ないない尽くしで転生 (バンビーノ)
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無印編
01.不親切転生


 それは唐突であった。トラックに轢かれた。

 目が覚めれば知らない場所で全裸、目の前には長い髭を蓄えた……こう、如何にも人が考えた神様ですよーって感じのおじいさん。

 

 中略、色々言われたけど要約すれば手違いでの死亡らしく『特典』とやらをくれるらしい。王の財宝(ゲートオブバビロン)を貰った、ホントにそれでいいの? って顔をされたけど、そのときは気にしなかった。

 

 残り会話もろもろ全略、目が覚めれば見知らぬ土地にいた。

 

 

「え?」

 

 うっすらと残る前世の記憶からして俺はネット小説を見ていた。だから知識として神様転生は知っているし、ありがちでも強そうな特典も貰えた……貰えたはず、集中すれば手元に金色の波打つゲートみたいなの出て開いてるし。

 けどさ、普通は目が覚めれば家族とか用意されてるものじゃないのか……こうファーストフード店で付いてくるお手拭きのように用意されてないのか。赤ん坊からスタートで『な、なんだって!?』 みたいなテンプレなのが用意されてるものじゃないのか。

 ……されてないのか。記憶を掘り返すが残念ながら今世の記憶どころか、前世の記憶も怪しい始末だ。

 

 しかも中途半端に幼児体型になっているのが、なお悪い。

 玩具屋のショーウィンドウで姿を確認すれば、なんということでしょう。推定年齢7~10歳くらいの目が死んでる幼児が映ってるじゃないですか。まぁ性別は男、触ったらついてたので間違いない。まだ小さいが伸び代に期待。頑張れ息子よ、父さんは信じてるから!

 店員や周りの大人の微笑ましい視線が無性に腹が立つ、こっちは玩具どころじゃない、割りと必死なんだ。息子のことじゃない、現状にだ。

 ふぁっく、容姿も銀髪オッドアイでも金髪の赤い目でもない。既に怪しい前世にありふれていた黒髪の黒目、純正日本人だ。これじゃあ学校でキャーキャー言われることも出来ない、学校に行けるのかも知らんけど。

 それに周りを見ればオレンジ、赤、青、金に紫……カラフルな髪の色が溢れかえっている。

 なら金髪とかでいいじゃん、なんで普通の黒髪なんだよ。ちょっと中二っぽい容姿とか憧れてたのに、これも転生のサービスに入らないのか、別売り扱いか。せめて販売店まで案内を用意してくれ。

 

 だけど、あれだなぁ。何が一番ヤバイって金がない、ポッケ探っても何も出てこない。だいぶん不親切な神様であったようだ。

 

「しかし、それでもお腹は空いてくるわけでして……」

 

 最悪、ゲートオブバビロンで強盗か……なんか涙出てきた。

 取り敢えず、当てもなくさ迷う。歩く歩く、喉が乾けば公園の水道水を飲み、小腹がすけば試食品を食い歩く。

 思い返してみれば、もうなんか前世の名前すら思い出せないけど世界観は変わらないなぁ……どんな世界に跳ばされたかも聞いてなかった。

 青春ものとか日常系の世界観なら詰んだ。ヤメロよ、せっかく転生したなら異世界とかにしてくれよ。あれ、でも異世界とかだと本格的に餓死してたんじゃ……考えるの止めよ、まず寝床と飯だ。

 

 気温は暖かく多分春、寝床はもう公園でもいいや。飯はともかく水分も公園の水道水で賄える。

 

「うーん、なんだこの転生者にあるまじきホームレス感は」

 

 特典は『温かい家族』とか『安定した生活』にしとけばよかった。

 ここまで特典以外に何も貰えないとは……服を着てることに驚くくらい他は何もない。

 

「いや、むしろ全裸で保護された方がよかった気がしてきた」

 

 全裸は一時の恥、着衣は命の危機である。

 あれ、でも戸籍とかあるのか? なんも家族の記憶がないところから考えると……ないな!

 金なし! 親なし! 戸籍なし! 何もねぇ!

 まぁ一度落ち着いて周りを見れば、同年代とおぼしき少年少女がウヨウヨしてる。恐らく休日なのだろう、おかげで自分が目立たないのはいい。あれ、いいのか?

 

 少し歩き疲れたので休憩ついでに、図書館でここがどこか確かめるために地図や歴史の本を探す。

 目当ての本を見つけ、本を読めるスペースに行こうとしたところ車椅子の少女を見かけた。何やら手がギリギリ届くか届かないという位置に目当ての本があるようで、必死に手を伸ばしている。

 頑張れ車椅子の少女、あと少し手を伸ばせば届く。必死に頑張ってるのに水を差すのもなんなのでスルーして行く。

 後々、本を読んでいると車椅子少女が『やりきったで!』と言わんばかりの晴々とした表情をして机に来たので、無事本は取れたようである。邪魔をしなくてよかった。

 閑話休題。本を読んでわかったことは、ここは日本の海鳴市というところらしい。前世にそんな市があったかは知らん、全日本の市の名前とか覚えてない。

 

 そもそも現在地がわかったところで得るものはないんだけど、それはそれ。現状把握はなるべくしときたい、しときたかった。たとえホームレスになる一歩手前でも。

 現在地もわかったところで図書館をあとにしたけど、行く当てもない。強いていえば試食コーナーを巡るくらい。

 途中でケーキ屋の前を通りかかると美味しそうでした、無一文なのでなんも食えないから入らなかったけど。代わりに菓子の試食品を食い漁った、ちょっと変な目で見られた。

 

 

 

 で、もう夕方ですよ。もちろん帰る家もないので、水道つき、屋根あり雨の防げる遊具のある公園へと向かった……ん、なにやら綺麗なひし形の石ころが落ちている。これは売れるか? あとで質屋に持って……チクショウ! 戸籍ないし、そもそも幼児だし売れねぇ!

 

 苛立ちのままにひし形の石をゲートオブバビロンの中へ放り投げる。でも、もう夕暮れかぁ。家に帰るであろう少年たちを横目に、夕日を見ると目に染みて涙が出てくる……あれ? 人影が急に無くなった。皆が帰って居なくなったとかじゃなくて、無くなった。わぉ、イベント発生?

 怪奇現象に首を捻っていると後ろから声をかけられた。

 

「止まってください」

 

 そう言われ立ち止まり、振り返ると……えぇ、これは何かコメントしにくいな。黒のレオタードに申し訳程度のスカート、そしてマントを羽織っている金髪の少女に出会った。ひとことで言うならコスプレ。

 やけにメカチックな杖というかハルバートのようなものを持ってるけど重くないのかね? 見た目に反してマッチョさんか。てか、これはアレだ。

 

「怪奇現象発生、人影のなくなった路地にコスプレ少女あらわる」

「……コスプレ?」

「や、何でもないです」

「そうですか、ならさっき拾ったジュエルシードを渡してください」

 

 何が「なら」なのかはよくわからないが、ハルバート(仮称)を突き付けられた。よく見ると刃もついているようだ……これは戦闘の流れですか? 日常系でなく戦闘ありの世界ですか。

 やったね! ゲートオブバビロンが役に立つよ! 転生者の実力を振るうときだ!

 なら返答はひとつ。

 

「ヤだ」

「ッ! ……断るなら力付くででも渡してもらいます」

 

 グッと、ハルバートを持つ少女の手に力が入る。

 大丈夫、こっちにはゲートオブバビロンがある。たぶん負けない、負けない……はず。ちょっと自信なくなってきた。

 

「バッチ来いや――ノゥ!?」

 

 バッチ来いって言った瞬間に、ハルバートが目にも止まらぬ速さで振るわれた。幸いギリギリで直撃せず服に引っ掛かって、投げ飛ばされるだけで済んだ……同じくらいの体格なのに投げ飛ばされた? やっぱりあの金髪少女メッチャ力持ち……!?

 殴られただけで死ぬ! 距離は開いた、なら先手必勝、というか先にやらないと死ぬ! 素直にジュエルナンとか渡しとけばよかった!

 あ……ジュエルナンとかってのが何かすらわからん!?

 

「開け、ゲートオブバビロン!」

 

 そう言うと二十は下らないゲートが開く。その光景に少女は目を見開き、何かを言うと少女の前に大量の円錐形の……なんだろアレ。爛々と輝いてバチバチ電気みたいなのが走ってる、エネルギー弾みたいなのを出した。  それがこちらへ向けられ、

 

「やばっ撃たれる……! 先手必勝! ゲートオブバビロン射出!」

「フォトンランサー・フルオートファイア!」

 

 そして少女からはフォトンランサーと呼ばれるエネルギー弾が数多く撃ち込まれ、俺のゲートオブバビロンからは……ひとつの小石、さっき拾った石だけ発射された。

 

「ゑ?」

「なっ、ジュエルシー――!」

 

 そして小石とエネルギー弾は直撃し――世界は滅んだ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 気がつけば図書館の本棚の前にいた。

 

「えっ?」




ここまで読んでくださった方に感謝を。
また、勢いで書いた今作も取り敢えず、目標無印ハッピーエンドにしたいです。


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02.ないない

 クールに冷静になろう、ありのままに起こったことをまとめよう。

 ・ゲートオブバビロンから小石しか出なかった。

 ・金髪少女が謎のエネルギー弾を出す。

 ・小石とエネルギー弾直撃、目の前が真っ白に。

 ・気づけば図書館の本棚の前にいた。

 ・時計を確認すれば時間が戻ってる。

 

 結論から言うとまとめたところで何もわからない。だってまとめただけだしな。

 というより、あれっ? ゲートオブバビロンから剣とか斧も槍もでずに拾った小石しか出なかっただと……?

 ちょっと嫌な考えがよぎったのでトイレに向かう。

 個室に入り、ゲートオブバビロンをひとつ展開して「剣よ、出ろ」とか言ってみるけど金のゲートが波打つだけでなにも出ない。恐る恐る手を入れるが空を切るだけで何にも触れない。

 

「これはアレか? 四次元ポケットと秘密道具が別物ってのと一緒で、ゲートオブバビロンと中身の武器は別物なのか……そうかそうか」

 

 今ここでゲートオブバビロンは、ただ無限に物をしまえる以外のメリットが無くなった。

 

 神様のサービス精神のなさに項垂れつつトイレから出て、図書館の椅子に戻る。

 拾った小石を発射してたことを思い返してみると、自分の持ち物を際限なく仕舞えて発射も出来るってとこか……発射機能付き四次元ポケットだな。

 

 さてさて、発射機能がついてる素敵な四次元ポケットはいいとして、あの金髪少女。『フォトンランサー』とか言って、金色の電気纏ったエネルギー弾を出してた。

 まぁ、どんな世界か知らないけどああいうの使えるのが普通なのだろうか? 実はみんな普段は普通に生活してるだけで使えるとか……急に人が消えてたことを思えば何か結界みたいなファンタジックなことしてるのかもしれない。その結界内だけで、ああいう魔法みたいなマジカル能力が使えるとか。なんとかバトルフィールド的なものだったりするのか。

 ってわけで正面にいる車椅子少女(今回も無事本を取れたようである)に問いかける。

 

「ちょっとすまん」

「えっ、あぁ、わたしか」

「魔法って使える?」

「なに言うてるん?」

「今のなしで」

 

 素で「コイツ何言うてるんや?」って顔をされた。心が辛い。

 普通の人は使えないか、あのコスプレ少女が例外だったのか。物のついでだし、聞きたいこと聞いとこう。魔法使えるか聞く以上に恥ずかしいことはない。もう何も怖くない、主にあの金髪少女以外。いやでも聞きたいことは、

 

「なぁなぁ、魔法ってなんやの?」

 

 先手を討たれた上に掘り返された。掘り返された穴に入りたい。

 

「寝起きで寝惚けてたか、読んでた本がファンタジーだったのでつい熱に浮かされてたってことで見逃してやってほしい」

「バッチリ起きとったし、置いたる本は地理か歴史ものなんやけど……なんで歴史なん?」

「夏休みの宿題でだな」

「今、春や。それも世間様のいう一学期が始まったばっかの四月」

「手強いな……」

「いや、あんたが弱すぎるんやろ。で何を聞きたかったん?」

 

 何だかんだで話がいい流れになった、なったが別段聞きたいことはなかった。いや、あるんだけどコスプレ魔法少女(仮称)について以外ないし。

 まさか露出の多いコスプレ魔法少女を知らないか、なんて聞けるわけもない。変人でも良いけど変態にはなりたくない微妙な機敏があるんだ。

 

「やー、ホント呆けてただけだ。本を読む邪魔をして申し訳なかった」

「ふぅん? まぁ、ええよ。でもこんな昼間から呆けてたら、いつか恥ずかしい目見るし気ぃつけや?」

「わかったよ、オカン。それじゃ失礼」

「誰がオカンか。ん、それじゃ気ぃつけや」

 

 お互いにピッ! っと片手をあげて別れる。特に得るものは無かったけど少し楽しかった、主に現実逃避の意味でな!

 外に出て辿り着いたのは公園、前回より早く図書館をあとにしたのでまだ二時過ぎである。

 

 シンキングターイム、現実を直視する時間がやって参りました。

 ゲートオブバビロン改め、四次元ポケット(射出も出来るよ!)の件は解決した。色々、問題はあるけど解決した。

 しかし、残りの問題が難解過ぎて困る。この際、通り魔系魔法少女はいいや。小石を拾うと襲ってくるみたいな習性がある、そういうものとして受け入れよう。

 やっぱなし、あとで考える。『やり直し』のトリガーがアイツだったら笑えない。

 で、目の前が真っ白になった件はどうしてなのか……エネルギー弾、もとい魔法少女が撃ったので魔法弾が爆発する特性があったのか、あの石が原因か。そもそも目の前が真っ白になったことしか、解ってないから爆発したのかすらわからん。

 というか爆発してたら死んでるよなぁ、なにこれコンティニュー?

 気づけば本棚の前にいたってのは死んだからコンティニューしたのか、あそこセーブポイントだったの?

 金も家族も戸籍もないけど死ぬとコンティニュー出来るサービス付きとな……? おい、需要と供給がすれ違ってんぞ。俺にも魔法くれ、魔法。

 

 しかしもし、もしそうだと仮定する。あの小石か魔法弾が爆発して俺が死んだとする。

 転生とかいう普通じゃない体験をして、金髪ロリが魔法使って小石が爆発するなんて世界なんだ。『やり直し』みたいな特殊能力あっても不思議じゃない、うん。

 死んだら戻るって考えたらなんか気持ち悪いけど、死ぬ直前に時間が巻き戻るって可能性もなくはないので、そう考えれば幾分マシなるか……なるか?

 

「よっし、解決ぅ! ……なわけねぇ!」

 

 公園の遊具の上でひとり気持ちの悪いノリツッコミをしてる男児がいた、俺である。フェレットかイタチみたいなペットを連れた少女が、ビビってこっちを見ているが無視。

 確認したいことができた俺は急いで小石を拾いに行く。今の時間なら、小石を拾うのは前回より二時間は早い。

 走る走る、小石を拾った路地に。相変わらず大人たちは微笑ましいものを見る目で見てくるけど、こっちは割りと切羽詰まってるんだよ!

 まず確かめたいこと。それはあの魔法少女コスの出現条件。

 

「はぁ、はぁ……! 小石確保……!」

 

 小石を拾い四次元空間にしまう、ゲートオブバビロンって呼ぶの面倒になってきたし、取り敢えず四次元空間でいいや。

 そのまま身構えて五分ほど待つが、あのちょっと恥ずかしい露出多めの少女は来ないし結界も出現しない。どうやら小石を拾うと無条件で現れるわけではないらしい。

 まぁ、出てこないに越したことはない。

 じゃあ、次の実験に……あんまりやりたくないねぇけどな。

 

 公園にゆったり歩いて戻るといい感じに暗くなってきていた。途中で腹ごしらえのため試食コーナー回ってたせいもある。食うもん食わないと動けん、というか試食品が置いてある店が閉まったら現状食うもんがないのだ。

 で次は爆発だか閃光が発生した原因……たぶん爆発だな。それを起こしたのが小石なのか魔法弾なのか。

 たとえ小石が原因として巻き込まれても『やり直し』が効くはず……効くのかなぁ、こればっかりは死んで試すのも嫌だから試せんのだけど。なんで『やり直し』になったのか、その条件もわからないし。

 ひとまず四次元空間から出した小石を、離れたジャングルジムに投げてみる。

 キンッ! と小気味いい音がなるが爆発しなかった。

 

「これくらいじゃ爆発しないのか、はたまた本当に爆発しないのか」

 

 次は大きめの石をふたつ持ってきて、ひとつを小石の下に置いておく。もうひとつを滑り台の上から――落として叩きつける!

 これまた小気味いい音が響いたが何も起こらない。小石を見ても無傷、光る気配もない。危険もなさそうなので、ポッケにしまっておく。

 ということは、だ。あの爆発はエネルギー弾のせい? 溢れんばかりの露出欲を爆発にまで還元するとはこの世界の露出系ロリ通り魔えげつないな。

 発生条件のわからない金髪ロリに気をつけて暮らす世界……なわけはない、ないと嬉しい。

 

「そもそも何を目的にあの子は来たんだろうか?」

 

 ジュラルミンソードみたいなの寄越せと言って、ハルバート振り回す危ない子だった。勘弁してほしい、あの子のことを改めて考えてみるがおかしなことしかない。

 金髪ツインテールのロリ、ここまでセーフ。

 コスプレでメカチックなハルバートを持ってる、はいアウト。

 何か寄越せと言い、断るとハルバート振り回す、ツーアウト。

 挙げ句の果てにはエネルギー弾を撃ち込んできて爆発する、スリーアウッ! チェンジ!

 

 まあ、二つ目については持ってないことを説明すれば良かったのかもしれない。けどな、ゲートオブなんたらが、な……あると思って熱に浮かされてたんだよ。実際は四次元空間があるだけで、戦力は頑丈な小石ひとつだったという悲しい現実が待ってたわけだが。

 しかし、なんだろうか。日が暮れるまで色々考えたけど大事なことに気づいた。

 

「寝床も飯もない」

 

 しまった、もう一回は試食コーナー回るつもりだったんだが……取り敢えず目についたイタドリの皮を剥いてシャクシャクと食べる。まったく腹にたまらない。

 こう、もっと満腹になるまで食べたいよね。ポッケの小石を取り出し眺める。

 

「…………お前、食えないかね?」

 

 ワンチャンいけるかもしれない。口に放り込む、噛む。歯がたたない、当たり前だった。石で砕けないものが噛めるはずもない。舐める、味がしない、だって石だもの……ぺっ。唾液でベトベトになった小石を口から出す。そりゃ食えねぇわな、あー石より飯が欲しい

 あ? なんか手のなかには唾液でテラテラ光ってる、小石が……光ってる?

 

「口に入れられてキレたのか!?」

 

 そんなバカな……! 小石が口に入れられて、怒って爆発するなんて嘘だろ!

 焦った俺はなにも考えず反射的に、小石を四次元空間に投げ込む。そしてゲートを急いで閉じ……よし、何も起こらないな。爆死は免れた。

 額を伝う冷や汗を腕で拭ってると声がかけられた。

 

「動かないでください、あなたの持っているジュエルシードを渡せば危害は加えません」

「えぇ……出現条件なんなのさ」

 

 ――通り魔少女、狼を引き連れ再登場。帰れ。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
相変わらず、はやての本を取ってあげるオリ主イベントスルー。


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03.空飛ぶ幼女とアニマルたち

 前回は夕暮れの路地で小石を拾うと現れた。

 今回は小石を唾液まみれのテラテラにして、四次元空間に突っ込んだら現れた。

 この目の前にいる金髪少女が現れる原因はやっぱり小石に関係してんだろうか。なんなの、小石マニアなの?

 てか、前回は「ちょい、ワレぇツラ貸せや」ってニュアンスだったのに、今回は「動けば殺す、ブツを渡さなくても殺す」的なニュアンスで物騒になってる。しかもデカいオレンジ狼のオプションつき。狼じゃなくて白いお父さん的犬にして欲しい。

 まだ倒してもないのに何でパワーアップして来てるの? RPGならクソゲー確定だぞ。

 

 取り敢えずジュエルシードなんて知らないし多分人違いだ、人違いであってくれ。

 

「ジュエルシードを渡してください」

「人違いだ」

「えっ?」

「あ、違ったか。普通に俺に用があったのか……」

 

 ワンチャン人違い説は儚くも消え去った。

 

「はい。だからジュエルシードを」

「ジュエルシードってなに?」

「さっき、あんたが何処かへ仕舞った石のことだよ」

 

 あれ、目の前の金髪少女じゃない声が急に聞こえたような……周りを見るけど誰もいない。

 金髪少女をジッと見るが首を傾げられる、首を傾げたいのはこっちなんだけど可愛いのでよし。だが、通り魔なのでプラマイ零、むしろマイナス。

 あと声はたぶん精神的な疲労による幻聴だな。

 

「で、ジュエルシードってなに?」

「だから、さっきあんたが何処かへ仕舞った石のことだよ! さっさと出しな!」

「へぇ……ちょっとタイム」 

 

 どう見ても狼が喋った、バッチリお目目が合ってやんの。やめてほしい、これなら幻聴の方が幾分マシだ。

 こちとら記憶なしで転生させられるわ、小石が急に光だしたり、死んだと思ったらコンティニューさせられる。

 とどめに目の前のちょっと危ない格好をした普通に危ないハルバートを振り回す、普通じゃない金髪少女がいたりする世界に頭が一杯で、これ以上は容量オーバーだ。

 あれ? 『やり直し』させられたり、幼女がハルバート持ってエネルギー弾ぶちかます世界……狼が喋ったくらいなんだ、普通じゃん。インコだって喋るし普通普通。

 

「言葉を話すなんて賢い狼だな、うん賢い狼なんだ」

「あ、うん。アルフは頼りになるんだよ……でジュエルシードは渡してもらえる?」

「えーと、さっきの小石かぁ……もう大丈夫だよな?」

「なにブツブツ言ってんだい、断るならガブリといくよ?」

 

 そう言って口を開く狼……いや、アルフか。牙が見えて怖いので閉じてほしい、ジュエルシード投げ込むぞ。

 とにかく噛まれたくないし、魔法弾もごめんなので四次元空間を開く。

 そっと出してみるとテラテラしてるが光は収まっていた。

 

「これ?」

「うん、貰えるかな?」

「いいけど……いいのか?」

「……?」

「ちょいと待ちな。なんかテラテラしてないかい?」

「ごめん、空腹に耐えかねてちょっと食おうとした。食えんかった、文字通り歯が立たなかった」

「何してんだい、あんた!?」

 

 だから、いいのかどうか聞いたじゃん。おい、やめろ可哀想なもの見る目で見ないでくれ金髪少女。そんなコスプレみたいな格好をしてる人間に同情されると心が折れそうだよ。

 ひもじいのかな? って聞こえてるから。たしかにひもじいし貧しいけど。

 

「でも貰えるなら唾がついてるくらい別にいいけど?」

「そこまでしてこの石が欲しいのか……変た、君の考えることはよくわからん」

「待ちな、あんた何て言いかけた?」

「さすがにこのままはなんだし洗ってくる」

 

 そのまま渡すのも悪いので服で拭く……のも嫌なので水道水で洗ってから服で拭く。うん、まあこれで許してほしい。変態と呼び掛けたことも許してほしい。

 

「じゃあ――」

「駄目ぇぇぇ!」

「え?」

「あっ!」

「チッ! また来たね!」

 

 ようやくジュエルシードを金髪少女に渡して、金髪少女にブッコロがされるイベント回避と思ったら乱入者が現れる。

 白いヒラヒラした何処かの制服っぽい服に、メカチックな杖。肩にはフェレット、そうですか金髪少女の同類がいたのか。

 しかし味方同士といった雰囲気ではなくピリピリとした空気になっている。

 

「ジュエルシードは危険なんだ!」

 

 次はフェレットが喋った、まあ普通だよね。インコだって狼だって喋るんだもの。この世界の動物は賢いナー。

 

「ハッ、何度も何度も邪魔しに来て懲りないねぇ!」

「フェイトちゃん! どうしてジュエルシードを集めてるのか、お話を聞かせて!」

「話すことなんて――何もない!」

 

 おっとぉ、栗色の髪の少女曰く、金髪少女はフェイトと言うらしい。そして栗髪少女とフェイト、それにアルフは空へと飛び空中で戦闘を始めた。まあ魔法弾もあるし飛ぶよね、人くらい。狼だって人が飛ぶなら飛ぶ。

 至って、普通きわまりないな。

 

「でもお話しないとわからないことだってきっとあるよ!」

「黙りな! あんたみたいな平和に暮らしてきた餓鬼にフェイトの何がわかる!」

「なのは、危ない!」

 

 フェレット曰く、もうひとりの少女はなのは。狼が放ったオレンジの魔法弾を、フェレットが緑のシールドで防いだ。残りフェレットの名前でコンプリートだ、してどうするって話なんだけどさ。

 横を見ればフェイトが目まぐるしい速度で動き回り、なのはを攻め立てている……なんかハルバートだったのに鎌になってるし刃の部分がエネルギー体っぽくなってる。しかし、なのはも負けじとシールドを張ったり、これまたピンクの魔法弾を撃ち込んだりして反撃。

 

「またそのデバイスが壊れても知らないよ?」

「フェイトちゃんだって!」

「凄く……カラフルです」

 

 目ぇチカチカする。フェレット以外みんな魔法弾撃ってるし、フェレット含めて魔法、たぶん魔法を使っている。さっきから一応魔法弾っつてるけど、誰か正式名称教えてほしい。『ディバインシューター』とか『フォトンランサー』とか聞こえてくるけど、どれがどれだよ。

 さっきからフェイトの魔法弾は何度も撃ち込まれているが、別段爆発する気配がない。あれはジュエルシードのせいだったらしい……なに口に入れてたんだろうか俺は。下手したら頭が爆発して、ザクロみたいに弾けてたのか……グロい。

 

 しかし車椅子少女め、人どころか動物まで魔法を使ってるじゃないか。今度会ったら一言いってやる。

 ついでにゲートオブバビ、バビ……なんとかさんがあればどうにかなると思ってたけど無理です、これ。まず飛べないし、目が疲れる。フェイト速すぎ、ずっと目で追ってると酔ってきた。

 

「そもそもジュエルシードがふたりの目的なら置いていけばいいのではなかろうか?」

 

 そう思い周りを見るがなんか景色が変だ。暗くて分かりにくかったけど、幾何学模様になってる。

 ちょっと今回ハッスルしすぎじゃない? 前回はフェイト一人と結界だったのに、今回、魔法少女一人と喋って魔法を使う動物が二匹追加である。しかもみんな空を飛んで戦ってる。

 なのはって子はスカートなのにそんなに飛び回ったら駄目だ、一部の大きなお友達が大喜びするから。

 

「まぁ……逃げれんか」

 

 ちょくちょく弾かれたピンクと外れたオレンジの魔法弾が地面を抉ってるし、下手に動くと死にそうだ。

 大人しく三角座りで決着を待つ、勝った方に渡して帰ろう。帰って寝よう。

 

「……帰る場所なかった」

 

 頭上での魔法少女たちの戦闘並みに、目を逸らしたかった現実を思い出しヘコむ。

 三角座りの膝の間に頭を入れてうずくまる。あーもう、フェイトでもなのはでも動物たちでもいいからジュエルシード買い取ってくれないかな? 百円でいいしさ。

 たまに飛行石みたいに光るし、爆発する優れものなんだけど。ワンチャン滅びの呪文で相手の目も潰せるかもしれん。

 

 顔を上げてみれば、なのはとフェレットがフェイトとアルフに必死に何か訴えてるようだけど、ほぼフェイトたちは無視して鎌を振るったり魔法弾撃ったりしている。話すだけ話してみればいいのになぁ。

 俺なんて協力は欲しいけど、戸籍もないから話すに話せん。

 

「……ん? あぁ、あの子もそうなのか?」

 

 話すに話せんって別に俺だけなわけないか。フェイトの目的が、例えばジュエルシードでこの荒んだ世界を爆破するとかだったら話しても意味ないし、話すに話せんもんな。

 でも、なのはからすればそれこそ話してもらえないので何もわからない。だから話して聞かせてというし、話すに話せないフェイトは断り続けて……不毛なスパイラルの完成だな。

 

「もう……! 話を聞いてよー! ディバインバスタァァァー!」

《divine Buster》

「なっ、おおぉぉぉぉぉ!?」

 

 ついに焦れたのか、なのはは何やら叫ぶとビームを撃った……ビームというか砲撃だぞ!? フェイトは余裕をもって避けたが、避けた先の木々は倒され地面は抉れた。地面からはブスブスと煙が上がってる。

 お話を聞いてって感じじゃない、言うことさっさと吐かねぇとぶち抜くぞって感じだ。

 フェイトも威力を見て再び撃たれては敵わないと思ったのか、距離を詰め近距離戦に持ち込もうとする。いいぞ、もう撃たせるな! まかり間違ってこっちに砲撃来たら死ぬから!

 

 そして砲撃があったくらいから無視したいけど無視できない事態が発生していた。俺の手のなかで。

 ジュエルシードが……凄く眩しいです。

 

「ま、不味いなのは! 早く封印を!」

「うん!」

「させない……!」

「行かせな」

「フェイトの邪魔はさせないよ!」

 

 ジュエルシードが光始めたのに、フェレットが気づきなのはとフェイトがこちらへ突っ込んでくる。来んな来んな来んな! 鎌と砲撃を放つ杖を持って突撃して来るな!

 ……今回はここでコンティニューかと諦め半分に思ったそのとき。

 なのはたちの進路に青い魔力弾が撃ち込まれた。が、ふたりはギリギリで弾かれるように避けていた。反射神経いいね二人とも。

 

「そこまでだ! ここでの戦闘は危険すぎる。管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。双方武器を収めて話を聞かせてもらおうか」

 

 そう声がする方を見れば、黒い服着た少年が杖を持って飛んでいた。

 ――ふむ、どうやら30歳までチェリーでなくても魔法使いにはなれるらしい。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。


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04.親バカ

 30歳までチェリーを守り抜かずとも、魔法使いになれるという希望の魔法少年クロノ現れた。

 なんてくだらんこと考えてたら、フェイトがハッスルしてジュエルシードを奪っていこうとしたんだが、残念無念。クロノの魔法弾に阻まれフェイトが一撃KOされる。

 あわや墜落の危機に瀕したフェイトだがアルフが回収した……なんて呑気に眺めてたんだが、手元が眩しい。

 おや、ジュエルシードさんも大変ハッスルされてるようです。めっちゃ熱い!

 

 俺は手のなかで輝き、滅茶苦茶熱くなり始めているジュエルシードを緊急措置として四次元空間にしまう。おー、熱かった。その光景を目にしたのかクロノが目を丸くしこちらを見てフリーズした。男にそんな見つめられてもちょっと……

 

 それに乗じてとんずらしようとしてた俺は、アルフに襟首をくわえられた。そのまま駆け出すアルフ、背景に月でもあれば某宇宙人だよね。

 おれ、おうち……かえる……あ、お家ないんだった。

 

「てか、ヘルプ! 高い高い怖い!」

「……はっ! しまった!?」

 

 そしてアルフは魔法陣を展開してワープ、展開してワープ、展開してワープ。追跡を振り切るためとかそんなんだろうけど……酔いそう。景色が歪んだと思ったら、フワッと身体から重さがなくなる、と思いきや次の瞬間また重さが戻ってる。エレベーターの停止の感覚、あれをかなりキツくした感じ。

 

 そうして幾度となくワープが繰り返された最終地点は魔王城だった。端的にいうと異空間に城ひとつ浮いてる感じ。本格的にファンタジーになってきた。

 

「悪いけどあんたにも付き合ってもらうよ、あとまたどこかへやったジュエルシードを出してもらうからね」

「転生して一日目、『やり直し』一度目でどうなってんだこれ。せめて日本国内でことを済ましてほしい。魔王討伐パーティーにしても俺いらないよね?」

「何言ってんだい? ほら、なかに入るよ」

「なんで俺連れてこられたの?」

「ジュエルシードを持ってたからに決まってるだろう?」

 

 しまった、投げ捨てとけばよかったのか。

 まぁ、連れてこられた以上たられば(・・・・)の話をしても仕方ない。前向きにいこう、あそこで向こうに捕まってたら砲撃の的にされてたと、仮定すればこちらは天国だ。ヤー、ヨカッタナー。

 

「その扉を開けておくれ」

「あいあい」

 

 そうしてナニか大切なものを諦めた俺は扉を開くと――白衣を着た女性がいた。何やら眉間にシワを寄せ資料とにらめっこして、こちらに気づいていないようだ。

 アルフは人の姿に変身すると、その女性がしかめっ面で睨み付けているデータを取り上げた。

 俺は狼が人に変身した程度ではもう驚かないぞ、喋るし魔法使うし――嘘、内心ビビったけどナイスバディなので、そっちに意識が持っていかれた。だって男だもの。

 

「あら、アルフお帰りなさい。フェイトはどこかしら?」

「執務官にやられて今は気を失ってるよ、特に怪我は負ってな――」

「アルフちょっと出てくるわ。ええ、何すぐ帰ってくるわ。執務官ひとり灰にするくらい、どうということないわよ?」

「ちょいと待ちなプレシア、駄目だから。それよりそこに連れてきた男な」

「アイツが犯人ね、わかったわ」

 

 察するに白衣の女性はプレシアといいフェイトの母、もしくは保護者的立場なのだろう。そして、まごうことなき親バカ。メチャメチャ睨まれてる、視線に物理作用があった今ごろ俺は串刺しになってるだろう。

 突き刺さる殺意が意味もなく俺を襲う――!

 

「吹き飛びなさい――フォトンバレット」

《Photon Bullet》

「……えっ?」

「不味いッ! 避けな!」

 

 そんな呑気なことを考えてる暇は無かった。ただの親バカどころではなかった。狂気的なまでの親バカであり、気がつけば――紫色の魔法弾が身体を貫いていたのだから。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 気がつくとベッドの上にいた……はて? 今まででベッドで寝た記憶がないのだが、どこからまた『やり直し』になったんだ?

 あたりを見渡そうと横を向けば、某出現条件未確定な通り魔系魔法少女で有名なフェイトさんのお顔が。何故にいきなりエンカウント?

 あれ、これ『やり直し』するほど、スタート条件がハードになるとかそういう感じなのか? 勘弁して欲しい、クソゲー・オブ・ザ・マイライフじゃねぇか。

 

「あ、目が覚めたんだね」

「あら、生きてたのね」

「プレシア縁起でもない……いや、ホントによく生きてたねアンタ」

 

 ほっほう、ハードモードというか鬼とかルナティックなレベル。なんでLv.1の勇者を起こすのに、母親じゃなくて魔王自ら来てんのさ。別に勇者じゃないけど。

 ん、いや“生きてたのね”?

 

「俺死んでない?」

「当たり前よ、いくら私でも非殺傷設定の初級魔法では殺せないわ」

「もう母さん! ご、ごめんね? 母さんが勘違いで……」

 

 どうやら『やり直し』にはなってなかったようだ。それにしても非殺傷設定やら初級魔法やら……なんだそれ? 知らない単語が多すぎて意味がわからん。

 

「魔法を知らないですって?」

「説明プリーズ」

「はぁ、仕方ないわね。さっきのお詫び分程度に軽く説明してあげるわ」

 

 そうして始まる、ようやく聞けたこの世界についての話。

 けど難しかった、なんか数多くの世界があって管理局ってのが支配というか統治してるらしいことはわかった。

 で、その管理局が統治してる世界には魔法の文化が発展してて、クリーンでエコな力ってのが売り。さらにはデバイスという機械を使用して魔法を行使すれば、魔法に必要な演算などが楽チンに出来ると――もうなんか発展した科学みたいなものと理解した。

 そして何故魔法で貫かれた俺が生きていたのか。それは魔法を行使するときには“殺傷設定”と“非殺傷設定”ってのがあるらしい。両者読んで字の如く。

 非殺傷設定は怪我させることなく相手を無力化させることも可能らしく、スポーツなどで魔法を使うときはこの設定でやるそうな。

 大雑把にだけど世界観を把握できた。

 

「なんだい魔法を知らないのかい? ならあの暴走しかけのジュエルシードはどうしたんだい」

「ちょいとお待ちを――っと、あったあった。はい」

「え? あ、ありがとう」

 

 四次元空間から出したジュエルシードをフェイトに渡す。今回も光は収まっていた。

 もともとあげる予定だったし、むしろ貰って欲しい、出来れば買い取って欲しい。現在ぶっちぎりの死亡原因な気がするし。

 

「待ちなさい、今のはなにかしら?」

「四次元空間、所有物が何でも上限なく仕舞えます。一家に一台あると便利。光輝いていたジュエルシードの光だって収めれます」

「じゃあ貴方の所有物は全てそこに入れてるのかしら?」

「残念! 金なし、家なし、戸籍なし! とどめに記憶なしな自分には財なんてひとつもない!」

「記憶も戸籍もない? あの世界に? あなた次元漂流者……?」

「なにそれ」

 

 プレシア先生の追加講義が始まった。世界と世界の間は次元空間と呼ばれてるらしいが、何らかの事故かに巻き込まれそこを漂って別世界に漂流した人のことらしい。

 まぁ、ぶっちゃけ転生しただけなんだけど似たようなものだし次元漂流者ってことにしよう。何らかの事故(トラック)に巻き込まれ別世界に来た。うん、完璧だわ。

 

「へぇ、じゃあ次元漂流者で」

「あなた名前は?」

「名も無し」

「じゃあナナシって呼ぶわね、ナナシちょっと四次元空間開きなさい。それを上手く使えば何とかなるかもしれないのよ」

「何が?」

 

 名前がナナシになった。異論はない、ジョン・ドゥとかでもカッコ良さげだけど。

 そして急かされるままに四次元空間を開くが――四次元空間にデバイスを向けられフォトンバレットを撃ち込まれた。

「ジッとしてなさい、フォトンバレット」

《Photon Bullet》

「ひぃっ!?」

 

 が、しかし特にダメージもなくフォトンバレットは四次元空間に消えていく。

 

「フォトンバレットが消えた。いえ、恐らくなかに入っていっただけね……ならジュエルシードが暴走しかけた状態で入れたものを時間がたてば戻っていたのは、違うわそれじゃ――」

 

 そしてそれを見てブツブツ言い始めたプレシアさん、ちょい怖い。フェイト、アルフを見れば苦笑してる。

 

「ごめんね、母さんこうなると中々戻らないから……ご飯食べる?」

「ぜひ、何でも食べます」

「あんたあたし達に会うまで無一文でどうしてたんだい?」

「ちょうどあの日に漂流したっぽいから、特にどうも……漂流して当日にこれだけの騒動に巻き込まれたのは運が良かったのか悪かったのか」

 

 色々差し引いても、飯にありつけるので良かったとしよう。そうじゃなきゃ雑草でも食べてた……うん、食べてたな。

 飯を食いながら気になることをいくつか聞いてみた。

 アルフは狼か人か――狼でフェイトの使い魔とのこと。

 俺も魔法を使えるのか――微弱ながら魔力は感じたので恐らく使えるらしい。

 夢が広がった、魔法で飯を出したい……出せないらしい。なら魔法で大道芸でもして……魔法文化の無い地での魔法の行使は犯罪らしい。夢が萎んだ。

 

「ご馳走さま、ジュエルシードは何で集めてんの?」

「えっと……それは」

 

 フェイトが解答に詰まった、言えないことなら別にいいんだけどね。ただの好奇心だし。そう思い伝えようとしたところ――ドアが弾けとんだ。

 もちろん現れたのはプレシアさん、目がギンギラギンで完全に捕食者の(ソレ)である。こっちに向かってツカツカと詰め寄ってきて胸ぐらを掴まれた。

 

「もう一度、もう一度四次元空間を開きなさい。なるべく、貴方から、離れたところに、よ」

「あっ、ハイ」

 

 忠告が一言ずつ区切って、捩じ込むかのような気迫で言われたので、目一杯距離をあけておく。おお、結構離れたところに開けた。

 これでどうだとばかりにプレシアを見れば、ええ、やっぱりデバイスを構えてました。でも、ヤバい。何がヤバいってさっきの比じゃない重圧(プレッシャー)がかかってきてるし、なんか空気中を紫電が走ってる。たぶん俺の頭も静電気でウニみたいになってないかな?

 助けを求めてフェイトたちを見たら、焦った顔でこっちゃ来いと手招きしている。

 

「早くこっちに来て! シールド張るから!」

「バッカ……腰抜けて動けないッス」

「仕方ないねぇ!」

 

 アルフがこっちに走ってきて拾ってくれた。そしてフェイトのところへ戻り二人が全力でシールドを張っている。

 

「バルディッシュ! ラウンドシールド!」

《Yes sir.Round Shield》

 

 デバイスの声と共にシールドが張られ、更にアルフが張っているであろうオレンジのシールドが張られる。

 その直後、チャージが終わったのか一瞬今まで空気中を走っていた紫電がなくなる。

 

「フルパワーで放つわよ、フォトンバースト――!」

《Photon Burst》

 

 その魔法の余波で部屋のなかは蹂躙された。机や椅子は焼け散り、石で出来たであろう床も砕けた。ああ、高そうな花瓶が!

 だが、たった今割れた高級そうな花瓶とは違いフェイトとアルフは必死に踏ん張って耐えきってくれた。ありがとう、間違いなく外にいたらミンチになってた……!

 とんでもない魔法を目の当たりにしたからか、シールドを張ってくれていた二人は目を見開き驚いている。何故かこっちを見つつ。なんでさ、いきなり魔法をかました母を見ようよ。

 

「なっ、ナナシ! 何をしたの!?」

「え、何も?」

「なにもしてないわけあるかい! プレシアのフォトンバーストのフルパワーっていったらこんなもので済むわけないだろ!?」

「そうだよ! 建物の半分は無くなってるよ!」

「ナニソレ怖い」

 

 プレシアさんはデバイスを片手にポンポンと軽く叩きつけながら、部屋の惨状を……いや四次元空間を観察している。持ってるものが鉄パイプならまんまヤンキー。

 

「……成功ね。ねぇ、ナナシ」

「はい?」

「少し真面目な話をしていいかしら。いえ、お願いかしら」

「目の前のデバイスを下げていただけるならいくらでも、はい」

 

 ヤダナー、あの魔法を見せつけたあとにデバイスを突きつけられて断れるわけ無いじゃないですかー。

 ――振り返ってフェイトたちを見れば、フェイトは顔の前で手を合わせてお願いかごめんかどっちかのポーズをしてた。どっちでもいいからデバイスを下げるように言ってお願い。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
プレシアはInnocent寄り的な意味で壊れてます、ごめんなさい。
四次元空間については勝手に考えました、重ねてごめんなさい。
名前決定、ナナシ。決して考えるのが面倒臭かったとかそんなことないです。


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05.ミソッカス魔力の無限容量ゴミ箱

 昔々、一児の母は魔導工学の研究開発者であったそうな。

 その母は『新型の大型魔力駆動炉開発』の設計主任に任命される。だが、問題の多い前任者からの引継ぎ、上層部の勝手で厳しくなるスケジュール。必然的に上層部に嫌気が差しやめていくチームスタッフたちの事後処理に追いたてられる日々だった。

 そしてその母の人生を狂わせる決定的な出来事が起きた。上層部が自分達の都合で出した決定の末に行われた実験により『駆動炉の暴走・エネルギー漏れ』が起こってしまう。ただ母を含むスタッフたちは結界に守られ無事助かった。スタッフたちは、である。

 

 ――それだけならば、よかったのだ。それだけならば。しかし、その日に母の娘アリシアがその施設に来ており事故当時――結界の外にいたのだ。結果、アリシアは事実上の死に至り母は奇跡を求めた。なまじ天才であるだけ願い求めるだけでなく己で探し求めた。

 

 狂ったかのように娘を生き返らせる方法を探し求めた。そのうちのひとつの方法、記憶を転写したクローンによる蘇生でない別の方法を試み上手くいかなかったこともある。

 そして今、ようやく辿り着いた方法が、願いを叶えるロストロギア『ジュエルシード』を応用した蘇生である。

 だからプレシアたちはジュエルシードを集めている。

 

 

「ってまとめれば、こんなとこね。ただ昔々ってほど昔々じゃないわ」

「……これ、ポッとでの俺が聞いていいような話じゃないなぁ。聞かされたとはいえ、気軽に聞いてしまって気が重い」

「そうよ、だから口外したら今度こそ殺してしまうかもしれないわ」

「するわけない、人様の身内事情なんて言いふらして何が楽しいんだか。で、これだけ話してお願いって何?」

「蘇生には、貴方みたいに活きの良い生きた人間の心臓が――」

「助けてくれぇぇぇぇぇ!」

「冗談よ」

 

 出会い頭で魔法ぶっぱなしてきた人間がいうと冗談に聞こえんからやめて欲しい……で、ホントのとこは? 心臓じゃなくて脳がいるとか言うなよな、今度こそチビるからな!

 

「あなたのレアスキル、四次元空間の力を借りたいの。報酬を求めるなら可能な限り支払うわ」

「いいよ、三食寝床つきで引き受けた」

「安っ、早っ!? 母さん詳細なにもまだ話してないよ!?」

「あれだけの話を聞かされて断るなんてこと道徳の塊と噂されてる俺には無理だった……という表向きな理由は取っ払って飯と寝床が死活問題。イエス、ギブ&テイク! あと四次元空間くらいなんに使ってもいいよ」

「無欲……なわけではないわね、顔に真剣に死活問題って出てるし。ま、あなた人の良さそうな幸薄い顔してるから断らないとは思ってたけれど」

「幸薄いの言わなくてよくない?」

 

 たしかに、ないない尽くしで転生して一回たぶん死んで色々幸薄い感じするけどさ。

 して、手伝いってなにするんだろう。四次元空間なんて物仕舞うくらいしか出来ないんだけど、まさかそれだけであそこまで話さないだろう。

 

「ナナシ、あなた暴走しかけていたジュエルシードを四次元空間に放り込んでいたでしょう?」

「え、ああ、熱かったんで。まずかった?」

「……理由は何でもいいわ。あれ、封印せずにそのままにしてたら小規模次元震――軽く世界ひとつ滅亡する爆発が起きていたわ」

「危うく死ぬとこだった……!」

 

 あ、いや一回死んでるな。やっぱアレは死んでたのか……

 

「それで、あなたは四次元空間に放り込んだといったわね? それで次に取り出すときには光は収まっていたと」

 

 

 ん? ああ、たしかに収まっていた。時間を置けば収まるものと思っていたけど、今の話を聞く限り違うのか。あら、でも暴走したジュエルシードはどうやって収まったのかが説明つかんぞ。四次元空間に封印機能なんてないだろうし。

 プレシアさんは、何やら資料を書いていた手を止めこちらを見る。

 

「簡単よ、一度小規模次元震は起こったのよ。貴方の四次元空間のなかで。そのなかがどうなっているかなんて知らないけど無限(・・)に所有物を保持できる、恐らく限度という概念を捨てた無限の空間が広がっているんでしょう? それに対してジュエルシードの持つ魔力エネルギーは、膨大とはいえ無限ではない。だから暴走したジュエルシードは無限の空間のなかで、魔力エネルギーを放出しきって元の状態に戻ったんでしょ」

「はぁ……で俺は何を」

「アリシアを蘇生する一歩手前まで来てるの。歪めて願いを叶えるジュエルシードだけど、データも揃って正しい方向へ歪みを無くす方法もわかったわ」

 

 なら、俺いらなくない? そう思ったが違った。

 暴走はしなくてもジュエルシードは、願いを叶える際には膨大な魔力が流れる。それは非殺傷設定なんてぬるいものではない。ただただ、純粋な破壊的エネルギーとして猛威を奮うようだ。

 

「それもいくつもの世界を滅ぼすだけの魔力がよ」

「たしかにそれは願いが叶っても……」

「ええ、正しい形で願いが叶ったとして。アリシアが生き返ったとしても世界は滅んでいるわ……そしてアリシアもまたすぐに」

「そこでナナシの四次元空間を借りたいの。さっきの母さんの一撃でも、物質じゃない魔力でも入るってことがわかったから……」

「あ、さっきのそういう実験だったのね」

 

 事前に言ってほしい、漏らすかと思った。それにあれはたぶん収納じゃなくて無理矢理入れただけだからもう出せない。

 しかし四次元空間のなかで、世界を滅ぼすだけにたるエネルギーが暴走してたのか……ゲート開けるタイミングミスったら死んでた?

 

「それでいくつ開けれるのかしら? なるべく魔力に指向性を持たせるプログラムを組むつもりだけど、数があるに越したことはないわ」

「いくらでも。というかひとつのゲートの広さは固定じゃないはず……」

「ならまた大きさ、数はまた言うわ。あと既にフェイトがジュエルシードを5つ回収してるのだけれど、出来ればあと3つは欲しいの」

「まさか、その手伝いをしろと?」

「それこそまさかよ。あなたが捕まったら、ジュエルシードの魔力を廃棄するゴミ箱がなくなるじゃない」

 

 もうちょっと言い方ないですかね? でもちょっとしっくりきて悲しい。余分な魔力や危険物の処理引き受けます、連絡はナナシまで。代金は応相談……お、案外これで一儲けできないか?

 

「ジュエルシードの回収はフェイトとアルフに任せるわ。その間に私は大詰めに入るから……あなたは外でそのミソッカス程度の魔力で、魔法の練習でもしときなさい。いざというとき何も知らないよりマシでしょ」

 

 そういって目の前に積まれる資料の束。初級魔法講座みたいなタイトルの上に、斜線が引かれ“猿でもわかる魔法講座”と書かれている。プレシアさんの顔を見ればイヤらしい顔で笑っている。ちょいちょい当たりが厳しくねぇですか?

 

「フッ、それで解らなかったら猿以下ね」

「上等……! 魔法とかいうマジカルなくせしてロジカルでケミカルな似非ファンタジーなんざ、すぐ修得してやらぁ!」

 

 

 そう意気込んで外へ飛び出した俺はさっそく資料を読み込む。

 ふむふむ、魔法って言ってはいるけどそもそもプログラムを組んで集中や詠唱みたいなトリガーとなるもので発動されるのか。

 なんだ、この中途半端に科学と魔法が合わさったかのような感じは。面倒だから頭で思い描いたものがそのまま使えるとかの完全ファンタジーでいいのに。

 簡単な初級魔法としてフォトンバレットのプログラム公式が書き込まれている。

 

「……今更ながら気づいたけど、これ全部手書きだ」

 

 さっき話をしながらわざわざ書いててくれたのか……ありがたい。でもやっぱりタイトル“猿でもわかる魔法講座”に書き直す必要はなかったよね。

 気を取り直して、この公式を覚えて……体内の魔力を操作しながらプログラムに組み合わせ、『集中』するというトリガーで――撃つ!

 

「……って撃てるか! 体内の魔力がそもそもわからねぇ!」

 

 四次元空間を開くときの感覚は……なんも体内の魔力とか意識してないし魔力関係ないか? ならどんな感覚だ、精神力とかそっち系でもなさそうだよな。リンカーコアとか何とかがあるかないかで、魔法が使えるか決まるらしいし。あれか、血液が流れてるみたいな感じで魔力も循環してるのか?

 

「あ、いたいた。ナナシ!」

「んぁー、フェイト……さん?」

「フェイトでいいよ。あと、これ」

「何これ、杖?」

「デバイスだよ。たぶん魔法を使うのが初めてなら、デバイスの補助なしじゃ無理だろうからって母さんから」

 

 フェイトが魔法を使い始めたときに使った超初心者用デバイスで、長年使わずに放置されてたものらしいけど関係ない。因みにフェイトは数時間で使わなくなったとか、よくわからないけど早くない?

 何にせよきっとこれで出来る、出来たらいいな、出来る可能性は出来た。

 

「感謝! して、フェイトは今からジュエルシード集め?」

「うん」

「じゃ、気をつけて行ってらっしゃい」

「いってきます!」

 

 ジュエルシード集めに行くフェイトを見送ってから受け取ったデバイスを見る。ネームシールのフェイトって書かれた上に、斜線が引かれ『ゴミ箱』って書かれてるのは何故だろう。きっとゴミ箱行きだっただけだよね、俺のことじゃ……たぶん俺のことだな。

 ま、いいさ。デバイス貸してもらえただけで儲けもの。公式は覚えたし、いっちょやってみますか。

 

「フォトンバレット」

《Photon Bullet》

 

 フォトンバレットと口にした直後、デバイスの先から野球ボールサイズの水色の魔力弾が出ていき飛んでいった。で、出来た……! まぁ、自分が撃ち込まれたのはバレーボールサイズだったけど。

 

「デバイスってすげぇ」

 

 しかし、魔法のプログラムは地球の数学、物理と大きな差はないようだ。ちょっと弄れたりしないかね?

 ここが加速度に関する式で、弾速を上げるには……あ、何か出来た? よし、ものは試しにやってみますか! デバイスがあれば何でも出来る!

 

「弾速加速付与試験魔法プログラムα――ファイア!」

《――fire》

 

 結論からいうと暴発した。出てきたフォトンバレットにジャイロ回転かかり始めたと思ったら、そのまま収束して爆発。後ろにブッ飛ばされて5mくらい転がった、非殺傷設定じゃなかったらヤバかった……!

 プログラム弄るのは止めよう、俺は猿なんだ、猿がまともな計算できるわけないじゃん。でも、ちょっとくらいならいける気もするんだよなぁ。

 次は飛翔魔法を――いや、先に防御魔法……お、この公式弄ればかなり硬い防壁になるんじゃ、猿でもできそうだ……ファック! 防壁が爆発しやがった!?

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ふぅ、あと少しで完成ね。アルフがナナシを持ち帰ってきたときにはどうしようかと――いえ、考える前にフォトンバレットを撃ち込んでたわね。まぁ、とにかく最悪記憶でもとばして元の世界に帰そうと思ったのだけれど。

 

「アリシアを目覚めさせる最後のキーになるなんてね」

 

 何が切っ掛けになるか解らないものね。

 フェイトだって本当は……あの子はアリシアのために造り出したクローンだった。だけど、その目論みは失敗した。アリシアの幼少の記憶の複写までは成功したのだが、それだけだった。

 当たり前である。記憶を写したからといっていくら同じ身体のつくりだとしても、科学では解明できないナニかがきっとあって別人になるのだ。

 ……正直失敗したとわかった当初はフェイトのことを受け入れがたかった。思い返したくないが、あの子には死ぬまで伝えないが失敗作と扱おうとした。

 けど、思い出せたのだ。アリシアが生きていた頃に妹を欲しがっていたことを。

 なら私がフェイトを無下に扱えばアリシアは悲しむだろう、生き返れたとしても幸せだったあの頃には戻れなくなる。

 

 生まれ方がどうであろうと、生み出したのは私でフェイトは私の娘だ。そのことをアリシアの言葉のお陰でフェイトをフェイトとして、娘として受け入れることができた。あの言葉をあのときに思い出せていなければ、そう考えるとゾッとするわね。

 

「ナナシも……アルフが連れ帰ってきてくれてよかったわ。まさか一番ネックな膨大な魔力の処理方法がこんな形で見つかるなんてね」

 

 さて、上手くナナシの四次元空間に魔力を送り込める魔法公式を仕上げなければならない。大詰めなんだから気を引き閉めないといけないわね。

 ――さっきから外から聞こえる爆発音はなにかしら?

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
魔法のプログラム公式が見て覚えれるかは置いておきます。それで上手くいくかも置いときます。
爆破オチなんてサイテー。


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06.■■■■前夜

 俺の身体はもうボロボロだった。幾度とも繰り返される爆発に巻き込まれ、その度に吹き飛ばされた。

 それは何故か? 理由は簡単、答えは明白である。

 

「魔法のプログラムを弄って何度も暴発させたのね」

「イグザクトリー、回復魔法を弄って身体が発光したときは死ぬかと思った。爆発しなくてよかった」

「バカじゃないの? ……ハァ、今あなたに死なれると困るのだから無茶は控えてもらえないかしら」

 

 そう言いつつも回復魔法をかけてくれるプレシア。ええ、あまりにも爆発音が絶えないから様子を見に来てくれた。今は室内に戻っている。

 仕方ないんだって、半端に弄れそうなプログラムなもんだから出来心と好奇心と今度こそ成功するって根拠のない自信が湧くんだもの。

 

「沸いてるのは貴方の頭じゃないかしら」

「いやいや、これでも一個成功したんだから誉めて欲しい」

「へぇ、何かしら?」

「回復魔法で全身が発光します、これで暗闇のなかでも困りません」

「暗闇で的になりたいのかしら?」

 

 上手く調節したらうすらぼんやり姿を浮かばしてホラーチックにも出来るんだけど。ほら、魔法の色が水色だし丁度いい。

 

「どうでもいいわよ。それでまともにプログラム通りに覚えた魔法はないの?」

「フォトンバレットとヒール、あとラ、ラウン……防壁を。因みに防壁も弄ると爆発しました」

「バリアバースト……の劣化版ね、正しく出来たら自分じゃなくて相手にダメージが入るわ」

 

 ほう、今回は全部自分が吹き飛んだからな。きりもみ回転して飛んだときは死ぬかと思った。

 さて、そんなことは一旦横に纏めて置いておこう。

 現在どんな原理かは知らないけど空中に映像が浮かんでいる。映っているのはフェイトとアルフ、海上で竜巻らしきもの相手に奮闘している。

 

「何あれ」

「海のなかにジュエルシードがあると判断したフェイトが海に魔力を叩き込んで無理矢理発動させたのよ。それで位置を特定した今封印しようとしてるのだけど……あの子かなり無茶をしてるわ」

「うーん、見るからに劣勢。ここに前の管理職だっけ? あれが来たら超ピンチ」

 

 それを聞いたプレシアは舌打ちをする。

 

「管理局……! 間違いなく気づいてるはずなのにフェイトが力尽きるまで傍観してから捕獲するつもりね……ナナシ下がりなさい。管理局の船の位置は特定してる、跳躍魔法を叩き込むわ」

「フェイトさんや、あんたの母親がなんかヤバそう。俺は止めるべきなのか……あ、砲撃少女」

 

 エグそうな魔法を使おうとするプレシアを止めるか悩んでいると画面に砲撃少女が現れた。うーん、何やら協力的な感じである。

 取り敢えず俺はこのうちに話を逸らそう。

 

「そういやフェイトやあの砲撃っ子の格好はなんなの?」

「バリアジャケットね、一言で言えば最低限の防具。デザインは自分で決めたきゃ決めれるものよ。あと特にフェイトのものはスピードに重きを置いてるから装甲が薄いのだけれど……母としては布地の少なさに一抹の不安を感じるわ」

「全部が終わったら一緒にデザインし直そう……」

「ええ……」

 

 なんか際どいし、あのまま更にスピード求めて布地面積減らしたり成長したらただの悩殺ファッションになりそうだ。スピードのために防御以外にも大切ななにかを捨ててしまいそうである。

 

「それで現状はどうするの?」

「……ジュエルシードを押さえ込むと同時に転送魔法を使ってフェイトを逃がすわ」

「了解、俺なんかすることある?」

「邪魔しないでくれればいいわ、ミソッカス魔力」

 

 …………部屋の隅に移動し三角座りで画面を眺めておく。

 ピンクと金色の魔法が入り乱れ竜巻が収まっていくが、砲撃少女じゃなくて何だっけ。名前は、えーとなのはか。なのはがジュエルシードを半分こに分けてる。

 そしてフェイトがジュエルシードをデバイスに収納すると同時、クロノ登場。

 

「管理局の少年が来たよー」

「チッ、こういうときだけ早いわね――転送!」

 

 画面に映るフェイトの身体が輝き、転送が始まる。クロノとなのはが慌てて止めようとするが既に時遅し。

 フェイトはこちらへ転送された……フェイトは。

 

「母さん、ありがとう」

「ええ、あなたが無事でよかったわ」

「プレシアさーん、アルフが残ってるんスけど」

 

 そう画面にはアルフが残っており、慌てて自分で転送を開始した。それに続き管理局の隊員らしき人間が数人出てきて追走を始める。

 

「あ、アルフーー!?」

「やっちゃったわね、少々急ぎすぎたせいで転送からアルフを漏らしてしまったわ。まぁ、転送自体はアルフもできるし大丈夫でしょう」

 

 愛犬使い魔の名前を叫ぶフェイトに、結構ドライなプレシア。俺にはどうしようもないので強く生きてくれアルフ……

 

 

▼▼▼▼

 

 

 ジュエルシードをあのなのはって子に、不本意ながら協力を得て封印を完了した直後のことだ。執務官が出てきてヤバいと思った。フェイトもジュエルシードを三つも封印したあとで疲労の色が濃く見えているのだ、万全の状態でも勝ち目はないに等しいというのにこの状況は絶望的すぎる。

 そう考えていたら、馴染みのある魔力反応が、プレシアの魔力反応があった。次元転送だ、逃亡の手助けにホッとしたのも束の間。

 

 フェイトだけが転送された。

 

「ぷ、プレシアぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 あの親バカ、フェイトだけ転送したね!? いや、あたしのご主人様が無事ならそれはそれでいいんだけど、普通にあたしも転送しておくれよ!

 

「っと、そんなこと考えてる場合じゃないね……! 転送!」

「逃がすな、追え!」

 

 転送に転送を繰り返し、管理局員たちを振り切る。けど振り切った頃には一晩たっていて体力の限界だった。

 ……そのまま、あたしは狼形態のまま気を失った。

 

 

 

 目が覚めるとあたしは行き倒れの犬として保護されてた。いや、気を失ったところがどうやら民家の庭だったようだ……民家といっていいのかわからないくらいの豪邸だけど。保護してくれたらしい少女は優しい子だった、なので好意に甘え三日ほど休養し魔力を回復させてお暇しようとしてた。

 のに、三日目にアイツが来た。高町なのはっていうジュエルシードを集めている子だ。

 

「あ、アルフさん!?」

 

 ああ、クソ。また面倒なことになったねぇ……

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 アルフが無事帰ってきた。ってこと自体はいいんだけど面倒な案件を引き連れてきた。

 

「なのはって子がフェイトと一騎討ちで戦ってお話ししたい……? 戦いたいの? 話したいの?」

「あー、それはフェイトが話しても意味がないこともあるって言っちゃったせいかもしれないねぇ……時間は明日の早朝だって」

「まぁ、何にせよどうする? ジュエルシードは既に必要数集まってるけど」

 

 プレシアは目を瞑り考えている。何を考えることがあるのか、わざわざここでフェイトを戦わせに向かわせるメリットなんてないだろうに。

 いや、無くは……ないか。ほんの小さな意味はある、小さいけど決して無意味ではないはずの意味が。

 

「フェイト」

「は、はい母さん」

「あなたはどう?」

「……えっと、その」

 

 何というか嘘のつけない性格なんだろうなぁ。ここで詰まるってことはプレシアにとって意味のない、デメリットにもなるかもしれないことをしたいということ。つまり、なのはと一度正面から戦いたいのだろう。

 母親であるプレシアも当然ながらそのことを察したのだろう。優しげに微笑みながらフェイトの頭を撫でる。

 

「ふふ、嘘がつけない子ね。いったい誰に似たのか……」

「間違いなくプレシアさんじゃあ、ねぇわな」

「フォトンバレット」

《Photon bullet》

「ブハッ!?」

 

 茶々入れたら、フォトンバレットで返された……気を失ってないあたり威力は押さえてあるみたいだが、めっちゃ痛い! 娘との会話に邪魔が入ったからってもう少し穏便な手段はないんですかね!?

 

「戦いたいのね、あのなのはって子と」

「え、と……うん。あとナナシが……」

「いいわ、フェイト。やって来なさい、きっとあなたにとってどう転んでも悪い結果にはならないわ。母さんが保証する」

「――ッ! はい! ……あとナナ」

「けどごめんなさいフェイト。きっと管理局がその戦いを監視するはずよ……だから私たちはその間に、フェイトに注意が向いてる間にアリシアの蘇生を開始するわ……あなたを囮に使うような真似をしてごめんなさいね」

 

 ぐぉぉぉ、胸のあたりがズキズキ痛む……! ま、まぁジュエルシードを使った蘇生を行えばここの位置は直ぐに特定されると言っていたから、少しでも時間稼ぎをするには管理局の目を他に向けておくというのは悪くないだろう。あ、なんか感覚なくなってきた。

 

「ううん、私こそ我が儘言ってごめんなさい……派手に戦って少しでも管理局の目をこっちに向けとけるようにするね!」

「ふふ、お願いね。ほら明日は朝早いからもう寝なさい」

「うん、おやすみなさい母さん」

「おやすみなさいフェイト」

 

 フェイトとアルフが部屋から出ていった。最後はもう俺のこと気にするの諦めてたな。

 

「なぁ、プレシアさん」

「何かしら」

「フェイトになのはって子と戦わせようとした理由は時間稼ぎだけじゃないだろ? 時間稼ぎならここの防衛をフェイトに任せた方が稼げそうなもんだし」

「そうね」

「あの、なのはって子がフェイトの友達になってくれんじゃないかなーって思ってだろ?」

「そうよ、あの馬鹿正直で愚鈍なくらい真っ直ぐな子がフェイトを理解するためあそこまでしてくれている。フェイトの友達になってくれるなら悪くないわ」

 

 貶してんだか誉めてるんだかわからない。親バカなことだけはわかるけど。

 

「さて、ナナシ。明日が本番よ」

「あいよ、四次元空間の特大のゲートを開けて指向性を持たせたジュエルシードの魔力をそこへ廃棄していくんだよな?」

「そうよ……ただぶっつけの本番、もしかしたらの事態が起こるかもしれない。理論的にはジュエルシードの魔力を発生の瞬間に指向性を持たせることは可能だとわかって、実際そうなるようにはした。けどもしも失敗したら……死ぬわよ?」

「問題ないよ、いや死ぬのには問題はあるけど飯と寝床の代金はこれくらいでしか払えんからね」

「……そう。ならとことん付き合ってもらうわよ」

「断ってもそうするつもりだったくせに何を」

「当たり前よ、愛娘のためなら私は何だってするわ」

 

 さて、と。たぶん、うんにゃ明日が間違いなく正念場だ。何が出来るわけでもない、ただプレシアのたてた理論を信じて俺はゲートを開けておくだけだ。それでも、気持ちだけでも引き締めますか。

 ――きっとハッピーエンドはもうすぐだ。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
主人公らしく既存の魔法の改造に成功。なんと回復魔法で身体が光ります、因みに回復効果は半減します。
最後のハッピーエンドに三食寝床付き生活ってルビふっても問題ないです。


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07.ハッピーエンド上等

 プレシアの理論は正確であった。願いを叶えるために発生したジュエルシードの膨大な魔力。それは全て四次元空間のゲートへと吸い込まれるかのように入っていっていた。

 奇跡的で神秘的な光景だった、プレシアが必死に願いを込め、それを叶えるためにジュエルシードが事象をも歪ませるほどの魔力を振るう。

 

 ――あと少し、あと少しだった。管理局の先行部隊が来てしまった。警備のために普段稼働させているという傀儡兵は、ジュエルシードの魔力に影響が出るといけないので出していなかった。それがいけなかったのか、それともジュエルシードが願いを叶えるまでにかかる時間が予測よりもかかったことが原因か。

 

 予測よりも早くに動き到着した、恐らくフェイトに注意が向いていた状態で編成された有り合わせの武装部隊だったのだろう。その隊員たちの統率がとれておらず……ジュエルシードの魔力の奔流が起こる原因となる魔法弾を打ち込まれたことが悪かったのか。

 

 

 

 

 ――俺は二度目の『やり直し』をすることとなった。

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 あ、えっ…………?

 

「――愛娘のためなら私は何だってするわ」

 

 ここは、いや今は……ッ! 嘘だろ、おい。ついさっきまで、ほんの少し前まで全て丸く収まる終わりがもう手に届きそうなところまで来てたんだってのに。

 ああ、クソ、管理局の隊員が悪いわけでもないのはわかる。けど、けどあれはねぇだろ……あー、気分悪い。

 今プレシアが話してる内容的に前日に戻った、そこはよかった。また図書館から『やり直し』になんてなってたら心が折れてホームレス生活まっしぐらだったかもしんない。俺はループものの主人公たちみたいにそんなにメンタル強くないかんな……ッ!

 

「……ナナシ、あなた急に顔色が悪くなったわよ。怖じ気付いたのかしら?」

「なぁ、ジュエルシードが願いを叶えようとしてる間に局員が到着したらどうする?」

「今までジュエルシードが願いを叶えるためにかけた時間は完全に完了するまで長くて3分、いえ5分なはず。その間に到着するとは……思えないと言いたいのだけれど、やけに真剣な顔ね」

「たぶん、いや絶対に願いを叶えるまでに確実に5分以上……いや10分以上は確実にかかる」

 

 そして、その間に局員は来る。時間がかかった理由が死者蘇生ってこの世の摂理を覆す願いなせいなのかは知らない。

 ただ体験したからわかる。けど、どう伝えるか……恐らく本当にここが鬼門なんだろう。

 

「あなたさっきまでヘラヘラしてたのに鬼気迫るような顔になってるわよ? 言ったわよね、愛娘のためなら私は何だってするって。あなたが抱えている懸念事項があるなら話しなさい。私には思いつかない、あなただから思いつく懸念事項があるかもしれない。そしてそれを私は消していくわ」

「…………」

 

 本ッッ当に親バカだ……いっそ話してみるか? 計画は失敗して俺は死んで『やり直し』のおかげで戻ってきたのでこのままじゃ駄目だってわかるって?

 そんなこと信じ――ぉぉ!? プレシアが胸ぐらを急につかんで顔近ッ!?

 

「……フンッ!」

「ごぺ!?」

 

 プレシアの頭突きが俺に鼻頭へ叩き込まれた。

 

「痛ったぁぁぁぁぁ!?」

「ッッ……安心しなさい。頭突きした私も痛いわ」

「いじめッ子理論!」

「その理論でいくと私は腹を殴るべきだったかしら?」

「昨日にもうフォトンバレット叩き込まれたんですが!?」

「そうだったわ……待ちなさい、昨日ですって……?」

「あ……」

 

 プレシアが再び胸元を掴みあげ顔を近づけてくる。どうでもいいけど傍目から見たらこれ完全にカツアゲだ……ん、ちょっと調子戻ってきたかね。戻ってきたのに致命的なミスを犯してるのはこれ如何に。もとからポンコツってことですね、わかります。

 

「『昨日』って、どういうことかしら。あなたは何か知っているかしら? 何か体験したのかしら? あなたはナニ? 間違えたなんて言い訳は要らないわ、言い間違えた人間はそんな顔しない。あなたはただ決定的な間違えをした人間の表情をしてるから」

「えらく自信満々だ……」

「……昔の私がそういう顔してたのよ」

「さいで……相当にブッ飛んだ話だけど?」

「死者蘇生をひたすら求めた私ほどではないわ」

「かもしれんね」

 

 いやね? でも、それなりに不安になっちゃうもんなんだって。それに出来ることなら、あんな失敗話さずにひとりで解決方法を考えたい。娘のためにやってきた全てがあんな形で全て無駄になったとは……

 

「ほら、話しなさい」

「ちょっと待って考えてるから」

「考える前に話しなさい、あなたひとりが考えるより私が考えた方がウン億倍効率がいいわ」

「いや、ワンチャン俺が考えたことにより今までなかった視点から」

「あなた百人が考えるより私が考えた方がウン兆倍効率がいいわ」

「悪化した!?」

 

 あー、考えても仕方ない。べつに信じてもらえなくてもいいさ。プレシアも失敗談を聞かずに失敗するよか、対策たてれた方がいいはず。なるようになれー。

 ってわけで、『やり直し』を含めた全てを、プレシアの計画が失敗したことを……恐らく俺が死ぬ、『やり直し』の直前のプレシアの後悔や無念や憤りが全て合わせられたような一生忘れられないであろうあの表情まで丸々話した。

 

「だから、失敗する……ってんだけど信じがたいだろ?」

「荒唐無稽な話ね。特にその『やり直し』はただのレアスキルって言葉では片付きそうもないほどに」

「……」

 

 ま、そうだろうさ。俺も信じがたい、自分のことなのに。でも、けどあの二度目の『やり直し』の最期に見たプレシアが嘘だったとは否定できない。というか、そのお陰でこの『やり直し』が死ぬことがキーと確信してしまった。

 

「ま、それは横に置いておくわ」

「おい」

「ただ重要なのは計画が失敗する可能性が高いとわかったこと。それをナナシが教えてくれたことよ」

 

 ……要するに信じるってことじゃん。

 

「計画を見直すわよ。最低でも有り合わせ編成のうっかりジュエルシードに魔法を撃ち込んじゃう局員がここに来ないようにする」

「ただし条件はベリーベリーハード。プレシアさんは願いを叶えるため、俺はゲートを開けるため、フェイトにアルフはなのはとの戦いのために空きの人間はいない。ないない尽くしの状態」

「けど手がないわけじゃないわ。ついでにあなたはゲートを開いてなくても戦力外よ」

「バカな、全身を光らせれるというのに」

「囮としてなら使えるわね……いえ、結局戦力外じゃないのよ」

 

 全くもってその通りだよ!

 よっし! ハッピーエンド上等、絶対に笑顔で終わりを迎えてやらぁ!

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 さて、夜が明け再びやって参りました。運命の日でございます。室内の映像にはなのはとフェイトの戦闘が映っている。速さを武器にしたフェイトに対し、なのはは複数の魔法弾で攪乱からの高火力砲撃での攻撃が主体のようだ。

 っと、フェイトの大技をくらったなのははピンピンしてる。あっ、フェイトが拘束され……

 

「ちょっ!? 何あれ!?」

「集束砲……! ……今回ばかりはフェイトの負けね」

「フェイト逃げてー、超逃げてー」

 

 と言うものの、拘束されているわけで脱出は不可能。極太ピンクビームにフェイトは飲み込まれた……トラウマになってなきゃいいんだが。あれ、砲撃による線攻撃というか回避困難な面制圧だ。

 

「んじゃプレシアさんや。始めましょーか」

「ええ、しかと目に焼きつけなさい。これが大魔導師の本気の一撃よ」

 

 室内いっぱいとなるサイズの魔法陣が描かれる。事前に聞かされていた次元跳躍魔法で最大威力の攻撃を叩き込む。

 どこにって……そりゃ管理局の船にだ。落とすことは出来ないだろうが軽く5分は機能停止に陥るだろうとのこと。

 あとは傀儡兵というこの庭園を守る魔導の兵士も配置した。ジュエルシードに悪影響を与えないために念のため停止させておく予定だったが、結局起動させて配置することとなった。

 前回、管理局の武装隊の魔法が発動した瞬間にではなく魔法がジュエルシードの魔力の濁流に当たったことで失敗することとなった。つまり、きっと傀儡兵を動かす程度の魔力では影響は出ないだろうと判断したのだ。

 

 どれもこれも単純な手だが……変に凝ったことするよりいいだろう。土壇場で小難しいことをすると失敗するって色んな人が言ってた。

 

「ナナシ、伏せなさい――サンダーレイジO.D.J」

《Thunder Rage Occurs of DimensionJumped》

 

 直後放たれる、滝のような紫電迸らせる稲妻。さながら雷の鉄槌である。

 それは次元跳躍をさせるための魔法陣に叩き込まれ消えていくまで一瞬だったが……寿命が縮んだ気分だ。あんなのくらったら灰になっちまう。

 

「ナナシ! 時間はないわ、アリシアの部屋にいくわよ!」

「あいよ!」

 

 ごめん、名も知らぬ管理局の人達。実は前回の鬱憤が晴れて正直ちょっとばかしスッキリした。

 ……前回にも見たけど人が生体ポッドみたいなのに入ってるのを見ると何とも言えない気持ちになる。いや、プレシアには口が裂けても言わないけどね?

 

「やー、フェイトそっくり……じゃなくてフェイトがそっくりなんよね。よっし、ゲート解放! バッチ来いプレシアさん!」

「ジュエルシード封印解放、魔法プログラムfate――発動」

 

 んー、この魔法でたぶんジュエルシードに願いを歪ませずに叶えさせて、ついでに魔力に指向性が出来るんだよな。

 プレシアはジュエルシードに向かって手を合わせ願いを告げる。

 

「ジュエルシード、アリシアを……アリシアを生き返らせてちょうだい……!」

 

 次の瞬間、ジュエルシードからゲートまでの床を抉りながら魔力の濁流が押し寄せ、そのすべてが四次元空間へと流れ込んでいく。

 そして廃棄される魔力とは色が異なる、僅かな光がアリシアの身体へと向かい、少しずつ少しずつアリシアの身体を包み込む。

 この間、プレシアは手を合わせアリシアの蘇生を願い続けている。

 

 3分経過――流れてくる魔力の勢いが増す、ここは前回も同じでありここがピーク。余りにも大きすぎる魔力に気を持っていかれそうだが踏ん張る。

 

 5分経過――前回はここで恐らく門が破壊されたであろう音が聞こえ局員たちが来たことがわかった……が今回はまだ大丈夫なようだ。

 

「7分、経過だけど……結構辛い」

 

 指向性を持たせてるとはいえ多少は漏れる。本当に多少なんだか如何せん俺の魔力がミソッカスなもんでね。ずっと浴び続けるとしんどい。

 ……足が震えてきた。

 

 ――ッ!? 爆発音が聞こえた、来ちゃったか……10分経過直前、少しずつジュエルシードから発せられる魔力は落ち着いてきてるがまだかかりそうだ。プレシアを横目に見ると、額にも汗が滲んでかなり疲弊してるはずなのに一心に願い続けている……うん、俺も頑張ろう。

 あと傀儡兵がんばれ、超ガンバレ! お前たちに割りとかかってる!

 

 …………おおっと、15分経過くらいかね。傀儡兵がやられたであろう爆発音が近づいてきている。あと5分もあれば終わりそうなとこまで来てるはずだけど……ちょいと視界が霞んできた、というか気持ち悪い。ジュエルシードさんハッスルしすぎだわ。

 俗にいう魔力ダメージを俺は微量ながらずっと受け続けているわけだからいわゆる毒状態か。誰かー、薬草くれー。

 

「……魔力の波が収まってきた、あと少しだぞプレシアさん」

 

 と、そこでついに来てしまった――扉を開けて登場、管理局。扉が破られたんだけどプレシアはピクリとも反応しない。なに、俺に時間稼げと? まぁ、プレシアが動けないことはわかってんだけどね。

 ……お、前回とは面子が違う。クロノになのはじゃんか、少人数精鋭……いや、まだ爆発音は鳴ってるから他にも人はいるか。うん、ジュエルシードの魔力に取り乱して魔法弾とか撃ち込んでこなくて安心した。

 

「そこまでだ、今すぐに止めるんだ!」

「ふぅ……ようこそ、おふたりさん。珈琲でも一杯飲んでゆっくりしていかない? 代わりに薬草おくれ」

「ふざけるな!」

「いやいや、本気だよ。このままいけば被害ゼロで終わる、ちょっと眠り姫状態なプレシアさんの娘も起きてハッピーエンドが来るから珈琲飲んで待とう」

「死者を蘇らせるなんて違法行為……いや、それ以前に不可能だ」

 

 ……あー、もうなんか頭痛いなぁ。しかもやっぱり死者蘇生って違法なのね、別にそこはいいんだけど。取り敢えず口先八丁舌先三寸嘘八百で誤魔化せ、時間を稼げ。それしか出来ん。

 

「死んでない、アリシアは死んでない」

「えっ、でもエイミーさんが過去の実験の失敗に巻き込まれて……そのアリシアちゃんは」

「正しくは死んでるけど死んでないんだ……脳死って知ってる?」

 

 さてさて、喋りながら考えろ。主に過去の記憶面で不安の残る俺の頭よ、働け働け! 死者蘇生は違法でも脳死の人間を起こすだけならセーフなはず……手段がぶっちぎりの違法っぽいけど置いとけ。アリシアが亡くなった原因は実験の失敗による……なんだ? 知らねーや、誤魔化せ、でっち上げろ。実験内容は大型魔力駆動炉、なんだそれ。知らねーことばっかだなぁおい!?

 

「で、アリシアが死んだと言われてたわけだが正しくは脳死状態だったわけなんですよ。さて、ここで普通の脳死ならまだなんとかなったわけですが……そうはならなかった。アリシアが脳死した理由はご存じだよね?」

「大型魔力駆動炉の実験失敗によるものだが……」

「イエス…………あー、それでだな。原因が原因なせいで普通の脳死の状態とは異なる、それも面倒な状態になってしまったんだ。簡単に言えば大型魔力駆動炉の実験の際に発生した魔力の粒子が脳内に入り込んで、アリシアの脳の機能を停止させた」

 

 ……立ってるの辛い、座ろ。魔力の粒子? アハハ、そんなもん知らねーです。

 よし、そろそろ終わるな。アリシアに向かっていた光りも消えてきた。話を締めるか、いつボロが出るかわかったもんじゃない。

 

「それを取り除く方法を長年プレシアは探し続けたわけだが……その方法がついに見つかった」

「それがこれと言うわけか。だけど、こんな危険なことを認めるわけには」

「やー、すまん。終わった」

「えっ?」

「なにっ!?」

 

 俺の宣言通り、アリシアを包んでいた光が消えていき……ジュエルシードからの魔力の濁流もピタリと収まった。やったね、毒状態が解除されたよ! ただし瀕死である、残った力を振り絞りプレシアの方を向く。

 成功したのか……? 生体ポッド内のアリシアはその瞳を開き、その光景に母であるプレシアは涙を流し――アリシアは空気を求め溺れもがき始めた。

 

「メディィィック! プレシア! アリシア溺れてる! ポッド開けて!」

「えっ、あぁぁぁ! ふんっ!」

 

 デバイスで殴ってポッド割りやがった……そのまま、ザバァーと流れ出る液体と共に出てきたアリシアを受け止めるプレシア。

 

「ゲホッ、ケホケホ! 死ぬかと思ったよぉぉ……!」

「ああぁ、アリシア! アリシア!」

「へぷっ!? あ、母さん……」

 

 うーん、親子再会の感動シーンのはずが、いまいち涙腺にこないな。何にせよ、上手くいってよかった。

 しかし、動けん。座ったままピクリとも動けん。クロノはプレシアの方に同行を願うって言いに行ってるんだけど、こっちにはなのはが……ふと脳裏にフェイトを撃ち抜いた破壊の権化と言わんばかりの砲撃がよぎった。

 

「すみません、反省してます。撃たないでください」

「撃たないよ!?」

「そうやって安心させて……後ろからズドン?」

「しないから! あれ、ど――たの!?」

 

 おや、なのはが倒れて……なんてベタな勘違いをすることなく俺が倒れてるなコレ。うーん、プレシアに適当に誤魔化したことだけ伝えたかったけどもう無理。

 

「ぐぅ、よくも……やって、くれた……な」

「えぇぇ!? 私なにもやってないよ!? ちょっと起きて!」

 

 ――やったぜハッピーエンド、オヤスミ。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
前回のタイトルの■■■■は『やり直し』前夜でした。

アリシア蘇生は99%がプレシアの力で、どうにも埋めがたかった残り1%をたまたまナナシが埋めた形となります。ビックリするほどなにもしてません。
※四次元空間に突っ込んだ魔力はなかで霧散しちゃってます。

……ループものにありがちな鬱パート? ループを繰り返して散らばっていた伏線を拾って解決? 知りません。駆け抜けました。


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08.後日談その一 ~お別れ~

 後日談。アリシア蘇生についてはプレシアが超説明頑張った、以上。

 

 いや、本当に俺やフェイトは数個質問に答えただけで残りはプレシアが話したからなぁ。大型魔力駆動炉の実験については記録にはプレシアの責任として押し付けられていたようだったが、それを覆す証拠を叩きつけていた。どうやら俺が会う前に集めてたらしい。

 そして涙ながらに語られる親子が死に別れる悲劇の物語、最後には口もとを押さえ涙を流し語っていたプレシアだが……口元笑ってんのが俺から見えてんぞ。

 

 こっちチラッと見て視線で『チョロいわね』って言われても反応できねぇよ。ほら周りのみんな目に涙浮かべてんのに何か俺だけ泣くに泣けなくて浮いてるじゃん……仕方ないので顔を伏せて肩を震わせておいた。伏せた顔は真顔だが誰からも見えないので問題ないだろう。

 アリシアはその話を聞きながら自分はそんな風に亡くなったのかーとウンウンと頷きながら聞いてた。今思えば一番浮いてたな、自分の死因を感心しながら聞いてるとか……

 

 何はともあれ、罪は可能な限り軽くなるよう尽力してもらえるそうだ。親身な人たちでよかった。

 

 

 さて、ここであとひとつ問題が残った。どっかの誰かさんの身元がまったくわからないわけだ、最後の最後にこんな面倒な問題残しやがって誰だよまったく。俺だな。

 

「次元漂流出身、ナナシ。年齢はトップシークレットじゃ駄目ですかね?」

「どこをどうすれば駄目じゃないと思ったのか聞きたいぞ」

「じゃあ、日本出身で年齢は9歳くらいでここはひとつ」

「通らないからな?」

「このお役所仕事! 柔軟に対応しようぜ!」

「ふむ、なら柔軟に身元不確かな人間として取り敢えずで牢屋にでも入れるか」

「すいませんでした」

 

 それは柔軟さじゃないよ、怠慢だよと言いたかったがむしろ怠慢さでいえば身元証明する気のない俺の方なので素直に謝る。しかし、どうしたものか……

 

「はぁ……その子は私が引き取るわ。そういう約束だったしね」

「え、そんな約束してたっけ?」

「手を貸してくれる代わりに三食寝床付きの生活を希望したじゃ……まさか、アリシアを起こすまでのつもりだったの?」

 

 はい、ぶっちゃけ身元が不確かなことよりこれからの生活について頭悩ましてました。あれ、あの約束って期間限定じゃないの?

 

「こっちは少なくともあなたが自立できるまでは衣食住くらい面倒みるくらいのつもりで引き受けたのだけど……自分がやったことに対して見合った対価は求めなさい、どこかで付け入られるわよ?」

「プレシアさんにとってはそうかもしれんけど、俺にとっては四次元空間開いてただけなんだけど……」

 

 でも引き取ってもらえるなら生活面に関しての心配がなくなった、俺にとってのハッピーエンドが今ここに成立した!

 

「まぁ、どちらにせよこれから裁判だからな。もちろん君もだ」

「うん?」

「今回の……仮称ジュエルシード事件についての裁判だ。こちらとしてもなるべく君たちの事情を配慮した上で罪が軽くなるよう尽力するが、そのためにはまず裁判だ」

「あー、そんなとこは地球と一緒なのね」

 

 ついでに今の今まで犯罪って感覚が薄かったけど、現在絶賛犯罪者なのだ。後悔はないけどね? 前科一犯と相成りました。

 とりあえず裁判中に余計なことを口走らないように注意しようと思う。

 

「あ、あの!」

 

 と、話に一段落ついたところでフェイトから艦長にひとつお願いを伝えた。簡単なことといえば簡単なこと、けど現状裁判待ちの犯罪者って扱いな自分達には難しいんじゃないかと思うんどけど……

 

「うーん、いいでしょう。そんなに時間はとれませんがいいですね?」

「はい、ありがとうございます……!」

 

 あれ、通った。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 翌日の昼頃、少しの間だが地球へ戻ってきた。というのもフェイトのお願いが理由なのだが、なのはって子にお別れを告げたかったようだ。全力でぶつかり合って何か通じあったのかね?

 俺とアリシアも連れてこられたのだが遠巻きに、なのはとフェイトの会話を眺めている。

 

「やー、感動のお別れだね。姉としては妹に友達ができて嬉しいかぎりだよー」

「肉体年齢が妹の方が上っぽいけどな……いや精神年齢的にもそうじゃないのか?」

「ふっふっふー、実は亡くなってる間も霊だか意識体みたいな感じで時の庭園にいたっていったら信じる?」

「あー、なくはないんじゃないかね。魔法があるなら何があってもいいや」

「投げやりというか開き直ってるねぇ、もっと疑うもんかと思ったけど」

「あるがままを受け入れてるんだよ」

 

 だってアリシアって5歳で亡くなってたって聞いたけど5歳児にしては精神年齢がやけに高い感じがする。少なくとも5歳のそれではない。

 それこそ、本当に大型魔力駆動炉から発生した謎の粒子Xで死亡と見分けのつかない仮死状態なだけだったかもしれんし俺にゃ何もわからんですよ? で、そのわからんことを深く知るつもりもない。たぶん理解できないし、知る必要もないからね。

 無事、隣にいるアリシアが生き返った。それだけでオッケー。

 

「それにしても百合百合しいねぇ」

「おい、妹とその友達となる人間の感動のお別れに何てこと言うんだ」

「だってお互いに頬染めちゃってるよ……姉さんは妹の将来が心配です」

「あれ、微妙にデジャヴ」

 

 フェイトも露出度とか百合じゃないかを家族に不安に思われるとは。本人が知ったらヘコみそうだぞ。

 けどバリアジャケットは直そうな、将来にプレシアみたいなナイスバディになるならあの格好はヤバい。

 

「そーいや、アリシアは魔法使えんの?」

「いやー、それが母さんの魔法技術方面についてはミソッカス程度にしか遺伝しなかったみたいで……デバイス弄る技術とかそっち方面の頭の出来は、ばっちし遺伝したんだけどねー」

「ミソッカス魔力の仲間ができた」

「ミソッカス魔力コンビ、いぇーい!」

「いぇーい!」

「君たちは何をいってるんだ……」

 

 実はさっきから数歩下がったところにクロノも待機してます。ハイタッチしてる俺たちを呆れた目で見られてる気がしないでもない。

 クロノから目を逸らしフェイトたちを見るとリボンを交換してる。いいね、友情だね。百合じゃなくて友情だね……友情、だよな?

 

「そろそろ時間だが君たちはなのはに挨拶しなくていいのか?」

「俺なのはと、まともに喋ったことないから特に言うことないんでいいや」

「私もないかなー」

「そうか」

 

 クロノが時間がきたことを伝えに行く。それに着いていこうとすると不意に服を掴まれ首が絞まった。

 

「コヒュッ! ゴホゴホッ!」

「あっ」

 

 あっ、じゃないから。たぶん止まってほしかったんだろうけど、もう少し方法があったろ。

 むせるむせる、若干涙目になってる気がするけどきっとそんなことないから。原因のアリシアをジト目で睨んでなんか、断じていない。

 

「えっとー、何かごめんね?」

「いいけど……どうした?」

「ん、なにが?」

「止めた理由だよ、まさか首を絞めるためじゃないだろうな?」

「あぁそうだ、違う違う。お礼を今のうちに言っとこうと思ってね、期を逃すと言う機会なくなりそうだし」

 

 礼? アリシアって生き返ってから間もないけどなんかしたっけか……昨日にリンディさんのお茶用砂糖を塩に変えて――死ぬかと思った。笑って許してくれると思ってたんだ。思ってた……確かに笑った、けどケタケタ笑いながら羽を生やして追ってきたのは予想外過ぎた、廊下の人をバレルロールで避けて一切減速しないまま角を曲がり常に笑いながら追ってきてた。あれはアースラ七不思議がひとつに追加されてもいいんじゃないだろうか?

 

「その生き返らさせてもらったことだよ。基本的に大部分を母さんがやったってわかってるんだけど、ナナシがいなきゃたぶん成功しなかったって母さんが言ってたし」

「あ、そっちか。まぁ遠慮せず礼は受け取っとくよ。あと出来れば悪戯に巻き込まないでほしい」

「いやいや、それはこれからが本番だよ。次は備品にある予備のデバイスを弄ろうかと」

「やめようか、ほら俺がもらった超初心者用デバイスをあげるから」

「ほほう、まずはこれで練習してから万全の状態でヤれと?」

 

 やめて、超やめて。クロノも不穏な空気を読み取ったのかこっち見てるから!

 デバイスの先端から醤油出るとかよくない? ってよくないからな。というか調味料系も地球……おもに日本と似てる。わかりやすくてありがたいけど、何故かデバイス関連は英語多くて辛い。正しくはミッドなんちゃらってとこの言葉らしいけど、いやいやもうあれは英語だろ。

 

「魔法にもミッドとベルカって種類があるんだけどね、基本的にはミッドかな」

「両方合わせたハイブリッドとかいないの?」

「んー、もしかしたらいるかも。出来ないことはないはずだし。私も目覚めたばっかでまだまだ知識が足りな……っとクロノが呼んでるよ」

 

 ん、ホントだ。こっち向いて腕組んでる、にこやかにおいでおいでと手を振ってもいいのに。

 

「帰りますか」

「ああ、だがその前になのはから一言あるそうだ」

「――高町なのは狙い撃つぜ! とか?」

「だから撃たないってー!」

「君は少し黙ろうか、話が進まん」

 

 申し訳ない。

 

「ええっと、ナナシくんとアリシアちゃん。今回はあまりお話しできなかったんだけど」

 

 お話しってフェイトとやってた魔法や砲撃入り乱れるアレのことならむしろ出来なくてよかったんだけど……っとクロノからの視線が痛いので口は開かずにいよう。

 

「また今度、いっぱいお喋りしようね!」

「うん、よろしくねなのは!」

「ういー、まぁ俺とフェイトはまず裁判だけど……クロノ任せた!」

「丸投げか」

 

 ふははは! 裁判みたいな小難しいことはわからんのだ! 転送用の魔法陣がアースラから展開されているので乗っかる。

 うーん、アルフに転送されまくって酔ったことを思い出す……あれがなければ、今どうなってたのか。管理局に拾われて身元不明とわかって……うん、あんま楽しくなさそうだなぁ。

 そう思えばアルフには感謝だし、ジュエルシードを四次元空間にしまってよかった。

 

 さって、アースラに帰って飯を食べよう。タダ飯万歳!

 

「そんな君には裁判の手続きの資料をプレゼントだ」

「アリシア、一人仲間外れで寂しかろう。そんなあなたには俺の裁判の資料半分をプレゼント!」

「いらないから」

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
アリシアとプレシアはこのままフェードアウトすることなくきっと「アリシア(プレシア)がいないとこの結末はならなかったかなー」って感じにしたいです。特にA`s。
ナナシの必要性? 知りません。


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09.後日談その二 ~Eを司りし二人~

 アースラに戻ってから数日。裁判の手続きなど色々あったけど一番目立ったことといえば魔力ランクの測定だ。

 まずはフェイトが測ったが、魔力ランクがS+の魔導師ランクはAAA+らしい。よくわからんけどメッチャ強そう。

 

「で、なんでランクがふたつもあるの?」

「わかりやすくザックリと言えば魔力ランクが自分のリンカーコアの魔力総量、魔導師ランクが総合値だね」

「ほー……で次はどっちから測るよ」

「うーん、ミソッカス魔力の第一人者としてナナシに任せるよ」

「よし、見てろ。フェイトくらいに軽く捻り潰されるくらいのランク叩き出してやるぜ!」

「捻り潰されるんだね……」

 

 当たり前だ、そもそもあの速度目で追うのが辛い。

 

「よーし、まずは魔力ランクね……あの的に最大魔力の攻撃放てばいいの?」

「そうだ、別に外しても構わない」

「了解」

 

 超初心者用デバイスを構える。こいつもそろそろアリシアが弄りそうなので最期の魔法になるやもしれん……最後じゃなくて最期に。

 

「あと砲撃魔法なら一番測りやすいんだが」

「撃てません! というか攻撃魔法フォトンバレットしか知らない」

「……そうか」

「なんで俺そんな可哀想なもの見る目で見られてるの?」

「……ナナシ、私も教えるからもう少し覚えよう?」

 

 フェイトにまで哀れみを込めた目で見られてどう立ち直ればいいのかわからない。俺が魔法知らないとこから来たこと忘れてない? どっかの高町さんってスーパーマジカルガールのせいで感覚狂ってない?

 

「まぁ、取り敢えず早く測ろうよー」

「釈然としないけど……フォトンバレット・出来るだけフルパワー」

《Photon Bullet as fullpower as possible》

 

 水色のフォトンバレットが発射され的を貫く。見た目が派手さに欠けるなぁ、プレシアにフォトンバースト習っとけばよかった。

 

「これは……!」

「えっ、なんかあった?」

「いや、これは……魔力ランク聞きたいか?」

「もうこれが勝ち組フラグじゃなくて負け組フラグってわかる自分が嫌だ」

 

 いいから聞かせてくれ、後ろでアリシアがニヤニヤしてやがるけど。フェイトなんて両手合わせて目をつむって何かに願っている。

 

「Eランクだ」

「い、Eランク……? クロノ何かの間違いじゃないの!? だって、ナナシはジュエルシードの魔力を!」

「信じがたいかもしれないが……愕然たる事実だ、それもギリギリのEランクだ」

「い、Eランク、フ、フヒッ! プッフゥー! アハハハハ!」

 

 なんかクロノとフェイトが深刻な悲痛そうな顔をしてる傍らアリシアは爆笑している。出来ればふたりも笑ってくれた方が気が楽なんだが……別に俺は気にしてないのにふたりが無駄に深刻そうにしてるせいで俺までへこみそうだ。

 あとジュエルシードに関しては四次元空間に突っ込んだだけですんで魔力関係ねーのよ。

 

「いやー、一般の武装局員はD~Cランクが一番多いんだけど……あ、いやこれは魔導師ランクだっけ? それにしてもEランクかぁ、強いて言えばE-か」

「武装局員になるつもりないし問題ないけど……いや、強いて言わなくていいからな」

「よっし! 私もいっちょやりますか!」

 

 アリシアはアースラから貸出しされた一般的なデバイスを使うようだ。

 

「フォトンランサー・アサルトショットー!」

《Photon Lancer assault shot》

 

 え、なにそれ。色は俺と同じ水色、というか空色か、フェイトのフォトンランサーのような円錐の魔法弾が10発ほどマシンガンのように撃ち込まれる。的が蜂の巣になっている。

 

「ふっふーん、フェイトのフォトンランサーを弄った半分オリジナルな魔法だよ!」

「え、なにそれズルい。俺なんて回復魔法で身体を輝かせることしか出来ないのに」

「逆にそれも凄いよ、原理どうなってんの……?」

 

 俺が聞きたい、全身一気に治るようにしたかったのにどうしてこうなったのか。

 

「魔力ランクはどうだったー?」

「……ギリギリDランク」

「よっしゃー!」

「裏切り者!」

「手前のEランクだ」

「ぎゃー!?」

「ふははは! ようこそ、おかえりミソッカス魔力!」

 

 フェイトはどうやって姉を慰めようかとオロオロしてるけど指差して笑えばいいと思うよ? 絶対本人気にしてないから。

 

「まー、私の本職って頭使う方だしね。次は魔導師ランク? どっちからにしようか」

「ああ、それなんだが二人まとめて行う」

「ふーん、どうやって測るん?」

 

 そもそも総合力って測れるのか、そんなん実際戦わないとわかりそうも……戦わないと?

 後ろを振り向けば、バリアジャケット姿なフェイトさん。ジャキッとバルディッシュを構えてヤル気満々ですねチクショウ。ササッと俺たちはフェイトから距離を取り座り込んでコソコソ話す。

 

「おい、お前の妹だろ。どうにかしろよお姉ちゃん」

「そんな……私には妹と戦うことなんて出来ない!」

「戦力的に?」

「もちろん」

 

 おい、見ろよフェイトったらあんなに顔を輝かせて楽しみそうにしてるぜ……頼むからランク差を思い出しておくれ。

 

「ちなみにフェイトの魔法は母さん譲りでデフォルトで電気付与だから痛いよ……」

「その母さんにフォトンバレット喰らったときには一撃で気絶したことあるから、死んだかと思った」

「正直私は、魔導師ランク圏外でいいから帰りたいよ!」

 

 俺もだよ、フェイトとなのはの戦闘を見たことあるから余計にだよ。なのはの砲撃で印象薄かったんだけど、よくよく考えればあの砲撃とまともにやり合ってたんだよ?

 せめて相手をランクCとかDにしてほしい。なんでEランクふたりが魔力ランクS+に挑まないといけないのか。バイクにママチャリで挑むようなものじゃん!

 

「ううん、この戦力差はトイレットペーパー1枚が滝に挑むようなもだね」

「なんとEランクがふたりいるからトイレットペーパーが2枚に!」

「やったね! 犠牲者が増えるだけでなんの足しにもならないよ!」

「……えっと姉さんとナナシは相手が私じゃ嫌だったかな……? だったら、あの代わってもらうようにお願い、してくる……けど」

 

 そんなことを話しているとフェイトが凄く悲しそうな声でそんなことを言ってきた。心が痛い……アリシアと俺は生唾を飲み込み目を合わせて頷く。

 ――覚悟を決めるときが来たようだ。

 

「そんなことないよ! フェイトと戦うのは初めてだからねー! どうするか作戦たててただけだよ! ねっ、ナナシ!」

「そうともさ、Eランクだからって甘く見てると後悔するぜ!」

「そうだったんだ、うん! 油断せずにいくね!」

 

 フェイトさんったらキラキラ目を輝かせちゃってもー、俺には子供が玩具をゲットして喜ぶ顔というか餌を見つけた肉食獣の顔に見える。冷や汗が止まらん……

 

「アハハー、タノシミダナー。ネー、ナナシー?」

「ウン、チョウタノシミー。アリシアガンバローナー」

「声が震えてるし尋常じゃない汗だが大丈夫か……?」

 

 もはや魔導師ランクなんて関係ない、これは男とお姉ちゃんの意地だ。別に実際に死ぬわけじゃない、痛いだけだ。

 

「……じゃあ始めるが、本当に大丈夫か? 凄く震えてるぞ」

「くどいよ。武者震いだし問題ない、ね!」

「楽しみすぎて、な!」

「震えるのが主に膝なのはツッコミを入れないべきか……」

 

 ルールは簡単。初めの5分はフェイトは回避しか行わないらしく、そこで俺たちの攻撃や捕縛の動きを測定。次にフェイトが5分後にアタック開始、俺たちは死ぬ。

 じゃなくて、俺たちの回避やシールドの使い方を測定するらしい。

 

「ナナシ、私この戦いを無事に終えたら……ううん、この戦いを乗り越えてから伝えるね」

「やめろ、ここぞとばかりに死亡フラグを建てるな。作戦とかないの? 勝てなくていいから楽に乗り越える方法とか」

「うーん、時間とかが余りにも無さすぎて……」

「そろそろ始めていいか?」

「どぞー」

「いいよー」

「はぁ……では始め!」

 

 その合図とともに俺たちは一斉に攻撃魔法を繰り出す! ――なんてこともなく突っ立っていた。取り敢えずデフォルトとしてデバイスに登録されているバリアジャケットは展開したが……

 いやね、即席タッグでどうしろというのか。ひとりよりマシだけど戦闘経験ゼロなふたりよ?

