真・恋姫✝無双~とある男のそれなりに不幸な人生~ (世紀末敗者寸前)
しおりを挟む

~プロローグ~

~プロローグ~

 

♂(おっす)、俺は草薙咲夜っていうごく平凡な一般人だったんだ。

まあいくつか平凡とはかけ離れたことあるけどさ。

例えば運動能力とか…知能とか…。

どうにもうちの家系は時折、俺みたいなやつが生まれてくるらしい。

実際に俺の爺ちゃんもこんな感じだったらしい。

例としてあげると、戦車を木刀のみで潰したとか…。

北海道から沖縄まで遠泳したことがあるとか…。

でもそれはそこまで酷くないよ?

精々、素手でダンプカーふっ飛ばした位。

まあ…俺はとある剣術道場の師範代をやってたんだけど、22になってから不治の病にかかってそれから3年間、病院に通いながら後継者を育てて、雪の降るクリスマスの中、病が急に悪化してそのまま永眠した…そのはずだ。

 

 

だけど俺が次に目が覚めた時、目の前には変な格好した女の人がいた。

ボンテージに背中からはね生えてるんだよ?

変態痴女としか言いようがないよな。

これ…。

 

 

 

 

「…どちら様ですか? それからここはどこですか?」

『ここは死んだ者の集う場所、私はここの管理者をしている山田と申します。』

「山田って…随分と普通な名前なんですね。」

『…言わないでください、気にしてるんですから。』

「あ、すいません。」

『コホン、貴方はこれよりあなたが先程まで生きていた世界とは異なる異世界に旅立った貰うことになりました。』

「………はい?」

『ああ、理由とかは聞かないでくださいね。私にも分からないんですから。』

「…いやそういうことじゃなくて…異なる世界ってどういうこと?」

『簡単に言うと転生ですよ。貴方は新たな生を受けることが出来るというわけでして。』

「……因みに聞くけどどんな世界なの?」

『存じません、ランダムで決まるそうなので。』

「…何か嫌な予感がするなぁ。」

『とりあえずこの箱に入っている紙を三枚引いてください。』

「………何、このコンビニにおいてある様なくじ箱は。」

『良いから引いてください。』

 

 

言われるがままに引いた紙。

そこに書かれているのは

 

 

【前世の能力引き継ぎ】、【死亡フラグ回避能力】、【お気に入りの武器プレゼント】

 

 

 

「……なんぞこれ。」

『(パフパフ~~♪) おめでとうございま~~す! それにしても貴方は運が良いですね、全部当たりの物を引くなんて。』

「え゛……因みに、外れの物ってどういうものがあるんですか?」

『そうですね…【上条資質】とか【ほぼ毎日死ぬ直前まで追いつめられるけどギリギリ死なない】とか【ドクドク料理人付き人】とか…他にも。』

「…もう良いです(ひ、引かなくて良かった…)。」

『(まあ他にも当たりは【夜天の書の主】とか【魔法使い放題】とか【最恐オリ主】とか【魔王になれる権利】とかもあったんですけどね。それらの中ではこの人が引いたのは有情なものですよ。)』

「…所でいつから俺は転生すればいいの?」

『今ですよ。』

「へ?(パカッ)……パカッ? って足下が真っ黒に染まって!? (ガシッ) あ、危ない…もう少しで落ちるところだった…」

『あ~、何で落ちないんですか(ゲシゲシ)。』

「いてぇ!? け、蹴るな!! しかも何で指っ!? 痛い!! 特に小指はやめて!! 本気でいたいから!!」

『じゃあさっさと落ちてください。私は他に仕事があるんですから(ゲシッ)。』

「いてっ!!」←咄嗟に淵を掴んでいた指を放してしまった

 

 

 

 

 

「…あ」

 

 

 

 

 

 

 

「あ~~~~~~~~っ!!!!! こ、この…っ。貧乳平凡名前変態痴女めーーーーーーーー!!!」

 

 

 

咲夜は先程まで思っていたことをすべてぶちまけて落ちていった

 

 

 

 

 

「……誰が……誰が貧乳ですか!!! 私はそれなりにありますよ!!!! 胸なんて飾りなのですよ!!! 庶民にはそれが分からないのですか!!! 平凡な名前で悪かったですね!!! 私は変態でもありませんよ!!!! 仮に変態だとしても変態という名の淑女ですよ!! って言うか痴女って何ですか~~~~~~!!!」

 

 

 

それから暫くの間、管理所で暴れる変な格好の女性がいたとか居ないとか…

 

 

 

 

 

それから暫くして…

咲夜が目覚めた時

 

 

 

 

咲夜は赤ん坊になっていた

 

しかも周りは火の海

 

 

 

 

(・3・)あっれぇ~、何これ?

 

 

俺何で赤ん坊なのかは一応だけど何となく分かる

転生したてだからなのだろうな…

 

 

でもさ、気付いたら周りが火の海ってどうよ?

あ~、あちぃ

でも逃げらんねぇなぁ

何せこの体、生まれたばかりみたいだから上手く動かないし…

 

 

あ~、死んだなぁ俺

 

 

 

ガランっ…

 

 

 

「っ…ぶ、無事だったか」

「だぁ?(誰?)」

「よ、良かった…城が攻められているという知らせを聞いてまさかとは思ったが…」

 

 

 

そう言いながら俺はその声の主に抱きかかえられた

ふとその人の顔を見ると凄く綺麗な女性だった

大体20歳位か?

それにしても気になる単語があった

 

 

 

城が攻められている?

ここって城なの?

 

 

 

「…兎に角、叔父のいる樊城に行くしかないか。あの人とも約束したしな」

 

そう言いながら女性は凄まじいスピードでその場から離脱して行った

俺はというと…

 

 

「ZZZ…」

 

 

赤ん坊のため疲れて眠ってしまった

 

 

 

 

 

 

それからまた暫く経って目が覚めてから俺は劉泌と名乗っている人物の元に居た

その傍らには羅侯寇氏夫人を名乗る女性

この女性は俺を助けてくれた人だ

 

 

 

その二人の話からするに俺は元々羅侯寇氏と言う人の元で生まれたらしいが、その人が戦で亡くなり落城寸前に夫人に助けられ城を脱出し、叔父である劉泌のいる樊城に逃げ込んできたということらしい

そんなこともあってか寇の名を名乗るのは悪いということで、俺の名は劉封ということになった

 

 

 

 

…あれ?劉封って…三国志時代の人物名!?

 

しかも何かネットとかでは不幸将軍とか悲劇の将軍って言われてる人じゃん!?!

 

 

これって憑依&転生だよね!?

 

 

 

あの平凡な名前の変態痴女!!!

マジでふざけんなぁ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

なんてことを思いながらも月日はどんどんと過ぎていく

 

 

そんな中、俺は決めたことがいくつかあった

どうやらあの変態痴女の言った通り、前世の運動能力は引き継いでるみたいだ

生まれた頃から力が強くてコントロールと言うか…制御が大変だった

5歳になってからはようやく制御が完璧になってそれから剣術を学び直して…

7歳になってからはそれもほぼ前世と同じ位に戻った

 

これからもっと精進して行けばまだまだ強くなれるだろう

 

 

この世界では男よりも女性の方が力が強いそうだ

どうやら俺の知っている三国志の知識とは異なるパラレルワールドだというのは良く分かった

だってさ、この前的盧を見つけたんだけどさ…

 

 

馬じゃなくて猫なんだよ!?

もうびっくりを通りこして心臓止まるかと思ったよ!!

しかも俺に懐いてきたから驚いた…

まあとりあえず叔父さんからも許可貰ったし、飼うことにしたんだけどね

 

 

的盧のままだと可哀想なので、渚って言う名前付けてあげたら凄く気に入ってくれたようだ

 

 

 

っと、話が逸れたな

それからあの変態(以下略)が言ってた気にいった武器進呈だったけど…

 

 

この前、叔父さんから言われて武器を作って貰えということで鍛冶屋にいって俺の考案した者を作ってもらった

 

前世でも使っていた脇差を二本

そして、ハルバードを一本

ただし、このハルバードはこの世界の通常の兵士が使うものよりも何倍も重く作られている

脇差の方もかなり頑丈な作りになっているため重さも尋常ではない

 

 

だが俺は軽々と持ち上げている

って言うかこれ位の重さでないと俺の腕力に耐えられないと思ったため、これ位が丁度いいのである

叔父も担当した鍛冶屋の親父もびっくりしたたけどね

後でお金を払いに行こうとしたらもう既に一括で払われていると言われた

どうやらあの痴女が既に払ってしまったようだ

 

 

 

 

 

あ、それから文字の勉強と兵法もかなり学んだよ

まず武経七書と言われる孫子、呉子、尉繚子、六餡、三略、司馬法、李衛公問対

 

他にも兵法三十六計、兵法二十四編、心書、百戦奇略などなど

 

 

叔父に頼んでかなりの量の書を読み漁った

 

9歳になった頃にはもうそれらをすげて読み終えていた

やっぱり前世の能力引き継ぎは運が良かったみたいだ

元々昔から物覚えは良かったからな

加えて昔調べたことによると劉封もそれなりに頭もよかったし、武力もあったみたいだからそれが関係してるのかもしれないな

 

 

こうして10歳になった頃には叔父曰く、どこに行かせても恥ずかしくない位に一人前の武将になれる器になれた

 

 

そして決めたことはというと…

1. 劉備玄徳に会わないこと

2. もしあったとしても絶対に仲間にならないこと

3. 武官よりも文官になる

4. 曹操や孫権にも仕えない

5. とりあえず旅には出よう

 

 

 

 

以上である

 

劉備玄徳に会いたくないのはこの劉封…まあつまり俺の持ってる知識だと……

劉備と関わって最後は処刑されるからである

 

この世界がそれと全く同じ展開になるとは思ってはいないのだが…

流石に処刑なんて言う最期は御免であるから、可能性は潰していきたい

後、諸葛亮とか関羽、張飛にも会いたくないね

孟達なんて絶対にいや

故に…俺は劉備とはあまり関わりたくないのである

 

 

まあもし会ってしまったとしても…偶然会った仲の一人であるようにしようと思っている

 

 

次に文官になりたいわけだけど…

流石に前世では人を殺したことがないため、殺し殺されなんていうことは御免である

自分の命が危うくなれば別なのだろうが…それ以外の殺しはしたくなどない

だからこそ、今まで勉強してきたことが役に立つことがやりたいのである

 

 

曹操と孫権に仕えたくないのは…まあ何となくである

有名どころは何かと危うい感じがするので…

 

 

最後に旅に出ようというのは見聞を広めたいからである

今、俺は樊城に殆ど籠っているため、外の世界は密偵の人や町の人たちから聞いたことでしか知らない

前世では俺は旅が大好きだったので、そのせいか好奇心が疼くのである

 

 

だから旅に出たいと叔父に頼んでみた

 

すると叔父は

 

 

「今度、賊がいるという砦を攻める。その戦にお前が参加し、一人で外に出ても大丈夫だと言える実力があると皆が認めれば良いぞ」

 

 

その時思った

 

 

―――悪いね賊徒さん達、俺の夢の為に散ってくれ

 

 

 

 

後日、わずか2時間で3,000の賊徒は討ち尽くされた

それも殆どが一人の子供によってやられて…

 

 

 

 

性を劉、名を封、真名は咲夜

転生者である彼の一人旅が始まった

 

 

因みに猫の的盧は城においてきた

流石に武者修行も並行しようと考えていたため、そんな旅に連れて行きたくなかったのだ

 

 

 

旅の中色々な場所に行った

中国内だと長沙、零陵、幽州、益州、それから南蛮にも行ってきた

それが終わった後は日本は勿論のこと(当時は倭国だけどね)、海を渡って様々な場所を渡り歩いた

因みに船は俺が造船技術者に最先端の造船術渡して作らせた

そこの人たち驚いてたけどね

 

 

 

 

 

 

それから幾年か経った後、俺は樊城に戻っていった

その頃には立派な青年となり、巷では【深紅の鎧を着た正義の使者】なんて言われているようだ

 

 

う~ん…そんなに大したことはしてないんだけどなぁ

ただ単に俺に突っかかってきた賊徒か人攫いとかを潰して捕まってた人助けたり、お金がなくて困ってた時に傭兵として働いたり、前世の記憶使って最先端の技術提供したりしただけなんだけど……

 

 

 

 

 

 

あれ?

 

 

 

 

俺、やり過ぎ?

 

 

因みに…樊城に劉封舞戻るという知らせが周りに伝わると我先にと見物に来た人たちが沢山いた…

 

 

ちょっと気になったけど、別にちょっかい掛けられたわけではないし…まあいいか

 

 

 

そう思っていた

 

 

 

翌日、叔父さんに呼び出され何処かに仕える予定があるのかと聞かれた

 

俺は正直に…

 

 

 

 

「俺はそういうのは興味ありません。この樊城を守る、一人の将として置いてくれませんか?」

 

 

と頼んだ

 

叔父さんは喜んでくれたようだった

 

どうにもこの樊城は今、有能な武官も文官も不足しているそうだ

だが何故か俺は叔父さんに頼まれてこの樊城の新しい太守となることになり、新たな統治を始めることにした

どうにも叔父さんだと政務がいつも滞りがちで誰か代わりに太守になれる器を今まで探していたそうだ

 

 

 

 

朝廷にもその旨を伝え終えると俺は直ぐに行動を開始した

 

まず始めたのは農業改革と富国強兵、それから新たな産業の開発などなど

今後大いに役立つことを始めた

言いにくいことだが、この樊城はそこまで裕福な場所ではなく、そう言ったことには限りがあったのだが…

 

とりあえず俺の持ってる知識と立地条件を最大限に利用して…

 

 

結果…

 

 

 

 

 

無茶苦茶裕福な土地になっていた

 

 

 

何でさ

 

 

 

 

何か知らないけど、偶然良質に出来あがった肥料とか後は大概の土地でも成長する芋とかをメインに育てたり、二毛作を実施したり、お米や麦の値段をコントロールしつつ、特産物といえる品をどんどん作っていった

その中でも一番人気が出たのは…ビールでした

 

どうにもこの世界…お酒がかなり好まれて飲まれているようです

他にも日本酒とかの製造方法とかも知っていたので作ってみたら大評判でした

 

他の地域にもこの特産物を欲しいという人たちがいたので売ったらすべてが高額で売れたようで…

しかも作り方を教えて欲しいという人たちまでいた…

 

最初は断っていたけど、製造ラインが一定を越えた後に教えてあげるようにした

 

 

 

他にも軍のための保存食などの問題や衛生問題、街並みの問題も直ぐに解決することにした

 

保存食にベーコンやハム、他にも日持ちのする食べ物や新しい調理法を町の人たちに伝授したり…

 

 

あと一番変えたのはやっぱりラーメンだね♪

 

 

 

前世の頃はラーメン巡りとかしてて、結構ラーメンには五月蠅かったから…

俺が持てるだけの知識と新メニューなどをラーメン屋に教えたら、それから約半年後にはどこに出しても恥ずかしくない位に大きくなっていた

 

 

 

そこにはよく叔父さんと一緒に食べに行っている

その際に、いつも店主に感謝されているのだが…

 

 

「ここまでお店が大きくなったのは店長さんの努力の賜物ですよ。俺はただ知っていることと新しいラーメンの考えを提供しただけですよ」

 

 

と言うと、何故か店長が泣きだし、周りはどんちゃん騒ぎを始める

 

 

 

何でさ

 

 

 

 

一番大きく変えたのは軍部だね

俺は俺を慕って命を張ってくれる人たちを無駄に死なせたくない

そのために、軍部の訓練や城の装備、武器などには金も時間も惜しまないことにした

 

 

とりあえず城壁にはこの時代、まだ開発されていないであろう連弩を常備させ、兵たちには1VS1と1VS複数の訓練をさせている

 

 

俺も時間を開けては訓練に同伴し、彼等の状態を確認したりしている

それから軍部に医療班という組織を作り上げ、兵士さんたちの生存率を少しでも上げるようにした

後は隠密と密偵部隊

密偵の方は主に情報収集を

隠密はやっていることは密偵と同じなのだが、時には黒い仕事もやってもらうことにしている

敢えて言うのなら…暗殺

 

悔しいが、世の中には法や倫理で縛ることの出来ない輩もいる

そう言った輩に俺の守りたい人たちがいるため、そう言った時はやむを得ずにこういった姑息な手段も取れるように対策を取っている

 

 

それにこの戦国の世の中だと情報は命よりも大事な時が多い

そのため、情報は常に新しいものを仕入れられる様にしている

 

 

 

後…おまけで言うのなら樊城の周りにいくつかの武装化も出来る農村を作り上げ、その中の一つは孤児院のような役割も果たすようにした

 

 

これは俺の自己満足だけど、戦争を引き起こしてしまっている立場としては少しでも罪滅ぼしがしたい

そう思って俺は9割を慈悲で割を叔父さんから援助してもらって、人を雇って戦争で家族を失った人や家族にすてられていた子供達をここで育てている

 

 

 

勿論、そのためのお金は自分の給料だけでは足りなかったので何か自分で稼ぐ方法を探そうと思って思いついたのは…

 

 

そうだ、もっと娯楽を作ろうじゃないか!!!

 

 

そう考え、一番に作成したのは今まで俺が読んできた本をこの国の言葉に訳し、出版することであった

勿論、心の中では作者様御免なさいと謝ったけど

 

 

記念すべき第一作目が【相棒】だった

これは俺が前世でも大好きだった本でもあり、ドラマでもあったため直ぐに書き終え、一般公開した

すると俺自身の知名度もあってか、一日で直ぐに売り切れた

しかも内容がかなり面白いという評価も受けたため、第二、第三と次々と新作を書いていった

流石に自分だけだと書ききれない為、50人の文官の希望者を日当で雇い、手伝ってもらうことにした

しかし、ここで問題が…

何と、この樊城の文官の殆どが俺の小説を好きだと言ってくれたのだ

そのため、選別には時間がかかった…

その後、選ばれなかった人たちには次回作で手伝ってもらうことを約束して納得してもらった

 

 

 

第二作目は【君が望む永遠】の原作にちょっと手を加えたものである

この世界で学生だと言われても実感が湧かないので、文官と置き換えた

後、自動車の事故は戦争に巻き込まれてしまい、医療班によって救われたものの、直ぐには目が覚めず幾時かの時間が経ってから目覚めるという設定に変えた

 

最後は個人的理由で遥と結ばれるというエンドにしたけど…

 

この恋愛小説は女性の間でかなりの指示を得ることになった

 

 

 

第三作目は【水戸黄門】の私的改変小説である

 

正直言うとこれはかなり書きやすかった

この世界の設定と似たような点があるから変える必要のある個所は殆どなかったし

 

 

最新作は【仮面騎士】

仮面を被った正義の味方が立派な馬に乗って登場し、人々を苦しめる悪の組織を討ち滅ぼしていくのだが、その正体は元、その組織の幹部である

そのことを人々に知られてしまい、煙たがられるのだが自身のやりたいことを貫きとおし戦っていくという話である

 

そう、元ネタは仮面ライダーです

これもかなり人気が出ました

実際に絵が描ける人に書くのを手伝って貰い、公開したらかなりの行列が出来た位です

 

 

あれには驚きました

しかもその絵を買い取りたいという資産家の人たちが大勢押し掛けてきたりしたんですから…

流石にそれは出来ないので、全部お断りしましたけど

 

 

その後はやっぱり絵本を作りましたね

子供だけでも読める本って言うのはこの時代、あまり見掛けなかったものですから

 

 

子供のいる家にはかなりの好評を受けましたね

 

 

感謝の御手紙も貰いました

 

 

入ったお金は一定の金額に減るまで使って市場に流すようにしてます

お金は溜めるものではなく、使う物なのですよ

 

 

 

そのせいか更に樊城付近は裕福になっていった

 

 

もう何か色々と諦めがついたのでとりあえず目標を立ててみた

 

 

【目指せ! 天下の台所!!】

って感じです



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話

…どうしよう

 

 

 

そう自室で悩んでいる劉封こと咲夜である

 

 

何故彼がここまで悩んでいるのかというとそれは今日、彼の元に届いた幾通かの手紙が原因である

 

ただの手紙であるのなら彼とてこうも悩んだりしない

 

 

だがその送り主が問題だった

 

 

 

彼が持っている手紙は二通

 

 

送り主の名はそれぞれ…

 

 

 

曹操孟徳、そして孫堅文台であった

 

 

曹操の方は

 

 

――1度あなたと話してみたかったのよ

 

 

孫堅の方は

 

 

――お主の新たな酒お陰で楽しんでいる所だ。是非直接礼を言わせてくれ

 

 

 

「……曹操はまあ利が通っているというか…曹操らしいっていうのは良く分かるけど。孫堅はねぇ…これはねぇよ。何これ? 酒の礼で太守同士会いたいって…」

 

 

でもこれは断りにくいなぁ…

曹操のいる陳留も孫堅のいる長沙もこの樊城から結構近い位置だし…

 

 

ハァ…会うしかないか

 

 

出来れば何事もなく終わってくれると有難いんだけどさ

 

 

 

「あら、そんな顔をなさってどうかされたのですか、咲夜様」

「あ、紫苑」

「咲夜様、皆が心配なさってましたぞ」

「焔耶もいたのか」

 

 

 

この二人は黄忠と魏延

黄忠は元々長沙から、魏延は荊州から来た優将である

少し前にこの樊城に訪れて来て是非、こちらで使えたいという希望をした為こちらもそれを望み、今では重要な役割を二人には担って貰っている

真名も既に交換済みである

 

 

「それで理由を教えていただけますか?」

「ああ、実は…」

 

 

咲夜は二人に自分の悩みを話した

 

 

 

「…成程、ですがどうしてそのお二人とお会いになるだけなのにそこまで?」

「密偵からの情報によると曹孟徳はどうやら同性愛好者な上に有能な人材を欲しているらしい。悪いことにうちには紫苑や焔耶もそうだけど結構曹操の好きそうな女性も多いし、そのほとんどが有能でしょ? だから下手に興味を持たれても困るんだよ」

「ふむ、良く分からないのだが???」

「まあつまり曹操がこの土地と人材を求めて攻め入ってくる可能性もあるってこと」

「なんだ、それならば望むところではないか!」

「……焔耶? それ、本気で言ってるのか?」

「え…」

 

 

その刹那、咲夜から異常なほどの殺気が焔耶に向かって放たれた

それは武官であり、殺気を浴びることに慣れているであろう魏延文長を固めさせるほどに濃厚且つ、隣に居る紫苑には全く感じさせないほどの精密性を持っている殺気をだ

 

そのため、焔耶は動くことが出来ずにいた

目の前に居る劉封が放つ殺気によって動いたら殺されると本能的に悟ったからである

 

 

 

「前にも言ったけど、俺は無駄な血を流すことは好まないし、戦で俺の大切な民達を傷つけることもしたくない。もし、焔耶が今の言葉を本気で言っていたのなら…俺は正直、君を許さないよ?」

「う…も、申し訳ありません……」

「あらあら。咲夜様も焔耶ちゃんも少し落ち着いて下さい」

「…スマン、いい過ぎた」

「いや、私こそ…考え無しに物を言って…」

「いや、分かってくれたのならそれでいい」

「で、咲夜様。孫文台の方は?」

「…あちらは全く糸が掴めない。とりあえず会って何が目的か調べないことにはどうしようもないだろう。焔耶とシオン、悪いんだけど麻理と秋葉、それから杏を呼んできてもらえないかな? このことを皆にも意見を聞きたいからね」

「承知しました」

「分かりました」

 

 

二人が部屋を出ていくと、咲夜は一人溜息をついた

そして二人が戻ってくるまでの間に仕事を片付けてしまおうと思い、次の竹簡に目を通すことにした

 

 

 

 

 

それから暫くして…

 

 

 

「ふぅ~~~、何とか終わったか」

 

咲夜は一息つき、鈴を鳴らして付き人を呼ぶとお茶の用意を頼み、そのまま次の自身の仕事に取り掛かった

それは小説の下書きである

これまでに咲夜は約10作品の小説と15作品の絵本を作り上げた

 

どれもこれもが人気作品となり、朝廷や宦官は勿論のこと、それなりに裕福な一般家庭にも絶賛されている位である

 

だがそれは樊城外の話であり、この樊城では一般家庭でも咲夜の小説は最低一冊は家におかれるようになっている

 

樊城の一般の民の生活水準が他に比べて高いからである

この時代、紙と言うのは貴重であるが故に高いのだが、咲夜はその問題を完全に解決し、竹簡と紙の二つで書きあげていた

 

竹簡に書いたのは貧しい家庭にも自分の書いたものを読んでもらいたいが為である

紙と比べると読み難いのだが、コスト上の問題は解決されているため、今まで本が読めなかった物でも読めるようになっている

 

 

加えて言うのであれば、この時代は文字が読み書きできる者はほとんどいない

それは教養が全くと言って良いほどなかったためである

私塾やそれなりに分かりやすい解説本などもあるのだが…

大半の人はそれを全く必要としないのである

 

 

そのため、咲夜は一般の人たちに数字や文字の必要性を説き、暇があれば文字と数字を勉強するようにさせた

すると樊城の人たちは少しずつだが文字と数字を勉強することを日課にし始めた

これは咲夜が赴任して直ぐに行ったことでもあるため、今では大半の人が計算や読書が出来るようになっているのだ

そのためこの樊城で繁盛している店は鍛冶屋と料理亭に並んで本屋がかなりの額を稼いでいる

 

 

 

まあそんな咲夜の本は売上一位なため、度々本屋から催促が来たりするのだが…

 

 

 

「…ふぅ~~、とりあえず次の小説の下書きはこれでいいかな~?それにしてもこれほど人気が出るなんて…この海のリハクの目を持ってしても(略)…でも本当にこれ続けてたら何時かネタに困るかもなぁ」

 

 

 

因みに今回の新作はけい○んの三国志風改変小説

ギターとかベースとかの代わりにこの時代の楽器を持って幼き少女たちが様々な事情を抱えながらもいつか大きな舞台で演奏することを夢見て中国全土を旅しながら曲を演奏してまわるというストーリーである

 

 

まあ人気が出るかどうかは分からないけど私的にはかなり気に入ったような顔をしている咲夜だった

 

 

 

「だけどこれで楽器が流行るとかそういう傾向が出てくるのは止めて欲しいかも…」

 

 

実は以前書いた【仮面騎士】

発売して暫くしてからこの小説の登場人物たちの真似をしてまわる輩が出ていたのである

それなりに教養のある連中は余り酷くないのだが、一部では過剰な暴力や悪役のヒーローに憧れてしまい、それを真似する奴が出てきてしまったりして大変だったのだ

 

 

そのため、【仮面騎士】は咲夜の本で唯一樊城外では発行禁止となった

まあ一部では出回っているのだが

 

 

 

そのため、咲夜は弁償として騒ぎを起こした連中の被害をすべて自費で払って回ることとなってしまった

 

それから咲夜は決めた

こういった小説はもう書かないと

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

 

「ん、どうぞ。鍵は掛かっていないよ」

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「失礼します。シオンさんからお呼びだと聞きましたので」

「大将、私今日は非番なんだけどさぁ」

「秋葉!! 貴方は主君に対して何という口を…!!」

「別にいいだろう、杏。大将は気にしないっていうんだしさ。それにちゃんと公私位は区別ついてるんだし」

「そういう問題じゃないでしょう!!」

「…あ~そろそろいいかな、三人とも」

「!! も、申し訳ありません!!!」

「…気にしなくても良いからもう少し声を下げようね。ちょっと声でかいよ」

「…すいません」

「それから秋葉のことはもう俺自身が良いと許可したことなんだ。それに公の場ではしっかりとした対応を取っている。それで十分じゃないかな?」

「……そうですね、申し訳ありません」

「ふふ、気にしないで。杏は俺のことを思って言ってくれたんでしょ? だったらむしろ感謝しないとね、ありがとう杏」

「い、いえ!! 咲夜様にお礼を言っていただけるなんて/// こ、光栄です///」

「よし、じゃあ5人に集まってもらったわけを話そうかな」

「いえ、それには及びません。既に皆紫苑さんからお話しは伺っています。話を円滑に進めつつ、時間を短縮するには良いかと思ったので」

「流石、麻理だね(ナデナデ)」

「ふわわ/// あ、ありがとうござましぃ」

「なら話が早いね。君達はどうすべきだと思う?」

 

 

先程までの緩んだ顔を止め、真剣な武人として、国主としての顔をし出した咲夜

その為周りの五人も真剣な表情で咲夜の顔を見た

 

 

その中で一番に手を早く上げたのは軍師の一人、先程麻理と呼ばれた徐庶元直である

 

 

「私は今、お二人に会っておくべきだと思います。何故なら曹孟徳と孫文台。この二人はいずれ崩れゆく漢王朝の後、新たな風を作る人物の有力候補だからです」

「…麻理、あまりそのことを大声で言わない様にね」

「大丈夫ですよ、密偵さんたちはここには入って来れない様に手配してありますから」

「流石としか言いようがないな、麻理の用意周到性には」

「えへへ/// あ、そ、それでですね。このお二人に会うことの利点は二つ、一つは咲夜様自身がこのお二人と直接出会うことで咲夜様の器を見せつけることが出来ること。二つ目はこの城の最低限の情勢を見せつけ、一筋縄ではいかないという無言の圧力を掛けておくということです。今後、この二人が力を付けた後は分かりませんが、今はかなり効果的だと思われます」

「器を見せるって…俺はそんな大層な人間じゃないと思うんだけど…」

「いいえ、私も麻理ちゃんの意見に賛成しますわ」

「紫苑…」

「咲夜様は今までに見たことのない国主様です。私がこの国に仕えたのは今までに見たことのない咲夜様が考えた私たちの労働条件、賃金、そして衛生面など言いだしたら切りがないほど他の城と比べると優遇されていたからでした」

「うん、それは璃々ちゃんのためだっていうのは分かってるよ」

「それを理解したうえで咲夜様は私が仕事に出ている間、侍女の方に璃々のお世話を担当するように手配して下さいました」

「当たり前でしょう、子供は国の宝だよ? それを大切に出来ない者は国主である前に人としてどうかと思うよ?」

「だからこそです。だからこそ、私は…いえ、私達は咲夜様に仕えたいと思ったのです」

「そうですね、私も紫苑さんの考えに同感しますよ。咲夜様は私的に今までに見たことのない仁君です。もし、他の城の方々に我々の生活がいかに良いかを知れば恐らく大半の物が咲夜様にその土地を収めて欲しいと思うでしょうね」

「…杏」

 

 

 

軍師にも少し顔を出し、意見を出し合っている杏こと徐晃公明

どうやら杏も麻理と紫苑の意見に賛成派のようだ

 

 

 

 

「俺はそれに反対するかな」

 

そう言いだしたのは秋葉こと、太史慈子義である

 

 

「…どうしてか理由を教えてもらえますか?」

「俺は難しいことは良くわかんねぇけど、この樊城の繁栄振りは他の場所じゃ全くと言って良いほど見られねぇ。密偵の報告位なら細部まで見せることはねぇからさほど気を使うほどじゃねぇが、曹孟徳や孫文台みたいな頭の良い連中を国に入れてみろ。直ぐにあっちにとって有益な情報を集めて回って利用されるぞ」

「私も難しいことは分からんが…とりあえず味方でもない奴をこの国に入れるのはあまりいい気持ちじゃない」

 

 

焔耶も秋葉の意見に賛同した

この二人は曹操と孫堅を招くことに反対のようだ

 

 

 

そこまでを聞き、咲夜は暫くの間悩んだ後、決意した顔をして自身の考えを話した

 

 

 

 

「皆、考えたが少し先の未来よりも遠い未来の方が大事だ。故に俺は曹操と孫堅との会談をすることにした。ただし、秋葉の言ったことにも一理ある。だから、皆には民に情報の漏洩があるから、必要最低限こちらだけが持つ技術などの会話を避けるように忠告してきてもらいたい。それから、当日は隠密部隊を普段の倍、回してもらうように手配しておく。麻理、特別手当の分を用意してもらっておいても良いかな?」

「は、はい!! お任せくだちゃい!!」

「紫苑は重要書類をその日は後に回してもらうように文官の人たちに手配して」

「はい」

「秋葉と焔耶は武官の人たちと兵士の人たちに当日はこちらの訓練内容がばれない様に他の場所でもやっている訓練に変更してもらうようにして」

「御意」

「分かった」

「杏は警備隊の人たちと協力してさっき言ったことを」

「御意です!!」

「俺はこれから場内での案内予定とか食堂で作ってもらい料理の予定とかを作成しておくから」

 

 

 

こうして慌しくなりながらも咲夜達は自分たちの仕事をこなしながら曹操と孫堅を迎える準備をすることとなった

 

 

曹操と孫堅の二人には返礼の手紙を書き、様々なやり取りをした後、曹操は付き人に2人と500の兵を

孫堅は付き人を4人と兵300を引き連れることになった

 

 

 

まず最初に樊城に来たのは曹操

 

共に来たのは夏候惇と夏候淵と名乗っていた

 

 

…マジですか?

 

 

 

「貴方がこの樊城の太守、劉封ね。私が先日手紙をそちらに送った曹孟徳よ」

「これはどうもご丁寧に。どうぞ、長旅でお疲れでしょうし貴女方用のお部屋にご案内しましょう」

「その必要はないわ、私は直ぐにでも話をしたいのよ」

「…そうですか、分かりました。ではあなたが連れてきた部下の方々は魏文長と徐公明に任せることになります。よろしいですか?」

「ええ、構わないわ」

「ではそのように。魏延、徐晃」

「「ハッ!!」」

「二人には曹操殿の護衛の方々の世話を任せる! 決して失礼のない様に!!」

「「御意!!」」

 

 

二人に曹兵500のことを任せ、咲夜は共として紫苑と秋葉を連れ、咲夜の屋敷の応接間に案内した

 

 

その際に、やはりというか…曹操は街並みや人の顔、更には言葉の一つ一つに注意を払っているようだった

やはりこの人物は本物だなと理解した咲夜だった

 

 

 

 

屋敷に着くと、まずは軽く食事と御茶を取りながら話でもしようと咲夜が提案し、事前に用意させていた軽食を差し出した

 

 

今回はサンドウィッチにしてみた

良い小麦が手に入ったので作ってみた

結構いい具合になったと思う

 

 

 

「劉封、これは何かしら?」

「俺がこの大陸から出て、船を使って旅をした際に見つけたパンというものを使って、その中に色々な具を挟んだものです。調理法も簡単ですし、片手でも食べられるので非常に便利な食べ物なんですよ。名前は…そうですね、挟壱

さんどいち

っていうのはどうでしょうか?」

「どうでしょうかって…貴方、これを初めて作ったの?」

「いえ、幾度か食べてるんですけど名前はつけなくても良いと思ってまして」

「…まあ良いわ、じゃあ頂くわね」

 

 

パクッ×4

 

 

「Σ あら、これは…」

「う、美味い!!」

「うむ、このぱんという食べ物と中に挟まれている牛肉と野菜の組み合わせが何とも言えんな…」

「喜んでくれているようでなによりですよ」

「…ねえ、このパンという食物の技術」

「タダでは渡しません、それは当然のことでしょう?」

「ふふ、それもそうね。では貴方は私に何を望むのかしら?」

「我が領地と曹孟徳が領地との不可侵条約」

「あら、そんなことでいいのかしら?」

「俺は出来る限り戦いを避けたいと思っている。この乱世の中、こんなことは戯言に過ぎぬかもしれない。だが、最初からあきらめていては何事も成し遂げることは出来ない。だから、俺は戦を起さずに争いを止める方法を行使している」

「…そのようね、こちらの情報によると貴方の土地では殆ど争いは起こらず、他の領地から賊徒がやってきても殆ど被害を出さずにかたを付けているそうね」

「それは賊となった彼らの意見も聞いているからですよ。殺戮を目的とした賊ならば俺は一切容赦はしない。だが、食糧難やこの腐敗している大陸の情勢に反抗するために武器を取り賊となったものであるのなら俺はそのことを当人の口から直接聞きたいと思っている。一応とは言え、俺も漢の臣下になったみたいだからな。それならこの世の中の腐敗を止められない俺の力不足もあるのだから」

 

 

 

実は咲夜、先日朝廷から樊城太守兼主簿に任命された

主簿、簡単に説明すると生徒会の書記のようなものである

最初は樊城の太守としての仕事があるため辞退したいと連絡したのだが、時折で良いから手伝って欲しいと頼まれて仕方なくその任を請け負ったというわけだ

 

 

今では定期的に洛陽に訪れて朝廷の仕事を手伝っている

 

 

 

因みに殆ど俺は朝廷では一部の人間としか会っていない

理由はやはり十常侍と現大将軍の何進、そして李儒に王允、袁紹に袁術の存在があったためである

これらは皆、朝廷を我がものとしようとしている輩のため、有能なものに分類されている咲夜を何とか勧誘しようとしつこいのだ

 

 

勿論、咲夜は内心面倒だと思いながらのろりくらりとその話題を逸らしているのだが

 

 

まあそれなりに中が良いのは劉弁、劉協、董卓、賈駆、呂布、陳宮、華雄辺りだろう

 

 

っとまた頭の中が別のことを考えていたな

俺の悪い癖だなこれは

 

 

 

「まあそういうわけだ、だから俺は少しでもその朝廷の尻拭いをしようと思ってな」

「それは必要ないのじゃないかしら?」

「おれがそうしたいだけだよ」

「…なら単刀直入に聞くわ。貴方はこの漢王朝はどうなると思っているの?」

「……盛者必衰の理、この国はその末期だ。故にいずれこの大陸全土を揺るがす大乱が起こると俺は思っている」

「なら漢は滅ぶと?」

「それは仕方ないことだろうね、ここまで腐敗するのを誰も止めようとせずむしろ促進させてきたのだから」

「そうね…それを言われるとこちらも同意せざるを得ないわね」

「よく言うよ、貴方も宮仕えなのだからそれくらいは理解していただろうに」

「ふふ、何のことかしらね」

「…まあいいや、それで話はまだあるのかな?」

「ええ、この国を見て思って今確信したわ。劉封、貴方私につかないかしら?」

「……素敵なご誘いだが、断らせてもらおう」

「き、貴様―――!!! 華琳様の誘いを断るとは!!」

「春蘭、黙っていなさい。それで理由は教えていただけるのかしら?」

「…俺と貴方の往くべき道が同じではないから、かな?」

「…そうね、私は我が覇道を往くわ」

「俺は俺の我儘をこの世で貫く」

「ふふ、気にいったわ、劉封。でも覚えておきなさい? 私は自分が欲しいと思った者を諦めたことがないのよ」

「…まあそれは置いておいて、詳しいことを話しましょう」

「ええ、そうね。そちらが望むのは相互不可侵だったわよね?」

「ええ、俺は無駄に民や兵の命を危険にさらすようなことはしたくありません。故に今まで何処とも同盟を結んだりもしませんでした。彼等の目的は我が軍の技術などですからね」

「…そう、でもそれにしては貴方の所の兵はかなり強いという噂を耳にしているわよ?」

「それほど強くはないと思うんですけどね、ただ俺は生き抜くために必要な技術を皆に教えた、それだけですよ」

「…ふぅ~ん、なら私からの要求はそちらの持っている幾つかの技術提供よ」

「分かりました。では三つ、新しい技術を提供させてもらいます」

「ただし役に立たない技術は要らないわよ?」

「そんなことはしませんよ。相互不可侵を決めるのですから、そちらがこちらを信用できるようにしていきたいですからね」

「そう、なら後で詳しく教えてもらうわね」

「はい、ではそろそろ休んだ方がいいのでは? お連れの方も疲れて眠ってしまいそうですよ?」

 

 

そういうと曹操は言われたとおり、連れて来ていた夏候惇の方を見た

すると既にウトウトして今にも眠ってしまいそうだった

どうにも挟壱が気に入ったようで、満腹になるまで食べたようだ

 

 

 

「…部下の恥ずかしい姿を見せて申し訳ないわ」

「気にしなくても良いよ。それだけこちらの用意した食事を気にいってくれたんだからね」

「…華琳様、そろそろ姉者のことをしっかり寝かせてあげたいのですが」

「ああ、そうね。劉封、部屋を教えてもらえるかしら?」

「はい、分かりました。それで、皆さんは一緒の部屋が良いですか? それとも一人一人の部屋がいいですか?」

「別々でお願いするわ」

「分かりました」

 

 

 

そのまま咲夜が曹操達をそれぞれの部屋に案内した後、咲夜は一息つき自室に戻っていった

 

 

 

翌日、いつも通りの時間に目覚めた咲夜は少し気分が良いので食堂に行き、朝ご飯を作り始めた

今日のメニューは白米、お味噌汁、鮎の塩焼き、お漬物、卵とベーコン炒め

 

味噌は自分で試行錯誤しながら作ってみた

苦労はしたが、何とか作り上げることが出来たので今はこうして活用している

 

 

「ふふふ、やっぱり俺の朝食はこうでないと♪ では、いただきま~~「あら、美味しそうね」……あれ? 曹操さん、何でここにいるんですか?」

「何でって言われてもお腹がすいたから何か食べに行こうと思って貴方がつけてくれた侍女に聞いたらこの時間なら食堂で劉封が何かを作っているころだと聞いたのよ。だから少し興味が出たの」

「…そうですか」

「それで」

「ええ、構いませんよ。どうぞ」

 

そう言って咲夜は自分が食べようとした朝食をそのまま譲った

 

「口は付けていませんから」

「貴方はどうするの?」

「もう殆ど準備も終わってますし、魚とかを焼くだけなのでもう一回作りなおしますよ」

「悪いわね」

「気にしないでください」

 

 

曹操はそのまままずは味噌汁を一口

 

 

 

「Σ これは…」

「どうですか?」←鮎を焼いている

「美味しいわ、なんていう名前なの?」

「味噌汁ですよ、東方の倭という国では好まれて使われている味噌を使った汁物です」

「そう…でもこれは朝食向きね。さっぱりして美味しいわ」

「ふふ、お気に召して何よりです」

 

 

その後、夏候惇と夏候淵もその匂いにつられて食堂にやってきたため、咲夜は更に二人分の食事を作ることとなった

 

 

 

「ふぅ、御馳走様」

「美味かったぞ劉封」

「確かに…今まで食べたことのないものがあったから新鮮だったぞ」

「いえいえ、どういたしまして。それより、今日はどうしますか?」

「そうね…悪いけど、今日も泊めてもらえるかしら? 少し、城下を見て回りたいのだけれど」

「構いませんよ、では案内を付けますので。俺はこの後仕事があるので」

「悪いわね、邪魔しちゃって」

「気にしないでください」

 

 

それから咲夜は時間の空いている劉延と孫礼の二人(武官で焔耶の部下)に案内を頼むことにし、自身は仕事をするために仕事部屋に入っていった

 

 

やはりというか…今日もかなりの仕事の山だった

もうチョモランマ3倍位?いや、これはエベレストだろう

なんてくだらない脳内劇場が出来る位に酷い竹簡と木簡の山がそこにあった

 

