。

 

だが、専用機を持たない教員が挑んでも、福音を止める事が出来るかは分からない。

 

千冬と同等に近い戦力を誇る一夏が戦闘不能な為、

実質上の作戦失敗、これにより、どの様に作戦を進めるかを会議していた。

 

千冬の暮桜はある理由で使用出来ない為、

彼女自身が出撃する事は叶わない。

 

そんな時だった・・・。

 

「お、織斑先生!!大変です!!」

福音の動向をモニタしていた教員が、

息を切らし司令室に入ってくる。

 

「どうしました?」

「せ、専用機持ち全員が無断出撃しました・・・!!」

「なに・・・!?あのバカ共・・・!」

 

千冬は苛立ちながらも真耶を促し、

福音をモニタリングしているディスプレイを映す。

 

そこには福音に攻撃を仕掛ける専用機持ちの面々が映し出されていた。

 

sideout

 

noside

時間は少し巻き戻る。

 

教員に悟られる前にひっそりと出撃した秋良達は、

福音から五キロ離れた岩場に隠れていた。

 

「じゃあ作戦を説明する。ラウラは先の戦闘と同様、

このままでは岩場から福音を狙い撃ってくれ。」

「分かった、兄貴と同じ様に出来るかは分からないが、

仲間のために努力しよう!」

 

秋良の頼みに、ラウラは大きく頷き、ブリッツを構える。

 

「セシリアとシャルロットはステルスモードでラウラの周りに待機、

向かってきた福音を迎撃してくれ。」

「お任せください。」

「分かった。」

 

セシリアとシャルロットはその美しい瞳に闘志をたぎらせ、

力強く頷く。

 

「箒は簪を背中に乗せ、海中で待機、合図と共に飛び出して波状攻撃をかけてくれ。」

「分かった。」

「一夏の仇は私が討つ!!」

 

簪と箒は拳を握りしめ、

一夏の仇を討とうと意気込む。

 

「鈴は俺と一緒に攻めるよ、良いね?」

「わ、分かった・・・!! 」

 

秋良は簪の頭を撫で、落ち着かせるようにする。

 

「さて、そろそろ始めようか。」

 

秋良が言うが速いか、セシリアとシャルロットがステルスモードに入り、

箒と簪が海中に潜り、秋良と簪は福音に気付かれぬ様、上空に回り込む。

 

そして・・・。

 

「作戦、開始!!」

 

sideout

 

side秋良

ラウラのシュヴァルツァ・レーゲンが放った弾丸は、

回復の為に踞り滞空していた福音に直撃、盛大に爆発する。

 

「初弾命中!!続けて第二射を行う!!」

通信を介し、ラウラの声が聞こえる、

 

ラウラの第二射を、福音は身体を沈めて回避し、

目論み通りラウラの方へと突っ込んでくる。

 

「(かかった!!)セシリア!シャルロット!」

福音のアームがラウラを捉えようとする寸前、

ステルスモードを解いたセシリアとシャルロットが福音の上下に現れ、

蹴り落としと蹴り上げを福音の胴体と背中に叩き込む。

 

「私がここにおりましてよ!!」

「一夏を傷付けたんだ、それ相応の事はさせてもらうよ!!」

 

セシリアとシャルロットは怯んだ福音の腹部に、

同時に蹴りを叩き込んで吹き飛ばし、ライフルを呼び出し福音の関節を狙うように撃つ。

 

『敵戦力レベルを修正、現戦域からの離脱を最優先。』

 

福音が銃弾とBTレーザーから逃れようとするが、

それをさせる俺達じゃない。

 

「箒!!簪!!」

「任せろ!!」

 

海中から箒と簪が飛び出し、

山嵐のミサイルを一斉発射する。

 

しかし、福音はシルバーベルを乱射し、

ミサイルを全て撃ち落とす。

 

今のは計算外だな・・・、

そろそろ俺達も行くかな・・・。

 

「鈴、そろそろ行くよ!!」

「う、うん!!」

 

鈴と共に高度を落とし、一気に福音へと迫る。

 

鈴が衝撃砲を撃ち、福音に隙を作ってくれている。

 

その隙に俺は死角より一気に接近、

ビームサーベルを二本抜き放ち、一気に迫る。

 

「墜ちろぉォッ!!」

不意を突かれたのか、福音は反応するものの回避しきれず、

片側のスラスターを破壊された。

 

「ヨシッ!!・・・!!」

羽を切り落とし油断してしまった、

シルバーベルの至近距離射撃を受け、俺は大きく吹き飛ばされた。

 

けど、それは福音も同じ、

今が墜とす好機!!

 

「今だよ!!一斉攻撃!!」

 

俺の叫びと同時に、他の皆から一斉にレーザーや銃弾、ミサイル等が福音に直撃する。

 

盛大に爆発した後、福音は頭から海に墜ちた。

 

「よしっ!決まったね!」

「今回はなんとか勝てたね。」

 

ガッツポーズをする簪に近寄り、

俺は海を見下ろしながら息をつく。

 

だが・・・。

 

突如、海水が吹き上がり、光の繭の様な物が海中より姿を現す。

 

「しまった・・・!これは、セカンドシフトだ!!」

 

詰が甘かった、

なんで忘れてたんだよ!!

 

「来るぞ!!各機散開!!」

 

俺の叫びと同時に、先程までとは比べ物にならない加速で、

福音がこちらに向かってきた。

 

仕方ない!!応戦する!!

 

sideout

 

side一夏

―か

 

誰だ・・・?

 

闇の中を意識だけで漂う俺に、誰かが話し掛けてくる。

―ちか―

 

俺を呼ぶのは・・・、誰だ・・・?

 

聞き覚えがある、だが思い出せない。

―一夏―

誰だ・・・?

 

―私だよ、覚えてないかな?―

「・・・。」

 

その声は、まさか、アンタなのか?

 

漸く記憶の糸を手繰り寄せられた。

 

―そうだよ!―

 

かぁ~、久し振りに聞いたぜ、そのアホみたいにテンションの高い声はよ。

 

―むーっ、なんだよぅ、そんなに私と会うのが嫌なの?―

 

いや、久し振りだから、ちょいと懐かしい。

 

で?俺はどうなったんだよ?

福音に腹をヤられて、頭から堕ちてからの記憶が曖昧なんだが?

 

―そうそう、君はあの女の子を庇って、

普通の人間なら間違いなく死にかけてる位の傷を負ったの―

 

やっぱりそうだろうな、

無茶苦茶痛かったしな。

 

で?何の用だ?

意識だけとは言え、俺を呼び出すんだ。

結構重要な事なんだろ?

 

―うん、そうだよ、君に隠しておいた能力を解放しようと思うの―

 

・・・、分かった、全て受け入れる。

 

―まだ何も言って無いよ?―

 

いいや、分かるんだよ。

こう言う力は強大で、その対価を求められる。

 

そうだろ?

 

―うん、じゃあ言うね?―

 

sideout

 

noside

福音から放たれるシルバーベルの雨霰を、

秋良達は必死に回避する。

 

「クソッ!!さっきとは全然違う!!」

秋良は毒づきながらもビームライフルを呼び出し、

シールドの影に隠れながら福音目掛けビームを連射する。

 

しかし、福音はそれらを回避し、

一気に簪に迫る。

 

「は、速すぎる!!」

牽制の為にミサイルを放つが、

福音の接近を止めることは出来ず、簪はシルバーベルの至近距離射撃をもろに喰らい、頭から海に墜ちる。

 

「簪ぃ!!」

鈴が簪の救出に向かおうとするが、

福音は鈴を追いかける。

 

「させない!!」

セシリアとシャルロットは福音を足留めすべく、

ライフルを連射しながら福音との距離を詰める。

 

『La~♪』

しかし、福音はそれを物ともせず、

セシリアに急接近する。

 

「こ、この速さは・・・!!」

 

その言葉を言い切る前に、セシリアは海に蹴り落とされた。

 

「セシリアっ!!よくもぉ!!」

 

親友が落とされた事に激昂し、

シャルロットはシールドピアースを福音に突き立てるべく、

瞬間加速<イグニッション・ブースト>で急接近する。

 

「よせシャルロット!!駄目だ!!」

 

秋良の制止も聞かず、シャルロットは福音の懐に飛び込みシールドピアースのトリガーを引く、

だが、それが直撃する寸前、福音の翼がシャルロットを包み込み、

全方位からシルバーベルの一斉射がシャルロットを襲う。

 

「シャルロット!!この野郎!!」

 

次々と仲間が落とさた事に激昂し、

秋良はシュベルト・ゲベールを展開し、福音に迫る。

 

「仇討ちは俺が!!」

 

シュベルト・ゲベールを振り下ろすが、

福音は片手で受け止め、空いている左手でシュベルト・ゲベールを叩き折る。

 

「なっ・・・!?」

 

動揺した、その一瞬の隙を突かれ、

秋良は福音に殴り飛ばされ、そこにシルバーベルの一斉射撃を食らう。

 

「ぐぁぁぁっ!!」

 

落下の勢いが更に速まり、

秋良は体勢を立て直す暇もなく海中に没した。

 

秋良にとって海中は前世の死因と深く関わる為、

正直言って心中穏やかではない。

 

だが、恐怖よりも何よりも、

彼の心の内を占めるのはただ一つの感情であった・・・。

 

(すまない・・・、兄さん・・・。)

 

sideout

 

side一夏

女神の頼みを聞いた俺は、

ある考えをしていた。

 

頼み、と言うには明らかに人間一人が抱え込むには大き過ぎた。

 

だが、女神はこの世界をあるべき正しい姿に戻そうとしている。

 

そして、俺はその尖兵として戦えと言われている様な物だ。

 

質問をさせてくれ、

俺はそれを成した後、どうなる?

 

―わからない、君は既に私の想像を越えてる、

だから未来も見えないし、果ても見えない―

 

だから、俺にそんな大厄を押し付けるか・・・。

 

―字が違う気がするんだけど?―

 

あながち間違いじゃねぇだろ?

 

―否定はしないよ、君にとっても、

そして、世界にとっても厄であることには変わりないもの―

 

まあ、気にしてねぇさ。

アンタに見初められた時から、厄を被ってる様な物だ。

 

良いぜ、俺を使え。

アンタが望む世界になるようにな。

 

―うん、お願いするね?

でも君の自我は消える訳じゃないから、君は君のままで戦ってくれれば良いから―

 

どういう意味だ?

 

―君は戦いの最中、何かを壊したくてたまらないでしょう?―

 

まあな、それは俺の基になった人物、

ルカスに起因してるからじゃねぇのか?

 

―半分はそれであってる、もう半分は私が植え付けた本当の力の副作用、

それが原因で君は戦いが楽しくて仕方がないの―

 

なるほどな、それだけで与えられる力がどれ程の物か理解出来たぜ。

 

だが、別に構わんぜ。

それが運命なら、俺は楽しんで見せる。

 

―嫌な役回りを全部君に押し付ける事になるよ?―

 

構わねぇさ、嫌な役回りは全部俺の役目だ。

 

あ、図々しい頼みだが、秋良の能力も解放してやってくれ、

アイツは俺に置いてきぼりを喰らうのを無意識に恐れているからな。

 

―良いの?いつか・・・―

 

そうだろうな、そうなるだろうが、

俺は構わないさ。

 

それがアイツの運命だ。

 

―分かったよ一夏、ううん、零士、君に全て・・・―

 

アイツが何かを言い切る前に、

俺は眩いばかりの光に包まれた。

 

sideout

 

side秋良

海に沈んだ俺の意識は徐々に薄れつつあった。

 

情けない、俺は兄さんと並び立つどころか、

兄さんの仇すら討てなかった・・・。

 

くそ・・・、俺は・・・、弱い・・・!

 

―バカ野郎、この程度で諦めるのか?―

 

誰だ・・・?

 

―お前はここで終わる程度の男じゃねぇだろ?―

 

・・・、でも、俺にはもう・・・、力が・・・。

 

―だからどうした?力が無いから諦めるのか?―

 

・・・。

 

―この程度で諦める奴に興味は無い。

そのまま沈んで行くが良いさ―

 

どうすれば良いんだ・・・!?

俺は戦いたいさ!!けど、ルージュのパワーも性能も!!

アイツには及ばなかった!!

 

―それだけだろう?―

 

え?

 

―力が無いなら、心で補えば良い、

根性見せて見ろよ?―

 

根性・・・、

それが力になるのか・・・?

 

―ああ、お前は戦いたいと願った、なら、その気持ち一つで戦えよ!―

 

ああ!やってやるさ!!

 

俺は、まだ戦える!!

 

 

ルージュ!!俺に力を貸してくれ!!

 

sideout

 

sideラウラ

福音から浴びせかけられるシルバーベルの光弾をAICで防ぎつつ、

後ろにいる簪と鈴を庇い続ける。

 

セシリアとシャルロットは海に沈んだきり浮かんで来ないが、

流石に今は救助にも行けない!

 

クッ!!流石に軍用のISなだけはある!!

 

エネルギー量がトライアル機とは桁違いだ・・・!!

 

箒が今攻めているが、

秋良ですら一撃もいれる事すら出来なかった相手に、

素人同然のアイツが食らい付くのは不可能に近い。

 

だが、私は退かない!!

私が退けば、簪達はこの光弾に晒される!

 

せめて!せめて秋良が戻るまでは堪える!!

 

そう意気込んだ時だった・・・。

 

『ぐあっ!!』

「箒!!」

 

通信回線から箒の悲鳴が聞こえ、

福音が居る方へ目を向けると、喉笛を捕まれていた。

 

「箒!!逃げろ!!」

 

叫んでも無駄だと言うことは分かっている。

だが、それでも叫ばずにはいられなかった。

 

「くっ!箒を離せ!!」

 

私がAICを解き、レールガンを向けるより速く、

何かが飛来し、シルバーベルの発射体勢に入っていた福音を蹴り飛ばした。

 

「あ、あれは・・・!?」

 

夜の闇に溶ける様に黒いボディーに、

巨大な翼を背負った機体・・・。

 

だが、どこか見たことのあるシルエットだった・・・。

 

あれは・・・、

 

「ストライク・・・?」

 

sideout

 

side一夏

間に合ったな。

 

今の所無事なのはラウラと鈴位か・・・。

 

まあ、ここに集う全員、まだ気持ちは折れてねぇな。

 

「大丈夫か?箒?」

「一夏・・・?一夏なのか・・・?」

 

痛みで意識がはっきりしないのだろう、

朧気に俺の顔を見る。

 

「ああ、待たせたな、動けるか?

動けるなら、ラウラの所まで行け。」

 

幸い、福音の意識はこの俺に向けられている、

今ここで箒を落としたとしても、ラウラが拾ってくれるだろう。

 

「すまんが、そろそろアイツとのケリを着けたい、

恨み言なら後で聞く。」

 

そう言って、俺は箒をラウラに向けて放り投げた。

 

さてと、スペックの確認をしておくか・・・。

 

両肩にサブスラスターが追加され、

運動性能も上がった。

 

武装は・・・。

ビームライフルショーティーが二丁。

 

ワイヤーアンカーが六つ。

 

そして、ノワールストライカーか・・・。

 

上々だな、負ける気がしねぇ。

 

奥の手も有ることだ。

さっさとケリを着けるとするか。

 

「秋良、目ぇ覚めてんだろ?とっとと上がって来やがれ。」

「人使いが荒いね兄さんは。」

 

通信を入れたのと同時に、

海水が吹き上がり、中から深紅の機体が飛び出してきた。

 

だが、その姿はルージュではなかった。

 

「漸くお目覚めかい?重役出勤にも程が有るんじゃないか?」

「フッ、今まで落ちてたお前には言われたかねぇよ。」

 

そりゃそうかと肩を竦める秋良を小突きつつ、

秋良の機体の様子を伺う。

 

両肩にエールストライカーの中型スラスターが移植され、

尚且つ、腰には二本の刀が着いた。

 

間違いねぇな、色こそ違うが、

これは正しく・・・。

 

 

『キアァァァア!!』

 

「おっと、のんびりしている暇は無さそうだね。」

「そうだな、行くとするか。」

 

臨戦体勢に入った福音を見て、

秋良は腰から二本の刀を引き抜く。

 

それと同時に、俺も腰のホルスターからビームライフルショーティーを抜き取り、

両手に保持する。

 

さあ、改めて宣言しよう。

俺達の新しい機体の名を・・・!!

 

「織斑一夏、ストライクノワール、行くぞ!!」

「織斑秋良、ゲイルストライク、行くよ!!」

 

sideout

 




はいどーもです!

セカンドシフトしました。
ストライク、ルージュ、お疲れ様でした。

一夏の機体は皆様ご存じのあの機体です。

えー、ゲイルをルージュと同じカラーリングにしたのは私めの趣味です。
石投げてくれても構いません。

『バカ野郎!!ゲイルストライクは青いからカッコいいんだろうが!!』
と言う方、本当にごめんなさい。

えー、因みに、これからもアストレイシリーズやSEED外伝で出た機体の中で、
このキャラにはこの機体が似合うと言う意見が有りましたら、感想に書き込んでください。
作者が大喜びします。

では次回予告
セカンドシフトを果たした一夏と秋良は、
徐々に福音を追い込んでいく。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
想いの強さ 後編

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

想いの強さ 後編

noside

「ストライク・・・、ノワール・・・。」

「ゲイル・・・、ストライク・・・。」

 

誰が呟いた言葉なのだろうか、

そう呟かれた言葉は微かに震えていた。

 

「あれが一夏君と秋良君の・・・、新しい機体の名前・・・。」

 

真耶が茫然と呟いた。

ただでさえ実態が掴めていなかったストライクとルージュのセカンドシフト体、

興味を越え、どこか薄気味悪い印象すら浮かんで来る。

 

(一夏・・・、秋良・・・、

お前達は一体・・・、何者なんだ・・・?)

 

自らの弟に対する畏怖を抱いていた・・・。

 

sideout

 

side一夏

「行くぞ!!」

「ああ!!」

 

俺と秋良は飛び出し、左右から福音を囲む様に攻め立てる。

 

推力もストライクとは桁違いだ。

 

『キアァァァア!!』

 

悲鳴ともとれる叫びをあげた福音から、

シルバーベルが放たれる。

 

「直撃コースだな。」

「避けてみせるさ!!」

 

秋良と軽口を叩きつつ、

シルバーベルの僅かな隙間を縫いながら翔ぶ。

 

まだ反応が鈍いな、今度大々的に改修するか。

 

『敵戦力レベルをAに修正、殲滅スル。』

 

福音から電子音声が響く、

どうやら本格的に俺達を敵と定めたな。

 

だが・・・。

「遅ぇ!!」

「遅いよ!!」

 

そう認識するのが遅すぎだ、

俺達はお前の予想を遥かに越えてるからな!!

 

「そこっ!!」

 

ビームライフルショーティーから、

圧倒的な連射力を持つビームを放つ。

 

射程距離と威力がが15%落ちた代わりに、

連射力がストライクのビームライフルの三倍を誇ってる優れ物だ。

 

正直一発の威力が高い奴より使い勝手は良いな。

 

俺が放ったビームの雨が福音を襲う。

 

福音は翼ではじきつつも、

後退しようとする。

 

「掛かったね。」

 

秋良が福音の背後に回り込み、

腰から引き抜いたウィングソーで斬りつける。

 

それに気付いた福音は翼を犠牲にしながらも、

なんとか回避する。

 

だが・・・。

 

「一対一じゃねえぞ?」

 

俺は二段瞬間加速<ダブル・イグニッション・ブースト>で急接近し、

ノワールストライカーよりフラガラッハ3ビームブレイドを引き抜き、

もう片方の翼も斬り落とす。

 

「この俺に傷を負わせたんだ、その代償は高いぜ?」

 

ビームブレイドを格納し、空いた左手からワイヤーアンカーを射出、

福音の首に絡み付かせる。

 

ISと言えど、所詮は人間が操っている、

人体の弱点は其のままISの弱点でもある。

 

となれば、首は神経が集まり、

尚且つ気道もある。

 

つまり首は男女の性別を問わない弱点である。

 

「さあ乗っていけよ、地獄行きのメリーゴーランドにな!!」

 

脚部スラスターを全開にし、

ハンマー投げの如く振り回す。

 

途中、最も遠心力が大きい所でワイヤーを引き、

首に衝撃を与える。

 

普通なら首の骨が折れ、尚且つ呼吸困難で即死だろうが、

生体保護機能があるだろうし大丈夫だろう。

 

ま、死んでも俺の責任じゃねぇ。

 

怨むなら、お前を暴走させた奴を怨め、福音。

 

テメェのパイロットの生き死には、運命が決めてくれるだろうぜ。

 

「はははははっ!!そうら!!もう一発!!」

 

右手に持っていたビームブレイドを格納し、

ワイヤーアンカーを福音の左足に絡み付かせ、

首のワイヤーアンカーを回収する。

 

「あんまり相手してやれてねぇが、

そろそろフィナーレと行こうぜ!!」

 

一気に海面目掛け急降下し、

腕を思いっきり振り、福音を海面に叩き付ける。

 

同じ高度からの自由落下の時に生じる衝撃より、

加速を加えられた時の衝撃は、桁違いの大きさになる。

 

つまり、砂場に落ちるか、コンクリートに頭から落ちるかの違いである。

 

身動きがとれずに、

海中へと沈みつつある福音。

 

ノワールストライカー状態では水中では役にたたないからな、

後はアイツに任せるか。

 

「秋良、任せたぜ。」

 

sideout

 

side秋良

兄さんが福音を海面に叩き付けるのを確認し、

俺は一気に加速し、海中に潜る。

 

もう恐怖なんてない、後は俺らしい戦いを見せつけるだけだ。

 

「さあ福音、さっきまでの借りを返してあげるよ。」

福音の兵装に実弾兵装は搭載されていない、

それに水中では光学兵器は拡散し、攻撃力は皆無に等しくなる。

 

そして、今の俺はシールドストライカーに装備されているビームサーベル以外、

全ての兵装が実体兵装であるため、海中での戦闘にも全く影響は無い。

 

「さあ福音、終わらせてあげるよ、俺は君を救う。」

 

ウィングソーを引き抜き、両手に持ち構える。

 

ウィングソーは一度触れた相手の装甲強度を記憶し、

それに適した切れ味を産み出す事が出来る。

 

まあ、触れた事の無い装甲には切れ味が落ちるんだけどさ、

それでも、実体兵器としてはI.W.S.P.の対艦刀とほぼ同じ位の性能を誇る。

 

二刀流の要領で構え、俺は福音に殺気を送る。

 

それに反応したのか、福音が俺の方に突進してくる。

 

憐れ、君は篠ノ之 束のせいで自由をうばわれた。

そして、例え解放されたとしても、君を待ち受けるのは拘束される未来だけ。

 

だけど、それでも、君の魂をこれ以上苦しめたくはない。

 

「ハアァァァァッ!!」

 

俺は突き出される腕を回避し、

俺はウィングソーを交錯させ、福音の胴体を斬りつけた。

 

「振動数最大値!!」

 

振動数を上げることでウィングソーはよりその切れ味を増す。

 

つまり、コンクリート並みの強度の装甲に対し、

ダイヤモンド並みの強度の装甲を切断する際の振動数で斬りつければ、

自ずと余剰振動が威力となり、与えるダメージも増加する。

 

そして、絶対防御も必ず発動し一気にエネルギーを奪える!!

所謂、零落白夜と同じ性質だ!!

 

「その呪縛!!この俺が絶ち斬ってやる!!」

 

ウィングソーを完全に振り抜き、福音の背後に回り込んでもう一閃。

 

完全にエネルギーを奪い切った筈だ・・・。

 

そう思い振り向くと、ISが強制解除された福音のパイロットが沈んで行く所だった。

 

って不味い!!

 

直ぐ様救助に向かおうとしたが、

それより早く、蒼い影とオレンジ色の影が福音のパイロットを担ぎ上げ、

浮上して行った・・・。

 

あれは・・・、ブルー・ティアーズとリヴァイヴ、

セシリアとシャルロットがやってくれたみたいだ。

 

『作戦完了、全機帰還する。』

 

通信で兄さんからの作戦終了の言葉を受け、

俺はやっと落ち着く事が出来た・・・。

 

sideout

 

side一夏

「作戦完了!!と言いたい所だが、お前達は重大な違反を犯した。」

 

福音を撃破し、旅館に戻ってきた俺達を出迎えたのは、

駄姉による叱責だった。

 

こりゃ面倒だわ。

 

俺も何も言わずに飛び出して来たから、

言い逃れは出来んな。

 

だが、何もしなかった大人に、

とやかく言われる筋合いは無い。

 

「うるせぇぞ駄姉、俺達は命令通り福音を倒した。

何か文句があるか?」

 

「いえ!ありません!」

「分かってくれて嬉しいぜ姉さん?」

 

俺の笑顔での問い掛けに、

駄姉は直ぐに敬礼をして、先程の違反云々を取り消す。

 

だが、決して『ふざけた事ぬかしてんじゃねぇぞこの駄姉、

今すぐ撤回しねぇと一生織斑教諭呼ばわりするぞ?』的なオーラは出してねぇからな?

 

そして飴も与えておく辺り、俺も人間出来てるな。

 

「え、え~っと・・・、皆さん怪我されてますし、

早く旅館の中に入って手当てをしてください。」

 

山田先生の呼び掛けに、俺を除いた全員が旅館に入っていく。

 

さてさて、俺は取り敢えず、福音の仇討ちに行くとするかね・・・。

 

地べたに突っ伏し、

『私これじゃあ威厳無くね?弟に駄姉呼ばわりされて、尚且つ脅されて、

それでいて嫌われているって・・・、私生きてる価値無くね?

生まれ変われるならミジンコになりたい・・・。』

とかなんとか呻いている駄姉を放置し、俺はその場を去った。

 

sideout

 

noside

「う~ん、紅椿の稼働率は30%かぁ・・・、

予想より低いなぁ・・・。」

 

岬の先端にある手摺に乗っかり、

束は詰まらなさそうに呟いた。

 

紅椿は今回、まともに活躍出来なかった事もあり、

稼働率は低いまま終了した。

 

「まあ、いっくん達の機体のデータもそれなりに取れたし、

今日はこれで良いかな?」

 

その手には福音を圧倒する一夏のストライクノワールと、

秋良のゲイルストライクが映っていた。

 

「噂に名高いバックパック換装は見れなかったけど、

充分良いものが見れたよ。

束さんでも開発出来なかったビーム兵器を積んでるし、

この機体は間違いなくリミッターを掛けてるね、

それでも紅椿を凌駕するなんて・・・、なんで・・・?」

 

「それをアンタが知る必要は無い。」

 

思案し続ける束の背後に、

右腕だけストライクEを展開し、

ビームライフルショーティーを構える一夏が現れた。

 

「よう束サン、元気そうで何よりだ。」

「やぁいっくん、今晩わ。」

 

あからさまな殺気を向けられても、

束は平然と語り続ける。

 

「ねぇねぇいっくん、私が送った白式はどうなったのかな?

なんでそんな機体を使ってるのかな?」

 

「さあな、ただ、一つ言える事がある、

俺はその白式とやらより、コイツの方が好きなんでな。」

 

束の問い掛けに、殺気はそのままに肩を竦め答えるが、

一夏とて何故白式が届かなかったかは知らない。

 

「さて、悠長に話している暇は無いんでな、

単刀直入に聞こう、十年前白騎士事件、

そして今回の福音暴走事件を引き起こしたのはアンタだな。」

 

問い掛けではない、そうだと断定するような言い方だった。

 

「どうしてそう思うのかな?」

「簡単な事だ、アンタのアホさ加減を見ていたら分かるさ。」

 

人を嘲笑うかの様な一夏の言葉に、

束の肩が一瞬震える。

 

振り向いた訳では無いが、一夏は彼女がいつも浮かべている笑みを消し、

不機嫌そうな顔になったことを察知し、浮かべていた笑みを更に深くする。

 

「まず白騎士事件から語ろう、アンタはISを世に広げる為に、

いや、違うな、自分の力を世界に見せつけるために、駄姉を唆し、白騎士を纏わせ、

自分はハッキングを行ったんだよ。」

 

「・・・、それと今回の事件、何の関わりがあるのかな?」

 

「全く同じさ、自分の造った紅椿、第四世代機を操った妹に、

暴走した機体を鎮圧させ、アイツを英雄にさせる為だったんだろ?

簡単な事だ、アンタの考える悪企みなんざな。」

 

一夏は淡々と自分の推理を束に語る。

 

確証は無い。

しかし、目の前にいる天災なら必ずやるだろうと一夏は考えている。

 

暫くの間、二人の間に沈黙が続いた。

 

束は何も言わない、そして、一夏も何も言わない。

 

「ねぇいっくん、今の世界は楽しい?」

 

唐突に束が口を開いた。

その言葉が何を意味をするのかは分からない、

だが、一夏の答えは決まっていた。

 

「楽しいねぇ、こうやってアンタを殺せそうなんだからよ。」

一夏はニヤリと口許を三日月型に吊り上げ、

ビームライフルショーティーのトリガーを引く。

 

緑色の光条が銃口から吐き出され、

束に向け迫る。

 

だが・・・。

 

「束様!!」

 

突如割り込んだ黒い影に阻まれた。

 

「チッ、邪魔をするな小娘、

今コイツを殺しとかねぇと後々苦労すんだよ。」

「それは出来ません!」

「退け。」

 

一夏が少女の後ろを見ると、

既に束はその場所には居なかった。

 

「チッ、邪魔しやがって、面倒を幾つか消せたのによ、

さて、落とし前をつけて貰おうか?くー?」

 

「なっ!?何故私の名を・・・!?」

 

一夏の言葉に、くーと呼ばれた少女は動揺する。

 

だが、その隙は一夏を前にする際には只の自殺だ。

 

「これから死ぬ奴が知る必要はねぇ。」

くーに近付き、フラガラッハ3ビームブレイドを振り抜く。

 

それに反応するがあまりの速さに回避しきれず、

右腕を切り落とされる。

 

「アァァァァッ!!」

 

右腕を切り落とされた激痛に、

くーは喉が張り裂けんばかりの絶叫をあげる。

 

「おいおい、この程度で叫んでいたら、

後々堪えきれんぞ?」

「ッ!?」

 

ビーム刃を切り、血が付いた刃を舐め、

笑う一夏を見たくーはゾッとした。

 

(な、なんなのですか!?何故そんな愉しそうな顔を!?)

そして、恐怖した。

 

このままこの男と対峙し続けてはならないと、

本能が警鐘を鳴らしている。

 

「ッ・・・!!」

 

くーは残った左腕でスモーク弾を発射し煙幕を張り、

それに紛れ逃亡した。

 

「・・・、逃げたか、まあ良い、福音の仇はこの程度で良いだろう。」

 

一夏は笑みを治め、ストライクEを待機形態に戻す。

 

その待機形態はこれまでのチョーカーではなく、

どこか首輪を連想させる物に成っていた。

 

「良いねぇ、俺にはこれが似合うな。」

 

彼はそんな独白を残し、

旅館の方へと戻っていった。

 

sideout

 

sideシャルロット

「ねぇねぇ!福音の暴走の原因って結局なんだったの?」

「戦ってる時怖くなかった~?」

 

僕らが遅めの夕食・・・、

と言うより、日付が変わっちゃってたから朝食になったんだけど、

食事をしていると、クラスの子達が僕達に詰め寄ってくる。

 

好奇心は猫を殺すとか言われてるらしいけど、

確かにその通りだよね?

 

なんせ話したら僕達にまで被害が来るからね・・・。

さて、どうやってお取り引き願おうかな?

 

そう思っていると、何故か僕の右隣から凄い殺気がしてきた。

 

思わずお刺身を落としそうになっちゃったよ。

 

「煩い、静かに飯を喰わせてくれ。」

 

表情こそ無いけど、

その分発散されるプレッシャーが際立ってる。

 

もう慣れたけど、流石に気分は・・・、

・・・、最高だね。

 

一夏のプレッシャーは心地いいんだよね、何でか知らないけどさ。

 

「ご、御免なさい~!!」

「失礼しました~!!」

 

一夏の荒荒しさは皆の知る所だからね、

流石に楯突く気にはならないだろうね。

 

「まったく・・・、飯の時以外に聞きに来いよ。」

「うん、飯の時以外でも教えちゃダメだからね兄さん?」

 

一夏がプレッシャーを消し、呆れた様に呟き、

それに秋良がツッコんでいた。

 

何だかやっと何時もの調子に戻れた気がするよ、

本当に色々合ったしね。

 

「さて、悠長に飯喰ってる場合じゃねぇな、

駄姉に呼び出されてんだ。」

「そう言えばそうだったね、あー、めんどくさい・・・。」

 

一夏と秋良・・・、

凄くめんどくさそうだね・・・。

 

いや、まあ気分が良いものじゃ無いけどさ。

 

「秋良、私達は先に海の方に行ってるね?」

「あ、うん、分かったよ。」

 

簪が秋良に話し掛けていた。

あんな戦闘の後なのに、よく泳ごうって気になるね・・・。

 

僕は部屋に居たいなぁ・・・。

 

「元気なこった、俺は部屋で寝る。」

「一夏様となら何処へでも。」

「僕もだよ。」

 

一夏が寝る時は、僕とセシリアが両隣で一緒に眠りたいや。

 

最近はそうじゃないと眠れなくなってきちゃったし・・・。

 

「セシリア、シャル、俺の部屋に先に行ってて良いぞ、

時間がかかるかも知れないからな。」

「はいっ!」

「うんっ!」

 

やった♪

事実上のOK貰っちゃった♪

 

まあ、でもゆっくりご飯食べたいし、

後でゆっくりと行こうかな?

 

僕達は一夏と秋良を見送り、

再び食事に戻った。

 

sideout

 

side一夏

駄姉に呼び出された俺と秋良は、

俺達の部屋の真隣に位置する教諭室にやって来た。

 

やれやれ、めんどくさい限りだ。

何の用かは知らんが、さっさと終わらせたい。

 

「失礼するぞ織斑先生?」

一応、教師からのお呼び出しということなので、

駄姉ではなく、先生呼ばわりである。

 

「・・・。」

「「ん?」」

 

織斑先生が差し出して来たのは何やら文字が書かれた紙だった。

 

どれどれ?

『ISを起動して盗聴器を全て探せ。』とな?

 

なるほど、事情聴取ね。

それもかなり深いものの。

 

俺と秋良は無言で頷き、

ヘッドアーマーだけを展開し盗聴器探索を開始する。

 

壺の中、机の下、掛け軸の裏の壁、

他にも有ったが、ここは割愛させて頂く。

 

「こんなもんか?」

「反応は無いよ、潰しとこうか。」

 

秋良の問いと同時に、

俺は盗聴器を全て握り潰した。

 

「これで終わったぞ織斑先生?」

「うむ、ご苦労。」

 

俺はISを解除し、

取り敢えず織斑先生と向かい合う様に座る。

 

「さてと、何の用だ?

俺と秋良を同時に呼び出すんだ、相当めんどくさい話なんだろ?」

「・・・。」

 

ッたく、何か言いやがれってんだ、

こちとら眠くて仕方が無いんだ。

 

俺はお茶を淹れると断りをいれ、

茶葉を用意し、急須に入れる。

 

緑茶の香りが辺りを包む。

 

三人分のお茶を用意し、

俺は秋良と織斑先生に配った。

 

「一夏、秋良、お前達は、私に何を隠している?」

「「・・・。」」

 

なるほど、遂に違和感を覚えたか・・・。

そろそろ、話して良いかもな・・・。

 

「織斑マドカ・・・。」

「!?」

 

俺が呟いた言葉に、

駄姉が驚愕の表情を浮かべる。

 

「アンタにだって俺達に黙っている事もあるだろ?」

「・・・、あぁ・・・。」

 

認めるだけまだマシだな。

ま、俺達もそろそろ化けの皮を剥がす時だな。

 

「秋良、アイツらをここに集めろ。」

「あいよー、そんじゃちょっと待っててね。」

 

秋良も同じ事を考えていたのか、

嫌な顔一つせず、部屋から出ていった。

 

「駄姉、いや、千冬、俺達の真実を語ろう。」

 

sideout




はいどーもです。

言うことも無いので、次回予告
自分達に関わる者達を集めた一夏と秋良は、
遂に己の真実を語る。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
明かされる秘密

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

明かされる秘密

side一夏

さてと、今日で過去との決別が出来るのだろうか・・・?

 

俺の心にはまだ零士としての感情が残っている。

悪いとは思わない、だが、これから俺が織斑一夏で在るためには邪魔でしかない。

 

それをキレイサッパリ捨てないと、俺は女神から承った命を遂行出来ない。

だから、俺は俺で在るために、嘗ての自分を棄てる。

 

暫く待っていると、秋良がセシリア達を連れて戻ってきた。

 

「呼び出して悪いな、お前達に話しておかなければならないことがある。」

「いえ、構いませんが、一体何を?」

 

セシリアが一同を代表し、

俺に話の内容を尋ねてくる。

 

「重要な話さ、俺と秋良の真実、

そして、お前達の今後を左右する程にな・・・。」

 

俺の言葉に、部屋の空気が一気に変わる。

動揺、怪訝、様々な感情が伝わってくる。

 

「覚悟は良いか?

この話を聞けばもう何も知らずには居られない。

そして、これから起きる戦いから逃れられなくなる。」

 

『・・・!』

俺と秋良が発する雰囲気に、

全員が固唾を呑み込む。

 

ここに来た以上、

いや、俺達に関わっている以上、

知ってもらわなければならない。

 

「(覚悟は良いな、秋良?)」

「(当然だよ、流石に黙ったままは辛いからね。)」

 

秋良とアイコンタクトを交わし、

俺は一度息を吐く。

 

「これから話す事に、何も言わず聞いてくれ。」

「信じるか信じないかは、皆の裁量に任せるよ。」

 

俺と秋良の言葉に、全員が無言で頷き、

話を聞く体勢を取る。

 

さて、何処から話そうか・・・。

 

「こんなことを言っても信じないだろうが、

俺と秋良は一度、死んでいる。」

 

『・・・!?』

駄姉も含め、全員が目を見開く。

 

「今から15年前、いや、もっと前かも知れないが、

俺と秋良はこの世界ではない、別の世界の住人だった。」

「その世界は11年前までの世界と同じだった、

大国主義の世界だったけど、今の世界より随分マシな世界だった。」

 

俺は事実だけを話すように語り、

秋良は何処か懐かしむ様に語る。

 

「その世界で、俺達はしがない普通の学生だった、

だが、ある時、俺はトラックに轢かれそうになった子供を助ける為に。」

「俺は海で溺れていた子供を助ける為に命を落としたんだ。」

 

「普通なら、そこで死んで終わりだが、

俺達は謎の空間へと連れて行かれた。」

「そこで俺は兄さんと初めて出会い、意気投合してた所に、

女神と自称する人に新しい命を授けられてここに居る。」

 

この能力と機体の事は伏せて話すコイツの舌も、

なかなか侮れんな。

 

「ま、大まかな事はこんな感じだ。」

「ははっ、怪しいでしょ?」

 

俺は肩を竦め、秋良は自嘲する様に笑う。

 

ま、この程度で信じて貰うには無茶と言うべきだな、

こちらが見せて良い手札の中から言葉を選ぶ必要があるな。

 

「何か聞きたい事は無いか?」

「このままじゃ信じるにも信じられないも判断出来ないでしょ?」

 

俺と秋良が呼び掛けると、

簪がおずおずと手を挙げた。

 

「おう、簪、何かな?」

「一夏達の話を鵜呑みにするなら、

どうしてこの世界になったの?」

 

あ、そう言えばその辺りを説明してなかったな。

どういう風に説明しますかね?

 

「なら逆に質問しよう、

簪、お前が愛読しているラノベの世界が有るとしよう、

その世界に行きたいとは思わないか?」

「それは・・・。」

 

簪が思案するような表情をし、黙りこんでしまう。

 

まあ、いきなり言われても難しいわな。

「!?ちょっと待ってください!!」

「どうしたラウラ?」

 

何かに思い至った様な顔をし、

ラウラが声をあげる。

 

「兄貴は先程ラノベ、小説の世界へと言いました!

と言うことは・・・!?」

「流石だなラウラ、その通りだ、

この世界も、元々は小説の中の世界だ。」

 

流石は俺の妹分、頭の回りも中々の速さだ。

誉めてやるぜ。

 

「残酷な言い方だろうが、この世界は小説家が書いた世界に行きたいと願った俺達の心を読んだ神が作った世界だ。」

「だから、俺と兄さんはISの使い方を大体理解している、

どういう風に動くかもね。」

 

何も言えないのか、

全員が押し黙ってしまっている。

 

「だが、幾つか分からない事がある・・・、

どうもこの世界が小説そのままと言う訳では無くなっている。」

「どういうことですか?」

 

俺の言葉に、ラウラが尋ねてくる、

ここから先は俺達にも推測の領域でしかない。

 

「まず一つ、お前達の性格だ。

あまりにも違い過ぎたから、本当に望んだ世界と同じか疑ったぜ。」

「二つ目、簪の登場時期と専用機だね、

本来、俺もしくは兄さんとかち合うのは10月、

その上、一夏の機体開発の煽りを受けて機体が製作途中で投げ出されていた。」

「他にも色々有るんだが、多すぎで列挙に暇が無い。」

 

全部挙げたら確実にキリがないからな。

ここいらで止めとくのが一番だ。

 

「ま、こんなこと言っても、詭弁だと思われかねないのは分かってるよ。」

秋良が半分信じてもらうのを諦めたのか、

苦笑しながら肩を竦めた。

 

だが、疑心暗鬼を抱かれたままでは、

ここから先の戦いで確実にボロが出る。

 

それだけは避けたい所だ、

何せ、仲間を喪う事ほどの苦痛は無いからな。

 

「だが、俺は織斑先生だけが知っていて、

お前達に知らされていない事実も知っているぜ?」

 

そろそろ、ジョーカーをきるとするかな?

 

「亡國企業、これが俺達が相手どる事になる敵だ、

コイツらは、各国のISを強奪している、例えば・・・、

アメリカ軍、アラクネ、そして、イギリス、ブルー・ティアーズ系二号機、

サイレント・ゼフィルス等が既に奪われている。」

「そんなっ!?」

 

サイレント・ゼフィルスの件でセシリアが驚愕の表情を見せていた。

 

「言っておくが、俺はセシリアから、サイレント・ゼフィルスの情報を聞き出したりはしていない、そうだろうセシリア、シャル?」

 

俺が確認の為にセシリアとシャルに問うと、

全員が彼女達に注目する。

 

「はい、私はその情報を一夏様にお話した事はございません、

聞かれなかった事もありますが、やはり自分の鍛練を第一にしておりますし・・・。」

 

「今のセシリアの言葉に嘘は無いよ、

だって、何時も一緒にいる僕も聞いたこと無いもの。」

 

セシリアには確認の為に、

シャルにはセシリアの発言の信憑性を高める為に発言してもらった。

 

「信じて貰えたか?俺達はこの世界で生きる為に色々やってきた。」

「不用意に世界を乱さない様に、かなり気をつけてきたよ。」

 

ま、そろそろ俺は完全に織斑一夏になるだろうがな。

 

そんな時、駄姉が口を開いた。

「・・・、何故今まで黙っていたんだ・・・!?

何故私に話してくれなかったのだ!?

私達は姉弟だろう!?何故なんだ!?」

 

確かに、今まで言わなかったのは俺の判断だ、

それが駄姉には嘘を吐かれている様に感じたんだろう。

 

だが・・・。

 

「そうだな、俺達は姉弟だ、

だが、それだけだ、同志でも何でもない、

アンタだって俺達に黙っている事も沢山ある、

俺達が知らないと思っている方が間違いなんだよ。」

 

「・・・!」

「兄さん!」

 

駄姉が絶句し、秋良が何か喰ってかかるが、

俺は気にも留めない。

 

「自分の秘密をベラベラ喋る様な人間を、

俺は信用しない、ただそれだけの事さ。」

 

話はこれ迄だな・・・。

最早語る事は無い。

 

そう思って、俺は部屋を出た。

 

sideout

 

side秋良

兄さんが出ていった後、

部屋の空気は凄まじく悪くなった。

 

仕方無いとは言え、

流石に言い過ぎだよ兄さん・・・。

 

セシリアとシャルロットは互いに顔を見合わせた後、

兄さんを追って部屋を出ていった。

 

姉さんは凄く落ち込んでるけど、

慰めとかは得意じゃ無いから放っておこう。

 

取り敢えず俺も部屋を出て、

一昨日、兄さんと卓球をした所にある自販機までやって来た。

 

別段、喉が渇いたとかじゃないけど、

無性に何かを飲みたくなったんだ。

 

テキトーにボタンを押してみると、

出てきたのはサイダーだった。

 

プルタブを引き、飲み口を開けて一気飲みの如く口に入れていく。

 

普段はこんなことしないけど、何故かそうしたかったんだ。

 

らしくない、けど、何故だか分からない。

 

半分位まで飲み干し、息を吐く。

 

何でだろう、凄くモヤモヤする、

 

「秋良。」

 

呼び掛けられた声に振り向くと、

簪と鈴、そしてラウラと箒がやって来た。

 

「やあ、どうしたんだい皆揃って?」

「簪達がお前と話をしたそうだったんでな、

一緒に着いてきただけだ。」

 

箒って、なんだかオカンに見えるよ、

腐女子だけど。

 

「何か失礼な事を考えていただろうが、

取り敢えず聞かないでおこう。」

 

何故だ、何故か思考を読まれた・・・。

 

「あー、それで何を話そうか?」

『・・・。』

 

箒は俺達から少し離れた所に立ち、

俺達を見守る様にしている。

 

「秋良は、どうして黙っていたの?」

簪が何か躊躇いを振り払うかの様に、

俺に尋ねてくる。

 

「・・・。」

かーっ・・・、面と向かって言われたらなんて答えて良いか・・・、

全然分からないなぁ・・・。

 

どうするべきか・・・。

 

「俺は・・・、俺は・・・。」

 

そうか・・・、今漸く分かった・・・。

 

俺は、恐れていたんだ・・・。

真実を明かす事で、孤独に苛まれる事を・・・。

 

「俺は・・・、恐かったのかもね・・・。

この事を話す事で、孤独になるのがね・・・。」

『・・・。』

 

「そう・・・、俺は、孤独なんだよ。

一度全て失った・・・、友も、家族も、全部・・・。」

 

ゼロからのスタートだった、

新しい命を与えられ、新しい家族を与えられても、

兄さんとは所詮、他人だった・・・。

 

一緒に過ごした事だけが真実なら、

それ以外は偽りになってしまうから・・・。

 

「だから、もう二度と失いたくなかったんだ・・・、

ははっ、笑っちゃうでしょ?恐れるなと言った俺が恐れてるんだ。」

 

さあ・・・、言いたい事は全て言った、

後は彼女達が判断すれば良いさ・・・。

 

「秋良は、私達を気にかけてくれた事も、

物語の進行の為に、必要だったから気にかけてくれたの?」

簪が何かを決心したかの様に尋ねてくる。

 

鈴も、ラウラも何かを言いたそうだ。

 

簪の言う通り、さっきの話し方じゃあ、

物語の進行の為と捉えられても仕方無いかもしれない・・・。

 

けど・・・。

 

「違う!!今更信じて貰えるなんか思ってないけど、

君達に構ったのは、俺の心がそうしたいと思ったからだ!!」

 

今の俺の言葉に嘘偽りは無い!!

これが俺の心だ!!

 

「それが聞きたかった・・・。」

簪が微笑み、ラウラは呆れたように笑い、

鈴は・・・、何時も通り頭の上に?を浮かべていた。

 

「それで良いの、秋良、

私の心は秋良に救われたから、貴方の心が本当なら、

私は貴方を信じる。」

 

「私は秋良と兄貴に闇を払って貰った身だ、

その心の強さ、立ち振舞い、全てが信頼できる。」

 

「それは私もだ、力は相手を傷つける物だと思い込んでいた私に、

光明を諭してくれたのは、他でもないお前達だ、信頼できない訳がないではないか。」

 

簪も、ラウラも、そして、箒に鈴も、

俺の、いや、俺と兄さんの事を信じてくれている、

それが伝わってくる。

 

俺は、それが嬉しかった・・・。

「皆・・・、ありがとう・・・。」

 

sideout

 

noside

「どこに行かれたのでしょうか・・・?」

「さあ・・・?完全に見失っちゃったね。」

 

秋良が簪達と話している頃、

旅館の外の海岸では、

セシリアとシャルロットが一度を探し続けていた。

 

二人は一夏が教諭室を出て、

少ししてから後を追った為、完全に彼を見失っていた。

 

「やはり・・・、一夏様はニンジャですわ、

これ程探しても見つからないんですもの。」

「う~ん・・・、あながち間違いじゃないかもね・・・。」

そんな会話を交わしつつ、

二人はゆっくりと海岸を歩いていく。

 

因みに二人とも水着に着替えており、

一夏が海に入っていても、一緒にいれる様にしている。

 

「それにしてもセシリアってやっぱりスタイル良いよね、羨ましいよ。」

 

「何を仰いますか、シャルさんの健康的なスタイルには勝てませんわ。」

 

二人は互いの体型を誉めつつも、

一夏を探し続ける。

 

だがその時・・・。

 

「お前達二人の身体は最高だ、どっちが良いかなんてねぇよ。」

海の方から一夏の声がし、

二人はそちらに目を向ける。

 

視線の先には、浮き輪らしき物に寝そべり、

ぷかぷかと漂っている一夏の姿があった。

 

「そこにおられましたか。」

「探しちゃったよ、一夏。」

「ふっ、悪いな二人とも。」

 

一夏を見つけた二人は、彼の下に行こうと海に入る。

 

「ひゃっ!?」

「冷たい!!」

水の冷たさに、二人は揃って声をあげてしまう。

 

如何に夏とは言え、

まだ日も昇っていない内はまだ水は冷たいのである。

 

「ははは、お前達には少し冷たかったか?

俺はこれぐらいの方がリラックス出来て良いんだ。」

 

一夏は浮き輪から降り、

泳いで二人の下に行く。

 

「二人してどうしたんだ・・・?

・・・、いや、俺に言いたいことがあるだろ?」

 

海から浜に上がり、一夏は何時も浮かべている笑みを消し、

二人に問いかける。

 

彼のそんな様子に、

セシリアとシャルロットは彼の後ろに闇を見た気がした。

 

「・・・、一夏様は・・・、

何故私達を選んで下さったのですか?」

 

ふと、セシリアが一夏に尋ねた。

 

一夏がそれを受け、シャルロットの方を見ると、

彼女もその答えを知りたがっていた。

 

「今更言っても眉唾物だろうが、

俺はお前達に心惹かれたんだ、それだけは嘘ではない。」

 

一夏は静かに、だがそれでも力のある言葉を二人に語りかける。

 

「信じるか信じないかはお前達の自由だ、

だが、俺はお前達を想っている事だけは理解してほしい。」

 

一夏は真剣な眼差しを二人に語り向ける、

彼とて恐れが無い訳ではない、寧ろ、今まで襲われた事がないほどの不安に襲われる。

 

三人の間に暫くの沈黙が横たわる。

一夏は何も言わない、セシリアとシャルロットも何も言わない。

 

どれ程の時間が過ぎただろうか、

不意にセシリアが口を開く。

 

「私は、一夏様を信じています!

私の闇を消して下さったのは、一夏様ですわ!」

 

「僕も、僕も信じてる!

一夏が何だって構わない!僕は僕を助けてくれた一夏を信じる!!」

 

セシリアの後に続き、

シャルロットも言葉を発する。

 

「信じてくれて有り難う、だが・・・。」

 

一夏は柔らかい笑みを見せるが、

再び笑みを消す。

 

「誰にも話していない秘密がある、

駄姉にも、そして、秋良にも語っていない物がな・・・。」

一夏の笑みが深く、より自嘲に近い表情になる。

 

その雰囲気を察したセシリアとシャルロットは、

一様に表情を固くし、一夏の次の言葉を待った。

 

「福音にやられた俺は、精神世界で女神にこう言われた、

それは――」

 

ーザザァァン!!――

 

一際大きな波音が響き、一夏の言葉を掻き消した。

 

だが、二人にはしっかりと聞こえた様だ。

 

「そん・・・な・・・。」

「なんで・・・、なんで・・・。」

 

二人は喘ぐ様に口を動かすが、

上手く言葉が出て来ない。

 

そんな二人の様子を見て、

一夏は何処か哀愁の様な色をその笑みの中に浮かべる。

 

「俺はそんな理不尽を受け入れることにした、

俺はそれで良いんだよ、俺は俺のままこの任務を行うから、

お前達にまで苦難を強いる気はない。

今、この事を話したのは、俺がお前達を信じているからだ。」

 

彼とて、いくら自分の女とは言えど、

光の世界に戻れた者を、再び闇に引き摺り戻す事には躊躇いがあるのだ。

 

「一夏は・・・、一夏はそれで良いの・・・?」

シャルロットが震えた声で一夏に問い掛ける。

 

「良いも悪いもないさ、俺は恩に報いる、

お前達に逢わせてくれた女神にな。」

 

一夏は自嘲の度合いを深め、肩を竦める。

 

何時もと変わらない、だが、

何処か哀しげだった。

 

そんな中・・・。

「私に、手伝わせてくださいまし!」

「セシリア・・・!?お前、何を・・・!?」

 

セシリアの申し出に、

一夏は驚いた表情になる。

 

「僕も手伝うよ!」

「なっ!?シャルまで何を言ってる!?」

「一夏ばっかり傷付いて!!僕達だけが無事何て絶対嫌だ!!」

「ッ!!」

 

シャルロットも一夏に言い出し、

自分の気持ちをぶつける。

 

彼女達にとって一夏は、

光よりも何よりも眩しい存在。

 

彼が自ら汚れを被ると宣言した今、

彼女達に見て見ぬ振りは出来ない。

 

「たとえ罪を被ろうとも、一夏様の隣にいたいのです!!」

「一夏の為なら、僕は罪も汚れも、そして痛みも全部受ける!!」

 

二人は一夏に自分の覚悟、そして、

想いをぶつける。

 

「良いのか?もう戻れないぞ・・・?」

 

一夏は二人に確認をとる様に尋ねる。

 

一夏と歩むと決めれば、間違いなく闇が待ち受けている。

 

「愚問ですわ。」

「僕達にとっておきをいの一番に見せるって言ったのは誰かな?」

 

二人の覚悟の籠った言葉に、一夏は何も言えなかった。

 

その様子は、迷い、躊躇いを捨て去るように見えた。

 

「分かった、そこまでの覚悟が在るなら、

輪廻の果てまで俺の隣に立っていろ、離れることも、逃れることも赦さん、

お前達の魂はこの俺が縛りつけてやる。」

 

一夏は三日月型に口許を歪め、

二人に高らかに宣言する。

 

「はい、永久に貴方様の隣に。」

「立ち続ける事を。」

「「誓います。」」

 

二人は先程までの真剣な表情を、

愛する男を慈しむ様な表情に変える。

 

 

「ですから、私達にも。」

「手伝わせてね?」

「分かった、これでごねたら後が怖そうだ。」

 

一夏は肩を竦め、二人の覚悟を受け入れた。

 

(協力するのは良い、だが、お前達はこの俺が必ず護る。)

 

新たな決意の下、彼らは歩み始める。

この夜明けから、全ては始まる・・・。

 

sideout

 

side一夏

セシリアとシャルと文字通りの永久の誓いをたてた翌朝、

俺達はIS学園に戻るべく、準備を始めていた。

 

荷物の搬入も終え、俺は自販機で二、三本のペットボトル飲料を買っておいた。

喉が渇くといけないからな。

 

バスに戻る途中、青いカジュアルスーツを着込んだ金髪女性が俺の前にやって来た。

 

「君が織斑君?」

「まあそうですが、貴女は?」

「私はナターシャ・ファイルス、福音のパイロットよ。」

 

ふーん、前世で見た挿絵より美人じゃねぇか。

スタイルも抜群、髪も綺麗だ。

 

だけど俺の守備範囲外だな、

この人はどちらかと言えば姉系だからな。

 

「はあ、もう動いていいんですか?」

「ええ、大丈夫よ、打撲が酷いだけだから。」

 

・・・、それ完全に俺のせいだ・・・。

超加速で海に叩きつけたんだし・・・。

 

「そうですか・・・、まあお大事にしか言えません、

そろそろ出発なので失礼します。」

「ええ、引き留めてごめんなさいね?攻撃手さん。」

 

俺はナターシャさんと握手を交わし、

バスへと戻った。

 

「さてと、戻りますかね。」

あの人とはまた会う気がするな、

まあ、それは運命が決めてくれるさ。

 

こうして、波乱に満ちた臨海学校は終わりを告げ、

舞台は再びIS学園へと戻る。

 

新たな戦いの予感を感じながら、

俺は密かに笑った・・・。

 

sideout




はいどーもです!

ちょっとこじつけな説明だったとは思いますが、
一応説明出来ました。

それでは次回予告
臨海学校から戻った一夏は、
生徒会長として理事長から呼び出される。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
任務

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

任務

noside

臨海学校から戻った翌日、

一夏は理事長からの直々の呼び出しを受けていた。

 

「休みだってのになんだよ・・・、めんどくさい限りだ・・・。」

一夏はボヤきながらも理事長室に向かって歩いていた。

 

「仕方ありませんわ。」

「そうそう、一夏は会長だからね。」

 

彼の隣を歩いているセシリアとシャルロットがしょうがないと言うが、

それでも一夏の気は晴れない。

 

「まあ良いさ、さっさと済ませてカフェに行こう、

ここ数日、甘い物を喰えて無いんだ。」

「はい♪」

「うん♪」

 

彼にとって、甘い物は活力源なのであり、

臨海学校の最中は満足に糖分を摂取出来なかったのだ。

 

よって、今日はその分を取り返すべく、

セシリアとシャルロットを誘って一緒に甘い物を食べる約束をしているのである。

 

「さてと、着いたぞ。」

 

歩いている内に、三人は理事長室の前に辿り着いた。

 

「分かっているとは思うが、くれぐれも粗相が無いようにな。」

「はい。」

「勿論だよ。」

 

二人が頷いたのを確認し、

一夏は部屋の扉をノックする。

 

『どうぞ。』

 

中からの返事を聞き、

一夏はドアノブを回して扉を開き、

部屋の中に入る。

 

「失礼します。第2生徒会長織斑一夏、入ります。」

「第2生徒会役員、セシリア・オルコット、入りますわ。」

「同じく第2生徒会役員、シャルロット・デュノア、入ります。」

 

一夏に続き、セシリアとシャルロットも理事長室に入る。

 

広々とした部屋の中央には向かい合わせになったソファーと、

部屋の最奥にある執務机に座する好好爺が目に写った。

 

「ご苦労様です、ささ、そこにかけてください。」

「それでは失礼します。」

 

ソファーへの着席を勧められた一夏達は、

遠慮するのも気が引けたのかソファーに腰掛ける。

 

「私がIS学園の真理事長、轡木十蔵です、

噂はかねがね聞いていますよ、織斑会長?」

 

「ありがとうございます、やはり貴方がそうでしたか、

用務員とは思えない覇気を感じた物ですから。」

 

「ほっほっほっ、それはどうも。」

 

和やかな、だが、どちらも互いを探る様な調子で話す。

 

「ところで、私を今日ここに呼んだ理由はなんですか?」

 

一夏が笑みを消し、

事の本題を尋ねる。

 

「ほっほっほっ、やはり君の願いを叶えて正解ですね。」

 

一夏の質問に、十蔵は更に笑みを深くした。

 

「実は君に頼みたい事があります、

話は彼女から聞いてください。」

 

十蔵はそう言って扉の方を指し、誰かに入室を許可する。

一夏達が扉の方を向くと、茶髪を背中で三つ編みにしている眼鏡の少女が入ってきた。

 

「失礼します。第1生徒会書記、布仏虚です、

呼び出して申し訳ありません、織斑第2生徒会長。」

 

「初めまして、織斑一夏です、

布仏虚・・・、対暗部用暗部組織、更識家当主、更識楯無の側近である貴女が、

この俺に何の用事でしょうか?」

 

頭を下げる虚を見た一夏は、

自分も立ち上がらないのは失礼だと判断し、

ソファーから立ち上がり、虚に一礼する。

 

「!?・・・、よくご存知ですね・・・。」

 

「生徒会長として当然の事ですよ、

それに俺は普通の環境にいませんから、少しでも情報を仕入れませんとね。」

 

虚の動揺に気をよくしたのか、

一夏は深い笑みを浮かべ、あること無いことを話す。

 

「とまあ、こんな雑談は置いときまして、

俺を呼び出すからには、相当重要な事柄だとお見受けしますが?」

 

一夏は軽い咳払いと共に話題を変える。

 

流石に彼も面倒な事柄に長時間関わりたくないのだ。

 

「・・・、非常に頼みにくい事なのですが・・・。」

「な、なんですか?」

 

虚のじめっとした雰囲気を察し、

一夏の表情がひきつる。

 

あ、ヤバイ、なんか凄くめんどくさそう。

 

という色が丸見えである。

 

「お嬢様の代わりに仕事をしてください!!」

「はあぁッ!!?何言ってんの貴女は!!?」

 

土下座しかねない勢いで頭を下げる虚の言葉に、

一夏は仰天し、一瞬タメ語になってしまう。

 

「あー、えっと、布仏先輩?落ち着いてください。」

 

シャルロットが顔をひきつらせながらも虚を宥める。

 

こう言う時に彼女の性格は存分に活かされる。

 

「理由をお話頂けまして?」

「勿論です、と言うより、貴殿方もご存知の事だと思います。」

 

虚の言葉に、一夏達は思い当たる節がなく、

首を傾げた。

 

「・・・、簪様の「あー、わかりました、ストーカーですね?」そうです。」

 

虚の言葉に被せる様に、

一夏がうんざりした様に話す。

 

「以前まではきちんと仕事をされていたのですが、

簪様がIS学園にご入学されて以来、仕事を放り出されてストーカー行為を行い続けているのです・・・。」

 

虚が頭が痛そうに言い、

それを聞いた一夏も頭を抱える。

 

何やってんだあのアホは・・・、

という空気が理事長室に充満する。

 

「もう私では手の施しようが無いんです・・・、

いくら言っても仕事してくれないし・・・。」

「虚さん、愚痴になってますよ?」

 

虚のじめっとした雰囲気に、

一夏が顔をひきつらせながら言う。

 

「楯無君の有能さは私を始め、業界の人間は周知の事、

ですが、ここまで執務放棄が酷いとなると、代役を充てる以外無くなるのですよ。」

 

十蔵は彼女を信頼していた自分の思慮の浅さを自嘲するように言い、

やれやれといった風に首を横に振る。

 

「つまり、生徒会長を俺一人に絞り、

表の仕事も裏の仕事もさせるつもりですか?」

 

「そうとって頂いて構いません、

実質その通りなのですから、白々しく弁明はしません。」

 

十蔵は目を伏せ、肯定の言葉を発する。

 

「これまで、IS学園への外敵は現れていませんが、

恐らく、一夏君や秋良君を拉致しようとする輩がいるでしょう、

勿論まっすぐ突っ込んで来るだけでは勝ち目はありません、

そこで用いて来るのは・・・。」

 

「スパイとして生徒を送り込んで内部の様子を探らせる・・・、

なるほど、クソジジィがやりそうな手ですね。」

 

十蔵の推測に自分の推測を重ね合わせ、

一夏は軽く悪態をつく。

 

「ええ、貴方に任せたいのはスパイの確保、もしくは殺害、

そして侵入者の消去です、証拠の隠滅は私の方で責任を持ちましょう。」

 

つまり、学園を守る為に敵対者は消せと言っている様な物である。

 

「一つお聞かせ願いたい、もし攻めて来たのが国家の特殊部隊であった場合、

私はどう対処すべきでしょうか?」

 

「先程言った通り、消去してください、IS学園はどの国家にも属さず、

どの国家にも干渉されないという規定があります。

それを破って来るのは彼方です、こちらは正当防衛に他なりません。」

 

「そして、相手は規則を破る行為を行っているため、

こちらの行いを明るみに出せない。もし出しても自分達が不利になる・・・、

という事ですか、上手い事出来ていますね。」

 

一夏は十蔵の言葉に感心し、

自分達の正当性を認識する。

 

「はい、なるべく人目につかない場所での遂行を御願いします、

御引き受けしてくださいませんか?」

 

十蔵が目を伏せ、虚がそれに合わせて一夏に向けて頭を下げる。

 

「・・・。」

 

彼は自身の後ろに立っているセシリアとシャルロットを見る。

 

二人とも彼と目が合うと、微笑んで頷き返した。

その様子は、彼と運命を共にするという覚悟が現れている。。

 

「分かりました、御引き受けしましょう。」

 

一夏は二人の反応を見た後、

十蔵に向き直り、背筋を正す。

 

「織斑一夏第2生徒会長、任務を遂行します。」

 

一夏は一礼した後セシリアとシャルロットを引き連れ、

理事長室から去った。

 

「はははっ!これが俺の運命か!」

 

廊下を歩きながら、一夏は右手で顔を覆いながらも高らかに笑った。

 

愉快、痛快だと言いたげなその表情は、何を物語るのか・・・。

 

「お前達はこれで良いんだな?今更待ったは聞かねぇぜ?」

「愚問ですわよ一夏様。」

「僕達に戻れる道なんて無いんだから。」

 

自身の言葉に、強い意思を以て返してくる二人に、

一夏は口許を愉悦に歪める。

 

「良いぜ、三人で歩いて行こうぜ、血塗られた道をな。」

「はい♪」

「うん♪」

 

一夏の言葉に、セシリアとシャルロットは頷く。

 

彼は満足に頷き、

二人を連れて歩く。

 

sideout

 

side一夏

理事長室から戻った俺達はカフェでデザートを食べた後、

新しく設けられた生徒会にやって来た。

 

「ほぉ、なかなか良い部屋だな、広さも悪くない。」

 

当然と言えばそうか、どうせ書類とかで埋まるんだろうがな。

 

「御苦労様です、織斑生徒会長。」

「虚さん、お疲れ様です。」

 

虚さんがミカン箱に入った大量の書類を担いで持ってきた。

と言うより、なんだこの量は!?

 

「申し訳ありません、楯無会長が今年の四月から溜め込んだ書類です。」

「はぁ!?四月って、絶対期限切れの奴もあるでしょ!?」

 

何やってんだよ、あの残姉さんは・・・。

せめてこれぐらいやれよ・・・。

 

「一応、期限が間近な書類だけを持ってきましたので、

サインとハンコを御願いします。」

「分かりました、セシリア、シャル、手伝ってくれ。」

「分かりましたわ。」

「うわぁ・・・、スゴい量だね・・・。」

 

会話をする暇さえ惜しい、さっさと始めよう。

 

「げっ!?これ期限明日までじゃねぇか!?

ええい!!もう内容なんて見てる暇はねぇ!!」

 

署名欄に名前を書き、そのままの流れでセシリアにハンコを押してもらい、

シャルが書類を整理するという流れをつくる。

 

もう読める範囲なら殴り書きで良い!!

早さを求めるぞ!!

 

そんな事を考えつつ作業を行い始めて、

どれぐらいの時間が経ったのだろう。

 

手も痺れて来た時だった、

俺の携帯に着信が入った。

 

「はい、こちら織斑。」

 

『轡木です、就任早々申し訳ありませんが、

害虫退治をよろしくお願いします。』

 

「数はどのぐらいですか?」

 

『少なくとも十二人、

監視の人間も居ると思われます、くれぐれも抜かりの無いようにお願いします。』

 

「分かりました。」

 

やれやれ、面倒な事になったな。

 

そう思いつつ、俺は席を立った。

 

「?どちらに?」

「理事長からの出動要請です、

どうやら、害虫を駆除して欲しいそうです。」

「そうですか・・・、すみません・・・、

本来なら私達が・・・。」

 

あーあー、この人の悪い癖がでてるよ。

そう思いつつ俺は虚さんの言葉を制する。

 

「気負い過ぎですよ、貴女が例えどんな家の出でも、

一人の人間だと言うことを忘れないで頂きたい。」

「一夏君・・・。」

 

いまだに申し訳無さそうな顔をする虚さんに一礼し、

俺達は生徒会室を後にした。

 

やれやれ、めんどくせぇな・・・。

 

sideout

 

noside

IS学園敷地内の森林を音を立てずに進む影があった。

 

無論、真っ当な客人ではないだろう、

現に、彼等は警備が薄い海から侵入して来たのだ。

 

「こちらチームA、目標ポイントに到着した、

これより壁をよじ登り、織斑一夏を確保する。」

 

『こちらチームB、了解した、

我々はこれより織斑秋良を確保する、抵抗された場合は殺害もやむを得ん。』

 

彼等は互いに連絡を取り合いながら進んでいく。

その動きに無駄はなく、迅速かつ的確だった。

 

素人ではない、軍隊で鍛えられた動き、

つまり、プロだ。

 

四、五名でチームを編成し、

彼等は各々の任務についている。

 

実働部隊はAとB、Cは監視、

Dは逃走用のゴムボートの周辺監視を任されている。

 

彼等の任務、それは先程の会話から推察出来るであろう、

織斑兄弟の捕縛である。

 

世界でただ二人の男性IS操縦者、

彼等はその二人を拉致する為に送り込まれたのだ。

 

楽な仕事を請け負ったと、構成員の一人は語ったらしい。

確かに、20人近い数の軍人を揃え、

尚且つ相手は専用機を持っているとはいえ、ただの学生。

 

寝込みを襲えば間違いなく成功できるであろう。

 

しかし、それには一つの大前提が付きまとう、

相手が襲撃を予想せず、油断しているという大前提が・・・。

 

『な、なんだあれは!?ギャァァ!!』

『こちらチームC!!警告も無しに撃ってきた!!う、ウワァァァァ!!』

「どうした!?」

 

監視を受け持っていたチームから、

悲鳴が混ざった通信が届く。

 

「どうした!?おい!応答しろ!!」

「分隊長!!一体何が!?」

 

チームAの構成員が慌てふためく中、

また新たな通信が入った。

 

『や、やめてくれ!助け・・・、がぁぁぁぁ!!』

『あ、悪魔だ・・・!に、にげろ!!』

『助けてくれ!助けてくれ!ギャァァァァ・・・!!』

『クックックックッ・・・、ハーッハッハッハッハッハッハ!!』

 

銃声と悲鳴、断末魔、そして高笑いが聞こえて来る。

 

それを聞いた瞬間、チームAの分隊長を務めている男の背筋を、

一気に冷たい物がかけ上がった。

 

そして理解した、自分達が踏み入れてはならない領域に足を踏み入れてしまったことを。

 

「全部隊!撤退しろ!!相手をしては不味い!!」

本能で引き際を悟った男達は、覆面で隠した顔に冷や汗を滝の様に流しながらも、

侵入して来たポイントまで走って戻った。

 

もう少しで逃げ切れる、そう思った時だった。

 

「ご苦労さん、よく逃げて来れたな。」

 

鉄格子を越え浜に出たが、

既にそこには仲間だった者達の死体と、

月明かりに照らされた黒い機体がいた。

 

「お生憎様、アンタ達もこうなってもらう、

言っとくが援軍は来ないぞ?アンタ達を運んできた船は、もう海の底だ。」

 

黒い機体が指差す方向からは煙が上がり、

その方向から蒼い機体が姿を現す。

 

「終わりましたわ。」

「ご苦労、さて、他の部隊も、俺の女に殺されてるだろうな、

アンタ達も、すぐに仲間に会わせてやるよ!」

 

黒い機体がホルスターから拳銃の様な物を抜き取り、

的確に男達の脚を狙い撃つ。

 

「ギャァァ!!」

「ガァァっ!!」

 

全員が砂浜に倒れ、

逃げる事すら不可能になった。

 

「や、やめろ!やめてくれ!!」

「命乞いか?情けねぇな。」

 

黒い機体はゆっくりと歩みを進める。

 

それはさながら、絶対的な死が近付いて来る様でもあった。

 

「俺達に喧嘩を吹っ掛けに来た以上、

殺られる覚悟もあるだろう?だから・・・。」

 

黒い機体は、右手の拳銃をホルスターに戻し、

背後の翼の様なモノから刀剣状のモノを取り出し、

天に向け掲げる。

 

「その断末の悲鳴、俺に聞かせてくれよ。」

 

目許は見えないが、口許を三日月型に吊り上げた後、

黒い機体は刀を振り下ろした。

 

「あ゛あ゛ぁぁぁ!!」

 

sideout

 

side一夏

最後の一人の断末の叫びを聞き、

俺はサーモカメラに依る索敵を行う。

 

生き残りがいたら不味いからな。

 

熱紋反応無し、辺りに敵はいないか・・・。

 

一息つき、俺は自分の身体を見る。

 

ISの補整映像で一片のノイズもなく綺麗に見える。

俺の全身が、侵入者の血でまみれているのが。

 

後ろに立つセシリアは今回、

敵の母艦を破壊する任務を任せていた為、目立った血は無いが、

彼女も人を殺めた事に変わりは無い。

 

「一夏、こっちも全部終わったよ。」

校舎の方からリヴァイヴを纏ったシャルが飛来してきた。

 

無論、彼女も返り血で濡れていた。

あれは間違いなく至近距離でショットガンをぶっ放したな。

 

「お疲れさん、これでめでたく、俺達は闇の住人の仲間入りだ、怖いか?」

 

セシリアとシャルの頬に触れ、心を蝕む様な聞き方をしてみる。

 

「後悔も、恐怖もありません、ですが、私は・・・、

私は、人を殺める事が、愉しかった・・・。」

 

セシリアが震えながら、そして笑顔で語った。

その瞳には涙が浮かんでいた。

 

「僕も・・・、罪悪感なんてなかった・・・、

ただ、人を殺す事が気持ち良かった・・・。」

 

シャルも、その美しい瞳に涙を浮かべていたが、

顔は笑っていた。

 

神の采配で決められた俺の本質に近付き過ぎたが故に、

彼女達も俺と同じ、人斬りに変質してしまったのだろう。

 

だが、一向に構わない、寧ろ俺の女でいるなら、

それぐらいの事はやってのけてくれねぇとな。

 

「それで良い、学園を守る為だ、俺達が修羅になれば良いじゃねぇか、

それとも、怖じ気づいたか?」

 

俺は二人の涙を拭いながら、挑発的な笑みをむける。

 

この程度で壊れる様な女じゃない事は、

俺が一番知っている。

 

「いいえ、これで覚悟が決まりましたわ、

一夏様に着いていく事がどれ程辛い道程か。」

 

「それでも、喜びの方が大きいから、

僕達は一夏に着いていくよ。」

 

二人は覚悟を決めたのか、凄惨な場所でも微笑んで見せた。

 

その姿はまるで、告死天使の様でもあった。

 

「そうかい、それは男冥利に尽きるな。」

 

知らず知らずの内に、

俺は口許に笑みを浮かべていた。

 

最近、知らん間に笑ってるよな俺?

 

悪いとは思わんが、自重すべきかね?

まあ、後戻りする気はこれっぽっちも無いんだがな。

 

「さてと、さっさとシャワーを浴びて寝ようぜ?」

「うん・・・。」

「はい・・・。」

 

二人を戻し、俺は寮に戻ろうと歩みを進める。

 

(お前達の断末の叫び、永遠に覚えていてやる。)

 

届きもしない言葉を斬った奴等に向ける。

 

俺は俺のやるべき事をこれからもやるだけさ。

 

sideout




次回予告
何時も通り仕事をしていた一夏だが、
そこであるものを見つける。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
番外編 残姉さん日記

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 残姉さん日記

side一夏

初仕事から一週間がたったある日、

俺は第一生徒会室にて書類作業を行っていた。

 

あれから何人の敵を斬った事か、

夢の中にまで斬った瞬間が浮かんできたぜ。

 

眠れない事はない、寧ろ精神的にはいい感じだ。

その事実は、俺が完全な人斬りだと思い知らされている気分だ。

 

だが、それでも一向に構わない、

俺が俺で有るために、それは仕方がない事だ。

 

「申し訳ありません、一夏会長。」

「良いんですよ、これも仕事ですしね。」

 

なんて顔は笑顔で言うけど、実際、

あの能無にかなりの不満がたまっている。

 

「虚さん、なんであれが当主で会長なんですか?

簪の方が有能ですよ。」

 

現に、簪は俺と秋良を除けば、セシリアとシャルに匹敵する程の強さを誇っている。

仕事も放り出す事は無いし、尚且つ責任感も強い。

当主になるなら確実に簪の方が適任だ。

 

「私に聞かないでくださいよ・・・、ここに来るまではマトモだったんですが・・・。」

 

あー・・・、虚さんが匙を投げた・・・。

こりゃもう手の施しようが無いな・・・。

 

ま、考えても仕方ない、

取り敢えず俺は俺の仕事をやるとするか。

 

「さてと、終わりましたよ、確認お願いします。」

 

虚さんに書類一式を全て渡し、俺は席から立ち上がる。

 

やーっと仕事が終わったよ。

さてと、戻るとするかな?

 

そう思い、何の気無しに本棚を開いてみると、

何冊かの本が崩れてきた。

 

「おわっ!?なんだ!?」

 

崩れ落ちて来た本、いや、厚さ的にはノートだな。

その内の一冊を手に取り、表紙を見てみた。

 

『簪ちゃん観察日記』

 

 

「・・・。」

 

・・・、何故だ、俺は今、開けてはいけない箱を開けた気がする・・・。

 

いや、何も見なかった事にしようか・・・?

 

だが、一応何をしてるか見ておく必要がありそうだな・・・。

 

「どうしました?」

「・・・、いえ、なんでもありません、

用事が特に無いのでしたら失礼します。」

「はい、ご苦労様です。」

 

虚さんにバレない様にノートを身体で隠しつつ、

俺は生徒会室を出た。

 

「・・・、持ってきたはいいが、これどうしようか・・・?」

 

恐らく、これを読んでしまえば俺は絶望を見てしまう事は、

火を見るより明らかだ。

 

「おーい、兄さ~ん。」

「おう、秋良じゃねぇか。」

 

簪達を引き連れた秋良が廊下の角からひょっこりと顔を出した。

 

「・・・。」

簪が俺の手にあるノートの題名を見て、

冷や汗を滝の様に流していた。

 

「・・・、兄さん、これは一体・・・?」

「・・・、知らん・・・、生徒会室に有った・・・。」

 

見たくない、だが、確認はしておかなければならない。

 

なんなんだこの嫌な葛藤は・・・。

 

「と、取り敢えず、場所を移すぞ、

被害を受けるのは俺達だけで充分だ。」

 

全員を促し、俺は寮の自室に戻るべく歩き出す。

 

途中、セシリアとシャルが合流し、

俺達は俺の部屋に到着した。

 

「・・・、えー、取り敢えず、内容だけを見てみるか?」

 

俺は簪に確認を取るが、彼女は青ざめてガタガタと震えていた。

 

「簪、寒いのか?」

「ラウラ?空気を読もうね?」

 

ラウラの的外れな言葉を秋良がツッコむと言う見事なコンビが出来上がっていた。

 

まあそんなくだらない事はどうでも良いとして・・・。

 

「覚悟は良いな?頼むから絶対にキレるなよ?」

 

この部屋で暴れられたらたまったもんじゃない。

 

俺は溜め息をつきつつ、表紙を開いた。

 

sideout

 

sideノート

『4月3日、今日は簪ちゃんの入学式!!

あぁぁ!!嬉しいわ!!今日から毎日簪ちゃんをじっくりたっぷり堪能出来るわ!!

ああぁ!!凄く幸せぇぇぇぇ!!』

 

『4月4日、朝御飯を食べる簪ちゃん!!

はぁぁぁ!!可愛い!!可愛すぎるわ~!!

クラス代表にもなったみたいだし!!クラスリーグマッチは絶対に良い席を確保するわ!!』

 

『4月15日、簪ちゃんが織斑秋良君と接触!!

キィィィッ!?あんな至近距離で簪ちゃんと会話ですってぇ!?

羨ましい!!羨ましいわぁぁぁ!!』

sideout

 

side一夏

「・・・、案外まだマシだったな・・・。」

 

俺の安心した一言に、部屋にいる全員が一斉に頷いた。

 

「まあ、まだただの妹好きの姉で片付けられる内容だね。」

「簪さん、何かされた等、具体的な被害はお有りですか?」

 

シャルが首をかしげ、セシリアは冷静に具体的な被害状況を尋ねるが、

簪は思い当たる節が無いのか、首を横に振る。

 

ふむ、ただ遠くから見て満足してるだけなのか?

 

「まあ良い、次行くぞ次。」

 

sideout

 

sideノート

『5月5日、簪ちゃんも学園に馴れて来たころでしょうし!!

そろそろ本格的に仕掛けるわよ!!さてと!!今日は何をしようかしら!?』

 

sideout

 

side一夏

「待て待て待て待て待て待て待て待て待て。」

 

俺は慌ててノートを閉じた。

5月に入った途端に危険度が跳ね上がったぞ!?

おかしいだろ!?慣れてきた頃に仕掛けるのか!?

 

「いや!話し掛けるだけかも知れないよ!」

「そんな場面見たことねぇよ!!」

 

取り敢えず、次見てみよう!

 

sideout

 

sideノート

『5月5日、ぐフフ!!今日は簪ちゃんのベッドの下でこれをしたためているわ!

簪ちゃんの寝息が聞こえるだけで、お姉ちゃんもう幸せぇぇぇぇ!!(途中から涎の痕で字が読めない。)』

 

『5月25日、今日は簪ちゃんの入ったお風呂の残り湯を頂きに来ました~!!

十分ほど漬かって、一リットル位飲んだわ!!

中々のお味だったわ!!そう言えば、昨日は織斑君達が入ってたのかしら?

お風呂から織斑先生がとても嬉しそうな顔をして出てきたわね。

フフッ、同志がいることがこんなに嬉しいのね!!』

 

 

sideout

 

side一夏

机が凹む勢いで、俺はノートを力任せに閉じた。

 

怖ェェ・・・、やってる内容が完全に犯罪じゃねぇか!

てか駄姉よ!!アンタまで何やってんだ!!

 

訴えたら勝てるレベルだな!!

間違いなく!

 

「こ、こっから先、見る気がしないんだが・・・。」

「直視に耐えないよ・・・!!」

 

秋良が頭を抱え、簪は布団にくるまり、

ガタガタと震えていた。

 

なんか吐き気までしてきたんだが・・・!?

 

てか、逆にスゴいと思えてきた・・・!!

訓練の中で培った技術をストーキングに惜しみもなく使うところが!!

 

いや、惚れ惚れしてはいけない事は分かってるぜ?

でもな、流石に此処まで極められたら脱帽する以外無いんだわ。

 

「と、取り敢えず、他に何してるかの確認だ、続きを読むぞ!」

 

そう言いつつ、俺はノートを開いた。

 

sideout

 

sideノート

『6月6日、流石にベッドの下は慣れてきたわね、

だって寝息は聞こえても、簪ちゃんの可愛い寝顔が見れないじゃない!!

どうしようかな~、隠しカメラでも着けようかしら?』

 

『6月10日、今日は天井裏でこれをしたためているわ!

グフフフフフ!!簪ちゃ~ん!!なんでそんなに可愛いのぉ~!!

ハァハァ・・・!!これだけで三回は逝けるわ!!(涎や妙な液体の痕で字が読めない。)』

 

sideout

 

side一夏

「うぉぉぉぉいッ!?」

「危険度が更に上がった!?」

 

なんかムチャクチャヤバイカミングアウトしてるぞ!?

隠しカメラを取り付けてんのか!?

 

後で簪の部屋を調べよう。

 

「い、一夏!秋良!簪がぁ~!!」

 

涙声の鈴が、簪の背中を擦りながら俺達を呼ぶ。

うわぁ・・・、顔面蒼白に加え、必死にリバースを堪えて脂汗がすげぇ事になってる・・・。

 

「ど、どうする!?まさかとは思うが、買い物の時にも着いてきてたかも知れんぞ!?」

「ヒィィィィ!!」

「と、とにかく続きを読むぞ!」

 

sideout

 

sideノート

『7月3日、今日は簪ちゃんのお買い物をこっそり覗き見してるわ!!

ああッ!!胸の事で落ち込む簪ちゃん・・・!!可愛い!!可愛いわぁぁ!!

あぁ!!私の胸を簪ちゃんにあげられないかしら!?

巨乳な簪ちゃん・・・!!アリね!アリだわぁぁ!!』

 

『7月9日、簪ちゃんが臨海学校に行ってからもう3日も経つのよね~・・・、

寂しい・・・、寂しいわぁ!!簪ちゃんの姿を見れないのは苦痛だわぁぁぁぁ!!

ああッ!!簪ちゃんの寝顔を見たいよぉぉぉぉぉ!!』

 

『7月10日、簪ちゃんが帰ってきたわ!!予定より遅かったから、かなり我慢したわ!!

でも、今日でそれもお仕舞い!!私は甦るのよ!!

更識楯無は何度だって甦る!!簪ちゃんの可愛い姿がある限り!!』

 

『7月11日、グフフフフフ!!今日は簪ちゃんのベッドに潜り込みました!!

あぁぁぁ!!柔らかい!!簪ちゃんのほっぺ!柔らかくて気持ちいいわぁぁぁ!!』

 

sideout

 

side一夏

『・・・。』

 

全員が一斉に黙りこみ、

恐怖に身体を震わせていた。

 

簪はとうとう堪えきれなかったのか、

鈴に連れられ、バスルームで盛大にリバースしていた。

 

駄目だコリャ・・・。

 

かく言う俺も、吐き気と頭痛が酷すぎる。

 

何やってんだよ・・・、もうストーカーの域を越えて、

猟奇殺人犯と同じ雰囲気がするわ!!

 

怖ェよ!

関わりたくねぇよ!!

 

だが、俺は第2生徒会長!!

生徒の安全を護ることが義務なのだ!!

 

「殺るしかないか!」

 

携帯を取り出し、犯罪者の居場所をもっともよく知っているであろう人物に電話をかける。

 

『もしもし?どうかされましたか一夏君?』

「どうもです虚さん、唐突ですけど、ダメ生徒会長の居場所を知りませんか?」

『突然ですね、今まさに第一生徒会室に居ますが・・・。』

「今から制裁を下しに行きたいので、頑張って引き留めててくれませんか?」

『お願いします、是非ともあのくそったれて腐った根性を叩き直して下さい。』

「分かりました、直ぐに行きます。」

 

俺は電話を切り、一息つく。

まさかあの虚さんがくそったれなんて言葉を吐くとは思わなかった・・・。

そんだけ根に持ってるんだろうけどさ。

 

「秋良、あの犯罪者を制裁しに行くぞ!」

「勿論だとも!」

 

俺と秋良は部屋を飛び出し、第一生徒会室に向けて走った。

 

sideout

 

noside

「無い!!無い無い無い!!」

 

第一生徒会室にて、とある女子生徒が大慌てで何かを探していた。

 

容姿的には美人なのであろう、

緩いウェーブがかかった水色の髪も、チャシャ猫の様に人をからかう雰囲気も、

Eカップはある胸も、それとは対照的なくびれたボディも、

全てが人を魅了してやまない。

 

彼女の名は更識楯無、日本政府直属の対暗部用暗部更識家の17代目当主であり、

織斑一夏と共にIS学園の生徒会長に君臨する学園最強の一角である。

 

普段は余裕の笑みと態度を浮かべている彼女だが、

今は何やら絶体絶命の様な雰囲気を漂わせている。

 

「無い!!何処にも無い!!なんで!?ここにしまったはずなのに!!」

「どうしましたか?ダメ生徒会長さん?」

「ひどっ!?虚ちゃん私のこと嫌いなの!?」

「はい。」

「酷すぎぃっ!?」

 

虚の辛辣な言葉に、楯無は涙目になりながら叫ぶ。

 

「そんなことより!!あれが無いのよ!!」

「あれとはなんですか?」

「・・・!!」

 

言えない、言える訳がない。

あれとは楯無直筆の簪ストーキング日誌なのである。

 

バレてはただでは済まないだろう、

布仏虚は真面目な上、こう言った事にはとことん厳しいのである。

 

「え~っと・・・、そのぉ・・・。」

「この日記の事だろ?」

「そーそー、日記のこ・・・と?」

 

唐突な声に肯定してしまい、楯無は顔をひきつらせながらも振り向く。

 

そこには織斑一夏と秋良が立っており、

一夏の手には彼女の直筆の日記、『簪ちゃん観察日記』が有った。

 

「あ・・・!?そ、それは・・・!?」

「それはなんですか?」

「これを読んでみてください。」

「あーっ!!?」

 

一夏は慌てふためく楯無を尻目に、

虚にノートを渡す。

 

楯無は必死に取り替えそうとするが、

一夏と秋良の連携に阻まれ、虚に近付く事すら出来ない。

 

ノートを渡された虚は何の気無しに一番酷い内容が書かれているページを開いた。

 

「・・・、オイコラ楯無。」

「「「うえっ!?」」」

 

虚に似合わない汚い言葉に、楯無のみならず一夏と秋良すら驚き、

彼女から少し遠ざかる。

 

「仕事をほったらかしてる上、よくもまあこんな事が出来ますね?」

ノートを机の上に置き、何処から取り出したのか、

メリケンサックをその手に嵌めた虚がゆっくりと楯無に近付いていく。

 

表情こそ笑顔だが目が笑っていない上、

背後には何故か黒い魔物が見えた。

 

「や、ヤバイ!」

「逃げよう兄さん!」

 

身の危険を感じた一夏と秋良は、慌てて生徒会室から逃げる。

その時、扉の鍵がガチャリと閉まった。

 

「ええぇっ!?ちょっ!?助けてぇ!!?」

 

楯無が涙目になりながらも、

扉を開けようと必死にもがく。

 

『『さあ、お前の罪を数えろ!』』

 

扉の向こう側から、

二人の声が聞こえ、楯無は更に慌てる。

 

「ええぇっ!?罪って何よ!?私何もしてないじゃない!?」

「お嬢様?」

「ぴいっ!?」

 

悲鳴をあげながら振り向くと、

そこには凄まじい形相をしている虚が立っていた。

 

さながら、狩られる兎と、捕食者である虎の様でもあった。

 

「人様に仕事を押し付けて!!貴女は何をやってるんですかーーーーーーっ!!?」

 

「ほぎゃあぁぁぁぁぁ!!!?」

 

この日、文字通りIS学園の校舎が揺れた。

 

 

翌日、

何やら妙にすっきりした表情をみせる虚と、

真っ白に燃え尽きた楯無が見付かったらしいが、

簪の調子は戻らなかったらしい・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!

えー、ウチの楯無はこんな感じです、
これからどんどん壊れて行きます。

『おい!楯無さんはこんなんじゃねぇよ!!』
と、文句がある方は感想の方までどうぞ。
楯無メインの小説を書いてる方は、その楯無を連れてきて頂きたい。

次回はストライクEとゲイルストライクの機体説明を行います。

それではまた!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

機体説明

ストライクE

 

一夏の専用機、ストライクがセカンドシフトした姿。

EはEnhanced(英語で強化型の意。)の略。

ストライクの万能性を殺さず、尚且つ近接戦闘向けに進化した機体。

肩部にサブスラスターが追加され、単体での機動性も向上している。

 

リミッターが課せられており、第三世代機相当の性能に抑えられているが、

解除された際はモビルスーツと同等の性能を引き出せ、装甲も実弾を無効化するVPS装甲に戻る。

 

また、一夏がアクタイオンにて駆動系統の分散処理プログラムを改良したため、

運動性能が格段に高まっている。

 

なお、初期型GATーXナンバーの五機のバリエーション機体共通の点として、

他の機体の武装を無調整で使用可能という点があり、

それを生かして他のISの手持ち兵装を奪い使用する事が出来る。

 

基本カラーはトリコロール、

カメラアイとアンテナは濃いめの黄。

 

メインウェポン

 

ビームライフルショーティー

近接戦闘での取り回しを重視し、

拳銃サイズまで切り詰められたビームライフル。

ビームの収束率は15%程低下し、威力と射程も減少したが、

連射力が向上し、実戦ではなんら問題なく使用可能。

 

ワイヤーアンカー

両の掌、爪先、踵に装備されワイヤー射出装置。

射出時に高分子ポリマーを通して射出されるため、硬度を自在に変化させる事が出来る。

また、ワイヤーは1G環境下で100tを超える物体を振り回しても断線することが無い程の強度を誇る。

相手を拘束し振り回す、障害物に絡ませ、緊急回避等に使用できる。

一夏はこの兵装を好んで使い、敵を拘束したまま地面に叩き付けるといった荒々しい戦法をとる。

 

サブウェポン

 

高エネルギービームライフル

ストライクの物と同型、

ビーム兵装を持たないストライカーパック装備時に装備される事がある。

 

 

グレネードランチャー装備型ビームライフル

デュエルのビームライフル、

実弾とビームの撃ち分けが出来るため、一夏は好んでこのビームライフルを使用する。

 

 

ストライカーパック

 

以前より保有していたエールとライトニング、そしてガンバレルに加え、

ノワールストライカー、アナザートライアルシリーズ、アナザーシリーズ、マガノイクタチストライカーを受領した。

また、秋良よりI.W.S.P.を譲り受け、戦力としている。

 

通常のストライカーでは装甲色は変化しないが、

ストライクE専用ストライカーを装備した際は、それに見合った色彩に変化する。

 

なお、ヘッドアンテナとカメラアイのカラーは変化しない。

 

 

ノワールストライカー

ストライクE専用ストライカーの一つ。

装甲色は黒、灰、赤の三色。

 

I.W.S.P.より発展したストライカー。

翼を思わせる巨大なウィングを装備したストライカー、

機体色と合わさり、さながら悪魔の様な雰囲気を漂わせている。

 

二連装リニアガン

I.W.S.P.のレールガンのデータを基に発展した兵装、

ウィング下部に装備される。

フレキシブルアームにより、角度の制限なく発射が可能。

 

フラガラッハ3ビームブレイド

I.W.S.P.の対艦刀より発展したビームブレイド。

実体剣であった対艦刀の利点に、ビーム刃による威力を上乗せした為、

刀剣タイプの装備としては取り回し、威力共に最高クラスを誇る。

 

ワイヤーアンカー

ストライクE本体に搭載されている物と同型。

 

 

アナザートライアルソード

ソードストライカーのストライクE専用型。

装甲色は彩度の低いトリコロール。

 

肩部サブスラスターの増設に伴い、

ビームブーメランを移植したパンツァーアイゼンを両腕に装備している。

 

その他の装備には先代機との差異はない。

 

 

アナザートライアルランチャー

ランチャーストライカーのストライクE専用型。

装甲色は濃緑、一部に赤と黒。

 

肩部サブスラスター増設に伴い、

コンボウェポンユニットはバックパックに直結している。

 

それ以外、先代機との差異はない。

 

 

I.W.S.P.

秋良より譲り受けたストライカー。

装甲色はストライクEの基本色。

一夏が好んで使用するストライカーの一つ。

 

 

スペキュラムストライカー

エールストライカーの発展型。

スペキュラムとは翼鏡の意。

 

エールストライカー以上の滑空性能と攻撃力を誇る。

 

ミサイルポッドを多数搭載しI.W.S.P.と遜色ない戦闘能力を誇る。

 

 

キャリバーンストライカー

ソードストライカーの発展型。

キャリバーンはアーサー王の伝説に出てくる聖剣、カリバーンの別読み。

 

既存の兵装を大型化し、破壊力を高めている。

新装備として、大型ビームサーベル、カラドボルグを新規に実装している。

 

 

サムブリットストライカー

ランチャーストライカーの発展型。

 

ランチャーストライカーのみならず、バスターやカラミティのデータも流用しているため、

過剰とも言える程の火力を実装している。

しかし、エネルギー効率及び、取り回しが非常に悪いため一夏は滅多にこれを使用しない。

 

超高インパルス砲 アグニ改

元々強力な兵器であったアグニを更に強化した兵装、

戦艦に搭載されている陽電子砲と同等の威力を誇っている。

 

しかし、対IS兵器、拠点制圧兵器にしても威力過剰の為、

通常のミッションではノーマルのアグニに換装されて運用される。

 

プラズマサボット砲 トーデスブロック改

カラミティのトーデスブロックの改良型。

右背に装備される。カラミティのものとは異なり、

バズーカ(ランチャー)ではなく火砲(ガン)であり、遠距離への曲射砲撃も可能。

 

8連装ミサイルポッド

左背に設置された実弾武装。

バスターの六連装ミサイルポッドの改良型。

 

 

マガノイクタチストライカー

ゴールドフレーム天に装備された物をストライカー化した装備。

接触した相手のエネルギーを強制放電し、自身のエネルギーに変換する事が出来る。

 

また、一定範囲内なら触れずともエネルギーを強制放電させる事が出来るが、

エネルギー効率が悪い為、推奨されていない。

 

マガノシラホコ

マガノイクタチに付属するワイヤーアンカー。

ストライクEの物と同型、もしくは類似したタイプの武装。

相手を絡め捕った後、マガノイクタチによる強制放電で一気に敵を葬る戦闘スタイルを取ることが可能。

 

 

ゲイルストライク

秋良の専用機、ストライクルージュがセカンドシフトした姿。

 

原典では青いカラーリングだったが、

ルージュからのセカンドシフトの為、名残として紅いカラーリングになった。

 

肩部にエールストライカーの中型スラスターを移植し、

急激な方向転換を行う事が出来る。

 

ストライカー換装システムは残っているが、

シールドストライカーとの相性が良い為、

秋良はマガノイクタチストライカー以外の他のストライカーを殆ど使用しなくなった。

 

尚、バスターストライカーとバズーカストライカーは拡張領域<バッスロット>内部に保存しているが、射撃が苦手な秋良はこれらをまったくと言っていいほど使用しない。

 

また、本機にもリミッターが課せられており、

解除された際はモビルスーツと同等の性能を引き出せ、装甲もPS装甲に変化する。

 

 

メインウェポン

 

アーマーシュナイダー

ストライクルージュより受け継いだ装備、

腰部にウィングソーが装備された為、腕部に移植された。

兵装としての使い勝手の良さは健在で、ナイフの様に斬りつける以外にも、投擲兵器としても使用出来る。

 

 

ウィングソー

新たに装備されたアーマーシュナイダーと同種の振動剣。

斬りつけた相手の装甲強度を記憶し、それに適した振動数に調整することにより、

適切な切れ味を発揮する。

ただし、データに無い装甲の場合、切れ味が低下するという弱点が有る。

 

また、本装備は手に保持した際、

姿勢制御翼としても作用し、機体に多彩な運動性能を持たせる。

 

 

サブウェポン

 

高エネルギービームライフル

ストライク系機体用のビームライフル。

ルージュ時代に使用していた物と同型。

 

 

ストライカーパック

エールストライカーはシールドストライカーへと変化してしまい、

秋良が保有していたストライカーは全て失われた。

 

しかし、アクタイオン社にてバスターストライカーとバズーカストライカー、

マガノイクタチストライカーを受領した。

 

ストライクEとは異なり、ストライカーによって装甲色が変化する事は無い。

 

シールドストライカー

エールストライカーの上部スラスターとバッテリーパックにシールドを追加したストライカー、

ビームサーベルも装備されており、格闘戦闘を主にする秋良の戦闘スタイルに大いに合致している。

 

 

バスターストライカー

バスターの主武装であるガンランチャーとビームライフルの配置を左右逆にしたストライカー、

バスターの物と同様、連結し対装甲散弾砲、超高インパルス長射程ライフルにもなる。

 

 

バズーカストライカー

ランチャーストラ イカーをベースに作られた砲撃戦用ストライカー。

可動式のアームによりバズーカを背負い式に装備が可能になっている。

アームはMSの腕に匹敵するパワーを持っているので瞬時にバズーカを発射可能な位置に運ぶことができるほか、打撃にも使える。

 

ゲイボルグ

元々はデュエル専用のバズーカ砲だった物をストライカーの主武装にした。

 

状況に応じてアグニや超高インパルス長射程ライフルに換装出来る。

 

 




はいどーもです!

今回書いた説明の中で、これは違うだろ!等の異論がある方は意見をください。

それでは次回予告
夏休みを目前に控えたある日、
一夏達はアクタイオン社に呼び出される。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
新型ストライカー

お楽しみに!

追記
キャリバーンストライカーの名称を間違えていましたので、訂正しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新型ストライカー 前編

side一夏

夏休みを目前に控えた金曜日、

俺は生徒会室にて何時もと同じ様に仕事をしている。

 

どんな風の吹き回しか、今日は秋良達が手伝いにやって来た。

何時もは俺とセシリア、そしてシャルだけが仕事をしてる様なもんだからな。

 

さてと、そんだこんだしている内に仕事も片付いちまったな。

 

「お疲れさん、今日の仕事はこれで終わりだ。」

 

全員に切り上げを命じ、

俺も印鑑や書類を全て片付けて行く。

 

今日こそは夜の仕事も無いことを願いたい。

最近は忙しすぎてマトモに睡眠が取れていないしな。

 

それに明日から実質的な夏休みだ、

夜型街道まっしぐらでも文句言われねぇのは有り難い。

 

「明日は土曜日だし、今夜はゆっくりしたいなぁ。」

 

「そうですわね、ここ最近、ろくに眠れませんものね。」

 

それに関しては全力で同意したい、

あのど阿呆なシスコンのせいで余計な仕事が舞い込んで来てるしな。

 

せめて今晩から明朝にかけてはゆっくり眠りたい。

 

だが、そう願っても無駄なのはわかってる、

何故かって?俺の携帯が着信音を鳴らしてるからな・・・。

 

「はいもしもし?」

『一夏か?久し振りだな!イライジャだ。』

「イライジャさん!お久しぶりです!」

 

俺の電話の相手はイライジャ・キール、

ガンダムSEEDアストレイシリーズに登場するキャラだったが、

この世界にはサーペントテールのメンバー共々、実働部隊として活動してくれている。

 

「いきなりですね、今日はどうしたんですか?」

 

『悪いな、明日から夏休みだろ?

だから、アクタイオンの方に戻って来いだと。』

 

「分かりました、俺達もそうしたかったんで、

後、何人か連れていきますが、大丈夫ですか?」

 

『あぁ、少し確認を取ってくる、待っててくれ。』

 

イライジャさんが受話器から離れたのか、

待機音が流れてくる。

 

「兄さん、明日からアクタイオンの方に行くのかい?」

 

「ああ、目立った仕事は無くなりそうだしな、

俺達だけと言うのも何だし、コイツらも連れて行こうと思ってる。」

 

「ふーん、じゃあ外泊届けを人数分貰ってくるね。」

 

秋良はそう言って生徒会室から出ていく、

後はアイツに任せておこう。

 

暫くして、待機音が止み、イライジャさんの声が再び聞こえてくる。

 

『一夏?社長から許可が出たぞ、信頼できるメンバーだけを連れて来いだとさ。』

 

「またざっくりしてますねぇ・・・、分かりました、一応迎えには来てくれますか?」

 

『当然だ、モノレール駅に朝の8時に迎えに行く、頼んだぞ。』

 

「分かりました、それでは失礼します。」

 

電話を切り、いつの間にか淹れられていた紅茶を啜る。

この淹れ方はセシリアだな、苦味を出さない上手い淹れ方だ。

 

「ありがとなセシリア、良い味だ。」

「お気に召した様で光栄ですわ♪」

 

セシリアが微笑みながらも俺に一礼してくる。

うむ、優雅でよろしい。

 

「取りあえず、お前ら全員外泊届を書いてこい、

明日の朝8時にモノレール駅に行くぞ。」

 

『はい?』

 

「アクタイオン社に出向く、お前達も着いてこい。」

 

秋良から渡された外泊届に記入しつつ、

全員に指示を出す。

 

騒がしくなりそうだ。

 

sideout

 

noside

翌朝、秋良達はIS学園から二駅離れたモノレール駅にて、

人待ちをしていた。

 

夏休み初日だからと言うべきか、

チラホラとモノレールから降り、タクシーに乗ったりしている生徒も確認出来る。

 

「・・・、眠い・・・。」

「・・・。」

「・・・、はふぅぁ・・・。」

 

だが、一夏とセシリア、そしてシャルロットは凄まじく眠そうにしていた。

 

何せ、昨晩も三人は影の仕事をこなしていた為、

やはりと言うべきか寝不足なのである。

 

「どうしたの三人共?」

「ちょっと羽目を外しすぎてな・・・。」

 

簪の質問に答える一夏だったが、

言葉を選び間違えたからか、簪が顔を真っ赤にしてしまう。

 

「そ、そそそ、それって・・・!?」

「ま、まさか、えええ!?」

「む!?セシリアとシャルロットの事をこれから姉御と呼ぶべきか!?」

 

簪につられたか、鈴とラウラまでもが顔を紅くし、テンパる。

 

「朝から元気だな。」

「まったくだね。」

 

面白そうだからと着いてきた箒と、その隣にいた秋良が三人を微笑ましく思いながら見ていた。

 

その様子はまるで自分の子供を見る親の様でもあった。

 

「秋良、箒、年寄りみてぇだからやめろよ。」

 

「微笑ましい光景を見て、微笑む事の何処がいけないんだ!!」

 

「お前がやると犯罪臭がするんだよ。」

「酷いや兄さん・・・。」

 

実の弟に此処までバッサリと毒を吐けるのは、

恐らく一夏以外にいないだろう。

 

まあそれは置いといて・・・。

 

暫く待っていると、彼等の前に二台のリムジンが停車した。

 

「待たせたな一夏、秋良。」

「イライジャさん、わざわざ御苦労様です。」

 

その内の一台から、銀髪の優男、イライジャ・キールが降りてきた。

 

「急かす様で悪いが取り敢えず乗ってくれ、話はそれからだ。」

 

「分かりました、セシリアとシャル、それから箒は俺と同じ車に乗れ。」

 

イライジャからの指示を承った一夏が、

それぞれが乗る車を指示する。

 

全員が乗車し、二台のリムジンは走り出した。

 

sideout

 

side一夏

 

俺達を乗せたリムジンは一時間程走り、

都心から少し離れた郊外にそびえるビルの前に停車する。

 

ここがアクタイオン・インダストリー社だ、

新興企業と言う仮の姿をしているが、

その正体は俺達転生者のバックアップをしている神の道楽だ。

 

俺達の転生時に受け取った装備以外の兵装は、

アクタイオンからの支給品だ。

 

で、今日呼び出されたのは、

俺達の機体がセカンドシフトを果たしたため、

データを取る必要があったからだ。

 

何故夏休みに呼ばないのかは知らんが、

恐らくは込み入った話があるのだろう。

 

「一夏、その足で社長室に行ってくれ。」

「分かりました。」

 

イライジャさんに秋良達の案内を任せた後、

俺は一人で、いや、いつも通りセシリアとシャルを連れて、

社長室に向かった。

 

「広いね・・・、迷子になっちゃいそうだよ・・・。」

 

「まあな、俺も最初に入った時は迷っちまった。」

 

お陰でかなり手間取った、一時間で済む筈の用事が丸一日掛かっちまったからな。

 

そんだこんだしている内に、俺達は目的地である社長室に辿り着いた。

 

「失礼するぞ。」

『どうぞ~♪』

 

俺がドアをノックすると、

中から入室を許可する返事が帰って来る。

 

扉を開け、中に入った時は俺の視界に飛び込んで来たのは、

広々とした間取りの割りには、目立った装飾品も無い割と質素な部屋だ。

 

「お帰りなさ~い!久し振りだねぇ!」

「ウゼェ、こっちは寝不足なんだ、あんまり騒ぐんじゃねぇよ。」

 

部屋に入るなり、ピンク色のロングヘアーをした女がこちらに近寄ってくる。

 

彼女の名はミーア・ベル・オーウェン。

このアクタイオン・インダストリー社の社長で、

俺と秋良をこの世界に転生させた女神の部下。

 

つまりは神の僕という事になるな。

それを言うなら、俺もそうなるのか・・・。

 

「あはは~、相変わらずの毒舌、いや、前以上だねぇ!」

「黙ってくれ、アンタのテンションには着いて行けねぇんだ。」

 

ったく、コイツは俺が殺そうとしたウサミミ天災と似すぎている。

 

まあ、コイツの社交性はある意味病的な程良いんだけどな。

 

「さっきから凄くけなされてる気がするんだけど?」

「気のせいだ、取り敢えずとっとと本題に入れ。」

 

社長に対してこの言い種は無いだろうが、

コイツはそんな小せぇ事を気にする様な珠じゃねぇ。

 

「じゃあ話すね、一夏が想像した通り、今日呼び出したのはストライクEのデータ取りと、

新型のストライカーの試験をして欲しいんだ。」

 

「了解した、何時もの場所か?」

 

「そーだよ♪新型のアナザートライアルに、アナザーシリーズ、

それからライブラリアンのストライカーの幾つかは完成してるよ。」

 

コイツは本当に先を見越して何かを用意してくれてるから、

俺は自由気ままに活動出来る。

 

有り難い事この上無い。

 

「済まない、何時も迷惑をかける。」

 

「良いよ~、私は楽しめればそれで良いからね♪」

 

「了解した、俺も楽しませていただこう、それではまた後で。」

 

一礼し、俺はセシリア達を促し、社長室を後にする。

 

「そう言えば、ストライカーってストライク系のIS専用なの?」

 

シャルが思い出した様に俺に聞いてくる。

 

そう言えば、ストライカーパックの事をあまり話したことは無かったな。

 

「そう言う訳でも無い、ストライカーパックを使用出来る機体にはある特徴があるんだ、

まあ、恐らくこれはお前達全員が疑問だろうし、全員を集めて教えるさ。」

 

今はこれで待ってもらおう、

何せ、話始めると長いんだわ。

 

 

そんな事を考えつつ、

俺達は地下へと続くエレベーターへと向かった。

 

sideout

 

noside

ISスーツに着替え、

地下訓練場に降り立った一夏達を出迎えたのは、

先に準備を整えていた秋良達と、エリカ・シモンズを中心とする技術スタッフ達であった。

 

「あ、報告終わったかい兄さん?」

 

「ああ、お前の方はもうストライカーの準備は終わったか?」

 

「まあね、I.W.S.P.とソードストライカーは取っ払ったし、

インストールしたのはマガノイクタチストライカーだけだったからね。」

 

一夏は秋良と事務的な会話をしつつも、

自身もストライカー非装備状態のストライクEを展開、

すぐさまセッティングを行える状態にする。

 

「一夏君、機体に何か不備は有りませんか?」

 

そんな彼の傍に近付く一人の女性エンジニアがいた、

 

彼女はユン・セファン。

元はSEED世界の国防企業、モルゲンレーテ社のメカニックエンジニア、

後にジャンク屋の一員として優れた手腕を発揮した女性である。

 

この世界ではエリカ・シモンズの部下としてアクタイオン・インダストリー社に勤務している。

 

「ユンさん、実は駆動系統の反応がかなり甘くて、

俺の反応に追い付いて無いんです。」

 

「分かりました、一夏君はストライカーのインストールを行ってください、

私が駆動系統のプログラムを改良してみますね。」

 

一夏はおねがいしますと言った後、

自分の好みに合うストライカーから順に選んでいく。

 

(やはり俺にはI.W.S.P.が一番だな、秋良のヤローは何故これの良さを理解出来ないのか謎だ、

まあ良い、アナザートライアルは二つとも積んで、アナザーストライカーも三つとも積めば・・・、後一つか・・・。

マガノイクタチストライカーにしておくか。)

 

一夏は秋良が残したI.W.S.P.を量子変換し、

ストライクEに格納する。

 

「へぇ・・・、アナザートライアルとアナザーシリーズを全て積んで、

ギリギリ余裕があるのか・・・。」

 

「一夏君、アップデート一回目終わりました、

機体の調子を確認してください。」

 

「了解しました。」

 

ストライクEのバッスロット要領に軽く驚きつつ、

ユンからの指示を受け、機体を動かす。

 

「う~ん、前より動きやすくはなりましたけど、

やはりと言うべきですかね、まだ固いですね。」

 

一夏は腕を回したり、

脚を思いっきり開いたりするが、満足していないかの様に顔をしかめる。

 

「分かりました、何か明確な要望は有りませんか?」

 

「人間と全く同じ運動が出来る様に機体をチューンアップしてください、

そうじゃないと、俺はいつか負ける。」

 

ユンの質問に、一夏はキッパリと答える。

 

「人間と全く同じ・・・ですか?」

 

「はい、装甲と装甲とをスライドさせれば、

ストライクEが本来持っている運動性を完璧に活かせる。」

 

「確かにそうですが・・・、

そうなると耐弾性が低下して、被弾時のシールドエネルギーの減少量が増えてしまいます。」

 

ユンの言う通り、装甲と装甲をスライドさせれば確かに機動力、運動性は飛躍的に向上するだろうが、被弾時に受けるエネルギーの量は増加してしまう。

 

「お願いします。」

 

「分かりました、全体的に改修を施すので、

起動状態で解除してください。」

 

ユンの言うことに頷いた後、

一夏はストライクEから降り、秋良達の所に歩いていく。

 

「ねえ一夏、ストライカーパックの事を教えてくれないの?」

 

シャルロットが一夏に近寄り、先程の話の続きを要求する。

 

「そうですわね、一夏様の話を聞くだけでは完全なストライク系の専用装備に聞こえてしまいますわ。」

 

セシリアも彼に尋ね、興味深そうにしている。

 

「ストライカーパックは別にストライク系の専用装備と言う訳では無いんだ、

謂わば、すぐさま換装出来る追加パッケージみたいなもんさ。」

 

一夏は何処に置いていたのか、

ホワイトボードを用意し、そこに水性ペンで何やら図を書いていく。

 

「ストライカーパックの利点はどんな状況にも即座に対応出来る、

その利点はお前達も承知の事だろう?」

 

「うん。」

「はい。」

 

一夏がISの絵を書き、

バックパックとしてエールの絵を書く。

 

「ストライカーパックは背中、いや、ISのボディの何処かにプラグさえあればそれで装備できる、

言い換えれば、プラグの規格さえ合致すればお前達の機体にもストライカーパックは装備できる。」

 

「へぇ~、つまり一夏がもし僕達にデータを渡せば僕達の機体もストライカーを使えるんだね?」

 

「まあそう言う事だ、一応換装とは言えないが、

装備して使用する事は出来るぞ、アクタイオン内部ならば裏切り者がいない限り、

情報が漏洩することも無いし、好きに使用して良いぞ。」

 

 

一夏はそう言いつつ端末を操り、あまりのストライカーが無いか調べ始める。

 

「セシリア、シャル、お前達二人には特にこれらの装備に触れてほしい、

セカンドシフトした際、もしかしたらストライカーシステムが発現するかも知れんしな。」

 

そこで一夏はウインドウを操る手を止め、

セシリアとシャルロットの方を向き、口許を歪めて笑う。

 

「俺達の殺しの幅が更に広がるのさ。」

 

彼の言葉を聞いた彼女達は、

我が意を得たりと言った風に微笑む。

 

その妖艶さは、まさに告死天使と呼ぶべき物だ。

 

そんな雰囲気の中・・・。

 

「兄さん、機体の調整は終わったかい?

終わったんなら俺と模擬戦をしようよ。」

 

秋良が少し離れた場所から一夏に呼び掛ける。

 

無論、先程の一夏達の会話は聞き取れていない。

 

「まあ待て、ストライクEの駆動系統を改修してんだ、

もう少し待ってろ。」

 

「つまんねぇの、簪、鈴、ラウラ、ちょっと相手してくれないかな?」

 

秋良は一夏と戦えない事を悟ると、

つまらなさそうに去っていく。

 

だから彼は気付く事が出来なかったであろう、

一夏達がこれから何をしようとするのかを・・・。

 

「さてと、ちょいとやることがあるな、手伝ってくれるか?」

 

「かしこまりましたわ。」

 

「勿論だよ。」

 

一夏は秋良を見送った後、

セシリアとシャルロットを伴い、己の作業を開始した。

 

sideout

 




はいどーもです!

またしてもバランスの問題で前編、後編に別れてしまいました・・・。

ああ・・・、調子悪いなぁ・・・。

次回予告

新たなるストライカーを受け取った一夏と秋良は、
これまで以上の戦いを繰り広げる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
新型ストライカー 後編

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新型ストライカー 後編

side一夏

俺達がアクタイオンに戻った翌日、

俺は独り、トレーニングルームにて筋トレをしていた。

 

現在朝の6時、起きるにしてはちょいと早い時間だ。

 

何時もならこの時間はまだ眠っているが、

夜の仕事が無かった為、珍しい程早く起きることができた。

 

「ふぅ・・・、後30分程走るか・・・。」

 

かれこれもう一時間近く動いているが、

まだ足りないと身体が満足しない。

 

ルームランナーを作動させ、テンポ良く走り出す。

 

肺活量をあげるには走るのが一番だな。

 

「あれ?一夏じゃん?」

 

走り続けていると、トレーニングルームに入って来た誰かが、

俺を見つけたのか驚きの声をあげていた。

 

「よおリリー、久し振りだな。」

 

首だけで振り返ると、オレンジ色の髪を持った、いかにも勝ち気そうな女の子が立っていた。

 

彼女の名は、リリー・サヴァリー。

 

SEED世界ではライブラリアンの一員として戦っていた少女の内の一人だ。

 

この世界ではサーペントテール等の戦闘要員と同じ部隊に所属している。

 

「なんだ帰ってたんだ。」

 

「ああ、昨日帰って来た所だな。」

 

リリーは俺の隣のルームランナーを作動させ、

自分も走り始める。

 

「そうなんだ、忙しそうね。」

 

「まあな、その分楽しませてもらってるがな。」

 

「その様ね、前よりイキイキしてるし、あんな可愛いお姉さん二人も引き連れてるなんてさ。」

 

リリーは俺をからかう様に話してくる。

 

まあその通りだから何も言わんがな。

 

「イイ男にはイイ女が付き物さ。」

 

「然り気無く自分がイケてるって言ってるのかしら?」

 

「違うか?」

 

「さあね、私はロウの方が好みね。」

 

ふっ、然り気無く自分がロウの事を気にしてると言ってる様なモノだぞ?

 

ま、俺が関わる問題でも無いか。

 

「さてと、十分動いた事だし、俺は上がらせてもらう。」

 

 

「はいはい、じゃあまたね。」

 

リリーにそう言った後、俺はルームランナーを停止させ、

トレーニングルームを出てシャワールームに脚を向ける。

 

汗臭いのは、自分でも好きじゃねぇからな。

 

sideout

 

 

noside

 

朝食を採り終えた一夏は、その脚で地下訓練場に降り立った。

 

ストライクEを弄っていたユンを見つけ、

彼女に声をかける。

 

「ユンさん、ストライクEの調整は終りましたか?」

 

「はい、一夏君が慣らしをしてくれたお陰で想像以上に作業がはかどりました。」

 

「そう言って戴けると嬉しいです、ありがとうございます。」

 

一夏はユンに頭を下げ、ストライクEを装着する。

 

「ふっ!」

 

前屈、屈伸など、人間が準備運動をするかの如く、

一夏は機体のウォーミングアップを行う。

 

PICを意図的に切り、片足立ちや地面を踏みしめての跳躍を試す。

 

「流石だ・・・!今まで以上に身体に馴染む・・・!!」

 

あまりの反応の良さに、一夏は口許を歪めて笑う。

 

「想像以上の出来です、ありがとうございますユンさん。」

 

「気にいって頂けたみたいで良かったです。」

 

一夏の賛辞に、ユンも思わず顔をほころばせる。

パイロットの賛辞程、技術スタッフにとって喜ばしい事はない。

 

「後は俺が実働させて、そのつどデータを更新していけば確実だな。」

 

彼は楽しそうに呟きつつも、

ノワールストライカーを装備し、カタパルトに機体を固定する。

 

ここ、アクタイオン・インダストリー社の内部訓練場は、

地下400メートル地点に作られている為、上空からの偵察の心配は無い。

 

問題点として広さと高さがIS学園のアリーナの4分の3程しかないため、

少々圧迫感を覚えてしまうらしいが、然程気にする事ではない。

 

「織斑一夏、ストライクノワール、出るぞ!」

 

黒い機体が飛び出し、宙を舞う。

 

sideout

 

 

side秋良

 

「やれやれ、兄さんはもう始めちゃってるよ。」

 

俺がISスーツに着替え、訓練場内部に入った時、

既に兄さんがストライクノワールを展開し、

機体の感触を確かめる様に翔んでいた。

 

それにしても、動きが今までより数段滑らかだ。

 

遠目に見ていても分かる程に、兄さんの動きを完璧にフィードバックしている。

 

「凄い・・・!一夏の動き、前より綺麗・・・!」

 

「昨日から何をされてるのかと思えば、機体の調整をしておられたのですね!」

 

俺の隣に立っていた簪とラウラがストライクノワールの動きに舌を巻き、

感嘆ともとれる呟きを漏らしていた。

 

簪達にも分かるんだ、じゃあ実際に戦ったらどれ程の物かな?

 

「簪、俺と兄さんの試合、よく見といてね。」

 

「へっ?」

 

困惑する簪を残し、

俺はカタパルトに脚を向ける。

 

ゲイルストライク、君の友達に合わせてあげるよ。

 

sideout

 

side一夏

 

「良いぞ、良いぞ!!」

 

知らず知らずの内に歓喜の言葉が零れた。

面白れぇ、ストライクより圧倒的に動きやすい。

 

Eも悪くなかったが、其処から更に動きやすくなった。

良いねぇ、俺の反応速度に完璧に追従出来ている。

 

最高だ、こんなに俺を楽しませてくれるのはセシリアとシャル位だったな。

 

気分上々で翔んでいた時、カタパルトが開き、深紅の機体が飛び出してきた。

 

「やあ兄さん、調子良さそうだね。」

 

「最高の調整を施してもらったお陰で、

何時もより圧倒的に気分が良い。」

 

秋良がウィングソーを引き抜き、

俺に向けてくるのを確認し、俺もビームブレイドを引き抜いておく。

 

「昨日果たせなかった模擬戦、やってくれるよね?」

 

「よかろう、受けてたつ!」

 

ウィングスラスターを一気に吹かし、

俺は秋良に迫る。

 

秋良もスラスターを全快にし、

俺に迫って来る。

 

そして、俺達は一気に互いの得物をぶつけた。

 

sideout

 

sideシャルロット

一夏と秋良が、セカンドシフトしてから初めての対戦をしてるのを、

僕達はモニターの映像を通して観ていた。

 

流石は最強と呼ばれる一夏と、一夏に匹敵する力量を持つ秋良の戦いとあって、

その苛烈さは僕達が割って入る余地も無い。

 

「凄い・・・!速すぎて追いきれない・・・!」

 

簪が驚嘆の声をあげるけど、

彼らにとって、まだ準備運動にしかならないと僕は思う。

 

だって見えてるから、二人がまだまだ余裕の表情を浮かべてるのがね。

 

だから、本当に驚くのはこれからだと思うよ。

 

「楽しそうだなぁ・・・、僕も一夏にあんな顔をさせてみたいよ。」

 

「そうですわね、一対一ではまだまだ勝ち目はありませんもの・・・。」

 

そうなんだよねぇ・・・、セシリアとのタッグで一発か二発当てられるか否かなんだよね・・・、

セシリアも僕も、嬉しいけど悔しいんだよね。

 

せめて、一対一でも一撃位は当てたいよ。

 

「ですが、私とシャルさんなら、きっと一夏様に追い付く事が出来ますわ。」

 

「うん、セシリアと僕は一夏の隣に立つ女だからね。」

 

うっかりしてたよ、僕はもう独りじゃないんだ、

いつか必ず、セシリアと二人で一夏に追い付ければいいんだ。

 

すべては、一夏のために・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「はぁッ!!」

 

「くっ!!」

 

二本のビームブレイドを以て秋良を攻め立てるが、

アイツは苦い顔をしながらも俺の斬撃を全て受け止める。

 

俺もわりかし本気で斬りかかってるんだが、

それでも受け止めるのか・・・。

 

面白い。

 

ノワールストライカーの調子はなかなかの物だが、

そろそろ、別の物を試すとでもするか。

 

振られたウィングソーを、ビームブレイドの腹で弾き、

そのまま身体を捻って秋良を蹴り飛ばす。

 

「試すか、アナザートライアルソード!!」

 

ノワールストライカーを量子格納し、

バッスロット内からアナザートライアルソードを呼び出す。

 

装着するのと同時に、黒主体だった装甲色が、

彩度の低いトリコロールへと変化した。

 

「ストライクE+アナザートライアルソード。」

 

捻りも何も無いネーミングだが、それがどうした、

強けれりゃ良いのさ。

 

そんなことを思いつつ、シュベルト・ゲベールを引き抜き、

一気に秋良に斬りかかる。

 

「ちっ!!」

 

秋良は舌打ちをしつつ剣閃から逃れるが、

それを逃がす俺じゃない。

 

左腕に装備していたパンツァーアイゼンからロケットアンカーを発射、

ウィングソーの一つを捕捉、秋良の手から奪い取る。

 

「嘘ぉっ!?」

 

秋良が情けない声をあげるが、俺はウィングソーを握り締め容赦なく切り刻む。

 

リミッターをかけた状態では、俺達の機体は普通のISとなんら変わり無い。

つまり、装甲もPS装甲等では無い。

 

そう思っていたが・・・。

 

―ガキィッン!!―

 

鈍い音と共に、秋良がゲイルストライクの左腕でウィングソーの一撃を受け止めていた。

 

「何っ!?」

 

驚きつつも秋良の顔をみると、

そこにはゲイルストライクの頭部装甲に被われた秋良の顔があった。

 

「ハアッ!」

 

「チィッ!!」

 

残ったウィングソーの斬撃を避けるため、

奪い取ったウィングソーを捨て、秋良と距離をとる。

 

ちっ・・・、あの一瞬でリミッターを外しやがったな・・・、

流石にリミッター付きのこいつでリミッターを解除したアイツに勝てるとは思っていない。

 

仕方がない、俺もとことんやり合いたいと思ってたからな、

全力で相手しねぇと無礼と言うもんだ。

 

「ストライクE、リミッター強制解除!」

 

その瞬間、今まで見えていた景色がより鮮明に映り、

機体がより身体に馴染む。

 

ガンダムフェイスが俺の顔を覆い、

臨戦体制が整えられる。

 

「来いっ!I.W.S.P.!!」

 

叫びと同時にアナザートライアルソードが量子格納され、

俺が最も気に入っているストライカー、I.W.S.P.が装備される。

 

その途端、装甲の青い部分が深くなり、

灰色だった部分が純白に等しくなる。

 

「ストライクE+I.W.S.P.、行くぞ!!」

 

「ゲイルストライク!!切り裂くよ!!」

 

先程とは比べ物にならない様な加速で一気に迫り、

腰にマウントしていた対艦刀を抜刀、秋良のウィングソーと打ち合う。

 

「ハアッ!」

 

「オオッ!!」

 

間合いがゼロに近くなった瞬間、

俺達はほぼ同時に得物を振り抜いていた。

 

互いに互いの首を狙うが、

機体の性能、操縦者の力量ともほぼ互角な為、決定的なダメージを与える事はない。

 

だが、整備の差で僅かにだが俺のストライクEの方が反応が速い。

 

そして、二刀流同士の戦いなら俺にまだ勝ち目はある。

 

後はこれを俺がどう活かすかなんだよな。

 

「くっ!!更に腕をあげたね、兄さん!!」

 

「普段から筋トレをやってるしな!!」

 

秋良のヤローは最近そう言う事をして無いようだからな、

小さいながらも、確かな差だ。

 

右手に持つ対艦刀を逆手に持ち換え、

その場で回転しつつ秋良を切りつけるが、

アイツも俺とは反対の回転で俺の斬撃を全て受けきる。

 

「ハアァッ!」

 

アイツもやられっぱなしは気に食わないか、

ウィングソー逆手に持ち換え、I.W.S.P.本体を狙ってきた。

 

良い所に目を着けたな、

確かにI.W.S.P.は強力な装備だが、様々な装備を詰め込み過ぎたが故に、

重量が増加してしまっている。

 

その為、瞬発的な動きを求められる局面では取り回しに難がある。

 

しかし、このままみすみす壊される訳にはいかないんでな!

 

そう思うが速いか、I.W.S.P.を瞬時に量子格納した。

 

「なっ!?」

 

渾身の一振りを避けられたからか、

秋良が驚愕の声をかける。

 

秋良の体勢が崩れたのを確認し、

直ぐ様別のストライカーを装備する。

 

「アナザートライアルランチャー!!」

 

バックパックが装備され、

三度ストライクEの装甲色が変化する。

 

濃緑を基調とした砲撃特化形体!

 

「ストライクE+アナザートライアルランチャー!!」

 

アームを動かし左手だけでアグニを保持し、

ゲイルストライクの胸部に突き付ける。

 

アグニはエネルギーを喰う代わり、

凄まじい威力を持った超高インパルス砲だ。

 

至近距離から食らえば絶対防御などアンチビームシールド一枚分の意味もなさない。

 

つまり、死に直結する訳だ。

 

「このまま続けるか?」

 

アグニを更に押し付けながらも聞いてみる。

無論、トリガーに指はかけたままだ。

 

「・・・、参った・・・。」

 

秋良がウィングソーを手放し、

両手を上に挙げる。

 

「フッ・・・。」

 

アグニを秋良から離し、俺も戦意を解く。

 

さてと、そろそろ休憩するとしますか。

 

「戻るぞ秋良、アイツらの相手をしてやらねぇとな。」

 

「そうだね、連れて来たのに見学だけだと悪いからね。」

 

そう言いつつ、俺達はセシリア達が待つピットに戻った。

 

sideout

 

noside

ピットに戻った一夏達を出迎えたのは、

全員から向けられる妙に熱い視線だった。

 

惚れた男の戦いに惚れ惚れしているだけではなく、

彼等の機体に起こった現象を知りたいという知的好奇心に溢れている視線だった。

 

「お帰りなさいませ一夏様。」

 

「凄い戦いだったね!」

 

一夏の傍にはセシリアとシャルロットが、

秋良の傍には簪、ラウラ、鈴が駆け寄る。

 

箒は先程の戦いを自分なりに分析した物を吟味していた。

 

彼女は専用機を持って以来、

一夏達の戦闘を見学し、それを研究、

そして自分なりにフィードバックしていくといった作業を行う様になった。

 

まあそれは置いといて・・・。

 

「先程の機体色の変化は一体なんですの?」

 

セシリアが一夏達に先程の戦闘の最中、

一夏の機体に起きた変化を尋ねる。

 

「それについては説明をしよう。」

 

一夏は言うやいなや、

マーカーペンとホワイトボードを取りだし、

ストライクの絵を書き記した。

 

「俺達の機体、ストライクシリーズは元々、PS装甲と言う物で機体装甲を形成しているんだ。」

 

「ピーエス?」

 

「フェイズシフトの略だ、単純に言えば実体兵器、

つまりはエネルギー兵器以外の物を完全無効化する装甲だ。」

 

ホワイトボードにライフルの様な物を書き加え、

ストライクに向け矢印を引き、途中に×を書き加える。

 

「まあ勿論、リミッターをかけて作用しない様にしてるが、

さっきみたいにリミッターを外せば秋良がやった様に、

実体剣をノーダメージで受けきる事は出来るな。」

 

「成る程・・・、では、あの変色は?」

 

ラウラが一夏の説明に納得しながらも、

彼の機体に起きた装甲色の変化について尋ねる。

 

「あれはPS装甲の発展型のヴァリアブルフェイズシフト装甲、

略してVPS装甲の効果でな、ストライクEに専用ストライカーを装備した場合、

使用するエネルギーを最適な状態に持って行く事が出来るな。」

 

「リミッターをかけてたのに変色するの?」

 

「俺にもよく分からんが、恐らく最適なエネルギー状態に持って行く事だけは変わらん様だ。」

 

シャルロットの質問に一夏は肩を竦めて答える、

彼とて、まだ知らない部分もあるのだ。

 

「そう言えば、一夏が秋良のウィングソーを奪って、

そのまま振り回してたけど、あれはどうしてなの?」

 

簪が先程の戦いを思い出し、

有り得ないといった風に尋ねる。

 

「確かに、自分以外のISが持っている武装を使うには、

相手側が使用許可を出さなくてはいけない、これは常識だよな?」

 

一夏が全員を見渡しながら言い、

全員がそれに頷いた。

 

「だが、俺達の機体はその常識に喧嘩を吹っ掛けたんだ、

手に持って操作出来る武装なら、使用許可が出ていない物でも使用可能、

尚且つ、人間とまったく同じ事が出来る。」

 

「人間と同じ、ですか?」

 

一夏の質問の意味を理解できなかったのか、

セシリアが一夏に尋ねる。

 

確かにISはパワードスーツではあるが、

所詮は人間の身体の延長線に有るものであるのだ。

 

「ああ、試しにセシリア、これを捕ってみろ。」

 

一夏はそう言い、マーカーペンをセシリアに向かって投げる。

 

彼女は困惑しつつもそれを受け止める。

 

「捕れましたわ。」

 

「では問う、お前がISを装着し、

尚且つそれが使用許可が出ていない手榴弾でも同じ事が出来るか?」

 

「出来ませんわ、例え捕れたとしても直ぐに量子格納で持ち主のバッスロットに・・・、!?」

 

一夏の質問と自分の経験、そして先程の光景を思い出し、

彼女の表情が一気に驚愕に変わる。

 

「そう言う事だ、つまり、本来なら持ち主のバッスロットに戻る物を、

強制的に自分の武器として使う事が可能なんだ。」

 

『成る程・・・。』

 

一夏の分かりやすい説明に、

その場にいた全ての人間が納得していた。

 

「秋良、お前まさか知らなかったのか?」

「ギクッ!!」

 

一夏の冷たく低い声に、

秋良はビクリと肩を震わせる。

 

どうやら図星の様だ。

 

「な、なんの事かな・・・?」

「目が泳ぎまくってるぞ。」

 

あまりの分かりやすさに、一夏はため息をついた。

なにやってんだよ、という感情が見てとれる。

 

「まあ良い、今覚えたよな?」

 

「も、勿論だとも!」

 

一夏のジト目に秋良はかなり焦る。

 

言えない、実は今日初めて聞いたって・・・!

 

「取り敢えず、午後からは一時間交代で俺達と訓練をする、良いな?」

 

変な汗をかいている秋良を放置し、

一夏は全員を見渡しつつ言う。

 

彼女達も臨む所といった様に頷き、

用意を始める。

 

一夏もスポーツドリンクを流し込みながらも、

ストライクEのデータを吟味し始める。

 

秋良はと言えば、一夏から教わったストライクの特徴を忘れないようにメモし始めた。

 

彼等の一日は長い・・・。

 

sideout




はいどーもです!

そろそろ新しい外伝機体を出したいと思います、
何が登場するかはお楽しみという事で。

それでは次回予告
模擬戦の後、
一夏と秋良は各々の訓練を始める。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
目覚めの前兆

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目覚めの前兆 一夏組編

side一夏

昼食を手早く済ませた後、

俺はセシリアとシャルとでアリーナに入った。

 

俺の傍を片時も離れず、

時に俺のサポートを、時には俺に追い付く為に俺と戦う。

 

本当にいい女だとつくづく思うぜ。

 

「セシリア、シャル、準備は良いか?」

 

「勿論ですわ。」

「いつでもいけるよ。」

 

フォルテストラにバズーカストライカーを装備したブルー・ティアーズを展開したセシリアと、

バスターストライカーを調整して装備したリヴァイヴを展開したシャルが準備万端といった様に戦意をたぎらせる。

 

「良いのか?お前達の装備は機動力を上げる物じゃないぞ?

確かに火力は普段より遥かに上がるが・・・。」

 

フォルテストラは元々ジンやシグーといったザフトの初期モビルスーツの火力増大を目的に造られた装備、アサルトシュラウドの発展型だ。

 

火力と推力は確かに増大するが重量も増大し、

機体の運動性能が著しく低下する。

 

因みにセシリアが装着しているフォルテストラは、

アクタイオンオリジナルで、脚部の装甲にビームサーベルが左右一本ずつ追加されている。

 

しかもブルー・ティアーズ最大の強みであるビットの射出、収納に支障がでない様にセッティングされている。

もしかして、社長の奴、俺が選ぶ女を読んでいたのか?

 

だとしたら末恐ろしい。

 

まあいいさ、セシリアとシャルのタッグは強い。

俺も正直言って手加減をすればそろそろ負けるだろう。

 

彼女達の成長速度は原作一夏すら霞む程に速い。

 

だから、俺も全身全霊を以て戦うとしよう。

 

「それじゃあ、俺もやるとするか。」

 

スペキュラムストライカーを装備し、

デュエルのビームライフルと、ストライクのシールドを保持する。

 

「さて、本気で行くぜ?」

 

言うが早いか、俺はスペキュラムストライカーのスラスターを吹かし、

一気にシャルに迫る。

 

「シャルさん!」

「うん!」

 

セシリアが左肩に装備されていたミサイルポッドから、

十発程のミサイルを撃ってくる。

 

「フッ。」

 

バレルロールの要領でミサイルを全て回避する。

その隙に彼女達は飛び上がり、上空から俺を狙い撃ってくる。

 

それらをスペキュラムストライカーの推力と機動力を以て、

ジグザグに動いて回避する。

 

避けてるばかりでは埒が開かないので、

かなり無茶をしてみる事にした。

 

PICの力場を一瞬だけ最強にし、地面と同じ様に踏みしめる。

 

「~ァッ!!」

 

声にならない声をあげ、

空間にヒビが入るような錯覚を覚えるまで体重をかけ、

人間と同じ様に飛び上がる。

 

それをほんの一瞬で行った為、

俺がなんの拍子もなく跳ね上がった様に見えたのだろうか、

二人の動揺が伝わって来る。

 

だが、そこで止まる程セシリアとシャルは甘くない、

俺の動きの先を読んだ攻撃を仕掛けてくる。

 

「はあっ!」

 

セシリアが右脚部からビームサーベルを抜き放ち、

ビームライフルを撃ちながら俺に迫ってくる。

 

「フッ!」

 

ビームの光条をシールドで防ぎつつ、

ビームライフルを量子格納し、空いた右手でビームサーベルを引き抜き、

セシリアと切り結ぶ。

 

元から高かった射撃の腕に加え、

俺とシャルから学んだ格闘テクニックも向上している。

 

「ほぉ?かなりいい斬撃だな、良いぜ!」

ビームサーベルを弾き、がら空きになったセシリアのボディにシールドで打撃を加える。

 

「くうっ!?」

 

セシリアは吹っ飛ばされ、

なかなか体勢を立て直せずにいる。

 

追撃をかけようかと考えたが、

シャルがバスターストライカーの対装甲散弾砲を撃ってきたので、

回避に専念する。

 

あれは超高インパルス長射程ライフル程の威力は無いが、

広範囲に中威力の散弾をばらまくから厄介だ。

 

シールドを掲げ散弾を防ぐ。

 

「ちっ、まずはシャルからだな。」

 

スペキュラムストライカーからアナザートライアルランチャーに換装し、

アグニをシャルに向けて放つ。

 

それを察知したシャルは超高インパルス長射程ライフルに組み換え、

アグニのビームを相殺する。

 

(今のは偶然か?いや、それにしてはなんの躊躇いもなかったな・・・。)

 

面白い、これからの戦闘で俺を支えてくれそうだ。

 

「はっ!」

 

シャルは分離させたガンランチャーとビームライフルで弾幕を張る。

正直、バスター系の装備は近付かれさえされなければ無類の強さを誇る。

 

つまりは接近してしまえば怖くもなんともないという事だ。

 

シュベルト・ゲベールを呼び出し、

一気にシャルに迫る。

 

シャルへの接近を察知したのか、

セシリアが俺の後方からリニアガンとミサイル、

そして、スカート部に仕込んでいたクナイの様な物を投擲してくる。

 

「くっ!」

 

なんとか被弾を避ける為、

機体をジグザグに動かしセシリアに向き直る。

 

「はあっ!」

 

「くうっ!?」

 

シュベルト・ゲベールを振り抜こうとするのに反応し、

セシリアは両手にビームサーベルを持ち、

シュベルト・ゲベールの一閃を受け止める。

 

「スゲェ良いぜセシリア!初めて会った時よりいい女になったな!」

 

笑いつつ、腕に力を籠め、どんどん押し込んでいく。

 

あの時の彼女はエリート意識に凝り固まっていたただの愚物だったが、

今は己の未熟を知り、上昇意識を持ち続ける清廉な女になったのだ。

 

「至極恐悦ですわ!」

 

俺に押されつつも、彼女は満開の桜の様に笑ってみせた、

そして、リニアガンを俺に向けて撃つ。

 

「はっ!」

 

瞬時に身体を捻り直撃だけは避けるが、

リニアガンの砲弾が肩を掠めていった。

 

今のはヒヤッとしたぜ、

一度距離を開けるか。

 

シュベルト・ゲベールを押し込み、

セシリアの体勢を崩し、彼女達と距離を開ける。

 

(ちっ、なかなか手強くなったな!)

 

柄にもなく冷たい汗が背中をつたい落ちる。

 

だが、たぎる・・・!

この身体がもっと熱を欲している!!

 

「セシリア、シャル!この俺をもっとたぎらせろ!!」

 

sideout

 

sideセシリア

一夏様の声を聞き、

私とシャルさんはいよいよ一夏様の真の力をこの肌で感じる事が出来ると、

本能的に察知し、背筋がゾクリとする様な錯覚を覚えました。

 

まるで一夏様に初めて抱かれた時と同じ様な感触でした。

 

「セシリア、僕達の力を一夏に見せよう!」

 

「はい!」

 

シャルさんの言葉を聞き、私はビームサーベルを抜き放ち、

同時にビットを二機射出、一夏様を囲い込むように展開します。

 

「行きなさいビット!!」

 

ビットからレーザーを撃ち、

屈折させて一夏様を狙いますが、

一夏様はすぐさまエールストライカーに換装し、レーザーを回避されます。

 

「一夏っ!」

 

シャルさんはガンランチャーの散弾をばらまき、

一夏様の行く手を阻もうとされますが、

一夏様はシールドでそれらを全て防御されました。

 

「はぁっ!」

 

スターライトMk-Ⅲを呼び出し、フレキシブルショットを一夏様目掛け放ちます。

 

しかし、一夏様はサークルロンドを行うと同時に、

ビームサーベルを用いてレーザーを全て切り落としてしまわれました。

 

流石にこれには驚きました。

 

対艦刀で逸らすという対処はかつて見たことがありますが、

あの対艦刀より面積も狭いビームサーベルを用いるとは・・・!

 

やはりあの御方は計り知れませんわね・・・!

 

「ならばっ!」

 

レーザーを連射しつつ、左手にビームサーベルを保持し、

一気に一夏様に接近します。

 

一夏様もビームサーベルを引き抜き、こちらに向かって来ます。

 

(今っ!!)

 

互いに接近し、間合いに入る直前、

私はフォルテストラを強制排除しました。

 

カタログスペックに依りますとフォルテストラは強制排除の際の隙を狙い撃ちされない為に、

排除と同時に閃光弾を炸裂させるという仕掛けが施されています。

 

如何に静かなる猛獣と言われる一夏様でも、

至近距離での閃光弾の炸裂は辛いはず!

 

強制排除しました瞬間、カタログスペック通り閃光弾の光が一夏様を襲います。

 

無論、私にも、そして一夏様にも相手の姿は見えません。

ですが、この距離で攻撃を外す事はありませんわ!!

 

私はスターライトMk-Ⅲを捨て、右手にもビームサーベルを保持して挟み込むように切りつけました。

 

確実に直撃コースでしたが、ビームサーベルは空を切りました。

 

「いい攻撃だったが、惜しかったな。」

 

頭を捕まれる感覚と共に、背後から一夏様の声が聞こえて来ました。

 

「なっ・・・!?」

 

そんな!?

目眩ましに怯まないとでも言うのですか!?

 

「ああ、さっきのはな、排除寸前にモニター類を全部ブラックアウトさせ、

尚且つ自分で目を閉じて瞬間加速<イグニッション・ブースト>で上に逃げ、

そのままお前の背後を取ったというわけだ。」

 

「・・・。」

 

あまりにも非常識な対処方法に、

私は何も言う事が出来ませんでした。

 

「その装備は元々俺がストライクの時に使おうとした事もある装備だ、

性能も欠点も、そして攻撃法も熟知している。」

 

言うが早いか、一夏様はバズーカストライカーを破壊して、

私を地面へと叩き落としました。

 

まだ・・・、届きませんか・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

「セシリアっ!?」

 

嘘でしょ!?

なんで閃光弾を目の前で炸裂させられて平気なの!?

 

「シャル、次はお前の力を見せてみろ!」

 

セシリアから意識を外した一夏が、

キャリバーンストライカーに換装してこっちに向かってくる。

 

(くっ・・・!一夏のあの動きに弾幕は効かない・・・、

ビームサーベルの類いは積んで無いしなぁ・・・。)

 

でも、嘆いてばかりはいられないか・・・!

 

無い物ねだりをする気はないけど、

流石にミサイル系の装備はほしいな。

 

後で一夏に相談してみようっと。

 

 

そんな事を考えてる間にも、一夏はキャリバーンストライカーからシュベルト・ゲベール改と、

カラドボルグを抜き放ち一気に接近してくる。

 

ビームライフルで牽制し、回避する先にガンランチャーの散弾をばらまくけど、

彼は全て捌ききってしまう。

 

こう言うのって本当に参っちゃうよ、

僕は射撃寄りのオールラウンダーだから、

一夏みたいな近接格闘寄りのオールラウンダーとは相性が悪い。

 

でもそんなことは関係ない、

僕は僕の戦いを彼に刻みつけるだけだから!!

 

「はあぁっ!!」

 

「おおっ!!」

 

ブレッドスライサーを投擲しつつ、

対装甲散弾砲を構える。

 

これが僕だよ一夏!!

 

彼が自分の間合いに入る直前、

僕はトリガーを引いた。

 

sideout

 

side一夏

シャルがトリガーを引く直前に、

俺はカラドボルグを突きだし、対装甲散弾砲を貫く。

 

その勢いのまま、シュベルト・ゲベール改を両手で保持し、

一気に振り抜く。

 

ビーム刃と実体剣の威力をもった斬撃は、

一瞬にしてリヴァイヴのエネルギーを奪い去った。

 

落下しそうになるシャルの腕を掴み、

ゆっくりと地上に降ろす。

 

「まだ・・・、届かないんだね・・・。」

 

「だが、お前達の力、たっぷり見せてもらったぜ。」

 

悔しそうな表情をするシャルに話しかけながらも、

俺はストライクEを解除する。

 

「大丈夫かセシリア?」

 

「はい、なんとか・・・。」

 

まだ倒れていたセシリアを起こし、

ピットに戻る。

 

「今回の模擬戦の収穫はなかなかだった、

お前達の連携は目を見張る物がある。」

 

冷やしておいたスポーツドリンクを二人に差し出しつつ、

俺は今回の模擬戦の講評を行う。

 

「セシリアのあの特攻はなかなか良かったが、

スターライトを捨てるのは駄目だな、至近距離でのレーザー射撃程、避けられ難い物は無い、

シャルは装備の問題だけだったな、ミサイル系の装備を積んでいれば、俺に一撃与えられていた。」

 

そうは言うが流石に今回はギリギリだったぜ、

何時もなら攻撃に意識を裂くが、今回は回避に意識を裂いていた。

 

つまり、彼女達の実力は遂に俺を捉えつつあるという事だ。

 

いやはや、今回は熱くなりすぎた。

静かなる猛獣と言われる俺が冷静さを欠くなど、

本来はあってはならない。

 

「そうですか・・・、私もまだまだですわね・・・。」

 

「僕もだよ・・・。」

 

二人は少し落ち込んでいるのか、

肩を落としていた。

 

「そう落ち込むな、これから先は長い、

お前達の事は誰よりも信頼している、ゆっくり、じっくり強くなればいいさ、

さて、あいつらの模擬戦の様子も見てみるか。」

 

モニターを操作し、

訓練場内部を映し出す。

 

内部では、秋良達の試合が始まる所だった。

 

さて秋良、お前はどんな強さを見つけるかな?

 

俺は知らず知らずの内に、

薄い笑みを浮かべていた。

 

sideout




はいどーもです!