 

「んー、じゃあ一番槍ナナシいっきまーす」

「君の死は無駄にはしないよ!」

 

 そう言ってビシッと敬礼をするアリシア。縁起でもねぇな、おい。行くだけで逝かないからな?

 

「フォトンバレット」

《Photon Bullet》

 

 単発で飛んでいくフォトンバレットだが当然ながら簡単にかわされる。まー、弾速も遅いので当然である。

 けど、距離が空いてるから当たらないなら距離を詰めればいいじゃない。だって5分間はフェイト攻撃しないもの!

 ダッシュで近づくがフェイトは動こうとしない。気にせずにもう一度魔法を放とうとするとアリシアから声がかかる。

 

「ナナシ伏せて!」

「あっとぉ!?」

「――ッ!」

 

 振り返るとフォトンランサー・アサルトショットが撃ち込まれギリッギリのタイミングで上体を逸らし……いわゆるブリッジで避ける。おっふ、一発腹にカスった!

 さすがにこれにはフェイトも予想外だったのか避けるタイミングがワンテンポ遅れた。

 

「ナナシ追撃ぃぃぃ!」

「無茶をおっしゃる、けど撃つ! フォトンバレット!」

 

 とか言いながら俺もブリッジの体勢から魔法を放つ、腹に魔法陣を展開して。

 

「えぇ!?」

「キモい、キモいよナナシ!」

 

 

 フェイトは表情を驚きに染めつつもバルディッシュで斬り裂く。というかキモい言うなし、魔法撃てっていったのアリシアだろうが。

 

「うるせー! 魔法とかいうトンでも技術使ってるくせに、魔法は杖からしか出せませんなんて固定概念に縛られてる時点で負け組なんだよ!」

「な、なんだってー!?」

 

 割りと本気でビックリした顔をしている。余計なことをいってしまった気がしないでもない。

 

「残り1分でフェイトの攻撃禁止解除だ」

「延長は出来ませんか?」

「出来ると思っているのか」

 

 思ってないけど一縷の望みを賭けて聞いてみただけ。ほら、何事も行動を起こさないと始まらないしね?

 そんなことを考えながら残り30秒になったとき俺とアリシアは全力ダッシュでフェイトから離れる。

 作戦? ないよ、1秒でも長く生き残るため以上の意味はないよ!

 

「ナナシ、四次元空間のゲートでフェイトの攻撃防げないの?」

「あれなぁ、展開するまでに1~2秒かかるから」

「遅い、スロウリィー過ぎるね……」

 

 しかもあれ展開してから動かないからな。フェイトに対しては本気で効果が薄い、そもそも使い方が違う。あれはただのデカイ倉庫なんだ。

 

「残り15秒、フェイトさんがバルディッシュを鎌の形に変えました。直接殺る気満々のようですねアリシアさん」

「ええ、こちらとしてはこの距離を保ちたいのですが私の妹にかかれば1秒とかからないでしょう……」

 

 だな、ちょうど今15秒たったんだけど目の前にフェイトがいるし。振りかぶられた鎌が胴を薙ごうとする。

 

「ぉぉぉ! 弾速加速付与試験魔法プログラムα――ファイア!」

《――fire》

 

 俺はとっさにアリシアを抱え自爆魔法第一号を発動し無理矢理距離を取る。普通にシールド張れよって話なんだけどたぶん斬り裂かれるから! 魔力量とか技の錬度の差が問題で!

 

「やるね、ナナシ! フォトンランサー!」

「ラウンドシールド!」

 

 痛ァ! とっさに張ることが出来たシールドだが、防ぎきれずに左腕に当たった。痛みで一度伏せた顔を再び上げるとフェイトがいない。

 

「危ないナナシぃ!」

「ぐぉ!?」

 

 アリシアの蹴りが俺の頭部にヒットし盛大に転び、なんてことしやがると言いかけたが……俺の頭があったところにバルディッシュの鎌が通過するのが目に映った。

 アリシアは俺を蹴ると同時に捕縛魔法を発動するがフェイトは既にそこにおらず距離を離されている。

 

「アリシアさん、アリシアさん」

「なんだいナナシくん」

「そろそろ魔力がヤバい」

「奇遇だねー、私も体感で残量半分きったよ」

 

 俺はさっきの自爆魔法のダメージでガッツリと持ってかれたのか気持ち的には3割以下。ゲームならそろそろ赤ゲージである。

 

「ん、フェイトが鎌じゃない状態に戻したけどなんでだ……?」

「あっ、シーリングモード……あー、詰んだね」

 

 待て待て、動けなくなってるぞ……頭上では帯電してるような音が鳴り響いている。俺も今更ながらわかった、詰んだ。あとこれオーバーキル過ぎないか……!?

 

「サンダーレイジ!」

《Thunder Rage》

 

 目の前が真っ白になった。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 気がつくと俺とアリシアは医務室に運び込まれていた。

 

「死ぬかと思った」

「姉の意地で生き残れた……」

「あれ最後なんで動けなかったのかわからないんだが」

「始めに接近されたときにバインドを仕掛けられてたんだろうねー」

 

 そういうことか、抜け目ないね。もう少し手加減してくれてもよかったのに……そういや、油断するなとかいったバカがいたね。

 誰だろうホントに、後先考えないバカは駄目だな……俺だね。

 

「やっぱりEランクの私たちが楽して強くなろうと思ったらユニゾンデバイスをつくりたいところだね」

「努力せずに楽して強くなろうとしてる時点で駄目人間さが伺え……え、なにユニセフデバイス? 皆から不要になったデバイスでも寄付してもらうのか?」

「ユニゾンデバイスだよ、えーとそもそもデバイスには何個か種類があってね」

 

 アリシアの解説によればデバイスは大まかに別けてるとストレージデバイス、インテリジェントデバイス、アームドデバイス、融合型デバイス。

 ストレージデバイスはミッドチルダ式魔導師の大半が扱うデバイス。意志を持たないもので役目としてはあらかじめ魔法のプログラム詰め込んでおく記憶媒体。

 さっき、俺やアリシアが使っていたものもこれに分類される。これが一番管理局員の多くが所有しているスタンダードなもの。

 

 インテリジェントデバイスは意思をもったデバイスらしい。魔法の発動の手助けとなる処理装置、ついでに状況判断を行える人工知能まであるので、その場の状況判断をして魔法を自動起動させプロテクションなどの魔法を発動したり、持ち主の性質によって自らを調整することもある。ただストレージよりもピーキーで、扱いが下手くそな俺みたいなのが使うとデバイスを使うのではなくデバイスに使われる図が完成する。あと高い、値段的に高い。

 ちなみに人工知能のおかげか会話もできるらしい。

 

「そうか、たまにフェイトがバルディッシュと会話してるように見えたのは友達がいなさすぎておかしくなったんじゃなかったのか。よかったよかった」

「フェイトが聞いたら怒るよ……あとアームドデバイスはその名の通りガッチガチの武器型デバイスだね」

 

 アームドデバイスは基本的に武器性能を特化させてる反面、魔法関連のサポート機能は劣るらしい。

 

「あとはカートリッジシステムがあったりとかするらしいけど……資料がなさすぎてなんとも。母さんミッドチルダ式だし、母さんの手持ちの本じゃベルカ式のデバイスについて調べるには限界が見えてきたよ……」

「そのまま諦めればいいのに」

「それで最後に融合型デバイスなんだけど、これがさっき言ってたユニゾンデバイスね」

「スルーしやがったな」

 

 ユニゾンデバイスはインテリジェントデバイスのを更に極端化したものらしい。で、一番の特徴が魔導師と融合し魔力の管制、補助を行うとのこと。そのことにより他のデバイスをぶっちぎる性能を発揮して感応速度や魔力量を増加させられる。

 けど、その分手間やリスクなどがかかるって言ってた。ごめん最後らへん面倒になって聞き流してた。

 

「だがら手始めにデバイスをつくっていこうと思います。それが成功したら融合型デバイスを」

「ガンバ、俺は応援してる」

「ナナシも手伝って、暇でしょ?」

「裁判あるから、微妙に俺の未来がかかってるやつ」

「準備の資料書く以外にすることは?」

 

 クロノとプレシアが頑張る、のを応援してる。

 

「余計なことをしないことをするのに忙しくてだな」

「よーし、行くよー。まずは資料探しだー!」

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
ちょっと今までより文字数が多く……デバイスについて長々書きすぎました。これからちょいちょいこんな長さになるやも。
このままアリシアはナナシ引き摺りつつ突っ走っていきます。


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A's編
10.ドロップ・ドロップ


 6月、裁判が始まった。

 8月、フェイトたちより一足も二足も先に終わった。やったことが最後の最後に手伝いをしたことのみだったことや、アリシアを蘇生したという事実をプレシアが隠蔽し不治の眠り病を治したということに事実をねじ曲げられたことが大きかった。

 このことにより、俺がやったのはプレシアにお願いされジュエルシードの魔力を廃棄する協力をしたことのみになった。結果として判決は保護観察処分、実にスピーディーに終わった。お前に裂いている時間はないと言わんばかりの早さだった。2ヶ月でもそれはもう早いのよ?

 

 プレシアとフェイトに関してはジュエルシードを強奪、使用したことやアースラに魔法を撃ち込んだことで裁判が続いているがクロノ曰く保護観察処分で落ち着くだろうとのこと。ただ普通裁判は長引くものなので、まだ時間はかかるとも言っていた。

 

「ナナシが異常に早いだけだよね」

「クロノにもそれ言われた」

 

 フェイトたちが遅いわけじゃないし、速さに定評のあるフェイトが「私が遅い? 私がスロウリィ!?」なんて言ったわけもない。

 

「なによりやったことが違法なのかどうかスレスレ過ぎて困ってた」

 

 そもそも魔法文化のないとこの人間だったから「違法だと知らず……ただ娘の病を治す協力をしたかっただけなんです」って言ったら通じた。プレシアの入れ知恵だよ。

 話聞いてて違法ってことはわかってたけど証拠がないからノーカンノーカン!

 この2ヶ月の間で初夏にはフェイトとアルフの契約記念日があったりしたけど、それはまたの機会にでも。ひとつ印象深かったのはドッグフードをネタでアルフに渡したら普通に受け入れられたりした。

 

 アリシアと話していたデバイスの話については、裁判のとき以外は基本的に暇なので結局手伝ってた。やったこととしては手始めに俺の超初心者用デバイスが改造された。

 最終目標であるユニゾンデバイスを調べる過程でベルカ式のデバイスを調べていたんだが、取り敢えず俺のデバイスの改造でベルカ式を無理矢理組み込んでみた結果見事に処理機能がダウン。

 代わりにミッド式もベルカ式も使えるデバイスになったっぽいけど、俺がベルカ式知らないし意味ない。

 

「あれは悪かったと思ってるよ。まぁおかげで何となくミッドとベルカの魔法の差はわかったし……あとは資料とか欲しいね、カートリッジシステムってのが手持ちの資料じゃどうにもなー」

「適当にカードリッジつけてみたらいいんじゃね?」

「暴発して終わるよ」

「爆破オチなんてサイテー!」

 

 何はともあれ、そういう資料が置いてるとことかないの? 図書館みたいなやつ。

 

「無限書庫っていう整理もなにもしてないくせして、大抵の書物が揃ってる図書館があるんだけど無許可に入れないのだ」

 

 うだーっとダレてるな、本格的に行き詰まってるようだ。そのまましばらくゴロゴロしながら唸ってたアリシアは急に動きをピタッと止めた。小刻みに震え……

 

「うがぁぁぁー!」

 

 噴火した。机の上の資料を撒き散らし、髪の毛は錯覚ではなく普通に逆立っている。飴でも食って落ち着けよ、四次元空間にしこたま入れて常備してる飴を渡そうとするが、

 

「私の母さんはこう言いました! ちんたら悩んでても何も変わらない! 無限書庫立ち入り許可の取り方調べてくる!」

 

 そう言い放ちアリシアは部屋から駆け出していった……言ったのプレシアかよ。まぁ、歴史に残りそうなことしてるけど正直歴史に残せない。

 それにしても図書館か、海鳴市で初めて目覚めたときも情報収集に使ったな。直後に調べた意味がなくなったが。

 

「あ、図書館で思い出したけど車椅子少女は元気にしてるだろうか……」

 

 懐かしいな、魔法が使えるか聞いて変な顔をされたことは記憶に残っている。一方的に覚えてるだけだろうが海鳴市で初めて話した人間ということもあり、思い出すと凄い会いたくなってきた。奇跡も魔法もあったんだよって伝えたい、また変な目で見られること間違いなし。

 ――ふむ、

 

「俺は言います、思い立ったら即行動」

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 やってまいりました地球、日本、海鳴市。転送してもらった。一応裁判も終わってて、地球は俺の故郷ということになってるので許可はあっさりおりた、対外的には帰郷となってる。

 取り敢えず図書館に到着した。何となく顔を見たくなって来たはいいけど車椅子少女が図書館にいるとは限らないって今気づいたなんて事実は存在しない、しないのだ。

 

「最悪、ここらへんで店を開いてるっていう翠屋にお土産買いに行ってみよう」

 

 フェイトとなのはがやり取りしてるビデオメールでそんなこと言ってた。喫茶店だかなんだかを親がやってると。今回はしっかりと金も持っているし安心感が違う。

 

「……あ、見っけ」

 

 車椅子少女を発見。相変わらず棚の上の本を取りにくそうにしてる。普段なら見て見ぬふりをするところだけど、懐かしさでテンションがちょっとハイになってるんで話しかける。

 

「――もしもし、俺魔法使い。今あなたの後ろにいるの」

「あー、結構です。うちにはもう魔法使いが4人おるんで」

 

 まさかの切り返しである。

 

「というか、誰やの……あっ、いつかの魔法使いに憧れてた人や。あのあと調べてんけど30歳まで彼女つくらずにおったらワンチャンあるみたいやで」

「それはまた違うから、割りと不名誉な魔法使いだから。それはそうとお久しぶり。いつかの節はお世話になりました」

「久しぶりやねぇ。あれから見かけんかったけどどうしてたん? 魔法は見つかった?」

「それはもう奇跡も魔法もあることを体感してきた」

 

 目の前の少女はニヤニヤして聞いてる。聞いといて信じてないな?

 さっきまで車椅子少女が取ろうとしていた本を一段上の棚に直して話を続ける。

 

「あっ、ちょ!?」

「目標が高い方が人間成長するよね」

「物理的に(たこ)うしてどうするねん!」

「え、達成が困難になればなるほど達成したときの快感が大きくなって喜ぶかと思っての気遣いなんだが」

「どんな変態や、いいから魔法でも使って取ってえな」

「人目があるとちょっと」

 

 夏休み中ということもあって図書館も人がいるのだ。そんななか魔法を使えば悪目立ちしすぎるので、普通に本を取る。

 

「きゃー、そう言って人目のないところで何するつもりやのー?」

「小学生はサービス適応外となっております。十年後に出直せ車椅子少女。はいよ」

「あんたも小学生やろ。ありがと……って車椅子少女って私か?」

「もちろん、気分を害したなら全身発光土下座で謝る」

「別にいいけどそれは見てみたい。あと私は八神はやてや、新世界の神様は目指してへんで?」

「俺はナナシ、名無しじゃなくてナナシ。よろしく八神」

 

 今更ながら自己紹介をした。本当に割りと今更感があるけど、俺の場合相手の名前がわからないまま状況が進むことが多かったので、普通に自己紹介しただけで珍しい。なんか末期である。

 

「それでナナシ君は魔法を見せてくれへんの?」

「ごめん、MPが切れてて……飯食わないと無理だわ」

「MP驚きの回復方法やな」

 

 まぁ、腹が減っただけで魔法は使えるんだけど、もう少しでいい時間なので先に昼飯食べたい。

 

「飯を食べてからでいいならちょちょいと魔法の杖を使って見せるけど?」

「ふーん、ならうちで食べるか?」

「ん、いいの? そんな急に行ったら両親が怒るもんだよ?」

「あーっと……両親はおらんくて料理は私が作ってるんよ」

「ごめんなさい、ホントすまん」

「いや、ええんよ。今は一緒に暮らしてる家族もおるし」

 

 それでも謝るべきとこは謝っとくものだ。謝るべきところで謝れなくなると人間終わりだと思う、あと謝れば何とかなるかもしれないじゃん? ……この考え方も終わってるかもしれん。

 

「じゃあ、遠慮なく」

「簡単なもんやし大したものは出せんけどどーぞ。魔法楽しみにしてるで?」

「マジカルなくせしてロジカルなの見せてやる」

「ファンタジックやないんや……」

 

 その後、八神の借りたい本を借り家へ向かった。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 突然ですが問題。ピンク、赤、金色、これなーんだ?

 正解は八神さんの家族の髪でしたー。遺伝子迷走しすぎだろ、おい……たぶん血は繋がってないんだろうけどね?

 ピンクでポニーテールなのがシグナム、金髪なのがシャマル、赤髪ロリがヴィータ。あと狼っぽい犬がザフィーラというらしい……どっかで似た犬だか狼みたような気がする。

 

「どうも、ナナシです」

「MP回復のためにうちでお昼食べるからよろしくなー」

「え、MPですか……?」

「MPを回復して魔法をご覧に入れます、よかったら後一見どうぞ」

 

 全身が空色に発光する奇妙な光景が見れま……あれ、視線が厳しくなった。もともとヴィータからは睨まれてた気もするけど。

 

「八神さん、八神さん。俺ご家族に頭おかしいやつと思われてない?」

「オブラートに言うとお花畑や思われる自己紹介やったね。まぁ、ちゃちゃっとお昼作ってくるさかいに待っといてや」

「え、俺この状態で放置……!?」

 

 非常に気まずい、時には常識人として振る舞うことも必要だと思ったけど……割りと手遅れな気がする。いったいどうしてこうなってしまったのか、転生したときはもう少しマシだった気がしないでもないのに。

 

『お前は魔導師か? 何が目的で主に近づいた』

 

 ……ん? どこからか声がしたか。そう思って八神の家族さんを見るが誰も口を開いてない、ガン見はされてるが。

 

『おい、聞こえているだろう。返事をしろ』

「こいつ脳内に直接……!」

 

 え、何これ魔法? テレパスみたいな、いや誰が話しかけてんのさ。取り敢えず返事……は出来るのかね? ものは試し、やってみよう。

 

『ファミチキください』

『ファ、ファミ……いや、そんなものどうでもいい。何が目的だ』

 

 目的って何のだよ。というかお前が誰だ、勝手に脳内に話しかけてきといて図々しい!

 

『もしもし、テレパス相手間違ってませんか?』

『目の前の相手に念話を使うのに間違うはずがあるか』

『……目の前?』

 

 シグナムと目が合う。指を指すと頷かれる、シグナムだけでなく残りの二人とザフィーラにも頷かれる。あ、八神ったら魔法使いが家に4人いるってマジだったの?

 

『お前念話知らねーのか?』

『使う機会が無かったもので』

『魔法の初歩中の初歩なんですけど……』

『その初歩を知らない事実を突きつけられた俺の気持ちプライスレス』

『ええっ!? す、すみません』

 

 てかアリシアでも教えてくれよ。デバイス知識を叩き込む前にそっちを教えてほしかった。

 

『ええい、そんなことはどうでもいい! 私たちの主に近づいた目的はなんだ!?』

『お昼ご飯、魔法を見せるため、久々に会いたくなった。どーれだ、答えは全部でした! というか主ってなに?』

 

 俺以外の全員が目を合わせ、黙りこむ。端から見れば元から黙ってたけどね? 脳内会話で黙りこ……あ、これ俺だけハブられてるパターンではないだろうか。

 衝撃の事実、念話が使えれば相手が目の前にいても陰口が叩ける。こんなの全然マジカルじゃねぇ!

 

『――もしもし、私の声が聞こえますか?』

『ちょっと黙ってろ』

『はい』

 

 ヴィータに睨みとともに封殺された。5分後話が終わったのか再び念話が通じた。

 

 ――このときの俺には知るよしもなかったのだが、このとき俺が見逃された理由が『念話も知らない魔導師がいるはずもない、というか魔力もほとんど感じられない。本当に魔導師か?』って結論が出たかららしい。泣くぞ。まぁ、八神と同じように地球でたまたま魔力を持って生まれたと判断されたのと八神を主と呼んでる意味を理解してなかったのも大きかったらしい。

 ちなみに現在俺のなかでシグナムは家族を主って呼ぶ変わった人ってイメージが定着し始めている。

 

『すまなかった、私たちの勘違いだったようだ。ただ私たちの存在は口外しないでもらえないか?』

「そうですか、了解です」

 

 もう念話じゃなくていいよね? ちょっと疲れてきた。

 魔法使える家族がいるって口外されるのもね。うん、地球でそんなこと言っても俺が頭おかしく見られるだけだけどもしバレれば暮らしにくくなるしな。

 

「それでナナシ君ははやてちゃんとどこで会ったんですか?」

「図書館ではやてが高いところの本を取ろうとしてるのを見かけて」

「取ってあげたんですね」

「いや、心のなかでエールを送ってそのまま通りすぎた」

「そこは取れよ」

 

 せっかく緩んだヴィータからの視線が冷たくなった。

 

「アハハ、でも今日は取ってくれたやん」

「あ、はやて! 今日の昼飯はなに?」

「冷やし中華やでヴィータ」

 

 ヴィータの目というか表情が180度反転した、すごい爛々としてる。ザフィーラより犬っぽい。

 

「作ってからでなんやけどナナシ君は食べれんもんある?」

「ない」

「そか、なら食べよーか」

 

 いただきますをして食い始めるけど、ウマい。今までそんな冷やし中華を特別美味しいと感じたことはなかったけどこれは美味しい。八神料理スキル高すぎない?

 

「どう? 口に合うとええんやけど」

「はやての飯はギガうまだから口に合わなかったらそいつの味覚が悪い」

「こら、ヴィータ。嬉しいけどそんなこと言うたらあかんよ」

「めちゃくちゃウマイ、ヴィータ食わないならくれ」

「やらねぇよ!」

「そらよかった、MPも回復しそうか?」

「バッチリ」

 

 ぶっちゃけデバイス忘れてきたんだけどなんとかなるよね? 飯食べてる間にアリシアとのデバイス開発室に忘れてきたのを思い出した。

 食べ終わった食器を八神とシャマルが片付けている間に考える。夢を与えるキャッキャッウフフな似非魔法か本当のマジカルロジカルな魔法か……

 

「八神ー、庭でよう。ロジカルさが微塵もないけど小さな子供たちに夢を与えて大喜びさせるような魔法を使って見せようではないか」

「ほほー、期待してるで」

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 結論、はやては大喜びした。いや、普通にデバイスなしの一か八かでフォトンバレットとか使ってもよかったんだけど爆破オチが見えたからやめた。

 代わりに空から飴を降らせた、種は簡単。四次元空間を上空に展開し、しこたま入れてた飴を落としまくった。

 

「確かにこれは夢があるな! 飴の雨や!」

「これは魔法、なのか……?」

「一応、きっと魔法」

「いいですねー、これ」

「なぁ、この飴貰っていいのか!?」

「どうぞどうぞ」

 

 我ながらいい発想だと思う。平和的でとてもいい、魔法って見て知ってから基本的にバトルばっかだったしね。庭ではやてとヴィータが飴を集め、それを残りの面子が眺めている……庭で遊ぶ孫を眺めるお爺ちゃんな気分。

 

「私たちの魔法とはかなり違うな」

「どんなの使ってるの?」

「レヴァンティン」

《Jawohl.》

 

 シグナムの手に剣の型をしたデバイスが展開された……魔導師じゃん。なんか八神家には色々事情がありそうなんで、いつも通り見て見ぬふりでいこう。

 

「どうやって使うの?」

「ふむ、面白いものを見せてもらった礼にひとつ見せてやろう。派手なものは見せれないが……カートリッジロード」

《Nachladen》

「パンツァーガイスト!」

《Panzergeist》

 

 柄がスライドし薬莢らしきものが弾き出される。そしてシグナムさんは赤紫の魔力っぽいものに包まれていた。

 

「こんな感じだ。攻撃魔法ともなれば派手なんだがここで使うわけにはいかんからな」

「ということは防御系の魔法?」

「ああ、私たちは基本的に戦闘のための魔法しか使えないからな……お前のアレはいいと思う」

「ですかね、なんでも使いような気もしますけど」

 

 まぁ、アレは小学校とかそのあたりの年齢には大受けすると思う。実際それくらいの年齢っぽい八神とヴィータは喜んでたし。

 落ちている薬莢を拾ってみるけど大きい。

 

「記念にこれもらっていいですか?」

「別に構わんがそれだけでは何にもならんぞ?」

「問題ないです。では、ありがたく」

 

 男の子はこういうのに憧れるんだって、剣に銃のカートリッジとか意味わかんないけどカッコいいじゃん。個人的には飴よりもそっちがいい。

 

「さて、八神ー。そろそろおいとまさせてもらうわ」

「んー、そうか。面白いもの見せてもろうてありがとうな」

「こちらこそごちそうさま、ちょっと次いつ来れるかは未定なんだけどまた機会があればよろしく」

「ならまたそのときには魔法見せてな」

「次は缶詰でも降らそうか」

「止めい危ない」

 

 ふははは、たぶん俺もケガするしやんない。結局自爆じゃねぇか。

 

「じゃあ、また」

「また、機会が合えば」

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
何とか八神家に絡ませました、結構無理矢理ですが気にせずレッツゴ。ザフィーラ喋れさせれなくてごめん。
あとシグナムたちと戦闘になるパターンを考えたんですがどうやっても負け確定ルートしか無かったので断念。
A`s本編スタートまであと4ヵ月弱、アリシアとぬるぬる進めたい。


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11.やり直しと生き返り

 八神家より帰宅したらドヤァって顔してアリシアが無い胸はってた。どうやら無限書庫の許可証が取れたみたいだ。

 なのでカートリッジを投げつけたら数秒停止したあとに詰め寄ってきて胸元掴まれた。プレシアみたいに頭突きするなよ?

 

「ナ何、なんなななナ、ナナシ!」

「落ち着けよ、ほら整備用オイルでもイッキ飲みして滑舌よくしようぜ?」

「潤滑油だけにね! ってうるさいよ! これ、カートリッジじゃん! どうしたの!?」

「詳しくは言わない約束で貰った」

 

 初めはカッコいいからって理由だけだったけど帰ってきてから思い出した。

 

「ぬぬぬ……デバイスを実際に見てみたい。すごく見てみたいけど」

「嘘は吐くけど約束は破らないようにしてるんでごめん」

「はぁ、仕方ないか。カートリッジ貰えただけラッキーと考えるよ!」

「イエス、ポジティブシンキング!」

「いぇーい!」

 

 手を掲げてハイタッチ。

 晩飯を食べて一息ついてからカートリッジの構造解析を始める。プレシアにフェイトたちは今日は本局泊りである。

 

「あ、そうだ。ナナシ飴ちょうだい、これから頭使うし糖分が欲しい」

「在庫切れ中」

「なんで!? この前かなり買い込んでたじゃん!」

「カートリッジの代償みたいな感じで無くなった」

 

 実際は順序が逆だけどね。なら、仕方ないかーと言いつつ機材を引っ張り出してくるアリシア。

 ちなみにここはプレシアがミッドに買った家でデバイスだけじゃなくて機械弄りのための作業部屋である。

 実はプレシアさんってチョーお金持ちらしい、あの事故までの間にも発明で特許取ったりして稼いでたと言ってた。おいくら持ってるか聞いたけどショックのせいか記憶に残ってない。

 

「さーて、手始めにこれのコピー作りますか」

「なんだ、そのままこれを実験に使って壊してやっちまったー! ってなると思ってたのに」

「そんなことやらないから……んー、素材は別段特別なもの使ってないね」

「魔力を込めておけるとこは?」

「そこがわからないから実物を持ってきてくれて助かったのです」

 

 許可をせっかく貰ったので無限書庫の資料から探してもよかったらしいが、そうすると時間がかかりそうとのこと。だからカートリッジのコピーを作ってから無限書庫に行くことにする。

 億を越えるであろう資料があるくせにジャンル分けすらされずにいるようで、しかも書庫内で遭難する可能性もあるらしい。どんだけだよ、無限書庫。

 

「中の構造確認するからスキャナー取ってー」

「ほい」

「うん、これバーコードスキャナーだよね。違うから」

 なんであるんだろうな? 今度は必要とされてる方の冷蔵庫サイズの車輪付きスキャナーを運ぶ。仕組みはよくわからないけど3Dプリンター的なものじゃないかと勝手に解釈してる、たぶん違う。

 

「はいよ、本物のスキャナー」

「ありがと、あれも本物っちゃ本物だけどね」

「で、構造はどう?」

「そんなに複雑じゃないね。そもそも量産しないといけないものだし簡単なものだろうとは予想してたけど」

「へぇ、レントゲンみたいなの考えてたけど3Dなのね」

 

 空中投影型のディスプレイにカートリッジの構造が出ている。

 

「じゃ、軽く10個ほどつくってみますか!」

「アリシアさん? もう22時過ぎなんですがそれはいつまでやるんですかね?」

「終 わ る ま で」

「ですよねー!」

 

 そうベルカ式のデバイスをつくることが最終目的なわけではなくただの通過点なのだ。こんなとこでちんたらしてられない!

 ってことなんだろうけど急ぐ必要もないよな。そう気づいたのは次の日の朝であった。

 や、気づいたら短い悲鳴が聞こえたんだよ。首だけ動かしてドアの方を見ればフェイトがいた。

 

「ふへへっ、フェイトおかえりぃ……ふへへへ」

「うははー、おかえりぃ! うひっ……」

「か、母さーん!」

 

 涙目になったフェイトが作業部屋から出ていった。程なくしてプレシアがやって来て、

 

「寝なさい」

 

 毛布を被せられて、布団の抗いがたい魔力に引かれ俺たちは眠りに落ちた。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 目覚めると昼前だった……あれ、明け方あたりから記憶がないぞ?

 隣ではアリシアも今起きたのか周囲の確認をしている。

 

「あれ、寝落ちした?」

「明け方あたりから記憶がないからそんな気もする……うわー、オイルとか(すす)で汚いなぁ。先シャワー浴びてきていい?」

「オッケー、俺は水飲んでくる……喉がカラカラだ」

「あ゛ー……私も先に水飲むー」

 

 ふたりしてフラフラしつつリビングに行くとプレシアたちが帰宅していた。フェイトがなんか身を引いた気がする。

 

「母さんにフェイト帰ってたんだね、おかえりー」

「お帰り、お疲れさま。ちょいと水をば頂きます」

「……ふたりとも今朝のこと忘れきってるわね」

 

 今朝のこと? 確かになんも覚えてないけど……

 

「ふたりともゾンビみたいで怖かったんだよ? 私が作業部屋に入ったら首だけグルンッ! ってこっち向いて不気味に笑ってたから……」

 

 アリシアがその言葉を聞いて苦笑いをする。

 

「なにそれ全然記憶にない」

「アハハー完璧にハイになってたねー、ごめんごめん。私はちょっとシャワー浴びてくるね」

「ええ、入ってらっしゃい」

 

 あー、水がうまい。まだ目がシパシパするけど朝から今まで寝てたならそれなりに寝たんだなぁ。

 ……はて、カートリッジはどれだけ作れたっけ?

 

「で、あなたたちは何をしてたのかしら?」

「ちょいとカートリッジを製作してた」

「カート、リッジ?」

「うん、ミッド式とはまた違うデバイスに組み込まれてる使い捨て魔力増幅機みたいなものかな」

 

 アリシアと過ごしてると自然とデバイスに詳しくなっていく。魔法の技術は……お察しのお悔やみ申し上げますな状態だけど気にしない。

 魔力ランクはE。

 そして魔導師ランクも実はEだった。だが、ふたりともDランクギリギリ手前だったし、そもそも俺たちは訓練や実戦経験がまごうことなきゼロだったので鍛えれば多少は伸びるらしい。しかし、俺もアリシアもそれから訓練をしたのは両の手で数えれるほどである、疲れるんですもん。

 

「裁判はどう?」

「ん、順調だよ。クロノや母さんが頑張ってくれてるし」

「結果がわかりきってることを時間をかけてやるのは馬鹿馬鹿しくて面倒だわ」

「わーい、プレシアさんの自信がスゲー」

「まぁ、あと3~4ヶ月もあれば終わるわよ。それに裁判の間は何も出来ないってわけでもないから暇はしないわ」

 

 そのあとはふたりはどうするんだろうか? フェイトあたりはミッドの学校とか?

 

「いえ、フェイトは地球のあのなのはって子が通っている学校に通う予定よ」

「へー、そうなんだ」

「うん、あと嘱託魔導師になろうかなって」

 

 食卓魔導師? そんなんあるのか……

 

「食事の食卓ではなく嘱託よ、正規の局員でなく準社員みたいなもの」

「あ、そっちのショクタクね」

「お風呂上がったよー」

「じゃあナナシ入りなさい、汚いわ」

「はいよ」

 

 風呂からアリシアが上がったので入る、オイルが結構ぬるぬるベタベタして気持ち悪い。

 

 風呂から上がるとフェイトの入学の話をしていた。

 

「12月に転入する予定だから試験が来月にあるの」

「現在国語で躓いてるんだってー」

「フェイトにとっては外国の言語だから当たり前っちゃ当たり前じゃないか?」

 

 かくいう俺もミッド語は読めるようにはなったがまだ書けない。

 

「えっと読み書きは出来るようにはなったんだけど」

「え、フェイトったら優秀……」

「私の娘よ?」

「納得、で何に詰まってるの?」

「国語でお馴染み『この人物がこの場面でどう考えているのか~文字で書きなさい、抜き出しなさい』系の問題だよ」

 

 あー、文系は感覚で解けてるやつか。理系はなんか解き方を習うらしい、文系でも習うけど。

 

「抜き出しなさいは簡単、特に小学校レベルなら前後2~3行のなかに答えがあるはずだからそこに絞ってみればいい」

「……あ、ホントだ」

「書きなさいってなってると一段階どころか数段階レベルが上がる、正直受け取り手しだいで答えなんて変わるからめんどくさいんだけど一番スタンダードそうな答えを考える」

「あれ、ナナシがまともなこと言ってて違和感が凄い」

「アリシアシャラップ」

 

 国語、それも小学校レベルくらいなら教えれるわ。忘れがちだけど、いや年齢すら忘れたけど転生した身だから。

 

「それでスタンダードなのを考えるにはどうしたらいいの?」

「フェイトってたぶん感覚より考えて解くタイプっぽいし、初め数問は答えを見て求められてる答えのパターン覚えるといいかも」

 

 あとはだが、しかし、けれども~とかの逆接は目印つけとくと話が変わるとこがわかりやすいとかそんな感じかね。

 

「何となくわかった?」

「うん、ありがとうねナナシ」

「お安いご用」

 

 いやー、今までで一番役にたった気がする。小学校レベルの国語を教えたのが一番の実績とか涙が止まらん。

 

「あ、そうだ。姉さんやナナシは学校に行かないの?」

「私はいいかなー、フェイトたちと学校に行くのも楽しそうなんだけど他にやりたいこともあるし。ナナシは? 故郷が地球なら学校に行ってる年齢でしょ?」

「身元保証人になってもらって一緒に暮らさせてもらってすらいる俺が決めていいことじゃない気もするんだけど」

「好きにしなさい」

 

 プレシアさんったら太っ腹ー、いや太ってるって意味じゃないから無言でデバイス向けないで、度量が大きいって意味です。ホントだって、フェイトー国語辞典貸して!

 

「って言っても諸事情によって小学校とかの勉強は必要ないかな。個人的にはデバイスとか魔法関連の勉強をしたい」

「私と一緒に“ぼくのわたしのかんがえたさいきょうデバイス”作ろう!」

「うわー、すげぇ失敗作臭がする……」

 

 機能詰め込みすぎたあげく処理が追いつかず不具合の多発するデバイスが出来そう。アリシアも同じ想像をしたのか顔をしかめている。

 

「でもミッドには義務教育とかないの?」

「ないわね、そもそも地球と似ているようで文化はかなり異なるわよ? あなたの年齢でも働いてる人間もかなりいるわ、学校に行くのは義務ではなく権利としてあるだけ」

「ふーん、文化の差ね。なんとも自立が早そうな世界」

「親離れが早いのだけがネックよね……」

 

 知ってたがやっぱ親バカだ。

 ま、地球なら児童うんたら法とか労働なんたら法がどうのウルサイとこだろうけど、ミッドじゃ微塵も関係ないしね。それにフェイトとかクロノだけ見た感じだと、こっちの方が精神的な成長が早そうだ。

 

「だから私たちも目新しいデバイス作って特許を取ればガッポガッポ稼ぐことも夢じゃない!」

「よっしゃ、俺も手伝う」

「扱いやすいなぁ」

「聞こえてるけど気にしない」

 

 自覚はある。けどお金って大事なんだ、お金ないと雑草食うはめになるから。

 

「でも俺いなくてもどうにかなるんじゃね?」

「うーん微妙なところ。それでナナシってその微妙なところを埋めるモノ拾ってきたり考えたりするから面白いんだよね」

「拾ってくるって犬か」

 

 アリシア蘇生させるときには拾われた側だし、カートリッジはちゃんと貰ってきたんだよ。いや、落ちてたの拾って貰ったんだけど。

 

「そんなわけでよろしく、さっそく作業部屋へレッツゴー」

「カートリッジ何個作ったか覚えてるか?」

「……覚えてない」

 

 顔を合わせて空笑いする俺たち。お互いにお互いがハイになるとロクでもないことするのが予想できるので笑うしかない。

 意を決して作業部屋へ入る。

 

「……あれ、案外普通だね。カートリッジのコピーが20個も作れてるし寧ろよくやってない?」

「アリシア目ぇ逸らすな、オイ。机の上に腕の太さほどのカートリッジが一個あるぞ」

 

 アレ、大砲型のデバイスでもないと使えそうにないぞ。

 

「あ、思い出してきた。20個越えたあたりで私がこんな小口径で威力は足りるのかとか言い始めた」

「……そのあと大口径、いやロマン砲こそ正義だよなって俺が言った」

「私もそれに同意した覚えがあるぅぅぅ……! 馬鹿じゃん! こんなんロマン砲じゃなくてただのゴミじゃん!」

 

 しかも小口径で威力が足りないとか関係ないもんな。魔力込めとく入れ物の形がたまたま薬莢と同じ形なだけだし。

 

「そうだよ、だから威力が足りないなら1発じゃなくて2~3発リロードすればいいだけ……うわー、これどうすんのさ」

「バラして加工し直すしかない」

「記念に残すって手もあるよ」

「記念というより黒歴史なんですが、これは」

「しかも場所を取る、邪魔だね! ナナシ取り敢えず仕舞っといて!」

 

 どこにだよ……あ、四次元空間か。ゲートを開いて黒歴史を押し込んでおく。

 

「便利だよね、それ」

「物の片付け場所や持ち運びにおいてはズバ抜けて使えるな。ジュエルシードの魔力もプレシアさんの助力ありでだけど廃棄できたし」

「ジュエルシードかぁ……」

 

 ちょっと引っ掛かるというか、少し俯いて陰った笑いをするアリシア。どうしたのか?

 

「どうした?」

「いやさー、私って死んだ状態から生き返ったわけじゃん」

「公としての事実はともかく実際はそうだな」

 

 あ、何となくわかった。アリシアが息を飲んで顔を上げるが瞳の奥が揺れてる。所在無さげに不安げにユラユラと震えている。

 

「ナナシは、さ……嫌悪感とか、ない? 死んでた人間がこうして生き返って普通に喋って動いて笑ってることに」

「ないな」

「でも死んでたんだよ? 死んでから生き返っただなんて、さっきフェイトが言ってたゾンビと変わらないかもしれないし」

 

 ……なまじ賢いだけあって色々考えてたようだ。生き返ってすぐに色々悪戯ともいえる行動をしてたのは動揺を紛らすためだったのかもしれない……いや、半分以上素の行動な気もするけど。

 というか、これ普通に返事しても納得してくれんよな? イエス、ノーで終わらないのにクローズな質問ってのは卑怯だと思う。

 

「うーん、仕方ない。今、何を言っても信用せんだろ。だから取って置きの恥ずかしい秘密を話してしんぜよう。

 事故で死んだ人間がいました。で、次目覚めたら別世界だわ、若返ってるわ、名前を覚えてないわ、それどころか死んだ事実だけ覚えてて前世の記憶はスッカラカン」

「ナナシ……?」

「ついでに目覚めた世界には居場所も名前も親も金もなし! ないない尽くしここに極まれりだったわけなんよ。察しておられる通り、それが俺でごぜーますよ」

 

 アリシアが口を開こうとするが話は終わらないぜ! まだまだ俺のターン!

 

「更にその1日目! 死にました!」

「えっ?」

「けど何故かまた目覚めた。起きたら時間が戻って生き返ってた、死んだのに何でだろね? ついでに詳細は省くけどもう一回死んで生き返ってる。だからなんだって話かも知れんが、要するに俺にとっては生き返るとか不思議じゃない、ので嫌悪感とかない。オーケー?」

「え、えー……それを信じろと?」

「プレシアに聞けば前半はともかく後半は保証してくれるはず」

「母さんにはこんなこと言えないよ」

 

 それもそうか、プレシアはプレシアで必死にアリシアを生き返らせたわけで……たぶん、こんな悩み抱えてるって知ればかなり責任を感じる。だからこそアリシアもここまで溜め込んでたんだろうし。

 

「まぁミソッカス魔力に加えて生き返った死に戻りなふたりでいいじゃん」

「なんだかなぁ、私だいぶ悩んでたんだけどなー」

「相談相手が悪かったな、すでに俺は3回死んでいる」

「いや、むしろナナシでよかったよ。まだ考えるところはあるけどかなり吹っ切れたと思う」

「そりゃ上々」

「ナナシはないの? その悩みとか」

「ない、転生した直後なんて悩む内容がこれからの生活よ? そしてそれは今解決してる、オールオッケー」

 

 それに記憶にほぼ残ってない前世なんて意味はない。『やり直し』に関してはわからないことだらけだが気にしても始まらない。次はどうなるかなんてわからないし、早々死ぬ気もない。そして

 面倒ごとには見て見ぬふりをするのが俺だ。

 

「じゃあ、明日は無限書庫に行きますか!」

「そういや許可取れたんだったな、ちょっとワクワクしてる」

「私もだよ、遭難するレベルの資料とか燃えるね!」

「むしろ燃やす!」

「やめて、捕まるから」

 

 ちょっとらしくないテンションで話もしたけど結局最後はいつも通りに戻った俺たちだった。

 

 

「――そう、あのとき思ってた……だがアイツの本心を見抜くことは出来ていなかったと気づくのは手遅れになったあの事件の日であった」

「おい、やめろ。変なフラグを自分で建てんな」

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
後半は急になんちゃってシリアスさんがこんにちわした気がしますがサヨナラ。たぶんもうシリアスは来ない、本編関係ないとこでシリアスストック切らしました。

死んでて生き返った葛藤はあるかなと書きましたが、この話が伏線になる予定はほぼないので流していただいて大丈夫です。


余談ですが基本一話一話書いててストックというものが一切ありません。リアルが忙しくなると投稿に感覚開きます、申し訳ありません。一週間以上空きそうなら活動報告にて何かしら書くかと……きっと。


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12.無限書庫のち変態

 待ってくれ、たしかにリスクは聞いてたけどこの荷物はなんだ。寝袋、非常食、水、着替え、通信機etc……信じられるか、これ図書館にいく装備なんだぜ?

 登山に行くかのようなザック背負って無限書庫目指してミッド市街地を歩く童児がふたり、俺とアリシアだ。

 

「だから言ってたじゃん、遭難するかもって」

「本気の発言だったのか……」

「うん大マジ、それで無限書庫内で遭難したら見つけてもらえるまで野営です」

「室内なのに野営とはこれ如何に」

 

 冒険っぽくって野営とか好奇心くすぐられるが図書館で野営という言葉面だけみるとシュールすぎる。てか、矛盾してる。

 遭難して発見されず、という人はいないらしいが奥に行きすぎると本格的に発見困難になるようで厳禁とのこと。

 

「私たちみたいな子供で、しかも魔力がないとなると移動手段も限られるし極めて危険だって。母さんが行かないように口酸っぱく言ってた」

「今朝もさっきも言われてたよな。心配されてるのか信用されてないのか」

「たぶん両方かなぁ、母さん譲りで集中すると没頭して周りが見えなくなるから特に母さんは心配もするし信用ならないとこがあるかも」

 

 うん、実は俺もくどいくらいにアリシアを注意して見とくよう言われてるから。

 推察通り同じ内容話して気を揉んでたぞ。また本局に行かないといけないので着いていけないことを悔しがりつつ渋々俺に言ってきた。

 うん、悔しがるのも渋々話すのもいいけど、俺の予想ではプレシアも無限書庫に行くと資料に没頭すると思うから来ても変わらなかったと思うよ?

 

「あ、ついでに飴買ってから行っていいか?」

「いいよー」

 

 そこらの菓子屋に入り、一口サイズの飴が袋詰めされたものを無造作にカゴに入れていくがひとつ目についたものがあった。渦巻いた円形の飴に棒が刺さった、いわゆるペロペロキャンディ。

 

「食べにくさは群を抜いてるくせして何とも言えぬ魅力があるんだよな」

「片手塞がるから作業しつつ食べるには向かないのに、確かに子供心くすぐられる謎の魅惑が……買わない?」

「買おう。苺、グレープ、レモンにソーダ……をどっさり」

「そういや飴って手作りでも作れるらしいんだよね」

「無限書庫でついでに探してみようか」

「んー、それは余裕があればで。レシピくらい普通にネットで探せるし」

 

 そりゃそうか。べっこう飴とかならかなり簡単だしな。ひとまず購入した飴を四次元空間に入れて、ふと気づいた。

 

「この背負ってるザックも入れね?」

「あっ……なんか出掛けるときに荷物持つのって普通の感覚すぎて忘れてた」

「同じく」

 

 しかし、思い出したからには入れない手はない。ふたりしてザックを投げ込む。

 

「ふぃー、すごく身軽になったよ」

「じゃあ、気を取り直して行くか」

 

 けど、何だな。魔法文化のあるミッドって言うから空を見上げれば人が飛んでたりするものかと思ってたんたんだがそんなことなかった。普通に車が走ってたり、ちょっとばかし近未来な感じはあるけど地球と大差ない。

 許可なくミッドの空を飛ぶことは違法らしい、世知辛いな。

 

「アリシアは飛べる?」

「ナナシと同じでフヨフヨ飛ぶくらいなら、ただ空戦は無理」

 

 うん、実は飛べるようになってる。最高速度は自転車ほどで空戦なんてしたら的にしかならないけど、この身一つで気分がよかったので満足。

 

「そもそも皆が魔法を使えるわけじゃないからね。私たちみたいな人もいっぱいいるし、魔力がない人だっているんだよ」

「ミソッカスがいっぱいだと……!?」

「私たちは自称だから良いけどコンプレックスになってる人にいったら怒られるよ?」

「ミッドの皆様ごめんなさい」

 

 そうか、魔力がないことを悩んでる人もいるわな。ここふたりが開き直りすぎなのか。

 

「うん、魔力というかリンカーコアがあるだけ羨ましいって人もいるわけだし」

「あー、たしかになかったら羨ましく思いそうだ……それはそうと、たまに魔法の練習してるとフェイトが模擬戦に誘ってこられるんですが」

「私もだよ……新しい魔法とか考えてると模擬戦で試してみないか聞かれる」

 

 魔導師ランク測定のときに微妙に粘ったのも裏目に出たらしい。小物は小物らしく素直にやられとけばよかった……!

 

「しかも悪意が微塵もない」

「それどころか愛らしい私の妹は遠慮がちにはにかみながら聞いてきます。これを姉に断れと!?」

 

 劇画タッチっぽい顔になって俺に聞いてくる。どうやってんのソレ?

 いや、たしかに断りにくい、本当に断りにくい。やんわり断ろうとすると隠そうとはしてるが隠しきれてない残念がるオーラがヒシヒシと伝わってくる。普段は鉄壁の良心が嫌な音たてて削られるのがわかる。

 

「姉には断れない……断れない!」

「うん、俺も断れない。断らないじゃなくて断れない、俺の場合プレシアさんからのプレッシャーも凄いから」

「今度からまた私たちふたりで相手してもらうか」

「そうしよう……ハンデにすらならんけど」

 

 毎度5分程度で終わってるからフェイトにもなんか申し訳ないし、なによりひとりよりふたりの方が被害が分割されていい。

 

「さらにナナシに凶報」

「待て、これ以上何がある」

「いや、フェイトってなのはとビデオメールでやり取りしてるじゃん?」

「あー、確かにしてたな」

 

 何回かアリシアと誘われて一緒に撮ったことがある。ビデオカメラに向かって話すのは違和感があったのでよく覚えている。

 

「それがどうかしたのか?」

「えー、うちの可愛らしくてしかたがない妹がね……どうも私たちと模擬戦したことを、話したらしくて、ですね」

 

 やめろやめてくれ、オチが見えたっての。どうせアレだろ、今度私とも模擬戦しようねーって話だろ。私も全力全開でやるからって。

 

「……フェイト含めた2対2でやろうって」

「予想より悪かったぁぁぁぁ!?」

「なのはは私たちの魔力ランク知らないからね……私はフェイトの姉、ナナシはジュエルシードの魔力をどうにかしたって知識しかないから」

「やっべ、それだけ知ってるとそのふたり優秀そうじゃん。誰だよソイツら」

「残念ながら私たちだよ」

 

 実際は倉庫機能しかないレアスキルおっぴろげて立ってただけの俺と、母親から電気変換の資質は一切遺伝子に乗らず魔力はあるかないかのレベルでしか引き継いでないアリシアである。

 ちょっと残念ながらなのはとは、もう会えないかもしれない。いやホント残念ダナー。

 

「ところがギッチョン。フェイトが地球の学校に引っ越すので冬にはテスタロッサ家も地球へお引っ越し。ドナドナされます」

「そんな馬鹿な、デバイス開発できないじゃん」

「そこは家にミッドの家も繋がる転送ポッドを設置するらしいから解決だって。母さんもこっちの仕事を主にするらしいけど、フェイトを一人暮らしにするわけにはいかないって。開発ミッド、生活アッチ」

「わーい、プレシアさんったらおっ金持ちー」

 

 俺が一人暮らしでいいからミッドに残りてぇ、小学生の女子の影に怯え暮らす人間、ナナシです。

 

「これは模擬戦までにデバイスの開発を急がないとね!」

「いくらデバイスの性能がよくても持ち主の性能がお察しな場合どうするよ」

「融合型デバイスならワンチャンあるよ!」

「よーし、ガッポガッポ稼ぐ前に生き残るために開発を頑張ろう」

「別に死なないけどね」

「あれは気持ち的に死ぬだろ」

 

 あのピンクの砲撃に撃ち抜かれたフェイトのトラウマになってないのが不思議で仕方ない。なのははスターライトブレイカーって言ってたが、まさに名は体を表すだ。

 

「いや、lightは軽くじゃなくて光。星を軽く壊すって意味じゃなくて星の光だよ?」

「わかってる、相手をお星さまの光にしてやるぜって意味だろ? こう、キランッって」

「本人には絶対その意図はないけど威力的に否定できない」

 

 もっと恐ろしいのは俺たちと同じでなのはもまだまだ成長期、よってアレの威力もまだまだ伸びるらしい。いったいどこ目指してるんだ……?

 

「閃いた、カートリッジシステムをなのはのレイジングハートに取り付けて威力を倍プッシュ」

「もうマジカルじゃねぇ、ラジカルだろ」

「ロジカル! ラジカル!」

「頑張ります!」

「「アハハハハー」」

 

 アハハー、空笑い響かせながら無限書庫に向かう児童がふたり。俺たちである。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 無限書庫に到着、第一印象は本の森って感じだ。司書らしき人たちは宙に浮いて資料集めをしている。

 さて、この中からベルカ関係の資料を集めにゃならんわけだが。

 

「司書の人にもしつこく奥に行かないよう注意されたな」

「ビックリするくらい私たちの信用がない」

 

 なんだろう、問題児みたいな雰囲気でも醸し出してるのだろうか? 心外なので外面を保つ努力をしようと思う……我ながらすぐ剥がれそうな面だ。

 

「気を取り直してさっそく資料を探そう、ナナシは辛うじてミッドの言葉読めるんだよね?」

「辛うじて、日本で言う平仮名レベル」

「じゃあベルカ、ユニゾン、融合って書いてる資料片っ端から集めて」

「任せろ」

 

 さっそく資料を探し始めるが、無限書庫全体になにか魔法がかかっているのか自分の魔力を使わずに浮ける。無重力みたいで楽しい。

 

「さてさて、ベルカの資料ね……」

 

 辛うじてといっても読めるからタイトルくらいはしっかりと理解できるものが多い。だから聖王と覇王の歴史書とかタイトル的に気になるけど今はスルーしておく。

 

 暗躍正義スリーブレイン、ミッド歴史、管理世界図、ストライクアーツ流派、簡単お料理、ミッド式魔法解説百科、繰り返される人生、管理局の内政、先生とのイケナイ放課後part3……part3!?

 ……儲かる金の使い方、聖王教会設立まで、スカっち直伝クローン技術、法律全書、笑えない管理局内情、よくわかる夜天の……違うなぁ。そもそもタイトルに書いてるともかぎらないんだが……お、これは。

 

「ベルカ式……えーと、アームドデバイスとミッド式デバイスの違い」

 

 うん、これは合ってるな。というかたまに官能小説とか春画が混じってるし、明らかに腐ってるものまであるあたり無限書庫パナイ。

 それから数冊めぼしいものを見つけてから気づいたことがある。

 

「ザックをアリシアに渡してない」

 

 これはマズイ、辺りを見ると……うん、だいぶ奥まで行ってますねアリシアさん。見える範囲にいるうちに急いで追うことにする。

 

「アリシアー」

「……ん? ナナシどうしたの」

「どうしたじゃなくてここ結構無限書庫の奥に進んでるんですが」

「あっ……えへへ、集中してて回り見てなかったよ。母さんの予想大当たり!」

 

 親指たてんな、グッドじゃないから。下向けてバッドにすんぞ。

 

「あとザックも渡してなかった……資料見つかったか?」

「何冊かめぼしいのがね、ナナシは?」

「こっちも何冊か」

「じゃ、一旦戻ろうか。私の予想ではこのまま本を探してると遭難する」

「激しく同意だわ」

 

 入り口付近にあるテーブル戻り、資料を広げる。アリシアは手早く内容を読んでいきさらに必要な資料を絞る。俺は四苦八苦しながら“よくわかるスカさんのロボット理論”を読む。おまけにはロケットパンチならぬドリルパンチとか書いてた。

 

「ミッドの文字も多少は読めるなら手伝おうよ!?」

「すまん、つい面白くて。内容もぶっとんでる、人と機械を合わせて魔力いらずで戦えるハイブリットなサイボーグ作れるとか書いてる」

「間違いなく違法な件について……しかし、たしかに面白いね。それも借りよう、だから今はデバイスの方を読んで」

「了解」

 

 その後俺が2冊読んでる間にアリシアは残りのものを読み切り、何冊か借りるものが決まった。追加でスカさんの。

 カウンターに持っていき司書さんに本を差し出す。が、ひとつここで問題が起きた。問題というほど問題でもないんけど。

 

「すみません、これ借ります」

「はい、少し待ってくださいね。へぇ、ベルカについて勉強してるのね……あら? これは無限書庫のものじゃないわね」

「あれっ、どれですか?」

「この“よくわかるスカさんのロボット理論”ってやつなんだけど……まぁ、書庫のものじゃないから持って帰っていいわ」

「やった!」

「スカさんがドナドナされるようです」

 

 おいおい、スカさんの扱いがぞんざいだな。似たタイトルの何冊かあった気するけど……気のせいか。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 暇であった、退屈であった。だが、そうか彼女は成功させていたのか――娘の蘇生に!

 

「フッフッフ……ふはははは!」

 

 つい暇すぎて私の戦闘機人やその他の知識を簡略して書いた本を無限書庫に忍ばせていたが……娘、特に長女にかなり怒られた。

 それはそれとして置いておいた本がどのような者の手に渡るか眺めていたところ予想外のものを釣り上げた。

 

「アリシア・テスタロッサ……と誰だ?」

 

 かつてクローン人間を作り上げる計画、プロジェクトFを私はプレシア女史と考えたことがある。私の目的はより効率のよい兵器の開発の一環として、彼女は娘を生き返らせるため。

 結果として彼女は失敗したが……どうやら他の方法で成功させていたようだ。

 見たかったなぁ、どうやって生き返らせたのか、どうやって世界の理をねじ曲げたのか。これをあの脳みそ共が知れば喉から手が出るほど欲しがる技術だろう、喉は既にないが。

 あぁ、知りたい! 知りたいなぁ! 知りたいとも! このジェイル・スカリエッティが欲望を抑えられるか? 答えは否!

 

無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)の名は伊達ではないのだよ!」

 

 記録からは拾えまい。プレシア女史のことだ、そんな証拠は一切残してないだろう。ならば直接聞きに行くだけだけのこと。

 なにか脳みそ達から聖遺物を奪うように言われてたが知らん。今私の興味はそこにはない、プレシア女史は親バカ(魔導師ランクSS)である。条件付きとはいえ魔導師ランクSSは些か脅威的過ぎる、無条件の親バカは狂気的過ぎる。過去にプロジェクトFの際、一度怒らせラボが消し炭になった。

 私も大概マッドだがプレシア女史と私の狂気を図式すると狂気的な親バカ>>>狂気であった。

 

「トーレ、チンクー! 出掛けるぞ!」

「は……? あの、襲撃の方は……」

 

 急ぎたまえ! ウーノが帰ってきて仕事を投げ出したとバレればまた叱られてしまうからな!

 

「いや、ドクター後ろを見るといい」

「なんだねチンク…………やぁ、おかえりウーノ」

「ええ、ただいま戻りましたドクター。で、どこに行かれようと?」

「さー、聖遺物集めに勤しもうか娘たちよ!」

 

 考えてみれば話を聞くことくらいいつでも出来るからな、うん決して後ろの娘が怖くて振り向けないとかではないのだよ?




ここまで読んでくださった方に感謝を。
ロジカルラジカル始まります、まぁそのうち本当にレイジングハートにカートリッジシステムが付くわけですが……
変態登場、退場。変態も割りとキャラ崩れる予定にて注意されたし……既に崩れてますが。
暗躍正義スリーブレインってなんでしょうね?


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13.ありがちなイベント

 ユニゾンデバイスやベルカについての資料を無限書庫でかき集めた三日後。時刻は早朝、作業室は静寂に包まれていた。当然と言えば当然である、世間一般から大きく外れることなく過ごしている人間はあと少しの間ではあるが夢の中に沈んでいるはずの時間なのだから。

 しかし、そんな静寂に満ちた作業室にかすかな物音が鳴る。布切れを擦り合わせるかのような……否、まるで這うような音である。いや、実際に這っているのだろう、床に平積みされている本の山にどこかを引っ掛けたのかバサバサッと山が崩れる音が響いた。

 

「……うぁ……もた」

 

 崩れた本に埋もれたのかソレは奇妙なうえに気だるげな呻き声をあげる。そうして再び作業室には静寂が戻るかと思われたが、布切れを擦るかのようなナニかが地を這う音は続いている。しかし、本に溺死したナニかとはまた別のナニかである。

 

 

 まぁ、ナニかって俺なんだけどね、名無しなわけじゃなくて名のあるナナシなんだけど。本の雪崩で溺死したのはアリシア……いや、死んでないけどね?

 しまったなぁ、徹夜はヤバいってわかってたのに二徹しちまった。ストッパーになりそうなフェイトやプレシアは2日ほど前から本局でクロノたちと次の裁判の準備をしに行っており帰ってきていない。

 よって資料を借りた日と次の日は俺のミッド語習得に費やされた、アリシアのスパルタ式語学で何とかものにした。

 そしてミッド語を習得した次の日、プレシアたちが家を空けた。つまるところやりたい放題であり、ノーブレーキで突っ切ってしまったのだ。

 

 まず融合型デバイスの作り方は見つかった。難しくはあるがアリシア曰く不可能ではないレベルであり、ノリノリで設計図を引き始めた。

 まずは形であるが人型にすることにした。万が一融合事故を起こしたときにはユニゾンデバイスの姿になってしまうのだが……悪ノリして虫型デバイスにして事故ってみろ。

 

「女としてッ! それは許容できない……!」

「男でも嫌だわ」

 

 ソレ以上考えたくない俺たちは人型の女性タイプにした。女性タイプはアリシアの希望で異論はなかったのでそうなったが、詳しい容姿は決めていない。デバイスの性格を明確に決めてからにしようと言うとこにしたのだ。

 

 そして外郭の設計図は完成――少しグラマスな感じになってるのはアリシアの願望か。

 

 慈愛に満ちた目でアリシアを見ると上を向いて男泣きしてた……泣くなよ、プレシア見た限り希望は無限大だから。

 ただ問題点が浮上した。ユニゾンデバイスはベルカによって開発されたものであり、基本的にベルカの技術で作られベルカ用になってるわけだ。つまり完全にミッド式魔法を使う俺たちの使用なんて考慮されてないわけだ。

 しかし、俺たちはそんなところで止まるわけにはいかない。なのはの砲撃から、フェイトの雷撃から生き延びるためには何としても作り上げねばならないという使命感に燃えたナナシ&アリシアは止まらない。

 因みにここで徹夜一日目の朝のこと。

 

 

 まだまだ行くぜ。テンションが振りきっていたのか眠たさや疲労を微塵も自覚してないバカたちがそこにはいた。

 一周回って冴え渡った、本人たち的にはそのつもりの頭でベルカ式に組み立てられたユニゾンデバイスの内部構造式をミッド形式のものへと書き換えていった。ここまで2日目の深夜。

 

 結果的に言おう。まぁ、このあとに何回か手直しや細かい修正は繰り返したものの作ったときには成功してたんだ。

 その出来上がったユニゾンデバイスは、割りと未だに書き換えた本人たちである……主にアリシア自身も理解できない部分があるのだが成功してた。プレシアからすれば綱渡りしながら砲撃を避けるような奇跡的なバランスを保った構造に書き換えられてると言われた。

 ま、それは結構先の話になるのだが。今はまだ図面上での話だ。

 

 それで昨晩、新たな壁にぶつかった。

 

「人格プログラムってどう組めばいいの……?」

「デバイスに思考プログラムだけじゃなくて感情を持たせろとな」

 

 顔を見合わせてプレシアの資料保管部屋にダッシュ、インテリジェントデバイスの特に人工知能についての記述されてる資料を抱えて作業室へと戻る。ユニゾンデバイスで一部抜けてた部分はここであった。

 そして感情のプログラムについての資料を探す。

 

「人工知能のはあった……けど感情のプログラムとかあるわけない!」

「あれだ、俺たちの日常の感情をデータ化して記録していけば」

「お、ナナシ冴えてるねー、それならいけるかも……一年くらいかければ」

「神は死んだ、いや死ね」

 

 度々なんだが、ここで徹夜2日目の深夜が過ぎた頃である。中身はともかく小学生の身体にはオーバーワーク甚だしいかぎりであり、事実限界であった。

 取り敢えず感情というソフト面については見て見ぬふりを決定。それ以外のハード面の設計図の見直しと手直しをしようとしたのだが……現状で越えがたい壁を自覚したことでテンションが素に戻ったのだろう。疲労が一気に押し寄せてきた。

 

 ――ここで俺たちはぶっ倒れ、床で数時間眠ることとなったのだ。

 

 

 ……ぐぅ、床を這ってアリシアに近づく。

 

「生きてるかー」

「本、重い……」

「生存確認、風呂入ってくるわ」

「そこは、助けようよ……」

 

 崩れた本の山から震えた腕のみがこちらへとつき出される。軽くホラーっぽい。

 よっこらせ、気合いで起き上がるが身体中からバキバキ音が鳴るのがわかる、風呂に入りたい。

 

「私も入るー、連れてけー」

「一緒に入りたいとな? きゃー、アリシアさんのエッチー」

「それ普通私の台詞、じゃない……? ナナシ結構余裕あるよね」

「まぁ、床でとはいえ寝てたんで。アリシアはほとんど疲労抜けてなさそうだけど」

「タフさではナナシに一歩劣ってるみたい……引きずってでいいから連れていって」

 

 このままでは本当に再び倒れそうなのでアリシアを本の墓場から引っぱりだす。

 そのままズルズルと引きずりながら作業室をあとにする。お姫さま抱っこでもすると思うたか、余裕でアリシアでモップ掛けですよ。

 

「あ゛うぅぅぅ」

「乙女の口から出していい音なのか」

「乙女力5、ただのゴミか……」

「むしろ現状ゴミを掃除するモップ系女子アリシア」

 

 しかし重たい。いや、アリシアは軽いのだがさすがに体力も回復しきってるわけもなく疲労度は高い。よって、そのままアリシアを自室に放り込んで風呂に向かうことにした。

 

 その後、身体を洗い浴槽に湯を張ってつかると魂が抜けるかのような声が口から漏れだしたし風呂場に響いた……デュエットを奏でて。

 

「なんで普通に入ってきてる」

「水着着て来たしいいじゃん。それともナナシは私の悩殺ボディーに興奮しちゃうのかなー?」

 

 浴槽のなかで腰に手を当てしなをつくるアリシア。しなというよりウネウネしてるだけで奇妙すぎる。

 

「すみません、お客様のような方には当方の興奮は対応しておらずお引き取りください。10年早いわ幼児体型(ロリータ)

「超冷静に切り返された……!?」

 

 そりゃね、ホント来るなら10年後に来てほしい。小学生に興奮できるほど守備範囲は広くないのだ……現在俺も小学生と変わらんけど。息子(ジョニー)もそれに伴って小さい……なぁジョニー、俺も頑張るからお前もおっきくなってくれよ。

 

「ふぅ、まぁ幼児体型(スレンダーボディ)は置いといて」

「おかしいな、褒められてる気がしないよ」

 

 褒めてないからね。それから他愛ない無駄話を続けたあとに先に上がった。俺が居たままじゃアリシアが身体洗えないしね。

 ほどなくしてアリシアも上がってきた。冷蔵庫の牛乳を取りだし、腰に手を当てイッキ飲みする。

 

「ぷっはぁぁぁ!」

「凄く旨そうだけど女としてそれはいいのか」

「乙女力3、1……まだ下がっているだって!?」

「マイナス値を振り切って計測器が爆発した!? ……いや、目指してんだよ」

「ぶー、いいんだよー。別に家だし、ナナシ以外いないしさー」

 

 まぁ、確かに俺も気にしないけどね? お前は将来普通に外でもやってそうだよ。

 

「……やるね」

「銭湯にでも行ったらお爺さんお婆さんに可愛がられそうだけどな」

 

 飲みっぷりいいし、お菓子とかめっちゃ渡されそうだ。ほら食いんさい食いんさい、とか言って渡してくるご老公たちがありありと思い浮かぶ。

 

「お爺ちゃんお婆ちゃんにモテモテだな」

「あと70歳若ければ……!」

「アリシアが70歳老けるでも可」

「それは嫌だなぁ」

 

 ふたり並んでソファーに座るが平和だ……こうして駄弁ってゆったり過ごす日々がずっと続けばいいのに。あれ、なんか爺臭い考えだ。

 

「ユニゾンデバイスはどうしようかな。感情のプログラム以外はなんとかなりそうなんだけど……いや、あとは私たちの融合適性かな」

「そっちの方が問題じゃね? もし、俺たちが強いユニゾンデバイスつくれてもすんなり融合できるか……」

「想像できない……!」

 

 アリシアが頭を抱える。奇遇だな、俺も想像できんわ。

 

「……いや、俺たちの適性を問題にしなかったらいいんじゃね?」

「えっ、どういうこと?」

「俺たちが合うか合わないかじゃなくて、ユニゾンデバイスの方に合わせてもらえば何とかならんかね?」

 

 せっかく自分達で作ってるわけだし気合い出せば何とかなったりしないかなと。気合い出すのはアリシアになるんだけどな!

 

「あ……そっか、そうすればいいんだ! ナナシグッジョブ! いけるよ、私たちのリンカーコアの一部をコピーしてユニゾンデバイスの大本となる部分にすれば!」

「融合適性を越えた合体ができる!」

「イエッス! なんか違うけど大体そんな感じ!」

「いぇーい!」

「いぇーい!」

 

 座ったままでハイタッチ。ある種の一番の懸念である融合適性ゼロとなる可能性は消え去った。

 

「……ただこれするとユニゾンデバイスがほぼ私たちにしか合わなくなるってデメリットもあったり」

「ん、別によくないか?」

「まー、私たちが使う予定だからいいんだけど技術者の一端としては誰でも使えるものを諦めるのは悔しさもあるのだよ」

 

 アリシアは唇を尖らせつつ足をぷらぷらさせる。

 そんなもんかね、自分にはよくわからん感覚だけどそんなとこはカッケェと思う。

 

「リンカーコアのコピーはさすがに今じゃできないしどうしようかな……取り敢えず普通に使うようのストレージデバイス作ろうか」

「ついでに俺のデバイスも直してくれ」

「ばっちり改造する(直す)から任せて。カートリッジシステム付けてみよう」

「おっかしいな、直すって言われてるのに信用できない」

 

 間違いなく改造って書いて直すって読んでやがる。

 まぁ、カートリッジシステムについての資料自体は借りてきてるわけだし出来ないことはないか。

 

「さぁ、今回は私のやつから作ります」

「材料はこちら」

「基礎となるミッド式デバイスの各部品とカートリッジシステムに使う少し特殊な部品、あとその他もろもろ」

「量はこちら、各材料適量となります」

「みんなちゃんと量を守ってね!」

 

 適量って言葉は便利だと思う。言われた側からすれば不便極まりないけどね。

 

「これらをすべて横に置いておきます」

「ほうほう」

「よしっ、そろそろ真面目にデバイス考えよっか」

「だな、どんな形かも決めてないのに作れるわけない」

 

 アリシアのデバイスについては本当にすべて白紙である。今まで模擬戦は一般的なストレージデバイスを貸出ししてもらってたが、新しく作るものはインテリジェントかストレージにするかすら決めてない状態である。

 

「ストレージデバイスなことは決定かな。私もインテリジェント扱いきれるほど力が強くないからね」

「知ってた。よっす、魔力E」

「うるさい、E-。フェイトやなのはとかが使えば1+1を5にも10にもする可能性を秘めてるんだけどなー」

「俺たちが使うと1+1を0にもマイナスにもする可能性を秘めている」

「世知辛いね」

「切ないな」

 

 100%そうなるってわけじゃないんだろうけど自分達で成功する姿を想像できないって悲しいね。

 これは失敗癖がついてきている、なにか成功せねば。

 

「アリシア……俺なにか成功するよ」

「もうその発言が失敗じゃないかな?」

「失敗は成功のもとというので、もう今の失敗は成功と言ってもいいんじゃね?」

「ナナシが訳わかんない暴論言い始めた……その言葉って、失敗によって積み重なった経験が後々の成功に繋がるって意味じゃないの?」

 

 全くもってその通りだと思う。失敗を成功と言い張る奴はただの駄目人間だ。つまり俺は駄目人間か……

 

「なんか急に悟った顔してるけど私のデバイス一緒に考えてよ」

「妹のフェイトに対抗してクロスレンジ、ミドルレンジをメインにして刀とかにしようぜ!」

「ずっと私のターンなアウトレンジがいいんだけどなー、私の魔力じゃ厳しいし無理か」

「それ言ったらどのスタイルでもキツいけどな」

「スルーしても気にしなくなってきたね」

 

 その程度でへこたれてたらプレシアとは会話できないからな。プレシアさんったら不意にディスってくるし、それも自然に。

 折れず曲がらずよく斬れるナナシでございます。

 

「折れずしなってよく曲がるじゃないかなぁ……ま、いいや。真面目にいうと普通に杖の形でもいいかなって思ってるんだけどどうかな?」

「んん……別にいいとは思う、けど扱いにくくないか? 将来はともかく今かなりちっちゃいじゃん」

「あー、たしかに直ぐに真後ろとかに構え直すには向かないね」

「魔法撃つだけなら背中からでもいいんだけどな」

「そんな発想した変態はナナシが初じゃないかな」

 

 失礼な、わざわざデバイスを構えなくていいし効率的だぞ。見栄えはかなり悪いけど、やっぱり手を付きだして撃つとかの方がカッコいいよな。

 

「銃とかどうだ? 取り回しはかなり良いと思う」

「ふむ……クロスレンジになっても杖よりはやり易いかな」

「銃口の下から魔力の刃も出るようにすればクロスレンジの対応力も上がります」

「そしてフェイトと戦うとするよね」

「魔力刃出す暇なくやられるな」

 

 刃のギミックあっても、俺らじゃないよりマシくらいのレベルだな。

 

「リボルバー式にしようかな、カートリッジ装置の付け方も想像しやすいし」

「そして近づかれたら、銃口を握り銃床で殴る」

「カートリッジ付けただけあって、ベルカらしさを前面に押し出した物理(魔法)攻撃……!」

「マジカル、フィジカル!」

「始まります!」

 

 始まらねぇよ、終わっちまえばいいと思う。

 因みに銃型に決定したよ。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
リリカルフィジカル始まります!噴ッ! 始まりませんけどね。
ありがちなお風呂イベント終了、一緒に入ろ?とかそんな甘いもんではないですが気にしない。

ついでに作者も薄々気づいてます、A`s編ってなんだっ け? って内容になってることには。
けど、このままいきます。本編の12月になってもこのままいく可能性すらあります。


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EXTRA.王様と臣下、盟友

 この話は魔法少女リリカルなのはGODサウンドステージMを元に書いた話となります。なので、そちらを聞いたことがない方には所々分かりにくいところがあるかもしれませんことを、ご了承いただけるとこれ幸い。
時期的にはサウンドステージMとAの間となります。


 ある晴れた日、とある一軒家の玄関には膝下ほどの高さで遺跡にでもありそうな、いかにも(・・・・)な正方形を型どる物体が鎮座している。ちょうど急いでる人間には見えにくい大きさだ。

 そう、そろそろ朝食が出来そうなので外にいる同じ家に住まう住人を呼びに行こうとした人間なんて、上手いこと足の小指をぶつけてしまいそうだ。

 

「――いッッッ!?」

 

 痛打した、ものの見事に足の小指をぶつけた。そんな不運な灰色の髪の少女は目に涙を溜めて吠えた。

 

「レヴィィィィィィぃぃいい! あれほど玄関にものを置くなと言ったであろうがぁぁぁ!」

 

 ぶつけた片足を上げてヒョコヒョコと外にいる、この正方形を置いたであろう犯人を叱りに行く少女は気づかなかった――その正方形の物体から妙な音が鳴り始めていることに。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 11月、この頃少し寒くなってきました。約二ヶ月掛かったがついに完成した。俺たちのデバイスが、俺とアリシアのデバイスがである。

 

「カートリッジシステム搭載“フォーチュンドロップ”完成だよ!」

「同じく、超初心者用デバイス改め……なんだっけか、えー……仮名“ウィークワンド”!」

 

 アリシアのデバイスは銃を模している。カートリッジはリボルバーとして組み込まれており、取り回しの良さに重点が置かれている。

 俺のデバイスは直訳で弱者の杖、思いつかなかったから……いや、すまんってアリシア。でもパニッシュメントとかトワイライトとか勘弁してくれ、名前負けも甚だしいだろうが。

 

「でも、さすがにデバイス名を“太郎”にしようとしたときは、私のスパナが返り血にまみれるところだったよ」

「実際振り回したもんな、太郎がいなきゃ死んでた」

「仮名として! ウィークワンドね! ……やー、でもスパナの件は徹夜明けで沸点が低かったからごめんね」

「俺も正直徹夜明けで考えるのめんどくさかった、すまん」

 

 スパナを振り回すアリシアと、ひたすらシールドを張り続ける俺の異常な光景は、お互いのためこれ以上掘り下げるのは止めよう。

 ただ、シールドに張り付きスパナを乱打する姿は鬼神じゃねぇのかと錯覚するレベルだった。まぁ、精魂込めて作ったデバイスに“太郎”はないな。

 ついでにウィークワンドって名前も不満らしく、現状仮名としてつけている状態だ。

 

「あっ、そういえば、近頃事件が起きたんだって」

「事件くらい、いつでも起きてないか?」

「んー、そうなんだけど今回のは結構特殊なケースみたいでね。局員がひとり被害にあったみたいなんだけど、発見されたときにリンカーコアがかなり消耗してたみたい」

「リンカーコアって消耗するもんなんか。なに魔法の使いすぎ?」

「ううん。限界を超えた魔法の行使で消耗することもあるけど、今回は違うね。無理矢理削られたような感じみたい、命に別状はないって聞いたけどね」

 

 聞いたって……プレシアだろうなぁ、割りと俺もニュースとか見てるけどそんなのやってなかった。察するにまだ一般には伝えられてない情報なんだろう。

 プレシアがどう知ったかは知らないけど、裁判中でも既にある程度の人脈とかつくってんだろうなぁ……あの悪い笑みがありありと思い浮かべられる。

 

「まぁ、辺境世界で起こったことだからミッドは関係ないだろうけど気をつけなさいって母さんが言ってたよ」

「了解……だけど俺ら削るほどリンカーコアが」

「ナッシング! 削られたら無くなりそうだよね」

「魔力を失ったアリシア・テスタロッサ。しかし、彼女は新たな力を手に入れた!」

「スパナ系フィジカル少女アリシア参上! 今宵のスパナは血に餓えてるよ!」

 

 なんかグロい。それにお前フィジカルっていうほど動けないじゃん。

 今のアリシアのバリアジャケットは改造が施されて、シンプルなノースリーブの白いシャツにエメラルドのネクタイとスカートだ。

 しかし、スパナ系フィジカル少女になると真っ赤になってそうだ。ナニで赤く染まるかは知らないったら知らない。

 

「バリアジャケットといえば、ナナシのやつも弄ろうよ。そのままとか無個性だよ」

「じゃあ……無個性な黒髪黒目を活かした和服にする。あんまミッドじゃ見ないから個性は出るだろ」

「オッケー。あとナナシほどの黒髪黒目って、何気に珍しいからね?」

 

 ホントに真っ黒らしい。ふむ、魔法ものだったら闇属性とか得意そう……あ、ここ魔法ある世界だったけど、俺大して魔法使えねぇ。何か悲しい現実をひとつ実感した気分だ。

 

「じゃ、水色の浴衣に藍色の帯で設定しとくね」

「デザインは任せた」

「任せろー、バリバリー。バリアジャケットだけにね!」

「5点、出直してこい」

 

 それから少したちバリアジャケットの設定を変更したワンドを受けとる。

 まだお昼過ぎなので、さっそく新デバイスの性能を確認するため外へと出ることにした。

 ミッド市内で好き勝手に魔法撃っちゃうと局員が比喩なく飛んでくるので、魔法の使用許可のおりるところへ向かう。

 

 ――と、

 

「……え?」

「……はっ!?」

 

 気づけば高々度、遥か上空にいた。自分でも何言ってんのかわからんけど、外に出て数歩歩いたらお空にいた。

 

「きゃぁぁぁ!? 何これ!?」

「知らねぇぇぇ!? てか怖い怖い怖い! 落ちてる!」

「ナナシ、セットアップ!」

「セットアップってなに?」

「今さら何言ってるの!? デバイスを起動して!」

 

 あ、一般的なデバイス起動の掛け声がセットアップだったっけ……そのとき思いついた言葉で起動させてたわ。

 

「「セットアップ!」」

 

 その掛け声とともに俺たちは光に包まれ――変身シーンを細かく説明する暇もなく落下を続けていた。

 何だこれ、転送テロか!?

 

「ぶっつけ本番だけど、カートリッジロードして全力でプロテクション張って!」

「飛行魔法じゃ駄目なのか!?」

「ここまで落下、下方向にベクトルが向いてるのを無理矢理変更するのは、私たちレベルの飛行魔法じゃ無理! ただ落下スピードの減衰くらいにはなるかもしれないから一応使っといて!」

「了解! カートリッジロード!」

 

 俺はワンドの先端より少し下に位置するカートリッジを一発ロードし、アリシアもリボルバーを回転させ同じく一発ロードする。

 ついでに飛行魔法を使うけど気持ち落下が遅くなったか……? ぐらいの効果しかない。

 

「ナナシ、プロテクション! 自爆魔法使わないでよ!」

「わぁってるっての!」

 

 そして、ふたり同時に円形のプロテクションを全力で張る。グングン下に落ちてるが、どうも落下地点は湖になりそうだ。

 

「地面よりマシ……なことないか?」

「高度から水に叩きつけられたらコンクリートに落ちるのと変わらないよ!」

「だよなぁ!」

「いいからプロテクション維持に集中! 割りと命の危機!」

「オーライ!」

 

 近づいてくる湖、引き攣ってくる俺たちの顔。正直チビりそうです。

 そしてプロテクションで包まれた俺たちは盛大に水柱を上げて湖へと叩きつけられた。

 ここで知ったことがひとつ。プロテクションでは中への衝撃って殺しきれないのね、プロテクション内部が滅茶苦茶揺れた。

 結果、アリシアと俺は全力全開のヘッドバットを繰り出し、お互いに気を失うこととなる。

 

 ――デバイスから排出された空カートリッジが虚しく俺たちの頭を叩いた。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 額が超痛い。気だるい身体を動かし額を触れば腫れてたんこぶが出来ている。

 何やったんだっけか、フェイトと模擬戦してやられた……ではないな。倦怠感がかなりあるが、状況確認のため渋々目を開くと知らん奴らがいた。

 赤、ピンク、灰、茶色、水色、黄色。全部髪の色だがカラフルだな。

 あっ、思い出した。気がつけば何故かパラシュートなしの高々度からのスカイダイビングをするはめになって……アリシアどこだ。

 

「む、目が覚めたか」

「どうも、時間はわからないけどこんにちわ。突然でなんだけど、俺と一緒に金色が落ちていませんでした?」

「隣で寝られている方が恐らくそうかと」

「……あー、はい。デコにたんこぶ作って気持ち良さそうに寝やがって。起きろ起きろ」

 

 ぶっちゃけ知らない人にこれだけ囲まれてると気まずい。起きてくれアリシア、あと五光年じゃねぇよ、それ距離だから。五光年進む時間ってことなら長い! どっちにしろ起きろー!

 

「んぁー、おはようナナシ……あれ、ここどこ?」

「ザ・ドッキリ☆突然上空からのスカイダイビングからの池ポチャしたの覚えてる?」

「んん……あ、思い出した。あれは池ポチャってレベルじゃなかった、よく生きてたね、私たち」

「全くだ」

「あの~、お話の途中で申し訳ないけどいいかしらぁ?」

 

 あ、忘れてた……どこかで見覚えあるかのような見た目の人もいるけど、恐らくこの6人が助けてくれたんだろう。

 

「私はアリシア・テスタロッサ。で、こっちはナナシ」

「改めましてどうも、なにやら助けていただいたようで感謝」

 

 あのままじゃ、結局溺れてただろうし助かった。あそこまで綺麗に頭突きをかますとは想定外すぎた。

 

「いえいえ、私はアミティエ・フローリアン。そしてこちらが妹のキリエ・フローリアン。アミタとキリエとお呼びください!」

「はぁ~い、キリエよ」

「我はディアーチェ。王だ」

「ユーリです、よろしくお願いします」

「僕はレヴィ! こっちはシュテるん!」

「私はシュテルと申します、以後お見知りおきを」

 

 年齢は高校生くらいとおぼしきふたりはアミタとキリエ。灰色の髪の少女がディアーチェもとい王、隣の黄色の髪の子がユーリね……王?

 えーと、あと水色のツインテールなのがレヴィで茶髪のショートヘアなのがシュテルね。

 

「多いね……というかレヴィがフェイトとそっくりさん」

「あ、そうだな……そっちのディ、いや王様は車椅子少女もとい八神にそっくり」

「おや、初対面で王様と呼んでいただけましたね我が王」

「ふっ、上に立つべきもののオーラを放っている我だからこそよ! ……と貴様ら子鴉と知り合いか?」

 

 ディアーチェはあれか。ちょっと痛い……いや、尊大な子なのか。王様って呼べたのは完全に適応力が上がってるからだと思う。

 

「子鴉って……?」

「あなたのおっしゃった八神という少女のことです。下の名ははやて」

「あぁ、俺だけだけど知り合いだな。そういや王様似てるね。レヴィはフェイト似だし……シュテルもほのかになのはと似てるような似てないような?」

「そっちのアリシアって子はオリジナル……じゃなくてへいとと同じ名字!」

「え、私? というかへいと……? あ、フェイトか!」

「それ!」

 

 おろ、ここの皆はフェイトや八神と知り合いなのか。  いや、でもフェイトと八神は繋がりがないよな……あれ? それぞれとたまたま別々で知り合い?

 

「んんー? フェイトと八神は知り合いじゃないし、でも王様やレヴィたちはフェイトと八神と知り合いで……えー、あれー?」

「ナナシの頭から煙が!?」

「おぉ!」

「わわ!? 大変です!」

 

 こんがらがってきた。いや、治療魔法はいいから……そうそうバカは治らないってオイ、アリシア。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 少し前に私たちが戦った世界とは別世界からナノハたちが来たばかりでしたが……これは更にややこしい事態かもしれませんね。

 理のマテリアルとして確認してきましょう。

 

「つかぬことをお伺いしますがアリシアさんはフェイトさんとご家族でしょうか?」

「そうだよ、小さいけど私がお姉ちゃんだからね!」

「あれ、オリジナルのお姉ちゃんってモゴゴ!?」

「少し黙っておれ、レヴィ」

「ナイスフォローです、我が王」

 

 私たちの知っているフェイト・テスタロッサの姉、アリシアという人物は死んでいます。

 そして横にいるナナシという男の発言を聞くに、闇の書事件の前から来たのでしょう。

 ……それにしても、私たちの知る世界とはかなり異なる世界から来たようですね。

 

「ユーリ、すみませんがおふたりのコブの手当てをお願いします」

「わかりました!」

「気になさらず、唾つけとけば治りますんで」

 

 たんこぶに唾をつけてどうするんですか。なにか効果があったでしょうか? 私の知る限りでは無かったはずですが。

 

「コブに唾って効果あるんでしょうか……?」

「あれ、そういやどうなんだろうね?」

 

 ただ適当なだけでしたか……

 

「じゃ、ユーリ、私お願い!」

「はい!」

「ユーリ、僕もー!」

「えー、レヴィは怪我してないじゃないですか~」

 

 さて、治療を始めたユーリを傍目に王とアミタ、キリエと話を始めます。

 

 伝えたことはアリシアやナナシが間違いなく私たちが生まれ、なのはたちと戦った世界とは別の平行世界、いわゆるパラレルワールドから来たであろうこと。

 そして、私が生まれる原因となる闇の書事件の前か最中から来たこと。ナノハとフェイトを知ってるということは、既にふたりは友達になっているんでしょう。

 

「フェイトさんのお姉さんが生きている世界ですか……」

「……ここに跳ばされたのは我が朝にオーパーツを蹴ったせいであろうな。しかし、本当にまた跳ばされてくる者がおるとはな」

 

 ええ、レヴィが遺跡の最新部から持ち帰ったものを、また放置していたものですね。蹴った衝撃で起動してしまったんでしょうが、また別世界の人間を跳ばしてくるとは驚きです。

 ――そのうち私たちもどこかへ跳ばされるときが来るかもしれませんね。

 

「んー、私たちはナナシって子も知らないわよねぇ~」

「ええ、キリエの言う通りです。ですから前回跳ばされてきた平行世界のナノハたちより私たちの詳細については伏せておいた方がいいかと……闇の書自体についても触れずに行きましょう」

「あのー、それなんですけどレヴィが……」

 

 アミタが指差す方向を見るとレヴィたちが外に出ており、レヴィがバルニフィカスで魔法を披露していました……念話で先に釘を刺しておくべきでした。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 レヴィが魔法を披露してくれるというので外に出たのだが、アリシアが興奮しっぱなし。

 いや、レヴィのデバイスがフェイトのバルディッシュに、そのままカートリッジつけたようなやつだったのだが、それを見てからテンションが徹夜明けのソレと変わらなくなってる。

 

「いくぞ、超必殺! 雷光両断剣!」

「す、凄いよナナシ! フェイトのデバイスと同型だけど形態変更までしてるよ! レヴィー! 詳しく見せてぇぇぇ!」

「あー、すご……おっとー、アリシアミサイルがレヴィに直撃。しかし、バリアジャケットに生身で当たったせいでアリシア選手、頭を押さえ痛がっております。見事な自爆ですねユーリさん」

「え、えぇ!? あの、治療しなくて大丈夫なんでしょうか?」

 

 必要ないんじゃないかなぁ、ドーパミンとか溢れてそうだし。ほら、ものともせずバルニフィカスを見始めてるし。

 

「あ、ユーリ飴食べる?」

 

 そういや買ったはいいけど放置してたペロペロキャンディーがあった。作業中に食えなくて結局大量に残ったままだった。

 

「あ、ありがとうございます」

「あー! 僕もー! 水色ある!?」

「ソーダならあるけど」

「これこれー!」

 

 レヴィがバルニフィカスをポイして飴を食いに来た。おい、あの状態のアリシアにデバイス投げ渡すとか危なそうなんだがいいのか? バルニフィカスが泣いてんぞ。

 うーん、それにしてもフェイトと声も似てるんだけど性格は全然違うよな。あっちは少し人見知りというか引っ込み思案なところがあるんだけどレヴィは人懐っこい感じだし超活発だ。

 

「申し訳ありません」

「あら、シュテルにディアーチェ。ふたりも飴いる?」

「いただきます」

「うむ、いただこう。それで少し話をいいか? あっちでデバイスに夢中なヒヨッコもだ」

「オーキドーキー」

 

 アリシアの首根っこをつかんで引っ張ってくる。話しかけても反応しないんですもん。

 

「はい」

「おい、ヒヨッコ」

「……むむ、剣の形態に変えるためにこの機構が変わってて」

「おい、ヒヨッコ!」

「あー! なにするの!? ……って王様どうしたの?」

 

 ディアーチェがバルニフィカスをもぎ取り、ようやく現実に意識が戻ってきたアリシア。相変わらず没頭するとホントに周り見えなくなるよね。

 

「……ごめん」

「それでよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「単刀直入に言えば、おふたりがここに跳ばされたのは私たちのせいなので元の世界にはこちらが責任をもって送り帰します」

「今、アミタと桃色が解析をしておるので暫し待て」

 

 ほうほう、まぁ帰れるなら問題ないです。で、理由は……へー、王様がオーパーツを蹴っちゃったのか。

 

「そ、それで次が本題だ! 我らの容姿が似かよってる者がいることには理由がある」

「ですが、それは貴方たちがこれから体験することが原因なのですが、私たちが話すことによって未来が変わると不都合が生じるかもしれません」

「わかった。だから詳しくは話せないってことだね! それはいいからデバイスをもうちょっと詳しく調べさせて!」

「……好きにするがよい」

「ひゃっほう!」

 

 王様から許可が降りるやいなや瞬時にバルニフィカスの解析を始めるアリシア。目がマジになっているから、ほっとくといつまでもやってるんだろうなぁ……俺も徹夜してるとき、ああなってると思うと何だかな。客観的に見るとわかる事実ってこういうことか。

 

「申し訳ない。うちのアリシアが」

「いえ、お気になさらず」

 

 それから、色々と話した。シュテルたちがいた平行世界では、アリシアは生き返れなかったらしいし、そもそも俺はいなかったと。うーん、そのあたりは俺があの世界にいった理由が特殊すぎるのも原因なんだろうな。

 レヴィはペロペロキャンディ(水色)が好きらしいので全部あげたら大喜びであった。他の色のも渡しといた、俺たちは結局あっても食べなかったからね。

 

 

 お礼にとレヴィとユーリに遺跡に連れていかれたのは楽しかったのだが、モンスターが現れたときには死ぬかと思った。

 

「ナナシさんは戦闘に向いてないんですね」

「そもそも魔力がミソッカスで……いや、年下のユーリに守ってもらってごめん」

「いえ、問題ないですよー」

 

 そうは言われても小学校低学年くらいの見た目の子の後ろに隠れて、守ってもらってるというのは中々に悲しい光景である。

 なお、レヴィはというと

 

「ハァァァ! 必殺! 雷刃滅殺極光斬(らいじんめっさつきょっこうざん)!」

 

 アハハー、元気だなー。間違いなく現状のフェイトより強いなこれ。衝撃波でモンスターを拘束したあとに雷を纏った大剣(ザンバー)で斬り伏せてるけど迫力が凄い。本当に必殺である。

 

「いえーい! 強くて凄くてカッコイイ! そう、ボク最強!」

「わぁー、凄いですレヴィ」

「いぇーい! レヴィ、カッコいいぞー! 最強ぅぅー!」

「ワハハハ! もっと誉めてもいいんだぞー!」

 

 若干、アホの子っぽいが強さは本物である。

 それにしてもレヴィ見てると、フェイトにカートリッジシステムをつけた場合の未来像を見てるみたいで、背筋に冷や汗が垂れる。

 

 そんな間、アリシアはシュテルにデバイスを見せてもらっていたそうな……俺たちが遺跡散策から帰ってもまだ見てた。ごめん、シュテル。

 でもデバイスの名前がルシフェリオンってカッコいいよね。

 

「そういう貴様のデバイス名はなんなのだ?」

弱者の杖(ウィークワンド)

「……自虐が過ぎぬか?」

「だよねー、もっとカッコいいのにしてあげないとデバイスも可愛そうだぞ!」

「そうは言われてもな、うーん」

 

 たしかにデバイスに失礼ではあるか。けど正直名前つけるの苦手なんだよな、自分に見合ってなさそうなものとなると余計に。

 

「では僭越ながら私たちが付けてもよろしいでしょうか?」

「お任せー、その方がいい名前つくしデバイスもアリシアも喜ぶから」

「そうですか。話によれば、おふたりのデバイスはミッド式としてカートリッジを組み込み安定したとしたら恐らく初」

「始まりってところだね!」

「新しい技術の夜明けといったところか」

 

 アリシアが聞いたら喜びそうな評価だ。当の本人は涎を垂らしそうな勢いでルシフェリオンを見てるけど。

 

「夜明けの者、という意味でデイブレイカーという名でどうでしょうか?」

「ん、いいね夜明けの者(デイブレイカー)。俺の考えたのよりうんといい」

「光栄です」

「我らが考えたのだから当然よな!」

「もっとカッコいいのでもいいのにー」

「私は素敵だと思いますよ?」

 

 あとでアリシアにも伝えよう、締まらない顔してデバイスにテンション振り切ってる乙女力のない感じだけどきっと喜ぶだろう。

 それからルシフェリオンを見終わったらアリシアが、ディアーチェのデバイスも見せてもらおうとして断られたりしてた。ほらほら、無理言わないの。やー、じゃないから。

 

「退化するなー、駄々っ子か」

「やー、他のも見たいー!」

「無茶言わない、ほれ王様も引いてんぞ」

 

 引いてるというか非常にめんどくさそうなものを見る目だ。

 

「やー!」

了解(ヤー)とな。ようやく聞き分けたか」

No(やー)だよ!」

「我もNo(やー)だ」

了解(ヤー)!?」

「ややこしいわ! 駄目だと言っておる! 貴様らがこれから関わる出来事に影響するかもしれんものを易々と見せれるか!」

 

 単純にこのデバイスに対してちょっと変態的になってるアリシアに渡したくないわけでは無かったのか……そこまで気を回してもらえるのは、かなり尊敬する。

 同じ気持ちなのかアリシアも関心よりも感心が上回ったのか、ディアーチェに尊敬の念を込めた視線を送っている。

 

「王様ってば、そこまで私たちのことを考えてくれてたなんて言ってくれればすぐ諦めたのに……!」

「待て、我をそんな風に見るな! 別に我は貴様が心配でそう言ったわけではないからな、貴様らが楽を出来んように言ったにすぎん!」

「またまたー、そんなこと言っちゃってー」

「ええい、やめよ! 寄るな、ニマニマするなヒヨッコぉぉぉ!」

 

 だるるーん、とディアーチェに寄りかかるアリシアにそれを鬱陶しそうに引き剥がそうとするディアーチェ。傍目から見れば中々に仲睦まじい感じだ。

 

「一応言っとくけどあれは王様の照れ隠しだからねー、君たちへの影響を心配してるんだよ?」

「あー、何となくわかっているから大丈夫。いい子だよね、王様」

「心外な評価をするでないわー!」

「王様大好きー!」

「僕もー!」

「私もです、ディアーチェ!」

「ぬぉぉぉぉ!?」

 

 元から抱きついてるアリシアに追加してレヴィ、ユーリが飛び込みディアーチェが人の波に飲まれた。波というには少なすぎるが、勢いじゃ負けず劣らずだ。

 

「そういや、ユーリは王様のこと名前呼びだね」

「ええ、私たちは臣下。ユーリは盟友ですので」

「ふーん、そういうものなのか」

 

 深くは突っ込まない。未来に影響とか自分がいる時点でなんとも言えないけど、詳細は聞かず何となくで把握できればいいのだ、何となくで。

 

 それに王様に臣下と盟友と言ってるけど皆、そんな上の者と下の者なんて隔たりは無く仲良い感じだ。けど、確かにシュテルやレヴィは王様のディアーチェを慕った上で敬っている雰囲気もあり、不思議な関係だと思う。

 

「それは貴方たちもだと思うんですが」

「俺とアリシア?」

「ええ、異性同士なんてことは置いておきますがどうにも距離感が独特ですね」

「まぁ独特な体験をした仲だからかねぇ、あとはイタズラ共犯仲か」

「ボカしますね」

「ボカシを明かす気がないからなー」

 

 こればっかりは誰にも言わないと決めてるもんで、多分きっと恐らく。ま、自分のことに関してはペラペラっと口開いちまいそうだけどアリシアのことは言わんよ。

 

「ふふっ、そうですか。私も深くは聞きません……さて、そろそろ夕食の時間ですが我が王の料理は絶品ですので楽しみにしておいてください」

「おう……ってことはまず王様助けなきゃな。アリシアー、離れろー」

「ええ、レヴィ、ユーリ離れてください。夕食の準備をします」

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 夕食は滅茶苦茶美味しかった。王様パない、アリシアと褒め称えたら赤くなって怒られた。褒められるのに馴れてないのね。

 

「あ、いたいた! 元の世界の座標特定できました!」

「前回よりは短いけど、やっぱり時間がかかったわね~」

 

 あら、帰宅の時間か。帰宅というか帰世界? 何でもいいけど楽しかった。

 

「それじゃあ、お世話になりました。デバイスに名前も付けてもらってありがとね。遺跡探索も楽しかった」

「いえ、気に入っていただけたなら何よりです」

「また来れたら行こうねナナシん!」

 

 ナナシん? シュテルん的な渾名か。

 

「デバイス見せてくれてありがとう! 夕食も美味しかったし王様最高!」

「ええい、さっさと帰るがよい! このヒヨッコ!」

「ディアーチェは本当は嬉しいと思ってるんですよ?」

「ユ、ユーリ!?」

 

 じゃ、宴もたけなわ。名残惜しさもあるんだけど帰りますか。

 

「ではでは! ナナシさんにアリシアさん、また会いましょう!」

「今度会えたらゆっくりお話しましょうね~」

 

 次の瞬間視界が霞み――世界が変わった。

 

 あたりが暗いし夜か? なにか夢を見てたような……

 

 

▽▽▽▽

 

 

「……あ、記憶封鎖忘れてましたぁぁぁ!?」

「あらん、それを忘れてたから前回より早く終わったのね~」

「なな、何をしてるかこのたわけぇぇぇぇ!」

「でぃ、ディアーチェ落ち着いてください!」

「幸いなのは一切闇の書や我々の出自には触れてなかったことですね」

「きっと大丈夫だよー」

 

 

▽▽▽▽

 

 

 うん、夢みたいだけど夢じゃなかったな。あんな濃い面子忘れないし夢なわけなかったわ。

 

「あー、楽しかったねー。今日はデバイスの試験はもう無理だろうけどそれ以上に良いものが見れたよ」

「俺もだわ」

「これから、もしもフェイトやなのはのデバイスにカートリッジを付けることがあるなら手際良くできるよー!」

 

 手のひらをワキワキさせながら言うな。手つきが完全にイヤらしいぞ。

 

「そういやデバイスに名前つけてもらったの?」

「ああ、デイブレイカー。新しい技術の夜明けって」

「おおー、いいね! なんか照れ臭い気もするけど」

 

 いいんじゃない? ミッドではカートリッジシステムを付けることも普及してないし間違ってはないだろ。

 

「なんにせよ、また会えるといいな」

「そうだねー、私も王様たちともっと話したいし」

 

 ――是非ともまた、ディアーチェにはオーパーツを蹴って欲しいと思う俺たちであった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
大変長々しい話になったうえに人によっては「このキャラ誰?」なお話となってしまい申し訳ないです。
一万字越えたのは初めてですね。
PSPソフトのなのはGODやINNOCENTを知っておられる方にはキャラ自体はご存知マテリアルズたちです。

こう、なるべくGODのネタバレにもならないよう注意したつもりですが、そのせいでわかりにくいところがあったら重ね重ねすみません。

この話自体は本編には大きな影響を与えないですが、この話を入れるならここしかない!ってな感じで書きました。

あとデイブレイカーは英文法的に確実に間違いかと思いますが雰囲気です。


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14.サイバーン

 ちょっと異世界的なところに一日跳ばされる楽しい事故もあったけど、あのあとは無事にカートリッジ付きの俺たちのデバイスの性能確認を行った。

 

「けど結構身体に負担かかるね、まだまだ改良の余地ありだよ」

「魔力が少ないと余計実感しやすいけどリンカーコアにも負荷かかってるぞ、これ」

 

 確かに瞬発的な魔力はリロードしたカートリッジの数に比例して爆発的に増加する。けど、その分使用者には無視できないレベルで負荷がくる。前にプロテクション全力で張った、あのときの倦怠感もこれが原因か。

 なので、その後はひたすら改良を行っていた。幸い、カートリッジシステムをつけた、インテリジェントの成功例のデータは、期せずして取れたのでそれを元に弄っている。

 

 そして、11月下旬は長らく放置していた気もする、ユニゾンデバイスの製造に取りかかり始めた。感情のプログラム? 最後に後回しである。

 まずプレシアに手伝ってもらってリンカーコアのコピー。

 

「融合型デバイスね……それで適性を無視するためにリンカーコアのコピー。何というか私の娘だわ」

「母さんもユニゾンデバイス作ろうとしたことあるの?」

「いえ、それはないわ。ただ既存のもので満足せずに自分に合うものを作り出そうとするところとかそっくりよ」

 

 昔々、気に入らない科学者をラボごと吹き飛ばすのに火力が足りないと、足りないなら持ってくればいいって発想から魔動力炉から魔力の供給補助を受けランクSS級の魔法で跡形もなく消し飛ばしたプレシアって人がいるんだって。誰だろうね?

