現代人 in エド in ONEPIECE (アディオス)
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ONEPIECEの世界に来ちゃった1話

 

 

 

 

 

 

あ、ありのままに起こったことを話すぜ…?

 

気づいたらエルソードのエドになっててONE PIECEの世界に突っ立ってた。

 

な、何を言っているかわからないと思うが((ry

 

なんでエドさんになってんすかね!!!その幻想をぶち殺す!とか言ってる不幸少年がいる所の準主人公のもやしさんに似てる人になっちゃいますかね!?

というかこの人16歳だったような?あれ?俺、19……うぉおおお退行しちゃったよぉおおおお!!

というか背中にドライヴ浮いてるし!頭の中に操作内容載ってるし!?ってかナソード技術ないのにどうやってドライヴ作ったの!?エドさんよ!

 

 

あん?それより何でONE PIECEの世界だってわかったかって?

そりゃぁ、目の前に海賊王が処刑された場所があるんだから疑い様もないだろ?

え?違う場所かもしれない?エルソードに世界かもって?あのなぁ、横スクロール型のRPGなんだぞ?あれ?村とか長細いんだぜ?こんな立体的じゃないやい。

 

「なぁ!お前!」

 

だからな?エルソードの世界じゃないって話だよ。

で、この台何処かで見たことあるなーと思ったらONE PIECEなわけで。

んで?

 

「何?」

「おう!海賊王が処刑された場所って知らないか?」

 

麦わら帽子に赤いタンクトップ?に青い半ズボンを着た黒髪の少年はにかっと笑ながらそう尋ねてきた。

 

うわー、未来の海賊王様じゃないですか、やだー。

 

そう未来の海賊王こと、麦わらのルフィが目の前にいる。あーもう確定だよ、ONE PIECEの世界だよね?これ…目の前に主人公がいらっしゃるんですから。

 

「あー、そこだけど?」

 

そう言って俺は目の前の台を指差す。

 

「あ!ホントだ!ある!気づかなかった!」

 

え?バカなの?バカなの?この人。目の前だよ?え???バカか。

 

「サンキューな!お前!」

「別にいいぜ」

 

ルフィは笑顔でお礼を言うと処刑台に向かおうとしたが、突如として振り返った。なんだ?

 

「お前、名前は?」

「…………エド」

「そっか!エド!またな!!」

 

またなってまた会うつもりでしょうか?ルフィさん。

いや、まぁルフィはそんなやつだって知ってるからなぁ。

さぁて、俺はどうすっかなぁ。

俺はそそくさと走っていく赤っ鼻を尻目に、今後どうするか考える。

というか、この後雨が降るんだっけ?走ろう…え?ドライヴに乗っていけって?馬鹿野郎、そんな目立つことしてどうする!ドライヴがある時点で目立ってると?…余計なお世話だ!

 

というか俺の立ち位置が気になるなぁ。どっかの海賊団にでも入っているのか、賞金稼ぎなのか、はたまたただの一般人なのか。

考えられるのは、この体がある時点でエルメンバーもいそうだなって話だよ。エルスが船長でエル海賊団!とかでエルメンバー全員集合ってな感じで…何かワラエナイ。

どうすっかなー?船あるんかね?こっから早く出たいんだけども。

一応エドの記憶は俺には引き継がれてないわけでして、ぶっちゃけこの世界のエドさん何者?

 

「おい!」

 

バギーの船でも貰うか?

あいつインペルダウンに入れられるだろうし…アルビダの船は却下。あんな船嫌だよ。気持ち悪い。

 

「おいお前だ!」

 

いやバギーでも旗で勘違いされても困るしな…。グランドライン行くにしても小舟じゃ………あ、ドライヴ使えばいんじゃね?これ、ゲームと違って制限ないかもだし。あ、でも上への推進力があるかどうか。

ってか。

 

「なんだよ…お前も迷子か?」

 

どう見ても弱そうな男は、片手剣を手に持ち此方を睨んでた。

因みにここにいる人たちはきゃぁ!とか黄色い声をあげて離れてる。

はぁー。

 

「おいおい、物騒なモン持ってんじゃねぇよ、皆さん怯えてるぜ?」

「うるせぇ!お前、狂気の科学者だな!その首貰い受ける!!」

 

“狂気の科学者”?その首?

あー、嫌な予感が絶えない。というか、狂気の科学者ってエド実装時に紹介文に書かれてたやつだよな?あれは狂気の“天才”科学者だったけど。

いや、それより目の前のことだ。さっきこの男が俺の二つ名らしきことを言ったら皆がザワザワしていた。

こっそり聞き耳を立てると、“うそっ?あれが?”“見えねぇー”“何でこんなところに”とか言ってらっしゃる。

 

「お前、賞金稼ぎ?」

「そうだ!」

 

お、おう。そんな威勢張らなくても。

ってことは俺は賞金首ってわけだな。うん、詰んだ。俺の人生詰んだよ…非力な一般人として生きていくのが無理になったぜ……ドライヴがある時点で無理だって?うるせぇ。

俺の平和な人生計画がパーになってるところ、目の前の男が一枚の紙を取り出した。

そこに写ってるのは、まさに狂気の沙汰とも思える“笑顔”。そして【狂気の科学者 エド】と描いてあり、生死問わず…金額はっ……はぁ!?

思わず一瞬で男の目の前に迫り、その紙を奪い去りじっくりと見る。

男が突然俺が目の前に現れたのが驚いたのか、目を丸くして固まっていたがそんなのは無視だ。問題はこれ。

0が…1、2、3、4と数えて行く。何回数えてもその数は変わらず、目をこすっても数字が変わることはなかった。

 

「9000万………」

 

実に僅か8歳で賞金をかけられたニコ・ロビンを超える大金……。

エドさんよぉ…お前、一体何した?

 

「お前!突然移動したのは驚いたが遅れはとらん!かかってごばぁあっ!!」

 

手配書を見ながら、俺はギャンギャン喚く男をドライヴで吹き飛ばす。

男が建物にぶつかったせいで一部崩れ落ちたが、請求はそいつにして欲しい。

さて…俺はどういうわけか、賞金首なわけだ。生活するのには資金がいる。

賞金首を狙い賞金を稼ごうにも自分自身が賞金首。

地道に働いて平和な日常をと言っても賞金首を受け入れてくれる場所などあまりない。

海賊船から略奪するのにも、ここから出ていこうにも船がないし、略奪してもその金を置く場所もない。

俺は手配書をポケットの中に詰め込み、そのまま歩き出す。

皆がみな、道を開けてるのは言わずもかな、怯えてらっしゃる。

多分俺が一発で賞金稼ぎを倒したからだろう。まぁいいや。

 

「これからどうすっかなー…」

 

悩みながら歩いていると、雨がポツポツと降り出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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天才科学者はこの海に何を求める2話

 

 

 

 

 

 

 

 

さて前回からのどうしたかって言うと…え?メタい?うるせぇ。

 

結論から言うと麦わらん家にお世話になることになりました。

 

まさかの麦わらのルフィさんですが…まぁ死にそうなことがあっても多分生きてるだろうという生存ルート。死にそうになってもだ!!!

さて、どうやって俺がこの船に乗ることになったのかと言うと…ぶっちゃけ勧誘されました。

 

それは雨が降り出してからのことで、港に向かって歩いてると雷が後ろの方で落ちたんだよ。知ってたけど、いきなりだと驚くもんで慌てて後ろを振り向いて雷が落ちた方角見てたんだけどね、何秒後かにルフィとその仲間ゾロとサンジが走って来てて…あ、ウソップ達は雷落ちる前に俺の横を走り抜けてったよ。エレファントホンマグロを背負って、デカイよね、あれ。

あ?話それてるって?あー、うん。それでな、ルフィ筆頭に走って来てるわけだ…その後ろに海軍を引き連れてるわけだ……俺はなりたくなかったけど賞金首なわけだ。どうなるかわかるだろ?

 

一緒に逃げた。

 

まぁ、細かく言うと海軍が『あいつは!狂気の科学者!なんでこんなところに!?』みたいなことを口走ってたから、捕まるわけにもいかず逃げなきゃならないわけだ。

最初は走ってたけど、ドライヴがあることに気づきそれに乗ったわけだが…いつの間にか並走してたルフィに。

 

『お前、面白ぇな!仲間にならねぇか!?』

 

と勧誘されちまったわけだ。

んで、俺も海軍のセリフからどこの海賊団にも所属してなさそうなので、これから生きて行くのに困ってた俺としては断る理由もなく。

 

『おまっ!こんな時に勧誘なんか!』

『いいぞ』

『『いいのかよっ!!』』

『しっしっし!』

 

ゾロとサンジに盛大にツッコミを貰い、ルフィは笑っていた。

其の後出会ったスモーカーを振り切り(東の海で悪魔の実と言う名を知ってる人が少数なのにロギア系とかホント初見殺し)、ドラゴンの助けもあって麦わら海賊団の船、ゴーイングメリー号に乗り込み慌ただしく出発した。

 

んで、今はレッドラインに向かってる最中なのだが……俺の前で話し合い?が行われている。

 

「ルフィ!聞いてるの!?」

 

ナミさん、スタイル細すぎませんかね。折れない?その腰。何キロなの?気になる。

 

「あいつもいいって言ってるし、別にいーじゃんかよぉ」

 

そしてルフィさん、鼻ほじくりながら答えないでください。俺はその程度なのか?そういうことじゃない?ただのクセ?やめろよそのクセ、汚い。

 

「どっかで見たことあるような顔してんなとは思ったが…」

 

こんな時まで筋トレしてるんですね、ゾロさん。色んな意味で貴方凄いよ。

 

「見せろって…はぁ!?9000万!?」

 

それ、俺のポケットから取った手配書だよね?皺くちゃだな。

そしてサンジさん、驚いたのは俺もなんです。いくらなんでも最弱の海と言われる東の海で9000万はちょっと。

 

「よ、よよよよぉし!今から取り調べを行う!!」

 

ウソップ、無理しなくていいんだぜ?そりゃドライヴの操作方法、分かってる俺としては取るに足らん相手だが…ほぼ一般人だもんな、君。

で、どこから出して来たその机と椅子。俺は最初から座ってるけど。

 

「まず!名前は!?」

 

お、おう。手配書に載ってるのにか?

 

「エド」

「歳は?」

「16」

「出身地は?」

「東の海」

「その後ろに浮いてる奴は?」

「ドライヴだ」

「お前能力者なのか?」

「………………多分違う」

「なんでそこだけ応えるの遅いんだよ!!」

 

いやだってわからんし。

因みに俺の身長は168cm(エルソード公式設定)…ナミさんより少し低い程度。………あれ?涙が…?

 

「おめぇ、俺より年下なんだな!」

 

そりゃね、16ですから。17歳のルフィさんより年下ですよね。

それより聞きたい。何でみんな背が170を超えてんのかな?おかしいよね、おかしい!絶対!おかしい!

 

「ふーん、9000万だからどんな奴かと思えば、やっぱりまだガキじゃねぇか」

 

あんまり歳変わらないよね?吹っ飛ばしていい?このマリモ頭。

あ?だめ?そう。

 

「まぁ、ルフィが決定したことだしね…クルーの私たちにはとやかく言う必要ないわ…それよりレッドラインよ。サンジ君!舵取って!」

「はぁい♡ナミさ〜ん!」

 

愛の奴隷ことサンジが舵を取るために室内へと入っていく。

目をハートにするって初めて見た。すげぇ、どういう原理なんだろ。気にしてもしょうがないけど。

 

「おいガk「エド」……エド、お前の実力どんなものか試させろ」

 

え?は?それは決闘の申し込みで?

 

「それって決闘か?」

「決闘より、手合わせだな。そんな形式ばる必要はねぇ」

 

その前に何言ってんだ、ゾロさんよ。

このは船の上、俺はどうかわからんがお前は絶対マストを斬りそうだよな?

 

「別にいいが、後にした方が良さそうだぞ?」

「あん?」

 

だってほら

 

「でっけぇーー!」

「雲突き抜けてるじゃねえか!」

「これがレッドライン…」

 

そうレッドラインに着いたんだから。

尋問も後にしようか?海流に乗ったのかわからんが、段々早くなってるぞ。

 

「んじゃ、決意表明といこうぜ」

 

といってウソップが一つの樽を持ってきた。

決意表明?あー、あれか。

わらわらと散らばっていた麦わらの一味が全員集まる。あ、俺は動いてないよ。

 

「俺は屈強なる海の戦士になるために!!」

 

おう、ウソップはぶれないな。

 

「俺は海賊王に!!」

 

なるよ、きっと。ルフィならな。

 

「俺ァ、オールブルーを見つけるために」

 

オールブルーな、いいねぇロマン溢れる。サンジの手料理食えるかね?

 

「私は世界を回って世界一の海図を書くために」

 

ナミの書いた海図、いつか買うよ。

 

「俺は大剣豪になるために」

 

ゾロは凄い剣士だもんな、なれるさ。

 

 

……なんて心の中でそう言ってみたけど、まぁこの世界では会ったばかりだ。原作知識はあれど、重要なこと以外あんまり覚えてないしな。

心の中でそう考えてると、樽に足を乗せた、一見何してんねん状態な皆さんが此方を見てきた。あのねぇ、俺はさっき加わったばかりなんですが?

視線が痛い。律儀に一つ開けなくてもいいy「早くしなさいよ、この体制キツイんだから」……はいはい。

 

俺は無言で足を乗せる。さっきあったばかりの人をこんな一味の儀式めいたのに参加させるって…ホント麦わら海賊団優しいっ…!テゥンク…!

ふざけるなって?ごめん、言います言いますってば。

さて、何を言おう。こんな俺だが、夢がない。さっきまで別世界に(精神的には)いた俺だ。当然、夢もない。

 

どう…しようか…………あ、何だ簡単なことだ…俺は今科学者だ、あの狂気の天才科学者…きっとあのエドならこういう。

 

「くっあははははははははっ」

 

突然笑い出した俺に皆ギョッとするが…無視だ。

 

俺は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は-----------」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がいい終わった後、船長であるルフィが勢い良く叫ぶ。

 

「いくぞぉおおお!!グランドラインへ!!!」

「「「「おうっ!」」」」

 

 

 

 

くくっ、くはははは。いいねぇ、面白くなって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ、実験開始といこうかっ!!

 

 

 

 

 

 




おぉ、もう二人もお気に入り登録者がいてびっくりです。
因みに最後のセリフ、エドでゲームスタートする時のセリフです。エドのセリフの中で一番好きなのが、これなんですよね。
あとニュートロンを発動した後のボォンと言うセリフも好きです、あの余裕ですよと言いたげな感じw
いつか主人公に言わせたい。


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始まりは巨大クジラの胃の中な3話

 

 

 

 

 

 

 

よぉ、エドだ。

素敵な日々を送ってるか?

 

挨拶だけエドっぽくしてみたけど、俺ってエドっていうぶっ壊れキャラに当てはまらないんだよなぁ。なんでエドになったんだ!どうせならレイヴン……いや性に合ってないな、エルスはガキだし、もう一人は男の娘だろ。まぁぐちぐち言っててもしょうがない。

 

そんな俺だが、今はクジラの中にいる。つまり胃の中。

目の前に小さいバカンス的な島。

 

「な、何で胃の中に空があるのよ…」

 

そして上を見ると広大な青空が、いやそれはどうでもいい。

 

「よくないわよ!!」

 

声に出てた、だと…!

まぁどうしてこう俺たちがクジラの胃の中にいるのかというとぶっちゃけ船長さんが原因。ルフィの特等席であるメリー号の頭が破壊され、ルフィが怒りクジラに攻撃したから。

目にパンチ食らってもあまり痛がった様子もないラブーンって強い。

 

「これ、夢か?」

「…夢だろ」

「夢じゃなきゃなんだってんだよ」

 

ゾロとサンジとウソップ、仲良いな君ら。

まぁ夢だと思うよな。だってクジラに飲まれたら、空があるし(但し雲は先ほどから動いていない)、海もあるし(緑色をしている)、島と家があるし(あれ、洗濯物かね)、まぁ常識の範囲に入んないよな…。

けど、けどさ、夢ならいいけど、この目の前に現れたこのイカはなんだってんだ?

 

「「ダイオウイカだぁああああ」」

 

いや。

 

「どっちかっていうとクラーケンだろ」

「「どっちでもいいわ!!」」

 

あ、そうかよ。

ゾロとサンジが構え、ウソップとナミは逃げたというか倒れたが…ダイオウイカは巨大な三つのモリに刺され、死んだ。

俺?さっきから座りっぱなしだけど?どこに?勿論ドライヴに。

ドライヴ超マジ便利☆

島の上の家の中から頭に花を生やした爺さんが現れた。えっと、海賊王のクルーだったっけか?

その爺さんは、サンジと睨み合いながらビーチチェアに座り視線を外して新聞を広げる。

 

「いや何か言えよ!!」

 

ごもっとも。

 

「やるならやるぞぉお!こっちには大砲があるんだ!」

 

ウソップ、へっぴり腰じゃ説得力にかける。

爺さんが此方を睨むこと数秒、やっとのこさ口を開く。

 

「やめとけ、死人が出るぞ」

「へぇ?誰が死ぬって?」

「私だ」

「お前かよ!!」

 

やべぇ、あの爺さん面白ぇwww

お怒りなサンジを宥め、今度はゾロが質問する。

 

「おい爺さん、教えてくれ。アンタは何もんでここはどこだ?」

 

二人称って変わるんかな、変わるか。うん、変わるな。

また長いこと此方を睨んでから、口開く。

曰く、人に質問する時は自分から名乗り出るのが礼儀だと。

 

「そりゃそうだ、悪かった俺はロロn「私はクロッカス。双子岬の灯台守をやっている。歳は71歳…」あいつ斬っていいか!?」

 

いいともー!

いや、口に出してないよ。流石にこのネタはここでは通用せん。哀しきかな。

 

「ここが何処かだと?人のワンマンリゾートに勝手に踏み込んでおいて、よくそんな口が聞けるな」

 

ワンwマンwwリゾートwwwwwww

ここがやはりクジラの胃の中で、この空は絵ってことが判明した。

よく描いたな、こんなの。

 

「ちょっとした遊び心ってやつだ」

「いやアンタ何してんだ!ここで!!」

 

ごもっとも。

それよりどうやって描いたのか気になるが、まぁそれは置いておこう。

それよりデッカい鉄の扉が見つかったので、出て行こうかとゾロがナミに言った瞬間だ。

船が揺れた、それはもう盛大に。普通の人なら振り落とされてるぐらいに。俺はドライヴのおかげで並行を保ってられるからな…というか船から浮いてるからな、船に当たらないように気をつけてるだけで。

 

「始めたか…」

 

何をと言う前に、爺さんは言った。

このクジラ、ラブーンはレッドラインの壁に頭打ち付けてるらしい。

あんな巨大クジラに突進されても崩れないレッドラインすげー。

そんなこと言ってた爺さんは消え、代わりにルフィとあと二人が出てきて、水飛沫をあげ海(胃液)に落ちた。

 

 

 

 

さて、このミス・ウェンズデーとMr.9の二人だがこのクジラを狙って風穴を開けようとバズーカを構えたので彼奴らの後ろにテレポートして殴った。そりゃもう、顔と顔をぶつけて。

 

「なっ…」

「何してんだ、テメェ」

 

…いやぁ。

 

「何と無く殴ったんだが?」

「何と無く!?」

 

ウソップからツッコミを貰ったが、別にいいじゃないか、殴ったって。

するとゾロが睨んで来た、何だよ。

 

「どうやって移動した?さっきまで甲板にはいなかったじゃねぇか」

「…テレポート」

「………は?」

「だから、テレポートっつってんだろ」

 

テレポートはテレポートだ。

俺も原理とかあんまりわからんのだからしょうがない。ただ、ドライヴを触っていて転移先にドライヴがあるなら転移可能だ。まぁ、今俺ができるのは目の届く範囲だが…それでも十分だ。

ほぼ光速で動くドライヴは新世界の奴らじゃなきゃ捉えられないだろう…多分。

ドライヴの操作に関してだけ知識が残ってんだよなぁ、何故か。

 

「聞いた俺が悪かった」

 

…痛い子みたいに言われたよ。

いや、実際エドは痛い子かもしれないが、きっとこの世界のエドさんも悲しい過去があるんだって。

 

 

 

 

 

この後ラブーンの過去の話を聞かされた後、外に出るように爺さんが計らってくれた。

はへー、久しぶりの外だ。と言っても数時間しかいなかったが。

空気も美味しいねぇ。

 

「にしても、50年て凄いわね…」

「海賊達は帰ってこないのか?」

「ばーか、死んでるんだよ」

 

どうやら話を進めてたらしい。

というか、折れた船首の上に乗るってどんだけそこ好きなんだよ、ルフィ。

爺さんは言った。彼らはグランドラインから逃げ出したと。もうここには戻ってこないと。

 

「じゃぁ何で話してあげないの?聞けばこのクジラは止まるかも知れないし、何より人の言葉を理解するんでしょ?」

「一度は言ったさ」

 

だが聞き入れなかった。

人並みに知能持つのはちょっと悲しい。理解してしまうからこそ、拒絶し待ち続ける。泣ける話だねぇ。

 

「うぉおおおおおおおおおおっ」

 

んで、ルフィさん何を持ってクジラの背を並走してんのかね?

 

「…あれはここのメインマストじゃねぇか?」

「「…壊してんじゃねぇよ!!」」

「くくっ、ははははははっ、面白っww何でメインマストww他にもあるだろうがwwwwwww」

「アンタはアンタで笑ってんじゃないわよ!!」

 

ツッコミ受けた。どうやら俺はボケ専門らしい。ボケというボケしかしてない気がする。

ルフィが生花ァ!とか叫びながら血が吹き出してる場所に刺したが、ルフィが生花知ってることに驚きだ。生花みたいなのから無縁そうな顔というか性格してんのに。

それからはラブーンとルフィとの喧嘩。おぅ、怖い。あんな少し頭ひねっただけで人間(ルフィ)が飛んで行くんだから。クジラ、つぇえ。

 

 

 

 

 

 

 

さて、時間が経ち…ラブーンにルフィがライバル宣言した後。

 

「……絵、下手」

 

それでいて、よぉし!上手くできた!とか言ってるから、作者フィルターすげぇ。

今ラブーンの額?には麦わら海賊団のジョリーロジャーが描かれている。そうルフィの手によって。

そういや、前世(精神的に)で他から見れば下手なのに自分が描いたものだと上手く見えるとか言ってたな…絵が趣味の友人。比べればわかるが、自分の絵だけだと歪みとか少し歪んでるなー程度しかわからんて言ってた気がする。

ま、それは置いといてだ。絵を描く環境じゃないわけだ、ルフィはそりゃ下手だよな。

 

「……ま、皆が気にしてねぇならいいんだがな」

 

ポツリと呟き、椅子に座って本を取り出す。

この本はウソップから借りたやつだ。ある海賊の短編型冒険物語で、結構面白い。ウソップの嘘はここから来てるのかという物語もある。

隣でコンパスと海図を取り出し、この先の航海を決めようとしたナミだが、突然叫び出す。

 

「耳、痛ぇ…」

「こ、こここコンパスが壊れたっ」

「あーそりゃ大変だな(棒)」

「ちょっとは心配しなさいよ!!」

 

そしたら、愛の奴隷であるサンジが現れ、両手と足にエレファントホンマグロを焼いた料理が乗っている。

あれ?そこハシゴだったよな?どうやって登って来たんだよ。そんな状態で、まだ月歩覚えてないだろ。

 

「お前ら死ぬ気できたのか?」

 

死ぬ気ってややこしいよな。死にたいから死ぬ気なのか、死にたくないから死ぬ気になるのか…。

そうしてクロッカスがコンパスが壊れた理由とここグランドラインで必要になるログポースの説明をする。

 

「うめっえれふぁんとふぉんまぐろ、うめぇぞ」

「マジか」

 

エレファントホンマグロにかぶりつくルフィがそう言ったので、俺もちょいと一つもらい、ナイフで切りフォークで食べる。

あ?どこから出したって?そこに置いてあった。人数分な。

 

「う、うめぇ…」

 

なんだこれ、見た目じゃただ輪切りにして焼いただけなのに…高級和牛のような柔らかい肉の食感に旨味、そしてトロのように舌の表面から溶けていく、そしてサンジの特製タレかわからないがそれが妙にマッチしてて…。

なんだこれ、なんだこれ、ガララワニ的な?いや食べたことないけど。

手が止まらん、うめぇ。

 

「ふぅ…美味かったぁ」

「「全部食いやがった!!」」

 

はい!?もう全部食べたのか!?

骨も食べるってすげぇなその顎。

…取っといてよかった。というか後一口だ…残念。

 

「え、エド!それは…」

「ハッ、ルフィが食べてるのに気づかないお前らが悪い」

「あ、あ〜〜っ」

 

そう言ってウソップを横目に最後の一口をドヤ顔で食べる。ふはっ、うめぇ。

しっかりと味わい、ごくりと胃に持っていく。

さて。

 

「ご馳走様、だ」

「美味かったなぁー、エレファントホンマグロ」

「あぁ」

 

いやぁあ、美味かった。見た時から食べてみたいと思ってたけど、こんなに美味いとは。見た目からは想像できないな。

 

「お前ら…ナミさんに食べさせたかったのにぃ…このやろぉお!」

「「ぐほぁっ!!」」

 

サンジの蹴りによって吹っ飛ばされ、ルフィとぶつかり、地面を転がった。

いった!痛い!腰曲がった!!曲がってないけど!!

 

「サンジ、俺は一切れしか食べてない」

「関係ないわ!!」

 

え、えぇー。

 

「サンジ君…ルフィ、エド」

 

何やらナミさんがお呼びで。

サンジは怒り顔から笑顔になって振り返るが、肝心のナミが怒っていた。はい?

 

「…アンタらぁ…よくも、ログポースをっ!反省してこい!!」

 

あ、ログポース壊してたみたいだ。

サンジ、ルフィ、俺が海方面に吹っ飛ばされ、海に落ちる。

いやぁナミさんの蹴りは凄いな、男三人を吹っ飛ばすの普通はできないぞ。

あ、そういや気絶しない?やっぱ能力者じゃないのか。

 

ふぅ…これからどうなんのかねぇ。

 

ゆっくりと海面に向けて泳ぎながらそう考えてたが、ラブーンによって陸に打ち上げられました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




相変わらず変な所で端折るなぁ、自分。
エレファントホンマグロの感想は食べたらこんな味だろうなぁっていう作者の妄想。
確かあまり手に入らないって言ってたし、高級そうですし、アニメの作画が肉っぽかったので。
というかサンジ、輪切りってなんだよ…もうちょいアレンジしようぜ。


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歓迎の街で不確かな夢を見る4話

 

 

 

 

 

 

 

やぁ、エドだ。

 

人語を理解する賢いラブーンと元海賊王の船医のクロッカスと別れ、今はウィスキーピークに向かってるぜ。

何故ウィスキーピークに向かうことになったかと言うと、ラブーンを食料として狙った二人。Mr.9とミス・ウェンズデーがウィスキーピークに帰りたいと言ったからだ。まぁ最終決定はルフィだけども。

 

「いい天気になったな……」

 

メインマストの上、監視室というか部屋ではないからまぁ違うかも知れないが、そこでのんびりと空を見上げる。

さっきまで慌ただしかったもんな…雪降ったと思えば雷鳴る…と思えば方角が違う…慌てて方角を変えれば、春一番の風。そして目の前に氷山、霧、水漏れ、嵐。

とっと、下に降りる。うわぁ、伸びてんな…そりゃあんな動き回ったらなぁ。ルフィはピンピンしてるけど。

 

「あ?何だ?天気がいいからってだらけ過ぎだろ」

「ゾロ、起きたのか」

「おぅ、エドお前はだらけねぇのか」

 

ニヤニヤしながらそう尋ねてきたが、首を振った。

 

「いや、一歩も動いてなかったからな」

「は?」

(((こいつらぁ〜…)))

 

お、おにぎり残り発見。うん、塩加減が絶妙だ。

あ、ゾロが殴られたざまぁwwwごはっ!」

 

「アンタも同罪よ!!」

 

なんだと…?

いってぇ…タンコブできたぞ、こんちくしょーめ。

俺が涙目を浮かべながら頭を押さえていると、どうやらウィスキーピークに着いたようだ。

Mr.9とミス・ウェンズデーはかっこよさげに船の淵に降り立ち、そこから宙返りして海に飛び込んだ。無駄にかっこいい。まぁ、泳いで行ったからなんか締まらないけど。

 

ウィスキーピークはサボテンのような山がずらりと並んでいた。中央が割れ、川ができている。

船のまま中まで進んでいくと、たくさんの人々に歓迎された。

 

歓迎の街ウィスキーピーク。

海賊の俺たちを歓迎して、宴をしたいというマーマレードさん。え?名前が違う?気のせいだろ。

ナミがログポースについて聞くが、上手くはぐらかされ宴が始まった。

まぁ、着いた時点で夕方だったもんな。あっという間に夜になる。

ナミとゾロは酒に、ルフィは料理に、ウソップは英雄譚という嘘に、サンジは女に、皆それぞれ溺れながら楽しむ。

ん?酒が出てきた。

 

「ささっ、貴方様もどうぞ」

「あぁ、悪いな」

 

そうして生まれて初めての酒を飲む。む、葡萄の甘さが美味しいな。

ちょっとアルコールが入っているせいか苦いが。

思わず一気飲みする。そしてもう一杯と。頬に熱が回るが、頭は冴えてる気がする。

 

「いやぁ、いい飲みっぷりですな、三人共」

 

どうやら、酒飲み大会に参加してたみたいだ。よっし10万ベリーは俺のものだ。

ふへへ、いい気分だ。

酒を飲み続け、15杯目ぐらいでちょいと飲み過ぎたなと思う。胃がたぷたぷだ。因みに10万ベリー貰った、ラッキー。

ふふ、ふはははっははっははははは、はっ…。

ゴツンという音と共に俺の意識はフェードアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『母さん、父さんは今日も帰ってこないの?』

 

小さい白髪の少年が女性のスカートの裾を掴む。

少年とは違う透き通ったような白髪を持つ女性はこの少年の母親らしい。その女性は少年に向けて微笑む。

 

『えぇ。でも明日には帰ってくるって言ってたわ』

『ホント!?じゃぁボク、父さんに研究の手伝いさせてもらうよう頼む!』

『あらあら、貴方はまだ6歳よ?早いわ』

 

クスクスと女性は笑う。見てると安心するその微笑みを見ながら、少年はむすーっとむくれた。

 

『ボク、もう子供じゃないもん…それに父さんに貰った問題、全部解いたもん』

『え?アレを解いたの?あらまあ、貴方は天才ねぇ』

『ふへへっ』

 

くしゃりと少年は笑う。褒められて嬉しいのだろう。

 

場面が変わった。

 

小さかった少年が少しだけ大きく成長していた。年は…10歳ぐらいだろうか?背は低いが、確かにあの少年と女性の面影がある。

研究所のような場所で、白衣を着た男性と同じような格好をした少年がそれぞれ何かに取り組んでいる。

研究…と言っても生物に関してだろうか?顕微鏡を二人して必死に覗いてた。

暫くすると、少年が荒声をあげ自身の父親を呼び顕微鏡を覗くように言った。その父親はまさか!というような顔をして顕微鏡に目を近づける。

 

『と、父さん?』

『や、やったぞ!やったぞ!間違いなく、これは■■■の成分だ!』

『じゃ、じゃぁ!』

 

ぱぁあと少年と男性の顔が明るくなる。

 

『あぁ!研究が一段階先へと進むぞ!』

 

少年と男性が抱き合い、喜び合うところでまた場面が変わる。

 

今までのほのぼのとしたのと打って変わり、視界に広がっていたのは炎が舞う町だった。

その中で、12ぐらいの白髪の少年が茶髪の男性と白髪の女性の胴を揺する。

どうやら二人は寝てるようだ。死んだように眠って、ピクリとも動かない。

次第に少年の目に涙が溜まる。溜まった涙はポツリポツリと、地面に落ち小さいシミを作った。

 

『父さん…母さ、ん…うぐっ、ひぐっ』

 

必死に涙をこらえようとして、嗚咽のような声が漏れる。

そうか、この少年の父親と母親なのか…なるほど、死んでそれで悲しいんだな。他人事のように考えていた。

そう、他人事だ…他人の親が死んだからってこちらまで悲しくはならない。

だが、なんだろうか?この胸を締め付けられる感覚は……どこか他人事じゃない気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたのは発砲音が聞こえてから、重い頭をあげ辺りを見回す。

暗い部屋、確かに先ほどまでに宴を開いていたが今は俺たち以外誰もいない。

はて?先程まで夢を見ていた気がする。白髪の子供が出てきたとこまでは覚えてるんだが…まぁ、今はいいか。

外から発砲音と、怒鳴り声が聞こえる。どうやら喧嘩のようだ。

ナミももういないし、どうしようか。確かここって忘れてたけど、賞金稼ぎバロックワークスの島なんだよな…。

というか、唯一の賞金首である俺とルフィがここで寝てたってなんだよ。どういうことだよ。

あ、そういえば寝てるときってドライヴどうなんかねと思ったら、寝返りとかに合わせて移動するんだよこいつら。普通に寝転んだら前に、横になった横って風に。何か可愛いだろ、ルンバみたいで。

というか俺の10万ベリーがない。なんでだよ。返せよ10万ベリー…渡すつもりなかったのなら景品にだすなよ。

 

はぁ…さてどうすっかなー………とりあえず、このバカ三人組に落書きしとこう。

 

 

 

 

 

 

「くははははっ、こりゃ傑作!」

 

典型的な落書きをして笑う。

サンジにはヒゲとぐる眉の反対側にもつけたし、赤のペンで頬を赤くする。くっそwwサンジって一時期オカマ化するからな、やべぇ似合うwww

顔はいいんだ、本格的に女装すればあれ?と思うことがあっても男性だと気づかれにくいだろう。それにこの世界では女性も身長が高い。

さて、ウソップは鼻の先を赤くし、頬にナルト模様、くるりヒゲと長い長い睫毛を付け足す。額には王と書く。そげキングってな感じでwうんww完璧wwwww

ルフィは、あれ?いない?さっきまでいたのになんで?

まぁ、いっか。

 

気分を変えるために外に出ると人が倒れてた。そりゃもうゴロゴロと。

そこで寝てたら風邪引くってのに、知らないよ。

なるべく踏まないように屍(仮)を超える。たまに踏んづけてぎゃっ!みたいな声が聞こえるが気のせいだろう。

その時遥か前方で爆発音が聞こえた。確か、鼻くそ爆弾と全身レモンのオフィサーエージェントだったっけ?

行ってもやっつけてくれるし、それに眠たい…まだアルコールを分解し切れてないみたいだ。

 

「ふぁああ」

 

ここにいてもしょうがないし、船に戻って寝るか。

ああ、眠い。眠いせいかわからんけど、ドライヴがクルクル回ってる…落ち着けよ。クルクル回るなよ、背中に扇風機背負ってるみたいになってんじゃん。

 

「なんじゃこりゃぁああ」

 

あ、ルフィ。

 

「あ、エド!これ、誰がやったんだ!」

「ゾロ」

「なっ!」

 

だってゾロだもん。全部切り傷だし、俺のドライヴでは切り傷はできない…それに刃物を使うのはゾロだけだしな。

そう言ったら、ルフィはぽよんぽよんと腹を揺らしながら走って行った。よくあんなので走れるな。

 

 

さて、もう一眠りするか。

足腰痛いから、できればハンモックで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




早くもフラグ回収。
と言ってもまだエド編は先になるけども。
……って、あれ?今思ったらエドって自分から捕まりに行ってる希ガス。


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全ての日曜日と出逢うのは船の上な5話

三人称。


 

 

 

 

 

 

 

「何だ?クロコダイルも知らないのか?」

「で、どんなやつなんだ?」

 

賞金稼ぎ達が集まる秘密結社バロックワークス。

そのボスであるMr.0こと王下七武海クロコダイル。

その名をミス・ウェンズデー改め、アラバスタ王国王女ネフェルタリ・ビビの一人語りによって告げてしまい、アンラッキーズに似顔絵を描かれ、ルフィ、ゾロ、ナミは仲良くビビと共にブラックリストへ。

逃げ場を無くしたナミは涙を流し、ルフィはクロコダイルについてイガラムとビビに聞いていた。

 

「今では王下七武海であるため、懸賞金がかけられていないが…海賊時代の懸賞金は8000万だというそうだ」

 

イガラムとそう深刻そうに言うが、当のルフィはふーん、と腕を頭の後ろで組んで一言。

 

「なんだ、エドより下か」

 

それを聞いたイガラム、ビビ、ナミは絶句し、対象的にゾロは笑った。

 

「あっはははっ!!そりゃそうだ!あんなガキより下か……そいつ絶対たいしたことねぇ…だろ?ルフィ」

「あぁ!ゾロもそう思うか?」

「まぁな…けど、それより楽に勝てそうだよな?」

 

ニヤニヤと笑いながら刀をキラリと光で反射させる。

それを見たルフィはむーっと頬を膨らませ、ビシッとゾロを指した。

 

「ゾロ!俺が!そのクロコダイルをぶっ飛ばす!!邪魔すんじゃねぇぞ!」

「はっ!早い者勝ちだろ?」

「何だよ!譲らねぇぞ!」

 

ギリギリと顔が接触しそうなぐらいに近寄り、睨み合う。

口から出てくるのはそれぞれの戦闘スタイルへの罵倒。

 

「殴るしか能がねぇだろ!テメェ!!」

「お前だって斬るしかねぇじゃんか!!」

「「やんのかコラァ!!」」

 

「やめんかっ!!!」

 

ゴン!という音と共に二人とも地に伏せ、頭を抑える。

殴ったのはナミだ。目を鋭くさせ、高く上げた握り拳には熱が蒸発しているのだろうか?湯気が出ている。

しかし…ゾロはともかく、打撃が効かないルフィを殴り倒すなんてナミは強い。別に愛の拳でもなんでもないのに。

 

 

 

暫くし、バロックワークスに狙われることになったビビを逃がし無事アラバスタへと向かうため、イガラムは囮役を買って出た。

それはいいのだが、もう少し格好を…いやそれ以前に性別と体格が違うのだからまぁしょうがない。

この世界の住人はとにかく鈍いので遠目で見れば、ビビと見間違うだろう。

 

「無事にアラバスタへ、ビビ様」

「…っ…!…うん…!イガラムもね…」

 

そうして別れを告げ、船が陸を離れる。二人とも無事、アラバスタへと帰還することを願って。

 

 

何分経ったのだろう?

船が小さくなりかけてた時だった、激しい轟音と思わず目をつむるような光、そして吹き飛ばされそうな風が一斉に彼らを襲った。

一瞬、理解できず放心した。目を見開き、彼がいたであろう海面で燃える炎を瞳に映し出す。

 

「立派だった!!」

 

ルフィのその言葉でビビ除き全員が動き出す。

ルフィはまだ寝ているウソップとサンジの元へ、ゾロは一足先に船に戻り出港の準備を、ナミはまだ固まって動かないビビを連れて行くためにそれぞれ行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

錨を上げ、出港する。

因みにビビの相棒とも言えるカルガモのカルーは一足先に船に乗っていた。

何故、日が昇る前に出港しているのかわからないサンジとウソップをナミは殴り倒し、甲板に放置。

階段を下り、ナミは辺りを見回わす。

 

「あれ?エドは?」

「あー?そういえば、見てねぇな…」

「まさかっ、置いてきたのでは?」

「あはははっ、たった数日の付き合いだけど、あいつがそんなマヌケなこと……」

「しそうだよな…」

 

三人してやらかしてしまったのではないかと、顔面蒼白になるが…ルフィの一言によって元の色へと戻る。

どうやら、エドはこの船の室内で寝てるらしい。その事に顔をひくつかせ、笑うナミ。

 

「サンジ君といい、ウソップといい…エドまで…」

「あいつ、マイペースだよなぁー」

「お前に言われたくないと思うぜ?」

「なんでだ?」

 

ルフィが首を傾げてる時、東から日が昇りゴーイングメリー号を、照らした。

その少し幻想的になる気持ちと同時に追手から逃れることができたという安堵から、ふぅと息が漏れる。

 

「追手から逃れて一安心ってところね」

「そうねぇ、けどまだ油断ならないわ」

「それはいいことだけど、ちゃんと迷子にならないよう舵を取らないと」

「そんなの航海士である私に任せときなさいよ!」

 

そう自信満々に告げたナミだが…はて?自分は一体誰と話していたのだろうか?

不安が過ぎり、横にいるルフィに問いかけるが、ん?と首を傾げるだけ…じゃ誰が。

 

「いい船ね…」

 

声は後ろからだ!

全員が全力で振り返り、船の二階部分の手すりに足を組んで座ってる女性を見つける。

切り揃われた黒髪にカウボーイハットと西部劇場に出てきそうな格好。

誰だ?と首を傾げる中、一人だけ声を荒げた。

 

「アンタは!!」

 

ビビは恐怖と怒りに染まった顔でその女性を睨んだ。

女性はビビの睨みに臆することもなく、ただ頬杖をしてふふっと笑う。

 

「さっきそこでMr.8に会ったわよ?ミス・ウェンズデー…?」

 

妖美な微笑みでビビを見つめてくる。そこらの普通の男性や女性なら速攻落ちそうな顔だ。

だが生憎様、ここにいるのは、17歳のくせに何処までも純粋無知な麦わら少年や刀戦闘バカ、それに活発だが同じぐらい魅力がある泥棒、そもそもその女性を恨んでますよな王女である。

要するに、そんなの効かないメンツなのだ。まぁ、この女性もそんな考えもせず表へ出している表情だが。

 

「アンタが!イガラムを…っ!ミス・オールサンデー!!」

 

ミス・オールサンデー。

Mr.0…つまり、クロコダイルのパートナーである。

その名を聞けば、麦わら海賊団の敵だと言うこと。

ビビは何しに来た!?と叫ぶが、ミス・オールサンデーは少し面白おかしく微笑んだ。

 

「私が追手…と言ったら?」

 

その瞬間、皆一斉にミス・オールサンデーへと攻撃体制を取る。

いつの間にか起きていたサンジは鉄砲の銃口を頭に、ウソップは愛パチンコのゴムを最大限引っ張っている。

 

「サンジ、お前意味わかってやってんのか?」

「いや正直、俺にはさっぱり…」

 

「ふふっ、そんな物騒な物…向けないでくれる?」

 

ミス・オールサンデーがそう言った刹那、サンジとウソップの体は浮き下へと落とされた。

ゾロが持っていた刀も落とされ、さらにルフィの帽子も飛ばされ、ミス・オールサンデーの手元へと辿り着く。

 

「悪魔の実の能力者…っ!」

「お前ぇ!!帽子返せ!!やんのかこのヤロー!!!」

 

人知を超えたことをできるようにするのが悪魔の実の能力。

一生カナヅチになる変わりに得る能力。その能力は様々で、一つと決まっており見た目ではあまり判断しにくいものもある。

まぁ、殆どが自慢気に私は◯◯の実の能力者だ!と言う連中もいるそうだ。

ミス・オールサンデーはサンジとウソップを浮き上がらせ、ゾロの刀も落とし、ルフィの帽子を奪った。

何の能力か判断しづらい。そもそもよく原理がわからないので、この際は置いておこう。いつか開け明かしてくれるまで。

 

「貴方が最近騒がしてる海賊、モンキー・D・ルフィね?」

「それがどうした帽子返せ!!」

 

ミス・オールサンデーは次の島の危険性、この海賊団が全滅する可能性を示し、尚且つアラバスタへのエターナルポースを麦わら帽子と共に渡してきた。

この航路を選べば、楽に行けると。

 

「そんなのどっちだっていい!!」

 

ビビがどっちの航路を選んでいるか迷っていると、ルフィがエターナルポースを掴み、握り割った。

この船の者でもない奴が勝手に進路を決めるな、と。船長である俺が決めることだ、とルフィは怒る。

パラパラと硝子の欠片が地面に落ちていく。欠片が光と反射するその様は儚く美しい。

 

「そう…残念ね…」

 

そう彼女が言葉と裏腹に嬉しそうに言った時だった。

彼女が座る下の扉が開いたのは。

 

「何だ?やけに騒がしいけど…まだ眠いんだが」

 

光に照らされ少し光る白髪をガシガシと掻き回しながら、欠伸をする少年が出てきたのだ。

白を基調とした服装に猫耳フード、長い飾りかと思われるベルト、彼の後ろにはスマートな逆三角形のような機械がふよふよと浮いており、左眼には刺青だろうか?筋のようなものがついている。

眠たそうな眼が見開かれると電源マークが入った特徴的な瞳がジーッとこの状況を見つめた。

そう言わずもかな、最近仲間になったエドだ。

 

「あら、貴方は」

 

頭上から聞こえた声にエドは首を曲げ上を向いた。

そこには黒髪の女性、ミス・オールサンデー。

エドはこの船に乗ってない奴と瞬時に判断し、眉を顰め、睨む。

 

「何だ、テメェは」

「貴方がこの船に…予想外だけど、面白いわね」

「おい、一人で納得してんじゃねぇよ」

 

エドの話を聞かず、ミス・オールサンデーは一人でなにか納得した後、手すりから降り立ち、海の方へ歩いていく。

その途中、振り返りこの船の船長であるルフィに挨拶をしていく。

 

「じゃ、私はこれで失礼するわね、また会いましょう?」

「やっ!」

「ふふっ」

 

ルフィに会いたくないと言われたが、どこか面白そうに笑い、船から飛び降りる。

能力者が船から飛び降りるなんて死にも近いが、そんなバカなことをミス・オールサンデーがするはずもなく、船の横には彼女の船と思われるモノがあった。

 

「行くわよ、バンチ」

 

亀、だったが。

バンチと呼ばれた亀が船が進む進路とは逆に泳いで行った。

 

「でけー亀だなぁー」

 

一味全員その亀を見送りながら、結局なんだったんだ?と首を傾げた。

 

(というか俺のこと知ってそうだったな…手配書からか?ん?)

 

その中で一人、首が折れるのではないかというぐらい首を傾げている白髪の少年がいたが。

 

まぁ何にせよ…ミス・オールサンデーはミステリアスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




全ての日曜日が集まったらどれぐらい休めるのでしょうか?


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船長の決定には従うのがクルーよね6話

ナミ視点


 

 

 

 

 

 

 

正直わからない。

 

目つきが悪いし、白髪。それに背中に意味不明な機械が浮遊している。

本人はドライヴと言っていた。

それはあの機械の名称だとわかるのに時間がかからなかった。

 

そいつが来たのは、ローグタウンでのこと…海軍に追われ、嵐が襲ってきたので私達はすぐに出向した。

 

いつものメンバーと変わらない。

 

サンジ君が加わったのは最近だけど、本当の意味での仲間に加わったのは私の方が後。

サンジ君は本当に使い勝手がいい、みかん畑を守ってくれるし、料理も美味しいし、強い。え?それじゃ道具みたいだって?みたいに扱ってるのよ。それに、女の人に弱いサンジ君が悪いし。

 

まぁ、その話は置いて…問題はほんのつい最近に加わったエドという白髪の少年。

私より少し背が低いし、年も下…それに目つきが悪い、ゾロと比べろと言われると同じぐらいと答えるほど…。

怖かったわよ?だってアーロンより賞金が上…どんな化け物だってね。

 

エドは懸賞金9000万ベリーの大物賞金首。でも、どこの海賊団にも所属していない。

賞金をかけられたのは、今から四年前のこと…エドが12歳のときね。

私も結構幼かったけど、そのときにはすでにアーロン一味に加わってたから、アーロンが話していたのを盗み聞きして得た情報なの。

今でもその会話は覚えてるわ。

 

『シャハハハハっ!見ろよオメェら!』

『どうしたんです?』

『今日の新聞に入ってたんだけどよぉ、この金額!この年にしてこれだ』

『にゅっ!凄い!』

『こりゃぁ、ニコ・ロビンを超えての初期金額…将来大物になるなぁ、チュ』

『仲間にしてぇが、残念なことにグランド・ラインだ…シャハハハハハハハっ!』

『どこに笑うところが…』

 

そうグランドライン…。そう言ってたはずなのよ。

だけどね、当のエドは出身地を東の海と言ったのよ。

何か怪しい。

 

まぁ、船長であるルフィが連れてきたのだから、悪いやつではないと思うのだけど。

 

海図を描きながらそう思考する。

羽ペンの先を黒いインクに浸して、見てきた海を描く。

今、描いてるのはウィスキーピーク。歓迎の街ではなく賞金首の街だったけど、当の本人達は根っからではないけど優しい。ビビを助けようとして行動してたのだから。

定規を動かし、ペン先を走らせる。滑らかに、それでいて力強く、繊細に、ブレがなく。

そうしてウィスキーピーク周辺の海図が完成した。

 

「ふぅ…」

 

羽ペンを置いて、一息する。

ペン先に神経を尖らせていると、どうしても精神がゴリゴリと削られる感じがする。

けど、楽しい。

完成した海図を紐に取り受けた洗濯バサミに挟み、乾かす。

挟む前にインクを乾かさないとインクが垂れてきて台無しになるけど、垂れてこない程度にはもう乾いている。それは確認済み。

干された二つの海図を見る。

 

リバースマウンテン、双子岬。

 

そしてウィスキーピークの海図。

 

たった二つ。それだけだけど、この海図を私が描いた…そう思うだけで心が満たされ、踊る。

このまだ本やベットだけの部屋だけど、いつか私の海図で埋まるとかんがえると幸せな気分になるし、頑張ろうと思う。

 

「ナミさぁん」

 

この声は、サンジ君ね。

なにかしら?

