冥界の王 (赤嶺)
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プロローグ

冥界の王

プロローグ

 

冥界にはこんな噂がある。

 

冥界には王がいると。

 

それは悪魔たちの王ーーー四大魔王のことではなく、堕天使たちの王ーーーアザゼルのことでもない。

 

はるか昔、まだ神と悪魔と堕天使が争っていた時代に生まれ、ごく平凡に成長し、そして悪魔も天使も堕天使をも喰らった悪魔。

 

戦争に興味を持たず、平和に興味を持たず、それどころか自らの種にさえ興味を持つことはなかった悪魔。

 

ただやりたいように生き、喰いたいように生きた古の悪魔。

 

悪魔たちはそんな彼を悪魔(Devil)の中の(of)悪魔(Devil)と言った。

 

天使たちはそんな彼を主悪の権化と言った。

 

堕天使たちはそんな彼を負の遺産だと言った。

 

そして彼自身は己を欲望の肯定者と言った。

 

どんな望みだろうとそれが本能から来るものならば、肯定した。

 

それが相手を傷つけることだろうとなんだろうと欲望ならば、肯定した。

 

『悪魔とは欲望の化身である』

 

()の悪魔はそう説いた。

 

それは種に興味のない悪魔が唯一公に自らの種について語ったこと。

 

『悪魔とは欲望の化身である。

 

自らの欲のために創造主たる神に反旗を翻し、そして地に堕ちその身を魔に染めたこの世の悪である。

 

堕天使のように堕ちた鴉などではなく、その身を変異させるまでに欲に窶した誇り高き強欲種である。

 

故に自らの思うがままに行動せよ。

 

力が欲しければ、それを宿した者から奪え。

 

異性が欲しければ、奪え。

 

壊したければ、壊せ。

 

殺したくば、殺せ。

 

(オレ)の『喰欲(チカラ)』が欲しくば、(オレ)を殺せ。

 

我は欲望の肯定者。

 

そして悪魔は欲望の化身。

 

故に我は許そう。

 

欲望のままに行動する貴様らを』

 

これを発したとき、冥界は荒れた。

 

悪魔とは一体なんなのか。

 

すべての悪魔が抱き、悩んだ疑問。

 

そしてそれは他種族においても言えた。

 

この言葉を発したのは魔王の息子であったのだ。

 

もし、悪魔がその言葉通りに行動したならば、それは新たな戦いを意味する。

 

つい数十年前に悪魔と神・天使と堕天使による三つ巴の戦争を終えたばかりなのだ。

 

神と四大魔王を失い、各勢力は疲弊し、とても戦争をする力を残していなかった。

 

だかその中で悪魔が行動を起こせば、他の勢力も動かざるを得ない。

 

さらにタチが悪いことは、彼の悪魔はどの悪魔よりも力を持っていた。

 

それこそ、たった一人で四大魔王であった父たちを同時に相手取っても勝てるくらいには。

 

すべての生物は力ある者に魅せられ、憧れる。

 

彼の悪魔にはカリスマがあった。

 

人を魅せるカリスマが。

 

たとえ何もせず、三つ巴の戦争さえ傍観者であったとしても。

 

配下の悪魔にすべてを任せ、自らは欲望の赴くまま気まぐれに行動したとしても。

 

彼に惹かれる者は数多く存在した。

 

その結果魔王派と新魔王派との間で起こった革命戦争。

 

いままでの格式を重んじる魔王派と他種族との交流、共存を目指した新魔王派。

 

どちらも彼の悪魔が言った欲とは少しばかり違うが、それも自らが望む未来を求めたものだ。

 

魔王派の盟主には魔王の息子娘たち。

 

対する新魔王派は共存思想を持つ上級悪魔家の当主たちが。

 

そして革命戦争のきっかけとなった言葉を言い放った悪魔、ヴォルレイン・ベルゼビュート(・・・・・・・)は三つ巴の戦争と同様傍観だ。

 

配下の悪魔たちには自分の思うようにせよと言い渡し、自らは小さい頃に友だちのリーくんと作った秘密基地にて爆睡していた。

 

ヴォルレイン配下の悪魔で参加したのは二人。

 

