真・女神転生3 Beginning King of the chaos (休載中) (ブラック・レイン)
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現実世界編
プロローグ



就職試験前にこんなものを書くなんて自分でもおかしいとは思ってます。けど、人修羅が書きたかったんです!


物語の始まりはなんと始めるのが良いか、そしてどういった風景で始めるのがふさわしいか?

 

昔、小説を書くたびに何よりも迷ったのはそれだ。

 

プロローグは小説家を目指していたオレにとって苦手としたものである。

 

第一印象は大切であり、それで後々の魅せ方がかなり変わる。それがオレ……かつて夜藤 零時と呼ばれた悪魔が小説を書く時の意見であった。もちろん設定に矛盾がないか、キャラの動かし方も考えた。

 

そして上手い小説を書くには【読みまくる】【書きまくる】(これは本の受け売り)が大切。

 

『小説を書くときの最も良い教材は小説である』

 

どこかで聞いたことがあるその言葉は全くもってその通りだと昔は信じて疑わなかった。

 

だがどうにもオレが作る物語は最初から他者が作った物語の良いとこ取りになっている気がした。自分独自という感じが最初からなかった。

 

昔からオレは他人の真似ばかりが得意だった。見よう見まねでやってみれば、その人そっくり、そいつの技術すら真似てみせよう。

 

だが、小説を書くなど真似できないことは何度やってもうまくいかなかった。

 

そのためオレが誉められる時は必ず『〇〇の真似が上手い』など、必ず他人の名前がつく。

 

なぜだかオレはそれが無性に虚しかった。

 

他人の名前がない、ただ一人の名誉が欲しかった。

 

だからかもしれない。

 

オレが人をやめ、悪魔になり混沌王になったのは。

 

これは、最悪で究極の愚か者の話。

 

きっと誰も称賛なんてしない物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだこりゃ」

 

ゲシゲシと書き綴った文章を消しゴムで消し、発生したケシカスを粗っぽく吹き飛ばしながらぼやく。

 

現在、オレのいる場所はオレが通っている高校のとある教室。

 

その机の上にノートを広げ、下書きをしているのだがどれもこれも人気な小説の良いとこ取りしている感じがしてどうも気に入らない。

 

「はぁ……オレには小説家なんて無理なのかね」

 

少なくとも今日は絶対に良い案など浮かばない。そう考えたオレ……夜藤 零時はノートをカバンにしまい、それを持ち上げる。

 

さて、帰ろう。明日は休みだしゆっくりできる。そうすれば良い物語が書けるかも……

 

「あ、しまった。先生のお見舞いがあった……」

 

オレはふと思い出す。

 

オレのクラスの担任、【高尾 祐子】先生が入院してしまい、そのお見舞いに行こうと親友である【新田 勇】と【橘 千晶】と約束していたのだ。

 

またこの新田 勇というやつは祐子先生のファンであり、勇曰く彼女のお気に入りはオレであるらしい。

 

自覚はない。

 

ただ、オレを前にした先生の態度は優しくなるらしい。今回のお見舞いも、本当はお前に来てほしくない、だが来てくれないと先生の喜ぶ顔が少なくなる……みたいな事を勇に言われている。

 

ひどい事を言われているが、幼い頃からの親友だし短所の一つや二つ目をつぶってやらなければ世界は生きていけない。

 

それに勇だけではなく、千晶も短所がある。お嬢様育ちだからちょっとした女王様キャラなのだ。

 

実際、様々な能力が他の生徒と差がある。血の差だろうか?

 

はてさて、さっきからこの二人ばかりキャラが濃いように言っているがここでオレについて説明しよう。

 

オレの肌は血の気が通ってないと例えられるぐらいに白く、髪は長く、強力な癖毛で好き勝手にぴょんぴょん跳ねている。

 

要は不気味な風貌なのだ。これなのに先生に優しくされているだなんて勇の目は節穴だろうか?初対面の人間に言われることが『大丈夫ですか?』か『怪しいやつ!』が半分以上だ。

 

おかげさまであだ名は不気味君だ。幽霊君でもアリ。

 

こんな人間が病院なんて行ったらきっと『幽霊が出た!』とか騒がれそうだ。ちくせう。

 

はぁとため息をつきつつ、オレは誰一人いない教室を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、電車に揺られてオレは頭の中で小説の一文を推敲していた。

 

先生が入院している病院は【新宿衛生病院】。本院と分院の二つが存在する病院であり、かなり巨大な施設である。

 

全く、わざわざ新宿まで行かないと行けないとはね……先生も入院している理由が詳しく分からんし全く運がない。

 

やれやれ、そろそろ駅に着いてほしい。揺らされると眠たくなる。集中力がなくなる。

 

「代々木公園駅~代々木公園駅~」

 

おっと、噂をすれば望んでいたアナウンスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電車を降りてすぐ、狙っていたかのようなタイミングでメールが来た。勇からだ。

 

『遅いー。遅すぎるぞ夜藤 零時!

祐子先生のお見舞いに行くの今日だって忘れてないだろうな?

 

…早く代々木公園に来い。先生に会う時間も減っちゃうだろ』

 

うるさい奴だ。

 

『ホントは一緒でなくてもいいんだけど、なんか祐子先生、オマエがいると優しいんだよな…

でもオマエは単なるムードメーカー。ソコんとこは、わきまえて来いよ』

 

本当は帰ってほしいんですね、分かります死ね。

 

確かに祐子先生は美人の部類に入るがそこまで熱狂的になるか?オレはと勇に問いたい。そもそも祐子先生はアイドルじゃねえ。

 

色々言いたい事はあるがとりあえず『今、向かっている』とだけ返信し、とっとと待ち合わせ場所である代々木公園に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 





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代々木公園の噂


現実世界編、二話目です。


「はぁ……はぁ……!」

 

電車を降り、地下鉄から抜けてしばらくした後の事。体格から分かる通りの体力の低さでオレは走りまくってバテていた。

 

走ることを要求されたわけでもないが、それでも待ち合わせの約束をした身分。遅れると後で何言われるか分かったもんじゃない。

 

しかし………オレは先程から聞く噂が先程から気になった。

 

始まりは駅員の言葉だ。何故かオレに話しかけきた駅員の話によると、数日前に待ち合わせ場所である代々木公園で暴動事件があったらしく、何人か死んでいる騒ぎにまで発展しているらしく、ニュースにもなっているらしい。

 

ニュースなんざ見なくても良いさと思っているオレにとっては初耳であった。

 

街を走っているとその暴動の話が何度も耳に入る。事件現場を待ち合わせに使ってしまっているオレにとっては不安要素にしかならなかった。

 

おまけに待ち合わせ場所の代々木公園は立ち入り禁止になっていると聞いているし。

 

それに加えてとある噂も聞く。

 

なんでもその暴動のあった夜に悪魔が現れ、人を殺したとかなんとか。

 

噂の粋を出ない、眉唾物の話だろうと断じればそれでオシマイなのだが、なぜだろうか?妙に胸がざわつく。

 

まぁ今はとにもかくにも代々木公園に向かおう。もしかしたらその周辺にいるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年移動中………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……着いた~!」

 

代々木公園に到着。オレは汗びっしょりになっていた。

 

さて、あの二人はいるだろうか?辺りを見渡すといたのは勇でも千晶でもなく、オッサンがいた。しかもなんか怪しい雰囲気を醸し出している。不審者だろうか?

 

幸い、こちらには気づいていない。去るのが吉だろうか?

 

そう思案すると男が愚痴る声が聞こえた。

 

「チッ……公園をまるごと封鎖とはな。

現場写真の1枚も撮らせん気か。チッ……公園をまるごと封鎖とはな……」

 

会話の内容を聞くに記者だろうか?それともそういった猟奇殺人現場を見るのが趣味の人間か?

 

男の素性を予想していると男がオレに気づいた。

 

「?……俺に何か用……大丈夫かお前?顔真っ青で汗びょしょりだぞ?」

 

「これは素だ!汗まみれなのは走ってきたから!それを除けば元気いっぱいだっつの‼」

 

またこれだ!就任してきた新しい先生にもそう言われた‼

 

「そ、そうか。それで何の用だ?」

 

男は未だに不安そうな顔でオレに尋ねた。

 

何か用か、と言われればない、が、どうやらこの男は暴動の事を調べているようだ。

 

もしかしたらこの代々木公園の暴動のことを知っているかもしれない。

 

この時オレはこの暴動に興味を持ち始めていた。

 

なぜなら、ここから見えるだけでも血痕がちらほら見えるからだ。

 

ただの暴動にしては凄惨すぎる。これではちょっとした戦闘があったといわれた方が違和感がない。

 

とりあえず、男に問うことにした。

 

「いったいここで何があったんだ?」

 

そういうと男はフムと頷き、言葉を紡ぎ出すような話始めた。

 

「テレビじゃ、こう言ってるなぁ。

『企業と市民団体の衝突で死者の出る騒動に』……」

 

確かに渋谷にあった巨大スクリーンでキャスターが暴動について言っていたことをかいつまんで言えばそんな感じだった。

 

だが男の口振りから読み取るにそれだけではないようだ。俄然興味が湧いてきた。

 

「………………でも、裏の世界じゃこう言われてるよ。

『姿を変えた、闇の勢力同士の争い』とな」

 

へぇ……。内心でそう感嘆した。

 

どうやらワケありらしい男にもっと深く聞いてみたかった、が邪魔が入った。

 

ピピピ……

 

電話の音が静かすぎる公園に響く。

 

一瞬、男の携帯が鳴っているのかと思ったが男はオレの方を見る。

 

「ん?鳴っているのお前のじゃないか?」

 

携帯を取り出すと男の言った通り、鳴っているのはオレの携帯だった。

 

番号を見ると見慣れた千晶の番号だった。

 

「……もしもし、零時くんわたしよ。

やっと連絡がついたわ。何やってたのよ、もう。」

 

開口一番、飛んできたのはクラスの女王様。千晶のあきれ声だった

 

「勇くんならともかく、君が遅れるなんて、何かあったの?……今どこ?」

 

「アァ?代々木公園だよ。って、そういうお前らはどこ行ってんのさ?代々木公園の待ち合わせじゃなかったっけ?」

 

若干イラついて声で問い返すとため息をつく気配がした。

 

「あのねあんまり遅いから勇くんと病院に来ちゃった。もう着くとこ。悪いけど、直接病院へ来てね」

 

「はぁ⁉行っちまった⁉ふざけんなよこちとら走って代々木公園に行ったっつうのに!」

 

「遅れてるあなたが悪いんでしょ。あ、場所わかる?新宿衛生病院。

新宿駅から東へ歩けば、見えてくると思うから」

 

「行き先の場所調べないほどそこまでバカじゃねぇよ、心外ですな!」

 

「なによ、せっかくこの私が親切に教えてあげようとしているのに」

 

若干ふざけて反論すると千晶がムスッとした声で返してくる。

 

「……まあ、いいわ。わたし、先生と進路について話したいと思ってるし、先にやってる」

 

「進路相談すんの?せっかくの休みなのにお嬢様は真面目だねぇ……」

 

「…何よ?わたしは未来の負け組と違って、考えることは考えてるの。ホントは君とか勇くんこそしっかりやらなくちゃダメなのよ。…とにかく、あんまり遅くならないうちに来てね。それじゃ」

 

「へいへい、それじゃまた後で」

 

そういうとオレは電話を切った。

 

やれやれお嬢様は本当にうるさい奴だな……まぁ、遅れたオレも悪い。さっさと病院に行くとしますか。

 

そう思って踵を返そうと思ったとき、今度は男の方から話かけられた。

 

「ちょっと待て。おまえ……新宿衛生病院へ行くのか?」

 

「あ?そうだが……」

 

うわっ、こいつ人の会話聞いていたのかよ悪趣味な奴だな。

 

心の中で若干退いているオレを他所に男はふぅむと唸った。

 

「……次の行く先も一緒とはねぇ。これも何かの縁か」

 

男は一人でそう完結すると懐から何かを取り出し、オレに差し出した。受け取ってよく見てみるとそれは表紙に月刊アヤカシと書かれた雑誌だった。その名前に聞き覚えはないが。

 

「これをやるよ。まだ発売前なんだけどな」

 

良いのか発売前のモノを勝手に譲って。

 

そう心の中でツッコミをいれてるとしかめっ面を疑問していると勘違いしたのか男が説明し始めた。

 

「おまえ、ここであった事を知らないんだろ。なら、これから行く病院がどういう場所かって事も知るまい。

ヒジリ記者の【特集・ガイア教とミロク教典】読んでおいて損はないぜ?

 

オカルトの出る幕じゃないと思うかも知れんが……

どっこい、あそこはそういう場所なのさ」

 

その時、きっとオレはさぞ間抜けな顔をしているのだろう。しかしこの男……ヒジリ記者と言ったか……の言葉はバカでも不安を掻き立てる。

 

つまり、この暴動と病院は繋がりがある。そうとしか取れない言葉をこの男は言ったのだ。

 

だが同時に疑問も湧く。なぜ聞いたとこオカルト記者のようだがオカルト記者がなぜこんな事を言う?暴動を調べる?

 

まさかオカルト絡みと言うのだろうか?この暴動が?小説に出てくるようなわるい魔法使いとか悪魔とかが病院を根城にし、人々を狂わせて暴動を起こさせた、とか?

 

バカバカしいと一笑したかったがふとここまでに来るときに聞いた噂を思い出す。

 

『暴動の起こった夜、悪魔が現れ、人を殺した』

 

まさか………いや、まさか…

 

背に冷えた物が走るが、頭を降ってその考えを打ち消す。

 

それに合わせるようヒジリ氏もニヤッと笑う。

 

「……なんてな

 

この世界じゃガセネタもよくあることだ。違ってたら、笑って許せや。

それじゃあな。また会う事があったら、記事の感想でも聞かせてくれや」

 

「あぁ、分かった」

 

元より元気のない声でオレはそういうと代々木公園出て、再び走り出した。

 

心に、一抹の不安と拭いきれない嫌な予感を持ちながら。

 

 

 

 

 

 

 

 



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新宿衛生病院の異変


現実世界編は今回を合わせてあと2話の予定です。


不安まみれになりながらも走り続け、病院に着いてみると千晶がそこにいた。

 

しかし勇がいない。どういうことだろうか?

 

とりあえず聞いてみることにした。

 

「おーい、千晶ー」

 

「あ、零時くん。ようやく来たのね」

 

「先にここにいるとかなんとかいってくれりゃもうすこしぐらいは早く来れたっつうの」

 

「あら、それは悪かったわね」

 

全く悪びれていない態度の千晶。ふざけやがって。

 

心の中で毒づくと千晶が不安そうな声で話を変えた。

 

「ねえ、聞いてよ」

 

「何?女の子の日が辛いのか「バチン!」いってぇ⁉」

 

「真面目に聞きなさいこの変態」

 

「本気で殴ることはねぇだろぉ!」

 

涙目のオレにジト目をくれると千晶は一転して不安そうな声をあげた。

 

「この病院……ちょっと変なのよ」

 

「変?」

 

当たりを見渡すとその【異常】に気づいた。

 

「……【人が誰もいないの】。ただ1人も、よ。見て。受付まで空っぽ。なんだか不気味でしょ?やだなぁ……」

 

確かに嫌な雰囲気だ。誰もいない病院などホラーストーリーでも常道になるほどムードがでる。

 

だがこれはどういうことだろうか?患者や医者どころか受付すらいないとは……

 

先ほどから続く不安が膨らむ。よく見てみるとなぜか荒らされた跡もあるのだ。

 

「………いま勇くんに祐子先生を探してもらってるとこ。でも、なかなか戻ってこないのよね。こんな時ぐらいちゃんと働いて欲しいんだけど…」

 

「うわ、こんな状況で自分一人待機で勇一人で祐子先生探させてるのかよ」

 

「なによ。か弱い女の子をこんな状況で行動させるつもり?」

 

「か弱い女の子なんてどこにいるんだろうねぇ、おっかないわがまま女ならいるが……すんません冗談ですからその拳をおろしてください千晶様」

 

「よろしい」

 

そういって膝を組み直す千晶はまさに女王様。なんてやつだ……

 

「あれ? ……何、その雑誌?」

 

心の中で毒づき続けていると千晶がオレの持っている月刊アヤカシに気づいた。

 

「あぁ~……読むか?」

 

オレは一考し、千晶にそれを千晶に差し出した。

 

オカルト記者の書いたものなんてオカルトに決まっている。とても今読みたいモノでもないし千晶に預けることにしたのだ。

 

「君の趣味でしょ?じゃあまた、くだらない本ね……」

 

「ほざけ。一応オレは小説家の卵だぞ。くだらなくない本だって読むわ」

 

オレの言葉をうるさいとばかりに手を振る仕草で切り捨てる千晶は月刊アヤカシを受けとる。

 

「月刊アヤカシ……聞かない名前ね」

 

それはそうだろうまだ発売前の物なんだから。

 

千晶は数ページざっと流し読みすると顔をしかめた。

 

「やだ、オカルト雑誌じゃない!」

 

デスヨネー。零時君知ってた。

 

「……こんな時に嫌だなぁ……でも、時間つぶしくらいにはなりそうね。……あ、ねぇ、零時くん。勇くん探してきてよ」

 

「え~めんどくさっ……ってか、お前も来いよ。人を探すのに二人じゃきついぞこの広さじゃ」

 

「嫌よ、怖いもの」

 

……何を言っているのだろうかこの女王様は。人前でふんぞり返っているこの女にお化けごときどうと言うこともないだろう。いや、もしかしたらこんな性格だからこそお化けが怖いとか……ないな、うんないない

 

「何か失礼な事を考えてないかしら?」

 

「そ、そんなことないよー(汗)」

 

「バレバレよ全く………先生が見つかんないなら、こんな所、早く出たいし、たぶん勇君は病室のある上の階にいると思うわ。

わたしは、ここで待ってるから。……あ、この雑誌は借りるわね。それじゃ、お願いね」

 

「へいへい、お嬢様」

 

芝居がかった仕草で礼をするとオレはすぐそこにあるエレベーターに向かった。

 

上に行くボタンを押すとエレベーターの起動音がした。電気は止まっていないようだ。

 

しかしそうであるとますます人がいないことが解せない。普通休みならエレベーターも止めるだろうし、そもそも病院に入れないだろう。

 

……まぁ、今はとにかく勇と祐子先生を探そう。考えていたって分かりゃしない。

 

オレはそう思うとちょうどエレベーターが到着した。オレはそれに乗るとボタンを見る。

 

ボタンは4つ。B1、1、2、R。オレは迷わず2のボタンを押した。

 

ガコンという音とともにエレベーターが動きだし、オレを乗せてエレベーターは二階へ上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年捜索中………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかしい、いねぇぞ?どうなってる?」

 

祐子先生どころか勇も見当たらない。人一人見当たらない。

 

こうなるとさすがに不安でいっぱいになる。もしかしたら本当にオカルト絡みの陰謀に巻き込まれたか……?

 

とかなんとか考えていると、向こうの棟にふと人影が写った。

 

最近流行のファッションで身を包んだオレと同い年の少年、勇だ。

 

勇は辺りをキョロキョロすると病室の一室に入っていった。

 

「オレに気づけなかったのか、あいつ……ホントに人探ししてんのか?」

 

それとも祐子先生にしか眼中にないのか……とにかくオレは勇のあとを追って病室に入った。

 

勇はキョロキョロ病室を見渡す仕草をしていたらしいが、どうもオレが病室に入ってくる音でびびったのかバッとこちらを振り向いた

 

「……っ!!」

 

その怯えた顔を内心でケタケタ笑いながらオレは「チャオ」と手を振った。

 

オレの姿に安堵したのか勇は息をフゥーと吐いた。

 

「んーだよ! 驚かせるなよ零時!突然、音立てたらビクっとするだろ!」

 

「そいつはすまんね。おどかすつもりはなかったんだがな」

 

「……とにかくもう。遅れて来たくせにこんなことするか、フツー」

 

「するする。面白そうならするさ、オレは」

 

ニヤリと笑うオレに勇はやれやれと首を振った。

 

「ああ、もう。……まあ、いいや。それにしてもアレだよ。誰もいないだろ?キレイさっぱり」

 

「あぁ、いたのはお嬢様と臆病な勇君だけだったな。ってかホントに先生ここに入院してんのかよ?」

 

「ちゃんと先生に電話して確かめたんだぜ?入院してるの新宿衛生病院だって」

 

勇の言葉にオレはフムと思案する。勇のその言葉が確かなら先生は確かにこの病院にいるはずだ。仮に先生の偽者が勇を騙したとしても、祐子先生のファンであるこいつが本物と偽者の区別がつかないはずがない。

 

……とするならだ。

 

「……何かあったのかもなぁ。マジで」

 

漏らすようなオレの声に勇も同調するように頷く。

 

「案内も何も無しに、こんなだもんなぁ……さっぱり訳わかんねぇよ。ヤバイウイルスが逃げ出した、なんてことは無いよなぁ……」

 

「それだったら死体があちこちに散らばってそうなもんだ。その可能性はないだろう」

 

オレの言葉にそれもそうかと勇は息を吐き、そして困ったように頭をガリガリと掻く。

 

「先生の居そうな所は一通り周ったつもりなんだけど、どこか他にいるのかなぁ……まあ、いいや。オレ、いったん千晶のどこ戻って確認してくるよ。待たせたから」

 

「小言の十や二十は覚悟しときな。さっき暇潰しを渡したからちったぁマシになったかもしれねぇけど、イライラしてたからな、あのお嬢様は」

 

本当はイライラというより不安そうのほうが正解だが、少し脚色して勇に伝える。オレのことをのけ者扱いした罰だ。

 

オレのその言葉にうげぇといいそうな顔をする勇。

 

「ハァ、お嬢さん育ちの相手は大変だわ。じゃな、零時。しかしまあ、ヤバイことになってなきゃいいけどねぇ…」

 

勇はそういうと病室を出ていった。

 

零時「ホント、何もなければいいがな」

 

オレは一人呟く。オレは奇異なことは好きだが、危ないことは好きじゃない。ただ平穏であることを祈ろう。

 

さて、一通り探せるところは探したし、オレも千晶のところへ向かおうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年移動中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千晶の所へ戻ってくるとまた勇がいない。寄り道してるのだろうか?

 

千晶の方へ近づくとオレに千晶が気づいた。

 

「お帰りなさい。ねぇ、零時くん」

 

「どうした?今、書いている小説ならまだしゃべらんぞ?」

 

 

「違うわよ。これの巻頭に載ってる『特集・ガイア教とミロク教典』ってやつ見てよ。ちょっと、気になること書いてあるの」

 

「気になること?」

 

千晶がオカルト絡みの内容で気になることがあるなんて珍しい。こいつは現実主義な雰囲気だと思ったんだが

 

覗いてみるとおどろおどろしい絵と共に何か書いてある。

 

「……ガイア教団とか言う、悪魔を拝んでるカルト集団があってね……この日本によ。

その人たちは『ミロク教典』っていう予言書みたいなものを信じてるらしいの」

 

「ガイア教団?ミロク経典?ミロク経典ならともかくガイア教団って日本って感じがしないんだが」

 

ちなみにオレがミロク経典が日本風と思えたのは【ミロク】という言葉なら日本の仏教に存在するからだ。

 

すなわち弥勒菩薩。悠久の時を経て悟りを拓こうとする菩薩だった気がする。

 

「分からないわよ宗教上の事情じゃない?……とにかくそのミロク経典という予言書には、世界に「混沌」が訪れる、みたいな事が書かれてて……

教団は、それを本気で実現させようとしてるんだって」

 

「混沌?カオスってこと?なんだそりゃどういうことだ」

 

「私に聞かないでよ、知らないんだから。その『混沌」ってのがテロか何かを指すのか、それともただの世迷い言なのか、

まだ詳しい事は分かってないらしいけど、でも……」

 

そこで千晶は言葉を止めた。勇が戻ってきたからだ。

 

 

「……うーん、先生いないよ。男子トイレまで探したんだぜ」

 

勇よ。祐子先生は女だ。なぜ男子トイレを探す。

 

勇のその言葉にまがりなりにも女である千晶は顔をしかめた。

 

「……やぁね、もう。戻ってくるなり。今まじめな話してるのよ。ちょっと黙ってて」

 

ピシャリとそういうと勇はへいへいと口を尖らせながらも口を閉ざす。

 

そんな勇を一睨みすると再びアヤカシの一文をオレに指し示す。

 

「……でね、ここなんだけど、

『新宿の東に位置する某病院。ここに彼らの計画を解くカギが……』」

 

「……で、「待て、次号!」なワケね」

 

勇の言う通り、雑誌はそこで終わっていた。しかし新宿の東の病院……ねぇ……

 

「その病院っての、意外とココかもよぉ」

 

オレにも浮かんだ考えを勇が口にする。

 

「この新宿衛生病院、実は怪しい話があるんだよなぁ。

人体実験やってるだとか、霊視した霊媒師が逃げ出したとか……『カルトの息がかかってる』ってのもあったなぁ……」

 

「……マジで?」

 

「……そうなの?」

 

同時にオレと千晶が声をあげる。

 

「……わたし、何も知らなかった。やだ、来るんじゃなかったなぁ……」

 

「おい、先生のことはどうでも良いのか。霊媒師はともかく、人体実験とかカルトとかがホントだったら先生ヤバくね?」

 

ツッコミを入れつつ、オレは不安の声を抑えられなかった。

 

「………こんなトンデモ雑誌の記事なんて鵜呑みにする気は無いけど…でもこの病院、明らかにおかしいわよね」

 

「…………………先生のこと、心配になってくるなぁ」

 

不安なのは当然千晶も勇も同じであった。声に、不安の色が混じる。

 

 

「……しょうがない、もうちょっと探そうぜ。何にも無きゃ、何にも無いで良いわけだし」

 

「……そうだな。しかしどうする?もう探せる所は探しちまったぜ?」

 

元気を取り戻そうとする勇の言葉に賛同したが、これ以上どう探せと言うのか?

 

勇はその質問の答えを用意していたらしく、即答してきた。

 

「なんかね、分院があるみたいなんだよ。2Fから行ける所。オレ、そこら辺あたってくるわ」

 

そういうと勇は懐から何かを取り出した。それはカードのようなものだった。

 

「ハイこれ、零時。おまえはこれで地下を探してきてくれ」

 

「え⁉よりにもよって地下⁉こんな状況で?嫌なんですけど!」

 

いきなり勇に言われた無茶ぶりに文句を垂れるオレは悪くないだろう。

 

千晶も勇にしかめっ面をした。

「カードあるなら、あんたが地下探せばいいじゃん……それとも、怖いの?」

 

「おう、そうだ!怖いのか‼」

 

「こ、怖くなんかないっての!

どうせ地下になんか先生はいないから零時に頼むの!零時は、先生がいないことを確認してくれればOK。

出会いを果たすのはオレの役目」

 

「それはそれでひどいぞお前……」

 

ひきつった顔で言うと勇は気にしない気にしないとヒラヒラと手を振る。

 

「じゃあな、零時。何かあったら、すぐ逃げろよ」

 

そういうと勇は二階へ消えていった。

 

残されたオレと千晶はため息をつくしかなかった。

 

「……まったくもう、調子いいわね」

 

「全くだ。だが……」

 

オレの不安を肯定するように千晶は頷く。

 

「確かに先生のことは心配だわ。もう少し探してみましょ」

 

「んで?一緒に探してくれるのか?」

 

「そんなわけないじゃない」

 

デスヨネーとオレは言うと、仕方ないと首を振り、エレベーターに乗った。押すボタンはB1。地下一階だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年移動中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下に着いてみるとすぐさまここに来たことを後悔した。

 

なんのいうか、空気が重い。薄暗い雰囲気も相まって不気味とかそういうレベルを通り越してしまっているのだ。

 

「……………とっとと探そう」

 

オレはそういうと地下の通路を封鎖しているゲートに近寄った。しかしゲートが閉ざされていては通れない。

 

はて、どうしようと考えたが、すぐ思い出した。勇からカードを受け取ったのを。

 

「ここで使えってことか」

 

オレは納得するとカードをゲートのそばにある認証システムにカードを認証させ、ゲートを開けた。

 

しかしどうなっているのだろうか?ゲートの近くに守衛室のようなものがあるが、見張りの人間すらいないとは……

 

暗い気分を押し込め、オレは歩みを進めた。恐怖で潰される訳にはいかない。勇に臆病者呼ばわりされるのは嫌だ。

 

通路を進むとオレの耳にカタカタという音が聞こえた。

 

ビクッと体が震える。もしかして……いやいやまさか……

 

オレは息を呑み、その物音がする部屋に近づいた。

 

物音は今も続いている。もしかしたら、祐子先生かもしれない。

 

オレは一瞬だけ迷うと扉を開け、中に入った。

 

 

 

 

 

そこはまるで暗いところと、巨大なオブジェのようなものがなければ何かの研究室のような部屋だった。その中央に男が一人いた。

 

だが、どういうことだろうか?勇と千晶を除けばこの病院で会えた初めての人間なのに、オレは声をかけたくなかった。

 

男の雰囲気に体が恐怖を感じていると言えば分かるだろうか?見た目は真面目に働く社会人という出で立ちの男なのに……

 

その雰囲気は、冷たく、怖気が走るものだった。

 

「……誰かね?」

 

その時、男がオレに気づいた。否、入ってくるときにすでに気づいていたのだろう。そんな気がする。

 

「今になって静寂に水を差すとは。困ったものだ……」

 

そういうと椅子を回転させ、男がオレの方を向くとオレはあっと声をあげてしまった。その顔を知っていたからだ。

 

暴動事件後、関係者であるとして指名手配されている男。街のスクリーンでデカデカと写真を公開されていた男。確か名前は……氷川。

 

オレが唖然していると、男は構わず言葉を続けた。

 

「……知っているかね?

『四月は残酷な季節』……そう言った詩人がいる。

不毛な大地を前に、冬眠から/目覚めねばならないからだ」

 

そこで男は一瞬言葉を切り、再び話し始めた。

 

「思えば人類の世など、不毛なばかりだった……

 

盲いた文明の無意味な膨張、

 

繰り返される流血と戦争、

 

数千年を経てなお、脆弱な歴史の重ね塗りだ」

 

語る男……氷川の声音に怒り、悲しみのようなものが混じり始めたのが他人の顔色をとある事情で読むことが得意なオレには分かった。

 

「……世界は、やり直されるべきなのだよ。

救いは「ミロク経典」にある。今日はその予言の成就される日だ。

古い世界は黄昏に沈み、新たな世界が生まれる」

 

『何を言っている』という言葉が言えない。男の目を見てからオレの頭に警鐘がなりやまない。

 

「……君は何者だね?

公園の粛清劇を生き残った同朋……という訳でもなさそうだ」

 

ひゅっとオレの喉から音が漏れた。公園・粛清という言葉。まさか噂は本当なのか?

 

ヤバい………ヤバいヤバいヤバいぞ⁉もしそうならこの男は……!

 

パニックに陥るオレを他所に男はなるほどと頷く。

 

「……高尾先生の知人か。なるほど、ここは病院だったな……見舞い客という訳か」

 

そして少し考え込む素振りをすると氷川はオレに冷たい目を向けた。

 

「……だが、蜂の穴から堤が崩れる、という事もある。

少し不憫な気もするが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……消えてもらおう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷川がそう叫ぶとなにやら空気を握る仕草をし、瞑想するかのように集中し始めた。

 

すると男の後ろに巨大で、真っ黒な【それ】が現れた。

 

…………悪魔。誰に教わった訳でもなく、そう感じた。

 

「……なに、恐れることはない。

この世界の住人みなが、もうすぐ君の後を追う事になる。少し早まるだけの事だ。」

 

恐ろしい。だが、逃げてもあっという間に追い付かれるだろう。そう【感じる】

 

せめて、隙を作らなければ逃げられない。オレはごく僅かな希望にかけて。震える拳を握りしめた。

 

「愚かな……運命に逆らえはしない」

 

そんなオレを嘲笑うかのように男がそういう。

 

そして、化け物が……悪魔が襲いかかった。

 

 

 





約7000文字…だと?

東方よりも多く書けるって……


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東京受胎


現実世界編。終了です。

次回から本番となります。戦闘描写の自信ありませんがね……


 

実を言えば、この時のオレには恐怖以上に歓喜が体を走り抜けた。

 

オレは自分を秀才だと自負している。どんなことでも練習したり勉強したりすれば平均以上の成果をだせる才能があるし、見よう見まねで真似すればある程度の事は可能となると自覚できるぐらいに。

 

だがオレには、人生をかけて叶えたい夢がなかった。どんな事を極めようとも過去に誰かが遂げたことの繰り返しになるようでとても魅力的には思えなかった。

 

オレは特別になりたい。その他大勢のように平凡に生きて死ぬのは嫌だと。ただそう思うだけだった。

 

どういった存在になりたいのか。明確な答えを示さぬまま。

 

だからだろう。

 

この悪魔に惹かれる思いがあったのは。

 

それを使役する氷川という特別な存在に嫉妬のような思いが生まれたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪魔はオレを殺そうとジリジリ近づく。オレは悪魔に一矢報いようと拳を構える。

 

隙をついて、逃げる。出来なければ、死だ。

 

自分に言い聞かせるように心の中で呟く。オレは悪魔の一挙一動を見ようと目を見開く。

 

ついに悪魔が動く。そう思った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめなさいッ‼」

 

女性の切り裂くような声が響いた。

 

その瞬間、黒い影が……悪魔が消え去った。

 

呆然としたオレはその声を出した張本人の方を見て、驚愕した。

 

「祐子先生……⁉」

 

そう、ここに入院しているはずの高尾 祐子が私服姿でそこにいたのだ。

 

驚愕するオレの方を見ようとせず、祐子先生は氷川を睨んだ。

 

「ほんの彼一人を、なぜ見逃してあげられないの?

この程度の事で計画は揺るがないはずよ」

 

「事の大小ではありませんよ。私は計画に例外を許すつもりはない」

 

氷川は一切動じることなく、淡々と述べた。

 

しかしそう言われるのは承知していたのか、先生は凛としてこう言いはなった。

 

「彼を助けてくれないなら私は……もう貴方に協力しません」

 

祐子先生がそういうと氷川の顔に初めて表情が表れた。

 

苦々しい表情で祐子先生を一睨みすると渋々といった調子でいう。

 

「………………困った巫女だ。まあ……教え子の面倒は教師に任せるとしましょう。

今すぐ部屋を出て行って下さい。私はこの幸福な終わりを一人静かに迎えたいのですよ」

 

氷川はそういうと回転椅子をくるりと回し、こちらに背を向けた。

 

その姿を一睨みすると祐子先生はようやくこちらを見た。

 

「……零時君。屋上で待っているわ。あそこなら、街がよく見渡せる……その目で確かめにいらっしゃい。これから世界に起こる出来事を……」

 

「え?」

 

先生の言ったことがよく分からず、オレは間抜けな声をあげるしかなかった。

 

先生はそれ以上はなにも語らず、部屋を出ていった。

 

本来なら、何かをしようとしている氷川を止めるべきかもしれない。

 

だが、せっかく助けてくれた祐子先生の行動を無駄にはできない。それに加えて先生のことが気になる。

 

オレはしばし逡巡し先生の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下を出てみれば、もう先生の姿はなかった。

 

小走りでエレベーターのある方へ向かう。するとそこには………

 

 

誰かが…………否、【何か】がいた。

 

それはどこかのお金持ちのお坊っちゃまと、その面倒を見る老婆の姿をしていた。

 

二人とも葬式にでも行くような真っ黒な出で立ちをしており、老婆にいたっては布で顔を隠していた。

 

オレが二人を人ではないと感じたのは、奇抜な出で立ちではなく、その雰囲気。

 

それは先程の悪魔よりも恐ろしい雰囲気を漂わせていたのだ。そんな存在が人であるはずがない。

 

冷や汗が止まらない。呼吸が浅くなる。どう動いても、死ぬ運命しか見えない。

 

思考が白くなりつつあるなかで、ふと気づいた。

 

お坊っちゃまのほうがオレを見て、驚愕するように目を見開いていたのだ。

 

その姿に喪服の老婆も不思議に思ったのか子供に問うた。

 

「どうかなさいましたか坊っちゃま?あの者が気になるんでございますか?」

 

すると子供はヒソヒソと、老婆に何かを言う仕草をした。

 

老婆は納得した様子になった。

 

「…そうでございますか。それはそれは……でも今は、忙しゅうございます。あとにいたしましょう」

 

そう言ったのを最後に音もなく二人は【消え去った】。

 

零時「ブハッ!」

 

二人が消えたことにより、重たい雰囲気は消え、呼吸が正常になった。

 

「いったい……なんなんだ、さっきから……!」

 

オレは震える体でそういうとエレベーターへ転がり込むように入り、Rのボタンを押して、扉を閉ざすボタンを乱打した。

 

今はとにかく明るいところへ向かいたかった。

 

エレベーターが扉を閉ざし、上に上り始めるとオレは深く息を吐く。

 

が、不安と恐怖はいつまでも消えなかった。これから恐ろしいことが起こる。そんな気がしてならない。

 

とにかく祐子先生の話を聞こう。それしか出来ることは、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年移動中……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新宿衛生病院の屋上。降り注ぐ太陽の光に安心感が沸き上がる。

 

祐子先生は、街並みを眺めていた。その瞳は不思議な光を湛えていた。

 

「…来たのね、零時君」

 

「……………」

 

本来ならここで軽口の一つでも言うところだが、さっきから立て続けに起こった出来事のせいでそんなことをいう元気は失せていた。

 

「………さっきは間に合ってよかった……君が、悪魔にやられなくて」

 

「先生………一体、何が……【起こるんですか】?」

 

ようやく言えた言葉。間違いなく起こる今後のことを問うしか、オレに出来ることはなかった。

 

「……あの人の……氷川の話を君も聞いたでしょう?間もなく、この世界は混沌に沈むの。それが「受胎」……」

 

混沌……その言葉はヒジリからもらった雑誌にもあった単語だった。

 

「人がかつて経験したことのない、世界の転生よ。今この病院に居ない人間は、みんな命の灯を落としてしまうわ」

 

オレは絶句した。そんな大虐殺がこれから起きるというのか。

 

信じられない。到底信じられることではなかった。

 

先生は顔を俯かせ、悲痛な面持ちをした。

 

「こんなやり方……きっと誰も許しはしないでしょうね。

でも、今のまま老いた世界を生き永らえさせても、いずれ力を失ってしまう。

世界は、また生まれるため、死んでいかなければならない…………その罪を背負うのは私」

 

そう言い切ると先生は毅然と顔を上げた。

 

「だけど……後悔はしていないわ。最後に決まった運命で……君はここにたどり着いた。これで君は「受胎」を生き残るわ。

でも、もしかしたらそれは死よりずっと辛い事かも知れない」

 

「何を言って………?」

 

問いかけるオレの言葉には答えず、祐子先生は言葉を続ける。

 

「だけど……私は君を信じてる。

零時君……

私に…………会いに来て」

 

「………?」

 

首をかしげるオレに祐子先生は言葉を続けるのみだった。

 

まるで話せる時間が、今しかないように

 

「…たとえ世界がどんな姿に変わっても……私が力になってあげる。

これから訪れる世界で、私は「巫女」として創世の中心を成す……

きっと君に、道を示してあげられるわ。

 

「ちゃんと説明してください!いったい何が起こるんです!いったい……」

 

我慢できなくなって叫ぶも、先生は哀しそうに目を背けた。

 

「……分かってる。理解できない事だらけよね。でも、今はもう時間が無いの。

 

零時君……

 

もし君が自分の力で私の元へたどり着いたなら…その時には教えてあげる。……全ての疑問の答を。そして、私の本当の心の内を……」

 

先生がそういった瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京の風景。連なるビル群に黒いスパークのようなものが走った。

 

「なんだ……?」

 

疑問の声をあげた瞬間、

 

 

 

 

ガシャーンという音とともに漆黒の雷が何本も東京のあちこちに落ちた。

 

雷が落ちたところは焦げた訳ではなく、ただ漆黒に染まり、そして音もなく崩れ落ちた。

 

それが合図だったかのように、遥か先にある土地が隆起し、空へ登りはじめた。

 

「……………」

 

それを呆然と眺めていると空中に太陽とは別の輝きが生まれた。

 

それと同時にオレの意識が薄れ始める。まるで意識を意図的に失わされているかのように。

 

崩れ落ちるオレの体。視界の隅で、祐子先生が目を瞑っているのが見えたところで。

 

 

オレは、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、世界が死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえる。

 

「…我が世界へ入りたる者よ。おまえの心を見せよ……

 

おお、おまえの心には何もない。コトワリの芽生えすら無い。

 

それでは出来ない。世界を創造する者とは成りえない。

 

行け! そして探すがよい!

 

おまえは何者かにならねばならぬ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレは不意に覚醒した。しかし起きたばかりのように、オレの意識は朦朧としていた。

 

そして老婆がオレに一切の感情を含まない声で言葉を吐き出した。

 

「…恐れ多くも、坊ちゃまは貴方に大層興味をもたれています。

ヒトに過ぎない哀れな貴方に、特別に贈り物をあげようと申しております。

貴方はこの贈り物を受け取らなくてはなりません」

 

その言葉を混濁する意識の中で聞いた瞬間、オレは仰向けに寝かされていた。

 

上に向けられたオレの顔の上で、二人がオレの顔を覗きこんだ。

 

「…動いてはいけません。……痛いのは一瞬だけです……」

 

何をする気だと問う暇もなく、子どもがそれを取り出した。それは虫のようななにかだった。

 

子どもはそれをオレの顔の上まで持っていき、オレの顔の上に落とした。

 

するとその虫は、オレの皮膚を食い破って中に入りこんだ。

 

激痛が全身に回る。悲鳴をあげたいが声がなぜか出せない。

 

再び意識がなくなってきた。消えゆく意識の中で、子どもの声が聞こえた。

 

「これでキミは悪魔になるんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 





彼の性格が、後々の展開に重要な意味を持ちます。


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『トウキョウが死んで、オレが生まれた』
悪魔



この話から受胎後の話になります。

ここからが物語の本番です。


 

声が三度聞こえはじめた。

 

「悪魔の力を宿せし禍なる魂"マガタマ"

これで貴方は悪魔となったのです。

坊ちゃまは、いつも見ておられます。くれぐれも退屈させることのないよう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ⁉」

 

オレは汗びっしょりになって目を覚ました。

 

そしてオレの目に飛び込んだものを見て、驚愕した。

 

オレは体育座りをさせられて寝ていたため、最初に見えるものは自分の足になるのだが。その足に変化があったのだ。

 

まるで刺青でも入れたかのようなラインが走っていた。

 

「なんだ……これ……?うっ…!」

 

その途端いきなり頭痛が起こり、オレは頭を抑えた。

 

瞬間、オレの頭の中に情報が流れ込んでくるとしか言い様のない現象が起きた。

 

 

自分の体に何が起きたのか。どんな変化が起きたのか【理解する】。

 

オレをこうしたのはマガタマである。

 

マガタマというのはオレの体内に入れさせられた虫のようなモノのこと。そしてオレの体内に入りこんだマガタマは【マロガレ】という名前があること。

 

オレが触れた物は瞬時に名前と用途、および使い方が分かること。

 

空間の穴のようなものを呼び出し、そこに物を収納できること。

 

このように様々な情報が流れ込み、それが真実であるとなぜか分かった。

 

しかし理解できない情報もあった。

 

【魔人】夜藤 零時

 

【ノーマル耐性】

 

 

 

 

魔人?ノーマル耐性?

 

考えこむが全く分からない。

 

とりあえず今はその事はおいといて、次に自分の体のことを調べることにした。

 

刺青は全身に広がっていた。黒を中心とした色をしており、青の差し色が入っていた。

 

他にも首の後ろの方に角のようなものが生えていた。

 

そして一番の変化が上半身を包んでいた服が脱がされていたことだ。恐ろしいほどに青白い肌がそこからのぞいていた。そしてそこにも刺青のようなものが。

 

 

一通り調べてみて自分のことはある程度理解できた。しかしこれでは足りない。

 

自分がいったい何になったのかまったく分からない。老婆の声が悪魔になったとか言われても自覚ができない。

 

仮にオレのことが全て分かっても、他の人たちがどうなったのか全く分からない。

 

先生の話が本当なら、新宿衛生病院に居る人間以外は全員死んだ。その事に焦燥が浮かぶ。

 

とにかくここを出て外に出よう。現在位置も知りたいし。オレはそう思い、どうやら身体能力が格段に上がったらしい体で、部屋から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……病院の地下……⁉」

 

部屋から抜けて廊下を見ると、そこは氷川のことで深く印象に残ったシンジュク衛生病院の地下だった。

 

あの喪服の老婆と子どもが、わざわざオレを屋上から地下に移動させたのだろうか?

 

答えの出ない思考止め、辺りを見渡すと謎の存在がいた。

 

青白いもやのような塊がフヨフヨと浮いているのだ。

 

「なんだこりゃ?」

 

近づいて凝視すると。

 

「なにジロジロ見てんだよ?

悪魔のくせに、オレがそんなに珍しいのか?」

 

「うわっ!」

 

その青白いもやのような塊が喋り、おもわずオレは飛び退いた。

 

だが身体能力が強化されていることを全く考慮していないジャンプであり、はるか後方にあったはずの壁にぶち当たってしまった。

 

「イッテェ⁉」

 

「…………何やってんだ、オマエ?」

 

呆れた声をあげるもやの塊。オレはそれを凝視した。

 

よく見てみるともやの中に男性の輪郭が見える。まるで幽霊のようだ。

 

…………否、本当に幽霊かもしれなかった。

 

するとその時、オレの耳に物音が聞こえた。

 

バッとそちらの方へ向いてみると、オレが出てきた扉とは違う扉があった。

 

その扉は、たしか氷川がいた部屋だった。

 

しかし、前にはなかったものがある。赤く光る印のようなものが扉に張り付いていた。

 

「……………」

 

もしかしたら何かあるかもしれない。そう思い、意を決してオレは部屋に入りこんだ。

 

 

 

……そこにいたのは氷川ではなかった。

 

「……誰だ!」

 

オレに月刊アヤカシを渡した男、ヒジリ記者だった。

 

「…………おまえ……まさか、公園で会った小僧か?

その姿はいったい……」

 

ヒジリがオレのことを凝視する。それはそうだろう。全身にいきなり刺青が現れたような体をして現れれば驚きたくもなる。

 

「詳しいことは分からないが………どうやら力を得たらしい」

 

「………………冗談で言ってる訳じゃなさそうだな」

 

ふぅ~と息を吐くとヒジリはオブジェに寄りかかる。それは氷川が弄っていたものだった。

 

「……やれやれ。何がどうなってやがる。

いきなり目の前が光に包まれて、気がついた時にゃ、この部屋だ」

 

どうやらオレと同じ境遇らしい。ヒジリは疲れはてた様子だった。

 

「その辺を回った感じじゃ、どこかの病院らしいが……

おまえがいるって事は、衛生病院か?」

 

「あぁ、そうだ……と思う」

 

「思う?」

 

「……オレだって不思議体験を体験したあと、こんな体にされて、ここにいたんだぜ?もしかしたら似た構造の建物に放り込まれたかもしれないし…」

 

「………なるほど。それもあり得る話か」

 

オレの言葉に重たく頷く。

 

「なぁ、外の様子とか分かるか?」

 

「分からん。ケータイも圏外だし何一つ情報が入ってこない」

 

「そうか………困ったもんだねぇ」

 

軽い調子の口調だが、空元気を振り絞って気持ちを落ち着かせているだけだ。

 

その事を察したのかヒジリが憐れみの目を向ける。

 

「……とにかく、だ。

外の様子を知ろうにも、おちおち歩くことさえできん。

おまえ……もう出会ったか?」

 

「……出会った?誰のことだよ?」

 

 

「人じゃない。……【悪魔】とだ」

 

「………今、アンタの目の前にいるぜ?」

 

オレがそういうとヒジリが目を見開く。

 

「お前………悪魔なのか?」

 

「みたいだねぇ。外にいるもやの塊のようなものにそう言われた」

 

「………【思念体】のことか」

 

「思念体?なんだそりゃ?」

 

オレが首をかしげると、ヒジリは簡単に説明した。

 

「まぁ、幽霊のようなものだ」

 

「幽霊……」

 

オレが反駁するとフゥムとヒジリが唸る。

 

「オレに起きた事といい、おまえのその姿といい……

警察やらをアテにしてる場合じゃないらしいな」

 

「その警察が動ける状態であるかどうかすら分からないしねぇ……」

 

「………チッ!

こいつはマジメに可能性を考えるべきかも知れん。

とても俄かには信じられんが……ここが衛生病院だってんなら、あり得ない話じゃない。

 

【東京受胎】……

 

本当に、起きたのかも知れん」

 

「……………」

 

あり得ない。そう言いたかった。だが、先生がその存在を証明した。オレ自身がそれが起こるのを見た。

 

オレが黙りこむのを他所にヒジリが部屋の中央にあるオブジェを叩く。

 

巨大な円筒状のそれがコンと音を立てた。

 

「このドラム缶みたいなオブジェには見覚えがある。こいつは氷川の秘蔵の品だったはずだ」

 

「…………この状況になる前、氷川がそれを弄っているのを見た」

 

オレがそういうと一瞬目を見開くヒジリ。だがすぐに考えこむ仕草に戻る。

 

「そうか…………間違いねえ。全てのカギはあの男が握ってる」

 

「まぁそうだろうな。だがどうする?結局は予想でしかないんだ。ここで悶々と悩んでるって手は悪手だぜ?」

 

「そうだな、このまま話しててもラチが明かん」

 

ヒジリはそういうとオレの方を向いた。

 

「おまえ……戦う力があるなら、調べてくれ」

 

「…………そうなるよねぇ、やっぱ」

 

ひきつった声をあげるとヒジリもにがりきった表情で言う。

 

ヒジリはこの状況になっても一般人らしい。一方オレは悪魔化しているという謎現象によって力を得ている。こうなる展開は読んではいたが……やはり言葉にされるときつかった。

 

「部屋の外の思念体と話したところで何も分かりゃしねえ。世界がどうなっちまったか……他に生き残った人間はいないのか……

とにかく、誰かに出会う事が出来れば何か分かるはずだ

 

 

……残念だが、俺には悪魔のいる場所を歩き回れる力はない。

それに、このオブジェについて調べたい事もある。

アテにしてるぜ……よろしく頼む。」

 

「………はぁ。遺書でも残しとくかな」

 

「やめてくれ、縁起でもねぇ」

 

オレの黒いジョークにブンブンと首をふるヒジリ。

 

オレはそれを見て、少し元気を取り戻すと部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を出るとまずどこへ向かうか考え、すぐ答えをだした。

 

とにかく外の状況を知りたい。外に出るならエレベーターで地上に出なければ。

 

オレは記憶を頼りにエレベーターに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレベーターにたどり着くとオレはボタンを押した。

 

そこでオレは、ん?と思った。

 

「電源は生きてるんだな……」

 

この状況になって、電気が生きている。もしかしたら生存者がいるかも。

 

オレは微かな希望を胸に、エレベーターで乗ろうとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別の場所にワープした。

 

「へ?」

 

間抜けな声をあげてしまった。

 

エレベーターに乗ろうとしたら、いきなり何処ともしれない暗い通路にいつの間にかいたのだ。

 

「病院…………いや、違う」

 

なんというか空気の重さが違う。受胎後の世界では空気が重たくなったが、ここは格別違う。

 

オレがその感覚に震えていると、不意に頭の中に声が響いた。

 

その声がする方向を向くと車椅子に乗った老紳士と喪服姿の若い女が立っていた。

 

『来い…………悪魔の力………見せよ………』

 

そういうと二人の姿が消えた。まるで喪服姿の子どもと老婆のように。

 

オレは進むしかなかった。後ろへ行く道はなかった。

 

まず、なぜか水がなみなみと貯まっている通路を通らされた。水があるところは短く、水深も浅いが靴がグッショリになるのは嫌だった。

 

 

 

 

 

 

それに気を取られたのがまずかった

 

 

 

 

小さな雷鳴とともに目の前に紫電が落ち、

 

『オォウッ!』

 

「ガハッ⁉」

 

そこから現れた何者かに突然襲われ、突き飛ばされたのだ。

 

身体能力が高くなっていなければアウトだった。その後の追撃を、わざと派手に転げることで躱す。

 

「チッ!」

 

口から鉄の味が広がるのを感じて舌打ちする。そしてオレを襲ったソレを見た。

 

その【悪魔】は2体。2体ともピンク色のもやの塊のような悪魔であり、歪んだ顔が見てとれる。

 

悪魔を睨むと悪魔の名前が理解できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外道 ウィルオウィスプ。それが2体の名前のようだ。

 

 

 

オレがその2体を見ていると、

 

『オォン!』

 

再び2体が襲いかかってきた。

 

「くっ……」

 

体を振って右に回り込むことによって躱す。その後、飛び退いて距離を取る。

 

どうする?どうやってこいつらを倒せば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだ、簡単じゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殴り殺せば良い!」

 

 

と、マガタマが教えてくれた。

 

オレは人間の頃ではあり得ない脚力で踏み込み、悪魔……ウィルオウィスプの一体に距離を詰める。

 

『ゴオッ⁉』

 

いきなりの反撃に意表を突かれたのか、あっけなく吹き飛んだ。

 

『オォン!』

 

もう一体がオレの背後から襲いかかってくるが、

 

「甘いっての!」

 

回し蹴りで迎撃する。

 

『ガァ!」

 

たしかな手応えとともにウィルオウィスプが吹き飛ぶ。

 

だが、ここで攻めの手は止めない。オレは一度敵と認めた奴は徹底的にやる男だ。しかも殺そうとしてきたのならやる報復はただひとつ。

 

「死ねっ!」

 

その声をともに飛びあがり、そして吹き飛んで動けないウィルオウィスプを踏み潰す。

 

グシャ!!

 

もやの体を潰したとは思えない音とともにウィルオウィスプが潰され、赤いオタマジャクシのようなものを撒き散らして絶命した。

 

しかし安心してはいられない。敵はもう一人いる。

 

振り向くと結構な力で吹き飛ばしたはずの最初の一体がもうオレに向けて飛んできていた。

 

それを見たオレは腕を振り上げ、再び突進する。

 

しかし今回はウィルオウィスプに攻撃を読まれた。二度も同じ手は喰わないようだ。

 

当然、ウィルオウィスプは反撃に転じる。が、オレはそれを読んでいた。

 

「ムンッ!」

 

『ギャアッ⁉』

 

バックブロー。俗にいう裏拳で反した攻撃で反撃に反撃した。

 

結果はオレの勝ち、紙一重でオレの攻撃が早く届いた。

 

再びウィルオウィスプが赤いオタマジャクシのようなものを撒き散らして絶命する。

 

「はぁ……」

 

まともに人間とも戦ったことがないのに悪魔と戦って勝てたことにオレは驚愕の声を漏らした。

 

ほとんど無意識の行動だった。いきなり思考のギアが変わったかのように冷酷で正確な判断を下し、行動するのは自分が自分でなくなったかのような感じで少々気持ちが悪かった。

 

オレは何度か手の平をグーパーグーパーを繰り返し、ふと宙に浮かぶ赤いオタマジャクシのようなものに目を向けた。

 

フヨフヨと浮くそれは綺麗であり、【美味しそうだった】

 

「……………」

 

オレはそれを全て吸い込んだ。そうすればきっと良いことがある。そう感じる。

 

全て吸い込むと今まで以上に力が沸き上がる感じがした。僅かだが。

 

オレは首をかしげ……ようとして止めた。考えたとて答えなんて出やしないだろう。あの赤いオタマジャクシのようなものは、オレを強くする効果がある。今はそれさえ分かれば良い。

 

オレはそう思うと通路を奥へ奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ!イヤァ!」

 

かけ声とともに道中現れる悪魔を殴殺、または蹴り殺していく。

 

先ほどのオレの答はあっているらしい。あの赤いオタマジャクシはオレを強くする力を持っている。

 

それと同時に新しいことを判明した。

 

オレを悪魔たらしめているらしいマガタマは、オレがある程度強くなるとオレに技を授けてくれるらしい。

 

もっとも、覚えた技は【突撃】なんていう単なる体当たりだが。

 

だが、単なる殴る蹴るより威力はよっぽど高い。道中出現するウィルオウィスプよりも強い悪魔を相手するには心強いかった。

 

その先にも、ガキ、コダマといった悪魔が襲いかかってきた。

 

おどろおどろしいその姿に臆することなく、オレは迎撃する。

 

とくにコダマは風の刃を飛ばすという中距離攻撃を行う。さっさと距離を詰めないと……あるいは動きまくって狙いを絞らせないようにしないと厄介なことになる。怯んでいたらやられる。

 

悪魔の動きを頭に叩き込むこと。俺なり、それが大切だと無意識に学びつつある。ガキは強力な物理攻撃を放つがが、攻撃の主軸となる爪を使わせなければ戦力は半減する。そんなことを考えようとしなくても考えている。

 

道中現れる悪魔を蹴散らしながらオレは老紳士の姿と声を頼りに通路を進んでいった。

 

そして、ついに終着点にたどりついた。

 

そこにはあの老紳士と女がいた。

 

その姿を認めると頭の中に声が響いた。

 

『着いたか………』

 

聞き逃しそうなぐらい小さな声だった。

 

『力は…見た………予想以上………だ……』

 

そういっているはずの老紳士は微かに笑みを浮かべていた。

 

『また………近いうちに……会う…』

 

その言葉が響くのと、同時にオレの視界がぼやけ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくとオレはシンジュク衛生病院の地下に戻っていた。

 

「なんだ……あれは……」

 

喪服の女性については分からないが(喪服の老婆と同じく、顔を隠していた)、あの老紳士。オレを悪魔にした子供に似ている。

 

あの悪魔たちはオレを試すためのようだった。老紳士の言葉はそうであることを仄めかしていた。そしてオレを予想以上と評した。

 

いったい、何がどうなっているんだろう?様々な企みが重なっている感じで、その分未知が増えて、気持ち悪かった。

 

「………今はとにかく」

 

外に出よう。そして千晶や勇や祐子先生を探す。祐子先生は受胎前に私に会いに来てと言った。答を教えてあげると言った。

 

祐子先生は氷川並に謎を知る鍵になる。オレは自分に言い聞かせながら。

 

エレベーターで一階に向かった。

 

 

 

 

 

 





質問は感想にて受け付けます。


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妖精 ピクシー先生





 

「なんてこった……」

 

一階に登り、病院から出ようとしたオレは絶望の声をあげた。

 

何者かに病院の出入り口を土砂で埋められていたのだ。これはいくら今のオレの力でもどかせそうにない。

 

「困ったねぇ…どうする……!」

 

歯を食いしばって考えていると、

 

『ねぇ』

 

「おう⁉」

 

いきなり思念体に話しかけられた。女性のようだ。

 

「な、なんだよ。驚かすなよ…」

 

『あら、ごめんなさいね。お困りのようだったから。ねぇ、あなたこの病院から出たいんでしょ?」

 

「あ、あぁそうだけど……」

 

『なら、隣の分院からならどうかしら?』

 

「分院……あぁ、そうか!」

 

このシンジュク衛生病院は本院と分院の2つで成り立っている。分院のほうにも当然出入口がある。

 

「サンキュー、助かった」

 

『どういたしまして。あ、そうそう。悪魔に気をつけてね』

 

「………あぁ」

 

ヒジリが言ってはいたが、やはりこの病院内でも悪魔は存在するようだ。

 

しかし慌てない。戦闘慣れしてくると悪魔が襲いかかってくるのが事前に察知出来てきたのだ。

 

こう、なんて言えばいいか……悪魔に狙われると敵意とか殺意とかを感じて背筋がゾクゾクする感じがするのだ。

 

その直感は未だに……まだ数回しか戦闘していないが……外れたことはない。

 

まぁ、とにかく慎重に進んでいこう。分院への通路は……確か受胎前に勇が分院へ行こうとしたな。たしか勇は二階から行けるとか言ってた。

 

「………またエレベーターか」

 

もしかしたらまた飛ばされるかも。オレはおそるおそるボタンを押し、一旦バッと離れて異常がないか確かめてから再びおそるおそるエレベーターに乗り、2のボタンを押して2階へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年移動中………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2階を探索し、分院へ向かう通路に行くとオレは絶句した。

 

分院への通路はガラス貼りになっており、内部から外を一望できるのだが、外の様子は予想をはるかに越えていた。

 

あんなにあった建物の多くが消失し、それどころか道を形作るアスファルトも多くが消失していた。

 

代わりにあるのは砂漠化した土地の数々。残っているビルなどの建物も人の気配がしない。

 

何より恐ろしいのは地面にインクをぶちまけたような黒い何かがあちこちに広がっていることだった。あれに落ちてはいけない気がした。

 

「……………」

 

じっと外を見つめていたがオレはそこから目をそらした。

 

見ていて分かることは少ない。直接その場に行かなければ詳しいことは分からない。今は病院を出るのが先決だ。

 

意思を固めるとオレは歩こうとして……ふと足を止めた。

 

分院には地下と同じくゲートがあった。その前に一人、否、一体の悪魔がいた。

 

それは小さな女の子の悪魔だった。しかし本当に小さい。まるで童話に出てくる妖精のようだ。

 

いや、本当に妖精かもしれない。背中には羽が生えているし、綺麗な髪からのぞく耳はとんがっている。服装はなぜか青いレオタード。

 

その悪魔もゲートを通ろうとしているのだろうか?先ほどからゲートをうろうろしている。

 

話しかけようか迷っていると悪魔がオレに気づいた。

 

「へえ、見ない顔の悪魔ね…あなたもなにか探し物?」

 

探し物……といえば探し物か。ものじゃなくて人だが。

 

「まぁ、そんなとこかな」

 

オレが答えると女の子悪魔がニイッと笑った。

 

「ねえ、その探し物だけど…

あたしが仲魔になっていっしょに探してあげようか?」

 

「え?良いのか?」

 

問い返すと、えぇ、と女の子悪魔が頷く。

 

「あたしもちょうど探してたどころなの。

この病院を出てヨヨギ公園に行くのに手を貸してくれる悪魔をね。

たいして強そうじゃないけど…あなたで我慢してあげる」

 

「ひでぇ、強そうじゃないとか言いやがった……」

 

「あら、見た感じのことを言ったまでよ。それよりもどう? あたしを仲魔にする?」

 

ふむ、とオレは女の子悪魔の問いを深く考えた。

 

こいつが提案したのはギブ&テイクだ。オレのやることを自分がやりたいことが完遂するまで手伝ってやる。損も得もうまく釣り合っていてかつシンプルな取引だ。

 

「分かった、とりあえずその仲魔?になってくれ」

 

オレの言葉ににこりと微笑む悪魔。

 

「そうと決まれば、こんなとこ早く出ましょ」

 

そういうと悪魔はピシリとゲートを指差した。

 

「なんとかパスって鍵があれば、そこのドアを開けて分院に行けるわ。

そのなんとかパスなら、ガキって悪魔たちが持ってるはずよ」

 

「分かった。えぇと……お前、名前は?」

 

「あ、そうね。仲間になったんだから名乗らなきゃね。あたしは、妖精 【ピクシー】。今後ともヨロシク、ね」

 

「夜藤 零時だ。ヨロシク」

 

オレがそう名乗るときょとんとした顔になる悪魔…もといピクシー。

 

「まるでニンゲンみたいな名前ね」

 

「元々人間だったからねぇ」

 

オレがそういうとピクシーは目を輝かせた。

 

「へぇ、人間上がりの悪魔かぁ!まれにあるって聞いことがあるけど……へぇ、こんな感じなんだぁ!」

 

そういうとペタペタとオレの体をさわり始めるピクシー。やめてほしい。

 

「なぁ、早く行かないか?時間がないんだが」

 

「あら、そうなの。それじゃいきましょ」

 

そういうとオレの肩の上に乗っかるピクシー。って。

 

「自分で歩け‼っていうか飛べ‼」

 

「良いじゃないこれくらい。あら、良い髪質ね。ボサボサだからゴワゴワかと思ったけど」

 

「だぁあ!髪の毛引っ張んな!乗ってていいから大人しくしてろ!」

 

「ハイハイ」

 

そういうと大人しくなるピクシー。まったく…頼まない方が良かっただろうか?

 

先が思いやられる感じに多少目眩を感じながらオレは本院の方へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的のガキはすぐ見つかった。病室の一室にカギをかけて立て籠っていたのだ。

 

さて、またまた困った。どうやって入りこもうか。

 

「私に任せて」

 

ピクシーはそういうと扉の前に行き、コホンと咳払いをすると声音を変えてガキに話しかけた。

 

「マガツヒ……アル……タクサン……モッテキタ……」

 

マガツヒというのがなんなのか分からないがとにかくこの方法はは上手くいった。

 

「ググ?……ガガ?……マガ…ツヒ?………………………クイテークイテー!!」

 

扉のロックが外された音がした。

 

「よし…引っかかった!行くわよ、準備はいい?」

 

「あぁ、いいぜ」

 

神妙な面持ちで頷くとオレとピクシーは病室の中に入っていった。

 

 

 

「ググ?……ガガ?……

マガ…ツヒ?……」

 

中にいたのは予想通りガキ。しかも三体。

 

仲間のガキではなくオレ達でなかったことに驚いたのかもとより醜いガキの顔が間抜けに歪み、そんな様子のガキに向けてピクシーが怒鳴った。

 

「あんた達にやるマガツヒなんてあるわけないでしょ!

痛い目にあいたくなかったら…なんとかパスを渡しなさい!!」

 

一方のガキはピクシーの怒鳴り声に堪えた様子はなかった。

 

「ググ!! ガガ!!マガツヒ!!」

 

ガキ達は奇声をあげて、オレ達に飛び掛かってきた!

 

「ま、承知の上だが!」

 

オレはガキの一匹の足をむんずとつかみ、

 

「オォリャア!」

 

そのまま二匹のガキに向けて投げた。

 

「グギャ‼」

 

「ヘギョ!」

 

「ゲフッ!」

 

三匹とも汚い声をあげて壁に衝突した。

 

「どうだ?パスを大人しく渡せば許してやるが……応じるわけないか」

 

三匹は懲りずに再び襲いかかってきた。

 

「クイテー!」

 

「マガ…ツヒ…!」

 

「クワ…セ…ロ……!」

 

ガキの爪を掻い潜り、カウンターで殴る。

 

その時、ガキの一匹がピクシーを狙って飛び掛かった。

 

「ピクシー!」

 

オレが大声をあげるが、ピクシーは余裕そうな顔をしていた。

 

ピクシーは悠々と指を向けると一言叫んだ。

 

「ジオ!」

 

そのとたんピクシーの指から電撃が迸り、ガキの頭を撃ち抜いた。

 

ガキは再び壁に衝突して、赤いオタマジャクシのようなものを出しながら息絶えた。

 

そのときの恐怖を声に出したかったが、さすがにガキ二匹の攻撃を捌くので忙しく、声が出せなかった。

 

ピクシーはパンパンと手を叩くと

 

「手伝いは必要?」

 

と宣ってくれた。

 

「い、いや。だ、大丈夫」

 

ガキ二匹の攻撃をステップ回避し、オレは反撃に出た。

 

掌底で一匹を吹き飛ばし、二匹目を足を払う。

 

そして倒れたガキの頭を踏み潰して殺し、吹き飛ばしたガキに向けて走り出す。

 

そして体を引き絞り、その技を放つ。

 

“突撃”

 

ドォンッ‼

 

「グギャ⁉」

 

再び汚い悲鳴。今度はきちんと息の根を止められた。

 

赤いオタマジャクシのようなものが撒き散らされる。オレはそれを吸い込む。

 

視界の隅ではピクシーも同じことをしていた。どうやらオレ独自の好意ではないらしい。

 

そう考察するとオレは落ちていた分院用ゲートパスを拾い上げた。

 

「…ふーん。思ったより強いんだ」

 

ピクシーがそう呟くと

 

「お前もな」

 

と、微笑みながら誉め返し、ふと真面目な顔なる

 

「それより聞きたいことがあるんだが」

 

「ん、何?」

 

首をかしげるピクシーに質問をぶつける。

 

「この赤いオタマジャクシのようなもの、何?」

 

オレが問うとピクシーは信じられないと言った顔をした。

 

「あなたマガツヒ知らないの⁉」

 

「これマガツヒって言うのか。んで?これはなんなのさ?なんでガキどもはこれを欲しがるのさ?」

 

オレが再び問うとピクシーはふぅ、とため息をついた。

 

「あなたは本当に人間から悪魔になったのね…」

 

「そうだって言ってるだろ。……やっぱり悪魔の目から見てもオレは悪魔だって判断する?」

 

「えぇ。あなたから感じる気は悪魔のものよ」

 

…と、するならあの老婆の言うことは本当のようだ。オレは、本当に悪魔になったようだ。

 

「………その様子じゃ、その他の基本的なことも知らないようね」

 

「あぁ、多分な」

 

そう答えるとピクシーは、よしと言った。

 

「仕方ないわね。私が一から十まで教えてあげる!悪魔の常識をね」

 

それはありがたい。このピクシーを仲魔にしたことを少しでも後悔したことに謝罪すべきだろうか。

 

「それじゃ、歩きながら教えてくれ。お願いしますぜ、先生」

 

オレが冗談めかしていうとピクシーがなぜか気恥ずかしげな態度を取った。

 

「先生ねぇ。ふむ、先生か。良いわねその響き!よし!丁寧に教えてあげるとしますか‼」

 

どうやら気を良くしたようでピクシーはブンブンと飛び回りはじめた。

 

どうやら見た目と同じように子供っぽい性格をしているようだ。

 

オレは苦笑しながら病院を出ていき、ピクシーが慌ててついてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはりオレは悪魔の常識とやらの多くを理解していなかった。ピクシーが教えてくれたことの大半は初耳のことばかりだった。

 

例えばマガツヒ。マガツヒとは簡単にいえば、悪魔の生命エネルギーの元、悪魔の食糧らしい。

 

ガキやその他の悪魔はマガツヒ目当てでその他悪魔を狙って病院を徘徊しているということだ。

 

生命エネルギーの元であるが故、これを多く含む悪魔は当然強い。オレがマガツヒを摂取して力が沸き上がったのはこれが原因だ。

 

他に教えてもらったことは悪魔の耐性についてだ。

 

それぞれの悪魔にはこの属性に強い。あの攻撃には弱いというのが存在するらしい。例えばウィルオウィスプは物理攻撃に強く、魔法攻撃全般に弱いとのこと。

 

オレが物理攻撃で倒せたのはウィルオウィスプが最弱の部類に入る悪魔であるだけのことであり、物理攻撃に強いという点が活かせていないだけとのこと。

 

ピクシーによれば、あらゆる攻撃には属性が伴うということだ。

 

ただ殴る蹴るにしたって【物理】という属性がつき、それが効きにくい、または全く効かない悪魔も存在するということだ。

 

ちなみにオレの【ノーマル耐性】というのも理解できた。ようするに耐性なし、弱点なしのことを指すらしい。長所がないことを悲しむべきか、短所がないことを喜ぶべきか。

 

属性は他にも火炎、氷結、衝撃、電撃、破魔、呪殺、精神、魔力、神経といった属性が存在する。だがピクシーも破魔や呪殺は見たことがないらしく、どんな属性であるのかは分からないとのこと。とりあえずピクシーが知っている属性について教えてもらった。

 

火炎、氷結、衝撃、電撃は魔法攻撃の基本となる属性らしい。先ほどピクシーが使った“ジオ”というのは電撃魔法の最も基礎にあたる魔法らしい。

 

オレが喰らったことのある攻撃ではコダマが使った“ザン”という魔法が衝撃にあたる。衝撃とは簡単にいってしまえば風による攻撃のようだ。

 

精神、魔力、神経というのははっきり言ってしまえば妨害魔法の属性であり、敵に状態異常を引き起こし、敵の戦力を削ぐ物であるとのこと。

 

当然それを回復する魔法もアイテムも存在するらしい。

 

回復する魔法といえばただの傷を回復する魔法も存在するらしい。というかピクシーが実演してくれた。

 

“ディア”というその魔法を見たときは驚いた。先ほどから続く連戦であちこち傷だらけになっていたのだが、それをあっという間に治してくれたのだ。これには感謝の一言だった。

 

他にも能力を直接的に上げ下げするカジャ・ンダという魔法も存在する。

 

どれもこれも戦況を左右する情報であり、オレは知ることの大切さを学んだ。

 

学ぶことはピクシーの言葉の他にもある。悪魔と戦うこと、観察することで悪魔について詳しく知れる。

 

たとえば戦闘中、悪魔は物を催促してくることがある。何やってるんだというツッコミを抑えて素直に応じると情報や他のアイテムをくれたり、上手くいけば仲魔になってもくれる。

 

先ほどウィルオウィスプとの戦闘中、不気味な声で『魔石……モッテ……イルカ?』と尋ねられ、素直に渡したら嬉しそうに動き回り、なんと仲魔になってくれた。

 

他にも自分から話しかけて仲魔にした悪魔もいる。小さな緑色の悪魔、【地霊】コダマ。ピクシーのような女の子の悪魔、【地霊】カハク。紙で作られたような悪魔、【妖鬼】シキガミ。

 

ただし、ただ悪魔と話しかけてフレンドリーになれば良いという訳ではなかった。話し合いで仲魔になってくれるというのは一種の契約なのだ。

 

簡単にいってしまえば物やお金などの対価を要求されるのだ。(ちなみに悪魔には悪魔専用のマッカというお金が存在する。稼ぐ方法?悪魔を倒して強奪することですが、何か?というかそれが悪魔にとって最もオーソドックスな稼ぎ方だってピクシーが言ってた)

 

また、話し合いの途中で相手悪魔が気まぐれを起こして去ってしまうというのもあったし(しかも払ったもの返してくれない)、下手をすれば話し合い中に他の悪魔に横やりを入れられることもある。

 

会話を上手く進ませるためにはなるべく仲魔にしたい悪魔を孤立させることが事前にできる唯一の契約を上手く進ませるための方法だった。

 

そして何より心に染みて理解したことがある。

 

『敵に容赦するな。』だ。

 

ウィルオウィスプ、ガキは知能が低いのか言語をあまり理解していない感じがするため、精神的に簡単に屠れる。

 

だが、コダマやカハクはまるで人間の子供みたいに話すのだ。そこに人間らしさを感じるのか精神的にくるものがある。

 

が、悪魔であることには変わりない。オレの身に存在するマガツヒ目当てに襲いかかって来るのはウィルオウィスプやガキと変わらない。まれに命乞いしてくることもあり、その際には物をぶんどって逃がすがそれ以外は容赦なく倒す。さもなければ死ぬのはこちらだ。

 

要約してしまえば出会った悪魔は敵味方はっきりさせることが重要というわけだ。倒せばお金やアイテムがもらえるし、何より自分が強くなる。

 

味方に引き込むなら会話の切り札は多めに用意する。欲しいものをあげられないと大概はその時点で会話終了。仲魔にはなってくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……今、思ってみればオレは悪魔の道まっしぐら状態になっているのかもしれない。

 

だが、悪魔ひしめくこの世界においては人間の常識は通用しないし、何より人間は悪魔と戦うには弱い。

 

人の心を持っていればいい。人間に戻れるかは、後で考えよう。

 

襲いかかってくる悪魔を殴り倒しながらオレはとにかく、考え続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、生き残るために。

 

 

 

 

 





きっと人修羅はピクシーを心の支えにしたんだと思います。


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死闘とトウキョウ


真・女神転生3をやっているのなら、初ボスであるこの悪魔は印象深いと思います。


 

さて、分院を進んでいくと脱出する壁が立ちはだかっていた。

 

分院内にあちこち存在する思念体の話から、この分院の支配者を名乗る悪魔が存在しており、病院の出入口を塞いでいるそうだ。

 

悪魔の名は、フォルネウス。オレは二階からその姿を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォルネウス。ソロモン王が使役した72体の魔神の1体で、大侯爵の座についている。

 

召喚された際には、海の怪物の姿になって現れるらしい。その話に影響されているのか、オレの目の前にいるフォルネウスも海の存在にふさわしい姿をしていた、が。

 

「エイじゃねぇか‼」

 

二階から一階にある出入口にいるフォルネウスの姿を一望できるのだが、その姿は空飛ぶ巨大エイとしか言い様がない姿だった。

 

もっとこうボスを名乗るぐらいなら、こうもっと【悪】って感じが良かった。

 

………まぁ、支配者を名乗れる力はあるようだ。先ほどから何体かの悪魔がフォルネウスに襲いかかっているが、氷のつぶてを飛ばしたり、ヒレで叩きつけたりして軽々と倒しているのを見た。

 

その辺をうろうろしていれば隙の一つでも作るかな、と思ったがある情報のせいでその案は却下せざるをえなかった。

 

『フォルネウスの隙をついて病院から抜け出した人間の少年と少女がいた』

 

もしかしたら……否、高確率で勇と千晶のことであろう。時間をかけている暇はないし、何より二度も逃げられていればどんなバカでも警戒を強めてしまうだろう。

 

フォルネウスを、倒すしかなかった。

 

とりあえずフォルネウスがいる部屋の扉の前で準備をすることにした。

 

ちなみに仲魔というのはオレが召喚するという形でそこにいるらしい。

 

つまりはオレが呼んでいる仲魔のみが体を持ち、行動できるということであり、他の悪魔はオレという存在の中にストックという形で待機するとのこと。

 

ちなみに召喚できる悪魔の数は三体。つまり戦闘に参加できるのはオレを含めて四体ということになる。

 

そうなると戦闘に参加する悪魔は考えなければいけない。

 

観察してみるとフォルネウスの攻撃は氷結属性による魔法攻撃と空中から一気に距離をつめて奇襲する戦法が軸になることが分かった。

 

……と、なるとだ。

 

「カハク。お前はダメな」

 

「なんでよ!」

 

地霊 カハク。彼女の攻撃は火炎魔法が主体であり、支援もそれなりにできる悪魔なのだが。

 

「氷結攻撃に弱いだろう、お前さんは」

 

そう、それがあまりにも致命的なのだ。カハクの耐性は『火炎に強い 氷結に弱い』であり、氷結攻撃使いフォルネウスに太刀打ちできるものではなかった。

 

同じ理由でウィルオウィスプも除外する。あれはダメだ。『魔法全般に弱い』なんてクズすぎる。

 

というわけで、フォルネウスを倒すパーティーは決まった。

 

オレ、ピクシー、コダマ、シキガミ。この四人だ。

 

さて、戦闘準備も整ったところでフォルネウスに挑みますか!

 

と、思ったところで通路の奥にいた思念体に話しかけられた。

 

「おい、お前。まさかフォルネウスを倒すつもりなのか?」

 

「あぁ、そのつもりだが?」

 

そう答えると思念体はゲラゲラと笑いこけた。

 

「がははは!本当に倒せたら、オレの全財産をくれてやるよ!」

 

「!へぇ……その言葉に二言はねぇな?」

 

「あぁ、耳揃えてきっちり全財産払ってやるよ。倒せたらなぁ。ガハハハ!」

 

未だに嘲笑している思念体を放置し、オレは燃えた。絶対にフォルネウスを倒し、こいつの全財産いただこうじゃないの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を通り、オレはフォルネウスに相対した。

 

……なぜだろうか?目の前にいると思ったよりも【小さく】見える。

 

その疑問を考えているとフォルネウスがオレに気付き、オレのすぐ前まで接近した。

 

「……おい待て、キサマ。見かけない悪魔だな。

この堕天使フォルネウス様にアイサツ抜きで、外に出ようってのかぁ?」

 

「そうだけど、悪い?オレはさっさとこの病院から出たいだけだが?」

 

言い返すとフォルネウスはせせら笑う。だが、目だけが笑っていない。完全に怒りの目だ。

 

「命知らずの坊やだねぇ~。さっきはヘマして人間に逃げられちまったが、キサマはそうはいかねえぞ。この病院でなめたマネするヤツは、かる~く狩ってやるのさ。このヒレでサクサクッ……ってよお!死ねぇぇぇぇ!」

 

言うだけいうとフォルネウスは襲いかかってきた。

 

まずは正攻法で攻める。とはいえ飛んでいるフォルネウスにオレが出来ることは限られている。

 

まずは魔法で落とす!

 

「やっちまえ‼」

 

オレが合図の声をあげると仲魔は己が使える魔法を放った。

 

「任せなさい!“ジオ”!」

 

「頑張るぞー‼“ザン”!」

 

「ワレニマカセヨ!“ジオ”!」

 

電撃の弾と風の刃がフォルネウスに向けて飛んだ。

 

「おっと‼」

 

だが、さすがにボスを名乗る悪魔。全てよけてみせた。

 

だが、それでオレを視界からはずしたのは失策だったな。

 

「オラァ‼」

 

「グオッ⁉」

 

俗にいう壁キックでフォルネウスの上に移動したオレはフォルネウスの上からドロップキックを放った。

 

その威力はフォルネウスを落とすには十分だったようでフォルネウスはうめき声をあげながら落下した。

 

オレの攻撃は終わらない。落ちたのなら追撃あるのみだ。

 

オレはフォルネウスの上に着地し、両拳を振り上げ、交互にパンチを繰り出した。

 

仲魔達も距離をとって魔法で攻撃する。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ‼」

 

「ヤァッ!」

 

「ていッ!」

 

「オオッ!」

 

「グハッ⁉ゲホッ⁉ガハァッ‼」

 

仲魔達の攻撃も相まってフォルネウスに着実にダメージを与えることに成功した。

 

だが、フォルネウスも負けっぱなしではなかった。

 

「調子に乗るんじゃねぇぇ‼」

 

じたばたと暴れ、オレを振り落としにかかる。

 

「撤収ー!」

 

オレは振り落とされる前に逃げた。

 

オレが降りるとフォルネウスはすかさず飛び上がり、オレを怒り狂った目で睨んだ。

 

「キサマ、調子コイてんじゃねえぞ!?」

 

しかしなんでだろうか?名のある悪魔にそんな表情で睨まれても恐怖が湧かない。

 

ただひとつ言えるその理由が分かればもっと自分は強くなれる。そんな感じがする。

 

だが、思考にふける訳にはいかない。フォルネウスを完全にキレさせたのだ。きっとあいつは全力をだすだろう。

 

その予想は当たっていた。フォルネウスはくるりと回転するとその技を繰り出したのだ。

 

「これでも食らえ‼“マハブフ”‼」

 

その言葉をフォルネウスがはいたとき、オレの全身をぞっとする冷気が包み込んだ。

 

フォルネウスの殺気というのもあるが、これは現実的に空気が冷えてるのだ。おそらく氷結攻撃の前兆だろう。

 

予想通り、フォルネウスの正面にいくつもの氷弾が形作られる。

 

「よけろ‼」

 

オレがそういうのとフォルネウスの魔法が完成するのは同時だった。

 

ヒュンヒュンと飛ぶ氷弾の嵐を勘だけで掻い潜り、かわす。コダマとシキガミが被弾するのが見えるが、声をかける余裕はない!

 

魔法攻撃、“マハブフ”の弾幕が終わり次第、再び接近し、今度はフォルネウスの顔面を蹴りあげる。

 

「なっ⁉」

 

渾身の攻撃をかわされたことに驚愕してフォルネウスはかわすことも出来なかったらしい。オレの攻撃は面白いように当たった。

 

その隙にピクシーはシキガミを回復させ、コダマは“ディア”を習得できたのでそれで自らを回復させる。

 

オレは空中でそれを一瞥すると再び追撃を行う。

 

オレは空中で体勢を整え、今度は腕を振り上げる。

 

そして指をチョキの形にし、奴の目に突っ込んだ。

 

「ギャアアァ⁉」

 

激痛に絶叫し、フォルネウスは暴れだす。

 

「お、おのれぇぇ‼貴様ァ‼よくもオレの目を潰してくれたなぁ‼」

 

「クダクダしゃべるのは勝手だけどさぁ。アンタの敵はオレだけかい?さかなクン」

 

オレがそういうとそれが合図だったかのように体勢が整った仲魔達の魔法が雨あられと降り注ぐ。

 

「グアァア……!」

 

魔法が飛んだ方向にフォルネウスは氷弾を放つが、やたれめったらの攻撃に当たるほど仲魔もバカじゃない。あちこち飛び回りながら魔法を撃ちつづける。

 

さて、このまま落ちてくれると詰みなんだが。

 

「お、おのれぇぇ……!!ゼッテェ殺してやらぁ‼

‼」

 

フォルネウスが怨嗟の声をあげると再び魔法の詠唱をする。奴がくるりと回転するし、集中する。

 

やれやれまた“マハブフ”かと思ったが、なんか違う……。

 

何かおかしい…………ッ!

 

「全員避けろォ!」

 

嫌な予感がし、オレは全力で奴から離れる。

 

仲間はキョトンとし、反応が遅れてしまった。

 

そのとたんに奴の攻撃準備が終了した。

 

「アアアアアアアアアッ!“死門の流氷”ゥゥ‼‼‼」

 

その絶叫が耳に木霊したとたん。

 

室内全域に氷山が炸裂した。

 

「ぎっ…!」

 

この氷は刃のように鋭く、頑丈になったオレの腕も貫いた。

 

仲魔達も避けるがその物量にコダマとシキガミが潰れ、マガツヒになって消えた。

 

「あっ……」

 

オレはそれを見て声をあげた。

 

しかし攻撃は続く。今度は炸裂した氷が降り注いできたのだ。

 

腕をクロスさせてガードするがいくつかの氷のつぶてがオレのガードを掻い潜って被弾し、頭から赤い血が流れ出した。

 

やがてそれも降りやむとオレは辺りを見渡した。

 

ピクシーの姿が見えない。まさか彼女まで……!

 

そう思ったとき、オレのすぐそばの氷の山が崩れ、その中からピクシーが現れた。

 

「まったく……信じられない……乙女の肌に……こんな傷をつけるなんて…」

 

彼女のいう通り、彼女の全身は傷だらけだった。

 

それを見て、オレの心の中に冷たい怒りが現れた。

 

その怒りの矛先はもちろんあの魚野郎だ。よくも……よくもオレの仲魔を……!

 

「死ね」

 

悪役にいうセリフならもっと長い言い回しがあるだろうが、オレにそんな口はない。ただ攻撃する意思さえあれば今はいいだろう?

 

オレは先ほどよりも速く、荒々しく壁をかけあがり、フォルネウスの頭に拳を叩き付けた。

 

「んなッ⁉」

 

“死門の流氷”とやらでオレ達を仕留めきれたと思っていたのだろう。驚愕の声をあげるフォルネウス。

 

そのまま床に叩きつけるとオレは指をたて、フォルネウスの体に突き立て、そのまま奴の肉体を裂きはじめた。

 

「ギャアアァ‼」

 

汚い絶叫が上がり、オレの体に血が着くが知ったこっちゃない。こいつはオレ達を殺そうとし、結果コダマとシキガミを殺した。それに対する報復は一つだ。死ね、ただ死ね。

 

「死ねよォォォォォォォォッ!」

 

絶叫とともにひときわ大きく奴の体を引き裂いた。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

だがこの期に及んでフォルネウスは最後の抵抗をみせた。オレを振り落とし、ヒレを振り上げる。

 

「零時!」

 

ピクシーの悲鳴混じりの魔法とオレのカウンターは同時だった。

 

“ジオ”

 

“突撃”

 

ドオォン!ガシャーン!

