赤鬼、虫けらに跪く (千村碧)
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プロローグ

 その日の行動はいつも通りの気まぐれだった。

 10余年もの日々を過ごし、青春のほぼ全てを注ぎ込んだそれに、どこか感傷的になっていたとは思いたくないし、終わるからと言ってゲームを再びやるというのも、誰かに失礼なように思えたのだ。

 

 そのゲームが終わるということを知ったのは、もう辞めたギルドのギルマスからのメールだった。あの男は未だに俺の席を残しているのだと言っていた。

 

 辞めた俺をまだ待ってくれている存在に挨拶もないのは許せなくて、仕方なく久しぶりにゲームにログインすることにした。

 

 ログインしてみればそこは、元いたギルドの近い大きな都市だった。ログインポイントをギルドからこちらへと移したのだったと思い出し、微妙な気分になる。

 

 このままギルドに向かってもいいのだが、どうやらログインするのが早かったらしく、ゲーム終了の時間まで一時間弱あるようだ。せっかく時間があるので、ギルマスにプレゼントを持っていくことにした。

 

 俺がプレゼントに選んだのは、とある世界級アイテム。北欧神話を基に作られたこの世界において、戦士職のプレイヤーが全員求めたといっても過言ではない最強のアイテム。その名は【神槍グングニル】。北欧神話の主神の持つそれは、世界級アイテムの中の武器の中では相当の性能を誇っているらしい。

 

 事実、神槍グングニルを持つギルドは我がギルドの半数程度の人数でありながら、ギルドランク15位と上位ギルドの仲間入りをしている。

 

 幸いなことに、俺のいた都市とそのギルドは近く、上位騎獣召喚で駆ければ二十分ほどで着くことができた。

 着くのと同時に、そのギルドの奴らが出てきたのだが、誰も槍を装備していない。これはもうダメだろうかと諦めていると、そこのギルマスが「せっかくだから俺、グングニル装備してくる。お前ら先行っとけよ」と言い出した。この時ほど神に感謝した瞬間はない。

 

 それから待つこと十分。男がグングニルを装備して出てきた。テンションがだいぶ上がっているらしく、グングニルを振り回しているのだが、注意力が散漫になっているらしい。俺が後ろから寄っても気付かないほどだ。だ

が、すぐには手を出さず、奴がもっと周りが見えなくなる隙を狙う。

 男がゲートの呪文を発動しようとした瞬間、その首筋に愛武器【鬼殺】を叩きつける。

 この男が戦士職特化であったなら一撃では難しかっただろう。ただこいつは、魔法職特化らしく先ほどはローブや杖を装備していた。この【神槍グングニル】の恐ろしいところは、戦士職でなくても装備することができるというところと、後衛職でありながら前衛と渡り合えるほどの攻撃力なのだ。

 しかし、いかに攻撃力を上げるとはいっても、防御力は魔法職の時のまま。神器級でありながら特殊能力をほぼつけず、攻撃力に特化した【鬼殺】の弱点である首筋へのクリティカルヒットの一撃に耐えることはできなかったらしい。男がポリゴン片になって消え、装備していた【神槍グングニル】が残った。

 残った【神槍グングニル】を主武器に替え、装備する。世界樹の葉から生まれた世界級アイテムであるが、この【神槍グングニル】の説明には、世界樹の枝から創られた。と書かれており、この説明文を読んだプレイヤーからは矛盾を突っ込まれていた。世界樹の枝から創られたと書かれている通り、見た目は貧弱な木製の槍である。ダサいということはないが、普通の人の考える槍ではないということは確かである。

 

 何とか目的の世界級アイテムのGETに成功したのだが、時間を確認するともうすでに終了までぎりぎりの十分しかない。

 

 アイテムストレージから元いたギルドでくすねていた本型のアイテムを取り出す。戦士職に特化していて魔法職を習得していない俺では、スクロールを使うことはできないのだが、この本の形態のアイテムなら戦士職であろうと何であろうと使うことができるのだ。

 

 

 この本の形態のアイテムに収納されている魔法の名は【ゲート】。いわゆる瞬間移動が可能になる魔法だ。

 

 アイテムを発動すると、本型のアイテムはポリゴン片になって消え、黒い渦のようなものが目の前に現れる。ゲートという感じかといわれると?だが、これがゲートなのだ。

 ゲートを通り抜けると、そこは毒の沼地だった。そして目の前には聳え立つ悪の城【ナザリック地下大墳墓】。ギルド名は【アインズ・ウール・ゴウン】。ユグドラシル内のプレイヤーのほとんどから嫌われる悪のギルドだ。