私は部屋から外へ出て、この船のリビングルームと言える場所へ向かう。

その途中で、部屋から出てきたサンジ君とバッタリ会い、私を見ると微笑み、サンジ君は盆と呼ばれる平たい器に乗せたドリンクをこっちに渡してきた。

 

「特性ドリンク作りました。どうぞ」

「ありがと」

 

私も微笑み返して、それを受け取る。

 

「あ、俺は彼奴らに配ってくるんで、ビビさんにも渡してくれません?」

「いいわよ?」

 

そう言って、もう一つのドリンクも受け取り、ビビの元へと歩く。

サンジ君はその間、下にいる男どもに配っていた。

チラリと下を見る。ドリンクはどうやら少しアルコールが入っているようで、何杯も飲んだカルーは酔って倒れていた。それを笑う、ルフィ、ウソップ、サンジ君、そしてエド。

皆と同じように笑っている白髪の少年。険しい目つきは何処へやら、その笑う姿は年相応に見える。

 

(そういえば、エドってこの中で一番年下なのよね…)

 

なのに、何故か彼に敵わない気がした。

戦闘面じゃない。そりゃ私は航海術しかできない一般人だし、化物じみた彼奴らみたいに戦えないもの。

違うの、内面での話。

ここ数日でわかったことだけど、何処か大人びて落ち着いてる。

クジラに飲まれた時だってのんびりと空を見ていたし、ウィスキーピークだって普通にお酒飲んで寝てたし、ミス・オールサンデーと出会った時だってハテナマークを頭上に浮かべてた気がしたし………あれ?

 

(これ、ただバカかアホなだけじゃ…)

 

…考えるのやめた。

ビビにドリンクを渡しながら、ちゃんとログポース通りに船が進んでいるか、確認する。うん、まっすぐ進んでるわね。

先に少し黒い影が見えたので、あれがリトルガーデンだろう。

リトルガーデン…かぁ、どっかで聞いたことある気が…ま、今考えてもしょうがないかっ。

 

兎に角、彼は謎だらけ。

ルフィがローグタウンで、逃げてる時に勧誘して即OKだってゾロに聞いた…その時は賞金首と知らず、彼の逃げ方が面白かったから誘ったらしい。

それにルフィが処刑台に向かう時に会ったらしく、道を教えてくれたとか。

うん、謎よね。

 

「島だ!!」

 

ルフィがそう叫ぶ。

これからも、ルフィって島が見える度に島だ!!島に着いたぞ!とか言いそうよね。

…それは置いといて、ログポースをもう一度見る。赤い指針はその緑溢れる樹海の島を指していた。

間違いない。

 

「リトルガーデンよ!」

「うひょぉおお!着いたぁ!!リトルガーデン!!!」

 

船首に座り、笑顔で声を上げる我が船長。ホント、子供みたいだわ。

そして、その横で無表情ながらも顔をキラキラさせて樹海を眺める、黒髪と対照的な白髪。

 

 

……散々、悩んだけれども、船長の決定。

 

 

それに今はビビを送り届けることが先決よね。

 

 

 

 

 




お気に入りが40件超えた、だと…?エドさん好きな人が多くて驚きです。

たとえ、賞金が自分より高くても、自分より強くても、仲間にしたいなら勧誘するのが我らが船長。
そんなルフィを信頼しているからこそ、得体の知れないエドを受け入れることができたんだと思うんですよね。


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狩り勝負は緑生い茂る大自然の中で7話

 

 

 

 

 

 

 

 

リトルガーデン。そんな名前なのに、どこもリトルじゃない島だ。

木は10m以上あるし、川を伝って中流へ行こうとした途中に見た虎だって、いやもうタイガーって感じだった。

サンジを捕まえようとした鳥は人を持って飛べるぐらいのデカさはあると見た。

さっきからギャァギャァという鳴き声もうるさい。ここはどこぞのジュラシ○クパークか!!

 

「サンジ!海賊弁当!」

「了解」

 

目をキラキラさせながらそうサンジに声をかけたルフィは、冒険!冒険!と飛び跳ねている。

それを見たビビもルフィと共に島を見てみたいと言い出し、サンジにもう一人分の弁当とカルーの特性ドリンクを頼んだ。

さすが、敵の組織であるバロックワークスに潜入していた王女である。アグレッシブだな。

 

 

 

本から顔を上げて、樹海とも言える森を見る。どう見ても大昔の植物ばかりだ。木の根元に生えてる、あのシダ。デカすぎる…。この世界はわからないが、今現在はあんなにでかくない。というか雑草に紛れていたらわからないぐらいだ。

なのに、俺はここにいるぜ!というばかりのデカさ。胞子でさえ、目で捉えられる。

 

「はいよ。海賊弁当二丁に、特性ドリンク、準備OKだ」

 

少し吸ってからフゥーとタバコの煙を吐き出す。

その様子さえ様になるんだから、黙ってればいい男なのになぁ…残念すぎるぜ、サンジ君よぉ。

 

ギロッ。

 

……今、睨まれた気がしたが…気のせいだろう。

本に栞を挟んで、椅子から立ち上がる。横にそれていたドライヴがクルッと一周して定位置に戻る。いやそのエフェクトいる??まぁいいや。

さて、俺も散歩に行きますか。

 

「ちょ、エド!どこ行くのよ!」

「あー、ちょい散歩だけど」

 

は!?と驚いて固まっているナミ。隣にはウソップもいる。君ら仲良しだな。

その間に船から飛び降りて、辺りを見回す。やっぱ、デケー。

トン、という音が隣から聞こえてきた。振り向くと、この森の緑より明るいグリーンが視界に入った。…ゾロか。

 

「お前はどこで判断してるんだ!」

 

あ、見てたらしい。

曲げていた腰を上げて此方を見下ろしてくるゾロ。

 

「お前も散歩か」

「おう、ぶらぶらとな」

「迷子になるなよ」

「なるわけねぇだろ!」

 

そういうこと言う奴ほど、迷子になりやすいんだよ。フラグ立ててどうするんだ。

いざ森へ入ろうとすると、サンジが声をかけてきた。曰く、食料となる肉を取ってきてほしいとのこと。

…肉か…さっきの虎みたいなのでも美味いのかどうか。

どんな食料を取ろうか考えていると、いつの間にかゾロがサンジに喧嘩を吹っかけ、どっちがデカイ肉を取れるかという勝負になっていた。

 

「もちろん、お前も参加な」

 

ゾロにそう言われ、思わず振り返る。いや待て!今、ものすごくサンジVSゾロ!的な事になってたじゃん!

俺の心とは裏腹に、二人の喧嘩はヒートアップし、左右それぞれ別れて行った。はぁ…どうしてこうなるのやら…。

俺は二人とは別の道、真ん中を行くことにした。被っても嫌だしな。

ただ、こんな雑草だらけの場所を行くのは少し抵抗があるので、ドライヴを操り土台を作らせ、その上に乗って進む。途中、後ろからナミの制止する声が聞こえたが、無視した。

 

 

 

 

 

茂みの中を進む。途中、水辺がありその中を悠然と泳いでいるアンモナイトやカブトガニを見つけて、予想は確信に至る。というか思い出した。

リトルガーデン…確かMr.3が襲撃してくる島で、太古の島。うん、それなら大昔の植物が生えてても何もおかしくない。

グランドラインは、それぞれ島が磁場を持っていて、孤立している。季節も違うし、技術も。そんでもって、ここは太古がそのまま外に触れず、残ったという島なんだよな…そうビビが言ってた気がする。

 

 

上から何かが降ってくる気配がして、一歩後ろへ下がる。

ズドンっ!!!という音と共に、巨大な群青色の丸太が落ちてきた。

 

いや、丸太じゃなく…首だ、これ。

 

綺麗に切断されてらァ…誰だよこんなことしたの、と上を見上げるとグギャギャギャと奇妙な笑い声を上げながら笑う、巨人がいた。おぅふ、でけぇ。

その巨人の手には巨大な剣が握られており、それは若干古びている。

なのに、切れ味が良すぎじゃなくて?

その巨人は終始笑いながら、去って行った。少しルフィの笑い声も聞こえたが、全く行動が読めない気がするその巨人が遠くに行ったのを確認すると、この首長竜の胴体を探す…が、ない。

…単純に考えて持ってかれたか。うーん、まぁ生首だけでも貰おう。

 

「あ」

 

持ち上げようとしてあることに気づいた。俺ってどれぐらいの力あるんだろう、と。

今の今まで特にすることなかったし、戦闘らしいこともしてない。逃げるかぶっ飛ばしただけだ。

もしかしたら、ドライヴに頼りきりでエド自身体力をあげてなかったとか…ありえそうだな…科学者だし。

 

「一応、持ち上げてみるか…よいしょっ!?」

 

…一瞬驚いたが、なんとか持ち上げる。

重さは…重いけど、動けないほどではない。

うーむ。無意識に力の制御が出来てるらしい。

だってそうじゃなければ、今頃メリー号に穴が空いてる。

まぁ、ありがたいことには変わりない。こんな死亡フラグ真っしぐらな世界で生きられる程には力あるのだし。

 

 

 

 

長い生首を引きずる。ズリズリという地面の擦れる音に紛れて、他の動物が俺を追いかけこの肉を狙っていた。

狙ってはいるが、襲ってこない。この首長竜の顔や首には歴戦の戦士みたく切り傷がたくさんある。多分、この島では強者に値するのだろう。

んで、それを仕留めた俺を襲わないと…なるほどなるほど。

 

「ま、襲ってきたら肉にしてやるが」

 

そう呟いてニヤリと笑うと、皆慌てて逃げ出して行った。

…ちょっと傷つく。

そんなに怖い顔なのだろうか?と片手で首を引きずりながら、ふにふにと頬を触る。

エドはまぁ確かに、気を確かにしろ!と叫びたくなるほどの狂った笑いをしていたが、怖い程ではないはずだ。

むしろ、この世界のドフラさんよりマシ。まぁあの人の笑い方好きだけども、どうみてもハワイを観光しにきたヤクザのおっさんですよ!的な格好してるけども。

それより、猫耳フードの方がマシだよな!

 

 

ズルズルと引きずること数分、ゾロとサンジに出くわした。

 

「「「あ」」」

 

お二人さんは自身が狩った獲物をを並べて自慢し合う。

俺はどうでも良かったが、この二人にとってこの勝負は重要なことだから大人しく傍観しておく。

俺の方が大きい!いやこっちの方が肉付きがいいね!とか言い合っている。何で仲良くできないんかねぇ。

 

…俺は自分が持ってきた首長竜の首を二人が持ってきた、肉食竜と草食竜の上に乗せる。

ドンっ!という音と共に置かれた首はその2匹の全長を容易く超え、飛び出ていた。

 

「…長さは俺の勝ちだな」

「「なんでだよ!!」」

 

おぉ、凄まじいツッコミ。

だが、どうしてだい?

 

「首だけなんぞ認めねぇぞ!」

「そもそも胴体はどうしたんだよ!」

「巨人に持っていかれたんだよ」

「「巨人いるのかよ!!」」

 

「そもそもこんなでかいのどうやって倒した?」

「斬り傷だが、お前は剣を持ってねぇよな?」

「巨人が倒したのを拝借した」

「「自分で狩れよ!!」」

 

順にサンジ、ゾロ、俺、お二人…戻ってサンジである。

ゾロとサンジのツッコミは今日もキレキレだな…。

お二人は俺の生首を除外したらしい。俺はランキング3位ってことが決まったようだ…いや、何のランキングだよ。

その時、三つある火山の中で真ん中の火山が噴火した。溶岩は流れてきていないが、頂上から火山灰が噴出されていた。降ってこなきゃいいけど。

 

「よし。あの火山がもう一度なるまでが期限で、もう一勝負しようぜ」

 

そう提案したのはサンジ。それを即座に飲み込むゾロ。そしてそれを断ろうとしたらサンジとゾロに睨まれ、泣く泣く続行することになった俺。

俺達はまた来た道を引き返して、獲物を探す。

サンジとゾロの喧嘩腰は変わらず、別れるまで怒鳴りあっていた。

正直、あの二人といるとしんどいのだ。終始喧嘩腰。協力し合うのはツッコミと戦闘の時だけ。

まぁ…喧嘩するほど仲がいいと言うが…ほどほどにして欲しい。

 

………はぁ…もう勝負しなくていいかな。

 

俺は空を見上げ、此方に突っ込んでくる巨大な鳥にドライヴを向けながら、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 




リトルガーデン編を大体3話にわけて書こうかと思います。
…この調子でたった3話で終わるのかは疑問ですが。

け、決してMr.3に因んで3話分でとか思ってないよ!


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午後のティータイムにはアールグレイを8話

約一ヶ月ぶりですね


 

 

 

 

 

 

 

いやはや、ドライヴが長距離攻撃可能になってて驚いた。

ゲームじゃ中距離ぐらいだったのに、枠にハマらないってすげぇな。

 

「しっかし、何処に落ちたんだ」

 

狩り勝負第二弾が始まってすぐに俺に向かって来たデカイ鳥を、俺はドライヴの電磁砲で撃ち落とした。

ゲームの中でエドが脚でドライヴの中心を蹴って、攻撃してたあれだ。よくて遠距離かな?と思うぐらいの中距離攻撃…だと俺は思ってる。

強攻撃でもあるあれは連打してたら、ホントうるさい。ずっと“せぃはぁ!くらいなぁ!!”が流れるんだから、いや使用だとわかっててもさ。

え?コンボ繋げて変えたらよかった?俺、ダンジョンとか入ったら何も考えずに攻撃ボタン連打派なんだ…決闘したらすぐやられます、ハイ。

 

---ドォォオン…!!

 

お?さっきからの地響き収まったな…。結構うっとおしかったんだけど。

それはさておき、話を戻すが絶賛俺はあの怪鳥を探してる。何で怪鳥かって?闇雲に変な奇声をあげて突っ込んで来たのが、イャン◯ックとかゲリ◯スとかを思い出したからだよ。いやぁーこっちに来る前に撃ち落とせてホント良かった(遠い目)

俺はあの鳥が、首長竜には届かないがトリケラトプスっぽいのとティラノサウルスっぽいのと同じぐらいの大きさだと思っている。これぐらいなら却下とは言われないだろう。

今夜は肉かな?こんなに狩っちゃってるのだし…生態系崩したり…しないか。この島での現頂点はあの巨人二人だしな。って、あ。

 

「やっとか」

 

木々を倒して倒れてる怪鳥を見つける。白目を向いてだらしなく舌を垂らしたそいつは気絶していた。

 

「クククっ、間抜けな顔だなぁ」

 

さぁて、絶命させてお持ち帰りと行きましょうか。

怪鳥に近づき、長い首の丁度中間部分へと歩み寄る…が。

 

「グゲェエエ!!」

「っと!」

 

急に持ちがあった首と聞こえた奇声で俺は地面を強く蹴って後退する。

前を見ると息を荒くしながらも、立ち上がっている怪鳥がいた。

なんで立ち上がってんだよ!今まで通りに気絶しとけよ!

そう文句言っても仕方ないので、ドライヴを戦闘モードに移行し構える。相手は怪鳥だとしても油断は禁物。ただのデカイ鳥というか、ああいう何考えてるかわからない生物ほど、行動を読むことができない。

…こう戦闘のこと考えてるとか、俺ってばこの世界に馴染みすぎじゃね?

 

「考えても仕方ねぇか!」

「グゲゲゲゲェエエ!」

 

怪鳥が勢い良く奇声を上げて突っ込んできたので、ジャンプ。そして更にドライヴを踏み台にしてジャンプして交わした。所謂二段階ジャンプ。

おぉ、いい眺めだ。

怪鳥が俺を見失っている間、即座にドライヴを足元に展開、それを踏みつけ精一杯踏ん張ってからまた飛び上がる。そうすることで、下に電磁砲が発射されるからな。

空中で一回転してからドライヴの上に降り立つと、怪鳥はグゲェ!と俺の方を見上げていた。

どうやら、攻撃が当たったらしい。結構怒ってるが、厳しそうな声を上げてる。あと一発かな。

 

「ゲゲゲグゲェッ!」

「よっと」

 

怒った怪鳥は翼を広げてまたもや突っ込んでくる。…もうこいつ突っ込むしか脳がないんじゃね?

それをジャンプで交わして、軽やかに地面に着地。そして飛んでいる怪鳥へと標準を合わせて、ドライヴ展開、勢い良く蹴り上げる!

 

「グガっ…!」

 

電磁砲が当たった怪鳥は口から血を吐き出し、落下。

地面に身体を打ち付け地響きを発生させる。

クク、命中。

 

「結構、スムーズに終わったな」

 

俺の初の戦闘らしき戦闘は終了。終始ポケットに手を突っ込んでいた数分間でした。

これを運ばなきゃいけねぇのか。うーん、めんどくさいなぁ。

怪鳥の頭を持ち上げ引きずる。首長竜の首より重い…ってそりゃそうか。

 

「船まで遠いな…」

 

ハァ…仕方ねぇか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズルズルと怪鳥を引きずっていると、真ん中山の火山が噴火した。

タイムリミットかぁ、早々に狩れてよかったな。って、何気に狩り勝負楽しんじゃったし。

まぁ、二人とも俺のことなんて気にしてなさそうだしな。あれ?俺、ハミゴ?

そうしているうちに船に着いた。船の前には巨大なトカゲもといティラノサウルス。ってことは、サンジか。

ティラノサウルスの横に怪鳥を置く。うーん、首の分でこっちの方が長いけど、肉でいうなら少ないな。ほとんど羽だし…。むむ、俺の負け?

 

「お?エドか」

 

船からちょこっと顔を出し、此方へ話しかけてきたサンジの声に気づいて上を見上げる。

サンジは確か19歳だったよな…前世?の俺と同い年くらいだ。うん、その歳で一流コックだなんてやっぱ天才か?こいつ。

 

「どうだ?長さじゃ俺の勝ちじゃねぇか?」

「いやいや、鳥は羽が多いし、調理するところが胴体以外にあまりない。今んところ最下位だ」

 

それは、俺が狩ってきたティラノサウルスより下だ、って言いたいのか。いやわかってたけど、ムカつくな。

というか、サンジさん…こんなところで休憩してていいんですかい?多分、貴方の麗しのレディ達は蝋燭で固まってる途中だけど。

 

「ところで、エド。ナミさん達見なかったか?」

「見てねぇな、どうかしたか?」

「ん?いや、ちと遅いなと思ってな…」

「それはそれは、何かあったかもなぁ?」

「お前もそう思うか?やっぱ、仕込みとか考えてる場合じゃねぇのかも」

 

あらよっと、と船を飛び越え俺の前に着地する。

 

「どっか行くのか?」

「あぁ、麗しのレディ達を探しにな」

「お供するぜ」

「供するって面じゃねぇだろ」

「ククッ、かもな」

 

お互いに軽口を叩き合いながら、ジャングルの中を進んでいく。

デカく成長した雑草達に足元を救われそうになったりしたので、ドライヴに乗って歩く。え?ドライヴにのっているんだから歩いてないって?細かいことは気にすんなって。

 

「しっかし便利だよなー、お前のそれ」

 

“それ”と言われても正直わからなかったが、“便利”という言葉でドライヴとわかる。

 

「ドライヴか?」

「“ドライヴ”って言うのか。椅子になったり、歩行手段になったり…攻撃できたり。便利すぎやしねーか?」

「こういうものだ」

「そういうもんか」

 

まぁ確かに便利だ。攻撃手段としても、長距離近距離オールラウンダーである。ゲームじゃ能力値でいうと魔法攻撃力重視っぽかったけど。

しかも、このドライヴ。USBメモリよろしく電気機器に繋げられるコード付きだ。ドライヴ自体がコンピュータでもあるのだから、ドライヴ通じて他のコンピュータをハッキングできたりする。俺はそんな能力ないからできないけど、エドさんならできそうだよな…普通に。というか、この世界にコンピュータ…あるわ。

 

「ガァアアっ!ギャィン…!」

 

視界の端に何かが飛んで来たので、ドライヴを展開して構える前に、サンジが蹴っ飛ばしてしまった。

よくよく見てみると、それはサーベルタイガーで今で言う模様のない虎だ。勢い良く木にぶつかったそいつは、頭の上にできたタンコブを抑えて涙目になっていた。妙なところで人間臭いな。

 

「丁度いい、足にするか」

「は?」

 

サンジはニヤリと笑って、サーベルタイガーに近づき自身の足をちらつかせながら、何か喋っている。

ん?脅しか?動物って人間の言葉わかるんかね…謎だわ。

 

「ガァ」

「よしよし、いい子だ」

 

トントンと子供をあやすかのようにサーベルタイガーの首筋を叩く。だがそれはそんな優しいものではなく、いつでもお前の命は取れるという意味だ。

動物相手にえげつねぇ。いや、猛獣だけどさ。

サンジは大人しくなったサーベルタイガーの上に飛び乗り、前進させる。

俺は乗せてくれないのね。

そう抗議したら、お前には“それ”があるだろうと。ハイハイ、ドライヴですね。便利便利。いやね、ちょっと古代の生き物の上に乗って見たかったなんて思ってないよ?子供の時の夢だなんて思ってないからね?

 

「ナミすわぁん!ビビちゅわぁん!」

 

サンジがそう叫びながら進んでいる横を俺はドライヴで並走する。

俺も座りたかった…ってあ、座りながら移動できんじゃね?これ。

さっそく試そうと、ドライヴを動かしできた簡易椅子に座って前進させる。おぉ!できた!すげぇ!

 

「おまっ…そんなこともできんのかよ」

「たった今な」

「それあれば、重いものもスムーズに運べるな」

 

…ハッ!確かに!

サンジあったまいいな!俺は思いつかなかったぜ。

 

そんなこんなで、進んでいると一つの奇妙な建物に着いた。それは白く四角い部屋のようなもので、壁面は結構凸凹していた。

む?これって。

 

「Mr.3の…」

「ん?Mr.3ってのは?」

 

思わずと言った感じで呟いたのだが、聞こえてたらしい。

サンジがMr.3のことを聞き返して来たので今時点で持っていて不自然のない情報を与える。

 

「ビビの言ってたバロックワークスのオフィサーエージェントだ」

「あぁ、ビビちゃんの」

「そのMr.3の能力は知ってたからな、この家のようなものを見て確信した」

「ここにMr.3が追手として来てるってことか」

 

俺はその言葉に頷き、白い建物にある扉を開ける。すると紅茶のいい匂いがしてきて、思わず頬が緩みそうになったので慌てて引き締めた。

 

「アールグレイか…いい茶葉使ってんじゃねぇか」

 

テーブルクロスの上に置かれたティーカップに手を付け、紅茶の香りを嗅いだサンジはそのままティーポットへと手を伸ばし、手慣れた手付きで紅茶をカップへと注ぐ。

二つのカップへと適量に注いだサンジは、片方のカップを此方へ差し出してきた。俺はそれをどうも、と返事をして受け取り蝋燭でできた椅子へと足を組んで座った。

受け皿からカップを持ち上げ、香りを嗅いで口をつける。うん、うまい。ほのかな甘みが絶妙で、一気飲みしてしまいたいが、それを抑えて一口ずつ味わって飲む。

あれ?俺って紅茶、好きだったっけ?

 

「そういうのは様になるんだな」

 

急にサンジがそう言ってきたので、顔を上げ、同じく紅茶を飲んでいるそちらを見るが煙草に火を付けてる最中だった。

新しい煙草からくる煙を吸い込んで、吐く。部屋中に煙草の煙が充満しそうになるが、硝子がない窓から空へと登っていく。

昔は煙に嫌悪感があったが、今はこの匂いは好きな方だ。サンジはヘビィスモーカーかと思いきや、そんなに重いものを使ってないらしい。鼻をくすぐるこれは思いの外、さらさらしていた。

 

「こう見るとどっかのお坊ちゃんかと思っちまうが、そーでもなさそうだな」

「それはどうも」

「いや、褒めてねぇよ!」

 

その時何処からか、プルプルプルと呟く声が聞こえた。

その声は少し不気味だが、何処か機械的で一定の音程でしか聞こえない。この世界では良く聞く声でもある。

音の発信源をサンジはすぐに見つけ、テーブルの上に置く。大きな蝸牛のようなそれは、殻に“Mr.3”と書かれてあった。

 

「電伝虫か…」

 

俺がそう呟いたのを機に、サンジは迷いなく受話器を取った。

すぅと息を吸って一言。

 

「へいまいど。こちらクソレストラン、ご予約で?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アールグレイ?飲んだことないですよ!
エドって紅茶とか、コーヒーとか似合いそうですよね。ただ、本人は甘いものが好きらしいです。科学者には糖分が必須だそうで。紅茶は甘いものもあるけどね!多分!ミルクティーとかね!


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小さな箱庭から去るその日のこと9話

 

 

 

 

 

 

 

「へいまいど。こちらクソレストラン、ご予約で?」

 

サンジが電伝虫の受話器を持ってそう告げた。クソレストランってなんだよ。名前からして汚いだろ。

まぁそれは置いといてだ。

そういや、俺ってバロックワークスのブラックリストに入ってないんかね。奇襲されなかったのだけど。

一応賞金首だし、顔が割れてる。どういうことだろ。

まぁ、考えても仕方が無いな。

 

『何を巫山戯てやがる…Mr.3』

「……」

 

チラリと此方を見たので、何だかよくわからないが頷いて置いた。すると、サンジは俺に頷き返してまた電伝虫に向かい合った。

 

「…えー、どちらさんで?」

『何を言っている。Mr.0だ』

「…(Mr.0!ってこたぁ、王下七武海の…バロックワークスの社長か)」

 

おぉ、クロコダイルさんが登場。

声がめちゃくちゃ渋いな。かっこいいわ、何だか闇金会社の社長みたいだ。……社長か。

そういや格好自体が社長っぽかったな。海賊にはないスーツだけどお洒落さんだったのは覚えてる。スーツだけど。

 

『始末したんだろうな?』

「え、えぇ。麦わらの野郎はちゃんと始末しましたよ。社長の秘密を知っている者はもういません。追手も必要ありませんよ」

 

スラスラと出てくる嘘。ここで追手をなくそうという算段か。

それは確かに正しい。これ以上追手が増えたら、雑魚だったとしても消耗戦だ。Mr.3は自称頭脳派で、肉弾戦は得意じゃないらいしいが…まぁあれは弱い方だろう。まぁ戦闘派は強いが。

 

「(俺も勝てるかどうかわからねぇな)」

 

この世界で戦闘らしきことはあの怪鳥以外ないしな。

人相手に戦えるか、どうか。…うーん、まぁ大丈夫だろう。

そう考え事をしながら、まだ残っている紅茶を飲む。むっ!ちょっと冷めちまってるよ。冷めたらあまり美味しくないな…こんなもんか?

 

『そうか、ご苦労。今アンラッキーズをそっちへ向かっている。任務完了の確認とある届け物を持ってな』

 

アンラッキーズって確かMr.13とミス・フライデーで13日の金曜日だからアンラッキーズだったよな。

あれ、どっちかがメスなんだろ。動物って見た目じゃあまり見分けられないもんな。明らかに違うのは除いて。

 

「アンラッキーズ?届け物?」

『アラバスタへのエターナルポースだ』

 

ほうほう。エターナルポース。そりゃラッキーだな。何せこちとらアラバスタに向かう途中だったし。

紅茶をもう一杯というところで窓枠に何かいるのが見えた。カップを受け皿に置き、確認する。

二つの窓枠には、グラサンを掛けたラッコにハゲタカ………おぅふ。

 

アンラッキーズだ。

 

ハゲタカがサンジの方に背中に背負った機関銃を向け、ラッコは背中にあった貝を二つに割り爪の様な刃物を貝の先から出し構える。

こりゃ攻撃してくるな。しょうがないか…そりゃMr.3の部屋に知らない奴がいるもんな。俺は賞金首だし。

 

『おいどうした』

「いや何でも……ってうおっ!」

 

流石サンジ。素早すぎる反応で銃弾を避けた。

というか!こっちに向かってきてるんですけど!

 

「防御モードに移行、展開」

 

俺の前にドライヴを円状に展開し、その間に電磁はを発生させる。

ドライヴは銃弾なんかで壊れるほど柔でもないし、電磁波のお陰で銃弾はそこで止まりポロポロの床へ落ちて行った。

ったく、手のかかる。

ドライヴを瞬時にハゲタカの頭上に移動させ、そのまま首を狙って高速でドライヴを床に向けて動かす。

ハゲタカの首に見事にドライヴが当たり、ドンっ!という盛大な音を立てハゲタカは床に倒れ伏せた。

というか、こいつ、髪の毛あるぞ。メスか?ハゲタカがミス・フライデー?マジか。

あ、そういえばサンジは。と心配して見るが、丁度ラッコを一発蹴ってダウンさせているところだった。

 

『おい!何があった!』

「あぁ!いや、麦わらの野郎が生きてまして」

『生きてた?』

 

明らかに声に不満がありますよ、というオーラがある。

そりゃ嘘の報告をした事になるからな。プライド高い完璧主義者の社長さんだから仕方が無い。

サンジは戸惑いながらも社長さんの言う事に答える。

 

『まぁいい。お前はそこから一直線にアラバスタを目指せ』

 

やけに“一直線”という単語を強調したな。何かあるのか?

考えてもしょうがないが、しかしこの社長さんが後でルフィに協力することになるなんて思わないだろうな。俺も思わなかったし。

まぁそれは未来での話だし、俺がいる時点でそうなるとは限られない。

社長さんはサンジにいろいろ注意点を言ってから通話を終えようとする。

 

『以上だ幸運を祈る、Mr.3』

 

幸運なんて祈ってないくせに良く言うよな。これが本当にMr.3が聞いていたら、勘違いしてそうだ。

ガチャという声を発した電伝虫は眠る様に目を閉じた。通信が切れた証拠だ。

 

「通信が切れたな」

 

そう呟き、テーブルに目をやると粉々になったティーセットが。あーぁもったいねぇ。結構高そうなやつだったのに。

受話器を元の位置に戻したサンジは立ち上がり、アンラッキーズの下へ歩いていく。

 

「しっかし、なんだったんだ?こいつら」

「アンラッキーズだろ」

「は?この猿と巨大鶏が?」

「………ラッコとハゲタカだと思うが?」

 

マジで言ってる?猿はないだろ、巨大鶏もない。どう見ても似てないんですけど?

そんな俺の心情を無視したサンジは何かを見つけたようだ。サンジが屈んだのと同時に、俺は立ち上がりサンジの下へ向かう。

 

「なんだこれ…」

 

そう言ったサンジの手元にはアラバスタへのエターナルポースが。

さっき社長さんが言っていた届け物の中身だ。

 

「エターナルポースだと思うぞ。とにかく、彼奴らを探そう。何処かにいると思うしな」

「そうだな…ナミさんとビビちゃんが心配だ」

 

いや他の奴らも心配したれよ。キリッ!じゃねぇよ。ったく。

もうこのドルドルハウスには用はない。扉を開け、ルフィ達を探すためにジャングルを歩き出した。って!ほんとシダ邪魔なんですけど!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして、ルフィ達を見つけた。予想通りに戦闘が終わった後のようで、約2、3名が半裸だった。何故に。

巨人二人もいるようで、顔を見ようとするには首をあげなくてはならずとても首が痛い。

 

「ナミさぁーん!ビビちゃーん!その他共ー!」

「どうやらお揃いで」

「サンジ!エド!」

 

その他って酷いな。

わははー!と両手を振って迎えてくれる我らが船長は本当に年上なのだろうか。どう見ても子供だ。これでこの中では戦闘力がトップなのだから、信じられない。

多分、初見じゃ毒気が抜かれるんじゃないか?俺だってそうかもしんないし。

 

「うおっ!?何だこいつら!はっ!まさかお前がMr.3か!」

「いやあれがMr.3ならあの家に入らないだろ」

「…それもそうだな」

 

サンジが巨人を指差してMr.3と叫ぶので否定しておく。お前さん、さっきまであの家にいたこと忘れたんかいな。

 

「ちょっと待って、何でMr.3の事知ってるの?」

 

そうナミさんが叫んできた。

サンジはナミの上がシャツがなく下着だけという格好に目をハートにさせた後、俺と顔を見合わせる。そりゃなぁ?

 

「さっきまでMr.0と話してたからな」

「サンジをMr.3と勘違いしてやがったな、彼奴」

「えぇ!?ボスと!?」

 

ビビが顔を青くして目を見張る。髪の毛が青いからか余計に青く見える。大丈夫?低血圧になってない?

 

「安心してくださいビビちゃん。奴には皆を始末したと報告してきましたから」

 

顔を青くしたビビを気遣うような言葉でそう言う。全く、紳士過ぎるだろ。

 

「じゃぁ私達は死んだと思われてるのね」

「ってこたぁ?もう追手は来ないわけか!ふぃーっ」

 

ビビとウソップが安心したように息を吐く。やっぱり追手というのは精神的余裕を無くすものっぽいな。

 

「それはいいとしてよ、結局この島から出ないわけにはいかないだろ?」

「あぁーそれ忘れていたわ」

 

ハァとため息をつく一同。

サンジと俺だけはどういうことなのか分からず、首を傾げる。

さっきのゾロの言葉、島から出ないわけにはいかない…どういうことだ?まだ、この島に用事でもあるのか?

 

「まだ、この島に用事でもあるのか?」

 

声に出てた。

え?と驚いたように此方を見る皆さん。ん?

 

「折角、こんなもの見つけてきたのによー」

 

サンジはニヤリと笑い、懐からある物を取り出してきた。

見た目が砂時計に似ているが、その木の支えの中にある球体には磁場を捉える指針があり…そして木の装飾には“ALABASTA”の文字が。

 

紛れもない。

 

「アラバスタへのエターナルポースだぁああ!!」

 

ルフィがそう叫ぶと同時に、やったぁあ!と喜ぶ一同。Mr.ブシドー以外は飛び跳ねたり、ハイタッチし合ったりしている。

俺とサンジは惚けながら顔を見合わせ、ビビが抱きついてきたのと同時にハッとする。

 

「ありがとう!二人共!一時期はどうなるかとっ…!」

「いえいえ、ビビちゃんの為ならぁ」

「喜んでくれるのは嬉しいが、苦し」

 

何せ二人同時に抱きつかれてるからな。サンジは美人さんに抱きつかれて浮かれ気分だが、その前に息がまともに出来ないことに気づけ。お前さん、いつか絶対女関係で死ぬぞ。

 

「じゃ、俺達行くよ。じゃぁな!丸いおっさんに巨人のおっさん!」

「あぁ」

「気をつけろ」

 

巨人の二人に挨拶をして、俺達は船へ戻った。

船の前で狩り勝負の結果でぎゃぁぎゃぁと言いあっていたサンジとゾロに俺の鳥の方がデカイと言ったら、二人揃って、お前のは論外だ!と叫ばれた。理不尽だ。

その後、必要なだけの肉を切り取り船に乗せ、出港した。

沖合いで“島食い”という巨大金魚と出くわしたが、巨人のおっさん達が倒してくれた。いやぁ、真っ直ぐ進めと言われたけど、せめて船ごと食われる前に倒して欲しかった。心臓に悪いですよ。

 

「また会おう、友よ!」

「さらばだ!」

 

振り返ると巨人のおっさん達が自身の壊れた武器を此方に向けて掲げているところだった。

 

「「さぁ、行け!!」」

 

リトルガーデン。

それは古代が生きる隔離された島。人にとっては巨大な木々や動物達で、とても小さいとは言えないが。

確かにあの勇敢な海の男達には、小さすぎる箱庭なのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




因みにエドはブラックリストに載ってます。しかし9000万という高額な賞金首、臆病で狡猾なMr.3がわざわざ手を出しますでしょうか?つまりはそういうことです。

次はチョッパー編!張り切っていこう!執筆速度上げたい!


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降り積もる雪の中夢の続きを垣間見る10話

前に執筆速度を上げたいと言っていたな?



あれは嘘になった。


 

 

 

 

 

 

 

リトルガーデンを出た俺たちはアラバスタへ直行していたのだが、途中である島へと向かっていた。

 

ドラム王国。

 

それがその島の名前だ。

雪国であるこの島は医療大国と言われ、医者が多く住んでいる島である。

ここへ寄った理由はただ一つ、病人がいるからだ。怪我人なら俺たちでも対処できる。だが、病気となると話は別。

病気の名前も、病気の元となった病原体も、治療法すらもわからない。只々その病人が40度という高熱を出して苦しむ姿を見ながら、せめてと熱が低くなるように濡らしたタオルを額に乗せたり、健康にいい料理を作ったりするだけ。

アラバスタでは今、大変な時期にある。とても他人事だが、他人なのだからしょうがない。今にも反乱軍と王国軍が衝突しそうなのに、アラバスタ王女ビビはその病人の方が最優先と、島に寄る決意をしてくれた。当然、仲間が大事な俺たちは反対するわけもなく。

 

その病人であるナミのため、ドラム王国に寄ったわけだが。

俺たちは今。

 

「今すぐ出て行け!海賊共!」

 

住民達による手厚い歓迎を受けていた。

船が着くなり発砲してくるとかどういう神経なのか問いたい。もし、好戦的な海賊なら発砲された時点で攻撃とみなし、今ごろ住民達は皆殺しされてたぞ。

今のところ銃弾は一つも当たってはいない。各自、自身の武器を構えすぐさま攻撃できるようにしている。俺もドライヴを攻撃モードに移行させて、いつでも電磁砲が撃てるようになっているが……さて、我らが船長がどうでるか。皆が皆、横目でルフィを窺っている。

 

「…………」

 

ルフィは俺たちの隙間を通り抜け、船首近くの甲板の上に立つ。そして住民達を見渡してから、膝をついた。

その行動に驚く。膝をつき、手をつく……そこから予想される行動は元日本人である俺には親しい行為。つまりは。

 

「病気、なんだ……。触ったら熱くてすげぇ苦しそうで、肉食わしても治らないって……俺には何もできない……!けど!!苦しむ仲間を見てるだけなんて嫌だ!医者を探してる!お願いだ、ナミを、仲間を助けてくれっ!!頼むっ!!」

 

土下座だ。

正座をし地面に頭を近づけ、精一杯の誠意を見せるその行為。主に謝罪や頼み事になどに用いられるそれは、日本特有の文化だ。

その事を知ってか知らずか、ルフィはそれをして見せた。

そんなルフィを見て、ビビもルフィの隣に立ち同じく土下座する。

 

「私からもお願いします!私のせいでナミさんが!だからお願い!病気が治るまでで良いんです!私たちをここに居させてくれませんか!?」

 

そんな二人を見て狼狽える住民達。どうやら彼らは海賊は悪だと思っているのだろう。海賊にだって善良な人はいる。敵には容赦のない素敵な人たちが。

 

結果から言うと住民達の代表的な人が現れ、俺たちを迎えてくれた。

コートに身を包んだ俺たちはナミを連れ、その人達について行った。ゾロとカルーは留守番組。ゾロは迷子癖から、カルーは雪には慣れていないためからだそうだ。確かにカルーの足じゃ、雪に埋もれて動けなくなりそうだ。

はぁーと悴む手を温めるために息を吐く。白い息が空に昇っていくのを見届けながら、歩く。ドライヴに乗るのも一手だが……初めて雪国に来たんだ、この足で雪を踏みしめる音を楽しみたい。

 

「ここが私の家だ」

 

屈強な肉体を持ったその代表的な人、ドルトンさんはある一軒家の前で止まった。

扉を開け中へ招き入れる。窓のすぐ側にあったベットへナミを下ろすように言った。

へぇーいい家だな。木の造りは人の心を安心させる。

俺が家の中を見渡していると、この家の持ち主ドルトンさんは神妙な面持ちで椅子に腰掛け口を開いた。因み俺以外は全員ソファに座っている。

 

「早速本題に行こう。医者なんだが」

 

今は一人しかいない。

そう続けたドルトンさんの顔は申し訳なさそうで、ルフィたちは首を傾げた。ま、国に一人……まぁ少ない方だが、妥当だろう。普通の国ならば。

しかしここは医療大国として知られるドラム王国だ。そんな国に医者が一人しかいないなんて可笑しいとは思わないか?

なんで……?とこの国の事を知っていたビビは独り言のように呟いた。

 

「ちょっと待った……あんた“今は”って言ったよな?昔はそうじゃなかったのか?」

 

疑問に思ったサンジが手を挙げて質問する。まるで教師と生徒の図だが、今はスルーしとこう。

ドルトンさんは頷き、それを肯定した。

 

「昔は沢山いた。だが、この国の王の専属医師に皆がなってしまった……ただ一人を除いて」

 

ドルトンさんは続ける。

 

「唯一王の命令に逆らった女性。住民達からは魔女と呼ばれている」

 

それはどう考えてもDr.くれはだろう。141歳の元気な婆さん。若さの秘訣は世の女性誰もが教えて欲しいだろう。俺も教えて欲しい、長生きはしたいものだ。

“魔女”という言葉にウソップやビビはゴクリと唾を飲み込む。

 

「普段は山の上にある城に住んでいる。山の上に行くにはゴンドラが必要だが、生憎全てなくなっている。魔女以外にはあの断崖絶壁を登る事は出来ない……。魔女は定期的に村に降りてくるから、その子には悪いが待つしか」

 

そう言って目を伏せるドルトンさん。

はぁ……待つだなんて。そのままじゃコイツ死ぬぞ。

 

「それまで苦しむナミさんを見とけってのか!」

「じゃぁ登ればいいだろ、その山」

「エドもそう思うか?うっし!行くか!」

「ちょっと待てぇええ!話聞いてたか!?お前ら!」

「そうよ!待ってルフィさん!来る時見えたでしょ!?あの山!無茶よ!」

 

ウソップとビビが止めようとするが、無駄だって。ルフィは決めたら止まらないタイプだぞ。

ルフィとサンジと立ち上がり俺の方を向き笑う。何だよ、ニヤけちまうじゃねぇか。ニヤリと笑い返してやる。

 

「本当に行くのか?」

「おう!」

「あぁーおっさん、細長い布か何かないか?ナミさんが落ちるかも知れない」

「知れないじゃなくて、絶壁登ったら確実に落ちるだろうがな」

「……本気なら止めはしない。少し待ってくれ」

 

ナミを細長い丈夫そうな布やロープでルフィに固定し、付き添いとして俺とサンジがついていくことになった。

ウソップとビビは留守番組だ。まぁあの絶壁、身体能力がほぼ一般人に近い彼らは登れないだろう。

コートを着込み直し、彼らと別れる。ルフィが真ん中、右にサンジ、左に俺の陣形で筒のような山の中で一際デカイ城がある山へ向かって歩き出した。

 

「ナミさんは俺が護りますからねぇ〜!」

「頼もしいなァ」

「サンジ、気合い入ってんなぁ〜!」

 

こんな足場なのにクネクネと踊りだすサンジってすげぇな。

雪道だぞ?足を囚われて、踊るなんてできない。さすが黒足だな。いやまだ賞金首じゃないか。

サクサクと山の前にある登りを登る。まだあの目標の山まで遠いというのに、ここの登り道は普通の山の斜面のようで、体力を持って行かれる。まぁ、この世界に来てだか、エドが元々鍛えてたのかわからないが前よりは体力があるのですぐにはバテたりはしない。

そもそもこんな雪、滅多に拝めない。精々前世では、スキー場に行ったぐらいで、俺の住んでいた場所は雪が降ってもニセンチ程しか積もらない地域だった。

 

だけども、何故だろうか?

 

この降り積もる雪が懐かしくとも思う。

 

「---ッ!!」

 

ズキリ、と頭痛が走った。

幸い声を上げるほどの痛さではないが、思わず足を止めてしまうほどだった。

 

瞬間、脳内にチラつく雪の色。

 

そして、サラサラと動く……銀。

 

 

 

 

 

 

 

なんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エド?どうした?」

「うーん?エドがどうかしたのか?」

 

前を歩いていた二人がこちらを向いて心配してきた。

一味の中でも今のところ一番の新参者である俺を心配してくれるなんてやっぱ、麦わらの一味優しっ!

俺はなんでもない、と手を振って誤魔化す。痛みは引いてなかったが、顔に出すほどでもないし、いつもの無表情で突き通せる。

二人とも首を傾げたが、一言そうかとだけ言ってまた前を向いた。

 

「(さっきのは一体……)」

 

真っ白な雪に映える銀の色がやけに脳内に残っている。

俺は大事なことを忘れているようで、しかしどうにも思い出せない。

いや、忘れているのは俺のせいか。多分これは“エド”の記憶だろう。俺が憑依する前の。

何か罪悪感が凄くあるんだけど……すまんな、エドよ。大切な記憶なくして。

 

「エドー!見ろよ!白熊がいるぞ!」

 

不意にそんな明るいルフィの声が聞こえてきた。

は?白熊?確かにこんな雪国じゃいてもおかしくないが、白熊と呼ばれるホッキョクグマが生息する北極は確か氷でできた擬似的な大地だぞ。ここには北極はなさそうだけどさ!

船長のはしゃぐ声に顔を上げれば、そこには体長2メートル長はあるかと思われる白熊がいた。

 

いや違う、ウサギだ。

 

どう見てもあの顔、あの長い耳はウサギである。白熊!白熊!と騒ぐ船長には呆れるが、背中に背負っているナミの事も考慮してやってほしい。あ、サンジに殴られた。

ウサギ達にはしゃぐのはいいが、あの殺気とも言える敵意を感じ取れないわけではないだろう。どうやら彼らのナワバリに入ったようだ。

 

「…………」

 

無言で此方を睨んでくる。

リーダーと思われる一際でかい奴の上にいる子供は毛を逆立て声を上げてめちゃ威嚇してきているが。

ルフィが麦わら帽子をかぶり直し、戦闘体勢を取った瞬間、彼らは弾かれるようにして此方へ飛んできた。

ルフィはリーダー、その他は俺たちが担当である。

 

「遅いな」

 

殴りにかかってくるウサギはスピードは遅い方だった。ウサギなのに。

殴りにかかってきたウサギは六匹……丁度じゃねぇか。薄く笑う。

ドライヴを移動させて、ウサギ達の首を狙って地面にぶつけるようにして振り下ろす。リトルガーデンでハゲタカにしたようなやつだ。

首の付け根を狙ったからな、気絶はするだろう。最悪なのはまぁこいつらが死ぬ事だが、多分それはない。

サンジの方を見ると最後の一匹が倒された後で、ルフィはまだだった。

 

「グォオオオオ!!」

 

え?嘘、ウサギって鳴くのか?

リーダーのウサギが吠えたと思うと、今まで倒れていたウサギ達が立ち上がり、リーダーの横にズラリと並んだ。

 

「ガッ!」

 

ピッとリーダーウサギが右手をあげて鳴いた。何かの合図だったらしく、一斉にウサギ達がジャンプし始めた。

交互に跳ぶその姿からは何をしようとしているのか想像ができない。

 

「なんだ?」

「何で跳ねてんだ、白熊のやつ」

「ルフィ、どう見てもあれはウサギだ」

 

まだ白熊って言ってんのかよ。

そんなルフィに呆れつつ、白熊……じゃない、ウサギ達を見るが、やはり何がしたいんだろう。

三人で仲良く首を傾げていたが、やがて理由がわかると一斉に顔を青くした。

遠くから聞こえるゴゴゴゴッという音。目を凝らすと、雪が波のように此方へ押しかけてきている。雪崩だ。

 

「「雪崩だーーっ!!!」」

 

うわぁああああっ!!!

三人で我を忘れて走る。だが、人の足で時速100キロ以上はあるかという雪崩から逃げ延びる事はほぼ不可能だ。

徐々に距離を詰めてくると同時に、ウサギ達が流れてきた大木を使ってスノボーをし始めた。どういうことやねん!!