一人は代々ベルゼビュート家に仕えてきたフルーレティ家の長女でありながら、ベルゼビュート家にではなくヴォルレイン個人に仕えている女将。

 

もう一人は悪魔の友だちであるリーくんと賭け事をしたときに貰ったルシファー家に代々仕えてきたルキフグス家の娘であるメイド。

 

共に実力は申し分なく、二人とも魔王を相手にしても善戦できるだろう女傑だ。

 

そんな二人は同じ派閥に属することなく魔王派と新魔王派に別れた。

 

フルーレティの長女は新魔王派に。

 

ルキフグスの娘は魔王派に。

 

フルーレティの長女は特に理由あってのことではない。

 

ルキフグスの娘が魔王派に属したから、という程度だ。

 

どうしてもまともな理由がいるのなら、(ヴォルレイン)の力を見せつけるためだろう。

 

配下の悪魔にはこれほど強い悪魔がいるぞ、ならその主であるヴォルレインはそれ以上の強者だぞと。

 

ルキフグスの娘はヴォルレインに仕えているがフルーレティの長女とは違い未だルキフグス家の者だ。

 

家の者が魔王派であり参戦要請が来たのであれば断ることはできず、ヴォルレインの許可を得てから魔王派についた。

 

同じ主人を持ちながら違いに別の陣営についた二人。

 

だが、もとより幼き頃から好敵手(ライバル)関係にあった二人は同じ陣営につくことはなかったのかもしれない。

 

 

 

戦争は荒れた。

 

魔王クラスの悪魔が両陣営に参戦したことにより、戦力差が不透明になったのだ。

 

人の戦争とは違い悪魔の戦争は数ではなく質である。

 

悪魔の力の源とは魔力である。

 

その魔力が多ければ多いほど、質が高ければ高いほど悪魔の力は増していき、下の元はただただ蹂躙される。

 

魔王クラスとは悪魔の中でも指折りの魔力量を誇る怪物であり、たった一人いるだけで戦況は百八十度変わる。

 

そんな悪魔が二人、それぞれの陣営に加わったとなれば、先が見えなくなっても当然のことである。

 

しかし、荒れたのはほんの数年のことであり、結果だけを見るならば新魔王派の圧勝であった。

 

魔王派は魔王クラスがルキフグスのメイド一人、魔王の息子娘である三人は準魔王クラスといったところであったのに対し新魔王派は魔王、準魔王クラスが十数人存在したのである。

 

もともと魔王派は新魔王派に数の上で負けていた。

 

魔王派の盟主であったはずのルシファー家の跡取りは戦争に興味を示さず、ベルゼブブ家の跡取りであったヴォルレインはベルゼブブ家から絶縁してベルゼビュート家を起こし、ヴォルレインに跡取りの座を奪われた兄が史実上魔王派の指揮をとっていた。

 

しかし、弟に跡取りの座を奪われた兄に魔王派をまとめ上げるカリスマなどなく、また他の息子娘たちも生まれて百年にも満たないことから、ベルゼブブと同じくまとめ上げることなどできはしなかった。

 

魅力のない魔王派のトップと永きにわたり生きてきた上級悪魔たちが組織する新魔王派を比べれば、どちらにつこうとするかは、分かりきったことだった。

 

だが数で劣る、それもまだ幼い魔王の雛たちが制する魔王派がここまで戦い抜いたことは褒めるべきであろう。

 

戦争が終わっても魔王派改め旧魔王派の悪魔たちは僻地に追いやられはしたが殺されることはなく、冥界は新魔王派が治めることとなった。

 

そして、この革命戦争を起こすきっかけとなったヴォルレインは新魔王派の要請によって名誉大臣としてのお飾りの役職を手に入れていた。

 

 

 

 

自らの欲望に従い、自由気ままに時を生きる怪物は、今日もまた欲望のままに動き出す。

 

「ーーー刻は満ちた。そろそろ(オレ)も動き出すとしようか」

 

永い刻が過ぎ、この冥界に新たな風が吹き始めた頃、古の悪魔がその重い腰を上げた。

 

 

 



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第1話

冥界の王

第1話

 

「リアス、明日の若手悪魔のしきたり行事だが、気を付けなさい」

 