既にその部屋で仕事をしているのはふわわ軍師こと、徐庶であった

ふわわ軍師と言うのはいつも口癖で「ふわわ」なんて言っているが故にいつの間にか定着していた

当人は最初こそ、止めて欲しいと言っていたのだが…結局止められず今に至る

 

 

他にも文官はいるのだが、その人たちは皆別室で各自、仕事を取り行っている

咲夜と麻理が一緒なのは、仕事が重要な案件ばかりで相談しつつ仕事を取り行うためであった

それくらいしないと一日の仕事が終わらないのである

 

 

 

「(さらさらっと)…これくらいかな? 麻理、この案件はこれでいいかな?」

「…はい、十分です。咲夜様、こちらの金額は?」

「あ、それは孤児院経費だね。一応、額は変わっていないと思うけど?」

「そうみたいですね。あ、でもこの孤児院収穫高、これ少し変動してます」

「本当? …あ、でもさほど悪くなったわけじゃないね。多分、初めて作物を育てる子もいたからこれ位は仕方ないんじゃないかな?」

「そうですね…ではこれはいつも通り処理しますね」

「頼むよ」

 

 

 

などというやり取りをしながらテキパキと仕事を終わらせていった

 

 

そんなやり取りを続けること幾時間…

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「失礼しますわ」

「しゃくやしゃま~♪」

 

 

 

仕事部屋に来たのは紫苑とその娘の璃々だった

 

 

 

「あれ? 紫苑に璃々ちゃん、どうしたの?」

「いえ、お二人ともそろそろご休憩なさったらどうですか? もうお昼になりますよ」

「え? あ、ふわわ!! も、もうそんな時間ですか!?」

「態々伝えに来てくれたのか」

「いえ、咲夜様と一緒にお昼でもどうかと思いまして」

「しゃくやしゃま~、いっしょにごはんたべにいこ~」

「ふふ、良いよ璃々ちゃん。どこで食べたい?」

「ら~めん~~♪」

「あらあら璃々ったら。御免なさいね、咲夜様」

「気にしなくても良いよ。子供は好きだからね」

 

 

 

それから咲夜は紫苑、麻理、璃々を連れてお気に入りのラーメン店に入った

 

そこには意外な先客がいたのだが…

 

 

 

「あら、劉封。貴方もここに来たの?」

「…曹操さん、どうしてここに?」

「どうしてって…そろそろお昼の時間だから案内をしてくれてる二人にお勧めの店を聞いたらここだっていうからね。ついさっき、注文を取った所よ」

「そうですか…まあ良いか。親父~、皆いつものね~~!!」

「おうよ、任せときな!!」

 

 

 

何だか少し騒がしい昼食になりはしたけど、咲夜はとりあえず腹を満たすことを考えた

その際、何故か紫苑や麻理が注文した餃子をあ~んとしてきたり、璃々が杏仁豆腐をあ~んして貰いたがったのでやってあげたら周りから温かい目で見られたり…

咲夜は精神的にものすごく疲れた

 

 

 

その後、再び仕事に戻る咲夜

竹簡の山が処理し終わると今度は武官の仕事を手伝いに行き、それが終わったら町の警邏の手伝いをしつつ、町の問題を見つけながら子供たちと戯れる

 

 

すべてが終わったのはもう日も完全に暮れる頃であった

 

 

咲夜は今、城壁の上に居た

酒瓶を持ちながら町の風景を眺めていた

 

 

 

時折、咲夜はこうして町を眺めている

それは咲夜が決意したことを再認識する為である

 

 

―――自分の手が届くところに居る人たちが手を伸ばしてきたら、俺はその手を掴んでやる。何があってもな…

 

 

 

この樊城は咲夜にとって大切なものを具現化したものだ

自分の守りたい物…守るべきもの、それらがすべてこの場所に会った

だからこそ、咲夜は決してそれを忘れない

 

その為にこうして町が一望できる場所に来ているのだ

 

 

 

 

だが今日は一人で町を眺められない様だが

 

 

 

 

「あら、劉封じゃないの」

「り、劉封様!?」

 

 

そこにやってきたのは、曹操と今案内を担当している杏だった

 

 

「あれ、曹操さんと杏じゃないか。こんなところに何か用で?」

「あ、あの…曹操様が一度町を一望したいということで…その…」

「成程ね。ってあれ? 夏候惇さんと夏候淵さんは?」

「…春蘭、夏候惇が昼間にはしゃぎ過ぎて今、ぐっすりと眠っているわ。秋蘭がそれに付き添っているわ」

「…いいんですか、それ?」

「仕方ないでしょ、我が陳留では見ることの出来ない娯楽や店があって私も少し羽目を外していたしね」

 

 

 

それ以降、二人の間で会話が途切れた

 

その様子を見て杏があわあわしていた

 

 

「…それで、貴方はどうしてここに居るのかしら?」

「……その前に一献どうかな?」

「…頂きましょう」

「杏、悪いけどちょっと軽く摘まめる物と追加のお酒を持ってきてもらっても良いかな?」

「は、はい!!」

 

 

逃げるように杏はその場から逃げていった

 

 

「(こくっ)あら、美味しいわね」

「うちの酒職人が精を込めて作りあげた逸品だからね」

「もう貴方の城は技術大国って呼んだ方がいいのかしらね」

「まあそれは自由にしてください」

「…それで、さっきの質問に答えてもらえるかしら?」

「ここに来た理由は…俺が力を持った理由を忘れない為さ」

「…聞かせてもらっても良いかしら?」

「……俺は以前までは羅侯寇氏の一人息子だったらしい。だが城は敵に攻められ崩壊し、俺は運よく母に助けられ、叔父である劉泌のいるこの樊城に入ってきた。俺の命はこの二人によって今がある様なものだ。それと同じように命と言うのは鎖のように何かに繋がっている物だと俺は思っている。絆、運命、偶期、それはまた一人一人違うのだがな。でもそう思うからこそ、俺はそのつながりを大事にしたいと思っている。そのつながりを守るために俺は力を得た。殺戮の為でも侵略のためでもない、この力は俺の守りたいものを守るために使う、それを忘れない為に度々こうして町の風景を眺めているんだよ」

 

 

 

そう言い終え、咲夜は一口酒を飲みほした

 

 

 

「…成程ね、貴方が噂で仁君と言われている理由が良く分かったわ。でも、貴方はそれを貫けるのかしら? この乱世の中で」

「貫いてみせる、それが俺の決意だ」

「……ふふ、益々気にいったわ。ねえ、真名を教えてもらえるかしら? 私の真名は華琳よ」

「咲夜、それが俺の真名だ」

「そう、咲夜。私はいずれ貴方を手に入れて見せるわ」

「ははは、もし俺が華琳に仕えることになったのならそれは俺の天命なのだろうな」

 

 

 

そして翌日、華琳達は樊城を去っていった

その際に、華琳と咲夜が真名を交換し合ったことが分かり、夏候惇と夏候淵が咲夜に真名を授けることとなった

 

 

 

三人が帰っていくのを確認すると、咲夜は深く溜息をついた

 

 

 

「ハァ~~~、次は孫堅殿か………ハァ~~~~~~」

 

 

曹操と会うだけでこれだけ疲れたというのに、この上孫堅とまで会わなくてはならないなんて…俺って不幸だよOTZ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後…

孫堅文台が樊城を訪れてきた

 

 

 

「初めまして、俺はこの樊城太守「ああ、そんな堅苦しい言い方はせんでいい」…はい?」

「儂は長沙の太守、孫文台じゃ。 ほれ、お前達も挨拶せい」

「こんにちは、貴方があの噂の劉封なのね~。私は孫策よ」

「…私は孫権という、少しの間だがよろしく頼む」

「…甘寧だ」

「…済まないな、劉封どの。何やら礼儀にかけた挨拶で…私は周公瑾だ」

「…いえ、もう何か慣れてますからこういうのは」

 

 

先日の曹操とは対照的で軽い人多いなぁ

まあ春蘭さんが二人になったと思えば良いか

 

 

 

「ねえねえ、劉封♪ 早速案内してよ、お酒の美味しい所」

「………は?」

「ちょ!! 姉様、来て早々それはいくら何でも…」

「そうだぞ雪蓮、それは後のお楽しみということにしておこう」

「あ、結局飲むんですね」

「当然よ、まあそれよりも大事な話があるがな」

 

 

 

そのまま、何というか力強く中に入っていった孫堅とそれに続く孫策だった

 

 

それを呆然としたまま見ていた咲夜だった

流石に予想外過ぎた

 

 

 

「…すまない、うちの太守と問題児が迷惑を掛ける」

「……いえ、いいですよ」

「本当にすまない、後で母様と姉様には私達からよく言っておくから」

「…ハァ、まあ気にしないでください。皆さんは皆さんで楽しんでいって下さいね」

「…なあ、劉封殿」

「はい、どうかしましたか周瑜殿」

「貴公はこの【相棒】や【黄門奉行】の作者なのだろう?」

「あ、買って下さったんですか? ありがとうございます」

「いや、私の方こそ礼を言いたい。これほど面白い本はあまり読んだことがないのでな」

「……劉封様」

「えっと…甘寧さんでしたよね? どうかしましたか?」

「次の本はいつ頃出るのですか?」

「あ、甘寧さんも読んでくださっているんですか?」

「ええ、まあ」

「俺の新書はもうこの国で発行される予定ですよ。恐らく明日には本屋の店頭に並ぶ予定です。まあそちらの国だと…一月先だと思いますが」

 

 

 

そう言った瞬間、周瑜と甘寧の目が光った

 

 

「ど、どんな本なんだ!?」

「ふえ!? え、えと…今回の話は音楽家の旅の話です、よ?」

「ふふふ、今から楽しみだ」

「冥琳様、早速明日本屋に行きましょう」

「そうだな、こんなこともあろうかと私金を持ってきておいて正解だったな」

「はい」

 

 

 

…気にいってくれているのは嬉しいんだけど、ここまで行くとちょっと引くなぁ

 

などと思っている咲夜だった

 

 

 

「…うぅ、本当に申し訳ない」

「あ、孫権さん。気にしないでください、俺の本を好きだと言ってくれるのですから嬉しいですよ」

「そ、そうか…まあ確かに貴公の書は今までに見たことのない魅力があるからな」

「あ、あはは…(まあそりゃ俺の世界だとベストセラーの物とか元ネタが人気あった奴選んでるからなぁ)」

 

 

 

そのまま、咲夜は孫堅達を以前と同じように咲夜の屋敷の応接間に案内した

 

 

連れてきた兵300は今度は劉延と紫苑に任せ、一応咲夜の付き人として秋葉が付くことになった

 

 

全員分の御茶を出してもらう様に侍女に指示し、全員で一息つくとその場に居た二人が直ぐに空気を一変させた

 

 

 

「…単刀直入に言わせてもらう、孫呉と同盟を結ばないか?」

 

孫堅と

 

 

「同盟はお断りしますが、不可侵条約なら良いですよ」

 

 

咲夜だった

 

 

 

「ほぅ…どうして同盟を断る?」

「簡単な理由です、我が樊城は争いは可能なら避ける精神である故」

「…この戦国の世ではそんな惰弱な方針では喰われるぞ?」

「江東の虎らしいお言葉ですが、俺や家臣一同、この構えを解くつもりはありませんし、もしいずれかの勢力が押し寄せてきても防ぎ切り、後の憂いを断つくらいの力はありますよ?」

「…らしいな、以前お前の土地を狙って劉表の軍が攻めたが返り討ちにあい、そのまま逆に城を取られたとか…」

「ええ、まだ完全に戦後処理が終わったわけではありませんが、襄陽城は我が手中にあります」

 

 

そう、実は一月ほど前、こちらの配下に付けなんていう理不尽極まりない手紙を送ってきた劉表に返事として

 

 

 

『もう一回生まれ変わって常識と礼儀を学んできたら考えます』

 

 

と送り付けた

 

 

 

流石に腹が立ったのだ

 

 

 

まあそんな具合でこちらと劉表軍の中は悪くなり、あちらが樊城に攻め入ろうとしてきた

だから先手を打って奇襲をし、軍を立て直し不可能になるまで痛め付けた後、別働隊を動かして襄陽を攻め取った

 

 

劉表軍の兵士達は治療した後、直ぐに荊州城に送り届けてあげたけどね

 

 

一応更に警告して、次攻めてきたらこんなものでは済まさないと伝えておいた

 

まあ何せ、この戦いだけで向こうの蔡和、蔡沖の二人の将を討ちとり、大将の蔡瑁は捕縛した

劉表軍の被害は他にも兵数だけでなく、兵糧、馬、武器等もこの戦いでかなりの数を失った

それに比べて、劉封軍は被害は殆どなかった

普段の訓練が他国よりも過密な為、兵士一人一人の質も異なっているのだ

 

 

 

 

現在、襄陽城は劉泌に統治を任せている

少ししたら咲夜もそちらに赴く予定だ

 

 

「正直に言おう、儂は主が…いや、この主の治める領地のものすべてが敵にすると恐ろしいのじゃよ、だがお主が仲間になってくれるのであればこれほど心強いことはないと思っておる」

「…悪いがそれは出来ない。俺は悪戯に皆を傷つけたくない」

「…ふむ、では考えてもらうという形はどうじゃ。どうであれ、人の心は変わっていくものじゃからな」

「……それならまあ」

「とりあえず領土不可侵なら良いのじゃな?」

「ええ、俺としても貴方のような人と対立するのはあまりしたくないですからね」

「ほう、どうしてじゃ?」

「…第一印象としてですけど、孫堅さんと孫策さん、そして甘寧さんは武人としてはかなりの実力者みたいですし…周瑜さんはかなりの智将と聞いています。孫権さんは物事を冷静に見ることが出来、武も智もそれなりにある非常に安定感のある人だと伺っていますから」

「ほう、分かるのか?」

「一応俺も国主である前に武人であり、文官でもありますからね」

「ほぅ…噂だけではやはり人は測れんな。いずれ手合わせしたいものじゃな」

「え、構いませんよ?」

「「…は??」」

「この後、訓練がありますから丁度兵士たちに俺と徐晃、魏延と太史慈の戦いを見せる予定でしたから。誰か代わりますか?」

「はいは~~い♪私がやる~~」

「しぇ、雪蓮!? お前は何を言って…」

「まあ良いではないか冥琳。だが雪蓮よ、それは私がやらせてもらうぞ?」

「え~、母様は駄目よ~。太守でしょ?」

「…母様も姉様も駄目です!!」

「…ならば私が出ましょう、それならば問題はないと思われますが」

「思春…そうだな、それならばいいだろう」

「「ええ~~~」」

「ではこちらは俺が交代しますね。甘寧さんの相手は徐晃になりますがいいですか」

「…劉封殿ではないのか?」

「あはは、それはうちの四大将軍を倒してからにしてくださいよ」

「ほう、それではその4人は強いのか?」

「ええ、力の魏延、技の徐晃、早さの太史慈、弓の黄忠ですね。その中で一番強いのは…やっぱり黄忠ですかね? 4人の中で一番頭が回りますし」

 

 

なお、それが悔しくて現在秋葉と焔耶は必死に勉強中だが…

杏は実力不足だと思い、自主訓練もしている

杏自身、頭の方は悪くない為

 

 

「ほう、ではこの樊城で最も強い奴がその黄忠ということになるのか?」

「いえそれは違います」

 

 

突如、口を出してきたのは今まで黙っていた秋葉だった

秋葉…普段は口悪いのにこういう時は丁寧なんだよねぇ

 

 

「? どういうこと?」

「この樊城で最も強いのは劉封様です。以前、私と徐晃殿、そして魏延殿と黄忠殿の4人がかりで戦ったにもかかわらず我らは負けましたから」

「「「ほう…」」」

 

 

 

ひいぃ…な、なんだか三つほど怖い視線を感じます!! それも近距離から!!!

 

 

嫌な寒気を瞬間的に感じ取った咲夜だった

 

 

それから何とか話を逸らしつつ、城下町を案内した

すると孫堅は煙管や酒瓶の専門店に飛び付き、孫策は札遊戯の賭け事に興味を持ち始めたり、孫権は装飾品店に夢中になり、甘寧は忍者道具セットをこれぞとばかりにじっと眺めたり、周瑜は携帯用筆を買うか買うまいか悩んでいた

 

 

…フリーダムっすね、呉の人って

 

 

先程までの真面目な雰囲気が一瞬で何処かに飛んで行ってしまったようだ

 

まあ色々な意味でたいへんだったよ

 

 

 

 

それから数刻、城下町で全員がそれぞれ観光気分で堪能してくれた

 

ただその手には大量の土産やこの樊城でしか食べられない屋台の食べ物で一杯だった

 

 

「う~ん♪ ここの料理、凄く美味しいわね」

「そうだな、さっぱりして食べやすかった」

「帰りにもう一度買って行ってシャオ達の御土産にしましょう、姉様」

「はっはっは、この焼き鳥は最高じゃな! 酒にようあっとる」

「………」←忍者セットを買ってご満悦のようで

 

 

 

「…ハァ~~~」

 

 

何だか胃に穴があきそう

紫苑とかだったらこんなことないけど、孫堅さん達って一応来客だから気を使わないといけないし…

 

 

 

あ~、この人たち帰ったら璃々ちゃんや町の子供たちと一緒に遊んで癒されようっと

 

 

 

 

それから部屋を案内して、荷物を置いてもらった後、軍部の訓練場にやってきた咲夜達

既にそこでは武官たちが準備運動を始めていた

 

その中には紫苑、焔耶、秋葉、杏の姿もあった

 

 

紫苑は大弓「颶鵬

ぐほう

」、焔耶は大金棒「鈍砕骨

どんさいこつ

」、秋葉は双棍「爆犀牙

ばくさいが

」、杏は大鉞「乾坤一擲

けんこんいってき

」を調整している所であった

 

 

それに続き、それぞれの部下達も劉延や孫礼を筆頭にそれぞれの武具の状態を確認していた

 

 

「へぇ~、一人一人が凄い覇気を出してるわね」

「そりゃうちが誇る第一軍の訓練だからね」

「え、第一軍ってどういうことなの、劉封」

「簡単に説明するとうちは部隊がそれぞれの特徴を持って別れてるんだよ。第5軍が主に城の守りに徹した訓練を行う部隊、第4軍が騎馬、騎射技術を磨き機動性に富んだ部隊、第3軍が歩兵、弓兵で汎用性に富んだ部隊、第2軍がそれらすべてを富んだ部隊でどんな状況にも対応できる部隊、そして第1軍がその2軍を越えた技術と技量を持ち、一人一人が一騎当千の力を持つ、最強の部隊。本来はもっと細かに分類しているけど、大まかに説明するとこんな感じかな? 新兵には最初は第6軍の訓練を受けてもらい、そこでどの部隊に所属するかを決めるんだ。その後で、部隊に入って訓練を行って貰うわけだけど、成長する見込みがある者は別の部隊に移動し、またそこで訓練を行う。一人一人の実力を生かす、それが俺の考えた部隊だからな」

「へぇ~、ならその訓練を見せてくれるってわけ?」

「いや、流石にそれは企業秘密なんでね。今日はただの模擬戦だよ」

「え~~、見せてくれても良いじゃないの~~」

「だ~~めっ」

「「ぶぅぶぅ」」

 

 

…子供ですかあんた達は

 

 

 

なんて思っている間に兵士たちの訓練が始まった

10の舞台上でそれぞれ兵士たちが1VS1で戦っていた

皆が皆、かなりの質の戦いをこなし、それを真剣な目で見ていたのは孫堅、孫策、孫権、甘寧だった

周瑜だけはその4人とは違った目で兵士達を見ていたが…

 

 

 

数刻して兵士全員の訓練が終わり、ついに将達との訓練となった

まずは先刻言っておいた通り、甘寧と杏の模擬戦となった

 

 

甘寧には事前に選んでもらった模擬刀を渡し、杏は自身の愛用している武器と瓜二つの模擬刀を持った

 

 

 

「…始め!!」

 

審判役の者が合図すると、杏は猛連撃を甘寧に浴びせた

鉞がまるで複数ある様に見える様にして、相手の視覚を潰す

だが、甘寧はそれをもろともせずに防ぎ反撃の機会をうかがっていた

 

 

「へぇ…凄いね、甘寧さん。あの杏の連撃をこうも凌ぐなんて」

「ふふ、思春は早さと鋭さでは呉一番の武将だもの。これ位当然よ」

「でも、多分杏は戦いを本来の物に戻してくるでしょうね、あれは様子見をする際の杏の戦い方ですから」

「へぇ~、それはどういうことなの?」

 

孫権が興味を持った顔をして咲夜に質問してきた

 

 

「さっきも言ったけど、杏の優れているのは力でも早さでもない」

 

 

 

おおおおおおっーーーー!!!

 

 

 

兵士たちの盛り上がる声が聞こえた後、静かにこう告げた

 

 

 

――凄まじいほどの戦闘技術だ

 

 

 

 

舞台上では先程とは異なり、甘寧が自身が誇る早さを持って杏をせめていた

 

そのはずなのだが…

 

 

 

「はあああぁッ!!!!」

 

ブゥン!!

 

 

 

 

「ふっ…」

 

 

ガキンッ!!!

 

 

「ハァっ!!!」

 

 

「くっ!!!」

 

 

 

甘寧の攻撃を防ぐだけでなく、その攻撃によって生まれた隙を上手く突き、攻勢に転じる

所謂カウンターである

杏は守りながら攻撃を行い、相手をどんどん追いつめていく

それが杏の戦い方である

 

 

 

 

「うわ、あれは凄いわね」

「しかも杏の凄いところは受け身だけでなく、自ら攻勢に転じることも出来るところです。攻撃と防御の両方を兼ね備え、それらの切り替えが異常な位に早い。だからこそ、杏は技の徐公明と言われるんです」

 

 

 

そのまま甘寧は自分の獲物を跳ね飛ばされ、杏の勝利となった

 

 

 

「くっ…負けたか」

「いえ、正直危なかったです。甘寧さんって凄くお強いんですね」

「…思春だ。我が真名、お前に渡そう」

「あ、なら私のことも杏って呼んでください。又機会があれば、戦いましょうね」

「…ああ」

 

 

 

 

何やら二人の間で友情のようなものが芽生えたようで…

 

 

 

 

その後、焔耶と秋葉の戦いが始まった

 

この二人は幾度も戦っていて、戦績は50戦26勝23敗1分けで秋葉が勝っている

というのも力で優れる焔耶と早さで優れる秋葉は少し相性が悪いのである

その相性の悪さを補いつつ戦っている焔耶も凄いのだが…

相性を上手く使いつつ、戦っている秋葉も凄いのだ

 

 

 

今日の戦いは二人とも劉封が見ている上で外からの来客もいるということでいつもよりもやる気を出し、かなりの戦いが舞台上で行われた

 

 

その結果…

 

 

 

「「……」」←正座中

 

 

 

もう完全に駄目になってしまった舞台の上で大人しく正座をさせられていた二人であった

いくらやる気を出していたとしても度が過ぎたのであった

 

 

 

「全く、二人ともやり過ぎるなといつも言っているだろう? この舞台だってタダじゃないんだぞ?」

 

 

二人に物凄く良い笑顔をしながら説教をする咲夜

だが、その笑顔が異常なくらい怖いのだ

微かに焔耶と秋葉が震えている位に…

 

 

 

 

結局、二人の戦いは引き分けという形で強制的に終わらせる形となってしまった

 

 

 

 

「…申し訳ない、うちの恥ずかしいところを見せてしまって」

「かっかっか!! 気にするでない、久しぶりに面白いものが見れたでのう!」

 

 

 

咲夜はその後、孫堅達の部屋への案内を紫苑と劉延達に任せ、焔耶と秋葉には罰として修繕部隊と共にその壊れた舞台を治すことを命じた

その後、咲夜の処理する竹簡の量が普段の3割増しになったことは言うまでもない

 

 

 

翌日、孫堅達が長沙に帰るということで皆で城門まで送り届けることとなった

 

 

 

 

「いやはや、楽しかったぞ」

「…楽しんでいただけて何よりですよ。それからこれは土産としてお持ち帰りください」

「何から何まで悪いのぅ」

「いえ…気にしないでください。あ、それから決まりについての詳細は後日そちらに書を送らせてもらいますが、それで良いですか?」

「ああ、ではな」

 

 

 

そういって孫堅は孫策達を引き連れて出ていこうとした

 

だが、その前に何かを思い出したように戻ってくると

 

 

 

 

「そうじゃそうじゃ!! 忘れとったわ」

「? 何か?」

「真名を交換したいと思っての!」

「………はい?」

「主と直接会って儂はお主が気にいった。だから我が真名、受け取って欲しいのじゃよ」

「…まあいいですけど」

「うむ、では改めて自己紹介といこうかの。儂は性を孫、名を堅、字を文台、真名を紅蓮と言う」

「俺は性を劉、名を封、字は持っていない。真名は咲夜だ」

「うむ! ではな」

「ちょっと待って母様。私も真名交換したいわ」

「咲夜が良いというのならそうするがよい!」

「良いかしら?」

「…ええ、どうぞ」

 

 

 

というわけで咲夜はその後、孫策、孫権、周瑜、甘寧とも真名を交換し合った

 

 

 

それに満足すると紅蓮達は長沙へと帰っていった

 

 

それを確認すると、咲夜はもう今までで一番の溜息をつき、自室に戻っていった

 

 

余談だが、その日は咲夜は仕事をする気になれず、璃々達と一緒に遊んで心の疲れを癒していたとか…

 

部下達も咲夜の心情を理解して、咲夜に変わって仕事をこなしていた



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話

曹操や孫堅らと真名を交換し、同盟は結ばなかったものの友好な関係を築き上げ互いの領土に攻め入らないという約束を交わすことが出来た咲夜
だが、咲夜にはまだまだ多くの試練が待ち受けていた
それは腐敗し、すでに崩壊しつつある後漢王朝であった
そんな乱れ往く世の中、咲夜は信頼すべき仲間たちと共に樊城と新たに手に入れた襄陽城で日々を過ごすのだが…
日に日に増える文官の仕事に限界を感じつつあった咲夜は新たに文官を雇うことにした


曹操、孫堅が樊城に訪れて来てから暫く経った後、劉封こと、咲夜は今は襄陽城に居た

劉表軍からとった新たな領地である

元々、正当防衛で取った土地であり、加えて少し人口が限界を越えつつあったのでこの新たな領地は渡りに船であった

 

「劉泌叔父さん、どうですか?」

「ああ、どうやら領民は皆、咲夜がこの土地を治めることに賛成しているよ」

「そうですか、それは良かったです。では早速新しい政策に取り掛かることにしましょう」

 

 

 

咲夜は樊城のことを焔耶、劉延、孫礼などに任せ、自身は麻理と秋葉と紫苑を引き連れ、襄陽城で仕事に取り掛かることにした

元々、襄陽の土地はかなり肥えているため、以前とは比べ物にならないほどの利が得られる

だが、そのためにはまず咲夜達が変えるべき所を変えなくては話にならないのである

 

 

 

そして仕事に取り掛かるのだが…

 

 

 

こなしてもこなしても終わらない竹簡の山…

 

 

 

「…やっぱり文官が足りないなぁ」

「しょ、しょうですね」

 

 

普段から殆どの文官の仕事を受け持っている咲夜と麻理…このままだとどちらかが倒れれば国が崩壊する可能性も…

 

 

「やっぱり文官になりえる人材探した方がいいかもね」

「あ、そういえば今度、文官の試験があるそうです。そこで探してみるというのはいかがですか?」

「それってこの襄陽で行うんだよね?」

「はい、その予定です」

「…ならそれに頼るしかないね」

 

 

 

 

それから少しして…

咲夜は秋葉を護衛にその試験会場にやってきていた

本当なら一人でも大丈夫なのだが、麻理が…

 

 

「太守が一人で出回るなんて非常識でしゅ!! あ、か、かんじゃいましゅた…」

 

なんて言うから…半強制的に秋葉と共に見に行くことに…

 

 

 

 

「…さてと…名前の一覧はあるかな?」

「あ、劉封様!? ど、どうしてこちらに…」

「情けないことに今こちらには文官が不足していてね、だからちょっと有能な子がいれば登用したいと思っててね。で、一覧を貰えるかな?」

「は、は!! こちらになります」

 

 

 

渡された竹簡にはかなり数の名前が書かれていた

 

 

「凄いなこれは…こんなにたくさんの人たちが」

「それだけ皆さん、劉封様に仕えたいと思っていらっしゃるのですよ」

 

 

その言葉を聞いて嬉しく思いつつ、名前を確認し続けた

 

すると…その中にいくつか気になる名前があった

 

 

 

―――荀攸公達

―――鳳統士元

―――程昱仲徳

―――劉曄子揚

―――諸葛瑾子瑜

―――董允休昭

―――姜維伯約

―――王平子均

―――馬良季常

 

 

などなど…有名所盛り沢山である

 

 

 

(○△○)

 

暫くこんな顔をしていた咲夜だった

 

 

 

暫くして、目が覚めると咲夜は受け付けをしていた文官に自分の知っている有名な人物達の名前の所に印を書き、この人物達は後で咲夜の屋敷の応接間に通すようにするように指示した

 

 

 

そんな冷静な支持の中…

 

 

咲夜の頭の中ではかなりぐっちゃになった脳内討論が行われていた

 

 

 

→咲夜の脳内→

 

咲夜A「おいいいいぃ!!! どういうことだよ!!! どうして伏龍鳳雛として例えられた一人の鳳統がここに来るの!?」

B「あ、た、多分…麻理がいるから?」

C「加えて何で程昱が来るのよ!? この人は華琳さんの部下になる人でしょうが!!」

D「不明不明、我理解不能」

E「それに荀攸って…軍師としてはかなり有能な人だよね? 本当にどうしてここに…」

F「情報が足りません、もう少しまともな情報を得てから動くのがよいかと」

G「(カサカサ)…」

H「チョッ!? 何でゴキブリがここに居るんだよ!!!」

I「落ち着け、そいつはゴキブリじゃなくGだ」

J「…まあそれで結論は?」

K「決まってるだろう!! 有能=即登用だぁ!!」

L「それは早計ではないのか?後、この王平さん…確か忠志なら武官だったと思うんだけど」

M「でも王平さんって以前受けた武官の試験で落ちてたと思う」

N「あ、だから今度は文官として来てくれたってわけ?」

O「……どうする?」

P「とりあえず試験が終わるまで待つというのは?」

 

一同「異議なし!!」

 

 

 

→Side Out→

 

という結論に至った

 

 

 

それから数刻の間、試験が終わるまで咲夜は劉泌と秋葉と一緒に軽く何かを食べることにした

因みに麻理は試験官の一人を担っている

 

 

「…そういえば叔父さん、詳しい事情とかは聞きませんでしたけどどうして俺に太守を譲ったんですか? 俺は叔父さんの下で働ければいいと思ったのに」

「…実はな、私はお前に太守を任せる少し前に夢を見たんじゃよ」

「夢? どんな夢なんですか?」

「うむ…なんだかよく覚えていないのだが…劉封に太守を任せれば樊城は更なる繁栄を遂げ、天下になお残す龍となるであろうと言われたのじゃ」

「誰に?」

「よく覚えとらん。だが…褌を穿いた筋肉質の漢だったような気がする…その後は思い出すと何故か気分が……うぷっ」

「お、叔父さん!? 大丈夫!!?」

「あ、ああ…大丈夫だ……まあそんなわけでその助言に従ってみたんだ」

「そ、そんな単純な理由だったんですか…」

「まあそれもあるが…何よりも時期が良いと思ってな」

「はい?」

「私はもう歳だ。これよりさらに混乱の増す世を治めていくだけの気力と才を持ち合せていない私が太守を続けていても結局苦しむのは民だけだ」

「……」

「だからこそ、今は力強い新しい波が必要だと思ってね。だが私には子がいないし、知り合いの若い子は咲夜しかいなかったからね」

「…そう、か」

「…やっぱり嫌だったかい?」

「…いや、それを聞いてもうちょっと頑張ろうと思ったよ」

「そうか…」

 

 

 

それからまた暫くして、咲夜は劉泌と秋葉と共に麻理のいる試験会場に向かって行った

もうこの時間だと試験も終わり、残っているのは麻理と試験を担当した文官のみだからだ

 

 

「お疲れ、麻理」

「あ、咲夜様」

「どうだった、試験の方は」

「実は咲夜様が目を付けていた方々を優先的に採点したのですが…皆、凄いです。合格点を軽く越えて、私では思いつかないような案を出した方もいらっしゃいました」

「そう…そういえば麻理は鳳士元とは同じ私塾出身だったんだよね?」

「はい、ですがだからと言って採点を甘くしたりはしていません」

「それは最初から分かっているよ。麻理は仕事に関して凄くまじめだからいつも助かっているしね」

「とりあえずこれで一次試験は終わりです」

「合格者の番号を書いてそれを張りだしてあげて。ああ、それから明日は俺が二次試験の審査をやるから」

「はい、明日は面接ですから。でも念のため私が付きますね」

「頼むよ」

 

 

 

 

 

そして翌日…

 

 

二次試験会場には多くの一次試験合格者がいた

どうやら今回は有能な人材が多くいるようだ

 

 

 

二次試験は面接でどうして咲夜の元で働きたいか、その動機を聞いたり、戦う覚悟を問うたりするのが目的だ

順番はくじで引いた順番で行い、呼ばれた者から別室に居る咲夜達の元に案内され、そこで試験が始まる

 

 

 

「では次は…鳳士元ですね」

「(いよいよか…どんな人物なのか、楽しみだな)」

 

 

 

コンコン…

 

 

「どうぞ、お入り下さい」

 

 

ガチャッ

 

 

 

部屋に入ってきたのは何やら魔女っ子が被っていそうな帽子を被った麻理と同じ位に小さな女の子だった

 

 

「ほ、鳳士元でしゅ」

「ふふ、ゆっくりでいいから。落ち着いて」

「は、はい…」

「俺は劉封、一応この土地の主をしているよ」

「あわわ///よ、よろしくお願いしましゅ///」

 

 

 

麻理といい、この鳳統といい…水鏡塾の生徒って舌噛んだり、あわわとかふわわって言うのが癖なのかなぁ…

 

 

なんてことを思いながらも質問を続けていった咲夜

 

時折どもりながらもそれを的確に答えていく鳳統

 

 

 

「(ふむ…やはり当たりか)」

 

 

話していく度に、鳳統が有能な人材であることがはっきりしていく

 

時折甘さの見える回答もあるのだが、許容範囲内故にこの時点で合格であった

 

 

 

「ふむ…じゃあ合否は後で伝えるよ。御苦労さま」

「は、はひ…あ、あの……最後に一つだけ聞いても良いですか?」

「ん、何かな?」

「そ、その…劉封様はこの乱れ始めている世の中で何を望みますか?」

「……俺が望むのは俺が守りたいものを守れるだけの智と力」

「それは劉封様の覇道のためですか?」

「いや、俺自身の我儘の為」

「ふえ?」

「俺は自分の手の届くところに居る人たちを、俺の大切なものを守り抜く。例えどんなことをしてもな。その為に力が欲しい、ただそれだけ」

「で、でも劉封様の国は自分から攻めることは殆どないって」

「守るためにも力はいるだろう? それにこの襄陽のように俺から攻めることもある。それは今後の憂いをなくすためでもあるんだ。俺は俺の守りたいものを守るためなら悪にでも魔王にでもなってやる。それが俺の覚悟だ。まあ基本的には非戦闘主義でいるつもりだけどね」

「……」

「失望したかな? 結局のところ、俺は何かを失うことを恐れてる臆病者だよ。だから亀みたいに普段は甲羅に籠っている」

「いえ…だからこそ、領民の皆さんは安心して暮らしているんだと思います。私はこの襄陽に来る前に徐州や徐南を訪れていましたが…どちらも領民の皆さんは貧しい人たちの方が多かったです。でも、この襄陽や樊城付近に住んでいる人たちは皆笑顔の人たちばかりでした。それは全部、劉封様が」

「それは違う、ここまでこれたのは俺についてきてくれた人たちと領民の人たちが俺を信じて、自身で努力を怠らなかったからだ。俺は大したことはしてないよ」

「……」

「さて、君は合格だけどよく考えてね。俺を主として良いのか悪いのか。その判断は君に任せるよ、鳳士元」

 

 

 

 

咲夜はそのまま、鳳統を部屋から出した。

次に会う人たちを待たせていたからである。

 

 

次に部屋に入ってきたのは程昱である。

 

なのだが…

 

 

 

 

「くーーー…くーーー…ヒュルル…」

 

 

…何この子、寝てるんですけど。

 

 

 

「……なあ、程昱さん?」

「おおっ! すいません、寝ていました」

「いや、見れば分かるけど…疲れているの? それなら二次試験は後日に延期することも出来るけど?」

「…普通、一人の人間にそのような事はしないと思うのですが…」

「今は一人でも多くの人材が欲しいからね。その為なら少しくらい時間がかかっても構わないよ」

「ほうほう…流石は噂に名高い名君ですね」

「そんなつもりはないよ。でも少し嬉しいかな」

「風はこの試験を受ける前日、不思議な夢を見ました。風は大きな日輪を沢山の人たちと共に支え、その日輪を一匹の大きな龍が呑み込み、風たちを乗せて高々と天へと昇っていく夢です」

「へぇ、確かに不思議な夢だね、それで?」

「風はその昇り龍が劉封様ではないかと思ったのですよ」

「ふむ…それで、その夢に他に特徴的な事はなかったかな?」

「…そうですね…………ぐぅ」

「いや、何でそこで寝るのかな!?」

「Σ おおっ、これは失礼しました。えっとですね…そういえば、沢山の花が咲き乱れていましたね…日輪が良く輝いて見えたので…多分時間帯は夜なのだと思うのですよ」

「……(それって思いっきり俺の真名指してないか? 咲夜だし、俺)」

「ほほう、その顔は何か心当たりがあるようですね」

「…まあ俺の真名が咲夜だからな。こじ付けかもしれないが、その程昱さんの夢は確かに俺を示してるのかも知れないが…それを知って程昱さんはどうするの?」

「是非とも劉封様に仕えたいのですが」

「……秋葉、麻理。どう思う?」

「それはもう咲夜様はご決断なさっているのでは?」

「俺達は咲夜様の判断に従います」

「…そうか、ではこれから我が軍の軍師の一人として働いてくれるかな? 程昱さん」

「はい~、お任せ下さい~。風は性を程、名を昱、字を仲徳、真名を風と申します~」

「俺は性を劉、名を封、字はない。真名は咲夜だ、これからよろしく頼むよ、風」

「………ぐぅ~~…」

「……また寝てるよ、まあ良いか。とりあえず風を文官用の宿舎に案内してあげて」

「御意」

 

 

 

少しして、起きた風を文官の一人が先導して宿舎に連れていった。

 

 

 

「…何だか結構癖があるんだな、軍師って」

「ふわわ!! そ、それって私にも癖があるっていいたいんですか!?」

「…そのふわわって言う口調と時折舌をかむ癖を治したら修正するよ」

「…ふわわ、そ、それは難しいかもです…」

 

 

 

根付いた癖って治しにくいよねぇ。

 

 

次に部屋に入ってきたのは荀攸。

 

 

「君が荀攸さんだね。初めまして、劉封です」

「……」

「? どうかしたんですか?」

「…いえ、想像とは少し異なっていたので」

「因みに聞きますけど……どんな印象を俺に持っていたんですか?」

「綺麗な女性と聞くと、すぐに手を出して侍らせるとか」

「…………」

「冗談ですよ、これは私の従姉の桂花、荀彧が口にしていたことです」

「え、えっと…君の従姉さん、もしかして…」

「ええ、大の男嫌いよ。まあそれは昔、盗賊に攫われて大事なものを奪われかけたからなんだけどね」

「………それは普通、俺みたいな他人に話すことではないと思うのだが…」

「ああ、いいのよ。貴方はそういうことを口外するような人間じゃないでしょ?」

「…まあそうだね、それで色々聞きたいんだけど…どうしてここの試験を受けに来たの?」

「…最初は袁紹の所で働いていたんだけどね…あいつ、ただうざったい笑いを響かせながら偉そうにしてるだけだし、これは付いていっても長くはないと思ったの。次に曹操だけど……確かにあの人は英雄たる器を持ち、そして世の流れに乗りつつある。付いていくのならかなり期待できる人…なのだけど、あの百合百合しい空気は嫌なのよ!!!」

「ゆ、百合百合しい? それってつまり…そういうこと?」

「…ええ、私は荀彧と違って普通の恋愛がしたいの。だからちょっとあそこは息が詰まりそうになってね」

「…それでうちを選んだってわけ?」

「ええ、もしここが期待外れだったら次は孫堅のいる長沙にでも行こうかと思っていたのだけど…その必要はないみたいね」

「それは俺が君の眼鏡に適ったってことなのかな?」

「まだはっきりとは言えないけどね…でも、治めたばかりのはずのこの襄陽の治安と領民たちの顔を見たら貴方はこの世で生き残る力を持っていると思うわ。だからこそ、私は貴方に仕えたい。理由はそれだけじゃ駄目かしら?」

「…いや、十分だ」

「そう、なら改めて自己紹介をさせてもらうわね。私は性を荀、名を攸、字を公達、真名を燐花よ」

 

 

 

それから咲夜は燐花に真名を渡し、文官を呼び出して宿舎に案内させた。

 

 

それから順番に一次試験合格者たちと面接をしていき、それらが終わると既に日も暮れかけていた。

 

 

 

「ふぅ~~、これで終わりかな」

「お疲れ様です、咲夜様。どうですか?」

「とりあえず決まったのは燐花と風の二人だね。後は合格者たちの名前を張りだしてそれでもこちらに仕えるのを望む者は講堂に集めさせるように手配して」

「御意です」

「あ、そうそう。麻理、今日はもう仕事を終えても良いよ」

「え…」

「鳳統さんとゆっくり話したいこともあるでしょ?」

「あ…ありがとうございましゅ!!! あぅ///」

「あはは、ほら早く行ってきなよ」

「はい♪」

 

 

嬉しそうに部屋から出ていく麻理

残った咲夜は竹簡と書類を纏め、自室に持っていき残った仕事に取り掛かることにした

 

 

 

 

とりあえず合格者は自分が印を付けた者達を含めて、28名。

これだけの人数をどの部署につかせるか、その草案を作るのも咲夜の大事な仕事である

その為、咲夜はその晩寝ずにずっと仕事をこなし続けた。

 

 

 

 

 

朝日が出て、小鳥の囀りが聞こえ始めた頃、咲夜はようやく筆を下すことが出来た。

一次試験で得た合格者たちの最も優れていて部署に入って直ぐにでもその能力が使えるように適度な場所に分散できるようにし、二次試験で分かった合格者たちの性格や癖などで問題が起こらない様に相性の悪そうな者同士は組むことのない様に慎重に草案を書きつらぬった。

 

 

試行錯誤しながらも何とか出来あがったのだが…もう咲夜の腕はプルプル痙攣していて目の下には真っ黒な隈が出来ていた。

徹夜明けなので少しテンションもおかしいことになっているのだが…。

前世の頃のように珈琲やレッド○ルーなんかもない為、とりあえず自分で淹れたお茶を飲んで一休みすることにした。

 

