世界が君を砕いても・・・。 (鵜飼 ひよこ。)
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第1輪:其は一条の光明。
「要点のみを述べよう。選びたまえ。その暗黒に手を入れ、光明を掴むか否か。」
あぁ、俺は死んだんだな。
そう思ったのが最後で最初の記憶。
それ以外に説明するものは何もない。
気づいたら右も左も解らない・・・多分、建物の中にいて、倒れた俺の首根っこを咥えてずるずると引きずる変な黒狐がいた。
その狐に引っ張られて窒息しそうになりながら連れて来られたのがこの場所で、今に至る。
「要点つっても、何の説明もなく死んだような気がする俺に選択肢も何もないだろう。寧ろ、取り乱したりしてない俺をまず褒めるべきなんじゃないかなぁ?」
と、言ったところで声の主も見えず、あるのは俺の手が入るくらいの鳥居だけ。
あ、狐もいたな。
「ならばどうするのかを決められるであろう?」
また声。
「確かに左右される要素がないつったらそうだけど、姿くらい見せるのが礼儀じゃないかな?」
ここが地獄の一丁目で、鬼が出るというのでもそれは構わない。
天国へ行ける程の善行って世の中には、そう多くない気がするから。
「まぁ、答えはないか。で、狐ちゃんや、"アレ"の言っているのは、この鳥居に手を突っ込めって事でおk?」
ちゃっかりと鳥居の前に座っているのは、変な模様の顔をした狐だけ。
言葉を喋るわけがない狐に喋りかける時点で自分がどうかしている気がするけれど、こうでもしないとイライラが爆発しそうだ。
幸い、これ以上イライラさせる原因の声は何も言ってこないみたいだし・・・。
「ではでは・・・手を突っ込む!」
一息にそれを実行する。
実行するしか選択肢がないってんなら、やってみてから考えよう。
「うわっ?!なか、ぬめぬめ?ぶよぶよ?しかも生温っ!」
水より弾力があって、寒天ゼリーよりは柔らかい感触で・・・何なんだ、このミニ鳥居・・・?!
「え?!ちょっ?!コレ!なんかが俺の手ぇ掴んでる!うへっ、あっ、ちょっ、どうしろと?!」
「そのまま掴んで抜け。」
「え?!」
俺を迎えたあの声とは違う声。
なんだと?掴み返して引き抜けばいいのか?
【元亀元年】
よく解らない何かを掴んだ瞬間、そんな単語が脳裏に浮かんだ。
何だろう?年号?聞いた事ないな。
「ぬぉっ?!きゅ、急に重くなっただと?!ふざけんなよぉぉぉーッ!!」
「つべこべ言わずに引き抜け!」
慌てふためく俺の視線がちょうど鳥居の横にいた狐と合う。
口が・・・動いてる?え゛?
「しゃべっ・・・てる・・・狐が喋ってるぅぅぅ!」
「そんな事はどうでもいい。さっさと"時代の波の中"から喚んでやれ。」
「いや、どうでもいいコトじゃないでしょ!」
意識を失って目が覚めたら見知らぬ場所にいて、死亡フラグしか立たない選択肢を突きつけられたうえに、従ったら案の定大ピンチで、しかも狐に話かけられるというこの流れの、どこを取ってもどうでもいいコトなんかないだろう!
それに、俺、今、絶対間抜けなツラしてるに違いない。
『あ・・・るじ?』
脳天に突き刺さるような悲愴な声。
「あ゛?狐、今また喋ったか?」
俺の問いに無言で顔を左右に振る狐の図ってのもシュールだな。
『なは・・・・名を・・・。』
「名?俺の名前か?俺は、ナオ・・・
グンっと身体が浮いたような、負担が減った気がする。
勿論、そんなチャンスを逃す俺様ではない。
チャンスは生かしてこそ、チャンス!
一気に突っ込んでいる手を引き抜きにかかった。
ズルズルと鈍い音と感触がするような錯覚を感じながら、俺の手が鳥居から出てくる。
『名を呪として、主たらん。』
手首までが現れた時にそんな声が聞こえて、更に手が軽くなった。
もうこれは一気に決めるしかないと思った俺は、背負投げでもするような勢いで身体を捻って反転させ、前へと進む。
背中で何かが抜け出ている音が聞こえていたけれど、無視ししてそのまま歩を進めて引いた。
「こ、これは・・・。」
「狐、もういいか?まだ引っ張るのか?」
それが解らない事には止まる事も出来ないし、後ろを振り向く事も出来ない。
「む?あぁ、構わない。」
「・・・・・・な、なんじゃこりゃぁっ?!」
俺の手に握られ、そこにあったのは・・・一振りの刀。
それが俺とアイツ等との、そして永遠に続くともいえる戦いとの出会いだった。
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第2輪:傍らにはキミがいて。
こういう言い方は好きじゃない、はっきり言ってひっじょぉーに遺憾だが、結論を先に言おう。
結局、俺にはあの後から今に至るまで、全くの、一欠片の選択肢も存在していなかった。
あ?簡潔過ぎるって?
じゃあもう少し詳しく述べるとだ。
俺は何者かの手で既に幕が上がった舞台の上に、しかも1人の演者として放り込まれた。
何者かというと、"国家"とかいう規模だってんだから、逆に納得だ。
だって、こんなの拉致監禁と変わらないからな。
で、俺にはどうやら特殊な能力?