 

「グアァア……!」

 

オレを殺そうして振り上げられたヒレが力なくくたびれ、奴は大量のマガツヒを放出しながら息絶えた。

 

それを見て、オレとピクシーはその大量のマガツヒに無我夢中になって貪った。

 

やがて全てマガツヒを喰らい尽くすとオレとピクシーは息をついた。

 

「お疲れ様」

 

「あぁ、お疲れさん」

 

互いに労いの言葉を言い合い、そしてオレは表情を曇らせた。

 

「…………?もしかして、コダマとシキガミのことを気にしてるの?」

 

「そりゃあ、気にするさ。オレの判断ミスで深追いさせて、みすみす殺させちまったし……」

 

オレがそういうとピクシーは目を丸くし、なぜか笑った。

 

「な、なんだよ⁉オレなんか変なこと言った?」

 

「ち、違うわ……!あれ?私教えなかったっけ?」

 

「何が?まさか悪魔は生き返るとか言うなよ?」

 

「そのまさかよ」

 

………マジかよ。

 

「え?マジで⁉」

 

「えぇ。ちゃんとした術者なら普通の悪魔を生き返らせることは可能よ?ここにもすぐそこの部屋に無料で治療と蘇生が出来る思念体がいたし」

 

………え、なに?オレが怒り狂った意味ないじゃん。

 

ガックリときたオレをピクシーは弱々しく笑った。

 

「さぁ、さっさと治してもらいましょ。あなたも腕が大変なことになっているわよ?」

 

「へ?うわっ‼」

 

見てみると腕から血がダクダクと流れている。アドレナリンのせいで痛みすら麻痺していたようだ。

 

オレは慌てて立ちあがり。その治してくれる思念体の元に駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その思念体の回復術は凄かった。マガツヒになったはずのコダマとシキガミを元通りにし、オレとピクシーの傷もあっという間に治してくれた。

 

オレは何度もその思念体に礼を言い、出ていくと別の思念体にぶつかった。

 

それはオレに『フォルネウスを倒したら全財産をくれてやる』と言った思念体だった。

 

その思念体はオレを見るなりビクッと震え、やがて諦めたのようにグデっとなった。

 

「………本当に倒すとは……ちくしょう………全財産だ!持ってけ!」

 

ほとんどヤケになった声でその思念体はオレにかなり大量のマッカ通貨を押し付けた。

 

「おぉ⁉」

 

正直、本当に約束を履行してくれるとは思っていなかったため、驚いた。

 

そしてその思念体はとぼとぼと去っていった。

 

「……くそ。病院脱出の前に、貧乏からの脱出が先になった……」

 

去り際、そうぶつぶつ言いながら。

 

律儀に約束を守ってくれるあたり、あの思念体、根は良い奴なのかもしれない。

 

だからといってお金を返しはしないがな。え、悪魔みたいな奴だって?悪魔ですが何か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォルネウスのいた部屋に戻るとあの野郎が他の悪魔から強奪したと思われる宝箱がゴロゴロしているのを見つけ、仲魔と一緒に物色しつくした。

 

その中に驚くべき物があった。

 

「マガタマ……⁉」

 

色は違うが、虫のようなそれは完全にオレの体内に寄生しているマガタマと同じものだった。

 

凝視するとその名前と特性を知れた。

 

 

 

 

ワダツミ。氷結無効 電撃に弱い 氷結属性の攻撃を中心に覚える。

 

 

 

 

 

どうやら文の真ん中によると、このマガタマを取り込むとオレの耐性が氷結無効 電撃に弱いになり、装備し続けて強くなれば氷結攻撃を中心に習得できるらしい。

 

電撃に弱くなるのはいささか恐怖を覚えるが、氷結攻撃を覚えるのはありがたい。今のオレの攻撃のレパートリーは殴る蹴る体当たりの肉弾戦法しかないのだから、フォルネウスのような遠距離攻撃を覚えたかったのだ。

 

まもなくマロガレが新しい技を覚えさせてくれそうなので(その時になると体内マガタマが活発化する)それを覚えたらこれを取り込むとしよう。

 

そう決意するとオレは仲魔に呼び掛け、病院の外に出ることにした。

 

いよいよ外だ。いったい外はどうなっているのだろうか?

 

息を呑み、オレは外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出るとまず目に飛び込んだのは人の気配が一才ない建物の群れとその果てに見える砂漠。

 

その様相は、まさしく世紀末。

 

その風景に絶句していると、ふと何者かの気配を感じた。

 

その感覚に偽りはないことをオレは知っている。すぐに探し、そして見つけた。

 

あの喪服姿の老婆と子供が離れた場所に立っていた。

 

こちらがアクションに悩んでいると老婆が話はじめた。

 

「……すぐに死んでしまうような恥ずかしい真似はしなかったようですね。一安心でございます」

 

その言葉に怒りが湧くがひとまず抑える。危害を加えにきたわけではだろうし、無駄なことをしにきたわけでもないだろう。黙って老婆の言葉に耳をかたむける。

 

「仮にも坊ちゃまの情けを受けた者。その程度の強さで終わってもらっては困ります、ホッホッホ……」

 

不気味に笑うと老婆はふとこう言った。

 

「そういえば貴方、外のトウキョウへ出るのは初めてですね?それじゃ、婆のお節介ですがひとつだけ……上をごらんなさい」

 

老婆の声に眉をひそめるが言われる通りオレは上を見て、絶句した。

 

『空がない』のだ。なんと向こう側の大地が代わりに存在していた。

 

これではまるで世界がボールの内側ではないか。

 

「ごらんの通り、東京は姿を変え、丸い世界になりました。その世界の真ん中で…なお輝いてるモノが見えましょう」

 

確かにそこには光る何かがあった。なぜだろう。あれを見ていると体がゾクゾクする感じがした。

 

「…あれがカグツチでございます。あれは、このボルテクス界を創りだした源。そして、この世界に住む者に力を与えているモノです」

 

カグツチ。ボルテクス界。その単語をしっかり記憶に刻み込む。間違いなく重要な単語だ。

 

覚えながらオレは耳を向け続けた。が、子供がそれにストップをかけた。

 

「……おや、坊ちゃま。もう行かれますか。それでは、これで。今後ともしっかり頼みますよ。世界を創るも良し、壊すも良し……」

 

「なに………⁉おい……!」

 

最後の言葉を問う前に子どもと老婆はいなくなった。文字通り失せてしまった。

 

「……なんだったの、あいつら…」

 

後ろで乾いた声をだすピクシー。どうやら悪魔でもあの存在のことは分からないようだ。

 

「……行こう。考えていても答えは見つからないだろうし」

 

「……えぇ、そうね。南に向かってね。そこが目的地だから」

 

「はいよ」

 

心にもやもやとした物を抱えながらオレ達は変貌したシンジュクの地を歩きはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零時が去ったあと、そこに赤いコートをきた男が現れた。

 

「ここが、東京か」

 

男はそう言い、辺りを見渡した。

 

「どうやらスシだのゲイシャだのって雰囲気じゃなさそうだな」

 

男はそういうと舌打ちをした。

 

「まったくあのジジイ。厄介な依頼をもってきやがる…仕方ない、少し調べてみるか」

 

男はそういうとコートをなびかせながら、変貌したトウキョウの地を歩きはじめた。

 

 

 

 





最後の人、誰でしょうねぇ?(すっとぼけ)


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ヨヨギ公園とシブヤ


今回は少し短めかな?


 

シンジュク衛生病院を抜けたオレ達はとりあえず南下することにした。

 

この変貌したトウキョウはボルテクス界というらしいが、ボールの内側のようになってしまった現状、南というのもおかしいが便宜上そういうしかない。

 

病院の外にも悪魔は存在した。ウィルオウィスプを含め、他にも新たに妖鳥 チンという悪魔を見かけた。

 

この悪魔の相手はカハクが役にたった。こいつは火炎に弱く、カハクは火炎攻撃を得てとするからだ。

 

なお、悪魔を倒すとたまに宝石を落とすのだが悪魔にとっては単なる綺麗な石でしか価値がないという。つまり売れないということだ。

 

しかし捨てるのももったいないため、悪魔になって役にたつスキルの1つ。【物置き空間】に収納しておくことにした。

 

さて、悪魔を蹴散らしながらオレはピクシーの目的地にあるヨヨギ公園にたどり着いた。

 

記憶にあるヨヨギ公園と変わらない。しかしあちこちにピクシーの姿が見える………ん?つまりそれはピクシーが何人もいるってことで……おぉ?

 

よく考えてみるとピクシーというのは妖精を指す種族の名前だ。個人名というのはないのだろうか?

 

考え込んでいるとピクシーが嬉しそうに飛び回った。

 

「わーい!!やっとついたー!」

 

はしゃぐピクシーだがふとオレの方を見て、こう言った。

 

「あなたとは、ここでお別れよね?」

 

「あ、あぁ………そうだな」

 

歯切れが悪いのは理由がある。

 

不安なのだ。こいつは一時とはいえ世話になり、いろいろ教えてもらった。

 

右も左もわからないこの世界を彼女なしでやっていけるか不安だった。

 

「…………ひょっとして…ずっと一緒にいたいとか思ってる?」

 

「ぶっ⁉な、何を言って……あー……」

 

オレは反論の声を間抜けな声でかき消すと覚悟をきめ、膝をついてこう言った。

 

「すみません。もう少し付き合ってくださいませんでしょうか……?」

 

オレがそういうとピクシーはきょとんと目を丸くし、やがてクスクスと笑いはじめた。

 

「やっぱり、あたしがいなくちゃ不安なんでしょ?しょうがないなぁ…もう少しだけ付き合ってやるか!」

 

「恩に着るッ!」

 

オレはそういうと立ちあがり、右手を差し出した。

 

「……?なにこれ?」

 

「いや、契約更新って訳だからその形として握手をって思ったんだけど……」

 

オレがそういうとピクシーはまたクスリと笑った。

 

「ほんっと人間くさいわね、あなた。あ、元人間か」

 

そう言いながらピクシーはオレの人差し指を小さな手でつかんだ。

 

「妖精 ピクシーよ。改めて、コンゴトモヨロシク……」

 

「魔人 夜藤零時だ。こんな奴で悪いが、コンゴトモヨロシク」

 

オレは悪魔としての自分の名を名乗り、そういった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公園の友達とやらに挨拶するといってピクシーは少しの間、いなくなっていた。

 

オレは公園内を捜索し、なんか妖精じゃない悪魔を見かけた。

 

なんでもその悪魔は公園の隅にいる泉の聖女とやらのファンであり、そいつからその泉の聖女の魅力を延々と聞かされた。

 

ピクシーが戻ってくるころになってやっと話が終わり、オレ達は再び外に出た。

 

さて、ここでの問題はどこに行こうかだった。ピクシーはヨヨギ公園に行くという目的があったが、オレにはその目的地がない。

 

探したい人間は何人もいるが、どこにいるか皆目見当がつかないのだ。

 

そこでオレはピクシーの案を採用した。

 

なんでもさらに南下したところにシブヤの街があるらしく、そこは比較的平和であるとのことだ。

 

もしかしたら生存者がいるかもしれない。というわけでオレ達は南下することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年移動中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シブヤの街並みは残っていた。信号も動いているし、電気の類いは生きていた。

 

だが、やはり人の姿が見当たらない。いるのは思念体とちらほら見える悪魔だけ。

 

暗い感情を押し込め、オレはまず聞き込みをした。

 

結果、ここには悪魔も嬉しい様々な施設があると分かった。

 

まずはヨヨギ公園にもあった【回復の泉】。これはお金さえ払えばどんな状態からもたちまち傷を癒してくれる優れものとのこと。(泉の聖女ファンの悪魔からの情報)

 

あとは【ジャンクショップ】。ボルテクス界を歩き回るのに役にたつ物を売っている場所であり、なんでもジャックフロストという悪魔が開いているとのこと。

 

他には【邪教の館】。ここはなんでもヤバい儀式が見られるそうで。(なんの役に立つんだ)

 

最後にディスコ。地下街にあるそれは思念体や悪魔が楽しむ娯楽の場であるらしい。

 

様々な情報が手に入るなか、一番待ち望んでいた情報が入った。

 

『ディスコの方に人間の女がいた』

 

その言葉を聞いた瞬間、オレは散策途中の仲魔を集合させ、地下街に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下街ではならず者の悪魔が存在した。それどころか思念体ですら不良がいた。

 

そいつはストリートファイトでボコボコだ‼とか言ってたが逆にボコボコにして大人しくさせた。

 

地下街の悪魔はシンジュク衛生病院の悪魔より強い。なかでも外道 モウリョウ。魔獣 ネコマタは強敵だった。

 

モウリョウはウィルオウィスプの色違いのような悪魔で色は血の色のようだった。

 

だが、違うのは外見だけじゃない。強さも段違いだった。

 

コダマの使う魔法“ザン”の全体攻撃版、“マハザン”を使うのだが、それ以上に怖いのは“ブリンパ”という魔法。

 

これこそ精神魔法。これは混乱状態にする魔法のようだ。

 

これを喰らってしまったところ、記憶はないがピクシー曰く、『スッゴい面白いことになってた……プフフ…!』らしい。

 

要するに正気を失うのだろう、混乱状態というのは。

 

その対策は『喰らわない』こと。絶対混乱状態にはならないとオレは誓った。もう喰らうもんか、絶対。

 

ネコマタの使う技も恐怖だった。“マリンカリン”というその魔法は魅惑状態という状態異常にする魔法。これはコダマが喰らってどんなもんか実演してくれた。

 

これは対象を魅了し、裏切らせる魔法。これはかなり不味い。

 

治れば正気に戻るが、それまでコダマの相手をするのが大変だった。何せ容赦なく味方に攻撃してくるのだから。

 

幸いネコマタは電撃に弱いことが判明し、そこからはやっと楽に倒せた。

 

そんなふうに初めて遭遇する悪魔に苦戦しながらもオレはディスコにたどり着いた。

 

そこには、居た。

 

 

 

 

見慣れた茶色のロングヘアー、悲しげに歪みながらもその顔には見覚えがある。

 

橘 千晶だ。

 

「…どんな顔したらいいのかな。こんな時。……喜べばいいのかな。『お互い無事でよかったね』……とか

……分かるわ零時君でしょ」

 

「おぅ。こんな特徴的な男忘れるもんか?」

 

軽口をいうと千晶はそうねと力なく笑った。

 

「私、分かったの。泣いても……大声を出しても……この悪夢は覚めないって」

 

「残念ながら、現実のようだな……」

 

オレも千晶のように力なく笑った。

 

「少しだけ……疲れちゃった。零時くんは……知ってるの?世界に、いったい何が起こったのか」

 

千晶のその言葉にオレは先生の言葉を思いだし、その言葉を伝えることにした。

 

「……どうやら受胎という現象が起きたらしい」

 

「……受胎?それって、東京……受胎?零時くんの雑誌に載ってたあれが……現実になったってこと?…………

……そっか…嫌になるわね」

 

千晶はそういうと上を向いた。

 

「街の外がどうなってるか……もう見たでしょ?

わたしの家なんて、何処に建ってたかも分からなくなっちゃった……」

 

「そうだろうな……あれじゃあな…」

 

砂漠化した街を思い出しながら無理もないとオレは呟く。

 

「もしかしたら人間は世界中でわたし1人なのかもって、本気で考えてたわ。……零時くんに会えて良かった」

 

千晶はそういうとオレに向き直った。

 

「ちょっとだけ……希望が見えた気がする。無事だった人、他にもきっといるわよね。祐子先生だって、勇くんだって、何処かにいるかも知れない」

 

「あぁ、居るさ。絶対居るさ」

 

オレが千晶を励ますようにいう。否、あるいは自分を励ますために自分から無意識に出た言葉かもしれなかった。

 

「……わたし、探してみるわ。……このままじゃ、気が済まないもの。みんな………きっと生きてる。運命は、そんなに残酷じゃない。そうでなきゃ……あんまりだわ」

 

「……そうだな。そこまで運命作ったカミサマが残酷でないことを望もうか」

 

オレがそういうと瞑目した。こんなセリフ、まるで物語の悲劇の主人公が言いそうな言葉だ。だが、もし本当にカミサマが居るのなら、ぶん殴ってやりたいもんだ。

 

ここまで思考してオレは千晶の言葉に、ん?と思った。『探してみるわ?』

 

「おい千晶⁉」

 

オレが呼び掛けようとしたがもう千晶の姿はなかった。

 

「あぁ、もうまったく勝手きままなお嬢様なんだからぁ、っとに!」

 

文句をいうがどうにも追う気になれなかった。

 

「…良いの?行かせて」

 

「仕方ない。千晶は自分が決めたことは絶対曲げない奴さ」

 

千晶はおそらく人間のままだ。だがなぜだろうか?オレの勘が言うのだ。彼女は死なないと。

 

それにボルテクスも広い。複数で、バラバラに探し回った方が生存者を探すには適しているだろう。

 

オレはディスコから出ると地上に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





このシーンの千晶は好きです。


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氷川へ続く道 アマラ経絡

アマラ経絡は最後の文字に注意です。路ではなく絡です。

それとお気にいり登録が二桁になりました。お気にいりの上昇が東方よりも早いだと……


千晶と再会したあとショップに寄っていって傷薬や状態異常解除アイテムを買った。なんとまぁいくつかマガタマも売っていたのでそれも買った。やたらと高値だったが。

 

ショップの店員はなんでも『サイキョー』になる旅に出るため、お店を開いてお金を稼いでいるようだ。

 

買ったマガタマを試し、新しい技をいくつか覚えた。

 

あとは噂の邪教の館。そこは悪魔合体を行う施設だった。

 

館の主の説明では、悪魔同士を合体させ、別の悪魔にするとのこと。

 

試しにコダマとシキガミを合体させた。その結果ショップの店員と同じ悪魔であるジャックフロストが生まれた。

 

ちなみに合体で生み出す悪魔は合体させた悪魔のスキルをいくつか受け継ぐそうだ。

 

結果、通常では覚えないという“ディア”“タルカジャ”“ジオ”を受け継いだジャックフロストを仲魔にできた。

 

合体した悪魔がどうなるのか?館の主に聞いてみたが教えてくれなかった。悪魔についての謎は深まるばかりだ。

 

悶々と考えながら地上に戻ると人のような悪魔から地下街に人間の男がいるとの情報が入った。

 

向かって捜索するとある部屋にその男はいた。

 

その部屋はシンジュク衛生病院の地下にあったあの部屋に似ていた。中央には見覚えのある筒状のオブジェ。

 

そしてそれをいじる、ヒジリ記者がいた。

 

「おまえ……驚いたな。自力でこの街まで歩いて来たのか。どうやら、大変な力を得たらしいな」

 

「オレを悪魔にした誰かさんのおかげでね。ま、何度か死にかけているがな……で?まさかアンタもここまで歩いてきたのか?」

 

オレの問いはもっともだろう。悪魔がひしめくこの世界を歩けないとヒジリ本人が言ってたではないか。

 

ヒジリはコンとオブジェを叩いた

 

「こいつを使ってな、少し前に来たのさ」

 

「……それを?」

 

どう見ても怪しさ満点のオブジェにしか見えない。

 

「覚えてるか……?同じ物が病院にもあっただろ。こいつはただのオブジェじゃねえ。トンデモねえ機能を秘めた装置だ」

 

「装置?まさかテレポート装置なのか、これ」

 

あてずっぽうで言ってみたが、

 

「ご名答」

 

まさかの正解だった。

 

「まぁ、正しくいえば転送装置だ。1つ1つが回路のような不思議な空間でつながってるんだ。その回廊……「アマラ経絡」を使えば、何でも一瞬で離れた場所へ飛ばせる。その転送機能で、オレはここまで来たのさ」

 

「へぇ!そんな機能が」

 

このオブジェにそんな機能があるとは思えないが、もはや常識の通用しないこの世界………なんでもありだろう。

 

ヒジリの話は続く。どうやらここからが本題のようだ。

 

「……恐らくこの装置はまだ幾つもあって、巨大なネットワークになってる。

あの男…氷川の所にも必ずつながってるはずだ」

 

氷川。この東京受胎を起こした男。何もかもを知っているはずの男。

 

「よう、手を組まないか」

 

「…………どうせオレが走ることになるんだろ?」

 

図星のようでヒジリが苦々しげな表情を作る

 

「申し訳ないが、今の状況を変えるには氷川の影を追うしかない。現状、物理的にそれができるのはお前だけだ。ウワサじゃ『創世』とやらを掲げる組織がギンザにあるそうじゃねえか。

しかも率いてるのは人間だってな。オレは……氷川の事だとにらんでる。そこで、だ」

 

「あぁ、もう良い、その後言いたいことは分かった。

ようするにオレにその組織について調べてもらいたいんだろ?そしてあわよくば氷川に接触する。

で、そのためにオレをその組織が存在するギンザまでそのオブジェで転送するって訳だろ?」

 

「正解」

 

「ちっとも嬉しくねぇよ。何もかもが圧倒的に足りねえよ、相手は組織だぞ」

 

「……確かに危険だが、やみくもに歩き回るよりだいぶマシな提案だと思うぜ?」

 

ヒジリの言うことは正しい、正しいんだが……リスクが高すぎる。

 

オレは1つ聞いてみることにした。

 

「なぁ、つまりオレをギンザに送るんだろ?ギンザの状況は分かるのかよ?」

 

オレの質問にヒジリは肩をすくめることで答えた。なるほどまったく分からないと。

 

オレは考え込んだ。ヒジリの案はリスクが高い、が状況を打開するためにはそれしかない。

 

それに危険なのは今でも変わらない。ならば賭けに乗るのも良いかもしれない。

 

「……分かった、行くよ」

 

「そうか、行ってくれるか。すまねぇな子供にこんな重荷を背負わせて」

 

「いいさ。そのかわり働ける分は働けよ?」

 

「あぁ、分かってる………それじゃ転送するぜ?……死ぬなよ」

 

「了解」

 

一言そういうとヒジリはグルンとオブジェを回した。

 

オブジェはそのまま回り続け、やがて青く発光しはじめた。

 

青い光りが強くなるにつれてオレはそのオブジェに引き込まれる感覚に包まれた。否、これは本当に引き込まれて……!

 

瞬きをするとオレは高速でどこかの回廊を移動していた。おそらくこれがヒジリの言っていたアマラ経絡という回路なのだろう。

しかし自分はなにもしていないのに移動するというのはかなり気持ち悪いものだ。

 

そのまま進み続けるかと思った。だが、いきなり異変が起きた。

 

視界にスパークが走る。騒音が耳を叩き視界が光りに包まれ………⁉

 

「うおわっ⁉」

 

高速移動が急停止し、オレは前につんのめる。

 

危うく転倒しそうになる体を起こし、オレは辺りを見渡す。状況の網羅は生死を分ける行動だと学んでいるからだ。

 

まず目に入ったのは黄色い壁。これは通路を形作っていた。

 

そして何より目を引くのは床や天井に流れている大量のマガツヒだった。

 

しかしどうしたというのだろうか?まさかここがギンザなのか?

 

疑問の言葉を浮かべるといきなり男の声が聞こえた。

 

「……おい、聞こえるか?」

 

「ウオゥ⁉なんだヒジリかよ……おどかすなよな」

 

オレの文句にヒジリは安堵の声をあげる。

「よかった…なんとか無事なようだな」

 

「無事なんだけどさ。ここどこ?まさかここがギンザ?」

 

「違う。どうやら転送に失敗し、アマラ経絡内に転落したらしい」

 

「おいおいこんな時にマジかよ……!」

 

オレは怒りと焦燥に身を任せて壁を蹴り飛ばした。悪魔になってからはるかに上昇した脚力で放たれた蹴りは、壁を砕くことはなかった。

 

「だが……アマラ経絡は転送路だ。

『路』である以上、入り口があれば出口も必ずある。とにかく、俺がバックアップする。ギンザを目指して進んでくれ……」

 

「それしかねぇか……!」

 

オレはボサボサの頭を掻きながら前進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アマラ経絡内にも初見の悪魔は存在した。

 

中でも厄介なのが精霊 エアロスという悪魔。緑色の風のようなもので作られた人の上半身のような悪魔だ。

 

その厄介なのは支援の手厚さ。“ディア”で味方を回復させたり、“マリンカリン”でこちらを惑わせようとするのは厄介の一言に尽きる。

 

他にも精霊 アーシーズ。動く岩の悪魔であるこの悪魔も支援タイプの悪魔で“ラクカジャ”という防御力上昇魔法を使うのだ。

 

その反対魔法である“ラクンダ”をピクシーが修得していたが、そのピクシーに変化……いや、進化があった。

 

ピクシーはなんとハイピクシーという悪魔に進化したのだ。

 

ピクシー、もといハイピクシーの話では一部悪魔はある程度強くなると上位存在に昇格するらしい。

 

妖精 ピクシーはその進化する悪魔。他にどんな悪魔が進化するのかはハイピクシーにも分からないらしい。

 

 

 

 

 

 

さて、アマラ経絡を進んでいくとやはりこういったダンジョンというものはなんの障害がないということはないらしい。

 

通路を進むと先にある階段が壁に閉ざされたのだ。

 

「おぉ⁉なんだ!」

 

驚きの声をあげるとバックアップ役に徹するというヒジリの声が聞こえた。

 

「何かあったようだな。先に進めなくなったか?」

 

「あぁ、いきなり階段が壁になっちまって……」

 

そういうとヒジリは、よしと言った。

 

「試したいことがあるんだ。ちょっと待っててくれ」

 

そういってしばらく待っていると壁が再び元の階段に戻った。

 

なるほど……どうやらアマラ経絡ってのは、常に形が安定してるとは限らんようだな。

こいつは悪魔のおまえをもってしても、移動は一苦労ってわけか…

 

「うわ、マジかよ…」

 

それでは襲いかかってくる悪魔以上にこのアマラ経絡そのものを警戒しなければいけないということになる。

 

「…まあ、何かあったら呼んでくれ。こっちで出来ることはするぜ」

 

「頼む」

 

そういうとオレは元に戻った階段を登りはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段を登り、しばらく進むとまた階段が壁になってしまう現象に遭遇した。

 

「…やれやれまたか。

さっきと同じ様に、こっちで上手くやって……!

 

その途端ヒジリの声にノイズが混じりはじめた。

 

「なんだ⁉」

 

「…お…い……聞こ……える…か?返…事…しろ……く…そっ!通…信も…不安定…に……」

 

狼狽したヒジリの声はそれを境に聞こえなくなった。

 

「もしもしヒジリ⁉……ダメか…」

 

「ちょっとどうしたの?あのオジサンの声が聞こえなくなったんだけど?」

 

「ヒホ?どうしたんだホ?」

 

この状況にハイピクシーとジャックフロストも眉をひそめる。

 

「分からん。これもまたアマラ経絡の特徴なのかねぇ…」

 

軽い口調だが内心は焦燥にまみれていた

 

はっきり言って状況は最悪だ。進むこともできない。戻ることもできない。どうすればいいのだろうか?

 

見渡すと横道が存在した。そこになにかあれば良いのだが。

 

オレはひとまずそっちの方向に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横道の方を進むと思念体がいくつか存在した。

 

しかし話しかけるなという思念体が多く、まともに会話してくれる思念体は少しだけで、手にいれられる情報は少なかった。

 

だがその中で有力な情報を見つけた。

 

なんでもアマラ経絡には下界と…つまり外と通信できる場所がちらほらとあるらしい。

 

もしかしてと思い、さっそくそれを探してみると嫌な情報も手に入れた。

 

このアマラ経絡はマガツヒが大量に流れている。それを目当てにした強力な悪魔がいるという情報だ。

 

なるべく会わないようにしたいがどのような姿をとっているのか分からず、警戒するしか手はなかった。

 

さて、下界との通信に使える部屋を迷いながらも進むとその部屋にたどり着いた。

 

その部屋はマガツヒが濃く存在する部屋であり、オレはごくりと喉をならした。仲魔達に至っては飛びついていたが。

 

オレがその姿にため息をつくとザザ…というノイズが聞こえはじめた。

 

「…い、お……い……俺…だ、ヒジリだ。…聞こえるか?返事してくれ。」

 

「あぁ聞こえるよ」

 

オレが安堵のため息混じりにそういうとヒジリもホッと息をつく気配がした。

 

「よかった……通信の安定する場所に出れたようだな」

 

ヒジリはそういうと思案に耽っているのか少し黙りこみ、こういった。

 

「よし……こうしよう。これから先何かあった場合も、今お前のいる場所のように通信の安定する所で落ち合おう」

 

「分かった。あぁ、そうだ。先に進めるようにしてくれ」

 

「おっとそうだった。ちょっと待ってて…くれ…」

 

再びノイズが混じりはじめるがどうにもできない。先ほどのようにしばらく待つ。

 

「よし通れるようになったぞ……やれやれ、どうやらそこも…通信が…不安定に……なって…きた…よ…う…だな。

ま…た別の……、通…信…の…安定した…場所…で

………

……会おう」

 

それを最後にヒジリの声は聞こえなくなった。

 

オレは不安を押し込め、未だマガツヒを食べている仲魔達をつまみ食いしながら引きずり、部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから先も階段が閉ざされては通信ができる部屋を探し、閉ざされては探しを繰り返した。

 

おかげさまでオレも仲間も悪魔倒したい放題であり、どんどん強くなっていった。

 

オレはなんとマロガレとワダツミとシラヌイというマガタマから新しいスキルを手に入れた。

 

“暴れまくり”と“ファイアブレス”、“アイスブレス”というこのスキルはオレがもう悪魔だという証になった。

 

“暴れまくり”は敵の群れに突っ込んで超高速でとにかく殴る蹴るを繰り返すスキルとはいえないスキルだが、まぁ敵の群れに切り込むには役にたつ。

 

“アイスブレス”と“ファイアブレス”は名前の通り、怪獣よろしく口から冷気や炎の息吹を吐き出す技だ。

 

もう、なんというか、うん。今更だけどもう、人間やめたわ、オレ。

 

強くなってはいるのに気は沈むばかりのオレはギンザの出口らしきところに着いた。だがその出口は壁に塞がれていて通れなかった。

 

近くにいた思念体曰く『アマラ経絡はご機嫌斜めでギンザへの出口は塞がってしまっている』とのこと。

 

これが最後と己を奮起させ、道中表れた悪魔、外道 モウリョウを魔石で仲魔にしつつも。通信できる部屋を見つけ出した。

 

礼によってしばらく待っているとヒジリの声が聞こえはじめた。

 

「やっと来たか……どうやら出口は近いようだな。例によって俺が出口を……!」

 

その途端いきなりザザ…という音が妨害しはじめた。

 

「⁉……くそっ!何者かが通信に割り込んできた……

……お…い。大…丈…夫…………か?」

 

「ヒジリ⁉」

 

あまりの通信時間の短さに驚愕の声をあげると【ソレ】は現れた。

 

その悪魔は金色のウィルオウィスプだった。だが気配から鑑みるに強さもウィルオウィスプとは違うようだ。

 

「…ウォ、ウォイ。ウォマエ、ナニモノ、ダァ~?サッキカラ、コソコソ、スル、スルゥ……ジャ、ジャ、ジャマ、ダ」

 

総じてこういったタイプの悪魔は耳障りな声を発するが、こいつの声は一際耳障りだった。

 

それに顔をしかめているとなぜか金色ウィルオウィスプが声を荒げた。

 

「ウォ、ウォマエェェェ!/ワカッタ、ワカッタゾ。

ココノ、マガツヒ、ヲ。ヒトリジメ、スルキダロ?ウォ、ウォレヲ、ヤルキナンダロ!?」

 

「はぁ⁉違うって!オレはただ……」

 

否定の声をあげるが金色ウィルオウィスプはとりあわなかった。

 

「……チガウ。ウォマエ、ウーソ、イッテル。ダマサレ、ナイゾ!ココ、ウォマエニ、ツゥカワセナイ。ヘンナコト、サァセナイ。キ、キ、キ……キエロ! ウォマエ!!」

 

金色ウィルオウィスプはそういうとオレに襲いかかってきた。

 

その途端能力が発動し、この金色の名前が分かった。

 

外道 スペクター。それがこいつの名だ。

 

「散れ!」

 

仲魔に号令すると全員回避行動をとる

 

そしてスペクターを囲む形になるとスペクターは耳障りな声で吠えた。

 

「ウォ、ウォマエ、ナカマ、タクサン!ウォレモ、タクサン、イルゾ!!」

 

そういうとスペクターはオォ…!と唸ると悪魔が現れる時になる雷の音が何度か轟いた。

 

「ゲッ!マジかよ‼」

 

オレはギョッとした。スペクターが六体に増えてしまったのだ。

 

「ウォォォォ!!ウォレ、クウ!ウォレ、ウォマエヲ、クウ!!」

 

スペクター達は全員そういうと魔法を唱えはじめた。

 

「「「「「ア、“アギ”ィィィ‼」」」」」

 

「うおわ!あっちい⁉」

 

「きゃあ⁉」

 

「ひゃ⁉」

 

「ヒホー⁉熱いのは嫌なんだホー‼」

 

飛び交う火の球に戦いはさっそく混乱した。

 

「ちぃ‼」

 

オレはシラヌイのマガタマを飲み、マロガレを吐き出した。これがマガタマの変換方法なのだ。

 

これによりオレの耐性は火炎無効 衝撃に弱いに変わった。

 

吐き出したマロガレを物置き空間に放り込み、オレはスペクターの群れに飛び込んでスキル、“暴れまくり”を使用した。

 

「オラオラオラァ‼」

 

「「「グオオオ⁉」」」

 

三体をオレの拳打に巻き込み、そのまま殴り続けた。

 

「私たちも行くわよ‼“ジオ”!」

 

「分かっているわよ!“アギ”!」

 

「オイラもやるホー!“マハブフ”!」

 

仲魔達も残ったスペクターに魔法を放つ、が。

 

「「ヌゥンン!」」

 

突進するだけでそれを払ってしまった。

 

「「「ウォレ、マホウ、キカナイ。キカナイゾオオオ‼」

 

スペクターはそういうと仲魔達に襲いかかった。

 

「ちっ!全員魔法攻撃は止め!物理、および支援魔法しか使わないで‼」

 

ハイピクシーはカハクとジャックフロストにそういうと小さな手でスペクターを殴り飛ばした。

 

他の仲魔も負けじと支援魔法を唱えたり殴ったりして戦いはじめる。

 

ことにジャックフロストが使う“タルカジャ”は役にたつ。攻撃力を高めるその魔法は物理主体のオレを強くする!

 

「オラァ!」

 

「グオォ……!」

 

暴れまくりで弱っていた三体をたて続けに屠るとオレはスペクターの一体を再び殴る。

 

「オォン!」

 

しかしそれをヒラリとかわし、スペクターはオレにむけて怒りの声をあげた。

 

「ウォレ、ウォマエ、クウ!ウォマエ、ヲ、クウゥゥ!!」

 

そういうと戦っていたスペクターが全てが一体のもとに集まり、押しくらまんじゅうのごとくぎっちりかさなった

 

何をする気だと訝しげにそれを見ていると、なんとスペクターたちはそのまま一体に纏まってしまった!

 

「キ○グスライムかお前は⁉」

 

そう突っ込みをいれるのをよそに巨体スペクターはオォンと不満げな声をあげた。

 

「ウォ、ウォレ、スコシ、タリナイ……デ、デモ、ウォマエ、ヲ、クウ!!」

 

そういうとスペクターはオォン!と吠えた。

 

“邪霊蜂起”

 

スペクターはその技を完成させると自分の体をいくつか分裂させ、それを小さなスペクターにして……飛ばしてきた⁉

 

「ドオオッ⁉」

 

驚きの攻撃に対処できず、オレは小さなスペクターに直撃した。

 

「グウッ…!」

 

「零時!大丈夫⁉」

 

「あぁ……ってハイピクシー!」

 

「へっ?きゃあ⁉」

 

邪霊蜂起の残りがハイピクシーに迫ろうするのを見て、オレは咄嗟にハイピクシーを突き飛ばして庇った。

 

「グハッ‼」

 

至近距離で爆発し、オレはあまりの痛みに膝を着いた。

 

体に走る刺青のような模様が赤黒く光る。命が危険になるとこうなるようだ。

 

だが、まだ生きてる。死ねない。死ぬわけには……!

 

追撃してくる巨体スペクターをきっとにらむとオレにあの感覚が現れた。

 

フォルネウスと戦った時にもあったあの感覚。

 

敵が小さく見える…あの感覚。

 

未だこの感覚は分からない。だが、この感覚はオレの悪魔としての一面を強くする。

 

死の恐怖で凍りついた精神が溶け、変わりに浮かんだのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【怒り】だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シッ!」

 

怒り狂った蛇のような気勢にのせてオレは身を低くしてスペクターに迫った。

 

オレが死にかけで動けないと油断していたのだろう。スペクターは反応できなかった。

 

オレは低い体勢から懐に飛び込み、拳を振り上げてスペクターをかちあげた。

 

ドオン!

 

「ゴオオッ⁉」

 

打ち上げられたスペクターを追って、オレは飛びあがり今度は両拳を合わせて降り下ろす。

 

ガァン!という音が響き、スペクターは地面に叩きつけられた。

 

だがオレの攻撃は終わらない。まだ、終わらせない。オレの敵になったものは死ね。全て死ね。死ね死ね死ね死ね。あいつのように………存在する意味を一切見出だせずに………!

 

「死ねよぉぉおおおおッ‼‼‼‼」

 

オレは指を揃えて両の手を突き入れ、肘までスペクターに埋め込むとそのまま左右に引き裂き、さらに裂いて裂いて裂いて裂いて裂いて………!

 

気がつけばオレはスペクターをマガツヒレベルにまでバラバラにしていた。

 

オレは興奮が冷めきらない息をしながら、魔石や仲魔達の“ディア”を使って傷を治療しはじめる。

 

するととヒジリの声が聞こえはじめた。

 

「……………よ…し。通信は…回復したようだな。

おい、大丈夫か?」

 

「あぁ、なんとか……」

 

疲れた声でそう返事するとヒジリが逡巡する気配がした。

 

「……そうか。随分と悪魔らしさが板についてきたようだな」

 

「嬉しくねぇ……」

 

そういうとヒジリから苦笑する気配がした。

 

「先に進めるようにしてやる。待ってな。」

 

そういってしばらくすると遠くで何かが動く音が響いた。

 

「今開いた通路をぬければ、無事ギンザに脱出できるだろう。

まあ遠回りしたが、これで目的達成、ってわけだ。

ご苦労だったな。先を急ごう」

 

「そうしますか……」

 

疲れた体に鞭打って立ち上がるとハイピクシーが何か言いたげな様子を見せた。

 

「あ、あの零時……?」

 

「あぁ…?どうしたん?」

 

疲れた声で問い返すとハイピクシーがもじもじとこういった。

 

「あ、あのさっきは……ありがと」

 

なんの礼をしているのか一瞬考えたがすぐに思い出す。

 

先ほどスペクターの攻撃からハイピクシーを救ったことをいっているのだろう。

 

「どういたしまして」

 

微笑みながらそういうとハイピクシーは「……ん」と恥ずかしげにいった。礼を言い慣れていないのだろうか?

 

悪魔について謎は増えるばかりだ。それも知りたいなと思いつつ、オレは仲魔達を引き連れて部屋を抜け出した。

 

 

 

 

 




スペクター殺っちまった……まぁいいか。スペクターはいっぱいいるだろうし。

べ、別にスペクターに嫌な思い出がある訳じゃないんだからね!


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メノラーとニヒロ機構


マニアクスの真骨頂。アマラ深界の始まりです。




 

「どこだ……ここ……」

 

ギンザへ出るという出口を通り、あまりの眩しさに目を閉ざしながら進むとオレは謎の場所にでた。

 

この場所はギンザじゃない。直感がそう囁く。

 

それにここの雰囲気は初めてじゃない。シンジュク衛生病院の地下でエレベーターを開けた途端飛ばされた、あの場所の雰囲気だ。

 

空気の重さに息が詰まる。だが、何故か前回その雰囲気を感じた時よりもその感じは薄くなっている気がした。

 

しかし状況は最悪。仲魔達の姿もなく、召喚も出来なくなっていたからだ。

 

警戒しながら辺りを見渡すと目の前に巨大な穴のようなものがあった。

 

興味に駆られ、オレはその穴を覗いた。

 

次の瞬間

 

「…………おっと」

 

『意識が引っ張られる』感覚がオレを襲い、視界を他人の手によって変えられている現象が起こった。

 

視界は穴を通り、奥へ奥へと進み、終着点について停止した。

 

そこは劇場だった。垂れ幕がかかり、開幕を待っている舞台だった。

 

寒気が走るほどそれは綺麗で、だが悪魔であるこの身も震えるほど恐ろしい何かが潜んでいるそれは、しばらく待っているとその幕をキィ…キィ…と音を立てて上に上げた。

 

開幕した舞台はどこかの部屋を模倣したかのような舞台で、暖炉や本棚が置かれていた。

 

そしてそこには、病院でオレを謎の場所に誘った車椅子の老紳士と喪服の女性が立っていた。

 

オレが呆然としていると女性が言葉を投げ掛けた。

 

「…いらっしゃいましたか。宿命があなたをここへ誘ってくれると承知しておりました。

ここはアマラの果て。人であった身には魔界と言ったほうが良いのでしょうか」

 

魔界…確かにその名前に似合う雰囲気をここは持っている。

 

しかしアマラは果てとはどういうことか?まさかアマラ経絡を奥へ進みすぎたというのだろうか?

 

オレが疑問の言葉を心の中で悶々と続けると女性が言葉を続けた。

 

「感じていようとは思いますが、ここには数多くの強力な悪魔が潜んでおります。

その神に貶められた者らはここをかりそめの住み処とし、再び飛び立つ時を待っているのです」

 

なるほど。確かに悪魔が住む世界だ。神に貶められた者というのは大概悪魔や邪神を指すのだから。

 

オレがそう感想を想うと女性が意識だけのはずのオレをひたと見据えた。

 

「悪魔の力をその身に宿せし少年、夜藤 零時。

今はまだ弱く、このアマラ深界のマガツヒにもただ流されるだけ……

ここに来たのは迷いこんだも同然に思えるでしょうが……案ずることはありません。

あなたが向かおうとした地まで私達の力で送り届けて差し上げます」

 

それはありがたいが、とても感謝する気になれない。いったい何が狙いか?敵か味方か見定めることにする。

 

「さぁ、トウキョウの地へ戻りなさい。今のあなたがこの地ですべきことは何もありません。

そう、今の力弱きあなたには……」

 

反論する気にはなれない。この地では生き残れないことぐらいさっきから感じる強力な悪魔の気で分かる。

 

しかし女性の話は終わりではなかった。

 

「…しかし、これだけは渡しておきましょう。その燭台………蝋燭立てはメノラーと言います。

あなたがその力の行方に迷ったとき、そのメノラーがあなたに考える手掛かりを与えることでしょう」

 

そう女性が言った途端、オレの手に何かを握らされた気配がした。

 

問いたいことはあるが、声が出せない。なすがままになるしかなかった。

 

「それでは……ギンザの地へお送りしましょう。宿命が望むのであれば……また会うこともありましょう……」

 

その声を最後に、舞台の幕が閉じ始めた。

 

その途端、オレの意識が遠退いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……い、聞こえるか!」

 

気がつくとオレはシブヤや病院とは違う、しかし同じ形のオブジェの前に立っていた。

 

この声は言わずと知れた、ヒジリ記者だ。

 

オレは先ほどの現象にまごつきながら、ヒジリに大丈夫だと言った。

 

「よかった。なんとかギンザについたようだな。途中、お前の気配が消えたから心配したんだぜ?アマラ経絡に引き込まれたんじゃないかって……」

 

「……次からは絶対転送に失敗すんじゃねぇぞ」

 

全くその危険性を指摘されていないオレは剣呑な声をあげた。

 

「悪かったって……ごほん!次からはお前は足を使って氷川を追ってくれ。ギンザに手掛かりがあるはずだ」

 

「だといいんだがねぇ……さっきから全くツイてないからねぇ…!」

 

イライラとそう呟くとヒジリが声をうわずらせる。

 

「う、運はともかくオマエには力があるんだ。きっと強い悪魔がいると思うがオマエならきっと勝てるさ。……悪いが戦う力のない俺は俺なりに追うさ。

氷川を追っていればいずれまた会うこともあるだろう。

 

………じゃあな、お互いに生きて会おう」

 

「あぁ……幸あらんことを……ってね……」

 

その言葉を最後に、プツンという音とともにヒジリの声が聞こえなくなった。

 

オレはそうするとふぅ…と息をつき、いつのまにか手に持たされていた燭台……【王国のメノラー】を物置き空間に放り込んだあと、その場に座り込んでしまった。

 

さすがに疲れはてた。ここに来るこれまでの時間、いったい何回戦い、何回殺しただろうか?

 

学ぶべきことも考えるべきことがいくつもあり、何度も頭を使って頭が痛い。

 

体は疲れはて、眠たくなってくる。

 

あぁ、ここじゃ………眠っ……ては…いけないっ…て……いう……のに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅん……お……?」

 

気がつくとオレはオブジェのある部屋の壁にもたれかけていた。

 

キョロキョロと辺りを見渡すとハイピクシーとジャックフロストとカハクがオレの体にしがみついて一緒に寝ていた。

 

ハイピクシー曰く、悪魔は寝なくても大丈夫と言っていたのにも関わらずだ。

 

嘘つきが、と笑いながら呟くとオレは3人が起きるまで横になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人が起きると部屋をでてさっそくギンザの街へ行った。

 

部屋の外は噴水広場。そこにはいきなり強そうな悪魔がいた。

 

ニヒロ機構の悪魔であると名乗った騎士風のその悪魔はとても紳士的であり、ニヒロ機構のことを表面上のことだけだが教えてくれた。

 

情報によるとニヒロ機構のトップは氷川であり、総司令を名乗っている。

 

ニヒロ機構が目指すのは感情に左右されない世界を創ること。

 

オレはニヒロ機構のことを詳しく調べるためにギンザを駆けて回った。

 

するとギンザのバーのママ情報通であるとの情報が入り、オレはバーに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年移動中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーなんてものは人間であった頃にも当然行ったことはない。

 

バーのママさんはなんと悪魔だった。

 

夜魔 ニュクスと名乗った女性悪魔のママさんにはオレが話しかけて開口一番「おませな坊やね」と笑われた。

 

精神的に傷つきながらもオレはニヒロ機構について聞いてみた。

 

するとニヒロ機構の本部がギンザのすぐ側にあると教えてくれた。

 

もしも入れなかったら相談に乗るともいってくれるがそれには及ばない。忍びこむだけだ。

 

オレは礼を述べ、ギンザに外に向かって出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果、施設を見つけることは出来ても簡単に追い出されました。

 

警備している悪魔の数が多すぎるし、あまりにも組織的で隙がない。あれでは氷川を探す以前の問題だ。

 

オレは外にいる悪魔を仲魔にしながらバーに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に行っちゃうとは思わなかったわ…」

 

「おぉい⁉入れないって知っていたのかよ⁉」

 

戻って知恵をお借りしようとしたところ開口一番呆れられた。

 

「大体、どうしてそんなにニヒロ機構の本部に行きたいのよ?お仲間になりたいの?」

 

「………探している人間がいるんだ。ニヒロ機構の本部にいるって話を聞いたから……」

 

オレが真剣にそういうとママさんはそう……と呟き、口を開いた。

 

「だったら良いこと教えてあげる。ゴズテンノウに、お会いなさい」

 

「ゴズテンノウ?」

 

その名前は知っていた。スサノオと同一視されることもある天部の名前でもあった。

 

しかしこの世界の神話上の生き物は全て悪魔。妖精であるハイピクシーやジャックフロスト、先ほど仲魔にした天使 エンジェルだってここでは仲魔以外は敵になる【悪魔】なのだ。

 

そのゴズテンノウも決して綺麗な存在ではあるまい。

 

「ゴズテンノウは、イケブクロ界隈を牛耳る悪魔の親分よ。

ニヒロとは敵対しているから、アナタには協力してくれるかもしれないわ。

イケブクロには、ここを出て橋を渡った先のギンザ大地下道から行けるわよ」

 

「なるほど、敵の敵は味方ってわけか」

 

オレが頷きながらそういうとニュクスはひたとオレを見据える。

 

「ヤボな事を言う気はないけど、……アナタの望み、叶うといいわね」

 

オレは驚いた。

 

仲魔でもない悪魔に優しくされるのは初めてではない。シンジュク衛生病院ではオレに物をくれたこともある。

 

だが、それはあくまでも気紛れなのだ。

 

ところが目の前に立つこの悪魔は気紛れでもなんでもなく、ただ優しい言葉を投げ掛けた。人間でも、会って数分の他人にここまで言ってくれる奴は珍しいだろう。

 

オレは素直に礼をいうと即座に準備に走った。

 

ギンザ大地下道は名前から察するに長丁場になりそうだ。仲魔も強くしないと危険だろう。

 

そういうわけで仲魔にすることと、ギンザにもあった邪教の館で悪魔合体を繰り返し、女神 アメノウズメ、魔獣 イヌガミ 聖獣 ユニコーン 天使 アークエンジェルを仲魔にした。

 

そのため何度も仲魔にするために悪魔と話し掛けなければいけず、お金に悩み始めたのはまた別の話。

 

 

 

 





お金不足は真・女神転生3をやっていく上で悩むことになるものだと思います。


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奴隷と盗人悪魔


今回はギンザ大地下道に行きます。ここでレベルあげをするプレイヤーは多いはず。


 

ギンザ大地下道の入り口は簡単に見つけた。ハルミにある倉庫から地下道への入り口が存在したのだ。

 

ギンザ大地下道の情報は揃えてある。そこにいる悪魔は毒を使うのが多く、また敵対組織の進軍路になりかねない警戒必須な地下道らしい。

 

ギンザ大地下道を歩いていくと、そこにも初見の悪魔がゴロゴロといた。

 

なかでも地霊 スダマは危険だった。前に仲魔にしていたコダマの頭に手足が生えたような小さな悪魔なのだが、こいつは危険になると“特攻”という自爆攻撃を行うのだ。

 

一見危険がないように見えて恐ろしい悪魔だった。

 

新しく仲魔にした悪魔は強かった上、知識も豊富だった。

 

アークエンジェルが使う技に“ハマ”という魔法がある。破魔属性に属するこの魔法はなんと即死攻撃だった。

 

無論、即死攻撃なんていうチート攻撃故に当たっても成功する確率は低いが、喰らうことは死を意味するだろう。オレ自身に無効化する術が欲しいものだ。

 

さて、ギンザ大地下道を進むと変な物を見掛けた。

 

通路の先に囚人服のようなものを着た人間のようなものがいた。人間でないのは気配で分かる。だが、悪魔というわけでもなさそうだ。いったい何者だろう?

 

ためしに聞いてみることにした。

 

「ハイピクシー。あれ何か知っている?」

 

「いえ、知らないわ。なにかしらね、アレ」

 

他の仲魔も知らないということ。直接聞いてみるしかないか。

 

考えていると人間もどきがこちらに気づいた。するとそれは怯えたように去っていった。

 

進んでいくとちらほらとそれを見掛けた。どうも複数いるようだ。

 

たまにでる悪魔を蹴散らしながら追うと二人のそれが話をしているのを聞こえた。

 

「……うっ!!アイツこんなとこまで来ちゃったよ」

 

「悪魔……?マントラ軍の悪魔かなあ?」

 

「……えっ!?マントラ軍!?えーっと……とにかく、みんなに報告」

 

そういうと二人は奥へと進んでいった。

 

迷路のような地下道なもんだから。オレはその二人についていった。

 

そして二人が通った後と思われる扉を開くと叫び声が聞こえた。

 

「……おあっ!!き、来たぁぁ……!」

 

それを皮切りに人間のような者たちが次々と叫び始めた。

「……あ、悪魔がきた!マ、マントラ軍の、悪魔が来たぁ!?」

 

「マントラ軍の悪魔……

……おしまいじゃ…………もう、何もかも、おしまいじゃ」

 

マントラ軍とやらがなんなのかは分からないが勝手に判断をするのはやめて欲しい。

 

オレはため息をつき、とりあえず落ち着かせようとすると集団の先頭にたつ老人がオレを『ん?』と凝視した。

 

「……?……ああ?……なんじゃい。マントラ軍の悪魔ではないぞ!こんな悪魔はマントラにおらん!……心配して損したわ……」

 

老人がそういうと人のような者たちが安堵の息をもらした。

 

しかしなんだろうか、この人たちは?人間っぽいが人間ではない。しかし悪魔でもない。

 

オレは老人を凝視すると老人は胡乱気な目を向けた。

 

「……なんじゃいアンタ。ワシらがそんなに、めずらしいんか?」

 

「珍しいっていうか……初見だ」

 

オレがそういうと老人は驚くが、生まれたばかりの悪魔かと呟き、ポツリと説明した。

 

「ワシらは、マネカタっちゅうモンじゃ。まあ、こんな所で暮らしとるからワシらがどんなかはだいたい察しはつくじゃろう。

……さあ、帰った帰った。皆のモノも引き上げるぞ」

 

老人がそういうと『やれやれ』などと言いながら人もどき……マネカタたちは去っていった。

 

マネカタ……ハッキリといって情報は少ない。少なくともひもじい生活をしているということぐらいしか知れなかった。

 

こういうときこそ、聞き込むことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あちこちにいるマネカタ達に聞いてみると、彼らはオレが目指すニヒロ機構の敵対組織、マントラ軍の奴隷のような存在らしい。

 

人を真似て作られ、泥とマガツヒで作られた彼らは一部逃げ出し、この地下道で生活しているとのこと。

 

聞き込んでいるとマントラ軍という組織について理解を深めた。

 

曰く、マントラ軍はニヒロ機構と考えが真逆であり、そのせいで敵対関係にあるとのこと。

 

曰く、マントラ軍は力こそ正義としており、弱者であるマネカタを蔑み、奴隷にしているという話だ。

 

マネカタというのは全体的に見て生きる希望を失っている感じがするが、やはり例外というのは存在する。

 

例外の1つはなんとジャンクショップ。マネカタ相手に商売しているのかなんとショップがあったのだ。

 

で、何が例外なのかというと……店主がオカマなのだ。

 

悪魔になり、何度も悪魔と戦って肝が太くなっているオレが一番恐怖した相手だった。危うく喰われる(意味深)ところだった。

 

だが、売っているものは良かった。

 

魔法を使うには欠かせない魔力を回復させてくれる【チャクラドロップ】をはじめ、なんとマガタマまで売っていたのだ。

 

強くなるため何匹も何匹も悪魔を狩っていたオレはマガタマを含めて大量に薬を買った。

 

マガタマの名前はそれぞれ【アンク】【ヒフミ】【カムド】という名前だった。

 

後で試してみることにした。

 

他にいる特別なマネカタはガラクタを集めることに熱心なマネカタ。彼はなんと悪魔がいる地上に出ては人間が使っていた物を集めているそうだ。

 

彼からは困った情報を聞いた。イケブクロに行くためにはゲートを通らなければいけないが、マントラ軍を警戒してゲートは特別なことがない限り開けてくれないというのだ。

 

はて、困ったと悩むと彼から取引を持ち込まれた。

 

ゲートを開けるよう頼んでおく代わりに【オサツ】という絵が欲しいというのだ。

 

オサツと聞いて『ん?』と思う奴。その理解で正しい。ガラクタ集めのマネカタが欲しいのは人間が使う通貨のお札が欲しいのだ。

 

しかし今のオレは500円玉しか持っていない。どうやら探すしかないようだ。

 

彼は人間がかつてたくさんいた場所にあると言っていた。どうやらまたギンザに戻らなければいけないようだ。

 

ギンザへはジャンクショップの近くに何故かあったあのオブジェを使うことにした。これを使って転送するほうが速いからだ。

 

転送の仕方はシブヤからギンザに行く前に軽く教わっていた。行きたいところを念じ、オブジェを回す。

 

事故るのは嫌だが、長い通路を歩きで戻るよりはマシだった。

 

オレはドキドキしながらもオブジェ………オレは形式上ターミナルと名付け、それを回転させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年転送中………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転送は成功した。ギンザに戻り、お札を知らないかと再び聞き込むとバーにいる“ロキ”という悪魔なら持っているかもしれないとの情報を手に入れた。

 

いきなりの大物悪魔の名前に驚きつつもバーにいるロキ氏に訪ねにいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーに行き、ロキの思われる悪魔に話しかけると心底バカにしたような言葉が返ってきた。

 

「…オマエ、見ない顔だな。

ここに何しに来たんだ?ミルクでも飲みに来たのか?クククッ……

まあ、甘いの一杯飲んだら、うるさくしないで出てってくれよな」

 

ハッキリと言おうこいつ腹立つ。

 

だが、怒るわけにはいかないもしあるのならオサツを譲ってもらう立場なのだから。

 

「すみません、オサツってもの持ってませんか?」

 

「オサツ?オサツと言えば、人間の金だな。

さあて、あるんだか、無いんだか……クククッ…」

 

はっきり言え。持ってんのか持ってないのか……この感じじゃ持っているだろうが。

 

「オマエ、オサツが欲しいのか?」

 

「えぇ、ちょっとそれが必要なんですけど……」

 

そういうとロキはニタニタ笑った。

 

「それならひとつ、取引してみるか?

20000000マッカで、そこの部屋を丸ごと譲ってやる。果たしてオサツがあるかは知らんがね。

どうだい?20000000マッカ払うかい?」

 

「にっ⁉」

 

20000000マッカなんてもっているわけがない。また、こいつも払えるとは思ってないのだろう。

 

つまりこいつはもとより取引なんてするつもりは一切ないのだ。

 

オレは憮然とした態度を取りながらロキ氏の元を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「どうするのよ?オサツ、手にはいんないんでしょ?」

 

ハイピクシーが問うとオレは用意していた答えをだす。

 

「盗む」

 

「へっ?」

 

オレの提案にハイピクシーは目を剥く。

 

「あいつは自分の部屋の中に絶対オサツをもっている。取引もせず、力で訴えられないんならそうするしかないだろ」

 

「えぇ……それって……えぇ?」

 

オレの理論にハイピクシーは動揺する。

 

オレはハイピクシーを指差しながらビシッという。

 

「悪魔は奪うのが主流なんだろう?それに、そういったことの類いは妖精の十八番なんじゃないっけ?」

 

オレがそういうとハイピクシーはキランと目を輝かせた。

 

「そうねぇ……良いじゃない、やってやろうじゃないの」

 

進化して未だに小さなままである先生は腰に手をあて、フンスと息を吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロキの部屋にはバーからの入り口の他に、ギンザの外からの出入り口もあるらしい。

 

そこからロキの部屋に侵入し、盗むことにした。

 

部屋の前には守衛がいるとの情報だったが、なぜか不在だった。

 

部屋に侵入するとやはりオサツはあった。オレはそれを一切の容赦なく手にし、物置き空間に放り込んだ。

 

だが、部屋を見渡してみると他にも金目の物が存在した。

 

オレとピクシー、ジャックフロストはニヤリと笑うと片っ端から盗んでいった。

 

その後戻ってきた守衛を容赦なく袋叩きにして、オレ達は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後々、部屋に来たロキは悲痛な叫び声をあげたとバーのママは語った。ザマァみろよ。

 

 

 

 

 

 

 

 





トロール?誰ですか、ソレ(すっとぼけ)


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地下道の死神と模倣と執着の悪魔


今回、零時の心の闇が分かります。そして零時君がチートになる所以も見られます。




 

「人修羅!あなたという人はなんていうことをしてくれたのですか‼」

 

「だってぇ……!」

 

「だってもなにもありません!泥棒なんて下衆な真似をクドクドクドクド」

 

現在、オレハイピクシーとともにアークエンジェルに説教されている。原因はロキの部屋に泥棒をしたことだ。

 

恐らくアークエンジェルが人を導く天使だから説教しているのだろう。他の悪魔なら当然のように振る舞う。

 

規律を守る法が通用しないこの世界だからこそ、こういった存在は尊いのだろうが、いくらなんでも一時間正座はキツイ。

 

ちなみに人修羅というのはオレの悪魔としての名前らしい。なんでもオレは悪魔としてはそういう名前なんだとか。

 

「とりあえず、その盗んだものを返せとは言いません。私もあのような者にこのような富を持つなんぞ腹立たしいですからね。しかし今後このようなことをしないように!」

 

「「はい……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギンザ大地下道に戻るとガタクタ集めのマネカタは大層、喜んだ。

 

「おお!!オサツだーーーー!!」

 

そういってオサツに頬擦りする姿はなぜだろうか?貧相な服を着ている事も相まって哀れに見えてくる。

 

しばらくそうさせておくとハッとマネカタが正気に戻った。

 

「いけないいけない約束を忘れていたよ。少し待ってくれ」

 

そういうとマネカタは奥にしばし引きこもり、出てくると少しくたびれた紙を持ってきた。

 

「……お待たせ。この手紙を門番に渡すといい。きっとイケブクロへ通してくれるはずだ」

 

「分かった。ありがとさん」

 

「こちらこそ、オサツを持ってきてくれてありがとう!」

 

互いに礼をいうとオレは部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マネカタがすみかにしている水路には妖魔 イソラというフォルネウスにそっくりな悪魔がうじゃうじゃしていた。

 

そいつらの退治(という名前の殺戮)を行いつつ、オレはギンザ大地下道を奥へ奥へと進んでいった。

 

イソラ達にはありがたくオレの新しい技の実験台になってもらいました。

 

もう、物理だけのオレじゃないぜ!

 

「おぉおおお‼“竜巻”!」

 

「「「ギャアアァ⁉」」」

 

ヒフミというマガタマがオレに教えてくれた(?)技である“竜巻”は水ごとイソラ達を打ち上げ、切り裂いていった。

 

燃費は悪いが、この技は強力でこの辺の悪魔なら直撃すれば一発であの世行きにできるだろう。

 

そして自慢できる攻撃はもう1つ。

 

「“ヒートウェーブ”!」

 

「「「ギャン⁉」」」

 

“カムド”というマガタマが教えた技、“ヒートウェーブ”

 

自らの生命力で作り上げた剣を地面に打ち付け、文字通り火の波を放つ技だ。この技を覚えたことにより、自分の生命力で剣を作り上げることが出来るようになった。

 

しかしどうも使いこなせない気がする。剣を使うアークエンジェルの剣技を見て真似てはいるが、なにか、なにか足りない気がする。

 

そうこういっているうちに水路を抜け、ゲートにたどり着いた。

 

「ぴぴー、トマレなさい。

この先、マントラ軍のあるイケブクロに通じてます。

マントラ軍が来たら大変だから、この門は開けられないのです」

 

ゲートにはマネカタがひとり立っているが、はっきり言おう。これじゃゲートなんざすぐ突破されるぞ。

 

呆れと不安のため息を吐くが、それを言葉には出さない。マネカタを守る余裕なんてオレにはないからだ。冷酷だが、今は生きることと歩き回ることで精一杯である。

 

オレはただ黙ってガタクタ集めのマネカタが書いてくれた手紙とやらを渡した。

 

……?……アイツからの手紙?………?………!

……わかったのです。そういうことなら、仕方が無いのです。……よし、通してやるのです。

ここを通りたい時は、いつでも声を掛けるのです」

 

表情をコロコロ変えながら手紙を読んだマネカタはそういうとゲートを開閉するスイッチを押し、オレを通してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪魔を倒しながらギンザ大地下道を奥へ進むとマネカタの姿が見えた。

 

彼は何かを見て、腰を抜かしているようだった。

 

「マントラの悪魔とやらに、襲われてんのかね?」

 

オレは警戒体勢で近づくと、マネカタがすがり付いてきた。

 

「た、助けてくれ!こ、この先に、死神が出たんだ!」

 

「死神……何をいって……」

 

オレはそういったとたん、体内に違和感を感じた。オレはその感覚に覚えがあった。

 

オレのスキル、物置き空間に動くものがあるとその感覚が現れるのだ。

 

物置き空間を引っ掻き回すと、驚きの声をあげてしまった。

 

アマラ深界。そう教えられたあの世界でもらった【王国のメノラー】。それが勝手に火がつけられ、その火が激しく揺らめいているのだ。

 

なんだと悩んでいると、今度は全身をぞっとする感覚が包んだ。

 

この感覚は何度も感じた悪魔の気配。そして敵意。だが、なんだ?今まであった気配の中でも最も恐ろしい気配だ。

 

「ハイピクシー!アークエンジェル!警戒しろ‼」

 

「ふえっ⁉なんで、どうして!」

 

「しっ……静かに。何かが近づいて来ています。………恐ろしい……悪魔が……」

 

アークエンジェルが感じたのか辺りを警戒する。後方を警戒していたはずのアメノウズメでさえ、前に出て警戒している。

 

その時、声が聞こえた。

 

『メノラーの炎が私を戦いに駆り立てる……』

 

『貴公が何者かは知らぬが……メノラーを持っている以上、戦いは避けられぬ道だ』

 

『誰にも邪魔はさせぬ。私の結界内で雌雄を決しようではないか!』

 

その男の声が響いたとたん。

 

オレのいる床にシミのようなものが広がり、それはオレを声をあげる間もなく呑み込んだ。

 

「零時ッ⁉」

 

呑み込まれる瞬間、ハイピクシーの声が最後に聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと、オレは見知らぬ場所の上空を落下していた。

 

しかし、悪魔の身をもってすれば無傷で着地できる高さだったのでオレは衝撃を全身で受け止めるため、四肢全てを用いて着地した。

 

「フッ」

 

呼気とともに落下の衝撃に耐えるとオレは瞬時に立ちあがり、辺りを見渡す。

 

そこは荒野だった。あちこちに雷が落ち、空は燃えるように赤く、生命の気配がないのはボルテクス界と同じだった。

 

「………この結界、脱出しうるのは唯一人。すなわち勝者のみが敗者のメノラーを奪い、ここを出ることができる」

 

その時、オレ以外に誰もいないはずなのにどこからか声が響いた。

 

なにがなんだか分からないがその声に耳を傾ける。そこから得れる情報は存在するからだ

 

例えば今の言葉からなら、すなわち勝たなければ全てを失うということが分かる。この声はオレへの敵意と戦闘意欲に満ち満ちている。そしてここでいう勝負は文字通りの死闘なのだろうから。

 

「メノラーを持っているということは、貴公もまた最強の力を得んとするものか?」

 

その言葉とともにその声の主が目の前に現れた。

 

それは闘牛士のような出で立ちをしていた。きらびやかな衣装に身を包み、右手には深紅に染めたカポーテが握られている。

 

しかし闘牛士と違うのは左手に持っている細身の剣。そして髑髏の顔だった。

 

オレはソイツが放つ気配に精神的な圧迫感を覚えた。こいつの気配は死を連想させるのだ。なぜか脳裏に自分が死ぬ未来しか見えない。

 

オレはそれを感じてなぜ、あのマネカタが『悪魔が出た』ではなく、『死神が出た』と言ったのか分かった。

 

この雰囲気は力だけではない。こいつ特有の何かがあるのだ。

 

オレは骸骨のその顔を見据えた。骸骨にオレに向けて首をふった。

 

「許されぬ。それは許されぬぞ。最強の力を得るのは最高の戦士こそふさわしい。そして、それは……」

 

ここで言葉を切り、鮮やかな動きで空を切り裂き、骸骨、言い放った。

 

「血と喝采のなか、数多くの命を絶ってきた最強の剣士。すなわち私、【マタドール】こそふさわしい」

 

骸骨……マタドールは瞳のない眼窩でオレを睨めつける。

 

オレはその迫力に『押されなかった』。逆にソイツを見据える。

 

「貴公はメノラーを手にするものとしては失礼ながら力不足と見受けれる。私のような物に渡すのが相応だが……言ったところで受け入れはしまい」

 

当然だ。オレはあの時から奪われるだけの自分にならないと誓った。この王国のメノラーは要るものではないが、易々と渡すのはその誓いに反する。

 

その心情を知りはしないだろうがマタドールは剣を構えた。

 

「ゆえに貴公の体に問おう。私と貴公……どちらがメノラーを持するにふさわしい強者か……」

 

「この剣とカポーテにかけ、今宵もまた勝利を誓わん‼

さぁ血の劇場よ!最高の戦いの幕開けだ!」

 

「その誓い、破らせてもらうよ」

 

オレが静かにそういうとマタドールはカポーテをはためかせ、オレは拳をだらりと構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いが始まった。

 

マタドールの剣技は鮮やか、かつ正確だった。最強の剣士を名乗るのは伊達ではないようだ。

 

こちらも不恰好ながら反撃させてもらう。剣が頬を掠めるとこちらも拳を敵の頭に向けて放つ!

 

「フンッ!」

 

「むっ!」

 

攻撃の合間に喰らわせた攻撃は掠めるだけにとどまった。

 

そしてヒラリとマタドールが飛び退き、距離を取った。

 

「なるほど。メノラーを持つだけのことはある。だが、これならば触れられまい!」

 

“赤のカポーテ”

 

マタドールがカポーテを振るうとマタドールの体が緑色に一瞬輝く。

 

それは“スクカジャ”という魔法に似ているが、それよりも光が濃い。まさか……

 

「ヤァ!」

 

「のわっ⁉」

 

スクカジャよりも圧倒的に加速したマタドールの連続攻撃がオレを襲った。大きく飛び退いてかわすが、何度か掠めて全身のあちこちから血が流れ始める。

 

「逃がさぬ!」

 

マタドールは切り裂くような声と共にこちらへ跳躍し、その技を放った。

 

「“血のアンダルシア”!」

 

「ぎっ……!」

 

剣が血の色に光ったと思った瞬間、神速としか形容できないスピードで何度もマタドールが突きを放った。

 

オレは再び飛び退くが今度は遅かった。カムドで物理に耐性を持っているはずの体に深く突き刺さった。

 

ここで痛みに怯んだら負けだ。オレは何度も地を蹴り、距離を離そうとするがマタドールは無言でそれを負う。

 

戦いは劣勢を強いられた。スピードで完全に負けているのだ。そのうちあちこち刺され、突かれ、無傷な体の部位がなくなった。

 

マタドールは勝利を内心で確定させたのか、歯をカタカタ鳴らす。

 

しかしなぜだろう。なぜだ。

 

『なぜ、怖くない?』

 

頭がイカれたわけじゃない。そうであれば今の思考もできていない。

 

思えばフォルネウスやスペクターに劣勢に追い詰められた時も現れた感情は恐怖でなく、怒りだった。

 

今、オレの心を支配しているのも怒りとその怒りに対しての戸惑い。

 

いや、恐怖はある。だがそれはマタドールに対してではなく、負けることに対して、なのだ。

 

オレは小さい頃からいじめられていた。それはそのうち悪質になり、ついには大切な物まで壊された。

 

その時からオレは敗北することに恐怖を抱いた。そしてそれ以上に勝たなければいけないという思いを抱いた。

 

オレは報復に走った。オレをいじめたもの、オレをいじめようとするもの。その全てを敵とし、あらゆる手を使って潰した。

 

オレは1つのことに天才になれる才能はなかったが、あらゆることに精通する器用さはあったのだ。行える手は多数あった。

 

どんな手を使っても、オレの敵になったものを徹底的に潰したオレを千晶は妄執と執念の塊と評したものだ。

 

過去を思い出したオレはハッとした。

 

マタドールに恐怖せず、怒りが沸き上がる理由を見つけ、オレの動きが一瞬止まってしまった。

 

「終わりだ!」

 

マタドールは声とともに剣を突きだした。狙いは心臓、当たれば死ぬことは確定だ。

 

だがその時にもオレに沸き上がるのは恐怖ではなく、怒りだった。

 

「ウオラァ!」

 

獣のような声で瞬時に剣を精製し、それで胸に迫り来る攻撃的をオレは防いだ。

 

「ッ⁉」

 

骸骨ゆえに表情は読めないが、マタドールにまぶたがあるのなら目を限界まで見開いていただろう。

 

その隙にオレは剣を押し込み、マタドールを吹き飛ばした。

 

「ぐっ!」

 

吹き飛んだマタドールは受身をとると地面に着地し、こちらを睨めつけた。

 

「追い詰められたネズミの抵抗か。しかし私には勝て「うるさい」……!」

 

オレは痛みも忘れて剣で攻撃する。マタドールは慌ててガードする。

 

オレは剣で攻撃の雨を降らせた。マタドールは驚愕の声を漏らす。

 

「なぜだ……なぜだなぜだ⁉なぜ剣で私と渡り合える⁉なぜ加速した私の動きを追える⁉」

 

「お前の動きはもう【見飽きた】」

 

自分でも驚くほど冷たい声で言い放ち、オレはマタドールに向けてその剣技を放った。

 

「“血のアンダルシア”!」

 

「何ッ!ぐわぁ⁉」

 

マタドールに初めて攻撃が直撃した瞬間だった。

 

「なぜだ⁉なぜ、私の剣技を使える⁉」

 

「言ったろ?【見飽きた】と」

 

オレの才能は真似ること。マタドールのやれることは全てオレにもできる。“血のアンダルシア”も生命力を糧にし、剣を振るう腕を加速させてマタドールのように何度も高速で突けば良い。

 

オレが悪魔に恐怖しない理由は1つ。オレが勝ちへの執念があまりにも深いからだ。

 

どんな手を使ってでも負けないという想いがオレは強い。その手段を考えるのもオレは得意だ。

 

戦う技術も真似て学べる。心意気に至っては絶対に負けない。

 

はっきり言おう。死ぬイメージは見えてもそれが現実になる未来は見えない!

 

戦いは執念が原動力だということを教えてやる!

 

「死にさらせッ………!オレの敵になったのなら……死にさらせェェェェェェェェ‼」

 

「死ぬのは貴公だッ!」

 

剣戟に剣戟の応酬を繰り返す。ほら、剣士という枠組みに嵌まっているから剣でしか攻撃しない。

 

オレ達がやっていることにルールはないんだぜ‼

 

「“ヒートウェーブ”‼」

 

剣でマタドールを弾くと蹴りでヒートウェーブを放つ。

 

「なっ⁉」

 

別に炎の波を放つのに武器を用いる必要はないはずだ。薙ぐものがあればそれで良い。

 

しかしぶっつけ本番で撃ったからか威力が小さい。しかし剣士に生命線である腕を切り落とせた。

 

完全に意表を突かれたマタドールはオレから距離を取ろうとした。再生する手でもあるのだろうがそうはさせない。

 

「足掻くんじゃねぇッ!」

 

生命力を糧にすれば一時的に膨大なパワーを手に入れられるのはマタドールの“血のアンダルシア”オレの“突撃”が示している。

 

オレはそれを使って加速し、剣を振り上げてマタドールに迫る。

 

「うおおおお‼」

 

マタドールは裂帛の気勢をあげてオレの攻撃をカポーテで抑える。ほら、またオレを見誤った。

 

腕は二本ある。剣は瞬時に作り出せる。さて、これで次の攻撃は………分かるよな?

 

「これで終いだ!」

 

オレは二本目の剣を作り、横に薙いだ。

 

意表を突かれ、オレを見誤り片腕を無くしたマタドールはなす術もなく首を飛ばされた。

 

そして、反す腕で身体を薙ぎ、自由になった腕とともに身体をバラバラに斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今もチート?いえいえ、強いだけです。

質問、感想お待ちしています


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メノラーの謎


主人公が本格的にアマラ深海に触れ始める回です。

意味深な言葉が増えます。








 

身体を斬られ、頭部のみになったマタドールはカタカタとオレに言った。

 

「……貴公は……恐ろしいな……」

 

「恐ろしい、ねぇ。初めていわれたな、その言葉」

 

生命力を大量消費したオレは、息を荒げながらもオレはクックッと笑う。

 

そういうとマタドールはカタカタと笑った。

 

「先程言った、力不足という言葉は謝罪しよう………」

 

「いいさ。力不足なのは否めねぇよ。お前が剣士という枠組みに固執していたから勝てたものさ。オレはあらゆる手段を使わなければ勝てない汚い奴ってだけ」

 

「そうか……」

 

そういうとマタドールは達観したように呟いた。

 

「なるほど、貴公はかつて弱かったのだな。だからこそ、勝利に執着するあのようなギラギラとした目をしていたのだな……なるほど、私は貴公のその勝利に執着するその想いに負けたのか……

 

敗北を忌み、それを原動力として勝利を渇望するその心……恐ろしきものよ……」

 

そういうとマタドールは言葉を放たなくなった。絶命したようだ。

 

マタドールの頭部が崩れ、マガツヒに消えるとそこに燭台が現れた。

 

オレの持つ【王国のメノラー】と同じもの、しかし名前が違っていた。

 

【基礎のメノラー】その燭台はそういう名前だった。

 

マガツヒを吸い尽くし、それを確認するとふっとオレの体が浮遊感に包みこまれ、気がつくとギンザ大地下道に戻っていた。

 

「零時‼」

 

戻って早々、恐らく心配していたハイピクシーが飛んで来る。痛い。

 

「人修羅。一体なにがあったのよ?うわ、ひどいわねその傷……」

 

アメノウズメがそういうとアークエンジェルに指示し、オレを治癒する。自身も治癒魔法でオレを治癒する。

 

「ちょっと、おっかない悪魔に襲われてね。危うく殺されるところだった……」

 

「あなたがそういうんですからよほどの相手だったようですね」

 

アークエンジェルは治癒を終わらせるとふぅと息をついた。

 

その時、聞き覚えのある声が頭を中に響いた。

 

それは、アマラ深界で聞いたあの淑女の言葉だった。

 

「……やはりメノラー同士は引き合いましたか」

 

仲魔達も聞こえたのか辺りをキョロキョロとその声の元を探る。

 

しかし無駄だろう。こういうのは超遠距離でも使えるものだ。恐らく声の元はアマラ深界から動いてはいまい。

 

「…零時、お願いがあります。そのメノラーを私たちの元へ届けてはくれませんか?あなたのいうターミナルから、アマラ深界へ行けるようにしておきます。急かしはしませんがくれぐれもそのメノラーを無くさぬように……」

 

そういうと声は聞こえなくなった。

 

「人修羅……今のは?」

 

「アマラ深界とか魔界とか呼ばれているところの招待状みたいだねぇ。なら、行ってみるか」

 

アークエンジェルの問いに答えると回復した体で立ちあがり、ターミナルへと戻っていった。

 

なによりオレは、このメノラーについて知りたかった。このメノラーになんの意味があるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アマラ深界への行き方は簡単だった。地下道からギンザへ行くように、アマラ深海に行きたいと願い、ターミナルを回転させればそれで行けた。

 

今度は自らの意思でこの地へ降り立つ。相変わらず空気の重い世界だ。

 

「ここどこ?ヤバい雰囲気がプンプンするわ……」

 

ハイピクシーのその言葉に賛同しながらオレは部屋の中央へ向かった。

 

そして目の前にある覗き穴を覗き、意識を【向こう】へ飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識を飛ばされた先は、見覚えのあるあの劇場。幕で閉じられていたそれが、ゆっくりと幕を上げ始めた。

 

劇場には顔を隠した喪服の女と、車椅子の老紳士がいた。

 

「………あの魔人からメノラーを取り戻してくれたようね、零時くん」

 

その口調にオレは眉をひそめた。いきなり敬語だった女の口調が崩れたことではない。その口調は誰かに、誰かにそっくりなのだ。

 

それが誰なのか答えが出る前に喪服の女の話は続いた。

 

「私がずっと前から思っていたとおり、あなたは私の力になってくれるのね。……そう信じていたわ。『例え世界が変わっても』って……」

 

「…………」

 

答えがでた。しかしそれはありえない答えだった。だってそれは……

 

首をブンブン振り(意識だけなのでそのつもり)思考を止める。今は言葉を聞くことが大切だ。考えることは後で時間が出来る。その時に考えれば良い。

 

その時、車椅子の老紳士が喪服の女になにかを呟いた。

 

「……我が主の言葉をお伝えします。あなたが持つメノラー。それは我が主の大切なコレクションだったのです。メノラーはアマラ深界の流脈を制御する生命の炎。それが恐ろしい魔人達によってどこかへ持ち去られてしまったのです」

 

「それを手にしたものはこのアマラ深界へ自由に行き来する力を得ます。しかしそれは誰彼無しに許されることではないのです。ここは本来、我が主が許した者しか足を踏み入れられぬ禁忌の場所なのです」

 

そういうと女は老紳士の近くに寄り、言葉を続けた。

 

「そこであなたにお願いがあります。そのメノラー、本来アマラの各層を照らす生命の炎を取り返し、アマラ深界に戻していただけないでしょうか」

 

「それが我が主の願いです。全部で十と一本あるメノラーを取り返すこと。それをしていただけるならあなたがアマラ深界へ出入りすることを許しましょう」

 

「いかがでしょう?あなたにとっても損はないと思われますが…頼まれていただけますか?」

 

女の言葉にオレは悩んだ。

 

女の言葉には怪しい部分がいくつもある。メノラーを集めるとなると魔人達とも戦わなければいけない。

 

しかしメノラーを取り返せば老紳士の思惑に近づけるのもまた事実だ。自身の箱庭でウロウロしても良いというのであればこの老紳士に近づける。物理的にも情報的にも。

 

オレは了承することにした。この二人の企みを知るために。

 

すると女は口元しか見えないがわずかに微笑んだのだ。

 

「ありがとう……零時くん。君なら……いえ、あなたならそういうと信じておりました。あなたにひとつのメノラーを渡したのはメノラー同士が引き合うからです。それを持っていればいずれ全てのメノラーを見つけだすことが出来るでしょう」

 

「メノラーを取り戻したらアマラ深界の各階層へ配して下さい。各階層へ配する毎にその働きに報いていきたいと思います」

 

「あなたがたの世界でアマラの天輪鼓。トウキョウでいうターミナルと呼ばれる装置。それにメノラーをかざすことでこの地へ自由に行き来する力を得るでしょう。」

 

「それではくれでもお気をつけて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いじ………零時‼」

 

「おうっ⁉」

 

意識を戻されるとハイピクシーに揺さぶられていた。アークエンジェルは辺りをウロウロと飛んでいたようだし、アメノウズメに至ってはなぜか服を脱ごうとしている。なぜだ。

 

「ハイピクシー、アークエンジェル。落ち着け。アメノウズメ、お前は何してる!」

 

「いや、裸で踊ればショックで意識が戻るかな~って」

 

「やめろやめろむしろ意識失うってソレ!……しまったお前らに説明してなかったっけ」

 

オレは頭を掻きながら仲魔達に説明した。

 

「魔人ねぇ……それって危ないやつらじゃない?」

 

「それでもあの老紳士の思惑を知るにはメノラーを取り戻すしかない。幸い、魔人は倒せたんだから」

 

次の魔人が倒せるとは限らないが。これは口に出さない。

 

アークエンジェルはしばしふぅむと唸るとオレに言った。

 

「人修羅。あなたにこれだけは伝えておきます」

 

「あ?なんだよ?」

 

「人に非ず、悪魔に非ず。人修羅は悪魔にそう呼ばれています。故に何者にもなれるとも言われています」

 

「………どういう意味だ?」

 

問い返すと首をふるアークエンジェル。自分で考えろということか。

 

やれやれと首を振りながらオレはアマラ深界にメノラーを配置するために奥へ進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アマラ深界の第一カルパという場所までは落下して移動するというなんともアクティビティな移動手段でしか行けなかった。

 

第一カルパは歩き回ると強力な悪魔がいたが、マタドールよりは全然弱い。全部斬り捨て、殴殺してやった。おかげで随分と強くなった。

 

だだここにいる悪魔は仲魔になってくれない。話しかけても殺す気満々で話も聞いてくれないのだ。まぁ、オレの敵にしかならないのなら斬り捨てるだけだ。

 

ここでは様々な仕掛け、罠があって危険だったが何より危険なのは思念体だった。あちこちにいる思念体はよく詐欺まがいのことをやってくる。おかげさまで幾分かマッカを取られた。

 

あちこちに宝箱があり、それ以上に儲けていたのは別の話だ。

 

それでも奥に行くとそこにはアマラ深界入り口にあったあの覗き穴があった。

 

オレは仲魔達に行ってくると言い、覗き穴を覗いて再び意識を向こうへ飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程のようにオレがそこへ着くと劇場は幕を上げ、喪服の女と車椅子に乗る老紳士が例によって姿を現した。

 

「アマラ深界を通り抜け、無事にメノラーを配することができたようですね。しかし気をつけなさい。メノラーを奪った魔人という悪魔は悪魔のなかでも特に異質な存在なのです」

 

オレがいる所へ顔をむけ、喪服の女が語り始めるのももはや恒例になっている。オレは耳を傾ける。

 

「その魔人がメノラーを奪ったのも、思えば一人の男が受胎を引き起こしたからかもしれません。……かつて人の身であったあなたはなにも知らずにこの世界をさまよっているのでしょう。」

 

「では、今回はメノラーを配していただいたお礼に、今回はカグツチとボルテクス界についてお教えしましょう」

 

そういうと喪服の女の長く、意味のある話が始まった。

 

「カグツチ…これは創世をなす為の光です。

創世とは即ち、これまでの世界の滅びと引き換えに、新たな世界を誕生させる事です。

その新たな世界の行く末を、カグツチはその時々で選んだ生命体に決めさせるのです。

トウキョウにも、カグツチに選ばれ創生を為さんとする者が幾人か存在している事でしょう。

カグツチに選ばれた者が誰で、どのような意思を持っているか…

それにより生まれてくる世界の姿形が決定されるのです。

そして…この広大なるアマラ宇宙の中、その創世が為されているのはこのボルテスクだけでは無いのです。

あらゆる場所で、カグツチは生まれ…育ち…そして滅んで行くのです。

あなたの知らない何処かで、また幾万、幾億という世界が生まれ変わっている事でしょう。

それが…大いなる意思の元にさだめられたアマラの摂理なのです。

我が主と共に…いくつもの世界の興りを…そこにある生命の営みを…

そして最期の滅びの姿を見つめてきました。

何のために世界は生まれ変わるのか。という解きえぬ命題と共に…」

 

「今……まさにその答えを見つけようとしているのかもしれません。あなたの行動がその機縁となるでしょう」

 

ここで喪服の女は言葉を切り、そして続けた。

 

「一刻も早く残りのメノラーを集め、我が主の下へ来てください。我が主はあなたに期待しております、堕ちた天使に授けられたその力、決して無にはしないよう、お気をつけを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喪服の女の話を聞くとオレはボルテクス界へ戻った。

 

あの女の話はオレに有益な情報を教えてくれた。受胎というものがどういうものなのか?その問いの答えだ。

 

それが本当なら氷川が受胎を起こさなくても受胎というものはいずれ起こるものということになる。

 

そして創世。受胎を生き残った人間が次の世界の姿を決められるという儀式。

 

それが本当なら、千晶や勇や先生、氷川やヒジリ…そしてオレは次の世界の姿を決められるということになる。そしてその形は意思によって変わる。

 

だがここでまた謎が生まれる。

 

どうやって創世をするのか、と、次の世界的の姿を決めるのに複数人間が存在している理由だ。特に後半は次の世界の姿を決めるためにその思想が正反対になってしまった場合、どうするのか。

 

疑問を考えながらオレはギンザ大地下道を進んだ。

 

ギンザ大地下道へ抜けるのは楽だった。それはマタドールという強敵を倒し、そのマガツヒを喰ったオレとってはもはやザコになってしまったのだ。

 

ギンザ大地下道を抜けると霊園に出た。マネカタの死骸と思われる泥と囚人服の山をみて、心の中で黙祷するとオレはそこを出て、イケブクロに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギンザがまだ綺麗さがあったのに対し、イケブクロは荒れ放題になっていた。

 

あちこちにいる妖鬼 オニに睨まれ、下手すれば身ぐるみ剥ごうと襲いかかってくるのだ。見事に返り討ちにして逆に身ぐるみ剥いでやった。

 

またそれを脅sゲフンゲフン!お話するとマントラ軍の本部の場所を教えてくれた。親切だなぁ(棒)

 

追い剥ぎどもを倒していき、マントラ軍の本営だというビルにたどり着く。

 

意を決して中に入ると見知った顔がいた。

 

そいつは巨大な悪魔と相対していた。

 

「なっ…なんだよ貴様っ!!オッ…オレは何にもしてねえっての!!」

 

流行に乗った服装、トレードマークの帽子をかぶったオレと同じ歳の少年はその悪魔にひきつった声で抗議していた。

 

そいつはオレに気づき、驚愕の顔をした

 

「お、オマエ……零時か⁉」

 

「勇……⁉」

 

そう、新田 勇だった。

 

 

 

 

 

 

 

 





中途半端で終わってしまった。

用事があるんです。許して☆

なに言ってんだろ?オレ。






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決闘裁判


私は原作ではこの時、楽に勝てたんですよね。(アマラ深界で苦戦してレベルが上がっていて)

さて、この主人公はどうでしょう。








 

「零時か⁉」

 

「勇⁉」

 

感動の再開……とは言い難い。勇の背後には巨人のような悪魔がいるのだから。

 

勇は慌てた様子でオレ叫んだ。

 

「助けてくれっ!こんな所で時間をくってるヒマはねえんだ!祐子先生が……っ!!」

 

「勇!」

 

オレが警告の声を飛ばすが遅かった。勇の背後にいる悪魔が手に持つハンマーで勇を殴り飛ばした。

 

「ガハッ⁉」

 

肺から息を絞り出され、勇は柱に叩きつけられた。だが死んではないようだ。

 

巨人悪魔はそれを一瞥するとトドメを刺そうとしているのか勇の頭をつかもうとした。

 

「させるかよ!」

 

オレはワンステップで勇の下へ向かい巨人悪魔の腕を蹴り飛ばした。

 

「ッ!」

 

頭部全てをマスクで覆っているため、表情は窺えないが、驚きの声を漏らした巨人。

 

それは目出し穴からオレを睨み付けた

 

「見かけぬ悪魔だな?このマントラに足を踏み入れし者は全て我が裁きを受けてもらう。そいつを捕まえておけ!」

 

そういうとどこに潜んでいたのかぞろぞろと獣型の悪魔が現れ、オレを囲んだ。

 

「零時ッ!」

 

「人修羅!」

 

「待てッ!」

 

ストックにいる仲魔達が自分から出ようとするのをオレは内心で制した。

 

この数で勇を守りながら戦うなんて出来やしない。今はあの巨人が言った裁きとやらに身を任せた方が良い。少なくとも今、殺されるなんてことはないだろう。

 

オレは獣の悪魔達に捕縛され、連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、

 

「おい!起きろ!いつまでも寝てるんじゃねぇ!」

 

「へいへい、起きますよ。ったく」

 

地下牢に閉じ込められたオレはしばしの休息とばかりに寝ていたが、カボチャ頭の悪魔に叩き起こされた。

 

「オマエはこれから裁判を受けるんだぞ?力による決闘裁判だ!潔白だと言い張るのなら、死ぬ気で相手をねじ伏せてみろ。

まあ、オマエには無理だろうなぁ……

ひゃははは……!」

 

言いたいことをキンキンとやかましい声で捲し立てるとカボチャの悪魔はランタンを揺らしながら去っていった。

 

しかしここは暑い。あちこちで松明をゴウゴウと燃やしているもんだから密閉空間となると暑くて仕方ない。

 

一度仲魔達を召喚して牢をぶち破ろうかと考えだが、勇のことが心配だし、マントラ軍の戦力が分からない。これは悪手ということで却下した。

 

地下牢にはオレの他にも囚人がいるようで、あちこちで出せだのなんだのと喚き声が聞こえた。

 

オレがため息をつくとさっきのカボチャ悪魔が現れ、牢をあけた。

 

「時間だ。とっとと出て、闘技場まで行きやがれ!」

 

そういうとカボチャ悪魔はビュンビュンと去っていった。

 

っと、ここで問題が発生した。

 

闘技場ってどこだよ。ってか案内しろよ。

 

毒づきながら歩くと、イケブクロで何度か倒した妖鬼 オニに出くわした。

 

オニはオレをみると怪訝な顔をした。

 

「何だオマエ。裁判を受けるのなら、さっさと反対側の扉に行けよ。

それともオレサマを買収して、裁判の裏情報を聞き出す気か?」

 

「え?」

 

そんなつもり毛頭なかったが、そうかその手があるじゃないか。

 

オレがそうだというとオニはギロリとオレを睨んだ。

 

 

「……オマエ!被告の分際で……!」

 

え?自分が買収云々言ってた癖に怒るの?