後ろを向けばスピードが落ちる。ひたすら前を向いて走るが、やはり雪崩はもうすぐ側まで迫っていた。あ!あそこ!ちょっと出っ張ってるから助かるんじゃ!

皆が同じことを思ったのか、一目散にそこへ向かう。

ルフィが一着で到着するのを見てから、俺とサンジも向かうが、サンジが飛んできた木を頭にぶつけて気絶した。さ、サンジー!!

 

「ガッ!」

 

というかウサギに道を邪魔された!何でいるんだよ!サーフィンはどうした!

ちっくしょ!

ドライヴでそいつをなぎ倒してから、向かおうとするが、すでに遅い。もう横に雪崩が迫っていて俺を飲み込んだ。

遠のいていく意識の中、俺はドライヴを使って上空に逃げるという手段を思い出した。完ッ璧に忘れてた!

 

 

 

 

 

 

 




評価が高評価すぎて度々気絶しそうになる作者です。

前回から二ヶげ……大体一ヶ月ちょっと経ちましたね!

ラパーン達がグォオオとかガッとか鳴くのかと聞かれれば、肯定しかねます。鳴く……んじゃないですかね?
一応、ウサギは鳴きますし。ぷーぷーぶーぶーと。
なのでラパーン達だって鳴くでしょう!きっと!多分!



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雪が舞う城で一人の医者と出会う11話

 

 

 

 

 

 

 

炎が舞う中、一人の少年が走っていた。

異様に目立つ白髪を取り乱しながら、走る少年の顔は涙に濡れていた。必死に足を動かすが、しかし今まで満足に運動しなかったせいか、逃げないとという気持ちに体がついて行かず、とうとう足を縺れさせ転んでしまった。

うっと声を漏らし、咄嗟に受け身を取って転がる。

 

「ったく、手間を取らせやがって」

「早く連れてこうぜ」

 

倒れこんだ少年に二人の男が近寄り、少年の髪を掴み顔を上げさせた。少年の苦痛に歪んだ顔はその二人を余計喜ばせ、ニヤニヤと男達は笑う。手間が取られた分、捕まえたことが嬉しいのだろう。この外道め。と少年は心の中で呟いた。

首に首枷を付けられ、引きづる。しかし、このままでは窒息死してしかねないので、男達は少年を立ち上がらせ歩かせた。これから商品になるものだ。これ以上傷つけば値が下がる。

 

「お前の親が余計な事をしなきゃ、この街も滅ぼされなかったのになァ」

「全くだぜ。海軍もひでぇ事しやがる」

「まぁ、そのおかげで俺たちが儲かるんだしな。海軍様々だ」

「ガハハハハッ!確かに!」

 

ギリィと歯を噛む。

この少年はこれから奴隷として売られる。人権もクソも無い物へと成り下がるのだ。

連れてこられ、他の子供がいる檻に入れられる。少年は辺りを見渡した。知っている顔達だ。どれも近所で遊んでいた子供達。少年と同じく海軍に親を殺され、こいつらに捕まったのだろう。

少年がここにいる者を観察していると、一人の少年と目が合った。白髪の少年より背が高く、黒髪の少年。その少年は白髪の少年を睨みつけると、その胸倉を掴んだ。

 

「お前、あの研究所のやつだろ」

 

少年はその問いには答えず、ただ睨み返した。

無言を肯定と捉えて、黒髪の少年はぐっと白髪の少年を引き寄せ、そして殴った。

ゴッという鈍い音が響き、一部の少女達が小さい悲鳴をあげた。

 

「お前のせいでッ!この街はッ!!」

 

なるほど、この少年はこの状況を理解しているらしい。だが、感情が付いてきていないらしい。

実質、この街が滅んだのは彼の今はもう亡き両親のせいである。彼のその加担……手伝いをしていたのだから、少年のせいでもあるのだろう。だからと言って、少年に当たっても仕方がない。もう街は滅んでしまったのだから。

 

「お前ッ!!お前らのせいで!パパとママは死んだんだッ!」

 

少年の上に跨り、更に殴り続ける。白髪の少年はただそれを受け入れ、殴られ続けた。

暫くして段々と力がなくなっていく拳に、少年は首を傾げるが、それの疑問はすぐに解消された。

ポタポタと白髪の少年の顔に雫が降りかかったのだ。それは、黒髪の少年が流した涙だった。

 

「お前なんかっ……!うっ……ひぐっ……」

 

溢れる涙によってぐしゃぐしゃになる顔を、白髪の少年はただそれを眺め続けるしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よっす、エドだ。

 

何か夢見てた気がするが、忘れた。ただ、殴られてる記憶しかなかったけどな。

それでだ。ウサギ達が起こした雪崩に飲み込まれたかと思うと、いつの間にかルフィに担がれて絶壁にいた。

……嫌なタイミングで起きたな。というかルフィさん、三人担いで登ってんの!?人間辞めてるのか!?……やめてるか。

 

「ルフィ」

「ふぇふぉ!ふぉひふぁふぁ!(エド!起きたか!)」

 

どうやら口にサンジを咥えているようめで、何とかわかる程度の言語で話してきた。もう少し何とかならないか、とは思うが、そりゃ喋ろうとしたらサンジ離すもんな。死ぬもんな。無理だよな。

背中のナミは相変わらず寝ているが、辛そうだ。この位置からだと斜め下からしか顔色伺えないので、あまりわからないが。

因みに俺は、ルフィが俺のベルトを鞄の取っ手代わりのように肩にぶら下げているので、威嚇した猫のような体勢になっている。コート、どこ行ったんだろ……。

 

「とりあえず、離してくれ。俺のドライヴで浮くことができるから」

「ふぉんふぉ!(ほんと!)ふぇんひふぁほふぁー!ふぉふぇ!(便利だよなー!それ!)」

 

さっきから、“ふぁ”とかしか言ってないルフィ。

おれもほしいなーロボット!とか言っているが、やめとけ。ドライヴは操作方法を理解していないと扱えない代物だし、ルフィのような脳筋タイプのやつは、まず動かせないだろう。俺でも何で浮いてるのかとかわからないのにさ。いつか知る時が来るのだろうか。

とりあえずドライヴが正常に作動するかどうか確認しないと。……いや、こんな雪の中でも普通に浮いているし大丈夫か。うーん、何回か叩いた方がいいk「ふぁふぁふふぉー!(離すぞー!)」えっ?

 

「あ、ちょっ、あ"ぁああああああああっ!!」

 

急すぎるぅうううう!!!このままじゃ、雪の中に落ちると言っても何十メートルの高さから落とされたんだ!死ぬかもしれない!

俺は必死に恐怖を押さえつけながら、ドライヴを動かした。

ドライヴ展開ッ!!

 

「い"っ……!」

 

落下による空気抵抗の風はなくなったが、俺を受け止めたドライヴの固い感触が背中から伝わってきた。これは痛い。

咄嗟だったため、磁場を発生させ俺を浮遊させるということは思いつかなかった。というか、この段階でできるか謎だし、あれは二次職からの、覚醒の時の移動方法だったはず。

……試すのは後でいいか。こっから落ちたら死にそうだし。

ドライヴを上手く操作し、何とか立ち上がる。こういう空気が少なく、絶壁の横であり気流が不安定な場所でもちゃんと立てるのは、身体が覚えてくれてるおかげだろう。

とにかく、歯で咥えているサンジを先に運ぶか。人一人ぐらいならば、耐えられるらしいし。

 

「ルフィ、サンジを先に運ぶ」

「ふぉーふぁひがとな!」

 

話している途中に離すバカがいるだろうか。

力なく落ちてくるサンジをドライヴを駆使して何とかキャッチ。起きてない人ほど重いのはやはりというか。キャッチした時の腕の痺れもあってか、恐竜の首より重く感じる。

ん?サンジの体温が低いな。早く持って行った方がいいか。

 

「先に行くぜ」

「おー!サンジよろしくな!」

 

屈託のない笑顔でそう言われたからには、何が何でも運ぼう。

ドライヴの推進力を最大にし、崖の上へと目指す。サンジを背負っているからか、推進力を最大にしてもいつもと同じぐらいでありあまり速くは進まない。

気圧が急速に低くなるせいで耳鳴りが酷くなり、春や秋にするような格好をしている俺にはこの気温の低さは少し厳しい。あのコートを着たルフィですら、寒さに頬を赤らめていたぐらいだ。

もし、俺がいなければあのまま二人を担ぎ、登り続けていたのだろう。もはや超人の域を出ている。凍傷にならなければいいが。

 

「というか、俺も凍傷になりかけだし」

 

スキー場に行った時、はしゃぎ過ぎてまだ柔らかい雪にダイブしたことある。

その時幼く、まだ力もないので深くはまったその体が抜けず、ただ泣きじゃくった記憶がある。

助けが来るまでそのままだったし、足から突っ込んだので、足が凍傷になりかけた。その感覚が今、足の指先にある。

ただ、まだ堪えられるのと、この背にある重さをどうにかしなければ俺が死にそうだ。いや、それは最悪の場合なだけで、このままだと足を切断……なんてことになりかねない。そうならないことを祈ろう。

 

寒さによる震えを我慢しながら、ドライヴを動かして、やっと着いた頂上。

目の前にはこの白一色の世界にとても似合う城が、我が物顔で建っていた。

こういう城は海外へ行くか、テレビで見るか、ファンタジー世界へトリップするかしか見られないので、とても感激なのだが……今はこうしている場合ではない。

足は言うことを聞かなさそうなので、この今の状態のままでドライヴで、開けっ放しである門扉を潜った。

中心にある柱から、円状にくり抜かれたこの場所は、扉が開いたままのせいなのか雪が入り込んできている。

周りにある壁には無数の扉。その中に魔女、Dr.くれはがいるはずである。

 

「誰か!誰かいねぇのか!!」

 

一々探すのはめんどくさい。というか、冷えすぎて体が少し限界だ。

暫くすると一つの扉が開き、誰かが出てきた。銀色の髪、ニヤリと笑うその姿は堂々としていて、こちらを見据えていた。彼女は、Dr.くれは。齢141の婆さんだ。

 

「珍しいねぇ。ここに客なんて」

 

コートを着込んだくれはは手すりに体重をかけながら、こちらの反応を待つ。

王族でもない彼女がこの城の主ではないはずだから、客という言葉は可笑しいだろうにとは突っ込まずに、取り敢えずサンジを見てもらうように、ドライヴを使って一直線にくれはへ向かった。

しかし、くれはは俺がドライヴで来たことに目を見張り、驚愕した。

 

「その技術……」

「え?これはドライヴだが、それよりも!サンジを頼む!雪崩に巻き込まれたんだよ!」

 

俺もだけど。

何故かサンジみたく、ずっと気絶してたわけじゃないのか、まだ大丈夫なんだけど。

体温が低いサンジに気づいたのか、くれはは急いで室内へ運んだ。あの婆さん、凄い力持ちだな。

それを俺は見届けた後、ルフィとナミを迎えに行くために来た道を帰る。一人減ったのでドライヴの推進力は元に戻る。全開にし、急いで行く。因みに人一人を乗せた場合のドライヴのスピード全開は、約時速50キロだ。え?遅い?多分セーフキーをかけているのだろう。それなりに速かったら危ないからな。

崖を垂直に降りて、ルフィの影が見えてきたところで反転。重力に従うように、ドライヴを下にして立った。

早く戻ってきた俺に驚いたのか、一瞬目を見開いたルフィは、やがてニカっと笑った。

 

「早かったな!」

「……ドライヴのおかげだ。それよりもルフィ、大丈夫か?」

「おう!エドがサンジ運んでくれたおかげで大分楽だ!」

「そうか……」

 

そう笑うルフィの唇は少し青ざめている。体温が低下している証拠だ。

むーん。やはり手伝うべきか。

今の時点、登っている場所は5分の3といったところ。つまりまだまだ。

 

「ルフィ、俺がナミ背負って先に行こうか?」

「いや、いい!エドばっか悪いもんなぁー!おれがやる!」

 

お、おう。そうか……。

そう笑顔で言われると返すことができない。俺は少し笑顔に弱いみたいだな。

けど、早く病気治すために俺が行くのが最善だろう。仲間のためだ、そう言えばルフィも納得してくれる。

 

「ルフィ、やっぱり俺が。早く行った方がナミにとってもいいだろ」

「うーん、そうか!そうだもんな!エドごめんなぁー」

「いや」

 

仲間と呼んでくれたお前らのためならな、これぐらい大したことない。

そうとは言わずにナミを支えている縄やら布を外してナミを受け取る。ルフィがうぉおお!軽い!と叫んでいる間に俺は上へと向かった。やはり、二人だからか遅い。

そうして、城にたどり着きDr.くれはが出てきた扉の前に降り立つ。ドライヴには感謝しなくちゃな、こいつがなけりゃ今頃お陀仏だったかも。

一応、三回はノックし返事を待つ。やがて、入りなという女性にしては年配に当たる声が聞こえてきた。状況から考えてDr.くれはだろう。

 

「また、あんたかい」

「もう一人、診てもらいたい奴がいてな。こいつの方が重症だ」

「……いいだろう、そこのベッドへ」

 

外と比べ室内は暖かく、生き返る。ナミをベッドへ寝かせ毛布を被せてから、うーんと腕を伸ばした。前世よりは体力や腕力が格段にあるとはいえ、病人を抱きかかえるのは少し精神的に疲労が溜まる。俺の行動一つで何かが変わるかもしれないしな。

あ、そういやルフィを迎えに行かないと。あいつ、大丈夫なのか?

俺は扉の方へと向かう。するとくれはが扉の前へと立ち塞がった。

 

「どこへ行く気だい?」

「……仲間を迎えに。まだ崖を登っているはずなんだよ」

「あの絶壁を?ハハッ、無茶するねぇ」

「笑い事じゃねぇよ」

 

Dr.くれはを押し退け、扉を開ける。ビュゥッと冷たい風が全身を包んだ。うっ寒い。

後ろの方で呆れたようなため息が聞こえたが無視して、扉を閉めた。

 

「ドクトリーヌ!人がっ……!?」

 

うん?

いきなりそんな声が降ってきたかと思うと、雪が積もった廊下が影に覆われた。この影はどうやら左から来ているようで、横を見ると茶色の毛深い大男がいた。

 

「うわっ」

「ぎゃぁあああっ!ひとぉおおああ!!」

 

いや、何でお前の方が驚いてんだよ。

そう突っ込みたかったが、その大男はズザザザーと後ろへ下がっていき階段を踏み外した。

そのまま転がり、大男だったのが小さい生き物へと姿を変えた。

ん、よく見りゃあれは……。

 

「チョッパー!!静かにしな!患者がいるんだよ!」

 

グハッ!

いきなり開いた扉に背中がぶつかった。

やっぱり、あれチョッパーか。

 

というかDr.くれはさん!?あんたの方がうるせぇよ!!あと痛いんですけど!?

 

背中を抑え悶えている中、チョッパーは走り出しまた大男になって何かを抱えてきた。

黒い髪に目の下に傷がある人。どう見てもうちの船長である。

 

「あ、エド」

 

凍えて死にそうな顔の割には元気な声ですね、ルフィさん。

どうやってあの短時間で登ってきたんですか、超人ですか。……超人か。

 

 

 

 

 

 

 

 




大体一ヶ月ぐらいでの更新が目安になってきた作者です。
エタらないよう頑張らないと!シャボンディまでは行きたいよね!(道のりは長い)


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歪み行く世界の中仲間の心配をする12話

 

 

 

 

 

 

おはこんばんわ、エドだ。

 

そろそろ挨拶ネタも尽きてきて、次どうしようかと頭捻るのが日課になってしまった。

さて、現状はというと。

 

ナミが復活しました!

 

わーパチパチパチ。

……ほら拍手しろよ。ナミさんぞ?あのナミさんぞ?拍手しなきゃお金取られんぞ。

ま、そんな冗談は置いといてだ。予想通りナミの病気は五日病と言って、その名の通り五日で死ぬ病気だった。ここに着いたのは三日目ぐらいだから、結構ギリギリセーフだな。

何万年も前に絶滅した種であるミノだっけ?知らないけど、そんな微生物が人の肌を咬んで発病する病気。どう考えてもリトルガーデンですね、ハイ。

原作知識としては死ぬ病気にかかったとしか覚えてなかったからな。助かってよかった。まぁ、わかってたとしても俺にはどうしようもできねぇし?医者に頼るしかないんだけどさ。

ん?ルフィたちはどうしたのかって?チョッパーを追いかけ回してるよ。ルフィは仲間に、サンジは飯にって、勧誘してる。がんばれ、チョッパー、応援してるぜ?(棒読み)

 

---人でなしぃいいいいーーーー…………。

 

うん?なんか聞こえた気がしたが……まぁ、気のせいだろう。

そんなことをつらつらと考えているとキィと木の擦れる音が聞こえ、ベットの右にある扉が開いた。入ってきたのはDr.くれはだ。

 

「ちょいと、坊主。話があるんだが」

「ん?なんだ、ばあさん」

「あたしゃまだ139のピチピチなレディーだよ!」

 

なん、だ……と?

141だと思ってた……。口に出さなくてよかったぁー。

 

「それ、何処で手に入れたんだい?」

 

それ、と言ってDr.くれはが指差すのはドライヴ。

……何処で手に入れた、ねぇ。

まるで存在を知っていたかのようだ。何処で手に入れたなんて、俺が一番知りたいことだけど……エドが作ったんだよな、きっと。

過去の産物である知識。今だ俺は引き出せてないが、この脳にあるんだろう。膨大な知識量を持っていて知恵熱が出ないのはさすがというべきか。あ、なんで自分を褒めてんだ俺。

とりあえず、目の前で睨みきかせてるばあさんに当たり障りのない返事でもするか。

 

「このドライヴのことか?」

「……ドライヴって言うんだね……名前までも」

 

最後の方は聞き取れなかったが、何やらDr.くれはが悩んでいる。俺まだ名称しか言ってないんだけど、それでわかるの?

 

「まぁいいか。すまないね、坊主」

「エドだ」

「そうかい、エド。余計な詮索はしないでおくよ」

 

……俺まだ名称しか言ってないんだけど(二回目)

邪魔したね、と言ってナミの部屋へ向かおうとするDr.くれはを見届けようとするが、結局何しに来たのか気になって声をかけてしまった。

 

「なぁ」

「ん?若さの秘訣かい?」

「聞いてねぇよ。ただ、結局何しに来たんだと思ってな」

「…………さっき言っただろう?質問だよ」

 

そう言ったDr.くれはは悪どい笑みを浮かべて立ち去って言った。扉が静かに閉まる。

暫くその閉まった扉を眺めてから、布団に入り込んだ。……この状況からわかると思うが、俺は今病人扱いだ。コートを着込んだルフィですら凍傷になりかけたんだ。元々薄っぺらい服装していた俺がならないと思うか?

まぁ、薄っぺらいとしてもこの服装じゃ秋や春がちょうどいいんだけどね。夏?暑いわ。

 

ふと、無意識に首を掻いていたことに気づく。そういや最近首が痒いんだよね。多分チョーカーしているから汗で蒸れたんだと思うんだけど、なにぶんチョーカーが馴染みすぎて付けているかどうかもわからないのが悩みものだ。

起き上がり首についているチョーカーを弄る。やがてカチリと音がして外れた。お、なんか涼しい。

近くにある上着の上に置いて、もう一度布団に潜った。目の前に移動してくるドライヴを横目に何もすることがないので、寝ることにした。

最近、何故か寝つきがいいんだよな。

 

数秒経つと俺の視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-----はっ、はっ」

 

荒い息。必死に動かす足。何かから逃げようとして、心には恐怖の色が混じっていた。

 

「いたぞ!」

「撃て、撃て!」

「クソガキがっ!一丁前に逃げやがって!」

「文句は捕まえてからにしろ、傷ついても構わない。ただし生け捕りだ」

 

なるほど、彼奴らから逃げているらしい。

右に、後ろに、左に、銃弾が着弾する。危ない。間一髪だ。

 

---と思った矢先に、右腕に銃弾が掠った。血が飛び散る。

 

小さく悲鳴をあげて倒れ込む。痛い痛い。熱い。撃たれた箇所を抑えて、立ち上がろうとする。しかし、震えて力が入らないからか左手を滑らして穴に落下した。

……穴?

 

なんで?さっきまで、岩が連なる荒野しかなかったのに。崖?

 

 

 

………………………シヌ?

 

 

 

ぞわり、と全身の毛が逆立った。嫌だ、それだけは嫌だ!生きたい、生きたいのにっ!!

せっかく売り飛ばされそうなところを逃げ出したのに!首枷の鎖を切って、同年代の子供を見捨てて、逃げ出したのに!ここで、終わり?

 

そんなの嫌だ…………!!

 

「あ"ぁああああああああ-----ッ」

 

 

 

 

 

 

死にたくない……ッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁあああっ!?ッはっ!は!は、はぁーー………」

 

勢いよく飛び起きる。

過呼吸になりかけなのを落ち着かせ、必死に呼吸を整えてから下を向いた。

嫌な夢を見た。ここまでハッキリと覚えているのは初めてだ。死ぬ……自分が死ぬ夢。

 

……にしてはやけにリアルだった。

 

夢なのに、自分が作り出した妄想かもしれないのに、あの感触が、頬をよぎる風、右腕に走る痛み。本物だった。

なんだ?転移したとか?転生した身ではあまり驚かないけど、それぐらいじゃないと…………いや待てよ?あの光景。

 

連なる岩山。

 

荒野。

 

銃を持って追いかけてくる男たち。

 

「どっかで見たような……」

 

そこで乱れている髪を整える。男にしては少し長めでボリューミーな髪は、今や汗で濡れていた。Tシャツもピッタリと肌にくっ付いている。うわ、気持ち悪い。シャワー浴びてぇ。

 

「ん?」

 

Tシャツをパタパタしていると、ふと視線を感じて感じた方を向く。

完全な個室というわけではないこの場所は、出入り口が二つある。一つはDr.くれはが通ってきた、雪が降り積もる廊下に続く扉。もう一つは扉もない、違う廊下に続く場所。そこから、覗く角度を間違えた珍獣がいた。

チョッパーだ。

 

「おまえ……大丈夫なのか……?」

 

え?

 

「何が?」

「…………叫び声が聞こえたから」

 

ビクビクとしながらもそう問いかけてくるチョッパーに苦笑する。飛び起きた時の声を聞きつけて来てくれたんだろう。

人間が怖いと言って、人見知りなのにそう心配そうに見てくる姿は真剣そのものだ。やはり、麦わらの一味になる者は優しい。

 

「あぁ、大丈夫だ。ちょっと嫌な夢を見ただけで」

「……本当か?」

 

こくりと頷く。

すると安心したのかホッと息を吐いたチョッパーは、此方に歩んできた。

そう言えば、ルフィとサンジ達はどうしたんだ?そう問うと、撒いてきたと返事してくれた。このトナカイ、見かけによらず意外にやるようだ。あいつらから逃げてくるなんて相当な技術と根性が必要だぞ。

ルフィはこう!と決めたら絶対に揺るがない人物だからなぁ。サンジもそうだし…………あ、いやあいつは女関係と料理だけかな。

 

面会用かわからないが、側にあった椅子に飛び乗りチョッパーは座った。ちょこちょこと動きまわるその姿は愛らしく、女性にある意味モテそうだ。

そして、息を吐く。疲れたのだろう。少し疲労が見える。

 

「大丈夫か?」

 

まさかさっきまで心配してたやつに心配されるとは思わなかったのだろう。チョッパーは驚いたように此方を見て、それから頷いて大丈夫だと言った。

しかしチョッパーは何故か固まったように動かなくなった。どうしたというのか?

毛深い顔を青くしながら、それ、と自分の首を指差しながら言ってきた。チョッパーが指しているところが首なのか肩なのか顎なのか怪しいが、きっと首だろう。

俺は首を指された意味を理解して、あぁと納得した。

 

「この痕のことか?」

 

チョッパーはコクリと頷いた。

俺の首にはまるで縄で締め付けられたような痕がある。普段はチョーカーを付けて隠しているが、痒いと言って外したのは寝る前の自分だ。

あまり知られたくなかったのだけど。しくったな、と苦笑する。

 

「昔、首枷をはめられていてな。長いこと付けていたから痕が残ったんだろう。ま、今は気にならないが」

 

クククッと笑う。

 

「枷……」

「鉄でできた首輪の事だ。奴隷として売られそうになったが、ま、こうして生き延びてるからこの痕だけってのは幸運だったな」

 

もし売られていれば、それこそ人のような生活はできなかっただろう。ましてやルフィ達と冒険に出るなんてことも。

それにしては、感謝している。この世界に来て右も左も分からない俺を仲間に入れてくれたんだしな。入れてくれた理由がドライヴってのは、少し落ち込んだこともあるが…………あれ?

 

あれ。どういう、なんで?

俺、今なんて言ってた?

チョッパーになんて?

 

昔に首枷をはめられた?

 

生まれてこの方、此方に来るまで平和な毎日を送っていた。

 

奴隷として売られそうになった?

 

俺が住んでいた国、日本はそんな事を許す国ではない。

 

いや、まて。そう言ったことも重要だが、それよりも謎がある。

何故、なんで、どうして。

 

 

------この俺(・・・)がこの痕の事について知っている……?

 

 

可笑しい。可笑しい。

だって、可笑しい。

俺にはエドの記憶はない。だって、異世界から来て、エドに憑依した日本人だもの。

日本の記憶はあっても、この世界で過ごしてきた記憶はない。

 

 

 

 

 

 

---本当に?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!!」

 

本当、ほんと。

 

本当だよ。俺はエドじゃない。

 

エドの体を乗っ取った他人だ。

 

だって日本で男子学生してたただの日本人。

 

ほ、ほら?だって友達の顔だって、こんな鮮明に…………なんで?思い出せない?

 

俺のっ、親友で、名前は---……名前?

 

俺の名前は、親友の名前は、父さんは?母さんは?何も、思い出せない?なんで、可笑しい。

 

 

どうして、思い出せないんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

----本当に俺は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォオオン!

 

俺を思考の渦から救い出してくれたのは、デカイ爆発音だった。この音、尋常じゃない。

音がした方は……上か?また爆発音が響いたが。くそ、襲撃かよ。こんな城に大層なこった。それにチョッパーがいつの間にか居ないし……。

俺は立ち上がり、チョーカーと上着を着る。コートなんてないから……凍傷覚悟かな。ここマイナス五十度らしいし……マジかよ。ドライヴに温暖機能でも付けるか?

 

 

というか、ルフィ達無事だろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----本当にオレは(・・・)……()なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピッ。

 

[記憶の消去率60%]

 

[対象の一部、自伝的記憶の消去を確認。エピソード記憶の記銘に移行します]

 

[対象からのエピソード記憶の記銘への移行を確認。続行します]

 

 

ピピピッ。

 

[記憶の復興率38%]

 

[エピソード記憶の復興を続行中。40%完了]

 

[意味記憶の復興率5%。エピソード記憶の復興が終了次第移行します]

 

[手続き記憶は正常に作動。支障はありません]

 

 

 

ピピピッピピピッ。

 

 

 

 

[お早い帰還をお待ちしております]

 

 

 

 

 

 

[MasterADD]

 

 

 




30日に投稿しようと思ってたら二日だった。どういうことだってばよ。

ドラムに来てから何かが可笑しい主人公。と言ってもエド編はまだまだ先、なんですけどねぇ……。


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航海士と共にこの国の王と相対する13話

 

 

 

 

「あれ、エド?」

「ん?ナミか?」

 

雪が降り積もる廊下に出た直後、少し離れた場所にナミの姿が見えた。どうやら同じように病室から出てきたらしい。コートを着たナミの頬は少し赤くなっているので、完全に熱は下がっていないようだ。

近くに寄って話を聞いてみると、どうにも爆発音が聞こえ、心配になり出てきたそうだ。どうせルフィ達が暴れてるんだろうけど、と苦笑するナミはどこか楽しげだった。

 

「さぁ、どうだろうな。敵が来て、やられたのかも知れねぇぜ?」

「ルフィ達に限ってそんな事ないわよ。彼奴らの生命力は化け物並みよ?」

「クックック、確かに。ま、実際ルフィは悪魔の実を食べた化け物だしな」

「でしょ?」

 

クツクツと笑う俺に、ナミもクスクスと笑う。

俺もそうだが、ナミも心配しながら心の何処かで彼奴らは大丈夫だと信じている。だからこそ、俺が不謹慎な事を言ってもナミは笑ってられるし、俺もそれに同意できる。

彼奴らの生命力の強さは原作においてもそうだ。もうボロボロになって死にそうでも生きている。まぁ、主人公格なのだから死んでは困るが……主人公の義兄が死ぬ漫画の世界である。何が起こるかは、俺というイレギュラーもいる時点でわからない。

そもそも、俺という存在はどういうものなのかも、最近曖昧になってきている気がする。まるで、用済みかのように俺の前の世界での記憶は薄れていくのだ。原作知識は覚えている部分だけ、薄れてはいかずに残っているが。

イレギュラー。不規則な存在だからこそ、俺は……いずれ消えゆく存在なのかもな……。

 

「エド……?」

 

暗い思考の海に心配そうな声が聞こえてくる。

力強いソプラノは、波を打って俺の耳へと届いた。

 

「あ、いや、考え事してただけだ」

 

そう言って首を振る。何時もの顔を作り、なんて事ないように振る舞う。

俺の不安は仲間に知らせてはいけない気がする。俺というイレギュラー……それにこの身体の本来の持ち主であるエドもこの世界においてはイレギュラーだ。

そ、と呟いたナミは、寒いわねと腕をさすった。話題が逸れたのはいい事だが、此方から顔は見えないので少し不安になる。

本当に何でもない事を伝えようと、ナミに声をかけようとするが、突然聞こえてきた叫び声にも怒号にも似た声が耳を劈いた。

 

「な、なななっなんじゃこりゃぁああ!!」

 

それは下から聞こえてきたもので、ナミと同時にそちらへ向く。

そこには暖かそうな服に身を包んだ、豊かな身体をした男がいた。何故か下顎がでかく、それは鉄に覆われていたが。

はて?誰だろうか?二人同時に首を傾げた。

どうしても顔が良いと言えない部類のそいつは、一度ても見れば忘れないような顔をしていた。この城に来るまでの間、そしてここに来た時までの間で、この顔を見た事はない。

 

「どうなってんだ?なんで、俺サマの城がこんな雪だらけになっている?」

 

下から聞こえてきた声は不満たらたらのようで、現にそいつは眉間に皺を寄せていた。

俺サマの城?確かにそう言ったかこいつ。

 

ってことはだ。

 

「あいつが国王か」

 

アポロだかなんだか知らねぇが、あいつが国王って事には違いない。

確かにイッシー20なんていう、この国の医者二十人を引き連れて何処か旅に出かけたらしい。ドルトンさんがそう言ってた。

国民から忌み嫌われる国王は、駄王らしく独裁政治を行ってたらしいな。確か第一憲法が“国王の言うことは絶対”という、王様ゲームかよと突っ込みたくなるようなアホ丸出しな内容だった。うん、よく見たらアホそうな面してんな、オイ。

俺の呟きを聞き取ったナミは目を丸くして、国王を凝視した。そのままあの駄王に穴が開けばいいのにな。

 

「あいつが国王!?あり得ない……」

「ん?誰だ!我が城にいる奴は!」

 

声を荒げたナミの言う事には全力で同意したいが、どうやら見つかったらしい。

ギロリと睨んでくる眼力は凄いか、いかんせんその容姿のせいで迫力が足りない。思わずニヤニヤしてしまう。本人は至って真剣なんだろうが、俺には笑ってしまう程滑稽だ。

 

「ちょ、エド何笑ってるの」

「いや、あいつの顔が滑稽すぎてだな。ククッ」

「一応アレでも王様よ?」

「確かにアレでも王だが、この国の民に嫌われている駄王だ。別にこの国の住人ではないし、笑ってもいいだろ」

「エドって、性格悪いわよね」

「クックック。悪いな、元からだ」

 

ハァとため息を吐いて、やれやれと首を振るナミの仕草はどこか演技っぽく、その顔は笑っていた。どうやら、俺の意見には賛成らしい。ナミも元は海賊専用の泥棒とあってか性格が悪い。ま、それがいいところでもあるが。

 

「貴様ら……まさか!麦わらの仲間か!?」

 

此方を指差し声を荒げる国王。

是と首を縦に振ってもいいが、それでは面白くない。あの反応、どうやらルフィと敵対したらしいな。まぁ、駄王があの将来の海賊王のお眼鏡に叶うわけがないし、そもそも此奴と友達になるなんて面汚しというか、汚点になる。

オレもこういうバカは大嫌いだ。

しかし、感情だけで動いてはいけない。時には利己的に、相手を利用しなくてはな。ククク。

 

「さぁ?私は知りませんが、麦わらとは誰のことなんです?」

「〈ちょっ!?エド!?〉」

 

ナミが隣で小声で驚いていたが、目線と仕草でここは俺に合わせるように伝える。

目を見開くナミだが、俺に何か策があるんだろうと小さく頷いた。納得してくれるのは有難いが、正直策なんてなにもない。ただ、あの国王が何故一人で城に入ってきたかを突き止めるためだ。

一応、王なのだなら側近でもいるはずなのに、彼奴にはそれらがいない。一人で突っ走るタイプだということもありそうだが、それだと余計に側近がいないのが気になる。いくら、駄目な王だろうと、一人にしてはいけないしな。

 

「麦わらとは、“麦わらのルフィ”という奴のことだが……知らないのか?」

「あ、あぁー!最近巷で賑わせてくれるあのルーキー海賊ですね。知ってますよ!」

 

一瞬悩んだあとで、笑顔で肯定する。隣にいるナミが、誰だこいつ、みたいな視線を送ってくるが無視だ無視。

俺は国王の機嫌を取るように、笑顔でいながら階段を降りる。降りる理由としては国王より目線が上では失礼だからということで十分だろう。この国王はバカそうはので、会話中に動くなどという無礼を知らずに許してくれるはずだ。

ナミは俺の後ろをついてきていた。

 

「うむ!そいつだ。で?貴様らは麦わらの仲間か?」

「いえいえ。私はしがない科学者。とても海賊などと野蛮なことはできませんよ?」

「……そうか。しかし!貴様は何故、ここにいる?ここは我が城だ!何人たりとも俺サマの許可なしでは入っちゃぁダメだ!」

「いやー、すみません。ここに魔女がいると聞きましてね、科学者として気になりここにいたんですよ。齢百を超える人間の身体が気になりまして」

「ハッ!科学者というやつは、相変わらず変な奴らばかりだな!一言で言えば、キモイぞ」

「はははっ、面目ない。それが科学者というものですから」

 

あははははっ、と後頭部を片手で押さえながら、冴えない科学者を演じておく。ま、研究者ともいうが。

いやはや、国王の最後の言葉には少しこめかみに血管が浮かんだほど、オレにとっては屈辱的だっだ。キモイだと?確かについさっき作った理由は、百を超えるババァの身体が気になるという言葉を誤れば誤解を生みそうな内容だったが、キモイはないだろう、キモイは。

それに、他の科学者様たちにも失礼だ。これだから、この手のバカは嫌いなんだ。

階段を降り、国王の眼の前まで来た俺はその腰にある見るからに怪しそうな鍵を見つける。うむ、こういうのはナミの方が得意だろう。目配せをしておく。

はたして、気づくだろうかと不安になった俺だが、力強く頷いたナミを見て安心する。大丈夫そうだ。

ナミが俺より一歩前に出て、同じように笑顔を作った。

 

「それで、王様?王は何故、ここに?最近までは国にいなかったらしいですが」

「さすがに懐かしくなってな、戻っきてた次第だ!」

 

ほう?

それだけではないだろうに、よくしれっと嘘を吐けるな。

懐かしくなって戻ってきただけなら、何故そんなに忙しなさそうなんだ?何故、この巨大な扉の前にいる?

……何かあるな。

 

「〈ドライヴ、スキャンモード〉」

 

小さくそう呟くと、背中に浮遊していたドライヴ達が一斉に扉の前へと飛んでいく。

薄紫色の閃光を走らせ、扉の前をグルグルと往復していた。

急に動き出したそれに、駄王もナミも驚き一斉にこちらを見る。ナミの方には、この隙に奪えと促す。ナミはサッとさりげなく王に近づいていく。

 

「な、なんだ!?何をしている!?」

「いえいえ、ちょっとした調査ですよ。気になったので、調べているだけです」

「は?何を言っている?」

 

いや、理由。

この世界の人間は機械に疎いのか。疎くないのか、よくわからんな。このドライヴの行動、俺の言動でわかるだろうに。

この宝物庫らしき中身を調べているという事に。

 

「……どうやら、宝物庫じゃなかったらしいな。残念だったな、ナミ」

「なーんだ。じゃぁ、これは要らないの?」

「いーや?必要だ。戦力を削ぐ意味でな」

 

ニヤリと笑いあう俺たち。王の後方に佇むナミの手にはキラリと光る鍵があった。

 

「なっ!?それは俺サマの!」

 

大きな下顎をあんぐりと開けて驚く駄王。よほど驚いたらしい。さしずめ、いつの間に!?とやら考えているのだろうが、油断しまくりなお前が悪いとでも言っておこうか。バカめ。

悪どい笑みを浮かべながら、俺は間抜けな王を嗤う。

 

「ククク。残念だったなぁ?オウサマ?この武器庫に用があったんだろうが、鍵がなきゃ入れない。さぁ?どうする?」

 

ぐぬぬと悔しがる駄王にクツクツと嗤ってやる。実に気分がいい。人をからかうってのは楽しいもんだな!

この扉の向こうが武器だらけなのはわかった。何を狙ってかは知らないが、大方戦力上昇のためだろう。ルフィとサンジは強いからな。原作でも麦わらの一味の三強である。こんな雑魚にやられるはずがない。

暫く悔しがっていた王様だったが、俺とナミを見ると鼻で笑いやがった。ピキリとこめかみに力が入る。

 

「ハッ!カバめ!取り返したらいいだけだろうが!」

 

そう言うと王様は、その大きな口をニヤリと曲げた。

 

「バクバク工場(ファクトリー)!“スリムアップワポル”!!」

 

あ、ワポルって名前だったのか。

ワポルは自身のがま口を大きく開け、頭から自分を食べ始めた。…………oh。

中々にショッキングな映像だが、血も出てないしまぁグロくはない。最終的にワポルが下顎になり、バケツのような形になったと思うと、ボコボコと変形し始めた。

詳細は割愛するが、結論から言うとワポルがスリムになって背が伸びた。な、何を言っているのかわからねぇと思うが(以下略。

文字通りスリムアップしたワポルはニヤリと笑ってナミの方へと走って行った。身体が軽くなったのか、それは素早くナミも驚いて硬直していたので、仕方なく俺はテレポートしてナミとワポルの間に出る。ワポルの驚愕したような顔を見ながら、ニヤリと笑いドライヴの電磁波越しに殴ってやる。この世界に合った俺の筋力に合わせて、ドライヴによって拳の威力は上がっている。ワポルは軽く吹っ飛んでいき、壁にぶち当たった。

 

「大丈夫か?ナミ」

「うん、平気。だけど、エドって強かったのね。私より弱そうなのに」

「クックック。オレが強いのは当たり前だろ。何せ、このドライヴがあるんだからなァ」

 

何を当たり前なことを言ってるんだろうか。

如何わしそうなナミの目線に首を傾げながらも、壁まで吹っ飛んだワポルが起き上がってきたのを確認する。どうやら、一発でやられるような雑魚ではないらしい。

起き上がったワポルは怒りを顔に浮かべながら、此方へと歩み寄ってくる。因みにまだスリムアップ中だ。体型が良くなっても、素材が良くないのかあまりイケメンではないな。逆に残念感たっぷりである。元の方がいいな、うん。

 

「貴様!良くもこの俺サマを吹っ飛ば「いたぁあああああああっ!!」んなっ!?」

 

俺を睨みながら何か言おうとしていたワポルだが、途中で言葉が遮られる。遮った声の主は、うぉおおおお!と叫びながら此方に向かってきている。言わずの知れた、我らが船長だ。

 

「「ルフィ!!」」

「やっぱり仲間だったのか!」

 

ワポルが何かほざいているが、俺たちはそれどころではなかった。ルフィがワポルをぶっ飛ばすと決めたんだろう。ものすごい形相で、ワポルぅうううう!と叫んでるのだから。どうやら俺たちは眼中にないらしい。

 

「ゴムゴムのぉおおお」

 

ヤバイ。直感でそう思う。

ナミと共にワポルから離れて避難する。するとすぐさま、ルフィがロケット!と叫びながら突っ込んできたのだから、冷や汗ものである。あれ、離れてなきゃ巻き添え食らってたよな?

というかワポルが何気にあれを躱してるのが、非常に癪なんだが。

 

「カバめ!そんな一直線な攻撃当たるかっての!」

 

その割には顔が驚いたような表情だけど、そこんところどうなんですかね。えぇ。

ワポルは俺とナミを見てから、突っ込んで壁にめり込んだルフィを見る。それから軽く舌打ちをして、走り出していった。どうやら階段を上るようで、元のワポルの体型では通れなさそうな場所もスイスイと移動していった。

……武器庫を諦めたか、それとも別のアテがあるか。多分両方だろう。

 

「あ!待て!邪魔口!!」

 

いつの間にか壁から頭を引っこ抜いたルフィは、ワポルを追いかけて消えていった。実に速い、走るスピードが。

取り敢えず、ルフィが追いかけていったことで俺たちは何もすることが無くなったわけだ。ルフィに感謝すべきか、獲物を取られたと怒るべきか。後者はあり得ないとして、前者も当てはまらない。

 

…………ま、いっか。

 

「ナミすわぁん!無事だったんですねー!って!エドゴラァ!何ナミさんを連れ出してるんだ!!ナミさんはまだお身体が---」

 

テケテケのように走ってきたサンジに、ありもしない罪を着せられかけたので、腹いせにドライヴをその腰へと直撃させておく。

死んだように動かなくなったサンジを尻目に、ルフィが去っていった方向を見る。原作知識は少しあれど、流石に内容まではちゃんと覚えていない。ここではチョッパーが仲間になるが、さてあの王様はどうなるのだろう。

クックック。面しれぇ事になればいいがなァ。

 

「え、エド何笑ってんだ、テメェ」

「いや、ついな」

 

しかし、サンジよ。なんでお前、テケテケみたいに走ってたんだ?すげぇ気になる。

 

「腰が砕けたんだよ。テメェのせいで更に悪化したけどな!」

 

あ、ゴメン。

 

 

 

 

 




エドが人懐っこい笑顔浮かべながら敬語で話してきたら、まず頭打ったか確認しますね。

しっかし、このペースで行くとドラム編終わるの後一、二話ぐらいかな?


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深々と桜色に染まった白雪が降る14話

 

 

 

 

 

おはようございます、江戸です。

 

あ、誤字った。エドです。

 

病室を抜け出した事がバレた俺たちは、Dr.くれはに首根っこ捕まれ病室へと突っ込まれた。

まぁ、俺は凍傷になりかけなだけだったし、もう治ったから必要ない。だが、ナミとサンジは違う。

ナミは治ったが病み上がりであるため、まだ大人しくしておけとDr.くれはは言っていた。医者が言う事なのだから、まだ完全に復活というわけでもないのだろう。

サンジは言う事なかれ。完全に腰が逝っちゃっている。トドメは俺が刺した(ドヤァ。

 

「……それで、サンジの手術が終わったらどうする?」

 

ぎゃぁあああ!とかうぎゃぉおおおお!とか変な悲鳴が隣の部屋から聞こえる。手術室であるその部屋ではサンジの治療が行われていた。

にしても、サンジの悲鳴と別にドリル音や魔女の笑い声が聞こえてくるのはどういう事なんでしょうな。

 

「そりゃもちろん、トンズラよね?ビビの事もあるし」

 

ニヤリと笑って俺の質問に答えるナミ。

そりゃね、お前の第一はビビの国であるアラバスタだもんな。男だらけのこのメンバーで、一時的とはいえ加わったビビを友達として助けたい、という気持ちは分からなくもない。

ナミの言葉を聞いた、当の本人であるビビは慌てるように両手を振ってナミの身体を案じる。

 

「ナミさん!私の事はいいから、今はちゃんと病気を治す事を第一に……!」

「いーのいーの!私はもう治ったし……ただ」

「Dr.くれはが許すかどうかだな……」

「そうなのよね」

 

困ったわー、という言葉と裏腹に全く困った様な表情をしていないナミは、考える素振りをする。それに苦笑する俺。ビビは未だ慌てたまま、ドルトンさんは今までと同じ様に静観していた。

ルフィがワポルを遥か彼方の星にした後、村にいたビビやウソップ、ゾロやドルトンさんと合流した。ドルトンさん達、国民達はワポルを倒すぞ!と意気込んでいたらしいが、ルフィに倒されたと聞いて唖然としていた。その顔は面白かったが。

一件落着した今回の騒動。さっきも言った通り、病人組ナミとサンジはDr.くれはに連れられて城内へ、ゾロとウソップは外、ルフィはチョッパーをずっと追いかけている。ご苦労なこって。

 

「やぁ、馬鹿共。ハッピーかぃ?」

 

隣の部屋から出てきたDr.くれはが、ゴーグルを額に上げながら此方へ笑いかけてきた。サンジの治療が終わったらしい。それはいいが、そのゴーグルが手術用ではないのは突っ込んでいいのだろうか。

Dr.くれはは、側に置いていた酒瓶を持ち上げ、蓋を開けて飲んだ。いい飲みっぷりだ。

 

「Dr.くれは、サンジ君は?」

「っはぁ!……あぁ、大丈夫さ。全く無茶するから、悪化するんだよ。あの馬鹿によぉく言っておきな!」

 

更に悪化させたの俺だけどな!

 

「それより、ドルトン。武器庫の鍵は持ってるかい?」

「武器庫の鍵……ですか?あれはワポルが持っていたはずですが、ワポルは……」

「飛んで行った、と……どうしようかねぇ」

 

ふむ、と思案するように考え込むDr.くれは。

武器庫とは、入り口からすぐにある雪に埋もれた中心の柱にある部屋のやつか。

何に使うのか知らねぇが、これは好都合だ。

ニヤリと笑う。多分だが、この時ナミと同じ顔をしていただろう。

 

「Dr.くれは……相談なんだが」

「ん?なんだい?」

「俺とナミ、あとサンジを退院?まぁ、とにかく出ることを許可してくれ」

「それと治療費をチャラにしてくれる?」

 

ナミの奴、ちゃっかりしてんな。金の亡者はこれだから。

俺とナミの言葉を聞いたDr.くれはは、眉間に眉を寄せ渋い顔をした。そりゃそうだ。Dr.くれはは金をぼったくりまくる魔女ではあるが、患者を第一に考える良い医者である。そんな医者が、まだ療養期間が必要な患者を退院させるだろうか?