 ちなみにその科学者も生きてるらしい、どんな変態だよ。

 

「ほら、アリシアにナナシ。軽くでいいから魔力を流しなさい」

 

 機械に手を当て魔力を流し波長のようなものを読み込ませる。これを擬似的なリンカーコアにコピーし完成となるらしい。

 

「擬似的リンカーコアって人には埋め込めないのか?」

「機械の脳を人に埋め込めると思うのかしら?」

「あ、無理だな」

 

 心臓とかの臓器ならともかく脳は無理。

 

「それでも知ってるかぎりでは一人やってしまいそうな科学者がいるわね……」

「母さん、それ科学者ってかただの変態」

「いえ、実際科学者としても天才だったことは癪だけど認めるしかないレベルだったわ。ただ変態としても天災だったわ」

 

 変態の天災ってなんだ。語感から変態度がありありと伝わる……!

 ま、そんな変態の話題は投げ捨ててリンカーコアのコピーは無事に完了した。二人分のコピーということで懸念事項もあったようだが、魔力光が似てることとお互いにミソッカス魔力で魔力総量に差がなかったことがプラスに働いたらしい。

 

「頭の中身の差が影響しなくて良かったわね」

「これでもちょっとはデバイス弄れるようになってきたんよ?」

「アリシアに比べれば月とスッポンよね」

「そこ比べられたら何も言えねぇ……!」

 

 ユニゾンデバイスは、ほとんど単純作業か指示出されたことしか手伝えてないからね。

 

「でも、適性をデバイス側に合わせてもらうとか柔らかい思考は助かってるよ。どうにも私たちは考えが固まり始めると柔軟さも弱くなるかねー」

「へぇ、そういうとこでは役立ってるのね」

「微力で全力を尽くしてますよ」

 

 そのあと完成した擬似リンカーコアを持ち帰り早速製作に取りかかった。既に感情プログラム以外は図面上では大方出来ているので、設計図に沿って組み立てていく。

 

「うへへ、いい身体に仕上がってきた」

 

 アリシアの発言である。デバイス関係になると特にキャラが壊れるよな……たしかにナイスなボディした外郭になってるけどな!

 

「私がなかに入りたい」

「融合事故起こせばいいんじゃね?」

「それだ!」

「おい、冗談だからやめろよ?」

 

 青天の霹靂みたいな顔されると本気にしてそうで怖い。融合事故やらかしたら身体だけじゃなくて、精神面でも主導権取られるから何もできんし。

 

「ちぇー、わかってるよー。いいもん、私には将来性があるんだし」

「まぁ、あるな」

 

 そんな感じで作業を進めてから数日、12月となった初日にクロノからお呼び出しがかかった。

 フェイトの裁判の証人として来てくれとのこと。証人ってこんな直前に選ぶもんだっけ? 今朝フェイトが家を出るときには何も言ってなかったんだけど……あ、裁判所からは許可は取ってるけど、俺に伝えるのが遅れただけね。

 

「じゃ、いってらっしゃい。フェイトのために頑張ってきてね!」

「俺が頑張ってもいいのか?」

「あ、ごめん。クロノの言うこと以外動かないで。ユニゾンデバイスの製作は進めとくし、ホントフェイトのためにちゃんとやってきてね?」

「任せろ、バッチリぽっきりやってくる」

「うわぁ、不安だ……」

 

 そんな心配しなくても大丈夫だって。裁判官を口先八丁で誤魔化せばいいんだろ……え、証拠とか揃ってるから余計なこと言うと直ぐバレてヤバい?  いいから大人しくしてろ? わかった、わかったから。

 うん、迎えに来たクロノまで心配そうな目で見るなよ。俺、自分の裁判大人しくしてたじゃん、悲しくなってきたぞ。

 

「君たちがアースラの予備デバイス全ての先端から醤油が出るようにした件は忘れてないからな」

「主犯アリシアだから」

「艦長の砂糖を塩に入れ換えた件は?」

「あれは死ぬかと思った」

「アースラ七不思議のひとつに加えられたぞ、あれほどまでに怒った艦長は始めてみた」

 

 怒ってるというか我を失ってたよね。「静まりたまえー!」 とか言いながら茶菓子蒔き続けてようやく落ち着いてたし。二度とやらない。

 

「人の親をタタリガミみたいに扱わないでもらえるか」

「でも主食が糖分で横についてる砂糖ゲージ(シュガーライフ)がゼロになると禁断症状が出るんでしょ?」

「洒落になってないのが怖いから止めてくれ。この頃血糖値が本当に心配なんだ」

「……糖分少なめのお菓子に代えていこう」

「ああ……」

 

 まぁ、お茶に角砂糖をポンポン入れてたもんなぁ。かき混ぜるときに、カップの底に溜まった砂糖がジャリジャリいってたし。どこかの目の下に濃い隈のある探偵ばりに糖分摂取してると思う。

 

「あ、ナナシ!」

「やっほー、フェイト。裁判は任せろバリバリー」

「うん、お願いするね」

「あれ……フェイトからの信頼が痛い」

「それは君に心当たりが色々あるからだろうな」

 

 おかしいな、ここは心配なもの見る目で見られると思ったのにな……人から信頼されないことに慣れすぎたとかどうなんだこれ。

 

「人として駄目なんじゃないか?」

「自分でもそう思う……」

「ええっと……急に呼び出してごめんね? 母さんや私とクロノが皆それぞれナナシにもう伝えてると思ってて」

 

 そういうことか、どうせ俺はいつでも暇だし、直前に伝えればいいかって思われてたわけじゃなかったようだ。

 

「ホウレンソウが行き届いてなかったのか」

「ほうれん草……?」

「報告、連絡、相談の頭の文字取った言葉ね。おひたしにする方じゃないから」

「ほう、れん、そう……わっ、ホウレンソウになった」

 

 並び順を変えて、連装砲でも可。おひたしから攻撃力がグンと上がります。

 

「基本中の基本なんだが怠っていてすまなかった。まぁ、どこかで君ならどうせ暇だろうという気持ちもあったな」

 

 やっぱりあったのかよ。アリシアとデバイス作ってる以外は実際暇なんですけどね? なんか内職でも探そうかな……

 

「裁判の内容なんだが」

「フェレットの姿を装い女児の風呂場を覗いた少年の判決」

「ギルティ、と言いたいところだが訴訟されてないので裁判にはならないな。で、裁判なんだが君にはフェイトがジュエルシードの危険性については完全に知らなかったことを証言して欲しい」

「ふむふむ、願いを叶える石程度にしかわかってなかったと」

 

 七つ集めて出てきた龍に頼めば、願いが叶えてもらえると思っていたと言えばいいのかな。あ、ジュエルシードなら21個か。なかなかに多いな。

 

「その通りだが、余計なことは言うなよ?」

「ハハッ、モチロンさー」

「ナナシ声が裏返ってるけど大丈夫……? 緊張してる?」

 

 ある意味緊張してる、我ながら流れるように余計なことを言いそう。

 変な冷や汗が流れてるが、フェイトにはバレてない。クロノにはジト目で睨まれている。

 

「本当に頼むぞ? 身内以外からの発言というのは結構重要なんだ」

「……もう、俺が犯人でいいから証人なんてやめよう」

「なんで!? 2、3の受け答えするだけだよ!?」

「真面目な空気に耐えれる自信がない……」

 

 いつから、こんなんになっちゃったんだろうか? プレシアからアリシアを生き返らせようとしてる経緯聞いてたときは、まだ俺の真面目な要素は元気だったのになぁ。

 今じゃ渇れかけてる……持ってくれよ俺の精神! シリアス3倍拳!

 

「あぁ、そうだ。話が逸れるが君のレアスキルだが今度登録しないか?」

「え……なに、登録?」

「局にだがな……僕自身は好きじゃないんだが、レアスキル持ちだと局員になるときに、特に上級キャリア試験のときに特例措置があったりするんだ」

 

 ふーん、なんかレアスキルなしからしたら納得できないというか腹に逸物たまりそうな……

 

「なーんかずっこいな」

「君はそのずっこい方になれるぞ?」

「うーん、ズルも不正も楽できるなら大好きなんだけどなぁ」

「身も蓋もないね……」

 

 ただ、こう……そういう周りに妬まれるようなズルさは好きじゃない。みんな最後は笑って許してもらえるようなズルさが大好きだ。

 

「小心者だからなー、そういうのはいいや。俺のは倉庫でしかないし」

「ふふっ、なんかナナシらしいね」

 

 そうかね? 上級キャリアなんて合ってないし、あんなスキルで上にいける気もしない。てか、人の上にたつなんて胃が痛そうだ。

 

「クロノは執務官って大変じゃないの?」

「大変さもあるがなりたくてなったものだ。目標もあるからやりがいがあるよ」

「あ、私も執務官を目指そうと思ってるんだ」

「えっ、そうなの?」

「うんっ!」

 

 ――なんでも、今回の出来事を通して目指そうと思ったらしい。

 自分たちみたいな、は特殊な状況だったとしても困ってる人たちを手助けして笑顔にしたい。と要約すれば、そんな感じであった。

 

「言うべきか悩んだが言っておこう。執務官も綺麗事ばかりで、どうにかできるものでもないぞ?」

「うん、それでもなりたいんだ。クロノを見てたらそう思えるんだ」

「そ、そうか」

「執務官冥利につきるね」

「……ああ」

 

 けど、綺麗事ばかりではないか。ま、おっきな組織ならそんなもんでしょ。地球の大企業も変わらん変わらん。

 そんな面倒には蓋をしてダストシュート!

 

「なら僕も教えれるかぎりは教えよう。たしか僕の使ってた参考書も残しておいてはずだ」

「うん、ありがとう」

「俺は特に何もできないな……あ、小学校の勉強程度なら見れるか」

「あ、国語をお願いしたいかも。なのはも国語は苦手みたいで」

 

 なのはも? あー、魔法が得意なだけあっては理数系は強いけど、反面国語系が駄目と。英語はミッド語に通ずるところがあるから、割りと出来るらしい。

 英語ができて国語が苦手とは帰国子女か。

 

「な、なんでも得意苦手はあるから」

「君が真面目が苦手なようにな」

「くそっ、嘗めるなよ。俺だって真面目にしようと思えば出来る!」

「ほほう、言ったな」

 

 バッチ来いや!

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 裁判終了。勢いに乗せられた感があるけど、普通に受け答えができた。

 

「君の扱い方が何となくわかってきたよ」

「マニュアルいります?」

「確実にマニュアル通りに動かんだろ」

「オートマチックなもんで」

自動(オート)というか自由(フリー)だね」

 

 おっとー、フェイトさんから的確なツッコミが来た。クロノが笑ってるのを見て、頭上にクエッションマーク浮かべてるあたり思ったこと言っただけだろうけど。

 

「さて、ふたりとも送っていこう」

「センキュー。フェイトの裁判の判決っていつ?」

「え、明日だよ?」

「明日!?」

「ああ、一昨日はユーノも証人に来ててな。今日の君の発言で最後……ま、間違いなく大丈夫だろう」

 

 先に言ってほしかった。なにか余計なこと言ってないか心配になってきたぞ。これで俺が変なこと発言しててみろ、死ぬぞ! 親バカの雷で焼き殺される……!

 

「いや、君は先に伝えてる方が変に暴走しそうだったからな……」

「それも否定できない。まー、無事に終われるならアリシアもプレシアさんも喜ぶだろうさ」

「うん、ありがとうね。明後日には海鳴市に引っ越しだし楽しみだなぁ」

 

 そういや、そうでしたね……嫌だなぁ、なのはたちとの模擬戦。

 おや、玄関でアリシアとプレシアが待ってる。じゃ、クロノありがとね。

 その後はテスタロッサ家と俺で夕飯を食べ、明日のプレシアとフェイトの判決を心待ちに眠るだけであった。

 嘘、あんま寝てない。また、アリシアとユニゾンデバイス製作してた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――翌日、12月2日。なのはが何者かに襲われ、リンカーコアを損傷する事件が起こった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
ようやくクロノをしっかり出せた気がします。
そして、ようやくA`s編本編に始まりそうです。始まったから、どうなるってわけでもないんですけどね。

次回、『ちょっとだけ』真面目なお話。サクッと済ませたい。

前話を14話からEXTRAに変更。


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15.カートリッジシステム

 12月2日、フェイトとプレシアの裁判判決がくだされ、無事に観察保護となった。

 までは、よかったのだ

 ――ほぼ、同時刻なのはが何者かに強襲された。その報告を聞いたフェイトとユーノ(人型が本体だった)は、急遽援軍に行ったが敢えなく敗退。

 なのはやフェイトが弱かったわけではない。ぶっちゃけ武装局員と比べても金の卵だと聞いた……あれで、まだ卵らしい。孵化したら星でも滅ぼせるんじゃないかな?

 

 なのはの見舞いにも行ったけど寝込んでいた。リンカーコアを損傷させられた影響らしいが、魔力行使をせずキチンと休めば無事回復するらしい。

 

「で、クロノは何で私たちのところに? 指揮とかいいの?」

「いや、良くはないんだが……レイジングハートとバルディッシュが先の戦闘で」

「あー、クロノそっちの部品はここ置いてくから段ボールに入れないで」

「ああ、わかっ……なんで僕まで引っ越しの手伝いをさせられてるんだ!?」

 

 仕方ないじゃん。必要最低限の日用品と家具はもう送ってるけど、デバイスの整備用具とかは手つかずだったんだもの。なんでって、昨日までデバイス弄ってたからに決まってんじゃん。

 

「大がかりなものは置いていくけど、最低限のは持ってきたいからねー」

「カートリッジシステムの改良くらいは、向こうでも出来そうだしな」

「……それだ。君たちはミッドのデバイスにカートリッジを付けてる実験をしてたんだよな?」

「実験ってか実践ね。既に付けてるし」

 

 ただ、実用にはあと少しって感じである。未だに、使用者への負担が大きい。更にカートリッジをロードし過ぎれば、デバイスにまで響いてくることもわかり改善点は増えた。

 これはベルカ式が攻撃力の強化、デバイスの変形を目的に使っているのに対し、俺たちは魔力総量を底上げするために使ってることが原因っぽい。

 デバイス損傷は簡単。俺たちのデバイスがストレージにしては繊細だから。より精密な構造をしてるインテリジェントデバイスも相性が悪いだろうな。

 

「で、それがどしたの? あ、これそっちの棚に戻しといて」

「わかった……今回なのはを襲った奴らがベルカ式の魔法を、カートリッジシステムを搭載したアームドデバイスを使用してたんだ」

 

 ベルカ式アームドデバイス……どっかで見たような、バルニフィカスは違ったよな? 勘違いか。

 

「へー、私たちみたいなパチモンじゃなくてマジモンのブツとな……!」

「どうでもいいけど、単語のあとにモンってつけるとモンスターの名前みたいだよな、アリシアモン」

「本当にどうでもいいうえに語呂悪いね、ナナシモン」

 

 それは思った。2文字から3文字がちょうどよいかも。

 

「……それで続きだが、その襲撃者にやられたレイジングハートたちが自分たちにも」

「自分たちにもカートリッジシステムをつけるように要求したと……」

 

 ――やっぱりインテリジェントデバイスの人工知能といっても、ある程度の人格は出来上がって意思は出てるのかな。でも、持ち主に対して最善と判断したなら不思議じゃないし……いや、未熟な持ち主の場合は振り回されることがあるとも言うし意思は確立されてなくても存在はして…………やっぱり面白いなぁ。

 

 以上、全部アリシアさんの独り言。

 

「あー、もうっ! 使えないとか気にせずインテリジェントデバイスも弄ろう!」

「すいません、デバイス関係になると熱くなる子で」

「い、いや、構わんが……」

 

 それでバルディッシュたちがカートリッジシステムをつけろと? なに、つけることを確約するまで修理もさせないようロックしてる……?

 

「なら付けたら?」

「簡単に言うがミッド式のデバイスに、カートリッジシステムをつけるなんて普通やらないんだ」

「メッチャ頑張れ! 諦めなきゃ大体どうにかなる!」

「君はわざと話逸らしてるのか? たしかに今来てくれているメンテナンススタッフは優秀だがカートリッジシステムなんて数えるほどしか触ったことがないんだ」

 

 うんうん、話の流れは読めてるんだけどね? わざと逸らしてました。

 

「まとめたら、うちのフェイトのバルディッシュとなのはのレイジングハートの改造を手伝ってほしいってこと?」

「そういうことだ。少なくとも君たちは、ストレージデバイスにカートリッジシステムを搭載することに成功しているからな」

「搭載することには、だけどね。いいよー、フェイトもなのはを守りきれなかったって、悔しがってたしお姉ちゃんとしても手は貸したいから」

 

 ……おや、予想外。面倒とかそんな理由はなしにしても、断るかと思ってた。

 

「ただし条件があるよ」

「……聞こう」

 

 現状では、まだカートリッジシステムを、ミッド式のデバイスを万全に使用するには不安定すぎる。

 それも自分たちのデバイスはインテリジェントより、単純なストレージであるにも関わらず、である。

 その不安定さは使用者やデバイスにダイレクトにマイナスの影響をもたらす。特にフェイトやなのはのような身体も出来てない幼い子供は顕著。加えて、こうと決めたら意固地に無茶をする子たちが、使い続ければ疲労が身体を確実に蝕む、負担がデバイスを確実に食い潰す。

 

「ヒヨッコといっても、これは技術者の一人としては許せないんだよ。クロノはフェイトから話を聞いたんだろうけど、私たちがまだ他人に話してない理由はここ」

 

 ――他人様にそんな不良品を渡すなんて、アリシア・テスタロッサ()が許せない。

 

「自分で使うならいざ知らずね」

「あれ、俺は?」

「自分で、使うなら、いざ、知らず、ね!」

「そうだねー!」

 

 そうか、俺も製作側だったわ。

 

「だから万全に弄らさせて貰えて、納得してから渡すって条件でなら引き受ける」

「それは……」

「って言いたいところだけど、時間がないのもわかるんだよね」

 

 事件の概要も何もかも知らないけど、確実に時間は待ってくれない。

 そしてフェイトもなのはも、また飛ぶんだろうな。バルディッシュもレイジングハートだって主人のために、敵わぬ相手なら自分を削ってでも拮抗しようとするんだろう。

 それも姉であるアリシアはもちろん、俺もわかっている、わかっちゃう。

 

「ってことは私たちがやることはなにか? はいっ! ナナシくん!」

「全力全開、メンテナンス――出来上がるまで寝れない! 不眠不休のデバイス改造はっじ、まっるよぉぉぉぉ!」

「いぇーい! 今回の条件はこちら! ナナシぃ、簡単に説明!」

「どんな事件かも知らないけど任せろ!」

 

 とにかく超急ぐ、メッチャ急ぐ。

 次いつ敵が出現するかわからない。更に、フェイトもなのはも敵が出たら飛び出す鉄砲玉みたいな子だから、インパルスもかくやの超スピードで改造を施す。

 尚且つ、アリシアの愛しき妹やその親友への負担が最小限になるように、最高の出来で仕上げる。もちろん、デバイスへの負荷も込み込みでだ。

 

「正解! 難易度は?」

「ベリーハードッ!」

「時間もない! 事件に関することも知らない! お給料もない!」

「ないない尽くし! だけど、俺たちにゃ知識と技術とやる気がある!」

「いや、報酬は出るが……」

 

 あ、そうなの。けど、時間は絶対的にないのは変わらない。

 

「だったら、可愛らしい妹のためにやってしんぜよう!」

「時間がないからなんだ! 睡眠時間があるじゃないか! 削れ! 削れ! 削れぇ!」

「よっしゃー! やるよ、ナナシー!」

「「いぇーい!」」

 

 どこで何を間違ったか、俺たちは既にエンジン全開フルスロットル。今の俺たち止めたかったらプレシア連れてこい!

 

「クロノ行くよ! 時間が惜しい!」

「あ、あぁ。協力は嬉しいのだが道具類は……」

「ナナシの四次元空間に突っ込む!」

「……引っ越しの荷物もそうすればよかったんじゃないのか?」

「あ……いや、普通に普通なことだと四次元空間の存在忘れちゃうのよね。ささ、早くいこう」

 

 時は金なり。時間は金に変えれるけど、金で時間は買えんのだ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 移動中、メンテナンスというかデバイス弄りが主なアリシアさんの血がたぎってるので、代わりに俺が連絡を入れる。相手はプレシアに決まってんじゃん。

 

「というわけでして、海鳴に俺たちが引っ越せるのが少し先になりそうです」

『ふぅ……まぁ、仕方ないわね。フェイトも嘱託魔導師として、今回の事件に協力するようだし……私も手伝えないかリンディに聞いてみるわ』

 

 顎に手を当て、思案するようにしているプレシア。娘がふたりとも直接的、間接的の差があるとはいえ、関わるので親バカとして……親として色々思うところがあるのだろう。

 

「なんか……申し訳ない」

『別にナナシのせいじゃないわ。というか貴方は別になんら影響を与えてないわ』

「なんでこっちの心抉る言い方に変えた?」

 

 必要なかったよな? たまの真面目な謝罪くらい素直に受け取ってくれ。

 

『ま、引っ越し祝いやフェイトの入学祝いは事件が解決してからにしましょう』

「あいよ……あ、フェイトに入学おめでとうと伝えといて。俺とアリシアからって」

『ええ、じゃあ身体には気をつけなさい』

「了解、じゃ」

 

 さて、到着。待機状態なデバイスが2機置かれている整備室へ着いた。バルディッシュとレイジングハートなわけだけど……うんうん、ディスプレイで2機と話せるのね。

 待て待て、ペラペラ喋られると読解が追い付かん……

 

「ナナシ、私の考えてたよりハードル高いよ。この子たちったら、素敵かつアホみたいな案出してきてる」

 

 マジかー……で、アリシア。クロノとメンテナンススタッフらしき女性が置いてけぼりくらってんだけど。

 

「え、あ、ごめんごめん」

 

 眼鏡をかけた、緑髪ショートヘアな女性は、マリエル・アテンザさん。今回レイジングハートたちの改造をするのに、手伝ってもらえるらしい。いや、手伝うの俺たちだっけ?

 それからパパッと自己紹介を済ませ、早速取りかかるが無茶な案ってなにさ?

 

「カートリッジシステムだけでも、安定させるの難しいのになー……簡単に言うと万が一に備えた限界突破なモードもつけろってさ」

「そうなんですよー! でもこの子たちも頑固で頑なに譲らなくて……」

「なら付けたら?」

「よし、つけよう」

「えぇぇ!? でも安定させるには時間も……」

 

 睡眠時間があるじゃない! それになるべく使わないことを前提にしよう。

 ただ、本当のピンチになったときに、あの機能をつけとけばってことがないように念のため。

 

「念のためにつけるよー! レイジングハートもバルディッシュも私たちの改造はハードだけどついてこれるかー!?」

《《No problem. 》》

「よしきた! やってやるよー!」

 

 安全面では、何もないより確実に向上させることの出来る――ありがとう、ルシフェリオン、バルニフィカス。

 あのときは、工具がなかったためアリシアも完璧には構造を把握することは出来なかったようだが、バルディッシュたちとほぼ同じ構造なデバイスの完成形を見たお掛けで、かなり得るものはあったらしい。

 

「バルディッシュはリボルバー式のでいいな……えー、CVK792-Rだな」

「うん、レイジングハートはマガジン式でCVK792-Aだね……ああ、フレームも強度上げないと! 今のままじゃ、出力に耐えれず砕ける!」

「硬度ばかり上げると、逆に脆くなるのが難点ですねぇ。レイジングハートは、シューティングモードのパワーアップバージョンとして、バスターモードを搭載するつもりなんですが……砲撃の精度も上げたいですよね」

 

 砲撃の精度か……単純に反動で、持ち手がブレるってのもあるだろう。縦に一本の棒を持ってる状態だから余計だ。

 

「横にグリップつけよう、マガジンの手前あたりに」

「なにそれ、カッコイイ!」

 

 しかし、砲撃強化について本気で考えないといけない魔法少女の杖(デバイス)か……魔法少女ってなんだったかなぁ。少なくとも日曜の朝にやってるタイプじゃないな、これは。

 

「それいったらフェイトもだよね」

「メインモードが斧と鎌だからな」

「新しいモード入れたいね」

「ザンバーだろ」

「ザンバーだね」

「スピードタイプですけど、大丈夫ですかね?」

 

 大丈夫、そこは心配ないよ。水色の子が既に証明済だし……けど出力が不味い。大変アッパーで、リミッター振り切った感じになる。

 さっき言ってた念のため(・・・・)のモードになるな。

 あとはレイジングハートさんご所望のエクセリオンモードね……かなり、なのはを守れなかったことを後悔してるのか、結構無茶なモードだ。なのはもであるが、何よりもレイジングハート自身への負荷がマッハ。

 

「これ、なのはがミスしたら……レイジングハート壊れるよ?」

《Master and I can do.》

 

 アリシアが確認のために聞くが、レイジングハートとなのはなら出来るってか……ううーん。

 まぁ? アリシアは当然ながら、俺も技術者見習いみたいなもんだし?

 

「ご注文には答えますとも。な、アリシア?」

「任せろぉ! 安全面でも要求より数倍いいもんにしてみせるとも!」

《Thank you.》

「で、ですけど! レイジングハートもバルディッシュも、これは万が一のため、なるべく使わないこと! これは絶対ですよ!」

 

 マリエルさんの注意にもしっかり返事してるけど、使いそうでならないな。

 これは本腰入れて安全性上げねば……アリシアとマリエルさんが。俺はそんな精密なとこまだ弄れないからね。

 

「じゃ、チキチキーデバイス改良が終わるまで貫徹祭り始まるよー」

「はいよー! マリエルさんレイジングハートの方お願いします! ナナシはカートリッジシステム組始めといて!」

「あいよー」

 

 こうして、眠れない夜が始まった。

 ――二日後くらいにフェイトは小学校に初登校したらしい、その頃俺たちは目が死んでた。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
やっぱりこのふたりが一番書きやすい。


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16.貫き徹する

 人間には、限界ってものがあるよね。いや、なにも個人の成長の伸び代とかそういうことに限らずの話だ。個人ではなく、人間という大きな括りとして見て例えば足の速さ、例えば握力。地球でなくミッドまでいれると魔力総量にだって限界ってものがある。

 魔力ランクSSSとか頭おかしいんじゃねーのって、ランクも用意されているが実際には居ない。ただ、用意されてるだけであり、そうすると現在の人間の限界は魔力ランクSSということになる。

 

 で、限界を超えようとすると、必ず何かしら代償が必要になる。

 ベルカ式に合わせたカートリッジシステムを、ミッド式の繊細なインテリジェントデバイスにつけて戦闘するなど限界がすぐ見えてくる。

 そもそも、ベルカのデバイスは武器型(アームド)が多く、カートリッジは攻撃力の強化――つまりは武器(デバイス)自体に、もしくは武器を取り扱う使用者自身に使うことが多い。

 しかし、インテリジェントデバイスは、というよりそもそのミッド式の魔法は中距離からか遠距離からが主体となっている。なので、デバイス自体や使用者を強化したところで効果は薄い。

 じゃあ、どうするのか? って問題はすぐ解決した。

 強化するというプロセスの一歩手前で止めればいい、ただ魔力総量を一時的に増幅させるために使えばいいのだ。

 

 しかし、ここで話が戻る。一時的に、尚且つ爆発的に魔力総量を増やすいうことは、一瞬とはいえ己の魔力の限界を超えるのだ。まぁ、一回くらいほんの刹那的に限界超えたところで支障はない。火事場の馬鹿力とあるが、あれも一時的に自分のリミッターを外しているが、基本的に後遺症はない。あれは一回きりの一瞬だからだ。

 けど、魔法での戦闘となるとそうもいかないだろう。何度も何度もカートリッジを使い限界を超える。その全ては、ほんの一瞬かもしれない。でも、それだって回数を繰り返せば、塵も積もればなんとやらだ。

 ――確実にデバイスとその持ち主を蝕んでいく。

 

 そして、更に限界を超えるために切り札のモードを使えば、その代償は容赦なく使用者とそのデバイスに牙を剥くだろう。一歩間違えれば二度と空を飛べない、そういう取り返しのつかないものとしてだ。

 

 

 さて、ここまで話すとデバイスのことを真剣に考えて、限界を超えたときの代償を真面目に考えてるようだがそんなことない。

 

 じゃあ、何でこんなことを考えたか。簡単である。

 ――限界を超えたのは俺たちである。

 

 いや、別に1日の徹夜ぐらいは慣れた。人間は慣れる生き物だからね。けど、2日目入るとテンションにアッパーが入ってくる。これも、眠気から自分も守るため。いわば自衛行為だから仕方ないね。

 

「アリシア! レイジングハートのまわりにビットみたいなの飛ばそうぜ! それからも砲撃撃てるようにすれば、砲撃とは名ばかりの狙いもクソもいらねぇ面制圧余裕だぜ!」

「いや、むしろレイジングハート自体を改造して砲撃にオートでブーストかかるようにすれば……! 代わりにごてごての重装備っぽくなるけど! 集束砲の要領で大気中の魔力を取り込めば行ける、はず!」

「ビットの方がいいだろ! ビットで取り囲んでの360度全面砲撃とか最高だろ!」

「バカ! 一撃に賭けた超高威力とか凄いロマンじゃん!」

《 Please don't do that.》

 

 珍しく意見が別れた。このまま意見が、平行線をたどると思われたそのとき、マリエルさんから神のお告げがきた。

 

「両方つければいいんじゃないですか?」

「それだ」

「これでなのはも砲撃の頂点を極めるね、間違いないよ」

 

 今思えば、この人も見た目が普通なだけで頭はお花畑だったと思う。こんなもんつけたら、カートリッジ云々の前に余裕でなのはの限界超えるし。

 

《Cut it out.》

「あ、レイジングハートがシステムブロックした!」

「こうなったらバルディッシュを……くそぅ! バルまで!」

 

 それから、レイジングハートとバルディッシュのシステムのファイアウォールを格闘すること2時間ほど。

 ふと、気づいた。何やってんだ、と。

 

「よくよく考えりゃ、そんなん付けたらレイジングハートもなのはも耐えきれねぇ」

「考えなくてもわかることだったよね……熱に浮かされてた」

「うう、不覚です」

 

 まぁ、ここで時間はロスしたものの限界は来てなかった。ここから、2日後が問題だった。別に倒れたりしたわけじゃない。いや、倒れてないのが奇跡的な感じだったけど。

 さて、どうなっていたのか。俺たちの顔から表情が消えてた。黙々と作業をこなす機械と化してた。

 

「……ナナシ、そこのC2-Vの螺」

「……ん」

「B-8a……スプリングどこですか」

「そこ、下……」

「バル……ど?」

《No problem.……Are you feeling OK?》

「……ん」

 

 こんな会話が5分に数回程度。そして割りと無口な方のバルディッシュに体調を聞かれてる時点で結構ヤバい感じだったのだろう。後々にアースラのカメラで記録見たら目のハイライト消えてたし。

 

 さらに時は過ぎて、半日後……のはず。時間感覚おかしくなってたから自信はない。このときは時計が12時を指してても、自分が5時と思えばそう言い張ってた。

 

「そろそろ、仮眠入れねぇ……?」

「何言ってるのナナシ、私たちさっき5分も意識トんでたじゃん」

「いっけね、忘れてた。5分もネテタカー」

「ナナシったらうっかりさんなんだからぁー」

「「アハハハハハハハ!」」

 

 ヤバい感じとかじゃなくて、ヤバかった。マリエルさんは横でついに倒れた。固い床だというのに気持ちよさげに寝てた。

 正直、この時点で大体終わってた。いや、俺たちがじゃなくて作業がである。

 なら、何をしてたかというと話をグーンと戻して、カートリッジシステムによるデバイスと、その使用者に対する負担の話になるんだけど。

 

「……こんなの気休めなんだけどねぇ」

「まぁ……無茶する子たちだからな」

「見た目は私の方が下だけどお姉ちゃんだから、そこらへんはカバーしたげないとね」

 

 先日アッパーが入って頭おかしい発案してて、半日前には目のハイライトが消えてた奴とは思えない……なんていうかお姉ちゃんな顔してる。

 俺とアリシアが付けた追加機構。機構なんて対したものじゃない、単純なものだ。

 ただ、一回ポッキリの身代わり装置。レイジングハートやバルディッシュが、切り札のエクセリオンモード、ザンバーフォームを使用したときに初めの数分間だけ負荷を軽減するだけのものだ。

 

「こんなものでも……ないよりは、マシなはず……よいしょ」

 

 パチンッ! と小気味よい音をたたてフレームを閉じたアリシア。

 

「完成!」

「終わったぁ……ふぅ、お疲れさん。ちょっとゆっくりしたらクロノに渡しに行くか」

「そだねー、飲み物飲みも」

 

 ようやく完成した。レイジングハート改め、レイジングハート・エクセリオン。バルディッシュ改め、バルディッシュ・アサルト。

 グーっと伸びをして枯れ木をまとめて折るような音を関節から鳴らし、ゆっくりしようとしたそのときクロノから緊急連絡が入った。

 

『すまな……なんだ、その殺意の籠った視線は』

「ナンデモナイヨ?」

『いや、すまない。それで、急なんだがレイジングハートたちの改修は』

「ちょうど今終わったよ。何かあったの?」

『例の容疑者たちがまた現れた。僕は先に押さえに行くから、君たちはメインフロアにいるなのはとフェイトに渡してもらいたい!』

「りょ、了解だよ」

「がってん承知だぜ……」

 

 生まれたての小鹿のように震える足に鞭打って、メインフロアに走る俺たち。泣いてなんかないやい。

 メインフロアに着くとフェイトたちが、気がついたのか駆け寄ってきた。

 

「アリシアちゃんも、ナナシくんも髪の毛ボサボサだけど大丈夫……?」

「目の下に隈もあるよ……」

 

 ハハッ、後ろに控えてるリンディさんも心配そうな目で見てきてる。

 

「そんなことはいいから手短に最低限説明するよ」

「詳しくは帰ってきてから話すから耳かっぽじって一回で聞くように。二回説明する体力は、これっぽっちもない!」

「う、うん!」

「わかったよ」

「じゃあ、基本的なことはレイジングハートたちに聞いてくれ」

 

 そこらへんは丸投げ。バルディッシュたちの方がフェイトたちに合った言い方が出来るだろう。

 

「で、追加モードにエクセリオンモードとザンバーフォームがある」

「けど、絶対使わないように。まだまだ不安定で下手をしたらデバイスも壊れちゃうから」

 

 ――だから、本当にピンチになるまでは使わないでほしい。これは口に出さなかった。アリシアもわかってるんだ、目の前のふたりは言って聞かせても、本当に必要になったら使ってしまうことくらい。だからこそ追加機構をつけたわけだし。

 

「今はそれくらいわかってたらいいよ」

「じゃ、いってらっしゃい」

「うん、いってきます!」

「姉さん、ナナシ、ありがとう!」

 

 転送ポッドから地球の上空へ跳ぶふたり。メインフロアの映像にふたりが映り、無事セットアップした姿を見て――俺もアリシアもぶっ倒れた。糸の切れた人形のように、正面にビターン! となんの抵抗もなく。

 

「ほ、ホントは戦闘まで見たかったんだけどね……」

「もう、さすがに……限界だ」

 

 最後の作業は気力でやってた。メインフロアまで走ってきて説明することに至っては、死力を振り絞ってた。

 それでフェイトたちが出撃した今、振り絞った死力で繋いでいた意識の糸が切れた。そりゃ、もうプッツリと。

 

 俺たちが、寝ている間にフェイトやなのはたちはカートリッジシステムを搭載したバルディッシュたちと奮闘。互角以上に戦え、今のところ異常もなかったとのこと。

 それにクロノが首謀者らしき人間を一時的に押さえたらしい……一時的に。なんか仮面の男が乱入してきたとかで、逃がしてしまったとのこと。

 

「以上、俺たちが丸々一日寝てる間のことね」

「へぇ、あとで戦闘データ見せてもらおうかな」

 

 さて、ここまで来て気づいたことがある。

 

「俺たち事件の名前すら知らないな」

「あっ……気持ち的にデバイス弄りに来ただけだったからなー」

 

 うん、マリエルさんとの自己紹介ついでに、事件概要を説明しようとするクロノを邪魔だからと部屋から出してたもんな。

 

「時間が惜しかったんだよ、実際ギリギリだったしね」

「まぁーなー、フェイトたちにデバイスの説明するか。どこにいるかね?」

「携帯買って帰るってさ、母さんも付き添いで行ってる。ナナシは携帯ってわかるよね?」

「まぁ、前世も地球だからな」

「記憶はほぼない癖に。話聞いた感じ、エピソード記憶に関する部分だけ無くなってるみたいな、そうでないような……」

 

 そうだな、一般的な知識だけは残ってるし。でも、前世のことはいいや。そんなことで悩むのはめんどくさいし、気にするほど繊細でもない。

 

「ちょっとだけ、知識多目に持って生まれたと考えればオールオッケー」

「アハハ! その知識がほとんど役に立ってない現状だけどね」

「あれ? マジだ」

「元の地球にはない、魔法とかデバイスばっかだもんねぇ」

 

 ま、まぁ基礎の理解はすぐ出来たってメリットはある……あれー、思ってたよりも、この世界に来たとき手持ちにあったステータス役立たずだな。

 人生、楽は出来ないと。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 それから、ほどなくしてフェイトたちが帰ってきた。

 ……ああ、プレシア娘とお揃いの携帯買って滅茶苦茶嬉しそうね。肌がツヤツヤしてやがるよ……アリシア生き返ってからなんか若返ってねぇ?

 

「アリシアとフェイトがいれば、いつまでだって生きられるわ」

「妖怪か」

「失礼ね、妖術で消すわよ」

「それ妖術じゃねぇ、ただの魔法だろうがごめんなさい、悪かったです。なのでデバイスしまってください、やめて! 帯電始めないで!」

 

 微妙に電気がこっちまで届いてるから。パチパチ当たって痛い!

 

「それでふたりともデバイスはどうだった?」

「あ、すっごく、よかったよ! ありがとうね、アリシアちゃん! ナナシくん!」

「うん、壊されちゃう前より処理も早くなっててビックリした」

「うんうん!」

「アリシアが仕上げたのだから当然ね」

 

 俺もだよ、いや、俺よりマリエルさんもだよ。プレシアの目には娘しか映ってないのだろうか。とんだ盲目だ。

 

「はい! そうやって喜んでもらえるのは技術師の卵としては嬉しいんだけど」

 

 アリシアがパンッ! と手を鳴らしふたりを止める。

 ……まぁ、嬉しいんだけどそれに浮かれてばかりもいられんよね。

 

 ――なんたって現状、その2機は欠陥品なのだから。

 

「え、欠陥品、って……?」

「あぁ、そんな心配しなくてもレイジングハートたちが駄目とかそういうわけじゃないから、そんな顔しないでなのはー」

「ふぇ!? い、いやビックリしただけだよ!」

 

 なのはの強張ったほっぺをぐいーっ、と引っ張りほぐすアリシア。俺も微妙に固まったフェイトにするか悩んだが、後ろの親バカが怖かったのでやめた。

 

「そもそもカートリッジシステムをインテリジェントデバイスにつけるってのは難しくてねぇ……」

 

 ここからアリシア先生の解説タイム。俺たちが今までさんざん考えて、まだ解決しきれていないカートリッジシステムがかける使用者たちへの負荷について説明した。

 途中、なのはたちが首を傾げた際には、俺が砕きに砕いてサラサラにして補足した。

 

「で、現状エクセリオンモードとザンバーフォームは使わないでほしいの」

「さっき言った、欠陥ってのはこの部分のことね、無茶して使って下手すれば壊れっから」

「バルたちも、使ってるフェイトたちも。ホンッッッットぉぉぉ――――っに! 使わないと駄目だってときまで使っちゃ駄目だよ」

 

 ふたりの空いてる時間でなるべく調整したいところなんだけど、本格的に調整しようとしたときに出撃ってなるとどうしようもなくなる。難しい塩梅だね。

 

「以上! 気をつけてほしいことでした!」

「ホントふたり無茶しそうだからね……おい、コラふたりとも顔見合わせて首傾げんな。クロノにも聞いてみろ、深く頷くぞきっと!」

 

 本人は自覚がないものっていうけどホントだね……アリシアと俺は、レイジングハートとバルディッシュの修理用の部品を取り寄せることを決意したのであった。出来れば、使うことなく終わりたい。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
ちょっと後半真面目な話をしてしまいました、デバイス関係になるとアリシアさんにスイッチ入っちゃった。

前半のレイジングハートはこんな感じ。
Please don't do that.(やめてください)
Cut it out.(おい、やめろ)
レイハさんが危うくForceっぽいことになるところでした、扱えないです。


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17.仮面、散る

 俺とアリシアが、レイジングハートやバルディッシュを強化した理由。

 というか、その理由の事件。それの中心にあるものをようやくクロノから聞いた。

 

 ――“闇の書”。主と共に旅をして、各地の偉大な魔導師の技術を収集し、研究するために作られた収集蓄積型の巨大ストレージ……だったのだが、歴代の持ち主の頭がすごぶるいいくせして、考えることがおかしいタイプの人間によって改変された。

 

「改変というより改悪だね、“ナハト”かぁ……」

「旅する機能が転生する機能に、復元機能が無限再生機能になったんね……転生だなんて親近感わくな」

「そして本当の名前、改悪される前の名前が“夜天の書”。リンカーコアを蒐集することで、魔法をコピーする機能付きってのは怖いね」

 

 怖いな、既になのはが蒐集されてるってことはスターライトブレイカーを撃てるわけだ。プレシアとか蒐集されちゃったら、もうどうしようもない。

 蒐集をするという守護騎士は4人おり、それも一人一人が一般局員が束になっても勝てないほどの強さらしい。

 

「そうだねー。だから、なるべく母さんもアースラに来てて一人にならないようにしてもらってるんだって」

「俺たちも、一応の形でアースラにいるしな」

 

 デバイス弄ってからそのまま滞在の流れだった。こんなミソッカス狙うか、怪しいけど念のためらしい。ミソッカスだから、襲撃されたら場合どうしよもないし。

 

「でも、このナハトって改悪プログラム外せば綺麗な闇の書……もとい夜天の書になるんだよな?」

「出来れば、の話だけどね。私たちには絶対無理だよ、闇の書の防衛プログラムが凍結されたうえで何世紀かかけたら出来るかもしれないけど 」

「不可能じゃねぇか」

 

 と、そこでアースラ内のアラートが鳴り響いた。管理外世界にふたり、守護騎士が現れたようである。

 なのはとフェイトが先行して向かうとのこと。俺たちもメインフロアに行くことにした。やっこさんのデバイスも見れたら対策たてれるかもしれんしね。

 そしてたどり着いたメインフロア。

 

 ――メインフロアには鬼がいた。いや、あれは鬼神である。

 俺たちが着いたとき目にしたものは、ディスプレイに映る、胸からリンカーコアを抜き取られたフェイト……それを見たプレシアがかつてない殺気を振り撒き次元跳躍魔法を放つところであった。

 リンディさんが止めるが圧倒的に遅い、速さが足りない。大魔導師と自称するに値する魔力量、合わせて狂気的な親バカが可能とさせる魔法陣の展開速度。

 アリシア蘇生のために、アースラに放った手加減ありのサンダーレイジなど目ではない。ただ、漏れ出す魔力だけで、空間が歪められているのではないかと錯覚してしまう……たぶん魔力のせい、殺気のせいじゃないはず。手心も手加減も何もかもを取り払った全力で全壊させんとす一撃が放たれると本能で察する。

 

 さすがに色々マズイと感じた俺とアリシアも止めようと動くがやはりスロウリィ、圧倒的に速さが足りない。

 数歩踏み出したところで――諦めて俺はアリシアの耳を塞ぐことにした。

 

「私の愛娘に手を出した■■■を×―×―しなさい! サンダーレイジO.D.J――!」

 

 もうひとりの愛娘がいるところで何てこと言いやがる!? 自主規制ものだ、教育に悪いだろ……ってかサンダーレイジって広域攻撃魔法じゃ、範囲攻撃でフェイトも巻き込まれるぞ!?

 

 画面を急いで見ると、フェイトのリンカーコアを抜き出した仮面の男が紫電に貫かれている……が、親バカの成せる技だろうか。フェイトだけ綺麗に避けて、仮面の男が雷に蹂躙され続けている。おー、陸に打ち上げられた魚類の如く跳ね回ってる……死んでないよな?

 撃ち終わったがいなや、プレシアは息を荒くしながらも、ツカツカと転送ポッドに乗り姿を消す。

 

「アリシアさん! 貴女のお母さんを止めて!」

「無茶だよリンディさん! 私ってEランクだよ!?」

「ランクとか関係なく、娘の貴女しか止めれるとは思えないの……!」

「うぐぅ、ナナシ着いてきて!」

「行きたくないなぁ、俺なんてギリギリのEランクだぞ」

 

 そうは言っても行かないとダメだよなぁ、プレシアったら仮面の男を■■して××しちゃいそうだもんな。逝きたくないなぁ。

 アリシアにズルズルと引きずられながら転送ポッドに乗せられる――転送される瞬間のリンディさんやクロノたちの、出荷される食用家畜を見るような目が印象的だった。どなどなー、子牛の出荷よー。

 

 

 ……おっかしいな、この世界って、カラッとした天候してる砂漠じゃなかったっけ?

 局地的に暗雲が立ち込めてて、雷落ちまくってんだけどなんでかな。

 

「現実逃避しなーい、母さんもさすがにそろそろ限界来るだろうし早く止めないと」

「次元跳躍魔法使ったうえに、あれだけぶっぱなしてたらな……」

 

 フェイトを抱き抱えたプレシアが目に見えて疲労しているのがわかる、距離が少し離れているが肩で息をしているのがわかるのだ。

 いや、しかし一撃目のアレが直撃したのに仮面の男はまだ動けているのか……? そう思い、動き続ける男をよく見ると。

 仮面の男が……ふたり? ふたりいるぞ。傷ついたひとりを背負ってプレシアの猛攻を必死に避け続けている。

 プレシアも疲労のせいか狙いが甘くなってきているかね。

 

「はぁん、見た目が全く一緒なところから、ひとりに見せかけて実はふたりでしたーって嫌らしい手を使うつもりだったな?」

「そんなことはいいから母さん止めるよー」

「イヤダナー、俺が話しかけたら撃ち抜かれそう」

 

 外見、年下の女の子の後ろに隠れて移動するカッコ悪い男。チクショウ、俺だよ。

 

「母さん!」

 

 アリシアが不意打ちで後ろから抱きつく。それにより、ピタッと動きが止まった。

 その間に仮面の男が転送しようとしてるので、牽制にフォトンバレットを数発撃ち込んでみたら、倍速で倍量で強力な直射型魔法を撃ち込まれた。

 

 しかし、俺が反撃を予想してなかったとでも?

 ――してませんでした。腹を撃ち抜かれて後ろにブッ飛んだ。ギャフン!

 馬鹿め! こっちは本体だ!

 

「無茶しすぎだよ! 母さん自身にはそんな膨大な魔力があるわけじゃないんだから! それにフェイトも医務室に連れていってあげないと」

 

 ――そう、あんなレベルの魔力ぶっぱなすわりに、プレシア自身が膨大な魔力を持っている訳ではない。なにかしらの媒体からエネルギー供給を受けることで、自身の魔力に運用できる特殊技能があるのだという。

 は、腹が……おっえぷ。

 

「ハァ、ハァ……えぇ、そうね。少し熱くなりすぎたわ。遠距離からの効率のよいエネルギー供給についても研究しないといけないわね……」

「あ、一応エネルギー供給してたんだ……」

「腹痛ぇ……ゴフッゴフ!」

 

 あー、逃げられた。くそぅ、魔力ダメージだったのが幸いだったけど……フェイトもなのはと同じことをやられてたなら無事なはずだけど、念のため早く医務室に連れていってあげよう。

 

「……ナナシ立てる?」

「ごめん、手貸してほしい」

「はいはいっと」

「よっ、と!」

「考えなしのナナシー、母さんの攻撃をあれだけ避け続けてた相手に敵うわけないじゃん」

 

 いやさ、体力削れてたらワンチャンねぇかなって。無かったわ。

 両手両足縛って目隠ししてもらって、五分五分の勝負だと思う。

 もう少し戦闘訓練するか悩む……伸びしろは知れてるけどな!

 

 

▽▽▽▽

 

 

 結局、仮面の男には逃げ切られた。転送先を魔力から追っていたらしいのだが、途中でプッツリ途切れてしまったらしい。

 そして、驚きの新事実。あの仮面の男は今回の事件、闇の書の守護騎士じゃないとのこと。

 本当の守護騎士はプレシアの雷撃を探知した瞬間に、転送で逃げたらしい。その速さは韋駄天を彷彿とさせるスピーディーなものだったと聞く。

 

「そして、ちゃっかりフェイトのリンカーコアは吸収していったと……」

「うん……姉としては怒るべきだけど、やることやってから母さん(命の危機)からはしっかり逃げてるところには感心すら覚えるね」

「ある意味俺たちに一番あったスタイルだな」

 

 てか、守護騎士の映像見るつもりだったのに結局見れてない。もう、写真でもいいから見せてくれよ。

 

 翌日、眠っていたフェイトは目を覚まし休養としてゆっくりしていたところ、なのはがやってきた。

 

「こんにちはー、フェイトちゃん、体調はどう?」

「あ、なのは。いらっしゃい、うん、もうだいぶん良いよ……母さんが来てくれたおかげで、リンカーコアも蒐集されきってなかったみたい」

「凄かったって聞いたよ、いいお母さんだよね!」

「サンダーレイジで仮面の男を狙い撃ちですよ。魔力ダメージとか関係ないんじゃないかってくらい、身体から煙上がってた」

「聞いてたより、えげつなかったの……」

 

 ピョンピョン上がってたなのはのツインテールが、シュンと下がった。

 

「あ、フェイトちゃんも病み上がりなんだけど、明日すずかちゃんのお友だちのお見舞いに行こうって今日話してて……どうかな?」

「あ、行くよ。もう、私は大丈夫だし。その子はどうしたの?」

「今日、急に倒れちゃったみたいで……大事をとって入院したみたいなの。はやてちゃんってお名前なんだけど」

 

 …………え? なのは今、はやてって言ったか? はやてが倒れて入院したって言いました?

 関西弁でノリがいい感じで、料理美味しいわ嫁力(たけぇ)ーな八神さんちの頂点のはやてが入院したってか?

 

「そ、そこまでは言ってないよ! ……ナナシくん知り合いなの?」

「生息地が八神家と図書館なはやてなら知り合いだけど……」

 

 入院したなら連絡くらい入れろよ……! あ、連絡先交換してねぇや。てか、携帯無かった。

 

「ナナシくんも知り合いなら一緒に行かない? 海鳴大学病院に入院してるみたいで――」

 

 海鳴大学病院ね、見舞いには行きたいんだけどな……

 

「うーむ」

「ナナシが見舞いは行きたいけど、知らない子に混ざっていくのが嫌で悩んでるのがありありとわかるね!」

「エスパーか」

 

 その通りだよ、知らない女子に囲まれたままアウェーな感じになるのは気まずいしヤだ。

 

「えー、ナナシくんも一緒に行こうよ!」

「そうだね、何だかんだではやてのお見舞いには行きたいし、知り合いとして入院した何て知ったなら行くべきだよな」

「うんうん! だから」

「だが断る。今から行ってきます」

 

 ええー!? ってなのはが元気よくプンスカなってるけど無視する。お前は女子の中、男子がひとりの浮き具合を知らんからそんなこと言えるのだ。

 まだ、夕方。面会時間ギリギリにはつけるでしょ。

 

「行ってくる」

「お土産よろしくー」

「忘れてるだろうけど、今テスタロッサ家は海鳴市にあるからな?」

「あっ……お土産話よろしく」

「お見舞いに行くだけでそんなもんできるかっての」

 

 アリシアとごちゃごちゃ喋ってから、アースラの転送ポッドの使用許可を貰い、テスタロッサ家のポッドへと転送される。

 

 海鳴大学病院に行く道すがら、お菓子を買い込み四次元空間に入れていく。この倉庫ホント便利。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 さて、病室は看護師さんに聞けた。友達って言ったけど間違ってないはず……友達だよな?

 あれ、もしかしたら俺って八神に変な奴としか思われてない可能性もある気がする。

 目を逸らしたくなる可能性からは、素直に目を逸らしておこう。

 っと、ここか。

 

「コンコンコンコン! 旅のものです! 入れてくだ」

「僕ー、病院内では静かにねー」

「あ、すみません」

 

 なんか、ボケてネタ振りしたくなった衝動が押さえきれず……余裕で看護師さんに注意された。

 改めてノックすることにする。

 

「もしもし、俺俺、魔法使い。今あなたの部屋の前にいるの」

「もしもし、私私、はやてや。今あんたの後ろにいるんやけど、てかツッコミどころ多すぎや」

「ふぉぉぉぅぅ!?」

 

 後ろから八神に不意打ちされた。振り向けば、車椅子に乗った八神が笑顔で手を振っている。笑顔っていうより「うちの勝ちや」って感じの誇らしげなドヤ顔だけど。

 

「八神ひとり?」

「そうやでー、まぁま、何もないとこやけど入ってーな」

「ま、病室だしね」

「あはは、そやね」

 

 今は八神ひとりで、あとでシャマルさんが来るらしい。どうやら病院の外にいたのは、自販売機に飲み物を買いに行っていたようだ。

 

「それで今日はどうしたん?」

「風のなの三郎さんからの噂で八神が入院したと聞いてだな、お見舞いにきた」

「わー、わざわざありがとうなぁ……又三郎やなくて、なの三郎?」

「なの三郎」

 

 明日会えると思うよ、お供をつれて何人かで来るはずだから。

 

「身体はどう? 倒れたって聞いたけど、どこか痛むのか?」

「そんな心配せんでもええって、ちょっと胸のあたりが痛んだだけやし」

「うーん、魔法使いらしく治してやれれば良かったんだけど」

 

 俺は目に見える外傷しか治せないのよね、しかも軽症にかぎる。胸の痛みなんてとても治せん、ここで治せりゃかっこいいのにね。

 だから、代わりといってはなんだけど。

 

「八神、手出して」

「手ぇか?」

「うん、砲撃も雷撃も撃てない魔法使いからのお見舞いをあげるから」

「……普通、魔法使いって砲撃も雷撃も撃たんのちゃう?」

「いやいや、今どきバリバリ撃ってくるから。世界を越えて撃ったりするから」

 

 では、先ほど買ったお見舞いの品を渡すことにする。四次元空間から八神にお菓子を落としまくる。

 

「わー、今度は飴だけやないお菓子の雨かぁ…………って多い! 多いで!」

 

 ベッドの上が、お菓子で埋もれそうなくらい落としまくってやった。どないしようかな、これって顔で八神がベッド上のお菓子を眺めてる。

 

「食べきれなかったらヴィータとかに分けてあげれば喜ぶと思うよ」

「あ、そうやね。でもこんなにたくさん、ありがとうね?」

「いえいえ、イッツ・ア・よくわからない力(マジック)だから気にしないでいいよ」

 

 実際は買い込んだものだけど、敢えてそんなことはバラさない。

 

「うん、素敵な力(マジック)やね」

「種はあるけど仕掛けは、俺もわからんマジック!」

「うーん、手品師としては三流や」

「魔法使いだからいいんだよ」

 

 四次元空間が魔法に分類されるかは微妙だけど……ま、俺は本当に魔法使いというか正確には魔導師だし間違ってないだろ。まだ、泥棒にはなってない。

 

 それにしても、そろそろ12月半ばを過ぎる。クリスマスまでには、事件も解決できて八神も退院できてるといいと思うこの頃である。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
プレシアって条件付きとはいえランクSSになれるんですよ、ぶっちぎりです。


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18.闇の書の最期

 はやてのお見舞いから10日と少し経った。

 今、非常に遺憾ながら、俺はとても面倒な立ち位置になってしまっている。

 

 お見舞いに行ってから、数日。俺たちはまたバルディッシュやレイジングハートの改修をするつもりだったのだが、クロノやリンディさんより休息しろとお達しがあった。

 

 ――俺たちはこんなもんじゃない、まだいける! 何徹だってやってる!

 

 そう言ったけど、むしろそれが駄目だったらしい。なのはやフェイトたちは戦闘で無茶をするが、俺やアリシアはデバイス弄りでノーブレーキすぎると。

 ブーイングしてみたけど、後ろにいたプレシアにアイアンクローされて封殺された。研究が本職なくせして握力なんでこんなに高いんだろ……? アリシアは普通に説得されてた。

 

 そして、ミッドには守護騎士が現れてないことから、ミッドのテスタロッサ家に送られた。帰ったのではなく送られた。

 どんだけ、信用がないのだろうか。

 

 まぁ。

 

「家でもデバイス弄るから関係ないのにね!」

「全くだ!」

「ユニゾンデバイス仕上げるよー!」

「よっしゃあ!」

 

 それから5日後には、感情系統のプログラム以外出来上がっていた。俺とアリシアの上には、ヒヨコと星が飛び回っていた。妖精も見えてたかもしれない。

 さらに1日経過、床に倒れてたことから睡眠不足から倒れたのは確実だ。もう慣れたから、徹夜で倒れたとすぐわかってしまう。確実に駄目な慣れである。

 

 6日目、丸1日寝た俺たちは何事もなかったかのようにアースラへと戻った。

 

 さて、ここからが問題だった。

 クロノから守護騎士についての詳細をようやく聞かされた、見せられた。見なきゃよかった。

 なのはを襲ったのはヴィータ、仮面の男にフェイトが戦っていたのはシグナムさん、戦闘時に結界を張っているのはシャマルさん。

 そして、おま誰? 茶色の肌のガチムチ男がいた。お前、ザッフィーどこにやった……!?

 いや、そんなことは置いといてだな。はやての家族が守護騎士だったのか。

 

 今日、そんなものを見た手前クロノたちには伝えるべきとはわかっている。しかし、シグナムには誰にも言わないとだな……けど、そんなこと言ってもいられんし。

 

「なに悩んでんの?」

「あ、いや……そういやフェイトたちは?」

「露骨に逸らしたね……ま、いいけど。今日は地球ではクリスマスイブっていって」

「お、パーティーしにでも行ったのか?」

「ううん、それは後でやるからナナシと私も来ててってさ」

 

 あ、そうなのね。ならケーキでも買いに行ったのか? 確かなのはの家が喫茶店かなにかやってたとか言ってたような……

 

「違うよ、はやてって子の病院にサプライズでお祝いに行くんだって」

「は?」

「だから、サプライズではやてって子にクリスマスイブのお祝いに」

 

 八神の病室に事前に伝えず、要するにサプライズ……あ、ヤバい。なのはたちが行くのは、絶対マズイぞ!?

 ほぼ、鉢合わせると決まったわけじゃない。

 でも良くないことってのは当たるもんで、いわゆるフラグってのがビンビンじゃねぇか。

 クロノたちのいる、メインフロアに走り出す。

 

「ナナシ!?」

「ヤバい! とにかくヤバい!」

「よくわからないけどわかった! 度合いは!?」

「俺のミソッカス魔力からプレシアさんが無限の魔力持って激おこ!」

「幅広すぎるけど超ヤバい!」

 

 メインフロアに着いた俺たちは、クロノに駆け寄る。急いでフェイトたちと連絡が取れるか確認するが――繋がらない。なのはとも繋がらない。

 

「嫌な予感ど真ん中ストライクゥ!」

「どういうことだ!?」

「なのはたちが高確率で守護騎士との戦闘に入ってるよ!」

「すっっっごく行きたかないけど、クロノ、場所案内するから海鳴のテスタロッサ家に転送頼む! 説明は向かいながらする!」

 

 状況を把握しきれてないクロノだが、連絡がつかないことからある程度は既に察してたのか着いてきてくれる。

 

「ナナシ! デバイス!」

「っと、サンクス!」

 

 アリシアからデイブレイカーを受け取り、クロノとともに海鳴へと跳んだ。

 そのまま、窓からクロノにぶらさげてもらいながら飛び出し海鳴大学病院へと向かう。

 そして、クロノへと海鳴大学病院に守護騎士の主がいることを伝える。

 

「……けど、八神が魔力を蒐集させてるとは思えないとも言っとく」

「そうか、だがその話はあとだ! 見えてきたぞ、屋上に――ッ! また仮面の男たちか!?」

 

 空中にバインドでヴィータとシグナムが捕らえられているが気を失っているようだ……

 と、ふたりの姿がなのはとフェイトに代わる。変身魔法を使ったようだけど何でだ? 意図が読めな――屋上にさらに新しい魔法陣が描かれ、八神が転送されてきた。

 ベリーベリーヤバい。頭の警鐘がコイツァ激ヤバだと、ガンガン鳴り響き伝えてくる。

 

「クロノ! 急いでくれ!」

「わかっている! あのままじゃ不味いぞ……! 間に合いそうにない……!」

 

 えぇい! しゃーない! 四次元空間のゲートを頭上に開き、とにかく手持ちのなかで一番デカく頑丈なものを思い浮かべ――なのは(たぶん偽)にぶっぱなした。本物だったらマジごっめーん。

 ──射出したものはカートリッジ。

 しかして、ただのカートリッジではない。アリシアと俺がはじめて徹夜した夜に作った負の遺産である、ただデカいだけのカートリッジだ。ただし、そのぶん威力(物理)はお墨付き。

 予想外の奇襲であったのか、偽なのははギリギリで反応しガードしたものの軽々と弾き飛ばされた。

 

「俺離していいからクロノGO! 俺戦えないし後はよろしく!」

「ああ!」

 

 そしてクロノは仮面の男たちと戦いながらも、病院から引き離してくれた。

 俺も飛行魔法とはいえない浮遊魔法で病院に向かう。八神は歩けんし、あそこに放置するわけにもいかんだろ。

 が、八神の上で浮いている本から不気味な声が風に乗って聞こえた。そして、悲壮な八神の悲鳴が

《Sammlung.》

「あ、や、やめ」

《Sammlung.》

「や、ああぁぁ……やあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ――ヴィータ、シグナムが蒐集され姿を消したことで響き渡った。

 

《Guten Morgen, Meister.》

 

 なんでだよ、バッドエンドまっしぐらフラグっぽい仮面の男回避したじゃねぇか!

 八神まで蒐集されるのではないか。そう思った俺は出せる限界の速度で屋上へ行き、目と鼻の先まで到達した。

 次の瞬間、とんでもない魔力が病院屋上から吹き荒れた。プレシアを彷彿とさせる――否、それを超えるであろう強烈な魔力が叩きつけられ意識を持っていかれそうになるが堪える。おい止めろよ、こっちはミソッカス魔力なんだぞ!

 

 そして、吹き荒れる魔力の中から現れたのは銀髪の女。漆黒の翼を3対生やし顔にも、赤いラインが左右対称に2本入っている。そして胸部には2対のメロン、うんデリシャス。

 これは……!

 

「また、全てが終わってしまった」

「これは……中二病!」

「どういう意味かは知らないが……不愉快なことはわかる」

 

 あ、よく見たら泣いてる。ごめんって、そんな繊細だとは思わなかったんだって。

 

「我は魔導書、我の力の全てが」

《Diabolic emission.》

 

 どうやら、相当怒り心頭らしく掲げた手に俺にとっては笑えないレベルの魔力が集束し、再び広がってくる。

 これは、死んだかと思ったそのとき。後ろから猛スピードで引っ張られ、みるみる銀髪との距離が離れた。

 状況把握ができないまま、成すがままにされる。

 そこで銀髪の広域範囲魔法が放たれ、あわや攻撃範囲内にまだいる俺は巻き込まれそうになったが、なのはが割り込んできた。

 

《Excelion Shield》

 

 襲いかかってくる広域範囲魔法をなのはが防壁で防ぐ。後ろを見ればフェイトが居り、どうやらふたりに助けてもらってらしい。

 攻撃が終わると再び引っ張られ……ぐぇ喉絞まった、建物の物陰へと移動することとなった。

 

「どうしてナナシくんがここにいるの!?」

「八神が闇の書、もとい夜天の書の主ってことがついさっきわかったから伝えに来た……んだけど、遅かった」

「そうなんだ、ありがとうねナナシ」

「いや、結局なんにも出来なかったわ」

 

 冗談抜きでここからも何にも出来ない。漫画のヒーローならこんなミソッカスでも残って戦うんだろうけど、俺は素直に撤退を選びます。ホンットに流れ弾で落ちかねんからな! 命が!

 

 あれは闇の書の防衛プログラム“ナハト”のせいで、夜天の書がいわゆる融合事故のようなものを起こしている。

 それで、当然ながらかなり強い。悲しいかな、俺がいると足手まといにしかならんのです。ヒロインだったら後ろで声援送ってもいいんだけど、どう考えてもヒドインにしかなれそうにないのでやめとく。

 

「俺はもうリタイアなんだけど……八神のこと頼む。数回しか会ったことないんだが、家族思いのいい奴だったんだ」

 

 きっと、世界の終わりなんて中二臭いこと考えるやつじゃない。何の変哲もない、一家団欒の日々が本当に楽しいといった風なやつだ。ただの数度会って、話しただけでそう感じた。

 

「うん! 任せて!」

「泣いてるあの子も見捨てたりなんて出来ないよ」

「助かる、あと今まで蒐集されたときに覚えていた魔法はアイツも使えるから気をつけてくれ……スターライトブレイカーとか」

「あ、うん……」

「あれ、なんでナナシくんやフェイトちゃんは泣きそうな顔してるの!?」

 

 知らぬは本人だけか……あれの威力はプレシアさんも認めるほどよ?

 なんてことは置いておこう。たった今、リンディさんから念話で、アースラへ転送すると伝えられたのでそろそろ転送が始まるだろう。

 

「ふたりとも、ありがとう。あとはよろしくお願いします」

「なんか、ナナシくんに改まって言われると違和感が……」

「うん、任せてナナシ」

 

 おかしいな、なのはには既に真面目じゃないキャラと認識されてるようだ。一応、本気で心配していると言うのに失礼なやつだ。

 

 っと! 転送が始まったが渡し忘れていたものがあった。

 フェイトたちがいつか無茶をすることを見越して、取り寄せておいたバルディッシュたちの予備パーツ。その際、一緒にカートリッジも用意しており、現在それらは全て四次元空間に入れているのだ。

 レイジングハートとバルディッシュのカートリッジが各一マガジンずつだけだが。まぁ、でも無いよりマシだろうと転送が終わる直前にふたりへと放っておいた。

 

「わっ、カートリッジ」

「ありがとう、頑張るよ!」

「こんなこと言ってられんかもしれんが、ほどほどにな」

 

 その言葉を最後に俺はアースラへと戻ったのであった。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 アースラへ戻った俺は特に出来ることもなく、メインフロアの端の方でアリシアと通信で映るなのはたちの戦いを見ていた。

 

「ああー……やっぱり、エクセリオンモードもザンバーフォームも使っちゃった」

「若干だがレイジングハートの方が負担が大きそうだな。負荷軽減の装置もそろそろ潰れそうだ」

「それに関しては気休めだしね、これが終わったらゆっくり休んでもらわないと」

 

 そういや、クロノは無事仮面の男を捕らえたようである。何故か詳細は教えてもらえなかったのだが、取り敢えず捕らえたと。

 あと、プレシアには黙っといてくれとも言われた。ナンデカナー?

 

 そして夜天の書に憑いているとも言える“ナハト”は、徐々にではあるが確実に暴走を始めていた。

 そんななか、ひとつ奇跡が起きた。夜天の書の主である八神の意識が戻ったのだ。

 そこからは早かった。現場に向かっているユーノからの指示で超強い純粋魔力を当てれば、闇の書の防衛プログラムを八神から引き剥がせるかもしれないと聞いたフェイトたち。

 そして放たれた二人のコンビ技。

 

 ()()()()()()()()()。そんな名前のフェイト&なのはの中距離殲滅コンビネーション魔法である。

 

 作り方は簡単。

 まず、なのはのレイジングハート・エクセリオンのバレルフィールド展開。

 続いて、なのはの魔力をフェイトのバルディッシュ・ザンバーの刀身に集中させ、フェイトが自らの魔力を加えた斬撃による威力放射。

 最後には、なのはのバスター、フェイトのスマッシャーでフィールド内を満たすことで完成する空間攻撃。

 

 そして出来上がったものが、画面に映ってるものとなります。

 

「うわぁ……」

「うわぁ……」

 

 声も出ないわ。無事、防衛プログラムは分離させることができた。もちろん、それでよかったのだ。

 けど、余りにも圧倒的な光景過ぎて口から漏れる音が声として機能しなかった。銀髪の女性もはやても、ナハトもろとも吹き飛んでしまうんじゃないかと思った。

 

「俺たちはあのコンビと模擬戦しようと言われてたのか?」

「防衛プログラムと分離じゃなくて、私たちの魂と身体が分離しそうだよ」

 

 ガタガタと震える俺たちの後ろで動く影が……プレシアである。

 画面ではちょうど守護騎士の皆――八神の家族が戻ってきていた。よかった、本当によかったと思う。

 

 で、プレシアさんや。

 

「どこにいくの?」

「現場よ。防衛プログラムの駆除を手伝ってくるわ、少しでも人手があった方がいいでしょ」

 

 クロノたちも話しているが、初期状態の防衛プログラムには複合四層式バリアといわれるものが張られており半端な攻撃は通らない。

 そして、被害なく終わらせるためには核となる部分以外を吹き飛ばしてアースラの位置する宇宙空間へと、核を転送しないといけない。

 転送ポッドへ乗り込んだプレシアは、海鳴へと跳んでいった。

 

「私にはわかる、母さんは八つ当たり半分で行ったことが」

「プレシアさんは、仮面の男の正体が結局わからずじまいだからなぁ」

 

 画面では複数の色のバインドが、防衛プログラムの触手を捕らえ――紫電が全てを凪ぎ払う光景がしかと写っている。

 

「見ろ、圧倒的ではないか」

「そして、皆の攻撃が複合四層式バリアを貫いた今追加攻撃!」

「なのは、フェイト。そしてどうやら魔法少女になったらしい八神からのこれまた、いかにも魔法少女らしくないトリプル砲撃だぁぁぁ!」

 

 そして、トドメの死体蹴りのお時間。ユーノ、アルフ、シャマルさんの3人による転送で、宇宙空間へ跳ばされる防衛プログラムの核。

 その間にも再生をし始めているらしいが、そんなこと関係ねぇ。

 アースラに搭載されている“アルカンシェル”をリンディさんがぶっぱなす。それは着弾したあとに発生する、空間歪曲と反応消滅で対象を殲滅する。その被害範囲は発動地点を中心に百数十kmに及び、要するに防衛プログラムが出てきてた海で撃ったら、海鳴市から円形に削がれてた。

 

 そして、そのアルカンシェルは放たれ――防衛プログラムの核は完全に消滅した。

 事件解決である。

 

「さて、ナナシ。ここからが私たちの仕事だよ」

「ういうい、やってやろうじゃないか」

 

 ボロボロになった、なのはとフェイトのデバイスも見なきゃならんし。

 ――今までなにも出来なくって、何気に悔しかった俺たちのお仕事はここから始まるよっと。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
盛大なサブタイによるネタバラシ。
そして、事件の大詰めが無印に続いて割りと早めのテンポ、ネタが少ない状態で終わってしまいすみません。
残り一話ほどでA`s編の本編は終わりとなりそうです。

そして、デイブレイカー出番なし。いつか日の目を見ると信じて。


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19.夜天の書の最期

 闇の書事件の顛末はともかく結末を話そう――夜天の書は消滅した……いや顛末も必要かな。

 

 闇の書事件の詳細も聞き流して、結末だけ聞こうとしたら皆に怒られたしなぁ。

 事件の始まりは、八神の足の病気が悪化したことであった。いや、正しくは病による身体麻痺の悪化ではなく、闇の書によるリンカーコアの侵食汚染によるものだった。

 それを期に、守護騎士たちが動き始めた。蒐集により闇の書の貢をすべて埋めることで、はやてのリンカーコアの侵食を止め治そうとしたのだ。

 始めは辺境世界のリンカーコアを保有する生物から。しかし、どうやっても生物のものでは間に合わない。大して闇の書の貢を埋めれない生物では、八神のリンカーコアの侵食のペースの方が早いのだ。

 貢を埋めれる生物も探し蒐集したが、そのぶん強さも格段と上がり時間だってかかる。

 

 そして、ついに人からの蒐集をしてしまった。故意に狙ったわけではなく、たまたま視察に来ていた局員により管理外世界での蒐集を見つかってしまったことが原因であった。

 

 そこからは俺たちが知っている通りだ。ヴィータになのはが襲われ、フェイトも襲われ、仮面の男がプレシアに襲われる――とそんな感じで事は進んでいった。

 

 最終的には、闇の書の暴走した防衛プログラムと分離した八神と、夜天の書の管制人格あらためリインフォース。

 八神は初戦にも関わらず、防衛プログラム戦でハッスルしすぎで眠っているなかリインフォースから守護騎士たちに伝えられた事実。

 

 リインフォースの内部、つまりは夜天の書の内部には無限再生機能が残っており、いずれ再び狂った防衛プログラムを自ら作り出してしまうという。

 それに、もう既に本来の夜天の魔導書としての姿はないため、再構成すら出来ない。

 その事実はなのはやフェイトにも伝えられた。そして、ふたりに空へと還してもらう手伝いを頼んだ。

 

 ――実行日は事件解決の翌日12月25日早朝、クリスマスだ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 雪が降り、積もり始めた公園の丘でリインフォースを空へと還す儀式が始まろうとしていた。

 

「リインフォースさん……」

「その名前で私を呼んでくれるのだな」

 

 なのはが悲しみや、どうしようもない悔しさを含めた声で夜天の書の名を呼ぶ。それに対し、リインフォースは、愛する主から貰い受けた名で呼ばれたことを喜び、そして優しい小さな子供たちにこんなことを頼む申し訳なさを感じさせる笑みを浮かべる。

 

「本当に私たちでいいんですか? リインフォースさんを……空に還す役目を」

「ああ、お前たちだから任せたいのだ。私の方こそすまないな、こんな役目を頼んでしまって」

「……はやてちゃんには伝えなくていいの?」

「主は悲しまれるだろうからな……このままでいいんだ」

 

 自分のいないうちにいなくなった方が、悲しみ後悔するかもしれないだろ。そして、八神がここに来ないわけながない。そぉら、車椅子の車輪を必死に回してやって来た。

 

「リインフォース! リインフォース!」

「主……!」

 

 雪に車輪を取られ八神が転ける、それを手助けしようと動こうとするなのはたちを、リインフォースが止める。儀式が中断しないようにと、本当は自分が真っ先に駆け寄りたいだろうに。

 

「……はやてちゃん」

「なんで、なんでやの! ようやく……やっと自由になれたのに! これからやのに!」

「これでいいのです、このまま私が居続ければ再び防衛プログラムは復活し暴走してしまいます」

「よくない! いいことなんて何もあらへん!」

 

 そうだ、いいことなんて何もない! ハッピーエンド上等! 悲しいビターなエンドなんてハッピーエンドで殴り倒せ!

 ならば、いざ動こう! いい加減寒い! 防寒対策のための魔力なんてとっくに零なのよ!

 

「防衛プログラムなら私がなんとか――」

「私が! 私たち、アリシア・テスタロッサと!」

「俺! ナナシが!」

「何とかして見せよう!」

「こんな結末、サンタクロースが認めようとも!」

「私たちが認めない!」

「こんな結末をひっくり返す!」

「「メリークリスマス! へっくち!」」

 

 そういって感動のお別れシーンに乱入した俺とアリシア。色々台無しにしたったー、へっへっへー視線が痛いけど気にしない。

 ええ、途中から入っていくタイミング測ってましたとも。

 ホントは始めから居たかったんだけど、色々最後の調整とかしてたら間に合わなかったのだ。そして、調整も終わりきってないけど、諦めて来ました! グダグダだぜ。

 

「え、ナナシに姉さん……?」

「ナナシくんと……誰やの?」

「どうも通りすがりの魔法使いアリシアだよー、これでもフェイトのお姉さん!」

 

 無い胸をえっへん、と張るアリシアに目を白黒させるはやて……いや、皆そんな感じだな。

 ま、気にしない気にしない。四次元空間から今もっとも必要なものを、雪の上にボトリと落とし出す。

 

「え、ナナシくんソレ(・・)なんなの……?」

「ついカッとなって……なのは、埋めるの手伝ってくれないか?」

「は、犯罪なのぉぉぉ!? お巡りさーん!」

「嘘だって、ユニゾンデバイス擬きだよ」

 

 なのはったら元気いいね。死体ならこんなとこ持ってこないってのにー。

 なのはは、そういう問題じゃないよ! とプンプン怒ってる。怒りながらレイジングハートをブンブン振り回さないで、超怖い。

 ちなみに擬きな理由は中身に無い部分があるから。

 

「さて、儀式は中止……するかは置いといて新たな選択肢をプレゼント! アリシア説明よろしく!」

「はいはーい、じゃあよーく聞いといてね」

 

 アリシアが語った内容はこうだ。夜天の書が元の形を覚えてないなら、新しいユニゾンデバイスに移ればいいじゃない。

 

 まぁ、聞けば簡単そうだけどデメリットは山ほどある。もちろん、夜天の書としての機能は一切合切綺麗サッパリ無くなるし、今まで蒐集した魔法だって殆どが使えなくなるだろう。

 それに移すのはリインフォースの人格のみであり、八神のユニゾンデバイスとしてはもういられない。

 

「というか、移せるデバイスが俺たちのつくったものしかないわけで……」

「このユニゾンデバイスって完全に私たちに合うように作っちゃったわけで……」

 

 勢いよく出たはずの俺たちは気まずくなって目を逸らす。

 そんなつもりはないのだが、俺たちのユニゾンデバイスを作り上げるのに、残り足りないとこを夜天の書から猫ババする感じがして大変気まずいのだ。

 

「要するに、そのー……私たち以外とのユニゾン適性がガクンと落ちると言いますか……」

「むしろ、俺たち以外とユニゾン出来ない可能性がエクストリーム上昇しますと言うべきか……」

 

 あれ、おかしいな? カッコつけて登場したはずなのに、俺たちつらつらと言い訳じみた、よくわからない説明しかしてないぞ。八神や守護騎士たちの顔を真っ直ぐ見れない、泳ぐ視線は降ってくる雪を追いかけあちらこちらへ……うっわー、カッコわりー!

 

「つまり、リインフォースという精神、魂以外無くなると考えて」

「それで八神とリインフォースが納得できるなら、アリシアと俺は全力で手助けします」

 

 目を逸らしながら決め台詞を言う。と、手を掴まれた。俺とアリシアが差しのべた手を掴んだのは八神。

 その瞳には確固たる決意が見える……まぁ、予想してたけどさ。

 

「お願いや、魔法も適性も何もいらん。リインが、リインフォースがおってくれるならそれだけで十分や」

「主……」

「リインフォースはどう?」

「…………わかった、よろしく頼む」

「りょーかい! 承ったよ!」

 

 よーし、エクストリーム頑張っちゃうぞー。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 リインフォース曰く、防衛プログラムが暴走するまで短くて3日、長くても1週間ほどしかないらしくクリスマスの早朝からすぐに作業を始めた。生き返りを果たした俺とアリシアが生き写させるために頑張るとはなんか笑え、いやいや笑ってる暇ないんだけど。

 しかし、肝心のリインフォースの精神を移すための、感情プログラムの基礎部分が出来上がっておらず、移る本人に助言を貰いつつ組み上げることとなった。

 

「リインフォース、これでどう?」

「……そう、それでいい」

「こっちはどう? 個人的にはここのプログラムがそのうちバグりそう」

「わかっているなら直さないか……?」

「すみません、直し方がわからないので教えてください」

 

 何となく駄目なとこはわかるんだが、こんなごちゃごちゃしたの直せないって。取り返しのつかないことになりそうだし。

 

「すまない……関係のない、お前たちにこんな苦労を掛けてしまって」

「関係なくなんてないよ、妹の友達のお願いだし。何より私も楽しいし! あと私はアリシアね!」

「俺はナナシね、名無しじゃないよ」

「ああ……ありがとう」

 

 微笑みながら、お礼をいってくるリインフォース。お礼言われることでもないのだ。いや、ホント、フェイトの友達のお願いとか関係なく。

 正直、俺とアリシアにも思いとか抜いて下心はあったりするのですよ、ええ。

 

「無事にユニゾンデバイスに移れたら、私たちとユニゾンしてもらえたりしないかなー……と思ってたり」

「先生……強くなりたいです」

 

 おもに模擬戦で生き残るため。なのはにダンクシュートもとい零距離砲撃食らったりした日には、星になる暇もなくサヨナラしてしまう。

 

「それくらいでよければいつでも言ってくれ」

「ホント!?」

「あぁ、そのデバイスだって元々お前たちのものなのだからな」

「やったー! むふふー、ナナシ! 120%ガンバるよ!」

「アッハッハ! バッチ来い! フルスロットルだ!」

 

 100%が元から頑張ってる分で、残り20%は限界越える(徹夜する)分である。既に時間と体力はかつかつだが、一部品をつくるくらいなんてことない。精神面はまだまだ余裕だからネ!

 その日は、1日中整備室から不気味な笑い声が聞こえてたそうな……

 

 翌日の昼下がり、完成した。ついでにユニゾンデバイスの外郭もリインフォースに合わせる余裕まであった。

 アリシアが測ったんだけど、スタイルはランクSSでした。作り直してる際にそのボリュームに圧倒された俺と、打ちひしがれていたアリシアなんていなかった。

 

「私も将来は……! あそこまでいかなくても……! ナイスメロン、やわっこかったよ!」

「後半本心漏れてんぞ、畜生羨ましい」

「ナナシも漏れてるから」

「ふたりして恨めしそうに胸を見ないでくれるか……」

 

 そう言って、胸元を押さえる姿はとてもそそるものがあった。

 アリシア(ヨダレ)、涎。お前、おっさんか。

 けど、胸を仰視もとい凝視するのも失礼なんでそろそろ止めておく。けど、男の子だから仕方ないね、おっぱいは見てて飽きないから!

 

「ただしお子様は対象外と」

「対象外じゃないと不味いだろ」

「同い年なうちは問題ないのにね」

「……たまにそのこと忘れるわ」

「私もだよ」

 

 リインフォースが、会話を理解できず首をかしげているが仕方ないね。

 

「ま、そろそろ始めますかー」

「はやてを呼んだ方がいいのかもしれないけど、私はサプライズにしたいので終わってから呼ぼう」

「それじゃ、最終確認。超弱くなります、オーケー?」

「オーケーだよ」

 

 俺の雑すぎる確認に苦笑いをしながらも、了承してくれたリインフォース。

 アリシアと目を合わせ頷き合う。リインフォースに生体ポッドと形の似通ったものの中へ入ってもらいレッツスタート。軽く言ってるけど、俺たちの額にはびっしり汗が浮かんでる。

 何事にも100%なんてないわけで、八神には伝えてなかったけど失敗する可能性だってなくは無かったわけよね。

 

「ま、フェイトのお姉ちゃんって名乗ってカッコつけたからには失敗することなんてないんだけどね!」

「何だかんだでアリシアもシスコンだな」

「フェイトは我が家の愛され系マスコットォォ! っとぉぉぉ!? そっちの回線nD01切って!」

「あいよ、っと!」

 

 一瞬ピンチった気もするけど気のせいじゃねーかな。何か防衛プログラムとも、リインフォースとも取れないナニカがあったように見えた。きっと、すぐ消えたし問題ないだろう。

 

「そういや、アリシア」

「ん、なに?」

「リインフォースが無事移ってから八神を呼ぶんじゃなくて、晩御飯のときに何気なく行かない? え、終わったけどどうしたの? って感じで」

「うわぁ、ナナシの性格が滲み出てる……けど乗ったァ!」

 

親指を突き立ててイイネ! してくるアリシア。

 ここのふたりは皆のビックリする顔とか大好物です。後々怒られることを忘れるのが、たまに傷。

 

 そのまま、駄弁りながら作業をすること半刻ほど。

 

「…………よし、完了」

「じゃ、ご開帳ー」

 

 ポッドの開くボタンをぞんざいに叩くと、リインフォースが倒れて出てきた。ビシャリ! と抵抗なくまっすぐ倒れて出てきた……あれ? 動かない……?

 

「ちょ、リインフォース! 起きて!」

「……うぅ、痛い」

 

 焦ったアリシアと俺が駆け寄ろうとしたところで、ようやく動き始めた。痛打したらしい鼻を涙目で押さえている。

 

「開けるなら一言、言ってほしかった……」

「いや、ごめんごめん。あんな綺麗に倒れるとは思わんかった」

「でも、成功したみたいだね。よかったよ」

「そうだな……たしかに夜天の書としての機能もあの多大な魔力も、もう無くなってしまったみたいだが……この身体も悪くないよ。ありがとう、アリシア、ナナシ」

「いえいえ」

「あ、そうだ。ミソッカス魔力同盟へようこそ」

「……?」

 

 不思議そうな顔をするリインフォース。

 いや、たぶん俺たちよりは魔力はまだまだ高いんだろう。しかし、夜天の書のときに比べりゃミソッカス。ならば、この残念な魔力コンビに仲間入りだ。

 

「ミソッカス魔力トリオいぇーい!」

「いぇーい!」

「い、いぇーい……?」

 

 拳を突き上げ、なにも誇れない宣言を高らかにするアリシアにノリノリで俺も続き、リインフォースも戸惑いながらも拳をあげてくれた。

 

「さーて、時間もちょうどいいし晩御飯にいこうか」

「ぐふふ、驚いた顔が楽しみじゃ」

「ナナシ悪い顔してるねー、ぐふふー」

「お前たちはいつもこんな感じなのか?」

「基本的にごめんなさい、こんな感じだよ」

「これが平常運転すいません」

「いや、謝らなくていい……ただ、お前たちはいつでも楽しそうだな、と思ってな」

 

 その言葉に目を丸くして顔を合わせるアリシアと俺。

 俺たちが楽しそうだなんて何を言ってるんだろうか? 楽しそうじゃなくて楽しいし、リインフォースだって他人事じゃないぞ。

 

「……どういうことだ?」

「いやー、はやてたちと一家団欒してもらうのも全然いいんだけど!」

「たまには俺たちにも付き合ってもらうよ! ってことでして。つまるところ」

「リインフォースもこれからは楽しんでもらうよ?」

 

 その言葉を受けて今度はリインフォースが目を見開く。俺たちを交互に見てくるので、ヘラヘラして頷く。

 

「そうか……そうか、私もこれから楽しめるんだな……楽しんでいいんだな」

「もっちろん!」

「ま、たまに怒られることもするけど、そのときはごめんなさい、で許してもらおう!」

「さー、まずは晩御飯でサプライズだよ!」

 

 アリシアに手を引かれ、躓きそうになりながらもついていくリインフォースの横顔は――満面の笑みだった。

 

 

 ――その日の夕飯時の食堂は、サプライズしたバカふたりのせいで阿鼻叫喚となった。いや、いい意味でなんだけど、重要なことはしっかり伝えろとやっぱり怒られもしたのだった。

 

 ま、涙を流しながら抱きしめあってる八神家を見ると、サプライズした甲斐があったなと……正座し、説教受けながらそう思い、顔を合わせ笑い合う俺たちなのであった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
またサブタイで熱いネタバラシ。タイトル詐欺じゃないです。リインフォースは助かる形にしましたが、夜天の書自体はサヨナラバイバイとなってしまいました。
アリシアが主体(主役)になって、リインフォースが残ることができる形に出来て満足です。ナナシ? おまけです。


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StS編予告
StS編予告


 ジュエルシード事件、闇の書事件と他人に言えない後ろめたいことは多くありながらもハッピーエンドにこぎ着けた。

 それから、しばらくは平穏な時を過ごす面々であった。

 

「これで本当にお別れだな」

 

「これで……これでようやく主も守護騎士たちも、闇の書の呪いから解放された。本当に感謝する」

 

「炬燵ぬくーい、これにも魔力があるよね」

 

「夜天の書が遺してくれたこの子からリインの妹、ツヴァイをつくろうか」

 

「いってきます!」

 

「執務官試験は難しいからな。一度で受からなくても落ち込みすぎないことだ」

 

「カートリッジシステム! 安いよ! 安いよ!」

 

「本当にやるのか……?」

 

「ユニゾン――イン! 」

 

「うわぁ……うわぁぁぁ」

 

「いくよ、ナナシ! アリシア! これが私たちのコンビネーション!」

 

「ちょ、おまっ……オワタ」

 

「カートリッジシステムでぼろ儲け!」

 

「ん、疲れたわ。愛娘たちで回復しないとやってられないわね」

 

「んー、魔法って難しいんやなぁ……あ、綺麗な流れ星や」

 

「はやて、あれナナシとアリシアだぞ」

 

「試験、落ちちゃった……」

 

「泣きっ面に蹴りだよ!」

 

「なのは国語駄目すぎだろ、おい」

 

 ――穏やかに過ぎていく日々。

 目標に向けて努力する少女たち、変わらずダラダラし続ける少年たち。

 

「私も聖祥小学校に入るんや」

 

「ユニゾンデバイスもうまく仕上げて特許取れたら大金持ちだよね……」

 

「楽しいな、こういうどたばたした日々も悪くない……」

 

「ツヴァイはロケットパンチ着け……あ、ごめんはやて嘘だからシュベルトクロイツ下げてお願い!」

 

「旅行かー、大人数だね」

 

「はやてちゃーん! お鍋から火が!?」

 

「フランベされる! シグナムと模擬戦とか死ぬぅ!」

 

「ハァァァ! 紫電一閃――!」

 

「豚にこば……あ、真珠!」

 

「あれでも中学生。運動音痴、略してうんちです」

 

 

 けど、そんな日々は長くは続かない。ジュエルシード事件のように、闇の書事件のように。

 否――それを遥かに凌ぐ最悪の舞台が幕を開ける。

 

 

「いいなぁ! 欲しいなぁ! 死者蘇生の素体! その(かなめ)! 聖王に負けずとも劣らぬ魅力じゃあないか!」

 

 尽きぬ果てなき無限の欲望。

 

「死した者の蘇生、自然の摂理への反逆――そのようなモノは『正義』として認められない」

「ならばどうするか」

「簡単だろう。元通りにすればよい――元通り亡い者へとすればな」

 

 管理局の最深に潜む正義()

 

「なーんかキナ臭いんやけどなぁ……」

 

「陸と海が手を合わせるための機動六課かぁ、はやてちゃんのお願いだからね! 全力全開でお手伝いするよ!」

 

「案内はツヴァイにお任せなのです!」

 

 とある目的を裏に設立される古代遺物管理部機動六課、通称六課。

 

「ナナシ! 姉さんが! ……あれ、ナナシどこ?」

 

「ごめんなさいねぇ~、邪魔者は処分するに限るのよぉ。名・無・しの僕ぅ?」

 

「ごふっ……ナナシだっての、カヒュッ……んの、クソが」

 

 今までの日常を塗り潰す死の感覚――再び『やり直し』が始まる。

 

「あの小僧はなんだ、我々の動きを先回りしているのか……ならば先に消すのみだ」

 

「大衆の正義前に小さな犠牲は仕方なきものよな」

 

「返しなさい、私の……私の愛娘(アリシア)を返しなさい……返せぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

「逃げて! アリシアぁ!」

 

「――ガッ!? ぁんで! 局員が邪魔して来んだよ!? いづぁ……しかも非殺傷設定じゃねぇのかよ……!」

 

 少女を中心に全てを巻き込む混乱が引き起こされる。

 

「答えてナナシくん! 何を知ってるの!?」

 

「ここを通りたくば答えろ、さもなくば斬り倒してでも聞き出させてもらう」

 

「ふははは! 仲間割れとはおかしいなぁ! 既に探し人はイナイ(・・・)というのに」

 

「………………は?」

 

「――ッ! あかん! 誰かナナシくん止めぇ!」

 

「……じゃあな、やり直しだ」

 

 初めて自ら行った『やり直し』――そして気の遠くなるほど繰り返される『やり直し()』の迷路に迷い混むこととなる。

 見いだせない活路。

 

「何回繰り返したらッ、どうすりゃいいんだよ……この『やり直し』は何なんだよ……! 」

 

「ナナシ、貴方『やり直し』てるわね。何度目なの、何度貴方は繰り返してるの――話しなさい」

 

「ひとりじゃないんだよ、ナナシ。皆がいるし……どんな話だって私は信じるって誓うよ」

 

 気づかされた仲間の、家族の力。

 

「アリシアちゃんを取り戻しにいくで!」

 

「あたしとなのはで道は開いてやらぁ! 轟天爆砕! ギガントシュラーク!」

 

「うん! ブラスターリミット1リリース! 全力全開でいくよ! ディバイィィンバスタァァァァァァァァ!」

 

「ちょ、待っ!?」

 

「ナナシぃぃぃ!? なのは、ナナシも巻き込んでるよ!?」

 

 取り戻し始めた、いつもの流れ。あとは相棒(アリシア)を助け出したら元通りである。

 そのためならば――その邪魔をする、立ちはだかる全ての障害は砕くのみだ。

 

「アインス……いや、リインフォース。ユニゾン頼む」

 

「制限時間を忘れるな」

 

「もちろん、制限時間内に全部ブッ飛ばしてやらぁ! んでアリシア取り戻す!」

 

「あぁ、それで……ハッピーエンド――」

「「上等だ!!」」

 

 ないない尽くしでは終わらせない。手に入れたいものを手にするための物語。

 

 

 

 

 

 ――何度死んででもアリシア(お前)を救ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

「な……ナナシ?」

「どうも、通りすがりの魔法使いです……アリシア、助けに来たぞ」

 

 

 

 

 

 

 ジュエルシード事件(無印編)闇の書事件(A`s編)()()仮初めの平穏(空白期)を経て始まる。

 

 世界を敵に回してでもひとりの女の子を救うための物語(StS編)

 

 始まります。




現在、頭のなかで大筋から台詞集のような形で、書かせていただいた予告編です。
今までのギャグ主体の話から流れが変わっていきます。
ナナシが転生してきた理由、『やり直し』とはいったい何なのか。
そして、不可逆を可逆とし生き返ったアリシアの運命は。

StS編で物語は加速します。























     *      *
  *     +  うそです
     n ∧_∧ n
 + (ヨ(* ´∀`)E)
      Y     Y    *

まぁ、嘘予告です。ええ、ごめんなさいすいません申し訳ない。
つい、久かたぶりにやりたくなったんです。
『我輩は逃亡者である』を読んでくださっていた方は、確実に途中から察しておられたでしょうがお付き合いありがとうございます。

もちろん、空白期だろうとStS編だろうと今までと変わりませんとも。シリアスさよならバイバイ。むしろまともなStSかすら、怪しいです。


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空白期
20.ジャスト1分や


 クリスマスの翌日、リインフォースの脱け殻である夜天の書が空へと還された。

 なのはとフェイト――そして、八神の手によって。

 夜天の書は祝福の風リインフォースと自身の欠片を遺し、数々の災厄を巻き起こした闇の書は消え去った。

 その場にいた者たちは目に涙を浮かべていたそうな。なのはもフェイトも、目の端に涙がチラリと見えていたらしい。

 うん、『そうだ』『らしい』である。

 アリシアと俺は、海鳴市のテスタロッサ家の炬燵でぬくぬくしてて、その場には居合わせませんでした。リインフォース……長いからリインって呼ぶことにしたんだけど、リインを新ユニゾンデバイスに移した時点で俺たちの役目終わってたし。

 そもそも事件に深く関わってないせいで、その場に居合わせてもなぁ。周りが感動の雰囲気漂わせる最中に、俺たちはボケーとしてるだけという浮き具合を発揮してたと思う。

 

 リインが、

「これで……これでようやく主も守護騎士たちも、闇の書の呪いから解放された。本当に感謝する」

 って、安堵の表情を浮かべなのはたちに礼を言ってるときに俺たちは、

「ナナシー、ミカン取ってきてー」

「炬燵から出たくねぇ……俺、炬燵と結婚するわ」

「バッカ、炬燵は既に私の嫁だよ……」

 

 とか言ってた。

 八神が夜天の書が遺した、小さな十字架を胸に抱いて、

「夜天の書が遺してくれたこの子からリインの妹、ツヴァイをつくろうか」

 と、決心してるときには俺たちは

「これは炬燵を嫁に重婚だ」

「よし、認めてあげるからミカン取ってきて」

「じゃんけんしようぜ? じゃんけん」

「ポンっ! 言い出しっぺのナナシの勝ち……!?」

「俺のグーは法則すら覆す……! 茶もよろしくー」

 

 とかやってた。ほら、俺たち居合わせなくてよかっただろ?

 てか、俺たちはこの頃ずっとこんな感じである。デバイス関係もゆったりしており、1日の半分は炬燵と過ごしている。そろそろ年末なのに、なにやってんだろ。

 

 それで闇の書事件の後の話。なのはやフェイトは嘱託魔導師として、管理局で働き始めた。もちろん小学校と平行してである。フェイトは執務官を目指し、そちらの勉強も始めている。

 あ、プレシアは現在研究所で再び働き始めてる。ただし、一番頂点にたってである。前回の事故――アリシアを一度失って気づいたと言っていた。

 無能な上の人間は全て蹴落とし私が頂点に成ればいい、ってさ。とてもイキイキした顔をしてました。

 八神たちは、色々面倒な過去の事件についてや、偉いさんたちの話し合いを経て管理局で働くことで収まったようだ。本人たちも嫌がってなかったし、いいんでないかな?

 

 そして、俺たち。俺とアリシアは夢の第一歩を踏み出した。

 カートリッジシステムのミッド式への応用方法で、一稼ぎしたんだよ。うはははは、ボロ儲けだった。

 

「特許取れたしねー……もう働かなくていい気がする。はい、お茶」

「サンクス、まぁ、でもそんな都合よくはいかんだろうな。八神も特別捜査官を目指すって言ってたしな、俺たちも職を探さにゃならんかもしれん……」

「あれ働こうとしてないの私たちだけ?」

「ああ……妹も働いてんだぜ?」

「なんてこった……!」

 

 周りがやり始めて、ようやく焦り始める駄目人間がここにいた。俺たちだった。

 ちょっと真剣に資格や職に関する雑誌を読み漁る。

 嘱託魔導師? 武装局員? ハハッ、死ぬわ。

 

「ただいま……あら、何してるのかしら?」

「母さん、おかえりー」

「お疲れさまプレシアさん、職を探してます」

「あら? 出ていくのね、荷物はあっちよ」

「圧倒的急展開……!」

 

 開けられたふすまの向こうには、段ボールまで置いてある。あれだろ、引っ越したときの整理がまだ出来てないだけだろ?

