スリザリン生の優雅な生活 (モンコ)
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新入生・ラーニャ
ラーニャ・ギルティク


ラーニャの性格は変わりませんが、回を重ねるごとに悪役の演技がうまくなっていきます。
よろしくお願いします。


「ふぅ……」

 

ホグワーツ行きの列車の中で、ため息をつきながら、少女は窓の外を見る。

 

(……私、ハッフルパフに入りたい)

 

少女の名はラーニャ・ギルティク。

名門中の名門、ギルティク家の次女である。

黒い艶やかな髪、長い睫、みどりの瞳がその証だ。

 

(私なんて、きっと落ちこぼれてしまうわ……。お母様のご学友のスネイプ先生は、とても厳しい方だと聞いたし……)

 

悩ましげに頬杖をつく美少女の姿は、まるで一つの絵のようだった。

 

「よーっす」

「お隣、じゃましていいかい?」

「あ、ああ。どうぞ」

「あんがとさん」

 

二へへ、と笑いながら双子の少年が入ってきた。

燃えるような、赤い髪である。

 

「お名前は?」

「フレッド・ウィーズリーだよ。こっちはジョージ。見てわかるとおり、双子さ」

「そちらは?」

「ラーニャ・ギルティクと申しますわ。よろしく」

 

にっこりと笑って、握手をする。

 

私自身でそんなつもりはないのだが、私はどうも顔が怖いらしい。

「綺麗ですね」「可愛らしい」とはよく言われるし(こんな言い方をするとナルシストっぽいが)、鏡を見てもそこまでひどい顔ではないように見える。

だがしかし、どうも、なんというか……顔が、悪役っぽい。

悪そうに見える。

ふわふわとした白いドレスよりも、シックな黒いドレスがしっくりきてしまうのだ。

 

だから、第一印象でちゃんと笑顔を見せ、悪い印象をもたれないようにしなくてはならない。

 

「ギルティクって言えばお嬢様じゃん? すげぇな」

「そんなことありませんわ。特に私は。今年新入生なのですけれど、貴方がたも?」

「そうなるな。ははは、同級生だ」

「キミ、どの寮に入りたいの?」

「そう……ですわね、私は、ハッフルパフがいいです。家族はみんなスリザリンなのですけれど、スリザリンって、ちょっと怖くて……」

「ふぅん? 俺はグリフィンドールがよかったんだけど……、こんな美人がいるなら、ハッフルパフにしようかな」

「あっ、ずるいぜジョージ」

 

 

しばらくして、列車がとまった。

 

あの二人がいるならグリフィンドールもいいかなと、少し思った。



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組み分け式

組み分け式が始まった。

 

順番に名前が呼ばれていくらしい。

あぁ、どうしよう緊張してきた……。

 

「ロザリオ・アルナティア!」

「……はぁい」

 

だるそうな声とともに、明らかにサイズの合っていないローブを着た少女が前に出る。

のたのたと椅子に上がり、ぐでんと海洋生物のように座った。

帽子がかぶされる。

 

「スリザリン!」

 

……あらら。

そこまで性格悪そうには見えないのに、実は腹黒かったりするのかな。

 

まぁいいか。

 

次々に名前が呼ばれていき、ついに―――

 

「ラーニャ・ギルティク!」

「はいっ」

 

緊張したまま椅子に上がった。

 

「組み分け帽子を……」

「ん? おお、スリザリンだな」

「ちょっ、まだかぶってもないのに!?」

 

お前絶対に私の顔で判断しただろ!

顔で判断なんかされちゃ困る、絶対、絶対に!

 

「はいはい、かぶったな? スリザリーン」

 

わぁあ、と拍手が起こる。

 

……なんてことだ。

冗談じゃない、スリザリンなんかに入れられたら私はいじめられるに決まってる。

何をやってもとろくさかった私だ、きっと魔法もできないに違いない。

 

胃がよじれるような思いで、それでもなんとか笑顔を保ってスリザリンの席に着く。

 

「ねぇ、あの子すっごく美人じゃない……?」

「そうよね、可愛いわぁ……、でもお人形さんみたいで近寄りがたいわね……」

 

きゃぁあホラ噂されてるよぉ!(←噂が聞こえていない

 

「あ、あのっ、先輩方!」

「あぁ、はい?」

 

二人で話していた先輩方に話しかけて、満面の笑みを浮かべる。

くっ、ほっぺたがつりそう!

 

「えっと、この寮を担当する先生はスネイプ先生?ですよね? どなたですか?」

「あぁ、えっとね……、居た、あそこの先生よ。黒い髪の、無表情な」

「んーっと……、あ、あの方ですか」

 

本当はだいたいわかっていたけれど、悪い噂が広がらないようにするため注意しなくては。

お母様は同性からの評判が異常に悪くて、ビッチだなんだと言われていたらしいから。

私も気をつけなきゃ。

 

「ありがとうございました」

「いえいえ。さっきね、貴女が綺麗よねって話してたところなの。この子とね」

「見た目が凛としてたから、ちょっと近寄りがたいかなって思ってたんだけど。話しやすくてびっくりしちゃった」

「そんな……、先輩方のほうが全然綺麗じゃないですか。私なんて大したことありませんわ」

 

しばらく、先輩方二人とお話しする。

意外といい人たちだった。

スリザリンは怖いって聞いたけど、そうでもないのかな?

 

「諸君、入学おめでとう!」

 

…………え?

 

やばっ、先輩たちと話してたせいで聞いてなかった!

フレッドさんとジョージさんは!?

 

居た、グリフィンドールのところだ。

 

いいなぁ……と羨ましそうに眺めていると、二人同時にウインクをされた。

……まぁスリザリンも悪くはないかもしれないし。

 

いいもん、いいんだもん。

 

 




なかなか原作キャラが出せませんが、頑張りたいと思います。


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寮にて

「ラーニャ!」

 

寮に帰ると、姉さまが私を見つけて駆け寄ってくれた。

 

「おめでとう、スリザリンへようこそ! 私のかわいい妹!」

「姉さま、恥ずかしいですわ……」

「ん、すまんすまん。ははは、列車の中では監督生の席に居なければならなかったが、無事にこれたんだな。立派だ」

 

くしゃくしゃと、私の髪をなでる。

 

姉さま、ライラ・ギルティクは、スリザリンの監督生で、今年六年生になる。

私がお母様と瓜二つなのに対して、姉さまはややお父様似だ。

ただ、緑の目、黒い髪、長い睫は変わらない。

髪をポニーテールにして、凛とした姉さまが、私はずっと好きだった。

 

姉さまの出来が良すぎるから対比されることもあったが、でも、それでも憎めないくらいに姉さまはいい人だ。

 

「ギルティク、何をしている?」

「おや、スネイプ先生」

 

後ろから声がして、振り返るとスネイプ先生がいた。

 

「もう消灯時間だぞ。部屋に帰れ」

「本当ですね、気が付きませんでした。ありがとうございます」

「―――ん。それは妹か?」

「あ、はい。ラーニャです」

 

ぺこりと頭を下げて、スネイプ先生を見る。

 

「……ふむ、若いころの母親そっくりだな」

「まさか。よく見てください、ラーニャはもっと可愛いでしょう」

「ちょっ、姉さま……!」

 

スネイプ先生は、ふん、と鼻で笑っていた。

顔が真っ赤になっていくのを感じる。

恥ずかしさのせいで弁解の言葉が出なかった。

 

「さ、戻れ」

「はい。良い夢を、スネイプ先生」

「おやすみなさい……」

 

恨めしそうに姉さまを見ると、ウインクをされた。

 

一日に三回もウインクされたなんて、初めてだよ……。

 




少しだけスネイプ先生がでましたが、オリキャラがたくさん出る予定です。


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初日。

初日の一時間目は、スネイプ先生の魔法薬学だった。

一応は教科書を丸暗記してきたものの、やはり不安だ。

 

しかもなんか怖いこと言ってるし。

 

……スネイプ先生って、本当は闇魔法に詳しいらしいけどなぁ。

杖を振るような野蛮な、とかなんとか言っちゃって、実は先生ったら闇魔法防御の授業がやりたいんでしょ?

