Charlotte~君の為に……~ (ほにゃー)
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始まりの序曲

ヒロインについての意見は勘弁してください。

友利ヒロインとかマジ無いって方はバックを推奨します。

問題無いって方はどうぞ物語をお読みください。


地面で倒れ伏す不良の体を漁り、財布を抜き取る。

 

「……チッ!三千円だけかよ。………千円は残してやるよ、電車賃だ」

 

千円だけ残した財布を気絶してる不良の体に放り投げ、手に入れた二千円をポケットに雑に入れる。

 

一之瀬響。

 

それが俺の名だ。

 

親はいない。

 

親は俺が三歳の時、交通事故で亡くなった。

 

残された俺は、施設へと預けられ、長い間その施設で過ごした。

 

だが、一ヶ月前、その施設に居れなくなった事情が出来た。

 

その事情は、同じ施設の奴に大けがを負わせた。

 

始めは向うが俺の事が気に食わないと言って、殴って来た。

 

ストレス発散だろう。

 

俺は特にやり返しもせず、ただ黙って拳を受け入れた。

 

しかし、そいつは俺の両親の事まで侮辱してきた。

 

「哀れな奴だな。きっと、お前の親もお前みたいで臆病者でヘタレだったんだろうな」

 

その言葉で、俺は止まらなかった。

 

そいつを思いっきり殴った。

 

殴っただけ。

 

すると、そいつは吹っ飛び、壁に激突した。

 

衝撃で壁にヒビが入り、そいつは口から血を吐いた。

 

もう何が何だか分からなかった。

 

気が付けば、俺は施設を飛び出し、夜の街に居た。

 

その日は、ネットカフェに閉じこもり、一晩を明かした。

 

その後、俺は自分に不思議な力があることを理解した。

 

俺の能力は身体機能強化とでもいうのか、とにかく、体の力を強化できる。

 

だが、能力の使用に三秒間時間がかかり、能力の使用時間は三分間。

 

そして、能力の発動後は三十秒間能力は使えない。

 

それに、体全体の強化はできなく、体の一部分しか強化できない。

 

握力だけの強化、脚力だけの強化、視力だけの強化、聴力だけの強化と言った感じだ。

 

腕だけの強化も可能で、腕だけを強化すれば腕は鋼の様に硬くなり、ナイフすら通さない。

 

しかし、部分的にしか強化できないので強化した以外の部分は普通の人間と大差ない。

 

そして、俺はこの力を不良狩りに使っている。

 

不良の世界は力が全て。

 

不良を倒すことで、生活費などに困らなかった。

 

毎日ネットカフェで過ごし、ネットカフェで飯を食べ、金が無くなったら不良を狩って金を集める。

 

だが、最近ではどの不良も俺の顔を見ただけで逃げ出す。

 

すなわち、生活費が手に入らなくなった。

 

今日の収穫も、さっきの不良に成りたての学生からの二千円のみ。

 

きっと高校デビューで、はしゃいでる奴だったんだろう。

 

高校か……………

 

「あの事件さえなければ、今頃は高校一年生か」

 

もしかしたらあったかもしれない高校生活を思い、俺は歩き出す。

 

さっきの二千円と合わせて所持金は2734円。

 

金が少ないし、ネットカフェに泊まるのは止めておこう。

 

その時、夜風が吹き、

 

四月になったとはいえ、まだ夜は若干肌寒いな。

 

フードを被り、溜息を吐く。

 

「腹減ったな…………」

 

安くてうまい牛丼屋で牛丼を買い近くの公園で食べる。

 

うまい…………けど、母さんの料理程じゃない。

 

記憶にはあまり残ってない両親と一緒に食事した記憶がよみがえる。

 

お世辞にも母さんの料理はうまかったと言う記憶は無い。

 

だが、父さんと母さんとの三人で食べた食事は今食ってる牛丼よりうまく感じた。

 

残りを食べようと、口を開けると、目の前に誰かが居ることに気付く。

 

「…………誰?」

 

「俺の顔を忘れるとはいい度胸だな」

 