またしても話が別れてしまいました・・・。

それでは次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
目覚めの前兆 秋良編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目覚めの前兆 秋良組編

side秋良

兄さん達がやりあった後、

俺と簪と鈴、そしてラウラは訓練場内に入った。

 

簪は打鉄弐式に兄さんが壊したランチャーストライカーを、

鈴は甲龍に俺が貸したマガノイクタチストライカーを、

ラウラはAICをアルミューレ・リュミエールユニットに換装して、

俺の前に立っている。

 

いやぁ・・・、なんか、セシリア達もそうだったけど、

セカンドシフトした時の姿が容易に想像できる・・・。

 

まあ、あてにはならないけどさ。

 

「さてと、三人とも準備はいいかい?」

 

「何時でも良いよ。」

「い、良いよ?」

「無論だ。」

 

アクタイオンの倉庫から見付けたのか、

簪はツインビームスピアを、鈴はトリケロス改を、

ラウラは二丁のビームマシンガンを構え、戦意をたぎらせる。

 

俺はウィングソーを引き抜き両手に保持する。

 

さてと、兄さんみたいに余裕を持って勝てるかなぁ・・・。

 

ま、やってみないと分からないよな。

 

「行くぞ!」

「うん!」

「うん・・・!」

 

三人は散開し、それぞれ俺に向かってくる。

 

「さあ、俺を越えてみな!」

 

sideout

 

side一夏

秋良達がやり始めたのを、

俺達は控え室の様な所でモニターしていた。

 

「にしても、簪がツインビームスピアみたいなマニアックな武装を使うとはなぁ・・・。」

 

元々はコズミック・イラではなく宇宙世紀の兵装なんだが、

何故か知らんが武器庫の中に紛れていた。

 

取り回しが難しい分攻撃力も高い玄人向けの装備なんだが、

そのいぶし銀の風格から俺はけっこう好んでいる。

 

にしても簪の奴、

ランチャーストライカーに打鉄弐式のミサイルって、

遠距離の鬼に、近接格闘用のツインビームスピアを合わせるとはな。

 

悪くはないチョイスだが、確実に扱いが難しくなる。

 

ま、それはアイツの腕の見せ処だな。

 

鈴とラウラの装備はまあ妥当かつ王道だな。

 

面白味にはかけるが、

実際の戦いの上ではそんな事を言っている暇は無い。

 

だが、アルミューレ・リュミエールを使い、どういう戦いを行うかは楽しみだ。

 

仲間を守る戦いをしても良し、攻撃に集中するも良し、

フェイントに使うのも良しだ。

 

ラウラはどの様な闘い方をするのだろうか?

 

ここでそれを見るのも一興だな。

 

「動くか・・・。」

 

簪達が動き、秋良はウィングソーを構え迎え撃つ。

 

簪がミサイルを乱射しつつビームスピアを突き出す。

 

あれは片方を抑え込んでももう片方が相手に襲い掛かる、

なんとも厄介な兵装だ。

 

「ほう?ウィングソーで逸らし、もう片方で斬りかかるのか。」

 

もし俺が相手にしたなら、同じ対処をしただろう。

 

簪を吹き飛ばした秋良は追撃をかけるが、

ステルスを解いた鈴が目の前に現れ、マガノイクタチストライカーを展開、

エネルギーを奪おうとしてきた。

 

咄嗟に反応した秋良はすぐさま身体を捻り回避する。

 

フム、今の鈴の攻撃はいいタイミングだったな、

相手が秋良じゃなかったら確実に決まっていたな。

 

近接格闘では分が悪いと思ったのか、

秋良はビームライフルを呼び出し、中距離射撃を開始する。

 

「お前の腕じゃ、当たるものも当たらねぇよ。」

 

秋良の射撃の腕は格闘専門の鈴にすら劣る。

ゼロ距離ならいざ知らず、中距離より離れると命中確率は非常に低く、悪い。

 

いっその事射撃系の装備全部とっぱらっちまえ、

その方がバッスロットにも空きが出来、効率も良い。

 

なのにアイツが何故それをしないのか謎だ。

 

案の定、簪も鈴も、何の苦もなくビームの光条を回避する。

 

その脇からラウラがビームマシンガンを乱射しながら突っ込んでいく。

 

秋良のヤローは凄まじく苦い表情をしながらも回避に専念する。

アイツ最近弛んでやがるな。

 

一度叩き直してやるか。

 

そんな事を考えてると、戦局が動こうとしていた。

 

sideout

 

side秋良

ヤバイ・・・!!

ヤバイぞ・・・!!

 

全然攻勢に出れない!!

 

流石に三対一は無謀だったかなぁ・・・、

この三人の連携はかなりのモノだ。

 

攻撃に回る簪、奇襲の鈴、防御のラウラ。

 

三位一体の如く、それぞれの役割を全うしている。

 

・・・、いや、俺の腕が堕ちただけか・・・、兄さんに殺されそう・・・。

 

そんな事を考えてる間にも、ラウラがビームマシンガンを乱射しつつ、

アルミューレ・リュミエールをビームソードの様に使いながら接近してくる。

 

「ちっ!!」

 

左手にビームサーベルを保持し、

ラウラの突きを逸らす。

 

しかし、勢いがあったためか俺は弾き飛ばされ、

大きく体勢を崩してしまった。

 

そこに簪のミサイルと、鈴の衝撃砲がゲイルストライクに直撃する。

 

「がはっ・・・!」

 

回避する間も無く、

俺は訓練場の地面に叩き付けられた。

 

くそっ・・・!

油断していたつもりはないけど、

これは予想外だったよ。

 

(まったく・・・、俺はいつからこんなに偉そうになったんだ?

兄さんには勝った事無いし、尚且つ、簪達にすら負けそうになってる。)

 

その癖、今の自分の強さに自惚れていたなんて・・・。

情けない、ああ情けないったらありゃしないよ!!

 

「俺は馬鹿だ・・・、兄さんに追い付くとか、追い越すとか、

俺を越えろとか言ってる癖に、俺は足踏みをしていた・・・!!」

 

漸く目が覚めたよ、まったく・・・、

後で兄さんに殴られとこう。

 

「さて・・・、目も覚めた事だし、今度こそ行くよ!!」

 

ゴメンよゲイルストライク、今こそ、俺に力を貸してくれ!!

 

sideout

 

side一夏

自分の頬を思いっきり叩いた秋良の目の色が変わったのを察し、

俺はモニターを食い入る様に注視する。

 

やっと目が覚めたようだな、まったく、遅すぎるんだよお前は。

 

アイツはラウラの目を覚まさせた後から、

何処か自分の力に自惚れていた様に感じる。

 

それでは後は堕ちていくだけだ、

立ち上がれもしない、そして勝てもしない。

 

俺は自惚れはしない、寧ろ、周りを進化させる為なら俺は更に力をつけ、

越えられるべき壁となり立ちはだかろう。

 

それが俺のあるべき姿だ。

 

「さて秋良よ、お前はどういう姿勢で俺に挑む?」

 

俺の問い掛けに反応したかのように、

ゲイルストライクが動いた。

 

sideout

 

side簪

戦闘開始から数分の間、秋良の動きが何時もより悪かった。

 

どうしてかは分からないけど、攻めこむチャンスを逃さない為に、

私達は波状攻撃を仕掛けた。

 

結果、攻撃らしい攻撃を受けず、秋良を地に着ける事が出来た。

 

でも、全然嬉しくなかった。

 

私達が倒したいのは、強く、そして誇り高い織斑秋良。

 

今の彼は何処か虚ろな感じがした。

 

だから、高揚もなく、ただ虚しさだけが私の胸にあった。

 

「ははは・・・、ははははははっ!!」

 

ゆらりと立ち上がった秋良の口から、

狂った様な笑い声が聞こえてくる。

 

それを聞いて、私は肌が粟立つのを感じる。

 

何時もの一夏と秋良から感じられる感覚が、

漸く私達を襲う。

 

遂に、彼が目覚めたんだ・・・!

 

sideout

 

side秋良

一頻り笑った後、俺はウィングソーを握りしめる。

 

もう無様はしない、自惚れやしない。

俺は俺のあるべき姿を見せればそれでいい!!

 

「待たせたね三人とも・・・、どうやら俺の心の準備が漸く整ったみたいだよ。」

 

ウィングソーの切っ先を、滞空する三人の方へ向け宣言する。

 

「だから、今度こそ本気で行くよ!!」

 

身を沈め、脚力による跳躍とイグニッション・ブーストを同時に行い、

通常時を遥かに上回る速度で飛び上がる。

 

簪達は散開し、先程と同様に俺を狙う。

 

簪がアグニと山嵐を同時に撃ち、俺の行く手を阻もうとしてくる、

山嵐は確かに厄介な兵装だけど、隙間と言うものはどうしても存在する。

 

それに、撃ったアグニの影響で一部が誘爆してしまっている。

 

アグニは掠めただけですら、通常の兵器の直撃と同等の効力がある。

簪はそれを完全に把握しきれていなかった様だ。

 

サークルロンドを行いつつ、

風圧で爆風を払いながら突き進む。

 

「・・・!?」

 

すり抜けて来るとは思っていなかったのか、

簪の目が驚きに見開く。

 

「はっ!」

 

その隙に一気に接近し、ウィングソーを振り抜く。

直撃する事はなかったけど、右手に持っていたツインビームスピアを破壊する事が出来た。

 

「っ!!」

 

簪は後退し、その前方からステルスを解いた甲龍が姿を現す。

けど、それはもう折り込み済みさ。

 

マガノイクタチを向けて来るけどその隙間を縫い、

ウィングソーの切っ先を甲龍の装甲と装甲の隙間を狙い、突き立てる。

 

如何に強固な装甲を持っていようと、隙間を攻撃されれば何の意味も無い。

 

絶対防御を発動させ、追撃をかけようとするけど、

横手からシュヴァルツァ・レーゲンが現れ、アルミューレ・リュミエールを展開して俺の斬撃を受け止める。

 

「ちっ、そう言えばアルミューレ・リュミエールを切った事は無かったね。」

 

だけど、振動数を調整すれば光波シールドも切り裂けるだろう。

データは取れた。

 

なら、次は斬る!!

 

左手に保持したウィングソーを逆手に持ち、

振り向き様に斬りつける。

 

想像通り、振動によって光波シールドが拡散され、

その意味も無くす。

 

「なにっ!?」

 

ラウラが驚愕の表情を見せるが、

防ぐ手だては無い。

 

「おおっ!!」

 

躊躇いなく振り抜き、

シュヴァルツァ・レーゲンのシールドエネルギーを全て奪い切った。

 

「ラウラっ!!」

 

鈴が彼女の援護するかの様にマガノシラホコを射出して来る。

 

ゴールドフレーム系の装備は基本的に奇襲をする時に、

最高の威力を発揮する。

 

真正面から攻めて行くのは、

自身の技量に絶対の自信がある時だけだ。

 

ウィングソーを操り、マガノシラホコを全て切り落とす。

 

そのままの勢いで、遠心力を利用して甲龍に斬りかかる。

 

「はああっ!!」

 

背後に回り込み、スラスターユニットを破壊した。

 

これで戦力を奪ったも同然だ。

後は簪だけが残ってるね。

 

「やっぱり強いね秋良・・・。」

 

簪が何処か安心した様に話しかけて来る。

 

「ゴメンよ、俺は何処か自分の力に自惚れていた。」

 

左手に保持していたウィングソーを格納し、

自嘲しながら話し出す。

 

「だから、君達のその心意気には勝てなかったんだ、

だけど、今は違う!!俺は一人の戦士として、全力で君と戦おう!!」

 

「私も、貴方を倒す!!」

 

俺はウィングソーを構え簪へと猛進する。

簪も夢現を呼び出し、俺に斬りかかって来る。

 

間合いがゼロになり、俺達は互いの得物をぶつけ合い切り結ぶ。

 

簪の使っている夢現も、振動剣の亞種の様なものであり、

振動により、装甲を切り裂く事が出来る。

 

「そうだ、思い出したよ、俺はただ愚直に戦えばいいんだ!!」

 

そうだ、それでいい。

難しい事は全て兄さんに任せればいい、俺はただ剣になればいい!

 

「だから、俺は戦い続ける!!」

 

新たなる決意を籠め、俺はウィングソーを一気に振り抜いた。

 

sideout

 

noside

 

―バキィッ!!―

 

それほど広くないピット内部に、

痛々しい音が響き渡る。

 

なにかが壊れた訳ではない、

何故ならその音の原因は二人の男なのだから。

 

『・・・。』

 

彼らの、いや、一夏に殴られた秋良の周囲にいた簪達は、

秋良に駆け寄ろうとしたが、セシリアとシャルロット、そして秋良自身に制された。

 

「なんだあの無様な戦いは・・・。」

 

彼の兄、一夏が秋良の胸ぐらを掴む。

 

先程の模擬戦は、結果としては秋良が最後の簪を、

ウィングソーの一閃で夢現ごと叩き斬り勝利を掴んだ。

 

だが、彼が言いたいのはそんな事ではない。

 

序盤、秋良は一撃すら与える事が出来ず、

機体に土を付けた。

 

一夏は、彼の心の脆さに怒っているのだ。

 

「テメェはいつから手加減して勝てる程強くなった?

一対一ならいざ知らず、多対一の時に手加減できるほど、テメェは強くねぇ。」

 

一夏は乱暴に秋良を床に叩きつけ、

興味を無くしたかの様に背を向けた。

 

「その驕りを反省し、簪達に謝っとけ。」

 

一夏はそう言い、扉に向けて歩き出した。

 

秋良は口の端から出た血を拭いつつ立ち上がるが、

何も言わず、一夏の後ろ姿を見送っていた。

 

「秋良・・・。」

 

簪が心配そうな表情をし、彼に駆け寄った。

 

「ごめん・・・、君達の事を甘く見ていたのは事実だよ・・・、

弁明する気もない・・・。」

 

ラウラから渡された濡れタオルを受け取り、

腫れた右頬にあてる。

 

「君達の前を走ってる気でいたんだ、

でも、それは間違いだったよ、君達は俺の後ろにはいない、

俺の隣に来たんだ、兄さんに殴られて漸く分かったよ。」

 

秋良は頭を下げ簪達に詫びた。

 

「こんな情けない男で良かったら、これからも俺を支えて欲しい。」

 

「勿論だ秋良。」

「私達は貴方を信じてるから。」

「うん!」

 

秋良の申し出に、ラウラ、簪、鈴は微笑み、

彼を支える事を誓った。

 

「あ、そう言えば、さっき兄さんが俺に胸ぐらを掴んだ時、

これを入れてたな。」

 

何かを思い出したかの様に、秋良が自分の胸ポケットから何やらチケットの様なものを取り出す。

 

「何々?映画のチケットみたいだね、お詫びがてら、

今度四人で行こうか。」

 

秋良の誘いに、三人は笑顔で頷くのであった。

 

sideout

 

sideミーア

 

「あ~!!暇だよぉ~!!」

 

社長室の執務机に突っ伏し、

私は大声をあげる。

 

資料も読み終えたし、会談よ予定も無い。

開発の方は全てエリカ達に一任しているから関係ない。

 

つまり完璧な手持ち無沙汰になっちゃったの。

 

どうするべきかなぁ・・・。

 

そんなとき、私の机に置いていた携帯電話がなる。

 

非通知?何でだろ?

つまり私の知らない人なのかな?

 

まあいいや、出たら分かるし。

 

「はいもしもし?」

 

『あ、ミーアちゃん?久し振り~!!』

 

「ひえっ!?女神様ぁっ!?」

 

忘れもしない、この人は間違いなく神界での私の上司だよぉ!!

 

「おおお、お久し振りです!!」

 

『うん久し振り~、今から暇かなぁ?』

 

「はい!すっごく暇です!!」

 

本当に暇だから、何か用事があるなら今から来てほしいよ。

 

『分かった~、取り敢えず社長室に一夏を呼んどいて~。』

 

よろしくね~、と言って電話は切れた。

 

焦りを抑えながら私は備え付けの社内電話を操作し、

一夏を呼び出した。

 

『なんだよ社長、昼寝したかったのによ。』

 

文句たらたらな一夏の声が聞こえてくるけど、

今はそんな事を気にしてる暇はない!!

 

「ゴメン!!文句なら後で聞くから!すぐに社長室に来て!!」

 

『・・・!何かあったのか!?分かったすぐに行く!!』

 

一夏からの電話が切れた瞬間、私の目の前に光の渦が現れた。

 

sideout

 




はいどーもです!

スランプです・・・。

帳尻合わせにあることをしたいと思います。
そして新しい機体も出します!!

何になるかは次回のお楽しみと言うことで!!

それでは次回
インフィニット・ストラトス・アストレイ
三人目の転生者

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三の転生者

side一夏

アクタイオン社の廊下を全速力で走る。

 

何事かと思いながらも道を開けてくれる社員の方々に感謝しつつも、

速度を落とさずに走る。

 

あのハイテンションな社長が焦ってたんだ、

絶対何かある。

 

それもかなり重要な何かかがな。

 

「失礼するぞ!」

 

ノックも何もなしに扉を開け、社長室に入る。

 

中に入った瞬間、執務机に突っ伏し呻いている社長と、

苦笑を浮かべた茶髪の男がいた。

 

って・・・!?

 

「お前は何者だ!?」

 

ストライクEに装備されているショーティーではなく、

普段から護身用として携帯しているハンドガンを抜き、男に突きつける。

 

俺が会った事もなければ、見たこともない男だ。

無論、社員でも無いだろう。

 

「あー、待ってくれ、取り敢えずその拳銃を下ろしてくれ。」

 

彼は敵意が無いことを示す様に両手を挙げる。

 

敵では無いのか?

 

そう思い、社長の方を見ると・・・。

 

「彼は侵入者でも敵でもないよぅ・・・、どちらかと言えば新入社員だよぅ・・・。」

 

「なに・・・?」

 

新入社員だと・・・?

この会社は異世界の人間、もしくはこの世界で行き倒れた人間だけを採用している。

一般公募は一切行っていない。

 

だが、恐らく後者は無いだろう。

身なりが良い上、そんなに窶れている様には見えない。

 

だとすれば、異世界の人間だ・・・。

 

「まさか、転生者、なのか?」

 

「御名答だな織斑一夏、俺の名は加賀美雅人、

ついさっきこの世界にやって来たんだ、よろしくな。」

 

雅人と名乗った男は柔らかく笑い、

俺に右手を差し出してきた。

 

なるほど、敵意は無いようだ。

俺はハンドガンを服の内側に仕込んであるホルスターへと戻す。

 

「そうか、さっきは悪かったな、織斑一夏だ、よろしくな、

俺もお前と同じ、転生者だ。」

 

「お前がそうだったのか、よろしくな一夏。」

 

差し出された手を握り、ひとまず場を収める。

 

まだこいつの事を完全に信用している訳では無いからな。

 

「で?やっぱりお前もあのピンク髪のアホみたいにテンションの高い女神と自称する奴に連れて来られたのか?」

 

「よく分かったな、その通りだ。」

 

なんせ俺も連れて来られたクチだしな、

あん時は面倒だったぜ。

 

「いやな、こんな感じだったぜ。」

 

彼は自分の転生の際の事を語り出した。

 

sideout

 

side雅人

 

「んっ・・・?」

 

何もない真っ白な空間に、俺は佇んでいた。

 

何でだ?と言うよりここ何処だ?

 

確か俺は・・・、

 

「自殺しようもした少年を助ける為に、説得に行ったけど、

誤って転落したんだよね。」

 

そうそうその通り・・・、って!?

 

「何故それを知っている!?」

 

声が聞こえてきた方向に向き直ると、

そこにはこの世の者とは思えないほどの美女が佇んでいた。

 

人間・・・、なわけ無いか、俺死んでるんだし。

 

つまりこの場所は、あの世、もしくはそれに近い所だという事になるだろう。

 

「そうだよ~!」

 

「心を読むんじゃねぇよ、てか、あんた誰だ?」

 

「私?私はね~、女神だよ~!」

 

・・・、怪しい、凄く怪しい。

こんな軽薄な奴が神なんて思いたくも無い。

 

と言うより変態はNGだ。

 

「ひどっ!?なんか前にも同じ様な罵倒をされた事があるけど!!」

 

「なんだ?前にも俺と同じ様に変態女神様(笑)に連れて来られた奴がいるのか?」

 

「変態じゃないよ!!それとなにさその(笑)って!!?」

 

ははは、面白ぇわこの人。

 

「ううっ・・・、なんでこんな人間ばっかり手違いで殺しちゃうんだろ・・・。」

 

ありきたりだな・・・、神の手違いで死ぬって。

って事は、あの少年は運命通り死んだのか?

 

「ううん、彼は自殺を思いとどまって、今は頑張って生きてるよ。」

 

「そうかい、それならいい、俺の死がムダでないならな。」

 

そうじゃないと俺が浮かばれないってもんだ。

 

「なんか私が引っ掻ける子って、みんなさばさばしてるね、

ちょっと前に転生していった二人もそんな感じだったよ。」

 

「そうなのか?なんとなくだが、気が合いそうな気がして来たぜ。」

 

その二人に会うためには、そいつらと同じ世界に飛ばしてもらうのが一番手っ取り早いな。

よし、そうして貰うか。

 

「良いよ~、一応転生特典は彼らと大体同じにしておくね、

ISの世界だから、好きな機体を専用機にして良いよ~。」

 

IS・・・、って事はインフィニット・ストラトスの世界か。

悪くないな、寧ろ上々な世界じゃねぇか。

 

それに、好きな機体を専用機にしていいだと?

随分太っ腹な事をしてくれるな。

 

だが、先に行った奴等の機体が気になるな。

 

「あ、先に行った二人の今の機体は、

ストライクEにゲイルストライクだよ。」

 

なんと!ストライク系か。

悪くないチョイスだな。

 

だが、俺も同じ感じだったらつまらんな。

 

SEED外伝系で何か良い機体は・・・。

あるな。

 

「よし、俺の機体はドレッドノートだ、

勿論、Xアストレイにもイータにもなれるようにしてくれ!」

 

「良いよ~♪他には無いかな?

容姿は今のままでいいかな?」

 

「別に構わねぇ、そんなに悪くはないと思ってるしな。」

 

「それじゃあ、いってらっしゃーい!!」

 

sideout

 

noside

 

「・・・、という感じで転生させられたんだ。」

 

「そうか・・・、俺もお前も大変だな・・・。」

 

雅人の話を聞いた一夏は、しみじみと呟いた。

 

なんで俺らはアイツに引っ掛かってしまったんだろうか・・・、

とでも考えているのだろう、一夏の表情にはそんな色が見て取れた。

 

「一応女神様がこの世界の情報を弄って、

彼の戸籍を作ってるよ。」

 

「なるほどな、転入の手続きは俺が学園側に掛け合ってなんとかしよう、

どうせ、ISを動かせたら間違いなく入学させられるからな。」

 

服の内側から手帳を取り出し、

ボールペンで何かを書き始める。

 

「?なんでお前がやるんだ?普通は生徒会長の更識楯無だろ?」

 

一夏の台詞に疑問を感じた雅人は、

その疑問を一夏に尋ねる。

 

「いや、生徒会長はこの俺だ、あの役立たずなんていてもいなくても関係ない。」

 

「・・・、はぁっ?」

 

一夏が話した事を理解出来なかったのか、

雅人は思わず間抜けな声を洩らしてしまった。

 

「何を驚いている?」

 

彼が何故驚いているのか分からない一夏は、

キョトンとした表情を見せる。

 

「いや、待て、取り敢えず情報をくれ、

なんでお前が生徒会長なんだ?」

 

「ん、まあひとつめの情報だ、この世界は俺達が知っているインフィニット・ストラトスの世界ではない、キャラの性格変革が凄まじくてな。」

 

一夏は手帳を仕舞い、社長室にあったホワイトボードに何かを書き込んでいく。

それはこの世界の情報であった。

 

コアの個数、篠ノ之 束、亡國企業、そして身近な人物の性格改編の事を書き込む。

 

「コアが千個だと?」

 

「ああ、俺達の物を含めれば千三個だがな。」

 

そう言った後、一夏はひとつ咳払いをし、

身近な人物の性格改編の事を語り出す。

 

「箒は腐女子、セシリアとシャルは俺の女でマゾ、鈴はネガティブで簪は辛辣、ラウラは・・・、あんまり変わらんな。」

 

「ほう、金髪コンビを手籠めにしたのか、やるな。」

 

「ほっとけ、で、問題は更識楯無と織斑千冬だ。」

 

雅人の軽口を聞き流した後、

一夏は今世紀最大の苦い表情を浮かべる。

 

「楯無は簪のストーカーに、千冬はブラコンダメ人間になっちまった。」

 

「うわっ・・・、なんだよそれ・・・、最悪じゃねぇか・・・。」

 

「それだけなら良かったんだ、その二人が仕事しないせいで、

俺が生徒会長をやらされるはめになったんだぜ?」

 

一夏は右手でこめかみを押さえつつ、

左手で雅人に一冊のノートを渡す。

 

「なんだコレ?」

 

「まあ読んでみろ。」

 

一夏に促され、雅人は何事かと思いながらもノートを開いた。

その瞬間、雅人の端整な顔が一気に蒼くなった。

 

何を隠そう、一夏が渡したノートとは、

更識楯無直筆の『簪ちゃん観察日記!!』であり、

内容は・・・。

 

『7月20日、今日は簪ちゃんのお風呂を鏡の裏からじっくりたっぷり見てるわ!!

デュフフフ!!簪ちゃん可愛いわぁぁぁぁぁ!!』

と言う、凄惨な物であった。

 

「な・・・、なんだこれは・・・!?」

 

「安心しろ、原本じゃない・・・、一応コピーしておいたんだ・・・。」

 

雅人は汚物を扱うかの如く、ノートを一夏に投げ返す。

 

一夏もしっかりと受け止めるのが嫌なのか、

右手の親指と人差し指で受け止める。

 

「勘弁してくれよ・・・、俺転生前は楯無が一番好きだったんだぞ・・・。」

 

「俺に言うな、俺には関係なくもないが、関係ない。」

 

雅人は頭を抱え、一夏は胃でも痛むのか腹部を抑えていた。

 

流石にここまで楯無が酷くなっているとは思いもよらなかった雅人は、

来る世界間違えたか・・・、とも思っていた。

 

「だが安心しろ、俺はコイツには基本的に関わらない事にしている、

俺の周りにいれば奴に会うことは無い。」

 

「それはそれでなんか釈然としないな・・・。」

 

一夏の言葉に何やら釈然としない物を感じながらも、

雅人は取り敢えずその言葉を鵜呑みにしておく事にした。

 

「まあいいや、俺が直接会ってみればいい話だ。」

 

「フッ、嫌いじゃないな、そういうスタンスは。」

 

早速意気投合したのか、

一夏と雅人は拳を軽くぶつけ合っていた。

 

転生者同士、何か通ずるものがあるのかどうかは本人達にしか分からない。

 

それはおいといて。

 

「にしても、一夏の機体、ストライクEなんだってな!

いいチョイスするじゃねぇか!」

 

「まあな!元々はストライクだったんだがセカンドシフトしてな、

それにしてもドレッドノートを選ぶとはな、お主もやるのぅ。」

 

「いえいえ、お代官様程では。」

 

「「はーっはっはっはっはっ!!」」

 

時代劇定番のやり取りの様な事をしつつ、

彼等は互いのセンスを誉めあっていた。

 

イケメン二人がゲス顔をする絵は、中々にシュールであった。

 

「オーイ!!私の事忘れてないかな!?」

 

「「あ?いたんだ?」」

 

「ひどいっ!?」

 

完璧に忘れられていたミーアが、自分の存在を二人に知らせるために声をあげるが、

二人は揃って忘れていたそうで、ひどく淡白な答えしか帰って来なかった。

 

「ううっ・・・、やけ酒してやるぅ・・・。」

 

「そう言えば、雅人は転生前はいったい幾つだ?」

 

「俺か?一応二十になったばかりだったな、

そう言う一夏も二十だったんだろ?」

 

「まあな、今度飲み会でもやるか。」

 

「面白そうだな!俺は賛成だ!」

 

「だから私を忘れないでぇぇぇ!!」

 

和気藹々と会話を続ける一夏と雅人の態度に、

ミーアは叫び声をあげるが、二人は我関せずどいった風に聞き流していた。

 

社長に対してこの扱いは無礼だとは思われるが、

この二人にとってはどうでもいい事なのだろう。

 

「おっと、そう言やぁ、箒が訓練場で紅椿を動かしている所だと思うし、

これから行ってみるか?」

 

「おお、そうだな、動かした事ねぇし、ちょうどいいかも知れねぇしな。」

 

「よし、行くぞ!」

 

一夏と雅人はそう言いつつ社長室を飛び出して行った。

今の彼等の頭の中にあるのは、ただ機体を動かす事だけであろう。

 

「・・・、私を忘れないでよぉ・・・、クスン・・・。」

 

sideout

 

side箒

一夏達の激闘の後、私は一人、

紅椿を駆り、訓練場の内部を飛び回っていた。

 

まだまだ経験が浅い私にとって、彼等の様にとはいかない物だな。

 

だが、それは私がまだまだ上達できると言う証明に他ならない。

ならば、地道に、だが確実に彼等に追い付いて行きたいと思う。

 

『箒、聞こえているか?』

 

そう決意を固めた時、一夏から通信が入った。

 

「聞こえているぞ、いったいどうした?」

 

『今からとある奴と模擬戦をしてほしい、

勿論、本気を出して戦え。』

 

何?戦ってほしい相手がいるのか?

しかし誰だ?

 

セシリア達は先程一夏達と戦った後な訳だ、

こんなにすぐ戦える筈はない。

 

では、アクタイオン社のテストパイロットか?

だとすれば手強いのだろうな。

 

よしっ、修行だと思って、全身全霊で戦ってやる!

 

「わかった!よろしく頼む!」

 

『OK、それでは始めるぞ。』

 

通信が切れると同時にカタパルトが開き、

発進シークエンスが開始される。

 

いったいどんな強者が飛び出して来るのだろうか?

確実に一夏達に近しい実力がある筈だ、

そんな強者が相手になってくれるならば、胸を借りるつもりで戦ってやる!

 

その瞬間、カタパルトから一機の白い機体が飛び出して来た。

 

あれは・・・、ストライク?

いや、違う!ストライクに近いが何処か違う。

 

では、アイツはなんなんだ?

 

「初めましてだな、篠ノ之箒。」

 

「!?男の声!?」

 

誰だ!?一夏と秋良ではない。

今の所、男でISを使えるのは二人だけの筈!

 

って、そんなことよりイケボではないか!!

デュフフフ!!ネタが出来たぞ!

 

「俺の名は加賀美雅人、一夏達同様、別の世界の住人だった人間だ。」

 

「何?」

 

「一夏から聞いたぜ、アイツはお前達に秘密を明かした様だしな。」

 

そうなのか、一夏達と同じ存在か・・・。

コイツも私達の事を信頼していてくれているのだろうか?

 

「ま、俺はついさっき転生してきた所だし、

準備運動に付き合ってくれよ。」

 

「うむ、私で良いならいくらでも相手になろう。」

 

奴がライフルを構えるのを見て、

私は空裂を構える。

 

ピリピリと緊張した空気が私の肌を襲う。

 

そんな時間が続き、にらみ合いにも疲れた所だった。

 

「篠ノ之箒、紅椿、参る!!」

 

「加賀美雅人、ドレッドノートガンダム、翔る!!」

 

私達は互いに向け、突進した。

 

sideout




はいどーもです!

次なる機体はドレッドノートガンダムでした!

その内、キャラの説明と一緒に機体解説も載せますのでお待ちください。

それでは次回予告
戦闘に突入した雅人と箒は、
ドレッドノートの戦いを見る。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ

勇敢なる者

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勇敢なる者

side一夏

箒と雅人が戦闘状態に突入したのを、

別室にあるモニターで確認した。

 

箒が振るう日本刀をシールドで防ぎつつ、

ビームライフルで攻撃を仕掛ける。

 

初めてにしては悪くない機動だ。

 

それにしてもドレッドノートとは面白い機体を選んだ物だ。

 

だが、本来ドレッドノートは核分裂炉を動力に動く事を前提に作られている機体だ、

攻撃力、機動力は通常ISを遥かに凌いでいるが、その分、エネルギーの消費量が非常に悪い。

通常バッテリーではとてもではないが戦闘などできる筈もない。

 

まあ、そこは女神がなんとかしているだろうから心配はしない。

 

しかし、何故また転生者が現れる事になったのだろうか?

確かに専用機持ちのタッグトーナメントの人数合わせには丁度よかった。

 

秋良のせいで一人余ってしまう所だったしな、それだけは感謝だ。

 

だが、それ以外に何か裏がある様な気がしてならない、

そう、俺の様にある役割を与えられているのかも知れない。

 

いや、だとしても俺のやるべき事は変わらんな、

たとえ誰が敵になろうともな。

 

sideout

 

side雅人

 

「行けっ!プリスティス!!」

 

ドレッドノートの腰部に装備されている武装、プリスティスを射出し、

紅椿を攻め立てる。

 

元々ドレッドノートはゲイツとフリーダム、ジャスティス、そしてプロヴィデンスを繋ぐ中間に位置する機体だ。

 

このビームライフルとビームサーベル内臓型シールドはゲイツの発展型で、

プロヴィデンスの雛型になった装備だ。

 

そしてこのプリスティスもプロヴィデンスのドラグーンの雛型であり、

ゲイツのクローアンカーの発展型である。

 

強力な兵器ではあるが、やはり操作が難しいな。

ま、慣れれば良いだけの話だ。

 

「くっ!このっ!!」

 

箒は二本の日本刀を振り、

プリスティスのケーブルを破壊した。

 

「やるな!だがまだだっ!!」

 

破壊されたケーブルの先端にあったクローがケーブルを離れ、

ドラグーンと同じ様に攻撃を始める。

 

「なんだとっ!?」

 

俺を攻め立てようとしていた箒は、

予想だにしなかった攻撃に対処しきれずに被弾する。

 

「くっ!ストライクEのアンカーと同じだと思っていた・・・!!」

 

「油断大敵と言う言葉があるぜ?」

 

しかし、連続での被弾はしないようだな。

 

なかなかいい腕をしているじゃないか。

 

そろそろ攻撃パターンが読まれ始めた頃だな、

なら、使うか。

 

「チェンジ!Xアストレイ!!」

 

そう叫んだ瞬間、ノイズの様なものが背後に現れ、

それが晴れた後には、巨大なXを思わせる装備が完成していた。

 

これぞドラグーン特化形態、ドレッドノートガンダムXアストレイ!!

 

「行けっ!ドラグーン!!」

 

sideout

 

side一夏

 

「ほう?Xアストレイにもなれるか、という事はイータにもなれるだろうな。」

 

実に面白い。

いい戦力になりそうだ。

 

「あのお方は何方ですの?」

 

「ストライクに似てるね、あの機体。」

 

モニターを注視しているうちに、

セシリアとシャルが俺の後ろに立っていた。

 

「部屋で待っていていいと言った筈だが?」

 

「貴方様がいらっしゃらないのに、部屋で待っている意味はありませんわ。」

 

「そうだよ、僕達は一夏の隣にいることが絶対でしょ?」

 

フッ、なかなか可愛い事を言ってくれるじゃないか、

やはり、セシリアとシャルは最高だな。

 

「そうだったな、なら、来たついでにこれを見ていけ。」

 

俺の隣に二人を座らせ、モニターを見るように勧める。

 

「彼の名は加賀美雅人、俺や秋良と同じ別世界の住人だった人間だ。

搭乗機はドレッドノートガンダム、ドラグーンや砲撃戦に秀でた機体だ。」

 

「「ドラグーン?」」

 

俺の説明に分からない部分があったのか、

二人は揃って首を傾げていた。

 

「ドラグーン・システム、ビットの近縁種にあたる装備だ、

ビットとの決定的な違いは精神接続か否かだ。」

 

ビットは支援AIの補助を受け、精神に直接接続し動かしているが、

ドラグーン・システム、特にドレッドノートやプロヴィデンスの初期型ドラグーンは空間認識能力が一定以上の数値を誇っていれば操る事ができる装備だ。

 

謂わば、選ばれた者以外使う事が出来ないのだ。

 

しかし、十全に扱えた暁には凄まじい戦闘能力を発揮する。

 

俺にはドラグーンやビット、そしてガンバレルを十全に扱う能力はない、

しかし、その分、対G耐性が秋良と比べても遥かに高い。

 

逆に秋良の動体視力は俺の追随を許さない。

 

そして、雅人は空間認識能力が高いか・・・。

 

なかなか面白い事になって来たな。

 

まあ、能力同じでもつまらんしな。

 

そんな事を考えている内に、

戦局は更に動こうとしていた。

 

sideout

 

side雅人

 

「くっ!!」

 

箒は紅椿のスラスターを吹かし、

ドラグーンから一斉に発射されるビームをなんとか回避していく。

 

おいおい、これがISを動かして一ヶ月の奴の動きかよ?

って、まあ俺も人の事は言えないか。

 

しかし、俺に与えられた力は空間認識能力だったか、

なかなか便利だな。

 

しかし、ドラグーンではそろそろ当たらなくなって来たな。

 

手の内を曝す様な事はあまりしたくはないが、

一度は全部の装備を使っておいた方がいいな。

 

そう思い、ドラグーンを全て戻した。

 

「!!貰った!!」

 

それを反撃の好機だと見た箒が、二本の刀を構え突進してくる。

 

確かに相手が次のモーションに動こうとしている所を狙うのは戦いにおいては当然だろうが、

今、敵の手の内が分からないのに突っ込んで来るのはただの自殺行為だ。

 

「チェンジ!ドレッドノートイータ!!」

 

X字のドラグーンが消え、ギリシャ文字のηを思わせる装備が出現する。

 

これぞ第三のドレッドノート。

ドレッドノートイータだ!

 

イータユニットを両腕に保持し、ビームソードを発生させ、

箒の刀を紙一重で回避し、斬撃を叩き込んだ。

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

もろに喰らった箒は、

機体制御が出来ずに落下していく。

 

「おっと、大丈夫かマドモアゼル?」

 

「す、済まない。」

 

箒の腕を掴み、ゆっくりと地面に降りる。

 

お姫様抱っことかはしない、

流石に好きでもない相手にされても喜ばないだろうしな。

 

「ありがとう、いい体験になった。」

 

「礼を言うのは私だ、色々と学ぶ事があった。」

 

「そうか、ならよかった。」

 

そう言い、俺は箒を支えたままピットへと戻った。

 

sideout

 

side一夏

 

「凄い・・・!」

 

「あれが、ドレッドノート、勇敢なる者・・・。」

 

規格外だな、第四世代機の紅椿をいとも簡単に下してしまうとはな。

だが、良いねぇ・・・。

 

ここまで圧倒的な強さを見せられると逆に清々しい。

 

戦ってみてぇな・・・。

 

だが、流石に二時間程前にセシリア達と戦った所で、

機体も調整中だ、すぐには戦えねぇな。

 

「チィーッス、戻ったぜ。」

 

「御疲れさん、何か飲むか?」

 

「じゃあコーラをくれ。」

 

「私はジンジャーエールで頼む。」

 

「あいよ。」

 

面白い戦いが見れたしな、これぐらいはサービスしてやっても良いだろう。

 

冷蔵庫からコーラの缶とジンジャーエールの缶を取りだし、

二人に投げ渡す。

 

「「炭酸飲料を投げるな!!」」

 

「良いじゃねぇか別に。」

 

中身が揺れない様に投げたし、

吹き出す事は無いだろう。

 

二人は缶を受け取った後、缶の周りをデコピンしていた。

でたよ、思いっきり振っても中身が噴き出さない裏技。

 

「この野郎・・・!」

 

「文句があるなら返せ、もっと振ってから渡してやる。」

 

「もうこれで良い!」

 

雅人はプルタブを引き、

一気飲みの如くコーラを飲み干していく。

 

「くぅ~!動いた後のコーラはうまいねぇ!!」

 

「静かに飲め、今から反省会だ。」

 

モニターを操作し、先程の戦闘の映像を映す。

 

「箒はケーブルを切るだけではなく、クロー部も壊しておくべきだったな。」

 

「ああ、分かってる。」

 

「雅人はあれだな、もうちょい操縦技術を向上させろ。」

 

「そう言われると思ってたぜ、

しょうがねぇさ、今さっき転生してきた所なんだしよ。」

 

分かってるなら良いんだがな。

 

さてと、変に時間が余ってるな。

何をすべきか・・・。

 

そう言われると言えば、十蔵の爺さんが戻って来いとか言ってたな。

 

裏の仕事を任されてる身としては、長いこと開ける訳にもいかないか。

 

そのついでに転入手続きをさせちまうか。

 

「取り敢えず、転入手続きをしにいくぞ、

用意をしておけ。」

 

「分かった、シャワーだけ浴びさせてくれ。」

 

「良いだろう、一時間後にロビーに来い、それから出発だ。」

 

「了解した、それじゃあまた後でな。」

 

雅人はそう言うと、モニタールームから出ていった。

箒はジンジャーエールの缶を受け取った後にすぐ出ていった為、

既にこの部屋にはいない。

 

「やれやれ、また面倒な事が増えちまったな。」

 

「ですが、楽しみがまた一つ増えたのではありませんか?」

 

フッ、違いないな。

まったく、コイツらはどうして俺の心を見透かすのが巧いんだろうな?

 

ま、どうでもいい事なんだがな。

 

「お前達も準備をしておけ、

恐らく一週間やそこらはこっちに戻って来れないだろうしな。」

 

「分かりましたわ。」

 

「それじゃあ僕達も用意してくるね。」

 

セシリアとシャルはそう言って部屋を出て行く。

俺も行くべきだな。

 

そう思い、俺も席を立った。

 

sideout

 

noside

それから二時間後、一夏達はIS学園に到着し、

理事長室を訪れていた。

 

IS学園の真理事長である轡木十蔵に、

三人目の男性IS操縦者である雅人の転入の話をする為である。

 

「なるほど・・・、分かりました、転入の手続きは私が通しておきましょう、

一夏君には頼まれて欲しい仕事が幾つもあります、余計な仕事を増やす訳にはいきませんからね。」

 

「ご迷惑をおかけします理事長、

雅人、先にアクタイオンに戻ってくれ、

一週間やそこらはこっちに居るからな。」

 

「分かったよ、それでは失礼します。」

 

雅人は一礼した後、理事長室を去って行った。

 

 

「それで、私に頼まれて欲しい仕事とはいったいなんです?」

 

彼が居なくなったのを確認し、

一夏は十蔵の真意を尋ねる。

 

「今晩辺り、わざと学園の警備を手薄にし、

侵入してくる敵を一網打尽にしたいのです。」

 

「なるほど、そろそろ脅しの、言葉が悪いですね、交渉の材料として使いたいと。」

 

一夏は納得した様に呟き、

十蔵の真意を更に噛み砕いて理解する。

 

「その通りです、私も教員の端くれ、

学園の安全を守りたいとは思っています。」

 

「それは私達も同じ事ですわ。」

 

「そうです、無関係な人達を巻き込む事なんて赦せません。」

 

十蔵の言葉に、セシリアとシャルロットも頷き、

学園を守護する事に対する意欲を見せる。

 

「ですが、私には力が無い、若い時ならいざ知らず、

年老いた今、貴殿方の様に闘う力は無い、ですから、私にできる事は裏への手回しだけです。」

 

十蔵は自分の嗄れた手を見せ、

自分の老いを嘆く様に話す。

 

「それ故、貴殿方三人に動いて貰わなければならない。」

 

「分かっています、俺達には力がある、

敵を討ち、この学園を守る力がね。」

 

「ええ、ですので、今夜もよろしくお願いします。」

 

「了解しました、それでは失礼します。」

 

十蔵に一礼し、一夏達は部屋から辞した。

 

sideout

 

side一夏

 

「やれやれ、二三日依頼が無かったかと思えば、

今日一気に来るのかよ。」

 

「仕方ないよ、一夏は人気者だからね。」

 

「そんな人気者なんかなりたかねぇわ。」

 

人気者は辛いねぇ・・・、

いらん仕事が幾つも増えるしな。

 

それって人気者って言うより、

よろず屋って言うんじゃないか?

 

まあそれはそれで良いんだが。

 

「一夏様、まずは食事を済ませませんか?」

 

「そうだな、そうするか?」

 

「僕もそれが良いな。」

 

セシリアの提案を受け入れ、

彼女達と共に食堂へ足を向ける。

 

俺達の仕事は真夜中、日付が変わる頃だ。

 

それまではいつも通りの日常を過ごせば良いさ。

 

「行くぞ。」

 

「はい。」

 

「うん。」

 

sideout

 




はいどーもです!

次回は雅人のキャラ説明とドレッドノートの機体紹介をしたいと思います。

それでは失礼します!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キャラ説明&機体説明

加賀美雅人(かがみ まさと)

15歳

享年二十歳

 

新たに転生してきた男。

前世での死因は自殺しようとしていた少年を説得に行った際、

誤って転落して死亡した。

 

しかし、それが神の手違いだと知るが、

女神を責める事なく、少年が生きている事を喜んだ。

 

女神の計らいでスーパーコーディネイター並の身体能力を持ち、

一夏達の後を追うように転生した。

 

性格は至って明るく、ともすれば軽薄と取られてしまう事があるが、

意外と面倒見が良く、前世で惚れ込んでいた楯無の補佐に回ることもある。

しかし、強敵との戦闘の際は熱くなり、我を忘れる癖がある。

 

趣味はドラム演奏。

 

専用機としてドレッドノートガンダムを使用する。

 

キャラモチーフはカナード・パルス

 

 

機体紹介

 

ドレッドノートガンダム

 

ガンダムSEEDXアストレイに登場したドレッドノートガンダムをモチーフにしている。

 

ノーマル形態、Xアストレイ形態、イータ形態の三種類を使い分け、

効果的な戦闘スタイルをとる事ができる。

 

しかし、ドレッドノートガンダムは基本的にニュートロンジャマーキャンセラーを搭載し、

核エンジンで動く事を前提としていたため、エネルギー効率には少々難がある。

 

後に改修を受け、エネルギー効率はストライクと同等に引き上げられた。

 

本機にもリミッターが課せられており、

第三世代機相当のスペックに抑えられているが、

解除した際にはモビルスーツ並の性能を発揮し、装甲もPS装甲へと戻る。

 

ノーマル形態

ドレッドノートガンダム本来の姿。

ビームライフル、ビームサーベル内蔵型シールド、

そしてプリスティスのみというシンプルな装備ながら、

戦闘能力は通常のISの追随を許さない。

 

主装備

 

MA-M22Y ビームライフル

ドレッドノート専用のビームライフル、

ストライク等のGAT-Xナンバーのビームライフルより圧倒的に攻撃力が高い、

しかし、その反面、使用するエネルギーの量も桁違いに多くなってしまっている。

 

 

MA-MV04 複合兵装防盾システム

ビームサーベルを内蔵したシールド。

 

 

XM1 プリスティス ビームリーマー

腰部に装備された兵装。

ケーブルで本体と直接繋がれているが、切り離し、ドラグーンの様に使用する事も出来る。

 

なお、ケーブルはエネルギー供給用及び、端末のロストを防ぐための装置でしかないため、

切断されても本装備の使用には一切の支障は無い。

 

また、腕に保持し、ビームサーベルの様に使用する事も出来る。

 

 

Xアストレイ

ノーマル形態に追加装備としてドラグーン・システムを追加装備した姿。

 

装備したバックパックの形状からXアストレイと呼称される。

 

元々強力であったドレッドノートの能力を更に拡張した為、

常人では扱い切れない程の操縦難度を誇っている。

 

主装備

 

ドラグーン・システム

 

ドレッドノートの運用データを基に作り出された装備。

プリスティス同様、エネルギー供給用のケーブルで繋がれているが、

断線しても運用に支障は無い。

 

プロヴィデンスに装備されていたドラグーンの雛型であり、

大型になってはいるが攻撃力は高い。

 

 

ドレッドノートイータ

 

ノーマル形態にイータユニットと呼ばれる複合型兵装を装着した姿。

どの様な戦況にも対応出来る様に開発されたため、オールラウンドで高い戦闘能力を発揮する。

 

だが、その反面、使用するエネルギーの量もノーマル形態より遥かに増大してしまった為、

三形態の中でもっとも扱いに難がある機体になってしまった。

 

名称の由来は、バックパックの形状がギリシャ文字のηに酷似したためである。

 

 

主装備

 

長距離ビーム砲/大出力ビームソード

バスターモードとソードモードを使い分ける事で、

遠近どの領域においても高い戦闘能力を発揮する。

 

グレネードランチャー

イータユニットに搭載されている高火力弾頭。

中距離戦闘の際に使用される事が多い。

 

 

アルミューレ・リュミエール

 

ハイペリオンガンダムに搭載されていた物を改良し、

両腕に装備した物。

 

純粋なエネルギーで構成されている為、

通常の物理盾のようにダメージの蓄積で破壊される事は無い。

 

また、収束率を変化させる事で、

ビームランスの様に使用する事も出来る。

 

 

 

オプション装備として、

タクティカルアームズをバッスロット内部に保管している。

 

 

タクティカルアームズ

 

ブルーフレームセカンドLに装備されていた装備を、

赤紫に塗装し直した装備。

 

バスターソードとしてだけでなく、スラスターやガトリングも搭載されている。

 

尚、Ⅱでは無いため、刀身を腕に装着しトンファーの様に使用する事は出来ない。

これは、タクティカルアームズⅡがブルーフレームサードの運用データを基に、

タクティカルアームズを改修した装備だからである。

 

 

 

 




はいどーもです!

またまたここは違うだろうという所があれば指摘してください。

次回からは秋良、雅人、一夏の順番で夏休みの一幕を書きたいと思います。

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏休みの一幕 映画鑑賞編

side秋良

夏休みが始まって、早二週間が過ぎようとしていた。

 

宿題の類いは最初の一週間の内に終わらせておいたから、

後は学生らしく楽しく可笑しく夏休みを過ごせる。

 

夏休みに入ってからは模擬戦とかを繰り返してばかりだったし、

そろそろ何処かに出掛けてリフレッシュするのも悪くはないかな。

 

なんと都合の良いことに、兄さんから映画のチケットを四枚貰ってるんだよね。

これは使わないとダメでしょ。

 

「と言うわけでやって来ました映画館!」

 

「誰に向かって喋ってるの!?」

 

明後日の方角を向きながら、

どこぞのテレビレポーターが喋りそうな台詞を言ったら、

簪が間髪入れずに突っ込んでくれた。

 

関西人じゃないけど、

ボケたらツッコんでくれるのは本当に嬉しいね。

 

まあそんな事はどうでも良いとして、

現在、俺は鈴、簪、そしてラウラを連れて、

レゾナンス内部にある映画館にやって来たんだ。

 

昨日の内にアクタイオンからIS学園に戻って、

今日遊びに出掛けたんだ。

 

簪がどうしても観たいという、ヒーロー物の映画があるそうで、

この際どうせなら皆で観ようという事になってね。

 

「にしても、映画館に来るのも二十年振り位だね。」

 

あまり映画館とかの暗くて堅苦しい場所には行きたくなかったからね、

最後に行ったのも、前世の15歳位だったね。

 

「・・・、秋良、私達は貴方の正体を知ってるけど、

ぱっと見、十代にしか見えない貴方がそんな事言うと流石に驚くよ・・・。」

 

「あら、そうなのかい?

嫌だわ、まるで俺が年寄りみたいじゃないか。」

 

「もうすぐ四十とか言っていた奴が何をほざく?」

 

「ラウラ・・・?兄さんの言葉使いをそのまま持ってこないでよ・・・。」

 

あの人の罵倒は心を直に突き刺していくからね・・・。

その言葉を学んだラウラの罵倒は、俺の心を貫くのには十分な威力を兼ね備えていた。

 

「と、取り敢えず映画観よ?」

 

「そうだな、鈴の言う通りだ。」

 

鈴が場を纏める様な発言をし、

ラウラも同意する様に頷く。

 

「あ、秋良?そろそろ行こ?」

 

「うん・・・、行こうか・・・。」

 

言葉のアグニをマトモに喰らった俺を、

簪がそっと寄り添いながら声をかけてくれた。

 

まあ良いや・・・、取り敢えず映画を観よう・・・。

 

sideout

 

side簪

と言うわけで、私達は映画館の内部にやって来ました。

 

夏休みと言うことで、やっぱり親子連れが多い中、

私達への視線は凄いものがあった。

 

まあそうよね、高校生が見に来る様な映画じゃないし、

秋良みたいなイケメンに鈴やラウラみたいな可愛い女の子がいたら視線も多くなる。

 

まあそんな事より、今は席を探さないと・・・。

 

「あったあった、此処だ。」

 

秋良が真ん中に座り、

私達はその周りを囲む様に座る。

 

それからポップコーンをつまんでいると、

劇場内が暗くなり、上映開始を報せるブザーがなる。

 

「むっ!?敵か!?」

 

「ラウラ?それは違うからね、今から映画が始まる合図だからね?」

 

瞬時に身を隠すラウラを摘まみ上げ、

秋良は元の席に座らせていた。

 

「むぅ・・・、そうならそうと最初に言ってくれれば良いではないか。」

 

「はいはい、俺が悪かったから、静かにしてね。」

 

ラウラを宥め、秋良はジュースに口を付ける。

 

ラウラって、生まれてからずっと軍属だったせいもあるけど、

流石に常識がすっぽ抜けすぎだよね。

 

一度一般常識と言うものを教え込もうかな?

 

まあ、そう言うのは一夏達に任せれば良いよね?

 

いけないいけない、今は映画を楽しまないとね、

チケットをくれた一夏に失礼だね。

 

sideout

 

side秋良

映画を見終わった後、

俺達はフードコートにて昼食をとっていた。

 

「はぁ~!やっぱり格好よかったぁ~!」

 

「うんうん!やっぱり仮面ライダーは良いよね!!」

 

鈴と簪が表情を輝かせながら、

さっき見た映画の感想を言っていた。

 

個人的な感想を言えば、確かにCG技術や単純な特撮技術はやっぱり圧巻の一言に尽きるけど、

どうしても気になった点があった。

 

「仕方がないとは言っても、やっぱりあの地面はどうにかならなかったのかな?」

 

「同感だ、他は素晴らしいのにどうしても目がいってしまう。」

 

ライダーやスーパー戦隊が一同に会するあのシーンは圧巻なんだけどさ、

やっぱり人数的に無理があったのか、所々乾いた地面と水溜まりの出来た地面とが同じシーンでちぐはぐな感じに撮されてたのが凄く気になった。

 

流石に二百人越えの人数を揃えるのも、

戦わせるのも無茶があるからね。

 

「もうっ!それは気にしちゃいけない所!」

 

「そうだよ!迫力があることには変わりない!」

 

簪と鈴が頬を膨らませながらも反論する。

うん、怒ってるつもりなんだろうけどさ、可愛いだけだよ?

 

「ははは、そうだね、どうしても気になっちゃってさ。」

 

もうこの歳になるといらない所まで気になるたちだからね。

 

そこ、年寄りくさい言わない!

 

「もうっ、確かにもうちょっと各々のヒーローの目立つ場面が欲しかったかな。」

 

「うんうん、アタシとしてはサブライダーとか六人目以降のレンジャーも出して欲しかったよ。」

 

「まあそうだね、それよりこれからどうしようか?

寮の門限にはまだまだ時間があるし。」

 

ちょっと早めの時間から映画を観ていた為、

変に時間が余ってしまった。

 

さてさて、どうしたものか・・・。

 

そうだ、良いことに考えた。

 

「そうだ、ゲーセンに行かないかな?」

 

「あ!良いね!」

「賛成!」

 

俺の提案に、簪と鈴は表情を輝かせて賛成してくれた。

 

簪はゲームとか好きそうだし、

鈴はUFOキャッチャー巧かったしね。

 

「ゲーセンとはなんだ?」

 

ラウラが首を傾げ、

ゲーセンの事を尋ねてくる。

 

うん、可愛いからやめてほしい。

 

「あー、ラウラは知らないか、なら教えるって意味も籠めて行ってみるのも良いね、

それでいいかな?」

 

「「いいとも~!」」

「い、いいとも~?」

 

簪と鈴は楽しそうに、

ラウラはちょっと戸惑いながらも拳を突き上げる。

 

よし、行くとしますか。

 

sideout

 

side簪

・・・、という訳で、私達はレゾナンスではなく、

そこからちょっと歩いた場所にあるゲームセンターにやって来た。

 

久しぶりだなぁ、

最後に来たのって、代表候補生の訓練始まる前だったなぁ。

 

それより、やっぱり今日も何処かの影から視線を感じる。

馴れてるんだけど、今日は何処かいつも違う気がする。

 

なんか、何時もは私だけを見てるんだけど、

今日は私達全員を見てるみたい。

 

まさか、今日は姉さんじゃなくて、

何処かの国家の黒服?

 

確かに秋良は一夏と雅人共々、世界に三人しかいない男性IS操縦者、

普通に考えても、そして学術的にも興味深いと思う。

 

つまり、秋良達は何時、何処で拉致被害に遭うかどうかもわからない。

 

今は傍観しているだけだけど、

一応秋良には伝えておいた方がいいかな?

 

「オーイ、簪~!」

 

トイレに行っていた秋良がこっちにやって来た。

鈴とラウラはUFOキャッチャーの方に行ったらしい。

 

ここだけの話、ラウラの部屋に行った事があるんだけど、

ルームメイトのシャルロットの荷物を含めても殆ど何も無かったの。

 

服はこの際置いといて、

ぬいぐるみや小物類の一つも無かったのは正直驚いたよ。

 

鈴もそれは知ってたから、

ここで何かぬいぐるみをゲットしたいんだと思う。

 

って、そんな事は後で良いの!

今はこの視線の事を・・・!!

 

「秋良・・・、その・・・。」

 

続きを言おうとした私の唇に指を添え、

秋良は静かにするように、という意味のジェスチャーをする。

 

「分かってる、でも放っておいて大丈夫だよ、

もし何かしてきても俺達が黙らせればいいんだからね。」

 

なんだ、秋良も気付いてたんだ・・・。

なら私がとやかく言うことじゃないよね?

 

「まぁ、後で教えてあげるよ、

取り敢えず簪は何がやりたい?」

 

「う~ん・・・、あのカーレースやりたいな!」

 

「良いね!行こうか!」

 

やりたい事で頭がいっぱいだった私は、

秋良が意味深な事を呟いた事に気付かないまま、

ゲームの前に立った。

 

sideout

 

side秋良

 

「ま、また負けた・・・!!」

 

カーレースゲームをやり始めて十数分後、

俺は累計五敗目の敗北を喫し、膝をついて地面を叩いた。

 

正直、俺もカーレースゲームには自信があった、

だけど簪は俺の上を行っていた。

 

「やった~!秋良に勝てた!」

 

くそぅ・・・、簪がこんなにやり込んでるとは思わなかった・・・。

そう言えば、一度凄いレースに強いゲーマーがいるって弾に聞いたことがあったな・・・

それってやっぱり簪の事だったのか・・・!!

そりゃそうか・・・、そこそこやってる奴と、やり込んでる奴とじゃテクニックの差が凄いからね・・・。

 

「ふふっ、秋良もなかなか上手かったけど、

まだ私に勝てるレベルじゃないよ。」

 

「参ったなぁ・・・、まさかこんなに強いとは思わなかったよ。」

 

くそっ、もう一戦挑みたい所だけど、

今月兄さんにポーカーでボロ負けしてピンチなんだよなぁ・・・。

 

どうしたものか・・・。

 

「秋良っ、そろそろ鈴とラウラの所に行こっ?」

 

「あぁ、そうだね、行こうか。」

 

良かった・・・、これでまだ続けるとか言われたら今月の給料全部使っちゃう所だったよ・・・。

 

さてさて、鈴とラウラは何処かなっと・・・?

 

ん?なんだ?

なんだか凄いぬいぐるみの山が見えた様な気がするんだけど?

 

そんな事を考えつつ、

その方へと歩いていくと・・・。

 

「やった!また捕れた!」

 

「凄いぞ鈴!いったいこれで何体目だ!?」

 

「え~っと、十個目だね!」

 

何ぃっ!?こんな短時間で十個も景品を手にいれたのか!?

鈴、昔よりUFOキャッチャーが巧くなってる・・・!!

 

「やった!新記録だ~!」

 

「むぅ、私もやりたいぞ!鈴!どれが捕りやすそうだ!?」

 

ラウラまでヤル気になってるし!?

ラウラは軍人なだけあって順応性が高いからなぁ・・・。

 

下手したらこの店のUFOキャッチャーの景品、

全部無くなっちゃうかもしれないね・・・。

 

まあ良いね、なかなかの物じゃないか。

 

「よ~し!やるわよ~!!」

「うむ!やってやろうではないか!」

 

あら~・・・、凄いやる気だねぇ・・・。

 

さてと・・・、俺は何をしようかね?

 

sideout

 

noside

それから一時間後、

ゲームセンターから大量のぬいぐるみが入った袋を幾つも持った秋良達が、

ほくほく顔をしながら出てきた。

 

ラウラを始め、簪も加わり、あれから更に十個以上のぬいぐるみや、

フィギュアの類いを手に入れる事が出来たのである。

 

「いや~、大漁大漁!!いっぱい捕れたね!」

 

「凄いね二人とも・・・、こんなに捕れるなんて・・・。」

 

ぬいぐるみが入った袋を持った秋良が如何にも愉快といった風に笑い、

簪は感激した様に呟いていた。

 

「流石に捕りすぎたね、ちょっと重いよ。」

 

「確かにね、でも、ラウラの部屋を綺麗に飾り付け出来そうだよ。」

 

鈴が苦笑しながら言い、

秋良もそれに頷きながら答える。

 

「鈴、簪、今日は楽しかったぞ、

二人には感謝してもしきれん。」

 

ラウラは柔和な笑みを浮かべ、

今日という一日を共に過ごしてくれた友に感謝の言葉を述べていた。

 

「良いのよ、ラウラは友達だもん。」

 

「そうよラウラ、友達と楽しく過ごせたのは私達も同じよ。」

 

鈴と簪は彼女の礼に微笑みながらも、

自分達も楽しめたと言うことを伝える。

 

「あの~、俺の事を忘れてないかな?

忘れてた人は手を挙げなさい?」

 

何故か名前を呼んで貰えなかった秋良がすごすごと尋ねる。

 

すると、三人は彼をほったらかしにし、

さっさと歩いて行ってしまう。

 

どうやら完全に存在していた事を忘れていたらしい。

 

「ちょっ!?酷くない!?」

 

批難の声をあげながらも、

秋良は何処か楽しそうに三人を追い掛ける。

 

彼とて、今日という一日が真に楽しかったのだから。

 

彼等の夏は、終わりに近付いていた。

 

sideout




はいどーもです!

今回はほのぼの系を書いてみました。

という訳で、ほのぼの系の次はおバカ系を書いてみたいと思います。

それでは次回予告
秋良達が楽しんでいる裏で、
とある二人の掛け合いが行われていた。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
夏休みの一幕 ストーカー編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏休みの一幕 ストーカー編

side雅人

 

「あー!暇だ!!」

 

しょっぱなから叫んで申し訳ない、

初めましての方は初めまして、第三の転生者、加賀美雅人だ。

 

昨日の内にアクタイオンからIS学園の寮に移ったんだが、

今日はアリーナが点検中と言うことで機体を動かしての訓練が出来ない。

 

ならばと、一夏を訪ねて、

この世界の案内を頼もうとしたが、

どういう訳か部屋にいなかった。

 

そう言えば、奴は何か仕事を任されている様な雰囲気だったな、

なら仕方ねぇか。

 

と言うわけで、今は秋良に相手してもらおうと、

彼を探しているんだが、如何せん、この学園は広くて何処にいるかが全く判らん。

 

案内板を見ても、何処がどの場所かなんて全然判らん。

迷走を続けること十分、漸く秋良らしき人影を見付けた。

 

「おっ、いたいた、オーイ、秋良・・・?」

 

声をかけようとしたが、

彼の周りに三人の少女の姿があった。

 

あれは、IS三大ロリータの鈴、ラウラ、簪じゃないか。

なるほど、これから秋良と何処かに出掛けるんだろうな。

 

三人ともすげぇ楽しそうに笑ってるし、察する事なんて容易に出来る。

やれやれ、このまま話しかければ俺はお邪魔虫になりそうだ。

 

部屋に戻って教本でも読むとするか。

そう思い、踵を返そうとした俺の視界に、

水色の髪を持った変態が映り込んだ。

 

・・・、そう言えば・・・、

前に一夏が楯無は変態ストーカーになってるって言ってたな・・・。

 

このままだと秋良達をずっと尾行しかねんな。

しょうがねぇ、俺が止めといてやるか?

 

いや、その前に幾らなんでも距離が近すぎないか?

大体十メートルも無いぐらいの距離だ。

 

そんな近くにいたら簪は兎も角、

秋良とラウラに確実に勘づかれるって。

 

やっぱりアイツらに見付かる前に止めとくべきだな。

 

秋良はどうか知らんが、

一夏なら間違いなく半殺しにして行動不能にするな。

それもトリックオアトリート、サーチアンドデストロイ並に・・・。

 

そんな惨劇を見たくも無いし、アイツにさせたくもない。

なので、俺はあの残姉さんに話し掛ける事にした。

 

「オーイ、そこの変態ストーカーさん?」

 

後ろからこっそり近付き、

肩を叩きながら声を掛けた。

 

「~~っ!!!?」

 

その瞬間、彼女は無茶苦茶小さい悲鳴をあげながら飛び上がった。

ある意味凄い器用な事をするな。

 

「(お、嚇かさないでよ!!今簪ちゃんの可愛いところをじっくりたっぷり観てるんだから!!)」

 

これまた器用な事に、小声で叫ぶという芸当までやって見せていた。

 

「(ワリィワリィ、だが、今声を掛けとかねぇと、

あんたずっとストーキングを続けるだろ?

美人さんが犯罪を犯すのを見てられなくてね。)」

 

「(犯罪なんかじゃないわよ!!これは姉としての義務よ!!)」

 

犯罪行為を堂々と胸張って正当化してんじゃねえよ!

 

こりゃホントに重症だな・・・。

一夏の言った通りだったんだな。

 

そんな事を考えつつ、先程まで秋良達がいた場所を見ると、

そこには既に誰もいなかった。

 

「ちょっ!?なんてことしてくれたのよ!!

見失っちゃったじゃない!!」

 

「俺に言うな!!あんたが犯罪行為を堂々としてるからだろうが!!

取り敢えず落ち着け!!」

 

楯無を宥め、落ち着かせるがこの変態シスコンストーカーはこのまま止まる訳がないと言うことは肌で感じた。

 

どうするべきか?

秋良達に被害を出さない様に、そして尚且つこの残念シスコン変態ストーカーに満足して貰うには何か重要な一手が要るな。

 

ん?そう言えば・・・、この前秋良がこの残念シスコン変態猟奇ストーカーに遭遇したら使えと言っていた物が有ったな?

 

イヤホンみたいな物が着いていたが?

・・・って!?これ完璧に盗聴器じゃねぇか!!

 

・・・、なるほどな、

簪に被害を出さない程度に、この超絶シスコン変態猟奇残念ストーカーを満足させろと。

 

「なんか私の呼び方がどんどん酷くなってない!?

最初は変態シスコンストーカーだったのに最終的に超絶シスコン変態猟奇残念ストーカーになってるし!!」

 

「気のせいだって、それよりこれを耳に嵌めてみな。」

 

涙目になりながら喚く楯無の言葉を流しつつ、

彼女にイヤホンを渡す。

 

『楽しみだね~!夏休みに入ってからの上映だったからずっと楽しみにしてたの!』

 

『そうなんだ、そんなに楽しみなら今日は思いっきり楽しみなよ。』

 

案の定と言うべきか、簪や秋良の声が聴こえてきた。

なんとも楽しそうに会話をしてるな。

 

そう言えば、簪達は秋良に惚れてるんだったっけか?

なら、ここまで楽しそうなのにも納得だ。

 

好きな相手の前では素直になりたいという気持ちはよく分かる。

その逆もまた然りだがな。

 

「こっ、これは簪ちゃんの声!!

グフフフッ!!簪ちゃ~ん!!可愛すぎるわぁぁぁ!!」

 

「・・・。」

 

駄目だこの変態・・・。

声を聴いただけでこれとか・・・、無いわぁ・・・。

 

「待っててね簪ちゃん!!今から追い掛けるからねっ!!」

 

「あっ!?オイコラ!待てこの変態!!」

 

このまま行かせてたまるか!

そう思い、俺は走り出した楯無を追いかけた。

 

sideout

 

noside

 

「あ~ん・・・、なんで入れなかったのよぉ・・・。」

 

「しょうがねぇだろうが、子供に人気の映画なんだし、

いっぱいになるのが当たり前だ。」

 

レゾナンス内部のカフェテリアにて、

ひとりの変態と、ひとりの苦労人が同じテーブルに座していた。

 

IS学園元生徒会長更識楯無と、

世界三番目の男性IS操縦者、加賀美雅人である。

 

パッと見、見た目麗しい美女と、

ワイルド系のイケメンがデートの小休止を取るために向かい合っている様にも見えなくは無いが、

彼等を取り巻く雰囲気はそれを完全に否定していた。

 

「あーもう!なんで止めたのよ!!」

 

「アホかお前は!!一般人を締め上げてチケット奪い取ろうとしたら止めるだろうが!!」

 

そう、劇場がいっぱいになった事を知った楯無は、

あろうことか同じ映画を見ようとした大きいお友達からチケットを奪い取ろうとしたのだ。

 

まあ、それは雅人が必死に止めたために未遂に終わったのである。

 

「何よ!簪ちゃんの可愛いところを見る事の何がいけないのよ!?」

 

「犯罪行為を犯さない程度ならの話だ。」

 

食いかかってくる楯無を宥めながらも、

もう末期だなコイツ・・・、と思う雅人であった。

 

だが、そう思うと同時に、

何やら違和感という物が彼の中には有った。

 

「なあ。」

 

「何よ?」

 

「なんで簪に直接話し掛けないんだ?」

 

彼が腑に落ちない事、

それは何故楯無が簪をストーキングするだけで、直接話し掛けないことだ。

 

「・・・。」

 

彼の問いに、楯無は何も言うこと無く俯いてしまった。

 

「・・・、何かあったのか?」

 

暗く湿っぽい空気を察した雅人が、

何時もより声のトーンを下げつつも尋ねた。

 

彼とて転生者、概ねの理由は転生前から知っている。

だが、同じ転生者の先輩である一夏達の話では、

少々拗れていても可笑しくはない。

 

「・・・、聴いてくれるの・・・?」

 

「嫌なら話さなくて良い、

だが、簪とちゃんと会話をしたいなら話せ。」

 

半ば話せと強制している様な物だが、

彼等にとってそんなことはどうでも良かった。

 

そして、楯無は小声ながらも今日に至った経緯を話始めた。

 

sideout

 

side雅人

楯無の話を纏めると、

最後に話したのは簪が中学に上がる前。

 

能力の差を理由に簪は楯無を避け始めた。

楯無はと言えば、なんとか話をしようとしたが、良い方法が思い付かず、

簪の日々の同行を観察する事を実行しだした。

 

・・・、で、それが変に拗れてエスカレートして、

変態猟奇残念シスコンストーカーが完成したと・・・。

 

「・・・、お前、残念過ぎるだろ・・・。」

 

「酷っ!?こっちは必死なのよ!?」

 

うん、必死なのはこっちにも伝わって来たがな、

如何せん、ベクトルを間違え過ぎてる。

 

「ううっ・・・、どうしたら簪ちゃんと話せるのよ・・・。」

 

「答えは単純、ストーキングを止めろ。」

 

「簡単だ!!でも無理!!」

 

無理なのかよ!

ったく・・・、ストーキングだけならいざ知らず、

職務放棄してるのは流石に庇いきれんな。

 

だが、何故そこまで簪に拘る?

それが分から・・・。

 

そこまで考えて気が付いた。

 

(なんだよ・・・、変わらねぇじゃねぇか。)

 

姉妹仲を修復しようとするが、

空回りして進展しなかった、原作の楯無と、コイツはなんら変わりねぇじゃねぇか。

 

(そうじゃねぇか、俺は楯無のそんな所に惹かれたんじゃねぇか、

空回りしようとも、諦めず妹との仲を修復しようとした楯無と何も変わらないじゃねぇか!!)

 

いけねぇいけねぇ、要らねぇ事に気をとられて、

大切な物を見失う所だったぜ。

 

惚れた女が悩んでるなら、

助けてやるのが俺の務めだな。

 

「しょうがねぇ、俺がなんとか仲を取り持ってやるよ。」

 

「ほ、本当!?」

 

「あぁ、嘘は吐かねぇ、それが俺の信条だ。」

 

分かりやすい奴だな・・・、

本当に裏組織の当主か?

 

ま、十代の頃には隠しきれない感情と言うのもあるか。

 

「その代わり、絶対にストーキングをするなよ?

やったら二度と手は貸さないからな?」

 

「うっ・・・、それで簪ちゃんと話せるの・・・?」

 

「あぁ、お前さえ変われば、簪はきっとそれに応えてくれる。」

 

相手に変わって欲しいなら先ずは自分が変わらなければいけない、

俺は前世からずっとそう思っている。

 

だから、楯無にも変わって欲しい、

ここで立ち止まるのでは無く、新たな扉を開いて欲しい。

 

そう思いつつ、盗聴器のイヤホンを耳に嵌めると・・・。

 

『そうだ、ゲーセンに行かないかな?』

 

『あ!良いね!』

『賛成!』

『ゲーセンとはなんだ?』

 

映画を見終わった秋良達の会話が聴こえてきた。

 

なるほど、映画の次はゲーセンか、

青春満喫ルートだな、悪くないな。

 

だが、デートで行く所ではないと思うぞ秋良?

一夏に話したら激しく同意してくれそうだ。

 

と、まあそんなことはどうでもいいとして・・・。

 

「楯無、動くぞ。」

 

「えっ!?ちょっ!?待ってよ!?

ストーキングをするなって言ったじゃない!?」

 

「確かにな、だが、このまま帰るのもなんか癪だ、

今から俺に付き合え。」

 

「ええっ!?ちょっ!?待ってよ!?」

 

sideout

 

noside

レゾナンスより少し離れた場所にあるゲームセンターに、

雅人と楯無はやって来ていた。

 

なるべく秋良達に勘づかれない様に、

少々距離を開けていたため、ゲームセンターに入ったのは秋良達の少し後である。

 

だが、到着直後、楯無が用をたすと言い、何処かに行ってしまったため、

雅人は少々手持ち無沙汰になってしまった。

 

で、彼もトイレに行くことにした。

 

「はぁ~、なんか疲れた・・・。」

 

「お疲れの様だね、雅人?」

 

彼の隣に秋良が立った。

 

「うおっ!?ビックリさせるなよ?」

 

「あはは、ごめんごめん、そんなつもりはなかったんだけどね。」

 

ちょっと慌てる雅人だが、

すぐに落ち着き、秋良に向き直る。

 

「やっぱり気づいてたか?」

 

「そりゃね、雅人も楯無も気配が駄々漏れだったしね。」

 

「そうか、精進させてもらうよ。」

 

自分の隠密性の低さに自嘲しつつも、

雅人は軽妙に笑ってみせた。

 

「事中報告だ、簪と面と向かって話をさせる為にストーキングを辞めさせる、

だから・・・。」

 

「分かってる、そこはかと無く簪に働き掛けてみるよ、

悪いね、本当なら俺がやるべき事なのにさ。」

 

「気にするな、今はお前の女を楽しませる事を考えときな。」

 

悪いねと一言残し、秋良は去っていった。

一人残された雅人は何処か満足した様に自分も歩き出した。

 

「あっ!何処行ってたの!?」

 

雅人がトイレから出ると、

楯無が何故か食いかかってきた。

 

「化粧直しだ、察せよそれぐらい。」

 

「男なのに化粧直しって可笑しいわよ!

普通にトイレに行っていたって言いなさいよ!!」

 

「いちいちうるせぇな、気にするなよ。」

 

楯無に苦笑しつつ、

雅人は彼女を宥める。

 

「さてと、帰るぞ。」

 

「あっ!待って!」

 

踵を返し、立ち去ろうとした雅人を楯無が呼び止める。

 

その理由が分からず、雅人は首を傾げつつも振り返る。

 

「貴方の名前、教えてよ!」

 

楯無にそう言われ、彼はそう言えば教えてなかったかと苦笑する。

 

「雅人、加賀美雅人だ、覚えとけよ更識楯無。」

 

小悪党が去り際に叫ぶような言葉を残し、

雅人は今度こそ楯無に背を向け、歩き去った。

 

「雅人・・・、覚えておくわ。」

 

一人残された楯無は、

彼の背を見ながら呟く。

 

彼の後ろ姿は、彼女の脳裏にしっかりと刻まれたようだった。

 

 

sideout




次回予告

夏休み終了を目前に控えたある日、
一夏達はある場所に出掛ける。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
夏休みの一幕 邂逅編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏休みの一幕 邂逅編

side一夏

新学期を目前に控えた日曜、

俺はセシリアとシャルとで出掛けることにした。

 

外出なんて久し振りだ、

昨日の夜までずっと仕事漬けだったしな。

 

勿論、影の人斬りの仕事も毎晩の様にこなしている。

今月だけで三桁以上の人間を斬り殺した。

 

正確な数も、そして死に際の断末魔も鮮明に覚えている。

いや、覚えていなければならないと言うべきだな。

 

幾ら任務とは言え、生きる者の命を奪った事からは逃れられない。

だから、存在を消された奴等の事を永遠に覚えておく、

それが俺に斬り殺された者達への敬意と礼儀だと思っている。

 

ま、今はそんな話は良いか、

死んだ人間よりも、生きて隣にいる女を見つめなければ失礼というものだ。

 

「済まないなセシリア、シャル、折角の夏休みだったのに今の今まで何処にも連れていってやれなくてな。」

 

「お気になさらないでくださいな一夏様。」

 

「僕達は一夏と一緒にいられればそれで満足だから。」

 

仕事を手伝わせてばかりなのにな、

本当に可愛い女だよ、セシリアとシャルは。

 

「ま、今日は思いっきり楽しもうぜ、

そう言えば何処に行くか決めてなかったな。」

 

「そう言えばそうでしたわね。」

 

「うん、何処に行く?」

 

最悪だな、デートに出掛けるってのに、

何処に行くか決めてねぇなんて、紳士失格だな。

 

そう言えば、そろそろ夏も終わりだし、

秋物の服を見に行くのも悪くはないな。

 

よし、そうするか。

 

「取り敢えずレゾナンスに行ってみるか、

そこで秋物の服を見るのも悪くはないだろう?」

 

「あ、良いねそれ!」

 

「私も行ってみたいですわね。」

 

シャルは乗り気だし、セシリアもたまにはいい刺激になるだろうからちょうど良いな。

 

そう思っている内にモノレールは駅に着き、

俺達は席を立った。

 

sideout

 

noside

 

「これなんかどうだ?」

 

レゾナンス内部の一角にある服屋に三人の姿はあった。

 

一夏とセシリアが服の品定めを行い、

あーでもないこーでもないと言いつつも服を選んでいく。

 

因みに、彼等が店に入った時、

店内にいた全ての人間が手を止め、彼等に見とれていた。

 

「少し派手ではありませんか?」

 

「いや、シャルにはこれぐらいがちょうど良い。」

 

セシリアが白を基調とする服を薦めるのに対し、

一夏はオレンジや赤を基調とし、尚且つ黒のワンポイントが入った服を薦める。

 

「確かに白も悪くない、だが、シャルには赤やオレンジの明るい色が似合う、

セシリアは逆に白や青、それから水色も似合うだろうな。」

 

「そうですが、今回は敢えて黒の下地に白のカーディガンという組み合わせもありますわ。」

 

「むっ、そのチョイスは頭に無かったぜ、流石だなセシリア。」

 

「お褒めに与り光栄ですわ。」

 

黒髪のワイルド系イケメンに優雅にお辞儀をする薄金髪の美少女は、

一枚の名画の様に美しい光景である。

 

「う~ん、僕はどっちも好きだなぁ、でも、今日はセシリアの選んでくれたのにしようかな?」

 

「それでは試着してみてくださいなシャルさん。」

 

「うん、ありがとセシリア♪」

 

そして、彼等のすぐ近くに控えていた濃金髪の美少女が、

薄金髪の美少女から服を受け取り、身体に当ててみる。

ただそれだけの行為だが、十分に絵になる。

 

「そう言えば一夏様の私服も、選ばせて頂けませんこと?」

 

「俺のか?」

 

「うん、一夏ってば、僕達を気にかけてくれるのは嬉しいんだけど、

ちょっとは自分の事に気を使って欲しいな。」

 

セシリアとシャルロットに言われ、

一夏はその端整な顔を少し歪める。

 

彼とて身嗜みにはそれなりに気は使っているが、

それが足りないと言われている様に感じたのだ。

 

「そうか?自分なりに選んでいるつもりなんだが・・・。」

 

「それが足りないからお嬢ちゃん達が言うのよ。」

 

「んっ!?」

 

自分の言葉に重ねられる様に言われた言葉に驚きつつ振り向くと、

そこには柔らかい金髪を持った美女が柔和な笑みを浮かべて立っていた。

 

セシリアとシャルロットは彼女が何者か分からずに一瞬警戒するが、

一夏はその美女に見覚えがあった。

 

「ナターシャ・ファイルス・・・?」

 

「ええ♪久し振りね織斑一夏♪」

 

「あぁ久し振りだ、ってなんで貴女が此処にいるんだ?」

 

ナターシャ・ファイルス。

臨海学校の際、暴走した銀の福音のテストパイロットである女性。

 

本来はアメリカ軍イレイズドに所属している筈の彼女が、

何故自分の目の前に立っているのかが理解出来なかった一夏は、

少々警戒しつつも尋ねた。

 

「そんなに殺気立たなくても良いじゃない、

私は挨拶に来ただけよ。」

 

「挨拶?なんのだ?」

 

「ふふっ、それはね、9月からIS学園で勤務することになったって事なの♪」

 

どう?驚いたでしょ?

とでも言いたそうに笑うナターシャを、

一夏達は幽霊でも見たような表情をして凝視する。

 

「?どうしたの?」

 

「いや、初めて聞いたから驚いているのもあるし、

そんなことは学園側からも一切知らされてないから余計にな。」

 

「?それは当たり前じゃないの?発表は9月の全校集会って言ってたわよ?」

 

「いや、そうじゃ無くて、そんな書類は来てないぞ」

 

「えっ?」

 

『えっ?』

 

一夏の言葉を聞き、

ナターシャの表情がどんどん青ざめていく。

 

その様子を見て、一夏達の表情がどんどんひきつっていく。

その表情からは、また面倒が来るのか・・・?

と言った困惑と諦念が見て取れる。

 

「まさか・・・、いえ、そんな筈はないわ!!」

 

かなり慌てながらも、ナターシャは自分の鞄の中を探る。

一夏は最悪の結末を予想し、今すぐにでもこの場から走り去りたいと思った。

 

だが、悲しい事に最悪の予想と言うものはほぼ確実に当たるのだと・・・。

 

「あっ・・・!?」

 

『あぁぁ・・・。』

 

ナターシャが探り当てたのは、IS学園へ送る筈の書類だった・・・。

それを見つけ出したナターシャは崩れ落ち、

一夏達はもう諦めたのか額に掌を当てていた。

 

「(またか・・・、これで何回目だ?)」

 

「(夏休みだけだと十回目だと思うよ・・・。)」

 

「(もう馴れてしまいましたわね・・・。)」

 

打ちひしがれるナターシャに背を向け、

三人は嫌だ嫌だと言った風に話す。

 

出来ることなら逃れたいが、

生徒会長であり、そう言った雑務をこなさなければならない立場上、

嫌とは言えない彼はため息をつきながらもセシリアとシャルロットに詫びる。

 

「(セシリア、シャル、済まないが・・・。)」

 

「(分かっておりますわ。)」

 

「(でも、埋め合わせはよろしくね?)」

 

「(恩に着る。)ナターシャ・ファイルス先生?」

 

「ううっ・・・、なに・・・?」

 

一夏の呼び掛けに、

ナターシャは涙目になりつつも彼に顔を向ける。

 

「取り敢えず学園に行きましょう、

俺がなんとか理事長に御願いしてみますから。」

 

「本当に・・・?」

 

「しょうがないでしょう、学園としても、

貴女に来てもらわなければ困るんですよ。」

 

ナターシャに手を差し出し、立ち上がる様に促す。

彼女は立ち上がり、ストッキングについた埃を払う。

 

「分かったわ・・・、ありがとうね、一夏・・・。」

 

「お気になさらず。」

 

sideout

 

side一夏

・・・と、言うわけで・・・。

 

何処かのドジッ娘さんのお陰で、俺達はショッピングから早々に切り上げ、

現在理事長室に出向いている。

 

理事長にはあんまり頼みたくはないが、

学園全体の為にもそうは言っていられない。

 

「そう言うわけで、期日は恐らく過ぎてるとは思いますが、

この書類を受理して頂きたいのですが?」

 

「そうですか、いやはや、ファイルス先生の天然っぷりは慣れているつもりでしたが、

まさか出し忘れていたとは・・・。」

 

あ・・・、やっぱりドジッ娘だったのね・・・。

 

美人なのにドジって・・・、

何処かの誰かさんの二番煎じを見ている様な気がしてならない・・・。

 

―クシュン!!―

 

 

ん?今何処かでくしゃみが聴こえた様な気がしたんだが?

いや、そんなうまいことはないか・・・。

 

「ところで、理事長とファイルス先生は以前からのお知り合いなのですか?」

 

「そうですよ、以前米軍代表との対談の際に、

彼女は私の案内役をしてくれていました。」

 

「・・・、そこで今日みたいなドジを連発した、と?」

 

「鋭いですね一夏君、まったくもってその通りです。」

 

なんかもー、さっきみたいなドジをされると、

毎度の事なんだろうなぁ・・・、と思ってしまうんだよな。

 

「何も無い所で転んだり、書類をぶちまけたり、

中学生が背伸びしてる感が否めない可愛らしい女性ですよ。」

 

「ただのドジッ娘って言うんじゃ無いんですか・・・?」

 

なんてこった・・・、

どうして年上勢に限ってダメな方向に変わっちまってんだよ・・・。

 

いや、もういいや・・・。

取り敢えず考えることを放棄したいぜ・・・。

 

「それでは織斑生徒会長、ファイルス先生を部屋に案内してあげてください。」

 

「了解しました、それでは失礼します。」

 

轡木理事長に一礼し、

理事長室から出ると、今だ半べそをかいているナターシャと、

そんな彼女の様子に苦笑しているセシリアとシャルが待っていた。

 

「ナターシャ・ファイルス先生、お部屋に御案内します、

こちらへどうぞ。」

 

「は、はい!」

 

うわずった声をあげつつも、

ファイルス先生は俺の後をついてくる。

 

「それで・・・、私は・・・。」

 

「理事長がちゃんと書類を受理してくださいました、

貴女は本日付でIS学園の英語科の教諭として勤務してください。」

 

不安そうに話し掛けてくるファイルス先生を宥めるつもりで、

俺は淡々と理事長に言われた事を伝える。

 

「よかったぁ・・・、今度こそダメかと思っちゃったわ・・・。」

 

「そりゃね、あんなドジを大量にやってたら当然だ。」

 

なんか敬語も疲れるから、

完全にタメ語になったが別に構わんだろう。

 

「うっ・・・!ま、まさか・・・、十蔵さんから聞いたの・・・?」

 

「あぁ、ドジする可愛らしい女性って言ってたよ。」

 

「ウゾヨドンドコドーン!!」

 

「ケンジャキ!?」

 

どこぞのライダーで聞いた事があるような台詞を吐きつつ、

ファイルス先生は床に膝をつき、orzの体勢になった。

 

あまりにも一瞬でやってのけたため、俺ですら捉えきれなかった。

 

「ううっ・・・、恥ずかしい・・・、

年上とかならまだしも・・・、6つも違う子に知られたなんて・・・。」

 

「そこまで落ち込まんでも・・・。」

 

と言うより21か22なんだな、年齢が。

思ったより若かったんだな、駄姉と同い年かと思ってたぜ。

 

「えぇい!もうこうなったら自棄よ!!煮るなり焼くなり犯すなりなんなりして!!」

 

「落ち着け!!今の状況で言われると冗談に聞こえん!!」

 

ほんと、ダメだこの残姉さん、早く何とかしないと・・・。

 

「あれ?なーちゃん?」

 

あぁ・・・、なんで今日に限って嫌な事が立て続けに起こるんだよ・・・。

 

もう諦念を通り越し、どうにでもなれと思いつつ振り向くと、

緑髪の超絶ドジ眼鏡っ子、山田真耶が立っていた。

 

「え?まーやん・・・?」

 

「やっぱりなーちゃんだ!」

 

ファイルス先生だと分かると、山田先生はこっちに小走りで寄ってくる。

 

だが・・・。

 

「へぶっ!」

 

思いっきり足を挫いて転けた。

うわぁ・・・、スゲェ痛そう・・・。

 

「まーやん大丈夫!?」

 

ファイルス先生も立ち上がり、山田先生に駆け寄ろうとするが・・・。

 

「ぼふっ!!」

 

ベチャッ!!

という擬音がマジで見えるような、

見事な転倒を見せてくれた。

 

正直言って、見たくも無かったが・・・。

 

「「・・・。」」

 

二人はほぼ同時にムクリと起き上がった。

転んだ際にぶつけたのか、鼻の先が赤かった。

 

「「あははぁ~♪」」

 

何があははぁ~♪だ!

この残姉さんどもめ!!

 

残姉さんはおかしいか、なら、

この残念な美女どもめ!!

 

くそっ!見ててイライラしてきたぜ!

 

「(一夏様・・・、私、頭が痛くなってきましたわ・・・。)」

 

「(僕はお腹が痛いよ・・・。)」

 

「(奇遇だな、俺は頭も胃も痛ぇよ・・・。)」

 

あぁぁ・・・、誰か頭痛薬と胃腸薬をくれ・・・。

ストレスで死にそうだ・・・。

 

「もう知らん・・・、山田先生、ファイルス先生の案内をお願いしてよろしいでしょうか?

積る話もあることでしょうし。」

 

「わかりました~、鍵をください。」

 

「お願いしますよ。」

 

鍵を渡し、仲良く歩いて行く二人の背中を見送り、

ドジッ娘二人が見えなくなった直後、俺達は盛大にため息を吐いた。

 

「・・・、部屋に帰って寝るか・・・。」

 

「賛成・・・。」

 

「左に同じですわ・・・。」

 

その前に保健室に寄って胃薬と頭痛薬を貰って帰るか・・・。

 

 

この時の俺はまだ気付く事が出来なかった・・・。

 

それから五時間の後、山田先生とファイルス先生が学園内で迷子になり、

捜索隊を集めなければならない事を・・・。

 

 

夏休み最後の休みは、何故か今までで一番疲れる日になってしまった・・・。

 

 

本当に勘弁してくれて・・・。

 

 

sideout

 




はい!どーもです!

第三、第四の残姉さんの登場でした。

またつっこんでくださる事を期待して待っています。

それでは次回予告
新学期が始まり、
一夏達の新たなる日常が始まる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
二学期始動

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二学期始動

noside

夏休みが終わり、

IS学園にも二学期がやって来た。

 

普通ならば、ただ授業が再び始まる位で特に代わり映えしない筈だが、

今回の二学期開始は、新たな仲間との出会いでもあった。

 

一年一組の教室では・・・。

 

「加賀美雅人だ!三人目の男性IS操縦者と言われている男だ、

男だからと言って人見知りせずに話し掛けてくれると嬉しい、

よろしくな!」

 

『キャアアアァァァッ!!』

 

一夏や秋良の時と同様、教室のガラスが震える様な悲鳴が聞こえる。

 

そのあまりにも凄まじい歓声に、

雅人は思わず身をすくめる。

 

「イケメン!それも一夏君と同じワイルド系の!!」

 

「格好いい~!!」

 

「グフッ!グフフッ!ネタがまた増えたわぁ!!」

 

一部、腐った方がいたようだが、

各々口々に興奮の言葉を叫んでいた。

 

 

「あー、うるさいぞ、取り敢えず、

もう一人紹介する人がいる。」

 

千冬が全員を黙らせると、

教室の扉が開き、金髪の美女が入ってきた。

 

モデルと見紛う様な美しい姿勢で教壇に歩いて行き、

そして、盛大に転んだ。

 

折角の美人が台無しである。

 

『・・・。』

 

まさかの展開に、

一組にいた全ての人間が唖然としていた。

 

「あたた・・・、な、ナターシャ・ファイルスです・・・、

よろしくお願いしますぅ・・・。」

 

涙目で挨拶をする金髪の美女は、

なにやら凄まじく残念な薫りがした・・・。

 

「あー、ファイルス先生は山田先生と同じく、

ウチのクラスの副担任を任される事になった。」

 

千冬も、何処か困惑した様な表情を見せる。

 

一夏とセシリア、そしてシャルロットは、

それぞれ頭と胃を押さえていた。

 

こんな朝のSHRが、二学期のスタートとなったのであった。

 

sideout

 

side一夏

SHRが終わり、全校生徒が体育館に集まっていた。

 

俺は生徒会長として、

壇上に立たなければいけなくなっている。

 

やれやれ、忙しい事だな・・・。

 

ま、仕方ねぇわな、それを承知の上で了解したんだ、

やるだけやってみるさ。

 

「それでは、生徒会長より挨拶をして頂きます。」

 

やっと出番か、表の理事長の話は長過ぎだ。

さてと、派手に挨拶をかましますか。

 

司会進行の虚さんが下がった後、

俺は壇上に向けて歩き出す。

 

その途端、ざわめきがより一層大きくなる。

困惑、敵意、様々な感情がこの俺に向けられている。

 

心地いい、

この敵意すら所詮は小物が発する物、つまりは取るに足らない感情だ。

 

だが、そのちっぽけな感情にすがっている奴の心をへし折る事はこの上無い快感だ、

圧倒的な強さを前にした時の恐怖、墜ちる時の悲鳴、絶望に歪む顔、

どれをとっても素晴らしい。

 

さて、反応とやらを見てやるか・・・。

 

「初めましてと言わせてもらう、夏休みより生徒会長の任を任される事になった、

一年の織斑一夏だ、諸君らの上に立つ人間として、精一杯やらせて貰う。」

 

薄い笑みを浮かべ、宣言する様に語る。

だが、どうやら俺の事を快く思っていない奴がいるようだ。

 

聴こえてんだぜ?

何故楯無ではない?とか、男風情が・・・!

とかな。

 

「俺が生徒会長を務める事に不満がある奴は、

この俺に挑んでこい、生身だろうと、ISだろうと受けて立つ。」

 

IS学園生徒会規則第一条、

生徒会長は最強でなければならない。

 

上手いこと作られたもんだぜ、

なんせ、弱肉強食をそのまま体現した様な物だしな。

 

「ただし、俺に挑むには一つ条件がある。」

 

だが、それだけではつまらない、

強い弱いが分かれるのは仕方ねぇ。

 

だが、コイツらは死と向き合うことをしない、

それではこの俺には到底及ばない。

 

「俺に挑んでくる以上、骨の一本や二本、折られる事を覚悟して掛かってこい、

そんな覚悟も無い奴は不平不満を一切口にするな、以上だ。」

 

挑発の様な言葉を残し、

俺は壇上から降りた。

 

さて、一体何人の命知らずが釣られるだろうか?

 

楽しみだ。

 

sideout

 

side雅人

一夏が行った宣戦布告は清々しい物だったが、

取り敢えず今はこっちを何とかしよう。

 

現在、俺達のクラスでは文化祭で行う出し物を決める為のHRが行われていた。

 

普通ならば、屋台とか演劇が定番だろうが、

どう考えてもこれはおかしいだろう・・・。

 

『織斑一夏とポッキーゲーム』

 

『織斑秋良とツイスターゲーム』

 

『加賀美雅人と王様ゲーム』

 

「「「却下!」」」

 

あまりにも馬鹿げているとしか思えない案に、

俺達三人の言葉は見事にユニゾンしていた。

 

『えぇぇぇぇ~~っ!!!?』

 

提案してきた女子たちも見事なユニゾンで非難の声をあげた。

 

やっぱり女子の連携は怖ぇわ。

 

「なんでよ~!?」

 

「アホかお前らは、なんで俺達がそんな面倒を被らなければならんのだ。」

 

一人の女子の非難を、一夏はめんどくさそうに返していた。

アイツもアイツで、めんどくさがりだがらな。

 

「織斑兄弟と加賀美雅人はクラスの共有財産である!!」

 

「お願い!部活の先輩がうるさくて!!」

 

「助けると思って!!」

 

「メシア気取りで!!」

 

原作と殆ど変わらないお願いの仕方だなオイ、

まあ、お願いされてもやりたく無いものはやらないんだけどな。

 

どうしようかと悩んでいると、

何故か凄まじい殺気が叩き付けられた。

 

ってかなんだよこの殺気は・・・!?

人を殺した事がある奴でも此処までキツいのは出せんぞ!?

 

殺気の元を辿ると、そこにいたのは・・・。

 

(一夏・・・!?何故・・・!?)

 

「お前達が何をしようと知ったことではないが、

俺達にまで迷惑が及ぶ様な事を軽々しく口にするな。」

 

俺が困惑している間も、

一夏は凄まじいプレッシャーを発しつつ、

提案者達を睨み付ける。

 

睨み付けられた奴等は震え上がり、

無言で首を縦に振っていた。

 

それもそうだ、一夏の眼は有無を言わせない圧力をもっていたからだ。

 

「あ、兄貴!メイド&執事喫茶なんていかがでしょうか!?

実質コスプレをするだけですし、出す物も簡単な物で済みますよ!」

 

現役軍人であるラウラすら震えながら、

一夏に提案をしていた。

 

「ふむ、メイドと執事か・・・、悪くないな、

それなら俺達だけが面倒を被らなくて済む。」

 

ラウラの提案に、彼は発していたプレッシャーを収め、

何かを思案する様な表情を作る。

 

あまりの変わり身の早さに驚くが、

そんな俺を置き去りに彼は次々に案を出していく。

 

「セシリア、実家に掛け合ってメイド服を人数分集められないか?

デザインは任せる。」

 

「かしこまりましたわ。」

 

「シャルはセシリアのサポートとカスタマイズを請け負ってくれ。」

 

「分かったよ一夏。」

 

「後は料理だな、何か案はあるのか?」

 

「今の所は無いが、取り敢えず手頃、定番の品を置いて置けば何も言われんだろう。」

 

セシリア、シャルロット、そして箒と矢継ぎ早に話を進めていく手腕は流石だとは思うが、

俺には先程の殺気がどうしても理解が出来なかった。

 

一夏、お前はなんなんだ・・・?

 

sideout

 

side一夏

意見を纏め終わった俺は、

職員室で待っているとふざけた事を言いやがった駄姉の所に行き、

意見書を叩き付けておいた。

 

半べそかいていたが、

特に気にしないで職員室から去った。

 

「やぁ。」

 

そんな俺を待っていたのは、

残姉さん組合No.2の更識楯無が待っていた。

 

「よくもまぁぬけぬけと俺の前に顔を出せたな?前生徒会長更識楯無殿?」

 

威圧を出す気すら出ねぇ顔を睨み付ける。

 

仕事を他人に押し付けといて、

なおかつ自分の言いたい事、やりたいことはやるとか、

マジでウゼェ。

 

同族嫌悪?なんの事やら?

 

「そんな顔してたら女の子に嫌われちゃうわよ?」

 

「そんな事を言う為に俺の前に顔を出したのか?

対暗部用暗部組織の当主も堕ちた物だな。」

 

くだらん用事に付き合う気はさらさら無い、

元学園最強も口だけだったとはな。

 

これ以上ここにいても無意味だな。

 

そう思い、楯無から顔を背け歩き出そうとしたが・・・。

 

「・・・、何のつもりだ?」

 

制服の裾を捕まれたので、

イヤイヤながらも振り向くと、

先程のおちゃらけた表情とはうって変わり、楯無は真面目な表情をしていた。

 

「質問に答えて欲しいの、なんであんな事を言ったの?」

 

「残姉さんの割には真面目な事を聞くな、

良いだろう、答えてやる。」

 

さてと、どう言えばコイツは気を損ねるかね?

 

「よく言えば挑発、悪く言えばバカにしてんだよ、

己の力量を見誤り、矮小なくくりの中でしか生きてない阿呆どもにな。」

 

「どういう意味?」

 

「言葉をそのまま受け取って貰って結構だ、

アンタも気付いてるんだろ?俺達を敵視、もしくは差別する目をな。」

 

「それは・・・。」

 

俺の問いに反論しようとするが、

言葉が浮かんでこないのか黙りこんでしまった。

 

「ソイツらに対して、俺は宣戦布告をした訳だ、

恐らく、そろそろ何人か網に掛かってくれる筈だぜ。」

 

俺の言葉が途切れた瞬間、廊下の向こう側から木刀やら薙刀やらを構えたメス豚共が俺に向かってくる。

 

「噂をすればなんとやらだな。」

 

『織斑一夏!!覚悟ぉぉ!!』

 

人気者は辛いねぇ・・・。

ま、楽しませてくれるなら大歓迎だがな!!

 

「キェエェェェッ!!」

 

その内の一人、

恐らく剣道部の部員だろうか、

木刀を振り上げ、俺の脳天を狙ってくる。

 

「下がってろ。」

 

楯無を突き飛ばし、

そのままの勢いで木刀を回避し、手刀で右腕の肘を狙う。

 

直撃した時、ゴキリと骨が折れる音がしたのは言うまでも無い。

 

「ぎぃあぁぁぁぁあっ!!」

 

「おいおい、この程度の痛みで叫んでてどうすんだよ?」

 

倒れこみ、うずくまる女を見下ろしながらもため息を吐いた。

 

追撃はしない、この程度の相手を痛め付けたら弱い者苛めになるしな。

 

「で?お前らは掛かってこないのか?」

 

仲間がヤられた事に怖じ気付いたのか、

俺に向かって来ようとしていた阿呆共はジリジリと後退し始めていた。

 

くだらんな、この程度で止まるとは・・・。

 

「もらったぁぁぁッ!!」

 

あ、そう言えばロッカーの中にも刺客がいたな・・・。

どうでも良いから忘れていた。

 

繰り出される右ストレートを振り向かずに避け、

左手で裏拳を顔面に叩き込んだ。

 

「グベッ!?」

 

ボクシング部の部員だったのだろうか、

俺に殴り掛かってきた女はビデオテープを巻き戻ししたかの様に、

ロッカーの中へ逆戻りしていった。

 

その際、綺麗に扉までもがしまったのは何かの奇跡だと思いたい。

 

まあそんな事はどうでもいい、

まだ戦える奴は幾らでもいるのだからな・・・。

 

「さて・・・。」

 

掛かってこようとしていたメス豚共の方へ顔を向けると、

そこにはもう誰も立ってはいなかった。

 

「逃げたか、人間失格だな。」

 

傷付いた仲間を助けずに逃げ出すとは・・・、

なんとも愚かな事だ・・・。

 

「さて、名誉の負傷をした奴等はしっかりと助けてやらねぇとな、

おい楯無、手伝え。」

 

「えっ・・・?」

 

突き飛ばされた拍子で尻餅をついていた楯無は、

俺のやろうとしている事に気付かず呆けていた。

 

「何呆けてんだ?」

 

「えっ?でもなんで・・・?」

 

「俺は戦士としてコイツらを撃退した、

コイツらに恨みは無い、ならば負傷した奴を助けるのは人として当然だ。」

 

武士道とはそう言う物だ、

俺はそれを信じている。

 

「よっこいせっと・・・、ロッカーの中で伸びてる奴はお前に任せる。」

 

「わ、分かったわ・・・。」

 

sideout

 

side楯無

保健室に負傷した二人を預け、

私は一夏君と休憩室に座っていた。

 

彼はイチゴミルクを飲み、私はコーヒー牛乳を飲みながら向かい合っていた。

因みに、彼の隣にはイギリス代表候補生セシリア・オルコットと、

フランス代表候補生シャルロット・デュノアが座っている。

 

なんでだろ?

イギリスとフランスって、長年かなり深いわだかまりがある筈なのに、

彼の隣にいる二人にはそんな雰囲気は全く無かった。

 

寧ろ、心の底まで分かりあってる様な雰囲気すら漂っているから不思議ね。

 

まあそんな事はどうでもいいのよ。

取り敢えず今は彼に聞きたい事がある。

 

「で?この俺に何の用だ?」

 

「幾つか質問したいの、

貴方は何をしようとしてるの?」

 

「この学園、いや、ひいては世界の安寧の為さ。」

 

織斑一夏は、何処か仄暗い目をしつつ語った。

 

「世界の・・・、安寧・・・?」

 

「あぁ、お前に質問させて貰うが、

お前はこの世界が正しいと思うか?」

 

また哲学的な質問ね・・・、

この世界が正しいかって・・・?

 

正しいって何・・・?

 

どういう意味での正誤・・・?

 

「俺はこの世界が腐っていると思ってる、

特にさっきみたいな粋がった女のせいでな。」

 

「っ・・・!?」

 

何・・・!?この嫌な感触は・・・!?

この心臓を直接捕まれる様な感じ・・・!

 

こんなプレッシャーは感じた事が無いわ・・・!

 

「俺はその中でも楽しみたい、

だから俺は俺の心に従っているに過ぎないさ。」

 

「心・・・。」

 

分からない・・・、

何故彼がここまでのプレッシャーを放てるのか、

そして、何故あの二人がこのプレッシャーを受けて平然としていられるのかが分からない。

 

「そう言う事だ、俺の心を理解出来ん限り、

俺の考えは読めんさ。」

 

彼はそう言って去って行った・・・。

 

だけど、私は暫く動けなかった。

 

「織斑一夏・・・、貴方は一体・・・何なの・・・?」

 

sideout

 




はいどーもです!

次回予告
文化祭一週間前、
一夏達は着々と準備を進めていた。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
文化祭前日談

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

文化祭前日談

side一夏

文化祭一週間前。

 

IS学園では着々と文化祭に向けての準備が進められていた。

 

出す料理も粗方決まり、

後は調理する人員を調整するだけだ。

 

まあ、デザートとしてのパンケーキやプリン、それから簡単なパフェを用意し、

飲み物もコーヒー、紅茶、ミックスジュースぐらいしかメニューに入れて無いんだがな。

 

因みにご奉仕セットなるものは最初からメニューに載せてない。

男子三人が反対したのもあるし、なにしろセシリアとシャルが凄まじい覇気を漂わせていたからでもあるがな・・・。

 

まあそれは置いといて・・・。

 

装飾の方はラウラと秋良が気合い入れてやってるし、

料理に関しては雅人がなんかやる気出してるから俺は口を挟んでいない。

 

遂にイギリスからメイド服と燕尾服が届き、

全員が試着及びカスタマイズを行っている。

 

俺は燕尾服自体に改造は一切加えず、

伊達眼鏡を掛けるだけに留めておいた。

 

変に改造したら折角のイケメンが台無しだ。

 

ナルシスト発言?

気にするな、事実だしな。

 

因みに、秋良は前髪をわざとたらして知的系執事に、

雅人はオールバックにしてワイルド系執事にしていた。

 

俺はクール系といった所だろうが気にする程ではないな。

 

さてと、セシリアとシャルはどんな感じだろうな?

 

見に行ってみるか。

 

「一夏様♪」

 

「此処に居たんだ♪」

 

俺が動こうとすると、

メイド服を着たセシリアとシャルが教室に入ってきた。

 

「よぉ、俺から出向こうと思ったんだが、

その必要も無かったな。」

 

「一夏様のお手を煩わせる訳には参りませんわ♪」

 

「それに早く見て貰いたかったからね♪」

 

まったく・・・、可愛い女だよ、

この二人はな。

 

しかし、よく似合っているな・・・。

 

セシリアはロングスカート、

シャルは若干短めのスカートに白のガーターを合わせているのか、

見事な着こなしだ。

 

「二人ともよく似合っているな、特にシャル、

白のガーターベルトを合わせるとは恐れ入った、

セシリアもスカートの下にガーターベルトは着けてるだろ?それも黒の。」

 

「ふふっ♪よく分かるね一夏、流石だよ♪」

 

「お褒めに与り、至極恐悦ですわ♪御覧になります?」

 

「ベッドの上で見せて貰うさ。」

 

ベッドの上と戦場が何より似合うからな、

セシリアとシャルは。

 

そう思いつつ、俺はかけていた伊達眼鏡を右手の人指し指でクィッと上げる。

 

「一夏も凄くカッコいいよ♪」

 

「フォーマルな衣装がお似合いだとは以前から思っておりましたが、

ここまで凛々しくなるとは思いませんでしたわ!」

 

「そうか?今日は髪型をちゃんとしてないからな、

イマイチだと思ってたんだがな?」

 

悪くないと思ってはいるんだが、

もう少し髪型をきっちり整えれば更に良くなる気がしてならないんだよな。

 

「一夏様は今のままでも、十分に魅力的ですわ♪」

 

「現に、僕達コロッと堕ちちゃってるしね♪」

 

「そうかい、おまえ達の様な美人に言われたら自信が付く、

ありがとな二人とも。」

 

今夜辺り、ご褒美でもやるとするか?

 

ま、そんな事は後で考えるか。

 

「まあ良い、取り敢えずシフトを組むのを手伝ってくれ、

俺一人では手が回らん所があるしな。」

 

「かしこまりましたわ。」

 

「分かったよ。」

 

さてさて、どうした物かね。

 

あ、そう言えば・・・。

 

「お前ら、チケットは誰に渡すんだ?」

 

文化祭の時に、部外者がIS学園に入る為に用いられる物だが、

学生一人につき、一枚しか配布されないのだ。

 

「私はチェルシーに来てもらおうと思っておりますわ、

チェルシーと言うのは、私のメイドでして、姉の様な女性ですわ。」

 

「僕は特にいないかな、

もし一夏がお友達を呼ぶなら僕のチケットあげるよ?」

 

・・・、何故だ、軽く嫌な予感がしてしまった・・・。

 

この時の俺の予感は、

見事という位的中することになってしまうのであった・・・。

 

 

sideout

 

side???

 

「こっ、これは!?」

 

一夏達の会話から三日後、

イギリス某所では、とある女性が何かを握り締め震えていた。

 

「あ、IS学園文化祭の入場チケット・・・!

やった・・・!やったわぁぁぁぁ!!」

 

その歓喜の叫びには、何処か狂喜の様な物が含まれていた。

 

何処かで感じた事がある雰囲気を滲ませ、

彼女は用意を始めるのであった・・・。

 

sideout

 

noside

文化祭五日前、

一夏は現状報告の為に理事長室を訪れていた。

 

「現状で私に挑んで来た命知らずは三名のみです、

その内の一人は手加減が出来ずに右腕の骨を折ってしまいました。」

 

「そうですか・・・、仕方が無いとはいえ、少々面倒ですね。」

 

「申し訳ありません、理事長のお手を煩わせる事になってしまいました。」

 

「いえいえ、構いませんよ、

有言実行、良い事ではありませんか。」

 

一夏を責める気が無いのか、十蔵は朗らかに笑っていた。

 

彼に向けて頭を下げていた一夏は顔を上げ、

背筋を正す。

 

「以上で報告は終了です、

私はこれからクラスの方へ戻ります。」

 

「御苦労様です。」

 

報告を終えた一夏は一礼し、背を向けて去ろうとするが・・・。

 

「ああ、そう言えば一夏君?」

 

「なんでしょう?」

 

何かを思い出したかの様に自分を呼び止める十蔵に、

彼は首を傾げつつも振り返る。

 

「生徒会での出し物は何か決まりましたか?」

 

「あ~、そう言えば決めてませんねぇ・・・、

何をしましょうか?」

 

十蔵の問い掛けに、失念していたと言う風に額に手を当てる。

 

最近それどころではなく、

考えが及ばなかったのである。

 

「後五日しかありませんが、

楽しみにさせていただきますよ?」

 

「かしこまりました。」

 

楽しそうに笑う十蔵に一礼し、

今度こそ一夏は理事長室を後にした。

 

廊下を歩く彼の姿は、

覇王たる雰囲気すら漂っていた。

 

だが、目下の彼の悩みは・・・。

 

「出し物何にすっかなぁ・・・?」

 

演劇も良いが、練習するにも時間が無い。

他の事はあまり目立たないが故の苦悩である。

 

「あ~、そう言えばあいつらいるなぁ・・・、

ちょいと連絡を取ってみるか・・・。」

 

何かを思い付いたかの様に呟き、

懐より携帯電話を取り出し、電話帳の目立つ所にあった番号を選んだ。

 

sideout

 

side弾

 

「暇だなぁ・・・。」

 

「暇だねぇ・・・。」

 

俺の名は五反田弾、

何処にでもいる普通の男子高校生だ。

 

何か特筆すべき事柄があるとすれば、

俺とそして俺の部屋にいるもう一人、御手洗数馬は、

男性IS操縦者として有名な織斑兄弟の友人としか言いようが無いんだよな。

 

まあ、あいつらとはここ数ヵ月連絡が取れていないが、

あいつらの事だ、かなり無茶な事でも平然とこなすだろう。

 

で、俺達の目下の悩みはこの退屈をなんとかしなければいけないと言うことだ。

 

俺はベースを爪弾き、数馬はギターを弾いていた。

 

俺達の腕前は一夏と秋良が仕込んでくれたお陰で、

既にプロとして演奏しても十分通用するレベルになっている。

 

だからというべきか、

大概の曲は楽譜読めばすぐに弾けるから、

余計に退屈が助長されるんだよな・・・。

 

「にしても、一夏のヤロー羨まし過ぎるぜ。」

 

そんな中、数馬が何かボヤきだした。

 

「確かになぁ、でもそれを言うなら秋良もじゃねぇか?

なんせハーレムで選び放題だしな。」

 

「確かにそうだが、これを見て見ろよ。」

 

数馬が見せてくるケータイの画面には、

二人の金髪美少女に挟まれた一夏が写っていやがった。

 

「な、なんじゃこりゃぁっ!?」

 

某警官じゃねぇけど、

思わず叫んでしまった。

 

確かに一夏はイケメンで、中学時代からかなり人気はあったが、

色恋沙汰には最も縁遠いと言われる程で、告白の類いを全部断っていた。

 

なので、この画像が今だに信じられない。

 

「あのヤロー、羨まし過ぎるじゃねぇか・・・!?」

 

羨ましいの羨ましく無いのって、羨ましすぎるわ!!

 

そう思った時だった、

俺の携帯電話に着信が入った。

 

相手は・・・、一夏だと!?

 

驚きつつも電話に出てみる事にした。

 

『もしもし?弾か?』

 

忘れもしない、

この声は俺達がたった今話題にしていた織斑一夏だ!!

 

「てめぇこの色男が!!」

 

『はっはっは!もっと誉めてくれて良いぞ!』

 

「さらっと認めてんじゃねぇよ!!」

 

ったく・・・、こいつには口でも喧嘩でも音楽でも勝てた事がねぇからな、

これ以上こっちが何を言っても、アイツのペースに乗せられるだけの骨折り損だ。

 

「ったく、何の用だよ?」

 

『お前、IS学園に来たがってたよな?』

 

「ああ、そうだけど、それがどうしたんだ?

まさか入場券でも有るのか?」

 

まさかなとは思いつつ、冗談半分で聞いてみた。

いくらなんでも出来すぎてるしな。

 

『ああ、その通りだ、勿論数馬と蘭の分もある。』

 

「マジか!?」

 

『マジだ、その代わり、一つ条件があるが・・・。』

 

「良いぜ!!何でも来いだ!!」

 

女子高に正当な手段で入れるなら、

例え火の中、水の中!!構いはしない!!

 

『話が早くて助かる、

実はな、生徒会で出し物を一つ出すことになってな、

男子メンバーだけでバンドをやりたいんだが、丁度ベースとサブギターが足りなくてな、

お前達二人に来てもらえると凄く助かるんだ。』

 

「ああ、なるほどな、分かった、一応何するかは教えてくれや、

軽く練習はしとくからさ。」

 

『分かった、三日後までにチケットと一緒に、

何の曲をするか書いた紙を送るから。』

 

「分かったぜ、ありがとな!!」

 

「気にするな、それでは仕事があるんで失礼するぞ、じゃあな。』

 

その言葉を最後に、通話は切れた。

 

「一夏はなんだって?」

 

「喜べ数馬!!IS学園に入れるぞ!!」

 

「はっ?」

 

俺の言葉を理解出来なかったのか、

数馬はポカンと口を開けていた。

 

「一夏がな、文化祭でバンド演奏をやるらしくてな・・・。」

 

「なるほどな、力を貸してほしい・・・、って、マジか!!?」

 

「だから言ってんじゃねぇか!」

 

「よっしゃあっ!!我が世の春が来たぁぁあっ!!」

 

っと、騒いでる暇はねぇ、練習しなくちゃな!!

 

sideout

 

side一夏

 

「ふぅ、これで不安要素が一つ無くなったな。」

 

携帯電話を懐のポケットに戻し、

俺は教室に戻るべく歩みを進める。

 

今日は装飾係が飾りつけのプロットを決めてる筈だ、

俺はそれを聞くだけで良いから本当に楽だ。

 

「さて、秋良と雅人に話を通しておくとするか。」

 

どんな曲が目立つだろうか・・・?

 

アニソンは悪くないと思うがインパクトに欠けるし、

普通のバンド曲をやっても面白味に欠ける。

 

何にすっかなぁ・・・?

 

「・・・!そうだ、あれをやるとするか?」

 

丁度良い、ならやるとするか。

 

「兄貴~!」

 

俺が決意を固めた瞬間、

廊下の向こう側からラウラが走ってきた。

 

「ようラウラ、何か用か?」

 

「はい!飾り付けの案が出来上がりましたので持ってきました!」

 

「御苦労、今から戻ろうとしてたんだがな。」

 

ラウラから渡された資料に目を通す。

ふむ、カーテンを使って雰囲気を出してるな。

 

「いい感じだ、やってくれ。」

 

「はい!」

 

ラウラの頭を撫で、

ゴーサインを出した。

 

これなら確実に成功できるな。

 

・・・、いや、まさかとは思うが・・・。

 

「ラウラ?チケットの事だが・・・。」

 

「はい?もう部隊の者に渡してしまいましたが・・・?」

 

頭痛がしてきた・・・。

何故だ・・・。

 

sideout

 

side???

 

「副隊長!!」

 

「どうした!?」

 

「隊長からこれが届きました!!」

 

ドイツ某所・・・。

ラウラから送られて来た手紙を見た女性がいた。

 

「こっ、これは!?IS学園の文化祭の入場チケットだと!?」

 

「はいっ!一枚しかありませんが、確かに本物です!!」

 

「イヤッタァァァァァァァッ!!隊長ォ!!絶対行きますからね!!」

 

何故か何処かで感じた事がある雰囲気を醸し出しながらも、

その女性は準備を始めた。

 

sideout

 

noside

 

「おはようございまーす。」

 

「うぃーっす。」

 

文化祭前日の夜、

IS学園に二人の男が到着した。

 

その二人はギターケースを担ぎ、

迷うことなく、第四アリーナを改造した特設ステージまでやって来た。。

 

「よぉ、弾、それに数馬も、久し振りだな。」

 

「よぉ一夏、連絡ぐらい寄越せよ。」

 

「そうだぜ、俺達は親友だろ?」

 

「悪かった、今まで忙しかったんだよ。」

 

一夏は弾と数馬と再会を喜んでいた。

 

「おー、お前らが弾と数馬か、

加賀美雅人だ、ヨロシクな!腕の良いベーシストとギタリストだって聞いてるぜ。」

 

そこに雅人が寄ってきて、

二人と挨拶を交わしていた。

 

「よろしく雅人、弾で良いぜ。」

 

「よろしくな、数馬でいい。」

 

「おーい、そろそろ音合わせしないと寝れないよ?」

 

和やかな雰囲気に包まれるが、

そんな暇は無いとばかりに秋良が腕の時計を指さす。

 

「そうだな、それぞれポジションに着いてくれ、

今から一時間、ぶっ通しで演奏するぞ。」

 

『おう!』

 

一夏がリードギターに入り、

秋良は今回ボーカルに入ることになった。

 

「一曲目はJack the ripperでいくぞ。」

 

「オーライ!」

 

雅人がスティック同士を叩き、

リズムを取る。

 

数馬がバッキングを始め、それと同時に一夏、弾、雅人も一斉に己の楽器を響かせる。

 

メタル色の濃い音色が空気を切り裂き、

体育館に響き渡る。

 

イントロも終わりに差し掛かる頃、

秋良がシャウトを発した。

 

彼等が奏でるメロディは、

何よりも力強く、何よりも迫力があった・・・。

 

sideout

 

side一夏

翌朝、

遂に文化祭当日になった。

 

昨日は日付が変わるまでずっと演奏してたからな、

少し眠い。

 

弾と数馬は開会式には参加せず、

楽屋で仮眠を取っているらしいが、俺が気にする事でもない。

 

で、俺は開会宣言をしなきゃならんから、

こうやって壇上に立たされるんだよな。

 

ああ、面倒極まりない。

 

さてと、やるとするか。

 

「御早う諸君。」

 

開口一番はまず挨拶から始めなければ失礼という物だ、

別にしなくてもいいとは思っているがな。

 

所々から熱っぽいため息が聞こえるのは気のせいか?

 

確かに燕尾服で伊達眼鏡は掛けているが、

特に変わりはない筈だが・・・?

 

まあ良い、後で考えるか。

 

「これより、文化祭の開幕を宣言する!」

 

宣言し、拳を突き上げた瞬間、

割れんばかりの歓声が響き渡った。

 

さあ、楽しき宴の始まりだ!

 

sideout

 




はいどーもです!

文字で音楽の事を表すのって凄く難しいですね。

最近、何人か喋らせてないキャラがいるんで、
次回からはちゃんと喋らせます、はい。

それでは次回予告
遂に始まった文化祭、
一夏達はそれぞれ思い思いの過ごし方があった。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
文化祭開幕

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

文化祭開幕

side秋良

開会式が終わった後、

俺達一組のメンバー全員は走って教室に戻った。

 

9時に開会式が終わって、

9時10分から営業開始だから凄い忙しい。

 

教室に着いた時には既に順番待ちの長蛇の列が出来上がっていた。

 

恐らく百人ぐらいはいるだろうか、

凄まじい数だ。

 

勘弁して欲しいよ・・・、

どうせ俺達目当てだろうしさ。

 

ま、接客ぐらいはちゃんとやってあげようかな。

 

因みに生徒会メンバーである兄さん達は戻って来ていない。

恐らくは何か用事でも有るのかも知れない。

 

「皆、用意は出来てるかい?」

 

『勿論!!』

 

クラスの皆がやる気に満ちた目で、

俺の問い掛けに大声で答えてくれた。

 

「本当なら兄さんが言うことだけど、

俺が代わりに言わせて貰うよ、

全員で力を合わせて絶対に成功させよう!!」

 

兄さんが言いそうな言葉を借り受け、

拳を突き上げながら言うと、皆も同じ様に拳を突き上げてくれた。

 

この一体感が俺はやっぱり好きだね。

 

「それじゃあ、一年一組主催、メイド&執事喫茶、営業開始!!」

 

こうして、俺達の波乱に満ちた一日がスタートした。

 

sideout

 

noside

 

「お帰りなさいませ、お嬢様。」

 

オープン最初に入ってきた女子生徒に対し、

秋良は人懐っこい笑みを浮かべ恭しく頭を下げた。

 

お辞儀の角度までも様になっていた。

 

「ど、どうも・・・!」

 

ただでさえ織斑兄弟及び、雅人との接点があまり無かった一般生徒は、

あまりのイケメンスマイルにドギマギしてまい、マトモに話す事が出来なかった。

 

「それではこちらのお席へどうぞ。」

 

その事を看破したのか、

秋良の隣に控えていた雅人が薄く微笑みつつ、彼女の手を取り席までエスコートした。

 

「こちらがメニューでございます、

私がお持ち致しますので、ごゆっくりお選びくださいませ。」

 

箒が雅人と変わり、

メニューを手に持ち、女子生徒に見せる。

 

その間にも、次々とお嬢様(お客)が入店し、

瞬く間に席は一杯になった。

 

「そ、それじゃあ、パンケーキセットを・・・!」

 

「かしこまりました、パンケーキセットをお一つでよろしいでしょうか?」

 

「は、はい!」

 

「かしこまりました、少々お待ちくださいませ。」

 

大和撫子の象徴である箒が扮するメイドは、

何やら新鮮なイメージを持つ。

 

「流石に兄さんがいてくれなかったらチョイとキツいね。」

 

「確かにな、アイツが一番人気あるしな・・・。」

 

「男ども、サボるなよ。」

 

案内が一段落した秋良と雅人が駄弁るのを、

箒が盆で叩き、止めさせる。

 

「「うぇ~い・・・。」」

 

二人は揃って情けない声をあげつつも、

注文の品をテーブルに運んで行く。

 

「最初からそうしていろ。」

 

箒はやれやれと呟きつつも、

何処か楽しそうにしていた。

 

なんとか回り始め、

注文も一段落してきた頃・・・。

 

「待たせたな。」

 

「遅れましたわ。」

 

一夏、セシリアが揃ってやって来た。

 

大本命の執事の登場に、

教室内は一気に騒がしくなる。

 

「遅れてすまない、今日の主役を連れて来た。」

 

一夏がそう言うと、

彼とセシリアの後ろからシャルロットが誰かを引き摺りながら教室に入ってきた。

 

「お待たせ~!この二人が迷子になっちゃってて!!」

 

「「ぴゃうっ!?」」

 

シャルロットが突き飛ばす様に前に出したのは、

メイド服を着た真耶とナターシャであった。

 

実は、一夏達は開会式が終わった後、直ぐにでもこの二人を参加させようと思っていたが、

真耶とナターシャが大真面目に迷子にしまったため、人海戦術を用いて二人を捜索、連行してきたのだ。

 

『うぉおぉぉぉっ!!!』

 

「「ひいっ!?」」

 

ドジッ娘メイドの登場に、

クラスにいた変態が一斉に歓声をあげる。

 

その様子は何処か空恐ろしい物がある。

 

「さてと、どのお嬢様からお相手致しましょうか?」

 

一夏はニヒルな笑みを浮かべ、

手袋を嵌めていた。

 

「(秋良、簪達を見に行ってやれ。)」

 

「(ありがと。)」

 

一夏は秋良と交代し、接客をし始める。

 

「お嬢様、砂糖とミルクはいかがなさいますか?」

 

「たっ、たっぷり入れて下さい!!」

 

「かしこまりました。」

 

紅茶を頼んでいた女子生徒は一夏のイケメン執事っぷりに呑まれてしまい、

しどろもどろに答える事しか出来なかった。

 

因みに彼女は砂糖もミルクも入れない派の人間だったらしい。

そんな事はどうでも良いとして・・・。

 

その最中、秋良は一組の教室を出て、まず隣の二組に入っていった。

 

sideout

 

side秋良

兄さんの計らいで俺は二組の教室にやって来た。

 

ウチのクラスのせいなのか、あまり客も入っていなかった。

なので肩を落とす鈴や他の子達が目立って仕方ない。

 

まあ、俺が入ったら集客効果も少しはあるかな?

 

そんな打算的な事を考えつつ、俺は二組に足を踏み入れた。

 

「あっ!秋良~!」

 

早速俺を見付けたのか、

チャイナ服を着た鈴がタックルと見紛う様な勢いで俺に抱き付いてきた。

 

鈴ぐらいの軽さだったら、

体当たりされてもよろけるだけで特になんとも無いから気にしてないんだけどね。

 

それより、やっぱりよく似合ってるね、チャイナ服。

 

「おー、鈴、よしよし、繁盛・・・してないよね。」

 

「ううっ・・・、なんで皆来てくれないのぉ・・・?」

 

あーもう可愛いなぁ。

ネガティブって甘えたがりの訳だっけ?

 

まあ気にしなくても良いか・・・。

 

「おーよしよし、桃饅頭一つと烏龍茶をくれないかな?」

 

「うん!」

 

俺が注文すると、

鈴は顔をパッと輝かせて厨房に入っていった。

 

うんうん、可愛いねぇ~。

 

『鈴ちゃん可愛い~!』

 

『抱き締めてあげたい!!』

 

『涙目萌え~!』

 

うん、どのクラスにも変態っているもんだね。

もう慣れたけど・・・。

 

そんだこんだしている内に、

桃饅頭と烏龍茶が運ばれてきた。

 

「ありがとね鈴、いただくよ。」

 

甘い物はあまり食べないんだけど、

たまに食べたくなるんだよね。

 

兄さんは毎日の様に違う甘い物を食べてるけどね。

 

「うん、なかなか美味しいよ。」

 

「えへへ~♪」

 

頭を撫でてあげると、

鈴は顔を綻ばせていた。

 

うん、可愛いねぇ~。

 

あ、そうだ、簪の所も見に行ってあげないとね。

 

「鈴、簪の所に行かないかい?」

 

「行く!」

 

「分かった、と言うことで鈴を借りてくよ。」

 

二組の人達の返事を聞くより先に、

俺は鈴を連れて四組の教室に足を向けた。

 

「簪~、いるかい?」

 

四組の教室に足を踏み入れた瞬間、

床が30㎝程高くなり、畳が敷かれていた。

 

ってことは、和カフェかな?

 

「あっ、秋良、それに鈴も、いらっしゃい!」

 

水色の和服に身を包んだ簪が、

教室の奥の方から出てきた。

 

「やあ簪、凄く似合ってるよ。」

 

「ふふっ♪ありがと♪」

 

簪に促され、俺達は靴を脱いで畳の上に上がった。

 

正座には慣れてるから別に苦では無い。

 

「何がオススメかな?

簪のイチオシ二つくれないかな?」

 

「分かった、抹茶ケーキ二つ。」

 

うん、様になってるなぁ、

シスコン会長がストーキングしたくなるのも少しは分かるかな?

 

でも、見付けたら殴って海に沈めるけどね。

 

そんだこんだしている内に、

ケーキと抹茶が運ばれてきた。

 

うん、美味しそうだね。

 

「ありがと簪、いただくよ。」

 

フォークでケーキを切り、口に運ぶ。

 

ほどよい苦味とクリームの甘さがいい感じにマッチしてるね。

 

いい感じだね~。

 

そう言えば、ウチのクラスの店はどうなのかな?

 

sideout

 

side一夏

 

「シャル!十一番テーブルにパンケーキセット、ミルクコーヒーを二つ!」

 

「うん!」

 

「セシリア!八番テーブルにチーズケーキセット、紅茶を一つだ!」

 

「はい!」

 

秋良が簪達の所に行った後から、

次々とデザートが出来上がり、俺達はてんやわんやに走り回っていた。

 

「一夏!五番テーブルにミックスジュースを3つだ!」

 

「あいよ!!」

 

箒に指示され、

俺は相川さんから渡されたトレーを持ち、

五番テーブルに急ぐ。

 

「お待たせ致しましたお嬢様、

ご注文のミックスジュースでございます。」

 

「「「どっ、どうも!!」」」

 

「ごゆるりとおくつろぎくださいませ、お綺麗なお嬢様方。」

 

「「「はうぅっ!!?」」」

 

イケメンスマイルが効いたのか、

客の女子生徒三人組は鼻血を噴いていた。

 

普通に可愛いの基準の上を行く女子が鼻血を噴出する絵は、

中々にシュールな物があった。

 

そんな事はどうでも良いとして・・・。

 

客足は良好、

このまま行けば間違いなく模擬店売り上げNo.1になれるだろう。

 

さてさて、

後は何事もなく進んでくれる事を祈りたいな。

 

「あっ!一夏さん!」

 

接客を続けていると後ろから声をかけられた。

 

この声は間違いなく蘭だな。

 

そう思い、振り向いてみると、

想像通り、長い赤髪を後頭部辺りで結んだ女の子がいた。

 

彼女の名は五反田蘭、

今回バンドの手伝いをしてくれる弾の妹だ。

 

「これは蘭お嬢様、お久しゅうございます。」

 

「やめてくださいよ~!むず痒いです!」

 

「執務中ですのでお許しくださいませ。」

 

年下に恭しい態度を取らねばならんのは些か面倒だが、

仕事だからな、仕方ねぇ。

 

「そう言えば、お兄は何処にいますか?」

 

「楽屋で休むと言っておりましたが、

今は何処にいるかまでは分かりません。」

 

「そうですか・・・、よし!探しに行ってきます!!

私の直感なら直ぐに見つかります!!」

 

やっぱりブラコンって恐いわ・・・、

 

まあ、俺に被害が無いなら別にどうでも良いが。

 

「では一夏さん!ライブ観に行きますから!!」

 

「行ってらっしゃいませ、お嬢様。」

 

俺が頭を下げるより速く、

蘭は俺の視界から消えていた・・・。

 

いやいや、なんで転生者でもない普通の人間が、

俺にも出来ねぇ事を出来るんだよ?

 

似たような事は出来るが原理が違うしな・・・。

 

まあ・・・、いいか、気にしないでおこう・・・。

 

「一夏!お前が動いてくれねぇと商売上がったりだ!!」

 

「悪い!今動く!」

 

雅人に急かされ、

俺は急いで厨房の方へと足を向けた。

 

sideout

 

side弾

 

「ほぇ~、流石は女子校だなぁ~。」

 

ライブまでの待ち時間の間、

俺は一人でIS学園の校舎内を歩いていた。

 

最初は数馬も一緒だったんだが、

気が付いたら近くにいなかったので現在は俺一人だ。

 

と言うより、先程から視線がスゲェ・・・。

一夏が大分前に話していた『人を珍獣扱いで見ている。』ってのも、

強ち間違いじゃ無い気がしてきたぜ。

 

さて・・・、

そろそろメイクとかもしなきゃいけねぇし、

戻るとするか?

 

そう思い、角を曲がろうとした時・・・。

 

「キャッ!?」

 

「うおっ!?」

 

反対側から出てきた女性とぶつかってしまった。

 

俺は大丈夫なんだが、向こうは流石によろけていたので、

手を伸ばして腕を引っ張り、体制を立て直させる。

 

「すみません、大丈夫でしたか?」

 

「は、はい、ありがとうございます・・・。」

 

うおっ!?スゲェ美人!!

三つ編み茶髪の眼鏡って・・・!

 

こりゃ役得だね・・・。

 

って、そんな事考えてる場合じゃねぇ!

 

って、これから出番だよな!?

 

「すみません!俺はこれで!!」

 

「あっ・・・!」

 

俺は彼女から身を離し、

先を急いだ。

 

sideout

 




はいどーもです!

次回は皆様お待ちかね(?)残姉さん登場です!

一夏の胃に穴が空くのは何時になることやら・・・。

それでは次回予告
順調に進行する文化祭、
しかし、そこにとある魔の手が迫っていた。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
残姉さん襲来

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

残姉さん襲来

side???

 

「「遂に・・・、遂にやって来ましたIS学園!!」」

 

IS学園校門前で、メイド服らしき物を着た女性と、

軍服に眼帯をした女性が声を張り上げて何かを叫んでいた。

 

あまりにも大きい声であったため、

彼女達の周辺にいた者達は一様に驚いた表情をして、

そっと距離を空けていた。

 

実に賢明な判断であると言えよう。

 

「やって来ました!あぁ、お待たせ致しましたお嬢様!

このチェルシー・ブランケット、只今到着しました!!」

 

「お待たせしまった隊長!!このクラリッサ・ハルフォーフ、

後れ馳せながら到着致しました!!」

 

「「今すぐにお嬢様(隊長)の可愛いお姿を拝見しに行きます!!」」

 

まったく同時に発声し、互いの顔を見て頷く。

 

その様子は、如何にも友人同士ですとでもいえる物であったが、

勿論二人に面識等は一切無い。

 

ただ、なんとなく・・・。

 

((この人とは凄く気が合いそう・・・!!))

 

と言った直感に依るものが大きいだろう。

 

「「いざ行かん!!メイド喫茶へ!!」」

 

禍の種が、一年一組に向かいつつあった・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「ッ!?」

 

なんだ今の肌に氷を当てられる様な薄寒い感覚は・・・!?

 

「まさかっ・・・!?何か強大な力を持った変態が来るのか・・・!?」

 

「お前は一体何に反応してんだよ!?」

 

ニュータ○プの様な感覚をそのまま口にしたら雅人に何故か怒られたが、

今はそれどころじゃない!

 

この嫌なプレッシャーは、間違いなく楯無クラスの残姉さんが近付いて来る証拠だ・・・!

しかも最悪な事に、そのプレッシャーが一人ではなく、二人と来た・・・!

 

落ち着け・・・!

まだこのクラスに来ると決まった訳じゃない・・・!

 

いや・・・、もう決まってるのか?

なんせラウラとセシリアまで少し震えてるからな・・・。

 

しかも、シャルまで震えだしたから、

これは間違いなくヤバいな。

 

「ヤバい・・・!セシリア!ラウラ!取り敢えず隠れろ!

シャル!何処か適当な場所を探してやってくれ!!」

 

「「はいっ!!」」

 

「分かった!!」

 

「おい!落ち着けお前ら!!」

 

雅人が俺達を必死に止めようとしてくるが知ったことか!!

こっちは胃の安寧がかかってんだよ!!

 

唯でさえこのクラスに残姉さんが二人も居るんだ!

これ以上増えたら確実に俺の胃に穴が空くわ!!

 

慌てながらも、

何処か隠れる場所を探していたが・・・。

 

「お帰りなさいませお嬢様!二名様ですね、

御通し致します!」

 

一段と嫌な予感が強まり、

プレッシャーが近付いてきた時に、

その客は来た。

 

冷や汗を滝の様に流しながらも振り向くと、

想像通りの客人が入ってきた・・・。

 

「「「ああぁぁ・・・。」」」

 

俺とセシリア、そしてシャルががっくりと膝を落とし、

項垂れてしまう。

 

「はっ!お嬢様!お久しゅうございます!!」

 

その内の一人、栗色の髪を持った変態が、

セシリアを見付けて飛び付いてきた。

しかも、ルパン○世みたいな飛び方で・・・。

 

あれは間違いない、セシリア付きのメイド、チェルシー・ブランケットだよな・・・。

 

最悪だ・・・、あの人まで変態になるとは思わなかった・・・。

 

「ひっ、久し振りですねチェルシー・・・。」

 

うわぁ・・・、セシリアの美しい顔が凄くひきつってる・・・、

あの顔は久しぶりに見たな・・・。

 

「ハァハァ・・・、お嬢様の香り~!」

 

チェルシーは抱き付いた状態で、

セシリアの香りを嗅いでいた・・・。

 

「やっ、やめてくださいチェルシー!!」

 

「ハァハァ・・・、お嬢様~!」

 

ダメだこの残姉さん・・・、主の命令聞いてねぇし・・・。

結構可愛いのに凄く残念だ・・・。

 

はっ!そう言えば、今ここにいるのはこいつだけじゃねえ!!

 

「ラウラ!」

 

「あっ、兄貴~!助けてください~!」

 

「はぁ~!隊長ォ!!可愛過ぎてすよぉ~!!」

 

ラウラの方を向くと、

クラリッサにガッチリとホールドされ、

頬擦りされまくっているラウラがいた。

 

もうダメだこの残姉さん・・・、

下手したら上官侮辱罪が適用されるレベルまで来ちまってる・・・。

 

助ける気も失せ、

嫌な予感に促されるがまま振り向いてみると・・・。

 

「グフッ!?」

 

「ドムッ!?」

 

お盆に水を載せた状態で思いっきり転倒している山田先生とファイルス先生がいた。

 

さ、最悪だ・・・、

タイプが違う残姉さんが四人もいるのか・・・。

 

胃が、胃が痛い・・・!

 

「(一夏・・・、僕目眩がしてきたよ・・・。)」

 

シャルが俺の方へと倒れて来るのを受け止め、

しっかりと立たせる。

 

俺だって現実逃避したいわ・・・。

 

「(その前にセシリアだけは助けてやろう・・・。)」

 

ため息を吐きつつ、

セシリアとチェルシーの間に入って二人を引き剥がした。

 

「何しやがるです!?」

 

「いやいや、セクハラしてたら止めるだろ・・・。」

 

「セクハラじゃありません!!お嬢様への愛の形です!!」

 

えっ・・・?

まさかこのヒト・・・、百合に目覚めてる・・・?

 

「お嬢様の残り香だけではもう我慢できません!

だって・・・!!」

 

sideout

 

side回想

 

『はぁぁ~~~~~、お嬢様~~!!』

 

私はお嬢様の寝室にて、

お嬢様が学園にてお使いになられた下着を手に、

その芳醇な香りを堪能していました。

 

お嬢様が日本に向かわれて既に三ヶ月、

はっきり申し上げて、お嬢様の残り香が弱まって来ています。

 

あぁ、このままでは私は淋しさと愛しさで発狂してしまいそうです!!

 

お嬢様ぁ、お嬢様ァァァァァァ!!

 

sideout

 

side一夏

 

「という感じです。」

 

ヒィィィ!!?

なんだよこの変態!?

楯無を凌駕してやがる・・・!!

 

「ですのでぇ・・・。」

 

「ひっ!?」

 

イカン!

チェルシーのセシリアを狙う目が、

兎を狙う虎になってやがる!!

 

「お嬢様の胸にレッツダァイブ!!」

 

またしてもルパン○世の様な飛び込みで、

チェルシーはセシリアに飛び付こうとした。

 

俺が止めに動こうとするが、

速さ的に間に合わない・・・!

 

だが・・・。

 

「やめんか!」

 

「そげぶっ!?」

 

雅人が首筋に手刀を叩き込み、

チェルシーを沈黙させた・・・。

 

「あ、ありがとうございます、雅人さん・・・。」

 

「手を煩わせたな、ワリィな雅人。」

 

「気にすんな、流石にこれ以上騒がれたら、

商売の邪魔だ。」

 

まあ確かにな・・・、

そろそろクラリッサにもご退場願おうかね。

 

「お嬢様、メイドを離してください。」

 

「嫌です!隊長の可愛いお姿を拝見し、

舐め回すことの何処がいけないのですか!?」

 

ラウラをガッチリとホールドしたまま、

結構デケェ胸を張って堂々と宣言しやがった。

 

本当にダメだこの残姉さん・・・。

 

「文化祭が終わってからやってください、

それなら文句言いませんから。」

 

「我慢できません!!

もう隊長成分が足りませんから!!」

 

sideout

 

side回想

 

『副隊長ォ!!隊長からお届け物です!!』

 

『御苦労!早く開けてくれ!!』

 

『はいっ!』

 

部下に命じ、小包を開けてもらう。

 

何が入っているのだろうか?

楽しみだぁ・・・!!

 

『はっ!?こ、これはっ!?』

 

『隊長の水着ぃ!!』

 

私のコレクションに無い水着姿では無いか!!

ありがとうございます隊長ォ!!

 

それにしても可愛過ぎて可愛過ぎてもう・・・!!

 

『ブハッ!!』

 

私は大量に鼻血を撒き散らしてしまった。

 

一リットルは出たな・・・。

イヤ!これは血では無い!

隊長への愛だ!!

 

sideout

 

side一夏

 

「こんな感じです!」

 

うわぁ・・・、

このヒトも完全に終わってるよ・・・。

 

「ですので!隊長を舐め回させていただきます!!」

 

「ひっ!?あ、兄貴~!助けてください~!」

 

流石にそろそろラウラが不憫だ、

しょうがねぇ、助けてやるか。

 

そう思い指を鳴らした瞬間、

シャルがクラリッサの後ろに回り込んで脇腹を思いっきり擽っていた。

 

「わっひゃいっ!?やめひぇ~!」

 

「ラウラを離してください!!」

 

「わひゃひゃひゃひゃ!!わ、わかりましたぁ!!」

 

シャルの巧妙かつ、大胆な擽りは効果覿面なご様子で、

クラリッサは身悶えながらもラウラを解放した。

 

なんとか一件落着だな。

 

山田先生とファイルス先生の方も、

雑巾で拭いてるからもう気にしない。

 

なんとか一件落着だな。

 

・・・、何でだ?

何か大切な事を忘れている気がするんだが・・・?

 

「おーい、兄さんに雅人、まだ此処に居たんだ?」

 

そんな事を考えていると、

秋良がひょっこりと顔を出した。

 

今の今まで本当にサボってやがったな・・・、

まあ、サボらせたのは俺なんだが・・・。

 

「後30分で、ライブの時間だよ?

俺もだけどメイクしなくていいのかい?」

 

あー・・・、そう言えばそうだったな。

店の方もそろそろ休憩に入るし、ちょうど良いな。

 

「分かった、そろそろ行くか、行くぞ雅人。」

 

「あいよ、やるとするかい。」

 

「行ってらっしゃいませ一夏様。」

 

「ちゃんと見てるからね、頑張ってね!」

 

セシリアとシャルに見送られ、

俺と雅人は教室の外に出た。

 

sideout

 

side雅人

 

「少しよろしいですか?」

 

「ん?」

 

一夏と共に教室を出た俺は、

ビシッとしたスーツを着込んだ女性に呼び止められた。

 

はて?呼び止められる様なことがあったか・・・?

 

それとも何か原作イベントか?

如何せん、原作を最後に読んだのは転生する前の、

出版された頃の事だからなぁ・・・。

 

イマイチ覚えてない部分があるんだよなぁ・・・。

 

「えっと・・・、どちら様でしょうか?」

 

「あっ、失礼しました、

私、IS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当、巻紙礼子と申します。」

 

「はぁ・・・、それで、俺に何のご用でしょうか?」

 

はて?俺達は一応アクタイオンに所属しているし、

他企業から武装提供は正直要らないしなぁ・・・。

 

「加賀美さんに是非わが社の装備をお使い頂きたいのです!

此方がカタログニなっております!」

 

あー、だからそんなに寄らんでくださいよ、

俺はこれからライブだってのに・・・。

 

一夏に助けを求めようとしたが、

彼は既に何処かへ行ってしまっていた。

 

やれやれ・・・、俺だけで何とかいなすか・・・。

 

「すみません、そう言う事はアクタイオン社を通してから、

今一度学園側に許可を取ってからにしてください、

今ちょっと急いでるんでご免なさい。」

 

「えっ?あっ!お待ちください!!」

 

今だ食い下がろうとしてくる巻紙女史を引き離し、

俺は第四アリーナの控え室に急いだ。

 

だから俺は気が付く事が出来なかった、

巻紙女史の気配が、直ぐ様消えていた事に・・・。

 

sideout

 

 




はいどーもです!!

ちょっと勢い任せで書きすぎましたね・・・。
残姉さんズ、いかがでしたか?