それに、ナミの病気は紀元前のノミから感染る病気だったはずだ。治療薬があっただけでも奇跡なのに、それを治したDr.くれはに出会えたのも奇跡以上だ。治療費をぼったくられてもしょうがないと言える。それをチャラに?無理な話だろう。

 

そう思ったのだが。

 

「……治療費はワポルをぶっ飛ばしてくれたからねぇ、それはチャラにしてやるよ。でも、一つ目の願いは聞くことはできないねぇ」

 

医者として許す事はできないんだよ。

そう続けたDr.くれはは、本当に医者の鏡である。そこに憧れるぅ、痺れるぅ。

ふむ、それは困るんだけどな。ビビの国がどうなっているかわからない今。一刻も早く行き、あのクロコダイルをぶっ飛ばさないといけない。ぶっ飛ばすのはルフィの役目だが。

 

「……武器庫の鍵が必要なんだってな?」

「なんだい?それがどうしたってんだい。生憎、それを持っていたワポルは飛んで行ったらしいじゃないか。今はもう関係ないよ」

 

そう言ってまた酒を飲む。

Dr.くれはの言い分にドルトンさんもうんうんと頷いているが、考えてもみて欲しい。何故、その無くなった鍵について言い出すのか。

そして、その鍵は本当にワポルが持って行ったのか。本人達がそう言うんだからそうだろうって?はん、馬鹿だなぁ。前話見てたんだろ?わかるじゃねぇか。

 

「その鍵がある……と言ったら?」

「何……?」

 

疑わしそうな目線を送ってくるDr.くれはとドルトンさん。そんな二人に、失礼な、俺は嘘はつかねぇぜ?とドヤ顔で言ったら余計に睨まれた。解せぬ。

まぁ、それは良いとして鍵だ。まだナミが持っていたはずだからな。ナミに声をかけて、そこからはバトンタッチする。こういう交渉はナミの方が上手だろう。俺は万が一の時は力でねじ伏せようと思っているから、どうしても三下風味の交渉になっちまうんだよなぁ。どうにかしたい、と思う。

ナミはニヤリと笑うと、懐から特徴的な武器庫の鍵を取り出した。あのワポルから奪った鍵である。Dr.くれはの瞳が大きく開かれた。

 

「どう?お願いを聞いてくれなきゃ、私はこの鍵を絶対に渡すつもりもないわ」

 

最悪の場合、壊すけど。

うわぁ、ナミの顔がめっちゃ悪い。悪役。お陰で思考がダダ漏れ。悪役っていうなら俺もだし、何考えてんのかわかっちまうんだよな。悪役万歳。悪役演技は楽しいぞぅ。

ナミの言い分にDr.くれはは、暫く考えた後、はぁとため息をついた。仕方なく、本当に仕方がなくといった風にだ。

 

「お前達」

「え?」

「おれら?」

「そう、そこのドルトンについてきた馬鹿共。患者でもないんだから手伝って貰うよ。武器庫の大砲を持ち出すんだ、さぁ!行きな!」

 

パンパンと手を叩いたDr.くれはを見た、ドルトンさんを心配して来ていた大人達は大慌てで走り出した。途中でイテッ!という声も聞こえところから、雪で滑ったのだろう。雪国に住んでいながら滑るという事は、それだけ慌てているという事。どれだけDr.くれはの事が恐ろしいんだか。いや、まぁ、気持ちはわかるけどな。

国民達を追い出したDr.くれはは、ナミの近くに歩み寄り、パシリッとナミの手からカギを奪った。

 

「ちょ……っ!」

「いいかい!小僧と小娘共!」

 

扉の近くに立てかけてあった自身の上着を手に取り、それを着る。開けっ放しの扉の取っ手に手をかけたDr.くれはは、そう声を荒げた。

 

「その奥の部屋にあたしのコートが入ったクローゼットがある。別に誰が盗っても困らない奴さね。あと背骨の小僧の手術はもう終わったよ。それと、あたしゃ、これから用事があるかねぇ……ここを留守にするが、決して抜け出すんじゃないよ!わかったね!!」

 

此方を指差してそう警告して来たDr.くれはは、扉を勢いよく閉めて去っていった。

一息、とまではいかないが次々と言われた言葉に俺を含めて三人はポカンとしてしまった。

 

「コート着てサンジ君連れて抜け出せってさ」

「私にもそう聞こえた……」

 

両手を上げて肩を竦めさせたナミは、俺が言いたかった事を言ってくれた。ビビも言ったように、何を隠そう俺をにもそう聞こえたからだ。

Dr.くれはっていい婆さんだ!!わかってたけど!

さて、行動に移そうか。うちの航海士によると、今日にでも出る予定らしいしな。

俺は立ち上がり、Dr.くれはに言われたクローゼットに向かう。男物があるといいけどなぁ。ないかなぁ、流石に。

扉を開けるとそこは寝室だった。なるほど、ここで寝起きしているのか。確かに出張診療が多いDr.くれはならば、患者様のベットは一、二個で十分だろう。生活感溢れる部屋の中にある大きなクローゼット。俺はその取っ手を掴んで開けた。ふむ、やっぱりないか……男物。男がチョッパーだけだから必要ないのはわかっていたが……うーん、このままじゃァなー。外マイナス五十度だし……何とか代用して、女物でも男が着て不自然じゃない奴。

 

「あるじゃねぇか」

 

膝下まであるようなモノばかりだったが、一つだけ腰までのがあった。うん、これならば大丈夫だ。フードにファーが付いているだけの黒いやつ。ボタンの位置が女用だったが、まぁしょうがない。

あとは、あの二人……というかビビのはいらないか。着てるし。

扉の縁からひょっこりと顔を出した俺はナミへと声をかける。

 

「ナミ。コート、どれにする?」

「どういうのがあるの?」

「色は暗い赤、黒の二色で二つとも膝下までの長いやつだ」

「じゃ、黒ね」

 

被った。別にいいけど。

ナミに言われた通りのやつをハンガーから外し、俺は先に着込む。うーん、元々上着着ているからかちょっと中がきつい。しょうがないか……前は開けておこう。え?コートの意味ないって?大丈夫、大丈夫。根性で乗り切るさ!

…………科学者にあるまじき思考回路だな。

 

黒のコートを取り出し、部屋から出る。そこで見たものは目を閉じているドルトンさんと、隣の手術部屋と思わしき所からサンジを引き摺るナミとビビの姿だった。おう、仲良いなお前ら。

此方の姿を視認したナミはサンジの脚を離し、此方へと歩み寄ってきた。ゴンという鈍い音がナミの後方から鳴ったことは無視して、俺はコートを差し出す。

 

「ありがと」

「どういたしまして」

「にしても、エドのコート。似合わないわねー。白に黒って」

 

うるせぇー!俺も自覚してます!ほっといてください。

良いものがコレしかなかったと伝えると、ふーんと興味なさそうに返事をする。このヤロっ。

 

「それで?」

 

トンズラするんだろ?とコートを着込み終わったナミに問いかければ、そりゃ勿論!とそれはもう良い笑顔で返されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城から出ると、チョッパーとルフィが何やら言い合っていた。何をしているんだか……仲間にすると言い張っては聞かなかった一刻前のルフィを思い浮かべて苦笑する。俺がやると嘲笑の様な表情になってしまうが。不便だな、この顔。

ルフィ達の会話を聞いていると、チョッパーがおれは怪物だし、青っ鼻だし、トナカイだし、と言って航海に出れないと否定しているが、それをルフィが何も聞いてなかったかの様に、うるせぇ!!行こう!!と怒鳴っていた。いやいやいや、それはないだろう。

話聞かな過ぎかよ。あれで不愉快はないのだから、凄いのだけれど。ああいうのがカリスマ性とでも言うのか。成る程、俺には一生無縁なものだろうな。

ただ、今回のはそれが良い効果を発揮したらしく、チョッパーは泣き出していた。ぎょっとはするが、本人が嬉しそうに笑うもんだから皆が皆、同じ様に微笑んだ。サンジだけはずっと気絶してるけどな。

さて、チョッパーが準備してくると言って駆け出して行った後、ナミがここにいる船員達に招集をかけた。こういうのは船長であるルフィが行うものなのだろうが、生憎本人は馬鹿である。戦闘と飯を食べる速さは誰にも負けないが、作戦や行動方針を決める事はできない。まぁ、役割分担を船員全員でするのが麦わらの一味だからな。そこは別に言及する事でもないだろう。

 

「で、全員揃ってるわね?」

 

中心にいるナミの言葉に皆が頷く。新しく一員となるチョッパーを除いて、一時的な仲間であるビビ含めて全員がここにいた。あぁでも、いないとすれば、あのチョ○ボの様な鳥がいない。多分、船で待ってるはずなんだが……あれ?そういえば何で同じく待ってるはずのゾロがいるんだ?

 

「じゃぁ、これからどうするか伝えるわね。まぁ簡潔に言えば、ここドラム王国から出て改めてアラバスタへ向かう事なんだけど、そこは良いわよね?」

 

こくこくと全員が頷く。逆らう気は毛頭無い。

 

「もう寄り道はしないからね!とくにルフィ!あんたは新しい島とか見つけても行かないこと!」

「わかってるよー」

 

絶対わかってない。

唇を尖らせ、拗ねた子供の様に言うルフィの言葉は説得力がなかった。どう考えても、島だ!冒険だ!等と言って行ってしまうに違いない。十七という俺よりも年上なのに、その欲を制御できない所に呆れる。というか、食欲と冒険欲しかなさそうなのって逆に凄いな。流石少年漫画の主人公と言えば良いのだろうか……どうしてそう純粋に育ったのか教えて欲しい。十七というと前世でいう、高校生だ。思春期真っ盛り。どうしてだろう、ルフィが現代人だとしても部屋にエロ本とか隠してないと確信できる。本当に同じ男かどうか疑心暗鬼に陥るわ。聖人君子かよ、頭は破滅的だが。

 

「エドとウソップ、ゴンドラの用意して。チョッパー君が来たら直ぐに降りるから」

「え!おれが?」

「了解。ちゃっちゃと済ませるぞ、ウソップ」

 

ウソップの襟首を掴み引いてゴンドラの乗り場へと向かう。

引き連られながらも、まだ雪で超傑作の雪達磨作ってないのにやら何やら文句を垂れるウソップを無視して、歩く。引きつった後には、二本の線ができていて、端から見れば少々滑稽だろう。

 

「第一、エドだけでやれるだろ」

「俺はあまり機械には詳しくねぇんだよ、ウソップの方が知ってそうだしな」

「ぜってぇ嘘だ!」

 

本当、本当。この時代の機械は詳しくはない。古代文明であるナソードだったらわかるんだがなぁ。分解から組み立て、仕組みやらを説明してくれと言われても直ぐにできる自信があるぜ。まぁ、教えるなんて事しないが。オレに得がねぇからな。ナソードの女王様でも連れて来たら考えてやるが。無理だろうけどな!

 

「っつぅ!おいっエド!急に離すなよ!後頭部雪に打ち付けたじゃねぇか!全然痛くなかったけど…………エド?」

 

「……………………まただ」

 

「は?」

 

また、知りもしない知識が記憶が蘇ってくる。

ナソード?エルソードに出てきた古代文明がここにあるはずが無いだろう?なのに何故、この時代(・・・・)だと言った?そんな言い方だと存在するみてぇじゃねぇか。いや、現にドライヴというナソード技術で作られたヤツが後ろで浮遊しているが。

けれどナソードの技術、仕組みとやらを思い出そうとしても頭が痛くなるだけで、どうしても無理だった。どうやら知っているという事だけ(・・・・・・・・・・・)を思い出したらしい。意味がわからない。わからねぇな。

…………考えても仕方が無いと、自己簡潔をして頭を振った時。

 

「みんなぁああああ!!!乗って!!!!!」

 

という叫び声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果的に俺たちは島を出れた。

それはそれは忙しい出航だったけれど、この麦わらの一味には相応しい旅立ちだろう。静かに別れを惜しむ別れ方なんて、俺たちらしくないだろう。

ただ、こうしてゆっくりと大きな桜を見物しながらお酒を飲むってのも悪くない。

 

「良い桜だ」

 

心は日本人な俺は久しぶりの桜に感嘆する。例えこれが偽物だろうと、綺麗なものには変わりないから。まぁ、最後に見た桜なんて覚えてないんだがな。

 

「ですね」

 

ふと、俺の呟きに答える人物がいた。この中で俺を除いて一番年下であるからか、敬語を使う王女サマ。つまりは、ビビだ。

甲板に座りながら、あまり減っていない酒が入った杯を膝の上で回していた俺の隣に座る。その所作は流石王女と言うべきなのだろう、とても最初に出会った時のような荒々しさはなかった。というか、ミス・ウェンズデーと同一人物だと思えねぇな。

 

「私、桜って初めて見たかも知れません」

「ハッ、知れないってえらく抽象的だな。敵さんに乗り込むお転婆王女サマなのに、ハッキリと覚えてないのか」

「それは関係ないです!じゃなくて、小さい頃に見ていたなら、それは見た事になるでしょう?だから」

「成る程な」

 

物心がつく前に見ていたら、覚えていない。そう言いたいのだろう。

王女サマの少し慌てた姿をクククっと笑いながら、まだ咲き誇る目の前の桜を見る。あぁ、これで桜吹雪があればなんて思うが、それは高望みだろう。ただの雪なら今でも降っているが。

 

「こんな愉快で素敵な桜はもう一生出会う事はねぇだろうから、ちゃんと見とくんだな」

 

それは自分にも当てた言葉だ。

目の前に広がるあの桜は、新しく仲間になったトニートニー・チョッパーの育ての親だというDr.ヒルルクが研究していた見る者全てを癒す究極の医療、その成果だ。藪医者だとDr.くれはから聞いていたが、チョッパーのあの号泣の様子を見ていても、決して悪い人物じゃないと知れる。

そもそもこんなに良い桜を見せてくれたんだ。冬に見る春の風物詩は、人々の心を躍らせる。一度で良いから会って見たかったな、その藪医者に。

ドラムロックのその頂、桜色に染まる光景を心の中に留めて置きながら、眺める。こういう事なら、ドライヴに撮影機能でもつけとけば良かったと後悔するも、もう遅い。

 

「えぇ、もう一生見れないでしょうから。こんな綺麗な桜」

 

ビビの言葉に苦笑を浮かべながら、ぼんやりと酒を嗜む。喉の奥が痛い。

 

「(あぁ……)」

 

なんて綺麗な桜なんだろう(心底どうでも良い事だろう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてだか、心の奥底で、純粋に楽しめない自分がいた。

 

 

 

 




約半年ぶりの投稿だって!わー!作者はエタるつもりは無いって言って最終的には更新しなくなっちゃう百流作家フレンズなんだね!すっごーい!

このネタ流行ってますね。見てないけど、知ってる系です。
次回は多分、アラバスタに飛びます。ボンちゃんは……多分出ない!気分が変わったら出るかも知れませんが。


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砂漠の国で殺人現場に遭遇する15話

 

 

 

暑い。

 

それがここアラバスタに着いた時の感想だった。

ビビが言うには、このオアシスの一つナノハナはまだマシな方だと言う。砂漠のど真ん中よりは全然涼しいというのだから、砂漠に入ったら俺死ぬかもしれない。

街での買い出やら何やらをサンジとチョッパーに任せて影でぐったりと壁に背を預ける。

大方、この服装のせいだろう。長袖のTシャツに半袖の上着だ。手袋もしているし長ズボンだしで、どう見てもこの場所に向いていない。いや、半袖じゃない時点で肌に焼けるような痛みがないだけ、まだマシと言えるか。

けど、それ暑さは別だ。ドライヴのクーリング機能を今オンにしているが、それでも暑いぐらいだ。科学者に労働は向いていないのだから、勘弁してくれと思う。いやまぁ、室内の快適な環境に慣れきってしまった、というのもあるが。

というか腹が減った。何処かの誰かのおかげで飯がまともに食べれない日々が続いていたのだ。腹が減ってしょうがない。ご飯屋に行きたい。

……あ、行っても良いかもしれない。

飯屋に行けば腹ごしらえもでき、室内である為に涼しめる。一石二鳥ではないだろうか。

元々顔が広まっているからという理由で買い出しから外されたが、人々の記憶力はそう良くはない。幾ら9000万の賞金首だからと言って、すれ違う人の顔を見ているとは限らない。そもそも、ローグタウンでも賞金稼ぎに言われてやっと気づいたというところがあったし、そうウロチョロしても気づかれないだろう。

うんうん。考えたら益々良い案だと思ってしまう。よし、行くか。

俺は立ち上がり、街の方へ歩き出そうとする。しかし、右肩を掴んだ手が俺の進行を阻んだ。

 

「何処へ行くのかしら?」

 

ナミか。

 

「いや、少し飯屋に」

 

振り返りながら、そう答える。

ナミの顔を見ると、余計な事はするなという思いがありありと顔に表れていた。どうやらお怒りらしい。

 

「ご飯ならサンジ君達が買ってきてくれるから、わざわざ行かなくてもいいわよ?」

「待てねぇな。それに、暑いから涼みに行きたいんだよ」

「日陰ならそこにあるじゃない」

「空調の効いた室内が良い」

 

俺の言葉を聞いたナミは溜息を吐いて、腕を組んだ。話を聞かない此奴をどうやって説き伏せようか、と考えている顔だ。交渉が得意なナミらしい表情だが、俺にはちょっとその顔をされている意味がわからない。別に良いじゃないか、ルフィみたく飛び出していかないだけマシだと思って頂きたい。

 

「暑いなら、その上着脱げば良いと思うけど。とにかく、一人での行動は駄目。そもそもあんた目立つし」

 

ん?

 

「どこが?」

「その服装と後ろの機械を見てからもう一度言ってみなさいよ」

 

呆れたような目をして頭を振る。

確かにこの服装とドライヴは目立つだろう。服装にしては変人だと扱われるだけで大丈夫だと思うが、このドライヴが一番目立つ。何せ浮いている機械だ。機械自体、あまり見かけない世の中なために確かに不思議に思われるかもしれない。だけど、それだけだ。変なもの浮かせてんな、だけで済む。

 

人ってのは思ったより無関心なのだから。

 

けどそう言っても、ナミは許してくれなさそうだ。仕方がない。服装はどうにもできないが、ドライヴはどうにかできる。この機械は見た目の小ささより、多機能である。だから。

 

「ドライヴ、不可視モードだ」

 

俺の口からドライヴへの命令が放たれると、ドライヴは了解したと言う様にくるりと回ってから、消えていった。

それを見届けた俺はナミの方へ振り返ると、ナミは唖然とした表情で俺の後ろをガン見していた。いや、そんなに見なくても。周りを見ても、居残りメンバー全員ナミと同じ顔をしている。そこまで驚くことだっただろうか。首を傾げる。

 

「……便利だなと常々思ってたが、そりゃ反則だろ」

 

ふと、ゾロがそう言った。

確かにそうかもしれない。不可視にすれば、何処から攻撃が来るのかわからなくなるからな。俺は頭の中で命令して、操作しているから場所がわかるが、普通はそうはいかないだろう。

まぁ、人外だらけのこの世界ならば、風の切る音で場所がわかるとか言いそうな奴、一人二人はいそうだ。

 

「で、此奴が消えれば、ただの変な服着た変人になるだろ。行っていいよな?」

「……はぁ、あんたってちょっとずれてるわよね。まぁいいわ、けど頼み事頼まれてくれる?」

「なんだ?」

「ルフィよ。連れ戻してきてくれる?」

 

あ?

 

「睨まない、睨まない。彼奴、どこ行ったかわからないのよね。帰ってくるとは思うんだけど、保険をかけようと思って」

 

だからね、お願い?

そう言ってナミは両手を合わせて少し屈んだ。あざとさを最大限生かす姿勢である。整った顔や胸の大きさも相まって、大抵の男は落とせるポーズだろう。サンジならイチコロだ。

まぁ、彼はいつも愛の奴隷だが。

ナミの言っている事は、飯を目当てに走り出したルフィをこの街の中から見つけ出し、連れ戻す事。安易ではない事は明白だった。

 

「わかったわかった。やれば良いんだろ……ったく、面倒だな」

「ありがとー!じゃぁ、行って良いわよ!」

 

笑顔で手を振る彼女に、ケッとそっぽを向きながら歩き出す。ドライヴは隠しているので、乗ることは出来ないので徒歩になる。

凄く面倒だが、仕方がない。まぁ、ルフィを捜すのは後でいいだろう。先に飯屋だ、腹が減った。自分大好き人間だと言ってくれても構わない。というか、海賊とはそういうものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

仲間の姿が見えなくなるぐらいになると、首を振って捜すふりを止めて、直ぐそばの人間に話し掛ける。俺はここの地理を何も知らない。ましてや、地図なんて持ってないし。

 

「おい、そこのお前」

「はいっ?!」

 

少し年の言った所謂中年だと思われるおっさんは、俺の声を聞くと振り返り、そして上擦った声で答えた。いや、そんな驚かんでも。

しかし、相手の表情からするに驚いてるのではなく、ビビっているという表現の方があっている。

ビビられてんのか、俺。目付き悪いから?16なんだけどな。

 

「ここから近い飯屋は、どこにあるか知ってるか?」

「へ……あ、あぁ。そこの角を曲がって真っ直ぐの突き当たりに」

 

中年男性が指差した場所を見て確認する。思ったより直ぐそこにありそうだ。これはラッキーだな。

見知らぬ親切な男性にありがとな、とだけ伝えてまた歩き出す。情報収集は大事だな。こうして飯屋の場所もわかるんだから。

角を曲がり、真っ直ぐ歩く。少し遠いが、T字路になっている場所に飯屋であろう看板があった。ナイフとフォークとはわかりやすい。

この世界に来て何故か読める字が書いてある看板を見ながら、扉を潜る。まぁ扉って言って良いのかわからない作りではあるが。ここが入り口なのだろう。いらっしゃいませ、という店員の声が聞こえた。

周りを見渡し、テーブル席が埋まっているのがわかると誰も着いてないカウンター席へと座る。真ん中よりも少し左にずれた場所だ。

 

「いらっしゃい。何にします?」

 

人の良さそうなおっちゃんが臆せず話しかけて来た。接客業だからこういう柄の悪い奴でも慣れてるのだろう、さっきはビビられたのに。俺、一応見た目は子供だぜ?

メニュー表の一覧を見る。なるべく量が多くて、手軽なのが良い。普通に考えて、ピラフやチャーハンなんだろうが……いや、チャーハンて。

 

まぁ、良いか。

 

「ピラフ、大盛りで。あと、飲み物も適当に頼むぜ」

「あいよ」

 

眩しい笑顔を向けて来たおっちゃんは、早速とばかりにコンロの火を点けて、油を引いている。いつも思うが、こうして見るとこの世界の基準がわからない。

良くある転生モノでは、異世界へ行く話だが、その話は大抵ファンタジーであり、中世に一番近い文明がある。つまりは、こういうコンロなどが無い……はず。

なのに、この世界じゃこうしてコンロもあるし、コンクリートっぽいのもあるし、銃火器とかもある。銃弾を作る技術があるんだぜ?悪魔の実とかいう、魔法みたいな能力もあるのに。

 

俺の背中にあるドライヴもな。

 

こいつが本当に良くわからない。

本当はイレギュラー、つまり異物であるはずだ。俺自身もそうだが、この身体もそうである。この世界の物語にはいないはずの、別世界の登場人物、そして人間。

エド自体がこの世界の人間ではなくて、何か理由があってこの世界に迷い込み、俺がこの世界に来たからこの身体に入って乗っ取ってしまった、という可能性もあるが……それは無いだろうな。

オレはこの世界で生まれて、この世界で育ったのだから。

 

「(そういや、あいつ。しっかりとやってるんだろうな……)」

 

どうだろうか。

オレがこの計画を言い出した時、反対していたからな。君の人格がなくなったらどうするの、とかなんとかほざきやがって。

心配しすぎなんだっつーの。順調なんだから良いだろうに。

彼奴らと関わるのは想定外だったが、ここまでは順調だ。ドライヴもちゃんとやってくれてるしな。

それに何より、今の生活は結構面白い。帰ったら、自慢してやろう。こんな所に閉じ籠っているより、良い経験だった!とな。

くくっ、女王サマはどんな顔するのやら。まぁ、今のままじゃオレの目的は達成されてないから、何か言ってくるんだろう。そもそもまだ帰らねぇから、そんな心配もいらないか。

 

「お待たせ。熱々だよ、気をつけて食べな」

 

色々と考えている間に、熱々のピラフが出て来た。油が光に反射して良い感じに、味わいを出している。というか、湯気から来る匂いですでにうまそうなんだが。

スプーンで一口すくって、口に運ぶ。はふり。熱さが口の中で広がったが、火傷することなく味わえた。うん、美味いな!

 

「美味い。ありがとな、おっさん」

「嬉しいこと言うじゃねぇか。ほれ、頼まれてた飲み物だ。ピラフに合うもの、用意しといたぜ」

「おぉ」

 

カランと氷が揺れる。うーん、見てるだけで涼めるな。ここも、日陰になってるからか涼しいし。良い所紹介してもらった。飯も美味い。サンジの飯には劣る気がするが。

まぁ、俺はそこまで料理に詳しいわけじゃ無い。ただ、美味いか、美味くないかだけ判断できる一般の舌の持ち主だ。

そもそも、元シェフのサンジと比べるのは駄目か。

 

「隣良いか?」

 

熱々なピラフをゆっくりと味わい、熱くなった口の中を一旦冷ましていた時だ。ふと、声が掛けられる。

声の質からして若い男性と思われるが、特に気にならないのでそちらを見ずに頷く。スプーンを動かし、味がついた米を頬張る。

 

「おっちゃん、チャーハンくれ。肉たっぷりな」

「あいよ!」

 

どかりと勢い良く座った男性は、あー腹減ったー等と、うちの船長のような台詞を吐く。

ちらりと視線だけを動かす。やはり、好奇心というものには勝てない。どんな奴なのか気になった。

男性の服装は上半身裸で、短パンを履いており、小さな短剣を携えていた。赤く大きなハット帽子が癖のある髪を抑えている。ルフィと同じ黒髪だった。

この世界は黒髪の人口率が高い。色素が抜けている薄い金髪というのもいない。なのに、元々人体が持つべき色素ではない髪色をした者達がいる。俺は勿論の事、サンジやゾロ、ナミも王女サマもそうだ。色鮮やかすぎて、ルフィが平凡に見える。キャラの濃さでは、人一倍だが。

因みに俺の髪の毛だが、色素が抜けて白髪になったわけではなく元々からで、更には紫色が少し入っているように見える事から、含めたのだが……それは良いとしよう。

暫くして男性の元にチャーハンが運ばれる。テカテカと輝き、スプーンで掬うとパラパラと米粒が落ちる。一口。男の口内にそれが運ばれる。

 

「……!うっ、め!」

 

そこからはもう良い食いっぷりで、見ていて清々しい程だった。本当に船長と似たような食い方だ。特にスプーンの持ち方とか。

子供のように鷲掴みしてるところから、箸とか持てるのか不安になるが、持てなくても大丈夫そうだ。ここは作法とか、そんなに無さそうだし。高級レストランとかはわからんが。

その男性からは目線を逸らし、二分の一程になったピラフをまた一口頬張る。隣の彼とは食事のスピードが違うが、飯は遅く食べる程腹が膨れやすい。そんなに金を持っているわけでは無いし、俺自体少食である。なので、このゆっくりとした食事になるわけだが。

さてと、ただ飯を食べるってのも暇なのでドライヴに記録させたデータを見るとする。勿論、透明なままだ。

この島の前の前に寄った島であるリトルガーデン。古代の植物や生き物たちがそのまま生きていた奇跡の島。あの島自体が生きた化石と言える島だが……どうにも、興味深い島だ。

リトルガーデンは昔の生物がそのまま何千年と経った島なんだろうが、それは人の手が入らなかった証拠でもあるし、自然災害に動物達が耐えた証拠でもある。一応人の分類に入る巨人種がいたが、あれは別だ。

つまり、何が言いたいのかというと、この世界の祖先と俺がいた地球の祖先は似たようなものであり、その事からこの世界は、地球のもう一つの可能性である、という可能性が高い。所謂、根本的なものから違う並行世界というわけで。

だいぶ前の話にも繋がるが、この世界は何ともちぐはぐな世界だと思う。よく分からないのもあるが、面白い。

リトルガーデンでの記録データを振り返りながら、そう考え笑う。もっと、この世界を見てみたくなったな。

 

「(あ。違う銀河系っていう可能性もあるな)」

 

いやはや、謎は深い。

その時、隣から鈍い音と高い音が混ざったような音がした。存外、大きい音だったそれは俺や、この飯屋にいる客人と店長であろうおっちゃんを振り向かせるのに十分で。

音の元凶であろう半裸の男性を見ると、そいつは顔面をチャーハンがまだ残る食器に突っ込んでいた。

 

……し、死んでる!

 

 

 

 




空調ってあるんだろうか、なんて思いながらも投稿。
あの服装で砂漠に行ったら死にそうなエドだけど、ドライヴが何とかする感があるなぁ。


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照り付ける太陽の下で兄弟と再開する16話

 

 

 

 

 

 

どうにもならない事に直面すると、人は諦める節がある。

深く考えれば何か良い案が出るかもしれないその現場で、少しだけ思考を巡らせて答えが出ないとする。すると何故か、どうする事も出来ないと認識するのだ。

探究心が大きい科学者にとって、その思考は愚かにも程がある。目の前の事しか見えていない、違う方向から見ると、見えていなかった物が見えるかもしれないのに、何故そうしてすぐ諦めるのか。そう思うかもしれない。

だが、人というのはそういうものだ。思考を放棄した間は例え問題を先延ばしにしているとは言え、安らかな時間になる。心の何処かで安心するのだ。あぁ、もう何もしなくて良いと、他人に任せようと思う。

こういう危機感がない現実逃避しているとも言うこの考え方は、今の俺にも言えていた。

いやまぁ、これは別に思考放棄してもいい案件だとは思うのだけど。

 

「船長、何故ここに」

「ん?おー!エドか!何処行ってたんだよ!」

「それは、こっちの台詞なんだが」

 

ばくばく、もぐもぐ。

店長のおっちゃんが出す料理を、片っ端から平らげていく我らが船長、モンキー・D・ルフィ。

そんな彼の斜め前は、巨大なボールでも通ったのかと思うぐらいには丸い穴が開いていた。奥を見ると隣に並んでいた民家までも風穴を開けているみたいで、思わずため息が出る。

この風穴を作ったのはルフィだ。飯屋ー!と言って出て行ったのにも関わらず、俺より後に飯屋を見つけたらしい。腹が減っては戦はできぬ、早く食べたい一心で能力を最大限に使い突っ込んできた結果が、風穴。

これって損害賠償とか出ないよな?出る?俺じゃねぇから、払いたくないんだが……あぁ、ナミの怒り顔が見える……怖い。

海賊なんだから逃げれば良いと思うが、もと日本人な俺にとっては良心が痛む。ほんの少しだけなので、そこまで罪悪感はないが。

ここまで考えて思考放棄をして、冒頭に戻る。怠惰でも愚考でも良いだろう、これは考えたくなくなる物だ。俺は何も見てない、みてない、ミテナイ。

 

「そういや、船長。ナミが探してたぜ?まぁ実際に探してたの俺なんだが。一人で飛び出すなってよ」

「ん!ふぉか!ふぇもふぉー!おふぇ、はふぁふぇってたんふぁよー!」

「飲み込んでから喋ろよ」

「……んぐ!そうか!でもよー!おれ、腹減ってたんだよー!」

「言い直さなくても、ニュアンスでわかるわ」

 

はぁと溜息を吐きながら、最後の一口となったピラフを食べる。

ご馳走様。そっと机の上にお代を置いて立ち上がり、ルフィの方へと向いた。

目の端では、風穴の向こうから白いダウンコートを着た薄い水色の髪をした男性が立ち上がろうとしている。その前では、黒髪の男が此方へ歩いて来ていた。死んだと見せかけて実は寝ていた野郎だ。

 

「先行くけど、一つ言う事が」

「なんふぁ?」

「さっきお前が吹き飛ばしたやつ、ローグタウンで追いかけて来ていた大佐だからな、気をつけろよ。ルフィ」

 

それを聞いてきょとんとしながらも口を動かしている、ルフィにくつくつと笑いながらも、踵を翻す。まぁ、麦わらの一味である俺も例外ではなく、気をつけないといけないのだが、あの男の一番の狙いはルフィだ。

この場はさっさと退散するに限る。

 

「麦わらぁあああああ!!!!!」

「げぇっ!?煙の奴!?!?」

 

さてさて、戻るか。全力で。

飯屋を出た瞬間に聞こえて来たその怒声に、俺は慌ててドライヴを展開し、その上に着地。音に迫る速さでその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇえええええ!?!?ルフィのお兄さん!?!?」

 

ルフィを大佐が追いかけ、その大佐の部下達もルフィを追いかけ、何故か此方に逃げてくるルフィから逃げる俺という謎の大行進ならぬ、大逃走が終わった後。

何とか仲間と合流し、何故か逃げるのに協力してきた突然死の男と、船で再開する。

……超展開だな。

まぁその突然死の男がルフィの兄という超展開も今しがたあったのだが。いやね?原作を知ってる身としては気づかなかったという方が俺は驚いてる。何であの特徴的な帽子と半裸という時点で気づくべきだった。顔見た瞬間に思い出したけども……あの、悲劇もな。

こういう何かのきっかけがなきゃ思い出せなくなるぐらいに記憶が薄れているのか何て考えてしまうが、今はその事は放置しておこう。記憶なんて一度消えてしまえば、戻すのは難しいからな。

 

「それで、その白ひげのとこの火拳が何故こんなところに?弟を探してってわけじゃないだろ?」

 

そう言うと、彼は此方を見て少し目を見開く。ん?何かしたか?俺。

 

「お前さっき飯屋で!」

「今気づいたのかよ……」

 

どうやら相手さんは気づいてなかったらしい。マジかよお前。

ハァと、呆れたように溜息を吐く。兄弟揃って馬鹿なのだろうか。

 

「いやー!迷惑かけたな!すまん!」

「今謝るのかよ……まぁいいが」

 

それに、迷惑っていうほどかけられたわけでもない。ただ、横で食事してた誰かが気絶してその周りが死んだ!と騒ぎ立てただけである。もし謝るのなら、周りの野次馬達に毒でも盛られたと冤罪かけられそうになっていた店主にだ。

謝ってきたルフィの兄、ポートガス・D・エースはけらけらと笑う。何が面白いのやら。

 

「ルフィに会いに来たのは勿論会いたかったのもあるが、まぁついでだ」

「「「ついでかよ!!!」」」

 

ついでって酷い兄だな。

 

「おれはある男を追っている。絶対に殴らなきゃならねぇ相手だ」

 

帽子を深く被りそう呟く。雰囲気が変わったからか、ウソップがゴクリと唾を飲み込んでいた。

 

「その足取りを追っていたら、お前の噂を聞きつけたってわけだ。ルフィ、会えて嬉しいぜ……強くなったな」

 

ニカっと笑うその姿は本当にルフィそっくりで、血を繋がっていないのを疑うほどだ。

環境が人を形作るのもあるが、兄弟で育ったからこそここまで似たんだろう。まぁ、エースの方がルフィより冷静で大人ではあるが。

ルフィもニカリと笑い返して、嬉しそうに頬を染める。

 

「しっしっし!」

 

良い兄弟だな。オレにはそんなものいなかったので共感はできないが、世間一般の目から見てそう思う。

そんなこんなで弟に再開した兄は、俺たちの目的地が一緒という事で同行することになった。まぁ今は海軍に追われているからそれを巻いてからになるけどな。

麦わらのルフィよりも大物な彼は海軍達を一人で引きつけると言う。ルフィ以外がそれに同意し、一緒に行くというルフィを俺がドライヴで甲板に縫い付けてエースを送り出した。

 

「久しぶりに会えて嬉しいのはわかるが、後でたくさん話ができる。今は我慢の時だぜ?船長」

 

ドライヴによって押さえつけられた首は地面とぴったりくっついているが、それでもルフィは首を縦に振った。ゴム人間だから首が潰れていても平気なのは知っているが相変わらず奇妙な絵面だ。

ビビの案内の下、ナミの号令によってゴーイングメリー号は進み始めた。

 

「で、俺たちが向かうのは何つー場所だ?」

 

遠くで舞い上がる火柱を見ながらそう呟くと、ルフィ以外の全員が驚いたようにこちらを見た。いや、驚きもあるが呆れも混じってるなこれ。

 

「どうした?」

「どうした?じゃねぇよ!ナミさんの素敵な号令が聞こえなかったのか!?」

「聞いてなかった」

「おぅおぅ!良い度胸だな!おい!」

 

決して手は出さず足を出すであろうこの船のコックは、スーツの袖を腕まくりしながら此方に歩み寄って来る。その表情は怒り。愛し野ナミさんの言葉を聞いてなかったからか。

せっかく腕まくりしたのに案の定脚技を繰り出して来る彼の足をかわしながら、答えてくれそうなやつを探して辺りを見渡す。

 

「で、何処に向かってんだ?」

「そーだ!どこに行くんだ!?」

 

俺のドライヴによって地面に縫い付けられていたはずのルフィまで参加して、二人して皆に問いかける。更にみんなが呆れたような気がした。

 

「ユバの町よ、ルフィさん。それにエドさん」

 

呆れている麦わらの一味の中から一人歩み出る。綺麗な空色の髪をしたその女はこの国の王女である。そんな彼女は苦笑しながらもそう目的地を告げた。

 

「ユバ?」

「ってーと、何処だ?」

 

船長と二人で首を傾げる。二人共アラバスタの地理を把握してなさすぎていた。俺は興味がないから、ルフィは元々地理を覚えるという事が出来ないから。

馬鹿!!とナミに二人して殴られて地に伏せる。少し甲板がベキッと音がなった気がするが気のせいだと思いたい。というより受け身を取れなかったのでとても顔面が痛い。

 

「ユバは反乱軍の拠点にしてある町なの。そこに行けばきっと合流できるわ」

 

全然話を聞いてなかったせいで知らなかったが、これでわかった。王国は七武海クロコダイルの手の内か。一見平和に見えるこのナノハナでも何処かで何かが可笑しいのかもしれない。ブロックワークスのブの影も見えなかった。これは強く根付いてるんだろう。あぁ賞金首狩りの組織かと思えば、ボスとその側近は賞金首。まぁボスは海賊狩りを正式に認めてられている海賊だが。

王国存亡の危機。これは一筋縄ではいかない旅になりそうだ。

うん、とてもとても。

 

「(面白いれェ旅になりそうだな……ククッ)」

 

ルフィ追いかけてきた海軍もいるしな。ストーカーかよ、怖。

ルフィが立ち上がりユバ!と呟いている。いや呟いている声量なのかはどうかわからんが、まぁそれはさておき。彼は新しい町にワクワクするのか、笑顔になっていた。甲板に躍り出て両手を精一杯広げる。

 

「よぉーっし!出発だァ!!いざ、ユバへ!!!!」

「うるっさい!!海軍に聞こえたらどうすんのよ!!!!!」

「ぐへっ!」

 

拳骨によりルフィの首を思いっきり飛ばしたナミの方が五月蝿いだなんて、誰も怖くて言えなかった。

 

 

 




エタッテナイ、エタッテナイ。エタッテナイヨ、ホントダヨ。一年以上経ッテタトカ、嘘二決マッテルヨネ?


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忘れ去られた場所で手掛かりを得る17話

 

 

 

 

反乱軍の拠点があるというユバを目指して緑の街エルマルから歩いて一日ちょっと。目的地が一緒というエースはもうすでに離脱し、そして俺たちは仲間と逸れた。

エースは元々ある男、元白ひげ海賊団二番隊隊員“黒ひげ”マーシャル・D・ティーチを追ってこの国に来た。それを倒したと噂されていた賞金稼ぎスコーピオンに出会い、それが嘘だと判明したので別れたというわけだ。

ダイジェストでお届けしてしまったが、今の俺にとってエースとの別れはどうでも良いことである。問題なのは今、俺たちが右も左もわからない場所にいるということである。

 

「…………なんで迷子になってんだ」

「こいつに言ってくれ」

「ルフィが悪い」

 

なんで何だろうと呟くと、ゾロとチョッパー二人して指さすのは寝ているルフィ。はぁとため息を吐いた。

太陽が俺たちを照らしているこの広大な砂漠の上での迷子は致命的だ。俺があちこちに飛んで探すのも良いが、それはそれでその体力がない。ドライヴで移動しているから楽というわけでもない。クーリング機能を作動させているけれど、それでも暑いものは暑い。そもそも俺の服装がこういう場所に少し適していない。

食料も水も彼方が持っている。このまま砂漠の上で野垂れ死ぬだなんて、海賊にあるまじき事態だ。砂賊でもあるまいし。

 

「んぁっ?ここはっ、てみんなは何処だ?」

「起きたか」

「彼奴らは先行ってるよ」

「ルフィ、下ろして大丈夫?」

 

人型になっていたチョッパーが首を傾げてルフィに問うと、彼はおう!と笑って降りた。しかし直後に暑いと呟くもんだから、少し笑ってしまう。

 

「んで、みんなは何処だ?」

「さぁ、何処だろうな」

 

先を歩くゾロが辺りを見渡す。右も左も前も後ろも砂、すな、スナ。足跡なんてものはない。

ゾロの言葉に首をかしげるルフィにみんなと逸れたことを伝える。彼は驚いて、どうして逸れたんだと叫ぶがどう考えてもお前が悪い。

三人してルフィを殴った。

 

「「「お前のせいだよ!!!!」」」

「あり?」

 

そもそもの話、ぞろぞろと列を作って歩いていたはずの俺たちなのだが、ルフィが途中で暴れ出した。クロコダイル!と敵の名前を叫びながら走ってるんだから幻覚を見てるのは確実だ。リトルガーデンでの話を聞いた限り、彼は催眠系はとてもかかりやすいらしい。まぁバカだからな。

ただ一味の中で一番強いルフィが暴れたとなると手がとてもかかる。二番手に強いゾロと睡眠薬を持っているチョッパー、チョッパーの手伝いができる俺という三人で対処にかかった。因みにチョッパーは暑さでダウン、俺は動きたくないというわけでゾロが一人で当たったわけだが……何故かゾロとゾロをクロコダイルと勘違いしたルフィが素手で戦い始め、ダブルノックダウンをしていた。その時にはもう俺は暇で寝ており、チョッパーは砂の中に埋もれていた。つまりは起こす人物がいなかったわけだ。

 

「チョッパーの鼻も効かねぇからな」

「エド!おまえ空飛べるじゃんかー!」

「嫌だね、面倒だ」

「面倒って良いのか?それ」

 

いやいや面倒なのもあるけど、これ見てごらんよ。

 

「無理ってのもあるな。ドライヴが熱でバテてる」

「機械から蒸気出てるー!?!?」

「壊れたようにしか見えねぇ!!」

「それ、バテんのか?」

「バテるんだよ」

 

どうやらドライヴのクーリング機能があまり追いついていないらしい。中心部の可動部分は大丈夫だが外側が熱を持ち始めてる。だからこそクーリング機能で冷ましているのだが、四方八方から来る熱には対処しきれないらしい。延々とループを繰り返している。

そのおかげでずっと蒸気が立ち昇ってるわけだ。別に壊れたわけじゃない。まだ大丈夫だし、壊れたらとても困る。

というわけでれっつらごー!だ。ドライヴが壊れる前にな。

 

「これが壊れたら修理する手立てがないんだよ。知識はあっても材料はねぇからなァ」

「確かに、浮遊する機械なんて初めて見たからな」

「ハイテクだよな!それ!ドラム王国でもそんなのなかったよ!」

「要するに不思議機械だな!」

「「おまえの場合機械全部不思議になるだろ!!」」

 

チョッパーとゾロのツッコミを貰って首を傾げるルフィは、どうしてなのか途端に笑顔になる。今までぞろぞろと歩いていたのだが、ドライヴと同じようにバテ始めたルフィが笑顔になった事に嫌な予感がする。

一番後ろにいる彼の目線を辿ると、そこにはポツンと岩があり日陰が作られていた。あぁ嫌な予感がする。

 

「日陰だぁあああ!!!!」

 

両腕を伸ばした彼を見て即座にドライヴを展開する。辛いだろうけど頑張って貰って上空へ避難する。高速移動したからか少し風を受けて涼しかった。

 

「ぐうっ……!」

「ぐぇっ……!」

 

それぞれ小さな悲鳴をあげてルフィ共々に飛んでいった。ルフィはゴムなので打撃系が効かないが彼らには効くので頭打ったり、首が折れたり、助骨が折れて心臓に突き刺さったりしないと良いけど。

そんな物騒なことを考えながら、蒸気をあげ続けるドライヴから降りて彼らに近づいた。少し気絶していたゾロとルフィが言い合い、その遠くでチョッパーが砂の中に突っ込んでいた。やっぱり回避してよかった、と安堵する。

 

「ったく、巻き込まれる身にもなってくれよぉおおおおお!?!?」

 

木陰の中にある岩にゾロが座った瞬間、ゾロが消えた。

 

「なんだ、ゾロ。受け狙いか?」

「んなわけねぇだろ!!!!!」

「あ、生きてる」

「ゾロにそんな事できるわけねぇだろ、ルフィ」

「おー、エドー!」

 

日陰の中に入り、ゾロが消えた穴を見る。どうやら地下があるらしく中は暗かった。ゾロの声の反響具合からとても広いことがわかる。このあたり一面には広がっていそうだ。

 

「んで、ゾロが消えたわけだが……どうすんだ船長」

「追いかける!」

「……だと思った。チョッパーは?」

「チョッパーも落ちかけてるからな!大丈夫だろ」

 

ほら、と指差された場所には沈んでいくチョッパーが見えた。あぁあそこも穴が開いていたか。それともルフィが飛ばした衝撃で穴ができてしまったのだろうか。

ルフィは行こう!と言ってさっさと穴の中に降りてしまった。中は真っ暗であるしドライヴを冷やせるかと思い、俺も飛び込むことにする。人一人分しかない穴に入るのは少し怖さもあるが、ドライヴが難なく付いてきてくれるので落下途中でドライヴ二機を足元に持ってきて乗る。重力による落下から解放された俺は、ゾロに近づくルフィに近づいた。

 

「何してんだ?ゾロ」

「おおぁあ!?ルフィ!?なんでいんだ!?」

「降りて来た!」

「方法は聞いてねぇよ!理由を聞いてんだ!エドとチョッパーはどうした!?」

「エドなら」

 

チョッパーはともかく、俺の居場所を聞かれたのでルフィの隣に降りる。

 

「俺ならここにいるぞ」

「うぉおっ!?」

 

ゾロってば、驚いてばっかだな。まぁここ暗いからな、見えてないのかもしれない。

 

「驚かすなよ……おまえまで降りて来たのか。よりにもよってチョッパーを置いて来やがって」

 

まぁチョッパーが一番暑さに弱いからな。砂漠なんて冬島暮らしだった彼には厳しいだろう。トナカイだし。

でも置いて来たわけではない、彼も同じくここに来る予定だからな。

 

「あぁぁぁああああああっ!」

 

ほら。

天井から落ちて来た大量の砂をルフィと二人で指差せば、ゾロは呆れたようにこちらを見た。何だよ!ルフィはともかくおまえまで、みたいな目!船長の決定に従うのがクルーだろ!仕方ないじゃん!(開き直り)

 

少し経ち目が暗闇に慣れてきたとこ、でこの場所が人工的に作られた場所だとわかった。どうやら遺跡らしい。作って埋もれたのか、隠す為に埋めたのかはとか真意は定かではないが、太古昔の遺跡ということだけ判明した。

その理由は。

 

「この絵みたいなの……多分古代文字だよ!本で見たことがある!」

 

チョッパーが綺麗に切り揃えられた巨大な石に近づき、こう言ったからだ。

それはDr.くれはの持っていた書の中にあったのだろうか。話を聞くと医学の島として有名なドラム王国はそれはもう世界中から医師が集まったらしい。自分達の知識を持ち寄って彼らは当然医学書や論文などを持っていた。それを王城に集めたとかなんとか。そしてその書庫の中に混じってたんだそうな。

読めないし読み方を知る人もいなかったから読むのは諦めたが、その時にこれは古代文字だと知ったらしい。

いやその本めちゃくちゃ嘘くせぇ。何で石に刻まれるような古代文字が紙媒体に書かれてんだよ。絶対オマージュしたような何かだろ。それはただの字が汚いやつ。

チョッパーの話に呆れながら、正確にはその本を作ったやつを呆れて古代文字が書かれた巨大な青い石を見上げた。

正方形なこれは明らかな人工。しかもピラミッドのように昔の加工技術ではどうやっても作ることのできない代物。やべぇもの発見したな、俺たち。

それに……。

 

「(内容がやべぇ……)」

 

読んで行くとそれは、古代兵器の在り処の話であった。口に出すと災いが降りそうなので、黙っておく。幸い、古代兵器?何それおいしいの?って奴らばっかなので黙っておいて損はないだろう。

取り敢えずドライヴでスキャンして記憶させておく。文字だけでなくこの石そのものを記憶させておけば、“なんか珍しかったから良いものかと思って”みたいな言い訳できるんじゃないかと。苦しい言い訳だが、まぁ大丈夫だろう。

大した自身も無しにドライヴを動かした後は、その成分を分析して行く。ふむ……大体が解析不可能。今のデータベースでは照合できない物が多い、か。ただこれは砲弾でさえ傷一つつかず、雨風などの天候にも左右されない素材だそうだ。となるとずっと残していきたいものを刻み込んでおくに適切なものか。兵器だなんて物騒な文字があったが、自分達が折角作ったものを埋もれさせたくなかったのだろう。わかるわかる。

 

「……ん?」

 

投影された分析結果をスライドさせていたら、何やら気になるものを見つけた。正方形の右下の裏手。今や砂に埋まって見えない場所にそれは刻まれていた。砂下までスキャンできる優秀なドライヴだからこそ見つけたものだ。

 

「これは…………」

 

世界の核心に迫る言葉だ。少なくともオレにとっては。

自然と上がって行く口角を必死に隠しながら、内から湧き出る感情を抑え込む。ダメだダメだ。笑うな微笑うな嗤うな!

