あの時、この時、もしもの話。 (スパルヴィエロ大公)
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無責任な善意×無謀な行動。その解は、破滅。

千葉村での出来事。

もし、あの時、ああなっていたら・・・。


「―――私ね。もう、ずっと、ひとりぼっちなんだ」

 

鶴見留美は、こともなげにそう言い放った。

 

その姿は、とても小学4年のそれには見えない。

人生の荒波に呑まれ、消耗していった、一人の老人のようだった。

 

 

俺は、ボランティアと称した強制労働に駆り出されてここ千葉村に来ている。

しかも内容ときたら、キャンプ中の小学生の面倒を見る仕事と来たもんだ。せめて掃除とかなら人と必要以上に触れ合わなくて済むのに。

加えて雪ノ下や由比ヶ浜にはしょっちゅう小姑の如く嫌味を言われ、おまけに葉山らリア充グループともうまくやっていかなければならない。

・・・逃げ出したいわ、マジで。新学期が怖いからしないけど。

 

で、そんな地獄のような労働をこなし、小学生が川遊びの時間になったので監視と称してぼんやりと眺めていた時のこと。

 

「・・・ここ、いい?」

 

声を掛けてきた一人の少女。

 

それが、鶴見留美だった。

 

「ご自由に」

 

一言返してやると、すぐに隣に座る。

一瞬通報されるんじゃないかと思ったが、誰一人としてこっちを見ている奴はいない。注意を払っていない。

なら問題ないか。

 

「・・・お兄さんさ、他の人と話したりとか、そういうのあんまりしてなかったね」

 

「まぁな。最低限必要な分だけしてればそれ以上は要らん」

 

「変わってるって言われない?」

 

「もう慣れた」

 

そう言うと、少女はどこかほっとしたような表情を浮かべる。

仲間を見つけた、そう言いたげに。

 

実のところ、初日からこの鶴見留美は目立っていた。

一応キャンプなのでグループ分けがされていたのだが、こいつは所属しているグループのお仲間からは全く無視されていた。

いや、他の同級生の女子や男子からも。鶴見留美に声を掛けてやる奴は誰もいなかった。

 

ハブリ。シカト。

それに気付かないとしたら余程おめでたい脳みそをしているんだろう。

あ、いや別に葉山のこと言ってるんじゃないよ?レクレーション中にぽつんと佇む鶴見を、単にみんなのペースから取り残されているだけと思って声を掛けたあいつのことを。

名指しなんてしてませんとも、ええ。

 

因みに雪ノ下も気付いているらしかったが、それへの対応はよろしいとは言えなかった。

由比ヶ浜からの声掛けを無視した鶴見を注意。自他ともに厳しいあいつらしい行動ではあるが、時と場合を考えるべきだろう。

高校生のお姉さんに説教されているぼっち少女を見て、他の連中がなんて思うのか。侮蔑、嘲笑以外の何物でもない。

 

まあ、それを黙って見ていた俺も同罪なのだが。

 

「私ね。もうずっと、ひとりぼっちなんだ」

 

「・・・助けてくれって言いたいのか?」

 

「ううん。ただ、話を聞いて欲しいの」

 

そこで鶴見は語りだす。

 

クラスにいじめられている子がいた。仲間に入れてもらえず、物を隠されたり、裏で悪口を言われていた。

可哀想だと思ってはいたけど、同時に巻き込まれるのが怖いから関わり合いにならないようにしていた。

やがてその子は耐え切れずに不登校になった。

そしたら、クラスの皆が自分がその子をいじめていたとでっち上げ、今度は自分がいじめられるようになった。

先生もいじめをやったのが自分だと信じているから、助けてくれなかった。

無視され、陰口を言われ、物を隠されて―――

 

鶴見留美は、やがて現実を受け入れた。

 

「何ていうのかな、みんなバカなんだって思うようにしてたら、気持ちが楽になった」

 

「大したもんだな。その通りだよ、世の人間は大抵バカばっかりだ」

 

「・・・第一、私もその子のこと助けてあげなかったしね。だから罰を受けてるんだとも思ってる」

 

・・・・。

この目の前の少女は、思った以上に賢いらしい。

 

かつて大戦中、ドイツの偉い牧師さまが同じことを言っていた。

ナチスが誰かを弾圧したとき、自分はそれを助けなかった。やがて自分が弾圧される時、それを助けてくれる者はいなかった。

因果応報、つまりはそういう事だ。

 

しかし高々小4の子供がそんな重荷を背負うべきとも思えない。

いくら見て見ぬふりはいじめと同じなんて言ったって、現実に勇気を出して手を差し伸べるヤツはいない。

いないから、いじめが起きるのだ。皆が流され、"賢い"選択をするから。

 

「ま、罪悪感を感じてるのは分かるがな。ただ程々にしないと、自分で自分を十字架に掛けることになるぞ」

 

「あはは、おかしなこと言うね」

 

「一応、本気で言ってるんだが」

 

「これでもね、最近はみんな私に関心なくなってきたって言うか・・・あんまし変な事はされなくなった。

だから、多分、大丈夫」

 

「・・・・」

 

つまり、鶴見留美はいじめグループのターゲットとしての価値は薄れているということか。

その代わりにまた別の所でいじめが起きるだけだろうが。

 

おそらくこのままいけば、鶴見は小学校を卒業するまではずっとぼっちだろう。いじめよりは格段にマシだけれど。

下手すれば中学、高校も。そしてその頃には立派な捻くれ者になっているかもしれない。

つまり、俺のような。

 

救いたい。

そんな気持ちが湧き上がってきたのは確かだ。だが現実にそれはできない。

どうせキャンプが終わったらさよなら、そして二度と会うことなどないだろう。つまり、こいつがいじめられなくなるまで見守ってやることはできない。

それでは全く意味がないのだ。たとえ俺がいじめグループを懲らしめてやったとして、学校が始まれば反省も何もかも消え、結局事態はさらに悪化してしまう。

 

有言不実行。それは最低の人間のすることだ。

できないことをやれますと言うのは、最悪の嘘吐きだ。

俺だってそこまで堕ちてはいない。堕ちる気もない。

 

結論は、今回は母の様に黙って見守ってやること。

それが、最善策。

 

「・・・分かった、お前の気力と根性に掛けることにする。それでいいな?」

 

「うん。・・・あ、それと、一つだけお願いしていい?」

 

「なんだ」

 

「・・・あの葉山さんと、雪ノ下さんって人。あの人たちには、何もさせないで。

あの人たちが何か行動しようとしたら、多分よくないことが起きると思うから」

 

「・・・ああ。できる範囲でだが、な」

 

「・・・・」

 

やはり、鶴見留美は賢い。

 

 

その夜、総武高生たちでミーティングが開かれる。

題材に上がったのは、やはりというか鶴見留美のこと。葉山もこの期に及んでやっと事態を察したらしい。遅すぎる。

どのみちこいつのやることに期待などしていないが。

 

「・・・俺は、できる限り彼女を助けてあげたいと思っています」

 

そして葉山の解決策は、鶴見留美がみんなと仲良くなれるように手助けすること。アホか。

周りの連中にその意思がないからああしてハブられてるんだろう。

そんな幼稚な策も、葉山の取り巻き連中が誉めそやし囃し立て、実行に持って行こうとする。

 

「・・・そんな可能性は、万に一つとしてありはしないわ」

 

そして事態を認識していた、雪ノ下の提案。

それはいじめっ子を正面切って叩き潰そうとでも言うようなものだ。

 

・・・ああ、お前もそうなのか、雪ノ下。

そんな正攻法で問題を解決できると思っていたのか。そんなことをしてキャンプが終わった後、鶴見の立場がどうなるか考えもつかないのか。

お前には敵を完膚なきまでに叩きのめすだけの力がある。でも鶴見には、そんなものなどない。

それにすら考えが及ばないと言うのか。

 

かつて俺は、お前に友達になってくれと言った。お前はそれを拒絶した。

ああ、それが正解だ。俺とお前は根本からして違う人種なんだ。

むしろ―――お前と葉山、よくお似合いだよ。お互い認めないだろうがな。

愚直なまでに自分のやり方を信じて疑わない、その姿勢。双子なんじゃないかと思うぐらいだ。

末永く、二人で仲良くやるといいさ。

 

そうして葉山、雪ノ下両陣営の言い争いに発展したとき。

俺は、口を開く決心をする。

 

「―――なあ。なんでお前ら、そこまでして解決させることにこだわってんだ?」

 

全員が俺の方を向く。

 

「・・・ヒキタニくん、どういうことだい」

 

「何のつもり?口を挟まないでくれるかしら」

 

そこで俺は平塚先生の方を向く。

先生が頷く。

許可は取った、なら言わせてもらおう。

 

「俺としても、不本意ではあるが。鶴見留美のことは、一切手を付けずに放置しておく方がいいと思う」

 

瞬間、場がざわついた。

いいだろう、好きなだけ反論してこい。

 

「ヒ、ヒッキー・・・あの子、いじめられてるんだよ・・・?」

 

由比ヶ浜が弱弱しく呟く。

そんなの見りゃ分かる。何をどうしようとしてもどうにもならないから、放置すべきだと言ってるんだが?

空気読むのが特技ならそれくらい理解しろ。

 

「い、いやー・・・ヒキタニくん、そりゃ可哀想じゃね?」

 

戸部もまた同様。その横の大和だか大岡だかも俺を冷たい目で見てくる。

いや、お前らには言われたくねーよ。チェンメ騒動の件、忘れたとは言わせんぞ。

葉山からハブられたくない一心でお互い罵り合っていただろうが。

 

「何なの?たかが小学生如きにビビってんの?キモいんだけど」

 

三浦の恫喝。

アンタ、さっきまで雪ノ下に噛みついてたくせに結局賛同するの?脳筋、救えない。

つかホントに見た目通りの不良そのものだぞ、言動が。

 

「「・・・・」」

 

対称的に何一つ言わないのが、戸塚と海老名さん。

戸塚は分かる。誰よりも心優しく、人の痛みが分かる人物。そして俺を心の底から大切な友人だと認識している。

だが海老名さんは・・・何故だ?