「悪いな。他人に興味ないからすぐに忘れる様にしてるんだ。脳の容量が勿体ない」

 

「テメー…………まぁいいさ。お前にお礼参りがしたかったところだ」

 

すると不良は金属バットを取り出す。

 

「喧嘩ならこれ食い終ってからな」

 

箸に掬った牛丼を食べようと口を開けた瞬間、箸が牛丼の器ごと弾き飛ばされる。

 

「舐めてんじゃねぇぞ。さっさと立て」

 

「…………俺の晩飯を邪魔したんだ。弁償してもらうぞ」

 

人数は………五人か。

 

お礼参りならこれの十倍は連れて来るべきだ。

 

立ち上がり、俺は両腕の拳だけを強化する。

 

岩よりも固い拳を、奴等が仕掛けて来ると同時にカウンターで当てる。

 

向うが動き出すのを待つ。

 

すると次の瞬間、後頭部に衝撃が来た。

 

俺はそのまま倒れ込み、痛む頭を押さえながら後ろを見ると、鉄パイプを持った不良が笑っていた。

 

「テメー相手に五人で行くと思ったか?人数なら確保してんだよ」

 

その言葉を合図に、ぞろぞろと不良が現れる。

 

人数だけなら沢山いる。

 

くそっ…………この五人は囮か!

 

「お前らやるぞ!」

 

不良たちは一斉に俺をリンチする。

 

蹴り、鉄パイプや金属バットでの殴打。

 

反撃しようにもこの状態だと反撃するのが難しい。

 

今の俺に出来るのは頭を守りつつ、背中を強化し身を守るだけしか出来ない。

 

だが、三分過ぎれば能力は解除され、その後三十秒は無防備になる。

 

その三十秒を耐えきれるか。

 

いや、能力発動までの時間を含めたら三十三秒か。

 

もしかしたら、その間に死ぬかもしれない。

 

………………それもいいかもしれないな

 

死ねば……………父さんと母さんに会えるかもしれない。

 

会えたら………いいな…………

 

そして、俺は自分の防御を解いだ。

 

「へっ、諦めたか。じゃあ、そろそろ終わりにしようかね。お前ら退け」

 

不良が他の奴等を後ろに引かせ、ナイフを取り出したのが分かった。

 

ナイフが振り下ろされる。

 

だが、次の瞬間、何かが吹き飛ばされる音と、大勢の叫び、短い悲鳴が聞こえた。

 

「な………なんだこれ………」

 

不良の疑問の声が気になり、顔を上げて見ると、不良の後ろにいた不良共は地面に転がっていた。

 

一体………何が…………

 

そう思った瞬間、俺の目の前に一人の少女が立った。

 

だが、不良はその少女が見えてないのか。

 

俺の方を見る。

 

「お前!一体何ゔぉぶ!?」

 

俺に何かを言う前に少女が不良を横から殴り、そして、左右から連続で頬を拳で殴り、最後に顎を思いっきり蹴り上げた。

 

不良はその場に倒れ、気を失った。

 

少女はそんな不良に目もくれず俺の方を振り返って見て来る。

 

「どうも、星ノ海学園の生徒会長です」

 

「せ、生徒会長……?」

 

「はい。単刀直入に言います。貴方には私たちの学園に来て貰い、生徒会に入ってもらいます」

 

「………なんだそれ?意味が分かんねぇぞ」

 

俺は立ち上がり、服の土埃を払う。

 

「助けてくれたことには一応感謝する。ありがとよ」

 

「能力を使い続けると捕まりますよ」

 

その言葉に俺は歩くのを止めて、振り返る。

 

「捕まるって誰に?てか、能力ってなんだよ?」

 

「貴方の能力は身体機能の強化能力。それで、不良との喧嘩に勝ち続けてますね」

 

「一体何を証拠に」

 

「これを」

 

そう言って、少女はビデオカメラを取り出し、動画を見せて来る。

 

そこには、不良が出したナイフを強化した右腕で受け止め、左手で殴りつけてる俺の動画だった。

 