連中の呼び方だと審神者だったか、何だかのチカラがあって、今現在、国ではそういった能力を持った人間を発掘して戦いに投入しているらしい。
「選択肢がないまま国の為に、国によって戦場へって・・・一世紀前の第三次世界大戦とどう違うんだ?」
軍国主義も顔負けだ。
まぁ、それでも拒否は出来ないそうなので、せめてもの反抗にこうやって日記めいたモノを書いて・・・。
「って、重い!俺に寄りかかるな暑苦しい!」
「え~、だぁってぇ~何書いてるか興味あるじゃなぁ~い?」
「言いたい事は解る。人様の日記をこっそり見ようとかってのよりはマシだと思う。で・も・な・!コレは心の平常を保つ為の一種の自己整理なの!邪魔スンナ!」
悪気はないのは知っている。
"現代社会"への純粋な興味なんだろう。
でも、注意をしないというのは別問題だ。
「けど
「何を言う。戦国時代にだって各大名が記させた合戦日記があるだろう。」
そう、意外だったのは、俺にはそこそこの歴史的・社会的知識があるという事だった。
ちなみに、それ以外の過去の記憶は曖昧だ。
未だに余り思い出せていない。
これもある意味で、こういう事に巻き込まれた弊害なのかも知れない。
「ま、アタシも変わってる自信あるから。」
「そもそも"刀剣"が二足歩行で擬人化して喋るだけでもおかしいだろ。」
俺の目の前にいる存在は、俺の審神者の力によって人の形代を得た"刀剣"だ。
強制的に発生させられた付喪神だと考えればいいと言われた。
「まぁ、刀剣が"オネェ言葉"で話すんだからなぁ。」
こんな超常的な力を使ってまで、何と、何故、戦うのか。
「え?そこォ?そうじゃなくてさァ、こんな"馬鹿デカい大太刀"を一発で引く主の引き運の話。」
戦う兵士のような存在としてのイメージなら、刀剣というのはこの上なく最上だろう。
器物故に"損害"もない。
「普通の審神者では最初に出でるのは打刀、或いは脇差が大半だな。」
「うるさい"ゴン"。人を変人みたいに。」
器物であればいいのなら、銃やミサイル等の近代兵器を使えばいいはずで、何故それをしないのか?と思うだろう。
しないのではなくて、"出来ない"からだ。
「ゴ・・・自分にはれっきとした名が・・・。」
「黙れ、オマエなんかゴンぎつねのゴンで十分だ。」
「自分は"管狐"だ!」
ぴしゃりと言い分を却下した相手は、例の黒狐だ。
言葉が通じると解ると、あとは首を絞められながら引きづられた恨みしかない。
「狐には変わりないだろ。あぁ、"白い方"はこんのすけだったっけ?なら、オマエは"黒ゴン"だな。」
「何故ゴンの方が残る!」
その法則だったら、くろのすけじゃないのか!と抗議の声も却下、と。
「んでも、変わってると思うんだけどナァ、十分。」
「アダ名づけは、俺の趣味だよ、"ジロたん"。」
ジロたんと呼ばれたのは俺の刀剣。
俺が引き抜いた刀剣だ。
審神者になる最初の試練ってヤツがアレだったらしい。
ちなみに名前は次郎太刀。
2m以上はある。
斬馬刀を除けば、恐らく最大級の大きさを誇る刀剣だろう。
細かい事をいうと、刀と太刀ってのはそもそも定義からして違う全くの別物らしい。
「まっ、アタシはその呼び名、刀剣ぽくなくって好きだヨ。何か違うモノになれた気がするし。」
「大体、変人と言えば歴史改竄者と、それに対処する為にこんな手段を選んだお偉いさんの方だ。」
俺達の戦う相手は、歴史を変えようと過去に遡って悪さをする時間犯罪者だ。
その相手として、敵がタイムスリップした過去の時代から存在する刀剣達を使って戦わせている。
人じゃないし、過去にも存在していて、壊れたとしても器物なので、痛くも痒くもない・・・。
「大体よ、ジロたん?この時点であの変人達には落ち度があるワケよ。」
ジロたんは俺との会話が何時も面白くて仕方がないという風に、必ずふんふんと、時には苦笑しながら聞いてくれる。
花魁?歌舞伎役者?の出で立ちの大太刀。
黒ゴンはあんぐりと口を開けたまま固まっている。
ありゃ、思考停止してるな。
「軍人ならいざ知らず、戦いで心を捨てて駒になれなんて馬鹿なんじゃねぇの?ジロたんにだって、こうやって考えて話せて、想いがあってさ、それは俺達と同じじゃん?それを唐突に能力があるから、さぁ戦え!とか狂ってるね、変態、ド変態。」
「んまァ、アタシは物だから、心とか想いが宿る先って何処なんだろくらいは思うよ?」
その答えが返ってくる時点で、俺のお偉方への信頼度はゼロだ。
目の前のジロたんだけが120%信じられる。
「そう考えてる時点でジロたんに"心"はあるよ。」
俺は開いていた日記帳もどきをパタリと閉じる。
「アタシも十分変わってる。変わってると思うけど、主も大概だねェ。似た者同士?ま、話の続きはまたア・ト・で・♪」
ジロたんは自らの手で自分自身、本当の次郎太刀を鞘から引き抜く。
そろそろ予定の戦の時間だ。
あちらこちらで鬨の声が上がっているのが聞こえる。
「次郎太刀!いざ参る!」
ぶぅんっと太刀が風を起こし、俺の傍らでもその声が上がった。
どうも、おカマちゃんとオネェを書くのに定評のある私ですw
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第3輪:黄昏に、宵闇に。(刀剣視点)
2話でUA500♪
それは熱病のように俺を動かす。
『貴方は逃げて!』
ズキズキと頭を最悩ませる痛み。
この世の何処へ逃げよというのか。
「今日は何書いてるのさァ?」
「だ~か~らっ、人様の日記帳を堂々と覗き込むナ!」
青年と・・・あれは刀剣か。
「まぁまぁ、アタシと主は特別な仲じゃないか。」
「激しく語弊と誤解を呼びそうだな。」
笑い合う主従の声が更なる痛みを叫ぶ。
「いやさ、歴史を変えようとする奴等を倒して、歴史を修正していくのは目的なわけだろう?」
「・・・・・・ソレ、今更言うの?主、ボケた?」
「ボケてない!話を最後まで聞け!で、何が言いたいかってつーと、誰が本来あったはずの"正しい歴史"と改竄された"間違った歴史"を判別するんだ?もしくは、どうやって変えられようとしている歴史を察知する?」
『この構図って本当に"正しい"のかしら?』
審神者であろう彼の発言に、己の身の内で警鐘が響く。
「余計な考えは戦いの邪魔になるんだろうけど・・・歴史が現在の時点で改竄される事を含めて、正しいと認識されるとか・・・でも、そもそもその考えでいくと、俺達の戦いの"勝敗自体"が・・・ん?」
その先を言わせない、聞きたくがない為に。
きっとそうなのだろう・・・その為だけに俺は彼等の前に姿を現す。
「アンタ、誰?」
不躾とも、不遜ともとれるその声がと姿だが、不思議と嫌悪感はない。
どことなく懐かしくもある。
彼女と似ているからであろうか?