 

――――まぁ、希望が通らなかったのにモチベーションをあげるためには、あれくらいしなきゃいけないのかもしれない。

 

ノートを必死でとっていると、いつのまにか後ろにスネイプ先生がいた。

 

「良いノートだ。諸君、ギルティクを見習うように」

 

……おぉ?

褒められたぞ?

 

「すごいじゃん、えっと、ラーニャちゃんだっけ」

 

にやにやと猫のように笑う、小さな少女に話しかけられた。

茶髪をツインテールにして、ネクタイはゆるくしめている。

ローブが大きいのか、袖を何重にもまくっていた。

 

たぶん同じ部屋の子だったと思う。

 

「あたし、ロザリオ・アルナティアっていうんだ。ロザリーでいいよ」

「えぇ、ロザリー、よろしく」

 

授業終了の合図で廊下に出る。

 

二時間目は、えっと、確かマグル学だ。

 

「ねー、マグルのことなんか知ってどうすんだろうねー? 意味なくない?」

「そうでもありませんわ。マグルと友好的な関係を持つことは重要ですもの」

「そうかにゃー?」

 

ロザリーがうなりつつ、頭を抱える。

 

「あたし的には、ただでさえややこしい勉強が増えるからやめてほしいよぅー」

「あはは……、それは仕方ないでしょう。さ、頑張りましょうよ」

「うーい」

 

だるそうに、ローブを引きずりながらロザリーは返事をした。

 



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スリザリンではよくあることです。

「んぉ。あれ、どしたんだろ」

「? なにがです?」

 

ロザリーの指差す方向を見てみると、人だかりができていた。

どうもスリザリンの生徒のようだが、どうしたんだろうか。

 

「おい『穢れた血』! 新学期には退学しとけっつったろ!? なんで来てるわけ!?」

「うーわ、さっすがwwwひでぇwww」

 

「なーんだ、イジメかぁ。つまんないのー。行こ? あれ? ラーニャ?」

 

「先輩がた、なにをしてらっしゃるんですか?」

「ん? おー、新入生か。コイツ、穢れた血なんだよ。知ってる?」

「存じております。グリフィンドールの方ですね? 立てますか?」

「え? ……あ」

 

手を伸ばすと、グリフィンドールの先輩は恥ずかしそうに眼をそむけてしまった。

まあ、確かに仕方ないか。

私は年下で、しかも女で、この方は男だ。

 

「ラーニャ、行こうよぉー」

 

長い裾をずるずると引きずりながら、ロザリーが歩いてくる。

 

「そんなんほっとけばぁー? イジメなんて、するやつもされるやつもくだんねーもんだぜー」

「……なんだと? 新入生」

「あ、怒ったぁ? すんませぇん、そんなつもりじゃなかったんですけどぉ」

 

挑発的にロザリーがわらったところで、

 

「なにをやっているんだ貴様らは!」

 

と、姉さまの怒号が聞こえた。

 

「グリフィンドールの生徒と問題を起こすなと、何度言えばわかる!? 貴様ら、いい加減にしろ!! 呪いと拳、どちらがいいか選べ!!」

「うっへ……。相変わらずだな、姉御は」

「黙れ! ―――君、大丈夫か? 立て。よし、怪我はないな。うちのものがすまなかった」

「あ、いえ……」

 

姉さまの剣幕に、皆がぽかんとなる。

 

「貴様ら、こい! 本っ当に、いつもいつも!」

「痛っっって!!!!」

「うるさい、グリフィンドールの青年はお前らよりも痛かったはずだ!  お前が成績いいのに監督生になれないのは素行が悪いからだぞ!」

 

かくして、姉さまは嵐のように去っていった。

 

「……あはは。あれ、君の姉さんのライラ・ギルティクでしょ?」

「え、えぇ……」

「楽しそうじゃん」

 

にんまりと、ロザリーは笑った。

 

「うぉっ、やべえ! 時間がねえ!」

「え? きゃあ、大変!」

 



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蛇寮で生き残るために

夜、寮にて。

 

「ラーニャさぁ~」

 

ぐったりと、ベッドにとけるような姿勢で、ロザリーが話しかけてくる。

 

「イジメになんか首突っ込まないほうがいいよぉー? あんな、キミのお姉さんみたいな性格なら大丈夫だけどさぁ。キミ、優しいし」

「そんなことありませんわ」

「あるから言ってんの」

 

怒ったように、ロザリーはその小さな腕で枕を殴った。

 

「スリザリンって、もっと性格悪いやつらが集まるんじゃないの? キミなんか、帽子のお墨付きでスリザリンにきたくせに」

「んー。それは、たぶん、私の……家系と、顔?」

「ぐぬぬ」

 

確かに、という顔をするロザリー。

 

……同意するなよ。

 

「まぁ、この寮をもっとよくしたいなら、さ。もうちょい路線をインパクト強めにしたら?」

「……ふむ、一理ありますね。お母様はホグワーツ在学中にジェームズ・ポッターやリリー・ポッターと敵対していたらしいですし、姉さまは……」

「姉さまは? お姉さんがどうしたの?」

「……わりと、やりすぎるところがあるんです。正義感が強いといえばそうなるけれど、思い込みは激しいし。前に、私をいじめた女の子を、殴ったことがあるんです。……しかも、その子の杖で」

「うわ、そりゃひどい」

 

ロザリーは顔をしかめていた。

 

「まぁ、そんな経歴があれば誰も逆らわんわなぁ。よし、やっちゃえラーニャ」

「い、いやですよ!」

「えぇ~?」

 

ムスッとして、「もういいよ」と言いながらロザリーは眠りについた。

 

 

 




できるだけ読みやすい文章を心がけていますが、なかなか難しいものですね…


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飛行訓練Ⅰ

「ぃ……っ、う、ぁ、はぁ……っ」

 

熱い。冷たい。

なんだっけ。ここどこだっけ?