 

「まあ待ちたまえ。比企谷、君にも理由あってさっきの発言をしたんだろう?その理由とやらを言ってみてはどうだ」

 

先生が発言を促す。助かります。

 

そこで俺は、鶴見留美とのやり取りを全てぶちまけた。

そう、全てを。

 

 

山の夜は冷える。夏であろうと。

その冷気は心をも冷えつかせる。まるで山の神様に追い打ちをかけられているかのようだ。

 

俺は一人、バンガローを出て夜の景色を見つめる。

景色に溶け込む、いや、溶け込みたいと思っている。

 

何も、できなかったから。

 

――――分かるか?あの子はな、お前らに余計な真似をしないでくれと言ってるんだよ。

 

ここまで言ったというのに、結局葉山も雪ノ下も自説を曲げようとしなかった。

自分たちのやることが鶴見を救うのだと信じて。

最後は数の暴力で意見を押し通し、話し合いは終わった。後に残ったのは、俺への軽蔑、ただそれのみ。

 

俺は、無力だ。

初めてそのことを情けないと感じる。これが、ぼっちの男子高校生の現実か。

 

「・・・ヒキタニくん」

 

ふと振り返ると、そこには海老名さんの姿があった。

その表情は暗い。それは闇夜の所為だけではないのは、瞬時に分かった。

 

「さっきは、その・・・ごめんね」

 

「・・・何のことだ?別に謝る必要なんてないと思うんだが」

 

「ううん。私も、本当はヒキタニくんに賛成してたんだ。なのに、何も言ってあげられなかった」

 

そりゃそうだろう。

海老名さんは葉山グループの一員である。その威光に反する真似はできない。

そうすれば最後、村八分。最下層転落と言う結末が待っている。

どんな学校、どんな学級でもその法則は変わらない。

 

「・・・ヒキタニくんも、知ってるよね?私、腐ってるって」

 

「・・・ああ」

 

物理的な意味ではなく、趣味のこと。確かにそれは誰でも知っている。

それでよくカースト上位に居られるのかが不思議だとは思うが、俺如きが気にすることではない。

 

「ヒキタニくんの話でしか、その留美ちゃんのことは判断できないけどさ。

私もその子の気持ち、よく分かるよ。私も小6の頃、腐ってるってばれていじめられてきたから。一旦はみんな、あいつつまんないって飽きたんだけど。

それで、その時も葉山君みたいな人がいてさ。私に一人ぼっちでいないで、みんなと遊ぼうって言って、みんなの所に私を放り込んだの」

 

「・・・それで?」

 

「再燃。あんな人に目掛けてもらってムカつくって感じで。

その事をその人に言ってみたら、私と一緒に先生の所に言っていじめのことを話してくれた。

でもその人さ、それからすぐに親の都合で転校しちゃったんだよ。結局告げ口しやがってって、私は余計嫌な目に遭うしさ。

もう散々だったよ」

 

嘘を言っているとは思えない。そんな理由もない。

海老名さんの言動の節々から、心底その中途半端野郎を軽蔑しているのが窺える。当然だ。

独りよがりの善意で彼女を振り回し、自分は責任も取らずにさっさと逃げたのだから。

 

そして、今回のことで葉山と雪ノ下が同じことをしようとしているのを、恐れてもいる。

 

「だから、あの時だって言うべきだった。みんなに、思い付きの勝手な善意で行動するのはおかしいって。

でも言えなかった。怖かったから。またハブられるんじゃないかって。

ヒキタニくんが代わりに言ってくれたのに、それに賛成することすらできなかった」

 

途中から、海老名さんの声に涙が交じる。

それを遮れない。

 

「―――だから、ごめん。許されないと思うけど、ごめん」

 

頭を下げられたと思うと、海老名さんはバンガローの方へ去っていく。

 

・・・謝られる筋合いなんて、ない。

俺だって、結局鶴見留美を救えないのだから。

 

 

最終日。天気は晴れ。

でも俺の心は晴れない。いや、皆がそうだ。

 

昨夜の肝試し大会での出来事。

葉山や雪ノ下たちが、こっそりといじめグループの連中をルートから外れさせ、"教育的指導"をした。

いじめられるということがどういうことか。物理的暴力までは使われなかったが。

 

効果は、ゼロ。

その場では泣いて謝っていたグループの奴らは、今や憎しみの目で鶴見を見ている。

チクリ野郎が、高校生にまで泣きつきやがって。概ねそんな所だろう。

そして周りの皆に発破を掛けている。重要指令、鶴見留美は再び敵となった。排除しろ。

 

そんな空気に耐えきれなかったのか、鶴見は再び皆の輪から抜け出した。

それでも尚、浴びせられる冷たい視線と陰口は絶えない。

 

完全に、逆効果だった。

 

「「・・・・」」

 

その様子を、俺たちは高台から見つめていた。

葉山も雪ノ下も、愕然とした表情で見ている。由比ヶ浜や三浦、その他の連中もだ。

・・・だから言ったんだぞ?余計なことはするなと。

当の本人まで、そう言っていたのに。

 

唯一海老名さんだけが、冷めた表情で見ていた。こうなると分かり切っていたかのように。多分俺もそうだろう。

そして戸塚はと言えば、涙目になっている。

彼女にまで、俺と同じ表情をさせてしまうとは。親友を、泣かせてしまうとは。

 

悔しい。

 

俺はこっそり、鶴見の後を追う。

 

「ヒキタニくん、どこへ―――」

 

「引っ込んでろ、能無しが。お前に関係ないだろ」

 

「待ちなさい。今鶴見さんに話をしても―――」

 

「聞こえなかったか?引っ込んでろと言ったんだが」

 

能無しの馬鹿どもを振り切る。付き合いきれない。

 

鶴見の行った所はすぐ分かった。昨日の、肝試し地点だ。

雑木林が鬱蒼と茂る場所。今のあいつの心情とその光景が、ぴったりとマッチする。

 

いた。

 

「・・・鶴見」

 

「・・・・」

 

後ろ姿に声を掛けたが、返事はない。

絶望か。俺への失望か。いや・・・その両方か。

 

「お前との約束を守れなかったことを、謝らせてくれ。・・・それと」

 

住所と電話番号を書いた紙を、そっと手渡す。

 

「どうしても耐えられないと思ったら、連絡しろ。うちに来い。

何とかしてお前を守ってやる」

 

「・・・・」

 

やはり、返事はない。メモは受け取ってくれたが。

 

黙って、その場を去る。

 

 

9月。新学期。ある日の放課後。

・・・いや、新学期と言うには少々遅いか。既に文化祭も終わっているし。

 

なのに、皆の表情は満足、一つの行事をやりきった爽快さとは程遠い。

むしろ真逆、不満で覆いつくされている。特に、文実での顛末を知っている奴らときたら酷いものだ。

まあ、俺もそうなんだけど。

 

相模という目立ちたがり屋の馬鹿が、能力もない癖に委員長に立候補した。

仕事を雪ノ下に押し付けようとした。雪ノ下はそれを呑んだ。その代わり、文実での実権を握った。

それを不満に思い、陽乃さんにおだてられた相模が、サボり公認に等しい命令を出した。

仕事をする人数は減り、少ない人数で回さなければならなくなった。嫌気がさしてまた一人、抜けていった。

 

やがて、過労で雪ノ下が倒れると、混乱が襲った。

相模は何一つまともに仕事ができず、的確な指示も打てず、あまりの体たらくに取り巻き連中も助けようとはしなかった。

予算編成、プログラム・・・決定がどんどん遅れていき、各クラスの出し物は大半のクラスが計画の縮小・変更を迫られた。

ステージ発表にしても、参加者の多くが計画遅延の割を食ってロクに練習などできないままの本番となり、大半の出来はとてもじゃないが見られたものではなかった。

 

その時点で、まあ文化祭が実行できただけでもマシと言えるかもしれない。そう言うしかない。

だが、これでは終わらなかった。

エンディングセレモニーで、相模は家に逃げ帰った。今も学校に来ていない。その役目は生徒会長のめぐり先輩が代行した。

来場者の多くは、口々に今年の文化祭は酷かった、質が落ちたなあと陰口を叩く。

文化祭終了後、文実参加者は相模を除く全員が集められ、厚木に説教を喰らった。あのデカい声で恥を知れと言われた時は俺ですらビビったもんだ。

 

それが、事の顛末。

 

あの時、俺が雪ノ下を助けていれば。

相模に反論し、誤りをずばり指摘してやっていれば。

俺が悪役を引き受けることで、文実の皆を団結させていれば―――

 

・・・そんなの、IFの話だ。過去は変えられない。

第一、俺にそんな気もなかった。文実をどうにかしようとも、雪ノ下を助けてやろうとも思わなかった。

あいつのために汚れ役など引き受ける気は毛頭なかった。

 

お前は、俺のやり方を真っ向から否定した。そして失敗した。

それでも尚、考え方を改めようとしなかったな。

 

なら、後は知らん。好きにしろ。

お前の引き受けた仕事だ。責任は自分で取れ。体調管理は自己責任、そうだろ?

それにあの場には葉山もいた。なぜかスローガン決めの時勝手に参加していたが。

2人で仲良く、助け合って仕事すればいいじゃねえか。お似合いだぜ、お前ら。

 

つけるだけの悪態をつき、俺は今日も一人屋上でマッカンを呷る。

・・・このところ、どうも自棄になっている。奉仕部にも全く顔を出していない。

平塚先生にも今はそれでいいと言われた。君たちはお互いのことを考え直す必要がある、と。

俺にはそんな必要などないが、まあ休んでいいならそうしよう。

 

その時、突然にスマホのバイブレーションが鳴る。

小町か、材木座か。それともまた迷惑メールか?

ならいい加減に―――

 

 

「比企谷さん

 

おぼえていますか?鶴見留美です。

 

わたしは、今、学校に行っていません。みんながこわくて、行けなくなりました。

 

たぶんこのまま、別の小学校に移ると思います。学校もみんなもこわいけど、いつまでも家にいることはできませんから。

 

 

最後に。

 

わたしを助けようとしてくれて、ありがとう。

 

心の底からわたしを助けようとしてくれたのは、比企谷さんがはじめてです。

 

だから、もう、気にやまないで。

 

 

さようなら」

 

 

「・・・・」

 

頬を、熱い何かが伝う。

 

いつの間にか、涙が出ていた。拭っても、拭っても、止まらない。

 

「鶴見・・・許してくれ。俺を、許してくれ」

 

 

―――その日飲んだコーヒーの味は、涙が混ざって、ブラックよりも苦かった。

 

 

 



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たったひとつの、冴えたやりかた。相手の感情に、欲望に、恐怖に訴えろ。

文化祭での出来事。
もし、こうなっていたら・・・。

相模=無能。この風潮、ウザい。
そう思う方、いらっしゃると思います。よく分かります。

それでもどうか、この一席だけでもお付き合いいただければと思います。


「えっと、それじゃ今日は文化祭のスローガンについて決めたいと思いまーす」

 

はあ。

随分とまあ呑気なもので。お前が各クラスの出し物がどうこうと体のいい理由を付けてサボってる間、こちとら居残りしてまで働いてるんだがな。

そこまでふざけた態度を取られたら、もう分かっていて故意にやっているとしか思えんぞ。

 

振り返ってみれば文化祭実行委員の発足以来、委員長となった相模はまともに仕事をした形跡がほとんどない。

初日からして議事進行すらめぐり先輩のフォローなくしてはこなせていないし、その翌日には奉仕部に駆け込んで雪ノ下にサポートを依頼する始末。

そして雪ノ下がリーダーシップを発揮してようやく仕事が回り始めたと思ったら、不貞腐れて書類審査の仕事もテキトーに済ませ、さっさとお帰りなさる始末。

ついには陽乃さんの提案に乗せられ、メンバー全員に事実上おサボりオーケーの許可まで出しやがった。これがどこぞの市長やお知事様なら即リコールになっているまである。

 

さて、俺としては相模などクビにして他の適任者に交代させるべきとまで考えているが、それはあくまで俺個人の考え。

何より相模が奉仕部にサポートの依頼をした以上、それを勝手に破棄することはできない。

 

なら、他の皆はどう考えているのか?