 

 

 

 久しぶりに訪れたギルドは昔のままで、色々なことを思い出しては感慨深くて泣きそうになる。アインズ・ウール・ゴウンを辞めたのは俺が一番最初だった。昇進とともに、仕事量も増えてゲームに浸る時間がどんどんなくなっていったからだ。ただ、俺が辞めたのがきっかけで、幽霊ギルド員だった人もどんどん辞めていったらしく、俺のせいでギルドが崩れていったのかと、申し訳なくて申し訳なくて。あの人の優しいギルマスに恨まれていないどころか、今も待っているといわれたときは色んな感情がごちゃ混ぜになった。

 昔から、感情を表現するのが苦手で、変にツンツンしてしまって誤解されることが多かったのだけれど、ここのギルドの人はそんな俺の言いたいことをすぐに理解してくれる得難い友だった。

 

 なんて思っているうちに時間は差し迫り、もう三十秒しかない。一目会えれば奇跡だが、それでもひた走る。途中、名前を忘れたがカエルが襲い掛かってくるのを、グングニルで蹴散らしていく。

 

 なんとか、ナザリックに到達し、コールをしようとしたとき、ボスガエルが出現し、舌で絡めとられる。グインと引っ張られるような感触の後、俺は見知らぬ草原の中にいた。

 

 とりあえず俺を絡めとっていたカエルをぶちのめし、あたりを見渡す。時間は既にサービス終了時間を過ぎている。それに、この草原には全く見覚えがなく、現在地がつかめない。

 カエルは普通に遭遇するただのカエルだし、舌に絡めとられると強制ワープなんて聞いたこともない。

 もしここに、ももんがさんがいたのなら、冷静に判断して最善策を見つけてくれたのかもしれない。普通の人があそこまで個性的だったメンバーをまとめ上げることはできなかっただろうから。

 

 「下位騎獣召喚」

 

 草原で上位騎獣召喚をしても、いい的になるだけなので、下位騎獣召喚でスレイプニルを呼び出し、騎乗してスレイプニルに水のある方向へと走らせる。

 ここがどこかはわからないが、もしも人型生物がいるのなら、水は生活に必須である、それに、歴史からもわかるが、川の近くには文明ができる。大きさはどうか知らないし、文明レベルが低すぎる場合もあるが、それならそれで力技でどうにかなるだろう。世界級アイテムもあることだし。

 




 読んでいただきありがとうございました。感想、評価お待ちしてます。
 作者は現在受験生なので、あまり頻繁に投稿はできませんが、時間を見つけて息抜きに投稿していけたらいいなと思っています。


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第一話

 残酷な描写があります。気をつけて。


 スレイプニルの野生の勘を頼りに、川を目指して走らせることしばらくして、川岸にたどり着いた。近くに集落のありそうな気配はなかったが、川岸には焚き火の跡があった。それだけではなく、砂をかけて火を消した痕跡や、一部分だけ土が掘り起こされた後に再び埋めなおされているという、簡易トイレのようなものまであり、ある程度の知恵を持った生物がこの付近につい最近までいたことは確実だった。

 

 もうこの時点でこの世界がゲーム、ユグドラシルのサービス延長であったり、ユグドラシルⅡである可能性は皆無になっていた。というのも、どれだけ世界の技術が進歩したのだとしても、人はゲームの中の人間に排泄物を求めないし、うっすらとでも、排泄物から漂う臭気を嗅ぎたいとは思わないだろう。それをゲーム制作会社の人間がわからないはずがない。

 

 下流を目指し川岸に沿って歩いていく。

 

 ガサガサ。

 

 突如横から聞こえてきた音に、臨戦態勢を整える。この得体の知れない世界で初めて出会う敵だ。ドラゴンがバンバン出てくる世界かもしれないのだ。

 

 現れたのは、深緑色の体躯に人間の子供程度の身長、醜悪に歪んだ顔。ゴブリンだ。気を抜きかけたが、もしかしたらめちゃめちゃ強いかもしれないと、再び構える。パッシブスキル【覇気】が発動される。アクティブスキルの【咆哮】とかぶる効果も多いのだが、戦闘態勢に入ると死角からの下位攻撃を無効化してくれるのでかなり有用なスキルだ。