 

「……なかなか分かってるじゃねえか!」

 

「だあぁ⁉」

 

どうやら買収上等らしい。オレは思わずずっこけた。

 

「ホラ、誰かに見られる。さっさと200マッカよこせ。」

 

しかも思ったより安い!よっぽど貧乏生活が長いのか。

 

オレはなぜか浮かんだ哀れみの念をこめながらオニに200マッカ支払った。

 

オニは嬉しそうにそれを懐にしまうと威勢の良い声を響かせた。

 

「よし……じゃあ耳の穴カッポじってよく聞けよ。

いいか?オレたちマントラの流儀では、裁判はバトル3連戦で白黒つける。

で、その3連勝に勝てなきゃ有罪、……すなわち死刑だ」

 

良いのかそんな裁き方で……という思いは言葉にしない。本当に力至上主義のようだ。

 

「死刑はオマエの悪魔人生のゲームオーバーを意味する。せいぜい準備ぐらい整えとけよ」

 

「お気遣いどうも……ねぇお兄さん、ついでにその3連戦の相手と情報……教えてくれない?」

 

にやりと笑いながらオレはポケットを叩く。チャリチャリというマッカの音が響き、オニはングと喉を鳴らした。

 

「…なら、もう200マッカだ。こっちも命懸けなんだよ」

 

「よしよし。じゃあ、オマエが裁判で戦う相手の情報を教えてやろう。まずは……」

 

「シッ!」

 

オレはしゃべろうとしたオニに制止の態度をとった。誰かが近づく気配だしたのだ。

 

案の定、オレがこないことを怪しんだのかあのカボチャ悪魔が現れた。

 

「おい、何をしてるんだぁ?

またヨカラヌコトをしてるんじゃないかぁ?」

 

まさしく図星である。オニは冷や汗をかきながらブンブンと首をふった。

 

「な……何でもねぇよ!……そう!コイツが道を間違えたんだ。だから注意してたのさ!なぁ!」

 

「そうそう。案内もないからさぁ、無理もないよ~」

 

カボチャ悪魔は疑わしげにこちらを睨むが、証拠不十分だと判断したらしく、フンと鼻を鳴らした。

 

「へぇ……そうかい。そりゃあ親切なこったねぇ……」

 

そういってカボチャ悪魔はフワフワと去っていった。

 

それを見届けるとオニとオレはふぅと息を吐いた。

 

「……あぶねぇ、あぶねぇ。

アイツ、足音ねぇから気付かなかったぜ」

 

「その足が無いもんな…」

 

冷や汗を拭うとオニはよし、と言った。

 

「……よし、続きだ。対戦相手の情報だったな。

まず、初めの対戦相手は、炎で被告を焼きまくる悪魔だ。

炎といえば、アレに弱い。アレだよアレ、分かるだろう?」

 

「もちろん」

 

火炎系の攻撃を得てとするものは基本氷結攻撃に弱い。シラヌイのマガタマを飲み、自身を火炎無効にして、攻撃をアイスブレスを主軸にすれば押せるだろう。

 

「次の悪魔が、衝撃的な魔法を使うレディーだ。ルックスも中々の衝撃系だ。

……男の魅力で感電させるか?」

 

「なるほど」

 

魅力で感電させるなんて出来るわけがないが要するにその女の悪魔は電撃に弱いということだ。しかし電撃の技はオレにはない。これは仲魔に任せるしかないようだ。

 

「で、最後だ。最後は、マントラ軍No.2のあのお方だ。キツーイ雷落とされねえよう、せいぜい気をつけな。

ちなみに、弱点なんて無いぜ、あのお方には」

 

「ゲッ、電撃使いに弱点無しか……」

 

電撃使いとなると電撃に弱いアメノウズメが使えない。

また、オレの持っているマガタマに電撃耐性がつくものがないのだ。

 

どうしようかと思案しているとオニが去れとばかりに手を振った。

 

「……さあ、情報はこれで全部だ。

さっさと準備を済まして、反対側の扉に行け。……またアイツに怪しまれるだろう?」

 

「あぁ、そうだな」

 

そういうとオレは反対側の扉に向かい、マガタマをシラヌイに変えながら闘技場とやらに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年移動中………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場に入ると出入り口を閉められ、閉じ込められた。

 

すると闘技場に近くに控えていたオニがなにやら読み上げ始めた。

 

「これより、我らマントラの流儀にのっとり、決闘による裁判を開廷する!

……被告夜藤 零時は、ふてぶてしくイケブクロをうろつき、挙句に、我らの本営ビルに入り込んだ」

 

……不法侵入なのは認めるがそれで死刑というのもひどい話だ。口には出さないが。

 

「さらに、目撃者の証言によれば、ギンザの大地下道を通って来たとのことで、ニヒロのスパイの可能性もある……」

 

まぁ、それは分かるが詳しく調べもしないで死刑か。イライラしてきた。

 

「このイケブクロの街は、我らマントラ軍の縄張りだ!

我らの縄張りで、新参者がデカイ顔するだけでも、十分有罪に値する!」

 

オニがそういうと悪魔の召喚音が轟き、オレの目の前に二つの頭を持った魔獣の悪魔が現れた。

 

名前は………魔獣 オルトロス。

 

オルトロスはオレを見ると気に入らなさそうに唸った

 

「判決ヲ 下ス……

……オマエハ 死刑だ。死刑以外 アリエナイ。

オレノ 心ヲ満タス死ニ方ヲ 考エロ。準備ノ時間ヲ クレテヤル」

 

「準備の時間なんていらねぇからとっととかかってこい犬っころ」

 

オレがそういうとオルトロスは怒りに顔を染め、遠吠えをあげて襲いかかってきた。

 

しかし、まぁ、遅い。マタドールのほうが全然速いし怖かった。そもそも、こいつの態度が気に入らない。初っ端っから勝つ気でいるやつは……

 

「気に入らねぇんだよ!犬ッころがァ!」

 

「クオォン⁉」

 

飛びかかってきたオルトロスの顔と顔の間を前蹴りで足蹴にし、オルトロスを闘技場の端まで吹き飛ばした。

 

オレは間髪いれずに息を吸い込み、そしてその技を吐き出した。

 

“アイスブレス”

 

ゴォウという轟音とともにオレの口から猛烈な吹雪が放たれる。

 

「ガァアアア⁉」

 

オルトロスに直撃し、奴の体がみるみるうちに凍ってゆく。

 

だが、奴もイケブクロのオニのように雑魚というわけではないらしい。全身から炎を放ち、オレの冷気を一瞬防ぐとその一瞬で氷から逃れた。

 

オレは冷気の残滓を吐き出しながら手に生命力で作ったナイフを何本か作り、あちこちに動きながら投げた。

 

魔獣は地上での機動力が長所だが、動ける範囲に制限がある闘技場では派手に動けない。おまけに奴は体がデカイ。

 

一方、こっちは体格に恵まれない分、密閉空間でも機動力はそんなに落ちない。

 

オレの投げるナイフは面白いように当たった。

 

「ガァアアア!人間悪魔ゴトキガァ!」

 

「口ばっか達者なのも気に入らないねぇ!」

 

奴が動き回るオレに“ファイアブレス”を放つが火炎無効のオレには無意味だ。逆に“アイスブレス”で反撃してやった。

 

今度こそ凍りついたオルトロスにオレは残虐な笑みをうかべながら生命力で作った剣を出した。

 

「あばよ。ワンちゃん」

 

オレはそういうと容赦なく凍りついたオルトロスの首を切り落とし、バラけた首を容赦なく踏み砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二回戦め、衝撃魔法を得てとする女悪魔とやらが出てきた。

 

鬼女 ヤクシニーというらしいこの悪魔はにたりとオレに笑うと両手に持った二本の刃を擦り合わせた。

 

「オルトロスに勝てた程度じゃ、あんたに降った判決は覆らないわ。

あんたは死刑なの……ああ早く切り刻みたい!

でも、準備の時間はあげる。それがルールだからね。せいぜい、あがいてちょうだいね」

 

「言ってろ」

 

オレは闘技場の端に行き、マガタマを付け替えた。シラヌイだと衝撃に弱くなってしまうからだ。

 

選んだマガタマはヒフミ。これで衝撃はオレには効かない。

 

次いで失った生命力を魔石で回復させ、オレはストックのハイピクシーに話しかけた。

 

「なに?零時」

 

「あぁ。やってほしいことがある」

 

オレはハイピクシーにやってほしいことをいうと、ヤクシニーに向き合った。

 

「では、よろしいかしら?」

 

「あぁ、どこからでもどうぞ」

 

「それじゃ、遠慮なく……ヤァア!」

 

オレがそういうとヤクシニーは嬉々としてオレに斬りかかる。しかしまぁ、こいつも遅いったらなんの。二本の剣を持っている割には攻撃は読めるし、単純だし。あぁ、もう【見飽きた】

 

オレはヤクシニーの持つ剣と同じ形の剣を生成し、ヤクシニーに斬りかかった。

 

「あっつ……⁉」

 

ヤクシニーは体を後ろに反らしてかわすが、頬に擦った。血がそこから流れ出す。

 

オレは猛攻を放った。上下左右から剣を振るう。

 

「オラ、避けてみせろよ。エェ?お前の動きだぞ、この剣技は!」

 

「このッ……!嘗めないでちょうだい!」

 

“ザンダイン”

 

ヤクシニーが二本の剣を打ち付け、単体衝撃魔法の最上位を放つが、今のオレに衝撃は効かない。

 

オレは左手に持つ剣を生命力に還元して、剣を一本にするとそれを突きだした。

 

地下道で戦った、オレを恐ろしいと評価した闘牛士を思い浮かべながら。

 

「“血のアンダルシア”!」

 

「あぁぁぁぁぁッ!!」

 

体のあちこちに傷をつけながらヤクシニーはなんとか突きの嵐から抜け出す。

 

そして荒い息をしながらオレを睨み付ける。

 

「ムカつく……あぁ……ムカつく!」

 

オレはその姿を嘲笑した。

 

「ムカつくのは良いけどさぁ。一つ忠告しておくぜ?戦いのとき、一つのことに集中してるとやられるぞ」

 

オレがそういうと、雷の音が二度と轟いた。

 

一つはハイピクシーを召喚した音。もう一つはハイピクシーが電撃魔法を放った音だった。

 

「え……?」

 

下級の“ジオ”とはいえ弱点属性を突かれたヤクシニーは目を見開き、驚愕の声をあげる。

 

オレはそれに構わず、ヤクシニーの懐に飛びこみ、剣でヤクシニーの首を飛ばした。

 

首を失ったヤクシニーの体はビクンと震えると、血を噴き出し、ばたりと倒れた。

 

一応マガツヒが抜けきるまで警戒する。悪魔の生命力は伊達ではない。体のみで襲いかかるなんて芸当もやってくる可能性があるのだ。

 

そしてヤクシニーの体が全てマガツヒになるのを見て、安心してオレとハイピクシーはマガツヒを喰らいはじめた

 

さて、残りはマントラのNo.2さんのみだ。

 

 

 

 

 

 





すみません、中途半端に終わってしまいました。

次回、決闘裁判、決着です。

感想、お待ちしています。


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雷神とデビルハンター


感想で、ダンテかライドウどっちが出るのかと言われたことがあります。その問いはタイトルが答えになっています。

真・女神転生3 nocturne マニアクスを知らない方は純粋に物語をお楽しみください。




 

決闘裁判三回戦め。

 

ついにその三番目の悪魔がやって来た。

 

それは勇を殴り飛ばしたあの巨人悪魔だった。

 

巨人はオレを見下ろすと名乗った。

 

「ワタシは……鬼神トール」

 

トール。有名なその名前に内心で驚いた。トールといえばゲームとかでチラホラみる雷神ではないか。なるほど雷を落とされるとオニが戦慄するのも頷ける。

 

「ここまで見事な戦いぶりだった、と誉めてやろう。しかし……

この私にも、キサマの力が通用するかな?

我が裁きのハンマーをもって、キサマの力を試させてもらうぞ。

今しばらくの猶予を与える。万全の準備を整えるがよい」

 

「了解……」

 

オレは準備時間が存在することに感謝しつつ、闘技場の端に行き、マガタマを付け替えたりした。

 

悩むのはなんのマガタマを使うか、だ。仲魔は策のためにストックに待機しているからよしとして。このマガタマは迷う。

 

オレはトールの伝承を思い出す。雷神であるトールは一族の中でも力に秀でたという。

 

それが反映されているなら奴の自慢は電撃だけではなく強力な物理攻撃もあるということだ。

 

オレはそう考え、カムドのマガタマを飲み込んだ。これでオレは物理に強くなった。

 

そしてトールに向かいあった。

 

「準備できたぜ。さぁ、こい!」

 

「では……キサマの力を見せてもらおう!いくぞ…!」

 

「吠え面かかせてやんよ!」

 

そしてオレとトールの攻撃が衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

攻撃の応酬は何百回も続いた。さすがマントラNo.2。犬と女とは違うってか。

 

力では完全に劣るオレが対等に渡り合えた理由は一つ。トールには速さと技に欠ける部分が目立つ。

 

ハンマーの攻撃、電撃攻撃は確かに驚異だが当たらなければどうということはない。片手で振るうハンマーは大きさに大してリーチが短いし、魔法は奴の目を見ればわかる。

 

これはハイピクシーの受け売りだが、攻撃魔法を使うにあたって地味に必要なのは指向性を持たせるなにかだという。

 

もっともオーソドックスなのは指。これが攻撃魔法に指向性を持たせるのに簡単な方法だし、指向性も高い。

 

次に目。つまり視線で指向性をつけること。これはかなりのテクニックがいるがこれが出来るなら武器を振るいながらでも魔法を正確に当たられるというわけだ。

 

トールが使っている魔法の発射方法は後者。視線だ。ハンマーという全身の力で振るう武器を使っているからだろう。ハンマーを振るいながらもしっかり魔法で当てようとしてくる。

 

だが、逆にいえばそれは視線で当てようとするなら奴の目を見れば雷を落とそうとする場所やタイミングが分かるということだ。

 

トールはハンマーを振ってこっちを牽制しながら魔法を使う。

 

視線がオレとその左右を薙ぐ。全体電撃魔法を左右を塞ぐ形で撃つつもりか。

 

前にはトールのハンマーがある。なら後ろに飛ぶ!

 

オレが後ろに飛ぶのとトールがマスク越しにカッと目を見開くのは同時。電撃が落ちたのはそのすぐあとだった。

 

ガァン!という音とともにオレがいたところとその左右に落ちた。

 

それを確認するとオレはカムドが教えてくれた技を使う。

 

「“気合い”」

 

そういうとオレは魔力を少し消費し、全身に力を溜める。

 

この技は一回だけ物理による攻撃を大幅に強化する一種のドーピングだ。“気合い”一回につき攻撃力強化は一度というのが難点だが、そこはオレのセンスで補う。

 

そして電撃の壁でオレの姿を見にくくなっているはずのトールに強力な一撃を喰らわせる。

 

“突撃”

 

「ムンッ!」

 

重い気勢とともにトールに体当たりをぶちかます。トールはハンマーでそれを受け止めるが大きくノックバックする。

 

「キサマは……強いッ!」

 

「そういいつつ、防ぎきってんじゃねぇよ……!」

 

言葉の応酬とともに再び攻撃の応酬が始まる。

 

しかしトールは知らない。オレが敗北をとことん忌むことを。それゆえに勝利に意地汚いことを。

 

オレは知っている。その意地汚い心が死神に恐怖させた力をオレに持たせると。

 

トールに以前から持っていた昏い感情が燃え上がった。

 

勇を………オレの親友を殴り飛ばし、殺そうとした罪。その命で償え!

 

オレはトールの目がオレに集中したのを見た。撃つのは単体魔法。最上位か。

 

瞬間、右に飛び、その魔法を避けるとにやりと笑い、手を振った。

 

【ヤクシニー戦の時、ヤクシニーの背後をハイピクシー奇襲した時のように】

 

トールはオレのその行動を見て嘲笑した。

 

「一度見た策。引っ掛からぬわッ!」

 

そういうとトールは体を猛然と回転させ、ハンマーを背後に振るった。

 

【そこには、誰もいないのに】

 

「ッ⁉」

 

トールの体が揺れた。謀られたと気づいたのだろう。これが虚構のコンビネーションだということも。

 

決闘という一対一を連想させる形を徹底的に使った戦法。真っ正面からそれを逆手に取ったのがヤクシニー戦。さらにその裏をかいたのが今。

 

決闘裁判時、控えている悪魔がその戦いを見るというのは予想していた。ヤクシニー戦の時に、すでに種は撒かれていたのだ。

 

オレが悪魔を召喚するとき、当然必要な身振りはある。手を振り上げることだ。

 

それを使ってヤクシニーを背後から奇襲させるために召喚させている素振りだと気づかせれば、絶対にそれを警戒することは分かっていた。

 

賭けではあった。しかし戦いに関しては賭けで負けたことはないね。

 

だって報復と敵の排除に関しては、死神を恐怖させるぐらいに才があるのだから!

 

「シャアァッ!」

 

オレは飛びあがり、奴の首めがけて生命力で作った刃を、ありったけの生命力を乗せて振るった。頑丈な奴の体にはこれぐらいしないと斬れないのは戦っていて分かる。

 

届くッ!

 

そう思っていた、が。

 

「ぬうんッ!」

 

なんとあの体勢からかわしてみせたのだ。さすがはマントラNo.2……

 

しかし避けきれるはずがない。奴の首からブシュと血が噴き出した。

 

しかし悪魔がそれくらいでくたばる訳がない。生命力を大幅に削いだオレに、もう手はなかった。

 

しかしただでは死なない。せめて相討ちに持っていこう。そう思った矢先だった。

 

トールがオレに制止をかけるように手をこちらに向けたのだ。

 

「これまでだ」

 

「え?」

 

まぬけな声をあげるとトールは感嘆と畏怖の目でオレを見た。

 

「…………私をここまで追いつめるとは、……見事だ。

それと同時に私はキサマに恐怖を抱く。キサマの目には、勝利に執着する心が窺えた。

どうやらキサマの奥底には、他の悪魔に無い何かが宿っているようだ

……これは、私を楽しませてくれた礼だ。受け取れ」

 

そういうとトールは血まみれの手でなにかを渡した。それはマガタマだった。名前はナルカミ。

 

それを受けとるとトールはいまだに鮮血が流れる首を動かし、上を示した。

 

「……ゴズテンノウに会え」

 

「へ?」

 

どういうことだ?罪人のオレを自分たち組織のトップに会わせようとするなんて。

 

「恐らくゴズテンノウはこの戦いを見て、キサマに会いたがっているだろう。

ゴズテンノウは、この本営ビルの最上階に在らせられるぞ。

キサマの力で世界が変わるかもしれん。よく覚えておけ。

おい、裁判官。被告人、夜藤 零時に無罪判決を下せ。私が認める」

 

「えっ!? 無罪?…はっ、ハイ!!」

 

一瞬、何を言っているのか理解出来ないというような素振りを見せたあと、裁判官の悪魔は戸惑いながら宣言した。

 

「……で、では、判決を下す……です。

トール様の命令……いや…被告夜藤 零時の力に免じ……

……ここに無罪放免を言い渡す!

……これにて裁判は閉廷、被告は釈放につきすみやかに退去せよ!」

 

そういうと闘技場の出入口が開き、オレは晴れて自由の身になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、あのカボチャ悪魔に連れられて、マントラの本営の門に出た。

 

カボチャ悪魔はオレのことが気にくわないらしく、イライラしてた。

 

「チッ!

トール様に認められるなんて、運のいいヤツめ……

ホラよ。どこにでも自由に行きやがれ!」

 

「あぁあぁそうしますよ」

 

ぞんざいな態度でオレは去れとばかりに手を振るとカボチャ悪魔は怒り狂ったようでカタカタと頭を鳴らした。

 

そして去ろうとしたとき、思い出したようにオレに言った。

 

「……そうそう。

トール様が、オマエは顔パスだってよ。

マントラ軍の本営内を、自由にウロついていいんだとさ。

……気にいらねえ!」

 

そう吐き捨てるとカボチャ悪魔は本営に去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イケブクロ戻ると、オレは仲魔の強化に勤しんだ。さっきは狭い室内だからやりようはあったものの、あのトールとの戦いが広いところだった場合、あんな上手くは戦えない。

 

というわけで、強い仲魔を手にいれるのだ。それならば広いところでも勝てる。

 

まずは妖魔 カラステング。妖魔 コッパテングを変化させた悪魔で衝撃魔法・及び武術を得意とする。

 

次に鬼神 ゾウチョウテン。天部とあってなかなか強い。

 

女神 サラスヴァティ。こいつは補助役だ。回復魔法・補助魔法を得てとするように合体させた。

 

魔術 イヌガミは神獣 マカミに変化させたし、妖鬼 モムノフという悪魔も仲魔にした。

 

ハイピクシーも御魂という種族の悪魔と合体させて強くした。

 

そうやって自分も強化させると、オレはマントラの本営に向かった。ニヒロ機構を攻略する協力も取り付けないといけないし、トールにも会えと言われたし。

 

オレはイケブクロの街から本営に向かうため、本営前の広場に向かった。その時……

 

「ッ!」

 

物置き空間に異常が起きた。それは、メノラーが反応しているあの感覚だった。

 

仲魔達に警戒するよう呼び掛ける。魔人が近くにいる。

 

オレはいつ襲われても瞬時に覚れるよう、カムドのスキル“心眼”を最大限に発動させる。これは敵の気配を探る技である。精神的に疲れるが奇襲されるよりははるかにマシだ。

 

警戒しつつ、本営の門に近づく。その時、その魔人の居場所が分かった。

 

“心眼”により、さらに鋭くなったオレの感覚はその魔人の気配を上で捉えた。

 

カグツチの光に目を細めながらオレは上を向く。

 

悪魔になって視力がはるかに上昇したオレの視界に、赤いコートを着た銀髪の男が映った。

 

その男はなんと本営のビルの屋上からこっちに向かって落ちてきたのだ。

 

「ッ!」

 

オレはその男の放つ気配に目を見開いた。

 

トールよりも、マタドールよりも気配が強大なのだ。それはつまり、こいつはオレが出会った悪魔の中で最強の部類に入るということだ。

 

男はオレの目の前に、一切のショックを感じさせないでシュタッと着地した。

 

「会えて嬉しかったぜ、少年。お前もそうだろ!」

 

銀髪の男はオレに銃を向け、獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 





魔法に関しては独自設定です。(トールさん、魔法使うときは完全に上向きますし)

ゲストはダンテさんです。この人はカッコいいですよね!




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狩人 頭首 死僧


今回、零時君には痛い目にあってもらいます。ゲスガオ

ダンテとの勝負はどうなるんでしょうねぇ(ゲスガオ)


 

謎の男との戦闘がいきなり始まった。

 

この男はオレが今まで戦ってきたどの悪魔とも違った。

 

気配にゾッとする訳じゃない。マタドールが氷のような気配だとするならこいつは山というべきか。ただただ圧倒されるのだ。

 

魔法の類いは道具のみだが、物理の攻撃は多彩。大剣・銃二丁による乱射乱撃が雨あられと降り注いだ。

 

仲魔達はその動きについていけず、ボロボロになっていく。オレも完全に避けきれず、かすり傷だらけになってしまった。

 

そんななかでもオレに恐怖はなかった。それどころか怒りも湧かなかった。

 

オレを支配したのは嫉妬だった。

 

獰猛な笑みを浮かべながら猛攻を仕掛けるそいつの動きは大胆かつ精密。隙がないのだ。

 

それでいて何よりも……【かっこ良かった】

 

しかも間違いなくこの男は手加減している。余裕しゃくしゃくといった態度でこちらを挑発するのだ。

 

その強さに憧れが生まれ、そして嫉妬した。

 

これじゃ勝てない。

 

これじゃ、負ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

負ける?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マケル?

 

 

 

 

 

 

 

それが意味するのは。

 

 

 

 

 

 

 

死と失

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どす黒い感情がオレを埋めた。それこそオレの恐怖だった。

 

「絶対ニ負ケネェ。オレハ……負ケラレネェンダヨ!」

 

獣のような声とともにオレは加速した。男がピクリと眉を動かす。

 

接近してくるオレに、男は大剣を振り抜いた。

 

「ふんっ!」

 

オレは男の持つ剣と同じ大きさの剣を生成し、打ち合った。

 

剣戟の応酬が始まった。それは、マタドールと戦った時よりも速く、激しかった。

 

ギン!ガン!カアァァン!

 

刃と刃がぶつかる度、オレと男の動きは加速する。すでに仲魔達には追えなかったようで仲魔達はおろおろするばかりだ。

 

速く、もっと速く!たとえこの身がちぎれても良い。戦えなくなっても良い。

 

男を越えなければ、オレは負ける。

 

小細工が通じない次元にいるなら、正面から打ち破る!

 

「オオオオオアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

獣のような声でオレは剣を思いっきり振った。

 

次の瞬間

 

オレは空を見ていた。

 

理由はひとつ。打ち合いに負けて吹き飛ばされたから。

 

「なぁ……⁉」

 

絶望に声をあげた。こんな隙、あの男が見逃すはずがない。

 

オレは死を覚悟して目をつぶるが、いつまで経っても攻撃がこない。

 

見ると男は剣を仕舞い、オレを見下ろしていたのだ。

 

「うっ!」

 

壁に衝突し、オレは肺から息を吐き出した。

 

男は余裕そうな態度でオレに口を開いた。

 

「悪くない。気に入ったぜ」

 

「はっ?」

 

予想もしてなかったその言葉にオレは目を見開く。いったいこの男は何をいっている?

 

「見た目は悪魔だが、完全に悪魔ってわけでもないらしい」

 

男のその言葉でオレは男の意図が分かった。

 

オレは試されていたのだ。見定めるために。

 

オレに昏い感情が沸き上がる。完全に嘗められている。これじゃ………これじゃ……

 

男の言葉は続いた。

 

「俺の名前は【ダンテ】。ちょっとした商売をやっている。デビルハンターってやつをな」

 

オレは内心で皮肉に笑った。この男……ダンテの気配は悪魔のそれが混ざっている。恐らく存在の何割かは悪魔だ。

 

後天性なのか先天性なのかは分からないが、そんな奴が悪魔を狩ることを専門にするとはね……

 

「ある老紳士の依頼でお前みたいなのを狩りに来たんだが……」

 

「何……?」

 

老紳士といえばオレは魔界のあの車椅子の老紳士を思い浮かべる。

 

いったい何を狙っている、あの老紳士は?オレにメノラー集めを依頼してオレを他の魔人といっしょくたにして討つようにデビルハンターに依頼した?

 

オレが疑問を心に浮かべると男は剣の切っ先をオレに向けた。

 

「……まぁ、良い。今の戦いはチャラだ。ジジイの魂胆が気になる。少し調べてみる必要がありそうだ。ま、事と次第によっちゃもう一度会うことになるだろう。それまでせいぜい生きてろよ?オマエを殺すのは……オレかもしれないだろ?」

 

「冗談……!」

 

歯を剥き出してそういうと男はバカにしたような笑みを浮かべながら悠々と去っていった。

 

「なによアイツ。気に入らないわね……しかし零時もすごいわね。あんな速さに着いていけるなんて」

 

「……着いていけてない」

 

ハイピクシーの言葉を否定し、オレは手を握りしめた。血が出るくらいに。

 

オレは内心で決意した。あいつを越えて見せる。さもなければ………また負ける。

 

それはなにがなんでも避ける………絶対に。

 

今はとりあえずニヒロだ。そのためにマントラを動かす。

 

オレは痛む体を引きずって本営に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マントラ本営の地下に牢がある。そこにいる勇の方にオレはまず向かった。

 

勇はすぐに見つかった。人間の気配なんてすぐに見つけられる。

 

勇はオレの姿を認めると思いっきり立ち上がった。

 

「零時!来てくれたか…痛たた……!

 

「おぉ、無理すんな。上位悪魔に殴られてよく生きていられたな、マジで」

 

「頑丈なのは取り柄でね…クソぉ、アクマのやつらいつまで閉じ込めとくつもりだよ…」

 

悔しそうにいう勇にかける声が分からず、オレは勇を心配そうにみた。

 

「聞いたよ、おまえ決闘裁判で勝って、自由の身だってな」

 

「おぅ、そうだ。もっと誉めろ」

 

少し無理をしてふざけると勇は苦笑し、そしてハッとオレに捲し立てた。

 

「そうだ!それより、祐子先生だよ!」

 

「おぉ⁉落ち着け傷に響くぞ⁉」

 

オレは慌てるが勇は聞く耳もたずだった。

 

「オレ聞いたんだよ!

ニヒロ機構に巫女がいるって聞いたことあるだろ!あれ、祐子先生なんだ!

 

「あぁ、知ってる」

 

他ならぬ本人が巫女を名乗ったのをオレは聞いている。

 

「しかも、じっとしてる場合じゃねぇんだ!

マントラのヤツラ、もうすぐニヒロ機構に攻め入るらしいんだよ!」

 

「何⁉マジの話かそれ⁉」

 

いつの間にそこまで話が進んでいたのだろう。これは聞き捨てならない。

 

「先生捕まったら……殺られちゃうよ!

頼むよ、零時!マントラがニヒロを攻めたら、先生を助け出してくれ!

今のオマエの力なら、出来ない話じゃないだろ?

オレにはできないから……頼むよ、零時!」

 

ほとんどすがるようにいう勇にオレはうなずいた。

 

「分かった。なんとかしてみせる」

 

オレは牢を出た。まずはゴズテンノウに面会しよう。ニヒロ攻めの内容を聞き出すんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マントラの本営の屋上。魔獣 バイブ・カハというカラスのような悪魔を虐殺していきながらオレは進んだ。

 

階段を登った先にある扉をくぐるとオレは耳が痛くなる感覚が走った。強大な悪魔がいる証拠だ。

 

扉をくぐり抜けたさきにある扉を通ると、そこには見上げるほどの巨像があった。しかし悪魔の姿が見当たらない。これほどの悪魔なら目立つはずだが。

 

その時、巨像の前にいるマネカタの姿に気づいた。

 

それは巨像の前でなにやら呪文のような言葉を呟き始めた。

 

「おおおお…

 

天地に き揺らすかは

 

さゆらかす

 

神わがも

 

神こそは きねきこう

 

き揺らならば……」

 

そのとたん、巨像から力の波動を感じた。まさかこの巨像が……ゴズテンノウ⁉

 

巨像はビリビリと大気を震わせる声を轟かせた。

 

「よく来た、夜藤 零時。大いに歓迎しようぞ。

我はゴズテンノウ。マントラ軍の長として、悪魔らを導いておる」

 

オレはその威圧感を感じて、なぜトールがマントラNo.2なのか分かった。

 

格が違いすぎる。これでは悪魔の大群がいてもこいつ単体で蹴散らせるだろう。

 

ゴズテンノウはその重々しい声でオレを称賛した。

 

「しかし、その方の戦い見事であった。

新たな猛き悪魔の出現……誠に喜ばしい。

まずは褒美じゃ。遠慮なく受け取れい」

 

そういうとゴズテンノウはオレに大量のマガツヒを注いだ。

 

オレの力がぐんと上昇するのが感じた。

 

オレはそれに驚き、ゴズテンノウを見上げた。

 

ゴズテンノウは大気を震わせながら哄笑した。

 

「ハッハッハ!その身に精がみなぎったであろう。これが我の力ぞ。

今後とも我に尽くせば更なる力を授けようぞ……

どうじゃ? これから我がマントラに仕えること依存あるまい?」

 

ゴズテンノウはオレに問うた。なるほど、押し売りのようだ。

 

だが、仕えるのは嫌だ。誰かの下にいるのはもうウンザリだ。

 

「断る。オレはここにはあなたに協力をお願いするために来たんだ。ニヒロを潰すのであれば手を貸すが、仕えるのはオレの意に反する」

 

「ちょ、零時⁉」

 

ストックのハイピクシーが慌てるがゴズテンノウは面白そうな笑った。

 

「フハ…フハハハ……フハハハハハハ!!

…なるほど、その方は誰かの下に着くのを嫌う性をもっているのか。

まあいい。その屈強なる心、悪魔なれば頼もしい限り。

我に仕えずとも、良い働きをしてくれるだろうて。

……だが、逆らうような真似はするなよ。その時には…わかっておるな……」

 

勇を人質に取っていることを暗に示したゴズテンノウにオレは顔をしかめた。

 

こいつも……いつかは……殺す!

 

そう決意するとゴズテンノウは本題に入った。

 

「さて、話そう。我らマントラの敵なるはニヒロ機構……それは知っておろう。

ヤツら、世界に静寂をもたらすなどと企みて、我らを脅かしておる。

もうこれ以上、ヤツらの振る舞いを見過ごしてはおれぬ!」

 

ゴズテンノウの怒りの声に大気どころか建物そのものが揺れた。

 

「我は断を降した。

我がマントラ軍は、ニヒロ機構に攻め入る!そして奴らを滅ぼす!

配下の悪魔らには、ギンザにあるヤツらの本部に攻め入るようすでに命じておる。

おまえも悪魔ならば、ギンザに行けい。この世界を脅かす者どもを成敗するのだ!

我はゴズテンノウ。悪魔を、混沌の国を導く者なり……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴズテンノウの部屋を出るとふと目に入ったものがある。

 

屋上には一切柵はない。本当に吹き抜けなのだ。

 

そしてそこはダンテが下に向かって落ちたと思われる場所だった。

 

下を向いてみると地面ははるか下。ダンテはどうやってノーダメージで落ちたのか。

 

……真似れば、オレも出来る?

 

そう悩んでいるとハイピクシーが勝手に出てきた。

 

「なにうじうじしてるのよ?あの男みたいにここから落ちるんでしょ?やってみなさいよ、男でしょ」

 

「いや、さすがに難しいって「ドーン!」へっ⁉」

 

オレが首を振って落ちるのをやめようとするとハイピクシーがオレを突き飛ばした。

 

オレは空中に投げ出された。

 

「オオオオオアアアア⁉」

 

オレは悲鳴をあげながら落ちていった。

 

オレはそのスピードに目を眩ましながら、ダンテと同じ体制をとる。

 

そして地面が近づいたところで思いっきり足を下にする!

 

結果は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ハイピクシー。オレお前を殺していい?殺していい?ねぇ」

 

「わ、悪かったわよ!謝るから私を握りしめるのやめてぇ‼」

 

着地は失敗した。上手く着地したつもりなのに足の骨が砕けたのだ。悪魔じゃなかったらミンチだった。

 

………まぁ、もう一度やれば出来ると思うが……とりあえずこのチビを〆ないと気がすまない。

 

 

 

オレがハイピクシーの頭にゲンコツを喰らわす。するとその時。

 

異常が起こった。

 

空気が冷えた。空気に強大な力が満ちた。

 

それはギンザ大地下道でマタドールに会ったときにも感じた。死の気配。

 

今、この魔人にニヒロ攻めの邪魔をさせるわけにはいかない。

 

「ハイピクシー」

 

「えぇ。分かってるわ」

 

涙目でキリッというハイピクシーは滑稽だったが、笑うのを我慢し、オレ達はその力の根源となっている場所まで走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イケブクロの西。そこに行くとオレ達はマタドールが使ったシミのようなものに呑み込まれた。

 

落ちた先はそこもマタドール同様、雷が落ちる荒野だった。

 

それを確認すると背後から声が聞こえた。

 

「暗黒の力に魅入られた魔人とは汝のことか?」

 

「ッ!」

 

オレとハイピクシーが後ろを向くとそこに魔人がいた。

 

それは仏教の高僧の姿をしていた。しかしその顔に肉はなく、マタドールと同じく骸骨だった。

 

それを確認すると魔人の姿が消え、再び背後から声が聞こえた。

 

「人はいつか死に、世界はいずれ滅ぶ。しかるに汝はそれに逆らおうとしている」

 

「くっ…!」

 

「なっ…!」

 

オレとハイピクシーは距離をとり、骸骨僧侶をにらんだ。

 

骸骨は諭すようにオレにいった。

 

「迷いたもうな、人修羅殿よ。汝の死への抗いは迷いに過ぎぬ。いくら汝がメノラーを手にしたところで汝の迷いの暗黒は晴れはせぬ

一切衆生の迷いを解くのが我が務め。汝の身、我に任せるがよい。

 

受け取られい……我が死の救いを!」

 

そういうと魔人は………魔人 だいそうじょうは鈴を鳴らした。

 

それは小気味良い音を響かせ、オレの耳に届くが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレは怒り狂っており、まともに耳に入らなかった。

 

なんだ、こいつの言い様は。オレがしていることを無駄の様に言いやがった。

 

メノラー集めは……生きるために泥を這いつくばる思いで生きようとする行動の一つだ。それを無駄のように評するか。魔人。

 

しかも、こともあろうに死が救いとほざき、オレを殺そうとしている。

 

侮辱だ。ここまで血にまみれ、傷にまみれ、辛くも勝利を握り続けて生き残ってきたオレへの侮辱だ。

 

メノラーになんの価値があるのかは知らないが、だいそうじょう。お前はオレの敵になった。

 

「死ね」

 

魔力をたぎらせ、力をこめ、オレはだいそうじょうに言いはなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぞましき……生への……否……勝利への執着よ……のぅ」

 

戦いはあっという間だった。こいつはダンテと比べて弱すぎたのだ。

 

即死攻撃、精神攻撃のラッシュを喰らったが。当たらなければどうってことはない。こいつはあまりにも遅すぎるし、勝とうとする気がお粗末すぎる。

 

結果仲魔達の多段攻撃に翻弄され、その隙に殴り飛すなり斬り込むなりして軽く勝てたのだ。

 

しょせん死を………すべてを捨て去る行為を救いと評した空っぽの奴だったということだ。

 

オレはだいそうじょうが落とした【永遠のメノラー】を拾い上げ、だいそうじょうの遺骸を踏み潰した。

 

マガツヒがオレを憐れむかのようにオレを包んだ。

 

 

 

 

 

 

 





零時君の性格が、ある程度理解出来てきたかと思います。

感想、質問、お待ちしております。



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ニヒロ機構の策略


今回はすみませんが中途半端です。用事があるけど1話だそうと思って急いだ結果です。

すみません。


 

魔人 だいそうじょうの戦いを終えるとオレはターミナルに向かった。

 

そしてイケブクロのターミナルからギンザに向かうと、イケブクロの悪魔がちらほらと見えた。

 

しかし、こんなところで道草を食う暇があるとはどういうことだろうか?オレはニヒロの本部に走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニヒロ機構本部はあちこち戦闘のあとから見られた。マントラの悪魔が意気揚々としてるのを見て、オレは怪訝な顔をした。

 

勝てたというのか。こんなにあっさりと?

 

物事がマントラ側に進みすぎている。ニヒロ側だって、対マントラの用意はあっただろうに。

 

嫌な予感がする。とりあえずエレベーターが会ったのでそこから中枢であるらしい地下に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中枢に向かうと予想もしていなかった人間がいた。

 

「ヒジリ⁉」

 

「おぉお前か!マントラの悪魔かと思ったぜ」

 

シブヤにいたはずのヒジリがそこにいたのだ。

 

「…なんとか無事らしいな。この前は、済まなかった。事故らせちまって……」

 

「気にすんな。もっと悪い状況に陥っていたんだから」

 

自嘲気味に笑うとヒジリは真剣な顔をした。

 

「だが結果的には、それは幸運だった。まさか、こんなにドデカい拠点があるとは……

あの時、転送が成功してたら、たった1人でここへ放り込んじまう所だったんだ」

 

「………なるほど」

 

背中に冷たいものが流れるのを感じた。ヒジリの言ったことが現実になっていたならニヒロ側の悪魔にフルボッコにされていただろう。そしてデッドエンドだ。

 

「……だいたいの事情は把握してる。マントラ軍……いい時に襲撃してくれたもんだ。おかげで俺も目立たずに来られた。

……なあ、まさかとは思うが……

おまえがマントラ軍に付いたって話は本当か?」

 

「ニヒロ攻めに協力するってだけだ。正式にはマントラには着いてない」

 

オレがそういうとヒジリは安心したように息をはいた。

 

「そうか、そういうことか……おまえが力に目覚めたのなら、そんなことがあるかもしれんと思いはしたんだがな……」

 

「信用ないな。そもそもオレにそんな暇があるように思えるか?」

 

「なるほど、それもそうだ」

 

ヒジリはそういうと中枢の部屋を見上げた。

 

中央に巨大なターミナルがいくつも重なっていた。そらがひとりでに回転している。

 

「この部屋は、全体がマガツヒを集める装置なんだ。

外から見える大穴の正体はこいつさ。

もっとも襲撃で壊されちまって、今はもう死んでる。だが現に、さっきまでここは大量のマガツヒで満ちてたんだ。

マントラ軍は、寄ってたかってここを叩いた。無理もねえ……傍目にゃ、どっからどう見てもここがニヒロの中枢だ。連中、今しがた意気揚々と帰ってったぜ……

……氷川にハメられたとも知らずにな」

 

「ハメられた?」

 

問うとヒジリは巨大なターミナルを指差す。

 

アマラ経路を通ってきたせいで何とか見抜けた。……マガツヒの流れが妙だ。実に巧みに似せてあるが……恐らくここは、中枢じゃない」

 

「なるほど、擬似餌ってわけか……」

 

単純で上手い策だ。マントラは偽中枢というニセ物の餌を喰わされたというわけだ。

 

だが、そんなことをしてニヒロになんになる?マントラは確かに罠に掛かり、ニヒロはノーダメージだがニヒロはマントラになんの反撃もしていないのだ。

 

何を企んでいる。氷川は……。

 

「この建物のどこかに、本当の中枢部があるはずだ。……氷川の奴も、きっとそこにいる」

 

その時、ヒジリがピクリと動いた。

 

オレは理由を察した。勝利を確信したマントラの喧騒がなくなっていたのだ。

 

「チッ……そろそろヤバイか………マントラ軍の騒ぎが静まりつつある。

ここから先は、いっそう危険になるだろう。氷川のツラは拝んでやりたいが……

俺じゃ、命が幾つあっても足りん。ここらで引き返すしかなさそうだ」

 

「……ここからはオレがやるしかない、か。だが本物の中枢はどう探す?もう通れるところは探し回ったんだぜ?」

 

そう、本物の中枢があるとはいえ、もう探せるところは探したがもう行けるところがないのだ。

 

ヒジリはすでにその答えを用意していた。

 

「すぐそこにロックしてある通路があるんだ。そいつのロックを、さっき解除した。もう先へ進めるはずだ」

 

なるほどロックしてあるのなら確かにそこが怪しい、か。

 

「俺に出来るのは、これくらいだ。……氷川とどう向かい合うかは、おまえに任せる。ここまで来たんだ。悔いだけは残すなよ。……じゃあな」

 

「あぁ、ご苦労様」

 

オレがそういうとヒジリはそういうと巨大なターミナルに触れ、消え去った。

 

さて、確実にマントラに対してなにかをしようとしているニヒロ機構どもの企みを見に行きますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロックされた通路を通り、エレベーターでさらに地下に向かうと二匹の悪魔がいた。

 

二匹はケタケタと笑っていた。

 

「……マントラ軍のアホども、まんまとダマされやがった。中枢部がニセモノとも知らずに、襲撃した気になるんだからな。力、力って、知恵が足りなくていけないねえ………ん?誰だオマエ」

 

おっと気づかれた。

 

悪魔の片割れは妖魔 コッパテング。もう片割れは夜魔 インキュパスという名前だ。

 

「へえ……どこの悪魔か知らないけど、脳ミソ働くヤツもいるんだねえ。どうせ、氷川総司令の首をとって、ハクをつけようっていう三下だろうよ。

ちょうどいい……マントラどもが余りに不甲斐無く、退屈を持て余していたところ。せっかくのお客だ、丁重にあの世へご案内差し上げよう」

 

2体の悪魔はヒュンと飛びあがり、凶相でオレに飛びかかってきた。

 

「死ねェェェ!!」

 

二匹は爪と拳をオレに向けるが………脳ミソ足りないのはお前らもそうだな。

 

「伏兵部隊、前へ!」

 

オレがそういうと仲魔が召喚され、二匹の悪魔に攻撃した。

 

二匹とも、悲鳴を挙げる暇もなく息絶えた。

 

「弱いですね。弱すぎます」

 

アークエンジェルを合体でランクを上げて作りあげた悪魔、天使 パワーが槍で悪魔の死体をつついた。

 

「全くだ。これでは人修羅に良いところが見せれぬではないか」

 

そう愚痴るのは 鬼神 ゾウチョウテン。

 

「獲物とられた……」

 

そう嘆く妖精 ハイピクシー。

 

あの二匹を瞬殺する技術と連係を持っているのだ。頼もしい限りだ。

 

そう感想を漏らすとん?とオレは気づいた。

 

二匹のあの悪魔が何かを落としていったのだ。

 

黄色いその棒のようなを拾うと、その名前が分かった。

 

【黄のキーラ】

 

それが何なのかを考えているといきなり思念体が現れた。

 

「おや、ここまで入り込む者がいましたか……氷川総司令部なら、B15Fの本中枢部にいらっしゃいます」

 

「へっ?」

 

いきなり重要な情報を暴露し始めた思念体にオレは目を剥いた。

 

「ただし、そこまで行くには、本部内のマガツヒを制御するキーラという制御棒が4本必要です。

ここに来る途中、4つの台座をご覧になったでしょう?そこで使うんですよ……」

 

「ちょ、ちょっと待て⁉良いのかそんなことオレに教えて⁉」

 

慌ててそういうと思念体が含み笑いを漏らした。

 

「キミのようにここまで入り込む輩も稀にいますが、……皆さんこの先で消えて行きます。氷川様の、抜け目ない仕掛けの餌食になってね。

だから、お教えしたんですよ。冥土の土産にと思いまして……」

 

「……自信がおありのようで」

 

吐き捨てるようにそういうとオレは仲魔達とともに先へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マガツヒの貯蔵庫というらしいその場所は貯蔵庫自体を簡易パズルにしたダンジョンだった。

 

そこにいた思念体が漏らした情報によるとキーラは貯蔵庫の各階層の奥に守備悪魔を置いて保管してあるとのこと。ロキの時のように簡単に盗めれば良いが。

 

先ほどから現れる悪魔はまたイヤらしい攻撃しかしてこない。即死攻撃。妨害魔法。なるほど、力信条のマントラとは違いますってか。

 

話をすると仲魔になってくれる悪魔もいた。妖魔 ディースという女悪魔はニヒロの秘密はしゃべらないという条件付きで仲魔になってくれた。料金も払わなければいけなかったが。

 

それでも彼女が使う即死魔法を一回だけ防ぐ魔法“テトラジャ”は心強かった。

 

さて、この調子でまずは二個目のキーラを取りに行きますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

順調に2つめ、3つめのキーラを手にいれた。守備悪魔はどいつもこいつも自分が勝つって自信を持っていてお話しにならなかった。あぁ、やだやだ。

 

だが4つめのキーラを手に入れる段で問題が発生した。

 

「おっと。ここから先へは進ませない。これでどうだ?」

 

そういうと現れた空飛ぶ巨大人面ヒトデの悪魔はオレがいる貯蔵庫のスイッチを切り替えて通路をめちゃくちゃにしてしまったのだ。

 

その後、度々そいつが現れてはスイッチを切り替え、通ろうとした道を塞いで余計な悪魔とエンカウントする羽目に陥ってさんざんだった。

 

やっとキーラの保管庫に着いたと思ったら今度はキーラがない。どういうことか。

 

保管庫から出ると度々オレを邪魔してきたヒトデ悪魔が現れた。うわ、近くで見るとこいつ本当に気持ち悪い。

 

「フハハハ……一足遅かったな。

マガツヒ貯蔵庫で、スイッチ操作にでも手間取ったか?オレは、夜魔キウン……悪いがキーラは渡せない。諦めるんだな。フハハハ……」

 

ヒトデ……夜魔 キウンは笑いながら通路の奥へと去っていった。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

オレは怒り、壊れた。

 

仲魔達が青い顔をしているがなんでだろうね。あいつの死刑が確定しただけなのに。

 

オレは全速力でそれを追うと扉がいっぱいある部屋に出た。

 

「このなかから探せって?なぁるほど、はずれの部屋には罰ゲームがあるのかな?かな?なるほどオモシロソウダ!アハハ‼」

 

オレは部屋を適当に選び、入ってみた。

 

そこにはいきなりキウンがいた。お?いきなり当たり⁉

 

「違う、違う……

オレはキウンだが、キーラを持っているのは別のヤツだ。愚か者m」グシャ!

 

「ありゃ外れだったかぁ。しょうがない。次いってみよー」

 

仲魔達は依然として青い顔をしている。ナンデダロウネ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「離せ!死にたくない!死にたくn」グシャ!

 

「あぁ、さっぱりした。お、キーラだ」

 

オレは部屋にいたキウンというキウンをミンチにしてマガツヒにしたあと喰い、キーラを奪った。

 

仲魔達がなぜかヒソヒソ話をしている。零時は怒らせないほうが良いとかなんとか聞こえる。

 

ボク、優しいのに。

 

まぁとにかくこれで氷川の所へ行ける。オレは急いでキーラを納める台座に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

台座にキーラを納め、現れた道を進むと上にある偽物の中枢によく似た作りの部屋があった。

 

間違いない。本物の中枢だ。

 

意を決して中枢に入り込んだ。

 

 

 

 

 

 

そこは薄暗い部屋だった。

 

そしてその中央に……苦心して追いかけた男、氷川がいた。

 

 

 

 





零時君、キャラ崩壊の巻



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創成の意味 マントラ軍の崩壊

 

氷川。受胎を起こした犯人。

 

その男はこちらを向かずに静かに呟いた。

 

「…ここへたどり着く者がいるか。マントラもただ愚直なばかりではないようだな……」

 

そういうとようやくこちらを振り向く。そして氷川は驚いたように声を漏らした

 

「ほう……これは驚いた。君はあの時の少年か。……生きていたとはな。

しかもその姿……人ならぬ大きな力を得たとみえる」

 

オレの全身に走る刺青のような模様を見ながら氷川は呟いた。

 

「…なぜ、ここを訪れた?……私に会うためかね?」

 

「それもある。が、それは次いでだ」

 

吐き捨てるようにそういうと氷川はうなずいた。

 

「……そうか。まあ、だいたいの想像はつくがね」

 

氷川はそういうとようやくオレをしっかりと見据えた。

 

「……よかろう。たった1人でここまでたどり着いた健闘は称える。それほどに求めるなら、君も知るがいい。

……この世界の真実をな」

 

そういうと氷川は部屋の中央にある装置に近づいた。

 

「見たまえ……この装置はマガツヒを集めるためのものだ。似たものを上の階でも見ただろう。

君は、マガツヒが何のために存在するか知っているかね?」

 

唐突な問い。オレは考え、こう答えた。

 

「悪魔の糧、というだけじゃないのか」

 

その問い返しに氷川は真剣な眼差しをこちらにむけた。

 

「当然、それだけではない……覚えておきたまえ。

マガツヒについて知らないという事はこの世界では死んでいるのと同様だ」

 

そういうと氷川は語り始めた。

 

「マガツヒ……

それは神への供物。

創世の守護神を招くための力。

この世界の存在目的が果たされるために無くてはならない、カギなのだよ。

この世界では、強い意志を持つ者は全てを塗り替える事ができる。

思想を【コトワリ】として広め、手中にマガツヒが集まった時、

神は立ち現れ、世の成り立ちさえもが書き換わる。

そう……この混沌の世界は「創世」を目的として生み出されたのだ。

……私の手によってな」

 

「……………」

 

その言葉はアマラ深界で喪服の女が言っていたことと一致した。【コトワリ】という言葉は知らないが。

 

氷川は大仰な態度で語り続ける。

 

「間もなく、我が創世は成される。

時の営みと最も調和した静寂の円環……

「シジマ」の世界が生まれるのだ。

マントラは、この拠点を完全に沈黙させた気らしいが、見ての通り中枢は無傷……

捨て置いても、マガツヒは遠からず満ちるだろう」

 

だが、と氷川は冷たい声で続けた。

 

「あの者どもには報いを受けさせねばならない。

我らニヒロに牙をむいた者がどうなるか……

世に知らしめる為にもな。

……いい機会だ。君もその目で見るがいい。

ここに残されたマガツヒを使って、私はこれより【新たな力】を呼び起こす」

 

氷川はそういうと装置にむけて手をかざし、高らかに叫んだ。

 

「さぁ、目を醒ませ!【ナイトメア・システム】よ……!」

 

止める間も、なかった。

 

何かが放たれ、地響きがした。

 

それが決して良いことではないと、雰囲気で分かった。

 

「何をしたッ!」

 

オレが鋭い声でそういうと氷川は説明した。

 

「これは世界中のマガツヒの流れを支配し、全てを我が手に集めるシステム……ここの設備など比較にならぬ力だ。

まずはマントラ軍……彼らの本営イケブクロを目標とした。

かの地のマガツヒは消え失せる。マントラはたちまち朽ちゆくだろう」

 

「なっ⁉」

 

マガツヒの消滅。それをすれば悪魔はどうなるのかなんて悪魔のことをある程度知っていれば分かる。

 

即ち死だ。つまり、【ナイトメア・システム】というのは悪魔専門の大量殺戮兵器ということだ。

 

おぞましい。戦うでもなく、ただ悪魔を殺すそのシステムに戦慄した。

 

その時、氷川が聞き捨てならないことをいった。

 

「……そうそう、このシステムは高尾 祐子を媒体として動いている」

 

「………なんだって?」

 

とたん自分の声に怒りが満ちたのは自分でも分かった。

 

「彼女は実に役立っているよ。さすがは創世の巫女……といった所か。

……祐子先生のことが心配かね?」

 

自分が祐子先生を拉致している癖にオレに問う氷川にオレは殺意を覚えた。

 

「テメェ!祐子先生をどこへやった!」

 

怒りに満ちるオレに氷川は淡々と答えた。

 

「残念ながら、彼女はここには居ない。君と再び会うことは、もう無かろう。

今の彼女は創世を支える巫女……それ以外ではないのだからな」

 

「きっ………さまァ……!」

 

怒りで切れ切れになった声で叫ぶとオレは剣を作り、氷川を殺そうとすると

 

心眼がオレに警鐘をならした。

 

「ちっ!」

 

かわすとオレがいた場所に剣が刺さった。

 

見ると豹が人になったかのような悪魔がいた。氷川が召喚したのか。

 

氷川は感情を感じさせない声でオレに言った。

 

「……やはり君は受胎を生き残るべきではなかったようだ。前の世界に未練を残す者など、ここでは不毛に苦しむばかり。

……あの時、彼女の甘さを許すべきではなかった。

……少年。君の苦しみ……私がここで終わらせよう。

どんな幻想を抱いてここへ来たのか知らないが……この世界で君に成しえる事など1つも無い。

さあ、行くがいい。君が失った古き者たちの元へ……」

 

氷川はそういうと中枢の出口を通り、去っていった。

 

「待て!」

 

オレがそれを追おうとするが、豹人間の悪魔に遮られた。

 

「司令の言葉を聞かなかったか?お前はここで死ぬ」

 

「ほざけっ‼」

 

言い放つとオレは豹人間……堕天使 オセという悪魔に飛びかかり、オセは二刀の剣でそれを防いだ。

 

「ちっ!」

 

オレは飛び退き、距離を取る。

 

二刀流。それはヤクシニーから学んでいるが。これは勘だが剣の腕は間違いなくオセのほうが上。二刀流では勝てない。

 

だが、怖くない。マタドールやダンテ、だいそうじょうの方がまだ脅威を感じる。

 

オレはそう断じると仲魔達を召喚し、そいつにとびかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝てはした。しかしかなり手こずった。これでは氷川を追うことはもう出来ないだろう。

 

こいつは攻撃を反射させる技を使ったり、ンダやカジャを消す魔法を徹底的に使い、防御に撤したのだ。

 

完全に時間稼ぎだ。やられた。

 

「……俺が敗れるとはな

だが、お前は司令にも巫女にも二度と会う事はできん。

ナイトメア・システムは発動した。

間もなくここは閉ざされ、巫女へ至る道は完全に絶たれる……

立ち去れ、悪魔よ!世界を創るのは、我らニヒロ機構だ!!」

 

捨てセリフを吐くとオセはマガツヒとなって消え、マガタマを落とした。

 

アナテマというそのマガタマを拾うとオレはニヒロ機構を出た。ここが封鎖されたら閉じ込められる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギンザからイケブクロに戻ると悪魔達はパニックに陥っていた。

 

急いで本営に行く。もちろんマントラを案じているわけじゃない。だだ本営には勇がいるのだ。人間とマガツヒの関係は深い。

 

なぜならマガツヒは人間の感情そのものだからだ。たがらそのマガツヒを抜かれたり、失われたりしたら勇が廃人になってしまうかもしれない。

 

嫌な想像が消えては浮かぶ、オレは本営に入り込んだ。

 

そこには見知った顔がいた。勇ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千晶だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……久しぶりね。零時君」

 

「千晶⁉なんでこんなところに⁉」

 

オレがびっくり仰天して問うと千晶は答えた

 

「決闘裁判に勝った者がいるって聞いて、もしかしたらと思ったの大変だったけど……来てみて良かった」

 

「…………千晶?」

 

オレは千晶の名を呼んだ。

 

なぜだ。千晶はなぜこう悟ったというか、吹っ切れたというか、諦めたというような表情をしているんだ?

 

一体……何が。

 

オレが問おうとすると千晶が言った。

 

「ねえ……零時くん。ぜひ、聞いて欲しい事があるんだ。

わたし……この世界の決まりごとに従うことにしたの」

 

「……………あ?」

 

千晶は何を言っている。この世界の決まりごとに従う?

 

それはつまり………

 

「知ってるよね? 世界が何のために今の姿になったのかってこと。

わたし……【創世】を、やってみようと思うんだ」

 

「何を……バカなことを…」

 

それは氷川の真似事をするということ。認められるわけがなかった。

 

「……おかしな事を言ってるって、零時君は思うかしら。

でもわたし、思い出したの。世界が変わったとき……【声】を聞いたことを。

零時君だって、生き残ってたのなら、聞いたはずだわ」

 

確かに聞いた。確か内容は、お前は何者かにならねばならぬとかなんとか…

 

「……わたし、あれから落ち着いて考えてみたの。

『この世界でどうすればいいか』ってことばかりじゃなくって『どうして世界はこんなになったのか』ってこと。

そうしたら、見えてきたこともあるの。

もう前の世界は、不要な存在を許容することが出来なくなってたんだ……って。

たくさんの物があってたくさんの人がいたけど……

もう、創り出すことはなく何も無い時間が流れていくだけだった。

世界が必要としてたものは……あそこには無かったのよ。

……確かに、わたしは全てを失った。それは、悲しい事。

でも、わたし自身は「受胎」を生き残った。

きっと、選ばれたのよ。……そう信じて、目指そうと思うの。

わたしの中にはまだ悲しみが残っている……

でも、それを飲み下しさえすれば、ここでは無限の可能性が手に入るの。

コトワリによって【創世】する力が……

『選択せよ』……声は、わたしにそう教えたわ。

もう世界は、不要な存在を求めてないのよ、きっと。

だから、わたしは創ろうと思うの。

強い者、優秀な者だけによって築かれた楽園を。

……【ヨスガ】の世界をね」

 

長いその言葉には確固たる意思が込められていた。

 

しかしその内容はとても認められない。

 

………否、認めるために存在する正しい正しくないの判断すら、もうこの世界には明確な線がない。

 

千晶の言葉が正しくないなんて、オレには決められなかった。

 

「この世界で勝ち残ってきた零時君なら……分かるよね?」

 

「………決められない。そんなこと。いきなり過ぎる」

 

オレはそういうしかなかった。

 

同時にオレは何も考えてなかったことに気づいた。

 

オレはなぜ受胎が起きたかを物理的にしか問えてなかったのだ。

 

なぜ、そういう【運命】が訪れたのか。考えたことがなかった。

 

頭をふるオレに少し残念そうな声を千晶はあげた。

 

「…………そう。でも、信じてるわ。

零時君なら、いつかきっとわたしの考えを分かってくれるって」

 

「これからわたし、創世のためのマガツヒを集めようと思うの。

あては、まだ無いけど……

でもヨスガは強者のコトワリ。自分の力でやれる所までやるつもりよ。

……今日は話せて良かった。

また会いましょう、零時君。

生き残った者同士、きっとこの先も道はどこかで重なっているわ……」

 

千晶はそういうと本営を去った。

 

その背中を見るとオレはうずくまった。

 

オレは無性に叫びたかった。

 

千晶は、ボルテクスという地獄で変わってしまった。もう戻れないところまで。

 

千晶は強い。生きるだけでなく、翻弄されるだけではなく、自分でなんとかしようとする意気込みが今でも生きている。

 

ただその想いを向ける方向が間違っている。その原因も、オレは悟った。

 

彼女は【弱い】ことに絶望したのだ。弱肉強食のこの世界で、弱い者があっという間に死んでいく姿を見て、弱さに絶望したのだろう。

 

喪服の女が説いたアマラの摂理を思い出す。受胎はなにがどうあれ起こること。

 

新のための旧の破壊は必ず起こるということを。

 

なんで日常を捨ててまでその摂理に従わなければいけないんだと叫びたかった。

 

なぜ新を創るために旧を破壊しなければならないんだと嘆きたかった。

 

氷川はただその運命を利用しただけだと、今更気づいた。

 

うずくまるオレの背に誰かが触れた。

 

背後を振り替えるとハイピクシーがオレの背を撫でていた。

 

「こんな時、なんて慰めたらいいか分からないから……」

 

不器用にハイピクシーは笑った。彼女なりの気遣いなのだろう。

 

オレは力なく笑うとハイピクシーをそっと撫でた。

 

オレは立ち上がった。

 

今、泣き叫んだところでなにも変わらない。

 

歩く。今は動くしかない。何かを変えたいなら、歩け。

 

自分に言い聞かせるとオレは向かった。

 

勇の生死が気になる。それを確認しなければ。

 

 

 

 

 

 





きっと人修羅は、この頃から神を憎み始めたと思います。


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人の嘆き 悪魔の怒り

 

マントラ軍本営は阿鼻叫喚という言葉でしか表現出来ないだろう。

 

あちこちでマガツヒを失いつつある悪魔が助けを求めて呻いている。まさしく地獄絵図。

 

地下牢では逃げ出したマネカタがキョロキョロとしていた。なにが起きたのか理解できていないのだろう。

 

そしてそのなかに、勇がいた。

 

勇は頭を抑えていたが、トールに殴られた場所が痛むだけのようだ。命に別状はないだろう。

 

勇は暗い目でオレを見ると暗い声でオレに言った。

 

「……帰ってきたんだな、零時…先生……連れて帰れなかったか……」

 

「すまない、勇……」

 

そういうしか、なかった。勇の目に失望の目がありありと浮かんだ。

 

「オマエでもダメか……その悪魔の力に結構、期待してたんだけどな……

マントラは崩壊して、これからはニヒロは力を伸ばして行く一方……先生はどこに居るかも分からないまま……

こんな世界でウロウロと……何やってるんだろうな、オレたち……」

 

「あぁ、なにやってんだろうな……生きることしか出来ねぇよ。それぐらいしか出来ねぇ自分が情けないよ……マジで

 

泣きそうな声でそういうと勇はキッとこっちを見た。

 

「……こうなったら、アイツに賭けてみるしかねぇかな」

 

「アイツ?」

 

問い返すと勇は説明した。

 

噂で聞いたんだ。すげえマネカタがいるんだよ。

そいつは、先のことがなんでも分かるヤツで……マントラ軍の崩壊も予言してたらしい。

そいつに聞けば……先生のコトとかこれからのコトとかつかめるかも……」

 

「なるほど」

 

すがる対象がない今、それに頼るしかなさそうだ。

 

「マントラはそいつを捕まえて捕囚所にブチ込んだって話が最後だから…今もそこにいるんだと思う。

オレ、そいつを探しにカブキチョウへ行くよ。

どこに居たって危険には違いないんだ……オレは可能性のあるほうへ行くぜ。じゃあな」

 

「え?ちょ⁉勇‼」

 

勝手に一人で行ってしまった勇。その時、マガツヒの欠乏で狂乱状態に陥った悪魔が襲いかかってきた。

 

しかもそいつらは大集団であり、逃げながらの戦闘を余儀なくされた。

 

「ちぃ!ハイピクシー!」

 

「分かったわ。“トラフーリ”!」

 

ハイピクシーがその魔法を唱えると凄まじい光と音が悪魔たちを襲った。

 

トラフーリは虚仮威しである。そのため逃走用にしか使えないが、いつ襲われてもおかしくない今の状況ではかなり重宝する。

 

オレたちは逃げだし、エレベーターに乗って屋上まで進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上に行くとゴズテンノウの叫びが聞こえた。慌ててそこに向かうとゴズテンノウの変わり果てた姿があった。

 

ゴズテンノウの体から膨大なマガツヒが抜けている。それでもなお、その存在感は圧倒された。

 

ゴズテンノウは覇気を減衰させた声をあげた。

 

「……戻ってきたか、猛き悪魔よ」

 

「そなたもしかと見たはず……ニヒロの根城が、我が軍勢によって朽ちたるさまを……それが……それが、何故……」

 

嘆くゴズテンノウの声。それに対し哀れみは浮かばないが、胸に来る何かがあった。

 

「見るがいい、我が体を。

この身に満ちたるマガツヒが、次々と抜け出てゆく……

しかも、力奪われゆくは我のみにあらず!

我が軍勢すべてのマガツヒが、いずこかへ抜き取られておる……!」

 

その時、ダンと床を叩きつける音がした。ゴズテンノウの前にいたマネカタがゴズテンノウの怒りを表すように床を叩き、体を揺らした。

 

「おのれ、憎しやニヒロ!……いかなるカラクリを使いおったのか!たばかられたわ……見える……

マガツヒ集まりゆく中心にニンゲンの巫女が見える……

されど、今となって/あらがうことも叶わじ……

もはや滅びを待つのみなるか……

ああ、おいたわしや我らが盟主よ!……ゴズテンノウよ!!」

 

「……いや!我は滅びぬ!

この体は滅するとも、我が精は死なず!いつか、我が力を得るにふさわしき者が現れる。その者をして、必ずや復活しようぞ!!静寂の世界なぞ、創らせはせぬ!!力無き世に、何の価値があろうか!!我は忘れぬ!身を焦がしたるこの憤怒!

必ずや……必ずや、力の国を再興せん……!!

…グ……オォ…………」

 

ニヒロ機構の怨嗟の声を吐き、自分の国の再興の誓いを叫ぶとゴズテンノウの体にヒビが入った。

 

そしてヒビが広がると地響きをならし、ゴズテンノウはマネカタを道連れにして崩れ去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、そこにいたのか……」

 

ゴズテンノウの凄絶な最期を見届けるとその声が聞こえた。

 

その方を向くとマントラ軍No.2。トールがいた。

 

「ゴズテンノウは……いや、マントラ軍はニヒロ機構のナイトメア・システムで……崩壊した。

……ニヒロ機構には、ただトウキョウの支配を目指す以上の、強い思想があった。

我々は、暴力で統制を図る、恐怖政治の枠を超えられなかった……だから、敗れたのだよ」

 

トールは冷静だった。自分が仕えていたゴズテンノウが死んだというのに。冷酷なまでに冷静だった。

 

「故にゴズテンノウの威光が失われた今、同胞と信じた者たちも、あっけなくここを見捨て…出ていった。そう…以前捕らえたキサマの友人がいたな。

ヤツともども、キサマも好きにするがいい……

もはや、こんな場所に未練はない。

牢も、大門も、防衛する意味はなくなったのだから。

……ではさらばだ。

『真の強者のみが生きる世界』を求め、私は旅立つ。

キサマが真の強者であれば、いずれまた会おう……」

 

トールはそういうと去っていった。

 

その背中に、悔いも未練も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴズテンノウが死んで数時間後、オレはイケブクロ近くの高速道路を走っていた。

 

理由は2つ。1、勇を追うためにカブキチョウへ向かうこと。そして2、魔人の気配がしたため。

 

メノラー集めは情報を集めるための手段になった。アマラ深界のあの二人は受胎について間違いなく1から10まで知っている。

 

受胎を引き起こした氷川も同様だが氷川は行方知れず、なら関係を正式に繋いでいるアマラ深界の二人から聞いた方が手っ取り早い。

 

なにより大いなる意思という言葉だ。それが受胎と大きく関連している。

 

全ての答えを見つけ出す。そして世界を戻す手段を見つける。

 

創世ができるなら、再生ならぬ再世もできるはずだ。

 

そう思いながら高速道路を自動車以上に走るオレの索敵に魔人の気配が引っ掛かった。

 

とたん王国のメノラーの炎に着き、激しく揺れる。

 

瞬間、オレの足元にシミが現れ、飲み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三度めとなる魔人の結界。見慣れた荒野に久しぶりに聞いたバイクの音が聞こえた。

 

見ると炎のタイヤが高速回転するバイクに乗った骸骨ライダーがこちらに向かって爆走していた。

 

「感じる……感じるぜ!メノラーを持つヤツが近くにいる!お前か⁉お前が持っているんだな‼」

 

そうライダーが叫ぶとライダーはさらにけたたましくエンジンを噴かせた。

 

「メノラーをよこしな!そうすりゃ、連れてってやるぜ……スピードの向こう側へ‼」

 

ライダーは……魔人 ヘルズエンジェルは前輪を持ち上げ、オレに体当たりしてきた。

 

すかさず剣でガードするとギャリギャリギャリ!という音とともに火花が散った。

 

「さぁこい!俺とこいつの怒りを止められるかな!」

 

「止めてやるさ!それで勝てるなら!それで失わないなら!それで得れるのなら‼それで生き残れるなら‼」

 

オレはそう叫ぶとバイクを蹴りあげる。

 

ヘルズエンジェルはバランスを崩さず、オレから離れる。大したバイクさばきだ。

 

しかし激情でオレに勝負するのなら、ヘルズエンジェル。お前は運が悪い。今のオレは機嫌が悪いからだ。

 

オレは怒り狂えば狂うほど強くなるんだぜ!

 

剣がオレの感情の高ぶりを示すように、煌々と輝く。ヘルズエンジェルもエンジンを噴かせ、タイヤの炎を一際燃やす。

 

そしてどちらも合図したわけでもなく、互いに技を放った。

 

「“ヒートウェーブ”‼」

 

「“ヘルブースター”‼」

 

爆音。そして波の衝突。そしてオレの嘲笑が響いた

 

「バーカ」

 

オレはヘルズエンジェルに向けて足を振るう。マタドール戦でも使った足でのヒートウェーブ。

 

二段目の“ヒートウェーブ”がヤツのバイクに衝突した。

 

「うおっ!」

 

ヘルズエンジェルのバイクが悲鳴をあげる。

 

ヘルズエンジェルはぐらりとバイクの車体を揺らすがなんとか持ち直した。

 

「オレのこの走りについてくるやつは始めてだぜ」

 

「そりゃどうも。賞賛のついでに死ね!」

 

オレは駆ける。剣に感情を乗せて。

 

ヘルズエンジェルも走る。彼なりの怒りを乗せて。

 

オレとヤツが空中で交差し、そして着地した。

 

一瞬の沈黙、そして。

 

ゴトリという音とともにオレの腕が落ち、ヘルズエンジェルの首が落ちた。

 

オレは剣を振るうと首を失ったヘルズエンジェルの体に狙いを定めた。

 

「悪いな。オレは怒りだけじゃなく。様々な感情で暴走してるんだよ。例えば勝利への執着とか、な!」

 

オレはそう言い残すとヘルズエンジェルに向けて剣を投げつけ、突き刺し、爆破させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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蜃気楼の世界に生まれた絶望


いつの間にかUAが3000を迫る数に……あと評価も高い……!

このプレッシャー……なんだ⁉(錯乱)


ヘルズエンジェルからメノラーを奪うとハイピクシーを筆頭とした仲魔たちに腕を再生されながら怒られた。

 

また一人で戦ってだのなのだのと。人の頃から一人で戦うことしか知らないから集団戦をするより勝てる確率は高いといったらますます怒った。なんでや。

 

そうこう言っている間にカブキチョウにあるマントラの捕囚所についた。ここに勇は行ったはず……生きているなら。

 

オレはカブキチョウに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カブキチョウ捕囚所。そこは物が散乱したビルだった。

 

不気味なのは、悲鳴が聞こえるのだ。

 

誰もいないのに。悲鳴ばかりが聞こえる。

 

間違いなく囚人がいる。ただしここではないここに。

 

ここにもターミナルが存在したので、それがちゃんと動くか確認してから奥に進む。

 

すると、そこに悪魔がいた。

 

下半身蛇。上半身人間の男の悪魔は怪しい装置に下衆な笑みを浮かべるとなにやら掲げた。

 

すると機械の中にその悪魔が入り込んだ。

 

すると先ほどの悪魔の笑い声が響き、誰かの悲鳴が聞こえた。

 

なるほど、あれがここではないここに入る装置のようだ。

 

オレは装置のすぐ真上に張りつき、待ち伏せした。

 

するとすぐに先ほどの蛇男が現れたのでオレはそいつの頭上から襲いかかり、首を極め、尾を踏んづけた。

 

「ガブッ!」

 

目を見開き、抵抗しようともがく蛇男の首を180°回転させて折り、そいつの体を蹴り飛ばした。

 

「容赦ないわねぇ~」

 

そういってひきつった笑みを浮かべるのはハイピクシー。

 

「ちょっとパワーに教わった柔術を試しただけさ」

 

 

にたりと笑うとオレは口から泡を吹いて気絶している蛇男から玉のようなものを引き抜いた。

 

そもそも悪魔が首を折られたぐらいで死ねないのは常識。ある程度長期間首を痛めている状況は続くだろうが、弱い者いじめするやつのことなんか知ったこっちゃないね

 

オレは気絶している蛇男にむけて鼻を鳴らすと、機械に玉を……【ウムギの玉】を掲げた。

 

すると機械から謎の煙が放たれ、一瞬でオレの視界を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変化は劇的だった。世界から色が無くなり、上下が逆さまになった。

 

そして誰もいなかった部屋は牢獄に変貌し、マネカタが磔にされ、マガツヒを吸われているのがあちこちで見られた。

 

情報によるとここはマントラ軍の牢獄であり、マガツヒの製造工場であると聞いた。

 

マントラ軍が崩壊した現在、生き残りがここを拠点にして今なおマネカタを虐待し、マガツヒを絞っているのだろう。

 

怒りが沸いた。強者が弱者を虐げる姿はいじめられていた昔のオレをみているようで怒りが湧く。

 

マントラ残党。皆殺しだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ、許してくれ!マネカタは解放するから!命だけは助けてくれぇ‼」

 

「そういったマネカタをお前は殺してきたんだろ?今のオレと同じように」

 

「ヒィ⁉ギャア⁉」

 

命ごいをする悪魔の首をオレは斬り飛ばした。オレはそいつのマガツヒ、アイテムを強奪する。

 

仲魔達も周りにいる悪魔をバッタバッタと倒していく。

 

この世界。竜王 ミズチという悪魔が作った蜃気楼世界というらしい。

 

閉じ込められていたマネカタからの情報によると、5階に噂の予言がてきるマネカタが閉じ込められているとのこと。

 

そこには人間の少年も閉じ込められていると聞いた。勇のことだろう。

 

これは自分で知ったことだが、蜃気楼世界に入り込んだものは一人を除いて現実世界からは視認出来ない。

 

唯一、なぜかここにいるシブヤで店を開いていた悪魔、ジャックフロストのヒーホー君が蜃気楼世界にいるオレを現実世界からでも視認できた。理由は不明。

 

蜃気楼世界には何百人ものマネカタが閉じ込められていた。

 

なかにはギンザ大地下道にいたマネカタもいた。助けてくれと泣きつかれたときには戸惑った。マネカタはどいつもこいつも同じような顔をしているもんだから誰か分からない。

 

自分で脱獄する意思をもったマネカタはいないのかと思ったが、4階に変な行為をしているマネカタを見つけた。

 

覗いてみると、動きを縛られていない。なにかで床を掘っているようだ。

 

オレは声をかけた。

 

「おい」

 

「……ギクッ!マントラ悪魔!?」

 

肩をビクッと震わせ、悲鳴をあげるとポキッという音が聞こえた。

 

「げげげ!スプーンが折れた!」

 

どうやらスプーンで床をほじくりかえして脱獄しようとしていたらしい。そいつは悪いことをした。

 

「どーしてくれんだ!もう少しで穴が掘れたのに……

オマエのせいだ!オレにはスプーンは必要だったのに。責任とれ!」

 

「わ、悪い!責任とるよ……でも」

 

今やれる責任をとることといえばこのマネカタの脱獄を手伝うことだが、床をぶち抜いたのならたちまちここにいる悪魔がウジャウジャ集まってくるだろう。

 

そうなれば、オレたちならともかくこのマネカタが生き残る可能性はない。

 

考えているとマネカタがハッと何か思い付いた声をあげた。

 

「そうだ。オマエ責任とってスプーンを手に入れてこい。

どこかの牢獄に、何でも持ってるガラクタ集めマネカタってヤツがいる」

 

「ガラクタ集めのマネカタ……あいつがここに⁉」

 

「知っているのか?なら話は早い!そいつを探してスプーンをもらってきてくれ。そーゆーことだ。責任だぞ!」

 

「分かった分かったよ」

 

オレはそういうと走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マネカタ達から話を聞くとガラクタ集めのマネカタは二階にいることが判明した。

 

そこに行くためにシャッターを操作するという手間をかけなければいかなかったが、なんとか探しだせた。

 

他のマネカタ達とは少し違う格好をしていたガラクタ集めのマネカタはオレをみると弱りきった声をあげた。

 

「……キミ…は!?ああ……大地下道で会った悪魔…」

 

「あぁ久しぶり。元気って、そんな感じじゃねえか」

 

「ハハ……そうだね。で、助けに来てくれたのかい……?」

 

「あぁ、だがそのために欲しいものがあるんだが」

 

「なんだい?」

 

「スプーンが欲しい。それも強靭なヤツ」

 

「……え?スプーン?」

 

何に使うんだと疑問に思ったようだがマネカタはうなずいた。

 

「……ヨシ、わかったよ。千円札探しでは……お世話になったからね……

ゲホゲホッ………ボクの持ってるスプーンをあげるよ……」

 

そういうと服の裾から指だけ動かしてスプーンを取り出した。

 

それを投げてよこすとオレはそれを拾いあげた。

 

【首狩りスプーン】。そんな物騒な名前のスプーンは確かに強靭そうな代物だった。

 

「恩に着る。必ず助け出してやるからな」

 

「あぁ……頼むよ…」

 

オレは急いで四階に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四階に戻り、例の牢獄に行くと穴堀りマネカタが飛びついた。

 

「スプーンをもってきれくれたのか?」

 

「あぁ、ほらよ」

 

それを投げて渡すとマネカタは変な喜び声をあげた。

 

「おぉ!なんかスゴそうなスプーンだぞ⁉」

 

そういうとマネカタは堀かけの床をスプーンでほじくりかえした。

 

穴は一瞬で掘れてしまった。

 

「……スゴイ掘れ味だ。一瞬だったぞ。よし。これでこんな所ともオサラバだ。うりゃ!」

 

マネカタは意気込んで落ちていった。

 

オレはどうするか悩んだ。このカブキチョウ捕囚所というのはあちこち物が壁になっていて奥へ進めないのだ。

 

この穴からなら、もしかしたら……

 

オレは蜃気楼世界から元の世界に一度出て、上下を元に戻した後、その穴に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穴に落ちた後、ミズチのいる場所までの道が分かった。

 

途中、穴堀りマネカタの悪態が聞こえた。恐らく蜃気楼世界から出られないのだろう。

 

どのみちミズチは倒すつもりでいたし、倒すとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最上階にある広い部屋。そこにミズチがいた。

 

ミズチはこの捕囚所のあちこちにいたがこのミズチは別格のようでデカイ。マガツヒの過剰摂取だな。

 

ミズチはオレを見るなりキーキー喚いた。

 

「オノレ チョコザイナ!

ワシヲ 追イツメタ気ダロウガ、オマエガワシニ勝テル見込ミナド、毛ホドモナイワ!

キサマハ ミズチ様ジキジキノ拷問で、バラバラニ「ファイアブレス‼」グワァ⁉」

 

うるさかったので口から火を噴いてしまった。あ、弱点のようだ。

 

それにミズチ、なんか少し縮んだような………へぇ

 

「零時。あなた今ズッゴイ悪い顔してるわよ」

 

「分かる?」

 

「キ、キサマ‼ワシガ話シテイルトキニ!モウ許サ「全員放てェ‼」グワァ⁉」

 

オレは火炎属性が使える仲魔をフルで召喚し、オレも火を噴いてフルボッコにした。

 

抵抗してきたが相手がミズチと分かっていて、何度か戦っている以上、対策は立ててある。ワダツミで氷結無効にすれば良い。

 

ついにミミズレベルにまで縮んだミズチ。わぁーかわいくない。

 

オレはそれを足で潰した。あは、プチッていった!

 

「零時。あなたここに来た意味覚えてる?」

 

「ハッ⁉そうだ、勇!」

 

オレが部屋の奥に行こうとすると世界に色が戻りはじめた。

 

どうやらミズチが倒されたことにより、蜃気楼世界が崩壊したようだ。

 

それに構わず、部屋の奥にある扉をくぐると行くと別の扉からマネカタが現れた。

 

それもただのマネカタじゃない。ある程度の悪魔なら凌駕できる力を持っている異質なマネカタだ。

 

そのマネカタはこっちに気付くと驚いた顔をした。

 

「……!君は………人のような……悪魔のような……

そうか、私の占いに出ていた【人修羅】とは君のことか」

 

「そうだ(多分)。それより大丈夫か?マガツヒを吸われ続けてたんだろ?」

 

「大丈夫さ。ミズチを倒してくれて有難う。おかげで蜃気楼の牢が破れ、外に出ることができた。

私の名はフトミミ。知ってるかもしれないが、少しばかり未来を見る力を持っている」

 

フトミミ。勇が言っていた予言ができるマネカタ。

 

フトミミは優しそうに微笑んだ。

 

「君の来る事も感じていたよ。人のような、悪魔のような【人修羅】が我らを解放してくれるとね……」

 

どうやら噂は本当のようだ。こうして実現したのだから。

 

そこでフトミミは思い出したかのように言った。

 

「そうだ、人間といえば、向かいの部屋に少年が捕まっているよ。私を訪ねてここまで来たようだが、さすがに捕まってしまってね。うん……?」

 

するといきなりフトミミが目をつぶり、頭に指を添えた。マガツヒ不足の不調かと思ったら違うようだ。

 

「……そうか、どうやら君の知り合いのようだね。

すぐに会ってあげた方がいい。どうも彼には奇妙な気を感じるからね」

 

「なに?」

 

問おうとしたが、フトミミは部屋を出る素振りを見せた。

 

そういえば彼はマネカタのリーダーだった。他のマネカタが心配なのだろう。なら、長居はさせない方が良いか。

 

「他のマネカタが気になるので私はここで失礼するよ。助けてくれたこと、本当に有難う。……では、また。」

 

そういうとフトミミは部屋を出て入った。

 

オレはそれを見届けると急いでフトミミが出てきた扉じゃないほうの扉に向かった。勇に何があったというのだろうか?

 

扉を開けると、なぜかターミナルがあった。そしてその横に憔悴しきった勇がいた。

 

が、何かおかしい。勇が纏う雰囲気が。どこか異質だ。

 

だがこの雰囲気は始めてではない。創世をすると誓った千晶と同様の、どこか悟ったようであり、諦めた雰囲気だ。

 

いったい、何が……

 

「勇……?」

 

呼び掛けると勇はバカにしたように返事をした。

 

「……何だ、零時かよ。今ごろ何しに来たんだよ?

助けに来たつもりなのか?ハッ、遅せぇっての」

 

さすがにカチンと来た。命張ってここまで来たというのになんて言い様だ。

 

「ふざけんな!こちとら必死になってお前を助けに来たんだぞ‼なのになんだよその言葉は!」

 

「別にいいだろ、どんな口利いたって。何かしてもらったわけじゃないし」

 

「な……に……?」

 

オレは絶句した。勇の言葉に、ではない。そういった勇の目だ。

 

勇のあの目は見たことがないほど暗かった。オレはその目を見たことがある。

 

昔の、オレの目だ。他人に絶望し、全てが敵に見えた。あの時のオレの目。

 

他者との関係に失望した目だ。

 

「もう、オマエとか……祐子先生とかアテにしねぇし、関係ねぇよ。こんな世界で……助けてくれるヤツなんかいるもんか。オレは……一人で生きるしかないんだ」

 

その言葉で全てを悟った。あぁ、なるほど分かった。こいつも絶望したのか。

 

勇は【他人】に絶望したのだ。この地獄で、救いの手を探して。それでも助けてくれる奴はいなかった。

 

この地獄には祈る神すら存在しない。

 

いるのは、悪魔と死神だけだ。

 

そのなかで勇はカブキチョウに捕まり、マガツヒを絞られ、その痛みのなかで、壊れた。

 

勇は疲れた。しかし確固たる黒い意志に満ちた声で語った。

 

「【真理を求めよ】……この世界に来る時に誰かがオレにそう言う声を聞いた。ずっと何のことか分からなかった……

だけど、ここに閉じこめられたおかげでそいつの手がかりはつかめたよ。

真理なんてものは、人を当てにしてもダメで、自分の中に見つけるしかない、てな。

そしてオレは道を開いた……誰の手も借りずにな。

ここから繋がっているアマラ経路……オレが求めてるものはそこにあるんだ。

オレを真理に導いてくれる偉大な力が……」

 

勇がそういうとターミナルが不気味に光りだした。まるで呼んでいるように、明滅する光を放っている。

 

勇はそのターミナルに虚ろな動きで手を伸ばした。

 

「ほら……オレを呼んでる……」

 

「勇!」

 

止めようと手を伸ばすが、遅かった。

 

勇は一切の音を出さずにふっとターミナルに吸い込まれていった。

 

「勇………どうして……」

 

残されたオレはそう呟いた。

 

答えてくれる者は、いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





勇君が歪む話。

私も受胎に遭遇したらこんな風になってしまうと思います。そもそも生きているかどうか……


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四騎士の問い 零時の仮説





 

勇がアマラ経絡に去っていったあと、オレは部屋を出た。

 

追う気にはなれない。勇は完全にオレに……というか他人全員に失望している。追って一緒に帰ってくる訳がない。

 

そもそもヒジリのサポートなしでアマラ経絡に入るのは無茶だ。閉じ込められたらどうする?