 

まず雪ノ下。

自身が倒れかけるまで身を粉にして働いたにもかかわらず、相模がそれに胡坐をかいて好き放題していることには大層ご立腹のようだ。

そりゃそうだ、雪ノ下とて人間である。それも正義感の強い人間だ。

誰かの苦しみの上に誰かが楽をする構図など、決して許さない筈だ。

 

そしてめぐり先輩。

彼女は、単に雰囲気だけが優しい人ではない。あくまで生徒会は補助的な役割に過ぎないのに、相模やそれに追従した連中がサボっている間それを全力で肩代わりしていた。

だからこそ、相模が未だにサボっていながら平然としていることに深い悲しみを抱いている。

 

付け加えると、時々出入りしていた葉山も相模のサボり行為を知っていた。

特にそれを諌めることはしていないようだが、それでも失望の色は隠せないようだ。

その気持ちも分からないではない、葉山は真面目な男である。だから、今回のような学校行事の要職を務める人物が不真面目だとは想像もできないのだろう。

 

他にも、サボり組がお留守の間必死で働いていた連中。

増長した相模の態度を快く思っていないのはすぐ分かった。

 

なら、十分だ。

 

依頼を破棄はしない。

だが職務怠慢の罪を問わないとも言ってない。その報い、存分に受けてもらおうか。

 

 

「・・・では、スローガンにつきまして意見のある方は挙手をお願いします」

 

雪ノ下が全員に問う。横の相模は、誰もいなければ自分が発言するつもりでいる。

そうはさせん。

 

「一つ、案があるんですが」

 

即答。先手必勝。

相模の顔色が変わり、他の連中も俺が挙手したことに驚いているようだが気にしない。

 

「お!比企谷くん、どんなスローガンにしたのかな?」

 

「えーとですね・・・『絆~みんなで助け合おう、文化祭~』です」

 

その時、瞬間湯沸かし器の様に相模の顔が紅潮する。

どうした、委員長さんよ?上に立つ者がそんな感情を露わにするものじゃないぞ。

 

実のところ、今のスローガンは相模の考えていた案に少々手を加えた物だ。

今の様子を見るに、ご本人としては大事に大事に温めてきた案だったのかもしれない。それならそれでちゃんと人に見られないよう管理しておくべきだった。

勝手に取り巻き連中と視察と称して抜け出すとき、机の上に書類の束と一緒にポンとメモ書きを置いていれば、誰かが見るに決まっている。

結論、プライバシーは自分で守りましょう。

 

「うん、すごく素敵な言葉だね。ちなみに理由を聞かせてもらっていいかな?」

 

流石めぐり先輩、褒め殺しがお上手で。皮肉ではなく本当のことだ。

 

「別に文化祭に限ったことじゃないですけど・・・こういう学校行事って、みんなで助け合わないと絶対にまとまらないっていうか、完成できないと思うんですよ」

 

俺がそう言った途端、相模を含むサボり組の連中が下を向いた。

そしてそいつらを、真面目に働いてきた連中が白い目で見ている。

 

これが葉山あたりが発言していたならば、素直にわーすごーい、そーだねーと受け止められて終了である。

だが生憎、これは俺の発言だ。目立たず、常に一人でいて、誰かと碌に口を利かない俺の言葉だ。

おまけにその目は腐っている。柄の悪い奴だと思う人間だっているだろう。そんな奴が"皆で助け合う"などと言ったら、それは皮肉にしか聞こえない。

働き蜂の犠牲によって楽な生活を享受している、女王蜂たちへの。

 

めぐり先輩も、もしかしたらその意図に気付いたかもしれない。

だが今の所それを顔に出している様子はない。やっぱり最初からこの人が委員長やってた方が良かったんじゃね?

 

「なるほど・・・とってもいい意見だと思うよ、ありがとう!

それじゃ、他に案のある人はいるかな~?」

 

シーン。

挙手なし。相模も別に案は考えていなかったようで何も言わない。仮にあったとしても言えるわけがないだろうが。

そこでめぐり先輩が雪ノ下の方を向く。採決を取ろうということだろう。

相模にそれを聞かないあたり、めぐり先輩のぽわぽわ優しさパワーも限界だったのかもしれない。或いは、相模相手に情けをかける必要はないと思っているか。

 

「―――他に案もないようですので、一旦採決を取ろうと思います。

今の比企谷くんの提案に賛成の方は、挙手を」

 

そこで手を上げたのは、めぐり先輩ただ一人だけだった。

 

 

「それじゃ、これで失礼しますよっと・・・」

 

取り敢えず本日の業務は終了。最後に残ったのは俺一人なので鍵を掛けて職員室に返さなければいけない。

随分とまあ、俺も信頼されてるもので。中学時代なら絶対「アイツに貸すと盗まれる、てか穢れる」なんて言われてたと思うの。

 

「・・・ヒキタニくん」「ちょっと、いいかしら」

 

すると突然、葉山と雪ノ下が物陰から現れる。

お前らモンスターかなんかなの?心臓に悪いからやめようぜ。

 

「鍵を職員室に返さなきゃならないんでね、明日にして欲しいんだが」

 

「いや、すぐ終わる。・・・君はどうして、スローガン決めの時にあんなことを言ったんだ?」

 

いや、そのくらいは分かれよ。

動物農場の豚さん達への痛烈な皮肉。それ以外に何があると言うのか。

根っからの善人には流石にそんな意図など読めないか。

 

「別に責めているわけじゃないわ。でも貴方があんなことを言うなんて思いもつかなかったから」

 

「・・・俺も、文化祭は成功してほしいと思ってるからな。あそこで何か爆弾投下してぶち壊しにするとでも思ったか?」

 

「は、はは・・・そこまでは思ってないさ」

 

・・・おい、笑いが引きつってるぞ。どんだけお前の俺への信用度は低いんだよ。

自業自得だと自覚はしてるけどな。

 

「そう・・・時間を取らせて悪かったわね。泥棒と誤解されないうちに、早急に鍵を返却しておきなさい」

 

「・・・盗んで何のメリットがあるんだよ」

 

そこからは、普段通りの雪ノ下であった。

 

 

以後はとんとん拍子に物事が進んでいった。

俺のスローガン発言の翌日には、陽乃さんの介入によって「千葉の名物、踊りと祭り!同じ阿保なら踊らにゃsing a song!!」で無事スローガン決定となった。

流石大魔王様様である。語呂もインパクトもパーフェクト、センス抜群。・・・一般論の話だがな。

陽乃さんとしても、予想以上に神輿に乗っけりゃ簡単に踊る相模の無能さに呆れたらしい。この決定の時も、相模は何一つ口を出すことは許されなかった。

誰がそう言ったわけでもないが、場の雰囲気がそういう流れに傾いたのだ。あいつを介入させなければ上手くいく、と。

 

あとは各クラスの出し物やらステージ発表の段取りやら、どんどん計画が進展していく。

事は順調、全く順調だ。

 

 

―――その場に、相模の存在感はなかったが。

 

 

「・・・は?相模が消えた?」

 

「ええ・・・1時間ほど前に文実の会議室で見たのを最後に、誰も彼女を見ていないのよ」

 

そして本番、文化祭2日目。

じきにエンディングセレモニーが始まるというときになって、遂に相模逃亡。

昨日のオープニングセレモニーのたどたどしいスピーチのことを考慮すれば、もしかしてとは思っていたが・・・。

 

嘆かわしい。

どうしてまあ、ここまで上手くいっているのを最後でぶち壊そうとするのか。

 

「代行は・・・できないんだろうな、きっと」

 

「・・・相模さんが、賞に関しての集計結果を持っているの。だからなんとしても彼女を連れ戻す必要があるわ」

 

連れ戻す。

意志の固いこいつらしい言葉だ。俺だっておいそれとそんなことは言えない。

だがそれを咎める奴はいない。もう誰もが、あのプライドだけは高い名ばかり委員長様にうんざりしていたのだろう。

葉山が由比ヶ浜と何か打ち合わせしている。めぐり先輩に陽乃さんも。おそらく時間稼ぎの方策だ。

 

「・・・どれくらい、時間を稼げる?」

 

雪ノ下に尋ねると、葉山やめぐり先輩が雪ノ下に耳打ちする。

 

「20分・・・最長でこれぐらいというところね。捜索をお任せするわ」

 

「了解」

 

それだけ言うとすぐにその場を出る。

時間がない。

 

相手の立場になって考えろと、よく道徳で教わる。

なら俺も、相模の立場になって考えよう。自身のプライドが木っ端微塵に砕かれ、絶望の淵にあるとき、どうしたいと思う?

どこに行きたがる?

 

答えは、すぐに出た。

 

 

「・・・いたか」

 

屋上のドアを、川・・・なんとかさんに教わった通りに開ける。マジ愛してるぜ。

そして予想通り、放心状態の相模がそこにうずくまっていた。

 

「すまん、もうすぐエンディングセレモニーが始まるから戻ってくれとのことだ」

 

こんな相手でも肩書きだけは立場が上なので、一応は丁重に接する。

何の意味も、効果もないようだが。

 

「・・・誰か別の人にやらせれば?」

 

「それはできない。各賞の集計結果がどうしても必要らしい」

 

「じゃあこれ、持ってけばいいでしょ!?」

 

逆ギレ。

集計結果を集めた書類がこちらに投げつけられる。

 

はぁ・・・。

つくづく思うが、なぜこいつは委員長になぞ立候補したのだろう。

自分は他の人に仕事を任せて楽をしたかったなら、下っ端の役職にでも就けばよかった。普通ならそうするはずだ。

 

だが由比ヶ浜から、去年のクラスでのこいつの振る舞いは聞いていた。その情報から理由は推測できる。

今年は三浦という最強の女王がいて、自分が二番手に甘んじているのに我慢できない。だから一発逆転を狙って、その結果がこれだ。

 

相模よ、お前にカースト上位に入る資格はない。

ノブレス・オブリージュ。大いなる立場には責任も伴う。葉山や三浦は、我らが2年F組のクラス秩序を保つ義務がある。サル山のボスに、好き勝手な振る舞いは許されない。

だからこそ2人とも集団というものを重く見ている。

お前がその責任を背負えるか?その器があるか?

結論を言えば、そんなの不可能だ。これまでの生涯で目は腐ったが、その分目力を養った。人を見る目を。

だからはっきりと言えるのだ。

 

「―――相模さん、探したよ」

 

そこに葉山登場。ついでに相模の取り巻き2名も付属で。

ゆっことかいう奴は生あくびを噛み殺していた。みんなの葉山と一緒にいたい、それだけの理由で付いてきたのが丸見えだ。

真剣に相模を探そうとは思ってもいないらしい。ここで初めて相模にちょっぴり同情する。

 

「もう時間がない、みんな待ってる。まだ何とか間に合うから、行こう」

 

真剣な口調、真剣な表情だ。いつもの優しさは何処へやら。

後ろの取り巻き共は、そんな格好良い葉山様に見とれているだけ。・・・マジでお前ら何しに来たの?

そして相模はといえば、誰からも優しい言葉を掛けてもらえず、ますます頑なになっていくだけ。

 

「うち・・・最低・・・」

 

うん、それみんな知ってるから。最低じゃなかったらあの場で逃げ出さないから。

もう限界だな。

葉山がちらと俺の方を向く。自分にはできそうもない、そういうことか。

分かった、任せておけ。

 

「・・・そうか。なら、もういいぞ」

 

相模に、静かに語り掛ける。

はっとして俺の方を向く。優しい言葉だと思うか?