『むねちー、また眉間にシワ寄ってるよ?スマイルスマイル。』
彼女?
彼女とは一体誰の事だ?
「俺か・・・俺の名は三日月宗近。」
「みかづき・・・確か、鶴りんの兄貴の?」
鶴・・・りん?
「鶴りんて呼ぶと、またキレられるよぉ?この前、取っ組み合いの喧嘩になりかけたのに、主は懲りないねェ。鶴りんの刀匠が三日月宗近の弟子だっただけで、刀剣の兄弟ってのは、普通同じ刀匠が打ったものを言うんだヨ。」
「おぉっ、あのぽこぽこいる半ズボン藤四郎軍団か。て、オマエも鶴りん呼んでんじゃねぇか。」
ぽむと手を打つ青年に傍らにいる大太刀・・・彼は次郎太刀だったか、が苦笑する。
「主は仇名をつけないと覚えられないのかい?」
『おぉっ、骨喰ではないか、懐かしい!』
「三日月宗近って言えば、天下五剣とも謳われる・・・。」
「お?どした?調子が悪いのか?こっちで座って茶でも飲んで休んで行けよ。」
「はァ・・・我が主ながら、器がデカいのか、ブッ飛んでるというのか・・・。」
青年の勧めるまま、彼等の横に座す。
これまた不思議な感覚だ。
「天下五剣というより、ただのじじぃだな。」
何より自分で欲したものでもないのだが・・・。
「俺の名は直だ。まぁ、天下五剣の凄さは良く解らん。解らんが、だが、しかし、だがしかし、俺が最近会う刀剣、皆変なヤツばっかりじゃないか?」
「はいよ、お茶。」
「どうも。」
大太刀が煎れた湯呑を受け取ると、何故だか笑みがこぼれる。
「・・・酒、入れてないよな?」
「同じ悪戯は3回以上はしっませぇーん。」
「2回はするのかよ。」
妙な既視感はあれど、嫌な気はしない。
それに何故だか、彼の横は・・・。
「全く。出だしがおネェの大太刀に、洗濯が大変そうで漂白剤に漬け込みたくなる純白鶴りんに、緑ジャージ。で、今度は自称じじぃ。自分の相方じゃないとはいえ、オマエ等本当に刀剣かよ。」
鶴りんというのは、先程の会話からして鶴丸國永の事であろう。
緑ジャージ・・・とは?
緑と言えば、石切丸と鶯丸が浮かぶが・・・あれらは少なくともジャージとやらではないな。
となると・・・。
「御手杵・・・の事かの?」
「あぁ、そう、そんなん。何かローマ帝国史の皇帝に出てきそうな。」
「何よ、ソレ?」
「そんな感じじゃね?オテギヌウスⅡ世とかって。」
よくは解らぬが、意外性のある若者とだけ評しておくべきか・・・。
「何でⅡ世なのか?」
思わず横槍を入れてしまった。
「突っ込むトコロはソコ?」
いやはや、次郎太刀に俺まで呆れた目で見られてしまったな。
「いやぁ、意外と面白いな、流石、天下五剣。」
「面白さで頂く号ではないのだが・・・。」
「あ、そうだ!お近づきの印にコレやるよ。この前の戦の報奨とやらで、黒ゴンに2個貰ったんだけどさ。ウチ、刀剣はジロたんしかいないから、1個どうぞ。ジロたんにも。」
無造作に手に何かを押し付けられる。
『はい、コレ。貴方にアゲる。』
「あらァ~、主からの贈り物なんて、アタシってば愛されてるぅ。」
「ハイハイ、アイシテマスヨー。」
「これを?頂いても?」
手に押し付けられたのは、小さなお守り。
「うん。何でも敵からの攻撃を軽減する呪符が入ってんだと。眉ツバもんだけど、無いよりマシだろ?気休め的に。」
「もぅっ、身も蓋もありゃじない。こういうのは気持ちの問題なの!」
「そんなムキにならんでも・・・あ、今度また貰ったら藤四郎軍団にでもやるか。アイツ等、なんとなく体力低そうだし。」
『短刀なんざ、幾らでも代えはいらぁな。勿体ねぇ。』
途端にジクジクと心の臓の奥から沁み出て来るようで、思わず掌の"お守り"を握り締める。
そうだ、人間は"天下五剣"の名だけで、俺を見る生き物だとしか思ってなかった。
愚かで、哀れな・・・。
『天下五剣でも三日月宗近でもなく、私にとってはむねちーなの!』
それはもう遥かに遠くて・・・。
「おぃ!」
ぎゅっと誰かが腕を掴む。
その感触に、微かな音に、はっとなる・・・彼の、左腕か・・・?