 

 目の前のゴブリンは【覇気】が発動されるとすぐさま「ギギィ!」と短い叫び声をあげ、反転すると逃げ出そうとした。これによって、少なくともゴブリンのレベルがユグドラシルのときとほぼ変わらないことを実感し、グングニルを投擲する。

 

 この【神槍グングニル】の真価は、投擲によって発揮されるのだ。グングニルの伝説の通り、投擲されれば標的を串刺しにし、串刺しにした後は所有者の手元に勝手に帰ってくる。魔法職専用投擲武器と呼ばれる所以は、最初の所有者……つまり、俺がPKした奴だが、そいつが魔法によって盾を張った空間から、世界級アイテムの奪取のために攻めてきた二百人近い連合軍をグングニルによって各個撃破していったことからそう呼ばれるようになったのだ。

 

 まぁ、何が言いたいかと言うと、百レベルのプレイヤーを各個撃破できる武器で、ゴブリン先生とまで呼ばれる初心者の味方を攻撃すると、まぁ、破裂するよね!ってことだ。当たった瞬間、グングニルは手元に帰り、破裂したゴブリンの肉片とドロッとした血が顔と服にかかった。俺の神器級で揃えた最高級の装備が、よりにもよってゴブリン如きの血でビショビショである。

 

 ギルドを辞めたとはいえ、ももんがさんの好意で荷物を置かせてもらっていたので、今ある装備といえば神器級の第一級の装備とデザインが気に入っているけれど、遺産級という今の装備から比べれば、三段階落ちの物しかない。

 

 ただ、武器も装備も性能よりも見た目で選ぶ主義の俺からすれば、現在の血みどろのデザインもへったくれもないような状態よりは、お気に入りの装備のほうがうれしい。それに、アイテムストレージに入れておけば、時は止まるらしいので、洗える機会が来るまで入れておけば何とかなるだろうという思いもある。

 川沿いを歩いているので、川で洗えばとも思うが、日本で暮らしていたころの水道と比べれば雑菌の数は恐ろしいほどだろうし、装備を水で洗って大丈夫だろうかという思いもあって、それはやめておく事にした。

 

 ついでに川を覗き込み、自分の姿を確認する。俺は異形種で【鬼】を選択していた。ユグドラシルの世界観は北欧神話が基ということ、異形種を選択する人の少なさということもありほとんど同種と会うことはなかった。

 

 鬼の面白いところは、上位種になるにつれて人型に近くなることだ。鬼神となった現在、鬼といえるところは頭に生えた二本角だけなのだが、それも髪に沿うように設定してあるので、まじまじと上から見られなければわからないだろう。ただ、アクティブスキルとして、【鬼化】というのがあり、これを使うと体長が二メートルを超え、正しく鬼といった姿になる。しかも、このスキルは他のスキルと違って、自身の真の姿をさらけ出すだけなので、特にクールタイムもペナルティもタイムリミットもないのだ。唯一の欠点といえば、操作性が低くなるというか、理性が弱くなるのだと設定には書かれていた。まぁ、これもそんなに気にしていなかったので、ギルドにいるときはずっと鬼の姿でいるものだった。

 

 もしかしたら、ギルメンは俺のこっちの姿を見ても俺だとは気付かないかもしれない。

 

 赤い髪のダンディなおじさん顔に、足の長く細みな長身。俺が設定していた通りの理想のオヤジ像である。

 

 久しぶりに見た自分の理想の姿に満足して、再び探索に戻ろうとしたときだった。

 

「ちょっといいか?この辺にゴブリンが来なかったか?」

 

 俺に声をかけてきたのは三人組。あまり強くなさそうな戦士職っぽいのが二人と見習いっぽい僧侶である。ここで、違和感を持ったのが自分の中の感情だった。リーダーらしき戦士職の男の威圧的な態度は普通にむかつくが、殺そうとまでは思わない。それが普通だ。ただ、俺が感じたのは、激しい怒りの念だ。屑が対等どころか上から威圧的に話しかける、そんなことが許されるわけがない。この世は弱肉強食弱いものの立場を分からせてやらなければという思いだ。

 少なくとも、【鬼化】をしている状態だったならば、最後まで言い終わらせることもなく消し去っていただろう。

 

「おい、きいてんのかよ?!」

 

 男が肩に触れた。その瞬間が俺の中の我慢の限界だった。

 