さて次回予告
ライブに向けて動き出した一夏達、
彼等に迫る魔の手があった。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
ミサ

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミサ

noside

 

「待たせたな、弾、数馬。」

 

第四アリーナの一角に設けられた楽屋に、

生徒会長の織斑一夏が到着した。

 

彼より先に楽屋内に居た秋良、弾、数馬の三名は、

既に衣装合わせ、メイクを終わらせつつあった。

 

「遅いぞ一夏、後20分しかねぇぞ。」

 

「そーそー、早く準備しろよ?」

 

「分かってるさ、数馬、お前それ誰のメイクだ?」

 

既に衣装合わせを終えていた数馬に、

一夏はメイクの由来を尋ねた。

 

「ん?俺は参謀だが?」

 

「じゃあ俺は長官で行くか?」

 

「悪くねぇんじゃねぇの?」

 

意見を交えつつも、

一夏は数馬の手を借りつつ、メイクを施していく。

 

「髪型は弄らなくても良いか、カツラなんて無いしな。」

 

「だな、弾は・・・、和尚か?」

 

「その通り。」

 

かなりゆるーい受け答えをしていると、

楽屋の扉が開き、最後の一人である雅人が入ってきた。

 

「お待たせー、変な女に捕まっちまってな。」

 

「遅いぞー。」

 

「ワリィーなー。」

 

雅人も弾に手伝って貰いつつ、

メイクを施していき、着る衣装を選ぶ。

 

残り十分を切った所で、全員の用意が完了した。

 

「終わったよ、戦闘服はどうする?」

 

「なるべく派手なので行くか。」

 

「閣下も殿下も準備が出来たみたいだな。」

 

「何時でも行けるよ。」

 

それぞれ自分の楽器を携え、

直ぐにでも行ける様に準備していた。

 

その時、楽屋の扉がノックされ、

一人の女子生徒が入ってきた。

 

「生徒会の皆さん、出番で・・・、ヒィィッ!?」

 

出番を告げに来たのであろう女子生徒は、

部屋の中に居た悪魔達を見て悲鳴をあげていた。

 

それもそうだろう、彼等のメイクは本物の悪魔達に限り無く近い領域に達しているからである。

 

「御苦労!それでは諸君!行くぞ!」

 

悪魔五人は、舞台に向けて動き出した。

 

sideout

 

noside

 

話は少し遡り、

文化祭の前日より貼り出された一枚の広告があった。

 

『生徒会特別ライブ!織斑兄弟の男友達二名参加!!』

 

と言う、撒き餌の様な掲示があったのだ。

 

「特別ライブですって!?」

 

「それも男だけのバンドだって!!」

 

「デュフッ!!ネタを仕入れるわよ!!」

 

女子校であるIS学園では全くと言って良いほど起こり得ない事態に、

女子生徒達はざわめきだった。

 

そして当日、

会場である第四アリーナの客席は満員御礼となり、

女子生徒達は始まるのを今か今かと待ちわびていた。

 

因みに、第四アリーナはドーム型をしており、

その気になれば屋根を閉める事もできる。

 

今回は暗い雰囲気で演奏したいと言う、

生徒会の強い要望にて、屋根は閉じられている。

 

まあそれは置いといて・・・。

 

「凄いね、これだけ集められるなんて。」

 

「そうだな、兄貴に秋良に雅人、それに兄貴の友人が居るときた、

気にならない訳が無いからな。」

 

簪とラウラは最前列の席に座り、

会話を交えつつ、彼等の登場を待ちわびていた。

 

「僕はどんな感じか知ってるよ?だってリハーサルを見学してたからね。」

 

「左に同じですわ、迫力がありましたわね。」

 

「良いなぁ~、アタシも見たかった~。」

 

リハーサルを見学していたと言うシャルロットとセシリアを、

鈴は少しうらめしく思いながら愚痴る。

 

「何にせよ、いくらリハーサルで巧くても、

本番で失敗するのだけは見たくないな。」

 

箒が呟いた言葉に納得したのか、

皆、その通りと言わんばかりに首を縦に振っていた。

 

その瞬間、

アリーナ内の照明が落ち、一気に暗い雰囲気に包まれた。

 

「いよいよだね。」

 

「楽しみですわ。」

 

ディストーションを掛けられたギターの音が響き、

それに追従するようにベースとドラムの重低音が響いてくる。

 

ステージにボーカル以外の四人が床下から上がってきた。

それだけでアリーナ内は黄色い悲鳴に包まれる。

 

四人はそれぞれ目をあわせ、

己の楽器を携え、おどろおどろしい音色を奏でていく。

 

曲名、『創世記』

 

スモークが噴き出し、

曲の終盤にボーカルが姿を現す。

 

「フハハハハハハ!!地獄の皇太子!!」

 

普段の秋良の声とは全く違う悪魔の様な笑い声と共に、

彼は曲名を叫ぶ。

 

悪魔の主を祝福するような歌詞と共に、

ハイテンポかつ、重いイメージが漂う曲だ。

 

凄まじいシャウトに負けじと、

ギタリストの二人は己の愛機を掻き鳴らしていく。

 

ベースラインは彼等を支えるべく、

力強い土台を作っていた。

 

「諸君!悪魔のミサへよぉうこそ!このIS学園は我々に一時占拠される事になった。

我輩がボーカルを務める秋良閣下である!」

 

曲が終わり、MCのトークタイムに入り、

メンバー紹介に移る。

 

「なんか何時もの秋良じゃないね・・・。」

 

「恐い・・・!」

 

「鈴、泣くな、秋良が不憫だ。」

 

簪が驚き、鈴は少し泣いて、ラウラは鈴を必死にあやしていた。

 

「ギター!一夏長官!!」

 

紹介された一夏はタッピングを交えた速弾きを披露する。

 

「凄い!!」

 

「流石は一夏様ですわ!!」

 

シャルロットとセシリアはリハーサルで見た演奏よりも凄まじい弾き方に驚き、

一夏のすさまじさを改めて実感していた。

 

「ギター!数馬参謀!!」

 

数馬は一夏に負けじと己の手腕を見せつける。

 

「ベース!弾和尚!!」

 

弾はグルーヴ感溢れる音色を奏でていく。

 

「ドラム!雅人殿下!!」

 

雅人は凄まじい勢いでドラムを叩き、観客を煽る。

 

「我々は地獄より出る悪魔である、

諸君らに不幸をもたらす事こそ、我々の任務である!」

 

煽り台詞を吐き、

次の曲へと入っていく。

 

二曲目、『Jack the ripper』

 

19世紀末、

ロンドンの街を恐怖に陥れた伝説の猟奇殺人犯、切り裂きジャックをモチーフにした曲だ。

 

肉を切り裂く音の様なギター音に被さる様に台詞が入り、

メタル色の濃い音色がアリーナ内に響き渡る。

 

中でも圧巻なのは、

秋良の連続でのシャウトと、

メンバー全員が同時に『殺せ!!』と叫ぶ場面だった。

 

「凄すぎる・・・!」

 

「あぁ、テクニックもそうだが、勢いが違い過ぎる!」

 

簪と箒が興奮した様に叫び、

口々に褒め称える。

 

「連続で行くぞ!叫べ!!」

 

三曲目、『Save Your Soul ~美しきクリシェに背を向けて~』

 

先程までのおどろおどろしい曲調とは違い、

在り来たりな事象からの脱却と言うメッセージを籠めた透き通る曲調が特長である。

 

この曲は、一夏ではなく数馬がギターソロを披露した。

見所は、最後の大サビでのバックコーラスとハモる部分だ。

 

「綺麗な曲だね・・・。」

 

「はい・・・、一夏様の歌声もお綺麗ですわね・・・。」

 

シャルロットとセシリアは美しい音色に聞き入り、

惚れ惚れとしていた。

 

再び曲調が変わり、少女の悲鳴にも似たノイズが混じったギター音に、

観客は皆、一様に震えた。

そして、一夏のギターリフが響き、

それに追従するように他の面子も演奏を始める。

 

四曲目、『蝋人形の舘 99's』

 

ロック色が濃い音色に、おどろおどろしい歌詞が特長である。

本家を代表する曲である。

 

そのリズムに合わせ、観客達は一様にヘッドバッキングを行っていた。

 

ギターソロの際、一夏はアドリブを交えつつ演奏し、

より重厚感を持たせた演奏テクニックを見せ付けた。

 

演奏が終わり、

遂にラストナンバーになってしまった。

 

「諸君!残念だが次がラストナンバーだ!

諸君らの理想郷は目の前にある!」

 

ラストナンバー、『El dorado』

 

理想郷、幸せを見失わない様に歩き続けろと言うメッセージが籠められた曲を、

彼等は万感の思いを胸に演奏する。

 

演奏が終わり、構成員達は観客席に向け手を振り、

ステージの中央に集まる。

 

「それでは諸君!地獄で会おう!フハハハハハハ!!」

 

大歓声の中、

構成員達は光の中へと消えて行った。

 

こうして、生徒会によるミサは幕を閉じた。

 

sideout

 

side雅人

 

ミサを終えて、

俺はステージ裏からピットを通り、

更衣室に戻ってきた。

 

他の面子は先に行ってしまい、

此処にいるのは俺独りだ。

 

興奮冷め遣らぬ中、

先程から何故か人の視線を感じる。

 

それも何かのタイミングを見計らっているかの様な感じだ。

 

誰だ?

気配としては俺が知ってる奴ではなさそうだ。

 

「隠れているのは判っている、出てきたらどうだ?」

 

振り向きつつ声をあげると、

ロッカーの影から一人の女が姿を現す。

 

「アンタは・・・、巻紙礼子・・・?」

 

何故彼女が此処に・・・?

 

「はい、加賀美雅人さん、貴方のISを頂きにあがりました。」

 

「ッ!?」

 

殺気を叩き付けられるのと同時に巻紙女史が動き、

俺の腹に蹴りを入れようとしてくる。

 

「クッ!」

 

咄嗟に腕を振り下ろし、

蹴りを何とかやり過ごして距離をとる。

 

「ちっ!避けやがったか!!」

 

そうだ、思い出したぜ。

コイツは確かファントムタスクのオータムだったか・・・。

 

「短気な女は嫌われるぜまったく!」

 

「はっ!ほざいてろガキが!その言葉が倒されても吐けるかな!?」

 

「試してみろ!」

 

敵ならば容赦はしない!

 

そう思い、ドレッドノートをイータ形態で展開し、

臨戦体制を整える。

 

オータムもISを展開し、俺に向かってくる。

蜘蛛の脚みたいで気持ちワリィなまったく。

 

あれに格闘戦を挑むのは少々無謀だが、

流石にイータユニットのバスターモードじゃあオーバーキルだな。

 

ま、敵に情けをかける程、俺は優しくはないがな。

 

そう思いつつ、イータユニットをバスターモードにし、

大出力ビーム砲を撃つ。

 

「なにッ!?うぉおぉっ!?」

 

彼方も俺がまさか大出力ビーム砲を撃つとは思っていなかったらしく、

何とか回避するが左側のアームが全て破壊された。

 

「はっ!なんだこの程度かよ!大口叩いた割には大した事ねぇな。」

 

「このガキがぁぁぁぁっ!!」

 

嘲笑半分で挑発してやると、

絵に書いたような単純さで俺に突っ込んでくる。

 

「その様では、戦場では生き残れんぞ。」

 

タクティカルアームズを呼び出し、

横凪ぎしてオータムの腹部に斬撃を叩き込み、

追撃として蹴りも入れておいた。

 

「ぐえっ!?」

 

しまった!さっきのビームで壁に穴が空いた所の近くにやっちまった。

このままでは逃げられかねん!!

 

「逃さん!」

 

捕縛するべく駆け出すが、

それより早く奴はISのコアを抜き取り、

機体を自爆させて逃げてしまった。

 

俺はというと、まんまと足留めを喰らい、

結局オータムに逃げられた。

 

「クソッ!逃がしたか・・・!!」

 

まあ良い、後は一夏が何とかしてくれるだろう、

連絡も入れといたしな。

 

その前に俺にはやらねばならん事がある。

 

「・・・、この壁どうしよう・・・。」

 

sideout

 

noside

 

「クソッ!クソッ!クソォッ!!」

 

IS学園に近い場所にある雑木林を一人の女が悪態をつきながら走り抜けていた。

 

彼女の名はオータム、

テロ組織亡國企業に所属するIS乗りである。

 

彼女はつい先程、

加賀美雅人操るドレッドノートに敗れ、敗走中なのである。

 

「よくも私をコケにしやがって・・・!!

殺してやる!なぶって刻んで!バラバラにしてやる・・・!!」

 

雅人に復讐する光景を思い浮かべ、

下卑た笑みを溢す。

 

しかし・・・。

 

「止まれ。」

 

「ッ!?」

 

そんな彼女に死刑宣告にも等しい物が振りかかる。

 

首筋に鉄の冷たさを感じ、

オータムは思わず立ち止まる。

 

「だっ、誰だ!?」

 

「テロリストに答える義理はねぇな、

さて、降伏はムダだ、抵抗しろ、そして死ね。」

 

オータムに冷たく言い放つのは、

IS学園生徒会長の織斑一夏であった。

 

彼の周りにはブルー・ティアーズを展開したセシリアと、

リヴァイヴを展開したシャルロットが己の武器を手に持ち、佇んでいた。

 

その様子は、もし一夏がオータムを仕留め損ねても、

自分が殺せると言う意思表示に他ならなかった。

 

「まっ、待ってくれ!情報ならなんだって吐く!

だから命だけは・・・!!」

 

オータムの命乞いを聞き、

セシリアとシャルロットの眉が少し動く。

 

亡國企業の情報、

それはこれからの戦いにおいて重要な物になってくる。

 

だが・・・。

 

「確かに情報は欲しいが・・・、

どうせ貴様ごとき三下が知ってる情報なんざたかが知れてる。」

 

「・・・ッ!?」

 

一夏に命乞いなど通じない、

それに、彼はオータムの言葉の信憑性に賭けるより、

此処で殺しておいた方が後の為だと判断したのだ。

 

「つまり、貴女の要求は棄却されました、直ちに死刑執行させて頂きます。」

 

「待て!待ってくれ!!」

 

言うが早いか、今だ命乞いを続けるオータムの脚を、

フラガラッハ3ビームブレイドで斬り飛ばした。

 

一瞬だけ焼かれる痛みが走ったが、

直ぐ様そんな物は消える。

当然だ、神経も丸ごと斬り飛ばされたのだから・・・。

 

「あ・・・、あぁ・・・!!」

 

恐怖に顔をひきつらせながらも、

悪魔のごとき男から逃れるべく、オータムは惨めにも地面を這いつくばった。

 

「情けねぇ事この上無いな、

人間として死なせてやろう、それが俺の最大級の敬意だ。」

 

彼はビームブレイドを逆手に持ち、

オータムの顔面目掛け突き立てようとした。

 

正にその時・・・。

 

「一夏様!!何か接近してきますわ!」

 

「分かってる、恐らくサイレント・ゼフィルスだ、

シャル、さっき渡したアグニは使えるな?

俺に近付けさせるな、出来たら討ち取っても構わん。」

 

「「かしこまりました。」」

 

セシリアの報告に眉ひとつ動かすことなく指示し、

彼女達は彼の命令を実行すべく行動に移る。

 

セシリアはバッスロット内よりフォルテストラを呼び出し装着し、

シャルロットは一夏から借り受けていたアナザートライアルランチャーストライカーを装備する。

 

そしてまもなく、上空からブルー・ティアーズによく似た機体が急降下してきた。

 

サイレント・ゼフィルス。

亡國企業に強奪されたイギリス製IS、ブルー・ティアーズ系二号機である。

 

「はっ!」

 

セシリアはミサイルをばら撒き、

回避するであろう方向にリニアガンを撃つ。

 

「ふっ。」

 

しかし、その程度折り込み済みなのか、

サイレント・ゼフィルスは苦もなく回避し、

オータムを捕縛していた一夏に迫ろうとする。

 

「させないよ。」

 

シャルロットはアグニのトリガーを引き、

砲口から大出力ビームが放たれる。

 

「チッ!」

 

サイレント・ゼフィルスのパイロットは舌打ちしつつ、

アンブレラビットを犠牲にしつつも射線上から逃れる。

 

「逃しませんわよ、姉機体として沈めて差し上げますわ!」

 

「一夏に仇なす敵は、僕達が消す!」

 

セシリアとシャルロットは戦意をたぎらせ、

サイレント・ゼフィルスに向かっていく。

 

サイレント・ゼフィルスからビットが射出され、

砲口からレーザーが発射される。

 

「この程度!!」

 

「当たらないよ!」

 

屈折したレーザーすら、

二人は阿吽の呼吸で回避し、次々にビットを撃ち落としていく。

 

「バ、バカな・・・!?」

 

「敵を前に停まるとは、愚の骨頂!!」

 

ビットが全基撃ち落とされたのが意外だったのか、

サイレント・ゼフィルスは思わず動きを止めてしまう。

 

その隙を逃さず、

セシリアは脚部アーマーよりビームサーベルを引き抜き、

一気にサイレント・ゼフィルスに迫る。

 

不意討ちじみた攻撃に、

推進基の一部が欠損、飛行に支障はないが戦闘に支障が出るレベルになってしまった。

 

「しまっ・・・!!」

 

「これで!!トドメで「待てセシリア。」!」

 

最後の一撃を叩き込もうとしたセシリアは、

愛しの男の声に光刃を止める。

 

しかし、殺気はサイレント・ゼフィルスに向けたまま、

彼の言葉を待つ。

 

「ソイツに引導を渡す役目は俺だ、それに・・・。」

 

一夏はそう言いつつ、自身の足下に転がっていた、

オータムだった肉塊を持ち上げる。

 

全身をズタズタに切り刻まれ、

最早人間であった事すら判別出来ない程になっていた。

 

他に人がいなかったのが幸いし、

一夏は何時も以上に敵をスプラッタにしたのだ。

 

「アラクネのコアも破壊した、

挑発行為としては上々の結果だろうな。」

 

一夏は肉塊を放り捨て、

ゆっくりとサイレント・ゼフィルスの方に近付いていく。

 

さながら、絶対的な死が足音をたてて近付いてくる様な雰囲気がした。

 

「さて、織斑マドカ、貴様には此処で消えてもらおう。」

 

「なッ!?何故私の名を!?」

 

一夏が自分の名を知っていた事に驚愕するが、

彼にとっては至極どうでもいい事だ。

 

「これから死ぬ奴が知ることではないな。」

 

反撃することも出来ないマドカに、

一夏は躊躇うことなくビームブレイドで斬りつけようとした。

 

だが、その刹那、彼等の間に一筋のビームが通り抜けた。

 

「なにッ!?」

 

予想外の攻撃に、一夏はセシリアを庇いつつマドカから距離を取り、

ビームが飛んできた方向を睨みつける。

 

「一夏!周囲三方向から接近してくる機影があるよ!!」

 

「こんな時に!何処のどいつだ!?」

 

シャルロットの報告に毒づきながらも、

一夏はメインモニターの倍率を上げる。

 

そこに映ったのは、赤と青のツートンカラーの胴体に、

灰色の下半身を持ったストライクによく似た形状の機体だった。

 

「ストライクダガーだと!?」

 

転成者である一夏には、その機体に見覚えがあった。

 

ストライクダガー

 

ストライクの簡易量産機である。

生産コストを抑える為に、ストライカーパック接続プラグがオミットされている。

 

しかし、運動性はストライク譲りの物がある。

 

「セシリア!シャル!後方と左舷の敵は任せた!

油断するなよ!ストライクと戦っていると思え!!」

 

「分かりましたわ!」

 

「後ろの敵は任せて!」

 

一夏の指令を受け、セシリアは左側から攻めてきたストライクダガー三機に対し、

ビームサーベルを投擲し、一機を撃破。

流れ動作でビームサーベルを逆手に持ち、もう一機の背後にスラスターを使って回り込み、

そのままビームサーベルを突き立てた。

 

その隙を狙ったのか、最後の一機がビームサーベルを引き抜き、

猛然と迫るが、フォルテストラをパージし、ビームサーベル二刀流で胴を斬り裂いた。

 

シャルロットはアグニを構え、ダガー二機が接近してくる前にトリガーを引き、塵へと還した。

 

「はっ!」

 

一夏は前方の二機の胴をビームブレイドで斬り裂き、

その後ろにいた一機にワイヤーアンカーを射出、

頭部を破壊した後地表に叩き付け、ショーティーによる連射でズタズタに撃ち抜いた。

 

「脆い!この程度の戦力で俺達を倒せるとでも思ったか!?」

 

一夏は叫びつつも索敵を行い、

サイレント・ゼフィルスに逃げられた事を悟った。

 

「ちっ、逃げられたか・・・、まあ良い、次は殺す。」

 

舌打ちしつつ思考を切り換え、

ビームブレイドをノワールストライカーのウィング部に格納する。

 

「逃げられてしまいましたね。」

 

「追い掛けなくて良いの?」

 

ISを解除したセシリアとシャルロットが彼の元に歩み寄り、

追撃の有無を確認する。

 

「構わんさ、面倒な事になりそうだしな、

それより、そこに転がってる肉塊の処分に行くぞ、着いてこい。」

 

「かしこまりました。」

 

「分かったよ。」

 

一夏もストライクノワールを解除し、

三人は肉塊を担いで林の中へ消えていった。

 

sideout




はいどーもです!

自分の趣味でバンドを選びましたけど、
良かったのかなぁ・・・?

まあ良いか。

さて次回予告
ハプニングもありつつ、
文化祭は終わりを告げる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
文化祭終焉

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

文化祭終焉

side一夏

 

オータムの亡骸を処理した後、

俺は事後報告の為に理事長室に脚を運んでいた。

 

「そうでしたか・・・、遂に亡國企業が・・・。」

 

「ええ、雅人からの報告によりますと、

アメリカ軍のIS、アラクネが出現、撃退して捕縛しようとしたらしいのですが、

自爆してコアも失われたそうです。」

 

「パイロットはどうしましたか?」

 

「私が処分しました、その際、イギリスのサイレント・ゼフィルスが乱入してきましたが、

パイロットの技量は大した事もなく、後少しで撃墜することが出来ましたが、

無人機が乱入、対処の間にサイレント・ゼフィルスに逃げられてしまいました。」

 

大まかな事は伝えて、一部嘘を交えておく。

これでコアの破壊の非をオータムに擦り付ける事が出来る。

 

「そうですか・・・、パイロットの命はどうでもいいのですが、

個人的にはコアの方も確保して欲しかったのですがね・・・。」

 

「申し訳ありません、しかし、余計な火種を取り込むのは無謀ではありませんか?」

 

まあ、この好好爺には考えと言うか、

策略がありそうだから気にしてないんだがな。

 

「構いません、寧ろ交渉のカードとして利用できますからね。」

 

「なるほど、ですが、無人機、もしくは無登録のコアは破壊します、よろしいですね?」

 

「それについてはよろしくお願いします、貴方の手腕は高く評価していますからね。」

 

「恐縮です。」

 

本当に評価してくれてンのかは疑問だが、

波風立てん為にも頭下げとくのが最善だろう。

 

「それでは閉会式がありますので失礼します。」

 

「あぁ、そう言えばそんな時間でしたね、私も参りましょうかね。」

 

そう言えば挨拶と言うか、〆の言葉みたいなのを言うんだよな。

ああ面倒なこった。

 

理事長も席から立ち上がり、

俺も彼に随伴し、理事長室を後にする。

 

さてと最後の仕上げと洒落こむかね。

 

sideout

 

side雅人

 

閉会式が終わった後、

俺は一夏の所に急いだ。

 

理由は単純だ、オータムがあの後どうなったのかが気になる。

 

一夏なら逃がす事はないだろうが、

念の為に聞いておく必要はある。

 

「一夏!」

 

「なんだ?・・・って、雅人か、どうした?」

 

布仏先輩と何やら話していた一夏は、

もろ仕事人の様な顔で俺の方に振り向いた。

 

マジで恐ぇからやめてくれ。

 

「さっきの侵入者の話だが・・・。」

 

「ああ、亡國企業の事だな?

サイレント・ゼフィルスの乱入、及び、無人機のストライクダガーの介入で逃がしてしまった。」

 

「なんだと・・・!?」

 

って事は逃げられたのか・・・、

次に戦うことがあれば、俺が必ず捕まえてやる。

 

それにしても、ストライクダガーが無人機として介入してきたか・・・、

やはり俺達が紛れ込んだ為にイレギュラーが発生したのか・・・?

 

「イレギュラーかどうかは知らんが、

恐らく俺と秋良の機体データが盗まれているのは確かだろうな。」

 

「それでストライクダガーなのか・・・?」

 

確かにそれなら説明がつく、

盗んだ機体データを反映させるのに最も効率が良いのは、

機体データをそのまま使って原型機の模倣品を造る事だろう。

 

「確証はないがな、秋良にも伝えておけ、

サイレント・ゼフィルスのパイロットは侮れん、それにダガーもな。」

 

「分かった、先に失礼するぜ。」

 

一夏に背を向け、

俺は片付けを始めているであろうクラスに戻った。

 

sideout

 

noside

 

片付けもあらかた終わり、

中庭では後夜祭の準備が始められていた。

 

今回の文化祭で出たリサイクル出来ない加工品(金属の類いは抜いている)や、

可燃物をキャンプファイアの燃料とするらしい。

 

なんともエコである。

 

「秋良、一夏達はどうした?」

 

参加する者達の中には、

秋良や雅人、それに加えて、一夏より許可を貰った弾や数馬、蘭がいた。

 

そんな中、雅人が秋良に話し掛けていた。

 

「さあ?生徒会長だし、なんかやることがあるんじゃないかな?」

 

「なるほどな、探しても無駄か。」

 

仕事中の一夏を見付けるのは困難を極める為、

特に用事も無いため彼等は最初から探さないことにしたらしい。

 

それはある意味、実に賢明な判断ではある。

故に彼等は知らない、一夏の、否、一夏達の裏の顔を。

 

そんだこんだしている内に、

組み上げられた可燃物に火が付き、盛大に燃え上がった。

 

「おお!スゲェ迫力だな!」

 

「だね、兄さんも来れば良かったのにね。」

 

「全くだ。」

 

二人は笑いつつ、持っていたコーラのペットボトルを開け、

それぞれ口をつける。

 

「く~!良いねぇ!」

 

「全くだね、今晩は楽しもうか!」

 

秋良と雅人が盛り上がっている頃、

彼等の反対側の場所では・・・。

 

「ま、また会いましたね・・・。」

 

「そっ、そうね・・・。」

 

置かれていた丸太に腰掛け、

なんとなく気まずそうにしている弾と虚がいた。

 

どちらとも何も言えず、

ただ時間が流れていくだけだ・・・。

 

どちらも俯き、話すタイミングが掴めていない様子であった。

 

一夏が見れば間違いなくイライラするだろうが、

幸いにして彼はその場に居なかった。

 

「そっ、そのっ!!」

 

「はっ、はいっ!!」

 

虚が大声をあげたかと想えば弾が反応し、

弾が大声をあげたかと想えば虚が反応するのを繰り返し、

結局の所、なんの進展もなかった。

 

(うぉぉぉ・・・!ヤベェ!なんて喋ったら良いか分からねぇ!!)

 

(あぁぁぁ・・・!どうしよう!?なんて話し掛けよう!?)

 

二人とも、今まで経験したことの無い感覚に戸惑っているのか、

彼等は俯いたまま何も言えずにいた。

 

だが・・・。

 

「お兄!!なにしてんの!!」

 

「うごっ!?ら、蘭!」

 

「帰るよ!」

 

「ちょっ!待てって!!痛ッ!!耳を引っ張るな!!」

 

「あっ・・・。」

 

蘭に引っ張られていく弾を、

虚は残念そうな表情で見送っていた。

 

(どうしたら彼に近付けるかなぁ・・・。)

 

sideout

 

noside

 

「マドカァッ!!何故オータムを死なせたの!!?」

 

「・・・ッ!」

 

とあるホテルの一室にて、

グラマラスな金髪美女が千冬によく似た少女を殴っていた。

 

憎しみを籠め、何度も、何度も少女を殴る。

 

少女は口の中を切ったのか、口の端から血が滲んでいた。

 

金髪の女性の名はスコール・ミューゼル、

一夏に惨殺されたオータムの上司兼、恋人だった女性だ。

 

「何故ッ!何故なのッ!!答えなさい!!」

 

「スコール様、お取り込み中申し訳ありません。」

 

激昂する彼女が拳を振り上げたのと同時に、

男が一人、部屋の中に入ってきた。

 

「邪魔しないで頂戴!!コイツを切り刻んで・・・!!」

 

「篠ノ之 束と名乗る者からコンタクトがありました、如何なさいますか?」

 

「なんですって・・・?」

 

男が話した内容に、スコールはマドカを殴る手を止める。

 

「直ぐに繋いで頂戴、録音も忘れないでね。」

 

「かしこまりました。」

 

男が出ていき、

部屋に設けられていたモニターに、

一人不思議の国を体現している女性、篠ノ之 束の顔が映る。

 

『やぁやぁこんばんわ~!初めましてだね、亡國企業、スコール・ミューゼル。』

 

「ええ、こんばんわ篠ノ之 束、初対面なのによく分かったわね。」

 

『ふふふっ、この篠ノ之 束に分からない事はないのだ!』

 

「そうなの、何故私達に接触してきたのかしら?」

 

スコールと束は対面の挨拶をするが、

何故束が接触してきたのか分からず、スコールは訝しみつつ尋ねた。

 

『仕返ししたい相手が居てね、君達が彼と敵対しそうだったから接触してみたんだ~!』

 

「そうなの、それなら私にも理由があるわね、大切な人を貴女の敵に殺されたの。」

 

『ふふっ、なら私達の利害関係は一致したね?』

 

「そうね、良ければこちらと合流しないかしら?

一度ちゃんと会って話しましょう?」

 

『良いよ~!後でこのアドレスに座標を送ってね~!』

 

利害関係を確認し、会見を約束した後、束は通信を切った。

 

「フフフッ、待っていなさい織斑一夏・・・!

私がこの手で貴方を葬ってあげるわ・・・!」

 

仄暗い笑い声が部屋の中に木霊し、

これから起こる波乱を予感させた。

 

sideout

 

side一夏

 

「待って!殺さないで!!」

 

「死ね。」

 

命乞いをする女を切り殺し、俺はストライクEを解除する。

 

「学園生を殺したのは初めてだな、

ま、いずれこうなることは予想してたがな。」

 

たった今、俺が切り殺したのは一年二組の生徒だった、

巧妙に隠されてはいたが、彼女の戸籍は偽装されたものだった。

 

十年前からの経歴を調べあげたが、

当事既に潰れていた学校に通っていた事が判明し、

完璧に黒だと判明した。

 

全く、入ってる情報が少し古いからって、

流石にこりゃねぇわ。

 

ま、お陰で俺はスパイを抹消出来たから良いんだがな。

 

さてと、死んだスパイとは言え、

自分の女でもない女の服を剥ぐのは気が引ける。

 

「お任せください一夏様、女の身剥ぎは私が行いますわ。」

 

「すまんなセシリア、シャルはどうした?」

 

「シャルさんなら、理事長に掛け合って、

このメス豚の学籍を抹消してくださっていますわ。」

 

「アイツにも、そしてお前にも色々と苦労を掛けてるな・・・。」

 

いくら俺の女になると宣言し、

俺が受け入れたとしてもコイツらには苦労を掛けてる事には変わりない。

 

ま、埋め合わせは俺の命を賭けてでもやってやるさ、

それがセシリアとシャルを闇に引き込んだ俺の役目さ。

 

「一夏様、やはりあのオータムと名乗った女と同じ刺青がありましたわ、

下着に隠れた場所でしたわね。」

 

「やはりな。」

 

俺がやらなくて良かった、

端から見れば間違いなく強姦魔だ。

 

まあそれは置いといて・・・。

 

「黒い薔薇のマークが亡國企業の紋章か・・・。」

 

趣味としては悪くはないな、

だが、俺は真っ赤に咲き誇る薔薇の方が好きなんだよな。

 

「さてと、コイツを捨てに行くとするか。」

 

「はい♪」

 

sideout

 

noside

 

一夏達の仕事の様子を、

物陰からじっと見つめる影があった。

 

暗がりの為、その者の正確な容姿は判別出来ない。

 

だが、その者の纏う雰囲気には、あからさまな敵意が見てとれる。

 

事実、彼女は織斑一夏達を敵視している。

 

気に入らない、

これまで裏の仕事を請け負ってきたのは紛れもなく自分達だった。

 

後ろめたさはあったが、誇りを持っていた。

 

故に、男性IS操縦者が現れたからと言って、

別段気にする事はなかった。

 

だが、織斑一夏はそれだけでは止まらなかった。

自らが更識楯無に代わり、生徒会長を名乗りだし、

自分達の仕事であった影の仕事まで行い始めた。

 

まるで自分達がこれまでもそうして来たと言わんばかりの態度で。

 

許せなかった、自分達の矜持を踏みにじり、

挙げ句、王にでもなったかの様な振る舞いをする彼を。

 

だから、彼を失脚させようと動いているが、

あまりの手際の良さに何時も現場を押さえる事が出来なかった。

 

しかし、今回漸く尻尾を掴む事が出来た、

後はこの情報をリークすれば良い。

 

「何が男性IS操縦者だ・・・、図に乗るな・・・。」

 

その者は長い袖を引き摺らぬ様、

遅い歩調で消えて行った。

 

sideout

 




はいどーもです!

色々とダークになって来ました。

さて次回予告

キャノンボールファスト十日前、
一夏達の誕生日が近いと知った少女達は各々行動を起こす。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
穏やかな気持ちで

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

穏やかな気持ちで

side一夏

 

「えーッ!?一夏の誕生日が!?」

 

「もう直ぐですの!?」

 

文化祭から少し経過したある日の夕方、

専用機持ち達との晩飯の時の事だった。

 

何時もの様に他愛の無いやり取りをしつつ食事をしていると、

誕生日は何時?という話になったので、誕生日が近いと言う事を教えた。

 

先程の叫びはシャルとセシリアだ。

 

「あぁ、俺と秋良の誕生日は9月27日だったな。」

 

「まぁ、この世界でのって前提は付くけどね。」

 

そうなんだよな、俺達転生者は現世での誕生日と、

前世での誕生日がそれぞれあるんだよな。

 

雅人みたいな前世のまま転生してくるならまだしも、

俺や秋良の様に、別の人間として転生した為に二つになるんだよな。

 

そんな事はどうでもいいとして・・・。

 

「そうなのか?俺も9月27日だぜ?」

 

「雅人もなの?」

 

「ああ、前世も9月27日だったんだが、

どうやらそのまま持ってきたみたいだな。」

 

雅人も思い出したかの様に呟き、

簪が不思議そうに尋ねていた。

 

なんか変な運命を感じるな、

まあ、別に男と運命感じてもなんとも思わんがな。

 

「一夏ッ!なんでもっと早く教えてくれなかったの?」

 

「そうですわ!一夏様のお誕生日なんですもの!

盛大にお祝いしたいのです!」

 

「落ち着け、頼むから大声を出すな、折角の美人が台無しだぞ。」

 

なんとかシャルとセシリアを宥め、

席に着かせてから食事を再開する。

 

「まあ、弾や数馬達が俺の家で祝ってくれるみてぇだし、

お前達も来てくれ、そっちの方が良いだろう。」

 

「だね、雅人も来なよ、三人一緒の方が手間が省けるしね。」

 

「そうさせてもらうか、だがよ、確かその日って、

キャノンボールファストがあったよな?」

 

そう言えばそうだったな、

やれやれ、面倒な事があるな・・・。

 

「確かキャノンボールファストって、

高速機動形態でのレースだよね、皆はどうするんだい?」

 

「私は本国にあるシュヴァルツァ・ツヴァイクの増設スラスターを借り受けて装備するつもりだ。」

 

「打鉄弐式には追加パッケージは無いけど、増設スラスターで何とかすると思う。」

 

「僕もそんな所かな、リヴァイヴの大気圏離脱用ブースターを調整して使うよ。」

 

ラウラ、簪、シャルの三人は増設スラスター装備組だな。

 

「私は追加パッケージ、ストライクガンナーを使用しますわ、一度っきりも悪いですし。」

 

「俺はエールストライカーか、スペキュラムストライカーを使うとするかね。」

 

「ア、アタシは本国からパ、パッケージが届く!・・・多分・・・。」

 

多分かよ、まぁ、鈴の多分はほぼ確実に届くって事だろうがな。

 

で、パッケージ換装組は俺、セシリア、鈴だな。

 

「俺のゲイルには高機動型のストライカーが無いし、

機体調節でなんとかしてみようかな。」

 

「俺もそんな所だな、ドレッドノートは元々速度が出るしな。」

 

「紅椿もそんな所だな、展開装甲を速度に振り分ければ良い。」

 

秋良、雅人、箒が機体調節組ね、上手いこと三人ずつに別れたな。

何となくだが、面白くなりそうだ。

 

だが、気掛かりな事もある、

亡國企業と無人機、この二つが目下の敵だ。

 

アイツらがこの大きなイベントを見過ごす筈が無いだろう。

 

こちらとしても都合が良い。

そろそろセシリア達の力が覚醒する、

練習台にはうってつけだろう。

 

これからの波乱も、面白くなりそうだ。

 

sideout

 

noside

 

食事を終えて、

一夏はセシリアとシャルロットを伴って自室に戻った。

 

「ふぅ・・・、今日は仕事も無さそうだし、ゆっくり出来るな。」

 

「そうだね、何時もは大変だもの。」

 

「まったくですわ。」

 

ベッドに腰掛け、三人はボヤきつつため息をついた。

 

セシリアが紅茶を用意し、

シャルロットが茶菓子を用意していた。

 

彼等は様々な影の仕事をこなすため、

割と夜食を食べる事が多いが、三人とも全く体型が崩れていない。

 

「あっ、そうだ一夏、次の日曜日に三人で出掛けない?」

 

「日曜か?用事は・・・、無いな。」

 

シャルロットに言われ、一夏は自分の手帳を確認し、

用事が無いことが分かった。

 

「一夏のお誕生日プレゼントをセシリアと選びたいんだ。」

 

「そうですわね、見たところ、一夏様は腕時計をお持ちでない様ですから。」

 

テーブルにクッキーと紅茶を用意し、

シャルロットとセシリアは一夏に向けて話す。

 

実際問題、彼は腕時計等をしていない。

この年頃の男性にしては比較的珍しい部類であると言えるだろう。

 

「腕時計か・・・、なんか貢いで貰うみたいで気が引けるな。」

 

だが、いくら誕生日プレゼントとはいえど、

あまり高価な物を貰うには流石に気が引ける。

 

有り難い事には変わりないが、

対等な贈り物を返せるかどうかが不安なのだ。

 

「ま、お前達に任せる、今は紅茶が飲みたい。」

 

「そうですわね。」

 

「いただきます。」

 

了承した一夏はクッキーに手を伸ばし咀嚼していく。

彼に続き、セシリアとシャルロットも紅茶に口をつけた。

 

sideout

 

side秋良

 

簪達を連れて部屋に戻った俺は、

トランプゲームを四人ですることにした。

 

種目はババ抜きと七並べ、俺も強くないけどぼろ負けしない程度の物を選んだ。

 

で、その目論みは見事に的中し、

誰か一人が勝ちすぎたり負けすぎたりせずに進んでいく。

 

「あ、そう言えば秋良、今度の日曜日に四人で出掛けない?」

 

「うん?どうしてだい?」

 

何か用事でもあったかな?

俺が知る範囲では何も無かったと思うけど?

 

「秋良の誕生日プレゼントを買いたいの。」

 

「だが、何が良いか見当もつかないので、一緒に来てもらった方がいいと思ってな。」

 

あー、そう言う事か、

有り難いんだけど、何となく申し訳無いなぁ・・・。

 

「良いのかい?なんか申し訳無いんだけど・・・。」

 

「秋良が気にする事じゃないよ、私達がしたい事だから。」

 

簪に言われ、何も反論出来なくなってしまった。

なんか俺って押しきられる事多くね?

 

まぁ、なんかそう言う性分って事ぐらい分かってたけどね。

 

「分かったよ、皆に任せるよ。」

 

sideout

 

side雅人

 

何となくコーヒーが飲みたくなったので、

自販機がある休憩所にやって来た。

 

クリームたっぷりのカプチーノが好みだが、

缶コーヒーしか置いてないから我慢だ。

 

ブラックコーヒーを買い、設けられていたベンチに腰かける。

 

この苦味が何とも言えないぐらいに心地いいんだよな。

 

「マスター、カフェオレ一つ~。」

 

「あいよ~・・・、って!?なんで奢らせようとしてんだよ!?」

 

凄まじく上手い流れで持ってこられた為、

危うくマジでカフェオレを購入してしまう所だった。

 

と言うより、何処から現れたんだこの残姉さんは?

 

「にゃはは~、雅人は単純ねぇ、

一夏君なら確実に乗せられない流れよ?」

 

「ほう?では聞くが、楯無、お前は一夏にそのちょっかいをかける勇気があるか?」

 

「・・・、無いわね、ヤったら半殺し喰らいそうだしね。」

 

コイツまでアイツの事を恐れてやがるのか・・・、

何者なんだよここの一夏は・・・。

 

まあ良い、今気になるのは何故コイツがここにいるのかだ。

 

「なんでお前はここにいるんだよ、簪なら秋良の部屋だぞ?」

 

「あー、うん、それは知ってるけど、今日は貴方に用事があるの。」

 

「俺に?」

 

はて?何の用だ?

特に思い当たる節は無いが・・・。

 

「貴方、9月27日に誕生日ですってね?」

 

「聞いてたな?盗み聞きはマナー違犯だぜ?

しかもまだ簪のストーキングしてんのかお前は。」

 

辞めろと言った筈なんだがな、

いい加減にしとかねぇとサポートしねぇぞ?

 

「にゃはは~、聞こえちゃったんだから仕方ないじゃない?」

 

「うやむやにしてんじゃねぇよ。」

 

「まぁ、そんな事は置いといて・・・。」

 

置いとくのかよ、なんかもう、一々ツッコミをいれるのもアホらしくなってきたわ。

 

「良かったら私と買い物しに行かない?

貴方には色々とお世話になってるからそのお礼も兼ねてね?」

 

「は?いや待て、俺は特に何もしてねぇぞ?

そんなお礼なんて受け取る訳には・・・。」

 

流石に気が引けるな、

簪との姉妹仲を改善したとかならまだしも、

なんの進展もしてねぇのにさ。

 

そう思い、慎んで断ろうと思ったが、

楯無の指が俺の唇に当てられた。

 

黙っていろという事か?

 

「私がしてあげたいだけだから、ね?」

 

どうやらかなり本気の様だ、

ここまで言われると断るに断れんな。

 

「分かったよ、美人さんのお誘いを断る訳にはいかんな、

慎んでお受けいたそう。」

 

「ふふっ、ありがとね雅人。」

 

軽妙に笑う楯無の表情に、俺の視線は釘付けになった。

 

敵わねぇな、

俺はこういう笑顔が好きなんだよな。

 

自分でも少しちょろいと思うがな。

 

「それじゃあ日曜日の午前10時丁度に駅前のモニュメント前に集合ね!」

 

「分かったよ、それじゃあな。」

 

楯無と別れ、俺は自室に戻るべく動く。

 

にしても、デートっぽいな・・・、

気分的には最高だ。

 

sideout

 

noside

 

時間は流れて日曜日、

駅前のモニュメント前にはセシリア、シャルロット、簪、鈴、ラウラの五人がそれぞれ一夏と秋良の到着を待ちわびていた。

 

今日、この五人は各々が思いを寄せている男の誕生日を祝うために、

彼等にプレゼントを贈ろうと考え、デートのついでに選ぶ心づもりでいた。

 

何故この五人が同じ場所に居るのかと言うと、

何の因果か、偶然にも集合時間と集合場所が見事に重なったのだ。

 

「なんだかこの五人だけで固まるのって初めてな気がするね。」

 

「そうですわね、私とシャルさんは一夏様と、

簪さん達は秋良さんとご一緒されてますものね。」

 

シャルロットとセシリアが思い出す様に話す言葉に納得し、

簪達は首を縦に振っていた。

 

「まぁしょうがないんじゃないかな?

一夏と秋良って滅多に一緒にいないし。」

 

「そうだな、兄貴と秋良が一緒に来るというのも、些か気味が悪い。」

 

簪とラウラが何か納得する様に言い、

他の三人は少し苦笑していた。

 

和やかな雰囲気が五人の間を流れていた時・・・。

 

「あれ?お前ら何やってんの?」

 

何とも呑気な声で雅人がやって来た。

 

「あれ?なんで雅人がここにいるの?」

 

疑問に思った鈴が一同を代表するように尋ねた。

 

「いや、俺もここでとある奴と待ち合わせしててな、

そろそろ来ると思うんだが・・・。」

 

「「お待たせ~!」」

 

雅人が説明した直後、

男性と女性の声が全く同じタイミングで聞こえて来た。

 

男性が織斑秋良であり、女性が更識楯無である。

 

『あっ・・・!?』

 

その場に集った七人の声が見事にシンクロした、

混声合唱も真っ青である。

 

「すまん、遅れ・・・、あ・・・?」

 

間の悪い事に、一夏も到着し、

同じ様な声をあげていた。

 

「なんで・・・、お前がここにいるんだよ・・・?」

 

「どうして・・・、貴方達がここに・・・!?」

 

一夏と楯無が互いを指差し、

秋良と雅人はしまったという風に額に手を当て、

セシリアとシャルロットは腹部を抑え、

ラウラは顔面蒼白な簪の背をさすり、

鈴は訳が分からないと言った風に首を可愛らしく傾げていた。

 

どうやら、彼等に穏やかな休日と言うものはなかなか来ない様であった。

 

sideout

 




はいどーもです!

修羅場です、違う意味で。

それでは次回予告
今だわだかまりが溶けない更識姉妹の為に、
秋良と雅人が立ち上がる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ

触れ合う心

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

触れあう心

side一夏

 

どうしてこうなった。

 

セシリアとシャルが俺の誕生日の為に腕時計を贈ってくれる事となり、

今日は俺の意見も聞きたいからと、デートがてら時計店に行く筈だった。

 

だが、待ち合わせ場所に行ってみればどうだ?

楯無と簪がかち合っちまうわ、面倒だわでかなりイライラしている。

 

で、現在俺達は待ち合わせ場所の近くにあったコーヒーショップに入り、

面と向かい合って座っている。

 

俺や雅人の様なイケメンに加え、

セシリアやシャルの様な美少女が六人も居ると来た、

店内の俺達を見る目はかなり多かった。

 

それは良い、美男美女を見る羨望の眼など、

とうの昔に馴れきった。

 

問題は目の前にある、

現在進行形で仲が冷えきっている更識姉妹だ。

 

このコーヒーショップに入った際、

秋良と雅人は何とかして二人を隣り合わせに座らせようとしたが、

あの姉妹はどちらからともなく離れた席に座った。

 

ある意味、意志疎通が出来てる事に驚いたが、

これは仕方無いと思う。

 

流石に喧嘩してる最中の奴等を隣り合わせに座らせる等、

愚の骨頂としか言いようが無い。

 

だが、見ている限り、どうも簪が避けていると言うより、

楯無が及び腰になっているのが分かる。

 

恐らく、簪は同じ様に姉が居る俺や秋良の姿勢を見ている内に、

楯無に怯えるのが馬鹿らしくなったんだろう。

 

それに、避けている原因も、

楯無の変態的趣向に依るものだと言えよう。

 

それは置いといて、

俺は一刻も早く、この辛気臭い場所からおさらばして、

セシリアとシャルの為に時間を有意義に使いたい。

 

なので、問題解決を秋良と雅人に押し付ける事にした。

 

「秋良、雅人、悪いが俺達はこれで失礼する、

こんな要らん事で時間を潰したくないからな。」

 

秋良にここでの飲食代として諭吉を一枚渡し、

セシリアとシャルを連れてさっさと店を出た。

 

「二人とも、胃は大丈夫か?」

 

「はい、何とか・・・。」

 

「僕は寧ろ頭が痛くなりそうだったよ・・・。」

 

ギリギリだったみたいだな・・・、良かったな。

 

俺の事はいい、

セシリアとシャルの安寧が最優先だからな。

 

「さてと、気を取り直して行くとするか、

今日はお前達に任せるよ。」

 

「はい♪お任せくださいませ。」

 

「僕達に任せてね♪」

 

俺の頼みに、二人は笑顔で頷いて俺の腕にしっかりと腕を回してきた。

 

さてと、楽しむとさせていただくか。

 

sideout

 

side秋良

 

さてどうしたものだろう・・・。

 

なんと言うか凄まじく気まずい・・・。

よりにもよって同じ日に出掛けるなんて思ってもみなかった。

 

いや、その前に雅人がここまで楯無と進展してたなんて思わなかったよ。

 

で、現在俺は雅人達と向き合って凄く気まずい時間を過ごしている。

 

「さて・・・、何から話をすればいいのやら・・・、

なんでこの残姉さんがここにいるのかから説明せにゃならんか。」

 

「雅人まで言うの!?」

 

雅人の辛辣な言葉に楯無は涙目になるが、

一々気にしていられない。

 

「楯無に誘われてここに来ただけだ、

彼女もストーキングしようと言う気はない。」

 

雅人が弁護してるけど、

前科が前科だけに非常に信頼性に欠ける。

 

「信じてやってくれ、頼む。」

 

明日は土砂降りかなと思えるね、

雅人が人に頭下げるなんて見たこと無いし。

 

「酷く貶されてる気がしないでも無いが、取り敢えず楯無を睨むな。」

 

なんで俺って思考を読まれるんだろ?

兄さんや雅人ならまだしも、簪達にも読まれてる事があるしね。

 

まぁ、良いや。

 

「分かった、信じるよ、変態行為だけは本当に勘弁してね?」

 

「うっ・・・!わ、分かったわ・・・。」

 

おい、思いっきり苦渋の決断を迫られたみたいな雰囲気を出してんじゃないよ。

 

もう良いや、俺達もそろそろ行くとしますかね。

 

立ち上がろうとすると、雅人が凄い眼でこちらを見てくる、

どうやらアイコンタクトのつもりらしいが、睨まれてる様にしか感じない。

 

「(どうしたんだい雅人?怖いから睨まないでよ。)」

 

「(睨んでるつもりは無いんだがな・・・、少しヘコむぜ・・・。)」

 

「(そんなことはどうでもいいから、用件だけを話してよ。)」

 

兄さんじゃないけど、早くこの辛気臭い場所からおさらばしたい、

それもかなり切実に。

 

「(いや、折角の機会だし、楯無に簪と話をさせてやりたいんだよ。)」

 

「(なるほどね、それについては俺も賛成したいけど、

あんなに雰囲気悪いのに大丈夫なのかい?)」

 

「(うっ・・・、だが、何とかなる筈だ!!)」

 

根性論だけはやめて欲しいんだけどなぁ・・・、

でも、そろそろ仲直りさせても良い頃だと思うし、

何とかしてみるかな?

 

とは言うものの、

どうやって会話をさせるかだよね?

 

無理矢理と言うのも流石に駄目だしね。

 

「(そうだ!俺が会計している内に、楯無をけしかけてよ!

そうすればあの残姉さんも一念発起するよ!)」

 

「(おぉ!その手があったか!分かったぜ、やってみるか!!)」

 

よし!これで何とかなりそうだ!

絶対に今日で仲直りのきっかけを掴ませるよ!!

 

sideout

 

noside

 

秋良と雅人が楯無と簪の仲を何とか取り持とうとしていた頃、

さっさと退散していった一夏達は・・・。

 

「一夏様、これは如何ですか?」

 

「こっちも良いと思うよ?」

 

当初の予定通り、

レゾナンス内の時計店に立ち寄り、一夏用の腕時計を選んでいた。

 

セシリアが蒼の装飾がなされた銀色に輝く時計を薦め、

シャルロットはホワイトゴールドが美しい時計を薦めていた。

 

「う~む・・・、どっちも良いな、二つとも好みに合うな。」

 

一夏は自分の好みにバッチリ合わせてきた二人の感性に驚き、

どちらにすべきか悩んでいた。

 

流石に二つともとは言えない、

彼とてそこまであつかましい訳では無い。

 

「あー・・・、駄目だ決められん、

スマンがお前達が決めてくれないか?そっちの方が愛着も沸きそうだしな。」

 

結局、決めきる事が出来なかった彼は、

決定を二人に委ねる事にした。

 

「ふふっ、そう言われると思いまして・・・。」

 

「僕達二人の意見で選んだのもあるよ♪」

 

一夏の何処か困った表情を可笑しく思ったのか、

セシリアとシャルロットは微笑みつつ、

店員に頼んで、もうひとつ腕時計を出してもらう。

 

ホワイトゴールドの外装を持ち、針に蒼の装飾が施された美しい腕時計であった。

 

先程、彼女達がそれぞれ選んだ物の特徴を併せ持った腕時計である。

 

「おぉ!コイツは良い!さっきの二つの特徴を巧いこと併せ持っている!

気に入ったぜ!これにさせてもらおう!」

 

気に入った品を見た一夏は、即座に購入を決めた様だ。

 

「ふふっ、気に入ってくれて良かったよ♪」

 

「店員さん、この腕時計をプレゼントでお願いしますわ。」

 

「かしこまりました。」

 

シャルロットは嬉しそうに微笑み、

セシリアは表情を綻ばせつつ、店員に購入の意思を示した。

 

「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております。」

 

綺麗にラッピングされた包みを受け取り、

一夏達は店員に見送られ店を後にした。

 

「セシリア、シャル、ありがとな、大事に使わせてもらうぜ。」

 

一夏は何時も以上に二人を己の身体に密着させつつ、

感謝の言葉を述べていた。

 

「ふふっ、身に剰る光栄ですわ♪」

 

「その気持ちだけでとっても嬉しいよ♪」

 

愛しの男の謝辞に表情を綻ばせ、

二人は一夏に甘える様に身体をすりよせる。

 

彼女達にとって、一夏の謝辞、賛辞程悦ばしい事は無い。

 

「そろそろ昼飯時だな、昼食は俺が奢ろう、何か食べたい物は無いか?」

 

「そんな!悪いよ・・・。」

 

「そうですわ!なんだか申し訳ありませんし・・・。」

 

一夏の申し出に、彼女達は少々慌てつつ、

彼の申し出を断ろうとする。

 

彼女達は国家代表候補生であり、一応それなりの給料は入って来ている、

代表候補生でもない一夏に払わせるのは悪いと思ったのであろう。

 

「気にするな、俺は惚れた女達に出資出来ん様な甲斐性無しか?

今日の事の礼も兼ねてるしな、ここは俺に甘えておけ。」

 

だが、当の一夏は彼女達の心配を他所に、優しく微笑んでいた。

 

ここだけの話、実は一夏達はアクタイオン社から給料が出ており、

その額は並の国家代表すら上回る物である。

 

更に付け加えるなら、

彼は秋良との賭け事に全勝しているため、秋良の給料の半分弱をせしめているらしい。

 

因みに、雅人も一夏とポーカー対決を挑んだが、

手も足も出ずに敗北、賭け金を全てせしめ獲られた事が有るらしい。

 

まぁ、それは置いといて・・・。

 

つまり、一夏の稼ぎは凄まじい物があり、

普通の高校生が持っている筈もない額を所持している。

 

「じゃあ・・・。」

 

「宜しくお願いしますわ・・・。」

 

流石に自分達の為と言われてしまえば断り辛いのか、

セシリアとシャルロットは小さく首肯していた。

 

「おう、何が喰いたい?」

 

「えっと・・・、パスタが良いかな・・・?」

 

「同じくですわ・・・。」

 

まだ申し訳ないのか、二人は歯切れの悪い返事しか返すことしか出来なかった。

 

「分かった、行こうぜ。」

 

「「はいっ♪」」

 

三人は何時もの様に目的の店まで歩きだした。

 

 

sideout

 

side雅人

 

さて、勢いで言ったのは良いんだが、

冷静になって考えてみれば本当に実行して良いのか不安になってきた。

 

どんだけ気まずい時間を送ったかは知らないが、

流石にそろそろこの店を出ていきたい。

 

なので、秋良とアイコンタクトを取り、

そろそろ店を出る事にした。

 

そこで先程の作戦を決行する事にしよう、

でないと、この気まずい時間を無駄にしちまうからな。

 

「さ、皆そろそろ出ようか、何時までも居座ってたら迷惑だしね。」

 

秋良に促されるまま、俺達は席を立ってレジに向かう。

 

秋良の手には一夏から渡された諭吉氏が握られていた。

一夏のヤローは給料も良いし、俺達から賭けで奪い獲った金があるからこれぐらいはしても良いと思ってんのかね?

 

まぁ、有り難くご馳走になっとくけどな。

 

って、そんなことはどうでもいいとして・・・。

今は楯無をけしかけねぇとな。

 

「(おい、楯無!お前このままさよならで良いのか!?

会計している内に、一言でも良いから話しろ!!)」

 

「(ええっ!?何よその無茶振りは!?私に死ねって言ってるの!?)」

 

「(そこまで酷くねぇだろうが!!ストーキングするぐらいならちゃんと話せた方がお前も幸せだろうが!!)」

 

まったく、この残姉さんは変な所でヘタレてるな・・・。

 

「(頑張れ!ここでの頑張りが後の幸せに繋がるんだ!)」

 

少々言い過ぎな気もしなくは無いが、

これぐらい言っておけば発破にはなるだろう。

 

「(よしっ!分かったわ!やってみせるわ!!)」

 

あ、コイツちょろいな・・・、

まあ良い、頑張ってもらわねぇとな。

 

そんな事を考えている内に、楯無はゆっくりと簪の方へと近付いて行った。

 

「かっ、簪ちゃん!あのね・・・!」

 

いいぞ!その調子なら話せるぞ!

頑張れ!

 

「!」

 

行けると思ったのだが、簪は何故か顔を背けてさっさと店を出ていってしまった。

 

おい、完璧に俺らの苦労が報われてねぇじゃねぇか。

 

で、当の楯無はと言えば、今にも泣きそうな表情で床に膝をつけていた。

 

なんか・・・、凄く不憫だな・・・。

 

「うぅ・・・、簪ちゃん・・・。」

 

可哀想に・・・。

 

sideout

 

side秋良

 

コーヒーショップを後にした俺達は、

雑貨屋に立ち寄り、誕生日プレゼントの品定めを行っていた。

 

流石にさっきの簪の行動は咎めておきたくなった、

いくら仲が冷えきっているとは言えど、無視は良くない。

 

「ねぇ簪、なんで話してあげなかったの?」

 

俺が少し強めの語調で言ってみると、

簪は何故か顔を紅くしていた。

 

・・・、まさかな・・・。

 

「まさか、恥ずかしかったのかい・・・?」

 

「・・・。」

 

簪は小さく、そして可愛らしく首肯した、あらら・・・。

 

「だって・・・、何を話せばいいか分からなかったし・・・。」

 

「いや、流石にあれは楯無殿が可哀想だぞ、後で会いに行ってやれ。」

 

簪がモジモジしているのをラウラがツッコんでいた。

 

ラウラって、この三人の中では長女ポジションだよね。

鈴は末っ子で。

 

まぁ、それは置いといて・・・。

 

「ラウラのいう通りだよ?後で会いに行ってあげなよ。」

 

「うん・・・。」

 

「分かってくれて嬉しいよ、そんな簪が好きだよ。」

 

分かってくれた簪の頭を撫でてあげ、

ラウラと鈴の頭も撫でておく。

 

そうじゃないと後で煩いからね。

 

さてと、今からあの時間を取り戻しますかね。

 

sideout

 

 




はいどーもです!

照れ屋かんちゃんでました。

ちょっと楯無が不憫でしたね・・・。

さてと次回予告
キャノンボールファストを目前に控え、
一夏達は各々の機体の調整に勤しむ。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
弾丸よりも速く

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

弾丸よりも速く

side一夏

 

週明けより、俺達は次の日曜日に開催されるキャノンボールファストの為の練習に入る事になった。

 

昨日、結局進展はなかったらしく、

秋良達はかなりの時間を無駄にしたらしい。

 

だから言ったろうが、さっさと逃げろと。

 

言ってなかったか?まあどうでも良いがな。

 

「それではまず模範飛行をしてもらいたいと思います!

一夏君とオルコットさん、お願いします!」

 

いきなり御指名か・・・、

まぁ、そりゃそうか、俺とセシリアがパッケージをインストールし終えているしな。

 

「了解。」

 

「わかりましたわ。」

 

山田先生に促され、俺とセシリアはスタートラインに立ち、

それぞれの機体を展開する。

 

セシリアのブルー・ティアーズは高機動強襲用パッケージ、ストライクガンナーを装備し、

俺のストライクEはスペキュラムストライカーを装備している。

 

I.W.S.P.かエールストライカーでも良いんだが、今回は試しだ。

 

勿論、ガンダムフェイスは展開済みだ、じゃねぇと気持ち悪くなるしな。

 

「一夏様、お手柔らかにお願いしますわ。」

 

「こちらこそ、よろしく頼むぜ。」

 

セシリアと軽く言葉を交わし、俺達はスタート体制を整える。

 

「レースファイト!レディー・・・、ゴー!!」

 

チェッカーフラッグが振られ、俺達は一気に加速する。

 

周りの風景が一瞬にして後方へと過ぎ去っていく、

まるで常時、瞬間加速<イグニッション・ブースト>を発動させている気分だ。

 

良いねぇ、ここまでの速さなら、俺は満足だ。

 

「流石ですわ一夏様、初めてのレース仕様でここまで使いこなせているんですもの。」

 

「セシリアこそやるな、かなり本気で飛ばしてるんだがな。」

 

面白い、なら、少し遊んでやるか。

 

少し速度を速め、

ビームライフルショーティーを二丁ともホルスターより抜き放つ。

 

「セシリア!」

 

ショーティーを手放し、それはそのまま真後ろにいたセシリアの方へと向かっていく。

 

「!」

 

俺の意図に気付いたのか、セシリアは避けることなくショーティーを保持し、

サークルロンドを使いながらも俺にビームを撃ちかけてくる。

 

使用許可は出しているから問題なく使えるだろう。

 

「はっ!」

 

「ふっ。」

 

俺は撃ちかけられるビームをサークルロンドで避け続ける。

 

いい射撃だ、正確にスラスターを狙ってきやがる。

だが、それで良い。

 

そろそろゴールが見えてくるという所で、

俺は振り向きつつ両手の掌からワイヤーアンカーを射出、

セシリアの腕に絡み付かせる。

 

「っ!?」

 

「こっちに来いよ、マイレディ?」

 

腕を引きつつワイヤーアンカーを回収し、

セシリアを俺の方へと引き寄せる。

 

俺の手前までセシリアが引き寄せられ、

そのまま左腕を彼女の膝の下に、右腕を肩に回す。

所謂、お姫様抱っこというところだな。

 

「恋人サービスだ、良いだろう?」

 

「ふふっ、いけずですわね♪」

 

嬉しそうに微笑むセシリアを抱えたまま、

一気にゴールし、その場で着地した。

 

俺達はまったく同時に機体を解除し、

俺はセシリアを地面に降ろした。

 

「ざっとこんな感じですか?」

 

「はっ、はい!ありがとうございました、それじゃあ各自練習に入ってください。」

 

凄く照れてる山田先生の合図と共に、

一組、二組連合はそれぞれの散っていった。

 

sideout

 

side秋良

 

兄さんめ、まさかレース中にお姫様抱っこするとは・・・、

どんだけキザなんだよ。

 

俺にはどう頑張っても出来そうに無いね。

だって恥ずかしいし。

 

さてと、俺も一周して来るかな?

 

でもなぁ、相手いないとつまらないしね・・・。

どうしよう?

 

「秋良、俺で良ければ相手になるぜ?」

 

「ありがとう雅人、それじゃあ行こうか。」

 

俺と雅人はスタートラインに立ち、

まったく同時に機体を展開し、そのまま飛び出した。

 

うげ・・・、案外速い・・・、それと気持ち悪・・・。

 

「ヤバイなこれ・・・、下手すれば吐きそうだ。」

 

「確かにね・・・、よくあんなアドリブ利かせられたと思うよ・・・。」

 

あの人は本当に人間なのかな?

俺達が言えた義理じゃないけど、たまにそう思う。

 

『おい、秋良、雅人、なんでお前らヘッドバイザー下ろしてねぇんだ?下手すりゃ吐くぞ。』

 

「「・・・。」」

 

俺達の初歩的なミスなのね!!この気持ち悪さ!!

 

なんで教えてくれなかったんだよ、あの人は!!

 

『授業聴いとけ、ど阿呆が。』

 

クソッ!凄いムカつく!

なんだよこの謎の敗北感は!?

 

そんな事を思いつつ、やっぱり吐きたくないからガンダムフェイスを展開する。

案の定、凄く楽になったよ。

 

「秋良・・・、やっぱり一夏は冷たいな・・・。」

 

「冷たいというより、キツいって言った方が良いよ。」

 

なんかもう勝てる気しないから何も言わないけどね・・・。

 

謎の敗北感を味わいつつ、

俺達はほぼ同時にゴールインした。

 

「さてと、案外簡単だったね。」

 

「そうだな、もうちょいスピードをあげても良かったな。」

 

ゴールした後、俺達は邪魔にならない所でエネルギー配分と、

速力調整に精を出す。

 

ウィングソーを姿勢制御に使うのも悪くは無さそうだね。

でもそうなるとずっと手に持っとかないといけないしなぁ・・・。

 

まぁ、二者択一なのは分かってるし、なんとかしてみようかな?

 

sideout

 

side一夏

 

秋良と雅人のアホさ加減にため息を吐きつつ、

俺はノワールストライカーを装備したストライクEを展開し、

スタートラインの方へと移動した。

 

感触を掴む為というのもあるし、

何より、複合兵装型のストライカーパックでもそれなりの速度が出せるかという疑問もあるしな。

 

I.W.S.P.は流石に本番では使わないが、

可能性としてノワールストライカーは使えそうだしな。

 

「あ、一夏!良かったら僕と飛ぼうよ!」

 

スタートラインに立った時、シャルが俺の方にやって来た。

 

別に必要ではないが、相手がいるのは有り難い。

 

「そうだな、セシリアだけというのも不公平だしな、相手になってくれ。」

 

「ふふっ、ありがとう♪」

何時ものように満面の笑みを浮かべて、

シャルは自分の機体を展開していた。

 

シャルのリヴァイヴは大気圏離脱用のブースターを装備していた。

爆発的な加速力は得られそうだが、カーブに弱そうだな。

 

ま、そこが落とし処なんだがな。

 

「あれ?ノワールストライカーで飛ぶの?高機動型の方が良くない?」

 

「ちょっとした策が有るんだよ、楽しみにしてな。」

 

「ふふっ、そんなに簡単には引っ掛からないからね♪」

 

「それじゃあ、行くぞ。」

 

「うん!!」

 

軽い言葉を交わし、俺達はスタートラインに立ち、

スラスターを吹かして一気にスタートした。

 

ふむ、スペキュラムよりは劣るが、それでも悪くない加速力だな、

いや、小回りの効き具合を考えたらこっちの方が良いかもな。

 

それに、ノワールストライカーはリニアガンがあるし、

後方への攻撃も容易い。

 

「流石だね一夏!二度目なのにここまで速いなんて!」

 

「ふっ、当然だ、お前達の前で無様を晒すかよ。」

 

驚愕の声と共に、シャルはマシンガンを乱射してくるが、

少し距離が開いているため、俺に直撃する事は無い。

 

しかし、このままやられっぱなしも気分が悪い、

牽制ぐらいはさせてもらおう。

 

フレキシブルバインダーを動かし、リニアガンの砲口を真後ろに向ける。

 

「前方注意だぞ、シャル。」

 

音速を軽く越えて、リニアガンの弾丸はシャルに迫る。

ただでさえ、音速を越えた速度で飛んでいる上、こちらを追いかけている、

そこに音速越えの弾丸が迫って来るとなれば、回避する事は至難の業だろう。

 

「わわっ!?後ろにも撃てたの!?」

 

「何っ!?」

 

マジかよ、サークルロンドとバレルロールを同時に行っただと!?

 

あんな直線加速しか取り柄がない機体でやってのけるとはな、

流石の腕前だな。

 

「これならどうだ!?」

 

回避した先にフラガラッハ3ビームブレイドを放り投げ、

衝突事故を起こさせようとした。

 

流石にこれは避けられんだろう。

 

案の定と言ったところか、

投擲したビームブレイドの切っ先がブースター部に直撃し、

盛大に爆発、コースアウトしようとした。。

 

このままでは何処かの壁に激突してしまうだろうが、

俺はそんな事はさせない。

 

直ぐ様ワイヤーアンカーを射出、

腹部に絡み付かせ、一気に引き寄せる。

 

セシリアとまったく同じと言うのもあまり面白くないので、

シャルはそのままおぶる事にした。

 

「えへへ♪負けちゃったよ。」

 

「だが、やはりいい腕をしてたな、掴まってろよ。」

 

シャルをしっかり掴まらせて、

俺は何の問題もなくゴールインした。

 

sideout

 

side雅人

 

いやいや・・・、あれは無いだろう・・・。

まさかビームブレイドを投擲してブースター部を破壊するなんてよ・・・。

 

俺にも似たような事は出来るが、

それはドラグーンを使っての攻撃に他ならない。

 

対して、一夏はコントロールの効かないビームブレイドを直撃させた、

恐らく、奴は最初からあの瞬間を狙っていた気がしてならない。

 

だが、なんで自分の女にはあんなに気前がいいんだよ、

セシリアはお姫様抱っこ、シャルロットはおんぶって・・・。

 

まぁ、今は人の技術に驚くより先に、

自分の事を考えろってね。

 

大体のコツは分かったし、後は誰かの飛行の癖を学べば勝てるんだがな・・・。

 

そんな事を考えていると、

何処からともなく箒がやって来た。

 

「雅人、手が空いてるなら相手になってくれないか?」

 

「おぉ!良いぞ、こっちから頼みたいぐらいだったんだ、よろしく頼むよ。」

 

「うむ!それでは行くとするか!」

 

俺はドレッドノートを展開し、紅椿を展開していた箒の隣に並ぶ。

 

「「レディー・・・、ゴー!!」」

 

掛け声と共に、俺達は一気にスタートした。

 

相変わらず凄い加速だが、もう慣れつつあるな。

 

さてと、今はイータ形態で飛んでるんだが、

攻撃手段が殆ど無い事が悩みだ。

 

ビームライフルを呼び出しても良いんだが、

当てられる自信が無いし、エネルギーも喰うし・・・。

 

プリスティスにしたって、射程範囲が短いし、

断線されたらドラグーンと同じ様に遠隔操作しなきゃならんし・・・。

 

アレ?ドレッドノートって、レース系にメチャクチャ不利じゃないか?

 

ストライクノワールみたいに後ろに攻撃出来ないし・・・、

って、ゲイルストライクの方が酷いか・・・、遠距離武装無い訳だしな。

 

まあ良い、それは今飛んでる紅椿も同じことだ、

俺だけが不利な訳じゃない。

 

「そこっ!」

 

「何っ!?うおっ!?」

 

失念していた!

紅椿の刀は確かレーザーをばら撒けるんだよな!

 

クソッ!少し被弾しちまった!

 

「ちっ!パクりみたいで嫌だが、やるしかないか!」

 

プリスティスを後方に射出し、多角的攻撃を仕掛ける。

 

「なっ!?うわぁっ!?」

 

まさか俺が振り向かずに攻撃してくるとは思わなかったのか、

箒の紅椿は数発被弾してコースアウトしていった。

 

案外使えるな、この戦法・・・。

まぁ、やるだけやってみるかね。

 

っと、その前に箒を回収してやらねばな。

 

sideout

 

noside

 

「やぁやぁ!亡國企業の諸君!お初~!」

 

「えぇ、こうやって直接会うのは初めてね、篠ノ之 束。」

 

とある広間にて、亡國企業所属のスコール・ミューゼルと、

世界を騒がせている天災、篠ノ之 束が向かい合っていた。

 

先日取り付けた会合の約束が、漸く果たされる事となったのだ。

 

「まさか悪名名高い貴女と直接会えるとは思ってなかったわ。」

 

「それはこっちも同じだよ~、同じ相手に復讐したいって思う人間がいるなんて思ってもみなかったしね。」

 

和やかに笑いあうが、二人の雰囲気は何処か通ずるものがあった。

 

それは恐らく、自分達に仇をなした宿敵、織斑一夏への復讐という点であろう。

 

「利害関係は一致、復讐対象も一致した、という事で良いかしら?」

 

「だね~、これは同盟ってやつかな?私はやっても良いよ~!」

 

「そうね、同盟締結といきましょうか。」

 

どちらからともなく差し出した右手を握り、

ここに同盟関係が結ばれたのだ。

 

「早速だけど、あのちーちゃんに似た子を差し向けて欲しいんだ、

勿論、彼から奪ったデータで造った無人機も差し向けるしさ~!」

 

「えぇ、構わないわ、何と戦うにしても、データは重要だもの。」

 

束が差し出したデータに目を通し、

スコールは部下にマドカの出撃命令を出す。

 

彼女が目を通したデータとは、

文化祭の際に一夏達を襲ったストライクダガーの物だった・・・。

 

sideout




はいどーもです!

陰謀が蠢いてますねぇ・・・。

さて次回予告
ついに開催されるキャノンボールファスト、
だが、レースを妨害するかの様にサイレント・ゼフィルスとストライクダガーの軍勢が迫る。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
進化する者達 前編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

進化する者達 前編

noside

 

時は流れて、9月27日。

キャノンボールファストの開催日となった。

 

今回はIS学園内のアリーナではなく、

市内にあるIS専用のスタジアムで行う事になった。

 

IS競技以外にも多くの行事に使われており、

一度に二万人以上を収用出来るらしい。

 

一度新人アイドルがコンサートを開いたが、

結局満員にすることは出来ず、それ以来一度たりともコンサートの類いでは使用されていない。

 

因みに、『よっぽど人気無かったんだな、そのアイドル。』

と、一夏は辛口な発言を残している。

 

そんな事はどうでも良いとして・・・。

 

そのスタジアムが、今回のキャノンボールファストでは満員御礼になったのだ。

 

「おーおー、満員御礼だな、俺達はアイドルより人気があるのか。」

 

その様子を控え室から見ていた一夏は、ちょっとした優越感に浸っていた。

 

普段の彼なら少々鬱陶しそうな表情をするだろうが、

今日の彼は妙に機嫌が良さげだった。

 

まるで、今日という日に、何か良いことが起こる事を知っているかの様でもあった。

 

「さてと、今日は新しい物語の始まりとなるか、それとも・・・。」

 

そんな独白を残し、彼は更衣室から去って行った。

 

sideout

 

side雅人

 

さてと、キャノンボールファストの当日になった訳だが・・・、

凄い人だかりだな・・・、二万人は居るだろうな。

 

それほど注目されているとは思うが、

一大イベントとは言えども流石に多過ぎるだろう・・・。

 

こんな所を襲撃でもされたら確実に大惨事だろうな。

 

っと、今のは洒落にならんな。

 

「雅人、何をしている?そろそろ時間だぞ。」

 

「箒か、すまない、今行こう。」

 

箒に促され、俺はピットの中へと引っ込んだ。

流石に出番がまだの奴が居ても邪魔なだけだしな。

 

「にしてもよぉ、なんで一年が最後なんだよ、暇すぎて死んじまうぜ・・・。」

 

「私に言うな、一夏か教員に言ってくれ、

まぁ、期待されていると思っておけばよいではないか?」

 

「まぁ、その通りなんだがな。」

 

こんなところで愚痴っても順番が変わる筈も無いしな。

 

そんな事はどうでも良いとして・・・。

 

「なんにせよ、頑張るとしますかね。」

 

「うむ。」

 

sideout

 

side一夏

 

俺達がピットで待機し始めてから一時間後、

漸く二年のフライトが終わり、俺達の出番がやって来た。

 

「暇だったな、後二分遅ければ寝てたな。」

 

「兄さん、生徒会長がそんな事を言わないでよ。」

 

「民意だ。」

 

何の民意だよ!とつっこんでくる秋良を無視し、

俺は開きつつあるシャッターを睨む。

 

さて、行くとするか。

 

『さぁ、皆様お待ちかね!!世界初の男性IS操縦者!織斑一夏生徒会長率いる一年生の専用機持ち組が入場してきました!!』

 

黛薫子のアナウンスと共に、俺達はスタートラインまでゆっくりと機体を持っていく。

 

おーおー、凄い歓声だな、自分がスターか何かと勘違いしちまいそうだ。

 

「さて、いい試合にしようじゃないか。」

 

「勿論ですわ、一夏様。」

 

「本番は僕達が勝つよ!」

 

俺の掛け声に答えるように、セシリアとシャルは闘志を伺わせる様に言い、

簪達も静かに闘志を燃やしていた。

 

上等だ、何処までやれるかは知らんが、楽しませてもらおう。

 

『さぁ!それではカウントダウンを開始します!

5・・・、4・・・、3・・・、2・・・、1・・・、0!!』

 

カウントが0になった瞬間、俺達は一斉にスタートした。

 

sideout

 

noside

 

最初に先頭に立ったのは、

漆黒の機体、織斑一夏駆るストライクノワールだった。

 

出力と妨害力のバランスを考え、

真後ろにも攻撃可能のノワールストライカーを選択したのだ。

 

だが・・・。

 

「そのストライカーで先頭が取れるかよ。」

 

加賀美雅人駆るドレッドノートイータがストライクノワールを追い越して行く。

 

「甘いな。」

 

しかし、一夏は抜かされる事すら予想していたのか、

すかさずワイヤーアンカーを射出、ドレッドノートに絡み付かせ、

そのまま大きく振り回す。

 

「しまっ・・・!?うおっ!?」

 

ストライクノワールにワイヤーアンカーが装備されていた事を忘れていた雅人は、

驚愕の表情を浮かべながらも地面に叩き付けられた。

 

「お先に行かせて頂きますわ。」

 

「ゴメンね~。」

 

「ドンマイ雅人。」

 

そんな彼を尻目に、セシリア、シャルロット、秋良達は次々に一夏を追うべく駆ける。

 

「捉えましたよ!兄貴!」

 

二位集団から少し抜け出したラウラが先頭を走る一夏目掛け、レールガンを撃つ。

 

「この砲撃はラウラか!上等!」

 

一夏はサークルロンドを行い、飛来するレールガンの弾丸を回避しつつ、

反撃とばかりにリニアガンを後方に向けて撃つ。

 

「くっ!」

 

「みにぇっ!?」

 

一つはラウラ目掛けて飛ぶが、

もう一つは運悪くラウラの近くを飛んでいた鈴の甲龍に向かって行く。

 

「鈴っ!」

 

あわや直撃という時に、簪が飛び出し、

夢現を高速回転させてリニアガンを弾くという荒業に出た。

 

「流石だな簪!私も行かせてもらう!」

 

箒の紅椿が飛び出し、秋良目掛けてレーザーを撃ちかける。

 

「俺かよ!なんで先頭を狙わないんだよ!!」

 

「近くにいたお前が悪い。」

 

「ヒデェ!!」

 

文句を辛辣な言葉で返され、

秋良は悲鳴をあげつつも回避行動を怠らない。

 

「一夏様!捉えましたわよ!」

 

「僕が勝つんだからね!」

 

後続の集団がごたついているのに乗じ、

セシリアとシャルロットが一夏に迫り、彼目掛けてレーザーや弾丸を撃ちかける。

 

「くっ!もう追い付かれたのか!流石だな!」

 

驚嘆しつつも、ノワールストライカーよりフラガラッハ3ビームブレイドを抜き放ち、

後方を飛ぶセシリアとシャルロット目掛けて投擲する。

 

「その様な物で!」

 

「僕達は落とされないよ!!」

 

だが、そんな事を物ともせず、彼女達はビームブレイドの柄を掴み、

遠心力をつけて一夏へと投げ返した。

 

「やるな!」

 

一夏は振り向きもせず、後ろ手にビームブレイドを二本とも掴み取った。

 

「だが、レースはまだこれからだ!」

 

愉快と言わんばかりに吼えた一夏に応える様に、

各機はスピードをあげた。

 

大きな順位変動も無く、ファイナルラップに差し掛かろうとした時、

先頭を走っていた一夏目掛けて、上空から青紫のレーザーが撃ちかけられた。

 

sideout

 

side一夏

 

撃ちかけられたレーザーをサークルロンドを用いて回避し、

飛来した方向を睨む。

 

「また来やがったか、そんなに俺に墜とされたいか!マドカ!!」

 

視線の先に、サイレント・ゼフィルスを纏ったマドカと、

ストライクダガーの大軍が展開していた。

 

ざっと50以上はいやがるな。

 

どうやったらこんだけ量産出来るのかが疑問だが、

今気にしてる場合では無さそうだ。

 

半端ねぇ数だが、問題はなかろう。

 

「各機に通達!亡國企業の連中が攻めて来やがった!

一機たりとも客席に向かわせるな!!」

 

『了解!!』

 

俺が通達し終えた直後から、

サイレント・ゼフィルスを含めた敵からビームやレーザーが浴びせかけられる。

 

「ちっ!こいつは少々面倒だな。」

 

臨戦体制に入り、

ビームの隙間を縫って飛び、手近なダガーをビームブレイドで切り裂く。

 

脆い、絶対防御が施されて無いのか、

それならこの量産性にも納得がいくな。

 

かと言って、状況はあまり良く無いがな・・・。

 

sideout

 

noside

 

「サイレント・ゼフィルス!逃しませんわよ!」

 

「今日こそ君には墜ちてもらうよ!」

 

ストライクガンナーを量子格納し、フォルテストラを装備したセシリアのブルー・ティアーズと、

バスターストライカーを装備したシャルロットのリヴァイヴカスタムⅡが、

仇敵に出逢ったと言わんばかりにサイレント・ゼフィルスへと向かっていく。

 

「ちっ!」

 

先日、自分を圧倒した者達に攻められるのが癪なのか、

マドカは忌々しげに舌打ちし、二人から距離をとる。

 

マドカを護る様に、ストライクダガーが間に割り込み、

セシリアとシャルロットの行く手を阻む。

 

「邪魔を・・・!!」

 

「しないでよ!!」

 

邪魔をしてくるダガーを次々に撃ち落としながらも、

二人は中々先に進めない事に苛立ちを隠せない。

 

そんな二人に、マドカは先日の仕返しとばかりにレーザーを浴びせかける。

 

「くっ!集団戦法ですって・・・!?」

 

「本気で僕達を潰す気だね・・・!!」

 

ビームやレーザーは機体を動かす事で回避し、

近付いてくるダガーをビームサーベルで斬り倒すが、

やはり多勢に無勢、二人は徐々に追い詰められていく。

 

一夏は一手に多くのダガーを引き付けているため、

二人の援護に回れない。

 

「チェックメイトだ!!」

 

ダガーもろとも大出力レーザーで焼き払いながらも、

セシリアとシャルロットを狙う。

 

「「しまっ・・・!?」」

 

直撃はしなかったものの、運悪く同じ場所に回避してしまい、

衝突してしまったのだ。

 

そして、彼女達を取り囲んでいたダガーは、

その隙を見逃さなかった。

 

ダガー数機が、右マニピュレータに保持していたビームライフル下部に装備されていたグレネードで、二人を狙い撃つ。

 

体制を崩していた彼女達は回避する事が出来ない。

 

盛大な爆発音と共に、土煙がもうもうと立ち込めた・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

盛大な爆発音が聞こえてきた為、

俺はダガー十機から距離を取り、その方向に目を向ける。

 

サイレント・ゼフィルスがいるということは、

さっき攻撃されたのはセシリアとシャルだな。

 

土煙が立ち込めてるから二人の安否は確認出来ない。

 

だが、俺は知っている。

彼女達が非常に負けず嫌いで、俺に着いてこようとしていることを。

 

だから、この程度の事でくたばるハズがない。

 

「おねんねには早いぜ?マイレディズ?」

 

俺の言葉が届いたのかどうか分からないが、

土煙の中から黒い闇の様な物が溢れだした。

 

「クックックッ・・・、新な扉が開く時だ・・・。」

 

sideout

 

noside

 

「ここは、何処なのでしょうか・・・?」

 

「何処なんだろうね・・・。」

 

何処までも続くような白い空間に、

セシリアとシャルロットは佇んでいた。

 

おかしい、先程まで自分達はサイレント・ゼフィルスとストライクダガー数機を相手にしていた筈だ。

 

なのになぜ、自分達はこんな訳も分からない場所にいるのだろうかと、

二人は同じ事を考えていた。

 

「あー、そう言えば、僕のせいでセシリアを捲き込んじゃったんだよね・・・。」

 

「そんな!シャルさんのせいではありませんわ!私の不注意が原因です!!」

 

相手の非を否定しつつ、自分のせいだと互いに言い張るセシリアとシャルロット。

一夏がいなくとも仲はかなり良い。

 

まぁ、それは置いといて・・・。

 

「ここって、地獄かな?」

 

「だとすれば最悪ですわね。」

 

シャルロットとセシリアは苦い表情をしながらボヤく。

ただ負けた事が悔しいだけではない、一夏に追い付けなかった事が最も悔しいのだ。

 

―セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア・・・―

 

「だ、誰!?」

 

「何処にいますの!?」

 

自分達を呼ぶ声に驚き、辺りを見渡すが見えるのは果てなく続く白、

 

―一夏に選ばれた君達に問いたい―

 

「何を問おうというのですか?」

 

「僕達が質問したいぐらいだけどね。」

 

―貴女達が愛している織斑一夏は、闇へと向かっている、

何処までも果てしなく、何処までも深い闇へと―

 

「「・・・。」」

 

言われるまでもなく、一夏の隣にいる彼女達が良くわかっている。

彼と共にいれば、闇へと誘われる事は身を以て知っている。

 

―本当に着いていくの?光の住人だった貴女達が?―

 

自分達に語りかけてくる声に返答する事無く、

彼女達はただ押し黙っていた。

 

答えられないのではない、言うべき事はもう決まっているのだ。

 

「愚問ですわ、一夏様の隣で歩く事こそ私の至上の悦び、

喩え闇に墜ちる事があろうとも、それは承知の上ですわ。」

 

「一夏の隣こそ、僕の居るべき場所なんだ、

そこが光か闇かなんて関係無い、一夏に尽くす事が僕の幸せなんだ。」

 

決然たる意志を籠め、二人は自分達に語りかけてくる声に答えた。

 

―それが、貴女達の覚悟?―

 

「ええ。」

 

「その通りだよ。」

 

―なら行き着く所まで、彼の隣にいてあげてね―

 

その言葉を最後に、語りかける声は途切れた。

 

突き放した訳でも無く、ただ進めと背を押したのだ。

 

「シャルさん、そろそろ参りましょうか。」

 

「うん、行こっか。」

 

セシリアとシャルロットは互いに微笑み合い、

その瞳に強き意志を宿す。

 

その視線の先に、愛する男がいると知っているから。

 

「「闇よ!!」」

 

叫んだ二人を包み込む様に、

闇のベールが彼女達を覆い、消えていった。

 

sideout

 

noside

 

「何っ!?」

 

セシリアとシャルロットを墜としたと思っていたマドカは、

突如として発せられた闇の様に黒いオーラに弾き飛ばされた。

 

同じ様に、周囲に展開していたダガーも弾かれ、

大きく飛ばされてしまう。

 

「まさか・・・!?このタイミングでセカンドシフトだと!?」

 

有り得ないと言わんばかりに、

マドカは驚きに目を見開いていた。

 

「先程はよくもやってくれましたわね?」

 

「乙女の柔肌に傷がついたらどうしてくれたのかな?」

 

なんとも呑気な、だが、何処か得体の知れない圧力を籠めた声で、

セシリアとシャルロットが姿を現した。

 

だが、彼女達の機体は、先程までとは大きく変わっていた。

 

セシリアのブルー・ティアーズは、

何処と無くストライクに近いフレームを持ち、

堅牢な鎧に覆われながらも、鈍重さを伴わないスタイリッシュなフォルム、

右肩にはストライクの物とも同型のシールドを装備し、その裏側にはリニアガンの様な物が見て取れる。

極めつけは背中に装備された四対の翼の様な装備であった。

 

対してシャルロットのリヴァイヴカスタムⅡは、

ストライクに近いフレームを持ちながらも、

砲撃主を連想させる様な力強いフォルム、

右肩にはガンランチャーが、左肩にはビームライフルが装備され、

腰部サイドスカートには、何やら大型ビームライフルの様な物が見て取れ、

背後には大型ビームサーベルが装備されたバックパックが装備されている。

 

「なんだ・・・!?その姿は・・・!?」

 

マドカは目の前の状況が理解できずに叫ぶ。

セカンドシフトは機体形状の変化は若干あれど、基本的なフォルムはファーストシフト時と変わる事は無い。

 

だが、目の前の二機はその常識を真っ向から否定していた。

 

「分からないのも仕方ありませんわね。」

 

「でも、これから先も知ることは無いよ。」

 

二人はそれぞれ妖艶な笑みを浮かべつつ、

得物をしっかりと保持する。

 

「セシリア・オルコット、ブルデュエルデーストラ、参ります!!」

 

「シャルロット・デュノア、ヴェルデバスターシーストラ、行きます!!」

 

新な愛機の名を叫び、

二人は敵機に向かっていった。

 

sideout

 

 

 




はい!どーもです!!
セシリアとシャルロットの機体がセカンドシフトしました。
基の機体はファントムペインのあの二機ですが、少々仕様変更しました。

因みに、デーストラとシーストラは、それぞれイタリア語で右と左という意味です。

それでは次回予告
セカンドシフトした力を使い、
セシリアとシャルロットは戦う。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
進化する者達 後編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

進化する者達 後編

sideセシリア

 

新しい愛機、ブルデュエルを駆り、

私は空へと飛翔します。

 

イタリア語で青を表すこの機体は、まさしく私の為に進化したとも言えるでしょう。

ここ数ヵ月で行うようになった近接戦闘での取り回しを重視した装備類、

そして、極めつけは新しく追加されたストライカーパックですわね。

これが一夏様が仰った事なのですね。

 

ですが、今日は殆ど使うことはないでしょう。

 

「貴様ァ!!」

 

サイレント・ゼフィルスのパイロットが叫びながらもレーザーを撃ちかけてきますが、

この程度の狙撃など、もう私には届く筈もありませんわ。

 

「そんな物が私に当たる筈もないでしょう?」

 

右肩のシールドでレーザーを防ぎつつ、

その裏側に装備されているスコルピオン機動リニアガンを撃ちます。

 

フォルテストラに装備されていたリニアガンの発展型というだけあり、

連射力、破壊力共に段違いです。

 

「なっ!?」

 

先程までとは比べ物にならない弾速に驚いたのでしょうか、

サイレント・ゼフィルスはライフルを犠牲にして回避しました。

 

「その程度では避けられませんわよ。」

 

左肩のラック内に装備されていたスティレット投擲推進対装甲貫入弾を3つとも引き抜き、

サイレント・ゼフィルス目掛けて投擲します。

 

ロケット推進により速められた速度のまま、

スティレットの尖端はサイレント・ゼフィルスの脚部に突き刺さり、

盛大に爆ぜました。

 

なるほど、あれは敵に突き刺さった後、内部から爆発するという武器なのですね、

PS装甲には効かないとは思いますが、通常のISには脅威でしょう。

 

「グッ!クソォォォッ!!」

 

先程投擲したスティレットの内、一つがスカート部に刺さっていましたので、

ビットの一部が使えなくなったのでしょう。

凄まじい恨みの声と共に、サイレント・ゼフィルスはこちらに背を向けて逃げて行こうとします。

 

困りましたわね、ブルデュエルには中距離以上を狙える装備が殆どありません、

頑張れば追い付けるでしょうが、ダガーがそれを見逃す訳がありません。

 

それに、これ以上戦えば間違いなく余計なデータを与えてしまうでしょうし、

どうしたものでしょか・・・。

 

「セシリア、ここからは僕に任せてよ、ヴェルデバスターの力、見せてあげる。」

 

「分かりましたわ、お願い致しますわね。」

 

盟友の言葉を聞き、私は後ろに下がります。

 

シャルさんの機体がどれ程のものか、見せて頂きましょう。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

サイレント・ゼフィルスが逃げようとしてるけど、

それを逃がすほど僕は甘くは無い。

 

セシリアが推進基の大半を破壊してくれたから、

サイレント・ゼフィルスはノロノロと飛行する事しか出来ない。

 

まずはダガーから破壊しちゃおう、

じゃないと面倒だからね。

 

「行くよ!ヴェルデバスター!!」

 

周りに展開していたダガー数機に照準を合わせ、

両肩に装備されている六連装ミサイルを展開して、

腰に装備している複合バヨネット装備ビームライフルをマニピュレータでしっかりと保持して、

一斉に発射する。

 

その破壊力はまさに圧巻の一言に尽きて、

一瞬にして、十機近い数のダガーを消し去った。

 

やっぱり僕はこういう派手な戦い方が好きだなぁ、

チマチマ倒すより気持ち良いしね。

 

推進力についてはまた今度試そう、

ストライカーパックも新規に追加された事だしね。

 

でも、他の武装は今日は使わないよ、

そんな自分の手の内を直ぐに晒す筈がないしね。

 

「さぁ、逃がさないよ、ここで存在を消しても別に何の意味も無いからね、

君の機体も、君の命も!!」

 

複合バヨネット装備ビームライフルを連結させて、

逃げるサイレント・ゼフィルスに向ける。

 

このビームライフルは横並びに連結させる事で、

より強力な砲撃を行う事が出来る。

 

さぁ、神様にお祈りはした?

いるかどうかなんて、僕は知らないけどね!!

 

トリガーを引くと、極太ビームの光条がサイレント・ゼフィルスへと突き進む。

 

だけど、その間に一機のストライクダガーが割り込み、

シールドを掲げてビームの光条を防ごうとするけど、

あまりにも威力が強すぎたのかシールドは溶断されて、

ダガーはビームの奔流に呑まれて消滅した。

 

だけど、その間にサイレント・ゼフィルスは射程範囲内から遠ざかっていた。

 

「逃げられちゃったか・・・、次こそは必ず墜ちて貰うよ。」

 

まぁ良いや、機体の感覚は掴めたしね。

 

ビームライフルを格納した時、

ブルデュエルデーストラだっけ?を纏ったセシリアが僕の方にやって来た。

 

「逃げられてしまいましたわね、それにしてもヴェルデバスターシーストラでしたか?

とても素晴らしい性能ですわね。」

 

「セシリアのブルデュエルもスゴかったね、

あのクナイみたいなのえげつなかったよ?」

 

「ふふっ、お互い様ですわ♪」

 

「セシリア、シャル。」

 

そんな風に笑いあっていると、

機体の全身をオイルで濡らした一夏が僕達の所にやって来た。

 

多分、ダガーを切り裂いた時の返り血ならぬ、返りオイルだろうね。

 

「遂に俺の領域に辿り着いたみたいだな、

お前達の機体は、この俺の機体との連携を前提に進化したんだろう。」

 

「一夏様のストライクEとの連携を前提に、ですか?」

 

「確かに、ストライクEは万能型、ブルデュエルは近接戦闘型、

そして、ヴェルデバスターは遠距離型だね?」

 

なるほど、僕達の覚悟を汲み取ってくれたんだ、

だからこうも特性は偏るけど、補いあえる様になってるんだね。

 

「あぁ、ここまでウマイこと行けるとは想像してなかったが、

お前達の強い気持ちのおかげだろう、ありがとな、二人とも。」

 

そう言って、彼は何時もの様に僕達の頬にそっと手を触れてくれる。

この感触が、僕達に彼の優しさと安らぎを与えてくれるんだ。

 

彼の愛に応える為に、僕達は戦おう。

ただそれだけだよね。

 

sideout

 

side一夏

 

「せーのーでっ!!」

 

『一夏!!秋良!!雅人!!お誕生日おめでとう~!!』

 

全員が一斉に俺達への祝いの言葉をかけてくれた後、

盛大にクラッカーが破裂する音がする。

 

「ありがとな、皆・・・、って少し狭いな。」

 

キャノンボールファストが終わった後、

俺達は即行で俺の自宅に行き、僅か一時間で用意を終わらせた。

 

因みに、この狭いリビングに俺、秋良、雅人、箒、セシリア、シャル、鈴、簪、ラウラ、

そして弾や数馬、蘭に楯無や虚さん、ついでに何故か黛薫子までいる。

 

狭い場所はあまり好きでは無いから、早く外に出たい。

 

「しょうがないさ、これだけ大人数が一ヶ所に集中してるんだしね。」

 

「そうそう、祝って貰えるだけありがたいと思えって。」

 

それは分かってるんだがな、

まぁ、そんな気分は隣にいるセシリアとシャルが紛らわしてくれるしな。

 

「一夏様、紅茶ですわ♪」

 

「ケーキもあるよ♪」

 

「ありがとな二人とも、美味しく頂こう。」

 

二人からそれぞれ手渡された紅茶とケーキを受け取り、

俺は二人を自分の身体の方へと抱き寄せた。

 

「きゃっ♪」

 

「エヘヘ♪」

 

嬉しそうな顔をしてくれるな、

こちらとしても遣り甲斐があるというものだ。

 

何の気無しに秋良と雅人の方に目をやってみると、

秋良は簪達と、雅人は楯無とそれぞれ会話を交えながら食事をしていた。

 

箒はと言うと・・・。

 

「ハァハァ!!良いぞ!五反田!御手洗!!もっとポーズを取ってくれ!!」

 

腐女子精神丸出しで、弾と数馬の姿を懸命にスケッチしていた。

なんか久し振りに見た気がするが、残姉さんよりマシだから見て見ぬ振りをしておこう。

 

弾と数馬の顔がひきつっているが、

俺に実害が無いので取り敢えずご愁傷さまとだけ思っておく。

 

まったく騒がしい限りだが、悪い気はしないな。

だが、そろそろ三人だけで話もしたいし、席を外すとするか。

 

「(セシリア、シャル、ここは騒がしいから縁側に出るぞ。)」

 

「(はい♪)」

 

「(うん♪)」

 

小声で二人に耳打ちし、彼女達を連れて縁側に出る

 

人混みで上気した頬に、

秋の夜風が妙に心地良かった。

 

腰をおろし、話を切り出す事にした。

 

「セシリア、シャル、この時計ありがとな。」

 

「いえ、お気に召した様で何よりですわ♪」

 

「一夏が喜んでくれたら嬉しいよ♪」

 

俺が左手に嵌めた腕時計を見せると、

二人は嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「お前達のその待機形態、腕輪になった様だな、似合ってるな。」

 

セシリアの右手首と、シャルの左手首にはそれぞれ銀色に光るブレスレットが着けられていた。

デザイン的には何処と無く拘束器具の様にも見えなくも無い。

 

それを言えば、俺のヤツも完璧に首輪にしか見えんがな。

 

まぁそれはいい、他に話しておきたいこともあるしな。

 

「データを見せて貰ったが、やはりストライカーシステムに対応しているみたいだな、

ここまで巧く事が運ぶとは思っていなかったが、利用しない手はないな。」

 

キャノンボールファストの会場から移動する最中、

俺は二人に確認を取ってブルデュエルデーストラ及び、

ヴェルデバスターシーストラの機体データを確認させてもらった。

 

ストライカーシステムは必要最低限に考慮していたが、

まさかブルデュエルにヴェルデバスターというガンダムタイプに進化するとは思わなかった。

 

俺達転生者以外のガンダムタイプが現れるとは、

俺達がこの世界に深く干渉しすぎたとも言えるだろう。

 

だが、それが具現化した以上、それが正しい道といえるだろう。

 

「まさかガンダムタイプに進化するとは思いませんでしたわ。」

 

「うんうん、一夏や秋良の機体と同等なんでしょ?僕達に扱いきれるかな?」

 

「大丈夫だ、お前達の技量なら十全に扱いきれるさ、

俺の傍に居てくれるお前達ならな。」

 

不安そうな二人の手を取り、俺は彼女達に微笑みかける。

 

「これからもお前達二人を頼りにしている、

俺の傍で力を存分に奮ってくれ。」

 

「勿論ですわ一夏様。」

 

「貴方の戦場が、僕達の戦場だよ。」

 

俺の言葉に笑って頷いてくれる二人は、

何よりも美しく、何よりも気高く見える。

 

「ありがとな、セシリア、シャル。」

 

俺は二人を抱き寄せ、この一時を楽しむ事にした。

 

sideout

 

noside

 

「クソッ!クソッ!クソォッ!!」

 

とある場所にあるホテルの一室にて、

織斑千冬によく似た少女、マドカが、何度も何度も壁を殴りつけていた。

 

「何故だ!?何故だ!?何故だ何故だ何故だ何故だ!!?何故勝てない!!?」

 

彼女は今回の襲撃に際して、織斑一夏どころか、

彼の周りにいるセシリアとシャルロットに敗北を喫するという醜態を晒したのだ。

 

認めたくなかった、彼女は戦う為だけに生まれた存在、

敗北することはあってはならない。

 

「織斑一夏・・・!!お前は私が殺してやる・・・!!」

 

呪詛にも等しい声が、狭い室内に木霊するのであった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「有り得ない!こんな事がある筈がない!!」

 

同じ場所の別室では、今回の襲撃事件の黒幕である篠ノ之 束が、

ある映像を見て叫んでいた。

 

その映像とは、セシリアとシャルロットの機体がセカンドシフトする様子であった、

しかし、それはどう見ても別機体と言うべき変化であり、

通常なら有り得る筈がない。

 

そんな事は束も十分承知している、

それ故に理解出来ないのだ。

 

ISは自分が造った物、知らない事は一切ないと思っていた彼女に突き付けられた現実、

彼女は心の何処かでそれを認めたくなかったのだろう。

 

しかし、彼女がそんな事に気付く事は無い。

 

「・・・、いいさいいさ、予想外のデータは取れたんだ・・・、

目にもの見せてあげるよ・・・!」

 

仄暗い笑い声が室内に木霊し、

これから起こりうる波乱を予感させた。

 

sideout




はいどーもです!

色々大変な事になりつつありますねぇ。

次回は新しく登場した二機の説明をしたいと思います。

次回予告
キャノンボールファストの事後処理を終えた一夏達の下に、
専用機持ちのリーグ戦の知らせが届く。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
チーム総当たり戦

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

機体説明 その4

ブルデュエルデーストラ

 

セシリアのブルー・ティアーズがセカンドシフトした姿。

これまでの戦闘データを基に、近接戦闘を重視した機体へと変貌した。

 

背部にストライカーパック接続プラグが出現したため、

大型スラスターが撤廃されているが、脹ら脛部、腰背部に小型スラスターが装備されたため、

機動力の低下を最小限に抑えている。

 

専用ストライカーとして、多目的ドラグーン装備型ストライカー、ルーヴィアストライカーが出現している。

 

一夏のストライクE、シャルロットのヴェルデバスターシーストラとの連携を前提に進化した為、

この三機の連携は戦術的にも非常に有効である。

 

近接戦闘重視の機体ではあるが、

ストライカーパック換装により、どの様な戦況でも対処できる柔軟な機体でもある。

 

本機にもリミッターが設けられており、

解除した際にはモビルスーツと同等の性能を発揮し、

装甲もヴァリアブルフェイズシフト装甲に戻る。

 

なお、本機はストライカーパックでの変色は起こらないが、

パイロットの好みで装甲色を変える事が出来る。

 

ブルはイタリア語で青、デーストラはイタリア語で右という意味を持つ。

 

待機形態は右手首に着けられている蒼のクリスタルが嵌め込まれた銀色のブレスレット。

 

主装備

 

スティレット投擲推進式対装甲貫入弾

左肩部ラック内に三発、サイドスカート裏にそれぞれ三発ずつの、

計九発装備されている投擲兵器。

 

ロケット推進で加速し、敵の装甲に突き刺さり内部で起爆する。

PS装甲には効き目が薄いが、通常ISの装甲には絶大な威力を誇る。

 

セシリアは一度に三発とも引き抜いて投擲する。

 

スコルピオン機動レールガン

フォルテストラに装備されていたリニアガンの発展型、

破壊力、連射力共に格段に上がっている。

スコルピオン(スコーピオン)の名のとおり、その威力は一撃必殺を誇る。

 

リトラクタブルビームガン

腕部アーマーと一体化したビームハンドガン、

ストライクEに装備されているショーティーと同じく、

近接戦闘での取り回しを重視し、連射力が高められている。

 

ビームサーベル

脚部アーマーに一本ずつ装備されている。

エールストライカーに装備されている物よりも出力が高い。

 

サブウェポン

 

グレネードランチャー装備型ビームライフル

デュエル専用ビームライフル、

威力は折上付きだが、近接戦闘での取り回しには難がある。

 

スターライトMk-Ⅲ

ブルー・ティアーズに装備されていたレーザーライフル、

スナイパーライフルとしての用途以外では殆ど使用されなくなった。

 

ストライカーパック

 

バズーカストライカーを使用した経験を基にストライカーパック接続プラグが出現し、

ストライカーパック対応機となった。

一部機体動作に支障をきたす恐れのあるストライカーはあるものの、

ストライクEとの互換性が高められている。

 

ルーヴィアストライカー

ブルー・ティアーズ最大の特徴であったビットが、ストライカー化し、

八基の多目的ドラグーンへと進化した装備。

このドラグーンは推進基としても作用し、本機の機動力向上に一役買っている。

 

また、ゲイボルグを背負う形で装備する事が出来る。

 

イメージとしては、Hi-νガンダムのフィンファンネルの配置と同じ。

 

ルーヴィアとは、スペイン語で雨を意味する。

 

主装備

ルーヴィアドラグーン

ブルー・ティアーズのビットがドラグーン化した装備。

ドラグーンと銘打っているものの、フィンファンネルに近い形状をしている。

 

ノーマルショット、フレキシブルショットは勿論の事、

大出力で発射するバーストショットの他、

複数基を用いてのビームバリアーを形成したり、

ビームスパイクの様に使用する事も出来る。

 

その他、ブルデュエルデーストラと相性の良いストライカー。

エールストライカー

スペキュラムストライカー

I.W.S.P.

ノワールストライカー

ドラグーンストライカー

ガンバレルストライカー

 

 

ヴェルデバスターシーストラ

 

シャルロットのリヴァイヴカスタムⅡがセカンドシフトした姿。

これまでの戦闘経験を基に、遠距離砲撃型の機体へと変貌した。

 

背部にストライカーパック接続プラグが出現したため、

バッテリーパックが撤廃されているが、追加された専用ストライカーパック、トルネドストライカーに、大容量バッテリーが装備されている。

 

専用ストライカーとして、複合兵装型ストライカーパック、トルネドストライカーが出現している。

 

一夏のストライクEとセシリアのブルデュエルデーストラとの連携を前提に進化した為、

この三機の連携は戦術的にも非常に有効である。

 

遠距離砲撃重視の機体になってはいるが、ストライカーパック対応機体へと進化した為、

オールラウンドでその性能を十全に発揮する。

 

本機にもリミッターが設けられており、

解除した際にはモビルスーツと同等の性能を発揮し、

装甲もヴァリアブルフェイズシフト装甲へと戻る。

 

本機も装備するストライカーパックに対応して装甲色の変化はないが、

パイロットの好みで装甲色を変える事が出来る。

 

ヴェルデはイタリア語で緑、シーストラはイタリア語で左という意味を持つ。

 

待機形態は左手首に着けられる金色のクリスタルが嵌め込まれた銀色のブレスレット。

 

主武装

六連装多目的ミサイルポッド

バスターに装備されていた物を引き継いだ兵装。

牽制や拠点攻撃の際に高い効果を産み出す。

 

ガンランチャー

バスターの主兵装を右肩部に装備した物、

構造上、ビームライフルとの連結機構はオミットされている。

 

ビームライフル

バスターの主兵装を左肩部に装備した物、

構造上、ガンランチャーとの連結機構はオミットされている。

 

複合バヨネット装備ビームライフル

新たに追加された大出力ビームライフル。

連射力、破壊力共に一級品である。

横並びに連結させる事で破壊力を飛躍的に高める事が出来る。

 

銃口下部にアーマーシュナイダーと同種のバヨネット振動剣を装備している。

これはあくまで緊急回避用の装備ではあるが、PS装甲以外の装甲ならば突貫可能である。

 

 

サブウェポン

 

グランドスラム

長さ三メートルを越える長大な実体剣、

取り回しには難があるが、威力は一撃必殺を誇る。

 

ストライカーパック非装備時、格闘兵装を持たない本機にとっては貴重な戦力となる。

 

シールドピアース

シャルロットがリヴァイヴ時代から使用していたパイルバンカー。

敵に接近された際のカウンターに使用する事がある。

 

ストライカーパック

バスターストライカーを使用した経験を基にストライカーパック対応プラグが出現した為、

本機もストライカーパック対応機体となった。

一部機体動作に支障をきたすストライカーがあるが、基本的には全てのストライカーパックを装備することが出来る。

 

トルネドストライカー

オールラウンダーであるシャルロットの特性に合わせ、

遠近全ての領域での戦闘を考慮したストライカーパック。

遠距離兵装主体のヴェルデバスターの推力を補うために、

随所にスラスターが装備され、機動力向上に一役買っている。

 

また、内部に大容量バッテリーパックが搭載され、

味方機へのエネルギー補給も可能である。

 

イメージとしてはZZのバックパックを一回り小さくした物。

 

トルネドとは、フランス語で竜巻の意味。

 

主武装

 

十二連装ミサイルポッド

スラスター上部に設置されたミサイルポッド。

左右計二十四連装にもなり、非常に高い火力を誇る。

 

ビームキャノン/ハイパービームサーベル

新たに搭載された高出力ビームサーベル。

通常のビームサーベルの1.5倍の出力を誇っている。

受け止めるにはカラドボルグの様な高出力ビームサーベルを用いる必要がある。

 

また、ラックに格納している際は、

柄頭からビームキャノンを発射する事が出来る。

 

 

その他、ヴェルデバスターシーストラと相性の良いストライカー。

サムブリットストライカー

ライトニングストライカー

ドッペルホルン

マルチランチャーパック

バスターストライカー

 

 

 




設定集であります!

ちょっとやり過ぎた感が拭えませんが、そこは御愛敬。

それではまた次回に!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

チーム総当たり戦

side一夏

 

キャノンボールファストから一夜明けた月曜の放課後、

俺はセシリアとシャルと共に書類作成を行っていた。

 

襲撃事件の被害、観客の負傷者数、亡國企業の戦力規模、

報告しなければならない事は山の様にある。

 

だが、そんな事は直ぐ終わる、では何故忙しいのかって?

 

理由は簡単、キャノンボールファストが終了した翌月に、

専用機持ちのみで行われる試合の取り決めがあるからだ。

 

こんなもんは普通教師がやるべき事なのだろうが、

どういう訳か俺がやる羽目になっているんだ。

 

愚痴を言っても仕方がないとは分かっているが、

ボヤいてないとやる気が削がれるんだよな。

 

「あー・・・、どうするかねぇ・・・。」

 

キャノンボールファストの書類を纏め終えたセシリアが出してくれた紅茶を啜りつつ、

専用機持ちの試合形式を決める書類を睨みつける。

 

睨んだ所で問題が解決する筈もない事は百も承知、

それでもイラついた気持ちを書類にぶつけたいという衝動は収まる事がない。

 

まぁ良い、こんな事をしてても何時まで経っても終わらんからな、

さっさと終わらせて二人を抱きたい。

 

「えーっと・・・、一年の専用機持ちは、俺、セシリア、シャル、箒、秋良、鈴、簪、ラウラ・・・、それから・・・、あぁ、雅人もいたな、忘れる所だった。」

 

やれやれ・・・、九人もいるのかよ・・・、

こりゃ振り分けが難しそうだ。

 

「シャル、二、三年の専用機持ちは何人だ?」

 

楯無だけは覚えてるんだが、

如何せん、20年近く前に読んだ小説の内容を細部まで覚えてられないってのが実情だ、

大まかな出来事、主要人物、敵対勢力は覚えられてもな。

 

「えーっと・・・、二年の元生徒会長の更識楯無と、同じ二年のフォルテ・サファイア、

そして三年のダリル・ケイシーの三人だよ、詳しい事は知らないけど、

三人とも中々の強さらしいよ。」

 

俺に聞かれたシャルは、手帳を開いて情報を読み上げてくれた。

 

三人、ってことは合わせて十二人か・・・、多いな・・・。

 

「十二人っていう大人数で、一々一対一方式でやってたら日が暮れないか?」

 

「確かそうですわね、トーナメントならいざしらず、

リーグ戦は約一週間は最低でもかかりますわ。」

 

「参ったな・・・、そんなに時間は取れねぇな。」

 

いくら目玉イベントとはいえ、授業に差し障りのある様な事はあってはならない。

 

学校教育とはそんなもんだ。

 

まあそれはおいといて・・・。

 

「通常のトーナメントでも時間がかかりすぎる・・・、

リーグ戦は論外・・・、二対二はどうだ?」

 

「確かに相対的な試合数は減るけど、学年別トーナメントでも同じ事しなかった?」

 

「そう言えばそうだったな・・・。」

 

確かにこの世界での学年別トーナメントはVTシステム事件が前倒しになった為、

なんの問題もなく開催されたんだよな・・・。

 

二番煎じ感は流石に拭えないな・・・。

 

何をするにしても、前例がない事をやってみたい、

それが俺の望みでもあるしな。

 

どうしたものか・・・。

 

「一夏様、差し出がましいとは思いますが、

三人チームの総当たり戦にしてみてはいかがですか?」

 

「!その手があったか!」

 

確かに三人制にすれば丁度4チーム作る事が出来る、

試合数もリーグ戦ならば妥当だな。

 

「考え付かなかった、ありがとなセシリア。」

 

「至極恭悦ですわ♪」

 

優雅にお辞儀するセシリアに微笑みかけ、

俺は早速書類作成を開始する。

 

さてと、大まかな事は元から書いていたし、

備考を書くだけだからすげぇ楽だ。

 

「ねぇ、一夏、それにセシリアも、今回は僕達三人で組もうよ、

僕達の機体は三機連携の為にあるんだし。」

 

「確かにそうだな、お前達さえ良ければそれで行きたいが?」

 

「私も賛成ですわ、皆さんに真の恐怖を教えて差し上げる為ですもの。」

 

「やり過ぎるなよ、ま、好きにしろ。」

 

ふっ、この世界でのファントムペインの御披露目だな、

派手にかますとするかな。

 

sideout

 

 

side秋良

 

キャノンボールファストから二日が過ぎた火曜日、

専用機持ち全員に専用機持ちチーム総当たり戦の告知が届いた。

 

三人一組でそれぞれの組と対戦するという事らしい。

 

「なんとまぁ・・・、無茶な企画を考えた物だよ。」

 

「確かにな、流石にISの小隊編成での試合など、

誰も見たことがないしな、良い出し物にはなる。」

 

俺が呆れている横で、ラウラが感心した様に呟いていた。

 

「出し物だったら確かに物珍しいけど、実際にやるのは私達だよ?

コンビプレーならまだしも、流石にチームプレーになるとちょっとキツいよ。」

 

簪の言う通り、

俺達は二対二のコンビプレーでの模擬戦しか経験がないんだよね、

だからかなり不安と言えば不安なんだよね。

 

まぁ・・・、それは良いけど、どうやって組もうかな?

 

「はーい、皆集合~。」

 

取り敢えず、まだチームを組んでいないと目される専用機持ちの面子を集め、

どのメンバーで組むかを話し合う事にした。

 

案の定、兄さんとセシリア、そしてシャルロット以外のメンバーが集まった。

 

「えーっと、俺達六人、どういう風に組むかを今から話し合いたいんだけど、どういった風に組む?」

 

「一応、バランス的には、俺、箒、ラウラと、

秋良、鈴、簪のチームに分けた方が良いと思うぞ。」

 

「確かにそれが一番バランスが良いね、変に戦力も偏ってないし。」

 

そこまで言って気付いた。

兄さん達は三人でもう組んでるんだよね?

 

って事は・・・、ファントムペインが本当にこの世界で実現されてるのか?

 

いや、ただの偶然だよね?

いくらなんでも兄さんが汚れ仕事をやってる訳無いし。

 

「じゃあそのチームで行ってみるかな?」

 

「俺はそれで賛成だ。」

 

「私も異議はない。」

 

雅人と箒が一同を代表する様に答え、

簪達も異存はないと言うように首肯していた。

 

「決定だね、じゃあ用紙に学籍番号と名前を書こうか。」

 

申込用紙にそれぞれ名前を書いて、

後は兄さんの所に持っていけばOKだね。

 

さてと、どうやって訓練しようかな?

 

sideout

 

side簪

 

告知を受けて、専用機持ちの皆はそれぞれ訓練に勤しんでいる。

 

だけど、私は今、独り整備室に籠って機体のバランスと、

武装類のチェックを行っている。

 

私の機体、打鉄弐式は遠距離兵装主体の機体、

それは良いんだけど、近距離戦闘の能力が決して高くない事が悩み。

 

ミサイルとかの攻撃よりも、もっとマルチな戦い方が出来たら良いんだけど、

近接装備と中距離装備が貧弱なのは否めない。

 

刀剣類の装備と手持ちライフルとかがあればまた別なんだけど、

今現在はそれも望み薄なの。

 

せめてストライカーパックが使えればと思うんだけど、

あれはアクタイオン社の専売特許だし、何より私が使うには一夏か秋良の許可がいる。

 

まぁ・・・、無いものねだりしても意味が無いことは分かってる、

だから今は私が出来る事をやるだけ。

 

整備も終わった事だし、秋良の所に行こっと。

 

そう思い、私は打鉄弐式を待機形態に戻して、

整備室を後にした。

 

sideout

 

sideラウラ

 

秋良との模擬戦の後、

私は機体データのチェックを行っている。

 

悩み所は多々あるが、

その中でも一番の悩みはAICにある。

 

AICは実弾や衝撃砲ならば防げるが、

兄貴や雅人の機体装備、主にビーム兵装には効き目がなく、

発動させている際は行動に大きな制限がかけられてしまうのだ。

 

相手を拘束しようにも、兄貴は遠距離から攻めて、機会がくれば容赦なく斬り込むし、

秋良は私がAICを発動させるより速くウィングソーで斬り込むし、

雅人は色々と相性が悪すぎる。

 

よくよく考えてみれば、AICはこれから先の戦闘に本当に必要なのか疑問に思う。

 

キャノンボールファストの際に襲撃してきた無人機は、

一様にエネルギー兵装を装備していた。

 

動きを停められない事も無かったが、

集団戦法で来られてしまえば、私のシュヴァルツァ・レーゲンはひとたまりもない。

 

事実、私達は雅人や秋良にフォローしてもらいながら戦っていた。

 

そう考えれば、セシリアとシャルロットはたった二機で二十機近いダガーを墜としたと聞くし、

サイレント・ゼフィルスを退けた力量は兄貴に匹敵する様な物がある。

 

おっと、他人の事はどうでも良かったな・・・。

 

いっその事、AICを取り払って、アルミューレ・リュミエールを装備出来れば一番良いんだが、

あれはアクタイオン社の専売特許だろうし、何より無関係な私が使うには兄貴か秋良の許可がいる。

 

まぁ良い、今はそんな事よりも自分の腕を磨かねばな。

 

そう思い、私は着替えに取り掛かった。

 

sideout

 

noside

 

「あー・・・、暇だなぁ・・・、一夏達いないから尚更だよぅ・・・。」

 

一夏達がIS学園にて頑張っている頃、

アクタイオン社の社長室ではミーアが椅子に座りながらグルグルと回っていた。

 

彼女は社長とは言うものの、実際の仕事は根回しと懐柔しかないため、

正直言って、それらの必要がない時はかなり暇なのだ。

 

で、今、丁度その退屈な時間に突入しているのだ。

 

「あー・・・、暇だなぁ・・・。」

 

何度目になるだろうかわからないボヤきをした時、

備え付けられていた電話が鳴り響いた。

 

「あーい、こちら社長~。」

 

『久しぶりだな、退屈社長。』

 

「あー、一夏じゃないか~、暇だよぅ・・・。」

 

電話の相手が一夏だと分かった途端、彼女はなんとなく声のトーンを明るくする。

 

「ところで何の御用かな?」

 

『報告したい事と頼みたい事がある。』

 

「何々~?私が出来る事なら何なりと~。」

 

社長と社員の立場が逆転しているが、

この二人にとってそんな事はどうでも良いのだろう。

 

『夏休みに連れてきたメンバーの機体に、ストライカーパック対応の機体が出現した、

ドラグーンストライカーとドッペルホルン、そしてソードストライカーを送ってほしい。』

 

「それだけでいいのかい?シルエットが幾つか出来上がったし、

ウィザードといっしょくたにして送るよ?」

 

『それぐらいあれば上々だな、まずひとつ目の頼みは終わった、

こっからが本題だ。』

 

まだあるんだと思ったミーアだったが、

一夏の次の言葉が来るのを待った。

 

『ミラージュとゴールド、そしてペルグランデ、

この三機のデータをルキーニを通じてリークしてほしい、亡國企業にな。』

 

一夏が発した言葉は、常人が聞けば間違いなく耳を疑う事だろう、

しかし、神の遣いに等しいミーアは眉をひそめるだけで特に驚きもしなかった。

 

「別に良いけど、なんでその三機なの?あれは失敗作も良いところなのに?」

 

『こちらの嫌がらせさ、自分達で手に入れたと思っていた情報が、

俺に与えられた物だと気付いた時の奴等の顔を見てみたいんだよ。』

 

「ふふっ、君も悪だね、良いよ、ルキーニにも言っておくね。」

 

『恩に着る、それじゃあな。』

 

何かの密約の様に見えなくない様な言葉を交わし、

一夏は電話を切った。

 

「一夏、君がこれから成す事を楽しみにしているからね?」

 

受話器を戻したミーアはコンピュータを弄り、

あるデータを呼び出した。

 

それは・・・。

 

「ガンダムアストレイゴールドフレーム・・・、ミラージュフレーム・・・、

ペルグランデ、君達には礎になってもらうよ。」

 

sideout

 

side一夏

 

「クックックッ・・・、これで良い。」

 

ミーアとの電話を終えて、

俺は自室に戻るべく歩みを進める。

 

これで御膳立てはほぼ完璧に整った、

オータムを殺し、くーの腕を切り落とした事で愚かなアイツらは俺を殺すために同盟を組む事は予想していた。

 

そして最後の詰めが、データのリーク。

これでアイツらは俺と同等の戦力を手に入れたと勘違いするだろう。

 

更に数さえ揃えれば勝てると勘違いし、必ず世界に挑もうとするだろう。

その先にあるものは、俺に切り殺される未来のみ。

 

「クックックッ・・・、ハーッハッハッハッ!!

躍れ!俺の掌で躍るが良い!!ハーッハッハッハッ!!」

 

sideout

 




はいどーもです!

一夏氏がどんどん主人公に見えなくなってきた・・・。

さて次回予告
リーグ戦に向けて用意を進める一夏のもとに、
弾からあるんだ電話が届く。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
番外編 残姉さん再び

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 残姉さん再び

side一夏

 

リーグ戦の開催を2週間前に控え、

俺達生徒会メンバーの仕事が更に増え始めた。

 

面倒な事には変わりは無いが、どうせすぐに片付くから問題は無い。

 

「ふぅ・・・、終わったな、そろそろ飯にしようか。」

 

「はい♪」

 

「うん♪」

 

書類整理をしていてくれたセシリアとシャルを促し、

俺は生徒会室の鍵を持って外に出ようとした。

 

だが、その時、俺の携帯に着信が入った。

 

こんな微妙な時間に一体誰がかけてきたのだろうか?

 

相手は・・・、弾?

一体何の用があって俺にかけて来るんだよ。

 

「アロー?」

 

『アロー・・・、って、なんでフランス語で電話に出てるんだよお前は!』

 

アローとは、フランスで電話に出る際の挨拶で、

日本でいう、もしもし?に近い意味だ。

 

そんな事はどうでもいいとして・・・。

 

「で?何の用だ?手短に話してくれ。」

 

『いやな、それが最近、週末になるとずっと誰かに見られてる様な気がするんだよ、

普通なら俺なんかにストーキングする奴なんていないだろ?

だからお前ら関連での奴かなと思って連絡しただけだ。』

 

なん・・・だと・・・?

弾がそこまで考え付くとは思わなかった、完璧に蘭に尻に敷かれてる弾が・・・。」

 

『なんでそんな失礼な事を言われにゃならんのだ俺は!?』

 

「なっ!?人の心を読むな!」

 

『口に出してただろうがお前!!』

 

まあ反応が楽しみでわざとやったんだけどな。

 

「それは良い、その言い方だと、他にも何かありそうだが?」

 

弾の言葉に裏を感じた俺は単刀直入に尋ねる事にした。

すると、どういう訳か弾は押し黙ってしまった。

 

『・・・、それがよぉ・・・、その気配を感じる様になってから、

蘭が【お兄に近付く牝豚がいる!!】とか言って殺気だってんだよ・・・、そんな訳あるはずねぇのに・・・。』

 

「・・・、弾、事の下手人が分かった、取り敢えず俺に任せとけ、それじゃあな。」

 

弾の言葉を聞くより先に電話を切り、

俺は盛大なため息を吐いた。

 

やれやれ・・・、俺は残姉さんの呪縛からは逃れられん様だ・・・。

しかし、まさかあの女が残姉さんになるとは思わなかったがな。

 

「まぁ良い、待たせたな二人とも、行くとするか。」

 

「待ちくたびれちゃったよ♪」

 

「しっかりとエスコートしてくださいな?」

 

「分かってるさ。」

 

二人に腕を差し出し、

彼女達が抱き付いてくれたのを確認して俺は歩き出した。

 

sideout

 

noside

 

リーグ戦を1週間前に控えた週末、

一夏とセシリア、そしてシャルロットの三人はなぜか私服に着替え、

一夏の実家近くにある、五反田食堂の近くに居た。

 

その理由はただ一つ、友人である五反田弾に付きまとう、

ある人物に制裁を加えるためだ。

 

「まさかあの方がストーカーになられるとは思いませんでしたわ。」

 

「うんうん、あの人は大丈夫だと思ってたのに・・・、

もう僕、年上を信じられそうにないよ・・・。」

 

「それは言い過ぎじゃねぇか?」

 

彼女達のあまりの言い草に苦笑しつつも、

彼は標的が網にかかるのをじっと待った。

 

「(むっ?弾が出てきたな?とすればそろそろ尻尾を出すぞ、

セシリア、シャル、出来る限り気配を消しておけ。)」

 

「(かしこまりましたわ。)」

 

「(了解だよ。)」

 

五反田食堂の表口から弾が出てきた事を確認し、

一夏達はじっと息を潜め、標的が現れるのを待った。

 

「(弾君だけ・・・、な訳無いよね、蘭ちゃんも着いて行くんだ。)」

 

「(そりゃそうだよな、ブラコンなんだし。)」

 

案の定と言うべき組み合わせにシャルロットと一夏は苦笑するが、

そんな事より先に、周囲の気配に気を配る。

 

「(一夏様、近くに誰かいますわ。)」

 

「(感知した、まだ飛び出すな。)」

 

標的が動き出したのを感知した一夏達だが、

本格的に動くのを待って動かない。

 

「(あ、蘭ちゃんが殺気だってきたよ、一般人に分かるんだから、

かなり近付いてるんだね。)」

 

「(まぁ、蘭を一般人と呼んで良いのか分からんがな、

よし、なるべく見付からない様に移動するぞ。)」

 

「(はい。)」

 

一夏達は弾達に、そしてストーカーに見付からない様に移動し始めた。

 

物影から出た一夏達は、目を疑うような光景を目の当たりにした。

 

「はあっ!?」

 

「えぇっ!?」

 

「嘘ぉ!?」

 

なんと、その標的が弾達が通り過ぎて行く電柱にぶら下がり、

写真を取っていたのだ。

 

・・・、ある意味、楯無よりも恐ろしい物がある。

 

「ハァハァ・・・、五反田く~ん!」

 

「(やっぱりね・・・。)」

 

「(虚さんがあの様になるとは・・・。)」

 

「(言うな、余計に胃が痛くなる・・・。)」

 

予想していた通りの展開になってしまったため、

三人は頭を抱えたくなる衝動を必死に抑えていた。

 

「まぁ・・・、友人の胃を鑑みれば、取り敢えず制裁しておくに越したことは無いな。」

 

そう言うが早いか、彼は塀によじ登り、

そのままの勢いで跳躍、虚のところまでやって来た。

 

「どうも虚さん?」

 

「へっ・・・!?いっ、一夏君!?」

 

「取り敢えず降りましょうか、言い訳ならそれから聞きますんで。」

 

「にょえぇぇぇぇぇっ!!?」

 

地獄に引き摺り降ろされる罪人の様な悲鳴をあげ、

虚は一夏に地面へと引き摺り降ろされたのであった・・・。

 

 

sideout

 

side一夏

 

虚さんを地面に降ろし、

取り敢えず人目に付かない場所で正座をさせて事情聴取を執り行う事にした。

 

 

「まぁこうなる事は分かってましたが、

取り敢えず言い訳したい事があるなら聞きますよ?」

 

「一夏君・・・、お願いですからこんなアスファルトの上で正座は・・・。」

 

「残姉さんがほざくんじゃねぇよ、キリキリ話せや。」

 

「うぅ・・・、一夏君が酷い・・・。」

 

何時もの事だ、気にしてたらストレスで死んでしまう。

 

「酷かねぇわ、アンタらの変態的趣向の方が酷ぇよ、

それより、とっとと白状しろや。」

 

「はい・・・、文化祭の時から五反田君が気になって・・・、

どうすれば彼に近付けるかずっと悩んでたんです・・・。」

 

「それでストーカーになったと・・・?残念過ぎるでしょうが。」

 

やれやれ・・・、この人も奥手なんだな、

何処かの誰かさんを見てる様な気分だぜ・・・。

 

「うわぁっ!?」

 

「ひいぃっ!?」

 

「どうした!?」

 

カメラを見ていたシャルとセシリアが悲鳴をあげていた。

一体どんな写真があると言うんだ?

 

「いっ、一夏ぁ・・・、もうやだよ・・・。」

 

「ベッドの中に帰りたいですわ・・・。」

 

そんなに酷い写真があるのかよ・・・、

こりゃ確認して消去するのが一番だな。

 

そう思い、シャルから受け取ったカメラを操作し、

撮影した写真を確認して・・・、酷く後悔する事になってしまった・・・。

 

なんと、カメラに収められていたのは、

ほぼ全て弾の半裸状態の姿だった・・・。

 

しかもどうやって撮ったのか、入浴中の写真もチラホラあるときた・・・。

 

「・・・。」

 

本当に残しておいてはいけないと思い、

メモリーカードを引き抜き、取り敢えず踏みつけておくことにした。

 

「わーっ!?何するんですか!?」

 

「脚にしがみつくな!!破壊できねぇだろうが!!」

 

「ダメです!!このメモリーだけは壊させません!!」

 

そんなに弾の半裸映像が大事か!!

しかし、こいつを破壊しとかねぇと本人にバレた時が怖い。

 

「うわぁっ!?まだあるよ!?」

 

「こっ!?これはまさか・・・!?」

 

まだ何かあるのかよ・・・、

もうホントに勘弁してくれよ・・・。

 

震えるセシリアから一冊のノートを受け取り、

すさまじいデジャヴに襲われながらもノートを開く。

 

そこには・・・。

 

sideout

 

sideノート

 

『9月13日、

廊下でとってもカッコいい人とぶつかっちゃった!!

一夏会長のお友達、ベースギターも上手い!でもマトモに話できなかっなぁ・・・。

どうすればいいんだろう・・・?』

 

『9月18日、

五反田君のお家に侵入成功!!

御風呂中らしいので、天井から覗く事にしましょう、

ハァハァ・・・、五反田君カッコいいよぉ~・・・!』

 

 

『9月19日、

五反田君の寝室の天井裏にてこれをしたためています、

ハァハァ・・・、五反田君の寝顔も良いよぉ~!!

ハッ!?何よあの小娘!?五反田君と添い寝ですってぇ!?

恨んでやる呪ってやる・・・!!』

 

sideout

 

side一夏

 

「「「・・・、ひぃぃぃぃっ!!?」」」

 

恐っ!!?

なんだよこの恐怖は!?

戦いの中ですら感じた事がねぇぞ!!

 

ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。

冗談抜きでこれ以上野放しにしていたらヤバイパターンだぞこれ!?

 

「ハァ・・・、で?虚さんは弾の何処が好きなんですか?」

 

「ひぇっ!?な、ななななな、なんでその事を!?」

 

自分で暴露していた様なもんだがな、

まぁ良いや、とっとと吐いてもらおうか。

 

「確かに弾はそこそこイケメンでしょうが、ただのバカですよ?」

 

言い方は悪いが、

アイツは変な所でヘタレでバカだ。

 

強いて善いところを挙げるとするなら、

御人好しかつ、分け隔てなく優しいというところだろうな。

 

「ばっ!?バカとは失礼じゃないですか!!?」

 

ムキになってくれる女性がいてくれて幸福者だな、弾?

 

でもな、この人は変態だからな、付き合うのはやめといた方がいいぞ。」

 

「なんでそんなにボロクソに言われなければいけないんですか!?

私は変態じゃありません!!仮に変態だとしても変態という名の淑女です!!」

 

「言い切ってんじゃねぇよ!!逆に清々しいわ!!」

 

何気に恐ろしい事をさらっと言いやがるなこの人。

ある意味楯無より怖いわ。

 

って、今はそんな事はどうでもいいんだよ、

取り敢えず何とかしてストーキングを辞めさせねば。

 

かといって、何かいい案があるわけでも無いが、

なんとかしたい事は確かだ。

 

だがどうする?

どれだけやめとけと言っても、残姉さんが止まる確率は、

俺が駄洒落をいう確率より低い。

 

そんな事はどうでもいいとして・・・。

 

いっその事、弾に告白させちまうか?

いや、それだと蘭がどんな行動を取るか分かったもんじゃない。

 

さてと、そろそろなんとかしますかね。

 

「いい加減、告白してやってください、

アイツもヘタレなんでね、貴女から告白してな?」

 

「ひええっ!?なんでそうなるんですか!?」

 

「これ以上ストーキングを続けられたら警察に通報しますからね?

それがイヤならとっとと真っ当な関係になってください。」

 

「そっ、そっ、そんなの無理です~~~~!!」

 

あっ!?逃げやがった!!

しかも案外速い!!

 

「逃げたか・・・、これで今週の分が収まるならそれで良いがな・・・。」

 

さてと、そろそろ帰るか・・・。

 

「セシリア、シャル、帰るか・・・。」

 

「はい・・・、なんだか疲れましたわ・・・。」

 

「甘い物食べたいよ・・・。」

 

近くに甘味屋あったかねぇ・・・?

探してみるか・・・。

 

 

 

後日、蘭と虚さんがマジな修羅場を展開する事になるとは、

神でもない俺は知るよしもなかった・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!!

笑って頂ける方がいらっしゃれば光栄です。

それでは次回予告
リーグ戦二日前、一夏の行動に疑念を抱いた楯無は、
彼の真意を見極めるべくに決闘を申し込む。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
最狂対最強

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最狂対最強 前編

noside

 

リーグ戦まで後三日と迫ったとある日、

一夏達生徒会役員は何時もの如く書類作業を行っていた。

 

一夏にしては珍しく、何やら実行したい事が有るために、

教員達への根回しを行っていた様だ。

 

「ふむ・・・、大体こんなもんか?」

 

一夏はチェックリストに目を通し、

根回しが終わっていない教員がいない事を確認し、満足気に頷く。

 

「セシリア、シャル、そっちの書類はもう片付いたか?」

 

「私の担当は終わりましたわ。」

 

「僕のも終わったよ、これで最後。」

 

執務机にて書類作成及び、整理を担当していたセシリアとシャルロットは、

一夏の問い掛けに直ぐ様応答し、終えた事を報告する。

 

(なんかここ最近、ずっと事務作業しかしてない気がするな・・・、

気のせい・・・、な訳ないか・・・。)

 

肩凝りが酷いのか、一夏は気だるそうに首を回していた。

いくら常人より遥かに強靭な肉体を持っていても、

彼とて所詮は人間、疲労の蓄積による気だるさからは逃れられない。

 

「なら部屋に戻るぞ、いい加減眠りたい。」

 

本当に疲れているのか、一夏は大きな欠伸をしていた。

 

「そうですわね、私も眠たくて仕方ありませんわ・・・。」

 

「今日も三人で一緒に寝ようね~・・・。」

 

セシリアも眠たそうに答え、

シャルロットは一夏に甘えていた。

 

「当然だ、お前達がいてくれねぇと眠りづらいしな。」

 

二人に微笑みかけながらも席を立ち、

書類を全て片付けていく。

 

「よし、行くとするか。」

 

「「はい♪」」

 

一夏は彼女達を促し、

何時もの様に連れだって生徒会室を後にした。

 

「あー・・・、マジで眠い・・・、

今日はなんか要らん事で体力使った気がする・・・。」

 

そんな事をボヤきながらも廊下を進んでいると、

曲がり角から更識楯無が姿を現した。

 

その表情は穏やかな物ではなく、

何かを問い詰める気満々である様にも見えた。

 

「よぉ更識楯無、こんな夜分に何の御用かな?」

 

「貴方達三人に確認したい事があるのよ。」

 

一夏は漸くやって来たかという様な表情をし、

楯無はそんな彼に不快感を抱いたのか、更に表情を険しくした。

 

「そうかい、俺が答えられる範囲なら答えてやるぜ?」

 

もう何を聞かれるのか分かっているのか、

彼は深い笑みを浮かべていた。

 

「なんでこの仕事を自分からやってるの?」

 

この仕事、つまりは影の殺しである。

 

表立って言わないのは、彼も分かりきっていると感じたからであろう。

 

「そんな事か・・・、小さすぎて答えるのも面倒だが、

良かろう、答えてやる、自分の身を護る為ってのもあるが、

一番デケェのは、理にかなった殺しができる事だな。」

 

一夏は愉悦に顔を歪ませ、掲げた拳を握り締める。

 

「向こうは非合法で俺達を拐いに来ている、

ならば此方も非合法手段でその脅威を排除する、ただそれだけだ。」

 

一夏は然も当然といった風に答える。

彼にとって、悪とは自分を拉致しようたしてくる側の人間であり、

その者達を切り殺す事に躊躇いを一切感じないのだ。

 

「そんなこと!!そんな事赦される筈ないでしょう!?

どんな理由があっても!人殺しが正当化される訳がないでしょう!?」

 

「ふざけないでよ!!」

 

「ッ!?」

 

正論を振りかざす楯無の言い種に

今まで黙っていたシャルロットが声を張り上げた。

 

あまりの声の大きさに、楯無は驚き、口をつぐんだ。

 

「貴女が簪のストーカーなんかやってるから、

僕達が貴女の代わりをしたまでです!自分の事を棚に上げて、一夏を責める権利は貴女には無い!!」

 

シャルロットの辛辣な言葉に、楯無は何も言い返す事が出来ない。

 

いや、言い返す事が出来たとしても、

シャルロットが発した言葉の全てが真実であるが故に、

反論するだけ無駄と言うことが理解出来ているのであろう。

 

「シャルさん、この方に何を言っても骨折り損ですわ、

自分の信条を他人に押し付ける事しか御存知無いのですから。」

 

「なっ・・・!?」

 

セシリアはシャルロットの肩に手を添えつつも、

楯無を冷ややかな目で見ていた。

 

「セシリア、シャル、そこまでにしといてやれ、

痛い所を突かれて顔が真っ赤になってるしな。」

 

「申し訳ありません、つい熱くなってしまいましたわ。」

 

「ホントだ、林檎みたいになっちゃってるね。」

 

一夏が二人を止めるような素振りを見せるが、

それは間違いなく挑発以外の何物でもなかった。

 

「あんたは分かって無い様だが、闇が一つ消えれば、

その闇の代わりとなる闇が一つ生まれるんだよ、

つまり、あんた一人の自分勝手が、俺達人斬りを生んだ!

それから目を背けてんじゃねぇぞ!」

 

楯無を指しながらも、

一夏は彼女を睨み付ける。

 

「でも・・・!だからって・・・!」

 

「いくら止めても、俺達の考えは変わらん、

あんたもいい加減、他人の事を知ろうとしてみな。」

 

まだ何かを言おうとする楯無を尻目に、

一夏はもう話す事はないと言わんばかりに背を向ける。

 

楯無も言うべき事が見つからないのか、

彼らをひき止める事が出来ない。

 

だが、突然一夏が脚を止め、首だけで振り向いた。

 

「俺達の行動に納得がいかないなら、

テメェ自身が生徒会長に返り咲けば良い。」

 

つまり、自分に挑み、倒してみろという事だ。

 

「ま、そんな気分がテメェにあるならの話だがな。」

 

一夏はそう言い、今度こそ歩き去っていった。

 

sideout

 

side楯無

 

彼らが歩き去っていくのを、

私は呼び止める事も出来ずに見送る事しか出来なかった・・・。

 

私だって闇に立ち入った人間、必要に応じて人を殺めなければいけない事は理解している。

 

だけど、彼は、彼らはその領域の更に向こう側、

人を斬り殺す事に快楽を見出だしている様な気がしてならない。

 

その先に待つのは、破滅の闇・・・。

 

だから、彼等を止めようとしたけど、

もう言葉での説得では止められない事を知った。

 

「それでも・・・、私は彼を止める!」

 

人を殺め続ける事に幸せなんてない!

 

「たとえ彼と争う事になっても・・・、絶対に止めてみせる!」

 

sideout

 

side一夏

 

「貴方に決闘を申し込むわ!!」

 

朝、食堂にて朝食を採っていると、

いきなり楯無に決闘を申し込まれた。

 

俺とセシリア、それにシャルは理由を知っていたのだが、

何も知らなかった秋良達は飲み物を噴いたり、いきなり飲み込んだりして噎せていた。

 

まさか昨日の今日で手袋を叩き付けられるとは思わなかったが、

ちょうどいい、ここらで誰が本当の最強か決めておく必要があるしな。

 

で、俺がそれを慎んで受け取ったため、

その日の内に決闘と相成った訳だ。

 

放課後、俺は第1アリーナのピット内で、

ある考え事をしていた。

 

「どうやって戦おうかね・・・、割と真面目にやらなければ失礼だしな。」

 

それが決闘の流儀だと俺は思っている。

 

それはどうでも良いとして・・・。

 

俺ほどではないにせよ、奴は近接戦闘力も高い、

腕も2、3年最強だろう。

 

専用機持ちの中では中位に位置するものの、

下には経験の浅い箒や、個々の実力が然程高くない連中がいる。

 

無論、トップはこの俺だ。

 

「一夏様、御武運を。」

 

「勝ってきてね。」

 

「当然だ、決闘は何時も本気なんでね。」

 

二人に見送られ、俺はカタパルトに機体を固定する。

 

あの残姉さんに闘いとはなんたるか、生き方とはなんたるかを教えてやるためにも、

そろそろ行くとするかね。

 

『進路クリアー、発進どうぞ!』

 

「織斑一夏、ストライクE+I.W.S.P.、出るぞ。」

 

sideout

 

side雅人

 

「楯無!やめとけ!アイツは手加減なんてしねぇぞ!?」

 

「雅人。」

 

一夏との試合の直前、

俺は楯無が控えているピットに駆け込み、

彼女を止めようとした。

 

一夏は間違いなくこの学園の誰よりも強い、

山田先生だろうがファイルス先生だろうが、ブリュンヒルデだろうが、

アイツには到底敵う筈がない。

 

「分かってるのか!?今のお前じゃ勝ち目は無い!!

下手すりゃ再起不能にまで追い込まれるぞ!」

 

言ってしまえば、楯無が一夏に勝てる筈がない、

技量もそうだが、何より機体の相性が悪すぎる。

 

「分かってるわ、それでも私は戦わなくちやいけないの、

だから、今回だけは止めないで。」

 

「っ・・・、分かった、だが、危うくなったら止めに入らせてもらうぞ?」

 

それぐらいしねぇと、

アイツは戦いを止めそうにも無いしな。

 

「心配性なのね、ありがと。」

 

そう言って、楯無は機体を展開してカタパルトへと向かって行った。

 

(一夏、絶対に無茶な事はすんじゃねぇぞ・・・。)

 

sideout

 

noside

 

『さぁさぁ!やって参りました!

IS学園史上最高の決戦が始まろうとしています!』

 

一夏達がピット内でそれぞれ話し込んでいた頃、

会場となっている第1アリーナは大盛り上がりとなっていた。

 

『IS学園現生徒会長織斑一夏と、

元生徒会長更識楯無の最高峰の決戦が今!幕を開けようとしています!!』

 

実況担当の黛 薫子の煽りにより、

会場に集った観客は更にヒートアップしていく。

 

「うひゃ~・・・、凄い熱気だね。」

 

「そうだな、1年の、いや、実質敵無しの兄貴に、

元最強が挑むのだ、興奮しない筈がない。」

 

観客席の一角にて、

今回の決闘にあまり関係の無い秋良達が何時もの調子で試合開始を待っていた。

 

「でも・・・、なんでお姉ちゃんは一夏に決闘を申し込んだんだろ・・・?」

 

「うんうん、あの二人、接点ない・・・、よね?」

 

何故この決闘に至ったのか理解出来なかった簪が首を傾げ、

二人に明確な接点が無いことを疑問に思った鈴がオドオドしながら発言していた。

 

「まぁ何かあったんじゃないかな?

兄さんも兄さんで色々やってそうだし。」

 

秋良は呑気にもそう返すが、

三人の疑問は晴れる事はなかった。

 

程無くして、アリーナにトリコロールの機体と水色の機体が全く同時に飛び出してきた。

 

sideout

 

side一夏

 

「まさか昨日の今日で申し込んで来るとは思ってなかったが、

一体どういう風の吹き回しだ?」

 

俺と全く同時に飛び出してきた楯無のミステリアス・レディに通信を入れ、

軽く挑発するつもりで声をかけてみた。

 

「間違ってる人を止める事に理由なんて要らないわ、

私は貴方を倒す、ただそれだけよ。」

 

「なら、俺にしてみればお前こそ間違いだと言えるがな?」

 

「どういう意味?」

 

俺の言葉の真意が理解出来なかったのか、

楯無は眉間に皺を寄せ、俺を睨み付けてくる。

 

「正義や悪は見ようによってはコロコロとその性質を変える、

お前から見た正義は、そっくりそのまま俺の正義とは言えない。」

 

「・・・。」

 

何も言わない、か・・・、

ならばまだ続けさせて頂くとするか。

 

「お前の正義観はどうか知らんが、

俺に仇なす者は容赦なく斬り棄てる、それが俺のたった一つの正義だ。」

 

それが俺が今掲げるたった一つの正義、悪即斬だ。

 

だが、楯無には到底受け入れられる物ではなかったらしい。

 

「そんなの間違ってる!!その仇をなす者が、自分の家族、若しくは親しい者でも斬り棄てるの!?」

 

「裏切りは赦さん!!喩え秋良だろうが雅人だろうが、駄姉だろうが、

そして、セシリアだろうがシャルだろうが、俺に仇なす者は全て俺が斬り殺す!」

 

「・・・ッ!?」

 

俺の殺気にあてられたのか、楯無は言葉を詰まらせた。

 

まぁ良い、無駄話もこれ迄だ。

ここから真の戦いが幕を開ける。

 

「だが、あえて言わせてもらう、お前が自分自身を正義だと言うならば、

この血肉を貪る暴龍を従わせてみせろ!」

 

『両者規定の位置へ!試合開始まで、5・・・、4・・・、3・・・、2・・・、1・・・、試合開始!!』

 

雌雄を決する戦いの火蓋が、今ここに切って落とされた。

 

sideout

 




はいどーもです!

久々に前後編に分かれてしまいました・・・。

それでは次回予告
一夏と激戦を繰り広げる楯無、
だが、次第に劣勢に追い込まれていく。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
最狂対最強 後編

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最狂対最強 後編

side一夏

 

試合開始の合図と同時に、

俺と楯無は得物を呼び出し、高速で周囲を飛び回りつつ、

攻撃を仕掛ける。

 

と言っても、俺の射撃は兎も角、

奴のバルカンは牽制程度にしかならない。

 

俺の機体は近接戦寄りの万能機だが、

アイツの機体は近接格闘向けだろう。

 

唯一警戒するべき技は、

清き熱情<クリア・パッション>だけだろうが、

奥の手がそれすらも無効に出来る。

 

つまり、絶対的に俺が有利と言うわけだ。

しかし、油断と慢心はそんな状況をひっくり返してしまう。

 

ま、油断などせんがな。

 

「どうした楯無?そんな射撃では俺には当たらんぞ。」

 

バルカンの射撃を回避しつつ、

左腕に装備してあるコンバインドシールドのガトリング砲を連射する。

 

アイツのバルカンよりも俺のガトリング砲の方が威力は高いが、

連射力という点を見れば五分五分といったところだ。

 

と言っても、当たらなければ意味は無いんだがな。

 

「そっちこそ、全然当たらないじゃない!」

 

俺も人の事は言えんな、

直撃コースでも、あの水に阻まれて弾の勢いが完全に殺され、

届く頃には効き目がない状態になっている。

 

I.W.S.P.は気に入ってるんだが、

ビーム兵装が少なすぎるのが難点だな。

なんとか出来なくはないが、あの水はやはり邪魔だな。

 

仕方ねぇ、使いたくはないが、四の五の言ってられねぇか。

 

ビームブーメランを投擲し、

楯無が回避している内に距離を取る。

 

「チェンジ!サムブリットストライカー!」

 

I.W.S.P.を量子格納し、

今だ一度も使用した事のなかったサムブリットストライカーに換装する。

 

「これがストライカーシステム・・・!?」

 

初見は確かにこれだけで驚くだろうが、

本当に驚くのはこれからだ。

 

八連装ミサイルとトーデスブロック改を同時にを発射し、

楯無が回避すると目されるポイントに、

アグニ改の超大出力ビームを撃つ。

 

目論み通り、楯無が回避した方向に極太ビームの奔流が、

彼女に襲い掛かった。

 

sideout

 

side楯無

 

「キャアッ!?」

 

一夏君が撃ってきた大出力ビームを辛うじて回避したけど、

剰りにも威力が高かったせいか、掠めた程度なのにシールドエネルギーの四分の一を持っていかれてしまった・・・。

 

お陰で水もかなり蒸発させられちゃったし・・・。

 

しかもそのビームはアリーナのシールドを突き破って、

遥か彼方の空へと消えて行った。

 

不味いわね・・・!あんなの喰らったら間違いなく死んでしまう!!

でも、あの手の兵装は連射が効かない筈!

 

(なら、まだ勝ち目はあるかも・・・!!)