それはリアス・グレモリーが高校が夏休みになったため眷属を連れて、里帰りをした日の晩餐後の事だった。

 

リアスは他の若手悪魔とは違い日本の駒王町に拠点を置き、その町の駒王学園へ通っている今年三年生になる上級悪魔の美女だ。

 

連れだった眷属は『女王(クイーン)』姫島朱乃、『戦車(ルーク)』塔城小猫、『騎士(ナイト)』木場祐斗、同じく『騎士(ナイト)』ゼノヴィア、『僧侶(ビショップ)』ギャスパー・ヴラディ、同じく『僧侶(ビショップ)』アーシア・アルジェント、最後に『兵士(ポーン)』兵藤一誠。

 

以上七名がリアスの眷属である。

 

元は皆、悪魔ではなく人間や半人堕天使、半人吸血鬼であったがいまの魔王のうちの一人によって発明された『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を使い悪魔へと転生させた者たちである。

 

無論、ほとんどの者が眷属になるのを承諾してから駒を使ったため、リアスと眷属たちの仲は良好。

 

先月は堕天使の組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部コカビエルと、その前はリアスの婚約者である悪魔、ライザー・フェニックスと戦い絆を深めていっていた。

 

今回の帰省も若手上級悪魔であるリアスと他数人の紹介も兼ねた行事のために帰ってきたのだ。

 

リアスの実家に帰ってからすぐ開かれた晩餐会ではリアスの父から「お義父さんと呼んでくれてもかまわない」と言われ兵藤一誠ことイッセーはドギマギしたり、リアスとリアスの母と言い争いに眷属たちがビクビクしたりと忙しい夕食であった。

 

そんな忙しい食事が終わり、一旦部屋に戻ろうとするリアスを呼び止めたのは父であるグレモリー卿である。

 

リアスと同じく紅色の髪を持つ卿は先の内乱の新魔王派の当主の一人であり、永い時を生きた悪魔でもある。

 

家族の前では陽気なおじさまである父が、普段とは違った声音での呼び止めにリアスは足を止め振り返った。

 

「どういうことですか?」

 

父の顔は声音と同じくいつになく真剣でリアスはそんな父に怪訝そうな顔をした。

 

「なんの気まぐれか()が行事に顔を出すらしいのだ」

 

「?…………ッ⁉︎彼ってまさか⁉︎」

 

父の言う彼が思い当たったリアスは思わず大きな声を上げた。

 

しかしそれも無理はない。

 

もしリアスが想像した通りの人物が来るならばそれは一行事では終わらない。

 

新魔王派に政権が移って早千年。

 

その間一度も公の場に姿を現さなかった悪魔がリアスたち若手悪魔の行事に現れるというのだ。

 

すべての悪魔にとって憧れと畏怖を抱かせる悪魔。

 

リアスはもちろんここ千年の間に生まれた悪魔の大半は言い伝えを聞いたことはあっても姿を見たことはない。

 

グレモリー卿はリアスの言葉に頷くと話を続けた。

 

「彼も不用意に事を起こす事はしないだろうが、公の場に出るのは千年ぶりだ。何があるかわからないからな、警戒だけはしておくのだぞ」

 

「……わかりましたわお父様」

 

話を終えると早足で部屋に戻った。

 

扉を閉めるとその扉に背を預け、胸を抑える。

 

リアスは悪魔に憧れを抱いていた。

 

幼い頃から魔王である兄から悪魔の話を聞いて胸を高鳴らせて、いつか自分もあって話がしたいと思っていた。

 

そこに恋愛感情はない。

 

昔はどうだったかわからないが、いまはイッセーという可愛い眷属がいる。

 

しかしずっと憧れ続けた存在が自分に会いに来ると思うと興奮が抑えられなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

(オレ)が寝ている間に随分と変わったものだ」

 

旧魔王領の中のベルゼビュート領からおよそ千年ぶりに外の世界、新魔王派によって新たに創られた冥界に出たヴォルレインはその変わりように感嘆を漏らす。

 

「それに随分と悪魔が増えたな」

 

ヴォルレインがいるのは魔王領の都市ルシファード。

 

旧魔王ルシファーが治めていた都市でヴォルレインも幼き頃はよく遊びに来ていた。

 