 

星が。月が。雲が、空が、綺麗で、ああそうだ、舞踏会。

くるくる、くるくる、狂狂、狂狂――――

 

――――――あ。

後ろから、誰かが。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

久々の、“あの夢”だった。

 

「ラーニャ、大丈夫……?」

「……えぇ」

 

心配そうに、ロザリーが声をかけてくれる。

 

“あの夢”を見る理由なんて、明白だ。

あまりにも、あまりにも。

―――あまりにも。

 

「今日って、飛行の授業があったよね? 楽しみぃ~」

 

ロザリーの声とともに、心臓がドクンとなる音が聴こえた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「箒を上に! あげて!」

 

あがれ、と命令する。

 

箒はすぐにあがった。

 

「またがって、三メートルほどですぐに降りてきなさい。いいわね?」

 

素早く上がって、またすぐ降りてくる。

 

よし、うまくいった。

 

「そこの貴女。うまいわね、ミス・ギルティク。次の段階のお手本になって頂戴」

「………え」

「なにをしているの? ほら、早く!」

 

周りで拍手が起こる。

くらくらしながら、先生の傍に行って、箒にまたがった。

 

「なるべくまっすぐ上まで上がって、ゆっくりと降りてきなさい」

 

はい、と返事をしたのかどうか。

よく分からない。

 

大丈夫、落ち着いて。

 

ゆっくりすればいい。

落ち着け。

 

「いち、に、さん!」

 

ふわっと浮いて、30メートルほど上がる。

それからゆっくりと降りて、残り10メートルほどになった。

 

――――――あ。

 

下、草原だったな、そういえば。

 

 

あの時も。

あの時も?

 

視界がくるりと反転して、意識が途絶えた。

 



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飛行訓練Ⅱ

「………………ここは?」

「あら、目が覚めたのね」

 

マダム・ポンフリーがこちらに振り返る。

 

「貴女、箒にのってる途中で気絶したのよ。マダム・フーチが申し訳ないって言ってたわ」

「そうですか……」

 

一人頷いていると、遠くからパタパタと足音が聞こえた。

 

「ダンブルドア先生!」

「あぁ、ラーニャ、はじめまして。母親そっくりじゃの」

「よく言われます」

「で、いま、その母親からフクロウ便がきたんじゃ。見なさい」

 

手紙を受け取って眺めると、懐かしい細く整った文字が綴られていた。

 

「そこに書かれているように、君は特別に飛行訓練をしないこととする。ぎりぎりで初めての授業に間に合わんかったようじゃがな」

「はぁ。でも、そんなことして大丈夫なんですか?」

「かまわんよ、なにせわしが校長なんじゃ」

 

そういって、校長はいたずらっぽく笑った。

 

「君のトラウマについては聞かせてもらったよ、ラーニャ。今は休みなさい」

 

校長が去った後、私は眠ってしまった。

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

六歳のころ、初めて舞踏会に行った。

楽しかったけれど、少し疲れてしまって、体が火照って熱かった。

だから、涼むために外に出て、テラスで夜風にあたっているところで。

 

いきなり、突き落とされた。

 

突き落とされた、というよりは、放り投げられた、というほうが正しいかもしれない。

一度抱えあげられてから、外に投げられた、と。

 

痛くはなかった。

ただ熱かった。

 

それからは何か月も寝たきりで、なかなか治らなくて、そもそも治るかどうかが分からなくて。

何もする気にならなかった。

みんなが私に気を使ってくれるのが、余計しんどかった。

 

私を突き落した男はたまたまそばを通りかかった男で、小者の殺人者だったらしい。

理由はとくになかったそうだ。

まもなく死刑にされたらしいが、私にとってそんなことはどうでもよかった。

 

動かない体を見ながら、死んだほうがましだと思い続けていた。

 

 

 

 

 

「………ん。すみません、寝ちゃったみたいで」

「いいのよ。幸い外傷はなかったみたいだけど、立てるかしら?」

「はい、もう平気です。ありがとうございました」

 

寮に戻ると、ロザリーがベッドの上で口いっぱいにお菓子を詰め込んでいた。

生半可ではない、もうそれはむしろえげつないと言えるような、常人には理解しがたいほどに甘ったるそうな菓子だった。

 

「おかえり、ラーニャ。具合はどう?」

「もうだいぶ落ち着いた。ありがとう、ロザリー」

「ういうい。あ、ノート勝手に写しといたけど、こんな感じでオッケイ?」

 

ぽんと投げてよこされた羊皮紙には、分かりやすくまとまった丸い字が書かれている。

 

「え……これ、私のために?」

「そうそう、普段からノートあんまし真面目にとってないからあれだけど、ちゃんと分かりやすくなってるっしょ?」

「――――――…………」

「あれ、ごめん、字ィ汚すぎて読めなかった?」

「ロザリー………」

「えっ、ちょっ、うわっ!?」

 

思わず、ロザリーの小さな体を抱きしめてしまった。

この子が友達でよかったと、心から思う。

 

「なんだよー、あたし、こんな当たり前のこともしないような奴に見えてたのかよ。ちょっとガッカリー」

「え、あ、ごめ……」

「へへへ、うそうそ。ま、無事に帰ってきてくれてよかったよ」

 

ロザリーはにぃっと笑った。

 




感想がちょくちょく書き込まれてて感動です!
ありがとうございます。


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スリザリン生の優雅な生活は邪魔されてばかり。
苦労の始まり


ラーニャたちは三年生になりました。


しばらくして、私たちは三年生になった。

 

去年卒業したライラ姉さまの助言は、「悪役になるのを厭わないこと」。

というわけで、私は一年間悪役に徹してきた。

 

グリフィンドールをあざけりながら争いを防ぎ、ハッフルパフを貶めながらイジメを禁止し、レイブンクローを貶しながら裏口をやめさせた。

 

スリザリンを支配するのは容易ではないが、いまのところは一応うまくいっている。

 

 

 

唐突だが、ドラコ・マルフォイとは、前に何度か会ったことがある。

いわば家族ぐるみの付き合いである。

マルフォイ家とギルティク家は同系列で、少しだけギルティク家のほうが格上だが、ほとんど同列として付き合っていた。

 

だから、三年生となった今年、新入生のマルフォイがきたのを嬉しく思ったのは事実である。

 

「お久しぶり、ドラコくん。懐かしいな、私のこと、覚えてる?」

「はい、もちろんですよ。ますますお綺麗になりましたね」

「ありがとう。スリザリンへようこそ」

 

にっこりと笑って握手をする。

 

こんなになれなれしく話せるのは、ロザリーを除けばドラコくんぐらいだ。

ドラコくんは、私にとって弟みたいな存在だから。

 

……でも、なんか、ドラコくん、前はもうちょっとかわいかったのに、お世辞まで言えるようになったんだなあ。

嬉しいのか寂しいのか、よく分からない複雑な気持ちになった。

 

「ドラコくん。一つ、お願いがあるんだけど」

「? なんです?」

 

それはそうと、話を本題に戻す。

 

「グリフィンドールと、揉め事を起こさないでほしいの」

「……なぜですか?」

「ポイントが減点されるのよ。今までずっとスリザリンがトップだったのに、たかがグリフィンドールごときのために一位から降ろされるなんて。そんなの絶対に嫌だわ。だから、ドラコくんに失礼なことを言う人がいても、少し我慢してほしいの」

 

なるべく納得してもらいやすいように、グリフィンドールへの悪口をおおいに取り入れながら言う。

 

「いいわね?」

 

ドラコくんは、しぶしぶながらも頷いてくれた。

 

……これでなんとかなるだろう。

 

「ら・あ・にゃっ」

「にゃぁあ!?」

 