 

だが、違う。

 

 

「その代わり、文化祭が終わったら一人残されて厚木や平塚先生に説教喰らう覚悟はできてるんだろうな?」

 

 

「・・・っ!」

 

相模の顔が、恐怖で歪む。

 

もう言わなくても誰でも知っているが、相模は所謂自己中だ。

駄目なリア充の典型で、自分を中心に世界が回っていると勘違いしている。本当はまず世界があって、その中で自分という歯車が動いていることに気付いていない。

 

そんな自己中に、責任だの善悪だの、公共心だのを説いても無駄骨だ。

なら、欲に訴えかける。損得勘定で考えさせる。それが一番の近道だ。

 

強面で、実際におっかない厚木。あのデカい声で怒鳴られたら誰もが竦みあがるだろう。到底一人では耐えられない。

そして平塚先生。作文でリア充爆発しろと書いたら強制的に部活に入れる人だ。

もし学校行事の委員がサボタージュなどしたら、果たしてどんな罰を下すか。想像したくもない。

 

「それでもいいなら好きにしてくれ。俺は止めない」

 

「・・・・」

 

相模は震えている。同時に、僅かながらの理性をフル動員している。

もしこのまま欠席すればどうなるか。自分の立場がいかに危うくなるか。

 

30秒して、ゆっくりと立ち上がる。

 

「・・・葉山」

 

「ああ・・・行こう」

 

そして、相模は葉山、自身の取り巻きの手によって連行される。

その先が死刑執行台となるのか、人生を変える大舞台となるのか。俺には知る由もない。

 

 

「―――と、いう訳だ相模。君には奉仕活動を命じる。異論反論は許さん」

 

「え・・・な、なんですかそれ?!」

 

さて、文化祭終了から数日後。

いつものように平塚先生がやってくる。相模というおまけを連れて。

・・・由比ヶ浜、慌てるのは分かるが少し静かにしてくれ。

 

「・・・平塚先生、なぜ彼女を入部させるのか理由をお聞かせ願えますか」

 

「君が一番分かっているんじゃないのか?雪ノ下、それに比企谷もな」

 

無論、文化祭でのことだろうな。

 

一応、相模を連れてきてエンディングセレモニーの司会をやらせ、無事文化祭は終了。

相変わらず噛みまくりでたどたどしいものだったが、終わったのだからどうでもいい。

 

が、例年より本番までのスケジュール進行がやや遅れたことに疑問を持った先生たちが結構いたらしい。

平塚先生もその一人。そして、文実参加者に内部調査をした。

・・・なぜか俺の所には来てないけど。またぼっちは存在を忘れられるのね。はちまんなかないもん。

 

「それで・・・嘆かわしいことに、リーダーたる者がリーダーの務めを果たさなかった。

そんな事実が判明してな。結果、相模には更生の必要ありと、私が判断した」

 

「・・・・」

 

そう言う平塚先生の表情は、いつも以上に強張っている。やはり根は真面目一徹、ふざけた真似は許さないということか。

対称的に相模は死人というか、陽炎のようになっている。軽く見ていた由比ヶ浜、文化祭で当初いいように扱った雪ノ下。

そしてぼっちで底辺カーストの俺。そんな奴らと同じ部活に放り込まれることなど悪夢以外の何物でもないはず。全ては自業自得だがな。

 

「それで?これから相模には何をさせるんです?ただ放課後ここに来させるだけで終わりじゃないでしょう」

 

「ああ、その通りだ。すぐにまた体育祭が始まるだろう?

そこで相模には改めて実行委員をやってもらう。今度こそサボりも甘えも一切許さん、私が最後まで見張りにつく。

そして比企谷、雪ノ下。君にも補佐役として実行委員をやってもらいたい。できるな?」

 

是非もなし。

俺たちに決定権はない。

 

「分かりました。奉仕部として依頼を引き受けます」

 

「・・・了解っす」

 

「よろしい。では相模、あとはこの3人の言う事をよく聞くように。

・・・繰り返すが、サボったら進級できると思うなよ」

 

「は・・・はい・・・」

 

その構図、蛇に睨まれた蛙と同じ。

 

 

・・・ま、ドンマイ。応援だけはしてやる、応援だけはな。

 

 

 



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人生において、選ぶ道はたくさんある。しかし、逃げ道は一つしかない。・・・★

文化祭で逃げ出し、総武からも逃げ出した相模。
もし、こうなっていたら・・・。

また相模か!そうなんです。
陽乃のキャラおかしくね!?その通りです。
オリキャラ出番ねーじゃん!はい、全く仰る通りでございます。
これでもウンザリしません、むしろ大歓迎という方は見ていってください。

あと予告通り、「ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。」の設定を流用してます。
μ'sは一人も出ませんが。


 

「相模ちゃーん!今日も帰り一緒に買い物いこーよー!」

 

「・・・あ、うーん!ごめん今支度するからー!」

 

 

・・・あー、つまんない。

 

 

前いたとこと変わんない、いつもの光景。みんなと喋って笑って、帰りは決まってモールでショッピング。

そう、それがうちの日常だった。

 

なのに、かつて輝いていたはずのその光景は、今はずっと色あせて見える。

そのことに気付いて、虚しくなった。昔のうちはこんなことに血道あげて、どんだけバカだったんだろって。

 

 

「・・・今度はしっかりやれ。私から言えるのはそれだけだ」

 

「はい・・・お世話になりました」

 

2か月前。

うちは文化祭で、文実の委員長をやった。そして何もかも上手くいかなくなって、逃げ出した。

そしたらみんな、うちから離れていった。友達も、他のクラスの子も、誰もかも。

 

みんながお喋りしてるとこにうちが入ると、お喋りがやんでシーンとする。そしてみんながうちをじーっと見る。

こっち来んな、出てけ。邪魔なんだけど、キモい。まるでそう言われてるみたいな気がした。

 

それが1週間経つと頭が痛くなって、常に吐き気がして、食欲も湧かなくなって、ベッドから起き上がれなくなった。

つまり、不登校。

昔中学の頃、女子の誰かがそうなって、友達とその子を笑ってバカにしたことが脳裏に蘇る。今はうちがおんなじ立場だ。

きっとF組では、みんながうちを家に引きこもってるんだってー、バッカみたいなんて言ってるんだろうな。

 

気付くと、涙が出てた。

みじめで情けない自分のことを考えると。

 

―――誰もお前を、本気で探してなかったってことだろ。

 

―――どんな気分だ?こんなやつに好き勝手言われてる今の気分は。

 

・・・そして、あの時比企谷から言われたことを思い出す。

ゆっこたちも、葉山くんも誰もうちを見つけてくれなくて、唯一うちを見つけられた、あいつの言葉。

 

うちはバカなだけじゃなくて、甘ったれてた。だからあの時逃げ出しても、誰かが探してくれて慰めてくれるって考えてた。

だけど現実は違った。うちが逃げ出した時から、いや、うちがまともに委員長の仕事をやれなくなった時から、みんなうちのことを見放してたのかもしれない。

薄々気付いていたけど、認めたくなかった。

 

だからあいつにそう言われた時も、結局逃げてしまった。

怖くて、嫌で。眩暈がして、その場で倒れ込んでしまいそうで。

 

そうやって学校から逃げて、家に逃げて。総武に居場所はないと分かってたから、親に頼んで別の学校に逃げた。

そして転校が正式に決まった時、平塚先生からは一言「しっかりやれ」と告げられた。

ありがたいと思った。こんなみじめなうちにも、きちんと言葉を掛けてくれたのが嬉しかった。

 

そうだ。

もう、うちに逃げ場所なんてないんだ。

親には嫌がらせに遭ってるなんて嘘ついてどうにか転校させてもらった。そんな理由でですら、親はいい顔しなかった。

自分の娘がそんなことされてるなんて恥ずかしい。情けない。世間に顔向けできない。ため息交じりに、面と向かってそう言われた。

うちの親はそういう人だ。メンツとか世間体とかそういうのにとてもこだわる。うちが周りからどう見られてるか、うち以上に気にする。

でも文句なんて言えない。なんてったって親だし、それに今回は本当に迷惑を掛けてしまったから。

 

だから、どんなに嫌でも、ここで頑張るしかないんだ―――

 

 

「でさぁ~。あのブス島、スクールアイドル目指してんだってよ?」

 

「はぁ?!アイドルって・・・ちょ、鏡見ろってーの!さがみんもそー思わなーい?」

 

「ははは・・・だよねぇ・・・」

 

また次の日の帰り道。今日のみんなは悪口大会で盛り上がってる。

これも前なら、恥ずかしげもなく同調していたと思う。でも今はどこか気乗りがしない。それでも黙ってる訳にはいかないから、無難な言葉を返す。

心が痛い。罪悪感を感じていながら、結局みんなに合わせてしまううちが、恥ずかしくて。

 

"ブス島"というのは、クラスメートの毒島さんのこと。ロングの黒髪で、ぱっと見はあの雪ノ下さんにそっくり。

でも性格的にはある意味反対で、優しいけど気弱、いつもどこかオドオドしてる。音楽の授業の様子を見る限り、歌は上手いみたいだけど。

そのせいで、うちが転校してくる前からみんなにいじめられてたらしい。毎日毎日、ジュース買ってこいってパシられてる。女子にも、男子にも。

担任も他の教師も放置してる。それどころか、前に用事があって職員室に行ったら「アイツ早く転校してくれねーかなぁ」なんて愚痴り合ってた。

助ける気なんて全然ないんだ。

 

で、毒島さんは何でもスクールアイドル―――文字通り学生アイドルのことだ―――に憧れてて、動画サイトに自分の歌った曲をアップしたりとかしているらしかった。

それがどういう訳か、クラスのみんなにバレた。

今日は朝から、みんなの前で歌ってみろ、テメーのヘッタクソな歌を、なんて囃し立てられていた。毒島さんはずっと黙ってた。

みんなからゴミやシャーペンを投げつけられても。

 

「・・・さがみん顔色悪いけど、具合悪いん?何かあったら相談しなよー」

 

「あはは、ごめーんそうみたい・・・今日は帰るね、また今度埋め合わせするから!」

 

「ん、じゃねー!」

 

はぁ・・・。

 

もう疲れた。

こんな下らないこと、いつまでやらなきゃいけないんだろ。

 

この前親に毒島さんのことをそれとなく言ってみたとき、即座に絶対その子と関わるなと言われた。

また嫌がらせされたらどうする、もう引っ越しも転校もできないんだから―――ヒステリックに捲し立てられた。

実際、親の言ってることは間違ってはない。世の中上手く渡りたいならそうするしかない。

でもそこまで露骨に否定しなくたっていいのに。

 

「あー・・・死にたい・・・」

 

ぽつりとそう、呟いてしまう。

 

 

「―――私さ、今日は千葉戻って両親のご機嫌伺いしなきゃならないんだよ。

だから雄介くん、悪いんだけど今日はさ・・・」

 

「まーまー、そんな堅いこと言わずにさぁ!ちゃんと時間厳守すっから、ね?

陽乃ちゃん来ると評判いいんだよー」

 

 

・・・あれ。

 

「・・・雪ノ下さんの・・・お姉さん?」

 

「ん?」「あ?」

 

 

10分して。

うちは雪ノ下さんのお姉さんに連れられて喫茶店に来ている。しかもやけに高級そうな。

いつもみんなと行ってるファミレスの安っぽさを考えれば、どう考えてもうちが場違いな人間に見える。

・・・というか、絶対そう思われてる。

 

「ふぅ・・・ありがとね。あのバカ男子さ、ちょっと顔良くてボンボンで金あるからってすぐ調子乗るの。

毎回毎回ホントにしつこくて。てことで、お礼にこのお茶とケーキ、お姉さんの驕りね!

・・・あ、聞き忘れてたけど、貴方の名前聞かせてくれるかな?」

 

「え、えと・・・相模、です・・・」

 

「んー?聞こえないなー?もう一度大きな声で!」

 

う・・・。なんか思った以上に怖い人だ。

声が大きい。顔は笑ってるのにすごく怖い。ていうか、何で周りの人は気にしないの?

 

「さ、相模です!・・・その、総武高の文化祭の時の・・・」

 

「あー・・・いたねぇ。そっか、君があの時の相模さんかー」

 

「は、はい!」

 

「委員長なのに平然とサボっちゃって、スローガン決めの時比企谷くんに論破されて、最後は逃げ出しちゃった、"あの"相模さんか!