 

---ワラエ。

 

「くはッ」

 

声が零れたならもう駄目だった。

一度漏れ出た声は二度と引っ込みはしない。

 

「くくくっ、あはは!アハッははははははハハハハハハハハハハハッ!!!!!!」

 

アァッ、最ッ高だ!!!!

 

 

この言葉を残した古代人に感謝をッ!!

 

 

ここに落ちたゾロに感謝をッ!!!

 

 

古代遺跡だと見抜いたチョッパーに感謝をッ!!!!

 

 

そして!!

 

 

これを見つけた俺にも(・・・)感謝送ろう。

 

 

 

「まさかまさかまさかまさかまさかまさかッ!!ここで手掛かりを得られるとは思わなかったぞ!!クククッ!!思わぬ収穫だァッ!」

 

三人から向けられる目も気にせず、オレは狂ったように笑い続けた。

仕方が無い。だってそれ程嬉しかったんだからなァ、仕方ないってもんだ。

子供の頃から付き合った研究。◼︎◼︎◼︎はあると確信して、そして滅ぼされたもの。その続きが拝める。これで次の段階へと移れるかもしれない。

 

今はただ、この喜びに浸っていたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“◼︎◼︎◼︎文字ではなくこの文字で贈ろう。未来の人よ。もしこの文字が読めるならば、君に私の全てを授ける。私達はもう滅びる。行き過ぎた文明は滅ぼされるのが運命なのだ。だが、だが!それとこれとは別なんだ。諦めたくない、それは彼らも私も同じ想いだった。だからこそここに記す。この国の道を記した石へと向かえ。そこに全てがある”

 

 

 

それはエリオスの文字で書かれていた。

 

 




クロスオーバーではあるが単品ではない。彼だけだなんて面白くないからね。


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夢の町で海軍に追いかけられる18話

 

 

 

おぃっすー、エドだ。

 

こういう挨拶も久しぶりな気がするな。

あの後やっとの事でナミ達を見つけて、ユバにたどり着いた。けれどそこには反乱軍のはの影もなく、度重なる砂嵐によって荒れた町だけが残っていた。そこに唯一残っていた老人が反乱軍のリーダー、コーダの父親で、彼が言うには反乱軍は拠点をここではなくカトレアという一番初めにいたナノハナから馬車で数時間の場所にある街に移したらしい。

とんだ大回りになってしまい、ユバで一晩休んでからさぁ!カトレアに行くぞ!というところでルフィがボイコットを起こした。今ココ。

 

「やめた」

「る、ルフィさん……?」

「おいおい、おまえの我儘に付き合ってる場合じゃねぇんだよ」

 

座り込んだルフィにビビとサンジが呼びかけるが頑固として動かない。こうと言ったらそうするルフィだ、きっとルフィなりの考えがあるのだろう。

麦わら帽子を掴んで深く被り直した彼は、なぁといつもの大声とは違う低い平坦な声を出す。ずっと馬鹿な場面しか見せてこないルフィの真剣な眼差しは人を萎縮させる。

 

「反乱軍を止めたとして、クロコダイルが止まんのか」

「それは……」

「反乱軍を止めに行くのはわかってる……けどな、そこに行ってもおれ達がすることはないだろ」

「…………」

 

おれ達は海賊だ。

 

「反乱軍も、国王軍も!国の為にだなんて関係ねぇ!!!おれは海賊だ!おれがやりたいようにやる!!」

 

ルフィが顔を上げた。

 

「おれはクロコダイルをぶっ飛ばしてぇんだよッ!!!!」

「っ!!」

 

それはルフィの目的。

ルフィはクロコダイルをぶっ飛ばしに、ビビはクロコダイルの陰謀を知り嵌められている反乱軍を止めに。それぞれの目的の為にこの島に来た。

確かにビビの目的の為なら反乱軍の下へ行くのが一番だろう。しかしそれでクロコダイルが止まるとは思えない。クロコダイルは自身の社員にすら自分の正体を明かさない用意周到すぎる海賊。自分が海軍に捕まる可能性を排除しての事だろうが、海賊にしては狡猾だ。まるで川を渡る草食動物をゆっくりと待つ鰐のように。

そもそもの話……いくら王女の言葉だとしても鬱憤を貯めに貯めた反乱軍を止められるとは思えないな。真実を話したとしても“それがどうした”と一蹴されそうだ。

 

「それは!わかってる!ルフィさんがクロコダイルをぶっ飛ばしたいのも……でもわたしは、今までずっと彼らを止める為に……っ」

「なぁビビ、何で一人で命賭けてんだ」

「……え」

「何で一人で命賭けてんだって言ってんだ。おまえは全部救いたいと思ってる、反乱軍も国王軍も国のみんなも!なぁ、おまえ一人命賭けて……それで救えると思ってんのか。少し甘いんじゃねぇのか」

「っ……!!」

「誰も死なずになんて無理だ。人は死ぬぞ」

 

人は死ぬ。当然の真理だ。だって生きているんだからな。

死なないとなるとそれは正真正銘の化け物であり人ではないだろう。人である限り、生物である限りいつかは死ぬものだ。その時期が人それぞれなだけで。

ビビは叫ぶ。それがどうした!とそんなのわかってる!と。けれど彼女は救いたいのだ、みんなを、国の全員を。何も知らず巻き込まれた彼らを憐れみ慈しみ、救いたいと思った。女神ではないのにそれを行おうとしている彼女は確かに甘い。でもその甘さと優しさが彼女の強みなのではないかと、俺は思う。

まぁ合理的ではないがな。

 

「だから一人で何でもかんでも抱え込むんじゃねぇ!!おれ達がいるじゃねぇか!!!おれ達の命ぐらい!一緒に賭けてみろよ!!!!」

 

それはルフィの心の叫び。

 

「仲間だろッ!!!!!!!!」

 

お前は一人ではないんだよ、ビビ。

 

「うっ……!うぅっ、ぅあぁああああっ」

 

脇目も振らず泣き続けるビビに、ナミが抱き寄せ、他の男共は静観する。ルフィはやっと泣いたと笑い、俺もルフィの荒療治に苦笑する。

 

この日、一人の王女が一人の女性として本当に仲間になった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ま、そんな感じで俺達は今レインベースにいる。

ユバの街からさらに上。クロコダイルが経営するというレインディナーズがある場所、レインベース。かの王下七武海はこの場所を拠点にしているらしい。バロックワークスのボスとしてではなく、ただの王下七武海としては有名なので所在が掴めやすいと思っていたが、これはビビが王宮にいた時から知っていた事実らしい。

まぁ王下七武海がいるから、こんな発展した街になったのだろうが。

 

「街の中だからか、あまり暑くないな……」

「砂漠の上じゃないもの。太陽の熱を遮るものが多いから、必然的に比較的涼しくなるのよ」

「ビビ」

 

ぽつりと呟くといつの間にか隣に立っていたビビがそう返してきた。

水だぁああああ!と叫んで水を求めて駆け出し行ったルフィとウソップを見送り、人目のつかないところで休んでいた俺達。あの二人で大丈夫だろうかと、心配になりながらもビビとの会話に勤しむ。

こうして話していると本当に王女なのかどうか疑わしくなる。それほど活発であるし、気さくだ。エージェントとして会った時からそれは感じていたことだけれど。

 

「夢と希望の街、レインベース。カジノを中心としたオアシス。悪趣味なバナナワニが辺りを見渡すように佇んでいるのが特徴ね」

「バナナワニ……?」

「アラバスタ固有種よ。頭にバナナのようなコブがあるからバナナワニって呼ばれてるけど、彼ら草食じゃないわ。寧ろ獰猛な肉食獣。成獣で平均30メートル程になるのよ」

「そりゃぁ、おっかないなァ」

「元々レインディナーズができる前はバナナワニが生息する湖がある場所だったの。その獰猛さから誰もオアシスにできないでいたんだけど」

「クロコダイルが来て作っちまったってわけか。まぁ王下七武海ならバナナワニぐらいぶっ飛ばせるだろうしな」

「そう、オアシスが一つ増えたんですもの。民衆は感謝したわ……けれど王宮ではある懸念があった」

「バナナワニの居場所か」

「えぇ。バナナワニにとっては住処を奪われたも同然。快適な生簀を用意されたってその怒りは収まらなかった。彼ら頭が良いんですもの、閉じ込められたと認識したのね。でも反逆を起こしたバナナワニをクロコダイルは鎮めた。今では彼らはクロコダイルの言いなりだわ」

 

レインベースの歴史をビビから聴きながら辺りを見渡す。来た時は涼しいと思ったこの場所も慣れた今では暑い。パタパタと服を動かしながら、何処からか声が聞こえた方を探る。

 

「……て……ぇ…………ぁ……!」

 

何処からだろうか。怒声のようなものが聞こえる。更には民衆がざわざわし始めた。見る先は先程ルフィとウソップが走って行った方角。

 

「……あの馬鹿野郎ども……っ」

 

一つの可能性に行き着いて人知れずため息を吐く。他のクルーは気づかなかったが、ビビだけは俺の変化に気づいた。どうしたの?と声を掛けてくるが、頭を振って大丈夫だとアピールする。

それよりも今は。

 

「ビビ、逃げる準備を」

「えっ」

「早くしろ!」

「え、えぇ!」

 

段々とはっきり聞こえてくる怒声に思いっきり舌打ちする。俺の予想が正しければ、またハプニングの予感だ。いやナノハナでやらかした俺が文句言える立場ではないが……長旅で疲れてるのにどうしてこう厄介事を持ってくるのだろうか。

 

「面倒くせェッだろッ!」

 

曲がり角で姿が見えた瞬間にジャンプしてドライヴに乗る。ルフィが笑顔で手を振り、ウソップが青ざめた顔で走っているのを確認してドライヴを発進させた。

風を切って一瞬で距離を詰めた俺はもう一回ジャンプして回転。逆さのままで展開させたドライヴが発する電磁波を蹴りつける。そこからでてくるのは電磁砲だ。ルフィ達とそれを追いかける海軍を分断するように着弾させた。

飛び散る海軍といきなりの事で叫ぶウソップ、笑うルフィと場はカオスと化する。ま、それが狙いだけれど。

 

「足止めは俺がする!早く行け!」

「悪いな!エド!」

「す、すすすぐ来いよ!!エド!」

 

二人の言葉にサムズアップしながら、俺の下を抜けようとする海軍達に牽制の電磁砲を放つ。余っているドライヴ達で紫電を放ち、横を通り抜けようとした海軍も止めた。

紫電の方は武器に伝達したのだろう。殆どのやつが右手を抑えて武器を手離していた。

 

「クククッ、アハハハハハッ!!どうしたァ!?かかって来いよ!!雑魚ども!そんなんじゃ我が麦わら海賊団が船長、麦わらのルフィの首なんて取れやしねぇぞォ!!」

 

オレの首もな!

後ろから何あの悪役なんて聞こえてくるが知らねぇな!海賊って悪役だからノーカンだ!

 

「誰が」

 

その時海軍の群れの中から一際でかい海兵が出てきた。スモーカーだ。不敵に笑った顔はとても海軍には見えないが、あれでも大佐でモクモクの実の能力者である。

ただ、なぜその半身を煙に変えてるんでしょうか。

 

「雑魚だってェ!?狂気の科学者!!」

 

うわ!飛んできやがった!

十手を振りかざしてきたスモーカーから離れるようにドライヴを操作する。その際、隙を突いて抜けようとしてきた海軍を電磁砲で牽制。目の前の敵に目がいって他の事を忘れてはいけない。これは鉄則である。

 

「クハハハハハッ!!テメェの事は言ってねぇよ!執念深いスモーカー大佐ァ!」

「狂気の科学者エド!スモーカー大佐から聞いてましたが、本当に麦わらの一味に加わっていたとは!」

 

スモーカーの十手をかわしながら下を見ると太刀だと思われる刀を持つ眼鏡をかけた女がこちらを見上げていた。藍色の髪に合わせたような藍色の上着。動きやすいようにしているのかジーパンを履いている。あれがたしぎ曹長だろう。苦手な相手だとゾロが言っていた。

なんで苦手なのかは知らないけどな。

 

「たしぎィ!!麦わらを追いかけろ!」

「ですが!」

「俺は此奴を捕まえてから行く!」

「……はっ!了解しました!」

 

走り出したたしぎ曹長に慌てて牽制の電磁砲をお見舞いするも難なくかわされ、後ろを見るとルフィ達が慌てて走り出していた。いやまだ逃げてなかったのかよ!!これじゃ時間稼ぎに牽制した意味ないじゃねぇか!!

 

「ククッ。オレを捕まえるたァ、いい度胸だな。スモーカーァ」

「ハッ!どんなカラクリかは知らねぇがな、そんなおもちゃ壊してとっとと捕まえてやる」

「ハ?」

 

は?おもちゃ?今、ドライヴをおもちゃと言いやがったのか?此奴。

ふつふつと怒りが湧き上がってくる。オレが作り出した最高傑作のドライヴをおもちゃ扱いしやがった事に怒りが抑え切れない。

まだまだ進化できるドライヴだが、ここまでくるのにも相当記述がいる。それこそこれを一から作れるのはオレだけと自負できるほどのなァ。

あーぁ、オレを怒らしてくれちゃってー。

 

「その言葉、撤回させてやるよ」

「何をッ!?」

 

ドライヴを操作して更に上の空へと躍り出る。そしてくるりと半回転して重力による自由落下に身を任せながら、仲間達を追いかけ二手に分かれようとする海軍を見据える。右手を上げて、クヒッと笑う。

 

狙うは敵のみだ。

 

「ニュートロン」

 

数メートル先、ちょうど二手に分かれる道の裂け目、そこに素早くドライヴが飛んでいき……そして強力な電磁波を発生させた。

人が宙に浮く。走っていた海兵達が急に浮き始め、そして一箇所に集まり始めた。それは地獄行きの切符。巻き込まれれば最後、ただでは済まないモノ。

 

「なっなんだ!?身体が宙に浮いてッ!」

「ぐぁっ!刀が当たって……!」

「うわぁあああー!!!」

「どうなってんだよ!コレ!?」

 

たしぎ曹長は流石実力者と言えば良いのか、愛刀を地面に突き刺し耐えている。それが正解だ。急なことに反応できなかった一般兵達はお気の毒だが、ここでリタイアしてもらおう。

海兵だけ(・・)の塊になったそれに向けていた手をぎゅっと握った。

 

「ぼぉーん」

 

口角を歪めながらそう言った瞬間、爆発が起きた。中心地は勿論海兵達の塊だ。

くるりと半回転して地面すれすれでドライヴに乗る。地面に向けていた顔を上げれば、血を流し気絶した海兵達が地面に降り注ぐ。首折れなきゃ良いけど、なんて心にありもしない心配をした。

ニュートロンボム。エルソードでエド第一次職、ナソードルーラーでの最終会得スキル。ま、十五レベルで第二次職になれるのでそこまで多用するようなスキルでも無い。前方にドライヴを展開、それを中心に電磁波を円状に広げて周りの敵を吸い込み爆発するスキル。消費SPが300に対して、少々威力が低いのが難点だが敵を一箇所に集めるってのが便利だったりする。

しかしながら、このニュートロンボム。ゲームでは吸引時間が一秒にも満たないぐらいだったが、かなり上空から落ちていたオレの落下時間は約二秒間。そう思うと一秒ぐらいは超えているのでは無いかという程の吸引時間だった。やはり現実では調整が効くんだろうな。

そうでなきゃ困るけど。

 

「(あ、ちょっと残ってしまったか)」

 

百人ほどいた海兵が数十人まで減っていた。海兵全員を吸いきれなかったのが残念だが、時間稼ぎとしては充分だろう。唖然とするたしぎ曹長とスモーカー大佐に振り向いて、優雅に一礼する。

ククと嘲笑ってやった。

 

「さて、テメェがオレの地雷を踏み抜いてくれたおかげで数を減らせた。感謝する」

 

ビキリとスモーカーのこめかみに青筋が入った気がするが気のせいってことにして……俺は逃げるぜ!

 

「んじゃ、必死になって追ってくるんだなァ!雑魚の海兵さん達よ!!」

 

この街に来てだいぶ冷えたドライヴを使ってルフィ達を追いかけた。目指すはレインディナーズだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エぇぇええええドぉおおおおオオオ!!!!」

 

逃げ始めてから数秒後の事、後ろから地鳴りのような怒鳴り声が聞こえてびくっとしてしまったが、振り返らずに向かう。ここで止めてしまったら捕まる未来しか見えない。逃げる一択だ。俺は基本、小心者なんでね!!

いやほんと、なんで俺がエドになってしまったんだか!全然性格が違ぇのなんのってな!

 

「……本当になァ」

 

クク、と口角が上がった。

 

 

 




クハハハハッ!俺を呼ん(呼んでません)

スキル名がニュートロンボムと気づいたここ最近。エドは「ニュートロン……ぼぉーん」か「ニュートロン……ぼぉーむ」か、どっちを言ってるんだろうと考えたけれど、前者の方が絶対に良いと前者を採用。

採用と言えば、今度採用試験あるんだ。あがり症&緊張で頭真っ白になるタイプなのに受かるかどうか。


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王下七武海を罠に嵌るそのとき19話

 

 

 

スモーカーに捕まらないようにと、上空に逃げてレインディナーズを観察していたら何故か集まったビリオンズ達が集結していた。ここで彼らを倒しても、それぐらいではバロックワークスに擦り傷すら与えられない。しかしこの場においては重要な事だろう。倒すのは後になるが。

街中にルフィ達やスモーカーがいないことから、レインディナーズの中に入ったと思われるけど……レインディナーズの中が何も騒動が起きてないとなると捕まったのだろう。視界の端では王国最強の“ハヤブサ”のペルーがミス・オールサンデーにやられていた。近くにはビビがいるし、多分クロコダイルの元に連れてかれるはずだ。

それはルフィを頼るとしてだ。

 

「あら、助けないの?」

 

耳元から声が聞こえた。敵であるミス・オールサンデーの声が側から聞こえたらSAN値チェックものだが、彼女の能力は分かっている。ハナハナの実を食べた、花人間。花を咲かせるようなメルヘンな能力ではなく、自分の身体の一部を場所問わず咲かせることができる超人(パラミシア)系能力者だ。

その事から俺の耳元に自身の口を咲かせたのだと思う。側から見れば恐怖映像だが。

 

「何の事だ?」

「しらばっくれちゃって。ミス・ウェンズデーの事よ」

「あぁ、王女サマね。別にしらばっくれてたわけじゃねぇよ。ただ助けなくても良いと判断したまでだ」

 

クスクスと悪魔の子は笑う。

 

「ふふ、それはどうして?」

 

そりゃぁ、どうしてって聞かれても。貴方ならビビを傷つけないとわかっているからであり、クロコダイルはどうかわからないがルフィならビビならきっと大丈夫だと信じているからだ。

そう思った事を言ったのだが、ミス・オールサンデーは何故か黙った。理由を聞かれたからそれを言ったまでなのに、返事がないとかこれいかに。

数秒間の沈黙の後、彼女はそうと呟いた。

 

「そこまで信頼できるのね、羨ましい限りだわ」

 

そんな言葉を残して彼女は去って行った。耳元から一枚の花びらが舞い、ドライヴの紫電でそれを焼き切った。能力故の演出だとは知っているけれど、彼女の能力を深く知っているわけではない。原作を知っているからこそ、原作で語られなかった以上のことは知り得ないのだ。

 

「信頼……ねェ」

 

理由はある。原作での彼らの行動を覚えているからだ。彼らは主人公であり、決して裏切るような真似をしない。彼らが彼らであると信じている限り、それ以外の事をするとは考えられないのだ。

原作を知っているからこその、この信頼だ。

 

さて?

 

これは本当に彼らを信頼していると言えるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街中を走り回る海軍に、それから隠れる金色。黒スーツを着たそいつは狸のようなトナカイと一緒に行動していた。

あの二人以外は全員レインディナーズの中に入ったようで、他を見渡しても見つけられない。どうやらあの二人だけ残ったようだ。

レインディナーズに入ろうとしても、その入り口は開けた場所にある。湖の中心にあるカジノだからこその設計だ。良くも悪くも入り口は一つしかない。それに、その入り口にはビリオンズ達が蔓延ってるしな。多分彼らはクロコダイルの住処であるカジノの中には入らないようにと言われているんだろう。それか見張るようにと。

入り口のミリオンズやビリオンズ達に気づいたサンジとチョッパーは近くの建物の物陰に隠れていた。今からレインディナーズの中に入るのは特酒とは言えない話だ。なので合流する為に周りには見つからないよう、遠回りをして後ろから回り込む。その時に気配を消すのはご愛嬌というものだ。

 

「よぉ……こんな所で何してんだ?麦わらの一味サンよぉ?」

「ひっ……!」

「っ!」

 

両方の肩に手を置き、顔を横に付ける。そうする事で耳元から声が聞こえるというわけだ。さっき味わった恐怖をお前らにもお裾分けという俺からの親切な贈り物だ。有り難く受け取ってくれたようで、彼らの肩はすくみ上がり此方を向いた。

サンジは怪訝そうに、チョッパーは顔が毛で覆われているというのに一目で分かるほどに青ざめている。どうやら成功のようだ。

 

「え、エド?」

「おう、エドだ」

「てっめ!驚かすなよ!」

「ソーダ!ソーダ!」

 

ネタに聞こえるような肯定するなよな、驚くわ。

驚かしたのは好奇心からなので素直にすみませんと謝っておく。エド風なので態度が悪いが許してほしい。エドさんはツンデレなのだ。

で、だ。大声で驚かした事を責めるのはいいが、ここが何処か忘れているのではないだろうか。レインディナーズの真正面にある建物の陰だぞ?

 

「今、怒鳴り声聞こえたよな……?」

「あぁ。麦わらの一味かもな」

「おれちょっと確認してくる」

 

そう言って一人のミリオンズが此方に警戒しながら歩み寄ってくる。明確に居場所が割れてる事に気がついて思わず小さく舌打ちした。

 

「テメェらが大声出すからバレちまっただろうが」

「「おまえの所為だよッ!!!」」

「いたぞ!!」

 

2人にツッコミを貰うのと、ミリオンズの男に居場所がバレるのは同時だった。

麦わらの一味だ!と叫んで此方にサーベルを振り下ろして来た男をドライヴを使って気絶させる。思いっきり顎を狙ったので起きた時には骨が砕けた激痛が来るはずだ。

容赦ないと遠い目をしていた二人は仕方ないとため息を吐いていた。どうやら見つからないに越したことはないが、別に見つかってもどうでも良かったらしい。物陰から飛び出し倒れた男に釣られて近寄って来たミリオンズ達を足技や、殴ったりして倒していく。

俺も参戦しないわけにも行かないので、武器であるドライヴと共に走り出す。横から来た敵には電磁包膜を展開、横殴りで発射させ、前からの敵はドライヴで殴り飛ばし、後ろから切り掛かって来た奴はバク転の要領で空中に退避しそのまま電磁砲をお見舞いする。

 

やだ……電磁包、便利すぎ……?

 

まぁ手足のように動いてくれるドライヴは意識せずとも敵をバッタバッタとなぎ倒して行ってくれる。ミリオンズが弱すぎるので大体が一発でノックダウン、タフな奴でも二発だ。

チョッパーとサンジだって一般人より遥かに強いので俺と同じスピードで倒していく。なるほどこれが海賊無双。ゲームで無双シリーズの中に当然のようにワンピもあったから覚えてるけど、きっとプレイしていたらこんな感じだったのだろうな。

 

「なら、範囲技が必要だなァ」

 

ニヤリと笑う。立ち止まりドライヴを展開、粒子収縮開始。威力半減、射程距離二分の一に設定。

さぁ、くらいな。

 

「パーティクル」

 

紫色に光る粒子が展開させたドライヴに集まる。怪しく光るそれは、周りにいる者たちを戦慄させた。あの二人まで顔真っ青にして慌てふためいているんだが、お前らなら耐えれると思うんだがな。

 

「アクセラレーター!」

 

瞬間、集まった粒子達が加速して一筋の太い光となって敵を蹴散らす。本来ならそれだけなんだが、俺はドライヴを回転させることで周りにいる敵を全滅させた。

パーティクルアクセラレーター。前方に粒子を加速させた衝撃派を放つ技だ。消費MPは230、ニュートロンボムと違いちょっとお得感がある。まぁ微妙な数字とも言えるが。

技の粒子を加速させるという事はドライヴは科学を基準として作られていることがわかる。ニュートロンボムだって、電磁波を発生させたとは言ったが本当は電磁波のように見える中性子粒子だ。もちろん中性子なので電子ではないし、電気を持たない。

そんな感じでエドのスキルは化学基準である。しかしながらゲームでは魔法攻撃に分類されているので、行き過ぎた科学は魔法になるというのは本当なのだろう。

周りを見渡す。威力を半減にした事で死者はおらず、射程距離を半分にした事で周りの建物に被害はない。うん、流石オレ♪空間把握能力は良い方のようだ。

 

「ククッ、ァハハハハハ!!弱ェ!弱ェ!!こんなのでノックダウンとか、もっと根性見せろってェんだ!」

「「仲間まで巻き込んでおいて言うセリフか!!!」」

「あ、生きてやがったか」

「「勝手に殺すな!!!」」

 

仲良いなオメェらと笑えば、呆れたような笑みを浮かべられた。何言っても無駄だとわかったんだろうな、敵を全員倒したのだから結果オーライと思ってるし、その判断は正解だ。

手を突っ込んだポケットからタバコを取り出し咥えライターで火をつけたサンジは、ふぅと息を吐きこちらを向いた。これからどうるするのか?という視線だ。俺としてはこのまま突入した方がいいのではないかと思うが、それだといけないのはわかっている。

相変わらずカジノは外で騒動があったのにも関わらず元気に運営中、他の住民達はこちらを遠巻きに傍観中。静かっちゃ静かだ。ルフィが、あの船長が王下七武海と正面衝突してこの静かさはおかしい。思わず眉を顰める。

 

「絶対ェ、トラブル起きてんだろこれ」

「だろうな。街が何事もなく過ごしているのがその証拠だ……だが、確証はない。中の様子を調べないと」

「でも、同じように突入はしないんだろ?どうすんだ?」

 

チョッパーの疑問にサンジは目を逸らしてから、やがてニヤリと笑った。ふっともう慣れたタバコの臭いが過ぎる。

 

「おれに考えがある……任せな?」

 

その顔はとても海賊らしいものであったと言っておこう。

彼の言う作戦はこうだ。

中に乗り込まずに様子を調べるには良い手段がある。それは中の奴らに状況を話させる事だ。クロコダイルは強敵である。いくらルフィが強くても、オレより下の賞金首であろうとも王下七武海になる程の実力はある。苦戦は必至だろう。突入してから数分しか経っていない今、二人共小手調べしている頃なのではないかと推測する。

 

「つまりクロコダイルは余裕で待機している。ルフィの事だ、一騎打ちを申し込んでるはずだから手数は同等、だが実力は違う。前に話した事からして、笑いながら対処してるんじゃねぇか」

 

なるほど。ならば、そのクロコダイル本人に状況を言わせれば良い。ならどうやって、となるが…………その方法は見当がついている。

先程遠くの方で血を流し、荒い息を吐きながらもぞもぞと動く物体を発見した。その時すぐさまドライヴを向かわせて、そいつが取り出して使おうとしていた物体をドライヴで手首を攻撃して奪い取る。良かったな、手は外れてねぇぞ。

二機のドライヴに運ばせたそれを受け取って、サンジに見せた。彼は驚いたものの、ニヤリとまたもや悪い顔をした。サンジが吐いた煙に電伝虫は咳をする。

そう、電伝虫だ。アラバスタ王国が最終段階であるならば、いくら下っ端のビリオンズとは言えボスに繋がるダイヤルを持ってる筈だ。サンジはそう考えたのだ。

 

「見ろ、ご丁寧に殻に番号が書いてある」

「罠の可能性は?」

「それは聞いたらわかるんじゃないか?」

 

チョッパーの言葉に俺は近くの奴を持ち上げる。襟首を持たれた其奴は気絶していたのにも関わらず、苦しそうにして起きた。

 

「ぐっ、お前ら!調子に乗ってんじゃねっぐぅっ!?」

「調子乗ってんのはテメェだ。で、クロコダイルに繋がる番号はこれで合ってんのか?」

「?クロコダイル……?何で王下七武海が出てくる」

 

……呆れた。まだ下っ端共には伝えていなかったのか。伝えるのはまだ先という感じだろうか……それとも使い捨てにされているか。絶対後者だろうけどな。

 

「オマエらのボスだ。ククッ、ボスの名前すら知らないとか哀れだなァ」

「言ってやるな。で、合ってんのか?」

「答えるわけっぐふっ!!」

「残念だなァ、答えてくれないならオマエを殺して他の奴にするしかn「わかった!わかった!!言う!」ククク、初めからそうしろ」

「うっわ、悪役」

「海賊は悪役だろ」

「そりゃ違いない」

 

スゥーとタバコを吸うサンジを横目に下っ端ミリオンズに番号が合ってるか聞き、本当の番号を引きずり出す。やはり罠だったようで、本当の番号は電伝虫の裏だ。

火傷の跡のようなそれを見てから、Mr.0ことクロコダイルへと繋げた。

 

「いつもクソレストランをご利用ありがとうございます。ランチのご予約など、どうだ?」

『…………テメェ……』

 

ニッとサンジが笑った。

 

 




これ年内に終わる気がしない……(震え声)


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変態に追われながら宮殿へ向かう20話

 

 

「置いて行って良かったのか」

「大丈夫よ、アイツが言ったんだから」

 

卑劣()な罠に嵌められたルフィ達を助けた後、レインベースを脱出。国王軍と反乱軍の衝突を止めるために首都アルバーナへと向かうべく巨大ガニに乗って出発したが、思ったよりしつこいクロコダイルによりビビが拐われそうになり、ルフィが身代わりになった。ルフィは自分の事はいいから先に行けと言い、理解はするが納得はしていない面々は逃げながらも本当に大丈夫かどうか思案していた。←イマココ。

まぁ俺としては大丈夫だとは思う。負けフラグは立っているが死にはしない。あの男はあんなところで死ぬような奴じゃないのは前世からわかっている事だ。

 

「クク。ま、俺達ができることをしようぜ。今の俺達にとっての最優先事項は王女サマを送り届けることだ」

「そうだな……おれがお守りしますね〜!ビビちゅわーん!」

 

おい。

 

「あら?私は?」

「もちろん!ナミすわぁんもですよ〜!」

 

おい、サンジ。

三時のおやつって呼ぶぞ、コラ。ただ単にサンジが作ったおやつみたいな呼び方だけど!

シリアスをシリアルにすんなよ。いやシリアスなんて長続きしないのはわかっていたが。

喧嘩するゾロとサンジを呆れたように見てから、ルフィがいる方角へと振り返った。

原作を知っているとはいえ心配はある。オレというイレギュラーがいるからだ。もしかしたらバタフライエフェクトで死んでしまうかもしれない。そんな場面に船長はいつも出くわす。

ただ置いていった手前、信用しないわけもなく。

 

「精々精一杯足掻け、船長。アルバーナで待ってるぜ」

 

まだ、信頼はできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけでアルバーナ。展開はやバーナ。

俺は今遥か上空、肉眼で辛うじて見えるであろう場所を陣取り脚を組んで欠伸をこぼしていた。

アルバーナは決戦の地だ。国王軍、反乱軍、そしてバロックワークスの皆さんがお集まりになる地。バロックワークスについては幹部てあるオフィサーエージェント達ではあるが。

その強さは計り知れないので束で来られても困る。というわけで皆同じマントを被り、超カルガモ部隊で三手に別れるという手に出た。敵はまんまと引っかかり、見事に三つに分かれた。ま、咄嗟すぎて混乱したからこそなんだろうけど。そうじゃなければ、ここまで上手く乗ってくれない。最悪の場合、殺さなければ良いのだから超カルガモを狙われたかもしれないし。

眼下にいる岩陰に隠れていたビビはオフィサーエージェントたちがどこかへ行ったのを確認して出てきた。よし、ここから俺の任務の始まりだ。

何故俺が超カルガモ部隊に乗らなかったのかは、そういう作戦だと言っておこう。彼らはカルー入れて七羽。俺達はラクダ入れて八人(うち一頭)である。つまりは余るわけだ。常識に考えてラクダのマツゲを置いて行くべきなのだが、マツゲをビビと一緒において行くわけにもいかず、そもそも乗り物として以外は役立たずなマツゲを置いていってもなーという。本人……本ラクダには失礼な物言いだけれど。

そんなわけで俺が残ると立候補。ビビを護る役だ。勇敢な超カルガモ部隊隊長であるカルーがいるとはいえ、ビビ大好きなナミは心配であったらしい。俺を置いて行った…………おい誰だよ立候補したなんてかっこいい事言ったの!押し付けられただけだよ!俺だよ!

 

「はぁ……面倒クセェ」

 

どうせならオフィサーエージェントと戦ってみたかったものだ。アレらが消えたら残るはクロコダイルのみ。 クロコダイルはルフィの獲物なので手出しができない。ワンチャン他のオフィサーエージェントか、ミス・オールサンデーぐらいだろうな。チャンスがあれば良いけど……オレも実力を試したいもんだしな。

ま、その前にビビの護衛だ。反乱軍を止めるために待ち構えているビビだが、前方から来る反乱軍が素直に止まるとは思えないし、国王軍からは壁が高すぎてこちらに気づいていない。すんなり事が収まるのなら俺たちは居ないってもんだ。いやすんなり収まる事に越した事はないんだけど。

ん?誰か砲撃しやがったな。ビビに当たらない軌道だからいいけど、ったく国王軍早とちりし過ぎだろ。せっかちなのだろうか。そう思い下を見ると砲撃による衝撃で砂煙が舞い、ビビの姿が見えなくなっていた。まずい。あの状態では視界が悪すぎる。前方から反乱軍が来ているし、あのままだと押しつぶされる危険性がある。反乱軍だって人がいるだなんて思っていないだろうしな。ここでビビを怪我させたら俺の面目丸つぶれである。

立ち上がり反乱軍が砂煙の中に突っ込んでいくのを確認しながら、ドライヴを展開。熱感知をさせつつ、ビビの反応を探りそちらへ向かう。彼女は女性であるからか他の人より体温が少しだけ高い。砂の国出身なのにこれいかに。

馬達が嫌がる電磁波を発生させて寄せ付けず、振動を混ぜる事で砂埃を寄らせない。避けるように視界が開ける中、咳き込むビビを見つけた。国王軍の方を向いて嘆いたような表情を浮かべ叫ぶその姿はさぞかし国民の心を打つだろう。国の事をここまで考える王女なんて珍しいからな。

ただその姿勢は眩しいけれど、後ろにも注意してほしい。今まで避けていた馬がビビ目掛けて駆け出しているのだから。

 

「チィッ!」

 

大きく舌打ちしてビビを庇おうとしたカルーの首とビビの胴体をそれぞれ掴んで抱える。グエッなんてカルガモみたいな声出した一人と一匹に苦笑しながら、精一杯上昇した。

ドライヴ二機で人体一人分は余裕で支えられるが、二機で二人と一匹は流石に重過ぎる。ドライヴが全然速度を出してない。それでも回避するには充分すぎる程だが。

よろよろと近くの岩場まで退避して一人と一匹を下ろした。雑に下ろしたけれど無事だっただけ感謝してほしい。ありがとうと弱々しく呟く王女サマは余程ここで止められなかった事を悔いているようだ。顔からは悔しさが滲み出ている。

 

「立ち上がれよ、王女サマ。内乱を止められなかったとはいえ、まだ国は終わってねェだろ?」

 

そう言って手を差し出すとビビは俺の言葉に小さく頷いて手を取り立ち上がった。それで良い、今更いちいち後悔なんぞしていたらきりが無い。真正面を向いた彼女にニマリと微笑み、ドライヴを元の位置に戻した。

 

「ありがとう、エドさん」

「どういたしまして、王女サマ」

 

優雅に一礼して答えると、彼女はクスリと笑って顔を引き締める。

失敗したからってなんだ。何事にも失敗はつきものである。人と話すのにだって失敗するのに反乱軍を止めるだなんて大仕事、上手くいけるとは思っていない。王女サマもそうらしく、次の手を考えてカルーに宮殿に連れて行ってもらうように頼もうと辺りを見渡してふと気づいたらしい。カルーがいないことに。

 

「カルー?カルー!?どこ行ったの!?」

 

いや、カルーなら。

 

「そこで震えてんぜ?」

「カルー!?」

 

岩陰で震えて此方を見るカルーをジッと見ていると彼はだらだらと冷や汗をかいて隠れた。半泣きだったのだけど、俺何かした?咄嗟で首を掴んで運んだのは悪かったと思ってるけど……そこまで怖がるもんかね。馬に蹴られなかっただけマシってもんだと思うが……ま、所詮カルガモだ。考えてることなんて人間にはわからんものだ。

怯えるカルーを引っ張り出そうとしているビビを見ていると、ふと陰が落ちた。太陽を遮る場所が無いここに陰ができるなんてことはないので、つまりは誰かが後ろにいるという事だ。見上げるように振り返ると日光で眩しく見えなかったが、馬に誰かが跨っているのがわかる。

 

「ビビ!エド!こんなとこにいたのか!」

「ウソップか」

「え、ウソップさん?」

 

声からしてウソップだ。変な長っ鼻は彼しかいないだろう。完全に振り返って目を細めて見ると、案の定ウソップが笑って此方を見ていた。ふむ……ウソップねぇ。

 

「ウソップさん!どうしてここに?」

「へへっ、お前が心配でよぉ。さ、急ごうぜ。宮殿に行くんだろ?」

 

ふーん、こりゃ確定かな。

どうやら彼はあまり演技が得意では無いらしい。まぁ彼というのかは知らないけれど。

ウソップに駆けよろうとするビビをドライヴで押しどめ、隠れていたカルーを引っ張り出す。クワクワ五月蝿い此奴を軽く殴って黙らせ、耳があるであろう目の後ろあたりに顔を近付けた。

 

「〈首を掴んだのは悪かったと思っているが、今は怯える時じゃねぇのはわかってるな?〉」

 

こくこくとカルーが頷くのを確認する。

ビビとウソップが此方を怪訝そうに見ているのを横目によしと頷いた。

 

「〈ビビを乗せて走れるよな。宮殿まで直行できるか?〉」

「〈くわわ!〉」

「〈良い返事だ。よし、合図を言うからそのままアルバーナへ走り出せ。ビビはあの上でお前に乗せる。あの絶壁を登れるって信じてるぜ〉」

 

アルバーナがある絶壁の上を指すと、彼は勢い良く頷いて強い眼差しで指差した方を向いた。賢い奴だ。こんな俺を信用するなんてな。言ってはなんだが見た目が悪いって自覚してるんだけど。

軽く苦笑して、勢い良くカルーを押し出す!

 

「行けェ!!」

「クワァアアアアアアアア!!!」

「カルー!?」

 

翼を羽ばたかせ勢い良く走り出したカルーに驚いたビビだが、その隙をついて腰の部分を抱き上げ、肩に乗せて俺は走りだした。

 

「エドさん!?どうしたの!せっかくウソップさんが!」

「あいつは偽物だ!」

「えっ」

 

来てくれたのに!という言葉を遮って告げた俺の台詞にビビは驚いてウソップ(仮)を見る。俺はもう前を見ているからわからないがどこからどう見てもウソップなのに何故気づいたのか、そんなの単純だ。あいつが馬鹿だったに過ぎない。

 

「お、おい!何で逃げるんだ!?」

 

馬を走らせ追いかけて来ているウソップ(仮)から逃げるために、走る事からドライヴで移動するのに移る。飛んで乗ったドライヴは重量制限のオーバーからか少しよろめいたが、馬から逃げるだけには充分だ。

 

「で、でも」

「疑うってんなら、確かめてみろ。その方が確実だ」

「……わかったわ」

 

迷うように此方を見たビビを説得して仲間かどうか確認するよう促す。見た目も何もかも同じな其奴をどうやって見分けるのかは、俺たちが腕に巻いている包帯で確認できる。

 

「ウソップさん!エドさんが貴方を疑ってるの!だから!仲間と証明して!」

「な、なーんだ!そんなことか!それならお安い御用だ!ほら」

「っ!」

 

ビビが息を飲んだのがわかった。俺は口角を上げて、当たってただろ?と呟く。彼女は静かに頷いて、ウソップ(仮)を睨んだ。

 

「……ウソップさんじゃないわ。エドさんの言う通りね……Mr.2!ボン・クレー!」

「あーらぁ?なーんでバレたのかしらね〜」

 

声が途中で変わる。変身を解いたらしい。横目に見ると服装まで変わっていたのが不可解だが、まぁ早着替えでもしたんだろう。馬の上だけど。

 

「アンタ達がこの左腕の包帯を目印にしてたのは把握済み……だったんだけどね〜、ドゥーしてかしら?」

 

そんなの簡単だ。仲間の証明はその包帯を掲げることではない、包帯の下にある油性マジックで書いたバツ印を見せる事によって成り立つもの。一見包帯だけが仲間の印だと勘違いさるようにできている良い案だ。これを考え出したのがゾロってのが面白い所である。

 

「そ・れ・に!そこの真っ白いアンタ!何故王女様が確認する前にあちしが偽物だってわかったのかしら?とっても気になるわーん!あと、王女様置いていきなさいよ!」

 

最早馬を乗り捨て走り出した変態に背筋を震わせる。変な格好してるだけで変態じゃないって?五月蝿ェ!だったら、その臑毛抜けよ!いくらか気持ち悪さが減る!バレリーナとしてどうかと思うしな。

 

「ハッ!そんなの簡単だ、テメェがウソップの事知らないバカだったってだけだ。それと王女サマは置いていけねェ」

「ドゥーいう事よぉ!?」

「主な理由は三つある。一つ、宮殿に行くだなんて確定事項を今更確認しない。一つ、オフィサーエージェントを惹きつけたのに王女サマの元に向かうだなんて危険犯すほどバカじゃねぇ。あとは」

「あとは……?」

「あとは……オフィサーエージェントを撒ける程、ウソップは強くねぇ!寧ろ弱ェ!」

 

あ、ズッコケやがった。敵ながら天晴れなノリだ。好きだよそういうの。

 

「仲間の実力信頼してないの!?」

「してるぜ?あいつは弱ェってな」

「別方向の信頼じゃない!嫌な仲間ね〜ん!」

 

っと、もうすぐ絶壁だ。

 

「王女サマ、しっかり捕まっとけよ。ここから垂直に移動する」

「えっ」

 

アルバーナへと向かっていると気づかなかったらしい。戸惑ったような声を出したが一応忠告はしたので無視して、ドライヴの速度を上げる。ギリギリまで絶壁を引きつけて置いてから、垂直に上を向いた。肩に担いだ王女サマは今頃逆さになっているのだろう。しっかりと俺の上着を掴んでいる感触がした。

下で何か騒いでいたが無視して、何十メートルもある絶壁を中間ぐらいまで行った後、重力に押し負けてしまうのでパーティクルアクセラレーターの要領で小さく粒子を圧縮したやつを後ろに向けて発射。その振動でもう一度勢いを取り戻し、一番天辺まで躍り出る。

途端に響く激戦の音をBGMに既にいて休憩していたカルーに王女を預けて、一緒に走り出す。

 

「良いな、鳥。宮殿までひとっ飛びもとい、ひとっ走りだ。できるな?」

「くわ!くわわわ!」

「良い返事だ!」

 

平行して走ることは出来ないので、空へと逃げて一緒に宮殿へと向かう。後ろからMr.2が追いかけてきているがそれはそれ。今はともかく宮殿へと向かうべきだ。

 

「というか、どうやって登ってきた!?」

「そりゃ絶壁を走ってに決まってんでしょ〜!」

「気持ち悪ッ!!」

 

人間か!?こいつ!

 

 




ボンちゃんは変態ではない……ただ自分の信念のもとあんな格好をしてるだけである。つまり変人じゃん!?
B•Wは変人変態しかいない会社ってのがわかるね。

というかボンちゃん……字に起こすと、ただのオカマ……。


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反乱軍と国王軍が相対する最中に21話

 

 

 

 

 

「宮殿を爆破します」

「ビビ様!?」

 

アルバーナ宮殿に着いた途端これだ。敵組織に潜入するぐらいのお転婆王女サマは、人が思いつかないようなことをすらりと言ってのける。ルフィ達に影響を受けたのか、彼女は結構大胆だ。

4000年の歴史を持つというアルバーナ宮殿は、民の命と国の存続より大切ではないらしい。それを聞いた途端、くつくつと笑いが溢れる。国を第一に考える上に立つ人間は良い支配者になれる。ビビはいい王様になれるだろうな。

ただまぁ、この国を狙っているクロコダイルが黙っているはずもなく。

いざダイナマイトで宮殿を爆破しようとしたところで、突風が吹いた。砂を含んだそれは確実に自然なものではなく、火を付けようとした国王軍の兵士達が次々に何かに斬られて倒れていく。

 

「(カマイタチ……か)」

 

風に乗って通行人を刃で傷つける妖怪を思い出す。彼の場合、風ではなく砂で代用しているんだろうが、問題はそこではない。クロコダイルがここに来たということである。

 

「クハハハハハ。壊されちゃ困るなぁ、これはこれから俺の家になるんだからなァ」

 

詰まる所、クロコダイルを足止めしていたルフィは負けたことになる。その事に気付いたビビはクロコダイルを睨み、ずっとルフィの行方を聞いていた。

負けた、それは即ち死を意味する。海賊の決闘において慈悲はなく、クロコダイルの様な野心家であり策略家なら確実に邪魔になるであろうルフィを殺しておかないはずがない。あいつは死なないとは思うが、もしかしての事もある。慢心したクロコダイルがちゃんと死んだかどうかを確認していないのに賭けるしかない。

隣にいたビビが怒りのあまり駆け出そうとするのを肩を掴んで止める。肩の関節を外す勢いで掴んだからか、ビビは呻いて止まった。パッと離すと彼女は左肩を掴んで歯を食いしばっている。そんなに痛いか、そりゃそうか……バロックワークス社に潜入していたとはいえ、元は王女。痛みには弱いのかもしれない。まぁそれが普通なのだけど。

 

「貴っ様ぁ!!ビビ様に何を!!」

 

ビビの右隣にいた大男に怒鳴られる。国王軍の奴だろう、それも偉い奴。他の奴よりはいくらか強そうだがまだまだ弱い、そんな印象を感じる。

で、なんだっけ?何をした?そりゃオメェ。

 

「走り出そうとしたバカを止めただけだが?」

「止めるだけだけに左肩を痛めたのか!?」

「そうだが?」

「その必要があるのか!!!一国の王女だぞ!」

 

凄い剣幕だが、そんなもの俺には屁の河童。何ともないし、この大男の言いたい事もわかるのだが少しだけムカついた。

 

「五月蝿ェ」

 

イラッとしてドライヴで軽く大男の脛を突く。軽くとはいえ弁慶の泣き所を硬い機械で突かれたのならめちゃくちゃ痛いはずだ。現に脛を抱えて蹲っている。

そんな大男を見下ろして鼻で笑ってやった。

 

「こんな時に王女もクソもあるか。それに一国の王女だからだ……国を救おうって言う奴が敵に煽られてまんまと殺られるザマを指を咥えて見てろってのか?国王の兵ってのは薄情だな」

「なっ……!」

「良いのよ、チャカ。エドさんの言う通りだわ……」

「ビビ様!」

「ま、仲間を殺され、父親を囚われて怒らない理由はないな。お前は正常だぜ、王女サマ」

 

殺されてそれがどうしたのかという仲間は仲間ではないし、親が柱に磔にされて黙っている様な子供は家族ではない。というかいつの間に王を磔にしてたんだ?こいつ。

 

「で、目は覚めたか?」

「えぇ……お陰で冷静になれた。でもちょっと痛いわ、エドさん」

「そりゃ悪いな、手加減が苦手なんだ」

「…………嘘つきね」

 

そりゃどうも。ウソップ程じゃねぇけどな。

 

「クハハハハ。良い仲間じゃねぇか、えぇ?ビビ王女」

 

到底手の代わりになり得ないような義手をさすりながら笑うクロコダイルにビビは悔しそうに歯を噛んでいる。実力差は歴然、手も足も出ないというのは悔しい以外何物でもないだろう。気持ちはわかるが、行かせる気はさらさらない。

一通りビビを嘲笑ったクロコダイルは国王に向き直り、ある兵器の場所を聞く。遥か古代に存在したという、一発放てば島一つ消滅させる程の火力を持った残虐兵器。その名もプルトン。神の兵器とも呼ばれるそれがこの国に眠っているという。

 

「その名をどこで訊いた」

「そんな事はどうでも良い。あるかどうかを訊いている、アラバスタ国王ネフェルタリ・コブラよ」

「…………確かにこの地にある。だが、話を聞いただけで何処にあるのかすら先代国王すら知らなかった」

「だろうな。あるのかも疑わしい代物だ。そこは俺も期待してねぇよ」

「なら何故、求める?」

「クハハハハハ!」

 

ニマリと笑うクロコダイル。静観するミス・オールサンデー。バロックワークス社、トップ2がこの国を狙い、神の兵器を狙った理由を語る。

バロックワークス社の最終目的は理想国家の建設。それはプルトンが眠るこの地を狙うことにより成り立つ事。クロコダイルの理想国家とは軍事国家。だが海賊が軍事国家を作り、他の国を侵略するとなると世界政府が黙っていない。その為の世界最強の軍事力、その為のプルトンだという。

ククク、海賊が考えるような事じゃねぇな。まぁ海賊が王下七武海になり、一つの会社を作り腰を据えた所で海賊であってそうじゃねぇか。野心はそれなりにあるようだがな。

 

「では質問を変えようか、コブラよ。ポーネグリフは何処にある?」

「……!」

「おっと、だんまりは無しにしろ。あるのはわかっている。案内して貰おうか」

 

数秒黙り一度目を閉じた国王は項垂れる様に頷いた。国王の返事にクロコダイルは笑い、ビビは目を見張り口を押さえた。

ポーネグリフとは古代の人々が残した碑石。銃弾にも砲撃にも爆撃にも耐えうる特殊な石を使った記録。その一部がここにある。

先祖代々受け継がれたポーネグリフ。そこにプルトンの場所が書かれているという。

 

「(…………じゃぁあの場所にあったポーネグリフは何だ。あの藍色の輝きを持った石、どう考えてもポーネグリフだった。それに……)」

 

それに、そこには古代兵器の場所が書かれていた。そう今あいつが求めるプルトンの居場所だ。どうなってやがる。

島一つ容易く吹き飛ばす代物だ。王家が厳重に管理していなければならないものがあそこには、忘れ去られた砂漠の下にあった。何の冗談だ。フェイクだと考えるべきだろうが、記録から見てもあれは本物だ。あんな所に放って置かれる物じゃねぇはずだが。

4000年前からあるというこの宮殿。ポーネグリフの文字を読めなかったバカが間違えてプルトンの場所を記した碑石だと信じていたわけでもないはずだ。4000年もの間一度もこの場所を移動していないのなら、何故あの場所にポーネグリフが。それも古代兵器の。

あの場所にポーネグリフがあるのは簡単に推察できる。度重なる砂嵐によって埋まっている街を見た後だ。砂漠の上に建造物を作ったが何千年もの時間で砂漠の位置が上がった事により埋まったと推測できる。ゾロが岩に座っただけで建造物に穴が開いたことからその時間が窺える。

でもそうだとしても……あんな場所に、忘れ去られた場所に、世界を揺るがすものを置いておくはずがない。やはりフェイクなのだろうか。

 

「(まぁそれはコブラが知るポーネグリフの内容によるな)」

 

憶測の域を出ないな。考えるのをやめよう……なんだか展開が進んでいる。

 

「四時半に広場に砲撃を……!?」

 

え、何々?砲撃?