「何だよ、"むねちー"?まさか、アンタもジロたんと同じで愛されてるぅ~とか思っちゃったりしてる?」
そう・・・その感触は・・・懐かしくて・・・そして遅過ぎた・・・。
「いや、そなたのような審神者に逢えて良かったと、な。」
出逢うのが・・・余りにも・・・・・・遅過ぎたのだ・・・。
く、口調が良くわからんようになってきた・・・。
あ、2016年の手帳をむねちーにしようか悩んでます(謎)
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第4輪:刀剣と審神者。(刀剣視点)
出逢いたくはなかった。
出逢わなければ、斯様にも狂おしいと思う事なく今生を終えられたのに・・・。
「何やってんだよ!むねちー!」
あぁ、こんな事になっても、やはり君"も"、俺に優しい。
優し過ぎる。
「主!逃げて!」
そうだ、逃げなさい・・・遙か、
「フザけんな!何処の世界に"仲間"を見捨てて逃げる大将がいる!」
"俺に組み敷かれている"次郎太刀を見下ろしながら・・・俺は一体何をしようとしているのだろうか・・・。
「馬鹿だネェ。"直"、大丈夫だよ。例え此処でアタシが折れたとしても、時の流れでまた逢えるじゃないのサ。」
俺達刀剣は、過去の。改変が起こされる各時代に存在する、し続ける。
いつでもそこに、そして永遠に。
「馬鹿はそっちだ!それは"違う次郎太刀"だ!俺の知っている、今この瞬間の"ジロたん"はオマエしかいないだろ!」
何時、何処の時代から取り出したとしても、それは今の時より過去に遡った存在でしかない。
今この時まで作り上げてきた喜びも、苦しみも、ましてや育んだ縁すらない。
「・・・そ、その通りだ。」
「むねちー!急にジロたんを攻撃なんかしてきてどうしたんだよ!」
「・・・思って・・・しまったのだ。」
「何をだよ!」
そうなってしまえば、それは加速的に膨らむ一方で・・・。
「"彼女"に逢いたいと・・・。」
その言葉で彼の表情が変わる。
やはり気づいていたか・・・気づいていて、そこまで優しく出来るのか・・・。
「やっぱり・・・むねちーの審神者は・・・。」
悟い子だ。
「討ち死にしたな・・・。」
俺を残して・・・。
「見かけた事も話題にも出なかったから、変だとは思っていたけど・・・。」
「気づけば、もう手遅れだった・・・俺は"堕ちて"いた。」
次郎太刀に向けた刃に力がこもる。
それを力尽くで受けて止めているのは、流石は大太刀だ。
「改変を修正せし者が、修正され確定した過去を変えたいと願ったら・・・・どうなるか・・・。」
刃の色が変わってゆく。
俺が刃で、刃が俺で。
擬人化した躰と、本当の躯の境界が塗り潰されてゆく・・・彼女の想いも・・・。
人の形代でもなく、刀剣でもなく、審神者の祈りも届かない・・・ただの"異形異種"に成り下がる。
すなわち、それは・・・。
「そうか・・・そういう事なのか、これが答えなのかよ!!」
あぁ、俺は・・・君を・・・どうしたいのだろうか・・・。
「ダメだよ、むねちー・・・それじゃ、ダメなんだ。」
はらはらと身につけていた衣が剥がれ落ち、その下から鋼色がのぞく。
「過去は変えてはいけない。」
青年、直が近くに落ちていた長い金属棒を拾う。
「なにゆえ・・・過去の修正も改変も、変化であろう!」
心が、刀剣の本能といえばいいのだろうか、何かを斬らねばいられない。
衝動が身体を支配して、眼前の大太刀を叩き斬ろうした瞬間、直が俺に向かって棒を振り下ろす。
だが、そんな力では俺に抗えず、身体ごと刀の鞘で引き飛ばされてゆく。
「主!」
「だ、誰だっ・・・てさ・・・やり直したいって・・・過去はあるよ・・・。」
解っている。
それでも彼は立ち上がる。
彼の"左腕"に掴まれてから。
「でも、過去ばかり変えようと皆がそれをしたら・・・誰も"
彼はまだ戦うつもりだ。
その証拠に手からは、未だ金属棒が握られたまま。
「誰もが都合のいい未来を手に入れ続けようとして、一生未来に辿り着けない。」
真理だ。
だからこそ揺るがない。
揺るがないからこそ真理なのだ。
「だから、さ、そんな事を言うなよ・・・俺はオマエを倒したくないよ・・・オマエを生かそうとした審神者を"裏切れない"。」
だから出逢いたくなかった。
「戻って来い!むねちー!」
だからこそ、出逢えて良かった。
完全に堕ちる前に。
振り上げた刃と、直の叫びと、その手に"宿った者"の声が同時だった。
「・・・情けない。我等の内輪事でこんなにも主の心を煩わせるとは。」
圧倒的な力で、刃を押しとどめられる。
「オマエは・・・。」
「アニキ・・・。」
「目覚め・・・た、か。」
直の持っていた棒は、戦で折れた刀に違いなかったのだろう。
それを媒介に想いで喚び寄せられた。
「我等は全てを断つ存在。なれど我等を振るわずとも良い日々を作る為に主と共にあるのです。三日月宗近、それで天下五剣とは笑止千万。」
あぁ、その通りであるな・・・。
「の、望んで得たモノだとでも?」
「言い残す言葉はそれで構わぬのですか?我が名は太郎太刀・・・いや、主、我等に名を。」
「名・・・?ジロたんとオマエの?でも・・・。」
ここまで来ても、君は躊躇うのか・・・こんな俺でも・・・"仲間としての価値"があると?