後ろからいきなり胸を掴まれ、思わずおかしな声が出る。

 

「ちょ、ロザリー、貴女どうしたの!? 長期の休みで頭がおかしくなったとか!?」

「んなわけないよーん。ラーニャは気づいてないかもだけどさ、去年まではライラさんの監視が厳しかったんだよ」

「え? い、う、うそでしょ?」

「マジでマジで。油断も隙もないぜーって感じ? でもっ、これからは存分にいちゃいちゃできるね!」

 

顔の横で指を組み、首をかしげつつ、キャ☆と目を輝かせるロザリー。

 

………私のまわりはこんなやつばっかりか、と、ラーニャは思った。

 

「ロザリー、そろそろ座りなさい。いくら騒がしいからって、さすがにばれるわよ」

「やだやだやだぁっ! ラーニャの傍がいいのぉっ!」

「こら、もう……また寮で会えるじゃない」

「ずっとそばに居たいの!」

 

こんなにテンションの高いロザリーは初めてだ。

熱でもあるのだろうか。

いや、むしろ今までのだるそうな態度よりはマシなのかもしれない。

 

ちょっと扱いに困るけど、可愛いし。

 

「何をしているのかね、アルナティア。ギルティクが困っているだろう。席に戻りたまえ」

「うわっ、でたぁ……」

 

スネイプ先生がいつの間にかそこに居た。

こちらは相変わらずの神出鬼没っぷりだ。

不愉快そうに声を漏らしつつ、ロザリーは耳をふさぐ。

 

「ちょっと立っただけじゃないですかぁ。やだなぁもぉ、センセーったらすぐ嫌味言いに来ちゃってさぁ。んん? ドエス? サドですか? しかもあたしに目ぇつけるあたりがロリコンっぽくてやだねー、あたしのろりろり体型に興味があると?」

「………ギルティク」

「は、はい」

「友人はよく考えて選ぶようにな」

「すみません………」

 

恥ずかしさと申し訳のなさで顔が赤くなっていくのが分かる。

額を片手で覆って冷やすが、本当は穴があったら入りたいくらいだ。

 

姉さまが卒業したから油断していたが、何のことはない、ただ単純に妹ポジションとしてロザリーが姉さま化しただけじゃないか。

 

「ロザリー、ごめん、もう本当に席に戻って……」

「はぁーい。じゃあまた寮でね、ラーニャ」

 

ととと、とローブを引きずりながら駆けていく姿は、前と変わらない。

 

ドラコくんが心配そうにこちらを見ていた。

大丈夫だよ、と返すと、「大変ですね」と言われた。

 

まったくだよ。

 



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総じて分かること:女運最悪。

「あ、そうだ。ねぇラーニャ」

 

それはいつもと何ら変わらない、例えば「この服可愛いよねー」とか「新しくお店ができたらしいよー」とか、そんな下らない話題をふるのと大差ない気軽さでの、

重大な報告だった。

 

「あたし、たぶんこの学校退学になったよー」

「………え?」

「いやー、ついさっきさぁ、あたしってば窓を割っちゃったわけよ。なんかやたらと絡んでくるアホがいたから、ちょこっとこらしめたかったんだけど。まぁこれが失敗だったねー、やり過ぎて窓がパリーン!!」

 

大げさに腕を上にあげ、そのままばたりと後ろに倒れこむ。

 

「まぁ、退学になるだろ。あたし色んな……つーかほぼ全員の教師に嫌われてるし」

「そっ、そんな……!」

「仕方ないんだけどねー。完全に自業自得だし? それに、この学校で好きなものがラーニャだけってのも、ちょっとどうかと思ってたしさ。合わなかったんだね」

 

ロザリーはゆるゆると首をふり、肩をすくめる。

 

「あっ、でも唯一面白かったのがさぁ! あたしがマクゴナガル先生に叱られてる最中に、スネイプがきたわけよ! で、もうその顔がさぁ!

満ッ面の笑顔!

超楽しそうなさぁ! いくらあたしを退学にできるのが嬉しいからってwwwwあたしのせいで怪我した生徒いるのにwwwその笑顔wwwおいオッサン教師だろwww

つーかアンタ、そんな表情できたのかよ!とか、もうお腹痛くってさぁ!

笑いこらえるの大変だったんだから!!!

ラーニャにも見せたかっ……た…………あれ?」

 

ラーニャのいた場所を見ると、そこには誰もいなかった。

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

スネイプ先生は、自分の部屋で薬品棚の整理をしていた。

 

「あの……、スネイプ先生」

「ん? おお、ギルティクか。どうした?」

「いえ、あの………」

 

ラーニャは、うつむいて上目づかいでスネイプをうかがう。

 

「ロザリー…えっと、ロザリオが、退学になるって聞いたんですけど……」

「ああ。彼女はあまりよろしくない素行をしていたものでね」

 

何をしたんですか、と私はしつこく食い下がる。

 

「生徒に危害を加え、窓を割り、その上に反省している様子も見られなかった」

「………やっぱり、」

 

瞳が涙で潤むのが感じられたが、気にしない。

 

「やっぱり、ロザリオは退学ですか?」

「…………」

 

視界が涙で歪んでいて、まともに先生を見られなかった。

たたずんでいる黒い影が、ゆらゆらと動いている。

 

「―――お前は。母親にそっくりな見た目だが、性格も似ているな」

「――………?」

「あの女は、とにかく嫌な女だった。揉め事を好み争いを愛す、そんな女だった。趣味は他人の喧嘩を鑑賞することだと言ってのけるような、傲慢で高慢な女だった。―――あの女、いつか覚えてろ」

 

ぼそりとつぶやいて、スネイプ先生は慌てたように咳払いをする。

 

……お母様いわく、「使い勝手のいい男でしたわ。わたくしの大っ嫌いな女に傾倒してさえいなければ、ずぅっとこき使ってあげましたのに」だからなぁ。

お母様や先生の学生時代はよく知らないが、スネイプ先生がお母様から逃げきれて本当に良かったと思う。

 

 

「………だが」

 

スネイプ先生の話には、まだ続きがあった。

 

 

「あいつは、仲間のことを、大切にする女だった」

 

 

スネイプ先生の声音からは、何も感情が読み取れない。

くすん、と鼻をすすりながら、私はまだ下を向いていた。

 

「………あいつには、お前の母親には、借りがいくつもあってな。できれば早く返したい。娘であるお前の望みを聞いたとなれば、そのうちの一つは消えるだろう」

「!!! 本当ですか!!?」

「一度だけだ」

 

嫌そうな顔をして、後ろを向くスネイプ先生。

どうやらよほどロザリーを退学にしたかったらしい。

 

「ありがとうございます、先生! 大好きです!」

「…………媚びを売るのはあまり良くないな」

「本心ですわ!」

 

何度も「ありがとうございます!」と頭を下げながら、寮に戻った。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「あ、ラーニャ。どこ行ってたの? 心配したんだよぉ?」

「やった、やったぁ! えへへ、ロザリー、退学しなくてもよくなったんだよ!」

「……何言ってるの? 励まそうとしてくれなくても、あたし平気だよ? そりゃ、たまには手紙とか送ってほしいけど……」

「嘘じゃないわ! スネイプ先生に許可とったもの!」

「ふぇ?」

 