 

そう思えば勇がやったことは自殺行為だ。

 

だが、勘が言う。

 

勇は死なないと。

 

オレの勘は外れたことがない。嫌な予感ならなおのこと。

 

勇が生きることに嫌な予感の部類に入る理由は分からない。

 

だが、勇は間違いなくやってはいけないことをやる。そんな気がする。

 

悶々と考えながらカブキチョウ捕囚所から出ようとするとフトミミがたくさんのマネカタを従えて待っていた。

 

何事かと思っているとフトミミが口を開いた。

 

「君には世話になったので、あらためて礼を言いに来たよ」

 

「いいさ、礼なんて。ついででお前達を助けただけだし、ミズチを倒した気概も完全に自分の感情だし」

 

これについては嘘はない。虐められていたオレにとっては弱者を虐げる強者は憎しみしか湧かない。マネカタを助けようという気概は二の次だった。

 

「それでも我らを助けてくれたことには変わりないよ。本当にありがとう」

 

フトミミはそういうと空を見上げた。

 

「…我らマネカタは、これから旅立とうと思う。どうすれば、皆が苦しむことなく生きられるかを考えるために」

 

「………大変な道のりだぞ」

 

「分かっているさ」

 

フトミミはそういうと、『そうそう』といった。

 

「…お礼に、と言ってはなんだけど、君にひとつ予言をあげておくよ」

 

フトミミはそういうと指を頭に添えるあの動作をした。

 

「……どうやらギンザに、君を待ち受ける男がいるようだ。会いに行くといい」

 

「ギンザに?」

 

オレを待ち受けている男といえば一人しか思いつかない。あの長髪の、記者の男だ。

 

「……さて、我々マネカタはこれで失礼するよ。ほんとうに助けてくれて有難う。……では………また」

 

「あぁ。また会おう」

 

微笑みながらそういうとマネカタ達は去っていった。

 

安住の地を探すために彼らは旅立つ。この地獄に、弱者が安心して過ごせる場所があることを祈ろう。

 

さて、オレは何をしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カブキチョウからオレはアマラ深界に向かった。

 

理由は簡単。第二カルパへの扉を開くメノラーがヘルズエンジェルを倒した時に揃ったのだ。

 

オレは穴に落ち、深い階層へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穴に落ちるルートは岩だのなんだのが浮いていて殴って壊すなり、避けないと危険だ。

 

当たった瞬間どうなるかは、分かるな?

 

第二カルパの入り口を開けようとした瞬間、いきなり気高き声が響いた。

 

「…おまえが、堕天使の意を受け、混沌の闇の企みに手を貸している魔人か。

お前は知っているのか?

自分の行動が、自分自身をどのような道へ進ませようとしているのかを

我は遥か高みより、おまえの行動を常に見守りつづけていた

闇に魅入られし者、零時よ、お前は今、いと高き神の意志に逆らおうとしている。

悪魔に変わりし肉体に、人の心をもつ者よ。

残された心まで闇に染まる前に…

我が声を絶対と信じて、堕ちた天使に協力するのは、止めるのだ!』

 

いきなりの警告。しかも神と来たか。

 

答えは、決まっている。

 

「断る。誰だか分からないヤツの言葉になぜ従わなければいけない。しかもオレは神なんざ信じていないんでね」

 

オレがそう言い切ると気高き声が絶望した言葉を投げ掛けた。

 

「愚かな。もはや正邪を解せぬ身に落ちたか……この混沌の悪魔が巣くう地ではわずかに残った人の心もいずれ消え失せよう。願わくば地上に戻り、闇を払うがいい。

この地に神の怒りが轟く前に……」

 

そういうと声は聞こえなくなった。

 

オレは鼻を鳴らした。

 

正邪を解せぬ?死にさらせ。それだったら今も苦しんでいるオレ達を救いもしない神はなんだよ。

 

歪んでしまった千晶や勇に希望の一欠片でも渡してみせろ。でなければ神の言葉なんざ耳障り以外何物でもない。

 

オレは台座に向かい、奪ったメノラーを台座に置いた。

 

【永遠のメノラー】【威厳のメノラー】。この二つを台座に置いた瞬間、第二カルパの奥へ進む道は開いた。

 

さぁ、探索だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相変わらず強い悪魔が跋扈していて苦労したが、その分強くなれた。

 

あちこちにお宝があるのは嬉しいが、変な物を見つけた。

 

【死兆石】というアイテムなのだが使い方が全く分からない。分かることはこの石からは魔人の雰囲気がかすかにするのだ。

 

悪魔関連の物なら邪教の館の主に聞けば分かるだろうか?

 

さて、この第二カルパ。苦戦する理由は悪魔だけではない。

 

透明な壁で構成された迷路に苦戦した。

 

近づけば見えるが少し離れただけで見えなくなるこの迷路の壁は迷路の全貌を隠してしまうので解こうにも解けない。あそこに行けばゴールか⁉と思って走るといきなり壁が現れて壁ドン(独りver)してしまう。

 

やっと迷路を解いたと思ったら、ゴールではなくカギがあったしそのカギを使う扉は延々と見つからなかったしうんざりだ。

 

やっとゴールに着いたときには、オレも仲魔もかなり強くなっていた。カラステングが幻魔 クラマテングに変化してしまったぐらいだ。

 

さて、ここにもあった覗き穴。もちろん覗く。

 

今度の報酬は、如何に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相変わらずの舞台。そしてオレが覗くと開く幕。

 

そして開いた舞台にいる。車椅子の老紳士と喪服の女。

 

喪服の女はオレを見上げると語り始めた。

 

「メノラーは少しずつですが、順調に集まっているようですね

…ところで、この地で多くの思念に出会いませんでしたか?」

 

確かにこのカルパは思念体が多かった。どいつもこいつもメシアだのガイアだのうるさかったが。

 

「彼等は現実世界での記憶が、死という純化で生じた者達。

それゆえに、アマラの果てに流れ着いても

まだ現実での出来事を忘れられずに漂っているのです。

そこには、あなたの知る、あの氷川という男と…深い関わりのあった者が多く居たはずです。

彼こそは、かつての世界を破びへと導いた張本人。

彼が元の世界で起こした行動があって、あなたは今ここに立っているわけです

人の身では知り得ない彼の過去、東京受胎の裏側にあった出来事を…

ここまで来ていただいた御礼にお教えいたしましょう」

 

 

「ガイア教団本部…

ここより全ての出来事は始まったのです

あらゆる思想を自らの物とし、混沌の中に見出そうとする集団…

あの者は、多くの思想を内包する教団においてすら、異端視される考えの持ち主でした

そう…あなたと世界の運命を変えた人物」

 

これは氷川のことだろう。

 

「彼は…現実の中に理想は無い、理想は己の手で作り出さねばならない。

…そう言ってはばかりませんでした。

そして、人の身の則を越え、世界の創世を目論むに至ったのです

強き意思は、運命を引き寄せると言う事でしょうか…

あの者の目論見は、現実へと転じることになります。

教団内に眠っていた書物、ミロク経典がその者の手によって開かれたのです。

あの者は、経典を手にする事で、アマラの世界の転輪鼓を元の世界に復元させました。

そして、記されたシンボルの意味を解き明かし、アマラ宇宙に通じる事で…

彼は東京受胎という審判を…かつての世界の滅ぶべき運命を知ったのです。

…その後、公園で起きた事件。

あれこそ、彼が全てを知った上で行った、受胎後の、創世への準備でした。

そう、彼の手によって呼び出された悪魔達の力によって血塗られた惨劇が幕を開けました。

彼は避けられぬ運命である、世界の滅びと再生を、自らの意の下で動かす決意をしたのでした。

己の思想に反する教団の仲間、己の行動を止めんとするメシア教徒の者たち…

彼はその両者ともを、召喚した悪魔を使い、葬り去ったのです。

邪魔者の居なくなった世界で、彼は受胎を迎えました。

ミロク予言の通り…いえ、ミロク予言を読み解いたあの者の思惑通りに、受胎は起こったのです。

あの者の創世を援護するニヒロ機構という組織もまた…その時に産まれました」

 

「これが、東京で起こった事です

あの者が考えた通り受胎は起こり…創世が為されんとしています。

それが、この先どうなるのか…まだ未来は定まってはいません。

繰り返される【創世の輪から解き放たれる】事もある、と…

私どもは信じて。あなたを、見守っていましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレは覗き穴から顔を離した。

 

今回、喪服の女がくれた情報は氷川が受胎を起こした経緯だ。

 

氷川は世界を変えたいと強く願った。それは受胎前の東京で氷川が言った言葉の節々からも分かる。

 

それでミロク経典とやらを開き、アマラの転輪鼓……つまりターミナルを手に入れ、受胎で世界を死なせた。

 

そして自分の考える理想の世界を創るため、ニヒロ機構という自分の思想に賛成する悪魔の集団を作った。

 

ここまで来るのに、あいつは何人殺した?

 

何十億人だ。世界を殺したのだから。

 

そこまで人間に、前の世界に絶望したのか。氷川。

 

自分の思想が正しいと本気で思っているのか、氷川。

 

させやしない、お前に世界を創らせやしないぞ、氷川。

 

オレはそう決意すると先に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三カルパのメノラー置き場。そこに行くと王国のメノラーが火を灯し、揺れ始めた。

 

そして感じる魔人の気配。しかも複数。

 

戦闘態勢に移行するオレと仲魔達。そして、それは現れた。

 

それは白い馬に乗った騎士だった。頭に王冠を被った。弓矢を手にもつ骸骨の騎士。

 

それはオレに言った。

 

「…よくぞ来たな、その身を悪魔に変えし者よ。オマエがこの地に来た事で、運命の歯車は回り始めた…」

 

そういうと白騎士は消え、変わりに赤い馬に乗り、大きな剣を持った騎士が現れた。

 

「運命とは、巡り還す物よのぅ、されど我等、その宿命を越えんとし、堕ちた天使に導かれておろうおまえとて、それは同じであろう?」

 

再び消失。次いで現れたのは黒い馬に乗り、手に秤を持った騎士。

 

「…メノラー奪還に遣わされし魔人よ。汝の求めし物は、我等四騎士が手の内にある。我らに勝てば、汝の手の内に納まろう」

 

三度消失。三度現れたのは青ざめた色に乗り、死神の持つような大鎌を持つ騎士だった。

 

『…魔人よ。いくつかの死を乗り越え、ここまで来た男零時よ。オマエか…我等か…このメノラーを賭した魔人らの戦いに、勝ち残る事があのお方の望みに沿う道だ。

そしてその望み叶いし時…あのお方は最終決戦に赴く決意をなさるだろう。

オマエに覚悟はあるか?我等魔人と戦い続ける意思が?

戦いつづければ、その身も心も、人ならざるモノになるとしても…」

 

オレはその問いに戸惑った。いきなり言われた企みを目の前にしたらそれは戸惑う。

 

が、それも良いと思う心もあった。最終決戦。堕ちた天使。拾い続けたキーワードが繋り、あの老紳士の招待が想像がついた。

 

この予想が確かなら、あの老紳士の正体は……そして最終決戦とは。

 

オレはふっと笑い、覚悟があると告げた。

 

「良かろう。それでこそあのお方が見込んだ魔人よ。…では、この先のオマエの働きを見せてもらおう。

四騎士、混沌の地ボルテクスにて、汝の到来を待たん」

 

そういうと騎士は去った。

 

オレはなるほどと呟いた。

 

白騎士。赤騎士。黒騎士。そして青白い騎士。この四人組に該当する知識をオレは持っていた。

 

ヨハネの黙示録の四騎士。各々が、世界に住む人間の四分の一を殺す権限と力を与えられた者。

 

オレが戦うのは、確かに死そのものだった。

 

そしてそれらを倒したその先にある、老紳士の思惑。

 

神に復讐する唯一の方法だった。

 

だがこの道を選ぶにはまだ早い。

 

まだオレには、あの日常に戻る可能性があるのだから。

 

 

 

 





聡明な零時ならこのへんで仮説ぐらいたてられると予測しました。

しかしオリジナル展開、どうしようかな。



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アサクサと勝利の騎士


サブタイトルでネタバレになっている。


 

アマラ深界から抜けるとオレはギンザへ向かった。

 

ギンザのターミナルにはフトミミの予言の通り、ヒジリ記者がいた。

 

「…おお、零時じゃないか。無事だったようだな。…それにしても、よく俺がここにいるって分かったな」

 

「とある予言者が教えてくれてね」

 

「……予言者、ねぇ。まぁこの世界には何がいてもおかしくはねぇが」

 

ふぅと息をつくヒジリ。

 

「しかし、氷川は恐ろしいヤツだな。本当にマントラ軍を滅ぼしちまいやがった。ナイトメア・システムか……えらい仕掛けを隠してたもんだ」

 

「組織を1発、だもんなぁ」

 

ナイトメア・システム。悪魔相手なら無敵のシステム。これが氷川の手にあるかぎり、敵の悪魔集団なんぞ一撃だろう。

 

このままでは氷川の思い通りになってしまう。そうはさせるか。

 

「だが、俺はあきらめちゃいねぇよ。ヤツが動けば、それだけ分かることもある。

ナイトメア・システムの拠点はどこか、システムを動かしているらしい巫女とは何者か……」

 

システムを動かす巫女は誰か分かる。氷川自身がそれを言い漏らしたのだから。

 

だが問題のナイトメア・システムの拠点が分からない。

 

「ターミナルで分からないのか?」

 

ニヒロ機構の本部、および中枢区の場所をヒジリはターミナルで知ることができた。それを使って探せないのかと思ったのだが、

 

「無理だ。如何せん、このターミナルはニヒロの支配下にあってな。肝心なところで調べがつかんよ」

 

「……そううまくは行かないってわけか」

 

オレがそういうとヒジリはため息をつく。

 

「どうにも、やつらの監視がゆるいターミナルを見つける必要がある……」

 

そういうとヒジリは何かを思い出したような素振りをみせた。

 

「そういえば今まで錆びれてたアサクサの街が、マントラ崩壊で解放されたマネカタの手で復興されてるらしい」

 

「へぇ」

 

フトミミがアサクサを拠点にしたのか。これは見にいってみたいものだ。

 

だが今の問題はそこではない。内心で頭をふる。

 

「そこなら、ニヒロ支配の甘いターミナルがあるんじゃないかと思うんだ」

 

「なるほど、可能性はあるか」

 

アサクサが受胎後、錆びれていたのならニヒロ機構にしても放置している土地ということだ。確かにそこならニヒロ機構も重要なセキュリティは構築していないだろう。

 

もっとも、ターミナルがあればうまくいくという話だが。

 

だが別の問題もある。

 

「で?どうやってアサクサまで行く?」

 

ターミナル間の移動は一度たどり着いたターミナル同士でないとアマラ経絡に落ちる可能性がある。そうでなくてもアサクサにターミナルがあるかどうかも分からないのだ。

 

オレの問いに、ヒジリは肩をすくめた。

 

さて、マネカタどもはマントラ崩壊で、アサクサへの道も通ったらしいが、そんなとこ歩いて行くなんて、危険すぎて俺には無理だね。ここのターミナルからアタックしてはみるが……」

 

あ、嫌なパターンだこれ。

 

予感の通り、ヒジリはオレを注視した。

 

「…そうか、おまえがいたなぁ」

 

デスヨネー、知ってた。

 

「どうだ?おまえアサクサに行く気はないか?

もし、おまえがアサクサに着いて、連絡をくれれば、俺もアサクサに行ける。

おまえの力なら、アサクサまで行けるだろうし……いいだろ?」

 

期待、というかもうそれしか眼中にない目でオレを見るヒジリ。

 

オレはため息をつく。たまには命賭けない仕事がしたい。この世界に安全な場所があればな。

 

「分かったよ。行くしかねぇんだろう、オレが」

 

そう答えるとヒジリは満足そうに笑った。

 

「良かった。これでなんとかなりそうだ。まあ、ニヒロでも、巫女でも、アサクサで分かったことは教えるから持ちつ持たれつでいこうぜ」

 

「調子いいな。全く……」

 

こっちは友人が歪む姿を見たのに、とは言わない。ヒジリだって大切な人間の10人はいただろう。その人達を亡くしているのだから。

 

暗い気分のなかでヒジリは今後の予定をまとめた。

 

「よし、おまえのアサクサ到着待ち、ってことでいいな。東イケブクロにアサクサへ通じる坑道の入り口があるらしいから、そのへんを当たってみてくれ。

俺も努力は続けるが、おまえのほうが期待が持てそうだ。よろしく頼むぜ」

 

「了解」

 

そういうとオレはターミナルの部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東イケブクロにある坑道、といういうのは東イケブクロにある地下鉄であった。

 

イケブクロ坑道と呼ばれているそこにたどり着くとまず悩んだのが暗闇。

 

【光玉】というジャンクショップに売っているアイテムが必須になる。

 

それでも薄暗い坑道内は常に悪魔の奇襲の危険がある。こんなときの【心眼】だ。

 

心眼を使わずとも、オレは見られているという感覚が鋭い。が、これがあると安心感が増す。なんでだろうか。

 

坑道内の悪魔は脳筋が多い。地霊 サルタヒコ。妖獣 モスマンの攻撃力の高さには少し悩んだ。

 

狭い坑道内だと派手に動けないし、派手な攻撃が出来ないからだ。

 

おまけに変な鬼の四人組に襲われるし、最悪だった。ムラクモというマガタマが手に入ったからまぁ、それは良しとするが。

 

イケブクロ坑道を抜けるとそこはかなり変貌した土地があった。

 

アサクサのある風景の奥にある変な建物を中心にクレーターがあって、土地が陥没していたのだ。これは復興どころか移動も大変だろう。本当にマネカタはここの土地を選んだのかねぇ。

 

とりあえず、アサクサのターミナルに行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなった。オレは問いたい。

 

アサクサに入ってすぐにメノラーが火を灯したと思ったらいきなり引き込まれた。待ち伏せかい。

 

そして見飽きた荒野。燃える空。

 

いつもと違うのは、魔人の出現のみだった。

 

空から馬の嘶く声がしたと思ったら白馬が空中から落ちてきたのだ。

 

そして着地した白馬に乗っていたのは、第三カルパ入り口に現れた四騎士の一人である、白騎士。

 

白騎士は再び空へ駆けるとオレに向き直った。

 

「ハハッ!また会えたな零時!」

 

なかなか快活な声をあげる魔人。今までなかったことだが、魔人特有の死を連想させるあの雰囲気は変わらない。

 

「全てはメノラーの導き……その光は唯一人の主を求め、引き合い、燃え上がり、我らを巡り合わせる!」

 

「オマエが全ての魔人を倒し、メノラーを手にするならばそれも良し!それが出来ぬのならば……」

 

白騎士は手にもつ弓矢を掲げた。

 

「このホワイトライダーの神矢に射ぬかれるまでよ!さぁ、来い!臆病風の守りなど許さぬ!」

 

「元よりただの臆病でここまで生きてねぇっつうの‼」

 

オレは魔力をたぎらせ、ホワイトライダーに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホワイトライダーとの戦いはいくつかある魔人戦の中でも苦戦した。

 

黙示録の四騎士はそれぞれ人類を滅ぼす属性を司るといわれている。

 

白騎士……ホワイトライダーの司るのは【勝利の上の勝利】。つまり【支配】だ。

 

そのためか白騎士には他の騎士にはない王冠を被っている。

 

そのためかホワイトライダーは勝つための手段が多数存在した。

 

たとえば“死天召喚”。このスキルは天使 ヴァーチャーという悪魔を召喚できる。おまけに何度でも。

 

天使という種族は、基本補助と攻撃両方出来るので厄介だった。衝撃に弱いため“竜巻”で蹴散らしてはいたが、“竜巻”とて何回でも使えるわけじゃない。魔力とそれを回復するアイテムが切れたらアウトである。

 

もう1つ厄介なのは“ゴッドアロー”成功率100%の即死技である。

 

破魔に耐性があるか、または避けなければ即アウト、というわけだ。

 

おまけに無限に矢があるときた。ホワイトライダーも弓が上手い。弓道部とか流鏑馬とかやるなら大活躍だ。

 

……まぁ相手誉めたってしょうがない。こちらも切り札はある。

 

話が変わるがオレが第二カルパで拾った【死兆石】を覚えているだろうか?

 

あれを邪教の館の主に聞いたところ、なんと魔人を悪魔合体で創れるようになるアイテムらしい。

 

それで過去に倒した魔人を創ってみた。それがこいつだ。

 

「喝ッ!」

 

気合いの声とともに骸骨の僧侶はホワイトライダーの矢を吹き飛ばした。

 

魔人 だいそうじょう。かつてイケブクロでオレと仲魔達に倒された魔人だった。

 

気に入らないやつだったが話を聞いてみると奴も悲しい存在だった。

 

だいそうじょうも、魔人になる前は人であった。人であるだいそうじょうは昔、各地を周り人々を救うために仏教を説いてきた。

 

しかしどんなに教えを説いたところで人は無情に、無惨に死んでゆく。病気で、殺人で、災害で。

 

その内だいそうじょうは生に絶望した。

 

その後、死こそ救いと信じ、死に染まった存在【魔人】に堕ちたということだ。

 

オレはその絶望を聞き、その上で説いた。

 

死に意味などない。死は終わりなのだ。終わってしまったことに救いなんてないと。

 

その後、オレはこう懇願した。

 

その死の力、オレに貸してくれ。オレの敵を殺し、オレを救ってくれと。

 

だいそうじょうは笑った。生に執着するその姿勢を愚かとも言った。

 

だが何を思ったのかだいそうじょうはオレの頼みを聞いた。合体によって造り出された契約なのかなんなのかは知らないが。

 

だが魔人とあってだいそうじょうは強い。即死攻撃・バッドステータス攻撃を無効化する耐性はチートだった。

 

補助の魔法も充実しており、彼は活躍した。

 

その活躍もあってホワイトライダーは倒された。

 

オレはメノラー、【慈悲のメノラー】を拾い上げ、結界から抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





アサクサでのホワイトライダー戦は驚きでした。

あきらかな奇襲ですよね、あれ。



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マネカタのリーダーと面汚し

フトミミさんの再登場、およびあいつの登場です。

マニアクスだとあいつの生まれたわけが分かりますね。


どうしたんだ?お前」

 

「いや、こっちのセリフなんだが……」

 

ホワイトライダーとの戦いに勝った後、ターミナルのある部屋に飛びついたオレだがなんとそこにはヒジリが先に着いていたのだ。

 

ちなみにヒジリがオレの姿に驚いているのはホワイトライダー戦でボロボロになっているからだ。

 

そして、オレが驚いている理由は当然……

 

「なんでここにいるのさ。オレが開通するまで待つんじゃなかったのかよ」

 

「いやぁ、悪い悪い。長い距離を歩かせておいて本当に悪かったけどなんとか自力でここまで行けたんだ。ハッハッハ‼」

 

「そうか。死にたいようだな」

 

「ちょ、冗談だろ⁉」

 

手のひらに電撃をバチリを放出させながら迫ると、ヒジリはターミナルを盾にして引きこもった。

 

「こっちだって苦労したんだぜ⁉ニヒロの監視を掻い潜り、苦戦しながらもここまでの経絡を探したんだからな」

 

「ふざけんな、部屋に引きこもっている分際でぇ!こっちはいつ襲われるかも分からない暗い坑道歩いておまけに野盗悪魔どもに襲われてまでここまで歩いてきたんだぞドチクショウ!」

 

「いやぁ、まぁその……すまん」

 

感情のまま捲し立てるとヒジリはしょぼんとなった。

 

………やめよう。この話は。

 

「で?ここは理想のターミナルなのか?」

 

「あ、あぁ。にらんだ通り、ここのセキュリティは甘い。ここならいろいろ調べられそうだ」

 

ヒジリはそういうとコンとターミナルを叩いた。

 

「調べることは山積みだ。しかもセキュリティが甘いとはいえ全く警戒されていないわけじゃない。調べるのにどれくらい時間がかかるか分からねぇ」

 

「そうか。んじゃその間、アサクサで観光でもしてようかね」

 

「あぁ、そうしてきな」

 

オレはそういうとターミナルから出た。

 

さて、フトミミは元気かね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アサクサではあちこちでマネカタ達が復興作業を行っていた。

 

マネカタ達は活気に満ちていた。ようやく自由と安住の地を手にしたんだ。それは喜ばしいだろう。

 

しかしオレの心は疑問にまみれて重々しかった。

 

この疑問は前々から思っていたことだが、ここに来てさらに疑問が大きくなった。

 

そのきっかけはここにいる悪魔と戦っていた時だ。

 

地霊 サルタヒコという悪魔がいる。このサルタヒコは個人名であり、たとえばコダマとかコッパテングのように種族名ではない。

 

つまりサルタヒコというのは一人の存在であり、唯一無二のはずなのだ。

 

ところがアサクサには複数のサルタヒコがいたのだ。

 

もとよりニヒロやマントラにも個人名を冠した悪魔は多数存在しているが、組織にはクローンのように同じ悪魔を複製を創る技術でもあるのかと思ったが、その考えはこのアサクサに来て否定された。

 

ここはさして重要な土地ではない。そんなところに組織の悪魔がいるわけがない。つまり複製技術なんてあるわけがないのだ。

 

サルタヒコに話を聞いたところ、彼はどの組織にも属していないし、過去にも属していないとの話だ。

 

つまり個人名の悪魔は自然と複数いるということだ。

 

これはどういうことだろう。種類が同じ悪魔は見た目にも性格的にも違いがないのだ。

 

また、サルタヒコに自身の武勇伝を語らせてみた。嬉々として語ってくれたサルタヒコの言葉をオレは一言一句覚えて、今度は別のサルタヒコにも武勇伝を語らせた。

 

すると別のサルタヒコも一番目のサルタヒコと同じ事を語った。

 

どのサルタヒコも全く同じサルタヒコだということが証明されてしまった。

 

語り終わった瞬間二人のサルタヒコは殺しあいを開始した。オレが本物のサルタヒコだと争って。

 

結果、最初のサルタヒコが若干マガツヒを多く保有していたこともあり勝った。

 

そのサルタヒコは蒼白な顔をして茫然としていた。

 

当たり前だ。自分以外の自分を殺したところでそれが自分であることには変わらない。自分が他の自分を殺すという矛盾、どれだけ恐ろしいことか。

 

その葛藤は進化間近のハイピクシーが語ってくれた。

 

『私達のような種族名の名前を持つ悪魔はまだマシなんだけどね。今の私と同じハイピクシーもヨヨギ公園にたくさんいるけど、それでも些細な違いさえ持てればさっきみたいな自分同士の殺しあいなんてそうそうおきなかったわ。

けど個人名を持つ悪魔は別。いかに違いを持ったところで同じ名前を持つ悪魔同士、それが自分とは違うと割りきれないのよ。それでさっきみたいに我慢できなくなって……たまに、ああなるわ』

 

ハイピクシーはサルタヒコの死体を指差して言った。

 

この言葉で確定した。

 

悪魔は個を持てない、ということに。

 

組織の悪魔が自分証明のために殺しあわないのは、組織のため。決して割りきってるわけじゃない。

 

だが俗にいう野良の悪魔は他の自分を殺すことを躊躇う理由がない。

 

悪魔、特に考える知性を持った悪魔は葛藤に苦しみ続けるだろう。これもあの喪服の女が行った『大いなる意志』とやらが創ったシステムなのだろうか。

 

「ふざけてやがる……」

 

オレは怒りの声をあげながら立ちふさがった悪魔の首を飛ばした。

 

その世界に生きる住人をまるっきり無視した受胎というシステム。そして受胎後に存在する自分という存在の証明が出来ない悪魔という存在。

 

どれだけ膨大な数の存在の意志を踏みにじれば気が済むんだ。カミサマは。

 

………ここで悩んでもキリがない。今はフトミミだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フトミミはアサクサに来る前に見かけた変な建物にいた。

 

名前を【ミフナシロ】というこの建物はマネカタ達の聖地であるとのこと。

 

確かにそこを安住の地にしたいだろう。自分達の故郷なんだから。

 

フトミミはオレが来るのをあらかじめ知っていたようだ。ご自慢の予知能力で知ったのだろう。

 

「やぁ、いらっしゃい。もうアサクサの街は見たかい?」

 

「あぁ。色々壊れていたけど、みんな復興に勤しんでいたねぇ」

 

そういうのを見るのは好きだ。ああやって元気にワイワイやってるのを見てると元気がもらえる。

 

そういうとフトミミはにっこりと笑った。

 

「君は本当に悪魔らしくないね」

 

「元、人間だからねぇ」

 

そういうとフトミミは少々驚いた素振りをした。

 

「そうなのかい?なるほど、だから君からは他の悪魔と違う雰囲気を感じるのか」

 

そういうとフトミミはオレを凝視した。

 

「君には色々恩がある。本当なら色々案内するべきなんだろうけど……観光はここまでにしてもらうよ」

 

フトミミの雰囲気が鋭くなった。

 

「ここは我らマネカタの聖地ミフナシロ。この奥には我々マネカタの母なる場所がある。命の恩人である君とはいえ、通すわけには行かないんだ」

 

「母なる場所?………気になるけど、分かった。通らないよ」

 

そういうとフトミミの雰囲気が緩んだ。

 

「すまない。でもアサクサの街は好きに見てもらって構わないから。もっとも、まだまだ復興には程遠いから見るべきところはないと思うけど」

 

「それは後々の楽しみにとっておくさ」

 

オレがそういうとフトミミは助かるよと微笑んだ。

 

「それじゃ僕は祈りに戻るよ。マネカタ達が平穏に過ごすために必要なこと。早く見いださないとね」

 

フトミミの顔は確固たる決意に染まっていた。

 

そのまま去るフトミミの背をオレは見つめていた。

 

あんな風に、ただ純粋に誰かのために動ける人間ばかりだったのなら。受胎も起こらなかっただろうに。

 

そう思いながら、オレはミフナシロから出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アサクサにある地下通路を通っていると血まみれのマネカタに遭遇した。

 

マネカタはオレを見るなり、すがりついてきた。

 

「た、助けて!奥でサカハギが暴れてるんだ‼」

 

「サカハギ?悪魔なのか?」

 

問うと首を横に振る。

 

「サカハギは、僕らを殺しまくる……悪いマネカタ…」

 

「マネカタ……?」

 

マネカタは基本弱い。だから殺戮なんてされる側と思っていたオレは驚いた。

 

もしかしたらフトミミのような異質なマネカタなのか?そう思い、オレは通路の奥に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥にいくと濃密なマガツヒの匂いと、血のような液体状のマガツヒがオレの感覚を覆った。

 

それらに空腹感を覚えつつもこらえ、オレは奥にいる何かに目をむけた。

 

それはマネカタだった。しかしただのマネカタではない。フトミミ同様、ある程度の悪魔だったら屠れるぐらいに強い気配を持っている。

 

そしてそれは別のマネカタの顔をナイフと鉤爪が合体したような武器で剥いでいた。

 

「全くバカな奴だ。大人しくマガツヒよこせば殺されずに済んだのによぅ……ま、そのおかげでこうやって皮を剥げるんだがな……」

 

クックッと嗤うマネカタ。

 

オレは不快感のあまりに舌打ちをした。

 

「ッ⁉誰だ!」

 

その音にやっとオレのことに気づいたのだろう。マネカタがこちらを向く。

 

こいつの全体を見たとき、オレはそいつの異常さに気づいた。

 

他のマネカタも着ている囚人服を大量の血で汚し、しかもそれにマネカタの顔の皮をあちこち縫い付けていたのだ。

 

それより目を引くのは奴の目。

 

そいつの目は汚い目をしていた。例えるなら、イケブクロにいたオニの目。あれより汚い。

 

野心でギラギラと光り、誰かを蹂躙することを楽とするあの目。汚い。こっち見るな。

 

そう思っているとマネカタ、恐らくサカハギは息をはいた。

 

「脅かすなよ、あのマネカタどもが来たかと思ったぜ……」

 

「あのマネカタ…?」

 

「あぁ、弱い連中だがな。そいつらが最近ここに戻ってきてな。そいつらがちょっとばかりうざったいんだ。ったく、そのままマントラに殺されてりゃ良いものを…」

 

よく分かった。フトミミ達のことか。

 

その答えにたどり着くとサカハギはクックッと嗤った。

 

「ま、そいつがこのドジな連中を引き連れてくれたおかげでこうやってマガツヒを奪えるんだがな。オレはマガツヒを貯め、いずれ悪魔を支配してやるんだ。

 

オレはその言葉にピクッと眉を動かした。

 

なぜだ。なぜこいつは悪魔のような振る舞いをする。なぜ……

 

「お前、見ねぇツラだがお前も悪魔ならマガツヒが欲しいんじゃねぇのか?新鮮なマガツヒがよぉ」

 

突然の問いかけ。オレはこう答えた。

 

「まぁ、欲しいがな。マネカタとか弱い奴からは奪わねぇよ?」

 

「………悪魔とは思えねぇ言葉だな。悪魔ってのは弱者を蹂躙してなんぼなのに」

 

サカハギは呆れたような驚いたような声を出し、首を振った。

 

「まぁ良い。そろそろ去らせてもらうぜ。周りに騒がれると動きにくいからな。

………オレの名はサカハギ。いずれ悪魔を支配する者の名前だ。覚えておくんだな」

 

「その夢、成ったらおぼえてやるよ」

 

歯を剥き出しながら言うとサカハギは鼻を鳴らし、去っていった。

 

さて、サカハギという存在。これはどう考えるべきか……

 

オレは思案に耽りながら死んでいるマネカタを一瞥し、少し黙祷を捧げると去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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オベリスク


うむむ……学校が始まると小説を書く時間がないぜ……

今回は原作のネタバレが激しいです。お気をつけを。


 

サカハギとの邂逅後、ヒジリの下へ帰るとよぉとヒジリが声をあげた。

 

「良いとこに来たな。アサクサ見物は終わったか?」

 

「最後に汚ねぇモノ見せられてテンション下がった」

 

「なんだそりゃ?って話が脱線しかけた。見つけたんだよナイトメア・システムの鍵が」

 

「ホントか⁉」

 

オレはヒジリの話に飛びついた。もしそうならナイトメア・システムの鍵、祐子先生に近づけることになる。

 

「百聞は一見に如かず。自分の目で確かめな」

 

そういうとヒジリはゆっくりとターミナルを回した。

 

え、いきなりそこに転送する気か、と思ったが違う。転送の光り方じゃない。

 

そう思うとターミナルが淡く光輝き、映像を写し出した。

 

「おぉ」

 

まるで立体映像。オレは驚きの声をあげるが違う違うと首を振る。重要なのは写ってる物だ。

 

それはかなり高い塔だであることが窺えた。その塔のてっぺんに膨大な量のマガツヒが吸い寄せられていた。

 

「見えるか?そこはチヨダにある【オベリスク】って場所だ。そこがニヒロ機構の新たなマガツヒ集積所であり、ナイトメア・システムの核になっている」

 

「オベリスク……」

 

本来は古代の記念碑のような物の名前だがなるほど。名前の通り串(オベリスク)の形をしている。

 

「今のニヒロ機構の真の拠点はこのオベリスクってわけだ。その核になっているのがニヒロの巫女とやらだ。どんな仕掛けになっているか分からんが恐ろしい力だよ……」

 

ナイトメア・システムの力はニヒロの総司令官。氷川から直接聞かされているが、目にしてみて確かに恐ろしいと思った。

 

あれほどのマガツヒ。ニヒロの悪魔軍団にくれてやればたちまち最強になるだろう。

 

だが、氷川はあれを創世に使うという。いったいどう使うというのか?

 

「………できることならオレが直々に乗り込みたいところだがオレにはそんな力はない。かといって、このまま見過ごしていたら氷川にみすみす世界を渡すようなもんだ」

 

「それだけは絶対に防ぐ。絶対にだ」

 

オレが憤怒の声をあげるとヒジリが笑う。

 

「よし、その意気でオベリスクに乗り込んでくれ」

 

「最初からそのつもりのくせによくいうぜ」

 

オレが怒りを呆れの声に変えるとヒジリは苦々しい顔をしたが、すぐに戻した。

 

「お、オベリスクにはニヒロ機構本部の第2エントランスから行けるぜ。ロックはオレが解除する。オベリスクは結構な高さだし、どんな悪魔がいるのか分からんがお前なら行けるさ。……頼むぜ。頼れるのはお前しかいないんだ」

 

「分かった分かった」

 

オレはそういうと支度し始めた。

 

アイテムの補充。仲魔の強化。ルートの決定。やるべきことは多々ある。

 

さて、厳しい戦いになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニヒロ機構本部第2エントランスはギンザからレインボーブリッジを走ったところにある。

 

第2エントランスから一旦地下に潜り、氷川と邂逅した中枢から別のエレベーターを上がるとチヨダ付近に出ることが出来た。

 

ニヒロ機構本部マルノウチエントランスとニヒロの悪魔が言ってた場所から抜け出すとオベリスクの全容が見えた。

 

高い。とにかく高い。空に浮かぶカグツチに届けとばかりに伸びるその塔の高さに圧倒されるが首振ってそこに向かう。

 

やっと見つけた祐子先生につながる手がかり。氷川のところに向かったような失望感はもう嫌だ。

 

絶対に登りきる。

 

オレはそう思いながらオベリスクに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オベリスクに入った瞬間、待ってましたとばかりにニヒロの悪魔どもが現れた。

 

堕天使、夜魔、邪神、妖魔。DARK属性と一概に呼ばれる悪魔がぞろぞろぞろぞろ。

 

オレと仲魔達は果敢にそれに立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年惨殺中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらかた片付けたか?」

 

「そうみたいね。弱い弱い」

 

マガツヒを放出させながら積み重なっている悪魔の屍の山から辺りを見渡す。生存者、ゼロと。

 

オレはそれを確認するとハイピクシーと他の仲魔達と一緒に大量のマガツヒを吸い込んだ。おぉうまいうまい。

 

と、ここでハイピクシーが変化した。そう、(進化する)時が来たのだ‼

 

……なにいってんだろ。オレ……

 

見ていくとハイピクシーは妖しい感じの姿をした女性になった。

 

「私は夜魔 クイーンメイブ。コンゴトモ、ヨロシクってね」

 

「お、おぉ。って種族が変わった?しかもデカくなったなおい」

 

肩に乗る程度の大きさだったハイピクシーもといクイーンメイブは人間の女性と同じ大きさになった。

 

もう肩には乗っかれないわねクスクスと笑いながらクイーンメイブはクルッと回転する。おぉ、妖しい妖しい。

 

オレはそう思いながらオベリスクのエレベーターに乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレベーターに乗り、進んでいくと後方から声が聞こえてきた。

 

気配の数は3。いずれも強力。

 

それらが声を発した。

 

「ククク……氷川樣が予見された通り、薄汚いネズミが侵入したらしい」

 

と、非情な女の声。

 

「オッホッホ……大方あの女を取り戻しに来たのでしょうけどオベリスク守護の沙汰を受けた我ら三姉妹……オセのような低能のようには行きませんことよ」

 

と、高慢そうな女の声。

 

「ウフフ……女が欲しかったなら私たちを倒すことね。もっとも侵入者除けのカラクリをあなたのオツムで解ければ、の話だけれど」

 

と、冷酷そうな女の声。

 

「峻厳なるカグツチは誕生と死を繰り返す。お前だけを待ってはくれない」

 

さぁ、来るがいいと声が響き、三人分の笑い声が響いた瞬間、

 

気配が消えた。

 

「……何あの女ども、ムカツクんだけど」

 

「耐えな。どうせ殺すチャンスはある」

 

さて、そのためにはカラクリとやらを解かなければね。ヒントは【カグツチ】。『待ってはくれない』、ねぇ。

 

オレは考えながらエレベーターを昇っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

登ったり降りたりしているとそのカラクリにたどり着いた。

 

巨大なブロックに道を塞がれ、その前に柵がない大穴があり、そこに浮いている細い通路と四角い床。

 

そしてさらにその前にある光の玉。

 

さて、どういう仕掛けか。

 

オレは試しに光の玉に触れてみた。すると

 

「⁉」

 

辺りの空気が変わった。そしていきなりカグツチの周期がいきなり静天と呼ばれる状態に変わった。

 

カグツチには周期があり、一番光らない時を静天。一番輝く時を煌天と呼ぶ。そして静天と煌天の真ん中を半天と呼び、煌天の時に悪魔は興奮する。

 

静天から徐々に煌天に進み、煌天から徐々に静天に戻る。これを延々とカグツチは繰り返す。

 

今、カグツチは半天から煌天に向かっていたはずだ。それがいきなり静天になった。カグツチを操る機械なのか?

 

「いや、違う。時か」

 

よく見てみれば塵が空中で停止している。ここから割り出される答えはこの機械が操るのは時。

 

カグツチ静天時にまで時を進め、あるいは戻してその状態で時を止める。

 

しかしそんなことをしてなんになるのだ?

 

「ん?」

 

よく見てみると浮かんでいる床に光る四角形が現れている。片方は一つ。もう片方は3つ現れている。

 

そして一つ四角形が浮かんでいる床につながる道を塞ぐブロックにも同じように光る四角形が浮かんでいる。こちらは4つ。

 

「……なるほどね。足し算か」

 

オレはまず3の床に立つ。するとカグツチの周期がいくらか進んだ。そして1の床に立つとちょうどカグツチが半天になった。するとブロックが下がり、通れるようになった。

 

「なるほどね。よく分かった」

 

オレはニンマリ笑いながら進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このギミックはこういうことだ。

 

光の玉にふれ、カグツチを強制的に静天状態にする。この時を四角ゼロとする。

 

そして光る四角形は数によってはカグツチをこれぐらい進めますよ、ということを現す。

 

四角4つで半天。なら煌天は四角8。12で下弦の半天というわけだ。

 

今回のブロックは4。つまり半天で開くという仕組みだ。

 

これさえ分かればあとは簡単、ブロックのすぐそばにある床に乗ったときブロックに表示された数のカグツチの状態にするようルートを考えればいい。

 

さて、カラクリは解けた。首洗って待ってろニヒロども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ………ぜぇ……!た、高すぎだろこの塔……」

 

現在位置、オベリスク114階。悪魔との戦闘も踏まえれば疲労感が半端ない。

 

おそらくそれ自体が侵入者防止の仕掛けだろう。目的の物を最上階に置き、それまでの道のりに守備を配置しておけばガリガリ侵入者の体力が削れるというわけだ。

 

おまけにギミックも存在する。頭もガンガン、というわけだ。

 

まぁ長丁場は慣れている。焦りは目的を遠ざける。落ち着けオレ。落ち着くんだ。

 

さて、128階に着くと少しギミックが変わった。

 

通路ではなく、長方形の広場なのだが、エレベーターと思われる所が壁に遮られている。

 

出口の役割を果たすはずのブロックが3つ。光る四角形が現れる床もやたらと数が多い。

 

なんなのか悩んでいると思念体がフヨフヨと現れた。

 

「フフッ戸惑っているようね。侵入者さん?」

 

「まぁな、ってその侵入者に話しかけるなんてどうかしてるぜ」

 

「あら、ひどい。私が親切にちょっとこのギミックの概要を教えてあげようと思ったのに」

 

「………またか。どうもニヒロっていうのは自分らの力を過大評価してないか?」

 

「当然の評価よ。あのお三方ならあなたなんて正面からでもケチョンケチョンよ」

 

オレの苦言にクスクスと笑う思念体。腹立つ。

 

「んで?このギミックの概要ってのは?」

 

オレが問うと思念体はふわりとこちらに向き直った。

 

「このギミックの出口は3つあるでしょう。そのあのお三方、鬼女 クロト様 鬼女 ラケシス様 鬼女アトロポス様がそれぞれいらっしゃるわ。その三人に会い、なおかつ戦って勝つ。それをカグツチが一巡するまでに行えば先に進めるわ」

 

「なるほど、シビアな」

 

つまりルートをよく考えなければアウトだ。ちなみにこのギミック、失敗すると床が消えて下に落とされる。ここで【待ってはくれない】という言葉の意味が分かるというわけだ。

 

オレは必死に頭を回転させ、光の玉に触れてルートを考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年考え中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果、三回失敗しました。

 

現れる度、思念体が言った三人に軽口を叩かれるのはストレスが溜まる以外の何物でもなかった。おまけに逃げられるし。

 

ちなみにあの思念体はこの三人を鬼女と呼んではいるがクロト、ラケシス、アトロポスというのは運命を司る三姉妹の女神である。

 

長女クロトが運命の糸を紡ぎ、次女ラケシスがそれを測り、三女アトロポスがその糸を切るというわけだ。

 

起源でいえば北欧神話のウルズ、ヴェルダンディ、スクルドの三女神と同じであるらしい。

 

小説を書くためにいろいろ神話を読んでいるのがこんなところで役に立つとはね。

 

 

 

閑話休題(それは置いといて)

 

開かれたエレベーターから上に昇り、さらに上に昇ったところでまた邪魔が入った。

 

三姉妹集合である。

 

「ククク…!このまま易々と上に行けると思ったか‼」

 

酷薄な笑みを浮かべて叫ぶクロト。

 

「そうはトンヤがおろしませんことよ‼」

 

自尊心に満ちた怒りの声をあげるラケシス。

 

「私たちモイライ三姉妹の結束力であなた達を…」

 

鋏をこちらにむけ、残酷に宣言するアトロポス。

 

「紡いで‼」

 

「測って‼」

 

「チョン切ってやるわ‼」

 

「やれるもんならやってみろ‼」

 

声と声の応酬を合図に、戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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アラディア


まずいぞ……話のストックが尽きた……!


 

「“地獄の業火”!」

 

「“マカラカーン”!」

 

「”マハジオンガ”!」

 

「“マハザンマ”!」

 

「“マリンカリン”!」

 

「“常世の祈り”!」

 

魔法の応酬がぶつかり、その光が今いる階層を鮮やかに染める。

 

双方放たれた魔法を跳ね返すか相殺し、食らえば回復を繰り返す、を繰り返しているのだ。

 

あの三姉妹の連携は厄介の一言にに尽きる。クロトが回復し、ラケシスが補助魔法を使いまくり、アトロポスが攻撃魔法を唱えまくる。

 

この連係を崩さなければ勝てない、というわけだ。

 

アトロポスの猛攻は当たらなければどうってことはない。鋏をむける方向、振り方でどのように魔法を飛ばすか予想はつく。

 

なら、狙うは……回復を行うクロト、あるいは補助のラケシス!

 

オレはアトロポスの魔法の波をしのぎきると、突進した。

 

「“テトラカーン”!」

 

それを見たラケシスがその魔法を唱え、自分達の周囲にとあるシールドを張った。

 

それを見て、オレは後退を余儀なくされた。

 

かつてオセも使った魔法“テトラカーン”。効果時間が短く、また一度しか効果が無いという欠点があるが、効果がある間は物理の攻撃を反射させてしまうという厄介な魔法である。

 

オレの得意分野が接近しての物理だと知っていてのことだろう。なんとも腹が立つ。

 

かといって魔法を唱えればもう一つの反射魔法“マカラカーン”で今度は魔法を反射させてしまうのだ。

 

厄介なことに攻撃しか跳ね返さないのであちら側の補助魔法は普通に通用してしまうのだ。

 

今でもオレの接近を警戒して“テトラカーン”を張ったあと、そのあと降り注ぐ魔法攻撃を防ぐために“マカラカーン”を唱えられてしまうのだ。

 

しかもカーン系のこの魔法は強制的に解除が出来ない。

 

もちろんカーン系の魔法は連続で使用はできない。が、その隙をアトロポスの魔法攻撃の雨で埋めてしまうのだ。

 

たまに防御を掻い潜って攻撃が当たったとしても致命傷には程遠い。たちまちクロトが回復してしまう。

 

………まぁ、そのループを解く策はついているがな。

 

オレは仲魔達に合図し、自身に“気合い”を掛けつつ再び降り注ぐアトロポスの魔法攻撃の波を凌ぎ、オレはもう一度クロトに突進する。

 

またそれかとばかりに三姉妹が呆れ、あるいは嘲る。そして唱えた。

 

「“テトラカーン”」

 

ラケシスが唱え、蒼白い光が三姉妹を包み込む。これでオレの攻撃は届かない、

 

「と思っていたのか?」

 

オレはニタリと笑い、両手の掌に炎を灯した。

 

そしてクロトにむけて、それを突きだした。

 

“マグマ・アクシス”

 

瞬間。

 

ドォーン‼

 

「カッ……⁉」

 

クロトの腹に叩きつけられた炎の掌底はクロトの腹を粉々にした。

 

「お姉様⁉」

 

「クロトお姉ちゃん⁉」

 

爆炎とともに吹き飛ぶ姉に驚愕する妹二人、オレはそれに魔法を唱える。

 

「“竜巻”」

 

ゴオォォオ!という音とともに暴風が二人を襲う。

 

「キャアア⁉」

 

「うわわ⁉」

 

吹き飛ばされた二人。そこに仲魔達が追撃する。

 

なぜ、“マグマ・アクシス”が当たったかこの世界の属性を知っているのならある程度想像はつくだろう。

 

アサクサで買った【ゲヘナ】というマガタマ。それがオレに授けた技、“マグマ・アクシス”

 

生命力を消費するため、物理に間違えられるがこの技の属性は火炎である。

 

つまりは魔法攻撃に位置する技なのだ。

 

魔法攻撃であるなら“テトラカーン”では防げない。オレがバカみたいに同じことをやっていたのはオレが行う接近しての攻撃が物理しかないと三姉妹に思わせるため。

 

策は当たり、クロトは真っ二つだ。そしてそれが回復する前に残りの二人を潰す!

 

「くっ!」

 

ラケシスが片膝立ちの姿勢から立ちあがり、殴りかかるが遅い。あれぐらいならオセの双剣のほうがよっぽど脅威だ。

 

飛んでそれを避けるとそのままラケシスに右掌打を喰らわせ、そのまま床に叩きつける。

 

「グハッ⁉」

 

衝撃で目を見開くが、驚くのはまだ早い。

 

オレはそのままラケシスの頭に膝を落とした。

 

グシャという音とともにラケシスの頭が粉砕される。

 

「ラケ……シス……!くっ!」

 

クロトがそれを見て魔力を込め始めた。命と引き換えに蘇生魔法でも使うつもりか。

 

「死にかけが余計なことをしてんじゃねぇよ」

 

オレは生命力でナイフを生成、クロトに向けて投げた。

 

そのナイフは的確にクロトの額に突き刺さった

 

「ヒギッ……!」

 

悲鳴を挙げ、クロトはそのまま絶命した。

 

「ストラーイク。バッターアウトってね」

 

それにむけてセリフを吐くと、オレはアトロポスの方を向いた。

 

アトロポスは仲魔達、主にクイーンメイブの猛攻に苦戦していた。

 

そしてそれが決まった。

 

「“ジオダイン”!」

 

単体上級電撃魔法“ジオダイン”がアトロポスに直撃し、先のクロトのように真っ二つになった。

 

「カフゥ⁉」

 

肺の中身を全て吐き出しそうな声とともにこちらに吹き飛んだ。

 

アトロポスは息も絶え絶えにこちらを向いた。

 

「たずげで……じにだくない……じにだくないよぉ…」

 

オレは前屈みになり、視点を下げた。

 

「死にたくない?お前、それだけ強いってことはかなりの悪魔殺してきたんだろ?その中には命乞いしてきた奴もいたろう。お前それを助けたことあるか?」

 

「ある……あるがらぁ……たずげでぇ……!」!

 

嘘だ。恐怖にまみれた目が動揺でウロウロしてる。

 

ま、例え助けていたとしてもニヒロ機構に属している以上、オレの敵なんだけどね。

 

それに悪魔の命乞いというのは助けるとロクな目に合わない。前に命乞いしてきた悪魔を助けたら、そいつに背後から襲われた。

 

敵はやはり徹底的にやるに限る。

 

オレは指をアトロポスにむけ、それを下に指した。

 

仲魔に行う合図。意味は『こいつを殺れ』

 

クイーンメイブがこくりと頷くともう一度“ジオダイン”を落とした。

 

「ギャアアアアアアアアアア‼」

 

絶叫とともにアトロポスはマガツヒになって消滅した。

 

「ふぅ、やれやれ。疲れたぁ」

 

オレは息を吐いた。長期戦をやるといつもこうなる。

 

長期戦で重要になるのはいつも策略。きっかけを作り、それを活かしたもの勝ちだ。

 

故に体力も精神もガリガリ削られる。疲れる疲れる。

 

チャクラドロップで失った魔力を回復させるとふと落ちているマガタマに目が向いた。

 

オレのじゃない。つまりあの三姉妹が落としたものか。

 

オレはマガタマ……【ジェド】を拾い上げ、エレベーターに向かった。

 

カグツチの光が見える。きっと最上階だろう。

 

オレは期待に胸を膨らませ、エレベーターに乗った。

 

祐子先生。やっと会えますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐子先生はエレベーターを昇ってすぐに見つけた。

 

マガツヒを集めている装置。その上に逆さで浮かされていたのだ。

 

意識がないのか。近くによっても目を瞑ったままだ。

 

オレは祐子先生を抱き抱え、その装置から外した。

 

瞬間、先生を支える力が失われるが先生の体重くらい、今なら片手でも持てる。

 

その次に装置が機能を停止した。マガツヒを溜め込んでいた活動が止まり、沈黙した。

 

オレはそれを見届けると先生を物言わなくなった装置に寄りかからせた。

 

すると、

 

「零時……君?」

 

先生が目を覚ました。

 

「先生。大丈夫ですか⁉」

 

飛び付くように聞くと先生は弱々しく微笑んだ。

 

「えぇ、大丈夫」

 

そしてふっとそれを消した。

 

「何故でしょうね。あなたが助けてくれる気がしたの。おかしいわよね……私、君が困ったときには助けてあげる、なんて言ってたのに」

 

「……………」

 

オレはその言葉に怒りが湧いた。創世のための受胎に協力しておいて、そのザマか。どす黒い感情が現れるが我慢する。今は先生が重要なのだから。

 

「……私にはなんの力もないわ。世界をどうこうする前に、自分のことすらままならない。そう、氷川に使われるだけの巫女よ。『次の世界の中心になっていただく』とか言われて」

 

嘆きたい気持ちは分かる。分かるが、違う。

 

「嘆きの言葉は要りません。今は、言葉でどうにかなる状況じゃないんです。勇も千晶も、オレがただ励ましているだけだったからこの世界で歪んでしまったんだ!」

 

オレは肩を掴み、先生の目を凝視した。

 

「その様子じゃ氷川の思い描く世界はあなたの理想の世界じゃないんでしょう⁉ならば考えてください!世界を戻す方法を‼あの平穏に戻る手段を!」

 

オレは今まで溜め込んでいた気持ちを全て先生にぶつけた。

 

先生は不思議な光を讃えた瞳でオレを見据えるとふと目をそらした。

 

「私ね。前の世界が好きじゃなかったの。安らぎばかり求めるみんなの姿が嫌で嫌で仕方なかった。みんな気づいてないのよ。それは幸福ではなく、怠惰だと。

競い合うとか、強くなるとか、みんな求めてなかったし、必要しなくなっていた。だから私、思ったの。『このままじゃ私たちは力を失って、いつか消えてしまうんだ』って。そんなんだから氷川に利用されたんでしょうね」

 

語られた先生が受胎を起こした動機。

 

オレは口をつぐんでしまった。

 

先生が言うように、オレは、オレたちはそんなに怠惰に生きてきたのか?先生にはオレたちがそんなに、そんなに虚しく見えたのか。

 

先生がでもね、と言葉を続け、立ち上がった。

 

「全てが終わったわけじゃない。創世はまだ途中、次の形が決められたわけじゃない。私ね、ここで新しい神を見つけたのよ」

 

「神?」

 

問うと先生は頷いた。

 

「そう。それは氷川も知らない、ここのマガツヒの力によって呼び出された神よ」

 

正直、オレは疑いの気持ちしか湧かなかった。祈る神も敵ばかりだったオレに、神は信用ならない存在になってしまっていたのだ。

 

「その神が私に、きっと創世のためのコトワリを授けてくれる……」

 

先生が空を見上げ、祈るようにそのままになった。そして…

 

先生の纏う雰囲気が変貌した。

 

そして突如ギュルンと人にはありえない動きでこちらに向いた祐子先生。

 

その顔にはあるべきパーツがなく、代わりに不気味な青いなにかが張り付いていた。

 

あれは祐子先生じゃない。それに取り憑いたなにかだ!

 

「……自由という名の愚か者よ。お前はその光の下、すべての許しを得るだろう」

 

祐子先生の声。しかしそれはエコーがかかったように耳障りになっていた。

 

「我が名はアラディア。アマラの果てより来た。自由をもたらすのが我が使命、いかなるものをも解き放とうぞ」

 

その言葉に理解はできない。理解できるのはアラディアというのが自由の神というだけだ。

 

だが自由という曖昧なものの神なんざ想像ができない。この神が、オレ達を救ってくれる神なのか。

 

「自らを由とすれば世界に光が戻るだろう。同時に闇も戻る。

 

男よ!創世へ向かえ!

 

 

汝もまた一つの世界なり。

 

 

従うな。自らを由とせよ」

 

その言葉とともにアラディアはオレに大量の力を注いだ。

 

体に満ちる力。その量に驚くオレ。しかしアラディアの言葉は続く。

 

「今は力を失いしこの女もやがては力を取り戻そう。さすれば創世への道へ踏み出そう。我はそれを導かん。男よ、世界を巡り見よ?汝の創世はそこより始まろう……」

 

その言葉を最後に、あやしいもやがアラディアを覆い、

 

アラディアは、祐子先生は消えてしまった。

 

「なっ⁉」

 

せっかく手にした手がかりが一瞬で消えてしまったことに驚くが、いきなり背後からした気配に振り向く。

 

そこにはあの喪服の老婆と子供がいた。

 

老婆はアラディアのいたところを見ると言いはなった。

 

「おやおや、アラディアなんぞが入り込みましたか。これは厄介なことになるでしょうねぇ、坊ちゃま」

 

老婆の問いかけに子供はヒソヒソと老婆に言った。

 

「………感謝なさいませ。坊ちゃまは出来の悪いあなたに知恵を授けることをお許しになりました。心してお聞きなさい。

 

ボルテクス界はいよいよ創世へと向かっております。……そう。コトワリを啓き、次の世界を創ろうとする者達の真の戦いが始まるのです。その中で、コトワリを啓くことが許されぬ悪魔の身であるあなたが、他のコトワリを啓くか、潰すか、はたまた潰されるか……

 

どのコトワリに傾こうともそれはあなたの自由です。どうぞお好きに。ですが坊ちゃまを失望させるつまらない最期などを見せぬよう、頼みましたよ……」

 

そういうと老婆と子供はなんの前触れもなしにいなくなった。

 

そして残されたオレは、新たに手にいれた情報を深く噛み締めながら、オベリスクを去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





感想・質問マジでください……寂しくて死んでしまいます。



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ボルテクス騒乱 狩人との再会


お待たせしました!と言いたいところですが……

とっとと書きたいがために出来が悪いです…

理由についてはあとがきにて。






 

オベリスク陥落。

 

この情報は、間違いなくボルテクス界を揺るがす情報だろう。

 

創世最有力候補であるニヒロの最重要拠点の陥落は多くの存在……大半は悪魔だが……に変化を与えた。

 

オレに来たその煽りは、シブヤで魔王 マーラという悪魔が召喚されたことか。

 

オレの目の前で、マネカタにせっつかれた邪神 バフォメットという悪魔が召喚したマーラという悪魔は召喚失敗につきでっかいスライムのような体になってしまっていたが、腐っても魔王。なかなか強力だった。

 

そいつはマガタマを落としてくれた。【ムスペル】というマガタマだ。

 

強力な全体攻撃をオレに授けてくれたが、消費が激しい。しばらくは修行あるのみだろう。

 

あとはボルテクス界に点在する残る黙示録の四騎士を倒したことか。

 

戦争の騎士、レッドライダー。

 

飢餓の騎士、ブラックライダー。

 

死病の騎士、ペイルライダー。

 

いずれも強力な魔人達だったが………怖くなかった。

 

オレを恐怖させるなら……オレ並に臆病で、狡猾で、勝利に貪欲な奴を持ってくるか……あるいはあの男か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、ここで問題だ。オレは今、何をしているでしょうか?

 

戦っている?いえいえ、さすがに四六時中戦闘というわけにはいきません。悪魔とて疲れはあるんだぜ?

 

 

 

 

 

 

 

 

答えは、パズルゲームでしたー!

 

ふざけんなって?オレだってただパズルゲームやりたくてやってるわけじゃねぇよ。

 

ただアサクサにいる子供マネカタが、これがクリア出来たらマガタマくれるって言ったのだ。

 

ただこのパズル………ムズい!

 

ルールはシンプル。ゴールにたどり着けということだ。

 

道のりには穴や回転ブロックが阻み、それをなんとかするところがパズルなのだが……

 

「零時!上よ!上!」

 

「アホ!上行ったら詰むぜメイブの姐さん!ここは俺様の言う通り下だ!」

 

「零時ヨ。我ハ腹ガ減ッタゾ」

 

「ドワァァ!黙ってろ‼」

 

仲魔達のとんちんかんな言葉にストレスが溜まり、はっきり言ってはかどらない。誰だ、仲魔にも手伝ってもらおうとか思ったやつ。(零時です)

 

オレは必死になって画面の小さなキャラクターを動かし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年苦戦中……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クソッ!命は賭けずに済んでも時間を掛けすぎた!カグツチが何順したことか………。

 

なんとかマガタマ、【ゲッシュ】を手にいれるとオレはアサクサを歩き回り、店を開いていたガラクタ集めのマネカタからさらにマガタマを買った。

 

あいつ、安くしておくとか言いながらめちゃめちゃマガタマに高値を付けていた。詐欺だろと思うほどに。

 

まぁ、マッカはかなり持っていたし一括で買ってやったぜ。

 

さて、アサクサにいるヒジリは未だにターミナルに引きこもっているし何をしようか。

 

メノラーは……かなり集まったんだよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということでやってきましたアマラ深界。

 

【慈悲のメノラー】【理解のメノラー】【知恵のメノラー】を台座に置き、第3カルパへの道を開く。

 

さて、今回はなんの話が聞けるだろうか?

 

オレの仮説は、正しいのか?

 

それを、一歩一歩見極めようかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3カルパを進んでいくと予期してなかった事態が起きた。

 

否、予期してなかったなんてこの世界では命取りだ。言い訳にもならない。

 

オレは燃えて揺れる【王国のメノラー】を見ながら自分を叱咤した。

 

これがひとりでに燃えるということは、魔人がいるというわけだ。

 

しかも微かに感じるこの気配、もしかして……

 

オレは息を呑んで進んでいくとその予感が当たった。

 

赤いコートを着た銀髪の男。腰に双銃を装着し、腰に巨大な剣を携えた魔人。

 

「よぉ、また会ったな。少年」

 

「こちとら会いたくなかったぜ……ダンテ」

 

余裕そうな笑みを浮かべ、その自信に裏打ちされた実力を持つ悪魔狩人が、オレの目の前にいた。

 

オレは震える声でそう吐き捨てた。声が震えたのは、怒りか恐怖か……

 

ダンテは不意に笑みを消すと銃の片方をオレに向け、オレをにらんだ。

 

「『大当たり』って奴だな」

 

ダンテはオレに銃を向けながらオレの周りをスタスタと歩いた。

 

「細かく説明する気はないぜ……だが薄々は感じているはずだ。あのジジイの目的が『魔人同士の殺し合い』ってことはな。その結果、何が起こるかは知らねぇがそれに踊らされるほど間抜けじゃねえだろ?」

 

オレは内心驚いた。

 

何がって?ダンテの推測の浅さに、だ。

 

魔人同士の殺し合い。確かにそれは当たりだ。だがそれでは氷山の一角を見ただけ。

 

恐らくこいつは魔人と戦ってないのだろう。そいつらがもたらす情報がない。

 

魔人の望み。最初の三人の魔人は踊らされただけだろう。だが黙示録の四騎士。あいつらの言葉、喪服の女の言葉。それらを総合すれば、全体は想像できるのに。

 

どうやら情報の集め方はこちらの方が上手のようだ。

 

内心でほくそ笑むとオレは言い返した。

 

「踊らされて分かることもあるんだぜ?ハンターさん」

 

「ほぅ、そうかい。だが……」

 

ダンテは銃をオレの額に向けた。

 

「ここから先には行くな。後ろを向いて、そして振り返らずに走りな。それがお前のやるべきことだ。そうだろ、少年」

 

ダンテの言葉にオレは目を見開いて言い返した。

 

「違うね。前に進むことさ。たとえ障害物があるのなら、踏み倒して進むぜオレは」

 

オレの言葉にダンテはため息をついた。

 

「やれやれ痛い目見ねぇと分からねぇか。……オーケイ、分かったよ。ならお前がこの奥に足を踏み入れた瞬間……ズドンッ、だ」

 

構えた銃を撃つふりをしながらダンテは言った。

 

「遊びの時間は終わりだ。ここから先は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショウタイムだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ダンテとの再会。このシーンはかっこ良かった。

さて、遅くなった理由としては……時期で分かる人もいるのではないでしょうか?

就職試験が近いです、ハイ。はっきり言って怖いです。

この休みの間に何回か投稿するつもりですが、出来はしばらく悪くなるとおもいます。

申し訳ありません。




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地獄での鬼ごっこ 地獄での死闘

ダンテが第3カルパの奥に向かうのを見送るとオレはその後を追った。

 

後を追うとすぐに視線を感じた。

 

その視線は、敵意が存在するが野良悪魔のような粘つくような敵意でも、見下したような敵意でもなかった。

 

なんとそれを表現しようか。推敲していると。

 

バン!

 

「おっと……!」

 

後ろから撃たれた。犯人は勿論、あのデビルハンター。

 

「ショウタイム、ね。あんたの独壇場にはさせねぇよ」

 

オレは舌を出してダンテを嗤うと通路を縦横無尽にはねながら進んだ。

 

ダンテが双銃を二つともオレに向けて発砲する。

 

悪魔退治用に強化されているのか、その銃は威力も、連射の速度も異常だった。おまけに弾切れを起こす気配もなし。

 

まぁ、悪魔との戦いにリロードをいちいちしていたらその間に八つ裂きだが。そう思えば、あの連射速度も威力も対悪魔なら妥当か。

 

オレはダンテの目を見て、あるいは銃口を見て弾道を予測する。

 

目を見るなら相手の強さに飲み込まれるな。銃口を見るならその殺意に飲み込まれるな。

 

そう自分に言い聞かせ、オレは集中する。

 

ダンテが引き金を引く。銃口から殺意の塊が放たれる。それがオレの目に向かっていく。それがオレにははっきり見えた。

 

「フッ!」

 

オレは呼気とともに頭を傾け、紙一重でそれをかわす。その時間はまさに刹那。

 

バン!バン!バン!バン!バン!バン!

 

「……!………!………!」

 

ダンテは勝ち気な笑みを浮かべながら弾丸の嵐を吹かす。オレは無表情で避ける。

 

頬に、足に熱を持った弾が掠める。それに意識を取られたらゲームオーバーだ。そんなのこの地獄でいやというほど学んだ。

 

オレは曲がり角を曲がると、忍者のように壁を駆けた。

 

ダンテが曲がり角から現れ、弾を飛ばす。

 

飛んだ弾の位置から回避不可能。そう判断するとオレは剣を作り出す。

 

己の生命力で作ったそれをオレは弾が通る弾道を阻むように振るう!

 

キィン!という澄んだ音とともにこちらに飛ぶ弾丸が二つに斬れ、オレの後方に飛ぶ。

 

それに構わず、オレは何度も剣を振るい、弾丸を全て斬り落とした。

 

ダンテがそれを見て口をすぼめる。口笛を吹いてオレの今の行為に小馬鹿にした賛辞でも心に浮かべているのか。

 

「嘗めやがって……!」

 

憎々しげにそういうとオレは通路の奥にある扉を開け、その奥へ身を躍らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、オレの進路を阻むようにダンテは現れた。裏道でも知っているのか。

 

その様相は確かに狩人。悪魔を獲物とするハンター。

 

あくまでオレを獲物を仕留めるつもりで殺すつもりか。

 

オレは悔しかった。敗北の味はもう味わいたくないのに、逃げなければいけないのは。途方もなく悔しかった。

 

だがダンテは間違いなくオレより上にいる。気配が、奴の目がそれを教える。

 

勝つ見込みが浮かばないのだ。

 

こんなことは始めてだった。策を弄せば、状況なんていくらでも覆せたのに……。

 

その時、オレは察した。

 

オレもいつの間にか傲慢になっていたと。

 

策を弄せばどうにもなるなんて愚にもつかない事をかんがえていたのだ。

 

そんなの、今までにオレが愚かと内心で笑ってきた悪魔と考え方が同じではないか。

 

オレは………オレが勝ち組にいられたのは……!

 

「いっ!」

 

頬に弾丸が掠めた。頬から血が流れる。

 

「どうしたんだい少年?もうバテたか?」

 

通路の奥で、ダンテが笑う。

 

「クソッ!」

 

オレは悪態をつきながらオレは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレは奥へ奥へと進んだ。

 

オレの力の原動力がなんなのか。それを、探しながら。

 

負け組のオレはなんで勝とうと思ったんだっけ?

 

負けたくなかったから?それもある。だがもう一つあったはずなのだ。それよりもっと単純で、もっと根深いもの……

 

いつの間にかダンテはいなくなっていた。オレを見失ったのか。

 

そう考えて、オレは否定した。

 

奴が見失うはずがない。あいつは狼のようにオレを追いかけるだろう。

 

ほら……感じる。

 

「逃げられた、と思ったか?」

 

背後から降りかかる男の声。オレにとって、どの魔人よりも死神たる男の声だった。

 

「……いや。そうだったら良いな程度とは思っていたが」

 

オレがそういうとダンテがギラリと目を光らせた。

 

「……甘いな。これで……チェックメイトだ!」

 

「それは……オレを屠ってから言いな!」

 

オレが振り向くと同時にダンテは双銃を向けた。

 

そして、死闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレのサマーソルトキックをすれすれでかわすとダンテが大剣を袈裟斬りに振るう。オレは後方に回転して逃れる。

 

「成長はしてるみたいだな。ま、そうこなくちゃ面白くないさ」

 

息のあがるオレにダンテはそういいつつ大剣を振るう。

 

オレは紙一重でそれを避ける。

 

仲魔達はすでにダンテによって斬られて、あるいは射殺されている。残るはクイーンメイブのみ。

 

彼女だけは殺らせたくはない。彼女はオレの恩師なのだから。

 

しかし、あぁ。足りない。この男に勝つためには、力が足りない。

 

如何に考えても、まるで勝つ見込みがない。

 

あぁ妬ましい。この男の力が。

 

これくらい力があれば、千晶も勇も守りながらこの地獄を歩けたろうに。二人を歪ませることにはならなかったろうに。

 

憎い。勝てぬ自分が形容しようもなく、憎い。

 

………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

憎い?

 

 

 

その瞬間……ダンテの大剣がオレの首へ向かう瞬間、その言葉が頭に閃いた。

 

オレはなぜ敗北を忌んだ?オレの敵を、敵となる者をどんな手を使ってでも潰そうと思った?

 

何が、その原動力となり、引き金となった?

 

それは……この身を焦がすという言葉が相応しい、

 

敵に対する、そして負け続ける自分に対する。それはそれは黒い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

憎悪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァッ!!!!!」

 

その言葉とともにオレは剣を作り、ダンテの剣を止めた。

 

そしてダンテの腹を蹴り飛ばす。

 

「おっ⁉」

 

予期してなかったのか、驚いた声をあげて吹き飛ぶ。

 

オレは歯を剥き出し、追撃を掛ける。

 

殴打、剣撃、魔法。それを全技術をもってしてダンテに喰らわした。

 

「ッ!」

 

吹き飛び、壁に打ちつけられ、着地するとオレをギラリと見たダンテ。

 

「ここまでやるとは思ってなかった」

 

「なら無知なまま死ねッ!」

 

オレは剣を振るうとダンテは自身の剣で止め、銃でオレの剣の腹を撃つ。

 

剣はオレの手から吹き飛んだ。

 

その衝撃で体勢を崩したオレを、ダンテは殴り飛ばした。

 

「オーケイ、見せてやるよ。大人のマジな戦いってやつを!」

 

そういうとダンテはおもいっきり剣を振るった。

 

巨大な剣撃がオレに向かって飛ぶ。

 

「ぐおっ!」

 

その重さに呻く。

 

だがダンテはそのまま飛び上がると銃でオレに弾の雨を降らせた。

 

「ちぃ!」

 

剣撃を反らし、避けようとするが体勢を崩してしまった。

 

結果、弾丸がオレに当たる。

 

「グフッ!」

 

全身から血が吹き出るが、構ってられない。剣撃を弾き返すとダンテの技はまだ終わってないのだから。

 

ダンテは空中で大剣を大上段に構えると、落下。着地と同時にそれを叩きつけた。

 

「ショウタイム!」

 

その叫びとともにエネルギーの波がオレを襲った。

 

絶体絶命。そう思った時だった。

 

「させないわよ!」

 

クイーンメイブがひとりでに現れ、その攻撃をかばった。

 

「なっ!」

 

吹き飛ぶクイーンメイブ。その姿を見てオレのなかで憎悪がさらに加速した。

 

「殺す!お前だけは絶対に‼」

 

両手に炎を灯し、ダンテに突進する。

 

ダンテはそれを止めるために銃を乱射するが、それに構わずダンテにその技を叩きつける。

 

「“マグマ・アクシス”ッ!」

 

「ッ!」

 

大剣をかかげ、ダンテは紙一重で体への直撃は避けた。

 

「ぐっ!」

 

自分を省みず、威力のみを考えて放ったマグマ・アクシスはオレの手を吹き飛ばした。

 

もちろんダンテも吹き飛ぶ。しかし空中で受け身を取ると着地した。

 

そしてニヤリと笑い、大剣の切っ先を向けると

 

「yeah!」

 

オレに向けて突き入れた。

 

「ッ!」

 

やられる!そう思った。

 

が、ダンテの攻撃はオレの体と腕の間……つまり脇の下に突き入れられた。

 

「……やるじゃないか。ますます気に入ったぜ」

 

そういってニヤリと笑うダンテにオレはダンテの意図を悟った。

 

また、手加減されていた。遊ばれていた、と。

 

思わず歯軋りをするオレ。ダンテはそれを見て笑みを深くした。

 

「そんな顔すんなよ。最後のはさすがにオレも命の危機を感じたぜ」

 

「………なんで最後の攻撃を外した…!」

 

ギリリと自分でも分かるぐらい歯を食いしばり、問うとダンテは答えた。

 

「このままお前とやりあったところで……それじゃああのシジイの思うつぼだ。それも面白くねぇからな」

 

「……あぁ、そうかい」

 

それこそ、オレにとっては面白くねぇ。

 

ダンテは剣を引き抜くとぶつぶつと呟いた。

 

「オーケイ、行けよ。もう引き止めないさ。掃き溜めでガタクタ集めでもしてりゃいつか真相に大当たりと考えていたが……予定は変更だ」

 

そういうとダンテは懐から何かを取り出した。

 

メノラーだった。

 

「先に進むにはこいつが必要だな。オレはこんなものに興味はない。興味があるのはシジイの狙いだ。お前にやるよ」

 

メノラーをひょいと放り投げるとダンテは振り返り、歩きだした。

 

「じゃあな少年。お互い生きて成果を挙げられりゃ……また会う気がするぜ……」

 

「冗談……!野垂れ死ね」

 

ありったけの怨嗟の声を呟くと、聞こえたのか。ダンテはクツクツ笑い、去っていった。

 

残されたオレは、自分の不甲斐なさに嫌気を指しながらメノラー……【知識のメノラー】を拾い上げ、メイブの治療に向かった。

 

この憎悪。あの男にだけ向けられてはいない。

 

最も憎いのは、勝てない自分自身だ。

 

仲魔に庇われ、なお勝利を掴めない自分自身だ

 

弱い弱い……自分自身だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




構図とか、凝りすぎたかな。

感想、質問受け付けてます。



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零時の疑問 『神の存在とは?』

ハーメルンよ!私は帰ってきたァ‼

お久しぶりです皆さま。ブラックレイン復活です。

なんとか試験を終えました。合格かどうかはまだですが投稿をしようと思えるぐらいには暇になりました。

しかし出来ばえは悪いです。あまりにも久しぶり過ぎました。まずはしばらくリハビリですね……


ダンテとの戦闘を終え、失意のなかアマラ深界を進んでいくとあの覗き穴を見つけた。

 

クイーンメイブの治癒魔法で元に戻った腕で覗き穴の淵を掴み、オレは覗き穴を覗きこんだ。

 

意志が飛ばされる感覚。ぐるぐると視界が回転していくがそれもやがて収まる。

 

そして視界に入る、あの舞台。

 

オレという観客が入るのを感じたのか、幕が上がり始める。その向こうにいるのは、喪服の女と車椅子の老紳士だ。

 

「二銃を掲げる、底無き力の剣士…その者との戦いも無事切り抜けられたようですね

   この先も、その身に宿した悪魔の力があなたを助ける事になるでしょう。

   力というもの。人は、皆それを欲し、求めます。

   光であろうと闇であろうと…どちらであっても人は頼り、祈るのです。

   己やその周囲に力を与えて貰おうと…

   此度は、あなたも良く知る女性が、世を救おうと信じて祈っていった神について教えて差し上げましょう」

 

 

「アラディア…このボルテスクに居る事が許されない、異世界より迷い込んだ虚構の神…

   時空の解け流れるアマラ宇宙…ここには無数のボルテクスが存在しています

   その内の一つが、アラディアが本来、在った所。

   あなたも知ってのとおり…このボルテクスは、元の世界から真なる力で生み出された正統なる世界

   しかし、その影には、世界で虚構とされた者が集う世界もあります。

   そう、それがアラディアが元居たボルテクスなのです

   そこに住む者達の願い。それは虚構たる自らの存在を現実へと変える事。

   その手立てを探すため、彼等は自らの世界を飛び立ち、アマラの海を越え、創世の力を持つボルテクスへと向かうのです

   アラディアは、夢想にて創り出された、悲しき救い神

   強き神に追われ、迫害を受けた魔女らの求めから産まれた存在です

   魔女らは、アラディアに、自分達が力を授かり自由を得ること、そして生に苦しむ民衆らが救われることを祈りました

   しかし、アラディアはその姿を地上に現すことは無く、魔女らも救われる事はありませんでした

   アラディアはただ徒に希望を与えるだけの神でしかなかったのです」

 

 

「神が創りし人間が、新たな神を創り出す…アマラの宇宙であれば、そういった神もありましょう

   ですが、所詮アラディアはよそ者。このボルテクスに許されぬ者にどこまでの事ができましょうか

   『救われぬ自由』の神に…

   様々な者達が、様々な言葉をあなたに投げかけているでしょう

   混沌の魔人たち…絶対なる者の声…そして私たち。これだけは覚えておいてください。

   私達はアマラの悠久の流れの中、あなたが来るのを…時が至るのを待っていたのです。

 

メノラーとこのアマラ深界の因果。全ての者が待ち焦がれている新たな混沌の悪魔。そして我が主が待つ最後の刻………

 

理解できない事だらけよね。零時君…もし君が全てのメノラーを集めて、もう一度ここまで来たら…その時には教えてあげるわ…全ての疑問の答えを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幕が閉じ、意識が戻ったオレは先の喪服の女の言葉について考えた。

 

祐子先生が降ろした神、アラディア。あの女の言葉が真実ならばアラディアはこのボルテクスでの活動……恐らくは創世を許されない存在であるということだろうか。

 

そしてアラディアの存在を否定する。【強き神】

 

その存在は一体なんだろうか?

 

世界の意味、受胎の意味、そして創世の意味。

 

そして、ここの住人がオレを必要とする意味。

 

このアマラ深界にはその答えがある。

 

オレの知りたい、すべての答えがあるはずだ。

 

それを知るには残りのメノラー、そのすべてを集めるしかない。

 

オレは重い体を引きずり、アマラ深界を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ターミナルでアサクサに戻るとヒジリがすぐさま報告を行ってきた。

 

「よぉ、零時。実はつい先程興味深い情報が手に入ったんだ」

 

「興味深い情報?」

 

オウム返しに聞くとヒジリはしばいがかったように両手を広げ、ご清聴願おうかと言った。長い話になりそうだ。

 

「新しく世界を創るには『どんな世界を創りたいか』という理念が不可欠なんだ。この理念を【コトワリ】という」

 

「コトワリ……」

 

【理】ということだろうか。しかし理念が世界を創る鍵になるとはね……とは思うが、マガツヒという人々の想いによって構成された悪魔をみればそれも無理からぬことか。

 

「そしてこのコトワリを手にするには【守護】と呼ばれる偉大な神の加護が必要なんだ。世界創造で大量のマガツヒが必要とされるのもこの守護にある」

 

そこから先は言われなくても予想がついた。

 

「守護を召喚するためか?」

 

「正解」

 

ヒジリのその言葉にオレは思案する。

 

ならば守護というのは悪魔……または悪魔に近しい何かということになる。

 

悪魔というが、この世界では神も天使も妖精ももまとめて悪魔なのだ。

 

そして悪魔が欲しがるマガツヒ。そのマガツヒは人の想い。

 

想いは形になる。どこかの小説にあった一文をそのまんま表しているようだ。

 

オレがそう想い、フッと内心で笑うとヒジリがあ、そういえばと声をあげた。

 

「先程アマラ経絡の中で人間にあったぜ」

 

「あ?アマラ経絡の中で?」

 

あの道がコロコロ変わる地獄に人間?よっぽど不運な奴か頭のおかしい奴か……っ⁉まさか⁉

 

「マントラに捕まっていた人間だ。『勇』って奴だが、知ってるか?」

 

「っ………やっぱり勇かよ……!」

 

新田 勇。真理を一人で見つけるとかいってカブキチョウ捕囚所のターミナルからアマラ経絡に向かったオレの親友。

 

「その様子だと知っていそうだな。そいつ、すっかりアマラ経絡の住人と化していやがったよ。普通はアマラ経絡に飲み込まれるなり、どこか飛ばされたりするものなんだがな……」

 

ヒジリの言葉にオレは再び思案する。

 

勇はアマラ経絡に消える際、呼んでいると言っていた。つまりはアマラ経絡に呼ばれていたのではないか?

 

だとするならアマラ経絡には意志があり、その意志は勇を気に入ったということになる。

 

「こんな世界だ。他人に構っている余裕はないが……気になるってんなら、勇に会った場所の近くまで飛ばしてやってもいいぜ?」

 

ヒジリの問いかけにオレはまったをかけた。

 

「あそこは何が起こるか分からねぇ。準備してくるから待ってくれねぇか?」

 

「………分かった。こちらはいつでも出来る準備はしておく。警戒しておくことに越したことはねぇ。しっかりしておけ」

 

ヒジリの言葉に頷くとオレはターミナルから出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、オレは不審に思うべきだった。

 

ヒジリの言葉。あまりにもアマラ経絡を知りすぎているその言葉。

 

そうすれば、少しは彼にも救いようはあったはずなのに……

 

 




零時の仮説はあくまで仮説です。答えではありません。

次回は創世を目指す者たちの問いがあります。このシーンは真・女神転生3の名物。しっかり書けるか……?



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シジマのコトワリ


氷川の見せ場になります。

勇の登場は次回になりますね。


 

サクサでアイテム買いに奔走していると無視できない噂を聞いた。

 

『マントラ軍の本営付近で氷川を見た』

 

オレはイケブクロに急行した。ヒジリは、オレがターミナルに駆け込む様を見て腰を抜かすほど驚いていたが、気にしている暇はない。

 

オレは急いでターミナルを回転させ、イケブクロにむかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イケブクロに到着し、マントラ軍本営跡に到着すると、

 

 

そこにいた。

 

世界を壊し、ボルテクス界に変貌させた男、氷川が。

 

オレはその背に声を浴びせた。

 

「元とはいえ、敵の本拠地に護衛もなく来るとは、大した胆力だねぇ。氷川さん?」

 

その声を合図に氷川が振り返った。

 

「ほぅ、誰かと思えば……君か。意外な役者が現れたものだ」

 

氷川は階段の上からオレを見下ろした。その様は、とてもただの脆弱な人間とは思えない。氷川自身は、悪魔を使役できる以外には単なる人間のはずなのだが。

 

「久しいな、少年。いや【人修羅】と呼ぶべきか。よもや君がそうだったとはな。どうやら我々は出会うべくして出会ったらしい」

 

「……どういうことだ?」

 

氷川の言葉に含みを感じたオレは氷川に問うた。

 

氷川はすぐには答えず、マントラ軍の本営であったビルを見上げた。

 

「……我が創世のためのマガツヒはマントラを滅ぼした時にほぼ満ち足りた。だから、君がオベリスクに行くのを敢えて止めはしなかった。君の人修羅としての力が本物か、試したかったからな」

 

オレは頬がピクリと動くのを感じた。

 

思えば、オベリスクの守備力は組織的に考えてみれば薄かった。まがりなりにも軍を名乗っていたマントラを抑えているニヒロ機構なら、数も質もあれだけでは済まされなかったはずなのだ。

 

嘗められている。それがあの赤いコートを着た男を彷彿させられて余計に腹がたった。

 

しかしオレはぐっとこらえ、氷川の言葉を待った。こいつの言葉は有益な情報になる。

 

「しかし君は刺客を退けただけでなく、独力で巫女を救いだしてみせた。【ミロク経典】にも記されていたその力……私の予想以上だ。

君なら務まるかもしれない。ともに『シジマ』を啓く大役がな」

 

「シジマ?」

 

オレが問い返すと氷川はオレを見据え、語り始めた。

 

「人の欲望とは灯火のようなものだ。小さく、暖かくて心地よい。だが火はやがて炎になる。全てを喰らい尽くす怪物へとな………だが人はそれを愛しすぎた。その温もりに依存し、全てを灰にするその破壊の本性には目を背けていたのだ」

 

「人は世界に尽くすためにあるべきなのだ。ひいてはそれが人の安息を約束する。

何を求めるべきであり、何を求めてはいけないのか。それを決めるのは人ではない。世界だ」

 

「人はただ、世界を照らす信号台であればいい。穏やかに廻り、明滅し、世界の意思と一つになる。それが最善にして最高の生業なのだ。

 

……そうは思わないかね?世界はただ、静寂であれば良いと…」

 

オレの内心を問いかけるその言葉。自分の考える『世界』に絶対の自信と正を持つ言葉。

 

オレはその時、氷川の言うシジマの意味を知った。

 

黙と書いて『しじま』と読むことは知っているだろうか?つまりは静寂そのものの言葉。

 

そしてそれが、氷川の掲げる思想。コトワリだ。

 

オレは同時に思案した。

 

氷川の言う通り、巨大すぎる欲望は常に破壊者であったし、あり続けている。

 

欲にまみれ、暴走し、不幸と破壊と死を振り撒いた人間など探せば何人でも見つかるだろう。

 

「確かに」

 

オレのその言葉に氷川は微笑む、がオレは首を降った。

 

「だが氷川。お前のいう破壊者にまみれてるのはお前とてそうだろう。人間の、一種の【醜さ】に絶望し、それを無くしたいという欲に暴走し、世界を破壊し、全生命体を滅ぼしたお前は一体なんだよ?

 

氷川。お前も炎だ。静寂であれと望みすぎたお前もオレにとっても、死んでいった者たちにとっても全てを焼き尽くした破壊者だよ。

 

そのお前の思想、オレは是としない。

 

そのお前の思想、オレは否定する」

 

オレの言葉に氷川は目を見開き、そして無表情にこう言った。

 

「………そうか。残念だ。我が理想、悪魔の君には理解できないようだな」

 

「元よりオレの敵であるお前に着きたくもねぇ。お前がオレにしてきたこと……忘れた訳じゃあねぇだろ?」

 

氷川はオレのこの言葉に一切の反応を見せることもなく、階段を降りはじめた。

 

「さて、そろそろ私は行かねばならん。全てが終わるまで安心はできない。

君は気づいているかね?この地に漂う不気味な気配を。滅んだゴズテンノウの力の残り火に与ろうとしている者が不気味に胎動を始めている」

 

「なに?」

 

それはつまり、ゴズテンノウの力を自らの物にしようとしている者がいるということか?

 

一体誰が。氷川の創世の邪魔になるということは、そいつも創世をしようとしているということだろう。

 

そうなればそいつは人間になる。悪魔は創世ができないというのはあの喪服の女に教えられている。

 

いったい……誰だ?