うん、今キッカリ思い出しちゃった」

 

・・・・。

この人、全部知ってたんだ。逃げたことまで。

 

「で、相模さんはなんで東京なんかにいるのかな?まさか総武に居場所なくなって転校してきたとかかな?」

 

「え・・えっと・・・」

 

怖い。

早くここから出たい。何ならこの人の分まで払ったっていい。早く帰りたい。

 

暫くの間、うちは何も言えなかった。するとお姉さんの顔から笑みが消える。

 

「―――あのさ、質問にちゃんと答えようか。今聞いたよね?なんでこんなところにいるのかって」

 

「・・・その、雪ノ下さんの言った通りで」

 

「何のこと?私はただ鎌かけただけだよ?もう高校生ならさ、ちゃんと答えようよ。

おまわりさんに職質されたら一発でアウトだよ?補導されちゃうよ?」

 

「・・・東京の学校に、転校しました。さっきはその、帰宅途中で」

 

「ハイオーケー。言えるなら最初からちゃんと言わなきゃね」

 

それでようやく笑顔に戻る。

何なのこの人。今までいろんな女子と付き合ってきたけど、こんな喜怒哀楽の激しい人は見たことない。

まるでカメレオンだ。

 

「それにしても、君にはガッカリだよー。ちょっと私が煽てたら、すぐそれに同調しちゃうし。

お蔭で雪乃ちゃん、働きすぎて体壊しちゃったんだよ?しかもお見舞いに来てたのは比企谷くんとガハマちゃんだけだし。

めぐりんもガッカリしてたよ?『私は比企谷くんだけ悪者扱いしてたけど、ホントは相模さんの失敗を隠してみんなを団結させるためだったんだ・・・』って」

 

・・・そっか。

うちはあの優しい生徒会長さんですら失望させてしまったんだ。

 

笑顔で淡々と事実を告げるお姉さん。

うちが言えるのは、ただ一言。

 

「・・・ごめんなさい」

 

「ん?別に謝ってなんて言ってないよ、私。それにあくまであの場にはOBとして参加してただけだしさ。

謝るなら相手、違うんじゃない?」

 

「それでも・・・ごめんなさい。お姉さんにも、雪ノ下さんにも、会長さんにも。

あの時あの場に居た、うちが迷惑かけた全員に、謝りたいです」

 

必死に、声を絞り出す。

どんなに怖くても、謝りたい気持ちだけは本当。だから・・・

 

 

「・・・比企谷くんは?」

 

 

―――あ。

 

やってしまった、と思った時は遅かった。

またお姉さんの笑顔が消えている。

 

「君さ、人を舐めてるよね。表舞台にしか出たことないから分かんないんだろうけど。

裏方で舞台支えてる人の気持ちとか、全然気づいてないね。いや、気づいてても見ないふりしてるのかな?」

 

「・・・・」

 

「私さ、これでも一生懸命努力して何かを支えようとしてる人、好きなんだよ。

で、嫌いなのはそれに胡坐掻いてのほほんとしてる奴。あとさんざ迷惑掛けときながら自分は悪くないなんて駄々こねて、人に責任押し付けて逃げる奴もね」

 

「・・・・」

 

「君は自分に歯向かってきた彼の姿しか見てないんだろうけど。

男子の中じゃ彼ぐらいだよ?君のあの一言でどんどん人減ってく中、残って真面目に仕事してたのは。

その時君、何してた?クラスの出し物を重視するだっけ?ただクラスの友達と駄弁ってたんじゃない?」

 

「・・・・」

 

反論する暇も隙も与えない。

おまけに全部正論だ。言い返すなんてできる訳ない。

 

「・・・ふぅ。そろそろお店の人にも迷惑だし、私はこれでお暇するよ。

さっき言った通り、お代は払っておくから」

 

「あっその・・・ありがとうござ―――」

 

お姉さんが席を立って、慌ててうちはお礼を言おうとする。

その時。

 

「―――最後に言っとくね。君はこれで一つ、逃げ道を使った。

あとはもう、ずっと茨の道だよ。おまけに後ろは断崖絶壁。

それだけは心に留めておくんだね」

 

そして、店の人に愛想を振りまきながら、うちのことなど気にもせずに店を出ていく。

 

―――どんな気分だ?こんなやつに好き勝手言われてる今の気分は。

 

あいつに言われた言葉が、再び頭に蘇っていた。

 

 

翌朝。

この日は一人で登校した。今まではうちがみんなに合わせて、おんなじ時間に登校してた。

でももう、どうでもよくなった。周りのことも、親のことも、どうでも。

 

「おいブス島!テメーCD買う金あんならウチらに渡せよ、あ?」

 

「何お洒落気取ってんだよ?!ブスはブスらしく質素にしてろってーの!

アイドルになるとか夢見る権利ねーんだよ」

 

「・・・っ」

 

そして今日も、毒島さんはみんなにいじめられていた。

女子には耳元で怒鳴られて。男子には髪を引っ張られ、小突かれて。

それでも必死に耐えている。誰も守ってくれないから、自分一人で戦っている。涙を堪えて。

 

―――あとはもう、ずっと茨の道だよ。

 

そうだ。

うちに、もう逃げ場なんてない。

 

だから。

 

 

「―――ちょっと、みんな!」

 

 

 



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本物。それは何物にも代えがたい、男の友情なのである。(前編)

奉仕部に入部させられた材木座。
もし、こうなっていたら・・・。

今回は材木座編です。口調はともかく言うほど中二病じゃなかったり。
八幡も原作ほど辛く当たることはありません。つまりキャラ崩壊ってことさ!
・・・海老名さんがぐ腐腐と笑ってる?多分気のせい。

あと長くなりそうなので前後に分けます。一話完結って(ry


「の、のう・・・ここは一体、何の部活なのだ・・・?」

 

先ほどまで地蔵のように・・・いや体型からすると大仏か。

15分近くずーっと黙りこくっていた材木座義輝が、遂に口を開く。

ぼっちに成りたての奴にありがちな反応だ。リア充みたく四六時中お喋りはできないが、かと言って重い沈黙に耐えられる精神力もない。

気の毒だがこれがここの日常だ、早く慣れてもらうしかない。

 

今日もいつものように気怠い放課後を過ごしていた時のこと。

体育館裏で必殺技の修行と称したよく分からん行為をはたらいたという理由で、材木座は奉仕部に連れてこられてきた。

平塚先生・・・そういうときは黙ってその場を去るべきだと思います。それが愛情ってもんでしょう。

そして「君はここでまともな人付き合いを学べ、異論反論は許さん」とだけ言い残して去っていった。いくらなんでもブン投げ過ぎだろあの人。

どうにかしたいというならまずカウンセリングを紹介するのが先では?第一この部活、まともな人間なんていないぞ。

ぼっち、アホの子、孤高の女王・・・うん、詰んでる。

 

「貴方は自分の頭で考えるということを放棄しているのかしら?立派な体格の割に頭脳は小さいのね」

 

「そ、そうではない・・・どう考えてもここが人助けと関わりある部活とは思えぬのだ」

 

・・・ですよねー。

ぶっちゃけやってることは文芸部、というよりただの読書部である。もう図書委員会でよくね?

しかも由比ヶ浜はスマホいじってばっかだし。もうお前お仲間の所帰れよ。

 

「飢えた人に餌を投げ与えるような偽善はするつもりはないわ。ここは餌の取り方を伝授するのが―――」

 

「―――つまりだな。誰かが依頼しに来ない限りはのんびりしてていいってことだ。

だから材木座、お前も肩ひじ張る必要はない。リラックスしとけ」

 

「・・・ふ、ふむ・・・左様で御座るか」

 

言葉を遮るなとばかりに雪ノ下に睨まれるがどうでもいい。

こちとらとうにお前の崇高な理想とやらはさんざ聞かされているのだ、その永久に実現できそうもない下らぬ理想は。

それにやらない善よりやる偽善と言うだろう。行動の伴わない善意は何の意味もない、人生の教訓の一つだ。

つまり自分から何もしない癖になぜかモテるハーレム系主人公はさっさと消えてどうぞ。・・・あれ、話違くね?

 

「でさー、中二ってなんでキモい表紙のマンガばっか読んでるの?」

 

「ぐ・・・これは漫画に非ず、ライトノベルだ!

ストーリーとて決して気持ち悪いものではない!捨てられた兄妹が助け合いながら騎士として悪と闘う冒険物語でな・・・」

 

要は俺TUEEE系のファンタジー物だな。いや、俺もそのラノベ好きだけど。主に絵が。

マンガ=オタク=キモいの超単細胞な方程式に未だ支配されている由比ヶ浜も由比ヶ浜だが。材木座よ、だからそんな奴に熱心に説得してもドン引きされるだけだぞ。

現にうげぇ・・・ってなってるし。

 

というか、中二病だから中二か・・・。ヒッキーも大概だが、こいつのネーミングセンスは一体どうなっているんだ。

心でそう思うまでは仕方ないとして、実際に言葉にするのはまともな人間のやることではない。

 

・・・いや、違うな。

向こうからすれば俺や材木座のような人間こそおかしいのであって、向こうが普通なのだ。

 

やはり、リア充という生き物は残酷だ。スクールカーストという言葉通り、弱肉強食の人間社会の縮図だ。

人が傷つくことを平気でやり、尚且つ自分は悪いことをしたとは考えない。

それは自分より階級が下の人間を人間と思っていないからだ。よくてせいぜい犬っころ、俺なぞ蟻程度にしか認識されてないのだろう。

結局は由比ヶ浜も上位カーストにどっぷり浸かって、その居心地の良さに慣れきっているのだ。

 

・・・ここにも、"本物"なんて存在しない。

 

俺は一体、何を期待していたのだろう。

人間とはそういう汚い生き物だと、嫌というほど学習したではないか。

 

どうせあと10分もすれば下校だ。いっそ買い物あるとでも言って早帰りするか。

そう思って荷物をまとめようとしたその時。

 

「・・・ごめん、ちょっと時間いいかな?」

 

リア充の王、葉山隼人が突然来訪してきたのだった。

 

 

「犯人は何としても洗い出すべきね。そして先生に即座に報告する。

それで解決しないなら教育委員会に訴えて問題を取り上げてもらう必要があるわ」

 

「そう・・・なのかな・・・」

 

いくらなんでも話が飛躍しすぎだろ。

大体たかがチェンメで委員の先生方がまともに取り合おうとするか?

 

翌日、奉仕部では葉山の持ち込んだ依頼を解決すべく話し合いが行われた。

葉山グループの3トリオの悪口がメールで学年中に広まっているので何とかしてくれとのこと。正直、ほっとけとしか言いようがない。

内容といっても、昔野良犬を殺して遊んでただのオヤジ狩りをしていただの、デタラメで何の根拠もないしょーもない類のものだ。

どうせ1、2ヶ月すれば皆すぐに忘れるだろう。

 

加えて、今回のメールはどうも自演臭が凄い。ゲロより強烈な臭いがプンプンしている。

恐らく来週の職場見学の班決めに絡んで、トリオの誰かがグループからハブられないために仕組んだものだろう。葉山がいない時の様子を見ればすぐに分かる。

つまりは、葉山は奴らにとってのアクセサリーでしかないということ。イケメンで成績優秀かつサッカー部のエース、表向きスペックは高い。だからそれを利用する。

哀れな話だが、同情するつもりは微塵もない。こんな茶番劇の裏も見抜けず、解決するのも他人頼み他人任せ。程度の低い連中しか寄ってこなくて当然だろう。

みんなのリーダーが聞いて呆れる。

 

とはいえ早急に解決すると請け負ってしまった以上は仕方ない。

だが雪ノ下の案は少々メチャクチャすぎる。それ以前に事態は何も解決しないだろう。

由比ヶ浜は端から自分ではどうすればいいか分からず、困惑しながらも雪ノ下に追従するだけだ。

 

仕方ない。ここは―――

 

 

「・・・その、解決する方法はあると思う。葉山氏と3人を、切り離せばいいのではないか?」

 

 

―――ほう?