 

「そうね、そして整理してないのはナナシあなたよね」

「つまり、あれは俺の荷物……!」

 

 完全な自爆である。い、忙しかったし、闇の書事件とか炬燵といちゃついたりとか布団とランデブーしたり……へへっ、やっべ完全にダメ人間だこれ。

 

「ナナシ! こっちの段ボールも中身を確認するといいよ!」

「ん? それ、さっきまでなかったよな?」

 

 まぁ、気にするほどのことでもなかろう、言われた通りに段ボールを開けるとフェイトが入ってた。ちょこん、といった感じで入ってたんだ。

 

「……」

 

 閉じた。

 

「お前、執務官試験の勉強してる妹に何してるの?」

「タイミングよく、フェイトがちょうど息抜きに来たから。つい、ね?」

「ついじゃないから、ったく」

 

 とか言いつつ、俺もその段ボールを押してプレシアの前まで移動させる。

「え、あれっ? 動いてる!?」

 なんて中から聞こえたりする気がしないでもないけど、恨むなら姉を恨むがよい。

 

「プレシアさん、お届けもの」

「遅いわ、速達便で届けなさい」

 

 無茶言うな、ヒト一人って案外重いんだぞ。フェイト軽そうだけど、それでも段ボールに入ってるのを押すとなると摩擦面積がだな……っと悪かったからバルディッシュしまってくれフェイト。

 フェイト軽いから、うっわー羽毛かと思ったわー。

 

「もう……女の子に重いなんて言ったら駄目だよ?」

「女の子にかぎって重いんじゃなくて、人体の重量を入れた段ボールを押したとき……いや、フェイトは軽かったよ? もう、ここは月じゃないかってくらい。なんなら片手で持ち上げてみせよう!」

「よくもまぁ、つらつら出てくるものね」

「プレシアさんほどじゃない」

「そして見事に地雷を踏み抜いてくるわね」

 

 頬を引っ張られる、痛い。

 でも事実ですやん、アリシアの蘇生について裁判員というかわかる人がほぼ居ないような、専門用語乱舞で混乱させてアリシアは死んでなかったことを証明してたじゃん。そのあとに混乱して心に隙の空いてる皆に、お涙ちょうだいストーリー話してたじゃん。

 クロノを適当な話で足止めしてた俺とは格が違う、さすがプレシア汚ない。

 

「それで結局どうして職を探してたのかしら?」

「周りが働き始めて」

「焦るこの気持ちプライスレス」

「あれ、ふたりともカートリッジシステムでお金は入ったんじゃなかった?」

 

 そうなんだけど定職に就かないとっていう思いがだな。正直アリシアだけなら発明で生きてけそうだけど、俺はそこまで卓越した技術はないからね。

 

「ふへへ、それほどでもあるかな」

「そうね。ナナシは時たま予想外に役立つときがあることは認めるけど、それじゃ生活していけないわ」

「だろ?」

 

 というか、珍しく普通に誉められた気がする。明日は槍でも降るんじゃねぇの?

 口には出さないけど、槍の前に雷(not比喩)が落ちてきそうだし。槍より怖い。

 

「ナナシってしっかり考えてるんだね……」

「立派な目標もって執務官目指してるフェイトほどじゃない」

「そうね、生活するため最低限働こうとしてる人間とは比べるまでもなく、フェイトは立派よ」

 

 ヒュー! これこれぇ!

 初めはこんな感じでプレシアと会話してるとオタオタわたわたしてたフェイトも、これもひとつのコミュニケーションとわかってきたのか苦笑いするだけとなった。

 そんな傍らで再び雑誌を見始めていたアリシアがふと声をあげる。

 

「あ、私これが合ってる」

「ん……デバイスマイスター?」

「そう、それそれ。デバイス弄りが好きだし才能もあるし? いずれフリーでやれるとベストかな」

「自分の才能をハッキリ認めるあたり、プレシアさんの娘だわ」

「ふっふー、ナナシもこれどう? 戦闘なしの今ある技術をそのまま転用できる感じだけど」

 

 そう言われ目を通すが、内容が難しくて脳から何か出てきそうだ。脳汁ダパー!

 うーん、これはデバイスとかに対して()()に強い人間向きだな。熟練者(マイスター)だから当たり前なんだけど。残念ながら無理だ。

 

「能力的には俺は精々こっちだろ、デバイスマイスター補佐」

「えー、ナナシも頑張ればいけそうなんだけどなぁ」

「どんくらい?」

「禿げて血尿出るくらい」

「死ねと?」

 

 そこで我慢の限界がきたのか吹き出して笑ってるあたり、本気ではなかったようだ。

 しかし、なんとなく腹立たしかったのでアリシアの頬を両側に引っ張る。引っ張り返される。お互いよく伸びる伸びる、モチモチー。

 

「ふぁひひひひ」

「ふぉふふふふ」

 

 お互いに変な顔なので笑うが、また笑い声が珍妙な感じになってて余計に笑う。それが珍妙な以下ループ。

 笑いすぎで疲れたところで、手を離す。あー、頬がヒリヒリする。

 

「そういえば、姉さんたち明日は予定あるかな?」

「特になかったかな」

「じゃあ、ちょっと私となのはに付き合ってもらっていい?」

「いいけど買い物か? 俺いても仕方ない気するんだが……」

「ううん。その、前に言ってた

 

 

――模擬戦をしたいなぁって」余命宣告残り1日だそうです。救急車? 馬鹿野郎、葬儀屋を呼べい!

 

 ――ゴプッ。アリシアと俺は無言で口の端から吐血した。

 り、リリ……

 

 

▽▽▽▽

 

 

「リイィィィィィン!」

「ヘルゥゥゥゥプ!」

 

 5分後、八神家に強襲を仕掛ける奴らがいた。やっぱり俺たちである。

 無言の吐血のあと、チラチラこっちを見て返事を待つフェイトに嫌だ(No)と言えるはずもない。例え自らの寿命を縮める(首を絞める)行為でも断れなかった。

 結果、延命したいのでリインにヘルプを求めに来た。葬儀屋に世話になるにはまだ若すぎるのだ。

 

「なんや、慌ただし……あ、おふたりさんいらっしゃい。そない慌ててどうしたん?」

「八神ぃ助けてくれ……死にたく、死にたくねぇ……!」

「私たちは……ッ! 生き残るんだ……ッ!」

「あかん、凄い真剣なんはわかるんやけど理由が案外しょうもない気がしてならんのはなんでやろ?」

 

 俺たちなせいだと思う。いや、至って真剣なんだけどな。精神的にも死なないためにここに来たわけだし。

 取り敢えず、家にあがらさせてもらいお茶を飲み落ち着く。

 

「出来ればこうやって老後も過ごしたかったね……」

「縁側でゆっくりとなぁ」

「なに余命宣告されたみたいになっとるんよ」

 

 かくかくしかじかウマウマと八神に説明をすると、八神家の面々が御愁傷様と言わんばかりの表情になる。

 ヴィータとリインが俺たちの肩に手を置いてきた。

 

「死ぬなよ」

「……あれはかなり痛かった」

「あぁ、ヴィータはタカマチと戦っていたからな」

「リインフォースはふたりにブラストカラミティ撃たれてましたよね……」

「シャマルも受けてみるといい……魔力ダメージでナハトと共に消し飛ぶかと思った」

「嫌ですよぅ!?」

 

 ヴィータも負けず劣らずに暗い顔をしてる。いや、確か直撃はもらってなかったって聞いたけどなんで?

 

「あいつ会うたんびに砲撃の威力が増してんだよ……」

「おいやめろよ、言っていい冗談と言わない方が幸せな事実があるんだよ……!」

 

 八神家が重苦しい空気に包まれる。

 少し間を置いて、リインとユニゾンしてみようという話になった。大変申し訳ないんだが、やはり八神はユニゾン出来なくなっていたそうだ。

 改めてその事については頭を下げておく、八神は笑って許してくれてるけどケジメケジメ。絶対に必要な訳じゃないけど、円滑な人間関係を崩さないためには必要なもの……いやー、こんなこと考えるあたりゲスい感じに汚れてる。

 

 さて、気を取り直して初ユニゾンといこうか。

 

「アリシアからどうぞ、立役者だからな」

「おっ、なら遠慮なくいくよ! これでやっぱりユニゾン出来なかったなんてオチなら、今夜は枕に局所的に雨が降るよ! ユニゾンイン!」

 

 また、変なフラグ建てやがって……と思ったがおっ建てたフラグも何のその。アリシアは見事にバッキボッキへし折ってユニゾンを成功させた。

 目は翡翠色となり、金髪は色が薄くなっている。

 

「成功した……成功したよナナシ! いぇーい!」

「いぇーい!」

 

 気持ち的に久しぶりのハイタッチ。リインは自分のなかにいる感覚らしい。

 魔力も上がっているのがわかる、ミソッカスから一般程度になっている。

 

「けど、無理矢理適性を合わせたからかなぁ? 結構疲れるよ」

「ま、ユニゾンしなきゃ疲れるひまなく落ちるしそれくらい目を逸らそう」

「んー、そうだね。これは簡単に弄れるものじゃないし今は目を逸らしとこう」

 

 フワッ、と発光したかと思ったらアリシア(単体)とリイン(単体)に戻っていた。次は俺か、胸の高鳴りが押さえられない。ドキドキしまくりだわ。

 

「さて、ナナシユニゾン結果の晩御飯を賭けたトトカルチョ始まるよー。自爆、ユニゾン事故でリインがメインに、そもそもユニゾン出来ない、ワンチャン成功」

「倍率は上から1.2倍、1.5倍、1.7倍、ラストは大穴で2.5倍や!」

「あたし自爆で」

「私も自爆にしよう」

「じゃあ、ユニゾン出来ないに」

「ふむ……大穴の成功に賭けてみるとするか」

 

 なにいきなり始めてんの? 泣くぞ、こら。ザッフィー以外失敗に賭けてるあたり目から垂れる汗を我慢できねぇ。そのザッフィーも外れることを念頭に置いてるあたり、ある種の八神家での俺の評価がわかる。

 その後、八神はリインがメインになるに、アリシアは自爆に賭けやがった。リインだけが真面目に成功に賭けてくれたのが救いです。

 

「俺は成功に賭けるかんな! 自爆フラグなんざ折ってやるわ! お前ら見とけよ、晩飯を俺とリインとザッフィーでかっさらってやるからな……!」

 

 フュージョ……んんっ、ユニゾンイン! その掛け声と同時身体が魔力の光に包まれる。

 不思議な感覚だ、なんか俺の身体(コックピット)のなかにリインフォース(操縦士)がいるような……リインは窮屈でない?

 

『大丈夫だ、心地よいとまではいかないけど不思議と楽しくなる空間だ』

 

 念話のように頭に響くリインの声。楽しくなる空間って俺の体内は危ない薬でも分泌してるのか?

 いや、そんなことよりも……成功してるじゃないか。

 目を丸くする八神家とアリシアに、渾身のドヤ顔を見せつける。

 

「そんな、そんな……ナナシが成功した」

「クッソー! はやての晩飯が!」

「まさか大穴とはな、ザフィーラよかったな」

「俺も予想外だ……凄いドヤ顔だな」

「夜天の書と転生してきたなかでもあそこまでのドヤ顔は始めてです……」

 

 おー、ガラスに映る姿を見るが髪の毛が灰色になっているし目の色も緑だ。ワハハハ、魔力が上がっているのも実感できる!

 

「はー、成功してよかったなぁ。けど見た目が間違った中学デビューする子みたいやで」

「いいんだよ! 珍しくこんなにもきれいに成功したんだ、喜ぶしかな」

 

 いだろ、と言葉を続けるはずだった、はずだった。

 ――しかし、次の瞬間俺の中からリインが弾き出された。途端に全身を襲う疲労感、真夏炎天下のなか水分補給をせずに走りまくったかのような気分。

 

「はぁー! はぁー! な、なに……起きた?」

「すまないが時間切れだ……元々ナナシにはアリシアに比べても適性が無さすぎることと、魔力の無さが原因だろう。魔力を増やす特訓さえすれば、もう少し改善するだろうが……」

 

 将来的にはともかく模擬戦は明日。間に合うわけがない。

 

「制限時間……な、何分だ?」

「はやて……教えたげて」

「……ジャスト1分や」

「いい夢見れねぇよ……!」

 

 ――無理ゲーを明日に控えた今日、攻略法を目の前に新たな壁にぶち当たったのであった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
ナナシ強化完了、イヤー主人公らしくなりましたネー。

▼ナナシ`sステータス
・デカイ倉庫
・ミソッカス魔力
・超凄いドヤ顔←new
・ユニゾン(1分)←new


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21.潮笑い

 アースラ内には色々な設備がある。航行に必要なものを除いても食堂や軽い娯楽施設などまで選り取り見取り。

 そんなアースラにいる俺は設備のひとつである模擬戦用のフィールドにいた。対面にはニコやかななのはとフェイト。こっちには姉としての意地、男としての意地だけでここまで来たアリシアと俺、ついでに助っ人もといお助けデバイスのリインがいる。

 

「……ついにデイブレイカーが日の目を見るときが来たな」

「それ、私たちの夜明けを壊さない?」

「あー……ならアリシアのフォーチュンドロップは俺たちの幸運落とさねぇ?」

「お前たち、せめて気だけでも明るく持たないか?」

 

 その通りだ、俺とアリシアはリインに頷き正面の二人に向かい合い宣言する。

 

「よっしゃあ! 全力を賭してかかってこい!」

「私たちの力、見せてあげるよ!」

「うん! お互い全力全開でやろうね!」

「久しぶりに姉さんたちと模擬戦、今回はなのはもいるからすごく楽しみだよ!」

 

 死ぬー、後ろのリインに涙目で振り返ると困ったように眉を潜めていた。

 

「どうしてお前たちはそう極端なんだ……?」

 

 何でかなー、今日ほどこの性格を後悔したことはないけど直すには手遅れだわ。症状的にも、タイミング的にも。

 

 実はアリシアと作戦たてようとしたんだ、昨日の夜に。簡単に三桁以上のアイデアが出たけど、一緒に三桁以上の負けパターンが出た。どうやっても勝ち目が見つからん。

 

 なのはは空戦機動が飛び抜けているわけではないので、なんとか攻撃を当てることが出来る。けど、防御の堅さが半端ではなくカウンターで叩き込まれる砲撃の威力は俺とアリシアの顔から表情が消える。

 それに通常の魔力弾の操作の精密さ、その数も確実に俺たちが捌ける量を越えておりサンドバックになる未来しか見えない。

 

 対して、フェイトは簡単だ。俺たちでもユニゾンした全力を当てれば、数撃で落とせる紙装甲……当てれば。

 当たらない、超速い、速いとかじゃなくて見えない(はやい)って感じだ。事実アリシアは目で追ってると見失うらしい。俺はギリギリ追える、目だけはいいらしい。

 んでもって結論は、攻撃当たるかもしれない奴は鉄壁の砲台で、攻撃を当てたら落とせるかもしれない奴は超高速なスピードキチ。

 

「なにこれ、クソゲー」

「わかりきってたことじゃん。ほら始まるよ……始めは私がユニゾンでいいんだよね?」

「いえっす、リインよろしく」

「任せろ、可能なかぎり頑張ろう」

 

 デイブレイカーをセットアップし、浴衣姿となる俺。このまま、祭りにでも行きてぇ。他の3人もセットアップし、戦闘準備が整ってしまう。

 ――そして、鳴り響く開始のブザー。誰よりも早く動いたのはフェイト。近距離戦(クロスレンジ)に持ち込もうとしている、というよりはヒット&アウェイをしようとしてるのだろう。

 しかし、あいにくその程度なら読めていたので出し惜しみなく広域攻撃魔法(フォトンバースト)を正面に撃ち込み動きを止める。

 出し惜しみなくというか、広域攻撃しないとあの速度のフェイト狙えないだけなんだけどな!

 

「ユニゾンイン!」

 

 その攻防の間にアリシアとリインはユニゾン、そして第一にとった行動は――俺の襟首をつかんで真横に思いっきり跳んだ。

 直後、ボッと空気を焼くかのような音が通りすぎたのはアリシアが跳んだ音か。否、目の端に映るピンクのあんにゃろうのせいだ。当たり前だけど躊躇いなく撃つなぁおい!

 

ユニゾン(変身)の間くらい待ってくれていいのにね!」

「全くだ!」

 

 そして休む暇なく舞い上がった煙を突っ切ってフェイトそん参上! なのはが魔力弾と砲撃での支援、フェイトがアタッカーね。

 振りかぶられた鎌に対し、総ステータスが向上しているアリシアがシールドを張るがそっちじゃねぇ! 目の前にいたはずのフェイトが真後ろに現れ鎌を振りきる。

 

「どっ、せぇ!」

 

 間一髪デイブレイカーで受けとめるが重い。段ボールに入ってたフェイトとか目じゃないな、このまま押しきられると思ったが何故かフェイトは身を翻し横へと飛んだ……あ、ヤバい。

 

「アリシア! プロテクション!」

「もう張ってるっわとぉぉぉぉ! なのはが重いぃぃぃ!」

「アリシアちゃん失礼じゃないかな!?」

「ぎゃーっ、重さが増したよ!?」

 

 フェイトが押しきれる勝負を投げ捨てたのは、なのはの砲撃が来たからだ。ユニゾンしてるアリシアがなんとか止めているが足がプルプルしてきている。

 このままどうなるかは火を見るより明らかなので、苦し紛れの一手を撃つ。打つのではなく、撃つのだ。

 デイブレイカーのカートリッジを1つ弾き出し、心の準備。

 

「俺は出来る子、俺は出来る子」

「ナナシ何やってるの!? 早くぅ!」

「あいよぉ! ……ままよ!」

 

 なるようになれと、アリシアのプロテクションから横に飛び出し、狙いもまともにつけずにデイブレイカーをなのはへ向ける。

 ――そして撃つのは、恐らく俺の遠距離最大威力の魔法。

 

「クイックバスター!」

《Quick Buster》

 

 なのはのディバインバスターのオマージュ、オブラートを破り捨てて言うならパクり魔法。

 俺の最大威力って言っても所詮魔力ランクE、バリア貫通力や魔力ダメージはディバインバスターと比べるまでもなく圧倒的に下である。

 しかしなのはのように()()、いわゆるチャージの必要ない砲撃だ。

 速射されたそれは砲撃で身動きのとれないなのはの足元で爆散した。

 

「きゃあ!?」

「なのは!」

 

 結果、ダメージは通らないがなのはは体勢を崩しバスターは途切れた。ついでに、嫌がらせのごとく土を浴びせることとなったけど許してほしい。

 睨むなよ、ほらスマイルスマイル。

 

「もー! ナナシくんのそれはスマイルっていうか潮笑いだよ!」

「しお、笑い……?」

 

 んー? しお、塩……潮で笑い。あ、嘲笑うか。

 

「なのは、それ嘲笑うか嘲笑(ちょうしょう)だろ」

「えっ、あれ?」

「なのは……」

「えっと、これはその……ええっとね……!」

 

 フェイトにまでちょっと残念そうな顔を向けられて焦りに焦るなのは。

 

 それはそうとして、少し離れたところでアリシアったらユニゾン解除して休憩してやがる。てか、灰になってて、リインが手で扇いであげてるのが見える。

 

「小学生が無茶して難しい言葉使うから……」

「な、ナナシくんだって年齢変わらないじゃん!」

「フハハー、それでも国語が苦手ななのはにゃ負けぬわ! それこそ、潮笑いが漏れるぜ」

 

 そう言ってプッスーと笑うと、みるみる膨れてくるなのはの頬。

 そしてジャキッという効果音とともに構えられるレイジングハートさんには底知れぬ威圧感……あ、からかいすぎた。

 

「リイィィィン!」

 

 ばたんキューしてるアリシアが運ばれるのを見送ってるリインを必死に呼ぶ……え、アリシアが運ばれてるだと?

 

「魔力切れ、あとは頑張ってくれとイイ顔で言ってた」

「あんにゃろう……!」

「半分はお前が遊んでいたせいでプロテクションを張る時間が長くなったせいなんだが……」

 

 つい、いつものノリで……いやそんなこと言ってる暇じゃない。制限時間1分とか気にするときでもない。レイジングハートさんの矛先には目を逸らしたくなる魔力が溜まってきている。

 

「ディバイィィィィン――!」

「ユニゾン――イン!」

「バスタァァァァー!」

 

 ユニゾンし生えた3対の翼で真上に飛び退くと同時、俺がいた場所はピンクに蹂躙された。

 なのは激おこである、激おこプンプンファイナルディバインバスター相手は死ぬ。国語が苦手なのは事実なのに砲撃で誤魔化すとはなんてやつだ。

 

『潮笑いとからかうからだろう……』

「ぷっすー」

「あぁ! また笑ったぁ! フェイトちゃんいくよ!」

「えっ、あ、うん!」

 

 あ、なのはがさらに怒って状況についてこれてなかったフェイトまで参戦してきた。

 リインのせいだ、どうしてくれる。

 

『責任転嫁をされても困――そっちにいくな!』

「へっ?」

 

 普段は空戦なんぞできない。ただユニゾンにより生えた翼で調子のって飛んでた俺は、忠告を受けるも止まれず――ガチンッ!

 小気味よい音たてて発動しくさったライトニングバインドに見事に引っ掛かり、捕獲された。あ、状況についてこれてなかった訳じゃなくてバインド設置してたのか。フェイトったら、案外抜け目ないね。

 

「いくよ、ナナシくん! これが全力全開、私たちのコンビネーション!」

「待て待て待て! おい! オーバーキル過ぎんぞ……!?」

『……始めるときに全力を賭としてかかってこいって言ったのだーれだ?』

「言ったのおーれだ! ちょっ……オワタ」

 

 駄目だ、バインドブレイクとか出来ないしなんかピリピリするしこれ。

 ……もう、ユニゾンも限界だ。目の前のマジカルにラジカルな状況に似合わぬ、ポンッというコミカルな音とともにリインが出てくる。

 さすが1分、何もできなかったぜ!

 

「ゼハッ! ゼハッ! り、リイン……お前だけでも逃げろ……!」

「いや、私だけ逃げるなど」

「いいんだ、あんなもの……はぁはぁ、二度も受ける必要ないんだッ!」

 

 闇の書の暴走プログラムを引き剥がすためにお前は一度受けたじゃないか……こんなもの二度も受けてみろ、確実にトラウマになる! そうなれば、八神にも申し訳がたたないじゃないか。

 

「くっ、だがっ!」

「いいから、逃げろぉぉオオ!」

「ッ! すまない!」

 

 そうして去っていくリインの背を見送る……正面では既になのはとフェイトたちの姿が光で見えないほどの魔力が集束し始めている。

 ピンクと金色が訓練場という普段は味気ない空間に、綺麗なグラデーションを描いている。

 

 思い返せば色んなことがあった。転生……たしか転生だったよな? 次元漂流だったか? まぁ、どっちかをしたあのときから思えば今の状況は考えられなかったな。

 寝床すらなかったあのときは大変だった。魔法を初めて見たときには一度死んじゃったしな……あのフェイトには悪いことした。

 そのあとは八神と図書館で出会って、なのはとフェイトとの戦闘に巻き込まれて――

「全力全開!」

「疾風迅雷!」

 

 あ、時間切れッスか。

 

「「ブラストシュート!!」」

 

 何て言うのかな? 光の洪水、いや濁流? ピンクと金色の壁か。俺とフェイトたちの僅かな空間を彩りながら押し寄せてくる。やけに遅いな――違うか、精神的に極限的すぎてスローモーションに見えているだけだな。

 

「ナナシの人生、ここまでのようだ――御免」

 

 痛いとかじゃなかった、徹夜を幾度となく繰り返したあの疲労がまとめて襲ってくるかのような――――

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

 えらく頭が痛いし、全身の倦怠感が強い。なんで寝てたっけ? この頃は普通に徹夜せず過ごしてたんだが……あ、ここアースラだ。

 

「あ、ナナシ起きた!」

「身体は大丈夫か……?」

「お、アリシアにリインおはよう……どうした?」

「記憶が……トんでる……!?」

「え、記憶喪失とかなにそれ怖い。俺に何があった」

 

 ない頭を捻り思い出す。昨日は八神家でリインに何かお願いしたし、今日はアースラに何しに来たか。

 徹夜なしで倦怠感あるってことは魔力がないのか……それでリインがいるってことは、だな……これ思い出さない方が幸せな気がしてきた。しかし、ジワジワと記憶が戻ってくる。

 

「俺ユニゾン出来て調子のってフェイトとでも模擬戦した?」

「ううん、なのはとフェイトだよ」

「そしてお前はユニゾンが解けた状態でブラストカラミティを受けて……」

「俺、馬鹿じゃねぇの?」

 

 何があったのかふたりに聞いたけど、なかなかに馬鹿である。戦闘的には俺が、国語的にはなのはがな!

 さすがに潮笑いが漏れるぜ。ぷぷっ!

 

「うーん、このナナシの成長しなさ」

「え、なにが?」

「いやぁ、ナナシはそのままでいてね。見てて面白いし」

「さすがの俺も成長くらいしたいんだが」

 

 なのはたちはクロノに叱られてるそうな。さすがにやりすぎだと、訓練ルームに轟いた衝撃はアースラ内に響き渡り危うく警報まで鳴りかけたと。

 あとそんなもんミソッカス魔力な俺に撃つなと、精神的に弱いと発狂するぞって。

 

「どんだけだよ」

「魔力ダメージとはいったい何なのか疑問に思うな」

「ナナシ、リインはよくトラウマに……いや、ナナシは自己防衛的に記憶無くしちゃったけど」

「ピンクとな、金色の壁が押し寄せてくるんだ……その寸前にな、全部がスローになってな」

「無理に思い出さなくていいから!?」

 

 まぁ今は生き残れたことに感謝しよう。

 

「さて、今日は主が腕によりをかけて晩御飯を用意してくれるらしい。それでテスタロッサ家も来ないかと言っておられたがどうだ?」

「行く! ナナシにはやての料理は美味しかったって聞いてるよ!」

「プレシアさんにも連絡いれとかないとな――うわ、もう返信来たぞ。プレシアさんも行けるって」

 

 その後、なのはも行くことが決まった。その日の晩はとても賑やかな夕食となったのは言うまでもない。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 夜、八神家は、

 

「あの、プレシア女史。テスタロッサ――いや、フェイト・テスタロッサの件は申し訳なかったと思っている……怒気を収めて貰えないか……」

「ふふふ、大丈夫よ。フェイトも気にしてないって言ってるから全然気にしてないわ、ええ全然大丈夫よ」

「おい、ナナシ助けてくれ……!」

「シグナムさん、何でこっち来る。フェイトかアリシアにヘルプ求めろよ!」

「はやて、自分の親をこう言うのもなんだけど……あれが親バカだよ」

「あははー、何や凄いなぁ」

「か、母さん私は本当に気にしてないからやめて!」

「なのは、あっちで飯食おう」

「あ、ヴィータちゃん待ってー」

「私もあっちで食べることに……」

「逃がさんぞシャマル」

 

 ――本当に賑やかな夕食となった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
危うく魂的なナニかと分離しかけたナナシ。
リインと傍目には茶番やったりしてたけど本人たちはいたって真剣。

あと四次元空間は倉庫、戦闘用じゃない。いいね?彼はもう無印編で頑張ったから。


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22.泣きっ面に蹴り

 私としても非常に迷ったんだよ? あの脳ミソたちから言われたということは気にくわないがタイプゼロの素体にも興味はあるとも。とっても気になるさ、だが気にくわないなら聞く必要もないさ!

 興味があるが気にも食わない、ならば今でなくても己がやりたいときにやればいいじゃないか。

 行動を他人に縛られるなど我慢ならないだろう……娘はあれだ、他人じゃないからね。たまに止められても仕方ないというものだろう? 決して長女(ウーノ)が怖いとかではないとも。

 

「そうだろう?」

「ドクター、いい加減にしてください。せめて最高理事会につけられた“首輪”が取れるまでのあと数年は……」

「取ったさ」

「えっ?」

「だから首輪など既に取ったさ」

 

 私を生み出した――造り出した奴らは私の性格を把握してるがゆえに離反を阻止するため、とある“首輪”をつけた。

 

「だが、本当に私の性格を理解しているならばこの程度すぐ外せることくらいわかるだろうに」

「ですが……それでも」

「今日の部隊襲撃は休止だ! 今度こそプレシア女史に会いに行くぞ!」

「ど、ドクター!?」

 

 ウーノよ、止めるんじゃない。私は無限の欲望だぞ、なればこそ欲に忠実でなければなぁ! 死者蘇生、この私が全うな手段では出来ないと結論付けたものだ。

 いったいどうやって行ったか確かめないわけにはいくまい!

 チンク、トーレ来たまえ……いざというとき、頼む本当に頼むからな。

 

「はい、ドクター」

「では行こうか!」

 

 ゼっとん隊だかなんだかの襲撃はいいだろう! そんなものは光の星から来る巨人にでも任せておきたまえ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ふと思いついたんだが、これは重大な案件だ。下手をすれば地球が危ない。

 

「なのはたちって魔法少女なら将来魔女になるのか?」

「えっ? な、ならないよ!?」

「ユーノと契約したなのははエントロピーをディバインバスターでぶち抜いて魔法少女になったんだろ?」

「それで言ったら私が契約したのはレイジングハートにならないかな……って違うよ、なんで急にそんな話になったの!?」

「思いつき」

 

 えぇ……と眉をハの字に下げるなのはを傍目に考える。なのはが歳を取り、シワに染みに絶望し魔女となり、バスターやブレイカーを無尽蔵に撃ち放つ姿を思い浮かべる。

 魔女というか怪獣だった。

 

「で、何歳まで魔法少女枠を占拠するの?」

「魔女って聞くとずっと魔法少女でいたくなってきたよ」

「高町なのは三十八歳、職業は魔法少女です」

「痛い、なにかが痛いよ!? あれ、それなら魔女の方がマシに思えてきた……」

「魔法少女が職業とか、もう職業病だよな。誤用だけど」

 

 なまじ三十八歳という数字がリアルなので生々しくて、随分と痛々しさを助長している。

 美人ならギリギリいけるかもしれないが、大変失礼ながらなのはが美人になるかなんてわからないからな……小学生で美人も糞もない。小学生で可愛かったあの子も二十年というときを経て樽型体型にもなりうるしね。

 

「なのはって運動音痴、略してうんちだしワンチャン樽型体型」

「色々と失礼すぎるよね!? 意地でもスレンダーでいてやるんだから!」

「体型維持だけに意地でも?」

「上手、くもないよ……」

 

 そんな会話をしながらも国語の問題集もとい問題作の採点をする。

 実は今なのはの勉強を見ている最中なのだ、となりではフェイトとアリシアが八神に習っている。アリシアはついでらしい。日本語も覚えときたいとかなんとか言ってた。

 それにしても、八神が話に入りたそうにこちらをチラチラ見ている。ネタに走ろうとする血が騒ぐのかね?

 で、問題の問題作だ。頭痛が痛いみたいな言い方だけど内容もそんな感じなんで仕方ない。

 

「猿もおだてりゃ真珠に登る。ってなんとなく覚えてるの繋げただけだろ」

「うっ」

 

 どうやったらこんな解答になるのか、算数の文章題で計算がわからないので取り敢えず出てる数字全部足してみましたーみたいな雰囲気醸し出してる。むしろここまで中途半端に覚えているのは才能じゃないか?

 

「そんな才能いらないよぅ……」

「床に耳あり畳に目あり、両方床じゃねぇか」

「ああ!?」

「しかもどうやって床から盗み聞き、盗み見するというのか」

「ゆ、床下に潜り込めば……」

 

 どんなホラーだ、盗み聞きはともかくどうやって見ろというのか……

 

「しかも部屋が二階にあるとアウトや」

「なのは選手二問間違い、ツーアウト追い詰められました――ナナシ、運命の採点を始めた!」

「泣きっ面に……蹴り――スリィアウツッ! チェンジ!」

「うわぁぁん! 学校に行ってもない3人が苛めてくるよ!」

「う、うん……でもなのは私より国語苦手なんだ」

 

 その一言でなのは撃沈。さめざめと涙を流しつつ横にぶっ倒れた。魔法の模擬戦じゃ勝てないけど、国語の模擬試験なら余裕で勝てるな。

 そして何だかんだでフェイトは覚えると早いからね。

 それに比べてなのはは苦手意識が刷り込まれてるからなかなか進行具合が鈍足なのだ。

 因みに現在は学校に行ってない八神はこの春からフェイトたちの通う聖祥小学生に転入するんだけど……そんなことより国語だ、現国だ。

 

「まさに泣きっ面に蹴りを入れるフェイトちゃんにさすがの私も戦慄や」

「無意識だから手加減なく叩き込まれたね」

「鉄壁のバリアジャケットを誇るなのはもこれに堪らずダウン」

「な、なのは! なのは!」

 

 フェイトがなのはの肩を持ちを前後に揺さぶるが頭が揺れるのみで反応がない。これは重傷だな、フェイトの泣きっ面に蹴りがクリティカル的な意味で。

 口から魂らしきものが抜けている。泣きっ面というか、死体蹴りだったようだ。

 

「これで英語ができるってのが不思議だよな」

「算数も飛び抜けてできるし」

「なんというか、ミッド魔法特化やねぇ」

 

 これは恐らく社会も駄目じゃないかな。

 織田信長は長篠の戦いで武田軍の騎馬隊をなにで打ち負かしたでしょうか?

 

「ディバインバスターって書くんやな」

「書かないよ!」

「えっ、さすがにスターライトブレイカーは不味いで!?」

「問題文の打ち負かすに二重線で訂正して、撃ち負かすに直すんだよね」

「しないってばー! 銃使ったことくらい知ってるよ!」

「残念、銃ではないのだ」

「えっ!?」

 

 ちなみに答えは鉄砲隊、ニアミスだね。銃ができるのはもう少し先のとこだ。

 内容は、織田ブッ飛ばすって騎馬に乗って調子よくパカラってる武田軍騎馬隊に対して、柵と土塁で守りを固めて近づいてきたところを鉄砲隊でズドン。

 

 なんかデジャヴ感じるよね、ユニゾンして調子よく飛んでたらバインドで止められてズドン。

 ――我こそが第六天魔王高町なのは、我の征く道を塞ぐ者の尽くを撃ち抜いていざ押し通らん。あ、なんかしっくりきた。

 

「なんかまたナナシくんが一人でしたり顔してる……絶対失礼なこと考えてる」

「いやいや、なのはって社会は出来そうだなって考えてた」

「ホント!?」

 

 うん、なんとかなるんじゃないかなー。適当にいったけど誤魔化せた……と思ってたら思わぬところから奇襲を受けた。

 

「さっきと言ってることが真逆なあたり適当にいっとるんがわかるな」

「何故バレたし」

 

 なのはに背中をポスポスと殴られながら、八神と向き合う。フェイトも終わったようだ、俺も解答用紙を見せてもらう。

 

「おお、大体合ってる」

「ふっふーん、私の妹だからね!」

「やめたげ、なのはちゃんが部屋の隅で泣いとる」

「泣いてないもん! 次のテストでは満点取るんだから……!」

 

 泣いたり荒ぶったり忙しいな。しかし、満点取るってもこれじゃ辛い気がする。今やってたことわざ小テストは10問中1正解の全滅一歩手前だった。わかりやすいことわざベスト3に入りそうな、五十歩百歩だけ書けてた。

 

「はい、なのはちゃん前回の国語は何点や?」

「60点…………じゃ、弱」

「よし、70点目指すとこからいこうか。高い目標もいいけど、無理な目標よりも自分の成長を実感できやすい目標をたてて、一歩一歩確実に踏み締めていく方が長く効果あるから」

「な、ナナシくんにまともなこと言われたー!?」

 

 なに心底ビックリしてるのか。これでも、フェイトの聖祥小学生編入のために文系を教えたのは俺なんだぞ?

 理系? 教える必要がなかったナリ、数学レベルも余裕でこなしてた。

 これは魔法というプログラムが使えるからとかじゃなくて、テスタロッサ家の血のせいだと予想してる。なにしろアリシアはさらにその上をいくし、プレシアは悠々とその上を飛び越えてる。

 閑話休題、とにかく特に国語とか教えてたのは自分、ミーなのだ。

 

「もしかして……ナナシくん勉強は真面目に教えてる?」

「もちろん、将来に関わるからな」

「わかりやすく教えてもらえたよ」

「わっ、私にも真面目に教えてよぉ!?」

「いや、ことわざを真面目にと言われても……暗記しろとしか言えないわ」

 

 文法とか文章題の作者の気持ち云々かんぬんなら割りと真剣に教えられるけど、今やってたのことわざだろ? 覚えるしかないじゃん、逆に英語(ミッド語)習得しといて日本語のこれが覚えられない意味がわからん。

 

「このままやと、なのはちゃんは中卒くらいでミッドに移るんちゃうかな」

「八神、いくらなんでもそれは失礼だ……おい、そこの茶髪ツイン。なんで目逸らしてんの……?」

「あ、アハハー」

 

 拝啓、高町家の皆様。

 貴方たちの娘さんは中学を卒業後、地球から抜け出し異世界で魔法少女として働くそうです。私は少女と名乗れなくなった年齢になったときどうするのか心配が絶えません。

 

「魔法少女として働こうとしてるわけじゃないから」

「え、なんだ。ババァは解雇だヒャッハー! ってな職場に身を投じるんじゃないのか」

「うわぁ、嫌だなぁそんな職場。なのは頑張れ」

「だから行かないから! ……あ、そういえばナナシくん」

 

 ふと思い出したかのようになのはが疑問の声をあげた。なんだ、小学校に行ってないのに国語が出来る理由は秘密だぞ。

 

「そこも気になるけどそうじゃなくて……なんではやてちゃんだけ苗字で読んでるの?」

「あ、それは私もちょっと気になるかな。私も姉さんも名前なのにはやてだけ苗字だし」

 

 はて……あ、確かに八神だけ苗字で読んでるな。しかし、そう言われても理由か。

 

「実はまだ親密度が足りなくてな」

「あと3つはイベントをこなしてもらわんとあかんな!」

「八神がな」

「私がか!?」

「ほら、イベント発生だ。お腹を空かしているナナシがいるぞ、好感度アップのチャンス!」

「ほら、ナナシぃ。ご飯や、とびっきりの……ドッグフードや」

「もはや人扱いですらない……!? これはドッグファイトも辞さない」

 

 間違いなく好感度を上げる目的ではない、八神が全力で上の立場を取りにきた。

 そして、語呂だけで返したけどドッグファイトは戦闘機の格闘戦なんだよね。話に沿ってない返しになって負けた気分だ、八神のドヤ顔腹立つ。

 

「ここまでお互いネタをやり取りしてるのに親密度が足りないの……?」

「やり取りというかネタで殴りあってない?」

 

 アリシア正解だと思う。

 

「ま、別に苗字でも名前でもええんやけどね」

「俺もだ」

「ナナシは名前しかないじゃん」

「神隠しにあっても名前から取るとこないんやね」

「ナナシ、あんたにはもったいない名前だね」

「ナをとって今日からナシや!」

 

 お前らナシ汁ぶっかけんぞ。たたでさえ無い名前を短くするとか止めてやれよ、なんか俺が可哀想だ。

 

「それで! 結局ナナシくんはどうして苗字で呼んでるの?」

「そこに苗字があるからさ」

「話が進まないよぅ……」

「でもまぁ、うちにもぎょうさん八神が増えてくれたし名前で呼んでくれてええんよ?」

 

 そういえば、そうだな。会ったときは八神はオンリーワン八神だったけど今じゃ量産型八神だもんな。

 

「親密度後払いでいいですか?」

「無利子でええで」

「よし、ならはやてって呼ぶことにするわ」

「なんや、急に名前呼びになると……」

「凄くドキドキ……」

「することも別段無いね」

「無いな、ホントどっちで呼んでもよかったし」

 

 本当に驚くほどなにも変わらない。あ、でもなのはは友達になるには名前を呼べばいいって言ってたよな。

 つまり、

 

「今まではやてと俺は友達じゃなかった……?」

「なんやっ、て……?」

「極論過ぎないかなぁ!?」

「けど私にとっては第一印象が変な人で、次会ったときはホンマに通りすがりの魔法使いやったんよなぁ」

「空から飴を降らせます、ベッドをお菓子で埋め尽くします」

「あ、ヴィータ喜んで食べてたで」

「それはよかった」

 

 主に賞味期限的な意味で。

 

「でもナナシくんは人の呼び方コロコロ変えられるの?」

「名前だけでなく話し方も変えれますよ高町さん?」

「ひぃ!?」

「おい、さすがに失礼だろ」

「普段を知ってると、今のナナシ違和感しか無かったよ……というよりは別人に見えたよ」

「フェイトまでか、アリシアどうだった!?」

「キモかった!」

「イイ笑顔でなんてことを」

 

 わかってたけどな、俺も違和感しかなかった。ただ外面を整えないといけないときのため覚えただけだよ。

 

「さて、こうやって周りに敵しかいない状態を四面楚歌という」

「えっ、あ、うん」

「こんな感じにことわざや慣用句、熟語は実際あったことに関連付けて覚えると覚えやすい」

「まさか今までのやり取りって……」

「そう、なのはが覚えやすくなるようにするための前振りだ。な、はやて?」

「もちろんや、これでなのはちゃんも覚えやすくなったやろ」

 

 なのはとフェイトが尊敬の意がこもった目で見てくるけど当然嘘である。普通に遊んでた。

 アリシアもわかってるだろうけど、バラさずニヤニヤして見てるあたり同罪だと思う。

 

 こんな感じで勉強会は続いたのだが勉強になったんかね?

 ――そこはなのはのテストを見るまでわからないシュレディンガーの猫なのであったとさ。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
活動報告で何か言ってましたが投稿。まぁ更新ペースは落ちるんじゃないですかね。
ちょっと出すキャラを増やしました、なのは国語勉強しろと言う声が聞こえたので勉強会。


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23.ウボォア

 ありえない……ッ! この私が、世紀の科学者、無限の欲望たるこの私が! どうしてこうなったのだ、何が間違っていたというのだ。

 

「私が迷子になるとは……な」

「ドクターなら迷子になってだって辿り着けます!」

 

 トーレからの手放しの信頼が今は痛いな……反面見た目は子供そのものだが、中身は娘たちのなかでも常識人寄りのチンクは冷静にツッコミを入れてくる。

 

「ドクターはあれだな、とても賢いが慢心で身を滅ぼすタイプだな。具体的には今すぐ倒せばいい相手をいたぶろうとして手痛い反撃をもらいそうだ」

「チンクやめてくれないか、私も自分で容易に想像出来てしまう」

 

 きっと心を折ってやろうとしていると失敗するのだろう。慢心はいけないのだがな、どうしても自己主張が激しいこの子供のような性格は直らないようだ。

 

 だが、存外ミッドは広いものだな……引き籠ってばかりいたので知識としては知っていたが、体感したのは初めてである。

 たまにはこうして外へ出るのも、あぁ悪くないものだ。

 

「感慨に更けるのはいいが迷子である事実は変わらないぞ」

「現実逃避というやつだよ……交番で道を聞くとするか」

「傍目から見れば自首だなドクター。ご自身が次元犯罪者として指名手配されていることを忘れないでほしい」

「くっ……」

 

 一度帰って調べれば一瞬で片がつくのだがそれでは娘たちに格好がつかない。既に若干二名の娘たちから割りと本気で心配する目を向けられているがな!

 だが、しかし交番というのは悪くない。私には無理だが娘たちなら行ける、特に低身長なチンクであれば子供に見られ滞りなく道を聞けるだろう。

 

「……チンク、君なら迷子というていで交番で道を聞けるのではないか?」

「はぁ、仕方ないか。それで交番はどこにあるのだろうか?」

「………………」

「………………」

 

 チンクからの呆れた視線がジト目に変わった。ここ数時間で父としての威厳が大暴落している気がするのは、勘違いであってほしい。 

 

「ライドインパルスを使って私が探してきましょう」

「まて、止めてくれトーレ。皆で探そうじゃないか」

 

 ――テスタロッサ家は遠い。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「俺ナナシとアリシアの、デバイス3分クッキングー」

「いぇーい!」

「ここにある夜天の書の破片とユニゾンデバイスに必要な材料を適当にネルネルネルネすると……!」

「完成、見よ! これぞ至高のユニゾンデバイス……!」

「ほほう、これが……って出来るかぁぁぁ!」

 

 アリシアとあのお昼時にやってるチャッピー3分クッキングを真似ていると、はやてから鋭いツッコミがきた。さすが関西弁、キレがあるね。

 まぁ、関西弁に対する熱烈な偏見だけど、関西弁だからって面白いこと要求するのは止めてあげようね。

 

「もー、一応真面目な相談なんやから」

「ごめん、真剣になるにはワンクッション必要で」

「お前らめんどくせぇな……」

「そうは言うがヴィータ、はやても変わらんと思うぞ?」

「え?」

 

 恐る恐るヴィータが振り返ると、アリシアとはやてが並んでテヘペロしている。カクンッと肩を落とすその背中は哀愁漂っていた。

 閑話休題、話の内容は夜天の書の欠片から新しいユニゾンデバイスを作りたいので手を貸してほしいとのことだった。

 

「……正確には、私の姉妹機かな」

「あー、どっかの誰かがリインをはやてとユニゾン出来なくしたもんな」

「まったく酷いやつがいたもんだよ!」

「どうしてこのふたりは自虐ネタに走るんでしょうか……?」

「私に聞くなシャマル」

 

 なんとなく負い目があるからだよ! アリシアはたぶん技術者のプライドもある。だから理解できないものを見る目は止めてやれよ、ツライ。

 

「それで期限は? 1ヵ月? 1週間?」

「それ以下はさすがにぶっ通しの徹夜でも間に合いそうにないので勘弁してほしい」

「なんやそのブラックな期限、いや手伝ってほしいだけで基本的には自分で作りたいんよ」

 

 リインも設計についての知識自体はあるのだが技術や設計にあった部品などはサッパリらしい。

 

 それで仕方なくデバイスキチのアリシアとただのキチな俺に白羽の矢が突き刺さったのか。

 

「よし、目指すは最強のユニゾンデバイス」

「主など要らない、己が拳ひとつで全てを薙ぎ倒す」

 

 ――そのデバイスが通り過ぎた道に立つものは誰もいない。主が歩く道は我が切り開く。

 

「リイン・ヴァルキリー始ま――」

「始まらせへんよー」

 

 リインも嫌そうに首をふるふると横に振っている。ただしシグナムだけ少し期待した目をしてた。いいですよね、リイン・ヴァルキリー……え、戦ってみたい?

 リイン・ヴァルキリーは廃案だ、出来上がると同時に真っ二つが待ってるぞ!

 

「まぁ、はやてのリンカーコアのコピーは入れるとして」

「私のコピーをつくるやって……!?」

「ミッドの地を埋め尽くすヤガミハヤテ、無数のラグナロクが平和なミッドを襲う――!」

「ラグナロクって日本語で世界における終末の日やから、それが無数とか普通に恐ろしいんやけど」

 

 見ろよ、アリシアがちょっと真面目になると今度ははやてがボケ始めた。誰かが真剣になれば、他の誰かがふざけて永遠に続く不真面目の永久機関。

 エターナルボケ、負の遺産的な意味でロストロギアにならないなろうか?

 

「言葉通り失われちまえよ、そんな負の遺産」

「場の空気がなごむぞ?」

「和むのではなく締まらないだけではないか?」

「ぎゃふん」

「で、冗談は置いといてはやてのリンカーコアを入れといたら守護騎士の皆もユニゾン出来るはずだよ」

 

 そして、はやて主体でつくるなら1年以上かかるだろうとのこと。

 デバイスについての知識はもちろん、小学校もあるし、はやても管理局に入ろうと思っているらしいのでそりゃ時間はかかる。

 空き時間だって遊んだりしないとならんしね。子供は遊ぶことも仕事のうち……ってのは子供が仕事してることもあるミッドも変わらんはず。

 

「どっかの翌日を考えず徹夜を繰り返せる人間とは違うもんね」

「俺もそろそろデバイスマイスター補佐の勉強始めようと思う、資格を取ったら是非ご利用を。友達割り増し2割りプラスで見てしんぜよう」

「割り増ししなや、友達割り引きしてぇな」

 

 さりげなく割り増しにしてみたら普通にバレた。

 

「我が家の家計を握ってる私を舐めんことや」

「決め台詞は、迂闊に舐めると食中毒になるで」

「それ腐ってもうてる」

「腐る、BL……すまんがホモはNGなんだよ、男にとっては笑えない」

「私も興味ないわ……うちの中ならシャマルが一番ハマりそうやなぁ」

 

 なんかわかる。部屋の棚とかに薄いのがドッサリとありそう。茶菓子を取りに入ってくれてるシャマルを微妙な目で見る俺たちの失礼さプライスレス。

 

「あっ、お煎餅がありました……はやてちゃんどうしました?」

「ナンデモナイヨー、シャマルはリインの妹はどんな子がええと思う?」

「そうですねぇ……明るくて元気な子がいいです」

 

 明るくて元気な子で思い出すのは水色のアホの子。いい子ではあったがいささか大変そうでもある。

 

「明るくてアホの子大変かもよ? 暗くてじめじめして引き籠る子どうですか?」

「キノコ生やしたいわけやないんやからジメジメしてんでええんよ」

「頭からキノコ生やしたユニゾンデバイス……イジメかな?」

「そんなことしたら私が怒るから、てかそんなデバイスつくらないから」

「せえへんけど……珍しくアリシアちゃんの目がマジや、真剣と書いてマジや」

 

 デバイスだけに関してはビックリするくらい本気だからな。適当な名前つけるとスパナ装備で襲ってくる、プロテクション張ると張り付いてスパナで殴ってくる。

 

「そういや、名前はどうするつもり?」

「んー、リインの妹やしツヴァイって名前にしようかと思ってるんやけど」

「ウボォア?」

「なんや、その気持ち悪い悲鳴みたいな名前」

「シュババ!」

「素早い動きの効果音になっとる、ツヴァイや」

 

 ――このときはやては、シュババと動き敵にウボォアと悲鳴をあげさせるヴァルキリーのようなツヴァイが出来上がることを知るよしもなかった。

 

「させんで、というか作るんは私なんやから」

「あ、そうだった」

 

 横で聞いてたリインが安心したかのようにホッと肩を落とす。そうか、やっぱりゴリマッチョな妹は嫌ですか。

 

 可愛い系ゴリマッチョという新ジャンルを開拓したかったんだけど……リインほっぺ引っ張らないで、はやてが作るんだから大丈夫。

 “ゴリマッチョでも可愛いは作れる”みたいなキャッチフレーズのつく妹は出来ないはずだから。

 

 そういえば、とふとゴリマッチョから思い出したことがあった。

 

「大変恐縮なんだけど闇の書事件のことでひとつ疑問に思ったことが――クロノに皆の画像見せてもらったときに褐色ゴリマッチョ男がいたんだけど」

「あ、いたいた。あれって誰?」

 

 なんだよ八神家揃って、あぁ……って反応して。

 仮面の男たちも謎なまま終わったんだけど、褐色ゴリマッチョは一番の謎のままなんだよ。

 どうやらはやてたちは仮面の男たちについても聞いたらしいが、俺やアリシアは知らされてない。別段興味もないしね、むしろ知るとプレシアに正体が誰だったか吐かされそうなので知りたくない。

 プレシアったらあれだけやっといて、まだフェイトが襲われたこと根に持ってます。

 

 ま、今はマッチョさんの方だ。はやてにもう一度聞こうとすると、後ろからザフィーラに声をかけられた。

 

「それは私だな」

「ん、ザッフィーどう……ウボォア」

「ナナシ変な声だして……ウボォア」

「なんだその反応は……テスタロッサ家にいる使い魔も人型になれるだろう」

「そういうことや、ザフィーラの人型やね。そかそか、ナナシくんはうちに来ても犬型のザフィーラしか見てなかったんやね」

 

 フカフカでモッサモッサなザッフィーがガチガチでムキムキのザフィ男になった……現実は非情である。

 なんか、夢のワンダーランドに住んでいるはずのネズミーマウスの中身がおっさんと知った子供の気分だ。

 

「八神家のマスコットがワンコからマッスルになった件について」

「これが魔法なんや」

 

 老婆が魔術で美女の姿騙ってたくらいに夢も希望もないな。

 

「こんなのマジカルじゃねぇよ……ただのフィジカルだ!」

「来週からマジカル☆八神家は打ち切り」

「フィジカル★ザッフィーが始まるよ!」

「今やザフィーラ! マッスルドライバーや!」

 

 主からの急な無茶振りに困惑するザフィーラ、寡黙タイプなザフィーラにこのノリは駄目だったか。はやてと謝って犬モードに戻ってもらう。

 うん、こっちの方が落ち着く。男が少ないなか増えるのは嬉しいんだけどインパクトが強すぎる。ユーノは違和感なかったんだがなぁ……あ、あれは人の方がメインだっけ?

 

「ま、こんな感じでやっていこうか。はい、大まかな見積書。大体これくらい掛かると思う」

 

 無茶振りしてる間に書き上げたのか、アリシアは最低限の必要経費を書いたものをはやてに渡した。

 横から覗けば、ちょっと頭の痛くなる額が書かれていた。別に友達割り増ししてる訳じゃないぞ?

 

「あぁ……やっぱりかかるんやねぇ」

「融合型デバイスが普及しない理由のひとつだしね」

 

 インテリジェントデバイスもなかなか高い代物なのであり局員でも持ってる人間は多くない。そしてユニゾンデバイスはその倍じゃ済まないお値段というと分かりやすいかね。

 

「よくよく考えたらリインの身体も高かったもんなんよなぁ……なんも払えてへんねんけど」

「あぁ、それはいいよ。私たちが趣味で作ったものだし、ユニゾンが私たちにしか出来ないから。リインには失礼だけどお金取れるものじゃないや」

「気にしてない。私は残って主たちと過ごせるだけで満足だ」

 

 まぁ、リインの身体の元はプレシアから出た資材や資金だったんだけどね……それはカートリッジのミッド式への転用技術で取得した特許のお金で返した。今では小金持ちくらいになれてる気がするアリシアと俺である。

 ユニゾンデバイスでも完成度高めて特許取りたいけど普及しない気がして思案中。

 

「それにしても身体が高いってほのかにエロいよね」

「ナナシ何言って……エロいね」

「なんてこと言うん……エロいわぁ」

 

 身の危険を感じたリインがヴィータの後ろに隠れた。いや、ごめん響きがイヤらしい感じして、ついつい。

 その後、お金のやりくりの話や製作開始の目処を建てた。

 ――今度のデバイス製作はゆったりとしたものとなりそうだ……何気に初めてかもしれない。

 




感想感謝です。
何やら本編に関係ある内容を書くとキレが悪くなると思うこの頃。
ツヴァイはそのうちできます、そして空白期でだれないように時系列ジャンプがそのうち来ますと宣言。
約10年分の空白期とか普通に考えて鬼です。

季節を書き忘れた、既に春です。はやて学校いってます。

S(すごい)t(違う)S(ストライカー)編


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24.変態推参

 世の中には多くの変態が生息している。いや、動物の正常な生育過程において形態を変えることも変態だけどそっちじゃない。世間一般的に公にしたくないタイプの変態だ。

 俺の身近なところでいえば、プレシアだな。親バカを超越させた変態だ。どれくらいかといえば神様だか閻魔様のもとへ連れていかれた娘を連れ戻してくるくらいに、この世の常識を覆すくらいに変態。本人に聞かれたら雷(物理)を落とされるので口に出来ないけどね。

 

 まぁ、なんでいきなりそんな話したかって言うと玄関に変態がいる。

 

 俺とアリシア、それにリインはミッドのテスタロッサ家に来ていた。リインフォース・ツヴァイを造るのに必要な触媒を探すためである。

 目的である触媒は早々に見つかり、そういえばデバイスマイスターとその補佐の参考書でも買いに行こうかという話になった。当然ながら地球では売ってないのでせっかくミッドに来たついでに買っていこうと。

 リインもミッドに興味があるようなので観光がてらフラフラとしようとしたその矢先のことであった。

 

 チャイムが鳴った、インターホンのカメラで外を見ると白衣を着て何故か息を切らしている男がいた。なるほど、如何にも怪しいがまだ変態とは言い切れない。

 両脇にはちょっと怖そうな体育会系っぽい女性と銀髪の幼女。問題はその服装である、全身タイツのようなボディスーツ、よし変態だ。

 

 ここで関係ないようで重要な事実をひとつ。テスタロッサ家はミッドの市街からは少し離れたところにある。

 よって、あんな格好をさせられた女性を引き連れてもお巡りさんに捕まらん可能性があるのだ。残念ながら捕まってない実例が玄関にいる。

 

「……変態、だな」

「変態だよね、大変な変態だ」

「ヤバい、外の変態がニヤニヤしてる」

 

 ソファでお茶を飲んでいたリインが立ち上がる。ここは最年長の私が行こうと言う。

 

「いや、あんな服を女の人に着せる変態にリインみたいな美人は逆に危険だよ! ここは私が……」

「待てアリシア、左を見てみろ。幼女にすらあんな格好させてるぞ」

「なん……だって」

「ここは俺が行くわ」

 

 やることは簡単だ。あの変態の守備範囲が俺(ショタ)にまで及んでいないことを願うのみ。

 ……デイブレイカー持っとこう。あ、カートリッジサンクス、アリシア。おっとリイン選手いざというときのため準備体操を始めたようです。ジャブが空気を叩く音が頼もしい。

 

 玄関のドアを開ける。変態がいる、何でだよインターホン前から動いてんなよお前。

 

「こんにちわ、親は不在なので帰ってもらえません?」

「おや、初対面で随分な反応じゃあないか。それに君はここの家主の子供ではないだろう?」

 

 怪しさ100倍! 黒に近い灰色で怪しい! なんで知ってる……いやいや、いくら変態みたいだからといっても白衣を着てるのを見るにプレシアの知り合いなら知っていてもおかしくない。

 

「プレシアさんの知り合いなら用件を述べたうえでピーという音の後に帰ってもらえません?」

「邪険にしすぎじゃないか……いや、用件かい? 用件はそうだねぇ…………アリシア・テスタロッサの蘇生について聞きたいことがあっ」

「クイックバスター」

《Quick Buster》

 

 躊躇わず撃った。

 極々一部、あの事件に関わったアースラの乗員すら知らない人間がほとんどの事実を知ってるとか真っ黒じゃねぇか!

 隣の幼女が男の膝裏に恐ろしく速い回し蹴りを入れたせいで男は倒れ不意討ちバスターは外れる。あ、変態が受け身も取れず後頭部強打したぞ。

 誰かぁ! バスターなら私に任せろ高町なのは呼んできてぇ!

 

「ドクターになにをする!」

 

 長身の女がすかさず足を振り上げ俺の頭蓋に落とそうとする。いわゆる踵落とし、シールドを張る暇すら与えず振り下ろされたそれは――鉄砲玉のように突っ込んできたリインに止められた。

 踵落としに対し、アッパーカット。ミシリ、と鳴ったのはどちらか。長身の女はアッパーの勢いそのままにバクテンで後退し着地――出来ない。リインが後退する女にぴったりと着いていき追撃の乱撃連撃。

 突き、蹴り、肘膝、空中から落とさないままの入り乱れる暴力の嵐である。相手も手練れなのか凌ごうとするが何発か直撃してるのが見える、超痛そう。

 

「この――ッ! ライドインパルス!」

 

 長身の女の姿が消え、リインの後ろへ回り込み――砲撃に飲まれた。背中からバスターを撃ったみたい……なにやらデジャヴを感じるね。

 

「クイック、バスター……魔法なんて、どこから撃っても変わらないだろう?」

「フハッ、フハハハハハハハハハ! 面白い、実に面白いじゃないか! 夜天の書がこうなっているとはなぁ!」

 

 なんでそのことも知ってんのこの高らかに笑う変態? そう思って警戒してると銀髪の幼女が近づいてきた。

 

「私はチンクだ。姉とドクターの無礼を謝ろう。すまなかった」

「一番小さい子が一番しっかりしてる、だと……?」

「それで少し話があるので聞いてもらえないか?」

「うーん……まぁ、こっちとしても聞きたいことはあるから構わ、な……おかえり」

「ん、急にどうし……」

 

 いや、聞きたいことはあるなら聞けばいいんじゃない? ほらアリシアのことだったら適任がいるじゃないか。

 

 たった今帰宅し――鬼神も真っ青なド迫力を醸し出すその人に、プレシアにさ。今日はお早いお帰りだった、たぶん理由は娘が危ない気がしたから。

 

「久し振りねぇ、ジェイル・スカリエッティ……」

「ひひひ、ひさっ、久しいなぁ! プレ」

「死になさい」

 

 警告もなにもなかった。

 あいさつ、判決死刑みたいな超スピード。法廷なら検事も弁護士も裁判官もみんな真っ青だ。一番真っ青なのは被告だけど。

 

 ――この日、ミッド市街地外れの一帯で停電が起きた。なにやら大きな落雷が落ちたのを見たという証言も取れているが、その日の天気は晴天。真実は闇のなかである。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 あれから二時間、テスタロッサ家のリビングには正座させられている人物が三人。

 ひとりはジェイル・スカリエッティ、白衣の変態。もうひとりはトーレ、リインと戦っていた長身の短髪女。ふたりとも何故か真っ黒である、雷でも落ちたようだ。

 

 最後のひとり、俺。

 

「なんで俺が正座させられているの?」

「貴方から手を出したからよ」

「アリシアの秘密を守ろうと」

「正座を解いてよし、あっち行ってなさい」

 

 やったぜ。隣でそんなバカなという顔をしているスカリエッティにドヤ顔見せつけてから、アリシアたちのいる方へと移動する。

 

「お疲れさま」

「うっす、リインさっきはあんがとね」

 

 しかし、滅茶苦茶強くなかった? 魔力ランクとかかなり下がってるはずなのに。

 

「それはお前たちのお陰だが……?」

「えっ、私たちなんかやったっけ?」

「この身体のスペック任せで戦っていたのだが……心当たりはないのか?」

 

 魔力ランクは大きく下がってCランク並みらしいが、肉弾戦に限ればAAランク以上らしい。なにそれバーサーク。

 えー……作るときに見たものはユニゾンデバイスやベルカの資料一式に、駄目だ徹夜しながら作ってたから思い出せないぞ。

 

「あっ……“よくわかるスカさんのロボット理論”だ。フレーム強度とか駆動力向上に戦闘機人? の設計転用してたぞ」

「あっ、やってたやってた! これなら魔力がなくても戦えるぅ! とか言いながらつくってた。懐かしいなぁ」

 

 しみじみと懐かしがる俺たちだがリインは微妙な顔して自身の体を見ている。いや、そんな変なことはしてないから、

 

「今スカさんのといったか……?」

「ん、そうだけどチンクどしたの?」

「その本ドクターが書かれたものだぞ」

 

 いやいやいや、あっちでデバイスで顔グリグリされてるあの人があの本を? リインが絶望した顔で身体を見てる。ガタガタ震え始めた……!

 

「リイン心配しないでもちゃんと作ったから!」

「そうだって、最後にリインも確認してたじゃん!」

「そ、そうだな……」

「あんな人だが技術はピカ一なんだぞ?」

 

 リビングで冷や汗かきながらプレシアの前に正座しているスカリ……長いな、通称スカさんが?

 

「ええ、これはただの変態じゃないわよ」

「とびっきりの変態ですね、わかります」

「そうだけどそうじゃないわ。口にするのも腹立たしいことなのだけれど……工学を除けば私より遥かに賢いのよ」

 

 プレシアが苦虫を口の中で擦り潰したあげく、くさやにシュールストレミングをミキシングしたものを口にいれたくらい顔をしかめて言う。なんの冗談かと思ったが顔を見るにマジらしい。

 スカさんがドヤ顔してやがる。

 

「そうとも! だからこそ、そこのアリシア・テスタロッサをどう蘇生させたのか聞きに来たのだよ!」

「教えないといったら?」

「このことを世間に――バラすなんてことはしないさ、ああ、しないとも。だからデバイスおろそうじゃないか。幸い私たちは意思疏通ができる、お互い譲歩できるところを探そうじゃないか」

 

 デバイスを突きつけられたスカさん必死だ。

 冗談でも娘に関して触れない方がいいよ? 勘違いで魔法弾撃ってくる人だから!

 

「知っているとも、昔ラボがひとつ吹き飛んだ」

「何やってんの?」

「いや、蘇生など不可能だと笑ったらラボが雷に飲まれて消えていたのだよ? 軽いホラーだったとも」

「完全なホラーだよ」

 

 それでわざわざ何で聞きに来たのか。そうプレシアが問いかけると、この無限の欲望が知りたいという欲求が出てきたのだ。ならば君に聞きに来るのは当然だろう、と言い放った。

 どうでもいいけど、スカさん足が震えてるぞ?

 

「私としてはアリシアが蘇生したという事実を知るあなたを《自主規制》するのが一番いいのだけれど……」

「待ちたまえ、一部聞き取れなかったぞ?」

「貴女にも娘がいるようだからそれはやめるわ。ただ、もう少し普通の服着せなさい」

「ああ、わかった。今ほど娘がいてよかったと思ったことはないよ」

 

 そのあと色々話してプレシアはスカさんにすべて話した。というか真面目な話題に移ったので俺たちはフェードアウト、部屋を移る。

 

「リインフォースだった、か?」

「ああ、そうだがなんだ?」

「そのなんだ、自身の身体について心配そうだったのでひとつ伝えておこうと思ってな。私や姉、向こうにいるトーレはドクターに作られた身なのだが不具合ひとつなく過ごせているぞ?」

 

 それを聞いて反応したのはリインでなくてアリシア。目がキュピーンってなった、完全に獲物を見る目だ。

 

「といってもデバイスではないがな」

 

 アリシアが萎んだ。リインはというとその言葉を聞き一度、二度と頷くと真顔で言い放つ。

 

「いや、身体の心配でなく……変態の技術が使われていたことに衝撃を受けていた」

「それは……すまんが、どうしようもないな」

 

 そっちか、気にしてたのはそっちだったのか。

 

「まぁ、いいさ。何度もいうがこうしていられるだけでも奇跡のようなものなんだ」

 

 なんとかリインが持ち直したので、そのまま駄弁り始める。なんでもチンクは5番目の娘らしい。

 

「大家族だねぇ」

「まだ妹たちがいるぞ?」

「見事に女所帯な件について」

「やはり、変態……」

 

 チンクも顔を逸らす、否定できないようだ。違法研究も度々やってて管理局にも追われてるそうな。

 

 お巡りさーん!

 

「ふーん、それにしても違法な研究までしてなにしてるの?」

「それは私が説明しようじゃないか!」

 

 ドアを開け転がり込んできたスカさん、伸びてグロッキーなトーレを担いでいる。明らかにまたプレシア怒らせたろ。

 

「白衣とは何なのかってくらいに真っ黒なんすけど」

「気にしないでくれたまえ、それより私の目的だ」

 

 一息ため、彼は言う。

 

「管理局の崩壊さ――!」

「へー……」

「……もう少しリアクションないかい?」

「いや、なんか面白くなくて。解説のアリシアさん、リインさんどうでしたか?」

「予想の範疇から全くでない目標にガッカリですねぇ」

「インパクト不足……世界征服くらい欲しかった」

 

 オーバーアクションでやれやれといった風に、アリシアはため息をつき答える。

 リインはいつの間にか膝の上に乗せたチンクの頭を撫でながら、こっちを見すらせずに答えた。どうでもいいけど、そうしてると姉妹みたいね。ツヴァイともそんな感じになれれば良いと思う。

 

「総じていうとただの悪役の域を出てないもので……なんか案外アッサリやられそう」

「くっ……だが、今まで誰も成せていないことなのだよ? それが出来れば最高じゃないか!」

「でも誰かが成そうとしたことはあるんでしょ? 私なら誰も成そうとしたことすらないことをやるかなぁ?」

 

 スカさんからの反論に対しアリシアがニヤニヤしながらいう。しかし、それを聞いたスカさんは目を見開きまさに青天の霹靂といった反応を示した。

 

「そうか、二番煎じなど私らしくなかった……!」

「そうだー、無限の欲望の二つ名が泣いてるぞー」

「ふはははは! その通りだとも! 私は無限の欲望! 私に不可能などないのさ!」

「…………死者蘇生は諦めてたくせにな」

「グフォ!?」

 

 リインからの冷静なツッコミに両膝をついて床に伏すスカさん、なんか一周して面白い人に見えてきた。

 その耳元に俺とアリシアは近づいてボソボソと呟き続ける。

 

「夢は世界征服、夢は世界征服、夢は世界征服」

「世界に笑いを、世界に笑いを、世界に笑いを」

 

 これで目がグルグルしてきたりしたら面白かったんだけど、あいにくそんなことはなかった。

 ガバッと起き上がったスカさんは何かを決意した顔をしていた。そしてその顔を見た俺、いや俺だけでなくアリシアも恐らく同じことを考えていたはずだ。

 ――あぁ、ろくなこと考えてないなと。

 

 だって俺たちもああいう顔よくするし、具体的にはアリシアがよくしてるのを隣でよく見てる。

 

「ミッド中が震撼するようなものを使って笑顔を広げて見せようではないか!」

「マッドじゃないけどいいの?」

「ふはは! このマッドさは三脳に植えつけられたものなのだからね、それに準ずるなんてそもそも私らしくないのだよ!」

 

 三脳? まぁ面白いことするならなんでもいいけど。

 

「来てよかったよ、新しい発見ができた」

「まぁ、こっちも結果的に楽しかったし、これからも楽しくなりそうなんで胸熱です」

「でも、娘には普通の服着せてあげようよ? チンクは私の服一着あげるし着て帰りなよ!」

「む、それはさすがに申し訳ないぞ」

 

 遠慮するチンクを引っ張ってアリシアが自室に連れていく。外ではサイレンの音が響いてる……ほほう。そろそろ夕どき、地球のテスタロッサ家にもフェイトが帰ってくる時間だろう。

 

「スカさん、そろそろ」

「あぁ、長居してしまってすまないね。チンクが戻ってきたらプレシア女史に挨拶しておいとまするよ」

 

 こうして普通に話せばいたって変態らしくない普通の大人だな。いや、それよりちんたらしてる暇はないと思うんだ。

 

「なるべく急いだ方がいいと思うんだけど……なにリイン?」

 

 窓から外を覗いていたリインが肩を叩いてくる。

 

「なぁナナシ、局員らしき人物が数名玄関にいるのだが……」

「紛れもなく局員だね、電話機片手に持ったプレシアさんが普通に家にあげようとしてるね」

 

 あれ、スカさん冷や汗がすごいよ。ナンデカナー?

 ドタドタと廊下を駆けてくる足音が近づいて来て、

 

「管理局だ! ジェイル・スカリエッティがいると通報を受けてきた! 大人しくしろ!」

「ぷ、プレシア女史ぃぃぃぃぃ!?」

「あら、犯罪者が自宅に乗り込んできたら通報するのは当たり前でしょう?」

 

 トーレを肩に担ぎ上げスカさんが窓から飛び出していき、局員はそれを追っていく。夕日に向かって逃げていくその姿はみるみる小さくなっていった。

 

「着替え終わったよー。あれ、スカさんは?」

「む、ドクターはどこへ行ったのだ?」

「ジェイルはなにかドラマの再放送を忘れたとかで急いで帰って行ったわ」

 

 平然とした顔で雑な嘘吐くとか、さすがプレシア汚ない。ポッケから電話機見えてんぞ。

 

「む、そうか……今日は突然押し掛けて申し訳なかった。私もこれで帰らさせてもらう」

「いいよいいよ! 私も楽しかったし!」

「えぇ、あなただけならまたおいでなさい」

 

 だけ、という言葉をやけに強調していうプレシア。

 

「ああ、また機会があればお邪魔させてもらおう。ナナシにリインもすまなかったな」

「こっちこそ不意討ちバスターのことスカさんに謝っといて」

「私もバスターのことを謝っといてもらえるか……?」

「承知した、ではまた」

 

 そう言って一礼して帰っていくチンク……そんな彼女は俺たち全員含めて一番常識的だと思った。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
時間が空いたわりになんとも……取り敢えずStS編が変な感じになる布石はできました。


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25.入浴剤

 学校帰りにフェイトがなのはとはやてをテスタロッサ家に引き連れて来た。何やら自慢気ななのは。なにやら休み前テストなるものを受けたらしいが、今日返されたとのこと。

 なのはが突きつけるように国語のテストを見せてきた。そういや前に国語の話してたな。

 

「0点、なにやってたの?」

「70点だよ!?」

「なのはちゃん、指で7が隠れとるで」

「あぁ!?」

 

 ふむ、ギリギリとはいえ目標は達成したようだ。内容を見れば相変わらず熟語、ことわざが弱い感じだけど全滅はしてない。間違ってる問題も惜しいものがチラホラと見られる。

 うんうん、頑張ったんだろう。だけど、

 

「よかったな、国語苦手の汚名挽回だね」

「うん!」

「………………ふはっ」

「なのは、そこは汚名返上だよ……?」

 

 ふはは、まだまだのようだな。

 なのはがピシッと石像のように固まる。今まさに名誉返上、汚名挽回したようだ。はやてとアリシアが笑いをこらえようとするがブフォッと何度か吹き出す。

 みるみる顔を赤くしこちらを睨んでくるなのはさん。

 

「もー!」

 

 なのはがポカポカ叩こうとするが先制攻撃、もとい口撃、押しきれ連続口撃。

 

「やったね、これで次のテストも慢心せずに心堅石穿モットーに虎視眈々と上位を狙って大器晩成出来るよう頑張れ!」

「しんけ……こし、たいば……え?」

「開始5秒、ナナシの四文字熟語三連撃になのは選手対応できずフリーズ! 敗因はなんだったのでしょうか解説の――フェイトさん?」

「わ、私!? ……えっと国語力がなのはよりナナシが高かったこと?」

「うぅ……認めたくない、認めたくないよぅ」

 

 なんでだ、汚名挽回させんぞ、いっそのこと卍解させんぞ。

 ――汚名卍解! 魔法少女じゃなくて死神だったのかなのは。バリアジャケットを俺の浴衣みたいにして、友情努力勝利をモットーにした漫画の死神っぽくしようか?

 

「いらないから」

「待機状態は刀にして」

「それ待機できてないから! やる気満々だよ!?」

「シグナムさんあたりは喜びそうだけど」

「やめてぇや、うちの家族から銃刀法違反者出るんは嫌やで」

 

 手元の手帳にレヴァンティン待機状態改造案を書き始めてたアリシアがピタッと止まる。というかシグナムのなら改造しないでも常にデバイスのまま持っとけばいいじゃん。鞘まで付いてるんだし。

 関係ないけど手元の手帳って頭痛が痛いみたいだよね。

 

「結局なにしに来たのさ?」

「取り敢えず目標の70点取れましたって報告やな」

 

 教えてもらった手前、報告しておこうって話になったらしい、律儀ね。なのはが持ってきてくれた翠屋のシュークリームを頂くため家にあがってもらう。

 と、リビングで子犬モードのアルフがいた。そう狼じゃなくて、子犬モードだ。なんでも狼でいるよりも燃費が良いらしく海鳴にいるときには基本的に子犬モードでいる。

 

「アルフさんお久しぶりです」

「おー、なのはじゃんかぁ。今日はどうしたんだい?」

「シュークリーム持ってきてくれたんだってさー」

 

 いや、テストを見せに……なのはに口を塞がれる。いいじゃん、70点。良くも悪くもない中途半端な平均点くらいの70点、パッとしないね。砲撃当てた相手はパッとするのに、主に消滅させる的な意味で。俺の記憶は一時的にだけど消滅したぞ。

 

「記憶が戻ってたなら消滅じゃなくない?」

「おっと……なのはに国語で一本獲られるわけにはいかない。なにか反撃の糸口を見つけねば」

「見つけなくていいよ!」

 

 捻り出した結果、一時的にってつけてたじゃんということに気づいた。はやてにこれでどうだとジャッジを求める。

 

「消滅って跡形もなくなることやしなぁ……ええとこイーブンやろ」

「畜生……チクショウ……!」

「ここまで悔しがられると素直に喜べないよ……」

「あ、アハハ。取り敢えずみんな座ってよ、飲み物取ってくるから」

 

 フェイトとアリシアがジュースを持ってきてくれたので皆でシュークリームをいただく。しかし美味しいな、はやても料理は上手いけどさすがプロというか翠屋の菓子はまた一段と旨い。

 アルフも人型(低燃費系幼女モード)で一緒に食べているが……

 

「人型のときもちっさくなるんだな」

「んー? まぁこっちの方が燃費がいいんだよ。フェイトへの負担もかなり減らせるしね」

「そうか、使い魔と契約したら魔力が持ってかれるんだったな」

「あんたが契約すると行き倒れになってそうだよね」

 

 そんな気がするな。使い魔に供給する魔力で魔力切れ起こしてぶっ倒れるとかありそうで泣けてくる。

 少し羨ましいと思っていたんだけど、俺には無理そうだ……

 

「クッソゥ、八神家からザッフィーを連れ出してやる」

「ザフィーラは使い魔ちゃうし、うちの子は渡さんでー」

「仕方ない、こうなったら無限書庫で絶賛過労死しそうなユーノを連れ出すしかないか」

「ユーノくんは人だから、フェレットの姿が本体じゃないから」

 

 八方塞がりだった。別にそこまで使い魔欲しいわけじゃないけど無理と言われればやりたくな……あ、これ悪ガキの発想だわ。

 と、何故かアリシアが肩に手を置いてきた。なにさ?

 

「私たちにはデバイスがあるよ……」

「そうだな、こうなったら全自立式のデバイス作ってやろうか」

「ぬいぐるみにでも突っ込んでファンシーな見た目にしよう」

「そこの生ける暴走列車二両、管理局のおじさんがそのデバイス使ってるとこ想像してみ?」

 

 髭生えた武骨なおっさんがくまさんやウサギのぬいぐるみ持ってリリカルマジカル変身☆

 ……世紀末かな?

 犯罪率は減りそうだけど一般市民の精神もガリガリ削られそうなのでやめよう。

 

「待って、なんでかけ声がそれなの!?」

「前に無限書庫でユーノに会ったときに、なのはがよく言ってたって聞いた」

「ユーノくん……!」

 

 ちなみにその頃が一番魔法少女らしかったとも聞いたよ。フェイトと戦い始めたあたりから魔法が魔砲に、リリカルマジカルじゃなくてマジカルキャノンになったとか。

 

「魔砲って……キャノンって……」

「そういや、なんでなのはってば日本語は苦手なのにミッド語は得意なの?」

「ミッド語っちゅーか、こっちで言う英語やな」

「え、だって日本語よりシンプルなんだもん」

 

 おい、日本人。確かに英語だとYouで終わるものも日本語だと貴方、君、貴殿、そなた、あんた、お前etc……といくらでも出てくる。出てくるけどさ、第一言語じゃん。生まれたときから付き合ってる言葉じゃん。

 

「そ、そういうナナシ君は英語どうなの!?」

「露骨な話題の逸らし方だが乗ってやろうじゃないか」

「あんた、いつも一言余計だからプレシアに焼かれそうになるんだよ」

 

 知ってた。そしてなのはは英語の問題文を出してくるが完全に忘れている。ミッド語と英語――ほとんど同じなんだぜ? 今さっき話してたじゃん。

 

「How have you been?(調子はどう?)」

「I'm tired.(疲れてる)」

「Why?(なんで)」

「Because I'm teaching Japanese to my friend.(なぜって友達に国語を教えてるから)」

 

 うぐっとなのはが言葉に詰まる。あれかな、きっと俺が英語出来たことに驚いてるだけで受け答えに問題があったとかじゃないだろう。

 

「いやー、でも心配だなぁ。なのはさんや、英語合ってた?」

「つ、疲れてる理由以外合ってると思うよ?」

「ちなみに日本語訳すると友達に勉強を教えているからってなるんだけど。どうマイフレンド」

「なんでナナシくんは英語まで……あっ! ミッド語と英語ってほとんど同じ……!?」

「Hey.What feeling now? What feeling now?(ねぇねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ち?)」

「もぉぉぉ! 絶対、絶対見返してやるんだから……!」

 

 まぁ、いつかは出来るんじゃないかね。こっちはフェイトの教科書たまに覗き見してる程度だし。対してなのはは何だかんだ根をあげそうになりつつも持ち前の不屈の心で必死に勉強し少しずつだが点数を伸ばしてる。

 褒めないけどね! 語彙力で勝ってる間は教える側に居てやる。

 

「けど英語の教科書とかではなかなか奇抜な文章が多いんは不思議よなぁ……」

「ま、そういう有り得ない例文を使ってるのは印象に残りやすくして覚えやすくするためだからな」

「へー、そんなんだ」

「ナナシ博識だね」

「…………ナナシが嘘ついてる顔してる」

 

 案外思いつきの嘘でも信じてもらえるよね。最後にアリシアが余計な一言を言ったせいで、俺に視線が集まってるけど気にしない。はやてとなのはが頬を引っ張るけど気にし――痛い痛い、ごめんなさい嘘です!

 

「ナナシって妙に信憑性ある嘘を言うからわからないよね」

「えー、フェイトたちが純粋すぎる気がするよ。私は普通にわかったし」

「そのせいで俺のほっぺたが大惨事だ」

「でも嘘ばっか言うとったら狼少年みたいになるでー」

 

 あぁ、あの狼が来たと嘘ばっかり言ってたら最後本当に狼が来たときに信じてもらえず、最期になっちゃった少年のお話か。

 

「じゃあ、逆狼少年になろう」

「逆ってなんだい?」

「本当のことばかり言って信頼度を上げておいて、最後の最後に大嘘をついて裏切る」

「ゲームにおりそうやな、終盤で裏切るキャラ」

「でも魔力ランクEのあんたが裏切ったところで」

「それ以上はやめよう、私にも流れ弾がくるよ」

 

 そんな会話をしているとふとメールが来た。ちょいと席を外して見てみるとスカさんからだった。

 

from:ジェイル・スカリエッティ

件名:娘が12人になりました。

本文:仮定の話だがポッドに浮かんだ脳みそを綺麗にするとしたら君ならどうする?

 

 意味がわからないし、件名の方が重要っぽい。まぁ適当に返信すればいいか……取り敢えず、ご出産、おめでとうございます、と。あ、生んだわけじゃないだろうし出産は消すか。

 脳みそを綺麗にする? 知らん。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ヴーヴーとスカリエッティの携帯が振動する。

 ついさっきナナシへと送ったメールが返ってきたようだ。

 

from:ナナシ

件名:おめでとうございます。

本文:入浴剤でもいれればいいんじゃないですかね?

 ps.なんでメアド知ってんの?

 

「ほう……」

 

 返信されたメールを見てスカリエッティの頬はニヤリとつり上がる。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 とある管理局の偉い脳みそ三つは凄く焦っていた。己の信ずる正義のために下準備をしている最中に予期せぬ事態に陥ったのだ。

 

「スカリエッティめ……!」

 

 その原因はジェイル・スカリエッティ。脳みそ三つ(以下三脳)が生み出した世紀の科学者なのだが、最近まで手足と動かしていたスカリエッティとの連絡が途絶えた。

 何度連絡を取ろうとしてもソープやデリヘルにしか繋がらなくなっている。そんなものに繋げてどうしろというのか、間違いなく身体のない自分達への遠回しな嫌がらせだと三脳は確信していた。

 それに保険のために用意していた“首輪”も機能しない。起動させようとするとエロいサイトに繋がって身に覚えのない請求が山ほど来た。

 

「どうかなされましたか?」

 

 その室内、三脳が存在する部屋には一人の女性がいた。その女性はポッドの管理などを任されているのだが、三脳たちの様子を見て質問を投げ掛けた。

 質問をしつつポッドに近づいた。

 

「いや、なんでもない。気にせずにいてくれ……待て、何をしている?」

 

 ガシャンッとポッドに梯子をかけた女性はポッド上に登り蓋を開ける。

 

「待て待て待て! 何をしようとしている!?」

「止まれ! 止まれ!」

「その手に持っているものはなんだ!?」

「何と言われましても……入浴剤ですが?」

「入浴剤ですが? じゃあないだろ! 貴様それをどうするつもりだ!?」

「どうと言われれば……こうですが」

 

 サラサラサラーと粉末状の入浴剤が三脳のポッドに入れられる。しかもシュワシュワいっている。

 この女、炭酸の入浴剤入れやがった。

 そんな大惨事の元凶である女性が自らの顔を撫でるように手のひらを当てると――

 

「ぐ、ぐぉぉぉぉぉ!? なっ、き、貴様!?」

 

 スカリエッティの次女ドゥーエの顔となった。

 

「ドクターからの指示ですみません、久々のお風呂楽しんでくださいね。ではさよならー」

 

 なったのはいいがアッサリと出ていった、手をひらひら~と振ってにこやかにサヨナラして行った。普段、最高評議会と呼ばれている三脳の世話をしている女性になりきってやったこと――入浴剤を入れたのみである。

 

 颯爽とドゥーエが去っていった部屋に取り残されたのは、シュワシュワする炭酸まみれになった三脳だけであった。

 

 

 

 

 ――1時間後。

 

「正義のためにとは言え危ないことはいけないのぅ……」

「儂ら年寄りは若者たちの行く末を見守るくらいがちょうどよいじゃろ……」

「茶でもすすって見てればよい……と言っても脳みそには無理じゃがな、ハハハ」

 

 綺麗な脳みそが出来上がっていた。

 

 ~fin~




ここまで読んでくださった方に感謝を。
活動報告でも書いてましたが、ちょいと熱やらなんやらでなかなか書けなくてすみません。
まだ熱あるで、また期間が開くやも。あと中々粗い気するんで違和感あったらすまない……すまない。

三脳退場、縁側で孫を見守るかのようにゆっくりしててね。


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26.試験のち髭のプー○さん

 さて、リインフォース・ツヴァイ製作開始から約1年。進展は半分といったところなのだがまずまずだと思う。

 ま、そんな話は置いといて現在アリシアと俺はミッドのとある場所を訪れていた。前々から目指し、何気にふたりして真面目にやっていたことがある。

 

 デバイスマイスターとその補佐の資格取得のため案外コツコツやってました。取り敢えず勉強してたら割りと本気でプレシアが病気を心配してきた。どれくらい本気って医者に連れていかれるところだった。

 いつまでも脛かじってたら申し訳ないし手に職つけようとしてるって2時間ほど説明した。したら、

「あぁ…………あなた本当に自立する気あったのね」

 

 と言われたんだけど何? 一生無職のままテスタロッサ家にいると思われてたのか。え、俺を雇うところがあると思えな……それ以上はいけない、図星を貫かれた俺が泣く。

 そんな日々が約1年続いた。うん、1回じゃなくて1年間続きましたわ。二回目からただ俺にダメージ与えるためだけに心配してくるプレシアさんはいきいきしてた。

 

 子持ちの母親が勉強してる子供に心配するふりして頭痛薬渡すのはどうかと思うなぁ! 歳考えろよー。なんて毎回なげやりに考えてたら……一度ポロッと口から漏れた。

 ――命懸けの鬼ごっこが始まった。デイブレイカーをすかさずアリシアが投げてくれてセットアップ、窓ガラスを突き破り外へ飛び出すまで0.1秒未満。直後に雷が頭を掠めた。それだけで怒気が刺さるように伝わってきて胸がドキドキ、なんてふざけてる暇もなかった。

 すぐにバインドで捕らえられて~自主規制中~

 

~自主、規――制~

 

~自、し――■、制――、う~

 

 ………………

 …………

 ……

 

「……シ! ナナシ!」

「ん、ああ、どうした?」

「会場着いたよ。なに考えてたの?」

「えーとだな……すまん、ど忘れした。それより試験への自信は?」

「実技100%、筆記試験90%くらい。ナナシは?」

「時の運に任せるつもり100%」

 

 思えばここに来てからまともな試験とか初めてだし緊張するな、いやいやホントさっきまで関係ないこと考えてたとか全然ないから。しっかし見るからにインテリ系な人間がほとんどダナー。

 なんかガチガチの無難な回答しそうな……いや、試験だしそれでいいんだけどそんな人ばっかに見える。

 ここは余裕があったら珍回答で採点者の荒んだ心に笑いをプレゼントせねば。

 

「そんなナナシに私からアドバイスを授けようじゃないか」

「ほほう、授かろうじゃないか」

「……なんか受かりそうだからって回答でふざけないこと」

 

 これ以上ないアドバイスだった。まぁ、真面目にやれば割りといい線いくとは思ってるよ。

 そこでアリシアとは一旦別れそれぞれの試験会場へ向かった。向かった先には40~50人ほどいたけど俺は今回のなかでは最年少ぽかった……気軽に話せそうな人もいないので仕方なく最後の悪あがきにと参考書を見ようとした。

 したけど、持ってきてなかったので隣のおっさんの資料を覗き見すること10分、試験官がやってきた。

 

 始めは筆記試験から。次のストレージデバイスの処理を最適化するにはどうすればよいか書きなさい……?

 取り敢えず図面を引いて次の問題へといく。

 そうして進めていくなかで、ベルカ式カートリッジをミッド式に転用する方法が出てきて懐かしくなったりした……はて、実用化させて特許を取った人物の名前を二人? アリシアじゃなかったか?

 

「そこまで! 各自ペンを置き用紙を裏返せ!」

 

 ……うん、まあまあ手応えはあった。けど何か野球ボールをテニスラケットで打ち返したかのような変な手応えがある。

 ま、気にしても仕方ないので実技試験は特筆することなく終わった、取り敢えず実技試験は。ホント珍しくスムーズに、話す相手もおらず黙々と作業を進めて終わった……なんか虚しさを感じた。

 

 補佐ではなくマジモンのデバイスマイスターの試験はあと1時間かかるらしい。通路のベンチで1人ボーッとして過ごす。

 そろそろ暇すぎて天井の染みを数え始めていると熊みたいな人がこっちに向かってきているのが目に入った。いや、縦にも横にもデカイんだけど太ってるというより骨太な筋肉質な感じで顎髭がモジャモジャなおじさま。

 

「こんなところに子供が1人でどうしたのだ?」

 

 右見て左見て、もう一度右見るけど俺以外に子供がいない。というより他の職員らしき方々が距離を取ってるのは何故じゃ。

 

「友人を待ってまして、絶賛デバイスマイスター試験受験中です。振りかかる技術試験を華麗な手捌き、少し人様には見せられない顔でこなしてる予定です」

 

 たぶん、きっとね。デバイスマイスターの技術試験となればそれなりの難易度なはず。つまりアリシアさんったら恐らくやる気がマッハで涎を垂らしそうになりつつ、求められるもの以上に仕上げてる。

 

「友人というと……同い年の子供がデバイスマイスターの試験を受けているというか?」

「同い年……あ、はい同い年です」

 

 精神年齢的にはお互い肉体年齢の倍くらいいってそうだけど。俺は肉体年齢すらハッキリしてないけど気持ちは同い年。

 

「しかしずっと待っているとは友達思いで良いことだ……友人は尊い、特に同じ志を持つものはな」

「まぁ……同じ志持ってるとも言えるのかな? いえ、それより俺……いや自分もさっきまで補佐の方の試験を受けてたので時間的にはそんなに待ってませんよ」

 

 筆記試験への後悔を胸に抱えてるだけで、ええ。最適化の問題とか今思えば図式せずに文章で回答するやつだったよあれ。やけに解答欄が小さいと思ってたけど、エクストリーム泣きたい。抱えた後悔の重さで溺死しそうだ、明日には生き返ってるけどな。

 

「そうか、近頃は優秀な子供が多いようだが……海が確保するんだろうな」

「海?」

 

 さて、ここでいきなりだけど現在の管理局の体制についてのお話です。

 ざっくりというと(おか)と海に分かれている。陸がミッドの犯罪に対処、海は次元世界の犯罪に対処。まぁ、要するに海の方が対処する犯罪の規模が広く大きいんだけど、それのせいで優秀な魔導師たちがそっちに配備される。

 そうなると地上本部、つまり陸は常に人員不足に悩まされているとのことだ。

 

 いきなりなんだって話だけど『海?』って聞き返した一言から今の話を一気に聞かされました。それはもう演説って言っていいくらいに熱く語られた。取り敢えずこの人が陸大好きなことはわかった。

 ついでに周りから人がいなくなってら。

 

 話終わったあとにちょっと忌々しそうに俺も海志望か聞かれた。ズイッと顔を寄せてきて、近い近い子供なら泣きそうな迫力。

 ――なんか圧迫面接(物理)が始まった。

 

「あー……」

「遠慮せんでいいぞ、あんな話をした手前言いにくいかもしれんが海の方が給与がいいのも事実だ」

「いやー、そういうわけでもなく……フリーでやりたいなぁと」

「……フリーだと?」

 

 まぁ、それが駄目そうなら諦めて局に雇ってもらうかもしれないけど。資格があれば入りやすいらしいし、最悪脱居候のために案に入れておく。

 プレシアに煽りに煽られたナナシは脱ニートを目指すぜ……!

 と、不意に目の前にいたゴツい人が後ろに下がった。下がったというより何かに引っ張られるかのように距離が開いた。

 

「レジアス中将、子供怖がらせたら駄目じゃないですか」

「む、ナカジマ准陸尉か。別に怖がらせていたわけではないのだが……」

「中将みたいな強面があれだけ近づいてたら十分怖いです、うちのチビなら泣いてますよ。あとオーリスさんが探してましたよ」

 

 その言葉を受けた名も知らぬゴツい人改めレジアスさんは如何にもしまったといった顔をして走り去っていった。体格の割りに早い、やはり太ってるわけではなさそうだ。

 別に後ろ姿を見て肉弾列車みたいな失礼なことを考えてなんかいないからね?

 

「僕大丈夫だった?」

 

 レジアスさんを引っ張り後退させたのは、紫がかった髪の毛を後ろで一束にまとめた女性。なーんか姉御って雰囲気で上司っぽいレジアスさんにも物怖じせずに言ってた……中将と准陸尉なら中将が上だよな? 准教授とかの准と中くらいの中だし。

 

「僕ー? そんな怖かった? お名前言える?」

 

 ……なんだろう、普通に大人が子供に接する態度に物凄く違和感がある。性格のせいと普段接してる大人(プレなんとかさん)が主な原因だと思うナー。

 

「あぁ、いえいえ大丈夫です。名前はナナシです……レジアスさんでしたっけ? には陸とか海について聞いただけなんで」

「あー、ここらへんに人がいないのはそのせいね。物凄く熱く語られたでしょ、悪い人じゃないのよ? ただ熱くなりやすい性格だけど」

 

 そして再び子供がこんなところでどうしたのって話に。さっきと同じ説明を繰り返す。

 いたって真面目に、うん初対面の人ってふざけていいかの塩梅がわからないよね。さっきのレジアスさんに熊さんとかプー○んって呼び掛けたのはここだけの秘密である。

 

「へー、デバイスマイスターとその補佐ね。ふふ、なら受かってたときには私のも見てもらおうかしら。近代ベルカのデバイスなんだけど」

「近! 代! ベルカ! 見っ、させてー!」

 

 言ったのは俺じゃない。視界の端から黄色いミニ弾頭(アリシア)がナカジマさんの横っ腹に直撃した。まぁナカジマさんはビクともせずキャッチしたアリシアを「ウハハハー、元気いいねぇ!」とか笑いながら高い高いしたあとにおろした。

 

「アリシアお疲れ、手応えは?」

「近代ベルカのデバイスを見たいです!」

「言葉のキャッチボールしようぜ」

「アハハー、たぶんなんとかなった!」

 

 ぶい! とピース向けてくるあたり本当に出来たっぽい。解答欄に図面引いてない? あ、引いてないそうか……

 

「それよりも近代ベルカ式デバイスと聞いて!」

「ふっふー、合格していたらデバイスマイスター補佐になるナナシくんに見てもらおうかしらって話をしてたのよ」

「え、なにそれズルい。ここはナナシを倒して代わりに私が――!」

「はーい、そこまで。アリシアちゃんだっけ? あなたもデバイスマイスターになれたら来てくれたらいいから喧嘩はなし!」

 

 襟首を掴まれぷらーん、と子猫が親猫に加えられたかのようになるアリシア。喧嘩じゃないですよ。いつも割りとこんな感じです。

 

「よし、なら結果聞きにいこう」

「落ち着け、まだ出てるわけないからな」

「そこはアレをアレして……」

「その手で銭表すのやめい」

 

 お金の力は偉大だけど、絶大だし大好きだけど使いどころを誤るんじゃない。ほらもうどうにもならないときに切る札だからポンポン出しちゃいけません。

 

「そうだね、お金でもなんでも力ってのは使いどころを間違えたら駄目だよ? 受かってたらちゃんと見せてあげるから、ね?」

「はーい。よし! なら結果発表までに近代ベルカについてもっと調べとこう! そうと決まればナナシ行くよ!」

「え、今から? そうだな今からだよな、わかってた」

 

 その後ナカジマさんに別れを告げ帰宅――の前に近代ベルカ式のデバイスについての資料を購入する。

 一応、デバイスマイスターとその補佐の試験を受けた手前、ある程度は基礎は知ってる。けど基礎だけだから肉付けのため学ぶことにする。

 

 ミッドチルダ式魔法を基板にし、古代ベルカ式魔法を模倣、再現したものが近代ベルカ式と呼ばれるもの。

 特徴は古代ベルカ式……シグナムやヴィータが使用するものとほぼ同様。基本的に近接戦特化に徹していることである。

 また、術式の相性の良さからかミッドチルダ式魔法と併用する者もいるってとこかな。それによって近接オンリーでなく中距離とかサポートもカバー出来る割りと汎用性高いものとなっている。

 

「ナカジマさんはどうなんだろう。正直ほぼ完全に近接格闘系だとは思ってる」

「そうだね、私のタックルをなんなくいなしたからね……!」

「初対面の人にタックルするアリシアに脱帽だわ」

「私は早くもお客をゲットするナナシにジェラシィーだよ」

「お客じゃなくて近代ベルカのデバイス見れることにだろ」

「イグザクトリー!」

 

 まだあまり普及してないものだからなぁ、実際に見ることは少ないし弄れる機会となればもっとない。

 資格取れたら上手くいけばメンテ、いや本当に基本的な検査くらいさせてもらえるかも……しれない。けどまず問題が残っていた。

 

「俺落ちたかも」

「嘘ぉ!?」

「解答欄に……図面を引いちゃったわー」

「うわぁ……引くわー」

「図面を?」

「私がだよ」

 

 ですよね。いや、図面引いたのは一問だけだから確実に落ちたとは言えんのだがやらかした。我ながらいい出来の図面引けたし丸してもらえんかね?