 

「……他の愚かなコトワリを啓こうとするものに遅れを取るわけにはいかない」

 

氷川は階段を降りきると空にむけて高らかにこう叫んだ。

 

「世界を創るのは……この私なのだ‼」

 

そういうと氷川は去っていった。

 

その氷川の影が、怪しく胎動するのが見えた。そこから感じる、微かな、だが強力な妖気。

 

護衛もなしに、とオレは言ったがどうやら護衛は伏せてあったようだ。

 

静寂の世界を拓かんとする氷川、それに付き従う悪魔。

 

オレには、その様は世界の全てを統一せんとする欲望にまみれた王にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





零時と氷川、うまく書けているかな……



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個人主義の思念 金色の殺意


また中途半端に終わってしもうた……




 

マントラ軍の本営跡地で氷川と会っただとぉ?ホントかそれは⁉」

 

「嘘ついてどうすんのさ。ま、殺るには至らなかったが」

 

アサクサのターミナル。マントラ軍本営跡で起きたことをヒジリに話すとヒジリは再び腰を抜かすほど驚いた。

 

まぁ、いきなり世界破壊の元凶に会ってきたなんて言ったら誰だって驚くだろうが。

 

「やれたことは奴がどんな世界を創ろうとしてるかが具体的に分かったことだが、それはニヒロの悪魔どもの話を聞いていれば分かるだろうし…まぁ、収穫はナシだな」

 

「そうか……まぁ何かされなかっただけでも良しとするべきか」

 

ヒジリは顎を撫でながらそう呟いた。

 

「まぁ今はともかく氷川のことは置いておこう。ニヒロ機構が今どこを拠点にしているのか分からねぇ今、氷川のことを考えたって仕方ねぇ。今は情報収集。そして、勇だ」

 

「あぁ座標の固定はしてあるぜ。後はお前がターミナルを回すだけだ」

 

「はいよ。………サポート頼むぜ?何があるか本当に分からんしアマラ経絡はお前の方が知ってるだろうし」

 

「了解」

 

ヒジリのその一言を聞くと、オレはターミナルの縁をぐっと掴み、思いっきり回した。

 

ぐるぐると回転しはじめたターミナルはやがて回転速度を速め、青く発光し………オレを引き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二回目のアマラ経絡。ここの雰囲気は到底好きになれそうにない。

 

なによりもここのマガツヒがオレの気分を毒する。赤いオタマジャクシのようなそれが天井に、床に大量に流れゆく様は不気味以外に形容しようもない。

 

まぁ仲魔達にとっては宝の山だろうがな。実際にバクバク喰ってるし。

 

と、いけないいけない。とっとと勇を探さなければ。そしてここから引っ張り出して正気に戻してやる。

 

オレは未だにマガツヒに食いついている仲魔達を引っ張りながらアマラ経絡を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩くと希薄空間。つまり外界との繋がりが強い空間に出た。

 

そこに入ると案の定、ヒジリの言葉が響いてきた。

 

「どうだ………勇には……会えたか?」

 

しかしなぜか繋がりが悪い。以前はスペクターの妨害を受ける前までならもっとクリアな声が響いてくるのに。

 

まさか、いやまさか……

 

とりあえずヒジリの問いかけに答える。

 

「いや会えないねぇ。ホントにいたのかよ」

 

「嘘つく……必要が……ねぇだ……ろう。とにか…く……勇を見つけ…たら……すぐに脱出……してく……れ……ターミナル……が…妙に…不安定……な……」

 

その言葉を最後に、ヒジリの声が聞こえなくなった。

 

「ヒジリ⁉ヒジリ‼くそ!ダメか……」

 

これは本当に考えなければいけないかもしれない。

 

スペクターが、近くにいることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このアマラ経絡も悪魔は存在する。

 

が、通常とは少し外れた悪魔ばかりだ。

 

存在する悪魔の種族は幽鬼、外道、精霊、御霊の四種。いずれもただ話しかけるだけでは仲魔に出来ない。

 

また精霊、御霊は悪魔合体では特別な結果をもたらしたりする。よくは知らないが。

 

まぁ、いずれも戦ってきたどの悪魔より強いなんてことはない。弱点をしっかりつき、戦いの基本をしっかりしておけば苦戦することはない。

 

しかし、スペクターが近くにいるとなると厄介だ。あれも外道だがこのアマラ経絡に干渉する力を持っているこいつは道をあちこち潰される可能性がある。

 

さっさと勇を探して出たいところだが……!

 

「コッチ来んじゃねぇ……!」

 

「おっ……!」

 

いきなり重々しい声が響き、オレはそこから飛び退った。

 

しかし攻撃が飛んでくることはなく、頭に『?』が浮かぶが、そのとたん異常が起きた。

 

ボォンという不思議な音とともに通路が壁で塞がれてしまったのだ。

 

「な、なんだ……!」

 

狼狽しながら別のルートに行くと、

 

「オレはオレの好きなようにやるんだ……失せろ!」

 

重々しい声、しかし先程とは違った声が響き、再び通路が壁で塞がれてしまった。

 

結果、あちこち回るように進むがあちこち壁で塞がれてしまう。

 

「いったいなんなんだ。あいつらは……!」

 

否、正体は気配で分かっている。あれは思念体だ。それもほとんど外道の悪魔に近い奴。

 

あそこまで歪んだ思念体を……まぁ見たことはあるがそればっかりしかいない光景は見たことがない。

 

いったいどういうことかと思っていると、まともな思念体が話しかけてきた。

 

「お兄ちゃん、あの思念体達に道を塞がれたんでしょ?」

 

小さな男児の思想体のようで幼さ満点の声で問いかける声に『あぁ』と答えると思念体はやれやれと実体のない首を振った。

 

「あいつら他人が入り込むのをとことん嫌うからね。誰か入り込もうとするだけで壁で通路を塞いじゃうんだ」

 

「とれだけ個人主義なんだよそいつら……」

 

顔をひきつらせながらそういうと思念体はため息をついた素振りをみせた。

 

「他人なんて必要ない。むしろ邪魔なものだと思ってる連中だからね。しかもこのアマラ経絡というのは強い思念を持っていればある程度操れるからね。ああやって壁を創るぐらい簡単さ」

 

それは嫌な情報を聞いた。

 

「ま、かなり強制的な方法だから創れる壁も制限があるけどね。その壁も、入ろうとした者が去ってしまえばあっという間に消えちゃうんだ」

 

「へぇ。なるほど……」

 

それを利用して進むしかないようだ。

 

オレは情報をくれたことに礼をいうと再び通路を進みはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度かのトライで壁を塞ぐ行為にはパターンが存在したため、それを突いてなんとか奥へ向かえた。

 

そして悪魔を蹴散らしながら進むと……

 

会いたくない奴に会った。

 

悪魔が召喚される雷の音とともに現れた金色の靄のような悪魔。

 

外道 スペクターだ。

 

「ヨウヤクミツケタァァ……!ウォレノ、スミカデウロウロシヤガッテェェ……!」

 

とことん耳障りな声を発するスペクター。

 

そのスペクターはオレの顔を見ると凄まじい声でわめきはじめた。

 

「ウォ、ウォマエ!マエニ、ウォ、ウォレノナカマヲコロシタヤツダナ!ソノイレズミ、ナカマガ、ウワサシテタ!ウォノレェェ……!マタココノマガツヒヲウバイニキタナ⁉」

 

違うと言いたかったが、その前にスペクターが突っ込んできた。

 

しかし奇襲はもはややられ慣れている。落ち着いてかわす。

 

スペクターはオレを睨むと怨嗟の声を吐き出した。

 

「ウォマエェェ……!クッテヤル!コロサレタナカマノタメニモクッテヤルゥゥゥゥゥゥ‼」

 

スペクターはそう叫ぶなりオォォンと叫んだ。

 

何度も悪魔召喚音が響き、スペクターが何体も現れた。

 

やれやれこんなことをしている場合じゃねえっつうのに…!

 

オレは内心で愚痴りながら構えた。

 

金色の殺意が、襲いかかる。

 

 

 

 

 





質問、感想待ってます~。



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ムスビ

なんだ……あの書類の量は……就職するのにあんなに書くことがあるなんて…!

すみません、上記の理由で投稿が遅れました。

お待ちしてくれた方、感謝です。



万能属性、という属性がある。

 

この属性は他の属性とは決定的に異なる部分がある。

 

万能の名前の通り、どんな状況であってもどんな奴にも通用し、ダメージを与えてくる属性だ。

 

無論そんな属性を使いこなす悪魔の数は少ない。オレは様々な悪魔合体を行ってきたが、万能属性と思われる技を修得する悪魔は邪神といった上位悪魔のみだった。

 

で、なぜその話を今してるのかというと……

 

「「「「「メキドオォォォォォォォ‼」」」」」

 

スペクターがその属性を使ってくるからです。

 

「グアッ⁉」

 

事前に“マカラカーン”で魔法反射シールドを張っているはずだが、万能属性は厄介なことにそれすら貫通する。

 

その上“メキド”は元々の威力が高い。“ラクカジャ”という頑丈性を高める魔法でのダメージ軽減は望めるが、それが理由で実質プラスマイナスゼロの状態だ。

 

もちろんただ防ぐことだけが攻撃への対策じゃない。ンダ系の魔法で命中率なり攻撃力そのものを削れば良い。

 

だがスペクターはこれすらも乗り越えてみせた。

 

「アアァァァァ!」

 

オレはスペクターに向けて叫んだ。もちろんただの叫び声ではなく、魔力を乗せた咆哮を。

 

“雄叫び”

 

身の毛がよだつような、という表現しかできない声がオレの口から放たれ、スペクターの耳(耳らしきところは無いが)を打つ。

 

「グヌゥ……!」

 

瞬間スペクターの動きが気だるげになる。

 

ンダ系の技、“雄叫び”は敵の攻撃力および魔法攻撃力を大幅に下げる効力を持つ。恐らく奴は全力の4分の3しか出せまい。

 

だがスペクターの一体がその魔法を使用することによってそれを打ち消した。

 

「オォオオン!」

 

“デクンダ”

 

その瞬間、スペクター全員がオレンジ色の光の膜に包まれ、それがパン!と膨らませたガム風船が弾けるような音とともに割れると“雄叫び”の呪縛があっという間に解かれてしまった。

 

“デクンダ”。ンダ系魔法を全てかき消す魔法である。これによってスペクターは失った攻撃力を元に戻してしまうのだ。

 

これでは“雄叫び”の魔力を無駄にしてしまうだけである。だからといって不用意に近づけば“メキド”……万能魔法の良い的になる。

 

ならばこちらも魔法を使えば、と思ったがスペクターの耐性がチートであることを忘れていた。

 

【魔法全般無効】

 

文字のとおり攻撃魔法全般はスペクターには通用しない。ンダ系魔法は効くがダメージを与える魔法は全く通用しないのだ。

 

かと言って近づけばさっきも言った通り、“メキド”の良い的。つまりスペクターに決定的なダメージを与えられるのは物理属性で、なおかつ遠距離攻撃であるということになる。

 

オレの持つ技の中で、該当する技はいくつか存在するがオレの頭にはもうひとつの条件があった。

 

その技一発でスペクターの群れを倒すこと。

 

なぜなら全体攻撃でなおかつ遠距離攻撃の物理攻撃となれば相当な量の生命力を消費する。もし討ち漏らしでもしたら弱ったところを狙い撃たれ、ジ・エンドだ。

 

そうなると、使うべき技は一つということになる。

 

「メイブ。防御頼む」

 

「分かったわ」

 

相棒、クイーンメイブはオレの前に立ち、オレへの攻撃を全てかばう姿勢になった。

 

申し訳ない気持ちでいっぱいになるがうかうかしていられない。自分がやれるブーストをかける。

 

「“気合い”!」

 

オレの叫び声とともにオレは力を貯めた。これにより一回だけだがオレの攻撃力は倍になる。

 

スペクターはオレがなにかしようと察したのかオレに向けて攻撃を放つ。しかしクイーンメイブを筆頭とした仲魔達がボロボロになりながらもそれを防ぐ。

 

時間はない。オレはそのままとある技の溜めに入った。

 

この技は大技。とてもノーチャージで撃てるものじゃない。

 

身を屈め、腕を自分の中になにかを取り込むように折り畳む。

 

オレの体が光輝き、生命力が活性化してティロロロという音を響かせる。

 

ついに仲魔達が果て、マガツヒに消えるとスペクターはニヤリと嗤い、“メキド”の集中砲火を浴びせようとしたが……

 

「遅い」

 

オレはそう呟くとバッと両腕を広げ、その技を叫んだ。

 

「“ゼロス・ビート”!」

 

次の瞬間。

 

オレの生命力が幾つもの光線となって放たれた。

 

光線は縦横無尽に駆けると次々とスペクターを穿ってゆく。

 

「ギャアア⁉」

 

スペクター達は阿鼻叫喚の様子であちこちと飛び回るが如何せん数が多すぎた。動けば動くほど穴だらけにされる。

 

そして最後のスペクターが何十もの光線に貫かれ、消えた。

 

オレはそれを見届けるとバタリと倒れこんだ。

 

この技は今のオレの生命力の3分の1を食い尽くす。おまけにもともと“メキド”によっていくらかダメージを受けてたのだ。倒れたくもなる。

 

オレはしばらく倒れていると物置空間からとあるものを3つ取り出した。

 

【道反玉】。悪魔を蘇生させるアイテムをかざし、握り潰すとスペクターの攻撃によって倒れた仲魔が再び形を取り戻した。

 

クイーンメイブは自分が生き返ったことに気づくと手をグーパーグーパーし、腰に手を当ててオレに鋭い声を向けた。

 

「また無茶したわねこのバカ」

 

「お互い様だろう、それは」

 

オレはむっと返した。

 

そもそも誰が死ぬまで防御頼むと言ったのか。

 

クイーンメイブはため息をひとつすると、回復魔法でオレたちを治療し始めた。

 

あっという間に傷が塞がるのを確認するとオレは重い腰を上げた。回復魔法は疲労までは癒してくれない。

 

「とんだ邪魔が入ったもんだ。そんじゃまぁ。進みますか…」

 

おう、えぇ、グルルという返事を聞きながらオレは通路を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途中、謎の男の声がオレにいくつか質問をし、消えたこと以外はなにひとつ異常はなかった。

 

しかしその男の声は勇は近くにいると言った。

 

オレはその場所まで駆けていった。

 

とある希薄空間。そこには上半身裸になった勇がいた。

 

顔はうつむいていて見えなかったが確かにあれは勇だ。

 

オレは勇に声をかけようとして…やめた。

 

勇の取り巻く雰囲気がおかしい。しかもその周囲には、いくつもの魔力の塊が浮遊しているのだ。

 

なにかをしようとしている。オレは警戒心を露にしながら勇に近づいた。

 

すると、ソレは起こった。

 

魔力の塊の一つがが、勢いよく勇に取り込まれていったのだ。

 

「ッ⁉」

 

オレは驚いた。そんなものを人間が取り込んでしまったらどうなるかは分からないが良いことが起こるはずがない。

 

最初の塊が合図になったかのように魔力の塊が一斉に勇に取り込まれていく。膨大な魔力の量に激痛が走るのか、勇が無音の叫び声を上げた。

 

そして全ての魔力を取り込むと、勇はスタッと立ち上がった。

 

「よぉ、久しぶりだな。零時」

 

その声は、歓迎すべき親友の声。だがオレはその声が冷たく、気持ち悪くてならなかった。

 

「オレを助けに来たのか?それとも捕まえに来たのか?どちらにしろもう必要ないよ。この世界を、宛もなくさまようだけの勇は死んだ。

今ここにいるのは、アマラの力を手にした偉大なる勇様だ」

 

勇はそういうと一歩、オレの前に進んだ。

 

「ッ⁉」

 

オレは勇の全身を見て驚いた。

 

勇の上半身にびっしりと、人間の顔がいくつも引っ付いていたのだ。

 

その瞬間、オレは悟った。

 

勇は、人間を捨ててしまった。

 

驚愕し、フリーズしたオレに勇の虚ろな声が響く。

 

「今の俺には他人なんてもう興味もなくてね。オレには世界の本当の姿が分かったんだ。唯一至上の自分とただその横を通りすぎるどうでもいい他人達……」

 

勇は語り始めた。その様は、シジマのコトワリを語った氷川の如く。

 

「みんな俺のことなんてどうでもいいと思っている。そして俺もみんなのことを……でもそれは悪いことでも、悲しいことでもない。自分の世界の真ん中にいられるのは結局自分一人……そうだろ?

誰もが、一つずつ自分だけの世界を創っていけばいい。それが俺が見つけたコトワリ。ムスビのコトワリさ。

 

お前もそう思うだろ?自分だけの世界が創れればいいって」

 

オレに問う声。それはあまりにも、あんまりにも

 

ただ悲しかった。

 

 

勇は、この地獄でたった一人生きてきた。オレのように仲魔もおらず、力も持たぬまま。

 

救いの手を欲しても。救われはしなかった。その地獄の中で、孤独の中で、ついに勇は壊れた。

 

オレも、自分のことだけを中心にし、勇を救えなかった。

 

親友というのなら、せめて勇の言葉に賛同すべきなのかもしれない。それこそが、救えなかったオレへの贖罪なのかもしれない。

 

だが、何度も他人に救われてきたオレはそれに賛同できなかった。

 

「勇。お前は昔、荒れてたオレを救ってくれたじゃないか。当時、他人だったオレを。それなのにお前は人との関係をそこまで排するのかよ?」

 

オレは勇の目を見据えながら、言葉を投げ掛けた。

 

「オレは認めない。他者との関係が、価値のない事だなんてあり得ない。そんな世界は創らせないぞ、勇」

 

運命に翻弄され、平穏に生きたいという願いすら運命に否定された哀れな男の考えた世界と正しさをオレは否定した。ハッキリと。

 

勇はさして気を悪くしたわけでもなく。息を吐いた。

 

「そうかい。まぁ、悪魔になってしまったお前にはどうでもいいことなのかもしれないな……まぁ、オレはムスビの世界を創って自分の正しさを証明するさ。

 

……零時。お前も、一人になるんだな」

 

そう言って勇は音もなく、ただ消えた。

 

去り際に勇が残した言葉は、オレの胸に深く突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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死の影とフトミミの予言


今回オリジナルが入りまーす。

登場は少しだけですがこれが人修羅に大きな影響を与えます。








 

アマラ経絡を鬱々とした気持ちで進んでいくと出口が見えた。

 

前は出口だと思って入ったらアマラ深界にいたんだっけ?

 

オレは警戒しながら出口に行こうとして……

 

落とし穴に落ちた。

 

「はへッ?」

 

今まで罠という罠に引っ掛かったが、ここまで安直な物には引っ掛かったことがない。

 

オレは間抜けな声をあげながら落ちていった。

 

最後に見たのは、クイーンメイブがなにやら叫んでいた姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつつ……!ここは……」

 

落とし穴に落ち、辺りを見渡すが全く無意味だった。

 

なにしろ辺り真っ暗。悪魔になり、相当な視力を持っているオレですら見えないということは光源が何一つないということだ。

 

否、オレの全身に走る刺青がぼんやりと光ってはいるが、本当にぼんやりとなので光源としての役には立たない。

 

なら、とオレは物置空間を呼び出した。【光玉】という暗闇を晴らし、辺りを明るくするアイテムを取ろうとした。

 

その時だった。

 

「ッ⁉」

 

全身に鳥肌が立った。

 

寒さ、ではない。恐怖でだ。

 

そのときになってやっと気づいた。

 

オレの目の前に、何かがいることに。

 

「…はっ……ッ⁉ッ⁉」

 

誰だという声が恐怖のあまり出せない。歯がガチガチ鳴るのを止められない。頭の中で自分が死ぬ運命が浮かんでは消え、浮かんでは消える。

 

こんな体験は魔人に相対すれば何度も味わえる。だがその何かが発する『死の気配』はオレが今まで戦ってきたどの魔人よりも遥かに濃密だった。

 

間違いなく、こいつがオレを殺そうと動けばオレは死ぬ。

 

せめて死ぬ前にその正体ぐらいは暴いてやろうとオレは何かを目を凝らしてよく見た。

 

ここでオレは恐怖の中で疑問が浮かんだ。

 

その何かは真っ黒だった。それならまだいい。もっと奇抜な存在なんて悪魔には掃いて捨てるほどいる。問題はその形だった。

 

それは不定形だった。ぐにゃぐにゃと軟体生物なんて目じゃないくらいに形がない。

 

だが目が無くとも、耳が無くとも奴はオレを見ている。その気配を読み取れば、この黒い何かがオレを注視していることぐらいは分かる。

 

オレは覚悟した。せめて一矢報いるためにオレは拳を構える。

 

しかし黒い何かはなぜか動かない。ずっとその場でぐにゃぐにゃしているだけだ。

 

その様子を訝しんでいると黒い何かが変化した。

 

どんどん……どんどん縮んでいき、何かの形を創ろうとしている。そしてその変化は終わった。

 

シルエットがぼんやりと見えるぐらいだがオレは何の形になったのか理解した。

 

それは少女だった。長い髪。ゆったりとした服装は現実世界ではなんの遜色もない少女の姿だった。

 

だがそんな可愛らしい姿になっても目の前の存在が発する『死の気配』は変わらない。オレは息を呑みながら少女の形になった何かに対して構えた。

 

すると少女は肩を震わせる仕草をした。それがクスクスと笑っている仕草だと気付くのに一瞬遅れて気づいた。

 

何かがオレに向かってヒタヒタと近づく。オレは拳を振り上げようとした。だが。

 

「…あっ……ッ⁉」

 

全く体が動かない。

 

一瞬、バインド……神経属性と呼ばれる動きを阻害する魔法でも喰らったかと思ったが違う。その死の気配に体が動かないのだ。

 

そのことに戦慄していると何かがオレの頬に手を添えてきた。

 

その行動の理由を計りかねていると

 

次の瞬間、想像もしていなかったことをされた。

 

少女となった何かが、接吻。つまりキスをしてきたのだ。

 

「⁉⁉⁉⁉⁉⁉」

 

オレは心底驚いた。頭の中が真っ白になって……ッ⁉

 

なぜか目の前にもやがかかる。いや違う。これはオレが意識を失いかけて……?

 

オレは何かに唇を奪われたまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……じ………………れ…じ………零時!」

 

いきなりの意識の覚醒。混濁する意識の中で誰かの声が響く。

 

瞼を開けるとクイーンメイブの姿が確認できた。

 

ガバッと起き上がり、状況を確認するとターミナルのある部屋だった。

 

オレは起き上がり、ターミナルの部屋の隅に急いで駆けると。

 

思いっきり吐いた。

 

悪魔になってから何も口にしなくても腹は減らない体になっていたので、胃の中は空っぽ。それゆえ胃液しか出てこなかった。

 

「ちょ……⁉流石に洒落になってねぇぞ!」

 

ターミナルのそばにいたのかヒジリの避難の声が聞こえたが、今のオレにそれに構う余裕はなかった。

 

一通り吐き出してしまっても、体の震えが止まらなかった。元より青白い肌がさらに青ざめているのが自分でも分かる。

 

「どうしたのよ一体⁉」

 

クイーンメイブがオレに回復魔法をかけながら問う。

 

回復魔法は意味がないようで全く調子が戻らなかったが、答えることは出来た。

 

「……やばい奴に……会った……あれは……やばい……なんだよあれ……ハハッ……なんで死んでねぇんだろ……オレ」

 

恐怖のあまり頭のネジが飛びかけているのかまともな返答は出来なかったが。

 

オレはそういうとまたコトリと気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カグツチが何回か満ち欠けを終える時間を経てオレはミフナシロに向かっていた。マネカタのリーダー、フトミミが重大な予言をするらしい。

 

落ち着くとオレは仲魔とヒジリにオレが穴に落ちたあとどうなったのか教えてくれた。

 

あの後仲魔達はアマラ経絡から一度抜けてターミナルでオレを探すようヒジリに要請するがヒジリの手をもってしてもオレを探せなかったらしい。

 

慌てる仲魔達だがいきなりターミナルが黒く光りながら回転するとオレを吐き出したらしい。

 

ヒジリも仲魔達も何がなんだか分からない、とのこと。調査はアマラ経絡に詳しいヒジリに任せることにした。

 

オレはとにかく明るいところにいようと外に出た時にフトミミの話を聞いたということだ。

 

さて、重要な予言とはなんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミフナシロの入り口。フトミミからここから先は通せないと言われた場所に向かうとたくさんのマネカタがいた。

 

そしてそれに相対するようにフトミミがいた。

 

フトミミは仲間のマネカタ達に向かって声を張り上げた。

 

「皆の者、聞いてくれ!これからの話は我らの行く末を決める大事な話なのだ!」

 

フトミミがそういうとマネカタ達がざわつく。

 

フトミミはそれに負けないよう言葉を続けた。

 

「マントラの支配を逃れて後、我らマネカタ達は安住の地を創ろうと努力している。だがそれを無にするような、我らマネカタを脅かす力が再び生まれようとしている」

 

マネカタ達の声に恐怖と不安の声が混じる。フトミミはそれを手で制すと言葉を続けた。

 

その言葉は、オレに衝撃を与えた。

 

「そう、それはヨヨギ。邪悪なるその力はヨヨギ公園にて生まれようとしている」

 

「何……?」

 

ヨヨギ公園といえば妖精達の住み処。そして今はクイーンメイブとなった相棒の故郷ではないか。

 

そんなところからマネカタを脅かす力が生まれる?どういうことだ。

 

「今はまだ気配でしかない。しかし一度生まれれば世界を動かすほどの災いになるだろう。しかし皆の者。臆してはいけない。我らは力を併せる術を学んだ。邪悪なる力が来たとて皆で力を併せれば必ずや追い返せるだろう

今まで以上に働き、鍛え、その時に備えよ。ヨヨギ公園の邪悪な力にも、我らは決して負けない……」

 

フトミミは瞑目すると呟くように言葉を続けた。

 

「未来とは変えるためにある。自らの道は自らの手で切り拓くのだ。その先にはきっとある。我らマネカタが苦しみから解き放たれる世界………我らマネカタのみの世界が必ず来るのだ」

 

フトミミはマネカタ達を静かに鼓舞するとミフナシロの奥に去っていった。

 

オレはそれを見届けるとそばにあるターミナルに向かった。

 

はてさて、これは………クイーンメイブにどう説明するか……

 

 

 

 

 

 





人修羅の刺青って暗いところだと幻想的にボヤァと光るんですよね。

わざわざそれを見にダークゾーンに行ったりします。

あ、感想・質問受け付けてまーす。



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ヨヨギ公園の悪意

風邪をひきました。テスト前だというのに、なんてこった。

えっ?なんでテスト前なのに小説書いてるかって?きゅ、休憩中です(震え声)








「ヨヨギ公園で?」

 

「あぁ。それでどうする?お前が行きたいといえば着いていこうと思っているが」

 

アサクサに戻り、ストックからクイーンメイブを召喚してフトミミの予言を伝えるとクイーンメイブは驚きの声をあげた。

 

「うーん……思い当たる物がないわけじゃないんだけど……それを今あいつらが使う?それも世界を動かすために?」

 

クイーンメイブはオレに言ってるんだが独り言を呟いているんだが分からない言葉をブツブツ呟くと、おもむろに頷いた。

 

「行ってみたいわ。今更あいつらがそんなことをする理由が知りたいし」

 

「そっか。なら行こうか」

 

オレはそう言って立ち上がるとクイーンメイブは首を傾けた。

 

「それにしても良いの?今のあなたにそんなことをする暇はないと思うんだけど」

 

「情報が安全に集まる場所と人材を無くす危機だからねぇ。それに………もし、創世に繋がることをされるのであれば阻止しなければならねぇんだよ」

 

そう。オレが最も危惧したのはそれだ。

 

邪悪な力。それは確実に強力な悪魔に他ならないだろう。つまりはヨヨギ公園にそんな悪魔を召喚出来る……あるいは自身をそこまで強力な存在に昇華するほどの大量のマガツヒが存在するということだろう。

 

例えそのマガツヒを使って邪悪な力を生み出そうとしている誰かさんが創世を目論んでないとしてもそのマガツヒは創世を目論む奴らの手に渡ったら一気にそいつが創世に近くなる。

 

それだけは絶対に避けなければならない。それを成されたら、元の世界………先生の言った自由で、怠惰な世界を創り直せなくなるのだ。

 

そのなったら、オレはどうするかな。

 

そんなことを暗く思いながらオレはルートを考えはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨヨギ公園は二つの出入り口がある。オレが前に通った西口からは鍵がかかっていて内部に入れないことは確認済み。

 

なら東口なら、と思ったのだが周辺を虚無空間に囲まれて徒歩では通行不可能。

 

そこに侵入するためにはアサクサ付近にある坑道から進むしかなかった。

 

暗闇と闇討ちに困らされながら進んでいき、やっとヨヨギ公園の内部に入ると………

 

異常に気づいた。

 

「な、なんだこの禍禍しい感じは…!」

 

ヨヨギ公園の内部から吸うだけで体内が汚れそうなほどの妖気が漂ってくる。

 

これでは並の悪魔なら狂わされてしまうだろう。

 

「いや、これは……!」

 

オレは感じる気の感じから察した。

 

内部にいる悪魔の気配が暴れまわるように蠢いている。完全にこの禍禍しい妖気にあてられているのだろう。

 

しかしなんだこの妖気。これほどの妖気を放つような奴が近くにいる?

 

「ヤバいな……」

 

辺りを見渡すと近くになんとか難を逃れたらしい悪魔がいた。

 

「大丈夫か?」

 

オレが問うと悪魔はすっかり弱った声で答えた。

 

「あぁ命に別状はねぇんだが……。弱ったぜ……サカハギとかいう奴が行きなり来て、仲間を狂わせて奥に行っちまったんだ」

 

「サカハギ…⁉」

 

いきなり現れたマネカタの殺人鬼の名前に驚く。

 

しかしサカハギがここまでの力をもっている訳がない。もしそうだとするなら奴はもっと暴れているはずだ。

 

「何かあったな……」

 

オレはそう考え、オレは先に進もうとして、遮られた。

 

「ここも鍵がかかってる⁉」

 

オレは歯を喰いしばって考えた。

 

このヨヨギ公園は氷川が受胎を起こすにあたって反対派を処分する舞台にした場所。

 

鍵がかけられたということは状況保存のために警察が鍵をかけたということか?

 

なら管理人室とかないのかと辺りを探索すると……

 

意外な物を、否。者を見つけた。

 

その人はオレの救いとなる人。そして神に救いを求める人物。

 

その神によって何処へと飛ばされた人物。

 

「祐子先生⁉」

 

高尾祐子。その人だった。

 

「久しぶり零時君。やっぱり来たわね。あなたもここでの異変を聞きつけてやって来たんでしょ」

 

「えぇ……そうですけど」

 

オレは戸惑いながら答えると祐子先生は深く頷いた。

 

「ここにもまた世界を変えそうな力があるものね……」

 

なるほど。確かにこの力なら世界を変えそうだ。

 

先生はオレを見据えた。

 

「あの時は突然消えてごめんなさい」

 

「いやいいですよ。あれは先生のせいというより、アラディアとかいう奴のせいでしょう?」

 

オレがそういうと申し訳なさそうに目を伏せる先生。

 

「オベリスクに閉じ込められて、氷川に使われて私は力の大部分を失ってしまったわ……でも君に助けられ、神に守られて、今はだいぶ良くなっているの」

 

創世の巫女。その力については知らないがその名前の通りなら創世を行える最大の権限を持っているということではないのか?

 

疑問の声をあげようとしたがその前に先生の言葉が続いた。

 

「氷川には世界を創らせないわ。彼が創るのは、乱れなく時間を紡ぐだけの世界……いえ、世界とも呼べない、力を無くした空間よ」

 

その確固たる意思に固まった言葉は、前に祐子先生が見せた弱さは微塵もなかった。

 

確かに先生の考えと氷川の考えは相容れないだろう。

 

氷川は人類にただ静寂を望み、先生は人類に、幸せのために日々苦難と戦い続ける力とそのための自由を望んだ。

 

静と動。これほど真反対の者が相容れることはないだろう。

 

「私には世界を創る責任があるわ。世界を創り変えた者として。このまま混沌の世界にしても、氷川に世界を創らせてもいけないの」

 

毅然というその言葉が次の瞬間、曇った。

 

「でも私には世界を創るためのコトワリがないの」

 

「なっ……⁉」

 

アラディアという神をその身に宿す先生がコトワリを持っていないその事にオレは絶句した。

 

確かに先生はアラディアを降ろした訳ではない。だがその力は、祐子先生から現在進行形でひしひしと感じる。

 

その彼女にコトワリを授けてくれない?

 

オレは喪服の女の言葉を思い出した。

 

アラディアはこの世での存在を許されてない。

 

その言葉に嫌な予感がするが今はそれどころではない。なんとかしなければ。

 

オレとて嫌だ。静寂の世界など。孤独の世界など。こんな混沌の世界など。

 

オレは先生の言葉を待った。なぜなら先生とてただ安全のためにこんな所に引きこもってるわけじゃないだろう。

 

何かあるはずだ。

 

「……ここで起こっている異変のことだけれど。それはここにある【ヤヒロノヒモロギ】という霊石のせいなの」

 

「ヤヒロノヒモロギ?」

 

耳慣れないその単語に思わず問い返す。

 

「ヤヒロノヒモロギはマガツヒを豊かに蓄えた物で持つものに加護を与えるらしいわ。それが知れ渡って、いろんな者達が奪い合いをしているわ……私はそれよりもヤヒロノヒモロギがもつもう1つの力……神を操る力が欲しいの」

 

「あぁ。分かりましたよ」

 

先生の言葉でこの後の展開が読めてきた。

 

コトワリを授けてくれないアラディアから強制的にでもコトワリを貰うためには強力な力が必要になる。それこそ神を操るぐらいに。

 

そしてそのためにヤヒロノヒモロギがいる。しかし今、ヤヒロノヒモロギは誰かの手に渡って悪用されようとしている。

 

しかし先生はどうしてもそのヤヒロノヒモロギが欲しい。だが今の先生にその誰かと戦う力はない。

 

ということは…。

 

「オレに取ってきて欲しいのでしょう?そのヤヒロノヒモロギを」

 

「察しが良くて助かるわ。お願い。やってくれる?」

 

「プリントやファイルを持ち運ぶのとは訳が違うって理解してます?」

 

「えぇ、もちろん。だからこそ強制はしないわ」

 

よく言う。オレは内心でそう思った。先生のお願いは、『やってくれるよね?』は『やれ』ということだろうに。先程例えに出したファイルやプリントだってそうだった。

 

………まぁ、否定する要素はないがな。

 

「分かりましたよ。ですが、中に侵入する方法がありません。それがないと……」

 

「これで入れるわ」

 

そういうと先生は懐から何かを取り出した。

 

よく見てみると鍵のようだ………ってまさか⁉

 

「ヨヨギ公園の鍵ですか⁉な、なんで……」

 

「……前から持っていたもの、としか言えないわ」

 

「……さいで」

 

オレはそれを受け取り、それを物置空間に入れた。

 

「私には、あなたを信じるしかないわ。お願いよ」

 

「分かりました」

 

その言葉を現実世界で聞けたらなと思いつつ、オレはヨヨギ公園の奥へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヨヨギ公園の祐子先生。とても絵になってるんですよね。

哀愁と決意を感じます。



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妖精楽園の邪神象


サカハギ戦になります。こいつよりも道中の妖精に苦戦したのが作者の思い出……





 

ヨヨギ公園は妖精の楽園としてボルテクス界では有名だ。

 

シンジュク衛星病院およびシブヤの地域に存在するヨヨギ公園が他の悪魔に襲われないのはヨヨギ公園内部のみにいる悪魔が強いからと聞いていたが。

 

「うなずけるな……」

 

妖精 ティターニアの放つ“絶対零度”を捌きながらオレはしみじみと呟いた。

 

ヨヨギ公園内部に侵入し、暴走状態にある妖精達から攻撃を受けた。

 

5体や6体ならなんとかなるが妖精の恐ろしいところは数と連携だった。

 

おまけに弱点を庇い合うように現れるので厄介この上ない。

 

特に恐ろしいのはこのティターニア。『魔法全般に強い』というチート耐性に加えて回復・補助もこなす強敵。

 

ぜひ仲魔にしたいところだがこの状況じゃ不可能だし……なんとかしてサカハギを止めなくては……

 

オレは暴れる妖精達を撃ち落としながら先に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく客が多くて嫌になるぜ…」

 

「オレはお前の存在が嫌で嫌でしょうがねぇよ」

 

妖精の猛攻をくぐり抜け、奥にたどり着くなりサカハギのブスッとした声が響き、オレはそれに負けないほど不機嫌な声をあげた。

 

サカハギの手には明らかに異常な雰囲気を放つ石が。あれがヤヒロノヒモロギとやらだろう。

 

客が多いというのはオレの他にもそれを狙う者が現れた、ということか。

 

「オマエまで来やがったか。止せばいいものを……どいつもこいつも釣られるもんだな。だがこのマガツヒはオレ様の物よ」

 

嘲るように舌を鳴らしながらサカハギはそう言い捨てた。

 

「さっきも人間の小娘が一人来やがったが……造作もねぇ、可愛がってやったよ……たっぷりとな…」

 

「あぁ?」

 

人間?このボルテクス界に?

 

小娘と言うぐらいなら先生よりも若い人物。

 

そして先生の言った『生存する人間は受胎時にシンジュク衛生病院内にいる人間』それに該当する人間は……!

 

まさか……いや、まさか……!

 

そこでオレは見てしまった。サカハギの後ろにあるものを

 

そこにあったのは一本の切断された腕。

 

そこに散らばるのは血肉の他に、デニム生地のような切れ端。

 

そこでオレの恐ろしい予想が当たってしまった。

 

デニムの服。生き残りの少女。

 

斬られた腕の持ち主は、橘 千晶のものだ。

 

その途端、オレの胸に憎悪の炎が灯った。

 

「……………ね」

 

「あ?なんだと?」

 

「死ねっつったんだよ‼」

 

オレはそう怒鳴り、光る剣を生成して斬りかかった。

 

「ッ⁉チッ…!」

 

サカハギは驚愕の表情を浮かべながらもナイフでそれを受けた。

 

そしてサカハギは身軽に飛び退くと冷や汗を拭った。

 

「危ねぇ危ねぇ。こんなところで死ぬわけにはいかねぇんだよ。言ったろ?オレは悪魔を支配するってな…」

 

サカハギは霊石を握りながら瞑想するかのように目を瞑り集中しはじめた。

 

大量のマガツヒがヤヒロノヒモロギから放たれ、サカハギの影が伸びた。

 

そしてその影から、巨大な悪魔が現れた。

 

1つしか目がない象頭の悪魔は巨大な剣を振るいながら嘶いた。

 

「パオオオオオオオオオォォォン‼」

 

悪魔は、邪神ギリメカラは1つしかない目をオレに向け、進み始めた。

 

その後ろでサカハギが嗤う。

 

「悪魔の皮か……さぞかし良い皮衣になるだろうよ‼」

 

その姿を見ながらオレは唸った。

 

「野郎……オレがお前の皮ぁ剥いでやるからな……その前に象野郎!てめえから片付けてやる!」

 

オレは仲魔を召喚し、ギリメカラに攻撃させた。

 

が、次の瞬間。仲魔が吹き飛んだ。

 

「何……?」

 

ギリメカラは何もしていない。なのに、仲魔が吹き飛んだ。

 

オレは1つの仮説を思いつき、ギリメカラに向けて弱く殴った。

 

するとギリメカラの周囲にうっすらと光の膜が現れ、殴ったショックが跳ね返ってきた。

 

オレは察した。

 

「こいつ……!物理反射か!」

 

悪魔の耐性は弱点、半減、無効の他にもう二つある。

 

1つは特定の属性をそのまま自分の生命力にしてしまう吸収。そしてもう1つがギリメカラのような反射。

 

耐性としての反射は、時間経過で消えてしまう【テトラカーン】や【マカラカーン】と違って半永久的にその効果は続く。

 

つまり、ギリメカラには魔法しか使えないというわけだ。

 

「全員!魔法攻撃を集中させろ‼」

 

「まかせなさい!」

 

「分かりましたわ‼」

 

クイーンメイブとパールヴァティはそういうなり、電撃と火炎の攻撃をギリメカラに浴びせた。

 

「パオオオン⁉ブウオオオ!」

 

明らかにダメージを喰らっている様子のギリメカラ。しかしさすがにあれほどのマガツヒを使って召喚されたからか、これぐらいでは倒れなかった。

 

ギリメカラは巨大な剣を振り上げ、瘴気の力を纏って振るった。

 

【ベノンザッパー】

 

瞬間、ギリメカラの剣から紫色の斬撃が飛んだ。

 

「させやしねぇよ。セイテンタイセイ‼」

 

「はいよ、大将‼」

 

オレは仲魔の一人、破壊神 セイテンタイセイを呼び、剣を構えた。

 

オレとセイテンタイセイは同時に技を放った。

 

「【鬼神楽】ァ!」

 

「【八相発破】ァ!」

 

オレは目から無数の光弾を、セイテンタイセイは橙色の波を放った。

 

ドォーン!という音とともにギリメカラの【ベノンザッパー】とオレの【鬼神楽】とセイテンタイセイの【八相発破】がぶつかり、相殺された。

 

「ちっ!カジャが入ってないとこんなもんか……セイテンタイセイ。あっちの補助は頼むぜ?」

 

オレはギリメカラに攻撃している女性悪魔二人を見ながら、そういった。

 

「へいへい。まったく補助役は柄じゃねぇんだが……」

 

「じゃあお得意の物理であいつ殺ってくれよ。なら文句はないぜ?お猿さん?」

 

「冗談キツいぜ、大将」

 

セイテンタイセイは女性悪魔二人の方向に向かっていった。

 

それを見送ったオレはギリメカラの注意を引くため、奴の懐に飛び込んで技を使った。

 

【マグマ・アクシス】

 

「喰らいなァ!」

 

獄炎の掌底をギリメカラの腹に喰らわせる。

 

「ブオオオン⁉パオオオン!」

 

痛みに喚きながらオレに攻撃しようとするがそれをすれば別方向にいる仲魔達が魔法を雨あられと降らせる。

 

で、仲魔に集中するとオレから攻撃が飛ぶ。

 

この形が完成した時点で、ギリメカラは詰んでいた。

 

飽和攻撃というのを知っているだろうか?簡単に言ってしまえば多重に、かつ効率的に攻撃を浴びせて敵の防御の手をいっぱいいっぱいにしてしまうのだ。

 

ギリメカラはそれに嵌まった。

 

多重に魔法に打たれ、頑丈なはずの巨体がぐらりと傾いた。

 

オレはそれを見るなり、もう一度両手に炎を灯し、飛び上がった。

 

そしてギリメカラに向かって落ちながら手を打ち出す。

 

「死になァ!【マグマ・アクシス】‼」

 

ギリメカラはそれに対して剣を振り上げるが、仲魔達の攻撃を受けすぎたのかあっけなく砕けた。

 

そして獄炎の掌底がギリメカラの目に直撃した。

 

オレはそのままギリメカラの目を貫き、そのまま頭部を貫いた。

 

「ブオオオアアアアアアアアアアアア‼」

 

断末魔の声をあげながらギリメカラは大量のマガツヒとなって散った。

 

オレはシュタっと着地するとそのままサカハギの方へ駆けた。

 

サカハギは渾身の力を使って召喚したギリメカラが倒されたことがショックだったのか。しばらく呆然としていたが、オレの接近に気付き、ナイフで応戦した。

 

オレの拳と、サカハギのナイフが衝突する。

 

「皮剥がれる覚悟はできたかイカれマネカタ」

 

「冗談じゃねぇ……!」

 

サカハギは恐怖と怒りが入り交じった声を吐き捨てながらナイフを振るうが、遅い。

 

オレはナイフを首を傾けてかわすと肘鉄をサカハギに喰らわし、もう片方の手で技を放った。

 

【アイアンクロウ】

 

爪を立て、サカハギの腹に向けて腕を振るう。

 

オレが放った【アイアンクロウ】はサカハギの腹を深々と抉った。

 

サカハギはゴホッと血をはきながら目を恐怖で見開いた。

 

「なん……で……こんな……やつ…」

 

「うるせぇよ」

 

オレはサカハギの言葉を最後まで聞かずに、拳でサカハギの頭を砕いた。

 

返り血で真っ赤に染まるが、こんなことは日常茶飯事だし慣れてしまった。

 

オレはサカハギの遺体から乱暴にヤヒロノヒモロギを引き抜いた。

 

彼の霊石はサカハギに力を使われてしまったからか、力の欠片も感じなかった。

 

「大丈夫なのかね。これで?」

 

先生はどうもヤヒロノヒモロギの神を操る力のみが欲しいようだが、マガツヒを失ったヤヒロノヒモロギからは全く力を感じられなかった。

 

オレはとにかくそれを物置空間に放り込むと、仲魔に先生のところに戻るぞと号令して去っていった。

 

本当は千晶(のものと思われる)腕を持ち帰りたかったが、仲魔の餌になりかねない。このまま放置するのと変わらないので断念せざるをえなかった。

 

それにしても千晶も創世のために動き出したのか。

 

彼女の言う。『優秀な者だけが生きる世界』を創るために。

 

そんな世界。創らせるわけにはいかない。

 

元弱者のオレには、そんな世界は許容出来ない。

 

勇も千晶も、創世の道は絶たせてもらう。

 

二人の創る世界は、オレには絶対に許容できない。

 

オレは誓いを胸に歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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自由の問い 大淫婦の問い


久々の魔人の登場になります。

主人公の心情にも注目注目!




 

サカハギを倒したあと、妖精達は正気に戻り、各々の行動をするようになった。

 

クイーンメイブが久しぶりに故郷の妖精達と雑談しているなか、オレはヤヒロノヒモロギを祐子先生に渡しに行った。

 

祐子先生はヨヨギ公園東側にある物置にいた。外からのカグツチの光に照らされたその顔は、恐ろしく綺麗だった。

 

「やっぱり戻ってきたわね。信じていて良かった」

 

「生徒の言うことくらい信じてくださいよ……」

 

「あら、生徒は教員をよく欺こうとしているものよ?」

 

「オレはそんな後ろめたいことはしていませんってば」

 

互いに軽口を一通り言い合うと、先生は笑みを引っ込めた。

 

「邪悪な気配が消えていくのを感じたわ。……ヤヒロノヒモロギ、手にいれたのね」

 

「えぇ。ほら、これですね」

 

オレは物置空間からヤヒロノヒモロギを取りだし、先生に渡した。

 

先生はそれを受け取ると、愛おしいようにそれを持ち、オレに背を向けた。

 

「これで私の世界に近づける。……私の神が、コトワリを……」

 

そう先生が呟いた瞬間。

 

「ッ!」

 

先生の雰囲気が変わり、窓から注ぐカグツチの光が失われた。

 

この雰囲気は感じたことがある。

 

オベリスクの最上階で、先生の体に憑依した、神の気配。

 

「アラディア……」

 

オレがそう呟くと先生の声を借りたアラディアが声をあげた。

 

「自由とは奈落を見る崖なり、死のかげの谷なり。行く先には墓の勝利が待ち受ける。……男よ、我は汝の心を見る………」

 

アラディアはそう言うとこちらを向いた。

 

その顔には、やはりあるべき目や鼻といったパーツがなく、代わりに青いシミのような物がへばりついていた。

 

それを確認するとアラディアの問いかけが始まった。

 

「自由という名の愚か者よ!おまえはその名の為に病を担ぎ、痛みを負い、果てぬあざけりを受ける。怖れるか、患いを? 怖れるか、辱めを?」

 

オレはその質問を嘲笑った。

 

「怖れない。今更そんなことを恐れる弱さはねぇ」

 

オレがそう言うとアラディアは質問を重ねた。

 

「自由という名の愚か者よ!おまえはその名の為、友の背きに打たれ、幾度も否まれ、暗い敗北に包まれるであろう。怖れるか、欺きを? 怖れるか、災いを?」

 

「怖れない。オレを欺く奴は倒すまで。敗北があるのなら、報復するのみ、だ」

 

オレのその答えにアラディアが如何なる感想を持ったのかは表情がないため分からない。

 

アラディアはオレに高らかとこう言った。

 

「男よ! 世界を巡り見よ!数多の力が、己が世界を創らんとしておる。それを知らずして、汝の世界は在らず。競い、また共にし、汝の世界は生まれてこよう。

かかる時も……おお!イケブクロに力が現れんとしておる!」

 

「なに……?」

 

オレはアラディアのその言葉に眉を寄せた。今やあそこにはマガツヒはない。ニヒロがナイトメア・システムでマガツヒを根こそぎ奪い取ったはずだ。

 

だが何かが引っ掛かる。何かがあったような……

 

「我もまた、創り主たる力にならん。女と共に。自らを由とせよ。これ、我の真なり」

 

アラディアはそう言うと頭をカタカタと揺らし、気配を無くした。

 

そして顔が元に戻り、祐子先生は憂鬱な声をあげた。

 

「……アラディアの神………まだ……コトワリを授けてはくれないのね……何かが……私には足りないのか…」

 

先生はそう言うと毅然と前を向いた。

 

「…私、行くわね。ここにいても、世界は創れないし。

どんな世界が創られようとしてるのか、誰が創ろうとしているのか、私もしっかり見ないと……ありがとうね、零時君。また会いましょう」

 

「………………」

 

オレは無言で頷いた。

 

本当なら、先生を追いかけるべきなのだろう。しかし、オレには先生を追いかけるよりも大切な物があると思えてならなかった。

 

こういった感じは重要だ。こういった直感というべき物がオレの命を救ったのだって一度や二度ではない。

 

オレは先生が去るのを見かけると、先生が腰掛けていた椅子に座った。

 

あまりにも疲れた。思えば、ターミナルの固い床以外でゆっくり出来ていない。こんな柔らかい椅子に座ったのだって、久しぶりだ。

 

受胎が起き、友人達は苦痛の中、創世の道を進もうと決意した。

 

勇と千晶は、一体どんな想いでこのボルテクス界を歩いたのだろうか。力のなかった、千晶に至っては未だに力が無い状態でこの地獄を歩く。

 

オレ以上に辛かったろう。

 

その中で、創世を決意した二人の心の強さに称賛すべきか。

 

あるいは人の有り様を変えようとしている二人を軽蔑すべきか。

 

オレは………何をどうしたら良いのだろう?

 

二人は苦しみながらも、自分の道を見つけた。

 

オレは、情報に振り回されながらただボルテクス界を彷徨うだけ。

 

この違いはなんだろうか?

 

少し考え、あぁと声を漏らした。

 

オレはただ、真実を知りたい。ただそれだけで動いている。

 

そのために、アマラ深界を奥へ奥へと進んで、あの喪服の淑女の言葉を求めているのだ。

 

あぁ願わくば、真実を全て知ったその先に、希望があってほしいものだ。

 

堕ちた天使とやらが、オレに何をさせたいのかは、なんとなく理解できたが、それに乗るにはまだ早い。

 

オレは………

 

思い詰めていたその時。

 

「………ッ!」

 

ヨヨギ公園に死の気配が漂いはじめた。

 

この気配は、間違いない。魔人の気配だ。

 

オレはダッと物置を飛び出し、その気配のする場所まで駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クイーンメイブと合流し、ヨヨギ公園の西側の一角でオレは魔人の空間に捕らわれた。

 

見慣れた荒野、血の色の空。

 

そしてこの世界の中心にいたのは、赤いベールをかぶった女性の後ろ姿だった。

 

オレは少し驚いた。魔人は全て男の感じがするものばかりだった。

 

闘牛士、大僧正、走り屋と続いた魔人はついに神話レベルになっている。

 

黙示録の四騎士。その上に存在する魔人なら当然神話レベル。

 

死や滅びを象徴する女の化け物。何者だろうか?

 

「ホッホッホッ……ヤヒロノヒモロギを手にしながら他人に渡してしまうものかえ?創世を止め、混沌の道を進む覚悟があるのならそれも無理からぬこと…なれど、それならば汝には越えねばならぬことが」

 

女の魔人は金色の杯を高く掲げた。すると巨大な赤い獣の悪魔が召喚された。

 

「終末の日、最強の獣を従えて現るマザーハーロットを相手に……」

 

終末の日?最強の獣?マザーハーロット……

 

オレは目の前に現れた獣の姿を見て、一つの仮説を立てられた。

 

「大淫婦バビロン……」

 

地上の忌まわしい者達の母とも呼ばれる存在であり、キリスト教徒の大敵であるその存在がここにいる。

 

暴君を象っていると言われている7つ首の獣が耳障りな声で問う。

 

「汝、人ノ身ヲ捨テ悪魔ノ衣ヲ纏イシ者ヨ。絶エザル闇ニ繋ガル、悪魔ノ心ヲ欲スルカ?」

 

オレはその問いに瞑目した。

 

悪魔の心。それもまた、良いかもしれない。

 

悪魔。それはそれは自由な存在だろう。

 

少なくとも、友人のこととか考えなくても良い。

 

「それも……良いな」

 

ボソッとそう言うと女の魔人。マザーハーロットは嘲笑った。

 

「『それも良い』、か。未だ闇には染まりきっていないと見える。しかし、ふむ……」

 

マザーハーロットは考えるように頭を傾けると杯の中身を一口飲み、こう言った。

 

「妾は汝の闇を知らねばならぬ。あのお方が予想以上と評した者の闇。さぞやおぞましき物であろう?」

 

「さぁ、うんと可愛がろうぞ」

 

マザーハーロットは残虐さを隠そうともせずに凛とそう言うと顔をこちらに向けた。

 

さぞ絶世の美しさを誇っていると思われた顔は、魔人の例に漏れず髑髏だった。

 

「死という名の……最高の快楽で…」

 

カタカタと顎の骨を震わせて笑うとマザーハーロットは獣に飛び乗り、高らかと言った。

 

「あいやっ。死の宴を楽しもうぞえ……!」

 

「なら死ね。オレはオレに向けられた殺意を許さない」

 

自分でも殺意に穢れていると思えるほど冷たい声が自分の喉から飛び出る。

 

それほどまでに、今のオレは機嫌が悪かった。

 

オレは仲魔を召喚すると拳を構え、マザーハーロットへと駆けていった。

 

マザーハーロットは、瞳のない眼窩でオレを見据えるとまた杯から一口、飲んだ。

 

そして、衝突。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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魔丞


今回、千晶様悪魔化……

はっきりいってかなりあの姿は衝撃的だった………。




 

ヨヨギ公園の一角に展開された魔人の空間。

 

その中でオレは倒れ伏したマザーハーロットを見下ろした。

 

髑髏の頭はひびだらけ。もはや傷が無いところを探すのが無理な話になっていた。

 

しかしそれでもバビロンの大淫婦はオレに笑いかけ、オレをやはりこう評した。

 

「おぞましき……ものよの……」

 

オレはその言葉をマザーハーロットの遺言にした。すなわち、さっさと頭を踏み潰して息の根を止める。

 

グシャ!

 

あっけなくマザーハーロットの頭は砕けた。

 

そして残された体と、マザーハーロットが騎乗していた7つ首の獣がマガツヒとなって消えた。

 

そしてドロップしたメノラー……【美のメノラー】を拾い上げると同時に魔人の結界から抜けた。

 

オレはふぅとため息をつくと壁に寄りかかった。

 

強かった、マザーハーロットは。物理は跳ね返すし電撃も通用しないしで行えることが少なすぎた。

 

しかし足りない。オレを恐怖させる要素がマザーハーロットには少なすぎた。

 

ダンテのような傲慢さ。そしてそれに裏付けされた強さも。

 

そしてアマラ経絡のいずこでオレにキスしたあの黒い影のような存在のような死の気配も。

 

そういった存在が、オレの神経を鈍らせてしまったのだろうか?特に、あの黒い影の存在はオレの恐怖という感情を壊してしまったような気がする。

 

頭のネジがぶっとぶほど、あの黒い影は恐ろしかった。

 

一体、あれはなんだったんだろうな……

 

憂鬱な顔をしているとクイーンメイブが回復魔法による治療を終えたのか、オレの顔を見据えていた。

 

「………どうした、メイブ?」

 

「いや、あなたのその顔、結構絵になるなって思ってたわ」

 

なんだそりゃ。

 

「オレの不気味な顔を見て絵になるな、なんて感想出したのはお前が初めてだよ」

 

「そう?結構あなたの顔は、イケてる顔だと思うんだけど」

 

「………悪魔と人間の価値観の相違と考えるべきか、クラスの女子達の目を疑うべきか」

 

冗談めかしてそう言う。

 

まぁ今のオレをアニメのような絵に変えたら悪役の幹部役に登場するような絵にはなるか?

 

不気味な白い肌、その上に這うように走る刺青のような模様。そして首の後ろに生えた角に金目。おや、かなり良い役になりそう。

 

……ってなにやってるんだ、オレ。

 

オレは頭をクシャクシャと掻いた。どうも小説家の卵としての癖が抜けてないらしい。

 

今は、キャラクターなんて考える余裕も無いくせに。

 

オレはふぅとまたため息をつくと歩き出した。

 

目指す先はイケブクロ。アラディアはそこで新たな力が生まれると言った。

 

それが何者であるか。見定めなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イケブクロは生き残った僅かな元マントラ軍の残党が住むスラムと化していた。

 

しかし雰囲気がおかしい。悪魔も、それを感じて戸惑いの言葉を吐露した。

 

オレはその雰囲気を放っているマントラ軍の本営ビルに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マントラ軍本営ビルの最上階。かつてゴズテンノウというマントラ軍の首領が座していた広間。

 

そこにはゴズテンノウの残骸と、その上に座る片腕のない人間の姿があった。

 

ボロボロになり、痛々しい姿のその人間は……

 

「千晶……⁉」

 

その顔を見て、オレは駆けようとした。

 

しかしそれをクイーンメイブと止めた。

 

なぜ⁉と目で問うとクイーンメイブは様子がおかしいと目で訴えてきた。

 

オレは千晶を凝視し、眉を寄せた。

 

千晶の残った片腕。そこにかなりの量のマガツヒを含んだ霊石を嵌め込んだ指輪を指に嵌めていたのだ。

 

千晶はそれをゴズテンノウの残骸に触れさせた。

 

すると……

 

『女よ。如何なる理由でこの地を訪れたるや?その身の怒りはいかなる故ぞ?』

 

広間に響く重々しい声。かつてのこの広間の主、ゴズテンノウの声がどこからともなく聞こえた。

 

千晶はその声に問うた

 

「私が感じていた力はあなたなの?………そう、滅びていなかったのね……あなたが呼んでいたのかしら?ゴズテンノウ……」

 

その野望に満ちた声は、本当に千晶かと疑った。千晶は傲慢なところがあったが、こんな冷たさを感じる声は出さなかった。

 

オレが戦慄していると姿なきゴズテンノウは静かに、しかし怒りに満ちた声をあげた。

 

「ニヒロの計略に落ちて後、我が身はただ虚空を浪々とするのみ。だが、一時たりともこの身の怒りを忘れたことはない」

 

その怒りに合わせるよう、千晶は暗い声で言葉を紡いだ。

 

「私は力を求めた。けれど、それは手に入らずじまいどんな試練を受けようとも。どんな傷を負おうとも。私のコトワリは変わらないわ」

 

後半は毅然とそう言うものの千晶は悔しそうに目を細めながら上を見上げた。

 

「けれど、このままでは私が戴くのは力もなく、なんの意味もなさないコトワリ……」

 

その言葉を待っていたかのように再び響き渡りはじめたゴズテンノウの声。

 

「女よ、その身に我が精を得よ。かつて我はこの世界を静寂の輩から守っていた。しかし我らが真に成すべきだったのは力の国を興すことだったのだ。とはいえ偶像たるこの身に出来るはずもなかった。しかし、我が人の身であったなら……コトワリを持てる身であったのなら答えは違っていたであろう」

 

その言葉で、オレは千晶とゴズテンノウの運命に似たものを感じた。

 

千晶はコトワリを持てる身であっても力がなかった。

 

ゴズテンノウは力があってもコトワリを持てる身でなかった。

 

一人ではどうしようもならない縛り。それによって二人は創世者になれなかった。

 

オレはその考えに行き着いたとたん、千晶の狙いが分かった。

 

オレは千晶を止めようと衝撃の魔法を放った。しかしそれは不可視の壁に止められた。

 

「ゴズテンノウ……!」

 

不可視の壁を作り、オレの攻撃を防いだ犯人の名を忌々しげに呟くとオレはがむしゃらに壁を殴り続けた。

 

しかし壁は壊れない。その中で、千晶とゴズテンノウの会話は続く。

 

「あなたの力で私が強くなるのなら……世界が創れるのなら……」

 

羨望するようにゆらりと立ちあがり、姿なきゴズテンノウの姿が見えてるかのように虚空を見上げるとゴズテンノウはそれに応えるように言葉を紡ぐ。

 

「お前の説くコトワリも、我が力の国の一つの姿。我が最後の力、お前に託そう‼」

 

「女よ、我が精を得よ!悪魔を導く者、魔丞たれ‼」

 

その言葉が合図になったかのように、千晶の身に莫大な量の力が注がれる。

 

千晶は激痛に身を歪めた。当たり前だ。人の身であれだけの量の力が一気に注がれてはどれだけの痛みが走るか。

 

呆然と苦しむ千晶の姿を見ていると。

 

千晶の失った片腕が生えてきた。

 

それは人の腕の形ではあったが、ドス黒い肌であり、決して人の腕ではなかった。

 

そしてまともな形をしていた腕も力の奔流に押されるが如くどんどん肥大していく。

 

形も悪魔がもつそれになり、千晶は声なき絶叫をあげる。

 

「ぐわっ⁉」

 

瞬間、力の奔流がこちらにも流れ、オレは吹き飛んだ。

 

「零時!」

 

クイーンメイブが吹き飛んだオレを受け止めてくれるが礼を言うほどオレに余裕はなかった。

 

力の奔流が光輝き、目を細めているとすさまじい音とともに爆音と衝撃が広間に走った。

 

思わず目を瞑り、それに耐えると。

 

広間の姿が一変した。

 

赤い松明で熱さしか感じていなかった広間が、蒼く染まっていたのだ。

 

そして変化の中心、千晶は……

 

姿が見えない。

 

しかしその気配はあった。崩れたゴズテンノウの最大の欠片、頭部の後ろに。

 

「熱い……手が燃えるよう……」

 

あれだけの痛みに晒されたにも関わらず、その声に弱さはなかった。

 

そしてゴズテンノウの頭部をドンと叩くような衝撃が走り、オレは嫌な予感がして腕で頭部をガードした。

 

その瞬間、ゴズテンノウの頭部が飛び散り、破片がこちらまで飛んでくるのをしのぐとオレは土煙の中に立つ千晶の全貌を見た。

 

それは勇よりも顕著な変化だった。綺麗な茶髪は白く染まり、目はまるで猛禽類のような鈍い金色。

 

そして再生した腕は、巨大で歪な形をしていた。

 

千晶は、残酷な笑みを浮かべながら腕を掲げた。

 

「見て、零時。美しいでしょう?力有るものは美しいわ……」

 

恍惚といった様子でそういう千晶の姿は美しいという言葉からかけ離れていた。

 

千晶は自分の腕を見ていると喜びに震えた声をあげた。

 

「私は自分で自分の道を切り開く力を手にいれた。あぁ、見えるわ!ヨスガを求める強き悪魔たちが集って来るのが!」

 

千晶はオレに向けて変化した腕を向けた。

 

「この手なら掴めるはずよ。理想の国が……!私の理想とする世界が……!」

 

ウフフ………アーハッハッハッハッハッハッ……!

 

哄笑する千晶の威を表すかの如く松明の蒼い火がゴゥと燃え上がった。

 

オレはただ、その姿を見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時から、だろうか。

 

オレが壊れはじめたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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野望の連鎖


そして(まともな人間は)誰もいなくなる……





 

魔丞と化した千晶の力は凄まじく、オレは広間から追い出されてしまった。

 

あそこまで力を残していたゴズテンノウの執念と、その力をすぐにあそこまで上手く使えてしまう千晶の才能に少し恐怖した。

 

イケブクロには天使が集結しつつあった。あちこちで天使の姿を見かける。

 

天使にとっては、世界には選ばれた者のみが生きていれば良いというヨスガの選民主義は理想なのだろう。

 

オレにとっては凄まじく嫌悪感が湧くことだが。

 

生き死にすらも強弱で決められてしまうことが、あっていいわけがない。だがこのボルテクス界での創世戦争はそのあってはいけないことが存在するべきものに出来るものだ。

 

ヨスガの創世はなんとしても阻止しなければ。さもなければ、マネカタのような存在が世界中に溢れることになる。

 

……………なんで、そんな世界を夢見る?千晶。

 

「……ッ‼」

 

オレは心の中で湧き出た親友に対しての怒りに歯を食い縛り、眼前の天使を殴り、頭を吹き飛ばした。

 

仲間をやられた復讐にきた天使どもをちぎっては投げちぎっては投げ………を繰り返していると…

 

「………ッ⁉」

 

イケブクロの南から、強力な悪魔の気配がした。

 

またか!またか力に狂った奴がいるのか‼

 

オレはそれに怒り狂い、天使の残骸を蹴り飛ばすとイケブクロの南、カブキチョウに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒホホー‼オイラサイキョーになったホー‼」

 

カブキチョウ捕囚所は巨大な冷凍庫の中のように凍てついていた。

 

氷結属性を得手とする悪魔が暴れていると思い、最上階まで行くと。

 

あれだけ可愛らしいかった妖精 ジャックフロストが巨大になり、真っ黒に染まってピョンピョンしていた。なんと名前まで変わっている。

 

夜魔 ジャアクフロスト。強さもジャックフロストと比べてしまうのもバカバカしく感じてしまうほど強い。

 

しかしジャアクフロスト。性格は基本変わらないようで、純粋に力を求めた結果、闇に堕ちたということみたいだ。

 

微笑ましいが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今はただ憎たらしいだけだ。

 

「死ね‼」

 

「ヒホー⁉」

 

不機嫌だったオレは仲魔とともにジャアクフロストをリンチにしてミンチにした。

 

ジャアクフロストはマガタマを落として消え去った。どうやらこれで進化したらしい。

 

悪魔にも効果があるのかと軽く戦慄しながらもマガタマ 【サタン】を拾い上げ、オレはカブキチョウ捕囚所から抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イケブクロ・カブキチョウエリアからアサクサまでターミナルで移動した。

 

あまりにも創世に動く人数が多すぎる。勢力争いについてなど情報が必要になってきた。ヒジリの力が必要だ。

 

彼なら、アマラ経絡を通して情報を知れる。

 

ターミナル移動によるアマラ経絡の高速移動を終え、ターミナルをいじっているはずのヒジリの方へ振り向く。

 

オレは絶句した。

 

ヒジリの姿は変わらない。連日調査を行い、やつれたり服が所々擦りきれていたりしていたが、見た目が大きく変わったということはない。

 

オレが絶句したのはヒジリが纏う雰囲気。

 

悟った顔をし、ギラギラとした目をしている。

 

やめてくれ。まさか………まさか……!

 

「ヒジリ……?」

 

掠れた声でなんとか言葉を紡ぐ。

 

ヒジリはいつもと違った、重々しい言葉を投げ掛けた。

 

「よう、零時。イケブクロは大変だったな。…死に損なったゴズテンノウが復活か。厄介にならなきゃいいがな」

 

表面上、その言葉はボルテクス界で起こった厄介事を愚痴るいつもと変わらない。

 

だがオレにはその厄介という言葉が、自分の夢を阻む者に対する黒々とした怒りに満ちているように感じた。

 

やがてヒジリはギラリとした目をオレにむけ、挑発的に笑ってみせた。

 

「……何でも知ってるんだよ、俺は。すべてを手に入れたからな。このターミナルがアマラの力で俺に何でも教えてくれる……例えば、今ボルテクス界で起こっていること……

失われたマガツヒを求め、氷川が向かったトウキョウ議事堂。

千晶とかいう小娘がゴズテンノウの力を手にいれたこと。

忘れられた神殿に眠る大量のマガツヒ。

マネカタどもがコトワリを求める聖地ミフナシロ。

そして……!」

 

陶酔したように言葉を続けていたヒジリが首を振って言葉を切った。

 

「ボルテクス界の調査は終了だよ。もう調べる必要なんかありやしない。俺以上に世界を知ってるやつはいないんだ」

 

そしてヒジリは大仰に両手を広げ、オレが何度も聞いてきた禁忌の言葉を叫んだ。

 

「だから俺がやるべきなんだよ!世界を創り出すのは俺なんだ!氷川でも、先生でも、おまえでもない!俺自身が! 世界を! 俺を!全てを創り変えるべきなんだ!」

 

「ヒ……ジリ……!なんで……お前まで…?」

 

オレはただの人間であるはずの、しかしそれゆえに創世の野望を持つ権限をもつヒジリに戦慄し、一歩身を引いてしまった。

 

なぜ?なぜどいつもこいつも創世に狂う?あんなに優しかった人々が、オセロがひっくり返るよりも簡単にここまで豹変する。

 

一体、アマラに……この世界に何があるってんだよ……!

 

オレはその言葉を叫ぼうとした。しかし、その前にターミナルに異変が起こった。

 

ターミナルが、誰も操作していないのに光り、回転を始めたのだ。

 

ヒジリはそれを見て、驚愕の表情をし、次の瞬間には怒りにその表情を歪めた。

 

「来やがった、勇だ!コイツ、くたばってりゃいいものを……誰がオマエにアマラの力を渡すか!!」

 

ヒジリはそういい、ターミナルを操作しようとした。

 

だが今度はヒジリに異変が起きた。

 

ヒジリの体が、ターミナルへ引っ張られているように動き始めたのだ。

 

「…なに!? 俺を引きずり込む気か!!う、ウオオオオォォォォ!」

 

ヒジリは必死に抵抗するが、人の身であるヒジリには力が無さすぎた。あっけなくターミナルに引き込まれる。

 

ヒジリを引き込んだターミナルは回転を止めたが、未だ光続けていた。

 

まるで、ターミナル自身がオレを呼んでいるかのように。

 

「………………」

 

オレは無言でそれを睨んでいたが、覚悟を決め、ターミナルを回転させた。

 

ターミナルを使ったアマラ経絡への侵入は三度目。その感覚が体を包み込み………

 

オレはアマラ経絡へと飛んだ。

 

答えを見つけるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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アマラ神殿


ここのダンジョンは好きです。

しかしギミックがひどい!何度も迷いました……。


 

アマラ経絡を一直線に進むオレはすぐに異物を見つけた。

 

このアマラ経絡を、恐らくヒジリ以上に把握したオレの親友。新田 勇の姿だった。

 

「……おいおい、零時。オマエがわざわざ何のためにここへ来たんだ?オレと会うためにはるばる来たのかい?

それとも……アイツを心配して追ってきたのか?」

 

オレを値踏みするようなその目に寒気を覚えながらもオレは毅然とそれを見据え、目に怒りの炎を宿らせて答えた。

 

「両方だ。どいつもこいつも創世の野望を口にしてさ。…………オレは全てを知りたいのさ。分かるだろう?オレの性格のことはさぁ」

 

怒りが声に出ないよう普段の軽さを維持しつつもオレは勇にそういうと、勇は気のない声をあげた。

 

「あぁそうかい。なら、この先にあるアマラ神殿まで来な。そうすりゃ鈍いお前のために教えてやるぜ。あいつが何を企んでいて、お前を利用していたのかをな……」

 

勇はそういうと消え失せた。

 

「ちっ……そう簡単には教えねぇってか……何を企んでやがる……」

 

「零時、間違いなく罠よ。下がるべきだわ」

 

いつの間にか現れていたのかクイーンメイブが勇のいた場所を睨み付けていた。

 

「…………そうだろうが。行かないっていう選択肢は選べないね………それに……!」

 

「キャッ!」

 

オレはクイーンメイブを突き飛ばし、体当たりしてきた何かを蹴り飛ばした。

 

「お前らもいい加減しつこいぞ。スペクター」

 

オレは吹き飛んだ金色の靄の悪魔、スペクターに向けて忌々しげに吐き捨てた。

 

「ウォマエ、クウマデ、ウォレ、タタカウ……ウォレ、ウォレノシアワセノタメニ、タタカウ!ダ、ダカラ、シネエエエエエエエ‼」

 

耳障りな声とともにスペクターは大量に仲間を呼ぶ。

 

オレはスペクター歪んだ怒りに満ちた声に負けず劣らずの怒りの声を返した。

 

「………お前の幸せなんか、知ったことかよ」

 

オレは仲魔を最大まで呼び、叫んだ。

 

「一切の情けはかけるな。全員ぶっ殺せェ‼」

 

オレが叫ぶと仲魔達はそれぞれの掛け声をあげてスペクターの群れに突っ込んだ。

 

オレも拳を握り、スペクターの群れに突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手間かけさせやがって……憎たらしい……!」

 

オレはそう吐き捨て、スペクターの残りを踏み潰した。

 

今回こいつは玉砕戦法で来たのだ。少し死にかけたら【自爆】でドーン。お陰で片腕を吹っ飛ばされた。

 

クイーンメイブの回復で再生したが、生えた腕というのはしばらく動かしづらいものなのだ。こんなことに手間かけさせたこの外道は本当に憎たらしい。ニヒロ機構やヨスガのような軍勢をもっていたらアマラ経絡内のスペクター全てをぶっ潰してやりたい。

 

オレはマガツヒと化したスペクターを一瞥すると無言でアマラ経絡の出口を進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンノウ・ナガタチョウエリア。情報によれば、虚無空間に周りを沈められ、孤立したエリアと化しているとのこと。

 

………だからこそ、孤独こそ幸せになれると考えているムスビのコトワリには合っているのかもしれない。

 

しばらく探索していると、異常な光景が目に入った。

 

神殿。そうとしか言えない形状の建物がドカンと建っていたのだ。

 

オレはヒジリが口走ったことを思い出した。

 

『マガツヒが大量に眠る神殿』

 

「もしかして、ここがそうか……」

 

そうだとするなら勇の目的はここのマガツヒを使った守護と呼ばれるカミサマを降ろすことになる。

 

だが、それならさっさと守護を降ろせば良いのに、なぜあいつは守護を降ろさない?なぜオレを誘うような素振りを見せる?

 

色々と疑問を浮かべながら神殿内部に進むとどこからともなく勇の声が聞こえ始めた。

 

「……ノコノコとやってきたね。よくよく物好きなヤツだ」

 

「よく言うねぇ。こちらを煽るように動いているくせして」

 

オレがそういうと勇から苦笑する気配がした。

 

「……相変わらず、他人の動きを悟るのと読むのは鋭いな。さすがは策士。……まぁそうカッカするな。今は、その扉をくぐりな」

 

勇が言う先には巨大な扉があった。

 

その扉を開け、さらに奥に進むと…

 

「うわ……!」

 

そこには絶景があった。

 

神殿中央は湖のように液体が並々と存在していた。その上に浮かぶよう道が続き、十字路を形成している。

 

そして十字路の各奥にはピラミッドのような物が建っていた。

 

そして何よりも目を引くのは十字路の中央に浮かぶ謎の巨大キューブ。なぜだか分からないが、それからは大きな力を感じた。

 

その光景に圧されているとまた勇の声が響いた。

 

「ここは、オレがアマラを調べていて見つけた忘れられた神殿。

ここの中枢には膨大な量のマガツヒが貯まっている」

 

なるほど、やはりここがマガツヒが大量に眠る神殿か。

 

だがそれなら先程も思った通りさっさと守護を降ろして然るべきだろうに、勇は何をやっているのか?

 

その疑問に答えた訳ではないだろうが勇の声が忌々しげに刺を孕んだ。

 

「……ところが、何処からか流れ着いた3つの異邦の神が居座っていて、マガツヒを自由に出来ないんだ」

 

なるほど、だから守護を降ろせないのか。

 

オレがそう思うと勇の声が今度は悪意を孕んだ。

 

「そこで……だ。オマエ、もしこの男を助けたいってんなら、その三神を倒して来い」

 

「なっ……!ちっ……」

 

今度はオレが忌々しげに舌打ちした。人質か。ずいぶんとベタなことをやりやがる。

 

「それが出来たら、オレたちが居る中枢へ入れてやる。

せいぜい、頑張るんだな」

 

クックッと笑いながら勇の声が遠退き、やがて聞こえなくなった。

 

「…………shit」

 

オレはそう吐き捨てると水に浮かぶ床を思いっきり叩いた。予想よりも固く、痛かった。

 

だが、ヒジリを助けるためには勇の言う通りにしなければならない。ヒジリは生身の人間なのだ。今の勇ならズタズタにできるだろう。

 

それに勇と直接会わなければ創世を止めることもできない。

 

今は、なによりも知ることが大切だ。

 

待っていたって、何も始まらない。

 

オレは神殿を睨み、ピラミッドをひとつ選んでそこへ進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 







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三神の死の果てに


今回、物語の重要な部分です。分かる人は分かると思いますが。

その展開の零時君の心理描写に注目です。

それでは、本編をどうぞ……





 

ここの神殿の名前は【アマラ神殿】。思念体に教えてもらった。

 

このボルテクス界周辺に繋がるアマラ経絡を流れるマガツヒが流れ着く終着点がここだそうだ。なるほど、確かにそれならここに大量のマガツヒが溜まる。

 

しかしそれを独占しているのなら、異邦の三神と勇が評した悪魔は相当強力ということになる。これは気を引き締めないと、死ぬのはこちらかもしれない。

 

オレは意を決してピラミッドの一つに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗い!道がない!」

 

オレはピラミッドの内部に入ってしばらくし、叫んだ。

 

アマラ神殿【黒の神殿】。内部がダークゾーン、つまり真っ暗のこの神殿は光玉、あるいは明るくする魔法の【ライトマ】がなければ探索できない仕掛けになっている。

 

それを駆使してなんとか神殿を探索出来たが、今度は道がないということに頭を悩ませた。

 

辺りにいるうちにいる思念体に話を聞いていると、どうも地下にいるようだがその道がない!どうなってるんだこれは……

 

「あぁ、そうだ」

 

オレはその時閃いてしまった。

 

なぜいちいち階段、エレベーターその他階層を移動するノーマルな手段を探していたのだろう。

 

道がないのなら、ましてや下に行く手段がないのなら『床をぶち抜けばいいじゃない』

 

そう考えついたのなら善は急げ。オレは階下に敵がいないかどうかを気配で確認すると、

 

「んイャヤァ‼」

 

泥臭い掛け声とともに床をぶち抜いた。

 

階下に床の破片とともに落下するが、落とされることは慣れている。

 

そしてどうものんびりとしていた様子の異邦のカミサマその1が驚いたようにオレを見ていた。

 

巨大な悪魔だ。顔しか地上に出ていないというのにトロール並みに図体がデカイ。

 

……………まぁ、いつも通り『小さく見えてしまう』が。それも、ここ最近ますますその感じが強くなる。

 

おかしいねぇ。相手さんは強いはずなんだが。

 

まぁ、こんな派手な登場をしたんだ。お話に出てくるヒーローの………やめておこう。オレは悪魔だ。悪役のセリフを吐こう。

 

「お前に恨みはねぇが………悪い。死ね」

 

その言葉に唖然としていた悪魔……魔王 アルシエルは我に帰り、怒り狂った。

 

「悪魔でも人間でもない小童が!いきなり我が安息を潰してくれたばかりか、私に死ねだと⁉ふざけるなあァァァァァァァァ‼」

 

襲いかかってくるアルシエルを見ながら、オレは拳を構え、仲魔を呼んだ。

 

10分後、ピラミッドの地下に赤い花が咲いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!本当にやりやがった。呆れた奴だ、こんなやつのためにそんな危険なことをやるかねぇ」

 

「やるさ。ヒジリのおかげで助かったことだってあるんだ。恩返ししてやらないといけないんだよ」

 

噛みつくように言い返すと、勇は鼻を鳴らした。

 

「………そうかい。ま、残りも頑張ってくれよ」

 

そういうと勇の声が聞こえなくなった。

 

オレはふんと鼻を鳴らし、次のピラミッドに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く赤の神殿は影を踏むと影の世界にご招待されるという厄介な仕掛けが施されていた。

 

影の世界からは光の柱に触れれば抜けられるが、影の世界は踏むだけで傷がつけられるダメージゾーンというものがあちこちに配置されていて歩きづらいったらありゃしない。

 

なんとかそれを抜けて神殿の最上階に着くと床から全身真っ黒の女悪魔が出てきた。

 

「ほほ…中々の美丈夫。妾の影を縫ってここまで来るとは、お主、下にいた小倅の仲魔かえ?丁度マガツヒをすするのにも飽いたところ。今度はお主の血と精で渇きを癒すことに致すゆえ、さぁ近う寄れ」

 

「全力でお断りだ。真っ黒女」

 

オレはそういうと女悪魔……地母神スカディに思いっきり【マグマ・アクシス】を放った。

 

いきなりの攻撃に反応出来ず、吹き飛んだが、さすがに死にはしなかった。

 

「おのれ……妾に対するその無礼……!命を以て償うが良い‼」

 

「お断りだ。とっとと死ね」

 

オレはそういうとアルシエル戦でやったように仲魔を呼に

んだ。

 

10後、再び神殿に赤い花が咲いた。

 

スカディがマガツヒに消えると再び勇の声が響いた。

 

「よし、その調子だ。いやあ、ラクでいいぜ」

 

「だったら手伝えよ。もっと楽で良くなるぜ?」

 

「『お断りだ』。立場、理解してるだろう?」

 

オレがスカディに吐いた言葉で返し、オレを嘲笑うと勇の声がまた聞こえなくなった。

 

反応するやる気すら無くしたオレは最後の神殿に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「右じゃねぇよ左だって‼」

 

「いーや右よ!ここを左に曲がって飛ばされたんじゃない」

 

「いえ、クイーンメイブ。ここは真っ直ぐです」

 

「零時ヨ。我ハ腹ガ減ッタゾ」

 

「お前はさっきから悪魔バクバク喰ってるだろぉ‼」

 

白の神殿。オレ達は迷子になっていた。

 

ここの仕掛けは簡単。扉を開けるとどこかに飛ばされる。

 

おかげであちこち歩き回る羽目に陥り、仲魔同士で言い争って今に至るってわけだ。

 

その後、延々と歩き回って飛ばされてやっと最上階についた。

 

少し待っていると床から粘土で作ったようなデッカイ人間の上半身がにょきにょきと生えてきた。

 

「ズ、ズッドォォ~ン!ココ 食ノ殿堂!飽・食・満・喫!!邪魔スル奴ハ、殴・打・殲・滅!!ブルルル!!!」

 

そういうなり粘土悪魔……威霊 アルビオンは自分の体で作ったような巨大な棒を持ち、床を叩いた。

 

すると赤、青、黄色、緑のシミが床に現れ、そこから小さなアルビオンのような悪魔が生えてきた。

 

分霊 サーマス・ユリゼン・アーソナ・ルヴァと名前が分かる。

 

「ゲッ」

 

いきなり増えた敵に呻くとアルビオンが野太い声をあげた。

 

「分・身・整・列!戦・闘・開・始!!」

 

そう号令すると分霊達が魔法を飛ばしてきた。

 

こっちも負けていられない。オレは仲魔を呼び、分霊の一体に斬りかかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れた………」

 

アルビオン達がマガツヒに消えるとオレは座り込んでしまった。

 

アルビオン達はアルシエルやスカディと比べて一体一体は弱いのだが、分霊が全滅すれば本体のアルビオンがまたにょきにょき生やしてくるし、だからといってアルビオンを倒すと今度は分霊達がアルビオンを生やしてくるし、キリがなかった。

 

なんとか【ゼロス・ビート】でまとめて倒したが、ここまで疲れる戦いは久しぶりだ。

 

まぁ、マガツヒは大量に喰えたし、マガタマも手に入れたし労力には見会うか。

 

そう思っていると、勇の笑い声が響いてきた。

 

「くくっ、ほんとに全部倒しやがった。自分にゃ何の得にもなりやしねぇのに。……オマエ、そんな利用されるばっかりでいいのか?」

 

「仕方ない、立場考えないといけないんだから。まぁ、てめえは後でぶん殴ってやるから覚えとけ」

 

「おお、恐い恐い…まぁ約束だからな、中枢へ入れてやるよ。外へ出てみな、零時。可哀想なオマエに、本当のことを教えてやるよ。世界の真実とムスビの正しさをな……さぁ、入ってきな」

 

そういうと勇の声が聞こえなくなった。

 

オレは急いで白の神殿から抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神殿の外に出ると、十字路の中央に浮かんでいた巨大なキューブが十字路の中央に角の一つのみで突き刺さっていた。

 

すっごくアンバランス感が否めないが、このボルテクス界で見た目で判別しきることは愚か者。なにかしらの力が働いているのだろう。

 

いつの間にか三つの神殿から大量のマガツヒが流れている。どうやら勇は無事にマガツヒを好きに出来るようになったらしい。

 

………今はちっとも嬉しくないがな。

 

オレは心の中で暗い言葉を吐くと、キューブに近づいた。

 

どこも入口らしきものがないが、なんとなく入る方法は分かった。こういうものは、触れれば入れる。

 

オレは勘でそう感じるとキューブに触れた。すると

 

「おっと……」

 

勘の通り、体が引っ張られるような感覚とともにキューブの中に入れた。

 

体勢を整え、辺りを見渡すと、すぐに勇の姿は見つけられた。

 

そして、ヒジリの姿も。

 

ヒジリは何もない虚空に磔にされ、マガツヒの湖の上に浮かされていた。

 

そのヒジリに勇は嘲笑いながら声をかけた。

 

「最後の仕事だ。もうちょっとガンバってくれよ。こいつが終われば好きなだけ休んでいいからさぁ」

 

「……まったくだ。マガツヒがムズがゆくてやってられねぇよ。こんなバカげた仕事はさっさと終わらせて一服したいね」

 

ヒジリはそんな勇に軽口で返した。その言葉も、勇は嗤って返した。

 

「まあ、おまえらは人に使われていくらだからなぁ。

少し苦しいかもしれないけど、しっかり頼むぜ」

 

そういうと勇はこちらに振り向かずに声を飛ばしてきた。

 

「ご苦労だったね、零時。おかげで助かったよ。君のおかげで異神たちの持っていたマガツヒを手に入れる事が出来た。これだけあれば、ムスビのコトワリを啓ける」

 

コトワリを啓ける。その言葉に戦慄しつつもなんとか声を振り絞る。

 

「勇、お前何をするつもりだ……」

 

勇はその問いにすらすらと答え始めた。

 

「儀式の準備さ。ムスビのコトワリを啓くためのね。見なよ、アイツが核になってマガツヒを集めてるだろ。アレを使ってコトワリを啓くのさ」

 

「っ!」

 

その方法は、限りなく氷川がマガツヒ集めに祐子先生を使った方法に酷似していた。

 

オレは、そんな残虐なことを考えつき、行う親友にゾッとした。

 

そんなオレの心象を読んだのか、勇はあることを口にした。

 

「正直に言うよ、零時。こんな上手いやり方を思いついたのはオレじゃない、アイツなんだよ。もっとも、やつが考えてたのは自分はマガツヒを集める側で……あそこにはな、オレたち2人のうちどちらかを架けるちもりだったのさ!!」

 

「なにっ⁉」

 

オレはその言葉に信じられなくてヒジリを凝視した。

 

ヒジリは、弱々しく口を開いた。

 

「……オレは手法を考えてみただけだ。実際にそうしたかは分からんよ」

 

その言葉は、マガツヒ集めの方法を考えついたことを肯定する言葉でもあった。

 

勇はその言葉に、鼻を鳴らした。

 

「…オマエはやったさ。こんな世界だ、ヒトの命なんかに大して意味は無い………これはアンタの言葉だろ?」

 

「な………ん………」

 

オレはその言葉にも戦慄した。

 

何故だ?頼りなかったが、しかし気を遣ってくれる優しさはあったはずのヒジリになぜその言葉が出る?一体アマラの何がヒジリを変えた?