「この部分。ナイフで受け止めたのにも関わらず、血が一滴も流れてない。おそらく、右腕を強化してナイフを受け止めたんでしょう。それに、殴られた不良は顎の骨が折れてました。そんなことが、特に鍛えてもいない人間にできるとでも」

 

「…………ああ、そうだよ。アンタの言う通り俺には能力がある。で、それを多用し続けると誰に捕まるってんだよ」

 

「能力を研究してる科学者です。もし、捕まったら人体実験として解剖をされますよ」

 

嘘だろっと言いたいが、有り得ない話じゃない。

 

こんな能力を持ってたら科学者にとっては美味しい実験材料だろう。

 

「この世には貴方以外にも特殊能力に目覚めた人が居ます。ですが、その力は思春期の病の様なもので、やがて消えます」

 

「…………俺以外に能力者がいるって証拠を見せろ。そしたら信じてやる」

 

「分かりました…………ほい」

 

少女がそう言うと、俺の前から少女が居なくなった。

 

そのことに驚いてると再び目の前に現れた。

 

「信じて頂けましたか?」

 

「………透明人間になれるのか?」

 

「いえ、私の能力は一人の人間から視認されない能力です。他の人には私の姿は見えてます。ちなみに先程不良の集団を吹っ飛ばしたのは高城って言う、うちの生徒会の人間です。アイツの能力は瞬間移動。もっとも、都合よくピタリと止まることはできないので、あんな風に障害物などにぶつかったりします」

 

そういって少女が指差す先には眼鏡を掛けた男が倒れこみ、頭から血を流していた。

 

本当に俺以外にもこんな能力に目覚めた奴がいたのか。

 

その事実に驚き、俺は無言になった。

 

「私たちは、そんな能力者を不当な実験に遭わされるの防ぐために活動しています。そして、貴方の能力は使えるので協力してください」

 

「協力?………なんのだ?」

 

「力を悪用する能力者を脅す為に、そして、能力者を守る為に」

 




Charlotteはまだアニメが終わってないのでタグは一つのみです。

タグも随時増えて行くと思います。


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変わる関係

「おはようございまーす」

 

誰か教えてくれ。

 

どんなフラグを立てたら、目覚めて至近距離でハンディカメラを手にした美少女がいるのか。

 

「ああ………友利だったか?俺が星ノ海学園に行くのは明後日のはずだろ」

 

「明後日ここから学園に来るつもりですか?今日中に貴方が今後生活する我が校と併設するマンションに移動してもらいますよ」

 

友利に言われ、半ば連れ出される形で俺はネカフェの会計を済ませ、外に出された。

 

陽の光が眩しい。

 

そう言えば、昼間に外に出るのは久しぶりか……………

 

「ちょっと遠いんで、タクシーで行きますよ」

 

友利が手を上げタクシーを止めると、後部座席に俺を押し込み、隣に座る。

 

タクシーの中では特に会話もせず、一時間足らずでマンションに着いた。

 

「ここが我が校と併設するマンションです。では、付いてきてください」

 

俺の部屋は結構高い位置にある場所だった。

 

「ここが貴方の部屋です」

 

部屋の中は新品同様で何処にも目立った汚れも何一つなかった。

 

「エアコン、冷蔵庫、テレビ、洗濯機などは完備されてます。で、こちらが部屋の鍵」

 

部屋の鍵を放り投げるので、俺はそれを片手でキャッチする。

 

そういえば、俺が能力で最初に吹っ飛ばした奴はどうなったんだ?

 

「なぁ、友利。俺が能力で最初にぶっ飛ばした奴はどうした?」

 

「ああ、彼ですか。幸い大したこと無かったですよ。内臓が少々傷付いてましたけど、大きな怪我でもなかったですし、二週間の入院ですみました」

 

そうか…………気に食わない奴だったが死んでないならいい。

 

「鍵も渡したし、それじゃあ次に行きますよ」

 

「は?次?」

 

「ここにある以外の家具の調達です」

 

「家具って俺は金なんかないぞ」

 

「安心してください。出るところから出るんで」

 

そして、俺は友利に再び連れ出される形で部屋から出る。

 