ぽかんと口を開けるロザリーに、ぎゅうぎゅうと抱きつく。

ロザリーはあっけにとられたまま突っ立っていた。

 

「なんで? どうやって?」

「スネイプ先生の部屋に行って、直接お伺いを立てたの! そしたら、一度だけ見逃してくれるって!」

「はぁあ!? あんな育ちすぎコウモリの巣に一人で行ったの!? 自殺行為じゃんか!」

 

そんなことなかったけど、と言わないうちに、ロザリーの顔がどんどん曇っていった。

 

「あたしのせいで、ラーニャがそんな危ない目にあったんだ……」

 

さっきからロザリーの中でのスネイプ先生はなんなの?と言いたいのだが、ロザリーが半泣きなのでそれも言えない。

 

「ごめん……あたし、ラーニャは気にしないと思ってたのに……。まさか、そんな危険なことするなんて……。全然、考えてなかった……、ごめん」

「そんな……謝らなくていいよ、ロザリー」

「ううん。今、すっごく反省してる」

 

え、遅くない?

 

「あたし、もう面倒事起こさない。絶対、絶対だよ。約束する。もう二度とラーニャをあんなコウモリのところへ行かせたりはしないから」

 

手を握られてそうも熱く語られては、スネイプ先生に対する認識へのツッコミもできない。

 

「あ……でも、これ、どうするの?」

「うん?」

 

ロザリーは、私が指差した方向を見て、ピシリとかたまる。

 

そこには、乱雑にたたまれた服が煩雑に散らかり、トランクに無理やり詰め込まれていた。

 

「………ラーニャ」

「………なぁに?」

「………もうさんざんお世話になった後で、あれなんだけどさ」

「…………うん」

「手伝って?」

「はいはい……」

 



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イジメⅠ

ラーニャの基本信念:イジメをするやつこそが弱いやつなので、ぶっちゃけそいつは死んでもいい
ロザリーの基本信念:イジメなんてしてるやつもされるやつも下らないので勝手に野垂れ死んでくれ


「おーう、次の時間はへんしんがーく。めんどくさーい行きたくなーい」

「はいはい、文句言わない」

 

ロザリーをぐいぐいと押しやりながら、ドアから出て廊下を歩む。

 

「……………………ぁ゛っ」

 

「―――?」

「? なに、どしたの?」

「今、なにか言った?」

「え……いや、別に」

 

言ってないよ、とロザリーは首を振る。

 

「昨日勉強してたから、寝不足なんじゃない? 大丈夫?」

「うん……たぶん、平気」

 

おかしいな、と首をかしげつつ、ラーニャは変身術の教室へと足を早めた。

 

「では皆さん、今日は『動物もどき』について説明いたしましょう」

 

マクゴナガル先生の声が教室に響く。

カリカリとノートを取りながら、ラーニャはまだあの声のことが気になっていた。

 

―――なんだったんだろう、あれは。

喘ぎのような、呻きのような?

苦しそうな、それでいて――――――

 

「ラーニャ、授業終わったよっ。次は―――うっへぇ、魔法薬学……」

 

時間割を見て、やだねぇと言いながら、ロザリーが駆け寄ってくる。

 

「………どしたの? ねぇ、ラーニャ、本当に元気ないね? さっきの声のこと?」

「うん……。気のせいだとは、思うんだけど」

「分かんないよ? ラーニャに聞こえたんだから、ひょっとしたらあるかも知れないよ?」

 

こてん、と首をかしげるのと同時に、ロザリーのツインテールがにゅるんと動いた。

 

「あたしが調べといてあげようか。ラーニャのためなら、あたし、本気出しちゃうぜ?」

「――――え」

「呪文、本当は使っちゃいけないけど。ま、いっか、これは呪文じゃないし」

「ろ、ロザリー、何する気?」

「調べる、んだよ。あのあたりに、使い魔を放つ」

 

というと同時に、ロザリーの長いローブの下から大量の真っ黒なハムスターが出てきた。

目と口の中が血のように赤く、一目で普通でないと分かる。

 

「……………っ」

「行っておいで、みんな。なるべく早く調べてよね」

 

呆気にとられていると、ロザリーがこちらを振り向いてにやりと笑った。

 

「安心して。ミセス・ノリスは調教済みだから。いやぁ、実にちょろくて可愛いコだった」

「………ロザリー、貴女、ひょっとしてわりとデキる人?」

「今気づいたの? ショックだなぁ。ふふん、スネイプのクソつまんない授業が終わるころには声の正体わかってるよ」

 

ローブの袖をぶらぶらと揺らし、

 

「勘違いしないでよね。これは、ラーニャのためなんだからね。前回のお礼とかじゃなくて、ただの単なる善意なんだから。お礼はまた今度、三倍にして返すんだからね」

 

と言う。

私が笑うのを見て、ロザリーも楽しげだった。

 

 

 

 

 

 

「へーいっ。情報が洗えたよーん」

 

魔法薬学の授業を終え、ロザリーが自慢げに壁にもたれかかり、ツインテールを撫でつけた。

 

「声の正体は、レイブンクロー所属のマーガレット・ビジィアちゃんの悲鳴だね。倉庫に押し込まれてレイプされ、暴行を働かれていた時の声かと思われるよー」

「…………は?」

「マーガレット・ビジィア、三年生。金髪に灰色の目、すらっとした体型など、ロシア系?

名家の出身、成績は上の中、無口で無表情、あのスネイプ先生でさえ薄気味悪がって嫌味を言わないという凄い人。あと備考としてデカいね、175㎝」

「そ、それどこから調べてきたの……?」

「ひ・み・つ☆」

 

そんなにかわいい声を出す君を初めて見たよロザリー?

そういう声をたとえ演技でもいいから先生の前で出そうよ?

 

 

――――じゃなくて!

 

「それ、ダメじゃない! れ……れい……ぷ……だなんて!!! れっきとしたイジメでしょ!?」

「え、まさか助けるとか言う気? マジで?」

 

心底驚いた、というふうにロザリーが目を見張る。

 

「もーいいじゃん、声の正体が分かってスッキリサッパリ全部解決一件落着! ね?」

「ダメ! 確かレイブンクローに、えっと、誰がいたっけ……あ! ペネロピ―さんって人、結構賢かったから、」

「言いにいくってぇの? 『あなたの寮でマーガレットさんがいじめられてますよ』って? 悪名高きスリザリン生が?」

「うぅ」

 

唸ってみた。

 

「…………まぁ、いいよ、手伝ってあげる。これはこの間のお返し。イジメなんか、なくすのにいつまでかかるか―――」

「大丈夫だよ、たぶん、味方が一人か二人いるだけで十分心強いと思うから―――」

 

これは、私が寝込んでいた間の経験談。

ライラ姉さまの存在が、私を励ましてくれた。

 

「それに、私、新たに呪文作ったし!」

「――――――作ったぁ?」

「うん。スネイプ先生にこの前見てもらったらね、『危ないから誰にも言わないほうがいい』って言われたんだけど―――。何回か練習したし、いけると思うんだ」

「へぇ………」

 

猜疑心あふれる目線でこちらをみてくるロザリー。

 