 

混乱するオレを他所にヒジリは冷たい声で勇に言葉を投げ掛けた。

 

「…何を言っても言い訳にしか聞こえんのだろう?/好きにするがいいさ。手に入れるもののため、捨てるものもたくさんある。オレもそうしてきたしな。オマエが思う道を行けよ」

 

だが、とヒジリの言葉に力が籠った。

 

「オマエはその道のりに多くの代償を払うことになる。それを忘れるなよ」

 

その言葉に勇が肩をピクリと揺らすが、やがてくだらないとばかりに言葉を返した。

 

「言われなくても好きにするよ。ここを支配しているのはオレなんだからな」

 

勇はそういうと今度はオレに言葉を投げ掛けた。

 

「…見てな、零時。

これが偉大なアマラの支配者、勇サマに逆らうヤツの末路さ!」

 

その言葉には、殺しを楽しむ悪魔と同じイントネーションを感じた。

 

オレはその言葉の感じにゾッとし、勇を止めるために駆けていったが、ヒジリの命を絶つ行為はあまりにも短すぎた。

 

勇は、親指を下に向けるだけでヒジリの拘束を解き、マガツヒ集まる湖へと落下した。

 

落ちたヒジリは悲しげな表情で目を瞑っていたが、やがてマガツヒになって消えていった。

 

「ぁ……」

 

小さく、声が漏れた。

 

悪魔を殺すのとは違う。勇は、人間を殺した。

 

それが、どれだけの衝撃か。言葉では語れなかった。

 

「勇……お前……なんていうことを……」

 

勇にその言葉を言うのは無意味だと頭のどこかで理解はしている。しかしそれしか言葉が出なかった。

 

勇はオレの言葉に一切の反応を示さず、満足げにマガツヒの湖を見ていた。

 

「上出来だね。これだけマガツヒがあれば心配ないだろう。……経絡の向こうの奥底、無限のアマラからオレの守護がやってくる。そこにいるのは、時間の流れからも外れ名前すら失った存在……

そう、そいつは絶対の孤独を支配する神なんだよ」

 

真っ白になった頭に、勇の声が虚ろに響く。

 

「……でも、名前がないままじゃ具合が悪いなぁ。

そうだな、漂流する神………【ノア】とでも名付けておくか。出ておいで、ノア……」

 

勇はそういうと中枢内部にすぐ異変が起きた。

 

中枢すべてにマガツヒが舞う。勇の周辺の空間が、まるで水になったかのように波打つ。

 

勇はまるで水に入ったかのようにゆっくりと浮き上がり、体を折り畳み、丸めるとマガツヒの繭に閉じこもった。

 

そしてマガツヒの湖から、なにかが現れた。

 

一瞬、鯨かと思うほどデカイ。まるで水風船のように半透明のその体の形は首のない巨大ジュゴンと言えば良いか。

 

その巨大ジュゴン……ノアは勇が入った繭を取り込むと体を不気味に光らせた。

 

その悪魔は、オレが出会ったどの悪魔とも違う雰囲気を醸し出していた。

 

オレがそれに気圧されていると勇の声がノアから響いた。

 

「どうだい、零時?これがオレの神だ。すげぇだろ?」

 

まるで新型のラジコンを手にした子供が自慢するかのような言葉には、ヒジリを殺した後悔はなかった。

 

勇が、どれだけ恐ろしい存在に成り果てていたか。オレは察した。

 

そんなオレを他所に、勇は恍惚とした様子で言った。

 

「これでもうすぐ……もうすぐ、ムスビの世界ができるんだ。誰も干渉しあわない、新しい幸せの世界がね……」

 

勇のその言葉を最後に、ノアは消え去った。

 

オレは、今しがた起こったことを麻痺した頭の中で反芻し、震えた。

 

「勇……ヒジリ……なんで……」

 

オレはそう呟くと、誰かがオレをそっと抱き締めた。

 

その正体を見ると、クイーンメイブが仮面のようなものを被った顔でオレを見ていた。

 

「零時。落ち着きなさい。ここで震えていてもあの男が世界を握ってしまうだけだわ。今は、なんとかしてあいつを追うのよ。世界を戻したければ、しっかりしなさい」

 

その言葉は、固まっていたオレの思考を少しだけ、動かした。

 

「……そうだな。悪い。どうした、夜藤 零時今こそしっかりしろ……!」

 

オレは自分を叱咤しながら頬を叩くと考えた。

 

守護を手にした勇は今すぐに創世しなかった。それはなぜか?つまり守護を手にしただけでは創世はできないということではないか。

 

なら、創世を止めるラストチャンスはある。勇を止めるには、そこにかけるしかない。

 

なら、勇を追おう。あれだけの存在だ。ある程度近づけば、存在を察知できるだろう。さもなければ、ターミナルを使って捜索する方法もある。

 

オレは急いで中枢から抜け、ターミナルに向かおうとした。この入口にも、一つターミナルがあったはずだ。

 

オレはそこに向かおうとして、気配を察知して止まった。

 

上空に、天使と思われる悪魔が二つ。確か名前は…パワーとドミニオン。

 

その内パワーは、苦い表情で声をあげていた。

 

「あの方の仰られた通り……遂に一つのコトワリが啓かれたようだな」

 

それをなだめるよう、ドミニオンが声をあげた。

 

「案ずることはありません。千晶様も動き出されております。私たちを導くヨスガの守護がアサクサの地に降臨する時も近いでしょう」

 

「なっ……!」

 

オレは戦慄した。確かヒジリはミフナシロにもマガツヒが大量にあると言っていた。

 

まさか………いや、まさか……!

 

「…では、我らも急ごうか。愚か者どもに裁きを与えねばならん……」

 

パワーがそういうと、二体の天使は飛び去っていった。

 

「くっ……!千晶の野郎、まさか……!」

 

オレは急いでターミナルに向かった。

 

力至上主義のヨスガが弱者であるマネカタの存在を許す訳がない。

 

オレは嫌な予感に駆られながら、ターミナルを回転させ、アサクサへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 





ヒジリさん、死す。

ヒジリさんの存在は謎が多いんですよね……



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ヨスガの守護

千晶様の守護降臨。

零時がどういう人か、垣間見えると思います。






「遅かった……!」

 

ターミナルから出て、オレはすぐにそう悟った。

 

アサクサにいたマネカタ達がいない。そのかわりに、悪魔があちこちで闊歩していた。

 

オニ、モムノフ、オルトロスその他天使達。明らかにヨスガやその傘下に下った悪魔達だった。

 

しかしその悪魔達がアサクサを攻め落としたぐらいで満足するはずがない。狙いはマネカタの本拠、ミフナシロ。

 

オレは舌打ちするとターミナルに向かい、今度はミフナシロに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミフナシロは地獄だった。あちこちでマネカタが死に、ミフナシロの床や壁をその血で赤く染めていた。

 

フトミミが断固として通させなかった門はすでに突破されている。数と力の暴力にはどうにもならなかったか。

 

オレは歯をギリリと鳴らしながら、奥へ進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天使達を主としたヨスガの軍勢はマネカタ達を一片の情けもかけずに殺していった。

 

あちこちで物陰に生き残っていたマネカタ達を逃がすが、数えられる程度。おまけに恐慌状態のマネカタにも襲われる始末だ。

 

「最悪だな……!」

 

元よりここにあるというマガツヒには目をつけていたのだろう。千晶が魔丞になり、天使が集結してからまだ時間はそんなに経っていない。

 

「許せねぇぞ……千晶……」

 

その攻めかた。計画の考え方に一切の情けをかけてないことは理解した。だからこそ憎い。

 

元弱者のオレに、このことは決して許されることではない。

 

オレはマネカタの遺体を見ながらどんどん奥へ奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミフナシロの奥、そこには大量のマネカタの死体が転がっていた。

 

そしてその広間の中央にある巨大な岩に、フトミミと千晶がいた。

 

千晶は変異した腕にマネカタを一人、突き刺していた。

 

その死体を見ながら、千晶は悪魔よりも冷たく、残虐な声を呟いた。

 

「思い上がった泥人形……生まれてきた意味を取り違えて……一人残らず土に還るがいい!!」

 

そう言うなり、千晶は自らが止めを刺したマネカタをためらいなく、放り捨てた。

 

それに目もくれず、千晶はフトミミに忌々しいとばかりに言葉を吐いた。

 

「弱いくせに、生きることには必死なのね。

強くなれる夢を見たこと…それがおまえたちの罪よ」

 

オレは千晶のその言葉に戦慄した。

 

そして同時に熱い怒りが全身を駆け巡った。強くなる夢を見たことが罪だと?

 

オレはどういうアクションをするか迷っているとフトミミがこちらに気づいた。

 

「……手を貸してくれ、零時この女を止めないと…我らは皆殺しにされてしまう!」

 

「……あら、零時君……」

 

フトミミのその言葉に千晶もようやくオレの存在に気づいたようだ。その素振りに、今しがた親友に自分が殺しを見せつけたことへの罪悪感は感じさせなかった。

 

否、もはや、罪とも思っていまい。勇が容易にヒジリを殺したように、千晶ももはやマネカタを虫ケラのように殺せるぐらい、壊れたのだ。

 

その千晶が、まるで大量の荷物を運ぶのに困っていて、その荷物を半分運んでくれそうな良い労働力を見つけたかのようにオレに声をかけた。

 

「来てくれてちょうどよかったわ。いくら片づけてもキリがないのよ」

 

その言葉にフトミミはぎょっとした。今、目の前にいる者が、オレの知りあいだと分かったのだろう。

 

フトミミとてオレがいっそう強くなっているのは予知能力で知ってるはず。フトミミはすがるようにオレに言った。

 

「……君は、こんな事に手を貸さないよな?いつもそうだったはず。ふつうの悪魔には無い心を君は持っている………そうだろ?」

 

その言葉を押し潰すかの如く、今度は千晶が話し始めた。

 

「今のあなたならわかるでしょ。前に私が言ったこと……強き者、優れた者が生き残る世界が創られるべきだって……弱い者は乱し、惑わすの。自分では何もできないから。

彼らの相手をしている限り、美しい世界の完成する時は来ないのよ。どう?私の言うこと、わかってくれるでしょ?」

 

千晶の問いかけに、オレは歯の間から言葉を吐き出した。

 

「弱い奴には、生きる価値はないってことかよ……!」

 

「えぇ、そうよ」

 

「………そうか」

 

瞬間、オレの胸中にどす黒いなにかが溢れだした。

 

この感情を、親友に向ける日が来るとは思わなかった。

 

だが、千晶のその言葉はオレには到底受け入れられるものではなかった。

 

オレは剣を生成し、その切先を千晶に向けた。

 

「認められないな。そんなこと。その思想は元弱者のオレを侮辱することだって分かっているのか?

ふざけるなよ?弱者に生きる権利はない?思い上がるのも大概にしやがれ‼」

 

オレがそう叫ぶとビンとミフナシロの空気が揺れた。

 

千晶はオレのその言葉に静かな返しをした。

 

「……そう。あなたは違うと思ってたけど、残念ね。…あなたにはヨスガのコトワリが分からなかった。

弱い者の惑わしに負け、強き者、優れた者が生き残る美しい世界への道を自ら断ったのよ」

 

そういうと千晶は呆れたように首を振る。

 

「何のためにその体になったの?きっとわかってないままなんでしょ?あなたも不要だった……それだけの話ね」

 

「分かりたくもない。そんな醜いコトワリ」

 

オレが吐き捨てるようにいうと千晶はゴミを見るような目でこちらを見た。

 

「私の世界を理解しない人はいらないわ。サヨナラ」

 

千晶はもはや何も言うことはないと言わんばかりに、腕を振り上げた。それはオレが行う仲魔の召喚方法によく似ていた。

 

否、同じだったようだ。

 

部屋の上から、光が煌々と降り注いだ。その中から、三体の悪魔が降りてきた。

 

その悪魔は天使だった。それも、とびきり上位の。

 

大天使 ウリエル

 

大天使 ラファエル

 

大天使 ガブリエル

 

神話を知っていなくても、ゲームでもよく出てくるその名前に、オレは戦慄した。

 

大天使はオレを見下ろすと口々に言葉を投げ掛けた。

 

「ヨスガのコトワリを理解せず、千晶様の邪魔をするものよ」

 

「その罪。万死に値するものと知れ」

 

「その命を以てして贖罪をなさい」

 

「冗談……!」

 

オレは戦慄を敵意で押し潰し、大天使のもとまで飛んだ。

 

大天使達も、剣を構えオレを迎撃し始めた。

 

とはいえ、わざわざ正攻法では戦わない。

 

「勝ちにいかせてもらうぜ………スゥ……ガアァァァァァァ‼」

 

【雄叫び】

 

魔力の籠ったその声は大天使達の力を奪ってゆく。三体とも顔をしかめた。だが、【デクンダ】を唱えない。

 

もしかしたら【デクンダ】を持っていないのか?

 

チャンスとばかりにオレはもう一度【雄叫び】を使い、攻撃力を徹底的に削いだ。

 

「この……!小賢しい!」

 

大天使達がそれにキレた。剣を構え、オレに突進する。

 

先頭のウリエルが水平斬りでオレの胴を薙ぐ、オレは後ろに飛び退ってかわすが、それを追ってラファエルがオレに水平斬りを放つ。

 

「ちっ……」

 

ワンパターンだが後ろに飛ぶ以外に避けようがない絶妙な高さでの水平斬り。オレは再び後ろに下がった。

 

ガッ!

 

「おっ……!」

 

いつの間にか端にまで下がってしまったようだ。次の攻撃には逃げ場がない。

 

ガブリエルが凄絶に笑み、オレに向けて今度は突きを放とうと肩を引き絞る。

 

攻撃の出が早い。完全に避けるのはもはや不可能。なら……

 

「ふっ」

 

「なっ⁉」

 

オレはガブリエルの眼に唾を吹いた。驚愕で剣がぶれる。

 

オレは突きを掻い潜る。頬が浅く斬られるがそれに構わずガブリエルの背後をとり、翼に引っ付いた。

 

「くっ!離れよ‼」

 

ラファエルがそれを見て、こちらに飛ぶが。

 

「セイテンタイセイ!」

 

「はいよー。こっちの天使の兄ちゃんはまかせな大将‼」

 

セイテンタイセイを召喚してラファエルを吹き飛ばした。

 

「この……!」

 

ウリエルの方もこちらに飛んでくるが、

 

「あなたの相手は私よ?」

 

クイーンメイブに止められた。

 

「このっ!穢れた手でいつまでも私の翼に触れるなぁ‼」

 

「ピーピー喚いてるんじゃねぇよ。この腐れ天使がぁ‼」

 

オレは怒号とともにガブリエルの翼をもいだ。

 

ポキリという小気味良い音とともにちぎれた翼を放り捨てると、オレはガブリエルを蹴り飛ばした。

 

「ふぶっ‼」

 

岩盤に顔から突っ込んだガブリエルを一瞥するとオレは戦況を見渡した。

 

ウリエルの方を捌いているセイテンタイセイはやや苦戦を強いられている。ウリエルは火力に優れた攻撃を持っているようだ。

 

一方、ラファエルの方にいったクイーンメイブは苦戦していない。どちらかというと攻めあぐねているようだ。ラファエルは反射魔法でクイーンメイブの攻撃を巧みに防いでいる。

 

支援役を召喚した方が良さそうだ。

 

「ティターニア、出番だぜ‼」

 

「承知しましたわ。我が主よ」

 

オレは支援として妖精 ティターニアを召喚した。

 

ヨヨギ公園でも戦ったティターニア。この悪魔は魔法のスペシャリストでその上にオレ流の改造を施してある。実際に施すのは邪教の館の主だが。オレは考えることしか出来ない。

 

回復・補助・攻撃すべてをこなせるようにしたティターニアはすぐにその力を発揮した。

 

「【常世の祈り】【ランダマイザ】」

 

ティターニアが唱えた二つの魔法。それはたちまちオレ達の傷を回復させ、ウリエル・ラファエルの力をさらに削いだ。

 

その力に満足していると電撃がこちらに飛んできた。

 

すぐさま剣でガードする。【雄叫び】で弱めてあるとはいえ大天使を名乗る者の攻撃。ノーダメージとは行かないだろう。

 

電撃を放った者の正体はガブリエルだった。翼をもがれ、あちこちボロボロになったガブリエルは憎々しげにオレを見た。

 

「おのれぇ……どこまでも我らを嘲笑うというのか‼その罪、永劫に許される時は無いと知れッ‼」

 

「許す許さないをテメェが判断してんじゃねぇよ‼この救う神も仏もない世界で、偉そうなことを言うな‼」

 

オレとガブリエルは口々に叫ぶと互いの剣を振るった。

 

剣同士が交差し、火花が散る。

 

スピード型のガブリエルはすぐに離れると再び駆け、オレに斬りかかった。

 

それは猛攻。一切の無駄がないその動きは、千晶の邪魔をする者を何度も何度も屠ってきたのだろう。

 

きっと何百もの悪魔がその攻撃に倒されたのだろう。

 

しかし、嗚呼。その猛攻は全くオレの恐怖を沸き上がらせない。

 

足りないのだ、何もかも。同じ剣士でも命を、ただ悦楽のために屠ってきたマタドールやレッドライダーのような冷たさと残虐さも。ダンテのような圧倒的すぎる存在感も。

 

オレのように、負けへの恐怖によって生み出される勝ちへの執念も。

 

ガブリエルの剣技をオレはもう【見飽きていた】。

 

「死ね、人修羅‼」

 

ガブリエルは神速の五連突きを放つ。普通の悪魔なら同時に突きが見えるだろうそれをオレは寸分違わずはたき落とす。

 

きっと自信がある攻撃だったのだろう。オレはガブリエルにむけて凄絶に嗤った。

 

「ひっ……!」

 

ガブリエルが悲鳴をあげる。

 

ダメだ。ダメだぜガブリエル。魔人の死の気配に負けているようじゃ……

 

「死ぬしかないなァ‼」

 

オレは剣を細め、ガブリエルよりも早く、数多くの突きを放った。

 

その刹那。ガブリエルの首、肩、胸、腹に計8つの十字の穴が並んだ。

 

「ガッ!」

 

ガブリエルは血を吐き出すが、まだ死なない。

 

オレは止めを刺すことにした。

 

オレは突き刺した剣から手を話し、ガブリエルの首を握り潰そうと手を伸ばした。

 

「させませんよ‼」

 

しかしウリエルが邪魔をするかのように万能魔法をオレにむけて放った。

 

「うお!」

 

オレはガブリエルの首に伸ばしかけていた手でガブリエルを持ち上げ、飛んできた万能魔法の【メギドラ】にむけて投げ飛ばした。

 

「ギャアアアアアア‼」

 

オレの攻撃によって生命力を失っていたガブリエルはあっけなく爆散。オレもその余波を受けて吹き飛ぶが、空中で受け身をとる。

 

「おいセイテンタイセイ!しっかり押さえていろよ‼」

 

「無理を言うんじゃねぇよ大将。こいつ強いんだぜ⁉」

 

オレはその言葉を聞いてウリエルを見る。

 

確かに攻撃魔法は苛烈だが………ガブリエルよりレパートリーがあるだけに思える。とっとと倒せよそれぐらいの奴!

 

「セイテンタイセイ。お前後で特訓な」

 

「そんな殺生な‼」

 

セイテンタイセイが悲鳴をあげる。そんなに厳しくしないのにさ。ただ死にかけてモラウダケダヨ?

 

オレは心の中で残酷に嗤うと、ウリエルの背後に向かって飛んだ。

 

「甘い!」

 

ウリエルは魔法でセイテンタイセイを牽制しつつもオレにむけて振り向き様の回転斬りを放つ。狙いは良いが。

 

「遅い」

 

オレはウリエルの剣を持つ腕を蹴り飛ばし、攻撃をそらすとそのまま頭にむけて三段空中蹴りを放つ。

 

「グハッ!」

 

頭を揺さぶられて、墜ちるウリエル。オレはその頭をがっしりと掴み、

 

「フン!」

 

思いっきり地面に叩きつけた。

 

瞬間、グシャでもグチャでもなく、バァンという音が響き、ウリエルの頭が脳漿をぶちまけて弾けた。

 

「「「うわぁ………」」」

 

「なんだよ?」

 

仲魔三人とストックにいる仲魔達からひかれた声を出された。解せぬ。

 

「こ、この……!かくなるうえは……!」

 

残ったラファエルはその隙にオレにむけて突進する。相打ち狙いか。

 

だとするなら、軽すぎるぜ。お前の動き。

 

「【アイアンクロウ】!」

 

ラファエルの振るわれた剣を持つ手を切り裂き、剣を手放させるともう一方の手で再び【アイアンクロウ】を放つ。

 

これもまたラファエルの顔を砕き、確実にラファエルの命を絶った。

 

「「「「「うわぁ……」」」」」

 

「だからなんだよ?」

 

手に入り込んだ血を舐めながらオレは再び仲魔達に反発する。

 

って、こんなコントをしている場合じゃねぇ。フトミミの方はどうなっている?

 

「フトミ……ッ‼」

 

オレは絶句した。フトミミが、千晶の足下で崩れ落ちていたのだ。

 

「遅かったか……!」

 

せめて、千晶の野望を止めようと千晶のもとに駆けようとするが。

 

「邪魔はさせないわ」

 

「なっ⁉」

 

見えない壁を阻まれた。

 

仲魔達に攻撃を集中させて壁を壊そうとするが壊れない。

 

見ると千晶の立つ巨岩から夥しい量のマガツヒが溢れ、それを力にして壁を張っているようだ。これでは半永久的に壁は壊せない。

 

千晶は力の源になっているそのマガツヒを見ながら、嘆息した。

 

「こんなにマガツヒを貯めてたなんて……泥人形にコトワリが啓けるハズ無いのに。…いえ、きっとこれは私のために用意されてたもの……

ここにあるマガツヒを使えば、きっと、私のコトワリが啓ける……」

 

千晶はうっとりとした声でそういうと、謎の呪文を唱えはじめた。

 

唱えるごとに、マガツヒが千晶を歓迎するかの如く舞い、包んでいく。

 

「たまばこに

 

 

ゆふ 取りしでて

 

 

たまちとらせよ

 

 

みたまがり

 

 

今ぞ来ませる」

 

 

そういうとついにマガツヒは千晶の姿を完全に覆い隠し、繭のような物になった。

 

そう思っていると、バァン‼という音とともにその繭がマガツヒを貯めていた岩ごと砕かれた。

 

「うっ……」

 

その閃光と余波に目を細めるがそれはこの世界では命取り。すぐに目を開け、千晶のいた場所を見る。

 

そこには、白い悪魔がいた。体躯はオレよりもやや大きいだけだが、その身に宿された力はノアに勝るとも劣らないモノだと確信できた。

 

白い悪魔は千晶とはまた違った歪な片腕を揺らすと石膏のような肌に覆われた顔に一切の表情を浮かばせずに淡々と言葉を紡ぎ始めた。

 

「我は来たり。女の願いに応え、ヨスガの国を創らんと……我が名はバアル・アバター。王覇を統べ、栄華をもたらす者なり」

 

そういうと悪魔……ヨスガの守護バアル・アバターは虚空を見上げた。

 

「我は知れり……仇なす力の起これるを。

一つは既にサンノウに起こり……

今一つは…おお、今まさにギンザにて動きたるか!

我もいざ、行きて創らん。麗しの国を……」

 

呟くように、しかし威を含んだその声を最後にバアル・アバターは雷鳴とともに消え失せた。

 

残されたオレは歯噛みした。

 

「…………クソ!」

 

勇のみならず千晶の守護降臨まで許してしまうとは。自分が情けなくて仕方ない。

 

だがいつまでもこうしてはいられない。あのバアル・アバターは最後にこう言ったのだ。

 

『仇なす力が一つはサンノウに、もう一つは今まさにギンザにて動きたる』、と

 

サンノウの仇なす力は勇が降ろしたノアのことだとして………もう一つは……

 

「シジマ………」

 

それしか考えられなかった。あそこは元よりシジマを奉ずるニヒロ機構が治めていた地だ。

 

これ以上狂った思想家達に好き勝手させるわけにはいかない。ましてや世界をこんなふうにした奴の守護なんて降ろさせてたまるか。

 

オレは泥と化したマネカタ達にすまないとひと言いうと荒らされた聖地を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マネカタ達が必死になって積み上げてきた生活は、こうして暴力によって一瞬にして壊された。

 

弱肉強食

 

それはあのボルテクス界に限らず、全世界の共通のルールなのだろう。しかしオレは拭いされないやるせなさを感じた。

 

こんなことがあっていいのか。オレはあの時千晶よりも、その運命を大いに憎んだ。

 

今となっては、考えるだけ虚しいが、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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終焉告げる喇叭


喇叭の読み方はラッパです。トランペットのことですよー?

分かってるに決まってるだろうバカヤロウという人は本編までキング・クリムゾンしてください。





 

バアル・アバターの言葉にあったギンザ。そこにいる思念体から、ニヒロ機構の情報を大量に入手できた。ここまで目撃情報が大量に入ってくることからも、ニヒロ機構がギンザ周辺で動いているということは確かなようだ。

 

だが、肝心のニヒロ機構の主力悪魔がいない。もはや二つの勢力が守護を降ろしたところをもはや理解して情報が漏れないよう戦力を集中させているとの情報もあるが、どこにそれがいるかまでは分からない。

 

そもそも残ったマガツヒの宝庫はトウキョウ議事堂にある。ギンザで足踏みしている暇はシジマにはないはずなのに……。

 

「トウキョウ議事堂のマガツヒのことを分かってないのか?」

 

まさかとは思う。しかしオレには一つの仮説がある。

 

守護を降ろしたムスビとヨスガが残ったマガツヒの溜まり場を破壊しようとする動きがないのだ。あれだけ強力な存在が動けばボルテクス界が大騒ぎするだろうから動いていないのは間違いない。

 

もしかしたらマガツヒの情報を把握しきれているのはヒジリだけだったのかもしれない。もしもトウキョウ議事堂のことを知っているのならば、ムスビもヨスガも無視していないだろう。

 

なら今トウキョウ議事堂のことを知っているのはオレだけということになる。なら、そのマガツヒをシジマに使われる前に潰してしまうことも可能か。

 

そうと決まればトウキョウ議事堂に向かわなければならないが、どう行くか。

 

トウキョウ議事堂の場所はナガタチョウ。ならアマラ神殿から行けるかと思ったが否定した。

 

あそこは受胎の影響が特に大きい場所なのだ。おかげで地殻変動でも起きたのかサンノウ・ナガタチョウエリアは二分されている状態にある。

 

ターミナルのあるアマラ神殿はサンノウ付近にある。そこからナガタチョウはその二分された境界が存在して行けない。

 

ならどうするか?ギンザ大地下道やイケブクロ・アサクサ坑道のように地下道があれば良いが………

 

「方向的には、ユウラクチョウ駅から行けるか……」

 

頭の中でトウキョウの地理を描くが、頭を振って掻き消した。どのみちこのボルテクス界じゃオレの知っているトウキョウの地図は通じまい。

 

なら行けるかもという可能性にかけるしかない。

 

オレは仲魔達を引き連れてユウラクチョウに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウラクチョウ駅は受胎の影響が少なかったからかそのまま残っていた。

 

オレは塞がれてなくて良かったと息をつき、進もうとした。

 

その時だった。

 

「熱っ……!」

 

物置空間から熱を感じた。それと同時に死の気配が辺りに充満する。

 

魔人が、いる。

 

オレは警戒しながらも階段を降り、駅のチケット売り場に向かった。

 

メノラーは10と1つと存在するとあの喪服の女は言った。この魔人が持っているメノラーを奪えばオレは11本全てをコンプリートしたことになる。

 

さて、今回はどんな魔人が……ッ‼

 

チケット売り場を通り過ぎようとしたとき、オレは魔人の結界に囚われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔人の創りだす世界に落下している時、オレは死の気配を感じた。

 

いつもなら到着してから来るのに以外だと思いながらオレはその方向を向いた。

 

その魔人は法衣を着ていて、背中に純白の翼を生やしていた。

 

その姿で一瞬天使かと思ったが、その雰囲気と骸骨の頭を見て魔人だと判断出来た。

 

その天使は手に不思議な形の喇叭を持っていた。それが、とてつもなく嫌な雰囲気を醸し出していた。

 

オレがその雰囲気に冷や汗を流しているとその天使魔人が口を開いた。

 

「闇の中に生を受け、生を繋いだ小羊よ。汝は見事、ここまでの封印を解いてきた。その働き全ては見通してある……私の名はトランペッター。最後の時を告げる魔人なり……」

 

オレはその名前を聞いてトランペッターの正体を察した。

 

ヨハネの黙示録に存在する世界の終末を手に持つ喇叭で告げる天使。本来なら、七人の天使がいるはずだが彼(?)は一人のようだ。

 

「汝を私が追うは……終の決戦の時、汝が起てる悪魔とともに我が喇叭の音を聞くに値するか確かめるため。

 

見せてみよ!比類なき悪魔の力あれば!烈々なる、悪魔の心あれば!最後のメノラー。我が手より奪ってみよ!」

 

トランペッターのその声とともに落下する速度は加速し、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタン、という音とともにオレは魔人の地へ降り立った。

 

荒れ果てた地。燃える空。そして魔人の姿。

 

それも、今日限りだ。

 

「零時よ。汝はその身にあの御方の刻印を刻まれし者…最後のメノラーを手にし、深淵の底に行き、あの御方に会わねばならぬ……」

 

トランペッターはそういうとラッパを構えた。

 

「だがそれも。最後の魔人である私に勝てれば……の話。さぁ!最後のメノラーを我が手より奪うが良い!

 

 

混沌の悪魔が待ち望む未来のために‼」

 

トランペッターはそういうとラッパを吹き鳴らした。

 

【神恩のラッパ】

 

するとオレの体を光が包み込む。

 

不意討ちか⁉と思ったが違う。オレの生命力と魔力が一気に回復したのだ。

 

何をしているとオレが訝しむとトランペッターは厳かに言った。

 

「我がラッパは8つの刻ごとに告げる。弱者に救いを………そして滅びを………見よ!我が神は救いたもうぞ‼」

 

なるほど、どうやらあのラッパの力のようだ。

 

しかし敵に塩を送ってもらえた、なんて喜んでもいられない。あいつはラッパが告げるものは救いと滅びの二つだと言った。もしその話が本当なら、その滅びがオレに向かう。

 

滅びが何かは……まぁ想像はつくがな。

 

オレは仲魔を呼び、的を増やすことにした。仲魔達には悪いが、囮になってもらおう。そうすれば弱者はオレでなくなる……はず。

 

オレはまずトランペッターに飛び蹴りを放った。

 

トランペッターはさらに上空に飛んでよける。この時点で奴に物理耐性がないことは発覚した。耐性があるのなら、大人しく受け止めた方が隙が出来るからだ。

 

しかしトランペッターが飛ぶのは厄介である。オレは飛べないのだ。メインで攻めるのは仲魔頼りにするしか無さそうだ。

 

そうと決まればうかうかしていられない。オレはすぐさまセイテンタイセイに場所を変わり、ティターニア、クイーンメイブから攻撃強化の魔法をフルでかけてもらう。

 

しかしトランペッターもただのラッパ吹きではない。ラッパを鳴らし、強力な魔法を雨あられと降らしてくる。

 

【マハラギダイン】

 

【マハブフダイン】

 

【マハザンダイン】

 

【マハジオダイン】

 

【メギドラオン】

 

「ちぃ……!」

 

全て攻撃魔法の最上級。オレ達は散開して避け始めた。

 

瞬間、炎が猛り、氷が唸り、風が逆巻き、雷が轟き、そして破滅が炸裂した。

 

「くそっ!どんだけ魔力が無尽蔵なんだよ‼」

 

オレは毒づきながら体を屈め、大技を放った。

 

「【ゼロス・ビート】!」

 

両腕を広げ、叫ぶと何百もの光弾が全身から放たれ、魔法をある程度を魔法の相殺に回し、後の全てをトランペッターにむけた。

 

結果、

 

「ぐわっ⁉」

 

「ぐっ⁉」

 

相打ちとなった。

 

トランペッターは多重魔法を唱えたすぐのため、避けきれず。オレは大技の使用で余波を食らった。

 

オレは痛みに顔をしかめながらも、すぐに回復アイテムである【宝玉】を噛み砕いた。

 

刹那、失われた生命力が全て回復した。

 

トランペッターの方はフラフラと多少揺れていたが、膨大な生命力を持っているのはどの魔人と変わりはないらしい。

 

すぐにラッパを吹き、魔法を降らせる。

 

【マハザンダイン】

 

「させないわ!」

 

【マハジオダイン】

 

クイーンメイブがそれに合わせるよう、魔法を撃ち、相殺させる。

 

オレはその隙を突き、魔法を唱えた。

 

【地獄の業火】

 

【絶対零度】

 

【竜巻】

 

【ショックウェーブ】

 

無理やり魔力を振り絞り、トランペッターの真似をしてオレも四属性魔法を乱発する。生憎万能属性の魔法は所持していないが。

 

しかしこの魔法はあらゆる悪魔の魔法を見てオレが最善と判断した技術を駆使して最大限のブーストをかけてある。トランペッターにも撃ち合えるはずだ。

 

トランペッターは打ち上げられた魔法の数々を目のない眼窩で見据えると大きく移動して避け始める。

 

しかし炸裂する魔法の数々に撃たれればさすがの魔人も避けきれまい。ましてや奴は【マカラカーン】等の防御魔法も張ってない。

 

「グアッ!」

 

ついに炎の直撃を喰らうとトランペッターはヒューンとこちらに墜ちてきた。

 

チャンスとばかりにオレは飛びあがり、手に業火を灯らせてトランペッターに叩きつけた。

 

「死ねッ‼」

 

【マグマ・アクシス】

 

ドォーン!という音とともにトランペッターは吹き飛ぶ。

 

しかし直後オレは戦慄した。

 

トランペッターは吹き飛びながらもラッパをこちらに向け、甲高い音を奏でたのだ。

 

【マハブフダイン】

 

突如、反動で動けないオレに向かって巨大な氷弾がいくつもいくつも飛んできたのだ。

 

マズイ。そう思った瞬間、

 

「させないッ‼」

 

クイーンメイブがオレを叩き落として攻撃の射線からオレを退かしたのだ。

 

しかしそれをしたらその氷弾全てをクイーンメイブが被ることになる。

 

その危惧の通り、氷弾の嵐にその身を撃たれた。

 

「メイブ!ぐっ!」

 

オレは叫ぶが身を地に叩きつけられて息を止めてしまった。

 

眩む視界でなんとか上に視線を向けるとクイーンメイブが墜ちてきた。

 

「ちぃ……!」

 

オレは舌打ちするとクイーンメイブをなんとかして抱き止めた。

 

「おい!大丈夫か⁉」

 

「えぇ。なんとか……」

 

そういうクイーンメイブだがあちこち体から血が出ていた。

 

だがこれぐらいならクイーンメイブは一瞬で回復できる。

 

オレはホッとして、クイーンメイブを降ろすと。

 

トランペッターが叫んだ。

 

「聞けいッ‼黄泉がやってきたわッ‼」

 

トランペッターはそういうなり、ラッパを吹いた。

 

【魔縁のラッパ】

 

その音は今までで聞いてきた中で一番美しいラッパの音であり。もっともゾッとする音だった。

 

その音を認識した瞬間。オレはゾッとした。

 

クイーンメイブが光に包まれ、爆発したのだ。

 

「はっ………?」

 

オレは間抜けな声をあげた。が、すぐに思考を戻す。

 

先程言った滅びがクイーンメイブに当たったのだ。

 

これで分かったことがある。

 

弱者というのは、恐らくこの場にいる生命力が一番低い奴のことを指すのだ。

 

クイーンメイブの強さはティターニアにもセイテンタイセイにも及ばない。だが、この場で一番低いのが生命力とするなら、氷に撃たれたクイーンメイブになる。

 

これが分かってもうかうかしていられない。次に来るのは救いだが、その救いが向けられるのは攻撃を受け続けたトランペッターなのだ。

 

つまりあの膨大な生命力がもとに戻るそれは絶望的な展開だ。

 

オレは貴重な【反魂香】を使い、即座にクイーンメイブを生き返すと即座に召喚するという行為を3秒で片付け、戦列を立て直した。

 

「ブハッ!あいつ、よくもやってくれたわねぇ……!」

 

クイーンメイブはトランペッターを憎々しげに睨むとそこまで飛んだ。

 

オレもトランペッターに向かってジャンプした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く戦況は押しきれないという最悪のパターンに陥った。トランペッターは魔法の乱射乱撃でこちらを寄せ付けないのだ。

 

そして最悪の言葉をトランペッターは叫んだ。

 

「見よ!我が神は救いたもうぞ‼」

 

【神恩のラッパ】

 

トランペッターの清らかな音とともにトランペッターが回復してしまったのだ。

 

あの再生力はオレがよく知っている。トランペッターはラッパの一吹きで大量の生命力と魔力を補充してしまったのだ。

 

「なんてやつだ……!」

 

まさに終わりの天使。終焉と神威。あらゆる存在が乗り越えられないその二つの壁を体現しているかのようだ。

 

しかしそれならそれで構わない。その力を持ったトランペッターのことを憎みはしない。

 

だがその理不尽さにオレが燃えないということもない!

 

「イヤァアアアアアァァァァァァァァア‼」

 

【神恩のラッパ】を吹かれて後、オレはついにキレて甲高い声とともに飛びあがり、魔法の雨を潜り抜けてトランペッターに斬りかかる。

 

トランペッターもお得意のラッパを鳴らす。

 

ギャリン!パァン!

 

音で壁でも作ったのか不可視の壁に刃が止められる。

 

「フッ」

 

オレは刃を捨て、壁を殴り続けた。

 

「死ね………死ね…死ね死ね死ね死ね死ね死ね‼」

 

「我が魂、未だ暮れること無し‼」

 

互いに気合いの声をあげると一際大きな衝突音とともにオレが吹き飛んだ。

 

「ぐっ!マズイ!」

 

オレは眩みながらもトランペッターのほうを向いた。

 

トランペッターの方も衝撃に打たれて目を回したのか翼を震わせていたがすぐに立ち直り、ラッパを吹いた。

 

【メギドラオン】

 

迫り来る万能の魔法。立ち上がる暇はもうない。

 

オレは腕を交差させて身を固める。万能魔法は防ぐことはできなくても軽減させることはできる。

 

「ぐはっ‼」

 

だが強力な最上級万能魔法。それで無事でいられるはずがなかった。

 

オレは吹き飛び、背に地を擦りながらブレーキをかける。粗い止めかただが、構っていられない。

 

オレは痛む体を鞭打って立ち上がる。ティターニアが回復魔法を唱えようと急いでオレに近づく。

 

オレはそれを支援するためにいつでもトランペッターの魔法を相殺できるよう魔力を練ようとした。

 

だが、トランペッターの方を向いてオレは得体の知れない不安に駆られた。

 

トランペッターが、ひどく遺憾だと言わんばかりに顔を少し伏せているのだ。なぜだ。なぜ、そんな素振りを……まさか……まさか!

 

八つの刻が……来た?

 

「ちくしょう!」

 

オレは急いで物置空間を呼びだし、宝玉を取ろうとした。

 

だが、遅い。

 

【魔縁のラッパ】

 

終末の喇叭が、鳴らされた。

 

オレの体に光が包み込んだ。それはあまりにも美しく、残酷な白だった。

 

脳裏でそんなことを思いながら、

 

オレの体が炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





零時君、死す。

まだ完結ではないですよ⁉分かってると思いますが!まだ続きますお願いします今後とも贔屓にしてください!




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死の果て


今回、オリジナルありです。少しだけですがね






 

トランペッターの【魔縁のラッパ】によって殺されたオレは、いつの間にかボルテクス界の何もない砂漠に寝かされていた。

 

眠い。死というのは、こんなにも甘く、暖かいものなのか。

 

ふと、空の方に意識を向けると空から何かが降りてくるのを感じた。

 

天使達だ。たくさんの天使達が、オレを空に浮かぶ光る球体に導かんとしている。

 

これが、お迎えってやつなのか。

 

だとしたら、それも良いかもしれない。この地獄を歩き続けて、それでも何一つ希望を見出だせないこの現実にいたって。苦しいだけだ。

 

終わる。その苦しみも、これで………これで………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいのか?

 

ふと脳裏に浮かんだ疑問の声。それは、ゾッとするほど冷たい、自らの声だった。

 

いいのか?このまま逝くのか?お前が最も忌み嫌った敗北の中でお前は死んだんだぞ?お前は、敵に永遠と嘲笑われる存在に堕ちるんだぞ?

 

声が聞こえる度、オレの意識はどんどん覚醒する。どんどん目が冴えていく。

 

脳裏にオレに向かって嗤い、去っていった者の顔が浮かぶ。

 

ダンテ、千晶、勇、氷川。

 

冷めてく意識の中、オレは自問した。

 

このまま死んで……良いのか?何も成せていない、今のまま。死んで良いのか?

 

オレは、唸るように自答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良いわけがない。

 

 

 

 

まだ、死ねない………

 

何も遂げずに、自分のしてきたことに意味を持てずに死ぬのは嫌だ。

 

この憎しみ晴れるまで……!

 

「死ねないんだよッ‼」

 

オレが空に浮かぶ球体にそう叫ぶと、

 

『それで良いんだよ……さすが、私が愛した存在』

 

どこからともなく冷たく、それでいて恍惚とした声が響いてきた。

 

『良いよ。君は死なせないでおくよ。私に呑み込まれたら、愛せないもんね。だから……』

 

消えて?この子を取り巻く死よ。

 

その声が響いた瞬間、オレの影から黒い何かが噴き出してきた。

 

その影は天使達を呑みこみ、果ては空に浮かぶ球体すら呑み込んだ。

 

その影は、前にアマラ経絡で落ちたときに見た、あの黒い何かにそっくりだった。

 

それを認識するなり、オレは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、なぜかオレは立っていた。

 

場所は死ぬ前と変わっていない。魔人の世界だった。

 

だが、仲魔達が、トランペッターがオレを驚愕の目で見ていた。

 

マガツヒから成る悪魔と違い、オレは人の存在も入り交じっている半端者。故に魔法やアイテムでの蘇生はできない。それを知っているからだろう。

 

だが、今はどうでも良い。今オレがやりたいことは、あのラッパ吹きを殺すこと。

 

オレに屈辱的な敗北を刻んだクソヤロウ。もはや目の前に存在するだけで胸にどす黒い感情が流れ出る。

 

だから、それを晴らすために……

 

「死ねよ。くそ魔人」

 

オレはそういうなり、トランペッターへとかけていった。

 

不思議と体が軽い。死んだとは思えない動きで、思考で、相手の体へ攻撃を放つ。

 

「ッ‼」

 

トランペッターは驚愕に息を呑み、魔法を放つが。

 

「遅ぇ」

 

ラッパを持つその手ごとオレは蹴り飛ばした。

 

攻撃の手段を失ったトランペッター。だが、オレの脳裏に容赦という言葉はなかった。

 

ありとあらゆる攻撃手段でトランペッターを殺しにかかった。

 

今やオレに、こいつを生かす意味はなかった。

 

そして最後に【破邪の光弾】でトランペッターを撃ち抜くと。

 

トランペッターは頭部だけしか残ってなかった。

 

トランペッターは、カタカタと怯えるように、しかし笑うように顎を震わせた。

 

「おぞましい……おぉ、おぞましい…!汝は終に愛された身……か?あぁ、汝の心と力は悪魔という言葉ですら生温い……それが、大いなる意思に向けられた時……その時が来たのなら……ッ!」

 

トランペッターはそういうとカッと顎を開き、そして消滅した。

 

飛び散るマガツヒの中にメノラー……【神威のメノラー】を拾い上げるとオレはトランペッターの言葉に首をかしげた。

 

終に愛された身?魔人という存在は死という存在に近い存在だろうに。もとより終には愛された身だろうに。

 

それよりも、あの影の存在は、一体なんだ?

 

「また謎が増えた……」

 

オレはため息をついた。まぁ、あの存在はどうもオレを強くしてくれたようだ。その点は感謝しなければ。

 

さて、これでメノラーは揃った。

 

報酬を、もらおうか。『あのお方』さん達に。

 

オレは呆然としていた仲魔達をたたき起こすと、この世界から抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アマラ深界第4カルパ。その道が二つのメノラーによって開かれた。

 

そこは、いきなり危険地帯となっていた。

 

「ガフッ!な、なんだこれ⁉ガハッ⁉」

 

あちこちに漂っている不気味な霧が、オレ達の生命力をガリガリ削ってくるのだ。

 

これでは先にいけない。霧に意識を向けて辿ってみると、どうやらこの霧は何者かが放っている呪いらしい。

 

これを解くためにあちこちさまよっていると今度は不気味な闇に包まれた廊下に出くわした。

 

近くにいた思念体曰く、【12mの永遠】と呼ばれるこの廊下はボルテクス界にあるカグツチの影響を受けて行き先を変えるという厄介な代物らしい。

 

この地にも感じるカグツチの波動を確かめながら何度も試して行き先を全て知る。そのためにかかった時間。倒した悪魔の数は膨大だった。

 

行き先の中には、謎の迷宮があった。

 

そこに迷いこむとなかなか抜け出せないのだが、そこにはなぜかマネカタがいた。

 

それはありえないことだった。なぜならマネカタはアサクサのドブにある泥がマガツヒを含んで創られるものだ。

 

それがアマラ深界にいる。基本的に考えればあの老紳士達が連れてきたと考えるのが自然だが……それにしたってなぜ?となる。

 

そして目を見張るのは思念体の量とその存在感の濃さ。

 

何より目を奪うのが、二つの思念体だった。

 

一人は、少年と思われる思念体だ。

 

『…なんだ、お前?変わった悪魔だな、少し聞いてもいいか?自分の心の赴くままに他人を殺す、これっていけない事だと思うか?』

 

この問いにオレは肯定すると。

 

『そうかいそうかい、まるで人間みたいな答えだな。けど覚えときな。人間の方が、案外悪魔より残酷なのかも知れんぜ……オレみたいにな。くくくっ…』

 

そう嗤う少年の思念体は、ヨヨギ公園でオレが殺したサカハギに声がよく似ていた。

 

だがなぜだろうか。その声はとてもとても悲しい響きが含まれていた。

 

首をひねっていると今度は老人の思念体に出会った。

 

その老人は、少ししゃがれていたが、若々しければフトミミに酷似していた声でオレに問いかけた。

 

『来る日も来る日も、額に汗して働く…それが人間のあるべき姿だ私はそうして社会に貢献してきたのだ。会社は大きくなり、人々にかしずかれる存在になった

私の人生は、果たして成功だと思うかね?』

 

問いに頷くと、その思念体は暗く笑った。

 

『…そうだろう。皆私の幸福を妬んだものだ…あの事件が起こるまでは

あの忌まわしき事件。私は初めて殺意というものを感じたのだ。強い負の感情…あの少年に対する怒り…今も私は思うんだ、この怒りを持ってすべての者に復讐をしてやりたいとな。

…もっとも、社会に縛られた私に、そんな事をする度胸はなかったがな』

 

自嘲するその言葉。フトミミの声音にそっくりだった。

 

オレは確信した。

 

マネカタ達は、ボルテクス界にいた人間を模しているのだと。

 

その源はすでにある。マガツヒ。死してなお残った思念がマネカタを創りだした。そしてそのなかでも強い思念がフトミミとサカハギを創りだした。

 

ここにあるのは感情ではなく、それを作り出す魂なのだろう。この思念体の量も納得できるし、マネカタがいるのも理解できる。

 

思念体はここに流れ着いた魂。そしてマネカタはその魂から若干ながら創られるマガツヒからできたもの。

 

死んで、その魂が彷徨うのは現実世界でもよく聞く話。それがここで起こっているのだ。それも受胎という大量殺人のせいで大規模に。

 

出来るのなら、救ってやりたい。

 

だが、オレには除霊なんざできないし、破魔の魔法なんか使ったら魂ごと消滅してしまう。

 

なんとかしてやれないものかと考えていると…

 

「ゲホッ!またこれか……グフッ‼」

 

呪いのかかった広間にでた。

 

何をするにしてもまずこれを片付けなければどうにもならない。今はこれをなんとかしよう。

 

この呪いの濃さを鑑みるに元凶が近いのは分かっている。たどり着くまで体を保たせながらもここを進むしかない。

 

オレ達はなんとか霧を吸わないようにしながら奥へ奥へと進んでいき、ついに元凶がいると思われる部屋の前にたどり着いた。

 

そこから染みだすようにでてくるその悪魔の気配が重たい。魔人のように死を連想させる気配ではないが、重々しい。

 

オレは自分を叱咤するように頬を叩くと扉を開け、潜り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこはかなり広い広間だった。不気味な意匠を施してある壁や床を見ながら部屋の中央を見ると、そこには髑髏の杖を持った人型の悪魔がいた。

 

だがデカイ。虎の皮で作られた服に包まれた巨体を見上げると燃えるような赤目がオレをギロリと見た。

 

「…全ての死、魔人達の来襲を退け…遂にここまで辿り着いたか。その働きを称え、わたしに謁見する権利を与えてやる。さあ、近くに来るがよい」

 

耳障りに割れた声がオレを誘う。オレはその声に従い、その悪魔のもとへゆっくりと歩みを進めた。

 

同じ高さの床にたどり着くと悪魔は名乗りだした。

 

「…わたしこそ、今は地にある天使の長……黒き翼となった闇の天使と共に、混沌の悪魔を支配する最強の魔王。

…死と魂を司る者、ベルゼブブだ。覚えておくが良い」

 

また大物が現れたとオレはため息をついた。

 

ベルゼブブ。七つの大罪にも暴食の悪魔として挙げられた元豊穣の神。

 

しかし闇の天使……これであの老紳士の正体は確定した。

 

オレは一度その仮説を消しながらベルゼブブを凝視した。

 

ベルゼブブの方もオレを凝視した。

 

「…貴様が、ルシファー様お気に入りの夜藤 零時か。その働きは耳にしておるぞ。ルシファー様に与えられた力で、新たな悪魔を創り出そうとしているのだな?」

 

その言葉に、オレは眉をしかめた。創るというその言葉に少々怒りをを思えたからだ。

 

その反応を、オレが何も知らないでいると勘違いしたベルゼブブは眉をひそめた。

 

「…知らぬのか?貴様の集めているメノラーがそうだ。

全てのメノラーが地の底に捧げられた時、新たな混沌の悪魔が生まれる…何と言われてそれを集めていたのかは知らぬが…知らぬとはお人よしな事だ」

 

呆れた素振りをするベルゼブブだが、ここでベルゼブブの声に真剣さが含まれた。

 

「覚えておけ、零時よ。我等混沌の悪魔は、みなその時を待っているのだ。新たな悪魔が生まれ…ルシファー様が決断するその時を…地の底に眠る混沌の軍勢は、ルシファー様の命があり次第目覚め、再び立ち上がるであろう……

その時のため…混沌の悪魔の為にならわたしも喜んで力を貸そう」

 

だが、とベルゼブブは言葉に威をこめた。

 

「ただで貸す訳にはいかん。まずは貴様の力、試させてもらう!」

 

ベルゼブブはそういうとフン!と掛け声をあげたジャンプし、闇が広がる天井に消えた。

 

しかしその気配は消えない。むしろどんどん膨れ上がっていく。

 

そしてそれは現れた。

 

ドスーンという重たい音とともに現れたのは、巨大な杖をもった巨大な蝿の悪魔だった。

 

ベルゼブブは蝿の悪魔。これが真の姿かとオレは内心で乾いた笑い声をあげた。

 

だが、やはり小さく見える。

 

ベルゼブブはオレを見下ろし、オレに言った。

 

「さあ見せてみろ!ルシファー様に与えられた悪魔の力をっ!」

 

「見物料はお前の死で良いのならなッ‼」

 

オレとベルゼブブは互いに吠えると攻撃を衝突させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





あの黒い存在については、まだ明かせません。











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蝿の王


戦闘シーンオンリーになります。

この方に苦戦した方も多いのでは?






 

「セェイ‼」

 

「むぅん!」

 

オレの拳をベルゼブブはそのまま重い声とともに体で受け止める。

 

「(固ッ‼)」

 

オレは内心で驚きながら、それでも外面では平静を装って攻撃を続けた。

 

ベルゼブブと戦闘して30分が経過していた。ベルゼブブは攻守ともに隙がなく、こちらは攻めあぐねていた。

 

攻撃としては巨体に見合ったパワー。気配で察した通りの魔力を惜しげなく使った上級魔法の連発に加え、【死蝿の葬列】というチートスキルを使ってくるのだ。

 

【死蝿の葬列】は万能属性に加え、呪殺の属性が混ぜ合わさった万能呪殺属性。呪殺に耐性をもっていない仲魔はこれによって即死した。

 

また、呪殺を持っていても万能属性を含んだ蝿達はこちらの生命力をガリガリ削っていく。防御しきれない恐ろしい魔法だ。

 

守りとしては補助を中心とした魔法を頻繁に打ち消すよう【デクンダ】【デガジャ】を連発。こちらの防御上昇。ベルゼブブに対して行った弱体化魔法を即座に打ち消してくる

 

もう一つはベルゼブブの耐性だ。

 

【破魔・呪殺・バッドステータス攻撃無効】。ここまでは良い。

 

だがそれに加えて【物理・氷結・衝撃・電撃に強い】までつけられたらどうすれば良いのか?

 

こいつには実質火炎属性しかダメージが見込めないのだ。

 

しかも【デカジャ】の連発で【マカカジャ】による魔法攻撃威力上昇が見込めない今、地道に火炎攻撃で削っていくしかない。

 

確実に持久戦に持ち込まれていた。

 

「【死蝿の葬列】‼」

 

ベルゼブブが杖で床を突き、大量の赤い蝿を呼び出す。

 

「またか!【地獄の業火】!」

 

オレは現れた死の蝿の群れを火炎魔法で焼き尽くした。

 

「苦戦してるなァ、兄弟!」

 

オレの隣でバイクの爆音を轟かせながらかつての敵、ヘルズエンジェルが嗤った。

 

「うるせぇよ。さっさとあいつ焼き尽くせ!」

 

「ヒヒッ‼了解だ!」

 

ヴォンヴォン!とエンジンを噴かせ、ヘルズエンジェルはバイクを走らせた。

 

そしてある程度ベルゼブブとの距離を詰めるとバイクの後方をベルゼブブにむけてエンジンを轟かせた。

 

「喰らえ‼【ヘルブースト】ォ!」

 

ヘルズエンジェルがそう叫ぶとバイクの後輪からすさまじい勢いで炎が吹き出た。

 

「ムッ‼」

 

その勢いと熱に打たれ、ベルゼブブがぐらりと傾いた。

 

その隙を突いてオレも【マグマ・アクシス】をぶつける。

 

「グオッ‼おのれぇ……小賢しい‼」

 

【マハザンダイン】

 

「うお⁉」

 

「キャ!」

 

カウンター気味に放たれた最上位の広範囲衝撃魔法【マハザンダイン】はオレと追撃しようとしていたクイーンメイブを吹き飛ばした。

 

なんとか空中で体勢を立て直すもあれだけ強力な魔法を撃たれては無傷という訳にはいかない。あちこちから血が流れていた。

 

さっそくクイーンメイブが完全回復魔法【メディアラハン】を唱えて回復する。

 

体が癒され、体が軽くなる感覚に包まれるが胸中は重かった。

 

というのは先程からこんな感じの戦況なのだ。

 

火炎攻撃で隙を創り、それに重ねて火炎攻撃で追撃。それをした瞬間ベルゼブブからカウンターをもらい、回復してもらう。

 

これを何回も繰り返していた。

 

このままではいずれ魔力が尽きてしまう。

 

ベルゼブブを倒すにはそれなりにブーストをかけた【マグマ・アクシス】をぶつければ倒せると踏んでいる。だが、肝心のブーストはカジャ系魔法ではダメだ。

 

一応、カジャの魔法なしでもブーストをかける方法はあるにはあるがそれをやる隙がない。やれたとしても警戒されてしまい、攻撃の出を潰されて終わりだ。

 

少なくとも10秒……否、5秒の隙さえあれば……

 

オレはふとベルゼブブを見た。

 

ベルゼブブは巨大な複眼をギョロリギョロリと見ながらきちんと戦場を見渡している。あの眼は視界も広いだろうし、視力もいいのだろう。生半可な目潰しをしても無意味だろう。

 

スタングレネードでも、あればその眼の良さを利用して眼を潰せるだろうが……スタングレネード?

 

「そうだ……」

 

オレは物置き空間からとあるアイテムを抜き出し、ヘルズエンジェルに合図した。

 

「おい!あいつに思いっきり炎をぶつけてくれ!」

 

「またか?今度はきちんと殺ってくれよ」

 

ヘルズエンジェルはそういうと爆音とともにバイクからまた火を噴かせた。

 

【ヘルブースト】

 

「くっ!これしきのことで‼」

 

巨大であるベルゼブブは避けられない。膨大な生命力にモノをいわせて耐えている。

 

しかしあれだけ威力を誇る火炎攻撃に撃たれてはさしもの魔王も揺らぐ。オレはそれをついて【マグマ・アクシス】を顔にむけて放った。

 

ドォン!という音とともにベルゼブブの上体が弾ける。

 

ベルゼブブは熱と痛みに顔をしかめながらオレに向かって凄絶に笑った。

 

「バカめ!間合いを詰めて、さらには飛んでしまったな!」

 

【マグマ・アクシス】は零距離技。相手に触れられるぐらいに近づかなければ当てられない上、巨大なベルゼブブの頭をそれで打つにはジャンプしなければいけない。

 

その状態で大技を放てばオレは空中でバランスを崩し、身動きが取れない。ベルゼブブはそれが分かっていた。

 

ベルゼブブは勝利を確信し、オレを討たんと爪を振り上げて……ピクッと肩を揺らした。

 

ベルゼブブの眼前にある火の粉。その中に1つの玉があるのが見えたのだろう。

 

オレはニヤリと笑い、その玉の魔力を炸裂させた。

 

瞬間、部屋の中をまばゆい光と耳を劈く音が響いた。

 

「ぬわぁ‼」

 

ベルゼブブはその光と音によって悲鳴をあげた。

 

あの玉は【くらましの玉】光と音で悪魔を驚かし、その隙に逃げる、というのが本来の使い方だ。

 

しかしその音と光をまともに目に、耳にいれてしまえばどうなるか?ましてや人間よりも性能が良い目と耳にそれを入れてしまえばどうなるか?

 

答えはベルゼブブが示してくれた。

 

オレは眼を瞑りながらもブーストのスキルを使った。

 

「【気合い】!」

 

オレはそれで力をため、気配を辿ってベルゼブブに向かって駆けた。

 

「むっ!」

 

ベルゼブブも気配を感じたのだろう。杖を振り上げ、オレの動きを阻止すべく動こうとするが。

 

「ティターニア‼」

 

「了解しましたわ」

 

【ランダマイザ】

 

ティターニアを召喚し、弱体化魔法を放つ。

 

ランダマイザは攻撃威力を下げる【タルンダ】。防御力を下げる【ラクンダ】。速度を下げる【スクンダ】をまとめて使ったような効果が現れる優れた魔法だ。

 

それをティターニアに覚えさせたのだ。

 

もちろん【ランダマイザ】もンダ系の魔法。【デクンダ】で解除出来るがオレの攻撃を止めようと攻撃しているベルゼブブに一瞬でそれを使える訳もなく、

 

【グヌゥ……!」

 

弱体化魔法を丸々被りながらオレの迎撃に動かざるをえなかった。

 

さてこれで届くかは五分五分。

 

勝負と行こうか。魔王さん?

 

オレはニヤリと笑いながら掌に炎を灯した。【気合い】の効果でいつもより炎のいきおいが強い。

 

これなら行ける。オレはベルゼブブの懐に飛び込んだ。

 

「させん!」

 

ベルゼブブがオレにむけて爪を降り下ろす。

 

「オオオオッ!」

 

オレは気勢とともに体を右にひねった。

 

ごっそりと右腕の肉を抉られるが、直撃は避けられた。

 

オレはベルゼブブの右脇腹にむけて渾身の【マグマ・アクシス】を放った。

 

ドォーン‼という爆音とともにベルゼブブの腹に大穴が開いた。

 

ベルゼブブはブルリと体を震わせて、ズズーンという轟音を立てながら倒れた。

 

だが驚いたことにベルゼブブは即死していなかった。あれほどの生命力を【気合い】でブーストをかけて炎にして放ったのにも関わらず。なんて生命力だ。

 

ベルゼブブは弱々しく光る赤い複眼でオレを見ると、

 

「見事……」

 

そういってマガツヒになって消え去った。

 

「見事…ねぇ」

 

はっきり言って嬉しくなかった。

 

今回の勝ちははっきり言って賭けだったのだ。

 

ベルゼブブがくらましの玉で怯んでくれる確証はなかったし、その上で【ランダマイザ】をかけてベルゼブブの動きを鈍らせたとはいえ五分五分に持っていくのがやっとだった。

 

この賭けに失敗すれば死ぬのはオレだったのだ。

 

そんなギリギリの勝利を掴んでも、嬉しくなかった。

 

また同じような敵が現れたら、死ぬかもしれない。そんな戦いだったのだ。

 

オレは臆病者だ。故にあらゆる最悪のシチュエーションが嫌でも思い浮かぶ。

 

強くならなければ。さもなければ、未来に死ぬかもしれない。

 

オレは肩を震わせながら、そのためにマガツヒにがっついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ちなみに私はベルゼブブにかなり苦戦しました。なんだあのチートな耐性は……









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悪魔の誘い


大いなる意志に対して人修羅君が憎しみを持つ話






 

ベルゼブブは広間の奥に大量の宝やマッカ、アイテムを保持していたためこれを全てオレは自分の物にした。敗者の物は勝者の物。弱肉強食なのはベルゼブブも承知の上だろう。

 

呪いが解け、歩きやすくなったアマラ深界第4カルパだが、非常にめんどくさい構造になっていたことが発覚した。

 

鍵がなければ通れないところに第5カルパへの道を開くスイッチがあり、その鍵がなんとボルテクス界にあると情報を得たのだ。

 

で、その鍵を持っている奴がなんとオレによって文無しになったロキが持ち主だと聞いてギンザに向かうが、なんとロキは30マッカでとあるマネカタに売ったという。

 

そのマネカタはあのガラクタ集めのマネカタだという。果たしてあのヨスガの一見以降、生きているかどうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論、生きてました。

 

奴はアサクサの本当に隅に店を開いていて悪魔に目をつけられなかったようだ。

 

そのマネカタから鍵をもらい、アマラ深界に戻ると第5カルパの道を開いた。

 

そしてすぐに見つかったあの覗き穴。オレはすかさずそれに食い入るように覗いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレを待っていたかのように上がる幕。見える舞台。そこにいるのは車椅子の老紳士と喪服の淑女。

 

淑女はオレの方に向き合うと言葉を紡ぎ始めた。

 

「ついに全てのメノラーを集めここに来ましたか。以前約束しましたね、あなたに全てを教えると……お話しましょう、もう気付いているかもしれませんが、メノラーは盗まれた訳ではありません。訳あって我が主が、それに見合うであろう者達に手渡した印なのです」

 

それは予想していたことだ。その理由については……答え合わせといこうか。

 

「騙していた事はお詫びしましょう。しかし、これには理由があるのです。これから話す事を聞いていただければ、その理由もわかっていただけましょう。

 

時の流れを越え、世界、宇宙では、光と闇の勢力が争ってきました。その戦いはあらゆるものに影響を与え…

悪魔や人間達もいずれかの勢力の支配下に組み込まれ、戦いつづけてきました。

…そしてその戦いは終わる事無く続いているのです。

しかしあの御方は、この無限の戦いを終わらせる事をその名に誓いました。

今までに無い、己が意を次ぐ新たな混沌の悪魔を創り出し…光の勢力との終の決戦に挑む決意をなされたのです。

その悪魔を生み出す為に用意されたのが死を司る魔人でした。

死に挑み、死を越えることで、悪魔の滅ぼし、滅ぶ力の結晶となることができる。それが我等に許される、初めての黒い希望になるであろう、と……。

そう、それが全て我が主とあの御方の間で定められた、新たな悪魔を創る計画でした。

多くの魔人達、そしてこのアマラ深界、全てはあなたを試す為の試練だったのです

ある魔人は何も知らず、あなたに戦いを挑み……

またある魔人は、全てを知りつつ、混沌の未来を夢見てあなたに討たれました。

そう、全ては終の決戦の刻を迎えんがために…」

 

「そして今、あなたは期待通り、全ての魔人を退け、ここにきました

あの御方の望んだ…混沌の希望たる悪魔として生まれ変わるに相応しい力を持って。

どうですか?零時。あなたのその力を、私たちの為に…

深淵に潜む混沌の悪魔たちのために役立ててはくれせんか?

強制はいたしません。

…あなたがボルテクスで今までどおり、人間の力の行く末を信じるのであれば、もうこの地を踏む必要もありませんしかし、世の定め、逃れられぬ運命、全てを支配する絶対的な存在…

もしそれらに疑問を持つ事があるならば…あなたは深淵の底まで訪れるべきなのです。

その心まで、悪魔として生まれ変わるために…」

 

ここで淑女の話が変わった

 

「最後に…あなたと関わりのあった一人の人間……運命に流され、生かされている者についてあなたに語りましょう。それを見て進むべき道を見定める事を…我が主は望んでおります」

 

淑女がそういうと、オレと淑女の間に何者かが浮かび上がるように現れた。オレはその姿を見ると息を呑んだ。

 

それはマガツヒの湖に、勇によって沈められたヒジリの姿だったのだ。

 

「その者、かつてはヒジリという名で存在した一人の人間。その者は、死してなお運命に糸引かれ…ボルテクスの地に存在していました思い出してごらんなさい。その者と初めて会った時の事、東京受胎の起きた時のことを…」

 

オレは淑女の言葉に、ヒジリと会ったことを思い出した。

 

ヒジリはシンジュク衛生病院の地下でターミナルの前にいた確か目の前が光に包まれて、気がついたらここにいたといっていた……あ?

 

その言葉を受け取るとするならヒジリは病院にはいないだろうと考える。病院にいたのなら、彼はこの部屋にいたというべきなのだ。

 

ならば彼は外にいたとなる。だが、そうなるとヒジリは死んでいるはずなのだ。あの時、シンジュク衛生病院にいない者は死ぬ。そのはずなのだ。

 

なら、ヒジリはなぜあそこに……?

 

淑女はオレの心情を悟ったかのように話し始めた。

 

「…そうです、この者は他の者と同じく、あの受胎でその身をうたれました。あなたたちの居た病院へと向かう途中で、受胎が始まり…命を落としたのです。理に適わぬことだと思いませんか?この者だけが変わらぬ姿でボルテクスにいるなどとは…

それはこの者の背負った業罪のため…彼は死という安息すら奪われ、運命に弄ばれる哀れな存在であったのです。決して終わる事の無い、償いの苦しみを背負わされたままに……

この者に課されたのは、世界に起こる全てを見届けねばならぬ罰。あらゆる時代の中で、世界の天秤を…その傾きを見届け、記す事を使命づけられました。その大海の水をコップで掻きだすような償いは、彼に永劫の時の中をさ迷う事を強いたのです。

人の身であれば、その霊に良いにしろ、悪いにしろ業を積み、次なる転生の先を変え得るもの。

しかし、彼からはこの権利が奪われました。ゆえに、その身が滅んでも、魂は救済される事なく、その役目を続けなくてはいけない。あたかも救われぬ魂を持つ悪魔の如く、呪われた永遠の命で過ごすしかないのです。

見よ、そして記すのだ。世界の流れを…法と混沌の終り亡き戦いを余さず記す為に…。それが許されぬ大罪を犯したオマエへの罰なのだ…。

解りますか?

彼はアマラの摂理に呼ばれ、業罪の呪いに再び不幸な生を受け…一度死した身に気づく事無くボルテクスに立ったのです。

そうして彼は、あなたと再会しました。それは、あなたがこの世界の行く末に大きな影響を与える可能性があるからでしょう。あなたと共に居る事で、彼は世界を見守りつづけていたのです。

彼の不幸は、あの者自身が、その呪われた記憶を持たない事。彼は、己は人として助かり生き延びたと信じ行動しました。

その行動の結果がどうなったかは、あなたも知っているでしょう。人ならざるマネカタという物体にされた彼は、創世を目論む者達に挑み…そして再び肉体を失ったのです……」

 

「あの者はまた、苦しみの地へと旅立ちました。封じられた意思と、減る事の無い業罪を抱えて…このように運命に定められたまま生きるのか…自分の行動を自分で決めるのか…

定めにそむく意思があるなら…深淵の底に生きる悪魔と共に新たな運命を切り開く意思があるなら…我が主の元を訪れてください。

この先の扉…そこはあなたに始めに渡したメノラーで開ける事が出来ます。我が主の元まで来て…いただけますよね?」

 

オレはしばし迷い、そして頷いた。

 

「では、最下層で待っています。最後の扉への道を空けておきますので。あなたに始めに渡したメノラーを使い、最後の場所を抜けてきてください。お待ちしております。それでは、またお会いしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと、オレの手は血で濡れていた。あまりにも強く手を握りしめ、いつの間にか肉を抉っていたのだ。

 

だがオレはそれすらどうにも思えないほど……

 

かつてない憎しみにその身をかきむしっていた。

 

受胎という転生システム。それを創った大いなる意志とやらはどこまでオレ達を虐げるつもりか?

 

思えばおかしいかったのだ。ヒジリはあまりにもターミナルに、アマラ経絡に詳しかった。あれは恐らく、ヒジリはその呪われた生の中でターミナルに触れていたのではないか?

 

もう嫌だ。なぜ、なぜ神の掌でオレ達は躍り続けなければいけないのだ。そのルールに従わなければいけない?

 

オレは運命などという漠然としたものに憎しみを覚えたことはない。だがその憎しみはどんな憎しみよりも黒かった。

 

その復讐の道は、あの二人が指し示している。

 

その道を、歩きたくてたまらなかった。だが……だが……!

 

「まだその時じゃない。祐子先生が創世を成せば、戻れるんだ。それさえ成せれば……成せれば!」

 

だが大いなる意志はアラディアの存在を認めていない。絶対に何かしらの妨害をしてくるだろう。

 

オレはそう判断するとアマラ深界を抜けた。祐子先生を探すために。

 

あの人を殺させるわけには…いかない。

 

 

 

 

 





まだ零時君は人の世界に戻る可能性を消してません。

今はまだ……ね。



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トウキョウ議事堂

 

アマラ深界を抜け、オレはとある情報を聞いた。

 

シジマの主力悪魔達をユウラクチョウ付近で見かけた、と。

 

「嗅ぎ付けたか……」

 

だがそれからまだ時間は経っていない。その上、ユウラクチョウにシジマがいたということはマガツヒがあるトウキョウ議事堂に繋がっていることは確定しているというわけだ。

 

首魁である氷川は大胆ではあるが愚かではない。二つの勢力が守護を降ろした今、シジマは戦力に不安が残るはずだ。特にヨスガの総攻撃にあったものならたまったもんじゃない。

 

その中で動くということはそこにシジマが得になるマガツヒの宝庫、つまりトウキョウ議事堂はあると決定付けられるというわけだ。

 

のんびりとはしていられない。さっさとユウラクチョウに行くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウラクチョウ坑道は困ったことにあちこちに落とし穴だの急勾配だのがあって何度も落ちる羽目にはめになった。おかげさまで何度も悪魔を踏み潰してしまった。

 

暗いため、穴に落ちる前に穴を見つけることができないのだ。

 

この暗さには持ち前の勘の良さと、敵を即座に感知できる【心眼】が役に立つ。

 

もちろん敵に見つからないというのも立派な手段だ。【エストマ】という魔法を使い、気配を消して動き、戦闘そのものを避けてしまうのも戦略になる。もちろんそこから不意打ちというのもアリになる。

 

敵も同じことは使えるが……オレには殺気が分かる。不意打ち狙いで近づいた奴を逆に……というパターンはよくある。

 

仲魔達はそれでよく首をかしげる。いやいや、あれは分かるだろう。やられる時に背筋が不快なチクチクした感じに襲われるのだから。

 

オレは不甲斐ない仲魔達にため息を吐きながらその不意打ち野郎の頭を踏み潰した。

 

状況は最悪だった。氷川率いるニヒロ機構本隊はすでにトウキョウ議事堂のあるナガタチョウに到着したらしい。

 

その上、何かに取り憑かれたような人間の女を見かけたという話を思念体から聞いたのだ。

 

そんな人間、該当するのは一人だけだった。

 

「祐子先生……」

 

オレはその名前を呟き、歯を食い縛った。

 

「なんでどいつもこいつもオレを頼ってくれないんだよ……!」

 

思えば一人にしてしまったからこそ、勇を筆頭に全員壊れていったのだ。なんでオレは勇や千晶に着いていってやらなかったのか?

 

それ以前になんで勇も千晶も…今で言えば先生もオレを頼らない?オレはまともでいることは承知しているはずだ。

 

まさかこれも運命だというのか?大いなる意志が施した、オレ達人間への縛りか?

 

「えぇい!忌々しいんだよ、神めぇ‼」

 

「フゲッ⁉」

 

オレは近くにいた悪魔を踏み潰しながら叫んだ。

 

どいつもこいつも守護という神を追って……。それすらも大いなる意志という強き神が作ったシナリオだと聞いて……

 

そんな操られた生き方で良いのかよ…!人は善くも悪くも自由を追い求めるものじゃないのかよ!

 

オレは神に縋り、神を降ろした……あるいは降ろそうとしている人間達の顔を脳裏に浮かべながら歯を食い縛った。

 

口に鉄の味が広がる。だが、それがどうした?

 

オレにとっては、この身をかきむしりたいほど黒く、蛇のようにのたうつ憎しみのほうがよっぽど大きい!

 

「殺してやるぞ……!氷川!」

 

この災厄を世界に顕現させた男に、オレは叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウラクチョウ坑道を抜け、ナガタチョウに着くとオレはトウキョウ議事堂に駆け込んだ。

 

トウキョウ議事堂……日本の政治の中心となっていた偉大なるこの建造物は今もなお、その威を放っていた。

 

だがその威の中に、異物の気配。

 

オレはエントランスホールの周りを見渡した。

 

周囲にいる悪魔はすでにナガタチョウを占拠している形で布陣していた。ニヒロ機構の悪魔は夜魔・堕天使などのボルテクス界で俗に言われるDARKと呼ばれる悪魔がちらほらいたからだ。

 

だがトウキョウ議事堂内部に入ってすぐに侵入者排除には来なかった。オレもシジマに属していると思われているのだろうか?

 

だが、外に戦力の大部分を残しているのはどういうことだ?そしてそれが守備として動かない訳とは……

 

オレは疑問を浮かべては消しを繰り返しながら、西議院に向かおうとした。

 

だが、そこで邪魔が入った。

 

「むぅん‼」

 

「おっと……!」

 

どこから現れたのか、赤茶色の肌をした巨人が手に待つ炎を纏った剣で斬りかかってきたのだ。

 

オレはその攻撃をかわし、マガタマを【ゲヘナ】に変えて炎に耐性をつけた。

 

「やっぱり何かしらいるか……っていうか自分達の仲魔だって判断もしないのかよ」

 

「これより先に進むは総司令の信頼を得た悪魔のみ!それ以外はたとえ我らの同胞であっても斬れとの命令が降されているのだ!」

 

「あぁ、そうかい……」

 

そこで外にいる悪魔がうろうろしているだけなのか分かった。

 

ここにいる悪魔はニヒロ機構最大戦力の悪魔。それに絶対の信頼をもっているのだろう。

 

だが、この程度で最大戦力ならニヒロも脆いものだ。これでは上位魔人にも及ばない。魔人ではないがベルゼブブと比べたら霞んでしまう。

 

オレはフンと鼻を鳴らし、仲魔を呼んだ。

 

まずティターニアが相手の戦力を下げる魔法を唱える。

 

クイーンメイブがオレ達の戦力を上げる魔法を唱える。

 

そこで巨人…魔王 スルトが動いた。

 

【デクンダ】

 

短くその魔法を唱え、自身にかかった弱体化魔法を解除するとスルトは剣を振り上げ、叫んだ。

 

「【ラグナロク】!」

 

瞬間、クイーンメイブに超高温の火炎弾が飛んだ。

 

「甘いわねぇ!」

 

しかし歴戦なのはクイーンメイブも同じこと、ケガをしないギリギリを見切り、かわす。

 

「ぬっ!やりおるわ!ならこれなら……」

 

スルトは剣を再び振り上げ、魔法を唱えようとして……目をガクンと体勢を崩した。

 

オレがスルトの後頭部を指で貫いたからだ。

 

どうも『物理に強い』ようだがパワーを一点に溜めれば貫くことぐらいなら出来る。

 

だが、まがりなりにも魔王を名乗る悪魔はそれで死なない。すぐに体勢を立て直し、振り向き様にオレを斬ろうとする、が。

 

「遅ぇ」

 

オレはスルトに埋め込まれた指先から氷結魔法を放った。

 

【絶対零度】

 

その魔法を唱えた瞬間、スルトの頭部は一瞬で凍りついた。

 

そして内部から凍ったスルトの頭を殴り、砕くとオレは軽々しく着地した。

 

頭を失ったスルトはグラリと体を傾かせ、地面に着く前にその体をマガツヒにして爆散させた。

 

「相変わらずエグい戦いかたするわねぇ…」

 

クイーンメイブが声を震わせていった。

 

「これぐらいやらなきゃやってられねぇよ、元人間にとっては」

 

これは真理だと思う。圧倒的パワーを手にしたとはいえ体躯は小さく、強力な爪も牙も持たないオレは正面戦闘で殴り合い、斬り合いなんて向かない。

 

小さいこと。それを活かし、懐に飛び込むなり背後に回るなどして急所をついてさっさと終わらせる。それで良いだろう。

 

オレはスルトのマガツヒを仲魔と分け合い、食い尽くすと先へ進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トウキョウ議事堂はニヒロ機構の手で迷宮と化していた。

 

だまし絵。ワープトラップ。それを最大限に利用した伏兵の設置。時間稼ぎなのはバカでも理解できる。

 

だからこそ、憎たらしい。だからこそ……

 

「忌々しい!忌々しいんだよ!テメェらは何から何まで‼」

 

「グオッ⁉」

 

オレは棺桶に入った悪魔、魔王 モトを電撃魔法で砕きながら叫んだ。

 

このモトは迷宮に加えてさらに道を閉ざすというイラつく小細工まで施したばかりか、自分を倒さなければ進めないという小細工まで張っていたのだ。

 

また、このモト自体、電撃魔法と万能魔法以外まともに通用しないという厄介な体勢を持っていたのだ。

 

このままでは守護を降ろされてしまう。急がなければいけないのに……!

 

「退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ねよおおおおォォォ‼‼」

 

「グワァアアアアアア⁉」

 

オレは本会議場に現れた魔人 ミトラを呪詛とともにバラした。

 

どいつもこいつも弱いくせに邪魔をする。ヨスガの気持ちも分かる気がする。

 

だがそれも今となっては憎たらしい。いずれあのバアル・アバターとやらも殴り飛ばしてやる。

 

だが今は氷川だ。

 

オレは本会議場を抜け、その先にあったエレベーターに乗り込み、先に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トウキョウ議事堂6階。その最奥に氷川はいた。

 

そこにはもう一人、居てはならない人間もいた。

 

「祐子先生……」

 

先生は、まるで自らの夢が断たれたような絶望した顔をしていた。対する氷川は、先生に向けて嘲笑うように顔をあげていた。

 

「……あなたは、まだ分かっていないのか?自由とは名ばかりの欲望こそが世界を堕落させたのだ。自由? 可能性?本気で信じているなら、なぜ創世など望む?かつての世界にうんざりするほどあったはずだ。なぜ元の世界で成し得なかったのかね?」

 

「…それは……」

 

反論しようにも、出来ないのだろう。その言葉は確かに事実。それを祐子先生は知っている。

 

その様子に氷川は嘲りと呆れを混ぜた言葉を祐子先生に投げ掛けた。

 

「生徒を送り込んだのもそうだ。何を期待していたのかね?自分がやらないことを彼らがやってくれるとでも?

それとも、同じ挫折を味あわせてみたかったか?」

 

そんな言葉を言われても、祐子先生は反論のはの字もしなかった。

 

「……なぜ、あなたがコトワリを啓けないかわかるかね?あなたは、ただ逃げ出したかったのだ。あなたは本当は自由なんか信じていないんじゃないかね?」

 

「ッ!」

 

「………」

 

先生はその言葉に崩れ落ちた。

 

それが答えなのだろう。自由を望んで自由を殺した理由はそれが最も正しく感じた。認めたくないが。それが本心なのは反論の余地もなかった。

 

その時、崩れ落ちた祐子先生の体から何かが立ち上るように現れた。

 

祐子先生と同じ姿をし、だが顔がシミのようなものによって塗りつぶされた異界の神……アラディアだ。

 

アラディアは目の無い顔を氷川に向け、言葉を投げ掛けた。

 

「人の子よ…そなたがシジマを望むのもまた自由なのだ…」

 

氷川はアラディアの姿を見て、忌々しそうに顔を歪めた。

 

「その姿……異神アラディアか。おまえが祐子についた神だったとはな。だが、この結界の中では何も出来まい。おとなしく我が守護の降臨を見ているんだな」

 

アラディアはその言葉に絶望するわけでもなく、ただ淡々と言葉を紡いだ。

 

「…もはや、この地は消滅するのみ。女よ、新たなる地へ、共に赴かん」

 

アラディアの言葉にしかし祐子先生は否定した。

 

「私は…行かない……行かないわ。氷川を止めないと……元の世界も…新たな世界も死んでしまう」

 

祐子先生の否定の言葉。アラディアは淡々と祐子先生に告げた。

 

「女よ、かの地にて待たんや。希望こそかの地への道なり」

 

その言葉を最後に、アラディアの姿は失せた。

 

希望が……失せた。

 

氷川はそれを見てフンと鼻を鳴らした。

 

「憐れな人だ。ニセ神にだまされ、最後には捨てられたか。間もなくこの空間は虚無に飲まれる。せめて神への生けにえとなり己が役目を果たすがいい……

 

「させるかよ‼」

 

オレは氷川の言葉についにキレた。火炎魔法を唱え、氷川に飛ばす。

 

だが、それは赤い蛇のような悪魔に止められてしまった。

 

氷川は驚愕した。ここまでこられた存在に、予想もしていなかったのだろう。

 

「誰だ!!…ほう、人修羅が我が結界に入っていたか……何を思ってここまで来たのか知らんが……私は、君と争おうとは思わん。おとなしく、そこで見ていたまえ……」

 

「そうはいくかよ……!」

 

オレは氷川の言葉を一蹴し、力を解放した。

 

氷川はオレの敵意を受けても、一切の怯えを見せなかった。

 

「君には失望したよ。女の誘惑に落ちるとはな…今まで泳がしていたが、消えてもらったほうが良さそうだ。我が忠実なる下僕、サマエルが君を始末してくれるよ」

 

氷川がそう言い、パチンと指を鳴らすと赤い蛇の悪魔……邪神 サマエルが襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 



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消えた希望


このサマエルという存在はなんなんでしょうね?

悪魔?堕天使?少なくとも良い存在ではないでしょうが……




 

サマエル。一見天使のような名前だが、その存在は堕天使に近い。

 

名の意味は『神の悪意』。天使のカマエルと同一視されることも、また大魔王サタンとも同一視されることもある存在。

 

どちらにしても嫌な存在だ。カマエルは光の存在でありながら悪魔に例えられてしまうほど残虐だし、サタンは言わずもがな、である。

 

その天使だか堕天使だが分からない半端者のサマエルは力だけは半端じゃなかった。

 

「【メギドラ】」

 

「ちぃ……!」

 

飛んできた万能魔法をオレは紙一重でかわした。カウンター気味に【破邪の光弾】を放つがサマエルはそれをかわす。

 

蛇のようにスルスルと宙を飛ぶサマエル。こんな奴に苦戦するほどオレは弱かったか?

 

「否だ!お前よりも……!」

 

神への復讐を夢見た魔人やアマラ深界の悪魔達の方が怖かった。

 

あの圧倒的な存在感を振り撒く、ダンテのほうが怖かった。

 

その存在と戦い、生き残ってきたオレにとってはお前なんか……

 

「ゴミなんだよ!邪魔するなァアアアアア‼」

 

オレは叫びながら飛びあがり、足を突きだした。

 

「甘い!」

 

サマエルは好機と見たのだろう、メギドラを放ち、オレを撃たんとする。

 

オレは向かってくるその魔法を、

 

【地獄の業火】で相殺させた。

 

魔力だけでなく、生命力をも燃やして放った【地獄の業火】はメギドラを消しとばし、その威力を散らした。

 

体が悲鳴をあげるが、気にしてられない。オレは散った威力で怯んだサマエルの頭に飛び付いた。

 

「なっ、何をする!離せ!離せぇ!!」

 

サマエルが混乱して頭を振る。オレはしがみつくために手足を使った攻撃を封じられたというわけだ。

 

しかし攻撃は手足の振りだけで行うものか?

 

さぁ、死ねよ?

 

「【マグマ・アクシス】!」

 

オレはしがみついたその腕でマグマ・アクシスを放った。

 

オレの腕が消し飛び、サマエルの頭がそれと同時に吹き飛んだ。

 

地獄のような激痛が体を襲うがオレは首を無くしたサマエルに笑った。

 

「腕二本で命一個か。いい買い物をしたぜ」

 

それが合図だったかのように、爆音を轟かせ、サマエルは吹き飛んだ。

 

オレの方は地面に叩きつけられる前に、何者かに受け止められた。

 

クイーンメイブだった。

 

「もう!また一人で無茶をして‼なんで私を使わないのよ!」

 

「あぁ……悪い……」

 

どうも憎しみのまま暴れると一人で突っ走ってしまう癖があるようだ。危ないと知ってはいても……昔からそういうのは一人でやっていたからか誰かを使うという概念が未だにない。

 

だが、止まってはいられない。このままでは祐子先生が虚無の空間とやらに落とされてしまう。その時がシジマの守護の降臨だ。

 

そしてその時こそ、オレの希望が完全に潰える時だ。

 

オレは回復してもらうとすぐ、震える足で立ちあがり、氷川を睨んだ。

 

激戦のなか、結界という安全圏で傍観していた氷川は、おぞましい物を見るような目でオレを見ていた。

 

「サマエルもただの時間かせぎか。大した化け物だよ、君は。だが、もう遅い。我が守護の降臨は止められん」

 

「何?」

 

オレは眉をひそめるとある物を見つけた。

 

氷川のそばには巨大な箱がある。そこからは、大量のマガツヒの気配を感じられた。

 

まさか、あれが……!

 

オレは結界に攻撃し、なんとかして氷川のもとへ向かおうとした。

 

だが結界は予想以上に硬く、ヒビすら入らない。

 

そうしている間に、氷川はマガツヒが詰められた箱を開けた。

 

大量に放たれるマガツヒはまるで導かれるように上へ上へと流れ、氷川もそれに導かれるように浮かび上がった。

 

そしてマガツヒがたどり着いた先に、巨大な悪魔が現れ、氷川はそれと融合していった。

 

そしてそれが降臨すると、結界内部にあるものが全て虚無の海に沈んだ。

 

トウキョウの中心となった議事堂。その威を示した物の数々が、虚無に沈む。

 

そして祐子先生も……

 

「祐子先生ッ!」

 

オレが叫びながら手を伸ばすがそれも無慈悲に結界は阻んだ。

 

祐子先生は受胎が起きたあの時のように、眠るような表情のまま、消えていった。

 

「あ……あぁ……!」

 

希望が、消えていった。

 

そして降り立った守護。氷川は、その頭部に埋め込まれていた。

 

上半身のみを覗かせた氷川は、大仰に両手を広げ、告げた。

 

「見よ、我は得た……偉大なる虚無の神、アーリマンの力を。神の導きにて、我は創らん。新たなる世界を。 静寂なる王国を。

永遠なる繁栄を成すは我が力のみと知れい……」

 

その言葉をオレのみになった空間に残すと、守護……アーリマンは消え去った。

 

オレは、その姿が失せるとともに。事実を認めるしかなかった。

 

もう、あの世界には戻れない。戻れないのだと。

 

あぁ、死んだ。希望が、死んだ。

 

「─────────────────ッ!」

 

声にならない叫び声を挙げた。胸中に弾けた絶望に体をかきむしり、血を流した。

 

そして目の前が真っ赤になり、オレは一際激しく体を抉り、血を吐いて意識を捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なにも見えない視界の中、その中で祐子先生の声が響いてきた。

 

「………零時君……零時君………もうここでは、可能性の芽はつまれてしまったわ……けれど、ここではないどこかに…きっと自由の世界はあるはず……

私にはできなかったけれど…零時君、あなたなら……自分の意志で進めると思う…

これを使って…あなたの意志で…世界を…創るのよ……

アマラ神殿……アマラ神殿に急いで………これがきっと…カグツチへの道を拓いてくれるはず……

創世のための……最後の場所へ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたが望むなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あなたの望む姿の…自由な世界も……出来るはずよ……」

 

そして自分の手に、何かを握らされる気配がして。オレは再び意識を失い、なにも分からなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いじ………零時………零時ッ!」

 

「ッ!」

 

体を揺すられる感覚とともに、オレの意識は覚醒した。

 

場所はターミナルのある部屋のようだ。オレはそれをぼやけた意識でそれを確認するとゆっくりと上体を起こした。

 

体には、一切の傷はなかった。きっとクイーンメイブやティターニアが回復してくれたのだろう。

 

だが、礼を言う気力はなかった。オレは先程あったことを思いだし、再び涙した。

 

その時、体に違和感を感じた。この鈍い感覚は、物置き空間に何か入れた時の感覚だった。

 

だがオレは何かを入れたわけではない。オレは重く沈んだ意識の中、それを確認しようと思い、物置き空間を覗いた。

 

雑多に並んだ物の数々、その中に、微かに光る石があった。

 

それを拾い上げると、オレはその正体を知ることが出来た。

 

ヤヒロノヒモロギ。祐子先生の創世のためになると信じた代物。だが決して役には立たなかった石。

 

そして、彼女が夢の中で渡した。創世のための石。

 

だが、そんな……そんな物を渡されたところで、もはやあの世界に戻るコトワリは存在しない。

 

こんな物を渡されたところで………ッ!