連れてこられたのはマンションから程遠くない家具店だ。

 

「ベッドじゃないんですか?」

 

「施設では布団だった。こっちの方がいい」

 

家具店の寝具コーナーで適当な布団を購入した後、友利の指示でソファーを購入した。

 

コイツ、絶対ソファーの為に俺の部屋に来るぞ…………

 

その後、本棚と机を購入し、一通り家具の購入を終えた。

 

「家具類は明日部屋の方に運ばれるので、これで終わりです。では、戻りましょう」

 

友利の後に続いてマンションに戻ろうとした時、あることを思い出した。

 

そう言えば、この近くだな。

 

「友利、用事を思い出した。付いてこなくていいぞ」

 

友利の返事も待たずに俺はさっさと店を出て、すぐ近くのバスに乗り込む。

 

バスに乗って三十分。

 

俺が付いたのはとある児童養護院だ。

 

錆びた門を開け、中に入る。

 

庭に目をやると砂場で遊ぶ子供たちが見えた。

 

すると、子供たちが俺の方に気付いた。

 

手を振ろうとして手を上げると、子供たちは一斉に逃げ出す。

 

上げた手を下ろすことは出来ず、俺は暫く呆然とし上げた掌を見つめる。

 

「響君かい?」

 

懐かしい声に後ろを振り向く。

 

そこには、この施設の施設長の工藤先生がいた。

 

「工藤先生」

 

そう。

 

ここは、俺が預けられていた施設。

 

「やっぱり響君じゃないか!君が出て行ったときは驚いたが、君が高校にそれも、特待生で行けるとも聞いて驚いたよ」

 

持っていた段ボールを下ろし、俺に近寄って肩を叩いて来る。

 

「すみません、あの時は何も言わずに施設を飛び出して。先生に迷惑を」

 

「いいや、気にしてないさ。それより、君が元気で居てくれることが何よりうれしいさ」

 

工藤先生は優しい。

 

あんな事を起こしておきながら、それでも俺を温かく迎え入れてくれた。

 

「積もる話もあるだろう。さ、中に入りなさい。そちらのお嬢さんも」

 

……………は?お嬢さん?

 

「どうもー、失礼します」

 

横から行き成り友利が現れ施設の中へと入る。

 

「お、おま……能力を………」

 

俺がそう言うと、友利はにやりと笑って靴を脱ぎ先生が案内した客間へと入って行った。

 




時期的には乙坂君が高校で実力テストを受ける少し前ぐらいです。

入学式から数日程度ぐらいです。


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始まりを告げる音

工藤先生によって客間に通された俺達は二人掛けのソファーに座っている。

 

で、何をしているかというと、俺は現在羞恥プレイに耐えている。

 

「うわ~、可愛いですね」

 

「そうだろ。このころの響君は僕の事を先生じゃなくてパパ、パパって呼んでいてくれたんだ。いや~。可愛かった」

 

何故か、俺の施設に来てからのアルバムを友利に見せられていた。

 

工藤先生は施設の子供一人一人のアルバムを作り、定期的に写真を取っている。

 

てか、なんで先生は友利に俺のアルバム見せてんだよ。

 

恥ずかしいだろ。

 

「あ、あの~、先生。そろそろ本題の方に」

 

「こっちが、小学校入学の時の写真でね、ランドセルの重さに体がよろけちゃって」

 

「こっちも可愛いですね」

 

二人とも話聞いちゃいねぇ………………

 

結局あれから一時間弱俺の過去で盛り上がっていると、先生がやっと思い出し、本題に入ってくれた。

 

「ごめんよ、響君。で、今日はどうしてここに?」

 

「あ、はい。俺の部屋の私物を取りに来ました」

 

「ああ、そうか。高校は寮なんだっけね。ちょっと待って。今、鍵を……………はい。部屋の物は触ってないよ」

 

「ありがとうございます」

 

鍵を受け取り客間を出る。

 

「施設なのに鍵付きの部屋なんですか?」

 

「ああ。工藤先生が、中学生にもなるとプライベートは必要だからって、鍵付きの部屋にしてくれるんだ」

 