「ちなみに、どんな呪文よ?」

「えっとね………」

 

「ユール・クティールって言って、相手の精神を崩壊させる呪文だよっ」

 

 

 

 

 

「…………それ、誰に使うのさ?」

「当然、イジメてる人たちにですが?」

「いやいやいや、やばいっしょ。退学んなっちゃうって」

「あっ、そうか」

「そうかじゃねぇよ! 気付け!!」

「ごめんごめん、じゃあちょっと怖い思いをしてもらえばどうかな? コンファンダスとか良くない? 錯乱せよってやつ」

「それだいぶ後に習う呪文だぜ」

「スネイプ先生に教わったよ」

 

ロザリーが黙って首を振った。

認めてくれたらしい。

 

次の時間は休講なので、ちょっと助けに行こうと思う。

 




次回に続きます。


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イジメⅡ

「メグちゃあーん、夜までそこで我慢してたら制服かえしてやるよー」

「うっわww夜まで裸かよwwwカッワイソー」

「しっかし、コイツの制服でけぇなー、どこに隠すべき?」

「むしろ燃やせばよくね?」

「うお、名案!!」

 

またも笑い声が狭い部屋に響く。

 

「はいはーい、お楽しみのところすいませぇん」

 

その笑い声が、ダルそうな声にかき消された。

 

「自分で彼女をつくることすらできない童貞君たちに朗報でございまぁす。我らがスリザリンの気高き黒薔薇、ラーニャさまが直々に貴様らを処分いたーすー」

「ちょ、ロザリー、そのキャッチコピーはなんなの?」

「今即興で考えた。ピッタリじゃね?」

「恥ずかしから止めて」

「ちぇー」

 

「おい、お前らなんなんだよ? スリザリン生か?」

「イエスイエス、まったくその通りだとも、童貞君。ただ、お願いだから君のその汚い顔をラーニャに見せないでくれるかい?」

「んだと、ガキが………!」

 

向こうが杖を取り出してきたので、うん、粛清開始?

 

「エクスペリアームス」

「ぅあっ」

 

おお、うまくいった。

杖がぱしーんって。

本見ただけなのに、結構できるな。

 

「いやーん、最高!」

「ありがと、ロザリー」

「な、て、てめぇ――――!」

「コンファンド、錯乱せよ」

「え? ひ、い、あああああああああああああああああ!!!」

「おっ、ラーニャすごいすごぉい!」

「まだまだあるんだよ、ライラ姉さまが教えてくれたのとか――――レダクト!」

「ぎゃっ!?」

「あら、外れた」

 

杖を振ると、青年の後ろにあった花瓶が粉々に砕けた。

彼らが逃げようとしているが、そうはいかない。

 

「インペディメンタ、妨害せよ!」

 

そうすると、彼らが固まった。

 

「マーガレットちゃんは、えっと―――この中、だね」

 

ロザリーが気まずそうに指差したのは、掃除道具入れである。

でられないように魔法がかかっていた。

 

嫌悪感がふつふつと沸いてくるのを感じながら、呪文を解く。

 

「アロホモーラ、開け」

 

がしゃん、と音が鳴って、扉が開かれる。

 

中に居たのは、体育座りにうずくまった、背の高い女の子だった。

虚ろな目で、眩しそうにこちらを見ている。

 

不安を与えちゃだめだ。

出来る限り、笑顔で。

 

ただし悪そうに見えないやつ。

 

「こんにちは、ミス・ビジィア―――えっと、もう平気よでしてよ。ほら、制服はここにありますわ。立てますかしら?」

「はぁ……、ありがとう、ございます?」

 

虚ろな声。

ダルそうなのはロザリーと同じだったが、ロザリーのような人を小馬鹿にした響きでなく、心底面倒くさいというような感じだった。

 

「っと、あなたがた、きみたち、おまえら? いや、これはぜったいちがう。あなたがたはだれですか?」

「我らがスリザリンの気高き黒薔薇、ラーニャさm」

「スリザリンのラーニャ・ギルティクと申しますわ、よろしく」

「……黒薔薇、らーにy」

「こっちは同じくスリザリンのロザリオ・アルナティア。ほら、ロザリー、挨拶は?」

「―――――よろしく……」

 

まだ黒薔薇がどうのこうのと言っているロザリーを残し、私は青年たちへと近づいて行く。

 

「みなさま、御機嫌よう。床に寝そべるとは感心いたしませんわね」

「ち、近づくな――――――!」

「いったい、誰に命令していますの?」

 

杖を向けると、彼らは小さくヒッと呻いた。

 

「お分かりいただけたと思いますけれど、もう二度とこんなことはなさらないよう。でないと、今度は本当にあなた方の誰かが犠牲になってしまいますわ。

そんなの、嫌でしょう? 私も嫌です。でも、進化に犠牲はつきものですの。付き物というべきか、憑き物というべきか。まぁどうでもいいことですわね」

 

そこで一旦台詞を区切って、にっこりと笑う。

きっと、私の悪役顔もあいまって、かなり恐ろしく見えたことだろう。

 

「告げ口などはなさらないほうがあなた方の身のためですわ。よろしくて?」

 

こくこくと、一斉に頷いたので、呪文を解除してやった。

一目散に逃げていく足音が完全に聞こえなくなったところで、マーガレットちゃんに話しかける。

 

「平気ですか?」

「はぁ、だいじょぶだとおもいますが」

「んー、とろい答えだなー。ラーニャ、これはダメだぜ、何回助けたってまたいじめられるタイプだよ」

「ロザリー!!」

「ごめんごめん。マーガレットちゃん? メグでいい? 仲良くしようねー」

 

そういって、ロザリーが左手を差し出す。

明らかに挑発と思われるロザリーの言動(本人にその自覚がないのが一番の問題)にも気を悪くしたふうはなく、メグちゃんは普通に握手した。

 

少し感受性の鈍い子なのかもしれない。

 

「じゃ、あたしらはこれで。さいならー」

「さよなら、ミス―――」

「メグでいい」

「……ありがとう、メグ」

 

部屋から出て、もう一度後ろを振り返った。

 

メグが頭を下げていた。

 

あぁ。

あの子は、感受性が鈍いわけじゃないんだ。

だって、ちゃんと、人間らしい感情があるんだから。

 

感謝は、素晴らしい感情だ。

 

「あー、楽しかったー。メグたんも無事助けれたし。収穫はとくになかったけどねー」

「そう?」

 

ロザリーの言葉に対し、自然に、頬がほころんだ。

 

「新しい友達が、出来たじゃない」

 




呪文がたくさんかけて楽しかった♪
ラーニャは一応、天才設定はいってます。


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番外編

長いです。


愛やら恋やらは嫌いだ。

 

そのいかにも素晴らしいという風にみんなが語る恐ろしい病は、確実にさまざまの人の心を蝕んでいく。

臆病になり、疑い深くなり、怒りやすくなり、人格は狂い、まったくの別人になってしまう。

 

最も恐ろしいのは、それがいかに恐ろしいかをみんなが軽視していることだ。

 

若いうちにはよくあること?