 

「何になるんだよぉ………!」

 

その石を握りしめながら、オレは嘆き、泣き叫んだ。

 

「零時……」

 

クイーンメイブは、そんなオレを抱き締めてくれた。オレは年甲斐もなく、それにすがった。

 

暖かい。とても悪魔とは思えないほど暖かい。

 

だが、それが何になるわけでもなく、ただただ虚しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 





次回、零時君崩壊。


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憎悪を背負う


今回、半分以上オリジナルになります。


 

オレが今いる場所はアサクサターミナル。もはや見るものもいなくなったアサクサの街は野良悪魔の巣穴となっていた。

 

現在、創世の覇権を争っている三つの勢力はボルテクス界をうろうろしているか、傘下に入っている悪魔が小競り合いをしている状態にある。混沌に沈んだこの世界は、戦乱にまみれた。

 

そんな中で、シジマもヨスガもムスビももはや意味をなさない街なんざ見向きもしないだろう。安全はほぼ確保されているというわけだ。

 

「…………」

 

オレはターミナルをいじり、ボルテクス界を、あるいはアマラ経絡を覗いた。

 

先生が死に、あれから何日たったのだろう?少なくともカグツチが数十回は煌天と静天を繰り返したろう。

 

その間、オレはただターミナルを使い、こうやってただぼんやりと世界を見ていた。

 

使い方は使っているうちに分かってくる。使い方を一通りマスターすれば、ターミナルは転送装置のほかに知識の宝庫となった。

 

例えば、創世のルール。

 

滅びを迎えた世界は混沌に沈み、悪魔が跋扈するようになった。

 

生き残った人間はその地獄の中で『自分なりの』真理を見つけ、その思想をコトワリとして成し、その思想を現実の物としてくれる守護という悪魔を降ろす。

 

しかし創世はこれでおしまいではない。最終決戦があることが分かった。

 

守護を降ろしたコトワリをカグツチに適用させるための試煉。それを超え、カグツチに謁見出来た者が創世できるのだ。

 

そのための道を拓くのがヤヒロノヒモロギ。

 

これをアマラ神殿の中枢に置くことで、カグツチが自らに謁見せんとする者のための道を作り出してくれるという話だ。

 

奇しくもオレは、創世の最終決戦のスタートを告げる役目を担っていたということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそれが何になる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

創世の最終決戦を初めて、神が望んだ秩序ある世界を創れと?元の世界とはかけ離れた人間像が当たり前となった世界を諦観と失望の中生きろと?

 

ヨスガのように、弱きを敵としろと?

 

ムスビのように、孤独を幸としろと?

 

シジマのように、沈黙を是としろと?

 

アマラに散りばめられた宇宙の中で、何度も行われた破壊と再生の連鎖を受け入れろと?

 

受け入れられるわけがないだろう!

 

「アアアアアアアアアアッ!」

 

オレは嘆き叫び、自らの脇腹を穿った。

 

鮮血が飛び、どす黒い液体が床や壁を濡らす。

 

二度、三度。オレは自らの体を傷つけ、どうしようもない憎悪を晴らそうとした。

 

だが所詮それは一過性。しかも憎悪が収まったところで胸を裂くような虚しさがオレを襲う。

 

「ううぅ………!」

 

痛い。痛すぎる。

 

傷が?否。心が、だ。

 

この凄まじいまでの憎しみを向ける先はある。大いなる意思。この創世のルールを作り出した傲慢者。

 

そのための道はすでに用意されている。今すぐアマラ深界に行き、神との戦争を始めれば良い。

 

だが………勝てるわけがない。

 

オレを勝負でなんとしても勝ちたいと思える原動は敗北への恐怖。裏を返せば、勝てない戦いは避ける。

 

憎しみに走り、その果てに負けるなんて……無様で滑稽ではないか。

 

敵はあの大いなる意思。万物を掌で踊らせる最強にして至高の存在。

 

アマラ深界の悪魔は、オレを認めればオレの号令一つで立ち上がると約束しているも同然。だが、それで勝てるか?

 

頭で判断はできない。オレは大いなる意志を見たことも、感じたこともないのだから敵を判断することはできない。

 

が、オレの勘は負けると判断する。

 

死に近い存在、魔人故に神に勝てるのだろう。だからこそ、オレは未来に存在する死を感じ取れる。戦いの時、オレの感じる感覚の正体はこれだ。

 

敵の未来。そこに存在する死をオレは薄々感じていたのだ。

 

だからこそ、恐れない。心の隅でその死を理解していたからこそ。心のどこかでオレはその死を敵にくれてやる執念に絶対の自信を得ていたのだ。

 

だが、その自信もない。

 

………力だ。

 

すべてを、踏み潰し、殺しきる絶対の力が欲しい!

 

もはや失う物もない。命を差し出せというのなら喜んで差し出そう。

 

それで、神を殺せるのなら……!

 

それでこの憎しみ晴れるのなら……‼

 

ヴォン……

 

「ッ!」

 

オレの耳に、確かにそんな音が聞こえた。

 

ハッと顔をあげると、ターミナルが触れてもいないのに回転していた。

 

黒く光る円柱状のオブジェは静かにクルクルと回り、黒い光を点滅させていた。

 

……呼んでいる。何故かそう感じ、オレは血に濡れた手でトンと手を置いた。

 

すると場所も指定していないというのに、オレの体は引っ張られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか、オレは砂漠に立っていた。

 

ボルテクス界のどこかか?と思ったが違う。空に、反対側に存在する大地が見えない。

 

ただ、黒のインクを塗り潰したような闇が、オレの頭上に広がっていた。

 

「………………」

 

オレは気配を探って、察した。

 

この世界には、何もない。

 

人間はおろか、悪魔の姿もない。

 

雰囲気としては、魔人の空間と言ったほうが良いか。だが、この世界の雰囲気には魔人特有の死の冷たさもない。

 

本当に何もないのだ。空っぽの世界が現実にあるとするなら、こんな感じだろう。

 

ここにあるのは砂漠と、あちこちに刺さった石。

 

これは………墓場?

 

『神に反逆した君の先輩の墓場だよ』

 

「…………へぇ」

 

不意に聞こえたゾクリとするほど冷たい声。感じる濃密な死の気配。

 

この感じは、アマラ経絡に落ちた時に会ったあの黒い影の存在。

 

しかしもはやオレの心には恐怖する余力もない。オレはただ相槌を打って振り返った。

 

そこにいたのは、長い髪を揺らし、冷たい目をした少女だった。

 

不思議なことに髪の色が白から黒、黒から白とひっきりなしに変化し、瞳の色も黒、金、赤とコロコロ変わっていた。

 

その少女はオレから一番近い墓場に近づき、そっと触れながらオレに言った。

 

『人修羅はキミだけじゃない。東京受胎で全てを失い、堕ちた天使に悪魔の力を授けられてボルテクス界を生き、世界を創り、または破壊する。その物語は、様々な道が存在し、たどり着くエピローグもまた違う。キミはその物語の主人公の一人』

 

「………平行世界の話か」

 

ともすれば、オレの立場を演じる名も知らぬ人修羅が今も地獄を生き、また別の人修羅は答えを出し、創世を成したか、あるいは世界を壊したか。

 

またはすべての答えを知り、オレと同じように神に反逆したか。

 

…………【先輩達の墓場】か。

 

「この墓場はどこかの平行世界で………神に反逆して討ち死にした人修羅の墓ってことか?」

 

『察しが良くて助かるよ。まぁ、骨が埋まっている墓場なんてどれ一つとしてないけどね』

 

少女はクスクスと笑った。暖かく感じるはずの優しいその笑みは、とても冷たく思えて仕方がなかった。

 

『大いなる意志に逆らった存在は永遠に呪われる。その生を永遠とする呪いだよ。そして永き永き戦いの道を歩ませ、償いを永遠に行わせる。死という漠たる安息はそこにはない…………例え、混沌王として死んでもね」

 

オレはその言い回しに引っ掛かりを覚えた。そいつが死んでも、惨めな生を再び与えられ、また苦しめる。そんな話を聞いたことがある。

 

それは………それは………

 

「ヒジリ?」

 

かの男はかつて生きていたときに犯した罪により。死んでも記憶を無くされ、また生かされる。そんな永遠とも言える罰を受けている。

 

そしてそのような罰を受ける程の罪。オレは1つしか思い浮かばない。

 

大いなる意志への、反逆。

 

あれは敗北し、無力になった人修羅の……混沌王の成れの果て?

 

その答えが正解だったのか、少女は笑った。

 

オレは胸中に走る黒い憎悪をゴウッと燃やした。煉獄の炎となるその想いは、決して晴れることなどないというのに。

 

それを理解し、虚しさに襲われつつもオレはただ少女に問うことしか出来なかった。

 

「なら、お前は何者だ。なぜ全てを見たような言葉を吐く」

 

『フフッ。何者か、か………それを問われる日が来るとは思わなかったよ』

 

少女はオレに向き合った。その顔は、いつの間にか髑髏になっていた。

 

「…………魔人か?」

 

そういうと少女の顔がもとに戻った。なぜかブスッとした表情で。

 

『あんな、たかが死の一面か二面しか存在に織り込めなかった出来なかった低俗な奴等と一緒にしないで」

 

「それをたかがと言うか……」

 

マタドールやだいそうじょう。ヘルズエンジェルはともかく黙示録の四騎士、マザー・ハーロット。そしてトランペッター。

 

どれも人間を世界レベルで滅ぼすような力を持つ。化け物中の化け物。

 

それをたかがと言い、そして死の一面、二面しか持っていないというのなら。目の前の存在の答えは………

 

「死、そのもの?」

 

オレの出した答えに、少女は意地の悪いの笑みを浮かべた。

 

『当たり……と言いたいけどそれじゃ三十点かな……』

 

少女はクルリと回りながら説明した。

 

『私はここにいる人修羅達を魔人たらしめていた滅びの概念そのもの。永きに渡り、あらゆるモノを壊し、殺し、終わらせた混沌王達の力そのもの。たしかに死そのものだけどその一部にまで昇華した存在、としかまだ言えない存在』

 

「ふぅん……」

 

少女の説明にオレは気の無い返事を返した。

 

『ふぅんって随分と反応の薄い返事だね。私、このままキミを殺すことも容易って分かってる?』

 

「好きにしな。それでもいいやと思えることがあったのなんて知ってるだろう?ありとあらゆる人修羅を見てきたのなら」

 

『まぁ、そうだけど……』

 

ポリポリと頬を掻くその姿は人間の女そのもの。だがこの存在が一部とはいえ滅びそのものなのは魔人であるオレには分かる。

 

だがオレはそんな奴と話をする気でここに来たわけじゃない。オレはイライラとかかとを鳴らした。

 

「で、オレをここに呼んだのはなんのためだ?まさか偉大なる【滅び】様がオレと世間話って訳じゃねぇだろう?」

 

『当然。キミに頼みたいことがあるんだよ。愛するキミだけに、頼めること』

 

滅びの少女は艶かしく目を細め、そういうとオレの耳元で囁いた。

 

『私になって………大いなる意志を殺して欲しいの』

 

「………ッ!」

 

オレは目を見開いた。

 

『大いなる意志は死に背いた。どんなものでも終わりは来るというのに……それが存在する全てのモノ達の義務であり、制約であるのに……』

 

続く言葉はゾッとするほど冷たかった。

 

『大いなる意志。この存在は死に、滅びに、終わりに逆らった。然るべき報いを受けさせなければいけない』

 

「………なるほど」

 

たしかに死そのものからしたら永遠と生き、世界を牛耳る大いなる意志は目の敵にするか。たとえ混沌王達の力から生まれた死でも。死であるが故に大いなる意志を憎む。

 

オレはそれを理解し、少女を絞め殺す勢いで抱いた。

 

「なら、ならオレに力をよこせよ。オレが求める。全てを殺しきれる力を!」

 

オレの口から漏れ出る怨嗟の声。少女はそれを、まるで美しい音楽を聴いたときのように身を震わせた。

 

『あぁ!それでこそキミだよ‼どんなものでも憎み、どんな手を使ってでも敵を踏み潰してきたキミに私は惚れたんだよ‼』

 

恍惚、狂喜。そうとしか取れない声をあげて少女はオレを抱き返した。

 

『そんなキミが縛られない存在である人修羅になれて本当に良かった………キミならなれる。大いなる意志すら殺せる死神に……!』

 

少女はそういうとオレから手を離した。オレもつられるように離した。

 

『今からキミと同化する。零時、私を食べて。それがキミという存在を滅びそのものに昇華できる、手っ取り早い方法だから』

 

「……大丈夫なのか?それ」

 

一部とはいえ滅びそのもの。そんなものと融合するなんて、生物たるオレに出来るとは思えない。

 

少女はそんな心配をするオレに凄絶に微笑んだ。

 

『失うことなんて……もう無いんでしょ?』

 

「……そうだったな」

 

オレはフッと笑うとトンと少女の肩に手を置いた。

 

「……覚悟はいいか?」

 

『キミこそ。あ、そうだ』

 

少女はそういうとオレの手に自らの手を置いた。

 

冷たいその手を見ながら、オレは少女の言葉を待った。

 

『私を食べると滅びがキミを蝕むだけじゃない。混沌王として戦った人修羅達の全ての心を体験することになる。私は混沌王の全てを引き継ぎ続けた存在でもあるからね。心を強くもたないと壊れちゃうから気をつけて』

 

「……はいよ」

 

散っていった混沌王達の心。どれだけ苛烈か。

 

それは、喰えば分かるか。

 

オレはそう心で呟くと。

 

少女の喉を一切の容赦なく食いちぎった。

 

噴き出す血は黒い。否、これは血ではなく死の概念そのものか。脳裏でそう思いながらオレは少女を喰らい続けた。

 

その半ばでオレの体が悲鳴をあげた。

 

死だ。死の苦しみが具現化してオレの身を苛んでいるのだ。

 

だがそれに構わずオレは少女を、滅びを喰らう。その度にオレの体が痛み、傷つく。

 

オレは涙した。痛みに?否。

 

頭に流れる、混沌王の負の感情にだ。

 

どの混沌王も、全てを失い、友が狂い、希望を否定された。そして大いなる意志を憎んだ。

 

これほどの悲劇あり得るや?全てを失い、全てを壊し、戦いを積み重ね、犠牲を積み上げても大いなる意志に及ばなかった無念と憎悪、そして悲哀の数々。

 

あぁ痛い。胸が、オレのものでない憎しみに、怒りに、そして悲しみに張り裂けそうになる。涙が溢れて止まらなくなる。

 

オレは一心不乱に少女を喰った。食う度に流れる感情と痛みの数々に無音の叫び声をあげながら。

 

少女は終止無言だった。ただ微笑んでオレを見ていた。

 

オレはそれに反応せず、ただ少女の身を喰らい尽くした。

 

そして最後の一片を喰った時に、もはやいないはずの少女の言葉が響いた。

 

『おめでとう。キミは混沌王を越える存在になった』

 

『私の、僕たちの憎しみを背負ってキミは戦って』

 

少女の言葉が、だんだん女らしさを失う。だが男になりきったわけでもない。

 

これは、死んだ混沌王達の声か?

 

それはもはやいないはずの存在。だが、オレにはハッキリと聞こえた。

 

『僕たちの力を、想いを背負って………大いなる意志を……殺して……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おねがい………!』

 

『頼む……………!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………」

 

オレは痛む体を全く気にせず無言で立ち上がった。

 

オレは無音で泣いていた。混沌王達の悲劇に、心が血を噴く。

 

痛い。痛いぞ大いなる意志。

 

お前はその傲慢ゆえにこれほどの憎しみを、悲しみを生み出した存在だ。

 

そんな存在、お前は……お前だけは………‼たとえすべてに変えてでも。

 

「殺すッ!殺してやるぞおォォォォォォォォッ‼‼」

 

闇しか広がっていない空に、オレは叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





えぇ、一応あの少女についての補完になります。喪服の女の言葉を聞くように聞いてください。

少女は平行世界、大いなる意志に挑んだ混沌王達の思念と混沌王達を魔人たらしめていた死と滅びの概念から生まれました。

零時君を愛した理由は自らの意志を継げる存在であったため。

零時君は生まれつき何かを模倣する能力に長けており、それは零時君が何かに染まることにかけて天才であったからこそだったのです。

そして零時君の敵に対する憎悪。

だからこそ死そのものにまで昇華した少女は零時君に自らを喰わせても死なない存在の零時君に心から感動し、またその心の在り方を愛したのです。

本文で説明しきれない文才のなさをお許しください。

次回から零時君が最強になります。お楽しみに!

では、また次回に会いましょう……





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悪魔の契約

 

ドガァン!という音とともにオレはアサクサターミナルの扉を蹴り飛ばした。

 

辺りに響く轟音と悲鳴。悲鳴のほとんどは仲魔のものであるが、そんなことに構っていられる心の余裕はない。

 

「戻ってこい!お前たち!」

 

オレが怒鳴るとクイーンメイブを筆頭とした仲魔達は戸惑いながらもオレに近づいてきた。

 

「どうしたのよ零時……って何よその傷⁉」

 

クイーンメイブはオレの今の姿を見てギョッとしたような声で叫ぶと回復魔法を唱えた。

 

傷が治り始めるがいつもよりそのスピードが遅い。当然だろうか。破滅そのものになった混沌王達の心の傷を現実になるくらいに受け続けたのだ。むしろ治ったことに驚くぐらいだ。

 

そもそも肉体の傷など痛くない。混沌王達の、あの心の闇に比べれば肉体の傷など如何な意味があろうか。

 

オレは治りつつある自分の体を見てそう鼻を鳴らしながら思うと、仲魔に向き直った。

 

「全員、一度しか言わないからよく聞け。オレはあの車椅子の老紳士の計画に乗る」

 

そう言うと仲魔達はピクリと体を揺らし、しかしそれも当然かと思えたのかすぐに平常心を保った真剣な顔をきた。

 

「今からオレはアマラ深界の第5カルパに行き、大いなる意思のクソカミサマをぶっ潰す約束をしにいく」

 

オレはそう言いつつ仲魔達を見つめた。

 

「お前らは、どうする?それをした瞬間、ついてきたお前らも運命に逆らった反逆の証をつけられる。永いの戦いと苦しみを背負わされることになるだろう。

どうする?それが嫌なら契約を解除し、自由にしてやるが」

 

オレは仲魔達に向かってなんのためらいもなくそう言い切った。

 

仲魔達はオレを主と認める契約を仲魔との交渉に、あるいは悪魔合体で生み出されたときから結んでいる。それをオレが解除しようとしない限り、仲魔はオレのそばを離れられない。永遠にオレの味方をしないといけない。

 

一緒に戦ってくれるなら心強い。だがこの反逆は他の混沌王の意思を継いでいるとはいえ復讐という自己中心的行動。

 

仲魔達を強制的に巻き込むなんて、したくなかった。

 

仲魔達は瞠目したり、他の仲魔達と目配せするとクスリと笑った。

 

「何言ってるのよ。私、あなたと供にここまで来たのよ?着いていってあげるわよ。地獄までも、ね」

 

クイーンメイブが堂々とそういうと仲魔達も同調するようにうなずいた。

 

「お前もか?ソロネ」

 

オレは仲魔の一人、炎を灯した車輪にしがみつく黒衣の天使 ソロネを見た。

 

天使の階級の中で三番目となる【座天使】という意味の名をもつソロネは当然神の忠実なる駒。オレはその存在に声をかけるとソロネは微笑みながら答えた。

 

「私の主はあなたです。それに………私は天使という種族の悪魔ですよ?」

 

その言葉にソロネの言わんとすることを察しながらオレはフッと笑った。

 

「決意は硬いか?」

 

今一度そう言うと仲魔達は頷く。その目に、恐怖はなかった。

 

オレはありがとうと内心で呟くとターミナルに向かって歩いた。

 

行こうか。神に反逆せんとする。堕ちた天使が統べる地獄に。

 

オレは憎悪と怨念の炎を猛らせながら、ターミナルを回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アマラ深界第5カルパ。今の今まで大事に持っていた【王国のメノラー】を台座に配置してその道を開いた。

 

さて、どんな悪魔が潜んでいるのやらとオレは膨大な魔力をたぎらせて進むと、

 

意外な先客がいた。

 

「…………またオレを狩りに来たのか?ダンテさんよぉ」

 

目を細め、弱い悪魔ならそれだけで死ぬ気を放つと赤いコートを着た男が両手を大仰に広げながら暗がりから現れた。

 

「そうおっかない声をだすなよ。ただ話をしにきたんだ。戦いに来たわけじゃない」

 

「……………」

 

その言葉を全く信じられない猜疑心とこれほどの気をぶつけてけろっとしている様子に沸き上がる怒りを抑えながらオレは無言で息を吐いた。

 

その様を『話しても良い』と受け取ったのか、ダンテは話を始めた。

 

「その様子じゃ目的はこの下にいるクソジジイに会うため、だろう?ここまで来るとはなかなかガッツある奴だ、とは思えるが………ここから先は火遊びじゃすまねぇ。下手すれば火傷じゃすまねぇぞ?」

 

「ご心配なく。そんな柔な生活を送ってるつもりもない。それに……力も手に入れたしな」

 

オレはニヤリと笑いながら全身に走る刺青から黒い影を少し出した。

 

それは過去の混沌王達を魔人たらしめていた死の概念の塊。それを身に取り込んだ今、オレの力・技・スピードは格段に上昇した。

 

もちろん、混沌王達から受け継いだのはそれだけではないがな。

 

「ふむ、なるほど確かに」

 

ダンテはその様を見て頷く。

 

「だが、戦力は持ちすぎても悪い、なんてことは無いだろう?」

 

「………何が言いたい?」

 

「分からねえか?」

 

ダンテはニヤリと笑いながら自分を指さした。

 

「オレを雇わないか、少年」

 

その言葉にオレは吹き出した。

 

「冗談だろう?魔人に……悪魔にデビルハンターを雇わせる気かい、アンタは」

 

「あぁ。最高のジョークだろう?」

 

そういってダンテはさらに深く笑みを浮かべる。

 

オレはダンテをまじまじと見つめた。

 

戦力として、ならダンテの力は信頼できる。何しろその力を目の前にしているのだから。そもそもダンテの底しれない力は今も同じくなのだ。

 

どんなに気を尖らせてもダンテが小さく見えない。どれだけの実力を秘めているのかと恐怖すら覚える。

 

それにダンテは純悪魔ではない。契約を守りはするだろうが自分の意にそぐわないのならあっという間に寝返るだろう。

 

はてさてそのリスクを考えるか、その力を欲するか……どうするか。

 

「いくらだ?」

 

取り敢えずダンテを雇うにあたっての金額を問う。金額を考えてからでも良いだろう。

 

ダンテはフムと考え込んだ。

 

「そうだな……目玉が飛び出るほどの料金を請求してやってもいいが……お前は特別だ」

 

ダンテはニイッと笑いながらポケットから何かを取り出した。

 

それはマッカではない、コインだった。

 

オレはそれを見てダンテの意図を察した。

 

「コイントスで決めるってか」

 

「Yes。お前が勝てば1ドル……いやここではマッカだったか?1マッカでいい」

 

「………負けたら?」

 

聞いてみるとダンテの笑みが意地悪くひん曲がった。

 

「お前の持つ所持金を山分けといこうか」

 

「…いい性格してるぜ」

 

オレはヒクリとこめかみを動かしながらそう言った。

 

オレは自らの強化のためとか腹いせとかそう言った理由でかなりの量のマッカを溜め込んでいる。

 

山分けでも良いが………こいつに負け続けるのも嫌になる。

 

「分かった。それでいこうか」

 

オレがそういうとダンテはコインを指に乗せた。

 

「なら選びな。表か裏か…さて、どっちを選ぶ?」

 

オレは瞑目し、考え、パッと決めた。

 

「表だ」

 

そういうとダンテはキィンという音をたててコインを指で弾いた。

 

コインはクルクルと回りながら空中に飛ぶと、重力に従って落ちる。そしてそれがダンテの目の前にまで落ちるとパッとダンテがそれを掴んだ。

 

そしてゆっくりとそれを開くと、ダンテは面白そうに鼻を鳴らした。

 

「表だな。ツイてるな少年。なら、特別価格の1マッカにまけてやろう」

 

オレは幸先の良い運の良さにいくらか胸を踊らせながら物置き空間から1マッカを取りだし、ダンテに放った。

 

ダンテは1マッカコインをパッと取ると、さぁ、と手を叩いた。

 

「これからお前がオレの依頼主だ。お前の名は?」

 

「………依頼主のプライバシーは守るポリシーはあるか?」

 

「フム、善処しよう」

 

なんともアバウトな答えにハァとため息をつくとオレは素直に答えた。

 

「魔人 夜藤零時だ。コンゴトモヨロシク……」

 

「零時か。良い名だ」

 

「……そうかぁ?」

 

ハッキリ言ってオレはこの名前が好きではない。オレが生まれたのが夜の零時だからその名前がつけられたと聞いているからだ。なんとも安直な名前だ。

 

オレはその時、過去の嫌な思い出も、今では懐かしく、だがもはや戻ることはないかけがえのないものだと理解した。

 

痛い。胸が、悲しみで痛い。

 

オレはその感情を一旦押し込んだ。

 

ダンテはギラリと目を光らせながら奥に向かって歩き出した。

 

「オーケイ零時。地獄の魔王様に会いにいこうぜ。土産に手下の首でもぶら下げてな」

 

ダンテはそういうとこれまでと違う、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「見せてもらおうか。神と悪魔の最終決戦とやらを……」

 

オレはその言葉に答えるように、歩き出した。

 

「見せてあげよう。血塗れの舞台でいいのなら、な」

 

きっとそう言うオレの顔は、ダンテに負けず劣らず獰猛だったろう。

 

そしてオレ達は歩き始めた。

 

地獄を、深く深く。

 

 

 

 

 

 

 





ダンテ、もっとカッコイイ感じに書きたい……。



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聖なる刺客

メタトロン戦になります。

ダンテがいたせいでこいつよりもベルゼブブに苦戦したのが作者の思い出……メタトロンもかなりチート耐性を持っていたのに……。




アマラ深界第5カルパ。そこは地獄と言って良い。

 

神話でも魔王・邪神レベルの悪魔。難解な迷路。どれをとっても凶悪の一言。

 

だが凶悪ごときではオレ達を討つには……

 

「脆い!」

 

オレは【ゼロス・ビート】で敵の群れをズタズタにした。

 

弾幕の濃さ、威力。どれをとっても段違いに強くなったこの技はここにいる悪魔の群れを一掃してなお、釣りがでるほど強力だ。

 

他方ではダンテがすばやい動きで敵を翻弄しながら銃と剣で敵を屠っている。その動きのキレ、技、速さ。どれをとっても圧倒的の一言。

 

もちろん仲魔達も強い。あの地獄を歩いてきたのだ。生半可な強さな持っていない。

 

この程度の場所。死のうと思っても死ねない!

 

オレは死の気を固めて敵に放ちながら先に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5カルパを進むと不思議な扉があった。

 

汝の真の友を我に示せという扉だ。それを示せば開くということだろうか。

 

だが真の友………オレの真の友……千晶、勇?

 

一瞬そう思うが首を横に振る。もはやあの二人を友などと語れまい。道を違えたときから、その言葉はあの二人に使えなくなった。

 

なら誰だ?オレの、真の友……

 

もしかして……

 

オレはふと思いだし、クイーンメイブを召喚した。

 

「どうしたの零時?」

 

首をかしげて問うクイーンメイブ。彼女はクイーンメイブになる前、オレの最初の仲魔だった。

 

小さく、それでいてかなり頼もしかった相棒ともいえるべき存在。仲魔が友なら、これを開けるのは……

 

「クイーンメイブ。これに触れてみてくれ」

 

「これって……うわっ、趣味悪い扉!私だったら即魔法で始末するレベルね……」

 

クイーンメイブはぶつぶつと扉に文句を垂れながら扉に触れると、

 

扉が歓声をあげた。

 

「おおっ!汝は真の友を持つ者か!通るが良い……」

 

その言葉を言い終えると扉はスルスルと開き、オレ達を中へ誘った。

 

何があるのだろうとその部屋を見渡すが、

 

「なんだ……何もないのか?」

 

真の友を鍵にするなんておとぎ話みたいなこと言ってまさかの空っぽ。オレは内心で落胆しながら去ろうとした。

 

その時だった。

 

クイーンメイブが驚きの声をあげた。

 

「どうした?」

 

オレが問うものの、クイーンメイブはオレの声に取り合わない。苦しげに身をよじる。

 

「何……!力が……溢れて……!」

 

瞬間、カッ!という音という音とともに雷がクイーンメイブの身を打った。

 

あまりの轟音と閃光に目を瞑るが、すぐにそれを見開く。クソッ!まさか罠とは……!

 

そう思ったオレの予想は意外な形で裏切られた。

 

クイーンメイブがいた場所。そこにいたのは小さな女の子の悪魔だった。

 

赤い目。青いレオタードのような服を纏い、その背には綺麗で小さな翼が一対生えていた。

 

妖精 ピクシー。クイーンメイブになる前の、その前の姿。

 

オレは悟った。クイーンメイブは殺されたのではない。その姿を戻されたのだと。

 

だがその力は退化はしていない。むしろ増幅しているようにも思えた。

 

ピクシーはキョトンと自分の体を見ていたが、オレの方を見るとクスクスと笑った。

 

「なぁにびっくりしたような顔しているのよ。あ、それともまたこう言って欲しいの?」

 

ピクシーはくるりと可愛らしく回り、こう言った。

 

「『私は妖精ピクシー。コンゴトモヨロシク』……って」

 

「……あぁ、満足だ」

 

いきなりのことでびっくりしたがいつもの調子のピクシーに苦笑し、オレは手をピクシーにむけて伸ばした。

 

ピクシーは一切の逡巡もせずにその手を、小さな手で触れた。

 

こうしてアマラ深界で、クイーンメイブはより強力になってピクシーに戻った。

 

それはとても奇妙ながら、オレにとある感慨を与えてくれた事柄になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからさらに進み、第5カルパ奥地。ベルゼブブと戦ったあの広間によく似た場所に出た。

 

ここに強力な悪魔がいた、ということはない。だが、

 

「感じる。忌々しい力の気配が……」

 

混沌王の力。それが怒りにざわめく。

 

ダンテも感じたようで口笛を吹いた。

 

「カミサマのお仲間さんが来たようだぜ?」

 

そしてその言葉に反応するように声が聞こえ始めた。

 

「………聞こえるか、零時。我の警告に逆らい、お前はあまりに闇に傾きすぎたようだ」

 

どんどん気配が濃くなる。広間を中心に、清々しくも穢らわしい力が満ちる。

 

「もはやお前を許すことは出来ぬ……我はあの堕ちた天使の企みを……新たな悪魔の誕生を見過ごすことは出来ぬ」

 

気配は、ついに目視できるぐらいに濃くなる。眩しいまでの光の気にオレの力が殺意に湧く。

 

「そして悪魔を生むためのメノラーを選んだお前の罪もまた許しがたい。魔人よ!魂まで闇に染めた悪魔よ!」

 

ドォン!という音とともに一体の強大な天使が舞い降りた。

 

「聞けい!そして震えよ!我が名はメタトロン!我と神とは1つなり!」

 

天使は、大天使メタトロンは聖なる威声を轟かせるとオレ達を見下ろした。

 

「我が主の意を受け、汝を討つ!人に非ず、闇に傾き生きる者よ!今こそ、神の怒りを受けよ‼」

 

メタトロンはそういうと目を光らせ、己の力をその身に放ち始めた。

 

オレはその力を、威を受けてなお、その天使に向けて怒り狂った。

 

「神の怒り?怒りだと……?その程度の怒りかよ。神」

 

オレは『小さく見える』その巨体を見上げ、舌を出して嘲笑した。

 

「殺す。殺してやる。神に属する者、すべてこの憎しみで焼き尽くしてやる‼こいよ、神の傀儡!」

 

「遺言はそれだけかァ‼」

 

メタトロンはそう言うと拳を振り上げ、オレに向かって振り下ろした。

 

オレは力を拳に籠め、それを正面から迎撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メタトロン。その威は確かに悪魔の中でも強大だった。

 

ベルゼブブ以上の力。そして耐久力。トップクラスの悪魔と言えるだろう。

 

だが神と1つなり。この言葉は偽りだ。オレの全てを奪った存在は………

 

「こんな矮小な存在じゃねえ‼」

 

オレは雄叫びをあげながらメタトロンの顔を蹴り抜いた。

 

「グオオッ!」

 

メタトロンは仰け反り、その隙にオレは【絶対零度】をぶちこむ。

 

ガガアァン‼という音とともに巨大な氷の塊がメタトロンを直撃した。

 

「おのれぇ……!抗うか‼悪魔よ!」

 

「怒り心頭なところ悪いんだが……オレを無視するなよ?」

 

【スティンガー】

 

ダンテが割り込むように剣をメタトロンに突きいれる。

 

万能属性の攻撃がメタトロンの頑丈性を無視してその命を削る。

 

「ガアァァ⁉」

 

再びノックバック。その隙にクイーンメイブを筆頭とする仲魔達が攻撃を喰らわせる。

 

「おのれ……!神よ……この悪魔達を屠る力、我に授けたまえ……!」

 

メタトロンがそう言い、祈るように両手を広げると目が光り始めた。

 

その瞳に力が集まり、それをメタトロンは勢いよく放った。

 

【シナイの神火】

 

ギュン!という音とともにレーザーが放たれ、地面にそれが当たると大爆発を起こした。

 

「ちぃ!」

 

さすがに大技。オレや仲魔達が体のあちこちから血を噴き出しながら吹き飛ばされる。

 

ダンテは空中にヒラリと身を踊らせて避けていた。

 

その余裕な態度に腹を立てながらオレは反撃の技を放った。

 

全身を反らし、生命力を顔面に溜めてそれを放った。

 

【螺旋の蛇】

 

ズガァン‼

 

無彩色の極太レーザーがメタトロンを直撃する。

 

「ぬわぁああ‼」

 

メタトロンが耳障りな悲鳴をあげる。

 

あぁ死んでほしい。滅ぶるべき存在がなぜ死なぬのか?

 

運命によって死ねぬのなら。

 

オレによって死ねよ、神の人形。

 

オレは死の力を腕に織り混ぜた。瞬間、腕から血が流れ出すが無視する。

 

これはオレのオリジナル技。マガタマにも頼っていない。だがこの力は……無念の果てに死んでいった混沌王達の死の力。

 

生半可な力では、無い!

 

黒い光を纏う腕をメタトロンの顔面を狙って振り上げ、そして全力でそれを振るった。

 

「【滅爪撃】ッ!」

 

オレの小さな手で振るわれたとは思えないほど巨大な力が音もなく、メタトロンの顔を、頭を抉った。

 

いや、抉ったとも言えない。消滅させたとも言うべき滅びがメタトロンの命を一抹の疑いもなく降った。

 

それはまるで、受胎で消えた建物の如く。

 

メタトロンは残された体を崩し、全てをマガツヒに変えた。

 

オレはシュタ!と軽々しい音を立てて着地する。

 

仲魔達が歓声をあげ、ダンテがパンパンと拍手をする。

 

当然だろう。相手は神直々に送られた来た大天使のなかの大天使。下手をすれば大天使長よりも位が高いとされるあのメタトロンを容易く屠り去ったのだ。

 

【滅爪撃】。【アイアンクロウ】に死の力を織り混ぜた万能呪殺攻撃。

 

あれほどの天使を呪殺するには及ばないが、万能属性の本領……万物を滅ぼす力を得た【アイアンクロウ】はその使い勝手の良さを幾分か失ったが威力は見ての通りである。

 

この力さえあれば、憎き大いなる意思を討てる。

 

そう確信するオレは仲魔達に奥に行くぞと合図した。

 

だが死の力単体では勝てやしない。相手には軍がいる。こちらも対抗できる戦力が必要だ。

 

この地獄に潜む闇の軍勢。そして……

 

それを統べる王も、な………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリジナル技出ました。タグに書いたほうがいいのかな?

死の力を得たことにより零時の覚える技、覚えていた技はいくつか強化されています。オリジナル技はまだいくつか登場予定です。

質問・感想受け付けています。





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悪魔は二度生まれる


な、難産だった……。

タイトルはマニアクスのパッケージにも書いてあった言葉になります。






 

メタトロンと戦った広間を抜けると、そこは水の溜まった通路だった。

 

そこにオレは見覚えがあった。あの車椅子の老紳士に、力試しをされた通路だ。

 

…………あの時は、右も左も分からない。そして何も分かっていない若輩者だったな。

 

オレは内心でククッと笑った。

 

もちろんその時から何年も経っている訳じゃない。時が死んでいるから正確な時間は分からないが……恐らく1ヶ月は経っているだろう。

 

その1ヶ月。オレにとっては一生分の不幸があった。そして人間の一生分の人生を台無しにされた。

 

最初は氷川を憎んだ。だがこのアマラ深界を進み、真実を知っていくにつれてその憎しみは全てを手の上で踊らせることができる大いなる意思に向けられた。

 

ズキリ、と胸が痛む。何十人という混沌王達の憎しみをオレの心に現そうとするといつもこれだ。

 

だがそれも仕方ない。心は強くはなっても広くはならない。本来、一人分の感情を発現するだけの大きさしかないはずだ。

 

オレが、それを受け入れてなお廃人にならないのかは分からないが……今はどうでも良い。これがオレの最大の力なのだから。

 

オレは膝の下辺りまで溜まった水をザブザブいわせながら奥へ奥へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通路の奥地、前はそこで車椅子の老紳士と喪服の淑女によってシンジュク衛生病院に戻されたため、その先へはいけなかった。

 

先へ進むには、どうやらリフト……まぁ上下に動くブロックなんだが……に乗らなければいけないようだ。

 

オレは息を呑み、思考に耽った。

 

これに乗れば、もう戻れない。オレは復讐の道を延々と歩き続けることになるだろう。

 

人間として、コトワリを啓いて創世すれば良かったのかもしれない。そう思える時が来るのだろうか。復讐の道を選んだことに後悔する日が来るのだろうか?

 

…………それでも、いいじゃないか。

 

オレはそう心で呟き、タンとリフトに乗った。

 

悔やむ時があって当然。今戻って全てを諦めて創世の道へ進んだところできっとそれも後悔する。大いなる意思に復讐しとけば良かったと。

 

どうせ後悔するのなら………この狂おしいほどの憎しみのまま、復讐の道を突き進もう。

 

それが、歪んだオレの人生(みち)だ。

 

リフトを調べてみると特定の悪魔……つまりオレしか降りられないことが分かった。

 

仲魔もダンテも、ここで待たせることにし、オレはリフトを起動させようとした。

 

そこで、ピクシーが止めた。

 

「行ったら、もう戻れないわよ。覚悟はできてる?」

 

オレは口をひん曲げて笑い、当然とだけ答えた。

 

ピクシーは悲しげに、しかしどこか期待した表情で笑い返した。

 

「次に会えたら、私を最初に召喚しなさいよ!」

 

「はいはい。分かったよ相棒」

 

オレはピクシーに向かって苦笑しながら、リフトをとんと叩いた。

 

すると音もなく下に下がるリフト。視線が地面にまで下がり、そして仲魔達の姿も見えなくなる。

 

さぁ。行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リフトの降りた先。そこは覗き穴で何度も見ていたあの舞台だった。肉眼で見るそれは、とても鮮やかで美しかった。

 

そして舞台の回りにあるいくつもの穴。そこから何千何万もの悪魔がこちらを覗きこんでいた。

 

舞台に立つ老紳士と淑女はオレをひたと見据え、言葉を紡ぎ始めた。

 

「よくここまで辿り着きましたね。永劫のアマラの流れを越え、待ち続けた甲斐がありました。全てのメノラーを配し、最強の光の刺客すら退けたあなたはまさに我等が待ち望んだ悪魔です」

 

その言葉を合図に淑女と紳士を取り囲む穴から見える悪魔達が一斉に歓声をあげる。

 

しばらく続く歓声の嵐を老紳士が手をかざし、止めると淑女は言葉を再び紡ぎ始めた。

 

「聞こえましたか、零時。全ての悪魔達が、新たな闇の悪魔の誕生を祝っています。あなたこそが、長い連環を打ち破り、暗黒の天使とともに、大いなる存在をも打ち破ってくれるだろう、と期待して。

……もはや引き返す事はできません。光から堕ちた我等と、光を支配する者達。その相容れぬ両者の最終決戦が、間も無く始まろうとしています。

あなたは、その戦いが始まる前に、地上に戻りなさい。そして、創世を目論む人間達や、その源たるカグツチを討ち、その身に更なる力を宿すのです」

 

淑女はそういうとオレが殺すべき標的達をを述べ始めた。

 

「静寂なる世界を望みし者…それに力を貸すは、虚無の魔王アーリマン。

力による淘汰を望みし娘…身に降りたるは、魔神バアル・アバター。

孤独を好み、己の殻に隠れた少年…流され着きし力は、彷徨える古の邪神ノア。

そして、創世とボルテクス界を見守りつづける光、カグツチ…

それらの敵を討ち果たした時、私たちは全ての悪魔と共にあなたを迎え入れましょう」

 

淑女はそしてとオレをひたと見た。

 

「この先のあなたの戦いの手助けになるよう、我が主が力の一部をあなたに与えようとおっしゃられておられます。これで、あなたが初めに与えられたマガタマの最後の力が解放されましょう………

かつて人の衣を脱ぎ捨て悪魔となり、今、全ての死を乗り越えここに来た魔人よ。

あの御方の力によって悪魔の身体を得…今我が主の手によってその心も悪魔へと生まれ変わるのです

混沌の新たな悪魔…終の決戦の始まりを告げる者として!」

 

淑女が高らかにそういうと老紳士がオレに指を向けた。

 

そのとたんオレに向かって流れるおぞましいまでの闇の力。それがオレの模様を血のような赤に染めてゆく。

 

ドクン……ドクン…。力が注がれる度、オレの暖かな部分が消えてゆく。人間としての自分が、脆くもかけがえのない心が消えてゆく。

 

さよなら、人間のオレ。

 

始めまして、化け物の俺。

 

どちらも夜藤 零時。だが、何も知らない。愚かで無垢な人間だった夜藤 零時は確かに死んだ。

 

今ここにいるのは。憎しみのまま走り続ける俺という化け物。

 

目を見開くと、視界が赤く染まっていた。俺の目がギラリした紅色の光を放っていた。

 

淑女はそれを見届けると最後に俺に告げた。

 

「さあ、お行きなさい、我等の希望となる新たな悪魔よ…」

 

その声を合図に再びリフトが下がり始める。マガツヒの湖に俺を誘うように。

 

最後に見えた風景は、老紳士が口を僅かに動かしてニヤリと笑ったところだった。

 

何と言ったか。読心術で俺はそれを理解した。

 

『すばらしい』

 

老紳士は確かにそう言った。

 

俺は凄絶に笑い返し、か細い声で言い返した。

 

『当たり前だ』、と

 

きっとあの老紳士の耳には届いたろう。そうでなければ笑みを深くはしない。

 

俺の身がついにマガツヒの湖に沈んだ。それと同時に俺の意識も暗闇に沈む。

 

俺は老紳士の意図を悟り、そのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた。ぼんやりとした意識で辺りを見渡すとそこは記憶にある部屋だった。

 

そこはシンジュク衛生病院の地下にある部屋だった。そう、受胎が起きた時に俺が目覚めた際にいたあの場所……

 

俺にとっての始まりはここだ。あの老紳士は二度目の始まりすらもここにしたのだろう。

 

きっとあの老紳士は良い小説家になれる。こんな、こんな皮肉げなプロローグを用意できるとは。

 

俺はククッと笑うとブンと腕を振り、とある悪魔を呼び出した。約束は守らなければ。

 

紫電とともに現れた小さい相棒。ピクシーはニコリと俺に笑いかけた。

 

「約束。守ってくれたみたいね」

 

「契約事と約束事は守る主義でね。それよりもピクシー。ここまで来たんだ。最後まで付き合ってもらうぜ?」

 

挑戦的にニヤッと笑うとピクシーは肩をすくめた。

 

「やれやれ、最初はヨヨギ公園までって話だったのに……とんでもないところまで来ちゃったわね……」

 

「おっ、なんだ。やめるのか?」

 

「そんなわけないじゃない。先生として、教え子の行く先くらいちゃんと見てあげないとね」

 

パチリとウィンクしながらそう宣う先生殿。そういえばこのシンジュク衛生病院で俺はピクシーを先生呼ばわりしたっけ?

 

あの頃を懐かしく思いながら俺はこの先どうするかをピクシーに話した。

 

要するに、創世を目指す三勢力の守護を潰し、最後にカグツチを討つことを。

 

それを伝え終えるとピクシーは俺にこう問うた。

 

「……良いの?シジマのアーリマンやカグツチはともかく、ムスビのノアとヨスガのバアル・アバターは…」

 

その言葉を俺はピクシーの唇に指を突きつけることによって止めた。

 

「言ってくれるなピクシー。あの三人は俺を切り捨てて創世の道を選んだ。友を切り捨て、創世の覇を唱えんと孤独の道を進んだんだ。俺もその強さを手に入れた。それだけだ。それに……」

 

「それに?」

 

訪ね返すピクシーに向けて口をひん曲げて、俺は答えた。

 

「勇も、千晶も。この世界で死んだ。少なくとも俺の知るわがままで、それでも優しかった、二人はこのボルテクス界で死んだのさ。今いるのはそれぞれの勢力の頭領としての二人だ。少なくともそれは、俺の味方じゃない。殺すべき、敵だ」

 

そう言い切った俺にピクシーはフッと息を吐いた。

 

「あなたの悪魔としての心意気。確かに感じたわ」

 

そういうとピクシーはキラリと光を撒き散らしながら飛び上がった。

 

「いいわ。あなたがそういうのなら私も容赦はしない。全力であなたの『敵』を倒しにかかるわ」

 

「そうしてくれ」

 

俺はピクシーのその言葉に満足するともう一人、いつの間にかストックにいたあの男を召喚した。

 

俺はその男に言い放った。

 

「話は聞いていたんだろ?お前にも全力で手伝ってもらうからな?」

 

「へいへい。ま、オレは言われなくともいつでも全力でやるがな」

 

ダンテは銃を抜き、俺に向けて撃つ素振りを見せながらそう答えた。

 

これだけ聞ければ満足だ。

 

「さぁて、行こうか」

 

俺はピクシーとダンテにそう言って立ち上がった。

 

向かうはアマラ神殿。創世の最終決戦の始まりを、告げなければならない。

 

オレはトランペッターではないが、まぁ喇叭の代わりにそれで告げよう。

 

 

 

 

戦いの始まりと、神の滅びを、な。

 

 

 

 





悪魔になり、零時君の一人称をオレから俺に変えました。零時君にあった軽い部分が無くなった。そう考えてください。

質問、感想受け付けてます。



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創世の戦い


やっと更新できた……おのれ期末テスト許すまじ。

ここから一気に最後まで走り抜きたいんですけどね……


 

シンジュク衛生病院地下にあるターミナル。そこから俺はある場所に向かった。

 

先生が言ったアマラ神殿。そこは、このボルテクス界周辺に存在するアマラ経絡に流れているマガツヒがたどり着く最終点のひとつ。勇は、ノアを召喚するためにその最終点に溜まったマガツヒを使った。

 

だがそのマガツヒは未だ尽きていない。アマラ神殿中枢には、未だ多くのマガツヒが満ちていた。

 

それも当然。アマラ経絡からマガツヒが次々と供給されているのだ。千晶の使ったミフナシロのマガツヒや、氷川が使ったトウキョウ議事堂のマガツヒとは違い、アマラ神殿のマガツヒはアマラ経絡そのものに異常を起こさなければ尽きないだろう。

 

その大量のマガツヒ。そして神を操る力を持つヤヒロノヒモロギ。そして俺の手にした創世の最終決戦の情報。

 

導き出される答えはひとつ。これでカグツチに道を開いてもらう。

 

俺は中枢の部屋の中央に存在する台座に向かった。

 

そこには、ヤヒロノヒモロギがぴったりはまる窪みがあった。

 

俺はヤヒロノヒモロギを掲げ、そして呟いた。

 

「さぁ、始まりだ」

 

カコンとはまりこむヤヒロノヒモロギ。瞬間、アマラ神殿そのものが震えた。

 

ドォーン!と響く轟音。アマラ神殿に存在するマガツヒがどこかへ向かう。

 

行き先は………ボルテクス界中心。カグツチだ。

 

カグツチが蠢動する。そしてこのボルテクス界に何かを降ろす気配。

 

創世をせんとする三人が降ろした守護よりも、ずっと強力な存在が、動いた。

 

その気配を察したとたん、俺の心からドス黒い怒りと憎しみが吹き出す。

 

待ってろ。その命奪ってやるからな。

 

その気配の源に俺は無言でそう叫んだ。

 

さぁ戦いに向かおうかと歩き出した時、ふと何者かの気配がした。

 

目を向けるとそこには、俺を人修羅にした二人がいた。

 

喪服の老婆は俺を見据え、ホホホと笑う。

 

「おやまぁ、悪魔なんぞがカグツチへの道を開きましたか。これには婆も少し驚いていますよ、坊ちゃま……」

 

その言葉とは裏腹に少しも揺れていない声を聞いた喪服の子供は無言で俺を見る。その目は、黒い期待に満ちていた。

 

喪服の老婆は厳かに、それでいて不快感は未だに残る言葉を紡ぐ。

 

「カグツチが伸ばせし塔はオベリスクを打ち、これを従えた。創世を望む者達がぞろぞろと……ぞろぞろとやってくるでしょうねぇ」

 

その言葉は、間違いなく俺に向けられていた。まるでエサにかかった獲物のことを教える猟師のように。

 

「………あなたは悪魔として生きる道を選び、あの老紳士から力を得ました。あとはカグツチを討ち、最終決戦の刻を迎えるのみ………その時には、坊ちゃまも最終決戦の場に向かうと仰られています。その時まで気を抜かずにやるのですよ……」

 

それだけ言うと二人はあっという間に消え去った。

 

俺は二人のいた場所を睨み、フンと鼻を鳴らした。

 

「余計なお世話だ」

 

そういうと俺はアマラ神殿を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チヨダ・マルノウチエリア。かつて皇居があったであろう土地だ。

 

明治時代から日本の中心としての役割を果たしてきたトウキョウ、マルノウチ。その場所を中心として戦いはおこった。

 

カグツチはアマラ神殿のマガツヒを浴び、自らへ向かうための道を作り出した。

 

かつてニヒロの重要拠点だったオベリスクを押し潰すかのごとく現れた巨塔を俺は見上げた。

 

カグツチの光は俺の憎しみを増大させる。その力は、カグツチが光を増すとともに増大する。

 

まるで光によって作られる影の如く。

 

そしてカグツチに照らされて見えるのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

創世を目指す三大組織。主に軍を持つシジマとヨスガの衝突が凄まじかった。その数は、数えるのもバカバカしいくらいに多かった。

 

だがどれも『小さい』。創世に捉われ、世界の真実も知らないでまた創造と破壊のループをたどろうとする愚か者達。

 

「なんと…哀れなことか」

 

俺はそう呟いた。

 

そしてそれが聞こえたわけでもあるまいが、悪魔達の一部がこちらに向かってきた。

 

俺はそれを見て嗤った。

 

だっておかしいじゃないか。あいつらが近づいているのはどの魔人よりも死に染まった化け物。それに近づくなんて……

 

「よっぽど死にたいようだなァ‼」

 

その叫びとともに合図に仲魔達が現れた。

 

一人は大天使 ウリエル。かつて敵として戦ったウリエルは万能属性の火を悪魔の群れに浴びせる。

 

二人目はダンテ。獰猛に笑ったその男は双銃を使って悪魔を吹き飛ばし、剣を使って悪魔達を切り裂く。

 

双銃の名をエボニー&アイボリー。剣の名をリベリオンというらしいが……その全てを駆使してダンテは敵陣を貫いていった。

 

三人目は妖精 ピクシー。アマラ深界で手にした力は強大の一言。万能魔法最上位である【メギドラオン】をぶっぱなし、悪魔達を吹き飛ばす。

 

……さて、仲魔達やダンテだけに獲物取られるのも嫌だし、動きますか。

 

俺は高く跳躍し、一番大きな悪魔の群れに降り立った。

 

悪魔達が驚くがさすがにボルテクス界のここまでを生き残った猛者だけはあるのかすぐに立ち直った。

 

突っ込んでくる悪魔の群れ。俺はそれを見てニヤリと笑った。

 

両手を交差し、力を溜める。

 

仲魔達の支援は求められない。遠いから。

 

だが俺一人で良い。今の俺の力の前には、ただの悪魔の軍団は役不足すぎてお釣りがでる。

 

さぁ、死ねよ。

 

俺は咆哮し、その力を解き放った。

 

「アアアアアアアアアアアアア!!!!【地母の晩餐】ッッッ‼」

 

両手を広げ、体を仰け反らすと俺を中心に地面がひび割れる。

 

そこからどんとんと悪魔達の足場までひびは広がり、そこから力の奔流が放たれた。

 

ズッドオオオオオオオオン‼‼

 

目も眩むほどの光。そして轟音。

 

悪魔達の悲鳴は物理的にも、轟音にも潰される。

 

そして音と光が止むと、クレーターと悪魔達の残骸であるマガツヒが漂うのみとなっていた。

 

存命している敵の姿が認められないことを確認すると遠くで『フゥー!』という歓声が聞こえた。

 

あんな歓声をあげるのはダンテしかいない。しかし妙に上に聞こえるのはなぜだろうか?

 

見上げてみるとなぜかダンテが空中にいた。飛べないダンテは周囲にいる天使達に向けて銃を乱射しつつ俺の横にシュタッと着地した。

 

ダンテはフゥーと息を吐くとこちらに向けてハハッと笑った。

 

「なかなか派手な花火だったぜ零時。思わず飛び上がっちまったよ」

 

俺はその言葉でダンテがなぜ空中にいたのか分かった。

 

【地母の晩餐】の衝撃波に乗って自ら空中に打ち上がったのだろう。危険な芸当だが、まぁダンテならやりかねない。

 

俺はダンテに向かって『楽しめたようで何よりだ』と言うと周囲を見渡した。

 

敵はあらかた掃討したようだ。それか逃げたか。とにかく敵影はほとんど見受けられない。

 

まぁカグツチ塔周辺にいる悪魔なんざ各勢力の下っ端だろう。主力は自分の周囲に配置するはずだ。

 

これは戦争。万が一にも守護というキングが取られるわけにはいかない。戦力はなるべく自らに集中させ、だが自らも敵の守護を討つために動く。

 

カグツチの道という限られた空間の中、戦力を集中させるにしても限界はあるはずだ。そこを俺達は突く。

 

こちらは少数精鋭。それを活かした戦いをしなければならない。

 

俺はオベリスクを、そしてその上に立つカグツチの塔をひと睨みすると前とは変貌してしまった土地を歩いた。

 

さぁ、反逆の狼煙をあげようか。

 

 

 

 

 

 

 

 





ダンテさんはミサイルを空飛ぶスケボー扱いにして利用していましたし、空中で悪魔撃ち抜いてましたし地母の晩餐に乗って空を跳ぶぐらい簡単かなと思いました。

感想・質問受け付けてます。



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静寂への呪詛





 

オベリスク。カグツチ塔の土台となってしまった元ニヒロ機構重要拠点での戦いはシジマの方がわずかながら優勢なのかトウキョウ議事堂でも戦った悪魔が現れた。

 

だが過去に戦った悪魔の戦いはもはや『見飽きた』。【チャクラ金剛丹】いう宝も手にいれた。

 

これは戦場で戦っている者達の気の高ぶりを感知すると魔力を自ら作り、溜める代物。溜まった魔力を俺や仲魔達に移すという使用方法がある道具だ。

 

とはいえ戦いによる気の高ぶりがないと使えないため、使用は戦闘中に限られる。回復量こそ使用者の最大魔力量の三分の一とかなりの回復量を誇るが使い勝手はそこまで良くない。戦闘時において敵から目を背けるなんて危険の一言である。

 

そんな感じでオベリスクの最上階に着いた。かつて祐子先生が閉じ込められていた装置に連結するようにカグツチ塔の末端部分が突き刺さっていた。

 

入り口はない。だが、こういうパターンはすでに何度も見た。

 

これは触れれば入れる仕組みだ。

 

俺はトンとカグツチ塔の末端部分に触れた。すると、

 

体が引っ張られるような感覚と共に目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しすると真っ白になった視界に変化が訪れた。光の玉が、浮かび上がるように現れたのだ。

 

あれは……カグツチだ。

 

それを認識するとともに声が聞こえ始めた。

 

「………我が塔を登らんとする者よ。光の中へ入りたる者よ。お前の心を見せよ……」

 

すると俺の中に何かが入り込むような感覚が襲った。その瞬間。

 

ゴウッ‼と擬音を着けたいぐらいの熱が全身を襲った。

 

その正体はすぐに知れた。俺じゃない他の混沌王達の力が憎悪に燃えたのだ。

 

その瞬間、俺に入ろうとしていた何かがまるで火傷をしたかのように抜け出した。

 

そして戦慄に染まった声が聞こえ始めた。

 

「……おお、恐ろしや。お前の心はその隅々まで我の滅びを願うのみ……憎悪の闇と炎にその身を焦がせし者か……!

 

………………。

 

恐れなくば3つのタカラの珠を持ち、我が下まで来るがいい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえなくなり、しばらくすると視界に色が戻った。その時には見覚えのない場所に、俺はいた。

 

巨大ブロックを積み上げて創られたような意匠の、暖かさも何もない冷たい雰囲気の建物の中だ。

 

そしてよく見ると、ブロックの一つ一つに小さな溝が彫られており、そこからマガツヒが流れているのが見えた。

 

俺はこの場所がどこだか察した。

 

カグツチ塔。創世者を決める、最終戦争の戦場。

 

俺は先ほどの声を、頭の中で反芻した。たしか3つのタカラの珠を持ち、カグツチの下へ来い、ということだったか。

 

創世を成せるのはカグツチに謁見出来た者。そしてそのためには3つのタカラが必要。

 

そのタカラが、今このカグツチ塔のどこにあるのか?外で見ただけで何百階層もあるこの広大な塔を、隅々まで探さないといけないのだろうか?

 

「ふむ……」

 

顎に手を添えて考えていると俺に一つの考えが浮かんだ。

 

創世を目指す者達は3人。タカラが3つ。果たしてこれは偶然だろうか。創世者目指す者もタカラも3なんてことが?

 

俺は否と考える。恐らくカグツチはすでに一つずつ創世を目指す者達にタカラを渡した。

 

確信する証拠はない。だが、何故だろうか?そうであると俺の勘が伝えてくる。

 

この勘は外したことがない。戦いにおいて何度も俺を救ってくれた能力だ。ならばそれに従うべきだろう。

 

俺は大まかな方針を決定し、歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カグツチ塔。さすがに最終戦争の舞台だけあって現れる悪魔も豪華豪華。

 

外道、幽鬼といった俺でもなじみの深い種族の悪魔もレギオン、シャドウといった最上位の者が現れ、神話では魔王、邪神とされた者もごちゃごちゃ現れる。

 

だがどれも各勢力の兵力という存在。恐るるには足らない。どれもこれもを最短の動きで潰す。

 

だがこういったダンジョンと呼べる物には敵だけを注意すれば良いということはない。

 

というのは、このカグツチ塔はカグツチが大量のマガツヒを使って即席で作り出した塔。何しろ維持にも大量にマガツヒを使用する始末。おかげであちこちが不安定なのだ。

 

迷路のように入り組んだ道。ギミック。そして油断はならない敵の数々。それを乗り越え俺達は上へ上へ登った。

 

そして200階を越えたろうと思えた時、一人のマネカタに目がいった。

 

このカグツチ塔でも、度々マネカタの姿があった。ミフナシロの生き残り達だった。

 

なんでもカグツチにマネカタだけの世界を創ってもらおうとこの塔を登っているらしい。コトワリもなく。

 

まぁ、それが彼らに出来る最後の抗いだろう。それに悪魔達は創世で忙しく、マネカタに構っている暇はない。安全は……保証はされないが全滅なんてことはないだろう。

 

そのマネカタが一人怯えたようにへたりこんでいた。ついに犠牲者が一人…と思ったが見たところ傷がない。どうも腰を抜かしたという言葉がしっくりくる。

 

話を聞いてみることにした。

 

「おい、どうした」

 

するとマネカタがカタカタ震えながら奥を指差した。

 

「こ、この奥にスゴい悪魔がいました。すごく大きいです。赤いです」

 

「大きい……赤い……」

 

大きくて赤い悪魔なんて候補が多すぎて絞れなかった。マネカタの言うスゴいも、スゴいの基準が分からないから判断材料にならない。

 

だが奥の気配を探ってみると、嫌でもその正体が知れた。この膨大なまでのマガツヒの気配。間違いなく守護だ。

 

それだけで候補は3つに絞られる。そしてその中で巨大で、赤い……

 

「アーリマン……」

 

俺はシジマの守護の名を口にし、手を握りしめた。

 

間違いない。祐子先生を亡き者にしたあの憎きニヒロの総司令。そしてそいつが召喚した守護の気配だ。

 

俺は憎悪の炎を胸に猛らせ、奥へ奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大ブロックで構成された浮かぶ大広間。そこに進入できる大扉を開き、中に入ると………

 

 

そこにいた。

 

 

赤い巨体。広間を中央に座す静寂の神。

 

魔王 アーリマン。そしてその中にいる受胎の導き手。氷川。

 

アーリマンは広間に入り込んだ俺を光る目で見下ろした。

 

「我が静寂を乱すは何者ぞ……シジマの国の訪れを阻まんとするは……」

 

そして凝視したその目を、アーリマンはギラリと輝かせて声に険と殺意を籠めて言葉を吐いた。

 

「そうか、お前か……お前には力がある。だが、ついぞ我が意に適う心を持つことはなかった……邪なる迷わし者よ!その忌まわしき欲望とともに滅するがいい!」

 

そして己の体に折り畳んでいた巨大な触手をほどき、俺達に向けた。

 

俺は息を吐き、静かに、だがその身体にたぎる怒りが現れるように言葉を吐き出した。

 

「俺の欲は多々あるが、お前に欲することはただ一つだ」

 

そして、この世界で何度も言った呪詛を、しかし言葉そのものに物理的力を帯びる程に憎悪を籠めて吐き捨てた。

 

「死ね」

 

 

 

 





「死ね」

この言葉は零時君が何度も敵に対して言った言葉になっています。言い方はかなり違ってきますが。

次回、かなり難産になると思うので時間がかかりますが、楽しみにしてください。



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静寂と死 前編


遅れてしまった……時間が無さすぎる…字の通り師走の日々でした。

今回は二部構成。今回はその前編になります。

それでは本編どーぞ!


 

広間に響き渡った魔法による閃光と轟音。そのすべては俺達が放った物だった。

 

アーリマンはその巨躯と広間という限られた空間によって避けることはできない。そのすべてを座す巨神は喰らった。

 

だがアーリマンはそのすべてを受けてなお嗤ってみせた。重々しい、荘厳な存在に相応しい声で俺を嘲笑ったのだ。

 

その音が俺の身の毛を嫌悪で逆立てた。

 

穢らわしい。

 

人のくせして、世界のほとんどの生命体を殺したばかりかそのことを正義だと断ずるこいつの存在は俺にとって汚物にも等しい。

 

俺は憎しみと力を拳に籠めた。これでアーリマンの頭撃ち抜いてやろうと振りかぶった時、

 

アーリマンが動いた。

 

「無限の静寂の前に、邪なる者の力、如何ほどのものか、見ておくのもまた一興というものか…我の言葉が届かぬときには、おまえを地獄に導くこととしよう。これは遊戯だ……」

 

「遊戯だと……!」

 

舐められている。俺はこめかみを痙攣させるとアーリマンに向かって駆けていった。

 

「待て!」

 

ダンテの制止の声。それと同時にアーリマンはこう言った。

 

「『物理攻撃…これを禁ず』…」

 

ゾクッ!

 

「……っ⁉」

 

その重々しい声に俺は何かを感じてアーリマンから攻撃を逸らした。

 

俺の拳はアーリマンの横一センチを通りすぎ、空を切った。

 

完全にがら空きとなった俺の胴にアーリマンは口から光を放った。

 

「グハッ!」

 

守護の攻撃をまともに喰らい、吹き飛ぶ俺の身をなんとか空中で持ち直すと俺は壁に衝突する衝撃を身のこなしで和らげた。

 

「零時!」

 

「大丈夫……だ」

 

ピクシーの安否を心配する声にそう返すと俺はアーリマンのさっきの行為について考えた。

 

アーリマンはただ言っただけだ。『物理攻撃、これを禁ず』、と。

 

ただそれだけなのだが、その途端この広場の空気が変わった。

 

あのままアーリマンの言葉を無視していたら、どうなっていたのか。

 

考えていると威勢の良い声が響いた。

 

「へっ!なんだよ兄弟!怖じ気づいたのかよ。俺様が直々にやってやらぁ‼」

 

そういうと声を出した本人、妖鬼 フウキは持っている双刃を振り回すとアーリマンに駆けていった。

 

止めようとしたが、フウキはその前に双刃をアーリマンに振るってしまった。

 

「オラオラぁ!【地獄突き】ィ!」

 

物理単体攻撃技【地獄突き】。【気合い】をかけていたのか当たった音も、威力も派手だった。

 

アーリマンの壁のような巨体がビリビリと震える。だがアーリマンは嗤った。

 

獲物が罠にかかった猟師のごとく、残虐に。

 

そしてアーリマンはある技を繰り出した。

 

「【地獄への導き】」

 

その瞬間、死に近づいた俺には感じられた。濃密な死の気配を。

 

フウキは赤い光の柱に囲まれた。

 

「うおっ!なんだよこりゃあ⁉出せ!出しやがr」

 

フウキが喚き、武器を光の柱にぶつけようとした時、

 

フウキがマガツヒと散った。

 

「………ッ!!」

 

俺は戦慄しつつも、先程のアーリマンの言葉を理解した。

 

あれは言霊とも言うべき言葉だったのだ。そしてその言葉が届かなかったとき……つまりは言うことを聞かなかった場合は問答無用の即死技を使う。

 

それが【地獄への導き】という技だろう。

 

俺が死の力を十全に使えるのならそんなもの意味を為さないだろうが……今の俺の技量では死の力を纏うのが精一杯。

 

「あいつの言葉には従うしかない、ってことか」

 

忌々しい。しかし仕方がない。アーリマンの創るルールの中でやってやろうじゃあないか。

 

俺は死んだフウキの代わりにティターニアを召喚し、魔法威力を上昇させるために【マカカジャ】という魔法を唱えさせた。

 

そして威力が上がった魔法を仲魔達は雨あられと降らせる。

 

一方、ダンテの方も魔法を使っていた、というよりも属性を帯びた剣で攻撃してると言った方が正確だが。

 

「yeah!」

 

【ラウンドフリップ】

 

【ワールウィンド】

 

剣……名前を『リベリオン』というらしい大剣を振るうと刃から雷や風が放たれ、或いは刃に纏わりながらアーリマンに叩きつけられた。

 

ガァン!という音。そして余波が走るびりびりとした空気の振動を聞きながら俺も魔法を唱えた。

 

「【真空波】ァ!」

 

技の名を叫び、アーリマンに向けて手を振るうと巨大な竜巻がアーリマンの全身を切り裂いた。

 

衝撃魔法の中でも最強クラスの魔法を喰らい、さしものアーリマンも身を震わせた。

 

だが倒れない。秩序を絶対とし、静寂を世界に降ろさんとする神は、我こそその絶対秩序そのものであると言わんばかりに倒れず、それどころか俺達という敵を未だに嘲笑った。

 

「ククククク……遊戯を続けるとしよう。『魔法攻撃……これを禁ず……』」

 

「おっと……」

 

いきなりの禁じ手の変更に魔法を放とうとしていたダンテは魔力をこめた剣を振るおうとしたところで体を停止させる。

 

仲魔達も俺も同様のミスをしそうになるが危うく魔法を引っ込めるが、アーリマンがその隙を見逃さなかった。

 

「【アギダイン】」

 

「ぐっ……!」

 

どうやら禁止事項は自分は例外となるらしい。単焦点の火炎魔法を俺に放つ。

 

腕をクロスさせ、致命傷は避けるが腕をごっそり焼かれる。

 

「ちぃっ……!」

 

カウンターで【破邪の光弾】でもぶつけてやろうかと思っていたがこれでは治療しない限り無理だ。

 

なら………!

 

俺は全身を軽く反らし、全身の生命力を目に集中させる。そしてそれをある程度溜めると、技として放った。

 

「…………ッ!!」

 

【螺旋の蛇】

 

目から放たれたのは思えない極太のレーザーがアーリマンの身を撃つ。

 

「ぬうっ……!」

 

大技の直撃を喰らい身をよじるアーリマン。だが足りない。あいつを討つには。

 

なら……!

 

俺は放っている【螺旋の蛇】に死の力を込める。目から血が流れ出すが構わずに【螺旋の蛇】の再び放った。

 

別の技として。

 

「【命喰い蛇】ッ!!」

 

瞬間、【螺旋の蛇】の色がドス黒く変化し、威力がかなり増した。

 

「ぬっ……!」

 

あれは受けたらマズイ。そう生物の本能が判断したのだろう。口からあちらも特大のレーザーを放った。

 

だがダメだ。その程度で死が止まるか。

 

俺の放った。黒く光るレーザーはアーリマンが放ったレーザーと衝突した。

 

ドオン!という音とともに拮抗する二本のレーザー。だがそれは一瞬のことだった。

 

スバァァン‼

 

「ゴオッ⁉」

 

あっという間にアーリマンのレーザーを裂き、死の力が籠ったレーザーがアーリマンの体に直撃した。

 

アーリマンの頭がひび割れる。頑丈な体の装甲にもひびが入った。

 

だがアーリマンはまだ絶命していなかった。あれほど死の力にその身を撃たれたのにも関わらず生きているとは……守護というだけはあるということか。

 

だが笑みに余裕がなくなった。アーリマンは殺気に満ちた、非情さしかない冷たい笑い声をあげた。

 

「ククククク…!邪悪なる無法者め…この辺で終わりにしよう」

 

そういうとズン!という擬音を着けたくなるくらいに空気が重くなった。それがアーリマンの力が増幅したことによるものだと気付くとアーリマンは体勢を変えた。

 

組んでいた手足を広げ、獣のようによつん這いになったのだ。

 

それだけではない。力も手足を開放するにつれて上がった。

 

驚く俺達を嘲笑いながらアーリマンはひび割れた口を動かし、俺達に言った。

 

「遊戯など、無限の静寂の前には、ただの無意味で無駄なものに過ぎぬ。おまえも、闇に滅するがいい……」

 

重々しいその言葉。俺は目から流れる血を拭い、言い返した。

 

「滅びるのは……お前だ。死にその命を狙われて生き残れるとでも?」

 

俺は凄絶に笑んだ。

 

「否だ。否否……。お前の運命は死しかないんだよッ!!」

 

「ならばお前を地獄へ送り、死を遠ざけてくれようッ!!」

 

互いにそう言うとアーリマンは開放した手で、俺は死を纏った拳を振り上げ、互いにそれをぶつけた。

 

戦いは、まだ続く……。

 

 

 





後編へ続く。


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静寂と死 後編


前編と比べて長くなってしまった……。




 

「オオオオオオオオオオオオンッ‼」

 

【死魔の触手】

 

「ちっ……!」

 

「おおっと……」

 

地面から突き出された巨大な触手に進行を阻まれ、俺は舌打ちし、ダンテは声を漏らしながら離れる。

 

静寂の守護アーリマン。数秒前まではその名にふさわしくドンと座し、俺達の攻撃をただ受けるだけで凌いできた。

 

まるでその様は秩序の如く。何があろうとも揺るがない絶対的存在と形容出来る。

 

だが今のアーリマンは違う。よつん這いになり、俺達という敵対者に対し、静寂という言葉をかなぐり捨てて吼えるその様は秩序というよりもまるで……

 

その秩序を守るための番犬だ。それもどの獣よりも凶暴な猛犬。

 

座していたアーリマンは俺達の行動に絶対的な制限をかけながら口からレーザーを吐くか、魔法を唱えるだけだった。

 

今のアーリマン……第2形態とでもいうべきフォルムになったアーリマンは攻撃的という言葉に限る。

 

守護足らしめる耐久性を生み出しているのであろう重厚な甲殻。それは攻撃にも転用できる。

 

巨大な腕を振ればこちらの攻撃ごと俺達を蹴散らせる。強大な魔力を振るえばほとんどの悪魔を塵芥に還せる万能魔法が放たれる。

 

そしてなによりこちらの邪魔になったのは第1形態では腰に収納してあったと思われる巨大な触手。

 

余りにも太いため俺達を絞め殺すだとか突き殺すということはできない。だが、一定の魔力をこめて先程のように地面から突き上げると破壊力のある攻撃になる。

 

そして力をこめずともその巨大な触手はこちらの動きを阻害するのにも役に立つ。そして動きが鈍ったところを魔法なりなんなりで攻撃する。

 

もちろんこちらもみすみすやられはしない。狭い空間で避け、あるいは防ぐ。

 

だがこのままではズルズルとあちらの流れになってしまう。まだ敵は残っているこの状況で長期戦はなんとしても避けたい。

 

だが浮かび上がるアイデアは長期戦になってしまった場合と同じくらい、俺が消耗するものばかり。

 

だがこれぐらいしなくては……守護なんて討てない。

 

その果てにある大いなる意思なんざ……討てない。

 

なら、やるっきゃないッ!後先の事は後だッ‼

 

「オオッ‼」

 

俺は野太い咆哮をあげながらアーリマンに突っ込んだ。

 

アーリマンは仲魔の方に万能魔法【メギドラオン】を放ち、牽制しながら触手を床に刺し、触手を潜らせた。

 

そのままグニャグニャと触手を揺らして床下に触手を伸ばす。その気配を俺は全神経を使って探知する。

 

そして照準を俺とその周囲に向ける気配を感じとると俺は剣を造りだし、大きく振り上げた。

 

さぁ、勝負だ。

 

「来い……!」

 

俺が歯のすき間から漏らすようにそう言った瞬間、

 

【死魔の触手】

 

ズドン‼

 

アーリマンがそれを放った。

 

「ッ‼」

 

そのタイミングを狙っていた俺は息を呑んで触手をギリギリまで引き付けると、全力である技を放った。

 

生命力で構成された剣を叩きつけ、俺はその技の名を叫んだ。

 

「【デスバウンド】ッ‼」

 

カッ!ドオオオンンッ‼

 

轟音、そして赤黒い光。それらを纏った衝撃波が俺を中心として放たれた。

 

俺を叩き潰そうとしていた触手はたちまちその衝撃波に叩きつけられ、あちこちに反れた。その際体のあちこちに触手が掠める。

 

「ッ‼」

 

俺は眩む視界を自らの口内を噛むことで正した。【デスバウンド】は強力だが消費する生命力が多い。そして触手が掠めたことによるダメージが俺の体を苛むがそれに構う暇はない。

 

「むんッ‼」

 

俺は跳んだ。狙いは奴の頭。あそこに氷川が閉じ籠っている。

 

守護はコトワリを示した者を恐らく核にしている。アーリマンにしろノアにしろバアル・アバターにしろ各勢力の創始者達が自ら守護に取り込まれている。

 

ならその核となる人間が死ねばどうなる?分かりはしないが守護にとって致命的になることは想像に難くない。

 

だからこそ、奴の頭を氷川ごと撃ち抜く。俺はありったけの力をこめ拳を振り上げた。

 

その時だった。バサリという音が聞こえたのは。

 

「舐めるなァ‼」

 

アーリマンのその声を認識したとたんアーリマンの巨体が浮いた……否、飛んだ。

 

「なっ⁉」

 

封鎖された空間であっても巨大なアーリマンが身動きするには問題ない広さを持つこの広間。縦の広さもそれなりにある。

 

だがアーリマンが飛ぶとは思ってなかった俺は攻撃を思いっきりはずし、地面に着地した。

 

「くっ……!」

 

着地と同時に来る衝撃に顔をしかめながら、俺はアーリマンを凝視した。

 

アーリマンの背部。腰のやや上の方に扇のような翼が生えていた。

 

しかし動きが制限されるこの場で飛ぶとはどういうことだろうか?天井が存在するこの場では魔法で打ち落とせない高度までは飛べない。

 

疑問に思いつつ、背に走る嫌な予感に従うようアーリマンを凝視していると、俺は気づいた。

 

アーリマンが全身の魔力を猛らせていることに。

 

「ちぃ!全員防御体勢‼デカイのが来るぞォ‼」

 

俺の叫び声に仲魔達はハッとなり、各々体をガードする。ダンテはなぜか飄飄とした顔でアーリマンを見ていたが。

 

それと同時にアーリマンが翼の羽ばたきを止め、地面に向かって落下しはじめた。そして全身の魔力を手足にこめ、巨体に見合う力で床に叩きつけた。

 

「【末世波】ッ‼」

 

アーリマンの地の底から響くような叫び声。

 

瞬間、凄まじいまでの衝撃波が広間の床を走った。

 

広間を構成するブロックを砕き、俺達の方へ這うその衝撃波は凄まじい閃光を放ちながら俺達を飲み込んだ。

 

「ぐうぅッ……!」

 

身を打つ衝撃の奔流。体のあちこちから血が吹き出る。

 

やがて奔流が収まると俺は思わず膝をついてしまった。

 

ダンテはアーリマンや俺から離れたところで着地していた。きっと俺の【地母の晩餐】の時のように衝撃を利用して飛び上がって難を逃れたのだろう。

 

しかしまずい、このままでは狙い撃たれてしまう。そう思い急いで立ち上がろうとする。

 

ピクシーも回復魔法を唱えようとしているのだろうが大ダメージのあまり魔力が集中出来てない。即座の回復は期待できない。

 

どうする……!どうすれば……!

 

その時だった。俺の耳に、痛みに耐えるような唸り声が聞こえたのは。

 

仲魔のものかと思ったが違う。あの地の底から響く声はアーリマンだ。

 

ハッとして見てみるとアーリマンは全身からマガツヒを垂れ流していた。見てみると全身に無数のヒビが入り、そこからマガツヒが漏れ出ている。

 

俺はその原因をなんとなくだが悟った。

 

死の力をまともに浴び、死の淵を見たアーリマンの体は死に蝕まれているのだ。

 

結果、アーリマンはその生命力を削られ、体はあの有様になっているのだろう。

 

つまり、アーリマンの体は死にかけている。それが先の大技でさらに早まった。あれでは創世の戦闘になど勝てやしないだろう。

 

だがアーリマンは立ち上がった。全身にヒビが広がる。マガツヒが漏れ出す量がさらに増える。

 

だがアーリマンはそんなこと知ったことかとでも言う風に腕をあげ、魔力をこめ、欠けた触手を向けた。

 

このまま放っておいても、持久戦に持ち込めば間違いなく勝てる。アーリマンは全身を死に冒され、やがて死ぬだろう。そのことはアーリマン自身が分かっているはずだ。

 

だがアーリマンはそんなことお構い無しに攻撃を再開した。

 

「………なぜだ?」

 

俺は避けながらそうアーリマンに呟いた。攻撃の音でたちまちその声はかき消されるが。

 

死に蝕まれる恐怖は魔人に相対し、そして死そのものにまで昇華した混沌王達の思念と力を見てきた俺がよく知っている。

 

死に蝕まれるということは肉体的な滅びだけではない。精神……それよりももっと深い魂にも影響するのだ。通常なら死から逃れたいという恐怖に呑まれ、狂い、死ぬ。あるいは恐怖に屈したところを魔人にバッサリ殺られるか。

 

俺は敵対心、あるいはそれよりももっと過激な憎悪でその恐怖を潰して死に相対し、生き残れた。

 

つまり死に打ち勝つためには死の恐怖に呑まれない強力な思念が必要なのだ。そして肉体が死ぬ前にその死に勝つ力も。

 

アーリマンは両方持っているというのか。一体どんな感情がアーリマンを……氷川を動かしているのか。

 

俺はそれを読み解こうとアーリマンの眼を見た。

 

光る瞳。今は死にかけてそれが点滅している。

 

だが俺は見た。アーリマンの瞳に宿る怒りを。

 

そして自らが創る世界が、絶対に正しいという強固な自信。そしてそれを為さんとする強烈な意志。

 

俺はそれを理解すると同時に驚き、そして内心で氷川を嗤った。

 

なんということだろうか。感情を不要とした氷川の原動力はなんと感情なのだ。なんて矛盾だろう。

 

そして同時に俺はアーリマンがもたらす世界が絶対の静寂と秩序などもたらさないという答えを出した。

 

当然ではないか。創世者そのものが感情で動いたのだ。それで感情無き世界が完全であるものか。シジマの世界が創られたなら、その世界は受胎前の世界より儚く、脆く滅ぶだろう。

 

あるいは氷川も大いなる意思の被害者とも呼べるだろう。世界の定めを遵守させるために遣わされた駒にされた、とも言えるのだから。

 

哀れな。氷川。

 

だからこそ、憎たらしい。

 

なぜその感情をもっと上手に使えなかったのか。なぜその怒りを人間の醜い感情にのみ向けたのか。

 

きっと氷川は人間の醜さにのみ視点を囚われ、広い視点で人を見てこなかったのだろう。そして己もまた醜く歪んだ。

 

俺は氷川の闇を全て理解した。受胎にまで至らせた原動力も。

 

あぁ、理解した。これで全て理解した。

 

だからもう、消えてくれよ。氷川。

 

お前のことが哀れで、憎たらしくて、訳が分からなくなりそうで、殺しても殺し足りないだろうからさぁ…。

 

「死ねよ」

 

俺は冷たい声でそう言うと仲魔達に向かって指を二本立てた手を振るった。

 

「………ッ‼」

 

いつのまにか回復が済んでいた仲魔達はその合図に即座に反応。魔法を属性問わず、アーリマンの顔に撃った。

 

「ぐっ……!」

 

アーリマンは即座に顔を巨大な手で覆った。まぁ、核となる氷川がいる顔を破壊されてはたまらないだろうからその行為は正解だ。

 

相手が俺達でなければ、な。

 

「ダンテ!奴の眼を狙え‼」

 

「人使いが荒いぜ、零時!」

 

そう愚痴りつつもダンテはエボニー&アイボリーを構え、それを何度も引き金を引いて弾丸を放った。

 

驚いたことに弾丸は連なるように手に当たり、そのまま手を貫いて眼を撃ち抜くではないか。

 

「グオオアアアアッ‼」

 

悲鳴をあげるアーリマン。俺は全身の生命力を練って体を前に倒した。

 

そして何かをかき集めるように両手をクロスさせ、そして体を仰け反らせながら生命力を全身から放つ。

 

【ぜロス・ビート】。本来ならそうなる技を、今回俺は死の力を練り込んで放った。

 

「【死天光】ッ‼」

 

キュイィン!という鋭い音とともに黒い光弾が何百も放たれた。

 

それらはしばらく空中を踊るように飛び回ると、アーリマンに向かって降り注いだ。

 

光弾はアーリマンの足を、手を、首を、とにかく全身を穿ち、砕いた。

 

「───────────ッ‼」

 

すでに言葉にならなくなった叫び声をあげるアーリマン。すでに四肢は使えないだろう。だがまだ死なない。

 

その生命力に心底驚愕しながらも俺は体を鞭打って駆けていった。

 

そして拳を振り上げ、先程やりかけた顔面狙いのパンチを今度はきっちり狙いをつけて放った。

 

寸分違わず俺の拳はアーリマンの顔面に当たり、今度こそ割れた。そしてついに合間見えた氷川の顔。

 

氷川は俺を見ると歯を砕かんとばかりに食い縛り、そして叫んだ。

 

「人修羅ァァアアアアアアアア‼」

 

「氷川ァアアアアアアアアアア‼」

 

それに負けじと叫び、俺はもう一方の手を振り上げた。

 

すでに自分の血や返り血でグッショリの手を俺は滑らないように食い込むほど握りしめそしてそれを氷川のに向けて叫びながら振るった。

 

「死ねよォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼‼」

 

血による赤。そして死による黒を纏った拳は空を駆け、そして……

 

氷川の心臓を撃ち抜いた。

 

「カ………ッ……!」

 

眼を限界まで見開き、血を吐く氷川。

 

そしてアーリマンの体は殴った衝撃で上半身を仰け反らさせ、そして。

 

スドォン!という音とともにその身を爆破させた。

 

 

 

 

 

 





アーリマン戦終了となります。

ちなみにダンテの射撃シーンはDMCの4から取りました。

オリジナル技についてはこの小説完結後にまとめるつもりです。

感想・質問、お待ちしております。


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マサカド


ハッピーニューイヤー‼明けましておめでとうございます!

今回は勇戦を延期してマサカドの所に行きます。なぜかって?