 

蒼流旋とラスティーネイルを呼び出し、

撃ちかけられるミサイルの砲弾を何とか回避しつつ、一夏君へランスを突き立てようとした。

 

だけど・・・。

 

ランスの突きは、一夏君の残像を空しく突いただけだった。

 

「なッ!?」

 

「遅いな、この程度で最強だと?笑わせるな。」

 

私の右側から彼の冷たい声が聴こえてきた・・・!

 

それと同時に右肘に凄まじい衝撃を感じ、

思わず握っていたランスを手放してしまった。

 

「突きってのは、こうするんだよ。」

 

「なっ・・・!?」

 

嘘でしょ・・・!?

なんで・・・、なんで・・・!?

 

「なんで私のランスを使えるのよ!?」

 

「貴様が知ることは無い。」

 

いつの間にか翼の様なバックパックに換装した一夏君が、

私に猛然と迫ってくる。

 

「ハッ!」

 

「くうっ!?」

 

は、速い・・・!!

それに一撃一撃がとてつもなく重い・・・!!

 

ラスティーネイルと水で何とか防いでるけど、

どうあがいても反撃が出来そうも無い・・・!!

 

「ハァッ!!」

 

一夏君は地面にランスを突き立て、

大車輪の様に回転してきた。

 

「ヤバッ・・・!?」

 

水を前面に展開し、腕を交錯させて少しでも衝撃を和らげようとする。

 

その直後、一夏君の蹴りが襲い掛かる。

 

sideout

 

side一夏

 

俺の渾身の回し蹴りを楯無は何とか防ぐが、

回転による遠心力もつけていたため、

ラスティーネイルは折れ、彼女も大きく後方に吹っ飛んでいた。

 

だが、かなりの威力が削がれてしまった、

本当なら今の一撃で勝負を決めるつもりでいたのだが・・・。

 

(流石は更識楯無、見事な判断力だ。)

 

やはり相手にとって不足はなかったな。

 

「なんでよ・・・、なんでなの!?

どうしてこれ程の力が有りながら、人殺しにしか使わないの!?」

 

腕を押さえながら立ち上がった楯無が、

俺に向かって叫んでくる。

 

俺の力が羨ましいのか、

それともそれを奴が掲げる正義の為に使わない事に疑念を抱いているのか・・・。

 

恐らくは後者だろうが、

俺にとっては関係ない事だ。

 

「それが俺の役目だからだ、

理事長に依頼され、俺が承諾し、人殺しの役目を担っているだけの事だ、

快楽が出てきたのは予想外だったがな・・・。」

 

ルカスのデータが俺に仕込まれた時からもう諦めていたさ、

殺戮、破壊がこの上無い刺激になること位な・・・。

 

だが、それでも・・・、俺は俺だ。

織斑一夏という一人の人間だ!

 

「だとしても・・・!!断ることも出来たでしょ!?なんで貴方が・・・!?」

 

「なら、俺に拉致されて解剖されて殺されろとでも言うのか!?

お前は俺達に死ねと言っているのか!?」

 

「・・・!」

 

「テメェ勝手な事をぬかしやがって!

テメェが簪のストーカーなんぞやってるから、

俺という闇が生まれたと何度言えば気が済む!?」

 

人殺しはいけない事、悪い事と言うのは簡単だ。

だが、それは理想論でしかない!

 

向こうは俺達を殺しに来る!

そして俺達の大切な物を壊しに来ている!

 

俺は何も喪いたくない!

ならば俺は、俺の大切な物を護る為に戦う!

 

それに何の間違いがある!?

 

「テメェが俺を気に入らないのは勝手だがな!

テメェもいい加減!現実を受け入れやがれ!!」

 

蒼流旋を叩き折り、俺は楯無目掛け一気に接近、

ケリを着ける為にだ。

 

バリー・ホー、

アンタの技、借りるぜ!

 

「はぁぁ・・・、拳神!!」

 

この技は、相手の内部に直接衝撃を与える打撃であり、

如何に絶対防御に覆われたISですら、防ぐ事は出来ん。

 

だが、どうやら向こうも俺と決着を着けたいのか、

あの技を使おうとしていた。

 

「熱き熱情<クリア・パッション>!!」

 

熱き熱情<クリア・パッション>、

周囲に水蒸気爆発を起こす荒業であるが、

その威力は絶大。

 

通常のISならばその空間から逃れない限り、

蹂躙されるのがオチだ。

 

だが、俺のストライクノワールはそんなに柔じゃねぇんだよ。

 

「装甲リミッター解除、VPS装甲強度最大値!」

 

リミッターを一部解除し、装甲をVPS装甲へと戻す。

 

PS装甲系列の装甲は実体兵装を無効にするだけでなく、

耐熱性にも優れており、水蒸気爆発だろうが大気圏突入時の摩擦熱だろうが、

耐えきる事が出来る。

 

つまり、ヤツの奥の手は完全に封殺されたという訳だ。

 

俺が奴の射程圏に入った瞬間、周囲を盛大な爆発が襲う。

 

だが、俺はそれを物ともせずに突き抜け、

楯無の眼前に迫る。

 

「そんな・・・!?」

 

「そんなこけおどしが効くかよ!!」

 

楯無、アンタの思う正義が何だか知らねぇが、

俺は後には退けねぇんだ!!

 

「ハァァァァッ!!!」

 

楯無が防御する暇もなく、

俺の拳は彼女の鳩尾に突き刺さった。

 

内臓が傷付かない程度には手加減したが、

それでも気絶させるには十分過ぎる威力だ。

 

シールドエネルギーはあまり減少しなかったらしいが、

彼女自身が気絶してしまえばそれまでだ。

 

程無くして、ミステリアス・レディが量子格納され、

楯無は地面に倒れ込んだ。

 

「楯無、俺は俺の正義を押し通す、

だが、それが終わった後は、お前がお前の正義を押し通せ。」

 

彼女に背を向け、俺はピットへと戻る。

 

彼女を運ぶのは俺の役目じゃねぇ、アイツがいるしな。

 

『試合終了!!勝者!織斑一夏生徒会長!!』

 

俺の勝利を告げるアナウンスが聴こえてくるが、

別にどうだって構わない。

終わった事だしな。

 

「お帰りなさいませ、一夏様。」

 

「スポーツドリンクあるけど飲む?」

 

ピットに戻った俺を、

セシリアとシャルは満面の笑みで迎えてくれた。

 

「何時もすまないな、貰おう。」

 

シャルが差し出してくれたドリンクボトルを受け取り、

溢れる事も構わずにがぶ飲みする。

 

無性にそうしたい気分だったからな・・・。

 

「ふぅ・・・、流石に少し疲れたか・・・。」

 

身体自体は大して疲れていないが、

気持ち的な面でかなり疲労が溜まったようだ。

 

「人殺しはいけないって、まだ楯無は言ってたの?」

 

「あぁ、アイツなら分かってると思っていたが、

俺の思い違いだったみたいだ・・・。」

 

先の戦いの中で俺が言いたかったのは、

自分が正しいと思わねぇとやってられないってことだ。

 

間違いだと思い続けてしまえば、

それだけで心が押し潰されそうになるような感覚になってしまう・・・。

 

まぁ・・・、それが俺の心の弱さだな・・・。

 

「まぁ良い、アイツはアイツの役割がある、

それまでは俺達が出張れば良いだけだ。」

 

「喩え私達が裁かれる日が来ようとも・・・。」

 

「後は皆が引き継いでくれるしね。」

 

よく解ってるじゃねぇか、

それでこそのセシリアとシャルだな。

 

「帰るぞ、夜は長ぇしな?」

 

「「はい♪」」

 

二人を引き連れ、俺は自室へと戻るべく歩みを進める。

 

俺が目指すのは、破滅だけさ・・・。

 

sideout

 

side楯無

 

「うっ・・・?ここは・・・?」

 

身体中に走る鈍痛に叩き起こされ、私の意識は覚醒する。

 

どうやら保健室に担ぎ込まれたみたいね・・・、

最後に一発大きいの貰っちゃった後の記憶が無いしね・・・。

 

「あはは・・・、やっぱり歯牙にもかけて貰えなかった、か・・・。」

 

圧倒的、それも今まで戦った事がない程の強大な力の前に、

私は為す術なくあっさりと敗れた。

いっそ清々しいまでの敗北だった・・・。

 

結局・・・、私は彼に自分勝手な正義観を押し付けていただけなのかもしれない・・・。

私が自分の使命を放り出したせいで、一夏君達が人斬りをしなくちゃいけなくなったのも・・・。

 

私が間違えたの・・・?

私がいけなかったの・・・?

 

「おっ、起きたな?」

 

「雅人・・・?」

 

マイナス思考に陥りそうになる私の前に、

何時もと同じ笑顔を浮かべた雅人が現れた。

 

「心配したぜ?呼び掛けても中々呻きもしなかったからな?」

 

そんな所で生きてるかどうか判断してたの・・・?

間違ってはないと思うけど・・・、ねぇ?

 

「ありがと、ずっと着いててくれたの・・・?」

 

「まぁ・・・、心配だったしな・・・。」

 

照れてるのかしら?可愛い所もあるじゃない。

 

っと、何時までも寝てもいられないわね・・・。

そう思い、起き上がろうとしたら雅人に止められた。

 

「まだ寝てろ、一夏の最後の一撃は、下手すりゃ内臓が傷付いてたかも知れねぇんだ。」

 

「あはは・・・、やっぱりあれってそんなに凄かったんだ・・・。」

 

一瞬嘔吐する気分に襲われたしね・・・。

 

でも・・・、負けた事には変わりないのよね・・・。

 

「ねぇ雅人・・・、私、間違えちゃったのかな・・・?」

 

「・・・。」

 

「私が間違えたから・・・、一夏君も、簪ちゃんも、

皆の感情を狂わせちゃうのかな・・・?」

 

私なんか、いなくても良かった・・・?

 

いや・・・、イヤ・・・!嫌・・・!!

 

「楯無。」

 

「まさ・・・、と・・・?」

 

恐怖に囚われそうになる私を、

彼は抱きすくめ、背中を軽く擦ってくれる。

 

「お前は間違ってない、間違ってないさ。」

 

「あ・・・、あぁ・・・。」

 

「苦しいなら、俺に吐き出せば良い、

安心しろ、喩え一夏が何と言おうと、俺はお前の味方だ。」

 

彼の言葉に、私の胸につっかえていた何かがストンと落ちる様な気がした・・・。

それに何だか目頭が熱いよ・・・。

 

「泣いて良い、お前は泣けるんだから・・・。」

 

彼の優しい声に、堰を切った様に涙が溢れて来た・・・。

 

それから、私は彼の胸を借りて盛大に泣いた・・・。

何時振りだろう、こんなに泣いたのは・・・。

 

彼は私が泣いている間も、ずっと背中を擦っていてくれた・・・。

雅人・・・、ありがとう・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!

楯無と雅人にフラグが立ったような立ってない様な感じに成りました。

それは置いといて次回予告
遂に始まろうとするリーグ戦、
しかしそこに忍び寄る魔の手があった。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
光の目醒め 前編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

光の目醒め 前編

side一夏

 

日は流れ、遂に専用機持ちのリーグ戦当日になった。

 

今日まで、俺はセシリアとシャルとの連携を集中的に訓練してきたが、

やはりと言うべきか、元々俺達三人の相性が良かった為に、

それほど苦労することなく、予想以上の連携プレーが達成出来た。

 

アクタイオン社から届いたストライカーを彼女達に渡したが、

問題なく使いこなしていた事には純粋に驚いた。

 

まあそれは良いとして・・・。

 

ずっと前から分かっていた事だが、

裏でコソコソ俺の周りを嗅ぎ回っている奴がいる。

 

そろそろ取っ捕まえて然るべき措置を採らせてもらうとするか?

 

まぁ、奴さんの事だ、

足裏に五寸釘で穴を空けられ、そこに火を着けた蝋燭を突き刺しても吐く事はないだろう。

つまり裏切り者は消す以外無いと言うことだ。

 

だが、まだ少しだけ早い。

大きな出来事が興る際に、そう言った小さい事も群発する物だからな。

 

さて・・・、

今日はどんな扉が開くのやら・・・。

 

sideout

 

side秋良

 

長ったらしい開会宣言を終えて、

俺は着替えを始めるべく、更衣室を目指す。

 

いやぁ・・・、まさかトトカルチョをやるとは思わなかった・・・。

賭事が好きなだけあるよ、あの人は。

 

因みに、一位は兄さん、セシリア、シャルロットチーム、

二位は楯無と他二名のチームだった。

 

で、俺達は堂々の四位でした・・・、

何でだよ・・・、ちょっと悄気るわ・・・。

 

まぁ大まかな順位は分かりきってたし、

こんな事で一々落ち込んでたらキリがない。

 

「おっ、やぁやぁ秋良君!落ち込んでるねぇ~?」

 

「どうも黛さん、あれって不正とかないですよね?」

 

「やだな~、私はこれでも自分が書く記事には嘘を書かないって事を信条にしてるんだよ?」

 

胡散臭いなぁ・・・、

なんか色々と捏造と欺瞞を混ぜ混んでそうだし。

 

信頼してない訳じゃないよ?

でも胡散臭いんだよね~・・・。

 

ま、知り合いの新聞部って、この人しかいないから任せっきりにするしか無いんだけどね・・・。

 

「あ!そうそう忘れる所だったよ、

試合に向けての抱負を一言ヨロシク!!」

 

「う~ん・・・、取り敢えず勝ちに行きます、

とだけ言っておきましょう、勝てるかどうかなんて分からないですしね。」

 

「弱気だね~?まぁ良いや、頑張って―――」

 

―ズドォォォォォンッッッッ!!!―

 

「うおっ!?」

 

とてつもなく大きな揺れが襲い掛かり、

よろけそうになる身体を立て直し、倒れかかってきた黛さんを支える。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「え、えぇ、なんとか・・・。」

 

チッ!襲撃か!!完璧に忘れてたよ!!

今の処皆バラバラだろうし、ちょっと厳しいかもね・・・!!

 

「皆の避難をよろしくお願いします!」

 

「わ、分かったわ・・・!!」

 

皆、無事でいてくれ・・・!!

 

sideout

 

noside

 

空を埋め尽くす程の数のダガータイプの大軍が、

一斉にアリーナのシールドを突き破り侵入、

手当たり次第に攻撃を開始し始めた。

 

「お、織斑先生!!また襲撃です!」

 

真耶は大慌てで千冬の元に襲撃者の映像を届ける。

 

ナターシャは生徒の誘導及び、警護に向かった為に今この場にはいない。

 

「ちっ、生徒の避難誘導を最優先、専用機持ちに援護させろ!」

 

「は、はいっ!!」

 

千冬からの指示を受け、

真耶は自分の機体を取りに走る。

 

「クソッ、一体何が起きているんだ!?」

 

自分の理解の範疇を越える事態に、

千冬は苛立つが、今の彼女に出来る事はなかった・・・。

 

sideout

 

side雅人

 

「退けよお前ら!!」

 

ドレッドノートをノーマル形態で展開し、

向かってくるストライクダガーを蹴散らしていく。

 

ガンダムタイプの機体ならば、

ストライクダガーを蹴散らす事は訳無いが、

箒やラウラ等、非ガンダムタイプの機体には少々キツいだろうな・・・。

 

彼女達を庇いながらだと、

攻撃パターンが限られてしまうからかなり戦い辛い・・・!

 

(だが、流石にこんな狭ぇ屋内でビームライフルを使ってこない事だけは有り難いな・・・!!)

 

近接戦を挑んでくれるだけ、まだ守り様はある!

 

「箒!ラウラ!アリーナに出ろ!

ここじゃいざって時に対処法が限られる!」

 

「「わ、分かった!!」」

 

ドレッドノートをイータ形態に変更し、

バスターモードによる大出力射撃でダガーを複数機纏めて、

控え室の壁ごと消し飛ばした。

 

「行けっ!!」

 

退路が出来た事で、

俺達はアリーナに飛び出した。

 

sideout

 

side秋良

 

「えぇい!!鬱陶しい!!」

 

俺はウィングソーを腰に格納したまま、

シールドストライカーからビームサーベルを引き抜き、

向かってくるダガータイプの機体を斬り裂いていく。

 

「クッ!このぉっ!!」

 

俺の近くでは簪が、前日に兄さんから渡されていたソードストライカーの、

シュベルト・ゲベールを振るい、二体のストライクダガーを斬り裂く。

 

クソッ、流石にキツいか!

なるべく広い所に出ないとね!!

 

「鈴!衝撃砲で壁を撃ち抜け!」

 

「ひみゃっ!?わ、分かった!!」

 

俺の指示を受けた鈴が、

衝撃砲最大出力で控え室の壁を撃ち抜いてくれた。

 

「今だっ!出るよ!」

 

俺達はアリーナに飛び出し、なるべく狙い撃たれない様に用心しながらも、

直ぐ様次の手を考えていく。

 

こりゃ、少し不味いかな・・・?

 

sideout

 

noside

 

「あらあら、凄い数ですわね?」

 

「そうだね、ちょっと多いかな?」

 

秋良達がアリーナ内部に出ようとしていた頃、

アリーナの一角にはズタズタに引き裂かれたダガーの残骸が転がっていた。

 

「右側は私が受け持ちますわ、左側はシャルさんが受け持ってくださいな?」

 

「僕もそう思った所だよ、お願いするね?」

 

緊急時の筈だが、セシリアとシャルロットの言葉には、

微塵も緊迫感がなかった。

 

それどころか、彼女達の表情は至って和やかであり、

戦闘中のそれとは言い難い。

 

「それでは・・・。」

 

「行こっか?」

 

その瞬間、彼女達の表情が一変した。

さながら、獲物を狩る猛禽類の様な雰囲気すら漂わせている。

 

だが、そんなものは無人機には理解できる筈もない、

二機のストライクダガーが彼女達の前後から迫る。

 

ビームサーベルを引き抜き、挟み込むかの如く振り下ろす。

 

しかし、その斬撃が届く事はなかった。

一瞬にして、セシリアに切りかかったダガーは切り裂かれ、

シャルロットに切りかかったダガーはズタズタに撃ち抜かれていた。

 

「早いお方は好きではありませんの。」

 

「それにモヤシみたいなのもね。」

 

セシリアのブルデュエルが翔び、

シャルロットのヴェルデバスターが地を駆ける。

 

「行きますわよ、ルーヴィアドラグーン!!」

 

ブルデュエルの背部に装備されていたルーヴィアストライカーより、

八基のドラグーンが分離、周囲を自在に飛び回る。

 

「行きなさい、私の可愛い猟犬達。」

 

主の意思を受けたドラグーンは、

周囲に群がって来ていたダガーの軍勢に襲い掛かる。

 

ある機体は後方から撃たれ、

ある機体は回避した所に飛来したビームに貫かれ、

またある機体は大出力ビームの奔流に呑まれて次々に数を減らしていく。

 

「震えなさい、恐怖の中で消滅なさい?」

 

本体であるセシリアも、

リトラクタブルビームガンを連射し、

瞬く間にダガーを墜としていく。

 

「あはは、セシリアってば、僕の獲物が無くなっちゃうよ、

だから・・・、そろそろ行くよ!!」

 

シャルロットはヴェルデバスターに装備されている全ての火器を展開、

それらを一斉に発射した。

 

それはまるで濁流の如く迫り、

ダガー部隊に避ける暇すら与えずに呑み込んでいった。

 

「あははははは!!そらそらぁ!壊しちゃうよぉ!?」

 

普段、淑やかなシャルロットからは想像もつかない様な笑いと共に、

彼女は向かい来る敵を薙ぎ払っていく。

 

「やってるな二人とも、だが、俺の獲物を残しておいて欲しいものだな。」

 

苦笑混じりの声と共に一夏が駆るストライクE+I.W.S.P.が飛来し、

対艦刀の一閃でダガーを斬り飛ばしていく。

 

「ま、この程度の敵が何体居ようが俺達には関係無いな!」

 

I.W.S.P.のレールガンが火を噴き、

二機のストライクダガーを瞬く間に撃ち抜いた。

 

まさに圧倒的、

心を持たない無人機は為す術なく葬り去られて行く。

 

「ハァ・・・、所詮は人形、他愛ないですわね。」

 

「一夏のデッドコピー如きで僕達に敵う筈もないのにね。」

 

セシリアとシャルロットは彼の傍に降り立ち、

一夏の力と無人機の戦力を対比し、無人機の弱さに落胆していた。

 

「どうやら、つまらない事もなさそうだ、新手が来たようだぜ?」

 

一夏の視線の先には、新たにアリーナのシールドを突き抜けてくる機体群が見てとれた。

 

どうやら二タイプあるらしく、

それぞれ似たようなフォルムながらも、用途別に特化している様にも見えた。

 

片方のタイプは、ストライクダガーに近いフォルムを持ちながらも、

増加装甲に覆われたタイプの機体。

 

もう片方は、砲撃手を思わせる力強いフォルムに、

背面に二丁の大型砲頭を装備した機体。

 

「ロングダガーにバスターダガーか、セシリアとシャルのデータを基に造られてるな。」

 

一夏は自身の記憶から該当する機体名を引き出す。

 

ロングダガー

 

デュエルガンダムの小数量産機。

ストライクダガーとパーツの大半を共通化している為、

生産性、性能共に優秀な機体である。

 

また、フォルテストラを追加装備することで、

防御力、火力の向上を獲得している。

 

バスターダガー

 

バスターガンダムの小数量産機。

ストライクダガーとパーツの共通化を図っており、

生産性、性能共に優秀な機体である。

 

基の機体であるバスターには装備されていなかったビームサーベルを、

腰部に左右一本ずつ装備している。

 

(けどなぁ・・・、どっちも制式量産されなかった不憫な機体なんだよなぁ・・・、

結構好きだったんだがなぁ・・・、っと、そんな場合じゃなかったな。)

 

自身の脳裏に過った思考を忘れる様にかぶりを振り、

一夏は改めて前を向く。

 

「セシリア、シャル、あれはお前達のデータを基に造られたデッドコピーだ、

本物の力を示してやれ。」

 

「かしこまりました、一夏様。」

 

「ストライクダガーの方をよろしくね?」

 

「分かった、抜かるなよ。」

 

一夏達は、敵を薙ぎ倒すべく、

機体を動かしていた。

 

sideout

 

side秋良

 

「ハァァッ!!」

 

広い場所に出れた為、俺はウィングソーを引き抜いて向かってくるダガーを斬り裂いていく。

 

だけど、劣勢にには変わりなく、

俺達は徐々に追い詰められていった。

 

「秋良!エネルギー量は!?」

 

「そんなに余裕は無いかな・・・!雅人は!?」

 

「レッドゾーンが見えてきたって位だな・・・!!」

 

ヤベェ・・・!

別動隊もいるみたいだし、兄さん達の救援はアテに出来そうも無い。

 

「きゃあっ!?」

 

「簪!」

 

クソッ!ガンダムタイプじゃない簪達にこの数はキツいか!

 

救援に行こうとするけど、それを阻むかの様にダガーが俺と雅人の周りに群がってくる。

 

キリがない!!

 

そう思った時、簪達が戦っていた所から盛大な爆発と、

土煙が巻き起こる。

 

恐らく、グレネードランチャーの類いを撃ち込まれたんだろう・・・。

 

「簪!鈴!ラウラ!?」

 

嘘だろ・・・!?返事をしてくれ!!

 

sideout

 

noside

 

「ここ、何処?」

 

「私に聞くな、ダガーに追い詰められて、囲まれた所にグレネードランチャーと、

ビームを立て続けに撃ち込まれた所までは覚えているんだがな。」

 

「え?えええ!?何処~!?」

 

何処までも白い空間が続いている場所にて、

簪は茫然と呟き、ラウラは彼女の呟きにそんなこと知るかと言う風に返し、

鈴は一人でテンパっていた。

 

彼女達は先程、運悪く密集した所を狙われ、

グレネードランチャーで狙撃されていたのだ。

 

「恐らく、地獄といった所じゃないか?現に撃たれた訳だしな?」

 

「だとしたら最悪ね・・・、まだ死にたくないよ。」

 

「ええ!?アタシ達死んじゃったの!?」

 

呑気に話すラウラとは対照的に、簪は嫌だ嫌だといった風に頭を抱え、

鈴はと言えば完全にパニックに陥りそうになっていた。

 

―更識簪・・・、ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・、凰 鈴音・・・―

 

「「だ、誰!?」」

 

「何者だ!?」

 

自分達以外誰もいない筈の空間に、

聞き覚えのない声が響き、彼女達は一斉に身構える。

 

―貴女達の世界に、大いなる闇が迫っている・・・―

 

「「「大いなる・・・、闇・・・?」」」

 

―世界を覆い、全てを葬り去る・・・―

 

姿なき声の言葉に、簪達は息を呑む。

 

―だから、秋良と共にいる貴女達に、力を貸して欲しいの・・・、

お願い・・・、世界を―

 

その続きを聞く前に、

その声は途切れ、聞こえなくなった・・・。

 

「・・・、ラウラ、鈴、行こう?」

 

「あぁ、誰だか知らないが、秋良を知ってるならそれで良いさ。」

 

「うん!」

 

言葉の真意を理解する事は出来なかった、

だが、それでも秋良を信じ、慕っている彼女達が迷う事など何も無かった。

 

「「「光よ!!」」」

 

決然たる意志を籠め、三人は叫んだ。

 

sideout

 

noside

 

土煙の中より、突如として三つの光の球体が出現し、

周囲に展開していたストライクダガー数機を弾き飛ばす。

 

「あれは・・・、セカンドシフトか・・・?」

 

偶々近くまでダガーの排除に出向いていた一夏は、

その光景を目にし、抑揚の無い声で呟いた。

 

まるで、最初から予測していたかの様にも見てとれる。

 

光が晴れ、そこにいたのは三機のガンダムタイプ・・・。

 

一機はストライクやドレッドノートを連想させるスタイリッシュなフォルムに、

ソードストライカーを装備したトリコロールの機体。

 

一機は重武装を施している様に見えるも、

鈍重さを感じさせることの無い灰色の機体。

 

一機はストライクに近いフレームを持ち、

背後に閉じられた翼を背負う血の様に紅い機体。

 

「さっきは良くもやってくれたね?」

 

「私達を怒らせた自分達の愚かさを呪うが良い。」

 

「こ、今度は負けない・・・、・・・多分!!」

 

簪、ラウラ、鈴は幼き瞳に決然たる意志を籠め、

ストライクダガーの軍勢を睨む。

 

「更識簪、アストレイアウトフレームD、出るよ!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、ハイペリオン、テイクオフ!!」

 

「凰 鈴音、ネブラブリッツ、行く!!」

 

新たなる三つの光が、

自らの仲間を護るべく飛び出した。

 

sideout

 




はいどーもです!
ガンダムタイプ増殖中です。

少なくとも、後二機は追加したいです。

それでは次回予告
ガンダムタイプに目覚めた簪達は、
仲間を護るべく戦う。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
光の目醒め 後編
お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

光の目醒め 後編

side簪

 

私は新しく進化したアウトフレームDのスラスターを吹かして、

迫ってくるストライクダガーにシュベルトゲベールを突き立てる。

 

「・・・!凄く動き易い!!」

 

関節の動きにしても、

運動性にしても、打鉄二式を軽く上回ってる。

 

それに、打鉄二式の時はシュベルトゲベールを振るのがやっとだったけど、

今は腰に装備されてるビームサインを片手に持って、

鞭の様に使うことも出来てる。

 

「凄い・・・!これが、これがガンダムの力・・・!!」

 

出し惜しみなんてしてられない、

友達を護る為なら私は戦う!!

 

だけど、ソードストライカーだけじゃ少し辛いなぁ・・・。

何か他に装備は・・・?

 

武装を検索している一瞬の隙に、

一機のストライクダガーの接近を許してしまった。

 

けど、そのダガーはビームサーベルを引き抜く前に、

何処からか飛来したレールガンの弾丸に撃ち抜かれて爆散していた。

 

私を庇う様に、一夏のストライクE+I.W.S.P.が降り立つ。

 

「簪、武装を探すのは良いが、敵の前で止まるなよ?」

 

「ご、ごめん・・・、でも、ソードストライカー以外に殆ど何も無くて・・・。」

 

検索結果が表示されたけど、使えるのはワイヤーとビームサイン、

そしてソードストライカーのシュベルトゲベールとビームブーメランだけ。

 

とてもじゃないけど、

これじゃあちょっとキツイ・・・。

 

「ここに使えるストライカーがあるだろ、使え。」

 

そう言って、彼はストライクEからI.W.S.P.を外した。

そう言う事ね・・・!!

 

「ありがとう!」

 

すぐにソードストライカーを量子格納して、I.W.S.P.を装着する。

 

「アウトフレームD+I.W.S.P.!!」

 

両腰に格納されていた対艦刀を引き抜いて、

レールガンの照準を合わせる。

 

意識の中でトリガーを引くと、

レールガンが発射され、ダガーの頭部と右腕を撃ち抜いた。

 

あれ?真ん中を狙った筈なんだけど・・・?

 

「I.W.S.P.は後方に重心が移動しているんだ、

発射時の衝撃で僅かに射線がズレたんだろう、少し前のめりになる感じで撃って丁度良いぐらいだ。」

 

なるほど・・・、私に教えている間も、

一夏はノワールストライカーに換装して次々にダガーを葬り去っていた。

 

強いなぁ・・・!

流石は一夏だね・・・!

 

でも、私も負けていられない!!

 

向かってくるストライクダガーを対艦刀で切り裂き、

遠くからビームを撃ちかけてくるダガーを撃ち抜く。

 

何機いるのかなんて知らないけど、負けるわけにはいかないの!!

 

sideに

 

sideラウラ

 

「行くぞ、ハイペリオン!!」

 

単機、敵中に飛び込んだ私は、

アルミューレ・リュミエールを展開させ、

ビームサブマシンガン<ザスタバ・スティグマト>を全方位に向けて乱射した。

 

周囲の攻撃を完全無効化し、

尚且つ此方の攻撃はシールド内部から仕掛ける事が出来る、

正に攻防一体の装備だな。

 

だが、消費するエネルギーの量が少し多いな、

そこは仕方無いのだが、短期決戦が望まれる機体だな。

 

「墜ちろッ!」

 

威力が低いビームサブマシンガンの残弾を考慮して、

兎に角一撃で仕留める事が出来る様にと、コアが配置されているであろう部分を撃ち抜く。

 

しかし、数が多いな、

いくら撃ってもキリがない。

 

仕留め切れていない敵機もいると来た・・・、

少し不味いな・・・。

 

エネルギーはまだ余裕があるが、

それでも無限じゃない。

 

どうするか悩んでいると、

別方向から飛来したビームやミサイルが、次々にダガーを爆散させていく。

 

「ラウラ、大丈夫だった?」

 

「ラウラさんの機体までガンダムタイプになりましたか。」

 

シャルロットのヴェルデバスターと、

セシリアのブルデュエルが私の前に降り立ち、

私の周りに展開していたストライクダガー十機を瞬く間に消し去った。

 

「ガンダムタイプの機体でしたら、私達に着いて来れますわよね?」

 

「ボーッとしてる暇なんて無いよ、ラウラ?」

 

「あ、あぁ?」

 

あまりの話の展開の早さに着いてこれない私を置いてきぼりに、

セシリアはドラグーンを展開し、シャルロットは全砲門を開く。

 

なるほど、大出力で押し切るのだな。

 

彼女達がやろうとしている事を理解し、

私はフォトンファントリーを展開、照準を合わせる。

 

「「「トリプルバースト!!」」」

 

私達三人が撃った大出力ビームやミサイルが、

既に手傷を負っていたダガー数機を呑み込み、灰塵へと還した。

 

なんと言う火力だ・・・!!

これが・・・、ガンダムとでも言うのか・・・!!

 

これ程までの力を、私は使いこなせるのだろうか・・・?

 

sideout

 

noside

 

「ひにゃぁ~~!!来ないでぇ~!!」

 

ネブラブリッツに乗る鈴は、

二機のダガーに何故か追いかけ回されていた。

 

彼女自身の戦闘能力は高いのだが、

臆病で気弱な性格故に、面と向かい合って戦うことが苦手なのだ。

 

「やめてぇぇ~~!!」

 

右腕に装備されているトリケロスで撃ちかけられるビームを防ぎ、

回避行動を取り続ける。

 

「来ないでぇ~!!」

 

追いかけてくる敵機の内、一機がビームサーベルを引き抜き、

ネブラブリッツに迫る。

 

「ひみゃ~~!!」

 

鈴は涙目になりつつ、

咄嗟に腰に装備されていたトツカノツルギを引き抜き、

ダガーを貫いていた。

 

「あ、あれ・・・?」

 

爆散したダガーを見て、

鈴は訳の分からないといった風に呟く。

 

「あ、アタシ、戦えてる・・・?」

 

もう一機のダガーがビームライフルを撃ちかけながらも、

鈴に接近してくる。

 

「ぴぃッ!?」

 

ビームを回避し、

すれ違いざまに左腕のグレイプニールを突き出すと、

その尖端はダガーの胴に突き刺さり、容易く撃破してしまった。

 

「アタシ戦えてる・・・!!」

 

初めての戦果に興奮したのか、

鈴はパッと表情を輝かせた。

 

「アタシも戦えるんだ・・・!」

 

普段、ネガティブな発想や発言が多い彼女だが、

それは自信の無さから来るためのものである。

 

そんな彼女が、自分一人の力で敵を撃破したのだから、

どうやら自分に自信がついたらしい。

 

「これがあればアタシは無敵ね!!」

 

・・・、訂正。

どうやら調子に乗ったらしい・・・。

 

「さぁさぁ!!何処からでもかかってきなさい!!」

 

調子に乗った鈴を叱る様に、

十機近いダガーが彼女を囲む様に迫ってきた。

 

「にぇっ!?や、やっぱり来ないでぇ~!!」

 

「何やってるんだよ鈴・・・。」

 

またしても弱気に戻ってしまった鈴に、

呆れた様に話しかけながら、秋良が上空から急降下し、

周囲に展開していたダガーを次々に斬り倒していく。

 

「あっ、秋良~!!」

 

 

涙目になりつつ、鈴は秋良の近くに寄り、

次々に敵の攻撃を回避していく。

 

「多分コイツらで全部片付くから、さっさとケリを着けるよ。」

 

「う、うん!!」

 

秋良の応援を受け、

鈴は表情を輝かせつつもダガーに向かって行った。

 

sideout

 

noside

 

ガンダムタイプの機体を持つ者達が多大な戦果を挙げている一方、

非ガンダムタイプの機体を持つ者達は苦戦を強いられていた。

 

「このっ・・・!!しつこい・・・!!」

 

楯無はミステリアス・レディの全能力を駆使し、

迫りくるダガー部隊相手に大立回りを演じていた。

 

だが、ストライクガンダムを模したストライクダガーを、

如何に専用機とは言えど、通常ISで相手取るのは厳しい。

 

「ダリルちゃん!フォルテちゃん!大丈夫かしら!?」

 

ダガーの猛烈な攻撃をいなしつつ、

楯無は付近で戦っていたダリルとフォルテに叫んだ。

 

「大丈夫な訳ねぇだろ!『イージス』が全く効かねぇし!!」

 

「なんなんスか!?コイツら!!」

 

ダリルとフォルテは敵を何とか近付けさせない様に戦っているが、

どうもそれが精一杯の様である。

 

(くっ・・・!!この機体、どう見ても一夏君の機体がベースになっている・・・!!)

 

楯無は敵機の形状から、

その機体のベースとなった人物の姿を思い出した。

 

(あの強さをスケールダウンして、尚且つ量産ですって・・・!?

勝てる要素が殆ど無いんだけど・・・!?)

 

ビームサーベルを引き抜き、迫ってくるダガーをいなしつつ、

ランスを突きだし攻撃を加えるが、傷をつけるだけで、

致命傷には至らない。

 

(どうすれば勝てるの・・・!?)

 

悩み、惑う彼女を嘲笑うかの様に、

一機のダガーが彼女の背後から迫る。

 

死角から現れた為、楯無は反応が遅れてしまう。

 

「しまっ・・・!?」

 

咄嗟にランスを動かすが、真ん中辺りから叩き折られてしまう。

 

既にラスティネイルを折られ、

水も大半を蒸発させられてしまった為、

楯無はとうとう攻撃手段を失ってしまった。

 

(負けられない・・・!!まだ簪ちゃんと話せて無いのに・・・!!

まだ負ける訳にはいかないの!!でも・・・、どうすれば勝てるの・・・!?)

 

喩え、武器を全て折られても、

不屈の闘志を燃やしている楯無の心は折れない。

 

だが、いくら心が折れていなくとも、

現実はそうはいかない。

 

一機のダガーがビームサーベルを振り上げ、

楯無の脳天をかち割ろうとビームサーベルを振り下ろす。

 

だが、その光刃は楯無に直撃することはなかった・・・。

 

「戦う意志があるのに、立ち止まってんじゃねぇよ!!」

 

「雅・・・人・・・?」

 

楯無の前に降り立ったのは、

タクティカルアームズを構えた雅人だった。

 

「簪と話たいんだろうが!だったらこの程度の障害なんて、

はね除けてみろよ!」

 

雅人は向かってくるダガーをタクティカルアームズで切り飛ばしつつ、

楯無に発破をかける様に叫ぶ。

 

「で、でも・・・!私にはもう武器も何も残ってないのよ・・・!?

一体どうやって戦えば良いのよ・・・!?」

 

彼女には戦う意志が残っている、

だが、いくら心が折れていなくとも、武装が無ければまともに戦うことも出来ないという事は理解しているのだ。

 

「コイツを使え!これでお前の意志を貫き通せ!」

 

雅人は自分が使っていたタクティカルアームズを放り投げる。

 

「ええっ!?ちょっ!?」

 

突然の事に驚きながらも柄の部分を掴むが、

その大きさと速度の為に、その場で一回転していた。

 

だが、それだけでたまたま近くに迫ってきていた一機のダガーが、

まるでパンでも切るかの様にあっさりと真っ二つにされていた。

 

「な、何なのよこの攻撃力・・・!?」

 

自分が使っていた武装では、傷を付ける事がやっとだった相手を、

いとも簡単に倒せてしまった事に拍子抜けしたのと同時に、

自分が振るった力の強大さに戦慄していた。

 

「大丈夫だ、お前の背中は俺が守る、だから心置きなく戦え!」

 

一瞬、力を振るう事に躊躇いを覚えた楯無に、

雅人は優しく、そして力強く声をかける。

 

「雅人、後ろは宜しくね!」

 

「オーライ!行くぞ!」

 

護るための戦いを行うことを決心した楯無は、

雅人と共にダガーの大軍に向かって行った。

 

sideout

 

side一夏

 

簪達がセカンドシフトしてから、

十分もしない内にダガータイプの大軍は瓦解、

俺達に討たれるか、若しくは撤退するかの二択しか無かった。

 

大半のダガーは俺達を討てというコマンドに逆らう事が出来ずに、

俺達に討たれていったが、一部状況が悪くなった瞬間から撤退し始めた機体もあった。

 

恐らく手駒を失うのを恐れたアイツらの主が退かせたのだろうか・・・?

 

「セシリア、シャル、損害を纏めるぞ、

他の専用機持ちに報告を求めて来てくれ。」

 

「かしこまりました。」

 

「それじゃあ行ってくるね。」

 

俺の頼みに、彼女達はそれぞれ専用機持ち達の被害状況を確認すべく飛び立って行った。

 

「(さてさて・・・、如何に亡國企業とは言えど、

ここまで狙いすました様に襲撃が出来るはずが無い・・・。)」

 

どうやら、以前手にかけた奴以外に、まだ内通者がいるみたいだな・・・、

俺も詰めが甘かったか・・・?

 

だが、それがどうした、

ここでの被害を帳消しにして、尚且つお釣りが来る位働いてやれば良いだけの話だな。

 

「これ以上の好き勝手は、お前達の命が代金となることを覚悟しておけ・・・。」

 

聞こえているかどうかもわからない言葉を呟き、

俺は自分の仕事に取り掛かった

 

sideout

 

noside

 

「何故!?何故なの!?何故あれだけの数のダガーが、

全く敵わないの・・・!?」

 

とある場所の一室にて、

金髪の女性、スコール・ミューゼルがキーボードを殴り付け、

理解が出来ないという風に叫んだ。

 

彼女が束から譲りうけたダガータイプの数は、

百機近くに上り、戦力、性能共に一般的なISを優に上回っている。

 

IS学園にある専用機等、直ぐ様片付くものだと予測していた。

 

だが、予想はあっさりと裏切られ、

大半のダガータイプは破壊され、専用機持ちを一人も欠くことすら出来ずに戦闘は終結したのだ。

 

「どうすれば奴を・・・!!織斑一夏を殺せる・・・!?」

 

「すーちゃんすーちゃん!!」

 

苛立つスコールの耳に、同盟関係を結んでいる束の声が飛び込む。

 

「・・・、ごめんなさい・・・、どうかしたの・・・?」

 

「ふっふーん!!なんとなんと!!アクタイオンインダストリーから設計図を盗めちゃったのだ!!」

 

「なんですって・・・!?」

 

スコールは驚きつつも、

束が手渡してきたディスプレイを覗き込む。

 

そこには二機のガンダムタイプと、一機のモビルアーマーの設計図が映し出されていた。

 

「素晴らしい・・・!!どれも現行ISを上回っている・・・!!」

 

「うんうん!!これさえあれば勝てるよ!!ダガーが手に入れたデータもあるし、

私達の勝ちは確定だよ!!」

 

(待っていなさいオータム・・・!貴女の仇は必ずこの私が・・・!!)

 

自分達が既に、誰かの術中に嵌まっている事を知らぬ彼女達は、

自分達の勝利を確信し、高笑いを続けるのであった・・・。

 

その先に待つものが、何なのかも知らずに・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!

次回はアウトフレームD、ハイペリオン、ネブラブリッツの機体説明を掲載します。

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

機体説明パート5

ただ今、ジャッジメントXさんの作品、
インフィニットストラトス 〈THE WOMAN G MYSTER〉にて、
アリアンさんの作品、IS~凶鳥を駆る転生者~との三つ巴コラボを展開しております。

御覧になって頂けると大変ありがたいです。



ガンダムアストレイアウトフレームD

 

簪の打鉄二式がこれまでの戦闘経験を基に全領域対応型機体に進化した姿。

打鉄二式のコンセプトが遠距離支援型であったのに対し、

簪のオールラウンドでの能力の高さに適応するために全領域対応型機体に進化したのである。

 

機体装甲には発泡金属装甲を使用している為、

機体重量はストライカー非装備時のストライクEと比べても更に軽い為、

運動性能も非常に高い。

 

ストライカーパックの他、インパルス専用装備であるシルエット、

ザクシリーズのウィザードも使用出来る。

 

本機にもリミッターが課せられており、

解除時にはモビルスーツと同等の性能を発揮する。

 

メインウェポン

 

ビームライフル

アウトフレーム専用のビームライフル。

カートリッジ交換式を採用しているため、

カートリッジの数が揃っている限り、機体エネルギーに関係なく発砲可能。

また、銃口下部にグレネードランチャーが装備されている。

 

ビームサイン

両腰のホルスターに装備されている。

元々出力が安定していない為、収束率が疎らである。

しかし、それを逆手に取り、ビームウィップや簡易ビームシールドにも転用可能。

出力を高めればビームサーベルとしても使用出来るが、連続使用は千秒以下に定められている。

 

ワイヤーアンカー

両腰に装備されているラックから射出されるワイヤーアンカー。

ストライクEや、マガノイクタチストライカー等に装備されているワイヤーアンカーとは異なり、

敵を直接破壊することよりも拘束する事を用途にしている。

 

 

サブウェポン

複合型ビームライフル。

ビームと実弾を切り替えて撃てる特殊ライフル。

その特殊性の為か、簪に好まれている。

 

 

ストライカーパック

元々使っていたソードストライカーの他、一夏から使用しなくなったエールストライカーを譲り受ける。

後に、アクタイオン社にてランチャーストライカーも受理する。

 

その為、専用のストライカーパックは存在しない。

 

 

シルエット/ウィザード

アウトフレーム最大の特徴である、特殊変換プラグ『マルチパック』を使用し、

本来ならば使用することが不可能なシルエットやウィザードを使用することが可能になった。

その為、操作性が煩雑化したが、簪の演算処理能力が常人より高度だったため、問題なく運用している。

 

ブラストシルエット

簪シルエット装備時に使用することが多い砲撃専用シルエット。

 

ケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲

デリュージー超高初速レール砲

4連装ミサイルランチャー

デファイアントビームジャベリン

 

デスティニーシルエット

I.W.S.P.とコンセプトを同じくする統合複合型兵装。

装備の派手さならば他のストライカー及び、シルエットの追随を許さないため、

簪は気に入って使用することがある。

 

エクスカリバーレーザー対艦刀

テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔

をそれぞれ二つずつ装備している。

 

スラッシュウィザード

近接専用シルエット。

近接戦での取り回しはソードストライカーよりも良好な為、使用される事が多い。

 

ハイドラ ガトリングビーム砲

ファルクスG7 ビームアックス

 

 

ハイペリオンガンダム

 

ラウラのシュヴァルツァ・レーゲンがこれまでの戦闘データを元に進化した姿。

シュヴァルツァ・レーゲンがAICによる停止防御を主にしていたのに対して、

本機のコンセプトは絶対的な防御力による防御に置き換えられている。

 

攻撃力よりも防御力に重きを置いている為、

一撃必殺には向かない兵装が多い。

 

尚、ストライカーパックに触れた事が無いため、

ストライカーシステムは発現していない。

 

本機にもリミッターが設けられており、

解除した際にはモビルスーツと同等の性能を発揮する。

 

主武装

 

モノフェーズ光波防御シールド<アルミューレ・リュミエール>

本機最大の特徴である特殊防御シールド。

アルミューレ・リュミエールとは、フランス語で装甲した光という意味。

 

ビームであろうが、実弾だろうが、外部からの攻撃を完全無効化し、

内部からの攻撃はシールドを突き抜け、相手を攻撃することが可能と、

正に攻防一体の兵装と言える。

また、収束率を変化させる事で、ビームランスやビームソードとしても使用出来る。

 

ただし、本装備にもデメリットは存在する。

エネルギー消費量が桁違いに大きい為、手持ち武装全てをカートリッジ方式に変化させる必要があり、その分、威力が減衰、もしくは連射力の低下を招いている。

更に、完全展開は五分しか持たず、解除されてしまえば、

本機のエネルギーは皆無に近くなってしまう。

 

他にも、対ビームコーティングを施された武器、

ラミネート装甲製のタクティカルアームズ等には突貫を許してしまう。

また、シールド発生基を破壊されてしまうと、完全に効力が無くなってしまう。

 

 

ビームサブマシンガン<ザスタバ・スティグマト>

ハイペリオン専用のビームサブマシンガン。

バッスロット内に予備を合わせ、二丁積まれている。

 

連射力に優れ、一発一発の威力の低下を補える。

機体エネルギー節約の為に、カートリッジ交換式になっており、

機体エネルギーに関係無く発砲可能。

 

スティグマトとは、フランス語で聖痕の意味。

 

 

ビームキャノン<フォルファントリー>

背部バインダーユニットに搭載されている大型ビームキャノン。

 

破壊力はランチャーストライカーのアグニに優るとも劣らないが、

この手の兵装特有の連射力の低さが難点である。

 

この兵装にも、カートリッジ装填方式が採用されており、

カートリッジからのエネルギー供給が続く限り、無限に発射することが出来る。

 

フォルファントリーとは、フランス語で乱暴の意味。

 

 

ビームナイフ<ロムテクニカRBWタイプ>

両腕、両脚にそれぞれ一基ずつ装備されるビームナイフ。

 

柄に小型のバッテリーを内蔵し、

尚且つ、ビーム刃の長さをナイフサイズまで切り詰めているため、

エネルギー消費量が最小限まで抑えられている。

 

ザスタバ・スティグマトの銃口上部にも搭載されており、

牽制や不意を突く攻撃を仕掛ける事が出来る。

 

 

ネブラブリッツガンダム

鈴の甲龍がこれまでの戦闘経験を元に進化した姿。

彼女の臆病な性格故に、性能を発揮する事がなかった甲龍が、

ミラージュコロイドを用いた隠密、奇襲戦法を得意とした姿へと進化した。

 

ただし、機体色があまりにも派手な為、

隠密に向いているかは疑問である。

 

本機にもリミッターが課せられており、

解除した際にはモビルスーツと同等の性能を発揮し、

装甲もPS装甲へと戻る。。

 

 

主武装

 

攻盾システム<トリケロス>

右腕部に装備された攻盾兼用の装備。

レーザーライフル

ビームサーベル

3連装超高速運動体貫徹弾<ランサーダー ト>

を搭載している。

 

 

ピアサーロック<グレイプニール>

左腕部に装備されているクローアンカー。

非展開時には突貫兵装としても使用することができる。

 

 

ツムハノタチ

両腕下部に搭載されている鉤爪の様な装備。

近接戦闘能力向上の為に装備されている。

 

トツカノツルギ

左腰部に装備されているレイピア。

剣<ツルギ>の名を冠してはいるが、切りつける攻撃よりも突く攻撃に向いている。

 

 

ストライカーパック

アクタイオン社にてマガノイクタチストライカーに触れた経験を基に、

ストライカーパック対応プラグが出現し、本機もストライカー対応機となった。

 

マガノイクタチストライカーを主に使用するが、

稀に秋良よりシールドストライカーを借り受ける事がある。

 




はいどーもです!

それでは次回予告!
襲撃が去った後、
一夏達は普段の日常へと戻りつつあった。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
大切な一時

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大切な一時

side一夏

 

無人機襲撃が去った翌日、

学園内の被害を調べる為と、修理の為に一日臨時休校になった。

 

だがしかし、俺達専用機持ち組はそれぞれ報告書を纏める作業を延々と続けていた。

 

その為、俺とセシリア、そしてシャルは何時もの如く生徒会室に籠り、

黙々と書類作成を行っていた。

 

はっきり言って、此処まで報告する必要があるのかという所まで報告しなければいけないため、

正直言って、かなり肩が凝る。

 

しかも、俺は昨晩に山田先生や駄姉を脅して、

理事長に頭下げまくって時間の無駄と思ってる事情聴取を無くすために根回しを続けてたんだよな・・・。

 

あぁ、面倒だ、極めて面倒だ・・・。

なんで俺がこんな事をせにゃならんのだ。

 

そんな事を思っている内に、俺の報告書は書き上がってしまった・・・。

 

さてさて・・・、後は他の専用機持ちの報告書を待って、

担当に届ければいいな・・・。

 

「一夏様、私の報告書は纏まりましたわ。」

 

「僕の分も終わったよ~。」

 

やはりと言うべきか、俺が書き終えたすぐ後にセシリアとシャルが報告書を持ってきた。

 

「ご苦労さん、やはり手際が良いな。」

 

案の定と言うべきか、

まず最初に持ってきたのはセシリアとシャルだった。

 

他の専用機持ちに比べれば、割と報告すべき事は多い筈なのだな?

 

まあそんなことはどうでも良いか・・・。

 

「さてさて、次は誰が持ってくるかね?

賭けてみるか?ラウラに一票。」

 

「では、私は楯無さんに一票入れますわ。」

 

「僕は雅人と楯無に一票かな。」

 

何の気無しに賭けをやってみるが、

暇潰し以外の深い意味は無い。

 

金とかは賭けないのかって?

そんなもん賭けても面白くない、後で話し合って決めるさ。

 

そんな事をしている内に、生徒会室の扉がノックされる。

 

「どうぞ。」

 

「失礼します。」

 

そう言って生徒会室に入ってきたのは、

セシリアが予想した楯無だった。

 

「負けたなぁ・・・。」

 

「負けちゃったねぇ・・・。」

 

「久し振りに勝てましたわ♪」

 

久し振りに負けたな・・・、後でお願いでも聞いてやるとするかね?

 

「一体何の話をしてたの?」

 

「気にするな。」

 

怪訝そうに聞いてくる楯無を軽くあしらい、

俺は報告書を受け取る。

 

俺が確認する事は特に無いみてぇだし・・・、

帰ってもらうとするかね。

 

「ご苦労さん、今日は一日ゆっくりと身体を休めてくれ、

どうせ明日からまた大変なんだからな。」

 

「ありがと、一夏君も頑張ってね♪」

 

そう言って、楯無は生徒会室を後にした。

 

さてと?これで後八人か・・・。

 

次は誰だろうな?

 

「失礼するぞ一夏。」

 

ノックされた直後に、箒が扉を開けて入ってきた。

 

「ご苦労さん、だが、せめて入室の許可があるまで入って来るなよ?」

 

「すまない、私の分は完成した、拙い部分もあるだろうが・・・。」

 

そんな申し訳無さそうな顔をするな、

別に何とも思ってないからな。

 

「いや、気にしなくて良い、それよりも無事で何よりだった。」

 

機械や備品、建物の替えは利いても、

人間の替えは利かない。

 

だから、無事が何よりなんだよ。

 

ところが、箒は何故か浮かない顔で黙りこんでしまった。

 

「・・・、その事で頼みたい事がある・・・、

一夏!私を鍛えてくれ!!」

 

叫ぶように言い、箒は俺が座る生徒会長席の机に手をおく。

 

理由は分からなくも無い、

無人機を操っている黒幕に気が付いたのだろう。

 

だが、俺は怨恨に根ざした戦いを推奨はしない、

そんなもん、ただ虚しいだけだからな。

 

「篠ノ之 束への怒りを理由にしているのなら、

俺は何も教えられんぞ?」

 

「姉さんへの怒り、憎しみは確かにある・・・、

だが、それよりも、力を持っていても仲間を護れない自分が憎い!!

昨日の戦い、私は何も出来ず、ただ一夏達に護ってもらう事しか出来なかった!」

 

俺が冷静に言うと、彼女は拳を握り締めて唸る。

 

見ていて分かる、かなり悔しいのだろうな・・・。

 

「だから頼む!私に戦いを教えてくれ!!」

 

本気で頭を下げる箒の姿を見て、

セシリアとシャルは俺の方に目配せをしてきた。

 

ったく、これで断れば俺が悪いみてぇじゃねぇか。

 

「良かろう、明日から俺が模擬戦で相手になろう、

だから、今日は休んでおけ、良いな?」

 

こいつの気持ちは本物だ、

だから、俺はその気持ちに応えてやりたい。

それだけだ。

 

「あ、有り難い!それではよろしく頼んだ!!」

 

言うが早いか、箒は礼を述べた後、

直ぐに部屋を出ていってしまった。

 

「ふぅ・・・、やる仕事も多いな・・・。」

 

「仕方ありませんわ、一夏様程のお方なれば、

望む望まないに関わらず、何かが舞い込んで来るのですわ。」

 

そう言いつつ、セシリアはいつの間にか用意していた紅茶を俺に差し出してくれる。

芳醇な香りが辺りを包み、ちょっとした疲れを吹き飛ばしてくれる。

 

「良い香りだ、頂くとさせてもらうよ。」

 

さてと・・・、後数人分届いてねぇな・・・。

さっさと終わらせて帰りたいんだながぁ・・・。

 

だんだん待ってるのも退屈になってきた頃、

漸く三組めの訪問者が扉をノックした。

 

「居ますよ、どうぞお入り下さい。」

 

気配で分かる、秋良達ではない、

その前に気配が二人分しかないところから、おのずと入ってくる人間が断定出来る。

 

「失礼するぜ?」

 

「失礼するっスよ~。」

 

案の定、部屋に入ってきたのは三年のダリル・ケイシーと、

二年のフォルテ・サファイアだった。

 

やはり秋良達が一番遅いか・・・。

こりゃ一回咎めとく必要がありそうだな・・・。

 

「お二人ともご苦労様です、お怪我はありませんか?」

 

「一応な、怪我は無いが・・・。」

 

「何の役にも立てなかったんスけどね・・・。」

 

そらな・・・、つい半年前までは学園最強の一角を担っていた自分達が、

今は後輩たちを援護することも出来ず、自分達ですらいっぱいいっぱいになっていたんだからな。

 

だが、それは仕方がない事かも知れない、

なんせ、今までこんな事は一度もなかったのだから・・・。

 

「悔しいのは分かります、ですが、そこで立ち止まる貴女達では無いでしょう?」

 

この二人も、自分達なりの意志を持っている、

ならば、この程度で挫ける程では無いだろう。

 

「もしもの時は、俺が手を貸しましょう、

だから、挫けないで頂きたい。」

 

「へっ!後輩に言われるとは、アタシらも堕ちたもんだぜ!なぁフォルテ!?」

 

「そーっスね、まぁ、油断しないことっスね!」

 

そう言って、二人は不敵な笑みを浮かべ、

生徒会室を後にした。

 

良いねぇ~・・・、あの気迫、心地い。

 

あわよくば、こちらに引き込みたいねぇ・・・。

ああいうのは敵になれば確実に手強いからな。

 

「ふふっ、一夏が敬語を使うのって、やっぱり似合わないね。」

 

「うるせぇ、似合わねぇのは百も承知だっての。」

 

シャルが笑うのを堪えながら話しかけてきたので、

軽くしかめ面で返しておく。

 

「これで七人分は出来上がったな・・・、

後は・・・、やはり秋良達と雅人か・・・。」

 

ったく、こっちはさっさと部屋に帰りたいんだ、

とっとと持ってきやがれ。

 

まぁ、取り敢えずは報告書が届くまで待つとしますかね。

この調子なら昼までには終わりそうだしな。

 

「あーあ、暇だ、特に書くこともねぇし、

待っているだけってのもつまらん物だな。」

 

さてと、何をしますかねぇ・・・。

 

だが・・・、この考えが大きな間違いになるとは、

この時の俺達には気付く事が出来なかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

夕刻、

IS学園の一年生食堂には大勢の生徒が、

各々の夕食を採る為に集まっていた。

 

如何に休校になっていたとは言え、そこは人間、

一日をどの様に過ごそうが空腹からは免れる事は出来ない。

 

まぁ、一日動かなかった者は、

体型管理の為に夕食を採らないらしいが、

今はそれは置いとくとして・・・。

 

食堂の一角にて、

一年の専用機持ち、秋良、雅人、簪、ラウラ、鈴が、

同じテーブルに集まって食事を採っていた。

 

「にしても・・・、あの無人機は一体何の目的で俺達を攻めてくるんだ・・・?」

 

食事の最中、雅人がふと無人機の話を引き合いに出した。

 

その場にいた者は手を止め、一様に考え込む表情を見せる。

 

「確かにね・・・、俺達の機体データだけが目当てじゃなさそうだね、

だけど、だからといって襲われる謂われなんて無いよね?」

 

秋良が雅人の言葉を反復するように答え、

全員に問い掛ける。

 

データ目的の為ならば襲われる道理は通る。

だが、それだけが目的ではない事に、彼らは薄々気付いたのだ。

 

しかし、分からない事の方が圧倒的に多い、

何を目的としているのか、そして、誰を狙っているのかが判らないのである。

 

「何にせよ・・・、物騒になってきたのは確かだな・・・。」

 

「そうだね・・・、これからどうなるんだろうね・・・。」

 

これから先に興りうる何かに憂うかの様に、

雅人と秋良は溜め息を吐いた。

 

「溜め息なんぞ吐いて、一体どうしたのだ?」

 

そんな一同に、たまたま近くを通った箒が声をかけた。

 

「おぉ、箒か、飯は食い終わったのか?」

 

「ああ、今しがたな。」

 

雅人に促され、箒は彼等と同じテーブルに着く。

 

「箒は今日一日何をやってたんだい?」

 

「うむ、午前中は報告書を纏めて、一夏の所に持っていって、

午後はまぁ、素振りとかをやっていたぞ?」

 

箒は本当に何と無く言った気分だったのだろうが、

言われた秋良達の反応は・・・。

 

『えっ・・・?』

 

「ん?どうしたのだ?」

 

五人の呆然とした表情に、

箒は訝しみながらも尋ねる。

 

「ほ、報告書って・・・、提出期限は何時までだったっけ・・・!?」

 

「私は午前中に出したが・・・、確か・・・、午後3時までだったぞ?」

 

箒に確認を取り、慌てて時計を見てみると、

針は既に午後6時を回った所であった・・・。

 

「ま、まずい・・・!!」

 

「か、書けてねぇ・・・!!」

 

秋良と雅人は顔を真っ青にし、

簪達もガタガタと震えていた。

 

全員が、黒き龍の怒りに満ち満ちた表情を思い浮かべたのだろうか・・・?

それは本人達にしか判る物である。

 

「い、急げ!!急がないとマジで兄さんに殺される!!」

 

「冗談に聞こえねぇ!!と言うか、そんな気がしてきた!!」

 

「ま、まぁ、ドンマイ・・・?」

 

焦る秋良達の様子を、箒は苦笑で顔をひきつらせていた。

 

sideout

 

noside

 

それから二時間後・・・、

秋良達は大急ぎで報告書を書き上げ、

生徒会室へと急いだ。

 

几帳面な簪や、軍人であるラウラまで忘れていた為、

全員が焦りに焦っていた。

 

それと同時に、昨晩に一夏に言われた言葉がフラッシュバックした。

 

『良いか?明日の午後3時までには提出しろよ?

面倒な取り調べを無くしたんだ、それぐらいは努力しろよ?良いな?遅れるなよ?』

 

数回に渡って念を押されたのにも関わらず、

自分達は疲れですぐに寝てしまった為に全くといっていいほど、頭の中からスッポ抜けていたのだ。

 

そんだこんだしている内に、

秋良達は生徒会室の前に到着した。

 

だが、どういう訳か、皆扉の前で立ち尽くし、

中に入ろうとしない。

 

それもそうだろう。

生徒会室の扉の隙間より、何やら黒いオーラの様な物が洩れだしているためだ。

 

「ど、どうする・・・!?絶対にまずいって・・・!!」

 

「だ、だが、どう考えても今回は私達が悪い!

ここは諦めるしかない・・・!!」

 

死刑宣告を受け、処刑台に上がる罪人の様な表情をしながらも、

秋良達は恐る恐る生徒会室の扉を開けた。

 

生徒会室の内部は、灯りがついていない事もあり、

尚且つ黒いオーラのせいで余計に見通しが効かない。

 

「兄さん・・・?いるかい?」

 

恐る恐る生徒会室の中を歩くと・・・。

 

『ナニヤッテンダオマエラ・・・?」

 

『ヒイッ!?』

 

背後から凄まじいドスの効いたひくいこえが響き、

秋良達は飛び上がる。

 

振り向いた場所にいたのは、暗闇の中でも判る程、

瞳が爛々と怒りの焔で輝く一夏だった。

 

あまりの恐怖に、秋良達は腰が抜けたのか、

床にへたりこんでしまう。

 

『ヨクモマァオメオメト・・・。』

 

『コンナニオクレテコレタネ・・・?』

 

『ひいぃっ!?』

 

更に追い討ちをかけるかの如く、

ハイライトが完全に消えたセシリアとシャルロットが現れ、

五人の退路は完全に絶たれた。

 

いや、そもそも、完全に身体が震えている為に、

動くことすらままならないのだ。

 

「今日は報告書を貰うだけだがなぁ・・・、

冬休み返上でその根性を叩き直して来やがれ!!」

 

『ええぇっ!?』

 

キレた一夏を止められないのは、彼等がよく知っている為、

ただ叫ぶ事しか出来なかった。

 

勿論、断れる筈も無い。

 

「分かったな!?」

 

『はい・・・。』

 

 

 

この夜の出来事が、

異世界との出会いとなる事を、秋良達はまだ知る由もなかった・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!

この度、アリアンさんの小説、IS~凶鳥を駆る者への出張(コラボ)が決定いたしました。
主人公の一夏ではなく、秋良達があちらへお邪魔させて頂きます。

また近い内にお知らせ致しますので今しばらくお待ちください。

それでは次回予告
冬休みを目前にしたある日、
一夏は箒の特訓につき合う。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
刃の重み

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

刃の重さ

side一夏

 

無人機襲撃から一ヶ月後、

季節は秋から冬へと移り変わり、

もうじきIS学園にも冬休みが訪れようとしている今日この頃。

 

あれから目立った襲撃や事件も無く、

俺達は普段通りの日常を送っている。

 

まぁ、秋良達を教導してもらう手筈も大体調えたし、

俺は気楽に自分の仕事だけをやっていれば良いからスゲェ楽だ。

 

まぁそれは置いとくとして・・・。

 

現在、俺は第一アリーナにて、箒の訓練に付き合っている。

 

元々、筋は悪くなかったため、

二週間そこそこで代表候補生クラスとは言えないまでも、

現状で三年の一般生徒を上回るぐらいの力を身に付けはした。

 

だが、そこからがキツい所だ。

要するに伸び悩む時とはどんな物にも必然として存在する。

 

彼女の場合、非常にゆったりとしたスピードで上達してきていた為、

急激な成長に戸惑いを覚えているのであろう。

 

まぁ仕方がない事なのだろうが、

俺個人としては早々に国家代表クラスにはなって欲しいものだ。

 

そうじゃないとこれから先の戦闘、

生き残れる確率は極端に低くなるからな。

 

「むぅ・・・、中々思うようにはいかんな・・・、

戦える様にはなったが・・・、隙があるな・・・。」

 

「しょうがない、この俺が相手なんだ、それにお前が頼んだんだろ?

僅かな隙も攻撃して欲しいってな?」

 

悔しそうに言う箒だが、

この特訓の方式は彼女のオーダーだ。

 

本来なら俺が教えながら戦うという方式をとる筈だったが、

彼女の依頼により実戦形式で戦い、徹底的に拙い部分を攻撃するという物だ。

 

流石にカウンターを狙う様な事はしなかったが、

回避後の僅かなブレや攻撃を防がれた際に生じる無防備な瞬間に、

俺が攻撃を叩き込むという至極単純なものだった。

 

まぁ最初の一週間はマトモに反撃することすら出来ずに、

隙という隙を攻撃されるばかりだったが、

ここ最近、漸く反撃が出来る様になってきていた。

 

まぁ、正直言い切ってしまえばまだまだ及第点には遠いというわけだ。

 

「むぅ、その通りなんだが、悔しいのには変わりはない。」

 

「その気持ちがあるなら上等だ、頑張ってみろや。」

 

「無論そのつもりだ。」

 

俺がストライクE+アナザートライアルソードを展開するのにつられ、

箒も紅椿を展開し、宙に浮かぶ。

 

戦闘スタイルを合わせる意味もあるが、

やはり近接戦が一番教えやすい。

 

「お前が強くなると言うなら、この俺を踏み越える気でかかってこい。」

 

「あぁ、いざ、参る!!」

 

二本の刀を呼び出し、箒は猛スピードでこちらに突っ込んでくる。

 

一騎討ちなら正々堂々とした戦い方だが、

流石に乱戦になるとただの猪武者だ。

 

「ただ単純に突っ込んでくるな、もっとジグザグに動け。」

 

初日にも教えた筈なんだがな、

それではただ早く動くだけの的だと。

 

取り敢えず右手にシュベルトゲベールを保持し、

左腕のパンツァーアイゼンを射出する。

 

「そんな物ッ!!」

 

箒は右手に保持していた刀でロケットアンカーを切り裂こうとしていた。

戦術的には悪くは無いが、それは相手との力量に絶対的な開きが無いと行ってはならない芸当だ。

 

「やめとけ、まだ破壊出来ねぇよ。」

 

パンツァーアイゼンのワイヤーを掴み、

大きく動かす事で剣閃から逃れさせる。

 

「なっ!?」

 

空振った事により僅かに体制を崩した箒に追い討ちをかけるべく、

左掌からワイヤーアンカーを射出、紅椿の装甲に突き刺し、

此方に引き寄せつつも大きく振り回す。

 

丁度良いと思われる所でアンカーを戻し、

シュベルトゲベールを振り抜く。

 

勿論、武器破壊や一撃撃破を避ける為にレーザーはカットしてある。

 

「まだだッ!!」

 

「ほぅ?」

 

体制を崩しつつも箒はシュベルトゲベールの斬撃を、

二本の刀で支える様に受け止めていた。

 

中々やるじゃないか、

謂うところの負けてたまるか根性ってやつか。

 

だが、それだけで勝てる程、

戦いって奴は甘くはないんだよ。

 

「ま、まだぁっ!」

 

シュベルトゲベールを受け止めたまま、

箒は俺に蹴りを入れようとする。

 

しかし、そんなことも当然折り込み済みな訳で、

少し身体を捻り、左脚で受け止める。

 

「ナメられた物だな、この程度見切っていないとでも思ったか?」

 

「くっ・・・!!流石だな・・・!!」

 

伊達に鍛えて無いからな、

それにどういう風な体制になれば、相手がどう対処するか等の予想も大体立てている。

 

俺の強さはある意味それに支えられているんだがな。

 

「今度はこちらからいくぞ。」

 

空いている左手でマイダスメッサーを引き抜き、

ビームサーベルの様に切りつける。

 

「ッ!!」

 

箒がそれを察知して回避するが、

簡単に逃がす俺じゃない。

 

振った勢いそのままにマイダスメッサーを不意討ち気味に投擲する。

 

「なにっ!?うわっ!?」

 

「そこだ!!」

 

咄嗟に回避するが、僅かに被弾した為に、

箒は大きく体制を崩す。

 

そして、俺がその隙を逃す道理が無い。

 

瞬間加速<イグニッション・ブースト>を発動させ、

紅椿に急接近し、レーザーを発生させたシュベルトゲベールの横凪ぎを叩き込んだ。

 

「がはっ・・・!!」

 

吹っ飛ばされた箒はアリーナの壁に激突し、

地面にずり落ち、膝を着いた。

 

「どうした?もう終わりか?」

 

俺は箒の前に降り立ち、わざとらしく尋ねてみる。

 

だが、どうせ終わるなどと思ってはいない。

 

「まだだ!!私は強くなりたい!!だからここであっさりと終わる訳にはいかないんだ!!」

 

それでこそだ、それでこそ教える意義があると言うものだ。

 

「その気概は褒めてやる、だが、悔しさだけでは勝てんぞ、

もっと創意工夫してみろよ。」

 

「創意工夫・・・?」

 

なんとか立ち上がった箒は、俺の言葉の真意を理解出来なかったのか、

何やら教えて欲しそうな顔をしていた。

 

ま、教えるって宣言したからには教えるがな。

 

「例えばの話、お前の刀はレーザーを飛ばせるだろ?

だから単純に刀を振るのではなく、二つの技を一つに纏めてみろって事。」

 

「なるほど・・・、だが、難しいのではないか?」

 

「マイナスな面ばかり考えていたらキリがねぇぞ、

お前は強くなりたいンだろ?だったら四の五の言わずにやってみろよ。」

 

悪い方向に物を考えるのも、危険回避の為には悪くは無かろう、

だが、何かをしようとしている時にはそれは寧ろ邪魔でしかない。

 

「そうだったな・・・、済まないが、手伝ってはくれぬか?」

 

「良いだろう、かかってこい。」

 

刀を構える箒の気概に触れ、

俺もシュベルトゲベールを構え直す。

 

さぁ、見せてくれよ、お前の答えという物をな?

 

sideout

 

side箒

 

刀を構え、私は瞑目する。

 

今、私の目の前にいる一夏は、

この学園どころか、世界でも最強を名乗れる程の力を持っている。

 

誰にも屈する事のない鋼の心を持ち、

如何なる力にも傷つけられない、絶対的な力を持っている。

 

私では追い付く事の出来ない高みにいる男に、

私は直々に訓練をつけてもらっている。

 

ならば、ここで出し惜しみなどして、全力でかからないのは彼に対する侮辱だ。

 

以前、彼は私に護る為に力を使う方法を教えてくれた、

喩えそれが何かを壊す事になろうとも、護りたい物を護れると。

 

私は友を、仲間を護りたい、

その為には脅威となる物を斬る必要がある。

 

だが、それがどうしたと言うのだ、

確かに人殺しは進んでやりたいとは思わないが、

護るべき物があるときにはそうは言ってられないのが現実だ。

 

一夏は暗にそれを教えたかったのだと思う。

 

彼の想いに私は応えたい、ただそれで充分だ。

 

「行くぞ一夏!!」

 

「かかってこい!!」

 

考えるのもそこそこに、私は瞬間加速<イグニッション・ブースト>を発動させ、

一夏に一気に迫る。

 

左手に保持していた刀を、突きの要領で一夏目掛けて突き出す。

それと同時に、右手に保持している刀は逆手に持ち変え、身体で隠す様にしておく。

 

こうすれば、一撃目を避けられても二撃目に繋ぐ事が出来る。

 

だが、一撃で仕留める気でかからねば、

絶対に二撃目も当たる筈がない!

 

「ハアァッ!!」

 

「なんのッ!!」

 

私の渾身の突きを、やはり一夏は難なくシュベルトゲベールで逸らしてしまう。

 

流石は一夏だ!

この程度では傷ひとつ付けられないか!!

 

だが、もう一撃ある!!

 

「もう一撃ぃぃッ!!」

 

逸らされたのが左側だったため、その勢いにのるだけで右手の刀が出る。

ここまでは計算通り、後は当てるだけだ!!

 

「届けぇぇぇぇぇ!!」

 

「なにっ!?」

 

一夏が驚愕の表情を見せるが、そんなことを気にしている暇は無い。

 

振り抜いた刀が何かにぶつかる様な手応えを感じる、

やったのか・・・?

 

振り抜いた刀を見てみると、

一夏の左腕に搭載されていたクロー搭載型シールドで受け止められていた。

 

「中々やるじゃないか、これは予想出来なかったぜ。」

 

「止めておきながらよく言う物だな・・・!!」

 

「当然だ、だが、今のは良い攻撃だったぞ、流石だな。」

 

こんな直撃もしてないのに誉められても嬉しくないな・・・、

そうは思っても、これが実力差なのだから仕方無いな・・・。

 

「さてと、そろそろ時間みてぇだし、

そろそろ終わるとしようぜ。」

 

「あぁ、今日も済まなかったな。」

 

「気にするな、それじゃあな。」

 

シュベルトゲベールを収め、一夏はピットへと帰って行く。

 

その後ろ姿は、まさに威風堂々、

最強を名乗るに相応しい風格が漂っていた。

 

一夏、私は強くなる、

せめて自分の護りたい物を護れる位まではな。

 

sideout

 

noside

 

暗い・・・、暗い闇の中で、その者は何かに勤しんでいた。

 

時折、彼女の手元より火花が散り、僅かに周囲を照らす。

 

「ふふふ・・・、もうすぐだ・・・、もうすぐ出来上がる・・・。」

 

女、篠ノ之 束はその瞳にほの暗い憎しみの焔を燃やしながら、

自身の目の前に置いている鎧の様な物を撫でる。

 

通常のISよりも更に人形に近く、

スタイリッシュな印象を強く受けるフォルム。

 

コアが設置されている箇所に今だコアは埋め込まれていないが、

コアに馴染みさえすればすぐにでも稼動出来るという状態なのであろう。

 

「ガンダムアストレイゴールドフレーム・・・、

ミラージュフレーム・・・、もうすぐだからね・・・。」

 

アクタイオンより盗んだデータを基に作り上げたこの機体は、

束が製作したISの性能を凌駕していた。

 

目の敵にしている男が所属している企業の設計だと思うと、

使用する事に僅かばかりの抵抗感はあった。

 

しかし、勝つためには背に腹は変えられない状況であったため、

その機体の優秀さも相まって使用に踏み切ったのだ。

 

今の束の心は、自身が想っていた箒の事などは既に無く、

ただ一つ、自分を侮辱し、娘を傷付けた一夏への憎しみに塗り潰されていた。

 

あたかも、復讐だけに生きる者の様に、

愛情等消し去った様に・・・。

 

「ふふふふっ・・・、待っていろ織斑一夏・・・、

君に絶望を与えてあげるよ・・・、フフフフ・・・。」

 

一夏を殺した時の光景を思い浮かべた束は、

ほの暗い笑い声を発していた。

 

 

自身が破滅への一途を辿っているとも知らずに・・・。

 

sideout




はいどーもです!

死亡フラグ乱立中です(汗)

次回からアリアンさんとのコラボに入ります、
と言っても、この小説で書くのは導入のみで、コラボ本編はアリアンさんの小説、IS~凶鳥を駆る転生者~の方で掲載されますので、是非是非ご覧になってください。

それでは次回予告
一夏達に引き摺られ、秋良達はアクタイオン社にて異世界への扉を潜る。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
番外編 教導隊との出会い

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 教導隊との出合い

コラボの導入編です。
コラボ本編はアリアンさんの小説、IS~凶鳥を駆る転生者~で掲載されます。

そちらをお楽しみに!


side一夏

 

冬休み、それはクリスマスに年末年始と、

様々なイベントが待っている長期休暇である。

 

世界中より集まったIS学園生徒たちは、

それぞれ思い思いの冬休みを過ごすべく祖国へと帰って行った。

 

まぁ、例外的に、セシリアやシャルは俺とクリスマスや年末年始を過ごしたいと言う、

俺にとっては非常に嬉しい申し出があったため、日本に残るそうだ。

 

で、取り敢えずクリスマス前に秋良達を向こうに送らねぇと、

折角の冬休みが削れちまうからな。

 

で、俺達は何時も通りイライジャさんに迎えに来てもらい、

車に乗ってアクタイオン社までやって来た。

 

『はぁぁ~・・・。』

 

案の定と言うべきか、秋良達は盛大なため息をついていた。

 

「何しょげてんだよ、折角鍛えられるってのに。」

 

「なんで冬休みに行かなきゃなんないんだよ・・・、

と言うか、これなんて罰ゲームだよ・・・。」

 

そりゃテメェらが書類の提出期限を悠々と破った自業自得だろうが。

 

まぁ良い、取り敢えずコイツらを送り出したら後は悠々自適な冬休みが送れるんだ、

それまでは我慢だ・・・。

 

そんだこんだしている内に、

アクタイオン社の秘密区画に到着する。

 

「やぁやぁ~!待ってたよ~!!」

 

そこには、既にアクタイオン社の社長、

ミーアが待ち構えていた。

 

「久し振りだな社長、手筈は調ってるか?」

 

「もっちろんだよ~!!このミーア・ベル・オーウェンに抜りは無いのだ!!」

 

「何時も迷惑かけるな、いきなり決めた様なもんなのによ。」

 

この人にも俺は頭が上がらんなぁ・・・、

まぁ、何時もの事だがな。

 

「よし、では早速始めるとしようか。」

 

「ちょっと待って!」

 

俺達がそそくさと準備を始めようとしていると、

何故か知らんが秋良が声を上げる。

 

たく、何だよ一体?

 

「こんな所に連れて来られて、俺達は一体何をさせられるんだよ?」

 

コイツら・・・、何でそんな事も察せないとはな・・・、

ちょいとばかし呆れちまうぜ。

 

「何って・・・、テメェらのネジ曲がった根性を叩き直すに決まってるだろうが。」

 

「こんな所でか?何もねぇのに?」

 

俺の説明に、雅人は辺りを見渡しながら冗談だろという風に返す。

 

「そう言えばお前らにはまだ教えて無かったな、

お前達には実験も兼ねて、別世界で修行してもらう。」

 

『はっ・・・?・・・、えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

 

何故そんな話になってるのかと言うと、

話は一ヶ月前に遡る。

 

sideout

 

noside

 

リーグ戦が終了してから暫く経ったある日、

一夏は何時もの様に書類作業に追われていた。

 

ただ、その日は珍しく何時もより数が少なかった為に、

普段二時間以上かかる作業が一時間も経たない内に終了したのだ。

 

かなり早く終わってしまったため、彼は少々手持ち無沙汰になってしまった。

 

部屋に帰っても特にすることは無い、

だが、今からアリーナに出向いても直ぐに終了時間がやって来る、

かといって筋トレに費やす程の長さでは無い。

 

どうした物かと唸っていると、

彼は急に何かを思い立ったかの様に携帯を引っ張り出した。

 

電話帳の上から四番目に設定してある番号にコールし、

相手が出るのを待った。

 

『あいあーい、こちら社長~。』

 

『久し振りだな、少し確認したい事がある、

バリー・ホーとジャン・キャリーはこの冬休み、アクタイオンに居るか?』

 

『ううん、南米の方に仕事しに行くみたいだよ?』

 

『そうか・・・、弱ったな・・・。』

 

一夏がミーアに連絡を取った理由、

それは冬休みに秋良達を鍛えて貰う手筈を調える為である。

 

先日、書類を出し損ねた彼等に罰として、

冬休み中の修行を申し付けた訳なのだが、肝心の教官がいないという事で、

体術のバリー、量子物理学のジャンに彼等の教導を頼みたかったのだ。

 

しかし、その目論見は無情にも破れ、

計画は振り出しに戻ってしまった。

 

『やれやれ・・・、秋良達の教導を頼みたかったんだがなぁ・・・。』

 

『そうなんだ~。』

 

『それなら良い相手が居るよ?』

 

『『・・・ん?』』

 

突如として聞こえてきた第三者の声に、

一夏とミーアは揃って怪訝の声をあげる。

 

『ヤッホー♪』

 

『おいぃ!?何でアンタが出てきてんだ女神ぃ!?』

 

『ええぇっ!?どうして女神様がぁ!?』

 

軽~い女神とは対照的に、

一夏とミーアは女神の突然の登場に驚愕していた。

 

これまで全くと言って良いほど彼等に干渉する事の無かった女神が、

突如として自分達に語りかけてきたのだ、驚かない筈が無い。

 

『あははは~!二人とも驚き過ぎだよ~!』

 

『普通驚くだろ・・・。』

 

『女神様・・・、酷いですよぅ・・・。』

 

何処までも軽い女神にため息を吐き、

一夏は話を切り出す事にした。

 

『で?そのちょうど良い相手って誰だよ?

アンタが出て来るからには、別世界の人間なんだろ?』

 

『流石は一夏!鋭いねぇ~!君は一度会った事があるよ~。』

 

『誰だよ?』

 

瞬時に思い当たる節がないのか、

一夏は少し考え込む様な表情を見せる。

 

 

『・・・、まさか、彼女達か・・・?』

 

『そだよ~、一応、向こうの神さんとはお話しておいたからねー。』

 

『マジかよ・・・、まぁ・・・、それなら俺の手も煩わされずに済むな、

だが、どうやって転移させる?アンタの力を使うのか?』

 

『当然だよ~!でも、流石に目立ち過ぎるのは嫌だから、

ミーアちゃんの会社で開発した転移装置って事にしておこう!』

 

『はっ、はい!其れが良いと思います!!』

 

上司には頭が上がらないのか、

ミーアは声だけで頭を下げまくっている姿を想像させる。

 

一夏はもう諦めたのか、やれやれと言った口調だった。

 

『それじゃあ、二人とも頑張ってね~♪」

 

それを最後に、女神の言葉は聴こえなくなった。

其れを認めた一夏とミーアは盛大にため息を吐き、

段取りを調整する話し合いを始めたのだった・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

なーんて事もあったなぁ・・・。

 

お陰で向こうの神さんから大分愚痴っぽいの聞かされたし、

向こうの教導隊との話をつけるために一度だけ転移させられたり・・・。

 

どうして俺は中間管理職みたいな役回りをせにゃならなかったんだろうか・・・?

 

まあ良い、今日でそれから解放されると思えば、

一々愚痴らずとも良いか。

 

「と言う訳だ、とっとと行ってきやがれ。」

 

「マトモな説明も無しに!?」

 

今だゴチャゴチャと叫ぶ秋良をゲートに蹴飛ばし、

雅人の首根っこを掴んでゲートに投げ飛ばした。。

 

ゲートと言っても、闇の様な物が蠢いているだけの物だ。

 

「お前らも行ってこい、どうせ特訓しなければならんからな、

アイツらの面倒見、よろしく頼んだぜ?」

 

「もうちょっと説明して欲しかったけど、

行けば分かるって事だよね?」

 

「まぁそうだな、取り敢えず行ってこい。」

 

「うん、じゃあ行ってくるね。」

 

流石は簪だな、秋良達みてぇに立ち止まって無いからスッと入っていくなぁ。

 

まぁ、ラウラと鈴の首根っこを掴んでゲートの中に入っていくのは豪快だがな。

 

「行ったか・・・、さてと、俺も帰るかな。」

 

「あ、一夏、渡したい物があるからちょっと待ってて~。」

 

社長がどっかに走って行ったため、

取り敢えずその場で逆立ち腕立てを行って待っている。

 

何回もやってるから慣れたもんだな。

帰って来るまでに百回は終わらせとくかね。

 

で、暫く続けていると、

何やらアタッシュケースの様なものを六つ程抱えた社長が帰ってきた。

 

「お待たせ~!これを渡したかったんだよ~♪」

 

「なんだこれ・・・?」

 

取り敢えずケースを受け取るが、

中身が何か知ら無いために確認を取ることにした。

 

「えっとね~、左から順に、タクティカルアームズⅡ、タクティカルアームズⅡLで、

ソードカラミティのデータに、フォビドゥンブルーのデータ、それからそれから、

グリーンフレームのデータに、最後はデスティニーシルエットだよ~!

頑張って作ったんだから上手に役立ててね!」

 

「いや、装備は兎も角、データはどう使えと・・・?」

 

頑張ってくれたのはひしひしと伝わってくるから余計に無下に出来んのだよな。

 

それにしても、これ全部を俺が使うにはいくらなんでも手に剰るな、

取り敢えず協力してくれる奴等に渡して行くのがてっとり早いだろうな。

 

「まぁ良いや、有り難く頂戴するよ、それじゃあな。」

 

「はーい、良いお年を~♪」

 

「そちらこそ、良いお年を。」

 

軽い年末の挨拶を交わした後、

俺は社長に背を向けてその場を後にする。

 

外で待ってくれているイライジャさんにも悪いし、とっとと帰るとしますかね。

 

あ、そうだ、折角外に出たついでに、

セシリアとシャルへのクリスマスプレゼントを買うとするか。

 

楽しみだな。

 

sideout

 

side秋良

 

ぐにゃぐにゃと歪んでいる様な感覚を味わいながら、

俺達は異世界への扉の中を漂っている。

 

うぇぇ~・・・、気持ち悪っ・・・!!

流石に異世界の人間を別の世界に転移させようとする時の代償なんだろうけどさ、

もうちょっとマシにならないかなぁ・・・。

 

しかし、一体どんな所に行くんだろうね?

兄さんの口振りからしてみれば、知り合いっぽかったけどね。

 

「秋良、前を見てみろ、なんだか明るいぞ?」

 

そんな事を考えていると、雅人から前を見ろと声をかけられる。

それにつられて前を向くと、ただ真っ暗だった空間に、

光が満ちている場所があった。

 

多分彼処が別世界への入り口なんだと、

俺は直感的に感じた。

 

「あっちだね、取り敢えず行ってみようか?」

 

ISを展開してすらいないのに、

何故か俺達の身体はその光の方へと流れていく。

 

光を通り抜けた瞬間、

目の前が開けたと思ったら急に重力を感じて、

俺の身体は思いっきり地に叩き付けられた。

 

「ザクッ!?」

 

「グフッ!?」

 

「ドムッ!?」

 

「ゲルググッ!?」

 

「ザークレロォーッ!?」

 

俺の上に次々と雅人やら簪やらラウラやら鈴やらが落ちてきて、

俺は某公国のMSの名前を叫んでしまった。

 

流石に死ねるって・・・。

 

「イテェなぁ・・・、早く退いてくれよ・・・。」

 

「ワリィワリィ・・・、と言うか、ここ何処だよ・・・?」

 

全員に退いてもらい、顔をあげた際に、

目に飛び込んできた風景は、何処かのISアリーナみたいだった。

本当に転移したのかが疑問だよ・・・。

 

「漸く来たか。」

 

声のした方に顔を向けると、

そこにはいかにも教官然としたクールビューティーが立っていた。

 

会ったことも見たこともない女性だね、

どうやら本当に転移したらしい。

 

「私はクリスティーナ・ハウゼン。相原技研所属の教導隊をしてる。

IS、アルトアイゼンのパイロットをやってる。

お前達の世界の織斑一夏からお前達の教導を頼まれた者だ。」

 

「初めましてハウゼンさん、織斑秋良です。」

 

「加賀美雅人です、よろしく頼みます。」

 

「更識簪です。」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 

「凰 鈴音・・・、です。」

 

兄さんって、いつの間にそう言う話をつけてんだろうね?

知らない事とか、分からない事が多いなぁ・・・、あの人。

 

まぁ良いや、取り敢えず、

今はここの世界の事に集中するかな?

 

「この世界の友人、知人にはクリスと呼ばれてる、お前達もそう呼べば良い。

それは兎も角、来たばかりで疲れてるだろ、

それに荷物も置かないといけないだろうからな、着いてきてくれ。」

 

『はい。』

 

クリスさんに促され、彼女の後に着いていくことにした。

 

この出会いが、俺達のこれからの有り様を大きく変える事になるとは、

俺達が知る筈もなかった・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!

人様の小説のキャラを使うって難しいね(汗)
因みに、コラボ中は、アストレイ本編に秋良達遠征組は登場しません。
だって時間軸とかおかしくなりますしね(汗)

それでは次回予告
遂に到来したクリスマスイブ、
一夏はセシリアとシャルロットと共に、愛しい時を過ごす。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
HOLYX'mas

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

HOLYX'mas

noside

 

12月23日、クリスマスイブの前日、

冬休みに入って幾ばくか経ったその日、

一年の学生寮のとある部屋で二人の少女が自分の身体にドレスを当て、

あーでもないこーでもないと言いながら服装選びに勤しんでいた。

 

「セシリア~、これどうかな?」

 

その内の一人、シャルロットは自身の盟友、

セシリアに向けて、服の感想を求める。

 

彼女が自身の身体に当てているのは、

黒を主体としたドレスであり、露出は少な目に健康的な色気を醸し出している。

 

「悪くありませんわね、髪はほどいておいた方が良ろしいかと思いますわ。」

 

シャルロットにアドバイスしつつも、

セシリアは自身のドレスを選ぶ為に思案する。

 

「シャルさん、私はどれが良いでしょうか・・・?」

 

「セシリアは白が似合うんじゃないかな?

ほら、青いカチューシャと合わさっていい感じだよ?」

 

セシリアの身体の前に白いドレスを当て、

鏡の前に立たせる。

 

「確かに良いかも知れませんが・・・、無難過ぎでは?」

 

「まぁ、一夏がどんな色の服を着るか分からないから余計に決めにくいよね。」

 

互いに顔を見合わせ、二人は少し困った様に微笑む。

 

彼女達はなるべく一夏とのバランスを取るため、

服装にも大変気を使っているのである。

 

一夏もそれを察して、彼女達の手間が省ける様にと、

何処かに出掛ける際は前日までに着ていく服装を二人に教えているのだ。

 

「それにしても、明日が楽しみだね~♪」

 

「そうですわね、三人で過ごせる初めてのクリスマスですものね♪」

 

そう、彼女達はこのクリスマスイブに、

一夏とホテルでのディナーを予定しているのである。

 

その様子を想像した二人は、とても幸せそうに表情を綻ばせていた。

 

因みに、その誘いを出したのは勿論一夏である。

彼もイベントの時は必ず彼女達と過ごしたいと思っているのである。

 

それは置いといて・・・。

 

彼女達が衣装あわせを行っているのも、

一夏が秋良達を送り出しにアクタイオンへと出向いているためでもある。

 

「一夏の為にも、僕達が手を抜いちゃ駄目だよね!」

 

「そうですわね、しっかりとメイクアップしませんとね♪」

 

愛しい男に喜んでもらうために、

少女達は再び衣装選びに精を出すのであった。

 

sideout

 

noside

 

クリスマスイブ当日。

年に一度の素晴らしき日に、街は恋人達や家族で賑わっていた。

まぁ、中にはフライドチキン屋で働きながら血涙を流している者も居ないではなかったり・・・。

 

まぁそれは置いといて・・・。

都内有名ホテルの中にあるレストラン<ロッソ・ビオーラ>。

 

テレビでも何度も取り上げられ、芸能人等も訪れる有名店である。

特徴として、様々な国の料理が味わえる事が挙げられる。

 

都心にあるために、夜になれば夜の街を一望出来る、

正にデートにはうってつけの場所なのである。

 

そんなレストランにとある三名の客が入った事から始まる話である。

 

ホテルの前に一台のリムジンが停まり、

運転席から銀髪の美青年が降り立つ。

 

ミドルヘアーの銀髪を持ち、右目に大きな傷痕が残る青年は、

どこぞのタレントかと見紛う様な美しさを持っていた。

 

彼の登場だけで、ホテルの前を歩いていた者達は立ち止まり、

一斉に彼を見ていた。

 

だが、今回の主役は彼ではない。

銀髪の美青年、イライジャ・キールは後部座席のドアに手をかけ、

執事の恭しくドアを開ける。

 

中から降り立ったのは、癖のある黒髪を持つ黒いタキシードを纏う青年と、

蒼いドレスを身に纏った薄金髪の美少女、

そして、オレンジ色のドレスを纏う濃金髪の美少女の三人組だった。

 

その瞬間、遠巻きに見ていた者達は、

自分達が何か特別な祭典の会場にいる観客だと錯覚してしまう。

 

現に、黒髪の青年に手を差し伸べられた少女達は、

可憐に咲き誇る薔薇の様に微笑む。

 

その微笑みは、どんな名画よりも、

どんなモデルの微笑みよりも印象に残る美しさがあった。

 

「わざわざ送っていただいてありがとうございます、イライジャさん。」

 

「気にするなよ、良い男にはこれぐらい有って当然だ、楽しんで来いよ?」

 

「勿論です、さて、セシリア、シャル、行くとしようか?」

 

「はい♪」

 

「うん♪」

 

黒髪の青年、織斑一夏はイライジャに礼を述べた後、

二人の美少女、セシリア・オルコットとシャルロット・デュノアを促し、

彼女達をエスコートしてホテルの中に入って行く。

 

ホテルのロビーを通り抜けた所にあるエレベーターに乗らなければ、

レストランがある階にたどり着かない為、

彼等は必然的に人の多い場所を通ることになっている。

 

何処までも美しく、何処までも優雅な彼等の姿に、

ロビーにいた全ての人間の目は彼等に釘付けになる。

 

フロントで受付をしていたホテルマンも、

清掃をしていた作業員も、そして、

その場にいた一般客も彼等の姿に息を飲む。

 

雑誌の写真に載る様なモデルに有りがちないやらしさは何処にもなく、

あくまで自然な美しさが彼等にはあったからだ。

 

「予約していた織斑です。」

 

レストランに到着した一夏は、

ウェイターに予約していた事を告げる。

 

「御待ちしておりました織斑様、ご案内致します。」

 

初老のウェイターは紳士的な立ち振舞いで彼に応対し、

一夏達を席まで案内した。

 

その席は窓から少し離れた席であり、

夜景を見るのには最適とは言い難い場所である。

 

だが、一夏は自身の知名度、重要性を理解しているため、

外部から狙撃されない為にこの席を選んだのだ。

 

「当レストランにお越し頂き、誠にありがとうございます、

御客様は未成年者ですので、アルコール類の提供は致しません。」

 

「分かりました、クリスマス限定のコースを三つお願いします。」

 

「畏まりました。」

 

注文を承ったウェイターは一夏達に恭しく一礼し、

厨房へと向かった。

 

「 ・・・、やっぱり慣れないな、この雰囲気は。」

 

ウェイターが去った事を確認した一夏は、

ため息を吐き、少し困った様な表情を見せる。

 

「そうだね、僕もこの雰囲気は苦手だよ。」

 

「慣れているとは言いましても、やはり息が詰まりますわね。」

 

そんな彼の様子を見て、シャルロットとセシリアも苦笑を色濃くする。

 

「だが、お前達の正装が見れるのは有り難いな、

よく似合ってるぞ、二人とも。」

 

「至極恭悦ですわ♪」

 

「ありがとう一夏♪」

 

優しく微笑む一夏の賛辞に、

セシリアとシャルロットは幸せそうに微笑みかえす。

 

この一時こそが、彼等三人が最も大切にしている時間なのだ。

 

互いに他愛の無い会話をしていると、

ノンアルコールスパークリングと前菜が運ばれてくる。

 

彼等は前菜に手をつけるよりも先に、

グラスに手を伸ばす。

 

「先ずは乾杯といこうじゃないか。」

 

一夏の言葉に微笑みながら頷き、

グラスを顔の高さまで掲げる。

 

「「「乾杯。」」」

 

sideout

 

side一夏

 

乾杯した後、ノンアルコールスパークリングに口を着ける。

程好い酸味と炭酸がマッチしている中々に上質な物だった。

 

前菜にはサーモンが使われた一品物が、

スープもまろやかな口当たりが中々に旨い物だった。

 

「中々のお味ですわね。」

 

「うん、美味しいね♪」

 

「人気が出るだけはあるな、流石だ。」

 

どうしても舌が肥がちだから評論臭くなっちまうのだが、

それは仕方無いと思いたい所だ。

 

「お待たせ致しました、本日のメインディッシュでございます。」

 

俺達を席に案内してくれたウェイターが料理を運んできた。

メインディッシュは鶏肉をメインに、紅茶風味のソースで味付けした物らしい。

 

薫りも中々に良いじゃねぇか。

 

「ふむ、中々面白い味付けだな、旨い。」

 

「あら、意外と美味ですわね、こう言った物は初めていただきますわ。」

 

「ほんとだ、思ったより美味しい!」

 

創作料理も悪くないな、

後でソースの調合を考え直すかね・・・?

 

って、何要らん事を考えてるんだ俺は?

全然ロマンチックじゃねぇよ。

 

さてと・・・、

どのタイミングで渡すべきかね、コレ?

 

いざ本番となると、些か気恥ずかしいのもあるが、

緊張しちまうな。

 

「やっぱり夜景が綺麗だね~。」

 

「本当ですわね、見事ですわ。」

 

シャルとセシリアは食事を採りつつも、

窓から見える夜景を楽しんでいた。

 

「一夏♪デザートにケーキが付いてくるみたいだよ♪」

 

「季節のケーキにガトーショコラですか、美味しそうですわね♪」

 

「ほう、それは楽しみだな、そろそろ食い終わる頃だし、

頼んでも良いだろうな。」

 

甘いものには目がないんでな、楽しみだぜ。

 

渡すのも皿を片付けて貰ってからの方が良かろうな。

 

俺はタキシードの外ポケットを探り、

ちゃんと箱がある事を確認した。

 

「ウェイターさん、デザートの方をお願いします。」

 

「畏まりました、空いているお皿を御下げ致します。」

 

デザートをオーダーしたのと同時に、

ウェイター達は俺達の席から食べ終わった食器を片付けていく。

 

「一夏様、こんなに素晴らしいレストランに連れて来ていただけた嬉しゅうございます♪」

 

「美味しかったし、一夏とセシリアと来れてとっても嬉しかった♪」

 

「そうか、お前達にそう言って貰えるだけでも、

俺は本当に嬉しい、ありがとな、セシリア、シャル。」

 

そうやって、俺の傍で微笑んでいて欲しい、

束縛ととられても構わない、俺は彼女達にいて欲しい。

 

「セシリア、シャル、お前達に渡したい物がある。」

 

やべぇな、結構緊張するぜ。

そんな事を考えつつも、外ポケットから二つの小さめの箱を取りだし、

蓋を開け、それぞれ彼女達の前に差し出す。

 

セシリアに差し出した物の中には蒼い装飾が美しい銀色の指輪が、

シャルに差し出した物の中にはオレンジの装飾が美しい銀色の指輪が入っている。

 

「い、一夏様・・・?」

 

「こ、これは・・・?」

 

セシリアとシャルは突然の事に驚き、

呆然としているが、俺にもそんな事を気にかける余裕は無かった。

 

「俺からのクリスマスプレゼントだ、受け取ってくれたら嬉しい、

俺の傍に居てくれるお前達に受け取って欲しい。」

 

俺の傍にずっと立ち続けてくれている彼女達の為に、

俺がしてやれる事と言えば、彼女達が喜んでくれる様にプロデュースする事だ。

 

「一夏様・・・。

 

「一夏・・・。」

 

二人は少し照れているのか、顔を紅くして俯いていた。

 

「セシリア、左手を出してくれ。」

 

少し躊躇っているセシリアの左手を取り、ケースから取り出した指輪を薬指に嵌める。

 

「シャルも、左手を出してくれ。」

 

セシリア同様、少し躊躇っているシャルの左手を取り、

ケースから取り出した指輪を薬指に嵌める。

 

「俺と一緒にいて欲しい、お前達の心を、俺だけに捧げて欲しい。」

 

「はい♪貴方様の隣で。」

 

「僕達は戦うだけだよ♪」

 

俺の言葉に、二人は微笑みながら首肯した。

華やかに咲き誇る薔薇の様に美しいその笑みは、

俺に安らぎを与えてくれる物だ。

 

「ありがとな二人とも、愛してるぜ。」

 

「私もお慕いしておりますわ、一夏様、シャルさんも♪」

 

「二人とも大好きだよ、ずっと三人一緒だからね♪」

 

互いに愛の言葉を掛け合い、俺達は微笑みあう。

 

この時が何時までも続けられる様に、

俺は彼女達を大切にしよう。

 

クリスマスイブは、新たな決意が生まれる、

大切な夜になった・・・。

 

そして、今後興る事の、大きな転換にも・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!

ちょっとスランプ気味です・・・(汗)

次回はネタとして、
残姉さん図鑑と言う閑話を書きます。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
番外編 残姉さん図鑑

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 残姉さん図鑑

noside

 

これは、織斑一夏が記したとされるレポートの番外編的なレポートであり、

内容的には彼が体験した残念な年上女性の特徴を記した物である。

 

尚、ここに書かれている人物の年齢は、

織斑一夏が16当時の年齢の為、今現在の年齢は逆算していただければ判るだろう。

 

それでは、覚悟は良いだろうか・・・?

 

 

 

残姉さん (造)

 

見た目は中の上以上の物を持つものの、

性格や行動が残念な年上の女性の事を指す言葉である。

 

別の言葉で表現するならば、残念な美人と言う言葉が適切であると断言出来る。

 

定義としては以下の二つの属性に分ける事が出来る。

 

① 弟妹、もしくは特定の異性、同性に対して必要以上に執着する。

 

② 何処か抜けており、ドジを連発する。

 

 

②は運が悪ければ物品が壊れる等の物的実害があるが、

それ以外は可愛いなこの人で済ませられる程度の感覚でやり過ごせる。

 

しかし、①は洒落にならない程の害悪にしかならないため、

早急に排除、もしくは矯正が必要である。

 

悲しいかな、今回挙げる残姉さんは、二名を除いて全てが①のタイプに分類されている。

 

このレポートを読んでくれている諸君、

どうか最後まで倒れずに読んでいただきたい。

 

それでは、現時点で判明している残姉さんを列挙してみるとしよう。

 

 

Ⅰ 織斑千冬 (24) パターン①

元世界最強のIS操縦者、ブリュンヒルデの称号を与えられた女性。

公の場においては如何にも鬼教官然としており、

その見た目から多くの女の心を惹き付ける。

 

しかし、根はもう手の施し様の無い程に重度のブラコンであり、

弟達の部屋に隠しカメラを忍ばせているという噂もある。

 

また、家事が壊滅的であり、何か物を触れば必ず壊れる。

 

自身の自室には一夏と秋良の写真が大量にディスプレイされているらしいが、

剰りにも恐ろしい為に誰も確認を取れていない。

 

なお、一夏達が入った風呂の残り湯を飲んだと言う逸話があるが、

これは後述の更識楯無曰く、本当だそうだ。

 

対策としては、相手にしないこと、

もしくは弟が徹底的に言葉で貶し続ける等、精神的に追い込めば行動は止まる。

 

ただし、譫言の様に『弟に嫌われた』と延々と呻き続けるため非常に鬱陶しい。

これも考慮した対策を採らねばならない。

 

 

Ⅱ 更識楯無 (17) パターン①

対暗部用暗部組織、更識家の当主であり、

現ロシアの国家代表、元生徒会長でもある。

 

彼女自身の能力は非常に高く、並の国家代表を上回る実力を持つ。

しかし、妹である簪との不仲が原因で残姉さんの路を突き進む残念な美人の典型例。

 

簪の部屋のベッドの下にに忍び込んだり、

天井裏に忍び込んだりと自身の能力をストーキングにフル活用しており、

その清々しいまでの領域に、一夏からはある意味一目置かれている。

 

簪にも既に気付かれている為、彼女からの依頼を承った一夏や秋良に、

何度も壁にめり込まされているが一向に改善される気配はなかった。

 

しかし、彼女の事を理解する雅人が現れ、

彼と心を通わせている内に変態的行為は目に見えて減少していた。

 

ただし、簪が照れているのと、本人の踏ん切りがつかないため、

関係自体は一向に進展しないままである。

 

対処法としては、妹のブロマイド写真を渡しておけば周囲に被害は無い、

が、馴れてくると興奮が薄れる為に量を与えなければならない。

 

 

Ⅲ ナターシャ・ファイルス (22) パターン②

IS学園所属の教師にして、米軍最新鋭機、銀の福音のパイロット。

見た目はモデルと見紛う程に美しく、町を歩けば十人中九人の男が振り向く程の美貌を持つ。

 

しかし、中身は中学生がそのまま大人になった感が否めない上に、

何も無い場所で転んだり、書類をぶちまけたりするドジッ娘。

 

彼女一人だけならばこれだけで済む物の、

後述の山田真耶と一緒にいると、方向音痴まで加わる為に、

一夏達は手を焼いている。

 

しかし、教師としては有能かつ、IS乗りとしても優秀な為、

学園側も切ろうに切れない事が悩みである。

 

対処法としては、一切合切のドジに無視を決め込む事だけである。

 

ただし、生徒会長等の役職に就いている者は捜索に出なければならないために必ず関わらなくてはならない。

 

 

Ⅳ 山田真耶 (22)パターン②

IS学園教師にして、元日本の国家代表候補生。

見た目は高校生と呼んでも差し障りの無いほどに若く、

癒し系な雰囲気を漂わせるホンワカ系の美女。

 

しかし、中身は中学生がそのまま大人になった感が否めない上に、

列挙に暇の無いほどにドジを連発する残念な美人。

 

一人でいるときはまだ許容範囲内のドジだが、

前述のナターシャ・ファイルスと一緒にいると、

方向音痴まで加わる為に捜索活動が頻繁に行われる要因の一つになっている。

 

彼女自身も教師としては有能かつ、IS乗りとしても優秀な為、

学園側も切ろうに切れない事が悩みである。

 

対処法としては、ナターシャと同じく無視を決め込む事だけである。

が、やはり生徒会長等の役職に就いている者は捜索に出なければならないために必ず関わらなくてはならない。

 

 

Ⅴ チェルシー・ブランケット (18) パターン①

オルコット家に仕えるセシリア付きのメイド。

幼い頃よりセシリアに付き従っていたため、セシリアとは固い主従関係を越えた絆で結ばれている。

 

見た目は常に柔らかな笑みを湛えた優しい顔立ちが印象に残るお姉さんタイプの美人。

しかし、中身はセシリアに対する少しずれた愛情(所謂百合の精神)に充たされており、

セシリアがオルコット家にいないときは彼女の部屋で(自主規制)に励む事がある。

 

また、文化祭に際して来日し、セシリアと再会するが、

剰りにも恐ろしい程に変態となっていたため、セシリアからはドン引きされていた。

 

以後、セシリアはチェルシーに連絡を取っていないとか・・・。

 

また、後述のクラリッサ・ハルフォーフと一緒にいると、

互いの主(もしくは上司)に対しての少しずれた愛情により、

非常に鬱陶しい空間が形成される。

 

対処法としては、セシリアがオルコット家に居るか、

チェルシーとの縁を完全に切るかしか無い。

 

 

Ⅵ クラリッサ・ハルフォーフ (22) パターン①

ドイツ軍シュヴァルツァ・ハーゼ所属の大尉。

如何にもクールビューティーという言葉が似合い、スタイルもかなり良い女性。

ラウラが他者を拒絶していた時期は、彼女が周りに気を使い、隊をまとめあげて来た。

 

その反動かどうかは定かでは無いが、ラウラに対して可愛い物愛でたさから来ると思われる執着を発揮している。

 

文化祭以前に受け取ったラウラの水着写真のみで、

鼻血を一リットルも噴き出すなど、根本的な所が残念な美人である。

 

流石のラウラも、そんな彼女にドン引きしたのか、

文化祭以降連絡や写真を送っていないらしい・・・。

 

また、前述のチェルシー・ブランケットと一緒にいると、

互いの上司(もしくは主)に対しての少しずれた愛情により、

非常に鬱陶しい空間が形成される。

 

対処法としては、ラウラがクラリッサと別の部隊に配属される以外に道はない・・・。

 

 

Ⅶ 布仏虚 (18) パターン①

更識楯無に仕える従者。

楯無が生徒会長の任を放り出してからは一夏のサポートも行っている。

 

三編み眼鏡とイメージ通りの委員長タイプの美人である。

しかし、中身は五反田弾への恋愛感情をもてあまし、

ストーカーと化してしまった本当に残念な美人である。

 

楯無のストーキング行為が鎮静しかけた所で残姉さん化したため、

楯無の変態が感染したと言われるが、決してそんな生半かな物では無い。

 

また、五反田弾の妹、五反田蘭が極度のブラコンであったため、

彼に告白しようとしたときに修羅場になったとされているらしいが、

当事者達が何も語らない為に真偽は定かでは無い。

 

弾も彼女に惚れてはいたが、ドン引きしたかどうかなどはこちらに伝わって来ていない。

 

対処法としては、弾と一刻も早くくっつく事であり、

蘭と同じ男を共有する事だけである。

 

 

以上七名が現時点で判明している残姉さんである。

残姉さんがどれ程鬱陶しく、危険な存在であることが理解して頂けただろうか?

 

私は自分が被ってしまった被害を、読者諸君にまで被って欲しくは無い。

 

もし彼女達の様な存在に出会ってしまった場合は、

本レポートを参考に対処して頂きたい。

 

これ以上残姉さんが増える事が無いよう、切に願う。

読者諸君の胃の安寧が永久に続く事を、切に願う。

 

裏織斑レポートNo.0 残姉さん図鑑[織斑一夏著、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア編]より抜粋。

 

 

 

 

 

余談だが、このレポートを発見した者達は、

綴られた内容に絶句、悲嘆、ドン引きし、表側も含めた全てのレポートを封印、

このレポートを日の下に出すことは無かったとされている・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!!

今まで登場した残姉さんを纏めてみましたwww

何でこんなの(残姉さん)書いたんだろう?(汗)

まぁ、良いや、次回予告。

年末年始を目前に控えたある日、
一夏は愛しい者達との時間を過ごす。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
優しさに包まれて

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

優しさに包まれて

side一夏

 

クリスマスも終わり、年末までの4日間を報告書等で潰し、

年の瀬まであと1日と言う所で、俺達は実家に戻ってきた。

 

何故俺達なのかだって?

セシリアとシャルが着いてきたがったから、

日本式の年末年始を味あわせてやろうと思って連れてきたんだよな。

 

「久し振りに帰って来たな・・・、

かなりホコリがたまってやがるぜ。」

 

「それでは換気いたしませんと。」

 

「じゃあ大掃除からしないとね♪」

 

俺の家に上がると同時に、

セシリアとシャルは何故か掃除を始めようとしていた。

 

いや、有り難いのだが、客人にそんな事をさせる訳にはいかん。

 

「お前達はゆっくりしてろよ、わざわざやる必要は無い。」

 

「何を仰いますか一夏様、私達はもう貴方様に身も心も捧げると決めた女。」

 

「一夏の家族みたいな物だからね♪」

 

・・・、そうだったな・・・。

俺はまだそれに僅かながらの申し訳無さを感じてるんだろうな。

 

だが、彼女達の心に後悔はもう無いと見た。

ならば、俺は彼女達が望むことをさせてやるだけだな。

 

「分かった、じゃあ三人でやろうぜ?」

 

「はい♪」

 

「うん♪」

 

二人は笑顔で頷き、

何で持ってきてたのかは疑問だが、

エプロンを着けていた。

 

似合うから良し、

若妻が二人もって、俺はどんだけ幸せ者なんだか・・・。

 

「俺は水回りの掃除をしとくから、お前達は窓や床を頼んだ。」

 

「はい♪」

 

「分かった♪」

 

俺も袖を捲り、ゴム手袋を装着して掃除を始める。

 

さてと、主夫モード全開で行きますかね。

 

sideout

 

sideセシリア

 

ゴム手袋を装着して、私は一夏様に申し付けられた窓拭きをするために、

洗剤とから雑巾、そして濡れ雑巾を用意します。

 

なんでも、洗剤をかけた後に濡れ雑巾で満遍なく拭き、

その後にから雑巾で水分を拭き取ると、余計な汚れが目立たないそうです。

 

先日、一夏様に手取り足取り教えて頂いたお陰で、

私の家事スキルは並み程度には底上げさせて頂きました。

 

ですので、この程度の掃除でしたら苦になりません。

 

それに、意外と窓拭きと言うのも面白い物ですわね、

新鮮と言いますか、なんと言えば良いかは疑問なのですがね。

 

「これで・・・、綺麗になりましたわ♪」

 

大体30分程でリビングの窓全てを拭き終えました。

流石に二階は一夏様にお尋ねしてからの方が良いと判断しましたので、

先に一階を掃除させていただく事にしました。

 

(とは言いましても、シャルさんが掃除機をかけていますので、

流石にこれと言ってやることもありませんわね。)

 

紅茶でも淹れたい所ですが、

流石に掃除機がかかっている中では埃が入るかも知れません。

 

手持ち無沙汰とはこう言う事を言いますのね、

やることが無いのも考え物ですわね。

 

あ、やることがありましたわね、

まだ荷物をお部屋に運んでいませんでしたわね。

 

「一夏様~、私とシャルさんの荷物はどちらに置いておけばよろしいでしょうか~?」

 

「あ~、俺の部屋に置いといてくれ、二階に上がってすぐの部屋だ。」

 

「かしこまりました~。」

 

私とシャルさんの分の荷物を持ち、

階段を昇ります。

 

少し急ですが、これも中々に新鮮でちょっとだけ楽しく思えます。

 

ちょっとした嬉しさを感じているうちに、一夏様の部屋の前に到着しました。

 

<一夏's room>と下げられているプレートがありましたので、

すぐに見つける事が出来ました。

 

ですが、やはり入る事には少しながら照れがありますわね・・・。

愛しき御方のお部屋となると、緊張する物なのです。

 

何時も何の躊躇いもなく夜を共にしてるでは無いかですって?

IS学園の一夏様のお部屋は私達の愛の巣ですから、カウントしませんわ。

 

ですが、何時までも突っ立っている訳にもいきませんので、

覚悟を決めてお邪魔することにしました。

 

ドアノブに手をかけ、扉を開けてお部屋の中に入ると、

一夏様の残り香が届きます。

 

あぁ・・・、こうしているだけで一夏様に抱き締められている様な錯覚を覚えますわ、

そこまで強い匂いでは無いのですが、やはり好きな匂いだとこれ程までに敏感になるのですね・・・。

 

そこで立ち止まらずに、お部屋の隅に荷物を置き、

一階に戻る事にしました。

 

また後で来れるでしょうし、

今は一夏様とシャルさんと三人でこの一時を過ごしたい物ですから。

 

階段を降り、リビングに戻りますと、

掃除を終えた一夏様とシャルさんがソファに座っておられました。

 

「終わったかセシリア?」

 

「はい♪シャルさんの御荷物も運んで置きましたわ。」

 

「ありがとうセシリア、気が回らなかったよ。」

 

「いえいえ、構いませんわ。」

 

私も一夏様のお隣に座らせていただき、

一息つきます。

 

「手間をかけさせたな、お陰で予定より早く終わらせられたぜ。」

 

「それほどでもありませんわ一夏様。」

 

「僕達は手伝えただけでもちょっと楽しかったしね♪」

 

「そう言ってくれるとは思わなかったな、

ありがとなセシリア、シャルも。」

 

一夏様は私とシャルさんの髪を撫でつつ、

私達に謝辞を与えて下さいます。

 

この優しい手つきと、優しい言葉こそが、

私達に安らぎと幸福感を与えて下さいます。

 

この一時こそが、私とシャルさんが存在する意義なのだと思うことがあります。

 

「さてと、晩飯の買い出しと年越し蕎麦の買い出しに行くとするかね?」

 

「私も参りますわ一夏様♪」

 

「僕も行くよ♪」

 

買い物と言う、一般的な日常も味わいたい物ですからね♪

 

暫くの間のんびりしたあと、

私達は夕食のお買い物へと出掛けました。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

一夏に連れられて、

近くにあるスーパーにやって来た。

 

なんだか懐かしいなぁ、こう言う所に最後に行ったのって、

もう何年も前のことだしね~。

 

フランスにいた頃はお母さんと来てたけど、

こうやって大好きな一夏と、大好きなセシリアと一緒に出掛けるのもやっぱり良いなぁ・・・。

 

「さてと、とりあえずは今日の晩飯の献立から考えるか、

蕎麦はダシと麺とネギさえあれば何とかなるしな。」

 

「お蕎麦って案外手間隙掛からないからね、

一夏とセシリアは何が食べたいの?」

 

「ん~?俺は何でも良い、あえて言うならば鍋も良いかもな。」

 

「お鍋、ですか?」

 

あの硬くてどう考えても陶器にしか見えないのをどうやって食べるんだろう・・・、

って思ってるんだろうねセシリア、それは間違いだからね?

 

「セシリア、お鍋自体を食べる訳じゃないんだよ?」

 

「へっ?そ、そうなんですの?」

 

「鍋にダシやら野菜やら肉やらを入れて煮込んで喰うんだよ、

お前達二人には馴染みの無い食いもんだろうし、ちょうどいい。」

 

僕がツッコんで一夏が説明すると、

セシリアは少し顔を紅くしていた。

 

そんなに恥ずかしがらなくても良いのに、やっぱりセシリアは可愛いね♪

 

「さてと、とりあえず肉団子に豚肉のスライスは外せんし、

野菜は白菜とか入れとけばOKだろ。」

 

一夏は野菜やお肉を選別しながら籠に入れていく、

三人分だから結構買い込まなきゃ足りないしね~。

 

「他に入れて欲しい具材はあるか?ただし、流石にこれはと言う物だけは俺が止めるからな?」

 

「じゃあ僕はウィンナーかな?カレー鍋も美味しそうだよ?」

 

パックで売ってあるカレー鍋の素って凄く気になるし、

読んでみたら〆はチーズたっぷりのカレーリゾット!

 

うん、本当に美味しそうだったからつい頼んじゃったよ。

 

「カレー鍋ですか、面白そうですわね、他には・・・、

はんぺんやお餅があると美味しいみたいですわね。」

 

「それで決まりで良いか?創作鍋は俺も初めてだし、良いかもな。」

 

あ、そんなノリで良いんだ、でもまぁ、一夏なら美味しそうな料理作ってくれるだろうし、

心配はしてないんだけどね♪

 

「さてと、蕎麦の材料を探して帰るか。」

 

「はい♪」

 

「うん♪」

 

三人で過ごす初めての年越しなんだ、

絶対に楽しもうっと♪

 

sideout

 

side一夏

 

てな訳で、買い出しから戻った俺達は早速調理を始めることにした。

 

二人の料理の腕は熟知しているし、

野菜を切ったり肉をカットするのは楽に出来るだろう。

 

俺は少々力がいる仕事、まぁ鍋やコンロを出したり、

ガスボンベを準備したりしてたんだがな。

 

で、カレー鍋の素を鍋に流し込んで、白菜や人参、それからはんぺんにジャガイモとかと一緒に煮込む。

肉は後で入れても大丈夫だ。

 

でもって、後は少し待つだけだな。

 

あ、忘れる所だったな、米炊いとかねぇと。

シャルはカレーリゾットを楽しみにしてたみたいだし、

忘れたら紳士の名折れだ。

 

キッチンに行き、ちゃちゃっと米を洗い、

炊飯器にセットする。

 

彼女達の手元を見れば、粗方準備は終わっている様だ。

 

「よし、下準備は終ったみたいだな?」

 

「はい、お肉の準備は終わりましたわ♪」

 

「お野菜もちゃんと切れてるよ♪」

 

なら、後は鍋の中に放り込んでグツグツ煮込むとしますかね。

 

「おし、とりあえず煮込むとするか、箸と取り皿は持っていってるからな。」

 

テーブルに用意しておいたコンロの上に鍋をセットし点火、

沸騰し、具が煮えるまで暫くの間待つ。

 

「セシリア、シャル、手伝ってくれてありがとな、

お陰で色々とはかどった。」

 

「こちらこそ、一夏様の御自宅に連れてきて下さって、

本当にありがとうございますわ♪」

 

「一度は絶対に行ってみたかったから、本当に嬉しいよ♪」

 

「これぐらいで喜んでくれるなら、何度でも来たら良い、

お前達なら、いや、お前達に来てほしい。」

 

セシリアとシャルといれるならば、

俺はどんなところでも彼女達を連れていってやりたい。

それが俺に与えられているもうひとつの役割だ。

 

「さてと、そろそろ出来上がるな、野菜もちゃんと食えよ?」

 

「子供扱いしないで下さいまし!」

 

「流石に今のは無いよ!!」

 

「ハッハッハッハッ!!冗談だ!ほれ、もう出来上がってるぞ!」

 

「もうっ!一夏の意地悪!」

 

「いけずな御方ですこと、でも好きですわ。」

 

二人と軽いやり取りをしつつ、

俺は彼女達の取り皿に肉や野菜、そしてはんぺん等を取り分けていく。

 

「それじゃあ、いただくか。」

 

「「いただきます。」」

 

三人で手を合わせ、食事にありつく。

 

カレー風味のスープが具材に絡まり、

いい感じの辛さで食が進む。

 

「ン!なかなか旨いな!これは当たりだな。」

 

「美味しい!カレー鍋も良いね!」

 

「美味しゅうございますわね♪」

 

「これはこれからもやっても良いかもな。」

 

野菜にもしっかり味がついてるし、

ポン酢とかゴマだれが要らんから手間も省けている。

 

掃除や片付け、買い出しで程好く腹も減っていたから、

箸が進む。

 

気がつけばすぐに鍋の中は出汁以外全て無くなった。

 

そろそろ米も炊ける頃だし、

チーズも出しとくかね?

 

「よし、リゾット作るぞ~、また暫くは待つとしますかね。」

 

米をカレースープに浸して、その上にチーズをたっぷり振りかける。

 

「あ~、良いにおいだね~。」

 

「待ちきれませんわね。」

 

「まぁ、待てって、もうすぐ出来るからな。」

 

コイツらも見かけの可憐さによらず、

結構な量を喰うからな。

 

そんな事を考えている内に、

リゾットが炊き上がったみたいだ。

 

うん、良い具合に染みてるな。

 

「ほれ、熱いから気を付けろよ、火傷なんてするんじゃねぇぞ。」

 

二人の取り皿にリゾットを取り分け、

自分の取り皿にも入れる。

 

「熱っ!でも美味しい~。」

 

「はふはふっ・・・、熱々が一番ですわね。」

 

「熱いな、だがこれは旨いぞ。」

 

〆にリゾットってのも悪くは無いな。

あ~、旨いな~。

 

出来上がってから五分も経たない内に、

俺達はリゾットを平らげてしまう。

 

や~旨かった。

 

「は~、僕もうお腹いっぱいだよ~。」

 

「美味しかったですわね~。」

 

「オラ、片付けが残ってるぞ、ダラッとするなよ。」

 

「「えぇ~・・・。」」

 

えぇ~・・・、じゃねぇよ、

ちょっとは手伝えや。

 

「セシリアは食器を運んでくれ、

シャルは机の上を拭いた後、俺が洗った食器を拭いてくれ。」

 

「「はーい。」」

 

ちょっとめんどくさそうにしながらも、

二人は立ち上がって片付けを初める。

 

なんかこういう然り気無い日常ってのも良いな。

ずっとこう言う事が出来たらどれ程幸せなんだろうな・・・。

 

「セシリア、シャル。」

 

「はい?」

 

「どうしたの?」

 

二人は手を止め、俺の方に振り返った。

伝えたいんだ、感謝の言葉をな。

 

「今年も世話になったな、来年もよろしく頼む。」

 

「こちらこそお世話になりました。」

 

「来年も三人で一緒にいようね♪」

 

二人は笑顔で答え、自分達の作業へと戻っていく。

さてと、俺もやりますかね。

 

この幸せな一時を無駄にしないためにもな・・・。

 

こうして、俺の年末は幸福に包まれながら終わりを迎えるのであった・・・。

 

sideout

 




さてさて、次回予告

年も明けた学園にて、
一夏は協力者を集めはじめる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
力への誘い

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

力への誘い

noside

 

年が明けた1月3日。

 

IS学園は冬休みが他の高等教育機関よりも少々長めの為、

いまだ寮に人影も少なく、閑散としていた。

 

恐らくだが、翌日の1月4日になれば帰ってくる者もいるだろうが、

今では全学年、教職員合わせても百人に充たないほどしかいなかった。

 

そんな中、寮内の一角に二人の男女の姿があった。

 

「こんなところに呼び出して、一体どうしたというのだ?」

 

「休暇中に呼び出して悪かった、だが、

その分を十分に補える物をくれてやる。」

 

黒髪ポニーテールの少女、篠ノ之 箒は、

自身を呼び出した男、織斑一夏に用件を尋ねる。

 

「まぁ、お前からの呼び出しには応えないのも失礼に値する、

折角私を鍛えてくれている師を蔑ろには出来ない!」

 

「そこまで言わんで良い、俺はお前を生き残らせる為に鍛えているだけだ、

っと、そんなことは良い、お前にこれを渡そうと思う。」

 

何やら拳を握り締めながら熱く語る箒に苦笑しつつ、

一夏は右手に持っていたアタッシュケースを彼女に手渡す。

 

「これは一体なんなのだ?」

 

アタッシュケースの中身が判らない箒は、

不審な物かと勘繰り、一夏に問い掛ける。

 

「アクタイオン社で製作した新装備だ、

その名もタクティカルアームズⅡL、見た目は巨大なバスターソード、

しかし、変形させる事でスラスターやビームアロー、そしてマガノイクタチ、ヴォワチュール・リュミエールを利用した高速機動も可能な複合型兵装だ。」

 

手持ちのディスプレイからデータを呼び出し、

何かの宣伝でも行うかの如く説明する。

 

「なっ・・・!?こ、こんな装備は貰えない!

どうしても使いこなせると思えないんだ!」

 

あまりの装備の煩雑さ、そして強力さに若干引きぎみなほうきは、

自分が扱い切れる自信がなかった為に受け取りを辞退しようとした。

 

しかし、一夏は大声で笑った後、大きく首を横に振る。

 

「案ずるな、これはお前の力になってくれる、

俺には無用な物でな、せめて、お前が使ってやってくれればこいつも幸せだろう。」

 

「・・・、分かった、ありがたく使わせて貰おう、

だが、またレクチャーをしてくれるか?」

 

「当然だ、この織斑一夏、アフターケアも怠る気はないさ。」

 

「ありがたい、ではな。」

 

一夏からデータが入っているアタッシュケースを受け取り、

箒は彼に背を向けて去っていった。

 

その背中を見送り、一夏は懐から手帳を取り出し、

あるページを開いて何やらチェックを入れる。

 

「箒にタクティカルアームズⅡLは渡せたな・・・、想像通りに進んだな・・・、

だが、これからややこしい奴等が固まってるからな、ま、そこをなんとかするのが俺の腕だな。」

 

手帳の中には、それぞれの武装及び、データを渡す先の候補が記されており、

箒もその一人だったのだ。

 

「さて・・・、次はアイツだな・・・、クックックッ・・・。」

 

sideout

 

noside

 

「簪ちゃ~ん・・・、雅人ぉ~・・・、何処なの~・・・?」

 

情けない声を出しつつ、更識楯無は寮の廊下を徘徊していた。

 

彼女は最愛の妹と、最近なんとなく気になる相手をクリスマス前から探し回っていた。

 

しかし、一向に見付からないまま年が明け、嫌な予感が頭を過りはじめていた。

 

「なんで二人ともいないのよぉ・・・。」

 

「さぁな、拉致でもされたんじゃないか?」

 

「!」

 

探し続ける楯無を嘲るような声が響き、

彼女は弾かれた様に振り返る。

 

そこには薄い笑みを浮かべた彼女の宿敵、というか犬猿の仲である一夏が立っていた。

 

「貴方・・・!!何か知ってるわね!?」

 

「なんのことやら?俺はただ可能性を提示しただけの事、

真実を知ってるとは限らんぜ?」

 

「黙りなさい!簪ちゃんと雅人の居場所を知ってるのね!?教えなさい!!」

 

普段は人をからかう様な雰囲気を持っている楯無も、

完全に自分を馬鹿にしたような態度をとる一夏に苛立っていた。

 

「・・・。」

 

「黙って無いでとっとと吐きなさい!!」

 

「いや、お前が黙れと言ったから黙ってるんだけどな?」

 

「・・・!!」

 

完全に挙げ足を取られ押し黙る楯無を、

一夏はさも愉快という表情をしながら眺める。

 

「クックックッ・・・、良い表情をしてるな?そんなに俺が嫌いか?」

 

「嫌いも嫌い、大嫌いよ!」

 

「ハッハッハッ!!それは結構、俺もお前ごときを歯牙にかける程暇じゃない。」

 

楯無の言葉を聞いた一夏は盛大に笑った後、踵を返して歩き去ろうとする。

 

そんな彼を睨みつけるが、どうあがいても現状で勝てる確率があまりにも低いために飛びかかる様な事はできなかった・・・。

 

そんな時、一夏がふと足を止め、

振り返りつつ何かを投げてくる。

 

「っ!?」

 

USBの様な物だった為、楯無は避ける事なくキャッチした。

 

「俺が気に入らないならソイツを使いこなして俺を倒してみろ、

そんな気が無いなら壊しても構わんよ、それじゃあな。」

 

楯無を指差し、今度こそ彼は踵を返して角を曲がった。

 

「倒してみろですって・・・?

何処まで上から目線なのよ・・・!!」

 

一夏の態度が一々癪に障ったために、

楯無は怒りに震え、拳を握り締めていた。

 

「良いわ!絶対に見返してやるわよ!!覚悟して置きなさい織斑一夏!!」

 

誰に宣言するでもなく、楯無はそう叫んだ後、

一夏が歩き去った方向とは別の方向に向けて歩き去った。

 

「・・・、行ったか、単純というか扱い易いというか・・・、

馬鹿正直な奴だな・・・。」

 

楯無が去った後、廊下の角からひょっこりと一夏が姿を現す。

 

どういう対処法を採るのか気になった彼は、

気配を可能な限り消し、盗み聞きしていたのだ。

 

結局、予想した通りに事が進んだため、

なんとなく拍子抜けした様な感じを受けたのだ。

 

「まぁ良い、思ったより楽に事が進んだな・・・、

さて・・・、残るは四人、か・・・、誰を選ぶとしようかね?」

 

またしても手帳を取り出し、楯無の欄とタクティカルアームズⅡの欄にチェックを入れる。

 

「次は・・・、あの二人をけしかけてみるかね?」

 

次の候補を選定し、一夏はその方向に向けて足を進めようとした、その時・・・。

 

「おう、織斑会長じゃねぇか。」

 

「こんな所でなにやってんッスか?」

 

ダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアの両名が彼に話しかけてきた。

 

「おや、これはこれはお二方、明けましておめでとうございます、

調子は如何ですかな?」

 

「まぁまぁって所ッスかね。」

 

「おう、ま、アタシらの事はどうでも良いじゃねぇか、

会長殿がこんな所まで来てる理由をお聞かせ願いたいね。」

 

調子を尋ねる一夏の言葉に返しながらも、

ダリルは何故彼が二年寮と一年寮の境目付近まで来ていたのか尋ねる。

 

「それに、さっきは楯無をからかってたみたいじゃねぇか?

スカッとしたぜ~?」

 

「アイツに言葉で勝てた人間を見るのは初めてッスよ、

流石は最強を名乗るだけはあるッスね。」

 

「楽しんでいただけた様でなにより、

ファンサービスの一環としてお教えしましょう。」

 

ダリルにせよフォルテにせよ、

楯無のからかいを快く思っていなかった様だ。

 

そこに楯無よりも年下の一夏が、

完全に楯無をからかい抜き、彼女の平静さを欠かせたのだ。

 

驚くのと同時に、自分達が為せなかった行為に純粋な興味を抱いたのだ。

 

「実は今、少々協力者を集めている所でしてね、

データを録るのにご協力願えないかと思いましてね?」

 

「ふーん、じゃあなんでアイツをからかってたんだよ?」

 

「そうッスね、普通ならそんな事をする必要なんて無いッスよ?」

 

一夏の言葉に違和感を覚えた彼女達は、

彼の真意を探るべく、楯無を引き合いに出す。

 

「普通ならね、アイツは俺の事を目の敵にしています、

つまり真正面から協力を依頼しても断られるのが関の山。」

 

「まぁ、そうだろうな。」

 

「想像できるッスね。」

 

一夏の説明を聞いた二人はごもっともという風に頷く。

まぁ、先の一夏と楯無の会話を見ていれば一目瞭然だろうが。

 

「で、俺はわざとアイツを馬鹿にしたような態度をとって、

反骨精神を煽ってそうとは知らずにこちらに協力させてるって事ですな。」

 

「へぇ~、中々に策士だなお前。」

 

「人を手玉にとる方法をよく知ってるスね~。」

 

「恐縮です。」

 

彼の説明に感心したかの様に、彼女達は目を丸くする。

 

実際、彼女達は一夏の事を恐怖統制を全面に押し出した戦争屋タイプの人間だと思っていた。

しかし、実際に会ってみて会話をした彼は、

戦士然とした全校集会から受けた印象とは違い、

人の搦め手を突く策士の一面を垣間見せたのだ。

 

オールマイティに力を発揮する一夏に、

彼女達は純粋な尊敬の念すら浮かべていた。

 

「そこで、貴女方にもお手伝い願いたいのですが、引き受けていただけませんか?」

 

一夏は懐より二本のUSBを取り出し、

ダリルとフォルテに差し出す。

 

「それはなんスか?」

 

「これはアクタイオンで実験段階にある新しい機体のデータです、

実験機のデータですが、通常のISを凌駕しています。」

 

「おいおい、そんなモン、アタシら部外者に渡しても良いのか?

リークしちまう可能性もあるのに?」

 

一夏の思わぬ提案に彼女達はまた違う意味で目を丸くする。

あまり関わりの無い自分達に、まさかそんな提案をしてくるとは思わなかったのだ。

 

「ご心配なく、IS以外の端末では作動しない様にプロテクトをかけています、

貴女方が力を欲する時に使用してください、きっと貴女方の力となるでしょう。」

 

「・・・、良いのか?」

 

「構いません、俺としても少しでも護りとなる力が欲しい物ですから。」

 

「分かったッス、有り難く使わせてもらうッスね。」

 

一夏の手より、ダリルは赤みがかかったオレンジのUSBを、

フォルテは青いUSBを受け取る。

 

「織斑会長、恩に着る。」

 

「またよろしく頼むッス。」

 

「はい、それでは失礼します。」

 

ダリルとフォルテに一礼した後、一夏は背を向けて歩き去った。

 

「それじゃ、アタシらも行くとするか?」

 

「そうッスね。」

 

彼が歩き去った事を確認し、

彼女達もその場を立ち去った・・・。

 

 

「さて、これで四人・・・、後は・・・、あの二人か・・・、

どうも気が進まないな・・・。」

 

その場所から少し離れた場所で、

一夏は再び手帳を開き、何やら苦い表情をしていた。

 

「あんな感じじゃなかったら何の躊躇いもなく頼めてたんだがなぁ・・・。」

 

頭痛でもするのか、顔をしかめつつ次のターゲットがいるであろう場所を目指す。

 

そんな時、彼の携帯に着信が入った。

 

「・・・、はい、織斑です。」

 

激烈に嫌な予感がしつつも電話に出ると、

受話器からIS学園理事長、轡木十蔵の声が聞こえてくる。

 

『一夏君ですか?実は捜索をお願いしたいのですが・・・。』

 

「・・・、あの二人ですか?」

 

『はい、お願い出来ますか?』

 

「分かりました、用事も有りましたので都合が良いですし。」

 

『お願いしますね。』

 

十蔵からの電話が切れたのを確認し、

一夏は盛大なため息を吐いた。

 

「なんで今日はこんなに都合良く動くのやら・・・、

まぁ良い、さっさと用事済ませるとするかね。」

 

頭痛が酷くなることを自覚しつつも、

彼は役目を果たすために行動を開始した。

 

sideout

 

noside

 

それから二時間の後、

一夏はセシリアとシャルロットの助力もあり、

なんとか真耶とナターシャを見つけ出した。

 

「さて・・・、今日こそは何かしら懲罰を与えましょうかねぇ?」

 

「い、一夏君・・・、せ、せめて正座をやめてもいいですか・・・?」

 

「さ、流石に足が痛いわ・・・。」

 

いい加減、頭に来た一夏に正座させられる真耶とナターシャは、

涙目になりつつも彼に尋ねる。

 

「黙れこの中身中学生どもが、

アンタらに与える慈悲なんてねぇんだよ。」

 

「「酷いッ!?」」

 

一夏の辛辣な言葉に、

真耶とナターシャは泣きたい気分を抑えながらも叫んだ。

 

「酷かねぇわ!!アンタらが一々迷子になるからこうやって説教してんだろうが!!

22にもなってこんなんとか、アンタらいい加減にしやがれや!!」

 

「「うぅっ!?」」

 

痛い所を突かれ、彼女達は胸を抑えて呻く。

年齢を言われれば情けなく感じるのであろうか・・・?

 

そんな事はどうでも良いとして・・・。

 

「まぁ良いでしょう、迷子云々はこの際、不問にさせて頂きますよ、

貴女方にお願いしたい事もありますしね、

これから理事長室に向かってください、理事長がお呼びです、

それと・・・。」

 

一夏は少々棘のある言葉を吐きつつも用件を伝え、

懐から二本のUSBメモリを取り出す。

 

「アクタイオンで実験段階にある機体のデータです、

データ検証の為に、貴女方の機体に組み込んでおいてください。」

 

「「えっ?」」

 

一夏の予想外の言葉に、

真耶とナターシャは目を丸くする。

 

「最近何かと物騒ですからね、

少しでも護りとなる力が欲しいのです、

山田先生とファイルス先生のお力、お貸し願いたい。」

 

真耶に緑色のUSBを、ナターシャには青紫のUSBを手渡す。

 

「えっと・・・、一夏君?」

 

「なんで、私達にこれを・・・?」

 

「裏など何もありません、ただ、この学園とそこにいる全ての者を護る力が必要なのです。

国家ISパイロットだった貴女方のご助力、期待しています。」

 

戸惑う真耶とナターシャにそれ以上何も語らず、

一夏はセシリアとシャルロットを連れて歩き去った。

 

その場に残された二人は、

互いに顔を見たわせた後、一夏に言われた通りに十蔵の下へと向かう為に歩き出す。

 

一夏の思惑に疑問を感じながらも・・・。

 

 

「・・・、さて、これで全て渡せたか、結構時間がかかっちまったな・・・。」

 

寮の自室に向けて歩いていた一夏は、

手帳を開き、真耶とナターシャの欄にチェックを入れる。

 

「一体、何を渡されていたのです?」

 

「新しい機体のデータって言ってたけど、データだけ渡しても意味があるの?」

 

彼の隣を歩くセシリアとシャルロットは、

何時もの事ながら、彼のやろうとしている事を理解しきれずに尋ねる。

 

「まぁ見ていれば良い、どう転んでも、面白い事になりそうだからな・・・。」

 

楽し気に話す一夏の言葉に、

二人は互いに顔を見合わせながら首を傾げる。

 

(一夏様は一体何をお考えなのでしょう?)

 

(機体のデータだけ渡しても戦力にはならないよね?)

 

((もし、データが役にたつとするな・・・?))

 

「「・・・!?」」

 

一夏がとった行動と自分達の経験を当て嵌め、

彼女達は彼の考えに辿り着いた。

 

「まさか・・・!」

 

「データだけを渡した理由って・・・!」

 

「クックックッ・・・、楽しもうぜ、アイツらが歩む道をな。」

 

彼女達の驚愕を他所に、

一夏は薄く笑い、歩みを進めた。

 

まるで彼の行く先が、彼の望む物であるかの様に・・・。

 

sideout




はいどーもです!

アリアンさんの小説、IS~凶鳥を駆る転生者~にて、本格的なコラボが始まりました。

秋良達の涙が見れますww

それでは次回予告
冬休み終了二日前、
IS学園に危機が迫る。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
誘われし者 前編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誘われし者 前編

side一夏

 

1月6日

自国や親元に帰省していた生徒や教師の大半が戻り、

数日後に迫った三学期の始業式に向けて動き出していた。

 

とは言っても、俺のやる事は何も変わる事は無い、

ただ与えられた仕事をこなし、時に策を巡らせる程度の事しか無い。

 

何か特筆すべき点があるとするならば、

箒やダリル、フォルテの模擬戦の相手をした位だ。

 

楯無は俺の手を借りる気が無いらしく、

独りで扱い切ろうとしていたが、恐らくは使いこなせない事は明白だ。

 

非ガンダムタイプの機体にはあの手の兵装は使いこなせない。

喩えそれらしく戦えたとしても、能力を完全には出しきっていない事の方が多い。

 

もし、十全に扱える様になった暁には・・・、

いや、それはその時に判る事だ、ここでとやかく言う必要など無いだろう。

 

全ては必然として目の前に現れ、人間を試すかの如く立ちはだかる。

 

それをどう受け止めるかは人間次第だ・・・。

 

さて・・・、時代の流れは俺に何を見せてくれるのか・・・、

楽しみだな。

 

sideout

 

noside

 

同日、

IS学園第3アリーナに四機の機体が集っていた。

 

一機は織斑一夏が駆るストライクノワール。

一機は篠ノ之 箒が駆る紅椿。

一機はダリル・ケイシーのヘル・ハウンドver2.5。

最後の一機はフォルテ・サファイア駆るコールド・ブラッド。

 

普段はまず同じ場所に集う事のない四人が、

何故一同に会しているかというと、

彼女達は一夏に特訓を着けて貰おうと彼に依頼した際、

一夏は三人同時に相手にすると宣言したためである。

 

その申し出に、彼の真の実力を知らないダリルとフォルテは耳を疑ったが、

箒の表情が畏怖に染まっていた為、そのまま何も言わずに今に至ると言う訳だ。

 

「三人とも準備は良いか?

三対一となると、俺も流石に手加減は仕切れないからな。」

 

「構わない、むしろそう来てくれ無くては私達の鍛練にならない。」

 

「最強と誉れ高いお前の実力を、アタシらに見せてくれよ。」

 

「本気でいくッスよ~?」

 

一夏の問い掛けに、

各々闘志を燃やしながら返答する。

 

まるで、手を抜く様なら逆に倒してやるとでも言うような雰囲気に、

一夏は口元に薄い笑みを浮かべる。

 

「その闘気、心地いい、もっとたぎらせろ、

そして、俺に己が戦いを示してみせろ!!」

 

一夏の叫びと共に、三人は彼に向けて動き出す。

 

「はぁっ!!」

 

箒は一夏より譲り受けたタクティカルアームズⅡLを振りかぶり、

スラスターを全開にしながらも彼に斬りかかる。

 

「いい突進だ、だが、タクティカルアームズでの唐竹割りはお奨め出来んな。」

 

一夏は彼女の左側へと回り込み、タクティカルアームズⅡLの斬撃を回避、

同時に回し蹴りを箒の背中に叩き込む。

 

「ぐぁっ!」

 

「貰ったッ!」

 

蹴りを叩き込んだ隙を狙い、ダリルは彼の背後より二本の剣による攻撃を仕掛ける。

 

「いい攻撃だ!だが!!」

 

その場で反転しながらもビームブレイドを抜き放ち、

ビーム刃を発生させずに剣と切り結ぶ。

 

「嘘だろ!?あの体制からどうやって!?」

 

「これぐらい出来なければな!」

 

驚くダリルを他所に、彼はビームブレイドで剣を払い、

リニアガンを右方向に発射し、攻撃を仕掛けようとしていたフォルテに牽制をかける。

 

「クッ!噂通りの・・・、いや、それ以上ッスね・・・!」

 

あまりにも的確な一夏の戦法に、

フォルテやダリルですら舌を巻き、攻撃を仕掛ける隙すら奪われていく。

 

「やはりいい腕をしている、でなければ、ここまで耐えきれる筈も無い!」

 

自分の斬撃を受け止めながらも、尚押し返そうと力を籠めるダリルに、

彼はある種の感激を覚える。

 

その感激は興奮に変わり、彼の血をたぎらせる。

 

「くっ・・・!やっぱ強ぇなお前!」

 

「貴女も中々だ、ダリル先輩!」

 

ダリルは彼の強さに驚嘆しながらも、拮抗を崩すべく足掻く。

一夏もその拮抗を崩すべく、左手にもビームブレイドを保持するべく動かす。

 

拮抗を破れないダリルは、完全に斬られる事を覚悟した。

 

だが・・・。

 

「ダリル先輩!離れてください!」

 

その状況を打破すべく、体制を立て直した箒が、

タクティカルアームズⅡLをアローモードに変形させ、

ビームアローを一夏に射かける。

 

「むっ!」

 

一夏は事前に察知し、

ビームアローの軌道から離脱、ダリルからも離れる。

 

(今のは箒のタクティカルアームズⅡLの攻撃だな・・・、

軌道を変えられないと言うことは、まだ使いこなせていないな。)

 

一夏は三人から距離を取りつつも、

冷静に戦況を分析し、これからの戦術を組み立てていく。

 

(ダリル先輩とフォルテ先輩の力量もそこそこあるな、

あの力が使えるようになれば面白いだろうな・・・、

まぁいい、なるようになればな・・・。)

 

彼は中々に面白い人材を発掘出来た事に喜び、

ビームブレイドを握り直した。

 

「おいおい・・・、判ってた事だがよ、アイツって無茶苦茶だよな・・・。」

 

「そうッスね・・・、揺さぶりも牽制も全く同時にするって・・・、本当に人間なんスかね?」

 

「人間の皮を被った何かでしょうね、慣れたつもりだったのですが・・・。」

 

ダリルは呆れた様に言い、フォルテは一夏の人間離れした技量に驚き、

彼を知る箒は冗談のつもりで語る。

 

「だが・・・、ここまでの強者に相手して貰うのも滅多にない

ありがたく、胸を借りよう

 

ダリルが発した言葉に、

箒達は力強く頷き、一夏へと向かっていく。

 

彼もそれに呼応するかの如く動き出し、彼女達へと急接近する。

 

四機が再びぶつかろうとしたその刹那、

上空より無数の光条が降り注ぎ、アリーナ内にダガータイプの機体が乱入してくるのであった・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

撃ちかけられるビームの光条を回避し、

三人を後ろに下がらせながらも敵を確認する。

 

前回の襲撃と同じく、大半はストライクダガーで占められていたが、

一部に新たな機体群も見掛ける事が出来た。

 

ストライクダガーに近い形状ながらも、

更にストライクに近しいフォルムになった紺を基調とした機体、105ダガーだ。

 

アイツが出てきたとなると、

完全にストライカーシステムが模倣され切ったみたいだな。

 

まぁ良い、この程度の対価は予想出来た。

むしろ、今この世界にいないメンバーの能力を奪われずに済んだだけ上々だな。

 

さて、かといってストライカーシステム装備機にはちょいと気合い入れて相手せねばな。

 

まだこの三人にはコイツらと戦う力は無い、

はっきり言って、実戦力にカウント出来ない。

 

「三人とも直ぐに下がれ、コイツらは俺が引き受ける。」

 

だが、三人は一向に下がろうとしない。

何故だ・・・?

 

「待て一夏!私は戦える!お前だけを戦わせる訳には・・・!」

 

「そうだぜ!アタシらだって専用機持ちだ!」

 

「援護位なら出来るッス!会長一人が戦えば済む物でもないッスよ?」

 

チッ・・・、三人揃って無謀な事を言いやがる・・・、

何か有っても援護出来ねぇのに・・・。

 

いや、待てよ・・・?