 

「クハハハハ!そうだ。十六時三十分丁度に、直径五キロを吹き飛ばす砲弾を撃ち込む。俺の計画が正しければ……十六時丁度に反乱軍と国王軍がその広場でぶつかり合う。クハハハハ、乱戦の中周囲を吹き飛ばす砲弾を撃ち込んだらどうなるのだろうなァ?」

「そんなの!みんな死ぬに決まってるじゃない!!」

「……外道がぁ!」

「クハハハハハ」

 

マジで……?やるな?クロコダイル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んなわけで、広場中央。反乱軍のリーダー、コーザが国王軍の前に立ち白旗を掲げていた。現在十五時五十八分。アルバーナ宮殿に向かう道筋から次々の反乱軍達が入り込んでくる。宮殿の上にいるからこそわかるこの風景は、まるでアリのようだと言ってしまいたいものだった。

え?何故反乱軍のリーダーが国王軍の前に立ち白旗を掲げているのかだって?そりゃオメェ、コーザが宮殿の抜け道を通って悪役のクロコダイルと相対したからだ。今までまだ国王が悪だと思っていたコーザだったが、国王が磔にされている状況で流石に国王が悪と決めつけ討ち取ろうとはしなかったようだ。幼馴染のビビと馴染みのある国王に頼まれ、コーザは反乱軍を止めるために前に立つ。

その様子を宮殿の上から眺める俺たちだが、さてそう上手く行くものだろうか。

 

「聴けェ!!反乱軍!!!!戦争は終わった!武器を置け!!国王軍はもう交戦する意思はない!!!!!」

 

反乱軍を率いていたことはある、中々のカリスマ性だ。コーザの言葉に疑念はあるものの、リーダーの言うことを信じているのか次々と武器を下ろしていく反乱軍。国王軍はすでに武器を下ろしている。

 

「それは本当なのか……?コーザさん」

 

反乱軍の一人がコーザに問う。半信半疑なのだろう。そりゃそうだ、いきなり降伏宣言なんて怪しさ抜群ではある。疑うのも無理はない。

その反乱軍の言葉にコーザはゆっくりと頷いた。動作は遅いがその眼差しはきっと決意が篭った堂々たるものなのだろう。反乱軍達が気圧されている。

 

「あぁ、本当だ。もう争う必要は、血を流す必要はないんだ……!!戦争は終わったん「パァン!」---っ!?」

 

“だ”と続けようとしたコーザの言葉を乾いた音が遮った。ぐらりと傾いた彼を続いて二、三発撃つ。衝撃でぐらぐらと動いていた身体はやがて重力に従って地面に落ちていく。

コンクリートの上にある多少の砂を巻き上げて落下したコーザは、ごふと血を吐き出した。

反乱軍のリーダーが“撃たれた”。そう分かったのは彼が倒れた後だ。

 

「コーザぁ!!!!!!!」

 

倒れた幼馴染の名前を叫ぶビビ。

 

「コーザさん!!」

「コーザ!」

「リーダー!!!」

「よくもリーダーを!国王軍!」

 

リーダーを撃たれた怒りに震える反乱軍。

 

「お前ッ!!!何で撃った!?」

「へ、へへ。手が滑りましてね」

「嘘をつくな!!!」

 

仲間の奇行に困惑する国王軍。

現場は混乱し、そしてさらに銃声が響く。不自然に砂塵が現れ、両軍の仲間たちが倒れていく。

 

「クククッ、アハハハハハハハハハハッ!!バロックワークスの仕業か!まさか両軍に潜入してるとはな!!クク!あんなわかりやすいマーク付けておいて、それを見抜けなかった奴等は間抜けだとは思うが……ククク、用意周到だなァ、オイ」

 

そしてこの状況を笑うオレ。人間としては最低な行為だとは思うが、どうしても笑わずにはいられない。可笑しくって腹痛いわぁwwとはこの事である。おっと俺にも下衆の才能があるようだな。

 

「それには同意するが……クハハハ。お前、麦わらには勿体ねぇなぁ。バロックワークス社に来ないか?今なら良い地位を贈呈しよう」

 

おっと、クロコダイルさんにヘッドハンティングされちまった。何が気に入ったのか分からないが、ニマニマしながら此方を見ている。良い地位とはこの国が手に入ったらなんだろう。それはとても嬉しい誘いだが、あいにくこの国が落ちるとは思っていない俺にとっては受ける理由もなく。

 

「断る。船長を舐めてもらっては困るなァ、テメェの野望は潰えるって相場が決まっている」

「あ?」

「それに一つの場所に腰を据えるなんて事、面白くもねェモノに加担するかよ」

 

少しだけ青筋を浮かべたクロコダイルを鼻で笑ってやる。

 

「そもそも、本気じゃねぇ勧誘なんてお断りだ」

 

俺が麦わらの一味に加わった経緯はさて置いてだ。誰がお前の下につくものか。お前みたいな大物の癖に小物臭する奴について行きたくねぇよ。

最初とは逆に此方がニマニマ笑ってやっていると、ぐいっとベルトを引っ張られた。何だ何だと思うと、ビビが此方を見ていた。涙を押し殺したような顔で、懇願するようなもので。

最初と違って仲間である俺を頼ってくれるのは嬉しいが、はっきりと言葉を喋ってほしいものである。はぁと溜息をついて、俺は宮殿を飛び降りた。

 

「エドさん!?」

「任せておけって」

 

心配するような声を笑い飛ばす。そんなキャラではないのは重々承知だが、そうでもなければ彼女の心は折れそうだった。

重力に従い下に落ちながら、眼下を見ると反乱軍と国王軍はまだ衝突はしていなかった。混乱しているらしい。コーザの言葉を信じるべきか、目の前の出来事に怒って突撃するべきか。判断が遅いのは間抜けの象徴だが、今はそれが好都合。

ドライヴを引き寄せその上に乗り、塵旋風の中を突っ切る。熱感知によりどこに何がいるのかは分かっているので、人を避けるのは容易い。丁度彼らが分断している広場の中央に降り立ち、端から端へとダミードライヴを八機展開させた。

 

「さぁて、やった事はねェが……俺の役目は王女サマの護衛。彼女の望みを叶えるのも護衛の務めだろうよ」

 

だからさ、止まれよ?お前ら。

 

「行けェ!国王軍を討ち取れぇ!!」

「国王軍の言葉なんかもう信じねぇ!」

「コーザさんの仇!!」

 

 

「パーティクル」

 

 

「反乱軍を抑えろぉ!!!」

「国王の名にかけて!!」

「反乱軍は所詮反乱軍だ!!前へ進め!!」

 

 

「---プリズム!!」

 

 

反乱軍と国王軍が衝突すると思われたその時、両軍の間に不可思議な“壁”が出現した。

 

 

 

 




アニメでは「アッアッアッア」みたいな笑い方なのに、漫画では「クハハハ」なのどういう事なのクロコダイル。冗談は名前だけにしておいてくれ。


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塵が舞う戦場の中で仲間達を見送る22話

 

 

 

「ビビぃッ!!!!!!!!」

 

めい一杯叫ぶ。喉が裂けるかと思える程の大声はちゃんとビビに届いたようで、アルバーナ宮殿から声が聞こえた。

 

「聴いてくださいッ!!!!!」

 

突然現れた“壁”に困惑している両軍に可憐な、そして悲痛そうな音が届く。ビビの言葉を聞いた瞬間誰かわかったようで、皆が皆ビビ様と譫言のように呟いていた。

 

「これはッ!!仕組まれた罠なんです!!!!だからッ!!だから!!!!!戦いをやめ------ッ!?」

 

声が途中で途切れた。ビビがいた場所を見ると彼女が消えていた。そして塵旋風が更に大きく舞い視界を悪くする。もはやビビがいた場所すら見えなかった。

 

「チッ!能力者ってのは厄介だな……!」

 

海に嫌われているとはいえ、自然の力を手に入れた彼等はとても強い。そもそも一生物が唯一勝てない災害を、自然を味方につけるのだから、それだけで強さは計り知れないというものだ。使い方次第ではあるが、それ個人がいるだけで災害になり得る。そう思うとルフィのゴムゴムの実なんて可愛いものだ。

ビビが消えたのも、あのクロコダイルの仕業だろう。ここまで来たのに黙って戦いが終わるのを待っているはずがない。

もう一度舌打ちをして、熱感知でコーザを探す。お生憎様、パーティクルプリズムはダミードライヴで展開している為に時間制限がある。それは約三分。五分にも満たないわけにはダミードライヴの動力がドライヴよりも途轍もなく低いからだ。所詮はダミーということだ。こんな事ならドライヴで展開しておくべきだったか。

 

「(いた……!)」

 

あんなに撃たれたのにまだ息があるのは流石この世界の住人と言えよう。駆け寄りドライヴによるスキャンを開始する。オレは医者ではないが、科学者だ。人体の構造など頭に入っているので、銃弾の摘出ぐらいは問題ない。

 

「な、にを……っ」

「黙ってみてろ」

 

あった、四発の弾丸。幸い重要な血管には届いていないようだ。大きく血を吹き出していない事から全て静脈を通過している。一つでも動脈に当たっていたら危なかったかもしれない。運がいいな、こいつ。

これぐらいならば多分自然治癒できる。荒治療にはなるが、有害な鉛玉を身体の中に残しておく方がきっと駄目だろう。

ま、オレは医者じゃねェが。

 

「ぐっうっ!」

 

磁力で引っ張り出してそこらに捨てる。カランカランと銃弾が落ちた音とコーザの苦しそうな息が重なる。

さてあとはこいつを安全な場所に移動させよう。流石に戦いの真っ只中に怪我人を置いておくわけにはいかない。担ぎ上げて広場の横にある建物に寄りかからせる。その時も呻き声を漏らしたが、まぁ痛みがあるなら大丈夫だろう。

楽観的?いやいや、的確な状況判断である。

 

「(そろそろダミードライヴが消える……!)」

 

同時にダミードライヴを出せるのは今のオレでは最大八機。つまりパーフェクトプリズムをもう一度張るには、これが消えて数秒後。俺が作り出した壁を叩いている両軍の怒りはもう治らず、数秒もあれば殺し合いが始まってしまうのは確実だった。

ここで止めるというビビの思惑は阻止され、何重にも予防線を張っていたクロコダイルの勝利だ。まだ実質的な勝利とは言えないが、確信しているのだろう、我らが勝つと。

確かに通常の海賊ならばそうなるだろう。だが、お前が確信しているのと同時に俺たちも確信している。我らが船長がお前に勝つと。何せあいつは……。

 

「……未来の海賊王だからな」

 

ほぉら、お出ましだ。

能力者であろう大きな鳥に乗って現れたルフィに自然に笑顔になる。彼が来たからには事態は終結に向かう。だからこそ、俺たちで彼をサポートしなくてはならない。

 

「…………(できるとかできないとかじゃねェ……やるんだ)」

 

あいつだって必死に生きて、必死に敵をぶっ飛ばそうとしている。ならば俺の役目はここで反乱軍と国王軍を止める事だろう。タイムラグがなんだ。オレは天才科学者だぞ、ノータイムで張り直すことなんて少し頭をひねれば分かることだ!

 

「ダミードライヴ四機消失。再出現まで十五秒」

 

八機のうち手前側四機のみ消失させる。再出現までのタイムラグは時間切れで消失した際と同じだが、消せるタイミングはこちらで操れる。これにより立体四方系ではなくなったが、まだ“壁”は存在していた。まぁあれはただの電磁波なので、触ればピリッと来るぐらいだ。完全な“壁”にはなり得ない。

つまりはこのただの面を交代で出すことにより、もう一度パーフェクトプリズムを張ることができる。うっわ、俺って天才?

 

「ダミードライヴ再出現と同時に四機消失」

 

よしよし、上手くいってる。誰も通ってはいないな。あと八秒。

 

「ちょっと!エドー!」

 

偉いぞー俺!と自分を褒めていると、俺の名前を呼ぶ声がした。この声の感じからすると多分ナミだろう。辺りを見渡すがいかんせん、塵旋風で視界がとても悪い。

わざわざドライヴの熱感池を作動させて探すと、ナミらしきシルエットは俺が作り出した“壁”の向こうにいる。つまりは俺と反対側にいた。

視覚でも確認して、ナミとゾロへと駆けよる。ナミはゾロに背負われている形で此方を見据えていた。

 

「ナミ、ゾロ。倒したのか?」

「あぁ」

「えぇ、ばっちりコテンパンにしてやったわ!」

 

力拳を作って笑顔で言うナミは怖いなー。戦力的には弱いはずなんだけどなー。女性って怖い。

まぁ踊り子衣装がボロボロなのでギリギリの勝利だったのだろう。ゾロも切り傷が多く、何故生きているのか謎で仕方ない程だ。生命力強すぎじゃね?

 

「ってそうじゃないわ!何よこの壁!エドの仕業でしょ!ビリビリして通れないんだけど!」

 

え、マジで?ビリビリする?

スキルであるパーフェクトプリズムになりそこないのコレが?そんな特殊技能が付いていたとは。

周りを見ると両軍が剣やら槍やらを使って“壁”を攻撃した瞬間、感電してふらついている。倒れたり死んだりするほどではなさそうだ。言うなれば護身用スタンガン並みの電撃なのだろう。こんな副次効果があったとは……無理にパーフェクトプリズムを貼らなくても大丈夫そうだな、これ。

まぁパーフェクトプリズムの方が阻むのには確実なので展開しないわけにはいかないが。

 

「あぁ俺の仕業だ。そりゃ悪かった、通っていいぞ。ビビとルフィが待ってる」

 

ナミ達の前にドライヴを差し込み、人一人分ぐらい通れる空間を作り出す。ダミードライヴもドライヴもどちらも一緒の存在。ダミーとは言え超劣化版ドライヴみたいな認識なので、本物を差し込んで形を変えるなど簡単だ。

 

「ほんと便利だな、それ」

「そうよねぇ。こんな大技、できるのアンタだけじゃない?」

「そうか?お前らもできるだろ」

「「出来ないわ!!!!」」

 

いやいや出来るだろう。今はできないかもしれないが、いつかは出来るはずである。大技ってのはバトル漫画において必須獲得事項だしな。雑魚無双にはもってこいだから覚えておいて損はない。

ビビとルフィが降り立ったであろう場所を指差して、ナミとゾロが通った瞬間に穴を閉じる。俺が作り出した道を通ろうとしたバカどもは運良く感電して倒れていた。ズルしようとするからだ、ザマァみそらせ。

 

「お前は来ないのか?」

「あぁ。ここで両軍を押し留めるのが俺の役目だ。別に行って乱戦状態になっても良いのなら、行くけど」

「それはダメよ!ここに居なさい、エド。ビビの為に」

「クックック。元よりそのつもりだ」

 

第一に王女のことを思い行動する。それが護衛の務めだ。

俺の返事に満足したのか、ナミは鼻を鳴らしてゾロにさぁ行くわよ!と元気に号令して居た。血だらけな二人は見て居て痛々しいが、これも仲間である彼女の為だろう。怖い事は避けるナミが善戦し、勝った。この勝利の風は正しく友情が引き起こしたものだと確信できる。

そんなもの、オレにはないがな。

 

「てっめ!一人で歩きやがれ!」

「足痛めてるのに歩けると思う!?」

「おれは胴体切られてるんだが!!」

「そんなのいつもの事じゃない」

「鬼か!」

「か弱い女の子よ」

 

か弱い……?がめついの間違いじゃないのだろうか。そんな事を思ったらギッと睨まれた。おーおー怖い怖い。

両手を挙げて降参のポーズをすれば、ふんと鼻を鳴らしてゾロを足にして去って行った。彼女を怒らせたら今後の活動にもヒビが入る。資金のあれこれを一手に担っているのがナミだからな。怒らせでもすれば、罰金かお小遣いが減る。それは困る、とても困る。当てのない俺にとって金とは生きる糧だ。今は欲しいものがなくともいつか出来るのかもしれないのだから、貯めておいて損はないしな。

貯めるのは地道だが、消費するのは一瞬だ。

 

「おい、エド。開けてくれ」

 

ナミ達が去って行った数秒後、サンジとチョッパー、包帯だらけのウソップにマツゲがやってきた。おやお揃いで。

 

「さっきナミ達が出てったの見たぞ!開けてくれ!」

「これエドがやったのか?すげぇなー!」

 

チョッパーが俺がした事に対して目を輝かせて見てくるのにちょっと気分が良くなる。人は何かしら褒められたら嬉しいものだ。それは俺も例外ではない。

 

「通すから触んなよ、触ったら時間が止まる」

「さっき見たぜ!すげぇな、あれ。どういう仕組みなんだ?」

「流石9000万の首は伊達じゃないっていうことか」

「9000万!?!?!?」

「そういやチョッパーは知らなかったか」

 

ひぇ!?とマツゲの陰に隠れるチョッパーに少し泣きそうになる。ドラムで仲間になったチョッパーが知らないのも、9000万という大金でありこの前半の海ではそれなりの大物である事からすれば、その反応は正しい。けど泣きそう。

 

「おれ、たまに忘れるんだよな」

「おれもだ。ルフィのは納得するんだが」

「俺もー」

「「いやオメェは覚えとけよ」」

 

当事者だろ、とツッコミを受けてそれもそうかと納得する。でもそんな賞金が自分の首にかかってるなんて思えないから、普通に忘れるんだよな。

って今はそんな世間話する時間じゃないんだよ。さっさとビビの所へ行けっての。

 

「さっさと通れ」

 

先ほどと同じようにドライヴで開けて促す。お前はいかないのか?という質問をまたされたので、さっきと同じくここにいる重要性について簡単に言った。

 

「よし、ここにいろ。ビビちゃんの為に」

「お前、美女がらみだと本当に迷いないな」

 

サンジのブレなさっぷりに呆れながらも三人と一頭を送り出す。ドライヴで開けた場所はさっさと閉めて両軍を通らせないようにした。

 

「ぐぅっ!腕の時だけ止まったみたいだ!痛ェ……!」

 

まぁ突っ込んだ馬鹿もいたようだけど、そいつは腕だけで済んだようだ。まぁ中が時が止まったように感じるのは中に何も入っていないからである。パーフェクトプリズムは完全に無の空間を作り出し、相手を通さない。完全なる“無”だからこそ、こうして不可思議な現象が起こる。まぁ起こしてんのオレだけどな。

因みに中に閉じ込めるのも可能だが、その場合その中に入ったモノの時間は止まる。外からの救助を待つしかない状態になってしまう。解くまで完全にオレの手中にあるってわけだ。ククク、いい気味だ。

ところで中は時が止まるといったが、身体の一部分だけ入ってしまった場合、その部分だけの時が止まる。だが他の時は止まっていない。あの腕を突っ込んで痛がっている馬鹿のように。

さてはて?生きているモノから、時が完全に止まったモノに移る時その中はどうなっているのか考えたことあるだろうか。もしその時が止まった場所にずっと何かを送り込んでいたのだとしたら?止まっているのを突然解除したのだとしたら?

 

どうなるのだろう。

 

「答えは」

「っ!と、取れた!!やっ……ッ!?!?あ゛ぁあああああっ!!!」

 

指を鳴らし、男が突っ込んだ腕の部分だけ解除する。男は腕が取れた事に喜んだが、それは一瞬の出来事。次の瞬間には腕を押さえてのたうち回っていた。

 

「止まっていたのは腕……だがその上は止まっていない。つまりは細胞の中で断絶した空間ができるわけだ……その意味がわかるか?酸素を運ぼうとしても、病原菌を追いかけようともその空間に入った瞬間に止まる。つまりは詰まっているわけだ。やり過ぎた止血は四肢を壊死させる……ククク。痛ェだろうなァ!溜まっていたダムが決壊したんだもんなァ!!腕はまだ付いてるか!?取れてねェのか!?あはっ、アハハハハハハハハハ!!!」

 

ばかみてェ。

のたうち回っている男を止める為に腹を足で蹴ってから、足の裏で踏む。

 

「もう突破しようだなんて思うなよ…………死にたくねェだろ……?」

 

顔を近づけてそう言えば、男はただひたすらにコクコクと頷いた。

やけに素直な彼に面白くないと呟きながらビビとルフィ、そしてみんなのいるであろう場所を向く。空では既に、大きな鳥が羽ばたいていた。

 

「(上手くやれよ、お前ら)」

 

物語の中心には関われてないけど、こうして余計な血を流させずにできるのは良い役目だとは思う。

全くもって面倒だし、面白くもないがな。

 

 

 

 




原作を隔離させようとしたら“させねぇよ!”ってぐらいに私の指には世界の抑止力が働いている。つまりは……抑止の守護者(指)?

次ぐらいでアラバスタ編を終わらせたい(願望)


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終止符を打ち国と仲間に別れを告げる23話

 

 

 

 

 

遥か上、宮殿のさらに上に人が飛んでいた。ひらひらとコートをたなびかせ、背中から自由落下するその姿はそいつ自身が能力によって飛んでいるわけではないと思い知らされる。

宙を飛んでいるのはこの国の英雄、そして海賊であり国家乗っ取りを計らった組織のボス、クロコダイルである。

 

つまり、あのクロコダイルが気絶して飛んでいるということは。

 

「あいつが勝った!!」

 

両手を突き上げ喜ぶ。感情に呼応してかドライヴも同じように上へ動きそして一周程周った。いやそんなモーション要らない。

 

「クククッ、アハハハハハハハ!!見たか!鳥野郎、この国の英雄の無様な姿!!」

「五月蝿い!静かにしろ!」

「い゛っ!?」

 

扉を開けて中に入りながらそう叫ぶと俺よりも小さいおっさんに頭を殴られる。余りの衝撃に前のめりになって転倒しかけたが、持ち前の胆力と体幹で持ち直した。こんな事で地面に倒れたりしない。

頭を押さえてながら足下を見ると、白衣を着たおっさんは怒ったように目付きを鋭くさせながら口を開いた。きたねっ唾が少し飛んできたんだけど!?

 

「ここは病院だ。患者がいる、静かにしろ」

「っても一人じゃねェか。このヤブ」

「おれはヤブじゃねぇわ!」

「こんな王都から離れた場所に建ってる病院なんてヤブだと言ってるようなモノだろ」

「……それは否定せんが」

「しないのかよ」

「だがヤブじゃねぇ!!」

 

ハイハイわかったわかったと手をひらひらしながら医者を素通りする。ギャーギャー喚くおっさんを無視して、奥にある患者室へと向かう。少しだけ立て付けの悪い扉を勢い良く蹴り付けて、中に入った。

 

「よぉ!元気か!鳥野郎!見たな、見たよな!?あの英雄の雄姿!!」

 

クハハハハハハ!

そう笑いながら入っていくと、患者用のベッドに腰掛けた包帯だらけの細身の男が苦笑しながらこちらを見ていた。特徴的な化粧が剥がれてはおり一目見て誰かわからないが、服装から予想することはできる。ま、こいつ死んだ事になってそうだけど。

 

「えぇ見ておりましたよ、エド殿。アラバスタの勝利の狼煙を」

「ククク、そんな狭い窓からちゃんと見れるとは思えねェけどな。ま、そういう事なら良いや。俺は出ていくけど、お前も来るか?」

「いえ、医者殿にはあと一週間は絶対安静を言付けされておりますので」

 

ふーんと呟いて、外を見る。何年も快晴だった空は突然雲を呼び、太陽は隠れてしまった。陽光の代わりに降るのは、恵みの雨。ここ数年ばったりと降らなくなった雨が勢い良く降り始めた。

今出て行ったら雨に濡れてしまうが仕方ないだろう。思い出した記憶によれば、ポーネグリフがある遺跡はもう崩れているはずだ。見つけ出すのは安易ではないだろうなと溜息を吐きたくなる。

 

「あ゛ー!!てめぇ!また扉壊しやがったな!開けるっていう動作知らねぇのか!」

 

突然の雨で外から帰ってきた医者は俺が壊した扉を見て叫んだ。此方を睨みつけるように見上げて来るから、肩を竦める。

 

「開けようとしたからこうなったんだろ。オンボロなこの場所が悪い」

「見事な責任転嫁すんな!蹴り倒す事が扉の開け方なんて言わせねぇぞ!?」

「蹴り倒す以外に開け方なんてあるか?」

「何言ってんだ!?お前!!」

 

今度は強く直しとけよと笑いながら医者の横を通り過ぎ出て行く。後ろから二度とくんな馬鹿野郎!という怒鳴り声が聞こえた気がしたが、安心して欲しいと思う。多分一生ここには来ないだろう。

外へ繋がる扉を手で開けて、土砂降りの雨を見上げる。見事な大粒であり、あまり降りすぎると作物が腐るだろうなというぐらいであった。何年もの干ばつに襲われていたこの国に作物があるかなんてわからないが。

ドライヴを展開し、電磁波による傘を作り出す。四機分だけ使えば、後の二機は移動に使える。一歩出ても濡れなくなった事にニヤリと口角をあげ、あの絶壁の上にある宮殿を見上げる。

 

「さぁて、俺はオレの仕事しますか」

 

ククク。笑みがこみ上げてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわ、マジで崩れてやがる」

 

街から響く怒声罵声も収まった頃、クロコダイルが飛んできたであろう穴に来ていた。正規の行き方ではないので、最深部までどれぐらいあるかわからない。だがだからと言って本当の道を行こうとしても、瓦礫で塞がれているだろう。

ここならまだ奥底まで通じている。心なしか話し声も聞こえることから、ルフィ達も脱出する手はずなのだろう。まぁここからは来ないと信じたいね。

 

「さて、行くか」

 

両手をポケットに突っ込み、トンと軽やかに落下する。途中で迫ってきた瓦礫はドライヴで破壊し、俺はそのまま奥底まで重力に従って落ちて行った。

まぁ完全に地面に激突する前に、ドライヴに乗って衝撃を暖和したが。

 

「さぁて、お目当てのは何処かなー」

 

四方八方にドライヴを飛ばしてあらゆる物をスキャンする。目の前にタッチパネルを開き、ドライヴ達がスキャンしてきた情報を流し見る。

流石4000年の歴史を持つ場所だ。王家の墓の地下である此処は、人目に触れずともずっとあり続けていた。こんな遺跡を作る技術が4000年前にあるとは思わないが……いや彼らの事もある。歴史とは技術が一周回って元に戻るなんて事があるものだ。何年もの先の技術を作ってしまったが故に刈られ、何事もなかったかのように元に戻る。

まぁそれが世界がしているのか、人間が恐怖からしているのかは現代に生きる我々にとっては謎だが。

 

「っと、見つけた……」

 

案外近くだな。

他とは明らかに違う情報に目を輝かせる。相も変わらずよくわからない素材でできた石だ。どうにもこうにも今この世にある凡ゆる素材に全くもって当てはまらない。まぁドライヴ内のデータベースでの話だが。

どんなデータベースにも負けないと自負できるほどの情報量はあるが、それでも無い物はない。少なくとも4000年以上前の特殊な鉱石などわかるはずもない。今でも掘られているのなら話は別だが。

降ってくる瓦礫を余裕で躱しながら、見つけたポーネグリフの側による。やはり内容は前見つけたポーネグリフからしてこの国の歴史であった。

ポーネグリフに刻まれているであろうプルトンについて知りたかったクロコダイルはこの結果に残念がっただろうな。と言っても読めるのはミス・オールサンデーのみなので、もしかしたら彼女がわざと教えていないと勘違いしたのかもしれない。

左手でポーネグリフを触りながらぐるりと裏に回る。前に見つけたのも裏の右端に記してあったので、今回もそうだろう。寧ろそうでなくちゃ困るけど……念の為にドライヴで全体像スキャンして保存しておくか。

 

「……あったあった。やっぱエリオスの文字だな」

 

やはりと言うか、右端の一番下に記してあった。これはよく見ないとわからないほどの溝だ。メインはあくまで表側で、裏は別にって感じか。お邪魔してもらっているという状況だろうな。過去の研究者がこのポーネグリフを作り出した人種とどういう関係なのかは知ることは出来ないけれど。

 

「“よくぞ見つけてくれた、未来の人よ。これより記すは我が人生の集大成。きっと役に立ててくれ”……か。ククク、面白れェ」

 

ついと視線をずらして読んで行く。そこにはオレが予想した通りの事が書いてあった。目を細め口角を上げる。小さい文字ながらも情報量は多く、石の下側まで続いていた。肉眼で確認できるのはそこまでなので立ち上がり、ドライヴを展開してパネルを表示させた。

もうここには用はない。彼奴らと合流しなきゃな。俺はあまり活躍できなかったけれど、一国を救ったんだ。たんまりとお礼を貰わないと割に合わない。まぁ彼らはそれを考えて救ったわけではないだろうけど……殆ど成り行きだしな。考えているのは守銭奴気味なナミぐらいだろう。

 

「クックック、本当に思わぬ収穫だ。オレ一人じゃぁこれを見つける事は出来なかっただろうな。俺のお陰か、アイツらのお陰か…………まァ、どっちでも良いがな」

 

くつくつ、抑えきれない笑みをこぼす。これ程嬉しい事はない。研究者冥利に尽きる。滞っていた研究が一歩前進した時の感激は全研究者共通の幸せだろう。例えその先にまた壁があったとしても、それは研究者にとっていつもの事でそれでも今までよりも浮かれた気分で挑む事ができる。

今のオレはそんな感じだ。喜んでいるようには見えないと大体の人間には言われるがな。

 

「さて、こんな収穫に加えてどんな報酬を貰えるんだろうな」

 

少しだけ、楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで三日経った。

初めは人知れず立ち去ろうとした麦わらの一味だが、ビビの言葉で宮殿で休ませてもらう事になった。と言っても一つの部屋を借りてひっそりと休息を取っていただけなんだけど。

内乱が終わった事で急にバタバタし始めた宮殿内は、国を救った英雄と言えど海賊に構っている余裕はないらしく、ここ三日間は部屋に閉じこもっている。風呂は部屋に付いているのを、食事は指名手配になっていない男で迷子にならないという理由でサンジとウソップが買い出しに行って事を終えていた。

因みにこの国一強かったであろうクロコダイルを倒した労働者であるルフィはこの三日間、昏々と眠り続けていた。まぁついさっき起きたけど。

何故かベットが隣である俺は上着と靴を脱ぎベッドの上で胡座をかきながら取ったデータを整理していると、目の前で目蓋が動いたのに気づいた。端っこなので壁にもたれながらしていたから隣の様子が見えたんだけど、今まで起きなかったものだから少しだけ驚いた。けど、声を出して驚くほどでもなく自然にルフィに声を掛けれたのが幸いだ。オレが驚くとかキャラ崩壊に近い。

 

「おはようさん。もう夕方だぜ」

「んぁ?……おーエド、おはよ」

 

いつも五月蝿い彼は起きかけの時はあまり五月蝿くない、寧ろ静かな方だ。一瞬で目を覚ませばそんな事もないんだけれど。

いつものように眠たげに目を擦る彼に苦笑して、視線をデータに移す。耳にはもう元気な彼の声が届いたから、完全に起きたのだろう。三日間眠りっぱなしだったようには思えない速さだ。

にしても、このアラバスタでは情報の質はめちゃくちゃ良いが量が少ない。まぁバタバタしすぎてデータ集めにも専念できなかったけどな。この三日間を有意義に使うため、四機ほどドライヴを飛ばし凡ゆる情報をかき集めてるところだ。まぁ今までの島と比べてデカイというのも理由の一つなのだが。

 

「おいエド!お前も行くだろ!」

 

データ整理に没頭していると、急に目の前にルフィが現れた。壁沿いに座っている俺の前に膝と手をつき此方を覗いてきた彼はよだれを垂らしながら、なっ?行くだろ?と言ってくる。

いや全くもって何のことかわかりませんし、何でそんなに近いんですかね。

エリオスの文字で整理しているから良いものの、この世界での文字だと読まれていた可能性がある。表示していたデータを消して、ルフィの顔を押し出す。うぇ、よだれ付いた。

 

「飯だよ!飯!!」

「この宮殿の料理長自ら振舞ってくれるらしいぜ?楽しみだ」

 

ルフィとサンジの言葉に納得する。さっきイガラムらしき人が来ていたのは呼びに来るためだったのか。オレには関係ないかと思い放置していた。

なるほどと頷いてベットの上に放っていた上着を取る。ルフィを二機のドライヴで放り投げれば、靴を置いていた場所が空いた。

それを機にぞろぞろと部屋から出て行く彼らの後ろ姿を見ながらため息をつく。

 

「ったく、あいつのパーソナルスペースの狭さどうなってる」

「お前が広いんだろ」

 

いつのまにか隣にいたゾロにそう言われて俺は肩を竦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海賊というのは食事となると何処に居ても宴になる。

その理屈はまだ海賊に染まりきって居ない俺にはよくわからないが、丁寧に静かに食べるよりも楽しくワイワイ食べる方が海賊は好きなのだろう。まぁ元々男が多いし、無法者たちの集まりだ。礼儀がないと言えばそれまでである。

 

「ん、これ美味いな」

「どれ……本当だな。これ隠し味に何か使ってんな……知らねぇ味がする。後で聞くか」

 

独り言のように呟いた言葉をサンジが拾い、近くに来た料理人に料理の事を聞いている。

サンジの隣に座らされた俺は優雅に食事をしていた。例え周りが五月蝿くとも、ルフィに飯を取られそうになってもだ。普通に食べてんの俺ら二人だけじゃね?

ここは食堂。本来王家の人間が静かに食事をする場所である。

海賊にしては少数にしても、この部屋からすれば大人数。埋まった椅子の周りには衛兵たちが監視するように立っていた。最初は俺たちの食事風景にドン引きしていたが、慣れたのか今じゃ笑いっぱなしだ。

 

海賊の食事は宴。

 

今の光景が、その意味に含まれる一つだと言えよう。

さぁて、食事が終われば風呂なのは当然の摂理だろう。だだっ広い風呂場に感嘆する。これは王族用であり、他の人々が使用することはない場所だ。無駄に広いだけで意味はない。こんなにもいらないだろうと浴槽に浸かりながら、女湯を除くために壁に登って行く彼らを見る。その中にこの国の王も混ざっているのだから世も末だな。

 

「王だとしてもただの人か」

 

クックックと笑う。

そういやみんな一緒に風呂に入るのは初めてだろうか。メリー号は風呂はあるけど小さいから一人ずつしか入れない。二人入ろうとするならばぎゅうぎゅう詰めになるのは必至。まぁチョッパーは例外で彼と一緒は余裕だ。デカくなられると困るんだろうけど。

カリと首にあるチョーカーに触れる。一人湯の時は流石に外しているが、今回は全員とだ。まだこの首を晒す気にはならない。そこまで彼らを信用したわけではないし、それにこれはオレの最大の汚点でもある。

 

「……あーまって、SAN値チェック案件」

 

ドラム王国での出来事を思い出した。あの時俺はこの傷の理由を知っていることについて驚いた。だって俺はエドじゃないんだから。

でも今はどうだ?今この首について考えていても、何ら不思議がないように思える。寧ろ自然だ。何も疑問を持たず、俺はチョーカーを外さなかった。俺はこの傷に何の思入れもないはずなのに。

知らない方が良いこともある。けど知りたいと思うのは科学者の、研究者の性なのだろうか。

 

「(考えないでおこう)」

 

現実逃避とも言える。

何をくらったのか鼻血を噴いて倒れた男達に呆れた視線を向けながら、上気せる前に湯船から上がった。

カリ。もう一度触る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だか、気持ち悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜中のうちに宮殿から抜け出し、ボン・クレーが舟番をして居てくれたゴーイングメリー号へと辿り着く。送ってくれた超カルガモ部隊に感謝しつつ、荷物を全て船に乗せる。戻って来ていたドライヴ達に荷物を任せつつ、ボン・クレーの話を聞いた。

曰く、自分がいなければ海軍に船を取られていた。

曰く、俺たちはダチだ。

曰く、だからこそダチを思って船を上流まで運んだのだ。

曰く曰く。ボン・クレーの言い分はわかった。けれどたった一度会っただけで友人になるだなんて、おめでたい頭だ。元々敵同士で敵対していたと言うのに。まぁ組織の方針と自分の考えが合わなかったりするのは良くあることである。入ってからすぐ退社はしにくいもんな、わかるぜ。

俺が運ぶことになっていた分を運び終え、ドライヴを呼び戻してその上に寝転ぶ。あの大雨のあとの晴天は良いもので、それは夜であっても変わらないようだ。星々が良く見える。

 

「野郎ども!一度しか言わないからちゃんと聴くのよ!!」

 

ナミの声が届いた。いつの間にやら全員船に乗っているようで、俺だけが外に取り残されていた。いそいそと立ち上がり、ドライヴで上昇する。

 

「夜明けと共にここを出港!川を下ってぐるっと島を回る。それでここ、タマリスクって港町に昼の十二時丁度に一度だけ寄せる。ここでビビと落ち合うわけね」

 

でも、と続けるナミの斜め後ろ側、ちゃんと最初からいました風を装って会話に加わる。既に確認事項なので地図を見れば一目瞭然なのだが。

 

「海軍がうろうろしてるわ。十二時までは渋るけどそれ以上は無理。ビビにもそう伝えた。もしあの子が残るならそのまま離脱、乗るのならルフィ、あんたの出番よ」

「ん?おれ?」

 

ビシッと指差したナミは真剣な顔でルフィを見ていた。当の本人はビビが仲間になるかどうかしか考えていなかったらしく、急に話題に上がって驚いたようだ。間抜けな顔をしている。

 

「そう。あんたのゴムゴムの実で引き寄せて、それが一番手っ取り早くあの子を載せられる」

 

彼女が船に自力で上がるような余裕は当然ないだろうな。

ルフィのおう!という素敵な笑顔を見たナミは一つ頷いて、話の続きをし始めた。

 

「んで、それまでの時間稼ぎもお願いね。ルフィだけじゃなくてサンジ君とゾロも。特にエド!!」

 

え。

 

「何だ?」

「最初から聴いてたからみたいな雰囲気出しながら加わった罰ね。あんた、一隻は沈めなさい。それがノルマ」

 

笑顔で言ってくる彼女に戦慄する。うちの航海士が怖すぎるんだが……?

 

「それは無茶が過ぎるんじゃねぇか?」

「何言ってんの!9000万ならちょちょいのちょいでしょうよ!」

 

いや、その9000万は別の意味でかけられた9000万なんですけど。

 

まぁそれはともかく、本当に一隻沈めさせられた件について。

 

夜明けと共に出港して川を下った出口あたり、丁度巡回中だった軍艦が此方に砲撃して来た瞬間に後ろ指で軍艦を指したナミの顔と言ったら……女性は怖いね。

船が沈むように船体の下辺りをパーティクルアクセラレーターでぶち抜いてやった。あの大きさだ、多分水が入った瞬間にダメになるだろうな。あぁ一体何円分した船だったのか、考えたくないね。

そんなこんなでタマリスク沖。付いてきていたボン・クレー一味は、厄介過ぎる陣形や大砲を持つ大佐がいた船を引き付けてくれた。多分今頃捕まってらっしゃる。友人の為にと囮になったオカマに敬礼。お疲れ様でした!!

 

「ん?ありゃ、王女サマじゃねぇか?」

「本当だ!ビッ「ちょ!海軍に見つかるから!!」んぐっ」

 

俺が言った方向を見て喜んだルフィはビビを呼ぼうと声を上げるが、ナミによってそれは遮られる。近くに海軍の軍艦があるからこそ、一国の王女と海賊の関係性を疑われてはいけない。それこそビビの選択肢を無くすようなものだ。

電伝虫の受話器を持った彼女は泣きそうなのを必死に隠そうとしている顔をしていた。笑顔ではあるけれど、でも綺麗な丸い目からは何かが流れている。

涙であると気づいたのは、彼女が私はいけないからと言ったときだ。

 

『楽しかった!貴方達との旅が!!とてもとても。何も知らなかった私に色々なことを見せてくれた貴方達が、当たり前のように助けてくれた貴方達が大好きでした!!』

 

息を飲んだ音がした。

彼女はこの別れを惜しんでいる。けれど一国の王女として生きていくことを選んだのだ。それは様々な命を背負う職業。これから王女ならではの困難とかもあるだろう。でもそれでもその道を行くと決めたのだ。

どこまでも愛国心溢れた王女だこと。アラバスタは安泰だな、と心の中で呟く。

 

『私は!そっちに行けないけれど!!それでもまた!“仲間”とッ!!そう呼んでくれますか!?』

 

応えることはできない問い。もしここで叫んでそうだと言ったなら彼女は王女でいられなくなる。それは本意ではない。あくまで彼女に将来を決めさせたのだから。

 

『---ッ!!!』

 

けれど彼女の問いに絶対に応えられないというわけではない。俺たちには自分たちしかわからない仲間の印があるじゃないか。誰かがそう言った。

進む舟の後方、全員で横一列に並んで左腕を上げた。もちろん俺もだ。

 

 

 

左腕に描かれたばつ印。

 

 

 

それは海賊の印であり、同時にビビと麦わらの一味を結ぶ目印である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------当たり前だッ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

俺たちは心の中でそう叫んだ。

 

 

 

 

 




アラバスタ編、終!!!!

今年中に終わらせると息巻いてこの時間!!実にギリギリ!流石私だな!!