「いいか、ニンゲン、教えてやるよ。弱い奴はな、粋がっちゃだめなんだよ」

 

 男の頭に手を置き優しく握りつぶす。今度は装備に血が飛ばないように。男の頭の骨の形が変わり、割れた頭蓋骨の破片を頭の皮から飛び出さないようにして、小顔にしてやる。

 

「えっ?!きゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

 見習い僧侶の女が甲高い叫び声を上げ、もう一人の戦士職の男は声も上げずに反転して駆け出す。逃げ出した戦士職の男には足元の石ころをプレゼントして新しい芸術作品とする。

 

 連れのもう一人も死んで更に騒がしくなった女と目を合わせ、魔眼の効果で眠らせる。

 

 二人の人間を殺しても何も感じないどころか、充足感すらも覚えている自身の変化に驚きながらも、女を森の奥の立派な木の幹にくくりつける。くくりつけるための縄は、芸術作品一号の腰元についていたので拾っておいたのだ。

 

 女をくくりつけてしばらく待ってみるもののおきないので、アイテムストレージから【無限の水差し】を取り出し、頭からかけてやる。

 

「ひうぃぃ、つめたっ!!うひゃあ!!」

 

 頭を振って水を避けながら、前を向いて俺の存在に気付き、目をこれでもかというほど見開く女。俺が人間だったのなら可愛いと思う仕草かもしれない。顔も多分標準よりは上だ。

 人間の顔の区別はつくのだが、異種族を見ているような感覚というのか、ゴリラを見てこいつイケメンだなぁと思ってもそれになりたいだとか、羨ましいとは思わないように、性欲も何も湧き上がってこないし、何人も目の前に人を並べられたらこいつを見分ける自信もない。

 

「あ、あの~、ですね……」

 女がこちらを見てくるので、女の方向に向き直る。

 

「ヒッ!あ、ああああのですね、わた、私はですね、食べてもですね、美味しくない、ですしね、色気もないし、頭も悪いので、食べない方がァ、いいと思うのです!ヒィッ!」

 

「俺が、お前だけを残したのは別に食べるつもりでも、襲うつもりでもない。情報さえ話せば解放してやるよ。」

 

 しばらく探るような目でこちらを見てきた女だったが、それ以外に方法がないと観念したのか、こちらを見てきた。

 

「し、質問って何ですか?私は教会の見習いではありますが、最近タレントが発覚して入れてもらえただけで勉強も何もしていないのです」

 

「何だその、タレントってのは?」

 

 俺の質問に対して、女は最初怪訝な顔をした。タレントというのを知らないのは相当な無知であるようだ。

 

「えっーと、タレントというのはですね、一つの町に数人程度あらわれる武技とは別の能力のことで、武技と違うのは、それを生まれながらに持っているということと、それが本人にとって役に立つかどうか分からないということです。」

 

 ブギ?武技、だろうか?これは多分、ユグドラシルでいうスキルと同じものと考えて問題は無いはずだ。分からないのが、タレントだ。この世界特有のものだろうということは分かるが、これがどの程度の力を有するかによって俺の在り方は考える必要がある。

 

「女、お前もタレントを持っていると言ったな?お前のはどういうもので、それはタレントの中ならどの程度有用なのだ?」

 

「私のタレントは私が触れたポーションの効力を三十分程、1,5倍に高めるというものです。私が知る限り、タレントの中でもそこそこ有能な部類に入ると思います。」

 

 女はそういうと、少し自慢げな顔をした。

 戦闘面ではないというところが少し不安要素であるが、ポーションの効用を高めるというのは確かに有用ではある。効果時間はそこまで長くないし、1,5倍というのも決して高いと言える能力ではない。

 

「もう一つ、お前が知る中で1番高い能力を持つタレントはどんな能力だ?」

 

 女は少し、考えるような素振りを見せた後、おぉ!とばかりに手を叩いた。

 

「隣の国の薬師の家にどんなマジックアイテムでも使うことが出来るというタレントを授かった子供がいると聞いたことがあります。あとは、遠い国のお姫様らしいのですが、英雄よりも強大な魔法を使えるようになるタレント持ちがいるというお伽噺のような話も聞いたことがあります。到底、信じられませんが。」

 

 最初の子供は要注意だろう。ユグドラシルから俺以外にも来ているプレイヤーがいるなら、世界級アイテムがこの世界にあることになる。それも使えるなら、もはや、レベルなど関係なくなる。

 二人目はよく分からない。英雄がプレイヤーを指すのなら、それを超えるとは、超位階魔法ということになる。

 そういえば、こいつらは冒険者だったか?