上手い具合に事が運べば或いは・・・。

 

「分かった、援護は任せる、だが、無茶だけはするな。」

 

「その言葉、待っていたぞ!」

 

「任せろ!お前の背中、守ってみせるぜ!」

 

「やるッスよ!」

 

三人は一斉に闘志を燃やし、己の武器を構える。

心意気は上等、やらせてやるか。

 

これが、新たな扉が開く鍵になるならな・・・。

 

sideout

 

noside

 

「くっ・・・!コイツらまた・・・!!」

 

同じ頃、別のアリーナにて独り鍛練を行っていた楯無は、

突如として現れたダガータイプの機体を相手に、

一夏よりもたらされたタクティカルアームズⅡを振るい、

一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

「えぇい!!」

 

タクティカルアームズⅡを横薙ぎし、一度に二機のダガーを切り飛ばす。

スラスターで加速力を上乗せされた威力は凄まじく、

鋼鉄を紙の如く切り裂ける。

 

ダガータイプの性能は以前より若干向上していたが、

楯無もタクティカルアームズⅡによる戦力の底上げにより、

なんとか互角に持ち込めている。

 

「でも、流石にちょっとキツい、かな・・・!」

 

だが、それは所詮一対一での話であり、

集団に囲まれ、攻められてしまえば即座にその均衡は破られてしまう。

 

彼女もそれを理解しており、徐々に疲労の色を濃くしていく。

 

その時、一機のダガーが彼女の死角より飛びかかり、

飛び蹴りを仕掛ける。

 

「ッ!」

 

咄嗟に振り向き、タクティカルアームズⅡを盾の様に構え、

蹴りを防ぐが、勢いがついていた為に弾き飛ばされる。

 

体制を崩した楯無に向け、数機のダガーがビームサーベルを抜き放ち、

四方から囲いこむ様に迫る。

 

如何に絶対防御があるとはいえど、

多角的かつ、ビーム兵装を防ぎきれる確証は無い。

 

喰らえば必殺、しかし避ける事は出来ない。

楯無は窮地に立たされた・・・。

 

sideout

 

noside

 

その頃、アリーナの外にも無人機の襲撃があった。

 

今回はどうやら無差別攻撃らしく、

ダガー達は手当たり次第に攻撃を仕掛けていた。

 

だが、現在ダガーを圧倒する事が出来るガンダムタイプは、

大半が別世界へと飛ばされている為に、

IS学園側は窮地に立たされつつあった。

 

「皆さん!早く避難してください!!」

 

真耶は自身の機体、ラファール・リヴァイヴに身を包み、

向かい来るダガーから逃げ遅れていた生徒たちを逃がすべく奮戦していた。

 

しかし、第3世代の機体ですら傷を与えるのがやっとの機体に、

第2世代の、それも量産機のリヴァイヴでは倒す事は至難の業であろう。

 

「まーやん!」

 

「なーちゃん!」

 

生徒たちを避難させていたナターシャが福音を身に纏い、

格闘戦のみでダガーを相手にする。

 

福音の主装備であるシルバー・ベルは、

広範囲殲滅を目的としているためにこの様な限定空間では余計な被害を生むため、迂闊に使用できないのである。

 

圧倒的に不利な戦力差、

圧倒的に不利な状況が、彼女達の心に絶望の影をおとす。

 

「無人機の目的は・・・!私達の殲滅・・・!?」

 

「そうかもね・・・!でも、ここで倒れる訳にはいかない!!」

 

真耶とナターシャは敵の目的に気付きながらも

学園の生徒たちを護るために闘志を燃やす。

 

教師としての矜持の基、それが彼女達を奮い立たせたのだ。

 

だが、その心意気のみで戦いに勝つことは不可能である、

戦いはまだ、始まったばかりなのだから・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

箒達の援護もあり、

俺が受け持った第3アリーナの無人機の軍勢は半数以上が掃討され、

後一押しで他の場所へと救援に向かえるといった時、

敵に援軍が現れた。

 

レーダーに映ったに過ぎんから形式の判別は不能、

数は二、無人機にしては少なすぎる。

 

つまり、俺がリークしたデータを基にした敵か、

俺達が奪ったデータを使った敵だろうな。

 

さて・・・、

どんな奴が来るのやら・・・。

 

そんな事を考えていると、

紫と赤の機体がアリーナのバリアーを突き抜けてくる。

 

紫の機体は、元々は付いて無かったであろう装備を無理矢理取り付けた感が否めないアンバランス気味な機体。

 

赤の機体は、アストレイアウトフレームに酷似したフォルムを持っており、

背中にはディバインストライカーを装備した機体・・・。

 

「ガンダムアストレイミラージュフレーム・・・、

そして、テスタメントか・・・。」

 

計画通り・・・。

簡単に引っ掛かってくれて大助かりだ。

 

しかし、まさかテスタメントにしてくるとはな・・・、

簪のやつ、出し惜しみしないから余計なデータを録られるんだよ。

まぁ、直ぐに壊すから関係ないがな。

 

「見付けたぞ・・・!織斑一夏ァ!!」

 

「貴方は、私が殺す!!」

 

ミラージュフレームに乗るのはマドカ、

テスタメントに乗るのはくー、か・・・。

 

やれやれ、なんて貧弱な殺気だ、本当に闇の組織のエージェントか?

ぬるすぎる。

 

「誰だ?お前ら?」

 

「貴様!!忘れたとは言わせん!!」

 

「私の腕を切り落とした癖に・・・!!」

 

クックックッ・・・、完全に俺を殺す事に囚われてやがるな。

そんな物で俺を殺せる筈など無いのにな・・・。

 

「あぁ、そう言えばいたな、あまりにもつまらない存在だったから、

記憶から消えかけてたぜ。」

 

「黙れ!!」

 

「赦さない・・・!!」

 

俺の挑発にまんまと引っ掛かり、

奴等は己の得物を構える。

 

憐れな奴等だ、俺に刃を向けた先が見えぬとはな・・・。

 

だが、向かってくる相手を無下にはせんよ、

その意志に戦士としての礼儀を以て、全力で相手になってやろう。

 

「来いよ、俺が殺したい程憎いのだろう?

向かってきて、復讐を果たすが良い。」

 

「無論だ!!」

 

「死ぬ覚悟は出来ていますか!?そんなの意味ありませんがね!!」

 

手でかかってこいと挑発すると、案の定奴等は俺に向かってくる。

 

愚か者が、滅びの絶望を味わうが良い、

そして、俺の計画の尊き礎になれ。

 

クックックックッ・・・、ハーッハッハッハッ!!

 

sideout

 




はいどーもです!

微スランプから抜けられません・・・(汗)

それでは次回予告
一夏がマドカとくーを相手取っている頃、
窮地に立たされた箒は変革の扉を開く。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
誘われし者 箒編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誘われし者 箒編

noside

 

「織斑一夏ァァァァ!!」

 

アストレイミラージュフレームの主武装、

天羽々斬を引き抜き、マドカは一夏へと迫る。

 

「ふっ。」

 

ノワールストライカーからマガノイクタチストライカーに切り換え、

対艦刀をI.W.S.P.より一部具現化させた一夏は高速で距離を詰め、

刀で打ち合う。

 

相手の急所を狙い斬りあうが、どちらも互いに易々とヤられるほどの腕では無い。

だが、近接戦での戦闘能力は一夏が圧倒的に上、

そして二刀と一刀では攻め手に大きな差が出てくる。

 

一夏の左脇腹を狙い斬りつけるが、

左手に保持していた対艦刀を逆手に持ち変え防ぐ。

 

鈍い金属音が響くが、彼の表情は一切変わらない。

 

「この程度か、弱い。」

 

「グッ・・・!嘗めるなぁぁぁ!!」

 

全く同じ表情を崩さない一夏の態度に、

マドカは更に激昂し、がむしゃらに鉤爪状よBソードを突き出す。

 

しかし、一夏は対艦刀を一閃し、

Bソードを弾きマドカの体制を崩す。

 

「この程度で俺を殺すだと?世迷い言も大概にしておけ!」

 

冷めた物言いで言い放ち、一夏はマガノシラホコを射出、マドカの首に巻き付かせる。

 

「グッ!?」

 

「目障りだ、消えろ。」

 

マガノシラホコのサイドバインダーを外側へと開き、

首を絞めあげていく。

 

「グッ・・・!ガハッ・・・!!」

 

「マドカ!!」

 

完全に一夏に無視されていたくーは、

トリケロス改より拳銃の様なものを抜き取り、

一夏に向けて発砲しながら接近していく。

 

「賢しいぞ小娘、貴様はでしゃばるな。」

 

機体を回転させ、ワイヤーアンカーで拘束したマドカで弾丸を防ぎつつ、

スウィングしてくーにぶつける。

 

「グゥァッ・・・!!」

 

「くうっ・・・!!」

 

マドカはくーに直撃した時の衝撃で、

くーはマドカを受け止め、吹き飛ばされた衝撃に呻く。

 

「ぬるい・・・、この程度の力しか持っていないとはな・・・、

所詮は粋がりとただの餓鬼か・・・。」

 

「貴様ぁ・・・!!」

 

「調子に、乗るなぁぁぁ!!」

 

何処までも人を小馬鹿にしたような態度の一夏に、

完全に熱くなった二人は叫び声をあげ、彼に突進していく。

 

その様子はまるで、

ただ獲物へとまっしぐらに突進していく猪その物だ。

 

だが、憐れな猪は気付くことは無い。

織斑一夏は狩られる側ではなく、狩る側なのだと。

 

「(クックックッ・・・、愚か者が、

そこまで俺に殺されたいか、良いだろう、何度でも葬ってやる。)」

 

「死ねぇっ!!」

 

「はぁぁっ!!」

 

マドカとくーに分からない様に薄く笑んだ一夏に、

左右から斬撃とクローが迫る。

 

だが、一夏は回避する素振りすら見せない。

このままでは直撃を許してしまうだろう距離に入っても、

彼は一向に動かない。

 

「「死ねぇぇぇぇっ!!」」

 

積年の怨みを籠めた刃が両側から振り下ろされた直後、

鈍い金属音が響き渡った・・・。

 

sideout

 

side箒

 

「くっ・・・!!はぁっ!!」

 

一夏が敵の新手を相手にしに行ったため、

私達は残るダガー部隊を相手取っていた。

 

正直言って、第4世代機の紅椿よりも性能は上、

そして量産機を相手にして、勝てる道理等何処にも無い。

 

一夏の救援はあてに出来ない、彼も彼の敵で手がいっぱいなのだ。

秋良達もいない今、私達は圧倒的に不利な状況に追い込まれている。

 

絶体絶命とはまさにこう言う事を言うのだろうな・・・。

 

だが、諦めてたまるか・・・!!

たとえ勝てなくても、私がダガー達を引き付けておけば、

後は一夏達が何とかしてくれる。

 

私が倒れようとも、それは決して無駄ではない!

 

「だから、お前たちから逃げる訳にはいかないんだ!!」

 

向かってくるダガーの軍勢を相手に、

私はタクティカルアームズⅡLを横凪ぎして応戦する。

 

威力は確かに凄まじいが、やはり取り回しが難しい。

 

他の武装では傷を付ける程度にしか効果が無い、

その点で考えればやはりこの武装は凄いと純粋に思う。

 

「はぁっ!!」

 

私の死角から攻撃しようとしたダガーに気付き、

タクティカルアームズⅡLを振るった際の遠心力で回し蹴りを叩き込む。

 

しかし、それに気をとられ過ぎたせいで、

背後から飛び掛かってきたダガーの蹴りを喰らってしまった。

 

「ガハッ・・・!!」

 

不覚・・・!!

背後から圧迫される感覚に襲われ、

遂に地面に倒されてしまった。

 

そんな私に止めを刺すつもりなのだろう、

ダガー達は私を囲み、一斉にビームライフルの銃口を向けてくる。

 

此処までなのか・・・?

嫌だ・・・!まだ、私は生きている・・・!!

 

喩えこの窮地に誰も助けてくれなかろうと、

私さえ諦めなければきっと道は拓ける!!

 

頼む紅椿・・・!!

私に・・・!私に力を貸してくれ!!

 

その時、私の目の前に赤い背景に白の文字が書かれたウィンドウが新たに出現した。

 

『汝、力を欲するか?』

 

そんなこと、聞かれるまでもない!

力が欲しい!喩え誰かを傷付ける事になったとしても、

大切な仲間を護れる力が!!

 

『ならば行け、我の力を取り、力を護ることに使う、アストレイへと。』

 

行こう!

仲間と共に、その蕀の道、アストレイに!

 

決意を籠め、ウィンドウに記されているyesの文字をアイタッチした。

 

『CompulsionSift Ready・・・。』

 

何かのキーワードの様な物が標示された直後、

私は光に包まれた。

 

sideout

 

side一夏

 

「ふんっ!」

 

対艦刀を用い、マドカの斬撃を逸らし、

くーのクローでの突き、掻きを回避する。

 

コイツら、完全に冷静さを欠いているな・・・、

速い事は速いが、先が読めるから回避など造作ない。

 

だが、出来るだけ引き付けておきたい、

何せ、面白い事になりそうだからな。

 

「織斑一夏ァァァ!!」

 

クックックッ・・・、熱くなりやがって・・・、

そんなことでは勝てるものも勝てないぞ?

 

「ぬるい。」

 

突っ込んできたマドカの斬撃をやり過ごし、背後に蹴りを叩き込み、

左手に呼び出しておいたコンバインドシールドのガトリングをくーに撃ちかける。

 

「くっ・・・!織斑一夏ッ・・・!!」

 

クックックッ・・・、良い表情で睨みやがる・・・。

壊したくなるだろうが・・・。

 

そうでないと愉しくもなんとも無いからな。

 

そんな時だった。

視界の端に赤い光が煌めく。

 

「あれは・・・、箒か・・・。」

 

間違いない、あの光はcompulsionSift<強制移行>の光だ。

予想外の早さだったが、タクティカルアームズⅡLに仕込んでいたデータが遂に発動した様だ。

 

CompulsionSiftとは、その名の通り機体を強制的に新しい姿に移行させる、

アクタイオン・インダストリーで実験段階にあったシステムだ。

 

確証は無いが、理論上ではISにかかる負荷自体は大した物ではなく、

せいぜい移行した後の姿で固定されるというだけだ。

 

今回は箒の戦闘スタイルに合わせたデータを渡したため、

あのガンダムタイプの機体に生まれ変わる筈だ。

 

さぁ、見せてくれよ箒、

お前が望んだ進化の姿を、この俺にな・・・。

 

sideout

 

noside

 

地面に叩き付けられた箒にトドメを刺そうと、

ビームライフルを構えていたダガー達は、

突如として巻き起こった光に弾き飛ばされる。

 

人間が乗るISならば、搭乗するパイロットが慌てふためき、

少しでも情報を得ようと躍起になるだろうが、

心を持たぬ無人機に、その様な事をすることは出来なかった。

 

光が消え、膝を着く一機の赤い機体が姿を現した。

 

より人間に近いフォルムとなり、

両腰に鞘に収まった日本刀をマウントし、

タクティカルアームズⅡLを折りたたみ、背中にV字で背負う赤い機体だった。

 

「さて・・・、さっきまでの私と同じだと思うなよ、

私の仲間に手を出した事を後悔しろ。」

 

パイロットである箒は、機体の感触を確かめる様にゆっくりと立ち上がり、

左腰にマウントされている日本刀型実体剣、タイガーピアスを抜き、

正眼に構える。

 

その風格は正に武人と呼べるほどの覇気に充ちており、

害を為すなら切り捨てると言う雰囲気すら纏っている。

 

「篠ノ之 箒、ガンダムアストレイレッドフレーム改、参る!!」

 

決意を籠めた叫びと共に、スラスターを吹かし一気に駆ける。

 

一機のストライクダガーがビームサーベルを引き抜き、

彼女に一騎討ちを挑むかの様に迫る。

 

間合いに入り、ストライクダガーがビームサーベルを振り下ろすよりも先に、

箒はタイガーピアスの横凪ぎを一閃、ダガーを紙でも切るかの様に真っ二つに切り裂いた。

 

「なんて切れ味の刀なんだ!

紅椿の刀は叩き付ける事でダメージを与えていたが、これは斬るための刀だな!」

 

タイガーピアスの鋭い切れ味に驚きながらも、

撃ちかけられるビームを切り裂く。

 

タイガーピアスやガーベラストレートは、

刀身が人間の目では捉えきれない程の振動が起こっており、

装甲や弾丸等の実体がある物だけではなく、ビームすら切り裂ける。

 

「これが、私の新しい力・・・!戦える!仲間を護れる!!」

 

タイガーピアスを鞘に収め、右腰からガーベラストレートを抜刀、

突きの要領で構える。

 

「いくぞ!レッドフレーム!!」

 

彼女の気概に応える可能性如く、背部にマウントされているタクティカルアームズⅡLが動き、

V字からΔ<デルタ>をひっくり返した様な形に変わる。

 

「ヴォワチュール・リュミエール!!オープンデルタ!!」

 

タクティカルアームズⅡLの刀身が開くと同時に、

レッドフレーム改の背後に眩いばかりの光が溢れる。

 

ヴォワチュール・リュミエール、

光を推力とする緊急加速装置であり、ミラージュコロイドやゲシュマイディッヒパンツァーの技術が応用されている。

 

そのため、単なる加速だけではなく、アローフォーム時においては、

ビームアローを屈折させる事が可能となった。

 

「おぉッ!!」

 

その推力を活用したレッドフレームは、疾風を切り裂くが如く翔び、

攻撃を仕掛けようとしたダガーに接近、次々に斬り倒して行く。

 

「お前達などに、私の仲間を傷つけられてなるものか!!」

 

今まで護られていた分、自分が護るという気高き意志が、

ヴォワチュール・リュミエールの光に乗って空を駆け巡る。

 

仲間を護るという強き思いが、箒に大いなる力を与えているのだ。

ここに、篠ノ之 箒は革新の扉を拓いたのであった・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!
ガンダム無双が始まりそうです(笑)

それでは次回予告
窮地をセシリアに救われる楯無、
自らの無力に怒り、力を欲する。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
誘われし者 楯無編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誘われし者 楯無編

noside

 

ダガーに囲まれ、楯無は窮地に陥っていた。

 

一夏からの策略で渡されたタクティカルアームズⅡを用いて奮戦していたが、

性能と物量の差で徐々に追い詰められていったのだ。

 

体制を崩され、ビームサーベルで貫かれようとしたその刹那、

上空から数条のビームが飛来し、彼女の回りに展開していたダガーを貫いた。

 

「なっ・・・!?」

 

あまりに突然の事に、楯無は驚くものの、

好機と見てダガーより距離を取る。

 

「一体誰が・・・!?」

 

驚く楯無の眼前に、ブルデュエルデーストラを纏ったセシリアが降り立つ。

 

「まったく・・・、この程度の敵を相手に、手も足も出ないのに、

よくもまぁ、一夏様に宣戦布告出来た物ですわねぇ?」

 

セシリアはその麗しき顔にありありと侮蔑の念を浮かべ、

楯無に振り向きつつ言い放つ。

 

「悪かったわね・・・!!一体何の用!?」

 

セシリアの物言いにムッとした楯無は彼女を睨み返す。

 

楯無自身にとって、織斑一夏は自分を完全に凌駕する存在であると分かっていても、

他人を見下すそのスタンスが気に障ったのだ。

 

その敵意は当然、彼の隣に立ち、敵を討ち続けているセシリアとシャルロットにも向けられている。

 

女性至上主義者でない楯無から見ても、

彼の立ち振舞いは完全に相容れないモノだと分かっている。

 

「そんな顔をする位なら、とっとと何処かへ逃げてくださいな、

戦いの邪魔でしかありませんので。」

 

楯無の射殺す様な視線を物ともせず、

セシリアは彼女に背を向け、ダガー達に意識を向ける。

 

「さぁ、かかって来なさい?恐怖の中に沈めて差し上げましょう。」

 

スティレットを引き抜きつつルーヴィアドラグーンを射出、

単機、無数のダガー部隊に突撃していく。

 

「はぁっ!」

 

ダガーに対し、ドラグーンを乱舞させ、

スティレットで爆散させる。

 

楯無で一機倒すのがやっとだった敵を、

セシリアは表情を崩さないまま、むしろ余裕の笑みを浮かべながら次々に倒していく。

 

まさに圧倒的、格の違いを見せ付ける戦いぶりだった。

 

(この程度で止まる女に、この先を生き残る事は出来ませんわよ?

さぁ、その力を解放なさい?更識楯無?)

 

楯無を試す様な事を思いながらも、

セシリアは敵を引き付け続ける。

 

その先に待つ、新たな力の目覚めを期待しながらも・・・。

 

sideout

 

side楯無

 

セシリアちゃんに助けられた私は呆然と目の前の戦闘を見ることしか出来なかった。

正直言って、一夏君に馬鹿にされている様で癪だけど・・・。

 

(実際・・・、全然なのよね・・・。)

 

彼処まで圧倒的な力を見せ付けられて、

心でも折れたのかもしれない。

 

目の前では、セシリアちゃんのブルデュエルデーストラが、

ダガーと呼ばれる無人機を歯牙にもかけない様に葬っていく。

 

彼女も、そしてここにはいないけどシャルロットちゃんも恐ろしく強い、

一対一で彼に届きそうなのは今のところ、あの二人だけ。

 

それはもう分かってる、今の私では届くはずのない場所だと言うことも・・・。

 

『クックックックッ・・・、なら、お前は俺に負けたと認めるのか・・・?』

 

「・・・!!」

 

突然、私の背後のあるわけのない闇から、

彼の声が聴こえてきた。

 

何処までも不遜で、何処までも突き放す様な声だ。

 

『この程度で敗けを認めるとはな・・・、もっと足掻くと思っていたがな、つまらん。』

 

私を嘲る様な声だったけど、

何かを試している様な雰囲気を纏っている。

 

貴方は何が言いたいのよ!?

 

「黙りなさい・・・!!私はまだ負けてない!私はまだ生きてる!!」

 

生きてる限り、まだ負けたと決まった訳じゃない!!

私はまだ戦える!!

 

『ならば、その気概を俺に見せてくれよ、この力を使ってな。』

 

一夏君の声が消えると同時に、

新しく、青い背景に白い文字が書かれたウィンドウが表れた。

 

『汝、力を欲するか?』

 

そんなこと、尋ねられるまでもない!

私は私の正義を貫く為の力が欲しい!!

 

彼の正義と相反しても構わない!

私は私だけの力が欲しい!!

 

『ならば、受け取れ、我と共に正義を貫くが良い。』

 

上等!!行かせてもらうわ!!

 

「私に、力を!!」

 

そう叫んだと同時に、ウィンドウが切り替わった。

 

『CompulsionSift Ready・・・。』

 

何かの英語が表示されたけど、

それがなんの意味を持つかを理解するより先に、

私は青い光に包まれた。

 

sideout

 

sideセシリア

 

十機目のダガーを撃ち抜いた時、

私の視界の端に青い光が射し込みました。

 

漸くですか・・・、大分遅かったですわね。

 

一夏様が教えて下さった事なのですが、

楯無に渡したタクティカルアームズⅡにはある機体のデータが隠されていた様で、

そのデータが作用して、新しい姿へと生まれ変わらせる様です。

 

純粋なセカンドシフトでは無いものの、

ガンダムへと生まれ変わる為の移行・・・。

 

一夏様が予想された通り、

楯無の機体もその兆しを見せたと言う事は、

他の方の機体も革新することは間違いないでしょう。

 

「あぁ、一夏様、貴方様のお考えがもうすぐ実りますわ、

私は最後の最後までお供いたします。」

 

sideout

 

noside

 

青い光の繭が徐々に晴れ、

その中に佇む一機のISの機影が確認出来た。

 

背後にタクティカルアームズⅡの様な物を背負い、

全体的に人間の様なスタイリッシュなフォルムに、

特徴的なヘッドアンテナを装備した機体・・・。

 

「さっきまでの私と思わない事ね、

今の私は、かーなーり、強いから。」

 

パイロットである更識楯無は、ダガー達に向けて指さす。

 

セシリアに翻弄されていたダガー達は、標的を変えたかの如く、

楯無の方へと向き直る。

 

「機体のウォーミングアップを兼ねて、後の敵はお任せしますわね。」

 

楯無の機体の変化を認めたセシリアは、

ルーヴィアドラグーンを全て回収し、

巻き添えを喰わない様に若干離れた場所に佇む。

 

「覚悟は良いかしら?もっとも、そんなこと出来ないでしょうけどね。」

 

太股よりアーマーシュナイダー引き抜き、逆手に保持する。

 

「更識楯無、ガンダムアストレイブルーフレームセカンドL!行くわよ!!」

 

叫びと共にスラスターを吹かし、

彼女に意識を向けたダガー達に迫る。

 

それを察知したダガー達は、ブルーフレームに向け、一斉にビームを撃つ。

 

だが、楯無はその僅かな隙間を縫って飛び、

一機のダガーの懐に飛び込み、アーマーシュナイダーを突き立てる。

 

その一撃は悠々とコアに達し、ダガーを一撃で戦闘不能に追い込んだ。

 

「凄い性能ね・・・!!他にも色々装備があるみたいだし、

試させてもらうわ!!ブルーフレームサード!!」

 

頭部ブレードアンテナが更に長大化し、

タクティカルアームズが量子格納され、二丁のビームライフルがマウントされ、

両腕には折り畳み式の実体剣が装備される。

 

この姿こそ、ブルーフレームサード。

限定空間での戦闘を想定しており、腕の実体剣の他にも、

脚部にもビームブレイド発生装置を備えている。

 

「はぁっ!!」

 

周囲から迫るダガーに対し、楯無は自身の鍛練の中で身に付けた足技や、

トンファーの様に実体剣で切りつける。

 

先程まで苦戦していた彼女とはうって変わり、

暗部組織の当主に相応しい戦いを見せ付けていた。

 

「これがガンダムの力・・・!!凄い!!私も戦える!!」

 

自身が振るう力に驚きつつも、己の意志を貫く戦いを続ける。

 

「フフフッ、流石ですわね、それでこそ一夏様が一目置く存在、

力を得れば強いこと・・・。」

 

そんな楯無の様子を、少し離れた場所からセシリアが楽しそうに眺めていた。

 

彼女の盟主、織斑一夏が予測した変化の連続に胸を踊らせているのか、

それとも、目の前で繰り広げられる熾烈な戦いを楽しんでいるのか・・・。

 

「露払いは私が行ってあげましょう、

さぁ、存分に貴女の戦いを行いなさい!」

 

別方向より迫りつつあったダガー部隊を目敏く見つけ、

新たな獲物を見付けた獅子の様に牙を剥く。

 

一夏の望む先を見たいが為に、

彼女は戦い続けるのであった・・・。

 

sideout

 

side楯無

 

途中からセシリアちゃんと競う様にダガーを蹴散らし、

一通り片付いた後、周囲を警戒する。

 

その結果、このアリーナにおける戦闘は終了したみたいね。

 

それにしても、青いガンダムが二機も立ってたら紛らわしいわね、

何となくフレームが似てる気もするし・・・。

 

って、そんな事考えてる暇じゃ無いわよね。

 

「楯無、一夏様がいらっしゃる第3アリーナに敵の反応があります、

恐らく有人機も来ている事でしょうし、そちらで遊ぶと致しましょう?」

 

「一々鼻につく言い方だけどその通りね、他にも敵がいるなら戦わないとね。」

 

「では、参りましょう。」

 

セシリアちゃんのブルデュエルが飛び上がり、

私もブルーフレームをセカンドLの形態に変更して飛び上がる。

 

私のプライドに賭けて、絶対に護り抜いてみせるわ!!

 

sideout

 




はいどーもです!
楯無がブルーフレームで驚いた方もいらっしゃるとは思いますが、
次回予告

箒がレッドフレーム改で敵を倒している時、
ダリルとフォルテにも変革の時が訪れる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
誘われし者 ダリル&フォルテ編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誘われし者 ダリル&フォルテ編

sideダリル

 

「篠ノ之!?」

 

無人機の攻撃を何とか回避していた時、

後輩の篠ノ之がいた方向から赤い光が見えた。

 

まさか撃墜されちまったのか・・・!?

 

嫌な予感が脳裏を過り、反射的にその方向へと意識を向けた。

 

だが、その方向には、紅椿の残骸等は一切無く、

代わりに赤い光の繭が見えた。

 

「なっ・・・!?」

 

今までに見たこともない光景に、アタシは言葉を失った。

しかも、よく見れば光の繭がどんどん膨れあがり、

周りに展開していたダガータイプ数機を弾き飛ばしていた。

 

「あれは・・・、まさかセカンドシフトか・・・!?」

 

だが、繭の中から出てきたのは、

タクティカルアームズⅡLを背負った赤いガンダムタイプだった・・・。

 

「なっ・・・!?篠ノ之までガンダムに!?」

 

篠ノ之の機体が姿を変えたのを、

アタシは呆然と眺める事しか出来なかった。

 

篠ノ之が操るガンダムは、

腰に装備されていた刀を抜き放ち、ダガーを一刀両断してみせた。

 

その光景に、アタシは絶句してしまった。

さっきまで苦戦していた相手を圧倒するその力に、

一抹の恐怖を覚えたのかも知れない。

 

だが、それ以上に悔しさもある。

 

後輩達が必死に戦ってんのに、

アタシはただ護られる事しか出来ない・・・!

それが悔しくて悔しくてたまらなかった・・・!!

 

アタシは何の為に代表候補生になった!?

 

男を虐げ、優越感に浸る為?

そんなちっぽけで、そんじゃそこらのクズ女が考える様な事と一緒にすんじゃねぇ!!

 

アタシはダリル・ケイシー!!

IS学園三年唯一の専用機持ちだ!!

 

後輩一人護れねぇのに、そんな肩書きなんざ恥ずかしくて呼ばれたくもねぇ!!

 

あぁ、願わくは私に、

敵を切り裂き、仲間を護り抜ける刃を授けてくれ!!

 

心から渇望したその時・・・。

 

『貴女方が力を欲する時に使用してください、きっと貴女方の力となるでしょう。』

 

以前、一夏がアタシにUSBを渡した時の言葉が頭を過る。

 

そうだ、アタシは今、敵を切り裂き、仲間を護る力を欲している・・・!!

今使わないで、何時使えというんだよ!

 

拡張領域内に保存していたUSBを機体に挿し込む。

 

その瞬間からデータの読み込みが始まり、

新しくウィンドウが開かれた。

 

『汝、力を欲したな?何の為にその力を振るう?』

 

赤みがかかったオレンジ色の背景に、真っ白い文字で質問するような事が書かれていた。

 

そんなもん、尋ねられるまでもねぇ、

アタシの振るう力、それは後輩や相棒を護る為にある!

 

だから欲しい!仲間に仇なす敵を切り裂く力が!!

 

『汝の覚悟、しかと受け取った、ならば行くが良い、護る為に斬り続ける道を。』

 

上等だ!

どれ程の苦境だろうが、アタシは切り裂いてみせる!

 

「行くぜぇぇ!!」

 

『CompulsionSift Ready・・・。』

 

強制移行か、

上等だ、アタシは進むだけさ!!

 

その瞬間、アタシはオレンジ色の光に包まれた・・・。

 

sideout

 

sideフォルテ

 

「あれが・・・、ガンダムの力・・・。」

 

篠ノ之が操るガンダムタイプの力をまざまざと見せ付けられ、

私は途方もない虚無感に襲われた。

 

私が全く歯が立たなかった相手を、後輩達が次々に倒していく事と、

私が役に立てないという不甲斐なさの連続のせいかもしれないんスけどね・・・。

 

でも、私は何の為に代表候補生になったんスか・・・?

そんじゃそこらのゲスが考える様に、

男を虐げる為だったんスか・・・?

 

違う・・・。

そんな事の為に、私は力を求めない!!

 

私は、誰も傷つく事が無いように護り抜く力が欲しかった!

だから私は代表候補生になったんスよ!

 

そうッスよ・・・!

今ここで護れなくて、何が代表候補生ッスか!?

 

願わくは私に、仲間を護れる力を与えてくれ・・・!!

 

渇望が極まった時、以前一夏会長が言ってた事を思い出した。

 

『貴女方が力を欲する時に使用してください、きっと貴女方の力となるでしょう。』

 

そう言って、一夏会長は私達に何かUSBを渡して・・・。

 

そうだ・・・!!今、これを使う時が来たって事ッスよね・・・!

 

すぐさまバッスロット内からUSBを呼び出し、

機体のプラグに挿し込んで読み込みを始める。

 

『汝、力を欲したな?何の為にその力を使う?』

 

水色の背景に、真っ白い文字で質問するような事が書かれたウィンドウが新しく開く。

 

そんな事、聞かれるまでもないッスよ!

私が望む力、それは周りの仲間達を護り、敵を葬る力が欲しい!

 

『ならば我の受け取るが良い、そして汝が敵を葬るが良い!』

 

待っててくださいよ、皆!

今、私が加勢するッス!!

 

「行くッスよ~!!」

 

『CompulsionSift Ready・・・。』

 

強制移行ッスか、上等ッス!!

意気込んだその時、私は水色の光に包まれた・・・。

 

sideout

 

noside

 

第3アリーナ内に、新たに赤めのオレンジ色の光の繭と、

水色の光の繭が姿を現す。

 

色は違えど、それは紅椿を包み、レッドフレーム改へと変化させた物と似ている。

 

その二つの光の繭は徐々に大きさを増し脹れあがり、

たまたま近くにいたダガーを弾き飛ばしていく。

 

その光はある一定の大きさに達した瞬間に、

弾ける様に晴れていく。

 

光が晴れ、そこには二機のガンダムタイプが佇んでいた。

 

一機は背中に二本の対艦刀を背負い、

肩部にはビームブーメランを装備し、

胸には大型の砲口が装備された赤めのオレンジ色の機体。

 

もう一機は甲羅の様なバックパックを背負い、

右腕部マニピュレーターにトライデントを保持し、

何処か水中に生息する生物を思わせる水色の機体。

 

「さっきまではよくもコケにしてくれたな?」

 

「覚悟は出来てるッスよね?答えは聞いてないんッスけどね。」

 

ダリルは機体背後より対艦刀<シュベルトゲベール>を一本抜き放ち、

フォルテはトライデントを構える。

 

「フォルテ!さっきまでの無様を、ここで挽回しようぜ!!」

 

「勿論スよ!先輩こそ遅れないでくださいッスよ~?」

 

「へっ、言ってくれるぜ!」

 

軽口を叩きあいながらも、

彼女達の闘志は目の前のダガー達に向けられていた。

 

「ダリル・ケイシー、ソードカラミティ、斬るぜ!!」

 

「フォルテ・サファイア、フォビドゥンブルー、行くッスよ~!!」

 

各々に叫び、ダリルとフォルテはダガー達に向かっていく。

 

それに気付いたダガーは、

彼女達にビームライフルを撃ちかけ、接近を阻もうとする。

 

「そんなもん!当たるかよ!!」

 

ダリルは見事な機体操作でビームの光条の間を縫って飛び、

右肩からビームブーメランを引き抜き、投擲する。

 

ビームブーメランは弧を描いて飛び、

線上にいたダガーを切り裂いた。

 

「すげぇ威力だな!これなら戦える!!」

 

更に速度を上げ、

右手に保持するシュベルトゲベールで一閃、一度に二機のダガーを切り裂いた。

 

「ひょぉ!なんて切れ味!」

 

あまりの威力に驚嘆しつつも、ダリルはもう一本シュベルトゲベールを保持し、

向かい来るダガーを頭から真っ二つに切り裂く。

 

「流石はダリル先輩ッスね~、私も負けないッスよ~?」

 

ダリルの奮戦に感化されたか、フォルテは一機のダガーに急接近、

トライデントの一撃で貫く。

 

「うひょ~、凄いッスね~!!」

 

あまりに強力な破壊力に驚きながらも、

地上でも使用可能なスーパーキャビテーティング魚雷を発射、

牽制しながらも手近なダガーをトライデントで突き刺し、

別のダガーへ放り投げ、フォノンメーサーで纏めて撃破する。

 

「これでも喰らいやがれぇ!」

 

ソードカラミティの胸部に搭載された大型ビーム砲<スキュラ>を撃ち、

射線上にいたダガー数機を、纏めて消し飛ばした。

 

(戦える!アタシだって戦えるんだ!!)

 

(護るッスよ!今までのツケ、ここで支払うッス!!)

 

己の意思を得物に籠め、

ダリルとフォルテは敵を葬るべく戦い続けるのだった・・・。

 

その想いを、自らの思惑に利用している者がいる事も知らずに・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!

ソードカラミティとフォビドゥンブルーが出ました。

では次回予告
シャルロットの救援を受けた真耶とナターシャは、
己の不甲斐なさを憎み、新たなる力を手にする。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
誘われし者 真耶&ナターシャ編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誘われし者 真耶&ナターシャ編

noside

 

IS学園敷地内のある一角にて、

ラファール・リヴァイヴを纏った真耶と、

銀の福音を纏ったナターシャが迫り来るダガーを相手に苦境に立たされていた。

 

元々、量産機であるリヴァイヴや広範囲殲滅をコンセプトにしている福音では、

性能差、そして周囲に被害が出る状況下では苦戦を強いられる事は必至であった。

 

「まーやん!大丈夫!?」

 

「なんとか・・・!でもちょっとキツい、かな・・・!」

 

互いを気遣いながらも、

疲労や焦燥の色は隠せないのか、二人の表情に余裕は無い。

 

(くっ・・・!なんて性能!!これで量産機なんて有り得ないわ・・・!!)

 

(一体誰がこんな性能の機体を造ったというの・・・!?)

 

真耶とナターシャは敵の性能、そして量産機と言う大群相手に、

少なからず製造元に対する謎を抱えていた。

 

だが、それに一瞬気がそれた瞬間、

ナターシャの背後から一機のダガーが斬りかかって来た。

 

「なーちゃん!!」

 

「!?」

 

先に気付いた真耶がナターシャに警告を飛ばすが、

反応が遅れたナターシャが回避する事が不可能な距離まで迫られていた。

 

無慈悲な光刃が彼女に達する寸前、

上空から一条のビームが降り、ダガーを貫いた。

 

「「えっ?」」

 

あまりに突然の事に驚き、

二人は馬鹿みたいに口を開け、呆然と立ち尽くす。

 

「山田先生、ファイルス先生もご無事でなによりです。」

 

そんな彼女達の前に、ヴェルデバスターシーストラを纏ったシャルロットが悠然と降り立った。

 

「デュノアさん!!ありがとうございます!!」

 

シャルロットの救援に感激したのか、

真耶は戦いを忘れ、彼女に声をかけていた。

 

「ありがとうデュノアさん、でも、私達だけじゃ倒せないわ・・・!」

 

ナターシャもシャルロットに礼を言うが、

状況が苦しいと弱音らしきモノを呟いた。

 

「そんな事無いですよ!先生方はお強いです!!

生徒を導き、護るのが先生の仕事ですよ!だから諦めないでください!」

 

シャルロットは真耶とナターシャを鼓舞する様に言い、

ダガーの方へと向き直り、ハイパービームサーベルを抜き放つ。

 

「露払いは僕が引き受けます、先生達も折れないでください!」

 

シャルロットはスラスターを吹かし、

ダガーへと突っ込んでいく。

 

それを確認したダガー達は、一斉にビームライフルを発射し、

弾幕を張って彼女の接近を阻もうとする。

 

「そんなもの、効かないよ。」

 

残酷な天使の笑みを浮かべながらも、

シャルロットはビームサーベルを一閃、

ビームを切り裂きつつもミサイルも同時に発射する。

 

ミサイルは攻撃に専念していたダガーを飲み込み、

灰塵へと還した。

 

(さぁ、そこで立ち止まらないで、

先生の戦いを、僕達に見せてくださいね。)

 

二人の再起に期待しながらも、

シャルロットはダガーを葬るべく、ハイパービームサーベルを振るった。

 

sideout

 

side真耶

 

デュノアさんに助けられ、

彼女が私達が倒せなかった無人機を次々に倒していく姿に、

私は少し、いいえ、かなりの情けなさに襲われました。

 

自分よりも6つも年下の生徒に護られての悔しさもあります。

 

だけど、私には何の力も無く、

こうやって無人機を一機も倒す事は出来なかった。

 

でも・・・、こんな事で良いの・・・!?

生徒を護る筈の教師が、護るべき生徒に護られている、

こんな無様があってはいけない・・・!!

 

私は何の為に教師になったの!?

生徒により良い未来を見せるために、

人生の先輩として導き、教えたかったからでしょ!?

 

未来を担う芽を、こんな所で積ませはしない!!

 

お願いリヴァイヴ!私に力を貸して!!

 

その時、以前一夏君に渡されたUSBと、彼の言葉を思い出した。

 

『ただ、この学園とそこにいる全ての者を護る力が必要なのです。

その為に、この力を役立ててください。』

 

あの時の言葉の意味、漸く分かりました・・・!

護りたい物の為に力を欲した時に使えという事なんですね・・・!!

 

私はすぐさまUSBを呼び出し機体に挿入、読み込み作業を開始します。

 

すると、緑色の背景に白い文字が書かれたウィンドウが新しく表示されました。

 

『汝、力を欲したな?何の為に力を欲する?』

 

そんな事決まってます!!

この学園にいる生徒を護る力が欲しい!!

 

それが私の望みです!!

 

『汝の覚悟、しかと受け止めた!我の力を取り、護る力を掴め!』

 

護る!教師としてのプライドと、私自身の意地に賭けて!!

 

『CompulsionSift Ready・・・。』

 

ウィンドウが切り替わった瞬間に、

私は緑色の光に包まれた。

 

暖かい・・・、それに私の中に力が流れ込んでくる・・・。

 

私は、戦えるのね・・・!

 

sideout

 

sideナターシャ

 

デュノアさんが救援に駆け付けてくれたのは嬉しいけど、

護るべき生徒に助けられと言う情けなさは消えない。

 

むしろ、デュノアさんが敵を倒す度に、

私の中でその情けなさは膨れ上がっていく。

 

一体・・・、私は何の為にここに教師として赴任したの・・・?

 

福音のデータ取り・・・?

その為もあった、でも、それよりも何よりも、

未来を担う芽を育て、新しい世界へ羽ばたかせる為に私はここに来た!

 

そうよ・・・!私はIS学園教諭、ナターシャ・ファイルス!

生徒を脅かす敵は絶対に許さない!!

 

どうか私に、生徒を護り、敵を倒す力を与えてください・・・!

 

そう願った時、かつて一夏君が話した言葉がリフレインした。

 

『ただ、この学園とそこにいる全ての者を護る力が必要なのです。

その為に、この力を役立ててください。』

 

そうよ・・・!

今力を使わないで、何時使うのよ!?

 

私は咄嗟に彼から譲り受けたUSBの存在を思いだし、それを呼び出す。

 

「お願い!私に力を貸して!!」

 

福音、ゴメンね・・・!私には力がいるの・・・!!

 

USBを挿入し、読み込み作業を開始させる。

 

すると、青紫の背景に白い文字が書かれたウィンドウが新しく表示された。

 

『汝、力を欲したな?何の為に力を望む?』

 

生徒を護る為に!

そして大切な友人を護る為の力が欲しいの!

 

それだけが私の望み!!

 

『良かろう、汝の望み、しかと受け止めた!我の力を取り、護る力を掴め!』

 

勿論よ!仲間を、生徒を護る為に!

私は戦い続ける!!

 

『CompulsionSift Ready・・・。』

 

強制移行という訳ね・・・、

ゴメンね福音、貴方の姿、また変えられちゃうのね・・・。

こんな弱い私を許してね・・・。

 

その瞬間、私は青紫の光に包まれた・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

十機目のダガーをハイパービームサーベルで真っ二つにした時、

先生達の方から緑色の光と青紫の光が煌めいた。

 

あれは恐らく、一夏が言ってたセカンドシフトモドキの光だ。

 

強制移行とか言ってたけど、大まかな事は大体同じなんだってさ。

 

こっちの二人が覚醒したということは、

多分他の皆も覚醒してるんだろうね、

 

「ふふっ、一夏、貴方の望みがもうすぐ叶うよ、

僕はずっと貴方に着いていくからね。」

 

sideout

 

noside

 

真耶とナターシャを包みこんだ光は、

徐々に大きさを増しながら膨れ上がっていく。

 

ある一定の大きさに達した時、

光の繭は弾ける様に晴れていく。

 

光が晴れ、そこには二機のガンダムタイプが佇んでいた。

 

一機はレッドフレームに酷似した姿ながらも、

腰に特殊な形状のビームライフルを携えた緑色のフレームを持った機体。

 

もう一機はストライクに近いフレームを持ち、

背中に大型の対艦刀を左右一対装備した翼を背負う、

青紫の機体。

 

「護る!生徒達を守り抜いてみせる!」

 

「戦おうまーやん!」

 

「勿論だよ、行こうなーちゃん!」

 

真耶とナターシャは、

互いに闘志をみなぎらせ、眼前に展開するダガーを睨み付ける。

 

「ふふっ、漸く進化したね、残りの敵はよろしくお願いしますね。」

 

それを確認したシャルロットはハイパービームサーベルを収め、

少々離れた場所に佇む。

 

それを確認した真耶は腰に装備したツインソードライフルを右手に保持し、

ナターシャは背中のホルダーよりエクスカリバーを抜き放ち、保持する。

 

「山田真耶、ガンダムアストレイグリーンフレーム、出ます!」

 

「ナターシャ・ファイルス、デスティニーインパルス、出撃!!」

 

二機のガンダムは、ダガー目掛けてスラスターを吹かし、突撃する。

 

「はあっ!!」

 

グリーンフレームを駆る真耶は一機のダガーに急接近し、

至近距離でビームライフルを発射し、

振り返り様にサーベルモードに切り替え、背後から迫っていたダガーを貫いた。

 

「な、なんて威力・・・!それになんて機動性・・・!!」

 

以前使用していた機体とは比べ物にならない攻撃力、

そして機動性に驚くも、迫り来るダガーから意識を外す事は無い。

 

左側から斬りかかって来たダガーに対し、

身を沈め、ツインソードライフルで一閃、三枚におろした。

 

「やるわねまーやん、私も戦うわ!」

 

親友の奮戦を見たナターシャは闘志を更にたぎらせ、

向かってきたダガーに対し対艦刀で一閃、まるで紙でも切るかの如く易々と切り裂いた。

 

「なんて切れ味よ・・・!でも、これで戦えるわ!!」

 

驚きつつも、右肘よりビームブーメランを引き抜き、

ビームライフルを撃ちかけてくるダガーに対して投擲する。

 

ビームブーメランは弧を描いて飛び、

線上にいたダガー数機を纏めて切り裂いた。

 

(凄い・・・!これがガンダムの力・・・!)

 

(護れる!私の力で!!)

 

己の力を手に入れた二人は、

今までのツケを帳消しにするかの如く、敵を次々に葬っていった。

 

「ふふっ、凄い凄い、伊達に教師をやってないね、良い強さだよ。」

 

彼女達の戦振りを少し離れた場所に佇み、

傍観していたシャルロットは楽し気に呟いた。

 

まるでサーカスを楽しむかの様に手を叩きながらも、

周囲に接近してくる機体が無いか確認する。

 

「やっぱりこれだけじゃ済まないよね、

それじゃあ、こっちは僕が引き受けようかな、見てるだけじゃつまらないしね!」

 

別方向からの増援を確認したシャルロットは、

複合バヨネット装備型ビームライフルを構え、

嬉々としてダガー達にその牙を剥く。

 

「戦いはまだ、始まったばかりだよ!もっと僕達を楽しませてよ!!」

 

sideout

 

noside

 

そらから数分も経たない内に、

アリーナの外に攻めてきていたダガー達は一掃され、

その残骸の中に三機のガンダムタイプが佇んでいた。

 

ヴェルデバスターシーストラ、グリーンフレーム、デスティニーインパルスの三機は、

それぞれ周囲を警戒していたが、敵影が無いことを確認した。

 

「このエリアの敵は掃討されたみたいね・・・。」

 

「そうね・・・、残りは他の場所にいるのかしら・・・?」

 

真耶とナターシャは少し安堵したのか、

盛大なため息を吐いていた。

 

「安心している暇は無いですよお二人とも、

一夏達がいる第3アリーナから敵の反応があります、

恐らく、有人機も来てるでしょうし、僕達も行きましょう。」

 

あくまで冷静なシャルロットの声に、

まだ戦闘中だった事を思い出した二人は、

即座に気を引き締める。

 

「そうね、まだ戦いは終わってなかったわね。」

 

「行きましょう、皆さんと一緒に戦うために!」

 

ナターシャはシャルロットの言葉に頷き、

真耶は戦意をみなぎらせながらも直ぐ様救援に向かう準備を整える。

 

「それじゃあ、行きましょう。」

 

シャルロットの後に続き、真耶達も飛び上がる。

 

大切な者を護る為の戦いはまだ、

終わってはいないのだから・・・。

 

sideout

 

 

 




どーもです!
グリーンフレームとデスティニーインパルスが出ました。

それでは次回予告
ダガーの大軍を蹴散らし、
第3アリーナにガンダムが集う。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
誘われし者 後編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誘われし者 後編

side一夏

 

「クックックッ・・・、流石の腕前だな、三人とも・・・。」

 

俺の視線の先には、

ダガーを蹴散らし続けるレッドフレームとソードカラミティ、

そしてフォビドゥンブルーの姿があった。

 

伊達に今まで苦汁を舐めてきた訳じゃ無いな、

振るう得物に強い意志を感じる。

 

あぁ、実に見ていて心地が良い、

是非とも手合わせ願いたい物だな。

 

まぁ、それは後で考えれば良い、

今は、コイツらを血祭りにあげる事を考えておけばそれで良い。

 

「グッ・・・、ガハッ・・・!」

 

「グッ・・・、グゥッ・・・!」

 

視線を移した先には、既に満身創痍のマドカとくーが俺を睨み付けていた。

 

クックックッ・・・、良い表情をしやがるぜ、

もっと切り刻みたくなるだろうが。

 

「どうした?俺を殺すんじゃなかったのか?

それとも、出来ない事と知っての、ただの虚勢だったのか?」

 

「だ、黙れ・・・!」

 

「殺す・・・!絶対に殺す・・・!!」

 

クックックッ・・・、まだちっぽけな復讐心に囚われているのか・・・、

憐れな物だな・・・、勝率は0に限り無く近いのになぁ・・・?

 

「どちらにしろ、そろそろダガーも片付く、

残るは貴様らの命のみだ。」

 

そう宣言した時、

アリーナの外からブルデュエルデーストラとブルーフレームセカンドL、

そしてヴェルデバスターシーストラとグリーンフレーム、デスティニーインパルスがアリーナの中に入ってきた。

 

それを認めてか、アリーナの中で戦っていたレッドフレーム改、ソードカラミティ、フォビドゥンブルーもこちらにやって来たため、総勢九機のガンダムタイプによる包囲網が完成した。

 

壮観だな、ここまで個性の強い機体が集まると余計にな。

 

「おい餓鬼ども、さっきまではよくもやってくれたな?」

 

「私らをコケにして、無事で済むとでも思ってるんスか?」

 

「貴様ら・・・、姉さんの差し金だな・・・!!」

 

散々苦汁を舐めさせられたダリルとフォルテと、

束を心底憎んでいる箒には、

今にも飛びかかろうとする気概が見てとれる。

 

好戦的、いや、敵には容赦しない奴等だな、覚えておこう。

 

「降参しなさい!命までは獲らないわ!!」

 

「機体をこっちに渡してください!」

 

楯無と山田先生はやはり命を助ける気があるのか投降を呼び掛けているが、

どちらか分からないのはファイルス先生か・・・。

 

出来ればこちら側に引き込みたい所だな。

 

手駒は一つでも多い方が得策だからな。

 

「クックックッ・・・、チェックメイトだ。」

 

降参するか、このまま退くか、選択肢を与えてやろう。

最も、どちらにしろ、結末は同じなんだがな。

 

デュエルのビームライフルを呼び出し、

グレネードランチャーの発射体制を整える。

 

さて・・・、どうするのか見せてくれよ?

 

「「・・・っ!!」」

 

流石に分が悪いと悟ったのか、

俺を射殺す様な視線で睨み付けた直後、

アリーナの外へと逃げ出そうとする。

 

「待て!」

 

「待ちやがれ!!」

 

「逃がさないッスよ!!」

 

血気盛んな三人が追いかけようとするが、

ここは止めておくとしよう。

 

「追うな、もし待ち伏せを謀っているのだとすれば、

まだ機体に馴れてないお前達では危険すぎる。」

 

「しかし、このままでは逃げられてしまうぞ!!」

 

納得がいかないのか、箒は俺に食い下がろうとしている。

心意気は良いのだが、状況を読んで欲しいものだ。

 

「セシリアとシャル以外はここに残り、守りを固めてくれ、

アイツらは俺達が追う、良いな?」

 

「分かった、ここは会長に従うとしようぜ?」

 

「そうッスね、私達をコケにした分をぶつけてくれッス。」

 

「すまない一夏、よろしく頼む。」

 

明確な任務を与えられれば弱いのか、

ダリルとフォルテ、そして箒はあっさりと身を退いた。

 

「そう言う事だ、そこの三人も理解してくれたな?

行くぞ、セシリア、シャル。」

 

「はい。」

 

「分かってるよ。」

 

楯無達の返事を聞くより先に、

俺達はスラスターを吹かし飛翔した。

 

クックックッ・・・、極限の絶望を与えてやろう。

 

sideout

 

noside

 

IS学園沖の洋上を、二機のISが飛翔していた。

 

だが、その二機とも全身から火花を散らし、

今にも瓦解してしまいそうな様相を呈していた。

 

「クソッ・・・!!何故だ!何故勝てない・・・!!」

 

その内の一機、ミラージュフレームを操るマドカは、

凄まじい恨み言葉を叫びながらも撤退していく。

 

「織斑一夏・・・!!次こそは私が殺す・・・!!」

 

もう一機の機体、テスタメントを駆るくーも、

一夏に対しての憎しみの言葉を口にした。

 

彼女達はつい先程、

織斑一夏が駆るストライクEに手も足も出せずに敗北、

現在敗走中なのである。

 

(こんな事がある筈が無い・・・!!私はまだ負けてないんだ・・・!!)

 

度重なる敗北を喫しようとも、

マドカは未だに敗北を認めようとしなかった。

 

むしろ、屈辱により彼への憎悪を募らせていく。

 

(次こそは、次こそは私がお前を殺してやる・・・!!)

 

自らの手で一夏を切り刻む場面を想像し、

彼女は口許に下卑た笑みを浮かべる。

 

だが、その時、彼女達の後方から極太ビームの光条が迫る。

ビームの奔流は彼女達の間を掠めて通り抜け、地平線の彼方へと消えていった。

 

「なっ・・・!?」

 

「まさか・・・!?」

 

驚愕しながらも振り返った彼女達の視線の先には、

平行連結させたバヨネット装備型ビームライフルを構えたヴェルデバスターシーストラの姿があった。

 

超ロングレンジからの射撃だったのか、

確認出来たのはズーム機能を使用しての事だった。

 

『惜しかったなぁ、あとちょっとでどっちか撃墜出来てたのに。

まぁ、どのみち今ここで人生終わるんだから、

逃げても歯向かっても良いよ?僕を楽しませてよ!!』

 

オープンチャンネルでシャルロットの哄笑が響き、

その直後、上空から更にビームの雨が降り注ぐ。

 

「最近殺しの依頼が少なくて血に餓えてるんだよ、

お前達の血、浴びさせてくれ。」

 

「と言っても、下衆の血など後で洗い流しますがね。」

 

漆黒の機体、ストライクノワールを駆る一夏と、

蒼い機体、ブルデュエルデーストラを駆るセシリアがビームライフルを発砲しながらも急降下してくる。

 

「もう追い付かれたのか・・・!?」

 

「有り得ない・・・!上に回り込んでるのになんで・・・!?」

 

突き付けられた事実に混乱しているのか、

マトモな反撃さえ出来ずに二人はビームの雨に晒される。

 

「分からないって顔してるな?

もっとも、教えたところで理解出来る事ではないんだがな。」

 

嘲る様に言いつつも、

一夏はくーに急接近、ビームブレイドの一閃で右腕を肩から切り飛ばした。

 

「グゥッ・・・!」

 

「お?そういえばお前の右腕は一度、

この俺が切り落としていたな、どうだい、二度目の屈辱はよ?」

 

「貴様ぁぁぁぁ!!」

 

一夏の挑発に乗せられたくーは、腰からビームサーベルを引き抜き、

彼のビームブレイドと切り結ぶ。

 

「くー!」

 

「余所見をしている暇がありまして?」

 

仲間意識があるかは別として、

共に同じ相手を憎む者を気にかける心はあるマドカは、

完全に劣勢に立たされているくーを心配するも、

自身もセシリアに圧倒されていた。

 

「グッ・・・!貴様・・・!!」

 

「フフフッ、良いお顔をしますわね、ゾクゾクしますわ。

さぁ、絶望の海に沈みなさい?」

 

マドカは激昂し天羽々斬を振るうも、ブルデュエルの右肩に装備されているシールドで防がれ、

体制を崩された所にリトラクタブルビームガンの連射を浴びせかけられる。

 

堪らず距離を取るが、

今度はヴェルデバスターのロングレンジからの射撃に当りそうになり、

再び体制を崩された。

 

「グゥッ・・・!」

 

「もっと足掻いてくださいな、そうでないと、

殺す価値も無いのですから!!」

 

体制を崩したミラージュフレームに向け、

セシリアは左サイドスカート裏からスティレットを引き抜き投擲する。

 

「チィッ!」

 

三発の内二発は弾いたものの、

最後の一発は脚部に突き刺さり、盛大に爆ぜた。

 

「グゥッ・・・!またこれか・・・!!」

 

以前喰らったものと全く同じ攻撃でダメージを喰らったのが癪なのか、

マドカは千冬に似ている顔を歪めた。

 

「マドカ!!」

 

「人の心配をしている場合か?

アイツよりもお前の方が断然死に近いと言うのにな。」

 

一瞬、マドカの方に気が逸れたくーの隙を見逃さず、

彼はビームブレイドでビームサーベルを弾き飛ばした。

 

「くっ・・・!」

 

「チェックメイト、これで終わりにするか、続けるか?」

 

首にビーム刃を切ったブレイドの刃を当て、

どの様に対処するかを見極める。

 

「くっ・・・!マドカ・・・!!逃げて・・・!!」

 

「くー!!」

 

「余所見をするなど、愚の骨頂!!」

 

くーの必死の叫びにマドカは一瞬気を取られるが、

セシリアに蹴り飛ばされ、大きく後方へと吹き飛ばされた。

 

「私の事は気にしないで!!マドカだけでも逃げて・・・!!」

 

「しかし・・・!!」

 

「速く!私が囮になる・・・!!」

 

「・・・!!くっ・・・、すまない・・・!!」

 

くーの必死の叫びに、

マドカは躊躇うも彼等に背を向け、

空域を最大加速で離脱していった。

 

 

(クソッ・・・!!くー、お前の仇は必ずとってやる・・・!!)

 

sideout

 

side一夏

 

クックックッ・・・、仲間を見捨てて行くか、

それしか生き延びる方法は無いだろうな。

 

実に賢明な判断だ。

 

「セシリア、気持ちは分かるが追うな、今アイツを追う必要は無い。」

 

「かしこまりましたわ、一夏様。」

 

「それで?この小娘はどうするの?」

 

ロングレンジから射撃を行っていたシャルが、

タイミング良くこちらにやって来た。

 

「織斑一夏・・・!貴様だけは喩え刺し違えても私が殺す・・・!」

 

俺に首を絞められながらも、俺を殺す事に拘るか・・・。

 

まったく、いい加減、自分の運命とやらは見えていないのか?

 

「それで?どうやって殺すんだよ?」

 

右脚のリミッターを解除し、くーの左脚に蹴りを叩き込む。

 

威力過剰な為、絶対防御すら発動しないまま、

くーの左脚は根元から千切れ飛んだ。

 

「ウァァアァァァァァ!!?」

 

その途端、くーは喉が張り裂けんばかりの声をあげる。

心地良い悲鳴だ、ゾクゾクするぜ。

 

ISの機能故か、出血は直ぐに止まったのだがな。

 

「クックックッ・・・、良い声で鳴くな、

もっとその声、聴かせろよ。」

 

首を掴んだまま半回転し、セシリアに小娘を投げ渡す。

 

「一夏様に刃向かった報い、受けて下さいな♪」

 

セシリアも俺と同じ様に首を掴み、

空いた右手でくーの残った左腕を引きちぎる。

 

一瞬、血が噴き出て、セシリアの肌にかかる。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!?」

 

「本当に良い悲鳴ですわね、柄にもなく、興奮してしまいますわ、

それに、処女の生き血はお肌にも良いそうですし、

シャルさんもお試しになって下さいな?」

 

血を浴びながらも、セシリアはシャルへとくーを放り投げた。

 

「も・・・、やめ・・・。」

 

「何寝ぼけた事言ってるの、君?

一夏に逆らった君達が悪いんだよ?恨むなら自分の選択を恨みなよ。」

 

くーを受け取ったシャルは、

命乞いをするくーに冷たく言い放ち、残った右脚をもぎ取った。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!」

 

「本当に気持ちの良い悲鳴だね、濡れちゃうよ。」

 

噴き出る血を掌で受け止め、彼女から自分の首の周りに垂らす。

 

「本当だ、これはお肌に効くよ。」

 

恍惚の表情を浮かべながらも、

シャルは俺の方へとくーを投げ返してきた。

 

「さぁ、最後は心臓を引き摺り出してやろう、

篠ノ之 束に着き、俺達に刃向かった報い、貴様の命で受けろ。」

 

左手で首を掴みながらも、空いている右手でくーの胸を貫いた。

 

多少の血が飛び散り、俺の頬に付着する。

 

胸を貫かれたくーは、声もあげないまま、一瞬だけ痙攣し力尽きた。

 

引き抜いた俺の手に握られていたのは、

奴の心臓ではなく、鈍く光るISのコアだった。

 

「チッ、生の心臓を見れるかと期待していたが・・・、

まぁ、良い、これはこれで使い道がある、有効活用させてもらおうか。」

 

ふと海面に目をやると、先程切り落とした腕や脚に、

鮫が群がり、互いに奪い合いながら引きちぎっていた。

 

相当飢えてやがるのか?

なら丁度良い、ここに餌がある。

 

「さぁ、これで腹を満たすが良い。」

 

くーの亡骸を手放し、海へと落とすと、

鮫達は我先にと奪い合いを始める。

 

みるみる内に、奴の身体は引き千切られ、

海に大量の血が滲み出て、辺りを真っ赤に染め上げていた。

 

「ミッションコンプリート、帰って報告書を纏めるぞ。」

 

「かしこまりましたわ、一夏様。」

 

「良いもの見れて気分が良いし、頑張るね。」

 

セシリアとシャルに促し、

俺達はIS学園への帰路につく。

 

これから先の計画を胸の内に秘めたままに・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!

次回は機体紹介その六です。
紹介する機体が多いので、三機ずつに分けたいとこっそり思ったりしてます。

それではお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

機体説明 その6

ガンダムアストレイレッドフレーム改

 

箒の紅椿がタクティカルアームズⅡLに仕込まれていたデータでCompulsion Sift<強制移行>した姿。

 

フレームが剥き出しになっている箇所が多いため、

耐弾性には難があるが、機体重量が軽く運動性能も高い。

 

主に近接戦闘を得意としているため、

パイロットである箒の戦闘スタイルを存分に引き出せる。

 

本機にもリミッターが掛けられており、

解除した際にはモビルスーツと同等の性能を発揮する。

 

主武装

 

ガーベラストレート

左腰に装備される日本刀型実体剣、

ISの装備としては珍しく、斬る為の刀、

その切れ味は一級品であり、鋼鉄すら易々と切り裂ける。

 

名称の由来は、新撰組一番隊組長、沖田総司の愛刀、菊一文字からきている。

 

タイガーピアス

右腰に装備される日本刀型実体剣、

ガーベラストレートと同じく、斬る為の刀。

 

名称の由来は、新撰組局長、近藤勇の愛刀、虎徹からきている。

 

タクティカルアームズⅡL

機体背面に背負う形で装備される複合型兵装。

 

バスターソード形態、スラスター形態、アローフォームの他に、マガノイクタチ、

ヴォワチュール・リュミエール、ドラグーン等にも使用できる。

 

ただし、あまりにも機能を詰め込み過ぎた為、

箒の能力では使いこなせるかどうかは定かでは無い。

 

グリップ部は脱着可能であり、

ビームトーチガンとして使用できる。

 

尚、アローフォーム時にヴォワチュール・リュミエールを同時展開させることで、

ビームアローの軌道を自在に操る事が出来るため、命中率は理論上、100%を誇る。

 

 

サブウェポン

 

ガンダムアストレイ専用ビームライフル

アストレイシリーズが携行するビームライフル。

銃口下部にグレネードランチャーを装備しているらしいが、

真相は定かでは無い。

 

 

 

ガンダムアストレイブルーフレームセカンドG

楯無のミステリアス・レディがタクティカルアームズⅡに仕込まれていたデータを基に、

CompulsionSift<強制移行>した姿。

 

フレームが剥き出しになっている箇所が多いために、

運動性能は非常に高い。

 

レッドフレームと同じフレームを持っているが、

格闘戦以外にも多様な戦闘スタイルを目的としたチューニングが施されている。

 

尚、勘違いされやすいが、

ブルーフレームセカンドの本来の姿は、ノーマルアストレイのヘッドとバックパックを装備したセカンドGであり、その他の姿はセカンドGに特殊装備を施した特化形態である。

 

本機にもリミッターが施されており、

解除した際はモビルスーツと同等の能力を発揮する。

 

主装備

シースナイフ<アーマーシュナイダー>

両太股、爪先、踵に各々一本ずつの計六本搭載されている。

刀身に耐ビームコーティングが施されている為、短時間ながらもビームサーベルと切り結ぶ事も出来る。

 

ビームサーベル

背部バックパックに装備される楕円形のビームサーベル。

他の機体のビームサーベルと比べても遜色ない破壊力を誇る。

 

サブウェポン

ガンダムアストレイ専用ビームライフル。

レッドフレームの物と同型のビームライフル。

 

 

特化型フォルム。

ブルーフレームセカンドの最大の特徴は、

特定のミッションに併せて姿を変えるフォルムシフトにある。

ストライカーパックシステムに近いが、どちらかと言えばドレッドノートの形態変更と同種である。

 

セカンドGスナイパーパック装備。

セカンドGに専用スナイパーパックを装備した遠距離特化型形態。

主に狙撃、援護のミッションに使用される。

ただし、アルミューレ・リュミエールを装備した防御型の機体には効果は薄い。

尚、背後に装備するために、ビームサーベル装備のバックパックは取り除かれる。

 

主装備。

大型スナイパーライフル。

非使用時は折り畳んで背中にマウントされる大型のビームライフル。

ライトニングストライカーのカノン砲に酷似した装備だが、

こちらはビームライフルなのに対し、カノン砲はレールガンである。

 

ビームピストル。

左腕に固定されるビームピストル。

威力は低いが、連射力は高い。

 

 

セカンドGショートレンジアサルト

セカンドGの潜入ミッション専用装備。

頭部にコンプリートセンサーと呼ばれる特殊なセンサーを搭載したため、

ミラージュコロイドや、光学迷彩等のステルスを見破る事が出来る。

ただし、エネルギーの消費が他の形態よりも非常に多い為、

使用には難がある。

 

主装備。

ショートライフル。

右手に装備される実弾銃。

射程範囲は短いが、連射力は非常に高い。

 

セカンドGスケイルシステム。

本来はノーマルアストレイに使用される筈だった装備を改修し、

セカンドG専用に調整したもの。

背部のバックパックをスケイルエンジンに切り換えた為に、

水中でも高い機動力を誇る。

 

ただし、潜行用の装備では無いために、

深度の浅い場所で使用する事が望まれる。

 

主装備

六連装スーパーキャビテーティング魚雷装備銃。

スーパーキャビテーティング魚雷を搭載した特殊なランチャー。

光学兵装が使用できない水中の中での有用性は非常に高い。

 

 

セカンドL

セカンドGに専用頭部、そしてタクティカルアームズを装備した姿。

近接戦闘でその性能を発揮するが、最も汎用性に優れる形態である。

 

主装備。

タクティカルアームズ

背部に折り畳んでマウントされる複合型兵装。

ソードフォーム、ガトリングフォーム、スラスターフォームの三形態に変形し、

適材適所の戦闘能力を発揮する。

刀身はラミネート装甲で構成されている為に、

アルミューレ・リュミエール等のビームシールドを突貫できる他、

その面積を生かして即興のシールドにもなる。

 

サード

セカンドGにサードと呼ばれる限定空間での戦闘を考慮した装備を施した姿。

主に腕が振れない中での戦闘を考慮しているため、

脚部にもビームブレイド等が搭載されている。

 

主装備。

大型ソード

両腕下部に装備される折り畳み式の実体剣。

刀身に耐ビームコーティングが施されており、

ビームサーベルと切り結ぶ事もできる他、パイロットの技量次第ではビームライフルの射撃を弾く事も出来る。

 

 

アンカーランチャー

両腕側面に装備される大型のアンカー。

大型ソードの使用の邪魔とならないために、大型ソード展開時はアンカーの先端がソードの切っ先と反対側に向く。

 

専用ビームライフル

背面に装備される専用のビームライフル。

デザインの違いだけで、他のビームライフルとの差違はほとんどない。

 

脚部ビームサーベル

脚部脛に搭載されるビームサーベル。

主に腕を振れない状況下で重宝される。

 

大型ナイフ

両足踵に装備される実体ナイフ。

ヒールクローになり、踵落としの威力を高めたりすることが可能。

 

セカンドリバイ

セカンドLをサード等で得られたデータを基に調整した形態。

全体的なスペックの向上のみならず、

進化したタクティカルアームズⅡを装備している。

 

主装備。

タクティカルアームズⅡ

ブルーフレームサードで得られたデータを基に、

タクティカルアームズを強化した装備。

ソードフォーム、ガトリングフォーム、スラスターフォームはそのままに、

ガトリングのみを取り外し使用するガンフォーム、

刀身を取り外しトンファーの様に使用するトンファーフォームが新たに追加された。

 

尚、トンファーフォーム時には刀身にビーム刃が形成される。

 

 

ガンダムアストレイグリーンフレーム

真耶のラファール・リヴァイヴが、

一夏よりもたらされたデータを基にCompulsionSift<強制移行>した姿。

レッドフレーム、ブルーフレームと共通のフレームを持っている為、

耐弾性能は低いが、運動性能は非常に高い。

 

レッドフレーム以上に格闘戦仕様にチューニングされており、

徒手空拳の拳法の型を完全再現することが可能となっている。

 

自立支援AIが搭載されており、

相手の行動をある程度予測し、攻撃、回避を行う事が出来る。

 

他のアストレイシリーズやガンダムタイプと比べ、

大幅な改修や装備の追加が行われていない為、

火力面は少々貧弱である事は否めない。

 

本機にもリミッターが施されており、

解除した際はモビルスーツと同等の能力を発揮する。

 

主装備。

ツインソードライフル。

ビームライフルにスライド式のツインビームサーベルが搭載された特殊ライフル。

主に中近距離で重宝される装備であり、使いこなせれば非常に強力な兵装となる。

普段は右腰にマウントされる。

 

ビームサーベル

ブルーフレームセカンドGの物と同型のビームサーベル。

柄だけで携行されている為に、取り回しは非常に良好である。

 

サブウェポン

ガンダムアストレイ専用ビームライフル。

ガンダムアストレイシリーズ専用のビームライフル。

ツインソードライフルが装備されている本機では使用する機会が殆ど無い。

 

 

ソードカラミティ

ダリルのヘル・ハウンドver2.5が、

一夏から渡されたデータを基にCompulsionSift<強制移行>した姿。

近接戦闘向けに特化した機体であり、機体の重量も見た目に反し軽量である。

 

本機にもリミッターが課せられており、

解除した際はモビルスーツと同等の性能を発揮し、装甲もTP装甲に戻る。

 

主装備。

胸部大型ビーム砲<スキュラ>

機体の胸部に搭載された大型ビーム砲。

原型機であるカラミティガンダムにも搭載された装備だが、

近接戦闘をメインとしている本機は、エネルギーの節約の為に威力を70%まで落としている。

 

ロケットアンカー<パンツァー・アイゼン>

ソードストライカーの装備であったロケットアンカーを改修し、

両腕に装備した物。

原型機とは形状が若干異なるものの、その有用性は変わることは無い。

 

ビームブーメラン<マイダスメッサー>

ソードストライカーに装備されていたビームブーメランを改修し、

両肩に移植した物。

ブーメランとして投擲する以外にも、シュベルト・ゲベールでは難しい超接近戦においての、

即興のビームサーベルとしても使用出来る。

 

レーザー対艦刀<シュベルト・ゲベール>

ソードストライカーに装備されていた物を改修し、

本機の背面に二本装備した物。

元々は両手持ちでの使用を前提とされていた装備だが、

本装備は片手でも易々と振るう事が出来る。

また、二本重ね合わせる事で威力を高める事も可能である。

 

シースナイフ<アーマーシュナイダー>

脹ら脛部にラックされる対装甲ナイフ。

ストライクの装備と同名だが、あちらは折り畳み式のコンバットナイフであるのに対し、

こちらは非折り畳み式のシースナイフである。

それ以外は原型機とは何ら変わりはない。

 

 

フォビドゥンブルー

フォルテのコールド・ブラッドが、

一夏からもたらされたデータを基に、CompulsionSift<強制移行>した姿。

背面に背負う甲羅の様なリフターが特徴的であるが、

最大の特徴は、特殊技術、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを使用した事であり、

ビームライフルの射撃を直撃寸前に屈折させることで無効にすると言う、

アルミューレ・リュミエールとは違った意味合いの防御機能を有する。

 

ISとしてはほぼ初めて、水中戦を想定した装備を施している機体でもある。

 

本機にもリミッターが課せられており、

解除した際はモビルスーツと同等の性能を発揮し、装甲もTP装甲に戻る。

 

主装備

スーパーキャビテーティング魚雷キャニスターポッド。

バックパック側面装甲裏に装備された魚雷ポッド。

光学兵装が使用出来ない水中において、ソナーを装備しない対IS同士の戦闘では互いに驚異になる。

水中での戦闘を考慮した装備であるが、地上でも通常ミサイルと同じ様に使用出来る。

 

装甲内蔵式重刎首鎌<ニーズヘグ>

バックパック側面装甲先端に搭載された近接戦闘装備。

原型機であるフォビドゥンが使用していた大鎌と同じ名称だが、

こちらはどちらかと言えばクローの様な使用法である。

 

フォノンメーザー砲

バックパック先端に搭載された超音波メーザー砲。

音を使用したレーザーの様な物であり、水中でも発射可能。

因みに、水中では音は空気中の三倍近い速さで進むため、

メーザーの速度も上昇する。

ただし、真空状態では発射不能である。

 

テイルエクステンション

バックパック腰背部に装備されるヒートロッドと同系統の武装。

錨にもなるため、掴んだ敵は二度と離すことはない。

 

トライデント

手持ち兵装の実体トライデント。

他の武装やゲシュマイディッヒ・パンツァーがエネルギーを喰うために、

エネルギーを使わない本装備が採用された。

 

 

デスティニーインパルス

ナターシャの福音が、

一夏からもたらされたデータを基にCompulsionSift<強制移行>した姿。

広範囲殲滅を目的とした福音のコンセプトとは相反し、

大火力による部分的殲滅をコンセプトとしている。

 

デスティニーシルエットを装備しているが、

シルエット換装システムは存在しているため、

他のシルエットにも換装可能である。

 

本機にもリミッターが課せられており、

解除した際はモビルスーツと同等の性能を発揮し、装甲もVPS装甲に戻る。

 

主装備

フォールディングレイザー対装甲ナイフ

腰部サイドスカートに格納されるコンバットナイフ。

アーマーシュナイダーの近縁種の装備である。

 

高エネルギービームライフル

デスティニーインパルス専用のビームライフル。

インパルスの物ともデスティニーの物とも異なっている。

 

フラッシュエッジビームブーメラン

両腕肘部に搭載されるビームブーメラン。

収束率を調整する事でビームサーベルとしても使用出来る。

 

ビームシールド

手の甲に装備されているビームシールド。

アルミューレ・リュミエールの発展型であり、エネルギーの消費が僅ながら抑えられている。

デスティニーに搭載されていたビームシールドとはモデルが異なっている。

 

エクスカリバーレーザー対艦刀

ソードシルエットに装備されていた対艦刀を転用した装備。

連結させ、アンビテクストラストハルバード形態にもなる。

 

テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔

ブラストシルエットの装備を簡略化した装備。

ミサイルとジャベリンが撤廃されているが、砲としての威力の高さは健在。

背部ウィングスラスターユニットのホルスターに納められている。

 

サブウェポン

 

各種シルエット

インパルス専用のバックパック換装システムを利用した装備換装。

デスティニーシルエットが有るために存在意義は薄いが、

特化した形態を取る時のみに使用される。

また、マルチパックを持つアストレイアウトフレームDとの互換性がある。

 

 




はいどーもです。
またここは違うよーと言った場所があれば指摘して下さい。

それでは次回予告
新たな力を手に入れた箒達は、
その力を物にすべく訓練を行う。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
慣熟訓練 前編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

慣熟訓練 前編

side一夏

 

襲撃事件、及び、箒達の覚醒の翌日、

俺は毎度恒例の書類作成を行っていた。

 

今回は報告すべき事は多いのだが、一部虚偽の報告を行っておく。

勘づかれては不都合な内容も含んでるからな。

 

つっても、あの好好爺の目を誤魔化せるとは思ってないが、

あの人の手腕は本物だ、俺の想像通り動いてくれる。

そのお陰で俺は俺の仕事だけをしていれば済むからホントに楽だ。

 

で、昨日の終結後からボチボチ始めてた書類作成は大体終わり、

後はバックアップを取っておけばミッションコンプリートだな。

 

そう思い、準備に取りかかろうとした時、

誰かが生徒会室の扉をノックした。

 

誰だ?

可能性としてはセシリアとシャルだろうな。

彼女達は理事長と話を着けに行っているから、帰ってきたと考えるのが妥当だろう。

 

ま、可能性だけだから、取り敢えずは事務的で良いか。

 

「どうぞ。」

 

俺が入室の許可を出した後、

扉が開いてセシリアとシャルが入ってきた。

 

「只今戻りましたわ、一夏様。」

 

「理事長との算段、着けれたよ。」

 

「ご苦労さん、俺の方もあと少しで終わる、少し待っててくれ。」

 

コイツらにも本当に苦労をかけてるな・・・、

申し訳無いのか、それともここまで尽くしてくれることに喜ぶべきか・・・。

 

「さて、と・・・、これで御仕舞いっと・・・、

セシリア、シャル、戻るぞ。」

 

「はい♪」

 

「うん♪」

 

俺が席を立ちながら言うと、

二人は満面の笑みを浮かべて俺の両隣にポジションを取る。

 

何時も通り二人が俺の腕に抱き着いた事を確認し、

生徒会室を出ようとした時だった。

 

「一夏、ここにいるのか?」

 

「失礼するぜ~。」

 

「どもッス~。」

 

何時から三人一緒に行動する様になったのか、

箒、ダリル、フォルテの三人がひょっこりと顔を覗かせた。

 

「今から帰ろうとした所なんだがな、

三人揃ってどうした?俺に何か用か?」

 

報告書の類いは昨日の内に事情聴取と言う形で収束させたし、

特に何も無い筈なんだがな・・・?

 

「いや、仕事が終わってるならで良いんだけど、

アタシらの事を鍛えて欲しいんだ。」

 

「ガンダムの力を得たと言っても、

所詮はまだ付け焼き刃ッスからね、少しでも慣れておきたいんスよ。」

 

なるほどな、流石は専用機持ちと言うところだな、

己の力量をしっかりと理解してるみたいで本当に助かる。

 

これで少しでも慢心があれば、これからの戦いには勝てそうにも無いからな。

 

「己の力量を把握してる様で見事だ、

よかろう、俺達三人が相手になろう。」

 

「新たなガンダムの力、私も体感してみたいですからね。」

 

「それにお互いの力と性能を知っておいた方が、

何かと便利だしね~。」

 

セシリアとシャルも乗り気なのか、彼女達と戦う意思を見せる。

 

ま、身体が鈍らない様に動かすのもよかろうしな。

 

「行くぞ、時間は有限だ、無駄にはしたくない。」

 

「うむ!」

 

「おっしゃ!」

 

「やるッスよ~!」

 

sideout

 

noside

 

生徒会室を後にした一夏達は、

各々ISスーツに着替えた後、第1アリーナに足を運んだ。

 

「さて、一対一でやろうと思うが、

誰か特定の奴とやりたいって希望は無いか?」

 

一夏が誰と戦うかという組み合わせを考えようとした時、

すかさず箒が手を挙げる。

 

「私はセシリアと戦ってみたい、ドラグーンの力の真髄を見てみたいからな。」

 

「構いませんわよ、箒さん、私とデュエットいたしましょう?」

 

箒の申し出を快く受け入れ、

セシリアは優雅に微笑みながらも機体を展開する。

 

「それじゃあ私は、デュノアに相手してもらいたいッス、

砲撃型機体との相性ってのを確認しときたいッスから。」

 

「僕で良ければ喜んでお相手しますよ、フォルテ先輩。」

 

シャルロットもフォルテの申し出を受け入れ、

互いに機体を展開させる。

 

「じゃ、余り者同士、戦おうぜ会長!」

 

「余り者という言葉は戴けんが、まぁ良い、相手になろう。」

 

ダリルの言葉に苦笑しながらも、

一夏も己の機体を展開する。

 

各々ペアに分かれた三組は、広いアリーナの各所に散らばり、

互いの相手と向き合った。

 

sideout

 

sideセシリア

 

私と箒さんは、アリーナの管制室の近くまで機体を移動させ、

その場でお互いに向かい合います。

 

赤と蒼の機体、私と箒さんの機体は対を成す色を持っている。

もっとも、それだけでは無いと思いますがね。

 

「箒さん、一つお聞きしてもよろしいですか?」

 

「なんだ?私に答えられる質問ならなんでも答えるが?」

 

「そんなに大層な質問でもありませんわ、

ただ、何故一夏様に相手を申し込まれなかったのですか?」

 

このブルデュエルを操る様になってから、

私の腕前は以前とは比べ物にならない程になっているという自負はありますが、

それでもまだ、一夏様に勝てる程の腕はありません。

 

私などに挑まれるよりも、一夏様に戦いを申し込まれた方が、

確実に身にもなります。

 

「深い意味は無いさ、ただ、私の友、セシリア・オルコットの腕を知りたいのだ、

まだまだ、私は弱い、だから、学べる事が絶対にあるから、私はセシリアに相手をして欲しいんだ。」

 

「ふふっ、嬉しいお言葉ですわね、

分かりましたわ、このセシリア・オルコットの腕前、

箒さんにお見せ致しましょう。」

 

こんな私から何かを学ぼうとされている友に、

私が出し惜しみをすることは失礼に値しますわね。

 

このセシリア・オルコット、出し惜しみは致しません、

篠ノ之 箒さん、貴女の気概を、私に示してくださいませ!

 

「セシリア・オルコット、ブルデュエルデーストラ、参ります!!」

 

「篠ノ之 箒、レッドフレーム改、参る!!」

 

私はビームサーベルを、箒さんは腰に装備していた日本刀を抜き放ち、

互いに間合いを詰めて振り、切り結びます。

 

実体剣で何故ビームサーベルと切り結べるのかは存じあげませんが、

今はただ、その様な雑念を払い、箒さんだけを見てこの刃を振るうだけですわね。

 

さぁ、私とデュエットを踊りましょう?

 

sideout

 

sideシャルロット

 

僕とフォルテ先輩は機体をピットの近くまで移動させて、

お互いに武器を保持して向かい合う。

 

フォビドゥンブルーかぁ、

一見鈍重そうだけど、あのリフターがどんな能力を持ってるか分からないから要警戒だね。

 

「そう言えば、デュノア、お前に聞きたい事があるんスけど、

聞いてもいいッスかね?」

 

「僕は構いませんよ?答えられる質問ならなんでも答えます。」

 

なんだろう?

特に関わりが無いから尋ねられる事に該当点が多すぎて分からないや。

 

「力って、なんなんッスかね?」

 

「また哲学的な質問ですね、一夏からの受け売りですけど、

力は時に人を傷付ける事があるかも知れない、

それでも護るのも力、使い手の意志がその有り様を変えると彼は言っていました。

僕とセシリアは、彼のそんな強さに憧れてますから。」

 

そう、僕はあの究極の力に憧れ、

僕自身を縛る鎖から逃れる事を夢見た。

 

彼の隣に立つのは単純な恋心だけじゃない、

僕が自由になるための力を着けるためだ。

 

「そうッスか、羨ましいッスね、そんじゃ、その力を見せてくれッス。」

 

「勿論ですよ。」

 

考えるのは此処まで、

此処からは力で語る時だね。

 

「シャルロット・デュノア、ヴェルデバスターシーストラ、行きます!!」

 

「フォルテ・サファイア、フォビドゥンブルー、行くッスよ!」

 

フォルテ先輩のフォビドゥンブルーが突っ込んで来るのに合わせ、

僕はビームライフルの照準を合わせてトリガーを引いた。

 

砲口から迸ったビームは、一直線にフォビドゥンブルーに突き進むけど、

どういうわけか、直撃する直前で軌道を変え、逸れていった。

 

まさかビームを屈折させる機能が備わってるというの!?

それじゃあエネルギー兵器じゃダメみたいだね!

 

「そこっ!」

 

「はあっ!!」

 

フォルテ先輩がトライデントを突き出して来るのに合わせ、

僕はグランドスラムを展開、突きを逸らす。

 

本当なら追撃をかけたい所だけど、僕の機体の領分は遠距離戦なんだよね。

ちょっと距離を開けさせてもらおうかな。

 

でも、ここまで背筋が冷えたのは一夏とセシリアの時以来だよ、

さぁ、もっと楽しもうよ!!

 

sideout

 

side一夏

 

セシリア達が離れた場所に移動した事を確認し、

俺はソードカラミティを操るダリルに向き直る。

 

格闘戦特化機には、

こちらも格闘戦に特化したストライカーを使うとしよう。

 

ノワールストライカーを量子格納し、

アナザートライアルソードに換装する。

 

大まかな装備は同じ条件だが、

俺にはシュベルトゲベールが一本少ないという若干のハンデがある。

 

ま、そんな些細な事、戦いでは無意味に近い。

 

「へぇ~、それがストライカーシステムか、初めて生で見たぜ。」

 

「これだけがストライカーじゃないんだよな、

ま、見たければ自分で俺に出させる事ですね。」

 

「ヘッ、言ってくれるぜ、なら、頑張んなきゃな。」

 

それでこそ戦う意味があるというものだ、

ソードカラミティの性能と、アンタの実力を計らせてもらおう。

 

「あ、そうだ、この際聞いときたい事あるんだが、良いか?」

 

「唐突ですが、まぁ構いませんよ、答えましょう。」

 

「ありがとよ、まぁ、なんでお前は戦い続けてんのか気になっただけなんだがな。」

 

あぁ、そう言うことか。

俺の戦いの根源を知りたいと言うわけだな。

 

本当の事はまだ、教える事は出来んが、

それに近い答えならば返せるな。

 

「ただ単に、強い相手と戦い、勝ちたいだけです、

そして力を着ける、それだけが望みです。」

 

「ヘッ、戦闘狂って所かよ?ま、そういう生き方も良いんじゃねぇの?」

 

俺の答えに納得したのか、

ダリルは右手にシュベルト・ゲベールを保持し、

切っ先を俺の方に向けてくる。

 

上等だ、こちらもそれ相応の礼を採らせてもらうとしよう。

 

バックパックからシュベルト・ゲベールを抜き取り、

両手で保持する。

 

「織斑一夏、ストライクE+アナザートライアルソード、行くぜ!」

 

「ダリル・ケイシー、ソードカラミティ、斬るぜ!!」

 

全く同じタイミングで地を蹴り、

相手との距離を詰めながらもシュベルト・ゲベールを振りかぶり、

間合いに入ったと同時に振り、拮抗状態に入る。

 

良い反応、そして太刀筋だ、

この俺の剣閃に着いてこれるとはな。

 

それでこそ、その力を託した甲斐があるというものだ。

 

「クッ・・・!流石は会長だ・・・!

同じ武器を振るってる筈なのにここまで刃が重いとはな!」

 

「貴女も中々の腕だ、そうこなくては倒し甲斐が無いというもの!」

 

腕に力を籠め、刃を押し込むが、

あちらもみすみすヤられるつもりは無いらしく、

上手いこと剣をずらして俺から距離を取った。

 

さぁ、戦え、戦って戦って!!

この俺の血をたぎらせてくれ!!

 

sideout




はいどーもです!!

今回は前編と言うことで導入のみになります。
本格的なバトルは次回からと言うことで。

それでは次回予告
慣熟訓練を開始した一夏達は、
互いの腕を知り合う為に苛烈な戦闘を繰り広げる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
慣熟訓練 中編

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 腐女子組合会合その3


最新話が出来上がらなかったので、
今回は閑話の腐女子組合で勘弁してください(汗)



noside

 

腐女子組合。

IS学園の生徒の3分の1が所属していると言われている一大組織である。

 

存在自体は非公認なのだが、

IS学園最大のサークルとして幅を利かせている。

 

彼女達の活動は内部的な物が多いため、

組合に所属していない生徒達がその内情を知ることは無い。

 

だが、実際には男と男の絡みに萌える、

変態達の巣窟となっている事が実情なのである。

 

今回は、そんな彼女達の知られざる(?)内情を覗いて見ることにしよう。

 

sideout

 

noside

 

時は遡り、雅人が転入して一週間が経った日の話である。

 

IS学園のとある会議室に、

三桁をゆうに越える人数の腐女子達が集結した。

 

皆、一様に鼻息を荒くし、何かが始まるのを今か今かと待ちわびている様だった。

 

そんな中、腐女子組合参謀であるモッピーこと、篠ノ之 箒が壇上に立ち、

喉の調子を整える様に軽く喉を鳴らす。

 

「皆様!お待たせ致しました!!これより第30回、我ら薔薇の園の定期集会を執り行いたいと思います!!」

 

『ウォォォォォォォ!!!』

 

箒の宣言と共に、場内にいた全ての腐女子が雄叫びをあげる。

 

あまりの音量に窓ガラスがビリビリと震えているが、

そんな事はお構い無しにに彼女達の暴走は続いていく。

 

「三人目の男!加賀美雅人がこのIS学園に転校して既に一週間が経った!

諸君らがたぎらせてきたマグマを今解き放とう!!

それでは早速、誰から発表するか!?」

 

「ハイッ!!」

 

「会員番号93番!!」

 

箒に指名された会員の少女は立ち上がり、

自ら用意したパソコンを映写機に繋ぎ、何やら作業を始めた。

 

「雅人君はどちらかと言えば攻めなんで!こんなのを描いてみました!!」

 

作業が終わり、スクリーンに上半身裸の秋良の上に覆い被さる半裸の雅人の姿が描かれた漫画のヒトコマが映し出された。

 

『イヤッフゥゥゥゥゥゥ!!!』

 

各々の脳内で色付けで投影され、腐女子達は歓喜の叫びをあげる。

 

正直、すごく恐い。

 

「キタコレ!秋×雅キタコレ!!」

 

「やっぱり秋良君は受けが似合うのね!!グフフフッ!」

 

「ヤバッ、鼻血が・・・。」

 

なんとなくヤバい人間もいるようだが、

この際、スルーしておく方が良いだろう。

 

「私が考えた展開はこうです!!」

 

sideout

 

side妄想。

 

『秋良・・・。』

 

秋良の上に覆い被さる雅人は、秋良に対しての劣情を抑え込もうと必死だった。

 

『雅人・・・、俺、雅人なら良いよ・・・?』

 

秋良はその整った顔を赤らめながらも、

雅人に対して誘うような仕草をする。

 

『でも・・・、優しくしてね・・・?』

 

『秋良・・・!!』

 

遂に我慢の限界がきた雅人は、秋良に襲い掛かった。

そして・・・。

 

 

sideout

 

noside

 

『ヤックデカルチャァァァ!!』

 

その想像の先を脳内で再生した彼女達は一斉に歓喜し、

ある者は吐血、ある者は鼻血を大量に垂れ流していた。

 

見た目が麗しい少女達なだけに、

物凄く残念で物凄く気味が悪い。

 

「良い!最高に良い!!」

 

「デレ受けの秋良君、萌えぇぇぇぇ!!!」

 

「秋×雅・・・!アリね・・・!アリだわ!!!」

 

狂喜乱舞する彼女達は、

まるで何かに取り憑かれたかの如くウェーブを始める。

あまりにも綺麗に流れる為に逆に恐い。

 

「素晴らしいぃ!!秋良のデレ受け!!想像しただけでこの威力っ・・・!

次の案を出してくれ!ここから更に萌えるぞぉぉぉ!!」

 

『ウォォォォォォォ!!』

 

何やらスイッチが入った箒の煽りに、

部屋の中にいる淑女達が一斉に叫んだ。

 

なんなのだろうか、この体育会系のノリは。

 

「ハイッ!!」

 

「会員番号40番!!」

 

「私は一夏会長も交えた3Pで・・・!」

 

sideout

 

side妄想

 

『一夏・・・。』

 

『兄さん・・・。』

 

『クックックッ・・・、物欲しそうな顔をしやがる・・・。

我慢しろと言った筈なんだがなぁ・・・?』

 

とある部屋の床に、上半身裸の秋良と雅人は膝まづき、

ベッドに腰掛ける覇王、一夏は薄い笑みを浮かべながら二人を見下ろしていた。

 

『一夏・・・!頼む、慈悲を・・・!』

 

『もう・・・!我慢、できない・・・。』

 

二人は呼吸を荒げ、一夏に懇願する。

 

『クックックッ・・・、良いだろう、来い、俺を楽しませろ。』

 

『兄さん!』

 

『一夏!!』

 

臣下に褒美を与える様に誘う一夏目掛け、

二人は飛びかかった。

 

そして・・・。

 

sideout

 

side

 

『ウォォォォォォォ!!ユニバァァァァァァスッ!!!』

 

御大将の様な叫びをあげ、腐女子達は沸き立った。

 

「来た!一夏君の覇王受け!!」

 

「その発想は無かったわ!!」

 

「最高!最高よ・・・!!」

 

半数が狂喜乱舞し、

半数は想像した画の破壊力にやられて失神した。

 

「最高だ・・・!一夏は受けが良いとは思っていたが、

まさかの誘い受けだったとは・・・!!」

 

何を言っているのか全くもって理解できないが、

箒は恍惚の表情で鼻血を大量に垂れ流していた。

 

一見、大和撫子な彼女が恍惚の表情を浮かべながら鼻血を垂れ流す絵は、

気味が悪いを通り越して、気色悪いといった方が適切だと思える。

 

「最後は私が〆を務めよう!!これを見てくれ!!」

 

そう言って、箒がスライドに映し出したのは、

一夏や秋良が訓練後に顔を洗っている時の写真だったり、

模擬戦時の真剣な表情を写した写真だった。

 

「R18に持っていくことも悪くは無い、だが!

本当のBLとは、何気無い所に潜んでいることを忘れるな!!」

 

箒の宣言に、

室内にいたすべての腐女子はハッとした表情を見せる。

 

「そうだっだ・・・!日常の中に本当の素材は隠れているのよね・・・!」

 

「忘れてた・・・!!その通りね!!」

 

「これらも彼等の日常に目を光らせ、

我々薔薇の園のネタを集めよう!!」

 

『我ら薔薇の園に栄光あれ!!』

 

箒の掛け声と共に、

全ての会員が立ち上がり、拳を突き上げる。

 

一見、どこぞの兄弟の掛け声の様に感じたのだが、

そんな事は些細な事なのであろう。

 

今日も腐女子は暴走を続けていくのであった・・・。

 

 

 

 

 

 

「「「ウォォォォォォォ!?」」」

 

『!?』

 

その頃、軽音部の部室を借り、

文化祭の出し物の練習をしていた一夏達が揃って悲鳴をあげ、

ミキサーを弄っていた軽音部の女子生徒達が驚いた表情になる。

 

「ま、またかよ・・・!!」

 

「きょ、今日が会合だったんだね・・・!」

 

「な、なんなんだ、今の・・・!?」

 

毎度の感覚に馴れている一夏と秋良は、

もう諦めたかの如く震えを抑えるために身体を抱きすくめるが、

今日が初めての雅人は、いったい何が起こったのか理解できないまま、

滝の様に流れる冷や汗を拭っていた。

 

 

彼らはこれからも、腐女子達の妄想のネタにされ続け、

知らず知らずの内に被害を被る事になるのであろう。

 

そんな彼等に救いはあるのだろうか?

それは誰にも分からない・・・。

 

sideout

 




はいどーもです!!

久し振りに書いた様な気がするなぁ、腐女子は・・・(汗)

次回は前回の予告通り書きますので、
お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

慣熟訓練 中編

side箒

 

「そこだっ!!」

 

セシリアが駆るブルデュエルデーストラ目掛け、

私はビームライフルを撃ちかける。

 

しかし、セシリアは涼しげな表情のまま、

ビームの光条を回避し続ける。

 

(えぇい!私は射撃が上手く無いんだ!

こんなもの使ってもエネルギーの無駄だ!!)

 

確かにビームライフルは強力な武器だが、

ハッキリ言って、私は格闘戦にしか能がない。

 

ならばこんなもの、私には無用の長物だ。

 

そう思ってビームライフルを投げ捨て、

左腰からガーベラストレートを引き抜き、

向かってきたセシリアのビームサーベルと切り結ぶ。

 

何故実体剣がビームサーベルと切り結べるのか等と考えてる暇はない、

相手はあのセシリアだ。

 

最強と名高い一夏の片翼を務めている彼女の強さは本物、

少しでも気を抜けば瞬殺される事は間違いない。

 

「行きなさい!ルーヴィアドラグーン!!」

 

彼女の掛け声と共に、

ブルデュエルの背後から四基のドラグーンが射出され、

高速で移動しながらも私を囲む様に展開してくる。

 

「くっ!」

 

いきなりドラグーンか!

力量を買ってくれるのは純粋に誇らしいが、

まだそれで攻撃されるのは辛いんだ!!

 

「さぁ、箒さん、貴女の躍りを見せて頂けませんこと?」

 

「生憎!私は日本舞踊しか踊れんのでな!」

 

四方から撃ちかけられるビームを回避しているのだが、

反撃する暇が無い!

 

「そこですわ!」

 

「ちぃっ!!」

 

セシリア本人も、

一夏がよく使っているグレネードランチャーを装備したビームライフルを撃ちかけてくる。

 

なんて多角的な攻めなんだ・・・!

これでは反撃するどころか、五分と持たない・・・!!

 

「クッ!ヴォワチュール・リュミエール!!オープンデルタ!!」

 

タクティカル・アームズⅡLの機能、

ヴォワチュール・リュミエールを展開し、

推進速度を大幅に増幅させ、ドラグーンの射撃を回避する。

 

「速度が上がった!?この速さは・・・!」

 

驚きながらも攻撃の手を休めないのは流石だ、

私が回避しようとする先々にドラグーンが待ち構えている。

 

ドラグーンを操作しながらも、機体の操縦、

そして攻撃を同時に行う器用さ、否、彼女の能力の高さに私は純粋な尊敬すら覚える。

 

もっとも、相手にしている方はかなりツラいのだがな・・・!!

 

そんな事を考えている内にも、

私はタイガーピアスを引き抜き、二刀流でセシリアに迫る。

 

セシリアはビームサーベルを二刀流で保持し、

此方に高速で接近してくる。

 

「「ハァァァァッ!!」」

 

共に烈迫した気合いを込め、

己の得物を相手めがけて振るう。

 

元々は遠距離戦が得意だった筈のセシリアだが、

一夏にどんな風に鍛えられたのかは知らないが、

私より格闘戦の能力が高い・・・!!

 

彼女が振るう光刃がレッドフレームのボディを掠める度に、

私の背筋に冷たい汗が流れ落ちる。

 

これが恐怖と言うものなのか・・・!!

 

これを克服すれば、私は更に強くなれる!!

 

そう確信しながらも、

私は何度もセシリアとぶつかった。

 

sideout

 

sideフォルテ

 

フォノンメーザーを撃ちながらも、

デュノアの機体、ヴェルデバスターシーストラから撃たれるミサイルをなんとか回避する。

 

フォビドゥンブルーに搭載されたゲシュマイディッヒパンツァーのお陰で、

デュノアから撃たれるビームは無効化してるんスけど、

あの数のミサイルは厄介ッスね。

 

それに、彼女はまだ殆どの装備をこちらに見せてないから、

こちらとしてもヘタに動きづらいッスね。

 

「そこっ!」

 

「うわっ!?」

 

あ、危ないッスね・・・!!

まさかビームサーベルと思ってた所からビームが飛んでくるなんて・・・!!

 

コイツの機能が無けりゃ、危なかったッスよ。

 

「このっ!!」

 

こちらも負けじと、スーパーキャピテーティング魚雷をミサイル代わりに発射、

彼女が撃ってくるミサイルとの弾幕合戦を展開する。

 

にしても、恐ろしいセンスと戦闘能力ッスね・・・!!

流石は最強の一角を担うだけの事はあるんスね!!

 

(と言うか、遠距離戦は流石にキツいッスね!)

 

この機体は中近距離戦は結構強いんスけどね、

向こうは本物のオールラウンダー、何処の距離でも一定の戦力を維持できる。

 

あぁ、本当に戦いにくいッスよ!

牽制も上手いし不意討ちも畏れ入る。

 

けど、こっちの本領は近接格闘戦にあるンスよね。

向こうは近距離でも戦えるには戦えるみたいッスけど、

そこまで得意じゃ無さそうッスね。

 

そんじゃ、そろそろ近付いて戦うッスよ。

 

「いくッスよ!!」

 

トライデントを構え、

ミサイルをサイドバインダーで防ぎながらも、

ヴェルデバスターに急接近する。

 

「!!」

 

デュノアもこちらに気がついたのか、

私の方に向け、長大な実体剣を構えて迫ってくる。

 

「「ハァァァァッ!!」」

 

トライデントの叉の部分で実体剣をなんとか受け止めたのはいいんスけど、

デュノアはその可憐な見た目からは想像も出来ない程の力で剣を押し込んでくるンスよ。

 

(何処にこんな力があるんスか!?私より綺麗な腕してるってのにぃ!!)

 

戦士としても女としても、

なんか私ぼろ負けしてる気がスルッスよ!!

 

「この距離なら、外しませんよ?」

 

デュノアは何故か背筋が凍る様な感覚を覚える微笑みをこちらに向けつつも、

両肩に搭載されているミサイルポッドを開く。

 

「!?ちょっ!?それは反則ッスよ!?」

 

そんなモンをこんな至近距離で喰らったらマズイッスよ!?

 

ちくしょう!ここままやられてたまるもんスか!!

 

「えぇい!!」

 

一か八か!ここで勝負をかけてみるッスよ!!

覚悟を決め、フォノンメーザーを意識の中でトリガーを引いた。

 

sideout

 

sideダリル

 

「はぁっ!」

 

シュベルト・ゲベールを振り、織斑会長と互いに打ち合うが、

男女の筋力差、鍛え方の違い、そして一日の長がある織斑会長の刃は重く、

アタシは完全に力負けしていた。

 

「力だけで押し切ろうとしない方が良い、

シュベルト・ゲベールを振るには一定の柔軟さがいる。」

 

「やっぱ強ぇなお前!!」

 

アタシがこんだけ力込めてんのに、

どうしてこの男は涼しげな表情のまんまなんだよ!

 

「だが、これならどうだ!!」

 

スキュラを至近距離で発射し、ダメージを与えようとしたが、

奴は見事にスキュラのビームを避け、アタシから距離を取った。

 

「今のは不意討ちとしては実に良い、

だが、俺が予想してなかったとは思わない事だ。」

 

「ヘッ!最強がこの程度でヤられる訳ねぇってことぐらい!

最初から織り込み済みだっての!!」

 

口ではそう言うものの、

まさかあんな不意討ちを余裕を持って避けられるとは思ってもみなかった。

 

だが、これでハッキリした、

アイツには小手技、搦め手なんて一切通じない。

 

ならアタシの身体を全部使った大技で、

アイツに向き合ってやるだけさ!!

 

左背のシュベルト・ゲベールも抜き放ち、

二刀流で構える。

 

「行くぜ!!」

 

アタシは地面を踏み締め、

ISによって増幅された脚力を使い、一気に織斑会長との距離を詰める。

 

「ハァァッ!!」

 

「チッ!」

 

流石に二刀流を一刀では受け止められないのか、

彼は新たに長大なレーザー対艦刀を呼び出していた。

 

「良いねぇ、この躍動感、たまらねぇな。」

 

「ケッ!受け止めといてよく言うぜ!!」

 

悔しいが今のアタシの技量じゃ掠り傷一つつけられねぇだろう。

 

だが、それがどうしたってんだ。

勝てないからこそアタシは彼に目にもの見せたくなる!

 

「ハァッ!!」

 

なんとか剣閃をずらし、彼から距離を取りながらもパンツァーアイゼンを射出、

攻撃を叩き込む隙を作ろうとする。

 

だが、彼も左手のパンツァーアイゼンを射出、

アタシが射出したパンツァーアイゼンを相殺した。

 

「チィッ!!」

 

ならばと、左手に持っていたシュベルト・ゲベールを地に突き刺し、

右肩からマイダスメッサーを引き抜いて投擲する。

 

「フッ!」

 

だが、奴は絡まったままのパンツァーアイゼンのケーブルを手繰り寄せ、

アタシが投擲したマイダスメッサーに切断させ、

一気にこちらに迫ってくる。

 

勿論、引っ張られた事でアタシの体制も崩されてる・・・!!

 

「オォッ!!」

 

烈迫した気合いと共に、

織斑会長がシュベルト・ゲベールを構えて迫ってくる。

 

敵を討つには絶好のタイミング、

アイツはこのタイミングを逃がしはしないだろう。

 

だが、こんな事でアタシは負けねぇ・・・!!

アタシは強くなりてぇ!!

だったらこんな所で諦めてられっかよ!!

 

「アタシの戦いは・・・!!こっからだぜぇぇ!!」

 

地面に突き刺していたシュベルト・ゲベールを上手いこと蹴り上げ、

突進してくる織斑会長目掛けて飛ばす。

 

それと同時に、アタシは地をしっかりと踏み締め、

飛び掛かる準備をする。

 

当たりはしなくとも回避すんのにちょっとは速度も落ちるだろう!

 

「行くぜ!!」

 

頭から突っ込む様な形で飛び出す。

不恰好極まりねぇが、この際気にしてらんねぇぜ!!

 

「なるほどなぁ、良い攻めだ。」

 

だが、アタシの目の前に、

アタシが蹴り飛ばしたシュベルト・ゲベールを保持した織斑会長が待ち構えていた。

 

「なっ・・・!?」

 

どうしてアタシのシュベルト・ゲベールを持てるんだ・・・!?

 

「だが、相手の真のスペックを知らないまま突っ込むのは、

戦術的な面で見ても奨められんな。」

 

織斑会長はそう言いながらも、

自分が元々持っていたシュベルト・ゲベールと重ね合わせながらも振り下ろしてくる。

 

クソッ!!終わってたまるかぁぁぁ!!

 

彼に対抗するため、

アタシは下段からシュベルト・ゲベールを振り抜いた。

 

sideout

 




次回予告
それぞれの訓練を終えた一夏達の前に、
新たな挑戦者が現れる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
慣熟訓練 後編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

慣熟訓練 後編

sideセシリア

 

「「ハァァッ!!」」

 

五度目の衝突から距離を取りながらも、

私は箒さんの戦闘能力を分析いたします。

 

近接格闘能力は私やシャルさんに匹敵するレベルですが、

射撃が苦手なのがマイナスポイントですわね。

 

単純に機体の性能に振り回されている感は拭えませんが、

私が攻撃を仕掛ける度に、徐々に精度が上がって来ています。

 

(流石は一夏様が一目置く方ですわね、少し嫉妬してしまいますわ。)

 

それでも、私は一夏様の方翼として選ばれた女、

いくら一夏様が見込まれた相手と言えども、私は負けませんわよ!!

 

「行きなさい!ルーヴィアドラグーン!あなた達の力、存分に振るいなさい!!」

 

元から展開していました四基に加え、

機動力を確保するために残していた残りの四基も射出し、

合計八基による多角攻撃を仕掛けます。

 

「チィッ!!」

 

強化された速度を保ったまま、

箒さんは八基のドラグーンから撃たれるビームをかろうじて避けられていました。

 

見事な反射能力ですわね、

私とシャルさんには及ばないものの、

代表候補生のそれを遥かに上回っています。

 

あぁ、一夏様とシャルさんの他に、

ここまで私を興奮させてくださる方と戦えるとは思いませんでしたわ。

 

私を楽しませてくださったお礼に、

このセシリア・オルコットの本気を御見せいたしましょう!!

 

ドラグーンの操作により意識を割き、

オールレンジ射撃の精度を格段に向上させます。

 

「はぁっ!!」

 

フレキシブルショットのみならず、

バーストショットやビームスパイクでの突貫等を織り交ぜ、

箒さんのレッドフレームを攻め立てます。

 

「うわっ!?」

 

ビームスパイクの突貫に直撃し、

箒さんは大きく体制を崩しました。

 

そこに左肩のラックから引き抜いたスティレットを投擲し、

バイタルエリアに直撃させて一気に戦闘不能に追い込みました。

 

「うわぁぁっ!?」

 

「フィナーレ、ですわ。」

 

地面へと落下していく箒さんを見送り、

私は全てのドラグーンを戻します。

 

私に敗れはしましたが、

箒さんはこれから更に伸びる事でしょう。

 

楽しみですわね。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

ミサイルを発射しつつ、

なんとか後退してフォノンメーザーを回避した僕は、

グランドスラムを格納し、ハイパービームサーベルを引き抜く。

 

さっきの攻撃で分かったけど、

あの装甲、実弾や至近距離からの攻撃には脆いみたい。

 

特に傷がついたからとかそんなんじゃ無いけど、

機体の直前でビームが曲がってるのを見たら何となく判断出来る。

 

つまり、このハイパービームサーベルなら、

あの特殊な装甲を突破出来る。

 

「行くッスよ!!」

 

サファイア先輩がトライデントを構えてこっちに向かってくる、

どうやら僕の本当の力を知りたいみたい。

 

その学ぶ姿勢、本当に共感出来るよ。

僕達も一夏から何かを学ぼう、そして越えようとしている女だから余計にね。

 

これまでの見立てで分かった事と言えば、

近接格闘能力は僕やセシリアに劣るけど、普通の代表候補生に比べたらかなり良い位だね。

 

もっとも、牽制がまだまだ甘い所が難点だね、

後でちゃんと指摘しとかなきゃね。

 

だから、ここで何かを掴んで貰うためにも、

この僕、シャルロット・デュノアの全力をぶつける!!

 

スラスターを全開にするのと同時に、

僕は向かってくるサファイア先輩に向けて、

ハイパービームサーベルを突き出した。

 

サファイア先輩もトライデントを突き出して来るけど、

リーチの差で僕の方が早く機体に届く。

 

「そのまま、貫けぇぇぇぇ!!」

 

「はぁぁぁッ!!」

 

フォビドゥンブルーの直前で、一瞬さざ波を打った様になるけど、

突撃で生じた勢いに負け、遂に突貫を許した。

 

「そんなっ!?」

 

「もらいましたよっ!!」

 

驚きながらも勢いを止められないサファイア先輩を他所に、

僕はハイパービームサーベルを押し込んだ。

 

光刃が絶対防御に直撃した手応えを感じながらも、

僕はそのまま背後へと抜けた。

 

これでシールドエネルギーは全部奪えた筈だね。

そう思いながら振り向くと、膝をついたフォビドゥンブルーの後ろ姿が見えた。

 

ふぅ・・・、やっぱり信念が籠ってる刃は重いね、

相手にしてて気持ちいけど気疲れしちゃうな。

 

セシリアの方も終わったみたいだね、

後は一夏の方だけだね。

 

sideout

 

side一夏

 

二つ重ねで振るったシュベルト・ゲベールは、

下段から振り上げたダリルのシュベルト・ゲベールを砕きながらも進み、

 

肩口に直撃したシュベルト・ゲベールを振り抜き、

一発でシールドエネルギーを全て奪い去った。

 

「勝負あったな?」

 

「くっ・・・!クソッ!ヤッパリ負けちまったぜ!」

 

悔しそうに、だが何処か清々しそうにしながらも、

ダリルはアリーナの地面に大の字で寝転がった。

 

コイツ、ホントに女か?

所々凄く豪快だから男と思っちまうぜ。

 

「だが、良い戦いだった、

こちらとしても有意義な戦闘だったぜ。」

 

「へっ!汗のひとつもかいてねぇ奴に言われても、

全然嬉しくもねぇよ。」

 

そんなに照れた顔で言われても説得力が無いぞ、

ま、清々しい気分は察する事は出来るがな。

 

「さてと、今回の模擬戦の講評だが、

シュベルト・ゲベールを蹴り飛ばす対処は良かったが、

闇雲に突っ込んで来たのは頂けんな、ま、そう言うのも良いとは思うがな。」

 

「そうかい、これからの訓練の指針にさせてもらうとするぜ。」

 

良い心掛けだ、その気さえあれば確実に強くなれるな。

 

ふと他の場所に目をやると、

こちらに戻ってくるセシリア達の姿があった。

 

どうやら、三戦とも終わった様だな。

 

「箒さんはもっと色々な武装に慣れる事から始めませんか?

いつまでも刀だけで戦えるとは限りませんもの。」

 

「サファイア先輩は牽制がまだ甘いですね、

あの装甲の利点は絶大ですから。」

 

「う、うむ・・・、精進させて貰う。」

 

「了解ッスよ、いや~、まさか抜かれるとは思わなかったッスよ。」

 

セシリアの指摘に箒は少しだけ苦い顔をし、

フォルテはシャルの指摘にやっぱりそうかという表情をしていた。

 

どちらとも自分の弱点を理解している様で、

こちらとしても教えやすい事この上無い。

 

「さてと、今回の訓練はこれぐらいにしておくか?

新しい客人も来たようだしな?」

 

新しい客人の存在に気付いた俺が、

ピットの方向を向くのにつられ、彼女たちもその方向に向く。

 

「こんにちわ~。」

 

グリーンフレームを展開した山田先生と、

デスティニーインパルスを展開したファイルス先生がいた。

 

戦う気満々だな、上等だ。

 

「皆さんお揃いで訓練ですか?」

 

「今終わった所ですよ、先生たちも今から訓練ですか?」

 

「まぁ、そんな所ね。」

 

なるほどな、機体に慣れるための訓練か、

この二人位のレベルになればどんな機体でも造作無く操れるとは思うがな。

 

「よければ、俺が相手になりましょうか?

ガンダムタイプに最も慣れている俺が相手なら、

その機体の全てを発揮できるかもしれませんよ?」

 

「それじゃあ、よろしくお願いします。」

 

「教師も含めた学園最強の実力、確かめて起きたい物ね。」

 

俺が戦闘に誘ってみると、

二人はかなり乗り気らしいのか、すぐさま己の得物を構えた。

 

「では早速、といきたい所だが、そろそろ出てきたらどうだ?」

 

いい加減、俺と戦いたいなら素直に出てくれば良いのにな、

もっとも、面と向かって申し込むのが嫌なのは分かるがな。

 

「流石ね・・・、ステルスで隠れてたのに、よく分かったわね。」

 

俺が向き直った方向の空間が揺らぎ、

ステルスを解除したブルーフレームが姿を現す。

 

「そんなもん、空気の微妙な流れの違いで判別出来る、

で?一体なんの用だ?」

 

大体は察する事ができるが、

やはり本人の口から聞き出せる事は聞いておきたいからな。

 

「もう分かってるんでしょ?前にヤられた借りを返しに来たわ。」

 

「はっ!ガンダムの力を持って図に乗ったか?

良いだろう、出る杭は打たせてもらうとするか、セシリア、シャル。」

 

「かしこまりましたわ。」

 

「ふふふっ、もう一回戦うんだ?」

 

またしても三対三だな、

どうやって分かれるとするかね?

 

「セシリア、楯無の相手をしてやれ、

俺はグリーンフレームの実力とやらを確かめたい。」

 

「ちょっと!私との勝負をすっぽかすというの!?」

 

「黙ってろ、お前ごときが俺に勝てるとでも思ってるのか?

俺の片翼に勝つことが出来れば考えてやる。」

 

とは言え、セシリアが負けるとすれば俺かシャルだけなんだがな。

 

「それじゃあ、今度は余り者同士、お手合わせ願いませんか?ファイルス先生?」

 

「そのお局様になったみたいな発言に訂正を求めたいわ・・・。」

 

シャル、悪気は無いんだろうが、

流石にこの残姉さんにその発言はダメージ判定あるからやめてやれ。

 

まぁ、事実だから庇う事自体が無意味な気がするんだがな。

 

「さて、それでは始めるとしようぜ?

ガンダム同士による、戦いというものをな。」

 

俺の言葉を皮切りに、

それぞれのペアは移動を始め、

箒達、先発組はとばっちりを喰わない場所まで移動した。

 

さぁ、楽しい宴の始まりだ、

心行くまで楽しんでいけよ!!

 

sideout

 




次回予告
セシリアと戦うことになった楯無は、
己の意地をかけて彼女に挑む。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
青と蒼

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

青と蒼

sideセシリア

 

一夏様の命を受けまして、私は先程と同じように、

ピットの真下付近まで機体を移動させました。

 

視線を移した先には、

青いフレームを持ったガンダム、ブルーフレームセカンドが佇んでいます。

 

同じ系統の色でも、

彼女の機体、ブルーフレームは明るい青の色を持っているのに対して、

私の機体は闇の様にくすんだ蒼の色を持っている。

 

まるで、私達の関係、立場を表しているみたいに思えまして、

とても皮肉なのですがね。

 

そんな事はどうでも良いですわね、

今はそんな事よりも大切な事が有りますもの。

 

「さて、図に乗った愚かな女に鉄槌を与えましょうか?」

 

彼女はご存知無いのでしょう。

ガンダムの力を得たとは言えども、所詮はまだ付け焼き刃。

そんな物で一夏様と戦おうとするなど烏滸がましいにも程がありますわ。

 

一夏様の本気を与えて頂けるのは、

この私、セシリア・オルコットと、私の唯一無二の盟友、シャルロット・デュノアさんしかいませんわ。

 

「なんですって?誰が図に乗ってるっていうのよ!?」

 

「そんな事も理解していないのですか?

だとすれば、救いようがありませんわね。」

 

嘆かわしい事この上無いですわね・・・。

強い力を得た途端に図に乗る・・・、まるで以前お会いした彼等と同じですわね。

 

そう言えば、彼等はどうされているのでしょう?

私達ファントムペインと異界の教官が完膚なきまでに叩き潰した後は、

どうなったか全く存じあげておりません。

あれで懲りていれば良いのですが・・・。

 

「よろしいですこと?貴女は確かにガンダムの力をその手に持っています、

ですが、ただそれだけの事、力はただ力でしか御座いません、

扱う者の腕がなっていなければ無意味ですわよ?」

 

「つまり私が弱いと言いたいわけ!?

貴女こそ図に乗ってるんじゃないの!?」

 

「ふふっ、そう思うのならば、そう思えばよろしいのですよ?

ですが、自身の実力を見誤る愚かな女に、私は倒せませんわよ?

自分がお強いと思ってらっしゃるなら、織斑一夏様が片翼、セシリア・オルコットを踏み越えてごらんなさい!!」

 

「上等よ!!その傲慢な態度、とれない様にしてあげるわ!!」

 

ふふっ、その強気な態度、

いつまで保つ事が出来るのでしょうか?

 

この私に叩き潰され、泣き叫び、力尽きて跪き、赦しを請う姿を見せてくださいな!!

 

sideout

 

noside

 

まず先に動いたのは、

青の機体、ガンダムアストレイブルーフレームセカンドLを駆る、更識楯無だった。

 

背中に装備していたタクティカルアームズを引き抜き、

スラスターで加速しながらもブルデュエル目掛け突き進む。

 

だが・・・。

 

「その程度の突進、見切れないとでも思いまして?」

 

楯無を嘲笑うかのごとく、

セシリアは僅かに身を沈めるだけでタクティカルアームズの斬撃を回避、

リトラクタブルビームガンの連射を浴びせかける。

 

「くっ・・・!このっ・・・!!」

 

楯無は数発被弾しながらも、

左太股からアーマーシュナイダーを引き抜き、ビームを弾く。

 

(一夏様と同じ対処ですか、

ですが、攻撃を避けられた後の被弾は頂けませんわね。)

 

冷めた目で楯無を見据えつつも、

セシリアは状況判断を怠る事は無い。

 

(まぁ、私が調教して差し上げれば良いだけのことですわね。)

 

そんな物騒な事を考えながらも、

セシリアはドラグーンを八基全て射出する。

 

「行きなさいルーヴィアドラグーン!!

あなた達の力!存分に振るいなさい!!」

 

「っ!?」

 

セシリアのかけ声と共に、

自身の周囲に展開されたドラグーンに驚きつつも、

楯無は撃ちかけられるビームをアーマーシュナイダーで弾いたり、

機体を縦横無尽に動かすことでなんとか回避する。

 

しかし、ガンダムの力に覚醒した時期が早く、

戦闘のセンス、能力共に楯無を上回るセシリアに、

彼女が勝てる道理は殆ど無いに等しい。

 

セシリアのドラグーンによる攻撃は更に苛烈さを増し、

ブルーフレームの装甲を幾重もの光条が掠める。

 

(なんて射撃精度・・・!!

攻撃する隙が全然見当たらない・・・!!)

 

分が悪いと悟ったのか、

彼女はブルーフレームの形態をサードに変更し、

大型ソードでより多くのビームを切り裂く。

 

(えぇい!!鬱陶しい!!

なんて厄介なの!?このドラグーンって装備!!)

 

(あら?意外と状況を見る目はあるのですね、

一夏様への負の感情に取り憑かれた愚物かと思っていましたが、

そんな事も無い様ですわね。)

 

回避するだけとはいえど、

自身のドラグーンから逃れる楯無を見て、

セシリアは意外性に目を丸くしながらも、自身も攻撃を開始する。

 

スコルピオン機動レールガンを撃ちかけ、楯無の回避の先を阻む。

 

その最中、彼女はドラグーンの射撃の雨の中にISが一機だけ逃れられる隙間をわざと作りだす。

ブルーフレームがそこに逃げるように誘導し、タイミングを見計らい、スティレットを投擲する。

 

「キャアァァッ!?」

 

三発のスティレットはブルーフレームの左腕に着弾し、

盛大に爆ぜ、大型ソードとアンカーユニットを破壊した。

 

「あらあら?この程度の搦め手でダメージをお受けになるなんて・・・。

私としては、もう少し粘っていただけないとつまらないですわね。」

 

「くっ・・・!!このっ!!」

 

セシリアの挑発に乗せられたのか、

背部にマウントされていたビームライフルを二丁とも抜き放つ。

 

「鬱陶しいのよ!!この羽虫がぁぁ!!」

 

縦横無尽に動き回るドラグーンに向け、

ビームライフルを乱射する。

 

どうやら先にドラグーンを落とし、

自分に分がある近接格闘に持ち込む魂胆の様だ。

 

しかし・・・。

 

「私の可愛い猟犬達がその程度で落ちると思いまして?」

 

複数のドラグーンがビームバリアを形成し、

他のドラグーンを護るかの様にビームを弾き返した。

 

「そんなっ・・・!?ビームバリアも展開出来るなんて・・・!?」

 

驚愕のあまり、楯無は一瞬動きを止めてしまう。

 

だが、その一瞬の硬直は、

戦闘においては死に直結する愚かな間である。

 

「もらいましたわ!!」

 

セシリアはレールバズーカ<ゲイボルグ>を呼び出し、

楯無に狙いを定め、トリガーを引いた。

 

実弾兵器であるゲイボルグは、ビームに比べればその弾速は非常に遅い、

しかし、ビームの様に単純に標的を焼き貫くのではなく、

着弾点をごっそりと爆破で抉る事を目的としている。

 

その上、ゲイボルグは他の実弾兵装と比べてもかなりの威力があるため、

直撃した際に削り取れるシールドエネルギーの量は計り知れない。

 

「・・・ッ!?」

 

反応が遅れた楯無は、回避する事も出来ずにバズーカ弾に直撃する。

 

凄まじい爆音と爆煙が辺りを包み込んだ。

 

sideout

 

sideセシリア

 

楯無にゲイボルグの弾が直撃した事を認め、

私はゲイボルグをルーヴィアストライカーに装着し、

ルーヴィアドラグーンも全て呼び戻します。

 

正直に申しまして、楯無は現段階で既に箒さんより格下と見て良いでしょう。

箒さんは無闇に突っ込む事は致しませんでしたし、

何より、ご自分の力量をしっかりと把握しておりました。

 

ですが、楯無は自分の力量を完全に見誤り、

自惚れている様では、箒さんにすら劣りますわね・・・。

 

一夏様は何故、この女にガンダムの力を託したのでしょうか・・・?

こんな女・・・、そこら中に転がっているものですのに・・・。

 

そう思った時でした、爆煙の中から青い機体が飛び出して来ました。

 

「ッ!!」

 

咄嗟にビームサーベルを二本とも引き抜き、

バスターソードの斬撃を受け流します。

 

「私はッ!!まだ負けて無いわよ!!」

 

「フフフッ、そう来なくては面白くありませんわ!!」

 

ブルーフレームセカンドリバイですか、

Lに似通ってはいますが、微妙に形状が異なっているので見分けがつきます。

 

どうやら、直撃の寸前にフォルムチェンジし、

タクティカルアームズⅡで弾を防いだ様ですわね。

 

面白い、先程の評価を改めなければいけませんね、

これからは私もそれなりの力を示しましょう!!

 

「はぁッ!!!」

 

「はっ!!」

 

私のブルデュエルデーストラに速度で挑むおつもりなのか、

楯無はタクティカルアームズⅡをスラスター形態に戻し、

アーマーシュナイダーを両手に保持して此方に向かって来ます。

 

ならばと、私もビームサーベルを両手に持ち、彼女と打ち合います。

 

よく訓練されてはいますが、

大した事はありませんわね、ですが、機体に慣れれば確実にお強い事なのでしょう。

 

ですが、今回は図に乗せないためにも、

この私が完膚無きまでに叩き潰して差し上げましょう。

 

「くっ・・・!!この私が押されてるというの・・・!?」

 

「当然の結果ですわ、私と貴女では抱く理想、愛、全てにおいて私が勝っていますもの。」

 

一夏様のお隣で戦い続け、私とシャルさんは変革いたしました、

この力も、愛しい一夏様に与えて頂いたものなのです。

 

ですから、私達に敗北は許され無いのです。

最後の最期まで、あの御方の両隣に立ち続けると決めましたから・・・。

 

「黙りなさい!!私は!負ける訳にはいかないのよ!!」

 

激昂しながらも、楯無は私が押し込むビームサーベルを押し返そうとしております。

 

「何故そんなに熱くなられるのです?

それほどまでに一夏様に敗れた事が悔しいのですか?」

 

一夏様に敗れるということは、新たな自分への目覚めの切っ掛けになる筈です、

私は一夏様に敗れたからこそ、あの御方の強さを学び、最後には越える事を目標に定める事が出来ました。

 

それなのに、この女は何故か敗北した事で、より自分を追い詰めている様に見えます。

 

「煩いわね!!私は負ける訳にはいかないのよ!!

私が簪ちゃんを護らなきゃいけないのに、こんなことで負けられないのよ!!」

 

「どういう事ですの?」

 

「簪ちゃんを護るのは姉である私の役目なの!!

だから!私は誰よりも何よりも強くないといけないのよ!!」

 

なるほど、簪さんを護るという事に拘り過ぎて、

自分を追い詰めているのですね。

 

悪いことでは無いとは思いますわね、

姉として、妹を護ろうとするその心、実に美しいですわ。

 

ですが・・・。

 

「護られる事を、簪さんが是としますか?」

 

「なんですって!?」

 

「簪さんはとてもお強い、もう貴女に護られなくとも一人で時分を護れます、

もう貴女の助け、加護を必要とはしておりませんわよ?」

 

それぐらいの事は、

友人の一人としてお付き合いさせていただければ理解出来ますわ。

 

それなのに、家族、それも姉妹という最も近い関係にある彼女が、

それを理解していないということは、

楯無さんは簪さんが昔の、ご自分の後ろに隠れているままだと思い込んでいるのでしょう。

 

「黙れ!!貴女が簪ちゃんの何を知っているというのよ!?」

 

「では、貴女は現在<いま>の簪さんを見ているのですか?」

 

現実から目を背けてる様な女に、この私が倒される道理はありませんわね。

それではそろそろフィナーレといきましょう。

 

「ならば何故、簪さんは貴女と話そうとしないのですか?

答えは至極簡単ですわね、それは―」

 

「だ、黙れ!!」

 

フフフッ、良いお顔をされますわね、

さぁ、私に絶望にうちひしがれるお姿を見せてくださいな。

 

「簪さんが、貴女を必要としていないという事ですわ、

お姉さんなんて要らない、私は姉なんて知らないと思っているのですわ。」

 

「―」

 

あら、半分冗談でしたのに、

お顔が真っ青になって墜落して行きましたわね・・・。

 

では、遠慮なく、フィナーレとさせていただきましょうか。

 

ルーヴィアドラグーンを全て射出し、

全基、バーストモードで展開し、フルバーストを一斉に楯無に撃ち込みました。

 

半分ほどしか残っていなかったブルーフレームのシールドエネルギーは一瞬にして底を尽き、

アリーナの地面に激突した直後、機体が量子格納されました。

 

何の気無しに収音を最大にしてみますと・・・。

 

『簪ちゃん簪ちゃん簪ちゃん簪ちゃん簪ちゃん簪ちゃん―』

 

楯無はブツブツと譫言の様に簪さんの名を呟いていました・・・。

 

な、なんだか空恐ろしいものがありますわね・・・、

流石に愛しいからと言えど、あそこまで酷い事は私でもいたしませんわ・・・。

 

一夏様にもご迷惑がかかるでしょうし、

先にアリーナに戻しておきましょうか・・・。

 

な、なんだかとっても疲れましたわね・・・。

 

sideout




次回予告
ナターシャの相手をするシャルロットは、
ナターシャが戦う理由を問う。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
破壊者と運命

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

破壊者と運命

sideシャルロット

 

管制室のすぐ近くまで機体を移動させて、

僕はファイルス先生の方を向いて身構える。

 

僕の目の前には青紫の機体、デスティニーインパルスが佇んでいる。

 

色とか背中のウィングスラスターとか武装とか、

なんだか色々とド派手な機体だね。

 

まぁ、派手さなら僕のヴェルデバスターも負けてないんだけどね。

 

そんなことは別にどうでも良いかな、

大事なのは、目の前にいるファイルス先生の実力なんだよね。

 

臨海学校の時、散々苦しめられた福音のパイロットだった彼女は、

贔屓目無しで見てもかなりの腕を持ってる筈なんだ。

 

機体に慣れてないからといって油断したら、

逆に僕が負けちゃうね。

 

「それじゃあ、デュノアさん、相手を頼んでも良いかしら?」

 

「僕でよろしければお相手します、

先生を相手に手加減なんて出来ませんけど、構いませんよね?」

 

僕は一夏程強く無いからね、

教師が相手じゃこんな模擬戦でも本気出さないと負けちゃうよ。

 

僕とセシリアの力は一夏から貰った物、

だから、この力を使って負ける訳にはいかないんだ。

 

「そうね、その方が私もありがたいわ。」

 

僕の言葉に頷き、ファイルス先生は右背から対艦刀を抜き放ち、

切っ先を僕に向けて構えた。

 

心地の良い闘気だね、サファイア先輩といい、この人といい、

本当に強い意志を持ってるから向かい合ってて気持ち良いよ。

 

さぁてと、僕も戦おうかな。

右手にハイパービームサーベルを保持して、彼女と同じ様に切っ先を相手に向ける。

 

さぁ、始めようよ、ガンダム同士で行う、御祭りをね!!

 

sideout

 

noside

 

向かい合った二機は、弾かれた様に同時に飛び出し、

まったく同じタイミングで己の得物を振るう。

 

ビーム刃がぶつかりあい、周囲に火花を散らす。

 

「へぇ、良い腕ですね、射撃専門だと思ってましたけど、

格闘戦の実力もあったんですね。」

 

「伊達にテストパイロットやって無かったからね!」

 

シャルロットの軽口に少しおどけた様な表情を見せるが、

模擬戦中だと思い出し、エクスカリバーを握る腕に力を込める。

 

(それにしても、結構力が強いね、僕も割りと力入れてるのに押し込めないなんて、一夏とセシリア以来だよ、こんなこと。)

 

(なんて力・・・!私より腕が細い娘がこんな力を持ってるなんて・・・!!)

 

シャルロットはナターシャの力量に感心し、

ナターシャはシャルロットの腕力に驚愕していた。

 

(これは楽しめそうだね、残り物には福があったね!)

 

かなり失礼な事を考えながらも、

シャルロットはナターシャと距離を取り、

ヴェルデバスターに搭載されている火器の砲門を全て開く。

 

「さぁ!これをどう凌ぎますか!?」

 

ナターシャが捌ききる事を期待している様な口調で、

シャルロットは嬉々として一斉発射した。

 

「ッ!!」

 

それに反応したナターシャは、

左背に装備していたエクスカリバーを引き抜き、

元から右手に保持していた物と連結させ、回転させる事で全て防ぎきる。

 

(へぇ!この数の砲撃を捌ききるなんてね!

良いもの見れたね、期待して撃って良かったよ!!)

 

自分の期待に見事に答えてみせたナターシャの行動に、

シャルロットはその麗しい顔を悦楽に歪めた。

 

(咄嗟に防いだけど・・・!あの火力は要注意ね・・・!!

あんなの喰らったら一回で終わってしまうわ・・・!!)

 

知らず知らずの内にシャルロットの期待に応えていたナターシャは、

ヴェルデバスターの高火力に冷や汗を流していた。

 

(遠距離戦、近距離線も強いときてる・・・、それにデュノアさんの技量も確か・・・!!

でも、あの手の機体には一気に詰めればやり様はある!!)

 

自身の経験を基に判断を下したナターシャは、

両手にエクスカリバーを保持し、

光の翼を展開してシャルロットに迫る。

 

「ッ!!速度が上がった!?」

 

「行くわよ!!」

 

驚きながらも、シャルロットはヴェルデバスターに搭載されているミサイルポッドを開き、

高速で接近してくるデスティニーインパルスの接近をミサイルの弾幕を張ることで防ごうとする。

 

しかし、ナターシャは直撃コースの物は対艦刀で切り落とし、

当たらないと判断した物は極力機体を動かさずにやり過ごし、

遂にシャルロットとの間合いを詰めた。

 

「貰ったわよ!!」

 

対艦刀を振りかぶり、シャルロット目掛けて振り下ろす。

近接装備を構えていないシャルロットは、

避ける事も出来ないまま直撃する時を待つしかないと思われた。

 

「こっちのセリフ、ですよ?」

 

バヨネット装備型ビームライフルの下部からバヨネット振動剣が展開され、

ナターシャの左手に保持されていたエクスカリバーを逸らし、

シャルロットの左手に保持されていたビームライフルが彼女の腹部に突き付けられた。

 

「この距離なら外しませんよ?」

 

「ッ!?誘い込まれた・・・!?」

 

シャルロットの冷たい微笑みを見て、

ナターシャは自分が誘い込まれた事を悟り、愕然とする。

 

その間にもシャルロットの指がトリガーを引き、

ビームライフルの砲口から閃光が迸った。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

トリガーを引いた直後、何かに弾かれる様な感覚で僕は大きく後ろに弾き飛ばされた。

 

一体何が起こったのだろう・・・?

完全に誘い込んだカウンターを撃ち込んだ筈なんだけどなぁ・・・?

 

そんな事を考えながらファイルス先生の方を見てみると、

左手の甲にビームシールドを展開しているデスティニーインパルスが佇んでいた。

 

嘘ぉ・・・。

まさかあの一瞬でビームシールドを割り込ませたっていうの?

 

非常識だねぇ・・・、僕も人のこと言えないとは思うけど・・・。

 

あはは~・・・、左側のビームライフルがボロボロになっちゃったよ・・・、

こんなこと、今まで殆ど無かったからね~。

 

「あはは、流石ですねファイルス先生、

ここまで気持ちが昂るのは気持ち良いですよ。」

 

「そう言うけど、なんだか悔しいわね、

年下の娘に負けそうになってるなんてね・・・。」

 

まぁ、素質と気質の問題ですよ、その辺はね。

 

それにしても、一夏が仲間に加えたくなるのも分かるね、

状況判断、それに戦闘能力、全てにおいて彼の期待値を越えてる。

 

でも、どうやって引き込もうかなぁ?

一夏もどうやって引き込むのか悩んでるみたいだし。

 

一応少し聞ける情報だけは聞き出しておこうっと、

一夏の目的の為にもね。

 

「ファイルス先生、少しお訊きしたい事があるんですけど、よろしいですか?」

 

「何かしら?私が答えられる話なら答えるわよ。」

 

さてと・・・、ここまでは良いんだけど、

ここからどうやって聞き出そうかなぁ?

 

僕は一夏みたいに人の心に上手いこと入る事が出来ないからねぇ。

 

どちらかと言えば、僕とセシリアは人の冷静さを欠かせる事の方が向いてるんだよね、

一夏は人を丸め込むのも、その気にさせるのも、冷静さを欠かせるのも上手だけどね。

 

そんなことは今は別に良いよね?

ストレートに聞いてみるのが一番だね。

 

「先生はどうして、IS学園で教師をやろうと決めたのですか?」

 

何の脈略も無いけど、ずっと疑問に思ってた事を引き合いに出してみる。

 

IS学園で教師をやるよりも、

米軍で福音の試験をやってた方が事件に巻き込まれないで済んだのに、

どうしてわざわざこんな所までやって来たんだろう?

 

階級とかは一応あるとは思うけど、

向こうでやってた方が確実に給料とかも良さそうな物なのに・・・。

 

「貴女には、多分分かると思うわよ・・・。」

 

「はい?」

 

僕に分かるって言われても・・・、

心当たりが全然無いなぁ・・・。

 

もしかして、他の専用機と福音を戦わせて、

データを取るためなのかな?

 

それが一番妥当だとは思うんだけど・・・。

 

「私の望みはね・・・、福音を汚した者に・・・、

一度はあの子を狂わせた者に、この手で裁きを与える事よ。」

 

「・・・。」

 

あはは、復讐なんだね~。

そう言えばこの人って、福音の事をスゴく大切に思ってるんだっけ?

 

なるほどねぇ~、

これは良いこと聞いちゃったよ。

 

一夏に教えてあげよっと。

 

「だから、そのためなら私はこの手を汚しても構わない・・・!!」

 

「その気持ち、痛い程伝わって来ます・・・、

僕達も協力します、貴女の敵を見付ける事をね。」

 

「ふふふっ・・・、ありがとう、その時が来たらお願いね・・・?」

 

じゃあ、止まってた戦いの続きを始めようよ、

僕の身体が疼いて仕方がないんだ!!

 

「いきます!!」

 

「えぇ!!」

 

僕はまた、ハイパービームサーベルを引き抜いて、

対艦刀を引き抜いて迫ってくるファイルス先生と切り結ぶ。

 

「その気持ち!今は僕にぶつけて下さい!!」

 

「予行演習?それも悪くないわね!!」

 

良いよ!そのビリビリくる闘気!!

まだまだ僕を昂らせてくれるんだね!!

 

拮抗状態から離れ、

右肩のガンランチャーと左肩のビームライフルで攻撃しながらも、

残った右側のビームライフルを撃ちかける。

 

「そんなものっ!!」

 

ファイルス先生はビームシールドを広げ、

全て防いでしまった。

 

ラウラのアルミューレ・リュミエールと同系統のシールド・・・!!

これじゃじり貧だね!

 

「そこっ!!」

 

ファイルス先生は、左背に格納されてたビーム砲をこっちに向け、

大出力のビームを撃ってくる。

 

「えぇい!!」

 

一夏程上手くは無いけど、僕にだってビームサーベルでビームを斬るぐらい出来るんだ!!

 

もう一本ハイパービームサーベルを引き抜いて、

二つ重ねして大出力ビームを切り裂く。

 

「まだまだ!!」

 

ここで勝負を決めておかないと、一夏の片翼の名折れだよね!!

 

フルスピードでデスティニーインパルスに突っ込み、

二つ重ねにしたハイパービームサーベルを振り下ろす。

 

「負けるものかぁぁぁ!!」

 

向こうも対艦刀を突き出して僕に向かってくる。

上等だ、ここで終わらせる!!

 

僕が突きだしたビームサーベルの方が後に届いたけど、

ファイルス先生が突きだした対艦刀は左腰のビームライフルを破壊しただけで終わり、

 

「はぁぁっ!!」

 

それにも構わず、

僕はハイパービームサーベルを押し込み、シールドエネルギーを全て奪い去った。

 

擦れ違い、追撃が無いことを確認して、

僕は盛大に息を吐いた。

 

それにしても、結構傷ついちゃったね・・・、

流石にちょっと本気出さないと負けてたよ・・・。

 

まぁ、色々収穫もあったから結果オーライかな?

 

さて・・・、これで新しい扉がまた開くね、

一夏、貴方の行く路に、僕達は着いていくからね?

 

sideout




はいどーもです!

次回予告
真耶が駆るグリーンフレームの性能を確かめる一夏だが、
何やら面白くない様で・・・?

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
黒と緑の拳法対決

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒と緑の拳法対決

side一夏

 

セシリアやシャルがそれぞれ別の場所に向かったのを確認し、

俺はグリーンフレームを纏う山田先生に向き直った。

 

しかし・・・、似合わないというかなんというか・・・、

あまり相性が良いとは思えん組み合わせだな。

 

あの人、どちらかと言えば射撃専門だろうし、

格闘戦の心得なんて、実際問題として無いだろうなぁ・・・。

 

ここはいっその事、

機体の特性を活かしてもらうためにも格闘戦中心に戦ってみるか。

 

「それでは、始めるとしますか?山田先生?」

 

「はいっ!お手柔らかにお願いしますね?」

 

「まぁ、気が向いたらね。」

 

この人は楯無とは違って頭に血が上ってない無いだろうし、

油断してかかるような無礼はしないけどな。

 

「今回は貴女の実力を計るのではなく、

貴女がその機体になれる為の訓練だということを忘れないで頂きたい、

出し惜しみなどせずに、俺に全てぶつけてください。」

 

「はいっ!それでは、行きます!!」

 

そう言って、山田先生はツインソードライフルを構え、

こちらに向かってくる。

 

さぁ、この俺に見せてくれの、アンタの力ってやつをな!

 

sideout

 

noside

 

「はぁぁっ!!」

 

烈迫した気合いと共に、

真耶はストライクノワール目掛け、一直線に突き進む。

 

対する一夏は、その手に武器を持たず、

徒手空拳で拳法の構えのまま、真耶の接近を待つ。

 

間合いに入った瞬間、

真耶はツインソードライフルをソードモードで突き出す。

 

「ふっ!」

 

彼は身体を僅かに開き、ビーム刃を回避した勢いのまま、

右足で蹴りを入れるべく動く。

 

だが、それより一瞬早くグリーンフレームが動き、

彼の蹴りを回避した。

 

「チッ!」

 

露骨に分かる舌打ちをし、

蹴りを発っした脚を振り抜き、

着地した瞬間に軸足を入れ替え、回し蹴りを発する。

 

「ッ!!」

 

しかし、真耶は必死の形相ながらも、

彼の蹴りが発動するより僅かに早く動き、蹴りを回避した。

 

(流石は自立支援型AIを搭載しいてるだけはあるな、

回避行動も早い、防御型の機体なだけはある!!)

 

自分が根を回したとは言えど、

グリーンフレームに搭載されているAIの厄介さに、

彼はポーカーフェイスの裏で盛大に苦い顔をしていた。

 

(だが、カウンターだけは予測出来んだろう、

そこから攻撃に繋げれば勝てると言いたいが・・・。)

 

自分が根回しを行ったからこそ、AIの性質を理解している彼だが、

ある一つの懸念材料を拭い去れないのだ。

 

(山田先生の格闘戦技能が分からんから、

下手に仕掛けにくいんだよな・・・、まぁ、俺の腕でカバーすれば良いか。)

 

彼が戦術を思案している最中、

真耶はツインソードライフルを振りかぶり、

袈裟斬り彼に叩き込もうと動いた。

 

(ま、要は試し、って事だな!!)

 

彼は僅かに身体を後方に動かしながらも、

ウィングバインダーに装備していたフラガラッハ3ビームブレイドに手を伸ばす。

 

しかし、彼それを引き抜くよりも、真耶の斬撃が彼を捉える方が速い。

 

「貰いましたよ!!」

 

真耶自身もそれと確信し、彼目掛けてツインソードライフルを振り下ろす。

 

だが、一夏はビームブレイドを引き抜くのではなく、

振り下ろされるツインソードライフルを、

僅かに後方に下がることで振れる様になった右脚で蹴り飛ばした。

 

「フェイント!?しまっ・・・!!」

 

「脇が甘い!!」

 

自分が誘い込まれたのを悟った真耶は、

自身の左脇腹目掛けて振り抜かれるビームブレイドを回避しようとするが、

それよりも早く、ビームブレイドの峰が直撃し、大きく吹き飛ばされる。

 

「きゃあぁぁぁっ!?」

 

真耶の身体は機体ごと大きく吹き飛び、

アリーナの壁に叩き付けられた。

 

「取り敢えず、今のはAIに頼り過ぎましたね、

人間の思考は、時にして機械すら上回る事をお忘れなく。」

 

「は、はいぃ・・・、

や、やっぱり一夏君は強いですね・・・。」

 

ビームブレイドを格納しながら発せられる一夏の言葉に、

真耶は壁に激突した衝撃で涙目になりながらも頷く。

 

「ですが、踏み込み、腕の振りの速さは実に素晴らしいモノでしたよ、

射撃専門だと思っていましたが、格闘戦にも筋があります。」

 

「い、一応代表候補生でしたから・・・、

でも、どうも格闘戦だけはちょっと怖くて・・・、あははは・・・。」

 

一夏の賛辞に答えながらも、

真耶は何処かぎこちなく笑っていた。

 

そう、彼女は元代表候補生というだけあり、

射撃が得意分野と言えども、どの領域でも適応出来る能力を持っている。

 

しかし、彼女の言う通り、

格闘戦で伴われる痛みや衝撃に慣れていない身では、

恐怖を伴うのは仕方の無いことと言えるであろう。

 

「まぁ、確かに素手でやるのは怖いでしょうね、

俺も最初はそうでしたよ、でも、慣れていかなきゃいけない、

グリーンフレームは近接戦闘でその真価を発揮します、

その機体に選ばれた貴女は進化する事を求められているのです。」

 

一夏は彼女の恐怖を肯定しながらも拳を構え、

徒手空拳での戦いを推奨する。

 

「今、恐怖と言う殻を破り、新しい力を掴む時が来たのです、

さぁ、貴女の大切な物を守るための力を掴むのです。」

 

「・・・、分かりました・・・、私にもそれが出来るなら・・・、

私は戦います!」

 

一夏の覇気に感化されたのか、

真耶も彼と同じ様に拳を構える。

 

「この機体はとっても柔らかくて動きやすい、

それを活かすのは私の身体の動き、というのですね?」

 

「えぇ、その通りです、

俺のビームライフルを蹴り飛ばした時の動き、見せて下さい。」

 

「はい!」

 

一夏の言葉に感化されたのか、

真耶はツインソードライフルを捨て、徒手空拳で彼に迫る。

 

「はぁっ!!」

 

「ムッ!」

 

繰り出される拳や蹴りを捌き、一夏は真耶と対峙する。

 

「やはり元代表候補生なだけはある!!

武術の基礎の基礎は出来てますね!!」

 

「誉めてくれてるのですか!?」

 

基礎が出来ている事を悟り、

彼は非常に面白そうな顔をして真耶に迫る。

 

「ですが、まだまだ、覚えて頂くことはありますね!