 

 

 

幾刻か経った後、麻理と紫苑が咲夜の仕事部屋にやってきた

あの食事を終えた後直ぐに劉泌と秋葉には樊城に戻って貰い、紫苑には襄陽に残って貰ったのだ

 

 

二人は最初は咲夜の自室に向かったのだが、誰もいなかったためここにやってきたそうだ

 

部屋に入ってくる前は何やら楽しそうな顔をしていた二人だったのだが…咲夜の顔を見てからその顔が一変した。

 

 

「さ、咲夜様!? ど、どうしたんですか、しょの顔?!」

「え…ああ、これから入ってくる人たちの部署分けの草案考えてて…気付いたら朝だった」

「さ、咲夜様…とりあえず顔を洗ってきた方がよろしいかと」

「ふああああ~~…そうするよ。紫苑、それに麻理。悪いけど、この草案ちょっと確認してみて。一応、合格してもうちに所属しない人がいたりしたらその分、穴埋めも出来るようにして有るんだけど…問題あるかもしれないから」

 

 

 

そう言い残し、咲夜は部屋を出て顔を洗いに行った

 

 

 

「ふわわ…咲夜様、相変わらず無理をして」

「そうね…でも新しい人たちが仕官してくれるようになったからこれで咲夜様も少し休めるようになるでしょうね」

「…寧ろ皆さんの見本となろうとして更に無理をしそうな気がするんですが…」

「そうさせない為に私達が咲夜様を支えないといけないわね」

「はい!」

 

 

 

 

咲夜が部屋に戻ると、紫苑と麻理が少しでもいいから時間まで寝る様に懇願し、咲夜はまだやることがあると言ってそれを断ったのだが…

 

その後に来た璃々に泣かれそうになって渋々その忠告に従った

従ったのだが…

 

 

 

「あ…あの~」

「はい? 何ですか、咲夜様」

「…何で俺は紫苑に膝枕して貰ってるの?」

「ふふふ、良いじゃありませんか」

「…それに何で麻理も俺に抱きついてるの?」

「き、気にしないでくだひゃい!!///」

「…璃々ちゃんもどうして俺の頭を撫でてるの?」

「えっとね、おかーさんがしゃくやしゃまがつかれてたらこうしてあげなさいって」

「……紫苑さん、何を教えてるんですか」

「あらあら♪」

「いや、あらあらじゃないですよ」

 

 

 

これだけやられても女心に疎い上にどうとも思わないある意味達観している咲夜だった

前世では並はずれた身体能力や頭脳のせいで煙たがられていた為。

だが当の本人は向こう吹く風で全く気付いていなかったのだが…

 

 

 

 

それから少しして…

約束通り少しだけ休んだ咲夜は今日から仕官することになった人たちに会うため、侍女に璃々を任せ、紫苑と麻理を連れてその場所に向かった

 

咲夜がそこに入ると既に古参の文官や武官は勿論のこと、新たに仕官する燐花や風の姿もあった

そして、鳳統の姿もあった

どうやら咲夜を主として行きたいということなのだろう

 

 

 

その場に居た人たちを一瞥し、咲夜はまず簡単な挨拶から済ませ、その後それぞれの部署を皆に告げ、少し休んだ後に仕事を始めて欲しいと連絡した

 

それから時間を作り、新規の仕官者達を一人一人皆の前に出して、自己紹介をして貰った

これから共に働く者同士、仲良くしてもらいたいと思った為である

 

 

 

それが終わった後、咲夜は姜維、王平、劉曄、諸葛瑾、董允、馬良を中心に新しく入った文官の約半分を樊城に向かってもらうよう指示した

正直、この襄陽も仕事が多いが樊城も同じ位多いのだ

加えて、現在樊城には文官が少なすぎるためこうしてちゃんと仕事の出来る人たちを送ったのだ

 

 

残った文官は雛里(真名は交換した)、風、燐花らを含めた十名に襄陽で仕事をして貰うことにした

 

 

新たに獲得した土地では戦後処理はもちろんだが、様々な改革に取り掛からなくてはならない

特に衣食住は何よりも大事な事だ

 

 

他にも色々と処理すべきことがあるため…

 

 

 

 

「…何これ?」

「いや…竹簡と木簡の山」

「……これを処理するの?」

「気にしたら駄目だ、それに俺と麻理はいつもこれだけの仕事をこなしている」

「…は? この量を今まで二人だけでこなしてたの?」

「まあ時折他の人にも手伝って貰ったけど…基本的には二人だけだね」

「……咲夜、貴方何時か過労死するわよ?」

「あ、あはは…それは否定できませんね」

「いや、麻理も俺と同じ位仕事してるじゃん!?」

「だって咲夜様って…文官のお仕事以外にも武官の仕事や町の人たちの手伝い、それから町の中に設立した孤児院に行って子供たちと一緒に遊んでるじゃないですか」

「……訂正するわ、貴方は絶対近い未来倒れるわ」

「確定なの!?」

「あわわ…咲夜様、わ、私達が今後はお力になりますから…もうそんな無理はしないでくださいね?」

「……その優しさが何だか辛いよ、雛里」

 

 

 

それから総出で積まれていた仕事を片付けることにした。

 

 

 

 

「…へぇ、人口を細かに知るために戸籍っていうものを作ったのね。これはすごく便利だわね、税の支払いの有無も確かめやすくなるみたい」

「あわわ、この算盤も凄く使いやすいです。それに纏め方が凄く綺麗で過去の資料と比べ易いです」

「ふ~む…お兄さん、こちらはどういう物なのですか?」

「えっと…それは………ってお兄さんって何?」

「いけませんか? 風はそうお呼びしたいのですが」

「……まあいいか。っと、それは今度行う町内会の日程だよ」

「町内会? なんですかそれは?」

「うん、簡単に説明すると俺が直接、領民の皆に何を改善して欲しいか、何か不満はあるか、それを聞くために開く会議みたいなものだよ。最も、樊城ではこういったことはしないんだけどね」

「どうしてですか?」

「樊城では主に【目安箱】をいうものを設置して、領民の人たちの意見を聞いているんだ。でもそのためには皆が字が書けないといけない」

「あ~、確かに字が書けない人は多いですからね~」

「うん、でも樊城の領内に住んでいる人は大半の人が計算と読み書きが出来るんだ」

「なッ!? それは本当なの!?」

「燐花落ち着いて。本当だよ、うちは自主性で読み書きと計算を学べる場所を提供しているんだ。小さい子供はもちろん、大人もそこで学んでもらっているよ」

 

 

風、燐花、雛里の三人は驚いたようだった

 

確かに一般の人が読み書き算盤が出来るようになれば色々と便利にはなる

だがその半面で、知を得たことで反旗を翻す輩も出てくるはずなのだ

しかし、今まで咲夜が治めた土地でそういったことが起こっているという報告は全くない

それは咲夜の治め方がかなりうまいことを示している

そればかりでなく、三人は竹簡を見ていくうちに他の地域との違いに驚くしかなかった

圧倒的に多い収入と歳出、だが安定感がありそれが一定に保たれている

加えてこの地域のみの特産物が他とは比べ物にならないほどに利益を出している

 

 

 

「…お兄さんは太守でなくても商人としてやっていけますね。どこでこんな知識を?」

「旅の中、色々と見て回ってきたし…昔から色々と応用したり組み合わせたりして新しいことを生み出そうとしてたからかな?(本当は未来の知識だけど…こういっておいた方がいいよね)」

「…そうなのですか~」

「それで…どうかな、ここの状態は少しだけ分かってもらえたかな?」

「……くぅ~…」

「寝ないの」

「Σ おおっ!」

「…風は突然寝るのが癖なの?」

「そうですね~。昔からこうなのですよ~」

「…まあ良いか、雛里と燐花はどうかな?」

「まだ完全に把握したわけじゃないからどうともいえないけど…凄く働きがいはあるわね」

「はい、これは楽しみです」

「そう、そういって貰えるのならうれしいよ」

 

 

 

それから5人で積まれた仕事を片付け始めた。

最初こそ、ここの仕事のやり方に慣れていなかった風、燐花、雛里の三人だったが咲夜と麻理がサポートしつつ、仕事をこなした為、一時間もしないうちに三人は慣れていった

流石は稀代の名軍師として称えられた三人である。

 

 

 

そして、いつも咲夜と麻理が掛る半分の時間も使わずに5人は大体の仕事を終えた

 

 

 

「ふぅ~、これで一段落ね」

「まだ明日、今日よりは少なくなるだろうけど仕事はあるけどね。それにしても助かったよ、君達みたいな優秀な人たちが入ってきてくれて」

「そ、そうでしゅか?」

「うん、本当にありがとうね(ナデナデ)」

「は、はひっ!? ///」

「ひ、雛里ちゃん、落ち着いて。咲夜様は褒めてくださる時、いつも頭を撫でるのが癖なの」

「ほうほう、それは興味深いですね。ぜひとも風の頭も撫でて欲しいのですが」

「良いよ、ほらこっちに来て」

「あ、じゃあ私も良いかしら? 母様には幼い頃に良く撫でてもらったことはあるけど、異性にされたことはないから、少し試してみたいわ」

「良いよ、じゃあ順番ね。麻理はどうする?」

「そ、その…お、お願いしましゅ///」

 

 

 

それから紫苑がとあることの連絡に来るまで咲夜は4人の頭を撫で続けた

 

 

 

一人一人撫で終えると咲夜は紫苑に向き合って話を聞くことにした

どうやら幾人か使者がやってきたようだ

 

 

「で、紫苑。誰からの使者?」

「一人は袁紹。二人目は劉表。三人目は帝殿下です」

「…とりあえず袁紹には『だが断る』って返事を」

「み、見ていないのにそんなことしても良いんですか!?」

 

雛里が驚いたように大声を上げた

まあ知らない人ならそう思うよね?

でも、慣れたような顔をしてる麻理と紫苑をよく見た後、風と燐花は何となく察したようだ

加えて、燐花は袁紹のことをよく知っているようなので苦笑どころか苦虫を潰したような顔をしていた

 

 

 

「…まああんまり説明したくないけど……あの駄名家の馬鹿袁紹は何時も何時もしつこく俺に下に付けって文とか使者を送ってくるんだよ。俺はその度に無駄な時間を使わされるってわけ。だから、袁紹関係=無視っていう法則が成り立ったわけ」

「あ、あはは…」

「そういえば以前、それなりに本気で袁紹を挑発したことがありましたね」

「ほう、お兄さんはそんなことを…」

「いやだってなぁ…あの馬鹿の無駄な笑い声聞くと無茶苦茶苛々するんだよ」

「あ、それ分かるわ。何度暗殺してもらおうかと思う位ムカつくのね、あの馬鹿」

「だな」

「い、いい過ぎですよ二人とも」

「じゃあさ、紫苑や麻理はあの駄名族、一緒に居て疲れないの?」

「「………」」

 

二人とも反論できないどころか、明後日の方を向いて誤魔化した

 

 

 

「そ、そんなに酷いんですか…」

「過去の遺産にいつまでも囚われているある意味では宦官と大して変わらない奴って言えば分かる?」

「あ~~…」

 

 

それを聞いて雛里も納得してくれた。

 

 

 

「それにしても…雛里がこんなことを知らないなんて思ってもみなかったな」

「そ、それは…少しの間、私は朱里ちゃんと一緒に旅をしてて…別れたのは袁紹さんの治めている冀州とは離れた村だったので…」

「? 誰だいそれは?」

「諸葛亮孔明、私と雛里ちゃんの同級生です」

「ブッ!? (こ、孔明って!?)」

「??? 咲夜様、どうかしたんですか?」

「い、いや…何でもないよ。それで…その子はどこに?」

「あ、はい。何でも朱里ちゃんは公孫賛さんの所に行くって言ってました」

「…その子は軍師なんだよね? 一人で大丈夫なの?」

「あ、はい。私と別れる前に丁度護衛さんを雇ってた商隊の人たちがいたので。その人たちと一緒に」

「そう、なら大丈夫だね(よ、、良かった…孔明がこっちに来なくて…本当に良かった…神様は……ああ、駄目。神はいない。だって俺はあんな変態を神として認めてないからな!! 運命は俺をまだ見捨ててなかったな!!!)」

 

 

外面は普通にしているが内心では盆踊りを始めそうな咲夜だった。

 

 

 

「二人目は劉表か…風、どう思う?」

「……ぐぅ~~……」

「だから寝るな」

「Σ おお、すいません。そうですねぇ…多分、この襄陽を取られて更には蔡瑁さんを捕縛されていることを理由に宣戦布告じゃないですかねぇ。もしくはその蔡瑁さんを返して欲しいというものではないかと」

「…ふむ、燐花は?」

「蔡瑁の返還でしょ? だって、劉表は優柔不断で有名な奴だもの。あいつが荊州を収められているのは有能な蔡瑁、張允、黄祖辺りが上手く補佐しているからよ。そのうちの一人が居なくなったのだから上手く機能しなくなってきたんでしょうね」

「成程ね…そのことを踏まえて皆はどう思う?」

「…あの、蔡瑁さんは今どうしてるんですか?」

「とりあえず刑務所という俺の設立した犯罪者や捕虜の人たちを捕える場所で軟禁してるよ。と言っても、他の場所の牢屋よりも待遇は良いし、食事もちゃんと与えられるから、問題はないと思うよ」

「そ、そうですか…なら、もし蔡瑁さんの返還を望む使者なら交換条件を見てから決めるというのはどうですか?」

「…ふむ、じゃあその使者に後で会おう。だけど念のため、忍び部隊を控えさせて紫苑にも一緒に居てもらう。その使者の目的が俺の暗殺だという可能性もあるからな」

「承知しましたわ」

 

 

 

 

「さて、最後の使者は帝様の使者だから直ぐにでも会わないとな…まあ帝様の名を語った十常侍の連中の使者の可能性大だがな」

「…あの咲夜様、そういうことはあまり公言しない方がいいのでは?」

「良いんだよ、俺は一応裏では帝様と劉弁様、劉協様の陰の相談役として雇われたんだから」

「「「………へ?」」」

「…それにしても今回の使者は【表】か…それとも【裏】か。どの道面倒な事になりそうだな」

 

 

 

今聞き捨てならないことがあったような気がする…

 

 

 

「あ、あの~…咲夜様?」

「ん、どうかしたの燐花?」

「今とんでもないことを言ったような気がするんですが?」

「お兄さん…皇帝様の相談役だったんですか?」

「陰のだけどな。表立ってそういう役職にはしないでくれって頼んだら、秘密で受け持って欲しいって頼まれたんだよ。だから時折、洛陽を訪れて相談に乗ってたんだ」

「…お兄さんって器が大きいのかそれとも天然なのか…判断しかねますねぇ」

 

 

 

 

結果的に言うと

1. 袁紹→面倒だから【断】、【否】、【拒】の三文字だけ送った

2. 劉表→風と燐花の読み通り、蔡瑁を返して欲しいという要求。とりあえずタダでは返さないという返礼。正直、劉表のことはあまり好きではない為。というか勝手に攻めてきて、自業自得なのに何で上から目線? なんて思っている咲夜

3. 帝→洛陽に来て欲しいという連絡。董卓や賈駆が会いたいと言っているようだ。ついでに帝自身も会いたいようだ。咲夜はそれを承諾して、後日向かうことを使者に告げた

 

 

 

という感じで処理した

 

 

仕事がすべて終わったので、皆で今日から入った人たちの歓迎会をすることにした

因みに樊城ではもう宴会騒ぎであろうと咲夜と麻理と紫苑は悟っていた

何故なら、一人祭りごと大好きな奴がいるからである

 

 

 

―――秋葉である

 

 

 

 

彼女は新しい人が入るたびに宴会を開くのだ

しかも可能なら自費で…

あり得ないほどに宴会や祭が好きなのだった

それが分かっているので咲夜達も大して止めはしない

まあしっかりと仕事をこなしてからやるので、特に咎めたりはしないのだ

…たまに飲み過ぎて翌日遅刻したりするが…

その際には、咲夜と紫苑のダブルの説教が待っている

しかも正座で…

 

最長記録は3時間である



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編

番外編

 

~世界を旅する劉封編~

 

 

「う~ん…今は倭国なのか~…まだ米作りが伝わってないし…技術とかはまだ中国大陸の方が上なのか~」

 

 

日本…倭国に来て咲夜の第一感想がそれだった

 

 

「ふぅむ…ならもう適当に出歩いて必要なものとか物々交換しまくって行くかぁ」

 

 

まあそれなりに普通な旅を…

 

 

 

「あ、でもただ交換するだけじゃつまらんから…昔ゲームでよく遊んだものを伝えようかな♪」

 

 

 

普通の旅を…

 

 

 

「あと稲作とか芋のこととか…長持ちする食べ物教えたら面白いことにならないかなぁ」

 

 

…訂正、全く普通じゃない旅を始めた咲夜だった

 

 

 

 

 

それから300年後…倭国全域が咲夜が治めた樊城と同じ状態になったのは…まあ補足だろう

 

言うなれば文明が異常な位に進歩した位だろう

 

 

 

 

「さて次はっと♪」

 

 

 

こんな感じで咲夜は原作ブレイクならぬ歴史ブレイクを始めていったそうな…

 

 

 

咲夜の旅した場所は各地で変化を起していった

一部では咲夜は神の御使いだと崇め始める集団もいたとか…

 

無論、咲夜がそのことを知ることはなかったそうだ

 

 

 

 

 

樊城に戻ってくると、咲夜はまず叔父に会いに行くことにした

 

 

 

「劉泌叔父さん、ただいまです」

「お、おおおーーーー!!! 劉封か!? よく帰ってきたなぁ」

「叔父さんお土産ですよ。これらはこの大陸から離れた地で得た珍しいものです」

「ほお~、これは見たことのないものだな…で、どうだった? 見知らぬ土地を旅してみた感想は」

「まず俺は南蛮とは貿易関係を築いた方がいいと思います。あそこにはこの土地では手に入らない砂糖や珍しい香辛料があります。それらを手に入れられるだけでもこちらにはかなりの利益が出るでしょうしね」

「ふむふむ…」

「だからそれを考えて、俺は旅の最中、その南蛮の王に謁見を申し出ました」

「何と!! それで?」

「…びっくりしたんですけど……南蛮の住民は皆猫耳でした」

「…………は?」

「いえ、だから皆に猫耳でした。南蛮王も猫耳でした」

「……それで、どうしたのじゃ?」

「会わせてくれるのなら美味しい料理を作ってあげるよって言ったら……直ぐに通してくれて…で、良かったら貿易しないか? って言ったら貿易の意味から問われて……それを教えたらまずは俺の料理を食べさせろと言われて…食べさせたら凄く気に言ったようでいつでも貿易してくることになってます」

「………」

 

 

流石の劉泌も空いた口が塞がらなかったようだ

無茶苦茶過ぎる交渉術の為、それは仕方のないことだろう

傍から見たらただの餌付けだ

 

 

 

「他にも色々と面白い技術も有りますよ」

「……咲夜、頼みがある」

「え、なんですか?」

「私の代わりにこの樊城の太守を「却下です」…早っ!?」

「言ったじゃないですか、俺は太守とかそういった立場ではなく、一人の将として居たいって」

「う、ううむ…じゃがのう」

「? 何か問題でも?」

「…まあ後日嫌でも分かるわい」

「????」

 

 

 

その時、咲夜は全く理解していなかった

 

 

 

 

それから来る日も来る日も…

 

 

 

「劉封様!! お願いします!!! これはこの樊城に居る武官、文官の総意でございます!!」

「なにどぞ、なにどぞこの樊城の太守となってくだされ!!」

「劉泌様も既にこの樊城の太守を劉封様にする準備を整え済みでございます!!」

「残るは劉封様のご返事のみなのです!!」

 

 

「……え、何これ?」

 

 

城内の至る所でこういった様に懇願する人たちが後を絶たず…

 

 

 

 

「あ、あれは劉封様じゃねえか!!」

「おい、聞いたか? 近々劉封様はこの樊城の太守になってくれるんだと」

「本当かそれは!? なら安心だな!! 劉泌様も善政をしてくれているけど、劉封様はもっと凄いらしいからな」

「劉封様、ばんざーーい!!」

 

 

 

「……え、本当に何これ?」

 

 

町に出ると咲夜を称えたり、拝んだり、咲夜に差し入れを渡そうとする人が後を絶たないのである

 

 

 

 

流石にそれが毎日のように続くので咲夜はその理由を劉泌に聞いてみることにした

 

 

 

「…叔父さん、これはどういうことなんですか?」

「ん、お前は自分の噂のことも理解してないのか?」

「? 噂って…確か俺が何故か【深紅の鎧を着た正義の使者】って呼ばれていることですか?」

「ああ、それにお前は知らないだろうが、お前が通過した町は必ず何か幸福をもたらすともいわれているんだよ」

「………はい?」

「つまりだ、劉封。今までお前が通過してきた道に会った城や村などで必ずと言っていいほど良いことが起こったそうだ。例えば、飢饉が起こりかけた村ではお前がその人たちを救った後、不作が嘘のように豊作になったとか」

「…(あ~、それって俺が手を出したこの世界にとって真新しい農作物の育成法とか後は地形を見てお金になりそうな産業とかを教えて飢饉が起こっても大丈夫なように手助けしたり、それとなく俺が稼いでたお金の半分を置いておいたのが原因かなぁ…)」

「他にも病に苦しむ人達が多く居た村にお前が訪れてからはそれが嘘のように治ったとか」

「…(まあそれは昔読んだ病原体の本に乗ってた症状と一致したからまさかと思って教えたらビンゴだったって言う話なんだけど…)」

「そんなわけでその噂が至る所に広がってな。だから皆、お前が太守になればより安心して生活が出来ると思ったのだろうな。だから殆どの者はお前に太守になって欲しいと言っているんだよ」

「…で、でも反対意見もあるんでしょう?」

「うむ…じゃがそれも時間の問題だろうな」

「へ?」

「未だに反対意見を持っている者は皆、賛成派に説得されているからそろそろ…」

 

 

 

 

バンッ!!

 

 

「も、申し上げます!! 先程、最後まで渋っていた最後の反対者が賛成派に入るという連絡が!!」

「ふむ…というわけじゃ」

「……もう好きにしてください」

 

 

 

 

これによって咲夜は樊城太守になることになった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話

帝からの使者が来てから数日後…

襄陽も一段落した為、咲夜は護衛に焔耶と洛陽には言ったことのないという雛里を連れて洛陽に向かうことになった。

その間、襄陽は紫苑、燐花、風に。

樊城は劉泌、秋葉、そして新たに入ってきて頭角を見せ始めた姜維や諸葛瑾らに任せた。

 

 

 

 

「それにしても…帝様は何の用があって咲夜様を呼んだんだろうな…前回って何の為でしたっけ?」

「…劉弁様、劉協様に世の中のことを教えてやって欲しいと頼まれたから俺の知っていることを話したんだよ。でも霊帝様自身と劉弁様に聞かせることは出来なかったがな」

「? どうしてですか?」

「十常侍。主に張譲。霊帝様には無駄な知識を付けて欲しくないみたいだな。自身の操り人形にしておきたいんだろうな。そして劉弁様はハッキリ言うと劉協様よりも物覚えは良い方じゃない。つまり…」

「…第二の霊帝様を作るため…ですか」

「そういうこと。加えて言うのなら劉弁様は元々正式な皇族の者同士の交際ではなく、現大将軍の妹との間に生まれた子だ。その為、今朝廷では劉弁様派と劉協様派とで対立が日に日に激しくなっているそうだ。だからこそ世は乱れているんだよな」

 

 

 

そう言い終えると焔耶も雛里も何も言わなくなってしまった

少しは知っていた程度であった、現漢王朝の腐敗気味を生で聞いたのだから仕方のないことなのだろうが…

 

 

 

「…これから……この国はどうなっていくんでしょうか?」

 

 

雛里が恐る恐る咲夜に尋ねた

だがその目は何か悟ったような…そんな気配を漂わせていた

 

 

 

「…十中八九、朝廷の混乱に乗じて大反乱がおこる。現にその徴候が今起こり始めている。ここ最近、冀州、揚州、荊州、徐州、豫州などを中心に中規模な暴動が起こっている。それも一度や二度でなく幾度もそれだけのことが起こっている。これはもうただの暴動じゃないだろうな」

 

咲夜が知っているこの時代の知識、その中で後漢の衰退の中起こる大反乱、それは黄巾の乱だ

184年(中平1年)、太平道の教祖張角を筆頭とし、その弟張梁と張宝らが主犯者となった大規模な農民反乱である

「蒼天已死 黄天(夫)當(当)立 歳在甲子 天下大吉」というキャッチフレーズはかなり有名だろう

だがこれと全く同じことが起こるとは限らないだろう

この世界は咲夜の知識とは少しかけ離れている部分がある

だからこそ咲夜は今まであらゆる可能性を想定して様々な事に対処できるように準備はしていた

 

 

 

洛陽に着くとまずは謁見の間に案内された

霊帝とその後ろには張穣率いる十常侍の姿が…

 

ここに呼び出された理由は最近起こっている反乱を鎮めるために軍をだして欲しいという要請だった

それについて咲夜は疑問に思うことがあった

この洛陽は現在、董卓や何進大将軍らを筆頭にそれなりに名を連ねた将軍が居るはずなのだ

そのはずなのに態々咲夜に出兵要請

加えて董卓や賈駆は勿論のこと、他の重臣が全く姿を見せていない

今ここに居るのは非戦闘員であり、私腹を肥やしている駄宦官だけだった

それを見て何となく分かったことがあった

つまりは戦力不足になってきたのだろう

 

相手は数で勝る元農民の反乱軍

今はまだ指導者が出ていない様だから数の暴力のみみたいだが…

その反面、朝廷は現在最低限の軍しか保有することが出来ていない

つまりは多くの兵を雇えるだけの金がないのだろう

だから過去の威光を利用して諸国の太守達にこうやって無理に従わせているのだろう

もし、これに従わなかったら朝敵とされるからな…

 

 

 

「…(断れんな流石に…ハァ、仕方ない。皆に伝えた後、領民の皆にも伝えておくか)」

 

 

 

咲夜は渋々その要請を承諾し、その後劉協の元に案内された

 

 

 

また霊帝と劉弁に会うことが出来なかったのだが…

 

 

案内された部屋には董卓、賈駆、華雄、呂布、陳宮、そしてまだ会ったことのない女性と劉協が居た

 

 

 

「よ、久しぶり」

「あ、咲夜さん」

「咲夜、手紙読んで来てくれたのね」

「ん、まあな」

「……咲夜、おなかすいた」

「れ、恋殿~。いきなりそれはないと思いますですよ?」

「ふははは! 仕方ないだろう、咲夜の作る食事は美味いのだからな!!」

「へぇ、ってことはこいつが劉封かいな」

「…えっと、貴方は?」

「自己紹介が遅れたなぁ。うちは性を張、名を遼、字を文遠や。よろしゅう」

「ああ、こちらこそ(…何で関西弁???)」

「咲夜、久しぶりなのじゃ!!」

「劉協様こそ、お久しぶりです」

「むぅ~~、咲夜。ここには月達以外は誰もおらん。真名で呼んでたも」

「…はい、承知しました。聖様」

 

 

「うむ、でじゃ!! 早速咲夜の作る珍しいものを食したいのじゃ!」

「ふふ、承知しました。月ちゃん達はどうする?」

「へぅ、では頂いてもよろしいですか?」

「そうね…丁度お昼時だし、ボクも貰うわ」

「何や? 劉封が作るんか?」

「ああ、霞は知らないのだったな。咲夜が作る料理は絶品なのだ!」

「はいなのです!! 咲夜殿が作ったあの甘~いお菓子は最高なのです!!」

「ほぅ、それは楽しみやな!!」

「………いっぱいたべる」

「…あ、あはは…まあ期待にこたえられる様にするよ」

 

 

 

「ん、そう言えばさっきからあんたの後ろに居るの…焔耶は分かるけど、もう一人は初めて見るわね」

「あ、紹介が遅れたね。この子は先日、うちの軍師であり文官でもある鳳士元だよ」

「は、初めまして!! ほ、ほうし、ほうしげんでしゅ!!? (がりっ)~~~~~っ!!」

「あ~、雛里。あんまり緊張しないの。後口の中見せてみなさい、舌噛んだんでしょ?」

 

 

 

この数日で雛里への対処も慣れた咲夜だった

 

 

 

その後、咲夜はとりあえず簡単に作れるお菓子を作ってあげた

というよりも前もって少しだけ用意はしていたのだ

以前来た時、恋が無茶苦茶食って咲夜はその食すスピードに追い付くほどの速さで恋が満足するまで手を止めなかったのである

あの時のことを思い返すだけで腕が痛くなる思いがする咲夜だった

 

 

 

その後はいつもと同じように劉協に洛陽外のことや自分が経験してきた旅の体験談を話したりした

この大陸の外のことには月達も興味を持ったようで皆真剣に聞き入っていた

 

 

 

だがそんな楽しい空気も劉協のある一言で分散してしまった

 

 

 

 

「のう…咲夜」

「はい、どうかなさいましたか聖様」

「…主は漢王朝がこれからどうなっていくと思う?」

「…………それはどういう意味でしょうか」

「誤魔化さんでもよい。分かっておるのじゃ、もうこの漢は長くはないということが…」

「っ…!!」

「…父様と弁兄様に意図的に会わせなかったり、十常侍が裏で色々とやってるのは聞いてる」

「…誰から?」

「何進大将軍」

「っ!? 何であいつが…」

 

 

ハッキリ言うと何進にとって劉協という存在は邪魔なだけな存在である

何故なら何進は劉弁を時期皇帝の座に押し上げて自身の立場を更に強くしたいという野心を抱いているためである

なお、この考えは現大后である何進の妹も贅沢な生活を手放したくない一心で何進に賛同しているそうだ

つまり、劉協にそういった裏の事情を話すのは何進にとってデメリットしかないともいえるのである

 

 

だが咲夜や詠、音々音、雛里などの有能な軍師はその思惑を見抜いていた

 

 

 

「…成程、何進ってただの小心者ってわけじゃないのね」

「いや、多分あの鶏野郎には多分助言者がいるんだろうな。じゃなきゃこんな先を見通したこと出来ないぞ」

「それについてはねねも同意するのです。でも一体誰が…」

「…何進さんが更に堅固な権力を持つことによって利を得ることが出来る人物…それだけでもかなり多くの人がいます。絞り込むには情報が足りないかと」

 

 

 

「? どういうことや?」

「…簡単に説明すると何進は誰かに助言されている」

「いい? 霊帝様の体は正直言ってかなり悪くなっているわ。つまりもう先が殆どない。そんな中、何進や張穣みたいな連中はどうにか今以上の権力を得ようとするわ」

「でも今は劉弁様と聖様という二人の次期帝候補がいるのですよ。だから、権力を得るには取捨選択を強いられるのです。つまり、どちらかしか選べないのです」

「ですが何進さんにはその選択肢という選択肢を撤廃する方法も有ります。例えば、劉弁様が次の皇帝の座についたとします。そうなると何進さんは自然と強大な権力を得ることが出来ます。逆に聖様が皇帝の座についたとします。その場合、何進さんは今と殆ど変らない権力しか得られません。そればかりか場合によってはその権力を失う恐れさえあります。ですが、もし聖様がその座に就く前に何進さんに絶大な信頼を託した、もしくは何進さん以外信用することが出来ない状況になる。そうなってしまえば話は違ってきます」

「…つまり、何進は今、どちらが皇帝になっても自身に利が来るように動いているってわけ」

 

 

 

 

それだけ話すと皆ようやく納得してくれたようだった

 

 

 

「確かにそれなら納得がいくわな」

「ああ、あの何進にそんな考えが出来るとは考えにくい」

「普段は愛人と閨に居るだけのぐうたらな奴だからな」

「…それにしても…一体誰が……」

「…詠ちゃん、もしかしたら李儒さんかな?」

「…その可能性も大きいけど……ハッキリそうだとは言えないわ」

「なら王允の可能性もあるのですよ」

「……王允?」

「恋、王允には何度も会っているであろうに。あの何を考えているのか分からない爺のことじゃよ」

「……あ」

 

 

 

だがここで考えても何も分からないという結論に至ったので皆はとりあえず現状の打開策を考えることしか出来なかった

 

 

 

「…とりあえず咲夜がここに呼ばれたのはここ最近頻繁に起こっている反乱を鎮めるために軍を出せという勅を受けるためだったのね」

「そういうことだよ詠。まさか俺の所までそんな命令が下るなんて思ってもみなかったけどさ」

「…拙いわね、そうなると月やボクは勿論、ねねや恋、華雄や霞もこの洛陽に来るのは出来ないわ。それに咲夜だってこの件で益々洛陽に来れなくなるだろうし…」

「洛陽には混乱の種を作る人しか残らなくなるってわけか…確かにそれは拙い……乱がなくなった後、一気に崩壊が加速する恐れがあるな」

「うう~~…どうすればいいのですか……このままだと」

 

 

皆頭を抱えて悩むしかなかった

これと言ってよい案が浮かばないのである

 

 

 

「ううぅ~~~、咲夜!! 何でこんな時にいい考えが浮かばないのですか!!」

「いや、俺のせい!?」

「ねね、やつあたりは良くないで」

「確かにそうね…でも誰かいい考えはないの? 貴方はどう、鳳統」

「う、う~ん…私は皆さんと違ってここは初めてですし…何より情報が足りません」

「…確かにそれはねぇ」

「せめて誰か一人でも絞り込めれば……」

「………同士討ち」

「「「「「……は??」」」」」

 

 

恋は静かに言った

――同士討ち

 

っと

 

 

 

それを聞いて咲夜、詠、雛里、音々音の四人は頭の中の種がパリーンと割れるようにアイディアが閃いた

 

 

「恋、それはいい考えだ!!」

「そうね…確かにその手は今までちょっとリスクが大きかったけど、今は朝廷も頻度の多過ぎる反乱でドタバタしてる」

「時期的には丁度いいのですよ!!」

「あわわ、なら直ぐに考案した方がいいと思います」

「そうだな!! よし、幸いここには誰の目もないようだし静かに討論を…」

 

 

「ちょ、待ってな!!」

「そちらだけで勝手に話を進めるんじゃない!!」

「咲夜様、教えてもらえますか? どうにも私だと分からない部分が多いのですが…」

「へぅ~、詠ちゃん~。教えて~~」

「妾を空気にするとは…」

 

どんどんと話を進めていく四人に流石に空気となっていたメンバーが総ツッコミした

 

 

 

「ああ、ごめん月。ついこっちに夢中になっちゃって」

「も、申し訳ありません、聖様!! 良き策が思いついたので…つい」

「その策とやら、妾にも教えてたも」

「…これから話すことは他言は駄目でございますよ?」

「無論じゃ」

「じゃあ、分かっていない焔耶達にも教えようか、雛里、詠、ねね」

「そうですね、これは味方が多い方がいいのですよ」

「そうね、後恋には後で何かお礼をしないと…」

「……?」

 

 

自分の手柄に気付かないでいる恋だった

 

 

 

「じゃあ雛里から説明を頼むよ」

「は、はひぃ。 で、では説明しまちゅ…あううぅ///」

「ゆっくりでいいからね」

「はい…え、えっとまず先程呂布さんが言った同士討ちという言葉…そこから導き出された答えは宮中に居る不正を行っている人たちを互いに疑心暗鬼に陥らせるというものです」

「…成程なぁ、ちょっとえぐいなぁそれは」

「へぅ…詠ちゃん、それ本当にやるの?」

「仕方ないでしょ? これしか今のところ思いつかないし」

「それに対象は今まで好き放題やってきた連中のみなのですよ。自業自得というやつなのです」

「じゃが効率的なのは確かじゃろうて」

 

 

 

ここまでの説明で理解出来たのは聖、月、霞の三人だ

 

 

残る焔耶と華雄は…

 

 

 

「「?????」」

 

 

ちょっと分からないようだった

 

 

 

「ハァ…焔耶、華雄。簡単に説明するとこの策は相手を互いに潰しあうように仕向けると同時にその際に何進に助言している輩を絞り込むことが目的なの」

「おお、そういうことか!!」

「? だけど咲夜様、潰し合いを促進させるのは分かりましたけど…どうやって何進の助言者を絞り込むんですか?」

「…見張りを立てるよ、勿論うちの自慢の密偵を使ってね」

「…ああ成程ね」

「確かにあの人だったらそれは可能ですね」

「? 誰のこと?」

「それは秘密、何故ならそいつのことを知っているのはうちの軍のごく僅かな人だけだから」

「…信用できる?」

「出来る」

「ならそっちは任せるわ」

 

 

 

 

 

こうして裏で動き始めた咲夜達

 

果たしてその結果が何を引き起こすのか…

それはまだ誰にも分からない

 

 

 

 

 

それから必要な処理を終えた咲夜は直ぐに洛陽から樊城へと戻っていった

その際に、またしつこい勧誘などがあったことは言うまでもないだろう…

 

 

 

そのせいで表面上では普通に振る舞っていた咲夜も心中ではかなり苛々していた

付き合いの長い焔耶はその為かなり脅えていたのだが、会ってまだ日の浅い雛里は何だかよく分からないという顔をしていた

 

 

 

道中、雛里は不思議に思って焔耶にその理由を聞いてみた

 

 

 

「焔耶さん、どうしてそんなに震えて?」

「あ、ああ…咲夜様、雛里にはどう見える?」

「え? えと…凄く笑顔でいるだけに見えますけど???」

「雛里には分からないだろけど…あれは咲夜様が本気で怒っている時の顔なんだよ」

「え!?」

「ああ…思い出すだけでも震えが止まらないよ……あれは雛里が来る前のことだった」

 

 

 

焔耶が語ったのは仕官してから少しした後、砦に立て篭もる盗賊団を討伐しに行くという聞くだけならそれほど難しくなさそうな仕事だった

それに赴いたのは咲夜と焔耶、そして500の兵だった

 

 

 

敵は3000、だがそこは咲夜の用いた策によって咲夜達は殆ど被害を出さずに賊を追い詰めることが出来た

だがその際に、砦に籠っていた賊の頭が捕えていたであろう小さな女の子を人質にして軍を引けと言ってきた

その瞬間、咲夜の顔が一変した

 

 

 

それまで真面目で引き締まった顔が笑顔になったのだ

ただ、その笑顔の裏には何故か鬼のような顔が見えたとか…

 

 

更に異常な位に低い声を出して、盗賊達を脅えさせ、その隙に咲夜は弓を引いて矢をその盗賊の頭の額のど真ん中に直撃させ、絶命させた

それと同時に焔耶達に突撃命令を下し、自身は先程まで囚われていた少女をすぐさま救出に向かい、その戦いは終わりを告げた

 

 

それから、兵士たちの間では咲夜を決して怒らせてはならないという暗黙の決まりが出来たのだ

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんなことがあったんですか?」

「…しかも帰ってからも暫くの間、咲夜様の機嫌が物凄く悪くて居るだけで殺気を振りまいてたから…(ぶるぶる)」

「焔耶さん!? だ、大丈夫ですか!!?」

「…ああ、悪い。ただもうあの雰囲気は味わいたくない……」

「……因みにどうやってそれは止まったんですか?」

「…璃々がそこに来て咲夜様と遊んでもらう約束をしてからだ」

「…へ?」

「そしたら咲夜様の殺気が嘘みたいに消え去って顔も普段の物に治ったんだ」

「…璃々ちゃんが治したんですか?」

「というよりも咲夜様は苛々した時子供と接してそれを発散させてるんだってさ」

「……」

 

 

 

 

意外な咲夜の一面を知った雛里だった

 

 

 

 

 

樊城に帰ってきた咲夜達はすぐさま会議室に向かった

事前に襄陽に使者を送り、紫苑達には既に樊城に来てもらうように指示しておいたのだ

 

会議内容は勿論のこと、出兵のことである

 

 

それを聞くとその場に居た皆が咲夜を労わる様な目で見始めた

その時の咲夜がストレスを抑えながら、あたかも冷静であるかのように話している光景が目に浮かんだのだろう

 

 

 

「さて、皆は出兵に関して何か言いたいことはあるか?」

「とりあえずどこに行く予定なんですか?」

「…まあ予定だとまず汝南、その次が江夏。その後は情報次第かな。この二つは俺達の領地の近辺で最も賊の被害が酷い場所なんだ」

「汝南って…確か袁紹の従妹の袁術の治める領地の近くじゃ…」

「………だから正直行きたくはないんだ。でも北は月…董卓や賈駆達の担当になったし…南東は長沙があるから紅蓮達がいるし、南と西は問題外、必然的に行けるのは東と北東だけになるんだよ」

「? 咲夜様、南は南郡が劉表の領地だからだというのが理由だというのは分かりますけど…どうして西まで??」

「…焔耶、西には主にどの城がある?」

「え、えとぉ…」

「…焔耶さん、ここから西にある城は上庸が一番近くです」

「あ、そ、そうか!! ありがとうな、雛里」

「い、いえ…どういたいまして…」

「そこは現在、有能な太守が治めているという情報が入っているし…何より西は比較的賊の被害は少ない。その理由は分かる、秋葉」

「うえっ!? お、俺か……えっと……Σ ああ、そういうことか。西には益州、もしくは漢中しかないからか」

「そういうこと、あの地は険しい山が多いし、正確な地図でも持っていないと進軍はかなり難しい。賊にとっても進み難い道だから、わざわざそっちを選んだりはしないだろうからな」

「成程…」

 

 

 

皆これで納得してくれたようだ

 

 

 

 

「さて、ではこれより部隊編制及び、俺のいない間に樊城、及び襄陽を守る将を言い渡す。心して聞くように」

 

 

 

 

 

 

「まず俺と共に出兵する武将は魏延将軍と太史慈将軍」

「しっ!!」←ガッツポーズ

「俺も出陣か…」

 

 

「次に軍師に程昱、副軍師に鳳統」

「あわわ、わ、私ですか///」

「…ふぅむ、初めての軍の采配となるわけですか~」

 

 

「次に襄陽で内政を行いつつ、劉表軍を警戒する将、黄忠、徐晃将軍。そして軍師に徐庶、副軍師に荀攸」

「あら。では咲夜様のご期待にこたえられる様にしなければなりませんね」

「ふわわ…お留守番ですかぁ」

「ふふふ、任せておきなさい。私がいるからには劉表軍なんてこっちに近寄れなくなる位にしてやるんだから」

 

 

「燐花、程ほどにね? コホン、次に樊城の太守を再び劉泌にお願いしたいのだが…よろしいですか?」

「ハッ!! 大役、この劉泌がしかと承りました!!」

「その補佐として姜維、諸葛瑾、董允、馬良、劉曄などを残しておきます。何かあれば相談して下さい」

「「「「はっ!!!!」」」」

 

「次に…」

 

 

 

こうして咲夜は次々と役職と仕事内容を告げていった

 

 

 

「最後に兵士達ですが…まず劉表軍との最前線になっている襄陽には一軍と五軍を配置。樊城には二軍と新兵達を。遊軍として四軍を配置しておきます。俺と一緒に行くのは三軍とまだ配置の決まっていない訓練を終えたばかりの人たちです」