 

「・・・何を言いたいのかしら?財津くん」

 

おい、部員の名前くらいちゃんと覚えとけよ。政治家の娘がそれでいいのか。

 

「き、きっと3人の誰かが、葉山氏と離れ離れになるのを恐れてこんな行動に出たのだと・・・我は思う。

だから職場見学の時、あやつら全員を葉山氏と別のグループにすれば・・・」

 

「ちょっと?!戸部っち達がそんなことするわけないじゃん!みんな優しいし・・・」

 

おいビッチ、口挿むな。

 

上から目線で悪いが、材木座もなかなか目の付け所がいい。俺自身こうしようと考えていたからな。

あとは五月蠅い奴を黙らせるのみ。

 

「そりゃ男なんてそんなもんだろ。可愛い女子の前では優しそうに振る舞う、腹の内はどうあれな」

 

「え、かか可愛いってヒッキー?!」

 

勘違いすんな、これっぽちも褒めてねえ。

見た目が可愛いだけの女なら、それこそ二次元の世界にいくらでもいる。だから俺はそんなものには騙されないんだ。

 

「・・・とにかくだ。俺もあの3人の誰かがやったってのは正しいと思う。

それに今の材木座の提案なら、誰も傷つかずに職場見学を乗り切れるぞ。

俺は賛成する」

 

さあ雪ノ下、さっさと賛成してもらおうか。

 

 

「でさー!あの材木くんがキョドキョドしてて実にウケたっつーか!」

 

昼休み、今日もリア充たちは喧しい。

男ならペチャクチャ口を動かすなっつの。女々しくて見るに堪えん。

 

「えーマジキモーい!」

 

「いやもう、最後のあいさつするときも真っ青で噛みまくりでさぁー!」

 

誰も傷つかず、職場見学を乗り切る。

それは、間違いだった。

 

職場見学で、材木座はあのトリオと同じ班になった。自分から希望したのだ。葉山は俺と戸塚、由比ヶ浜に海老名さんと組んだ。

そこで対人スキルに乏しい材木座は色々とやらかしてしまい、今はそれをネタにトリオが女子グループと盛り上がっている。

共通の敵を作ると人は仲良くなれる。これもまた、人生の教訓だ。

 

・・・もしかして。

あいつは、自分がこうなることで葉山グループの崩壊を防ごうとしたのか?

 

「・・・・」

 

教室の前端に、材木座は座っている。自身が嘲笑の対象になっていることを知りながら、黙ってラノベを読んでいる。耳にはイヤホンをして。

中学時代の俺もああだった。聞こえないふりだけでは意味がない。

だからああやって、自分の世界に入り込む。逃避する。そうするしかないのだ。

 

―――誰も傷つかずに職場見学を乗り切れるぞ。俺は賛成する。

 

・・・俺は、何ということを言ってしまったのか。

他人の犠牲の上に自らの安寧を得る。これでは、いつも軽蔑しているリア充共と大差ないではないか。

 

「おいお前たち、とっくに昼休みは終わってるぞ、さっさと席につけ。

・・・材木座、君は音楽の授業を受けに来たのか?教室を間違えてるぞ」

 

爆笑。

 

平塚先生・・・あんた、雰囲気から察してやれよ。

ジョークにしても酷過ぎるぞ。

 

 

数日経つと、「材木座挙動不審事件」のことはほとんど話題にならなくなった。

それでも一旦ついたレッテルは簡単には剥がせない。女子も男子も、時折材木座の方をチラ見してはニヤニヤと笑っている。

 

神様、これが青春です。巨人のいる世界より、遥かに残酷です。

 

「・・・ああ、ここにいたか」

 

今日は時間になっても材木座は部室に顔を出さず、雪ノ下から探して来いと命じられた。

弱小部の部長風情が偉そうに、とも思わないでもない。由比ヶ浜なぞ自分から入部した癖に今日はカラオケ行くからと、堂々とサボり。五月蠅いのが減るからいいけど。

だが結局のところ、強制入部させられた俺に拒否権はない。・・・それなんて監獄付き学園ですか。

 

という訳であいつの行きそうな場所を当たっていると、中庭のベンチで読書に耽る姿があった。

その気持ちも分かる。教室や廊下で毎度毎度侮蔑の視線にさらされれば、誰だって一人になりたくなるだろう。

 

「む・・・八幡か」

 

「ああ。今日もラノベ読んでるのか?」

 

「・・・うむ」

 

どうやら責められていると思ったらしい。だがそれは違う。

 

今材木座が読んでいるのは兄妹もののラブストーリー。俺はまだ読んでいないが、割とコアなファンがいるらしい。

多重人格に苦しむ妹に寄り添い続ける兄との悲恋を描いた、ひと夏の物語。これ以上に中二心をくすぐるストーリーがあるだろうか。

アンニュイな感じのイラストと、本の内容が上手く噛み合わさっているとのこと。シュレーディンガーの猫とか、そういうSF的な要素も盛り込んである。

 

「いいセンスだな。俺もその手の本は嫌いじゃないぞ」

 

「む・・・む?」

 

「まあでもな、世の中にゃ芸術ってもんを理解できない奴も多い。そういう奴らからしたら単にキモがられるだけだ。

だから、これを渡しとく」

 

そこで手提げ袋から、前に購入して放置しておいたブックカバーを渡す。

ペットボトルから再利用してつくられたというエコロジーな一品。蝶の柄が幾何学的というか美しい。

埃を被らせておくよりはこいつに利用してもらった方がカバーも喜ぶだろう。

 

「・・・何故、お主はこのようなものを?」

 

「趣味のことで他人からバカにされるのは嫌で仕方ねえからな。だからお前も、ラノベ読むときはそれ被せとけ」

 

茫然としている材木座の横に、もう一つ品を置く。

マッカン。千葉のソウルドリンクにして至高。ひと時の癒しを提供してくれる素晴らしい飲み物だ。

 

「落ち着いたら部室来い。あんまりサボると、雪ノ下がうるさいからな」

 

それだけ言い残すと、俺はその場を去る。

このまま帰れば部長様のお怒りに触れるだろうが、できるだけのことはしたのだ。あとは天運を待つのみ。

 

 

「・・・八幡。お主は―――」

 

 

数か月後 総武高文化祭2日目

 

「もう時間がない、それにお前の持ってる賞の集計結果が―――」

 

「じゃあこれ、持ってけばいいでしょ!」

 

相模から投げつけられた書類の束が、俺の右足に見事命中。

・・・痛てえな、クソ。誰のためにここまで駆けずり回ってると思ってやがる。

 

目の前でしゃがんでいるこのバカは、これでも今回の文化祭で実行委員長をやっている。何の能力も責任感もなく、ただ目立ちたいだけだったようだが。

自分は碌に仕事をせず、奉仕部にサポートという名目の押し付けをして、結果雪ノ下に実権を奪われ。

それを妬んで自ら仕事を妨害する真似に出た。参加者全員に、事実上のおサボり許可を出したのだ。

 

もっともメンバーは相模ほど腐ってはおらず、誰もその提案に賛成しなかったが。

逆に自身の威信を失墜させるだけに終わり、以後何の仕事も与えられずただ座っているだけだった相模はそれに耐えきれず、また終盤になってやらかしてくれた。

司会を務めるセレモニー直前に逃亡。しかも進行に必要な書類を持ち去って。

そこで俺と材木座が捜索を命じられ、川・・・島さんの協力で居場所を特定できた。

場所は屋上。心が壊れ、黄昏たい時にはうってつけのベストプレイスだ。

 

だが当の本人はこの有様。

とても連れ出せそうにはない、もし無理矢理やれば犯罪者扱いを受けるまである。

 

「うぅ・・・うっ・・・」

 

泣きたいのはこっちだっての。お前ひとりの所為で学校行事をぶち壊されては堪らない。

それにしても葉山・・・お前は何をしてるんだ?まさかこの期に及んでまだ聞き込みか?

ちょっとあいつが優しく慰めてやれば、相模もコロッと絆されるだろうに。どうしてこう、必要な時に限っていないのか。

 

・・・もう、本当に時間が差し迫っている。

ならば俺も腹を括ろう。たとえ自分が悪者扱いされようとも―――

 

「さ、相模氏!我、我は・・・!」

 

ん?

 

 

「―――我は、お主がエンディングセレモニーに立つ場を見たい。こ、心からそう思っておる!」

 

 

・・・おい、まさか。

 

「は・・・?アンタ何様のつも・・・」

 

「お、お主がたどたどしいながらも、ささっ最後までオープニングセレモニーをやり遂げたのは、我も、見て・・・おる。

つまり、その・・・感動したのだ!我が同じ立場なら、きっと同じようには、で、できなかったであろう。

途中で逃げ出しておったやもしれぬ。だがお主は、やり遂げた」

 

口調は無茶苦茶、噛みまくり。だが、言いたいことはきちんと伝わってきた。

大きな体を震わせながら、必死に声を絞って言葉を伝えている。

真剣に。

 

葉山が同じことを言ったとしても、恐らく俺は薄っぺらい奴らの戯言と流していただろう。

しかし材木座は違った。コミュ力ゼロ、レベル1のこいつが、勇気をフル動員して、我が儘な王女を説得している。

舞台へ導くために。

 

「・・・キモっ。分かったわよ、行けばいいんでしょ行けば」

 

その勇気を、相模は冷たくあしらう。

・・・この屑が。人の善意を利用するだけ利用して、あとの残りは踏みにじろうってか。

 

「相模、お前・・・」

 

「・・・八幡。もう、やめてくれ。

相模氏は行くと言ったのだ、それでいい」

 

相模に詰め寄ろうとする俺の腕を、材木座が掴む。そして俺にしか聞こえないように呟く。

そうしているうちに、やっと葉山達が駆け付けた。

一転して笑顔になった相模が、悪びれもせずにはしゃいでいる。

葉山は苦笑いをしながら、手を引いてセレモニーへと連れていく。

 

 

―――材木座。

 

なんでお前は、進んで汚れ役を引き受けようとするんだ?

 

 

 



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本物。それは何物にも代えがたい、男の友情なのである。(後編)

ハイ遅れました、後編です。
比企谷八幡は、果たして本物を見つけられるのか?


追記:改 変 注 意


材木座義輝。

見た目はただのオタクで中二病。実際にそうなのだが、それだけではないということが分かってきた。

 

文化祭の時、相模を必死の思いで説得し、エンディングセレモニーへ立たせた。

当の相模は何一つとして感謝もせず、キモいことを言われたと皆に言いふらし、呑気に過ごしているが。

 

つまりあいつは・・・自分を犠牲に何かを、誰かを守ろうとしている。

一体それは、どうしてなんだ?

 

 

「―――そういう訳で、戸部と姫菜のことを頼みたいんだ」

 

本格的な秋に入り、修学旅行だウェーイとリア充が騒ぎ始める頃。またしても、奉仕部に招かれざる客がやって来た。

ペルソナ・ノン・グラータ、外交特権発動ッ!!・・・いかん、カードゲームかよ。てか外交って俺ら国じゃねーだろ。

あ、なら今度から帰るときに塩でも撒くか。

 

今度の葉山の依頼は、戸部が海老名さんに告白しようとしているが、海老名さんにそれを受け入れる気がない。

もしそうなるとグループの雰囲気が悪くなるのでどうにかしてほしいとのこと。

 

アホらしい。

なんで色恋沙汰にまで首突っ込まなけりゃいけないのか。

 

「ほっとけ。別にそんな深刻な事態でもないだろ」

 

「いや、そういう訳には・・・」

 

「そうだよ!戸部っちも姫菜も応援しなきゃいけないじゃん!」

 

それが無理だってんだよ、少しは考えろ。

 

それに先ほど直接戸部に話を聞いた限り、そこまで真剣に恋しているとも思えなかった。

ずっと近くに居たら、ちょっとカワイイとこあるよなあって気付きました。それでちょっとホレちゃいました。その程度だ。

始終ヘラヘラしていたことからも、どうせ失敗するだろうけど青春に箔がつくしやってみんべと軽く考えている節がある。

 

まあ確かに、これでは告白される海老名さんが気の毒ではある。ただ本人も話では戸部の気持ちには気付いているらしい。

そして大してそのことを気にしていないということも。仮にフッたからといって戸部のことでうじうじ思い悩むとは思えない。

 

つまりは杞憂。

というか葉山、むしろお前の中途半端な行動がグループの和を乱しているのだと何故気づかない。

結論、何もできないならさっさと手を引け。

 

「・・・その。海老名氏と戸部氏の仲が分かれるのを防げばいい、そういうことであるか?」

 

「うん?」

 

意外な人物の指摘に、葉山が目を丸くする。お前居たの?と言いたげに。

お前意外と冷たいのな。リア充なら人の存在に敏感でなくてはならないはずだろ?