さぁ、全力で俺にかかってきて下さいよ!!」

 

一夏は繰り出された真耶の腕を掴み、

背負い投げの様に投げ飛ばし、体制を立て直す前に接近し、

胴に蹴りを叩き込む。

 

「かはっ・・・!まだ・・・!」

 

吹っ飛ばされた衝撃で呻くものの、

彼女は直ぐ様体制を立て直し、再び一夏に向かって行く。

 

「はぁっ!!」

 

「良い腕の振りだ、そこにビームサーベル等を織り混ぜた動きならなお良い!!」

 

「はいっ!」

 

攻撃は更に苛烈さを増しながらも、

一夏のアドバイスを受け、それを真耶は実行に移す。

 

ビームサーベルを二本とも抜き放ち、

蹴りや柄での打撃も加えながら攻撃を仕掛ける。

 

「良い!!実に良い!!この感じ!!ゾクゾクしやがるぜ!!」

 

一夏もビームブレイドを引き抜き、

攻撃を全て捌き切りながらも自分も攻撃を仕掛ける。

 

ブレイドの峰で、柄で、そして自分の腕や脚で、

真耶を圧倒する。

 

(やっぱり・・・!接近戦じゃあ・・・、勝てない!!)

 

(こんだけ攻め立ててるのに、よくも凌いでいるものだ!!

やはり、俺の見立てに間違いは無かったな!!)

 

真耶は一夏の技量に驚愕し、

一夏は真耶の力量に純粋に感激していた。

 

(でも、私はこんな所で立ち止まれ無いの!

教師として!一人の大人として!!生徒たちの手本となりたいから!!)

 

真耶は己の意地、己の教師としての誇りに賭けて、

彼に挑み、競り勝つ事を望む。

 

(どうしたら良いの!?地の力じゃ、彼には到底及ばない!!

でも、負けたくない・・・!!)

 

その時、真耶の頭にある方法が閃いた。

 

(・・・!そうだ・・・!!このグリーンフレームには自立支援型のAIが装備されている・・・!!

もしかしたら、一夏君の攻撃の先を読めるかも知れない・・・!!)

 

グリーンフレームに搭載されているAIは、

相手の行動を先じて予測、パイロットにその先の行動を委ねるシステムとなっており、

巧く使えば、相手の行動を封じる事も可能である

 

ただし、それには相応の技術が当然ながら要求される、

言うなれば、達人やそれに近い領域の人間のみが実現できる技なのである。

 

(それでもやる価値はある・・・!!

お願いグリーンフレーム!!私に、力を・・・!!)

 

強く、強く願う真耶にグリーンフレームが応えたのか、

彼女に送られてくる情報が増える。

 

一夏の次の動きを予測し、

どう動くかというパターンが表示されていく。

 

(次は、後ろに下がる・・・!!)

 

真耶が僅かに後退した直後、

一夏が振るったビームブレイドが空を切る。

 

「っ!!」

 

一夏の表情が一瞬苦いものに変わるが、

彼は直ぐ様次の行動に移る。

 

(次は、身体を沈めて・・・!!)

 

一瞬前まで真耶の頭があった場所を、

ストライクノワールのハイキックが通過していく。

 

(今っ!!)

 

一夏の軸足を脚で払い、彼の体制を崩させる。

 

先を読んでいたかの行動に、一夏はどうすることも出来ずに倒れていく。

 

「貰いました!!」

 

好機と見て、彼女は一夏目掛けてビームサーベルを振り下ろす。

 

だが・・・、

一夏は背中から倒れる勢いを利用し、

払われた脚でビームサーベルを蹴り飛ばした。

 

「えっ!?」

 

「いい攻めでしたね、予想外でしたよ。」

 

驚愕する真耶を他所に、一夏は愉しげな表情を崩さない。

 

「それでも、咄嗟の判断が最後には物を言わせる時もある、

今の俺みたいにね。」

 

ハンドスプリングの様に跳ね起き、

彼は真耶の頭上を取り、ビームブレイドを振り下ろす。

 

真耶も咄嗟に残ったビームサーベルで受け止める物の、

二刀流の一夏に相対できる技量、筋力を持たない為、

ビームサーベルは弾き飛ばされ、ビームブレイドの機体への直撃を許した。

 

程無くして、グリーンフレームのエネルギーは底を突き、

真耶は膝をついた。

 

「中々、面白い戦いを見せてもらえました、

本当に良い強さでしたよ、山田先生?」

 

「あははは・・・、それでも・・・、負けちゃいましたね・・・。」

 

満足気に話す一夏の言葉に苦笑しながらも、

真耶は何処か満ち足りた表情で答えた。

 

「格闘戦も中々良いものでしょう?

お気に召さなければ、こちらで別の手を考えましょう、

今日はこれで終わりましょう、お疲れ様です。」

 

真耶に労いの言葉をかけつつ、自身もストライクノワールを解除した一夏は、

ピットに向けて歩いて行った。

 

(やっぱり、一夏君は強い・・・、私も負けていられませんね!)

 

彼の後ろ姿を見送った真耶は、

新たな決意をその胸に宿しつつ、自身もピットへと戻って行くのであった。

 

sideout




次回予告

遠征組も戻り、三学期が始まったIS学園、
だが、例の二人の関係は今だ冷えきったままで・・・?

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
姉妹の蟠り。

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

姉妹の蟠り

side秋良

 

「よっと。」

 

あのぐにゃぐにゃして気持ち悪い転移空間を通り抜け、

俺達は元の世界に戻って来た。

 

ちょっと高いところから落とされたけど、なんとか着地出来たね、

行きの時みたいに押し潰されて無いから気分はだいぶん良いけどね。

 

どうやら、帰りはIS学園に直接戻してくれたみたいだね、

辺りは夜だから暗いけど、潮の匂いと建物で判断出来る。

 

「いや~・・・、本当に色々あったよなぁ・・・。」

 

「そうだねぇ・・・、でも、良い経験だったよ。」

 

お陰で、俺は自分に足りなかった物を見付けられ、

新しい力も手にする事が出来た。

 

もう悩む必要は無い、俺は俺の道を進むだけだから。

 

「秋良、兎に角早く戻ろ?多分、明日が始業式だと思うの。」

 

「え!?もうそんなに経ってるのか!?」

 

いや・・・、分かってた事とは言えど、

なんだか少し残念かな・・・。

 

簪達の着物姿とか見てみたかったしなぁ・・・。

 

まぁ、それは来年の楽しみに置いておこう、

今は、取り敢えず眠ろうかな。

 

「じゃあ皆、行こっか。」

 

俺達はIS学園の寮に向けて歩き出した。

 

けど、この時に俺は気付くべきだったのかも知れない・・・、

強い潮の匂いに微かに混ざった、鮮血の匂いに・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

始業式が終わった直後の授業は、

いきなりのISを使った実習と相成った。

 

「それでは、織斑兄弟、お前らがクロスレンジでの近接格闘の手本を見せろ、

 

駄姉に指示され、俺はストライクノワールを展開し、

秋良はゲイルストライクを展開して向かい合う。

 

だが、秋良の手に握られていたのはウィングソーではなく、

何やら日本刀の様に、鞘に納められた長大な刀だった。

 

一見ガーベラストレート系の刀の様だが、

装飾、そして刀身の幅が僅かに細い為、違う刀だと理解できた。

 

「秋良、その刀はなんだ?」

 

「あぁ、これはね、向こうで貰った刀だよ、

その名もシシオウブレード!!普通の刀じゃないよ~?」

 

ほぅ、粋な事をしてくるな、面白い、

異世界の武器の力、改めて感じたいものだ。

 

ノワールストライカーよりビームブレイドを一本引き抜き、

左手にショーティーを構える。

 

「来い、秋良、お前があっちで何を掴んだのか、この俺が見極める。」

 

「上等、前までの俺じゃないと分からせてあげるよ。」

 

「それでは、始め!!」

 

駄姉の合図と同時に、

俺達は弾かれた様に飛び出し、己の刀を振るう。

 

俺のビームブレイドと秋良のシシオウブレードがぶつかり、

周囲に火花を散らす。

 

「ほぅ、大分腕を上げたようだな、腕の振り、踏み込み、

以前を遥かに凌いでいる、それにその刀、よく見ればビームを弾いている。」

 

一太刀受けただけでここまで悟らせるとはな、

流石と言うべき鍛え方だな。

 

それにシシオウブレードもガーベラ系の刀を上回る切れ味だ、

ビームブレイドを完全に止めきれる実体剣は、中々存在する物じゃ無いな。

 

「いや・・・、受け止めきれてる兄さんにだけは言われたくないよ・・・。」

 

苦笑する秋良を他所に、俺達は一度間合いを開ける。

 

「そこっ!!」

 

「なにっ!?」

 

秋良は瞬時にビームライフルを呼び出し発砲、

俺のビームライフルショーティーを撃ち抜いた。

 

あの野郎・・・!

射撃の腕まで上がってやがる・・・!

 

実に素晴らしい。

これならば俺の望みも叶うと言うものだ。

 

「ハァァッ!!」

 

烈迫した気合いと共に秋良がこちらに向かってくる。

お前がどれ程強くなったのかは知らないが、

俺をすぐに倒せると思うなよ!!

 

「ハァッ!!」

 

秋良が振るって来る刀を二本のビームブレイドを引き抜いて止め、

再び拮抗状態に突入する。

 

無理矢理ビームブレイドを押し込もうとしても、

秋良も負けじと押し返して来る。

 

なんてパワーだ・・・!!

以前も秋良はパワープレイヤーだったが、それを上回る力だ・・・!!

 

この俺が押し負けそうになっているとはな・・・!!

だが、この高揚!!たまらねぇ!!

 

このゾクゾク感!これが戦いの醍醐味なんだよ!!

 

「ハァッ!!」

 

「オォッ!!」

 

互いに力を込め、相手を斬るべく刃を押し込み、押し返す。

 

身体のスイッチが切り替わり、本気で戦おうとした時だった・・・。

 

「そこまで!!」

 

駄姉が制止の号令をかけやがった。

畜生め、良いところで止めやがって。

 

まぁ良い、楽しみは後に取っておくかな。

 

「腕を上げたな秋良、流石は俺の弟だ。」

 

「まぁね、俺は俺だけどさ。」

 

以前よりも良い顔をするようになったな、

上等、お前はお前の道を行け。

 

その道が、俺の道と決して交わる事が無くともな。

 

sideout

 

noside

 

午前の授業が終わった後、

一夏達専用機持ちは食事を採るべく、連れだって食堂を目指していた。

 

「大変だったぞ~?最初はボコボコにされまくってな・・・。」

 

「大変だったな。」

 

仰々しく大変さを語る雅人に、

一夏はどうでもいいと言わんばかりの態度で受け流していた。

 

「ちゃんと聞いてくれよ・・・。」

 

「大変だったのはお前達だけでは無いんだよ。」

 

少し涙目になる雅人を他所に、

一夏は受け流しながらもさっさと進んでいった。

 

「あれ・・・?なんだか少し違う・・・。」

 

その一行の内の一人、簪が今までと違う雰囲気に困惑していた。

 

「どうした簪?誰かに見られてるのか?」

 

彼女の隣にいたラウラが、簪の事を心配しながら声をかける。

 

だが、簪は何故かもどかしそうに辺りを見渡し続けていた。

 

「ううん、その逆、あの人の視線を感じないの、

この前まではずーっと見られてる感じはしてたのに・・・。」

 

簪のいうあの人とは、当然の事ながら、

彼女の実姉、更識楯無の事である。

 

だが、何時もは感じられる筈の視線を、

今日に限って感じられない事に違和感を感じているのである。

 

「あぁ、アイツならセシリアがボコしたからな、

当分は出てこないと思うぞ。」

 

「え!?何やったの!?」

 

思い出した様に語る一夏に、簪は驚いた様に叫ぶ。

 

「簪さんに執着される理由を聞きましたので、

少し苛めてしまいました。」

 

セシリアは少しはにかみ、

顔の辺りで親指と人指し指の間を少し開ける。

 

「・・・、セシリア、ちょっと良い?」

 

「はい?よろしいですが、どうしました?」

 

セシリアの言葉から何かを察したのか、

簪はセシリアの腕を引き、人目に着かない場所に移動して行った。

 

「あ、簪?」

 

鈴が二人の姿に気付き、呼び止めようとするが、

一夏に止められる。

 

「鈴、新しいスイーツが出るみたいだ、奢ってやるよ。」

 

「ホント!?わ~い!!」

 

(それで良いんだ・・・、鈴・・・。)

 

いくら兄の様に慕う存在からの誘いとは言えど、

気になっていた事から即座に切り替える鈴を、

秋良は苦笑しながらも眺めていた。

 

「取り敢えず、先に行って席を取るぞ、出ないと立ち食いだ。」

 

一夏の号令の下、セシリアと簪を除いた一行は、

再び歩き始めた。

 

sideout

 

sideセシリア

 

簪さんに腕を引かれ、

私達は少し人目の着かない場所にやって参りました。

 

私は何か、簪さんの気を損ねる様な事を申しましたでしょうか?

いくら日本語を話せるとは言えど、生まれ育った文化が違うため、

何処で他国の方の機嫌を損ねているのか分からないのが怖いですわね・・・。

 

「セシリア、お姉ちゃんが私の事、

なんて言ってたのか全部教えて・・・。」

 

あらあら、簪さんの後ろに黒い魔物が見えていますわね・・・。

それほど楯無の事が頭に来ているのでしょうか?

 

「構いませんが、一体どうされるおつもりですの?」

 

別にお教えしても構わないのですが、

ただ聞くだけというのはつまらないですからね。

 

何か面白い行動を起こしていただきませんと、

私の教え損ですわ。

 

「別に、何かすぐにしようなんて思ってない、

でも、私はお姉ちゃんの考えを知りたい。」

 

あらあら、特に何もしない、ですか・・・。

それではあまり面白くありませんわね・・・。

 

さて、どうした物でしょうか。

 

・・・、そうですわ、

面白い事を思い付きましたわ。

 

これなら、私も、そして一夏様もシャルさんも退屈せずに済みそうですわ。

 

「分かりましたわ、私が聞き出せた範囲だけですが、

慎んでお教え致しましょう。」

 

さぁ、簪さん、貴女の怒りに満ちた表情を、

私に見せて頂けませんこと?

 

「楯無は、姉という立場を勘違いし、

貴女を縛り付けようとしているのですわ、

そう、護ると言いながらも、貴女の上に立つ事で優越感に浸っているのですわ。」

 

嘘は言っていませんが、少し誇張してお送りしております。

だって、有りの侭をお教えしても面白くもなんともありませんもの。

 

みるみる内に、簪さんの表情に怒りの色が見てとれる様になりましたわね、

さぁ、もう一押しして差し上げましょう!

 

「簪さんは、私の後ろに隠れ、ずっと震えていれば良い、

私が護ってあげる、私の影になっていれば良い・・・、と・・・。」

 

「・・・!!」

 

トドメには、まだ一押し足りませんわね、

では、もう一手、手札を切りましょう。

 

簪さんに歩みより、

わざと簪さんの耳元に口を寄せます。

 

「貴女は、こんな事を許せる筈もありませんわね?

貴女はお強い、その力を楯無に刻み着けて差し上げるのはいかがですか?」

 

一夏様の真似をさせて頂きましたが、

中々に使えますわね。

 

「セシリア、教えてくれてありがとう、

私、ちょっと用事が出来たから先行くね。」

 

「いえいえ、お気をつけて。」

 

私の返答を聞くよりも早く、簪さんは私に背を向け、

何処かへ走って行ってしまわれました。

 

ですが、これで楽しい事が起こるでしょう。

 

「ふふっ、簪を焚き付けるなんて、

面白い事をするね、セシリア。」

 

「あら、見ていたのですか?シャルさん?」

 

「途中からね。」

 

まぁ、私も途中で気付いてはいましたが、

シャルさんも乗り気だと言うことは、一夏様もそういう事なのでしょう。

 

「確かに楽しそうだよね、実の姉妹での対決、

それにガンダム同士の真剣勝負、面白そうだよね。」

 

「そうですわね、

一夏様と秋良さんの決勝以来、久方振りのガンダム同士の正式な戦いですものね。」

 

「そ、話題性としては申し分無いけど、気掛かりが有るんだよね。」

 

「やはり、内通者の事、ですか・・・。」

 

以前から分かってはいる事ですが、

この学園には亡國企業の内通者以外にも、他の国のスパイの類いがうろうろしているのです。

 

その中でも、特にある国のある人物が活発に活動している事は、

とうの昔に一夏様から聞き及んでおります。

 

私たちがすぐに始末してもよろしいのですが、

一夏様は何故かまだ消すなと言われるばかりです。

 

躊躇っているのでは無いかと伺いを立てたいのですが、

どうもそうでも無い様で、余計に謎は深まる一方なのです。

 

「!!まさか・・・!!」

 

「どうしましたのシャルさん?」

 

急にシャルさんが驚いた顔になりましたので、

少し内容が気になりましたので訊ねてみることにしました。

 

「ふふふ・・・、僕達が今までやって来たことより、

ずっと惨くて、凄絶な事をするかもね、一夏は。」

 

もっと惨いこと・・・。

そういう事でしたか・・・。

 

「ふふっ、なら、楽しみにしていましょうか、

私達が主様の為す行いを。」

 

「だね♪それじゃあ行こっか、皆待ってるよ。」

 

「はい♪」

 

シャルさんと並んで歩き始め、

一夏様が待たれている食堂まで向かいます。

 

近い内に訪れる、

心踊る宴を期待しながらも・・・。

 

sideout




はいどーもです。

次回予告
楯無の考えに、我慢の限界が来た簪は、
楯無に決闘を申し込む!

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
姉妹喧嘩 前編

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

姉妹喧嘩 前編

side一夏

 

始業式から数日後の土曜日、

俺達ガンダムの力を持つ者達は第4アリーナに集まっていた。

 

「やれやれ・・・、なーんでこんな事になってんだよ?」

 

「一応見てたんスけど、更識姉がなんかやらかしたみたいッスよ?」

 

俺の真後ろの席でダリルとフォルテがよく分からないという風に話していた。

 

「まぁ、確かに事の発端は分かりませんが、

ガンダム同士の正式な勝負が見れますし、有意義な休みになるとは思いませんか?」

 

彼女達の隣に座した箒も苦笑し、ダリル達を宥めていた。

 

「申し訳ありません一夏様、この様な形になってしまいまして・・・。」

 

俺の右隣で、事の発端となってしまったセシリアは、

全く悪びれた様子もなく平謝りしていた。

 

「楽しみを作ってくれたのは嬉しいのだが、

少し根回しが面倒だったのがあれだったな。」

 

「まぁまぁ、一夏♪良いじゃない、今から面白い物見れるんだし♪」

 

まぁ、楽しいものを見れるのは純粋に楽しみなんだがな、

それまでに踏んできた手順が面倒だったな。

 

「どうしてこうなったよ・・・。」

 

sideout

 

noside

 

時は遡り、始業式が行われた日の昼休み、

簪は彼女の実姉、更識楯無の下を訪れてた。

 

当の楯無は簪自ら会いに来てくれた事に非常に喜んでいたそうだ。

 

だが、簪の口から飛び出したのは、周囲で見守っていた生徒達も驚愕に値する言葉であった。

 

「お姉ちゃん、貴女に決闘を申し込む!」

 

『えぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

 

「えぇぇぇっ!?」

 

偶々近くを通り掛かったフォルテも、

簪の発言に驚愕し、飲んでいたフルーツ牛乳を噴き出しそうになったと後に語っている。

 

宣戦布告を突き付けられた楯無は暫し硬直した後、

簪が背を向け、歩き去って行った直後に倒れこんでしまったのだ。

 

「わぁぁっ!?更識さん!?」

 

「衛生兵!!早く飛んできて!!」

 

そんな楯無に教室中が驚き、一気に喧騒に包まれたのであった。

 

「これは・・・、なんか面白そうッスね~。」

 

そんな様子を観察していたフォルテは、

何やら黒い笑みを浮かべながらその場を去って行った。

 

その後、その日の内にその噂は学園中に伝播し、

決闘は何時、何処のアリーナで行われるか等、様々な憶測が飛び交った。

 

しかし、翌朝、掲示板に貼り出されていたのは、

『この度の決闘を、専用機を持つ者以外の観戦を禁ずる。』

と、生徒会長名義の事項であった。

 

一般生徒は抗議の声をあげていたが、

専用機持ちと、真耶、そしてナターシャは、

一夏の考えを悟り、何も言うことは無かった。

 

一夏は、暗に内通者の存在を彼等に告げ、

余計なデータを録られるのを防ぎたかったのだ。

 

かくして、生徒会主導で日程が組まれ、

四日間の準備期間を経た後、決闘と相成ったのであった。

 

sideout

 

side一夏

 

って事があって・・・、

俺は理事長や他の教員に根回しをしてたんだよなぁ・・・。

 

まったく・・・、簪に何を吹き込んだのかは知らんが、

何故にこんな早く決闘に持ち込んだんだよ・・・。

 

まぁ、これはこれで良いかも知れん、

あの思い上がっている楯無に、実の妹から突き付けられる敗北を刻むのも悪くは無かろう。

 

もっとも、互いに分かり合えるのなら、それも良かろう。

 

どう転んでも、この戦いは見応えがありそうだ。

 

「兄貴、簪は勝てるでしょうか?」

 

俺の前の席に座っていたラウラが、心配そうな顔で俺に尋ねてくる。

友人想いな事は良いことだが、信じてやれよ。

 

「さぁな、簪の力量なら勝つことも出来るだろうが、

楯無も、意地と言うものがあるだろう、簡単には決着は着かんよ。」

 

「そんな・・・、簪、大丈夫かなぁ・・・。」

 

鈴も心配そうな顔で簪が待機しているピットの方を向き、

不安そうな声で呟いていた。

 

「だが、蚊帳の外にいる俺達がとやかく言おうと、

戦うのはアリーナの中にいる本人達だ、

俺達は、ここで仲間の力を信じてやることしか出来ねぇさ。」

 

「はい・・・。」

 

「うん・・・。」

 

ラウラと鈴は、今だ不安そうな表情をしたまま、

アリーナの方へと向いた。

 

さて、簪、楯無、お前達はどういう風な戦いをするんだろうなぁ・・・?

 

この俺を楽しませ、血湧き肉踊る戦いを見せてくれ!

 

sideout

 

noside

 

一夏達が客席で世間話をしていた頃、

二つあるピットの片側、簪がスタンバイしている方に、

セコンドを務める秋良がやって来た。

 

「簪、もうすぐ始まる時間だよ、準備はできてるかい?」

 

「今、終わったところ、何時でも行ける。」

 

秋良に尋ねられ、簪はスポーツドリンクが入ったペットボトルを置き、

カタパルトに向けて歩いていく。

 

その瞳は戦意に満ち溢れ、正に決戦に赴く戦士そのものであった。

 

「簪、戦いを止めろ、って言うつもりは無いけど、

ひとつ、教えてくれないかな?」

 

簪を呼び止め、秋良は彼女に問い掛ける。

 

彼女は立ち止まるが、彼に背を向けたまま、

いや、アリーナで向かい合う楯無に意識を向けたまま、

彼の問いに耳を傾ける。

 

「どうして、今この時期に、楯無と戦おうと思ったんだい?

確かに俺達は、向こうで修行して、前より強くはなった、でも、それだけだよ?

力を使う者の心が負の感情で占められているなら、それはただの暴力だ、

簪が楯無に向けようとしてるのは、それなんじゃないかな?」

 

「確かに・・・、そうかもしれないね・・・。」

 

秋良が語った言葉を、簪は静かに肯定した。

 

彼女とて、ただ負の感情をぶつけるのは、暴力なのだと理解しているのだ。

 

「でもね、私はずっと、お姉ちゃんの後ろに隠れて怯える事しか出来なかった、

力とかそんなんじゃなくて、心が弱かったから・・・。」

 

彼女はゆっくりと、だが、秋良にハッキリと聞こえる声で、

自嘲するかの様に呟く。

 

「お姉ちゃんがあぁなったのも、私が弱かったせいなんだ、

だから、この力と心で、お姉ちゃんに見せ付けるの、

私はお姉ちゃんの影に隠れない、お姉ちゃんの隣に立ってるってね。」

 

「・・・、そっか、分かった、それなら俺は何も言わない、

だから、見せ付けてきなよ、簪の成長をさ。」

 

簪の決意、そして想いに触れ、

秋良は微笑みながらも簪を送り出す。

 

「うん!行ってきます。」

 

「行ってらっしゃい、頑張ってね。」

 

秋良と言葉を交わした後、

簪はアウトフレームDを展開し、カタパルトに入った。

 

(アウトフレーム・・・、私に力を貸して・・・、

お姉ちゃんに、私の力を示す為にも!!)

 

彼女の強き意志に呼応するかの様に、アウトフレームの装甲が鈍く光る。

 

『進路クリアー!アウトフレームD、発進どうぞ!!』

 

一夏に依頼され、簪側のアナウンスを務める真耶の声が響き、

簪は決然たる意志を籠め、前を向く。

 

「更識簪、アウトフレームD、行くよ!!」

 

sideout

 

side雅人

 

「あぁ・・・、どうしよう・・・、

遂に来ちゃったわよ・・・。」

 

「・・・、オイ、何やってんだお前は。」

 

楯無のセコンドとして、

簪や秋良がいるピットの反対側のピットに入るやいなや、

地面に踞り、地面に指でのを書いている楯無を見付けた。

 

やれやれ・・・、相当ヘコんでやがるな・・・、

そんだけ簪に挑戦状叩き付けられたのが悲しいのか・・・。

 

「だって・・・、簪ちゃんと喧嘩なんてしたこと無いのに・・・、

いきなり戦えなんて・・・。」

 

「あ~・・・、ソイツは・・・。」

 

御愁傷様とは口が裂けても言えない、

余計にダメージを与えかねないからな。

 

「簪ちゃん・・・、なんでぇ~・・・。」

 

もうダメだこの残姉さん・・・、流石に手の施し様がねぇよ・・・。

 

まぁ、最後まで付き合うと勝手に決めた身だ、

なんとかしてみせようか!

 

「なぁ楯無?お前は簪の事が好きだよな?」

 

「当たり前よ・・・、姉が妹の事、嫌いになるはず無いじゃない・・・。」

 

「なら、なんで簪と向き合うのが怖いんだよ?

普段あんだけストーキングしてるくせによ?」

 

そこがイマイチ分からんのだよなぁ、

普段はあれだけストーキングしてるくせに、肝心の所でヘタレてるんだから余計にな。

 

「だって・・・、簪ちゃんがどう思ってるのか、分からなくて・・・。」

 

そういう事か・・・。

嫌いでは無いだろうが、苦手ではあるだろうな。

今はどうなのかは知らないけど。

 

姉が嫌いな妹なんていねぇよ、

とは言ってやりたいが、周りに姉嫌いな姉妹、姉弟しかいないからこれまた口が裂けても言えない。

 

「だったら、それを聞き出す為に、手合わせするって考えられないか?」

 

「え・・・?」

 

「ほらさ、簪も昔のままじゃない、お前の想像の中の存在とはもう違う、

けどさ、今の簪に向き合ってやらねぇと、アイツを傷付けてる事にならないか?」

 

過去をいくら見たって、思ったって意味が無い、

今を、今ある存在を見つめ、想う方こそ、俺は有意義だと思ってる。

 

「私・・・、ちゃんと向き合えるかな・・・?」

 

「あぁ、きっと出来る、お前達は姉妹だろ?自信持てよ!」

 

コイツならきっと出来る、何故かは分からないが、

俺にはそんな気がしてならないんだ。

 

「うん・・・、私、やってみるわ・・・!

今までちゃんと簪ちゃんを見てあげられなかった、御詫びも籠めて!」

 

「そうだ、その意気だ、お前は簪の事を誰よりも大切に思ってる、

だから、絶対に伝わると信じろ!」

 

「うん!よしっ!やるわよ!!」

 

やる気になったのか、彼女は立ち上がり、両手を高く挙げて叫んでいた。

 

豪快だが、戦いに赴く前にはこれぐらいがちょうど良いだろう。

 

「じゃあ雅人!私、行くね!」

 

「行ってこい、お前の気持ち、ぶつけて来いよ。」

 

楯無がブルーフレームを展開し、カタパルトに入ったのを見届け、

俺はモニターの前まで移動する。

 

願わくは、あの姉妹に明るい未来が訪れて欲しいと、心の中で思いながらも・・・。

 

sideout

 

side簪

 

私とお姉ちゃんは、ほぼ同じタイミングでアリーナの中に飛び出した。

 

一夏から私達が向こうの世界に行っている間の出来事は全部教えてもらったから、

お姉ちゃんの機体がガンダムになっているけど、驚きはしなかった。

 

私だって、ガンダムの力を持ち、修行した身なんだ、

絶対に負けない!

 

「簪ちゃん・・・。」

 

「お姉ちゃん、覚悟は、良い?」

 

ビームライフルの銃口を、青いフレームを持つ機体に向かう。

 

「えぇ、出来てるわ・・・、でもね・・・。」

 

お姉ちゃんは武器を構えず、何故か目を伏せていた。

 

「簪ちゃん、貴女の事、ちゃんと見てあげられなくて、ごめんなさい。」

 

「・・・ッ!!」

 

何時もはちゃらんぽらんなお姉ちゃんの目は、

真っ直ぐに私を見据えていた。

 

その強い瞳に怯えたこともあった、

でも、今のお姉ちゃんの瞳には、後悔と、懺悔の色があった。

 

「こんな時に、こんな事を言うのは可笑しいってことぐらい、分かってるわ・・・、

でもね・・・、やっぱり言っておかないと苦しいの。」

 

私だって、苦しいんだよ・・・、

お姉ちゃんにちゃんと見てもらえて無くて、怖かったから・・・。

 

お姉ちゃんも、ちゃんと分かってくれたんだ・・・。

 

「私だって、お姉ちゃんにどうでも良いと思われてると思って、

怖かったの・・・。ずっと、私の事、ちゃんと見て欲しかった・・・!」

 

「うん・・・、だから、今までちゃんと見てあげられなかった分、

今日、ここで簪ちゃんの成長をじっくりたっぷりこの目に焼き付ける!!」

 

私の気概を見てとったのか、

お姉ちゃんは右手に装備されているハンドガンの銃口を向けてくる。

 

『試合開始五秒前!!5・・・、4・・・、3・・・、2・・・、1・・・、試合開始!!』

 

ファイルス先生のアナウンスと同時に、私達は飛び出す。

 

「更識簪!アストレイアウトフレームD!行くよ!!」

 

「更識楯無!ブルーフレームセカンドGショートレンジアサルト!!行くわよ!!」

 

初めての姉妹喧嘩の幕が、たった今開かれた・・・。

 

sideout




次回予告

遂に始まった姉妹喧嘩!
簪の新たな力が雄叫びをあげる!!

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
姉妹喧嘩 中編

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

姉妹喧嘩 中編

noside

 

エールストライカーを装備したアウトフレームDは、

ショートレンジアサルトを装備したブルーフレームセカンドGに向け、

ビームライフルを撃ちかける。

 

「はっ!」

 

楯無はアーマーシュナイダーを引き抜き、

ビームを切り裂きつつも、自身もショートライフルを撃ちかける。

 

「くっ・・・!」

 

専用のシールドを持たないアウトフレームDでは防御も儘ならないため、

簪はエールストライカーの出力を使い、銃弾を回避する。

 

「遅い!」

 

スラスターを全開にしたまま、

楯無はアーマーシュナイダーを両手に保持し、

簪が回避した先に向かう。

 

「ッ!!」

 

エールストライカーよりビームサーベルを引き抜き、

楯無が切りつけたアーマーシュナイダーと切り結ぶ。

 

「えぇい!!」

 

拮抗状態を破るべく、体制を立て直した簪はビームサーベルを押し込んでいく。

 

その判断は、恐らく正しい。

いかに耐ビームコーティングが施されているとは言えど、

普通の実体剣とはなんら変わり無い、

つまりはビームで焼き切ってしまえば、後は直撃させるだけなのだ。

 

「はぁぁッ!!」

 

だが、楯無は押し込まれる刃を逸らし、

簪の体制を崩した。

 

「えっ!?」

 

「もらった!!」

 

しかし、刀剣の扱いに置いては楯無に一日の長があるため、

重心をどうずらせば相手の体制を崩せるかを理解している。

 

「ッ!!」

 

しかし、簪は咄嗟にスラスターを吹かし、

楯無の腕を足場にして、なんとか離れる。

 

(今のは決められると思ったのに・・・!

本当に強くなってるのね、簪ちゃん!!)

 

(今のは押し込めると思ったのに・・・!

流石はお姉ちゃん!一筋縄じゃ勝たせてくれない!!)

 

簪の成長に、楯無は内心舌を巻き、

楯無の技量に、簪は改めて驚愕していた。

 

心が離れていた期間だけ、

互いが互いの実力、成長を知らないでいたのだから、

この反応は仕方がないと言えるだろう。

 

(でも、私は姉として負ける訳にはいかないの!)

 

(お姉ちゃんに成長を見せつける為にも!私は負けない!!)

 

だが、互いに負けられない理由、意地があるため、

己の力をぶつけ合うのだ。

 

「「はぁぁッ!!」」

 

楯無はアーマーシュナイダーを手に、

簪はビームサーベルを保持し、互いに相手に向かっていく。

 

大出力があるエールストライカーを装備したアウトフレームDの方が瞬発的な加速には向いているが、

格闘戦では小回りを求められるため、余分な装備を施していないブルーフレームセカンドGに分があった。

 

簪が振るうビームサーベルを回避した楯無は、

簪の上を取り、アーマーシュナイダーをエールストライカーに突き立てた。

 

「きゃあぁっ!?」

 

簪は咄嗟にエールストライカーを排除するが、

推進剤の誘爆により体制を大きく崩し、爆煙に包まれる。

 

「まだよッ!!」

 

楯無は残ったもう一本のアーマーシュナイダーをしっかりと保持し、

爆煙に包まれている簪に向け、追撃をかけようとした。

 

しかし・・・。

 

爆煙の中から一際大きいビームの光条が飛び出してきた。

 

「っ!?」

 

咄嗟にスラスターを吹かし、

ビームの光条を回避するものの、アーマーシュナイダーを一本犠牲にする。

 

「い、今のは一夏君が使ってた・・・!」

 

楯無は自身の経験から類似した兵器を思い浮かべた。

 

(でも、あれよりは出力が低い、

もしかしたら連射が利くタイプなのかも・・・!)

 

だとすれば面倒ね、と小さくボヤいた楯無の頬には、

一筋の冷や汗が流れていた。。

 

「私は、負けないよ、お姉ちゃん!」

 

爆煙が晴れ、そこには特殊な形状を持ったバックパックを背負う、

アウトフレームDの姿があった。

 

「それは・・・、新しいストライカー、という訳ね・・・!」

 

「アストレイアウトフレームD+ライオットストライカータイプA!!」

 

sideout

 

side一夏

 

簪の機体の装備に、俺は顔には出さないが、

内心、かなり驚いていた。

 

背中に大きなコンテナを左右に背負っていることと、

先程のアグニの様なインパルス砲のビーム・・・。

 

この二つの情報を統合して考えてみると、

あの装備は遠距離兵装主体の装備だと判断できる。

 

もし、俺が兵器の開発者ならば、

接近されないためのミサイル系の装備を積むだろう。

 

コンテナの上部のカバーは、恐らくはミサイルポッドのハッチなのだろう。

 

(後は・・・、この試合での動向を見極めれば、

装備の性質を把握仕切れるだろう。)

 

「セシリア、シャル、簪の装備をよく見ておけ、

俺達の立場上、何があるのか分からんからな。」

 

「かしこまりました。」

 

「分かったよ。」

 

俺の指示に真剣に頷き、二人はアリーナに視線を戻した。

 

さぁ、そのストライカーの力を、

この俺の眼前に曝せ!

 

sideout

 

side簪

 

「行くよ!!」

 

向こうの世界で貰った装備、

ライオットストライカータイプA(アーチャー)の左側のコンテナから、

ビームライフル<プロトン・ライフル>を取り出し、

ブルーフレーム目掛けて発砲する。

 

アクタイオンの技術も凄いと思うけど、

相原技研の技術も本当に凄い。

 

エネルギーの消費も少ないし、連射力も高い、

ガンナーにとってはかなり嬉しい事だよね。

 

まぁ、私はオールラウンダーだからどっちもアリなんだけどね。

 

「くぅっ・・・!」

 

お姉ちゃんはビームを回避しながらも、

別のパックに換装していた。

 

右背に折り畳まれた砲身が見えるから、

多分ランチャーストライカーみたいな砲撃型の装備だと判断できる。

 

「行くわよ!ブルーフレームセカンドGスナイパーパック!!」

 

お姉ちゃんの掛け声と共に、折り畳まれていた砲身が展開され、

こっちに向けられる。

 

砲口からビームが迸り、私の方に向かってくる。

 

まっすぐ向かってくるだけなら、

一夏風に言えば避ける事なんて造作も無いこと。

 

だと思ってたけど、

私が避けた方に向かって、ビームが僅かに屈折してきた。

 

「えっ!?」

 

咄嗟に機体を動かすけど、

避けきれなかったビームが、左側のコンテナを破壊していった。

 

「い、今のは一体・・・!?」

 

迂闊だった・・・!

未知の兵器を侮ってはいけなかったんだ・・・!

 

「まだまだっ!!」

 

私との距離を一定に保ちながらも、

ビーム砲とハンドガンで攻撃を仕掛けてくる。

 

「くっ・・・!」

 

なんとか状況を打開しようとして、

両方のコンテナからミサイルを発射して、

プロトン・ランチャーとプロトン・ライフルを連射し続ける。

 

「くっ・・・!やるわね、簪ちゃん!!」

 

「お姉ちゃんも・・・、やるね!!」

 

正直、ここまでの腕があるとは思わなかった・・・!

この装備を使って苦戦するなんて思ってもみなかった!!

 

それにしても、ビームが曲がるなんて・・・!

どんな原理なのかは分からないけど、

ビームに当たるとエネルギーを大きく削られてしまう!!

 

(いっそ、ミサイルで牽制して、プロトン・ランチャーを撃ち込む!!)

 

そう思うのは簡単なんだけど、

どう考えてもお姉ちゃんが一度喰らったトラップに引っ掛かる筈が無い。

 

と言うか、それで勝てるなんて、一瞬でも考えた私も、

まだまだ思慮が浅いね・・・。

 

って、そんな呑気に考え事してる場合じゃないよ!!

 

私が戦術を考えている間も、

ブルーフレームから撃ちかけられるビームや実弾の雨は苛烈さを増し、

アウトフレームの装甲を掠める弾丸も増え始めた。

 

(やっぱりお姉ちゃんは凄い・・・!射撃も、近接戦でも強い・・・!)

 

私が撃ちかけるビームは避けたり、相殺したりしてるから、

本当にそう実感できる。

 

これでシスコンさえなければ完璧なんだけどなぁ、

なんて思ってしまうのは仕方無い事だよね。

 

そんな事を考えていると、

お姉ちゃんの機体にまた変化が起こった。

 

頭部のヘッドアンテナの形状が変わり、

背中に大きなスラスターを背負ったフォルムが特徴的なスタイルだった。

 

「あれは・・・!?」

 

明らかにさっきまでの狙撃形態とは別の戦闘用途の為にあるフォルムね!

 

「ブルーフレームセカンドL!これで決めるわよ!!」

 

そう言うや否や、背中のスラスターが機体から分離して、

瞬く間に大型のバスターソードに形を換えた。

 

「嘘っ!?」

 

一体どういう機構になってるの!?

 

分からない事ずくめの中で、一つだけ分かった事がある。

あんな攻撃に当たったら、ひとたまりも無い!!

 

「えぇい!!」

 

ミサイルを乱射しながらも、プロトン・ランチャーを撃ちかける。

 

プロトン・ランチャーは、ランチャーストライカーのアグニよりも威力が若干低い代わりに、

この手の兵装にしては燃費が良い事が利点なの。

 

ミサイルとビームは一直線にお姉ちゃんに突き進む。

これに全て当たれば、戦闘不能になるのは目に見えている。

 

「そんなものっ!!」

 

だけど、お姉ちゃんはバスターソードを身体の前に持ってきて、

盾の様に構えていた。

 

バスターソードとはいっても、恐らくは普通の刀剣に用いられる装甲となんら変わりはないはず、

ビームに当たってしまえば破壊されるのにどうして・・・!?

 

まず最初にミサイルがバスターソードに直撃し、

爆煙が立ち込める中にビームが突き刺さった。

 

だけど、ビームが弾かれ、爆煙の中から傷一つついていないバスターソードを構えたお姉ちゃんが飛び出してきた。

 

(そんな・・・!ビームを弾いた・・・!?)

 

まさか・・・、耐ビームコーティングが施されていたの・・・!?

 

驚きで動けない私に、お姉ちゃんがもう目の前まで迫っていた。

 

sideout

 

side楯無

 

「甘いわよ!!」

 

スラスターの推力で加速したタクティカルアームズの突きを、

簪ちゃんの機体の胴に叩き込む。

 

「キャァッ!?」

 

防御も儘ならなかった簪ちゃんは、

後方に大きく弾き飛ばされて行った。

 

簪ちゃんは、昔とは比べ物にならないぐらいの力と、

意志を持っていた。

 

これまでの認識を改め、一人の女として向き合っていかなければならない事は、

頭を叩かれた様に理解させてもらった。

 

だから、これまでの詫びと、礼儀を込めて、

ここは私も本気でかかり、トドメを刺す!!

 

バスターソードを構え、

一気に簪ちゃん目掛けて突き進む。

 

体制を崩してるから、回避する事も儘ならないでしょう!

これで、チェックメイトよ!!

 

上段から唐竹割りの要領で振り下ろし、

簪ちゃんの機体を捉える筈だった刃は、火花を散らして止められた。

 

「!?」

 

「私は・・・!負けたくないの!!」

 

歯を食いしばりながらも、

両腕下部から発生しているビームサーベルの様なもので、

タクティカルアームズを受け止めていた。

 

「また、新しい装備という訳ね・・・!」

 

そうこなくちゃ・・・!

私の妹なら、やっぱりこの程度で終わる筈なんてないわよね!!

 

「良いわ!何度でも向かって来て!!何度でも私が受け止めてあげる!!」

 

「アウトフレームD+ライオットストライカータイプB!!行くよ!!」

 

sideout

 

side一夏

 

ほう、また武装を換えやがったか。

 

今度のストライカーモドキは、ゲイルストライクの様に両肩にスラスターが着き、

両腕下部に何やら追加装備が見受けられる。

 

いや、よく見れば肩部のスラスターの一部に、

何やら取っ手の様な物が見える、つまり、ビームブーメランやそれに近い格闘兵装だと察知できる。

 

先程の装備とは異なり、近接格闘用の装備ということか・・・、

ここはパイロットの腕が試されるところだな。

 

だが、贔屓目無しで格闘戦能力を見れば、

確実に楯無に歩がある。

 

そこでこの換装と来たと言うことは、

恐らく、何やら特殊な能力を有する装備だと言うことだ。

 

それを見極める事が出来れば、

この試合を観た価値も上がると言うものだ。

 

さぁ、簪、

お前が得た力の全てを、楯無にぶつけろ!!

 

そして、俺の戦闘における糧になれ!!

 

sideout

 

 




次回予告

長きに渡る姉妹の関係に、
新たな兆しが見える。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
姉妹喧嘩 後編

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

姉妹喧嘩 後編

side楯無

 

「「はぁぁぁっ!!」」

 

タクティカルアームズを振り、

簪ちゃんの機体とぶつかり合う。

 

威力が高いタクティカルアームズは、

その巨大さ故に取り回しはそこまで良くない。

 

それに対して、簪ちゃんのビームトンファーはリーチは短いけど、

素早い攻撃が出来る・・・!!

 

一長一短が出やすい装備な分、

力量に左右されやすい事は重々承知している。

 

だけど、ちょっとこれは予想外ね・・・。

 

重さと威力で押し込んでるんだけど、

簪ちゃんはあまり切り結ぶ事をせずに、

受け流す事に徹している。

 

なんとか体制を崩されない様に意識はしてるけど、

本当に厄介ね・・・!

 

「そこっ!!」

 

簪ちゃんは両肩から新たにビームサーベルを新たに二本引き抜き、

四刀流で攻め立ててくる。

 

手数が多い分、捌くのが本当にキツいわね・・・!

 

でも、なんとかしてみるわよ!!

姉としても、一人の戦士としても負けたくないから!!

 

タクティカルアームズを押し込んで、

簪ちゃんの体制を僅かに崩して、胴に蹴りを入れて距離を開く。

 

「くぅっ・・・!負けない!!ライオットA!!」

 

って!?

ちょっとちょっと!?二つのストライカーを同時に使うってアリィ!?

 

遠距離攻撃も近距離攻撃も強いって卑怯じゃない!!

 

と言うか、これだけバカスカ撃って、尚且つ格闘戦の装備、

エネルギーがどうして保っているのか疑問ね・・・!

 

「そこっ!!」

 

「くぅっ・・・!!」

 

右側の大型ビーム砲が火を噴き、ビームの奔流が迫ってくる。

なんとかタクティカルアームズで防ぐけども、体制を崩しそうになる。

 

本当に厄介ね・・・!

どう戦おうかしら・・・!?

 

そう言えば・・・、

ブルーフレームのカタログスペックに目を通した時に、

セカンドLとセカンドリバイには面白い機能があったわね・・・。

 

理論上は出来る、って言う前提は付くんだけども、

やらなきゃこのまま悪い流れになりそうだからね!

 

「これで、どうよっ!!」

 

後退しながらも、タクティカルアームズを回転させながら投擲する。

 

スラスターが一緒くたになってるから、

そんじゃそこらの事じゃあ止まる事は無いらしい。

 

「ッ!!」

 

簪ちゃんはスラスターを吹かして、

タクティカルアームズを回避して、こっちに向かってくる。

 

かかった!!

思考を集中し、タクティカルアームズのスラスターを噴射して、

簪ちゃんの背後から攻撃を仕掛ける。

 

タクティカルアームズは、一定の距離の範囲内なら、

セシリアちゃんが操るドラグーンの様にコントロールが出来るらしい。

 

もっとも、出来ると言うだけで、

私の能力が足りてなければ全く無意味で終わるんだけどね。

 

「嘘っ!?」

 

反応するけど時既に遅しと言うべきか、

背中に直撃して、残っていたコンテナと基部をも破壊した。

 

それらしく見せるためにアーマーシュナイダーを握ってて正解だったわね。

 

「これで、チェックメイトよっ!!」

 

手元に帰って来たタクティカルアームズをしっかりと保持し、

スラスターを全開にして一気に迫る。

 

体制を崩してる今の簪ちゃんでは、

避ける事も儘ならない筈!!

 

そう思いながらも振り抜こうとしたタクティカルアームズは、

冗談ではないかと疑いたくなるほどの出力のビームサーベルに止められ、

二秒経たない内に焼ききられようとしていた。

 

「ヤバッ・・・!?」

 

本能的な恐怖を感じ、

タクティカルアームズを手放して距離を開く。

 

なんて出力なのよ・・・!!

あんなの反則どころの話じゃないわよ!

違法ってレベルよね・・・!!

 

と言うか!?

あんな出力を続けてたら速効でビームサーベルの柄が焼けただれるわよ!?

いいえ、それどころか、エネルギーが持たないわよ!!

 

だとしても、あんなの喰らったらエネルギー処か、

私の身体自体がどうなるか分かったもんじゃないわよ!!

 

あれ・・・?

私凄いピンチじゃないかしら・・・?

 

タクティカルアームズ壊されて、

アーマーシュナイダーであんなのとやりあうなんて無謀も良いところ。

 

サード?リバイ?

どっちにしてもあんなのと切り結ぶには、耐ビームコーティングの効き目が足りない・・・!!

 

でも・・・!やるしか無い!!

 

セカンドLをサードに変更して、

左背のビームライフルを引き抜いて発砲しながらも、

右腕の耐ビームソードを展開、スラスターを全開にして簪ちゃんの機体に向かっていく。

 

簪ちゃんも超ハイパービームサーベル(命名私)を構えて、

こっちに向かってくる。

 

こっちのエネルギーもやや心許ない。

恐らくはこれが最後の一撃になる!!

 

なら、私は私が持てる全ての力をぶつける!!

 

「「はぁぁぁっ!!」」

 

私が撃ったビームは、全て超ハイパービームサーベルに切り裂かれ、

光刃はブルーフレームに直撃、耐ビームソードも簪ちゃんの機体に突き刺さった。

 

ブルーフレームのエネルギーは瞬く間に底を突き、

簪ちゃんの機体のエネルギーも同時に底を突いた。

 

PICが切れるけど、

推進剤を積んでるから、スラスターを調整して吹かし、地面に降り立った。

 

『試合終了!!両者エネルギー残量0!戦闘続行不能と判断し、引き分けとする!!』

 

ファイルス先生のアナウンスが響き渡り、

試合の終了を悟らされる。

 

負けなかった、でも勝てなかった・・・、

簪ちゃんは、ちゃんと私の隣に立っている、それを改めて思い知らされた。

 

「強くなったわね、簪ちゃん・・・。」

 

「お姉ちゃんも、凄く強かったよ、

今回は勝てると思ってたのに・・・。」

 

「意地があるからね、まだ負けられないわよ。」

 

姉として負ける訳にはいかなかった、

だけど、それ以上に妹の力を知れて、楽しかったのも事実。

 

「だけど、凄く楽しかったわ・・・、

簪ちゃんは、私の後ろじゃなくて、隣に立ってるって分かったから。」

 

そう、分かったからこそ、寂しい気持ちも勿論ある、

だけど、いい加減妹離れしなければいけないのだと、言われてる様な気がするのよね。

 

「今まで分かってあげられなくて、ゴメンね?」

 

「ううん・・・、私も・・・、お姉ちゃんの事、避けちゃって・・・、ごめんなさい・・・。」

 

私が謝ると、簪ちゃん頭を下げてくれた。

 

蟠りが、これで解けてくれるといいな・・・、

そう思いながらも、私は簪ちゃんを抱き締めた。

 

sideout

 

side秋良

 

楯無と暫くの抱擁を続けた簪が、

ピットに戻って来た。

 

「お疲れ様、簪。」

 

彼女を労いながらも、

用意しておいたドリンクボトルとタオルを手渡す。

 

「ありがとう、秋良・・・。」

 

体力を消耗しての疲れた色と、

何処か満足げな表情が混在してるけど、

どうやら望みは叶った様だね。

 

ドリンクボトルから口を離し、簪はポツリと語り始めた。

 

「お姉ちゃんは・・・、私の事を思ってやってくれたのは、

前から分かってたつもりだった・・・、でもね・・・。」

 

「でも?」

 

「分かってたつもりだったけど・・・、

やっぱりなんでやるのか、今まで理解出来なかった・・・、

だから、今までお姉ちゃんを避けてたの・・・。」

 

やっぱりね・・・、理解できないのは、

暗闇の中で手探りしてるようで、心許ないし怖い。

 

それだから、なるべく恐怖から遠ざかる為に、

自己防衛本能が働いていたんだと思う。

 

これが長いすれ違いの大きな原因なんだと思う。

 

「でもね、今回の戦いで全部スッキリした、

お姉ちゃんは私の事を、本当に想っててくれたんだって分かったから。」

 

「そっか、簪がそう思ってるなら、楯無もきっと、そう思ってくれてるよ。」

 

「うん♪」

 

そうだよ簪、君が笑っていれば、

楯無もきっと笑い返してくれる。

 

それを忘れないでいれば、君達はずっと仲の良い姉妹でいれるよ。

 

「なら、今日は楯無も誘って、皆で夕食を採ろう、

あぁ、でも兄さんと楯無は離さないとね。」

 

「そうだね。」

 

あの人達、すんごい仲が悪いからねぇ・・・。

原因はなんなんだか全く知らないけどさ・・・。

 

「それじゃあ、着替えて来なよ、

俺は外で待ってるからさ。」

 

「うん、それから・・・。」

 

簪が俺の方に歩いてきて、

柔らかいその唇を、俺の唇に重ねた。

 

「ッ!?」

 

おいおい・・・、俺は兄さんと違って奥手なんだよ。

それも身長差キスなんて浪漫だよね・・・。

 

「えへへ・・・♪ありがと、秋良。」

 

少しはにかみながらも、簪は小走りで更衣室に入っていった。

 

「・・・、まぁ・・・、嬉しい、よ・・・。」

 

今日は良いことずくめだね・・・、色んな意味でさ。

 

そんな事を考えながらも、

俺は荷物を片付けて更衣室の外に向かった。

 

sideout

 

side雅人

 

簪との試合を終え、楯無がピットに戻って来た。

 

「お疲れさん、惜しかったな。」

 

用意しておいたタオルケットと、スポーツドリンクが入ったドリンクボトルを手渡し、

労いの言葉をかける。

 

「ありがと、いただくわ。」

 

ドリンクボトルを受け取り、彼女は喉を潤す。

 

「簪は強かっただろ?」

 

「えぇ、とっても強かったわ。」

 

「でだ、何かを掴んで来れたんだよな?」

 

俺の問い掛けに、楯無はドリンクボトルから口を離し、

何処か哀愁が漂う表情を見せた。

 

「私・・・、ずっと勘違いしてたのかも・・・、

簪ちゃんは妹だから、私が守り続けなきゃいけないって・・・、

でも、それは間違いだった、簪ちゃんも、ただ一人の人間、

独り立ち出来るし、しなきゃいけない・・・。」

 

「そうだ・・・、俺達は一人の人間、いつかは独り立ち出来る、

でもな、お前が簪を想った事は、決して間違っちゃいねぇさ。」

 

妹を想っての事なら、相手にも伝わる、

喩え時間がどれだけかかってもな。

 

「それに、簪がお前を想ってくれてたのも、解っただろ?」

 

「えぇ、もうスッキリしたわ、全部ね。」

 

「良かったな、さ、着替えて来いよ、俺は外で待ってるからな。」

 

このままだと身体が冷えてしまうだろうし、汗も拭いたいだろうから、

俺はさっさと退散しますかね。

 

「あ、待って雅人!」

 

楯無が俺の制服の裾を掴み、呼び止めて来た。

 

「どうした?楯無・・・、ッ!?」

 

振り返った俺の唇に、彼女の柔らかい唇が押し当てられた。

 

冷静にそう伝えてはいるが、かなり衝撃的で、

思わず手に持っていた荷物を落としてしまった。

 

「た、楯無・・・!?」

 

彼女の唇が離れた後も、俺の頭の中はやはり混乱したままだった。

 

「ふふっ・・・、今まで、私は雅人に支えられて来たわ・・・、

私と簪ちゃんを会わせようとしてくれた事も、護ってくれた事も、

今日発破をかけてくれたのも、全部貴方のお陰なの。」

 

「そんな事は・・・。」

 

俺は何もしてないぞ・・・。手柄は全部楯無の物だ。

 

「気付いちゃったの・・・、

私はずっと雅人に分からない内に頼ってたって・・・、

でも、それだけじゃ無いって、今日、はっきり分かったの・・・!」

 

彼女は、何かを決心したかの様に顔をあげ、

俺の目を見つめてくる。

 

その瞳に吸い込まれそうになるが、

意識だけは彼女の言葉を待った。

 

「私は・・・、雅人が、好きです・・・、

ずっと支えてくれた・・・、貴方が好きです・・・!」

 

真摯に、ただひたすら真っ直ぐな眼差しが、

彼女の言葉を嘘ではないと物語っている。

 

「た・・・、楯無・・・!」

 

俺は彼女の名を呼びながらも、

彼女を抱きすくめた。

 

「俺も、楯無が好きだ・・・!

頑張ってるけど、空回りするお前を助けてやりてぇ!

ずっと、お前の傍らでだ!!」

 

この空回りしても、めげずに何度も立ち上がる楯無を、

俺は支えたい、護りたい!!

 

それが俺の本心だ!!

 

「ほ・・・、本当に・・・、私で良いの・・・?」

 

「あぁ、俺は楯無じゃなきゃ嫌だな。」

 

「嬉しい・・・!雅人・・・!」

 

俺の背中に腕を回してくれる楯無をしっかりと抱き締める。

 

その身体は、鍛えられているとは言えども華奢で、

少しでも力を加えてしまえば壊れてしまう様な錯覚に陥る。

 

そうだ・・・、俺がこの世界に来たのは、

こいつを、楯無を支えるという役目を承けているからだ。

 

なら俺は、身体張って、全力でやり抜いてやる、ただそれだけだ。

 

sideout

 




次回予告

姉妹決戦後、
一夏はある人物と密談を執り行う。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
暗躍する者

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暗躍する者

side一夏

 

楯無と簪の決闘後、

俺は独り管制室に籠り、データの解析を行っていた。

 

アイツらの関係がどうなろうと、俺が知った事では無い、

俺が最も知りたいこと、それは兵装の特徴、そして欠点だ。

 

簪が見せた装備、アイツはライオットストライカーと言っていたが、

この際、名称なんぞどうでもいい。

 

遠近の組み合わせが可能なタイプと来ている、つまり、ソード系とランチャー系を同時に装備し、使用すると言うことだ。

 

しかもよく見てみれば、どちらとも干渉しない様な配置になっているときている、

これを造った奴は、相当腕の立つ技術者なのだと察する事が出来る。

 

両方の特徴を備えているタイプがあるという可能性も否定出来ない、

もし破壊された時の予備に使えるからな。

 

コンソールを弄り、解析を続けている内に、

モニターに解析結果が表示される。

 

「出たか・・・。」

 

やはりな、拡張領域内にもう一つ反応がある、

これで裏は取れた。

 

大体の装備、特性は理解した。

大容量サブバッテリー、もしくはエネルギーが切れた時にリレイズする為の緊急バッテリーが搭載されていると見て間違いない。

 

つまり、バッテリーパックさえ破壊してしまえば、ただエネルギーを喰うだけのポンコツに成り下がると言うわけだ。

 

そして、俺の力量があれば破壊すること等造作もない。

 

「これで戦う事になったとしても、負けん。」

 

ふっ・・・、俺は何を言っているんだか・・・、

仲間と殺し合うような愚かな真似はするはずが無い、が・・・、

備えあれば憂いなしって奴だな。

 

そう思った時、モニターがさざ波を打った様なノイズが走り、

特徴的な髪型をした、巻き眉毛の男の姿が映し出された。

 

『よぉ御大将、元気そうだな。』

 

「久しいな、ルキーニ、先日の件は、巧くやってくれた様で大助かりだ。」

 

奴の名はケナフ・ルキーニ、裏社会では知れ渡った情報屋だが、

今はアクタイオンが抱える情報部のメンバーの一人だ。

 

今は俺にその力を貸してくれる人物の内の一人であり、

信の置ける人物でもある。

 

先日の、亡國企業への情報の意図的なリークも、

彼の手腕を大いに活用させて貰った。

 

お陰で仕事が捗る。

 

『久し振りに腕がなった物でな、

今日はその礼がてら、面白い情報を幾つか仕入れて来たぜ。』

 

「面白い話か、良いだろう、聞こうじゃないか、話してくれ。」

 

恐らく一つ目は亡國企業に関連する事だろう、

本当に重要な事柄は最後の方まで伏せるのがルキーニと言う男だ。

 

『まず一つ目だ、亡國が篠ノ之 束の力を借り、

全世界に対して宣戦布告を近々行う様だぜ、これはガセでは無いという裏も取れている。』

 

「やはりな・・・、堪え性の無い連中の事だ、

早々に仕掛けてくるとは思っていたが、これ程早い時期とはな。」

 

まぁ良い、お陰でこちらも予定を早める事が出来る、

既にこちらの準備は整っている。

 

『二つ目だ、ロウ・ギュール以下数名の技術部からだ、

オーダーしていた代物が完成したとの事だ。』

 

モニターにある装備のデータが表示される。

 

一見、特殊な小型ロケットに見えなくも無いが、

この形状はまさしく・・・。

 

「ほう!あれが完成したのか!素晴らしい!」

 

あれが完成したというならば、

この戦いに勝利は間違いない!!

 

「近い内にアクタイオンに戻る、その時に礼は俺の口から直接伝える。」

 

『分かった、三つ目は亡國企業実働部隊と篠ノ之 束が潜伏していると断定出来た場所だ、

内面図と位置まで判明している。』

 

そんなものまで手に入ったのか・・・、

ルキーニの腕が良いのか、それとも相手がわざと撒いた罠か・・・。

 

『一応、何度もリサーチしたが、疑いのある事は拭いきれんな、

御大将ならば大丈夫かと思うが、そういった兵器の存在があると留意した方が良いだろうな。』

 

「承知した、引き続き調査を続けてくれ、

こちらも対応策を用意しておこう。」

 

他の諜報員にも探らせるとするか、

こういう事は、何事も万全の状態でなければならないからな。

 

『それから・・・、以前から頼まれていた情報だが、

八割片集まって来ている、マティスも御大将に依頼された事の準備を行っている、

その時までには必ず十分、いや十二分な情報を集めてくる。』

 

「了解した、アンタの手腕を、俺は信頼している、

必ずやり遂げてくれると信じている。」

 

『それじゃあな。』

 

ルキーニからの通信を切り、

送られてきたデータを全てストライクEに移す。

 

そして、コンソールを操作し、

使用した経歴、データを削除する。

 

これでこの情報を知るのは俺だけだ、

監視カメラも切り、尚且つ扉もロックしておいた、

盗聴器の類いも捜し、破壊しておいたから憂いは無い。

 

さて・・・、そろそろ次の一手を打つとしようか・・・。

 

さぁ、漸く序章が始まる・・・、

本当の恐怖の序章がな・・・。

 

sideout

 

noside

 

管制室付近の曲がり角に身を潜めていた影が、

一夏が管制室から立ち去った事を確認し、

静かに部屋に入っていく。

 

モニターを作動させ、コンソールを操作し、何か打ち込み始める。

 

「やっぱり・・・、データは消されてる・・・、抜かりない・・・。」

 

その者が調べていた物、

それは先程、一夏が行っていた事の裏を取るための、

通信経歴及びモニターに表示されたデータだ。

 

だが、一夏は抜かりなく漏洩を防ぐためにデータを全て消去していたのだ、

いくら探そうとも、いっこうに見付かる気配が無かった。

 

「やっぱり・・・、これを使うしか無い、か・・・。」

 

垂れていた袖の中から、

USBの様な物を取り出し、コンソールに差し込んで操作を再開する。

 

差し込んだ物、それは失われたデータを復元する為のキットであり、

端末無いに僅かに残留する破片から再生することが可能である。

 

モニターに表示される物が変わり、

0%と言う表示が現れる。

 

恐らくは、データの復元率の表示であるだろう、

数字が徐々に増えていくに従って、データも復元されていく。

 

そして、遂に数字が100%に達した時、

その者は別のUSBをコンソールに差し込み、データを移す作業を開始した。

 

「これで、あの男を葬れる・・・!!」

 

自身の誇りを踏みにじった男を、

地獄へと落とす為には、日本政府に彼のやっている事をリークすれば良いだけの事だ。

 

そうすれば、日本政府は彼を捕らえ、モルモットとして使う為の口実を獲られる、

彼女にとっても、邪魔者が消えて都合が良い。

 

データの移行率が100を示そうとした、まさにその時・・・。

 

一発の銃弾がその者の左脚を撃ち抜いた。

 

「ギャァァァッ!?」

 

焼ける様な激痛が走り、

その者は絶叫しながらも床に倒れこみ、踞った。

 

「やはり、待ち伏せと言うものは良い、

油断した相手を捉えるには実に有効な手段だったな。」

 

その者が扉の方を向くと、

そこには小銃を構えた一夏が立っていた。

 

「織斑・・・、一夏ぁぁ・・・ッ!!」

 

「クックックッ・・・、お前は実に都合良く動いてくれたよ、

俺の望むシナリオ、そのままにな。」

 

追撃とばかりに、二発立て続けに撃たれた銃弾は、

反撃できない様に見事に両腕を撃ち抜いた。

 

「やはり、尻尾を自分から出したな、

亡國の決起を待ち、俺を戦いに出してから日本政府をけしかければ良いものの、

実に愚かで扱い易かったよ、お前は。」

 

コンソールを操作し、何かを実行しかける。

 

無論、USBデータは破壊済みである。

 

「日本政府にデータを送信できる直前まで設定しておいた、

どういう事かは、愚かなお前でも理解できるだろう?」

 

「・・・!!お前ぇぇぇッ!!」

 

「クックックッ・・・、ハーッハッハッハッ!!

残念だったな!!お前の策略敗けさ!!

俺が欲しかったのは、日本政府に対しての戦闘的口実だ!!

間違いなく日本政府は篠ノ之 束を取り込もうと、亡國企業に着くだろうよ!!

あぁ実に愚かだ!!」

 

一夏の狙いの一端に触れたその者は叫ぶ事しか出来たかった。

 

彼はその者に歩みより、

武器になりそうな物は全て取り払い、腕に手錠をかけた。

 

「おっと、ここで死んでもらっては困るんだよ、

お前にはまだ大事な役目が残ってるんだよ・・・、なぁ、布仏本音?」

 

sideout

 

noside

 

「遂に・・・!!遂にこの時がやって来た!!」

 

薄暗い格納庫の中で、亡國企業実働部隊のトップ、

スコール・ミューゼルは両手を高く掲げ、宣言する。

 

その眼前には、静かに佇む一般兵、IS操縦者の女性、

そして百を優に越えようかというほどの無人機の数々だった。

 

「この仮初めの平和に腑抜け、腐りきった世界に鉄槌を喰らわせる時が来たのだ!!

我々は絶対的な力を持ち、世界をこの手で救済するのだ!!」

 

力強く演説を行うスコールには、

強いリーダーシップを垣間見る事が出来る。

 

「我々の力を!世界に示すのだ!!」

 

『青き清浄なる世界のために!!』

 

彼女の突き上げられた拳に呼応するように、

彼女の眼前に立つ者達は、雄叫びをあげ、拳を突き上げた。

 

それに満足したかのように、スコールは彼等に背を向け、

その場を歩き去った。

 

「ふ~ん、やっぱりすーちゃんは凄いねぇ~。

この世界の頂点に立つに相応しいよ~♪」

 

「あら、見ていたのね束、そんなにおだてても何も出ないわよ?」

 

通路で束と会った彼女は、

軽口を言い合いながらもゆっくりと通路を進んでいく。

 

「アマツの調整も完璧だよ~!!何時でも戦える様にカスタマイズしておいたよ!!」

 

「ありがとう、本当に助かるわ、ところで、ペル・グランデのデータ、

あれを使った機体は出来上がった?」

 

「もう完璧!!私が操るための調整もバッチリ!!」

 

スコールと機体の状況を確認しあい、

モニターが大量に設置されている部屋へと入った。

 

「これからよ、織斑一夏への復讐、そして世界をこの手に収めるための聖戦は。」

 

「にひひ~、楽しくなりそうだね~!!」

 

モニターを操作し、

とある区画の映像を表示させる。

 

そこには、人間が乗っているかの如く、

機体の形状を完全に維持した金色のフレームを持つ機体と、

同じく形状を維持した紫の機体があった。

 

「・・・、ところで、束?本当に彼女は来るの?」

 

その美しく整った顔を僅かに歪め、スコールは束に小さく問うた。

 

スコールがいう彼女とは一体誰なのかは、全くもって見当がつかないのだが、

彼女の様子から察すれば、あまり快く思っていない相手なのだろうか・・・。

 

しかし、それは彼女にしか分からない事なのである。

 

「来るよ、きっとね・・・、きっと、力を求めてね・・・。」

 

静かに、だが何かを確信した表情で、

ある一つのモニターに目を移した。

 

そこには、特徴的な翼を背負う漆黒の機体が、静かに佇んでいた。

 

その様子はまるで、いまだ見えぬ主の来訪を、

心待にしているかの様でもあった・・・。

 

「さぁ・・・、始めようよ、新たな世界の始まりをね・・・。」

 

 

この翌日、亡國企業は全世界に対して宣戦を布告した。

 

誰かの思惑が、そうさせた事にも気付かないままに・・・。

 

sideout




次回予告。

亡國企業の宣戦布告に対し、
一夏達は行動を興す準備を始める。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
処刑

お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

処刑 前編

noside

 

亡國企業が宣戦を布告し、世界は一斉に驚愕と疑念に包まれた。

 

散発的にテロや、襲撃を行ってきた亡國企業が、

何故今になって宣戦を布告するに至ったのか、全くもって見当がつかなかったのだ。

 

だが、演説が続く最中、

亡國企業の幹部と思われる者と共に、篠ノ之 束が姿を現したのだ。

 

ここで世界は一気に凍り付いた。

 

宣戦布告を行った団体に、ISの産みの親である篠ノ之 束が着いたのだ、

恐らくは現行のISを遥かに凌駕する性能を秘めた機体を開発して、

世界を落とすことを目的としていることが瞬時に理解できたのだろう。

 

上手く立ち回ることが出来れば、

最先端、いや、その先を行く技術も手に収める事も可能だろう。

 

だが、当然それ相応の対価を支払わなければならない事も、また必然、

それが民の命、金、何であったとしてもだ・・・。

 

ここに、世界は史上最悪の窮地へと追いやられる事になったのだった・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「・・・、これが亡國が先程行った演説、いや、宣戦布告の内容だ・・・。」

 

IS学園会議室にて、ガンダムの力を持つ者達は、

俺が用意した映像を観ていた。

 

因みに、セシリアとシャルにはある用事を任せている、

この後のお楽しみのな。

 

「おいおい・・・、これはどうみても、世界乗っとるぜ的な何かが見えるんだが?」

 

「そうッスね・・・、イカれてるとしか思えないッスよ。」

 

ダリルとフォルテは呆れと困惑、その両方が混ざった声をあげ、

深々とため息を吐いていた。

 

そんな気分になるのは分かるが、

今はそんな事を気にしている場合では無い。

 

さて・・・、ここで何人かをシンパに引き込めれば、

楽に事が進むのだが・・・。

 

「もう気付いていると仮定して話すが、

以前より俺達を襲撃してきていたのは亡國と、篠ノ之 束だ。」

 

俺が事実を告げると、全員が箒に気遣わしげな視線を送る。

 

そうなるのも当然だろうな、

箒にとって、束は実の姉、他のメンバーにしてみれば戦わせてやりたくないのだろう。

 

まぁ、当の本人はそんなもの気にして無いみたいだがな。

 

「心配しないでくれ、私は私の意志で、戦う覚悟は出来ている、

姉さんだろうと何だろうと、仲間を傷付けた者を、私は赦さない。」

 

「箒・・・。」

 

簪がまだ心配している様な目をやるが、

箒の瞳には決然たる意志が宿っていた。

 

「言うねぇ、篠ノ之、だけどな、お前に実の姉を討たせる訳にはいかねぇ、

アタシがお前の代わりに、アイツを切り裂いてやるよ。」

 

「ダリル先輩の言う通りッスね、私達が肩代わりッスよ、

私達をコケにした礼もしたいッスしね~。」

 

ダリルとフォルテは見込んだ通りだったな、

俺に力を貸してくれそうなタイプというわけだ。

 

後は・・・、ナターシャだな、

彼女の力量を考えればこの戦いだけでも協力させたいものだ。

 

それは良い、引き込むにはタイミングという物がある、

今はまだ、少し早いのだ。

 

「話を戻そう、対抗できる力を持つのは、無論俺達ガンダムの力だけだ、

だが、それでも限度はある。」

 

「相手の物量という事ですね・・・、確かにこれまでの事を考えて、

相手は物量戦で来ると推測出来ますね・・・。」

 

流石は山田先生だ、冷静に分析をしてくれるだけ、

俺の手間がかなり省ける。

 

「御名答、と言いたい所ですが、

それだけで済んだらまだマシな方でしょうね。」

 

「どういう事?」

 

ナターシャが俺の言葉を不審に思ったのか、

訝しげに尋ねてきた。

 

少しは察して欲しいが、考えたくも無いんだろうな。

 

「今回の戦いでは、国家軍等アテに出来ん、

それに、100%に近い確率で向こうに着く国家もあるだろう。」

 

「それは・・・。」

 

ナターシャが言葉に詰まり、国家に所属している者達が一斉に苦い顔をした。

 

所詮、国家は自分達の利益を最優先するものだ、

特に、今の時世はISコアをより多く保有している国家が強いとされる。

 

つまりは、この機会に亡國に着き、

戦争が終わった後に、優遇されようと言う魂胆の国家も現れるのは必然だと言える。

 

まぁ、ある意味正しい判断だと思えるが、

破滅への道とも捉える事も出来るだろう。

 

「信じたくは無いだろう、だが、これが現実に興りうるとなるならば、

俺達は祖国に対して刃を向ける事にもなるだろう。」

 

「そうね・・・、その通りだわ・・・。」

 

俺達の中で唯一、二つの国家に属している楯無は人一倍苦い顔を浮かべている。

 

ロシアと日本、どちらとも敵に回すか、それとも・・・。

 

いや、これは実際になってみないと分からない事だ、

今詮索しようとも無駄な事だ。

 

「俺は俺の仲間を傷付けた亡國、そして篠ノ之 束を赦さない、

喩え世界を敵に回そうとも、戦い続ける。」

 

「俺もだ、仲間を守るためなら、戦ってみせる。」

 

秋良が俺の言葉に賛同し、力強く頷いてみせた。

 

それで良い、お前の力を利用させてもらうさ。

 

「この戦いは見ように依れば、俺達は逆賊だ、

だが、この戦いは世界を救う為の戦いである。」

 

ノートパソコンを取り出し、

ある画面を全員に見せる。

 

「国家からの拘束を回避するため、

この戦いで亡國と一戦を交える覚悟がある者は、

IS学園の学籍を抹消し、自分のコアネットワークから独立させろ。」

 

追跡から逃れる為もあるのだが、

それ以外にも、コアを支配されて強制解除されない為なのだ。

 

まぁ、これだけでは完璧と言い難いから、

保険としてある物を加えるんだけどな。

 

「俺とセシリア、そしてシャルはこの作業を既に実行している、

参加者がいないなら、俺は即刻アクタイオン・インダストリーに戻り、

戦闘準備を開始する、

簡単に決められる事では無いと思うが、五分待つ、その間に参加するか、否かを決めてくれ。」

 

気持ちの整理を着け、

意思決定をするにはそれなりの時間を要するだろう。

 

俺とて、直ぐに決めろと言うほどでは無い、

これぐらいの猶予は与えてやっても良かろう。

 

だが・・・。

 

「篠ノ之 箒、作戦に志願する。」

 

「同じく、ダリル・ケイシー、作戦に志願するぜ。」

 

「フォルテ・サファイア、作戦に志願するッス。」

 

箒、ダリル、フォルテの三人組が真っ先に手を挙げ、

それぞれ学籍を抹消していった。

 

「頼む一夏、この戦いに協力させてくれ、

姉さんが行った事の落とし前は、この私が着けたいんだ!!」

 

「アタシも戦う、これ以上世界を乱さないためにもな。」

 

「戦う時に戦わないのは、この力に対する裏切りッスよ。」

 

本人達の意志は非常に固い、

ならばそれを尊重するのが俺の役目だ。

 

「分かった、直ぐに移動できる準備を始めてくれ、

それから後は、俺に協力してくれ。」

 

「分かった。」

 

「良いぜ。」

 

「了解ッス。」

 

俺の指示を受け、

三人は力強く頷いてみせた。

 

「私も行く、友達だけを戦わせたりはしない。」

 

「私も行こう、喩え祖国を敵に回そうとも、

悪を放って置くことなど出来ん。」

 

「アタシも戦う!!」

 

簪、ラウラ、そして鈴も次いで立ち上がり、

学籍を消していた。

 

「おいおい、先に言われちまうと、

俺達の立つ瀬が無いじゃないか。」

 

「まったくだね、俺もいくよ。」

 

「私も行くわよ、アイツらの好きにさせるわけになんていかないしね。」

 

雅人、秋良、そして楯無まで挙手し、

自分達の手で学籍を消していた。

 

「上等だ、お前らの覚悟、この俺がしかと受け取った、

貴女方はどうされるんですか?俺は引き留めもしませんし、

参加を促したりもしませんよ?」

 

俺は意地悪く、今だ参戦を決めかねている山田先生と、

ナターシャに問う。

 

悩むのも仕方無いが、教え子に触発されるってのは無いのか?

 

「私は一応・・・、国家直属だからね・・・、

動こうにも動きにくいわ・・・。」

 

「私も、迂闊には動けません・・・、

生徒を護ることが役目なので・・・。」

 

テストパイロットってのも、教師ってのも大変だよな、

俺らみたいに即断即決できる訳じゃないからな。

 

それは良い、だが、

ここで個人的感情を大きく動かせれば、

手駒として使うことは容易いだろうな。

 

あの情報を使ってみるか、

効果はそれなりにありそうだしな。

 

「ファイルス先生、貴女は確か、銀の福音を子も同然の様に想っていましたよね?」

 

「えぇ、その通りよ、福音は我が子、いいえ、私の半身の様に想っていたわ。」

 

ほう、かなり深い愛着を持っていた様だな、

これなら利き目もあるだろう。

 

「では、御伺いします、貴女は福音から翼を奪った者を、

どうされたいですか?」

 

「そんなこと聞いて、どうしようと言うの?」

 

疑ってかかる、か・・・、

悪くない予防線、そして対応だな。

 

「復讐したいと思いませんか?福音から翼を奪った敵にね?」

 

「っ・・・!?」

 

「どういう事ですか?」

 

動揺するナターシャの様子を不審に思ったのか、

山田先生が俺に訝しげに尋ねてきた。

 

他の連中も首を傾げるか、

ナターシャの様子を訝しんでいた。

 

「先程の言葉通りですよ、俺は銀の福音を地に堕とした黒幕をね・・・。」

 

「それは・・・!!」

 

雅人が俺の言葉の先を予測したのか、

驚愕の色を浮かべていた。

 

「あの日は確か、俺達は臨海学校の二日目だったよな?ラウラ?」

 

「は、はい、その前日からの計四日ほど、私達はあの場所にいました、

それが何か関係があるのですか・・・?」

 

「まぁ、待て、二日目に起きた事を、覚えている限り全部答えろ。」

 

そこから話が発展していくのさ、

お前はただ、事実だけを話せば良いのさ。

 

「私が覚えている範囲でしたら・・・、

あの日は確か、IS稼動試験日で、私達は海岸沿いに居ました、

その時、篠ノ之 束が箒にISを渡していました、その直後に福音事件が・・・、!?」

 

ラウラが何か合点がいったように、

その愛らしい顔を驚愕の色で染めた。

 

「ラウラは気付いた様だ、簪、どういうことだか理解出来るか?」

 

「え・・・?ゴメン、全く分からない、どういうこと?」

 

「出来すぎてるとは思わないか?何故同じ日に、二つのISが動かされたんだ?

紅椿は箒に渡され、福音は暴走した、どういうことか分かるかな?」

 

ここまで言えば、勘の鈍い奴以外は気付くだろう、

この裏に隠された策略にな。

 

「篠ノ之 束は箒に紅椿、最新鋭機体を駆らせ、暴走したIS、銀の福音を駆逐させる事を目的としたんだよ、

そう、十年前の白騎士事件と全く同じやり方でな。」

 

「そんな・・・!!」

 

楯無が絶句し、ナターシャは俯き、拳を握り締めていた。

 

怒り心頭ってところだろうな、

まぁ、次が決め手だ。

 

「そう、銀の福音を縛り、そして世界を乱したのは、

全て篠ノ之 束の個人的な気紛れによるものなのさ。」

 

俯くナターシャに近付き、耳元に囁きかける。

 

「憎いでしょう?貴女の半身を貶めた、篠ノ之 束が?

貴女には力がある、その力を、有効に使うべきではありませんか?」

 

「・・・。」

 

俺の言葉を聞いた数瞬の後、

ナターシャは立ち上がり、自分の教員証明書を棄てた。

 

「福音の仇は、私が討たせてもらうわ、それで良いかしら?」

 

「なーちゃん・・・。」

 

「問題ない、貴女がそうしたいなら、俺が止める理由はない。」

 

ナターシャを心配する山田先生を尻目に、

俺は彼女に肯定の意を返した。

 

「・・・、分かりました、私も戦います、

危険な戦いに、生徒だけ行かせる訳にはいきません。」

 

山田先生も立ち上がり、教員証明書を投げ棄てた。

 

上等だ、このメンバー全員を誘い込めたとなると、

十分な戦力になる。

 

さぁ、準備は整った、後は高らかに宣言しよう!!

 

「全員が戦う意志有りと見た、我ら十四人を同志として、

ここにガンダムチームの発足を宣言する!!」

 

sideout

 

side秋良

 

兄さんの話術に、俺は得体の知れない悪寒を感じた。

 

対象者の憎しみを掻き立て、

戦いへと赴かせる。

 

並大抵の技術じゃないとは思うけど、

どう考えても、俺には理解し難い。

 

何故そこまでの事をしてまで、

戦いに赴かせようとするのか・・・、

あの人の考えが全く分からないんだ・・・。

 

今まで、何よりも怖い事だ。

 

「さて、同志諸君、悲しいお知らせだが、

裏切り者が現れた様だ。」

 

「なっ・・・!?」

 

いきなりか!?

一体誰が裏切ったと言うんだ・・・。

 

「だが安心してくれ、同志諸君の中にはまだ、裏切り者はいない、

だが、俺達に近しい人物が、悲しいことに裏切り者だったのだ。」

 

「じゃあ、一体誰が裏切ったと言うの・・・!?」

 

楯無が驚きを隠せないまま、

兄さんに裏切り者の正体を問い質す。

 

俺だって、内心誰が裏切ったと言うのかが気になって仕方無い、

しかも俺達に近しい人物がそうだったと聞けば、なおさらだ。

 

「今、セシリアとシャルに身柄を押さえさせている、

連れて来させるとしようかね?」

 

耳に着けていたインカムに言葉を発し、

恐らくは離れた所にいるセシリアとシャルロットに指示を出してるんだろう。

 

一体誰が裏切ったと言うんだ・・・?

いや、その前にどうやって裏切り者を炙り出したんだ?

 

分からない事ずくめで混乱しているんだ、

もう訳が分からない・・・。

 

「どうやら、来たようだな、入っていいぞ。」

 

報告が入ったのか、

兄さんが入室の許可をインカムに向けて出していた。

 

裏切り者が誰なのか、

そして、なんで裏切ったのかなんて分からないけど、

理由を聞かない事には分からないな。

 

『・・・!?』

 

扉が開き、セシリアとシャルロットにガッチリとホールドされ、

項垂れた少女が入ってきた。

 

だけど、全員があまりの衝撃に絶句し、

声をかけることもままならないようだった。

 

いや、目の前の光景を信じたく無いと言った方が適切かもしれない、

俺もそう思ってるから・・・!!

 

何故彼女が・・・!?

 

困惑する俺達を他所に、兄さんは高らかに宣言した。

 

「こいつが俺達を売ろうとした裏切者、布仏本音だ!!」

 

sideout




また前後編に別れてしまいました・・・(汗)

次回予告


秋良達に突き付けられた裏切者の正体、
驚愕する彼等を尻目に、一夏は己の武器を振りかぶる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
処刑 後編

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

処刑 後編

side雅人

 

何の冗談だ・・・!?

 

俺は目の前の光景を信じることが出来ずに、

動くことも、瞬きをすることすら忘れて茫然としてしまう。

 

混乱している思考も、何処かに冷静な部分が残っているのか、

周囲を探って、少しでも多くの情報を捉えようとしている。

 

俺と同じく、一夏、セシリア、そしてシャルロット以外は、

全員絶句し、何も出来ずに棒立ちになっていた。

 

布仏本音、彼女は俺達と同じクラスに所属する生徒の一人で、

そののんびりとした風体からのほほんさんと言うあだ名で親しまれている。

 

他にも、確か彼女は楯無や簪の従者だった筈だ・・・。

 

そんな彼女が裏切者だと・・・?

どう考えても辻褄が合わないだろ・・・!!

 

「待ってくれ一夏!!彼女が本当に裏切者なのか!?」

 

感情論ながらも、彼に食いつく位の平常心を取り戻した俺は、

声を張り上げた。

 

一夏の事を信じていない訳ではない、

信じているからこそ、クラスメイトに濡れ衣を着させる様な事はさせたくないんだ!

 

「あぁ、亡國企業の宣戦布告の数時間前、

日本政府に情報をリークしようとしたところを、俺が確保した、

証拠の映像も残してある、これでも濡れ衣と思うか?」

 

焦る俺とは対照的に、アイツは淡々とした口調で、

映像を見せてきた。

 

そこには一夏が何処かの部屋でコンソールを弄り、

何か作業をしている映像だった。

 

暫くの後、彼はコンソールから離れ、部屋から出ていく。

それからすぐ後に、周囲を警戒しながら本音が入ってきた。

 

そして、一夏が操作していたコンソールに着き、

操作を開始する。

 

表示される角度が切り替わり、背後からモニターを写し出す。

 

モニターにはデータの復元率を示すであろう数字が表示され、

次にデータをリークするシークエンスに移ろうとした直後、

銃声が響き、本音が崩れた。

 

「この証拠は俺が集めた、撃ったのも、この俺だ。」

 

「なっ・・・!?」

 

お前が・・・、撃ったのか・・・!?一夏!?

 

「これがどういうことか理解できるか?

日本政府は、俺達を敵と認定し、この戦いにおいての戦力を少しでも確保したいのさ、

俺達からISを奪ってでもな。」

 

「兄さん・・・!?」

 

笑みも怒りもなく、ただ能面の様な無表情をその顔に貼り付けたまま、

彼は淡々と事実を語る。

 

一夏、お前は、誰だ・・・!?

 

sideout

 

noside

 

一夏の発言に、会議室内はなんとも言えぬ静寂に包まれた。

 

彼がそこまで内偵していた事と、

彼にまとわりつく異様な雰囲気に、何も言えなかったのだ。

 

「ここで何か異論がある者は、言ってみろ。」

 

静かに、なんの抑揚も無い声で、一夏は全員を見渡しながら問う。

 

「なんで・・・、なんで本音が・・・!?」

 

簪は目の前の状況を呑み込む事が出来ず、

混乱のあまり声を張り上げた。

 

「本人に直接聞けばいい、おい、喋れよ、裏切者。」

 

一夏は本音の髪を引っ張り、顔を上げさせる。

 

暴行はされていないため、顔には傷一つ無い。

 

「どうした?主が聞いているぞ?答えるのが従者の義務ではないのか?」

 

「だ・・・、まれ・・・。」

 

一夏に髪を掴まれているからなのか、

本音は痛みを堪えながら声を絞り出した。

 

「本音・・・、なんで・・・!?」

 

簪が今にも泣き出しそうな顔で、

本音に詰め寄った。

 

信じたくない、どうか否定してくれと言わんばかりの表情で・・・。

 

「コイツは・・・!この男は・・・!

私達暗部の仕事を奪った・・・!!いくら汚れ仕事でも!私は誇りを持っていたのに!!」

 

『・・・!!』

 

だが、簪が期待していた言葉は聞こえず、

代わりに一夏に対する怨みの言葉が飛び出した。

 

本音の言葉に、セシリアとシャルロット、そして、彼等の裏の仕事を知っていた楯無以外のメンバーが、

一夏と本音を驚愕の目で交互に見る。

 

楯無は彼の仕事の内容を知っていたが、

無闇矢鱈に言い回っても良くない内容であるために、

自身の胸の内に隠していたのだ。

 

「ほう?命より誇りを重んじるか、

それも良いだろう、同じ闇の存在として敬意を表しよう。」

 

今まで何処までも冷たい無表情を浮かべていた一夏の表情が、

見る者震わせる笑みへと変わった。

 

その整った表情に笑みを浮かべれば、

大抵の者は好印象を抱くだろう。

 

だが、今一夏が浮かべた笑みには、

見る者全てに恐怖を抱かせる。

 

「だが、俺を売ろうとした罪は重い、

お前の命で償ってもらおうか・・・?」

 

何処か狂喜を滲ませる声で、

彼は制服の裏に常時仕込んでいる拳銃を抜き取る。

 

同時にセシリアとシャルロットも、

スカートの中から拳銃を抜き取り、本音の頭に突き付ける。

 

「待ってくれ兄さん!!アンタ、自分が何をしようとしてるのか分かってるのか!?」

 

血相を変えた秋良が、一夏の肩を掴んで彼を揺さぶる。

 

「アンタ!!人殺しをする気なのか!?」

 

「そうだ、それ以外にどうやって落とし前をつける?

コイツを生かしておけば、間違いなく俺の首を狙うだろう、

そんな不安定要素、残しておく必要も無いだろう?」

 

「だけど・・・!!」

 

一夏の言うことに、秋良は言葉に詰まる。

 

それも当然の事であると言えるだろう、

彼の言っている事は、無情な現実を表しているのだから・・・。

 

「それに、俺は既に何百もの人間を殺めている、

後は何人殺しても、大した差は無い。」

 

『・・・!?」

 

平然と、今日の天気を報せるのと全く変わらない口調で、

彼は自身が隠していた裏の顔を明かした。

 

「楯無はこの事を知っていたが、

俺と敵対することにメリットを見出ださなかった、あぁ、実に賢明な判断だよ。」

 

「・・・。」

 

一夏に銃口で指され、楯無は非常に苦い顔をする。

 

「何故だ・・・!?何故アンタがそんなことを・・・!?」

 

「何故も何も、俺はコイツの代わりを務めたに過ぎん、

コイツが俺に喧嘩吹っ掛けたのも、俺の殺しに納得いかなかったからだそうだ。」

 

冷静さを欠いた秋良に対し、

一夏はただ平淡な声で事実を告げるだけだった。

 

「お前も納得がいかないなら、俺を殺してでも止めると良い、

だが・・・。」

 

一夏は本音の頭に突き付けていた銃口を離し、

秋良の眼前に突き付ける。

 

「その時はお前も裏切り者と見なし、排除する。」

 

「なっ・・・!?」

 

冷たく言い放たれた言葉に、

秋良は信じられないという風に目を見開く。

 

周囲も息を呑み、迂闊に動くことが出来ない。

 

動けば撃たれると、全員が直感的に感じているのだろう、

一夏からは尋常でない殺気が滲み出ている。

 

「箒、ラウラ、一つ頼まれてほしい、

鈴を外に連れていってやれ。」

 

「了解だ、盟主。」

 

「わ、分かりました。」

 

一夏の頼みを承け、箒とラウラはいまだにフリーズしている鈴を連れ、

会議室から出ていった。

 

「さぁ、処断開始だ、裏切者の末路、見届けてやれ!!」

 

宣言と同時に、一夏は秋良に突き付けていた銃口を本音に戻し、

本音の頭に銃口を突き付けていたセシリアとシャルロットと共に引き金を引いた。

 

sideout

 

side秋良

 

耳をつんざく銃声が室内に響き渡り、

十四発の銃弾が本音の頭に撃ち込まれた。

 

血が飛び散り、周囲に付着する。

 

その凄惨さに、山田先生は口元を手で抑え、

簪は悲鳴をあげた。

 

俺や雅人、そして暗部の人間である楯無すら、

顔を背けていた。

 

銃声が止んだ後の本音の顔は、さながらスポンジボブの様に穴だらけで、

最早顔と呼べる物では無くなっていた。

 

当然、一発で即死という距離から十四発も穿たれたんだ、

絶命している事は火を見るより明らかだ。

 

「裏切者への制裁は終了した、裏切者は決して赦さない、

我ら同志十四人の中から、もし裏切者が出た場合、こうなることを胆に銘じておけ。」

 

兄さんは、人を殺した高揚も恐怖も無く、

何時もと変わらない表情で、胸元のホルスターに拳銃を戻した。

 

それが逆に恐怖を煽る。

ここで笑うなり、恐れるなりしてくれれば、こんな感情は抱かなかった・・・!!

 

「一夏・・・!!お前は・・・!!お前って奴は・・・!!」

 

恐怖で青ざめた表情で、

雅人は兄さんの肩を掴む。

 

「お前は何がしたいんだ!?俺達の目の前でこんな事をして!!」

 

「ただの見せしめさ、裏切ればこうなると言うな?

それに、コイツが生きていれば、こうなっていたのはお前かも知れんぞ?雅人?」

 

兄さんが言っている事は、正しい・・・、

だけど、心の何処かで、必死に否定しようとする自分がいるのが分かる。

 

恐怖で逆に、冷静になれたのかもね・・・。

 

「・・・!!」

 

絶句する雅人を他所に、兄さんは簪に近付いていく。

 

「簪、本音が殺されて憎いよなぁ?」

 

「一夏・・・っ!!」

 

「その憎しみ、亡國企業にぶつけると良い、

アイツラがいなければ、本音は死ぬことは無かったんだ、

憎いだろ、憎め、そして戦え!!」

 

お得意の話術で、兄さんは簪の憎しみを駆り立てようとしている。

 

何故だ・・・!!

何故ここまでする必要があるんだ!?

 

兄さん・・・!!アンタ一体、どうしちまったんだ・・・!?

 

sideout

 

noside

 

処刑を終わらせた一夏達は荷物を纏め、

物資搬入口の方へと向かう。

 

正門から出れば、何かと襲撃され易いと踏み、

アクタイオンからの出迎えも搬入口の方に回させたのだ。

 

「全員集まったな?事態は一刻を争う、

用意が出来た奴から乗り込んで行け。」

 

「一夏!!」

 

一夏が全員に指示を出している最中、

血相を変えた千冬がやって来て、一夏に詰め寄る。

 

「お前、何をしようとしているんだ!?」

 

「何をだと?亡國と篠ノ之 束を粛清するだけだ、

俺達は国家の指揮には従わない、自らメロディを奏でるだけさ。」

 

自分に問い質す千冬に、

彼はさも当然と言った風に告げる。

 

彼にとって、亡國と篠ノ之 束は既に殲滅の対象、

世界がどう動こうとも、自分だけで破壊し尽くす心積もりだ。

 

それだけに、自分を止めようとする千冬に、

僅かながらの苛立ちを募らせた。

 

「当然、アンタにも従う気は無い、

友人を止めるか否かを決めかねてる様なアンタの下にいるようじゃ、

いざという時に出遅れる、そんな無様は晒したくない、それだけだ。」

 

話は終わりとばかりに、彼は千冬に背を向け、

用意されたリムジンに乗り込もうとする。

 

「お前は、昔馴染みを殺す事になるかも知れんのだぞ!?

それでも戦おうと言うのか!?」

 

友人と弟が戦おうとするのに堪えられず、

千冬は一夏の肩を掴み、問い質す。

 

「要らん情を戦いに持ち込めば、間違いなく死ぬぞ、

俺はそんなくだらん物で、大切な物を喪いたく無いのでな。」

 

「・・・っ!!」

 

一夏の据わった眼を、そして、その奥で光る仄暗い炎を見た千冬は、

思わず彼の肩を掴んでいた手を離した。

 

「アンタもいい加減に決めた方が良い、

でないと、死ぬぞ。」

 

今度こそ話は終わりとばかりに、

一夏はリムジンに乗り込み、その直後にリムジンは発進した。

 

一人取り残された千冬は、

数台のリムジンが走り去っていった方向を眺めることしか出来なかった・・・。

 

「一夏・・・、束・・・、お前達は変わってしまったんだな・・・、

私はどうすれば・・・。」

 

携帯端末を取り出し、電話帳を開く。

 

「やはり、私は・・・、裏切る事は出来ない・・・、

赦せ・・・。」

 

覚悟を決めたかの如く、

ある名前でカーソルを止め、ボタンを押した。

 

sideout




次回予告

アクタイオンに移った一夏の前に、
戦争の行方を左右する兵器がその姿を現す。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
流星

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

流星

side秋良

 

IS学園を出て暫くの後、

俺達を乗せたリムジンはアクタイオン社に到着した。

 

この二時間の間に、

色々な事が起こりすぎて、俺の頭は既に飽和状態だった。

 

兄さんが陰で人殺しを平然と行っていた事、

本音が裏切り、殺された事・・・。

 

処理する内容が多い、そしてどれもが重いため、

俺の頭の中で処理しきれずに溜まり続けている・・・。

 

簪は、突然の幼馴染みの裏切り、

そしてその死に戸惑い、ここに来るまでの間、

ずっと泣いていた。

 

鈴も、ラウラも、そして俺も、

なんと言えばいいのか分からなくて、

ただ背中をさする事しか出来なかった・・・。

 

いや、本当は俺が触れて良かったのかも怪しい、

なんせ、裏切ったとはいえど、彼女の幼馴染みを殺したのは、

俺の実の兄と言うこと・・・、これだけは紛れも無い真実だった・・・。

 

兄さん・・・、

アンタは何がしたいんだよ・・・。

 

これからの流れ、俺は何をすればいいんだ・・・。

 

誰が正義で、誰が悪なんだ・・・、

俺には・・・、分からない・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

アクタイオンに到着し、俺はメンバー全員に対し、

何よりもまず先に機体の再調整を命じた。

 

戦闘仕様にチューンナップする目的もあるが、

ある物も積んでおく目的がある。

 

全員が荷物を置きに行く間も惜しみ、

アクタイオン社のメカニックと共に、調整に勤しんでいた。

 

「一夏、注文通り、全ガンダムタイプの整備と、

新規武装の追加をさせているわ。」

 

「エリカ・シモンズ、仕事が早くて大助かりです。」

 

俺に全機体に施す調整、

武装追加プランが記された端末を見せながら、

エリカ・シモンズ主任が作業員に指示を出していた。

 

大体の機体は調整と、

ミラージュコロイドウィルスを使用したアンチフィールドと、

ウィルスが互いに干渉しない様にプロテクトを装備する事になっている。

 

だが、特定の機体、グリーンフレームやドレッドノート等、

本人の適性が機体コンセプトと別、もしくは武装が少ない機体に対して、

追加装備が施される運びとなっている。

 

「アサルトシュラウドtypeGと、フルアーマードラグーンも用意はしたけど・・・、

この手の装備は機体の運動性を大きく損なうわ。」

 

「そうですね、その辺りは本人の意向で決定させます。」

 

装備ばかりは、俺が口出しする事では無い、

変に関わってしまえば、戦闘において無駄な犠牲を出しかねないからな。

 

「それよりも、あれの準備は出来ていますか?」

 

別に他人の事はどうでも良い、

俺は俺の事を気にしていれば良い。

 

「えぇ、何時でも出撃出来る状態にしてあるわ、

こっちよ、着いてきて。」

 

「了解。」

 

エリカ主任に先導され、俺は歩き出す。

この戦いの鍵になる、流星の名を持つ兵器の下に・・・。

 

sideout

 

side雅人

 

ドレッドノートの調整を行いながらも、

俺は今日一日で起こった出来事を処理できずに、

どうしようもない感情をもて余していた。

 

一夏が人殺しを是としていた事、

目の前で本音が惨殺された事・・・。

 

全てが俺の知らないところで進行し、

最後だけ見せられると、なんとも言えぬ感情が沸き上がる・・・。

 

どうしてこんなことになっている・・・?

何故俺は、得体の知れない者となった一夏と共闘しようとしている?

 

正しいのは誰だ?

一夏?束?それとも・・・?

 

分からない、分からないから余計に思考が堂々巡りになってくる・・・。

俺は何をすればいいんだ・・・。

 

「ドレッドノート・・・、お前となら、答えを見付けられるか・・・?」

 

俺の目の前には、追加装備が施された姿のドレッドノートが佇んでいた。

 

フルアーマードラグーン・・・、

その名の如く、駆動部以外にドラグーンが装備された追加パーツを装備した姿だ。

 

ドラグーンは未使用時は補助スラスターとして使用できるから、

重量の増加による機動力の低下は最低限に抑えられている。

 

ドラグーンの形状は、プロヴィデンスに採用されていたドラグーンに酷似しているが、

カラーリングはドレッドノートの機体色に合うように、白を基調としていた。

 

Xアストレイ形態で使用すれば、

バックパックに四基、両腰に二基、肩部に三基ずつ、

そして、両脚部に四基ずつの、

合計二十基ドラグーンが装備された超高火力機体になる。

 

しかも、他の形態でもこのフルアーマードラグーンは装備できるという事で、

今まで以上に強力な機体に生まれ変わる事だけは確かだ。

 

機体はただの無機物、思考を持たない為、

質問や問い掛けをしても、答えが返ってくる筈もない・・・。

 

決めるのはお前だと、言われている様な気もしないではない・・・。

 

分かってる、あぁ分かってるさ・・・、

俺は俺だ、やってやるしかないだろ?

 

喩え一夏が、どんな事をしでかそうとも、

俺は俺のままでいればいいんだ。

 

俺がやるべき事はただ一つ、

俺の正義、大切な人を守るために戦い続ける、

これだけで良い。

 

sideout

 

side一夏

 

アクタイオン社、工場区画の最深部まで、

俺はエリカ・シモンズ主任に案内されやって来た。

 

社員の中でも、特に選ばれた者しか入る事の出来ない区画の為、

俺ですら入るのは初めてだ。

 

「開けるわよ?」

 

「お願いします。」

 

エリカ主任に問われ、俺は首肯しながらも返す。

ゆっくりと巨大な隔壁が開かれていき、中から眩い光が溢れ出す。

 

目が慣れてきた時、

俺の前に、ISの何倍もあるだろう大きさのモジュールが姿を現した。

 

二門の砲塔に、巨大な後部スラスター、

各所にミサイルハッチが見受けられる事からも、

火力は相当な物だと推測出来る。

 

見紛う筈も無い、

このモジュールはまさしく・・・。

 

「ミーティア、改めて見てみると、ここまで巨大だとは思わなかったな。」

 

ミーティア、

流星の名を冠するIS専用の強化モジュールであり、

元はフリーダム、ジャスティスの為に造られた兵器だ。

 

核エンジンの様に、半永久的なエネルギー供給が約束されている動力を積んだ機体にのみ、

使用が許された装備だが、

その中にも、幾つかのバリエーションが存在する。

 

その内の一つに、ミーティア自体に核エンジンを搭載したタイプの、

マイナーチェンジを施した機体だ。

 

つまり、通常バッテリーしか積んでいない機体でも、

これを装備することで、半永久的なエネルギーを確保出来ると言うことだ。

 

「ミーティア改核エンジン搭載型・・・、これを造れと依頼された時は流石に耳を疑ったわ、

こんな無茶な代物、どこで使うのかともね。」

 

俺の隣で、エリカ主任は苦笑の度合いを濃くし、

データを俺に渡してきた。

 

まさかこんな事になるとは思いもしなかったのだろうが、

完璧に仕上げてくれた事には純粋に感謝だ。

 

「元々、大気圏内では使用できない装備を、

PICを使って無理矢理使用可能にしたの、

貴方の身体にかかるGは計り知れないわ・・・。」

 

そう、このミーティアは、元々は無重力、

もしくはそれに近い低重力環境下でないと使用出来ない装備だったのだ。

 

情勢から考え、この世界での宇宙戦闘は無いと踏んだのだが、

俺は敢えて、ミーティアを大気圏内戦闘に使用する事を決めたのだ。

 

だが、その驚異的な加速は、搭乗者にかかるGも恐ろしい程に大きくなる。

 

並の人間では、喩え搭乗者保護機能があったとしても、

ブラックアウトは免れる事は出来ないだろう。

 

しかし、俺は転生者であり、肉体の強度はスーパーコーディネイター並、

そして、鍛え抜いた結果として、耐G性は常人の数倍を優に越える程になっていた。

 

つまり、大気圏内でミーティアを使用できるのは、

耐G性を与えられた転生者である、この俺以外にいないということだ。

 

「それに、もし破壊されたら貴方は核の炎に焼かれる事にも・・・。」

 

「ご心配ありがとうございます、主任、ちゃんと生きて戻ります。」

 

リスクを背負わない戦いには、何の意味も無い、

味方の犠牲は最小に、敵の被害は最大に、

兵法の、指揮官としては当然の責務だ・・・。

 

それでも、何かしらの被害を恐れてばかりでは、

味方の犠牲は広がり、敵の被害は少なくなる。

 

それでは、喩え勝利したとしても、

俺には悔いしか残らない。

 

ならば、俺が出来ることは、ただ前を向いて進むだけさ。

 

「ミーティア、ストライクE・・・、お前達となら、

俺は駆け抜けられる筈だ・・・、頼りにしてるぞ。」

 

sideout

 

side簪

 

皆がせしわなく整備に動いている最中、

私は区画の端の方のベンチで、独り俯いていた。

 

私も機体の整備をしなくちゃいけないと思ってる、

でも・・・、脚が全然動いてくれない・・・。

 

それは、ついさっき起こった事・・・、

私の幼馴染みが、私の友人である一夏に惨殺された事だ・・・。

 

どうしてこんな事になってしまったの・・・?

 

本音・・・、貴女はなんで、一夏を売ろうとしたの・・・?

どうして、貴女は・・・。

 

分からない、何もかもが分からない内に進んでて、

私の頭は混乱するだけで、何も考えられる状態じゃ無い・・・。

 

「私は・・・、これからどうすれば良いの・・・?」

 

無意識の内に、

私はアウトフレームの待機形態である指輪を撫でていた。

 

答えが返ってくる事を期待してたわけじゃないけど・・・、

何故か立ち上がれと言われた気がした・・・。

 

そうだよね、ここで座ってても何かが変わるわけないもんね・・・、

私は行くよ。

 

今ある、大切な人達を護りたいから・・・。

 

sideout

 

noside

 

一夏達が各々の想いを馳せている頃、

他のガンダムチームのメンバーは、己の機体の調整を行っていた。

 

駆動部の調整、武装の追加等、各々が必要とする事を行う。

 

「ねぇ、なんであんな事をしたの?」

 

そんな最中、楯無が近くにいたセシリアに話しかける。

あんなこと、言うまでも無く、本音を殺した事である。

 

「見せしめですわ、一夏様、いいえ、このチームの全員を裏切れば、

喩え私やシャルさんでも、一夏様は躊躇われる事無く、首を斬り落とされるでしょう。」

 

「そう言うことだよ、他に特に深い意味なんて無いよ、

楯無、貴女も分かっていたんでしょ?僕達が容赦しないことをね?」

 

問われたセシリアと、彼女と相談をしていたシャルロットは、

当然と言った風に話す。

 

「だからって!あんな事をして、赦されるとでも思っているの!?

いくらなんでもやりすぎだわ!!」

 

「では、放っておいて、一夏様が死ねば良いとでもお思いで?」

 

「それに、いかに裏切りと言っても、何処の法律でも裁く事が出来ないからね、

だから僕達が粛清した、何か間違っている事でもあるの?」

 

「・・・っ!」

 

セシリアとシャルロットの言葉は正しい、

あのまま放っておけば、間違いなく一夏を捕らえられる口実を与え、

モルモットの様に扱われるのを待つだけだ。

 

自己防衛の為に、危険分子を排除する行為は当然と言える。

 

感情だけで否定した楯無には、

反論する言葉すら浮かんでこない。

 

「楯無、オメェの負けだ、セシリアとシャルロットは正しい、

ここで変にいざこざになって、チームが内部分裂を起こせば、

今度はお前が消されるぞ。」

 

彼女達の近くで、事の成り行きを見ていたダリルが、

これ以上は止せと言わんばかりに止めに入った。

 

「アタシだって、あれはやり過ぎだとは思う、

だがな、アタシらの今の敵は一夏か?違うだろ。」

 

「ダリルちゃん・・・っ!」

 

「アイツを、裏切り者を狂わせたのは亡國と篠ノ之 束だ、

憎しみ、怒りの矛先を間違えてんじゃねぇよ。」

 

あくまで敵は亡國と篠ノ之 束だと言い、

その憤りをぶつけろと、ダリルは楯無に仄めかした。

 

だが、それにどうしても納得出来なかった楯無は、

苦い顔をしながらも、自分の作業に戻っていった。

 

「・・・、でもよ、納得出来ねぇのは、アタシも同じだぜ?

盟主に従うのは従うが、アイツは何をしようとしてんだよ?」

 

楯無の背を見送ったダリルは、

一夏が何をしようとしているかを、

彼の隣に立ち続けるセシリアとシャルロットに問う。

 

「私達にも、一夏様がお考えになられている事全ては分かりませんわ。」

 

「でもね、分からない方が彼が何を成すか、楽しみじゃないですか?」

 

「そういう見方も出来るって事かよ、ったく、

めんどくさい奴等だな、アイツも、お前らもよ。」

 

セシリアとシャルロットの意地悪い答えを鼻で笑いながらも、

そういう事にしておくのか、ダリルは自分の作業に戻っていった。

 

「誰にも、分かる筈がありませんわ、

一夏様の、私達の望みなんてね・・・。」

 

「そうだね。」

 

セシリアとシャルロットは互いに無表情で頷きあいながらも、

機体の調整に戻っていった。

 

その胸の内に、何かを秘めたまま・・・。

 

sideout

 




次回予告

準備が整った一夏達は、
与えられた情報を基に作戦を立てる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
戦闘準備

お楽しみに~。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦闘準備

noside

 

一夏達、ガンダムチームの面々がアクタイオン社に移った翌日、

亡國企業の主力機、ストライクダガーを中心とする無人機の軍勢が、

全世界に対して攻撃を開始した。

 

宣戦布告から僅か二日、

あまりにも早い攻撃開始に、ろくな準備も出来なかった国家郡は、

完全に遅れを取ることになった。

 

だが、これは試合ではない、

掛け声があってからの戦闘開始というものは有り得ない、

つまりは互いの生き死にをかけた殺しあいということなのだ。

 

それは軍関係者、当然IS操縦者である者達も理解していた。

 

しかし、それ故にIS操縦者の女達は、

実際に戦争になると、国家の命令を無視、

戦いに赴く事を拒否するという行為に出た。

 

彼女達は恐らく、ISは競技用だと思い込んでいる、

もしくは戦闘用だと分かっていながらも、

実際に戦争になるとは思っても見なかったのだろう。

 

それだけで済めば良かった、

しかし、悪いことは幾つも重なって起きるものだ・・・。

 

国家の意志と反し、

国を裏切り、亡國企業に着こうとするIS操縦者達まで現れようとしていた。

 

これでは討って出る事も、国土を防衛する事すら儘ならない。

 

各国は、軍事施設のみならず、

本来ならば巻き込まれてはならない民間人にすら被害を出す結果となった。

 

しかし、世界が最早これまでかという時にあっても、

彼等はまだ、動いてはいなかった・・・。

 

sideout

 

side秋良

 

戦闘の準備が終わり、

何時でも出撃出来るという状況になった俺達は、

ブリーフィングルームに集合していた。

 

「全員がここに集ったということは、

既に戦闘準備が完了している物として扱う、

待ったは聞かん、時間があまり残されていない物でな。」

 

そう言いつつ、兄さんはコンソールを操作して、

何やら図面をモニターに映し出す。

 

「アクタイオン諜報部が入手した、

亡國企業実働部隊の潜伏場所の位置、そして見取り図だ。」

 

そんな物が手にはいったのか・・・、

まぁ、ルキーニ達の腕ならば分かるけどさ・・・。

 

「場所はアラスカの氷原地帯、氷と雪に覆われ、視界も非常に悪い、

それに、氷の下は極寒の海と来ている、こんなところによく基地を造る気になったと思ったが、

どうやらあながち間違いではなかったのかも知れんな。」

 

「説明を要求します、どういうことですか?」

 

一人で納得したような表情をする兄さんに、

ラウラが疑問の声をあげた。

 

「アラスカは北アメリカ大陸の先端、

ロシアやアジア、それに、ヨーロッパにも程好く近い、

それに、海が氷に覆われているため、船での侵入は不可能、

だが、潜水艦を使えば氷の下を通れる、

更には衛星にも見付かる確率は極端に低いとなった、

見つかりにくさも相当な物って訳さ。」

 

確かにその通りだ、主要都市に近ければ攻めやすく、

そして海の下に隠れる事が出来れば潜伏する事なんて容易い、

まさに自然の恩恵を活用していると言えるね。

 

「同志諸君も知っているとは思うが、

今現在、世界は無人機の襲撃に曝され、

軍もマトモに稼働していないという状態に陥った、

現状で動けるのは恐らく、俺達だけと見て間違いはない。」

 

「そうだろうな、その為にアタシらをここに集めた訳だろ?」

 

そんなことぐらい、改めて言われなくても分かってる、

だから、俺達は準備をしていた訳なんだ・・・。

 

「ここで作戦を発表する、俺達はアラスカに向かい、

亡國企業と一戦を交える、その際、敵の逃亡を防ぐため、

海中にも機体を配置する。」

 

「海に?まさか潜水艦を破壊しろとでも言うのかよ?」

 

「そうだ、逃走ルートは海面下、もしくは高高度に限られる、

高高度には他のガンダムで対応できるが、

水中に入れる機体は少ない。」

 

そう、ISはどんな場所でも動けるには動けるけど、

やはり空気中での戦闘が主流、常識だ。

 

つまり、常識ならば相手も当然把握しているだろうから、

もし逃走することになっても水中からならば悟られることなく逃げれると言うことか・・・。

 

そこで投入するのが水中戦に適した機体、

フォビドゥンブルー、ブルーフレームスケイルシステム、

他に候補を入れるならば俺のゲイルストライク、そしてネブラブリッツぐらいかな。

 

他の機体は、エネルギー兵装主体だし、

空中戦に特化してる機体の方が多い。

 

それだけに実弾兵装主体の機体が、水中では重宝されるんだよな。

 

「フォビドゥンブルー、そしてブルーフレームスケイルシステム装備は、

この任務に当たって欲しい、奴等を逃がせば、次に討たれるのは俺達だと思え。」

 

兄さんが言っていることは真実だし、事実でもある、

故に正当性を備えている様にも聞こえる。

 

だけど、俺は以前ほど、その言葉の全てを受け止め、

肯定する事が出来なくなっていた。

 

「自分が討たれる、つまり、アンタに討たれる可能性もあるということか?」

 

俺の発言に、ブリーフィングルームの空気に緊張が走る。

 

「可能性は今のところ無いと言っておこう、

俺達は軍では無いが、明確な裏切りがあれば、誰に消されても文句は言うな。」

 

つまり、自分が手を下す事もあると言うわけか・・・、

分かったよ、もう良い。

 

「この戦いの悪は亡國企業だ、敵を討つためなら一番効率の良いことをする、

兵士として当然の行いだね。」

 

そう、戦争に平等、公平なんて物は無い、

互いが生きるか死ぬかを賭けて戦う、そこにどんな汚い手を使おうとも、

勝って生き残ればそれで良い。

 

「けど、この戦いで亡國企業の実働部隊の殲滅が出来たとしても、

何時まで戦い続ければ良い?全てを消すまでか?」

 

「兵士はそんなことを考えなくてもいい、

ただ目の前の敵と戦い、滅ぼす事だけを考えるものだ、

戦に身を置くものとしては当然だ、個人的感情よりも、

勝利が優先される。」

 

そう、個人的感情は淘汰され、全体の利益を求めるために動く、

それが組織に属する人間にとっては当然の事だ。

 

俺も敵を討ち、勝利を得るための力を手にした、

それは戦うことを覚悟し、戦士、兵士となることを受け入れたと同義だ。

 

こうやって悩み、立ち止まるということは、

俺が敵と戦うことを疑問に思っている、

つまり、戦士に成りきれていないかもしれない・・・。

 

その点、兄さんは迷っていない、

やるべきこと、倒すべき敵を見定めている。

 

戦士としては鑑となる姿なんだとは思う。

 

「言いたいことはそれだけだな?

話を戻すぞ、今回の作戦においては、攻める場所が場所だけに、

ISスーツでは露出が多いため、凍傷になる可能性も捨てきれない。」

 

話を戻されたけど、

俺には反論する言葉がないため、取り敢えずは彼の言葉を聞く。

 

「まぁ、その通りッスね、空中なら兎も角、

私達みたいに海に潜る連中は、確実にエネルギー切れたらヤバイッスよ。」

 

「そう、溺れ死ぬ事は間違いないな。」

 

「ちょっ・・・!そんなハッキリ言わないでくれッス・・・。」

 

兄さんのあまりにもハッキリとした発言に、

フォルテさんは少し焦った様な表情を見せた。

 

そりゃもちろん、溺れ死んだ場面なんて想像したくもないだろうしね・・・。

 

「そこで、今回のミッションでは、同志諸君らに特殊なスーツを来てもらいたい。」

 

そう言って、兄さんはアタッシュケースを取り出し、

全員に見える様に開いていく。

 

って、これは・・・。

 

「特注のパイロットスーツだ、

諸君らのバイタルデータを基に作ったから、

身体に完全にフィットする仕様になっている、

ヘルメットもあるが、これを被るかどうかは個人で決めろ。」

 

おいおい、これはSEED世界で普及してるパイロットスーツそのままじゃん、

連合、オーブ、それにザフトの物まである・・・。

 

確かに、これ等をフル装備しておけば、

外気に殺られる事は無いし、水中でも助かる可能性が向上する。

 

備えとしてはかなり効果的だと想う。

 

「種類は数多い、どれを身に着けるかは諸君らが勝手に決めて欲しい、

出撃は三時間後だ、第三ドッグに集合しろ、以上だ。」

 

そう言って、彼はブリーフィングルームから出ていった。

 

「もう・・・、戦うしかない、か・・・。」

 

彼が去った後、俺は小さく呟いた。

 

俺達が進む道には、どう行っても戦いが待っている、

それならば、戦う以外道は無いな・・・。

 

それで良いんだ、今はね・・・。

 

sideout

 

side雅人

 

ブリーフィングから一時間後、

俺は更衣室で私服からパイロットスーツに着替え、

集合時間を待っていた。

 

俺が選んだのは、

白を基調としたオーブ系のパイロットスーツだ。

 

説明を読んで見たが、

ISスーツ以上の防弾性、機体へのレスポンスを誇り、

尚且つ、露出が殆ど無いため、外気とは無関係に体温を常に一定に保てる。

 

お陰で、今回の出撃先がアラスカということもあり、

ISスーツならばまず手足の一本二本を凍傷で失うことを覚悟しなければならないが、

これさえ着ておけば、ISが解除されても凍死という嫌な結末からはなんとか回避できる様にもなる。

 

だが、今はそんな事を考えている余裕もあまり無く、

ずっと同じ考えが渦巻き続けている。

 

本当に、このまま戦い続ける事に意味はあるのか・・・?

 

一夏がやろうとしている事は、恐らく正しいと言えるんだろう。

 

今、この瞬間にも亡國企業によって、

人の命が奪われている事は確かなんだ。

 

力を持つ俺が戦わないと、力の無い、罪の無い人々が被害を被る事になる。

 

力を持つ者には、それ相応の責任がある、

俺は、少なくともそれを果たさなくてはならない。

 

だが、やはり俺には戦い続ける事が正しいのか分からない。

 

一夏と秋良のやり取りを見る限り、

一夏は完全な戦士、兵士に成りきっているのに対し、

秋良には、俺と同じく兵士に成りきれていない素振りも見えた。

 

一夏を最強たらしめている物、

それは一切の迷いを捨て、自分がやるべき事を見据えているからだ。

 

並大抵の事では無いし、そこまでの境地に自分を持っていける事は、

純粋に尊敬できる物だ。

 

だが、それは人間としての感情を捨て、

自分を戦闘マシーンとしている様な物だ。

 

戦闘マシーンは考える事をしない、

目の前の全てを破壊し尽くすまで止まらない・・・。

 

いや、一夏がそんな事になる筈が無い・・・。

アイツは人間だ、情ってヤツも残ってる筈なんだ・・・。

 

一抹の不安を覚えつつも、

俺は立ち上がり、格納庫に向けて歩き出す。

 

今はただ、戦うしかないのだから・・・。

 

sideout

 

noside

 

集合時間になり、

全員が第三ドッグ前に集結した。

 

第三ドッグは屋外に設けられた巨大施設であり、

戦艦クラスの物体も楽々と入ってしまう。

 

そんな建造物の前に立つと、

どうしても圧迫感を覚えてしまうのが人間というものだ。

 

「全員集まった様だな、これよりアラスカに向けて出撃する。」

 

「出撃っつってもさ、輸送機で行くのは良いが、

帰りはどうする?燃料も足りねぇし、撃墜される可能性もあるぜ?」

 

そう、敵とて易々と移動手段を見逃す訳が無い、

寧ろ、帰還できない様に真っ先に落としにかかるだろう。

 

「安心しろ、そんないかにも落としてくださいという物で行くかよ、

もっと威圧的で、面白い物で乗り込むぞ。」

 

雅人の言葉をうけ、ニヤリと笑った一夏は、

格納庫のシャッターを開け放つ。

 

他のメンバー、セシリアやシャルロットですら、

彼の言葉の意味が分からずに、互いに顔を見合わせていた。

 

シャッターが開ききり、

中に入って行った一夏に倣い、他のメンバーも格納庫に入っていく。

 

その中には、一隻の巨大な戦艦が佇んでいた。

 

全体的に暗い蒼で塗装され、

特徴的なラインを持つ巨大な戦艦であった。

 

「こ、これは・・・!?」

 

「まさか、ガーディー・ルー!?」

 

転生者であり、過去の記憶を継承している秋良と雅人は、

自分達の眼前にある戦艦に覚えがあった。

 

「ガーディー・ルー級戦艦、<ナナバルク>、

今作戦で我等が使う母艦だ。」

 

一夏が手を掲げたのを合図に、

タラップがナナバルクに向けて伸び、ハッチの下部と連結する。

 

「さぁ、乗り込めよ、戦いへの渡し船にな。」

 

口角を吊り上げて笑いながら、

一夏はタラップを歩き、ナナバルクへと乗り込んだ。

 

その脚には、なんの躊躇いも無く、

前に進んでいくという意志が表れている。

 

そんな彼につられる様に、他のメンバー達もナナバルクに乗り込んでいった。

 

各々が胸の内に様々な感情を抱えたまま・・・。

 

sideout




次回予告

交錯する14の想いを乗せ、
ナナバルクが行く。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
飛び立つ想い

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

飛び立つ想い

side一夏

 

ナナバルク艦内に入った俺達は、

通路を進み、ブリッジでは無く、パイロット控え室に着いた。

 

無重力では無いために、

勿論床に足を着けて歩いているのだがな。

 

それはさておき、

何故にブリッジに行かないと言えば、

それには深い訳があるのだが、それは追々話す事にしておくとする。

 

「戦闘までの間、ここで待機しているように、

尚、艦は離陸の際に大きく揺れる事がある、怪我をしないように気を付けていろ。」

 

全員に注意を促した後、

壁に備え付けられていたコンソールを操作する。

 

「そういえば一夏様、先程から艦内に私達以外の気配がありませんが、

どういうことなのですか?」

 

「そうだよね、まさか僕達以外、誰も乗ってないとは言わないでね?」

 

そんな時だった、セシリアとシャルが俺に訊ねてきた。

 

彼女達だけではない、

他のメンバー全員が疑問に思っている事は確かだろう。

 

実際問題として、

この艦には俺達以外の人間は乗艦していない、

なんせ、その必要も無いからな。

 

「この艦にはグリーンフレームに搭載されているAIとは別種の自律支援型AIが、

人間に代わり、整備を除く航行手順を全て代行してくれている、

つまりは無人で翔ぶことも、攻撃を敢行する事も出来るんだ。」

 

「そんな事が出来るの!?」

 

俺の説明を聞き、楯無が驚いた様に声を張り上げた。

 

そんなに驚く所でも無いぞ、

こんなことごときで驚いていたら身がもたん。

 

「あぁ、それにグリーンフレームのAIとは違い、

人格、いや、人間ではないから人格とは言わんが、

感情を持ち、俺達とコミュニケーションを取ることも出来るのさ。」

 

「そんな事まで・・・、アクタイオンの技術が、

ここまで凄まじい物だとは思いませんでした・・・。」

 

山田先生が感心した様に呟いたのを心地よく思いながらも、

コンソールを操作し、存在しているであろうアイツを呼び出す事にした。

 

「ジョージ、いるんだろう?姿を見せてくれ。」

 

『キャプテンと呼べ!一夏!』

 

俺達以外の声が控え室に響き渡り、

何事かと全員が身構えた。

 

ったく、タイミングが良いことだ、

俺の思考を読んでるかの様に現れてくれる。

 

『ようこそ諸君!!私がこの艦の艦長、キャプテンジョージ・グレンだ!』

 

再び声が響くと同時に、一人の男が姿を現した。

 

連合軍の軍服を身に纏い、

色の良い金髪を帽子で隠した男、彼こそこの艦のキャプテン、ジョージ・グレンだ。

 

「う、嘘!?何処から出てきたの!?」

 

簪が驚いた表情を見せながらも、

部屋の中を見回していた。

 

それもその筈、

彼は入り口から入ってきた訳では無い、

 

「彼はキャプテンジョージ・グレン、この艦の操舵、管制、砲撃を代行してくれる、

疑似人格だ。」

 

「か、彼がAI?そんな馬鹿な・・・。」

 

ジョージがAIだと信じられないのか、

箒は動揺しながらも言葉を紡いだ。

 

そりゃそうか、

どう見てもそこいらにいる人間の男と変わりは無いからな。

 

一つ違いがあるとするならば・・・。

 

『ふむ、やはりこれだけでは信じてもらえないか、

一夏、ちょっといいか。』

 

そう言いながらも、ジョージは俺の頭に向けて手を伸ばしてくる。

 

はいはい、分かってるっての、

もう慣れてるから良いさ。

 

そんな事を思っている内に、

彼の手は俺の顔をすり抜けた。

 

『!?』

 

目の前で起こった不可解な出来事に、

全員が驚愕の色を濃くする。

 

『はっはっはッ!驚いたかね?この身体はホログラムなのさ、

この艦の中ならば、何処でも現れる事が出来るのだ!』

 

「ほ、ホログラム!?」

 

そら信じがたいよな、

こんだけベラベラ喋る奴がAIに見えんしな。

 

まぁ、俺は何度も会話をしているから慣れた。

 

っとまぁ、こんなことをしている暇は無い、

さっさと出撃だ。

 

「そんな事より、出撃準備は出来ているのか?」

 

『システムオールグリーン、何時でも発進できるぞ。』

 

「了解した、よろしく頼む。」

 

『合点承知した、発進シークエンスを開始しよう。』

 

互いに頷きあった後、

ジョージはホログラム化を解除して消えた。

 

「ほ、本当にホログラムだったんだ・・・。」

 

「この艦には他にも仕掛けがある、

もっとも、見付ける事が出来るかはお前達次第だ。」

 

呆然と呟く簪を他所に、

俺はさっさとコンソールに向き合う。

 

「管制室、こちら織斑一夏、

これよりナナバルクにて発進する、発進許可を願う。」

 

『こちら管制室、ナナバルク発進を許可する!ゲート開放!』

 

エンジンの駆動音が響き、艦が動こうとしている事が分かる。

さぁ、遂に戦いの幕が開く・・・。

 

俺が聞きたい答えを、世界が返すか否か、

楽しみじゃないか。

 

『ナナバルク!発進する!!』

 

sideout

 

noside

 

艦後方のメインスラスターに火が入り、

周囲の大気を震動させる。

 

第三ドッグのゲートが大きく開かれ、

着々と発進シークエンスが進められていく。

 

『カタパルト展開、ナナバルクを固定。』

 

管制官を務めるエリカ・シモンズのオペレートと同時に、

艦の真下のデッキが徐々に傾いていく。

 

『ナナバルク、発進どうぞ!!』

 

エリカの号令と同時に、

メインスラスターがより一層出力を上げ、

その巨体を宙へと押し上げた。

 

蒼い戦艦は、大気を震動させながらも宙へと飛翔する。

 

交錯する14の意志を乗せ、戦いの舞台へと赴くのであった。

 

sideout

 

side秋良

 

ナナバルク艦内にて、

俺達は改めて開示された情報に目を通す。

 

地上に基地らしき建造物、

氷の下に潜水艦が直結している構造らしい。

 

なるほど、もし攻めて来られて、尚且つ身の危険が迫った際には、

潜水艦で逃げられると言うことか・・・。

 

実に合理的な立地だと思うね。

 

でもなぁ、俺、寒いの嫌いだからこんなところには血迷っても基地は造りたくないね。

 

兄さんは色んな気候に強いから気にしないとは思うけどね。

 

「それにしても、すげぇな・・・、

マジモンの戦艦に乗るなんて思わなかったぞ、俺は。」

 

「俺も思わなかったよ・・・、まさかこんなものを造ってるなんてね・・・。」

 

雅人と共にしみじみと話しながらも、

自分の頭の中でどういう風に攻めるかを思案する。

 

兄さんはセシリアとシャルロットと共に、

何やら俺達とは違うデータに目を通している。

 

何のデータなのかは見当もつかないけど、

知られたく無い事なんだとは想像がつく。

 

三人は口数も少なく、

ただ頷き合っているだけだから傍目からはどんな事で話し合っているのかも分からない。

 

確認してみたいところなんだけども、

流石に不味い物が表示されてたら俺が消される危険性もある。

 

触らぬ神に祟りなしってね・・・。

 

それは兎も角、

対空防御システムの類いに当たる訳が無いんだけど、

やはり効率よく攻めれば被害も少なく終わらせられると思うんだ。

 

「さて、どう戦おうか?」

 

「さぁな、俺は一夏みてぇに頭回らねぇし、

細かい戦略よりも、目の前の敵を倒す事しか俺には出来ないさ。」

 

やっぱりそう言うと思ったよ、

雅人って、良く言えばまっすぐ、悪く言えば単純だからなぁ・・・。

 

戦略的な面よりも、戦略を成功させる為の戦力なら、

彼ほど優れた戦士は兄さんを除いて、なかなか見付かる事は無いと思う。

 

「やはり正面突破以外に道は無いだろうな、

奴等は力に溺れている、真正面から崩せば弱いもんだと思うぜ。」

 

それしか無いか・・・、

俺も、本気で戦う以外無いと言うことなんだね・・・。

 

「そうだよね・・・、

兄さんがどう言う風に攻めるか分からないから、

俺達だけが単独で攻める訳にもいかないしね。」

 

「確かにな、あいつらなら、そんな事考えなくても大丈夫だと思うけどな、

何を仕出かすか分かった物じゃ無い。」

 

そう、兄さん、セシリア、シャルロットの三人は、

敵を完全に抹殺しようとするだろう。

 

他の面子で今の所不用意な殺しをしない人間と言えば、

俺、雅人、簪、楯無、ラウラ、鈴、そして真耶先生だけだと思う。

 

ナターシャ先生はどちらかと言えば、復讐が主目的だから兄さん寄り、

箒、ダリルさん、そしてフォルテさんは良く分からない。

 

いや、箒は完全に束を敵視している、

ダリルさんとフォルテさんは、箒に姉殺しをさせない為に自分が代わりに討ち取る気なんだと思う。

 

つまり、その為の障害になるものがあるなら、

彼女達は躊躇無く破壊し尽くすだろう。

 

戦争においては、兄さん達の様に敵を完全に滅ぼす事が正しいし、

戦うという行為自体が正義だ。

 

そこに迷い、異論、情を持ち込む事は合ってはならない、

それは俺も分かっている。

 

分かってはいるけど、どうしても心の何処かで受け入れられないんだ・・・。

 

俺はどうすれば良い、どうあれば良いんだ・・・。

 

思い悩む俺の耳に、

突如としてけたたましい警報の音が飛び込んできた。

 

「なんだ!?」

 

「ジョージ、何があった?」

 

兄さんがコンソールを弄り、

ジョージに状況を確認していた。

 

『この艦に向けて急接近してくるIS数機を確認した、

識別から確認して、亡國の機体では無い。』

 

「なんだって・・・!?」

 

やっぱり、国を裏切った女達が、

亡國に取り入る為に俺達と敵対するのか・・・?

 

くそっ・・・!予想してたけど、

現実に起きるとなると、心構えが・・・!

 

「ジョージ、ミーティアの発進準備だ、

俺が排除してこよう。」

 

『了解した、ストライクE、発進してくれ!』

 

「分かった。」

 

俺が躊躇っている内に、

兄さんはジョージと交信し、

あっという間に出撃にまで漕ぎ着けていた。

 

「兄さん!!まだ敵と決まった訳じゃない!!

攻撃してはならない!!」

 

俺達と共に戦おうとする人達かも知れない!

なのにいきなり攻撃を仕掛けるなんて馬鹿げている!!

 

「せめて話し合いの場を・・・、がっ!?」

 

止めようとした俺の顔面に、

兄さんの拳が叩き込まれた。

 

突然の事に、受け身を取ることも出来ずに、俺は床に倒れた。

 

「話し合うだと?寝言は寝ながら言う物だぞ?お前はこれを聞いても同じ事が言えるのか?」

 

強烈な打撃に、身体を起こす事も出来ない俺に、

兄さんはコンソールを操作し、ある音声を発生させた。

 

『あの戦艦からISの反応が多数あるわ。』

 

『見たところ、篠ノ之博士の戦艦じゃ無さそうね。』

 

『アクタイオンのマークがあるわ!ちょうど良い、

篠ノ之博士への手土産にしましょう!!』

 

束に気に入られたい魂胆が丸見えの会話が、

スピーカーを通して聴こえてくる・・・。

 

どうやら、本当に篠ノ之 束に着こうとする連中の様だ・・・。

 

「お前の頭は随分と幸せな作りになってるようだな?

いい加減、現実を受け入れろ、さもなくば、この戦争で死んでしまえ。」

 

俺を冷めた瞳で見下ろしながら、

兄さんは控え室から出て行った。

 

「俺は・・・、何を見ていたんだろうか・・・。」

 

兄さんの瞳は、以前とは違う暗さがあった、

覚悟を決めたとかそんなんじゃない、人間としての感情があるか否かの問題だと、

俺の中の何かがひっきり無しに告げている。

 

兄さん・・・!アンタは、本当にどうしちまったんだ・・・!?

 

sideout

 

side一夏

 

ミーティアが置かれている格納庫に到着した俺は、

ストライクノワールを展開し、ミーティアとの接続作業に入る。

 

今回は初稼働と言うこともあり、

出力は抑え目に設定し、慣らし運転を行う事にする。

 

テストも何も無しにフル稼働させるなど、

何か不備があれば取り返しのつかないことになる。

 

まだやるべき事が山程残っている身だ、

安全第一で行こうじゃないか。

 

「CPC設定完了、核エンジン起動、ミーティアとの連動システム接続、

マルチロックオンシステム調整、各兵装へのエネルギー充填完了、ミーティア改、システムオールグリーン。」

 

全システムのチェックを終えたと同時に、

カタパルトが展開し、ハッチが開いていく。

 

『進路クリアー!ストライクノワール、発進してくれ!』

 

「了解!織斑一夏、ストライクノワール+ミーティア改、出るぞ!!」

 

ジョージの発進アナウンスを受け、

俺は一気にスラスターを吹かし、カタパルトから飛び出す。

 

初速からかなりの速度が出ている、

お陰で俺の身体にかかるGは恐ろしい程に強烈だ。

 

だが、それで良い、この加速から生じるGこそが、

コイツの化物じみた性能を如実に表している。

 

最高だ、俺の好みを体現している・・・!

 

さぁ、思う存分暴れようぜ、

愚か者共に、地獄と言うものを見せてやるためにな!!

 

sideout

 




次回予告

ミーティアを駆る一夏は、
容赦無く襲撃者を圧倒する。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
無慈悲なる嵐

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無慈悲なる嵐

noside

 

一夏達、ガンダムチームが搭乗する母艦、ナナバルクに迫っていたISの正体は、

日本の代表候補生数名を含めた操縦者達であった。

 

彼女達は完璧な女性至上主義者であり、

篠ノ之 束、及び織斑千冬の狂信的な信者である。

 

IS以外の兵器は使い物にならず、

最強の兵器を操る事が出来る自分達こそが最強なのだと思い込んでいた。

 

今回の亡國企業の宣戦布告に、篠ノ之 束が関与していると知り、

彼女達は国が決断を下すより早く、

IS学園や、軍事施設より打鉄やラファール・リヴァイヴを強奪し、

亡國企業の潜伏先を目指した。

 

日本国内からアラスカまではかなりの距離があるが、

ISの航行距離内のため、一足飛びに向かおうとしているのである。

 

その途中に、単独でアラスカを目指すナナバルクを発見、

最初は亡國企業所属の戦艦かと思った。

 

だが、装甲のいたる場所に、

アクタイオン所属であると示すマーキングが施されている事を確認した。

 

アクタイオンに所属するのは、男性IS操縦者の三人が知れ渡っている。

 

しかも、その内の一人、織斑一夏には、

篠ノ之 束と敵対しているという噂が立っている。

 

彼女達は噂の真相を知っている訳では無いが、

個人的な感情として、男性IS操縦者の事を快く思っていない事と、

篠ノ之 束への服従の意志を示すために、ナナバルクを落とそうと決めたのである。

 

戦場では、取り入ろうとする為に何か戦果を手土産にする事は珍しい事ではない、

寧ろ、寝返りを働く際には当然必要となる物だと言えるであろう。

 

しかし、彼女達はこの艦に乗っている者の戦力を過小評価しすぎていた・・・、

この艦には、ただ一人で全てを破壊できる男がいるのだから・・・。

 

ナナバルクの船隊前方のハッチ、

ではなく、その間の装甲が開いていく。

 

本来ならば、両サイドのハッチからISが発艦していく訳だが、

今回は、それよりも大型の何かが発艦するために、

中央カタパルトが展開されるのだと伺い知ることが出来る。

 

「何か出てくるわ!撃ち落とすわよ!!」

 

リーダー格と思われる女が僚機へと警戒を促す。

 

やはり、伊達に代表候補生として訓練を受けてきた訳では無いのだろう、

身のこなし、判断力はそれなりに高い様だ。

 

そんな彼女達の前に、

ナナバルクより白い影が飛び出してきた。

 

「な・・・、何よあれ・・・!?」

 

本来ならば、先制攻撃を仕掛けるなりすれば良いのだろうが、

彼女達は驚愕で硬直してしまう。

 

何故ならば、飛び出して来たのは異形と呼ぶに相応しい物であるからであった。

 

全長15メートルは優に越えると推測出来る巨体、

ISにしてはあまりにも巨大であり、船と呼ぶには小さい・・・。

 

しかし、その巨体は威圧感を兼ね備えており、

見る者全てを戦慄させる。

 

そのモジュールは急激に速度を上げ、

彼女達の方へと突っ込んでいく。

 

「・・・ッ!?こっちに向かってくる・・・!!」

 

硬直から立ち直った彼女達は、

凄まじい速度で突っ込んで来るモジュールをなんとか回避した。

 

しかし、発生するソニックブームにやられ、

大きく吹き飛ばされた。

 

『キャアァァァッ!?』

 

悲鳴を上げながらも、

PICを使って体制を立て直す。

 

「な、なんて速さ・・・!!あんなの、人間が耐えきれる筈が無いわ・・・!!」

 

『並の人間はな、だが、お生憎様、俺は普通じゃないんでな。』

 

「お、男の声・・・!?まさか、織斑一夏ね・・・!?」

 

オープンチャンネルで響いた声に、

打鉄に乗っていた少女が僅かに表情を歪める。

 

まるで、獲物がわざわざ捕まりに来てくれたと言わんばかりの、

下卑た笑みだった。

 

『御名答、篠ノ之 束に着こうとする愚か者共、

俺の首が欲しいんだろう?取ってみろよ?自分が強いと思うんならな。』

 

対する一夏の声は、何処までも余裕綽々、

寧ろ、軽い侮蔑も含んでいる声だった。

 

「良いわ!!貴様の首を差し出せば、

私達は篠ノ之博士に受け入れてもらえる!!」

 

「篠ノ之博士が創る、新たな時代の礎になれることを、誇りに思って死になさい!!」

 

一夏の言葉に、待っていたと言わんばかりの勢いで、

彼女達は得物を彼に向けた。

 

自分達が、破滅への道に入った事に気付かないままに・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

クックックッ・・・、

本当に脊髄反射で男を嫌い、虐げたい女の典型例だな。

 

自分の頭で真に正しい事を考えるよりも先に、

女尊男卑の感情で行動する。

 

実に愚かしい事この上無い、

だが、これで良い・・・。

 

こういう愚か者がいてくれるからこそ、

俺の計画も益々捗ると言うものだ。

 

一機のラファール・リヴァイヴを纏った女が、

ミーティアのメインスラスターを狙い、アサルトライフルやマシンガンを撃ちかけてくる。

 

機動力を奪う、それは悪くない判断だ、

だが、この俺が駆るストライクノワール+ミーティアを舐めるな!

 

スラスターを全開にし、

凄まじい加速をもってして、弾丸の雨を全て回避する。

 

「そんなッ・・・!?あの巨体でどうやって・・・!?」

 

女どもが狼狽えているが、

俺が知った事では無い、俺はただ、駆けるのみ!!

 

「今度はこちらから撃たせてもらうぞ!!」

 

ほぼ直角に近い形で旋回し、同時にミサイルポッドを全門開く。

 

だが、旋回時にかかるGは想像を絶するもので、

身体の上から何かに押し潰される様な錯覚を覚える。

 

この俺が苦しむ程のGだと・・・!?

良い、良いぞ・・・!!

 

この加速!この追従性!!

全てが俺の要求を満たしている!!

 

血が騒ぐ、全てを破壊しろと俺に命ずる!

ならば、俺はただ、それに従うまで!!

 

「これを避けてみやがれよ!!クソどもが!!」

 

トリガーを何の躊躇いもなく引き、ミサイルを発射する。

 

全門開放した際の弾数は百に迫り、

弾幕と言うよりも、壁と呼ぶに相応しい迫力を持つ。

 

「なっ・・・!?」

 

「なんて数よ・・・!?」

 

女共は驚愕しつつも、機体を動かしながらも、

ミサイルを撃ち落とそうとする。

 

だが、この壁と呼ぶに相応しい、隙間なく迫るミサイルが相手では、

全てを撃ち落とせる筈もなく、被弾し、大きく体制を崩す。

 

「その程度か?つまらん、消えろ!!」

 

俺はビームソードを展開し、

手近な打鉄を纏った女に対し一閃する。

 

「避けられない・・・!?キャァァァァァッ!!!」

 

ビームソードがもろに直撃し、

打鉄を纏った女は断末魔の叫びをあげながらも、

一瞬の内に肉片一つ残らずに機体と運命を共にした。

 

良い威力だ、

これでこそ使う意義があるというもの。

 

「こ、こんな馬鹿な事が・・・!?」

 

「絶対防御があるのに、どうして・・・!?」

 

クックックッ・・・、怯えろ、竦め!!

そして恐怖を片道切符に、行ける所に逝け!!

 

すべての兵装を開き、カーソルを合わせる。

 

マルチロックオンシステムによるフルバーストショット、

ミーティアの全兵装を使用して発つ最強の技だ。

 

その威力は絶大、広範囲殲滅に使用出来るが、

今回は愚か者に鉄槌を下す意味を込めて使用するとしようか!!

 

ロックオンカーソルが全て重なった瞬間、

俺は何の躊躇いもなくトリガーを引いた。

 

sideout

 

noside

 

ミーティアの全砲門及び、ストライクノワールのレールガンより、

ビーム、ミサイル、レールガンが発射される。

 

それらは寸分の狂いなく、

恐怖に囚われ、硬直していたISに直撃した。

 

無論、武装を奪うためでは無い、

ISコア、そして搭乗する者を破壊する目的が籠められている。

 

ビームがコアと共に心臓を貫き、

ミサイルが肉片一つ残さずに焼き尽くした。

 

断末魔をあげる隙すら与えない、

一瞬の内に事は終わっていた。

 

まさに圧倒的と形容するに相応しい破壊力であった。

 

「ば、化物・・・!!あんなの人間じゃ無いわ・・・!!」

 

ただ一機、リヴァイヴを纏った女が生き延び、

一目散に空域から離脱しようと試みる。

 

有り得ない、織斑一夏が強いのは承知していた、

しかし、多対一になればさしもの彼も一たまりも無いと思い、

集団戦を仕掛けたのだ。

 

だが、その目論みは脆くも崩れ去り、

味方は自分以外全員殺されてしまった。

 

「あんなのに勝てる訳がない・・・!!

殺されるだけだわ・・・!!」

 

本能的に死の恐怖を感じ取り、

彼女は振り向かずに一心不乱に機体を走らせる。

 

だが・・・。

 

「データを見せた敵を生かしておく訳にはいかんのでな、

このまま塵に還してやるよ。」

 

ミーティアの推力に物を言わせ、

どんどん間合いを詰めていく。

 

それに気付いた彼女は、

速度を上げるものの、とても振りきれるものでは無かった。

 

「ゆ、許してぇ!!私達が悪かったわ!!お願い!!命だけは・・・!!」

 

「命乞いならば、俺より優しい奴にするんだな、

俺は、戦いの中では情をかけるつもりは露程にも無い。」

 

懇願する彼女の声に、

一夏は全く抑揚の無い声で一蹴し、

ミーティアの大出力ビームソードを発生させる。

 

「地獄とやらを、先に逝って楽しんでおけ、

どうせ俺も、後でゆっくりと逝くことになるからな。」

 

何の感慨も無く、ただ平淡な声で呟いた彼は、

ミーティアのビームソードを振り下ろした。

 

「い、イヤァァァァァッ!!!」

 

sideout

 

side秋良

 

ナナバルク艦内のブリーフィングルームにて、

最後の一機が切り裂かれ、爆発光をあげるのを、

俺は何も言えずに見ている事しか出来なかった。

 

兄さんの行動は善悪の観点から見れば、

艦を護り、敵を駆逐した行為は称賛されるべき正義なんだとは分かっている。

 

「ひ、酷い・・・、何も彼処までやらなくても・・・!!」

 

「やり過ぎだ・・・!!殺すこともないだろうに・・・!!」

 

楯無は拳を握りしめ、

雅人は唇を噛み締めていた。

 

それもそうだ、いくら正しい行いだと分かっても、

命乞いをする相手を殺すのはやり過ぎだと思う。

 

今、俺は比較的冷静でいられるのは、

殺された相手がこの艦を落とそうとし、尚且つ篠ノ之 束に着こうとしていた事と、

完全な女性至上主義者だったから、兄さんに対しての憤りは二人よりは軽かった。

 

俺だって殺しを推奨する訳じゃない、

だけど、ここまで何の感情も沸かないのは、

ただ現実逃避してるだけなんだと、自分でもドライな思考が働いてるんだと思う。

 

「もう・・・、兄さんは変わってしまったんだな・・・、

変われない俺を置き去りにして・・・。」

 

俺は昔から何も変われていない、

それはつまり、ずっと立ち止まってしまっていると言うことになる。

 

割り切れない、ただそれだけの事で、

俺は足を絡めとられている・・・。

 

俺は、この戦いで何をすればいいんだ・・・?

誰と戦えば良いんだ・・・?

 

俺は、どうすれば良いんだ・・・?

 

迷いが足枷になり、

俺はまだ、歩けそうにもなかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

一夏達、ガンダムチームがアラスカを目指している頃、

亡國企業実働部隊拠点に、一機の航空機が着陸した。

 

無論、旅客機ではなく、亡國企業所有の機体である。

 

その航空機から降り立ったのは、

普段のスーツの上に、防寒着を着こんだ織斑千冬であった。

 

「ち~~~~~~ちゃ~~~~~ん!!」

 

そんな彼女を、世界に戦乱の渦を巻き起こした張本人、

篠ノ之 束が出迎えた。

 

「束・・・。」

 

「来てくれるって信じてたよ~!

やっぱり力が欲しいんだね~?」

 

今だ、何か思い詰めた表情を見せる千冬に対し、

束は彼女の顔を覗き込みながら尋ねた。

 

「・・・、あぁ・・・。」

 

「だよね~!用意してるよ~!大好きなちーちゃんが喜ぶ機体をね~!」

 

千冬を建物の内部、

ISを保管してある格納庫まで案内しながらも、

誇らしげに語っていた。

 

そして、暫く通路を進んだ所で、

一つの部屋にたどり着いた。

 

「さぁさぁ!!御対面~!」

 

束の言葉と共に、扉が開き、

奥で鎮座する一機のISがその姿を現した。

 

通常のISとは異なり、

人型を維持し、特徴的な翼を背負う漆黒の機体・・・。

 

「その名もアストレイノワール!!

いっくんが好きで堪らないちーちゃんへのプレゼントだよ~!」

 

「アストレイ・・・、ノワール・・・、

私の新たな翼か・・・。」

 

宣う束とは対照的に、

千冬はアストレイノワールに近付き、

装甲に手を触れる。

 

「お前となら、答えを探せるのか・・・?

私は、一夏を止められるのか・・・?」

 

物憂げに問い掛ける千冬の言葉に、

無機物である機体が答える事は無かった。

 

それが肯定か、否定かは定かではない事しか、分かる事は無い・・・。

 

sideout

 




次回予告

アラスカにたどり着いた一夏達は、
遂に亡國企業と接触する。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
始まりの砲火

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

始まりの砲火

side雅人

 

ナナバルクが襲撃を受けてから一時間後、

俺達は再度、作戦内容の確認及び、配置についてのブリーフィングを受けるために、

ブリーフィングルームに集合していた。

 

全員が生き死にに関わる重要な事のため、

口数も少なく、一夏が語る内容に耳を傾けていた。

 

彼のやったことを、俺はどうやっても理解できない、

彼処までやる必要がどこにある?