「すべてにおいて優れている一軍と守りに特化した五軍…移動力のある四軍を遊軍として配置し、何かあれば臨機応変に対応できるようにして念のため二軍の兵士たちに樊城に待機させつつ、新兵達を鍛える。それは確かにかなり良い配置だと思われます。ですが…」

「咲夜様、よろしいのですか?」

「? 何が?」

「いえ…共にするのが三軍と訓練を終えたばかりの者のみで…」

「大丈夫だよ、皆あれだけの訓練をやり遂げた人たちばかりだし…それに何があっても対応できる三軍の人たちなら色々と応用が利くしね」

「…咲夜様がそれでもいいというのなら止めませんが」

 

 

 

そしてそれから数日後…

 

 

 

「じゃあ、紫苑に燐花、それに麻理。襄陽の留守は頼んだよ」

咲夜は先日言った通り、風、雛里、秋葉、焔耶と三軍の兵士3000と無所属の兵士2000、計5000の兵士を連れて出陣することになった

 

 

「咲夜様、お気をつけて」

「こっちのことは気にしないで、怪我とかしない様にして帰ってきてくださいね?」

「あ、それから他の討伐軍と会ったらちゃんと挨拶しておいてよ?」

「…三人は俺の母さんか? そんなに言われなくとも大丈夫だよ」

 

 

何となく締まらない出発となったのだが、士気は皆高いようだった

特に…

 

 

 

「うおおおおーーーーっ!!! 燃えるぜぇーーーー!!!」

「おお、やる気だな秋葉!! よぅし!! 私もやってやるぜぇーーーー!!!」

 

 

…テンション上がり過ぎて若干キャラが変わっている将が二人いたのだが…

 

 

 

 

「…ハァ」

「あわわ…さ、咲夜様」

「…ぐぅ~~…」

 

 

 

こんなんで本当に大丈夫だろうか…

咲夜は不安に思うしかなかった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話

不本意な出兵となってしまったが、兵は皆咲夜が事前に理由を説明して、どこに出兵するのか大まかな予定は話していたので納得してくれた

その後の咲夜の軍の進軍は好調だった

初戦は賊徒10000が籠るとある砦だった

まず咲夜は降伏するのなら命はとらない

だがこちらに攻撃を仕掛けるつもりであるのなら容赦は一切しないという矢文を敵に送り付けた

その後に咲夜は護衛に秋葉を連れて手紙と同じ内容のことをその砦の前に行き、直接言いに行った

勿論、その際に策を練っていたが

 

 

その時は交渉は決裂し、賊は咲夜が大将だと知ると我先にとばかりに門を開いて攻めてきた

 

 

 

その為、咲夜は説得を諦め殲滅行動に移ることにした

 

まず咲夜と秋葉は逃げるように撤退した

それを調子に乗って追いかけてくる賊

だが少しした後、開いた道に入ると急に咲夜と秋葉は敵に向かって反転し、同時に賊に矢の嵐が吹き荒れた

雛里の率いる弓を持った兵士1000が待ち構えていたのだ

そしてその背後には焔耶の率いる兵2000が混乱する賊に攻め入った

それと同時に待機していた風の率いる兵2000が側面から賊を突いた

また先程まで弓を射ていた1000の兵士も剣を持ち、咲夜と秋葉と共に突撃した

 

こうして初戦の戦いは終わりを告げた

ほんの少し怪我人は出たが、それも大したものではなかったため、初戦は大勝と言っても良いほどだった

 

 

降伏した賊は約3000

咲夜はどうしてこんなことをしていたのか一人一人聞いてみることにした

するとやはりというか…大抵の者は食べるものを大方領主に絞り取られ、普通に生きることすらできなくされてしまったとか…

後は漢王朝に対する報復だとか…そういった人ばかりだった

 

咲夜はそれを聞くと静かに諭した

 

 

「…なあ、食べる物に困って賊になったのならうちの領地に来ないか?」

「え…」

「うちの領地には元盗賊だった人たちもいるんだよ。勿論、矯正のためにちょっとしたことも学んでもらうけど、それが終わった人たちは皆、今ではちゃんと一人一人仕事を持ってしっかりとした生活を送っているんだよ」

「…そ、それは俺たちにも生きることが出来るようになるってのか!?」

「勿論、ちゃんと一日三食食べられるし、仕事もあるし、娯楽もある。それに俺の所ではちゃんと領民の生活を保障する法を作っているからね」

「…信じて…いいのか?」

「うん、それはそっちの好きにして」

 

 

 

それから賊の人たちは皆、咲夜の領地に行きたいということになり、必要な荷物を纏めてもらい、その後にそれなりに近くにある襄陽の方に三軍の兵数人を道案内役として任せて連れていってもらうことにした

 

 

 

こんなことを続け、咲夜の軍は連戦連勝

降伏した賊の殆ども咲夜の元で保護下に置かれることとなり、その賊の数も約20000を超えていた

 

 

 

 

「ふぅ…これで何回賊と戦ったっけ?」

「えっと…多分、13回目だな」

「ならもう良いか、これで命令も果たしたことになるだろう。朝廷は出兵しろといっただけで賊を滅ぼせなんて言っていなかったしな」

「でもいいんですか? 報告によると、今までとは異なる規模の賊が暴れ回っていると聞きますよ~」

「み、皆頭に黄色い頭巾を被っていることから朝廷は黄巾党と名付けたそうです。その黄巾党の被害もどんどん広がっているそうです」

「だからこそ、今は領内の守りを固めるべきだろう? それにこれ以上、朝廷の身勝手な命令に兵士達を戦わせたくないしな」

「う~ん…なら後二月、進軍しませんか? 今は黄巾党の活動が活発化する時期です。そんな時に私達だけが領内に戻ったら朝廷に何か理不尽な事を言われかねません」

「あ~、それは風も賛成ですね~。とにかく今は襄陽、樊城のことは劉泌様や紫苑さん達に任せて風たちは進むしかないと思います~」

「…ふぅ、仕方ないか。ならその胸を兵士たちに伝えておかないとね」

 

 

 

 

それから再び、戦いを目的とした進軍が始まった

その最中、幾人もの兵が死んでいった

咲夜は戦いが終わる度に死んでいった者達のために簡単だが、葬式を執り行い、それを記録に残すと死者達を火葬して遺骨を骨壷に入れていった

この時代、本来なら土葬なのだが咲夜はそれをせずに火葬して骨を遺族に送り届けることにしていた

死んでいった者達のことを忘れない為に…咲夜は絶対にその記録を…死者達の顔を…忘れない

 

 

それらが終わると咲夜は一人、誰の目もない所で泣いていた

人の上に立つ者なら弱い所を見せないようにしなければならない…それ故に咲夜は人前で泣くようなことはしないのだ

 

 

無論、大半の将兵たちはこのことを黙認しているため、何も言わずにただその咲夜の後姿を見て、咲夜の助けになろうとするだけだった

 

 

 

 

 

進軍を再開してから三日たったある日のこと…周りを偵察していた一人が慌てて咲夜の元に戻ってきた

 

 

 

「も、申し上げます!! この先に官軍が黄巾党と戦っているようです」

「旗は?」

「劉と曹の旗、他にも関、張、夏候等の旗も有りました!!」

「………(何だろう、それを聞くと物凄く嫌な予感がするんだけど……)華琳さんと…後もう一人軍を率いている人がいる…か」

「あら~、どうしますか、お兄さん」

「…華琳さんの性格のこととか今の状況を想定して考えると…会っておいた方がいいかもね」

「わ、私もそう思いましゅ…あうぅ///」

 

 

 

一応、念には念を入れて共を秋葉と雛里に頼み、その間、軍のことを焔耶と風に指揮してもらうことにした

これでもし賊の奇襲があったとしても直ぐに対処できるように前もって準備している上に、有能な将と軍師のいる状態なので、咲夜がいなくても大丈夫なのだ

 

 

 

事前に華琳の元に使者を送っておき、返事を貰った後に咲夜は雛里と秋葉を連れて曹の旗印のある陣に入っていった

 

 

陣に入った後、咲夜は華琳のいる場所に案内され、その手前で秋葉と雛里は待機ということになった

 

 

「久しいわね、こうして直接あなたと会うのは」

「と言ってもそれほど久しいわけではないでしょうに」

「ふふ、それにしてもまさかあなたまで出兵することになっているなんてね。それを聞いた時は驚いたわ」

「…まあ勅だったのでね」

「そう…それで貴方はどれくらいの兵を連れているの?」

「とりあえず5000だった。まあ戦っていくうちに何名か死んでいったけどね…」

「…そんな少ない兵数でよくここまで戦って来れたわね」

「こっちは数よりも質と軍略で勝ってきたようなものだからね」

「捕虜は?」

「もう樊城と襄陽に護送済み。矯正を受けた後に軍に所属するか町で働くか、町の外で働くかを決めてもらう予定」

「…相も変わらず風変わりな方針ね。普通元賊の輩をそうやって直ぐに職につかせたりはさせないと思うのだけど…」

「え? だって賊となった人たちの大半は生活に困って仕方なく、生きるためになるしかなかったのが理由だからね。そのことを考えると…ね」

「…やっぱり甘いわね、貴方」

「あはは、それは自分でも自覚してるよ。でも俺は俺のやりたいようにやる。ってそれは前も言ったね」

「ふふ、ええそうね。でも残念ね、貴方ほどの有能な人ならどんなことをしてでも引き入れたくなるわね」

「あはは、俺よりも優秀な人なんか華琳さんの元に一杯いるでしょうに」

「それがそういうわけでもないのよ…秋蘭に春蘭、それに貴方には後で紹介するつもりだけど…桂花と新しく入ってくれた凪、真桜、沙和、稟、流流に季衣。他は私の親戚とか桂花には劣るけどそれなりに仕える武官と文官が少しって感じで時折手が回らなくなるのよ」

「…まあその気持ちは良く分かりますが…華琳さんの領地は今陳留だけですよね?」

「他にもチラチラと治めている領地も出来たから咲夜と会った時よりは領地は増えているわ。だからそれに伴って人手がどんどん必要になってきてるってわけよ」

「…その気持ちは良く分かります」

 

 

 

それから少し雑談した後、咲夜は気になっていたことを聞いてみることにした

 

 

 

「そう言えば華琳さん、さっき劉の旗が見えたんですけど…あれって華琳さんの軍じゃないですよね? どこの軍なんですか?」

「ああ、あれね。偶然義勇軍の一部隊と出会ったのだけれどちょっと気になったから軍を共にしているのよ」

「……(あれ、何か俺の中の第六感と脳髄と魂が雄たけびをあげながら警告しまくってるような感じがするんだけど…)…一応聞きますけど…その軍を率いてるのって…」

「ああ、それは…」

 

 

 

 

 

―――――劉備玄徳よ

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、咲夜の周りだけの空気が凍りつき…

 

 

 

「(ぎゃあああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーっ!!!!)」

 

 

咲夜は心の中で驚愕の雄たけびを上げ…

 

 

 

「(○△○)」

 

 

暫く開いた口が塞がらず、茫然としていた

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと? 大丈夫、咲夜?」

「Σ あ、ああ…わ、悪い。ちょっと疲れてるみたいで…えっと、もう一度言ってくれないかな?」

「え、だから劉備玄徳だって」

「……OTZ」

「え!? 本当にどうしたの!?」

 

 

 

 

咲夜は失念していた

昔読んだ書物には曹孟徳は黄巾党制圧の戦いの際に劉玄徳との会合の時を得ていたことを…

 

 

 

 

「…(って言うかタイミング悪過ぎだろ、俺!? 何で会いたくない人物に……いや待てよ…そうだ!! このまま何事もなく帰れば…)」

 

 

だが運命は余程咲夜のことを嫌っていたのだろう…

 

 

咲夜にとってこの世界の人生で最も逢いたくない人物は・…

 

 

 

 

「あの~曹操さん」

 

 

 

空気を読まずに…

 

 

 

 

 

「あらどうかしたの、劉備」

「え゛…」

「えっと…実は先日お話した兵糧についての相談なんですけど…ってあれ? 誰ですか?」

 

 

 

 

咲夜の前に姿を現した

 

 

 

 

「ああ、前に話したでしょ? 貴方と似ているようで全く違う理念の元に軍を持つ奴がいるって」

「え、じゃあこの人がその劉封さんなんですか?」

「そうよ…って咲夜、貴方はどうして逃げようとしているのかしら?」

「(ギクッ) い、いえ…俺が関わったらいけないような話のようだったので空気を読んで出ていこうとしただけですよ」

「いえ、構わないわよ。何なら貴方も一緒に進軍しない? その方が効率が良いでしょ?」

「出来ればそれは断りたいですね。俺達はもうあまり戦わない予定だったので」

「あら、どうして?」

「もう合計で20戦はこなしているのでこれで直に従う義理は果たしたと思っているからですよ。そもそも今回の出陣は乗り気じゃなかったので」

「ふぅ、まあ確かに貴方は半強制的に出兵させられたものだしね」

「あ、あの~どういうことなんですか?」

「ああ、咲夜は元々出陣なんかする気はなかったってことよ」

「え、ええ?! ど、どうしてですか!?」

「理由は簡単。えっと、劉備さんで良いんだよね?」

「あ、はい」

「樊城、襄陽の話は聞いたことあるかな?」

「えっと……あれ?」

「…知らないの、貴方は。どこの領主ももう誰でも知っていることよ?」

「い、いえ!! し、知ってはいるんですけど…わ、忘れちゃって…」

「ハァ…仕方ないわね。樊城・襄陽の太守、劉封。字の無い、珍しい人物だが仁君として謳われ、自身からは決して他の領地を攻めることのない変わり者。だけど、自分の領土を侵された場合、一変して攻めに転じ、攻めてきた軍の領地を掠め取ってしまう。決して手を出してはならないというのが売りの変わり者よ」

「…華琳さん、どうして変わり者を二回も繰り返したんですか?」

「大事な事だからよ」

「………」

「まあそんなことは置いておくとして…ともかく、咲夜はこちらから手を出さない限り絶対に戦ったりはしないってことで有名なの」

「そ、そんな人がどうして…」

「咲夜は朝廷で官職を与えられたの。現漢王朝皇帝、霊帝に気にいられてね。で、そのせいで今回、こうして出兵することになったのよ」

「ハァ…まあそういうこと」

「…何だか大変なんですね」

「まあそんなことはもう良いから。それよりも二人はどうしてこの地に?」

「劉備とは偶然、先の戦の終息の際に出会ってね。ちょっと興味が湧いたのよ」

「…ああ、そういうことね」

「で、劉備達は兵糧が足りないということであげる代わりに一緒に戦って貰ってるってわけ」

「あうううぅ…」

「ふむ、成程。でもそこまで聞いても劉備さんに利はあっても華琳さんには全く利がないように思えますが?」

「そんなことないわよ。私にだって利はあるからこうして受け入れたのよ」

「……ああ、そういうことね」

「ふむ、それを聞いて私の考えを悟ったか…流石は劉封といったところかしら?」

「そんなことありませんよ。華琳さんのことを知っている人なら大抵の人が察することが出来ると思いますよ」

「過ぎた謙遜は良くないと思うわ」

「そんなつもりはないんですけどね」

「ふふふ…」「あはは…」

 

「?????」

 

 

 

 

 

「それで? そんなことを話して華琳さんは俺に何を望む?」

「だから言ったでしょ? 貴方も私達に少しの間、加わって欲しいのよ」

「…ハァ、それはうちの軍の技術を得たいからですか? それともうちの軍師や将の実力を測りたいからですか? それとも単なる好奇心ですか?」

「全部よ」

「……そこまで正直に言われると断るに断りきれないのだが…ハァ、仕方ない。なら少しうちの軍師や将と相談しても良いですか? これを俺一人で決めるのは流石に無責任なので」

「まあ良いわよ。待っているわ」

 

 

 

咲夜は直ぐに陣から出ようとしたのだが…

 

 

 

「あ、あの!!」

 

 

劉備に呼びとめられた

 

 

 

「…何ですか?(おいいいいぃ!!! 何で話しかけてくるんだよ!!!)」

「少し…劉封さんと御話がしたくて…その…そ、それに私の所で軍師をしてくれている朱里ちゃんが劉封さんの所で軍師をしている鳳統ちゃんに会いたいとも言っていたので!! そ、その…良いですか?」

「……ええ、まあ良いですよ(くそぅ…そんな上目遣いで言わないでくれ!! 断るに断れんだろうに!!)」

 

 

 

こうして咲夜の陣に劉備達が訪れるという

咲夜にとってこの世界の人生で最も不幸なイベントが舞い降りることになった

 

 

 

 

それから自身の陣に戻る最中にそのことを雛里と秋葉に話し、それを聞くと雛里は凄く喜んだ顔をした

だが、秋葉は少し考える様な顔をしていた

 

 

 

 

 

陣に戻り、風と焔耶の居場所を見張りをしていた兵の一人に聞き、その場所に行くと…

 

 

 

「では焔耶ちゃん。この模型を使って8種の陣形を作りあげてください」

「う、う~ん…こ、これが魚鱗?」

「…それは鶴翼の陣です。では次です」

「え、えっとこれが長蛇の陣?」

「…ふぅ、それは鋒矢の陣です。焔耶ちゃん、ちゃんと復習してませんね~」

「ウグッ…」

 

 

どうやら暇な時間を使って焔耶に風が陣構成を教えているようだ

それにしても…

 

 

 

「ぷぷっ…焔耶、お前そんなことも分かんないのか」

「な!? あ、秋葉!?! それに咲夜様に雛里も…っ!!」

「おや、お兄さん。いつ戻ってきたんですか?」

「ついさっきだよ。それにしても焔耶…ちゃんと予習復習はしようって約束したよね?」

「ううぅ…」

「ぷぷ…っ」

「く、秋葉!!! 貴様ぁ!!!」

「はいはい、そこまで。秋葉も挑発しないの。なら秋葉が続きを解きなさい」

「ええ~~…」

「文句言わない」

「…はい」

 

 

 

咲夜は風と焔耶の二人に事情を話しながら、雛里に秋葉への問題を出題することを任せた

 

 

「…というわけだ。どう思う?」

「ふぅむ、雛里ちゃんと秋葉ちゃんはどう思っているのですか?」

「二人とも軍を共にすることに賛成だと。雛里に至っては諸葛亮って言うこの事もあるんだろうけど…劉備さんと華琳さん、その二人はいずれ乱世で頭角を現すだろうから見ておいた方がいいって言ってたよ。で、秋葉は…まあいつも通り強そうなやついたら共闘したいって…」

「おやおや、いつも通り秋葉ちゃんは勝負好きですねぇ」

「咲夜様!! 強い奴っているんですか!?」

「う~ん、華琳さんのところは言う必要はないと思うけど、春蘭さんに新しく加わったらしい楽進さんって言う人もいるらしいし…劉備さんの所には関羽さんや張飛さんって言う物凄く強い人がいるらしいよ」

「咲夜様!! 私も一緒に軍を進めることに賛成します!!」

「……まあ焔耶の方はそうだと思っていたからよしとして…風はどう思う?」

「ふぅむ、風もこの際、曹操軍と劉備軍のことを実際に見ておくことを推奨します。理由は二つあります。両軍の強さを知っておくこと。それから雛里ちゃんや燐花ちゃんと話してる時に聞いた荀彧さんと諸葛亮ちゃんの力量を同じ軍師として見ておきたいのですよ~」

「…だけどそれはあっちにだって同じことだろう?」

「はい~、ですがこちらには三軍とまだ無所属の兵士さん達しかいませんし、何より常に戦闘の中核を担っていたお兄さんが本気を出さずにいれば問題ないのでは?」

「……むぅ、確かにそれを想定した訓練も行ったけど……焔耶はそれでも大丈夫?」

「はい!! お任せ下さい!!」

「よし、なら少しの間だけだが俺達は曹操・劉備連合軍に加わることにしよう。風、補給部隊は?」

「先程こちらに入ってきました~」

「よし、その補給部隊の人に手紙を渡しておくか…少しだけ帰るのが遅くなるだろうからな」

「それが良いかと~」

 

 

 

それから咲夜、風、雛里で必要な処理を済ませ、その間、焔耶には兵士たちの陣中訓練を、秋葉には華琳及び劉備へ軍を共にするという返答をしに行ってもらった

 

 

 

 

 

 

 

それらを終え、暫くした後咲夜の陣に劉備達がやってきた

 

 

 

「劉封さん、お邪魔します」

「ええ、ところでまずはちゃんとした自己紹介から始めませんか? 幾人かは面識がありますが、初見の人もいるでしょうし」

「あ、そうですね。私は性を劉、名を備、字を玄徳といいます」

「俺は性を劉、名を封、字はない」

 

 

「私は性を関、名を羽、字を雲長と申します」

「鈴々は性を張、名を飛、字が益徳なのだ~!」

「わ、わらひは性を諸葛、名を亮、字を孔明といいましゅ!! あううぅ…」

 

 

「俺は性を太史、名を慈、字を子義という」

「私は性を魏、名を延、字を文長という」

「風は性を程、名を昱、字を仲徳といいます~」

「わ、わらひは性を鳳、名を統、字を士元といいましゅ!?(ガリッ)あううぅ…舌をかみましゅた」

「あ~、雛里。こっちに来て口の中見せてみなさい」

「う~ん、何か朱里ちゃんと鳳統ちゃんって似ているね」

「あ、桃香様。私と雛里ちゃんは昔、一緒に司馬徽先生の元で勉強した仲なんです。桃香様達とお会いする前に別れたんですけど…」

「え、そうだったんだ。じゃあ、二人はお友達なの?」

「はい」

 

 

そんな会話を他所に咲夜は雛里の口の中を注視していた

 

 

「ふむ…」

「あ、あうぅ…///」

「よし、どこも切ってはいないか。雛里、初見の人に挨拶するからって慌てちゃ駄目だよ?」

「あ、はい…申し訳ありません」

「ふふ、良いよ。でも次からは気をつけようね?」

「あ、はい♪」

 

 

 

そんな光景を何やら複雑な顔で見つめる面々

まあ心中は異なっているのだが…

例えば…

 

 

 

ケース1・風の場合

 

「むぅ~~、雛里ちゃん。ずるいです……風も後でお兄さんに構って貰うことにしますか」

 

 

ケース2・焔耶&秋葉

 

「…(何だろう、咲夜様が他の奴と一緒に居ると…胸が痛い……この痛みは?)」

「(むぅ…咲夜様って本当に天然の女たらしだ……よし、今度紫苑と一緒に咲夜様の寝室に忍び込むか…)」

 

 

 

ケース3・諸葛亮孔明

 

「(う~ん…雛里ちゃん、出来ればこっちに引き入れたかったんだけど…あの顔だと無理かなぁ~…でもあの雛里ちゃんが君主とした劉封さん…今後、桃香様にどう影響するか…軍師としてしっかり見ておかないと…)」

 

 

 

 

などなど…

 

 

「(ブルッ)? なんか変な予感がするなぁ……まあいいか」

「? どうかしましたか、咲夜様」

「いや、何でもないよ。で、君が諸葛亮ちゃんかな? 雛里からよく話は聞いていたよ。何でも雛里は鳳雛と言われていたことに対して君は伏龍と呼ばれていたそうだね」

「あ、は、はい!! こ、光栄でしゅ」

「ふふ、緊張しなくても良いよ。それで? 劉備さん、君はどうして関羽さんや張飛ちゃん、諸葛亮ちゃんを連れてこの陣に来たの? 俺は劉備さんが数人の護衛の身を連れて来るものだと思っていたのだけど?」

「え!? え、え~っと…それはその…」

「ああ…そういうことか、要はうちの陣の様子や武器のこと、食糧などの情報を得たかったのね」

「ギクッ!? な、なんのことですか~? (の▽の)」

 

 

 

バレバレやがな…

 

 

「と、桃香様…その反応はバレバレですよ」

「あうぅ…」

「ハァ…まあ良いですけどね。どうせ華琳さんも同じ理由で軍を共にしたいそうですから」

「…あの、劉封殿」

「ん、何ですか関羽さん」

「一つ尋ねたいのですが…曹操殿とはどのような仲なのですか? 真名を交換し合っていたようなので…」

「ふむ…二言でいうのなら不可侵条約を結んだ仲といった所ですかね。それが何か?」

「あ、いえ…あの曹操殿が男性の方と仲良くなるというのがどうにも信じられずにいて…」

「華琳さんは別に男嫌いというわけではない様ですよ? ただ、自分にふさわしい男性が居ない為に今は気にいった女性達を閨に入れて楽しんでいるそうです」

「……それは曹操殿に聞いたのですか?」

「そういった話になった時に華琳さん本人が口にしたことですよ」

「はあ、そうなんですか…」

「さて、時に劉備さん」

 

 

 

その一言を言い終えた瞬間、咲夜の顔と雰囲気が一変した

笑顔だった顔がいきなり真面目な顔になった為、劉備達は驚いたようだった

 

 

 

「あ、はい」

「これは華琳さんにも似たようなことを聞いたことなのですが…貴方は何のために義勇軍を結成したのですか?」

「…私は力のない人を虐げる傾向にあるこの世の中を変えるために義勇軍を結成しました。力のない民を…皆救うために」

「(ピクッ)…へぇ、立派な夢だね。そんな夢が叶ったら確かに良いことかもねぇ」

「え、じゃ、じゃあ…劉封さんも私と同じ夢を!?」

「違う、俺はそんな非現実的な理想も夢も抱いたことはない」

「え…」

「ッ!! 貴様ぁ!!! 桃香様の理想を非現実的だと!!!」

「ああ、そうだ関羽雲長。そんな世界などこの世界、いや、どこの世界に行っても有りはしない。そんな夢が叶うのは人の夢の中だけだ」

「っ…どうして…ですか!!!」

 

 

劉備は怒りと戸惑いが混じった顔をし、関羽、張飛は今にも槍の矛先を劉封に付きつけそうな位に怒り、諸葛亮も咲夜に対し、怒りを露わにしていた

その様子を風、雛里は静かに見て、焔耶と秋葉は万が一に備えて自らの獲物に手を掛ける準備をしていた

 

 

 

「…ならいくつか聞こう。劉備玄徳、君は力のない民を皆救うために義勇軍を作った。そうだね?」

「……(コクッ)」

「だがな、良く考えろ。君達が敵と認識している賊も大半は元力無き民だ」

「え……」

「ならどうしてその民達は賊となった? それは生きるためだ。自身が生きるために他の物を犠牲にしても行きたいという意思を示し、武器を取って賊となった」

「で、でも…それは……」

「確かに正しい行為とは言えないだろう。だが君は正面から彼等に言えるのかい?『貴方達の行為は間違いです』と? 彼等はこう言うだろうね『なら俺達はどうやって生きればいいんだよ!!』とな」

「う……」

「それにな、民が弱いって君は認識しているのかもしれないけどさ。そこまで民は弱くない。民がいなければ国も軍も宦官も…そして皇帝すら成り立たなくなる。それほど民の影響力は強い。だから民が弱いだなんていう前提はお門違いなんだよ」

「………」

「貴様!! 桃香様はこう見えても」

「何を他人事のように見ている」

「何!?」

「お前達も同罪だ、関羽、張飛、そして諸葛亮」

「? どういうことなのだ?」

「…お前たちとて愚かではないだろう。特に諸葛亮、君なら気付いていただろう? 劉備の理想の現実との矛盾に」

「…………」

 

 

諸葛亮は何も言えずに黙っていることしか出来なかった

 

 

 

「その沈黙は…肯定と受け取るぞ」

「どういう…ことですか?」

「…ハァ、なら聞く。劉備、君に突然ある選択を迫られた。それは民1000を救うために関羽を殺せという二者択一の選択だ」

「え、ええ!?」

「さて、君ならどちらを選ぶ。ああ、ちなみに両方という答えは無しだ」

「っ……そ、それは……」

「……ふぅ、君は考えが甘すぎる。こんなことは今の時代、有り得ることだ。俺や君は軍を率いる立場…つまりは他者の命を背負う立場だ。今の君のままだと…いずれ大事なものを失うぞ」

「……ッ!!」

「なら……」

「ん?」

 

 

先程まで黙っていた諸葛亮が口を開いた

 

 

 

「なら貴方ならどうするんですか!! 例えばそこに居る魏延さんと民1000を救うのならどっちを選ぶんですか!!」

「焔耶だ」

「え……」

 

一秒もせずに咲夜は諸葛亮の質問に答えた

 

 

「俺は自分の大切だと思える存在以外は基本的に助けない。まあ、助けて欲しいと手を伸ばされたら俺は出来るのならその手を掴む。だけど見知らぬ誰かを助けるために俺の大切な人たちを危ない目に会わせるなんてことは出来ない」

「っ…ならその1000人はどうなるんですか!!!」

「死ぬだろうね、それを承知の上で俺は焔耶を選ぶ」

「//////」

 

 

焔耶は顔を真っ赤にして俯いてしまった

 

「無論のことだが、何もその千人を見殺しにするわけではない。俺は自分の手が届く者は可能な限り守る。そして、救えなかった者たちがいたらその者たちの夢を引き継ぎ、背負って行く」

「……」

 

「俺や劉備、華琳さんのような立場の人間は時に9を捨て1を救ったり、9を救うために1を捨てる。そういった覚悟が必要になる。そんな覚悟すらないのなら義勇軍など率いず、誰かの配下にでもなれ。…劉備、あと一つだけ忠告してやる」

「……なんですか?」

「理想や夢を持つことは人間にとって当たり前のことだ。だがな、夢や理想は呪いと同じなんだよ。その呪いを解くにはそれを叶えるしかない。叶えられなかった人間は一生呪われたままなんだ。高すぎる理想、非現実的過ぎる夢は人間を悪い意味で逸脱させる。理想に埋もれて死ぬ、それが今の君の未来の姿だ」

「………」

「…よくよく考えることだ、君はまだ若いし、君の周りには君を助けてくれる存在が居る。関羽、張飛、諸葛亮、君達もよく考えるんだな。君達がこれからどうあるべきかを…」

「「「………」」」

「…ふぅ、雛里、風、焔耶、秋葉。後は頼む。俺は少し華琳さんと話しておきたいことがあるから」

「「「「御意です」」」」

 

 

 

咲夜は劉備達を一瞥すると、華琳の元に向かって行った

 

 

 

「……朱里ちゃん、大丈夫?」

「……うん、平気だよ。ちょっと…色々と考えちゃって…」

「…愛紗ちゃん、私……何か間違っていたのかな……」

「そ、そんなことは……そんなこと…あるわけが…」

「…ふぅ、お兄さんは皆さんにただ現実と理想を区別するようにと注意しただけなのですよ~。まあ、風も少しお兄さんの雰囲気に驚きましたけど~」

「ああ、そうだな。あの人は普段、殆ど笑顔を絶やさない人だからな…本気で怒った時の笑顔ほど怖いものはないが……(ブルブル)」

「そういうことです~、ですから恐らくお兄さんは劉備さんの理想の危うさを問いたかったのだと思いますよ~」

「…現実を見えていない者に理想を語る資格はない。咲夜様の教えられたものでそういった言葉があります。例え辛くとも目を逸らすことをしてはいけない現実を見ろ、それは人の上に立つ者、国を率いる者の当然の義務だ。そう言っていました」

「……ねぇ、鳳統ちゃん。もっと劉封さんについて教えてくれないかな?」

「あ、はい!」

「ふむ、なら風もお手伝いするのですよ」

「…俺は見回りに行ってこよう」

「頼む秋葉。私は一応、ここの見張りをしておく」

「ああ…それで、関羽と張飛、それに諸葛亮はどうするんだ?」

「…私も雛里ちゃんに劉封さんのことを聞きます」

「…なら私もだ」

「鈴々も聞くのだー!」

「…ということらしい」

「了解した」

 

 

 

 

それから劉備達は咲夜が陣に戻ってくるまでずっと雛里と風の話を聞くことにした

 

 

 

 

 

一方で咲夜の方はというと…

 

 

 

 

「OTZ」

 

陣の外で無茶苦茶凹んでいた

陣の外と言っても少し離れた場所に居るので、誰にも咲夜の声は聞こえない

 

 

「…言い過ぎた、確かに劉備さんの理想が非現実的過ぎてくちゃくちゃ腹立っていつの間にか口が動いてた……うおおおおおおーーーーーーっ!!! 俺の馬鹿ぁーーーーーー!!!! 劉備があんなに可愛いおんニャの子って言うことにも驚いたけど、あんなにぼろくそ言う俺自身に驚いたわーーーーーーー!!!!」

 

 

今度は地面にのた打ち回りながらゴロゴロと回転し始めた

 

 

 

「ううう…一緒に軍を共にするってことになったのに……これからどうやって会えばいいんだ………しかも…劉備さんって容姿無茶苦茶俺の好みのタイプやんけ~~~~!!!!」

 

 

 

…今度は木に頭を打ちつけ始めた

 

 

 

「うぐぅ……これって俺の中の劉封が劉備さんの何かに惹かれたのか…それとも前世の俺の好みが劉備さんなのか…もうどっちでもいいけどさぁ……俺これからどないすればええねん!!!」

 

 

 

それから暫くの間、咲夜は葛藤しながら頭の整理を付け…

その結果が

 

 

 

 

「うん! ポーカーフェイスでいこう」

 

 

などという変な結論に至った

 

 

 

 

本当に大丈夫か? 劉封



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話

どうしてこうなったんだろう…

 

 

 

 

「どうしたの咲夜、さっきから元気がないみたいだけど?」

「その現況を作った人が言わんで下さい」

「あら? 何のことかしら、私分からないわ♪」

「(うわぁ…ぶっ飛ばしてぇ)」

 

 

 

内心毒づいているのだがそれでも今咲夜に起こっていることは変えられない

 

 

 

 

「りゅ、劉封様! ご教授願います!」

 

目の前で拳を構えているのは先程紹介された楽進

 

 

「凪~、頑張ってな~」

「凪ちゃん、ファイトなの~!」

 

その後ろで応援しているのは李典と于禁

どうにも楽進の古くからの付き合いらしい

 

 

「凪~、それに咲夜~! 次は私だからなーーー!!」

「姉者、少し落ち着け」

 

咲夜にとって不幸な塊みたいな春蘭

その隣では秋蘭が咲夜に対して申し訳ない顔をしながら春蘭を抑えている

 

 

「………」

「ふむ、あれが噂の劉封殿ですか…お手並み拝見といった所でしょうね」

 

 

咲夜を憎しみとも言える眼差しで見ている猫耳フードの女の子にその隣には眼鏡を掛けた凛とした女の子

 

 

 

「(あれって多分、燐花の言ってた荀彧さん。それに風の知り合いの郭嘉さんかな…)」

 

二人の特徴は風と燐花から既に耳に入れていた為、誰かを直ぐに判断出来た

 

 

「(でも…風の言ってた鼻血軍師というのはどういう意味だろう?…見た所普通だけど…)」

 

 

 

「ねえ、流流はどっちが勝つと思う?」

「う~ん、凪さんの強さは分かるけど…劉封さんがどれだけ強いのか分からないから何とも言えないよ」

「ふ~ん…それよりも流琉、ボクお腹すいたよ~」

「ハァ…後で用意してもらうから我慢だよ、季衣」

 

 

そして華琳さんの両隣で会話しているのは許緒ちゃんと悪来典韋ちゃん

見てるだけで何か和みます…

 

 

 

 

そしてお子様二人の真ん中に居るのが今の咲夜の現状を作りあげた華琳こと曹孟徳

 

 

 

「本当に…どうしてこうなった……」

 

 

 

ことの発端は咲夜が華琳の陣を訪れてから暫くした後のこと…

 

 

 

 

 

「あら? もう来たの…ということは私と劉備の連合に参加するということでいいのね?」

「…まあそういうこと。じゃあ具体的な話をしようか」

「あら、劉備はいいのかしら?」

「…劉備さんは暫く来ないと思うので」

「…何かあったのかしら?」

「まあ…それなりに、ね」

「ふぅん…まあ良いわ。と、その前に皆を紹介しないとね。春蘭と秋蘭は以前会ったから…桂花や凪達を紹介するとしましょう」

 

 

 

 

華琳はその場に待機していた兵の一人に命じて、将と軍師を全員集めるように指示した

暫くすると9人の女性がやってきた

 

 

 

「華琳様、至急の用とは…とおお! 咲夜ではないか!」

「え、何その驚き方…俺が来てるって知ってると思ってたんだけど…」

「ん? そうだったか、秋蘭?」

「ハァ…姉者、華琳様が我らに指示を出す前に言っていたことだろう」

「う…ま、まあそんな昔のことは置いておいて…」

「「「…ハァ」」」←華琳&秋蘭&咲夜

 

「咲夜はどうしてここに居るんだ?」

「簡単に説明するのなら軍を共にすることになったからその連絡にさ」

「? それならば伝令に任せればよいことではないか」

「これは大事な事だから自分の口から言いに行きたかったんだよ(加えて今陣に戻れん…劉備さん達に滅茶苦茶説教したからなぁ)」

 

 

咲夜は早速、今後のことを話し始めようとしたのだが…

 

 

「か、華琳様!! どういうことですか!! こんな男に進軍に加えるなど!!」

「あら、桂花は私の考えに反対だというの?」

「え…い、いえ…その…Σそ、そう!! こんな男が華琳様の役に立てるなどと思えないので!!」

「あら、それなら問題はないわ。何せ、こいつはあの劉封なのだから」

「「「「え!!!!」」」」

 

 

 

「えって…何その反応は?」

 

 

 

「か、華琳様!! 本当にこいつがあの仁君、劉封なんですか!?」

「ええ、本当よ」

「へぇ~、噂で聞いた通り深紅の鎧を着とるんやなぁ」

「黒い髪に蒼い瞳…確かに噂通りなの」

 

 

じろじろと見始める面々

流石にその視線を受けて恥ずかしくなったのか咲夜は話を進めるべく、華琳に向き直った

すると…

 

 

 

 

「…Σ (ニヤリ)」

 

 

物凄く悪どい事考えてます的な顔をしながら妖美に微笑んでいた

 

 

 

咲夜は第六感で嫌な予感を感じ取り、目を背けようとしたがそれよりも一手早く

 

 

 

「咲夜、春蘭と凪、どっちでもいいから戦いなさい」

「…は?」

「今思い出したのだけど…樊城を訪れた時は新しい娯楽や建物の構造のほう等に目が向いていて、貴方自身の噂を確かめ忘れていたの。何でも万の賊に一人で立ち向かってその賊たちを皆殺しにしたらしいわね」

「いやいやいや! そんなことしてませんから! 俺が手を下したのは大体1000位ですし、賊も総数10000ではなく7000程ですから!」

「大して変わらないじゃないの。でも一人で戦ったのなら賊は数を頼りに押し寄せてきたんじゃないの?」

「一応、一対一になれる場所で戦いましたし…数を減らした後、ちょっとした手を使って俺以外にも伏せている兵がいると見せかけて混乱させましたので」

「…へぇ」

 

 

ひいいぃ!? 更に華琳さんの顔がコイツ欲しいわ。何が何でも手に入れてやるわ的な顔をしているよ!?

などと思っている矢先…

 

 

 

スチャ…カチャカチャ……

 

 

ふと咲夜の目に入ってきたのは自分の刀を用意し始めている春蘭と…

 

 

 

シュッ!! シュシュッ!!

 

 

何故か準備運動的な事を始めている楽進…

 

 

 

 

「あ、あの~…お二人は何を?」

「ん? これからお前と戦うのだろう?」

「うえ!? そ、そんなの承諾してないですよ!? 嫌ですからね!!! 俺は無駄に戦わない主義なんですよ!!!」

「何!? 華琳様、どういうことですか!?」

「気にしなくても良いわ春蘭。貴方は準備を済ませておきなさい」

「は~い華琳様♪」

 

 

「…華琳さんや、貴方の頭はどうかなったんですか? 俺は嫌だと言いましたよね? 何ですか、俺の言葉だけ通じないんですか?」

「そんなわけないでしょ? でも、私は信憑性のない噂なんかより自分の目を信じるのよ」

「…つまり俺の力を実際に見たいだけということですか?」

「有体に言えばそうなるわ」

「……やる気がない」

「ふむ…なら二人に勝ったら貸し二つ、一人でも勝てば貸し一つ、逆に二人に勝てなかったら私の言うことを二つ聞いてもらうというのはどうかしら?」

「え~……(Σ うん…待てよ、黄巾党の乱が終わった後、起こるのは確か……そうだ!! 反董卓連合の結成だ…確か盟主は...あの駄名族袁紹、それから丞相に華琳さんだ…もし、それが結成されたら……そうだな、ここで一応保険を作っておくことはいいか) 分かりました」

「ふむ、ならそちらの武器はその腰にある双剣でいいのかしら?」

「いえ、これはちょっと俺自身も手加減できるかどうか分からないので…」

 

 

咲夜は腰にぶら下げている袋の中から何やら少しゴツ目のグローブを出した

 

「これで戦います」

 

「…貴方、無手でも戦えるの?」

「ええ、だっていつでも武器が俺の傍にあるとは限らないでしょう? だから念のため、武気無しでも戦えるように鍛えていたんですよ」

「どれくらい強いの?」

「ん~…それなりといった所ですかね。この双剣を10とするなら、戦斧が7、無手が8位ですかね。強さの度合いだと」

「そう、なら期待しても良いのね?」

「ええ、どうぞ。もうこうなったらとことんまでやりますよ」

 

 

 

 

咲夜は半分将来のための保険、半分もうやけで戦うことにした

 

 

まず動きやすいように鎧を脱いで、中の服だけになった

それから万全な状態になるまでウォームアップを始めたのだが…

身体が温まると同時に頭はどんどん冷えていった

 

 

 

「…俺、早まった?」

 

 

 

 

というのがことのすべてでした

 

 

 

 

「…ハァ」

「あ、あの…劉封様? 大丈夫ですか?」

「あ~、ええまあ…ただちょっと理不尽さを感じつつ、どうしてこんなことをやけになって承諾してしまったのか、頭が冷えていく度に後悔しているだけですよ」

「あ、あの…ご迷惑でしたか?」

「ん、いや…もう色々と諦めが付いたから。いつまでもうじうじ言っているのは男らしくないしな……(キュッ…キュッ)…よし、これで装着完了っと」

「? 咲夜様は戦斧、もしくは双剣で戦うと聞いていましたが」

「あ~、悪いね。戦斧は対集団戦だけにしか使わないし、双剣だと始めて対峙する相手だと手加減があまり出来なくて…以前、俺部下うっかり殺しかけたからさ」

「へ?!」

「まあそんなわけで初見の相手の模擬戦の場合は無手なんだよ」

「そ、そうなんですか」

「でも……結構強いと思うから油断しない様にね」

「…元より、油断などするつもりはありません」

「そう、ならいいんだ」

「はい! ではよろしくお願いします!!」

「ふふ…では」

 

 

咲夜はグローブをもう一度、ハマっているか確かめ直しながら

 

 

「―――――限界まで……飛ばすぜ」

 

 

静かに集中力を高めていった

 

 

 

 

→Side 楽進(凪)→

ッ…

劉封様の雰囲気が変わった…

 

 

さっきまで無だった殺意の気配が有になった…

そんな劉封様の雰囲気に恐怖を覚えると同時に…凄く嬉しく思う

 

今まで私は無手を相手に戦ったことは殆どない

大抵の相手は武器を持つ者ばかりだったからだ

だから劉封様が無手でも戦えると知って少し嬉しかった

 

 

 

「それでは…凪 対 咲夜…模擬戦、開始!」

 

 

華琳様の開始の合図と同時に劉封様に私は一気に詰め寄ろうとした

無手は完全近接戦闘型故

劉封様も接近することから始めると…私は思っていた

だがその予想は裏切られることとなった

 

 

 

「烈風拳!!!」

「て、ええ!?」

 

 

劉封様が拳を思い切り前に突き出したと思ったら、何かが私に向かって飛んできた

 

 

「くっ…!!」

 

 

私はかろうじて避けることが出来た

 

 

「い、今のは…氣?」

「いや、違うよ、楽進さん」

「え、で、でも…」

「あれは単に思い切り拳を突き出して、風圧の塊を目標に向かって当てる技。簡単に言うと氣とかそんなものじゃなくただの力技」

「あ、有り得ないですよそれは…」

「ん? そう、こんなことも出来るよ? 双魔人拳!!」

 

 

劉封様は今度は両手を交互に突き出しました

すると先程の空気の塊よりも大きなものが私の横を通過しました

 

 

 

「まあこんなことは修行次第で誰でも実行可能な技だ。小手調べに使ったんだが…これを避けるってことは結構強いってことだ、楽進さん」

「きょ、恐縮です!」

「…さて、そろそろまじめにやりますか」

 

 

劉封様は私が今まで見たことのない構えを取り始めました

 

 

「くっ…行きます!!」

「こい、楽進!!」

 

 

 

ヒュッ!!