ならば・・・。
「ふふふ・・・ははっ、あはははーッ!全テヲ、叩キ斬ル!」
さぁ、審神者よ!歪んだ存在を正せ!
「主!今までの全てを失うつもりか!」
そうだ、その瞳に宿る決意こそ、高貴な光。
それでいい。
それでいいのだ、心優しき"もう一人の主"、直よ。
「千代鶴國安!末之青江!」
白銀に輝く二つの刃。
あぁ・・・これでやっと・・・俺のままで・・・彼女の元へ・・・逝け・・・る。
諸説あれど、こういう名称として、真剣必殺を表現してみた。
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第5輪:疑心の中で信じられるモノ。
「さぁて、これからどうしよっかァ?」
努めて能天気に、いや本当に能天気だというのも否定しきれんが、ジロたんがこうやって俺に話かけてくるのは、これで何度目だろう?
「どうもこうも、主に付き従うしかないでしょう?」
冷静にかつ淡々と突っ込むのは、アニキこと太郎太刀だ。
「というか、ジロたんも"タロたん"も馬鹿みたいにデカいから、両脇に立たれると暑苦しい。」
「た、たろ?!」
元から細い目を見開いて絶句する太郎太刀改め、タロたん。
「ぷっ、た、タロたん・・・あの兄貴がタロた、たろっ・・・うぷぷっ。」
あ、ジロたんの腹筋が崩壊してら。
二人共ゆうに2m越えだからなぁ。
見上げる俺の首がもたん時がいつか来るやもしれん、もう二人共履物脱げよ、コンチクショウ。
「にしても、古今東西、だ。」
「何?一席やるの?」
違ぇ。
「落語じゃねぇよ。俺達の戦いなんだが、こういう時間と空間を飛び越える現象に関してはさ、タイムパラドックスをどう解釈するかによって話が変わってくるわけだ。」
未だに俺の記憶は戻っていない。
この知識を何処で手に入れたのかも覚えていない。
とても、とても、大事な事をのような気がするのに。
「た、タイ?何だって?」
「過去の事象に介入した際に、現在の、過去から見た未来の事象とに発生する矛盾の事ですね。」
意外や意外で、きょとんとする自由人のジロたんよりも、タロたんがスラスラと説明した事に驚いた。
「あぁ、成程ねぇ・・・全くわっかんなぁーいっ。」
じゃあ、何が成程なんだよ!
本当にフリーダムだな、ヲイ!
「三日月宗近の・・・。」
再びタロたんが口を開く。
いいぞ、タロたんその調子で解説頼む。
期待してるぞ!
「彼の審神者を過去に戻って救ったとする。」
「ふんふん、んで?」
「仮に成功したとして、彼女が討ち死にせずに生き残ったとしましょう。すると三日月宗近との出逢いも当然変化します。或いは出会わないのかも知れません。」
「・・・だから?」
ダメだコリャ。
俺のリアクションと同様に、タロたんの眉間に皺が寄る。
「ではどうやって彼の審神者が死んだという情報を持ち得るのでしょう?結果、彼女を救うという行動を我々は起こせなくなる。」
「ん?でも、彼女は生きてるんでしょー?だったら、そんな事する必要ないでしょうよ、って、あらァ?」
ようやく矛盾の意味に気づいたか・・・ 長かったよ、ここまでの道のりが。
「で、そこでどう解釈すればいいのか、だ。一番楽なのは、未来がその時点で彼女が生きている未来と、死んでいる未来とに分岐してそれぞれ存在し続ける。しかし、もう片方の事象は俺等側からは観測出来ない。」
これはあくまで矛盾する点のみをどうするかっていう乱暴な考えだ。
「他には?」
「逆に確定された事象として、審神者の死はどうやっても回避出来ない、例え回避出来たとしても別の要因が作用し、結果として死に至る。」
因果律の修正、或いは強制力ってヤツだな。
て、タロたんは何でこんなにSFに造詣が深いの?
実はその大太刀はラ〇トセイバーかなんだったりする?フ〇ース持ってる?