ではみなさん、良いお年を!!!!!(颯爽と去る)


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神が住まう天にて彼は邂逅を望んでいる24話

 

 

 

 

遥か上空10,000メートルに位置する空に浮かぶ神が住む島、スカイピア。

エンジェル島と呼ばれる空島の側にある広大な土地には神が住み、神官達が守っている通称神の島、アッパーヤード。神官や罪人以外は踏み込んではいけない禁断の土地に一人の少女が鞄を抱きしめ歩いていた。

豊かな栄養によって立派に育った巨大な木々の根を慣れたように渡りながら、巨木の中にある一つの洞穴へと入っていった。

 

「…………へへ」

 

膝をつき、一所懸命に砂を搔き集める少女は鞄の中にそれを仕舞う。

その行動の意味は空島に住む者達なら誰もが理解し、空島に住んでいない者達は誰もが理解できない行動であった。

土。それは大地を覆う木々を支えるモノ。そして空島にはないものである。この神の島にしかない土を空島の者達はこう呼ぶ。大地(ヴァース)、と。

今日の分の大地(ヴァース)を集めた少女は、自身が属する族の長にバレない為に早めに帰らなくてはいけないと立ち上がる。ここは誰もが憧れる島ではあるが、少女の一族にとっては謂わば敵地。元々ここの民だと言えど、今や神の土地。子供の身であるから故に全く歯が立たないと知っているからこそ、こうして神官達に見つからないようにこっそりと来ている。

鞄を抱き上げ、洞穴から外を覗き左右を見渡す。誰もいない、そう確認してから少女は帰るために走り出した。

いつもはこうして何もなく帰れる。けれどそれは幸運が続いただけであり、今日は少女にとって不運の日であるらしい。

何も予兆もなく目の前に現れた人物に足を止めた。地面に転がっていた石を踏んでしまい顔を顰めた。しかし少女には自身の足を労っている余裕はない。

 

「ふむ。この土地に人が入る事はないと聞いていましたが……例外もあるようですね」

「……っ」

 

灰色の髪を持つその男は胡散臭い笑みを浮かべて腰を折る。少女は鞄を必死に隠すように少しずつ後退していく。その顔には怯えが混じっており、しかしながらその瞳の中には敵意が含んでいた。

 

「良い目をしていますね。人間というのはそのような複雑な表情をする……全く面白いものだ」

 

その男は最近神官達と話すところを目撃されている男だ。

 

『神官が一人増えた……?』

『あぁ、最近アッパーヤードで灰色の髪を持つ男が目撃されている。多分、新たな神官だろう』

『四人だけでも厄介なのに、また新しいのかい!』

『……それでも、おれ達がする事は変わらない。我らシャンディアの土地を取り戻す事だ』

 

「(この人!ワイパー達が言ってた!)」

 

一気に表情が強張る。新たな神官となればその強さは半端無いものだ。何も力を持たないただの少女が立ち向かえる筈もない。

それでも死ぬ訳にはいかない。生き残る為に少女は必死に頭を動かした。

 

「……見逃して」

「おや、神の地に勝手に踏み込んでおいて“見逃して”とは……度胸があるのですね。しかしそれを神官達が許すとでも?」

「…………思ってないわ」

「そうでしょうね、ワタシも思いません。しかしそうですね……見逃してあげましょう」

「え」

 

少女は思わず顔を上げた。ダメ元で言ったが本当に見逃してもらえるとは思っていなかったからだ。

彼女は怪訝そうな表情を浮かべながらも、その中に期待と不安を混じらせる。そんな表情を見て男は嬉しそうに笑った。

 

「えぇ。貴女は良い感情をお持ちだ。特別に、ですよ。そもそもあの神を名乗る男が見逃している時点で、見逃さないなんて選択肢ワタシにはありませんし」

 

肩を竦めた男はその豪華なローブの様なものを揺らして踵を返した。

 

「それにワタシ、ここの神官ではないですからね。代理人ではありましたけれど、それはもう昔の話。信仰する神も違いますから、貴女を罪人として罰する権限は持ち合わせていない」

「(……!!神官じゃない!?)」

 

それはアッパーヤードを取り戻そうとするシャンディアにとって重要な情報だ。少女は驚き、そして生まれながらに持つ力によって彼の言葉が嘘ではないと信じた。

彼女の脳には神官と目の前の男が対峙しているような場面が見えたからだ。それがいつの話なのかは彼女もわからない。強すぎるが故に近未来も過去も読み取ってしまうのだから。

 

「ふむ。神官じゃないのに何故この土地にいるのか不思議なのだろうが……簡単な事ですよ。ある目的のためです。その為ならばこの地にいた方が手っ取り早い。幸い、ここの神には承諾を得ましたしね」

 

コツコツと靴を鳴らして歩いていた彼は突然振り返り、笑いかける。その笑みはどこか胡散臭く、しかし嬉しいという感情が滲み出ていた。

 

「お喋りはここまでにしましょう。貴女もまだ捕まりたくはないでしょう。早く仲間の下へ帰ると良い。信用できる人間がいるというのは存外悪いものでもないですから」

 

では、とお辞儀した男は少女が瞬きをした瞬間に消えた。

え?と戸惑いの声を出して辺りを見渡すがどこにもあの特徴的な服装をした男はおらず、少女は気味が悪いと顔を歪めた。

しかし見逃してくれたのは事実だ。今日の分は集めたのだから早々に帰ろうと、彼女も踵を返して走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幼いながらも大地への憧れと一族故の正義を併せ持つ心。力は無いが、良い心だ。君を思い出すな…………エルス」

 

振り子がゆらゆらと揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アラバスタを出て数日。新たなにバロックワークス元秘書でありクロコダイルの参謀ミス・オールサンデーが仲間に加わった以外はとても穏やかな日々だ。

まぁ言うなれば彼女は穏やかじゃないってことなのだけど。

甲板の椅子で寛ぐ彼女はずっと同じ本を読み続けている。見た目がそっくりなのでそう見えるがよくよく見ればタイトルが少し変わっていたりしていた。と言っても、続刊のようだけれど。

ミス・オールサンデー改め、ニコ・ロビン。

悪魔の子と呼ばれ、齢八歳にて賞金首になった悪魔の実の能力者。その額実に8000万である。俺より下だけど、八歳の時にかけられたってのがミソだ。

海軍は海軍にとって脅威となり得るものを賞金首にする。現代でもそうだった。賞金首と言ったら浸透はしていないが、指名手配という名前の賞金首ならば、駅やら市役所やらで顔写真を見かける。つまりはその指名手配をかけている警察、公的機関はこの世界での海軍。そして指名手配犯は賞金首に該当する。

こう考えると齢八歳の力もない子供が8000万という高額な賞金をかけられる程になるには相応の理由がないといけない。つまり彼女自身不可抗力なのではないだろうか、と……原作を知らない場合の俺はそう考える。

オレだって何もしてないのに賞金首になった。いや覚えはあるが納得はしていない。それこそ不可抗力であると断言できる。まぁやり直したいかと聞かれても、YESとは答えないけど。

 

「ところでお前、オレの事をどこで知った」

 

昼食待ちであるこの時間、少しだけ暇だからと衝動のある二階から甲板の一階に向けて声を発する。本に視線を向けていた彼女はゆるりとページをめくり、視線の動きで一行ほど読んだとわかったとき、その魅惑的な口を開いた。

 

「学者の間では有名な噂があった。このグランドラインの何処かに何十年何百年もの未来の科学が発展した街があった、と」

 

過去形で紡がれるそれらはオレにとっては毒とも同じで、淡々と紡がれるが故にちくちくと針を介して注入されていく。

 

「今の技術力では到底真似できない代物が沢山あったと聴いていたわ。それはあらゆる学者にとって夢の街。今までの常識が通じない街だった。けれどその技術は門外不出、街から島から出る人なんて一人もいなかった。けれど異端児がいた。彼、もしくは彼女が島の外に出て剰え外で島で培った技術を使って研究を開始してしまった」

 

そして、海軍にバレてしまった。

 

「その街は技術を門外不出にする事を海軍と約束する事によって科学の街というのが成り立っていた。過ぎた科学力は時に生み出した人をも滅ぼす。わかるかしら?その時の人類にその科学力は不要だったの。けれど、一人の人間が破ってしまった」

 

ぺらり、ページをめくる。

 

「そしてその人間が住んでいた街は地図から消えた。一度その場所に行ってみたけれど、一面の焼け野原。跡形もなかったわ」

 

どうして……どうしてその話を今するのだろうか。

俺が聞いたのは何で俺の事を知っているのか、どこで聴いたのかという事だ。何もどこかの街のどこかの人間の終わりなんて聞いていない。

けれど、ちくちくと刺す猛毒の針は実在していて……彼女の言いたいことがわかってしまうこの賢い頭が少し恨めしかった。

 

「さて……どうして貴方を知ったのか。その街にあったの、焼け爛れた一枚の写真立て。そこに写る白髪の少年と女性……そして顔の部分が焼かれて誰かわからない男性。その時は特に気にしなかったわ。ただ本当に人がいたのね、っていうぐらいで」

 

ぱたりと本を閉じた。立ち上がりながら彼女はこちらを見据える。

 

「でもその十数年後、その写真を忘れた頃に貴方の指名手配書が配られた。全くの無名のルーキー、いきなりの9000万という大金をかけられた男の子。その特徴的な髪の毛、どこかで見たことあると思ったわ」

 

これで答えになる?なんて笑って階段を上がってくる彼女を睨みつけるしかできなくなった。まさかその事を知っている人間がいるなんて知らなかったからとても驚いている。

同じような境遇だからだろうか。しかしその性質は全くの正反対なのだろうけど。

 

「あぁ、貴方に一つ問いたい事があったわ」

「…………なんだ」

 

絶対ロクでもないと考えながら返事をする。

 

「その焼かれた街の話、正確には百五十年程前の話なのだけれど……どうして貴方はここにいるのかしらね……?」

 

にこりとにこやかに笑う彼女に冷や汗が噴き出る。即座にドライヴが反応して無かったことにしてくれているが、今はその反応はいらなかった。

ニコ・ロビンから目を離し、水平線を見つめる。水平線があるという事はやはりこの惑星は丸いのだろう。

 

「さてね。オレがその餓鬼だという保証もないだろ」

「そうね、そういう事にしておきましょう」

 

コイツ……。

クスリと笑ってから食堂に入り、サンジの愛の言葉をヒラリと交わす女。本当に洒落にならない。

 

「(賢い女ってのはこれだから)」

 

嫌いだ。

 

チッと舌打ちをして己も食堂の中に入る為に扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、考古学者でも真実は知らないんだな。

その街が焼かれた理由が門外不出の技術を持っていた人間がいたからじゃなく、その人間がしていた事によるという事を。

 

「(禁忌ってのは何処にでも存在する。空白の100年のようにな……)」

 

まぁそれ以外理由はないんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来ではなく過去を求めたからこそ、オレ達は消された。

 

 

 

 




姐さん、めっちゃ喋るじゃん……この時のロビンてずっと黙ってるイメージだったんだけどなぁ……(目逸らし)


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廃棄されたモノの中で我楽多を見つける25話

 

 

 

 

ガレオン船が降って来てサルやらページやらがやってきて、急に夜が訪れ巨人が現れた今日この頃、俺達はジャヤに来ていた。

ログポースが指し示した島がこの場所ではなく空であった為にこの近くであるジャヤで情報収集に来たのだ。空島と言う夢の島があることを知ったルフィが行かないなんて言わないはずもなく、泣く泣く行き方もわからない空島目指して行動することになった。

と言っても俺としては空島への行き方なんて情報あまり集まるとは思えない。空島の存在を今まで知らなかったのもあるが、海を行く船がどうやって空まで行くと言うのか。飛行機があれば別なのだが、そんなものこの世界にはない。

情報収集組はロビンにナミにルフィ、ゾロである。正直ロビンとナミ以外は不安なメンバーであった。ロビンは一人で戦えるが、ナミはこの船では弱い方だ。だからだろうか、船長と剣士が付いて行くことになっていた。まぁあの二人を止めれるのが彼女だけってのもあるが。

残りのサンジ、チョッパー、ウソップは舟番組だ。それなりに戦えるとはいえ気が弱いチョッパーにウソップはサンジがいないと不安らしい。まぁコックを船に置いておくってのは良いと思う。食べたいのあったら作ってくれるかもだし。

そして俺はというとだ、どっちかっていうと情報収集組ではあるけれど単独行動だ。まぁ舟番しないので前者に入れただけなんだけど、集めるのは空島の情報じゃない。原作知識でどうやって行ったのかは覚えてないが空島編があったのは覚えてるので、行けないということには不安はない。

 

「さて、行こうか」

 

だから俺はこの街の情報を集める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このジャヤという島はどうしようもなく海賊たちの島だ。海軍はおらず、海賊の所業を止める事なく寧ろ楽しむ住民たち。何ヶ月何年もこの街にいるという海賊もいるらしい。

それもう海賊と名乗れないな、と思いながら途中の売店で購入した串焼きを頬張る。なかなかの美味なので、気に入って10本は買ってしまった。タレが滲みても大丈夫なようにと三重に紙袋をしてくれた大将には感謝しかない。

もぐもぐと頬張り、目的の店を探す。確か原作ではこのジャヤは空島の片割れとか何とか言ってた気がするのでその空島での奇妙な部品達を売ってある店を探しているのだ。結局空島のことを調べてるとか言ってはいけない。このジャヤを調べてるんだ。

雑貨屋と書かれた店を見つけて迷わず入る。食べ物を持って入ってはいけないだろうが、そんな事はここの住民は気にしない。案の定、らっしゃいませーと気の抜けた掛け声が聞こえただけでカウンターに座ってるおっさんは此方を見向きもしなかった。新聞を見ているのだろう、カサリと紙をする音がした。

そこそこ大きな店は並んでいる棚に所狭しとガラクタ達が並んでいた。

 

「(全て見るのは大変だな)……ドライヴ、この店にある全てを調べろ」

 

八機のドライヴが縦横無尽に駆け巡る。片っ端からスキャンさせていって手元にパネルを表示させて内容物を確認する。時折おっさんの頭上をドライヴが通り過ぎていくが、彼は相変わらず新聞を読んだままだ。なぜ気づかないのだろうとは思うが、ドライヴ自体無音で動いているからだと推測できる。

それにしても鈍感だなと馬鹿にしながらもパネルの文字を目で追っていく。どうでも良いものは弾きより重要なものだけを残す。ガラクタばかりだといってもその中には一つぐらい宝石はあるだろう。価値があるものだけ残し、その中でランキングを作る。今の目的に合うものから順にだ。

 

「さて一番は……貝?」

 

一纏めに貝とだけ記されたそれは、海にいる貝の成分と少し違うらしい。それがある場所へ向かうと巻貝しかないのか、ぐるっと回った模様をした貝が転がっていた。

その一つを手に取り、しげしげと観察する。ドライヴで念入りにスキャンし目でも確認する。見た目は本当にそのまま貝なのだが、手触りやら何やらが微妙に違う。長年放置されていたのだろうに、フジツボの後さえない。奇妙だな、と触っていると殻頂と呼ばれる渦巻きの天辺の部分に触れた。

 

「?(少し凹んだな、今)」

 

好奇心のまま押してみると、突然人の声が流れる。色々な声が入り混じった助けてくれという悲鳴が店中に響き渡る。

 

『やめっ、やめてくれぇええ!』

『でてくから!ここにはもう来ないからっ!!』

『--だ。か--け--------だ』

「(悲鳴あげている声とは別の……冷静な声だなこれは。追いかけているやつか?)」

 

僅かに聞こえる声が何を言っているのかを解析するために音声が流れ終わった後もう一度殻頂を押した。同じ声がまた流れてくる。

ドライヴで流れてくる音声を解析しながら、他の貝殻もしげしげと見つめた。皆が皆同じような巻貝だ。どれも二枚貝などはなく、渦模様を描いている。

 

「……お客さん、物珍しいのはわかるが少し五月蝿いのでね、止めてくれるか」

「……クク、悪りぃな。気味が悪かったもんでな」

「じゃぁ二度も再生するな」

 

再生?まるで記録するものだと言うように言うな。いやまて……これ、録音機か!

 

「おいおっさん」

「……なんだ」

「これ、何だ(・・)?」

 

此方を見向きもせずおっさんは黙る。まるでなんて答えようか迷っているよう。

暫くの沈黙の後、俺は口を開いた。

 

「さっき解析したが、この貝殻はこの近海の海では育っていない。構成している成分が一致しないからな……。で、聴くが……これは何だ?」

 

もう一度言うとおっさんは観念したようにため息を吐いた。新聞紙を一度起き、煙草に火をつける。ふっと吐いた煙が辺りに充満した。

 

「それはここらにたまに落ちている貝殻だよ。おばけ貝なんて子供には言われてるか。急に叫び出したり、貝の奥から息を吹きかけられたり……衝撃が走って怪我した奴もいるな」

「ふーん……おばけ貝ねぇ」

 

だが、とおっさんは続けた。

 

「それらにはある法則性がある。どれも殻頂を押せば起こるということだ。つまり、ただのおばけ貝じゃない……そういう性質を持った貝殻だ」

 

どれもこれも手にとって押してみる。おっさんの言う通りの事象がランダムで起きた。成る程確かに一つだけしか起こらないのなら、そのおばけ貝というガキ共の言う通りだろう、しかしこの貝全てがそうなるとしたら、それは偶然じゃなく必然だ。この貝そのものがそういうもの(・・・・・・)だと断定できる。

 

「おばけ貝なんて呼ばれるのにはもう一つ訳がある。上から降ってきたって言う奴もいたからだ。上を見ても何もない晴天。そんな所から降ってきた?まだ落ちてたって言われた方がマシだ」

 

あぁ、言われたんだな。

ここは雑貨屋だ。特に珍しいものを取り扱っている事がわかる。その一環で、これは売れるだろうと持ってこられたのだろう。だからこんなにもある。

ふーんと適当に返事して、他のリストを見る。既におっさんはもう黙り、新聞紙を広げていた。

今一番価値あるものである貝は買うとして、次だ。二番目、三番目と読み流しているととある物を見つけた。

ドライヴは機械だ。いくら命令で縦横無尽に動くからと言って、入力されたもの以上の事をすることはできない。AIを積めばいけるかもしれないが、ないものはない。つまりだ。今目的に合うものランキングとして表示されているものに、必ずしも生涯において重要な“モノ”が表示されているわけではないと言うことである。

俺が見つけたのはそれだ。

 

「…………ナソードねェ」

 

古代技術の産物であらナソードが何故こんなところにあるのか甚だ疑問だが、あるんだから仕方がない。ナソードのある場所に近づき、手に取る。

全体的に丸く、手足と思われるモノが浮遊している。緑や黄色いラインが入ったナビゲート用と思われるナソード。壊れているわけではなさそうだ。ただ動力が無くなり動けなくなっただけ。

ドライヴにスキャンしてもらうと、動力部にヒビが入っていた。これは動力源を交換しても起動しないだろう。まぁそもそも、この世界にナソードの動力源はないのだけど。

 

「……………………」

 

何言ってんだ、オレ?

 

あるじゃねぇか、ここに。

 

「クハハハ!!」

 

もう力は持っていないが、確かにある。ククク、この時代で発見するとはな。良い収穫だ。あいつらと行動していると良いものばかりに出会う。前とは大違いだな、やはり出てきて良かった。

さて、良い拾い物をした。これと先ほどの貝を買っていこう。ナソードをドライヴに乗せ貝が入った軽い木箱を持ち上げ、おっさんのいるカウンターに乗せた。

ドン!と大きな音がなって、おっさんの肩が跳ねた。

 

「---っ、驚かすなよ!」

「ククク、気づかねぇお前が悪い。で、こいつら買いたいんだが、幾らだ?」

 

俺の買いたいと言う言葉に、ついと持ってきたものを見るおっさん。若干驚きが混じった表情を浮かべた。

 

「これ、全部か」

「全部だ。追加でこれな」

「話、聞いていたか?」

「あぁ、聞いていたぞ」

 

今度は呆れの表情を浮かべた。

 

「こう何個も要らねぇだろ。長年集まったから、結構な量だぞ」

「一応だ、こういうの好きな奴がいるんでな」

 

ざっと見ても二十個程はある。要らないとは思うだろうが、俺の記憶と予想が正しければこれは空島の海産物。ならば買わないわけにはいかない。手がかりの一つだ。

え?ジャヤについて調べていたんじゃないのか?何のことやら、だ。

 

「一万ベリーだ」

「は?」

「だから、一万ベリーだ。高いなんて言うなよ、買取時のも考えてだからな」

 

いやいや。

 

「いーやいや、安い。安過ぎるくらいだ」

「は?」

 

今度はおっさんが驚く番だった。

そのアホ面にクククと笑ってやり、一万ベリーを取り出して渡した。

 

「ほい、きっかり一万ベリーだ。んじゃ、貰ってくぜ」

「あ、あぁ」

 

曖昧に頷くおっさんにまた笑ってやり、買った荷物を持ったらおっさんに慌てて止められた。

 

「いやいや!いやいやいや!!!今吹っかけたんだぞ!わかってんのか小僧!」

 

慌てて立ち上がったからか、新聞紙の隙間からチラシのようなものが三枚ほど俺の足元に滑り落ちてきた。

 

「クク、お前にとってはそうだろうな。ただ、人によって価値は違う。俺はこの値段は安いと感じた、それだけだ」

 

拾い上げるとそれは茶色い前世で言うA4判用紙。裏返すと、ククク!オレの顔だった。成る程手配書か。値段は9000万ではなく、一億。一千万アップか。多分アラバスタでの出来事が原因と思われるが、俺何もしてないんだがなぁ。サポートしかしていないが、まぁ麦わらの一味に加わったと言うのが海軍に知れたのだろう。それで上がったのだと想像できる。

後の二枚も拾って裏返すと我が船長と剣士の顔が写っていた。おやおや剣士殿の方が一歩有名になってしまったな。料理長はどう思うやら。

 

「クックック、まぁそう言うことだ。罪悪感あっちゃぁここじゃやっていけねぇんじゃねぇの?」

「五月蝿え……」

「ま、吹っかけやがった駄賃だ。この手配書も貰ってくぜ」

「あぁ、それは構わないが………………あ?」

 

お、流石に気づいたか。わざと見せたからな。この方が文句も言ってこねぇだろ。

 

「それじゃ、ありがとな」

 

扉を開けた後に聞こえてきた叫び声にクハハハ!と笑い声をあげた。

 

あー愉悦愉悦。

 

 

 

 




見てるだけでも愉悦部員。


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空島までの航海手順を探る一日な26話

 

 

 

 

「またお前、変なの買ってきたな」

「そうか?大事な手がかりだぜ?」

「手がかり?」

 

貝殻が入った木箱をドライヴに乗せてメリー号に帰ってくると丁度昼食の準備を終えたのかサンジが出て来て木箱の中を覗いていた。

ウソップはいるか?と問うと、食堂のウソップ工場で何か作業しているらしい。みんなが帰ってくるまで暇なのだろう、扉を開けて覗くと何か一所懸命に作っていた。

 

「ウソップ、邪魔するぜ」

「うぉ!エドか!後ろから話しかけんなよ!って何だそれ」

「お前へ土産だ」

 

土産?と怪訝そうな表情を作ってウソップ工場の隣に置いた木箱の中を覗き込む。中にあるのは渦巻き状の貝殻ばかり、一つ手にとってはいるが正直嫌がらせにしか思われていないだろう。

 

「お前が好きそうだと思ってな、買ってきた」

「その気持ちは有り難いが……おれ、装飾品とか作れないぞ」

 

そうじゃねぇよとウソップの言葉を否定して、食堂の椅子を引いて座る。脚を組み、頬杖を突いた。

 

「その貝はガキ共からはおばけ貝なんて呼ばれてるモンだ。殻長を押すと様々な反応をするのが特徴的で、声を出したり、息を吹いたり、震えたり、火を吹いたりするらしい」

「なにそれ怖!!」

 

早速押してみたのか、貝殻から小さな風がふいてウソップの髪を揺らしている。心成しかウソップの目がキラキラと輝きだした。

 

「面白いだろ?」

「あぁ!!」

 

同じ渦巻き状の貝だとしても、その色や大きさ、形が少しだけ違ったりして様々だ。ウソップは貝を同じ形ごとに分け始めた。勘のいいやつだ。貝殻だとしても元は生物、おばけ貝と云われる所以である不思議な現象はその貝の性質だ。ならば同じ性質なら、同じように育っていてもおかしくはない。

 

「面白れぇもん買ってきたな!エド!これ全部くれるのか!?」

 

貝殻を一つ一つくるくる回しながら検分しているウソップは興奮したようにそう問うてきた。俺としては元よりそのつもりだった。ウソップなら何かに使えるだろうし好きそうだなと思ったからだ。武器にするにも何にするにも俺にはもうドライヴがあるからな。

あぁと頷くとやっりぃ!と片手を上げて喜び、そのまま貝殻で遊び始めた。その姿にくつくつと笑ってやり、俺本来の目的を果たすために椅子に座りなおす。

本来の目的はこのナソードだ。古代文明であるモノが古い骨董品店にあるなんて思いもしなかったからな。そもそもこの世界のナソードの歴史は古くからある。それも空白の100年と呼ばれる禁忌の歴史より以前からである。それ程昔の技術で、建造物ならまだしも空白の100年より前の技術が現代に受け継がれるわけもなく、今ではもうあるはずもない空想の産物と成り果てている。まぁナソード自体知るものは少ないんだけど。

 

「(そういやDr.くれはの反応……あの時は気にしてなかったが、どう考えてもナソードの事知っていた反応だったな……)」

 

ナソード、というかドライヴを見て、“その機械”とは言わず“その技術”と言った。ということはドライヴがナソード技術によってできているというのを一目でわかったということだ。彼女がドライヴを見て驚いたのは、ただ単に大昔の技術であるナソードを何らかの形で知っていたか……それともオレの親の故郷に一度でも寄ったことがあるか、そのどちらかだろう。まぁあの年齢から考えて、多分後者だろうが。

 

「(ドライヴでスキャンした結果、そこかしこに傷があるな。配線には問題ないから、動作には影響がない)」

 

一番の問題は動力部の部分に傷があり、そのせいで動力があっても動かないということ。そもそもその動力自体も入手するのには非常に困難な代物、もう一度動き出すのは先になるかもしれない。

因みに同じナソードであるドライヴは動力源は太陽光だ。効率よく変換出来るために陽の当たる場所ならばいつまでも動き続ける。蓄積された分もあるので、陽が当たらなくても数年は動き続けるな。まぁそれがメインの動力源ってわけじゃないんだけど。

 

「(見た限りドライヴ程、エネルギーを喰うわけじゃなさそうだな。なら、太陽光で代用できる)」

 

太陽光でエネルギーを充電し、動作中は風力発電。まぁ所謂電気で代用するわけだ。この世界にも電力はある。ただその動力源が他の何かというだけで、最終的には電力だ。ここら辺の世界観は前世からわからないものなのだが、それは置いておこう。

ウソップからプラスドライバーを借り、ネジを回して動力源がある場所を開く。暗い中身をドライヴで照らすと、深緑色の手のひらサイズの小さな石があった。それを目にした瞬間に自然に口角が上がり、そーっと取り出す。

 

「クハハッ!」

 

笑い声が自然に溢れる。やっぱり間違いなかった。

 

これはエル(・・)だ。

 

力を失っているからか神秘の石には見えないが、確かにこれはエルである。ドライヴで何度解析してもそう(・・)だと示している。

しかし妙だな。この世界にエルがあるのもそうだが、このドライヴにエルだと示せる程の情報量がある事だ。ドライヴだって機械である。入力されたもの以外の事は解析できない。ということは、だ。

 

このドライヴは過去にエルを解析したことがあった(・・・・・・・・・・・・・)という事になる。

 

「…………考えても仕方がねぇか」

 

エドの記憶らしきものが戻ってきているのはわかっているが、自覚できないので考えても仕方がない。というより先にSAN値が削りきって発狂しそうだ。

というわけで放置、先にこのナソードである。考えても仕方がない事だしな。

 

「あーー!!!腹立つ!!!サンジくん!水っ!!!!!!」

 

さて、とナソードを改造しようとネジを回すのと、食堂の扉が勢い良く開くのは同時だった。

カウンターに座ったナミは非常にイライラした様子でサンジに水を要求していた。ガラスコップで出されたそれを苛立ちを隠しもせずに一気に飲む。ドン!と船が揺れた気がした。

あまりの荒れ様にウソップがこそりと話しかけてきた。

 

「なぁ、どうしたんだ?ナミのやつ」

「さてな。大方、何かにムカついたんだろ」

「それは見りゃわかるわ!」

「そこ!!聞こてるわよ!!!」

 

ナミにギロリと睨まれて慌てて目を逸らす。

 

「聞いてよ!サンジくん!!あいつらときたら!」

「あいつらってーと、ナミさん誰です?」

「あいつらよ!あ・い・つ・ら!!!!」

 

「うわぁあ゛あ゛!?どうしたんだよ!お前ら!傷だらけじゃないか!!医者ー!!医者!!!!」

「「お前だよっ!!!!っぐふ!!」」

「あっ!おれだった!!!ってゾロ!?!?ルフィ!?!?死ぬなー!!」

 

「……あいつらよ」

「あーー……」

 

さ、サンジが遠い目をしている!遠い目をしながらコップを拭いている!

ルフィとゾロがチョッパーが叫ぶ程の傷ということは何かやらかしてきたのだろう。海賊の多いこの街だ、揉め事を起こさないで帰ってこれるはずもなかっただろうが、あの二人が傷だらけなんてな……面白い事もあるもんだ。

話を聞いているとどうやらベラミーとかいう海賊団の船長にやられたらしい。正確にはその団員にだが。

食事をしていたところでその海賊達が入ってきて絡んできたという。ルフィが3000万の首ということに笑い、更には乱闘になる前にと焦って店員に空島の事を聞けばそれも笑われたらしい。それも店にいる他の海賊たちにもだ。

 

「だからだろ」

「……何がよ?」

 

最初は反撃しようとしていたルフィ達が、空島のことで笑われた後に喧嘩を買わなくなったのは。

喧嘩は絶対ダメというナミの言い付けを守ったわけではない、彼はただ自分達の目指す道を笑われたからだ。

 

「空島が幻想?ログポースが狂うのが当たり前?誰がそんなの決めた?夢を追わなくなった海賊たちだ。そんな彼らに笑われ、それに怒り狂い反撃すればまた……俺達も空島がないと信じてる事になる」

「なんでよ!反論してるんだから違うでしょ」

「いーや、ナミ。わかってねぇなー。そりゃぁ悔しいだろうよ、ムカつくだろうよ。でもな、男の夢を笑われたんだ。ただ力で答えちゃぁ意味がない」

「……?どういうことよ?」

「どうもこうもウソップの言う通りだぜ、ナミさん。ま、そんな辛気臭い話はやめといてデザートでもいかが?あ、ランチまだでしたらお作りしますよー♡」

「そ、もういいわ。サンジくん、デザート頂戴」

「はぁい♡ナミすわぁん♡」

 

愛の奴隷はナミを甘やかすことにした様だ。すでに用意していたのだろう。冷蔵庫から素早く出すと、クルッとターンを決めてナミの前に出した。その動作いるのだろうか?

考えることを放棄したナミの代わりに説明すると、彼らは空島があるわけがないと笑われて喧嘩を買わなくなった。ならば簡単だ。その喧嘩を買えば、空島の存在を一ミリでも信じていないことになり、空島はないと笑う夢を追わない馬鹿な海賊と同じ土俵に立つことになる。それじゃぁ意味がない。

ただ殴って怒って言い聞かせても彼らは笑って言うだろう。

 

“じゃぁ、証明してみろよ!”

 

そんな事を言われたらできるはずもない。だって俺たちだって今半信半疑に手探りの状態で探しているのだから。空から船が降ってきたからあると言っても、んなことあるわけがないと一蹴される。

いつまでも平行線だ。そんなの不毛だ。だから証明する。俺たちが空島へ行く事によって。

笑え、嗤え、いくらでも嘲笑え。その笑みは俺たちにとって無意味なんだから。

 

ククッと笑って、手元の作業を再開する。

 

いや本当に、彼奴らは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---面白い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後もう一人の情報収集隊であったロビンによって島の端に住む変わり者、モンブラン・クリケットの下へと訪ねることになった。彼は島の住民の誰もが信じていない黄金郷の存在を信じ毎日海底に潜っていた本当に変わり者であった。

北の海(ノース・ブルー)で有名な絵本である『うそつきノーランド』。その主人公であるモンブラン・ノーランドの子孫がクリケットであり、彼が見た黄金郷を探すために海賊をやめたんだそうだ。並大抵の決意じゃない。

ノーランドとのと決闘なんだ、と教えてくれたクリケットは麦わらの一味に唯一空島へ行ける方法を教えた。この辺りが急に夜になる現象は上空に太陽光を通さない程の巨大な雲のせいであり、その上に乗れば空島へと行けるはずだと言った。そしてその上に乗るには突き上げる海流(ノックアップストリーム)という海流に乗って船ごと登るという。

ただその為にはランダムで発生地点が変わるノックアップストリームとあのどデカイ雲の地点が重らなくてはいけない。一体何分の一の確率であろうその奇跡はどうにも明日起きるらしい。

ウソップはその事を嘘だと言ったが、嘘を付くような人間ではない事はこの数時間で把握済みだ。腹を決めろと肩を叩けばうな垂れたように諦めて、クリケットに謝る為に走り出した。

 

まぁそんなこんなで今は森の中。大きな虫取り網を持たされて、サウスバードというずっと南しか向かない変な鳴き声の鳥を探す事になった。日の落ちた夜のことだ。

 

「鳥なんだから夜行型ってわけでもねぇだろうに、寝てんじゃねぇのか」

 

変な鳴き声だからわかるだなんて言われてもなぁ。

俺の独り言に誰も答えずただ、“ジョ〜”という鳴き声が聞こえるだけ。他の鳴き声は聞こえないのにこの鳴き声だけさっきからやけに聞こえた。

 

「…………起きてやがる」

 

なんていう鳥だ。常識を外れてやがる。

 

「ドライヴ、周囲を散策しろ。この声を発する鳥がいたら、電磁波で気絶させろ」

 

了解、と言う様にドライヴはくるりと動いてから周囲を一斉スキャンした。何匹もいるのか変な鳴き声はそこら中から聞こえて来る。一個体だけ特別というわけでもなく、種全体が夜にも起きているということになる。夜行性の鳥だなんて、フクロウ以外にあり得ないと思っていたんだが……動物に関しての知識はそんなにないからなぁ。

数分すると遠くからジョワ!とかいう変な悲鳴が聞こえた。悲鳴まで変な鳴き方だな。

 

「クックック。良くやったドライヴ。ほーかく、っと」

 

ドライヴに案内させ、見つけたのは木のそばで気絶して痙攣しているカラフルな鳥であった。ここの気候は暖かい方に入るので南国っぽくても不思議ではないが、この森にはカラフルな植物などほとんどない。身を隠す程で進化したとは言えない模様であった。きっとこの森の王者がこの鳥なのだろう、変な鳴き声のくせに。

サウスバードの脚を持って意気揚々と来た道を戻る。そんなに動き回っていないので帰るのも楽勝だ。

 

「一羽いれば充分だって言ってたが、他の奴らも捕まえてきたらどうするんだろな」

 

森を抜け、月が照らす海岸へと到着する。何故か半分だけハリボテな家が見え、他の奴らの姿もないことから俺が一番乗りだとわかる。サウスバードが馬鹿な奴で良かった、でないとこうもすんなり捕まえられていない。

……というか、クリケットと猿共だけにしては家の前にいる人数多いな……?

 

「ハッハァ!黄金は貰っていくぜぇ?モンブラン・クリケットぉ」

 

嫌な声だ。煽り方がオレに似ていて同族嫌悪してしまう。

そこらに転がっている巨大な何かは血を流し、気絶している。十中八九猿共だろう。そしてあの金髪の前に倒れている名前の通りの頭をした彼はクリケット。

ほぉ?黄金の噂を聞きつけやって来たってところか。クリケットを倒す程の実力とは雑魚ではないらしい。

クリケットが血だらけの手を伸ばす。

 

「やめろ……ッ」

 

金髪の男はニマリと笑って腕を振り上げた。

 

「やめねぇよ」

 

バネのように変化した腕を振り下ろすその刹那に俺は地を蹴り、一瞬でクリケットの前に躍り出る。防御モードにシフトしたドライヴでその男の拳を受け止め、バチリと電磁波で皮膚を焼いてやる。

 

「ぐぅっ!」

「ベラミー!?」

 

部下の一人が叫ぶように男の名前を呼ぶ。ベラミー……ベラミーねぇ。なんか聞いたことあるような……前に暇な日に賞金首リスト見てた時に書いてあったような……多分ルフィより下だった気がする。小物か。

まぁクリケットの黄金を殴って蹴って暴力で奪うのは海賊らしいが、やってる事は小物だな。

 

「痛ぇだろう?なァ!オイ!全身焼き切っても良かったんだぜ?」

 

戯ける様に嘲笑うとフッサフサの白いコートを着た金持ちそうな男がテメェ!と得物を取り出す。やる気満々らしい。煽り耐性がなさすぎるとも言うけど。

密かに攻撃モードに変更したドライヴを待機させてやるか?と首を傾げると意外な事にベラミーと呼ばれた金髪野郎が手で制した。ふーん。

 

「ハッハァ……!あぁ、痛ぇなぁ。お返しをあげたいぐらいだ」

「クックック、それはそれは遠慮しとくぜ」

 

焼けて痛いだろうにグーパーと手を開いたり閉じたりして動作確認していた。成る程これぐらいの痛みならどうってことないってことか。指先でも焼いとくべきだったか?神経が細かく通っているそこなら、比べ物にならないぐらい痛いだろう。

 

「ま、今のは無かったことにしてやるよ。でだ、クリケットの黄金を取ったんだってな?」

「あぁ、取ったぜ?まさか返して欲しいとか言うんじゃねぇだろうなぁ?人の手を焼いておいて酷ぇ言い草だ。どうしてそんなに肩入れする?そういうタマじゃねぇだろぉ?」

 

確かにただ黄金都市を見つけるためだけに日々潜り続けて病気になったバカなんて肩入れする程でもない。だが、それは俺個人での話だ。俺が所属する麦わら海賊団としてはクリケットに死なれては困る。

なにせ。

 

「空島へ行くには此奴の存在が必要不可欠だからな。死なれちゃァ困るし、恩を売っといて損はないだろ?」

 

そう言って笑うとベラミー達は一拍の静寂の後、盛大に笑い始める。その声は近隣に家があるものならクレームが来るほどの大きな笑い声だった。

俺は訝しげに眉を顰め、何が可笑しい?と彼らに問う。すると彼らは言った。空島なんてあるはずが無い、と。

 

「テメェもあの馬鹿共と同じだったってわけか!」

 

金持ち男は笑う。

 

「馬鹿ども?」

「昼にテメェと同じ様に空島を探してるっつー馬鹿共だよ!女もそうだが、あの男どもは仕返しもしない腑抜け共だった!」

 

ヒーwwwとお腹を抱えて笑うその姿にイラっときたが、そうか……お前らがナミの言っていた奴らか。把握把握。

となると俺の判断でぶっ飛ばして良いわけじゃねぇなぁ。俺はあくまで麦わらの一味。空島関連は船長に一任しないと、な。

 

つーわけで。

 

「帰れ、お前ら」

「は?」

 

金持ち男が間抜けな声を出したかと思うと、次の瞬間にはどこかへ消えていた。ベラミーとその他諸君もだ。船も置いておかれたら困るので同じように送ってやった。

いやはやこの数ヶ月、テレポートもといワープは範囲を広めて、このジャヤ程度なら問題なくどこでも送れるようになっている。ま、その分負荷があるが……海賊なら耐えれるだろうよ。船も含め、俺たちが元いた街の側に送ったので、今頃一瞬で変わった景色に驚いている頃だろうな。人間業じゃねぇし。

クックックと笑って、わざと転送しなかった黄金が入った袋を拾い上げ、傷だらけになっているクリケット達へと歩み寄る。

 

「早く帰ってこい、チョッパー」

 

オレは科学者なんでな、医術は得意じゃないんだ。

 

 

 

 




空島遠いなぁ……。


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白い海に囲まれ平和なひと時を満喫する27話

 

 

 

 

「「「「ここが……っ、空島ァ!!!!」」」」

 

そうして数時間後、俺たちは無事に空島へと着いていた。突き上げる海流、ノックアップストリームに乗るだなんて天地ひっくり返る程の衝撃と驚きで心臓が飛び出て死ぬかと思う程だったが、こうして空島に出てしまえばそんなもの忘れた。

空に浮かぶ島だなんてロマン溢れる場所に出て浮かれない海賊がいるだろうか。否、いない(反語)

 

「どこ見渡しても雲、雲、雲!!空以外雲だわ!」

 

ナミもテンション上がっているらしい。海雲に飛び降りて浜と思われる雲へと走って行った。ルフィ、チョッパー、ウソップは言わずもがな。俺?既に浜の上だが?

ただ濡れるのは嫌なのでドライヴで降りたがな。だけれど靴を脱がなくてもわかるこのふわふわ加減、ハマる!

 

「しっかりと持てるほどの質量はあるのに、性質は雲そのもの。クックック、面白れェ。単純だからこそ面白い」

 

そんな事を言いながら浜辺の雲を取っては固め、取っては固めを繰り返す。ふわっふわのくっつかない綿あめを固めている様な気分だ。雲を手で掴むなんてこの空島でこそ味わえる感触……あぁ、あの空島なんてないって笑ってたやつらが哀れに思えてきた。

そうして結構デカイ雪だるま、否雲だるまを作り出し満足していると、隣ではチョッパーが可愛らしいものを作っており、その向こうではウソップが大人気ないものを作り出していた。

 

「名付けて!ウソップと愉快な仲間たち!」

 

そのまんまじゃねぇか。

中心に王冠を被ったウソップが腕を組んで立ち、その後ろに麦わらの一味が勢ぞろいしている。どう見てもウソップの野望ダダ漏れだな。リアリティ溢れるところはウソップの器用さを醸し出している。雪まつりとか参加したら優勝できそうな程の腕前だ。

まぁ、オレが後ろってのもムカつくので壊させてもらうが。ドライヴで一番にウソップの顔を潰し、二番目に見ていられない俺が潰し、他はサンジが蹴り殺した。

 

「何すんだよ!!エド!サンジ!おれの力作だったのに!!」

「「どこがだッ!!!」」

 

たった数十分で作ったやつは力作とは言えんぞ!ウソップ!!!

 

そんなこんなでみんなとわちゃわちゃしていると、ふとハープの音が響き渡った。ハープなんてお洒落な楽器、音楽家でもない麦わらの一味の誰もが弾かないもの。即ち第三者の仕業である。

ハープの音が聞こえてきた方を皆が自然に見る。そこには背丈程のハープを見事に演奏する金髪の女性がいた。

そこまでは普通だ。いや浜辺でハープとか普通なのかはわからないが普通だ。問題は。

 

「天使だ……」

 

ポツリとサンジが呟く。サンジが好きそうな綺麗な女性だったから天使だと比喩したのではなく、彼女の背には羽が生えていたのだ。ただその生え方から鳥の様に翼という機能はなくただ単に飾りとして生えていると推測できる生え方であったが。

純白の翼を持つ彼女は自身が注目されていると気づくと、キリの良いところで演奏をやめて立ち上がった。ゆらりと頭の二本の飾りの様なものが揺れた。

 

「ヘソ」

 

え。

 

「皆さん、空島は初めてでいらっしゃいますか?」

 

スルーか?

めちゃくちゃ良い微笑みで変な事言い出すから何かと思ったら、天使(仮)は普通に話し始めた。態度から察するにこの空島の住民なんだろう。ようこそ、エンジェル島へとかなんとか言っている。羽生えてるからエンジェルってか、そのまんまじゃねぇか。

この場所はエンジェルビーチと言う場所らしく、彼女の家の近くで良くこの場所でハープを演奏しているらしい。らしいらしいばっかだが、ここに来たばかりなので彼女の言っていることが本当かはわからない。何かと個人情報を話すので、この島での案内役かぁなんてぼーっと見る。

横目に隣にいたサンジを見ると、彼は既に目をハートにしてクネクネしていた。気持ち悪いのでドライヴで突き飛ばしておく。

 

「すいませーん!そこどいてくださーい!!すいません!」

「父上!」

 

ん?父上?

振り返ると海雲の上を水上スキーの様なもので此方に来るおっさんの姿が。変な触覚である髪以外は眩しい頭を持つその人は、糸目ながらも必死な形相で此方を見ていた。

 

「何あれ!?帆もないのに海の上を進んでる!」

「それにとても速いわね。何が動力源なのかしら」

 

ナミが興奮したように叫び、ロビンが冷静にその水上スキーを分析する。

いや、喜ぶのは良いが……あれ。

 

「こっち向かってきてねぇか?」

 

俺の呟きと共に皆が皆顔を青くして慌てて避け始めた。俺も慌ててふわふわしたビーチの上を走って、その水上スキーを避ける。避けた途端に大きな音を立てて通ったそれに安堵の息を吐く。父上と呼ばれた彼はビーチ奥にある木へとぶつかり、よろよろと起き上がった。事故とは言え無傷でいるおっさんに少し感心する。あの勢いだ、何かしら怪我してもおかしくないだろうに。

 

「すいません、皆さん大丈夫でしたか?」

「いや、おっさんこそ大丈夫かよ」

 

ウソップの言うとおりである。

 

「父上!」

「あぁコニスさん、ヘソ」

「えぇ。ヘソ、父上」

 

…………もう突っ込むまいぞ?ボケ担当なはずのルフィでさえ突っ込んでるけど、もう俺は突っ込むまいぞ?

彼らは父と娘という関係だそうだ。おっさんがパガヤ、天使(仮)はコニスという名前だった。穏やかな二人で、空島に疎い俺たちを自分たちの家へと招いてくれた。下じゃあまりあり得ない現象だ。初めて会った人、しかも海賊を招くなんて。空島には海賊という概念がないのかもしれない。

ただ、ナミだけはウェイバーと呼ばれるパガヤが乗ってきた乗り物を大層気に入ったらしく、パガヤの家に行かず乗って遊ぶらしい。まぁ初めて乗るなら楽しいだろうな。俺はドライヴがあってもう慣れてしまったので、あの楽しさはもう味わえないけれど。

 

「良いなぁ、ナミ。なんであんな乗れんだ!おれも乗りてぇ!」

「並外れた観察眼を持つナミだからこそ乗れるんだろ」

「何だよそれ!おれもあるぞ!観察眼!」

「ウェイバー乗りこなせてない時点でねぇよ」

 

ナミの前に試し乗りをして見事に海に落ちたルフィが羨ましそうにナミを見つめるが、呆れながら止めておけと止めた。ルフィは戦闘センスはピカイチだが、その他のことについてはまるでダメである。ここまで不器用な人間いるか?と首を傾げる程だが、まぁ妙なカリスマがあるのだからどこへ行ってもやっていけそうだ。

麦わらの一味全員からお前は無理だと烙印を押されたルフィは半分拗ねながらパガヤの家へと上がっていく。相変わらず靴を脱ぐ習慣はなく、玄関と部屋の高低差はない外国風の家。外見はエドだが、中身に日本人の俺が混じってる時点で少し慣れない。まぁどっちでも良いのだが、玄関上がると靴を脱ごうとしてしまうのはどうにかしたいとは思う。

そこそこ広いパガヤの自宅を見渡しながらリビングに通される。サンジは空島の料理に興味があるのか、キッチンに行くパガヤについて行った。他はリビングで待機である。

 

「皆さんは青海人なのですのよね?」

 

紅茶を入れてくれたコニスが首を傾げながらそう質問してきた。サンジが見たらあざとい……とかなんとか言って惚けていただろう。可愛く顔の整った奴にしか許されない、小首傾げ上目遣いだ。

いや、それはどうでも良い。せいかいじん、とはどういう意味だろう?じんと言うからには人の文字は入っていそうなので、異世界人みたいな名称であることがわかる。例えが異世界なのはなんとなくだ。

 

「せいかいじん……?」

「せいかいじんってなんだ?」

 

チョッパーがあざとく首を傾げながら鸚鵡返しに聞き返す。あざとい、実にあざとい。女性がすれば、ふーんという反応しかできないのに可愛い小動物がやればあざと可愛いやばい可愛いになる。チョッパーは癒し、はっきりわかんだね。

 

「青い海の人と書いて青海人です。空島に住んでいない下の海に住んでいる方々の総称で……」

「そういう事なら青海人だな!な!ルフィ!」

「おう!せーかーじんだ!」

 

わかってねぇだろコイツ。

 

「ふふっ。皆さんはどうやってこの空島、エンジェル島へ?やはり、他の空島を経由してきたのですのよね?どんなところでした?」

 

他の空島?

空島ってここ以外にもあるのか。あまり知らなかった事実だがそれを知らないのは俺だけではなく、ここにいる麦わらの一味全員だ。例外なく驚いた顔した皆はコニスに少し詰め寄って、他の空島ってあるのか!?と叫んでいた。まぁロビンとゾロ以外の男衆だが。俺は勿論内心でしか驚いていないので加わっていない。

 

「え、えぇ。そもそも青海から空島へ行くにはルートが決まっていると、そう聞いたことが……?詳しくは知らないのですが」

 

そう言ったコニスの目は嘘を吐いている様には見えなかった。つまりだ、突き上げる海流、ノックアップストリームに乗って命がけでこなくても行けたかも知れないという事だ。

 

「そういや、クリケットのおっさんもそんなこと言ってたな。全員が死ぬか、一人が生き残るかっていう」

 

よく生き残ったな!おれたち!と小さな悲鳴をあげたウソップに苦笑しながら、そのルートについて考える。クリケットに言わせるとノックアップストリームに乗る方法は全員死ぬか全員生き残るかの二択だが、もう一つの正規のルートと思われるのは一人しか生き残らないルートらしい。それなら奇跡的に雲とノックアップストリームが重なった時に来たのだからと、全員の命をかける方へ出たんだが……コニスの反応からすれば一般的ではないのだろうな。まぁ来るためにもタイミングを計るのが大事だし、あの化け物海流に乗ろうなんて言う馬鹿は普通はいないだろう。俺たちのところにはいすぎだわけだが。

多分、他の奴がしたら十中八九死ぬルートである。

 

「俺たちはノックアップストリームに乗って来た」

「ノックアップストリーム、ですか?」

「あぁ!突き上げる海流さ!海水が海から飛び出し、雲を突き抜ける。それにおれたちは乗ったわけだ!」

「凄かったよなー!あれ!もう一回乗ってみてぇなぁ」

「ふふ、下に戻ればもう一回は乗れるんじゃないかしら?」

「おれはもう御免だ」

「コニスは知ってるのか?」

「え、えぇ。話には聞いています。このエンジェル島には度々青海の物が流れてくるのですが、その原因が青海にはあるのでは?と住人の間で偶に話題に上がります」

 

へぇ、そんな話が。

なるほど、ノックアップストリームを知らなくても青海を知っているのなら原因があるはずだと疑うのか。見た事はないが、青海と空島の間には隔たりがあると知っている。それこそ、最初にたどり着いた海雲以上の。

しっかし、空島と青海って全然交流ないんだな。まぁ上空10,000メートルなら仕方ないと言えるだろうが。例えこの世界にライト兄弟がいたとしても見つける事は困難だろう。ラピュタよりは優しい場所にあるけど。

ちらりと外を見ながらそんなことを考える。ベランダから見える景色は良いもので、ここが一等地であることがわかる。片親なのに収入がそれなりにあるんだな。

 

「しっかしよー、ナミが乗ってるアレ、一体どう言う原理なんだ?エドみたいに変なのじゃないんだろ?」

「ウソップテメェ、オレのドライヴを変な物扱いすんじゃねぇ。解剖すんぞ」

「怖ッ!?」

「あれは(ダイヤル)というのを動力源として動いてます。ウェイバーやダイヤル船は主に風貝(ブレスダイヤル)ですね」

 

コニスの言葉にはてなマークを浮かべる面々。そりゃぁ青海にはないものだからわからないだろう。ジャヤにだけはあるようだけど。それでも俺が全部買った奴は数十年分はあるのに十数個しかなかった。

 

「えっと、例えばこの音貝(トーンダイヤル)に向かって何か喋ってみてください」

 

そうやってルフィに渡された貝。見覚えのある渦巻き状にウソップは何か気づいた様にこちらを見た。ニヤリと笑ってやる。

ウソップのあほー!と貝に向かってルフィは言った後に、コニスに言われるがまま殻長を押した。

 

『ウソップのあほー!』

「ウソップが貝に馬鹿にされた!?」

「いやお前だよ!」

「この様にトーンダイヤルは音を溜める性質があります。ブレスダイヤルは空気を、水貝(ウォーターダイヤル)は水をと言った具合に、貝の性質によって溜めるものは違うのですけれど」

 

他にどれだけあるのか聞いてみれば結構ある事を知った。その用途は様々で、空島ではダイヤルなしでは生活が成り立たないほど。便利な器具として浸透している様だ。

へぇと感心しているとウソップがこそこそと近づいて来た。

 

「〈お前が買って来てくれたやつ、この“ダイヤル”ってやつじゃ……?〉」

「あぁ、そうだが?」

 

小声で尋ねられたが、別に隠すことでもないので肯定するとウソップは驚いたように見てきた。

 

「おま!あれダイヤルだって知ってたのか!?」

「いーや、知らなかったぜ?ただ“空から落ちて来た”って言われたからな。空島のだろうと見当をつけていただけだ」

 

ダイヤルなんて言葉知らなかったというか忘れてたし。こんなものもあったなーという程度だ。確か空島のじゃ?と思って買っただけである。ウソップが喜びそうだから買ったのも本心だ。

そう言ったら嘘だー?と怪訝な目を向けられたが、本当だ。珍しい俺のデレを素直に受け止められないのか、この長っ鼻。

 

「持ってるんですか?ダイヤルを」

「あぁ、エドが買って来てくれたんだ」

「なんの因果か青海の骨董屋で見つけたもんでな、面白い珍しいで買ったんだよ。空から降って来たっつうんで、空島のだろうと当たりをつけてな」

 

そう説明するとコニスは興味深そうに話を聞いてくれる。きっと空島で育った彼女は青海の話が面白いのだろう。ウソップのいつもの法螺話(半分事実)を食い入るように聞いている。お淑やかに見せかけて本当はやんちゃなのかもしれない。

 

「ロビンちゅわ〜ん♡野郎共ー、昼メシだぜ」

 

温度差が激しすぎてグッピーが死ぬって、サンジ。

飯ー!!と大喜びしてソファに座るルフィとウソップ、そしてチョッパーの後に続こうとして、ふと後ろを振り向く。

 

「(まだ楽しんでやがる)」

 

小さな虫ほどの大きさにしか見えないナミは飽きていないのかずっとウェイバーに乗っている。その事に呆れながらため息を吐いて、改めて彼らの後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか、平和だな。

 

 

 




一ヶ月空きましたね……うん、一年じゃないだけマシ!!