 

 

私は一気に接近し、まずは蹴りを劉封様の右脇に当てようとしました

 

 

パシッ

 

 

「ッ!!」

「どうした、これが君の実力かな?」

 

 

あろうことか、劉封様は私の蹴りを防御するどころか、足を受け止め掴んでいました

まるでそれくらいの蹴りならば見切れると言わんばかりに…

 

 

 

「くっ…はあああああぁッ!!!」

 

 

私は私の可能な限りを尽くす為に、猛打連蹴を劉封様に浴びせた

だが劉封様は私の攻撃をすべて右腕のみで防ぎきってしまった

 

 

 

「くっ…」

「本気を出せ、楽進」

「本気など…当に出しています……くっ、ここまで攻撃が通用しないとは…流石にへこみますよ…」

「ふむ…成程な、君はまだまだ自分の力を出し切れていない様だ」

「え…そ、それはどういう…」

「ま、それは自分で考えることだな。受けるのは次で最後にしよう。楽進、君が持てる力、すべて最後の一撃で出し切って来い」

「はい!!!」

 

 

 

私は可能な限りの氣を足に籠め…

 

 

 

「猛虎蹴撃!!!」

 

 

 

ドゴオオオオオオオオッ!!

 

 

 

劉封様は私の攻撃を避けず、氣弾の直撃直線状に…って!?

 

 

 

「り、劉封様ーーーーー!?」

 

 

「ふっ…」

 

劉封様はニヤリと微笑むと…

 

 

 

 

「ふっ!!!」

 

 

 

バキッ!!!

ドムッ……

 

 

 

「「「「「「………え?」」」」」」

 

 

い、今目の前で信じられないことがありました

 

 

「いったぁ~~…か、かなり密度の濃い氣弾だったな。無茶苦茶手が痛かった。って言うかこの特殊加工したグローブでも痛みを軽減できない程って……これで発展途上って言うんだから末恐ろしいよ」

 

 

 

り、劉封様が何か言っているようですけど…

 

 

 

「り、劉封様? い、今何をしたんですか?」

「え、何したって…氣弾をぶん殴って直撃を避けただけだよ」

「………(ポカーン)」

「でも二度とやらん。無茶苦茶痛い…」

「だ、大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫大丈夫。昔、龍と戦った時に比べれば大したことないから」

 

 

 

…またとんでもないことが聞こえたような気が……

 

 

 

「り、劉封? 龍とは何のことだ?」

 

 

私の代わりに春蘭さまが聞いてくれた

 

 

 

「ん、ああ…旅の途中に山を登ってたら急に天気が悪化したと思ったら、龍が現れて襲ってきたから返り討ちにしたんだよ。で、その時に龍に認められて鱗とか牙とか身体の一部を譲渡してもらったんだよ。で、その時の素材使って作ったのが、この特殊手袋ってわけ……まあ、その時死ぬかと思う位怪我したけど」

 

 

そう言って劉封様は上着を脱いだ

 

 

 

すると…

 

 

 

「うわぁ…すごっ」

「た、逞しいの…」

 

 

真桜と沙和が何かずれた意見を言っていたが…

私は劉封様の体に目が離せなくなった

至る所にある傷…その中には火傷、裂傷、切傷等があり…一番目についたのは背中にある大きな斜めの裂目…

 

 

「さ、咲夜…その背中の傷は?」

「ああ、これが龍と戦った際に付けられた傷なんだけど……治るまで結構時間がかかりましたよ…」

「…大変だったのね」

「まあ、武者修行のつもりでもありましたから、仕方ないですよ」

「そ、そんなことは良いから早く服着なさいよ!!! か、華琳様の目が汚れるでしょ!!」

「あ、すいません荀彧さん」

 

 

 

ああ、劉封様が服を着直してしまった…

思わず私は桂花様を睨みつけてしまった

 

 

 

 

「え、な、何この視線は…」

 

 

ふと気付くと、皆桂花様を睨んでいた

華琳様までも…まあ私もですけど……

 

 

 

「…桂花」

「な、何ですか華琳様」

「貴方はこれから一月、私と閨に入ることを禁じるわ」

「そ、そんな!! 華琳様!?」

 

 

 

…自業自得だと思います、桂花様

 

 

 

→Side Out→

 

 

 

「ふぅ~、それにしても驚いたよ。ここまで質の高い氣を扱える人は今まで見たことがなかったからね」

「劉封様は氣を使うことは出来るんですか?」

「う~ん…残念だけど、俺は昔から氣は才能がないから全く駄目だったね。だから、氣が使えなくとも強くなれるように体を鍛えたからね」

「…劉封様、先程使っていた技…たしかれっぷうけん? と言いましたか」

「ああ、あれね。あれがどうかしたの?」

「も、もしよろしければ私にも使える様に教えていただけませんか!?」

「……へ?」

「だ、駄目ですか?」

「う………も、物に出来るかどうかは楽進さん次第だけど。それでもいい?しかも期間は短いよ?」

「大丈夫です!!」

「そう、分かった。どこまで教えられるかどうかは分からないけど…やってみることにしよう」

「ありがとうございます!! これからは私のことを凪と呼んでください」

「…それって真名だよね? いいの?」

「はい!!」

「ふむ、なら俺のことも咲夜と呼んでくれて構わないよ」

「分かりました、咲夜様!」

 

 

 

こうして咲夜は凪の師となることとなった

 

 

「(各ゲーの技、凪に出来そうなの思い出しておかないと)」

実は前世で隠れ各ゲーファンだった咲夜だった

ただし台バンした際に何台かゲーム機破壊したことがあった為、地元のゲーセンに入ることが出来なかったという黒歴史持ちだが…

 

 

 

 

「さて…次は私だな、咲夜!!」

「え~、休み抜きで春蘭さんですか?」

「何だ、もうへばったのか?」

「いえ、ちょっと待って欲しいんですよねぇ。ん~、流石の俺でもこの手袋じゃ春蘭さんだと少し厳しいですねぇ。華琳さん、ちょっと危険かもしれませんけど双剣使っても良いですか~?」

「良いわ、でも私が止めるように言ったらどんな状況でも模擬戦を止める様に」

「…もし止まらなかったら皆さんで止めてくださいね」

 

 

 

咲夜はグローブを腰の巾着に終い、双剣に手を掛けた

 

 

 

「…見たことのない剣ね」

「脇差、それがこの刀の総称です。とりあえず両方とも無銘の刀ですね。長年の相棒ですけど何だか良い名前が思いつかなくて…」

「咲夜、その刀の特徴は?」

「攻防両方に適した刀ですね。俺の戦いの型にぴったりだったので」

「貴方の型というのは?」

「それは自身で見て判断を」

 

 

 

咲夜は右手の刀を前方に突き出し、左手の刀を背中に回し、クラウチングスタートのような格好をし、集中し始めた

 

 

「? なんだその珍妙な構えは」

「………」

「春蘭、どうやら咲夜はもう戦闘に集中できるようにしているようよ。油断しないことね」

「はい、華琳様!!」

 

 

 

スチャッ…

 

春蘭も華琳に言われ、咲夜に向かって剣を構えた

 

 

 

「…始め!!」

 

 

 

華琳の合図とともにまず先手を取ろうとしかけたのは

 

 

 

 

「うおおおおおおおおぉッ!!!」

 

 

猪こと、春蘭でした

 

 

 

勢いよく春蘭は咲夜に上段で切りかかろうとした

だが咲夜はその攻撃を何事もなかったかのように避けた

 

 

だが春蘭はそれだけで攻撃を止めず、剣の嵐のような連撃を咲夜に繰り出した

流石にその連撃を避け続けるのは難しく、咲夜も刀を使い、剣の軌道をずらし攻撃をやり過ごしていた

 

 

 

「ふふふ…やるな咲夜!! ここまで私の攻撃をかわすことの出来た男は父以来だ!!」

「どんだけ~っていうか父って…どういうこと、秋蘭さん」

「ああ…昔、私と春蘭が華琳様にしたえるまで姉者の相手を父がしていたのだよ。他の男だと相手にならなくてな」

「…春蘭があるのはその父親のお陰ってこと?」

「まあそうなるな。もっとも今は腰を悪くして剣を握ることが出来なくなってしまったがな」

 

 

 

 

ヒュオッ!!!

 

 

 

「とっ!! (ガキッ) 春蘭さん、今秋蘭さんと話をしていたのですが?」

「戦いの最中に目を逸らす方が悪いだろう」

「…まあそれもそうですね」

 

 

 

咲夜は再び剣を構え集中することに…

 

 

「おい咲夜! 今気付いたのだが、さっきから私からばかり攻撃しているぞ! お前からも切りかかって来い!!」

「…やれやれ、春蘭さんって鋭いのか鈍いのかよく分かりませんね」

「????」

「そうですね…もう時間的にも良い頃ですし……そろそろ終わらせましょう」

 

 

 

咲夜は最初と同じ構えを取ると一息入れ…

 

 

 

「ふっ!!」

 

 

 

春蘭に向かって切りかかった

それに対し、春蘭は勿論のこと、周りでその戦いを見ていた華琳達も驚きを隠せずにいた

 

 

その理由は…

 

 

 

 

ガキッ!!

 

 

 

「グッ…」

「……あれを受けるか、ならもっと速く…」

 

 

尋常でないほどの速度…

文官である桂花と稟には見えないほどで、華琳や凪、真桜や沙和、季衣と流琉にはギリギリ見える位、そして弓使いである秋蘭には何とか目に入るほどの速度だった

 

 

 

そして咲夜は再び春蘭に斬りかかった

それも先程よりも早い速度で…

 

 

 

キンッ!!

ガキンッ!!

 

 

 

「くっ…」

「ちっ…これだけの速度での連撃を防ぐって…どれだけだよ!!」

 

 

 

いつの間にか口調も雑になっている咲夜

だがそれだけ余裕がないのも現状だ

常人相手なら一撃目、もしくは二撃目には終わっていたはずなのに春蘭はもう数十回もの攻撃を防いでいるのだ

流石の春蘭もこの速度は見えていないはずなのだ

だが現に彼女は防ぎきっている

 

 

 

ズザッ

 

 

 

ひとまず咲夜は距離を取ることにした

一旦、頭に上った血を冷ます為である

 

 

 

「ふぅ…ふぅ…」

「ハァ…ハァ…」

 

 

流石に春蘭も息が上がり始めていた

咲夜の方は落ち着くために深呼吸していただけなのだが…

 

 

 

 

「ふぅ…よし、落ち着いたっと」

「ふふふ…」

「? 春蘭さん、どうかしましたか?」

「いや、ただ楽しい…それだけだ」

「あはは、実は俺もですよ、春蘭さん」

「ならば…全力を出し合ってやり合おうぞ!!」

「おう!!!」

 

 

 

それから少しの間、咲夜は春蘭と笑いながら刀を交えた

華琳達もその二人をずっと見ているだけで誰も止めようとはしなかった

 

 

カランッ…

 

 

やがてペース配分を考えずに全力で刀を交えていた二人の手から刀が滑り落ちた

 

 

 

「ふぅ~、もう私は流石に剣が握れぬようだ」

「俺も少し疲れましたね…ちょっと休みたいですよ」

 

 

 

咲夜は何とか刀を拾ってそれを腰にぶら下げている鞘に収めた

春蘭の方は七星餓狼を秋蘭に持ってもらうようにしたようだ

 

 

 

「お疲れ様、春蘭。それにしても咲夜…貴方本当に強いのね。春蘭とここまで打ち続けて平気でいられる男なんて初めて見るわ」

「あはは…光栄ですよ」

「ふふふ…益々貴方が欲しくなったわ」

「………(正直、諦めて欲しいのですが)」

「無理ね」

「…心を読まないでください」

「何となく分かっただけよ」

「…さいですか」

 

 

 

こうして模擬戦は何とか終わった

 

 

咲夜はいつの間にか場から離れていた凪が持ってきた水を一杯貰うと腰を落ち着かせることにした

 

 

 

「ふぇ~、暫くはこういう風に戦いたくはないですね」

「あら、でも楽しそうだったけど?」

「俺は基本戦闘狂ではないので。互いを高め合う戦いとは好きですけど…」

「あの…咲夜様」

「? 何かな、凪」

「えっと…私と戦っている際に咲夜様、私のことを発展途上とか自分の力を出し切れていないとか言っていましたが…あれはどういう」

「あ~それね。多分だけど、凪はまだまだ成長するってこと。そうだな…今のままだと春蘭さんに10本中一本も取れないだろうけど…効率の良い鍛え方をすれば10本中5~6本は取れるようになるよ」

「ほ、本当ですか!?」

「おい咲夜、それは私が凪に負けるということか?」

「あくまでちゃんとした鍛え方をすればの話ですよ。それに春蘭さんには天武の才以外にも恐ろしいほど鋭い第六感や長年の戦闘経験も有りますからね」

「そ、そんなに褒めるな…」

「咲夜様!! どうすればいいのですか!?」

「お、落ち着いて凪。そうだな…ちょっと時間をくれるかな? 凪専用の訓練の目録とかそのやり方を書いた物を渡すからさ」

「い、良いんですか!?」

「ただし、それは他人には決して見せてはいけない。いいね?」

「は、はい!!!」

 

 

 

それから咲夜は魏の面々全員と真名を交換し合うこととなった

だが一名、それを物凄く嫌がっていたが…

 

 

 

「……」

「あ、あの~荀彧さん?」

「…何よ」

「荀彧さんのことは常々、燐花から聞いていますよ」

「…あいつ、あんたの所に仕官していたのね」

「ええ」

「…元気?」

「え?」

「…燐花は元気?」

「ええ、今はうちの四軍師の一人として働いてもらっていますよ」

「……そう…………桂花よ」

「はい?」

「真名よ真名!! 桂花だっていったのよ、私の真名は!!」

「あ、はい。ありがとうございます、俺の真名は咲夜です」

「ふ、ふん!!」

 

 

 

こうして何とか桂花とも真名を交換することが出来た

 

 

 

 

「さて…そろそろ食事の時間ね……咲夜、貴方はどうするの?」

「そうですね、時間的にも丁度いいのでそろそろ陣に戻ろうかと思います」

「あら、残念ね。貴方の作った味噌汁や漬物をまた食べたいと思ったのだけども」

「ん~、ならうちの陣に明日来ますか? 将や軍師の皆さんの分ぐらいでしたら用意できますよ」

「あらいいのかしら?」

「まあそれくらいなら」

「ふ~ん…なら明日、そっちに行かせてもらうわ」

「では俺はこれで」

 

 

 

咲夜はそのまま陣を出て…

 

曹の旗から結構離れた距離まで来ると…

 

 

 

「ハァ~~~~~~…」

 

 

ふかーーーーく溜息をついた

 

 

 

 

 

「つ、疲れた…何が疲れたかというと春蘭さんとの戦闘と常に気を使いながら周りの情報を得ることに対して…」

 

 

 

とりあえず咲夜は再び深呼吸をして身体を落ち着かせると、陣までゆっくりと戻って行った

 

 

「…とりあえず雛里か風、どっちか暫く抱っこさせてもらおう」

 

咲夜は普段、城に居る時は子供達を抱っこしたり遊んであげたりしてストレスを発散している

城中に居る時は璃々、雛里、風、燐花の内、誰かを抱っこしてゆったりとするのが好きなのだ

別に咲夜がロリコンというわけではない

咲夜は自身の体にすっぽり収まる子をひざに抱えて抱っこするのが好きなだけだ

 

 

 

「…ただいま~」

「あ、お帰りなさい、咲夜様」

「雛里~…疲れたから抱っこさせて~」

「あわわ…/// で、でも今は朱里ちゃんや桃香様達もいらっしゃいますから」

「……へ?」

 

 

 

咲夜はあたりを見ると確かにそこには劉備達が居た

どうやら今は風が咲夜のことを教えているようだ

 

 

 

「…というわけでお兄さんは犯罪者や賊となった者を直ぐに殺さずに刑務所という所に収容することにしたんです」

「…ですがそれでは予算が酷いことになるのでは?」

「いいえ~、その建物内部ではしっかりと仕事をさせているのですよ。その仕事の出来次第で彼等の衣食住が決まってしまうので彼等も必死になって仕事をしていくれるのです。外に出てからも彼らには適した仕事を与えて、そこで得た能力を十分に使って貰っています」

「ただ、弐度目は許されない。後、重度の犯罪…つまり殺傷や放火、人身売買など非人道的な行為を行った人間は処断されている。咲夜様はそういったことを決して許さないんだ」

「焔耶ちゃんの言った通り、咲夜様は甘いようで厳しいのですよ。特に自分の大切な存在が傷つけられたり泣かされたりした時の咲夜様は本気で怖いですよ~」

「…凄いんですね、劉封さんって」

「そうですね…今まで誰も考えたことのなかった奇抜な考えもそうですが…それらを用いてなお領民の方々に厚い信頼を得ているみたいですし」

 

 

 

何やら真剣に話しているようで咲夜が戻ってきたことに気付いたのは雛里だけだったようだ

 

 

 

「…雛里、まだ長く続きそうだから俺の天幕行って抱っこさせて」

「あうぅ/// わ、分かりました」

 

 

咲夜は壱秒でも早く癒しが欲しかったため雛里を連れて自身の天幕に移動しようとしたのだが…

 

 

 

「…所で、どこに行くつもりですか? お兄さん…」

 

 

風に呼びとめられてしまった

 

 

 

「何だ風、俺が戻ってきてたことに気付いていたのか?」

「お兄さんは独特な匂いを漂わせていますからね~」

「…何、俺ってそんなに臭いの?」

「いえいえ~、どちらかというと落ち着くいい匂いですよ~」

「俺には分からん(人間って自分の臭いは無臭に感じるように出来てるみたいだし)」

「所でお兄さんはどちらに?」

「華琳さんの所に行ってた。最初は軍を共にすることを連絡した後でこれからどう動くかを相談しようと思ってたんだけど……何故か凪…楽進さんと春蘭さんと戦うはめになって…」

「…お兄さん、相変わらず不幸ですねぇ」

「言わないで風…まあ一応、凪には勝って春蘭さんとは引き分けたよ」

「咲夜様と引き分けたのは…夏候惇か……ふふふ、戦ってみたいものだ」

 

 

バトルジャンキーと化しているのは焔耶こと、魏延

 

 

「…焔耶?(にっこり)」

「(ビクッ) な、何ですか咲夜様!!」

「無駄に戦うのは駄目だよ?」

「は、はい!!」

「…まあともかく、今回の華琳さんの陣を訪ねていくらか分かったことがあるからそれは後で軍議を開いて発表するから」

「り、了解しました!!(ブルブル)」

 

 

咲夜が焔耶に向けて恐ろしく整った笑顔を見せたようだ

 

 

「ふ、風ちゃん。あれがさっき言ってた」

「ええ、そうです。お兄さんの恐怖、笑顔な筈なのに何故か恐怖を感じる顔なのです」

「た、確かにあれは底知れぬ恐怖を感じる」

「鈴々も凄く怖いって思ったのだ…」

「ですが劉封さんが怒ったのは焔耶さんを心配してのことですよね?」

「その通りです朱里ちゃん。咲夜様は基本的に怒ったりはしません。咲夜様が怒るのは仲間のためなんですからね~(ですが、色々と鈍いですけど)」

 

 

 

 

それから何やら劉備達が咲夜に話があるとかで結局その天幕にとどまることに…

 

咲夜は当初物凄く嫌そうな顔をしたのだが…

 

 

 

「~~~♪(ナデナデ)」

「ふぅ、お兄さんは本当にしょうがない人ですねぇ」

 

 

風を膝に乗せて撫でることで落ち着いたようだ

因みに雛里は流石に劉備達の前で咲夜の膝に乗ってなでなでされることを想像しただけで固まってしまったのでその代わりに風が乗ることとなった

 

 

 

「あ、あの~…風ちゃん?」

「ん、何ですか桃香さん」

「その…劉封さんっていつもこうなんですか?」

「そうですね~、疲れた時や苛々してしまった後なんかは度々私か雛里ちゃん、後は璃々ちゃんをこうして抱っこしてますね~」

「だ、大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ朱里ちゃん。お兄さんはただこうして私の頭を撫でているだけですからねぇ」

「た、対象は?」

「ん~、とりあえず私や雛里ちゃんの様にお兄さんの体にすっぽり収まる位なら誰でもいいみたいです。この中でだと…朱里ちゃんと鈴々ちゃんも承諾すればナデナデされますね」

「???どういうことなのだ?」

「お兄さんは必ず事前承諾を得てからこうして抱っこするんですよ。無理矢理とか命令で渋々とかは嫌だそうです」

 

 

 

そんな話が繰り広げられているにも拘らず咲夜はずっと風をナデナデしていた

 

 

 

そしてそれが数十分ほど続き…

ようやく咲夜も落ち着き始めた

 

 

 

「そーいえば…風たちは皆真名を交換し合ったのかい?」

「はい~、咲夜様が曹操さんの所に訪ねている間に~」

「ふむ、臣下が既に真名を教えているのなら俺も教えなければな。劉備さん、諸葛亮ちゃん、関羽さん、張飛ちゃん、我が真名は咲夜という。そちらが良ければ真名を我に授けてはくれぬだろうか?」

「…お兄さん、似合わないです」

「ウグッ…ま、まあこういう時くらいは真面目にしようと思っただけなのだが…」

「クスッ。 咲夜様は普段通りの方がよろしいかと思いますよ」

「うう…雛里まで」

 

 

 

「咲夜様今戻った…って何だこの状況」

「お、秋葉か。それにしてもずいぶんと遅かったな」

「暇がてら偵察にも行ってきた。どうにもこの近くには黄巾党はもういないみたいだ。後、勝手だが偵察部隊も動かして情報を探ってみたんだが…どうやらここから南に行った方に黄巾党の大部隊が留まっているとか。数は今探らせているが」

「…う~ん、咲夜様に話した方がいいな。でも咲夜様、今あの状態だし…」

「またか…まあいい」

 

 

 

戻ってきたばかりの秋葉だが、焔耶に簡単な状況説明を受けると直ぐに理解した

というよりもこの状況に既に慣れてしまったのだろう

 

 

「ふぅ…咲夜様?」

「お~、秋葉…俺ってそんなにしっかりとした口調って似合わないのかな?」

「ん、どういうことだよ?」

「コホン…我が名は劉封。我求は「似合わないから止めろ」が~~~ん!!」

「確かに…その言い方は咲夜様らしくないな」

「え、焔耶まで…↓」

 

咲夜、味方0の為座りながら落ち込んだ

ただし、風を撫でる手を止めはしないのだが…

 

 

「あ、あの!! わ、私はカッコいいと思いますよ?!」

 

落ち込んでいる咲夜を見て劉備が励ました

 

 

 

「ああ…どうも」

「え、えと…わ、私の真名は桃香といいます!!」

「え、あ、ど、どうも?」

「そ、それであの…さ、咲夜さんにお願いがあるんですけど」

「…………何?」

「私に咲夜さんなりの国に対する考え方や治め方を教えられるだけ教えていただけませんか!!」

「……ふむ、それは何故?」

「私はやっぱり私の理想を諦めたくありません。でもそのためにはまだまだ私は色々な事を学ばないといけないと思ったんです。咲夜さんに色々言われて…凄く悲しかったですけど……でも、咲夜さんは何も間違ったことは言っていませんでした。だから…私は現実から目を逸らさずに私の理想を貫きたい。その為に、咲夜さんや他の皆さんの考え方を参考にしたい。そう思ったんです」

「……ふむ、それならどうして俺に? 一緒に進軍する華琳さんでもいいんじゃないのかい?」

「それは咲夜様が一番よく分かってるんじゃないですか?」

 

 

横から朱里が口出ししてきた

 

 

「…諸葛亮ちゃん、どういう意味かな?」

「私の真名は朱里です。以後、真名で呼んでください」

「ああ、じゃあ朱里ちゃん。どういう意味かな?」

「桃香様と曹操さんの考え方は全くの正反対ということです。その反面、咲夜様と桃香様の考え方は似ている所があります。自分の大切な存在を守る…だから桃香様は咲夜様に色々と師事して欲しいとおっしゃったのです」

「…成程、桃香さん。先程の朱里ちゃんの通りかな?」

「はい! だから…お願いします!!」

 

 

そう言って桃香は咲夜に頭を下げた

 

 

「…ふぅ、仕方ない…か。雛里、風。俺は曹操軍の楽進将軍にも師事して欲しいと言われている。だから、桃香さんと二人のために取れる時間を調整してもらっても良いか?」

「御意~」「御意です」

 

 

 

「あ、ありがとうございます!」

「ッ… こ、今回だけだからね!!(プイッ)」

 

苦し紛れに顔を逸らした咲夜

だがその顔はトマトみたいに真っ赤だった

 

 

 

それから咲夜はまだ真名を貰っていなかった関羽と張飛からも真名を貰い、そして師事する日時と時間を指定すると、咲夜は自分の天幕へと戻って行った

 

 

 

咲夜が居なくなってからのガールズトーク

 

 

「咲夜さんって本当に優しいね♪」

「はい、私達誰もが誇れるとても素敵な主ですから」

「…雛里ちゃん、良かったね。いい人に仕えることが出来て」

「うん♪ そういう朱里ちゃんだって桃香様は凄く立派な人になると思うよ」

「勿論♪ 朱里ちゃん達が誇れるくらいに立派になってみせるよ」

「…ふふふ、胸の方はもう既に立派ですけどね~」

「あ、あう/// ふ、風ちゃん!!///」

「ふふふふ~」

「うう…桃香様、羨ましいです」

「(ジ~~~~)」

「ううぅ~、朱里ちゃん、雛里ちゃん!! そんなに見ないで~~」

 

 

桃香、風、朱里、雛里のトークでした

っていうか風…セクハラだろう、その発言は

 

 

 

「ふむ…それにしても秋葉殿の武器は双棍か。随分と珍しい武具を使うのだな」

「色々と昔は使っていたがこれが一番私に合っていたのでな」

「焔耶の武器も大きいのだー」

「ふふふそうだろう!」

「だが力があるだけで小回りが利きにくいのが偶にキズだがな」

「グッ…そ、そういうお前こそ早いが私ほど決定打が有るわけではないだろう!」

「くっ…」

 

 

結局はどっちもどっちなのだった




咲夜、不幸度静かに加速中......


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話

咲夜は自分の天幕に戻ってから今までのことを振り返ることにした

自分は確かに前世の記憶…この世界でいうと天の世界の記憶…らしいが…

まあこの世界の未来に近い記憶を所持していた為、当初は劉備や曹操、孫堅などとは関わりを持ちたくないと考えていたはず…

なのにだ…

 

運命は余程咲夜を嫌っているのだろう

 

樊城の太守になることを拒んだはずなのにいつの間にか領民や武官、文官の人たちの希望を受けて、樊城太守になっていて…自分の記憶を使ったり今まで学んできたことを活用しては領民の人たちに幸せになって欲しいと願っていたらいつの間にか樊城が他の領域よりも繁栄していて…

その影響があってか他の諸侯達もこっちを気にするようになって…

そしたらまたいつの間にか曹操とか孫堅と真名を交換する中になったり…

今日は劉備に何故か懐かれていたり…

 

 

 

「ふぅ…儘ならないか、やっぱり不幸なのかねぇ俺は」

 

 

劉封の体のせいなのか…それとも本来の自分が元々不幸体質なのか…あるいは両方なのか…

咲夜は度々こうして思い悩んでは、その解決策を探しているのだが…何分これは目に見える問題ではないのでどうにも出来ないのだ

 

 

そしていつも出る答えは

 

 

 

「ケ・セラ・セラ…だな」

 

 

結局こういった結論にしか至らないのだ

それでも前向きに生きていこうとするのが今の咲夜である

 

 

 

「ふぅ…」

 

 

咲夜は一息入れ、次のことを考え始めた

 

それは先程真名を交換した劉備こと桃香と楽進こと凪のことであった

 

 

それぞれ教えることは異なるがこの進軍の最中に可能な限りのことを教えて欲しいというのが二人の希望

 

 

 

「凪に関しては俺の独断でどこまで強くするかは決められる…けど桃香に対しては……雛里と風の二人と相談して決めるか」

 

 

さらさらと咲夜は持ってきていた木簡に目録を書き始めた

書いているのは2本の木簡にそれぞれ桃香用と凪用である

 

 

それを約30分かけて作成し終えた後に少しひと眠りしようとしたその時…

 

 

 

ヒュンッ

 

 

咲夜の背後に何者かがやってきた

 

 

「…影夜か」

「(コクッ)」

 

 

咲夜がかつて育成した忍び部隊の一人で主に諜報を任としている者である

性名を捨て、咲夜から与えられた真名のみで生きている者の一人である

咲夜が忍者部隊としたのはかつて戦争で両親や親類を失って行き場を失った子供たちである

その中で希望を集い、厳しい訓練を積み、それをやり遂げた者がこうして忍びとなって生きているのだった

樊城にはこういった忍びが約300人はいる

因みにそうならなかった子供達は沢山いるが彼らにも新しい場所を提供したりしているため、問題は一切起こっていない

 

 

 

「…樊城?それとも襄陽から?」

「…(カキカキ)【襄陽よりお手紙を】」

「そう…なら貰えるかな」

「(コクコク」

 

 

影夜は昔、賊によって両親が目の前で殺されたため、その時から話せなくなったそうだ

影夜は両親の配慮によって物陰に隠れたため難を逃れたのだが…

咲夜に助けられた当初は重度のショック状態で何も食べず飲まずで今にも死にかけそうな状態だった

それを助けたのが咲夜であり、咲夜は影夜の親代わりとなって仕事の合間をぬって影夜の面倒を見てあげていた

その成果があってか、影夜は少しずつ心を開くようになったのだ

今ではこうして咲夜の影となって精一杯働いている

 

 

 

咲夜は影夜から手紙を受け取るとそれを開封し、読み始めた

その間、影夜はというと…

 

 

 

「~~~♪」

「えっと、何々?(ナデナデ)」

 

抱き枕状態になっていた

咲夜の体系は雛里と大して変わらない為、咲夜の抱き枕係の射程圏内なのだった

 

 

「……ふぅ、また劉表の狸爺が襄陽に攻める準備をしている気配有り…懲りないねぇ。……いっそ、徹底的に滅ぼすか?(ボソッ)」

「(ビクッ)」

「ああ、ごめんごめん。驚かせた?」

「(フルフル)」

「さて…(サラサラ)よし、これ位で良いかな? 後は狸宛てに送る手紙をっと…」

「~~~♪」

 

 

 

咲夜は襄陽宛、樊城宛、そして劉表宛に手紙を書き、それを影夜に手渡した

 

 

 

「よし、これを持って行ってくれるかな? 劉表のいる荊州城にはいつもの通り矢文で。わざわざ使者を立ててやる義理はないから」

「(コクコク)」

「ふふ、この戦いが終わったら一緒に遊んであげるからね。頑張ってよ、影夜」

「//////」

 

 

 

影夜は一瞬顔を真っ赤にすると、すぐさま自分の仕事に戻って行った

咲夜以外に気配を悟らせずに…

 

 

 

「やれやれ…あの狸爺、残った城は荊州と江陵辺りが有力だからって面倒な事だ。ん~、やっぱり早めに手をうったほうがいいか…このままにしておくと無駄に領民の人たちに被害が及ぶ可能性もある……ふぅ、まずはやっぱり劉表軍の頭となっている蔡瑁と張允を捕えて…向こうの有能な人材を引き抜くか。内側からボロボロにしてやる」

 

 

末恐ろしいセリフを吐きながら今後の対劉表軍殲滅作戦をキーワードだけ木簡にメモして行く咲夜

その背後には鬼が居た

 

 

 

その為暫くの間…咲夜の天幕には誰も近寄ることが出来なかったそうだ

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日…

 

 

 

 

「ふぁ~~~…もう朝か」

 

咲夜は何時も決まった時間に起きている

だがいつもと違うのは咲夜の周りには散らかった木簡が幾つも転がっていたこと

そして咲夜は寝台ではなく、何故か天幕の中の床で眠っていたこと

咲夜の体には幾多の生傷と打撲の跡が残っていた

 

 

「あ~、今日はあの日かぁ~…ついてない」

 

 

あの日というのは…

 

 

 

ガンッ!!!

 

 

「いったっ!?」

 

 

ぐきっ!!

 

 

「ギッ!!!?」

 

 

 

ゴンッ!!!

 

 

「んぐぁ!?」

 

 

 

咲夜は起き上がって直ぐに頭をぶつけ、足を捻り、そのまま側頭部を寝台に打ちつけた

 

 

 

「いっ……たい……ハァ……」

 

 

そう、咲夜の言うあの日というのは…咲夜に不幸が降りかかる日であった

といっても丸一日続くものではない

精々続いて半日といった所だ

洛陽に居た際に詠の不幸の日と絡んだ時は咲夜が真剣に死ぬ寸前にまでいった程だった

だが一つ違うのは咲夜の不幸体質は周りに飛び火しないこと

咲夜自身のみがこの不幸を被るのだ

だがこの日に至っては咲夜は自分の周りに人を寄せ付けない様にしていた

何故なら、自分の不幸に他人を巻き込む可能性があるからだ

飛び火はしないが巻き込みはする

無駄に厄介な体質である

 

 

 

だがここで咲夜はある重大なミスをしていた

 

 

「……あれ? そう言えば今日って華琳さん達が食事に来る日じゃね?」

 

 

サアッと咲夜の顔から血の気が引いた

 

 

 

「(ヤバ…もし今日華琳さんが俺に付き添ったりしたら……マジやばい……くっ、こうなったら皆に協力してもらうしか……いや、待て華琳さんのことだ。ここは正直に話した方がいいのでは?いや、一応不可侵の関係ではあるため多少は信頼し合うべきだが、こんな変な弱みはあまり握られたくない……どうする? どうする?どうするよ俺!?)」

 

 

再び悶え苦しむ咲夜

 

 

暫く考えこんだ後…

 

 

 

「…正直に話そう。無駄に波紋呼びたくないし。まあ華琳さん達が来る前に不幸が終わってくれるのなら万々歳なんだけど」

 

 

 

真っ向から理由を話すことにした

 

 

 

「それにしても…幾ら悲劇の将軍とか不幸な人だって言われてたからって…これはないでしょ?」

 

 

実は咲夜は気付いていないが、前世から咲夜はあまり運が良い方ではなかったのだ

その為、特典で引いた【前世での能力引き継ぎ】という物は運動神経や頭脳だけでなく、不幸値という面も引き継いだのだ

劉封に憑依したのもそれが一因である

加えて、劉封の体がもともと持っていた不幸体質に加えて、咲夜の引き継いだ不幸値が合わさったのが今の咲夜だった

 

 

 

それに気付かない咲夜は…

 

 

 

「(ガンッ) …痛い、ハァ~~~……不幸だぁ」

 

 

 

酷い目に合う羽目となっていました

特典もいいことばかりではないのです

加えて言うのなら咲夜の引いた【死亡フラグ回避】の能力ですが、これもどんなフラグを立てても死なないだけで、死ぬギリギリの目にはあうという意味もあったそうな…

唯一まともな特典は武具だけだった

 

 

こんなことになったのも実はあの山田という咲夜が転生する前に合った女性によって加えられた要素であった

こんなことをした理由はというと…

 

 

「あん? 私に気にしていることを抜かしたからよ」

 

 

だそうです

 

傍若無人にも程がねぇ?

 

 

 

だがいくら山田でも手を出し過ぎることが出来なかったので、こうして特典にちょっとばかりのマイナス要素を加えることしか出来なかったのだ

 

 

 

だがそれでも咲夜にとって地味にきついものだった

 

 

 

「くっくっく…ばれなきゃいいのよ」

 

…どSでした、この痴女

 

 

 

 

 

 

ということもあって、咲夜は本日はUnhappy Timeなのでした

 

 

 

咲夜は身支度を整えるとすぐさま皆の集まっている場所に赴き、全員の前で宣言した

 

 

「…今日は、あの日です」

 

 

 

 

ピクッ…

 

 

 

それを聞いた瞬間、皆の目が一瞬で咲夜を憐れむような顔をし出した

 

 

 

 

「あ~、お兄さん。大丈夫ですか~?」

「…あ、あはは…も、問題ないよ。ただここに来るまでに何回も躓いたり頭打ったり、何故か頭上から色々なものが降ってきたりしただけだから…OTZ」

「だ、大丈夫じゃない気がします」

「おいおい、大丈夫か?」

「咲夜様、今日はもうずっと天幕に居た方が」

「…いや、正直外に居た方がまだましかもしれん……加えて、今日は華琳さん達が食事に来る予定だ」

「「「「え゛…」」」」

「…何その反応は?」

「じ、実は…その後で皆で咲夜様に伝えようと思ったのですが…その…」

「あ、ああ…桃香達も食事に来たいって...」

「OTZ…俺の不幸加速中」

「さ、咲夜様」

 

 

 

咲夜…先程からずっと凹みっぱなしである

 

 

 

「皆…一応言っておくけど気を付けて……特に女性。何故か着替えていたり湯浴みをしている時とか何故か俺が飛ばされたりするから……」

「「「「は、はい!!(べ、別に咲夜様なら構わないのだけど///)」」」」

 

 

地味にフラグ立ててもてているのだが、それに全く気付いていないのも咲夜クオリティ

 

 

 

それから華琳や桃香達が来るまでの間…咲夜はもうドリフの罰ゲームとしか言いようのない不幸を味わった

 

 

何故か頭上からたらいが落っこちてきたり…

何故かどでかい鳥に服の先を咥えられてリアルスカイダイビング経験したり…

その後で女性兵士たちが水浴びしている所に落っこちたり…

 

 

 

気付けば体中ボロボロになっていた咲夜(女性陣の所に飛び込んだ際は助けられるだけで何もされなかったのだが…)

 

 

 

 

「…もういや…疲れた………」

項垂れて真っ白な灰となった咲夜

さながら明日○ジョー的な絵柄がぴったりだった

 

 

 

「あうぅ…さ、咲夜様ぁ」

「あらら、お兄さん。今回は特に酷いみたいですね」

 

 

身体の治療をしながら食事の用意を手伝う風と雛里

秋葉と焔耶はそれぞれ桃香、華琳を呼びに行っている

因みに不幸スキルは夕方になってから効果が薄くなるため、今の時間を見計らって咲夜は食事を用意し始めたのだ

下準備は雛里や他の料理の得意な兵士たちに任せておいたため手間は殆ど掛かっていない

 

 

 

 

 

「あら、どうしたの?」

「あ、あれ? 曹操さん? それに……って咲夜さん!? ど、どうしたんですかその怪我!?」

 

 

暫くして秋葉に連れられ、華琳、春蘭、秋蘭、桂花、凪、真桜、沙和、流流、季衣

陣の方は曹仁、曹真、曹純、夏候恩という将達に任せたそうだ

 

 

桃香の方はというと愛紗、鈴々、朱里が焔耶に連れられてきた

陣の方は靡芳、靡竺という二人に任せたそうだ

 

全員咲夜の姿を見てひどく驚いたようだった

 

 

 

「ああ…実は」

 

 

 

咲夜は自分の体質のことを話し始めた

すると…

 

 

 

「グスッ…さ、咲夜さん。い、今までそんな苦労を(ウルウル)」

「…良く今まで生きて来れたわね、ある意味感心するわ」

 

 

桃香は泣きだし、華琳は半分呆れたような顔をした

だがその場に居た全員の顔には咲夜に対して憐れむ目が向けられた

 

 

 

「…あの、そんな目で見ないで…いやマジで。俺はもう既に割り切ってるから」

 

非常に不本意な同情を受けるのはもう慣れたという顔をして普通に接する咲夜

 

 

だが食事が始まるまでの時間、咲夜はずっとそんな目で見られ続けた

 

 

 

 

 

 

 

やがてすべての食事の用意が終わり、皆用意されていた場所に案内された

 

 

 

 

 

「さて咲夜、進軍中の食事は本来味よりも保存を主としている。だが貴方は私を招待した。その意味は分かっているのね?」

「まあ俺の軍は補給した日には御馳走を作るって決まっているし…多分他の軍よりも食事はいいと思うよ? 色々と悪い所を改善していったからね」

「そう…なら期待させてもらうわ」

 

席順は

 

桃香・咲夜・華琳

愛紗・焔耶・春蘭

鈴々・秋葉・秋蘭

凪・真桜・沙和

朱里・雛里・桂花

稟・風・季衣・流琉

という風に三人一組状態で座っている

最後のは一人余る形となったので大きめの席に座ることに

席が円状になっているので誰でも気軽に話しかけやすくなっている

 

 

 

「さて本日の食事の献立は…(パチンッ)」

咲夜が指を鳴らすと食事を持ってきた女性兵士たちがやってきた

ただし、着ている服が和風メイド服だった

 

 

「…さ、咲夜さん? この人たちの服は?」

「ああ、それは俺が職人に考案を渡して作らせた給仕服だよ」

「か、可愛い…」

「こういった服は樊城に来れば手に入るよ?」

「「「「ほ、本当に!?」」」」

 

 

おしゃれに興味津々の子たちが咲夜のセリフに喰らいついた

特に沙和が…

 

 

「で、でも~、阿蘇阿蘇にはそんなの載ってなかったの~」

「それはうちの中で情報規制を厳しくしたからだよ。国内が安定しないうちは内部の特産とか新しい物は外に伝わりにくくしたわけ」

「うう~、他にはどんなものがあるの~?」

「…まあそれはいずれ来た時のお楽しみということで。それよりも今は食事を楽しんでね」

 

 

その日用意したのは味噌煮込み饂飩と味噌煮込みおでん他にも色々と用意し、それにちょっと何か摘まみたいという人のために酒とフライドポテトを用意しておいた

勿論、一から作るのは結構大変だったようだ

特に油の臭いの面や饂飩を一から作る作業、おでんの具作りなど大変な事盛りだくさんだったが…

 

 

「では…頂きましょう」

 

パクッ…モグモグ……ッ!!!