内乱が終わり千年とルシファーの息子である幼馴染みと遊ばなくなって数百年。

 

ヴォルレインは以前訪れたルシファードと比べ街の活気が良くなったなと思う。

 

空を見上げれば何やら電車らしきものが走っている。

 

昔はそんなものはなく、自力で空を飛ぶか走るしか移動手段はなかった。

 

他にも建物に設置されたスクリーンや自動販売機、電車以外の移動手段である車、バイクなどなど初めて見るものばかりで年甲斐もなく、ヴォルレインははしゃいでいた。

 

「です。なんでもヴォルレインさまに代わってベルゼブブの名前を継いだアジュカ・ベルゼブブが『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』なるものを創り、多種族を悪魔に転生させる物まであるそうです」

 

「ほう。それはすごいな。ではこの中にもその悪魔の駒(イーヴィル・ピース)とやらを使って悪魔になった者がいるというわけか」

 

従者ミリーナ・フルーレティはそのあとも様々なことをヴォルレインに教えていった。

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』はチェスを模して作られていることとそれに伴って眷属の人数は最大で十五人だということ。

 

それぞれに特性があり、『戦車(ルーク)』は攻撃・防御力の上昇、『騎士(ナイト)』は速度の上昇、『僧侶(ビショップ)』は魔力の底上げ、『女王(クイーン)』はそのすべての特性を、『兵士(ポーン)』は王が敵地と認めた場所へ行くときに『王』以外のすべての駒に昇格できる『プロモーション』という特性を持っていること。

 

その眷属たちによってレーティング・ゲームと呼ばれる実戦型のゲームが行われていること。

 

そのゲームの結果次第では爵位や地位にまで影響を与えること。

 

現魔王四人の人柄。

 

現冥界の風潮。

 

そして最後にミリーナと同じくヴォルレインの配下であるグレイフィア・ルキフグスのことを。

 

ヴォルレインは悪魔の駒とレーティング・ゲームに強い興味を示した。

 

血統を重んじる悪魔がゲームで爵位や地位を築いたり、その血に転生したとはいえ多種族の血を混ぜることなど昔では考えられないことだったからだ。

 

ヴォルレインは面白いと思う。

 

旧魔王派であればこれほど面白いことは起きなかっただろう。

 

ヴォルレイン自身も思考は旧魔王派寄りではあるが、自分が面白いと感じることはなんだって受け入れる。

 

今日知ったゲームや悪魔の駒についてもやってみたいし、欲しいと思う。

 

「これはますます楽しみだな。戦争を知らぬ世代がどのようにして成長し、どんな欲を持っているのか。お前も気にならんか、フルーレティ?」

 

「です。私はサーゼクスが話すリーアたんなる悪魔が気になります」

 

「あぁ、サーゼクスの娘か。確かにあやつの娘ならば、(オレ)も興味がある」

 

「ヴォルレインさま、娘ではなく妹です」

 

「なに?妹だと?……まぁ会うてみればその才覚はわかるか。サーゼクスほどであれば酒を酌み交わしても良いのだが」

 

そう言って歩みを進めた。

 

その日の夜、ヴォルレインはルシファードのとあるホテルの一室でシスコン魔王と己が欲望を語り合った。

 




とあるホテルでの冥王とシスコンの会話

「ときにサーゼクスよ。貴様、何が好みだ?」

「私の好みかい?そうだなぁやっぱりおっきなおっぱいはいいよ。妻も大きいしね」

「ほう、乳か。(オレ)は手におさまるほどでよいのだがな」

「そういえばリーアたんの眷属には赤龍帝がいてね。この前泊まらせてもらったときにおっぱいについて話したことがあったんだけど」

「何、赤龍帝だと。懐かしい名だ」

「あなたも赤龍帝の能力は知っているだろうが自身の力を十秒ごとに倍加していくというものの他に譲渡という能力がある。それをリーアたんのおっぱいに使ってみては提案してみたんだ」

「……乳に譲渡だと?……素晴らしいな!!貴様は天才か⁉︎」

「だろう!倍加の力をおっぱいに譲渡すればどうなるんだろうと思ってね。彼も私と同じくおっきなおっぱい好きだったから、興味津々だったよ。おそらくいつか試してくれるだろう」