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無法者は天使が住む島でも犯罪者な28話

 

 

 

 

「えっ、不法入国者!?」

 

コニスが驚いたように声を荒げた。

全くきな臭い事になってきたようだ。治安維持隊だという軍隊が現れてから、ひと時の平穏は崩れた。匍匐前進でやってきた彼らは急に俺たちを犯罪者扱いしてきたのだ。

 

「そうです。入国料を支払わなかったとアマゾンさんから報告がありました。被疑者は八人。そこにある船に乗ってきた事は把握済みであります」

「そんな、皆さんが不法入国者だなんて……」

 

パガヤが顔を青くしている。糸目であるからかあまり表情が変わっていないように見える。口を覆うふっさふさの髭も相まって。

事の起こりは昼メシを食べながら、この国の“神”とやらの話を聞いた後だった。ベランダから見えていたはずのウェイバーに乗ったナミが消えた為に、ゴーイング・メリー号を置いてある浜辺へと戻った。そこまでは良かったのだが、急に現れた雲の模様をした服を着ているホワイトベレー部隊がやってきて、冒頭に戻るというわけだ。

不法入国者という言葉に嘘はない。この島に来る前に通った門で出会った婆さんに、通っても良いが入国料一人10億エクストルを払え(払わなくて良いとは言っていない)と言われたのは覚えている。きっとその事なのだろう。他のみんなも払わなくて良いと言う言葉について言っているが、今やそれを確かめる方法はない。報告したのはあの婆さん、そして犯罪者の言葉に耳を傾けないのはいつの世も同じだ。俺たちが入国料を払わなかったという事実だけが残った。

 

「でもよ!おれたち青海から来たばかりなんだ!いきなりエクストルとか言われても、わかんねぇよ!」

「それは失礼。エクストルとはこの国の通貨、青海の1ベリーは空島での1万エクストルとなります」

 

つまり、入国料10億エクストルは10万ベリーだったわけか。十億とか言われて動揺している時に払わなくて良いとか言われたら安心して払わないよな。悪質な詐欺だ。

 

「ですがご安心を!このままでは皆さん犯罪者になってしまいますが、入国料の十倍支払っていただければ、貴方達はただの観光客となるでしょう」

「つーことはだ、一人100万ベリー……全員合わせて800万ベリーか……高いわ!!」

 

高いな。ただでさえ空島という下の常識は通じない場所で、せっかく来たのに金払えとかどこの悪徳業者だ。俺でも払いたくねぇな、それなら犯罪者になる。

というか、日本の罰金でもそんなにはいかねぇぞ?個人単位での話だが。

 

「何をおっしゃいますやら。文句を言うのであれば最初に80万ベリー支払って頂ければ良かったものの」

「それでも高ぇっての!!」

 

サンジが吠えた。

確かに高い。とても高い。観光客とは金を落とす生き物。最初の入国料でそんなに搾り取っていれば、町で色々なものを買ってくれなくなるぞ。せっかく空島に来たのに、入国料高すぎて何もできませんでしたじゃ嫌だろうに。経済が回らない。これも青海との距離が故の交流の断絶が原因だろうか。

そもそもここ、他の空島とさえ交流がなさそうだ。神の住む島、エンジェル島に住む羽根の生えた住民達。人々が思い描く天国のようであり、神に支配されるこの場所は地獄のようなものだ。何処が地獄か?だって厳しすぎる法律なんて地獄のほかないだろう。

 

「(ま、元から犯罪者な俺たちには関係ないのだろうが……)」

 

でも犯罪者にされたら動き辛くなるのは確かだ。ここは穏便に入国料を払った方がいいだろう。もし勿体無いなら空島を出るときにこっそりと奪えば良い話だからな。

そうして事を起こしたくないウソップの提案でナミを待つまでに暇を潰すことになる。各々がやりたい事をし始める。ウソップとチョッパーがする釣りとやらに混じっても良いが面倒なので目を閉じて寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余程疲れていたのかスッと寝落ちしてから、気づけばマッキンリー隊長とやらが気絶して倒れていた。

 

「どういう状況だ?これ」

「今起きたのかよ」

 

ゾロが呆れたようにこちらを見てきた。いつも寝ているお前に言われたくはないが、いつのまにか進んでいた話についていけなかったことは申し訳ないとは思う。

周りを見ればいつの間にかナミが帰って来ていた。ゾロにマッキンリー隊長が何故倒れているのかを聞くとナミがしたらしい。あまりの多額請求に怒りが沸点を超え、理性をなくしたそうな。成る程、ナミらしい。

 

「んで、職務執行妨害及び暴行罪ってところで晴れて犯罪者てなわけか」

 

そうだと頷かれる。

マッキンリー隊長がタンカーで運ばれて行くのを見送りながら、仲間達とどうするかどうかを相談する。満場一致で逃げるという選択肢を選び、それぞれ独自の方法で船へ乗っていく。俺も例に漏れずに船に乗ったが、肝心の船長と航海士がまだ乗っていなかった。

何してんだあいつらと呆れてるが、ルフィは頑固として動かない。どうやらコニスとパガヤが罪に着せられるのは嫌らしい。確かにここで逃げたらきっと二人を罪に問うだろうな。たまにわかったかのような事を言うからこそこの船長は侮れない。

神の住む島アッパーヤードへ実際に行って来たナミは“神の裁き”とやらを直に見たのだろう。血相を変えてルフィを説得しようとしている。でもこうなったルフィをどう説得しようと連れ出そうとしても、頑として動かないのはこの船に乗っている全員が知っている。けれどそんなルフィをずっと説得しているナミを見て、あぁと青い空を見上げた。こんな場所でそれほどヤバイものがあるのかと。

 

「ルフィ!!」

「やだ」

 

頑固な子供のようにやだと言い続けるルフィがずっと見ていたパガヤの家から目を離し、左方向に振り返った。思わず俺も見ると、そこには負傷して少し瀕死なマッキンリー隊長が。流石高度10,000メートルで生活しているだけあるな、筋肉付いてるし並みの海賊では太刀打ちできなさそうな強さだ。

 

しかしまぁ、手遅れってわけか。

 

俺の予想通りの罪を言われ、晴れて第五級犯罪者とやらになった俺たちをどうやら引っ捕らえるらしい。此方に逃げて来たナミではなくて、近くにいたルフィを初めに捕らえるらしいが……正直それは悪手だ。何せ一億ベリーの賞金首だからな。空島までは伝わっていないだろうが。

結局一網打尽にされてしまったホワイトベレー部隊は退散することにしたらしく、匍匐前進ではなく匍匐後退で帰って行った。いや、歩いて帰れよ……危ないだろあれ。

 

「で、どうすんだ?あの隊長が言うには第二級になっちまった感じだが?」

 

メリー号からふかふかの浜辺へと降り立つ。ドライヴでの移動ももう慣れたもので、スムーズに行けた。

 

「どうするも何も、逃げるのよ!追っ手が来る前に!!」

「ナミの意見に賛せーい!」

 

ナミとウソップが口を揃えて逃げるんだと言う。まぁ別に航海士の言うことに文句はないけれど最終的に決定するのは船長だ。ちらりとルフィを見ると、此方に歩いて来ている。ナミの言葉に従うのだろうか?

 

「おれぇ、神の住む島行ってみてーなぁ〜」

「じゃ行くか?」

「何でそうなるのよッ!!!!」

 

あ、ルフィとゾロが殴られた。ナミは強いなぁ……不用意な発言はやめよう。

結局のところ反対意見はナミがいる手前なくなったも同然で、空島の滞在時間は数時間という僅かな時間だけになりそうだ。普通は一日、二日はいるもんだがこうなってしまえば関係ない。

船に戻る組と、最後だからとパガヤの家へ料理やら材料やらを調達する組へと別れた。ルフィ、サンジ、ウソップ、俺は調達する組でその他が船に戻る組だ。あのナソードを改良する為に部品が必要だからな、あるかどうかはわからねぇが行ってて損はないだろう。

 

「何だぁ?エドもこっち来んのか?」

「あぁ、お前と同じく部品調達にな」

「お前もか!あの変な奴直すのか?」

「変なのじゃなくてナソードな。動力源を何とかすれば直るんだが……それには少し改造、いや改良しなくちゃならないからな」

「へぇ!」

 

ウソップが興味を持ったようだ。まぁお前も好きそうな奴だしな、ナソード。ロボットは全世界の男の憧れである。憧れるような見た目でもないけれど、寧ろ可愛い系であるけれど。

直したら見せてくれよ!と言うウソップに一番に見せてやると約束する。オレは科学者だが、主にナソードについてしか詳しくない。その他の事に関しては本職に比べれば素人だろうが、所謂器用貧乏な彼とはよく話が盛り上がる。

ウソップと何を分けてもらおうかと相談していると家に着いたらしく、早速とばかり部品を持って来てくれたパガヤには頭が上がらない。犯罪者だとわかっていても持て成すその心はとても良い人に当てはまるだろう。善人みたいな顔してるしな……腰が低いし。

サンジは残った料理を弁当に詰め、ルフィはつまみ食い、俺とウソップはパガヤが持って来てくれた部品を並んで見ていた。

ドライヴでオレの予想通りに改良するならばどの部品が必要かをスキャンしながら、手当たり次第に探る。

空島にも金属加工機はあるのだろうか。普通にビスやらネジやらがある。そもそも不思議に思っていたんだが、金属や何やらを加工する技術があるのならば、電気の代用エネルギーがあるのならば、軍艦は木製じゃないものを作れるし、今よりも生活はもっと豊かだ。世にあるピストルなんて物は全部同じものだが、もっと改良するとか言う努力が見られない。ずっと同じものしかない、成長が見られないと言うのはおかしい。まるで成長しないように世界が人々の意識を留めているかのようだ。

そもそも古代兵器が今の戦力よりも強大だと言う時点でお察しだ。それで一度人類の技術は滅び、また歩み始めたのだろう。それこそ一から。多分、その滅びた原因が空白の百年。そしてその前からある技術だったが一緒に滅びたのがナソードだろう……多分。

ドライヴの記録を見れば済む話なんだろうが何故か閲覧禁止になっているし、そもそもこの世界でエドが何していたかなんてまるで知らない。それこそ見ればいんじゃね?と思いがちだが、閲覧禁止なのは俺がこの世界で意識を持った時から前の記録だ。わかるはずもなかった。

 

「おい!メリー号の様子がおかしいぞ!!」

 

休憩がてらバルコニーに出たウソップがそう叫んだ。その必死な表情に本当に何かがあったのだと察せられ、慌ててバルコニーへと出る。遠目ではわからないが確かに船体が微妙に左右に揺れている。ここからそう見えるのだから、その場ではとても激しい揺れなのだろう。

やがてメリー号は逆走していき、何かに運ばれていることがわかった。そしてそれが何かパガヤが知っているようで、青ざめた顔であれは!と驚いていた。

 

「おっさん!なんか知ってんのか?」

「あれは空島名物、超特急海老!神の使いと呼ばれる神聖な生き物です」

「あのデカブツが!?」

「エビ!焼いたらうめぇかなぁ?」

「とんでもない!バチが当たります!」

「で、どこ行くんだ?」

 

結局行き先を聞いてないなとパガヤを見ると、彼は真剣な顔で説明をしてくれた。

 

「超特急海老は先程も行ったように神の使い。運ぶ物はいつでも神への供物。なれば、彼らが運ばれる場所は生贄の祭壇でしょう」

「「生贄!?」」

「すいません、地図はありますでしょうか?」

 

ウソップが青海で拾った地図を持ち出す。パガヤはそれを見ると、ある一つの場所を指差した。台形の塔のようなもの……即ち祭壇だ。

 

「ここが生贄の祭壇です。ここに行くにはダイヤル船でミルキーロードを渡る他ありません」

「陸地から行くのは無理なのか?」

「えぇ。この地図と現在のアッパーヤードの違いは島中に巡らされたミルキーロード。徒歩で行くにしても途中で当たってしまうかと、すいません」

 

神への供物がメリー号含め乗っていた奴らだとすれば、神に試されているのはここにいる四人だとパガヤは言った。その言葉はまるで最初から台本があるかのようで、常に定められたことなのだとわかってしまった。

つまり俺たちは嵌められたと言うことになる。まんまと神の試練とやらに挑む羽目になるとはな。

 

「アッパーヤードに住む四人の神官たち。それぞれが、紐、玉、鉄、沼を司っていると言います。きっと乗り込めば最後、どれかの試練を受けなくてはいけなくなるかと、はい。すいません」

「関係ねぇよ、全部ぶっ飛ばせばいいんだろ?」

 

なら簡単だと笑うルフィに同感するサンジ、一人震えるウソップ。そんな三人に苦笑しながら、なら俺はと立ち上がった。

 

「エド?」

「お前らがいれば神官とやらが来ても大したことはないだろ?」

「おう!ねぇ!」

「ないな」

「いや!あるわ!!」

 

ウソップの言葉は無視しよう。お前もやる時はやる男だとみんな知ってるぜ。

 

「なら俺は先に彼奴らを追いかける。心配なんだろ」

「ナミさんとロビンちゃんがな」

「いや、チョッパーとゾロも心配してやれ」

「それにこっちの状況を伝えなくちゃならねぇ。連絡役としてこれ以上の適任はいねぇと思うが……どうだ、キャプテン?」

 

電伝虫と子電伝虫を買えって話だが、何せ貧乏海賊……連絡手段を買うより食料費に先に目がいってしまう。

そんな貧乏になっている原因ナンバーワンなルフィに口角を上げて笑ってやると、笑顔で頷いてくれた。そうこなくっちゃな!

 

「よし!行け!エド!」

「アイアイサー」

 

軽くジャンプしてベランダの縁に飛び乗るとパガヤとコニスが慌てて止めに来る。振り返ると彼らは親切心からか心配そうな表情を浮かべていた。

 

「すいません!先程も言った通りアッパーヤードはミルキーロードで阻まれています!」

「そうです!ダイヤル船も無しでどうやって!」

 

どうやってって、そりゃお前。

 

「飛んで、に決まってんだろ」

 

そのまま倒れるようにベランダから飛び降り、駆けつけてくる優しい親子に鼻で笑いながら態勢を整えてから不可視にしていたドライヴを元に戻し飛び乗った。

勢いはそのままに更に加速してエンジェルビーチを通り過ぎる。

 

「クク、アハハハハ!!」

 

途中でちらりと飛び降りた場所を振り返ると何とも間抜けな顔をした親子を見てしまって、俺は吹き出すように笑ってしまった。

 

「(あー、楽しい)」

 

久し振りの空中飛行はとても楽しいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アッパーヤード上空、神の屋城。

 

「ん?」

 

むしゃりと比較的大きな林檎を丸ごと齧った音が響く。赤く実ったそれは瑞々しく、見るだけでそれなりのブランドがあるであろう物だと素人でもわかるものであった。

そんな贅沢品をまるで気にする事もなく一つを食べきった男は周りに侍女を侍らせ、優雅に寝転んでいた。侍女の一人が林檎の芯を受け取り新しいのを渡し、もう一人の侍女は大きな団扇でゆっくりと男を扇いでいた。

神の屋城でこの国で最上級とも言える扱いを受けるのは当然、神のみ。即ち、この男は現神ゴット・エネルである。

神とゴットで意味が被っているとかは、言ってはいけない。

 

「どうなされました?この国の神よ」

 

そんな神の向かい側にいるのは、エネルに負けるに劣らず目立つ格好をした男。水色のメッシュが入った鈍い銀色の髪を揺らしたその男は、豪華なローブが自身が立っている島雲に付くことも気にせず、優雅にそして皮肉げに神の機嫌を伺う。

そんな男にエネルは独特の笑い声をあげながら、喜べと男を見下しながら口を開いた。

 

「ヤハハ、お前が言っていた青海人の男とやらが此方に来るみたいだぞ?」

 

その言葉に男は驚く。まだ来るのは先だと思っていたからだ。今までの経験と彼の性格からして自分から乗り込むことはないだろう、と予想していたのだが……見事に外れたようだ。

悔しいやら面白いやら、前までなかった感情を心の内に浮かべながら男は笑顔を貼り付けエネルを見た。

 

「そうですか、思ったよりも早いですね」

「お前の予想では、あの麦わらの男と一緒に来る、だったか?ヤハハハ!見事に外れているな!ハハハハハ!」

「えぇ、彼を理解していたつもりですがそうでもなかったようで。まだまだですね」

 

他人の感情を理解するのは自分に感情が宿ったとしても難しい。前よりは比較的理解できるが、やはり同じような性格である彼だけはどうにも。

 

「(エルスの様な、真っ直ぐな性格ならば分かりやすいのだが……仕方がない。予定より早いが変わりはないのだ、行くとするか)」

「ん?何処へ行こうと言うのだ」

 

心の中でため息を吐いたあと、踵を翻そうとしてエネルに呼び止められた。身体を動かす前だったのにも関わらず、何処かへ行こうとした事が相手にはわかってしまったらしい。内心眉を顰める。

 

「(思ったよりも厄介だな、心網(マントラ)とやらは)……彼が此方に来ると言うことなので、挨拶をと」

「今はやめておけ。そうだな……明日だ。明日、会いに行っても良いぞ」

 

まるで命令するかの様な言い草に男は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「……ワタシは貴方に仕えたつもりはなかったのですがね」

「言葉を慎め!神の御前であるぞ!」

「あぁ良い、良い。堅苦しいのは今はなしだ。それに私が話しているのだ、入り込んでくるんじゃない」

「も、申し訳ありません、ゴット」

 

男に向かって吠えた神使は他ならぬ神によって下がらされた。

そんな神使を一瞥してからエネルは男に振り返り、楽しげに笑う。寝転んだ状態から起き上がり脚を組み座った。

 

「明日、サバイバルゲームを行おうと思っていた。予想だが、今までの周期から見て今日にでもシャンディアが攻めてくる。今日は青海人への試練があるから無理だが、明日は試練のテリトリーを無くし、そして神兵達を送り込むのだ。さて、どうなると思う?」

 

問いかけるようで問いかけていないその言葉に男は眉を顰める。不躾な態度に、男はエネルに対しての好感度が下がりっぱなしであった。

そもそも他の神の使いであった男からすれば、この神は確かに“神の様な性格”ではあるがかつて男が信仰していた神とはまるで違う。嫌悪感は元からあったと言って良いだろう。

 

「ヤハハハ!お前にも参加してもらうつもりだ。勿論、あの男も参加する。まぁすると言っても、私が勝手に決めることなのだがな。ヤハハ、神の決定だ。誰も文句はあるまい?」

 

どうやら男に拒否権はないようで、仕方なくと言った風にお辞儀をして男は立ち去る。

残ったのは機嫌良さげな神と、彼らのやり取り戸惑っていた神使達、そして我関せずとずっと神の世話をしていた侍女のみであった。

 

 

 

 




最近エルソードとコラボすると風の噂で聞いたグランドチェイスというソシャゲをしているんですけど……一体いつになったらコラボするのか……いや!遅くても良い!石の貯蔵はまだ充分ではないから!コラボ来たら絶対エドをお迎えするんだ!私!(フラグ)

でもま!コラボしてもエド実装されない可能性もあるんですけどね!


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咲いた花は絶望かそれとも希望か29話

 

 

 

 

「なぁに!やられてんだよ!!チョッパー!!!」

 

お前はこんなのでやられるタマじゃねぇだろ!!

 

頭の中の大まかな地図を頼りにたどり着いた祭壇。二百年前の地図と同じ形をしたそれの上にゴーイング・メリー号はあった。

しかし空島へ来るためのフライングモデルの羽は折れ、更には航海に大事なメインマストも折れていた。ボロボロなメリー号に、いる筈のない巨大な鳥と槍を持った男。そしてメリー号と同じくボロボロになったチョッパー。怪我はしているがまだ満身創痍ではないのに安心したけれど、メリー号を燃やしている炎を消そうと必死になっていて、後ろからの槍の攻撃に気づいていなかった。

このままではチョッパーに刺さるであろうそれを俺が止めない筈もなく、叫びながら全速力で移動し槍を蹴り上げる!

 

「あぁ?おれの槍を苦もなく防ぐとはな、何者……いや言わなくて良い。分かりきった事だ、お前も青海人だな?」

 

均衡している力を押し勝ち、相手は数歩後ろに下がった。それに合わせて俺もゆっくりとメリー号に降り立つ。

 

「それがどうした?」

「エド!!」

 

後ろで泣きそうな声で俺を呼んだチョッパーに振り返り様に笑ってやり、まだ手を出してこない神官であろう男を睨みつけた。

 

「ん?エド?エドってなんか聞いたことあるような……なぁ!フザ!」

「クァアア!」

 

側にいた巨大な紫色の羽を持った鳥が鳴き声をあげる。それと同時に動物ではあり得ない現象である、火を吹くというのをやってみせた。鳴き声を上げるごとに火を吹くという事は正確なコントロールはできていないのだろう。しかしまぁそれはそれでタイミングがわからないので厄介なのだが。

 

「まぁ良い、どうせ青海人には変わりない。ならば、我ら神官は神の名の下に試練を与えるまで」

 

突いてきた槍をドライヴで防ぐ。防いだ先で熱を帯びた事を感知してすぐさま防いでいたドライヴを変える。ドライヴの温度が上がっていることからして、なるほど……あの槍は熱いらしい。メリー号を燃やしたのはあの鳥だと判断していたがそうではなく、あの槍。所々、メリーの甲板に穴のような焦げ跡がある事から熱を帯びているのは明白。触れたものが燃やせる者ならば燃やしてしまう、謂わば燃える槍か。

避けてもダメ、受けてもダメか。厄介な。

 

「面白れぇもん持ってんな」

「カハハハハ!やらんぞ?おれの得物は熱貝(ヒートダイヤル)を仕込んだ槍、火の槍(ヒートジャベリン)!防げるもんなら、防いでみなァ!!」

 

だが、刺すことに特化した西洋槍だ。先端さえ気を付けていれば刺さる事はないし、燃えることもない。まぁ、横薙ぎの打撃でやられるかもだが。

ドライヴで受けるのをやめ、電磁波で止めるのと己自身の体術で対応する。本格的な戦闘なんてやった事ないし、自分のセンス次第なのだが!やっぱりというか、戦い慣れている奴の方に分がある。連続して降る槍の雨は今までドライヴの強さに頼っていた俺では、どうにも挽回できそうにない。

まぁ、だからと言って、タダでやられる訳にはいかないんだがな!?

 

「セィア!!」

「何ッ!?」

 

好転しない攻防に痺れを切らした神官は大振りの横薙ぎをして来たが、それを上に逸らしながらドライヴで強化したストレートを土手っ腹に食らわしてやる。普通に殴るよりも強いそれは体格の良い男とは言え、人間を飛ばすのには充分であり、彼は勢い良くメリー号から湖の方へ飛んで行った。

ま、こんなもんかと息を吐く。

 

「〈え、エドって強かったんだッ!?〉」

「聴こえてんぞ、チョッパー」

「エッ!?」

 

まぁまともに戦った事なかったから仕方ないかも知れないけれど、とため息を吐いた。

 

「まぁ良い。船を守れよ、チョッパー。いつ燃やされるか分からないからな」

「う、うん!虫一匹通さねぇ!」

「その意気だ!」

 

フザと呼ばれた紫の怪鳥が神官を拾い上げる。

 

「ッてぇ……少し意識が飛んだぜ……」

「そのままずっと飛んどきゃ良いものを」

 

チッと舌打ちをしてメリー号から飛び出す。そのまま落ちる前にドライヴに受け止めてもらい、怪鳥の上に乗った神官様の目の前まで上昇した。

 

衝撃貝(インパクトダイヤル)並の威力だったぜ?ま、お世辞だが」

「そりゃどーも」

 

そもそもインパクトダイヤルってのがなんなのか思い出せないけれど…………いや、そんなのあったなってな感じでは思い出せてる。インパクトと言うからには、衝動、驚き……衝撃か。物理的な方での。

ヒートダイヤルやらインパクトやら、トーンやら色々なものがあるらしいな。やっぱりあの貝買っておいて正解か。ま、通貨の値からしてここで買った方が安かったかも知れないけれど、それはそれっていうもんだ。

 

「しかしおれに空中戦を挑むとは良い度胸だ!行くぞ!フザ!!」

「クァアアアアッ!」

 

鳥が火を吹いた。

それを横に飛ぶ事で避け、神官に向かって殴りかかる。しかし大人しく受けてくれるはずもなく俺と同じ様に避けられた。

だが避けられることは想定済み!体勢を崩した様に見せかけて回し蹴りを食らわせる。狙うのは勿論弱点である首だ。

 

首肉(コリエ)---」

「(あれはサンジの技!?)」

 

寸分違わず首元に吸い込まれる蹴りに思わず口角を上げた。しっかり喰らえよ、サンジ直伝(教わってない)。

 

「キーーック!!!」

「ぐぅッ!?」

「なんかちょっと違うッ!!!!!」

 

怪鳥から落ちる神官を尻目にツッコミをくれたチョッパーの方を向いた。

違うって言ってたけど、こんな技名じゃなかったっけ?と首を傾げると、チョッパーは慌てた様になんか違うと言って来た。

 

「何が違うんだ?」

「いや、おれも詳しく聞いてないからわからないけど、なんか響きが違うっていうか……」

 

マジか。響きって事は発音が違うという事で言葉が違うって意味だ。料理人であるサンジが使う技だから合ってると思ってたのに。

凝った首を解しながらまたもや怪鳥に拾われる神官を見る。まだ死んでないらしい。ドライヴで威力を上乗せしたのに。

 

「やっぱ、コリエじゃなかったか」

「そっちじゃねぇよ!!」

 

なんだ合ってんのかよ。でもキック以外に候補がなかったからキックって言ったんだけどな。だって蹴りだし。

ごふと血反吐を吐く神官。首元を狙ったのにも関わらず血反吐吐くだけで動けるとか化け物かよ。普通の人間なら首の骨を折って死んでいるわ。

 

「……青海人は空島の戦いに慣れてないからって嘗めてたか」

「いーやいや、その嘗め方は当然だ。普通は酸素不足になり気を失うか、気圧の変化に慣らして来たからと言って地上と同じ運動はできないはず。ならば、神官なんて相手はできない」

 

何か言いたそうな神官さん。ニヒ、と口角を上げてやる。

 

「しかしなぜ俺たちは普通に動けているのか…………そりゃぁお前、俺たちが強いからに決まっているだろう?」

 

嘲笑うように空中を飛び回る。もはやその移動は見えない程で、残像が何人も映し出された。さぁ、どれが本物だろうな。

 

「ククッ、アハハハハハ!!慣れた環境が違う、ダイヤルなんて青海にない武器、これだけのハンデがありながら---」

 

するりと相手の後ろに周り肩に手を置いた。口角を上げたまま、ただただ忠告する様に囁く様に口を開く。

 

「なぁんで神官様は一人の青海人に傷を負わせられてないのかねぇ?」

「ッ!!テメェ!!!」

「おー、怖い怖い」

 

槍を振り回され一時離脱する。大振りなそれは当たらなければ怖くはないが当たれば脅威だ。ドライヴで攻撃範囲内から離脱した。

しかし相手もそのまま離脱するわけでもなさそうで、怪鳥が羽ばたき接近して来た。合わせて火を吐くものだから慌てて避け、狙った様に突いてきた槍を蹴り上げて受け流す。そして神官は防がれたとわかった途端、三メートル先ぐらいに離脱した。

 

「あ゛ー、もう良い。手加減は無しだ……テメェは絶対に殺すッ!」

「クァァアアアアアアアアッ!!」

 

鋭い眼光を向けて来た神官にオレ(・・)は楽しくなって、自然と笑みをこぼしていた。

 

「クククッ。最初からそうしろよ……ゴミが(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エド、すげぇ……」

 

ポツリと溢れた言葉。でもそれは本心で、自分でも呟いたことにすら気づいていない。それぐらい目の前の戦いに魅入っていた。

縦横無尽に空を駆けるその姿は地を這う動物からすれば憧れるもの。小さい頃、空を見上げては雪をものともしない鳥たちに憧れを抱いたものだった。あの翼があれば自由になるのだろうか、なんて。その可能性がある実を食べても得た力は“人間”になるだったけど中途半端で結局はどっちつかずになっちゃったんだけど。

空というのは凡ゆる物に対して優位が取れる。鼻が青いから追い出された群の長でさえ、空から来る捕食者には子供を取られるんじゃないかって怯えてた。どこから来るか分からないし、受け身しか取れないからだ。

そんな空を支配する者同士の戦い。魅入らないはずがなかった。強い者には憧れる、それが獣のサガだ。

まぁでもおれ、元草食動物だから怖いものからは逃げたくなるんだけど。

 

『そんなに守りたきゃ、なぜ弱い!!』

 

神官が言った言葉が脳裏に蘇る。涙が溢れてくる。その通りだ、その通り過ぎて反論の余地もなかった。

船番を任された。だからみんなに頼られてる、その筈だ……そのはずだった。

だが現実はどうだ。船を守ると意気込んでいたはずなのに、直すと口にしていたはずなのに。なのにした事と言えば、船を傷つけられ、挙げ句の果てには為すすべも無くてマストを折った。大事なメインマストを湖の底へ沈めたんだ。

敵が来た途端に逃げるように笛を吹いた。助けを呼んだ。仕方がない?

 

「(仕方なくなんかない……!)」

 

あいつらなら、お前なら呼ばなかったんじゃないか!

 

「エドッ!?」

 

問いかけと悲鳴が重なったのは、今まで優位だったエドが吹き飛ばされたからだ。明らかにあの押されていた神官の仕業ではない。

船の手摺りへと飛び乗ってエドが吹き飛ばされた場所を見て無事を確信する。どうやらなんらかの方法で衝撃を殺したらしい。憎たらしく睨むエドに安堵の息を吐いて、エドが元々いた場所を慌てて見た。

おれの予想通りなら、誰でもない第三者がいるはず!

 

「ッテメェ!これからって時に手出しすんな!」

「エネルから言われてませんでしたか?“エド”には手を出すな、と」

「んな事、仰ってたか?」

「言ってましたよ……」

 

ゆらりと派手なローブが揺れる。ねずみ色に水色のメッシュが入った髪がふわはわと風邪に流されている。

 

「てめぇ……何者だ?オレ様を吹き飛ばすなんざ、人間業じゃねぇな」

「おや、仲間の顔をもう忘れたんですか?科学者に向いてないのでは?」

「五月蝿ぇ!さっさと名乗りやがれ!」

 

宙に浮かんでいた。羽根もなく、そういう機械もなく、ただその男は佇んでいる。

見知らぬ男、でもなぜかその自分達とは何かが違う雰囲気というものはどこか知っている。

 

「では名乗らせていただきましょう」

 

優雅にお辞儀を一つ。

 

「アインチェイス・イスマエルと申します。アインとお呼びください。職業はそうですね……」

 

そしてくすり、と微笑みを零した。

 

Bluhen(ブルーヘン)、とでも言っておきましょうか」

 

 

 

 

 

 




空の騎士ーー!!!!

騎士「解せぬ」

【悲報】あまり出番がない騎士、更になくなる。
でも出番があまりないにせよ、神官の一人と互角かそれ以上、ナミやウソップが痛がる衝撃貝を使いこなし、重たい甲冑を着ている……それだけで結構強いってわかるよな。って事は全盛期どんぐらいだったのだろうか。
というか、この世界のお爺ちゃん達強過ぎないかー!衰えを知らんのかー!


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神官は騎士は医者は科学者は誰な30話

 

 

 

 

「ブルーヘン……?」

 

何言ってんだ、こいつ。

急に現れ、神官の奴を悠々と追い詰めていた俺を蹴り一つで飛ばしたそいつはそう言った。正直意味がわからない。

訝しみながらもその人物を観察する。くせ毛が目立つ灰色の髪に、白を基調としたローブの下は緑色のノースリーブを着ている。そいつはゆらゆらと揺れる……なんだアレ、武器か?まぁ武器か何かだろうな、そんなものを持って優雅に佇んでいた。

柔軟な笑みを浮かべているが、何故かそれが無性にイラっとさせる。眉を顰める俺に彼はクスクスと笑った。

 

「えぇ、花が咲くという意味なんですよ。しかし今はそれはどうでもいい事です。エド、ワタシは貴方に用があるのです」

 

は?俺?

少なくともお前みたいな目立つやつ、俺は知らねぇぞ。“原作”にも居なかったし、キャラクターデザインが凝ってるから映画の出演者か?と思っても空島にいる意味なんてわからないし……何よりお前なんて知らない(二回目)

 

「俺は用なんてねぇぞ」

「いいえ、ワタシにはあるんですよ。古代人さん」

「ッ!?」

 

妙に親しげにそう話してくるアインチェイス・イスマエルと名乗った人物はまだ巨木の側から離れてなかった俺の目と鼻の先に現れた。いきなりの事に驚いて拳を振り上げるが霧のように消えて少し離れた場所にいた。どうなってんだ、これ。

 

「人をおちょくるのも大概にしろよ、テメェ。お前なんて知らない、親しげに話しかけんな気色悪い」

 

恐怖より、好奇心より嫌悪感の方が勝る。こいつと話したくない、こいつと話すのはおかしい。何より。

 

「その見下した態度が気に入らねぇ!」

 

最大出力で飛び出し相手に肉薄する。喰らえ!と上段の蹴りをお見舞いする。勿論、ドライブでの補助を受けた上でだ。並の人ならば骨折して内臓破裂しても仕方ないほどの蹴り、今の俺の本気の攻撃だった。

そいつは俺の行動に驚いたのか、もろに受けて飛んでいく。俺と同じように巨木に打ち付けられた。砂埃が舞うけれど、これで倒せたなんてこと思えない。オレ様を吹っ飛ばすほどに強力な攻撃をする奴だ、こんな程度手渡しくたばる訳がなかった。

 

「驚いたじゃないですか」

 

後ろからの声。

 

「チィッ!」

 

振り上げる拳。

 

「もう喰らいませんよ」

 

空振り三振!バッターアウト!!

連続で攻撃するが全て外れる。さっき当たった一発が奇跡だったように。

そいつはくすくすと余裕を崩す事なく笑う。だから当たりませんよ、と嘲笑う。

 

「クソッ!」

 

正直移動する瞬間を目で追えていない。止まった時に攻撃しようと拳や脚を動かした瞬間に居なくなっているのだ。

 

次元が違いすぎる。

 

その事実に行き着くのに数秒も要らなかった。

 

「別にワタシは貴方と戦いに来た訳じゃないんですよ、古代人さん」

「なら、なんだってんだ」

 

攻撃の手をやめた俺に伴うように静止したそいつはゆらりと手に持つペンデュラムを揺らした。あ、あれペンデュラムか。形が特殊過ぎてわからなかった。なんでそう思ったかもわからないんだけど。

相変わらずいけ好かない態度でアインチェイスは真っ直ぐとこちらを見た。

 

「連れ戻しに来たんです」

 

は?

 

「は?」

 

連れ戻しに来た?

意味がわからない。いや、意味はわかるが理由がわからない。何故俺を?俺を連れ戻しに来たなんてそんな冗談言うんだ。他人の真意なんてわからないもんだけどさ。

何言ってんだ、と呆けた表情から睨みつけるように敵を見る。お前なんて知らないと言っているのに、ホイホイとついて行くと思っているのだろうか。

 

「貴方が飛び出してから早数ヶ月。探しましたよ、苦労しました。時間軸を飛び越えるなんて事、そう易々と行使できませんし」

 

そう考えたら貴方、凄いですよね。なんて言うアインチェイスを怪訝な表情を隠しもせず見ながら、言葉の真意を考える。

時間軸を飛び越えるなんて事、は文字通りあいつが時間を飛び越えてきたと言うこと。そして、貴方凄いですよね、はその飛び越えることをして俺もできていたという事。さらに飛び出して早数ヶ月……俺は元々この時間軸にいなかったと言うことか……?

いやいやふざけんな。俺はオレだ。ローグタウンでルフィと会って麦わらの一味に加わった“狂気の科学者”エドだ。アインチェイス・イスマエルなんて知らないし、会ったことすらねぇ。何故こいつはこんなにも親しげなんだ。気持ち悪い、気色悪い。

 

「意味がわからないという顔をしてますね。えぇ、ワタシも意味がわかりません。貴方……何故、第一次職(ナソードルーラー)なんです?」

 

何を、言っている?

 

「当たり前だろ。ここにはドライヴを強化するようなモノは一切ない。研究したくてもできないわけだ。なのに転職?ハッ!できるわけねぇだろ」

 

鼻で笑いながら粒子弾を作り出す。それをあのムカつく顔に向けて放ったが当然だと躱される。アインチェイスの後ろにある一つの巨木に当たり、轟音と共にそれは木を円状に削った。

 

「それは時代があっていないからです。機械を作るという技術が広まっていないこの時代ではナソードもいないというもの。なら、貴方の武器を強化するのは困難でしょう」

 

そりゃそうだ。わかっているなら何故問うた。ナソードはこの時代の技術じゃない。遥か古代の文明の遺産である。なんらかの形で残っていたとしても動く事はない。動力がないからだ。

この前見つけたナソードだって動力であるエルを内包していたが、その力は失われていた。ならば時代と共にエルの力は失われたと言っていい。オレならばエルの代わりとなるものを考え改造できるが、この時代の人間にはそれができない。確かにネジやら何やらはあるけれど、それとナソードは少し別物だ。配線の配置の仕方が違うし、そもそも素材が違う。ナソードの事を知らずに改造すればただの鉄屑。かと言って、何も手を加えなければナソードはガラクタに成り下がる。

ナソードはこの時代のものじゃない。だから換えが効かない。例えドライヴが壊れたとしても直せることは無いのだ。

え?それにしては乱暴に扱ってる?そりゃお前、俺の唯一の武器を使わずにどうやって戦うって言うのか。ナソードがそんじゃそこらの武器で壊れる事がない事も、凡ゆる対応ができる汎用性故にどんな環境においてもショートする事もないのを知っている。つまり信頼しているんだ。武器に対して、ったら可笑しく思えるだろうが。

まぁ話が逸れたが、つまりだ。壊れたものを直せる材料がないのならば、強化するための材料もないのだ。そりゃ転職なんてできない。

 

「知ってんならわざわざ問うな…………いや待て、テメェ何故ナソードの事を知っている?」

 

気がついてしまった。SAN値チェック案件かもしれない。

え、待って。マジで待って。ONE PIECEにこんな優男みたいな奴見た事ないし、かと言って今じゃあまり覚えてないけど。それでも知らない。こんな派手な服装をしたモブがいるはずもないだろう。めちゃくちゃ強いし……俺が知っている原作以降の登場人物ならばあり得るかもしれないが。

 

…………あ?

 

待てよ?

 

俺が知っている原作以降(・・・・・・・・・・・)……?

これが指している原作はなんだ?ONE PIECEだ。なら……ELSWORDは?

 

「(こっちに来る前、エルソードにはエドが実装されたばかりだった。第二次職までしか実装されてない……)」

 

それも三つある内の二つまでったらわかるだろうか?それぐらい初期だった。つまり、つまりだ……エルソードがまだ続いていたとしたら……新しいキャラが出ていてもおかしくはない。

オンラインゲームは新規プレイヤーを増やすと同時に今までいる古参プレイヤーを飽きさせてはいけない。そうしないとお金を落としてくれず、サービス終了になってしまう。だからこそ飽きさせず、そして新しくユーザーを増やす為に引き込ませる為に新要素を追加する。その追加はストーリーや、マップ、はたまたイベント開催など様々なものがあるが、キャラを作るのではなく選ばせるエルソードでは新キャラの追加も入ってくる。それこそエドが実装されたように。

 

要は何を言いたいのかというと。

 

 

【目の前のアインチェイス・イスマエルと名乗った男はエド以降に出て来た新キャラ説】

 

検証しなくちゃ。

 

「(いや、どうやってだよ)」

 

混乱しすぎてネタが出て来やがる。

 

「何故、ですか」

 

アインチェイスはきょとりと首を傾げて、くすくす笑う。面白おかしそうに、嘲笑うかのように。

 

「知らないはずがないでしょう?一緒に旅した仲間なんですから」

 

あー!!!これダウトーー!!!!!!新キャラ説通りましたーー!!!そして俺のSAN値が大ピンチ!!!!!

 

「とにかく、楽しくお喋りしている時間はありません」

 

油断していた所為か、俺が感知する前に目の前に現れたアインチェイスは俺の腕を掴んだ。敵に捕まったという失態を犯し、慌てて振り解こうとするが全くビクともせず。何故こんなにも差が出ているのかはわからないが、絶体絶命では!?!?

 

「離せッ!!」

「無理です。貴方が何故ナソードルーラーに戻ったのか、何故彼らと共にいるのかも全て彼女の下へ帰った後、全て聞きますか「待たれよ!!!!」らってなんですか」

 

ドライヴの推進力を持ってしても脱出出来ずに焦りを感じた頃、アインチェイスの後ろか誰かが水玉模様の鳥に乗って突進してきた。わかっていたのかアインチェイスは難なく躱したが、その際に腕の力が緩んだのがわかったのですぐさまドライヴを全力で走らせチョッパーの下まで離脱した。

掴まれていた腕が痛み、チョッパーに見せるように言われるがそれどころではない。

 

「あれは……」

「空の騎士だ!!」

 

チョッパーが助けに来てくれた!と喜んでいたので、あの大きな笛の音はやはりチョッパーが空の騎士から渡された笛を吹いた音だったのだと理解する。

この空島に来る前というか、空に昇った後の雲海でよく分からんゲリラに襲われていたところを助けてくれた爺さんだ。自身を空の騎士と名乗り、ウマウマの実を食べた鳥だったか。ペガサスの様なものになれると見せてくれたが、模様のせいで微妙だったんだよな。

いやそれよりも、だ。あの爺さんも強い事には強いが、多分アインチェイスには敵わない。だって今見てても、あの神官と力が拮抗しているのだからそれより遥かに強い彼奴相手では到底かなわないだろう。つまり退くしかないのだ。船ここだけどな!!

 

「ここは退け!神官シュラよ!貴殿を討ち取る気はない!」

「討ち取るのはゴットだけってか!?そんな事させると思うか!?あぁ!?ガン・フォール!貴様を野放しにするのは神官の名折れだ!!」

 

正直シュラを押さえておいてくれるのは嬉しいが、かと言って勝てるかと言えばNOである。九死に一生を得れば万々歳なのだが……生きてればやり直しは幾らでも効く。

というかあの爺さんガン・フォールって名前なのか。初めて知ったって……一応空島編は見たのだけどな。

 

「って!エド!腕見せて、腕!」

 

ガン・フォールとシュラの戦いを魅入るように見ていた俺だがチョッパーの声に引き戻される。焦ったように腕を見せてとせがむチョッパーの頭を帽子越しに撫でながら、また後でと告げる。疑問を浮かべる彼に苦笑し、遠くにいる派手な野郎を睨んだ。

 

「彼奴がいるからな」

「あっ……」

 

チョッパーも気づいたらしい。俺の後ろに隠れるように回る。反対側に飛び出していて隠れられてはいないが。

 

「……今日の所は退くとしましょう。貴方を今のまま連れて言ってもダメでしょうし……彼女にもまだと言われてましたしね。ここの神にさえ明日にしろと……残念で仕方ありませんが」

 

此方を笑顔で見るその顔は胡散臭くて、鳥肌が立って気持ち悪いと思うけれど、その瞳だけはどこか寂しそうだった。

 

「最後に質問いいですかね」

「…………何だ?」

「貴方、どうしてこの海賊団と一緒にいるんです?」

 

それはさっき聞きたがっていたことだろう。彼女の下へ帰る時にまとめて聞くと言っていたくせに、もう聞くらしい。まぁ答えるが。

俺の答えは単純明快。

 

「誘われたからだ。仲間になるか、とな」

 

あの時はワンピ世界に来たばかりで、テンションでカバーしてたけど少し混乱していた。主人公に会えた興奮でなんとか大丈夫だったが、本当は自分が賞金首となっている事、エドという身体になっていた事と驚きが一身に来て不安もあった。行くあてもない、知っている世界だけど知らない場所を行くのも勇気がいった。そんな中、状況が状況だけど誘ってくれた船長には、ルフィには感謝している。自分より高額な賞金首なのに、面白そうだからって理由だけで誘い仲間にしてくれて、ドラムでは信じて仲間を預けてくれた。

何でお前みたいな狂気の科学者が?なんて思われるのかもしれない。でもそれでも言える。彼が誘ってくれなきゃ、俺はどうしようもなかったと思う。

 

「気がついたら一人だった俺を誘ってくれた。だからこそ一緒にいる。そうでなきゃ仲間になってない」

「そう……ですか」

 

思ったままに答えると彼は目を伏せた後、少し哀しそうな表情を浮かべる。

 

「今の貴方は、どっちなんでしょうね」

 

は……?

どういう……?

 

「では、また明日会いましょう」

 

先程の表情は一瞬のうちに消え、いつもの胡散臭い笑顔へと戻った。そして彼は優雅にお辞儀するとするりと消えて、残されたのは俺とチョッパー、そして空の騎士と神官のみであった。

 

「なんなん、だよ。アイツ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方も◼︎◼︎◼︎のところへ行ってきたらどうなんですか、古代人さん』

『その呼び方やめろ。テメェこそ、いつもみてぇに猫被って犬の様に尻尾ふってきたらどうだ?』

 

 

 

 

なぁ?アイン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気持ちわりぃ……」

 

おれ(・・)知らない(知っている)記憶が頭の中をよぎって気持ち悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピッ。

 

[記憶の消去率73%。復興率56%]

 

[エピソード記憶の復興を確に、ん---エラーが発生しました。一部記憶に障害が出ています。エピソード記憶の復興を中断。意味記憶の復興に移行します]

 

ピピピッ。

 

[エラーを検索中……発見いたしました。情報媒体からの抽出ではなく、融合を確認]

 

【ERROR】

 

[応急処置として融合をそのまま実行。エラーの元となる情報を抽出します……確認。支障はありません、続行します]

 

【ERROR】

 

[それでは帰還をお待ちしております]

 

[Master AD◼︎]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ERROR】

 

[気持ち悪りぃ]

 

 

 




誰が誰なんだか、わからなくなってきた。


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