私が延々とノアを見つけられずに、先に坂東宮に行ってしまったからですよ……なんで横道にいるんだよ、勇。






 

俺は氷川と自分の血を地面に撒き散らしながら着地した。

 

自分の体は、もはや満身創痍。だが全人類、そして祐子先生の仇が取れた。そのことが嬉しく、体が震えた。

 

俺はフラフラと立ちあがり、前を見た。受胎を起こした張本人、氷川の最期を見届けるために。

 

氷川はまだその存在を残していた。爆発したアーリマンの死体のなかで残った頭部にまだ埋め込まれていたのだ。

 

とはいえ、氷川自身の心臓を撃ち抜いたのだ。いずれその生命活動も終わってしまうだろう。まだ息があるのは、アーリマンの残された生命力を使ってやっとのはず。

 

俺は氷川に近づいた。こいつが持っているはずの『タカラ』とやらを奪うために。

 

しかしそのために氷川に近づこうとしたとたん、氷川が弱々しく唇を震わせ、声を絞り出した。

 

「……静かだ……静かすぎる……そうか虚無が……私を迎えに来たか……」

 

氷川は目を開かない。あるいはもうそんな力もないのか。

 

だが氷川は俺に言った。己の、あらゆる負の感情を籠めて。

 

「……力を持つ者……欲望の覇者よ……お前の望む世界を……築くがよい………もう……私には…関わりのない事……だ………」

 

その言葉が最後だった。

 

氷川の体が糸の切れた操り人形のようにぐったりとなるとマガツヒになって散っていった。

 

それに続いていくようにアーリマンの体もマガツヒとなって消えた。

 

そしてその巨体があった場所に、一つの宝石のような物が落ちていた。

 

マガタマのように、丸まったフォルムをしたそれを見て、俺は名前を知った。

 

『ツチノタカラ』

 

これがカグツチが創世者の中で勝者を決めるために設けたタカラ。

 

これが3つあるとカグツチは言っていた。つまり、俺は後二つ手に入れなければならないということだ。

 

ノア。そしてバアル・アバター。その二人が持っているタカラを。

 

俺は『ツチノタカラ』を物置き空間に放り込むと仲魔とダンテに号令し、行くぞと身ぶりで伝えた。

 

そしてその場を去る前に俺は氷川のいた場所に言った。

 

「氷川……お前も結局火だったんだよ。お前の言う、全てを焼き尽くす破壊の炎だったんだ。だから、俺という存在に、憎しみに焼かれたんだよ。結局、お前も欲望の覇者の一人でしかなかった………」

 

その言葉を、俺は嘲りのつもりで言ったわけではない。ただ事実を伝えるように、淡々と言った。

 

それが一番、残酷だろうから。

 

「その範疇を越えてなかった。それがお前の敗因だ」

 

そして足音を立てずに、ただひっそりと俺はその場から去った。

 

シジマの墓場に、ふさわしいよう。

 

敗者の墓場に、ふさわしいよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーリマンとの戦いを終えた後、俺たちは休みを入れずにカグツチ塔を登り続けた。

 

登るにつれて強力になる悪魔。だが俺達の敵ではない。死の力を使わずとも自分の力でその身をバラバラにするか、仲魔の力を借りて殲滅するかで乗り越えられる。

 

だが俺の首を傾げさせる事態が起こった。

 

守護が近いと感じる。のにも関わらず、その守護の姿が見つからないのだ。

 

この気配は分かる。勇と、勇が呼んだ守護のノアの気配だ。

 

だが気配を消す魔法……【エストマ】を使っているのか、その姿を掴める事が出来ずにカグツチ塔の402階で足踏みしてしまったのだ。

 

土台になってしまったオベリスクを含めて402階の現時点を拠点にしている理由は、ここにはシブヤやギンザにあるような施設がなぜかあったのだ。

 

アマラ経絡に繋がっている【ターミナル】

 

泉の聖女が治療してくれる【回復の泉】

 

オカママネカタが経営している【ジャンクショップ】

 

悪魔合体の儀式が出来る【邪教の館】

 

ここでは最終決着前の安楽の場所としてマネカタ達にも使われていた。もちろん俺達も使わせてもらった。

 

そこで俺はとあるマガタマを買った。オカママネカタにおぞましい視線を浴びながら。

 

【カイラース】。俺の持つマガタマの中でも最強クラスの力を秘めているマガタマ。

 

これを飲むと俺の耐性は久々にあるものになる。

 

『ノーマル耐性』

 

お分かりいただけただろうか?俺を悪魔にしたあの【マロガレ】と同じなのである。

 

長所なし、欠点なしのノーマル耐性。だが覚えるスキルはマロガレの比ではなかった。まぁあの車椅子の老紳士がマロガレにある仕掛けを施してとあるスキルを覚えさせてくれたが。

 

まぁ、とにかく俺はそのスキルを覚え、そしてスキルを覚えておくうちに集まったマッカでアイテムを補充。そして悪魔合体でパーティの強化に勤しんだ。

 

すると邪教の館の主が俺にあるものを寄越したのだ。

 

【公の御剣】とよばれる物で邪教の館の主が『あの御方』と呼ぶ謎の存在に導く物……らしい。

 

そしてその存在が俺の助けになってくれる……と。

 

正直に言おう。気になる。

 

その存在のヒントは二つ。

 

『かつて東京を守護していた存在』。そして『公』

 

その二つが結びつく場所は一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チヨダ・マルノウチエリア。俺はカグツチ塔を抜け、ある場所を探していた。

 

仲魔達の意見の中には、そんな得体の知れない者を探す時間はないだろうというのもあったが別に時間制限はないに等しい。

 

なぜならタカラの一つが俺にあるからだ。そうなればそれが今カグツチ塔から欠けている以上カグツチの謁見は不可能ということになる。

 

勇が隠れている理由はなんとなく察しがつく。恐らく漁夫の利を狙っているのだろう。……というよりは、狙わないと勝利を得られないというのが正しいか。

 

この創世戦争。一番不利なのはムスビである。理由は言わずもがな。ムスビが超個人主義であり、軍隊行動ができないからである。

 

……と、なればムスビは正面から戦争はできない。戦力が揃ったヨスガ・シジマの両方と戦うことはできないからだ。

 

そしてそれが可能とできるのがタカラのルール。タカラが3つ揃うまではカグツチと謁見できないという決まり事。

 

勇は間違いなくタカラを一つ持っている。だからこそ敵が戦い、疲弊するのを待てる。

 

俺はそれと同じことをしただけ。だがまぁ、シジマを潰してしまった今、漁夫の利は望めないだろうがな。ムスビは動かないだろうし。

 

だが今は時間があれば良い。その時間で俺は好き勝手動ける。

 

そして……見つけた。

 

「将門塚……」

 

俺はそれを見て呟いた。

 

「ヘイ、零時。これは一体何だ?」

 

すると見かけ通りの外国人、ダンテが問うてきた。まぁ、日本人でもマイナーな平 将門をダンテが知る由もないが。

 

俺は簡単に説明した。

 

「この塚にさ。平 将門っていう……まぁ、昔の偉い人が奉られている。多分これに関係している」

 

俺はダンテに【公の御剣】を掲げて見せた。

 

「へぇ、なるほど……おっ、当たりのようだぜ?その考え」

 

ダンテがそういうと【公の御剣】が光輝き始めていた。そしてそれにつられるよう将門塚も輝くと俺の体が引っ張られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【坂東宮】。そう呼ばれる場所に迷いこんだ俺達はあることを目指していた。

 

将門公。その存在が邪教の館の主が『あの方』と呼んでいた存在の招待であることは疑いようがない。だがそれに会うためには試練をクリアしなければならないという面倒臭い仕様だった。

 

試練の内容は実にシンプル。日本が誇るある四天王を倒し、坂東宮本体を空中に支えている巨大な柱四本を降ろす。

 

別に空中にあるぐらいなら悪魔の脚力でジャンプしていけるが、内部が厳重にロックされていた。試練を正直に行わなければどのみち中には入れない、ということだ。

 

……というわけで試煉のために坂東宮を駆け回って柱を降ろしているのだが……。

 

「ぬぇぇいッ!」

 

【烈風波】

 

「おうっ⁉」

 

その四天王が強い強い。恐らくパワーだけなら守護とある程度渡り合えるぐらいだ。

 

現在、三本目の柱を降ろそうとしたところだがそれを阻む鬼神 ジコクテン。ジコクテンを含めた四天王達は武術にしろ魔力にしろ超一流であったのだ。

 

一本目はゾウチョウテン。二本目はコウモクテンが守護していて三本目はジコクテン。

 

悪鬼から日本を守護する天部の四天王達。と、すれば残りの四天王は…。おっと……。

 

俺はそこで重い思考を止め、ジコクテンの懐に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに四本目。俺はその柱を降ろそうと近づいた。すると。

 

響く雷鳴とともに人型の悪魔が現れた。

 

「ほぅ……。誰かと思えばそなたか」

 

「あぁ、俺だよ。『ビシャモンテン』」

 

俺はビシャモンテンの赤ら顔を見上げた。

 

鬼神 ビシャモンテン。トウキョウ議事堂に行く前に決闘を申し込まれて、その後マガタマをもらった経緯がある。

 

とはいえ、その決闘はビシャモンテン自体が手加減していたため、勝ちとは言い難いが。

 

「なるほど。先程、他の四天王が倒されたのもそなたのせいか……ならば、我が現れた理由も分かっておろうな?」

 

「あぁ、理解してるさ。だから……」

 

俺は半拍置き、挑発するように指を内側に折り曲げた。

 

「来いよ。死に、なぁ……」

 

ビシャモンテンは俺の死の気配に驚愕したのか、目を見開くがすぐに気を取り直し、飛びかかってきた。

 

だがそれは叶わなかった。

 

俺の人生がまっとうなバトルものの小説ならば俺は仲魔と共闘し、熱いバトルを繰り広げるのが通常だろう。

 

だが俺もビシャモンテンも相手をただ倒す・殺すことを極め続けた存在。魅せるということは完全に削ぎ落としている。

 

そんな技術の持ち主同士が戦うと、どうなるか。

 

答えは『実力が拮抗してない限り、一瞬で片がつく』

 

ビシャモンテンは神速と呼べる速度で三叉矛を突きだした。

 

牽制のつもりだったのだろう。どの急所も狙ってない動きだった。

 

それがビシャモンテンの敗因となった。

 

俺はビシャモンテンに向かって口を歪めてみせるとスピードをあげてその三叉矛をわざと腹に喰らった。

 

鋭い武器が腹から背に貫かれる感覚と痛覚に目を細めるが、俺は笑みを崩さなかった。

 

ビシャモンテンは『正気か⁉』とばかりに目を見開いた。それが隙になるのにも関わらず。

 

俺は右手を犠牲にして死の力を一極点に溜め、振るった。

 

バシャッ‼という音が二度響く。一回目は俺の右手が肉塊になった音。もう一つは、ビシャモンテンの首が飛んだ音だ。

 

これはスキルではない。ただ死の力を簡略にして振るっただけ。

 

だが死に愛された俺は再生可能なのに対し、あちらはもはや概念的に滅んだ。その利点をとことん利用した卑怯な方法だ。

 

だがビシャモンテンは驚いたことにすぐには死ななかった。首だけで俺の方を向き、ぶつぶつと何かを呟いた。

 

耳を澄まして聞いてみると、魔人達が俺に対して言ったことを言っていることが分かった。

 

即ち「その執念……おぞましきものよな……」と。

 

俺はビシャモンテンに向かって乾いた笑い声を挙げ、ビシャモンテンに言った。血でゴボゴボと音が潰れてしまったが、なんとか言葉に出来た。

 

「仕方がない。それが俺だ」

 

そういうとビシャモンテンはフッとなぜか笑った。

 

そしてなぜだろうか?それが俺を哀れむように感じたのは。

 

ビシャモンテンはそれっきり動かなくなり、そしてマガツヒと化した。

 

俺はそれをいつものように仲魔達に分けて(ダンテは除く)おこうとした。しかしこの時にまた仲魔達に叱られた。

 

曰く、無茶しすぎだの私たちを頼れだの。

 

なんでだろうか?勝てたからいいだろうに。

 

お前達には、何の害も無かろうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

治療を終え、俺は柱を全て降ろした。すると坂東宮本体が地響きをたてて降りてきた。

 

そして灯籠に火が灯り、通行を妨げていた障壁も消えた。

 

俺はやっとかとばかりに息を吐くと中に入り込んでいった。

 

中に入り込むと驚いたことに通路にいくつもの鳥居が続いていた。

 

入り口たるこの小さな広場に足を踏み入れ、その神秘的な通路を通ろうとしたときだ。

 

「余の眠りを妨げるは何者ぞ!」

 

メタトロンにも勝る威を含んだ声が轟くと同時にそれが現れた。

 

それは歌舞伎の役者のような姿をしていた。隈取、装束姿。一見すると人間にも見える。

 

だがそうでないのは気配で分かる。目の前の存在は人間から昇華した人間よりももっと上の存在だ。

 

間違いない。マサカドだ。

 

「……ほう、汝、かの地より来たりし悪魔か……」

 

マサカドは光輝く身を振るい、名乗った。

 

「余は一千年の時よりトウキョウの地を守護を務めてきた平 将門である」

 

そういうとマサカドは俺を品定めするように睨んだ。

 

「汝は……夜藤 零時であるな。元は人でありながら、悪魔になり、混沌の王とならんとする者。その者がかの地より遥々ここへ来た用は何だ?」

 

マサカドの問い掛け。俺は一切の偽りを入れないで単刀直入に言った。

 

「俺は創世の戦争に唯一の勝者になり、カグツチを討ちたい。だがそのための力が俺には不足している。平 将門。あなたの力を貸してくれ」

 

俺がそういうとマサカドはフムゥ…と唸った。

 

「余の助力を求むるというか……だが悪魔が跋扈するあのトウキョウの地は我が威光の届かぬ地……汝らが余の助力を求めど、余はかのトウキョウの地に足を踏み入れることができないのだ」

 

俺は忌々しげに顔を歪ませた。あのボルテクス界をボルテクス界たらしめているのはカグツチだ。つまりカグツチがマサカドを追い出しているということになる。

 

どこまでも俺を阻みやがって。そう毒づいているとマサカドは言葉を投げ掛けた。

 

「零時よ。汝、トウキョウの地を平定するつもりはあるか?」

 

俺はその言葉に一瞬驚きながらもその言葉の意味を推測した。

 

今のトウキョウはマサカドの人間だったころの時代で言えば乱世である。それを平定するということはつまり、創世をせんとする者達との戦いを制すというだろうか?

 

俺はひとまずそう判断するとマサカドの問いに肯定の意を示した。

 

するとマサカドは満足そうに頷いた。

 

「なれば、これを汝に渡そう」

 

マサカドから差し出されたものはなんとマガタマだった。それも俺の持つマガタマとは一線を画する強大な力を秘めた。

 

マガタマはどれもこれも青や緑、水色など冷たい色をしている。だがこのマガタマは燃えるような橙色をしている。

 

俺はそのマガタマを受け取る。するとそのマガタマの名前を知った。

 

【マサカドゥス】。それがこのマガタマの名前か。

 

「では、さらばだ。新しき世界とはいえ、かの地はトウキョウ……汝が新たな守護者たらんことを……」

 

憂いの言葉とともにマサカドはその姿を消した。

 

俺はいなくなったマサカドに対して呟くように言った。

 

「守護者たることは約束できないが……まぁ、勝者にはなり続けてやるさ……」

 

俺は強大な力を持ったマガタマを握りしめながら坂東宮を去った。

 

さぁ、寄り道は終わりだ。

 

最終決戦の続きといこうか。勇。千晶。

 

 

 

 

 





2016年も私、ブラック・レインをよろしくお願いします!





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孤独と死は… 前編

ノア戦になります。アーリマンと同じく2部構成を予定しております。




マサカドゥス。まさしく究極のマガタマだ。

 

沸き上がる力。覚えるスキル。どれをとっても非の打ち所がないばかりだが。注目すべきはそれを飲んだ時の俺の耐性にある。

 

『万能属性以外の全ての攻撃を無効』

 

お分かりいただけただろうか?つまり俺は万能属性以外の攻撃は一切通用しなくなった、というわけだ。

 

死の力という最強の矛(もっとも、まだ使いこなせていないが)。ほとんどの攻撃を無効化するマサカドゥスという最強の盾。

 

その両方を持つ俺に敵はいなくなった……とはいえないが、これで俺の勝利が近くなった、とは言えるだろう。

 

さぁ、覚悟しな。まずは勇。お前だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カグツチ塔を徹底的に索敵しているとやっと勇の場所が分かった。カグツチ塔を昇る正規のルートから外れた場所にひっそりと身を隠してしたのだ。

 

やはり狙いは漁夫の利。小賢しい勇のやりそうなことだ。

 

俺は仲魔達を勇の姿を見かけたという広間にたどり着いた。

 

この広間は断崖絶壁になっており、飛べない者は広間の半分も進めない仕様になっている。無いよりはマシと考えた飛べる者の場所選びだ。

 

フンと俺は鼻を鳴らすと崖に向かって大声で叫んだ。

 

「勇!いい加減隠れてないで出てこいよ!かくれんぼする歳はもう終わっただろう⁉」

 

その声は反響を繰り返し、下へ下へと響いていく。すると……

 

見えた。奈落の底から首のない黒い巨大ジュゴンのような守護……ノアが。

 

ノアは俺の目線より上にある宙をフワリと泳ぐように飛ぶと頭のない首をこちらに向ける。

 

すると、マガツヒの繭に閉じ籠った少年の姿がノアの体内から透けて見えるようになった。

 

新田 勇。孤独の殻に籠った哀れな元親友の姿を見て、俺は震えた。

 

再会の喜びではなく、怒りに。

 

その心情を知らぬ勇はマガツヒの繭から出ずに少し面を上げて、俺を嘲笑した。

 

「ハッハッハ!わざわざ、やられに来るなんてオマエは頭が悪いなぁ」

 

俺はフンと鼻で笑い、言い返した。

 

「言葉を間違えるなよ、勇。俺は頭が悪いわけじゃねぇ。諦めが悪いのさ。おかげでここまでこれたんだ。お前を殺すという結末を見るための場をなぁ!」

 

凄絶に絶叫するとノアとマガツヒ越しに見える勇の顔が一瞬歪むのが見えた。俺の変貌っぷりに驚いているのか、お前が死ぬと言われたことに憤慨しているのか……。

 

だが、勇はなおも俺を嘲笑い、冷たい声で言った。

 

「やれやれ、ムスビの世界が出来るまで待てば、もしかしたらお前も死にこそすれ生まれ変われたかもしれないのに。……いくら友達だったからといっても……オレの創世を邪魔するヤツは許さないよ」

 

そういうと勇はマガツヒの繭を光らせ、ノアの上体を起こした。ノアの力が急激に膨れ上がるのを感じる。

 

それに対するよう俺も仲魔達も構えた。

 

「残念だけどオマエもサヨナラさ。永遠にね……」

 

「あぁ、永遠のサヨナラだ。そうなるだろうさ。お前とお前の望みの消滅でなァ‼」

 

互いの掛け合いを終えるとノアは首の部品から角を生やし、そこからレーザーを放った。

 

俺はそれを正面から受けた。

 

「………ッ⁉」

 

それに狼狽する様子を見せる勇。ダボが。戦闘中、敵にそんな様子を見せるなんてな。

 

俺はノアの体に飛び付くと足だけで体を固定、そして腕を振りかぶって思いっきり振るった。

 

【アイアンクロウ】

 

スバァン!という音とともにノアの胴が抉られた。

 

「くっ……離れろぉ‼」

 

ショックからダメージを受けて立ち直ったのか、勇がそう叫ぶ。その瞬間ノアが空中でグルングルンと旋回し始めた。

 

追撃をやめた俺はノアの体からジャンプで離れると仲魔達に号令した。

 

「やれ‼」

 

「任せなさい!行くわよ‼」

 

仲魔の筆頭、ピクシーが応えるとそれに続くようウリエルが剣を振るって火炎魔法を放ち、ピクシー自身もお得意の電撃魔法を放つ。

 

「さて、ショウタイムだ!」

 

ダンテも獰猛に笑うとエボニーとアイボリーの二つの銃を操り、ノアの体を穿つ。

 

「ぐあっ……!」

 

すると攻撃を喰らったノアではなく、勇が痛みに呻いた。ひょっとするとノアと勇の神経は繋がっているのか?

 

だが、ノア本体だけに攻撃することは長期戦を意味する。ノアはアマラ神殿に溜まっていたアマラ経絡のマガツヒを根こそぎ使ってノアを召喚したのだ。その生命力はアーリマンと張り合えるだろう。

 

どうにか勇自身に攻撃を当てて、ノアの核を殺す。それが連戦を予定する俺にとってベストなのだ。

 

勇のいる場所はノアの体を見れば分かる。仄かに赤く光っている部分が勇の居場所だ。

 

………あの技なら届くか。

 

俺は右手を突きだし、そこに生命力を集中させた。そして集中させた生命力によって光輝く右手を細かく動かして照準を合わせる

 

【破邪の光弾】という技の構えだ。この技は【螺旋の蛇】や【ゼロス・ビート】のような威力や広範囲殲滅力は無いが、手しか使わないため、使い勝手が良い。

 

遠距離攻撃であり、なおかつ威力が欲しいならうってつけと言うわけだ。

 

光る右手を左手を使って微調整し、赤い繭に照準を定め、放とうとしたとき。

 

ノアが動いた。

 

「ウオォォォン‼」

 

口がないはずのノアが吼え、スキルを使用してきたのだ。

 

【夜のオーロラ】

 

そのスキルを使用したとたん、ノアの全身をオーロラが包み込んだ。

 

「ッ⁉」

 

マズイ⁉瞬間的にそう思ったが【破邪の光弾】を引っ込めることは叶わず、轟音とともに右手からレーザーが放たれた。

 

レーザーはまっすぐ進み、ノアの内部にいる勇の方に向かって飛ぶ。このまま進めば、勇を間違いなく屠れる。この時にはオーロラはすでに消えていた。

 

だが………

 

キィィン‼

 

「んなッ⁉」

 

いきなりノアの周りに光の膜が現れ、【破邪の光弾】を俺に向けて跳ね返してしまったではないか。

 

ほぼ反射で体をひねり、それをかわす。【破邪の光弾】の熱に思わず顔をしかめるが問題はそんなことではない。

 

ノアには物理反射の耐性はなかった。それは先程の【アイアンクロウ】を当てたことによって証明できる。

 

カーン系による反射魔法かと思い、もう一度同じ技を放つが再び跳ね返される。

 

「カーンじゃない……⁉」

 

【破邪の光弾】は物理攻撃であり、それを魔法で跳ね返そうと思うのなら【テトラカーン】を使用すれば跳ね返せる。

 

だが【テトラカーン】などの反射魔法は一度効果を発揮すると、効果を無くす。故に2度攻撃を反射させたいと思うのなら2度反射魔法を使わなければならない。

 

だが、ノアはスキルを一度しか使っていない。【夜のオーロラ】。その技が反射させたのは間違いないはずなのだが……

 

「まさか……」

 

消去法で考えた結果、ある考えが浮かんだ。それは……!

 

「オオオオンッ!」

 

【アギダイン】

 

「くっ……!」

 

その仮説を証明するために突っ走ろうと思った矢先、ノアが吼えて火球を飛ばしてくる。俺は反射的にそれをかわしてしまい、突っ込むチャンスを失う。

 

ノアはそれを狙って魔法を連発した。

 

【アギダイン】【アギダイン】【アギダイン】【アギダイン】【アギダイン】

 

「ちぃ……!」

 

さすがにこれを避けるだけで凌ぐのは無理がある。耐性を駆使し、火球全てをその身に受ける。

 

ドォン!ドォン!ドォン!

 

命中弾、3発。ダメージ0。ほぼ無意識でそう断じると再び突っ込んだ。

 

「おっ………!」

 

さすがにノーダメージだったのが衝撃的だったのか、勇の驚愕の声が耳に響くが、構わず突っ込む。

 

ノア再び咆哮。火炎属性単体攻撃魔法である【アギダイン】を再び連発する。

 

俺は眉をひそめた。【夜のオーロラ】を使って以降、なぜ【アギダイン】しか使わないのか?

 

疑問が浮かぶが考えている暇は戦いにはない。再びチート耐性にモノを言わせ、【アギダイン】を突っ切る。

 

そして再びノアに肉薄すると今度はスキルを使わず、そのかわり思いっきり殴った。

 

キィン!

 

「っ……」

 

再び反射。今の俺に物理は聞かないため、その跳ね返されたことによるダメージはない。

 

そして俺は殴った感覚で仮説を正しいと確信できた。

 

再びノアは身を揺らし、俺を振り落とそうとする。俺は落とされまいとしがみつき、ノアにむかってささやくように言った。

 

「防御相性の変更」

 

「ッ⁉」

 

その言葉を呟いた瞬間、ノアが……といえよりはその核となる勇がピクッと揺れた。

 

図星か。その感慨とともに俺はノアの体から離れた。

 

そう、【夜のオーロラ】は防御相性、つまり耐性の変更がその効力なのだろう。

 

攻撃が跳ね返されるパターンはよくあることではあるが、跳ね返された時の感覚は魔法によるものと耐性によるものとで若干違うのだ。

 

さっき殴ったのはその確認。その時の感覚は耐性で物理を反射する敵を、誤って殴ってしまった時と同じ感覚だった。

 

つまり、【夜のオーロラ】は反射魔法ではなく、耐性の変更、と考えた。

 

そしてそれは勇の反応で当たりと確信できた。

 

切り札を見破られた勇は忌々しそうに俺を見るが、すぐに嘲笑めいた表情に戻る。

 

「フン、見破ったようだけどそれじゃあオレに勝ったのとにはならないぜ?」

 

「それは、後のお楽しみってヤツだ!」

 

俺はそう言い返すと魔法を唱えた。

 

【真空刃】

 

衝撃属性単体攻撃魔法【真空刃】。範囲は一体だけだが威力は衝撃魔法の中でも最強クラス。

 

物理が通らないなら魔法。そう思ってこの魔法を選択したのだが。

 

キィン!

 

「あっ⁉」

 

澄んだ音とともに【真空刃】が反射された。俺の方向に飛んでくる【真空刃】を素手で叩き潰すと、俺は驚きの目をノアにむけた。

 

その様子が滑稽に思えたのか、勇が嗤う。

 

「【夜のオーロラ】で作り出せる耐性が一つだと誰が決めた?」

 

【アギダイン】

 

「チッ……!」

 

ノアの反撃と勇の言葉に舌打ちすると俺は頭をフル回転させつつ、仲魔達に攻撃させた。

 

だがその悉くをノアは跳ね返す。ダンテの銃弾すら跳ね返す始末だ。

 

そしてノアは嘲笑うかの如く吼え、【アギダイン】で反撃する。

 

その間、俺は動きながらも思考を止めなかった。

 

【夜のオーロラ】は勇の言う通り、複数の耐性を造り出すことが出来るようだ。ピクシーの電撃、俺の物理攻撃、ダンテの銃撃。その全てを跳ね返すそれは強力である。

 

だからこそ分からない。そんな技を持っている勇が逃げに徹している戦いをするとは。

 

勇は孤独を至上とするムスビの頭領だが、その孤独至上主義のため、そのコトワリに賛同する者すら助力することがない。

 

そのため創世戦争ではカグツチ塔の横道にひっそりと隠れる戦法を取っていた。だが、【夜のオーロラ】というチートスキルを所持しているのになぜ逃げに徹しているのか?

 

答えは自ずと出てくる。あの【夜のオーロラ】。万能というわけではないといえことだろう。でなければ他の勢力を潰しているはずだ。

 

その弱点は一つはもう露見している。どうやらノアは現状、【アギダイン】しか放てないようだ。

 

【夜のオーロラ】を使用して以降、ノアの使用する攻撃は全て【アギダイン】になっていた。そんなワンパターンな攻撃がそもそも当たるわけがないのは、勇も分かっているはず。なのに、それしかやらない。

 

よく見てみると、ウリエルの攻撃をアギダインで振り払おうとしている。ウリエルには火炎無効の耐性がついているのにも関わらず、だ。

 

なら勇は俺がノアに手出しできないように、あちらも攻撃できないというわけだ。

 

そう考えた時、ノアが身を反らし、再びオーロラでその身を包んだ。

 

補助スキルの重ね掛け。能力を上下させるカジャ系魔法やンダ系魔法ではよく行うことだが、その2つとは違う【夜のオーロラ】を重ね掛けしてどうするのだろうか?

 

その変化はすぐに知れた。

 

【ブフダイン】

 

「おっと……」

 

銃で撃ちまくっていたダンテに氷塊が飛ぶ。

 

【ブフダイン】は【アギダイン】と違って、氷結魔法。どうやら重ね掛けでなにかしら変化したようだ。

 

ところがしばらく様子を見てみると今度は【ブフダイン】しか使わないことが分かる。それに首をひねっていると。

 

「もしかしたら……!」

 

ある考えが俺に浮かんだ。

 

俺はノアの飛ばしてきた氷塊ごと、ノアをあるスキルの照準に入れた。

 

両手を顔の左右に持っていき、炎を灯してその炎を生命力で猛らす。そして跳んできた氷塊にそれを叩きつけた。

 

【マグマ・アクシス】

 

スドォン!という音とともに【ブフダイン】は蒸発、そのまま俺はノアに突っ込む。

 

すると………

 

「ギャアアアアアアアァァァァ‼」

 

【マグマ・アクシス】は反射されることなく、ノアに直撃した。

 

「やはりな……」

 

俺はニヤリと笑い、仲魔達に【夜のオーロラ】の穴を教えた。

 

【夜のオーロラ】は耐性を造るのではなく、変えるのである。最初は呪殺・破魔・バッドステータス攻撃無効といった強力な悪魔なら誰しもが持ちうる耐性のところを、【夜のオーロラ】によってそれに様々な反射の耐性を持つ。

 

だが、それには穴がある。そしてその穴というのは、唯一使えるノアの魔法の反対属性であると予想した。

 

つまり、今みたいに氷結魔法しか使えないのなら火炎属性の攻撃だったら通用するということだ。

 

そうと分かれば話は簡単だ。

 

「【地獄の業火】ッ!」

 

俺はノアの無い頭部に火炎魔法をぶつける。それに続くよう、仲魔達も火炎魔法をノアに当てる。

 

「ぐっ……!」

 

たまらず勇が呻き、ノアに【夜のオーロラ】を使わせ、耐性を変える。そして……

 

【ザンダイン】

 

今度は衝撃魔法を連発してきた。

 

衝撃の反対属性は……電撃。

 

「ピクシー!」

 

「まかせなさいッ!」

 

小さな体に不釣合な大きな声をあげるとピクシーはパチンと指を鳴らし、電撃魔法を雨あられと降らせる。

 

「ぐっ……ちぃ……!」

 

避けようとするがノアはアーリマンと同じぐらい巨大だ。的がデカイ分、物量で押せば自然と当たってしまう。

 

再び【夜のオーロラ】を唱える。ノアが使用してきた技は【ジオダイン】。その反対属性は衝撃だ。

 

「イヤァ‼」

 

今度はダンテの番だ。剣を大振りに振り回し、風の刃を連続で放つ。

 

「オオオオン‼」

 

悲鳴のごとく吼えるノア。ダンテに向けて【ジオダイン】を放つが俺が防ぎ、カウンター気味に衝撃魔法をお見舞いする。

 

「アアアアアアァァ‼」

 

怒りの声をあげるのは勇かノアか。再びその声で【夜のオーロラ】を使うが、続くノアの攻撃でノアの耐性の穴が露見してしまう。次は氷結魔法だ。

 

【絶対零度】

 

【マハブフダイン】

 

俺と仲魔達の放った氷結魔法は全て範囲攻撃。巨大なノアはかわす術がなかった。

 

「ぐう……!アァァ……!」

 

ノアの体はズタズタ。ノアは黒いその体を不気味に蠢動させた。

 

だが悪魔がマガツヒと化すものとは違う。あれは死にかけているのではない。それどころか力が増している。

 

この感覚は知っている。アーリマンが第2形態に移行したときと同じ感覚……

 

「第2ラウンドのようだな」

 

「……そのようで」

 

ダンテがリベリオンを振るいながらそう言い、俺が忌々しそうに相槌を打つとノアに本格的な変化が現れた。

 

ノアのない頭部。そこが不気味に蠢き、そこからぐにゃんと頭部が生えてきたのだ。

 

それはなんと……勇の頭部の形をしていた。細かいことに勇のトレードマークである帽子まで再現されている。

 

だが変化は外見だけではない。力も膨れ上がっている。

 

それに警戒していると、ノアに張り付いた勇の顔が歪んだ表情で、ぞっとする声をあげた。

 

「なんで……なんでお前はオレの邪魔ばかり……!」

 

アアアアアアァァァァァァッ!!!!

 

その叫びは、なぜだろうか。とても叫び声というよりも、号哭に聞こえた。

 

それが俺の胸を、なぜか痛めた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、少しオリジナルを入れるつもりです。



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孤独と死は… 後編

ノア第2形態戦になります。






「アアアアアアアアァァァァァァ………!!」

 

ノアに現れた顔がおぞましい声で叫んだ。

 

ノアは再び【夜のオーロラ】を使用し、防御相性を変える。俺は次のノアの動きに注目した。ノアの使う魔法の反対属性がノアに通じる攻撃になるからだ。

 

だが……

 

【ウソブキ】

 

「んなっ……!」

 

ノアは四属性魔法を使わず、防ぎようのない、相手から生命力と魔力を奪う魔法を使ってきたのだ。

 

奪われる力の量は多くはない。だがこれではノアの弱点が分からない。

 

「ヘイ、零時!どうやらヒントはもうもらえないようだぜ?」

 

「みたいだな……」

 

ダンテの軽口に苦々しく応じる。確かにこれではノーヒントだ。

 

だが使っている技は【夜のオーロラ】のままだ。変わったのはヒントを渡さない。これだけだろう。つまり四属性魔法のどれかが通用するということは変わらないはず。

 

やたらめったらに魔法を撃つしかない。

 

「ハッ‼」

 

【地獄の業火】

 

【絶対零度】

 

【真空刃】

 

【ショックウェーブ】

 

軽い掛け声とともに四属性すべての魔法を使う。

 

結果、【地獄の業火】以外は反射されたが俺には効かない。これで炎が通ることは分かった。

 

すぐさま仲魔に号令をかける。

 

「ウリエル!」

 

「分かっております!」

 

【プロミネンス】

 

青白い炎なノアの体を焼き、傷つける。

 

「アアアアアァァァァァァ…!」

 

痛みに叫ぶノア。あるいはそれは勇の痛みを代行して現しているのか。

 

マガツヒの繭に閉じ籠っている勇の顔は窺えない。体を丸めてしまっている上、ノアの体の中心部分に引き込もってしまったようだ。

 

だが俺は忘れない。あいつの嘆きの言葉を。

 

『なんで……なんでお前はオレの邪魔ばかり……!』

 

…………なんでかって?

 

その問いの答えをあいつに攻撃とともにぶつける。それが、俺があいつに行う復讐だ。

 

そのためにはノアが道を塞ぐ落石のごとく邪魔だ!さっさと【夜のオーロラ】の仕掛けを完全に解かないと、持久戦に持ち込まれる。それだけは避けなければ。

 

再び【夜のオーロラ】を使用するノア。今度はただの攻撃を俺に加えてくる。どうやら完全に俺を目の敵にしたようだ。

 

ただの攻撃といっても、ノアが攻撃の時に生やす角からビームが飛んでくるのだが、スキルではない攻撃はボルテクス界では通常攻撃になる。よってこのビームは通常攻撃。

 

物理攻撃なら俺に防げないものはない。

 

「ふん!」

 

腕の一振りでかき消すと、ノアに【真空刃】をぶつける。

 

キィン!

 

「違う」

 

跳ね返されたのを見てすぐさま違う魔法を放つ。今度は【ショックウェーブ】。

 

バァーン!

 

当たった。

 

「ダンテ!ピクシー!」

 

すぐさま電撃攻撃が使える仲魔に号令。自分もそれに合わせて【ショックウェーブ】を放つ。

 

「オオオォォォォォォ……!」

 

【夜のオーロラ】

 

「またかチクショウ……」

 

ダンテが舌打ちする。ダンテの技は強力だが属性のレパートリーが少ない。暴れられないのが気に食わないのか、イライラと剣を振り回す。

 

しかしその気持ちは俺にもある。こうも相手の出方を見て手探りで相手に通じる技を見つけないといけないチマチマとした戦いかたをしては、持久戦にどうしても持ち込まれてしまう。

 

なにかないのか……他に見逃している点は……!

 

………

 

「そういえば……」

 

俺の頭に何かが引っ掛かった。

 

ノアは【夜のオーロラ】を使う度に、反射出来ない属性を変える。それになぜかバラツキを感じないのだ。

 

なんというか……規則性があるように思える。

 

俺は第1形態も含めたノアの耐性を思い出した。

 

最初は氷結属性が通じた。そして次は火炎属性。その次は電撃。そのまた次は衝撃。

 

そして次は氷結……第2形態になってからは……火炎……次に電撃……!

 

「はは……!」

 

俺は分かってしまった。【夜のオーロラ】の規則を。

 

なら、今、あいつに通じる属性は……!

 

「【真空刃】ァ‼」

 

衝撃!

 

「グアアアアアッ⁉」

 

ビンゴ(当たり)のようだ。

 

俺はノアが怯んでいる間に仲魔達に【夜のオーロラ】の規則性を教えた。

 

【夜のオーロラ】。一つの属性以外通用しなくなる最強の防御技。その弱点は2つ。

 

一つは技に制限がかかること。ノア自身の力は膨大なのに技に制限がかかってしまうのは明らかに致命的な弱点である。

 

そしてもう一つ、こちらが本命だ。

 

【夜のオーロラ】の穴は規則性がある。最初は氷結属性、次に【夜のオーロラ】を使った時は火炎属性。次は電撃、次は衝撃。

 

そして最後に氷結属性に戻り、火炎、電撃、衝撃……。この繰り返しなのである。

 

衝撃が通じたノアは再び【夜のオーロラ】を使うがもはや無意味。

 

「氷結魔法だ!やれぇ‼」

 

「はいはーい!」

 

戦場には合わない明るい声で答えるピクシー。ピクシーは俺に合わせて氷結魔法をノアにぶつける。

 

「オアアアアァァァァァァ!!」

 

【夜のオーロラ】

 

「無駄だっつうのが分からねえのかよ‼」

 

【気合い】

 

怒号とともに俺はスキルを使う。生命力を使うを技を一度だけ強化する技。

 

生命力を消費する技のほとんどは物理攻撃。だが今から使う技は火炎属性である。これならば、今のノアなら通用する。

 

両手に炎を灯す。それに生命力を注ぎ、さらに猛らせる。

 

俺は最大限に炎を巨大にするとノアに向かって飛び上がった。

 

俺の挙動に気づいたノアは絶叫しながら魔法を放つ。【マハブフダイン】

 

氷結属性広範囲攻撃魔法である。どうやら第1形体同様、一つの属性魔法は使えたようだ。

 

だが無駄だ。氷結属性は俺の前には何の意味も成さない。全て俺に当たる寸前で消えてしまう。

 

ノアは狂ったように俺に氷弾を浴びせるが、全て消える。

 

俺は凄絶に嗤うとゴウゴウと燃え上がる両手をグンと後ろに引き絞り、ノアの体目掛けてそれを振り抜いた。

 

そこに、一切の容赦を乗せず。

 

【マグマ・アクシス】

 

「この…………チート野郎がァァァァ‼」

 

ノアの怒号。だがその言葉が意味を為すことはなかった。

 

その言葉が引き金になったかのように獄炎の掌底はノアに直撃、刹那、爆発した。火柱がノアを貫いた。

 

ノアの胴体に大穴が開けられる。そしてノアの体内にいた勇がその穴から落ちてきた。

 

勇の姿は悲惨だった。自らを守っていた繭はすでに四散し、勇自身も体のあちこちから火と煙を噴かせていた。

 

だが勇は戦意を失ってなかった。その証拠に勇は憎悪に燃えた目をこちらに向けていたのだ。

 

勇は血と煙と火を空中に散らしながらこちらにむかって飛んできた。歯を剥き出し、俺に向かっておぞましいまでに絶叫した。

 

「レイジィィィィィィイイイイイイイイイイ‼」

 

言葉として放たれたのは俺の名前。だがそれに勇の全ての憎悪が込められていた。

 

迎え撃つために俺は拳を振り上げる。【マグマ・アクシス】の反動で体勢は崩れているが、殴るぐらいなら……勇の心臓を素手で撃ち抜くぐらいなら可能だ。

 

だが俺はあるものを見てしまった。それが俺の体を氷漬けにしたかのように縛った。

 

こちらに向かってくる、勇の瞳。

 

その眼から、血の涙が線を引いて流れていた。

 

それは、かつて俺の眼からも流れていた。理不尽を嘆く涙。

 

それが、人の心を捨てたはずの俺に哀れみという感情を呼び起こした。

 

勇も、創世の野望に目覚める前はただの人間。温い日常を生き、そしてそれを奪われた。地獄を見せられ、味わった哀れな被害者

 

彼は孤独だった。なにも自分を助けてくれないと諦め、アマラ経絡で生き抜いて内に……歪まざるをえなかった。そのまま、歩まざるをえなかった。

 

たった一人でそこまでの境地に至った者を、復讐の糧として殺すことにためらいを覚えてしまった。それが、俺の攻撃を鈍らせた。

 

「勇……ッ!」

 

それでも俺が勇に向けて致死に至る攻撃を繰り出せたのは、悪魔の冷徹さを引き継いだ故か。それとも俺の敵として立ったことへの憎悪故か。

 

拳での攻撃ではもう間に合わない。ダメージは負わないだろうが確実に吹き飛ばされる。この打ち合いで俺の勝利以外の結末は絶対に認められない。

 

勇はなんどもその心から絶望で血しぶきをあげただろう。その痛みの辛さは俺も知っている。加えてあの傷だ。

 

もはや勇の生は地獄であろう。だからこそ……かつてだいそうじょうが俺に説いたように。

 

死で救う!

 

「ジャアッ!」

 

鋭い気迫とともに俺が繰り出したのは拳ではなかった。

 

手を広げ、指を揃え、揃えた指で相手を穿つ攻撃。

 

『貫手』だ。

 

グシャ!という音とともに勇の紫色に変色した胸に俺の指が突き刺さった。

 

勇の攻撃は拳による殴りかかり。しかしそれは俺の目先数センチで止まっていた。

 

指によってリーチが増えたことによる攻防の勝利。俺はそれを確信した瞬間、指を伝って勇に死の力を流し込んだ。

 

「あぐ……!」

 

死による生命力の喪失を感じたのか勇が呻き、身を捩った。

 

俺は、そんな勇の身を手繰り寄せ、抱き締めた。

 

理由は2つ。1つは地面に衝突する衝撃をショックに強い背中で完全に受けるためには、勇に突き刺さった手を勇ごと引き寄せなければならず、その形になった。

 

もう1つは……それが親友にくれてやる。最後の情けだった。

 

死は冷たい。その概念に自らの命を喰われている勇は今、身を切り裂くような冷たさに襲われているはずだ。

 

少しでも暖かくしてやりたかった。男同士とかそんなことは一切思い浮かばなかった。それぐらい死は冷たい。特に、孤独の中での死は想像を絶する寒さだろう。

 

あの一瞬の攻防から長く感じたがようやく地面に衝突した。衝撃が全身を襲うがなんてことはない。

 

今、勇は俺の上に乗っている。攻撃するなら絶好のチャンスだが、もはや勇にそんな力はないだろう。

 

俺は勇の胸から指を引き抜くと、万が一に備えて拳を握った。少しでも勇が不審なことをすれば頭を撃ち抜けるように。

 

だが勇はそのかわりに俺に向かって何かを訴えるように口を動かしていた。

 

「なんだ、勇?」

 

かつてトウキョウが東京であった頃のように聞き返すと、勇は先程よりもほんの少し、はっきりとこう言った。

 

「お前の……勝ちだ……好きに……するが……いい……さ…」

 

そして最後に、今にも消えようとしている細い声で勇はこう言った。

 

それは、俺の記憶の中で、永遠に残る言葉だろう。

 

「あと……お前の……小説……クッソ……面白……かった……ぜ……」

 

そしてブルリと勇はその身を痙攣させると、ぐったりと全身の力を抜いた。

 

すると俺の横に、勇はあるものを出現させた。

 

横目に見ると、それが【タカラ】だということに気づいた。

 

勇はそれっきり動くことも、目を開くことも無く、そのままマガツヒとなって消えてしまった。

 

勇には、たくさん言いたいことがあったのに、それも永遠に出来なくなってしまった。

 

その死に様は、悲しすぎた。勇はその存在証明を何も残せていなかった。骨の一片だって残ってない。

 

不幸すぎる。そうとしか言えない勇の生き様と死に様は、俺にありえないことをさせた。

 

『泣いた』

 

身も心も悪魔と化した俺が、泣いていた。

 

泣かないはずの存在が、泣いていた。

 

心が痛みだす。過去に同じことがあったかつての混沌王たちから引き継いだ力も、俺の中で慟哭するように震えていた。

 

心が痛い。もはや傷つくまいと思っていた心が再び血しぶきをあげた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




な、難産だった……!



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絶対強者 絶対狂者 前編

トール戦、およびバアル・アバター戦初めです。

バアル・アバターは形態変化が無いのでこれが前編のようなものになります。


『devil never cry.』

 

意味は、悪魔は泣かない。

 

どんな悪魔も、激情のあまり泣くということはない。これは悪魔共通の意見だ。

 

眼の部位がある悪魔なら涙を流すことはできる。だが、それは決して感情によって流れる涙ではない。

 

そしてそれは、悪魔とは少し違う存在である魔人とて同じはずだ。まして魔人は死の象徴。誰かの死を悼むなんてことすらしない。

 

ならば、俺は自問する。

 

俺の両目から流れる『これ』はなんだ?そして、何よりも………この耐え難い胸の痛みはなんだ?

 

答えはもう知っている。それが涙と悲しみなんてことは人間だった俺には痛いほど理解できる。

 

だがそれが今の俺に現れる意味が分からない。俺はアマラの果てで人の心も捨て去ったはずだ。

 

大いなる意思を討つために、何を犠牲にしても心の痛みがないように人の心を捨てたというのに。

 

この心は、俺を泣かせるのだ。泣かずにはいられない衝動を、吐き出すのだ。

 

叫びはしない。ここは勇の墓場だ。眠らせてやったのにうるさくしたら意味がない。

 

勇の望みを叶える守護ノア。ノアに現れた勇の顔は、その痛みと苦しみをゾッとするほどはっきりと表していた。

 

今にも断末魔を叫びそうなほど口をこちらに向けて開いている。そして何より……泣いていた。

 

ノアの顔。その目から滝のようにマガツヒの涙を流していたのだ。その様はあまりにも……悲劇的だった。

 

ノアも勇も、本当は孤独の道なんて歩みたくなんかなかったのだろう。しかしノアはすがってくる者が無くなって忘れ去られ、勇は誰も自分の救いとなってくれずにその道を歩まざるをえなかった。

 

どの存在も……真に一人で生きていくなんてことはできないのに。そうせざるをえなかった。

 

それがなによりも、悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………シッ!」

 

【死亡遊戯】

 

「ギャ⁉」

 

「へぶっ⁉」

 

「ぎあッ!」

 

生命力で作られた剣による居合い斬り。それが悪魔三体の首を寸分違わず飛ばした。

 

残る守護は、ヨスガのバアル・アバター。創世主は橘 千晶。

 

自分達の主を守るため、ヨスガの悪魔達はカグツチ塔上階で待ち構えていた。

 

だが脆すぎる。その程度で強者を名乗るか。そもそも群れている時点で勇より劣っていることは確定だ。

 

あいつは一人であそこまで行けたんだ。

 

「死ね」

 

たった一言、天使にくれてやると俺はそいつの首を極めてそのまま引きちぎった。

 

ふりかかる血しぶきは気にしない。もはやこの全身は血にまみれていないところはない。気にせずかぶる。

 

すると、ぶちまかれた血の雨の合間に、ある悪魔を見つけた。

 

現在いる場所はアーリマンやノアと戦ったものより少し狭い広間。

 

その奥にある壁の上。そこに、見知った悪魔がいた。

 

元マントラ軍No.2。かつて俺をその圧倒的なパワーで苦しめた巨神。

 

鬼神 トールだ。

 

トールの目は俺をひしひしと見つめていた。驚きとも敵意とも取れるその目を、俺は見据えた。

 

「こんな場所で会うとは……。貴様が、これほどまでの悪魔だったとはな。なるほど、私が認めた悪魔だけのことはある。私を覚えているか?忘れたとは言わせぬぞ……」

 

「あぁ。覚えているさ……」

 

ただそれだけ返すとトールはマントを翻し、壁から飛び降りた。

 

ドンという少し響く音しか聞こえない。全身を使った軟着陸で音を殺している。完全に強者の身のこなしだ。

 

「……貴様、どうやらこの塔を上る目的が、私とは異なるようだな。ならば、私はヨスガの気高き強者として、貴様を血祭りに上げねばならぬ。ヨスガの世を啓くためにも、貴様にはここで死んでもらおう」

 

俺は自分のこめかみが動いたのを感じた。死んでもらおう。この言葉に殺意が湧いた。

 

トールはそれに気付かず、ハンマーを構え、叫んだ。

 

「いざ…尋常に勝負せよ!」

 

そう言い、その巨体に見合わない速度で俺との距離を詰めたトール。

 

仲魔やダンテが動こうとするが、それを俺は手で制す。こんな奴俺一人で十分だ。

 

振るわれるハンマー。恐らくはミョルニルだろうそれを、

 

俺は蹴り飛ばした。

 

「ぬおっ⁉」

 

その衝撃で仰け反るトール。その頭を今度は右フックで撃ち抜く。

 

「グアッ‼」

 

俺の細腕であの巨体が吹き飛ぶのはまともな目線で見ればありえないの一言だろうが、今の俺のパワーがあいつに劣るなんてことはありえない。

 

そうでなければ、こいつより上位の存在と2回戦って勝っているものか。

 

だがトールも伊達に神の名前を持っているわけではないようだ。頭撃ち抜かれていても、まだ立ち上がる。

 

まぁ、もうチェックメイトだが。

 

「なるほど、確かに千晶様や他の守護を相手にし、この塔を登るだけはある。だがこの程度でッ………⁉」

 

トールは言葉を中断せざるをえなかった。当たり前だ。

 

奴の頭から、死の力が侵食し、脳をドロドロに溶かしているのだから。

 

「グアアアア⁉な、なんだ……!これはァァァァァァアアア‼」

 

トールは転げ回った。だがそれで免れる死ではない。どんどんトールの内部を侵食し、殺していく。

 

俺はそれを冷めた目で見つめていた。『気高き強者とやらの死に様』を。

 

だが、あぁ。残念だったなトール。

 

お前の命。俺にとって何一つ意味を見いだせない。無意味だ。何も残せずに死ね。これから永遠となる俺の記憶の片隅に埋もれてろ。

 

少なくともお前を、勇と同格とはしない。永遠に

 

トールはせめて一矢報いようと考えたのか、痛みに叫びながらミョルニルを投げた。

 

俺は重厚なその武器を、死の力をこめた手で受け止めた。

 

「………ッ⁉」

 

驚愕するトール。俺は凄絶にトールにむけて微笑むとそのハンマーを握り潰した。

 

トールは震えていた。恐怖か。それとも死の冷たさ故か。それともどちらもか。どうでもいいがな。

 

「……おのれェ…!私の力は…貴様に及ばぬというのか!貴様の力は……!おのれ、憎しや……‼だが、しかし!千晶様が必ずや……ヨスガの世を啓いてくれるはず!私はここで朽ち果てようとも、ヨスガは……ヨスガはァ……!ぐああああああああ………!!」

 

トールは捨て台詞を吐くと絶叫とともにマガツヒとなって爆散した。

 

降り注ぐ血をうっとおしそうに払う。ダンテも仲魔達も無言でそれをよけていた。

 

そして仲魔達に余波による被害がないことを確認すると先に進み始めた。

 

未だ、胸が張り裂けそうな感覚が無くならないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カグツチ塔上層。最難関と思えるギミックが俺を足踏みさせた。

 

どこにあるか分からないワープトラップ。飛ばされた先が上層と中層を繋ぐ場所なんてことがさらにあった。

 

だがトラップということは配置は変わらない。飛ばされる場所も決まっているので覚えれば先に進める。

 

そしてその先、迷路のような通路を歩いていくと、ついに見つけた。

 

アーリマンやノアがいたようなあの広間が。

 

そして感じる圧倒的な力の波動。

 

間違いない、バアル・アバター……千晶がいる。

 

俺は意を決してその扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その広間は、奥に高台のような場所があり、その奥に先に進む道があった。

 

その高台に、絶対の強者として君臨するが如くバアル・アバターがいた。

 

バアル・アバターは、その石膏のような体を優雅に動かし、まともな形である右手を歓迎するかのように広げた。

 

「よくぞ来た。

汝もまた、戦う運命にある者なれば礼は尽くそうぞ……」

 

その言葉に俺は鼻を鳴らした。

 

「礼?いるかそんなもん。無意味なことは嫌いだ。知らない仲でもねぇのに」

 

「わたしたちは、もう友ではない」

 

俺の言葉に、バアル・アバターは淡々と反論した。

 

「私とお前はコトワリを違え、創世を争う、出会えば戦うしかない敵同士だ」

 

「なら、ますます礼なんていらない。殺意と攻撃。それ以外は不要だろう!」

 

俺が叫ぶとバアル・アバターはククッと笑った。

 

「そうだな……幸いなるか、互いに涙も流れぬ体になった。戦を交えることなど、何のためらいも無かろう…」

 

その言葉に俺のこめかみが動く。俺は涙を失いきってはいない……

 

だがそんなことは知らない(もっとも知ってたとしても変わらないだろうが)バアル・アバターは宙に浮き、戦闘体勢に入った。

 

「さあ、真に優れたるは汝か我か。全ての力をもってかかってくるがいい!」

 

そういうと凄まじいまでの力がこの広間を軋ませた。

 

俺は動揺を抑えると、力を猛らせ、迎撃する構えを取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




トールワンパン……原作で俺がやっちまったことです。

クリティカル入った【至高の魔弾】で1発KO。他にやってしまった人もいるのでは?



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絶対強者 絶対狂者 後編


あれ、なんでだろ……?バアル・アバター戦の方がスラスラ書けてしまった……




 

ヨスガ。強きを正義とする弱肉強食のコトワリ。

 

立ち位置としてはシジマの対極に立つ存在であり、そのルールは至ってシンプル。

 

『勝利した強者は這い上がり、負けた弱者は蹴落とせ』

 

それが千晶が望む最も美しい世界。有能が無能によって押し潰されない世界。

 

そこに一片の慈悲はない。弱いことを罪とし、断罪する。

 

『傲慢にも』

 

俺は怒りをこめた拳をバアル・アバター向けて放ち、バアル・アバターはそれを掌で受け止めた。

 

「フッ……!」

 

「ぬっ……」

 

呼気とともに拳を強引に振り抜き、そのまま吹き飛ばす。

 

俺が最も気に入らないとしたコトワリがヨスガだ。弱者に存在価値がないなんて元弱者の俺には死ぬほど許せない話だ。

 

千晶自身、俺の幼い頃は分かっているはずなのに……。それを救ってくれたのは、他でもない勇と千晶なのに……!

 

千晶は弱者とともに俺の心をを踏みにじった。俺の前でマネカタ達を大量虐殺した。

 

今、ここでバアル・アバターに創世を行わせれば千晶の言う有能な存在のみが弱者の屍の山の上で生きることになる。

 

それの、なんとおぞましきことか。

 

そして、憎たらしいことか。

 

バアル・アバターは吹き飛ばされた体勢から変形した腕を器用に使って体勢を立て直していた。

 

サカハギによって左腕を斬り飛ばされた千晶は、魔丞になったときに無くした腕を本来の腕とはかけ離れた形で再生させた。

 

バアル・アバターと一体化した後も、その腕は歪の一言だ。肩から先が後ろに向かって伸び、手に向かえば向かうほどその形状は巨大な昆虫の羽を思わせる。

 

もはや手としての役には立たないが、相手は力を信条とする者の頂点。それがハンデなんてことは無いだろう。

 

バアル・アバターは羽のようなその腕を震わせると俺を見据え、口を開いた。

 

「我は問う。汝が創始者たる資格を持つのか」

 

バアル・アバターはそう言うとゆっくりと俺に指を向けた。

 

「我が呪い、我が魔力で、汝らの姿を映すとしよう」

 

そういうとバアル・アバターは指を振るった。

 

【バエルの呪い】

 

ズドン!という衝撃音とともに俺の体に魔力光が突き刺さる。

 

しかし……この感覚は魔力属性の攻撃のようだ。つまり俺には効かない。

 

俺はピクシーを召喚することをやめた。彼女には魔力属性の耐性はない。この技を喰らうなんてことにはしたくない。

 

魔力属性は妨害魔法に分類され、少々特殊な攻撃にカテゴライズされる。

 

主なものは魔法を封じ込める【マカジャマ】という魔法だが……過去に魔人と戦った時は問答無用で生命力を半減させる【ソウルバランス】なんてものもあった。

 

魔力属性は喰らわないに限る。特に他の悪魔が使わないような専用技は。

 

俺はかわりに魔力の効かない悪魔……それもとっておきのを出した。

 

「ベルゼブブ!」

 

そういうと巨大な蠅の悪魔が俺の背後に現れた。

 

かつて俺をアマラ深界で試した地獄のNo.2。彼(?)は悪魔合体の果てに、俺が創りだした究極の悪魔。その一つ。

 

あの暴挙とも言える耐性も、引き継ぎ、力も引き継いだ。

 

あの【バアルの呪い】とやらも、防げるだろう。

 

バアルはと言えば彼女は呪いの効果がないことに驚くこともせず、次々と攻撃を繰り出してきた。

 

【天罰】

 

【メギドラ】

 

「チッ……!」

 

【天罰】は破魔属性であり、防げるが【メギドラ】は万能属性で防げない。俺は体を振って直進するはずだった進路を歪める。

 

そしてバアルの右に回り込み、回し蹴りを放つ。

 

「ッ!」

 

しかしさすがと言うべきか、ただの悪魔ならその攻撃を見る前に絶命させられる自信があるそれをいとも簡単にバアル・アバターは防いだ。

 

しかしだからと言ってそのまま離れるのは隙になる。通常攻撃の打ち合いに持ち込む。

 

しかしそうはさせまいとバアル・アバターは数回の打ち合いで離れ、【メギドラ】を放つ。

 

「グハッ!」

 

よけようとしたが、何割かを喰らってしまった。万能属性の破壊力はマサカドゥスの防御を貫いた。

 

焼かれた素肌から血が流れ出るが……どうでも良い。

 

肉体的痛みなど………失った痛みに比べれば……!どうにもならない感情の流れに比べれば……!

 

「ジャアッ‼‼」

 

【死亡遊戯】

 

喉も裂けよとばかりに気迫を吐くと俺は剣を製造、構え、溜め、抜刀の動作を一瞬で行い、バアル・アバターに向けて剣を振り抜いた。

 

「がッ……⁉」

 

【死亡遊戯】を見たことがないのと、俺が怯むとでも持っていたのだろう。バアル・アバターはその【死亡遊戯】をまともに喰らい、膝を着いた。

 

だが巨大なノアやアーリマンと比べると劣るが、やはり守護であるバアル・アバターのその生命力を全て吹き飛ばすことは出来なかった。

 

だが腹は裂いた。俺は追撃をかけようと再び剣を構える。

 

だが、その前にバアル・アバターが口を開いた。

 

「……我、見定めたり。我が真の力を礼とし、汝との運命に身を委ねよう」

 

そういうとバアル・アバターが変形した腕が不気味に動き、そこから光が放たれた。

 

【魔王の号令】

 

そのスキルが完全に成ると雷鳴が2度響いた。

 

それはもはや聞きなれた悪魔の召喚音だった。

 

現れたのは2体の悪魔。どちらも、このボルテクス界で何度も戦った悪魔だった。

 

一体は堕天使 フラロウスという悪魔。頭が胸に存在する豹と人が混じったような悪魔。

 

もう一体は、ニヒロ機構でも戦った。堕天使 オセ。

 

だが2体から放たれる威が通常の比じゃない。体の色まで青白くなっている。

 

その2体の悪魔を睨むと、頭の中で2体の名前が浮かんだ。

 

熾天使 フラロウス・ハレル

 

熾天使 オセ・ハレル

 

明らかに通常とは別次元の個体に進化した悪魔だった。堕天使ではなく、天使の最上位である熾天使とくるか。

 

「ヘイ零時。お仲間のようだぜ?どうする?」

 

「………先にあの2体を殺るしかねぇだろ」

 

そういう俺の視線では、オセ・ハレルがバアル・アバターに【ディアラハン】をかけていた。

 

【ディアラハン】は一回の詠唱でどんな傷でも完治させ、生命力まで満タンにしてしまう。それは、守護の膨大な生命力でも変わらない。

 

【死亡遊戯】が作りだした深い裂傷も完全に塞がり、バアル・アバターは再びこちらに向き直った。

 

俺は頭の中で考えた。ベストの戦いを。

 

あの熾天使どもはバアル・アバターの力によって進化した存在。つまり王が死ねば、兵であるハレルどもも討てる。

 

今、ここで足止め喰らうわけにはいかない。俺は神を………大いなる意思をどうあっても討たなければならない。

 

だから、この胸の痛みに構う暇も、お前を殺すことに躊躇っている暇はないんだよ……!

 

そう考えた時、胸の痛みが消え去る。代わりに胸中に現れた冷たい殺意。

 

それを糧に、3体となった敵の方に向かって駆ける。腕をクロスし、力を溜めながら。

 

「………!させるか!」

 

バアル・アバターの号令でオセ・ハレルとフラロウス・ハレルがこちらに向けて魔法を撃つ。そしてバアル自体も魔法を放つ。

 

だがこちらも一人で戦っているわけじゃない。魔法を魔法で仲魔が撃ち落とす。

 

全くの無傷というわけではないが……体から血がしぶくがそれがどうした?

 

3体を射程に入れると俺はクロスした両腕を広げ、叫んだ。

 

「ぶっ飛べッ‼」

 

【地母の晩餐】

 

ゴオオオオオオン‼

 

「くっ……!」

 

「「……⁉」」

 

まさか懐に飛び込んで地面を吹っ飛ばすと思ってなかったのか、3体は綺麗にその攻撃を喰らう。

 

「………やはりな」

 

流れる血を手で振り落とすと俺は呟いた。

 

今の【地母の晩餐】。百戦錬磨の悪魔だったら俺が突っ込んだ時点で後ろに飛んでいた。

 

だがバアル・アバターの核となっている千晶はボルテクス界を【逃げて】過ごしていた。

 

結果、戦いの経験において千晶は、ボルテクス界で戦い続けた俺に劣る。よって今のように意表をついてやると反応が一歩遅れる。

 

バアル・アバターが戦いの守護であっても、核となる千晶がそれについていけないのだ。

 

俺は分断したオセ・ハレルとフラロウス・ハレルの方に指を向け、仲魔達やダンテに攻撃させた。これでもう、ハレル達はバアル・アバターの支援は出来ない。

 

俺は吹き飛んだバアル・アバターの方に向き直り、

 

「おっと……」

 

そして反撃とばかりにバアル・アバターが【メギドラ】を飛ばしてきた。

 

それをかわすと俺はその上の魔法である【メギドラオン】を放つ。

 

「ふっ……!」

 

だが小さいバアルは避けることをする。メギドラオンの爆破を避け、その余波に目を細める。

 

だがたちまちそれを見開く、俺が今までよりも圧倒的に速いスピードで突っ込んできたからだ。

 

「ダメだ。お前」

 

俺は冷たく言いはなった。

 

軍団を持てた魔丞、そしてバアル・アバターはそれ故にますます戦わなくなった。

 

驚愕するということがいかに致命的なことかを反射的に理解出来ていない。

 

バアルが戦った時、俺に問うた。『創始者たる資格があるのか』と。

 

俺がその自問する。『千晶に創始者たる資格があるのか?』と。

 

そして自答する。『無い』と。

 

力の国の創世者は、驚愕する恐怖心すら持ってはいけない。そうでなければ、その力の国は、弱さを持った不完全な世界になるだろう。

 

思えば、俺に倒されたシジマもムスビも矛盾を孕んでいたからこそ俺に倒されたのだろう。

 

シジマの長、氷川は不要とした感情を原動力して静寂の世界を創ろうとした。

 

ムスビのリーダー、勇は孤独を真理としながら結局その孤独に染まりきれず、心のどこかで誰かを求めた。

 

そして、ヨスガのリーダーも、また弱さを…

 

……俺も、人の心を持って千晶に容赦を掛けたら、きっと敗北した創世者と同じ道を辿る。

 

復讐の道を進むと決めたのなら、阻むもの全てを踏み潰すと決めたのなら………!

 

「覚悟を決めろッ‼零時!」

 

ゴウッ!という音とともに手から黒い火が吹き出る。

 

それは、憎悪と敵意に燃え上がる死の力だった。

 

腕が激痛に晒される。だがもはやそれは俺にとって苦になることはない。

 

死の力を纏った腕が目に止まらぬほどのラッシュを放つ。バアル・アバターは変異した腕を振るってそれを留めていたが、だんだんひび割れていく。

 

「おのれぇ‼」

 

だがバアル・アバターは抵抗を見せた。砕ける寸前の腕をわざと大きく振るい、砕けさせた。

 

「ちぃ……!」

 

その破片が運悪く目に入る。それによって攻撃がバアル・アバターから逸れた。

 

「ハッ!」

 

バアル・アバターは掌打で俺を突き飛ばす。距離を離して、ハレルのどちらかに回復させる気か。

 

甘い。甘いぜ、千晶。

 

こちらはもうお前のトドメ用の技は出来ているっつうのにそれを潰さず、こちらに背後をむけるなんて。

 

俺は吹き飛んだ衝撃を生かして体を大きく反らす。

 

力が顔面に溜まる。それも凄まじいまでのそれは、俺の顔面をあちこち裂いた。

 

だが今は痛みすら俺の憎悪を焚き付ける油にしかならない。黒いスパークが俺の視界を埋め尽くす。

 

狙いはその果て、かつての親友。そして今は憎む敵。

 

バアル・アバター……またの名を……橘 千晶。

 

俺はかつての親友に向かって叫んだ。敵に向かって何度も叫んだ呪詛を。

 

「死ねよォォォ‼」

 

そして全ての憎悪を乗せて、それを放った。

 

【至高の魔弾】

 

ダアァァン‼

 

【地母の晩餐】を遥かに超える轟音。そして一切の生命を殺す死の光がバアルに向けて放たれた。

 

それにより、バアル・アバターは【至高の魔弾】に気づき、避けようとするが遅い。

 

その光線は一切の慈悲を持つこともなく、バアル・アバターの体を砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砕かれたバアル・アバターは俺の目の前で浮いていた。せめて俺と同じ目線で死のうというのか?

 

バアル・アバターの頭部は形を残していた。ヒビ割れ、今にも砕け散りそうだが、それによってかろうじて生きていたのだ。

 

「あなたの……方が……優れて……いたのね……」

 

バアル・アバターは……その声を千晶のものに戻していた。その声も、もはや死に体。このまま放っておけば死ぬだろう。守護としても、橘 千晶としても。

 

千晶は、泣いていた。力の国が亡きものになったことに。ヨスガの悪魔の期待に応えられなかったことに。

 

そしてなにより。

 

「それほどの……力を持って……どうして……ヨスガに……」

 

俺が、その力の国に賛同しなかったことに、嘆いていた。

 

俺は笑った。口をひん曲げて、嘲笑うように。

 

その方が、悪魔らしい。

 

「創世なんてものよりも……やりたいことがあるんだよ……!」

 

悪魔らしくしなければ……

 

「この俺の全てを奪った……」

 

人間らしさに、心を潰されそうだから。

 

「世界のルール…その全てを創ったカミサマに復讐するというなァ‼」

 

俺は狂ったようにバアル・アバターの顔を掴んだ。

 

俺はそれを押し潰すように、あるいは抱くように握りしめた。

 

「そのためには邪魔なんだよ……!ヨスガも、シジマもムスビも!だから……だから……!」

 

その時、俺は気づいた。千晶が何かを必死に言っていることに。

 

「どうしたんだよ?何?」

 

精神的余裕のない俺は乱暴に聞き返した。

 

俺はその言葉を耳にした。否、耳にしてしまった。

 

「ごめんなさい……」

 

今にも消えそうな声で紡がれたその一言を、聞いてしまった。

 

今更、千晶は謝罪したのだ。俺が歪んだ原因が自分にもあるとでも思ったのか。

 

その一言が最後だった。千晶は目の光を失い、体を全て崩し、マガツヒとなって消え失せた。

 

そして俺の手に残されたのは、タカラのみだった。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……だと」

 

俺はそのタカラを地面に叩きつけた。それが千晶だと言うわけでもないのに、叩きつけて叫んだ。

 

「今更なんだってんだよ‼ごめんなさいだと⁉勇もお前も全く俺をイラ立たせてくれるな⁉お前らは人間の俺の心を殺した要因なのに‼今更……今更ァ……!」

 

俺の目が赤く染まる。血の涙が視界を潰した。

 

「なんだよ……俺は自分勝手でお前ら殺したのに……なんで……優しくするんだよ……!」

 

その時、トンと置かれる手があった。

 

その小さな手は見なくても分かる。ピクシーだった。

 

俺はその手にかぶせるよう自分の手を置き、顔を歪め、

 

「────────────────ッ‼‼」

 

頂点にいるカグツチに向けて泣き叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





千晶の戦闘経験については、私の個人的考えです。

しかし悪魔でもなんでもなかった千晶が戦っているとは考えづらいですし、戦闘経験なら人修羅の方が上だと考えました。



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怒りの光 憎悪の闇

カグツチ戦開始直前までです。零時の心境を中心にして書いております。




カグツチ塔最上階。ついにここまで来た。

 

長らく続いた巨塔の戦争は………創世者を決める戦争はついに決した。

 

創世者という勝者を出さないという結果で。

 

この世界は、祐子先生が許さなかった混沌の世界のまま……死んだままというわけだ。

 

生まれてくる世界の代わりに生まれたのは、夜藤 零時という人間だった【悪魔】……否、もっとひどいか。

 

悪魔は人間の想像とマガツヒから成る。つまり、自分がどうあるかを決めることができない存在なのに対し、俺はどうだ?少なくとも、自分がどうあるかを決めることは出来た。

 

その上で、親友を殺すという悪行を行った。神に復讐するために。

 

俺は勇を葬った手を見、今の自分にふさわしい言葉を探した。

 

化け物……怪物……ダメだ。どの言葉も生温く感じる。だが……。

 

「…………バカか、俺は」

 

悶々と考え続けて、俺はその言葉探しをやめた。

 

こんなこと、バカげている。どんな言葉を俺に飾ったところで、今が変わるわけでもない。神が死に、世界が戻るわけでも、ヒジリや祐子先生、勇や千晶が生き返るわけでもない。

 

今、やるべきことは考えることではない。

 

大いなる意思と、その駒を討つ。全て‼

 

さぁ、その一歩としてまずお前を討つ!カグツチ‼

 

お前の死に様を、大いなる意思への宣戦布告としてやる‼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カグツチ塔最上階の奥。そこに三つの柱のような物があった。

 

その柱のような物に、1つずつ窪みがある。言うまでもなく、タカラを奉納するためのものだろう。

 

俺はまず、右の柱に向かった。

 

そして物置き空間から、氷川から奪った【ツチノタカラ】を取り出す。

 

【ツチノタカラ】は激戦を繰り広げたにも関わらず、血の跡だとか傷のような争った跡がなかった。代わりにまとわりつくように存在するのは、マガツヒ。

 

この霊石そのもののマガツヒではない。

 

氷川の、マガツヒである。

 

感情……それもどす黒い負の感情であるそのマガツヒは俺の心を絶望で苛んだ。

 

それほどまでに……人間が人間らしくあることに絶望したか。氷川。

 

だが、お前の世界はもうない。せいぜい、俺の道を開くための鍵になるが良い。

 

俺は【ツチノタカラ】を一睨みするとそれを窪みに嵌め込んだ。

 

すると、それを源にして柱は大量のマガツヒを放ち始めた。

 

それを一瞥すると、俺は2本目の柱に向かい、それと同時に勇から奪ったタカラを取り出した。

 

【ヨミノタカラ】。そのタカラは血でべったりとしていた。

 

黒ずんだ赤にそまったそのタカラからも、絶望で創られたマガツヒがまとわりついていた。

 

ぬるま湯のような平和な世界から、このボルテクス界につれてこられ、たった一人でこの地獄を生き抜かなければいけなかった勇。

 

誰も救いの手を伸ばせなかったその状況で彼は他人にすがることに絶望した。

 

その中で、彼は自分なりの真理を見つけ、それを正しいとした世界を創ろうと奔走した。殺しまでして。

 

孤独の果て、たった一人でその境地まで至れたその心の強さには、本当に、本当に感服する。彼にそんな強さがあったなんて、世界がこうなる前には予想もつかなかった。

 

そんな勇を、俺は殺した。

 

謝罪はしない。戦争で死ぬなんてことは勇も理解はできていたはずだ。

 

ただ、新田 勇という存在を覚え続ける。それが俺からあいつに親友としてやってやる、最後の行動だ。

 

俺はそう考えると【ヨミノタカラ】を窪みに嵌め込んだ。

 

二本目の柱も、膨大なマガツヒを放ち始める。それがカグツチに向かって伸びる。

 

それを見届けると、俺は三本目の柱のもとへ向かった。

 

そして取り出したのは、千晶から奪ったタカラ……【アメノタカラ】

 

彼女はこの世界に迷いこんでなお、力強い強者であろうとした。弱者は生きられない。そう世界に見切りをつけて、ヨスガのコトワリを拓いた。

 

その後、行ったことは悪逆非道。俺にとっては永遠に許すわけにはいかないことだ。

 

だが、少し気が強いことと他人より優れていること以外は脆い人間と変わらない千晶も、勇と同様、守護を降ろしたその境地までたどり着けたその強さは本当に感服した。

 

だから勇と同じく、謝罪も後悔もしない。その代わりに、永遠に橘 千晶という存在を記憶に焼き付ける。

 

俺は心の中にそう決め込むと【アメノタカラ】を最後の柱に嵌め込んだ。

 

これで全てのタカラが奉納された。

 

すると三つの柱から光が放たれ、柱の前にある床の一部が光始めた。

 

「………ここに乗れってことか?」

 

「そうらしいな」

 

俺は光る床に乗ると仲魔達の方を視線で薙いだ。

 

「さぁ、神への反逆の時だ。退くならここが最後のチャンスになるぞ」

 

そういうと、俺は仲魔達に向かって叫んだ。

 

「選べ!退いてお前らにとっての日常を過ごすか⁉それとも、俺という愚かな物語に最後まで付き合うか⁉退くのなら俺は止めはしないぞ‼」

 

ひとしきり叫ぶと召喚されている仲魔達も、ダンテも目を見開き、そしてにやりと笑った。

 

「私達はあなたについて行くってアサクサで言ったでしょ?今更仲魔はずれなんて許さないわよ?」

 

その言葉に同調するように仲魔達は叫び、吼え、腕や武器を掲げた。

 

「……お前もか?ダンテ」

 

いつも不敵な笑みを浮かべている悪魔狩人は当然とばかりに頷いた。

 

「こんなとびっきりのイベントを見逃すなんて損も損、大損だろ?当然、俺も参加するさ」

 

獰猛な笑みを浮かべて、大剣リベリオンを振るうその姿は、ここまでの短い間でも味方にとって頼もしいものであり、敵にとっての絶望の象徴であった。

 

意思は変わらない。そう確信すると俺は光る床を爪先で叩いた。

 

するとカグツチの光で白く染まった天から声が響いた。

 

「……汝、全てのコトワリを統べし者。いざ、汝の下へと誘わん」

 

その声に反応したかのように、床が一際激しく光り、そしてそれは床から切り取られたかのように上に上り始めた。

 

そして俺達を乗せてカグツチの方に向かって、ただただずっと上に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりに、そこまでに至る道は長く感じた。

 

上昇が止んだ時、俺達の目の前にあるのは巨大な光球だった。

 

これが、カグツチ。世界をボルテクス界に……混沌の世界にした神の駒。

 

カグツチは俺がたどり着いた瞬間、おぞましい物にでも触れたかのように、その光を収縮させた。

 

「…おぉ、お前が此処にたどり着こうとは……何故にお前が選ばれたるか……」

 

カグツチは俺に向けて光を照らしながら、嘆きの言葉を呟いた。

 

「……新たなる世界を創らんと我は興り……新たなる世界を創らんとコトワリを持ちし者どもが参じた。なれど、その光はことこどく断たれ、新たなる世界の光は潰えた……一体の……復讐の権化によって……」

 

カグツチは震えていた。怒りによるものか、あるいは俺に対する恐怖か。あるいは両方か。

 

カグツチの言葉は続く。

 

「お前は堕ちた天使と、他の混沌王どもに導かれ、創世の芽を……世界の輪廻の糸を切った。悪魔を超えたはるかにおぞましき存在にその身を染め、進化の可能性を捨てた……人の心を持ったまま、悪魔や神を震撼させる破壊の大霊に成り果てたのだ」

 

俺はその言葉にピクリと震えた。人の心を持ったまま?

 

俺の心は、あの老紳士によって悪魔の物へと変えられたはず。人の心などない……はずだ。

 

問う必要があるか。あの老紳士に。

 

カグツチは一際激しく光輝いた。その身を、今度は確実に怒りで震わせた。

 

「我は恨みを置くぞ!世界を、その悪魔よりもおぞましい人の心で死に至らしめたお前という存在に!我が怒りの光にてその生を終えよ‼」

 

カグツチは守護をはるかに超える力を放出させ、その姿を現した。

 

機械。そうとしか言えない姿だ。神々しいなどという言葉はそこにはなかった。

 

金属のパーツを何百、何千も重ねた空飛ぶ球体。それがカグツチの姿だったのだ。

 

「……なんだ、この姿は」

 

俺はその姿を見て、黒い感情を噴き出した。

 

こんな、こんな『物』に俺の全てを奪われたというのか。

 

許さねぇ……

 

「死ねッ‼」

 

カグツチよりもはるかに短い憎悪の言葉。もはや敵にくれてやる言葉はそれだけで良い。

 

言葉は重要じゃない。今、あるべき物は。

 

憎悪と殺意だ‼

 

ゴウッ!カッ‼

 

カグツチが殺意を込めた光を放ち、俺は憎悪を含んだ闇を放った。

 

球体の形をしたボルテクス界の中心にて、光と闇の闘争が始まった。

 

 

 

 




いつの間にか、UAが二万を超えているだと……

嬉しいかぎりです!最後までこの小説をご贔屓に‼



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復讐の道


社会人デビューにつき、小説がなかなか書けずにすみませんでした。やっと時間を見つけたので投稿します。




 

悪魔よりも堕ちた存在であり、悪魔よりもおぞましいとカグツチは俺を評した。

 

おぞましい。魔人達にも言われ続けてきたその言葉を、俺はなんとなく理解できつつある。

 

人間は知恵のある生き物だ。その上で、俺は憎悪のまま敵意を振り撒き、悪魔を、そして人間を殺した。殺して殺して殺して殺して殺しまくった。

 

思えば俺は、このポルテクス界で善悪という概念を無意識に、そしてすぐに捨てていた。悪魔を素手で殴り殺し、また踏み潰していた。

 

通常の人間なら殺しに躊躇いが発生するところを、俺は人の心を持ちつつもその心で殺意を燃やし、殺すことを考えた。

 

まさしく、俺は悪魔よりも悪魔らしい悪魔。人の心を持ったまま、悪魔を心理的に圧倒できる圧倒的な闇を内包した化け物。

 

だからこそ、見込まれた。悪魔の王に。

 

だからこそ、見込まれた。混沌王達の思念に。

 

だがそのことに後悔する必要などない。この憎悪晴らすためなら、なんだってしてやる。どんな存在にも染まってやる。

 

だから……だから……ッ!

 

「死ねッ‼」

 

「むううんッ‼」

 

俺の絶叫とカグツチの唸り声が交差し、同時に双方の力が迸った。

 

戦況はこちらが優勢。俺の死の力は確実にカグツチを蝕んでいる。

 

だがいつひっくり返してきてもおかしくない。カグツチは先程から自らの光の満ち欠けの周期を強制的に動かしているのだ。

 

【天の鼓動】

 

ドクン……ドクン…ドクン……!

 

「ちっ……」

 

そしてついに煌天。ボルテクスの悪魔を狂気に満ちさせる光が辺りを包み込む。

 

「オオオオオォォオン‼」

 

カグツチが一際激しい咆哮を挙げ、その体から発する光を一瞬で収縮させた。

 

「ハッ!」

 

大技の予感。それを感じた俺はすぐさま防御魔法を唱えた。

 

【ラクカジャ】

 

その瞬間、濃い紫の光が俺と仲魔達を包み込んだ。

 

そしてそこから1拍遅れてカグツチはその技を放った。

 

「消えよッ‼」

 

【無尽光】

 

ドグオオオン‼

 

カグツチはその身に収めた光を一気に解き放ち、俺達に降らせた。

 

「ガハッ⁉」

 

「うおっ‼」

 

「キャア‼」

 

仲魔達の悲鳴。俺も体から血しぶきをあげる。

 

【無尽光】。どうやら万能属性の技のようだ。でなければ、マサカドゥスのマガタマで守られたこの身に傷などつくはずがない。

 

俺はこれで一歩追い詰められたというわけだが……それはお前の死を近づけさせる結果にもなるわけだ。

 

この痛みは……この憎悪を増幅させる起爆剤になる!

 

「ウオオオオアアアアアアアアアアアアッ‼」

 

獣のような雄たけびを挙げながら、血を空中に巻き上げながら俺は全身の生命力を顔に集める。

 

全身を走る激痛。そして俺の命を消さんとする傷の数々。それらを無視して俺はそれを放った。

 

【至高の魔弾】

 

「ジャアッ‼」

 

目から放たれる、黒と白の光線。それは、カグツチの体を構成するパーツを悉く破壊してゆく。

 

「…………ッ‼」

 

カグツチが大きく震え始めた。まるで、自らの崩壊を耐えているかのように。

 

このまま殺す。もう一度【至高の魔弾】を放とうとした時だった。

 

「カァッ‼」

 

「ギィッ⁉」

 

カグツチは崩壊寸前のパーツの一部から閃光を放ち、俺の肩を穿ってきたのだ。

 

「こ……いつゥ……!」

 

「待って、零時‼」

 

飛び出そうとした俺を制止させたのはピクシーだ。

 

ピクシーは俺の傷を一目見るなり、完全回復魔法の【メディアラハン】を唱え、俺の傷をみるみる塞いでいった。

 

『バカなことを』

 

俺はそのときそう思った。この手の魔法は消費する魔力も多い。魔力回復の手立てはあるとはいえ、それを許す敵ではない。

 

俺の命を救うよりも、自分の命を守るためにその魔力を使えと叫びたかった。だが、ピクシーの目が……正確にはピクシーが目で訴える何かを感じ取って俺は喉まで出た言葉を押し込んだ。

 

ピクシーは、そうまでして俺に生きてほしいのか。

 

彼女をそう駆り立てる感情とは何か。悪魔としての期待か?大いなる意思を討つ、黒い希望を守るためか?それとも妖精お得意の気まぐれか。

 

……どれも違う気がする。その何かを、いつか俺は知ることが出来るだろうか。

 

「オオオオンッ!」

 

大気を震わす呻き声に、思考を中断させると俺はカグツチの方を見た。

 

カグツチはすでに崩壊寸前だった。だが、あれだけ死を浴びせていればすぐに腐り果てていてもおかしくはない神の駒は未だ生にすがりついていた。

 

とどめを刺そうとした、その時だった。

 

ドクン……ドクン……とカグツチが鼓動したのだ。

 

また、【天の鼓動】を使うのか?と思ったが…違う。鼓動の仕方がどこかおかしい。

 

不味い、と思ったときには、遅かった。

 

「オオオオオオオオオオオッ‼‼」

 

「ッ‼」

 

突如、凄まじい力の波動とともにカグツチが炸裂したのだ。

 

ついに死の力に耐えかねて滅びた……わけではない。忌々しい神の力は未だ存在している。いや、それどころかますます増えて……!

 

俺は眼を見開いた。

 

カグツチを構成していた巨大なパーツ。空中に散らばったそれが、まばゆい光を放ちながらガコン!ガコン!と再び集まりだしたのだ。

 

それを止めるために、魔法を飛ばすが数が多すぎる。そしてついにそれは完成してしまった。

 

再び再構成されたカグツチは巨大な球体から、巨大な人の頭部の形になっていた。

 

変わったのは形だけではない。今までの弱っていたカグツチの生命力は戦う前よりも強大になっており、その力の波動は桁違いに上昇している。

 

「第2形態ってわけか……どうする?零時」

 

体のあちこちを焦がしたダンテが問う。さすがのダンテも、無傷とはいかなかったようだ。

 

「……殺す以外の答えが要るか?」

 

ダンテの問いにそう答えるとダンテはそれもそうだと言わんばかりに獰猛に笑い、ダンッと地を蹴った。

 

それを迎撃するかのように変形したカグツチは光を薙ぐ。それをダンテは空中で舞うように体を捻って避ける。

 

そして腰に掛けられたエボニー&アイボリーを引き抜き、カグツチに向けて乱射する。

 

ズダン!ズダン!ズダン!ズダン!ズダン!

 

数々の悪魔を蜂の巣にして、さらにあまりある威力を誇る双銃の嵐をまともに受けたカグツチは微かな反応もせず、ただその機械的な体を光らせた。

 

「我、ただ空なり……」

 

ピクッ、とこめかみが動くのを止められなかった。その言葉を放ったカグツチの様子が変わったのだ。

 

まるで力を溜めるかのように沈黙を貫き始めたのだ。

 

「……大技か」

 

恐らく、全力の攻撃をするために意識を集中させているのだろう。どんどんカグツチの光が増していく。

 

【天の鼓動】で自らの輝きを最大限にしなければならなかったとはいえ、それをしてしまえばノーチャージで放てた先のカグツチの大技、【無尽光】。現在用意しているその技は、それを遥かに超えるのは間違いない。

 

だが、その間動けないというのであれば、好都合。その間好き勝手にやらせてもらおう。

 

俺は仲魔達に、カグツチの方へ集中砲火を浴びせるよう合図し、自らはカグツチがやっているよう大技の準備を行い始めた。

 

「【タルカジャ】」

 

俺は次々と自らに魔法をかけていく。

 

「【タルカジャ】」

 

それを唱える度、赤い光が俺の身を包み込み、力が増幅する。

 

「【タルカジャ】」

 

カジャ系魔法の重ね掛けは4度が限界。その4度で俺の攻撃力は2倍に膨れ上がる。

 

「【タルカジャ】‼」

 

だが、それだけではカグツチを葬るには圧倒的に足りない。俺は魔力をこめて、もう一つの補助魔法を掛けた。

 

【気合い】

 

「フウウウゥゥ……!」

 

一度だけ。一度だけだが攻撃力を2倍に一瞬で大きくする技、【気合い】。【タルカジャ】と合わせることで俺の攻撃力は実質4倍だ。

 

これなら、いけるッ!

 

俺は上半身を反らし、生命力と死の力を限界まで活性化させた。死の力がこの身体を蝕み、激痛が走るが無視する。

 

全身に黒いスパークが走る。自らのパワーで身体がガタガタ揺れるのを必死に押さえ込みながら俺は目で照準を合わせた。狙いはもちろん……カグツチ。

 

その時、カグツチが動き始めた。なんとパーツで構成された顔だけの全身を四分割させたのだ。

 

そしてその中央に存在するは、眩い輝きを放つ光の玉だった。

 

ドクン!と心臓が弾んだ。悪魔としてのこの身が、カグツチの光に興奮したのだ。だが今回はそれがあまりにも大きい。一瞬、心臓がはち切れるかと思ったぐらいだ。

 

原因は分かっている。カグツチは自らの輝きを最大限に高めているのだ。今頃地上の悪魔達は興奮のあまり、苦しんでいるだろう。

 

それほどのエネルギーを放ちながらカグツチが動く。それは奴の大技の完成以外に他ならない。

 

マズイ‼と反射的に思っても力を溜め、硬直している体は動かない。せめて相打ちにしようと技を放とうとしたその時だった。

 

カグツチはその中央に存在する光を炸裂させた。

 

【無尽無辺光】

 

カッ!!

 

凄まじいエネルギーの奔流が放たれ、一瞬で俺を飲み込んだ。

 

俺は為す術もなく光に晒され、暴虐とも言えるその光に全身を焼かれた。

 

「───────ッ‼」

 

全身を踊る狂う炎のように駆け巡る痛み。いや、これはもはや痛みなどと言えるだろうか。この熱は……この責め苦は。

 

これが……神の怒りか。

 

白く、吹き飛びかけた意識の中でぽつりとそう思い浮かんだ。これが、俺の復讐せんとした存在の末端の力。末端でも、マサカドゥスの防御を容易く貫く理不尽とも言えるその力に恐れ、震えた。

 

遠くで誰かが叫んでいる。ピクシーか?あいつも心配性だ。あの技の直撃は当たっていないだろうが、余波ぐらいは受けているだろうに。自分の心配をしろよ。

 

それに、まだ終わってなんかねぇ……!

 

【食いしばり】

 

「グウゥ……!」

 

歯を噛み砕かんばかりに食いしばり、離れかけた魂を、命を強引にこの身に押さえつけた。

 

俺は悪だ。アニメやマンガのように、仲間に助け起こされて復活するなんていうお涙頂戴な展開はいらねぇ。

 

この戦いは、復讐は……本来、俺のみで決着をつけるべきことだ。それを仲魔達は協力してくれている。それだけで満足するべきだ。

 

差し伸べる手は、もう要らない‼

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ!」

 

たとえこの手が引きちぎられようとも……

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ!」

 

たとえこの足がもがれようとも……

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ!」

 

たとえこの目を潰され、耳を潰されようとも!その結果どれだけ無様になろうともッ!

 

たった一人で、この呪われた道を歩み続ける‼それが俺の運命であり、存在理由だ‼‼‼

 

だから……だから……

 

「死ねェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッ‼‼‼‼‼」

 

全身から失せかけた、生命力と死の力を再びかき集め、俺は放った。千晶を殺した【至高の魔弾】。それを死の力によって昇華させた技を放った。

 

「【終焉光】ッ!!!!」

 

俺の目から放たれた絶対的な死をこめたその力。カグツチは防ごうとパーツを集結させるが、無駄だ。

 

神よりも、絶対的存在である死に触れたカグツチはその守りを容易く貫かれ、大穴を穿たれた。

 

カグツチはビクンッとパーツだけの身体を震わせたかと思うと、ついにその体を保持出来なくなったか、崩壊させ始めた。

 

「愚かな……」

 

だが、それでもカグツチは俺へ怨みの言葉を遺すのをやめなかった。聞くものを震えさせる声は、すでにノイズが走ったかのように不完全だが、それでもその声は世界を思うがまま操ってきた神の威を失ってなかった。

 

「闇に染まり、死に染まり、我が力を解放したとて何になろうか………」

 

カグツチが言葉を紡ぐ度、崩壊はどんどんと進んでいく。完全に崩落するまで時間はかかるまい。

 

「……心せよ。復讐の権化よ。我が消えても、お前が安息を迎えることはないのだ……最後の刻は確実に近づいている………全ての闇が裁かれる決戦の刻が……。その時には、お前のその身も、裁きの炎から逃れる術はないであろう……」

 

「恐れおののくがよいッ!お前は永遠に呪われる道を選んだのだッ!」

 

カグツチの最期の絶叫。大気を震わせ、威を含む叫びをあげる神に向けて俺は嗤った。

 

血にまみれ、朱に染まった顔をひん曲げて、音もなく、声もなく。ただただ、嗤った。

 

カグツチの命のない目から憤怒の火が見えた気がするが、現実はそれを行動にすることを許さなかった。死はカグツチの命を止め、崩した。

 

崩壊し、もはや見る影もなくなったカグツチ。世界の中心から次々とその身を崩していく。

 

そして、一際激しく閃光が迸り、カグツチは爆散した。

 

 

 



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