 

「ま、気にしても仕方ないか。今は新しい課題に取り組むぞー!」

「それ俺が言うべき台詞だから。まぁ、やるけど」

「で、古代と近代の差はやっぱりミッド式魔法へのチューニングがされてるか否かだよね」

「あぁ、前にも言ってたけどそもそも戦闘スタイルがかなり異なるからな」

 

 カートリッジシステムはベルカ式が攻撃力の強化、デバイスの変形を目的に使っているのに対し、ミッド式は魔力総量を底上げが目的だった。なのでカートリッジシステムをつける場合はシステムを合わせるだけでよかった。

 ただし近代ベルカとなるとミッド式に適応させつつ、ベルカ式なんで近接格闘特化の特性を殺さないようにしないといけなくなる。そもそも近代ベルカ式の魔法自体、適性がないと使用できないらしいがそれでもベースはミッド式。けれどガチンガチンとデバイスで殴るわ斬るわして近接戦闘を行う。中距離戦やサポートが可能になったとはいえ、ベルカ式はやっぱり近接戦する人が多いからね。

 そうなってくると繊細なインテリジェントでは中々に厳しいのでアームドデバイスで作ることとなる。

 

「ううん? 作ることになる……?」

「いつかはさ作りたいよね! てか作るよ!」

「あ、うん。頑張れ、いや俺も頑張るけど。なにはともあれ、まずは機構とか理解せにゃならん」

「それでアームドデバイスはそもそも古代ベルカ式のものだからね、アームドデバイスちょっと改バージョンみたいになってるはずなんだよ。その“ちょっと改”の部分を調べていこう」

「オッケー」

 

 さーて、久々の新しい分野への進撃だ。なかなかに小難しい話だけどなんとかなるだろ。

 この後何日か徹夜したとか、資料が足りないからユーノが司書長勤める無限書庫に突撃かましたとかそんな事実はない。ないったらないのだ。

 

 ーーごめん、ユーノ司書長…………




ここまで読んでくださった方に感謝を。
寝たが少なくなってしまいましたがこんにちわクイントさん。きっとゼスト隊だからレジアス中将とも関係ある……はず。

あと少しここをお借りして多くの感想をいただきありがとうございます。気の効いた返信はできてないのですが画面の前では万歳。
たまにセンスがキレッキレな感想に脱帽しつつも大喜びさせてもらってます。。


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27.エースの墜ちた日

 なんで俺が技術職というか戦闘しないでいいデバイスマイスター補佐を目指したか。理由は色々あるのだがどうしても無視できないものがある。

 圧倒的魔力のなさだ。一応のレベルで訓練をたまーにしたりもしてたんだけど未だに魔力ランクはDにも届かない。まぁだからって別に周りの優秀さに劣等感抱いてたりするなんてことは一切ない。ここまでミソッカスだとむしろ笑えてくる、というかアリシアといつも笑ってる。持ちネタのひとつにするくらいに気にしてない。でも、だからって実際にフェイト(断れないあの笑顔)と模擬戦したりすれば改めて戦闘に向いてないことは自覚させられるわけで。

 

「そんなわけでなんで俺が武装隊の遠征に連れてこられてるんすかね? ね、なのはさん?」

「えーっと……」

「ね、高町さん?」

「あれ、なんか他人行儀に……」

「ねぇ、高町武装隊士官候補生なんでですかね?」

「答えるから普通に呼んで!? その、今回の異世界への遠征にはすごい荷物が多くてね?」

 

 そこで困っている隊長たちを見てなのはは何か思い出した。四次元空間とかいう馬鹿デカイ倉庫を持ってる友人がいるじゃないか。

 

「それにナナシ君なら基本的に予定が空いてるかなーって」

「帰る」

「ま、待ってぇぇぇぇぇぇ!」

 

 腰にしがみついたなのはを引きずりながら転送ポッドに向かう。全く、俺だってこの頃はデバイスマイスター補佐試験結果待ってたりして忙しいってのに……あ、よくよく考えたら暇だったわ。ピタッと止まる。

 

「いや、でも渡された荷物全部持ち逃げしたらかなりの額にならね?」

「なに恐ろしいこと言ってるの……その場合武装隊の皆に追われることになるんだけど、私含めて」

「サーテ、セイイッパイガンバルゾー」

 

 実は本来ヴィータも来る予定だったらしいのだが緊急的な事件が起こり、そちらが人手不足のためにそっちに出向いてるそうな。なにしろ守護騎士が一人、経験は豊富なため階級的には低いが選抜されちゃったそうだ。特別俸給が出るらしく晩飯が豪華になるぜとヴィータは意気込んで行ったそうな。

 さて、お給料も出るわけだし俺も普通に頑張ろう。主に遠征で調べる異世界(ここ)でモンスターが現れた場合の戦闘に巻き込まれないように。

 

「でも一応ナナシ君もデバイスあるんだし、いざというときは少し」

「ごめん、家に置いてきた」

「えっ?」

「いやさ、玄関に忘れないように置いてたら裏目に出て忘れるとかあるよな?」

「あるけど! あるけどデバイス忘れたの!?」

 

 やめろ、大きな声で言うなよ。周りの武装隊の方々がアイツマジかよ……って目で見てんだろ。誰しも忘れ物くらいするだろ、そんな目で見るなよ。

 四次元空間に入れときゃよかった。

 

「デバイス忘れる人はいないかな……あ、はい。すみません、ありがとうございます」

 

 隊長らしきおっちゃんがなのはの肩を叩きなにかを渡した。

 

「予備のデバイスを貸してもらえたよ」

「やったななのは、デバイス二刀流ダブルスターライトブレイカーが撃てるな!」

「やらないよ! ナナシ君に貸してくれるんだって!」

「え、それは申し訳ない」

 

 隊長にお礼を言いに行ってから予備のデバイスをなのはから受けとるけど……うわぁ、使いにくい。こういうときに普段何気なく持ってるもののありがたみがわかる。

 

「デイブレイカーありがとう……」

「家に忘れてきたのにね」

「るっせ」

 

 さて、そんな会話を終えたあと移動を開始し始める。徒歩移動であるため俺も普通についていける。この世界はそういう季節なのか常にこの気候なのか雪がちらほらと降り続けている。なのでとても寒い、バリアジャケット展開したら結構なんとかなるんだけど予備のデバイスでやると帰るまでに魔力切れを起こす。体内で魔力を燃焼して身体を暖めたいのだがそんな器用なこともできない。下手したら自爆するし。ってなわけで周りがバリアジャケットに身を包むなか一人防寒具を着込み凍えている。

 

「初めてなのはの魔力を妬んだ、寒い、魔力寄越せ。暖だ、暖が足りない……!」

「あの高町ちゃんなら今先頭にいるわよ?」

「いや、すみません一人言です」

 

 お姉さんに心配そうな目で見られるが気にする余裕も無ければ元から気にする質でもない。その後30分ほど歩いた先をベースキャンプとすることとなり、久々に活躍している四次元空間からテントなどをドサドサっと出していく。

 そうして建てられたテントのしたで一息つきつつ、震える手でデバイスを弄っているとなのはがやって来た。

 

「終わった?」

「そんな早く終わらないから、今からだよ。ってなにしてるの?」

「やることないのでデバイス弄っとります」

「借りてるものを弄るのはやめようよぅ……」

「ダイジョウブ、最悪弁償する! もしくは当社比1.5倍以上の性能にして返すから! てか暇だから許して」

「最後のが本音だよね」

 

 なのはは微妙な視線を俺に送りながら俺に見送られてこの世界の探索に行った。うーん、ややこしい文章。

 デバイスを弄り始めて1時間ほどたった。

 どうやら遺跡らしきものが見当たったらしく部隊の大半がそこを探索してるらしい。

 こちらもキリが良いところまで出来たので一旦フレームを閉じて暖を取っていると先程のお姉さんがやって来た。

 

「……あら、君は探索に出ないのかしら?」

「ん、どうも。いえ、ミソッカス魔力かつ部隊員でもなく荷物持ちに来てるだけなんで」

「……あらら、ならちょっと遺跡を見に行かないかしら? 私がついていくわよ?」

「えーと丁重にお断りします」

「怒られそうだからかしら?」

「いや、寒いじゃないですか。しかも遺跡って……温泉なら行きましたけど」

「つまりやっぱり寒いからね……」

 

 うん、寒い。恋人といるときの雪って特別な気分に浸れて私は好きですとか言ってらんねぇ。寒さで顔面蒼白なって白い恋人になっちゃうから。インタビュー受けてる場合じゃねぇ、炬燵だ、炬燵を用意せよ! 炬燵の魔力は凄い、ランクで言えばSSSランクだ。

 

「魔力ランクSSSあればいいんですけどね……」

「なんの話かしら……? まぁまぁ、そう言わずに行きましょ。きっと面白いものが見られるわよぉ」

 

 ガシッと腕を掴まれズルズル引きずられる。何故じゃ、俺は行きたくないのに。見上げると見えるお姉さんは少し冷や汗をかきつつもどこかで見たような笑みだし。見た顔ではなく笑み。

 

「うーん……あ、思い出した」

「どうかしたのかしら?」

「スカさんだわ、笑い方がスカさんに似てる」

 

 ダラダラと滝のように流れ始める汗。どうでもいいけどこんなに寒いのに、よくそんなに汗かけるよね。冷えて風邪引きそうだ。

 

「汗凄いんすけどジェイルさん」

「誰のことかしらねー、スカリエッティーとかドクターとか知らないわー」

「潔すぎるくらいの自白」

「私はドゥーエとか言う名前の次女で変装して紛れ込んでるなんて事実はないわよ? さ、遺跡に行きましょう」

 

 ナナシは知っている。人間開き直ると最強だって、間違いなくわざと全部自白したドゥーエは俺を引っ張って遺跡に行く足を止めない。

 

「いやね、ドクターからバレないようにあなたを遺跡に誘導して欲しいって言われたのだけれど笑みでバレるとは思わなかったわ」

「誤魔化せばよかったのに」

「そこまでするのは面ど……いえ、正体を見破ったあなたへの報酬よ」

「明らかに面倒って言いかけたぞこの人」

 

 スカさんったらなかなかに濃い娘さんッスね。鼻歌混じりに引きずられ、もとい運ばれ遺跡に到着したはいいのだが……そこは地獄絵図が広がっていた。

 こう、なんというのか。遊園地とかにあるコインを入れたら背中に子供をのせて動く動物の形をした乗り物。正式名称は電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物だったっけか?

 

 あれが撃ち込まれる魔法弾や砲撃を無効化しながら、その場の雰囲気をぶち壊すファンシーな音楽を流しつつ武装隊へ進撃してきていた。武装隊の面々は魔法が効かないことに目を白黒させつつ、見た目はともかく性能は驚異的な動物型乗り物をどう対処するか大混乱。

 

「うわぁ……」

「これがドクターの開発したガジェットドローンVI型よ、もともとはもっと無骨な機械だったのだけれどどこかの誰かの進言のせいでああなったわ」

「ウワー、ダレダヨー」

 

 いや、楽しい感じのがいいって言ったけどさ。100をゆうに超えるライオンやゾウ、カバその他動物型ガジェットドローンが押し寄せてくるのはまさしく地獄絵図だった。

 というか性能がヤバいくせして見た目がファンシーなのは普通にホラーだ。

 

 ――ッ!? そんなことを考えている暇ではなかった。前に出すぎたなのはが魔法を無効化された挙げ句に囲まれた。

 

 急いで駆け寄ろうとするものの間に合うはずもなく――ポスン。ポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスンポスン。にゃあああああああ!?

 

 ……お尻を動物型ガジェットに押された運動音痴、略してウ○チであるなのはは転げた。そのあとに数台の動物型ガジェットに揉みくちゃにされている。

 

「ウプッ! へプッ! あ、ナ、ワプ!? ナナシくんたすけてー!」

 

 久々に真剣になったんだけどなー。その反動のせいかやる気がマイナスにいった。揉みくちゃにされるなのはを置いて鼻ほじりながらドゥーエさんとこに戻る。

 

「な、ナナシくーん!?」

「どう? これがガジェットドローンVI型よ。魔法に対し有利な力を保ちつつあの癒し効果のあるふんわりした外郭――力作よ!」

「あ、はい。癒しに撃墜された挙げ句にふかふかに溺死しそうななのはったら楽しソーネー」

「じゃ、私はこれ見せたかっただけだから帰るわ!」

「え、ガジェットVI型は?」

「あげるわ!」

「いらねぇ! 広げた玩具は片付けていけよ!?」

 

 そんなツッコミ虚しくドゥーエさ……ドゥーエは帰っていった。あーもー、なんか面倒だなー。

 ほら、なんかなのはがへばったのを感知したのか揉みくちゃにするのをやめた動物型ガジェットこっちに来てるし。ファンシーな見た目に音楽鳴らしてトコトコとやって来る。

 

「……そういやあげるって言ってたよな?」

 

 ガジェットドローンVI型(あれ)は俺のもの。つまりあれは俺のいうことに従うはず……!

 

「止まれい! ぷへ!?」

 

 そんなことなかった。ダメージ入らない代わりに滅茶苦茶ひたすら鬱陶しいアタックが繰り返される。

 ……貰った、イコール所有権は俺。言うこと聞いてくれないけど所有権は、俺。俺のもの。

 

 よし、玩具は片付けよう。四次元空間をおっぴらき突撃してくるガジェットを仕舞っていく。フハハー! 所有権が俺にないと仕舞えないんだけど、こんな活躍するとは思ってなかった。

 結果的に半分くらい収納し、半分くらいは逃げていったので未だに地面に伏しているなのはのところへ行く。

 

「おーい、大丈夫か?」

「うぅ……ナナシくん助けてよ……」

「いや、真面目に助けようとしたのに結果的に楽しそうだったじゃん? なんか一気にどうでもよくなって」

「私は大変だったんだよ!?」

「あぁ、なにが大変ってさっき隊長がミスってなのはが撃墜されたって報告送っちゃってたのが一番大変だと思う」

「ええぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 まぁこんなことがあったので探索は一度中止となり帰還することとなったのだが、むしろ帰ってからが大変だったんだ。

 なにしろなのはが撃墜されたってある意味正しいが誤解される誤報が送られたのだ。

 

 結果、フェイトやはやてたちが押し掛けてきてなのはは再び揉みくちゃに。

 

「なのは! 大丈夫!? げ、撃墜されたって! なのは!」

「うにゃー!?」

「なのはちゃん! 怪我はないかー!? ほら、隅々まで見せてみい! ぐへへぇー」

 

 なんか、おっさんが紛れてるな。見た目は少女、中身はおっさん……うーん、この最悪な感じ。

 

「なのはは撃墜されたのに今はピンピンとしている……バーサーカーなのは始まります」

「それ怖すぎるからやめろアリシア」

「というか本気で心配したんだけど無事でよかったよ」

「まぁ、一応本当に落とされたんだが相手に攻撃力が一切合切なくてな。今みたいに揉みくちゃにされて終わった」

 

 涙ながらに抱きつくフェイトに身体中をまさぐるはやて。フェイトはまだ混乱してるがはやては明らかに楽しんでるし。

 このあとユーノ、クロノ、リンディさんにプレシア、守護騎士の面々にリインと続々やって来た。皆今晩の予定を全部キャンセルして駆けつけたようでなのはが凄く申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「まぁ、今日の一件は前に出すぎるな。無茶をするなって教訓にしよう?」

「うん、そうするよ」

「次から無茶するたびに鼻からスパゲッティな」

「ジャイアニズム!?」

「もしくは私がレイジングハートを改造します」

「……無茶は駄目だよね!」

 

 さて、せっかく皆が集まったということでこのあとはパーティーばりに賑やかな夕食となった。あまり話す機会のないユーノとも話したりしたのだが、今日俺が行ってきた遺跡にもいつか行きたいとか。そういや元々は発掘とかそっち系だったっけ?

 リインはガジェットVI型の話を聞くと私なら勝てたと胸を張る。そうね、肉弾戦のみランクAA越えだものね。製作に関わった一人としてはその拳が鉄板くらい軽々抜けることくらい知ってるから説得力が半端ない。

 

 なんにせよ遠征も無事……うん、無事終わって滅多に揃うことのない面子で集まって晩御飯も食べれてよかったと思う。

 

 

 

 ――そのとき俺たちは知らなかったんだ……この日がエースの墜ちた日と語り継がれることになるなんて。

 

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
どうでしたでしょうか、空白期内でも随一のシリアスを誇る高町なのはの墜ちた日は。作者としても大変悩みましたがこんな作品ですが外すわけにもいかず……皆さんにはとんだシリアスを読ませてしまいました。

ガジェットに落とされ囲まれ一切の反撃を許されず、一方的に攻撃されるなのは――これだけ読むとなんて酷い、いやホント酷いな。

イヤー、シリアスダッタナー


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28.こんがりウェルダン

 空気がお通夜となっている。それはもう滅茶苦茶重たくて一切ふざけられない。その日の夜、テスタロッサ家は重苦しい空気に包まれていた。

 まぁ、なんだ。フェイトが執務官試験に落ちた。

 元々一発で受かるほど簡単なものではないし、現在最年少で執務官になったクロノも片手で数えれる試験回数で受かれる人間の方が少ないといっていた。

 

 そもそも執務官ってのは、事件捜査や各種の調査などを取り仕切る役職で、所属部隊における事件および法務案件の統括担当者ってのになることができる。この時点で俺の頭は追いつかない。

 んでもって、仕事のスタイルは部署や個人によってバラバラで、信頼の置ける部下数人の少人数精鋭で活動する者もいれば、何十人もの捜査官を束ねて指揮する者もいる。更には単独で行動する者もいるらしい。

 クロノは臨機応変にスタイルを変えてるらしいが基本的には少人数精鋭派らしい。

 

 仕事内容は、内勤派の者は所属部隊の法務を全般的に担当、独立派の者は自身が得意とする種別の事件の追跡調査を専任で指揮および担当する傾向が強い。

 ここまでクロノが説明してたとき、フェイトは真面目に聞いてたが俺とアリシアは既に思考が遥か彼方へさようならしてた。

 

 まぁ、なんにせよ執務官ってのは法務関係の処理を行える資格を持っているため重宝される反面、法務を中心とした多様な知識と高い技術が問われる。よって、その試験の難易度はかなり高い。

 

 つまり! 要点を簡潔にまとめると執務官はメッチャ凄い! だからなるのはめっちゃ難しい!

 

 

 その試験にフェイトは落ちた。一回で受かるって楽観視なんてしてなかったけど、全力で頑張ってたわけだし落ち込まないわけがない。アルフが付き添って慰めてるんだけど、問題は別にある。

 テスタロッサ家のラスボス的存在プレシアだ。

 口元に手を当てて思案するような難しい顔をなされている。憤るわけでも一緒に悲しむでもなく思案している。

 たっぷり10分ほど考え、なにかを決めたのか床に座るフェイトの前まで移動し目線の高さを合わせるためしゃがむプレシア。

 

「フェイト、今回試験を受けてみて正直どうだったかしら?」

「試験の内容も難しくて……解いたときもあんまり手応えがなくて……ごめんなさい」

「謝ることじゃないわ。でも……ええ、現状そこがあなたのいるところよ。あれだけ一生懸命に勉強したうえでまだそこよ」

「うん……」

「それだけ執務官って立場に辿り着くまでは遠いわ。まぁ、本当のことをいうと汚ないコネを使う人間もいるほどに。フェイト、あなたはどうしたいの? 諦めるのもひとつの道、執務官をこのまま目指すより他の道を探すのも決して悪いことじゃないわ」

 

 そうだろうね。クロノは間違いなく天才の部類だっただけで普通は挫折する人間も少なくない。今のフェイトは中学生になりたての奴が有名大学に入ろうとするぐらいレベルの高いことをやっている。そりゃ、一旦目指すのを見送って他の道を探したっていいだろう。別に今諦めたら二度と目指せないわけでもないし。

 けどフェイトは答えない。何に悩んでいるのか、たぶん答えは決まってるのに色々考えてる。なに考えてるかは知らないけど、というかわからん。

 

「あとは……そうね、あなたが望めば私のコネを使うって手もあるわ」

「それはッ! それは駄目! 嫌だ!」

「そう。じゃあフェイトはどうしたいか言ってみなさい。たぶん答えは決まってるのに優しいから色々考えて気づかってどうしようか言えないだけでしょう。言いなさい、フェイトが目指す夢を負担に思うなんてことは絶対にないわ」

「このまま、執務官を目指したい……」

 

 ポツリとフェイトは言う。俯きそうになっていた顔を上げ真っ直ぐプレシアの目を見て言う。

 

「私たちは家族みんなで笑えるようになったけど、たぶん私が知らないだけで泣いてる子たちはいっぱいいて……私はそんな子達が少しでも笑えるようにしたくて。クロノやリンディさんたちに話を聞いたら執務官が一番合ってた。私の夢に一番合ってた――だから私は執務官を目指す。今回は全然駄目だったけど、それでも私は諦めたくない!」

 

 なんともまぁ、すごい夢だ。別に自分のやりたいことを卑下するつもりはないがフェイトは自分みたいに笑顔になれる子を増やしたいと上手く言えんが優しい夢だと思う。

 プレシアがこちらに一瞬ドヤって来たんだけど今珍しく真面目に話してんだろ。最後まで頑張れよ。

 

「なら手を抜かず頑張りなさい。そうやって頑張ってる間は私はずっと応援するわ……でもフェイトは肩の力をたまには抜くくらいしなさいね? あなたは頑張りすぎちゃうふしがあるから」

「うん、ありがとう母さん」

 

 全部が吹っ切れたわけでもないだろうが先程とは比べ物にならないほど晴れた顔をしたフェイト。アリシアとアルフが自室に連れていきリビングに残ったのはプレシアと俺……俺も自室に戻りたい。

 

「どう? 自慢の娘よ?」

「そうな、俺はそっちよりもまともなこと言ってたプレシアさんに驚きだよ」

「あなたは私をなんだと思ってるのかしら。私は親よ、娘が道に迷ったなら地図を渡すか、手を取って最後まで案内するかくらいするわ」

「ただいつまでも手を引いて導くことは出来ないから今回は地図を渡すだけにした?」

「ナナシあなた……たまに察しがいいのが腹立つわ」

 

 理不尽すぎるだろ。いや、なんとなく途中からわかってた。親バカだしちょっと試験官が悪かったのよとか言い出すんじゃないかと疑ってたけど、親バカの前にプレシアは親だった。モンスターじゃなかった。

 

「私はあの子があの子にとって最善の道を行けるようにするだけ。それが私にとっての最善になっちゃいけないし、もしも本当にあの子が道を違えそうになったならそれを正すわ」

「親だねぇ」

「ええ、特にアリシアやあなたはそういうところ手がかからない分フェイトはしっかり見ておくの。フェイトはしっかりしてる反面優しすぎて脆いところのある子だから」

「うーん、いつもの親バカはどこに行ったのか。目の前に親っぽいプレシアさんしかいない……いつの間に泉に落ちて綺麗なプレシアさんに変わったのか」

「焼き落とすわよ?」

 

 デバイスで頬をグリグリとされる。あ、いつものプレシアさんだったわ。別段なんも変わってない、娘のことを常に考えてるだけだった! ヒュー、ちょっと雰囲気が真面目だから騙されるところだったぜ!

 

「あなたはどうだったの、デバイスマイスター補佐試験」

「まぁ、色々ポカしたものの実技は自信あり。筆記で全てが決まるかな?」

「そう……じゃあ、そろそろあなたも寝なさい」

「デバイス突きつけられたまま言われると肝が冷えてしかたない件」

 

 主に、あなたも寝なさいの間に永遠にって入りそうで。まぁ、そんなことなるはずもなくそのまま自室に戻って寝たわけだが。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「ってなわけで珍しく昨日は真面目だったわけさ」

「それはいいのだが……何故うちに来ている?」

 

 暇で……フェイトは学校、プレシアは仕事でアリシアも今日は何やら用事があるとかで出掛けている。つまり家には俺一人。なら同じく暇してそうなリインに会おうと思って八神家にやって来た。

 

「確かに主も学校で守護騎士たちは仕事に出向いているが……」

「やーい、無職ー」

「デバイス単体でも……働けるようにならないものか」

 

 ジャブで空気を叩きながら悩ましげなリイン。ナマ言ってサーセン。力はそれなりにあるが、なにぶん今のミッドにデバイスを雇うという制度がないので難しい。はやてや守護騎士のユニゾンデバイスとしてなら、また話は変わってくるけど……

 

「ユニゾン出来ないからなぁ……」

「お前たちに合うように……チューニングされているからな」

 

 ふと、なにか思いついたかのようにハッとなり俺にひとつ提案するリイン。

 

「……ナナシ、管理局で私と働かないか?」

「死ぬから、前にクロノに魔導師ランクEが働いてるか聞いたらいるにはいるが数年で半分以下になってるって聞いたし」

 

 なんで半分以下になるか聞いたら気まずそうに目を逸らされた。俺が働いたらどうなるか聞いたら、そういえば今日は天気がいいなって言われた。アースラにいたのに。外宇宙空間っぽいとこだぞ、天気なんてねぇよ。

 

「試しにユニゾンしてみるか、俺の魔力の無さがありありとわかるぜ」

「胸を張って言われても、反応しにくいのだが……じゃあ、いくぞ」

「おうさ――ユニゾン」

 

『イン!』と声を合わせユニゾンするがやっぱり不思議な感覚だ。しかしその不思議な感覚を上回る勢いでゴリゴリと魔力がなくなっていってるのがわかる。マジックポイント、いわばMPゲージが面白いくらい目に見えて減っている。これがHPゲージだったら即死系の毒だ。

 

『30秒経過だ』

「まだいける。どうして諦めるんだ、頑張れリイン! 耐えろ耐えろ!」

『耐えるのは私なのか……?』

「だってポンってコミカルな音たてて出てくるのリインじゃん、つまりリインが耐えればユニゾン時間は伸びる。アンダスタン?」

『頭にスタンがかかったかのように理解できない……』

「誰が上手いこと言えと」

 

 あれか、やっぱりはやてと暮らしてると喋り上手になるのだろうか。ちょくちょくネタを急に振られそうだし、勝手なイメージだけどな。あぁ、怠くなってきたー頑張れリイィィン。

 

『よし、耐えてみよう……すごい弾き出そうとしてくるな』

「ご、ごめん。リイン出てくれ……中で耐えられると俺への負担が倍プッシュされることを今知った」

 

 たぶん限界を超えるせいなのか一瞬視界がボヤけるレベルの負担が来た。大人しくリインは出てくれたけどこれリインと喧嘩したときにユニゾンしたら俺が大惨事になるな。

 

「……うん、あのまま耐えるのは私としても駄目そうだった。下手をすればユニゾン事故になりそうだった」

「そ、か……あー、疲れた。体感で微妙に前回より記録伸びた気するけどどう?」

「1分10秒……10秒を誤差とするか否か」

「リインが無理矢理耐えてくれた数秒引いたら誤差だな」

 

 ま、そんなに簡単に魔力増えてユニゾン時間伸びるわけない。そんなことより一番笑えるのはユニゾンするよりもリイン一人で戦った方が強いことだな。

 

「そういえば、一応測ってもらった」

「なにを?」

「魔力ランクと魔導師ランク」

 

 ほほう。非公式ながらこっそり管理局で測ってもらったらしい。守護騎士の皆が測るのに混じって一通り。非公式な理由はやっぱりデバイスだから、限りなく人に近いんだけどカテゴリではデバイスだかららしい。頭固いなと思うのは勝手なことかどうか……ま、いいんだけど。

 

「魔力はCランク」

「ミソッカスと言い切れない普通さ」

「でも、元に比べたら……凄い少ない。だからミソッカス」

 

 いや、元と比べるのもどうよ? なのはの数倍超える保有魔力とか本当に星壊すの? って問いたいレベルなんだけど。てかミソッカスなことに胸張らんでいいから。ふくよかな胸が押し上げられてグッド。魔力は多い方がいいだろうに。

 

「それで魔導師ランクは?」

「陸戦AA+」

「……ん?」

「陸戦AA+」

「あー、陸戦AA+……おい待ておかしいだろ」

 

 ちょっと誇らしげな顔してるけど魔力ランクCでそれってどうなってんのさ。あと一歩でAAA、そうかよかったな。

 

「この身体の強度と体術まかせ。あとは身体強化少々かけといたら魔法になる」

「マジカルじゃねぇ、それガチンコでフィジカルだ……!」

 

 魔法に体術ってもうわかんねぇ、魔法少女とはなんだったのか。インパクトの瞬間に貫通力の高い魔力を相乗すると効果が高い? なに、戦う相手オーバーキルする気か、ぶっコロがすつもりか。

 

「大丈夫、非殺傷設定」

「これほどその言葉が信用できないのはブラストカラミティ以来だぞ」

「あれほど……?」

「……言い過ぎたかもしれん」

 

 いや、なんにせよリインって凄い強いのか……八神家の戦力が笑えない。そんな強くなってどこ目指してるの。なのはやフェイトも引き連れてミッド制覇?

 

「いざというとき、お前たちは魔力がないから……」

「あ、あー……俺とアリシア?」

「あぁ」

「んー、あんがと。でもそんな固く考えなくていいぞ?」

「わかっている。それと、私が鍛えてるのは烈火の将……シグナムには秘密にしててくれ」

 

 え、なんで。鍛え抜いたさきでシグナムを打倒する目標とかあるの? 今のうちは手を見せなくないとか。

 

「逆だ……シグナムが、戦いたがるからな」

「バトルジャンキーめ」

「お前とも戦いたがっていたぞ、私とユニゾン出来るせいで」

 

 コプッ……無言の吐血。危機から逃れるためにユニゾン出来るようになったはずなのに、ユニゾンが危機を呼び込んできた。

 

「レアくらいで済むかね?」

「こんがり、ウェルダン……中までジューシー」

「つまりユニゾン中のリインまでこんがり……てかウェルダンってジューシーさなくなるから」

 

 リインと二人して遠い目をして明後日の方を見る。そっかー、こんがりウェルダンかぁ。綺麗に切り分けるサービスまでついてきそうだチクショウ。はやてあたりは笑って塩コショウ準備しやがりそう、きっとやる。

 

「防御魔法と回避魔法の練習するかなぁ」

「私も付き合う」

「うし、たまにはちゃんと動くか。運動がてらミッドで特訓じゃあ!」

「おー……!」

 

 そのままテスタロッサ家にある転送ポッドからミッドに行き、訓練所を借りて対シグナム戦の特訓を始める俺たちであった。

 

 ――願わくばこの特訓が無駄になりますように。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
ちょっと始めフェイトの話だから真面目でした。まぁ、前回ほどではないですね。プレシアはお母さん。
シグナム戦があるかは不明、でもやると割りとナナシがヤバい。

家族みんなで~。父は?と思っても口を出さないナナシ空気読める子。


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29.末っ子誕生

 ペケペケー、アリシアと俺は合格しました。

 ただし何故か俺は呼び出された、てより単刀直入に言えばもう一回試験を受けさせられたでござる。

 面接官三人ほど相手に要約すると、なんでお前解答欄に設計図書いてんの? って聞かれた。俺にもわかんないから答えようがなかった。

 能力としては十分、ただその他の面が心配なところがあるのでストレートにいうと俺が正常かのテスト。ついでにもう一度内容変更されたテストを受けた。

 今度は解答欄に図面を引くヘマをすることなく合格、前代未聞な間抜けな合格の仕方だと笑われた……プレシアとアリシアに。

 

 そこからはアリシアとお互い一緒に動いたり各々能力に合った仕事探してた。合格後、真っ先にクイント・ナカジマさんとこに行ったんだけどね。

 これがまた凄いデバイスだった。リボルバーナックル、名前からも想像できるけど両手に装着してぶん殴るガチンコインファイト系デバイス。アリシアがウッヒョーキマシタワーと言わんばかりの勢いで食いつき俺の出番は特になかった。

 

 で、おっきな仕事を請け負った、アリシアが。

 

「へぇ、娘さん二人もシューティングアーツを始めたんですか」

「うん、だからね……二人にもデバイスを用意してやりたいのよ。旦那はまだ早いだろってんだけどねー、私としては早くから慣らしといた方がいいと思うのよ」

「はぁ、それで製作をアリシアに」

「ええ、初めての仕事にどう? 娘たちのリボルバーナックルを右手用と左手用に」

「受けます。全身全霊で」

 

 お仕事モードアリシアさん降臨、クイントさんと話し合いを始めたので外に出てデバイス簡易点検ボランティアを始める。 言うまでもなく下心しかない、フリーでやるなら顔を売っとこうと思って。

 まー、名前もなにも売れてないガキんちょで中々人は来ないけどな! でも、ちょくちょく気の良さそうなおっちゃんたちが頼み込んできてくれた。

 そんななか物珍しさに惹かれたのかお一人、若そうなお兄さんが来た。

 

「おーう、坊主。無料で見てくれんのか?」

「ええ、簡易検査程度だけど」

「見れるデバイスの種類は?」

「カートリッジ対応、非対応問わずストレージにインテリジェント。あとアームドデバイスでユニゾンデバイスは怪しいのでお断り」

 

 リインの身体の開発も基本はアリシア主体だったし。なかなかアレを一人で見る気にはなれない。

 

「じゃあ、こいつを見てくれ。ライフル型だけど見れるか?」

「いけますいけます、超いけます」

「坊主、連呼すると信頼性落ちるぞ?」

「不思議ですよね。必死な人ほど信用できないなんて……人間って汚い」

「薄っぺらくなるからじゃないかね」

 

 口を動かしつつも手を動かす、逆か手を動かしつつも口は勝手に動いてる。

 ……うわぁ、これ整備あんましてないやつだ。アリシアが見たらスパナ出してくるやつ。用途は持ち主にスローイングかますため。カートリッジ使用時に出る魔力の残滓、パッと見が煙のアレ。あれの噴出口とか2~3割埋もれてるし配線も……ああ、稼働率かなり落ちてるぞ。

 

「どんな具合だ?」

「1週間洗わず履き続けたパンツ」

「やぁーっぱり? いやー、二人暮らしなんだが生活費のため色々切り詰めてたらなぁ。いやいやパンツはさすがに洗ってんぜ?」

「そうだね、プロゲステロンだね」

「聞いてるか?」

「そうだね、プロキオンだね」

 

 排莢孔も削れて、どんだけ使い込んでんだ。フレームもかなり軋む……同型排莢孔はあったっけ、あるわけなかった。ここは家じゃなかった。

 噴出口の汚れは固まってるし削って取るか。銃身がホント微妙に歪んでるのはここじゃ無理だし放置。正規のお店かアリシアに頼んでどうぞ。

 なんてマジで取りかかり始めた俺を現実に引き戻したのはお兄さん――でなくアリシアによるチョップ。

 

「とうっ!」

「あべし……なんだアリシアか」

「なんだじゃないよ。ほら目の前のお兄さんが苦笑いしてる」

 

 あらら、申し訳ない。簡易点検のつもりが直し始めてた。普通に勝手にやったら怒られるし、もとの状態に戻して返したのちに頭を下げる。

 

「いやいや、いいんだがよ。むしろ無料で直してもらえるなら万々歳だ」

「そこは後ろのデバイスマイスターアリシアにパス」

「むっふっふー、残念ながら私は無料ではやらないよお兄さん! 一回やるとズルズルいきそうだからね!」

「アッハッハ、見た目なわりにしっかりしてんだな」

「精神的にはリトルマダムだからね!」

 

 マダムなのに小さいのかよ。マダムだけだとおばさんっぽいとか知らないから、全国のマダムに謝っとけ。

 

「あ、そだ。そのデバイスは一回ちゃんと直した方が吉かと。若干銃身歪んでるし、パーツも色々悲鳴をあげてる」

「あー、そうか。さすがにそろそろ一度ちゃんと見せねぇと駄目か。よし、じゃあな坊主に嬢ちゃん」

 

 明るい茶髪なお兄さんはそのまま去っていった。いやホントにアレは見せた方がいい。具体的には夏に工事現場で働くおじ様が1週間ほど履き続けた下着並みにヤバい。

 

「それでナナシは陸士部隊うろうろして何してたの?」

「暇してた」

「よし、帰ろっか」

「待てよ、もう少しツッコもうぜ。デバイス製作の仕事ゲットしてちょっと賢者モードなアリシアさんやー!」

「私がよければそれでいいのだ!」

「割りとゲスいように聞こえて大体の人間の真理をついてくるなんてさすがアリシアだぜ!」

「「いぇーい!」」

 

 ――その日陸士部隊の出入り口で子供二人はしゃいでる姿が見られたとかなんとか。

 出入り口にいた俺たちは全く知らなかったんだけどなー、不思議だね。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 スパッと色々全略、製作開始から約2年たちリインフォース・ツヴァイが誕生した。

 技術的にはともかく地球的にいうと東京のど真ん中にちょっといい家建てれるほどの費用かかった。それをどう準備したんだこの小学生って話なんだけど……

 なんか聖王教会に知り合いが出来たらしくそこからゴニョゴニョと援助があったそうな。

 そもそも聖王教会ってとこが古代ベルカの王を祀ってるところで、その古代ベルカの融合デバイスを作るために~ってことで資金援助が成立したと聞いた。

 

「だからごめんなツヴァイ。お前はちょっと後ろめたいお金から生まれたんだ……俺がはやてを止められていたら……ッ!」

「はわ!? 私はちょっと怪しいお金で作られたんですかマイスター!?」

「なにいきなりいらんこと吹き込んでるんやー!」

 

 スリッパで思いっきり頭を叩かれた。それはもう快音が鳴り響いたけど手加減なしでやられたので些か痛い。

 いや、だってはやても陸士のおっちゃんに豆タヌキ言われてたじゃんか。魔力コントロールはともかく話術は既に汚いって。

 

「さ、三等陸佐やな……!?」

「うん、あの俺よりミソッカスというか空っぽ魔力のおっちゃん」

「面と向かって笑いながら空っぽ魔力ですねって言うたときは肝が冷えたで」

 

 幸い気のいい人で笑って許してもらえた。背中バシバシ叩かれたけど。

 今度娘と会わないか聞かれたけど、教育に悪いのでやめた方がいいと言ったらもっと笑われた。

 

「というかナナシ君はなんで普通に陸士の部隊とかに出入りしてるんやろね?」

「あ、知らんかったっけ? デバイス点検を格安で行っております。アリシアはデバイス製作の依頼とか受けてる」

 

 初めて受けた仕事、クイントさんの娘さんたちへのデバイスを仕上げたときには感動のあまり少し泣いてたりしたのは秘密。製作時間実に半年、滅茶苦茶凝りに凝って真剣に作ってた。

 

「んん、待ち待ち。今誰からの依頼言うた?」

「クイントさん」

「…………それナカジマ三等陸佐の奥さんや」

「なんだと……」

「衝撃の事実今ここにといった顔です! そんなお二人にツヴァイは笑撃をお送りします!」

「以上発言は八神家の提供でお送りしました」

「来週もお楽しみにや!」

「お送りする前に終わってしまいました!?」

 

 ガーンと口に出しながら頭を抱え仰け反るツヴァイ。ノリ良すぎて大好き、はやても満足げに笑ってる。

 ここは聖王教会、支援してもらった手前報告に来た。

 んでもって製作の手伝いをした身として俺が来た、来たくなかった。アリシアとジャンケンした結果ここにいる、つまり負けたのだ。いやー、聖王教会とか名前からして厳格な感じして……ほら俺とアリシアは真面目な空気に対してアレルギーがあるから。

 

「ほら、着いたで」

「だってさツヴァイ、もう一人でも挨拶できるよな? じゃあここから先はお前一人でいくんだ。大丈夫、ツヴァイなら出来るさ」

「はい! なんだかよくわからないのですが不思議といける気がしてきました!」

「アホなことやっとらんで入るで」

 

 帰ろうとした俺の襟首を掴んだはやてがノックし部屋へと入る。なかにはザ・優雅な感じのお嬢様とその後ろにシスターっぽい人が控えている。シスターっぽい人を見た瞬間、脳内警鐘が五月蝿く鳴った気がした。だってシグナムとかフェイトと似た雰囲気がしてるんだもの。

 

「はやて、いらっしゃい」

「カリム、シスターこんにちわや。さっそくでなんやけどツヴァイが無事誕生した報告に来たで」

「ど、どうもはじめまして! 八神家末っ子、狙うは大黒柱! リインフォース・ツヴァイなのです!」

「ちょっと待ちぃ、ナナシくん面かしぃや」

「待て待て待て、リインが緊張してたから空気を解そうとしただけでな」

 

 こう自己紹介したら空気が和むかもしれないって耳打ちしただけなんだって。ほら、カリムさんクスクス笑ってるしシスターさんは……呆れた目で見られてるな!

 取り敢えず胸ぐらから手を離そう、離せばわかる。離したところでこの現実は変わらないってことがわかるから。

 

「はぁ……こっちのマイペース貫いてるのが製作の協力者の一人」

「ナナシです、シスターさんそんな信じられないもの見る目で見るのはどうかと思う。ほら、信ずるものは救われるらしいし信じましょうバッチ来い!」

「ようこそ聖王教会へ。私はカリム・グラシア、こちらはシャッハ・ヌエラです」

「貴方を信じるとむしろ足を掬われそうな気がするのですが……騎士はやて本当にこの方が?」

 

 おい、はやて。このシスターなかなかのやり手だ、なんかうまいこと言ってきたぞ。

 

「そうや、今はこんなんやけどやるときはやるんやで? 一応」

「ついでにもう一人のメイン協力者は腹痛の予定が急遽入ったためこれず申し訳ない」

「そうですか、それは残念ですね……」

「待ってくださいカリム、腹痛の予定が入ったというところへ疑問を感じてください」

 

 いっけね、口が滑った。はやてがジト目で見てきてるけどカリムさんは普通に流してくれたのかただ残念そうにするだけだし、まあいいやセーフセーフ。

 

「それでツヴァイさんとはやては無事ユニゾン出来たのでしょうか?」

「そこはバッチリや。私も元々適性があるのとツヴァイの基盤には私自身のリンカーコアのコピーをつこうとるからな」

「まー、もともとは適性あるかわからん俺たちが合わすのに使ってた技術転用だしな。そりゃバッチリにならんわけがない」

「へぇ、あなたは個人的にユニゾンデバイス製作をしたことが?」

 

 いやん、なんかおっとり系だったカリムさんの目が鋭くなった。はやてにヘルプと目線を送るが目を逸らされ着信拒否された。ならばとツヴァイをチラッと見たら私に任せろと言わんばかりだ。なんか不安だけど任せた!

 

「あります! ツヴァイの姉、アインスお姉ちゃんの身体はアリシアさんとナナシさんが製作したのです!」

「ふふっ、そうなんですか」

 

 不安的中だよ、言ってやったぜといった雰囲気を醸し出す誇らしげなツヴァイが眩しい。そうじゃない、そうじゃないんだ。

 

「はやてから聞いていた通りなんですね」

「え、なんだとはやて言ってたのか」

「他言無用ってことでな。ツヴァイ製作手伝ってもらう人がおるっちゅーても実績ゼロの素人やったら支援もしてもらいにくいやろ?」

「……子狸」

「聞こえとる、化かしてまうで」

 

 化かすために葉っぱを頭に乗せたデフォルメされた子狸はやてを想像したら……ツボった。似合いすぎだろ……! ゲンヤ・ナカジマ三等陸士はセンスがありすぎると思う。

 

「なんにせよツヴァイが無事誕生してよかったです」

「せやなー、フリーダムな二人に手伝うてもらったせいで不安ばっかやったけど仕事はキチンとこなしてくれたから安心して出来たわ」

「というわけでデバイスの点検はナナシまでご一報を。もしくは製作の場合はアリシアまで」

「サラッと売り込みますね」

「ビビっと来たので」

 

 再びシスターシャッハに呆れた目を向けられるもなんのその。チマチマ働き始めたにも関わらず未だテスタロッサ家居候から抜け出せない俺には死角なし。理由は家事が出来ないから……食費だけは納めるようになったから進歩はあると信じたい。

 

「シスターシャッハどうです? お試しに無料で」

「あなたが見るのですか……?」

「信用のなさが痛い」

 

 俺が何をしたというのか……うん、ここ来てからの言動を思い返せば自業自得でしかなかったわ。その後、はやての援護とカリムさんの後押し、ツヴァイと俺による再度信用を下げるトーク行為によって物は試しということで簡単な整備だけ任された。

 

「うん、今余計なもんが混ざっとったな。なんで自分からまた信用を下げとんねん」

「ついツヴァイにネタを振られて」

「ついナナシさんが打てば響くので」

 

 そんな会話を挟みつつ、はやてたちがお茶する間に10分ほどで簡易メンテ終了。普段からちゃんと手入れしてるのかほとんどやることがなかった。多少処理は早くなるかもしんないけどそれくらい……いつかのライフル型デバイスとは大違いだ。

 

「シスター、出来ました」

 

 手渡し、試運転がてらセットアップ。素振りを何度かしてるけど風がビュンビュンきて正直怖い。

 

「……ふむ、本当に整備はちゃんとするのですね。心なし少し処理が早くなったような気がします」

「まぁ、人様の命掛けるものは基本ちゃんとしますって」

 

 基本。徹夜明けのテンションで犠牲になりそうになったことのあるデバイスがいないこともない。

 

「またご利用の機会があればご連絡を」

「じゃあ、そろそろ帰ろか。カリム、シスターお邪魔しました」

「ええ、また来てねはやて。ナナシさんも、ツヴァイさんも」

「はい! またマイスターはやてと来ます、かもです!」

「俺もまた来ます、かもです」

「最後までそのノリか」

 

 許されそうとわかったところでは自重のブレーキがサヨナラバイバイしてしまって。そんなこんなでなんとか決定的な失礼をすることなく帰路についた俺たちだった。

 しかしツヴァイが俺を惑わすからついつい……

 

「私も罪な女です!」

「判決おやつ三日抜きの刑に処す」

「実は綺麗な女です!」

「嘘つきにはおやつ三日抜きの刑」

「どう転んでもおやつ抜きになってしまうのですか!?」

 

 うーん、楽しくて仕方ない。




感想感謝です。
ツヴァイの書きやすさ、ノリのよい明るい子にしたい。八神家の大黒柱へ下克上目指して今日もノリで生きます。

ふと気づけば空白期は本来終わってる予定だったのにまだ続いている。時系列的に何故かまだ半分越えたぐらいという不具合……よくある空白期エターが脳裏をよぎる、少し巻くか。
なのでStSはもう少し待ってください、すまない……すまない。


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30.でんぷしーろーる

 フェイトが執務官試験に合格した。なんていうと二度目で合格したようだが実はそれは落ちている。しかしそのときには初めて落ちたときのようにフェイトは落ち込まず、不合格だったけど前より手応えがあったと前向きだった。

 そして三度目の正直というのか、三回目の試験で見事執務官となった。

 

 そのときに合格パーティーなんてやったりして、忙しいなか皆がお祝いに来てくれたりした。全員の帰宅後にどこから聞き付けたのかスカさんまでひょっこり祝いの言葉を言いにやって来た。

「私のような人間を捕まえれるほどになりたまえ」

 とか自分で言ってた。プレシアは通報してた……フェイトが逮捕するまでもなくいつか捕まりそうだ。

 

 

 ――そしてその年のうちになのはが魔導師ランクSを取得した。翌年フェイトが魔導師ランクSを取得した。

 

 …………え?

 

 

「ミソッカス緊急会議を開きます! ランクSってなに? ランク消滅? 規格外ですって言外にいってるのかな」

「掃討かもしれないぞ」

「殲滅……かもしれない」

 

 なのはたちがちょっと理解できないレベルに到達してる。プレシアも限定的にランクSSだが、なのはとフェイトはいつでもランクSだ。

 

「はー、フェイトは血筋としても、なのはもはやても地球生まれの魔導師ヤバいな……」

「血筋っていうなら私は? ほら、目をそらさず私を見て答えようよ」

 

 ほっぺを両手で挟まれ逸らそうとした顔が固定される。しかし、視線までは固定できるはずもなく右へ左へ泳がせながら答える。

 

「頭脳、頭のよさは受け継いだじゃん?」

「まぁね!」

「そういえば、私の魔力値は……何がもととなっているのだ?」

 

 アリシアさんったら、頭いいんだから魔力低くてもいっか! とか笑い合ってるとリインがふと疑問を投げ掛けてきた。ピシッと固まる俺たち……

 

「ま、まずは素体としたものの質だよね。これは最上と言えないまでもいいものを使ったよ……?」

「あっ、あとは、あとはー……リイン自身のもともとの保有魔力も微細ながら関係している……はず。これは確定じゃないからなんとも言えないんだけどな」

「…………それで一番の元になったのが私たちのコアかな」

「ごめん、恐らくはやてとかのコアならランクAくらいになってたと思う」

 

 基礎部分にミソッカスの俺たちのコア、言うなれば魔力を生成する部品を安物で済ましちゃった訳だからその分リインの魔力はゴリゴリ減った。

 けど、リインが許してくれるであろうことはわかってる。今も冷や汗流してる俺とアリシアを微笑んで見てるし、きっと気にしてないと言ってくれるのだろう。ただ純粋な好奇心で聞いただけだと。

 

「そうか……気にするな。まぁ、魔力が低くなったことは周りから見れば、いいことではないかもしれない……」

「だよね、ツヴァイは推定だけどA~AAはありそうだし……」

「けど、私は悪くないと思うぞ……? 魔力が低くなったお陰で、お前たちと……お揃いだからな」

「天使か」

「女神だよ」

 

 キャー、リイン愛してるー! と抱きつくためダイブするも未だ小柄なアリシアは容易にキャッチされた。

 一通りハシャいだあとにお昼を食べるために外へと出る。作ってもいいけどはやてほど美味しいもの作れるわけでもないし、正直めんどくさい……というのが三人一致の見解だった。

 

「そういや、アリシアってフェイトに比べて成長遅いよな」

「うーん、こればっかりはなぁ。長い間死んでた(寝てた)のが原因だろうし」

「あー、そうか。というか肉体年齢的には成長期がまだの可能性もあるもんな」

「ここからの数年に期待だね」

 

 寝ていたら……育つものじゃないのか? なんて言いながら首を傾げるリインだけど、永眠っていう睡眠じゃない眠りだったからな。ま、そこはテスタロッサ家の秘密なので笑って誤魔化す。

 

「それに比べるとナナシは伸びてきたよね」

「鼻の高さか、目指せピノキオ」

「えっ、天狗になるほどの実力あった? 発想はともかく技術的にはまだまだだよ!」

「真顔で驚くのはやめてやろうぜ、俺が傷つくじゃねーか」

「身長、の話だろう。たしかに私が初めて会ったときよりも、大きくなったな」

 

 そう言われればそうかもしれん。出会ったときにはリインの胸か肩かの身長だったけど、そろそろ追いつきそうだ。そんなわけで今更ながらアリシアと身長を比較すれば……この通り。

 

「兄妹、みたいだな」

「黒髪と金髪だけどねー。ま、私もそのうちおっきくなると信じて今は待つのみだよ」

 

 鳴り響くサイレンの音をBGMに和やかに会話しつつ昼食の店を探す。ミッド文字は既に余裕で読めるわけだけど、店の位置とかはあんまり把握してないしな。

 テスタロッサ家自体が市街から少し外れたところにあるわけで、車とかの通りが少ない道をプラプラ歩きつつ飲食店を端末で検索……うーん、サイレンがうるさい。

 

「兄妹っていえばリイン」

「なんだ?」

「ツヴァイとはどう? なかなかにノリが良くていい子だと思うんだが」

「ああ、たまに振り回されることもあるが……一緒にいて楽しいよ。姉、という立場も新鮮だ」

「なにか困ったことがあったら姉歴が上の私に聞いてくれたらいいよ!」

「ふふ……ああ、そのときは頼む」

 

 それからリインから八神家でのツヴァイの様子を聞いた。ヴィータは妹が出来たみたいで嬉しがってたとか、はやてとテレビで漫才を見て色々学んでるとか。

 明るくて無邪気な反面、どこの誰の影響か無茶な振りをしてくることがあって特にシグナムとかが困ってることがあるとか。誰の影響かな?

 

 けど、そんな些細なことは置いといて八神家末っ子として楽しく過ごせてるようでよかった。

 

「あとは、大黒柱……に成り上がりたいとか。本当に、今まででは考えられないほど楽しいよ」

「イヤー、楽しそうでナニヨリナリ!」

「なり?」

「なんでもない、なんでもな……あれ誰か来て」

 

 キラリン、と光ったものが飛来し足元に着弾。わー、魔法だ……魔法?

 市街地で普通使われないはずの魔法がいきなり飛んできたことで硬直、リイン含めてである。

 そして悲しいかな、前方からかなりのスピードで移動しながら戦闘をこなしこちらへやって来る人影がふたつ、うち一人が急加速した。

 俺、アリシア、リインの真ん中をすり抜け――俺たちのうち一人をかっさらった。

 

「ヤバい、なにがヤバいって人質に取られた」

「それのなにがヤバイって人質に取られたのがリインなんだけど……胸か、胸の差か!」

「いや、違うだろ」

 

 一般人(リイン)が人質に取られたことに対してか悔しそうな顔をする局員と思われるお兄さんに、動くとこの女ぶっ殺すぞと叫ぶ犯罪者らしき男。せっかく楽しく会話してたのに邪魔されて不機嫌、ニギニギと拳の握り具合を確認するリイン。

 

 今さらだけど魔法には非殺傷設定がある。それは人を直接傷つける可能性を極限まで削って、魔力のみのダメージを与える設定。けどもちろんそれを解いてしまえば、まぁ地球でいう銃弾と変わらない。

 何でこんな話したかっていうと、俺たちを庇うように前に立ってくれてるオレンジの髪の色したお兄さん。あちこちから血を流している。リインを人質にしてる男が非殺傷設定を無効にしているようなんだ。

 

 リインがこちらをチラリと見る。念話を使わず口パクで『伏せろ』と言った。

 それに従い俺たちが伏せると――局員のお兄さんに注意が向ききっていた男が、キリモミ三回転捻りを加えて宙を舞った。

 見事なアッパー……いや、フックか。見間違いでなければガゼルパンチだった。そんなもんどこで覚えた?

 

 しかし相手も一筋縄ではいかない奴だった。ギャグシーンの一コマのようにブッ飛んでいるにもかかわらず、手に持ったデバイスは正確にリインを捉え魔法が撃ち込まれ――る前にリインが追撃のニーキック。

 

 股間を捉えた、股間を捉えたんだ。膝が、男の子の息子を、見てられない。

 

 あ、あぁぁぁ……死んだ、あれは非殺傷設定がどうとかそういう問題じゃない。男ならわかる、死んだ。

 男はトラックに轢かれたかのように回転し、軽く100mは地面に打ち付けられ転がっていく。倒れた男はピクリとも動かない。

 

 あんまりにもあんまりな光景に両手で目を隠しながら指の間からチラチラ見てた俺とアリシア。プレシアの次に怒ると怖い気がしてきた。

 

「ふぅ……さ、ご飯にいこうか」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「……なん、だ?」

 

 表情の変化が普段からわかりにくいリインなんだけど、珍しくすごく面倒そうにしている。横のアリシアを見る、こちらもメンドくさそうだ。

 

「ナナシも面倒臭そうじゃん」

「だってあれだろ、リインが犯罪者を倒した。そのリインはユニゾンデバイスだったナンダッテーから」

「作ったのは誰だ、私たちだ。うわ、やっぱ面倒」

「まぁ、俺は技術的に鼻が天狗にならないレベルでしかないから問題ないけどな! ウワー、アリシアさん大変ソウダナー」

 

 別にさっきのことを根に持ってなんてない、ないったらないのだ。デバイスマイスター補佐資格取れたし、そこそこにはなれたかなーと思ってたのに傷ついたとかそんな事実は一切ないんだからな!

 言われたことが事実で反撃の糸口がここしかなかったとかそんなこともない、ないない尽くしなんだ。

 

「うぐぐ、撤退! 撤退だよリイン!」

 

 頷いたリインはお兄さんの前まで歩いていき……猫だまし。

 パァンッ!! と掌を素早く合わせ叩く、手に火薬でも仕込んでたのかと疑うレベルの空気を叩くような音。猫だましの風圧でお兄さんの髪の毛がたなびいたし。

 

「うお!?」

 

 怯んだ隙に横をすり抜けたリインは両脇に俺たちを抱え猛ダッシュ、その走る姿はまさに韋駄天。

 ちなみにその後、逃げ切ったはいいのだが俺とアリシアはぐったりしてた。足が速いのはいいんだけど魔法の補助もなにもなかったので上下に揺れる揺れる。結果的に少し酔った。

 

「あれだね、速度的に私たちは風になってたよね……」

「風じゃなくてあれはトラックでドナドナされる子牛だろ……」

「すまない……逃げることだけ考えてたんだ、すまない」

 

 謝りながらも昼食のサンドイッチを頬張るリイン。面倒そうにしてた理由はお腹が空いてたからだったらしい。

 

「しかし、逃げてきたけどよかったのか……?」

「別に悪いことはしてないからいいんじゃないかなぁ、たぶん」

「それよりもリインの戦闘力が恐ろしいことになってる件について」

「主はやてがな、私の身体能力が高いことを知られてから……でんぷしーろーる? を見てみたいと言われたので地球のボクシングを練習してたんだ」

 

 身体を∞の軌道で揺するリイン。まだ上手く∞が描けなくてな……とか言ってるけど普通そこまで出来ないから。

 

「……なにを参考に?」

「主の持っている漫画だが? それを見せられ、お願いされたからな……主には秘密で練習しているので、黙っていてもらえないか?」

「あ、うん、いやいいんだけど……」

 

 はやてぇ……あれだ、絶対まっくのうちまっくのうち! って掛け声のある漫画見せただろ。無茶振りのつもりで見せたろ?

 けどある意味ツヴァイより純粋かつ実現するだけの身体能力があるリインが、今まさに漫画の幻想を現実にしようとしてるぞ……! 実際さっきはガゼルパンチ放ってたし。

 リインなら空気投とか虎王とかもいつかやりそう。

 

「最近私たちの周りが戦力過多すぎる!」

「俺たちが魔導師ランクEで他は最低Aランクくらいってどうなってるんだろうか」

「B、C、Dはどこに行ったのかな?」

「よくよく考えれば、凄まじいな……」

 

 戦力がすごいだけじゃないけどな。はやてはこの頃上級キャリア試験に合格したともいっていたし、なんか皆ミッドで自分の道を歩み始めてる。

 

「ただ、なのははこっちで過ごすにしても国語の呪縛から逃しはせん」

「あー、中学校にあがってからまた難しくなったって言ってたね。今度ナナシに教えてほしいって泣きそうになってたよ」

「泣きそうなのは国語のせいか、俺に習うのが嫌すぎてかどちらか……そこが問題だ。まぁいいか、ありおりはべりいまそがり殺法で打ちのめしてくれるわ」

「バスターで撃ちのめされないくらいにしなよ?」

「撃ちのめされるってナニソレ怖い」

 

 というか、なのはもさすがに勉強できない腹いせにバスター撃ってくるような奴じゃないから大丈夫。たまにレイジングハート握りしめて睨んでくるから怖いけど大丈夫、きっと大丈夫。急にレイジングハートが恋しくなってるだけだろうし問題ない。

 

「まー、それぞれ皆自分の道を歩み始めてるんだなぁ」

「私たちがある意味自分達の道の最先端走ってそうだけどねー。ナナシもこの頃は色々回ってるんでしょ?」

「気ままにふらふらーとだけどな、聖王教会とか陸とか……」

「そのふたつって仲が悪いはずなんだけど」

 

 知ってる、たまに陸で会うおじさんが愚痴ってたり聖王教会のカリムさんが整備する横でなんか会話相手探してくるから、暇なの?

 まぁ、そんなこんな色々あるけどそれなりに出来ている。こっからどうなるかはわからんけど、今はこれでええんじゃなかろうか。

 

「さて、気を取り直して飯、だ……リインどんだけ食うの?」

「皿の山が出来そうだよ」

「動くと、腹が減ってな……」

「そんな設計はしてないよ……!?」

 




感想感謝です。
ミソッカスの一人くらい戦力があってもいいじゃない……なんて建前投げ捨てて、ちょっと前回ミスにより失敗したフラグ折りにいきました。
しかしナナシじゃどうしようもないのでフィジカル★リインに丸投げ。そ


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31.国語「よう、帰ってきたぜ」

 目の前に並べられるは人の知力を数値化したのもの。

 各々特色があるもの同士に分け名前付けした区別ごとに、ある集団として全員もれなくそれら全て同じ内容のものを解くことにより時には順位付けすら可能にし現実を叩きつけてくる。

 そして結果が目の前に、その奥には燃えつき白い灰となった一人の少女がいた。吹けば飛びそう、吹かなくても魔法で飛ぶんだけど。

 

「なのはさぁ……国語の点数どうしたの? なに、地球生まれのミッド人だったっけ? かめはめだかギャリックだかの砲撃撃つもんね。スーパーミッド人にでもなるの?」

「ナナシくんが容赦なく死体蹴りをしてくるよぅ……」

「そうだね、泣きっ面に蹴りだね」

「そこまで掘り返すの!?」

 

 今まさに合ってるかなって思って。珍しく高町家に来てるわけだけど、なのはが国語を教えてほしいと言ったのでお邪魔している。はやても来てるんだけど正直これ国語教える面子としていいのか悪いのか。語彙としてはそこそこいい線いってるけど、その線から脱線する未来しか見えない。アリシアとフェイト? どっちとは言わんが妹はともかく姉まで来てみろ、真面目に勉強できなくなるぞ。主に俺と姉が原因で……お互いそういう自覚があるので二人は留守番してる。

 しゃーない、ワタシ国語大好きーくらいしか口に出せないようにしてやろうではないか、

 

「怖いよ!?」

「いやだって、お前これ……」

 

 机に並べられたうち一枚のテストを手に取る。科目は国語、点数は虫の息。たしかに中学ってレベルが一気に上がるけどこれは酷い。どのくらい酷いかと言えばテスト返却時に担任に心配されたらしい。これは普段のなのはの素行がよくて他の科目も良いからこそなんだろうが、なのはにとってはただの追い討ちである。

 死体蹴りかましてる俺が言えたことでもないけどな!

 

「まだ本格的とは言えんけど古典も入ってきたからなぁ。20点ぶんほどやけど」

「そして見事20点落としてるな」

「うっ……」

「それでいて現国に当たるとこもそりゃ小学校のときより難しいなっとるしなぁ」

「そして見事に50点近く落としてるしな」

「うぅぅぅ……」

「その結果がこれや」

 

 何がそこまでわからないのかわからない、っていうのは通じないよな。わからんもんは出来ん、それはわかる。

 おや? はやてがこちらをチラリと見て……

 

「……無惨なもんやろ? 嘘みたいやろ? これ……テストなんやで」

「テッちゃぁぁぁん!」

「テッちゃんって誰!? それより泣きたいのは私だよ!」

「いや、だってもうこの点数は事故みたいなもんだろ」

「正真正銘全力でやってこれだよ!」

「うはは、言わせんなよ。照れんじゃん」

「それ! 私の台詞! しかもナナシくん照れてないし! 真顔じゃん!」

 

 まぁ、くどいようだがこの点数見たら真顔にもなる。

 見てたテッちゃん、じゃなくてテストをパシンと机に置くはやて。他の教科は大丈夫なのに、いや社会もやや悲しげだがそれを除けば優秀な部類だ。国語と社会(現代)が駄目とか本当にどこ生まれなのかと思うが両親が日本人なので恐らく日本人なんだろう。バスター撃つとこ見ると死に瀕する度戦闘力の上がる戦闘民族かとも疑うが……なのはは死に瀕することなくバスターの威力が日に日に上がってるので困る。

 

「諦めよう、諦めてミッドに移住しようぜ!」

「いい笑顔で教える前から諦めないで!?」

 

 だってこれはもう日本にいたくないって心が叫んでるだろ。私は世界に羽ばたきたいの、むしろ異世界に羽ばたくわ! って無自覚に思ってんじゃね?

 

「そ、その論法でいくと日本語が得意でミッド語が苦手なナナシくんは日本にいたがってることになるよ!」

「ごめん、とっくの昔にミッド語は習得してるから。フリーとは言え仮にも仕事してる身だぞ?」

 

 なのはは めのまえが まっくらになった!

 

 さて、ショックでフリーズしたなのはを横に退かしはやてとどこを集中強化するか話し合う。

 

「まー、真面目にやるならまずは現国の強化やね」

「えー、せっかく国語苦手ななのはのために古文式ありおりはべりいまそがり殺法、漢文式レ点一二点上下点殺法考えてたのに」

「ちょ、ちょっと待って。殺法って言ったよね、ナナシくん殺法って言ったよね?」

「今のなのはちゃんにそこまで教えると逆にどれもが半端になりそうでなぁ、言葉通り殺法になりそうや」

 

 ナイススルーはやて……しかし、残念。鞄から出そうとした古典問題百集を仕舞う。何故かなのはが信じられないものを見るかのように鞄を見てたけど何故だろうか、わからんな。

 実際現実的なことを言うなら点数配分が大きく、古典という外国語一歩手前なものに比べれば簡単な現国からやるのは良い。

 

「んー、見た感じ小学校でやったことを丸々頭のなかから破棄してるわけやなさそうなんよなぁ……」

「ポカミスも目立つしな……漢字間違い無くせばそれだけで10点ちょい上がるぞ」

「メイアンをわける、のメイアンを漢字で書きなさい」

 

 なのはさんの答え、名案。名案を、分ける……そうか名案を分けるのか。

 

「名案分けてどうすんだよ、愚案になるの?」

「先が明るいかお先真っ暗かやねんから意味と一緒に覚えるとええんよ?」

「あ、そっか……はじめに名案が浮かんだらそれ以外出てこなくなっちゃって」

「こう、なんだな。なのはって意外に頭固いよな」

「そ、そんなことないよ!」

 

 いやいや、本文を読んでから四択で答える問題だいたい間違えてるぞ。それも間違え方が出題者がひっかけとして用意した答えに見事に掛かっている、イヤーこりゃ大漁だな。まぁ、的外れなのを選ばずに引っかけにやられてるってことは小学校での成長を砲撃で頭の中から吹き飛ばしたわけでもないらしい。

 

「失礼なこと考えてない?」

「いや全然」

 

 しかし如何せん応用力がないと言うべきか、なのはの頭の固さと言うより正しくは頑固と言うべきか。クロノとかかに聞いたけどジュエルシード事件のときも敵だったフェイト見捨てれずに封印手伝いに来たり……ここはなのはの優しさもあるんだろうけど。しかし頑固、一度決めたら引かない。

 敵であるフェイトから必死に話を聞こうとしてた。時には砲撃付きで。

 

 ヴィータからも話は聞いた。突然襲ってきたヴィータに対してもしつこい程に話を聞かせて欲しいと言ってきたと。それこそ砲撃付きで……なのはの意地と砲撃はセットなのかな?

 

 いやいや、頑固さならフェイトも負けてないはずだが何なんだろう。この、戦闘スタイルの差か? 小回りとかの瞬時の判断が必要なヒット&アウェイなフェイトと、バインドやシューターを使いながらも基本砲撃で押すなのは。

 

「なのは戦闘スタイル変えようぜ、シューターをもっと活用しよう」

「ふぇ? ナナシくんがまた唐突な話題を……なにを考えてたら国語から戦闘スタイルの話になるのかわからないよ……」

 

 やめろ、変な人を見る目で見んな。不本意ながら慣れてきた自分が怖いんだ。

 

「ほら、なのはって基本砲撃ばっかだし、他の基礎的なものもコントロールは鍛えてても技のコンビネーションとしてはあんま使ってないじゃん? つまり応用があまり効いてない、よって頭も固くなる」

「うぅーん。た、たしかに砲撃で決めることばかりだけど……って私頭固いって認めてないよ!」

「たまには普段とは逆に砲撃を囮にして、後頭部へのシューター一撃くらいなコンパクトさで仕留めれるくらいの応用力をだな」

「それはそれでえげつない気がするの……」

 

 そうすると模擬戦相手の被害が少なくなる、さらに国語の点数も上がる、模擬戦相手の被害が少なくなる少なくなるんだ。

 おう、俺のことだよ、そろそろ俺を誘うの止めてやれ。(ユニゾンのせいで)リイン共々死に物狂いだぞ。そのお陰かは知らないがユニゾン時間は1分30秒まで伸びた、別に嬉しくない。逃げ足はクロノに感心されるほどになった、むしろ泣きたい。

 

「戦闘スタイルの話に摩り替わっとるでー……まぁ、なのはちゃんの頭が固いんは事実やけど」

「チィッ、ともかくなのはの石頭をほぐそう」

「ナナシくんがどんどん雑になってない!?」

 

 なってないなってない。残念ながらなのはの戦闘スタイルの主軸を砲撃じゃなくならせることには失敗した。だがしかし、国語は着々と弱音を吐こうとも俺とはやてが容赦なく叩き込んだ。鬼になれ俺、別にたまの模擬戦のお返しとか思ってないし。思ってないって、教えてるだけだから。ほーら国語大好きになーれー。

 

「も、もう無理……」

「教導隊の皆にこのテストコピーしてバラ撒くぞー、無限書庫にもチラシのように撒くぞー」

「やめて!? というかなんでナナシくんは教導隊にも知り合いがいるの!?」

「知り合いはいない、ただデバイス点検請け負ったことある人がいるだけで」

「……ナナシくん微妙に顔広いねんよな、聖王教会でもナナシくんのこと知っとる人おるし」

 

 知り合いってほどじゃないけどね。またのご利用お願いしまーす、くらいの知り合い未満他人以上の風が吹けば消えるような関係。ないよりはいいけど。

 てか、なのはは問題解け解け。もう頭は固くていいから問題の傾向を覚えろ。これは方程式だ、こういう質問イコールああいう答え。ちょっと様子がおかしいがこのまま叩き込む――!

 

「にゃははー、方程式だ……!」

「あかん、なのはちゃんが壊れ始めた」

「ほぅら、ゴニョゴニョな質問イコールチョメチョメな答えになるだろ?」

「す、数式と変わらないよ……!」

「違うでー、全然違うでぇ。ナナシくんストップや、なのはちゃんの目がグルグルになってきとる」

 

 ついでに頭の上にくるくると星が回ってきてるがスターライトブレイカー撃てるので問題ないだろ、たぶん。頭の上の星もブレイクできるって、きっと。

 

「ちょー待ち待ち!」

「ん? 大丈夫、もうすぐきっと国語大好きっ子になのははなれる!」

「国語への拒絶反応と疲労と他諸々がしっちゃかめっちゃかなっとるだけやろ!?」

「む、ならもとに戻すか」

 

 お星さまとお目目がくるくるローリングしてるなのはにソッと近づき――耳元にフゥッと息を吹きかけた。

 ブッワッ、という効果音が一番適してただろうか。なのはの毛が逆立ったように見えた。そして、一拍遅れて悲鳴。

 

「にゃあぁぁァァァあアアああ!?」

「なんちゅう……ことを」

「うむ、効果覿面だな。現実世界へお帰りなのは、国語は大得意かい?」

「だっだだだだ!」

「ダイソン、世界でただひとつ変わらない吸引力?」

「違うから! 大の苦手だよ! ってそうじゃなくてナナシくん何してるの!?」

 

 涙目で詰め寄ってくるなのは。ひとまず落ち着いてほしいんだがな、具体的には肩を掴んで前後に揺するのをやめてほしい。これが他の人間なら気持ち悪くなるところなんだけど、あまりにもなのはが非力すぎて眠くなってくる。

 

「まぁまぁ、なのはちゃん落ち着きぃな。これ見てみ?」

「国語の問題……あれ、はやてちゃんかナナシくん解いてたなの?」

「いや、それなのはが解いてたやつだぞ? 虚空を眺めつつ、うふふーコクゴダイスキーって言いながら」

「怖いよ!? え、ホントに私がやってたの!?」

「国語は方程式とか言うてたなぁ……」

 

 そんなバカなとワナワナ震えてるなのは。そうだな、身に覚えのないことが起きると怖いよな。何より怖いのは解いた問題の九割が正解なことだよな。

 

 そのままその日は無意識のままなのはの頭も疲労度マックスとなっており解散となったのだが……後日。

 

「ナナシくん! 明日テストなの、だから私を前の状態にして!」

「無茶を言うな、おい……普通に勉強しとけよ」

「無意識に解けてたなら出来るかなって」

「それで一応試したら五割以下と……潔く散れなのは」

「うぅぅぅ、無意識に解けてたのになんで……!」

「暗記パン食うか?」

「えっ、あるの……ってそれただの食パンと油性ペンだよね!? お腹壊すだけだから!」

「ヤカンに水入れてきたよ!」

「ちょっと待ってアリシアちゃん! 今アリシアちゃんまでここに参加したら本当に私のテストが不味いの!」

 

 結局その日の夜中まで国語の一夜漬けというなんとも異色の勉強に付き合わさせられたのだが結果は推して知るべし。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
空白期が予想外に延びてるというのに全く関係ない話をぶち込む作者はこーこだ。本編進めない方がやり易いとか思ってないです。

完全にタイトルの出落ち感。決して、なのははアホの子なわけでなく国語が壊滅的なだけ。他の科目が良いだけあって周りもツッコミにくい中ナナシとはやては容赦なく弄る。そんな仲。


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32.電気少年のち田舎娘

 今から一週間前、フェイトに子供が出来ステイ待って止まってプレシアさん! 言い方が悪かっ――カット。

 

 聖王教会へ出向きデバイス整備をして帰宅したあの日。フェイトが一人の少年を連れ帰ってきた。こう言ってはなんだが第一印象はかなーり悪かったのだ。いや、俺が少年――エリオ・モンディアルを嫌ったとか生理的に無理だったとかじゃなく向こうから敵意がビシバシと伝わってきた。彼に何があったのか知らないし知るつもりもない。フェイトはプレシアには詳細を話そうとしてるようだが俺にとってはこの居心地の悪さをどうしてくれようと考えることに意識を100%向けていた。

 

 そんなこんなで睨まれ続けること一週間。手軽な手品を見せたり適当に話しかけてみたりするも無反応……一度触ったときに電気付与した手で払い除けられた。エリオは一瞬『やってしまった』みたいな顔してたが、フハハハ痛かったけど普段からプレシアの落雷の危険に曝されてる俺には効かん。いやそうじゃなく、とにかく反応が返ってこない。アリシアたちも色々やっていたがフェイト以外に心を開かなかった……そのフェイトにすらまだ心を閉ざしてるところがある。

 まぁ、こういうのは時間が薬だろうな……

 

 ――さて、ショック療法のお時間です。一般的には時間が薬かもしれんが俺には知ったこっちゃない。その表情が死にきった顔の筋肉に仕事させちゃる。

 

 そうして連れ回した夢も希望も魔法もあるネズミーランド。とにかく表情を変えてやろうとジェットコースター、フリーフォール、その他もろもろ絶叫系マシーンに乗せたわけよ……吐いた。俺が。

 

「ヴォボロロロォォォ」

 

 俺の三半規管はエリオより弱かったらしい。ついでに残念ながら草葉の陰で俺が吐くゲ□には光の加工もモザイクもかからず中々に凄惨な光景となっている。なんかちょっとエリオが引き気味に心配そうな表情になってるけど違う、そういう風に表情を変化させたかった訳じゃないのにどうしてこうなった。

 何はともあれエリオに無表情、睨む以外のバリエーションが出来たのでよかったとしよう。

 

「おえっぷ……ふぅ、よし」

「よし、じゃないよ!」

 

 とか考えてたらチョップをかまされた。振り向けば息切れし呼吸が荒いフェイト。随分と疲れてるようだが何かあったのか?

 

「何かあったのかでもない! 朝起きたらエリオとナナシが居ないからすごっっく焦ったんだよ!?」

「書き置きあったろ?」

「そんなの見てないよ!」

「え、えー……」

 

 フェイトからほのかに漂う親バカの雰囲気。親バカに天然さがブレンドされちょっとした暴走列車へと変貌してる。

 肩を持ち前後に揺さぶられブババババババ、酔う……酔うから、中身はもうないけど吐きそう。なのはにやられる100倍速ほどで前後にフェイトは揺らすんだもの。しかし、それは不意に止まった。遅れてやってきたアリシアが止めてくれたのだ……が、

 

「フェ、フェイト……ストップ、げっほげっほ」

 

 虫の息だった。運動神経は悪くないものの体力においてはなのはをも凌ぐ無さを誇るアリシア。そんなアリシアは全力疾走のフェイトを追ってきたのだろうが今にも倒れそうだぞ。

 

「うぷ……久々に生身で走ったから死にそう」

「肉体強化くらいすればよかったのにな」

「うふふふ……忘れてた。そういうナナシも顔青いけど? 魔法で強化しとけばよかったんじゃない?」

「うははは……忘れてた」

「笑ってないで理由を教えてナナシー!」

 

 お互いに肩を叩き合い悲壮さを醸し出しつつ笑う。そこにフェイトが俺と、さらにアリシアを巻き込みガクガクと揺する。

 

 ――ハハッ。

 

「え……?」

 

 そのときフェイトには笑い声が聞こえて振り向くと、エリオが笑っていたらしい。なんでらしいかって言うとそのときの俺にエリオを見てる余裕がなかった。フェイトの揺さぶりでHPの尽きたアリシアとともに地面に伏してた。

 

「……もう、疲れたよナトラッシュ」

「……無理矢理過ぎねぇ?」

 

 ――後々エリオになんで笑ったか聞いたら、いつも大人っぽい感じだったフェイトがあまりにも慌ただしくてテンパってたのが意外すぎたらしい。

 

 まぁ今はそんなこと露知らずエリオが笑ったことを喜び、後ろで倒れる俺たちの存在を忘れているフェイト。周りの視線も気にせずちょっと頭がお花畑になってないか心配なほどの笑顔でエリオの手を掴みくるくる回ってる。

 

「せっかくだから遊園地回ろっかエリオ!」

「え、あ……はい」

 

 そうしてエリオの手を引き親子……には見えないが仲のよい姉弟のように遊園地の人混みに紛れていく二人。

 エリオはここ一週間見たこともない、柔らかな表情をしていた。やー、なんか連れてきた甲斐があるなぁ。

 

「ああやってみると仲のいい姉弟だな」

「地面に倒れた実の姉がここにいるんだけどなぁ……うぐっ、立てない」

「俺は回復した。じゃ、お疲れさまー」

「ちょっと待とうかナナシ、こんなところに倒れた美少女を置いていくってどうなの?」

 

 そう言われ周りをキョロキョロし探すも見当たらないというジェスチャーをアリシアに送る。

「うがー! 私を助けろやー!」

 

 うつ伏せのまま地面をバッシバッシ叩き怒れるアリシア、元気じゃないか。もう遊園地の地面に何の恨みがあるのかってくらい叩いてる。

 

「あいよ」

「お姫様だっこでよろしく」

「あれってかなり筋力いるらしいんだが途中で落とすかもしれん」

「駄目だから、なら背負え」

 

 しゃーないのでどっこらせと背負う。そのまま帰ろうとするのだが……

 

「ナナシ! フラフラしてる! めちゃくちゃ揺れてるんだけど!?」

「そういやさっきまで絶叫系マシーン乗ってて何気に平衡感覚と体力削っててな……」

「頑張って、超頑張って! 倒れるとしても前に!」

「背中にクッションがあるから後ろでよくね?」

「よくないよ!」

 

 アリシアが重いわけでもないけど、むしろ妹のフェイトより軽そうなんだが如何せんダメージを負いすぎた。なんでエリオは平然としてたのだろうか……?

 

「でもエリオが笑ってくれてよかったよかった」

「そうだねぇ、私としてはナナシが動いたことが驚きなんだけど」

「家のなかが辛気くさくて耐えれんかった……」

「らしすぎる理由で私は安心したよ」

 

 背中でアリシアがカラカラと笑っている。俺の膝もカクカクと笑っている。

 

「ねぇ、ナナシ……凄い震えてるんだけど?」

「あ、駄目だこれ」

「ちょ、待って待って! せめてゆっくり座ろぁぁぁああああ!?」

 

 結局遊園地を出てすぐにぶっ倒れた俺withアリシア。倒れた向きは真っ正面、芝生がなかったら即死だったぜ。芝生でも相当痛いけどな。

 その後やっぱり体力の回復は俺の方が早く再び金髪の荷物を背負って帰宅したのであった。

 

「はー、こういうときちっちゃいままでよかったと思うよ」

「いや、伸びてきてるぞ?」

「え、嘘!? 帰ったら測る!」

 

 

▽▽▽▽

 

 

 遊園地に行ったあの日から2年が経ち、エリオが時空管理局本局の保護施設でお世話になることが決まり、テスタロッサ家から去ってしばらく。

 つい先日……というか数ヵ月前に空港で火災に巻き込まれたりもしたがそれは置いておく。今はそれどころじゃない。

 再びフェイトが子供を連れ帰ってきた。フェイトがペットを拾うみたいな周期で子供を連れ帰ってくる。しかし、やはりと言うべきかしばらくテスタロッサ家で過ごしてもらうことになるらしい。

 

「キャ、キャロ・ル・ルシエです」

「噛みそうな名前だ」

「私はアリシア。あっちはナナシだよ、よろしくね」

「名無しなんですか……?」

「何気にそう勘違いされたのは初めてな気がすると心の片隅で思いつつ訂正するとナナシってのが名前なのだ」

「あ、すみません!」

 

 うーん、エリオは初めの頃近寄るなってバリアー張ってたけどキャロはそうでもないらしい。ただ少し落ち着かないのは……ま、他人の家みたいなもんだしそりゃそうか。お持ち帰りのデバイス点検の仕事をしつつ――やっべ、配線繋げるのミスった――仕事をしつつ! キャロと挨拶を済ませた。

 

「ナナシ、手元大丈夫?」

「ダイジョウブダイジョウブ、まだ何とかなる。ちょっとお偉いさん寄りの人から頼まれたやつだけどセーフ! セーフ!」

「零距離ディバインバスター並みにヤバそうなんだけど」

「うっせ! 俺の不測の事態に対する適応力舐めんな!」

 

 こちとら異世界に跳ばされたあげく記憶も魔力も所持金もなしの頭おかしいイレギュラー状態に適応してんだ。これくらいなんとかしてやらぁ! と言いつつかなり実は必死。うちにやって来たピンクの幼女を気にする暇もない。

 

「あ、あー……うわっ、おぉー何とかなりそう。この追い詰められるとやれる感じ――駄目人間の香りがするね!」

「割りと必死だからちょっとシャラップ」

「ん、手伝いは?」

「大丈夫」

 

 結論、何とかなった。

 それからのキャロという少女との生活の初日はある種エリオと過ごした日々より驚いた。何に驚くってキャロってばかなりのカントリーガールだった。

 平日はフェイトは学校や管理局、プレシアも研究所に出るのでアルフを初めとした家に居やすい俺、アリシアが一緒に過ごしてたのだがコンロで驚くってどこ生まれだ。いや、フェイトにはル・ルシエの里って聞いたけど知らんがな。

 

 例えば――

 

「じゃあ飯作るか」

「オムライスよろしくー」

「私も手伝います! ……火ってどこでおこせばいいんでしょう?」

 

 例えば――

 

「風呂沸かしてくる」

「よろしくー」

「私も手伝います! ……火ってどこでおこせばいいんでしょう?」

 

 例えば――

 

「暗くなってきたな、アリシア灯りつけてくれ」

「あいあいー」

「私が灯します! ……火ってどこでおこせばいいんでしょう?」

 

 どんだけ火をつけたいんだ。あと電気の概念どこで迷子になってる? キャロも初日は現代科学に目から鱗を落とす勢いでその便利さに驚いてたけど、俺も魔法の世界は大体発達してるって偏見がぶっ飛んだ。魔法と昔ながらの生活様式という生活圏……というよりも世界はあるらしい。

 

 しかし目を見張るべきはキャロの適応力。

 噛みそうな名前のわりに生活にはすぐ噛み合い始めてた、とアリシアに話したら5点と言われた。辛い。

 

「キャロが来てからちょっと経ったけど魔力とか足したらあんたが勝ててるのがデバイス関係だけになってきてないかい?」

「おう、アルフ止めろ。むしろ魔力は元々大敗だし、家事においてももう横並びしてんだ」

「イコールで私もマズい、保護者とはなんだったのか。あ、フェイトだった」

「あ、皆さんお昼はサンドイッチでいいですか?」

「うん、ありがとう……じゃなくて! キャロは休んでていいから! 家事は私たちがやるから!」

 

 こうしてキャロがあまりにも自然に家事をこなしていくので流されそうになる。このままでは駄目人間になってしまうとアリシアと俺も家事をこなす。元から駄目人間な気もするがそんなことは無視だ。

 キャロに任せてて一番大変なのはフェイトが知ったときに怒られる。それはもうプンスカプンスカ怒って、かなり時間がかかる。プレシアみたいに電気は飛んでこないがお説教が長いのだ。

 これは完全にプレシアの親バカはフェイトに引き継がれていると確信した。

 

「まぁ、サンドイッチなら皆で作ればいいんじゃないかい?」

「それだ。じゃあナナシはパンの耳をカットして具材を洗ってそれもカット。パンにマーガリン、マヨネーズ、カラシを塗って具材を挟んでおいてね! キャロのはカラシ抜きで!」

「よしきた、アリシアの具材はワサビと唐辛子、ハバネロでよかったよな?」

「いい要素が何一つない!」

「なら手伝え」

 

 料理を作っててわかった、ぶっちゃけ包丁さばきは元からキャロが一番だ。だって鶏までなら解体できると言われたらなにも言えない。このカントリーガール逞しすぎるだろ。

 

「デバイスの解体と組み立てなら負けないんだけどねぇ」

「さすがに鶏は組み立てれません……」

「いや、デバイスの解体速度に鶏の解体速度で対抗しないで」

「ふふー、冗談です!」

「ナナシぃ、カントリーガールが逞しすぎるよぉ」

「奇遇だな、同じこと考えてたわ」

 

 完全にインドア系で、いやたまに強制的にアウトドア(模擬戦)になることを除けばだがインドア系で都会っ子よりの俺たち。キャロがたまにぶち込んでくるブラックよりなジョークについていけない不覚……

 

 ま、それから一年ほど経ちキャロは自然保護隊へ入ることが決まった。

 

「いやー、らしいなぁ」

「このまえ来た手紙によれば自然保護隊で鳥獣調査中だってさ……私たちが行ったらどうなるかな?」

「鳥の餌になって帰ってこれない」

 

 骨すら帰ってこれねぇんじゃないかな。たぶん家に帰れず森に、自然に還るってブラックジョークみたいな事態になる。キャロなら笑いそうだが俺たちは切実すぎて笑えない。

 

「だね。フェイトー、次どんな子拾ってくるの?」

「期間的にはあと一年ほどしたら連れてくると予想」

「そんなペットを拾うわけじゃないんだから……でも泣いてる子がいたら私はその子が笑顔になれるように頑張るよ?」

「眩しいなー、さっすが私の妹!」

「あの母とこの姉からどうしてこんないい子が生まれたのか甚だ疑問だわ」

「ナナシどういう意味かなー?」

「ほっへひっはんは」

 

 額に怒筋浮かべたアリシアに両方のほっぺを引っ張られつつ思った。プレシアに聞かれてたら死んでたな、と。震える携帯を放置しほっぺの微妙な痛みを無視しそう考えてたのだが、

 

「ほはっ」

「ぶふぉ!」

 

 ――しかしやられっぱなしもなんなので脇腹をつつき反撃した、そんな昼下がりであった。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
あと少しで全くもって空白じゃない空白期も終わりそうです。エリオは初め暗そうなイメージで動かしにくかったです。カントリーガールは竜のこと以外逞しそうなイメージで書きました。

ル・ルシエの里は作者のイメージの犠牲になった。


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33.下は大火事、上は大雨

 テスタロッサ家にキャロがやって来る少し前のお話。

 俺とアリシアは飛行機に乗っていた。いやなんだろうな……車があるんだから飛行機があることも知ってたけどさ。魔法という文化が浸透してるくせして地球と変わらない、いやそれ以上の科学も発展してるミッドには開いた口が塞がらない。

 

「ふぃー、楽しい仕事だったねぇ」

「あー、まぁな。かなーり特殊だったけどな」

「だからこそだよ」

 

 元々は俺が頼まれた仕事なのだがその内容が極めて珍しかった。

 “意図的にデバイスに不具合を起こさせて欲しい”

 

 そんな内容だった。始めはさすがに俺も首を傾げた。しかし、武装部隊としてデバイスに不具合が起きた緊急時に対処できるようにする訓練のためと聞き納得し引き受けた。それに加えてもちろん不具合を起こさせたデバイスは訓練後には正常に直さなければならないわけで……世知辛い話なのだがこれを依頼してきたのは陸の武装部隊。面倒な内容の仕事のわりに財政的にもカツカツな陸からの報酬は大口の依頼としてはちっと少ないものだった。

 そんなわけで普段からフラフラーっと格安とまでは言えないけど割安でデバイス整備してる俺に話がきた。

 

「それでもナナシは引き受けたんだよねぇ」

「どうせ暇だったし大口な仕事だったからなぁ、それに嬉々として着いてきたアリシアも人のこと言えないぞ」

 

 そう、一人ではさすがに厳しかったので一人で百人力のアリシアに声をかけたのだ。ついでに喜びそうだったし。実際に、度肝抜いてやるよ! とか意気揚々と参加した。

 

「そりゃ、意図的に不具合を試せるとか面白すぎるよ!」

「お陰で俺一人でやるよりウン倍阿鼻叫喚の訓練になったけど」

 

 不意の事態で起こらないような意図された不具合じゃ訓練にならないので自重はしてたようだが。

 砲撃魔法を撃ったお兄さんが反動でロケットのように後ろに飛んでいった姿は忘れられない。射角的に空から地上に向けて撃ち込んでたので本当に空に向かって軌跡を描いて星になってたし。無茶しやがってと敬礼するアリシアと俺を除いた他の方たちは愕然としてた。

 というか、そこからかなり慎重に使うようになってた。

 

「あれはね、普通は自動的にオンになってる無反動装置系を駄目にしたうえに、術者が踏ん張るための擬似的座標固定のための魔法が駄目になるっていう極めて特殊な不具合だね! だから星になったのも不具合のせいだよ!」

「不憫すぎて涙が止まらない」

 

 整備状況にもよるけど発生する確率にして1%切ってんだろそれ。

 

「ナナシの魔法のプログラム読み込みが正常にされないやつもえげつなかったよ」

「シールド張ろうとしてたのに加速魔法が何故か発動されて魔力弾に突っ込んでいってたやつか。けど不具合だし仕方ないよな」

「仕方ないね」

 

 しかし流石武装隊の皆様というべきか。初めはデバイスに振り回されがちだったが半刻もしないうちに適応し始めていた。後半は俺もアリシアも意地になり始め、自然に起こる不具合という縛りのなかで如何にとんでもないものを起こせるかという部隊の人達にとっては迷惑なことをしてた。

 

「強いていえば最後に直すのが手間だったよね」

「まぁ、この手の依頼が個人経営で断られがちなのはそこが理由だろ」

「私は余裕だったけどね!」

「わー、アリシアサイコー!」

「そう、私最高! ってこれは私の持ちネタじゃないんだけどね」

「そもそも持ちネタないっていう」

 

 それはフェイト似な僕っ子の持ちネタだ。そんなこんな話してるうちに空港へと飛行機が着陸。このまま家に帰ってもいいのだが夕時でそろそろ腹の虫も鳴く頃合い。

 

「適当に晩飯食べて帰らね?」

「そうだね。混む前にパパッと決めて入っちゃお、希望ある?」

「あー、いや任せるわ」

「ならオムライス食べようよ、なんとなーく食べたくなった」

「よくよく考えればアリシアが卵食べると共食いにならねぇか?」

「なんで!?」

 

 いや、王様がアリシアのことをヒヨッコって呼んでたなって……さっきレヴィを真似た台詞を聞いたからふと思い出した。もう何年も前になるのか。あれはこっちの世界に来てからの生活のなかでもトップに入るほど衝撃的だったな。

 

「そういえば懐かしいね。みんな元気にしてるかなー」

「王様の料理旨かったな……」

「美味しかったね……かなりお腹が空いてきたよ!」

「よっし、飯だ!」

「おー!」

 

 ――ジリリリリリリリリリリリリ!

 突然鳴り響く警報。続いて流れるアナウンス。

《火災が発生しました。空港内のお客様は職員の避難指示に従って速やかに避難をしてください。繰り返します、火災が発生しました》

 

「……あれかな、シュテルのこと話題に出さなかったから自己主張してきたのかな?」

「激しすぎるよ!? てか避難しないと!」

 

 そうだな。けど周りを見れば人がいないのなんの。駄弁りながらフードコート目指して歩いてたからなぁ……そも、ここはどこって話なんだけど。フードコート目指してたけど、アリシアに着いて歩いてただけなんだよな。

 

「現在地どこ?」

「知らないよ、ナナシが知ってるんじゃないの?」

「えっ?」

「えっ?」

 

 ……マズくないか、これ? これお互いに相手が行き先知ってると勘違いして迷子のパターンだ。

 

「……ここは素直に職員の指示に従おう!」

「職員いねぇじゃん」

「あっ…………」

 

 空港内の火の回りが早いのだろうか。熱気が漂い始めるなか俺とアリシアはただの汗ではない、冷や汗がタラリと頬を伝う。こんなときのセオリーはジッとしているべきだったか、それとも出口を探すべきか。

 

「取り敢えず動くか」

「そうしよう、ムワッとしてきてるし」

「レベル的には初夏だな」

「猛暑日になる前に出口を探さないとね」

「その前の梅雨が来ない、スプリンクラーが仕事してないぞ」

 

 ま、そんな冗談と切実な問題は置いといて冷静に屋外に出るためミソッカスコンビは動き始める。

 まずはデバイスでセットアップ、なんか久しぶりデイブレイカー。アリシアがエリアサーチをする……といってもしょせんミソッカス。大層なことは出来ず、動けなくならない程度に行き先を探りつつ移動する。

 

「ちなみにこれ約100m先までしか探れないんだよね」

「なのはとかと比べると悲しくなるよな」

「バカ魔力とミソッカス魔力だからねー、っと左は駄目。もう崩れてきてる」

「ちょっと空港の責任者とか建てたやつ出てこい、耐久性無さすぎだろ」

「まるで私たちみたいだね……」

「やめろ、なんか縁起でもないからやめろ」

 

 火の手の勢いは増すばかり。そろそろアリシアの危機を察知したプレシアとか登場しないかと期待してるんだがまだ来る気配はない。どうした親バカ、電波が通じないところにいるのか?

 

「ナナシぃ……右がさ、崩れそうなんだけどさ」

「うん? なら避けようぜ」

「人の反応がひとつある……身長からして小さな子供だよ」

 

 無言で顔を合わせため息からのダッシュ、進行方向右! パラパラと落ちてくるコンクリの破片が頭に当たって超痛い! 本音はスッゲー見なかったことにしたい。けどそうしたらこの先の人生楽しめないじゃん?

 

「きゃー! 天井が剥がれて落ちてきそうだよ!?」

「ホント出てこい責任者ぁぁぁぁ!」

 

 人これをやけっぱちとも言う。子供の反応があるというところに絶叫しながら走り抜ける。

 

「見つけた……! あの紫の髪の子!」

「紫ってプレシアさんじゃねえの!?」

「あり得ないくらい若返ってたらそうかもしれないけど違うから!」

「それ俺が言ったら殺されそうな台詞だな!」

 

 お互いに端から聞けばもう悲鳴じゃないかというような勢いで軽口を言い合いながら泣いている紫少女のところは辿り着く。

 

「はい、お嬢ちゃん確保! ナナシ急いでリターン!」

「言われずとも! なんかもう天井が落ちたそうにグラグラしてんだよ!」

 

 身体強化したアリシアが少女を抱きあげ180°方向転換からすぐさま再度ダッシュ。その際にアリシアの体格的には抱えて走ることは難しいので、こちらへ少女をパスしてくる。泣いていた少女に対して扱いがちょいと雑な気もするが許してほしい、こっちも余裕なんてないんだ。

 しかし天井もそろそろ耐えきれないぜと言わんばかりに異常な音をたて始めてる。

 

「クイックバスターで天井吹き飛ばせない!?」

「無理じゃー! 穴開けて終わる! てかそれが原因で天井が落ちてきて俺たちが終わる!」

「このミソッカスー!」

「るっせぇミソッカスー!」

 

 ホントに抱えた少女など気にする暇なく軽口を通りすぎ罵倒し合いながら駆け抜ける。アリシアをよく見れば涙目、きっと俺も涙目だ。超怖い、怖いからこそいつも通りに。ウハハ、全部笑い飛ばしちまえ。

 

「私ここから無事に帰れたら」

「待て、こんなとこでまでフラグ建てようとするな」

「ほら、こんな崩れやすいもの建てる建築士の代わりに私が立派なフラグを!」

「ボッキリ折ってやんよ!」

 

 うん、いつもみたいに話してるが小石サイズのコンクリが雨のように降り始めている。アリシアは器用に頭部にシールドを張って傘にしてるが俺は直撃しててハゲそう。

 手元の幼女のみは気合いでシールド張ってカバーしてるけどそろそろ色々尽きそう。崩壊しきる前に脱出できるか本格的に怪しくなり始めたそのときサーチを続けていたアリシアは急ブレーキをかけた。

 

「ナナシ! ここ! ここの壁ぶち抜いて!」

「外に繋がってるのか!?」

「たぶん! きっと!」

「不安すぎるなコンチクショウ! 圧死したら建築士恨んでやらぁ!」

 

 建築士よりも許可出したやつかな? ま、そんなこと今はどうでもいい。デイブレイカーを構えるにはかさばる少女だか幼女だかを頭に乗せ腰だめに構える。

 

「クイックバスター!」

《Quick Buster》

 

 衝撃で頭上から垂れてくる紫の髪の毛がたなびき目に入って痒し痛し。しかしどうだ、かっちょよく壁をぶち抜いてやったぜと思えば……ちょっと人が通るには小さいかなという微妙なサイズの穴が開いていた。カッコ悪ぅ!

 

「な、ナナシのミソッカスー!」

「う、うっせー! こちとらそのミソッカス振り絞って身体強化とかしてて既にスッカスッカなんだよ!」

「カートリッジ使えばいいじゃんか!」

「あっ……!」

「あっ、じゃないから! やって早くハリー!」

「ポッター!」

「だからふざけてる暇ないからぁぁぁ!」

 

 テンパり過ぎてカートリッジロードしてなかったことに気づく。頭の上の幼女が震えてる。ごめんな、次こそ決めてやるから。そう決心し気前よく景気よく3発カートリッジロード。ふへへへ、身体から既にほぼない魔力が骨の髄までしゃぶってやるぜって感じで吸い出されるがやってやらぁな。見とけ紫ガール、次こそ決めてやんよ!

 

「クイックバスター!」

《Quick Buster》

 

 なのはなら壁丸ごととか崩れそうな天井を消し飛ばしたかもしれんが俺じゃ壁一枚撃ち抜くのが限界。しかしそれで十分、今度こそ快音が響き渡る。ちょうど普通の扉より少し大きいサイズの風穴が出来た。

 アリシアがそこから顔を出し外に繋がっていることを確認。もう流れてくる空気がいい感じに涼しいので外ってわかるんだけどね。

 

「出られるよ! ほら早く!」

「お、おう……」

 

 足をカクカク言わせながら外に行こうとするもなかなか進まん。うーむ、カートリッジ3発はやりすぎた。完全にカッコつけるノリに流されちゃった。俺ももうちょっと主人公補正的な物があればビシッと決めれるのにどうにも締まらん。ま、似合わんけど。

 

「お爺さんごっこしてる暇じゃないから!」

「してないぞ、割りと本気で動いてるんよ?」

「……がんばれ、がんばれ」

 

 む、たれパンダ的な状態で頭に乗ってる幼女からの声援。気合い注入のつもりかぺちぺちと頬を叩いてくる。

 

「ふぎぎぎぎ」

「なんかガニ股で足震えてて見た目すごいダサいけど頑張れナナシ! もう外だよ!」

「……ふぁいとー」

「いっぱーつ!」

 

 膝まで泥に浸かったような重さを感じながらも、ほうほうのていで脱出した。外の空気が美味しい、別にミッドって自然が多いわけじゃないがこんなに空気をうまく感じたのは初めてだ。

 しかし案外幼女が余裕持ってる気がするのは気のせいか? 実はさっき震えてたの笑ってたからとかじゃないよな?

 

「……しかし魔力も気力もスッカラカンだ」

「体力もだよ……あー、その子どうしよう」

「そりゃ親が心配してんだろうし探すべきだろうなぁ」

「……動ける?」

「無理に決まってんじゃん!」

「だよね!」

 

 ブラストカラミティーくらったあと並みに魔力的にも精神的にも削られたせいで動けん。ぶっ倒れた俺とアリシアを紫幼女が引っ張ろうとしてくれてるが動くわけもない。ほら、あっちに消防車とか見えるだろ? あっちに行けば保護してもらえるから。

 

「いやー、でも私たちらしくもなく肉体労働したけど頑張ったよ……」

「ホントな、こういうのはなのはたちのお株だっての。もう指先も動かないぞ」

「もうゴールしていいよね……」

「……ゴール」

 

 ごめん、幼女。親元まで届けたかったんだけど無理だこりゃ。俺たちは互いに魔力が空になったせいで意識がズルズルと無くなっていくのであった。薄れ行く景色のなかでなのはやフェイトが見えた気がした。来るの遅い。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 目が覚めたら病院だった。横のベッドには既に目覚めてテレビでニュースを見ているアリシアがいた。俺が起きたことに気がついたのかこちらに向き直る。

 

「おはようナナシ……あれから一週間も寝てたんだよ?」

「嘘こけ、バッチリテレビ画面に日付が映ってんぞ」

 

 完全に翌日である。テヘペロじゃないから、似合ってると思ってしまうのがなお腹立たしい。

 それから話を聞くに頭にコンクリの破片がぱんぱか当たってたので一応検査入院というかたちになったそうな。

 

「ナナシ頭大丈夫?」

「おいこら、その聞き方確信犯だな? まぁ問題ないけどそっちは?」

「なんか縮んだ気がする」

 

 火災への冤罪だ、確実になんも変わってない。

 

「むしろいつから背が伸びたと錯覚していた?」

「なん……いやいや! 伸びてきてるし!」

「可哀想に……頭を強く打ち過ぎたか」

「シールドで守ってたし打ってないよ!」

「なら縮むこともないな」

「あ、嵌められた……!?」

 

 ふぅ、と一息。なにはともあれ無事でよかった。我ながららしくなさ過ぎる展開で焦りに焦ったなぁ。ああいうのは他人事と思ってたが巻き込まれるときは巻き込まれるらしい。当たり前と言えば当たり前、今さらといえば今さらなんだけど。

 

「さて、もうちょっとしたらフェイトやなのは、はやてがお見舞いに来るらしいんだけど」

「普通に見舞われるのも楽しくないよな」

「だよね」

 

 ちょうど二人とも病衣なので、ちょっとばかり古典なイタズラというかネタをすることにした。やることは簡単。布団から俺が上半身を外に出し、アリシアが上半身だけ布団に入り足だけを出す。するとあら不思議、ノッポナナシの誕生である。

 タイミングよくノックの音、入ってもらうと噂をすればなんとやら。いつもの三人組であった。

 

「ナナシくん、アリシアちゃん大丈……えぇぇぇぇぇ!? な、ナナシくんがの、伸びてるぅぅぅ!?」

「なのは、なに言って、る……え?」

「ブフッ! ま、またえらい古典的なフフッ」

 

 反応は三者三様。なのはは驚き叫び――病院は静かにしよう――フェイトは目を丸くしてフリーズ、はやては何をしてるのかわかってるようだが笑いがこらえられないようだ。

 その後アリシアが出てきてネタばらし。間違いなく16歳にもなってやることじゃないけど楽しいから仕方ない。

 プンスカ怒るなのはを宥め、へたりこんでしまったフェイトを起こしてから今回の火災の事の顛末を聞いた。

 

 なんでも火災自体は普通の、というには多少語弊があるもののただの火災であったらしい。しかし、消火の際にちょっと管理局の海と陸やらなんやらのいざこざが影響し手際よく行えなかったとかなんとか……ほー、空港の耐久値は問題なかったとな。

 ん? ……管理局のいざこざについて思うことはないのか?

 

「ないぞ、みんな頑張れ」

「他人事やなぁ」

「そういうのがめんどくさいから入局してないって面があるからねぇ。私もナナシも」

「子供心を忘れるからそうなる」

「ナナシくんは子供心で埋め尽くされてるよね?」

 

 なんか痛いとこ突いてくるなのはがいる。きっと、たぶん……恐らく俺だって成長してるわ。

 

 あとは助けた紫っ子、あのあと無事に母親と合流できたとのこと。それはよかった。

 話を聞くになのはも子供を助けたとか……うんうん、砲撃で天井吹き飛ばして助け出した?