「……結果がわかったら教えるが良い」



前書き、後書きのみのヴォルレインです。本編のヴォルレインではありません。


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第2話

もし楽しみにして入られた方がいましたら、お待たせして申し訳ありません。

不定期ではありますが、更新を再開します。


冥界の王

第2話

 

魔王領の都市ルシファード。

 

その都市一の大きさを誇る建物の中にリアス率いるグレモリー眷属はやってきていた。

 

レーティングゲームデビューを間近に控えた新鋭若手悪魔たちを見定めるべく行われる会合に出席するためである。

 

招かれた若手悪魔は六人。

 

『大王』バアル家次期当主サイラオーグ・バアル。

 

『大公』アガレス家次期当主シーグヴァイラ・アガレス。

 

『魔王輩出』シトリー家次期当主ソーナ・シトリー。

 

『魔王輩出』アスタロト家次期当主ディオドラ・アスタロト。

 

『魔王輩出』グラシャラボラス家次期当主ゼファードル・グラシャラボラス。

 

そして『魔王輩出』グレモリー家次期当主リアス・グレモリーの六人だ。

 

皆今日という日を待ちわびていたのか緊張と高揚が表情から見て取れる。

 

特に先日父から憧れの悪魔が来ると聞いているリアスの緊張度合いは他の5人とは段違いである。

 

なんとか表情には出さないように取り繕ってはいるがリアスと親しい者たちから見ればバレバレであった。

 

「……リアス、なにをそこまで緊張しているのです。多少の緊張感は必要ですが、かといってし過ぎもよくありません。もう少し肩の力を抜いたらどうです?」

 

「そうだぞリアス。これから始まる会合は上が俺たちを見定めるためのものだ。そんなに緊張していたら恥をかくかもしれんぞ」

 

内心ガチガチのリアスに話しかけてきたのは幼馴染みのソーナ・シトリーと従兄弟であるサイラオーグ・バアルの2人だ。

 

「だ、だってこの会合にはあのベルゼビュート卿が来られるのよ!普段通りになんて無理よ!」

 

「何?ベルゼビュート卿だと。誰がそんなことを?」

 

「お父さまよ。きっとお兄さまから聞いたのね。お兄さまは交流があるみたいだから」

 

「サーゼクスさまなら交流があるのも納得ですが……。この千年公の場に現れなかったあの方がまだ成人してもいない私たちの会合に来られるなんて俄かには信じられません」

 

「私もあなたたちの立場なら信じられないと思うわ。でも、あのときのお父さまの表情は冗談を言っているようには見えなかったのよ!」

 

リアスの発言にサイラオーグとソーナの2人は顔を見合わせて、吹き出すように笑った。

 

「ハハハハハッ!確かにグレモリー卿ならリアスの様々な表情を見るためにそのような冗談も言うだろうな!」

 

「そうですね。グレモリー卿もサーゼクスさまもリアスの事は大層溺愛なさってますから」

 

「だから冗談には見えなかったと言ってるでしょ!まったく人の話はちゃんと聞いてほしいわ」

 

2人の反応にリアスは腕を組んで拗ねたようにそっぽを向く。

 

「そう言うな、昔からリアスはからかい甲斐があるからな。ついやってしまう」

 

「ふふ。ええ、本当に」

 

「からかわれる側の気持ちも知らないでもう」

 

「だが、緊張は感じなくなっただろう」

 

「それはそうだけど。それでもからかわれるのはね」

 

「それでグレモリー卿はなんと?」

 

リアスをからかい終えるとソーナは話を戻すべく口を開く。

 

「彼が顔を出すらしいと。そういえばはっきりと名前を言ってはいなかったわね」

 

「ならベルゼビュート卿とは限らないわけだ」

 

「でも千年ぶりに公の場に出てくると言っていたからベルゼビュート卿で間違い無いと思うけど。

 

……それに『気を付けろ』とも」

 

あのときやいまソーナたちに話しかけられなければ思い出してはいなかったが、いまにして思えば普段おちゃらけている父が見せたいつにない真剣な表情と気を付けろという言葉に了解は先程までとは違った緊張が身体を支配した。

 