 

材木座は再び同じ質問を返すと、葉山は頷く。

すると材木座はふんと鼻を鳴らし、自信ありげに言った。

 

「そうならば、我が何とかしてみせよう!ここではその秘策は明かせぬがな!」

 

「ちょっと中二?一体何するつもりだし!」

 

「だ、だから今は言えぬのだ!ただ今回は我に任せてほしいのだ。

雪ノ下氏、八幡、どうか賛成してくれぬか?」

 

・・・おい。

もしかして、またお前は・・・。

 

「・・・何を考えているのか分からないけれど。

いいでしょう、貴方にお任せするわ」

 

おい、なんで分からないのに認めるんだ。いつもなら色々と勘繰りを掛けるんじゃないのか?

そういえばこいつも葉山が嫌いだったな。だがこっちもそれを必死で押し殺しているのだ。

部長のお前が嫌な奴だからテキトーに扱うなんてことをされては困る。来る者は拒まず、それが建前だろ?

 

もう、これはダメだ。

 

「そうか・・・なら、よろしく頼むよ」

 

結局材木座が解決を請け負うということで、話は終わってしまう。

悪い予感、悪い方向へと、どんどん進んでいく。

 

 

2週間後 京都市 ホテル

 

「それじゃ八幡、先に僕からお風呂使わせてもらっていいかな?」

 

「ああ、ゆっくり入ってくれ」

 

てか戸塚、お前を差し置いて俺が入浴とか有り得ませんから。天使>悪魔、当たり前の決断である。

 

さておき、ついに修学旅行が始まった。いや、始まってしまった。

古都の雅な光景も美しい舞妓さんも、俺にとっては関係ない。戸部は明日の夜、海老名さんに告白する。

もう止められない。本当ならそうできたはずなのに。

 

「材木座、ちょっといいか」

 

「む?!すまぬ、もう少し!これさえ倒せば我が聖戦に決着がつくのだ!」

 

「・・・ソシャゲか。悪いが後にしてくれ」

 

俺も中学の修学旅行はひたすら部屋でモンハンやってたな~・・・全然懐かしくねーわ。

まあバカ騒ぎしてる奴らよりマシだけど。さっきも隣部屋の連中が注意されてたな、時計見ろよ。

 

「明日のことなんだが・・・お前、本当に大丈夫なのか」

 

「うむ!その時になればお主も分かるはずだ、だから安心して―――」

 

 

「お前が戸部より先に海老名さんに告白して、場をぶち壊す。

そしてお前はみんなの笑い者にされて一件落着。そういうことか?」

 

 

「・・・!」

 

沈黙。

やはり図星だったか。

 

「なあ、なんでそこまでして葉山グループのために動く?」

 

「・・・違う。あやつらのためではない」

 

「じゃあ何故」

 

「お主の為だ。・・・八幡よ、お主は中学時代のことを覚えておるか?」

 

「あん?・・・そりゃまあ、忘れたくても忘れられん思い出ばかりだからな」

 

好きな女子に告白しました。フラれました。翌日からいじめに遭いました。

最後が何を言ってるか分からねーだろうが、俺だってそうだ。女子グループにまで賠償金よこせなんてカツアゲされるしな、びた一文払わなかったけど。

あれ以来、どこかの歌じゃないがもう恋なんてしないと決めた。そして、恋愛とはリア充の為にあるということも知った。

 

だから今回の依頼だって、本心は受けたくもない。だが奉仕部皆で決めたことになっている以上、覆せない。

くそ、民主主義は少数意見の尊重の理念だってあるはずだろうが。なのに結局は多数決か。

 

「そうか・・・そうなのだな。

そのお蔭で、我は救われた。お主が皆から、惨い仕打ちを受けたために」

 

「・・・は?」

 

ちょっと待て、なんでお前が知ってる?

 

「お主は気づかなかったろうが・・・我もお主と同じ中学だった。クラスは遠く離れておったがな。

あの時お主がいじめられていなければ、きっと我がそうなっていたであろう。

我はお主を生贄に、残りの中学校を平穏無事に終えたのだ」

 

「・・・で?それが何の関係があるんだ」

 

「それで高校も同じと知って、お主にそのことを謝りたいとずっと思っておった。・・・今の今まで、できなかったのだが・・・。

だから、これは我の償いだ。

海老名氏にすることで我がどんな仕打ちを受けようと構わぬ、もう我はお主や皆が傷つき苦しむのを見たくないのだ」

 

・・・・。

 

バカ言うな。

仮にお前が罪の意識を感じていたとして、もうお前は十分償った。

すでにお釣りがくるレベルだ。

 

だから、もういい。やめるんだ。

 

「・・・それと八幡よ。もう一つ、言っておきたいことがあってな」

 

「なんだ」

 

もう謝罪は十分だぞ。

むしろ柄にもなく、こっちが謝りたいまである。過去のことでこんなにもこいつを苦しめてしまった。

あんな真似までさせてしまった。

 

俺は、最低の人間だ。

 

「全てが終わったら・・・また我と、友になってくれるか?」

 

「・・・今返事をした方がいいのか?」

 

「いや、後で構わぬ。お主の言う通り、明日が勝負ぞ。

我の勇姿、特と目に焼き付けておくがよい!」

 

「・・・二人ともー?僕出たから、お風呂使っていいよ?」

 

戸塚が風呂から出てくる。助かった、どうやら会話を聞かれてはないらしい。

入れ替わりに材木座が風呂へ入る。

 

「・・・八幡?顔色悪いよ?」

 

「ああ・・・別に平気だ、ありがとな」

 

気にする必要はない、戸塚。

 

 

俺は最低だ。

そんな奴が、誰かの隣にいる資格なんてないんだ。友達になる資格だって―――

 

 

1週間後 総武高

 

「知ってるー?ほらF組の比企谷って奴!

あいつ、海老名さんに告白したってよ?」

 

「うっわ!あのキモい目した奴っしょ?やだー!」

 

おい、当の本人が過ぎ去ったばかりなんですが。陰口は聞こえないようにするもんだぜ?

 

もっともそんなことは覚悟の上でやった。笑い者の道化になる覚悟は。

だから後悔はしていない。

 

あの時、俺は先んじて海老名さんの所に向かった。戸部よりも、材木座よりも。

そして俺が代わりに告白した。勿論フラれた。

 

(ごめんね、ヒキタニくんをこんなことに付き合わせちゃって。・・・戸部っちと私のために、やってくれたんだよね。

別に私、戸部っちとはこれから仲良くやっていくつもりだったし。告白されたからって、そんなこと気にしないのにさ・・・)

 

そして去り際、海老名さんはぽつりと呟いた。俺にしか聞こえないように。

それは果たして、葉山への皮肉だったのだろうか。おそらくそうなんだろう。

 

海老名さんが去り、俺も戻ろうとすると背後に笑顔を凍り付かせた戸部、そして葉山がいた。

まあ戸部はお気の毒様だな。だが葉山、テメーは駄目だ。

そもそもここに居る資格すらない。

 

(これで明日から、お前は安泰だな。戸部と海老名さんを慰めてやって、リーダーの面子を保って。

良かったじゃねえか。・・・文句なんてないよな?)

 

だんまりを決め込んだリア充様にそう言い放って、その場を去・・・れなかった。

さらにその背後に見物人がいたからだ。

 

雪ノ下、由比ヶ浜。そして材木座。

皆して茫然とした表情をしている。

 

無視して通り過ぎようとしたら、いつものように雪ノ下に呼び止められる。由比ヶ浜も俺を睨んでくる。

何を今さら。こっちはやりたくもない仕事を引き受けたんだぞ?滅私奉公、褒められたっていいくらいだ。

 

大体お前が、こんな茶番劇の始末など引き受けなければこうはならなかった。そうじゃないのか?雪ノ下さんよ。

俺も材木座も、戸部も海老名さんも、皆無事に修学旅行を終えられた。何も気にすることなく。

上司には部下を守る義務だってあるはずだ。それをお前は放置した。材木座が傷つく羽目になるのを、放っておいた。

お前に説教されるいわれはない。お前に人を、世界を救う資格はない。

 

それに由比ヶ浜。お前、海老名さんとも戸部とも友達なんだろ?

お前がそんなに二人が大切だと言うなら、お前が戸部を説得して告白を諦めさせるとか、他に方法はあったはずだ。

お前はそうしなかったな。所詮他力本願、誰かが何とかしてくれると思っているのだ。

それならそれでいい、だから引っ込んでいてくれ。

 

(じき消灯だぞ?さっさと部屋に戻ったらどうだ)

 

俺は二人にそう返し、そして、

 

(・・・お釣りは返しておく。貸し借りをうやむやにしたままじゃ友人にはなれないからな)

 

材木座に、静かにそう告げる。

黙って下を向いたままだったが、言葉は聞こえていたと思う。

 

こっちだって同じなんだ。

お前が傷つくのは見たくないんだ。

 

―――どうやらその真意は、届かなかったようだが。

 

 

「奉仕部を抜けるだと?」

 

「ええ。あそこにいても俺の性根は変わりません。むしろ逆効果です」

 

生徒指導室。今日は平塚先生に退部届を持ってきた。

もうあの場所に俺の居場所はない。居る必要もない。

 

「それが許されると思ってるのか?」

 

「奉仕活動をやれっていうなら、あそこにいなくてもできますから。

何て言うんですかね、フリーランスになりたいというか、独立心が湧いてきたんですよ」

 

「要はまた一人で呑気に過ごしたいということだろう?そんな甘えは―――」

 

ハイ、その幻想ってか根性論をぶち壊す。

 

 

「もし認められないというなら、所定の場所以外での―――それも未成年の生徒の前での喫煙行為。

そして意思を無視した部活動への強制入部。その他にも体罰、職務怠慢、色々やってますよね?

そのことを教育委員会に訴えようと思うんですが」

 

 

「・・・!」

 

詰んだな。

特に喫煙なんて、よく今まで学校が見逃していたと思う。下手すりゃ根性焼きでもするつもりだったのかって、体罰を疑われてもおかしくない。

学校全体の責任になる。流石に教育委員会のお偉いさんだって動かざるを得ないだろう。

 

そしてあんたは、材木座が今まで笑い者にされ・・・つまりいじめられているに等しい状態だったのを放置した。

それが一番の罪だ。今は俺が笑い者にされているせいで隠れているがな。

 

「ここでクビになったら困りますよね?結婚どころか、明日から食っていけなくなると思うんですが。

たかが部活の退部を許さない程度でこんなことになったら恥ずかしいでしょ?

・・・もし許可して頂けるなら、このことは公にしないでおきますよ」

 

悪魔の契約。

さあ先生、どうする?

 

「・・・いいだろう。退部届は受理する」

 

「賢明な選択ですね。教師としての倫理観には欠けてますが」

 

「・・・・」

 

「ああ、それともう一つ。

もし由比ヶ浜や雪ノ下が材木座に辛く当たるようなことがあったら、責任もって止めてください。

いじめはダメ、ゼッタイ。この標語、前に全校集会で校長が言ってましたっけ。・・・頼みますよ」

 

どう考えても覚せい剤とか薬物乱用のそれのパクリにしか聞こえないし、どうせ本気じゃないんだろうがな。

それでもボスの口にした言葉である以上、下っ端もそれを守る義務というのはあるはずだ。ちゃんと果たしてもらおう。

 

「・・・分かった」

 

「それじゃ、俺は失礼させていただきます」

 

外へ出ると、空気が清々しい。いかに中がタバコ臭かったか分かる。

やっぱり喫煙のことは一度訴えてみるか?