 らしすぎて言葉も出なかった。

 

 

 

 

 数年後、大規模火災の際にあまりにも建築に文句を言い過ぎていた俺のせいであの紫ガール。ルーテシア・アルピーノが建築に興味を持つこととなるのであった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
事故に巻き込まれた、らしくなく割りと命がけに。なるべく二人のペースは乱せず出来たなら幸い。
紫ガールが誰とか知りません。

あと2~3話目安で空白も終わりそうです。たぶん、きっと、恐らくMaybe……次話は少し変わったものになるやも。


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34.ヒヨコさん十きゅう歳

 私が一番時間を共に過ごしてるのは誰か。

 それはきっと目の前で陸士から請け負ったデバイス整備の数に呻き声をあげているナナシだ。理由は簡単、昔はフェイトやアルフに母さんが仕事に出てる間も私たちは家にいてデバイスを弄って遊んでいた。ついでにこの頃になってもお互いフリーでデバイス関係の仕事をしつつも家にいる機会が多いのだ、家族であるフェイトや母さんより圧倒的に。まぁ、そこは家でやれる仕事が多いからかな? デバイスの本格的な点検とか整備、もしくは今のナナシみたいに備品としてのデバイス点検を数こなすときなんてよくもって帰ってきてるしね。

 

 何だかんだで一緒に暮らし始めて約9年が経つ。本当に死んでいた状態から生き返った私と死んだら巻き戻しのかかるナナシ。この頃『やり直し』してないよねって聞いたら日常で早々死んでたまるかって言われた、そりゃそうだよね。

 出会ったときからどうしてだか息が合っていたのは二人して少し異常なところがあったからかもしれない。決してお互いに頭のネジが足りないからではない、ないのだ。まぁ、ナナシは本当は別世界から転生してきたけど記憶ないとかなんとか言ってたんだけどそこは正直どうでもいいかなーって、闇の書だって転生してたし。生き返ることと大差ないよね。

 

 陸へ送るデバイス整備の請求書の数字とにらめっこをしつつ口から呻き声をあげ続けているナナシ。懐かしいなー、初めはミッドの文字を読むことすらままならなかったのに今では仕事までしてるんだもんなぁ。

 

「アリシアー、新暦65年式のストレージデバイスの処理機能装置ってギリでカートリッジ適応前だっけか?」

「んー、そうだよ」

「センキュー」

「なんのなんのー」

 

 ふぅ、あの年代はミッド式のストレージデバイスとインテリジェントデバイスにカートリッジが適応し始めたからややこしいよね……全くどこの誰が考えたのか。うん、私たちだったね。

 なんで開発しようと思ったんだっけ? たしか月とスッポンほど実力差があるのに可愛い過ぎるマイシスターから模擬戦に誘ってくることがあったんだ。断ればよかったんだろうけど愛しき妹のお願いは聞くしかなかった……あの断ろうとした瞬間、フッと残念そうな顔をしそうになってから私に気を使って頑張って笑顔にして『な、なら仕方ないよね!』って言う姿がぁぁぁ! 受け入れるしかないじゃん! 笑顔のつもりかもしれないけど眉だけ悲しそうに下向いてるんだもん!

 

「……なに芋虫みたいに身体捻ってんだ?」

(しな)つくってたんだよ」

「ハッ」

「鼻で笑われた!?」

「全く艶かしくなかったぞ、むしろ生々しかった」

「チッ、惜しい!」

「なんも惜しくないだろ」

 

 若干のデジャヴを感じた。作業に意識を戻すナナシを眺めつつ思い出そうと頭を捻る、捻るのは頭であって身体ではない。この頃やっと成長期に入ってきたかというこの身体、ようやく凹凸がつき始めた。いやー、フェイトやなのはたちがナイスバティになってくから少し焦ってたんだけど無事私も成長してるようで良かったよ。何せ一回死んでるから下手すれば伸びないかもとドキドキしてた――ってそうじゃないそうじゃない。

 

 なんでデジャヴを感じたんだっけ……あ、お風呂だ。8~9年前くらいに連日徹夜でユニゾンデバイスを作ろうとしたあのときだ。まだまだナナシも単純作業以外単独ではあまり出来なかったあの頃、徹夜明けの風呂で似たことやったら10年後に出直せと鼻で笑われ、た……あれ、今ってほとんど10年たったけどまた流された? た、たぶん本気で(しな)つくれば反応も変わるはずだって、きっと恐らく……しかもこの身体はまだ推定14~15歳ボディだし伸び代はまだまだあると見たよ!

 でもナナシも身長伸びたんだよね、170cm越えたんじゃない? 腹立たしいのでよく上から押さえつけてたけど効果はなかったよ。

 

 因みに年齢が推定な理由はナナシは年齢不詳だから、私は年齢の定義付けが難しいから。だから、

 

「ナナシ何歳だっけ?」

「推定19歳だな」

 だから私が生き返ってから肌年齢が干支一周を軽く超えるくらい若返った母さんはちょっとよくわからない。なんか次元が別ものだと思う。実年齢何歳だったかな……聞いたら焼かれちゃうんだよね、ナナシが。よくよく考えたらナナシが私より体力のある理由の一端はそこかもしれない。もちろん男女差とかもあるんだろうけど、よく逃げ回ってたナナシは知らない間にタフになってたのかもしれない。決して真似したくないなー、真似できないけど。

 こうやって推定ってナナシも付ける。私的には永遠の17歳とかでもいいんだけど歳を取れないのは少し寂しいので止めといた。いや、いくら名乗ったところで実際は歳は取っちゃうものなんだけどね。

.

 

「急に年齢なんざ聞いてなんだ?」

「んーん、そろそろお酒飲めるなぁと思って」

「ならプレシアさんと飲んでやれ、めちゃくちゃ喜ぶぞ」

 

 それは我が親ながら目に浮かぶよ。本当に喜んでくれるんだろうなぁ……ちょっと照れ臭いけどやっぱり嬉しいよね。肌で感じる暇なく見れば感じる親からの愛、ダイレクトアタックでヒシヒシと伝わってくる。

 

「でもナナシと飲むのも楽しみにしてるんじゃない?」

「そうか……? 言葉のドッジボールしてそうだぞ」

 

 それも私から見れば言葉のキャッチボール出来てるんだけどなぁ……ただお互いに変化球とデッドボール投げすぎっていうだけで。

 母さんって割りと仕事の立場的に偉いからズケズケと物言う人って少ないんだよね。その点、意図的にか意図せずかは知らないけど、よく口が滑って遠慮なく物言ってくるナナシ。それは母さんにとっても珍しいから話してて楽しいはずなんだよね。

 やっぱり本音で話すってのは大切だよ。

 

「きっといつか行くことになると思うなー」

「親バカの娘自慢を延々と聞かされそうだな、おい」

「むしろお酒のせいで口が軽くなって母さんの地雷をタップダンスで軽快に踏み抜くと見た!」

「やめてくれ、洒落にならんぞ……」

 

 作業する手を止めず器用にも、うげぇというのが一番適しているかのような表情をする。うむむ、母さんは楽しそうなんだけどナナシはあんまり楽しくなかったのだろうか?

 ナナシは物事を基本的にあるベクトルに単純に考えるから読みやすいんだけど人間関係についてどう思ってるかだけは読めない。ま、普通そんなものだけどさ。考えてることが丸々わかるなんて気持ち悪いし。

 

「いや、別にプレシアさんといて楽しくないわけじゃないんだけどなぁ……俺が地雷踏んだときが大変でな」

「踏まないようにすればいいのに」

「つい、この口が……俺は悪くねぇ!」

「ナナシのせいでしかない件について」

 

 やっぱり無意識だったようだ。半分くらいはワザとな気もするけどね。上手い匙加減で話して誰とでも仲良くすると思いきやたまに滅茶苦茶怒られたりするナナシ。母さんとはもうそういうノリ(・・)なんだけど、そうですらなく稀に本気で怒られてることもあるんだよね。本人は反省して次は匙加減を間違えないと言ったりしてる……反省してる?

 

「ナナシってなんでそういう性格になったの?」

「え、なに。今俺遠回しに喧嘩売られたの?」

「いやいや、純粋な疑問だよ」

「なお悪いように感じるぞ」

「そんなことナイヨー、ほらほら教えてよ。暇だよー」

「人が仕事してるってのに……あー、性格だったか? どう性格を形成したとか哲学かデバイスかよ……」

 

 そこでさらっとデバイスが出てくるあたり好きだよ。

 

「まぁ、こっちに来たばっかはそれなりに慎重に動いて……なかったわ。ジュエルシード叩きつけたり色々してた」

「えぇ……」

「そもそも記憶がなかったから動くしかなかったとも言える」

 

 それで開き直る原因になったのがうちの妹――フェイトだったという。魔法ってのはナナシにとって未知だったみたいで喋る動物も初めてだったらしい。私たちにとっては常識だけどナナシにとっては非常識。

 

 ――この世界は俺にとっての非常識が普通なのか。

 

「なら俺も非常識でもよくねってなってな?」

「なんかおかしい」

 

 でもそれは間違ってなかったのかもしれないけどね。物事を深刻に考える性格だったらやってられなかったかも。異世界に跳ばされて記憶がなくなったことだけわかる状況。

 

 そういやナナシに記憶が戻ってほしいと思ったことがあるか聞いたことあったなぁ……

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私が生き返ったことについて吹っ切って日も浅いある日。ふと、気になった。

 

「ナナシはさ、記憶がなくなったんだよね?」

「あー、そうだな。正確には無くなったことだけわかるっていうよくわからん状態だがな」

「記憶を取り戻そうとしなかったの?」

「しなかったなぁ、それに今さら戻っても邪魔だし」

 

 邪魔……? どういうことなんだろう。元々どういう生活をしてたとか気にはならないのかな? 私なら、気になる。って思うのは今私に記憶がちゃんとあるからなのかな。

 

「今の俺にはもう今の記憶があるだろ、それに上書きだか追加だかでぶち込まれても困るわ。10年前に返しやがれ」

「アハハ、そうだね……ナナシの頭の容量はそんなに大きくないからね!」

「うっせ、否定できないこと言われると悲しいだろうが」

 

 

▼▼▼▼

 

 

 なんともなぁ……らしいというか開き直りが良すぎると言うべきかな?

 

「アリシアもなんで」

「なに? 性格のこと?」

「そんなちんまいんだ?」

「うるっさーい! 長い間死んでた(寝てた)からだよ! 三年寝太郎とか目じゃないくらいに! というか成長してきてるし!」

 

 もう150cmにも達してるっていうのに失礼な! フェイトとかボイン! になってるけど私だって膨らみ始めてるんだよ……! な、なーんかフェイトのときより年齢的に比べて伸びが微妙な気がするけど気のせいだと私は信じてる。

 

「伸びてきてはいるな。俺との身長差は開いてるけど」

「数年前はお互い130cmちょっただったのに……! なんで170cmになってるの!?」

「何でって言われても困る、伸びたからとしか」

「うぎぎぎ……縮めぇぇぇ!」

「ちょっ頭押さえ、やめっ作業中……ぉぉぉああ!?」

 

 パチュンッ! と変な音。久しく聞いていなかったこれは……デバイスの配線を変に繋げたとき、魔法の撃ち出しの向きを決める配線をかなり駄目に繋げたときの音だ。

 

「…………おい、アリシアさん?」

「…………てへっ」

「てへっ、じゃない! このミスめんどいんだぞ!? 魔法が杖の先じゃなくて何処から出るか撃つまでわからねぇから自分で撃って確認するしかないんだぞ!?」

 

 そうなんだよねぇ……だから確認時に下手したら自打球ならぬ自発球だか自撃球に当たる。けどそんなこと私だって、

 

「知ってるとも、なにしろ教えたのは私だからね!」

「ない胸張って自慢気に言ってんじゃねぇぇぇ!」

「ない胸とは失礼なぁぁぁ! 育ってきたよ!」

「知るか! ……クッソゥ、確認せにゃならんよなぁ」

「……私がやろうか?」

「あー、いいって……フォトンバレット」

《Photon Bulle》

 

 そして生唾を飲み込み一番軽くフォトンバレットを撃ったナナシが――

 

「ゴプォッアァ!?」

「ナナシィィィィィ!?」

 

 部屋の機材もろもろ巻き込んで後ろに弾け飛んでいった。杖の何処から魔法が出るかと思ったら杖の持ち手から出てきてナナシのどてっ腹に直撃した。ぶっちゃけ一番外れな感じなんだけどある種の期待を裏切らないナナシに脱帽――とか言ってる暇じゃない!

 

「ナナシ大丈夫!?」

「HPが赤ゲージまで削れた気がする……正直ここまでクリティカルヒットするとは思わんかった」

「ちょっと休んどきなよ、私が直しとくよ」

「ん、助か……いや、もともとはアリシアのせ」

「よっしゃー! やっちゃうよー!」

 

 ちょっと原因不明の不幸な事故で負傷したナナシの代わりに私が不具合を直してあげようじゃないか。私ってば健気だなー、後ろからの視線が突き刺さったりするなんて事実は全然ない、ないんだよ。

 さてさて、持ち手からナナシの腹に当たる感じで出たってことは――ここら辺をちょいちょいと切って繋いでゴニョゴニョすれば、完成!

 

「出来たよ!」

「早い、休む暇もなかった」

「また世界を縮めてしまったね」

「身長も縮めばいいのに」

「肉体年齢15歳になんてことを」

 

 見た目は15歳、中身は19歳アリシア・テスタロッサだよ。行き先は事件まみれな某少年みたいな年齢と見た目のギャップがないからかパッとしないや。

 

「アリシアさんや」

「なにさ、ナナシさん?」

「机に何かよくわからんやつがあるんだが……これ組立てって納期明日じゃね?」

「アッハッハ、それはらいしゅ……明日だ!?」

「さて、時計の針は現在23時を指したとこだな」

 

 仕上がりはギリギリ三割。て、て――

 

「徹夜だぁぁぁぁ!」

「俺は終わったぜ」

「相変わらず憎たらしいドヤ顔だね! いや、ごめんなさい手伝って!」

「しゃーねーなー、内容は?」

 

 えっと……ちょっと安定してないユニゾンデバイスがあるみたいだからそれの応急処置用の整備ポッド。なんかあんまり深く踏みいるなって感じだったからそれ以上は聞いてないよ。

 

「うん、明らかに一晩でやるもんじゃない」

「そうだよ、だから口より手を動かしてナナシ!」

「待って、それ俺の台詞だろ」

 

 初歩中の初歩にして痛恨のミスだよ……! 知らない人じゃないけど話したことはほとんどない人からの依頼。厳つい顔だったし遅れたときのこととか考えたくない。

 

「アリシアー、ツヴァイの整備用のポッドの設計図いる?」

「いる! ってなんで持ってるの?」

「アリシアみたいに毎度図面を引くのがめんどくさくて今まで製作したやつのは全部取ってるぞ?」

「後光が見えるよ……!」

 

 これなら間に合う、たぶん。

 ツヴァイの時には精々50センチ台だったポッドが何故か1メートルを超えた。

 久々の徹夜だった、それはそれは壮絶な……途中で詳細を聞いてないということはマルチに対応した整備ポッドに仕上げないといけないと気づいたが最後。あれよそれよと機能を付けるに比例して大きくなる整備ポッド。

.

 

「で、出来た……サイズについては明言されてなかったしいいよね?」

「そんなことより一徹くらいなら何ともなくなってる自分が怖い」

「手伝ってくれてありがとね」

「なんの」

 

 凝った身体をほぐしつつなんでもないように答えてくれるナナシ……うむうむ。

 

「この借りは仇で返すよ!」

「さーてスパナはどこだ、このポッドぶっ壊してやる」

「嘘だから止めて!?」

 

 腕捲りして割りと目がマジだったナナシを止める。あとはお届けするだけなんだけど大きすぎる。

 

「ナナシ、もう一仕事」

「知ってた、もう仕舞ったし行こう」

「早っ! さすが察しがいいね!」

「また身長を縮めてしまった」

「縮まないから!」

 

 この後知ったんだけど依頼人はクイント・ナカジマさんが所属する部隊の隊長さんだった。顔が超怖いってナナシがストレートに伝えたら落ち込んでた……いい人っぽかったんだけどナナシはもう少し歯に衣つけようよ?

 

 ――盛大なブーメランだなんて私は気にしない。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
何となくアリシア視点をぶち込んでみましたが後半なんかいつも通りになりました。

断じてお茶濁しとかじゃない。


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35.天気予報みたいな預言

 今日も今日とてデバイス整備に赴く。行き先は戦技教導隊、なのはの所属する部隊なのだが基本的に演習での仮想敵役などを務めたり名前の通り生徒に技術を教え込む部隊だ。

 

 細かいことで叱る暇があるならぶちのめす、その方が学ぶことも多い、が方針らしい。生徒たちがチビりそう。

 そんな方針はさておき、なんか友人が働いてる姿を見るのは新鮮だと思う。複数人の生徒相手に仮想敵をこなす姿は国語を抱いて溺死しそうになってたなのはとは思えない働きっぷりだ。――あ、一人落とされた。

 こう、あれね。うずうずするよね、真面目に人がなにかしてるとちょっかいをかけたくなるっていうか。

 取り敢えず落ち着こうじゃないか、なのはだってしっかり働いてるんだしそれを邪魔するのはよくないよな。ソワソワする自分を落ち着けるために息を吐いてー、肺いっぱいに吸ってぇぇぇ――吐く!

 

「泣きっ面にぃぃぃぃぃぃぃぃ! けっ」

『「蜂だよぉぉぉぉぉ!」』

 

 シマッタナー、吐くつもりが叫んじゃったぜ。しかし言い切る前になのはからの絶叫と念話で止められた。あと何故か俺が叫ぶと同時に、なのはのシューターが急加速、超変則的な動きをして残り一人の生徒が落とされた。南無三。

 全員が落とされたことにより一段落ついたのか一度集合しミーティングか反省会らしきものをしている。

 しかし、最後のアレ、斬りかかるかのような鋭さで左右背後同じタイミングで襲いかかったシューター。 

 

「秘技燕返しを習得したか……」

「違うから、ってかなんでナナシくんがここにいるの? というか泣きっ面のことは忘れてよ!」

「あ、お疲れさま。なのはもしっかり働いてたんだな……」

「ナナシくんには一番言われたくないよ」

「酷い! あなたがそんなこと言うだなんて、故郷に帰ります! ……故郷ってどこだろ?」

「知らないよ!?」

 

 地球でいいのか、それともミッドか、はたまた……ま、なんでもいいんだけど公的にどうなってるかだけ確認しとかないとな。

 

「はぁ、それでなんでナナシくんはここにいるの?」

「んー、俺も仕事だ。教導隊のヒトのデバイス整備頼まれたんだが……そういやレイジングハートはこの頃どう? ちゃんと整備してもらってるか?」

「あ、アハハー……この頃少し忙しくて」

「アリシア呼ぶわ」

「ま、待って! アリシアちゃんの場合本気で怒るから!」

 

 うん、これに関してのみ戦力差を省みずに襲ってくると思う。デバイスのことだけは譲らないからスパナを片手に勇気を胸にマイスターとしての誇りをみなぎらせてやって来る、殺りに来る。

 そいで俺がここにいる理由は頼まれた教導隊の人と会う時間までもう少しあったから暇潰しがてらなのはの職場見学してたのだ。砲撃ってイメージが強かったけどシューターとかちゃんと撃てたんだな……怒られそうなので言わないけど。

 

「ちょいとレイジングハート貸してくれ」

「え……なにするの?」

「なんだその信用のない目は、整備だよ」

「あ、ナナシくんもデバイスマイスター補佐の資格持ってたもんね……なんかナナシくんが働いてるってピンと来なくて」

「安心しろ、俺もだから」

 

 受け取ったレイジングハートをざっと見るがこれといって問題はなさそうだ。なのはの使い方のよさと元々のデバイスとしての良さのお陰だろうけど定期的に整備には出そう。じゃないと妖怪デバイスマイスターがスパナ片手にやって来るからな。

 

「それで仕事の調子はどうよ?」

「んー、色々大変だけどやりがいはあるよ」

「殺りがい……!?」

「なんか字が違う気がするんだけど」

 

 なぜか気づかれた。私だって成長するんだよって言われたけどそうだよなぁ、みんな成長していってるもんな。なんか実感が全然わかないんだけど働いてないやつはもういないし変わるとこは変わっていってる。

 

「大人になった、なんてまだまだ言えないんだけどね」

「なんで俺をジッと見ながら言うんだ。おい、このタイミングで目を逸らすな」

「だ、だって普通は大人になると色々縛りとかあって自由に動けなくなるものなのにナナシくんは変わらないなぁって」

「失礼な、デバイス整備に行ったはずなのにお茶に誘われたり愚痴を聞かされたり事故に巻き込まれたり色々あんだぞ」

 

 特に愚痴が大変だ。なんか今まで黒幕ぶってた偉いさんがいきなりボケた爺みたいになってしっちゃかめっちゃかだとか知らないって。

 協力関係だったはずの科学者も音信不通とかなんとか……関係ないけどなんか近頃スカさんが空飛ぶテーマパークとかどうだろうかとか言ってた。問題は空と地上の行き来って言ってたけど空飛ぶガジェットで解決するような気がする。

 俺的にはその空飛ぶテーマパーク自体が違法そうでそっちが心配。ミッドは勝手に魔法で空飛んだら駄目なんだぞ?

 

「つまりあれだ、大なり小なり色々あんだ、たぶん。なのはだってあるだろ?」

「そうだね、大きな声じゃ言えないけど教導でももっとこうしたいってところを通せないときとかあるからやりきれないことはあるよ。それを通すために頑張ってるんだけどね」

 

 なんか伸び伸びやってるように見えてもやっぱ色々あるのな。そう聞くとやっぱり俺気楽な部類だった、愚痴聞くくらいなんだってもんだ。けどなのはは、

 

「バスターで撃ち抜いて通すんだな」

「違うからね? 私そんなトリガーハッピーじゃないから」

「悪い、なんか今までなのはが意地を通すときにSLBやディバインバスターが着いてきてたからな……フェイトしかり闇の書しかり」

「うっ……た、たしかにそうだけど」

「まぁ、なのはも対話を覚えたんだな。みんな成長したよなぁ……」

「なんでそこでしみじみしてるのかな? 元から覚えてるって」

 

 知ってた、たださっき目を逸らされた意趣返し。あと空気を変えようと思って。

 まぁ皆なのはの本質が砲撃じゃなくて不屈の心に相手を理解しようとする優しいところとかって知ってるさ。フェイトくらいしか口にしないけど。

 

「もう……あ、そろそろ時間じゃない?」

「おう、じゃあお仕事頑張れよ」

「そっちもね!」

 

 なのはと別れ、俺もお仕事に向かう。ちなみに教導隊には歳上の方がとても多く老兵って感じだった。話を聞くに戦時中戦ってたようでその技術を今の時代に適応させて叩き込んでるとかなんとか。

 ――ちなみに魔力で負けても模擬戦ではなのはにテクニックで勝つそうな。教導隊怖い。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 八神はやては現在聖王教会に来てた。というのもカリムに呼び出された。

 理由は預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)というカリムのレアスキル。最短で半年、最長で数年先の未来を詩文形式で書き出した預言書の作成を行うスキル。

 

 預言の中身は古代ベルカ語で、しかも解釈によって意味が変わることもある難解な文章。さらに世界に起こる事件を不規則的に書き出すのみで解釈の違いによるミスを含めれば的中率や実用性は高いものではない――ってのはカリム本人の弁なんやけど。

 けど大規模災害や大きな事件に関しての的中率は高くて管理局や教会からの信頼度は高い。ちなみに預言って言うてるけど色んなデータの統計から導かれる未来予想図みたいなものや。まぁ、その性格上信じひんっていう人もおるんやけど……レジアス中将とか。

 カリムがこのレアスキルを持ってることは別に隠されてへんくて、ナナシくんやアリシアちゃんが知ったときの反応は「へー、天気予報みたいなものか」やった。的確やけど、なんや……なんでそう何とも言えん例えにしたんや。

 

「それで私が呼ばれたんはなんでなんかなカリム?」

「ごめんなさい、はやて。急に呼び出して……けれど今度の預言の解釈をあなたにも見てほしくて」

「そんな難解なんか?」

「ええ、いえ、難解というか。なんと言えばいいのかしら」

 

 今一ハッキリとせんカリムから預言の内容を見せてもらう。

 

 ――旧い結晶は無限の欲望が手中に収んとし、死地より戻りし者、力無き二の者と交わった

 ――歴史は元の環より外れた、軸を戻す術は既になし

 ――死せる王は、聖地より彼の翼が蘇り異なるモノとし空を制す

 ――人の環より外れし者達は踊り笑い、中つ大地の法の頭は虚しく老い落ちた

 ――それを先駆けに数多の海を守る法の船は変わり果てる。

 

 あー、なんやこれ。ところどころ不安しか湧かん文は……だいたいの解釈はこうなんやろうけどたしかにカリムの戸惑いもわかるで。最後の文は管理局のことやろうしそれが変わり果てるってのも大変なことやと思う。

 けど他の文も難解すぎるわ。特に一行目と二行目、それに四行目は解釈通りなら既に(・・)終わっとる(・・・・・)。預言としてどうなんやろ?

 

「えらい難しいな」

「ええ、けど管理局が危ないことはわかるわ。そして無限の欲望は」

「十中八九、次元犯罪者ジェイル・スカリエッティのことやろうな。実際そう呼ばれとるし」

「古き結晶はきっとロストロギア……」

 

 死地より戻り二の者とか色々わからんことは多い。けどこれは間違いなく手を打っとかなあかん、だからこそカリムも私を呼んだんやろう。解釈の間違えの可能性を含めても放置できんからこそ呼ばれたんやと思う。

 

「はやて、あなたには部隊を持ってもらいたいの」

「ん、これに対応するためのやな」

「表向きは別の目的を用意することになってしまうのだけれど」

 

 ――これが後の古代遺物管理部機動六課、通称機動六課結成が決まった日の話である。

 

 力無き二人って解釈したらナナシくんとアリシアちゃんが思い浮かぶんは関係ないやんな……? いや、でもあの二人やと万が一が……

 

 

▽▽▽▽

 

「「へ、ヘップシ!」」

「「ぁぁぁああ!? 汚なっ!?」」

「ナナシティッシュ当ててくしゃみしてよ!」

「アリシアもだろ!? 鼻水がアーチ描いてんぞ!」

 

▽▽▽▽

 

 

「ヘッブッシュー!」

「きゃぁぁぁ!? ドクターくしゃみをするなら手を当ててください!」

「あ、ああ。すまないクアットロ」

 

 ううむ、風邪だろうか? 年がら年中白衣はやはり堪えるな……夏にパンツのみに白衣という先進的クールビズをしたら娘たちから不評だった覚えもあるので悩みどころだ。ちなみに勧めてきたのはナナシくんである。

 

「でもドクター、今作り出してるのは聖王のコピーですよねぇ?」

「ああ、そうだね。より詳しく言えば生まれてくるのは幼児期だが」

「問題はそこですよぉ」

 

 なに? 幼児期で生み出すことにはなんの問題もないはずだぞ? たしかにクローンというのは些かよろしくないものだがそれを除けば幼児期で生み出すのは生まれてくる子にも負担はなくなり聖王パワーも一番乗せれると結論が出たではないか!

 

「いえ、そうじゃなくてですねぇ……うちで誰が幼児期の子供相手を出来ますかぁ?」

「……あ」

「一番しっかりと出来そうなチンクちゃんは今下の妹たちを連れて社会見学を兼ねて常識を学びに行ってますしぃ」

 

 そうだった……! 我が家で一番まともなチンクは現在チンクより下の7人の妹を引き連れて面倒を見ているのだった……改めて考えると我が娘ながらチンクの面倒見の良さの底が見えない。だがさすがにそこに幼児期の子供の世話まで押しつけるのは間違いなくオーバーワークではないか!

 

「残るは私とウーノ、トーレにクアットロだね」

「あの、ドゥーエお姉さまが抜けてるんですけど?」

「今までの三脳の介護に疲れたので休暇をもらうと言っていたよ……入浴剤をいれた日から」

「もう十分に休んでないかしらぁ!?」

 

 そう思うのだが『あー、疲れたわー。ドクターがいうから老人たちの面倒見てたのに全部無駄になったあの仕事疲れたわねー。いえ、どこのドクターが方針転換したせいだなんて言わないけど休みもないのかしらねー? あらドクターいたんですか?』って言われたらなにも言えないじゃないか。

 

 皆知らないだろうが、我が家の力の順はウーノ>ドゥーエ>私≧残りの娘たち、なんだぞ?

 

 と、取り敢えずはウーノに世話をしてもらうしかないだろうがウーノは後々の計画で私の補佐をしてもらわなければならない。やはりドゥーエを呼び戻すしかないか……

 パチンッと指をならしトーレを呼ぶ。あれだ、地球でいう忍者のようにトーレが現れる。

 

「はいドクター!」

「すまないトーレ、ドゥーエを連れ戻してきてくれないかい? 出来るだけ早く」

「わかりました! ――ライドインパルス!!」

 

 ドンッ! と踏み込む音を残しトースの姿が消える。一抹の不安が残るがこれでなんとかなるだろう。

 

「私やドクターが面倒を見れないのは悪影響的にわかるんですけどトーレお姉さまが見るのは駄目だったんですかぁ?」

「いや、ほら……脳筋じゃないか」

「あー……」

 

 ――3日後、引きずられまくったのかボロ雑巾のように変わり果てたドゥーエとやりきった感溢れる表情のトーレが帰ってきた。ま、まぁこれで準備は揃った。無言で目の座ったドゥーエに蹴られまくっているが準備は揃ったのだ。

 

 では楽しい世界征服を始めようではないか!




ここまで読んでくださった方に感謝を。
空白編終わりじゃないですかね、きっと。
さて、ヴィヴィオがなのはのところへ行く目処をたてないと……確実に原作とはかなり違うタイミングになってしまいます。
(話の軸を)戻す術は既にないんです……


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StS編
37.始まりはいつも唐突


 はやてが古代なんとかかんとかって部隊の設立が決定してフェイトやなのはがそこの部隊長的な立場として出向することとなった。

 完全な身内部隊ワロタってはやてに言ったらこれで仕事サボり放題やでって言い返されたので早くクビにならないかなと思う今日この日この頃。まぁそんなこと言いつつ目ぼしい人材を確保しに行ってる腹黒★子狸なんだけどさ。ナカジマ夫妻の娘、その妹の方もロックオンしてるとか。

 

「なんでそんなこと知ってるの?」

「ヒゲアスさんとかに愚痴で聞かされた。小娘に金の卵をとられそうで胃が空っぽになってそろそろ飯も食いたいとか。婆さん飯はまだかのう?」

「やーねー、前世で食べたじゃない!」

「いや今世でも食わせろよ」

 

 いや、そうじゃなくてだな。ネタ振ったの俺が悪いのか、ツッコミを入れずネタを被せてくるアリシアが悪いのか永遠のなぞだぜ。たぶん俺が悪いんだけど。

 

「でなんの話だっけ?」

「はやてが設立するっていう部隊に陸士からも人員をちょいとばかり確保してて陸のおじさんストレスマッハ」

 

 なんか少し前から色々と大変らしい。本来陸の人員不足解決のために投入する予定だったアインヘリアルってやつ……詳細は名前しか知らないけどなんかソレを作る予定だった科学者もトンズラしたそうな。気が休まるのは昔からの友人と酒を飲んで語り合うときのみだとか、誰かあのおっちゃんに休暇をあげて。

 

「大変だねぇ、科学者といえば母さんだけど母さんは研究職がお株だし……」

「そうね」

「うぉ!?」

 

 さも当然のように現れたプレシアに戦慄……! そういや今日は仕事休みだったのか。しかし娘の話題に出たからって気配なく瞬時に現れんなよ、心臓に悪い。

 

「大丈夫よ、あなたの心臓が止まったら電撃で消し炭にしてあげるわ」

「そこは電気ショックで除細動だろ、なんでお手軽火葬しちゃってんの? 蘇生処置なしで火葬直送しちまってんの?」

「近頃仕事が忙しいせいでアリシアといる時間があなたより短くて嫉妬の電撃が胸を焦がしてるのよ」

「ここで私がナナシに抱きつきでもすればデスゲームが始まるのか……ゴクリ」

「ゴクリじゃねぇよ、止めろ死ぬぞ俺が! こんがりだぞ!」

 

 口に出してゴクリとか言うな。生存率0%とかまさにデス(確定)ゲームで笑えない、俺にも生存のチャンスをくれ。そんなことを考えているとプレシアがアリシアを背後から抱く、いわゆるあすなろ抱きだ。するとさっきまで眉間にシワの寄ってたプレシアさんがあら不思議、パァァァァって効果音があってもいいくらい輝いて表情も和らいだ。親バカ拗らせて娘が麻薬みたいになってない? たぶん今プレシアの上に体力ゲージがあったら一気に回復した。

 

「もう、一生アリシアとフェイトをこうして抱き抱えておきたいわ」

「待って母さん、さすがにそれは私も困る」

「てかプレシアさん疲れてね?」

「当たり前よ、娘と接する時間が少なくなれば疲れるわ……」

 

 そうだね、疲れからか歳か――なんか肌にビリッとしたやつがきたヤベェ――プレシアの肌とか乾燥してきてたのにアリシアに抱きついてると潤い始めてるもんな。

 ……人の枠超えてない? アリシアとフェイトさえいれば永遠に生きてそう。

 

「フェイトはフェイトで忙しいからね、母さんも忙しいし休みが合うことが少なくなっちゃってる」

「仕事辞めようかしら……アルフ、ちょっと私の代わりに行ってきなさい」

「うぇ!?」

 

 たまたまリビングにやってきたアルフに無茶振りするなよ。口に加えてたビーフジャーキーがポロリと落ちたし。

 なんか今はオッサン臭さ漂っちゃってるアルフなんだが、近頃は子守りのバイトとかしているらしい。ジュエルシード集めるときとか海鳴でフェイトの面倒を見てたり見られたりの関係だったらしいけど思い返せば楽しかったらしい。エリオやキャロが来てたときもよく一緒にいて楽しかったみたいで子供の面倒を見る仕事を探したそうな。まぁ何かと面倒見のいいアルフだったのですぐにバイトが見つかり採用された次第である。

 

「……そういえばアルフも海鳴ではフェイトと二人きりだったわね、嫉妬の落雷で胸を焦がしたいわ」

「それ焦がされるのあたしだよね!? というか見境なさすぎないかい!? ナナシあんたちゃんと避雷針になりなよ!」

「無茶言うな、ただでさえこの頃愛娘と接する時間短くてカリカリしてるプレシアさんってば今漏電激しいんだぞ!」

 

 漏電の対処法は娘、アリシアがいなきゃ俺とアルフは今頃逃亡中だ。

 

「はぁ、面倒ね。あなたたちの友人の八神はやてに機動六課に出向しないかとか陸から人員不足なので防衛のための開発の手助けをしてほしいとか言われてるのよ。だからアルフ、任せるわ」

「あたしには無理だよ……ナナシ任せたよ」

「だからなんで俺に振るんだ、プレシアさん頑張れ」「焼き払うわよ」

「アリシア頼む」

「母さん、お願い」

「仕方ないわね、任されたわ」

 

 予定調和だがなんか一部おかしかった気がする。そう度々こんがり焼こうとしないでほしい。てかプレシアさんも声かけられてたのか。

 

「一応管理局の研究所務めってなってるのよ……どうしようかしら、正直真面目に考えると私が機動六課に呼ばれる理由が不透明すぎるのよね」

 

 曰く、過剰戦力過ぎると。ランクがちょっと雲の上の存在であるなのは、フェイト、はやてに守護騎士たちに他にも成長の見込みのある金の卵ともいえる人員を集めている……世界の終わりにでも立ち向かうのだろうか?

 

「その部隊ってロストロギアを集めるんだよね、なら母さんはそれの解析……はさせてもらえないか」

「あれじゃね、部隊防衛のための固定砲台として――ノゥ!?」

「あらごめんなさい、外したわ」

 

 電撃でなくデバイスが飛んできた。アリシアを抱いてるから電気を使わなかったのかしれないがデバイスを投げたせいで逆にアリシアがむくれた。それはもうムッスーとしてる、それを必死になだめる母親とむくれる子供の図。

 

「こうして見ると普通の親子だな」

「あんな光景めったに見られないんだけど、プレシアが慌ててるなんてあたしからしたら天地がひっくり返るんじゃないかと思うよ……フェイトやアリシアが絡んでなきゃ」

 

 同意する。でもそこに娘が絡んでたらならわかるよな。良くも悪くも二人の娘に愛情全振りしてるプレシアだしね、甘やかす意味でじゃなくて今あんなだけど割りと真面目な意味での愛情。

 

「あ、いや拗ねてる娘を物で釣り始めたぞ。デバイス関係の」

「アリシアもピクピク反応してるねぇ……」

「前に徹夜しておかしくなったときにはデバイスと結婚したいって言ってたしな、ユニゾンデバイスにワンチャンとか」

 

 全力で止めといた。プレシアが泣くぞと、相手が人じゃないなら結婚しなくていいじゃないかって。相手が人だと母さんに焼かれるかもしれないじゃん! って返されたときはなにも言えなかった……いや祝福してくれるかもしれないぞ? 俺がなのはに模擬戦で勝てるくらいの確率で。ゼロか、うんゼロだな。

 

「あ、アリシアがプレシアに抱きついたね」

「感動の仲直りっぽいけどその実モノで釣り釣られてるという汚いシーン」

「サイレント映画なら涙なしには見られないんだろうねぇ……」

「音声ありきだとただのコメディだな」

 

 ……まぁ、親子だなとも思うけどさ。しかし髪の色が違うのが気になるんだけど地雷だよな? 今まで話題に上がりすらしたことのないオトーサンの遺伝とかそういうことだろうな。テスタロッサ家にオトーサンはいない、うん。

 しっかし……プレシアって子離れできるときは来るんだろうか。来ないか。

 

「アリシアやフェイトが一人暮らし始めたらプレシアさん死にそうだな」

「愛娘エネルギー切れをおこしそうだね」

「で今度は研究の疲れだけ溜まってどんどん老けたりな、アッハッハ」

「アッハハ、ありそうだねぇ」

「フフフフフ、そうね」

「えっ」

「えっ」

「あちゃー」

 

 ……あらプレシアさんったらもうアリシアを抱き抱えてなくていいの? あ、充電完了ですか。イヤー、プルっプルのお肌若いですネー。

 

「言い遺すことはそれだけかしら?」

「……逃げるぞアルフゥゥゥ!」

 

 鬼だ、電撃を纏う鬼が追ってくる――! 誰かヘルプ!

 

 

▽▽▽▽

 

 

 困ったわ。唐突なんだけどかつてなく私は困っている。後ろには残念ながら私の親に位置するドクターと優秀な姉のウーノ、そして目の前には大きな瞳に涙を溜めて今にも泣きそうな小さな女の子――ヴィヴィオがいる。私もまぁ濃い面子の揃うスカリエッティ一家のなかでは常識的な部類という自覚はあるのだけれど、だからって子供に対する接し方なんて知らないわよ。これなら脳ミソやそこらの大人の相手の方が幾分わかりやすいわ……偽りの仮面(ライアーズ・マスク)で親しい人間に成り済ませばいいだけだもの。

 早くチンクが帰ってこないかしら、あの子なら常識もあるし身長的にもベストじゃない。

 

「ママぁ……どこぉ……?」

「ドゥーエママ、行きたまえ!」

 

 ドクターを[自主規制]したい感情をねじ伏せて表情だけでなく気持ちも入れ換える。幼い子供は理性的な部分より本能的な部分が強い。つまり勘が鋭いから表情だけ取り繕っても直感でこの人は怖いとか見破られるのよね、とんだライアーズ・マスク殺しだわ。

 

「ヴィヴィオちゃん」

「だ、誰……?」

「私はドゥーエ・スカリエッティ、えーと……そう、ね。貴女の」

 

 何かしら? ママじゃないことはたしかね。別になってもいいのだけれどスカリエッティ家(こんなとこ)で育てるとヴィヴィオの将来はお先真っ暗、見事に濃い変態の仲間入りを果たしてしまう。それは正直、可哀想よね。なにがって祖父のポジションがドクターになってしまうことが一番可哀想よ、娘として断言するわ。

 

「……どうしたの?」

「何でもないわ、私は貴女の味方よ。一緒にママを探しましょうか」

 

 最悪私が保護者になるけど、まずは出来れば他の家族を探すとしましょう。

 いえ、それにしても純粋な子供って面倒と思ったけど愛らしいものね。今まで汚い大人ばかり相手にしてて荒んでた心が癒されるわ。もう、さっきまで瞳に溜めてた大粒の涙は引っ込みキョトンとした顔をしている。感情の発露が素直なのね。

 そう考えヴィヴィオを眺めていると後ろからドクターが顔を出し――

 

「ようこそヴィヴィオくん! 私のラボへ!」

「ヒッ!?」

「引っ込め、ドクター」

「ヘブッシ!?」

 

 ヴィヴィオを怖がらせたのでビンタを張った。

 

「お腹が空いたわね、なにか食べたいものはあるかしら?」

「あ、あの人は……?」

「気にしなくていいの、娘の休暇を邪魔する人だから」

「まだ根に持ってたのかい!?」

 

 もちろんよ。満喫してたのにそれをあんな脳筋トーレに引きずられてボロ雑巾みたいになって帰宅することになるなんて……!

 ありがたいことにウーノ姉さんがヴィヴィオの耳を塞いでくれているので遠慮なく話す。

 

「ドクターが泣いてボロ雑巾みたいになるまで恨むのをやめないわ」

「せめて泣くまで殴るのをやめないくらいにハードルを下げてもらえないかい?」

「殴って許してもらおうなんて変態ったらドクターね、引くわ」

「そこはドクターったら変態、の順じゃないかい!?」

「どっちでも変わりないと思うの、ドクターイコール変態って公式のようなものでしょ?」

 

 ウーノ姉さんがヴィヴィオをご飯に連れていってくれるのを横目に見つつ考える。ドクターのことではなく今後のことを。

 ママを探すっていうのも嘘のつもりはないのだけれどもう少し待ってもらわないといけないから、ドクターの世界を変えるって野望を叶えるまでごめんなさいね。

 

「やっぱり私たちは親に向いてないわドクター、やっぱり一番が自分のことになってしまうもの」

「そうだね、マッドなところは多少変わったつもりだったのだがね……」

「根本は変えられないわねー、特にクアットロあたりまでの子はドクターから強い影響があるからどうしても一番が自分になるわ」

 

 ホント、本当に不本意ながら四番目の娘のクアットロまではドクターの性質から濃く影響を受けている。何故かトーレだけその節があまり見当たらないのだけれどあれは脳筋なので放置しておく。

 

「だから手っ取り早く終わらしてねドクター、それからヴィヴィオちゃんの親を見つけて私は休暇を満喫するわ」

「ああ……すまないね」

「友達がいないドクターだし私たちが手伝わないといけないのはわかってるから……気にしなくていいわ」

「とてつもない勘違いをしてないかい!? 友人くらい……い、いるとも!」

「声が震えてるけど」

「震えてないさ、待ちたまえ今メールを――」

 

 ――噂をすればなんとやら、ということなのかちょうどドクターの携帯にメールが届き震えた。

 

 

from:ナナシ

件名:へるふ

本文:やばプレシあキレタ。電気まとたオニがおつてくふスカさnヘうプ!

 

 

 無言で携帯をしまうドクター。もしかしてプレシアってあのプレシア……? それにキレられて追われてるって……消し炭ね。

 

「……お友だちからなのでは?」

「どうしても、自分のことが一番になってしまうね……」

「ソウネー」

 

 ドクターのお友だちに黙祷。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
いつも通り特にストーリー的進展のないままStS編始まります。
あざむくもの~偽りの仮面~、的なうたわれのネタを入れれなかった。

更新ペースが墜ちてて申し訳ない、リアルがせかせかしてましてエタってないか心配になられた場合は活動報告の方を見ていただければ幸いです。


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38.六課始動

 ロストロギア、レリック。その性質は高エネルギーを帯びる“超高エネルギー結晶体”であることが判明している。その為外部から大きな魔力を浴びると爆発する恐れがあるので取り扱いには注意。見つけしだい封印するべし。

 それを集めているのがジェイル・スカリエッティとその阻止と回収をしている機動六課。

 

 なんやけどー、や。それは全部明かしてなくてただロストロギア関係の問題専門部隊という名目で設立されとるからそのことのみに限定して部隊員にも説明せなあかんのよなぁ……

 

 だから隊長格3名が全員オーバーSランク、副隊長もそれぞれS-とAAA+と過剰ともいえる戦力に疑問を持つもんもおるわけで。ナナシくんにはどこかの世界でも滅ぼすの? って言われたし……むしろそれを阻止するための部隊なんやけどね。

 とツヴァイがフヨフヨと飛んでやってきた。

 

「はやてちゃん! 機動六課みんな揃いました!」

「ん、ほな行こか」

 

 六課始動や……私としてはナナシくんやアリシアちゃんの方が要注意やし、六課に入ってほしかったんやけどなぁ……二人とも局員ですらないし。六課に入ることになったスバルとティアナの魔導師Bランク昇級試験のときに、ちょちっと権力でチョチョーイとして二人にも一緒に見てもらったんやけど。

 あわよくば二人にもCかDランクあたりを受けてもらって、魔導師の民間協力という形で六課でデバイス関連の仕事をしてもらおうとか思ってた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

「ほほー、ターゲットのなかにも狙ったらダメなのとかあるんだね。なんでかな?」

「あれだ、両手あげて降伏してる犯罪者だろ。構わん撃ち抜け!」

「あかんから。あれは人質とかにとられてるとき誤射せんようにってことであるんやで」

 

 実際今画面に映ってるティアナも綺麗に避けて撃ってる。現在の陸士のなかでは少ない執務官である兄に習ったという射撃の精密さは伊達やないな。

 隣でアリシアちゃんが私とフォーチュンドロップだと、むしろ人質だけ撃っちゃいそうとか言ってるけどどういうことなんや……補正的なアレってなんやの、知らんよ。

 

「二人は魔導師ランクの昇格試験とか受けてみいひん?」

「はやて、いくら豚をおだてても木は登れないんだぞ?」

 

 真顔で言いおるな……たしかに魔力保有量は低いしハッキリ言ってまうと今試験を受けてるスバルとティアナよりも弱い。けどあのなのはちゃんやフェイトちゃんと模擬戦を重ねてるだけあって力はついてると思うし、反則スレスレやけどリインをユニゾンデバイスとして連れて受ければ受かるんちゃうかな。

 

「あー、それは姉の意地だよ。妹のお願いを断れるわけないっていう……」

「それに10年近くやってるけど白星なしだぞ? 俺たちの弱さは――」

「伊達じゃないよ!」

「なんでドヤ顔とキメ顔しとるんや……でも勝ちはないにしてもあの二人相手に姉の意地でもなんでも折れずに模擬戦を続けられてるなら一縷の望みはありそうやで?」

 

 実際勝てもせんのに約10年間模擬戦を受け続けるのはある意味すごいと思う。姉の意地ダヨーとか断れないプレッシャーがだな、とか聞こえるけどそこは気にせん。

 

「なのはとフェイトたちが攻撃に90、防御に10割り振ってるなら俺たちは逃げと撹乱に10割り振ってやってるからなー、それなりには時間稼げるさ」

「二人合わせて20だよ」

「待ち待ち、残り二人の90はどこいったんや?」

「私たちとフェイトたちの元々の力の差だね。形無しの自由系ならそこそこ耐えれるかもだけど、ルールありきだとカトンボみたいに落とされるのがオチだよ!」

 

 それに10年近くやってるお陰で多少なのはちゃんとフェイトちゃんの癖が読めるようになったのも“そこそこ”もつ理由らしい。やから裏を返せば初見の相手だと瞬殺される可能性も低くないとか。

 画面ではスバルが拳にはめるリボルバーナックルが敵モニュメントを砕く。あ、そういやアリシアちゃんが作ったやつやったっけ?

 

「そうだよ、いやー実際に使ってもらってるの見ると感動するよ。あれはクイントさんのデバイスを基本としたやつで」

「当時まだ小さかったクイントさんちの娘さんたちが使いやすいよう癖をなくしました、名称が一緒なのは娘さんたちの希望で正式名称にだけver2と付いてる以上!」

「もっと喋らせろぉぉぉ!」

「うっせー! アリシアはデバイスのこととなると話がなげぇんだよ!」

 

 ナナシくんナイスブロックや。アリシアちゃんはデバイスのこととなると話が長いうえに私じゃ半分も理解できんからなぁ……ツヴァイを造るときは大変やった。

 ポカポカと殴られてるナナシくん横目に画面を見ると……あー、ティアナが足捻ってもうたみたいやな。制限時間はギリギリ、たぶんまともにやってたら間に合わへん。それにスバルのとる行動としては一人でいくのが一番ベター、やけどそうはせえへんはずや。

 ティアナとは仲の良い言わば親友やって情報もあるし性格的に見捨てていくことはない。さて、ここからどうするかなんやけど……

 

「二人はこういうときどう対処する?」

「「ギブアップ」」

 

 息揃いすぎやし真顔で即答かいな。間違ってはないんやけど出来れば対処方法を考えてみてほしい。ときたま奇抜なことをするんやし何かこういうときにもなにかないんか。

 

「んー、ないな」

「ないね。私たちの場合たぶんここで既に魔力枯渇寸前だろうし……」

「足捻らなくてもギブしてるかもしれんっていうレベルだぜ」

「なんでこういうとこだけ冷静に判断してるんよ……」

 

 まぁ、たしかに二人やと正攻法でいくとここまで来れるかすら怪しいねんけど。魔力保有者のなかではぶっちぎりの最下層をいってるんやし、でもいつもこないに冷静に判断することは少ないのに急にまともな判断して何でや?

 

「なのはたちと模擬戦をしてるとな『あ、これ無理』『終わった……』っていう感覚だけ育ってな……」

「魔力は悲しいほど育たないのにね……」

「なんや……ごめん」

 

 諦めどころの察知と逃げ足のみは磨かれたらしい。危機察知やないあたり涙が止まらん。

 

「危機察知だったらまだ幾分マシだったんだろうけどそんなニュータイプなシックスセンスなんざあるわきゃねぇ!」

「そういうのはもっと主人公してる皆に任せるよ、私たちは裏でこそこそするタイプだから! そもそも昇格以前にランク持ちじゃないし」

「あれ、ランクEって言うてへんかった?」

 

 結構前にリインからやったか魔力も魔導師ランクもEやって聞いててんけど。私と合わせてミソッカストリオですってちょっと楽しそうやった。

 

「それはアースラで測らしてもらっただけで魔導師ランクの試験は受けたことないんだよな、必要もないし」

「デバイスマイスターの昇格試験があれば受けるんだけど……マイスターが昇格したら何になるのかな?」

「もうゴッドとかじゃないか? デバイスゴッド、うわ頭悪そうだ」

「発想を変えよう。名称の前にスーパーって着けてスーパーデバイスマイスター……うわ、やっぱり頭悪そうだ!?」

 

 真デバイスマイスターとかデバイスマイスター改でええんちゃうかな。いやいやそうじゃなくてやな、この二人と話すと話が常に脱線して進まん気がする。元々はなんの話しとったっけか……ああ、魔導師ランクの取得をせんかって話やったな。

 

「あ、スバルたちが無茶してる……ディ、ディバインバスター!?」

「はぁ!? なんで、あれってなのは専用の砲撃じゃないのか!?」

「あー、なのはちゃんのやつのアレンジみたいなもんやな。憧れてるみたいで自己流でつくったみたいや、ナナシくんかてクイックバスター撃つやん」

「あんなの鼬っ屁みたいなもんだよ」

 

 ナナシくん曰くクイックバスターはため(・・)なしで撃てて速さのみが取り柄。威力は壁抜きも一枚が限界で察してほしいとか。対してディバインバスターは火力、貫通力ともに比にならないわけでそれを撃つ人間が増えるイコール世の中の犯罪者がチビる、らしい。

 

「いや、犯罪者がチビるくらいええやん」

「まぁいいんだけど…………スカさん強く生きろ」

「ん、なんて?」

「なんでもないよ。にしてもなんでなのはに憧れてディバインバスター撃つようになっちゃったのやら……」

 

 あー、それはあれやね。空港の大火災のときになのはちゃんに助けられて、そのときディバインバスターで天井撃ち抜いて脱出したらしいから……それが印象に残っとったんやろ。

 ナナシくんたちも偶々とはいえ、あんとき一人子ども助けてくれてたんよなぁ。

 

「死ぬかと思った、むしろ私たちが助けてほしかった」

「紫っ子元気にしてるかねぇ」

「え、連絡先とか教えてへんの?」

「会ってないしな、一回見舞いに来てもらったみたいだけど寝てたし」

「そのあとは退院予定日より早くサヨナラしたから会わずじまいだよ」

「ま、怪我もなかったらしいしいいだろ」

 

 いやな、一応助けられた側としてはお礼とか言いたいんやと思うねんけど……というか陸の武装隊に勤めてる人の娘さんやったはずやしニアミスが続いとったんやろうな。特にナナシくんはよう陸とか行ってるみたいやのに私たちの闇の書事件といいニアミスの多い男やと思う。

 

「さて、画面ではスバルがティアナを背負って全力でローラぶん回してゴール向かってんだけど……あれ止まれんの?」

「無理やな」

「だろうな」

 

 タイムアップギリギリでゴールと同時にツヴァイとなのはちゃんが張った衝撃吸収系の魔法に景気良く突っ込んでく二人。んー、実力はええとこいってるんやけどちょっとばかし危険行為が目立つっちゅうとこか。

 

「……あ、せや! それで二人は受けてみいひん? あって邪魔になるもんでもないやろうし物は試しっことでどうや?」

「めんどっちーしパス!」

「あって邪魔にもならないけど得するものでもなさそうだしね! むしろ持ってることで部隊とかに呼ばれたら目も当てられない……!」

 

 危険察知やなくてただ損得勘定しとるだけなんやろうけど、こう……思うように動いてくれへんなぁ。私も権力的な意味での上を目指してるし腹の読み合いとかそこそこ自信あるのに、この二人は全部本音のようにみえて稀にちゃう感じがする。

 ナナシくんの出身聞いたときにもこう言われた。

 

『次元の海をどんぶらこっこ、神様に流されやって来ました。次元太郎です』

 冗談口調やなくて真面目や。どうせいと? 真顔で言うもんやからネタとしても拾いにくいし苦笑いでしか返せんかった……不覚や。

 

「まぁ必要になったら取るけどね、フェイトに『お姉ちゃんお願い!』とか言われたらもう取るしかないし」

「俺は取らないけどな」

「絶対巻き込んでやる」

「バリアー」

「貫通攻撃! せい!」

「小学生かい、って普通に殴った!?」

 

 

▼▼▼▼

 

 

 結局そのまま誘いきれんかったんよな。フェイトちゃんに頼んだらいけたんかもしれんけど、フェイトちゃんも顔に出るからなぁ。シスコンなアリシアちゃんはともかくナナシくんには私が頼んだってバレそうやし……

 ま、今は新しい部隊、六課の皆に挨拶しよか。春の日差しが云々かんぬんな――

 

 皆の顔を見渡すと真剣な顔して聞いとる。ええなぁ、この頃腹の探り合いばっかでこういうんは新鮮、いやなんかレジアス中将は目に見えて疲労しとったんやけど。六課のことも勝手にやっとれ! って感じで一番の障害と思っとったのに肩透かしやった。

 

「まぁ、長話も嫌やろうしこんくらいで終わっとこか……ちなみに社内恋愛は自由やけど十分に相手は選びいや!」

 

 色んな意味で会場が沸き立っとるけどホンマにテスタロッサ家の妹さんとかに告るなら覚悟決めときや! 私がフェイトちゃんの胸揉むんも命がけやし! それでも揉むんやけどな! むしろプレシアさんのも揉んでみたいんや……!

 

「なんか、はやてちゃんの顔が少し弛んでるの……」

「すまねぇ、なんかうちのはやてがすまねぇ……」

 

 はい、そこのなのはちゃんとヴィータ静かに!

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
なんとなくはやて視点に。作者も関西圏なのでいけるとタカを括ったのが間違い。
正直はやての関西弁の度合いが難しかった、関西弁と一括りにいっても何種類かあるし子狸はどこなのか……違和感がなければ幸いです。

六課始動、六課にいつもの二人は見当たりません。


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39.娘厨、notKiss

 陸にデバイスの整備に来ていたある日、またレジアス中将に捕まった。すみません、ちょっと今急いでて陸の人材不足と海の陸より潤った資金による人材の確保についての不満を聞いてる時間は……今日は愚痴じゃない?

 あぁ、はい。科学者に陸の防衛についての開発を協力してほしいって前々から嘆願書を多く送っているけど返事を濁されたままと。それに機動六課も陸の人員に追加で出向及び協力願いを出してるようだからもう胃痛がマッハでヤバイと。あれ、愚痴じゃないかこれ?

 

「もうコイツは儂にとってゼストに次ぐ相棒なのかもしれんな……」

「あの、それ胃薬なんスけど。そんな黄昏た感じで言わないでください」

 

 なんか初対面のときの勢いがこの頃見る影もないんだけど本当に大丈夫なんだろうか? というかこのおっちゃんってば実は偉いさんだったらしい。具体的には陸のトップ、階級は中将で役職は首都防衛隊代表だった。つまり俺は数年間陸トップの愚痴を聞き続けてきたということだ。給料出ませんかね?

 

「せめて防衛面だけでも強化したいのだが人材がな……全く足りん。それに本局とこちらで議論がな、どうしようもなく戦力が足りんというのに渋りおる。地上防衛用の巨大魔力攻撃兵器なのだから問題はないはずなのだがな、グレーかもしれんが。魔力による対空砲撃が可能な遠距離用魔力砲を三連装化して射線を確保する為、三基ともミッドチルダの高地に建造…………予定だったのだがな、科学者がいなくなったのでそれも難しい」

「まぁ、まず兵器っていうものへのアレルギー反応みたいなの強いですしね。あれですかね、アトピーとかあるんですかね? 痒くなるとか、ムヒあげれば承認されるんじゃないですかね?」

「そうだ! 確かに過去から学ぶことは大切だが過去に縛られていても前には進めん! だいたい――」

 

 適当にネタを振ってもスルーされる。たぶん、強いですしね、までしか聞いてくれてないな!

 でも嫌いと言えば、

 

「……レジアスさんもレアスキル嫌いですよね」

「ぐっ、それはレアスキルを保有してるというだけで優遇されたりするのが、だな……」

 

 後半は尻すぼみな感じで言ってるあたり感情論で嫌ってるところもあるっぽいけど仕方ないよね。俺も感情的に嫌いになるものとかあるからわかる。理不尽であっても不当なものじゃないと思ってる……相手からしたら傍迷惑なんだけどな!

 それはさておき俺も一応レアスキル持ち扱いなんで耳が痛い、なんてことはなく申請もなにもしてないので優遇されたことなんてない。そもそもこの倉庫のどこかレアなのか、かさばらないだけじゃないか。

 

「いや、そんなことはいいのだ! とにかく陸を、ミッドを守るためには戦力が必要なのだがそのための技術者もおらん……」

「技術者、技術者……」

 

 アリシアはデバイス専門っていってもいいから外すとしてプレシアだ。そういえば前に陸と六課から声がかかったとか面倒そうに言ってたっけか。返事したのだろうか、あの人そこらへん適当だからなぁ……用があるならそっちから出向きなさいってタイプ。いうなればダンジョンのラスボス、勇者のもとへ出向くことなくダンジョン奥でやりたいこと(娘を愛でる)をして待ってる。つつかなければ安全だが手を出せばたちまち襲ってくる。ちなみにクリアは不可能なんで、娘を貢いであとはそっとしておいてあげて。

 

「プレシアさんに聞いてみるか……ちゃんと返事返したかどうかだけでも」

「む、プレシア女史と知り合いなのか?」

「ええ、まあ。むしろレジアスさんがプレシアさんを知ってることに驚き」

「有名だぞ彼女は。つい最近も新型の魔力炉の論文を一人で書き上げ――る一歩手前から娘への思いの丈を綴ったものにシフトしてたとか。他所の技術者が真面目に仕上げてくれと懇願すれば私のなかでは完成してるのだから書き上げる必要はないと言い切ったらしい」

「なにやってんのあの人」

 

 もう我を貫く力と意思はミッド1じゃないか。なのはは不屈の心のエースオブエースって管理局で呼ばれてるらしいけど、プレシアは親バカのエースオブエースだ。知力も魔力もあるから尚質が悪い……まぁ、研究も本人がやりたいからやってるだけらしい。アリシアと同じで趣味が仕事な感じだろうし、周りの声なんて気にしてないんだろうけど。

 

『私の耳は二つしかないからアリシアとフェイトの声を聞いたらもう他は聞こえないわ』

 

 とは本人の弁である。俺の言葉どうやって聞いてんだよと思ったけど、読唇術とか言われたらあながち本当な気がして怖いので止めておいた。世の中知らない方がいいことも沢山あるって何だかんだ二十歳になったナナシは知っているんだ。

 

「まあ、親として娘が大事なことはわかるのだがな」

「そんなものですか」

「そんなものだ」

 

 しんみりしてる中、台無しだがよくわからん。

 そのままレジアスさんも愚痴を言う気分じゃなくなったのか仕事へと戻っていくのであった。

 

 

▼▼▼▼

 

 

「ってなわけで陸と六課に返事しましたかね?」

「一光年前の地に忘れてきたわ、私の優秀な頭の99%は娘にキャパシティを割いてるからそんな些末なこと覚えてられないのよ」

「凄い言い訳だなおい、てか残り1%で新しい魔力炉思い付くとかなんなの? 100%を研究に回したらナニができるの?」

「将来的なロストロギアかしら」

「ナニソレ怖い」

 

 もうこの人がロストロギアじゃないだろうか。はやて、歩くロストロギアって異名を返上してプレシアにあげてくれ。正直娘がいるだけで肌年齢が若返ってる時点でだいぶんおかしいんだって……あ、いやでも幸せを感じることで難病が治癒したっていう症例もあるっていうしこれはあり得なくはない? というか写真で見せてもらったなのはの両親もリンディさんも、歳はなのはたちの年齢から逆算しただけだけど見た目が大概若かったよな。あるぇー?

 

「それよりいきなりそんなことを聞いてくるなんて何かあったのかしら? 八神はやてにでもお願いされたのかしら?」

「いんや、陸の方でプレシアさんにお願いしたっての聞いて返事してなさそうだなと」

「別に手伝ってもいいのよ、両方」

「えっ?」

 

 意外である。人の下で働くことは嫌がると思ってたし両方断るものかと思った。

 

「零から十まで私が全権持てるならね」

「ああ、それなら納得」

「ということでそう返事しておいて貰えるかしら」

「そこは自分で返事しましょうよ」

「どうせまた陸からの仕事を引き受けてるんでしょう、ならその方が効率がいいじゃない」

「効率厨め」

「失礼ね、効率なんかより娘に首ったけよ。いわば娘厨よ、チュウといっても流石にキスはしないわよ?」

「疲れてるの? あ、平常運転か……」

 

 知ってる、娘のためなら効率も投げ捨てて確率を打ち破ってしまうことくらいよく知ってる。ジュエルシードに願う姿を見て親ってこういうのもなのかと肌に伝わってきて体感した。

 ついでに次元を裂いたり更地をつくったり大気を焦がす雷も放っちゃうことも身をもって知ってる、体感したくなかった……なんで生きてるのかたまに不思議になる。

 

「さて、アリシアとアルフが帰ってくる前に夕食を作るわ」

「ん、フェイトは向こうの家? それか隊舎?」

「六課から近い方の家よ。そっちの方が負担も少なくていいからといい親の顔して言っちゃったのだけれど……私たちが引っ越せばよかったわ。これが親離れなのかしら、ああ悲しいわね」

 

 そう、フェイトの住まいは現在別にある。というのもミッド市街地の外れにある今の家では機動六課に毎日通うには些か遠く新しい家になのはと家を一軒構えたのである。何気に二人とも高給取りなのでフェイトのために払いたがるプレシアをなんとか止めて自腹で買ってた。

 

 19歳でマイホームか。地球のサラリーマンが聞くと発狂しそうだ。いや目の前で子の親離れについて真剣に悩んでるプレシアみたいにポンポン家買えるってのはミッドでも珍しい部類ではあるけどね。テスタロッサ家は何気にお金持ちだった。

 

「………………………………………………………………まぁフェイトにも一緒に住むくらい仲の良い友人が出来たってことで良しとしましょう」

「沈黙なげー、どんだけの葛藤があったのか……」

 

 たぶんなのはが本当の意味でいい奴だったからこの結論が出たんだろうけど、プレシアは友達がスカさん的な奴だったら迷わず灰にしに行ってたぞ。

 と玄関を開ける音とアリシアとアルフの声。どうやら二人揃って帰ってきたようだ。

 

「話しすぎたわね。夕食の準備をするわ、バイト帰りで悪いけどアルフ手伝いなさい」

「あいよー」

 

 台所へと向かう二人と入れ違いでアリシアがリビングへと入ってくる。この頃グッと背が伸びてきてるので後ろ姿がフェイトと似てきた。

 

「ただいまー、ナナシもう帰ってたんだ。母さんとなに話してたの?」

「あー、なのはとフェイトがマイホーム買ったなーとかんなことかね。全く19歳でマイホームとは高給取りめ」

「アハハー、私たちも買えるんだけどね」

「えっ」

「えっ」

 

 なに言ってんだコイツって顔してアリシアを見ると向こうもそんな顔してやがった。冷静に考えてみろって、俺はフリーで簡単なデバイス点検とかの仕事しかしてないのに一軒家買えるわけないじゃん。

 

「デバイスの設計図と睨めっこしすぎて単純計算が出来なくなったか……?」

「んなわけないでしょ。ナナシがすっかり忘れてるだけで、私たち一応は特許持ちなんだよ?」

「……?」

「完全に忘れてるね。ほらカートリッジシステムをミッド式に転換するアレ」

「あー、あったな……」

 

 基本的にアリシアがやったと思ってるから全く覚えてなかった。まあ、その特許でお金が自然とがっぽりムフフな状態らしい。金は人の縁を狂わすっていうけどアリシアは金を稼ぐ行為に当たるデバイス関連の仕事が趣味みたいなもんだし、俺も普段そんなに金を使わず楽しんでるから執着が薄いんだよなぁ……こっち来た頃は寝床にも困ってたってのに偉くいい生活になったもんだ。

 

「ま、将来的に必要になるまで置いとけばいいんだけどね」

「そのときになって二人揃って路頭に迷ってて金の為に熾烈極まる戦いが繰り広げられるんだな」

「人間って汚い……ううん、悪いのは私たちをこんな風にした社会なのかもしれないね」

「でもこの金だけは譲らない――! って感じか」

「いやー、想像できないね」

 そもそもアリシアが路頭に迷う姿は考えられんしなー。プレシア譲りの頭脳だしどこかしら雇われるだろ。

 

「鼻高々! そういえばこの頃は新しいことに手をつけてないから開発したいよね」

「固定砲とかアンチマジックなチャフ撒き散らす妨害系な、のはグレーゾーンか」

「魔力のない人でも使える簡易式なキットとかも悪くないよね」

「カートリッジの技術を転用すればある程度出来そうだけど魔法展開のトリガーとする魔力をどうするかって話だよな……と今こんな話すると落としどころがねぇ」

「えー、その通りだけど……あ、そうだキャロやエリオからメール来た?」

「ん、あー来てるな」

 

 どうやら機動六課で二人が初邂逅したらしい。キャロからはもうIHクッキングヒーターも使えるようになりました! って一緒にメールに書いてる。なにかと火を熾こそうとしていたカントリーガールもどうやら科学に適応したらしい。

 

「私はフェイトからもメールが、ほら二人の写真」

「はー、ちょっと身長伸びたか? ……待て待て多いぞ、どんだけスクロールしたら一番下にいくんだ」

「妹から、仄かに漂う、親バカ臭。字余り、アリシア心の句」

「子供好きだしなぁ、割りと過保護だし。テスタロッサ家の血恐るべし」

「私にも流れてるのかなぁ……」

「アリシアにとっての我が子がデバイスと考えてみ?」

「あ、納得だ!」

 

 だろ? あとエリオはまた会いたいとも言ってくれてるし久々に会いたいよね。なにかエリオとキャロに土産でもあげたいところだ。

 

「明日機動六課にお邪魔してみないか?」

「お、行ってみるか……アポは、いっか!」

「アポなし突撃!」

「アクシデントハプニングあり、ドキドキ機動六課訪問だー!」

「いぇーい!」

 

 ――翌日大惨事。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
A's以来デバイスそんな触ってないことに気づいた。


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40.六課へようこそ

 いったい何が悪かったのか。前日にアリシアとワクワク隣の六課突撃訪問の計画を練ったうえで今朝にはエリオやキャロへのお土産を購入した。そんな珍しく準備万端にしてしまったのがフラグだったのだろうか?

 

 事の発端はサプライズでちみっ子たちに会いたいのでこっそりと六課にお邪魔した次の瞬間、アラートが鳴り響いた。どう考えても隊舎のなかの空気が変わった、張りつめた肌を刺すような静寂。反射的に物陰に隠れたのはきっと間違いだったんだけど通路からはドタバタと足音が聞こえる。

 

「……ここまでしてサプライズでエリオとキャロに会うのを邪魔立てする気か」

「これはなんとしても見つからずに会うしかないね……!」

「ファンキーに行くぜ!」

「モンキー?」

「猿じゃねぇよ」

 

 そして引っ込みのつかなくなったバカ二人。遺憾なことに二人の辞書には《冷静》の二文字はなく改訂版が出る予定もないし、あらぬ方向へ駆け抜けていく思考にブレーキをかける者もいなかった。ついでにネジは外れて釘でも打ち込んで雷でも撃ち込まれたくらいに頭がパーだったけどやっぱり止めてくれる人はいなかった。

 ビッグボスさながら息を潜め通路が落ち着くのを待つ。残念ながら段ボールは見当たらない。

 

「監視カメラの目を潜って移動するよ」

「なのはたちや守護騎士の面々に見つかれば即終わりか……」

 

 冷や汗が頬を伝う。出来れば段ボールが欲しいがそれは見つかったらにすることにしよう。エリオとキャロ、通称エリキャロの居場所を探ることにするがなにぶん情報が無さすぎる。どうしたものか……メールで聞いてもいいけど仕事中だろうしな。二人とも真面目そうだし電源とか切ってそうだ。

 

「隊舎の方じゃない?」

「いや訓練場の可能性もある、あるんだが訓練場となると見晴らしがよすぎるな」

「なら隊舎から行こう、行くよビッグボス」

「ああ、影武者」

「影武者!? 私が影武者ならビッグボスはフェイトかな?」

「いや、もう間違いなくプレシアさんだろ」

 

 まあ潜入とかせず正面突破しそうだけどさ。いや、でもヒッソリ裏方ってのも案外合ってそうだな……裏ボス感が犇々(ひしひし)と漂ってきそう。ビッグというより真のラストに構えるボス。

 

「空気ダクトのなか通れないかな……いか、さすがに私ももう体格おっきくなっちゃったしなー」

「微塵も残念そうに見えない件について」

「いやー、そりゃ嬉しいよ。ちゃんと背も伸びてメリハリある身体になってきたんだし」

 

 たしかにここ最近で非常に成長したと思う、元からアレな中身はともかく。

 

「そのせいでダクトに尻が引っ掛かるとは……いいケツしてるせいで」

「引っ掛かってないし、むしろお尻は小ぶりだからね!? むしろナナシのお腹が心配だよー?」

「結果にコミットするから大丈夫」

「アイザック!」

「なんか違う」

 

 誰だよアイザック。いや、まあ本当にコミットする方もしてないし、腹は出てないから問題ないんだけど。

 

「あ、奥に扉があるよ」

「お……開く、ふっザル警備め」

「段ボール! 段ボール発見!」

「勝ったな、風呂入ってくる」

「勝利は私たちの手の上に……!」

 

 しかも大型の段ボールである。これは二人入れるし完璧だろ。さっそく中に入り移動開始だ。配置的に前が俺、後ろはアリシアでモゾモゾと動き始める。ちなみにだがコイツら20歳である。

 

「前方に人影、3秒後に停止……」

「了解」

「3、2、1――0」

 

 息を合わせピタッと停まる段ボール、前から駆けてくる青髪とオレンジ髪の少女たち。あ、魔導師Bランク昇格試験を受けていた子達だ。つまり見つかれば負ける、いや基本的に負ける以外の未来がないんだけどツヴァイあたりなら口八丁でなんとか出来そう。

 むしろガチ勝負で勝てるのって誰だ……近所のガキんちょくらいじゃなかろうか?

 

「ん、なんで段ボールがあるのかしら……?」

「ティアなにしてるのー? 早く行かないと! 侵入者だって!」

「スバル、この段ボール」

「はーやーくー!」

「ああもう、わかったわよ!」

 

 少し疑われつつも無事見つからず二人は去っていった。スバルナイス……! アリシアと共に汗を拭う。それにしても侵入者とは物騒な、是非とも頑張ってほしい。

 再び前進、目標エリキャロ。ゲームみたいにマップがほしい。

 

「ふぅ、危なかった」

「しかしこの段ボールを怪しむとはティアナって子はやるね……!」

「まったくだ、あのこの将来は有望だな……!」

 

 冷静に見たらどう見ても怪しいんだけどやっぱりツッコミを入れてくれる人はいなかった。

 

「隊舎到着、人影は見当たらないな」

「このまま訓練場へ移ど――ッ!? 後ろより人影……! 至急停止されたし!」

「了解」

 

 再び呼吸を抑え気配を消すように努める俺たち――俺たちは空気だ。ここには段ボールしかない、空気と一体となるのだ。

 

「んー? こんなとこに何がおいたるんや?」

 

 ――はやて……ッ! 部隊長自らお出ましとは熱い歓迎だと思うけどエリキャロに会うまで引っ込んでて欲しかった。ジーっと段ボールを見つめるはやてに眉ひとつ動かさず時が停まったかのように微動だにしない俺たち。

 

「なんや、段ボールか」

 

 そう言ったのは勿論はやて。クルリと踵を返し戻り行く姿に一息つこうとしたとき――フェイント、猛ダッシュで帰ってきた!?

 

「ってそないなわけあるかぁぁぁッ!」

 

 ゴールに向かってシュートを決めんとばかりにはやての黄金の右足が炸裂、見事段ボールが弾き飛ばされた。マズイ、瞬時にそう判断した俺たちは後ろに回り込んで首を極めてはやての意識を落とす――なんてこと出来ないよ? 仲良くバインドで捕獲されました。

 

「こんなところで奇遇だね!」

「よっす!」

「奇遇でもよっす、やないわ……侵入者がいたってアラートが鳴ってこっちは割りと真剣に焦っとったのに」

「おいおい、侵入者とは物騒だな。そんな警備で大丈夫か?」

「大丈夫だ。問題ない……ってな。いや、そうやなくて侵入者はナナシ君とアリシアちゃんや!」

「侵入って失礼な! 私たちはアポなしでエリオとキャロに会うためこっそり来ただけだよ!」

「そうだそうだー、こっそり部隊に来ただけだー」

「それを侵入っていうんや!」

 

 カックリ肩を落としたはやてはそこらにヒョイヒョイと通話し事態の収集にあたってくれた。なんか、ごめん。

 

「あ、そうだはやて。プレシアさんから六課への協力についての返事を承ってるぞ」

「あぁ、ずっと返事なかったんや」

「零から十までの全権限を持たせてもらえるならやるって」

「それ遠回しに断ってへん?」

「いや、多分それ母さん大真面目だよ」

「しかも割りといい仕事すると思う。ただ指示を聞かないだけで」

「それが組織としては致命的なような気がするんやけどなぁ」

 

 少し悩む風に思案するはやて。しかし、まぁ全権限を持たせることは試験的なこの部隊では難しいようで結局話は無かったこととなった。はやては謝っといて欲しいと言うけどプレシアは全く気にしないだろう。あの人の名前で脳内メーカーしたら娘で埋め尽くされてたし、バグかな?

 

「さーて、二人はぶっちゃけアウトなことしたわけやけど。まぁ、ツヴァイのときに手伝ってもろうたりしたわけやし今回だけは私がなんとかしたる。二度はないで!」

「二度はない、つまり今度までセーフと」

「今回もアウトにしたろか」

「サーセン」

 

 やめて、夜天の書で頬っぺた叩かないで。おい、アリシアにやるとプレシアが怖いからって俺ばっかに子狸め――ごめんなさい火消しありがとうございます。

 

「さ、皆が集まってるし行くで」

「え、なんで?」

「今回のアラートは侵入者への対処がどれだけ出来るかっていう抜き打ちでのテストってことにしたるから、協力者として紹介だけな」

「了解、アリシア任せた」

「嫌だよ、ナナシ行ってきて」

「両方に決まってるやろ」

 

 身体強化したはやてにバインドでぐるぐる巻きにされたまま引きずられる俺たちだった。ドナドナってね、出荷よー。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「――ってなわけで今回の抜き打ちの侵入者への対処に協力してくれたこちらがナナシとアリシア・テスタロッサや」

「どうも、なかなかの動きだったようで何より」

「なんでナナシ君あんな偉そうなの……?」

「捕まらなかったから、かな?」

「ナナシのやつを見つけれなかったって割りと問題な気がするぞ」

 

 なのは、フェイト、ヴィータが何やら話してるけど見つからなかったのは段ボール様のおかげだ。あとスバルがアリシアを見ていかにも『ああ!?』って顔してるしティアナは俺たちに訝しげというか悩ましげな視線を向けてきていた。後々に知ったがいつかのリインとアリシアと出掛けたときに犯罪者を追っかけてたオレンジ頭なお兄さんの妹だった。そのときの話を聞いててもしやと思ったらしいが鋭すぎやしないか?

 

 その後なしくずし的に挨拶してエリキャロにお土産のお菓子をあげたのだがここで予想外な事態が起こった。なのはたちの部下のスバルとティアナにもあげたんだけど。

 

「エリオが食べるのは知ってたけどスバルも食べるんだねぇ……」

「キロ単位で買ったのにみるみる無くなっていくのは見てて面白いな」

「スバルがすみません……」

「いいよ、遠慮せずにどうぞどうぞ。スバルは私が作ったデバイス使ってくれてるし私としても嬉しいんだよね」

「あっ、ああ! そうでした! 母さんと同じ型のものをありがとうございます!」

 

 掃除機もかくやというほどの変わりない吸引力で食べていたスバルがガバッと顔を上げ、アリシアの方を向いて勢いよく話す。そうすると、

 

「ぎゃー!? お菓子のカスが飛んできたぁぁぁ!?」

「わぁぁぁ!? すっ、すみません!」

「スバル! まず食べてるものを処理してから喋りなさい!」

 

 飛散した食べ滓がアリシアに飛来して悲惨なことに。

 なんか大惨事になってるのを横目に眺めていると肩を叩かれた。振り返るとなのはがいた。

 

「ナナシくん、ナナシくん。私たちにはないのかな?」

「あぁ、はい」

「ありが……草と小石しか入ってないよ!?」

「デスクワークばかりで外の自然を見れてないかと思って、お腹のお肉大丈夫? プロテインがよかったか、コミットする?」

「外に出てるから! 皆の訓練とかで出てるからね!? 動いてるから!」

「でもなのはってウンチじゃん」

「そうだけど運動音痴をそう略すのやめて!」

 

 荒ぶるなのはを横目にエリキャロを確認すると美味しそうにお菓子を食べてて満足。まぁそのエリキャロをにへらぁ~っとした、見たことない顔で眺めるフェイトは見なかったことに――せずにエリキャロとまとめて写真に納めておく。

 帰ってからプレシアさんに見せたらデータを売るように脅された。

 

「それにしてもプレシアさん呼ぶくらいだから切羽詰まってると思ってたけどかなり余裕ありそうじゃん。なのはにしごかれてる部下の子たちもいい子っぽいし」

「皆いい子だよ、それぞれ個性もあってそれに合ったように教えるのはやりがいもあるし」

「なら俺の個性に合った教導プランたてて」

「ナナシくんの個性……より癖に合わせてたらプランたてれそうにないよ」

 

 こやつめ本当に困った顔で言いおる。いや真剣に考え始めなくていいから。魔導師ランクおよび魔力ランクともにEかつ素行が良くない生徒の仮定とかいらねぇよ、バッサリ才能ないって言ってやれ。やる気のない素行が悪い奴にはディバインバスターだ。

 

「撃たないからね?」

「頭冷やさせるためにちょっとくらい、先っちょ先っちょだけ」

「なんの先っちょ!?」

「それはそうとなのはのディバインバスターとかをフェイトのザンバーみたいに出来たらカッコいいよな」

「話があっちこっち行くよぅ……」

「ディバインザンバーとか、なのはの得意な収束で刃みたいに薄くして速度を上げたうえで斬りつけた瞬間爆発とか」

「あれ、ちょっと真面目な話に変わってる?」

「あ、フェイトとネタが被りそうだしやっぱりなしで」

「ネタってなに!? てかやっぱり真面目な話じゃなかったよ!」

 

 俺が真面目な話とかそうそうするわけないじゃん。ほらなのはも菓子食べろよ。あそこに山ほど……山ほどないな。

 

「エリオとスバルが食べちゃったね」

「ならほれ、飴やる」

「ありがとう」

「私もくださーい!」

「ふぺっ」

 

 顔になにか張りついたと思ったらツヴァイか。遅れてリインもやって来た。

 

「ナナシさん! 実際既に横で惨事が起きてる、ナナシさんたちのグダグダ感に賛辞を送るため、午後三時のおやつの時間馳せ参じました!」

「さて、何回サンジって言ったでしょう……はい、なのは」

「わ、私? よ、四回?」

「外れ、まぁ、それはいい……ナナシ、私にも飴を」

「私にもいただきたく!」

 

 あれ、四回じゃなかったっけ? と首を捻るなのはを置いておきリインたちにも飴を渡す。あと五回言ったね。

 ツヴァイはどう食べるのか、フルフレームになるのかと思ったらリインが指先でつまみ潰して程よいサイズにしてた。何故か角のないものに仕上がってるし。力業なくせに匠の業だ。

 

 その後はなのはやリインとツヴァイと茶を啜りつつ駄弁っていた。リインは興味のある人に白兵戦、魔法なしの格闘を教えてるそうな……なのはも習ったら? 涙目で首を横に全力で振られた。

 




新年早々ここまで読んでくださった方に感謝を。
明けましておめでとうございます。1月1日ですが新年なんて無視して進みます。

どうでもいい不確かな情報:きっとアリシア20歳(16歳)はきっとフェイトほど胸があるわけでもないけどそれなりにあってスレンダーに伸長が伸びてきている。


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41.アニマル爆発&解体

 小さい子、いわゆる幼児たちの体力は無限ではないかと思うこの頃だ。走り回って走り回って走り回って、止まるなんて文字は辞書に備えてなく飽きるの文字しかない。無限の欲望の二つ名を持つ私も真っ青だ。

 興味の対象は次から次へとあちらこちらへと移り、目を離すとどこへいったのかわからなくなってしまう。わからなくなってしまった……

 

「ま、マズいッスよドクター! ドゥーエ姉が出掛けてる間、ヴィヴィオを任されていたのに見失ったとなればドゥーエ姉に引き裂かれるッス!」

「おおお、落ち着きたまえ! ドゥーエが帰ってくるまで一時間、ラボ内から出ていると言うことはなかろう! 手分けして探すのだ、ヴィヴィオくんどこだーい!」

「ゴミ箱の中にいるわけねぇだろ! 落ち着けドクター、汚れるぞ!」

 

 くれ(・・)ぐれ(・・)()ヴィヴィオくんから目を離さないように、そう念を押してドゥーエは出掛けたのだ。とてもイイ笑顔でだ。そして間の悪いことにウーノとチンクも、世話を見るのに適した人格の持ち主である娘たちが外出していた。つまり残るは人格的に問題点が多い私と娘、もしくはまだ精神的に未熟な娘たちだけとなった……

 はじめはしっかりと見ていたのだよ? しかしヴィヴィオくんの体力は無尽蔵だった――駆け回る彼女に着いていけずまた一人また一人と倒れふし、このザマだ!

 

「セインちゃん! 潜って探して来……ああ! レリック回収に行ったんだったわ……!」

「……ヴィヴィオにGPSみたいなのはつけてないの?」

「そ、それよディエチちゃん! ドクターさっそく追いましょう!」

「それだ……!」

 

 そう言われモニターで位置を追うと……あぁ、これは嫌な予感しかしないぞ。ジッとしていてくれたまえ、お願いだから……無理だろうなぁ、ヴィヴィオくんったら私並みに好奇心旺盛だしなぁ。

 

「それでどこにいるんですのドクター!」

「…………ガジェットドローンVI型保管庫だよ」

「えっ」

 

 不味いぞー、これはヴィヴィオくんが興味本意でそこらへんのボタンをポチポチ押すオチだろう? 私もそこらへんはわかるようになってきたさ……あぁ、ラボに警告音が鳴り響くなぁ。外部設置のカメラより送られる映像を映すモニター。そこにはポップな音楽を鳴り響かせながら、空を駆けていくアニマル型ガジェットドローン。

 行き先は六女たるセインがレリック回収に向かっている列車。

 

「まぁ、うん。セインの手伝いになると考えれば上々じゃないかね?」

「あの、ドクター……隠密で盗るためにセインを向かわせたんじゃないんッスか?」

「セインちゃんから苦情の電話よぉ。大量のガジェットVIが機動六課の隊員を連れてきたって、はい」

『ど、ドクタァァァ! 何しちゃってるのさ! こんなに派手にやるなら私がでなくて良かったじゃん! トーレ姉が適役じゃん!』

「すまない」

『いや、すまないじゃなくってァァあぁぁぁ!? ちょ、ピンクの砲撃でいとも簡単に落とされてるんだけど!? AMFはどうしたの!?』

 

 調整中のものが出ていってしまったようだ。っと、オットーとディエチがヴィヴィオくんを連れ帰って来てくれたようだ。これでひとまずは安心というものだ、ひとまずは。

 

「本当にすまない、まだ設置していないのが行ってしまったね、すまない」

『圧倒的に足引っ張るだけだよ!? あ、ヤバっ中まで来られ……とにかく帰ったらウーノ姉に言いつけるかんね!』

 

 ブチンッ、と切れた携帯を机に置き考える。これは難しい問題だ――

 

「ふぅ……私のミスでガジェットを送ってしまったことにしてウーノに叱られるか、素直にヴィヴィオくんが迷子になってしまったと伝えてドゥーエに怒られるか」

 

 ふと肩に手を置かれ振り返ると娘たちのなかでは一番末っ子のディードが立っていた。私の肩に当ててない方の手を上げ、いわゆるグーサインをする。

 

「なにかいい策でもあるのかい……?」

「ないです! 諦めて怒られましょう!」

 

 清々しいほどの笑顔でグーサインを逆さに向けた娘を見て、うん私の娘と実感したよ。

 結局ウーノとドゥーエの二人に叱られることになり、チンクにもお小言を貰うこととなった。

 

「ドクター? げんきだして、ね?」

「ハハ、ヴィヴィオくんは優しいなぁ……」

「ドク、ター……? はいになっちゃった……」

 

 少し……休もう。次に目が覚めたら、ドキ☆空飛ぶスカリエッティパークを造るの、だよ……

 

 

▽▽▽▽

 

 

 先日アリシアと話していたことなのだが新しいなにかを作りたい。取り敢えず拠点防衛に使えそうなものを作る、前にどんなものがいいかの話し合いを始めた。

 

 始めたのが約一日前、固定砲の設計図を描くことを決めたまではよかったのだが……

 

「だからぁ! 固定砲は威力を重視するべきだって!」

「威力を重視しすぎたら連射性が落ちるって、外したときにカバーできんし防衛には不向きだろ」

「連射性は副砲でも付けたらカバーできるし! そもそも砲撃を連続で撃ってたら早々にエネルギーの限界も来るし、そもそも砲身の熱をクールダウンさせる暇がなくなって駄目になるよ!」

「んなもん魔力炉自体に繋ぎゃなんとかなるだろ、砲身は数用意してインターバル入れつつ回せばなんとかなる。そんための連射性だ」

 

 意見が分かれた。珍しく中々擦り合わせることも出来ずに夜がふけ朝となり昼となった。いや、少しずつまとまってきてるんだけどね?

 

「むぅ、確かに魔力炉さえあればエネルギーの問題は解決だけど……砲身の方はいずれじり貧になると思うよ? いくらクールダウンさせても、最悪気温自体が高いと熱が中々逃げないし」

「まぁ、そうだな」

「んー、切り替えが出来るようにすればいいんだけどそうすると結局なぁ……防衛といえど相手の制圧は出来る方がいいし」

 

 たしかに防衛といっても守ってばかりではどうにもならんか。ちょいと増援が来るまで耐えるって形でしか考えてなかったな。そういう考え方ではアリシアの攻撃こそ最大の防御と言わんばかりの、火力重視も的外れじゃない。

 

「いや、連射性を重視したもので弾幕を張って誘導して……」

「高火力の砲台でズドン、これだよ!」

「タカマチ式防衛システムと名付けよう」

 

 ディバインシューターで誘導、バスターでとどめを……うん、教導とか見に行ったときよくやってた。い、いやー、発想の元は身近にあるもんだな!

 

「よし、固定砲はこれでいいか」

「まぁ、もっと煮詰めないと防衛しきれないだろうけどね」

「そもそも魔力炉がないと始まらないしなぁ」

「それにこれ作ってもどこにつけるのかって話だけどね」

 

 そりゃそうだ。なんとなくで話し合いはじめたし、自分たちが使うとか全く考慮の外だった。

 

「あっ、テスタロッサ家につけたら完璧だね」

「ん?」

「母さんが魔力炉を作る、私たちが防衛装置を作る。もしもそれを越えられても、魔導師Sランクオーバーの母娘とその使い魔がお出迎えって寸法だよ!」

「なにそれ怖い、というか防衛装置いらねぇ」

「あっ……」

 

 プレシアかフェイトだけで並の人間なら回れ右して帰るよな。それにプレシアに至っては魔力炉からエネルギー供給受ければ、限定的とはいえランクSSになるんだぜ?

 

「固定砲に回すより明らかに母さんが討って出た方が速い……!」

「この頃ラスボスみたいな扱いしちゃってるけど実際のところ凄い人なんだよな」

「まぁね、私の母さんだもん!」

 

 っと携帯が震えて、誰だ……あっ、うん。

 

from:親バカ

件名:キタわ

本文:何故か急に力が湧いてきたから、ちょっと新しい魔力炉つくりあげるわ。あと今日の晩御飯はグラタンよ、アリシアに伝えておきなさい。

 

 

 なんでコンビニに寄るくらいの軽さで新しい魔力炉作ろうとするんだろうか、なんで晩飯のメニューと一緒に報告するのか。

 

 ちなみに現在プレシアがいるのは陸の部隊である。レジアスさんに零から十まで全権限を持てるなら、プレシアさんが防衛装置作るのに手を貸すと言ってたと伝えたところ一度話し合いたいと言われたのだ。それが今日で今ごろ話し合ってるはずだ、話し合いになってるよな?

 しかしあの人、陸の実質的なトップと話しながらメール打ったのか。

 

「晩御飯はグラタンだってよ」

「やったー! ……でもその前に私は一旦寝るよ」

「俺も寝る、徹夜は慣れても眠いもんは眠い」

「睡眠取らないと、成長期な私の成長が止まっちゃうかもしれないしね!」

「……そういや、だいぶん伸びたよな」

 

 なのはたちが160cmほどあるのだが、今やアリシアもそれに負けず劣らずの丈になっている。随分と長く一緒にいるもんで変化がわかりにくいが、お互いたしかに成長している。

 

「ちゃんと成長してよかったな」

「全くだよ、私と一緒で身体の成長までお寝坊さんだったらちんちくりんのままだったしね……ナナシにほってかれたくもなかったし」

「ハハハ、おいおい、既に170cmを越えた俺を睨むなよ」

 

 歯をギリギリ言わせつつ睨んでくるアリシアを笑う。未だに顔ひとつ分くらいの差があるので追いつかれることはなかろう。こふっ、アリシアが軽いパンチを打ってくるが鳩尾にジャストヒット……もう少し伸びるか縮むかしてくれ。

 

「ま、あと少し伸びてくれれば満足なんだけど」

「プレシアさんやフェイトを見てるにそろそろ止まるだろ、プレシアさんからの遺伝子が親バカ発揮して成長にブースト掛けなきゃな」

「静まれぇ母さんから引き継ぎし遺伝子ぃぃぃ……!」

 

 身体を抱くようにしてプルプル震えてるがそんなもので成長具合が変わって堪るか。

 

「……あ、そういや前に自己防衛としてAMF的な効果備えたチャフとかどうかって話してたよな」

「うん、でもAMF自体が魔法として難しいし独立した機械に組み込むとなると更に難易度が上がっちゃうんだよね」

「それなんだがスカさんのガジェットドローンにもAMFがついてるじゃん?」

「うん」

「そして俺の倉庫にスカさんのガジェットドローンが入ってるわけよ――つまり」

「よしっ! 解体しようか!」

「よっしゃー!」

 

 寝る予定を踏み倒し続行。

 取り敢えず俺の倉庫に入ってるが、操作はできず出すと自立して勝手に動くので下準備から。まずは工具類を用意し剥き出しのコードから電流をバチバチ、倉庫から頭のみ出したガジェットドローンに当てて――ショートさせる!

 なんかこれビデオかテレビで見た、電気で昏倒させから豚を解体してる作業を思い出す。

 

「数はある、次々かっ捌いてやろう」

「ウフフ、ほっほーう、ここがこうなって……あぁ、魔法を組み込むんじゃなくて完全なプログラムとして、いやあの人変態だけどホント変態的に天才だよね」

「ゲッ、発動とするトリガーとする魔力すら込めずにどうやってんの? これ、なんだ、電力を変質させて魔力と誤認させてるのか……?」

「魔力の電気変質を逆転させてるのかな、いや発想と技術の格の差が思い知らされるなぁ……なにこれ?」

「スピーカーだな」

 

 ファンシーな音鳴らすあれだ。無駄に性能良さげなの使ってやがる……! 幸い電流を流したわりに無事なので、部屋で音楽聞くのに使ってやろう。

 

「だがこれをチャフにつけるとなると」

「チャフって形は難しいか、室内用に設置型ならともかく……」

「いや広範囲を無効化出来るようにせず、人ひとり分を覆える程度のバリアとしてなら」

「手持ちサイズの極限定範囲に絞ればいけるか……?」

 

 チャフのような電波欺瞞紙ならぬ魔力欺瞞紙ではなく、魔力でない機械で魔力を無効化するバリア。これなら逃げながらでも使えるし、ああこっちの方が良さそうだ。

 

「そう上手く作れるかは別だけどねぇ、トライ&エラー、試行錯誤の繰り返しをしないとね」

「仕事の合間にやる感じか」

「いやいや、私たちはフリーじゃん? だからこれの合間に仕事をやる感じで」

「うへぇ、楽しいからいいけどよ……一機残らず解体してやる……!」

「よっし、今度こそ寝よっか。母さんが帰ってくるまでに一息ってことで、晩御飯に備えよう!」

 

 そうしてお互い部屋に戻り寝たわけだが、この間にもピンクの砲撃がガジェットドローン(AMFなし)を凪ぎ払っているとは露ほども知らぬのであった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
セイン、ISディープダイバーで地に潜り全力逃亡の巻。振り返るな、振り返るとピンクと金色がやってくるぞ――!

ギリギリ一週間以内に投稿できましたが、これから少しばかり忙しくなるのでペースが落ちるやもしれず申し訳ないです。また、結構間隔が開きそうな場合は活動報告にて報告しております。


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42.地球

 プレシアが陸の話し合いから帰宅した。どうにかレジアスさんとの話し合いは落ち着いたようで、いや何故か落ち着いたようでプレシアは陸の防衛強化に協力するらしい。

 

「なんで話まとまってるんだ……? 全権限プレシアさんに握らせるとかレジアスさんってば、ついに疲労度が突き抜けて判断力が狂ったか」

「失礼ね、焼き焦がすわよ。ただ開発の権限は私、開発するものの採用不採用はあの髭ダルマが決めることになったのよ」

「陸のトップになんて言いぐさだ」

「ならクマね」

「っぽいのは否定しない」

「でしょう?」

 

 人材不足な陸に、目の前の優秀すぎるともいえるこの人は、まさしく喉から手が出るほど欲しかったんだろう。ただ、プレシアの出す条件も飲み込みがたく、レジアスさんが粘りに粘った結果そういうことになったそうな。

 

「あぁ、あと貴方たちも手伝いなさい。人材が足りないどころか人手も少ないのよ、あそこ。アリシアだけ選択権があるわ」

「んー、どうしようかな……」

「待て、なんで俺には拒否権がないんだよ」

「あなたは基本的に暇でしょ」

「暇そうに見えるかもしれんが仕事とかしてるんよ? 割りと暇だけど」

「じゃあ私も行こっかな、ただ海鳴の方に置いてる機材だけ回収しときたいけど」

 

 そういや色々置いたままか。今日もアニマルなガジェット解体するのにないものもあった。あちらの警察に家宅捜索されたらヤバい系の工具とか色々。

 

「ナナシ、あなた便利な倉庫なのだから入れときなさいよ」

「俺は倉庫じゃねぇよ、いや工具はアリシアも使うし入れてると困ることもあるんだよ」

「なら仕方ないわね。明日にでも取ってきなさい」

「そのまま地球に逃げていい? 一定期間とはいえ定職は落ち着かん」

 

 我ながら駄目人間な自覚はあるんだけど、どうにも今の生活に慣れるといかんね。

 

「アリシアも連れていくつもりなら、久々に張り切ってしまうかもしれないわね」

 

 デバイスが鞭型に変型する。え、なにその機能……ああ、アームドデバイスから応用して可変式に。ふぅん、取り敢えず仕舞ってくれない? いや、違うから。鞭の舞いを見せてほしいわけじゃないし、舞うことになるの俺だろ、わかってんだぞ。

 

「ナナシ、逃避行しようか」

「やめろ、誘うようにみせかけて殺しにかかってくるな! 行く、行くから!」

「逃避行に?」

「違っ、プレシアさんタンマ――」

 

 

▽▽▽▽

 

 

 昨晩のグラタンは美味しかったナァ。前日の徹夜のせいか、実は昨日の記憶が途切れ途切れだったりする。

 おぼつかない足取りで歩いてたのだろうか。どこかにぶつかったのか身体の各所が痛かったり、現在海鳴のテスタロッサ家にいるのだがここにどうやって来ただろうか。いまいち記憶がハッキリとしない。

 

 一番気になるのはアリシアが目を合わせないことなんだが……俺なにかしちゃったか?

 

「なぁ、アリシ」

「あっ、そうだナナシ! 久々に海鳴に来たんだから少しサンボでもしようよ!」

「なんで格闘技(サンボ)するんだ、散歩だろ」

 

 なのはに次いで運動音痴なくせしてなに言ってんだ。リインに稽古づけてもらってから出直して来ればいいと思う。

 

「よぅし、なら散歩しよ! 一日一歩、三日で」

「サンボ」

「三日で格闘技にまで昇華された……!?」

「一歩で格闘技と言うならボクシングな気もするけどな」

「リインは極めたらしいよ」

 

 らしいね、綺麗な∞描いて身体揺すってたよ。シグナムに模擬戦誘われた瞬間に逃走してたけど、足腰も鍛えたらしい……ユニゾンデバイスって筋トレで筋力上がるの? 魔力も上がることはあるらしいし、上がらないことはないか。

 

「てか昨日のことなんだが」

「さってっとー、荷物も片したし外行こっかな。ほらお昼ご飯とか食べたいじゃん?」

 

 手を取られ、半ば引きずられるように外へと連れていかれる。なぁ、なんか話そらそうとしてないか? 下手くそな口笛吹くなよ、掠れてんぞ。

 結局、昨日のことは聞けなかった。別にいいんだけどね、アリシアが言わないなら聞かなくていいことだろうし。

 

「そーそー、世の中知らない方がいいことだってあるんだよ」

「その知らない方がいいことが、我が身に振りかかったと思うとゾッとするんだが」

「まぁ、雷は振りかかったというか落ちたって」

「オーケー、なにも聞かない」

 

 何となく察した。この身体に痛みがあるわりに節々の凝りが取れてる原因はわかった。詳細を知る必要は、ない。

 そうして、アリシアに手を引かれつつ歩いてると背後より声をかけられた。声をかけられた、のは良いのだが地球に知り合いはほとんどいない。さらに言えば、呼び掛けられた名前が俺たちのどちらにも当てはまらない。しかし、よく聞く名前で呼ばれた。

 

「フェイトじゃない、早かったわね!」

「フェイトちゃん、久しぶり……あれ?」

 

 振り返ると、うん全く知らない女性が二名。まぁ、事情はおおかた察せるよな。アリシアとフェイトを間違えたんだろうし、つまりフェイトの地球の友達ってことだろう。今、俺たちにゃ地球には友達いないし、泣いてないし。

 

「どうしたのよ、フェ……ん? もしかして、フェイトじゃなかったかしら……?」

「さーて、たぶんフェイトのお友達なんだろうけど視線を胸部に下げてから判断した理由を言ってみようか? ん、ほらお姉さんに言ってみなさい」

 

 金髪ショートの子がテスタロッサ姉妹の一番見分けやすい部分で判断したせいで、微妙にコンプレックスなアリシアが怒筋を浮かべる。

 

「どうどう、落ち着けアリシア。事実として負けてるだろう」

「アリサちゃんも失礼だよ。ほら、謝って」

「そうね……胸の大きさで判断してごめんなさい」

「謝られたはずなのに、私の心がズダボロなんだけど!?」

 

 じゃあ、どうしろってんだ。それに小さいわけでもなかろうに贅沢いうなよ。スラリとした綺麗なモデル体型、なにが不満なんだ。世の中の真のナイムネに謝れ。

 

「わかってるんだけど、母さんとフェイトに挟まれたときになんか悲しい……」

「見事な凹凸になるな」

「凹んではないから!」

「虚乳」

「母さんたちが巨乳なだけにね! って誰が虚ろな乳かぁ!」

「あ、あの少しいいですか……?」

 

 覚えてないけど、全くもって全然さっぱり覚えてないけど昨日の復讐がてらに、アリシアを弄ってると声をかけられ……あ、すっかり忘れてた。金髪の子は呆れた目で、紫がかった髪の子には心配そうな目で見られていた。フハハ、そういう目で見られるのは慣れてるからなんとも思わんぜ。

 

 さて、改めるまでもなく一回目の自己紹介。我ながら自己紹介をする前に相手の名前を知ることが多い気もするが仕方ない、無駄話が多いんだから。

 

「えっと月村すずかにアリサ・バニングスだね。私はアリシア・テスタロッサ、こっちはナナシ。フェイトの、お姉さん、です! だからアリサはいい加減胸から視線外そうか? 胸のサイズで年齢を判断するなー!」

「そんなことしてナイワヨ?」

「カタコトなんだけど? ……私よか小さそうなのに」

「なっ、なん――」

「ナイムネェェェ!」

「じゃないわよ! あるわよ!」

 

 あらあらすっかり仲良くなっちゃってと眺めつつ、隣で『しょうがないなぁ』と言わんばかりの苦笑を浮かべてる月村へ挨拶をかましておく。

 

「どうも、フェイトがお世話になってます」

「あ、はい。こちらこそです……ナナシさんはフェイトちゃんのお兄さんですか?」

「んんー? いや、違うけど。テスタロッサ家の居候で候う」

 

 金髪二名の胸がないわけじゃない、程よいサイズに保つことによって全体的なラインを美しく云々と話してるのをBGMに月村と世間話。

 話していくと、なんと魔法文化について知っているらしく、話はそちらへスライド。どうやら闇の書事件のときに軽く巻き込まれたらしい。最終決戦的なあれのときに結界内に取り残されてたとか。

 魔法なんて驚かなかったのか聞いてみると、やっぱり初めは驚いたようだ。

 しかし、普通じゃないことが普通なことは知ってるので、普通に受け入れられたとかなんとか。普通と言う言葉のゲシュタルト崩壊を起こして、よくわからんかった。

 ツイン金髪はまだ胸の話してる。

 

「へぇ、今日なのはとその愉快な部下たちも海鳴(こっち)に来るのか」

「はい、お仕事で来るみたいなんですけど」

「ふぅーん……」

 

 なのはたちの仕事と言えばロストロギア関係か?