 

何がやりたいんだ・・・?

彼のやろうとしてる事の先が読めない・・・、

それが余計に疑心暗鬼を煽っていく・・・。

 

いや、喩え疑心暗鬼を抱こうとも、

一夏は俺達を裏切っていた訳じゃない、

そうでも思わねぇと、ガンダムチームとして戦う事なんて出来やしねぇよ・・・。

 

そうだ、ヤられたのは全部俺達の敵なんだ・・・!

一夏は戦士として敵を討ったに過ぎないんだ・・・。

 

自分を無理矢理納得させ、

改めて一夏のブリーフィングに意識を戻す。

 

「アクタイオンで説明した通り、更識楯無、フォルテ・サファイア両名は、

水中戦闘向けの機体を有しているとして、敵潜水艇の撃滅に当たって欲しい、

貴君らの働き次第で、この戦闘の勝敗は決する事を念頭に置いて欲しい。」

 

「分かったわ・・・。」

 

「任されたッス、やり遂げてみせるッスよ。」

 

楯無は歯切れが悪いながらも頷き、

フォルテさんは特に迷いもなく首肯した。

 

やっぱりと言うべきだな、楯無も一夏に対して、

疑心暗鬼を抱いている。

 

従うべきか、従わざるべきか・・・、

俺と同じく悩んでいるのだろうな・・・。

 

だが、フォルテさんは全く迷いが無い、

まるで、完全に割り切っている様な、もしくは、

一夏達と同じく、敵を倒すことだけを見ている様な気がした。

 

それは戦争に置いては最も重要な心構えなんだとは分かっている、

だが、どうしても腑に落ちない物がある・・・。

 

それが何なのかは、今の俺には分からなかったのだが・・・。

 

「次にナナバルクの護衛任務に着いて貰う三名を発表する、

ラウラ・ボーデヴィッヒ、凰 鈴音、山田真耶、

以上の三名はナナバルクの周囲に展開、攻撃してくる敵機を迎撃して欲しい。」

 

「分かりました・・・。」

 

「わ、分かった・・・。」

 

「了解しました・・・。」

 

三人とも、納得出来ない気持ちを押さえ、

役目を果たすために頷いていた。

 

それが普通の反応なのかは俺にも判断しかねるんだがな・・・。

 

「次に、無人機、及び有人機を本格的に相手取るメンバーだが、

一点突破を狙うよりも、三方からの進撃を試みた方が有効だと判断した。」

 

どういう事だ?

戦力を一点に投じた方が、早く敵拠点に辿り着けると思うんだが・・・?

 

「説明を要求する、どういう事か教えて欲しい。」

 

俺と同じ事を疑問に思ったのか、箒が挙手しながら発言した。

 

「一点に戦力を投じた場合、確かに敵拠点に辿り着ける時間は短くなるだろう、

だが、その場合、伏兵や討ち洩らした敵がナナバルクを狙いかねない、

その憂いを絶つために、三機一組のチームを三つ作り、各方面から敵拠点に攻めいるということだ。」

 

そういう事か・・・、

三方から攻めるのは、討ち洩らしを極力減らし、

防衛の任務を請け負っている三人の負担を軽減する狙いがあったのか・・・。

 

確かに、俺達の拠点はこのナナバルクだと見て良い、

ならば、敵もこの艦を落とそうと別動隊を寄越すだろう。

 

そこに俺達が討ち洩らした敵が流れれば、

負担が増加する、よく考えればすぐに分かる事だったな・・・。

 

「各チームに一名ずつ、アタッカー、近接援護、砲撃援護の役割を任命する、

チームA、アタッカーはこの俺、織斑一夏が務め、近接援護、セシリア・オルコット、砲撃援護、シャルロット・デュノアに任せる。」

 

「お役目、果たせていただきますわ。」

 

「やり遂げてみせるよ。」

 

一夏の言葉に、セシリアとシャルロットは何時もと何も変わりなく頷き、

彼から渡されていた資料に再度目を通す。

 

やはり、あの三人は行動を共にするのか・・・。

分かっていた事とは言えども、得体の知れない恐怖が沸き上がってくる。

 

「次にチームB、アタッカーは織斑秋良、近接援護、ダリル・ケイシー、砲撃援護を更識簪に任せる、諸君らは左舷より進攻して欲しい。」

 

「やるしかないんだろ?やるよ。」

 

「任されたぜ、やってやるよ。」

 

「分かった・・・。」

 

秋良はもう諦めたのか、仕方無くやると言う風に答え、

ダリルは気概に満ちた声で了解の意を表し、

簪はやはり何処か歯切れが悪い返事をしていた。

 

割り切った者、最初から戦うつもりの者、

迷いを捨てきれない者の分類が見事に表されている様で、なんとも言えない心地を味わう。

 

「続いてチームC、アタッカー、ナターシャ・ファイルス、近接援護、篠ノ之 箒、砲撃援護、加賀美雅人の三名で右舷から進攻せよ。」

 

「分かったわ、命令内で好きにさせてもらうわよ。」

 

「任せてくれ、私は戦う。」

 

ナターシャ先生と箒は仇敵が相手なだけに、

戦意をたぎらせながらも頷いた。

 

今はただ愚直に戦う事が正義ならば、

四の五の言わずに戦うしかない、か・・・。

 

「分かった、今回はチームで戦うんだ、俺も戦わせてもらう。」

 

そうするしか無いと、俺は自分自身に言い聞かせ、

やっとの思いで答えた。

 

「よし、それでは出撃する、各員戦闘準備だ!」

 

『了解!!』

 

完全に納得出来なくても、戦うべき時には戦うさ。

 

じゃねぇと、護りたい物を護れねぇからな・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

ブリーフィングルームを後にし、

俺達は直ぐ様格納庫に向かった。

 

アラスカに到達するまでもう間もない。

ならば、そろそろ出撃する事が妥当だと判断したためだ。

 

他のメンバーは両サイドのカタパルトにそれぞれ分かれて待機しているが、

俺はミーティアを装備しての出撃のため、センターカタパルトに待機している。

 

『一夏、ナナバルクも戦闘形態に移行し、

諸君らの援護を担当しよう。』

 

「ジョージ、頼んだぞ、なるべく射程ギリギリからの攻撃に専念してくれ、

帰るための脚が無くなるのは流石にキツいしな。」

 

アラスカから日本まではかなりの距離がある、

ただでさえ距離が開いているのに戦闘後にISで戻るのは本当にキツいしな。

 

『分かってるさ、私とて命は惜しいからな、

あぁ、そうそう、ロウがこの装備を搭載してくれたぞ、今データを表示しよう。』

 

データ?一体どんな装備だ?

発進前にそんなレクチャーはされてない筈なんだが・・・。

 

そんな事を考えている内に、

データが転送されて来た。

 

「って!?おいおい!?ローエングリンだと!?

こんなもん危なっかしくて使えるかよ!?」

 

ローエングリン、アークエンジェル級の戦艦に搭載された陽電子砲であり、

チャージに時間はかかるが、その威力は絶大、拠点制圧向けの装備であることは確かだ。

 

しかし、環境汚染が甚大な為、

地球上で使用する事は推奨されてはいない。

 

俺も正直言って、こんなもん使いたくは無い、

なんせ獲物が少なくなる。

 

『安心しろ、環境への被害は少ない様に設計されているそうだ、

これさえあれば、攻め入るにも幾分か楽になるだろう?』

 

「まぁそうなんだけどな・・・、

チャージを始めてくれ、俺達が出た直後に発射、敵の気勢を削ぐ。」

 

『了解した。』

 

やれやれ・・・、

派手すぎるのは好きじゃ無いんだが、

これは戦争だ、好きに殺らせてもらうさ。

 

回線を開き、待機しているメンバー全員に対して、

俺は出撃の指示を下す。

 

「各員に通達、順次発進し、敵拠点に対して攻撃を仕掛ける、

今回の作戦も全員の帰還を以て作戦の成功とする。」

 

何人に届いているかは知らないが、

俺は誰にも死んでほしくは無いからな。

 

ミーティアとストライクノワールを連結させ、

カタパルトに移動させる。

 

さぁ、これから開く扉の先には、

何が待ち構えているのやら・・・。

 

それを確かめに行くとするかな。

 

「織斑一夏、ストライクノワール+ミーティア、出るぞ!!」

 

sideout

 

noside

 

アラスカ、亡國企業実働部隊拠点のモニタールームに、

接近するナナバルクの艦影が映し出された。

 

「来た来た・・・、漸く仇を討てるよ・・・、

待っててねくーちゃん・・・、すぐにアイツをそっちに送ってあげるよ・・・。」

 

「待っていなさいオータム・・・!私が織斑一夏を殺し、

その首を貴女に捧げるわ・・・!」

 

「待っていた・・・!待っていたぞ織斑一夏・・・!!

今日こそ、私がお前を殺してやる・・・!!

そして、私こそが本物だと知らしめてやる・・・!!」

 

ガンダムチームの盟主、織斑一夏に対して、

個人的な怨恨を持つ束、スコール、マドカの三人は、

念願が果たせると言わんばかりに、仄暗い笑みを浮かべた。

 

「さぁ!!ダガーを全機発進させて!私達も出るわよ!!」

 

「クックックッ・・・!!私がアイツを殺す!!」

 

スコールとマドカは嬉々として叫び、

モニタールームから飛び出していった。

 

仇敵が目の前まで来ているのだ、

その首を切り落とす絶好の機会だと思っているのであろう。

 

「フフフフ・・・、さぁ行こう、私の最強のIS、ニクスプロヴィデンス・・・、

あのふざけた男を、血祭りにあげようね・・・!」

 

待機形態であるブレスレットを撫で、

束も部屋を出ていった。

 

「一夏・・・、お前と束は、私が止めてみせる・・・、

馴染み同士が戦うなんて、あってはならないんだ・・・。」

 

ただ一人、他の者達と目的を他にする千冬は、

小さく呟き、モニタールームから去って行った。

 

自分が、大きな手違いを犯している事に気付かぬままに・・・。

 

sideout

 

noside

 

ナナバルクより発進したガンダムチームは、

それぞれの任務を遂行するために分かれていく。

 

一夏達進攻組はナナバルクの前方に、

楯無とフォルテの潜行組は海に潜り、

真耶達防衛組は艦の側面、及び、後方に待機する。

 

「ジョージ、ISの発進口をローエングリンで狙ってくれ、

これ以上の敵の増加を防げる。」

 

『承知している、既に照準も合わせてある、

射線上から直ぐ様退避してくれ。』

 

「了解した。」

 

ローエングリン発射のタイミングを得た彼は、

ミーティアの船体にブルデュエルとヴェルデバスターを掴まらせる。

 

「セシリア、シャル、俺達で中央の敵を殲滅する、

お前達二人は、ミーティアの死角からくる敵の対処を頼んだ。」

 

「承知しましたわ、私達はカバーに専念いたします。」

 

「敵は一夏を目指して来るもんね、色んな恨みを買ってるしね。」

 

「違いない。」

 

セシリアとシャルロットの言葉を聞きながらも、

ミーティアのスラスターを吹かし、先陣を切って敵陣に乗り込んでいく。

 

「一夏達は行った様だな、アタシらも行こうぜ、

ここまで来て迷うなよ?」

 

「・・・、わかってます。」

 

「・・・、はい。」

 

左舷を任されたチームBのメンバーは、

シュベルトゲベールを引き抜き、如何にもヤル気満々なダリルに促される形で、

今だ煮え切らない秋良と簪と共に進攻を開始した。

 

「私達も進むわよ、篠ノ之さん、加賀美君、援護は任せたわ。」

 

「任せてください、ファイルス先生の背は取らせません。」

 

「了解しました。」

 

戦いへの意欲をたぎらせるナターシャ、箒とは対照的に、

やるしかないと思い詰める雅人の表情に余裕は無い。

 

しかし、戦闘時にそんなことを気にしてはいられない、

そう言うことは、自身で解決してもらうしか無いと割り切り、

チームCも進攻を開始した。

 

『ローエングリン一番、二番展開、

カウントダウンを開始する、各機射線上から退避せよ!!』

 

ナナバルクからの通信で、ジョージが各機に警告を発し、

ローエングリンが展開、砲口に光が集まり始める。

 

『5・・・、4・・・、3・・・、2・・・、1・・・、

ローエングリン、発射!!』

 

カウントダウンが遂にゼロを刺した時、

砲口から眩いばかりの光の奔流が発生した。

 

それが、この決戦の火蓋を切って落とす一撃になるのであった・・・。

 

sideout

 




次回予告

復讐、使命感、様々な想いが織り成し、
戦いは熾烈さを増していく。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
アストレイズ

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アストレイズ

noside

 

ナナバルクの両舷から発たれたローエングリンの光条は、

壁の様に展開していたダガーの群れの中程を貫き、

基地の外縁部から伸びるカタパルトに直撃、

発進しようとしていたダガーを巻き込み、盛大な爆発を引き起こした。

 

「くっ・・・!?何が起きたの!?報告して!!」

 

自ら出撃しようと、カタパルト付近まで出向いていたスコール達は、

前方から巻き起こった爆煙に驚き、無線機に向けて声を張り上げた。

 

『か、艦砲による攻撃です!威力が高過ぎて誘爆が止まりません!!』

 

無線機からはノイズ混じりではあるが、

作業員の悲鳴、そして断続的な爆発音が聴こえてきた。

 

スコール達は、そこで自分の思慮の浅さを思い知った、

いくら戦争だとは言えども、相手は所詮学生や教員風情、

そこまで覚悟して攻撃を仕掛けて来ているとは思わなかったのだ。

 

試合や模擬戦のつもりでかかってくる相手には、

殺気を当ててやればそれでケリが着き、いたぶるなり殺すなりする事も出来たであろう。

 

だが、今の一撃で分かった、

相手は自分達を殲滅する心づもりだ、覚悟も装備も生半可なモノでは無い。

 

そうでなければ、これほどまでの威力の艦砲を撃ち込んでくる筈もない。

 

「やるわね、織斑一夏・・・!!そうでなければ、潰す価値もない物よ!!」

 

自らの仇敵の手口を見せられ、

彼女は寧ろ、喜びに打ち震えた。

 

向こうもこちらとの殺し合いを望んでいる、

ならば、こちらも全力を以て、殺しにかかるまで・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

クックックッ・・・、流石は要塞制圧用の陽電子砲だ、

洒落にならん威力だな。

 

チャージに時間はかかるが、

その間に俺達が攻め入れば、効果的に事が進むぜ。

 

「突入する、セシリア、シャル、振り落とされるなよ!!」

 

「了解しましたわ!!」

 

「御手柔らかにね!!」

 

セシリアとシャルに警告を飛ばしてから、

俺はミーティアのスラスターを更に吹かす。

 

とてつもない加速に、身体全体が圧迫される様な感触を覚えるが、

それすらも俺を留まらせる要因にはなりはしない。

 

寧ろ、更に行け、更に行けと後押ししている様な錯覚すら覚える。

 

「な、なんて加速ですの・・・!?」

 

「身体が全部抉られちゃいそう!!」

 

セシリアとシャルも、あまりに強烈なGに声をあげるが、

寧ろ、愉しげな声が聞こえてくる。

 

振り落とされる事もなく、

このGを楽しんでみせるか、上等だ、それでこそ俺の翼だ。

 

前方に意識を戻して見れば、

三桁を軽く越える程のダガータイプの機体が展開している。

 

「攻撃開始!!」

 

「「了解!!」」

 

射程圏に入る直前にセシリアとシャルに指示を飛ばし、

ミーティアの全兵装を展開し、ロックオンカーソルを合わせる。

 

セシリアとシャルもミーティアから離れ、

全装備を展開、ダガータイプに照準を合わせる。

 

「お前達ごときを相手にしてやるほど、

俺達に余裕は無いんでね、殲滅させてもらおうか!」

 

俺の目的は違うところにあるんでね、

ある程度戦って、後はその目的の為だけに動くさ。

 

三人同時にトリガーを引くと、

20を越える光条と百を越えるミサイルが一斉に発射され、

前方に展開していたダガータイプの壁にごっそりと穴を穿った。

 

だが、流石に数が多いからか、

全体的に減ったという印象は受けない。

 

まぁいい、エネルギーは有り余っている、

メインディッシュまでの準備運動と思えば軽いな。

 

セシリアとシャルの元気も有り余っている、

ならば、獲物がわざわざ出てきてくれるのをここら辺で待つとするか。

 

「セシリア、シャル、派手に暴れろ!

敵が出てくるまでの余興といこうじゃないか!」

 

「フフッ、かしこまりましたわ、撃墜スコアで競うということですわね?」

 

「面白そうだね、賭け事みたいで僕は好きだよ!」

 

言い合いながらも、セシリアはドラグーンを乱舞させ、

シャルは圧倒的な火力を以て、ダガー達を次々に塵へと還していく。

 

さぁ、楽しめよ、この世の地獄をな!!

 

sideout

 

noside

 

一夏達、チームAがダガー軍団と会敵し、交戦状態に入った頃、

秋良を中心に組まれたチームBも戦闘に突入した。

 

「くっ!!今までより数が多い・・・!!」

 

ダガーの数に毒づきながらも、

秋良はシシオウブレードとウィングソーを振るい、

撃たれるビームや、迫りくるダガーを二枚に卸す。

 

その太刀に迷いは無く、

ただ斬るという強い念が宿っている。

 

「でも、やるしかないよね・・・!!」

 

秋良の周囲で射撃援護を行っていた簪は、

ライオットストライカーAより、プロトンライフル及び、プロトンランチャーを抜き取り、

正確な射撃でダガーのコアを撃ち抜き続けていた。

 

彼等とて、戦うべき時という事は理解している、

ならば、一切の迷いを心に封じ込め、目の前の敵と戦うという事に逃避したのである。

 

しかし、最初から迷いのない者は、

己が持てる全てを以て、敵と相対している。

 

「アタシの目的はオマエらじゃねぇからな、切り裂かせてもらうぜ!!」

 

ソードカラミティを駆るダリルは、シュベルトゲベールを右手に保持し、単機ダガーの群れの中心に躍り出る。

 

右腕のパンツァーアイゼンを射出、一機のダガーを捉え、

そのままハンマー投げの様に振り回し、周囲に展開したダガーと衝突させていく。

 

「おらおら!!アタシはこの程度じゃ倒せねぇぞ!!」

 

左手でマイダスメッサーを引き抜き、

衝突し、身動きが取れなくなっていた敵機に投擲、次々に爆散させていく。

 

格闘戦を挑んでくるダガーも、

シュベルトゲベールの一閃であっという間に切り裂き、次の敵を求め突き進んでいく。

 

その姿、正に戦鬼と呼ぶに相応し物であった。

 

「(ま、美味しい所は全部盟主に譲るさ、

アタシはアタシの出来る事をするだけだよな!!)」

 

彼女は敵の幹部を相手にするよりも、

盟主である一夏の戦いに水を指さない為に、

雑兵を可能な限り引き付ける役割に徹する事にした様だ。

 

この戦いはある意味で聖戦、

ならば、自分がその聖戦を汚す事は赦されない。

 

よって、彼女は敢えて囮という役を自ら被ることにしたのだ。

 

「(ま、せいぜい楽しませてくれよ、この聖戦をな。)」

 

sideout

 

noside

 

同時刻、チームCも同様にダガータイプとの戦闘に突入した。

 

一夏よりアタッカーを任されたナターシャを中心に、

デスティニーインパルス、レッドフレーム改、ドレッドノートの三機は、

ダガータイプに対して攻撃を開始する。

 

「はぁっ!!」

 

三機の中でも、デスティニーインパルスを駆るナターシャの気迫は凄まじい物があり、

二本のエクスカリバーで次々にダガーを行動不能に追い込んでいく。

 

それもその筈、デスティニーインパルスの前身、銀の福音は彼女が目指す標的に貶められた、

つまり、これは彼女にとっての仇討ちなのである。

 

「出てきなさい篠ノ之 束!!福音の怨み、晴らさせてもらうわよ!!」

 

「篠ノ之 束!私はお前を赦せない!!好き勝手に世界を乱した罪を、

今日、この場所で償わせてやる!!」

 

もう一人、篠ノ之 束に対して凄まじい嫌悪感、憎悪を抱く者がいた。

 

その人物とは、レッドフレーム改を駆る箒であった。

 

自分の事を理解せずに、ただの偽善を押し付ける束に対し、

彼女は憎しみをその胸の内に宿していた。

 

その感情は、振るわれるガーベラストレートに、

発たれるビームライフルの光条に込められ、次々にダガーを爆散させていく。

 

自らの手で、悪を断ち切るという想いが、

展開されたヴォワチュール・リュミエールの光と共に迸り、二機の羽根が蒼空をかける。

 

そんな二機にも、勿論死角と言うものは存在する、

そして、その角度から攻撃を仕掛けようとするダガーも、当然ながら存在する。

 

今、一機のダガーが背後からビームライフルを撃ち込もうと構える。

 

しかし、そのダガーは全く違う方向から発たれたビームに貫かれ、

四散しながらも盛大な爆発を引き起こした。

 

Xアストレイ形態のドレッドノートに追加兵装<フルアーマードラグーン>を装備した雅人が、

射出したドラグーンによるオールレンジ射撃を行ったのである。

 

20門を数える砲頭が、ナターシャと箒の死角から取りつこうとしたダガーを灰塵に還していく。

 

その火力は正に圧巻の一言に尽きる物であり、

取り付く島すら見当たらない。

 

「俺だって・・・、戦うべき敵は分かってる!!

大切な人を、アイツを護るために俺は戦う!!」

 

何かを振り切るように、彼はただ愚直に駆け抜ける。

 

正誤など、後々考えれば良い、

今はただ、己が敵と見定めたモノと戦えば良いのだと・・・。

 

sideout

 

noside

 

各チームがそれぞれ戦闘に突入した頃、

ナナバルク防衛の任を請けた三人は、

拠点に向け、六門装備されているゴッドフリート及び、ミサイル発射管を開き、

攻撃を開始した艦の周囲の索敵に務めていた。

 

まだ敵影は見当たらないが、

ローエングリンの威力を見せ付けた以上、

ナナバルクが攻略されるのは必然と言えるであろう。

 

「凰さん、ボーデヴィッヒさん、何処から敵が来るか分かりません、

気を付けてくださいね。」

 

追加兵装、アサルトシュラウドtypeGを装備したグリーンフレームを装備した真耶は、

回線を開き、同じく索敵を務める鈴とラウラとの通信を行う。

 

アサルトシュラウドtypeG。

アクタイオンにて用意された、グリーンフレーム専用の追加兵装である。

 

背面及び肩部にスラスターが増設され、

両腕部側面にはガトリングガン装備型シールドが一基ずつ装備されており、

推力、火力面での性能は大幅に向上した。

 

その反面、格闘能力は少なからず低下し、

近接戦闘にはあまり向かない仕様になっている。

 

使用するには、それなりの力量と、

判断能力が当然ながら要求される装備だが、

真耶は自分の適性と合致する事を知り、躊躇うことなく使用する事にしたのだ。

 

「は、はい!」

 

「了解です、山田先生!」

 

真耶からの通信を受け、鈴は少々上擦った声で、

ラウラは力強く返答する。

 

彼女達とて、一夏の行いに対する憤り、疑念はあれども、

同盟関係にある只中で、自分達を裏切ってはいない彼に任された任務だ、

思うところはあれども、やり遂げる事しか選択肢は残されてはいない。

 

「秋良・・・、大丈夫かな・・・?」

 

戦闘の光が瞬く方を見つめながらも、

鈴は心配そうに呟く。

 

自らが兄と慕う存在が激戦の只中に身を置いているのだ、

心配しない筈が無い。

 

「大丈夫だ、皆ちゃんと戻ってくる、

だから、私達は皆の帰ってくる場所を守り抜こう。」

 

「うん・・・!」

 

仲間を信じ、自分のすべき事をしようと暗に言いながらも、

ラウラは鈴の不安をぬぐい去った。

 

全員で生きて帰る、その為には、脚となるこの艦を自分達が守り抜くしかない。

 

そう言い聞かせた時、レーダーに反応があった。

 

「!敵機接近!!凰さん!ボーデヴィッヒさん!攻撃を開始してください!!」

 

「はい!!」

 

「了解です!!」

 

真耶の指令に、鈴とラウラは己の武器を構え、来る敵機に備える。

 

自分達の戦果で、仲間達が帰れるかどうかが変わってくるのだ、

責任は重大だが、やり遂げる以外に道は残されていない。

 

ならば、自分達の死力を尽くし、

目の前の敵を退ける事のみに集中すればいい。

 

そう割り切り、三機は各方向からせまりくる敵機に対し、攻撃を開始した。

 

本当の戦争は、まだ始まったばかりである・・・。

 

sideout

 




次回予告

敵を退けるチームBに、
狂気の牙が迫る。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
揺らぐ剣

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

揺らぐ剣

noside

 

ナナバルクの先制攻撃により、

射出カタパルトが使用できなくなったマドカは、

一人通路を走っていた。

 

この建物は窓や出入り口が極めて少なく、

別の出入り口までは少し距離がある、

移動するにはそれなりの労力が要される。

 

だが、そんな些細な事は、走っている本人、マドカにとっては全く気にも止める必要もないモノであった。

 

目の前にまで仇敵が出向いて来ているのだ、

自分が討つと決めた相手をみすみす見逃せる筈も無い。

 

どす黒い復讐の念を胸に秘め、

通路をただひたすらに走り、外を目指した。

 

暫くの後、漸く非常口に辿り着き、

蹴破るかの様に外に出る。

 

吹雪や霧で視界は全くと言って良いほど利かないが、

遠くより鳴り響く爆発音だけはしっかりと耳に届く。

 

「待っていろ織斑一夏・・・!貴様はこの私が切り裂いてやる!

新たな牙、ミラージュフレームセカンドイシューでな!!」

 

誰に宣言するでもなく叫んだ後、

改修を施されたミラージュフレームを展開、凄まじい速度で飛翔した。

 

その先に、何があるのかも分からないままに・・・。

 

sideout

 

side秋良

 

空域のダガータイプの七割を殲滅し、

あと一息で先に進めそうになっている俺達チームBは、

それぞれをカバーしながらも迫り来るダガータイプを相手取る。

 

数が多いから厄介だけど、

なんとか片付けられそうにはなってきている。

 

「簪!秋良!オメェらエネルギーは大丈夫か!?」

 

俺達を心配してくれてなのか、

ダリルさんが通信を入れてきた。

 

「残ってます!それにチャージャーも持ってきてます!」

 

「俺も問題ないです!」

 

余分な装備を積んでない分、

回復用のバッテリーパックも多く持ってきている、

エネルギー切れの心配はあまり考慮しなくてもいいという事だね。

 

このまま進んで、束を捕まえればこの戦闘は終わる、

それを目指せば良いんだ・・・!

 

そう意気込んだ時、レーダーに急速接近してくる機体の反応が映った。

 

あまりにも速い速度で接近してくるから、

ダガータイプじゃない事は直感的に察する事が出来た。

 

恐らくは、俺達の戦闘データを使用した模造機だとは考えつくけど、

機体のタイプ、名称には思い当たる節は無い。

 

何が来ようとも、俺は大切な人を護るために戦う!

たとえ、誰かに利用されていたとしてもだ!!

 

「見つけたぞ!織斑一夏ァァァァ!!」

 

「なんだ!?」

 

声が響いた方向に意識を向けると、

日本刀型の実体剣と鉤爪を構えて突進してくる紫の機体があった。

 

と言うか、俺を兄さんと間違えるって、

どんだけこの顔に対して恨み辛みもってんだよ!!

 

そんな事を考えながらも、

シシオウブレードとウィングソーで実体剣と鉤爪を受け止めた。

 

って、あの顔はマドカか!?

なんで今回に限ってコイツが来るんだよ!!

 

「くははははっ!!お前を殺して、くーへの捧げ物にしてやる!!」

 

「ったく!!あの人は何をやってんだよ!!」

 

くーという名前に心当たりは無いけど、

どう考えても亡國企業側の人間なんだと推測出来る。

 

俺の知らない所で、あの人は一体何をやろうとしているんだ・・・?

 

こんな、敵に完全な悪意を植え付ける様な真似をして?

 

いや、今はそんな事を考えている暇は無い、

目の前にいる狂人を退ける事を考えないとね!!

 

「ちぃっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

マドカが舌打ちしながらも、剣を押し込んで来るけど、

パワーでなら俺も負けねはいない!!

 

パワー競べの様相を呈しながらも、

互いに押されず押し込めずのまま拮抗する。

 

「秋良っ!!」

 

援護射撃のつもりか、簪がマドカに向けてプロトン・ライフルを撃ちかける。

 

「邪魔を、するなぁぁぁ!!」

 

俺から離れて光条を回避し、

残像が現れる程の速さで簪に接近する。

 

まずい!!今のアウトフレームじゃ近接戦闘には向いていない!

どう考えても格闘型に攻められたら勝てない!

 

「簪!」

 

駄目だ、間に合わない!!

 

簪に刃が届きそうになった時、あらぬ方向からビームブーメランが飛来し、

マドカの機体を襲う。

 

「チッ!!」

 

忌々しげに舌打ちしながらも、マドカは簪への攻撃を中断し、大きく距離を取った。

 

「おいおい、自分の大切な女ぐらい、自分で護れよ、秋良?」

 

弧を描き旋回するビームブーメランの軌道の先に、

バーミリオンの機体、ソードカラミティを纏ったダリルさんが佇んでいた。

 

「ありがとうございますダリルさん、コイツは俺が倒します、

簪はダリルさんとダガーを殲滅してくれ。」

 

「任せとけ、露払いは引き受けるさ。」

 

「うん、勝ってね?」

 

俺の言葉を聞き、ダリルさんと簪は周囲に展開していたダガーに向け、攻撃を再開した。

 

俺も、覚悟を決めよう。

目の前にいるのは敵だ、それを排除する事こそが、

俺の大切なモノを護るための唯一の手段。

 

ならば迷うことは無い、大切な人より大切なモノなんて、俺には無い!

 

俺は、俺のやるべき事をやる!それでいい!!

 

「来なよマドカ!俺が相手だ!!」

 

「望むところだ!!お前を殺してやる!!」

 

俺が切っ先を向けると、待ってましたと言わんばかりにこちらに突っ込んで来る。

 

これでもう、戦う以外に道は無くなった、ならば全身全霊で戦うだけさ!!

 

俺もシシオウブレードとウィングソーを構え、

マドカに向けて突進し、激突した。

 

sideout

 

noside

 

金属同士がぶつかり合う鈍い音を立て、

四本の得物が衝突する。

 

一見して、ピクリとも動かない程の拮抗状態に見えるが、

実の処はそうでは無かった。

 

実際問題として、機体の完成度、性能、パイロットの力量、

そして男女の筋力の差、全ての面で秋良がマドカを上回っている事は確かだ。

 

ならば何故、秋良は一気に押し込み、ケリを着けないのか?

 

答えは至極単純、

彼は前世で培われた記憶の中より、マドカが操る機体を探り当てたのだ、

無論、その能力まで全てだ。

 

ミラージュフレームセカンドイシューの最大の特徴、

それは四足形態による攻撃、通称ブルート・フォース・アタックである。

 

敵機の周りを残像を生み出す程の速度で高速移動し、

敵機に反撃をする隙を与えないという大技である。

 

対処するには、相手の感情を読み取り、

行動の先を予測しなければ到底避けきれるものではない。

 

そんな高度な芸当を然も当然と言わんばかりにやってのけられるのは、

彼の兄、織斑一夏ぐらいなものであろう。

 

秋良とて似たような真似は出来るが、

完全と言うわけにはいかない、いずれは限界が来ると分かっていた。

 

ならばと、距離を開けずにゼロ距離での攻防ならば、

ブルート・フォース・アタックを封じ込める事が出来ると判断し、

 

「チィッ!!このぉぉぉぉぉ!!」

 

「おぉっ!!」

 

力負けしている事に苛立つマドカと対照的に、

秋良はただ刀を振るい、斬るという想いだけを籠めていた。

 

「お前ごときが!お前ごときが私のプライドを蔑んだ!!」

 

そんな最中、マドカが叫ぶ。

 

秋良は自分には関係無いとは思いつつも、

一夏という役を演じるために無表情を貫く。

 

「私は兵器として生み出された!織斑千冬の劣化クローンだ!!

それでも、私はそれでも良い、寧ろ誇りに思っていた!!」

 

血を吐くような声で、マドカは叫んだ、

彼女の誇りは戦うことだけだった、それ以外の自由は殆ど無い、

しかしそれ故に戦いという物に誇りを持つようになったのだ。

 

今までは敵を葬る事など容易く行えた、

強敵との戦いも血が騒ぐような感覚を楽しめた。

 

だが、織斑一夏はその誇りを踏みにじった。

 

圧倒的な力の差をまざまざと見せ付け、

尚且つ眼中に無いとでもいうようなその態度・・・。

 

全てを否定された様な感覚に貶められた、

マドカはそれが赦せなかったのだ。

 

「私は戦うだけの存在だ!!それ以外に意味はない!!」

 

「そうやって自分で勝手に決めつけるのか!?」

 

マドカの叫びを、秋良は真っ向から否定した。

 

彼とて、自分は戦うことしか出来ないと理解している、

だが、自分の中にあるのはそれだけでは無いと知っている。

 

故に、それだけの事で囚われるマドカを哀れに思いながらも、

その感情を否定する。

 

「喩え誰かのクローンだったとしても!お前の心、感情はお前だけの物だ!!

それを作った周りを、否定してんじゃねぇよ!!」

 

秋良は怒り心頭の様子で叫び、

我武者羅に刃を押し込み、マドカの体制を崩す。

 

「お前の憎しみ、絶望を!この俺が否定してやる!!」

 

シシオウブレードで天羽々斬を弾き飛ばし、

ウィングソーで肩の砲塔を貫く。

 

その流れのまま、左手に装備されていたCソードBタイプを切り落とす。

 

「ぐっ・・・!?」

 

先程はうって変わった怒濤の攻めに、

マドカは一瞬の内に武装の半分を失った。

 

咄嗟に左脚を振るい、装備されていたCソードAタイプで攻撃を仕掛ける。

 

それは秋良の左手に保持されていたウィングソーを叩き折った。

 

「はぁぁっ!!」

 

だが、その程度で本気になった秋良を止める事は出来ない。

 

彼は直ぐ様シシオウブレードで脚部のアーマーの一部、

主に武装が装備されていた部分を切り裂き、近接武器の全てを奪い取った。

トドメと言わんばかりにアーマーシュナイダーを抜き取り、発射されようとしていた残っいるビーム砲に突き刺した。

 

「ぐぁぁぁっ!!」

 

エネルギーが行き場を失い、盛大な爆発を引き起こし、

ミラージュフレームは大きく吹き飛ばされる。

 

「ぐぅっ・・・!!くそぉぉぉぉっ!!」

 

戦闘手段を奪われたマドカは、

スラスターを吹かし、逃亡しようとする。

 

「待て!!」

 

それを認めた彼は、ゲイルストライクのスラスターを吹かし、

追跡しようとした。

 

だが、それよりも早く、ダリルのソードカラミティがミラージュフレームの前に割り込んだ。

 

「ッ!?」

 

「敵は全て消せと言われてるんでね、恨みもあることだ、消えろ!」

 

何かを言うやいなや、ダリルはシュベルト・ゲベールを重ね合わせ、

回避しきれなかったマドカを頭から真っ二つに切り裂いた。

 

断末魔をあげる暇すらも与えない、まさに一瞬の内に事を済ませた。

 

ミラージュフレームだったモノは、

慣性で僅かに進んだが、直ぐ様失速し、アラスカの氷原へと墜ちていった。

 

「だ、ダリルさん・・・!?貴女まで何を!?」

 

突然の事に驚愕し、

掠れた声ながらも、秋良はダリルに向けて問うた。

 

「何を、だと?秋良、お前は何か勘違いしているんじゃねぇか?

アタシはアタシのやるべき事、つまりは敵の殲滅をするだけだ。」

 

ダリルはシュベルト・ゲベールの切っ先を、

秋良と、彼に近付いていた簪に向けながらも言い発った。

 

「アタシは盟主の戦い方に賛同している、

それなら敵は全て殺せと命令されたに等しい。」

 

「そんな事は間違っている!!喩えテロリストだとしても、

ここで殺す道理にはならない!!」

 

ダリルの言葉はある意味、兵士、戦士としては当然の理なのであろう、

上官からの命令にはなんの疑問も抱かずに戦う、それが兵士と言うものだ。

 

「なら聞くが、何処で殺されるなら良いってんだよ!?

この戦争の後の法廷か!?そんなもん信頼できるか!!」

 

「・・・ッ!」

 

ダリルの怒号に、彼は何も言うことが出来ずにたじろぐ。

 

確かに、この戦いの後、テロリスト達は軍法会議やそれに準ずる法廷で裁きを受けるだろう。

 

しかし、下っぱなら切り捨てても構わないが、

首謀者である篠ノ之 束や幹部にもなれば話は変わってくる。

 

ISの生みの親である束を生かし、

ISの情報を聞き出そうと極刑を回避させ、利用しようという国も現れるだろう。

 

もしそれがなくとも、IS委員会が黙っている筈もなく、

圧力をかけようとするのは火を見るよりも明らかだ。

 

いや、最悪は今回の様な動乱を再び引き起こす恐れすらあるだけでなく、

女尊男卑に染まった者達の暴走も誘発させるであろう。

 

「アタシの事を間違いと言うなら、お前のそのちんけな情けは正義か?

違うな、ただの偽善、最悪は世界を滅ぼす事になるんだぜ?それを分かってんのか!?」

 

「・・・っ!!」

 

ダリルの言葉が容赦なく秋良の胸に突き刺さり、

迷いという名の傷口を拡げていく。

 

何も言い返す事が出来ぬまま、

秋良は呆然と佇む事しか出来なかった。

 

「お前の気持ちも分かるがな、今は戦争だ、殺らなきゃ殺られる、ただそれだけだ、

そんな覚悟もないなら、お前はさっさとナナバルクに帰れ、戦いの邪魔になるからな。」

 

そう吐き捨てた後、ダリルはシュベルト・ゲベールを両手に保持し、

単機ダガーの中に向かっていった。

 

「俺は・・・、何をやっているんだ・・・。」

 

彼女の背中を見送り、秋良は宙に佇んだまま動けずにいた。

 

正しいのは自分か?それとも一夏の理念に共感する者達か・・・。

 

いくら悩めど、一向に答えは出なかった・・・。

 

sideout




次回予告

仇敵を探すナターシャと箒の前に、
金色の機体が姿を現す。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
天<アマツ>

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天<アマツ>

noside

 

マドカが単機出撃を果たした頃、

亡國企業幹部であるスコール・ミューゼルは、

カタパルトを塞いだ瓦礫や残骸を、専用機、ゴールドフレーム天を使用し、

自身の機体が通れる程のサイズの穴を開けた。

 

「やっと通れる・・・!!さぁ、首を洗って待っていなさい、織斑一夏!!」

 

どれ程この時を待ちわびた事か、

オータムが殺されてからというもの、スコールは一夏に対する憎しみを日に日に募らせていた。

 

一夏を殺すことだけ今の自分の生きる道標、

目的に辿り着くためならばどんなことをしてでも構わない。

 

そんな事を思いながらも、瓦礫の間を進んで行く。

 

しかし、憎しみに彼女に気付く筈もない、

この戦争が、初めから何者かによって動かされていた事に・・・。

 

積年の恨みを晴らす、仮初めの時が、

彼女に訪れたのであった・・・。

 

sideout

 

noside

 

ナターシャ率いるチームCは、

各々の力を存分に発揮し、確実に亡國企業の拠点に近付いていた。

 

圧倒的な火力を持つデスティニーインパルス、

変幻自在な攻撃を繰り出すレッドフレーム改、

全方位攻撃を繰り出すドレッドノートの三機の前に、

ダガー達は次々に残骸へと変貌させられていった。

 

遠近のバランスが最も取れているチーということもあり、

彼等は互いをフォローしながらも進んでいく。

 

「ちっ・・・!!何処にいる!篠ノ之 束!!」

 

「怖じ気づいたか!?出てこい!!お前は私が殺してやる!!」

 

首謀者である篠ノ之 束に対し、個人的な恨みを持つナターシャと箒は、

迫り来るダガーを次々に葬りながらも口々に叫んでいた。

 

「もうやめろ!!なんでくだらねぇ理由で戦うんだ!?」

 

今だに戦うことに対しての抵抗をその胸に宿す雅人は、

迷いながらも、愛する者と生きて再び会うために、そしてその先へと共に歩む為に、

向かってくるダガーを次々に撃ち落としていく。

 

彼の叫びは虚しく響き、

心を持たぬダガー達が止まる事はない。

 

(なんでだよ・・・!!こんな戦いに意味はあるのか!?

篠ノ之 束、アンタは何が望みなんだ!?)

 

自分は一度も会ったことの無い人物、

篠ノ之 束に対しての憤りが、一夏への疑念と混ざり合い、

彼の心を乱していく。

 

正にその時だった、

彼等の機体のレーダーに、急速接近してくる機影が映し出される。

 

「新手か!?」

 

雅人は接近してくる方角にビームライフルを向け、

敵の正体を見極めようと目を凝らす。

 

彼の目の前に姿を現したのは、

特徴的なバックパックを背負った漆黒の機体、ゴールドフレーム天であった。

 

「なっ・・・!?ゴールドフレーム天だと!?そんなバカな・・・!?」

 

予想外の機体の登場に、雅人は驚愕の表情を隠せなかった。

 

ストライクダガーや、それに準ずる機体の登場には、

データを取られたという前提があったために驚きはしなかった。

 

しかし、ゴールドフレーム天となると、

どこからデータを取られたのかが分からない。

 

最も近いタイプの機体は、鈴のネブラブリッツではあるが、

彼女の性格上、戦闘が出来ているのか怪しい状態であったために、

データを完全に取れていたのかは疑問に残る。

 

「あら?ここには奴はいないのね・・・、来る場所を間違えたかしら?」

 

ゴールドフレーム天を駆るスコールは、

彼等から十メートル程離れた場所に機体を停止させ、

悔しそうに呟いた。

 

「アンタは篠ノ之 束の仲間か!?」

 

「御名答ね、加賀美雅人、私の名はスコール・ミューゼル、

亡國企業実働部隊のリーダーよ。」

 

ビームライフルを構えながら尋ねる雅人に、

スコールは邪悪な笑みを浮かべつつ答える。

 

「何故その機体、ゴールドフレーム天に乗っている!?答えろ!!」

 

「この機体の事かしら?良いわ、教えてあげる!

この機体はね、アクタイオン・インダストリーから奪ったデータで造ったのよ!

今までのISを上回る性能の機体に、束が改造してくれた姿よ!!」

 

自身の問いに答えたスコールの答えに、

雅人は全身の血の気が引くような錯覚を覚える。

 

(嘘だろ・・・!?尋常じゃ無い程セキュリティが強力なアクタイオンから盗んだだと!?

有り得ない・・・!!有り得ないが、目の前に実際現れてんだよな・・・!)

 

狼狽える自分自身を叱責し、

弱気、惑いを振り払うかのように彼は大きく頭を振る。

 

(奪われたのなら、そのデータの後始末を着けるのが、

アクタイオン社所属の俺の役目、やってやる!!)

 

「箒!ファイルス先生!コイツは俺が相手をする!!

ケジメを着けるためにも!!」

 

決意を固めた雅人は、

近くに佇んでいた箒とナターシャに向けて叫ぶ。

 

「分かった、私は手を出さないと誓おう。」

 

「任せたわ、加賀美君。」

 

彼の決意の固さを汲み取った箒とナターシャは、

彼の言葉に返答した後、周囲のダガー軍に対して攻撃を再開した。

 

「亡國企業、スコール・ミューゼル!!この俺が相手だ!!」

 

「望むところ!!織斑一夏の前に、貴様で準備運動ね!!」

 

闘志を宿した瞳をスコールに向け、

雅人は全てのドラグーンを射出、全方位からの攻撃を仕掛ける。

 

「行けよ!ドラグーン!!」

 

彼の意を受けたドラグーンは縦横無尽に駆け回り、

ゴールドフレームに向けビームの雨を降らす。

 

「はぁっ!!」

 

その光弾の中を、金色の機体はアクロバティックな動きを見せ、

機体に掠める事なく回避していく。

 

(チッ!やっぱりこの程度の射撃なんざ当たる訳も無いか!!)

 

ドラグーンを難なく避けている様にも見えるスコールに、

雅人は内心で盛大に舌打ちをしていた。

 

それもその筈、彼が狙っているのは死角やそれに準ずる角度からの攻撃であり、

余程の意識がなければ回避する事は出来ない。

 

それをやってのけるスコールは、

彼の目には相当の凄腕に映っているのである。

 

(くっ・・・!加賀美雅人、思ったより強い・・・!

こんな力を持った人間がどうして今まで目立たなかったの!?)

 

対するスコールも、雅人の力量に驚愕しながらも、

持てる限りの能力を以て、ドラグーンの光弾を回避していく。

 

言い方は悪いが、ハッキリ言って雅人は一夏や秋良の影に隠れがちではあるが、

彼自身の戦闘能力は彼等に引けを取らないものがある。

 

スコール自身は恋人であるオータムを殺した一夏だけを付け狙っていたため、

雅人の戦力を完全にノーマークにしてしまっていたのだ。

 

つまり、彼女自身は彼の力量、装備の類いを一切知らないまま、

彼に勝負を挑んだのだ。

 

それに対し、転生者である雅人は、

ゴールドフレーム天の機体特性を完璧なまでに把握しており、

どの距離が危険かという事も熟知している。

 

一見して、僅かな差にしか思えない差だが、

戦闘においては勝敗を決する決定的な差だ。

 

最初の内はなんとか掠めずに避けられていた光弾が、

ゴールドフレームの装甲を掠め始める。

 

「くっ・・・!!この私が押されてる・・・!?

そんな、そんなバカ事が・・・!?」

 

「このっ・・・!!退けよ!!」

 

ドラグーンを乱射しながらも、

雅人はシールド内蔵型ビームサーベルを展開し、

ゴールドフレームに向かっていく。

 

「ッ!!」

 

それを察知したスコールも、

トリケロス改よりビームサーベルを発生させ、彼と切り結ぶ。

 

「答えろ!!なんでこんな無意味な戦いを続けるんだ!?」

 

「無意味ですって!?貴方にそんな事を決めつける権利なんて無いわ!!」

 

雅人の問いに激昂しながらも、

スコールはビームサーベルを押し込む腕に力を籠める。

 

「貴方に何が分かる!?大切な人を!私はアイツに殺されたのよ!!」

 

「・・・ッ!!アイツって誰の事だ!?」

 

「決まっているじゃない・・・ッ!織斑一夏よ・・・ッ!!アイツは、アイツがオータムを殺したのよ!!」

 

「・・・ッ!!」

 

案の定とはいえど、やはり一夏が殺しを働いたと言う事実を受け止めきれない雅人は、

動揺した一瞬の隙を突かれ、大きく蹴り飛ばされてしまった。

 

体制を崩した雅人に、スコールは追撃として数発のビームを撃ちかける。

 

「ぐぁっ・・・!!くそッ!!」

 

一発被弾するも、立て続けの被弾を避けるためにフルアーマードラグーンをパージし、

盾の代わりにしてビームを防ぐ。

 

(あの野郎・・・!!どうしてこんな、憎しみを敵に植え付けるんだ!?

お前は、お前は何がやりたいんだよ、一夏!!)

 

Xアストレイ形態からイータ形態へと変更しながらも、

彼は自身の抱いていた一夏への疑念を更に大きくしていた。

 

「アイツがオータムを殺したのよ!!そうよ、これは復讐なの!!

貴方ごときが、ごちゃごちゃ言う筋合いは無い!!」

 

錯乱気味なスコールは、

血走った目を見開き、ビームを撃ちかけながらも迫る。

 

「ふざけんな・・・!!復讐の何が正しいってんだよ!!」

 

イータユニットをソードモードで起動し、

大出力ビームソードを展開する。

 

「復讐してソイツが本当に喜ぶのか!?

ソイツは、お前に生きて欲しいと思ってるんじゃ無いのか!?」

 

「黙れ!!貴様に、貴様に何が分かる!?」

 

「分からねぇさ!!何も!!だけどな!

憎しみは憎しみを生み出すだけだと、分かれ!!」

 

口々に叫び、言い合いながらも二機は交錯する。

 

ビームソードで、ビームサーベルで切り結び、時には拳を交える。

 

「おぉぉぉッ!!」

 

「はぁぁぁッ!!」

 

十度目の激突に、遂にゴールドフレームのトリケロス改が叩き割られた。

 

「・・・ッ!!」

 

「これで、終わりだぁぁぁッ!!」

 

その勢いのまま、彼はゴールドフレームのバックパックを破壊し、

戦闘能力を完全に奪い取った。

 

「クッ、クソォォォッ!!」

 

「投降しろ!!命まで取るつもりはない!!」

 

イータユニットをバスターモードに変更しながらも、

彼はスコールに投降を勧告する。

 

「ふ、ふざけるな!!投降して命長らえるぐらいなら!

私はお前を道連れに死を選ぶ!!」

 

しかし、スコールは投降勧告にも応じるつもりは毛頭なく、

叫びながらも機体をオーバーロードさせる。

 

雅人に組み付き、自爆しようと言う魂胆だ。

 

「やめろ!来るな!!」

 

バスターモードの砲口をスコールに向けながらも、

彼は止まる様に叫び続けた。

 

「来るな!!俺に、俺に撃たせるな!!」

 

「お前を、お前を殺してやる!!」

 

雅人の警告にも耳を貸さず、

猛スピードで彼に対し、特攻を仕掛ける。

 

「雅人!何をしている!!撃て!撃つんだ!!」

 

雅人に迫るスコールに気付いたのか、

箒が怒号を飛ばしてくるが、彼に届いているのかは不明だった。

 

(来るな、来ないでくれ・・・!!俺は、俺は・・・!!)

 

意識の中でトリガーに指をかけたまま、

雅人は躊躇っていた。

 

楯無ともう一度会う為に、自分が此処で死ぬわけにはいかない。

 

だが、その為には今、死ぬ覚悟で迫る敵を撃たなければ、

間違いなく自分の命も無い。

 

撃たなければ自分が死ぬ、そんな事ぐらい彼も理解している、

しかし、人殺しはしたくない。

 

その躊躇いが彼の指を押し止めていた。

 

(やめろ・・・!!来るな、俺に、俺に撃たせるな・・・!!)

 

「撃て!雅人!!」

 

「撃ちなさい!!加賀美君!!」

 

箒とナターシャが口々に叫び、

雅人に攻撃を促す。

 

その間にも刻々とゴールドフレームは彼に接近してくる。

 

「ウゥァァァァッ!!」

 

野獣の呻きの様な叫びをあげ、

雅人は遂に、トリガーを引いた。

 

威力を抑える為に課せられていたリミッターが外れ、

通常の何倍も強力なビームが発射された。

 

「ッ!!」

 

それは、ドレッドノートまで残り1メートルにまで迫っていたゴールドフレームを飲み込み、

臨界に達していたエネルギーと共に盛大な爆発を引き起こした。

 

爆発に巻き込まれたドレッドノートは大きく吹き飛ばされ、

海面へと墜ちていく。

 

「赦してくれ・・・ッ!!」

 

誰に向けたのか分からない詫びと共に、

雅人は頭から海に没した。

 

sideout

 




次回予告

潜水艦破壊ミッションを遂行すべく、
楯無とフォルテが海中を駆ける。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
凍てつく海で

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

凍てつく海で

noside

 

各チームが戦闘に突入し、ダガータイプの機体を相手にしていた頃、

潜水艦破壊ミッションを与えられた楯無とフォルテは、

比較的深度の浅い海中を移動していた。

 

フォルテの駆るフォビドゥンブルーは、

元々水中戦を想定した機体であり、

ゲシュマイディッヒ・パンツァーを使用せずとも潜行できる様に、

装甲部分に手が加えられている他、スーパーキャビテーティング魚雷や、

フォノンメーザー砲など、水中でこそ真価を発揮する装備を多数搭載している。

 

その為、水中での戦闘能力は他のガンダムタイプの追随を許さない、

強力無比な物となっている。

 

一方、楯無が駆るブルーフレームセカンドスケイルシステム装備は、

元々は水中戦闘に使用される機体では無いが、

水中戦闘特化装備、スケイルシステムを装備し、深度の浅い海中での戦闘を可能としている。

 

武装は六連装スーパーキャビテーティング魚雷装備型銃及び、

アーマーシュナイダーのみに限られるが、スケイルエンジンを搭載したために、

機動力はフォビドゥンブルーに引けを取らない程である。

 

そんな二機が水中に入れば、

喩え潜水艦であろうがISであろうが優位に立ち回れる事は明白であった。

 

この作戦の立案者である一夏も、

当然この事を把握していたため、彼女達を水中戦闘に当てたのである。

 

「盟主の情報だと、そろそろみたいッスね、

脚を引っ張らないでくれッスよ?」

 

「分かってるわ・・・、フォルテちゃんこそ、

無用な破壊は避けてちょうだい?」

 

淡々と、しかし嫌みを織り混ぜながら、

フォルテは楯無に対してポイントが近いことを告げる。

 

その口調が癪なのか、

楯無は少し棘のある言葉で返答した。

 

彼女達の仲は決して悪い訳ではないが、

現在は険悪なムードが漂っている。

 

その原因はただひとつ、これからのミッションの目的である。

 

「楯無はエンジンやスクリューを破壊してくれッス、

私は他の場所を破壊するッス。」

 

「武装だけを破壊するのよね?」

 

楯無の考える方法、それはエンジン、スクリューの破壊、

及び魚雷発射管といった、航行、攻撃システムを奪い取り、

なるべく敵を殺さないやり方である。

 

「さぁ?それは向こうの出方次第ッスかね?

私達が受けた任務は、潜水艦の駆逐ッスよ?分かってるんスか?」

 

しかし、フォルテの考えは楯無のそれとは全く異なっていた。

 

フォルテが考える方法、

それは潜水艦の完全無力化、つまりは撃沈させる事である。

 

いや、破壊できなくとも、装甲の何処かしらに穴を開けてやれば、

内部に大量の海水が流れ込む。

 

中の人間を排除するだけで、

潜水艦はただの動かぬ鉄のオブジェに変わってしまう。

 

それだけの事で任務が片付くのだ、

楽な上に手っ取り早い。

 

それに、彼女達の盟主である織斑一夏ならば、

一瞬の躊躇いもなく乗員もろとも潜水艦を海の藻屑とするだろう。

 

それならば、自分も同じ様に駆逐する事が最良と、

フォルテ自身は考えたのである。

 

「生半可な情けをかけて、敵にしっぺ返し喰らうのアホらしい、

なら、私は徹底的にやらせてもらうッス。」

 

「・・・ッ!」

 

「楯無、いい加減覚悟を決めたらどうッスかね?

今は戦争、嫌なら戦わなければいいんスよ。」

 

楯無に言い発ったフォルテは、

速度を上げ、潜水艦目掛け進んでいく。

 

「・・・、やるしかないのね・・・、

分かってた、分かってたつもりでここに来たのに・・・ッ!!」

 

彼女とて、戦うべき時は分かっているつもりだった。

護るべき者と、護るべき未来は見えている。

 

だが、それでもこの戦争に意味はあるのか?

なんの為に戦うのかという惑いが足枷となり、

彼女は銃口を定められなかった。

 

「迷えない・・・、迷ったら私が殺される、

嫌と言うほどに教え込まれたじゃない・・・、今は、それでいい!!」

 

更識で叩き込まれた教えの中に、

自分が生き残る事を優先しろというモノがあった。

 

今の自分には護るべき者が、添い遂げたいと思う者がある。

 

その想いがあっても、自分が死んではその未来すら閉ざされ、

何も叶わなくなってしまう。

 

ならば、何がなんでも生き残る、

それがこの戦争においての自分がなすべきこと。

 

そう自らを無理矢理納得させ、

楯無はフォビドゥンブルーの後を追った。

 

彼女達を捉えたのか、

固定されていた敵潜水艦五隻から多数の魚雷が発射された。

 

しかし、直線で向かってくる魚雷、

それもスーパーキャビテーティング魚雷よりも速度の遅い魚雷など、

スケイルエンジンを装備した二機には造作もないことである。

 

魚雷を難なく回避し、

敵潜水艦群を射程圏内に捉えた瞬間、

彼女はスーパーキャビテーティング魚雷を発射した。

 

それは狙い違わず五隻留まっていた内の一隻に着弾、

盛大に爆ぜた。

 

「初弾命中、続けて第二撃を敢行するッス。」

 

スケイルエンジンの出力を上げ、

更に加速しながらも一隻の潜水艦に接近、

甲板にトライデントを突き立てる。

 

何も完全に破壊せずとも、

ただ浸水させれば中の人間を殺し、

航行不能へと追い込む事も出来、敵を取り逃がす事もない。

 

合理的だが、

実に惨い殺り方だと、フォルテは苦笑していた。

 

彼女とて人を殺めた事は無い、

だが、今自分がやっている事は戦争、ひいては殺人なのだ。

 

一夏の様に目的の為ならば殺人すら正当化するという訳ではないが、

自分が生き残る為に、ただ目の前の敵を討つという想いが、

彼女を突き動かしていたのだ。

 

一方の楯無は、魚雷発射管及び、

スクリュー等のエンジン部の破壊を担当していた。

 

水中での戦闘手段が限られているブルーフレームではあるが、

基からの性能、そしてスケイルシステム装備といった物が、

ブルーフレームの戦闘能力を飛躍的に向上させていた。

 

魚雷をなるべく使わない様に、

魚雷発射管はアーマーシュナイダーで切り裂き、

近付き難いスクリュー部はスーパーキャビテーティング魚雷で破壊していく。

 

なるべく艦内への浸水を避けようと努力はしているが、

やはり誘爆だけは防げない様だ。

 

「・・・、ごめんなさい・・・!でも、今はこうするしか・・・ッ!!」

 

顔も見たことの無い敵に詫びながらも、

楯無は潜水艦の甲板にアーマーシュナイダーを突き立て、切り裂いていく。

 

小回りの利かない潜水艦では、

水中戦に特化されているISに対抗できる筈もなく、

瞬く間に破壊され、沈黙、あるいは爆散していった。

 

「これで終わりッスかね?一応、周辺の探索もやっとくッスか。」

 

「えぇ・・・、行きましょう・・・。」

 

無惨な姿を晒す潜水艦の残骸達を尻目に、

彼女達は周囲の警戒に回る事にした。

 

戦局を悪化させないためにも、

自分達が後顧の憂いを絶つ。

 

その意志だけがフォルテと、

今だ迷いを抱える楯無を突き動かしていたのであった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「あぁもう!!役立たず共め!!

一人も欠かせないなんて!!」

 

亡國企業実働部隊拠点の外に出ていた束は、

自身が製作した機体の反応が途切れていくのを確認し、地団駄を踏んでいた。

 

別に機体の搭乗者が機体と運命を共にしようが気にも止めないが、

せめて敵の一機や二機を道連れに出来ると踏んでいたのだ。

 

そうなれば、自身がそれほど苦労せずに仇敵を仕留める事が出来、本願を果たせるからであった。

 

しかし、その目論見は脆くも崩れ去り、

敵はほぼ完全なまでに戦力を残し、

自身の属する組織は、既に無人機の大半を墜とされ、逃走手段も奪われ、完全に追い詰められつつあった。

 

「私が直々に出るしか無いね・・・!

あぁ、最初からそうすれば良かったんだ!!」

 

呻く様に吐き捨てた後、

チョーカーに手を触れた。

 

直後、彼女の身体が光に包まれ、

その光が晴れた時、白い機体が姿を現した。

 

一見鈍重そうな見た目ながらも、

機体各所に砲頭の様な物が見受けられ、かなりの火力を持っていると予想できる。

 

背後にはビームライフル、そして小型のシールドを装備した特殊な形状のバックパックを装備した機体。

 

その名もニクスプロヴィデンス、

アクタイオン社で設計されていたペル・グランデのデータを、ストライクやアウトフレームから手に入れたデータとミックスし作り上げた機体である。

 

ドラグーンシステムを搭載し、

オールレンジ攻撃を可能としている強力な機体に仕上がっている。

 

「さぁ、行こうか、あのふざけた男を血祭りにあげようね!!」

 

機体に語りかける様に言いながらも、

束はニクスプロヴィデンスのスラスターを吹かし、飛翔した。

 

「・・・、束・・・、一夏・・・。」

 

飛び立ったニクスプロヴィデンスを目で追いながらも、

千冬は自身の親友と弟の名を呟いた。

 

その表情は何かを思い詰めている様に、

余裕がなかった。

 

それもその筈だ、

自身の親友と弟が互いに憎み合い、殺し合おうとしているのだ、思い詰めない訳がない。

 

「二人とも、私が死なせない・・・、

お前達は私が止めてみせる・・・ッ!!」

 

振りきる事の出来ない迷いを抱えたまま、

千冬は自身の右腕を前に突き出す。

 

彼女の身体を光が包み、

黒い装甲を持った機体が展開されていく。

 

フォルムはレッドフレームに酷似しながらも、

背後にノワールストライカーを装備した機体。

 

その名もアストレイノワール、

一夏のストライクノワールを模した機体であり、

ほぼストライクノワールと同等の性能を誇っている。

 

異なった点と言えば、

ビームライフルショーティーが、

ソードピストルに取り換えられているということのみである。

 

「戦うしか無い、それでしか、

私はお前達を止める事が出来ないんだ・・・ッ!!」

 

誰に宣言する訳でもなく、

千冬は束の後を追うように飛び立った。

 

その先に、何があるのかも分からぬままに・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「むっ・・・?」

 

俺達ファントムペインはダガータイプが最も集結している中で暴れ回っていた。

 

ダガーごときが俺達に敵う筈もなく、

次々に爆散させられていった。

 

既に撃墜スコアは三桁に迫ろうかといった時だった、

何か妙な感覚に襲われ、

俺はナナバルクの方に目線を移した。

 

向こうにも敵が現れたのか、爆発の光が煌めいている。

 

しかし、それは別に驚く事ではない、

寧ろ予想の範囲内だ。

 

それならば、何に気になったのか?

 

それは無論、俺の目標が現れたということだ。

 

漸く俺が出張る時が来たようだな、

行ってやらなければ面白くないな。

 

「セシリア、拠点内部に突入、

亡國企業構成員を全て殺せ、ただし施設のメイン動力には手を出すな、後々面白いことに利用できる、

ついでにダガーに指令を出し、こっちに戻せ。」

 

「畏まりましたわ。」

 

「シャル、ミーティアを使ってセシリアを援護しろ、派手に暴れても構わん。」

 

「分かったよ、一夏はどうするの?」

 

セシリアとシャルに指示を出しながらも、

俺はミーティアをパージする。

 

俺がやるべき事は決まっている、

それをするだけさ。

 

「ナナバルクに目標が近付いている様だ、

俺はそっちに出向いてくる。」

 

「分かりましたわ、お気をつけてくださいませ。」

 

「また後で落ち合おうね。」

 

「お前達も気を付けろ、

何があるか分からんからな。」

 

まぁ、セシリアとシャルなら心配せずとも大丈夫だろう、

俺は俺のやるべき事をやるだけさ。

 

ストライクノワールのスラスターを吹かし、

俺はそっちにナナバルク目掛け飛翔する。

 

漸くこの戦いの目的が俺の目の前に出てきてくれたんだ、

盛大にもてなして、この世の地獄とやらを見せてやらないとな。

 

さぁ、恐怖の海に沈めて、

真の絶望の味を教え込んでやるぜ。

 

篠ノ之 束、織斑千冬、

ここがお前達の終着点、そしてこの俺の始発点だ!

 

クックックッ・・・、ハーッハッハッハッ!!

ハーッハッハッハッハッハッ!!

 

sideout




次回予告

ナナバルク防衛の任に着いていた三人に、
裏切りの刃が襲いかかる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
失墜の黒

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

失墜の黒

sideラウラ

 

「消えろ雑魚め!!」

 

ザスタバ・スティグマトを乱射しつつ、

私はダガーを次々に破壊していく。

 

やはりガンダムタイプの力は凄まじく、

ダガータイプ等全く相手にならない程の力を見せつけていた。

 

だが、どうしても私の胸に宿る何か、

言い表すとするならモヤモヤとした気持ち悪い物が、

何時までも消えずに、いや、時が経つに連れて、その気持ち悪さが増していっている。

 

何故なんだ?私は戦う事に疑問を持ったりはしない、

私は軍人、いや、今は兵士だ。

 

兵士が戦いの意味を考える必要なんて無い、

ただ与えられた敵を討ち、勝ち続けるだけを課せられた存在だからだ。

 

ならば何故?私はこうも気分が悪くなるんだ?

 

戦う事に疑問は無い、寧ろそれしか能が無いとしか分かっている。

 

何故だ?何故こうも気持ち悪い感覚が沸き上がってくるんだ!?

 

兄貴への疑念・・・?

それもあるかも知れない。

 

あの人のやり方が性に合わなかったのか?

いや、そんな事は無い、あの人のやったことは、正当防衛に過ぎないんだ。

 

それなのに、私は何故こうも気持ち悪い感覚に襲われるんだ!?

 

「このッ!!しつこい・・・ッ!!」

 

フォルファントリーを発射し、

一度に数機のダガーを纏めて爆散させていく。

 

今は勝つこと、ナナバルクを護ることだけを考えろ!!

私は兵士、ただの戦闘単位でしかないんだ!!

 

自分に無理矢理暗示をかけながらも、

私は目の前の敵と向き合い、トリガーを引き続けた。

 

それがどれぐらい続いたのか、

ハイペリオンのセンサーにこちらに急接近してくる機体の反応があった。

 

こんな時に敵の増援だと!?

流石にキツくなって来たというのに・・・ッ!!

 

「山田先生ッ!!接近してくる敵機の反応があります!」

 

「こっちでも確認しました!二人とも気を付けてください!!」

 

山田先生も察知したのか、

私と鈴に向けて警戒を促してくれた。

 

喩えどんな敵が来ようとも、

命を懸けてもやり遂げてみせる!!

 

近付いて来る敵機が目視できる頃になると、

だんだんとその機体のフォルムが認識出来る様になってきた。

 

一機は何やら多数の砲頭を装備した機体だが、

もう一機の形状はどこか見覚えがあった。

 

「アストレイ・・・?それともノワール?」

 

いや、そのどちらでも無い、

もっと噛み砕いて言うならば、レッドフレームにノワールストライカーを装備した様な印象の機体だ。

 

「ガンダムタイプだと?誰が操縦しているんだ!?」

 

「聞きたいかい?」

 

私の叫びに答えるかの様に、

オープンチャンネルから女の声が聞こえてきた。

 

この声は、篠ノ之 束か!?

何故こっちに来ているんだ!?

 

「その戦艦、放っといたら面倒な事になりそうだからね、

さっさと落とさせてもらうよ!!」

 

最悪だ、まさか敵の最大戦力が出てくるとは思っていなかった・・・ッ!!

 

兄貴もこの事を予測出来なかったのかも知れない、

でなければ、御自身が最前線にわざわざ出向く筈もない・・・!

 

完全に裏をかかれてしまった・・・!

 

兄貴に、いや、

近くにいる誰かに報告したいところだが、

それをしている内に攻撃されかねない・・・ッ!

 

「さぁさぁ!コイツらも殺して、さっさとアイツの所に行こっ、ねぇ、ちーちゃん?」

 

なんだと・・・!?

今、アイツはなんと言ったんだ・・・!?

 

顔が認識出来る距離に入った時、

私達の目に飛び込んで来たのは、

黒い機体を纏った織斑教官だった・・・。

 

sideout

 

noside

 

束と千冬の登場に、

ラウラと真耶は有り得ないといった様な表情をしながらも、千冬を凝視していた。

 

片や自身の教官であり恩人、

片や自身の先輩である者の最悪な登場に、

何を言うべきか分からずに混乱しているのであろう。

 

「どうして・・・!?どうしてなんですか!?織斑先生!?」

 

「何故教官が・・・!?」

 

やっとの事で絞り出した声は掠れ、

嘘であって欲しいという想いが籠っていた。

 

「何故?見て分からないのかな?君達は?

ちーちゃんは私の所に来てくれたんだ、

君達を捨ててでもね。」

 

「・・・。」

 

真耶とラウラを嘲笑うかの様に、

束は千冬を見ながらも言い放った。

 

そんな中でも、千冬はただ押し黙り、

佇んでいるだけだった。

 

「貴女は、貴女は何を考えているんですか!?

こんな意味もないテロ行為に加担して!?」

 

「山田先生・・・!?」

 

普段考えられない様な怒気を孕んだ声で、

真耶が千冬に向けて吼えた。

 

普段は穏やかな彼女の叫びなだけに、

ラウラですら我に返り、真耶に向けて驚愕の視線を送っていた。

 

「こんな差別主義を煽るテロに!

何の意味があると言うんです!?」

 

「意味がないだって!?知った風な口を叩くな!!」

 

真耶の言葉に逆上したのか、

束はドラグーンを数機射出、グリーンフレームにビームを撃ちかける。

 

「くっ・・・!?」

 

「山田先生!!何故です!?何故こんなテロに加担するのですか!?教官!!」

 

何か言ってくれという切実な想いが籠められた言葉を、

ラウラは千冬に向けて叫ぶ。

 

しかし、帰ってくるのは沈黙のみ、

彼女が望む物は返ってこない。

 

「教官!!どうしてなんですか!?」

 

彼女とて、恩人を撃ちたくないという感情はある、

しかし、それを圧し殺してでも、ラウラはザスタバ・スティグマトを千冬に向けて構える。

 

「一夏と束を止める為なんだ・・・、分かってくれ、ラウラ!」

 

思い詰めた表情をしながらも、

千冬はノワールストライカーよりフラガラッハ3ビームブレイドを引き抜き、二刀流の要領で構える。

 

「お前を殺したくは無い、下がれ!!」

 

「出来ません!!教官こそ退いてください!!

こんな戦いに意味なんてありません!!」

 

「私には、何よりも重要な意味があるんだ!!」

 

ラウラに退く意志が無いと見た千冬は、

スラスターを吹かし、一気にラウラに迫る。

 

「ッ!!」

 

咄嗟にロムテクニカRBWタイプを引き抜き、

振られるビームブレイドをなんとか捌く。

 

「何故だ!?何故こんなことをするのですか!?」

 

「間違っている者を止めるだけだ!!

私はこうするしか出来ない!!赦せ、ラウラ!!」

 

機体の性能は兎も角、、パイロットの技量が違いすぎる為、

ラウラは劣勢を強いられる。

 

千冬の圧倒的な剣捌きの前に、

近接戦闘専門では無いラウラが敵う筈も無い。

 

ザスタバ・スティグマトを切り裂かれ、

体制を崩した際にロムテクニカRBWタイプすら弾き飛ばされた。

 

アルミューレ・リュミェールを展開しようにも、

千冬の剣の方が速い。

 

対艦刀がラウラを捉えようとした刹那、

何処からかレールガンが飛来し、

千冬に着弾し、大きく体制を崩させる。

 

「がっ・・・!?」

 

「ッ!!えぇい!!」

 

千冬が体制を崩したのを察知したラウラは、

千冬の腹を殴り、大きく距離を取る。

 

「今のは・・・!」

 

「山田先生、ラウラ、鈴、無事か?」

 

ラウラがレールガンが飛来した方角を見ると、

漆黒の機体、ストライクノワールを纏う一夏がこちらに向かってきていた。

 

「兄貴!!」

 

「一夏君!!」

 

「い、一夏!」

 

ラウラと真耶は最強の援軍に歓喜の声をあげ、

鈴は緊張し続けていたせいで震えた声をあげた。

 

「よく俺が到着するまで持ちこたえてくれた、

三人とも無事でなによりだ。」

 

一夏は三人への労いの言葉をかけた後、

千冬と束へと視線を移す。

 

「やぁ織斑一夏・・・!わざわざ殺されに来てくれたんだね!!」

 

「殺されに来た?寝言は寝てから言うものだぞ?」

 

束の嬉々とした声を鼻で笑いながらも、

彼は言葉を紡ぐ。

 

「まぁいい、この戦いを終わらせる為には貴様らを討たねばな・・・。」

 

ビームライフルショーティーを左手に保持し、

右手にはフラガラッハ3ビームブレイドを保持する。

 

「兄貴・・・、何故教官はこんな事を・・・?」

 

一夏が答える事を期待した訳では無いが、

ラウラは自身の不安を拭う為に彼に尋ねた。

 

彼女の近くに佇む真耶も、

答えて欲しいという眼で彼を見ていた。

 

「そうだな、俺の解釈で良いなら教えてやろうか、

アイツはな、ただ自分の利益になるからという理由で、俺達を裏切ったのさ、なぁ、白騎士のパイロット、織斑千冬?」

 

彼女達の反応を楽しむかの様に、

彼は表情を愉悦に歪ませながらも宣う。

 

「きょ、教官が白騎士の・・・!?」

 

「そうだ、お前の軍人としての誇りを踏みにじった、白騎士のな。」

 

驚愕するラウラに諭す様に言いながらも、

彼はショーティーの銃口を千冬に向けながらも言葉を紡いでいく。

 

「アイツの望みはな、ただ自分の私利私欲を満たす事なんだよ、宇宙開発用として作られたISを兵器としたのも、お前を失墜させたのも、持ち直させたのも、全て奴の遊びの為だったのさ。」

 

「・・・ッ!!」

 

一夏の言葉に、ラウラの顔色が変わった。

 

驚愕一色の表情の中に、僅かな怒りがその瞳に宿った。

 

「現に見てみろ、これは見方を変えれば侵略戦争だ、

しかも女尊男卑の風潮をより悪化させ、人類そのものを滅ぼす恐れもある事に、奴は加担している、

何故だか分かるか?答えは単純、そうすれば自分が崇め奉られ、女の為の英雄になる、全てが私利私欲に満ちているだろう?」

 

「そん・・・な・・・。」

 

一夏が語る内容が、

聞いていたラウラと真耶の胸に突き刺さる。

 

その痛みは、信じていた者が、

最初から自分達を利用していた事への、絶望だった。

 

「ラウラ、お前は千冬に鍛えられたと言っていたな?

それは、お前がアイツに追い付けないと思い、アイツがお前を鼻から道具として利用する為に、お前を鍛えたのさ、

憎いだろう?怒れ、憎め、呪え、お前は道具じゃ無いだろう?その憎しみは正しい!」

 

一夏の言葉に弾かれる様に、

ラウラはもう一丁のザスタバ・スティグマトを呼び出し、千冬に向けて乱射する。

 

「ラウラ・・・!?」

 

「お前は、お前は私を貶め、それを知ってて私を弄んでいたんだな・・・!!お前は教官なんかじゃない!!私の憎むべき敵!白騎士ィ!!」

 

ラウラの内側で溜まりに溜まっていた疑念、葛藤が千冬への怒りへと変わり、遂に爆発した。

 

その人形の様に愛らしい顔を、

どす黒い憎しみの感情で染めながらも、

彼女はフォルファントリーを発射した。

 

「ラウラ!止めろ・・・、ぐっ・・・!?」

 

フォルファントリーの光弾を回避したところに、

何発ものマシンガンが撃ちかけられる。

 

撃ったのは、グリーンフレームを纏う真耶であった。

 

彼女も眼鏡の奥の瞳を怒りで燃やし、

千冬を睨み付けている。

 

「教え子を・・・、それも貴女のせいで失墜した教え子を私利私欲の為に弄んで!!自分だけ甘い蜜を啜る気なんですね!?貴女は、お前はそれでも教師なんですか!?」

 

教師として千冬の事を純粋に尊敬していた真耶は、

彼女の裏切りを赦す事が出来ず、

ラウラ以上の怒りを見せながらも攻撃を開始した。

 

「ちーちゃん!!」

 

「余所見をしている暇があるのか?

お前とて、奴と同罪なんだぞ?」

 

親友が攻撃を受け始めた事に反応した束に対し、

一夏はショーティーを連射し、先に行かせない。

 

「お前の目的は俺だろ?篠ノ之 束?」

 

「織斑・・・一夏・・・!!

くーちゃんの仇を取らせてもらうよ!!」

 

挑発するように不敵に笑う一夏に反応し、

束は嬉々として彼に向かっていく。

 

(クックックッ・・・、愚かなり、篠ノ之 束、

お前が沈む絶望とやらは、どれ程の物だろうな?

 

一夏は挑発するような笑みを崩さないまま、

内心で盛大な笑いをあげそうになるのを必死に堪えていた。

 

彼の計画の内の一つが、

ほとんど何の労力も無いまま果たされようとしている。

 

これを笑わずにいられるだろうか?

 

(笑わずにはいられねぇよな、実際問題、愉しすぎてな!)

 

心の内で結論を出した後、

彼はラウラと真耶が千冬に襲いかかっているのを再度確認する。

 

(お前達には時間稼ぎをしてもらおうか、

コイツらに絶望を与えるためのな。)

 

誰に向けて話すわけでもなく、

彼は小さく呟いた後、向かってくるビームを回避するべく動く。

 

彼の思惑が、遂に本格的に動こうとしていた・・・。

 

sideout

 




次回予告

圧倒的な力を見せ付ける一夏は、
束に絶望を贈る。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
黒き龍

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒き龍

side一夏

 

ニクスプロヴィデンスの装甲より射出されたドラグーンは縦横に飛び回り、

俺を包囲するように展開される。

 

しかし、この程度ならばドラグーンを運用するにあたっては、初歩中の初歩、対処法など幾らでもある。

 

例えば・・・。

 

「こんな感じにな。」

 

一番手近にあった一基のドラグーンに向け、

ビームライフルショーティーのビームを撃ちかけ、破壊したと同時にその隙間に飛び込む。

 

その直後に、俺が元いた場所を幾条ものビームが貫く。

 

ドラグーンやビット系の兵装には、

展開から発射までに僅かなタイムラグが生じる。

 

それをカバーするためには乗り手が波状攻撃を仕掛けるなり、

数基を牽制に用いて本命へのマークを薄くさせる等、気を配らねばならない事は多い。

 

だが、今回の様に何の捻りもなく、

ただ全方位に配置するだけでは抉じ開けられるのも無理はない。

 

「避けられた!?バカな・・・!?そんなことがあるわけが無い!!」

 

どうやら、俺が余裕を持って回避した事が信じられんらしい、

束は叫びながらも再びドラグーンを飛ばしてくる。

 

愚かしいことこの上無い、

俺は最強のドラグーン使いを知っている、

この程度の攻撃など、彼女の猛攻の前では小雨が降っている様にしか感じられない。

 

「この程度で俺を殺すと粋がっていたのか?

ちっぽけな自尊心にすがっているとは、天災とやらも堕ちたものだなぁ?」

 

「ッ!!だ、だまれぇぇぇ!!」

 

この感覚は、俺が殺したくーとやらを相手にしていた時に感じだ物と同じだな。

 

感情に身を委ねるだけで理性で戦わない、

逆上した人間がよくやる事だ。

 

理性の無い攻撃など、

避けてくれと言っている様なものなんだけどな。

 

つまらん、必要とは言えど、

この程度を相手にするのは極めて怠い。

 

さっさと墜としてやるとするか。

 

右手に保持していたビームブレイドを格納し、

ストライク専用ビームライフルを呼び出す。

 

「配置する場所が分かり易い、

この程度で俺を殺せると思うな。」

 

振り返り様にドラグーンを二基撃ち抜き、

空いたスペースに移動しながらも他のドラグーンを次々に撃ち抜く。

 

本体自体に手持ち兵装を持たせていないニクスプロヴィデンスを選んだのと、

この俺を敵に回したことがお前の運の尽きだったな、篠ノ之 束!

 

「これで終わりだ!!」

 

ノワールストライカーのレールガンも併用し、

一気に四基のドラグーンを落とす。

 

「そ、そんな・・・!?」

 

「残るはお前だけだぜ?束さんよぉ?」

 

ビームライフルを格納し、再びビームブレイドを引き抜きながらも、俺は一気に束に迫る。

 

「ま、まだだぁッ!!」

 

奴はドラグーンストライカーよりユーディキウム・ビームライフルを右手に保持し、左肩より複合兵装防盾システムを左腕に装着、ビームソードを発生させながらもこちらに向かってきた。

 

俺の間合いに飛び込むか、上等、受けて立ってやろう。

 

ビームブレイドとビームソードが切り結ぶ時、

閃光が迸る。

 

「出力は高いが、乗り手の技量は低い、

それに機体の完成度も低い、よくこんな機体を最高傑作と呼べたな?」

 

「黙れ!!お前に何がわかる!!私が創ったISを好き勝手に弄って!!お前はISを汚したんだ!!」

 

俺の言葉に激昂しながらも、

奴は怨嗟の叫びをあげた。

 

どうやら、うまくいかない鬱憤を、

全て俺のせいにしたい様だ。

 

あぁ、実に滑稽だよ、お前って奴はな。

 

「ならば、何故宇宙開発用のISを兵器とした?

俺達の使っているISはただ戦争するための道具、

それ以上でもそれ以下でも無いんだぞ?」

 

「・・・ッ!!」

 

俺はISのことを兵器として運用している、

ハナからこう言う物だと認識していたからな。

 

コイツは自分のやったことを認識してないんだろうな、

それ故に人に押し付ける、まるで子供の駄々の様にな。

 

まぁいい、コイツの役目は既に終わっている、

後は絶望と共に消えてもらおうか。

 

奴が動揺した一瞬の隙にユーディキウム・ビームライフルをビームブレイドで切り裂き、

胴を蹴って体制を崩させる。

 

「面白い事を教えてやろう、

ミラージュ、ゴールド、そしてペル・グランデ、

コイツらのデータをお前にくれてやったのは、この俺さ。」

 

「なっ・・・!?嘘・・・、嘘だッ!!」

 

「哀れ、お前はくーの右腕を切り落とした俺を憎み、

俺を殺すためにデータを使い、ダガーを作った、

だが、それでは俺を殺せないと知ったお前は、

アクタイオンからデータを盗もうとした、

そして、ミラージュ、ゴールド、ペル・グランデのデータを手に入れる事に成功した、つもりだった。」

 

そう思わせたのは、コイツの慢心、そしてそこに付け入ったルキーニの手腕だろう、

普通ならば罠と疑うなりなんなりするはずだが、

コイツはそれをしなかった。

 

実に愚かしい事だと思わないか?

俺は可笑しすぎて笑いそうだったよ。

 

「ところがどっこい、あのデータはアクタイオン社で失敗作として廃棄されるデータだったのさ、

それに気付くことなく、お前は俺の策略にはまったのさ。」

 

「嘘だ・・・、嘘だよ・・・!そんなことが、この束さんがそんなモノにはまる訳なんて・・・ッ!!」

 

動揺した隙に、左腕をビームブレイドで切り落とし、

最後の兵装を奪い取る。

 

「ウアァァァァァ!!?」

 

「お前達は俺が望む未来には不要の存在でな、

出来るだけ正当に消せる理由を考えていたのさ、

そして、お前達はまんまと俺の思惑に乗せられ、

世界に侵略戦争を仕掛けてくれた、お前達は実によく働いてくれたよ、俺の計画の為にな。」

 

本当に操り易かったさ、

俺の望みを叶える為の手駒としては最高の、な。

 

そんな事を考えながらも、

俺は再びビームブレイドを振るい、右腕と右脚を切り落とす。

 

「アァァァァァッ!!!?」

 

「お前は実に有益な手駒だったよ、

世界に悪意をばら蒔いてくれたんだ、後は俺が有効活用させてもらう、

だが、これから俺が作る世に、お前達の居場所は無いんだよ、

あるとするならば、地獄だけさ。」

 

コアがある部分にビームブレイドを突き立て、

ISの機能を停止させる。

 

さぁ、仕上げと行こうじゃないか。

 

ビームブレイドの刃を首筋に近付けながらも、

俺は束の髪を掴み、離すことは無い。

 

この一太刀は終わりの為では無い、

真章の幕開けの一太刀だ!

 

「ありがとう、そしてさようならだ、

世界的大犯罪者、篠ノ之 束、地獄の湯の加減を、お前自身で味わうといい!」

 

ビーム刃を発生させ、束の首を切り落とす。

 

首と離れた身体は、装甲の重量と相まって、

引力に引かれ、瞬く間に氷の大地へと落下していく。

 

地表に激突した瞬間、

奴の身体は投げつけられたトマトの様にひしゃげ、

辺りに赤い液体を撒き散らした。

 

哀れなものだな、世界を掻き回した天災の末路が、

この様な極寒の地で終わるとは・・・。

 

そんなことはどうでもいい、

この戦争での目的の内の一つを果たせた。

 

後はセシリアとシャルに任せておいた事が終われば、

ほぼミッションコンプリートだ。

 

いや、そういえばまだ、

やることが残っていたな。

 

「ガンダム各機に通達、

只今、この戦争の首謀者、篠ノ之 束の殺害に成功、

亡國企業構成員を完全抹殺後、ナナバルクに帰艦せよ。」

 

俺は全機に向け通信を入れ、

最後の命令を出した。

 

命令は至ってシンプル、敵の完全抹殺だ。

 

それが済めばこの戦闘の目的は達した事になるからな。

 

「まぁいい、残るはアイツだけだな・・・。」

 

さぁ、お前の親友は死んだぞ?

親友と同じ様に新世界への生け贄になってもらおうか。

織斑千冬。

 

sideout

 

noside

 

ラウラと真耶を相手に、

千冬は防戦一方の状況に陥っていた。

 

怒りを爆発させたラウラと真耶は、

防御をかなぐり棄てて攻め立てているために、

彼女が反撃する隙が全くと言って良いほどに無いのだ。

 

「くっ・・・!!やめろ二人とも・・・!!

私は一夏を止めねばならないんだ・・・!!」

 

「黙れ!!この偽善者がァ!!」

 

「お前は、私がここで討ちます!!」

 

一夏に束を殺させない為だけに、

彼女はこの戦いに参戦したのだ。

 

他の者を討つ覚悟など出来ていないに等しい。

 

それ故に、かつての教え子と同僚に、

武器として刃を振るう事が出来ないのだ。

 

撃ちかけられる弾丸を回避し、

突き立てられる刃を捌き続け、どれ程の時がたったのだろうか。

 

オープンチャンネルで一夏の声が響いた。

 

『ガンダム各機に通達、

只今、この戦争の首謀者、篠ノ之 束の殺害に成功、

亡國企業構成員を完全抹殺後、ナナバルクに帰艦せよ。』

 

無慈悲な一夏の声に弾かれる様にして、

彼女は一夏と束が戦っていたと思われる方向を仰視した。

 

そこには、絶望に染まりきった束だった物の首を持った、返り血で黒い機体を赤く染めた一夏が佇んでいた。

 

一瞥しただけで分かる、

束は一夏に傷一つ与える事も出来ずに殺されたのだ。

 

「一夏・・・!!お前は・・・!!お前という奴は・・・ッ!!」

 

その姿に憤慨した千冬は、

ラウラと真耶から攻撃を受ける事を無視し、

一直線に一夏へと機体を走らせる。

 

「お前は何をやっているんだ!?

何が望みだ!?一夏ァッ!?」

 

「俺のやっている事が理解出来んか?

哀れだな、織斑千冬?アンタにもここで消えてもらわなければいけないんでね、姉だとしても殺す。」

 

振られるビームブレイドを、

彼は同じ様にビームブレイドを振るい、受け止めた。

 

「殺すだと!?どの口がほざくか若造が!!」

 

「お前より実年齢は上さ、それに、

お前ごときが俺に勝てる道理は何処にも無い。」

 

ビームブレイドを巧みに振るい、

千冬の体制を崩し、すかさず蹴り飛ばす。

 

そこに一切の無駄な動作はなく、

洗練された技だけが光っていた。

 

「ぐっ・・・ッ!!一夏・・・!!

良いだろう・・・、私が修正してやる・・・!!」

 

「来いよブリュンヒルデ、いや、世界的大犯罪者、白騎士、織斑千冬、俺が引導を渡してやろう!」

 

束の首をラウラに投げ渡し、

自分はI.W.S.P.に換装し、千冬へと向かっていく。

 

「ラウラ、ソイツの首は絶対に無くすなよ?いいな?」

 

「は、はい・・・!!」

 

一夏から束の首を投げ渡されたラウラは、

おっかなびっくりながらもしっかりと受け取り、

一足先にナナバルクへと戻っていった。

 

真耶は彼女を護衛するかの様に追従し、

ラウラがナナバルクへ着艦した事を確認した後、

単機でダガーを相手にしていた鈴の援護に回った。

 

(さぁ、織斑千冬、地獄を楽しみな!!)

 

凄絶な笑みを浮かべながらも、

一夏は対艦刀を振り抜いた。

 

sideout

 

noside

 

『ガンダム各機に通達、

只今、この戦争の首謀者、篠ノ之 束の殺害に成功、

亡國企業構成員を完全抹殺後、ナナバルクに帰艦せよ。』

 

オープンチャンネルで響いた一夏の声に、

マドカとの戦闘後、ナナバルクへと向かう気配を見せたダガーを相手にしていた秋良は、

何処と無くやるせない様な表情をしながらも、その通信を無味乾燥な心地で聴いていた。

 

もうどうでもいい、今はただ、

やれる事だけをやろう。

 

そう自分を無理矢理納得させ、

彼は無心に、ただひたすらにシシオウブレードを振るっていた。

 

しかし、何か、

背中を冷たい氷でなぞられる様な感覚に襲われ、

彼は反射的にナナバルクが佇む方へと目を向ける。

 

ダークグレーの戦艦は、

出撃前と変わらない姿で佇んでおり、

何も変わらない様に見える。

 

だが、彼にはどうしても拭い切れない違和感があった。

 

まるで、誰かに呼ばれている、

そんな感覚がしたのだ。

 

「・・・ッ!!」

 

自分が行かなければならない、

反射的にそう考えた秋良は、ゲイルストライクのスラスターを吹かし、ナナバルクへと機体を走らせる。

 

「秋良!?どうしたの!?」

 

彼の近くでプロトン・セイバーを二刀流で使用し、

向かい来るダガーを相手にしていた簪は、

秋良の唐突な戦線離脱に驚きながらも彼に問いかける。

 

「誰かに、誰かに呼ばれた気がしたんだ!

悪いけど俺は先にナナバルクに戻る!」

 

「待って!秋良!!」

 

何か取り憑かれたかの様に急ぐ秋良に違和感を覚えた簪は、

ダガーを薙ぎ倒しつつも彼の後を追った。

 

その先に、何があるのかも分からぬまま、

二機は大空を駆けた。

 

sideout




次回予告
道を違えた姉弟の結末は、
血濡れの未来への序曲か・・・。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
悪鬼羅刹

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悪鬼羅刹

side一夏

 

ビームブレイドを構え、

猛然と迫ってくるアストレイノワールに対し、

俺は対艦刀を構え、迎え撃つ。

 

一応I.W.S.P.の対艦刀は、俺が使うことを前提にラミネート装甲でコーティングしている。

 

切り裂かれる心配はそこまで無いが、

相手は堕ちたとはいえども世界最強となった女だ、

取り越し苦労とも思える位の用心はして正解だろう。

 

「一夏ァッ!!」

 

「熱くなりすぎだ、もっとクールに行ったらどうだ?」

 

振られるビームブレイドを対艦刀でそらしながらも、膝蹴りを叩き込んで弾き飛ばす。

 

悪いが如何に最強だったとは言えど、

俺の力量には及ばんよ、特に格闘戦についてはな。

 

男女の筋力の差、身体能力、そして機体の完成度、

すべてにおいて、俺は千冬の上に立っている。

 

この差は何かしらの策を用いねば埋められる事の無い差ではあるが、

生憎目の前の千冬は頭に血が上ってる状態だからな、

そんな高度な事ができようはずもない。

 

ならば、油断せずにかかろうじゃないか、

こんな所で死ぬ訳にはいかないからな。

 

「くっ・・・!まだだッ!!」

 

弾き飛ばされたビームブレイドの代わりに、

千冬は左手でソードピストルを引き抜いて切りつけてくる。

 

だが、この程度の斬撃など、

俺にはスローモーション再生をしているかの様にしか見えない。

 

しかも、この程度の細剣など、

ある部分に強烈な力を加えれればいとも簡単に折ることが出来る。

 

機体のパワーアシストをフルに使い、

腕にかなりの力を込めて対艦刀を振るう。

 

激突と同時に、ソードピストルの刀身は拮抗する事もなく真っ二つに折れた。

 

「ば、バカな・・・!?これ程までの力があったのか・・・!?」

 

「脆いな、やはり天災はお前を利用する心づもりでいたようだな、そうでなければこれほどずさんな機体を親友に渡す筈も無い。」

 

「違う!!束は・・・、束はそんな事をするヤツじゃない・・・ッ!!」

 

俺の言葉に、千冬は動揺しながらも叫んだ。

 

哀れなモノだな、親友の本性を見ないまま、

利用され続けていた事に気付かないとはな・・・。

 

「ならば何故、この戦争を仕掛けた?誰かを利用するつもりが無いのならば、この様な無駄な殺傷もしないはずだ、貴様は自分の都合の良いところしか物事を見てねぇんだよ。」

 

そう、自分の目的を成そうとするならば、

誰かを利用し、踏み台としなければならないだろう。

 

利益を得る者がいる一方で、

逆に利益を得られず消えていく者も当然ながら存在する。

 

万人が得をする政策など無いのと同じで、

万人が得をする目的など無いのだ。

 

コイツはその事実から目を背けている、

自分の都合の良いところしか捉えず、

都合の悪いものは考えないように、見ないようにしている。

 

それが物事の偏りを生み、歪みの原因となっていく。

 

コイツはそれを理解せずに束と結託し、

世界を乱した、その罪は重い。

 

「ならば聞いてくるといい、篠ノ之 束にお前が直接な。」

 

これ以上相手にするのも徒労だ、

さっさと終わらせて、次のステップに進ませてもらおうか。

 

リミッターを解除し、

攻撃力を飛躍的に向上させる。

 

右手に保持されていたビームブレイドを弾き飛ばし、

そのままの勢いで対艦刀を振るい、右腕を切り落とす。

 

「ぐぅあぁぁぁぁっ!!?」

 

悲鳴をあげ、怯んだ隙に右腰に残ったソードピストルを破壊、

そのまま首にワイヤーアンカーを巻き付け、絞め上げながらも背後に回る。

 

「ガッ・・・!いち、か・・・!!」

 

「さようなら、千冬姉、この十六年間世話になったな、

せめてもの報いだ、俺がこの手で殺す。」

 

腰を蹴りつけ、ワイヤーで首を絞めあげながらも、

リミッターを外したパワーを使い、斜め後方に捻りながら引っ張り上げた。

 

これならば、ワイヤーアンカー程の太さならば、

首に食い込み、肉を裂き、骨をも砕ける。

 

案の定、千冬の首はそのままもげ、

繋がっていた部分からは血が噴水の様噴き出していた。

 

さようならだ、織斑千冬、

アンタの事は忘れねぇさ。

 

千冬の首を右手で掴みながらも、

ビームライフルを呼び出し、アストレイノワールのコアを撃ち抜いた。

 

下手に何処かの国に回収されても面倒だ、

ここで消しておくに越したことは無い。

 

さて、ミッションコンプリートだ、

ダガー達も拠点に戻って行くのが確認できた。

 

どうやらセシリアとシャルが上手くやれた様だな、

敵も消えたことだしな。

 

そう思い、ナナバルクへと帰艦しようとした時だった・・・。

 

「兄さん・・・!!アンタは、アンタは何をやってるんだぁぁぁ!?」

 

遥か彼方より、秋良の怒号が響き渡り、

アイツが凄まじい勢いで此方に向かってくる。

 

「チッ、耳障りな声をあげる・・・、何の用だ?」

 

「実の姉を殺すなんて・・・!!アンタは本当に人間なのかよ!?」

 

振られるシシオウブレードを対艦刀で受け止め、

少しでも距離を開けようと後退する。

 

面倒な事になったな・・・、

まぁいい、裏切りは確定、ならば殺すことも致し方無しだ!

 

sideout

 

side秋良

 

俺は一夏の首を目掛けて、

一心不乱にシシオウブレードを振るう。

 

頭に血が上りきっているのか、

熱で頭がガンガン痛むけど、そんな事はお構い無しに攻め続ける。

 

「何故だ!!何故アンタは実の姉を殺したんだ!!

答えろよッ!!おいぃッ!!」

 

何故ここに姉さんがいたのかは分からないけど、

アイツはなんでこうも簡単に実の姉を殺せるんだよ!?

 

怒りに身を任せながらも、

何時もの何倍もの力でシシオウブレードを振るい続ける。

 

「チッ!よく聞け、織斑千冬は俺達を裏切り、

亡國側に着いていた、それに俺は言っただろう、

裏切りを働いたのなら、喩え誰が相手であろうと殺すとな!」

 

アイツはシシオウブレードを対艦刀で払い、

俺の腹に蹴りを入れてくる。

 

あまりの衝撃に胃液を吐き出しそうになるが、

何とか堪え、ウィングソーも引き抜き、二刀流で迫る。

 

「だからって!アンタは血肉を分けた姉を殺せるのか!?

アンタの血は何色なんだよ!?おいぃッ!!」

 

刀一本と二本では攻め手に大きな差が表れる、

それに、一夏は姉さんの首をその手に抱えてる分、

片手しか使えて無い。

 

「お前まで俺を裏切るのか?秋良!!」

 

そう思ったのだが、一夏は対艦刀一本で俺が振るう刃を全て凌ぐ。

 

いや、それどころか此方に反撃しようとしてくる。

 

何処にそんな余裕があるんだ・・・!?

 

「裏切ったのはアンタの方だろうが!!

俺達を手駒として使ってたんだろ!?アンタはぁ!!」

 

突き出したシシオウブレードの斬撃は、

ストライクEの左肩の装甲を抉り取るけど、

一夏は構わずに突っ込み、ウィングソーを対艦刀で叩き折った。

 

「お前がそう思うならそうなんだろうよ、

お前の中ではなぁッ!!」

 

「・・・ッ!!」

 

その言葉は、俺の胸に深々と突き刺さり、

頭に上っていた血が、サッと引くような感覚を覚えさせた。

 

一夏・・・!!アンタは何を考えているんだ!?

どうしてそんな事を平然と行えるんだよ!?

 

「俺の考えに賛同しないのは勝手だが、

この攻撃は敵対行動と見なし、お前を排除する!」

 

俺が動揺して止まってしまった僅かな隙に、

リミッターを解除したであろう突きを、俺の心臓目掛けて打ってきた。

 

「・・・ッ!!」

 

咄嗟にバックブーストを行って後退するけど、

やはり相手の突きの方が幾分か速かった。

 

対艦刀が装甲を突き破り、

ゲイルストライクのコアを貫いた。

 

「ガハァッ・・・ッ!」

 

何とか後退してたからか、

薄皮一枚が抉られる程度の傷で済んだ。

 

だけど、PICが切れ、

俺は真っ逆さまに堕ちて行く。

 

なんでだよ・・・ッ!!一夏ッ!!

 

sideout

 

noside

 

秋良を追い、彼より少し遅れてナナバルク付近の空域に戻ってきた簪は、

目の前で繰り広げられられている戦闘に絶句した。

 

一夏と秋良が凄まじい形相をしながら戦っている事では無く、

何故一夏の手に千冬の首が収まっているのかが理解出来なかったのだ。

 

(何がどうなってるの・・・!?なんで・・・!?)

 

理解が追い付かない簪を他所に、

彼等の戦いに終わりが近付いた。

 

一夏が秋良の胸を突いた後、

PICが切れたのか、ゲイルストライクが落下を始めた。

 

「秋良ぁッ!!」

 

その瞬間、我に返った簪は懸命にスラスターを吹かし、

地表に堕ちて行く秋良を何とか受け止めた。

 

「秋良!!大丈夫・・・!?」

 

「なんとかね・・・、でも・・・。」

 

胸部を見やると、ゲイルストライクのコアが、

見るも無惨に砕けていた。

 

起動はおろか、修復も不可能であると一見して判別できた。

 

「何故だよ・・・!!何故殺さないんだ!?」

 

「戦う力を持たない雑魚など、殺す価値もない。」

 

冷たく言い発った一夏は、

もはや眼中にも無いとでも言うかのごとく、

彼等に背を向けナナバルクへと戻っていった。

 

「どうして・・・?なんでこうなっちゃったの・・・?」

 

どうして仲間同士で争う事になったのか?

どうして彼等は戦うのか・・・?

 

簪は自問自答するも、

答えが出る気配は一向に無かった・・・。

 

sideout

 

noside

 

一夏が千冬と戦闘を行っていた頃、

亡國企業実働部隊拠点に突入したセシリアは、

逃げ惑う構成員を殺害しながらも中枢部へとたどり着いた。

 

シャルロットはダガーを引き付けるため、

外部でミーティアを駆り、奮戦していた。

 

「ここが中枢部ですわね・・・、案外近い場所にありますこと。」

 

コントロールルームにいた構成員の頭部をリトラクタブルビームガンで寸分違わず撃ち抜きながらも、

彼女は悠然とコンソールに近付いた。

 

だが、そこであることに気付く。

コンソールの画面に表示されている数字がみるみる内に減少していくのだ。

 

「これは・・・、自爆シークエンスという訳ですか・・・。」

 

敵に情報を与えない為に、

拠点ごと自爆し、データを送信した経歴を残さない事は、非常に覚悟のいる決断であると言えるだろう。

 

だが、そんな事は、彼女の前では無駄にも等しかった。

 

「もっとも、無意味なのですがね、フリーズ(止まりなさい)。」

 

彼女がそう呟いた途端、

モニターの表示がerrorという文字に変わり、

自爆シークエンス自体が中断された。

 

「流石はミラージュコロイドウィルスですわね、

この程度の端末を支配下に置くなど、お手の物と言うわけですか。」

 

セシリアが先程使用した物、

それはアクタイオン社が開発した特殊なウィルスである。

 

ミラージュコロイドを媒介に、

端末を制御下に置き、自由に操作できるというものである。

 

これを敵機に対して使用すれば、

敵機がウィルスに対する対策を施していない限り、

自身の機体の姿を敵機のモニターから消し、

存在を気取られる事が無くなる。

 

つまりは真実を歪める力を持っていると言うことだ。

 

「ですが、今は真実を知るとさせていただきましょうか。」

 

コンソールをそのピアニストの様に細く美しい指で叩き、

次々に情報を呼び出していく。

 

「これは・・・、世界各地にある拠点、及び構成員の情報、それに融資していた政治家までの情報が・・・。」

 

開示される情報を読み上げる彼女の目が、

驚愕に見開かれる。

 

なるほど、一夏が欲しかったのはこれだったのかと・・・。

 

「ふ・・・、ふふふ・・・、やはり一夏様には敵いませんわ・・・、それでこそ、私達を支配する殿方ですわね。」

 

楽しげに呟いた後、

再びウィルスを操り、ダガー達に拠点内へと戻るコマンドを送る。

 

「あなた達には手駒として役に立ってもらいますわよ、

一夏様が成される、エルドラド(黄金郷)の礎になりなさい。」

 

愛しき男の成す事の先を思い浮かべ、

彼女は高らかに笑った。

 

まるで、何かに取り憑かれたかの様に・・・。

 

sideout

 

noside

 

篠ノ之 束が引き起こした最悪の侵略戦争は、

アクタイオン・インダストリー社所属の織斑一夏を中心とするガンダムタイプの機体のみで編成された14機の遊撃隊によって、僅か数日で鎮圧された。

 

この戦争により、全世界で死者七七万九千五百人、

行方不明者は約三百万人にのぼる惨劇となってしまった。

 

また、遊撃隊の頭目と目される織斑一夏の手により、

戦闘に参加した亡國企業の構成員及び篠ノ之 束が殺害された為、

情報がなかなか集まらないという事態を招いた。

 

その為、国家群は織斑一夏を呼び出し、

情報を聞き出そうと躍起になったが、

織斑一夏はセシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、及び彼に協力するガンダムチームの構成員と共に行方知れずとなっていた。

 

世界中の国家が血眼になって彼等の行方を追っている。

 

後に、この戦争はIS大戦と呼ばれる様になり、

物議を醸す事になる。

 

また、織斑一夏が率いたとされる遊撃隊は、

ガンダムタイプのみで編成されていたと言うこともあり、親しみを籠め、ガンダムチームとして語り継がれる事となった。

 

 

アクタイオンレポートNo.0<IS大戦>より一部抜粋。

 

sideout




次回予告

失意の内に沈む秋良を見かねた簪は、
彼に戦う意味を問う。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
誰が為に

お楽しみに~。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誰が為に

side雅人

 

IS戦争が終結して、既に一週間が過ぎた。

 

スコールを撃墜した後、俺は海に沈んでいたため、

戦争の実質的な終結は見届けていない。

 

だが、簪からの又聞きで、篠ノ之 束と織斑千冬の死を知らされ、

秋良のゲイルストライクが撃墜されたと教えられた。

 

はじめは何の冗談かと我が耳を疑った物だ、

何故千冬が殺されてるんだ?

何故ゲイルストライクが墜とされたんだ?

 

何がどうなっているのかが分からないまま、

誰がそんな事をしたのかを、

俺は簪に問い掛けた。

 

いや、聞くまでも無かったのかもしれない、

俺達の中で率先して敵を、そして裏切れば味方をも殺しにかかる奴なんて、

一夏やセシリア、それにシャルロットしか思い浮かばない。

 

そして、ナナバルク付近に戻ってきていたのは他でも無い、

織斑一夏だけだ。

 

いかに裏切った奴が相手とはいっても、

実の姉を何の躊躇いもなく殺せるなんて・・・。

 

アイツならやりかねない、いや、確実にやると分かっていても、身近な人物があっさりとそう言う事が出来ることに、俺は背筋が寒くなるような思いを抱いた。

 

一夏・・・、お前は何がやりたいんだ?

何がお前をそうさせたんだ・・・?

 

自問自答しようとも、俺なんかが頭を使ったところで何かが分かる訳も無く、ただ、時間だけが過ぎていった・・・。

 

sideout

 

side楯無

 

国家からの干渉をなるべく避けるため、

私達は一時アクタイオン社に身を隠す事になった。

 

セキュリティも嫌な位厳重だし、

攻めて来られたとしてもガンダムタイプの力があれば敗けはしないと思う。

 

それは別に気にする事じゃ無い、

私達が今、一番考えなくちゃいけない事が二つある。

 

一つは一夏君が何かを企んでいると言うことだ。

 

何をするかなんて見当もつかないけど、

恐らくは私達が望まない事なのはおぼろ気ながらに想像できる。

 

もう一つに、一夏君達と私達の戦力比。

 

あの戦争が終わった後、一緒にナナバルクに乗っていた筈のメンバー、秋良君、雅人、簪ちゃん、鈴ちゃん、私を除いた九人が忽然と姿を消した。

 

何かの間違いかと思って何度も艦内を探してみたんだけど、

誰一人として見付からなかった。

 

恐らくは、一夏君に着いて何処かに行ってしまったんだと思う。

 

この戦争で、誰が正しいのか、誰が間違っていたのかなんて考えずに、ただ護りたいモノがあったから、

私はがむしゃらに戦った。

 

だけど、他の皆は何を考えていたの?

ダリルちゃんは?フォルテちゃんは?箒ちゃんは?ラウラちゃんは?ファイルス先生は?山田先生は?

皆は一体何を考えてこの戦争に参加していたんだろうか・・・?

 

分からない、分からないから余計に気持ち悪くなってくる。

 

でも、今は何かに備える事しか出来ないと思うの、

私の中の何かが、ひっきりなしにそう警鐘を鳴らしているから・・・。

 

(これから先、もう一荒れ来るわね・・・。)

 

sideout

 

noside

 

照明が殆ど落とされ、

通路の蛍光灯の灯りしか内部を照さない格納庫の一角に、

中心を砕かれた紅の機体、ゲイルストライクの残骸がひっそりと佇んでいた。

 

コアを砕かれた為に、

起動する事はおろか、修復すら不可能となってしまったのだ。

 

そんな機体の前で、

ゲイルストライクのパイロットである秋良は、

膝を抱えて踞っていた。

 

実の姉が、実の兄の手によって殺される場面を見せつけられた上に、

機体を墜とされた二つの痛みに、彼は打ちひしがれていた。

 

どうしてこんなことになってしまったのか?

一夏は自分を利用していたのか?

 

最初から、自分の事を弟とすら思っていなかったのではないか・・・?

 

そんな負の感情が、彼の胸の内で渦巻き、

更にその痛みが彼を苦しめていく。

 

彼の心に、絶望が広がっていく。

それを彼自身が解決する事が出来ないのである。

 

「秋良・・・。」

 

そんな彼の様子を、格納庫の入り口付近で痛ましげに覗いていた雅人は、

非常に苦い想いを持て余しながらも彼の名を呟いた。

 

その表情から察するに、

苦しんでいる友人に何もしてやれない自分の無力を呪っているのであろう。

 

「どうするかなぁ・・・、俺、こういうの苦手だしな・・・。」

 

何とかして立ち直らせてやりたい、

だが、兄弟間の不信感を拭ってやる事は、彼にも難しい事であろう。

 

彼もまた、自分の不甲斐なさに落ち込みかけた時だった・・・。

 

「私が行ってくる、雅人は手を出さないでね。」

 

何処からともなく簪が現れ、

雅人の隣を通りながらも秋良へと向かって歩いていく。

 

そんな彼女の姿に、雅人は自分とは違う頼もしさ、

そして力強さに驚きながらも、簪の背を見送った。

 

「秋良、何をしてるの?」

 

踞る秋良に近寄った彼女は、

彼の肩に手を置きながらも優しい声色で話しかけた。

 

何もかも聞くという、

簪の心が籠った一言であると言えよう。

 

「・・・、すまない、今は独りにしてくれ・・・、

俺と一夏の問題なんだ・・・。」

 

だが、秋良は簪の手を無視し、

膝を抱えて踞り続けた。

 

まるで関わらないでくれた方が嬉しいと言わんばかりの態度だ。

 

「秋良、貴方にそんな顔は似合わないわ、

笑ってよ、何時もと同じ様に、ね・・・?」

 

「うるさい・・・!!」

 

そう言って、彼の顔を覗き込もうとした簪の手を、

秋良は大きく払い除け、声の限り叫んだ。

 

「簪に何が分かるって言うんだよ・・・!!

俺の気持ちなんて・・・!!」

 

分かる訳が無いと続けようとした秋良の言葉は、

簪の平手打ちによって遮られた。

 

「・・・!?か、簪・・・?」

 

頬の痛みで頭に上っていた血が引いたのか、

秋良は我に返り、簪を見る。

 

「分からないよ・・・、分かる訳ないじゃない!!

何も話してくれないのに、何も分かんないよ!!」

 

「・・・ッ!!」

 

簪の瞳に涙の粒が滲んでいる事に気付いた彼は、

自身の未熟さと愚かさを憎んだ。

 

勝手に自分独りで抱えて、堂々巡りに陥って、

そして、自分を心配してくれていた人に当たったのだ、

悔いない筈は無い。

 

「だから・・・、私に話してよ・・・?

それとも、私じゃ頼り無いの・・・?」

 

「そんな事は無いさ・・・、ありがとう、

それと・・・、ゴメン・・・。」

 

身長差がありながらも、自分の頬に触れてくれる簪の手を取り、秋良は彼女に微笑みかける、

もう大丈夫だから、と。

 

「やっぱり・・・、俺は焦ってたのかもね・・・、

一夏のやることが分からないから・・・、

でも、今は良い、分からなくても、自分の出来る事だけやれば良いって、簪に教えてもらったからね。」

 

「うん、それでこそだよ、秋良。」

 

笑いかける秋良に、

簪は涙を浮かべながらも笑い返す。

 

大丈夫、貴方の傍には私がいるんだ、というかの様に。

 

「まだ落ち着いたとは言えないから・・・、

後でゆっくりこれからの行動を考えよう、

アイツが動いてからでも、止める事は出来るんだ。」

 

「うん、まだ、私達が動く時じゃない、そうだよね?」

 

「あぁ、悪いけど、それまでは耐えてくれ、簪。」

 

「もちろんだよ、秋良。」

 

互いに頷きあった後、

二人は手を繋ぎ、格納庫を後にした。

 

sideout

 

noside

 

「やれやれ、簪には勝てねぇなぁ・・・。」

 

秋良と簪の会話を途中まで覗いていた雅人は、

彼等に気取られない様に格納庫から離れ、

苦笑しながらも通路を歩いていた。

 

自分が躊躇ってしまい出来そうも無いことを、

簪はやってのけた。

 

その事に嫉妬した訳では無い、

寧ろ、純粋に簪の事が凄いと、彼は改めて実感したのだろう。

 

「何満足そうな顔をしてるのよ?可笑しな人ね。」

 

「やかましい、お前の妹に負けた様な感覚になってるだけさ。」

 

通路を歩いていく内に、

ばったりと楯無に出会した。

 

からかう様な笑みを浮かべながらも、

何処か誇らしげな表情だった。

 

「やっぱり、秋良の心を開くのは簪の役目だったんだよ、

俺やお前じゃなく、な?」

 

「そんな事、最初から分かってたんじゃ無いの?」

 

「どうだろうな?」

 

楽しそうに語りかける楯無に対し、

彼は肩を竦めて笑ってみせた。

 

「ま、秋良はもう大丈夫さ、俺が気にする必要も無いな。」

 

雅人は楽しげに呟きながらも、

楯無と肩を並べて歩き始めた。

 

「俺達がやらなければいけないのは、

何がなんでも生き残る、だろ?」

 

「そうね、何があっても、ね。」

 

確固たる意志を持ち、二人は頷きながらも歩き続けるだろう。

 

この先に、どれ程の波乱が待ち受けていようとも・・・。

 

sideout

 

noside

 

秋良達が各々の道を見付けていた頃、

アラスカ、元亡國企業実働部隊拠点・・・。

 

「一夏、本当にやるのね・・・?」

 

接岸されたナナバルクから降りながらも、

アクタイオン社技術部主任、エリカ・シモンズは、

隣を歩く、織斑一夏に恐る恐る問いかけた。

 

「当然です、世界は再び揺れ動いた、

この期を逃せば我々がやって来た事が無に帰す事となる。」

 

その問いを、彼は然も当然と言った風に返しながらも、

拠点内に入っていく。

 

「もう後戻りは出来んさ、

貴女にも分かっている筈だ、今こそ仕掛ける時なのだとね。」

 

通路を歩きながらも、彼はエリカに対して言葉を紡いでいく。

 

「マティスやルキーニが集めた情報に、

セシリアが入手した情報を統合すればこちらの正当性は約束されたも同然、

ミナにもスピーチの準備をさせている、

一族の力を使っての情報操作も抜かりは無い、

そうとも、世界は俺に動けと命じているのさ。」

 

「本当にそれで良いのかしら・・・。」

 

迷いは無いと言い切る一夏とは対象に、

エリカはその表情を曇らせながらも、

再び彼に向けて呟く。

 

「既に都市部ではISに対する抗議運動が興っている、

いい加減に分かったんだろうさ、この世界の惨状がね、

マトモな政治家が少ない今、誰かがやらなければならないのさ、そう、賽は既に投げられ、どういう目を見せるか、なのさ。」

 

強い眼光をたたえ、口許を三日月形に吊り上げながらも、

彼はエリカから渡されたデータに目を通す。

 

円形の様な物体が幾つも犇めく様に配置され、

何かを示すように文字や記号も表示されていた。

 

「作業はどれぐらいで終了しますか?

それに合わせて例の放送を流そうと思っているのですが?」

 

「最低でも後3日は確実に必要ね、それまでは待って貰えないかしら?」

 

「了解した、俺はマティスとの打ち合わせをしてくる、

作業の方はお任せしました。」

 

作業期間を聞いた後、一夏はエリカと別れ、

コントロールルームに入り、キーボードを叩く。

 

何処かと回線を開いたのか、

モニターにウィンドウが開き、ウェーブのかかった黒髪を持った、いかにも自信家そうな女性の顔が映し出された。

 

『久し振りね御大将?そっちの準備はどうかしら?』

 

彼女の名はマティス、

アクタイオン社情報部に協力している組織、一族の長である。

 

情報を操り、世界に対してアプローチをかける事を至上の喜びとしているため、一夏の計画に二つ返事で協力を申し出た。

 

「久しいなマティス、こっちは後3日はかかるそうだ、

情報の再収集及び、世論操作を引き続き行って欲しい。」

 

『分かってるわ、ついさっき部下に指示を出しておいたわ、

世論の方も誘導しやすいから楽よね。』

 

「その手腕、やはり見事だな、

まぁ、それについては仕方の無い事さ、

それが人間という生き物さ、他に合わせて動くこと、与えられた情報に乗せられる、人間のな・・・。」

 

マティスの言葉に同意するかの様に、

彼は何処か憐れみを籠めた様な口調で呟いた後、

その端整な顔を狂喜に歪めた。

 

「それだからこそ、操るにはちょうどいいんだろう?」

 

『確かにね、私達の思いのままに、ね・・・?』

 

彼の言葉に同意するかの様に、

彼女も邪悪にわらっていた。

 

『まぁ、こっちは私達に任せて、貴方はロンド・ミナ達としっかり打ち合わせでもしておいて、

この先の世界のためにも、ねぇ?』

 

「よろしく頼むよ、ではな。」

 

通信を切った後、彼は自分の背後を悠然と振り返る。

 

「さぁ、お前達にも役に立ってもらうぞ?

俺に着いてきたんだ、もう後戻りはさせん。」

 

彼の視線の先には、一列に整列したダリル達が立っていた。

 

「さぁ、共に新世界の幕開けを彩ろうじゃ無いか、

俺達の手でな!!」

 

コントロールルームの中に彼の哄笑が響き渡った。

 

その声はまるで、獲物を見付けた獣の如く、

聞いた者を恐怖に陥れる物であった。

 

そして、その哄笑は、

これから来る波乱の幕開けを告げる、咆哮でもあった・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

全世界に向け発信された放送は、
遂に動き出す一夏の野望その物なのか・・・。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
天空の宣言

お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天空の宣言

noside

 

IS大戦が終結して早十日、

世界はISに対しての不信感を募らせていた。

 

その勢いは留まる所を知らず、

日に日に勢いを増していった。

 

それもその筈だ、

国家、国民を護るための軍事力として配備されていたISが、正しくはISを使用する女達が、

この戦争に参加する事なく隠れていたこと、

または、敵側に着き、甘い蜜を啜ろうとしていた事。

 

更にはISを使用しての無差別殺戮が行われたと、

次々にあってはならない事が露呈していった。

 

国家は当然対応に追われる事となるのだろうが、

今は女尊男卑の時代、今だISを盲信する者達からの反発を受け、事実を隠蔽するという愚行に出た。

 

ところが、その甲斐も無く、

何処から情報を入手したのかは定かでは無いが、

テレビやラジオ、新聞などのメディアは事ある毎にISの危険性、問題点、国家の管理のずさんさを連日連夜報道し続けた。

 

その為、各地で男性の権利保護団体や、

親い男性が冤罪等の被害に遭った一部女性を中心に、

暴動やデモが巻き起こった。

 

世界の情勢が悪化の一途を辿る中、

世界に対して宣言をする者が現れた。

 

sideout

 

noside

 

『私の名はロンド・ミナ・サハク、

何処の国家にも属していない思想家だ、

この放送を見ている諸君らの前に、この様な形で現れた非礼を先ずは詫びたい。』

 

その日、全世界同時刻にゲリラ放送が流された。

 

画面に映し出されたのは、

膝裏まで届きそうな黒髪を持った、190㎝はある長身の女性、ロンド・ミナ・サハクであった。

 

彼女はアクタイオン社の援助を受け、

自身の思想を説く思想家である。

 

『私は、今この放送で、

ある事を諸君らに伝えたいと思う。』

 

毅然とした態度で、同時に凛とした声で、

彼女は世界に向けて言葉を紡ぐ。

 

『諸君らの中にも既にこの事を知っている者も多い物と思う、しかし、敢えて知らないと言うことを前提に語らせてもらいたい。』

 

ロンド・ミナは、相手の中を見透す様にすんだ目を、

画面の向こう側にいる市民達に向ける。

 

『今回、篠ノ之 束が行った侵略戦争の事はまだ記憶に、いや、その身に新しいものと思う、

腐りきった国家からの解放と唱いながらも、

奴等は戦う術を持たぬ諸君らに銃を向けたのだ。』

 

彼女の背後に設置されたスクリーンに、

宣戦布告を行う篠ノ之 束の姿や、

都市や人に次々と襲いかかる無人機が映し出された。

 

瓦礫に押し潰されひしゃげる人間、

無人機のビームに焼かれる者、バルカンでズタズタに撃ち抜かれる者、

見るも無惨な映像がノーカットで流され続けた。

 

放送を見ている者達は、

自分達は何とか免れたモノに対して、

口許を抑え、或いは堪えきれずに嘔吐する者もいた。

 

彼等の心に刻まれた傷は、

深く、大きすぎる物だった。

 

『今回の大惨事、いや、人災と呼んだ方が良いだろう、この戦争において、首謀者達を制圧したのは何者か、諸君達は知っているだろうか?

国家のIS部隊ではない、今だ年端もいかぬ少年少女達だったのだ。』

 

事実を押し付けるでもなく、

ただ現実を語るかの様にして、彼女は真実を提示していく。

 

この放送を見ている者達は、

既にある程度知っていた為に驚愕こそしなかった物の、

やはりかという風に憤慨する者も多くいた。

 

当然だろう、今までの生活を壊され、

中には大切な存在を喪った者もいるだろう。

 

それだけに、怒り、憎しみが彼等の中に渦巻く。

 

それを知ってか知らずか、

ロンド・ミナは言葉を更に紡いでいく。

 

『彼等は国家の拘束を嫌い、他者に踊らされる事を良しとせず、独自に行動を興し、見事侵略者を討ち取ってくれた、

諸君らにも見てもらいたい、彼等こそが我々を護ってくれた救世主なのだ。』

 

彼女の背後に設置されたスクリーンに、

アラスカで行われた戦闘の映像が映し出される。

 

そこには、特徴的なブレードアンテナを持ち、

人間の様な姿を持った十四の機体があった。

 

『各々の形状は異なれども、

彼等が駆る機体はガンダムと呼ばれる機体だ、

誰にも止められることなく、ただ正義の為に戦い続けた者達の姿なのだ、

どれ程深い絶望の中にも、諸君らを照らす光は在るのだ、

今回は、ガンダムチームを率い、我らを救うために戦ってくれた英雄を招いている。』

 

ロンド・ミナが手を差し出すと、

漆黒の機体、ストライクノワールが画面に姿を現した。

 

その機体はロンド・ミナの隣まで歩みより、

機体を解除した。

 

『私の顔を知っている方々は多いだろうが、

今日この場で再び名乗らせてもらおう、

ガンダムチームのリーダー、織斑一夏だ。』

 

黒髪の青年、織斑一夏はその瞳に強い眼光を宿し、

画面の向こう側にいる者達にその視線を向ける。

 

『私が今回の戦争で見てきたこと、

そして知ってしまった事を話そう。』

 

僅かな憤りと、哀しみを籠めた口調で、

彼は言葉を紡いでいく。

 

『この戦いには最悪のテロリスト、亡國企業だけではなく、国家のIS部隊も私達に対して銃を向けてきたのだ、

私は世界を、この放送を御覧になっている皆様を護るために、仕方無く応戦し、彼女達を制圧しました、

当然、手加減など出来る状態では有りませんでした・・・。』

 

一夏が手を掲げると、モニターに表示されていた映像が切り替わり、

彼等の母艦、ナナバルクを攻撃する打鉄やリヴァイヴを纏った少女達の姿や、

それを排除しようと戦うストライクノワールの姿が映し出された。

 

『これだけではない!モンド・グロッソ第一回大会優勝者、ブリュンヒルデである私の姉であった織斑千冬も、亡國側に着き、破壊活動を行いました。』

 

彼の発言に、世界中は凍り付く。

 

最強のIS乗りと唱われた織斑千冬も、

自分達を殺そうとしていたのかと・・・。

 

『私は何かの間違いであって欲しいと思いました、

しかし、その想いも虚しく、彼女は私に刃を突き立てようとしました、

私は生きるために、無我夢中で応戦しました、

結果は私が彼女を殺める結果となってしまった。』

 

悲しみをその整った顔に滲ませながらも、

彼は拳を握り締めた。

 

『何故こんな事になってしまったのか!?

私は憤り、亡國企業の拠点にて、

せめて、彼女達を戦争に駆り立てた理由を探ろうとしました・・・、そして、知ってしまったのです・・・!!

織斑千冬はかつて、この世界を乱した白騎士の操縦者であった事を・・・!!

そして悟ってしまったのです・・・!

彼女は私利私欲の為に動いていたのだと・・・!!』

 

悲しみと怒りを交えた叫びを発する彼の姿に、

放送を見ていた者達は驚愕に軽く目を見開いた。

 

ブリュンヒルデと称えられた織斑千冬も、

所詮は私利私欲に支配された俗物であったのだと。

 

この放送を見ている者達の中にも、

今でこそISの存在を疑問に思ってはいるものの、

嘗てはISを盲信していた者もいるだろう、

その者達は一様に、頭を叩かれる様な衝撃に襲われた。

 

『この戦いを望んだのは、

何も篠ノ之 束や亡國企業だけでは無かったのだ、

諸君らは亡國企業の実態を知らぬだろう、

だが、彼は知ってしまったのだ。』

 

悲しみに表情を歪ませる一夏の肩に手を置き、

宥める様に微笑んだ後、ロンド・ミナは言葉を紡ぐ。

 

『亡國企業は己の利益の為に争いを産み出すように、

国家の政治に干渉してきたのだ、

それはこの十年で始まった事ではない、

遥か昔から、奴等はこの世界に争いを、差別を産み出し続けたのだ。』

 

『それだけでは無い!亡國企業に荷担するのは、

自らの私利私欲の為に、この放送を御覧になっている皆様の命を脅かす者と、諸君らの国の政治家は手を組んでいるのです!!』

 

何処までも冷静に事実を提示するロンド・ミナと、

悲しみと怒りを湛え、語調を強めた一夏が交互に言葉を紡ぐ。

 

『我々が生き残る方法はただひとつです!!

この世界に蔓延る悪を、忌まわしき体制を葬る事です!!

さもなければまたしても、今回の様な悲劇が何度も起こる事でしょう!!』

 

『その為には、この忌まわしき体制を続けようとする者達を討つ以外に、この悪き連鎖を止めることなどできないと断言しよう。』

 

一夏の心に突き刺さる言葉を、

ロンド・ミナの涼やかな声が民衆達の心に染み渡らせていく。

 

『さぁ、悲しみに閉ざされた目を開き、

諸君らの真の敵を見よ。』

 

『これが我らの敵だ!!』

 

ロンド・ミナと一夏が全く同時に手を振り上げると、

背後のモニターに一斉に切り替わり、

百人以上もの人物達の顔写真が写し出された。

 

それは世界各国の政治家、実業家、

そしてIS委員会にパイプを持つ者達の者であった。

 

よく見ればそれぞれの写真の下に、

丁寧に実名や所属する国家まで記載されている。

 

『この者達が諸君らを弄び、自身の富の為に世界を混乱させる権化だ、

我々はその体制を崩すべく、今こそ立ち上がる時だ!』

 

『私達一人切りではこの体制は変わることはないでしょう、

ですが、私達一人一人が手を取り合い、支え合うことが出来れば、どれほど深い闇やエゴも、必ずや打ち払える事でしょう!!』

 

『さぁ、永遠の終わり、無限の希望への道へと、

共に歩もう、恐れる必要はない、

諸君らは独りではないのだから!』

 

放送を見ている者達を鼓舞する様に、

強く、強く語りかける彼等の姿は、

この混沌の世界に舞い降りた救世主の様にも写った。

 

「そうだ・・・!!俺達の命は俺達で護るんだ!!」

 

民衆の一人が立ち上がり、

周囲を見渡すようにしながらも叫んだ。

 

「ロンド・ミナと一夏は俺達の味方をしてくれるんだ!」

 

「私達も戦いましょう!!」

 

民衆達は口々に叫び、

一つの奔流となりて、何処かに向けて進み始めたのであった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「こ・・・、こんな事が・・・。」

 

アクタイオン社の食堂にて、

一夏とロンド・ミナの共同声明を目にした秋良達は、

一様に驚愕の表情をしていた。

 

行方を眩ましていた一夏が、

突然全世界に対しての声明を発したのだ、

予想しきれている筈もなかった。

 

「一夏君・・・、何が目的なの・・・?」

 

全くもって、行動理由が理解できなかった楯無は、

口元を手で押さえながらも呆然と呟いた。

 

「こんな晒しみたいな事をして、

一体何の意味があるんだ・・・?」

 

楯無と同じく、放送の意味を理解できなかった雅人は、

怪訝そうな表情で答えを探るかの様に思考を巡らせる。

 

しかし、依然として何が答えかも出ない様で、

二人は顔を見合わせて首を傾げていた。

 

だが、ただ一人、

一夏の思惑に近付いた者がいた。

 

「くそっ・・・!!そう言う事かよっ・・・!!」

 

悔しそうな表情を浮かべながらも、

彼は力いっぱいテーブルを叩いていた。

 

「ど、どういうことなの・・・?」

 

彼の雰囲気に気圧されながらも、

簪は秋良にどういうことなのかを尋ねた。

 

「全て一夏の策略さ・・・!!

アイツは、自分の手を汚さずに事を進めようとしているんだ・・・!!」

 

「落ち着くんだ秋良、どういうことか教えてくれ。」

 

熱くなる秋良を宥める様に、

雅人は彼の肩に手を置きながらも話しかけた。

 

「・・・、あの放送の意味は、

表向きは放送を見ている人に対する事実の呈示だけだと思う、

だけど、本当の目的は違うところにあるんだ。」

 

「どういうこと?私にはただ何かを宣言している様にしか見えなかったけど・・・?」

 

彼の説明を訝しんだ楯無が尋ねるが、

秋良の表情は更に沈鬱な物となる。

 

「そう、宣言だよ、でもよくよく考えて見てくれ、

今、この放送を見ている人の殆どは、

あの戦争で大なり小なりの被害を被っている、

言ってみれば、晴らし様のない恨みと、怒りをその心に抱えているのさ。」

 

「・・・!!お、おい、それってまさか・・・!?」

 

秋良の説明に何か思い当たる節でもあったのか、

雅人は顔を青くしながらも彼に問う。

 

「そう、恨みと怒りを晴らすために、

人々は敵を求める、だけど肝心の敵が何処にいるのかが分からないから晴らし様のない、

だけど、そこに敵をちらつかせたらどうなる?」

 

「人々は敵を求め、その怒りを晴らす・・・。」

 

秋良の問い掛けに答えるかの様に、

雅人は震える声で答えた。

 

「そう言うことさ、でも、それだけで済めばいい方かもね、いや、それだけで済ませる筈もない、か・・・。」

 

頭を振る秋良の表情は、

何処か諦めに近い様な色が見受けられる。

 

「権力を持った人間というのはね、

その地位から堕ちることを嫌う、

喩え他の人間を、その命すら踏みにじっても、

その地位にしがみつく。」

 

独り言の様に、彼は自分の考えを口にする。

 

「ISを使って自分の身を護る、

しかし、相手はISによって被害を被った人達だ、

最悪、権力者だけではなく、ISに対しての憎しみを抱く。」

 

「そして人々を護るように一夏達が降り立ち、

ISを消していく、か・・・、くそっ、本当に出来すぎてるな・・・。」

 

そうなれば、今、アクタイオン社に残ったメンバー以外のガンダムチームは、

民衆を護る守護神の様な物だ。

 

憎むべき敵を廃し、ISを消し去ることで男女間の差別を終わらせる。

 

何もかもが出来すぎていた。

 

「行動を興してからでも止められると思ってたけど、

どうやら、そんな甘い物でも無かった、ね・・・。」

 

そう、彼等は反抗する理由を封じられた、

一夏が亡國に成り代わっての行動、つまりは力での征服を目論み、侵略戦争という行動を起こしたのならば、

秋良達は自身の正当性を盾に民衆を味方に着けることも出来たであろう。

 

しかし、その目論見は、一夏によって封殺され、

逆に、協力しない自分達が逆賊として追い込まれ兼ねない状況に陥った。

 

彼等は、戦う前に、勝負に敗れたも同然であった・・・。

 

sideout




次回予告

動き始めた一夏の野望、
果たしてそれが世界に何をもたらすのか・・・。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
真の狂気

お楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真の狂気 前編

noside

 

ロンド・ミナ・サハクと織斑一夏が行った宣言は、

直ぐ様全世界に対して、大きすぎる波紋を産み出した。

 

各国のメディアは誰かに操られるかの様に、

後に天空の宣言と呼ばれる宣言について、

肯定的、もしくは民衆の怒りの炎に油を注ぐ様な報道を繰り返し放送した。

 

国家、いや、天空の宣言において顔、名を曝された者達は暴徒と化した民衆を止めようと躍起になった。

 

しかし、民衆の怒りは留まる所を知らず、

なお昂り、次々と亡國企業、IS委員会と関わりが深かった者達の邸宅に雪崩れ込んだ。

 

如何に警備を厳重にしていたとは言えど、

武装した暴徒を止めるにはあまりにも貧相な戦力という他無かった。

 

我が物顔で権利を振りかざしていた者達は、

次々と暴徒の私刑の餌食となり、断末魔を響かせていた。

 

だが、中には資産を使い、

ISをボディガード代わりに使う者もいた。

 

ISを使う道を選んだ事で、自身の身を立てた者が大半な中、

ISの優位性を押し立て、自分達に都合のいい様にしてくれる権力者を護る事で、自身の未来を護ろうとしたのだろう。

 

しかし、その行為は民衆に対して、

ISは民衆の敵というイメージを植え付ける事になる。

 

暴徒から権力者を護る為に民衆に銃を撃つという行為は、

傍目から見れば虐殺にも等しく、阿鼻叫喚、地獄絵図をそのまま再現した物になる。

 

だが、どれだけ悲惨に見えようとも、

それが現実での力の差である、

これでは民衆は手も足も出さず、虐殺されていくだけだった。

 

だが、虐げられる以外無かった民衆を護るように、

ガンダム達はその姿を現す。

 

アメリカで巻き起こる暴動を鎮圧すべく、

民衆に銃を向けるラファール・リヴァイヴを中心に組織されたIS部隊の前に、ソードカラミティが降り立った。

 

「が、ガンダムだ・・・!!ガンダムが助けに来てくれたんだ!!」

 

「私達を本当に護ってくれるのはガンダムよ!!

こんな腐った奴等なんかじゃないわ!!」

 

民衆は歓喜の叫びをあげ、

声援をソードカラミティに向けて送った。

 

彼等の目の前で、ソードカラミティは背中に装備されていたシュベルト・ゲベールを二本とも抜き放ち、

二刀流の要領で構える。

 

「・・・ッ!!」

 

「が、ガンダム・・・!!」

 

対するIS部隊は、あまりにも強力すぎる脅威の出現に、完全に怖じ気づいていた。

 

前大戦において、国家の拘束を物ともせずに、

たった14機で世界征服を目論んだ者達を討ち取ったのだ。

 

単機の戦闘能力も、自分達とは段違い、桁違いだと直感で察知した。

 

「な、何を怖じ気づいてるの!これが終われば報酬が待っているのよ!!それに相手はたったの一機、数で押すわよ!!」

 

恐怖を押し殺し、リーダー格の女が僚機に激を飛ばすと、

周囲に展開していたIS部隊のメンバー達は、

ハッとしたような表情を浮かべ、ソードカラミティに銃口を向ける。

 

数で押せば問題ない、そう判断した様だ。

 

(バカな奴等だ、己の力と相手の力すら計れない癖に、よくこんなモノを扱えるもんだな。)

 

ソードカラミティの搭乗者であるダリルは、

IS部隊の練度の低さ、そして富目当てで引き際を見失った滑稽さを鼻で笑っていた。

 

まるで、金に群がる亡者達を嘲る様な雰囲気だ。

 

(だがよ、ここで死んだ方が、後々死ぬよりも楽かもな。)

 

彼女の盟主、織斑一夏から聞かされた計画の一端を知る彼女は、憐れな敵に対して、同情的な思いを伺わせた。

 

「撃て!!撃てぇ!!」

 

四機のラファール・リヴァイヴが構えた銃口から、

多数の弾丸がソードカラミティに向けて発たれた。

 

しかし、ソードカラミティは弾丸を避ける事すらせずに、

自身の背後に立つ民衆を庇うかの様に腕を広げた。

 

「な・・・!?」

 

避ければ良いものの、何故動かなかったのかを理解できなかったIS部隊は驚愕し、動きを止めてしまう。

 

いや、よくよく考えてみれば分かる事だ、

ソードカラミティの背後には無防備な民衆がいる、

もし、ソードカラミティが避ける様な事をすれば、民衆は容赦ない銃弾に晒される。

 

つまり、IS部隊は民衆を撃ったも同然なのだ。

 

そう理解するよりも速く、

ソードカラミティは地を蹴り、一機のラファール・リヴァイヴをパイロットの少女ごと切り裂いた。

 

「キャアァァァッ!?」

 

僚機が一瞬にして切り殺されたのを見せ付けられたIS部隊のメンバーは完全に取り乱し、浮き足立っていた。

 

『逃がさない。』

 

ソードカラミティより、ボイスチェンジャーで加工された機械質な音声が響いた。

 

それはまさしく、現世に舞い降りた無慈悲な告死天使の宣告だった。

 

瞬く間に手近な二機を、

シュベルト・ゲベールを振り抜き、真っ二つに切り裂いた。

 

「あ・・・、あぁ・・・!」

 

残されたリーダー格の女は、あまりの恐怖に動くことが出来なかった。

 

段違い、桁違いなんて物ではない、越える事の出来ない壁が目の前に立ちはだかっている様な物だ。

 

遠くから民衆の歓声が聞こえてくる、

彼等は口々にガンダムを称える言葉、もしくは自分を貶す様な言葉を叫んでいる。

 

「や、やめて・・・!来ないで・・・!!」

 

戦意を完全に喪失し、逃げることすらままならない女は、

ソードカラミティに向けて震えた声で命乞いの様に叫んだ。

 

『終わりだ。』

 

しかし、無慈悲な刃は止まることなく、

機体もろとも彼女を切り裂いた。

 

全てを終えたソードカラミティは、

シュベルト・ゲベールの切っ先を、民衆が雪崩れ込もうとしていた権力者の邸宅に向けた。

 

その姿はまるで、民衆を導く様にも見えた。

 

「そ、そうだ、俺達が戦うんだ!!」

 

「よし!行くぞ皆!!」

 

その堂々とした姿を見た民衆は、

更に勢いを増し、邸宅に雪崩れ込んでいく。

 

程なく、邸宅内部から銃声が鳴り響き、

それが暫くの間、断続的に続いた後、パタリと銃声が止んだ。

 

恐らくは目的を討ち果たしたのだろう。

 

(コイツらも、か・・・、誰かに利用されてる事も知らないで・・・、いや、アタシも同類だな・・・。)

 

自嘲するかの様に考えた後、

ダリルはソードカラミティを飛翔させ、

民衆の前より忽然と姿を消した。

 

sideout

 

noside

 

天空の宣言から僅か一週間の内に、

公表された権力者の大半が民衆の手によって殺害され、世界は一つの意志の基に、急速度的に統一に向かって進んでいた。

 

だが、いくら憎しみの矛先が権力者に向いていたとは言えど、

ISが民衆の前に立ちはだかる度に、男達は自身達を虐げ、我が物顔でふんぞり返っていた女達に対しての怒りを再燃させ、報復へと走る者も現れた。

 

状況が悪いと判断したIS乗り達は、

公表された権力者達を護衛する事を放棄し、

ガンダムに破壊されずにいた機体、研究用として研究所にあったコアも機体に搭載、織斑一夏に対しての反抗の準備を着々と整えていた。

 

しかし、肝心の織斑一夏が何処に潜伏しているのかが分からないのでは、何処を攻撃すれば良いのかが分からない。

 

八方塞がりになりかけていた所に、

ある情報がもたらされた。

 

その情報とは、アラスカにある元亡國企業実働部隊の拠点に、ガンダムチームの旗艦、ナナバルクが入港している映像だった。

 

この情報に、IS乗りの女達は歓喜した、

織斑一夏も所詮は世界征服を企んでいる、

ならば奴を倒し、再び我々が利益を得ることが出来る世にしてやれば良い。

 

そう考えたIS乗り達は、まるで申し合わせたかの如く、全く同時にアラスカを目指した。

 

だが、彼女達は気付いていない、

その事すらも、一夏の計算の内だと・・・。

 

sideout

 

noside

 

その頃、アラスカでは・・・。

 

「クックックッ・・・、憐れな物だな、

与えられた情報に踊らされているとは、な?」

 

世界を動かした者、織斑一夏は、

揺れ動く世界を眺めながらほくそ笑んでいた。

 

自らの思惑通りに事が進むのが、

実に愉快で堪らないとでもいうかの表情であった。

 

「一夏、作業も終わったから、

私達はアクタイオンに戻るわ。」

 

「ご苦労様でした、後は俺が使わせてもらいますよ。」

 

彼は自分に話しかけて来るエリカに対し、

労いの言葉をかけつつもコンソールを操作していた。

 

幾つかの単語、記号が表示された後、

OKの文字がモニターに表示される。

 

「これで俺の指一つで運命が決まるという事だな、

奇妙な物だな。」

 

「・・・、ここまで来てしまった以上、

私は貴方を止めるつもりはない、でも、どうかその身体を大事にしてね?」

 

手持ち式のスイッチを掌で弄んでいる彼に、

エリカはまるで息子の身を案じる母親の様に話しかけた。

 

「ご心配なく、目的の完遂までは、

俺も命は惜しいんでね、そこまでは何がなんでも生き抜いて見せますよ。」

 

彼女の心配に礼を述べつつも、

彼は不敵に笑った。

 

「だから早く、貴女はここから逃げて下さい、

後の事は全部俺に任せてね?」

 

「・・・、分かったわ、それじゃあ、ね・・・?」

 

自分は大丈夫だ、という彼の笑みに押されるように、

彼女は今だ後ろ髪を引かれる様な思いを胸の内に秘めたまま、彼に背を向けて歩き去った。

 

「そうさ、俺はまだ死ぬ訳にはいかない、

その瞬間を見るまでは、な・・・。」

 

何処か憂いを帯びた表情を見せる彼は、

何かを悟っている様にも見える。

 

「それまではアンタにも付き合ってもらうぞ?ダリル?」

 

「分かってるっての、最初からそのつもりでお前に着いてきたんだ、手伝わせてもらう。」

 

いつの間にかやって来ていたダリルに向け、

彼は不敵に笑いながらも言いはなった。

 

「その言葉、有り難いな、

では、ナターシャと真耶を、離脱するナナバルクの護衛に回す、

残りのメンバーは手筈通りに配置させる。」

 

「分かった、アタシはアタシの出来る事をするだけだ、それに、お前の破壊の先とやらも見てみたい事だしな。」

 

一夏の命令に頷き、ダリルはその整った顔を歪めて笑い、コンソールルームを後にした。

 

「頼もしい限りだ、・・・、セシリア、シャル、ダガーの準備は出来ているな?」

 

『準備完了ですわ。』

 

『何時でも発進させれるよ。』

 

「ご苦労、お前達も手筈通りに動け、俺もすぐに動く。」

 

『かしこまりましたわ。』

 

『先に配置に着いてるね。』

 

セシリアとシャルロットとの通信を終えた彼は、

コンソールルームから出ていく。

 

その足取りは悠然たるものであり、

全てを司る覇王の様にも見えた。

 

「クックックッ・・・、まもなくだ、

新世界の扉が開く、この俺が握る鍵でな。」

 

掌の内にあるスイッチを眺め、彼は愉しげに呟く。

 

その笑みは、そのスイッチを押し込む事で起こる光景を知っているかの様でもあった・・・。

 

sideout

 

noside

 

織斑一夏が拠点を置くアラスカを攻めるため、

アラスカ沖には既に何隻もの軍艦や空母が航行していた。

 

今や空母は戦闘機の移送の為では無く、

IS乗り達に脅されての送迎用の船と化してしまっていた。

 

ISが登場する以前より、軍艦に乗り込み、

国防の一翼を担ってきた者達は、

当然ISに、其れを操る女に対しても良い感情を持っておらず、今回も女の私利私欲の為に利用されている形だ。

 

艦に乗り込んだ船乗り達はそれを不服としながらも、

心の内に圧し殺して任務に当たっていた。

 

その内の一隻、空母<タケミカヅチ>の艦長を務めるトダカは、

艦内で溜まり続ける鬱憤に対応しつつも、

ISに脅されている国家の対応に内心憤慨していた。

 

「艦長、IS全機発艦しました。」

 

管制官を務める若い兵士からの報告を聞き、

彼はそれで漸く一息ついた。

 

何せ、気紛れなIS乗りの事だ、

何かにつけて無理難題を押し付けて来ないとも限らない、用心しておいて損は無い。

 

「よし、タケミカヅチはこの海域に固定する、

あまり陸に近付き過ぎるなよ。」

 

『いや、艦隊諸君は直ちに転進したまえ。』

 

トダカの指示を否定するかの様に、

ブリッジ内に何者かの音声が響き渡った。

 

あまりにも唐突だったため、艦橋内にいた者達は警戒するかの様に辺りを見渡した。

 

その時、モニターにさざ波の様なノイズが走り、

黒髪の青年の顔を映し出した。

 

『こんにちは、私の名は織斑一夏だ、まずは不躾な通信を許していただきたい、この艦の責任者はどなただ?』

 

「私が艦長のトダカです、お初にお目にかかります、英雄、織斑一夏殿。」

 

突然の一夏の登場にも動じず、

トダカは敬礼しながらも名乗った。

 

流石は一隻の艦長と言うべき姿勢が、

彼には備わっていた。

 

『トダカ艦長、いきなりで申し訳無いが、

IS部隊が発艦した後、すぐに転進したまえ、この海域は危険区域内だ。』

 

「・・・!!」

 

突然の言葉に、艦橋内に衝撃が走る。

 

危険区域とはどういう意味だ?

何故彼は敵である自分達を助けようとしているのか?

 

全てが謎に包まれている為に、

トダカは即答する事が出来なかった。

 

『諸君らにも分かっている事だろう、

ISの時代はまもなく終焉を迎える、諸君らは新しい時代に必要な者だ、だから私は諸君らを助けようと思う、

さぁ、早く他の艦にも教えてやれ、

私は気が短いぞ?それでは、諸君らの無事を祈る。』

 

何処か脅すような口調で言い放った後、通信は途切れた。

 

暫くの間、艦橋内に重苦しい雰囲気が漂った。

 

困惑が支配する空気を、トダカの一喝が破る。

 

「各艦に連絡を取れ!!IS部隊を送り出した艦は、直ぐ様アラスカより転進せよとな!!」

 

「・・・!!ハッ!!」

 

トダカの指示を瞬時に理解したクルーは、

他の艦に連絡を取るべく慌ただしく動き始めた。

 

それから程なくして、

艦隊は転進し、アラスカより離れていった・・・。

 

sideout

 




次回予告

拠点に攻め入る女達の運命すら、
彼の手に弄ばれる・・・。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
真の狂気 後編

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真の狂気 後編

noside

 

空母や巡洋艦より発進したISの機体数は、

全世界に残存するコアの総数とほぼ同じ数だった。

 

リヴァイヴや打鉄といった量産機を中心に組織されているが、

中には軍用機、トライアル機体もちらほらと見受けられる。

 

それはまるで、総力戦とでも言うような気合いの入れようだと言える。

 

空を埋め尽くさんばかりに展開したIS達は、

陣形を組むことすらせずに、我先にと目標を目指した。

 

しかし、そう易々と落とされるほど、

一夏側も愚かでは無い、

直ぐ様拠点より無数のダガーが出撃し、IS部隊に対して攻撃を仕掛ける。

 

その光景を見たIS連合のパイロットは、

一様にやはりかという様に表情を歪めた。

 

織斑一夏は自分達を蹴落として世界を支配しようと目論んでいる、ならば自分達が奴を殺せば、

再びISの天下が訪れる。

 

そう考えた彼女達は、

ダガーから撃ちかけられる光条を回避しつつ、

拠点へと突き進んでいく。

 

自分が憎き敵の首を取る、

どす黒い感情を剥き出しに、彼女達は機体を駆った。

 

sideout

 

side秋良

 

始まったアラスカ攻防戦(命名俺)を、

俺達はアクタイオン社のブリーフィングルームのモニターで見ていた。

 

俺達は一夏達と敵対しているとはいえ、

IS連合に与している訳でも無い。

 

だからこの戦いは傍観し、

どうなるのかという見極めをしているんだ。

 

ちなみに、この映像は全世界に向けて放送されている訳では無く、

何のつもりか、アクタイオン社のみに流されている。

 

自分達が攻め落とした拠点をアジトとしている事も理解出来ないけど、

何をしようとしているのかも全く分からない。

 

わざわざ敵に自分が潜伏する所在を明かすような真似をしたのだろうか。

 

「これ程の戦力・・・、一夏達でもキツいんじゃ無いのか?