なんだそれは。

だから早く治療が必要なんだ。

かといってその治療法も治療薬もない。

だがらこそ、もう少し慎重になってもいいのに、とは思う。

 

恋も愛も結局は欲から来ている。

性欲、保護欲、独占欲、支配欲、所有欲、

そんな汚い快感と優越感の入り混じった欲からなる恋愛感情が、美しいものであるはずはない。

 

聞いたところによれば、そんな汚いくだらない恐ろしい病に侵されたまま一生を終える人間もいるとか。

可哀想に。

別に同情してやる義理もないが、あたしはいつもそう思ってしまう。

 

あぁ怖い。

春夏秋冬、この世は汚いものばかりだ。

どろどろに汚れきった世の中で、誰もが下心丸出しで生きている。

そんな目でこちらを見るな。

別に何もやらんし貰わんぞ。

 

真に美しいのは友情だ。

何も見返りを求めない自己犠牲、同性同士の純粋な感情。

なんて素晴らしい。

問題はあたしに友達がいないということだ。

それは仕方ないと思う。

あんな、こちらに石を投げてくるような、猿のような糞餓鬼共と馴れ合いたくはない。

あたしまで猿だと思われるのは御免だし。

 

かといって、ホグワーツならもう少しマシなのがいるかというと、そうは思えない。

なにせ、あんな尻軽の上に頭まで軽い母親と、根暗で気色の悪いストーカー親父のいたところだ。

果たしてあたしに友達はできるのだろうか。

こんな偏屈な、厨二病全開のチビのそばに居てくれるようなお人好し。

 

そんなお人好しが、一体どこの世界にいるというのだろう――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぅおうっ」

 

いつも通りの時刻に目が覚める。

時計をチラ見。

四時だった。

低血圧なので、早めに体を起こしておかないといけないのだ。

 

ラーニャはまだすやすやと寝息を立てている。

 

そう、あたしこと、

ロザリオ・アルナティアの友人である。

 

お人好しの権化のような人物だ。

 

顔を洗って、一足早く制服に着替える。

自分の細い腕やら足やらを他人に見せるのは嫌いだ。

よわっちさがますます目立つから。

菓子を大量に口に詰めこみながら、カバンを漁る。

えーと、今日の時間割は………。

ぐおぉお!

すねーぷの授業が一時間目から………!

……仮病で休んでやろうか。

いや、それをするとラーニャに叱られてしまう。

しかし、なぜ朝っぱらからあんな奴の顔を見なくちゃいけないんだ?

吐き気がする。

頭がズキズキしてきた。

いかん、なんてことだ、本当に気分が悪くなってきたぞ。

さすがすねーぷ、次から授業を休みたいときはあいつの顔を思い出すとしよう。

 

「ん………」

「………? ごめん、ラーニャ、起きた?」

「ろざりー、べんきょうしなさい……」

「…………」

 

寝言だった。

なんてことだ、寝言で叱られてしまうとは。

そうまでされては仕方ない、勉強をするとしよう。

 

魔法薬学の予習は却下だな。

吐き気がするし。

 

えっと、たしか歴史の課題をまだやっていなかったはず………。

 

しばらく課題をしていると、ラーニャがもそもそと起き上ってきた。

 

「おはよ、ロザリー………。ふぁ」

「おはよう。よく寝れた?」

「うん、まぁまぁね。あれ、ロザリー、それ………」

「歴史の課題を、ちょっとねー」

「!! 偉いわ!!」

 

目をらんらんとさせ、ラーニャがあたしの手を取る。

凄い喜びようだった。

 

「どうしたの!? ロザリー、貴女いつもは提出日になってからやるのに!!」

「あいやー……。そうだっけ?」

「そうよ!」

「アタシはイツモ真面目アルよー……」

 

理由を聞きだすのはやめたようだが、ラーニャはずっと「偉いわ」と繰り返していた。

 

「ねぇロザリー、一時間目はなんだったかしら?」

「一時間目はね、魔法やくがk……うぇっうぇ」

「ロザリー!?」

 

危うく吐くところだった。

 

「どうしたの? 医務室に行って、マダム・ポンフリーに……」

「へーきへーき。だいじょーぶい」

 

よく考えたら、朝、寮監であるすねーぷとは毎日会うはずなのだが、あたしはいったいどこを見ていたのだろう?

あんな、真っ黒い巨大コウモリ……おぇーう、もといすねーぷがバサバサ動いてたら、気づくだろうに。

 

「はやくメシ喰いにいこー、ラーニャ」

「そうね。……ねぇ、本当に平気?」

「うん、ほんとだってば」

 

あー、らあにゃんには癒されるなぁ。

可愛いなぁ、優しいなぁ。

嫌なこと、全部わすれられちゃうよ……。

 

すねーぷ?

誰だっけ?

 

「あー、朝飯ウマ~。甘いもん食うと目が覚めるよねぇー」

「さっきも食べてたじゃない」

 

軽くラーニャが笑う。

女神のような笑みだった。

天使というべきかもしれないが。

普段は少し冷たい印象を与えがちな容姿も、笑うととても無邪気に見えた。

長い睫で縁取られた翡翠色の眼は三日月形になり、健康的な赤味が頬にさし、薄桜色の唇が可愛らしい言を紡ぐ。

つまり言いたいのはらあにゃん万歳。

 

「そろそろ教室に行こう?」

「うぎゅ? もうそんな時間?」

 

地下牢へと移動。

グリフィンドールの双子がラーニャに向かって手を振った。

 

うっぜぇ、色目使ってんじゃねぇよ。

鏡貸してやるからそれ見ろや。

 

「アルナティア」

「ごっおぅ!?」

 

見上げると巨大コウモリがいた。

 

あれ?

なぜに?

 

「授業中によそ見とは……どうした? なにか重要な発見でもあったかね?」

「え、ぅおう、はい。いや、いいえ」

 

いつのまに授業が始まったんだ?

おかしいな……。

 

「ほら、黒板に説明があるから」

「あ、ラーニャありがとー」

「もう……」

 

すねーぷが教室中を移動する。

効果音をつけるなら……。

そうだな、バサーッかもしれない。

 

「ぅああっ」

「あっ」

 

大量のネズミの脾臓が鍋の中へダイブした。

 

黒板には、《ネズミの脾臓は一つまみ》と赤字で強調して書いてある。

 

「チッ、いいんだもん………かまわねぇよ、多少は……」

「その思い上がりが貴様の成績の悪さを裏づけしている。これはこれは……ひどいな。

黒板の字がよめないか? 赤が目立たないなら、我輩は何色を使えばいい?」

「ぎにぃいーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」

「やかましいぞ、アルナティア。罰則だ」

 

あたしが魔法薬学の授業で叫ぶのはよくあることなので、誰もこっちを見ていなかった。

例外として、ラーニャだけは心配そうにこちらを見てくれている。

 

「む……ギルティクは素晴らしいな」

「ありがとうございます、先生」

「皆もこちらに来て、よく見るように。……まぁ、すぐ隣のものがあれだから、見たところでよくなるとは思えんが」

 

ふん、と笑われた。

 

畜生……。

卒業したらその記念に、頭を食いちぎってやる。

いや喉笛をかみ切るか?

 

唯一、ラーニャをお気に入りにしているところだけは評価してやるが……。

 

と思っていると、チャイムが鳴った。

 

「宿題、先ほど配ったプリント集を明日の授業で提出。では終了」

 

ようやく済んだか。

 

「アルナティア、罰則として五時に我輩の研究室に来るように。薬棚の整理をしてもらおう」

 

ぐぁっ!