 

 

 

「お、おいしぃ~~~~~~♪」

「これは……今までに食べたことのない」

「美味いのだ~~~♪」

「…いいなぁ、雛里ちゃん。いつもこんなの食べてるの」

「そ、そんなことないよ!? わ、私がこれを食べられるのは進軍中は本当に時々だから!!」

「むぅ…今日のおでんは中々……秘蔵の酒を持ってくるべきだったなぁ」

「秋葉…お前な」

「……(これは以前食べた味噌汁という物に似ている…だけどこの麺は何かしら。こしがあって…)」

「(がつがつがつがつ)」

「姉者、もう少し落ち着いて食べてくれ。流石に恥ずかしいぞ」

「ふ、ふん!! 男が作ったにしてはまあまあじゃないの!!」

「あらら~、桂花ちゃんは素直じゃないですね~」

「ふむ…それにしてもこんな味は食べたことがありませんね…」

「(もぐもぐもぐもぐ)おいひぃ~~♪」

「ああ、もう季衣。ほっぺに色々と付いてるよ」

「咲夜様! 本当に美味しいです」

「ほんまやな! 特にうちはこの芋の揚げ物が好きや!」

「沙和はこの煮物が好きなの~」

 

 

各々に食事を楽しんでくれているようだった

 

 

「楽しんでくれてなによりだよ」

「…咲夜」

「何ですか?」

「これは長い間持つ物なの?」

「いえ、味噌は黴が生えやすいのでそうとは言えませんね。だからこそ補給して直ぐに作ったんですよ。長期にわたって保存できる物は他にありますから」

「…おしえな「駄目です」…即答したわね」

「当たり前でしょう。これらは樊城で生まれた食事なんですから。それに味噌は色々と工夫しやすいんですよ」

「…例えば?」

「そうですね…味噌ラーメンとか味噌御握り、魚の味噌煮込みとかも作れますからね」

「…ならまた訪ねさせてもらうわ」

「厄介事なしでお願いします」

「分かってるわよ」

 

 

 

 

食事会が終わり、咲夜は片付けに向かった

その間、女性陣は各自の天幕(陣)へと戻り(移動し)、ガールズトークをすることとなった

 

 

 

→劉封陣にて→

 

「皆さん、どう思いますか?」

「風さん、やっぱり私は桃香様、曹操様のお二人はいずれ咲夜様にとって障害になり得る方だと思います」

「そうだな…桃香の方はまだまだだがこの進軍の際に咲夜様が色々教えるみたいだし…それに愛紗、鈴々、朱里と粒玉も揃っている。これに兵力と名声が加われば恐ろしい敵だ」

「曹操の方は着々と力を付けていっているし、覇道を往く奴だ。桃香様よりも樊城に攻めてくる可能性が高い…と私は思うのだが……合っているか?」

「焔耶ちゃん、正解です。その調子でしっかりと考えることを止めないでくださいね。では残った諸侯で警戒する必要のある勢力といったらどこでしょ~?ふぅむ…秋葉ちゃん」

「俺か? そうだな…とりあえず当たり前だが劉表だな。奴とは領土が隣合わせだし、襄陽の件もあるからな。後は……西涼の馬騰、幽州の公孫賛、益州の劉障、長沙の孫堅、南陽の袁術、それに…ここ最近噂になっている【天の御遣い】が落ちたと言われている袁紹だな」

「正解です。加えていうのなら孔由、鮑信、韓馥、張燕、張魯、丁原などもまだまだ油断ならない勢力ですよ~」

「私達の勢力、樊城・襄陽は他の領域に比べて裕福な上に総兵力が先の戦いの捕虜たちを加えて約60000、将兵の数も他に比べてかなり多くなっています。そういった面では樊城・襄陽のどちらかが落ちても拙いことになるというわけです。だからこそ、咲夜様は出陣の際、鉄壁とも言える守りで自領を固めたんです」

「それに襄陽を守っているのは紫苑、杏、麻理に燐花と厳重過ぎるといっても良い位に守りに長けてる皆が守っているし…樊城の方も汝南への国境付近は厳重な罠が敷かれているし、警備も万全。とりあえずそれで少しは安心できてるんだよな」

「汝南…確か袁術が治めている領土だったな」

「そういうことです~。まあ悪く言えば私達は袁術と劉表に挟み打ちということも有り得るんですけどね~。でもまだ江夏の地に劉祥さんもいらっしゃいますから今すぐに袁術が攻めてくるということはないでしょう。…袁術がアレなので少し不安ですけど」

「「「ああ…」」」

 

 

三人ともそれだけで納得してしまった袁家クオリティ

 

 

 

「それにしても…天の御使いが袁紹のいる渤海に落ちたなんてなぁ」

「でもその占いだってあの出鱈目で有名な管路が占った物なんだろ? 当てにならないだろう」

「いえ~、報告によるとその人は男性で何でもキラキラと輝く服を着ていたとか~」

「…それならもう既に咲夜様が似たような服を作っているだろう?」

「そうですね…現状では全く分かりません。でも私は今は問題ないと思いましゅ」

「…雛里がそういうのなら」

「風も雛里ちゃんの意見に同意ですね~」

「俺もだな、今こう考えていても仕方がない。それよりも今は実のある話をしようじゃないか!!」

「実のある話? 秋葉、それは一体…」

「コホン…【第一回、咲夜様を男性として好いている人はいるか居ないか!! 大告白大会!!】」

「「えええええええーーーーー!?」」

「成程~、それは確かに興味深いのですよ~」

「チョッ!? 風!! なんてことを言うんだよ!!」

「しょ、しょうでしゅよ!! そ、そんなふ、不敬な…///」

「ふむふむ…その反応を見る限り、雛里ちゃんはお兄さんが好きということですね~」

「あわわ…そ、それは…しょの///」

 

反論できずに顔を真っ赤にする雛里

 

 

「他にも今留守にしている奴だと…紫苑、麻理、杏は確定か? 燐花はちょっと難しいな。あいつ、普通の恋がしたいって言ってたからなぁ」

「他国の将だと…女の勘では楽進将軍と桃香様が怪しいですねぇ~」

「(プシュ~~)///あわわ…あわわ///」←フリーズ中

「いや、風。流石に今日会ったばかりで好きになるなんて」

「甘いぞ焔耶!! 例えるなら出来たての胡麻団子に更に砂糖と蜂蜜を加える位に甘いぞ―――!!!」

「うえ…それは確かに甘ったるそうだな」

「そういう意味ではないのですよ~。恋はいつも突然。そういった言葉が咲夜様の小説に書かれていたではないですか~」

「う…だ、だけど流石に現実でそんなことが起こるわけが」

「女心は雲のようだ。そうも書かれていましたよね~? 女性の心は変わりやすいのですよ~、ましてや恋心なら尚更なのですよ~」

「ウグッ、な、なら風はどう思っているのだ!?」

「好きですよ~」

「俺も好きだな。咲夜様は今までに見ないいい男だ。確保したいというのは女として当然だろう?」

「ううぅ~~…」

「なら焔耶ちゃんはどうなのですか~?」

「……わ、分からない」

「ふむぅ、まあ時間はまだまだありますよ。ゆっくり考えるといいですよ~」

「……うん」

「かっかっか!! あの魏文長も咲夜様のことになると骨抜きじゃな!!」

「ウグッ…」

「あううぅ…あわわぁ///」←未だフリーズ中

 

 

「やれやれ…お兄さんはこれだけ好かれているというのに。当の本人は全く気付かないのですからねぇ~。困ったものですよ」

「おうおう、鈍感王とはまさにあの人のことだな」

「これこれ宝譿、そういうことは言ってはいけませんよ~」

 

 

 

→劉備陣にて→

 

「どうだった朱里」

「そうですね…まず曹操軍ですが、いずれ私達がより大きくなった時に真っ先に対立するのは曹操軍です。その理由は思想の違いですね」

「???」

「…それって、やっぱり私の考えが甘いから?」

「…曹操さんが目指すのは覇道。その道を往くために障害を力で排除し、己が天命を全うすべし。それが曹孟徳のやり方ですからね。桃香様の思想とは真逆なんですよ」

「…でも私は諦めないよ。咲夜さんに色々と教えてもらって私は私の理想を現実にして見せる。難しいかもしれないし…他の人には受け入れてもらえないかもしれないけど…でも私は諦めないよ!!」

「桃香様、私達はそんな桃香様だからこそ、一緒にその道を歩んでいきたいと思ったのです。桃香様が揺らぐことないように、桃香様の理想を現実とするためにこの関雲長、存分にお使いください!!」

「愛紗ちゃん…ありがとう」

「鈴々も難しいことは分かんないけど、頑張るのだーーー!!」

「鈴々ちゃん…」

「ふふ、桃香様。私も精一杯頑張らせていただきます。ですから、桃香様は私達をもっと頼ってくださいね」

「うん♪ でも皆にばっかり任せるわけにはいかないよ? 私自身ももっと頑張らないと…」

 

 

「所で…その咲夜殿の方は如何致すのだ?」

「こちらから攻めたりするのは絶対に禁物にしましょう。樊城・襄陽は他の領域に比べても異常なくらいの差があります。ですから私達が城を任された際には直ぐに同盟、もしくは曹操さんと同じように不可侵の約束を取り付けることが良いと思います」

「4大将軍に4軍師…それに兵力が確か以前まででも50000はあったそうだな」

「はい、それに他にも有能な将や文官も揃っていますし、軍師金や兵糧のことも殆ど問題なく調達することが出来ます。相手にすれば確実に負けるでしょう」

「つまり…どういうことなのだ?」

「(ガクッ) り、鈴々ちゃん? 少し黙っていてね?」

「分かったのだーー!!」

 

 

鈴々は何処かに走って行った

 

 

 

「コホンっ。さて…とりあえず咲夜殿には一定の距離を保つということでいいですか、桃香様?」

「……(ボー…)」

「と・う・か・さ・ま?」

「Σえ、な、何!?」

「? どうかされたのですか、桃香様?」

「んっとね…ちょっと咲夜さんのことを考えていたんだけど……その、ね。な、なんだか咲夜さんのことを思い浮かべると……そ、その///」

「…(なあ朱里、これって…)ヒソヒソ」

「…(た、多分…愛紗さんの思っている通りだと)ヒソヒソ」

「(ま、拙くないか?)ヒソヒソ」

「(と、とりあえず今は気付いていない様ですし…黙っておくほうがいいかと)ヒソヒソ」

「??? 二人して何を話しているの?」

「「な、何でも有りませにょ?!」」

「???」

 

 

 

咲夜…地味にフラグ建設

それが死亡フラグなのか…ただの恋フラグなのか

それを知る者は誰もいない

 

 

 

 

→曹操陣→

 

「やはり咲夜は現在最も警戒する必要のある人物ね」

「華琳様、劉備も今はまだ力無き物ですが、武将には関羽と張飛、そして軍師には伏龍と謳われている諸葛孔明が居ます。私は劉封よりも劉備の方が華琳様の覇道を阻害するものになると思いますが」

「桂花、それは分かっているわ。でもそれよりも恐ろしいのは咲夜が敵に回った時よ。劉備と異なって咲夜は名声に兵力、そして有能な将と軍師が揃っている。今の私たちでは敵わないわ」

「その面なら既に不可侵の約束を取り付けてありますし…問題はないかと」

「そうね…でも秋蘭、物事には絶対なんてないのよ」

「…そうですね、申し訳ありません」

「だから一番いいのは咲夜をこちら側に入れることなのよ」

「それは難しいのでは?」

「そうね稟。普通のやり方ならあいつは懐柔なんてされないでしょうね。でも普通じゃないやり方ならどうかしら?」

「…華琳様、それはもしかして…」

「ええ、あいつとの間に子供が生まれてしまえばいいのよ」

「「「な、なんだってーーーー」」」

 

 

無茶苦茶過ぎる…

 

 

 

「まあそれは冗談よ。一応は有効な手ではあるけどね」

「そ、そうですよね…」

「まあ兎に角、あの劉封がこちらに入ってくれるようになればよし。ならなければ我が覇道を脅かすものとして見なければならないわ」

 

 

 

 

それから各陣営で話し合いが行われていた

 

 

 

 

その頃、咲夜はというと…

 

 

 

「えっと…とりあえず凪は氣が使えて身体能力もそれなりにあるから…烈風拳入れるとして…ライジングタックルとか疾風迅雷脚とか飛燕疾風脚、後ネタとしてKOFのザキさんのヤキ入れとか教えてみようかな?」

 

 

…何やらいらないことを考えていたようだった

 

 

 

「後は…とりあえず体を軸として、身体全体を使った技と合気道とかみたいにカウンター主体で力を殆ど使用しない技とかも教えるといいかなぁ」

 

 

サラサラっと木簡に記していく咲夜

 

 

 

「やれやれ…とりあえず凪のはこれでよしっと…次に纏めるのは桃香の分だな」

 

 

咲夜は自身の仕事をこなす序に二人のために色々と考えたものを木簡に書き記していった

 

 

その夜、各天幕では明りが全く消えなかったそうだ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話

「凪、そこから右に回し蹴りした後、周りを目で瞬時に確認」

「はい!!」

「(パンッ)甘い! 足だけで蹴らない!! 身体全体を使う」

「はい!!」

 

 

今現在、咲夜は凪に教えられるだけの格闘技を伝授していた

幸いといっても良いのか、凪は基礎の面ではほぼ合格ラインに達していたので直ぐに技を教えることが出来ていた

今は強者との戦いを意識した対スピード型の裁き方を教えている

 

 

「ハァ…ハァ…」

「よし、前よりも良くなっているね」

「はい!! ありがとうございます!!」

 

 

凪との訓練は早朝に取り行い、その後朝食を取り、進軍

 

そして夜になると咲夜は自身の天幕に桃香を招き、自身の知識を教えられるだけ教えていた

 

 

 

「あの咲夜さん。ここは?」

「ああ、これは需要と供給の問題だね。これはね…」

 

 

念のため、何が起こっても対処できるように兵50に自分の周りを見回って貰うことにしているみょんなところでチキンな咲夜だった

 

 

 

そんな調子で進軍して20日が経ったある日…

 

 

 

 

「伝令!! これより先に孫の旗印あり!!」

 

 

先方させていた見張りが急いで咲夜の元にやってきた

 

 

 

「孫の旗…ってことは紅蓮さん達かな?」

「恐らくは~」

「さて、どうする「報告!!」……何かな?」

「ハッ!! 曹操様より『今から孫堅と会談するから来なさい』とのこと!」

「………また面倒な事になりそうな予感」

「お兄さん、お疲れ様です~」

「ハァ~~…仕方ないか、じゃあ雛里と焔耶。付いてきてくれるかな?」

「「御意

です

」」

 

 

何だかんだ言っても咲夜は基本的優しい上にフェミニストなため大抵の要求なら飲んでしまうのだった

 

 

 

だが咲夜はそれを後ほど後悔することとなった

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「あ、あの…咲夜様?」

「…ゴメン雛里。帰っても良いかな?」

「え、えっと…」

「…それに同意したいところだけど…出来ないだろうね」

「デスヨネー」

 

 

孫堅ら一行と会うために用意された天幕…

そこからは並々ならぬ怒気や殺気を感じ取った咲夜達

その気配は周りに居た者たち皆を怯えさせていた

 

周りの状況を察するにどうやら孫堅と曹操は既に天幕の中に居るようだった

だが咲夜は入ることが出来ずにいた

何故なら頭の中でずっとアラートが鳴り響いていたからである

入ったら後悔する、絶対に後悔するだろうと…

 

 

 

とりあえず咲夜は心の中でだが強く思った

 

 

 

―――帰りたい…平和で静かな樊城に戻りたい…

 

 

 

と…

 

 

 

だが現実は非情である

 

 

 

 

「いつまで私達を待たせる気かしら、咲夜?」

 

 

どうやら咲夜のいたことに気付いていた華琳が天幕から顔を出したようだ

 

 

 

 

「あ~…すいません」

「まあ良いわ。さっさと入りなさい」

「……はい」

 

 

 

咲夜は諦めて天幕に入った瞬間、その天幕に居た全員に鋭い視線を向けられた

 

 

 

「……(え、何この視線?)」

「久方ぶりじゃのう、咲夜」

「あ、お久しぶりです紅蓮さん」

「やっほ~♪ 会いたかったわ、咲夜」

「あ、雪蓮も居たんだ」

「そうよ~♪」

「冥琳も久しぶり」

「ああ」

 

 

呉組と久しぶりの再会を果たし、一人ずつ挨拶した咲夜

その天幕に居るのは孫堅、孫策、周瑜の三人だった

 

 

 

「蓮華や思春は?」

「ああ、あの二人には今は陣の守りについてもらっている」

「ふ~ん、なら後で挨拶に行った方が良いかな?」

「ああ、そうしてくれると有難い」

 

 

とりあえず咲夜は挨拶して回った後、空いている場所に座ることにした

 

 

桃香達も既に天幕内に居て既に用意された場所に座っていた

 

座っている状況を説明すると…

スクエア状態で咲夜達が華琳達と向き合い、桃香達が紅蓮達と向き合っているという状態だ

 

 

 

「さて…先程までの話はまたあとで話すということでいいわね」

「はい!!」「ああ、よいぞ」

 

「あの~…先程の話って何のことですか?」

 

 

咲夜が恐る恐るそう聞いた瞬間…先程まで天幕を覆っていた気配が復活した

 

 

「…咲夜、聞いていいことと悪いこと…あるわよね?」

「はい!!! すいませんでした!!!」

「…咲夜、空気読め」

「すいません…もう聞きませんから許して下さい」

「……」

「…無言でこっちを見ないでください桃香さん。地味にきついです(泣)」

 

 

といった感じで流されてしまった咲夜だった

 

 

 

 

「コホンッ。それでは再開するわ」

「…今日は何を話すんですか?」

「ああ、それなんだけど実はこの近くに黄巾党の大部隊が集結している場所があるという情報が入っていたのは忘れていないわよね?」

「あ~、そう言えば先日制圧した衢地は黄巾党の兵糧を蓄えていたところだったね」

「ええ、敵もそれでかなりの打撃を受けているという情報もあるわ」

「まあ数が数だからねぇ」

「儂らもその情報を聞きつけ、この地に赴いたのじゃよ。こういった戦いは根底となるものを潰さねば鼬ごっこじゃからな」

「そこで私が考えたのは私達魏と咲夜の襄陽樊城軍、劉備の義勇軍、そして孫呉の同盟を結び、その大部隊を破るということよ」

「……ふむ、確かにそれは効率的だな。それに…その大部隊の中に敵の首領である輩もいるという情報も入っている。上手くいけばこの乱を鎮めることが出来るな」

「咲夜、劉備。貴方達はどう思うかしら?」

「私は賛成です。この乱を鎮めることが出来るのならこれ以上のことはないと思いますから」

「……ふむ、反対する理由もないだろう。戦力は多ければ多い方がいい。何せ相手はこちらよりも遥かに多いからな」

「それじゃ全員賛同ということでいいわね」

「ああ」「はい」「うむ」

「では次にこれからの行動を決めるわ」

「とりあえずその場所に進軍しつつ、情報収集するというのは確定だな」

「ええ、次に…」

 

 

咲夜、華琳、桃香、紅蓮の四人はどんどんと話を進めていった

時に軍師として一緒に居た雛里、桂花、朱里、冥琳も話に混ぜながら次々と必要な事柄を決定し…

 

 

そしてそれについていけない焔耶や愛紗ら武官たちはその時ばかりは空気と化していたのは余談である

 

 

 

 

それから幾時かの時間が過ぎていき…

 

 

 

「ふぅ…これで大体のことは決まったかしら」

「そうだな、後は敵さんの動きを見てから決めないとな」

「ふぇ~…疲れましたぁ」

「…とりあえず話すことは話したんで少し休息取りますか?」

「…いえ、今日はこれ位にしておきましょうか。こっちはこっちでまだまだ話したいことがあるのよ」

「「!!!」」

 

 

 

華琳のその言葉を聞いた瞬間、少しだけだらけていた桃香と紅蓮が物凄い反応をした

 

 

 

「…え、ええと……なら俺は退出した方がいいですか?」

「ええ、そうして頂戴」

「な、なら紅蓮さん。ちょっとそちらの陣に挨拶に行っても良いですか?」

「ああ、一応先に連絡に行かせておこう」

「助かります」

 

 

 

 

こうして咲夜は半強制的に天幕から追い出され、何故か雛里と焔耶はその場に残ることとなった

 

 

 

「…何かここ最近一人での行動多くなったなぁ」

 

 

 

…普通、君主が一人になるなんてこと、有り得ないと思う

 

 

 

 

「まあ良いか♪ とりあえず蓮華たちに挨拶に行かないとな」

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

さて…一方でこちらは華琳達のいる天幕

 

 

 

「…さて、咲夜も居なくなったことだし……続きを話すとしましょうか」

「…そうですね曹操さん」

「ああ、この際だからきっぱりと決めようじゃないか」

 

 

目から火花が飛びだしそうな勢いでにらみ合う三人

 

 

 

「あ、あの~…一体どんな話を?」

 

 

それを見かねて雛里が恐る恐る聞いてみた

 

 

「コホン。先程まで私と劉備、孫堅が言い争っていたのはどうやったら咲夜を振り向かせることが出来るかについてなのよ」

「……はい?」

「そ、それはどういう???」

「あら、分からないかしら? 咲夜はその辺の男とは違ってかなり優良株よ。料理が出来て、頭が良くて、噂だと呂布にも負けずとも劣らないと言われている。なら、女として傍に置きたいというのは当然のことでしょ? それに今の時代、咲夜の力は絶対に必要となってくるでしょうしね」

「「!!!!」」

 

最初こそいきなりのカミングアウトに混乱していた雛里と焔耶だったがその場にいた大半の人の顔をみた瞬間、それが冗談ではないことを理解した

 

 

 

「ふふふ、言わずとも私は咲夜のことを狙うわよ」

「ッ…わ、私だって!!」

「くははははっ!! 儂とてあやつなら雪蓮や蓮華、それに小蓮を任せられると思っておるわ。だからこそ、あ奴に儂の娘の誰かを継がせようと考えておるのじゃが…」

「しょ、しょれは確か咲夜様がお断りした筈でしゅ!!」

「あら、そうなの孫堅?」

「まあのう、じゃがそれだけで諦める儂じゃないわい」

 

 

 

 

暫くの間、天幕内では咲夜のことが話されることとなった…

 

 

 

 

 

 

ゾクッ…

 

 

 

 

 

 

「な、何だろう…凄く嫌な予感がする…」

 

 

蓮華と思春のいる陣に行く途中、妙な寒気を感じた咲夜

だが、それが予感ではなくいずれ現実となることであったということを彼は今は知らない

 

 

 

 

 

 

再び、華琳達のいる天幕にて…

 

 

 

 

「ふぅ…このままだと水掛け論になりそうね。結論はまた今度ということにしようかしら」

「その方がいいと思われます」

「ああ、それに…一番肝心な咲夜様が…」

 

 

 

「「「「「「「ああ、そういえば…咲夜

さん

(様)って滅茶苦茶鈍感だし…」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「はくしっ!!」

「だ、大丈夫か?」

「…風邪ですか、咲夜殿」

「いいや…多分誰か噂してるんだと思う」

「そうなのか?」

「まあ経験上、俺の勘って結構当たるからね。(ずず…)あ~、久しぶりにゆったりした感じがするよ」

「…大変なのだな」

「それはお互い様でしょ、思春さん。それより…(ガサゴソ)っと、あったあった。これ、俺の書いた新作なんだけど、いるかな? まだ発売前のやつだよ」

「い、いいのか!?」

「まあ友好の証にね」

「感謝する!! 蓮華様!!!」

「あ、ああ。分かった思春。暫し、抜けてもいいぞ」

「ありがとうございます!!」

 

 

 

 

そう言い残すと思春は消えるような速さで駆け抜けていった

 

 

 

 

「あ、あはは…」

「思春さんが俺の書いた本を愛読してくれてるのは以前の訪問で分かってたことだけど…ここまで好きになってくれてたんだなぁ」

「まあ咲夜の書く本はどれも面白いから分かるのだけれど…思春は異常なくらいに嵌まっているのよ」

「…まあ作者からしたらこれ以上ない位に嬉しいことですけどね」

「所で先程渡した本はどういった物なのだ?」

「今回の本は恋愛の話ですね。一人の女性に複数の男性が恋をしたり、愛ゆえに苦しみながらもその女性がその内の一人を好きになって行くという話ですよ」

「…いいわね、私も後で読ませてもらおうかしら」

「ええ、是非後で感想を聞かせてくださいね」

 

 

 

ゆったりとした空間を蓮華と一緒に堪能した咲夜だった

 

 

 

 

 

 

それから幾日の間…咲夜は桃香、華琳、紅蓮の軍と進軍を共にし…ついに黄巾党の大部隊を接触することになった

 

 

 

 

「…これは壮大ですね」

「人がゴミの様ね」

「…(ム○カ!?)そ、そうですね」

「報告によると敵の数は20万だそうだ」

「かなりの数ね…これなら確かに敵の首領が居ても不思議じゃないわ」

 

 

 

桃香、華琳、咲夜、紅蓮、雪蓮の5人は護衛を引き連れて敵の様子を確認し終えた後、立地の良い場所に陣を構え、早速作戦会議を開くことにした

 

 

 

 

 

 

 

「敵陣の詳しい情報が入ったわ。どうにも向こうは兵法皆無といった所で適当な状態でいるみたいね」

「…これは酷い」

「そうですね…ここまで酷い陣は久しぶりに見ましたね」

 

 

軍師である桂花、稟、風が冷静に突っ込んだ

 

 

「向こうは元は農民です。数は多くとも学のある人物はそうはいないのでしょう」

「ふむ…ならば後は向こうの将を担っている者を打ちとって行けば総崩れになるのでは?」

 

 

同じく、軍事である雛里と冥琳が補足を加えた

 

 

 

「ならばまずは敵陣内の将の配置を把握した後に、それぞれの割り当てを決めなければなりませんね」

 

 

最後に朱里が補足した

 

 

 

 

「…荀彧、郭嘉、程昱、鳳統、周瑜、諸葛亮…これだけ有能な軍師が勢揃いしているのは凄い光景なんだろうな」

「ふふふ、そうね」

 

 

 

 

軍師が方針を提案し、それを咲夜達で相談しあって…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこれより敵、黄巾党殲滅作戦を説明する。司会は俺、咲夜とその補助役として雛里が担当する」

「よ、よろしくでしゅ///」

 

 

 

全員を集め、軍師達が考え、国主が決断した策を話すトキになった

 

 

 

 

 

 

「まずはこちらに入っている黄巾党軍の将についてです。まず首領である張角、張梁、張宝。この三人は余程厳しい警備が敷かれているので顔が割れていません。ですが、他の将についてはかなりの情報が入っています。まず名前だけ挙げると…馬元義、波才、張曼成、韓忠、孫夏、趙弘、卜己、楊奉、韓暹、劉僻、程遠志、鄧茂がいます」

「…そう聞くと流石に将の数が多いのだな」

「でも将の質はこちらの方が上です」

「そうね、まあ当然のことよ」

 

 

「次に敵の陣と数についてです。皆さんももう既に知っているとは思いますが黄巾党は総勢20万を超える数です。布陣は主に2か所。1か所は背後を断崖の絶壁が守る形を取っているここ」

 

雛里は広げられた地図を咲夜特製の指示棒を使ってその場所を指し示した

 

 

「そして二つ目の陣は一つ目の陣よりも少し離れた場所にあるここです」

 

 

次に雛里が指し示した場所は山の上にある場所

 

 

「数はそれぞれ10万ずつ配備されているようです」

「ここまでで何か質問はありますか?」

 

 

咲夜がそう尋ねると春蘭が手をあげて

 

 

 

「なぜわざわざ陣を二つに分けているのだ? 一つにまとめた方が良いと思うのだが…」

「それは二つ目の陣には兵糧が蓄えられてるんだよ。加えて、少し前に俺達が敵の衢地を制圧したことを踏まえているのか兵糧は別の所にあるみたい。加えて防衛のしやすい山の上にしたって感じかな」

 

 

春蘭の質問に咲夜がサラッと答え、その後、咲夜は雛里に話を進める様に目で指示した

 

 

 

「それ故に策はまずこの兵糧の蓄えられている陣を攻めることから始めます。まず、荷駄隊に偽装した兵1,000を先行させます。怪しまれない様に5000の兵を護衛に付けます。恐らく、これに釣られることでしょう。彼等は確かに兵糧は持ち合せていますが長くは持たない量ですから。その為、この餌に必ず食いついてきます。そして荷駄隊は敵を釣りながらこの位置に移動します」

 

 

 

雛里が指し示したのは道が狭くなっている道筋

その図から縦にならんで十数人程度しか同時に通ることしか出来ない狭い道である

 

 

 

「荷駄隊がここに逃げ込んだ後、峡谷上から弓兵と落石部隊を動かし、敵を殲滅します。その後、陣に戻ろうとする残兵を伏せ兵部隊によって打倒します」

「その後はどうするの? 荷駄隊を追いかけて逆に殲滅させられたなんて情報が敵に渡ったら敵は守りを固めてしまうでしょ?」

 

 

 

華琳は何やらニヤニヤとしながら咲夜と雛里に問いかけた

 

 

 

「…華琳も分かってるだろうに。まあ他の人にも分かる様に説明すると…敵はすべて殲滅させるわけじゃない。数名は残して敵陣に態と逃がす。その際に、俺の軍にいる偽装工作や変装などの特化した奴を敵陣に送り込む。勿論、黄巾党に偽装させてな。その際に使うのは火薬だ。偽装させた兵の服の中に火薬を仕込ませてそれを敵の陣の至る所に仕掛けさせる。幸いにも今は空気が乾燥している時期だから火の手は回り易い。俺の予測だと明日は少し強めの風が吹くようだしな。仕掛けが終わり次第にこちらから仕掛け、火矢を射る。そして外に出てきた連中を討つ」

 

 

 

「その際、もう一方の黄巾党軍がいる陣にも火の手が上がったのが見えるはずです。そうなれば彼等は慌てて向かってくるでしょう。その際に、いくらかの兵を伏せておき、奇襲を仕掛けます。そして、可能ならばその部隊は全滅させます」

 

 

 

「後はその都度臨機応変に対応すればどうとでもなると思うけど…とりあえず簡単に言うと相手は雑兵に等しい上に数だけ多いのだから、その利点を逆手にとる策をとれば勝てるってわけ」

 

 

 

 

 

結果として、連合軍の勝利に終わった

黄巾党軍は策にハマり、将は次々と咲夜達に討たれていき、兵も次第に混乱を極め、散り散りになりながらその数を減らしていった

 

 

そして敵の兵糧庫は勿論のこと、今現在、敵の本陣は火の海に包まれていた

 

 

 

本陣に攻め込む際、曹操軍は正面から、孫堅軍は左翼から、そして劉備及び劉封軍は右翼から本陣に向かって行った

 

劉備軍と劉封軍が一緒になっているのは劉備軍の兵数が極端に少ないためである

 

 

 

「さてと…後の敵さんはどこかな」

 

劉封こと咲夜も1000の護衛と焔耶を引き連れ、向かってくる敵を次々と打倒していった

 

 

「咲夜様!! 危険ですから少しは自重して下さい!」

「そうは言っても敵の大将、張角、張梁、張宝を捕えないとまた大乱が起こる可能性がある!! だからこそ、今少し無茶をしてでも探さないと!!」

「…それはそうですが」

「秋葉、風、雛里のほうはどうなってるか分かるか?」

「そちらは私達とは別のほうに向かっているようですが…約4000も引き連れさせて良かったんですか? 半々にした方が良かったと思うのですが」

「秋葉達のほうは逃げていく賊兵たちが多かったからね。それにここなら華琳さんや桃香にみられないだろうし…少し本気を出しても問題ないだろうしね」

「…ハァ、仕方ないですね。って…あれは?」

「ん?」

 

 

咲夜と焔耶が見つけたのは火の海の中から逃げようとしている三人の女性

その後ろには数名の黄色い頭巾を付けた男達

 

 

 

「咲夜様!! あれは黄巾党に捕まっていた人たちでしょうか!?」

「……分からない、とりあえず保護しよう」

 

 

咲夜はそのまま焔耶と1000の兵を引き連れ、黄巾党の残党兵に向かって行った

 

 

 

「な、なんだ!? こ、こんなところにも官軍が…」

「く、くそっ!! てんほーちゃん、早く逃げてくれ!!」

「ちーほーちゃん!! 愛してる~~~~!!!」

「れんほうちゃん!! デレてくれーーーー!!!」

 

 

三人の女性を追っていた輩が咲夜達に向かってきた

だが…

 

 

 

「フンッ!!」

「はぁ!!!」

 

 

ザシュッ…

グシャッ…

 

 

咲夜の戦斧で体を真っ二つにされ、焔耶の鈍砕骨でぺしゃんこにされ、向かってきた男達は直ぐにあの世へと旅立っていった

 

 

 

それを確認すると咲夜は周りの警戒を兵たちに任せ、自身は焔耶と共に先程まで逃げていた三人の女性たちの元にゆっくりと歩いていった

 

 

 

 

「…大丈夫か?」

「は、はい!!」

「…混乱しているかもしれないがいくつか聞きたいことがある。いいか?」

「…それには私が答えます」

 

 

 

二人の女性を庇うように眼鏡を掛けた一人の女性が前に立ち、咲夜に向かいあった

 

 

「…そうか、ではまずどうしてここにいる? ここは黄巾党達の集う場所だ」

「…連れていかれてきたんです。それで火の手が上がってきたので私は姉さん達を連れて逃げようとしたのですが、追手が来て」

「へぇ…官軍が攻めて来て、しかも陣に火の手が上がっているのにもかかわらずタダ連れて来られたという君達三人を追うなんて…奇妙な事もある物だね」

「っ……あ、あの人たちに随分と気に入れられていましたから」

「成程成程…でもさぁ、俺はさっき切り殺した男達を見て、こう思ったんだよ。…こいつらは君を逃がそうとしたんじゃないかって」

「…どうしてそう思ったのですか?」

「それは君達が張角、張梁、張宝だからじゃないのかな?」

「「「っ!!!?」」」

 

 

 

それを言った瞬間、三人が凍りついたように見えた

 

 

 

「? 咲夜様、この三人が黄巾党を率いていたっていうんですか?」

「可能性は高いだろうね。まあ黄巾党の捕虜は何人か捕えているだろうから、その人たちに顔確認させれば大丈夫だろう」

「ならば捕えますか、この三人」

「逃げようとしなければね」

 

 

 

眼鏡を掛けた女性が一番早く、冷静になり咲夜に再び顔を向けた

 

 

「…私達を捕えて……どうするんですか?」

「本来なら打ち首だろうね。これだけの大乱を引き起こす原因を作りだしたのだから」

「そ、そんな…」

「ち、ちーたちはただ歌いたかっただけなのに!!」

「し、死にたくないよ…」

「ふざけるな」

「「「!!!!」」」

 

 

文句しか言おうとしない三人に咲夜は静かにキレた

 

 

 

「歌いたかっただけ? 死にたくない? そんなので自分達がやってきたことの罪をなくせるとでも思っているのか?」

「だ、だって…」

「確かに君達三人はただ単に歌いたかっただけなのかもしれない…だけど、君達が原因でこのような大事態が起こったのも事実だ。違うか?」

「……」

「それよりも何よりも君たちだって気付いていたはずだ。拙い状況が起こっていると」

「…」

「沈黙は肯定と見るぞ。それが暴走する前に君達には幾らか対策も取れたはずだ。例えば、黄巾党になった輩の暴走を止める努力をするとか一時期歌ったりするのを中止して、時間をしっかり空けた後、再び歌うとかな」

「そ、それは…」

「つまりは君達が考え無しにただ自分のやりたいことをやって、その内に周りが自分たちが制御できなくなる位に大きくなり、そして暴走してしまった。それだけだ」

「「「………」」」

「故に君達は償わなければならない。君達の罪をな…。この大乱だけでどれだけの人間が死んでいったと思う? どれだけの無関係な人々が苦しんでいったと思う? それらを理解したうえで君達は文句を言っているのだろうな?」

 

 

三人はそれ以上何も言えなくなってしまった

今まで目を逸らしてきたことが余りにも過酷で…あまりに残酷な事だったから…

 

 

 

「ふぅ…さて他に何か言いたいことがあるか?」

 

 

 

咲夜はそれだけ言うと一息つき、三人を見据えた

 

 

「……なら私達は処刑される…ということですか?」

「漢王朝ならそういう処罰を下すだろうな。だけどさ、君達が死んだだけで問題が解決すると思うのか?」

「え…」

「悪いけど俺は君達三人が死んだ程度では何にも解決しないと思うよ。精々、君達三人の首を帝に献上して権力を手に入れるくらいしか価値はないね。まあ俺はそういうことに全く興味はないけど」

「じ、じゃあ…私達は……どうすれば」

「生きろ」

「「「え…」」」

「生きて償うことだ」

「どういう意味ですか?」

「死は逃げ、生は苦しみ。それが咎人に与えられるものだ。だから君達は生きて君達の罪を償え。その為の手助けは少ししてやろう」

「「「え…」」」

 

 

それだけ言い残すと咲夜は焔耶にその三人を自身の陣に連れていくように命を下し、自身は一人、周りを警戒していた兵たちを纏めるためにその場から離れて行った

 

 

 

「え、えっと…さっきの言葉はどういうことですか?」

 

眼鏡の女性が焔耶におずおずと尋ねた

 

「知るか。咲夜様には私達には分からない考えがあるのだろう。お前たちはただ私についてくればいい…だが、もし逃げようなどと考えれば…今ここでその命を絶ってやろう」

 

 

自身の武器をしっかりと持ち、三人に見せつけると三人は真っ青な顔をしながら首を縦に振り、焔耶の後をしっかりと付いていった

 

 

 

 

こうして黄巾党の乱は静かに終わりを告げていった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話

黄巾党との戦いが終わった直後、咲夜は張三姉妹を自身の天幕に連れてくるようにと焔耶に指示した

そして秋葉と風に周りの見張りの手配とすべての話が終わるまで誰も近づけないようにさせた

 

 

やがて顔を真っ青にした張三姉妹が連れて来られた

 

その場に立ち会うことになったのは焔耶・雛里の二人

この二人を選んだ理由はまず雛里は普段はあわわ軍師などと言われているが、こういった時はきちんとした判断を下すことが出来るためであり、尚且つ風は丁度事後処理の担当だった為、不参加となったのだ

次に焔耶をその場に留めたのは軍師でも国主でもない軍部にいる焔耶からの意見を聞くためである

因みに秋葉は風と同じく戦後処理の担当のため不参加

 

 

咲夜の天幕は自身が選んだ30の兵で覆われており、張三姉妹には完全に逃げ場はなく、更に誰も近づけない様になっている

 

 

 

そんな中、いよいよ咲夜の話が静かに始まった

 

 

 

 

「さて、自分の立場は良く分かったね」

「「「………」」」

 

 

三人は未だに顔色を悪くし、俯いたままだった

 

 

 

「ふぅ、話が進まなそうだからさっさと用件だけ言おうか。俺や雛里、焔耶も今は忙しくなりそうな立場にあるしね。まず第一に先程、俺は君達に罪を償うための手助けをしてやるといったね。だがその前に君達に選択肢をあげるよ」

「選…択肢?」

「ああ。一つ目はこの場で打ち首にして自分の罪から逃げ、曝し首にされること」

「「「っ!!」」」

「二つ目は既に張三姉妹は我が軍が討ちとったことにし、君達は名を捨て真名のみで生き、俺の元で働くこと」

「「「……」」」

「三つ目は二つ目とほとんど同じだけど、俺達の保護を受けず三人だけで下野すること。ただ、そうなったら他者の前で一切歌ったり踊ったりすることを禁じる」

「そ、そんな…」

「言っておくけど、選択肢を与えただけでも寛大だと思うぞ? 他の太守何かに捕まってたら、出世のための糧にされるか…性的な意味で食いものにされるか」

「「「っ!!?」」」

「そうですね…でも咲夜様、いいんですか?」

「…雛里、言いたいことは分かるがそれはこの三人との話が終わったらにしてくれ」

「……分かりました」

 

 

 

雛里はそのまま何か言いたそうだったが、咲夜に頼まれその場では黙っていることにした

 

 

「焔耶は何かあるか?」

「いえ、私は特にありません。ただこいつらが咲夜様の害になるのであれば即処分しようと思っている位です」

「そうか」

 

 

 

 

「…一つ、聞いてもいいでしょうか?」

 

眼鏡を掛けている子がおずおずと聞いてきた

 

 

「何だ?」

「…その…二つ目の選択肢を選んだ場合、歌うことは出来るんですか?」

「暫くは駄目だが、情勢が落ち着き、尚且つ三人が十分に罪を償えたのではないかと俺が判断出来たら許そう」

「…分かりました、なら二つ目の選択肢を選ばせて下さい。ねーさんたちも…それでいいよね?」

「……うん」

「…分かったわよ」

 

 

ロングヘアーの子は悲しそうに…ポニーテールの子は少し不満げにそれを承諾した

 

 

 

「なら今から君達は名を捨てること。今から真名のみで生きてもらうから。分かったね?」

「「「はい…」」」

「じゃあ一人ずつ教えて」

「…私は天和です」

「…ちーは地和だよ」

「……人和です」

 

「ん、なら暫くは君達は見張りは付けさせてもらうからね。雛里、何人か女性で選んでおいて」

「了解しました」

 

 

そうして天和、地和、人和の三人は用意された天幕に連れて行かれた

 

 

 

「…ふぅ」

「…お疲れ様です、咲夜様」

「お茶をどうぞ」

「ああ…ありがとう」

 

 

三人が離れたことを確認すると咲夜は深く溜息をついた

 

 

 

「……可哀想だけど、彼女たちはああするしかなかったんだよな」

「…咲夜様」

「あの子達は本当にただ純粋に歌って踊っていたかっただけだったんだろうけど…時期が悪かったんだろうね」

「はい…平和な時代であるのなら彼女たちがこうなってしまうことはなかったのでしょうね」

「…そうだな」

 

 

 

咲夜も好きであのような厳しいことを言ったわけではない

だがあそこでああ言わなければ彼女たちはまた同じ過ちを繰り返してしまうかもしれないそうなればまた多くの人たちの命が犠牲となってしまう

そうなることを防ぐため、そして彼女たちの行動によって起こった乱の被害と彼女たちの罪をちゃんと認識させるためにあえて厳しく接したのだ

 

 

 