 ……正直ロストロギアには、嫌な思い出があるので是非とも頑張ってほしい。今回ばかりは邪魔しないでおこう、そうしよう。ダブルゴールデンはまだ胸の話してる……

 

「あの、なのはちゃんにフェイトちゃん、はやてちゃんたちは元気ですか?」

「どこかの顔を変えたばかりのアンパン野郎の百倍は元気。なのはは部下を訓練で千切っては投げ、フェイトはジワジワ親バカの気が染みだし、はやては社会の荒波に揉まれて腹が黒くなって……皆、立派に働いてるぞ?」

「あ、アハハ……それなら安心かな?」

 

 後日、三人に怒られたなんて事実は知らない。

 まぁそんな感じで少し話してたりもしたのだが、時間もいい頃合い。いい加減に腹の虫が鳴り出しそうだったので話を切り上げる。

 

「ほれ、そろそろ飯食いにくぞ」

「つまり私は美乳の正義なんだよ!」

 まだその話続けてたのか。

 

「あー、うんうん。アリシアさんチョースタイルいいし美っじーん! 並みの男なら一撃必殺(イチコロ)だぜ、ひゅーひゅー!」

「フッフッフー、照れるなぁ! なんかイチコロが物騒な気するけど!」

 

 まぁ、一撃必殺だろ。きっと空腹で頭の回りがよくないのだ、昨日のグラタンから食べた覚えないし……意識すると余計に空腹感が増す。人間、マイナスな状態を知覚してから意識するとドンドン駄目な方にいくよね。

 

「さて……そろそろいい? 飯行こうぜ、腹減ったんだって」

「急に素のテンションに戻られると、私が恥ずかしいんだけど?」

「恥も外聞も捨てた内容を話しといて何を今さら」

「そいつたちは置いてきたよ、足手まといになるからね」

「ギョウザのことかぁぁぁ!」

「あ、いいね。お昼ラーメン食べない?」

 

 悪くない。お昼ご飯が決定したので、二人に別れを告げようとすればバニングスが頭を抱えている。どうやら白昼堂々と胸について語ったことに葛藤があるらしい。

 

「うぅぅぅ、あたしとしたことが……!」

「気を取り直せってバニングス、きっといいことあるから」

「励まし方が適当すぎるわよっ!」

「そういやハゲの人に励ますって言葉遊び的に、遠回しな嫌がらせだと思わないか? だってハゲ増す、だし……なぁ?」

「そんなこと知らないわよ!? あたしじゃなくってハゲに聞きなさい!」

 

 ムキーッ! とさっきまでの落ち込み具合はどこへやら。キレの良いツッコミを入れてくるバニングス、きっと友人にボケる人間がいたせいだろう。主にはやてとか、はやてとか、はやてとか。

 

「じゃ、今度こそこれで」

「縁が合えばまた会おうねぇー」

「はぁ……えぇ、じゃあまた」

「お話ありがとうございました」

 

 そうして月村とバニングスと別れた俺たち。お昼を適当なラーメン店で済ませ帰路につく。そこでスライムとすれ違った。あ、丁寧にお辞儀までどうもどうも。

 

「あっ……!」

「ん、どうした?」

「いやぁ、どうせご飯食べるならなのはの実家の翠屋行けばよかったかなーって思って」

「そういや喫茶店だったな……ま、それは今度の機会にでも」

 

 なにはともあれ、久々の地球だったけどあれだな。ミッドとあんま変わらんかった。こっちでも基本的に室内にいること多かったし、懐かしさがあんまりなくて物悲しいな。

 

「えぇ、なんか思い出ないの?」

「そう言われてもな……おっ、そこの公園ならあるぞ」

「お、聞かせてよ」

「お宅の妹にジュエルシードのカツアゲされて、なのはVSフェイトの戦いに巻き込まれた」

「その節はご迷惑お掛けしました!」

「ま、そのお陰で今があるようなもんだから気にしてないけど」

「ふふん、フェイトに感謝するべし!」

「鮮やかすぎる手のひら返し」

 

 あー、あそこの路地は一回目に襲われた……止めよ。

 ちょっとトラウマ的な黒歴史っぽい何かが掘り起こされた。過去の俺は倉庫でなにするつもりだったんだろうか……

 

 今日は楽し痛し痒しな地球帰りとなった。明日からは非常勤的な立場で定職に……いっやだなー!




ここまで読んでくださった方に感謝を。
最近忙しく、投稿ペースがじわじわと遅れるこの頃。2月に限れば丸々投稿できないやもしれません、3月には戻りますが。そこら辺の旨は活動報告にてちょくちょく書くかと思います。書いてます。

胸:普通にある方、周りが大きい
ギョウザ:もしかして、チャオズ
スライム:お辞儀をする丁寧さ
あそこの路地:世界滅亡


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43.魔力炉併用以下略砲

 魔力炉併用ミッド術式応用系ベルカ様式デバイス型多砲身魔力砲。これなーんだ、答えは陸本部に取り付けられた防衛システムのひとつ。見た目は地球でいうガトリング砲を大きくした感じ。根本の方は上下左右180°曲げることが可能で、その気になれば真下に撃って魔力弾によるカーテンだってつくれる。

 

「すんごいぞー、なんと一分間にウン千発の魔力弾がぶっぱなされるぞぅ……」

「燃費の問題は母さんが作った魔力炉で解決」

「もう非殺傷設定にカッコつけて火力で防衛」

「いやぁ、それにしても今日の地上本部公開意見陳述会に間に合って良かったねぇ」

「しかし徹夜はプレシアさんが許してくれなかったからな、アリシアには」

「毎日8時間は寝て私もお肌も絶好調!」

 

 うん、水も弾く絹のような肌だね。でもプレシアさんも常にアリシアといるからか、日に日に肌が潤ってたんだぜ? もうね、見た目は20歳代で通るぞアレ。出会い頭に俺にフォトンバレット撃ち込んで来た頃より、見た目が干支一周分は若返った。本人に言うと褒めても何も出ないわよ、なんて言われたが誉めてない。おののいてるんだよ。

 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ、という重音が鳴り響いてる。

 ちなみに地上本部公開意見陳述会はミッドチルダで一年か二年かに一度行われる会議のことだ。

 発表された地上本部の運用方針に対する議論が行われ、その様子の公開はミッドチルダのみでなく色んな世界で行われるらしい。今回は地上本部の防衛システムの運用に対する注目が集まっていた。いたんだけど既に地上本部外壁には設置されている。

 

「母さんが議論するまでもなく、つけちゃったんだよねぇ。陳述会までに、陳述会で襲われてからじゃ手遅れだって」

「まぁ、レジアスさんもそれには賛成してたんよね」

 

 プレシアとレジアスさん。あの二人はどこか似かよっているところがある。百聞は一見にしかずっていうか、議論を重ねるくらいなら実際に試せってか……ある種でパワータイプなところがある。

 外では爆発音やちょっと悲鳴が聞こえたりする気がする。

 魔力炉併用ミッド術式応用系ベルカ様式デバイス型多砲身魔力砲……以下、魔力炉併用砲は既に無事()()している。

 

「ゼストさんは渋い顔してたりしたけどね」

「クイントさんなんかはやったれぇ! って感じだったぞ」

「陸の人たちって行動派が多い気するよね、その分頭脳派が大変だけど」

「「アッハッハッハ!」」

「笑ってる場合じゃないよ! 外! 外から凄い音が聞こえてるよぅ!?」

 

 俺とアリシアの肩を持って揺さぶるのはなのは。今日の陳述会には六課の面々も来てたらしく、ついさっきバッタリと出会った。外では服装的にスカさんちの娘さんとおぼしき子達が弾幕とタップダンス踊ってるし、アリシアと二人で『熱烈歓迎、地上本部へようこそ!』と書いた旗を振る。

 侵入者はスカさん一家だったかぁ……ガジェットも来てたけどAMF発動前に蜂の巣にされたんだよね。あの容赦のなさはプレシアかレジアスさんだ。

 

 眼鏡な子が騒いでるが魔力炉併用砲の音でなにも聞こえない。聞こえないよとジェスチャーで返すと眼鏡を叩きつけてキレる、なんてこった……眼鏡という個性を自ら捨てるとは。取り敢えずアリシアとイイ笑顔で手を振っといた。

 

「見てよ、これが地上本部防衛システム――タカマチ式防衛システム改だよ!」

 

 アリシアの台詞に呼応するかのように、魔力炉併用砲が回転するかのように中心部を開き、ぶっとい砲撃を放たれた。窓より吹きつけた爆風が、腕を組んで満足げなアリシアの髪をなびかせる。

 後ろで髪を一括りにした子が元眼鏡っ子を横に蹴飛ばさなかったら直撃だったな。惜しい。

 

「なんて名前つけてるの!? か、勝手に名前使うのは著作権の侵害だよ!」

「肖像権じゃない?」

「あ、あれ……?」

 

 まぁ、そんななのはのことは置いておき、現状を整理すると陳述会開始後に襲撃され撃退中。うん、予想外に短くまとまってしまった。

 六課の隊長たち、なのはやフェイト、八神家もいるし外に出て撃退すればいいだろ? って話なんだけど弾幕が厚すぎて確実にフレンドリファイアしてしまうので待機中だ。

 

「彼女たちはまだ知らなかったのだ……タカマチ式防衛システム改を越えたとしても」

「その先には、真の高町なのはが待ち構えていることに……!」

「待ち構えてるけど! 待ち構えているけどさ! その名前変えようよ!?」

 

 シグナムさんあたりは素振りして……あ、レヴァンティンの弓型で狙撃しようとしてフェイトに止められてる。

 

「えー、なのはから着想を得たからリスペクトして名付けたのに」

「それにこのネームバリューだけで侵入を諦めるやつもいるだろうし……」

「却下だよ!」

「ちぇっ、今度登録名変更しにいかないとな……」

「既に登録しちゃってるの!?」

「冗談冗談」

 

 そんなことを話しているとフェイトが駆け寄ってきた。

 

「六課が、六課にも侵入者が!」

「えっ、そんな……」

「リインが残ってるところに侵入者……侵入者が心配だ」

「全くだよ」

 

 

▽▽▽▽

 

 

 いやぁ、あたしのISの無機物潜航(ディープダイバー)が役立つのはわかるよ? ドクター自身も意図せず作り出した激レアな能力だって言うし……だからこうやって地中に潜って、こっそり機動六課に侵入したりしてレリックも盗れる。

 それでもレリックの保管場所なんかに出て、部隊員と鉢合わせすると不味いわけで。

 

 だからトーレ姉とセッテが六課に突っ込んだ。トーレ姉の方は文字通りに正面玄関に、ライドインパルスで突っ込んだ。警報は鳴り響いて部隊員たちは、ほぼ全員トーレ姉のところへ行ったわけですよ。

 だというのに、レリック保管場所からただ一人動かない奴がいる。銀髪の女……たしか名前はリインフォース・アインスだったっけ? ドクター曰く、ヤバいらしい。

 

「主やナナシ、アリシアが言うには……こういうときはお約束的に一番のお宝を守っとけ、だったが……ここでよかった、のだろうか……?」

 

 セインさん的には最悪だけど合ってるね!

 と、ブーメランがリインフォースの首を目掛け飛んできた。妹のセッテだね。

 

 本来ならAMFを付加した攻撃なんで防げない。魔導師だろうとユニゾンデバイスだろうと意識を刈り取って、私たちはレリック取って万歳! なはず。

 ただドクターの言葉を思い出した。リインフォース・アインスは、ユニゾンデバイスであり魔力を使()()()()戦える。私たちが対魔導師特化なら、彼女は対AMF特化だと。

 

 でも大丈夫大丈夫、不意打ちのブーメラン(凶器)。これを避けるだなんて……

 

 ――肘と膝がギロチンのようにブーメランを白刃取りし、砕いた。うそん!?

 対AMF特化とかいうレベルじゃないじゃん、ドクター!

 

「う、そ……ドクターの情報ではボクシングスタイルじゃ?」

「それも、出来る。けど主が無手で刀を砕く流派の技を見たい、とボソッと漏らされたのを聞いて……こっそり練習してた。アッパーでも砕けたけど」

「逃げさせてもらう……!」

 

 セッテとリインフォース・アインスとの追いかけっこ、他六課の面子全員と逃走劇をしているトーレ姉を犠牲に、あたしはこっそりとレリックを盗み出すことに成功した。

 

 妹のセッテちゃんに敬礼、帰りにケーキでも買っていこう。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 侵入者もといスカさんちの娘さんたちの撃退には成功した。まぁ、捕らえることは出来なかった。透明になりやがったもんで、追跡部隊も撒かれた。

 

「防衛システムの有用性は見せつけれたしいいでしょう。捕らえることは私たちの仕事じゃあないわ」

「ふむ、いやそこも陸の我々の仕事だったのだが……まぁ、久々にスカッとしたな。海の奴等め、魔力炉併用砲の威力に口を開けたままだったわ、フハハハハ!」

 

 となんかプレシアもレジアスさんも色々綺麗に終わった感じを見せてるが、実は問題も残ってたり。

 

「ナナシー、そっちはどう?」

「砲塔03号から05号まで、07号と09号が配線が焼けちまってる……砲撃ぶっぱなしたやつだな」

「うーん、撃ちっぱなしで熱負荷が掛かるせいで逝っちゃったかな」

「砲撃の際には何か別の処理を噛ませるべきね。ナナシ退きなさい、そこの修理は私がするわ」

「あいよ」

「中将、そこの工具を取ってちょうだい」

「う、うむ」

「プレシアさん、陸のトップを顎で使うなよ」

「使えるものは何でも使う主義よ」

 

 使えるものって……普通、陸のトップは使えないものだよ、てか使えない者だ。むしろ仕えられる者だ。

 たしかに見た目的にはレジアスさんがここにいる誰よりも工具が似合ってるけどね?

 

「やっぱり全砲掃射は負担が大きいわね」

「ローテーションが安定だろ、というかこれ一機の弾幕密度考えたら全砲掃射する意味ないだろ。なんでやったんだよ」

「私が楽しいからよ」

「レジアスさーん! ここにどうしようもない人がいます!」

 

 試験運用的な意図があるんだろうとか思った俺が馬鹿だった。

 

「いや、そうだな……正直、儂もスカッとした」

「あ、もう駄目だ……ん?」

 

 突如、突然そこら一帯の空中にディスプレイが投影された。そこに写るのは、てかこんなことするのはジェイル・スカリエッティことスカさんのみ。

 

『初めまして、こんにちわ、それとも久しぶりかな? 次元世界随一の科学者ジェイル・スカリエッティだよ』

「あの変態、私を差し置いて次元世界一を名乗るとはいい度胸ね」

「へーい、プレシアさん落ち着いて。画面に雷撃ち込んでもスカさんには当たらんから」

「次元跳躍って、知ってるかしら?」

「知ってるけど止めろ!」

 

 

▽▽▽▽

 

 

 フッフッフ、フフフハハハハハハ! 時は満ちた、レリックは揃った! ヴィヴィオくんも元気だ!

 それでは始めようではないか、ドキ☆空飛ぶスカさんパーク開演宣言を!

 

「初めまして、こんにちわ、それとも久しぶりかな? 次元世界随一の科学者ジェイル・スカリエッティだよ」

 

 ……おぅ、何故かはわからないが背筋に寒気が走ったのだが疲れが出てきたのだろうか。右下モニターに映るプレシア女史が、デバイスを振り回してるのは関係ないと思いたいね。

 

「めんどくさい前置きは全て取っ払ってしまおう。用件のみ伝えるとしよう。明日の午前八時よりドキ☆空飛ぶスカさんパークの開催を宣言する! 入場料は無料、奮って参加してくれたまえ! 世界を面白おかしく変えてやろうではないか!」

『アホでしょうか』

『アホや』

『アホね』

 

 聖王教会や六課や地上本部から拾っている音声がアホしか聞こえないのは機器の故障だろうか、きっとそうだろう。

 

「さて、きっと私の登場によってカリカリしている者もいるだろうが心配しないでくれたまえ! 危険なことはなにもしない、ちょっと聖王のゆりかごというものを空飛ぶ遊園地風に改造しただけだ!」

『なんてことしてるんですか!? シャ、シャッハ! 六課、六課の方々に連絡を!』

「我々のところまで到達できた心優しき者には豪華な宝をきっと用意しよう!」

 

 子宝とかね。

 

『アリシアー、リイン誘って行かない?』

『休暇取れるかなぁ……まぁ、ついでに皆も誘ってみよっか』

『遊園地とかなんか久々だわ……年甲斐もなくワクワクしてきたぞ!』

『『いぇーい!』』

 

 純粋に楽しんでくれそうな人がいて何よりだね。何よりだが、その楽しんでくれそうな人間が一番厄介そうなお友達を連れてきそうだよ。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。

ホテルアグスタ?ティアのイベント?
そんなものないです。
レリックに関しては普通にセインさんが頑張りました。うちのセインさん実は滅茶苦茶働いてます。


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44.ドキ☆スカさんパーク開園

 ジェイル・スカリエッティは管理局の歴史に名を残す。

 ――歴代史上最高のアホだと。

 

 その日の明け方にひとつの山が消えた。その山があった場所より飛翔したのは聖王のゆりかご。

 

 古代ベルカの聖王が所持していた超大型質量兵器であり、数kmもある空中戦艦。それが聖王のゆりかごである。

 聖王の一族はこの中で生まれ、育ち、死んでいったことから“ゆりかご”の名が付いたと言われている。中で一生を過ごしてたのに何でそれが外に伝わってるんだとかそんなことは知ったこっちゃない。きっと誰かが突撃! 隣のゆりかご、とかでもかましたのではないだろうか。

 かつて聖王の下、世界をぶっ壊しちゃったり、ちょちょいっと大規模次元震を起こしたこともあるといわれるマジでヤバい代物だ。だから大規模次元震を起こしたのに誰が見て生き残って、記録を残したのかとか聞かれても知らない。

 

 ――ということが無限書庫の司書長たるフェレット擬きもとい、ユーノきゅんが久々の休日に出勤させられ口から呪詛吐きつつ調べ報告してきた内容である。彼の休日はまだ遠い。

 

 起動には本来“鍵の聖王”が必要だが、ちょっと頭のネジがフライアウェイしちゃってるジェイル・スカリエッティはこれの裏をつく。聖王の遺伝子より作られた少女――ヴィヴィオにレリックで作った玩具を渡すことにより鍵の代用とし、元聖王のゆりかごを起動させた。

 

 そう、()聖王のゆりかごだ。

 

 新暦75年9月19日、今日飛翔したのは観覧車が見えるわ、破壊兵器の象徴たる砲身から色とりどりの花火をあげてるわなんだこれ。極めつけにはライトアップされたファンシーなお城が見え○ッキーパレードのような曲を鳴らす夢の国のような、飛行型遊園地――ドキ☆空飛ぶスカリエッティパークだ。

 

「あかぁぁぁぁん! スカリエッティそれアウトやぁぁぁ! 緊急召集や、皆アレ落としに行くで!」

「スカさんそれヤバいやつ! ヤバいやつだからな! ねずみカンパニーに消されるぞ……!? 行くっきゃないな! アリシア40秒で支度しな!」

 とは地球生まれの転生野郎や地球暮らししていた新部隊の隊長が見た瞬間に叫んだ証言である。大方察せる人は見たときに察したのだろうが、残念ミッドでわかる人間はほとんどいなかったようだ。

 

 そんなこんな紆余曲折を経て、ミッドチルダ犯罪歴史上、最もアホな一日の始まりとなったのであった。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 朝早くから二件のメールが届いていた。

 一件はスカさんからの招待状、ネズミはいないので安心して来てくれたまえとか書いてた。なんでスカさんが例の奴を知ってるのかは知らない。

 もう一件ははやてから。アレに行ったらあんからな、絶対にあかんからな! とか書いてた、フリですねわかります。40秒で支度した。

 

「聖王のゆりかごって元々古代ベルカのオーバーテクノロジーが詰め込まれた、変態レベルの兵器だったのにどうしてああなった」

「変態たるスカさんが改造したからじゃね? 古代の変態と近代の変態、奇跡のコラボレーション」

「変態同士惹かれあっちゃったかぁ……駄目だ、リインに繋がらないや。通信切ってるみたい」

 

 というわけで、某部隊長さんのご期待に沿えてスカさんパークを目指してるわけだが、残念ながらリインには通信が繋がらないようだ。

 まぁ、正直六課の皆もスカさんパークに行くんだろうしそのうち会えるんじゃないかな。とかそんなこと考えてるうちに目前に見えてきた。あとはコッソリ飛行魔法を使って入るだけなんだけど、とにかくデカいな。

 アリシアと手を繋ぎ、ちょっと試してみる。

 

「「バ□ス!」」

 

 ……………………うん。

 

「……落ちないか」

「ガッカリだよ! まぁ、これで落ちてたら大惨事だったんだけどね」

 と噂をすればなんとやらなのか、ちょうど元聖王のゆりかごの下にリインとツヴァイが待ち構えていた。

 

「ここで会ったが百年目です! マイスターはやての命によりナナシさんたちは行かせません! ここを通りたくば、私たちリイン姉妹を倒していくことです!」

「と、いうこと。お前たちなら、絶対に来るので……止めろと言われた」

「いやいや、リインにツヴァイったら困っちゃうなぁ。本気で私たちが戦ったら勝てるわけないじゃん」

 

 俺たちがな。開始直後に返り血まみれになるくらいの覚悟をしてからかかってくることだな。

 ひとつだけ言っておくが、皆が考えているより俺たちは――遥かに弱い!

 ぶっちゃけこの頃は軽い訓練も全くしてません! たぶん、二人もいらない。リインかツヴァイのどちらかだけで余力を十二分に残して俺たちを倒せるから。俺たちの実力なめるなよ?

 

 ただ楽しそうなのでやっぱり言わないことにしておき、流れにノッておく。

 

「お二人は肉弾戦派なお姉ちゃんより、ぶっちぎりのミソッカス魔力ということはリサーチ済みなのですよ! そんなハッタリはツヴァイには通用しないです!」

「フッフッフ、確かにその通りだ。けどリインやツヴァイのボディを作ったのは俺たちということを忘れていないかな?」

「まっ、まさか! 背中に強制終了のボタンがついてるとかですか!?」

「それだと寝る度に強制終了されてしまう件について」

「ハッ!? 私の寝付きがよい理由は……!」

「まぁそんなもの付けてないんだけど」

「はやとちりしてしまいました!」

 

 顔に手をピシャッと当ててヤッチマッタゼ、と言わんばかりのリアクションのツヴァイ。キャッチし胸ポケットに入れる。よし、ツヴァイゲットだぜ。

 

「これで三対一だ、リイン!」

「あれっ、いつの間にか味方に数えられちゃってます!?」

「む……でも、止めるように努めるよ。頑張る」

「リインの意思は固いようだね……仕方ないなぁ、じゃあ戦う前に握手を」

「……うん? 別に、いいけど」

 

 ロクなこと考えてない爽やかスマイル(0円)を浮かべたアリシアがリインと握手をし――目の奥がキュッピーン! と輝いた。

 

「かかったね! ユニゾンイィィィン!」

「あっ……」

 

 リインの姿が消え、アリシアが変身。普段は爛々と煌めく金髪が透き通るかのような銀と見間違えるほどに薄くなり、紅い瞳は翡翠色へと変わった。まるで魔法少女みたいだ……肉体年齢的にギリギリ魔法少女かね?

 

「きゃー!? お姉ちゃんが食べられたのです!?」

「ユニゾンインだから、アリシアそんな雑食じゃないから」

「なんと、私もユニゾンデバイスなのにうっかりです! アリシアさんがバリバリの肉食系女子かと思ってしまいました!」

「俺に任せろバリバリー」

「やめてください!」

 

 変身後のアリシアがノリだけでポーズ的な何かを決めている。口でシャキーンとか言うなし。けどまぁ、人のデバイスは弄るわりに自分たちではあまり使ってなかったので、アリシアのバリアジャケットを見るのも久しぶりだな。

 

「フッハッハッハ! ユニゾン解除されるまでにゆりかごに突撃だー!」

 

 ユニゾンしたアリシアにお姫様抱っこされる。いやん、パワフル。そのまま招待状に描いてある地図を見つつ元聖王のゆりかごに入る。本来はAMFとか全体的に張ってるらしいんだけど、今はオフっぽいな。

 丁寧に抱っこ状態から降ろしてもらう。ふぅ、到着到着。パッと見の内装はもう完全に遊園地で兵器の面影もない。

 

「ユニゾン解除。ふぅっ、ちかれたー」

「不覚、いっぱい喰わされた……」

「ふふふ、そしてリインたちはここに来させないように言われてるだけで、ここに来てしまった場合の指示は受けてない! つまり!」

「もう俺たちの進行を阻むものはいないのだ!」

「とんだトンチなのです!?」

「なら、仕方ないな……どこから回ろうか?」

「お姉ちゃんも案外ノリノリですか! ならばリインも楽しみましょう! ほらナナシさん、あそこに案内板が!」

 

 ツヴァイの指差す先を見れば案内板というより、こっちに進めと言う感じの矢印マークが続いていた。ふーん。

 

「なら反対に進むか」

「よーし、ワクワクしてきたよ!」

「あっ、なんとなくはやてちゃんが止めるように言った理由がわかりました」

「平常、運転」

 

 さぁ、出発だ。おーいアリシア、ヒャッホゥ未知の技術だじゃないから、壁からひっぺがすなひっぺがすな! ん、金になる……?

 うん、ちょっとぐらいいんじゃないかな、リイン手伝っておくれ。ここは俺に任せろ、バリバリ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ホラーハウス。指示板に従って進んでいた、私たちが入ったのはそう命名された屋敷のなかだった。

 うん、ホラー。怖いんだろうと思って入ったんだよ、たしかに雰囲気もあったし。それに遊園地みたいな見た目とは言え、超大型質量兵器とされる聖王のゆりかご。警戒心も持って入ったのに……! 入ったのにぃぃぃ!

 

「バスタァァァー! バスタァァァァァァ! バスタァァァァァァァァァァァ!」

「な、なのは落ち着いて! 空間モニターだからいくら撃っても消えないよ!?」

 

 私たちがホラーハウスの中に入ると不意に空中投影型のディスプレイが出現し――いつかのアニマル型ガジェットに揉みくちゃにされる私や、国語に苦しむ私が映された。映像は延々とループしている。

 

 とんだホラーだよ!? たしかに恐ろしいものだけど! ものだけどさ! そもそもなんで国語で大変な私の姿まで……!

 

 消えない映像を私の全力全開のバスターでどうにか消そうとしていると、新たなディスプレイが現れ――エリオとキャロのアルバムを眺め、緩みきった表情をしてるフェイトちゃんが映「ザンバァァァー!」真っ二つになった、ワザマエ。

 

「なんであんな映像あるの!?」

「バスタァァァー! わ、私にもわからな……あっ」

 

 国語に四苦八苦する私の映像とフェイトちゃんの映像の下には小さく、本当に小さく――提供者ナナシ&アリシアと書かれていた。

 

「ナナシくんなにしてるの!?」

「お姉ちゃん……!」

 

 あっ、あの二人はほんとにもう! 著作……じゃなくて肖像権の侵害で訴えちゃうよ!? あ、でもそうするとこの映像が……こ、今度は許さないからね!

 本人からのコメント欄には『これをバネに魔法だけじゃなくて日本語も頑張ってほしい』とか『この頃お姉ちゃんは妹の新たな一面を見つけてちょっぴり不安です』とか書いてるし! 私こっち来てからも頑張ってるからね!?

 

「うぅ、母さんからの遺伝かなぁ……でも取り敢えずなのは」

 

 フェイトちゃんと顔を合わせ力強く頷きあう。なにはともあれ先ずやることはひとつだね。カートリッジのマガジンを取り出しセット。

 

「「このホラーハウスを正面から」」

「撃ち抜く!」

「ぶった斬る!」

 

 レイジングハートとバルディッシュを構えカートリッジリロード。薬莢を弾き出し魔力を集束……!

 

「なのは、中距離殲滅コンビネーションいくよ!」

「うん、全力全開!」

「疾風迅雷!」

「「ブラストシュゥゥゥゥト!」」

《Blast Calamity》

 

 この後、ゆりかご全体に震度三くらいの揺れがあったみたいだけど私たちはなにも知らない。知らないったら知らないのだ。

 

 

 ――聖王のゆりかご、5%ロスト。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
はい、お姫様抱っこなイベントですよ。神様転生オリ主らしいですね……え、なんか違う?


さて、唐突ながら申し訳ありません。明日から2月に入るのですが、以前より活動報告で言っていた通り、割りと忙しく投稿が出来ない可能性が濃厚です。また詳しいことは活動報告にて記載しておこうかと思います。きっと、記載してるはずです。改めて申し訳ない。

ps.きっと4月頃には完結。


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45.たゆんたゆん

 ――ゆりかご内の5%が損失しました、繰り返します。ゆりかご内の5%が損失しました。

 

 そう鳴り響くアナウンスにもう諦めの域に達したため息を吐く。わかっていたさ、彼女達が来ることが決まったときからこうなることはね。だからこそ、ある意味での全力を注ぎ込んだホラーハウスに案内したわけなのだが……後が怖いなんてことはない。責任は分散されるようにしたからね!

 

「しかし、ホラーハウスだけでなくその一帯を吹き飛ばされるとはね……あれを受けて生きているナナシくんやリインくんはどうなっているんだろうね?」

 

 彼女たちのコンビネーション攻撃がオーバーキル過ぎた。ゆりかご内の1%にも満たないホラーハウスを吹き飛ばすのにあの威力はないだろう。防衛機能として一時的にAMFが展開されなかったら、今頃ゆりかごの2割は消し飛んでいた。非殺傷設定とはなんだったのだろう、死なないだけで死ぬほど痛い設定とか、人が死なないだけでバンバン破壊します設定という名前に変更しないかい?

 

「ドクター、赤髪とピンク髪のチビッ子たちは素直に観覧車に続いて、ジェットコースターに乗ってくれてるぜ」

「ふむ、楽しんでくれているようでなによりだね……いやぁ、胃に優しい子達で本当になによりだ」

 

 ディエチが案内に行ってくれたのだが意外にもちゃんと遊具に乗っていってくれているようだ……うん、本当に素直な子達だよ。そのまま真っ直ぐに育ってほしいものだ。

 

「ドクター! トーレ姉が勝手に出撃しちゃったッス!」

「ジッとすることが出来ないのかい!?」

「あたしに言われても知らないッスよー! しかも既に桃色侍とチャンバラ始めちゃってるッス」

「……もう、いいよ。楽しそうだからいいとしようじゃないか」

 

 決して諦めたわけではない。ただ、あの桃色侍もとい夜天の書の守護騎士シグナムもとても楽しそうなのだよ。何故かあそこだけガチ戦闘が始まってるが楽しそうなら止めなくても良いだろう、存分に楽しんでもらおうではないか。

 ただ、あまり壊さないでほしいのだかね……損壊率がジワジワと増えていく。

 

「ノーヴェ姉様、セッテもウズウズしてるんだけど離していいでしょうか?」

「ディード、そのまま押さえとけ。セッテはトレ姉の影響をメッチャ受けてるからなぁ……離したら多分あそこに混ざっちまうだろ」

「大丈夫だよ、リベンジ! リインフォース・アインスに対するリベンジですから!」

「余計に行かせられないよ」

 

 ディードにオットーも押さえにかかる。なんいうかクアットロまでの娘たちは、私の性質を色濃く受けているはずなのだがね。トーレはどうしてああなったのか。初めての戦闘技術に特化させた子だったから極振りしすぎたか……そういえばリインくん含めた面子は何をしているのだろうか。

 

 うん、普通に案内板を無視しているね。案内板を見つけるたびに無視している。ついでとばかりに聖王のゆりかごの機材や内装をバリバリと剥いでいっている。

 

「……ふぅ」

「ドクター、諦めてモニターを消すのは止めてください」

「ヴィヴィオくんと少し遊んでくるよ! ウーノ、少しの間まかせたよ!」

「行かせません」

「だよね、知ってたよ。まぁ、実はこれはこれで面白いから問題ないんだけどね」

 

 それを聞いたクアットロがいやらしげに笑みを浮かべて問うてくる。

 

「はっきり言ってドクターはこのゆりかごが落ちてもいいと思ってるんですよねぇ?」

「ああ! 聖王教会あたりの人間たちが阿鼻叫喚な顔を見せてくれそうで胸がワクワクして止まらないよ!」

「わかります!」

 

 つまりどう転んでも私にとっては――楽しいのだよ! 正直子供の笑顔と同じくらい人が『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』と言葉にもならず表情で表すのを見るのも好きでたまらない……

 

 

▽▽▽▽

 

 

 甘味、それは人を惑わす最たるものの一角に君臨するもの。食べ過ぎると体重計に乗るのが怖くなると女性たちからは噂されてるとか。スイーツ()を満喫したあとは体重(現実)を直視するのは怖いものだったりする。

 

 そんな酸いも甘いも兼ね備えた甘味を取り揃えたフードコートが現在進行形で蹂躙されていた。青髪の一人の少女によって、その手に嵌めた母譲りのデバイスなんてものは一切使わず、己が胃袋のみを使用し。

 

 甘味処を蹂躙制覇していた――!

 

「わぁぁぁ、ティア! ティア! アイスが食べ放題だよ! ほら、二十段重ね!」

「あー、もうっ! ちょっとは落ち着きなさい、ってもう食べたの!?」

「こういうスイーツ食べ放題って夢だったんだぁ……あ、ケーキ! やった、ホールごと食べられる!」

「……あの子の摂取カロリーはどこで消費されてるのかしらね、ときどき憎たらしくなるわ。その胸? 胸かしら?」

 

 言わずもがなスバル・ナカジマである。彼女が通りすぎたあとには一軒、また一軒、追加で六軒と材料が尽き潰れる店しか残らない。

 

「ティアってば、胸に食べた量を送ってたら破裂しちゃうって!」

「なら胃が熔鉱炉にでもなってるのね、食べた矢先から溶かしてエネルギーにしてるのね」

「あははー、食べても太らないからそうかもー」

「……」

「アイタッ!? なんで無言で叩くの!?」

「目標をセンターに入れてスイッチ……目標をセンターに入れてスイッチ」

「イタタタ!?」

 

 きっと、どこかのモニターでこの様子を眺めている変態科学者は頭を抱えてる。

 甘味に魅いられた少女には世の中の常識なんて当てはまらないのだ。食べた質量が胃袋に収まりきるわけないなんて、そんなちっせぇ現実すらも食い千切り、軽ーくキロ単位のスイーツをぺろりと(たい)らげていく。

 スバル・ナカジマ、食欲の変わらないただひとりの少女……おっと母と姉がいた。今日もナカジマ家のエンゲル係数はファイヤー祭、毎日フェスティボーだ。実際問題として経済的には……実は無事である。なにしろ家族四人とも働いており、それなりに稼いでいる。割りと上手いこと回ってるのであった。

 

「けどこれが聖王のゆりかごね……これが古代ベルカの超巨大質量兵器とは思えないわ」

 

 ティアナは周辺を見渡し――また五軒分の甘味を完食した相棒を無視しつつ――そう呟く。兵器、なんて面影が感じられないほどファンシーな雰囲気に染まってしまっている。これを喜ぶべきなのか裏に何かあるべきと考えるべきなのか……取り敢えず食物に毒はなさそうなのだが。スバルがあれだけ食べて無事なのだ、いや常人があれだけ食べたら毒とかなくても死んじゃうのだが。

 

 

 一時間後。

 

 

 バンダナ少女はクールに去っていく。その場にはただひとつの食物を残さず……少女のいなくなった元甘味処にはどこからともなく木枯しが吹き抜けたのであった。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 振りおろされた刃を避けるため床を滑るかのように後退。しかし刃より噴き出された火炎が追い縋る。両手首の羽のようなブレードでクロスさせるように切り裂く。

 そして霧散した火炎の向こうから迫るは鞭のようにしなる連結刃の先端。眉間中心を突こうとするソレを首を捻ることで被害を最小に押さえつつ、今度は後退でなく前進を選ぶ。伸ばした連結刃の先端は速度が速くとも、その持ち主は即座に武器によるガードをすることができない。つまり絶好の反撃のチャンス――蹴りによる右足の二枚ブレードによる斬りつけ。

 

「――ガッ!?」

 

 斬りつけを行う直前、額に衝撃。揺れる視界のなか目に映るのは、鞘。それで額を打たれたのだ。体勢を立て直し腕のブレードの振り下ろしで再度斬りつけるが、既に鞭状連結刃より片刃の剣状に戻されたそれで防がれる。火花を散らし鍔迫り合いをするが、斬り合うため、ではなく切り裂くために設計されたようなブレードでは分が悪く弾き上げることで仕切り直す。

 

 一見、刃も相手の獲物に比べ脆く不利にも見える。だが、両手両足についたブレードは体術を組み込むことで変則的な攻撃を可能としていた。

 

 弾きあげた勢いのままバク転の要領で間合いを取る――フェイントをかけ足のブレードで斬り上げる。しかし相手の反射神経的に首を仰け反らせ前髪を掠めるに終わる。切られた前髪が散り落ちる前に再び斬り合い始める。

 

「アハハハハハハハハハ! 楽しいな!」

「フッ、なかなか速いな! もっと速度は上がるか!?」

「上がるとも! ライドインパルス――!」

 

 問うまでもなく、言うまでもなくバトルジャンキーが二人。おっぱいがふたつ、いや一人は桃髪のポニーテールとおっぱいを揺らし剣を振るうシグナム。もう一方はスカリエッティ家1の脳筋、ショートの髪をなびかせおっぱいをたゆませブレードを振るうトーレ。

 

 横凪ぎに迫るレヴァンティンをブリッジのように身体を反らせ、自己主張の激しい双丘(おっぱい)を更に主張させながら間一髪で避ける。反撃とばかりに合掌と同じ動作で両手を振るい、ギロチンのように挟み込もうとするも剣と鞘に防がれ、その衝撃は二人のおっぱいを震わせ――以下略。

 とにかくバトルジャンキー二人により、スカリエッティパークの損傷率は倍ドンとなるのであった。

 

 おっぱいおっぱい!

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ちょっと行き掛けの駄賃ってわけでもないけどお宝の山、もとい元聖王のゆりかごのそこらをひっぺがしては回収していると道に迷ってた。

 迷ってたんだけど、そのことすら気づかずに右へ左へ進んでた俺たちは途中でホラーハウスって書かれた看板を見つけた。ただし何故か焼け焦げて道端に落ちてるんだが。

 

 辺り一掃、高火力砲撃……なのはか? いや、なのは一人だけじゃない感じが。なんかコンビ技的な……ウッ、頭が。

 

「な、なーんか背筋がブルッとした」

「ここ、震えが止まらない……」

「ナナシとリインがなんか震えてるよ!?」

「携帯のバイブみたいです! なにか着信しましたか!?」

 

 いや、これはあれだ。なんか電波的なアレをキャッチしたときというよりも、プレシアの地雷をポチってしまったときの感覚に似ている。経験則からくるトラウマスイッチが無意識に押されてしまったというのか……いったいここでなにがあったのか。

 

「何があった、というよりも何もないよね」

「他は割りとファンシーなところが多かったですけど、ここだけ荒れ果てた世紀末って感じです! はわっ、ツヴァイもモヒカンにするべきでしょうか!?」

「リインあたりは、この拳王には無抵抗は武器にはならぬ! とか言うのか?」

「この頃、私が武道派という風潮をどうにかしたい……武術的なのじゃなくて、ダンスとかしようかな」

「キラッ☆」

「それ歌姫です!」

 

 しかし相変わらず寒気が止まらないので移動することにする。たまに行き止まりに突き当たるわけだけど、リインパンチで横をくりぬき、クイックバスターで撃ち抜いたりでショートカットショートカット。器物破損的な犯罪に当てはまる? いやいや、聖王のゆりかごってほっといたら危ないかもしれないじゃん。なのでちょっとでも機能停止に近づける手伝いしてるだけだから。

 

「また案内板なのです!」

「よーし反対側に行くよ!」

「やってまいりました、再び剥ぎ取りのお時間です!」

「固いのは、私が剥ごう」

「さすがのツヴァイも、もうこの流れは読めてました!

私のエターナルブリザード的なアレも火を噴かせますよぉ!」

「氷の技なのに火だと?」

「しまりました!」

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
なんか場面がコロコロ変わるわ、戦闘始まるわおっぱいで少し話が短くなっており、建前上すみません。

なんか投稿できました。けど二月は基本不定期かと。

ps.おっぱいの表現もっと頑張ろうと思いましたがなんかそれは他に投稿してる作品で頑張ればいいやと諦めました。作者は大小関係なく愛します。


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46.マジカルアタック(物理)

 ミッド市内を駆け回る無数の電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物……もといアニマル型ガジェット。何をしているのかと言われれば、絶賛飛翔中の監修製作以下もろもろスカさんでお送りしている遊園地の宣伝だ。

 景気良くビラがばらまかれ、地球で無断使用するとちょっとヤバそうな夢の国のBGMを響かせガジェットは街を回る。

 

 まぁ、害という害はない。強いて言えば散らかされたままになるチラシなのだが、どういうわけか地面に放置されたチラシは五分後には土に還っている。ホントなんでだ変態技術キモいとはテスタロッサ家にお住まいの二人の言である。

 

 ただ、次元世界を渡る海より賃金は安いけど、社畜精神剥き出しで今日も元気にモリモリ働くぞ! がモットーなミッドの平和を守る陸部隊の皆さまはそうも言ってられない。

 ミッドの歴史でも屈指の変態レベルを誇ると言われている古代ベルカの兵器が空を飛び、それの宣伝を行っている謎の機械が市内あちらこちらにいるのだ。

 聖王教会あたりが怒りそうだが歴然たる事実だ、どう考えても変態技術の結晶である。

 

「クイント分隊長! 魔法が、魔法が通じません!」

 

 そしてこれである。スカリエッティ印のガジェットは、基本的に魔力の結合をほどいてしまうAMFを発動しているため魔法が効かない。というか一般魔導師に至っては使えないに等しい。

 

「AMF程度でミッドを守り抜いてきた私たちは止まらないわ! マジカルパンチ!」

「クイントそれフィジカルよ、フィジカルパンチ。まぎれもない物理よね」

 

 故にアニマル型ガジェットの覇道(ビラ配り)を止めるものは一人もいない――なんてこと全くなかった。

 もう一度言おう。資金力、人材不足、その他色々ないない尽くしで社畜精神剥き出し、元気モリモリ働き続けた陸部隊を舐めてはいけない。

 ミッドを守り続けてきた陸部隊(ヒーロー)はこの程度の苦境、日常茶飯事なのだ……日常茶飯事なのだ! レジアスの涙は今日も止まらない。

 

「ドローンの上に瓦礫類を転送して圧殺してるメガーヌに言われたくないわ」

「重力×質量×魔法=破壊力よ!」

「その論理でいくと、私軽いからパンチ力なくて大変だわ!」

「そんなことないわ、大丈夫よ。クイントは十分破壊力抜群(パワルフル)じゃない!」

「メガーヌあとで屋上! 久々にキレちゃったわ!」

 

 若干二名の分隊長が真剣にふざけつつAMFを無視(物理)しガジェットを破壊していく。そこから少し離れた地点では槍で粉砕喝采、ついでにユニゾンデバイスとおぼしき小人が炎系統の魔力変換で爆砕をかましていた。

 

 よくよく見れば他の隊員たちも己のデバイスに重量のあるものを縛りつけ、マジカルアタック(紛れもない物理)で攻撃している。

 

「質量兵器? ハハッ、これは陸部隊式魔法さ」

「たまたま、ホンッッットたまたま重いデバイスに魔法を付加して攻撃してるだけだから」

「ウワー、魔法がキャンセルされたけど慣性の法則的なアレのせいで急には止まれないナー……フンッ!」

「アレー? 運動の第一法則のせいで……ソイヤァ!」

「ホッウムッラァァァァァン! ウッシャア! っと力学的エネルギー保存の法則的なアレのせいでまた殺っちまったぜ!」

「あぁ、なんかアレがアレしたソレ的なナニかのせいデェリャァァァ!」

 

 今ではエースオブエースと称えられる、軽めのデバイスを持っていたなのはちゃんは成すすべなく、やられてしまったアニマル型ガジェット。

 

 しかしなんということでしょう。何故か、偶然たまたま超重量系にカスタマイズされたデバイスを持っていた陸部隊の皆様にかかればこの通り。

 日頃のストレスを発散せんとばかりに、バッティングセンターよろしくガジェットを粉砕していく。動物型の遊具を壊す大人たち、絵面的には最悪である。

 

「デコレーションできたぜ!」

 

 なかには壊したガジェット自体をデバイスに巻き付けリサイクルするエコな奴までいる。振るうと千切れて落ちそうな首が怖い。

 極めつけはガムテープでガジェットにデバイスを張りつけ、ガジェットでガジェットを殴るゴリマッチョまでいる始末。

 デバイスwithガジェットでなく、デバイスがおまけ扱いとなっている。

 

 デバイス使えばなんでも魔法と思うなよ。

 

「だ、旦那ァ! 陸部隊も相当変態じみてるぜ!?」

「言うなアギト……みな、ミッドの平和を思い戦っている。悪い奴等ではないのだ、個性的なだけだ」

「あたし知ってんだぜ? 個性もいきすぎると変態に成るって」

「…………」

「あ、目ぇ反らすなよゼストの旦那!」

 

 人員も資金もないない尽くしな陸部隊――しかし弩根性と熱血は誰にも負けない変た、猛者揃いだ。あと限りなく真っ黒なグレーを白と言い張るとぼけ具合もミッド一だ。

 そしてミッドを守るのはそんなイカ()た者たちだけではない。機動六課のなかでも空飛ぶ版権的にヤバそうな方ではなく、地上を任された強者もいたのだ。

 

 その名も湖の騎士(ポイズンコック)シャマル! 盾の守護獣(八神家の忠犬)ザフィーラ!

 

「行きなさいザフィーラ! デスロールよ!」

「お前も働け、あとデスロールはワニの得意技だ」

 

 ザフィーラは他の局員に混ざりガジェットの破壊や牽制、シャマル先生は疲労した者の回復担当を担っていた。AMFがなければシャマル先生が旅の鏡で適当な部品を引き抜いて壊していたのだが残念無念。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ところ変わってミッド市街地の外れ。全ては無に帰す。

 テスタロッサ家の主の目に映るのは澄んだ空、と耳障りな音を鳴らしながら飛ぶガジェット()。これはいけない、二人の娘の母として掃除はしっかりとしておくべきだろう。テスタロッサ家は二人の娘……とオマケが帰ってきたときに気持ち良く、幸せで居れる家であるべきなのだ。

 そう、子の幸せのためなら子守りから隕石撃墜、次元世界征服までこなすのが母の勤めというものだろう。だからまずは身近な掃除からしていこう。

 

 無造作に振るわれる杖。体内を循環する膨大な魔力は先天的な体質により紫電へと転換され吐き出される。音を置き去りにしたソレは空と地を這い、百を越えるガジェットドローンVI型を掃除した。

 ガジェット(ゴミ)残骸(ゴミ)になり、最後は(ゴミ)となり風に吹かれて無くなった。

 

「くぁぁー、おはようプレシア……なんか少し焦げ臭くないかい?」

「今日も雲ひとつない、いい天気ね」

「……そうだねぇ、布団でも洗っておくかい?」

「そうね」

 

 今日もテスタロッサ家の主は平常運転です。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 はやてとヴィータは悩んでいた。今自分たちがいる聖王のゆりかごは間違いなく次元犯罪者のジェイル・スカリエッティが改造したものだ。しかし、それならばこんな遊園地のような改造がされてるとは思えないのだ。

 人体実験だってなんとも思わないような人間――それが管理局内の資料から得た情報。そういう情報から浮かべたイメージとどう考えてもこの遊園地とは結び付かない。

 

「なんやろ……ジェイル・スカリエッティからは似た臭いを感じるで。今ごろリインたちに足止めされてる二人と!」

「はやて、それめちゃくちゃフラグっぽいぞ」

「まぁ、今のところ危険は無さそうやしええんやけど」

 

 強いていえば少し前にあった大きな振動。ヴィータ曰く、ちょっと寒気のする感じだったけど心配ねぇと思うとのこと。理由は本人にもわからないそうだ。

 さて、二人は現在下へ下へと向かっている。

 

「なのはたちにゃ上に向かわせてたのに、なんであたしたちは下にいくんだ?」

「ボスってのは大抵最上階か最深部におるもんやからな、私らは後者を攻めるわけや」

「そんな単純な……いや、スカリエッティ(アレ)ならあり得そうだ」

「やろ?」

 

 それからしばらく進んでいくと最深部とおぼしき吹き抜けた空間へ辿り着いた。途中見かけたアトラクションは全てスルーしたのだが、たまにヴィータがチラチラと好奇心からか視線を向ける様子をはやては見逃さなかった。今度、八神家の皆で遊園地に行こう、そう心に決めたはやてだった。

 

「さて、着いたわけやけど……そこにおるんは誰や!?」

「ふっふっふ、よくここまで辿り着いたね」

 

 薄暗い空間にパッと照明が灯され現れたのは――ジェイル・スカリエッティ。ニマニマと笑っている。

 

「君たちの目的は、そう私を捕らえてこの船を停めることだろう……」

「あぁ、そうだぜ。だからジェイル・スカリエッティ、大人くお縄についてもらうぞ?」

「ふぅ、残念ながらそうはいかない。たしかに私は君たちより戦闘能力は遥かに劣り、負けは確定だろう。しかし、それでも君たちはジェイル・スカリエッティ()を捕らえることは出来ない。(わたし)(わたし)でなく(わたくし)なのだから」

「は……?」

 

 そう言いきるやいなやスカリエッティはクルリと華麗に髪をなびかせ回転する。

 するとスカリエッティであったはずの人物は――金髪の女性へ、ジェイル家二女ドゥーエへと姿を変えた。

 

「ウフフフフ! ドクターだと思った? 残念、ドゥーエちゃんでしたぁ!」

「スカリエッティが女になったやと……? アイツの変態度は私らの想像を遥かに越えとったんか……!?」

「あら……ドクターが変態過ぎて思ってた反応が貰えないわね」

「はやて、はやて。普通にコイツはスカリエッティじゃないぞ」

「よくぞ見破ったわねロリっこ、私は迷子の一般人よ」

「いや、逮捕だからな?」

 

 ガチャンとドゥーエの手に付けられる手錠。

 

「そうよねぇー……いえ、ここで逃げてもいいのだけれど? 私も一時的にとはいえ母となった身だし、子に胸を張って見せれる姿にならないとね、胸を張って」

 

 少し感傷的な表情を覗かせたドゥーエだが直ぐにニヤつき胸を突き出し煽る。だがしかし、ヴィータはともかく、はやても一筋縄ではいかない人種であった。

 

「よぉ意味はわからんのやけどなんで二回も胸を強調したんや、んっ? おっぱいマイスターはやてちゃんが揉むで?」

「管理局ぅぅぅ! 変態よ、変態がいるわ!」

「残念だったな、私たちがその局員だ」

「絶望したわ……三脳に入浴剤ぶち込んだの間違いだったかしら?」

「ん?」

「いえ、なんでもナイワー」

 

 なにはともあれドゥーエが逮捕された。その直後――ゆりかごに轟音が響き渡った。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 魔王討伐の勇者よろしく道中にあるめぼしいもの全て剥ぎつつ案内板を無視して突き進んでいた。もちろん案内板は全て無視しているのでスカさんの元へ行けるはずもなく、なにやら重要そうな部屋の前へと来てしまった。

 いかにも大切そうであり、かなり注意を促す文が書いてあるな……さすがにこれは開けない方がいいか。

 

「開けるな絶対、ワーニング、重要、とか書いてあります!」

「開けるよ!」

「はい、ドーン!」

 

 開けないわけがなかった。アリシアと片扉ずつ押し開けるとそこには、なんだこれ? おっきな赤いクリスタルが浮かんでいた。どこかで似たもん見かけたが……あ、時の庭園だ。

 

「これはゆりかごの機関部、エンジンみたいなものかな……飛行能力自体はここに関係なさそうだけど、基本的な兵装はここから供給受けてるっぽいかなー」

「ここの機能停止にはこれを壊さないといけないと」

「うん、なんか元々あったっぽい防衛システムは落ちてるし砲撃魔法とか使えばいけるかな? ツヴァイいける?」

「も、申し訳ないのです……ここのAMFが強くて上手く魔力結合が出来ないです」

 

 リインの肩に座ったリインはそう言う……えっ? アリシアと顔を合わせて首をかしげる。

 

「AMF、効いてたのか?」

「ま、まさか私たちがミソッカス過ぎて気づけなかったとでもいうの……!? そんなはずは――あっ、飛べない」

「あっ、ホントだ浮かぶことすらできねぇ!」

「私は、なんとなく、わかってた」

「チクショー!」

 

 表情の変化は乏しいながらも少しドヤッとする準ミソッカス魔力のリインと、悔しがる見るも無惨な真のミソッカス二人。

 

「くそぅ、でもAMFか……ならリイン任せた」

「私たちが作ったそのボディの真骨頂を魅せるとき! はやてもきっと喜ぶよ!」

「よし、やる」

「お姉ちゃんがやる気満々に!? あ、お二人が作ったボディというなら、私もマイスターはやてとお二人が作ったのでもしや秘められた力が……!?」

「ない」

「ないのですか……」

 

 ショボーンとするツヴァイだけど、ツヴァイは魔法重視だからね。まさに力の1号、技の2号だから。

 

 そしてクリスタルの前に立つリイン。精神統一のためか息を浅くし目を閉じる。そして始まる連撃、散弾のように浴びせられる拳と蹴りの嵐。あ、肩からツヴァイ降ろしてないから落ちそうになってる。

 

「こういうところで活躍できたら、なのはやフェイトみたいに主人公っぽくてカッコいいんだけどねぇ」

「たしかになー、死んで生き返るとか主人公なれそうな設定なのにな……いやでも、俺たちが主人公とか似合わないし」

「だね! あ、でも私を生き返らせるときはカッコいいとこ見せてたって聞いたよ?」

「あのときは一生分頑張った……てか誰にだ」

「それにしてもリインかなり叩いてるけど中々割れないね、さすが聖王のゆりかご」

 

 なんか露骨に話逸らされたけど掘り下げることでもないので気にしない。それに確かに凄く硬いようだ、罅も入ってな――お? リインが構えた。

 

「リイン選手、脇をしめシャープな構えになりました!」

「弓のように体を引き絞りぃぃぃぃ! 右足で地を蹴る!」

「回転を加えた身体から最強の拳が打ち込まれたぁぁぁぁあああ!? ホントに砕けた!?」

 

 リインフォース・アインスの本気の一撃はクリスタルに罅を入れ、それは瞬く間に波状に広がる。そして軋むような音がピタリと止み――轟音。砕けたクリスタルは地へと落ち、ゆりかご全体へ衝撃が伝わった。

 魔法技術の発達した世界で何故物理的に殴って物を壊してるのか甚だしく不思議だ。

 

「しかしあれだな、今の衝撃って昇ってたエレベーターが止まったときのガクンッ! って感じだったな」

「あちゃー、飛行機能も兼ねてたみたいだね……上昇は止まってないけど大分システムも落ちたみたい」

「まぁ、落ちないならセーフセーフ」

「ふぅ……頑張った」

「リイン、拳怪我してない?」

「大丈夫、無傷」

「……明らかに設計の耐久値を上回ってる件について」

「り、リインも成長してるんだよ」

 

 そういうことにしておこう、なんか触れるべきでない気がする。

 

 さてさて、もう大方めぼしいところは回ったようなのでスカさんのところへ向かうことへする。適当にアトラクションの感想でも伝えればいいでしょ、たぶん。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
魔法といえばだいたいどうとでもなる。
陸部隊の皆は今日も元気です、質量兵器ではないのです、ベルカのアームドデバイス風のナニかです。


二月に投稿できないとはなんだったのか、活動報告で嘘つきまくりな作者です、すまない。


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47.自由落下ミソッカス

 真っ暗だ、クロすけが居そうなほど真っ黒々になった。クロすけと言ってもこの頃提督業に忙しくてハゲそうなクロノのことじゃない――以上無限書庫長という名を冠した社蓄戦士ユーノきゅんからの情報。いやいや、そんなことどうでもよいんだよ。

 ついさっきクリスタル的なものをぶっ壊した直後電気が落ちた。窓もないのでもちろん完全な暗闇になってしまったけど、これ間違いなくこの部屋は用済みだから非常電源があったとしても回してないんだろうなぁ。

 適当に手を突き出して探ってるとぷにっとした感触が……ぷにっ? あぁ。

 

「ぶふっ、ナナシどこ触ってるの」

「どこって……ほっぺだろこれ。断じてトラブってなんかないぞ」

「正解だよ! よくわかったね!」

「よく引っ張り引っ張られしてるしなー。それにしても真っ暗だ……仕方ない、俺の魔法でこの暗闇を照らしてしんぜよう!」

「わー、ミソッカスの最先端がなにするか楽しみだナー!」

 

 おう、なにも見えてないのに生温かい視線が向けられてるのがわかってしまうのが悲しい。なんだアリシアだって五十歩百歩のミソッカスなのに解せぬ。

 

 まあ俺はプレシアさんに『ミソッカスというよりミソッカスの搾りカスね』とか言われるほど魔力ないんだけどね? ミソッカスから搾り取ったら何が残るんだ、カスすら残るのか甚だ疑問だった。あの人は何も残らないならスッキリして良いわねとかイイ顔で言いそうだから聞かなかったけどさ。

 

 取り敢えず……えー、なんだ。そうだデイブレイカーデイブレイカー、中々使わなさすぎて忘れたんだとかじゃなくて度忘れ度忘れ。それー、セットアップ……今のバリアジャケットどんなだったっけ?

 

「ほい、試験用改プログラムθ回復魔ほ――名前長いな、えーとθ回復魔法」

《vcaw%mgd≠mg+7io&q64wlg6$tgaqd+》

「ちょっ、デバイスからバグったみたいな音声出てるんだけど!?」

 

 アリシアのツッコミを放置して魔法を発動する。するとどうだろう、みるみる俺の身体が光り出すではないか……信じられるか、これ、回復魔法なんだぜ……?

 具体的に言えば約十年前にプレシアさんと初めて出会った日に調子こいて魔法のプログラムを弄ったときの失敗例のひとつ、失敗例というか成功例とかないんだけどさ。いや、これでもマシな部類だって。他は発射前に爆発したりバリア張ろうとしたら爆発したり、爆破オチなんてサイテー!

 

「――で大体ナナシはデバイスの使い方……ってうわっ!? なんかナナシの身体が頭から蛍光塗料被ったみたいになってるよ!?」

「明るいだろ? キラキラキラキラ輝くの」

「無敵?」

 

 いや、そんな配管工や王妃みたいな効果ないし、むしろ光って魔力失うだけで疲れるだけだ。回復効果は気持ちあるかないか……回復魔法ってホントなんだろう。

 

「たしかに周りが明るくなったのですが回復魔法でそんな結果になるナナシさんの未来が明るくなさそうです!」

「ツヴァイ屋上」

「聖王のゆりかごの最上階のその上、そこでななしさんとのラストバトルですか……氷タイプの私ですけどこれは燃える展開なのです!」

「速報、ナナシの死亡決定」

「せめて悲報にしろ」

「ツッコミは、そこでいいのか……?」

 

 たぶんよくないけど細かいこと気にしない。しかし光によって辺りは照らされた、さあ出口へ向かお――あ、魔力尽きた。

 再び辺りは真っ暗だ。

 

「……なにやってるの?」

「いや、むしろAMFが発動してるなか1分ももったことを誉めてほしい」

「キャー! ナナシってば出来る子! よっ、ミソッカス!」

「ハハッそんな誉めんなよ、傷つくだろ」

「私もブーメランだから自爆すぎて辛い。だれか、誰かこのなかに魔力をお持ちの方はおりませんか!」

「辺りが、周りが暗くてなにも見えないんだ!」

「そこで華麗にツヴァイが参上なのです! 私の時代が来ました!」

「今度はツヴァイの身体が輝く番と?」

「もっとだ、もっと輝けぇぇぇぇ!」

「か、輝けないのです! 普通に魔力を弾で照らします!」

「神様フィンガーは?」

「それなら、私が……AMF環境下じゃなければ出来る」

「出来るのか……」

 

 なんだろう、もう身体使う技なら武術と魔法を合わせれば大体出来るんじゃないだろうか……まぁそんなことはいいや。

 ツヴァイが出した大量の魔力弾を辺りに展開し――ブルジョア魔力め――眩しいほど明るくなった。よくよく見ればリインが破壊したクリスタルが結構な重量で床に叩きつけられた際に、床にクリティカルダメージを与えてしまったらしい。

 

 そこから罅がピシピシと床が崩れた。突如足元が崩れて、隣にいたアリシアが落ち――させるか、とうっ!

 

「えっ、あっ……」

「キャッチアーンド! あっ、これ戻れねないわ」

「ちょっ」

 

 落下を始めたアリシアに手を伸ばし届いた、そしてまぁ半ば飛び出して手を掴んだわけだから俺も引っ張られて落下開始。自由落下、重力さんにぐんぐん吸引されて下へ下へ。崩落した瓦礫によりさらに下の床も突き抜けその連鎖は止まらない。

 

「ギャァァァ!? アリシアヘルプ!」

「た、助けに来てくれたんじゃないの!?」

「アーイム! 魔力切れ!」

「ばばばっ、おバカー!」

「う、うっせー! つい反射的に飛んじゃったんだよ!」

「魔法的に飛べてないけどね!」

「上手い! 座布団やるよ」

 

 倉庫に入ってるからやるよ。ほら飛ぶためのもの入ってないけどな!

 

「やったー! っていってる場合じゃない! こうなったら私がセットアップ! ……あ、私もリインとユニゾンしたからAMF環境下で魔法行使できるほどの魔力がない」

「……ヤバイ?」

「……超ヤバイ!」

 

 今、俺の願い事が叶うならば、翼が欲しい、です――切実に。

 崩落した動力室に俺たちの悲鳴が木霊した。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ゆりかごに内部全域にフィジカルパンチの衝撃が伝わった同時刻。ホラーハウスを消し飛ばした二人の魔法少女(19)はついに最上階の扉前へたどり着いた。如何にもボス部屋という雰囲気を醸し出している。

 ふぅ、と一息つくなのは。扉へ押し当てた手は少し震えている。怒りか疲労かはエースオブエースのみぞ知る。

 

 ガチャリと扉を開けば、スカリエッティが待ち構えていた。

 

「フハハハハハハハハハ! ようこそ、最上階へ!」

「取り敢えず、逮捕で。抵抗してもいいんですけどちょっと主に私たちの腹の虫の居所が悪いので、いきなりブラスターリミットスリー解除しちゃいますよ?」

「ザンバーの腹で叩くとかじゃなくって斬っちゃうかもしれないので抵抗せず投降してください……あっちで録画してるエリオとキャロのデータは証拠物件として回収してきますね?」

「……フェイトちゃん?」

「じ、ジト目で見ないで! 執務官の仕事だから、エリオとキャロが可愛いからとか私情もあるけどそれだけじゃないから!」

 

 因みに室内に入ってなのはが一番に見つけたのは部屋の中央にいるスカリエッティ。それに対してフェイトは部屋の隅の数あるモニターのなかに映し出されたエリオとキャロの姿である。

 

 ――テスタロッサ家の血には抗えない。

 

「ふむ、投降するのはやぶさかではない。だがその前に君たちにはここへ一番にたどり着いたので、宝を与えよう……まぁ、受け入れてくれるかは君たちに任せよう」

「受け取るでなく受け入れ……ですか?」

「さすがプレシア女史の娘だね、聡い」

「フェイトちゃん、フェイトちゃん。受け取ると受け入れるって違うっけ……?」

「なのははちょっと待っててね? えーと、ほら私が執務官としてスカリエッティと話すから」

「フェイトちゃんに雑にあしらわれた!?」

 

 その場で三角座りし地面に()の字を書くなのはを横目に会話を進める国語偏差値が平均以上の二人。

 

「言葉の通りさ、この子を受け入れてくれれば嬉しい。行けヴィヴィオくん! たぶんママだ! パパがいなくてママが二人いるがママに違いないぞ!」

「えっ、この子……?」

 

 響き渡るトテトテトテト! という如何にも体重の軽い幼女が走るかのような足音が響き渡る。それはなのはたちが入ってきた扉の方から聞こえた、きっとなのはたちが通る間も身を潜めていたのだろう。そして駆け足のまま飛びつく、三角座りしていた高町なのはへと。

 

「ママー!」

「ふえっ? えぇぇぇ!? あれ、どうしたのこの子!? 迷子、なわけないよね!?」

「縁あって私たちが面倒を見ていた子なのだがね。如何せん私たちは犯罪者、その子に胸を張って背中を見せれない。だから私たちの身柄と引き換えに親代わりになってもらいたい、もしくはしっかりと彼女を育ててくれる親を探して欲しい」

「管理局で見た貴方の人物像とは大きく食い違う性格ですが演じているわけではなさそうですね……恐ろしく似合いませんが」

「娘にも言われたよ」

 

 フッと肩を竦めるスカリエッティを見ながらフェイトは直感する。口にはしないが自分の準親バカセンサーが伝えてくるのだ、本当にこのヴィヴィオという子を思っての言葉だと。ならば真摯に聞こうじゃないかとフェイトは管理局員でもなく執務官としてでもなく、ひとりの親として話す。

 ……それがこの場にいる高町さんにとって良いか悪いかは置いておく。主に言葉が届かなくなる可能性が高いが置いておくったら置いておくのだ。まぁ少なくともヴィヴィオにとっては良いことだろう。

 

「まあね、私もひとつの出会いによって大きく方針転換をしたのだよ。だがそれまでしたことを無かったことにするつもりもない、自慢の娘たちには胸を張って生きたい父としての思いがあるからね」

「そうですか……わかりました、ヴィヴィオは責任をもって育てます」

「私の名前はヴィヴィオです! ママー!」

「あ、えっーと、いい子いい子ー。私は高町なのはだよ……ってフェイトちゃーん! 私も話に混ぜて!?」

 

 キリッとした顔で言い切るフェイトになのははツッコミを入れるがやはりフェイトには届かなかった。マルチタスクはエリキャロ(わが子)なのはと私の子(ヴィヴィオ)(予定)に埋め尽くされてるようだ。

 

「母親が二人という状態ですがきっと立派に育てます」

「ああ、頼んだよ」

「あれー、ここに来てからフェイトちゃんが私と言葉のキャッチボールをしてくれない気がするの……」

「あぅ、なのはママ元気だして……?」

 

 ショボンとするなのはにヴィヴィオが近づき頭を撫でる。天使に見えた、子は宝というが宝よりも大切ななにかなんだろう。なのははこの時そう感じた、そしてヴィヴィオを立派に育てようと心に決めた。ハグッ、とヴィヴィオを抱き締めるなのは。

 

「ヴィ、ヴィヴィオー! 私、立派に育ててみせるからね!」

「ひゃっ、く、くすぐったいよー!」

「微笑ましいかぎりだね」

「ええ、そうですね。十二時三十五分、ジェイル・スカリエッティ逮捕です」

「……躊躇いなさすぎないかい?」

 

 なにはともあれジェイル・スカリエッティ逮捕――実はスカリエッティの他の娘たちはこの直前にゆりかごより抜け出しており自首してきていた。これにより恩情措置があったとかなかったとか、というよりもこの娘たちが何かしたという証拠も殆どなく更正プログラムを受けることとなる。

 

 オチとしてはこの後レリック製の玩具やなんやらがわんさか出てきたせいで、スカリエッティの余罪がてんこ盛りになったりするのだがそれはまた別のお話。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 死ぬかと思った。抜けた床は本当に真下まで穴が開いていたようで聖王のゆりかごより放り出された俺とアリシアは自由落下に身を任せていた。下は海なのだがどう考えても高度的に叩きつけられたら無傷じゃすまない状況だった。

 

 やれやれ仕方ない、ここは一か八かのウルトラCを決めてやりますかと二人して開き直ったその時――真上より高速で飛来した銀色が俺たちを抱き抱えた。言うまでもなくリインだった。 肩に乗っていたツヴァイが海の一部を凍らせ、リインフォースは魔法により落下速度の減速を行いながら氷上に滑るように着地。ここまでリインにキャッチされてから5秒である。

 乱れた髪を海風に靡かせつつ俺たちの安否を問うてくるリイン。絵になっててカッコよすぎる、惚れそう。

 

「二人とも、無事か?」

「やべぇ……リインが男だったら惚れてた」

「それ私の台詞だから、ナナシが男に惚れたら駄目だから。私がリインが女だったら惚れるんだよ」

「お二人とも混乱してるのです……」

 

 ここから数分間なんか元々言動がおかしい俺たちの更に言動不確かな会話があったらしいが忘れた。

 とにかく命の危機を脱し、落ち着きを取り戻したのでリイン姉妹にお礼を言う。

 

「いえいえ、でもやっぱりツヴァイの時代が来てたようです!」

「いやー、二人とも格好いい主人公みたいだったよ!」

「えっ、なら俺たちがヒロイン?」

「ナナシがヒロイン……いやぁ、ないかな」

「ない、ね」

「ないのです!」

 

 俺もないと思う。はてさて……ここ海上ど真ん中なんだけどどうやって帰ろうね?




ここまで読んでくださった方に感謝を。
主人公はリインかもしれないと思うこの頃。そしてフェイトごめん、やっぱり貴女プレシアの娘よ。
あとスカさん逮捕が割りとアッサリですが、実は彼、割りとやりたいことやって一種の賢者タイムなんでまた留置所にいても欲がわけばイランことします、きっと。

あとは後日談で色々語るくらいでしょうか、ゆりかごがどうなったのかとかヴィヴィオのこととか。未定の予定ですが完結は近い。なんやかんや半年たってますかね、長い。

お久しぶりです、なんやかんや二週間ほど開いてしまいました。
そして今日の活動報告で書いた筆も洗う暇なく投稿する作者、投稿しないしない詐欺でしょうかね。


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最終話.変わらない二人

 後日談というかジェイル・スカリエッティ事件――どうでもいいけど事件に自分の名前がついたスカさんはご満悦だった――のあとの話。

 外出、アリシアに誘われ雑談に興じつつ散歩している。

 

「いやー、大変だったねぇ」

「まあ俺たちはなんもしてないんだけどな」

「「アッハッハ!」」

 

 やったことといえば、ゆりかご内部での剥ぎ取りぐらいである。それに至ってはリインからはやて、はやてからカリムさんに伝わったお陰で聖王教会にスポイルされた。ごねにごねようとしたら聖王のゆりかごに勝手に潜入した件でしょっぴかれそうになったので全力で献上した。

 

「それでそろそろ機動六課も解散だっけ?」

「え、あれ解散するのか……はやてが何かやらかしたのバレた?」

「いやいや、そうじゃなくて元々試験的に運用された部隊だからね。一年って期限つきで」

「あー、そんなことエリオやキャロから聞いたような聞いてないような……」

 

 特にエリオは周りに男がいないからといってちょくちょく電話かけてきてたからなぁ。言っててもおかしくないけど興味ないことはすぐ忘れる駄目な大人なんだ、ごめんエリオ。

 キャロが時折近代科学に適応しましたって旨のメールが来るのは面白いのでよく覚えてるんだけどね。ティアナがバイクに乗ってるのを見て、いつかエリオを後ろに乗せて乗りたいとかも言ってた。

 そこはエリオに運転させてやってほしいと切実に思ったのは記憶に新しい。カントリーガール逞しすぎる。

 

「でも六課が設立されたのがもう一年も前になるんだね」

「あぁ、そう考えるとどこか――寂しいことなんてなにもなかった!」

「私たちはまともに関わってないから!」

「強いて言えば侵入して逮捕される手前までいったくらいか」

「部隊長がはやてじゃなきゃ即死だったね」

「そのあとに菓子おり送ったから許してほしい」

「でも差出人不明で送ったせいで爆発物かもしれないってことになって、また大事になりかけたんだったよね」

 

 菓子おりを送ったというのに再び怒られたんだったよな、解せぬ。梱包にも凝ってタイマー式のギミックまで仕込んだというのに爆発物とはなんたる言いがかりか、キンブリーさんぐらいのお茶目さを持って欲しい。

 まあ実際に口に出して言っちゃったんだけど『ならナナシくんとアリシアちゃんで賢者の石つくったろか?』って額に青筋浮かべて言われたので素直に土下座した。

 

「あのときばかりは六課の視察前ということもあってはやてもピリピリしてたからねぇ」

「割りと身の危険を感じたな」

「アハハッ、賢者の石を知らないフェイトは首傾げてたけど、なのはは全力で逃げろとジェスチャーしてたね」

「魔法合わせるとマジで錬成陣出来るから笑えない件」

 

 そんなこんなで傍迷惑な形でしか機動六課に関わってなかったもので解散といわれても特に感慨深いものはなにもなかったりする。

 逆に気になることと言えばスカさん一家なんだが娘さんたちはともかく、スカさん本人は余裕で逮捕されてた。現在も絶賛服役中だ。

 

「聖王のゆりかごみたいな超巨大質量兵器飛ばしちゃったら言い訳の余地がないからね」

「でもそれ以前の犯罪に関する証拠が一切ないもんだから検事的な立場の人が胃を痛めてる、とかレジアスさんに聞いた」

「牢の中に入っても他人の胃痛の原因になるとは……」

「なんとも迷惑、もっと他人のことを思いやる精神を大切にするべきだな」

「うんうん、全くだよ」

 

 なにやら盛大なブーメランを投げてる気がしないでもないけど大丈夫。まだ致命傷だから。

 そしてスカさんの娘さんなんだけど長女のウーノさんだけ一緒に服役しているらしい。なんでもスカさん一人だといつまで経っても出てこれそうにないからとか……なんだかんだ娘というより嫁、もしくは立場逆転の親みたいな人だと思った。もうどう転んでも変態なんだしウーノさんと結婚すればいいのに。

 

 残りの11人は現在ミッドの常識を叩き込むために更正プログラムを受講している状態だ。クイントさんの娘、ナカジマ家のエンゲル係数を跳ね上げてる一員たるギンガって子が担当してるらしい。

 

「そういやルーテシアにも久々に会ったね」

「あっ、そうだったな……メガーヌさんとのニアミスは奇跡的だと思うぞ」

「あれだけ陸部隊に行っててまともに顔合わせたことなかったのは驚きだったね」

 

 ルーテシア・アルピーノ、ゼストさんの部隊に所属するメガーヌさんの娘さん。ついでに3~4年前にあった臨海空港での大規模火災の際に助けた子だったりする。

 チンクにでも久々に会おうと更正プログラムに顔を出した際にたまたまクイントさんが来ていたのだが、同僚のメガーヌ・アルピーノさんに娘のルーテシアが来てたのだ。

 

 どうやらあちらは俺とアリシアのことを覚えていてくれたようで、天使爛漫な笑顔とともに挨拶してくれたんだけど問題がひとつ発生していた。

 

「私たちが向こうを覚えてなかったとは言えなかった」

「まぁあのときは火災から抜け出すのに必死で顔を見る余裕すらなかったしな……何気に一番余裕あったのルーテシアじゃね?」

「ルーテシア恐ろしい子!」

 そんなわけで冷や汗ダラダラと流しつつ『久しぶりダネー、いつ以来だっけかー?』と然り気なく質問して事なきを得たなんて事実があったかどうかは我らのみぞ知る。

 

「けどナナシが建築士に恨み辛みを口から吐きすぎたせいでルーテシアが建築の資格を取ることになろうとは……」

「ミッドが低年齢から色々資格取ったり就職できたりするせいで矯正する隙もなかった。ルーテシア建築士への道、完璧な布陣だな」

「メガーヌさん本当にごめんなさい。でも明るい娘に育ってくれてお姉さんは嬉しいよ!」

「アリシアはそれ誰視点なんだ……っと、娘と言えばヴィヴィオだ」

「あー、なのはとフェイトの娘だよね……」

「うん、なのはとフェイトの娘だな……」

 

 なんなんだろうか、この言葉にし難い違和感は。いや、幸せそうだし問題はないんだけどさ? 主に初めに報告を受けたプレシアが完全にフリーズしただけだし大きな問題はなかったんだけど。

 思ったままに百合が咲き乱れてやがる――というとなのはが顔を真っ赤にしてぷんすか怒ってきた。

 

 色々懐かしみながらミッド市街地を二人並んで歩く。今の季節、地球なら桜道とか綺麗そうだなぁ。

 

「二人も元から同居してたってこともあって普通に現状受け入れてるし」

「プレシアも結局はじめての孫のヴィヴィオに甘くなっちゃってるしな」

「ナナシが笑顔で『プレシアさんこれでお祖母ちゃんだな! おめでとう!』って言ったときには死んだかと思ったけどね」

「ごめん、俺そこら辺の記憶ない」

「あっ、あー……」

「前世の記憶と一緒にさよならバイバイしちゃったのさ……」

 

 俺が覚えてるのはヴィヴィオの歓迎会の楽しい記憶だけだから。雷撃が空気と大地を焦がす臭いなんてちっとも覚えてないぞ、覚えてないったらないぞ……!

 

「ナナシは見えてる地雷源でタップダンスしちゃうのはなんでなんだろうね?」

「むしろ地雷を破壊するって意味ではブレイクダンスしてると言えるのでは」

「ただしブレイクされるのはナナシ」

「ナニソレ怖い。けど個人的には全く見えてない、もしくは踏んでも大丈夫そうな地雷を踏んでるんだが」

「踏んでも大丈夫そうな地雷ってないんじゃない?」

「そう言われりゃそうだ」

 でも止められない。

 

「あーあー、もう母さんも毎度のことなのにきっちりノっちゃうし」

「俺も毎度のことなのにコンガリ焼けちゃうし!」

「私も毎度のことなのにしっかり煽っちゃうし!」

「おいコラ」

「テヘペロ!」

 

 似合ってて腹が立つんでほっぺたを引っ張る、引っ張り返される。ドッタンバッタン、わちゃわちゃ数分間引っ張りあった――余裕で周りの人の視線が集まるけど気にしない、これでも20歳じゃ。いつもなのはに年齢を疑われるんだけどこういうのが原因か。

 

 まあ頬の痛みも限界なので手を離す……アリシアは離さない。

 

「ほい、ほらはなへや」

「アハハー、はい」

「あー、頬がヒリヒリする……」

「いやー、私たちも成長しないねぇ。何年前からやってるんだって話だよね」

「全くだ。初めて会ったときからイランことしかしてない」

 

 あのときにリンディさんに追われたこと、プレシアの電撃、ブラストカラミティが俺の中の三大トラウマだったりする。どれかひとつだけでもミッド内でトップクラスで悲惨なトラウマだと自負している。

 

「いやいや、カートリッジをミッド式デバイスに付けるときには活躍したじゃん!」

「そういやそうだったな。そのあとは割りとフリーでお互いなんだかんだやれてるし……我ながらよくやってると思う、雑草とかジュエルシードかじってたあの頃が嘘のようだ」

「ナニソレひもじい」

「フェイトにもそんな目で見られた」

 

 当時の認識では露出度高めの魔法少女のコスプレした少女にそんな目で見られたわけで、俺の心はボロボロだった。

 そういやフェイトのバリアジャケットどうにかしようとプレシアと話してたけど結局どうにも出来てない……更に露出度が上がったとも聞くのでそろそろ本気で止めないと。それ以上はいけない。

 

「……それでさー、カートリッジで儲けたお金あったじゃん? それ使ってデバイス整備のお店開こうかなって思ってるんだけど」

「ほうほう」

「で、ナナシ店員にならない?」

「アリシアが店長とかブラックな予感」

「失礼な! 給料は気持ち! 勤務時間は仕事が終わるまで、だよ!」

「ブラック企業も真っ青なほどブラックだわ!?」

「ブラックなのに真っ青とはけったいだね!」

「全くだな! ……でなんだっけ?」

「えーと……そう、お店開きたいんだけどナナシもどうかなって。フリーでも経験ある程度積めたし、元々いつか開こうと思ってたんだけどいい頃合いかなぁって」

「フッ、自分でいい頃合いと思うとは笑止千万。開業は俺を倒してからにすることだな!」

「あ、フリーパスだ。やったー!」

 

 しまった、魔力もデバイス改修の技術も負けてた。そしてふと立ち止まったアリシアはこう言い放つ。

 

「ってなわけで店があちらになります」

「わー、立派なお店……What?」

「It'sお店! ルーテシア・アルピーノ監修となっており耐震性バッチリだよ!」

「ルーテシアの話はここへの伏線だと!? ……うーん、それじゃあ店員第一号としてダラりヌラりと働いてしんぜようではないか。元々俺もおっきい組織的な企業とか管理局が面倒だっただけだし、アリシアの店なら大歓迎!」

「よっ、ダメ人間!」

「ダメ店員を雇うダメ店長!」

「「いぇーい!」」

 

 出会ったときから相変わらず締まらない関係だけど悪くないと思う――いや、良い。こうやってアリシアとお互い馬鹿やりながら働けて、バカな変態や国語が苦手なお馬鹿に囲まれて過ごせる環境、うん最高じゃないか!

 これでないない尽くしなんて言ってるとバチが当たる。

 

「よーし、そうと決まったら今から開業の準備だよ!」

「おっしゃー! 荷物の開封は任せろー」

「バリバリー……あっ、電話」

 

 ――こうして俺たちの日々は今日も今日とて巡っていくのであった。

 

 

 

「ナナシー、母さんから新しい就職先について詳しく話せって電話が」

「ごめん、腹痛の予定で出れないって伝えといて」

「来るってさ」

「ごめん、店員第一号はここまでのようだ……」




ここまで読んでくださった方に感謝を。
なんか最終話になりました、いやはや最終話になりました。大切なことなので二度言いま以下略。

 第一話から約半年でしょうか。作者にしては長く書きました、いえそんなことはどうでもいいです。
 書き始めは作者にとって初めてのリリカルなのは二次ということもあり……あれ、結構初めから好き勝手してました、すみません。
 なにはともあれ、長い間お付き合い頂いた読者さんたちには感謝が絶えません。

 感想は作者の元気の源となり、モチベーションにバリバリとドーピングかけてました。重ね重ねになりますがありがとうございます。

 さて、
「マジカルどこいった? フィジカルはあるんだけど……」
「リリカルってなんだっけ? やっぱりフィジカルはあるんだけど……」
といった『ないない尽くしで転生』にお付き合い頂き、改めてありがとうございました。
 ※お忘れの方がおられるかもしれませんが今作は魔法少女リリカルなのはの二次です。


 まぁ、ちょっとだけ番外編を書くつもりなんですけどね。国語とか、そこらへんのネタがちらほら浮かんでるので。
 あとアリシアとナナシに関してはこんな感じです。こな感じのまま二人で真面目に不真面目に店を営んでいきます。

 ではでは長ったらしくなってきたので後書きもここまで、似たことはどうせ活動報告にも書くので締めます。
 またの機会、何かの際に読んでいただければ幸いです。ばいちゃー。


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番外編
番外編.国語『ミッドにいようと母国語は俺だぜ』


 人間染み付いた習慣というものは中々に取れないものだし、まあ切っても切り離せないものなんてものもある。

 そのうちのひとつに入るであろう、母国語。ある人物が乳児期より聞き続け、幼少期より自然に使っている言語という意味で母語。出身国(母国)の言葉という意味での母国語。

 これは得意であろうと苦手であろうと否応なしに覚えることとなり、当然のように国語、その国の語学として習うことになるそれである。

 

「まぁ、そんなわけでなのはに国語ドリル持ってきたぞ」

「なんで持ってきたの!?」

「お せ っ か い」

「大きなお世話だよ!」

 

 そんなこんなで歴史上最もアホらしい事件よりしばしば期間の空いた今日この頃。高町さんちにお邪魔してる。手ぶらでお土産ないのもなんなので国語ドリルを持参したわけだが、なのは的にはかなりの不評らしい。

 

「ほら、親としてヴィヴィオになのはの母国語を教えてやらにゃいかんだろ?」

「そのわりには高校生用の持ってきてるのはなんでかな?」

「いや、ほら小学生(なのは)用もあるぞ?」

「小学生を二重線で消して私の名前書いてるあたり悪意しか感じないよっ!」

「昔々、プレシアさんにやられたことをついな……」

「小学生用ってナナシくんも書かれたの? でも昔なら間違ってないんじゃ……」

「猿とゴミ箱だった」

「うわぁ……」

 

 懐かしい、あの頃は魔法に浮かれたりしてたなぁ。そのあとはアリシアと一緒にリインとユニゾンしたり、フェイトやなのはのお願いで訓練に付き合わさせられてブラスト・カラミ……ウッ、頭が……!?

 

 

 

 

 

 あぁ、ピンクと黄色の光が──

 

 

 

 

 

 

 

 懐かしいナァ、あの頃ハ魔法とかに浮かれてたなハッハッハ。そのあとはアリシアとデバイス弄る方に駆け抜けていったんだけど、うん。リインと合体したりもした。あとはあれだよ、スカさんが事件起こした。

 

「ってそうじゃなくてヴィヴィオもミッドで暮らすわけだし、そんなに必要じゃないと思うんだけど?」

「実家に連れて帰るつもりがないと、ヴィヴィオ可哀想だなぁ」

「ウッ、いやでも私がそのときに教えてあげればいいし」

「泣きっ面に蹴りいれるなのはに教えれるわけないだろ!」

「失礼すぎないかなぁ!? というかもうそんな間違えしないもん!」

「なのはー、どうしたの?」

 

 なのはが腕を振り回してぷんすかしてると家の中からフェイトがひょっこり顔を出した。電話中だったのか子機のマイクを押さえているけど誰と話しているんだろうか。仕事ではなさそうだが──

 

「あ、お姉ちゃんナナシいたよ。うちの前にいた……えっ、あ、うん。はい、ナナシ」

『ナナシぃぃぃ!』

 フェイトから渡された子機からアリシアの声が響いた。お耳キーンだ。

 

「あ、やっべ」

「ナナシくんまたなにかしたの?」

「いや、さきに仕事終わらして外出しただけなはず、はず……」

「何で自分のことなのにそんなに自信なさげなのかなぁ……」

 

 普段の行動の賜物に違いない。なのはがボソッて録でもないとか言ってるの聞こえてるぞ、否定できないけど。

 

「あとはもうひとつのお土産に持ってきたプリンくらいか」

『それ! 私も食べるつもりだったのに!』

「作ったの俺なんですが」

『つまり私のものだね!』

「とんだジャイアニズムだ」

『はっはっ! か、代わりに私の仕事はあげてもいいよ?』

 

 いらんわ、ってか実際に全部やったらやったで怒るじゃん。私のデバイス整備ぃぃぃ! って感じになってさ。

 

「まあ、プリンは美味しくヴィヴィオたちと頂くとしますぜ、ハッハッハ!」

『プゥゥゥリィィィンー!』

「プリプリッ、プリュッ、プリプリィー!」

「違う! それポケットサイズのモンスターだから!」

「チョゲプリッ……えっ、声近くね?」

「ゼーハーゼーハーッ! もしもし、私アリシアさん、ハーッ、ハーッ……今、あなたの……後ろにいるの」

 

 後ろを振り向くと本人の言う通りアリシアがいた。髪は乱れてるわ、息は絶え絶えだわでもうてんてこまい。

 しかし、あれだけ話しながら走ってくれば当然だわな。インドア派が無茶しやがって……とても20歳を超えてるとは思えないな、あれこれブーメランか。

 

「メリーさん息切れすぎじゃね? もっとスマートにホラーチックな感じじゃなかったっけか?」

「げ、現実はいつだってこんなはずじゃなかったことばっかりなんだよ」

「あの、なのはも私も事態が飲み込めないんだけど」

「もっとよく噛んで飲み込んで、頑張れフェイト! 遊びに来ました!」

「相変わらずナナシは無茶を言うね、まあ二人ともあがって。お茶でも出すから」

「ぶぶ茶漬けじゃなくてよかった」

「さすがに帰れなんて言わないよ……」

 

 そうしてフェイトに促され通称なのフェイ宅へあがらさせてもらうのであった。なかではヴィヴィオがテレビを見ていたようで、ふむ内容はインターミドルシップだっけか。それを熱心に見てるなぁ。

 

 ──ママがふたりという修羅場ってそうなヴィヴィオだけど今のところ真っ直ぐ育っている様子。

 しかしこのままだと何年後かには絶対に魔法に興味を持つはずだ。アリシアとどんな魔法に興味を持つか賭けているのは秘密。アリシアが格闘で俺が砲撃、将来が楽しみダナー。

 

 夢中にテレビを見ていたヴィヴィオだが、リビングに入ってきた足音が多いせいか振り向き俺たちに気づき挨拶をしてくる。

 

「あっ、ナナシさんにアリシアお姉さんこんにちは!」

「オッスオッス、ヴィヴィオー。あとアリシアはフェイトの姉だから叔母さんって呼べばいいんじゃな」

「お姉ちゃんパンチ!」

「ブヘっ!?」

 

 ヴィヴィオに正しい知識を教えようとしたら、アリシアに割りと容赦なく腹を殴られた。余談ながらプレシアはお祖母ちゃんダゾって教えたら過程と部位は省略するが焦げた。でもプレシアさんって呼ばせると孫なのに他人行儀だしどうしようかと唸ってた、今日も今日とてプレシアの頭のなかは娘と孫(NEW)パラダイスだ。

 

「家庭内暴力発生! DVだ、なのは局員助けとくれ!」

「勤務時間外だからちょっと無理かなぁ……それにここ家庭外だし」

「そういう文字面だけの意味じゃないと思うんだが、むしろ居候は家族の枠に入るか疑問に思えてきた、いや家賃は納めてるけど」

「ワンチャン、ペット枠の可能性もあるね!」

「えっと、ワンチャン(犬)だけに?」

「「えっ? ごめん、よくわからなかったから詳しく説明を」」

「そこで息の合わせないで!?」

 

 いやいや、そんなことはいいからさっきのワンチャンについて詳しく説明をと、アリシアとなのはに詰め寄っているとヴィヴィオが土産を目ざとく見つけなさった。いやはや、いい教育をなされている。なのはが何故だか顔がひきつったけど。

 

「ほぅら、ヴィヴィオお土産だよー。おやつのプリン」

「わー、やったー!」

「と、なのはママの故郷の言葉が載ったドリルゥー」

「ふぇ、どりる? ウィィィンキュガガガガ! って穴あけるやつ?」

「それドリル(勉強器材)やない、ドリル(ロマン)や……そういうロマン溢れるドリルはヴィータにでも見せてもらって。そうじゃない、ワークみたいなものか」

 

 興味は惹かれるようで国語ドリルをパラパラとめくって中身を見ているが、まあ読めないだろう。ただ母親の故郷の言葉ということでわからないなりにドリルを見ることは楽しそう、本当楽しそう。

 

「なあ、なのは?」

「うっ、うう……ま、まあ小学生くらいのレベルなら普通に教えれるけど」

「なのは、無理しないでいいんだよ?」

「待って、フェイトちゃんのなかの私はどれだけ国語ができない子になってるのかちょっとお話ししよう?」

「そうだね、よし。ならなのはがどれだけ国語が出来るようになったか問題を出してしんぜようではないか」

「受けてたつよ! 私だって成長してるんだから!」

 

 ふんすっ、と胸張る地球生まれ国語嫌いのなのはちゃん。娘の前なので頑張ってほしい。

 

「じゃあ対義語の問題いくぞ」

「……フェイトちゃん、フェイトちゃん。対義語って意味が逆の言葉だよね?」

「そうだよなのは、がんばって……本当に頑張ってね?」

 

 本当に頑張ってほしい。

 数学の問題とか中学生レベルでも長くやってないと忘れるらしい。それがなのはには国語で当てはまるだけなんだろうか……母国語のはずなんだけどな。

 

「なのはママがんばれー!」

「うん!」

「怪しいなぁ。じゃあ一問目、熱い」

「冷たい!」

「出席」

「欠席!」

「じゃあ、そだな。必然の反対は?」

「ぐ、偶然!」

「素人は?」

「た、達人……?」

「惜しい玄人でした」

 そんな感じで一般的な問題をひょいひょいと出していったのだが、本人の言う通り成長はしていた。ちぇっ、いやいやなんでもない。

 

「じゃ、そうな。走れメロス」

「え、えっ? ……待て、セリヌンティウス?」

「マッチ売りの少女」

「マッチ買い占める少年! あれ、すごくいい子になったよ?」

「少女が助かるまさかのハッピーエンド到来。ふむふむ、なのはも頭柔らかくなってるな」

「ふっふーん、そうでしょ。いつまでも昔の私じゃないんだから!」

「ではでは厚着の対義語は?」

「あれ、なんだか急に普通なのに戻ったけど。薄着でしょ?」

「ブッブー、フェイトのバリアジャケットでしたー」

「ちょっとナナシ!?」

 

「……ごめんフェイト、お姉ちゃん否定できないよ」

 

 フェイトが焦ったようにアリシアを見るも助け船は出されず、なのはに視線を向ければ目を逸らされた。どうやら助け船は全て泥舟だったらしく沈んでしまった。いや、ほらフェイトもそろそろ20歳越えるし露出度とか考えていこ――やー、バルディッシュ向けないで。ところどころプレシアさんに似てきちゃってまったく。

 

「ほら、お姉ちゃんもバリアジャケット削らなくても速くなれるように協力するし。ね?」

「でも、つまりそのバリアジャケット削らなくても速くなれるってことは……バリアジャケット削ればもっと速くなれるようになるってことだよね?」

「おっふ……」

「速すぎたんだ、スピードに魅入られてやがる」

「フェイトちゃん、私もときどき目のやり場に困るほどだし今のスピードを保ちつつ布地を増やそ?」

「女同士で目のやり場に困るとはなのはは百合か」

「えっ、そそそ、そんなっ、なのは困るよ!?」

「私も困るよ!? 極めてノーマルだよッ!」

 

 阿鼻叫喚な感じになってきた。わたわたとしているなのはとフェイトのやり取りから抜け出してプリンを取り出す。しゃくを小鬼トリオに狙われてる語尾がおじゃるな童子の好物だったっけか。個人的にはしゃくより烏帽子の方が気になるんだけど。

 

「ヴィヴィオ、プリン食おうぜー。ちょっと早い三時のおやつに」

「惨事のお通や?」

「なにそれ怖い」

「あっ、私も食べるってば!」

「じゃ、じゃあおやつの時間にしよっか!」

「そうだねなのは!」

 

 二人ともなんでちょっと顔が赤いのか。百合、なわけもなく単純に捲し立てるかのように話してたからなんですけどね。

 

「因みに一個白だしで作ったので茶碗蒸しになってるかも」

「なんで作ったの!?」

「カラメルと茶碗蒸しの織り成す微妙なハーモニー」

「ナナシそれハーモニーなってないから、超不協和音になってるから! くそぅ、私はプリンを引き当てて見せる!」

 

 そんなにプリンを食べたかったのか謎の闘志を燃やすアリシア。

 

「ヴィ、ヴィヴィオに当たったらどうするの!」

「フェイト、心配しなくてもいいぞ……一番上はプリン確定だしヴィヴィオにそれをやればいい」

「……つまり他はわからないと」

「ドキドキロシアンルーレットだな」

「ナナシくんにも当たるリスクがあるんだよ!?」

「リスクを背負わずして何がイタズラか!」

「なんでそんな無意味に自信ありげなの!?」

「ことイタズラは狂気の沙汰ほど面白い!」

 

 だって、まあ嘘ですし!

 その後、皆がドキドキしながら一口目を食べるなかヴィヴィオとふたり気兼ねなくプリンを頂いたのであった。ノーリスクのイタズラ最高だなー。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
なんだかんだお久しぶりです。最終話で予告していた番外編ですが中々忙しかっ中略で投稿まで結構間が開きました。
フェイトそんはここから周りの支えもあってハイレグバリアジャケットをやめるのでした(Forceくらいに)。


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番外編.三回転捻り飲酒クルクルパー

 カラン、とグラスに入っているであろう氷の崩れる音が聞こえる。敢えて視覚に頼らず聴覚や嗅覚の情報だけを整理するならば、落ち着いた雰囲気のジャズが鳴らされるなか恐らくカウンターに居るであろうマスターに注文をする声と時おり聞こえる会話。そして仄かに漂うアルコールの臭い。それから察するにここはバーだろう、いやバー()じゃなくてバー(酒場)のね。

 まあ視覚になんて頼らずともこの程度の推察は楽勝なんですよヘッヘッヘとかそういう自慢をしたいわけでもない。

 

 ただ本当に視界を奪われてるだけだからネ! ついでとばかりに両手も拘束されている。

 

「ふぅ……ここの店はいいわね、中々こういう雰囲気のところはないのよ」

「え、なんでこの人普通に会話しようとしてるの? 隣に目隠しされてる人がいるんですよ?」

「特殊なプレイね、ただTPOを弁えなさい」

「犯人が何か言ってる。チクショウこうなったらアリシアにプレシアさんに特殊なプレイを強要されたって言うしか」

「コロンビアネクタイって知ってるかしら?」

「制止させるための行程をすっ飛ばしすぎだろ! てかむしろなんでプレシアさんが知ってるの? 地球の処刑よそれ?」

 コロンビアネクタイってあれなんだけど。ナイフで首を真横にスパシーバ、じゃなくてスパッと切っちゃう。でそこから舌を引っ張り出してコンニチハさせるやつ。もちろん喋れなくなる、処刑だもの……いやいやこんなグロいことどうでもいいや。

 

 そういうわけで、いやどういういわけかわからんのだけど。

 きっと俺の隣で物騒なこと言いながらも年相応の大人びた感じで、名前も知らないような高価な酒を上品に嗜んでるであろうプレシアが犯人でした。

 なんでここにいるのか、なんでこんな状態でいるのか果てしなく疑問。ただ小一時間前に唐突に飲みに行くわよと誘われ、めんどいので蛇口の水でも飲んでてくださいと言ったらこうなった。いったい何が悪かったのか……口か。その口二度と開けなくしてあげるわ、とか言われてコロンビアされなくてよかった。スパシーバ。

 

「仕方ないわね、外してあげるわ」

「むしろここまで目隠しした男を連れ歩いて来たプレシアさんの鋼メンタルに驚きだよ」

「私が周りの目線を気にすると思うかしら?」

「さすがに街中とかなら気にするだ……あれ、娘二人以外の評価を気にする風景を思い浮かべれないぞ?」

「親になったら皆こうなるわよ」

「それはない」

 

 全国の親御さんに謝れと思う。モンスターペアレントも真っ青な超理論を常識にしないでほしい。

 

「それでなんで俺は拉致られたのか。さんざん肥やしたからそろそろ出荷なの? ドナドナっちゃうの?」

「肥やしたかもしれないけど、あなた肥えないじゃない。それじゃ出荷しようにもできないわ」

「我ながらビックリするほど肉付きが悪くてな」

 テスタロッサ家に住みはじめてから早十年以上。睡眠時間に困ったことはあれど飢えたことはないんだけどなぁ。太らないのはいいが筋肉もつきにくいからなんとも言えない。余分な脂肪も使わない筋肉もすぐに無くなってしまう体質なのだ。

 

「心が貧しいからじゃないかしらね」

「なにそのトンデモ超理論」

「現行最先端の魔力炉の理論を完成させた私が言う理論よ?」

「あれ、めっちゃ理不尽なのにそれらしく聞こえてくる。なにこれ怖い」

 

 このままでは俺が心が貧しい認定されてしまう。いやでも心が裕福ってなんだ、てかそもそも身体の肉付きと心の豊かさは関係ない。いくらプレシアが言おうとないって、ただの体質だってば。

 

「で、話を戻すけど」

「ここに連れてきた理由は一番始めに言ったじゃない、飲みに行くわよって」

「え、あれマジだったの? 俺を適当に連れ出して挽き肉にするためじゃなかったの?」

「ちょっと私のイメージについて話し合いましょうか。いえ、ちょっとと言わずじっくりと」

「待って待って、アリシアと店を営んでることがそろそろ怒髪天が天元突破で有頂天に達しちゃったかなって勘違いしただけだから!」

「……それこそ今更じゃない、あなたたちが店を開いてどれだけたったと思ってるのよ」

「……結構? 4年くらいかんね」

「アバウトね」

「そんなもんさ」

 

 だってフリーで活動し始めてからとやってること大差ないんだもの。店開く前にもお互い請け負った仕事手伝ったりしてたし、逆に今も出張サービスなんてよくよく行っている。

 だから、なにか変わったことがあったかって言われれば特にない。

 

 強いて言えば半年前くらいにマリアージュだかマリアンヌだかの事件で店が半分吹き飛んだくらいかね。

 あれはたまたま寄っていたランスターさん(兄)が居なきゃ死んでた気がする。そのあとも爆発の場に巻き込まれたし……たぶん最近のなかで一番ハードラックとダンスっちまった件だった。

 余談ながらランスターさん(兄)に助けてもらってランスターさん(妹)が活躍した事件だったらしい。

 

「ナナシ、あなたってニアミスで生き残ってる感じがするわね。実は何回か死んでるんじゃないの?」

「死んでたらもっと巻き込まれないようにやり直してるっての」

「そうでしょうね、半壊した店はちゃんと直ったのかしら?」

「直した、俺とアリシアが中心で。今ならなのはの砲撃だって一発なら耐えれるし、防火性は抜群。家の中でキャンプファイアしたって問題ない」

「アリシアと貴方はなにに備えてるのかしら……?」

 

 しゃーないじゃん。空港の火災や店舗爆発といい何かと火にまつわる事件に巻き込まれてて若干過敏になってるんだよ。

 っていうのが建前でお店を爆破された鬱憤とかその場のノリとかでやっちゃった! いつも通りだね!