な、ワケはないのは俺も解ってるよ、うん、大丈夫、思ってみただけ。
「え?でも、それだとアタシ等が過去に行って戦う必要って・・・正確に観る事が出来ないなら、何が正しくて、何が間違ってるか解らないじゃないのさ。」
俺はその言葉を告げずにジロたんの言葉を手で制する。
「・・・全てが茶番に見えて参りますね。」
ジロたんの言いたい事と俺の考えに気づいたタロたんが、うっすらと笑みを浮かべる。
「となると、だ。怪しいのは黒ゴンだな。」
「はいぃ?」
「?」
「戦いでは、俺と敵とジロたん。そして、黒ゴンがいつも付き添っていた。」
「監視、ですか?」
「アイツがぁ?」
あんな抜作に間者が務まるのかと、ジロたんは半信半疑だ。
「アイツ、自分の事を管狐って言ってたよな?管狐は座敷童子と同じで、富をもたらす存在だ。」
この俺の知識が"どの時代の俺"のものかも定かではない。
もしかしたら、案外俺も"既に改変された"俺なのかも。
「だが、それは仮初。管狐のもたらす全ては、他から掠め取ったものでしかない。そして富が転がり込めば込む程、管狐は増え続ける。」
「そして、どっかーん♪」
よくある妖怪モノの関わると人生転落するっていうパターンだ。
「結局、何がなんなのよ?」
「まとめるとだ、俺達が自身の記憶も含め、信用出来るのは一緒に過ごした時間だけって事だ。」
俺は笑う。
三日月宗近に言った通り、良き未来を手に入れるには、
たとえ、俺達の行動、勝利と敗北、生と死。
その結果すらも、最初から"歴史の一部として組み込まれている"としても。
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第6輪:想いの宿る先。
あれから、今も俺達は戦い続けている。
そうだと気づいてしまったから・・・最初から俺には選択肢なんて無かったわけだし。
ただ、戦う確固たる理由が出来た。
「検非違使・・・検非違使のぉ。」
俺の目の前に腰掛けた老審神者が笑う。
検非違使とは最近戦場に現れ始めた軍勢の事だ。
俺達だけなく、その攻撃の対象と被害は相手にも及んでいる。
「どちらの側にも属さないなんて、天邪鬼だね。」
彼の相棒、【加州 清光】は呆れて肩を竦める。
「歴史を修正するのも、それを正すのも、どちらも歴史を変える事には変わりはしないって事なんだろうさ。」
何処かで聞いたような台詞が自分の口から出て、俺も苦笑するしかない。
「変えるって言ったって、こっちは元に戻してるだけなんだけれど?全然、意味が違うじゃないか。キミ、馬鹿なのか?」
俺に対しての清光の吐く暴言に、彼の主がその左腕を掴んでひねり上げる。
「いやぁ、すまんの。こんなヤツで。」
「いえ。」
全く表情すら変えずに、ギリギリと関節をキメてる様が逆に怖い。
「わかっ、解ったから、あ、主、手をっ?!」
当の清光クンは涙目ですが・・・。
「お前さんのが天邪鬼じゃ。」
孫にでも接するかのように俺達に微笑む。
微笑むのはいいですが、手を離してからにしてあげてください。
やっぱアンタのが検非違使より怖ぇよ。
「俺は・・・アレは一種の歴史の自浄作用なんじゃないかって思う時があるんです。」
最近になって仲良くなった老審神者は、白くなった長い顎鬚を撫でさする。
「成程。幾度となく修正され、歪み定まらぬ歴史分岐を強制的に集束させている、と。」
終息でなく集束。
この言葉に未来の分岐に関しての思想が歴史の修正に関する一定のスタンスが解る。
「結局、争いの内容がどうであれ、未来、俺達からしたら現在ですが、常に不安定って事ですから。」
そう考えるとアレの無差別攻撃の理屈も説明出来ない事もないんだが・・・。
断言するには、些か根拠や証拠が少ない。
「かと言うてもあの成りじゃとのぉ。」
「それこそ歴史の変化させる者達の模倣なんでしょう。」
「で、敵と同じ姿なのか。悪趣味だね。」
ようやく解放された自分の腕をさすりながら清光が言う。
彼には悪いが、俺達は敵の姿のワケを知っている、知ってしまった。
「案外、向こうには検非違使が俺達の姿に見えているのかも知れませんよ?」
根源的なモノは同じ。
時の流れに、存在に関する強い想いも。
果たして、刀剣の姿としてどちらが正しいのか。
以前、ジロたんが器物である自分の想いの宿る先は何処なのだろかと言っていたのを思い出す・・・。
「視る側の主観によるという事か。まるで"胡蝶の夢"のようじゃの。」
「夢だったらいいんですけどね。」
そうすれば、何もかも夢で済ませて笑い話に出来るんだがなぁ。
俺は清光と同じ左腕をさすりながら溜め息をつく。
「ん?左腕をどうかしたのか?」
「いや、何か最近、時々痺れるというか、重いっていうか・・・。」
それでもすぐ治まるのだけれど。
「古傷かの?まぁ、かくいうワシも時々・・・。」
「それはトシだね。あだっ、あだだだだっ!」
・・・口は災いの元って知ってるか?
「ワシも・・・時々思うのじゃよ。」
「?」
「果たして、この戦いはワシ等の代で終わるのかと・・・。覆水、盆に返らずという言葉があるようにな、盆に返せるとすれば誰もが戻したいと思うのも解る。じゃが、終わりがあるからこそ、戻せないからこそ、生きるという事に希望が持てる。子の代に示せるのかと、な。」
今、戦っている者は、果たして総じて"同じ目的の為"に過去を変えようとしているのか?