 

「ロザリー、次はルーン語だよ。行こう」

「うぅー」

 

ルーン語と言えば、確かメグもいたはず。

 

メグなぁ……。

いい人なんだけど、やたらラーニャにすり寄るんだよなぁ。

ラーニャは気にしてないみたいだけど、あたしは気になる。

 

「………おはよ」

「あら、おはようメグ。具合悪そうだけど、平気?」

「いつものこと……」

 

メグは常にアタマが痛そうだ。

多分、偏頭痛もちなのだろう。

銀縁眼鏡の奥の灰色の眼が、虚ろにラーニャを見ていた。

 

 

 

ルーン語の授業中、メグはラーニャにずっとくっついていた。

座るにしたってそんなに密着しなくていいでしょとか、教科書忘れたっつってそれ絶対わざとだろとか、色々言いたかったが黙った。

アタシえらい。

 

その後は歴史があって、変身術の授業があって、いつも通りだった。

 

「いやー、おわったおわったぁ……」

「ロザリー、罰則は?」

「ぐぬっ」

 

忘れてた。

 

「ちゃんと行かなきゃダメよ。また増やされるだけなんだから」

「はぁーい……」

 

くっそー、嫌だなぁ。

 

すねーぷの研究室ってそもそもどこだっけか?

 

「案内してやろうか、ロザリーちゃん?」

「てめぇピーブス、なんでこんな時だけ親切なんだよ」

「そりゃ、オレは生徒のみんなが大好きだからねぇ」

 

にやにやと笑いながら、ピーブスは浮遊している。

 

「ついたぜ子猫ちゃん。ゆっくり楽しむといい」

「死ねよ」

「もう死んでる♪」

 

イライラしながら、研究室のドアを乱暴にたたいた。

いや殴った。

 

「せんせー、アルナティアでぇえーす。罰則のためにきましたあああ」

「よろしい、入れ」

 

いつ来ても気味の悪い部屋だった。

暗いし、じめじめしてるし。

 

すねーぷの巣にはぴったりだ。

 

「その棚を整理して、それから瓶を磨け。割ったりせんように」

「はぁい」

 

次の瞬間から、すねーぷのねちねち攻撃が始まった!

 

「まったく、ギルティクの趣味には呆れるな……自身が優秀だと、傍に欠点となるようなものを置いておきたくなるのか……?」

 

すねーぷはにやにやわらった!

 

コマンド▼

むしする

 

「おいおい、棚の整理すらロクにできんのか……スリザリンの面汚しだな」

 

コマンド▼

むしする

 

「お前がなぜギルティクに執着しているのかは知らんが……。大方、あやつが優秀だからだろう? 浅ましいお前はその恩恵にあやかろうというわけだ……、いやはや、なんとも……」

 

イラつきがピークに達していたが、とうとう、この一言でキレた。

 

「そういうアンタは、好きな奴いねーのかよ」

 

ぼそりと言った独り言なのだが、すねーぷの耳にはバッチリ聞こえただろう。

かまわない。

むしろ殴りかからなかったのを誉めてほしいくらいである。

 

「まぁ、仮にも“あの”スネイプ先生さまさまですしぃ? 恋愛とかはしたことないし、興味もないんでしょうね?」

 

すねーぷからの反応はない。

 

「だぁって、気持ち悪いですもんねー、ああいうの。狂うっつーか、イカれるっつーか。したら最後、みぃんなおかしくなっちゃってさぁ。どうかしてるぜ。そんなもんのために命賭けちゃうとか、マジで馬鹿みたいじゃねぇ? どう思いますぅ?」

「…………あぁ、我輩も同意見だ」

「それはそれは。クールでドライなご感想ですな」

 

瓶をせっせと磨きながら、すねーぷの方を窺う。

いつもとなんら変わらないが、なんだろう、少し台詞に違和感があった。

普段のすねーぷなら、もっと嫌味な返答をするはずだ。

それか言葉使いの乱れを指摘して、罰則を増やすとか……。

 

 

…………まぁ、いいか。

 

「とっとっと。すんませーん、もう全部終わりましたけどぉ」

「そうか。もういい、戻れ」

「はぁーい。おやすみなさい、先生」

 

なんか、やっぱりすねーぷがおとなしい。

昼にはいつも通りだったのに……。

夜は眠いんだろうか……。

 

え、でも巨大コウモリなのに?

 

「………先生、だいじょぶです?」

「なんだ、この程度の罰則では不満か」

「いやすいません寝ますごめんなさい」

 

気のせいだったかも。

うん、多分気のせいだ。

 

早くラーニャに会いたいなぁ。

 

シャワー室に寄ってから、着替えて、パジャマ姿で寮へと走った。

 

「合言葉……えと……そうだ、“誇り高き魔法族”!!」

 

普段滅多に走らないせいで足が痛くなってきたが、気にしない。

 

「ラーニャ、ただいまぁっ!」

「おかえり、ロザリー。罰則は済んだの?」

「うん、バッチリ。えへへ、ラーニャ、ラーニャっ」

「なぁに? きゃっ」

 

ベッドの上のラーニャに抱きつく。

ちょっと驚いていたが、ぽふぽふと頭を撫でてくれた。

………ラーニャなら、さっきの質問になんて答えるだろうか。

 

「………ね、ラーニャ」

「ん?」

「愛とか恋とか、そういうのってどう思う?」

「………いきなり難しい質問するなぁ」

 

苦笑しながらも、ちゃんと考えてくれるあたりがラーニャらしい。

一分ほどして、答えが返ってきた。

 

「やっぱり、楽しいものなんじゃない? よく分からないけれど……、そうでもなきゃ、こんなに流行らないと思うな」

「楽しい……?」

「そう。私は婚約者がいるから、恋愛禁止なんだけど。でも、うん、相手のために何かをするって使命感、背徳感とか……。相手が浮気をしたとかしないとか。疑心暗鬼で一喜一憂、みんな、楽しそうにしてるじゃない」

「………あたしには、よく分かんないな」

「私だって分からないよ。だけど、真に大切なのは理解じゃなくて和解だからね。分かり合えなくても許し合うの」

「ふぅーん……」

 

例えば、ストーカーに刺されたりだとか。

好きな女を刺して、自分も死んだりだとか。

妻が刺されたと聞いた瞬間、子供を慰めるわけでもなんでもなく自殺未遂をしたりだとか。

偶然見つけた引き出しには、妻の学生時代の隠し撮り写真が大量に保管されていたりだとか。

 

そういう、いわゆる『純愛』を、あたしも許せる日が来るんだろうか。

母さんや父さんと和解することなんて、無理なように思うけれど。

 

「ラーニャ、大好き」

「また唐突だね?」

 

あはは、と頭上から声がふってきた。

 

「私もロザリーのこと、好きだよ。親友だしね。また明日」

「うん、おやすみ」

 

ベッドに潜って、さっきの言葉を反芻する。

たっぷりと幸せな気持ちを味わって、あたしはいつものおまじないを唱えてから目を閉じた。

 

 

 

“今日もありがとう、明日もよろしく”

 



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