包囲されればガンダムでも勝てないと思うがなぁ・・・。」

 

「さぁねぇ・・・、ただ、何も分からない・・・。」

 

雅人の懸念も疑問ももっともな事だろう、

ガンダムを最強たらしめているのは、

確かに性能、そしてパイロットの力量に依る物が大きい。

 

つまり、物量で攻められれば流石のガンダムでもかなりキツいだろう。

 

それは奴も理解している事だろうに、

それなのに、奴は自分の手の内を明かし、

敵を呼び込んだ様にも見える・・・。

 

待てよ・・・?

 

敵を引き付ける為にわざと呼び込んだのだとしたら?

 

その為に目立つ場所を選んで、

誘き寄せる為の物だとしたら・・・?

 

誘き寄せて一気に叩く、

戦術の中でも基礎に入る戦術なんだけど、

それには絶対的な兵力が必要になる。

 

しかし、今の戦力の差は然程無く、

むしろ拮抗していると見ていい。

 

そんな状況で誘き寄せるならば、

もうひとつ策が必要になってくる。

 

そう、例えば敵の戦力をまるごと奪い取れる様な・・・。

 

「・・・ッ!?まさか、それが狙いか・・・!?」

 

sideout

 

side一夏

 

クックックッ・・・、

憐れな雌豚どもめ・・・。

 

俺の策を知らぬまま、わざわざ死にに来てくれた様だ。

 

拠点から11㎞離れた地点で、

俺はセシリアとシャルと共に双眼鏡で戦闘を眺めていた。

 

あの拠点にそれほど重要な意味は無い、

むしろ、ただ敵を引き付けるためだけの囮だ、

本命の起爆スイッチは、俺の掌にある。

 

「クックックッ・・・、最低でも八割は誘い込みたいモノだな、

でなければ、後々取り逃がす獲物も少なくて済む。」

 

「それはよろしいのですが、本当に私達が出なくともよろしいのですか?」

 

「ラウラ達を信じてない訳じゃ無いけど、

僕達が出た方が手っ取り早いよ?」

 

俺の拳に握られたスイッチを見ながら、

セシリアとシャルは俺に問いかける。

 

確かに仲間、いや、同志を信じたいとは思うが、

果たしてこれから起こる光景を見ても着いてこようと思うかは別だ。

 

しかし、そんな事はどうでもいい、

協力するならばそれで良い、

裏切るならば消せば良い、ただそれだけだ。

 

「裏切るならば裏切れば良い、だが、アイツらがそれをするか?

アイツらも知ってるんだよ、もう前の世界には戻れねぇって事をな?」

 

そう、戻れるならば抗うなりなんなり出来る、

だが、戻れないのならば、流れに身を任せるなり、

その流れに乗って更に進む以外道は残されない。

 

それにアイツらはこの世界に半ば失望している、

だから俺に着き、世界を壊すこともいとわなかった。

 

ならば俺はその意志を汲み取り、

アイツらが望むようにしてやればいい。

 

「それに知ってるか?人間てのはスイッチを押し込むだけで、簡単に死ねるんだぜ?」

 

そして、俺も俺の思うがままに事を運ぶだけだ、

それがどんな結末をもたらそうともな。

 

その時、今まで聞こえて来たモノよりも、

一際デカイ爆音が響き渡った。

 

恐らくはメインゲートが破られたのだろう、

ダガーは性能を落とし、わざと攻撃しかしないようにプログラミングしてある。

 

所詮は無人機、幾らでも替えは効くし、

こういう策にはうってつけの駒だ。

 

それに、ダガーも後の世には遺しておく訳にもいかないしな・・・。

 

「もう少しだ、地獄を見るのはな・・・?」

 

sideout

 

noside

 

メインゲートを破ったIS連合の一部は、

拠点内に侵入、次々に重要と思える設備を破壊していった。

 

今の所、織斑一夏や他のガンダムは姿を見せていない、

しかし、この拠点内の何処かにいるはずだ。

 

これだけ破壊活動を行っているのだ、

黙って傍観などしている暇でもなくなるだろう。

 

そう思い、彼女達は更に奥へと進んで行った。

 

その先に何が待ち受けているのかも分からぬままに・・・。

 

 

一方、拠点外部でダガー郡を相手にしていた機体達も、

次々に無人機を葬り、拠点内に侵入しようとしていた。

 

ほとんどのパイロット達は、周りの勢いに便乗し、

拠点の内部へと機体を駆った。

 

しかし、その中でもごく僅かな者達、

国家代表の中でも特に腕の良いパイロット達は、

あまりにトントン拍子に進む戦局を不審に思い、

何かの罠かとも警戒し始めていた。

 

しかし、周囲の機体の勢いに逆らう事は出来ず、

自分達もその流れに乗る事しか出来なかった。

 

だが、そこで気付くべきだったのかもしれない、

それが何者かによって引き起こされた、最悪のシナリオの一部なのだと・・・。

 

sideout

 

noside

 

「そろそろか・・・、各員に通達、

これよりサイクロプスを起動させる、

巻き込まれない位置まで退避、及び待機せよ。」

 

先程よりも更に2㎞離れた地点で、

一夏は待機しているガンダムに通信を入れる。

 

IS同士の通信では無く、

端末同士の通信の為、傍受される恐れは無い。

 

指先でスイッチのカバーを上に弾くように開け、

ボタンに指を置く。

 

「この尊き犠牲が新世界への幕開けになる、

俺が望む世界のな・・・。」

 

彼は目を閉じ、感慨深げに呟いた。

 

まるで、その瞬間をずっと待っていたと言わんばかりに・・・。

 

「さぁ、目覚めろよサイクロプス!!

その力を存分に振るえ!!」

 

目を見開き、高らかに宣言しながらも、

彼はスイッチを押し込んだ。

 

sideout

 

noside

 

獲物を独占しようと、全機体に先駆け、

拠点内最深部に近付いていた機体に異変は起こった。

 

突如、ブンッ・・・と短い唸りをあげたかと思うと、

次の瞬間には全てのモニターが一瞬の内に切れ、PICも停止し床に膝まづいた。

 

パイロットの女性は慌てて計器を見ようと必死になった、

しかし、モニター投影型計器を採用していたISでは、

その行為すら出来ない。

 

まさかエネルギー切れ?

彼女はそう思ったが、エラーサイン一つ無く全てのモニターが死ぬなんて有り得ない・・・。

 

そこまで考えた時、彼女は自身の身体が圧迫される様な違和感を覚えた。

 

いや、違う、

圧迫されているのでは無い、身体が膨れ上がっている為、ISスーツが押し留めようとしているのだ。

 

恐怖のあまり、叫びをあげるが、

その間にも喉元まで内臓が競り上がってきている。

 

次の瞬間には、彼女の身体は弾け、鮮血が噴き出した。

 

何がどうなっている!?

 

そう考える間もなく、彼女の思考は途切れた。

 

サイクロプス、

ギリシャ神話に登場する一つ目の巨人の名を持つその恐るべき兵器。

 

その概要は、強烈なマイクロ波を発生させ、

精密機械を停止に追い込み、なおかつ水分を瞬間的に加熱、沸騰させる事で蒸発の勢いを高める、

謂わば、超強力な電子レンジなのである。

 

その結果、水蒸気が皮膚を突き破る事で、

人間をはじめ、体内の半数以上が水分で構築されている生物はたちまち破裂してしまう。

 

また、弾薬や燃料にも影響を与え、

ISを誘爆させる効果も兼ね備えている。

 

しかも核爆発の様に環境に与える影響は極めて少なく、自爆するにはうってつけの兵器となってしまっている。

 

そのあまりにも強烈で、残忍な兵器を、

一夏は躊躇うことなく使用したのだ。

 

サイクロプスは最初の一基を中心とし、

次々に起動、その効果範囲を円形状広げていく。

 

既に最深部付近まで来ていた者達は、

後方にいる味方に警告を発する間もなく消えていく。

 

漸く異変に気付いた後続機は、

顔面蒼白になりながらも必死に機体を駆り、

サイクロプスのマイクロ波から逃れようとした。

 

しかし、中には青白く揺らめく死神の手に捕まり、

墜落、爆散していく機体もあった。

 

いや、逃れた機体の数よりも、死神の手に捕まり、

鉄屑へと還った機体の方が圧倒的に多かった。

 

爆心地は巨大なクレーターと化し、

周囲から海水が流れ込み、加熱された大地を急速に冷やす。

 

その影響により、上空では狂おしい程にまでの美しさを発つオーロラが乱舞していた・・・。

 

sideout

 

sideラウラ

 

『各機に通達、敵残存機を殲滅せよ、一機たりとて逃がすな。』

 

兄貴の指示を聞き、サイクロプスの範囲外で待機していた私達はミラージュコロイドを解除、

生き残った敵に対して攻撃を始めた。

 

既に敵の9割以上がサイクロプスによって殲滅され、

ISコアも殆どが機能を停止、起動不可能な状況に陥っている。

 

いや、それだけでは無い、

生き残った敵のパイロットも、精神的なダメージを受けているだろう事は一瞥しただけで察する事が出来る。

 

私とて、やるべき事は分かっている、

だが、流石にここまでする必要があったのだろうか?

 

世界に対する生け贄とは言えど、

こんな事が本当に正しいのだろうか・・・?

 

分からない、しかし、やるしかない・・・。

 

さもなければ、私が消されるから・・・。

 

「すまない・・・!怨むなら、私を怨め・・・!!」

 

精神的なダメージにより、動く事すらままならない敵に向け、私はフォルファントリーを発つ。

 

彼女達は避ける事すらままならず、

爆散する機体と運命を共にしていく。

 

当然、断末魔の叫びも時折私の耳に届き、

次の瞬間には消えて聞こえなくなる・・・。

 

どうして、こんなことになったんだ・・・?

 

兄貴・・・、本当にこれが正しいのですか・・・?

 

sideout

 

noside

 

それから一時間もしない内に、

サイクロプスから逃れたIS連合の機体は残らず殲滅された。

 

当然、コアを破壊する様に攻撃されているため、

パイロットは勿論、IS自体の機能も完全に停止した。

 

「クックックッ・・・、上出来だな、

ラウラ達は上手くやってくれた様だぞ?」

 

双眼鏡で戦況を傍観していた一夏は、

何処か楽し気に呟いた。

 

まるで、自身の想像がそのまま現実になった事を喜ぶかの様にも見える。

 

「そうですわね、ですが、本当の目的はこれからでしょう?」

 

「そうだね、僕達の望みはこの先に待っているんだから。」

 

ラウラ達が裏切らなかった事に安堵したのか、

セシリアとシャルロットは何処か満足そうな表情を見せるが、それは一瞬の内に消え、次の目標を見据えた者の表情を作った。

 

「そうとも、俺達はまだやるべき事がある、

次の手に移ろうじゃないか。」

 

一夏は高々と手を掲げ、宣言する。

 

その時、敵機殲滅を終えた箒達が一夏の方へと戻ってきた。

 

「盟主、たった今終わったぞ。」

 

「ご苦労、早速で悪いが移動するぞ、

ここに残るわけにはいかんのでな。」

 

箒が報告を終えるやいなや、

彼はストライクノワールを展開し、飛び立っていった。

 

他の者達も彼に倣うかの様に機体を展開、

後を追って飛翔する。

 

この日、彼等の計画は更に一段階進んだのであった・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

一夏の蛮行に憤る秋良の前に、
純白の機体が姿を現した。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
星を見る者

お楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

星を見る者

noside

 

「くそっ・・・!!サイクロプスを使うなんて・・・!!アイツには血も涙も無いのか・・・!?」

 

アクタイオン社ブリーフィングルームにて、

秋良は拳を握り締め、テーブルを殴り付けていた。

 

大量殺戮兵器であるサイクロプスを何の躊躇いも無く使用した事への憤りもあるだろう。

 

しかし、本当に彼が憤っている理由は、

一夏にも良心が残っているものと、心の何処かでごくわずかに抱いていた希望を打ち砕かれた事である。

 

たった一押しするだけで、

何百もの命を平然と奪うような兵器を、

最も近くにいた人物が使うなどとは思いたくなかったのだ。

 

しかし、そんな僅かな希望は無惨にも打ち砕かれ、

彼の心を満たすのは虚しさ、そして、一夏への憤怒だった。

 

「あの野郎・・・!!ここまでイカれてやがったか・・・!!」

 

「こんなの・・・、こんなのって・・・!!」

 

雅人は怒りを堪えた様な声で呻き、

楯無は口許を押さえながらも震えていた。

 

当然だ、彼等に見せ付けられたのは、

人間が身体の内側から弾け飛ぶ場面や、機体の誘爆に巻き込まれ、火だるまになるところという場面だ、

平静でいられる訳もない。

 

「俺が・・・!!アイツを止められなかったばっかりに!こんなことに・・・!!」

 

悔しさと怒りのあまりに、秋良は何度も何度もテーブルを殴り付ける。

その拳にはうっすらと血が滲んでいた。

 

彼が纏う触れれば切れそうな雰囲気に、

誰もが何も言うことが出来なかった。

 

「そんな所で八つ当たりしても、

貴方の鬱憤は晴らせないんじゃないの?」

 

そんな時だった、突然現れたエリカが秋良に問い掛ける。

 

「それほどの怒りを何もしないまま抑えて、

貴方は敗北を認めるというのね?」

 

「・・・っ!!」

 

彼女の言葉は棘となり、彼の心に突き刺さっていく。

 

秋良は何も言うことが出来ずに、

ただ拳を握り締めるだけしか出来なかった。

 

「残念ね・・・、貴方なら一夏を止められると思っていたのに・・・、見当違いだったみたいね。」

 

突き放す様に言いながら、

エリカは彼等に背を向け、立ち去ろうとした。

 

「・・・、どうすればいいんです!?

俺はアイツを止めたい!だけど俺には力が無いんだ!!

どうすることも出来ないでしょう!?」

 

堪えていた物を吐き出すかの様に叫びながらも、

秋良はエリカに詰め寄った。

 

彼とてこの様な行いを平然とやってのける一夏の暴挙を止めたいとは思っている。

 

しかし、彼が戦うための剣は、

既に折られ、戦う術を失っているのだ・・・。

 

「漸くその気になったわね、

良いわ、私に着いてきなさい。」

 

秋良の言葉に、エリカは呆れたような表情を見せながらも、秋良達を先導するかの様に歩き始めた。

 

「え・・・?」

 

「何してるの?置いてくわよ。」

 

あまりの状況転換に着いていけない彼は、

馬鹿みたいに口を開け、立ち尽くしていた。

 

そんな彼を叱る様に、エリカは声をかける。

 

「は、はい・・・!!」

 

そこで我に返った秋良達は、

急ぎ足で彼女の後を追うのであった・・・。

 

sideout

 

side秋良

 

エリカ主任に連れられ、

俺達はアクタイオン社の地下最深部まで来ていた。

 

ここは俺も立ち入った事は一度も無く、

謎に包まれていた区画だ。

 

そんな場所に一体何の用があるんだろうか・・・?

 

そう思っている内にも、

俺達は分厚い隔壁の前に立っていた。

 

「開けるわよ、離れてなさい。」

 

エリカ主任に言われた通りに、

俺達は隔壁から少し距離を取る。

 

少し待っていると、隔壁が音を立てて開いていく。

 

隔壁が完全に開ききった時、

俺は何かに吸い寄せられる様に、その中へと歩みを進めた。

 

何かが俺を呼んでいる、そんな気がしたんだ。

 

内部は暗く、どういう風になっているのかは把握出来なかった。

 

目を凝らそうとしたその時、

照明が着けられたのか、周囲が一気に明るくなった。

 

あまりに唐突だった為、俺は思わず光から目を背けた。

 

徐々に目が慣れてきた時に、

ゆっくりと前を見てみると、そこには一機の純白の機体が鎮座していた。

 

何処と無くストライク系に近いフレームを持ち、

背中に特徴的なリングを背負っている機体と言えばあの機体しか思い浮かばない・・・。

 

「・・・、スターゲイザー・・・、ですか・・・。」

 

スターゲイザー・・・、星を見る者と言う名を与えられた機体。

 

本来の用途は無人外宇宙探査機だけど、

装備されているヴォワチュール・リュミエールの能力、機能によって戦闘能力も確保されている。

 

つまりは純粋な戦闘用機に転換する事も現実的には可能なんだ。

 

「これを、俺に・・・?」

 

「戦うための剣が欲しいんでしょう?

なら、遠慮せずに受け取りなさい?」

 

俺はまだ躊躇っていたのだろう、

躊躇っていないのなら、何も言わずに機体に乗り込んだ筈だから・・・。

 

それを見透かされたのか、

エリカ主任は俺に渡そうとしてくれている。

 

申し訳無いやら、ありがたいやらで胸がいっぱいになりそうだ。

 

「スターゲイザー・・・、俺は何処までやれるかな・・・?

俺はアイツを止めたい・・・。」

 

だけど、大義名分は向こうにある、

いくら向こうが世界征服を企んでいようとも、

民衆を味方に着けたのはあっちだ。

 

どうあがいた所で、それだけは変わることは無い、

ただ、それでも俺は、その先に待っている未来を、

何の抵抗も無く受け入れたくはない。

 

だったら、その意志を通すためには戦うしかないのは理解している。

 

なら、俺がやることは一つじゃないか。

 

「俺はアイツを倒す、正誤なんてもうどうでも良い、

俺は俺が出来る事をやるしかないんだよね。」

 

そうだ、俺は俺が正しいと思うことをすればいい。

 

一夏も、所詮は自分が正しいと思うことを貫いているだけに過ぎないんだ。

 

善悪、正誤なんて、勝者がいくらでも塗り替えられる、

ただそれだけがこの世の理なんだろう・・・。

 

だったら、四の五の言わずに俺は戦えば良い、

戦士にはそれしか出来ないからね。

 

「俺と行こう、スターゲイザー・・・、

俺達の希望の星を掴みに、ね。」

 

スターゲイザーの装甲に手を触れると、

機体が淡く発行し、ブレスレットに変形した。

 

どうやら、俺の事を認めてくれたみたいだ。

 

もう割り切った、たとえ兄だったとしても、

世界に害を為すなら、俺はそれを打ち払うだけだ。

 

ガンダムチームの目的は、誰にも縛られず、

世界の敵を討つこと。

 

俺が討とうとするのは世界に仇なす敵だ。

 

もうそれで良い、俺は頭が良くない、

なら、何も考えずに敵を討つ。

 

何も俺はガンダムチームの掟に反する事はしていない、それでいいじゃないか。

 

「行こう、皆、アイツを倒して、世界を救おう。」

 

「当然だろ、俺も戦うぜ。」

 

「私もよ、このまま見てられないからね。」

 

「私も行く、秋良一人に全部を背負わせるなんてさせないから。」

 

雅人、楯無、そして簪は我が意を得たりという風に笑い、戦意を示してくれる。

 

俺の心に暖かな感情が宿っていく、そんな時だった。

 

「アタシは・・・、もう、戦いたくない・・・っ!!」

 

唐突に鈴が叫んだ。

 

普段は物静かで、他に流されがちな鈴の叫びとあって、俺達は驚いてしまった。

 

「もうイヤよ・・・、どうして一夏と戦わなくちゃいけないの・・・?私達、ずっと一緒にいたのにどうして・・・?」

 

『・・・。』

 

鈴の言葉に、俺達は何も言えなくなって押し黙った。

 

鈴にとっては、敵味方の概念なんて無い、

知人、親、そして昔からずっと一緒にいる友人という括りだけなんだろう。

 

それは俺にだって痛いほど分かる、

鈴は昔、アイツの事を実の兄同然に慕っていた、

だからこそ、余計にそう思うんだと理解できる。

 

彼女の意志は汲んでやりたい、

だけど、このまま放置しておいて良い問題でも当然ない。

 

俺が出来る事と言えば、嘘を吐いてでも鈴を丸め込む、それだけだった・・・。

 

「分かってる、アイツをぶん殴って、一緒に帰ってくるさ、約束する。」

 

「約束よ・・・!?絶対に絶対よ・・・!?」

 

「約束する、俺達が鈴との約束を破った事、あったっけ?」

 

俺が頭を撫でながら聞くと、

鈴は昔と同じ様に勢いよく首を横に振る。

 

「だから、鈴はここで待っててくれ、

もう戦う必要なんてないから・・・。」

 

彼女の腕に着けられていたネブラブリッツの待機形態であるブレスレットを受け取り、

俺はスターゲイザーの腕部を展開、粉々に破壊した。

 

俺だって、もうISの世が戻らない事は理解している、

だからこそ、ガンダムを持つことで、鈴が要らない事に巻き込まれない為に、俺はネブラブリッツを破壊した。

 

これで良いんだ・・・、鈴にまで泥を被らせる訳にはいかないから・・・。

 

sideout

 

noside

 

アラスカより離脱した一夏達は、

彼が逃がした空母の内の一隻に着艦していた。

 

当然、予告したわけでもなんでもないため、

空母のクルー達は出迎えの為に大慌てで甲板に上がった。

 

自身達をISの支配より脱却させてくれた英雄に対する礼を尽くす、その一心で彼等は動いていた。

 

艦長であるトダカも、艦の航行を副官に任せ、

自ら直々に一夏達の前に姿を現した。

 

「突然の要請を受け入れて貰い、感謝します。」

 

黒髪の青年、織斑一夏はストライクノワールの頭部装甲を解除、素顔を曝してクルー達に礼を述べる。

 

「英雄織斑一夏殿、我等を救って頂き、誠に感謝します。」

 

トダカ以下十数名のクルーは、

一夏達に最敬礼しながらも答えた。

 

一夏の指示が無ければ、

トダカらとてサイクロプスの餌食となっていたのかも知れないと考えれば、彼の指示は自分達への救いの手だと思い込むのも無理はない。

 

「不躾な頼みだとは理解しているが、

私達を日本まで送ってはもらえないでしょうか?

先程の戦闘で移動手段を奪われてしまったものでしてね。」

 

「勿論です、我々が皆様をお送りします、

こんなところでは寛げないでしょう、

部屋を用意させますので、こちらへ。」

 

一夏の頼みを即座に了解したトダカは、

彼等の部屋を用意させようと部下に指示を出そうとした。

 

しかし、それよりも早く一夏が動き、

彼の言葉を制した。

 

「この場所で構いません、この者達の素顔を曝させる訳にもいかないものでしてね、

それに、機体のエネルギーが回復次第発艦させてもらうつもりでいるのでね。」

 

彼は自身の後ろに控える者達を指しながらトダカに説明していく。

 

トダカは彼の思惑を察する事は出来なかったが、

一夏の後ろに控えている者達の顔がフルフェイスヘルメットで覆われている事から、

人相を割られたくないのだと理解した。

 

「了解しました、不都合がございましたらなんなりとお申し付けを、それでは失礼します。」

 

これ以上言及しても利益にはならないと判断した彼は、

一夏達に向けて再び最敬礼をした後、艦内へと戻っていった。

 

甲板から人気が無くなった事を確認し、

一夏以外のメンバーはヘルメットを脱いだ。

 

「ふぅ・・・、空母の甲板で遊覧ってのも悪くねぇもんだな、アタシは好きだぜ、こういうの。」

 

「私はまぁまぁッスかね~、と言っても、

すぐにまた移動ッスよね?」

 

ヘルメットを脱いだダリルは、

海を眺めながらも楽し気に言い、

フォルテはめんどくさそうにやれやれと言った風に尋ねる。

 

「そうだな、機体のエネルギーが回復次第、

日本に向けて飛ぶ、ここに寄ったのも、回復中に少しでも移動できれば良いと思ったからだな。」

 

「実に合理的な判断だな、で?日本に着いたらどうするんだ?」

 

一夏の説明を肯定的に受け取った箒だが、

何故か何かを期待する様な口調で彼に問いかける。

 

「お前達の望み、それを俺が直々に叶えてやろう、

そうだろう?ダリル、フォルテ、箒?」

 

箒の言葉を受け、彼は口許を歪めて笑う。

 

その笑みにはただ、何処までも純粋な狂喜だけがあった。

 

「当然だぜ、アタシはその為にお前に手を貸した、

それぐらいしてもらわねぇと骨折り損だ。」

 

「ありがたいッスね~、最後に一度ぐらいはやってみたかったんスよ。」

 

「すまない一夏、こんな大切な時に我が儘を聞いてもらってな・・・。」

 

彼の答えに、ダリルは嬉しそうに、

フォルテは安心した様に、そして、箒は何処か申し訳なさそうな表情を見せる。

 

「セシリア、シャル、お前達の望みも・・・、

いや、聞くまでもないな・・・?」

 

「はい、私の望みはたったひとつだけですわ。」

 

「僕もだよ、一夏なら分かるでしょ?」

 

「・・・、分かった。」

 

一夏の問いに躊躇いなく答えたセシリアとシャルロットに、ただ一言短く呟いた後、彼は全員を見渡す。

 

「エネルギーも回復するまでまだ時間はある、

準備はしておいてくれ、

あの二人も、向こうで合流する手筈だ。」

 

彼の指示に、彼女達は力強く頷き、

次の行動に備えるべく、それぞれ身体を休める。

 

その様子は、まさに戦の時を待つ戦士そのものであった。

 

 

それから二時間後、<タケミカヅチ>のクルーが一夏達の様子を伺いにやって来たが、

そこにはもう、彼等の姿は無かった・・・。

 

sideout




次回予告

一夏に向けられた刃は、
何を願い振られるのか・・・。

次回インフイニット・ストラトス・アストレイ
凶暴索餌

お楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

凶暴索餌

side真耶

 

ナナバルクを護衛し、アクタイオン社に戻った私となーちゃんは、一夏君が指定した場所まで向かうため、

こっそりと機体を駆り、空を飛んでいます。

 

ミラージュコロイドを展開してるので、

バレる確率はそれほど高くは無いと思いますが、

やはりこちらから見えているとなると、

少し緊張するものです。

 

「まーやん・・・、本当にこれで良いのかな・・・?」

 

どれぐらい飛び続けた時だったでしょうか、

私の横を飛ぶなーちゃんが、何処か不安げな声で話しかけてきました。

 

「分からない・・・、でも、アイツが作った世界を変えれるなら、私は一夏君に着いていこうと思ってるよ。」

 

そう、今までの世界は間違った力で歪められ、

一部の者の私利私欲で構築された世界・・・。

 

そこに生きて、中心に近い場所で、歪ませた力を持って行動していた私が言うのも可笑しいとは分かってる、自分が犯した過ちも、そして罪も・・・。

 

だから、私はこの世界を正そうとしている彼に力を貸した、たとえそれが、どれ程の返り血を浴びる事になっても、間違った事をそのままにはしたくなかった。

 

でも、不安がなかった訳じゃない、

布仏さんが殺された瞬間からずっと思ってること、

彼を裏切れば、次にあんな感じになるのは私だと。

 

それが怖かったのかもしれない、

でも、それ以上に不気味さもなかった訳じゃない。

 

彼がやろうとしてることの先、

ISの完全破壊を終えて、そこから先でやろうとする事が全く分からない。

 

普通に考えれば、自分が頂点に立ち、

世界を思うように動かしていく事が思い付く。

 

でも、彼はそんなことは興味が無いように、

ただ、世界を変えようとしているだけの様に見える・・・。

 

それが余計に不気味さを増長させて、

まるで底無しの闇の中にいるかの様な錯覚を覚えます。

 

でも、それでも構いません、

私の目的はこの世界の悪を正すこと、

それが達成されるなら、彼の動向は二の次でも構わない。

 

それで良いんだと思ってます。

 

そんな事よりも、今は迷わない様に飛ぶ事が優先ですよね。

 

そう思いながらも、私はグリーンフレームを駆り、飛び続けました。

 

後ろから接近する機体の存在に気付きながらも・・・。

 

sideout

 

noside

 

日本、IS学園跡地。

 

大戦後、ISへの不信感が高まった事で、身の危険を感じた教員、生徒全員が退職、退学、または国家からの指示で祖国へと戻った為に、休校扱いとなっている。

 

だが、実際には存在意義と言っても過言ではない程に重要なISが全機、連合に徴集され、アラスカで破壊されてしまったため、閉校同然となっているのだ。

 

しかし、設備の全ては通常時と全く変わることなく残されていた。

 

そこに、七機のガンダムが舞い降りた。

 

ストライクノワール、ブルデュエルデーストラ、ヴェルデバスターシーストラ、レッドフレーム改、ソードカラミティ、フォビドゥンブルー、そしてハイペリオンだった。

 

「フッ、久しく訪れていなかったが、

随分と寂れた物だな、時代の流れをそのまま体現したみたいにな。」

 

ストライクノワールを駆る一夏は、

何処か皮肉を含んだ言葉を呟く。

 

彼でなくてもそう思うことだろう、

時代の最先端、いや、世界その物を作り出したと言っても過言ではない場所、物が時代の荒波に抗えずに消えて行こうとしているのだから。

 

いや、彼にとってはそんな事など至極どうでも良い事なのであろう、事実、彼の目は既に別のモノに向けられていた。

 

「さて、ダリル、フォルテ、箒、ラウラ、

最後の宴と行こうじゃないか?

セシリア、シャル、手を出すなよ?」

 

彼はビームブレイドを抜き放ち、

その切っ先をダリル達に向ける。

 

それと同時にセシリアとシャルロットに待機する様に指示し、自身はガンダムフェイスを出現させた。

 

「へっ、待ってたぜ、この時をな!」

 

「褒美をもらい受けるッスよ!!」

 

「その全力を私にくれ!!」

 

「引き戻せぬなら、私に最後の稽古を着けてください、兄貴!!」

 

四人が四人とも、己の得物を呼び出し、彼に向けて迫る。

 

その気迫は、まるで自分が一夏を討ち取ってやると言わんばかりのものである。

 

「来い、お前達に俺の本気を刻んでやる!!」

 

一夏はビームブレイドを振るい、

ダリルのシュベルト・ゲベールと切り結ぶ。

 

「フッ、腕を上げたな、以前より振りが良くなっている!」

 

口許を愉悦に歪めながらも、シュベルト・ゲベールを弾き、ソードカラミティの腹部に蹴りを入れ、吹き飛ばす。

 

間髪入れずに飛び掛かってきたフォビドゥンブルーのトライデントを、

ビームを切ったビームブレイドで受け流し、

その背中を蹴り、援護しようとしていたハイペリオンに迫る。

 

ラウラは向かってくるストライクノワールにザスタバ・スティグマトを向けようとするが、それより早く、一夏が彼女の懐に潜り込み、殴打を叩き込む。

 

よろけたハイペリオンを足場に、タクティカルアームズⅡLを構えて向かってくる箒に対し、

シュベルト・ゲベールを呼び出して斬りかかる。

 

「良いぞ箒、タクティカルアームズⅡLを見事に使えているな、それでこそだ。」

 

「ありがたい限りだ、この力、今こそお前に示そうではないか!!」

 

嬉々として振るわれる刃を受け止めながらも、箒は自身の内側で心が昂っていく事を自覚する。

 

自身よりも遥かに強い男の本気を、

今その身で感じている。

 

恐怖が興奮に掻き消されているためか、

彼女は防御をかなぐり捨て、彼に突進していく。

 

「アタシを忘れて貰っちゃ困るぜ!!」

 

箒との拮抗状態から離れた一夏に、

ビームブーメランを左手に保持し、シュベルト・ゲベールと二刀流で構えたダリルが突っ込んでくる。

 

「見事な判断だ、だが、その程度で俺を落とせると思うなよ!」

 

「くっ・・・!やっぱ強ぇよ、お前は!!」

 

自身が攻めているにも関わらず、

押され始めている事に気付きながらも、彼女は嬉々として一夏に向かっていく。

 

「私もいるッスよ!!盟主殿!!」

 

フォルテはスーパーキャビテーティング魚雷を発射しながらも、フォノンメーザーを発射、

それと同時にトライデントを構え、一夏に迫る。

 

その勢いは捨て身も同然、

勝てないと悟りながらも格上の相手に挑む。

 

一夏は撃ちかけられるビームや魚雷をシールドを呼び出すことで防ぎ、トライデントにシールドを貫かせ、

フォルテにビームブレイドの斬撃を喰らわせる。

 

「はぁっ!!」

 

ビームナイフを二本保持し、

ハイペリオンを駆るラウラは烈迫した気迫と共に一夏へと迫る。

 

ヴォーダン・オージェも開放し、

普段以上の反応速度を持って一夏へと迫る。

 

フォビドゥンブルーに攻撃した隙を突かれた一夏は、

ストライクノワールの右肩部アーマーに直撃を許すも、それ以上の機体の破損はさせない。

 

ラウラを蹴り飛ばし瞬時にI.W.S.P.に換装、

コンバインドシールドでガトリングガンの連射を浴びせかける。

 

ラウラは左腕のアルミューレ・リュミエールを展開し弾丸を防ぐが、一夏はそのまま接近、

シールドの発生着に対艦刀を突き立てた。

 

「くっ・・・!流石は兄貴・・・!

私なんかよりも、ずっとお強い・・・ッ!!」

 

「腕を上げたようで何よりだ、もっとも、今日が最後なんだがな!!」

 

最後という言葉の意味は分からないが、

一夏はラウラの腹部、鳩尾を殴り、盛大に吹き飛ばし、校舎に叩き付ける。

 

空中4メートルにて弾き飛ばされたため、

ハイペリオンは二階部分に直撃、

校舎に巨大な亀裂が走る。

 

「グ、ハァ・・・っ。」

 

激突の衝撃があまりにも強烈だったためか、

彼女は壁にめり込んだまま動かなくなった。

 

「ハァァッ!!」

 

そんな事は御構い無しと言わんばかりに、

箒のレッドフレーム改がヴォワチュール・リュミエールを展開し、超高速で彼に迫る。

 

「ハッ!!」

 

一夏はそれをモノともせずに、

対艦刀で逸らし、同時に峯でレッドフレーム改を叩き飛ばす。

 

「がはっ・・・!!」

 

ラウラと同じ様に、箒も校舎に叩き付けられる。

 

それに追い撃ちをかけるかの如く、

一夏はレールガンを発射する。

 

「ぐぁぁぁっ!!」

 

直撃する直前になんとか逃れるが、

着弾時の爆風で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

「どうした!!もう御仕舞いか!?」

 

「ま、まだだぁっ!!」

 

一夏の叫びに応える様に、

箒はガーベラストレートを構え、突撃する。

 

彼女の渾身の突きを紙一重で回避、いや、頭部装甲の一部を抉られながらも、箒の鳩尾に殴打を叩き込む。

 

「がはっ・・・、アァァァ・・・ッ!!」

 

吹き飛ばされた箒は、校舎を砕きながらも吹き飛ばされ、海に落ちた。

 

「余所見してんじゃねぇぞ!!」

 

「私達もいるッスよ!!」

 

彼の背後より、ダリルとフォルテが己の得物を構え、

一夏の首を掻き斬ろうと迫る。

 

「分かってるさ!」

 

一夏は振り向く事なくI.W.S.P.をパージ、

キャリバーンストライカーに換装し、

I.W.S.P.をシュベルト・ゲベール改で突き刺し、フォルテを狙う。

 

「なっ!?」

 

まさかの攻撃に回避する事が出来ず、

機体への直撃を弛し、大きく後方へと突き飛ばされ、

アリーナの外壁にまで弾き飛ばされ、叩き付けられる。

 

しかも当たり所が悪かったのか、

フォルテは地表に倒れ込み、動かなくなった。

 

「へっ!やっぱり最後はアタシと一騎討ちか!?

デートに誘って貰った気分だぜ!!」

 

「アンタなら歓迎したい所だな、だが、

今は俺を殺れる想像でもしてろ!!」

 

ダリルはシュベルト・ゲベールを二刀流で保持し、

一夏はシュベルト・ゲベール改、そしてカラドボルグを保持し、凄絶な斬り合いを行う。

 

あまりの剣撃の応酬に、

周囲に衝撃波が発生、二人が足場としている地面が徐々に凹み、陥没していく。

 

何度目になるかも分からぬ激突の直後、

一夏とダリルは弾き合うように離れ、空中に飛び上がる。

 

「オォォォラァァァァッ!!」

 

「ガァァァァァァッ!!」

 

獣の咆哮とも取れる叫びをあげ、

トリコロールと赤橙色の機体は速度を上げながらぶつかり合う。

 

シュベルト・ゲベール改の斬撃がアリーナの外壁を抉り、

カラドボルグの斬撃が瓦礫を、粉塵を焼く。

 

シュベルト・ゲベールの斬撃はストライクノワールの装甲を掠め、その機体に傷を増やしていく。

 

そんなモノを気にも止めず、一夏はシュベルト・ゲベール改を振り抜く。

 

疲労により、衰えを知らぬ彼の斬撃を受け止め切れず、遂に盛大に吹き飛ばされ、寮の壁に叩き付けられる。

 

「がはっ・・・ッ!!や、やっぱ強ぇよ・・・、一夏・・・!」

 

苦悶の表情を浮かべながらも、ダリルは何処か満足げに笑った。

 

悔いは無い、まるでそう言っている様だった・・・。

 

「お前の力、見事だった、これで悔いは無いな?」

 

「へへっ・・・、あぁ、無い。」

 

自身の前に降り立つ一夏の問いに、

ダリルは何の躊躇いもなく言い切った。

 

「分かった。」

 

彼は短く答え、シュベルト・ゲベール改を振りかぶった・・・。

 

sideout

 

noside

 

一夏達がIS学園跡地にて同士討ちを始める30分前、

アクタイオン社にて、秋良達は出撃の準備を行っていた。

 

一夏から届いた一通のメール、

それにはただ簡潔に、IS学園があった場所で待つとだけ書かれていたのだ。

 

その文面を見た彼等は、すぐに一夏の意図を察した。

 

彼は自分達を呼び寄せ、そして叩き潰す事で自身の目的を果たそうとしているのだ、と。

 

これが最後の決戦になる、

考えなくとも判る事柄に対する臆面も見せず、

四人は準備を急いだ。

 

特に、スターゲイザーでの初陣となる秋良は、

かつての愛機、ゲイルストライクに搭載されていた装備の幾つかをバッスロット内に積み、他の三名よりも明確な意志が籠った強い瞳を、ここにはいない一夏に向けていた。

 

「PIC出力調整完了、VL出力良好、

各武装格納、機体とのマッチングクリア、システムオールグリーン、スターゲイザー、出撃準備完了。」

 

カタパルトに移動しながらも、

秋良はスターゲイザーの最終調整を行っていた。

 

最強と名高い一夏との命を賭けた最後の戦いだ、

半端なメンテで水を射される訳にはいかないからだ。

 

「準備は良いかい?これが最後の出撃だ、

全員でまたここに戻ってこよう。」

 

「当然だぜ、俺はまだやりたい事はいっぱいあるんだ、こんな事で死ねるかよ。」

 

「そうね、雅人と生きるためにも、私も生き残るわよ。」

 

「秋良、発進の号令、お願いね。」

 

雅人、楯無、そして簪は、彼の言葉に笑って頷く。

 

彼等の表情にも迷いの色は見えず、

前に進んでいく意志が見てとれた。

 

「分かった、これよりガンダムチームは裏切り者、織斑一夏とその一派を討伐するために出撃する、

この作戦は全員の生還をもって成功とする!」

 

『了解!!』

 

全員との通信を切った後、彼は目を閉じた、

何か感慨深げな、否、心を落ち着けている様な雰囲気を醸し出している。

 

『進路クリアー、スターゲイザー、発進どうぞ!!』

 

出撃の許可するアナウンスが彼の耳に届き、

秋良はカッと目を見開く。

 

「織斑秋良、スターゲイザー、行きます!!」

 

決然たる意志を乗せた純白の機体は大空へと飛び出し、その先に待ち受ける戦場へと向かっていく。

 

そこに何があるのかは分からぬままに・・・。

 

sideout

 




次回予告
分かたれた兄弟の道が、
戦場にて再び交錯する

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
最後の力 前編

お楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後の力 前編

side楯無

 

旧IS学園に向かうため、私達はそれぞれの機体を駆り、空を駆けていた。

 

IS学園跡地を指定したと言うことは、

その場所で一つの時代の終焉を迎えようという彼なりの皮肉なのだろうか?

 

いや、今はそんなことを考える必要なんてない、

彼がやろうとしている事を止める、ただそれだけを考えればいいんだ。

 

ブルーフレームセカンドリバイを操縦しながらも、

私は心の内の不安を圧し殺して、前に向かって飛び続けた。

 

その時、突然アラートが鳴り響き、前方から突如として大出力ビームが飛来してきた。

 

咄嗟に散開するする事でやり過ごし、

ズーム機能で前方に目を凝らすと、そこにはビーム砲を構えたデスティニーインパルスとグリーンフレームが佇んでいた。

 

「ファイルス先生・・・!山田先生・・・!!」

 

どうして貴女達まで彼の蛮行に加担するのですか!?

 

一体、何が貴女達を駆り立てたのです!?

 

「ここから先には進ませません。」

 

「どうしても通ると言うならば、私達を踏み越えて行きなさい!」

 

各々の武器を構えつつ、彼女達は私達に通信を入れてきた。

 

流石に知り合いが敵に回っているとは言っても、

やっぱり私はまだ躊躇いが有るのかもしれない、

だけど、今はやるしか無いという事は分かっている。

 

いや、それよりも前に、

私達が倒すべき本命は織斑一夏、彼を倒せばこの動乱は終結し、世界は再び違う方向へと動き始める。

 

今ここで無駄な力を消耗してしまっては、

ただでさえ少ない勝率が更に少なくなってしまう。

 

彼に勝つには、現状で持てる最高戦力、

秋良君のスターゲイザーのフル稼働状態をぶつける以外に無い。

 

こんな所でちんたらと時間を浪費する訳にはいかない・・・!

 

やっぱり、露払いは私の役目、ね・・・!!

 

私はタクティカルアームズⅡをガトリングフォームに切り換え、二機に牽制射撃を行う。

 

「三人とも聞きなさい!!ここは私が引き受ける!!

早く先に進んで、彼に引導を渡しなさい!!」

 

「お姉ちゃん!?」

 

「分かりました、必ず追い付いてくださいね?」

 

簪ちゃんが不安げな声をあげるけど、

秋良君は既にスラスターを全開にして、先に進んでいた。

 

「ッ!!待ちなさい!!」

 

「行かせない!!」

 

二人が先に進もうとする秋良君に気付き、

ビームライフルを撃ちかける。

 

だけど、彼は速度を落とすことなく進み、

ヴォワチュール・リュミエールでビームを弾きながらも、二機のビームライフルをすれ違い様に切り裂いて行った。

 

「何してるの!?秋良君は行ったわよ!?

雅人も簪ちゃんも、早く行きなさい!!

彼等を止められるのは貴方達しかいないの!!」

 

悔しいけど、私が彼に挑んだって、勝てる確率なんて何万分の一以下、機体の相性も、技量も差が開きすぎている。

 

だから、私に出来るのはこうやって未来を託す事だけ、想いの強さなら、誰にも負けないから!!

 

「楯無・・・!!絶対に後で会おうぜ!!

俺も生き残る!お前も生きろ!!」

 

「雅人、簪ちゃんの事をお願い!絶対にまた会えるから!!」

 

雅人は簪ちゃんの腕を引き、

戦域から離脱していった。

 

「貴女達の相手はこの私よ!!この世界を乱す敵!!」

 

「彼の真意を知らない哀れな敵に・・・。」

 

「私達が引導を渡してあげるわ!!」

 

対艦刀やビームサーベルを引き抜いて向かってくる二機に、私はタクティカルアームズⅡをソードモードに切り換え、斬りかかる。

 

私の決戦は、こうして始まった・・・。

 

sideout

 

noside

 

楯無が囮となった事で、

戦域を無傷で脱した秋良達は、

暫く飛び続けた後、IS学園跡地上空にたどり着いた。

 

もう間も無く、彼等は雌雄を決する戦いに身を投じる事となる、そこに怯えや不安がない訳ではない、

むしろ、本当に勝てるのか?自分達が正しいのかという想いは胸の内にある。

 

だが、それを思考の隅に追いやって、

なお有り余るのは、蛮行を繰り返す一夏達への憤怒だった。

 

その怒りを晴らす為と言ってしまえば、

ただのヤクザの様な理由と一蹴されてしまうだろう。

 

だが、彼等はそれでも別に構わない心づもりでいた。

 

自分の正義を通すならその理由も致し方無し、

その思いが彼等の中にあったのだ。

 

「行こう、これが最後の決戦だ。」

 

雅人と簪を交互に見つつ、秋良は毅然として言った。

 

もう迷う必要など無い、自分達がやらねばならない事と理解しているのだ。

 

「おうよ、俺達三人でやってやろうぜ、

この世界の未来を護るためにもな!」

 

「戦おう、どれだけ苦しくても、私は最後まで足掻いてみせるから。」

 

雅人と簪は、彼の言葉に表情を明るくし、

戦闘にかける覚悟を見せていた。

 

「それじゃあ、行こうか!!」

 

気合い十分、後はやるだけだと言わんばかりに、

秋良は機体を加速させ、地表に流星の如く降りていく。

 

雲を突き抜け、IS学園跡地を視界に捉えた彼等は、

その変わり果てた光景に絶句した。

 

手入れの行き届いていた外観は跡形もなく吹き飛ばされ、

アリーナや寮のいたる所には抉られた様な跡が残り、

自分達が過ごした校舎には大きく穴が空くなど、

見るも無惨に荒れ果てていた。

 

まるで、強大な力を有した何かが戦った後の様に、

IS学園は破壊されていた。

 

「一体何が・・・!?」

 

「ようやく来たか。」

 

驚愕により硬直してしまった秋良達の前に、

一夏、セシリア、シャルロットの三人が降り立った。

 

一夏の手には、何やら球状に近い物握られている。

 

「一夏ッ!!アンタって奴は・・・ッ!!」

 

仇敵の姿を確認した秋良は、

ストライク専用ビームライフルを呼び出し、一夏に向けて構える。

 

何時でもお前を撃ち抜く用意は出来ている、

彼が纏う殺気が雄弁に語っていた。

 

しかし、当の一夏はそんな物などどこ吹く風と言わんばかりに、腕を広げながらも笑う。

 

「スターゲイザーに乗り換えたのか?

そうか、だから俺の計画が此処まで楽に進んだのだな、もっとも、些か退屈だったがな。」

 

「・・・ッ!!」

 

秋良達の遅さを嘲笑うかの如く、

彼は口許に薄い笑みを浮かべる。

 

いや、事実嘲笑っているのかもしれない、

ここまでスムーズに事が運んでしまえば、

彼の気質を考えれば退屈して当然であろう。

 

「貴様らがあまりにも遅いせいで、コイツらが犠牲になってしまったぞ?」

 

不敵な笑みを崩さぬまま、彼は手に持っていた何かを秋良達の前に掲げた。

 

それは、特徴的なブレードアンテナと、ツインアイを持つ形状の頭部、ソードカラミティの頭部だった。

 

秋良達は、全身の血の気がさっと引いていくのを感じた。

 

よく見てみれば、アリーナの外壁にはフォビドゥンブルーが、

校舎にはハイペリオンが、そして、寮の壁にはソードカラミティの身体がめり込んでいた。

 

レッドフレームは確認出来なかったが、

彼等は直感的に、この場所で起こった事を導き出した。

 

「・・・ッ!!貴様は・・・、協力してた仲間まで殺ったのか!?」

 

怒りに打ち震えながらも、

なんとか絞り出した秋良の声は掠れ、血を吐くような切実さが含まれていた。

 

「仲間?あぁ、確かにそうだったよ、だが、俺の目的の為には、どうしてもやらねばならなかったのさ。」

 

秋良の言葉を肯定しつつも、

彼は腕に力を込め、ソードカラミティのヘッドを握り潰した。

 

「俺の望みはな、この世界で最も強ぇ存在になることさ、

戦闘能力、戦略、策略に長けた最強としての名が欲しいのさ、その為なら、俺はなんだってやるぜ?」

 

快晴が一転、黒雲が立ち込め始めた空に手を掲げ、

彼は言葉を紡いだ。

 

「それを成してどうする?この世界を支配する気か!?」

 

「そんな下らん事に興味はない、この世の頂点に立つだけで全てに片が着く、頭の悪いお前達にも分かるだろう?」

 

「一夏・・・!貴様という奴はっ・・・!!」

 

秋良の問いに然も当然の様に答える一夏に、

遂に怒りが噴き出した雅人は彼に飛び掛かろうとするが、

一夏の右隣に控えたセシリアが動き、それを阻む。

 

「それを拒むと言うならば、俺を踏み倒し、望む物を掴んでみろ、お前の欲望のままにな、それしか俺を止める方法は無いぞ?」

 

「上等だ!!俺は貴様を討つ!!その為にここに来た!!」

 

一夏の言葉に吼えた秋良は、

スターゲイザーのスラスターを吹かし、一夏へと迫ろうとした。

 

その時、六機のモニターに警告表示が表れた。

 

その方角をズームしてみると、

三機のISが編隊を組み、彼等の方に向かってきていた。

 

「ふむ、生き残りがいたようだな、

数は三機・・・、見たところ特攻覚悟か・・・、

セシリア、シャル、コイツら見張ってろ。」

 

「畏まりました。」

 

「あんな雌豚なんて、すぐに終わるよね?僕達は僕達で始めてるよ?」

 

「っ!!待て!!」

 

セシリアとシャルロットに指示を出しつつ、

向かってくるIS三機の編隊に向け、一夏は飛翔する。

 

それを追おうと秋良と簪は動くが、

シャルロットが発ったビームやミサイルに阻まれる。

 

「無粋な真似はやめてよね、一夏の戦いには水を射すことは僕達が許さないよ。」

 

「もっとも、駆けつける前にあの三機は撃墜されるでしょうがね!!」

 

シャルロットとセシリアは己が武器を展開し、

秋良達目掛け迫る。

 

「くっ・・・!!お前達に構ってる訳にはいかない!!」

 

秋良はビームライフルを撃とうとするが、

雅人と簪がそれよりも速く動き、セシリアとシャルロットとそれぞれ激突する。

 

「秋良!!一夏を追いかけて!!」

 

「ここは俺達に任せろ!!お前の手でケリを着けて来い!!」

 

「ふふっ、雅人さんが相手ですか、良いでしょう、

どちらがドラグーン使いとして上手か、ここでハッキリとさせましょう!!」

 

「簪が相手なんだね?オールラウンダーとして、

どっちが強いか勝負しようよ!!僕が勝つけどね!!」

 

雅人と簪が交戦の意思を示した事に反応し、

セシリアとシャルロットは道を開けるかの如く動き、

二人に襲い掛かる。

 

「行きなさい!!ルーヴィアドラグーン!!」

 

「行けよ!プリスティス!ドラグーン!!」

 

ブルデュエルデーストラより八基のドラグーンが、

ドレッドノートより二基のプリスティス、

及び、四基のドラグーンが射出され、オールレンジ射撃の応酬が繰り広げられる。

 

「ほらほら!!最後の宴だよ!!楽しもうよ!!」

 

「そんな暇は無いのよ、シャルロット!!」

 

ハイパービームサーベルを引き抜いたシャルロットと、プロトン・セイバーを二刀流で構える簪は、

それぞれが装備しているミサイルで弾幕を張りつつ切り結ぶ。

 

「秋良!!速く行って!!」

 

「簪・・・!!雅人・・・!!ありがとう!!」

 

簪の叫びを受け、

秋良は彼等に礼を叫びつつ、一夏が翔んでいった方向へと機体を駆った。

 

全てのケリを着けるため、

自分の責任を果たす為に・・・。

 

sideout

 

noside

 

接近する残党機に対し、

一夏はアナザートライアルランチャーに換装、

向かってくる三機にアグニを撃ちかけた。

 

リヴァイヴ三機はなんとか反応し、回避しようと試みたが、最も反応が遅かった左側の一機がインパルス砲の奔流に呑まれ、跡形もなく消し飛んだ。

 

「お前達もこの世に残ってはならん存在だ、

下卑た雄どもの慰み物とならぬ様に消してやる。」

 

直ぐ様アナザートライアルソードに換装し、

一夏は手近な一機にビームブーメランを投擲する。

 

「ッ!!」

 

そのリヴァイヴは、ビームブーメランをシールドを犠牲にする事でやり過ごし、パイルバンカーを構え、一夏に向けて一気に迫る。

 

反対方向からも、パイルバンカーを構えたもう一機のリヴァイヴが迫っていた。

 

前後同時にパイルバンカーを喰らえば、

如何に一夏と言えども轟沈するだろうという目論見の基、彼女達は刺し違える事を覚悟の上で迫っていく。

 

しかし、一夏は右腕に何やら巨大な武装を呼び出し、

左手にシュベルト・ゲベールを保持し、前後より迫る敵機を殴り飛ばした。

 

「攻めは良いが、陽動が無ければ成功せんよ!!」

 

左手のパンツァーアイゼンを射出し、

後方から攻めてきていたリヴァイヴの首元を捉え、引き寄せつつもシュベルト・ゲベールを一閃、パイロットごと切り裂いた。

 

「なっ・・・!?このぉッ!!」

 

弾かれたリヴァイヴの内、前方から攻めてきた一機は、まさしく捨て身同然で彼に迫る。

 

「命を捨ててでも俺を殺すか、上等だ、その意気に敬意を表し、俺は貴公を倒そう!!」

 

右腕に装備された巨大な武装、一見してパイルバンカーの様にも見えるが、その形状は異様の一言に尽きた。

 

通常のパイルバンカーは腕の側面に取り付けられている様なモノだが、彼が装備しているのは、六本の杭が腕を取り巻いている様に配置されているのだ。

 

腕がまるごと覆われている為に、他の武装を使うことは出来ないだろうが、それでもその威圧感は推して測る事は出来るだろう。

 

少女のパイルバンカーがヒットするよりも速く、

一夏の右腕が唸りをあげる。

 

「ひっ・・・!?」

 

「穿て!墮天使が鉄槌!!ルシファーズ・スマッシャー!!」

 

彼の右腕に装備された巨大な武装が、

轟ッ!!という唸りをあげ、少女の上半身を跡形もなく吹き飛ばした。

 

一夏がルシファーズ・スマッシャーと呼んだ武装は、

パイルバンカーではあるが、その括りに留めて良いのかも分からぬモノだった。

 

ルシファーズ・スマッシャー

見た目は6連装のパイルバンカーだが、

これはバンカーを打ち出すための炸薬が6連装なのではなく、文字通り杭が6本円を描く様に配置されているという意味の6連装。

 

ただし、あまりにも重量があるため、

喩え機体のパワーアシストが有ろうとも重心が大きく狂う。

 

その為、エースパイロットを超えたスーパーエースですら扱いきれない武装と化し、並のパイロットではその場から動くことすら困難となる。

 

しかしそれに見合った威力は持ち合わせてお り、

一回引き金を引くと6本の杭が全て同時に打ち出され、第二世代までなら絶対防御を貫通し、操縦者すらミンチにしてしまうほどの威力を発揮する。

 

だが、当然反動は尋常ではなく、一回打てば保持していた腕の骨が粉々になり、ISの腕部装甲も砕け散る。

 

そんな兵器を使用したにも関わらず、当の一夏は薄い笑みを崩さぬまま、ルシファーズ・スマッシャーを軽々と振り回す。

 

「クックックッ・・・、ハーッハッハッハッ!!ハーッハッハッハッハッハッ!!

最高だぜ!!この破壊力!!ゾクゾクする!!」

 

何故彼が平然としていられるのか?

 

それは至極単純な理由だ、

彼の肉体の頑丈さ、そして、ルシファーズ・スマッシャーを両腕で支え、衝撃を分散させた為である。

 

だが、それでも衝撃は腕を襲い、

ストライクEの腕部装甲は所々亀裂が走り、

一撃でも攻撃が当たれば砕けそうな様子だった。

 

「やはり、衝撃だけは防げなかったか、

まぁいい、本命へのちょうどいいハンデだ。」

 

そう呟きつつも、彼はゆっくりと振り向き、

少し遠い場所に佇む秋良を見る。

 

「それにしても、俺の技を盗み見するために、

護ろうとしているモノを見捨てるとはなぁ?」

 

「・・・。」

 

嘲る様に言い放つ一夏の言葉は、実に的を射た発言であった。

 

秋良がこの空域に入ったのは、三機の内、二機目が落とされた直後であったのだ。

 

如何に仲間ではないにしても、

それはまさしく一夏のやり方に通ずる物があった。

 

「お前も俺と同類だよ、でなければ、間に合わないと分かっていても助けに行こうとした筈だよなぁ?」

 

「あぁ、そうだよ、貴様と俺はよく似ている、

戦闘を楽しんだのも、どんなことをしても相手の技を見ようとする所もね。」

 

一夏の指摘を肯定しつつも、

秋良は射殺すような視線を彼に向ける。

 

「でも、俺は貴様みたいに虐殺はしない、

ただ戦闘を楽しむだけさ、人間は殺さない、

だが貴様は何様のつもりでこんな事をするんだ!?

自分が神にでもなったつもりなのか!?」

 

「俺は神に選ばれたのさ、この世の頂点に立つ事を許され、その力を与えられた存在、そうとも、俺がやろうとしていることはこの世界の意思、この世界を創った女神の意思だ!!」

 

両手を広げ、天を仰ぐ様にしながらも、彼は言葉を紡いだ。

 

自分こそが世界の意思、そう言い切ったのだ。

 

「違う!!貴様は自分の凶行の理由を世界や女神の意思とすり替えて、自分の責任から逃れているだけだ!

貴様の罪を、この俺が断つ!!」

 

「世界の意思、女神の意思、

それはこの戦いの後に立っていた者にある、

その意思を問うてみるとしようか!!」

 

「望むところだ!!俺か貴様か!ここで決着を着やける!!」

 

一夏はビームライフルショーティーとビームブレイドを構え、

秋良はシシオウブレードを正眼に構えた。

 

その体制のまま、彼等はピクリとも動かない、

まるで、飛び出すタイミングを見計らっているようでもあった。

 

時計の針が何周した頃だろうか、

黒雲立ち込める空より、一筋の雷が落ちた。

 

「「ハァァァァッ!!」」

 

その瞬間、彼等は全く同時に飛び出し、

己の得物を振るい、切り結ぶ。

 

ここに、雌雄を決する最後の戦いが始まった・・・。

 

sideout




次回予告

雷鳴鳴り響く空の下、
六つの魂のロンドが繰り広げられる。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
最後の力 中編

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後の力 中編

noside

 

「行きなさいルーヴィアドラグーン!!私の主様の道を阻む愚かな者に裁きを与えなさい!!」

 

ブルデュエルデーストラが装備するルーヴィアストライカーより、八基のドラグーンが射出され、

雅人のドレッドノートに向けて嵐の如くオールレンジ射撃を仕掛ける。

 

「ドラグーンを得意としてんのは、お前だけじゃ無いんだぜ!!行けよドラグーン!!」

 

雅人の掛け声と共に、亡國企業戦時に装備されたフルアーマードラグーンとは別に製産されたフルアーマードラグーンを装備し、計二十基のドラグーンでセシリアのドラグーンと弾幕合戦を開始する。

 

ドラグーンの数で勝る雅人のドラグーンがルーヴィアドラグーンに襲いかかるが、

性能的にはセシリアが駆るルーヴィアドラグーンの方が断然上である。

 

そのため、僅か八基しか無いにも係わらず、

ドレッドノートが操るドラグーンと互角、否、僅かだがそれを押している様な戦いを繰り広げる。

 

「くっ・・・!!これほどの力を持っているとは・・・ッ!!」

 

「どうされましたか?動きが止まって見えますわよ!!」

 

ドラグーンを操る本人達も縦横に動き回り、

オールレンジ射撃の嵐を掻い潜りながらも相手に向け、ビームを撃ちかける。

 

一見してどちらとも攻撃が当たっていない様にも見えるが、目を凝らして見ると、

所々ビームが装甲を掠めている事が伺える。

 

つまり、彼等は互いの動きを読みながらもドラグーンを操り、その上で攻撃、回避の為に機体を縦横無尽に動かしているのだ。

 

それは並大抵の人間が出来るような真似では無く、

正に選ばれた者だけが為せる神業にも等しい行為だ。

 

しかし、その選ばれた者の中にも当然ながら優劣や力の大小は多少ながらも存在する。

 

その差が浮き彫りになり始めたのか、

セシリアのドラグーンの射撃が、競り合いを続けていたドレッドノートのドラグーンを捉え始めた。

 

「そこっ!!」

 

左肩のラックより抜き取ったスティレットを、

セシリアは雅人目掛けて投擲する。

 

ロケット推進によって加速したスティレットは、迎撃しようと構えたドレッドノートのビームライフルに着弾、盛大な爆発を引き起こした。

 

「うわっ・・・!!くっ・・・!何故だ!!何故これ程までの力を持ちながら、何故一夏の悪行に手を貸すんだ!?」

 

爆発する寸前にビームライフルを捨てた雅人は、

左腕に装備されているシールドからビームサーベルを発生させ、セシリアに迫る。

 

それを察知したセシリアも、リトラクタブルビームガンを格納し、両手にビームサーベルを保持し、彼を迎え撃つ。

 

「悪行?それは何を指しての悪行なのですか?

人殺しがですか?それとも世界を支配しようとしている事ですか?」

 

「両方だ!!お前達がやろうとしてることは、

悪行そのものじゃねぇか!!

人を殺し、人の運命を弄くり回して!!それが正しい行いな訳がねぇだろ!!」

 

ビームサーベルの光刃が互いの機体を掠めるが、

両者はそれでも激突し続けた。

 

「では、私達が行った悪行で、何れ程の人間が救われましたか?救われた人間の方が消された人間よりも多いのではありませんか?」

 

「っ・・・!!」

 

セシリアの言葉が胸に突き刺さった雅人は、

動揺してしまい、自身の左側から飛んできた蹴りをもろに食らい、体勢を崩す。

 

セシリアの言っている事は紛れもない事実だ、

彼等の計画内で消されたのは、ISを使用してガンダムの前に立った者、女尊男卑を推し進める政治家、資産家など一部の権力者だ。

 

一般人には被害はほとんど出ていない、

出ていたとしても、それは以前より威張り散らしていた一部の女尊男卑主義の女である事を、雅人も分かってはいたのだ。

 

所詮、彼は個人的な善悪の感情で彼等の行動を測り、

それに自分が相容れないだけという、子供じみた感情なのだと思い知らされたのだ。

 

「貴方は個人の感情に流され過ぎていますわね、

今一度、その甘さを叩いて差し上げましょう!!」

 

「くっ・・・!!こんなところで・・・ッ!!

俺はァッ・・・!!止まる訳にはいかないんだっ!!」

 

セシリアの光刃が、雅人を切り裂くべく迫る・・・。

 

sideout

 

noside

 

「はぁぁァッ!!」

 

セシリアと雅人の戦場より少し離れた場所にて、

ヴェルデバスターシーストラを纏うシャルロットと、

アウトフレームDフルアーマーライオットを纏う簪が凌を削っていた。

 

両者の装備は非常に似通っており、

パイロットの得意とする戦法も全く同じと言っても過言では無かった。

 

互いに全く同じタイミングでミサイルを発ち、

迎撃としてビームライフルでミサイルを撃ち落とし、

大出力ビームサーベルを振るい、切り結ぶ。

 

「あははっ!!良いよ簪!前より強くなってるね!!

吹っ切れたのかな?それとも、僕が憎いからかな!?」

 

狂った様に笑いながらも、

シャルロットはハイパービームサーベルを押し込み、

簪の体勢を崩そうとする。

 

「シャルロット!!どうしてこんな事をするの!?

貴女は一夏のやることが正しいと思ってるの!?」

 

簪はそれに負けじとプロトン・セイバーを押し返しながらも、シャルロットに向けて叫ぶ。

 

筋力の差を見るならばシャルロットの方が上だが、

簪は力の受け流し方に長けているため、押し込まれる刃の角度をずらす事で拮抗状態に留めている。

 

「僕が戦う理由なんて決まってるよ、

一夏とセシリアと三人で一緒にいるためだよ、

それに、あんな世界、僕は大嫌いだったしね!!」

 

「だからあんな虐殺をしたの!?たったそれだけの理由で!?」

 

然も当然の如く言い放ったシャルロットの言葉に、

簪は我を忘れて猛攻を仕掛ける。

 

拮抗状態から離れ、ミサイルとプロトン・ランチャー、プロトン・ライフルをヴェルデバスターシーストラに撃ちかける。

 

しかし、それを読んでいたかの如く、

シャルロットは全兵装を発射、それらを全て相殺していく。

 

「それだけだよ!僕の信じる正義は一夏への愛だけだよ!それが間違いなんて言わせない!!」

 

「ぐっ・・・ッ!!」

 

爆煙より飛び出したシャルロットの蹴りを回避する事が出来ず、

簪は後方へと大きく吹き飛ばされた。

 

「君だって、変わろうとする世界は分かってるでしょ!?前までの世界を憎んでる人にとっては、君達はそれを邪魔する巨悪だって事をさ!!」

 

複合バヨネット装備型ビームライフルを平行連結し、

その方向を簪が吹き飛ばされた方へと向け、大出力ビームを発つ。

 

「っ・・・!!それでも!人殺しが正当化される訳なんて無い!!貴女は間違ってる!!」

 

スラスターを全開にし、アリーナの外壁に叩き付けられる前に射線上より退避した。

 

直後、アリーナの外壁に大出力ビームの光条が直撃し、巨大な穴を穿った。

 

「貴女もセシリアも、そして一夏も!!

人を殺した事は事実でしょう!!それを正当化なんて出来るわけがないっ!!」

 

「じゃあ人を殺さなくても破滅に追い込まれる人はそのままで良いの!?何もしてないのに殺される人はそのまま死んでも良いの!?」

 

「・・・ッ!!」

 

自身の言葉を即座に否定、それも正論を正論で返された為、簪は言葉に詰まってしまう。

 

そう、確かに殺人は許されない所業なのであろう、

だが、それは日常生活の中での話だ。

 

戦争、革命、大きな動乱が始まってしまえば、

今まで当然の様に送ってきた日常は失われ、

殺し殺されが日常となる。

 

簪が言う正論は日常生活の中では絶大な意味を持つ、

しかし、シャルロットが言う正論は、どの状況でも通用する正論であった。

 

何の云われもない人間が気に入らないという理不尽な理由で牢屋に押し込まれる事も、

冤罪を被る事になったのは歪んだ体制が大きく原因となっている。

 

無論、簪とてそれは理解しているであろう、

だが、人を何の躊躇いも無く殺し、

世界に君臨しようとする彼等の姿への怒りの為に、

そこまで思考が回らなくなっていた。

 

そこに突きつけられた事実は重く、

プロトン・ランチャーを握る手が震え始めた。

 

心の奥に封じ込めていた筈の迷いが再び沸き上がり、

彼女の動きを鈍らせていた。

 

「君は現実から目を逸らしてる!

そんなんじゃ君は僕には勝てない!!」

 

「それでも・・・ッ!それでも私は・・・ッ!!」

 

自身に絶対的な正しさが無いと悟りつつ、

それでも生きるために簪は抗う。

 

たとえ、自分が間違った道を歩んでいたとしても・・・。

 

sideout

 

noside

 

IS学園跡地より少し離れた洋上にて、

一夏と秋良は刀を交えていた。

 

雷鳴と共に金属と金属がぶつかり合うような異音が周囲に響き渡り、不協和音を奏でていた。

 

「ハーッハッハッハッ!!腕を上げたな!だが、

些か力任せだな?それほどまでに俺が憎いか?」

 

ビームブレイドを片手で振るいながらも、

秋良に問い掛ける。

 

「あぁ、憎いさ!!こんな事を仕出かす貴様の行いが!こんな所まで止められなかった俺自身がね!!」

 

スターゲイザーを駆る秋良は、機体の基本装備を今だ使用する事なく、自身が最も得意とする戦法、

一刀流による近接格闘を挑んでいた。

 

鞘も使った連撃はストライクノワールの装甲を掠め、

そのひび割れつつあった箇所を砕いていく。

 

「お前が俺を止められなかったのは、お前の甘さ故だ、お前はそれを分かっているんだろ?

それを棚に挙げて俺を憎むか?実に愚かしい。」

 

「あぁそうさ!俺は自分の甘さを棚に挙げて貴様を憎んだ!だけど、今は違う!!」

 

一夏の言葉に、何の躊躇いも無く言い返し、

秋良は距離を取ってビームライフルを撃つ。

 

「今はあの時の俺の無力が憎い!

貴様の蛮行も俺に取ってはどうでもいい、

俺が気に入らないのは貴様の態度さ!!」

 

「迷いを断ち切ったか、上等だ、ならば心のままに戦おうじゃねぇか!!」

 

ビームを切り裂きつつ、一夏はビームライフルシヨーティーを撃ちかけながらもスターゲイザーに迫る。

 

近接格闘では心許ないと考えたのだろう、

ビームライフルシヨーティーならば、彼が得意とする間合いを維持しつつ、射撃を行えるのだ。

 

しかし、秋良もそれは承知の上、

一夏の攻撃を封じる為に、彼は切り札を切る。

 

「ヴォワチュール・リュミエール!!フルオープン!!」

 

スターゲイザーの装甲各部にある溝が、

金色の光を放ち、周囲に緑色に発光するリングが幾つも現れる。

 

これぞスターゲイザーの特徴的な武装、

ヴォワチュール・リュミエールの真骨頂である。

 

触れる物を切り裂くビームサーベルを機体の周囲に展開させた様な物で、

ビームライフル程度のビーム射撃すら弾く事の出来る、正に結界と呼ぶに相応しい代物である。

 

その結界を展開し、撃ちかけられたビームを弾きながらも一夏へと迫る。

 

「クックックッ・・・、ヴォワチュール・リュミエールか、これは不味いな、ノワールでは手に剰るぜ。」

 

円形のビーム刃の一部が自身に迫ってきているのを察知した彼は、

咄嗟にビームライフルシヨーティーを犠牲にし、

スターゲイザーとの距離を取った。

 

如何に性能の高いストライクノワールとは言えど、

全身に纏われたビームサーベルを潜り抜けて攻撃する事は不可能に近い。

 

「逃がすか!!ここで貴様を仕留めてやる!!」

 

それを知っている秋良は、

一気に攻勢に転じ、ストライクノワールを攻め立てる。

 

「チッ!相性が悪すぎるか、

しょうがねぇ、エネルギーが切れるまで粘ってやるか!!」

 

機体の相性が悪すぎると判断した一夏は、

ヴォワチュール・リュミエール最大の欠陥、燃費の劣悪さを利用し、エネルギーが切れた所を狙う事に戦いの重点を置くことにした様だ。

 

エネルギーが切れてしまえば、

ヴォワチュール・リュミエールの展開は不可能となり、如何にスターゲイザーとは言えどもただの脆い機体へと成り下がる。

 

だが、それは秋良も承知の上、

エネルギーが切れるまでに意地でも彼を落とそうとするだろう。

 

正に苛烈、熾烈な戦いが繰り広げられつつあった・・・。

 

sideout

 





次回予告
何が正しいのか、何が間違っているのか、
答えを出すための戦いに終焉の時が訪れつつあった。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
最後の力 後編

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後の力 後編 其ノ1

side雅人

 

戦闘が始まってからどれぐらいの時間が経ったのだろうか、

俺はセシリアのブルデュエルデーストラから浴びせかけられるビームを回避しつつも、

俺は本気で迷いを振り切れ無かった。

 

セシリアが言う事は事実だ、

それも俺がわざと見ないようにしていた現実・・・。

 

確かに殺された奴もいたが、

それは所詮、女尊男卑を続けさせようとした連中、

もしくは私利私欲を貪った連中だけだ。

 

だけど、それでも俺は親しかった友人が人を殺める事が赦せなかった。

 

たとえ、相手が何れ程の悪人だろうと、

法の下、もしくはそれに近い環境で裁くべきだと俺は考えている。

 

しかし、良く良く考えてみれば分かることだ、

そいつらは表面的には法を犯してはいない、

いや、むしろその法を作った奴もいるのだろう。

 

そんな奴等を裁くのに法は必要ない、

むしろ必要なのは法外、外道をやってのける力だ。

 

それを分かっている、必要だとも思っている、

なのに、俺はそれを受け入れられていない。

 

それは甘さなのか、それとも迷いなのか・・・?

 

「貴方は現実から目を背けています、

それをお分かりなのですか!?自分はのうのうと守られていた事を棚に上げて、汚れを被った一夏様を責めるですって!?図々しいにも程がありますわよ!!」

 

ブルデュエルから発たれるビームが、

ドレッドノートの肩部装甲に突き刺さり抉り取っていく。

 

俺のビームは一向にセシリアの機体を捉える事が出来ない。

 

迷いが射線を鈍らせている事は分かってる、

だけど、俺はセシリアを討つことが本当に正しいのか決められていない。

 

確かにアイツらを放っておいても、

前までの世界よりは遥かにマシな世界が築かれる事は確かだろう。

 

だが、その世界で全ての人間が平和に、平等に生きられるかと問われれは首を傾げざるをえないだろう。

 

確かに一定の平和はあるだろう、

しかし、それは支配と抑圧による偽りの平和だろう。

 

俺は到底そんな世界では生きられないし、

受け入れられない。

 

世界は平和になれない事は避けられない現実だ、

その中で抗って戦って生きていくからこそ、

人間は新しい叡智を持つことが出来ている。

 

それが善か悪かは俺にだって、誰にだって分かるわけが無い、

使う人間によって善悪の判断は決まる、だからこそ世界は回っているんだと俺は思う。

 

だが、アイツらのやり方は、善悪を完全に定義し、

それを淘汰していく事を是としている。

 

それは刃向かう者は全て消す、殺すと動議だ、

これは独裁者がやることと何ら変わりは無い。

 

だから、俺はアイツを止めたいと思った、

たとえアイツを、仲間だった奴等を殺めたとしても、

世界を誤った方向へは持っていきたく無かった。

 

「俺はっ・・・!俺はお前達に殺しをさせたく無かった・・・!!

それの何がいけねぇんだ!!」

 

「私たちにはありがた迷惑ですわね!

やらねばならぬ使命と分かっておりましたもの!!」

 

「それがお前の本心か!?一夏の事を疑って無いのか!?

自分が殺されると、不安は無いのか!?」

 

ビームサーベルで切り結びながらも、

俺とセシリアは舌戦を繰り広げている。

 

俺は頭が良くないから、相手を丸め込むなんざ不可能だ。

 

だけど、それでも相手の心に問いかける事で、

セシリアの心中を知りたかった。

 

それが、俺が唯一出来ることだから・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

 

「一夏様を疑う?何を世迷い言を仰るのですか?」

 

ビームサーベルで切り結ぶ雅人さんから、

何やら問いの様な叫びが届きました。

 

言いたい事は分かります、

何故私が一夏様に加担するのか疑問に思っているのでしょう。

 

「疑っているなら、最初からあの方の隣になど立っておりませんわ!この身体を捧げてはいませんわ!!」

 

そう、あの方の為される事を聞かされた時は、

正直言いまして途方もない事だと目眩がしましたわ。

 

それでも、一夏様の悲し気な笑みは、

私達の事を案じて見せてくださった物なのだと、

その時に察する事が出来ました。

 

あの方は、人を騙すことは出来ても御自身を偽る事は出来ぬ御方、

無意識の優しさが私とシャルさんの前に零れた瞬間だったのでしょう。

 

そこで、道は分かれていたのでしょう、

一夏様とお供するか、それとも離れるかの道は・・・。

 

私は一夏様に変えて頂いた存在、

身も心もあの方のモノにされてしまっていた。

 

ならば、この身が滅んでも、私は一夏様に着いていく、そう決めたのです。

 

「それでも、私は一夏様を愛していました!!

一夏様も私を愛してくださりました!!

私はそれだけの理由で充分だったのです!!」

 

拮抗状態から離れつつ、

ルーヴィアドラグーンを乱舞させ、ドレッドノートのドラグーンを落とそうと試みます。

 

しかし、やはりと言うべきでしょう、

一筋縄で落ちてくれる訳もなく、逆にこちらのドラグーンが落とされる状況にも陥りそうです。

 

「愛してる方の為ならば、私はどんな事でも致しましょう!一夏様が望まれるなら、この手をどれ程汚しても構いませんわ!!」

 

八基から六基に減らされたルーヴィアドラグーンを使い、

バーストショット、スパイク、フレキシブルショットを立て続けに撃ちますが、

彼は私の先を読むが如く回避していきます。

 

何故ですの!?先程までの動きとは何か違いますわ・・・!!

 

「ふざけてんじゃねぇぞセシリア!!アイツがそんな事、望む訳がねぇだろうが!!」

 

sideout

 

side雅人

 

セシリアの言葉を黙って聞いていたが、

俺は遂に我慢の限界が来てしまった。

 

セシリアがどれ程一夏の事を信じ、愛しているのかは痛いほど伝わってきた。

 

その想いの深さは、流石と言うべきものだろう。

 

だが、だからこそセシリアはひとつ、大きな勘違いをしている。

 

それが、俺が何よりも許せない!!

 

確かにアイツはスゲェ男だよ、

一人で世界を敵に回して、それでいて、勝っちまうんだから尚更だ!

俺や秋良なんかじゃ一生かかっても越えられねぇ程のな!!

 

そんな一夏に惚れ、着いていこうとする事も、

アイツの為に何かをしたいと言う気持ちも痛いほど分かる!

 

だがな・・・!!

 

「愛って奴は相手に着いていくだけじゃねぇんだぞ!!

時には否定して、ぶつかって違うことも出来ると分からせてやるのが本当の愛ってもんだろうが!!」

 

ドレッドノートの形態をイータに変更し、

大型ビームソードで自分のドラグーンを薙ぎ払いつつ、セシリアのドラグーンを落とす。

 

もう構うものか、アイツの歪みを俺は見つけた!

たとえ独善的な言いがかりだと言われようが、

俺はその歪みを赦せねぇ!!

 

「貴方に何が分かるのです!?人を愛して間もないのに!私達の事を分かる筈がありませんわ!!」

 

「分からないさ!だけどな!アイツの本当の願いを、お前は知らねぇのか!!

同じ男として!愛してる女に幸せになって欲しいと思ってるに違いないんだよ!!」

 

あぁ、お前達の絆なんて俺がどうこう口出し出来る領域じゃねぇのは分かってる!

 

だが、それだからこそ!一夏がセシリアとシャルロットを思いやっていた事ぐらい分かる!!

 

そんなアイツの本当の願いを知らずして、

それが愛と呼べる筈がねぇ!!

 

「分かりました、貴方と私、どちらの愛が強いか!

ここで決着を着けましょう!!」

 

「望むところだ!!」

 

セシリア、お前の愛が歪んでいることを、

この俺が分からせてやる!!

 

sideout

 

noside

 

リミッターを解除したトリコロールと蒼の二機は、

先程までとは比べ物にならない動きでぶつかり合う。

 

火力は高いがエネルギー消費の悪いイータと、火力面では劣るブルデュエルデーストラは、

互いの持てる全ての力を全面に押し出しての短期決戦を決めた様だ。

 

大型ビームソードがブルデュエルのルーヴィアドラグーンを切り落とし、

リトラクタブルビームガンが間髪入れずにドラグーンを落としていく。

 

先程までの戦いが、まるで小競り合いだったかの様に、二機は必殺の意志を籠めた攻撃を繰り出す。

 

「オォォォォッ!!」

 

「ハァァァァッ!!」

 

咆哮の如き叫びをあげつつ、

二機は目にも止まらぬ早さで動き続けた。

 

エネルギーを節約する事も、

機体へのダメージも気にすることなく、

互いに攻撃を止めなかった。

 

その結果か、二機には至る所にビームで抉られた様な痕が無数に刻まれ、

それが常識を外れた高速機動の為にひび割れ、

機体のボディ全体に亀裂を走らせた。

 

幾度目になるかも分からぬ激突の際、

ブルデュエルのリトラクタブルビームガンが焼き切られ、ドレッドノートのビームソードが半ばから断ち斬られた。

 

「チィッ!!」

 

周りに聞こえるほど大きく舌打ちしつつ、

雅人はブルデュエルの腹を蹴り、距離を大きく取る。

 

「くぅっ・・・!!」

 

蹴り飛ばされたセシリアは呻きつつ、

残ったビームサーベルを引き抜き、体勢を立て直した。

 

(エネルギー的には次が最後の一撃になりそうだな・・・、最後の武器はビームソードただひとつ・・・、か。)

 

(もう後がありませんわね・・・、最後の一撃を入れる以外、戦いは終わりませんわね・・・。)

 

(ならば、この一撃が最後だ・・・!!)

 

両者残り少ないエネルギーを使い、ビーム刃を展開する。

 

その一撃に全てを賭ける、

その意思が二人からは見てとれた。

 

全く同時に地を蹴り、目にも止まらぬ速さで距離を縮めていく。

 

二機の距離は瞬く間に縮まり、

凄まじい激突光を生み出した。

 

激しい激突音が周囲に響き渡り、

それが止んだと同時に、何か液体が流れ落ちる音が響いた。

 

「ふ・・・、ふふっ・・・、どうやら、ここまで・・・、ですわね・・・。」

 

地に倒れたのは、腹から下を大きく抉られたセシリアだった。

 

セシリアのビームサーベルは雅人の胸を突いているものの、途中で出力が弱まったせいか、

ドレッドノートのコアを破壊するだけで終わった。

 

「セシリア・・・お前、まさかわざと・・・?」

 

ただの枷にしかならぬ装甲を脱ぎ捨て、

雅人は友だった者を抱き起こす。

 

「お優しいのですね・・・、でも・・・、残酷な方・・・、あのまま振り抜いてくだされば・・・、

楽に、死ねましたのに・・・。」

 

自身を抱き起こす雅人に向け、

痛みを堪えつつも笑う。

 

彼女の言葉通り、雅人がビームソードを躊躇うことなく振り抜いていれば、彼女は逆袈裟に切り裂かれ、苦しむことなく即死していた。

 

それ故に、セシリアは彼を残酷と言ったのだ・・・。

 

「セシリア・・・、どうして本気で刺さなかった・・・?お前が競り勝ってたのに・・・?」

 

「・・・、それは、一夏様が教えてくださいますわ・・・、私は、もう・・・、助かりませんから・・・。」

 

彼女の死を悟った様な表情に、

彼は痛ましくなり思わず顔を背け、嗚咽を洩らす。

 

「敵の為に、泣いてくださるのですね・・・、

楯無が惚れるのも、分かりますわ・・・。」

 

「セシリア・・・!」

 

「そんなお顔を、しないでください・・・、

貴方は、憎むべき敵を、討ったのですよ・・・?」

 

「お前は敵なんかじゃない・・・!!

ずっと、ずっと俺達の仲間で、友達じゃないか・・・!!

それだけは認めてくれよ・・・ッ!!」

 

雅人の端整な顔は哀しみに歪み、

その頬を涙が伝い、セシリアの顔に落ちる。

 

その様は、仲間の死を悼む者のそれだった・・・。

 

「ありがとうございます・・・、雅人さん・・・、

楯無とお幸せに・・・。」

 

「言うな・・・!!それを言うなら、結婚式で言ってくれよ・・・!!今は聞きたくない・・・!!」

 

最後の力を振り絞り、雅人に向けて微笑みかけつつも、

彼女はゆっくりと瞼を閉じる。

 

(あぁ、・・・、一夏様・・・、シャルさん・・・、

セシリアは、ここまでですわ・・・、

愛しておりましたわ・・・、私は、あの世で御待ちしております・・・。)

 

彼女の脳裏に、優しく笑いかける彼の顔と、

彼の反対側で自分に笑いかける彼女の笑みが浮かび上がり、自分の名を呼ぶ。

 

そうだ、自分はこの幸せの為に戦っていたんだ、

だからこそ、汚れも痛みも受け入れられた・・・。

 

独りじゃ無かったから、戦えたのだ・・・。

 

雅人の声が遠ざかっていく・・・、

あぁ、これが死なのかと、彼女は何処か清々しい気分で理解していた。

 

もう戻れない・・・、でも、恐れる事はない・・・、

愛する人達を置いていく訳ではないから・・・。

 

雅人の頬に触れていたセシリアの手が、

力なく地面に落ち、動かなくなった。

 

「セシリア・・・?おい・・・?冗談だろ・・・!?

目を開けてくれよ・・・!!」

 

彼はセシリアの身体を揺すり、

目を開けるように叫び続けるが、反応は返ってこない。

 

「そうだ・・・!一夏が待ってるぞ・・・!シャルロットも・・・!三人で幸せになるんだろ・・・!?だから、目を開けろよ・・・!セシリア・・・!セシリアァァ・・・ッ!!」

 

嘘だ、信じたくないと言う思いで友の名を呼ぶ彼の声に、返事を返す声は、二度と聴こえる事は無かった・・・。

 

sideout





えー・・・、不測の事態で、後編がその1とその2に分かれてしまう事になりました・・・(汗)

これも一重に私めの力量不足です・・・(汗)


次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
最後の力 後編 其ノ2

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後の力 後編 其ノ2

side簪

 

ミサイルが尽きたライオットストライカーAをパージして、

プロトン・セイバーの二刀流でシャルロットに斬りかかる。

 

向こうもミサイルが尽きたのか、

ビームサーベルでの応戦にシフトして、近接格闘戦を挑んでくる。

 

近接格闘には一応の心得はあっても、

それは所詮訓練の中でだけ、実戦で技を研いたシャルロットには及ばないのは分かってる。

 

でも、それでも私はやらなくちゃいけない、

でないと、私は前に進めないから・・・!!

 

「へぇ?やっぱり腕を上げたね!ここまで押し込めないのは君が初めてだよ!!そんなに僕が憎い?

それとも自分の弱さが憎いのかな!?」

 

「両方よ!!私の弱さも、迷いも憎い!

でも、こんな無意味な事を続ける貴女も憎い!!」

 

私の弱さも迷いも確かに忌むべきモノだと思う。

 

だけど、それよりもずっと憎いのは、

こんな無駄な争いを何時までも続けようとする一夏達だ・・・!!

 

どうして簡単に人を殺せるの・・・!?

 

答えてよシャルロット・・・!!

 

「意味がないだって・・・!?よくもそんなことが言えるね・・・!!僕達がやってるのは世直しだよ!?

もう二度と!あんな狂った世界にしないためのね!!

それが無駄なんて言わせない!!」

 

「だけど・・・!!貴女はそれで良かったの・・・!?その為に自分が穢れても、何も思わないの・・・!?

それが本当に貴女の本心なの!?」

 

そんなの悲しすぎるよ・・・!!

愛してる人の為なのは、同じ女として痛いほど伝わって来る!

 

だけど、それだけで汚れを背負い込むのは悲しい事じゃないの・・・!?

 

プロトン・セイバーを振り抜いて、

なんとかシャルロットとの距離を取る。

 

でも、距離は取れたとしても油断は出来ない、

向こうは全身武器庫の様な機体、ミサイル以外にも幾つも火器は残ってる。

 

そして、アウトフレームに残されてるのは、

ビームサイン、プロトン・セイバー、プロトン・スパイカーの近接格闘戦用装備のみ・・・。

 

はっきり言って不利な状況には変わりはない・・・。

 

だけど、やるしかないって分かってる、

絶望視ばかりしてたら、勝てる勝負も勝てなくなるから・・・!!

 

だから、たとえ私の正義が間違っていたとしても、やり遂げる事が責任なの!!

 

sideout

 

sideシャルロット

 

「構わないよ!僕は元から汚れてたさ!!

君みたいなちっぽけなコンプレックスじゃない、大きな汚れがあったんだよ!!

本心からそう思ってなかったら!彼の隣になんかいないよ!!この身体も捧げてないさ!!」

 

そうだ、僕は汚れてる、

愛人の子とかそんなことはどうだっていい。

 

一番の負い目は一夏を騙していた事だ。

 

性別を偽って彼の近くに来て、

データを盗む様に命令されていたから・・・。

 

でも、それは所詮被害者面してただけなのかも知れない、在るわけもない父親の情にすがって、自分を偽って・・・。

 

でも、彼には、一夏にはそんなことは見透かされていた・・・。

 

僕が嘘を吐いていたのも、被害者面してただけだって事も・・・。

 

「でも、それでも彼は僕を受け入れてくれた、愛してくれた!!

だったら!その気持ちに応えて何がいけないの!?」

 

あの時、彼の運命を聞かされた時に、

僕は彼の絶望の深さを見た様な気がした・・・。

 

自分を偽っていても、無意識の内に僕達を護ろうとしていた事にも気付いてた・・・。

 

あの時、彼から離れていればこうならなかったのははっきりと分かる。

 

でも、僕にはそれが出来なかった。

 

一夏の寂しそうに笑ったあの顔が見たくなくて、

ちゃんと笑って欲しくて、僕は彼に着いてきたんだ!

 

その選択を間違いなんて言わせない、

何も知らないで、常識を押し付けるする事しか出来ない奴には!!

 

「君みたいな甘ったれが僕達に口出しするな!!

理想論は紙にでも書いて飾っておけばいいんだ!!

僕達の愛に、君が言える事は無い!!」

 

ヴェルデバスターに残った全砲門を開き、

アウトフレームに向けて一斉に発射する。

 

だけど、アウトフレームは在るわけもない隙間をすり抜け、こっちに向かってくる。

 

どう言うこと?さっきまでと動きが違う・・・!?

 

「ふざけないでよ・・・!一夏が望んでる事は、

そんなことじゃないでしょ!!」

 

sideout

 

side簪

 

シャルロットの言葉は確かに理にかなっている様に聞こえる、

だけど、どうしても私はある単語に拒否反応が出てしまった。

 

確かに、三人の絆に私がどうこう言える立場じゃ無いことは理解している。

 

でも、シャルロットが自分の身を削ってまで戦うことを一夏が本当に良しとしている訳が無い!!

 

彼だって女を愛してる一人の男、

それなら、自分の恋人の身の無事を第一に考えているに違いない!!

 

だから、一夏の為なら自分の身を汚しても構わないって態度が、私は許せなかった!!

 

「一夏が望んでる事は、貴女とセシリアの幸せでしょ!?こんなことに加担させる事じゃない!!」

 

「君に何が分かるの!?ただ寂しさを埋めて欲しくて秋良の傍にいるくせに!!僕達はそんなちっぽけな関係じゃないんだよ!!」

 

「そうだよ!私は寂しさを埋めて欲しくて秋良に近付いたのかも知れない!!でも、それだけならあの時に距離を取ってる!!そうしなかったのは秋良を本気で好きになったからよ!!」

 

そう、最初はシャルロットの言う通りだった、

姉とも分かり合えず、独りで殻に閉じ籠ってた私を連れ出してくれたのは秋良だった。

 

他に友達も少なかったから、彼にその寂しさを埋めて欲しかったんだと思う。

 

でも、それだけだったなら、彼の正体を知った時に距離を置いていたと思う!

 

だから、私が今戦ってるのは、秋良の為なんかじゃない、自分が求める未来の為なんだ!!

 

「良いよ!だったら、僕のこの愛と、君の愛、

どっちが正しくて強いかを賭けて戦おう!!」

 

「望むところよ!!私の全てを賭けて貴女を倒す!!」

 

もう悩まない!愛は、ただ相手に尽くすだけじゃない!!

 

sideout

 

noside

 

雷鳴轟く中、リミッターを解除した二機は、

目まぐるしく動き回りつつも、互いに対して攻撃を仕掛ける。

 

どちらも強く、譲れない信念を持つが故の激闘だった。

 

「ハァァァァッ!!」

 

「タァァァァッ!!」

 

魂の叫びをあげつつも、二機はぶつかり合い、

閃光を走らせた。

 

ヴェルデバスターのハイパービームサーベルが、

アウトフレームの肩部を焼き、

アウトフレームのプロトン・セイバーはヴェルデバスターの肩部ガンランチャーを貫いた。

 

互いに同じタイプの戦法、武装を装備している二人にとっては、相手が次にどの様に動くか等は予想が付けやすく、それがより一層回避率を上げていた。

 

しかし、それでも予測しきれなかった斬撃が、

それぞれの機体の装甲を抉り、傷を増やしていく。

 

(くっ・・・!もうエネルギーが無い・・・!!

後一回激突出来るかどうかかな・・・!?)

 

(もうエネルギーが・・・!バーストモードは使えない・・・!!)

 

彼女達は全く同時に距離を取った。

 

PICで制動をかける事が煩わしいのか、

脚部で地面を抉りながらも速度を落として停止した。

 

機体のエネルギー残量を確認し、次の手を考える。

 

と言っても、互いに使える戦法は限られており、

最早、ビームサーベルでの斬撃でダメージを与える事しか有効な手段が残されていないのだ。

 

(それなら、僕の全てを賭けて、この一撃で決めてやる!!)

 

(もう後がない、一か八か、賭けてみるしかない!!)

 

覚悟を決めた二人は、己が得物を握り直し、

一直線に互いに向かっていく。

 

二機の距離は瞬く間に縮まり、

ほぼ同時にビームサーベルを突き出す。

 

激しくぶつかった切っ先は閃光を散らし、周囲を照らす。

 

一瞬の拮抗の後、耐えきれなくなった柄が砕け散る。

 

シャルロットは残ったハイパービームサーベルを引き抜こうと、左腕を動かす。

 

「まだよッ!!」

 

だが、その隙を突くかの如く、

簪は右腕下部に装備していたプロトン・スパイカーを展開し突き出した。

 

それは吸い込まれる様にシャルロットの鳩尾に突き刺さり、止まった。

 

抉られた装甲が彼女の身体に突き刺さり、

止めどなく血が流れ出す。

 

「は・・・、はは・・・、強く、なったね・・・、君の、勝ちだ・・・。」

 

コアを貫かれたヴェルデバスターを纏ったまま、

シャルロットは笑いながらも地に倒れた。

 

「シャルロット・・・、貴女、わざと私に切らせたでしょ・・・!?どうして・・・!?」

 

アウトフレームを量子格納し、

簪は返り血が付くことも気にすることなく、

シャルロットの身体を抱き起こした。。

 

「優しいんだね・・・、秋良が君を尊敬してるの・・・、やっと、分かった気がするよ・・・。」

 

「どうして・・・、本気で振り抜かなかったの・・・?私の方が、負けてたのに・・・!?」

 

そう、簪は分かっていた、

シャルロットがわざとワンテンポ遅れて腕を動かした事を、そして、自分にわざと身体を貫かせた事も・・・。

 

更に言えば、シャルロットが本気だったならば、

自分が真っ二つに切り裂かれていた事も、簪は理解していた。

 

それ故に、シャルロットの行動が解せなかったのだ。

 

「・・・、それは、一夏が教えてくれるよ・・・、

どうせ、僕はもう、助からないから・・・。」

 

シャルロットの死を覚悟した様な表情に、

簪はいたまし気に顔を伏せる。

 

その際、彼女の頬を涙が伝い、

シャルロットの頬に落ちる・・・。

 

「どうして、泣いてるの・・・?

笑いなよ・・・、君は、憎い敵を、討ったんだ・・・、誇らしい事じゃないか・・・。」

 

「貴女は・・・!敵なんかじゃない・・・!

私達はずっと、ずっと仲間で、友達だったじゃない・・・!その事まで否定しないでよ・・・!!」

 

自身に笑いかけるシャルロットに、

堪えていた感情が溢れだし、涙が止めどなく零れる。

 

どうしてこんなことになってしまったのか、

後悔と困惑が入り乱れた雫は頬を伝い落ちてゆく。

 

「はは・・・、ありがとう、簪・・・、

秋良と、幸せになってね・・・。」

 

「嫌よ・・・!そんな言葉、今は聞きたくない・・・!

ずっと後で、私達の結婚式のスピーチで聞かせてよ・・・!お願いよ・・・、シャルロット・・・!!」

 

僅かに残された力を振り絞り、

笑いかけるシャルロットに対し、簪は涙ながらに叫ぶ。

 

その叫びは、身を切るような切実さが滲み出ていた・・・。

 

(はは・・・、感覚が無くなってきたなぁ・・・、

これが死ぬって感覚なんだ・・・、ま、良いかな・・・、

・・・、一夏、セシリア・・・、大好きだよ・・・、

僕は、先に逝って待ってるよ・・・、だから、安心してね・・・。)

 

ゆっくりと瞼を閉じるシャルロットの脳裏には、

自身に笑いかける愛しき彼の笑みと、

彼の反対側で微笑む盟友の姿が浮かぶ・・・。

 

そうだ・・・、自分はこの幸せの為だけに戦い続けたんだ・・・、喩え自分が汚れようとも、

彼等と共に生きたかったから戦えたんだ・・・。

 

簪の声が遠ざかっていく・・・、

何を言ってるのかは分からないが、恐らくは自分の為に泣いてくれている事だけは確かだろう・・・。

 

道を違えた自分の為に涙してくれる嘗ての友に感謝しつつも、彼女は満ち足りた感情を味わう。

 

もう、あの暖かく、優しい日々には戻る事は出来ない・・・、

だけど、怖れる必要なんてない。

 

愛しき人達を置いていく訳じゃないから・・・。

 

簪の手に握られていたシャルロットの手から力が抜け、

だらりと垂れ落ちた。

 

「シャルロット・・・?嘘・・・、冗談よね・・・?ねぇ、起きてよ・・・!」

 

嘘だ、信じたくないと言う思いを籠め、

簪はシャルロットの身体を揺さぶる。

 

「一夏もセシリアも待ってるのよ・・・!?

三人で一緒に生きるんでしょ・・・!?だから、起きてよ・・・!シャルロット・・・、シャルロット・・・!!」

 

嘗ての友の名を呼び続ける簪の声に、

言葉を返す声は、二度と聴こえる事はなかった・・・。

 

sideout

 





次回予告
彼は何を求め、何の為に戦ったのか、
その答えは何処にあるのか・・・?

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
一夏

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一夏

noside4より、
推奨IBGM BAD AGAIN~美しき反逆~
music by 聖飢魔Ⅱ


noside1

 

秋良達を先に行かせ、

デスティニーインパルスとグリーンフレームを相手にしていた楯無の体力は、

最早限界に近付きつつあった。

 

如何に元国家代表とは言えど、

教員クラス、それもテストパイロット、元代表候補生の二名が相手となると苦戦を強いられるのは必然だった。

 

長時間の戦闘の影響で、

ブルーフレームの装甲は所々抉られ、

欠けた様な痕が見受けられた。

 

「かはっ・・・!ま、まだよ・・・!私は、まだ戦うんだから・・・ッ!!」

 

疲労困憊といった表情を浮かべつつも、

楯無はその戦意をたぎらせていく。

 

まだ死ぬわけにはいかない、

愛する人との未来を築く為に、自分はこの戦いに身を投じたのだから。

 

だが、そんな明るい希望とは裏腹に、

現実は暗く、生き残れる確率すら低い。

 

「楯無さん、降参してください、私達は貴女を殺せと命令された訳ではありません、どうか、一夏君の思いを分かってあげてください・・・。」

 

楯無と距離を取った真耶は、

何処か、悲嘆に暮れた様な表情をしつつ、彼女に降参を勧告する。

 

「そんなの出来るわけないじゃないですか・・・!

彼がやろうとしてることに抵抗も出来ずに受け入れる位なら、私は、生きていく価値なんてない・・・!!」

 

自分が信じることの出来ない一夏に着く真耶の言葉に耳を貸さず、楯無はタクティカルアームズⅡを構え、

一直線にグリーンフレームに向けて突進する。

 

「やめなさい更識さん、私達の話を聞きなさい、

彼は、世界征服なんて考えていないわ。」

 

彼女達の間にナターシャが割り込み、

二本のエクスカリバーでタクティカルアームズⅡを受け止める。

 

まるで、もう戦う気は無いと言うか様に・・・。

 

「じゃあ・・・、何をしようって言うんですか!?

あれだけ虐殺を繰り返して、まだ殺したりないんですか!?」

 

「分かったわ、命令違反な気もするけど、

これはこれで構わないでしょう、着いてきて、向こうも、決着が着く頃だから・・・。」

 

ガンダムフェイスの裏で涙を流しつつも、

ナターシャは先導するかの様に、IS学園跡地に向けて飛翔した。

 

今だ怪訝の表情を浮かべている楯無に、

真耶が近付き、涙声で話しかけた。

 

「彼は・・・、死ぬつもりなんです・・・!」

 

sideout

 

noside2

 

その頃、IS学園跡地上空では黒と白の機体が凄まじい攻防を繰り広げていた。

 

白の機体、スターゲイザーは、

漆黒の機体、ストライクノワールを追い、

ヴォワチュール・リュミエールの刃を繰り出す。

 

触れれば何もかもを切り裂く光の刃に対抗する術を持たぬストライクノワールは、

距離を取るべく機体を動かし続けていた。

 

「逃がすか!貴様だけは、ここで仕留めてやる!!」

 

「ちっ・・・!流石はアクタイオンか・・・!

エネルギー容量を増やしやがったか・・・!!」

 

激昂する秋良の気迫に呼応し、

光の刃は激しさを増し、黒き機体へと迫る。

 

一夏は直撃を避けるために、

機体を縦横に動かし、光の刃から逃れる。

 

それがどれぐらい続いた時だったのだろうか、

ストライクノワールのウィンドウが新しく開かれた。

 

<ブルデュエル、シグナルロスト>

 

<ヴェルデバスター、シグナルロスト>

 

全く同じタイミングで、僚機の撃墜を表す表示が表れる。

 

それは、彼の隣に立っていた少女達の死を意味していた。

 

(セシリア、シャル、お前達は逝ってしまったのか・・・、俺を置いて・・・?)

 

彼は彼女達が戦っていた方向に目を向け、

何処か寂しそうに目を細めた。

 

だが、その一瞬を突くかの如く、

ヴォワチュール・リュミエールの光刃が、

彼の左腕を切り落とした。

 

「・・・ッ!!」

 

通常ならば激痛で動きを止める所だが、

一夏は顔をしかめるだけで、次の回避運動に移る。

 

彼とて痛覚がない訳ではない、

痛みを感じつつも、それを圧し殺して戦っているのだ。

 

彼にも、最早や余裕と言う物は失せ、

ただ刃から逃れるべく動き続けた。

 

しかし、余裕が無いのは秋良も同様であった。

 

ヴォワチュール・リュミエールを使用するだけのエネルギーが、尽きかけていたのだ。

 

もし、ヴォワチュール・リュミエールが消滅すれば、

逆にストライクノワールに反撃の機会を与えてしまうことになるのだ。

 

「(くそッ・・・ッ!!エネルギーがヤバイ・・・!

だけど・・・、だけど・・・ッ!!)

貴様だけはァァァァッ!!」

 

エネルギーを使い果たす事すらお構い無しで、

秋良はヴォワチュール・リュミエールの刃を一夏に向けて飛ばした。

 

その一撃は回避運動を続けていたストライクノワールの胸部装甲を抉り、コアを露出させた。

 

「くっ・・・!!」

 

「逃がさない!!」

 

体勢を崩したストライクノワールに対し、

追撃をかけるべく迫る。

 

だが、ここでスターゲイザーの周囲に展開していたヴォワチュール・リュミエールの光刃が消えた。

 

「くそッ・・・!エネルギー切れか・・・ッ!」

 

「この瞬間を待っていたぜ・・・!

お前の敗けだ、秋良!!」

 

攻め時を見付けたりと言わんばかりの勢いで、

一夏は残った右手にビームブレイドを保持し、

秋良へと猛然と迫る。

 

「まだだッ!!俺はまだ、戦える!!」

 

シシオウブレードを構え直し、

一夏のビームブレイドと切り結ぶ。

 

腕一本と二本の張り合いの筈だが、

徐々に秋良が押し込まれているのが見てとれた。

 

「くそッ・・・!これでも押されてるのか・・・!?

なんて力だ・・・!!」

 

「クックックッ・・・、そろそろフィナーレといこうか、お前の全てを奪ってな。」

 

秋良の体勢を崩し、地面へと蹴り落としながらも、

一夏はスラスターを全開にし、流星の如く降っていく。

 

「そんなことはさせない!!俺は、生きる!!

生きて明日を掴むんだ!!」

 

自分は奪われる為に生きている訳じゃない、

明日を見るために戦っている。

 

秋良が獲た答えは刃に宿り、一夏に向けて突き出された。

 

「浅はかな、そんな物は絶望に呑まれ、消える!

お前を消すことで証明してやろう!!」

 

間合いに入るより先に、彼はビームブレイドを振りかぶった。

 

頭でもかち割ってやる、そんな強い念が見てとれる。

 

「ッ・・・!!ガァァァッ!?」

 

だが、一夏の右腕がひきつったかの様に止まった。

 

(しまった・・・ッ!!ルシファーズ・スマッシャーの反動が、今頃来やがった・・・!!)

 

墮天使の名を持つ兵器、その威力の絶大さ故の反動は、高い耐久力を誇る彼ですら耐えきれるモノではなかった。

 

そのダメージは肉体に蓄積され、

疲労と共に増幅され、遂には彼の腕を麻痺させたのだ。

 

しかし、急降下の速度は止める事が出来ず、

急速に秋良との距離は縮まっていく。

 

「これで、終わりだァァァァッ!!」

 

避ける事すらままならぬ一夏の胸に、

必殺の意志が籠められたシシオウブレードが突き刺さる。

 

ストライクノワールのコアを砕き、

彼の身体を貫通した刃は、植物の様に彼の背中から突き出ていた。

 

下から突き刺した為、秋良には彼の身体から流れ落ちる鮮血がかかる。

 

「・・・、ミッション・・・、コンプリート・・・、

よく、やった、秋良・・・。」

 

「ッ・・・!?」

 

普段の、仲違いする前の声色で呟いた一夏に、

秋良は驚いたような表情を浮かべる。

 

既にシシオウブレードは一夏の身体から引き抜いている為、彼は地面に倒れ伏していた。

 

「どう言うことだよ・・・!?おい!?」

 

「まだ気付かねぇのかよ、やっぱりお前は鈍い男だな。」

 

スターゲイザーを格納し、一夏を抱き起こす秋良に向け、

ソードカラミティを纏ったダリルがやれやれと言った風な口調で話し掛けた。

 

彼女の後ろには、秋良との戦闘の直前まで一夏と戦っていたメンバーが何かを堪えるかの様な面持ちで立っていた。

 

「お前ら・・・、出てくるなと、言った筈だ・・・。」

 

彼女達の姿を認めた一夏は、首だけを動かし、

痛みを堪えるかの様な口調でダリル達に向け、言葉を発した。

 

「悪いな、だがよ、秋良にこの放送を見せるために出てきたんだ、それぐらいは許してくれよ。」

 

「・・・、そうかよ・・・。」

 

何時もは何処かおどけた様な口調のダリルが、

なんとも真面目な口調で言葉を紡ぐため、

一夏はその顔に呆れた表情を浮かべ、短く返した。

 

そこへ、デスティニーインパルス、グリーンフレーム、そして、ブルーフレームの三機が舞い降り、

彼等を囲うように立つ。

 

「どう言うことなんだ・・・!?

アンタは何がしたかったんだ・・・!?」

 

何がなんだか、状況を呑み込めていない秋良は、

全員を見渡しつつも叫ぶ。

 

「チャンネル・・・、0652・・・、それが、真実だ・・・。」

 

一夏の声に反応し、秋良は怪訝の表情を浮かべつつも、

計器を操作し、チャンネルを合わせた。

 

sideout

 

noside3

 

その日、世界中にある映像が流された。

 

『ごきげんよう諸君、もう知っているとは思うが、改めて名乗らせて貰おう、

私の名はロンド・ミナ・サハク、何処の国家にも属さない思想家だ。』

 

先日、天空の宣言を織斑一夏と共に行った、ロンド・ミナの姿が、再び画面に映し出された。

 

『諸君らの力によって、この世界に蔓延る悪は駆逐され、平和への道が拓けつつある、実に喜ばしい事だ。』

 

画面の前にいた民衆は、

その言葉に、彼女の姿に沸き立った。

 

彼女と織斑一夏の導きがなければ、

自分達は立ち上がることが出来なかった。

 

そう理解している民衆にとっては、

彼女の姿はこの世に降り立った女神の様にも映っているのだろう。

 

『だが、諸君らにはまだ、知ってもらわねばならない事がひとつだけ残されている、

それを知らねば、未来へは歩めないだろう。』

 

彼女の口から発せられた言葉に、民衆は一様に首を傾げた。

 

彼女は何を告げようとしているのか?

その真意を読み取れなかったのだ。

 

『まずは、この映像を見てもらいたい、

先日、アラスカで行われた織斑一夏率いるガンダムチームと、IS軍の戦闘映像だ。』

 

画面に映し出されたモノは、

アラスカでの戦闘の一部始終であった。

 

アラスカの拠点に対し、総攻撃を仕掛けるIS連合の機体が、

サイクロプスの威力により、パイロットの身体が弾け、機体と共に爆散していくさまが、何にも遮られることなく、ありのままで流された。

 

そのあまりにショッキングな光景に、

見る者全てが口許を押さえていた。

 

『織斑一夏、我等が英雄と思っていた存在は、

我等が滅ぼした存在と同じく、自分の私利私欲を追い求め、この世界を牛耳ろうと邪魔者を全て排除していったのだ。』

 

ロンド・ミナが手を掲げると、

次に映し出されたのはガンダム同士が、

周囲の建造物を破壊しながらも同士討ちを繰り広げる映像であった。

 

何故英雄同士が争うのか?

彼等は守護神では無かったのか?

 

混乱する民衆に、ロンド・ミナの涼やかな声が降り注ぐ。

 

『彼等は自分達が戦う相手を求め、

それが無くなれば遂には同士討ちを始めた、

諸君らには分かるだろう、どれ程の偉業を残す英雄も、我等となんら変わることの無い人間だということを。』

 

そこで民衆は、頭を叩かれたかの様にハッとした様な表情を見せた。

 

そうだ、英雄も所詮は人間、

自分達と同じく、自分の望み、ひいては欲望を持っていて当然だと言うことだ。

 

しかし、人間はそれを忘れがちだ、

思い通りにならない事があれば他者を否定し、

憎悪し、差別や理不尽な暴力の根源となる。

 

言われてみれば、直ぐに思い着く、

だが、それを認める事は非常に難しい。

 

彼等は今、それを非情なる現実と共に突き付けられたのだ。

 

『英雄は、自らのエゴが他の者に評価されて初めて英雄と呼ばれる存在となる、

全ての人間が英雄にも、そして悪にもなれる要素を抱えているのだ。』

 

民衆の反応を分かっているのか、

ロンド・ミナは言葉を紡ぐ。

 

『だが、独りではやり遂げられぬこともある、

越える事の出来ぬ壁もある、

我等は所詮は弱く、儚い存在だ、

それでも、彼等が強く在れたのは、独りではなかったからだ、

個人の力では乗り越えられぬ者も、志を同じくする者と手を取り合えば、必ずや乗り越える事が出来るだろう、

さぁ、英雄達が示した道に進むか、それともこれ迄と同じ様に、誰かに支配されたままで良いのか?

選ぶのは諸君らだ、我等は今、選択の時を迎えたのだ。』

 

そこで放送は途切れ、残されたのは静寂と、

そして画面の前に立つ民衆だけだった。

 

困惑している者も中にはいるだろう、

だが、大半の者が、これから成すべき事を理解していた。

 

「そうだ、俺達が必要なのは英雄なんかじゃない!

俺達全員が力を合わせていく事なんだ!!」

 

「私達が生きる世界は、私達が創るのよ!!」

 

天空の宣言と同じ様に、進むべき道を示された民衆は、その道に自らの意志で進む。

 

それが、どれ程厳しく、困難な道であろうとも・・・。

 

sideout

 

noside4

 

アクタイオン社のとある部屋にて、

放送を終えたロンド・ミナ・サハクはカメラの前から身を翻し、歩き去ろうとしていた。

 

彼女の瞳の端には僅かながらも涙の粒が溜まり、

今にも零れてしまいそうだった。

 

「お疲れ様、ロンド・ミナ・・・、

貴女の放送で、もう世界は動き始めてるわ・・・。」

 

世界の動向をデータを通して見ていたエリカ・シモンズは、

震える声でミナに報告する。

 

「そうか・・・、だが、それは一夏に言ってやって欲しかったな・・・、この計画の全てを考えたのも、実行したのも彼だ・・・。」

 

ミナは、何処か痛みを堪えるかの様な口調で、

報告したエリカに返した。

 

それはまるで、全ての真相を知っているかの様な口調にも取れる。

 

「一夏のしようとしたこと・・・、

ISや権力者だけじゃなく、英雄すら不要のモノと定め、

人類が互いに手を取り合う様に促す・・・、そこに自分はいられない、だから、それを証明する為に、わざと誰かに討たれる・・・、だったわね・・・。」

 

「そうだ、英雄が世界に存在し続けてしまえば、

民衆は自らの意志で進む事が出来なくなる、

それでは、今までと同じ様に世界は流れてしまう、そう思ったのだろうな、彼は・・・。」

 

そう、一夏の思惑とは、

人類の完全なる平和と自立の為に、英雄すら必要としない社会の構築だったのだ。

 

これまでの彼の行動は、全てその為だけにあった様なモノだ。

 

世界を乱す者を討った英雄は当然の事ながら持ち上げられ、

民衆を導くよう求められるだろう。

 

だが、それは果たして民衆は本当に自由を得た事になるのだろうか?

 

その問いに、一夏は否と言う答えを出した。

 

たとえ自由、平和、平等を得られたとしても、

それは与えられ、押し付けられた様なモノだ、

それを操る者がその気になれば、いとも簡単に塗り替えられてしまう危うい存在だ。

 

その危うい足場を磐石な物にするために、

彼は人々に争いへの嫌悪感、英雄の否定観を植え付けたのだ。

 

それは、英雄と呼ばれた彼自身の存在を、

否定したのも同然の行為だ。

 

「あぁ・・・、一夏・・・、貴方は世界を変える代償として、その命を捧げるのね・・・、

どうしてそこまで出来るの・・・?命が惜しくないの・・・?」

 

彼の事を、実の息子の様に案じていたエリカは、

その若すぎる命が散ることに憤り、

また、そうでもしなければ変わらない世界を恨み、悲しみ、後悔、様々な感情が混ざりあった涙を流す。

 

「英雄は必要とされないが、彼と言う人物が必要とされない訳はない・・・、

彼は、答えを急ぎすぎたのだろう・・・、

それ故に、自らを生け贄に差し出したのだ・・・、

一夏、約束は果たしたぞ・・・。」

 

世界に反逆し、世界を協和の道へと歩ませた者へ、

彼女は目を閉じ、涙した・・・。

 

その心に秘めた痛みを、少しだけ明かすかの様に・・・。

 

sideout

 

noside5

 

「そんな・・・、アンタは・・・、アンタは最初から死ぬつもりだったのか・・・!?なんで俺に一言も相談してくれなかったんだ!?」

 

放送の真意を悟った秋良は、

愕然としながらも一夏に問うた。

 

たった今、自分が刃を突き刺した存在は、

自分を偽っていた者ではないか・・・?

 

「英雄は、この世界に存在してはならない・・・、

歪みも、また同じだ・・・、

この二つを、同時に葬るには・・・、これしかなかった・・・。」

 

「だからって・・・!アンタが死ぬ事なんてないだろ・・・!?どうしてだよ・・・!?」

 

事実を淡々と、否、他人事の様に話す一夏に対し、

秋良は訳が分からない、ちゃんと説明してくれと言わんばかりの勢いで叫ぶ。

 

なぜ?どうして彼がこんなことをしなければいけなくなったんだ・・・?

 

そんな気持ちが、今の彼からは見てとれた。

 

「女神に、頼まれたのさ・・・、彼女が創った最高傑作である、俺達が転生した当時の、世界に戻す事を・・・、

世界の浄化、それが、俺に与えられた役目・・・。」

 

「・・・ッ!!」

 

一夏が話した内容に、秋良は絶句した。

 

まさか、彼が言っていた女神の意志とは、

世界の浄化と言う意味とは思わなかったのだろう。

 

そうだ、そう考えれば筋は通っている、

彼が世界に反旗を翻す事も、殺戮を行う理由もなかった、

ならば、その理由が女神からの頼みだったとくれば、

そこで彼の戦う理由が出来上がっていたと言うわけだ。

 

「どうしてなんだよ・・・!?

どうして俺じゃ無いんだ・・・!

なんでアンタに押し付けられたんだよ・・・ッ!!」

 

「転生者は、女神の意志を遂行する、人形だ、

ソイツの感情を無視し、ただ、女神が望むままに動かされる・・・、

そう、俺は、その時から人形になった・・・、

自分の感情を持たず、ただ目的遂行の為に動く存在に・・・。」

 

感情を持たぬ人間はいない、

だが、彼はあえてそれを捨て去り、人形となって動いていたのだ。

 

それ故に、迷うことなく殺戮を、人の運命を狂わせる事を遂行できたのだ。

 

しかし、秋良には到底受け入れきれるモノではない。

 

遺される者の悲しみを、彼は今、一身に受けている。

 

「バカ兄貴・・・ッ!!アンタはずっと俺達の事を、セシリアとシャルロットの事を気遣ってくれてた・・・!

アンタがその優しさを持ってたから、セシリアとシャルロットもアンタに着いていこうって気になって、アンタを愛していたんだ・・・!!

アンタはそれも否定して人形だって言うのか・・・!?

アンタは、十分人間じゃないか・・・ッ!!」

 

「俺の事を、まだ兄と呼んでくれるのか・・・?

秋良・・・、お前は優しいな・・・、

そんなお前だから・・・、俺は後を任せられるんだ・・・。」

 

涙を流しながらも、自身の兄に向けて叫ぶ秋良に、

一夏は笑いかけながらも右手で秋良の頭を乱暴に撫でる。

 

しかし、その手にはもう既に、力強さは一切なく、

最早風前の灯火の様な弱々しい手付きだった。

 

その事実が、秋良の胸に棘の様に突き刺さる。

 

「そんな事言うなよ・・・ッ!生きろよ・・・!

世界を変えた責任を果たしてからだろ・・・ッ!!」

 

「死ぬことが、責任さ・・・、これから後の事は、

お前と雅人の役目だ・・・、この世界を頼んだ・・・。」

 

秋良の頭から手を離し、一夏は自身に挑んだ四名を見やる。

 

「俺の最後の頼みだ・・・、お前達も生きて、

この世界を見守ってくれ・・・。」

 

「分かった・・・、アタシはお前に負けた、逆らう理由もない、それにお前の遺言なら、聞かねぇ訳ねぇよ。」

 

箒達を代表するかの様に、ダリルは深く頷きながらも、顔を伏せた。

 

「楯無・・・、鈴に伝えてやってくれ・・・、

戻ってきてやれず、すまないと・・・。」

 

「・・・ッ!!自分で戻って、ただいまって言ってあげなさいよ・・・ッ!!

そっちの方が、嬉しいに決まってるじゃない・・・!!」

 

自身が妹の様に思ってきた者に対して詫びる彼の言葉に、楯無は痛ましい気分になり、

彼に背を向けながらも叫んだ。

 

自分が憎んだ彼は、自身を偽り続けた存在であった事に憤り、また、それを察する事が出来なかった自分を責めているのであろう。

 

何故理解してやれなかったのか、

彼はここまで友人を想っていたというのに・・・。

 

そんな感情が彼女の中で渦巻いていた。

 

「じゃあな・・・、この世界、任せたぞ・・・。」

 

「兄さん・・・ッ!!死ぬな!!」

 

穏やかに笑み、目を閉じた一夏に向け、

秋良は意識を途絶えさせぬ様に叫ぶ。

 

(セシリア・・・、シャル・・・、待っていてくれ・・・、俺もすぐにそっちに逝く・・・、

三人で一緒だからな・・・、愛してるぜ・・・。)

 

自分に寄り添い、幸せそうに微笑む愛しき彼女達の表情が彼の脳裏に浮かんでいく。

 

そうだ、自分はこの笑顔を護りたかったから、

二人がいてくれたから戦えたんだ・・・。

 

死に向かう中、彼は満ち足りた気分でそれを受け入れていた。

 

何も怖れる事などない、

先に逝ってしまった愛しき者達の所に逝くだけだなのだと・・・。

 

秋良に握られていた彼の手から力が抜け、

地面に垂れ落ちた。

 

「兄さん・・・、兄さん・・・ッ!!」

 

もうその肉体に、彼の魂が無いと分かっていても、

秋良は彼の身体を抱き締め、声を殺して泣き続けた。

 

同じ世界に転生し、同じ時代を駆け抜けた兄弟の軌跡は、分かれたまま混ざり会う事はなかった・・・。

 

sideout

 

noside6

 

「秋良・・・、アタシらの最初の務めだ、

この世に残しちゃいけねぇモノと一緒に、一夏達を送り出してやろうぜ・・・。」

 

ソードカラミティから抜け出し、

何やらスイッチを手に持ったダリルが、秋良の肩に手を置きつつ話し掛けた。

 

彼が一夏の亡骸から顔を離し、

全員を見渡していくと、困惑する楯無以外の全員が機体から抜け出し、

ダリルと同じ様にスイッチを手に持っていた。

 

「何をする気なんです・・・?」

 

「ISを、つってもガンダムだがな、

この世から消す、コイツらには世話になったが、これからの世界には必要ねぇよ。」

 

秋良の疑問に即座に答え、彼女は左手に握っていたスイッチを彼に手渡す。

 

「せめて、コイツの死を政治家共に知らせねぇ為にも、ここでアタシらが弔ってやろうぜ・・・、

アイツらも一緒にな・・・。」

 

ダリルが指した方向には、セシリアの亡骸を抱えた雅人と、

アウトフレームのパワーアシストを使用し、

シャルロットの亡骸を抱き抱えた簪が立っていた。

 

彼等の頬には涙の跡が残り、今もまだ、泣き出しそうな表情をしていた。

 

彼等も知ってしまったのだろう、

一夏達が目指した事を、そして、自分達が早まってしまったことも・・・。

 

「秋良・・・、俺達の手で、けじめを着けよう・・・、一夏もそれを望んでるさ・・・。」

 

今にも泣き出しそうな震える声で、

雅人は秋良に向けて言った。

 

「分かってるよ・・・、雅人・・・、

三人を離れ離れにさせない為にも・・・、俺達が送り出してあげよう・・・。」

 

彼の言葉を聞き、雅人はセシリアを一夏の右側に、

簪はシャルロットをその反対側に横たえた。

 

それは何時も、三人が並び立っていた時の立ち位置だった・・・。

 

残った九機のガンダムは、彼等の亡骸を囲む様に並べられ、

秋良達は少し離れた場所に立つ。

 

「音頭はアタシが取る、それで良いな?」

 

ダリルが全員を見渡しながらも問い掛け、

スイッチを全員が見える様に頭上に掲げた。

 

全員が異論は無い、そう言うかの様に頷き、

彼女に倣い、スイッチを掲げた。

 

「我等が友、織斑一夏、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、彼等の冥福を祈り、この送り火を掲げよう!」

 

彼女の宣言と共に、全員が一斉にスイッチを押し込んだ。

 

直後、九機のガンダムに取り付けられていた自爆装置が起動し、盛大に爆ぜた。

 

その炎は一夏達の亡骸を包み込み、

天高く煙を上げながらも燃え盛った・・・。

 

空一面に立ち込めていた黒雲の切れ間より、

鮮やかな黄昏が覗き、まるで天界に魂を迎え入れる様にも見えた。

 

「さようなら・・・、兄さん・・・、

今までお疲れ様、もう戦わなくていいんだ・・・、

セシリアとシャルロットと三人で楽しく過ごしてくれ・・・。」

 

その言葉の途中で彼は涙ぐみ、

言い切ると同時に膝から崩れ落ち、声を張り上げて泣いた。

 

彼の隣にいた簪は膝を折り、

彼の背中に手を置き、静かに涙を流していた。

 

他の者達も口許を手で押さえたり、

目元を覆って、悲しみの涙を流していた。

 

自分達の友を、教え子の死という悲しみを分かち合いながらも・・・。

 

 

ここに、英雄が巻き起こした動乱は終結し、

世界は新たな道へと歩き始めた。

 

英雄が必要とされない世界へと・・・。

 

sideout




次回予告

彼が求めた理想に近付くために、
残された者達の戦いは続いていく。

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
最終話 明日への扉

お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終回其ノ1 明日への扉

noside

 

ISがガンダムに滅ぼされ、ガンダムが姿を消してから既に十年の歳月が流れた。

 

世界は、ロンド・ミナ・サハクが行った英雄否定の演説の基、

人々は個々人が掲げる思想、理念を同じくする者達と手を携え、

尚且つ、他者の理念を妨げぬ限り、自身の理念に従って生きる、

新たな社会の形成に力を入れるようになっていた。

 

その結果、今だ種族、人種的な偏見は残ってしまったものの、

露骨な差別や嘗ての女尊男卑の様な風潮は消えてなくなり、

人々から忌み嫌われる風潮として、反面教師の様に語り継がれている。

 

それと同じ様に、ガンダムは人々を救った救世主として、

また、二度と世界に現れてはいけない破滅の象徴となった。

 

これは、今の世界がまた悪しき方向へと向かわぬ様に、

また彼等の様な戦人を産み出さぬ様にと、戒めを籠めて広まった事である。

 

しかし、ガンダムを英雄、民の味方と捉える思想は根強く、

嘗てのIS学園があった場所には、15のガンダム達を型どったブロンズ像が立っている。

 

やはり、彼等が成し遂げた偉業、ISの殲滅や女尊男卑の事実上の破壊は、

これまで虐げられていた者達にとっては救いの神の様に映ったのだろう。

 

だが、この思想も否定される事なく存在しているのは、

世界の在り方が変わっていったが故だろう。

 

こうして、生き残った者達は、死んでいった数多の命への慰めに、

より良き世を作ろうと努力していた・・・。

 

sideout

 

noside

 

「それじゃあ行ってくるよ、簪。」

 

とある住宅の玄関にて、二十代半ばの青年が出掛ける準備をしていた。

 

癖のある黒髪を肩まで伸ばし、何処か穏やかな雰囲気を纏った青年は、

彼の背後に立っていた二十代半ばの女性に振り向きながらも出掛ける事を告げた。

 

彼の名は織斑秋良、嘗てガンダムチームの一角として戦い、

今の世界が誤った方向へと向かわぬ様に見守る者達の一人だ。

 

「うん、義兄さんによろしくね、私達は留守番してるから。」

 

水色の癖のある髪を持つ女性は、新たな命が宿っているお腹を擦りながらも、

彼に向けて微笑みかけた。

 

彼女の名は織斑簪、旧姓更識 簪。

彼女もまた、ガンダムチームの一角を担い、戦い抜いて来た者だ。

 

彼等は最終決戦の後、IS産業から、ワークローダーを製作する企業へと変わったアクタイオン社に就職し、互いが22歳の時に結婚、今はアクタイオン社の近くに住居を構え、

簪の身体に宿った新たな命を迎える準備をしている。

 

歳は26になっていても、十年前と何も変わらない雰囲気で、

彼等は会話をしていく。

 

そこには、目には見えずとも確かに存在する強い絆があった。

 

「身体を冷やさない様に気を付けて待っててね?

風邪なんてひいたら大変だし。」

 

「うん、分かってるよ、この子と待ってるから。」

 

幸せそうに微笑む簪に向けて微笑み返した後、

彼は彼女に背を向け、何処かへ出掛けて行った。

 

sideout

 

side秋良

 

車を走らせる事一時間、俺はある場所に辿り着いた。

 

そこは、嘗ての武家屋敷を連想させる様な造りながらも、

全く古めかしさを感じさせない豪邸だった。

 

普通なら、観光目的以外で訪れる事なんて先ずもって無い場所なんだろう。

 

だからと言って、別に物怖じする場所で無いのは分かってるけど、

やっぱり肌に合いそうにない場所だなと感じる事ぐらいは解って欲しい。

 

まぁ、ここに来たのもある理由があるからなんだけどもね。

 

門の前で暫く待っていると、中から一人の男性が歩いてきて、

車の窓をノックした。

 

「悪いな秋良、待たせちまったな。」

 

「いいや、大丈夫だよ義兄さん。」

 

「昔の呼び名でいいさ、むず痒いし。」

 

ドアのロックを解除し、俺は彼を助手席に招いた。

 

彼の名は更識雅人、旧姓加賀美雅人、

元ガンダムチームのメンバーの一人で、俺達同様生き残った者としての使命を果たそうとする者だ。

 

彼は現在、更識家当主にして、俺のお嫁さんのお姉さんと結婚している為に、

俺にとっては義理の兄と言うことになっている。

 

もっとも、彼はあんまりそう呼ばれるのが好きじゃないみたいだけどね。

 

彼がシートベルトをしたのを確認して、

俺は車を発進させる。

 

本当の目的はここから先にあるからね。

 

「また義姉さんがごねてたの?独りにするなーって?」

 

「いいや、今日は単純に準備に手間取っただけさ、

アイツも簪と同じだからな。」

 

「そう言えばそうだったね。」

 

楯無も簪と同じ様に、その身体に新しい命を宿している。

 

つまりは、俺達は同じ時期に父親となると言う事なんだ。

 

こうやって二人きりで行ける機会も、もうほとんど取れそうに無いから、予定を合わせていたんだ。

 

暫くの間、他愛もない会話をしている内に、

俺達は目的の場所に辿り着いた。

 

そこは、IS学園跡地・・・、

今は新平和記念公園と呼ばれる様になった場所だ。

 

嘗ての激戦の中心だった場所には、

壊されたままの校舎や八割方壊れたアリーナ跡等がそのまま残されている。

 

俺達はここで、学び、生活し、そして、大切な人達との別離を経験した・・・。

 

今でも思い出せば苦い物が込み上げてくるのが分かるけど、

それでも、最近ではそれすらも受け入れられる様になってきている。

 

それは、俺が成長できたと言う事なのか、

それとも、ただ時の流れがそうしてくれたのかは分からないけどね・・・。

 

駐車場に車を停め、後部座席に積んでおいた紙袋を持って、俺達は車を降りて更に歩いていく。

 

暫く歩いていると、海に面した広場に着いた。

 

そこには、15のガンダム達を型どったブロンズ像が円形に配置されていた。

 

その中でも一番目立つ場所に立つブロンズ像の前に、

俺達は立った。

 

特徴的な翼を背負い、地面に刀を突き刺した状態で虚空を見るその姿は、正しく英雄に相応しい姿とも言えるだろう。

 

そう、そのブロンズ像とは、嘗てガンダムチームを率い、自らが汚れを引き受けた者が駆った機体、ストライクノワールだ。

 

しかし、その頭部はガンダムフェイスではなく、

人の顔を型どった様な形をしている。

 

その顔は、俺の兄、織斑一夏そのものだった。

 

何故彼だけ顔が彫られているのかと言うと、

ガンダムチームの中でも、唯一彼だけが全世界に顔を晒していた為、何者かがガンダムフェイスではなく、

彼の顔そのものを彫ったんだと思う。

 

因みに、彼のブロンズ像が地に突き刺してる刀は、

嘗ては俺が使っていた愛刀、シシオウブレードだ。

 

量子変換しないまま、スターゲイザーを爆破したから、その時に壊れる事なく残っていた。

 

それを彼のブロンズ像に持たせたと言う訳だ。

 

「にしても、相変わらずイケメンすぎやしねぇか?」

 

「そんな事ないさ、本人はもっと格好良かったよ。」

 

雅人と軽口を叩きあいながらも、

兄さんの立像の横に立つブロンズ像、ブルデュエルとヴェルデバスターの前に花を供え、

グラスを三つ用意してノンアルコールスパークリングワインを注ぐ。

 

運転して帰らなきゃいけないし、そこは守らなくちゃいけない所だよね。

 

「三人で酒を飲む事は出来なかったが、

せめてこれぐらいはしないとな・・・?」

 

「そうだね・・・、侘しい事には変わりないけどね。」

 

兄さんのブロンズ像の前にワイングラスを置き、

俺達も各々グラスを持つ。

 

「じゃあ・・・、乾杯しようか・・・。」

 

「あぁ・・・。」

 

雅人とグラスを静かに合わせ、

ノンアルコールワインを口に含む。

 

俺達のグラスからワインは減るけど、

もうここにいない兄さんのグラスからは一切減ることは無い。

 

分かっている事実だったとしても、やっぱり何処か悲しい事には変わりないね・・・。

 

「そう言えば、他の皆はどうしてるのかな?

五年前に集まって以来、顔を合わせてないけど・・・。」

 

生き残ったガンダムチームのメンバーは、

各々別々の道に進み、顔を合わせる機会も殆ど無くなった。

 

俺が知ってるのは、鈴とラウラ、それにダリルさんとフォルテさんだけだ。

 

鈴は最初の内はアクタイオンで働いていたけど、

五年前に数馬の所に嫁いだ。

 

と言っても、彼女自身がハッキリ嫁いだと認識してるかは全然知らないけどね。

 

ラウラはドイツには戻らず、アメリカに戻っていったダリルさんの義妹になったらしく、今でも二人一緒に写った写真と手紙を送ってくれる。

 

フォルテさんも故郷に帰った後、

海洋調査隊の一員となるべく勉強してるみたいだ。

 

多分、フォビドゥンブルーに乗ってた縁なのかもね。

 

「俺はこの前、ばったりと箒に会ったぜ、

売れっ子作家になったから忙しそうだったな。」

 

「へぇ・・・、あの本、そんなに売れたんだ・・・。」

 

箒はあの後からすぐに書き始めた漫画(BでLな内容だった)を売り出した所、

まさか全世界で一千万部を売り上げるベストセラーになってしまった。

 

う~む、特典の力って本当に怖いなぁ・・・。

 

「何が当たるかなんて分からねぇよ、

それが人生ってヤツじゃねぇか?」

 

「そうだね、その通りだよ。」

 

その後も、雅人はナターシャさんと真耶さんの事を話してくれた。

 

ナターシャさんはアメリカに戻って教師を始めたらしい。

 

あの人のドジッ娘が直っていれば良いなと思うね、ホントに。

 

真耶さんも日本の何処かで教師をやってるらしく、

近々同僚の男性と結婚するらしい。

 

もう皆、自分各々の道を見つけ、

その道を歩いていっている。

 

あの痛ましい出来事の記憶を背負い、

それでも必死に生きていく。

 

それが俺達が兄さんから与えられた役目なんだろうか・・・。

 

今となっては分からない事は山程ある、

だけど、それを解き明かすのはまた何時か出来るだろう。

 

「兄さん、世界は兄さんが願った形になって行ってるよ、

誰も虐げられない、本当に平和な世界にね。」

 

だけど、まだまだ課題は残されてる、それこそ数えきれない位にね。

 

だけど、俺達は独りきりじゃない事を知ってる、

誰かを支えて、誰かに支えられていると知ってる。

 

だからこそ、どれ程困難な道だったとしても、

歩いていけるんだと思う。

 

俺達は、それを見守る役目がある、

それを死ぬまで果たしていこうと思う。

 

「じゃあ、そろそろ行くね、

そっちには後五十年は逝かないけど、それまでセシリアとシャルロットと楽しんでなよ。」

 

「またな、一夏、そっちで会えたら、こんな形じゃなくて、面と向かって飲もうぜ、

一緒に飲むって約束、果たせてねぇしな。」

 

俺と雅人は、彼のブロンズ像に背を向けて歩き出す。

 

もう、ここに来ることは無いかもしれない、

でも、構わないだろう。

 

彼の魂はこの世界にはいないと知ってるから、

ここに来ても彼に会える訳じゃないから。

それよりも俺達は何時の日か、彼の下へ召される時に誇れる様に生きていく事が大切なんだ。

 

だから俺達は振り返らずに歩いていく。

 

まだ見ぬ明日を見るために、

平和な明日を求めて・・・。

 

sideout




またしてもバランスが怪しくなったので、
最終回も二部構成にしてしまいました(汗)

次回インフィニット・ストラトス・アストレイ
最終回其ノ2 終わりなき旅路へ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終回其ノ2 終わりなき旅路へ

side一夏

 

―一夏―

 

誰かに呼ばれた様な気がした・・・。

 

何処か懐かしく、そして優しい声だった・・・。

 

そうだ・・・、この声は・・・。

 

ゆっくりと目を開くと、

俺はいつぞやの白い空間にただ独り立っていた。

 

見渡す限り、何処までも白い空間が続いているようにも見えるし、すぐ手前に壁があるいう風にも見える。

 

この場所に俺がいると言うことは、

アイツが俺を呼び寄せたとしか考えられない。

 

「また何か用があるのか?女神?」

 

振り返りながら尋ねてみると、

俺の背後に純白の翼を広げた女神が立っていた。

 

やっぱ、あぁ言う風に羽根を広げてると神なんだなと納得してしまうな。

 

「ふふ~ん♪やっぱり察しが良いねぇ、一夏は♪」

 

「分かるさ、こんな所にいるなら、な?」

 

そうだ、女神が俺に用がなければ、

昔、転生する前にいた空間になんて呼ばれる筈も無い。

 

そう感じたからこそ、俺は女神に尋ねたと言う訳だ。

 

「うん、一つはお礼を言うために呼んだんだ、

私のお願い、聞いてくれてありがとう、

君のお陰であの世界は少しずつ綺麗になってるよ。」

 

「そうか・・・、それなら俺がやったことも、無意味じゃなかったんだな・・・。」

 

それだけで、俺の中にずっと渦巻いていた何かが、

少しだけ軽くなるような気がした。

 

俺はずっと自分を偽ってきた、

不要な殺人などあまりしたくなかったし、

何より、セシリアとシャルにまで罪を着せなければならなかった自分が嫌だったからな・・・。

 

「うん、本当に助かったよ、君がいなかったら、

あの世界は砕けて無くなってたからね。」

 

「そんな事は最終手段、アンタが手を下さない限りは無いだろう?」

 

「まぁ、そうなんだけどね~。」

 

そんな事だろうと思ってたさ、

神が創ったモノは、神の手によってでしか壊せない、

俺はそれを本能的に感じただけなんだろうな。

 

「で?礼を言うためだけに俺の魂をここに連れてきた訳じゃ無いだろ?聞いてやるから話せよ。」

 

女神の事だ、俺を呼び出すにはもっと深い訳が在ると予測出来る。

 

まぁ、礼だけ言われて後は地獄行きとかは勘弁してほしい、

どうせ行くなら最初からあっちへ飛ばしてくれた方が幾分気は楽だ。

 

「うん、やっぱり君は察しが良いね、

だから私も信頼して事を頼めたよ。」

 

女神は優しげに微笑みながらも、言葉を紡いでいく。

 

「実はさ、天界の方で人手が足りなくなっちゃって、一夏にも手伝って欲しいんだよね、まぁ、人じゃ無いんだけどさ。」

 

「おい、何をさらっと重大発言してんだこの駄女神、

んな事を人間風情に頼っていいのかよ。」

 

流石に俺にも手が剰るだろそれは。

 

いくら転生者とは言っても、それは所詮肉体能力を底上げされただけの事だ。

 

正直言ってしまえば、神に勝てる確率など0に近い、

存在そのものを消されてしまえばそれまでだしな。

 

「人間だったなら、君には頼まないよ、

でもね、君はもう既に人間じゃ無くなったんだ。」

 

「俺に神の使いにでもなれと?冗談は止してくれ、

俺は何千人も殺してきた、そんな奴に務まる事じゃねぇよ。」

 

そうだ、俺は数多くの人間の命を奪ってきた、

神にとっては些細な事だろうが、俺にとっては軽いモノじゃ無い。

 

「分かってるよ、私達と君達じゃ命の重みが違ってるって事はね、でもさ、これは見方を変えれば君は贖罪の為に新しい命を生きる事になるんじゃ無いかな?

罪は死ぬことだけじゃ償えない、君にも分かってるでしょ?」

 

「ちっ、何処までもお見通しかよ、

あぁ、その通りだ、俺はそうやって生きていく事が贖罪になるんだろうな。」

 

それは分かってる、だが、俺の中の何かがそれに対して待ったをかけている。

 

そうだ、俺は独りでその道に進むのが怖いんだ、

人を殺せたのも、セシリアとシャルに精神的に支えてもらっていたからこそだ。

 

「分かった、一つだけ俺からも頼み事がある、

それだけ聞いてくれたら慎んで手伝わせてもらう。」

 

「何かな?私に出来る事ならなんだってしてあげるよ?

力が欲しいの?それとも?」

 

女神め、本当に俺の心を読めているのか?

いや、それともわざとこちらを試す様な事を言っているのか?

 

俺は神じゃない、相手の心の内側を読みきるなんざ不可能だ。

 

それこそ、読心術の類いを使っても、分かるのはほんの一握りの事だけ。

 

それは良い、今はそんなことを考えている場合じゃない、

恐らく彼女は、俺の出方を試したいんだろう。

 

そう考えれば、俺の言える事はただひとつだけだ。

 

「セシリアとシャルを、俺の隣にいた女達を、俺と共にアンタの下に置いてくれ、それ以上は何も望まない。」

 

「理由を聞かせてくれないかな?」

 

「彼女達が俺を支えてくれなければ、俺はアンタに任された事を完遂出来なかった、

そうさ、俺は独りだったら戦えなかった、

だから、これからも二人に支えてもらいながら、生きていきたいんだ。」

 

俺はセシリアとシャルが隣に立って、

笑ってくれているからこそ戦えたんだ。

 

どれ程無謀な行為をやろうとも、どれ程邪な道に進もうが、彼女達が着いてきてくれたからこそ俺は躊躇なく進めたんだ。

 

これから先、彼女達が俺の隣にいてくれなければ、

俺は歩いていく事は出来なくなるだろう。

 

「君って、本当に欲が無いねぇ、

手の届く範囲で済ませるなんて、良いことだと思うよ、そんな君だから私は信頼出来るんだ。」

 

俺の言葉に女神は深く頷きながらも微笑み、

俺の後ろ、正確にはその更に向こう側を指さした。

 

「あっちの方に、強い魂の気配があるよ、

早く連れてきてあげなよ、私はここで待ってるからさ。」

 

「恩に着る、すぐに戻る。」

 

有り難い、場所まで教えてくれるとはな。

 

たとえその場所が地獄だったとしても、

セシリアとシャルは俺の隣に立たせて戻ってやるぜ。

 

居ても立ってもいられなくなり、

俺は女神に一礼し、その方角に向けて走り出した。

 

セシリア、シャル、待っていてくれ、今迎えに行くからな。

 

sideout

 

noside

 

何処までも続く白い空間に、

セシリアとシャルロットは佇んでいた。

 

「また、ここですのね・・・。」

 

「うん、あの時は錯覚かと思ってたけど、

どうやら今回は冗談抜きみたいだね。」

 

何処か諦めたかの様に、二人は顔を見合わせてため息を吐いた。

 

何故彼女達はこの空間に驚きもしないのか?

それには理由があり、彼女達は一度、この空間に来たことがあった。

 

その時は死んだという実感はなかったのだが、

今回は各々が死を覚悟し、意識を途絶えさせたという実感があったからこそ、彼女達は特に驚く事もなかったのだ。

 

「こっちでもセシリアに会えて嬉しいな♪

やっぱり独りぼっちは寂しいからね。」

 

「約束したではありませんか、

何時までも三人で一つですとね♪」

 

気を取り直したのか、二人は微笑みあいながら手を取り合った。

 

共に修羅場を何度も経験し、

同じ男に愛されたが故の友情が彼女達を強く結び付けているのだ。

 

「一夏様は、どうされたのでしょうか・・・。」

 

「分からないよ・・・、僕達の方が早くこっちに来ちゃった事は確かだろうけどね・・・。」

 

自分達が死んでから一体何れ程の時が流れただろうか?

 

一日?一週間?一月?一年?それとも・・・?

 

彼はどうなったのだろうか?

自分達と同じくここに来ているのか?

それとも生き残ってしまったのか・・・。

 

「僕達はもう・・・、一夏と会えないのかな・・・?」

 

「会えますわ・・・、ここで待ち続けていれば、

必ずや一夏様が見付けてくださりますわ。」

 

不安げな表情を浮かべるシャルロットに、

セシリアは優しく諭しながらも、心の内側では正直言って、不安に押し潰されそうになっていた。

 

彼が死んでいるのかも、生きているのも分からぬまま待ち続けていたとしても、

一体何れ程の時間を待てば良いのかも分からない。

 

そんな不安が彼女達の内に生まれた、まさにその時だった。

 

「・・・?今、誰か僕達を呼ばなかった?」

 

「確かに・・・、幻聴ではないですわね・・・。」

 

二人同時に、自分達の名を呼ぶ声を耳にした。

 

幻聴かと思ったが、そうではないと理解したため、

二人はよく耳をすませた。

 

―・・・リア、シャ・・・―

 

「この声は・・・!」

 

「うん・・・!」

 

声の主を思い浮かべた彼女達の表情が、

パッと華やいだ。

 

そう、何度も耳にし、その言葉に救われ続けた声だからだ。

 

―セシリア!シャル!―

 

「一夏様!」

 

「一夏!!」

 

今度こそ、ハッキリと聞こえた声に、

セシリアとシャルロットは歓喜の声を上げた。

 

白い空間の一点より、

彼女達が愛した男、織斑一夏が姿を現す。

 

「セシリア!シャル!」

 

「一夏様!」

 

「一夏!!」

 

互いの姿を認めた三人は、

互いに向けて走り、抱き合った。

 

互いの温もりを感じあうかの様に、

きつく、きつく抱き合った。

 

「セシリア・・・、シャル・・・、お前達まで道連れにしてしまったな・・・、こんな不甲斐ない俺を許してくれ・・・。」

 

二人を抱き締めながらも、彼は愛しげに詫びた。

 

「良いのです、一夏様・・・、

貴方様は私達を愛してくださりました・・・。」

 

「貴方に着いていく事が僕達の幸せなんだ、

後悔なんてしてないよ。」

 

彼女達は彼の詫びに対し、

涙を滲ませながらも微笑んだ。

 

もう一度会えた、ただそれだけが嬉しいのだと言うかの様に・・・。

 

「まだ俺に愛想を尽かして無いなら、

これから先も俺に着いて来てくれないか・・・?

俺はお前達がいてくれないと駄目なんだ・・・。」

 

そんな彼女達の様子を見ながらも、

彼はプロポーズをするかの様に訪ねる。

 

言葉自体に強制力はなく、

だだ、着いてきて欲しいと言う気持ちだけが籠っていた。

 

「はい、貴方様の隣に立つことが私達の喜び。」

 

「それが永遠の運命だったでしょ?」

 

それは愚問だと言うように、彼女達は大輪に咲き誇る薔薇の様に笑い、彼に着いていく事を望む。

 

たとえそれが、永遠に続く終わりない旅だとしても、

死さえ許されない過酷な道であろうとも、

彼女達は彼と共に在り続けたいと願う。

 

あの日、海岸での誓いを護り続け、

三人で歩くために。

 

「ならば行こう、三人でな。」

 

「はい♪」

 

「うん♪」

 

満面の笑みで微笑むセシリアとシャルロットに腕を差し出して掴まらせ、

彼はゆっくりとだが、しっかりとした足取りで歩き始める。

 

迷うことは何もない、俺達三人なら何が起きようとも乗り越えられる。

 

そんな力強さが見てとれた。

 

彼等の姿は光の中に消え、後には無音の空間のみが残った・・・。

 

 

ここに、世界を変えた英雄は、新たな旅へと赴いた。

 

誰も知らぬ場所を見るために、

そして、自らが殺めた者達への贖罪の為にも・・・。

 

sideout

 




インフィニット・ストラトス・アストレイ、
めでたく完結させる事が出来ました。

これも一重に皆様の御声援のお陰です、
稚拙な作品でしたが、約一年間、応援してくださってありがとうございました。

次の作品を何時書くのかはまだ決めておりませんが、
何か書ければまた投稿したいと思います。

それでは、また何時の日にか~。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。