「今の戦いが終わっても、第二、第三が待っている・・・と?」
過去の改変とはそれ程に甘美な蜜。
「でなければ、世界大戦なんてもんは起こらなかったじゃろうよ。」
「まぁ、確かに・・・。」
過去の大戦で失われた命の灯に比べれば、この戦いはクリーンな戦争に見えるかもな。
俺は目の前の刀剣を眺めながら、曖昧な返事をする。
「なぁ、"直"、もしワシの身がこの先・・・。」 「嫌ですよ、絶対嫌です。」
その先を言わせる事なく、言葉を被せる。
本当、心底うんざりするよ、そんなの。
「第一、そこの"天邪鬼君"が、あなた以外の主を認めるわけがない。」
誰が何を言おうと、俺は断言する。
刀剣にだって、器物にだろうとも、"想い"はある。
俺達の言葉に清光が眉をしかめているように。
「それに、俺はには今日、新しい"仲間"が来るもんで。」
「・・・そうか。ならば、こんな所におらんで早よう行ってやれ。」
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第7輪:人としての矜持。
俺は老審神者に礼を言って自分の居室に戻る。
広くも狭くもない部屋。
本当ならばもっと多くの刀剣が審神者の部屋にはいるんだろう。
「おぅ、主、おっかえり~。酒呑むかい?」
「呑まねぇよ。程々にしてくれよ?」
「あいよ~。」
俺の傍らにいるのは、振袖を着崩した次郎太刀ことジロたんと・・・。
「履物を脱いでも俺より頭一つ以上高ぇのかよ。」
「主、昼餉は如何致しましょう?先程、野菜を収穫して来ましたが?」
白の襷を袖に通した同じく着物姿の太郎太刀こと、タロたん。
「タロたんはもっとデカいなぁ。しっかし、明治維新の廃刀令以後、士族の中には刀を捨てて鍬を取ったヤツもいるって言うけど、刀剣自身が畑仕事をするってのも感慨深いわ。」
「所詮、刀剣は人を斬る存在。ですが、必要ないのならば、振るわれぬ方が良いのです。」
こういうのって自己存在の否定になるのに、正論をズバっと言ってしまうタロたんは実に痛快でいい。
「タロたんが俺の刀剣で良かった。勿論ジロたんも。」
俺の言葉にタロたんが野菜を乗せた笊を持ちながら薄く微笑み(本人は十分に笑顔のつもりらしい)、ジロたんは俺に向かって盃を軽く上げてみせる。
「それはこちらもですが、その呼び方は再考の程を・・・。」 「はい、却下~。これだけはこんな主のトコに来た不運を嘆いてくれたまえ。」
実はこのやりとりは一度や二度ではない。
が、その度にこうやって却下している。
名をつけて呼ぶ事にどういった意味と効果があるのかは解らないが、"あの件"以来彼等の力は一定水準以下に安定したままだ。
そういえば、名は呪であるって、一番最初に言われたっけな。
これはいよいよ審神者ってヤツの理屈も胡散臭くなってきたな。
「あ、昼は"新人さん"が来てからな。そろそろ来る頃だと思うし、その後に少し"話がある"から。」
俺はさ、自分が決して賢い人間だとは思わない。
考えてみたって"正しい答え"とやらを出せているかなんて、そんな自信これっぽちもない・・・けど、でも・・・。
それでも少なくともコイツ等に対しては誠実でいたいと思う。
「主、入ってもよろしいかな?」
室内にジロたんでもタロたんでもない声が響く。
「あ、主?直?これって、もしかして・・・?」
その声に真っ先に反応したのはジロたんだ。
そして忙しなさそうに、俺と部屋の入口に視線を何度も往復させる。
「ほぅ。」
逆にタロたんは一言呟いただけで、それっきり口を閉ざして沈黙。
本当、対照的な兄弟だわ。
「いいよ、入って。」
「"お初"にお目にかかる俺は・・・。」 「はい、"むねちー"、コレあげる。」
その言葉を全部遮って、俺は室内に現れた刀剣。
"三日月 宗近"に"ソレ"を投げる。
「は?」
"古ぼけたお守り"
それが・・・いや、これは全く俺の想像だけど、このお守りは"どちらが"あげたものかも解らないんだけど・・・あの時、俺達に前に彼が現れたのは、コレに守られていたからだと、そう俺自身が思いたいんだ。
どうしても。
「コイツはな、そりゃあもう霊験あらたかで、あの石切丸が太鼓判を捺すくらいなんだぞー。」
願わくば、再び彼と彼の心を守り給え。
「・・・・・・これはこれは、実に趣深い主の所に来たものだな。」
むねちーは一瞬だけ呆けた後、俺の差し出したお守りを恭しく掲げると、ソレを懐に丁寧にしまう。
それを確認したところで・・・。
「じゃ、むねちーが仲間に入った事だし、今後の事を話そうか。んで、昼にしよう。」
俺はにっこりと皆に微笑む。
「まぁ、前にも言ったが、基本的に俺はオマエ等以外の誰も信用しない事にした。」
「は?」
「主?」
今度はジロたんとタロたんがきょとんとする。
むねちーは何を考えているのか解らないが、にこにこと微笑んだままだ。
「正確にはオマエ等だけは120%信用できる、だ。」
「で、どうしようってんのサ。」
先に我に返るのは、やっぱりジロたんの方が先だ。
順応性があると言うか、あり過ぎると言うのか。
「だからって今のままじゃダメなのは解ってる。」
この世の全てが信じられない、疑惑に満ちているというのならば・・・。
「だから"仲間"を集めようと思う。」
「お言葉ですが主。心から信に値するのは我々達のみと、先程。」
弟より一歩遅れて我に返ったタロたんが相変わらず冷静に私的する。
「別段、周りを信用せずとも、"信用される側"になれないというわけではない、だな?」
「その通り。」
じっと観察していたむねちーが早くも言いたい事を解ってくれたようで、俺に向かって心底楽しそうに微笑む。
「成程。実績、権威、それを主が得れば、自ずと人は集うというわけですか。」
「解っていただけて何よりだ、タロたん。」
「んでもさ、実績は戦ってけばいいとして、その、権威?ってのはどうすんの?」
脳天気に疑問の声を上げるジロたんへ、この酔っ払いめがっ!というタロたんの冷たい目線は、怖いから見なかった事にして・・・。
「ならば、誂え向きなのが"目の前"にいるな、この俺が。」
にっこりと微笑んだまま、事なげにさらりと述べるむねちーに異論はないようで良かったと、内心胸を撫で下ろす。
「馬鹿げたゲームを終わらせるには、結局戦うしかないけれど。消されていくのは俺達と刀剣の"想い"なんだ、放っておけるかよ。まずは全員仲間に入れるぞ、"天下五剣"を。」
過去という亡霊に奪われた未来の全て、取り返させてもらう!