二階に上がり、自分の部屋の鍵を開け、入る。

 

中には、机と椅子、本棚と布団だけが置かれている。

 

「殺風景な部屋ですね」

 

「悪いかよ」

 

本棚まで移動し、中にある本を取り出す。

 

中学の教科書は………いいか。

 

置いておけば、誰かが使うかもしれねぇし。

 

それにしても、俺って私物少ないな。

 

本以外だとこのCDプレイヤーぐらいだ。

 

CDプレイヤーを鞄に入れ、最後に引き出しから写真を取り出す。

 

取り出す時、手が滑り写真が友利の足元へと落ちる。

 

「写真?」

 

友利がそれを拾って一瞥し、俺に渡してくる。

 

「本当のご両親とのですか?」

 

「ああ…………残ってる写真はこれだけなんだよ」

 

俺が三歳の誕生日の時に撮った最後の家族写真。

 

それを鞄に放り込み、鞄を背負う。

 

「帰る」

 

「付き合せて置いて、お礼無いんですか?」

 

「そっちが勝手に付いて来たたんだろ」

 

部屋の鍵を閉め、一階に降りようとしたら、階段の陰から数人の子供たちがこちらを見ていた。

 

俺の視線に気付くと子供たちは慌てたように逃げ出した。

 

「あの子達は?」

 

「……………この施設に預けられてる子達だ。俺は三歳の頃から此処にいるから、一応この施設の年長者だったんだ。だから、自然と後から入ってくる子供たちの面倒を見てたんだよ」

 

「でも、避けられてましたね」

 

「そりゃそうだろ。……………俺は同じ施設の仲間を傷つけた。無意識で能力を使っていたとは言え、俺はアイツを殺しかけたんだ。避けられて当然………………はっ、まるで化け物だな」

 

自嘲気味に笑い、拳を握る。

 

すると、鈍い痛みを感じ、掌を見ると爪が掌を突き刺し、血が出ていた。

 

こんな能力さえなければ…………

 

そう思ってしまえた。

 

「怪我してますよ」

 

友利が行き成り俺の手を取り、近くの流して俺の手を洗う。

 

「お、おい」

 

「いいからじっとする」

 

そう言って、スカートのポッケからハンカチを取り出し、俺の手に巻いた。

 

「無意識のうちに握力を強化して、自分の掌を怪我するとかアホですか?」

 

本当にその通りなので何も言い返せなかった。

 

「大丈夫ですよ」

 

「え?」

 

「昨日も言いましたが、これは思春期の病の様なもの。時が経てば消えて無くなります。それに」

 

そこで、友利は言葉を区切り俺の目を見つめる。

 

そこには、最初に会った時の感情の無い瞳でも、先程見せた悪巧みをする瞳はなかった。

 

ただ、優しい瞳がそこには会った。

 

「一人じゃないです。だから、落ち込む事ことも、自虐する必要も無いです」

 

「………………ありがとう、友利」

 

そう言うと、友利は満足そうに笑う。

 

「では、帰りましょう。長居するのも失礼なんで」

 

「ああ」

 

友利と二人で並んで、施設を後にしようと門をくぐろうとすると再び後ろから声を掛けられた。

 

「お~い、響君!」

 

追いかけてきたのは工藤先生だった。

 

「ふぅ、間に合った」

 

「先生、どうしたんですか?」

 

「これを渡そうと思ってね」

 

そう言って先生が渡してきたのは、アルバムとデジタルカメラだった。

 

「これは?」

 

「入学祝だよ。受け取ってくれ」

 

アルバムとカメラを受け取り、アルバムを開く、アルバムは新品のものだった。

 

「これからは、君がこのアルバムに自分の思い出を作っていくんだ。そして、いつか見せてくれ。君が辿った人生を」

 

「……………はい」

 

アルバムとカメラを鞄に仕舞おうとすると、また声を掛けられた。

 

「響兄ちゃん!」

 

さっきの子供たちが走りながら寄って来た。

 

「お前ら……どうして?」

 