「…さて、彼女たちはもう我が軍で助けると決めているからね。変わりは用意してあるしね」

「変わり…ですか?」

「雛里、さっきこっちで幾人か元黄巾党軍所属の兵に秘密裏に通達しておいたんだが…こう言う考えはどうだ?」

 

 

 

ヒソヒソ…

 

 

 

「…いいと思います。ですが何人かはそれが嘘であることに気が付いてしまうと思いますよ?」

「いいよ、それぐらいは承知の上だ」

「…分かりました」

 

 

 

 

 

後日…

 

 

咲夜は風、雛里を連れて華琳の陣に向かっていた

というのも黄巾党の頭である張角、張梁、張宝は咲夜と焔耶が討ちとったということになっていたからである

その為、咲夜は三つの首が入っている桶を三つ持ち、会合に参加することになったのだ

 

 

 

咲夜達が陣に入り、一つの天幕に案内されると既にその場には桃香、朱里、華琳、桂花、紅蓮、冥琳が居た

 

 

「すまない、待たせてしまったか?」

「いいえ、それほど待ってはいないわ。それよりも貴方が首領を討ちとったと聞いたわ。それは本当なの?」

「それが…どうにも分からないんだ」

「? どういうことですか?」

「皆、首領である張角、そしてその血族である張梁、張宝の三人の顔。誰か一人でも知ってる?」

「…知らないわね」

「知らんな」

「知りません」

 

 

華琳、紅蓮、桃香の三人が咲夜の言いたいことを理解し、咲夜は説明を続けた

 

 

「というわけでこちらとしては黄巾党軍の捕虜にそれらしい連中の首を見せて確認させることしか出来ないんですよ」

「…成程ね。それで?」

「とりあえず捕虜たちの声を聞いた結果、これらがその首領だそうです」

 

 

そうして出したのは首の入っている桶

勿論蓋は閉まっている

 

 

 

「確認させてもらうわ」

「どうぞ」

 

 

 

華琳・紅蓮は普通に、桃香は少し嫌そうに桶に入っている首を確認した

そこに入っていたのは何やら髭面で顔中に傷があるというのだけが分かるのだが、目や鼻などの至る所が重度の火傷であるために少々判別がしにくくなっていた

 

 

 

「…本当にこれがそうなの?」

「仕方ないだろう? あれだけ多くの火を使ったんだから。鎮火した後の死体となれば、これでも状態は良い方だと思う」

「…まあそうだな。では今回は咲夜が敵の総大将を討ちとったということになるのかの?」

「いや、この場にいる全員で討ちとったんでしょ?」

「「…は?」」

「だって今回のこの戦い、どれか一つの部隊でも欠けていたらもっと苦戦していたかもしれない。更には華琳さん、紅蓮さん、桃香、俺たちの中の一つでも参戦していなかったらこの戦いもどうなっていたか分かったもんじゃない。だからこそ、この勝利は皆で勝ちとったものだと俺は思うのだけど」

「……まあそういう考えもあるのだろうけど…」

「ふむ…」

「まあ朝廷には率直に伝えればいいじゃないですか?」

「…そうね、そういうことにしておくわ」

 

 

 

何やら含みのあるような顔をして華琳は咲夜を見据えた

 

 

 

「さて、じゃあこれで連合軍は解散ということになりますね」

「いえ、このまま洛陽に行くことになるわ」

「あ~、成程。でも俺はあまり行きたくないですねぇ」

「え? 爵位や恩賞は……ってそういえば貴方はそういうことに全く興味がないのね」

「ええ。ハァ…でもどの道呼び出されそうですし…仕方ないか。一部の部隊のみ引き返させることにしますか」

 

 

 

 

 

それから咲夜は仕方なく、半分の兵を雛里、焔耶に任せ、張三姉妹は厳重な監視の元、その部隊に入れ、襄陽に送ることとなった

 

咲夜のほうは風と秋葉を連れて仕方なく、洛陽に行くこととなった

 

 

 

 

 

そして洛陽に辿り着き…

桃香は新野の城の太守になった

そして華琳、紅蓮もそれぞれ相応の報酬を貰うこととなった

だが、咲夜のみそれを拒否した

 

 

だが、霊帝やその周りにいた者たちもそれを少しも不信とも思わなかった

何故なら、咲夜は今までもこういったことがあっても殆どそういう物を受け取らなかったのである

 

 

 

そして一時的な連合が解散されることとなり…皆それぞれの土地に戻ることとなり

 

 

 

 

「師匠…」

「凪、これを渡しておく。これにはお前の力を引き出す為の訓練方法が書かれている。自身の仕事がない時、必ずこれに従って自らを鍛えておくこと。今度会う時、どれだけ成長しているか…楽しみにさせてもらうよ」

「はい!!!」

 

 

本当に短い期間だけだったが師弟関係を築いていた凪(半泣き)と咲夜は一つの約束を交わし…

 

 

 

 

「今回の戦、貴方と一緒に戦えて私も得る物があったわ。感謝しておこうかしら?」

「あ~、まあこっちもそれなりに楽しかったよ」

 

 

華琳とは少し腹の読み合いをし…

 

 

 

「…咲夜よ。今度、荊州にいる邪魔者のことを話したいのじゃが」

「…分かりました。近いうちにそちらに使者を送ります」

 

 

紅蓮とは密約を交わし…

 

 

 

 

「咲夜さん! 新野って樊城から近いですよね!?」

「あ、ああ…そうだね」

「だから落ち着きが出来たらそちらに行ってもいいですか? また色々と教えてもらいたいんです!!」

「……か、考えておくよ」

「前向きにお願いしますね♪」

 

 

 

咲夜は相変わらずというか…桃香にタジタジ状態…

やはり苦手意識があるのか…それとも前世の記憶のせいなのか…

それは今は誰にも分からない

 

 

 

 

 

こうして別れを告げて、咲夜は風、秋葉と共に樊城へと戻って行った

 

 

 

その帰り道…

 

 

 

 

「…さて、風?」

「はい~。詠ちゃんから手紙は受け取っておきましたよ~」

 

 

 

洛陽に行った際、咲夜は序として詠から今洛陽における宦官たちの状況や月達の立場についてなどを纏めた書状を受け取っていた

 

 

そこには主に二つのことが書かれていた

一つ目は策略によって悪質な宦官たちへの偽情報を流したことで潰し合いが上手くいっていること

二つ目は最近、帝が病気気味のようでありとあらゆる医者たちが部屋を出入りしているということ

 

 

 

この二つの情報を得て、咲夜は少しだけだが嫌な予感を感じざるを得なかった

そして…それは少しした後、現実の物となってしまう

そう…咲夜が知る忠志での出来事…

 

 

 

 

――――反董卓連合



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編:襄陽での咲夜

番外編:襄陽での咲夜

 

洛陽から襄陽に戻った咲夜はそこにいた家臣全員に挨拶をすると、直ぐに自分の仕事を確認するべく、自身の仕事部屋に入って行った

 

 

かなり時間、黄巾党殲滅のために進軍していたために部屋にはかなりの量が溜まりに溜まっていた

 

 

「うわ~…これ全部俺の仕事ですか。見てるだけで軽く欝になるなぁ…」

 

 

文句を言っていても仕方がないため、とりあえず咲夜は目の前にある物をちゃっちゃと片付けることにした

 

 

 

 

「えっと…まずは」

「失礼します!!」

 

 

 

バタンといきなり扉が強く開かれ、仕事を始めようとした咲夜は思わず固まってしまった

ドアを開けたのは何やら少し焦っている焔耶だった

 

 

 

「ど、どうしたんだ? そんなに慌てて…」

「咲夜様!! 帰ってきたのなら直ぐに私の所に来て下さいよ!!! あの三人をこれからどうすればいいか分からなかったんですから!!!」

「あの三人……ああ、天和、地和、人和の三人だね」

「そうです!!」

「…ふむ、ならこの部屋に連れて来れるかな?」

「了解です!」

 

 

 

焔耶はそのままかなりの速度で部屋を出ていった

 

 

 

「やれやれ…これでようやく落ち着いて仕事が始められるかな」

 

焔耶が来るまで時間がかかると思って咲夜は再び、仕事を始めようとしたのだが…

 

 

 

 

ガチャッ

 

 

「失礼しま~す」

 

 

今度は風がゆっくりと扉を開けて入ってきた

 

 

 

「…焔耶の後は風か? 何か用か?」

「そうですね~、今後の動きの確認と洛陽で詠ちゃんから受け取った手紙の内容の確認、それから風が町で見つけた優秀な子を武官として推薦したいのですよ~」

「…前の二つはとりあえず雛里、麻理、燐花の三人も入ってもらおうか。残っている諸葛瑾、姜維、劉曄、董允、馬良たちはそれぞれの部署で一生懸命に働いて貰っているしね。で、最後の推薦したい子って?」

「はい~、じゃあ雛里ちゃん達を呼ぶ時に一緒に連れてきちゃいますね~」

「了解」

 

 

 

そうして風も部屋を後にしていった

 

 

 

 

「…中々仕事が始められないな…まあ今度こそ」

 

 

 

 

コンコン…

 

 

 

「…二度あることは三度ある、か。…どうぞ」

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「失礼します、咲夜様」

「しつれいしま~す」

 

 

今度は紫苑に璃々ちゃんの二人だった

 

 

 

「ん、二人とも何か用? 取り急ぎの仕事は俺や風たちだけで紫苑達留守番組は今日は休暇のはずだけど?」

「ええ、ですから今日は璃々と一緒にゆっくりと買い物でも楽しもうと思ったのですが…」

「ねぇねぇ、しゃくやしゃま。今日は一緒に璃々とお母さんと一緒にあそびにいこ~よ」

「…え、えっとね璃々ちゃん。今日は俺は紫苑とは違ってやらなくちゃならないことが沢山あるんだ。だから…」

「い~~~や~~~~!!! あ~~~~そ~~~~ぶ~~~~の~~~~!!!!」

 

 

 

珍しく、璃々が駄々を捏ね始めてしまった

しかも少し涙目でだ

 

 

「…う~ん」

「申し訳ありません咲夜様」

「…よし、なら午後からにしないかな?」

「え?」

「今日はこの竹簡の山の片づけとちょっとした話し合いだけにして、午後から紫苑と璃々ちゃんと一緒にお出かけしてあげるよ」

「本当!?」

「ああ、約束するよ」

「わ~~い♪」

 

 

先程までの涙目とは裏腹に打って変わって笑顔になる璃々ちゃんに咲夜は…

 

 

 

「(この子っ!! 紫苑とはちょっと似てないかなって思ってたけど…こう言う所は本当にそっくりだっ…璃々、恐ろしい子っ…)」

 

 

 

という風に考えていたとか

 

 

 

 

「ほ、本当によろしいのでしょうか?」

「まあとりあえず重要な案件だけかたして、後は焔耶に指示を出した後に、風たちとちょっとした話し合いをするだけだから」

「…分かりました。あ、それから咲夜様に一言お願いがあるのですが…」

「???」

「今度、是非杏ちゃんとも一緒に出かけてあげて下さい」

「あ~、そういえば杏は今どうしてるの?」

「お料理の訓練中ですよ。自分の部隊の中にいる料理上手の子に色々教わっているみたいですね」

「へ~…努力家だね、やっぱり」

「ふふふ、咲夜様。是非、杏ちゃんの料理は一番に食べてあげて下さいね」

「ああ、今から楽しみだよ」

 

 

 

それだけ言い残すと紫苑は璃々を連れて部屋を出ていった

 

 

 

 

「ふぅ~、さて!! ちゃっちゃと終わらせましょうか!!!」

 

 

 

それから咲夜はまさに疾風の如く、右手に筆を持ち、左手は確認必須の竹簡を確認しながら必要事項を書き記していった

大事な所には印を押し、即刻部隊や他の文官に回すべき物は直ぐに部下を呼んで届けさせた

 

 

 

そんな仕事をしながら、まずは焔耶が天和、地和、人和の三人を連れて部屋に戻ってきた

 

咲夜は仕事を片付けながら三人には基本的には給仕をして貰うことにした

そして手が空いている時は、人和には文官の手伝いを、地和には町に出回っている服専門書籍などの出回り具合や町中にある服専門店などの手伝いを、そして天和には寺子屋や孤児院で子供たちの世話係をして貰うことにした

 

そして厳重注意として絶対に人前で歌ったり踊ったりしないことを再確認させ、三人にはとりあえず少しのお金と三人それぞれの部屋を用意してあることを伝えた

それから三人には個々に町の案内役を付け、今日は一日町の様子を見て回っておくようにと確認させた

 

 

それぞれの面持ちをしながら三人はそれぞれの案内役と共に町へと歩いていった

残された焔耶は、咲夜の指示によって今度攻めるであろう荊州城陥落のために兵たちにそれを意識させた訓練を行わせるようにした

 

 

 

そして焔耶と入れ違いに今度は風たちが部屋にやってきた

 

 

風、雛里、麻理、燐花、そして咲夜を中心として今後の動きを検討し始めた

まず第一として攻めるべきは劉表のいるであろう荊州、そして兵糧などが多く蓄えられているという情報のある江陵

 

ここまでは以前から決まっていることだった

だからその後、どうするかを決めているのである

 

 

 

「それにしても悪いな。燐花に麻理。二人は俺達が帰ってくるまでの間、留守を任せっきりで忙しかったはずなのに」

「しょ、しょんなことありましぇんよ!?」

「そうね…忙しいとしたら馬鹿狸(劉表)から来る書状とか明らかに挑発としか思えない行動に対して備えたりとか…それぐらいしかなかったわ」

「それでもだよ。二人とも、ありがとうね」

「…別に良いわ。それよりも咲夜はどう考えてるの?」

「…まあとりあえず荊州と江陵は落とす。序にだけど荊州が落ちれば後は自動的に江夏、上庸、西城辺りは自動的にこっちの領土に入ろうとして来るだろうな」

「まあ江夏、夏口辺りは劉表の影響もあるし、それが消えてしまえば後ろを守ってくれる輩がいなくなるから当然のことね」

「でも上庸、西城辺りは領土に入ってもあまり意味はないんじゃないですよ~。逆にあの地を守るとなれば今度は劉障軍と戦うことになるかもしれませんしね~」

 

 

 

咲夜の考えを燐花と風が補足し、その問題点などをあげていく

 

 

 

「でもそれは殆ど心配いらないのではないかと思います。劉障は愚王と言われ、今治めている領地をほぼ放っておき、自身は女性と日々を過ごしているとか」

「税もかなり高く、民からも不平不満が募っている一方とか…」

「まあ確かになぁ。それに今の蜀って、主に呉懿、張任、法正、張松、孟達、李恢、李厳等に支えられて、外からの敵に対しては巴郡にいる厳顔という将軍が纏めているとか」

 

 

 

雛里、麻理は風の考えに対して自分の考えを答え、麻理もそれに同調し、咲夜も現在の蜀に対する情報をあげていく

 

 

 

「そういえばお兄さん、最近蜀から密使が来たということを耳にしたのですが…」

「……何処で聞いた?」

「影夜ちゃんからです。お兄さんが少し神妙な顔をしていたので気になったそうです」

「……ハァ、まあ確かにそうだな」

「? どうしてそんなこと黙ってたの?」

 

 

 

咲夜の様子を見て燐花が不思議そうに聞いてきた

 

 

「…実はな、蜀の重臣の一人であるはずの張松からの密使だったんだよ」

「「「!!!」」」

「…ほぅほぅ。それで? 内容は何だったのですか?」

「…今蜀は、現益州王の腐敗した政治体制の影響で民は苦しんでおります。故に私と心通じ合う仲間が手はずを整えます故に蜀の地を得てはみませんか?…っていう内容だ」

「つまりは…蜀に進軍するならこちらは中から動くということですか…」

「それで…その…咲夜様は何とお答えしたんですか?」

「はっきり断った」

 

 

 

麻理の質問に対し、僅か0.5秒の速さで即答した

流石の四人もそれには少し驚いた

 

 

 

 

「わ、訳を聞かせてもらってもよろしいですか?」

「理由はいくつかあるが…(まあ孟達が居るのが絶対に嫌なんて言えないしな…それが第一の理由というわけではないけどさぁ…)まず第一に遠征するだけの軍備と兵と将が足りない。正規軍が現在約8万、今回の黄巾党の乱の際に捕虜としたうえで新たに軍に加えようとしている兵が約3万、計約11万となるわけだけど、まず樊城と襄陽に最低限でも兵は残すなら4万づつ。何故なら確実に俺達が遠征をするというのなら留守を狙おうとする輩がいるからだ。第二に、いくら張松などがこちらについたとしても益州は地の利が進軍するには悪い。戦をする前に兵が疲れてしまうし、地の利も向こうのほうがあるから奇襲を受けてしまえば大打撃だ。その上、兵糧を輸送したりする際にそれを狙われてしまったりもすればまずそれが命取りになりかねない。第三に張松などが信用出来ない。俺は手紙や風評のみでは人を完全に判断したりはしない。故にこの張松がいくら手紙を送ってきたとしても俺はまず信用はしないだろうな。後はやっぱり蜀を甘く見ることが出来ないから…かな?」

「? どういうこと? 三つ目までは理解出来たけど最後のは分からないわ。だって蜀軍は殆ど守ってばかりで戦の経験のあるのはごく僅かだって聞いているわ」

 

 

咲夜が地震の考えをすべていい終えた後で、燐花が最後の蜀軍に対する咲夜の認識に対して疑問を抱いた

蜀軍は国主、劉障が馬鹿な故に戦をしようとは思っておらず、唯一対立しているのは漢中の張魯位なのである

後は、五胡や南蛮の侵攻を防ぐために防衛線を張っていたりするだけでそれらを動かすことは出来ない為に、中心にいるのは新兵、もしくは戦の経験が全くない兵士のみだと報告に入っていたのだ

その為、燐花は勿論、雛里や麻理もそう思っていた

ただ一人、風だけは違っていたのだが…

 

 

 

「皆さん~それは少し浅慮だと思います」

「? どういうことですか、風さん」

「確かに蜀軍は我が軍と比べると大した練度ではありません~。しかし、立地の条件をそこに加えると蜀軍はそれだけで脅威になるのです~。それを踏まえたうえでの考えだと風は蜀への進軍は反対します~」

「…風、補足してくれてありがとう」

「いえいえ~」

 

 

 

咲夜の説明を風が少し補足し、雛里たちも納得してくれたようだった

 

 

 

「じゃあ簡単に纏めるよ。まず荊州・江陵を落とした後、さっき言った四つの都市の太守がこちらに来たら状況などによって受け入れをするかを決める。それを終えた後、もしかしたらだけど他の荊州の郡へも進軍するかもしれない。武陵太守金旋、零陵太守劉度、桂陽太守趙範…どの太守もまともな政を行っておらず、私腹を肥やしている傾向有りとか。まあまだ確定事項ではないからな。とりあえず確定してるのは狸ブッ転がすことだけだ…フフフフフフフ…」

「しゃ、しゃくや様!? こ、こわいでしゅ…」

「お、おちちゅいてくだしゃい!!」

 

 

 

どす黒いオーラを出しながら笑顔で静かに笑う咲夜…

しかも目だけが嫌なくらいに微妙に開いているのでそれが余計に怖さを助長させる

 

 

雛里、麻理はそれなりに長く咲夜と共にいるがこれだけは慣れずにいた

 

 

 

話が終わりかけていた頃、咲夜は一つのことを思い出した

 

 

「あ、そういえば風。一人、推薦したい子がいるって言っていたよね? 誰かな?」

「………ぐぅ」

「「寝るな!!!」」

 

思わず咲夜と燐花が突っ込んだ

 

 

「おお、これは失礼。すっかりそのことを忘れていました。今は私の部屋に待たせてたのです」

「? 何でだ、連れて来てくれっていったのに」

「それが「これから重要な話し合いがあるのだろう? それに見ず知らずの居るとなれば会話しにくくもなるであろうに。故に私はここで面までも食べて待っているとするぞ」だそうです~」

「……何でメンマ?」

「大好物だからだそうですよ~」

「そ、そう…とりあえず会おうか」

 

 

 

麻理、燐花には休暇を楽しんでもらうことにし、雛里には自身の仕事に戻って貰った

風はその紹介したいという人物を今度こそ、咲夜の元に連れてきた

その間、約5分ほど

 

 

 

「始めまして、俺がこの襄陽、そして樊城の太守をさせてもらっている劉封だ」

「…ふむ、風から色々と話は聞いたが…確かに良き漢であるな」

「そうですよね~」

「……風、君は俺をどういう風に説明したんだ?」

「そんなことよりも星ちゃん、自己紹介ですよ~」

「ふむ、そうだな。劉封殿、私は性を趙、名を雲、字を子龍と申す。此度は我が友程昱殿の推挙と私自身の目を持って貴方を我が主とし、仕えたい」

「…ふむ、君があの噂の【常山の昇り竜】か」

「おや、私のことをご存じで?」

「ああ、槍の名手だそうだね。だけど聞きたいことがある。何故、我が軍に入りたいと思った? 他にも有力な勢力は多々あるだろうに」

「…私は各地を旅し、私が槍を振るうべき主を探していた。袁紹、曹操、孫堅、公孫賛、張魯などなど…だがどの主も私が使えても私が槍を存分に震えぬと思えて仕方なかった。故に私は一時、時を待ち、私が使えるべき主が現れるまで身を潜めよとも思った。その矢先、風が仕官したと聞いている襄陽の近くにたまたま居たのでな。旧友を深めようと思い、訪ねてきたのだ。そして、先程風からここに仕官したらどうかと聞かれた。最初はいくら風からの言葉でもと思ったのだが…この国の民の顔を、町の様子を、そして貴方の顔を見て決めたのです。我が槍、龍牙

りゅうが

を振るうべきに値するであろうと」

「……成程ね、了解した。これからよろしく頼むよ、趙雲殿」

「星とお呼びください、劉封殿」

「ならば俺のことも咲夜と呼んでくれ。それが俺の真名だ」

「ふふふ、ならば主とお呼びしても?」

「ああ、ご主人様とか変な呼び方以外なら何でもいい」

「おやおや、主はそういうことはお嫌いですか?」

「偶にならいいが…別に俺にはそう呼ばれたい願望なんてないし」

「ふふふ、分かりました」

「じゃあ、これから星は軍部に所属して貰うことになるから。この城のことは風に聞いてくれ」

「「分かりました(~)」」

 

 

 

そんなことがありながらも咲夜は何とか自身の仕事で早めに終わらせるべき物を終わらせ、璃々と紫苑を迎えに行き、一緒に出かけることにした

 

 

 

その際に璃々は咲夜に肩車をしてもらい、紫苑は咲夜と手を繋ぎながら町の中を歩くこととなった

 

 

 

 

「わぁ~い♪」

「うふふ、璃々ったら」

「……」

 

 

 

咲夜は一人、町の光景を見ながら璃々と紫苑の笑顔を…そして町の中に溢れている人々の笑顔を見て、自分のやってきたことが間違っていないのだと強く思うことが出来ていた

表面上は冷静な顔をしていても、咲夜はやはり時々不安になってしまう時があるのだ

 

 

―――自分の行った政は正しかったのか?

―――もっと最良の策があったのでは?

―――救えた命があったのでは?

―――時を違えてしまったのではないか?

 

 

などなど…様々な負の思考が頭を過ってしまうのだ

そういう時、咲夜はまず自らの周りを見ている

自らの行いによる結果は、大体他の人を見ていると分かったりするものだ

咲夜は樊城の太守になる前まで様々な場所を旅して回ってきた

そこで見た物は文明や技術だけではなく、人々の笑顔だった

だが、時折その笑顔が消えてなくなり…変わっていく所も幾度も見てきた

悲しみに…憎しみに…恐怖に…

 

それを見るたびに咲夜は胸が締め付けられるような痛みを経験した

 

 

そしてその時、こう思ったのだ

 

 

 

【もう俺は…誰かの涙を見たくないっ…】

 

まあこれの元ネタは仮面ライダークウガなんですけどねぇ

因みに咲夜は前世ではライダーシリーズは大好きで特にクウガの主人公には一種の憧れを抱いていたのだ

 

 

 

そんな咲夜を隣にいた紫苑はちょっと心配そうに見ていた

それに気付いた咲夜は紫苑に「大丈夫だよ」とだけ答え、そのまま買い物を続けた

 

 

 

 

そして、その後、一人執務室に戻った咲夜は残りの仕事を片付けることにした

明日、また皆が笑顔でいられる様に…

 

 

そう心に願って…




暫くは番外編&荊州攻略戦がメインになります
誰かとの絡みを書いて欲しい等の要望があれば是非
ご応募、待っております


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編:張三姉妹と咲夜

咲夜の元に星がやって来てから暫くした後のこと

咲夜はいつものように執務室で自身の仕事を片付けていた

 

「さて…次はっと…えっと何々? 『最近、ちょっと面白そうな兵器を考えついたのですが…是非劉封様に見てもらいたく、こうして書状を送らせていただきました』か…Σ こ、これって…虎戦車!? 昔漫画で見たのとそっくりじゃん!!…製作者は…黄月英!!? よし、採用してみるか」

 

こうして仕事をしていると面白い出会いや体験と対面することがあるので、咲夜は仕事を楽しみながら次々と片付けていった

 

 

 

そして午後になる直前には山の用にあった竹簡と重要書類は片付けられ、送るべき場所に送られていった

 

 

「ふぅ~、次は警邏か…あ、なら序に天和、地和、人和の三人達の様子でも確認しておくか。え~っと、今日の担当は…杏と星か。丁度いいか」

 

 

咲夜は一応、特殊グローブを装着し、腰には双剣を装備しておいた

そして部屋着から外に出かけるための服に着替えると直ぐに杏と星を迎えに行った

 

 

 

 

 

 

そして街中…

 

星と杏を引き連れて、咲夜は街中をぶらぶらと巡回しながら街中の様子を確認して歩いていた

 

 

「ふむ、やはりこの襄陽は活気に満ちておりますな、主よ」

星は感心した様な顔をしながら咲夜に話しかけた

「あはは、それは嬉しい限りだよ」

それを聞いて咲夜は嬉しそうに星に応えた

 

「所で咲夜様、今日の巡廻予定はどこですか?」

「とりあえず今日は第七交通行きに行ってからそのまま6、5、4、3、2、1っていう感じで回って行く予定だよ」

「? どうしてですか?」

「天和達の様子も見ながら巡回した方がいいと思ってね」

「主よ、その名は真名であろう? 何故名で呼ばぬのだ」

「…まあ色々と事情のある子たちなんだよ。訳はちょっと言えないんだ」

「…ふむ、分かりました。その理由は聞きませぬよ」

「助かるよ、星」

 

 

 

まず咲夜達が訪れたのは天和が居る孤児院だった

 

 

そこに咲夜が訪ねたのを一人の子供が目で確認すると、その子が咲夜が来たことを他の子にも告げ、あっという間に咲夜は子供たちに囲まれた

 

 

 

「りゅうほうさま~」

「なにかよう~?」

 

「ん、今日からここに来たお姉ちゃん、居るかな?」

「えっと…」

「あ、おっぱいおおきいおねえちゃん?」

「……………た、多分その人かな?」

「わかった~」

「つれてくるね~」

 

 

 

子供たちの中で何人かが建物の中に入って行き、残った子供たちは咲夜に乗っかろうとしたり、咲夜の手を引っ張ったりしていた

 

 

 

「あいたたた、こ、こらこら! ひ、引っ張らないの」

「りゅうほうさま~、あそんでよ~」

「あそんであそんで~」

「う、う~ん、今はちょっとお仕事中だからね。明日じゃ駄目かな?」

「え~」

「いまあそびたい~」

「ゴメンね。明日は絶対に遊びに来るから、ね?」

「「「「「は~~~い」」」」」

 

 

子供たちは素直に咲夜の言うことを聞き、咲夜から離れてまた遊びに行ってしまった

 

 

 

 

「ふぅ、流石にあの数で一気に来られると疲れるよ…」

「ふふふ、主は子供らに好かれているようですな」

「星ちゃん、実はこの孤児院はお兄さんの自腹で建設した襄陽最初の孤児院なんですよ」

「なんと、自前の金銭を使ったというのか」

「最初に襄陽に来た時は無駄にお金が使えない状態だったからね。だったら俺が自分で建てようって思ってさ」

「…成程、流石噂に違わぬ方だ」

 

 

 

そんな話をしていると天和が出てきた

 

 

 

「…あ、あの……何か、用ですか?」

「ん、警邏の途中だから様子を見に来ただけだよ。どう、仕事のほうは?」

「え、えっと…ここの偉い人(?)に色々とお仕事を教えてもらっている所です」

「そう、院長は優しい人だから何か困ったら直ぐに質問するといいよ」

「あ、はい…」

「んじゃ、それだけだから」

「え?」

 

 

 

咲夜はそれだけ言うと直ぐに仕事に戻ってしまった

その後ろをぴったりと付いていくのは杏で、何やらニヤニヤとしながら少しその場に留まっている星

 

「おやおや、主もお優しいことで」

「あ、あの…」

「む、何か?」

「ど、どうして…あの人は?」

「…ふむ、貴方が先程主の言っていた訳有りの者というわけか。何、大したことではあるまいて。ただ、主は貴方が心配でここに様子を見に来た、それだけですぞ」

「で、でも…」

「他に聞きたいことがあるのなら主に直接聞くのがよかろう。私に聞かれても私自身、ここに仕官し始めたのはつい先日のことなのだからな」

 

 

 

そう言って星も咲夜と杏の歩いて行った方に走って行った

 

 

 

その場に一人残された天和は…

 

 

 

「……分からないよ」

「おねーちゃん」

「Σ ど、どうしたの?」

「いんちょーせんせいが呼んでるよ?」

「あ、う、うん! 直ぐに行くね」

 

 

 

天和はとりあえず仕事が終わった後に地和、人和と一緒に咲夜の部屋を訪ねてみることにした

 

 

 

それから咲夜、杏、星は巡回ルートを何の問題もなく歩き回りながら残っている地和と人和の仕事場を訪ねて行った

 

 

 

地和は服屋で働いている最中で、咲夜を見かけた瞬間、嫌な奴にあってしまったと言わんばかりの顔をしていたが、咲夜はそれを軽く流し、店長に挨拶をしてから直ぐに警邏に戻ってしまった

 

 

そして人和は文官の手伝いをしているため、咲夜は警邏をすべて終えてから人和のいる文官の部屋を訪れて調子はどうかと聞きに行った

人和の主な担当は客将でも扱える物ばかりな上に簡単な仕事ばかりのため、人和もそれほど手間取らずに仕事を終えることが出来ていた

 

 

 

それらを確認し終えると咲夜はほんの少しだが微笑み、自室に戻って行った

 

 

そこには…大量の竹簡の山が…

 

 

 

「何でさ」

 

 

 

 

実はあまりに咲夜が仕事を早く片付けてしまうので他の文官達が負けてられないとばかりにやる気を出してしまった上に、咲夜が以前に出版した【猿でも解る参考書:文官編】を発行してしまったが故に、それを読んだ文官がパワーアップしてしまったのだ

勿論、その本は許可証がないと買うことが出来ない限定版なのだが…

 

 

処理が早くなったので咲夜に戻ってくる仕事も早くなるのだ

 

 

 

 

「と、とりあえずこれ位か…(ボキッ)」

 

 

 

咲夜は片付けられるだけ片付けて…結果、山が半分まで減ってくれた

終わったと同時に使っていた筆が折れたのだが…

 

 

 

「…新しい物買おうかな」

 

 

 

そんなことを考えながらとりあえず食事をとってから風呂にでも入るかと考え、咲夜はとりあえず湯浴みの用意をしようとした

 

 

その時

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

部屋のドアを誰かがノックする音が聞こえた

因みにノックの礼儀を教えたのはやはり咲夜が発行した【今日から君も礼儀の達人】という本である

 

 

因みに売れ行きはかなり良い

 

 

その本のお陰で大分、ノックのことが広まり、今では大半の場所で使われるようになっていた

 

 

「誰かな?」

「あ、あの…私達です、劉封様」

 

扉越しに聞こえたのは人和の声だった

達、ということは天和と地和も一緒なのだろうと咲夜は理解し、部屋に入るように指示した

 

恐る恐る三人は咲夜の部屋に入り、咲夜に進められるがままに用意されている椅子に座った

 

 

 

「さて、何か用かな?」

「そ、その…てんほー姉さんが劉封様に聞きたいことがあるそうなので…」

「…そ、その…どうして今日、私たちの所に訪ねてきたんですか?」

「仕事半分、御節介半分」

「え?」

「警邏の途中にちゃんと仕事しているかどうかを確認しに行っただけだよ。それに少し心配だったからさ」

「どういうことよ」

「ちょ、ちょっとちぃ姉さん!?そんな言い方は駄目よ!!」

「いや、構わないよ。ちゃんと公私の区別を付けてくれれば」

「だってさ、なら構わないでしょれんほー」

「う~ん…」

「で、どういう意味?」

「流石に俺も強く言い過ぎたような気がしたからね、あの時は。でもさ、それは君達に理解して欲しかったんだよ。望もうと望むまいと君達が切っ掛けとなり、先の大反乱は勃発した。そして、その争いを君達は知らず知らずのうちに助長してしまっていた」

「「「………」」」

「あの戦いで多くの人たちが傷つき、亡くなっていった。それにより、誰かがどこかで泣いていたはずだ……なあ、君達はどうして歌い、踊る?」

「え…」

「そ、それはちーたちが歌ったり踊ったりするのが好きだから」

「……それだけ?」

「う、うん…」

「…ふぅ、なら少し君達に合わせたい人たちがいる。ちょっと付き合って貰ってもいいかな?」

「ど、どこに?」

「ついてからのお楽しみだ」

 

 

 

 

咲夜は天和達を連れて襄陽内にあるとある建物の中に入って行った

 

 

その建物の看板にはこう書いてあった

 

 

 

 

――――襄陽歌劇団

 

 

 

建物の中に入ると受付をしに行くと、受付嬢をしているであろう女の子が驚いた顔をして何処かに走って行ってしまった

 

 

 

「ありゃ、やっぱり事前に連絡はしておくべきだったかな?」

「あ、あの…ここは?」

「…簡単に説明するとここは役者たちの舞台。歌手、俳優、演劇家などが集って客に自身の磨いてきた物を魅せる場所だよ」

「……何でちー達をこんなところに連れてきたのよ。見せびらかす為?」

「…直ぐに分かるよ」

 

 

 

少しした後、先程の受付嬢が一人の女性を連れて戻ってきた

 

 

「すいません劉封様、お待たせしましたか?」

「いや、こっちこそ突然訪ねて悪いね」

「いえいえ、今この劇場があるのは咲夜様の支援のおかげですから。ところで、本日はどのような用が?」

「…この子たちにこの劇場にいる子たちのことを見せてやりたいと思ってね」

「そうですか…なら劉封様もご一緒に?」

「ああ、特別席は?」

「空いておりますよ。あそこは劉封様達専用の席ですから」

「ならそこにこの子たちも入れてやってくれ」

「承知しました、直ぐに手配いたします」

 

 

 

 

咲夜達が案内された席は二階にあるゲストや来賓、または国主である咲夜とその関係者のみが使用できる特別席で最初、そこに案内されたばかりの天和達は酷く驚いていた

 

 

それも仕方ないだろう

このような建物は襄陽や樊城以外には今はまだ存在していないのだから

 

咲夜は生前から様々な本を読み漁っていたために、その中の一つである建築の方法を大工たちに教えることで今はこうして異常な位に広く丈夫な建物を建設することが出来ていた

 

 

 

天和は案内役の女の子に渡されたお菓子や飲み物を楽しみ、地和は渡されたパンフレットに書かれていることを見るのに夢中になり、人和は劇場内を隅々まで見ていた

 

 

 

そして、それから少しした後劇が始まった

 

今回の舞台の題材は咲夜の著【幻ノ里:紅き館編】だった

ネタは東の方です

その為、今回の劇は殆どの役者が女性である

 

 

劇が始まると先程までの雰囲気とは打って変わって天和達はその演技に、歌に、役者たちの立ち周りに心を奪われたような顔をしていた

 

それほどまでに彼女たちの演技は素晴らしかったのだ

 

 

劇が終わると他の観客達からも拍手喝采があり、天和達も思わず拍手をしてしまった

 

 

その後、未だに夢心地気分でいた天和達を連れて咲夜は役者たちが集う舞台の裏方に案内された

何でも、一言咲夜にお礼がいいたいということで館長もそれを許可したのだ

 

 

案内された部屋には数名の女性たちがいた

その中には先程の舞台に立っていた人もいた

 

 

「初めまして皆さん。この襄陽で太守を勤めている劉封です。後ろにいるのはちょっとわけがあって今日、一緒にここに来ることになった子たちなので特に気にしないでくださいね」

 

 

 

咲夜が挨拶をすると女の子たちがキャーキャーと騒ぎ始めた

咲夜は何事かと思いながらも話を進めることにした

 

 

 

「え、えっと。劇の方、凄く良かったですよ。俺が書きたかったこと、文字だけじゃ表しきれなかったことがよく表現されていて」

「ふふ、ありがとうございます劉封様。作者である貴方にそう言って貰えるだけで私達はとても嬉しく思います」

「それで今日ここに来たのは君達とこの三人を会わせたかったからなんだ」

「ん~、その子たちと? 別に良いですけど…役者希望なんですか?」

「…今は理由があって表舞台に立つことを許されていないけどね」

「成程、分かりました。えっと、貴方達名前は?」

 

 

 

天和、地和、人和に話しかけてきたのは一番年上のようで、とてもきれいな髪を持ち、唇が魅力的な女性だった

三人は困惑しながらもその質問に答え、自己紹介をした後、女性たちだけで話そうということで個室に案内されることとなった

 

咲夜はそれを確認すると、一人この劇場の館長がいる部屋へと向かって行った

 

 

 

 

→Side 人和→

綺麗な人に連れられてきたら、そこには沢山の女の人がいた…

皆、さっきの劇に出てた人たちばかりだ

 

 

 

「皆~、劉封様に頼まれてこの子たちとお話しして欲しいそうよ~」

 

 

私達をここまで連れて来てくれた人がそこにいた他の人たちに声を掛けると、凄い勢いで寄ってきた

 

 

「ねえねえ貴方名前は!?」

「え、えっと…れ、人和です」

「私は桜よ! ねえねえ、貴方達って劉封様とどういう関係なの!?」

「え、えっと…それは」

 

う、ど、どう答えればいいんだろう

 

 

 

「こらこら、さっき劉封様が言っていたでしょ? 訳ありだって」

「え~、でも香澄さんは気にならないんですか~」

「桜?」

「う…わ、分かりました」

 

 

 

桜と呼ばれた人が離れ、思わずホッとしてしまった

 

 

「御免なさいね、あの子まだ子供だから好奇心が強くて」

「あ、いえ…あの、貴方は?」

「ああ、私は香澄

かすみ

。ここで劇団員をさせてもらっている一人よ」

「そうなんですか…あの、ここって?」

「ああ、ここは劉封様が支援して下さっている団体の一つで、ここで働いているこの大半は皆、戦の影響で仕事を失っていたり、家族を失くして一人身になっていたり、捨てられて放浪していた子供たちが居るのよ」

「え!?」

「因みに私も戦で夫を失って、食い扶持に困っている時に襄陽に来てここを紹介して貰ったの。今ではここが私の新しい家で、ここにいる皆はもう私の家族も同然ね」

「…そうなんですか」

「あの今、神流

かんな

と愛莉栖

あいりす

に捕まってる子と…麻利亜

まりあ

と紅蘭

こうらん

に化粧されている子は…貴方の家族かしら?」

「…ええ、大事な姉です」

「そう、ならそのつながりは大切にしなさい」

 

 

 

それから暫くの間、私はこの香澄さんから色々な話を聞いた

この劇場のこと、団員のこと…そして、あの劉封という男のこと…

最初はただ単に何がしたいのかさっぱり分からない男だった

だけど、香澄さんの話を聞くうちに少しずつだけど分かったことがあった

劉封という男は…かなりのお人好しだということだ

この劇場や団員だってあの男が保護してり無償で仕事を与えたりしたうえで設立していたそうだからだ

だけど、同時にあの男は氷のように冷たい一面もあることは理解していた

あの戦場で私たちに見せたあの顔は忘れようにも忘れられない…

 

 

 

「あの…香澄さん、貴方はどうしてここで働くんですか?」

「そうね…最初は生きるためだったわ。お金を稼いで、ちゃんと食べられるようになって、ちゃんとした布団で寝る。それだけが私の望みだった。でもね、今は少し違うの。私の夢、それは誰かを笑顔にすること。それも私たちの踊りや歌でね」

「え…」

「劉封様が言ってたの。歌や踊りは自分が楽しむ為だけじゃなくて…それを見ている人を幸せに、笑顔にすることも出来るすばらしい文化を形にしたものって。だから私はこの仕事が好きになったの。誰かを笑顔に出来るすばらしい仕事だから」

「……」

 

 

 

もしかして…あの人はこれを私達に教えたかったんじゃないのかしら…

だって少し離れてはいたけど、すみれさんの言葉を聞いていた私は勿論、てんほー姉さんもちぃ姉さんも…この言葉に重みを感じたから

 

 

 

→Side Out→

 

 

 

場所は変わって管理人室

ここでは咲夜がここの責任者と話をしていた

 

 

 

「…というわけだ。あの子達は暫くの間は歌や踊りの世界から離れてもらうけど…その後はここで仕事をさせたいと思っている」

「そうですか…劉封様がそうおっしゃるのなら、そういうように手配しておきますね」

「迷惑を掛けるな」

「いえいえ、ここにいる皆は劉封様がいらっしゃらなければこうして幸せな日々を送ることが出来ていませんでしたから。これ位の事は」

「そう言ってくれるとこっちも嬉しいよ。じゃあ頼むよ、霊夢

れいむ

「はい♪ 劉封様から頂いた名にかけて約束いたします」

 

 

 

霊夢との話を終えた後、咲夜は三人を迎えに行き城に戻ることにした

 

 

その帰り道…

 

 

劇場から出て来てからずっと沈黙を続けていた三人だったが、地和が咲夜に話しかけ始めた

 

 

「ね、ねえ…今日、ここにちーたちを連れてきたのって…私達にあの子達を会わせたかったからなの?」

「それも有るけど…君達三人にどうして歌い、踊るのか。その理由を見つけて欲しかったからだ。そうすれば君達の罪を意識しやすいと思ったんだけど…どうだった?」

「…私は、あの場所に行けて良かったと思います」

「れんほーちゃん…私もだよ」

「…うん、ちーもあそこに行けて良かったよ」

 

 

 

三人とも劇場に入る前とは違って、いい顔になっていた

それを見て咲夜は少しだけ連れて来て正解だったと思えた

 

 

 

 

「…君達が」

「え?」

「君達が十分に罪を償い、そして十分な時が過ぎたら…あの場所で働いて貰うつもりだ」

「え…じ、じゃあ…私達、また歌えるの!?」

「その予定だ。だから…頑張れよ」

 

 

 

咲夜は早歩きでその場を去ろうとした

だが…

 

 

 

キュッ…

 

 

 