そう意気込む俺はこの時、何故自分が審神者に選ばれたのかをまだ知る由もなかった。
そして天下五剣、ひいては全ての刀剣を揃えるという事がどういう事なのかも・・・。
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幕間:ある日の刀剣その1(注:ギャクパート)
いや、こんな芝村的展開の刀剣乱舞じゃなくて、ほのぼのギャグがいいって人の方が圧倒的に多いかなぁと・・・試しにやってみた。
「平和だな・・・。」
悪い事じゃない。
大体、毎日ドンパチやってたら、こちとら身がもたん。
刀剣は刃こぼれとかメンテナンスとかがない限りは、元が器物だから戦い続けられるだろうが、俺は普通の人間だ。
まぁ、実際、刀剣も疲労とかはあるらしいが。
そりゃ、そうか、文字通り身を粉にして働いているわけだし。
「主、お茶でもお煎れしましょうか?」
「ん?んー、いや・・・。」
傍に控える襷掛けしたタロたんを上から下まで眺める。
「なんか、タロたん、すっかり家事係になってね?」
「消去法です。」
消去法。
目下、我が陣営(?)は刀剣が三振り。
アル中のジロたんは問題外として、もう一振りは天下五剣のじじぃのむねちー。
あら、ほんと、タロたん以外信用できねぇ。
特に俺の胃袋の保証ができねぇ。
「いや、なか、うん、ごめん。」
ここは謝るしか言葉が出てこねぇよ。
「そういえば、二人は何処へ?」
「うっわー、ナニコレ、ナニコレ!!」
「あ?」
俺がぽけぇっとしてた縁側の先、庭の方からジロたんの声が聞こえる。
「どしたの、ねぇ、どしたのコレ!」
視線を向けると、むねちーが立っていて何かを抱えているのをジロたんが嬉々としながら眺めてる。
「庭先にいたのでな、拾ってきた。」
何でもかんでも拾ってくるんじゃねぇよ、むねちー。
何だ、ここは保育園か。
「で、コレなんなのさ、うりうり、このこのぉ~。」
むねちーに抱かれた物体をジロたんが指でつんつん、ぐりぐりしてるのは、まぁ、いいとして・・・。
「何だ、知らぬのか?これは中欧のポメラニア地方を原産地とするポメラニアンという犬だな。17世紀以降、爆発的に流行った犬種だ。」
「おぉうっ、物知りぃ~。そうか、ん~、主風に言うと・・・ポメ吉?」
何だそりゃ、どんなネーミングセンスなんだよ、俺。
いや、ポメ吉ってつけるかも知れないけどさ。
ジロたんはポメ吉~ポメ吉~と連呼しながらも構っている。
「丁度いい"狐避け"になるのではないだろうか?」
「まぁ、悪くはないな。」
黒ゴン避けとしては悪くない・・・ないんだがな、むねちーよ・・・。
「主、少しよろしいでしょうか?」
後ろに控えたままだったタロたんが、ぽつりと小声で俺に囁く。
「ん?別に許可を求めなくてもいいぜ?」
「私の記憶が確かなから・・・あれは、ぽめらにあん・・・とやらではなく、タヌキに見えるのですが・・・。」
「あー、うん、タロたん?世の中には"知らぬが仏"って言葉があるって知ってるかな?」
何というかな、色々と察してやってくれ。
特に胸を張ってポメラニアンと言い切ったむねちーの心のダメージとか。
「・・・ですか。」
「です。」
そんなやりとりをしているとも知らず、二人はジロたん命名ポメ吉を弄り倒して、とにかく風呂に入れって洗ってみるかーとむねちーと相談している。
のほほんとそれを眺める時間というのも悪くない。
まぁ、犬だろうがタヌキだろうが、狐避けにはなるしな。
「・・・・・・夕餉はタヌキ鍋に致しますか?」
「うぇっ?!」
何を考え込んでいるかと思えば、タロたんそっちぃっ?!
「冗談です。」
「真顔で冗談口にするなよ、本気かどうか解らないだろうが。」
怖い、怖いよ、タロたん!
確かにタヌキ鍋ってのは昔からある料理だから、タロたん的にタヌキが食料に見えても仕方ない面はあるかも知れないけどさぁ。
「すみません。・・・ところで、主?」
「ん?」
「主は、鍋は味噌味と醤油味のどちらがお好みですか?」
「だから、真顔でそれヤメいっ!!」
よくある題材、【黒色のポメラニアン交配種、ポメチーはタヌキそっくり】をやってみた。
実際、私にもそう見えるので、皆さんもちょっとペットショップ行った時に見てみると解ると思います。
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