 

「お前らは冒険者だったな?お前らは、冒険者でいうとどの当たりにいるんだ?」

 

 そう尋ねると、女はない胸を張って答えた。

 

「私たちはたったの8年で金級まで上り詰めたエリート集団なのです。」

 

 女が言うには、冒険者のくらいには銅、鉄、銀、金、白金、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトとあって、白金以上は上級と呼ばれるような冒険者の憧れの存在である。ただ現実問題、白金以上の冒険者は全体の2割ほどしかおらず、それはこのバハルス帝国でもどこでも同じらしい。

 金級まで行ける冒険者も少なく3割以上4割未満と言ったところ。それでいうと確かに、まぁ、すごかったのだろう。

 分かりやすく上からS、A、B、C、D、E、F、Gと振り分けていけば分かるが、こいつらのレベルで少なくともDランク、ベテランほどの強さを誇るのだが、武器を抜くまでもなく倒せたことを考えると、正直そこまで気を張る必要はないかという気になる。

 もちろん、Sランクは別格の強さを誇る場合もあるから、油断しすぎて殺されるなんて言うのは滑稽だが、一々木っ端までを警戒する必要は無いだろう。

 

 最後に周辺の国家の事情を聞いてみだのだが、やはり知らない国家ばかりだった。ただ今いるバハルス帝国は鮮血帝と呼ばれる王様が即位したばかりで、国家はあまり安定していないらしい。

 スレイン法国は人間至上主義であり、どことなく秘密めいていて何か嫌な感じがする。

 リ・エスティーゼ王国は話に聞く限り、すぐにでも潰れそうというのが率直な感想だった。

 

 この三つが周辺国家らしい。俺としてはどこも微妙というのが思いとしてあるが、アインズ・ウール・ゴウンを目の前にしてこちらに来た俺としては、俺同様にももんが達が来る可能性を考えてあまり遠くに行きたくない。

 決めた。バハルス帝国に行こう。革命直後の国家であれば、ある程度ことが落ち着くまでは民のことに無関心になるであろう。そうすれば、帝国民として暮らすことも可能になるかもしれない。

 

「あ、あの、もう話せることは話しましたし、解放してくださいよ!」

 

 そうだ、女のことを忘れていた。アイテムストレージから指輪を取り出す。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをはずし装備する。神器級アイテムのそれは、俺が作った観賞用アイテムで呪いのリング。装備すると、ステータスが半分になる効果がある。

 呪いの道具でないこれは、自分の意思で普通に外せてしまうので作った意味が無いと、ストレージの奥の方に仕舞ったままになっていたものだ。

 これを装着すれば、俺の能力は正確ではないが50相当になるというわけだ。まぁ、ユグドラシルは、種族Lv.と職業Lv.とあるから、Lv.を半分にしようと考えるといろいろ厄介なことになる。

 この道具は今まで使い道が無かったが、強すぎる今の俺のカモフラージュとしての使い道が出来た。ステータスが半減するだけのこれは、スキルも自由に使えるからだいぶ便利だ。

 

「そうだったな、約束通りお前を解放してやるよ。この苦しみに満ちた世界から、な!」

 

 そう告げて、訳が分からないといった顔をしている女が、事を理解して大声を上げる前に、拳を振り抜いて女の顔面にめり込ませる。拳が木の幹に当たるその前に拳を素早く引っ込める。

 即死だ。厄介ごとは困るが、隠蔽のしようがないので、取り敢えず女を下ろし、血に誘われてやってくるだろう獣達が食べやすいようにしておく。

 こうすればきっと、自然が全てを処理してくれることだろう。

 

 全ての処理を終えた頃には、辺りは日が落ちて暗くなっていた。鬼に睡眠は必要無いため、バハルス帝国の都市がある方向へと歩き出した。




 読んでいただきありがとうございました。感想、評価おまちしてます。
 今回、主人公の種族が異形種の鬼ということになったのですが、正直作者も、鬼が異形種の範疇であるのか迷うところですが、この作品では鬼は異形種とさせていただきます。一応の作者考えとしましては、鬼というのが、「悪いもの」という姿形が曖昧なものであるということと、鬼火と呼ばれるような特殊な力を持つので、亜人種ではないのではないのだろうかということです。


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