天和が咲夜の服の袖を掴んでいたため、去ることが出来なかった

 

 

 

「…何だ?」

「………ありがとう」

「…何に対してだ?」

「…私達のこと、ちゃんと見てくれて…叱ってくれて…それから…助けてくれて」

「………ああ」

「私達…頑張るから!!」

「…ああ」

「えへへ、じゃあちーちゃん、人和ちゃん♪ 帰ろう~」

「そうね、明日も仕事があるしね」

「では劉封様、これで失礼します」

「ああ、頑張れよ」

 

 

 

 

こうして三姉妹は咲夜のことを再認識し、今自分に与えられている仕事を一生懸命にやり遂げることに集中し始めることとなった

 

 

 

一方で、咲夜も彼女たちのために彼女達専用の踊りと歌を書きつらぬった書籍を用意していた

 

いつか…彼女たちが本当の笑顔で…多くの観客達を笑顔にしてあげられる

 

 

 

そんな未来を予想しながら




団員の元ネタはサクラ○戦です
最も責任者である人の元ネタは東○ですけど


いずれ、張三姉妹も原作の様にライブなどをさせてあげたいと思っています
今はそれどころではないと思うので…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話

江夏を治めることになってから暫く経った後、咲夜は襄陽にいる紫苑に連絡を入れ、そろそろ荊州と江陵の攻略に移るべきだと提案した

紫苑の方もそれが良いと咲夜の考えに同調し、江夏、襄陽で咲夜は兵を集って進軍の準備を開始した

その際に、咲夜は以前紅蓮から荊州攻略に関して紅蓮に話がしたいと言われたことを思い出し、まず使者を出すことにした

 

 

 

 

それから少ししてから使者が戻ってきたのだが…

そこには驚くべきことが書かれていた

 

 

長沙の留守を預かっている程普という者からなのだが、既に紅蓮は雪蓮、冥琳、祭、思春、蓮華、明命、穏と兵約20000を引き連れて江陵攻めに向かったとあった

 

 

 

そして…江陵を現在守っている将は…張允と

 

 

 

――――――黄祖だった

 

 

 

この世界が既に自分の知っている物とは差異があるということは理解していた

まずこの国の大半の将が女性になっていたり、名馬と言われている的盧(渚)や赤兎馬が犬だったり…時代の系列なども少し自分の知っている知識とのことなりがある

故に、黄祖が居ることが紅蓮の…孫堅の死に繋がる=100%ではないということは重々承知していた

だが、咲夜は不安を隠せずにいた

 

 

 

 

「……影夜」

 

 

咲夜が名前を呼ぶと、天井から影夜が音もなく表れた

 

 

 

「仕事を頼みたい」

「…(コク)」

「忍び二小隊を引き連れ、江陵に向かって欲しい。一つは敵将、黄祖もしくはその配下が孫堅の軍に何か仕掛けようとしていたらそれを妨害して欲しい。二つ目はもし、紅蓮達がその罠にはまっていたら、影から助けてやってくれ」

「……(コクリ)」

「第一小隊は朔を中心に睦月、如月、弥生。第二小隊は影夜を中心に皐月、水無月、神無月」

「……」

 

 

 

影夜は紙にサラサラっと質問を書きだした

 

 

【他は自由なの? 殺しは?】

 

「…お前たちが必要と判断したら、許可しよう」

「(こくり)」

「じゃあ…頼んだぞ」

 

 

 

それを聞くと影夜は再び姿を消し、移動を始めた

 

 

 

 

「…これは保険だな。何もないのが一番いいんだけどな」

 

 

咲夜はもう一つの孫堅軍が注意すべき不安要素の一つである袁術軍のことを考えていた

袁術は子供な上に世間知らず兼馬鹿と聞いているので恐らくは紅蓮の方もそれほど気をまわしてはいないだろう

だが、袁術の周りには張勲、楽蹴、紀霊などと言った有能な将もいるし、兵数も長沙の兵数と比べると遥かに上である

 

 

それ故に咲夜は汝南に対して江夏で対策と練ることにした

 

 

 

「…とりあえず牽制として江夏には十分な兵を置いておき、その上で江陵の城を攻める手はずを整えておくか。今回ですべてを終わらせてやろう、劉表」

 

 

 

それから数日後、咲夜は進軍を開始した

勿論、その前日には宣戦布告をしておいてだ

 

 

攻城戦と野戦になることを想定しているため、咲夜はまず自身が向かう荊州城には兵1万5千と十分な攻城兵器を持ち合せることにした

副将として紫苑と美鈴を

軍師をして麻理と雛里を共に連れていくことにした

 

襄陽の留守は諸葛瑾や王平、董允等を中心に任せることにした

 

江夏の方には守りを杏に任せ、江陵攻めには焔耶と秋葉、そして軍師を風と燐花に任せることにした

この二人がいればもし、秋葉と焔耶が喧嘩しても止められる上に攻城戦を得意と言っていた燐花と常に物事を冷静かつ的確に対処できる風が合わされば、どんなことがあっても大丈夫だろうと咲夜は判断したのだ

 

 

「さて…一応、遊軍として第一軍とそれを任せられる将を残してあるけど…どうなるかな」

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

→Side 紅蓮→

 

進軍してからもう十日は経っただろうか…

儂らは既に江陵に進軍し、幾度か劉表軍と野戦を交えた

それらすべて完勝し、儂らの軍の勢いは破竹の勢いとも言えるほどであった

 

そして江陵城の近くに布陣し、儂らは攻城戦を開始した

 

穏と冥琳、この二人が指示を出し、前線では祭、思春、明命が城に矢を放ちながら攻城し、雪蓮と蓮華、そして儂が攻城兵器部隊を指揮することとなった

 

 

じゃが流石は黄祖と張允と言った所じゃろう

三日ほど続けて攻めさせたが、一向に落ちんかった

じゃが、後一日ほど攻めれば絶対に落ちるだろうと冥琳は言っておった

じゃから儂達は見張りの兵以外は皆、休みを取らせることにした

 

 

 

しかし、その夜黄祖自身が率いる夜襲部隊が陣を攻めてきおった

見張りの者達は皆殺され、数十名の者が殺されてしまった

儂は怒り、黄祖が逃げたという方向に数百の兵を引き連れ、向かった

その際に冥琳は儂を止めようとしたが、儂は止まらんかった

 

 

これは儂らの油断あっての被害…

ならば黄祖を儂自らの手で討ちとらねば、この奇襲で死んでいった者達が報われぬ

 

 

 

 

じゃが…それは罠じゃった

 

 

 

黄祖は自らを囮にし、坂になっている道まで儂らを誘導すると落石を始めた

 

 

 

「くっ…罠じゃったか」

「孫堅様!! 危ないっ!!」

「なッ…」

 

 

 

儂に岩が迫ろうとしていたとき、部下の一人が儂を突き飛ばし、その者は岩に押しつぶされてしまった…

 

 

「くっ…」

 

 

 

それからもわしを守ろうと幾人もの部下が儂を庇いおった…

 

落石の際に頭を打ったようで…朦朧とする意識の中……儂がみたのはその者たちの背中だけじゃった

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

薄れ行く意識の際に聞こえたのは…聞いたことのない声と…

誰かが斬り殺され、そ奴らがあげた叫び声じゃった

 

 

 

 

→Side Out→

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

「へっ!! あの孫堅でもこういった手なら簡単に引っ掛かってくれるぜ」

「黄祖様、孫堅は死んだでしょう? ならさっさと首を取りに行きましょうぜ」

「そうだな、これで俺達の軍は活気付き、あいつ等は士気が下がって後退して行くだろう」

 

 

黄祖は落石の罠で孫堅は完全に死んだだろうと判断し、一応待機させていた部下を呼びだそうとし、一人を選び、それを連絡させに行った

 

 

 

 

だが…

いくら待っても誰も来ようとしなかった

 

 

「ちっ、何をやってるんだ」

「黄祖様、もしかしてあっちで何かあったのでは?」

「それにしても誰一人としてこないなんておかしいだろう…仕方ない、この場には数人を残しておいて他は俺と様子を見に行くぞ」

 

 

 

 

そして部下たちが待機していた場所…

そこに着くと黄祖と部下達は驚愕せざるを得ない現場に遭遇してしまった

 

 

 

そこには人一人居なかった

あったのは…

 

 

 

血生臭い何かの欠片の様な物体と…

それを食している野生の動物達

そして…黄祖のたちの部下たちが持っていたであろう武具などだけだった

 

 

 

それを見た瞬間、黄祖の部下たちの多くがその場で吐いてしまった

仕方ないことだろう

ほんの少し前までは一緒にいたはずの者たちが皆、無残な状態で動物達に喰われているのだから…

 

 

 

この異常な場所から少しでも離れよう

そう判断した黄祖は声をあげようと部下達の方へと向き直った

だが…

 

 

 

ここで一つの異常に黄祖が気が付いた

 

 

部下の数が…

 

 

 

減っていたのだ

 

 

 

つい先程まで一緒にいたはずなのに…

 

 

 

 

「お、おい…お前達、他の奴らはどうした!?」

「ゴホッ…ゴホッ…え、な、なんですか?」

「数が減ってるんだよ!? お、お前達、見てないか?」

「あ、あれ…ほ、本当だ」

「さ、さっきまで俺達の隣にいたのに…」

 

 

 

その言葉でようやく黄祖の部下達も自分たちの周りの異常に気付くことが出来た

いや、気付いているのだが…

一種の錯乱状態に陥っていた

 

 

 

「お、お前達!! 周りを警戒しろ!!」

「は、はい!!」

「お、おい…また数が減ってるぞ!?」

「う、嘘だろ…」

「い、嫌だ…こ、こんなところで死にたくない!!」

 

 

 

混乱が更なる混乱を呼ぶ

それはもうその場にいた誰にも止められなくなっていた

 

 

「に、逃げるぞ!!」

「こ、ここにいたら死んじまう!!」

 

「お、おいお前ら!! 勝手に逃げるな!!」

 

黄祖は自分の部下達の逃走を止められず、かといってこの場から身動きできずにいた

その場に残ったのは黄祖自身を加えてほんの数名

 

 

そして次第にその数もゆっくりと…そして静かに減って行き…

 

 

気が付けば…黄祖の周りには誰も居なかった

 

 

 

 

そのせいだろうか…

 

黄祖は精神に異常をきたし

 

 

 

「あひゃひゃひゃ!!! 」

 

 

剣を振りまわしながら奇声をあげ、あらぬ方向に歩き始めた

 

 

 

そしてそんな黄祖も…

 

 

 

「あひゃひゃぐガッ………」

 

 

静かに討ちとられていった

 

 

 

 

 

「………(お仕事終わり)」

 

 

 

暗殺部隊をしている影夜の部隊によって

 

 

 

 

そして影夜は残った仕事を片付けに動き始めた

少しでも早く咲夜の元に戻るために

 

 

 

 

それから暫くした後、紅蓮は遅れて追ってきた雪蓮と祭、冥琳の部隊によって救出された

三人は当初、血まみれで右腕は無くなっている紅蓮を見て愕然としてしまったが、息をしているのを確認するとすぐさま軍医にを呼ばせながら紅蓮の容体を確認しつつ、周りに敵兵が居ないかを確認し始めた

 

 

 

やがて軍医が紅蓮の容体を診ると…その軍医は驚きを隠せずにいた

何故なら、紅蓮の体には既に十分と言えるほどの処置が施されており、後は時を待ちながら十分な休息をとることだけであったためである

 

 

「…これは明らかに何者かが紅蓮様を助けてくれたのだろう」

「でも変じゃない? 誰もこの場に残っていないし、それに戦闘の痕跡はまったく残っていないのよ? あるのは母様の部隊の兵の死体だけ」

「そうじゃのう…劉表軍の死体が一つも見当たらぬというのは奇妙じゃ」

「…それにしても誰が」

「…勘なんだけど、咲夜じゃないかって思うのよねぇ」

「何? 咲夜じゃと?」

「ええ、多分だけど…」

「…雪蓮の勘は馬鹿には出来ないけど……奴は今江夏で内政をしている最中だぞ」

「……」

 

 

 

雪蓮と祭と冥琳が話し合っている中…

 

 

 

「しぇ、雪蓮様~~~~!!!」

「あら、明命? 何かあったの?」

「ハァ…ハァ、そ、それが…劉封軍が一軍を率いて我が陣を訪れ、江陵攻めに加わるとのこと!」

「っ!?」

「…やっぱり私の勘は当たってるかもね」

「そ、それから雪蓮様と冥琳様に程昱と荀攸から話があると言伝を」

「…行きましょうか、母様もゆっくりと休ませてあげたいしね」

「そうね…」

 

 

 

雪蓮達はゆっくりと自分達の陣に戻って行った

そして陣に戻ると雪蓮は状況の説明を祭に任せ、冥琳と共に風と燐花の待っている天幕へと歩いていった

 

 

その場に行くと既にそこには蓮華と思春、そして焔耶も居た

 

 

「さて…荀攸に程昱。貴方達が劉封の代わりということかしら?」

「そゆことになりますね~」

「現在、我が主は荊州城を攻めており、劉表を追い詰めております故」

「…江夏を治めたばかりというのに、大丈夫なのか?」

「それに関しては我が軍は有能な武官・文官が揃ってますからね~」

「それに既に劉表軍の内部は一部を除いて手を入れていますから」

「…本当に恐ろしい奴だな、劉封という男は」

「私達自慢の国主だからな」

 

 

 

そこまで話すと皆、一呼吸置き…

 

 

 

そして先程とは違って真剣な顔をした雪蓮がゆっくりと問いかけ始めた

 

 

 

「さて、ここに来た理由と…後少しだけ聞きたいことがあるのだけど」

「どうぞ~」

「まず、どうして江陵攻めを?」

「元々我々は二面作戦を実行する予定だったのですよ~。ですが、その前に呉軍が動いているという連絡を受け、至急動くようにとお兄さんは指示したのです」

「…そうか」

「一応、使者は行かせたが既に進軍しているという報告を受けたのよ。だから、私達も私達の判断で進軍したわけ」

「成程、納得したよ」

「他に聞きたいことは何ですか~?」

「………先程、母様が黄祖の奇襲部隊を追って…落石の罠にはまったわ」

「っ!!?」

「紅蓮…様が?」

「姉様!! か、母様は!?」

「…大丈夫よ、右腕は失ってしまったけど、一応生きてはいるわ」

「そう…ですか」

 

 

蓮華は当初酷く慌てたが、雪蓮の言葉を聞いて安心したのか、それとも腰が抜けてしまったのか、膝を地に付けてしまった

思春は表情に見せない様にしていたようだが、それでも他の者には分かる位に動揺しているのが分かった

それも無理もないことだろう

 

 

蓮華にとっては国主である以前に大事な母親なのだ

その母が死んでしまったかもしれないような言われ方をしたらそれは驚くだろう

 

 

 

「さて、それは大変でしたね。ですが、何故それをこの場で?」

「母様の周りの状況が余りにも不自然な事があったのよ。黄祖の罠は明らかに的中していた。それなら黄祖は母様の首を取ることも出来たはず。なのにそれを行わず、しかもその場にいたという痕跡すら残さずに消えていた。部下の一人も残さずにね」

「……(もしかして)」

「それで? 私達に何を聞きたいんですか?」

「単刀直入に聞くわ。…母様を助けてくれたのは、貴方達の指示? それとも劉封?」

「さあどうでしょう? 少なくとも我々はそういった指示は受けていませんね」

「………そう」

「それで? そちらはこれからどうするんですか?」

「冥琳」

「我らは長沙に帰還する。国主の紅蓮様がこの容態なのだ。少しでも早く安静にして欲しいのだ」

「そうですか、なら江陵は私達が攻めますね~」

「ああ…悔しいが、此度の戦は我らの負けだ」

 

 

 

話を終えると雪蓮、蓮華、冥琳、思春はその天幕を後にしようとする

その時、風が一言だけ呟いた

 

 

 

「…袁術に注意」

 

 

それに気付いたのは冥琳と雪蓮…

 

 

「…国主の忠告なのです~」

 

 

 

「……本当に恐ろしいわね」

「ああ、そうだな」

 

 

 

こうして呉軍はゆっくりと引いていった

 

 

その退却の最中、袁術が軍を動かす気配を見せるという情報が雪蓮達の元に入るも、結局袁術軍は軍を出さなかった

 

 

いや、出せなかったのだ

 

 

何故なら、その動きを江夏にいる杏が袁術に対して牽制をしていたためである

 

 

こうして呉軍は三度にわたって咲夜の軍に助けられたこととなった

 

 

 

それから6日後…

 

 

 

江陵、荊州城共に咲夜の軍によって落城することとなった

 

 

 

 

咲夜はまず内通していた者たちの取り立て、そして国主劉表とその一族、そして側近とも言えた張允と蔡瑁などのことを決めることとなった

 

 

 

まず劉表とその一族だが、咲夜はとりあえずこちらで取り立てることもせずただ、身分を落とすことにした

劉表が生き残ったとしても大した害にはならないと皆が判断したためである

 

 

次に蔡瑁、張允の二人だが、この二人は満場一致で処断することになった

生かしておいたら確実に咲夜に牙をむけるだろうと思ったためであるのと、以前蔡瑁が捕えられた時、もう一度咲夜に攻撃すれば今度は命を刈り取る。だから、もう二度と攻めて来ない様に進言しておけと忠告していたのだ

それなのに、荊州軍は襄陽に攻めてきた

 

 

それ故に、処断することとなった

 

 

次に咲夜が事前に行っていた内からボロボロにするという策、それが見事に的中し、劉表の部下の大半が咲夜に従順することになった

 

その代表が王威、蒯越、霍峻、韓嵩、王儁、鄧義などだった

 

 

それから落城した後、その者たちの説得もあって文聘、龐季、傅巽なども劉封軍に降伏し、従ってくれることを約束した

 

 

 

こうして咲夜は樊城、襄陽、江夏、江陵、荊州と5つの城と広い領土を得ることとなった

 




荊州という郡の大半を手に入れた咲夜
そして更に領土は増えていき、咲夜は朝廷にとあるものを名乗るようにという勅を受け取る
咲夜は、こうして更に力を得ていくのであった


次回、第十話
荊州王 劉封


…予告ってこういう感じの方が良いんでしょうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話

劉表軍を打ち破り、荊州城と江陵城を手に入れてから、咲夜は内政を行いながら他の領土からの侵略などに備えていた。

 

領土というのは制圧した後というのが一番狙われやすいためである。

その為、武官の半分以上は領土の境の場所に展開させている。

残りの者は皆、兵士たちの訓練などを受け持ったりしている。

文官も文官で非常に忙しくなっていた。

無理もないだろう…

一気に三つも領土が増えたのだから。

だがその分、咲夜の元には有能な者達が集っていた。

元劉表軍にいたのだが、劉表が気にいらないという理由だけで使われなかった者、蔡瑁や張允、黄祖などと仲違いし出世できなくなっていた者達等は、現在以前よりも上の官職で働くことが出来ている。

 

 

勿論のことだが、咲夜はまず領民の安全の保障や治安の維持などを第一としていた。

その為、領民は皆咲夜の政治体制に積極的に協力してくれ、咲夜もそれに応える様に成果を出していく。

 

 

 

一月も経った後、江夏、荊州、江陵の三郡は見違えるように発展していった。

ほんの少しずつだが、襄陽や樊城のような店や街並みが立ち並ぶようになり、生活水準も問題なく安定して行った。

 

 

 

そんな中、咲夜は内政を行いながらも外の情報も欠かさずに頭に入れていった。

その隣には常に美鈴がいて、咲夜のサポートに徹底していた。

そして咲夜の陰にはいつも影夜や朔などといった情報収集などの能力を持つ部隊が咲夜の求める情報を可能な限りに集めていった。

 

 

 

咲夜がまず注目したのは今後の憂いとなるであろう武陵、零陵、桂陽の三郡である。

零陵の太守、劉度は対して害にはならないのだろうが、その息子である劉賢、そして刑道栄という猛将(前世ではKDAという名で有名だったWW)。

この二人をどうにかすれば大丈夫だろう。

 

次に桂陽だが、こちらも国主である趙範は問題ない。

だがやはりというか部下である鮑隆や陳応が問題である。

 

 

最後に武陵だが…太守である金旋は好戦的な男であるという情報が入っている。

その為、劉表が居なくなった今、荊州城に攻めてくる可能性は高い。

その為、ここだけは100%戦う羽目になるかも…

 

 

ただ、民のことを思い戦いは避けるべきだと主張する部下も幾人かいるらしい。

その代表が鞏志という将である。

だが、その意見は太守である金旋と息子である金禕に強く拒まれてしまっているため、鞏志自身、現在軟禁状態にされているそうだ。

 

 

更には金旋は城に韓玄と韓浩の兄弟を向かい入れたそうだ。

確か韓玄は忠志では長沙の太守をしていたようだが…

やはりこの世界は咲夜の持っている知識とは差異が生じているようだ。

 

 

 

「……とりあえずこの三群に使者を立ててみるか。何事もないのが一番いいことだしな」

 

 

咲夜はそれぞれの太守に使者を送り、様子を見ることから始めることにした。

何故なら、咲夜にはまだまだやらなくてはならないことが山の用にあるためである。

 

 

 

咲夜は頭をフル回転させながら皆の仕事を上手く振り分けつつ、自分のやるべき仕事をどんどん片付けていった。

流石は咲夜と言った所か、その仕事はまるで疾風の如く。

異常な早さでどんどん減って行った。

それに影響を受け、他の文官もどんどん自分たちの仕事を終わらせる早さが上昇して行った。

 

 

 

だがまだ足りない!!

足りないぞ――――!!!

お前に足りないのはッ!情熱思想理想思考気品優雅さ勤勉さ!

そして何より――

 

速 さ が 足 り な い !

 

 

 

文官の頭の中に響き渡った文章だった…

 

 

 

 

「さてさて、次の仕事を終えたら昼食にしようかね」

 

そんなこんなで咲夜の仕事もようやく一段落といった時、

 

 

「し、失礼します」

 

 

腕一杯に山の様な竹簡を持ってきたのは雛里と麻理だった。

扉の方は咲夜が仕事の時、多くの文官達が入れ違いに竹管や書物を置いていったり、持っていったりしたために空きっぱなしになっていた為、二人は問題なく咲夜の部屋に入ることが出来た。

部屋といっても咲夜がいるのは専用の執務室なのだが…

 

 

 

「…また追加の竹簡?」

「は、はい…すいません、咲夜様」

「いや…良いんだけどさぁ。皆どんどん早くなってない? 流石に俺もびっくりだよ」

「し、仕方ないのでは? 皆さん、咲夜様に少しでも苦労を掛けたくないという一心で一生懸命に仕事に取り掛かっているようですし」

「……まあそうだけどねぇ、ハァ」

「あわわ…」

「ふわわ…」

 

 

ここ最近の仕事量増加のために流石の咲夜も溜息を出してしまい、それを見て麻理と雛里もあわあわしてしまっていた。

 

 

 

「…でもやるしかないよな。俺が頑張るだけで多くの人たちが笑顔になれるんだから」

 

 

 

うしっ、と一息入れると咲夜はまず雛里と麻理の持ってきた竹簡を簡単に確認しつつ、他の文官達の大まかな状況を二人から聞きだすことにした。

 

 

「雛里、まず他の皆の仕事の現在の状況を可能な限り教えてくれないかな?」

「はい。まず治安の方ですが、咲夜様の創立した治安維持部隊と警邏部隊の成果はかなり出ているようです。その為、担当者の人たちもそれほど忙しくはなっていない様ですね」

 

雛里が被っているとんがり帽子を弄りながら咲夜に詳細を告げていく。

その様子はちょっと可愛らしいと咲夜は思いつつも、しっかりと雛里の目を見ながら報告を頭に入れていくことに集中していた。

 

 

「次に税金と戸籍の方ですが…こちらは少し難航していますね。咲夜様の考えた貨幣を一つにまとめるということがやはり新しい土地の人たちにとって導入しにくいようです。加えて、戸籍の方もまだ完全に纏め終えていないそうで…今、担当の皆さんが一生懸命に完成させようとしています」

「そっちの方は長い目で見た方がいいかもしれないね。でも貨幣の方は出来る限り早く皆に慣れてもらわないといけないから、対策を考えておかないとね」

 

 

雛里の話を聞きながらて元にある竹簡にも目を通し、頭に入れていくあたり流石は咲夜といったところだろう。

麻理の方は咲夜に次に目を通すべき竹簡をいち早く判断し、それを手渡していた。

こういう所は、樊城に古くから居た経験が生むコンビネーションなのだろう。

二人の動きによどみは一切なかった。

 

 

 

「えっと…次は街並みの方ですね。こちらはもう家屋が古く、いつ崩れてもおかしいという場所はこちらで援助して、新しい家を改築しつつ、広い道を確保するということでした。領民の皆さんの中で樊城や襄陽に行ったことのある方々が居たそうなので…そのようにして欲しいという意見が出ているそうです」

「……う~ん…少しずつそうして行くしかないか。とりあえず仮設住宅を作って、4分の一ずつから始めていくのが一番だと思う。いきなり全部は流石に無理があるからね。後は城外の村なんかもちょっとずつ改善していかないと」

 

 

 

咲夜と雛里は次々と話を続けていき、麻理はそれの邪魔にならない様に咲夜をサポートしていった。

その為、簡単な確認だったがそれはかなり早く終わることとなった。

 

 

 

「さて…次は麻理から武官のこと。そして、総兵数と軍備、それから国境の状況なんかを軽く教えてくれるかな」

「は、はい! まずですけど…新しく参入した方々は皆さん、星さんや紫苑さん達を筆頭にこちらの主義に慣れることから始めてもらっています。次に総兵数ですが…この度、江夏、江陵、そして刑州本城を加えたことによって襄陽と樊城にいる兵を合わせると約30万になりました」

「…そんなに増えたの?」

「はい! その三郡以外からも多くの方々が軍役に服したいということから。その為、国境にいる方々以外は皆、新兵さんたちの訓練で毎日忙しいそうです」

「…幾らなんでも増え過ぎだろう」

「ふふ、それだけ咲夜様を慕ってかもしくは信頼しているのでしょうね」

 

 

そういいながら麻理は麦わら帽子を弄っていた。

そんな麻理もかわいらしいと思いつつも咲夜は、仕事に集中。

こんな時はしっかりと公私の区別がちゃんと付いているのが咲夜なのだ。

 

 

 

 

「そうなると総領民数の方も凄いことになってそうだね…」

「そうですね…色々な場所から咲夜様の噂を聞いてくる方々が居ますから。咲夜様の考えた法案で異民族の方々も受け入れるようになっていますしね」

 

 

最初こそ、多くの反対意見や様々な問題があったが今では樊城、襄陽においては異民族であってもしっかりと規則を守り、治安を乱すような行いをしなければ受け入れられている。

山越、南蛮、羌族等が例としてあげられる。

 

 

 

「次に軍備の方は兵糧と武具、攻城兵器なども充実しています。その為、もし攻めて来られたとしても十分に対応できますね」

「そっちの方はまあとりあえず安心できるか…」

 

「後は国境の方ですが…実はいくつか書状を受け取っているんです」

「書状??? 誰から…まあ一部は何となく分かるけどね」

「一つ目は…まあいつもの袁家か「燃やして」ら…? え、えっと「燃やして」……はい」

「だ、駄目でしゅよ!!」

 

 

咲夜は雛里に説得されて、何とか踏みとどまり念のため読んだのだが…やはりというか内容はいつもと同じだった。

だが、その書状には少しだけ気になることが書かれていた。

それはこの国の言葉ではなく…

咲夜の前世の頃に使われていた……

 

 

日本語だった。

 

 

 

咲夜は内心吃驚したが、それを表情に出さずに冷静に分析することにした。

その中で一番有力だろうというのは、以前聞いた情報の中であった冀州に落ちた天の御遣いだろうという男…

 

 

少し興味が湧いた咲夜は後で誰かに調べに行って貰うことにした。

 

 

 

「次は武陵にいる鞏志、そして韓玄からです」

「…鞏志は分かるが…韓玄から?」

 

 

咲夜はまず鞏志からの手紙を拝見することに。

そこに書かれていたのは今の金旋による軍部拡張などによる民の生活の圧迫化のことや町で行われている非道な行為のことについてが書かれていた。

それを雛里、麻理と一緒に見ていたのだが…次第に二人の顔が悲しそうに見えてきた咲夜だった。

その咲夜自身もこれが真実なら…許せざることだと思った。

 

 

「……金旋、やっぱりどうにかしないと拙いかな」

「咲夜様…」

「…次は韓玄からの手紙だな」

 

 

 

気を取り直し、咲夜は次の手紙を開いた。

内容は一部のみが鞏志と同じことを書いてあって、残りは咲夜に武陵を攻めてもらいたいというものだった。

もし、攻めてもらえるのならば零陵と桂陽は自身が説得しようということも書かれていた。

 

 

 

更にちょっと驚くことも書かれていた。

 

 

 

「…韓玄って…紫苑の知り合いなの?」

「そ、そのようですね」

 

 

 

書かれていたのは、

 

 

――黄漢升は元気でしょうか? 昔馴染みのため、会いたいとは思っていたのですが…璃々ちゃんとも会いたいものです。

 

 

 

というのが最後に書かれていた。

 

 

 

 

「…とりあえず紫苑に事実確認してから判断するか。後は燐花と風の二人にも話を通しておかないと…」

 

 

 

手紙を読み終えると咲夜は一息つき、とりあえずだが自分の仕事を確認し終えた。

そして時間を確認すると、もうお昼時を過ぎる直前であることが分かった。

 

 

 

「やばっ…そろそろお昼食べないと」

「あ、しゃ、しゃくやしゃま(がり)~~~~~っ!!!」

 

 

雛里が声を掛けようとして、また舌をかんだようで…

 

 

 

「あ~あ…全く雛里は。落ち着いて話しなさいって」

「しゅ、しゅみましぇん…」

「ふふ、はい。口あけて」

 

 

 

何だか恒例のやり取りとなっていることであるのだが…

咲夜はやれやれといった感じ半分、雛里は申し訳ないと思いつつも何やら嬉しそうな顔をしていた。

そしてそれを羨ましそうに見つめるのは麻理。

 

 

 

「で、何か用かな雛里」

「えっと…さ、咲夜様さえよろしければ私たちとご一緒にお昼はどうかなっと。ね、ねえ麻理ちゃん?」

「そ、そうだね雛里ちゃん! 良いと思うよ!!」

「…そうだな。一人で食べるのも味気ないし…じゃあいっしょに食べに行こうか」

「「は、はい!!」」

 

 

 

 

咲夜、雛里、麻理の三人は一緒に手を繋いで町まで食事を取りに行った。

店は咲夜提案似非日本料理店。

似非というのが付く理由としては…純粋に日本料理とは言えない物が多少あるからである。

だが、恐らくこの店に北郷一刀が訪れたのなら…十中八九驚くことだろう…

本来なら樊城もしくは襄陽でしか食べることは出来ないのだが…咲夜が職人に頼みこんで今居る刑州本城に仮の店を立てて貰ったのだ。

それも新しく咲夜の領地の民となる人たちに可能な限り美味しいものを食べてもらいたいと咲夜が思って、手配しておいたためである。

今ではそれが功をなし、かなりの人気が出ていた。

 

 

 

 

 

咲夜はこの店で唐揚げ定食、雛里は団子肉定食(ハンバーグ定食の様なもの)、麻理は山菜定食を注文。

 

 

食事を終えると咲夜は二人と一緒に仕事場に戻り、自室近くになると二人と別れまた一人仕事を始めた。

 

 

 

 

 

 

そうしたことを幾日か続けていたある日…

 

 

 

 

 

金旋が武陵を出て咲夜達が居る刑州本城に宣戦布告をしてきた。

そして現在、江陵に向けて進軍中だと影夜から情報が入った。

先鋒は金旋自身で、兵は20000。

その間、城の守りを韓玄に任せているそうだ。

 

 

 

その報告を受け、咲夜は一部の武官と兵たちを国境から呼び戻し、戦いの準備を整えることにした。

といっても殆どが終わっているため、後は編成をすればいつでも出れる状態になってはいるのだが…

 

 

 

 

 

 

軍議の場…その場にいるのは咲夜、燐花、紫苑、美鈴の4人。

杏と風は現在、江夏で内政を行っている最中であり、今この場には居ない。

秋葉と雛里は荊州本城で、麻理は襄陽に戻り仕事をして貰っている。

焔耶の方には副官として魔理沙(王平)と雛(諸葛瑾)の二人を付けて益州を警戒して貰っている。

智や慧音などにもそれぞれ苑、揚州などへの警戒を怠らずにいて貰っている。

その為、現在江陵にいる主だった将はこの四人のみなのだ。

 

 

 

「さて、現在もう国境近くに武陵軍が来ているそうだ」

「それで…どうするのですか咲夜様?」

「決まっている」

 

 

 

咲夜はスクッと立ち上がると…

 

 

 

 

「粉砕!! 爆砕!!! 大喝采!!!! …って感じで野戦でけりをつける。態々領民を危険にさらす気はない」

「了解しました」

 

 

 

先鋒は紫苑と美鈴の二人に任せ、咲夜は燐花と共に中軍を指揮することになった。

因みに先程の咲夜のハイテンションだが…スルーされて少し寂しいと思った咲夜だった…

 

 

 

 

そして…

 

 

 

戦いの舞台はおとずれた。

 

 

 

 

劉封軍 30000

金旋軍 20000

 

 

この時点ですでに決着は見えているようなものだった。

 

 

 

数でも将の質でも金旋の軍は咲夜に負けていた。

その上、金旋の元には有能な軍師が居なかった。

逆に咲夜の元には燐花…荀攸が居たために隙はない。

最も、それ以前に金旋と咲夜では国主の器が全く異なっていたのだ。

いや…比べるまでもなく、金旋には将としての器ならまだしも主はおろか太守の器すらなかったのである。

 

 

 

金旋は意気込んで当初、偃月の陣で自らを先頭として突っ込んできた。

咲夜は定石通りといえば良いのだろうか…それに対して、鶴翼の陣を敷いて金旋軍の動きに合わせて包囲し、せん滅する作戦に出た。

 

 

勢いに任せる金旋に対して、咲夜は冷静に対処し、次第に状勢は決していった。

 

 

紫苑が弓で的確に敵の命を射抜き、美鈴はその紫苑に近寄ろうとして来る敵を手甲をはめた手で殴り飛ばし、咲夜自身も近寄ってくる敵をハルバートで斬り倒していった。

 

 

そんな無双をする三人に次第に敵の兵たちは怖じ気づき、次々と退却を始めていった。

その様子を見た金旋は悔しそうにしながら敗走兵に紛れながら武陵へと逃げていった。

 

 

 

 

「さて…燐花、どうする?」

「勿論、このまま追討戦に入るわ。当然でしょ?」

「そうだな」

 

 

 

咲夜は全軍を率いて武陵城に向かい、けりをつけることにした。

 

 

 

 

そして咲夜達は武陵城までたどり着いたのだが…

 

 

 

「…静かすぎる」

「そうですね咲夜様、どう思われますか?」

「罠…の可能性は否定できなくはないけど」

 

 

城に近づいても何の行動も起こそうとしておらず、門だけが閉じられていてただ静かに旗が風で揺れているだけの状態。

明らかに不自然な状態であった。

すると、いきなり門が開き始めた。

 

 

咲夜達は金旋がまた懲りずに戦いに来たものだと思って皆、戦闘の用意を始めた。

だが門から出てきたのはたった二人。

一人は何やら桶の様なものを持ち、もう一人は何やら布に包んでいる物を持ちながら咲夜の元に歩いてやってきた。

 

 

 

 

「止まれ! 何者か!!」

 

美鈴が警戒しながら警告した。

 

 

「怪しい者ではありません。私の名は鞏志と申します」

「何…では君がこちらに書状を送った」

「はい」

 

 

桶を持っている者は自らを鞏志だと言い、その場に立ち止まった。

もう一人の方はと確認しようとすると、咲夜は紫苑が驚いた顔をしていたのが目に入ったため、どうしたのかと聞いてみた。

 

 

 

「琥珀?」

「ええ、そうよ。久しぶりね紫苑」

 

 

 

もう一人の方は何やら紫苑と知り合いのようで二人で真名を呼び合っていた。

 

 

 

「もしかして…貴方は韓玄でしょうか?」

 

 

咲夜はふと思い立ったことを聞いてみた。

 

 

 

「ええ、そうよ」

「……それでお二人だけで城外に出てきたのは?」

 

 

燐花が警戒を解かずに問いかけた。

紫苑はびっくりしたのが大きいのか…少し警戒が解けてしまっているのだが…

他の面々は皆警戒を解いておらず、いつ何が起こっても対処できる状態にあった。

こういった所も咲夜の提案した訓練などが役に立っているのである。

 

 

 

 

「ええ、これより武陵は劉封様に下ります」

「「!?」」

「……どういうこと? 先程は金旋自らこちらに攻めてきたというのに」

 

 

美鈴と紫苑は驚き、燐花は先程から曲げていた眉を更に曲げ、質問を続けた。

 

 

「簡単よ。私達は元から劉封様に刃向う気なんてなかったの。でも太守がそれを一人だけ嫌がってね。で、太守の独断でそちらに攻めていったってわけなの」

「私はその間に韓玄様に助けられ、共に残った者を説得していたというわけです」

 

 

韓玄と鞏志の話を聞き、成程という顔をする燐花。

 

 

「じゃあその金旋はどこに?」

「…ここに」

 

 

 

咲夜は当たり前のことを聞くと、鞏志は手に持っていた桶を差し出した。

それを開けるとそこには金旋の首が入っていた。

先程、戦いで見たばかりの顔のため、咲夜達はこれは間違いなく金旋の首であると判断した。

 

 

「…武陵にいる人たちは皆こちらに降伏するということでいいのかな?」

「はい」

「……分かった。なら詳しい話をしようか」

 

 

 

咲夜は全軍を率いて、武陵の城へと入って行った。

すると入場した瞬間、民衆がわっと騒ぎ始めた。

 

 

 

「あ、あれが劉封様か?」

「おお、これで暮らしが楽になる」

「劉封様、ばんざーい!!」

 

 

 

その歓迎の声は咲夜達が城にはいるまで止むことはなかった。

これだけでも今までどれだけ苦しい生活を強いられていたかが伺いしれた。

 

 

 

城内にはいり、鞏志と韓玄は応接間に案内した後、席に座って欲しいといった後、真剣な顔をし、咲夜達もそれに釣られ、先程よりも真面目な顔をし始めた。

 

 

「ではまず劉封様からこちらにお聞きになりたいことがありましたら何なりとお聞きください」

「じゃあまずどうして俺を選んだかについて聞かせてもらおうかな」

 

 

鞏志に応え、咲夜は一番聞きたかったことから聞くことにした。

 

 

 

「簡単よ。民の言葉を聞けばすぐに分かるわ」

「劉封様は良主であり、領民となれば苦少なく生を得ることが可能。そう広まっておりますので」

「……そんなことないと思うのだが。生は良い意味でも悪い意味でも平等だ。俺はただ酷過ぎる落差を失くして、この荒れた世を少しでも良くしたい。それだけだ」

 

 

 

咲夜の調べで分かったことでもあり、咲夜自身前世での記憶にもあったことなのだが…この時代は豪族や宦官などは裕福な生活を送ることが出来ているのだが、庶民はその日の糧を得ることすら難しく、酷く貧しい生活を強いられているのだ。

前世で親に支えられながら幸せに生きていたという記憶も持っている咲夜だけにこの世の中の情勢に耐えられずにいたためにこうも一生懸命に動いているという理由もあるのだが…

 

 

そんな咲夜を感心したように見る韓玄と目を輝かせながら咲夜を見つめる鞏志。

 

 

「さて…次に聞きたいのは韓玄にだ」

「私か…何が聞きたい?」

「韓玄って紫苑と知り合いなんだよな? ならどうして金旋に仕えることにしたんだ?」

「…ふむ、なら私と紫苑の出会った時の話から始めるとするか。私は昔、紫苑と同郷だったのだよ。それで暫くの間は一緒にいたんだ。でも紫苑が結婚してから、私は弟と旅に出ることにしてな。その旅の途中で黄巾党の乱に巻き込まれてしまったんだよ。で、そんな中私と弟は様々な場所を見てきたし、聞いてきた。一番多く聞いた噂はやっぱりあんたの領土のことだね」

「……」

「だから私達もそっちに行こうとしたんだけど…情けないことに路銀が完全に底をついちまってね。だから客将として武陵に仕えることにしたんだけど…ここは酷かったよ。武官が領民を虐げ、文官は横領し、太守である金旋は酒と女の毎日。そのくせ自尊心だけは一人前。だから私は韓浩と鞏志に話を付けて、金旋を殺してあんたにこの地を任せた方が絶対に領民のためになると思ったのさ」

「…成程ね、納得したよ」

 

 

 

全員が韓玄の言葉に納得し、うんうんと肯いていた。

 

 

 

 

「じゃあ最後、書状で送ってきた桂陽と零陵を説得するっていうのは?」

「ああ、劉度と趙範の二人は国主としての器じゃない。だからこちらから切っ掛けを作ってやれば直ぐにでも降伏してくる。問題は国主ではなく、その配下にあるが…」

 

 

 

韓玄は咲夜が以前から考えていたことをそのまま挙げてきた。

咲夜はそれに感心しつつも韓玄の発言に耳を傾けていた。

 

 

 

「でもまあそれもあんたを見れば考えも変わると思うよ」

「…そうか?」

「ああ、私が言うからね。こう見えても私は人を見る目があると思うよ」

「…そうか。分かった、ならこの案件は韓玄に任せてもいいかな、皆」

 

「はい、私は構いませんよ」

「咲夜様の考えにお任せします!!」

「…ま、紫苑の知り合いだって言うし…それに考え自体も悪くはないからね。いいわよ」

 

 

 

「おや、加入してもいいってことかな、これは」

「ああ、これからよろしく頼むよ。韓玄、鞏志」

「ああ、任せな」

「これからよろしくお願いします!!」

「じゃあ自己紹介から。私は性は韓、名は玄。真名は琥珀よ」

「私は性は鞏、名は志。真名は雫です」

「俺は性は劉、名は封。真名は咲夜だ。これからよろしくな、琥珀、雫」

 

 

 

 

 

それから数日後…

 

 

 

 

桂陽、零陵からそれぞれ使者がやってきて降伏するという書状を持ってきた。

咲夜はそれを受け入れ、劉度と趙範の二人としっかりと話し合いをし、二つの郡をしっかりと治めることを約束した。

 

 

 

 

 

咲夜はこうして短い期間ながらも武陵、零陵、桂陽の三郡を手にしたことで荊州の大半を手中に収めることとなった。

 

 

これ以降、民の間では咲夜が刑州を治める王となるのも時間の問題だろうと囁かれる様になった。




刑州の大半を治めることとなり、多くの領土の主となった咲夜。
暫く続いた戦いの日々から離れ、内政をしながら日常を楽しむこととなった。

さて…今日は誰と一緒の時間を過ごすのだろうか。

次回…平和な一日?


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。