 

まあ、あの場所から解放されたのだから、今は気にすることもない。

何より材木座の件はこれで解決した・・・もうあいつが誰かからバカにされることは、当分ないんだ。

その代わり俺が笑い者になったが。あいつはそのことを気にしているかもしれない。

 

だが、これでいい。

 

材木座、許してくれ。そして、ありがとう。

お前は俺よりもずっと、心の優しい奴なんだ。どうかそのままでいてくれ。くれぐれも自分を傷つける真似はするなよ、俺のように。

そしていつか、お前が"本物"を掴めるよう、ささやかながら祈っておくよ。

 

そう書き綴った手紙を、そっと材木座の靴箱に入れておく。

 

 

俺も、もう一度、"本物"とやらを信じてみることにしよう。

 



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世界がまちがってるのは、どう考えても私のせいじゃない。

奉仕部に入部させられた川崎沙希。
もし、こうなっていたら・・・。

久々の投稿はサキサキ編です。改変多いです。
八幡?誰それ知らないなぁ(棒)
なんかキャラもおかしい(気がする)し、僕、俺ガイルファン失格?
材木座、戸塚天使の次に好きなキャラなんだけども。実のところ。

それとまた前後分割、になりそう。なるかもしれない。
後編の執筆は大分かかりそうですが、ちょいと待っていただければと。


それと最後に。
ssにいろはすを登場させようとすると迷走してしまう僕に愛の手を(汗)








「そういう訳だ、川崎。奉仕部に入って君の生活態度を改めてもらおう」

 

・・・何、それ。意味分かんないんだけど?

 

思わずそう毒づきそうになったが、それはどうにか堪えた。

この先生の中では、私は"バイトにうつつを抜かして遊び惚け、勉強サボってるヤンキー"になっているらしい。

暴言なんて吐いたら相手の思うツボだ。

 

両親が離婚して以来、私の家庭は一気に家計が苦しくなった。

母さんがパートを掛け持ちしてどうにか食べていける、その程度。となると、私の学費は自分自身で稼がなくてはならなくなった。

大学は新聞奨学金とかでどうにかするとして、当面は塾の月謝をどうにかしなくてはいけない。だからバイトを始めた。

平日は、塾が終わったあとに夜のレストランで。土日は家庭教師。それで月謝を払って、残ったわずかな額は貯金に回した。

遊びに使うお金なんてない。もし奨学金を取れなかったら、もし母さんが働けなくなったら、私の貯金が一家の生命線になるかもしれないのだ。

 

正直、バイトと学業の両立はしんどかった。母さんや大志たちが自分に申し訳なさそうな態度を取っているのも辛かった。

でもこれも将来のためだ。バイトだってやってはいけないことをしているわけではない。

だから今は堪えて―――そう思っていた矢先に、これだ。

 

担任からの呼び出し。生活指導担当も兼ねている先生の命令を無下にするわけにもいかない。

渋々応じる羽目になった。

 

「・・・確かに、最近はずっと始業ギリギリに登校してますけど。でも遅刻はしてないじゃないですか」

 

「ああ、だがギリギリに登校しているのは君だけだぞ?正直、生活が乱れているとしか思えん。

小遣い稼ぎもいいが、学生の本分を忘れてはいないかね?」

 

忘れてる訳ないでしょ。

スキマ時間だなんてよくいうけど、こっちがどんだけ必死で時間見つけて勉強してると思ってんの。

成績が大幅ダウンしてるならそう言われても仕方ないかもしれない。でも今のところ高水準でキープしている。

 

大体他にも成績の悪い奴とか、やたら髪とか染めて生活態度の悪そうな奴だっているのに。

なんで私だけ目を付けられるわけ?この人、普段はやる気なさそうなくせに、変な所でいちいち細かい。

だからいつまで経っても結婚できないで生徒相手に愚痴吐く羽目になるんだ。授業の途中でいちいち脱線するのは本当に勘弁してほしい。

 

「それに私、妹が保育園に入ってるんで、学校が終わったら迎えに行かなきゃいけないんですけど。

部活なんて無理です」

 

「なら1時間早く、5時に帰ればいい。君もその時間までは図書館にいるだろう?

調べはついてる、嘘も誤魔化しも甘えも許さんぞ」

 

「ッ、私は嘘なんて・・・!」

 

「異論も反論も許さん。分かったら大人しく部室まで付いてこい」

 

 

・・・ふざけんなっ!

 

 

そうキレられたら、どんなに良かっただろうか。

でも、私の中の理性がやめろと何度も警告を発する。ここでキレたら終わりだとも。

必死で怒りを抑え込み、担任の後ろに付いていくことを選ぶ。

 

こうして私は、奉仕部という不可解な部活に入ることになったのだった。

 

 

飢えた者に魚の釣り方を教える。そして、世界の誤りを変える。

如何にもな偉ぶった態度で、その女―――雪ノ下雪乃は言った。

 

一言でいうと、アンタ馬鹿なの?・・・と言うのは流石にアレなので、少々の皮肉に留めておく。

 

「悪いけど、宗教勧誘なら私は間に合ってるよ」

 

「一方的なレッテル張り、実に結構よ。貴方も俗物だということがよく理解できたから」

 

いや、どう考えてもあんたがおかしい。

こんなちっぽけな部活の部長如きが、世界を変える?危ないカルト宗教の思想そのものだ。

なんで学校も放置してるんだか。

 

こんなのとやり合っても仕方ないので、無視して勉強を始めることにした。

おかしい奴と関わってるとこっちも毒される。

 

「がり勉だなんて、随分と効率の悪い方法ね。そんなやり方では成績向上なんて望めないわ」

 

「流石学年一位の人は余裕だね、私は馬鹿だからがり勉するぐらいじゃないといけないの。

分かったらいちいち話しかけないでくれる?」

 

「そうもいかないわ。平塚先生曰く、貴方は誰とも話したりしないそうね。

だから孤独に苛まれて生活も乱れているのよ」

 

あの担任、そんなことまで調べてこいつに教えてる訳?こっちにもプライバシーがあるのに何を勝手にやってるんだ。

それに私は遊んでる暇がないから、学校では友達を作っていないだけ。一応バイト先にそこそこ仲のいい年上の先輩はいる。

大体独りぼっちなのを寂しがってたら、とうの昔に不登校児だ。知ったかぶりで偉そうに言うのはやめてほしい。

 

「・・・だから私に、アンタの悪口をぶつけられるサンドバッグになれっての?ふざけんじゃないよ」

 

「あら、いきなり恫喝だなんて、俗物は忍耐も知らないのね」

 

「アンタこそやたら人に喧嘩吹っ掛けたがる態度、どうにかしなよ」

 

それから5時まで、ずっとこの調子。

お互い相手をひたすら罵倒し、こっちは勉強もできず、得た物はストレスだけ。実に無駄な時間。

 

そしてもう一つ分かったのは、雪ノ下と私は永遠に分かり合えないということだ。

 

 

「そういう言い方、やめてもらえるかしら。自分の駄目さを肯定しているだけよ、酷く不愉快だわ」

 

「・・・私っ・・・そんな、つもりじゃ・・・!」

 

・・・まただよ。

なんで言い方をもっと優しくできないんだか。

 

部活に入って1週間、依頼人がやってきた。

私と同じクラスの由比ヶ浜結衣。私が部室に居るのを知るとやたら大騒ぎした。

こっちだって好きで入ってるわけじゃない、癪に障るからギャーギャー騒ぐのはやめてよ。

 

で、由比ヶ浜の依頼は"お礼の品にクッキーを作りたい"というもの。

レシピをネットで検索すれば?と言ったら、上手くいかないから教えて欲しいと返す。

たかがクッキーぐらい、ちょっと練習すればそこそこのはできるのに・・・。

・・・と思って作らせてみたら、ただの木炭が出来上がった。明らかに火加減を間違えている。

それ以前に入れてはいけない調味料を混ぜたりと、色々と料理を舐めているとしか思えない。

そこでもう一度作り直させようとした時、由比ヶ浜が私才能ないから~とボヤいた。それに雪ノ下が噛みついて、今の事態になっている。

 

確かに教えている側としてはムカつかないでもないけど、私だって本気で付き合っているわけではない。

冗談半分で言っているのはすぐ分かったし、別段どうでもよかった。さっさと依頼を済ませて帰りたい。

それが、雪ノ下の説教のせいで長引くことになりそうだ。由比ヶ浜も泣き止む気配がない。

 

ああ、めんどくさい。

 

「・・・ほら、いい加減落ち着きなよ。

雪ノ下はこういう性格だから、いちいち真に受けてたらクッキーなんて出来上がんないよ」

 

「・・・でも、私・・・」

 

「べそ掻くぐらいなら、意地を張りな。こんな奴にぼろくそ言われてたまるかってね」

 

「・・・うん」

 

そこでようやく泣くのを止め、由比ヶ浜は料理を再開する。

今度は最初からきっちりと指導し、最後は由比ヶ浜もきちんと手順を守って調理し、完成品は最初の木炭より格段に進歩した。

 

「それで満足?」

 

「・・・うんっ!これなら相手にも喜んでもらえるよ、ありがとねサキサキ!」

 

・・・なんで渾名付けられてるんだか。別に私とアンタは友達じゃないんだけど。

 

まあ、これで依頼は終わったんだし、私も帰ろう。

 

「・・・待ちなさい。さっきの言葉はどういうつもりかしら」

 

「は?」

 

またか。

ホントにこいつ、何かの病気?自分以外の人間すべてが敵とでも思ってんの?

 

「何なの?由比ヶ浜さんはクッキーの出来に満足してたんだし、依頼はこれで解決でしょ」

 

「あれで解決だなんて・・・冗談じゃないわ。

彼女には真摯さが欠けている、自分の弱さも欠点も改善しようともしない。あんなものは逃げよ」

 

「普通の人間なんてそんなもんじゃないの?第一、たかが高校生でしょ。

一応最後は自分の力で完成させたんだから、少しは彼女も成長したと思うけど」

 

仕事でやってるわけじゃないのに、そこまで入れ込む理由が分からない。

ちょっと人から頼まれごとをされた程度で、ここまで神様みたく偉そうにする理由も。

 

世界を変える前に、まず自分が変わったら?

そう言いたかったけど、どうせ逆ギレされて無駄に時間を使うだけだ。ここは諦めて帰ろう。

 

「道徳論議は授業でやれば?私は妹迎えに行かなきゃいけないから、もう帰るよ」

 

「許可した覚えはないわよ、勝手に帰るなんて―――」

 

「平塚先生には5時に帰っていいって言われてるから。じゃあね」

 

そこで強引に打ち切って、家庭科室を出た。

あの担任、人の交友関係なんて教えるなら家庭事情のこともきちんと教えておけっての。

結局はいい加減な人なのだ、遅刻ギリギリに登校するのは咎める癖に。だから結婚できないんだよ。

 

こっそり持ってきたクッキーを齧って、甘さを噛みしめながら思う。

人生は、こんなクッキーみたく甘くない。なら、たまには甘えたって、逃げたっていいんじゃないかって。

なんで雪ノ下は、そういう生き方を肯定できないんだろう。

 

結局は、分かり合えない人同士はどうやったって分かり合えないのだ。

そういうめんどくさい人間関係はさっさと切るに限る。それができないのが辛いところだけど。

 

その時、私のスマホが鳴った。京華の保育園からだ。

早く迎えに来てねー、多分そんなところだろうか。

 

「・・・可愛い妹のために、もうひと踏ん張りしますか」

 

大切に思う人がいるなら、人は頑張れる。

その教訓を思い出し、尻を叩いて、学校を後にした。

 

 



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