このタイミングでそんなことを言う意味はーー

 

「ーー『禍の団(カオス・ブリケード)』」

 

「え?」

 

「何?」

 

「もしかしたら、ヴォルレイン・ベルゼビュートは……敵かもしれない」

 

リアスの言葉に2人に衝撃が走った。

 

そんなことはありえない、あの革命戦争のときだって、三つ巴の戦争のときだって不干渉を貫いたあのヴォルレイン・ベルゼビュートが禍の団(カオス・ブリケード)のはずがないと。

 

しかし、どこかで納得している自分たちがいることも確かだった。

 

駒王学園で開かれた三つ巴の会談。

 

そこに乱入してきたのはカテレア・レヴィアタン。

 

先代魔王レヴィアタンの娘である彼女は確かに言ったのだ、「我ら真の魔王の血族は()禍の団(カオス・ブリケード)に所属している」と。

 

ヴォルレイン・ベルゼビュートは先代ベルゼブブの息子。

 

それならば所属していてもおかしいことはない。

 

何よりこの千年、公の場に出てくることのなかったあの冥王(・・)が突然、今回レーティングゲームデビュー前の若手のために開かれる会合に参加をするというのは怪しすぎた。

 

先日の旧魔王派のこととヴォルレインの参加表明のこと、考えてみればみるほどつながっているように3人には感じられた。

 

何か、恐ろしいことが起こるかもしれない、とそんな緊張の中、会場への扉が開かれ、扉から現れた使用人が告げた。

 

時間となりました。どうぞお入りくださいと。

 

 

緊張、不安と期待が入り混じった会合が始まる。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

いざ会合が始まってみれば、そこにヴォルレインの姿はなくあるのは4大魔王と現政権の大臣たちのみでサーゼクスの隣が空席となっていた。

 

リアスたち3人はそれに安心と少しの落胆のようなものに息を吐いた。

 

戦争を知らぬまだ若い悪魔たちにとってヴォルレインはお釈迦のような、本当に実在したのかすら怪しい存在。

 

そのお釈迦の存在が自分たちの前に現れるとあっては先ほど、脳裏によぎった最悪のことがあったとしても会ってみたいと思ってしまう。

 

けれど扉が開き中へと入ってみればヴォルレインが座るであろう席は空席で。

 

集まった若手悪魔の中でも最もヴォルレインに興味があったリアスとしてはやはり、会いたいという感情が優ってしまう。

 

それは兄である現魔王サーゼクス・ルシファーより度々聞かされていたからだった。

 

それはサーゼクスしか知らないヴォルレインの話で、リアスはいつも楽しみに聞いていた。

 

ヴォルレインは何が好きで、何が嫌いなのか。

 

どんな姿をしているのか。

 

普段はどんなことをしているのか。

 

友達の誰も知らないことをリアスだけは知っている。

 

それがたまらなく嬉しかった。

 

もし兄のように自分もヴォルレインに会うことができるなら何を話してみようかと、夜遅くまで考えて気がつけば眠っていた。

 

そして彼は──

 

(オレ)は欲望の肯定者である』

 

──リアスたち悪魔が目指す頂点。

 

『冥王』

 

ヴォルレイン・ベルゼビュートが名乗ったのではない。

 

誰か彼をそう称し、讃えたのだ。

 

冥界を統べし王と。

 

リアスも王である。

 

眷属たち7人の王。

 

リアスとヴォルレイン、2人の王には明確な差があるのだ。

 

数世紀前に開発された悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を通しての、上級悪魔なら誰もが成り得るありふれた王と、冥界の民が姿を消して千年たったいまなお心服し畏敬を抱く唯一無二の王。

 

だから──

 

「──私はグレモリー家の次期当主として生き、やがてはこの冥界の民たちの理想の王になりますわ」

 

そのためにレーティングゲームの各大会で優勝することが近い将来の目標ですわ。

 

会場が静まった。

 

魔王さま方からの今後の目標についての問いかけに真っ先に答えたサイラオーグの時よりもずっと長い沈黙。

 

「──素晴らしい。流石はサーゼクスの妹君だ」

 

沈黙を破ったのは地の底から聞こえたかのような荘厳なる声だった。

 

 



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