 

「はぁ、私の娘ながらたまに暴走しちゃうわね」

「むしろプレシアさんの娘だからじゃね?」

「……否定できないのが腹立たしいわ。でもアリシアはそんなところも可愛いのよ」

「はいはい親バカ親バカ」

「煩いわね、というか飲みなさい。なんのためにここに来たのよ。リキュール、ロックをふたつ」

「なんのためにって拉致られたんすけど……てか肝臓大丈夫?」

「娘が健康よ、自分の心配はいいのかしら?」

「なら大丈夫だ、俺は基本何でも飲めるし」

 

 なんの受け答えかさっぱりだが娘が健康ならプレシアは大丈夫、むしろ不可逆の加齢を可逆として若返る。うむ、考え直したがやっぱりさっぱりだ。はやてよりプレシアに歩くロストロギアの称号をあげるべきだと思う。

 

 渡されたグラスをくいっと煽る。喉に熱が染み込むかのように感じるけど酒ってこんなもんよね。度数がキツいため余計にそう感じる。

 それに頭は元から三回転捻りクルクルパーのオレ(アリシア談)なんだけど、アルコールが入るとウルトラCかました感じになる。俺もアリシアも(録画データ参照)。

 ──ふたりして朝起きたら管理局にしょっぴかれるデバイスが出来てたのはいい思い出だったりする。

 

「つまりなんでも飲めるだけで強いわけじゃないのね」

「弱くもないんすけどね、いやー飲んでる最中に気持ち悪くなることないから制限効かなくて」

「あなたが女なら危なかったわね、あと美人だったら」

「付け足し補足に悪意しか感じない、別に美男でもないけど」

「通行人Fとかとしてドラマとかでスクランブル交差点にいそうな顔よね」

「素直に無個性って言えよこんちくしょう」

 

 はてさて、そんなふうに会話をすることどれくらいがたっただろうか。なんかまた新しい魔力炉を作ろうとしてるらしく局に許可取りに行ったら断られたとか愚痴ってた。当たり前だと思う、周囲の物質を分解して魔力変換するとか俺でもロストロギア級ってわかるもん。

 

「貴方たちが見ていた地球のアニメから発想を得たのだけど。制御できない力はただの暴力とかいう台詞があったあれよ」

「抜き出してきた台詞がなんでそれなのか気になるけどあれかぁ……いやそりゃアニメから発想を得たものを実現したら恐ろしいものが出来るに決まってんじゃん」

「実はやり過ぎた気は私もしてるわ」

「プレシアさんが自覚するレベルのヤバさとか笑えない……てかそれ設計見ただけで悪用するやつ出るんじゃない?」

「大丈夫よ、途中気づかれないように理論は破綻させてるから」

「さっすがー、余念がないね」

「そのまま使ったら爆発するようにしといたわ。因みに近頃数件の研究所で爆発事故があったらしいわ、怖いわね」

「サ、サッスガー、加減がないね!」

 

 まぁ、こんないつもみたいな他愛ない雑談をしていた。飲んでも顔に出にくいプレシアも赤みがさし始めているあたり結構たったと思う。

 

 のだが、つまりそれは俺もかなり飲んだと言うわけでして現状頭のなかでの処理機能がシャットダウン、わたしの正気はサイレントヒルに迷い混んじゃったぜヒュー! 酒がうまい!

 

「ナナシ、落ち着きなさい。そのグラスは空よ、いくら煽っても飲めないわ」

「ハッハッハ! 酒は百薬の長って言葉があるんだけどつまりそれって酒は体にいいからいくら飲んでもオッケーってことだ!」

「毒が薬になるように薬も過ぎれば毒よ、ヤク中ならぬアル中になるわよ……いえ今のあなたは空のグラス持ってるだけの間抜けだからいいのだけれど」

「我が宝具エアの開帳だ、的な」

「あなたが持ってるのゴミ箱だけでしょうに、それとエアなのは貴方が今持ってるグラスよ」

「いやこれって元々お宝が入ってて名前は……四次元ポケット?」

 

 やっべなんか名前あった気するのに21世紀の方しかもう出てこないや。ゲートボールだっけ?

 

「……あぁ、そうだったわ。ゴミ箱でひとつ思い出したわ」

「ん? 我が家の粗大ゴミナナシを今度捨てにいくとかやめてくださいよ?」

「本気で貴方は私がナナシ(あなた)をどういう風に思っていると考えているのか聞きたいところ……いえ、それは今はいいわ」

「半分冗談ですって」

「そ…………一回しか言わないわ、ありがとう」

 

 ありがとう、アリガトウ、Thanks……ふむ、どう考えてもお礼を言われたらしい。理由も説明も省いた、ゴミ箱って単語で思い出したこのお礼は、きっとJS(Yesジュエルシード、Notスカさん)事件の時のあれこれひっくるめたものだろう。

 そういや面と向かって感謝されるのは初めてなような気もする。ぷっぷー、見た目によらず律儀だなぁ。

 

「なにかしら、その腹立たしい顔は?」

「なんでもないっすよー」

「そう……」

「それとどういたしまして、でも大したことはしてないよ」

「それは知ってるわ」

「そっすか」

 

 うん、いつも通り変わらないや。そのまま静かにグラスを傾ける。似合わない気もするが……ま、たまにはこんなのもいいだろう。耳障りのいいクラシックを聞きつつグラスを傾けた。あ、空だったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スッパーン! チリンチリン! ドッタンバッタン!

 

 

「ナナシと母さん見っけー!」

「ね、姉さん引っ張らないで。くび、首が絞まって苦しいよ!」

「アリシア、フェイトを離してやっておくれ! 割りとヤバそうなんだよ!」

 

 …………騒音と共にやって来たのは残りのテスタロッサ家のメンバー。アリシアにフェイトとアルフが店の空気なんて知ったこっちゃないと駆け込んできた。

 

「ふたりで飲みに行くとはズルい、私たちも混ぜろー!」

「アリシアさんやアリシアさんや、このお店の静かな雰囲気に合わんけんちょっと出ようかー」

「あっ、うんごめ……うわナナシお酒臭い! ナナシスメル臭いよ!」

「おいバカやめろ! その言い方だと俺が臭いみたいだろ、泣くぞ!」

「ふぅ、じゃあ皆で他のお店に飲みに行こうかしら? お代は出しておくから出ときなさい」

 

 静かな雰囲気はね、死んだんだ。お会計をプレシアが済ませてるうちに主に五月蝿い二名は退散する。本当に言うまでもないが俺とアリシアだ。

 お外の風にひんやりと涼みながら隣のアリシアに話しかける。

 

「よく場所わかったな」

「へっへっへー、女の勘だよ!」

「その女の勘ってセンサーいかれてて何軒も回ったりしてない?」

「うぐっ。ず、図星じゃないヨー……あ、でも昔私が言った通りになったね」

「なにが?」

「ほら、いつか母さんがナナシを飲みに誘うって言ってたでしょ?」

「あー、そんなことも言ってたっけか……でも地雷はほとんど踏まなかったぞ?」

「なんだって!?」

 

 チクショウ、すで驚いてやがると酔っててもわかる。

 

「ふははは、俺だって成長するんだぜ」

「むぅ、そりゃそっか……よし! 母さんたちが出てるくまでに飲みに行くお店探しちゃお!」

「このアル中の墓場~吐くまで帰さない~って店は?」

「好奇心は湧くけど行きたくないよ!」

「だよな!」

 

 うん、なんかいつも通りになっちゃったけどこっちのがらしいしいっか。

 別にこのあと俺とアリシアがまた酔って危ないデバイス作りかけて、珍しくプレシアが本気で止めにかかったとかそんな事実はなかった、なかったのだ。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
いつだか会話のなかでポロッと出ていたプレシアとナナシの飲み会的なの書きたくなって書きましたごめんなさい。たぶん覚えてる方はほぼいないかと思います。

綺麗に終わらせたかった、無理だった。そんな感じですねこれ。


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番外騙り.IF今より楽しい明日へ

この話は『ないない尽くしで転生』の番外であり騙りでありIFです。本編のアフターと捉えるも全く違う世界のあったかもしれない話と捉えるも自由の無責任な話。
求められてるか求められてないかとかなげうって書きたくなったので書いた、やっぱりいつも通り無責任な話です。


『ふたりは付き合ってないの?』

 

 そんな言葉を漏らしたのは誰だろうか、ホントに誰だ。和気あいあいのガールズトークから試製古代ベルカ風デバイスに脱線していた思考を引き戻された。周りを見れば──おおう、さすが女の子たちというべきかスイーツな話題に興味津々と視線で訴えてくる。

 けど私たちの関係にスイーツな、そんな甘いところがあったかな? 物は試しにと記憶の発掘作業のためにマルチタスクをフル活用してみるも、9割ほどがスイーツというより闇鍋のような関係だった。それもふたり並んで嬉々としてネタ食材を投げ込むような、そんな思い出が大半を締めていた。

 

「それでどうなん?」

「どうなんって言われてもなぁ……アレとコレ、だよ? 一部ではユニゾンデバイスと結婚するのではとすら疑われてる私だよ?」

「うわぁ……でもナナシ君ってアリシアちゃん命懸けで救ってからずっと一緒に過ごしとるんやろ?」

 

 身を乗り出してくるはやての頬を手のひらで押し返しつつ、命懸けってなにかと考えれば──そういや私が生き返ったときのことか。割りとオブラートに包まれて事実は隠蔽されたあれだ。まあ、命懸けというか一回死んでたらしいけど。私にいたっては進行形で死んでたし、ナナシは何回か死んだ体験のあるとかいう、二人揃って珍種。

 そりゃあ、その事には感謝してるよ。きっと救われたのは私だけじゃない、母さんもフェイトも救われた。お陰でみんな笑顔で過ごせている。

 

「私もよくわからないんだけど白馬の王子さま? みたいな感じには」

「ならなかったね。私助けられる寸前まで無意識だったし、助かったら助かったで溺死しかけてたから! ナナシの存在を認識したのは遥か後だったよ」

「そうだったね……ナナシくんはナナシくんですぐ気を失ってたし、私に捨て台詞を残して。にゃはは、あれにはビックリしたなぁ」

「昔から変わっとらんな」

 

 はやてやめてくれ、その言葉は私にも効く。なんて冗談は置いておき私たちだって成長はしてるわけで。

 特に身長は顕著でなのはとフェイト、はやてのなかでも私が一番高い。バストはフェイトや母さんに比べるとしょっぺぇ水滴が目元から零れそうになるけど、別に小さいわけでもなく美乳と自負してる。つまり私だってナイスバディーな女なのだ。

 ナナシに微乳かと言われたときには言葉に詰まったので苦し紛れにポークミーツと言っといた。やる気ない顔でソーセージくらいあるやいと返されたけど、見栄張らないあたりがなんとも()()()て笑った覚えがある。

 

 他にも成長したところは──きっとあるよね。無職からフリーの整備士、今ではお店も開いてるし。人間性の成長は目を瞑ろう。

 変わらないからこそいいものだってきっとある。

 

「てか一緒に暮らしてたっていうならフェイトもじゃんか、あと母さんとアルフ」

「待ちぃ、そこに自分の母親と使い魔(いぬ)を候補に入れるんはおかしい」

「アハハ……でも過ごしてた時間と密度が桁違いだから。えっと、姉さんに解りやすく言うと近代ベルカと古代ベルカくらいの差があるよ?」

「そんなに!? そっかー、そんなに差があるなら仲を勘繰られもするかー」

「てか、よく高校で付き合ってたカップルも大学に入ればあっさり別れるいうけど二人はその比やないもん。かれこれ10年は一緒におるやろ?」

 

 へー、地球じゃそういう風に言われてるんだ。はやてってば中卒の恋愛バージンなのに詳し──いだだだだだだ!? ごめっ、中卒でも高給取りだったネ! そこらのオジサマよりよっぽど稼いでたんだった!

 

「そっちやないわ!」

「だよね、でも皆そうでしょ? お仕事が忙しいからって言ってるうちに花の十代が終わって、今は行き遅れロードに片足突っ込んでるんでしょ?」

「やめぇ! 私のライフはもうゼロや!」

「ま、まだ二十代前半なの……!」

「そんなこと言ってる間に十代終わっちゃったなぁ……」

「フェイトが気づいてはいけないことに辿り着いちゃった」

 

 一緒に過ごした年月、割りと真面目に考えると私ってばナナシといる時間が一番長いかもしんない。また母さんが気づくと怒る事案が──何て言うけど母さんはとっくに気づいてそう。気づいた上でそのことが話題に上がればナナシに当たる、そんなコミュニケーションを図る。ナナシはげんなりした顔をするけど、不器用な母さんなりの接し方。きっと私たちへ向けるみたいに素直に感情を出せないんじゃないかと私は考えている。ヒュー熱々だね! 物理的にだけど! 熱いよりビリビリだけど!

 

 というか一緒に過ごした年月とか言うならなのはとユーノも幼馴染み的なあれじゃん。

 

「そこのへんどうなの?」

「えっと、私とユーノ君は大切なお友だちだし恋人とかそういうこと考えたことなくてないというか考えが及ばないって言うかまだ早いと言いますか!」

「まだ早い……20歳越え」

「……ぎゃふん」

 面白いくらいに目がグルグル回って手をワタワタと振るなのははとても20歳を越えた女性には見えない。それこそ小学生未満のようで、エースオブエースは自身への恋愛耐性はボロボロのようであった。

 

「まあ、ほら。なのはちゃんはそんな感じやさかい同じくらい異性と過ごしてるアリシアちゃんに話を振ったんよ」

「いつになっても女はそういう話題が好きだよねぇ」

「姉さん、なんかおばさん臭いとか通り越してお婆ちゃんみたいだよそれ」

「縁側でデバイスを弄ってたいよね」

「茶でも啜っときぃ」

 

 なんて話ながらも私は思考の端でいつも一緒のバカを思う。普通の価値観で言えば、一緒にいたい男女はきっとカップルとか夫婦って関係になるんだろう。でも私は今が心地よくて、真冬のお布団みたいなアレ。布団から出れば暖かい居間に朝御飯が用意されてると言われても動きたくない。そんな感じ。変わらないこの関係が心地よくて仕方ない。変わらないからこそいいものだって……きっとある。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「君たちは付き合わないのかい?」

「牢獄の中からいきなりなに言っているんだスカえもん?」

「いや、ほら世の中的には仲の良い男女は付き合うものというではないか」

「ならウーノさんと付き合えばいいのに、というかスカさんに世の中の常識をとやかく言われたくない」

「さすがに娘と付き合うのは不味いと私でもわかる、後者に関しては我ながらそう思うよ」

 

 場所はなんか小難しい名前の牢屋。スカさんが投獄されているその場所へやってきていた。なんかアリシアが女子会に行ってくるとかなんとかで出掛けていて暇していたのだ……アリシアが、女子会。チンパンジーがお茶会をする並みに想像しがたいけど、デバイスに溺死しそうといえど女性な訳だしきっと女子会ingしてるころだろう。

 本人にも伝えたら『失礼な!? 私だってめっちゃ女子会してくるよ!』とか言ってたし、うん。

 

「それでなんだっけ? スカさんが娘にスケベするんだったっけ?」

「やめてくれ、そんなことを言うとレジアスのやつが嬉々として私の懲役を伸ばしてくるんだぞ!」

「懲役100年増し増し入りまーす!」

「そんな注文のように増やさないでくれるか!? ……ごほん、そうでなくてだな」

「俺とアリシアが付き合うかどうか」

「ナナシ君は聞いてるのか聞いてないのか判断がつかないな……それでどうなんだい?」

 

 なんで、このスカ(おっ)さんは恋バナする女子みたいに興味津々なんだろう。というかそういう話題はとても困るんだけど。

 

「ほう? まさかプレシア女史を理由にはしまいな?」

「……いや、充分理由になると思うッスけど。まあそれを差し引いても色々あるんですって。俺も、アリシアも」

 

 お互い他人とは違う。性格的なそれを除いても、明確に違う溝は他人からは決して観測されることもないが、だからこそより確かに自身で認識せざるを得ないソレ。

 普段は微塵も気にすることなく過ごしているが、大きな転機を迎えざるを得ないときには無意識に頭の隅を掠めていく。まあ掠めたことなんてほぼないけどな! プレシアに追われて走馬灯見た回数のが圧倒的に多いわ!

 

「というかなんでこんなところで男二人恋バナせにゃいかんのか……」

「私も暇でね、付き合ってくれたまえよ」

「え、恋バナってそういう……ごめん、俺さすがにスカさんとは付き合えない! 局員さん助けて! スカさんに告白された!」

「そういう意味ではないぞ!? 暇潰しに付き合えということだよ!」

 

 知ってた。いやそれにしてもなんでわざわざ俺たちの奇妙な関係を話題にあげるのか……あ、奇妙な関係だからか。スカさんが普通なことに興味持つはずなかった。

 

「それにほら、幼馴染みとはメインヒロインになるものなのだろう? 私が最近したギャルゲーは大体そういうものだったぞ」

「なんで牢屋でギャルゲーしてんの? いや管理局仕事しろよ」

「私がゲームくらいで大人しくしているならもうそれでいいらしい」

「納得しちゃった!」

 そりゃそうだよね、ロストロギアで遊園地的なの創っちゃうスカさんがゲームで大人しくしてるなら管理局的には恩の字だろうね! よくよく部屋を見渡せばホテルの一室みたいに設備が揃ってるし、割りと満喫してる風だった。管理局の見えないところでの努力にホロリ涙。

 

「そして私はギャルゲーから愛は皆を笑顔にすると学んだのだよ」

「悲しみの向こうに行ってしまえ」

「良いボートはごめんだよ」

「それで? スカさんが娘12人とハーレムつくるんだっけ、娘プリする?」

「違う、君とアリシアくんの関係に興味を惹かれたのだ」

「また、厄介なものに目をつけて……」

「ふっ、厄介な奴にはちょうどよいだろう?」

「ドヤ顔、ウザい!」

 

 なんなんだ、ギャルゲーが原因で男女の関係を勘ぐられるとは思わなかった。

 てか、だから俺たちはズレてるわけでしてモノの考え方というか……俺はあんまり元々考えずに過ごしてるけど、特にアリシアはなにも考えてないようでその実考えてるからなぁ。裏表はないけど表の下に潜めて出さずにいると言いますか。俺も他人への隠し事はいっぱいだけどね?

 こう、お互いにこれ以上踏み出すことはしないって暗黙の了解が出来てる。それは踏み出さないといけないものでもなくて、だからこそ気にせずに過ごしてきたんだけど。

 

「さあメインヒロインの攻略をしたまえ!」

「スカさん……ゲームと現実の区別がつかなくなったとは、南無三」

「ん? なにを言っている、もともと人生なんていうものはゲームみたいなものだろう?」

「くっそ真顔で言い切られたらなんも返せない……!」

「人生もゲームも楽しむことが目的、私にとってはそんなものだよ。だから君たちの関係も私にとって楽しめるものであるなら首を突っ込むさ」

「でもこんな色気より食い気というか、食い気すらなくなりそうな闇鍋みたいな関係よ?」

 

 なんかギリギリ食えそうなもので闇鍋したらなんとか食えるだけの形は出来たみたいな。他人が見たらタールか鍋か判断に困るような関係。

 

「そんなものがどうした。それは客観的に見たときのことだろう? 愛に客観性は不要、必要なのは互いの主観だけなのだよ」

「……スカさん」

「と、最近やったやつで主人公を後押しする親友が言っていたよ」

「……台無しだよ。いや、予想はしてたけど、してたけど!」

「ハッハッハ、まあそういうわけだ。それに君はなんの感情も向けていない相手とこれだけの年月ともに過ごせるのかい?」

 

 俺とアリシア。子供心のままに育ったみたいに馬鹿ばっかりしている自覚はある。それは子供心を持ったまま成長したのか、子供心のままに停滞しているのかはわからない。

 別に今に不満があるわけでもない。むしろこの距離感と関係はとても居心地がよい。ぬるま湯に浸かったままずっといれるようなこの関係。なにか関係を変化をさせることで、時間を動かすことでこのぬるま湯が冷えてしまわないか、そんな漠然とした不安は──確かにある。

 

 あー、もうなんだかなぁ。似た感情をあっちが持ってることもなんとなくわかってるし、だからこそ10年以上この関係は()()()()()()()続いてきた。

 別に悪いこっちゃないんだろうけど、なんかなー。自覚すると停滞してるだけって気がしてくる。らしくないとすら思えてくる。

 自分がアリシアに向けている感情がライクなのかラブなのかは、いまいち掴めないが好きっていうのは間違いない。そうじゃないとこれだけ一緒に過ごすことはないし割りとそれは自覚してた。けどしっかり意識するとその好きは他の人に向ける好きとは違う質である。

 ただ、その違いの要因がなんなのか。恋愛チェリーなせいか性格がクルクルパーなせいかそこがわっかんない。ゲームのパラメーターみたいにわかりやすかったら楽なのに、それこそスカさんがやってるギャルゲーみたいに。

 

 でも、質が違うってのは──ってことなんだろうなぁ。

 

「ふふん、その様子だとナニか思うところはあるようだね」

「まぁ、そうなー。いい機会だし色々考えてみるかなぁ。変わらない関係に新たな風を、的な?」

「ハハッ、変わるということは自殺とどこかで言っていたが一度死んでみるのもイイだろう」

「それ今までの自分を殺して新しい自分にってことじゃないのか……さすがに自殺はしたことないけどさ」

 死んだことはあるけど。しかも物理。

 

「そうだろうね。ではなにか変化があれば教えてくれたまえ……次の私の世界ニコニコ計画に盛り込むためにも!」

 

 また世界が大騒ぎに包まれそうな予感がびんびん──ま、楽しそうなので是非放置する方向でいこうと思う。イイ笑顔で送り出すスカさんに手を振りつつ監獄からプリズム、いや捕まってないから普通に追い出された。

 

 さて、アリシアはどこだろうか、適当に歩けば見つかるかと検討すらつけずに歩き出す。いや、たぶん見つかるし。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 女子会、恐るべし。私の中のなにかが揺さぶられてから直らない。現状の何がいけないのか考える、駄目なことは特になかった。というか誰もそんなことは言ってないし、たぶんそういう疑問が出てくるってことは私が心のどこかでそう感じてるってことだろう。

 それはこのままいることではなく、私がちょびっと目を逸らしているところがあると再認識してしまったから。逃げることの正否は置いといてそれも選択のひとつ。でも私は選択すら放棄して今を過ごしてる……なんてシリアッティに考える。

 

 何の気なしに今まで続いてきたこの関係。それってずっとこれからも変わらないままでいられるのか。たぶん、いられる。と思うのは今の私の主観だ。

 他人の心なんてわからない。女心は秋の空、なんていうけど女に限らない話だと私は思う。人の心は移ろって変わり行くものだしそれは本人ですら予測できないもの。秋の空、というより山の天候みたいだよ。

 

「……なんだかなぁ、はぁ」

「ずいぶん浮かない顔をしているが、なにかあったのか?」

「んーんー、何もなかったけど私が勝手に沈んでるというか、浮上しない問題を一緒に浮き上がらせるか悩んでるというか」

 

 答えにならない答えに首をかしげるリインに、いつもは自然に浮かぶヘラヘラをちょっと表情筋を意識して笑う。ついさっきお散歩中のリインに出会ってカフェに誘われたけど、ちょっと呆けすぎてたらしい。

 

「私でよければ、聞くが」

「ん……そだね、リインって長く生きてるしちょっと聞いてもらおうかな。泥酔の時と同じで悩みって吐くだけでマシになるっていうし!」

「その例えは、どうなんだ……?」

 

 私にとっては同じだからね、悩みも酔いもどっちも頭がぐるぐるして気持ち悪さがあるし。

 なら吐いちゃおうかな、ミソッカス仲間なリインにちょっとぶちまけちゃおうか。ゲ□でも乙女力の発露でもなく心情を吐露しよう。

 

「人間関係についてなんだけどさ、変わらないままって無理なのかな? 楽しいだけじゃいつか変わるのかな?」

「……私には、難しい問題のようだ。いや、待て、考えるからちょっと待って……」

「あっ、うん。頑張って」

 

 顎に手をあてウンウン唸る姿に苦笑しつつ抹茶ラテを啜る。甘さのなかにちょっとしたほろ苦さがあって、なんか人生みたい。なんてロマンティックに考えたが似合わなさ過ぎてナナシに笑われた気がした。

 自分で想像しただけだけど腹立たしかったので、ズゾゾゾゾと抹茶ラテを一気に吸いきり一緒にそんな思考を飲み込む。ロマンはデバイスで十分と言うのか……あれ、私も十分だと思っちゃった。

 

「そう、だな……変わらない関係はある、と思う。けどその関係のなかでも人は変わっていく」

「どういうこと……?」

「例えに出すのが私たち家族で申し訳ないが、主はやての元に呼ばれて以来、私たちは“家族”という変わらない関係となった」

「うん、だったね」

「だが、私たちはそのなかで……何も変わってないわけではない。騎士たちは、その、特にわかりやすい。ヴィータは未だにツンツンしているが、昔に比べて棘は減った、他人との交流を拒まなくなった。シグナムも、頭は固いままだが、柔軟に考えれるようになったし……ふたりとも、人にものを教えるということまでするようになった」

「あ……うん、昔はちょっかい掛けたら鉄槌振り回して追いかけられたけどこの頃は普通にお説教で済んでるや」

「……まぁ、そういうことなんだけど」

 

 とても微妙な視線を向けられてるけど私にとってわかり易いのがそこだったんだもん。

 

「つまりだな、家族という関係はそのままだが、そのなかでも変わっていくものはある」

「変わらない関係の中でも変わっていくものはある。何も変わらないってことは、ないかぁ……」

「きっとそうだと思う、人は変化するからこそだろう。むしろ、アリシアは停滞を嫌いそうだが……?」

 

 たぶん、今の私の顔はキョトンとしていたと思う。たしかにリインの言う通りだ。停滞って暇そうだし、私的にはとてもよろしくない。そう考えると、うむうむ、まとまってきた!

 

「………………えっへっへー、そう言われるとそうなんだよね。昨日の楽しいことを振り返るわけでも、今日の楽しさが永遠に続いてほしいわけでもないんだよね」

「あぁ」

「明日も楽しく過ごしたいんだよ! だから私は二の足踏んで粋なタップダンスを意気揚々としてた……しながらちょっとお悩み相談してみてただけ」

「してた? すごく悩んで、なかった?」

「してた! なっ、な、なかったし!」

 

 じ、実はそんな悩んでなかったし! リインの言葉のお陰で踏ん切りついたとかないから。元々気づいてたけどちょっとリインに確認しただけ……嘘、結構切っ掛けになったし変わりたくないところと変わっても続いていくものがあるってわかった。

 

「ありがとうね、リイン」

「……よくわからないが、力になれたならよかった」

「うん! じゃあちょっと私は行ってくるよ」

「あぁ、行ってらっしゃい」

 

 微笑みながら送り出してくれる姿は母親のよう……というと母さんが泣くか怒りそうなので保母さんみたいと思おう。

 カフェを出た私の行き先は言うまでもない。位置情報は定まらない行き先だけど、直ぐにつけるだろう。

 

 ──アリシア・テスタロッサは日の傾きだした街道を鼻唄混じりに歩き出す。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 お尻を出した子が一等賞で帰る時刻。ナナシとアリシアは出会う。ふたりは互いを探していたのかそうでないのか。昼の間にその場を占拠する子供たちがいなくなった公園でふたりは出会った。

 探し人同士なのだが特に探していた素振りも見せずにどちらからともなく並んで歩く。

 

「おっ、ナナシ」

「ういっす」

「やっほ、なんか開き直った顔してない?」

「お互い様だろうそれ、開き直った感じのそれ」

 いつものように飄々とした表情を浮かべながらも何処かスッキリした雰囲気を纏っている。

 

「へへ、そうだね……なーんか色々考えちゃってねー」

「俺も、割りと珍しく考えて頭がだな」

「三回転捻りのクルクルパー」

「それは元からだし」

「そうだった」

「…………」

「…………」

 

 これから口に出す言葉を探すために軽口と歩行が中断してしまう。ただそれはお互い様のようでその間を気にする人間はこの場にはおらず二人は不自然な間を自然なものとして気にすることなく熟考。そして、ポツリと一言呟く。

 

「……停滞よか新しい一歩、うっし」

「……このままよりも、もっと楽しくなるために、ね」

 

 お互いに呟いたのは同時だったか。いつも通り、面倒な考え事は投げ捨てた本当にいつも通りヘラヘラとした二人が向き合う。

 

「「その、えっ? あっ……えー」」

 

 見事に被った。出だしから、疑問、被ったことを認識して嘆息するまでに綺麗に。

 夕陽が差し掛かり二人の顔はほんのりと朱がかかっている。それは夕陽のせいなのかそれとも他のナニかのせいなのか、耳にまで赤みがかっている理由はいったい何なのか。それを知る者のは誰もいない。

 深呼吸、から無言で私から話すぞとアリシアは主張。それをナナシも同じく無言で了承。

 

「え、えへへへ……たぶんこれから、何かが変わるってわけでもないと思うんだけどさ。でも変わりたくないって思うところを変えないためには、別のところを変えないといけないって考えたと言いますか……」

「この心地好い関係を停滞にしたくないから、それは俺たちらしくないと思うし……まぁここが俺にとって一番居たいところだし。なら新しい一歩を踏み出したいというか……」

 

「「だから……ッ!」」

 

『I love you』

 

 なんで英語なのか、なんでふたり揃って英語なのか。そしてまた何故綺麗に被ったのか。

 きっとそれは面と向かって真面目に母国語で言うことが恥ずかしかったからなのだが。それをお互いに察する。

 夕陽も沈んだその場で、未だに日に照らされているかのように熱い顔をパタパタと扇ぎつつ笑う。

 

 これから、ナナシとアリシアの日常が劇的に何かが変わるわけではないのだろう。ふたりはいつものように店のカウンターに並んで客を待ちつつ遊んでいるだけで、暇をもて余せばどこかへ遊びにいく。でもそんな関係を続けるためにふたりは新しい一歩を踏み出したのだ。

 明日もまた、ふたりにとって楽しい日とするために。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「恋仲ってなにするんだろう?」

「わっからねー、ふたりで出掛ける? あ、割りといつもやってる」

「自宅で映画鑑賞! あ、結構頻繁にやってる」

「……まぁいつも通りでいいんじゃね?」

「ま、そうだねー。私たちが楽しければオールクリアー……あっ」

「ん? どうした?」

「あー、その、母さんに何て言おうかなって」

「………………ッ!」

「あっ、コラー! ナナシ逃げるなぁ!」

「まだ、死にたくないんじゃぁぁぁ!」

「ほほっう……一斉送信のメールでバラしてやる!」

「えっ、ちょっ、待っ」

 

 ──なにかが変わった、変わらないふたりの日々は明日も続いていく。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
前々から読みたいというお声を聞いていましたが割りと関係なくちょっと書いてみようと思い書きました。そして内容はタイトルと前書きの通りです。


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番外編 聖夜前日のふたり

「あぁ、今年もこのイベントがやってきたけど! 彼女がいるし!」

「いやいや私たちには仕事があると割りと楽しんでいた去年までとはおさらばだ! 彼氏がいるし!」

「五月蝿いと言われようと!」

「延々と独り身を煽って見せよう!」

「「お祭り騒ぎのクリスマス・イヴッ! イェーイ!」」

 

 いつものハイタッチ。俺とアリシアは妙にテンション高めに空から雪が散るように降るなか外へと飛び出していた。理由は語った通り。今年のクリスマス・イヴはアリシアと付き合ってから初めてとなる記念すべき日。

 だからちょっと独り身の魔法少女たちを煽ろうかなって、かなって! どうしようもない奴らだとは自覚してても止まれない。

 

「彼氏彼女の関係になって何が変わったって言われると困ってたけど……まさか独り身を聖夜前日に煽れるようになるなんてね!」

「キリスト様もビックリだ。生きているなら神様だって驚かせてやるって勢いで」

「クリスマスの独り身はいないかー!」

 

 まず目指した先は八神家。普段から人をからかうことに関しては私に任せろと言わんばかりのはやてなんだけど、今日はずっと俺たちのターン! なんだかんだ普段から迷惑かけている気もするのはきっと気のせい。別に六課の警報を鳴り響かせたこととか思い出したりなんてしてないって。

 しかし、インターホンを鳴らすも誰も出てこなかった。

 

「計算高いはやてのことだし……逃げられた? や、でもリインにさっきメールしたときはいるっていってたし、居留守だね!」

 

 いきなり躓いた感がある。メールが仇となったかな。リインのことだし、はやてに問われてメールを見せて、はやてがなにかを察しちゃったか。でもここで引いたら負けだと思う。なのはが言ってた、いつだって諦めない不屈の精神が必要だって!

 インターホンはよくあるカメラ付きのもの。アリシアと軽く相談した結果、カメラの前でイチャつけばなんかダメージ入らないかなってこととなった。どうせはやてのことだから完全に無視はせず、きっと興味本意でカメラ画面を見てるに違いない。

 

 傘を差して、手を繋いで、インターホンのカメラ目線へ一言。

 

「──恋人といるときの雪って、特別な気分に浸れて私は好きです」

 

 地球の方のネタだったけど通じたようでインターホンから吹き出す音が聞こえた。はやてを心配する守護騎士の面々とリイン姉妹の声が聞こえる。ふたりでドヤッとカメラに向かってると観念したかのように玄関が開く。

 

「作戦通り」

「新世界の神様志望なん? いや、そんな目で見んといてって。仕方ないやん、あれは笑うしかなかったんや、笑いには勝てなかったんや……で、何しに来たん?」

「好きな相手と過ごすクリスマス・イヴの素晴らしさを、はやてに語りに来たんだよ! あー、私今年のクリスマス楽しいなぁ!」

「せやろうなぁ! ストレートに煽りに来たって言わんあたり余計に腹立つ!」

 

 ウガーッ! と吠えるはやてにとても満足。

 クリスマスに乾杯する前にあんたらに献杯したろかとか地団駄踏んで激おこ。10数年前には車椅子に乗ってたのに、こんなに元気になっちゃって……

 

「そんな貴女に俺たちの幸せをお裾分け」

「ただ幸せを見せて煽りに来ただけやろ! わたしにだけ時間割かんと他のとこに行ってくれんかなぁって」

「ちょっと予想以上にはやての反応が面白くて、つい」

「つい、やないわ! さっさと他行けー!」

「手厳しい対応! あ、ドア閉められちゃった」

 

 付き合い始めた頃はニヤニヤしながらからかってきてたはやてが懐かしい。今じゃ立場が逆転している。まぁ、からかわれてたときも開き直ってたけど。ほら、俺とアリシアだし、恥ずかしいって感情は絶賛家出中のままなんだよ。

 はやてに軽く追い払われてから、雪がちょっと強くなり始めたんで傘を差したまま並んで歩く。

 

「取り敢えず次はどこに行こくかね?」

「ナカジマ家には青春世代なのに独り身な子がたくさんいるんだけど」

「逃がす手はない! って言いたいけど、逆にゲンヤさんとクイントさんのラブラブ夫婦にやられそうだ」

「抜け目ない夫婦だしなぁ……若輩者の私たちじゃ返り討ちにあっちゃうし他だね」

 

 年の功にはなかなか敵わないもんだ。プレシアとかいい例、なんだかんだいい年だし──なんかピリッときた、ナニコレ怖い。

 

「ねぇ、なんか静電気走らなかった?」

「ノーカン、口に出してないからノーカンだ」

「はっはーん、さてはナナシってばまたいらないこと考えたでしょ」

「否定はしないけど、普通は考えるだけならセーフじゃないか? なんかアリシアと付き合い初めてからプレシアさんの直感が良すぎて怖いんだけど」

「震えている理由は寒さだけじゃないね!」

 

 たまにとはいえ、プレシアについて余計なこと考えればピリッと来ることがある。正面にいたらだいたい見抜かれる、のは顔に出すぎなのか。けど、プレシアはもう本気で人類って枠から越えるんじゃないかな。歩くロストロギアならぬ生きるロストロギアみたいな……ま、アリシアのことに関しては百発百中の直感だから今さらか。肌年齢とか未だに20代だし。

 

 ちなみに付き合うこと報告したときには、土下座で命に代えても幸せにしますって言ったら貴方死んでも生き返るでしょって返された。だから命に代えずに幸せにしろって、そうしないと私が殺すって言われた。なんでちょっと感動しそうになった瞬間に恐怖を刻むのか。アリシアはケラケラ笑ってたけど。いいよ、共に笑って過ごすよ。

 

「変なこと考えないとか息するなってレベルに難しいと思う。俺とかアリシアには特に」

「本当だ、私たちじゃ到底無理じゃん……」

 

 基本的にいらないことしか思いつかない20代カップルがそこにいた、というか俺たちだった。20代になろうと、付き合おうとそこは変わらないらしい。

 

「魔法も奇跡もあれど、俺たちの暴走は止まらないんだ!」

「見てろ! 私は家族ですら煽るよ! フェイト待ってろー!」

 

 全力でフェイトのもとへ向かう。つまりそれがどういうことか、今フェイトはどこに誰と住んでるかっていうのがすっかり頭から抜け落ちてた。インターホンを押して出てきた人物を見てようやく思い出す。

 

「むしろなんで忘れちゃったのかなって私は思うんだけど」

「めっちゃ忘れてた! ほら、なのはって独り身なこととか気にせず仕事してそうだったから元々候補に上がってなかった」

「も、もぉ! 私だって気にするしそんなにワーカーホリックじゃないよ!?」

 

 というわけで、フェイトって今はなのはと住んでたんだった。今はヴィヴィオも一緒。

 なのははプンスカ怒ってるけどワーカーホリック気味なのは間違ってないと思う。ヴィヴィオが来てからはかなりマシな感じになったけど、六課のときとか間違いなくワーカーホリックだった。

 なのはが有給を取らないせいで労働基準法的なのに引っ掛かりそうだとはやてが頭抱えたし、地上部隊の監査で一番危ないのがそこらへんとか笑えないとはやてが愚痴ってた。さすがに俺もアリシアも笑えなかった思い出。

 そのことをなのはに伝えると目を逸らされる。

 

「や、やっぱり新人だった皆が気になって」

「有給を消化しないせいで六課が労働基準法に引っ掛かりそうになるとは新人たちも思わなかったろうに。いや、休みを取らないことで間接的に部隊崩壊を狙っていた……?」

「よく反省してるからそこはもう許してって! ナナシ君やアリシアちゃんが笑わずに、可哀想なもの見る目でみたあたり本気で不味いんだなってわかったから!」

 

 ヤバいかどうかの目安に自分たちが使われてるのが納得いかないけど、心当たりがいくらでもある気がするので触れないでおこう。と不意にフェイトの方へ行っていたアリシアがなんか敗走してきた。

 

「ラブラブ度で負けたぁ!」

 

 アリシアの後ろからは困り顔のフェイトと呆けた顔のヴィヴィオがやってくる。

 ただ、なんで捨て身タックルのように俺に突っ込んで来たのか。心臓付近に頭部がダイレクトアタックして、ちょっと呼吸とかもろもろがトんだ。

 

「り、理由を話せ。タックルしてきた理由を話せ……あと身体も離せ」

「ルール無用の私たちの関係で一見意味のない行動に本当は意味があるとでも? 溢れ出んばかりの思いがタックルという形になっただけで理由とかないよ!」

「レイジングハート、ちょっとこの金髪ひよっこ撃ってくれない?」

 

 むちゃくちゃ言うアリシアを退けようとレイジングハートに頼むも心持ち冷たい声で断られて悲しい。闇の書事件の時に弄って以来、レイジングハートとバルディッシュが微妙に冷たい気がするのは気のせいだろうか。

 

 そう考えてる間に、少し冷静になったアリシアから話を聞けば、リビングにクリスマス系の料理が広げられていて、フェイトとヴィヴィオが“あーん”して食べさせあってたとかなんとか。それがなんだか心にキたらしい……なんで煽りに来たアリシアがそんなに直ぐ心折られてるの?

 まぁ、でも関係性的にはなのはとフェイトとヴィヴィオは家族で、俺たち恋人だし一段階くらい負けてた。ノリと勢いだけで来たけど敗北は必須だったよね。

 

「論じるまでもなく私たちが負けてたよ! 彼氏もいないはずの妹に惨敗だよ!」

「わかったから退け退けー。じゃないとプレシアさん──」

「を煽りに行く? 母さんもある意味独り身な現在だし」

「んっんー、俺が死ぬからやめよう」

 

 恐ろしいことを言うアリシアを嗜めつつ、なし崩し的になのはとフェイトに招かれてのクリスマスパーティーとなった。

 ヴィヴィオへのクリスマスプレゼントがなかったので、デバイス関係で困ったらいつでも頼りなさいってアリシアとふたりで無責任に約束しといた。

 なのはには四次元倉庫に入ってた漢字ドリルをあげた。プルプルと震えてとても喜んでくれてなにより。

 

 本来の目的とはズレたけど、楽しいクリスマス・イヴとなって満足。

 帰る頃には雪がうっすらと積もり始めていた。

 

 

 

「おぉ、だいぶん雪降ってる……明日はホワイトクリスマスかね。ふたりでどっか行く?」

「わたしとしては家でのんびりってのもいいけど、せっかくだし行こっか。ナナシ、エスコートよろしく!」

「了解、考えとく」




ここまで読んでくださった方に感謝を。
聖夜前日のふたり@いつも通りの巻。

お久しぶりです。本編の番外編か番外騙りのあとかは置いておきます。ただ、なんとなく思いつきましたので少々短いながらも投稿を。
ヴィヴィオからしたらふたりは叔父さん叔母さんという極めてどうでもいい情報。

蛇足ですが、あいうえお作文で文頭が“あいうえ~わをん”になるように会話させ、最後だけ“おわり”にしてみました。言葉遊びもなく会話に違和感などがあったやもしれず、申し訳ないですがやりたかったので仕方がない。



リアルタイムで読んでくださった方はクリスマスイヴの予定は大丈夫でしょうか、間に合わないということはないでしょうか?(無垢な質問)


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嘘予告編
AnotherSide:再び。


どこかの世界線でもなくただの狂人が語るもしもの話。
この話は一切今までの物語にもこれからの物語にも関与しない嘘の物語。
始まります。


 意識が覚醒して視覚が認識したのは黒一色だった。身体は自由に動く、全身を触っても痛むところはない。ただなにも見えないだけ。

 眼球を動かしている感覚があるので目は無事なはず、だから一切の光源がない暗闇に私がいるってこと。なんでだろうと意識が途絶える前を思い出そうとする。

 

 デバイスの修理依頼を受けて地上本部に向かっていた。その道中になにもないところで躓いて転んじゃったんだっけ、それで……それで? 思い出せないってことはそこでなにかされたせいで、ここにいるってことかな。駄目だ、なんの解決にもならない。

 とにかくここがどこか目処をつけるためにも明かりを灯そう。ミソッカス魔力しかない私でもそれくらいは出来る、はずだった。

 

「あれ、あれっ?」

 

 何度繰り返しても魔力を灯せない。というよりも私のなかのリンカーコアが生み出した魔力が片っ端からほどかれて霧散している。ここにきてようやく焦りが生じ始めた。基礎以下の魔法の行使が困難だなんていくら私でも、ミソッカス魔力な私でもおかしい。つまりは誰かに妨害されてて、その手段はきっとAMF。AAAランク相当の防御魔法だから、かなりの手練れが使っているってこと。

 

 それを私なんかに使う目的は戦闘能力の剥奪なんかじゃないんだろうなぁ。AAAランクの魔法が使えるなら直接私を攻撃した方が早いもん。トイレットペーパーを滝で破るくらい簡単なはずだよ。

 

 でもそれをしない。なら目的はって話になるけど、ここが視覚が無効化されちゃってる空間だから嫌でも想像できてしまう。端的にいって精神的な嫌がらせだろう。よっこらせと立ち上がってみるけど当然なにも見えないから手を前に突き出して前進。10歩くらいで壁らしきものに手がついた。それから壁伝いに歩いてわかったことは個室ってことと、ドアがないこと。一角に段ボールが置かれていて、ものは試しにと中身を出すと匂い的に食料。私をここに長期間置いておくつもりらしい。やっぱり精神的にクるような環境だね。

 

 ドラマならここで音声だけでも流れてきて私に何故拐ったかとか説明してくれるんだろうけど、こんな何もない空間なら第三者の声だって正気を保つ糧になる。だからきっとこのまま、律儀にご飯まで用意されてる。嫌だなぁ、早く助けてほしい。母さん、フェイトにアルフ、他の頼りになる皆を思い浮かべると少し勇気が湧いた。最後に過ったナナシの姿が全部台無しにしたけど、早く来てよー。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「アリシアが、拐われた?」

 

 かつてない緊急事態だった。

 

 地上本部に向かったはずなのに来ないと連絡が来て、アリシアに連絡を取ろうとしたら繋がらず、プレシアが仕事を投げ出して捜索依頼を出すも見つからず。

 仕事に関しては真面目にこなすはずなのに勝手に投げ出して、冗談に何処かに姿を眩ますタイプでもない。そんなことは俺もプレシアもわかっているからこそ焦る。苛立ち以上のなにかを隠すつもりもないらしいプレシアが髪を乱雑に掻きむしりながら誰かと連絡を取っている。

 

 誘拐にしても犯行声明がないのが困る。今のところ拐われたらしい、ということしか情報がない。どこでいつどのように居なくなったか全くと言っていいほど足取りが掴めない。街に備えられたどの監視カメラにもアリシアの姿はなく、まるで世界から消え去ってしまったかのように痕跡がない。くそったれな、ないない尽くし。

 

 唐突にプレシアの通信端末が着信を知らせるサウンドを響かせた。自宅子機で連絡を取っているプレシアがこちらを睨む。はいはい、俺が出ればいいんすね。端末を取ろうと手を伸ばしたそのとき、なんの操作もなく空中に投射型の画面が広がった。

 

 画面に写された男の顔を見た瞬間にキモチワルイと思った。プレシアの見開かれた目は次第に鋭さを帯び発した言葉には殺意が乗せられていた。

 

「ジェイル・スカリエッティ……ッ!」

『あぁ、私はジェイル・スカリエッティだよ。プレシア女史に覚えていてもらえるとは光栄だ。おっと通信端末には触れないでくれ。君ならそこから私の位置を割り出して転移魔法を叩き込むだろう』

 

 端末に手を伸ばしていたプレシアが舌打ちをする。画面の男、ジェイル・スカリエッティはニヤニヤと粘ついた笑みを浮かべたままのポーカーフェイス。感情の浮かび上がったポーカーフェイスとはこれ如何に。

 

『ああ、そうだ。娘を生き返らせることに成功したそうじゃないか。これには私も驚いたよ。生物学の観点なら私は君に勝っていると思っていたのだがね。反魂法を成してしまうとは恐れ入ったよ』

「黙りなさい」

『元気に生き返ってよかったじゃないか。慰みものとして生み出した代用品と仲良く暮らしていたようで私も自分のことのように嬉しかったものさ。なにしろその代用品の一部は私の技術を込めたようなものだからね』

「黙りなさいッ!」

『ハハッ、相変わらず君は短気なようだね。今も私をどうにかしようとマルチタスクをフル活用しているようだが……まぁ、反魂法には興味がなくもないが、実は君に用はないんだ』

 

 ジェイル・スカリエッティが視線をプレシアから俺へと移す。非常に珍しいんだけど生理的に受け付けないのだろうか、死ねばいいのに(キモチワルイ)ってレベル。

 

『あぁ、そうだ。プレシア女史は席を外してくれないかい?』

「どうし」

『君ほどの人物が疑問を持たないでくれ。これがお願いでないことくらいわかっているのだろう?』

「──ッ! わかったわ」

『ふむ、感謝するよ』

 

 気をつけなさいと視線で訴えて部屋を出ていくプレシア。あんな要求を飲むってことはジェイル・スカリエッティが容赦ない奴ってことは確定。

 しかし、このタイミングで突然の通信。こいつ犯人だろ。

 

「アリシア返せよ」

『第一声がそれかい。例えアリシア君がいなくなっていたとしても、私が誘拐の犯人と決めつけるのはよくないよ』

「暮らしていたって過去形にしてる時点で誤魔化す気ないくせに今さらとぼけられても。要求を速やかに述べてさっさと捕まってくんない?」

『思ったより言葉に刺があるね。もう少し温厚な性格と思っていたが何故だろうね? 私が受け付けないのかい? それともアリシア君が拐われたからかい?』

 

 両方なんだけどあまり会話もしたくないので閉口。

 

『黙りかい……あぁ要求だったね。なら端的に言ってしまおうか。ナナシ君に今夜、指定の所までひとりで来てほしい』

「はっ?」

『それだけだよ。では月並みながらもこう言っておこう。アリシア君の無事を祈るなら賢明な判断を頼むよ』

 

 何か聞き返す前に通信が切れる。そして通信端末に一通のメール、開けば郊外の住所が書かれていた。

 意図が全く読めない。

 

 部屋に戻ってきたプレシアは黙りこくっているし、ようやく掴んだ情報がこれだ。長くも短くも感じた時間の経過をへてプレシアがポツリと漏らした。

 

「最悪よ、よりにもよってアイツだなんて……」

「どういうことなのか説明をくれって」

「私のなかで史上最悪に匹敵する次元犯罪者、これを見なさい」

 

 投げ渡された端末にはジェイル・スカリエッティについての情報が……ってなんだこれ。スクロールバーが点になるほど小さい。羅列されてるのは確定した犯罪歴から容疑までの全て。内容は敢えてあげるなら生体実験に関わるものが多いか。

 

「性格は我が儘なガキそのもの、興味を持ったことを試さずにはいられない。それでいて、腹立たしいことにずば抜けて頭がいいのよ」

「興味を持ったものに……」

 

 俺が呼び出されたってことは俺に関心を向けられた? 理由がさっぱりわからない。けど、つまり、それは。

 

「アリシアが拐われたのは全部貴方のせい」

「……」

「ってわけでもないわ。一端は担ってるでしょうけどアイツは確かにアリシアを生き返らせたことに興味があると言っていた。

 だからむしろナナシに矛先が逸れたとも言えるわ……ただ、貴方に関心が向く理由の方がわからないのだけれど」

 

 俺への関心があるからこそアリシアへの興味が薄れ手を出されていない状態とも言えるらしい。俺がいたせいで拐われた、けど俺がいたから手は出されていないと。とんだマッチポンプだ。

 

「そっか、いやそれは俺もわからない。俺なんてミソッカス魔力で他には倉庫代わりのスキルしかないわけ、で──あ」

 

 あった。これ以上なく特殊すぎるものがひとつ。知る人間はふたりのはずの情報をどこから知ったのかはわからない。でも好奇心旺盛な賢い子供が興味を向けるには十二分なものがあったじゃん。

 

「『やり直し』だ……」

 

 自分で忘れ去るほど、何年も発生することのなかった能力。それもそのはずだ。なにしろ死なないと発動しないのだから。昔にアリシアに言い返したことがあった、そうホイホイ死んでたまるかって。

 

「そんなものも、あったわね。それならアレは欲しがるでしょう」

「……じゃあ俺は行ってくるわ」

「なにをしにかしら。アレは素直にアリシアを返すような人間じゃないわ。精神構造は文字通り人でなしなのよ」

「じゃあどうしろと……ああ、じゃあプレシアさんに頼みたいことがある。たぶん捕まえれるかもしれない」

 

 無言で先を促される。プレシアの頭脳をもってしてもアリシアの奪還は難しいってことか。いつもなら怒り心頭で飛び出してもおかしくないのに、見た目だけでも冷静さが残っているだけでもジェイル・スカリエッティへの警戒心が伺える。

 そんなプレシアに一言。

 

「俺ごと撃ってくれ」

「任せなさい」

 

 説明も聞かず即答ってどうよ?

 

 

▽▽▽▽

 

 

 郊外のさらに外れ、森林へと差し掛かる境界。

 そこへと呼び出されたのでひとりでやって来た。今のところ誰もおらず気配もない。一応、デイブレイカーは所持しているものの気休めよりも下、本当にお守り程度の役目しか果たさないこと間違いなし。もしも交渉なく瞬時に戦闘に移行したとき、一瞬だけ凌げるようにもってきただけ。

 

 そう、どうあれ一瞬だけ時間を稼げばいい。そうすればプレシアが次元跳躍攻撃、サンダーレイジO.D.Jで敵を一掃する手筈になっている。もちろん俺ごとだ。所詮魔力ダメージだから死なないからと俺が提案した。少し早まったような気もするけど死なないし大丈夫だよな!

 

 それから相手が現れたかどうやって知らせるかなど話し合った。常に魔力や電波が出ていれば感づかれる可能性が高い。だからワンプッシュで一回きりのコールがプレシアへと伝わる簡易ボタンをポケットへ忍ばせることに落ち着いた。

 無意識にポケットのうえから触れて確認してしまうが、間違って押してしまったら洒落にならないので直ぐさま手を離す。俺だけサンダーレイジで焼かれても仕方ない。仲良く丸焦げになったあとにアリシアの居場所を吐かせないといけないからな。

 

「っと、さすがに緊張してきた」

 

 ここを乗り切ればあとは居場所の特定をして、なのはやフェイトに任せればちゃちゃっと解決してくれるはず。俺はちょっとプレシアから雷撃を貰うだけなんだから緊張しても仕方ないというのに困った。

 雷撃を貰うだけって時点でだいぶんおかしいけど。まぁ元からパーな頭なので多少のショックでどうにかなることもないはず。アリシアに愚痴ってそれで終わろう。

 

 待ち合わせの時間まであと5分ほど、誰の姿も影もない。5分前行動って習わなかったのだろうか? 俺やアリシアですら納期5分前には納入してるって言うのになぁ。その5分前行動は遅すぎるのではないかとリインに言われたけど期限内なのでセーフセーフ。

 今回は完全に仕事ほったらかした形になるから地上本部の部隊には謝りにいかないとなぁ。はやてがどこかの部隊長と知り合いだったかもしれない、ちょっとくらい口添えもらえないものか。

 

 なんて考えている間に約束の時刻も近い。時間を確認しようと視線を下げ。

 

「──ゴプッ」

 

 胸元から大きな刃が生えていた。ズルリと俺の血液を潤滑剤として引き抜かれると血潮が噴き出した。間もなく命が尽きるのがわかってしまうこの感覚。抗うには遅すぎる今際の際。

 

「ごめんなさいねぇ。名・無・し・の僕ぅ?」

「おぼっ……な、ん」

 

 誰になにをされたのか、わからない。せめてプレシアに知らせるため、ポケットへ手を伸ばそうとして気づく。腕が切り落とされた。せめて相手だけでも視認しようとして気づく。首を落とされた。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 目前には生理的に受け付けない顔が画面越しにあった。室内にプレシアは既に居らず、ジェイル・スカリエッティと視線が合う。

 このまま天寿を全うする予定だったにも関わらず再体験してしまった『やり直し』に込み上げてくるものを飲み込む。それにあんな生々しい死は初めてだったことも精神的疲労に拍車を駆けてくるけどやっぱり飲み込む。ジェイル・スカリエッティはニヤニヤとし続けている。俺の言葉を待っているというよりは……挙動を観察されている?

 

『突然蒼白な顔になったがどうしたんだい? ()()()()()()()()()()()()()

「アリシアはどこだ」

『無視とは悲しいね。しかしアリシア君の居場所なら条件次第で教えようじゃないか』

 

 見るものを不快にする嗤った能面を張りつけたかのような表情。わかりやすくまとめるとゴキブリ100倍濃縮の存在。それが楽しそうにしているだけで憎たらしい。坊主憎けりゃじゃないけどたぶんコイツに殺されたのでそりゃもう激おこでも仕方なかろう。

 

『まぁ、もっとも君は私がどんな交換条件を出すか、その結果君がどうなるかまで知ってるのかもしれないのだが』

「俺に未来視みたいなカッコいい力はないぞ。倉庫代わりのレアスキルだけだから」

『とぼけるならもう少し瞳の震えを押さえることをお勧めするよ』

 

 瞳の震えとかどないしろというのか、グラサンでもしてやろうか。

 

『君は奇跡に等しい力が、呪いにも等しい力があるのだろう? 私はそれを知っているし、今夜君を殺す予定だった……ふむ、その反応を見るに一度殺されて帰ってきたようだね』

「そんな」

『とぼけるならアリシア君をバラしてみよう。私とて反魂法に興味がないわけではないのだからね。

ただ今はそんなものより君の力が気になっているだけのことだ。それに君がどういう行動を取るかも気になるからね』

「俺にはそういう力がある!」

『速答とはありがたいね。君に対してのアリシア君の人質としての価値も確認できた』

 

 性格が歪みすぎてないだろうか。もういずれバレることだしここは開き直ってやろう。あと絶対牢屋に入る前に殴ってやる。

 

『ではまた君には会いに来てもらおうか。安心してほしい。今度は出会い頭に殺しはしないとも』

「……わかった」

『ただし今回はプレシア女史との会話はなしでお願いするよ』

「どういうことだよ」

『彼女は賢いからね。落ち着きを取り戻した彼女と相談されると少しばかり厄介なのだよ。

 そのまま窓からでも出てくれればいい。なに、足に擦過傷が出来るくらいだ』

 

 そっと窓を開けて飛び出す。通信端末は持ったまま、メールで指示されるがままに駆ける。指示された場所に自分の好きなように来いという単純な命令。街から離れていくのは前回と同じ。ただ最短距離を選んで走る。

 デイブレイカーをセットアップして、なけなしの魔力で速力付与を行うも雀の涙、こんなことなら鍛えとけばよかったと思う。後悔先に立たずとはよく言ったもんだよ。

 

 体力と魔力の減りを自覚しながら目的の建物まであと半分というところで立ち塞がる影がひとつ。紫のショートカットの女が仁王立ちで道を塞いでいる。

 

「ジェイル・スカリエッティが作品、ナンバーズ3番。トーレだ。一応尋ねるが私は何人目だ……その反応から察するに私が初めてのようだな」

 

 ジェイル・スカリエッティという単語に足を止め、切れた息を整えながらトーレと名乗る女の話に耳を傾ける。しかし全身タイツみたいな格好してるのは痴女なのだろうか、もしくはアレの趣味なのか。どちらにしても変態なので大差ないけど。

 

「……でなにか用? 言われた場所まではまだ割りとあるんだけど」

「フッ、簡単なことだ。私はおまえの邪魔をしに来た。ここを通りたくば私を倒すことだ」

「ふっざけんなよ……なにが今度は出会い頭に殺さないだ」

「挨拶をしたのだからその約束は果たされただろう。そら、構えるくらいは待ってや」

「クイックバスタァァァ!」

《QuickBuster》

 

 発言の末尾を待つことなくデイブレイカーを向けてクイックバスター。砲撃の光に飲まれたトーレの姿は掻き消える。砲撃が当たった訳じゃない。比喩なく視界から、消え、いや距離を詰められて──側面から腹部への衝撃に身体が横に“く”の字に折れ曲がる。

 地面をバウンドしながら転がり飛ばされ、剥き出しの岩に打ち付けられてようやく止まる。視界が赤く染まっている。全身が痛くてどこが痛くないのかわからない。デイブレイカーを握れているのかわからない。自動障壁が機能してなかった理由もわからない。わからない。わからない。

 

 ──バンッ! と大きな水風船が割れたような音が耳に届いた。違う、割れたのは俺の腹だった。トーレの脚が引き抜かれるのと同じくして腹から温かなナニかが溢れ落ちていく。ドロリと命が漏れ出していることだけがわかる。あぁこれは死ぬな。というか腹をぶち抜くキックとかメガトンキックかっての……いてぇ。

 

「この程度か」

 

 最期に聞こえた言葉がやけに耳障りだった。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
前書きの通りです。嘘予告の台詞を削ってオミットしまくって組み立てた2万文字程度、基本駆け足の全三話のお話です。お付き合いいただける方は明後日までよしなに。


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AnotherSide:五里霧中の曇り眼。

 駆けていた。たたらを踏んで振り返ればまだテスタロッサ家が見える。そうか、戻ってきたのはここか……前回より進んだところじゃん。そこまで認識してから無意識に腹部に手を当てていた。大丈夫、穴なんて開いてない。

 

 ため息をひとつ吐きかけるも飲み込む。あんなのどうしろっていうのか。あんな速度に相対するべきはフェイトとかじゃん。

 俺みたいなポンコツの領分じゃないから。アリシアが拐われてなかったら、チャレンジする前から諦めてたのになんで拐われちゃってるのか。俺たちってこういう事件が起きても家でゴロゴロしてるタイプで、何だかんだで上手く収まってたあとにちょっかい出す役割のはずだろ。

 

 踏み出したくない足に括を入れる、踏み出す。遠目に見えるのはフェイトの車か、ほーら俺ってば目はいいんだ。

 けどフェイトは優しいからなぁ。俺を見かけたら一緒に来るか他の案を考えるか、とにかくジェイル・スカリエッティに意向に反する形になる気がする。フェイトが姉を心配してないとかそういうことじゃなくて、最善を取ろうとすると思う。でもなんかテンパってそうだしなぁ、あの性悪にフェイトみたいなタイプは相性悪い気するし。

 

 暗くなりそうな気分を振り切るため軽い足取りでスタコラサッサ。さっきとは違うルートを取って目的地へと向かう。

 前回を思い返せば自動障壁が機能してなかったのはデバイスの不具合ってわけじゃないはず。張れたところで意味あるの? って疑問はさておき。アリシアが整備してくれてるデイブレイカーがそんな初期的なところで不具合起こすはずがない。なら相手がなにか使用してたに違いない、というかたぶん魔法無効化みたいなやつ。アリシアならパッと名前浮かぶんだろうけど、俺にはわかんねぇよ。解説役のアリシアさん帰ってきてくれ。

 

 雑木林を抜けたところでまたも人影。

 

「ナンバーズ5番のチンクだ」

「クッソゥ、なんで道を変えてもいるんだよ。めげそうだ……え、チンコ?」

「多少の罪悪感がないでもなかったがお前はブッ飛ばそう」

「しまった、いつもの癖が! デイブレイカー!」

 

 銀髪ロリっ子が襲いかかってきた! うわっ、投げナイフとかテクニカルな!? ぐわーっ!?

 

 

 

 少し時間は遡り。ナナシがテスタロッサ家を抜け出してそう時が経たないうちにフェイトは帰宅していた。自身の姉、アリシア・テスタロッサが誘拐されたと聞いて飛んで帰ってきたのだ。ミッド内での魔法行使は基本だめなのでもちろん比喩で。

 

「母さん、ナナシ! 姉さんが誘拐されたって……! ……あれ、ナナシは」

「出ていったわ。きっと犯人の要求でね。それでフェイト、あなたはここに帰ってきてどうするの?」

 

 淡々とした母の言葉に思わず唾を飲む。

 そんなフェイトを見てプレシアはため息をつく。思わず飛んで帰ってきてしまったであろう娘、その気持ちはわかる。けれどもそれは意味のない行動だった。

 

「はぁ、あなたも私も頭に血が昇りやすいのが駄目なところね。フェイト、あなたがここに帰ってきてもアリシアを見つけるためにならないわ」

「……あ、うん」

「まぁ、今回に限っては私とナナシが犯人と直接会話したから無駄にはならないのだけれど。フェイト、車を出しなさい。移動しながら話をするわ」

「えっ、どこに向かったら」

「機動六課、あなたの勤め先よ。犯人はジェイル・スカリエッティ、次元犯罪者にしてロストロギア窃盗の容疑とあるとなればあなたたちの管轄でもあるでしょう」

「ジェイル・スカリエッティ──ッ!?」

 

 ナナシが三度目の死を迎えるその頃。テスタロッサ親子は機動六課へと到着し、管理局へ今回の事件が伝わることとなった。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ポケットにドライバーだけ入っていた。壁をガリガリと削ってみる。工具をこんな使い方するなんてまことに遺憾だよね。

 はやてにでも見られたらどこの凄腕ヤブ医者やってツッコミもらいそうなんだけど……ちぇ、全然進まないや。指でなぞっても僅かな窪みが出来た程度。

 これもあれだよね。削れないわけじゃないけどほとんど削れないってくらいに調整されてる。このまま削ったとして先に使えなくなるのはドライバー。その頃には割りと大きく削れてるんだろうけど、それだけ。

 

 私が保証する。ここに閉じ込めた人は性根が狂ってる。歪んでるのでもなくねじ曲がってるわけでもなく狂ってる。

 暗闇に置いとくだけでも心なんて疲弊するのにあの手この手で心を磨耗させようとしている。そんな悪辣さが詰まっている。それはどうしてかって考えてみれば、私が精神的に壊れれば悲しむ人がいる。私を壊すことから派生する被害が目的ってところかな?

 

 そんな悲しんでくれそうな人の顔を脳裏に浮かべてみれば、よし、大丈夫。私は図太いからそうそう折れたりしないよ。

 

 壁伝いで段ボールまで歩いて食事。うぇ、美味しくないし、やっぱり早く助けに来てほしいや。もーいいよ、普段徹夜とかして不健康だからこの機会に寝よう。

 ウトウトとし始めて、懐かしい夢を見た。

 

 ──母さんもフェイトも事情聴取で私がひとりでアースラ艦内を歩いていたとき。出会ったのは食堂でひとりで食事をとってるナナシだった。子供でも働ける管理局とはいえ、やっぱりアースラ艦内には大人が多い。そんななかで年の近い存在に興味を引かれたのか、親近感を覚えたのか。

『なにしてるの?』

『どう見ても飯を食ってる件について』

 初めっから気遣いもなにもないナナシだった。失礼じゃない程度に無礼というか、あえて気遣いをしたりしないタイプ。

 

『伝わってるのに伝わってない言葉の難しさ……んー、なんでひとりでいるの?』

『プレシアさんとフェイトが事情聴取されてて暇だからなぁ』

『あ、私と一緒か』

 

 このあと一緒にご飯食べて、話題は母さんとフェイトっていう共通の話題もあって(だんま)りになることもなかった。なんてことない話をして、暇をもて余して。

『リンディさんのお砂糖を塩に変えてみようか』

『乗った。ちょうど食堂だ、やったぜ』

『いぇーい!』

 あれ、私たちって出会った頃からどうしようもないなぁ。自分に呆れて目が覚めちゃったよ。

 

「……ナナシ、早く来てよねー」

 

 けど、無茶はしないでほしいなぁ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 チン○ではなく、銀髪ロリもといボンバーマンに殺されてから何度か死んだ。なんでナイフが爆発するのか、手のひらと足に刺さったものが爆散、俺の身体は四散して惨たらしく死んだ。

 それから砲撃とブーメラン、二刀流エトセトラなんて選り取りみどりな殺され方。そして今回はクイントさんを彷彿とさせるガンナックルとジェットエッジ。俺も死んで経験値とか貯まればいいのになんて考えてしまう。蓄積されるのは記憶だけで思わずため息が漏れる。

 

「ナンバーズ9番のノーヴェだ」

「何回目か聞くんでしょ、知ってる」

「そうだ。わかってるならさっさと言えよ」

「8回目だ」

「なら、これが9回目だなッ!」

「自分の番号と俺の死ぬ回数をかけてるのか、なるほど面白くない」

「死っ、ねぇ!」

 

 以下略、テスタロッサ家からだいぶん離れたところからのやり直しになった。どうでもいいけどハートキャッチ(物理)を体験することになるとは思わなかった。プリティさは微塵もないし日朝じゃ放送できない。

 

 それでどうでもよくないこととして、『やり直し』を連続して初めて知ったこと。戻る期間が一定なのと一度やり直しが始まった場所より前には戻ることがないらしい。

 つまりここで自殺したとしてもテスタロッサ家でジェイル・スカリエッティと会話していたときに戻ることはない。勇気を出して自殺を繰り返してもアリシアが拐われる前には戻れないようだ。なんとも使い勝手の悪いことか。

 

 下水道からの移動を試みる。排泄物の臭いの漂うなかを突き進むと、下水道に似つかわしくない金属らしき光が──こんなところまで妨害あるのか!? ガジェットと呼ばれる魔法無効化を搭載したドローンが山盛りいた。死んだ。奇をてらい街の中心を突っ切ろうとしたら擦れ違った女に刺されて死んだ。路駐された自動車を盗んで走らせれば鴨撃ちされて死んだ。配置されたナンバーズの隙間を縫うように移動しようとすれば回り込まれて殺され死んだ。

 死んで死んで死んで、呆気ない死を重ねて思わず悪態をつく。

 

「どうすれば辿り着けるってんだよ……きっついなぁ」

 

 アリシア誘拐前に戻りきれないにしても、最悪の場合には自殺してのリセットも考慮しないといけないだろうか。なんて思考がよぎるほど、何度目かそろそろ忘れたやり直し。どうにも辿り着ける気がしなくなって苛立ちが出始めたそのとき、再び通信端末が鳴った。

 

『その様子だと八方塞がりになってきた頃だね。ふむ、私にとっては一度目だが君のその憔悴した様は面白いね』

「さいでか」

『下水道などは──その顔はもう行ったみたいだね』

 

 ガジェットのレーザーに撃ち抜かれて死んだよ。てか死ぬことがわかってるルートを提案するとか、だいたいこいつの性格もわかってきた。普段はバカな方に回してる思考が嫌にクリアになってしまってて、らしくなさに苦笑してしまう。

 

「大方、死んで生き返ることの確認とか、それによって精神的にどれだけ磨耗するか測ってるな?」

『ほう? 君は予想よりも頭が回るみたいだね』

「アリシアと過ごしてればなー。なんで俺を直接拐わないかってのも気になってたけど納得だよ」

 

 ついでにガキみたいな性格ってことは単純な嫌がらせって目的もあるはず。言い換えれば歪んだ遊び心。子供の残虐性だけを残して育ったような人でなしめ。

 

『そうか、それもそうだね。では趣向を変えようか、どうせこのままでは君は辿り着けないだろう。

 私の体感では先程の通信から一時間も経ってないのだが、君がどれだけの時間をかけて死に続けたかと思うとその賢明さに心打たれるというものだよ』

「ダウト、遊び心が揺り動かされただけだろ」

『心には変わりないさ。そうだね、君は周りに助けを求めればいい。プレシア女史に協力を仰いでもいい』

「なんで、厄介なんじゃなかったのか」

『厄介さ、だが逆に言えば厄介なだけだよ。それに初めから他人を頼れたら精神的磨耗がわかりにくいじゃないか』

 

 当然だろうと言わんばかりのその顔を殴りたい衝動に駆られるのは何度目だろう。拳を握りしめ深く吸った息を吐く。

 ジェイル・スカリエッティが何を考えてるのかはこの際いいや。ただ、六課に揃った面子を舐めてるのか知らんけど協力を要請していいなら喜んでしよう。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「ってわけで助けて、ハヤえもん」

「小狸いう意味で言ってるなら話があるで」

 

 六課に集まった面子に事のあらましを伝えると反応は様々。まぁ、だいたい憤慨してる。その感情はかなり前に発散しきったせいで早く行動に移してほしいと感じる。

 周りと感覚がズレてきてるような、頭を振って気持ちリセット。自分がわかり得るジェイル・スカリエッティと保有戦力について話す。

 

 ──けど俺以外にとっては事件発生からまだ時間は経っておらず、俺もそれを知りうるだけの時間がこの『やり直し』した世界ではなかったことが頭から抜け落ちていた。だから何故それだけのことを知っているか問われるのは必然で、俺にとっては予想外の障害だった。チクショウ、冗談言ってる暇なんてなかった。

 

 向けられる疑問の視線。疑惑ではないのは今までの関係からの信頼を差し引いた結果かね。涙が出てくるありがたさだよ。皆が悪くないのはわかってるけど、思わず悪態をつきたくなる。

 

「黙していないで説明してもらえないか? それもテスタロッサの姉を助けるために役立つかもしれん」

「俺のレアスキルのせい、ってところじゃないかな」

「その、ナナシのレアスキルは容量無限の倉庫じゃないの……?」

 

 うげぇ、苦し紛れの発言って首を絞めるだけってよくわかった。さすがアリシアの妹じゃん、痛いとこ突いてくれる。責めるような視線でもなく、ただただ知ってることがあれば話してほしい。そんな雰囲気が辛い。

 ……死んで生き返ってることは伝えたくないってのになぁ。転生したことを除いても、ずっとアリシアとプレシアと秘密にし続けていたことなのに。今もそれについてだけはプレシアも黙っていてくれているのに。アリシアが抱えた死んで生き返ったことへの不安とお互いに秘密にしてることに関わってるのに。

 

 いらないところに注目されたことに理不尽な苛立ちが湧いて、注目されるのは当然と納得している理性が苛立ちを押し込めてくれる。やぁーだ、アリシアと過ごしてるとちょっとだけ物事を俯瞰で見る力が備わっちゃってて困る。デバイス製作してるとよけいになー。

 皆が悪くないのはわかってるし、わかってるなら怒るなってアリシアが電波飛ばしてきやがる。

 うっせー、こちとらわかってんじゃー!

 

「端的に言えば、俺が死んで生き返ってを繰り返してるからだよ」

 

 なるべくシンプルに、俺がどうやって死んで生き返ったかを説明する。

 気づいた発端はジュエルシードによるアリシアの蘇生ということにしてぼやかして、今回の事件でのことは事細かに、名前から武装や特徴まで自分の死から学んだことをなるべく詳しく伝えた。

 

「まぁ、これが俺のレアスキルってなわけだ。ぶっちゃけ倉庫はオマケ?」

「そんな……そんなことって」

「あり得ちゃったんだよなぁ。レアスキルふたつってズルいかもしれんが、両方微妙なうえにミソッカス魔力だし許して」

 

 本当は神様からのギフトなんだけど、活用法もその情報も今は役に立たなくて仕方ないので黙っとく。

 しかし、皆が黙りこくってレスポンスがない。プレシアに無言でヘルプを求めるけど、何も言ってくれない。

 

「ま、俺のどうでもいい力の話なんて置いといてさっさと解決しに行こうぜ」

「そんな、そんなことないよ! どうでもなんてよくない!」

「うぉっ、びっくりした……なのはどうした?」

 

 涙目になったなのはが詰め寄ってきて思わずたじろぐ。なんでそんな悲しそうな目をしているんだよ。茶化してやろうかと思ったけど喉が詰まって言葉にならなかった。

 

「それだけ辛い思いをして、痛い体験をして……どうともないなんてことないよ……」

「主語がなくてわかりづらいんだけど」

「何度も、何度も繰り返しているって、お話のことだよ!」

「……あー、そういうことか」

 

 不覚だった、思ったより感覚狂い始めてるなぁ。

 これがゲームみたいにぽんぽこコンティニューしてる弊害か。緩やかに死への忌避感が薄れてる。おかしいのは自分という自覚がもててるし、まだギリセーフと思いたい。自覚、出来てるよな……?

 なのはの肩をポンポンと叩く。半べそまでかきそうなその様子に思わず苦笑しながら話しかける。

 

「実を言うと結構痛いし辛かった。ちょっと感覚がズレてきてたけど、なのはのおかげで戻った、はずだ。だからさ、俺とアリシアを助けてほしい」

「うん、うんっ! 任せて!」

「皆も頼む」

 

 そういうと皆が頷き、任せろと各々返事をしてくれる。そんな仲間に頼もしさを感じつつ、ずっと疑問に思ってたことを口にした。

 

「んで、そういやなんでプレシアさんがここにいんの?」

「ここでそれを口にするあたりナナシね……もちろん、アリシアを取り返すために決まっているでしょう。あの子の居場所を特定するためにここを利用しているのよ」

「協力じゃないのかよ、てか場所は?」

「私を誰と思っているのかしら? ……ただアイツも居場所の特定は想定済みでしょうね」

「逃げられんじゃん」

「それが逃げてないのよ。三つまで絞った候補地をずっと監視しているのだけれど、不気味なほど動きがないわ」

 

 ジェイル・スカリエッティは逃げも隠れもせずにただ待ち構えているらしい。不気味というよりは、確実になにか悪辣な罠を仕掛けていると見るのが妥当。

 

「候補地が三つまで絞れた、逆を言えば三つまでしか絞らせなかったのは戦力の分散のためかもしれないわ」

 さすがにここにいる全員が一挙に押し寄せるのはアレでも嫌なのか。それとも、なにか意図があるのか。考えてもキリがない。

 

「けど順当に三つともに人手を送るしかないですよね……」

「じゃあ、早く行こうぜ。あのアンポンタンな科学者気取りの狂人をしばきたくて仕方ない」

 

 それからは手早く誰がどこに行くかを決めた。六課の運営的にここに戦力を裂いていいのか、気になるところもあったがいいらしい。機動六課設立の理由に関わるかもしれないとのことで大きな問題にもならないとのこと。

 

 そんなこんな、特に問題もなく編成は終わり、俺は三つの候補のなかで一番有力な拠点にやってきた。はやてとフェイト、それにユニゾン出来るリインが同行。他の拠点にはなのはとヴィータ、他の守護騎士たちと別れての行動だ。

 

「さっさと入っていくぞ」

「ナナシくん、焦る気持ちもわかるけど落ち着きいや?」

「わかってるから」

 

 焦ってるのはわかってる、けどどうにもならない。やっとここまで来たんだって気持ちが急かしてくる。堅牢に閉じられた入り口を破壊して乗り込む。途中の妨害は他の三人が除去してくれた。そうして進むうちに別れ道。

 

「道が三本に別れてるね」

「ナナシくんはリインと行くようにして、あとは私とフェイトちゃんでかな」

「それじゃあ、それで」

「あ、ジェイル・スカリエッティ捕まえたら殴らせてくれない?」

「あかんで」

 

 ちぃ、じゃあ自分で見つけて腹パンせねば。もちろん、リインとユニゾンして思いっきり。

 スカリエッティへの恨みを晴らそうと虎視眈々と目論んでいるとリインが憂いげに言葉をかけてきた。

 

「なぁ、ナナシ。お前の力は、酷く疲弊するものなのだろうな……」

「ん、どういうことだ?」

「お前は、いやなんでもない。早く行こう」

「……?」

 

 よくわからない会話を挟みつつもリインと道を進み、道中に入った妨害はガジェット程度。いやに呆気ないそれに、けど俺は違和感を覚えることもできなかった。

 そして辿り着いたのは研究室ともいえる機材に囲まれた部屋。

 そのなかにはいるのは──

 

「ジェイル・スカリエッティ……ッ!」

 

 ようやく、やっとジェイル・スカリエッティに相見えた。あの面をぶっ飛ばせばあとはアリシアを助けて、それでハッピーエンドだ。

 リインとユニゾンをして構える。余裕綽々なスカリエッティのあの鼻面をへし曲げてやる。

 

「くくっ、よくここまで辿り着いたね。いやはや、しかも君がここまで来るとは」

「予想外だったか? なんのためにこんなことしたのか知らんけど……」

「なんのためか。理由と言えば、そもそも君の稀少技能は古代ベルカに由来するものでね。

 これから私が行おうとしている計画に親和性が高いのだよ。不死の聖王なんて心踊らないかい? まぁ、君の稀少技能の性質はだいたいわかったからね。あとは奪うか再現すればいいだけだよ」

「知らねぇよ。いいからさっさとアリシアの居場所を吐け、ゲロッと吐けよ」

 

 つれないねなんて肩を竦める芝居かかったリアクション。制限時間も迫っている、もうぶん殴って自分で探すかと歩を進めようとしたとき。やっと口を開いた。

 

「アリシアくんの場所かい? いいだろう、ここまで来た褒美に教えてあげよう。

 ああ、その前にだ。ひとつ間違いを訂正しようじゃないか。君は予想外かと問うてきたが、君がここへ来るのは──計算通りだよ」

 

 ジェイル・スカリエッティの口元が三日月のように裂け笑みを浮かべた。

 脊髄に氷柱を差し込まれたような悪寒が走る。

 スカリエッティに駆け寄ろうとするが、それよりも圧倒的に早く、スカリエッティがパネルのボタンを押す。ドンッ! とナニかが崩れるような重苦しい音が鳴り床が揺れた。大きくもない振動なのに思わずふらつく。

 

「音が鳴った方へ行くといい。なに、私は逃げないさ。娘の誰かがいれば私は新たに生まれ計画は」

 

 言葉を最後まで聞くことなく駆け出す。嫌な予感が脳裏を掻きむしる。焦燥感が胸を焼き焦がす。

 加速魔法をかけて速く速く速く……ッ! 角を曲がった先でリインとのユニゾンが解け、なにかに躓き床に転げてビシャリとナニかで濡れる。転がっていたのはナンバーズ、邪魔だっての。

 

 顔についたそれを鬱陶しいと拭おうと、何で廊下で濡れたんだ?

 

 顔と手にこびりついた、赤いコレはなんだろうか。

 

 俺が向かおうとした先の部屋は、どうして瓦礫に埋もれているのだろう。

 

 何故、何故先に着いていたフェイトは泣き崩れて──瓦礫の隙間から覗く黄金色の髪は誰のものだ?

 

「──────!!」

 

 声にならない叫びが喉を裂く。誰かが駆け寄るが振り払う。なんで、なんでだよ。ここまで来てこんな、なけなしの魔力を手のひらに集める。鈍く光る手を頭に沿えて最期の力を撃ち込む。

 

「なっ、ナナシくん止め」

 

 最期に声が聞こえた気がするが──。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
配管工のようにコンティニュー、いつの間にか刷り替わる目的。桃姫を助けたかったはずなのに。
でお送りしました駆け足二話目。

感想で指摘していただき気づきましたが、今回本編と180度雰囲気の違う話になっており、それをお伝えできずの開始申し訳ないです。正直、前書きで遊び警告忘れてました。
しかしもう2/3終わってしまいましたし、配管工のように軽々しく残機減るところも過ぎてしまいました。お付き合いいただける方は読んでいただけると幸いです。


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AnotherSide:どうも、通りすがりの魔法使いです。

 吐いた。胃の中身も胃液も全てを吐き出した。横にいたリインが俺の急変に驚愕してるも気遣う余力なんてない。

 調子づいた結果があれか、笑えない。戻ってきたのは、よかった突入よりも割りと前だ。まだ猶予はあるよな。

 

「リイン、ここで当たりだ」

「……『やり直し』たか?」

「イグザクトリー、はやてとフェイトだけじゃなくて最終兵器呼んじゃおうぜ」

 

 軽く、さっきの現実を認めないように努めて軽く言う。なのはならあんな現実撃ち抜いてくれるだろう。

 

「騎士たちも呼ぶか?」

「……うんにゃ、ナンバーズが全員いたのを確認してないから他所にも残しといた方が良いと思う。ただ、ジェイル・スカリエッティとアリシアはここにいるのは確か」

「わかった。少し休んでろ」

 

 リインは俺を腰掛けさせて念話を行う。程なくしてSランクオーバーの最高戦力が集結するだろう。一都市くらい軽く落とせるよなぁとミソッカス的にチビりそうな面子。けど今はこれほど心強いことはない。

 

 ただそれよりも前にリインに尋ねておきたいことがあった。念話を終えて戻ってきたリインに声をかける。

 

「なー、リイン」

「どうした? 今はゆっくり休んでおくといい」

「まぁまぁそう言わず。リインから見てさっきまでの俺ってどうだった?」

 

 リインは言葉に詰まった。たぶん、俺がおかしかったことに前回にも気づいていた。スカリエッティに向かう道中で話しかけてきたのは、つまりそういうことだろう。それを俺が察せないほど視界が狭まっていた。

 

「私は口下手だ。お前やアリシアのようにコロコロと言葉が出ない。だから、上手く言えないかもしれない」

「いいよ、思ったままで」

「そうか……それならば言おう。先程までのナナシは、怖かったな。お前は明るく真っ直ぐなはずだったのに、アリシアを助けるという目的がいつの間にか」

「ジェイル・スカリエッティを殴ろうってのに刷り変わってたんだよなぁ」

 

 まいった、これは本当にまいった。感覚がズレたどころの話じゃあなかった。これじゃあアリシアを助けたあとに愚痴も言えない。こんなあからさまにおかしなことに気づくため支払った代償はこのうえなく大きかった。

 あれはもう、二度と味わいたくない。俺が死ぬだけの『やり直し』とは違う。どうしようもなく重苦しい後悔が付きまとっちゃうな。誰かに吐いてしまうものでもないから、そうだな。今度こそ皆笑顔のハッピーエンドを迎えてやろう。それでまたアリシアと笑って、嫌なことなんて忘れられるくらい楽しい人生を謳歌してやる。

 

「今はそうでもなさそうだがな」

「じゃあ、リイン。制限時間が短い相方で悪いけど頼むわ」

「任せてくれ。一緒にアリシアを助けよう」

 

 戦力差は歴然とはいえ魔力ミソッカス同士で固い握手をする。

 そうしているうちに、他所へ向かっていたなのはたちが到着した。

 

「ナナシくん、アリシアちゃんを見つけたって……でも、まだ入ってないよね?」

「暗い顔してどうした? そうか、国語の点数悪かったのか……だからミッドに来てもドリルはやれとあれほど」

「違うよ!?」

 

 なのはは鈍そうなのに変なところで察しがいい。たぶん、一度入って俺が失敗して『やり直し』たことに気づいている。けど正直、気遣うのが得意なわけでもない。ほら、国語が苦手だから言語化しにくいに違いない。

 気にするなと話を逸らしていつもみたいにプリプリ怒らせる。怒ってくれる。うんうん、これでいいんだよ。

 

 スカリエッティの位置を手早く伝え、アリシアのところに直通で俺は行かさせてもらう。

 

「あ、駄目だヤッベ。アリシアの部屋の前にもナンバーズひとりいたわ」

「じゃあ私がナナシくんと」

「いや、なのはたちはスカリエッティが変なことしないように全力で消してほしいんだけどな」

「消せはしないけど、私は斬るよ!」

「フェイトちゃん、非殺傷設定でやで? 掠れた口笛吹いてもあかんからな?」

 

 フラストレーションが募ってる優しいフェイトにやっちまえと親指を立てると同じくグッと返してくれた。

 

「でも、リインだけってのも」

「私が行くわ」

 

 声をした方を振り返れば、走ってきたのか髪がいつもより乱れてちょっと息の切れたプレシアがいた。歳なのに無理するから……杖を向けられてしまったので危険な思考は止めよう。

 

「邪魔者は私が全部消し飛ばすから、あなたが助けに行きなさい」

「わかった。じゃあ後方支援よろしく」

「間違えて貴方ごと撃ち抜かないか心配だわ」

 

 怖いことを言うがいつも通りだし、特に気にするほどのことでもないか。それでいいのかという雰囲気があるけど平常運転ですがなにか?

 

 そしてラストアタック。道は俺が案内しつつ、湧き出すガジェットはプレシアの電撃が相性抜群に蹂躙し尽くした。背後からの強襲も警戒してプレシアが結構離れてるがよく当てれるものだと思う。まぁ、外して俺に当たってもいいって考えてる可能性もあるわけなんだけど……そうしてるうちに、あっという間に見覚えのある曲がり角。

 

 ただし、そこを容易に曲がらせまいとする存在がいた。目的の部屋まであと僅かというところで仁王立ちで道を塞ぐ女がひとり。プレシアはまだまだ後ろで何かやってるし、俺たちがなんとかしないと。うん、おかしいよね。ナンバーズがいるからついて来てくれたはずなんだけどな。

 

「ナンバーズのトーレだ。お前にはここで死んでもらう」

「まったく、軽々しく言ってくれるよなぁ」

 

 さて、ここまで来たらもういいだろう。ここから先は全力全開!

 ()()()()()()()()()()俺の持ちうる全てを出し尽くせ!

 

「リインフォース、ユニゾン頼む」

「制限時間を、忘れるな」

「もちろん、制限時間内に全部ブッ飛ばしてやらぁ! んでアリシア取り戻す!」

「あぁ、それで……ハッピーエンド──」

「『上等だ!!』」

 

 ないない尽くしじゃ終わらせねぇ! 絶対に、ぜぇぇぇたっいにアリシアを助け出す!

 ボッ、と踏み込んだ床を陥没させ、ユニゾンした身体はリインの格闘術を基盤にして最低限の魔力運用で拳を繰り出す。脇を引き締め速射するジャブをトーレは紙一重で、しかし危なげなく躱す。

 

「貴様の求めるものなど、容易く手に入ると思うな!」

「容易くなんかないって知ってるってのバーカ!」

 

 AMFが効いてるのか普段よりも魔力運用がしにくく感じるけど、身体はいつもよりも軽くリインとのユニゾンは絶好調だ。ジャブを掻い潜り手首に生えた高速の光刃が迫り来るが、身体を捩り通過した左肘関節を押さえる。投げるか、それとも。

『悪いが、折る(もらう)ぞ』

 リインの動きとの同期率を上昇させて拳で関節を叩く。あぁもう、かなりミシリって嫌な感覚が伝わってきた。

 

「イギッ!? ッ! なぜ、お前に私が捉えられる!?」

「俺ってば、目はいいんだよなぁ。ま、だいたいはリインの身体能力のお陰だけど。それにお前よか速い雷光のような相棒の妹がいたからな。たまに相手させられてたんだぜ?」

 

 さてと、俺にしてはかなりやれた方だと思うし、廊下の奥が一瞬輝いた。一足跳びに廊下の壁まで下がる。

 トーレには悪いけど、いやちっとも悪いと思わないけど、もう閉幕だ。バヂッ、という音が耳に届いたときには雷撃の奔流が廊下を埋め尽くしていた。トーレは成す術なく飲まれ轟音のなかで途切れ途切れの悲鳴が聞こえた。

 

 その雷撃が通りすぎた頃には廊下は黒く焼け焦げ、ナンバーズのトーレは微動だも動くことなく倒れ伏していた。

 後方でAMF下でも万全の一撃を放てるように詠唱していたプレシアがやってきた。来るのが遅いとは思ったけどね? 念話もなしに撃ち込むのはどうかと思う。

 

「貴方、目がいいから見えるかしらと思ったのよ」

「チカッて光ったの見てほぼ反射だよ、ギリギリだったよ?」

「躱せたならそれでいいじゃない。それにいい具合に焼けたでしょ」

「母親の雷ってところだな、『おっかない』」

 後半の感想がリインと被った。

 

「失礼ね、非殺傷設定なだけ優しいわよ」

「優しさが薄っぺらすぎる」

「煩いわ。さっさとアリシアを助けにいかないと貴方も焼くわよ?」

「アリシア待ってろよ!」

 

 すっかり安心しきって、別にプレシアが怖いとかいう理由でなく、早くアリシアを助けないとと駆け出した。その直後──何かが飛び起きるような音が聞こえた。

 

「ナナシッ!」

 

 プレシアの焦燥に満ちた声に振り返れば、伏していたはずのトーレが真後ろで立ち上がっていた。至るところが焼け焦げ腕も折れているのに、その瞳に映る闘志だけは折れていなかった。

 

 雷撃を正面から喰らいながらも、犬歯を剥いて刃を振りかぶる執念。なにがそこまで駆り立てるのか、背を向けている俺にフェイトに勝らずとも劣らぬ速さで凶刃が迫る。

 

「死ぃねぇぇぇ!」

「てめぇがブッ飛べぇぇぇ!」

『かまっ、せ!』

 

 案外リインのノリのいい声と共に三対の翼が生えたの背中に魔法陣が展開される。刃を降り下ろそうとするトーレの目が見開かれるが、今回ばかりは俺が速ぇ! お前が遅い!

 溜めが一切ないからこそ適しているその魔法を唱える。

 

「クイック、バスタァァァ!!」

《Quick Buster》

「グッ、オオォォォォ!?」

 

 背面撃ちならぬ背中からのクイックバスターに、トーレは表情を驚愕に染め成す統べなく水色の砲撃に飲まれる。ナンバーズが倒れたことでわらわらと湧き出し始めるガジェットをプレシアは容易く破壊しつつため息をついていた。

 

「無茶苦茶やるわね」

「魔法が杖からしか出ないと誰が決めた。目からビームとか一向にありだと俺は思う」

「とんだ目から鱗だわ。真似したくはないのだけれど」

 

 アリシアにも似たようなこと言ったことあるなぁ。あのときは魔力測定だったか。何を隠そう、俺は腹から魔法を撃った男だ。

 

「じゃあ、あとのガジェットはよろしく」

「スクラップにしてやるわ……だから必ず助けなさい」

「引き受けた」

 

 モーゼのように二本に別れた雷撃がガジェットを一掃して道を作る。味方についたプレシアのなんと心強いものか。これがいつも俺に放たれてたって思うと怖いけどな。

『急に、バイタルが乱れ始めた。そろそろ限界か?』

「潜在的トラウマが刺激されただけだから大丈夫だ、問題ない」

『あと一回くらい、死にそうな台詞はやめてくれ』

「ハハッ、縁起でもねー」

 

 そうだよ、俺がやるべきなのはジェイル・スカリエッティを殴ることなんかじゃない。そんなツマラナイ役目なんて誰かにさせておいたらいい。俺がやらなきゃいけないことなんて、初めからひとつだったじゃないか。そのために何度も繰り返してきたんだ。

 アリシアの閉じ込められた部屋が見えてきた。

 問題ないと言ったものの、ユニゾンの残り時間ももうない。むしろ限界は越えている。デイブレイカーがカートリッジを吐き出し、拳に魔力を収束させる。

 

「リイン! こんな扉殴り破るぞ!」

『ああ、やってやろう!』

 

 収束した端から霧散していくが全てを注ぎ込む。拳を覆うのではなく、インパクトを与える面だけに集中させて──俺とリインのミソッカスでもこんな扉楽勝だっての。振りかぶった拳を放つ!

 

「『ぶち、抜けぇぇぇ!』」

 

 轟ッと叩きつけた拳は扉をひしゃげさせるがそれだけ、知るかぁ! 収束した魔力が散る前に弓なりに身体を引き絞り、開けぇ!

 

「『このッ! もう、一発だァ!!』」

 

 爆音と共に金属が裂ける甲高い音が鳴り響いた。同時にリインがポンッと軽快な音ともに弾き出される。思わずふらつくけど、遠退く意識に叱咤をかける。あとちょっとやることがあるんだ。

 

 割れた扉に手をかけて、もうもうと上がる土煙を気にせずに部屋のなかに入る。

 なかにはへたり込んで呆気に取られている、ひどく懐かしい見慣れた顔がいた。思わず笑みが溢れて、らしくもなく気取ってしまうじゃないか。

 

「どうも、通りすがりの魔法使いです──アリシア、助けに来たぞ」

 

 片膝をついてアリシアの手を取る。見開かれた目は次第に潤み、大粒の涙を流した。

 

「なっ、ナナシだ、ナナシだよね!」

「俺だよ、ナナシだよ」

「ま、魔力はミソッカスで、私より頭悪いのにたまに良い案出してくれて、いつもバカやって……ひっぐ、ななじぃ」

「うっせー、アリシアもミソッカスだろ。まぁ、そのナナシだよ」

 

 酷い本人確認をしながら泣くアリシアを抱き締めて背中を叩きつつ宥める。まるで子供にするようなやり方だけど、互いに子供みたいにバカやるからこれでいいだろ。俺たちはこれでいいんだって。

 

 ほどなくして、スカリエッティや他のナンバーズを捕らえた皆も駆けつけた。その頃にはアリシアも落ち着いていたが顔が割りと酷かった。そんな姿に皆が笑って、アリシアは憤慨して、けど最後は笑って。

 

 ──やっと取り戻した。その実感を噛み締めて、皆で並んでアリシアと手を繋ぎ帰路へとついたのであった。

 

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

 

「なんて、私がマッドなままならこうなっていたかもしれないね。まぁ、実際は管理局の上層部なども絡んできていただろうから、もっと複雑な物語になっていただろうがね」

 

 実はトップは脳ミソだけで生き続けているのだよ、とか茶目っ気を出して語るのはスカさん。

 なんとなく牢屋に来たら会話の流れがいつの間にか“ジェイル・スカリエッティが狂気の科学者のままだったら”という話題にシフトしていた。そこからもしもの物語が語られたわけなんだけど。

 

「なんで俺なんかが救い出してんだか。実際、無理なような気がするんだけど」

「なに、簡単なことさ。それはヒーローの役目だからさ」

「そんなんはなのはとかフェイトとか、はやてでも他に色々いるだろうになぁ」

「ふっ、なにを言っているんだい」

 

 鼻で笑うスカさん。その小バカにした感じにちょっとイラッと来た。牢屋が邪魔で眉をクイクイ上げ下げしてドヤ顔してるスカさんを叩けな──急にシニカルな笑みに変わって思わず牢屋を叩いていた手を止める。

 

「アリシアくんにとってのヒーローは君だからに決まってるじゃないか。母のプレシア女史でも妹のフェイトくんでも、エースオブエースでもなくストライカーでもない。彼女にとってのヒーローは君しかいないだろう」

 

 スカさんはそんな小恥ずかしいことを愉快そうにキッパリ言い切った。そんな断言されると言葉に詰まる。詰まってしまってる間に畳み掛けるようにスカさんの言葉は紡がれる。

 

「きっと今の物語が管理局を巻き込んだ世界規模の話でも、君はアリシアくんを選ぶね。世界よりもひとりの女の子を選ぶのが君だよ」

「似合わないこと言うなぁ」

「ふっ、実は私も恥ずかしい……だから早く彼女のところに行ってくれないかい?」

「あー、わかってました?」

「わかるとも。ナナシくんがさっきの真面目な話に茶々をいれずに付き合ってる時点で察していたさ」

「うーん、我ながららしくなかった」

 

 緊張してるのかね。もしかしたら、あんな話を聞きながらアリシアとの関係を思い返してたのかもしれない。胸元を撫でれば、しっかり入っている。給料三ヶ月分ってやつだ。

 

「それじゃあ──彼女にその指輪を届けてくるといい」

「そうしますかね……どんな反応されるやら」

「結婚式には私も呼んでくれよ? プレシア女史に殺されなければだが」

「葬式を開く予定は未定だよ。ま、殺されても『やり直し』続けて説得してみせるって」

「ハハッ、それはいいね」

 

 膝を叩いて笑うスカさんに礼と別れを告げる。

 

 向かう先は当然決まっている。ずっと一緒に笑って過ごしている彼女のもと。

 行く理由だって決まっている。これからもずっと一緒に笑って過ごしてくれるように頼み込むために。

 

 彼女の姿が見えてきた。いつものように笑顔で手を振っている。これからどんな顔をするかと想像するだけで自然と笑ってしまう。笑うだろうか、驚くだろうか。それとも泣くだろうか、もしかしたら怒るかもしれない。

 

 ──それでもきっと、俺は明日も彼女と笑い続けて生きていく。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
初めのまえがきの通り、狂人(スカ)のもしもの話でした。嘘予告はあくまで嘘予告。

嘘予告をまるまる回収しようとすると、別作品がひとつ出来上がるので色々削除しつつ書きました。管理局は劇場版A'sの猫姉妹のような扱いに。回収されてないぞってところは劇場版A'sのギル・グレアムのような扱いにしました。

正直、タイトルの台詞をあのシーンで言わせたかっただけかもしれないです。

どうでもいいんですがシリアスって“尻”と“ASS”でダブルお尻なんですよ。真面目さなんて微塵もない単語ですよね。つまりシリアス好きはお尻めっちゃ好なんでもないです。


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