「響兄ちゃんが、施設を出て行くって聞いて、ずっと皆で手紙書いてた」

 

「ばれないように兄ちゃんの監視しながら」

 

てことは、あの時に逃げてたのは避けてたんじゃなかったのか…………

 

子供たちから手紙を受け取ると、思わず涙が出てきた。

 

「言ったでしょ。一人じゃないって」

 

友利が横でそう言って来た。

 

「…………ああ、そうだな」

 

涙を拭きながら手紙を鞄に仕舞う。

 

「そうだ。最後だし、皆で写真を撮ろう」

 

先生の提案に皆が賛成し、この施設での最後の写真を撮ることになった。

 

「じゃあ、私撮りますよ」

 

友利が撮影係を申し出る。

 

「いやいや、君も入って入って」

 

「え?いや、でも」

 

「ほらほら、入った入った」

 

先生に誘われるがままに友利も列に入る。

 

「よし、タイマーセット終了。じゃあ、撮るよ」

 

タイマーをセットし、先生も列に並ぶ。

 

「なぁ、友利」

 

「なんですか?」

 

「……………ありがとな」

 

「…………どういたしまして」

 

それと同時にカメラのシャッターが切られた。

 

俺のアルバムに載った最初の一枚。

 

それが、俺の新しい人生の始まりを告げた。

 



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現れる男

「よし」

 

着慣れない制服に袖を通し、この間購入した姿見で全身を確認する。

 

シワは無いな。

 

鞄を手にリビングへと移動する。

 

朝飯食わないとな。

 

「あ、どーも。お邪魔してまーす」

 

何故か友利が自分の家よろしく、俺の部屋のソファーでくつろいでいた。

 

「…………………友利。俺の目がおかしくなければ、お前が先日お前の希望で購入したソファーで、お前が寛いでるように見えるんだが」

 

「寛いでるように見えるんじゃなくて、実際寛いでるんです。それにしても、このソファーいい座り心地ですよ」

 

「てか、何しに来たんだよ?」

 

「学校までの案内をと思いまして」

 

「………そうかい。俺は今から朝飯だ。終わるまで待ってろ」

 

夜寝る前に炊いて置いたご飯を茶碗によそい、昨夜に作った味噌汁を温め直し、目玉焼きを作って簡単な朝飯を作る。

 

「いただきます」

 

箸を手に取って、ご飯を口に運ぼうとした時、ソファーからこちらをじっと見て来る友利に気付いた。

 

「………見られてると食べづらいんだが」

 

「お気になさらず。さっさと食べてください」

 

そうは言ってるが、目が語っている。

 

よこせと。

 

「……………はぁ~」

 

数分後、俺の目の前にはもう一人分の朝食と友利がいた。

 

「いや~、悪いですねぇ。なんか催促したようで」

 

したようでじゃなくて、催促したんだろうが!

 

そう言ってやりたい気持を抑え込み、俺は黙って朝食を食べる。

 

「結構うまいですね。料理は得意なんですか?」

 

「どれも簡単な料理だ。一応施設では先生と交代で飯を作ってたから、腕には自信がある」

 

「お、味噌汁良い出汁出てる」

 

聞いちゃいなかった。

 

分かってはいたが、コイツ自由すぎるだろ。

 

もう一度溜息を吐き、朝食を掻き込む。

 

「慌てて食うと、健康によくないっすよ」

 

誰の所為だ!誰の!

 

食べ終わった食器を流しに置き、鞄を手に取る。

 

「あれ?洗わないんですか?」

 

「帰ってからでいいだろ」

 

そう言った瞬間、友利は行き成り俺の胸倉を掴んできた。

 

「お前何型だ!?」

 

「ちょ、おま!」

 

「今洗え!お前布巾で拭くだけでいいからそれやれ!」

 

学校に行く前に、俺は友利の命令で、皿洗い(皿拭き)を行うことになった。

 

なんで几帳面なんだよ……………

 

で、その結果。

 

「ほら、急がないと遅刻ですよ!」

 

「お前が皿を洗うとか言い出したからだろ!」

 

学校に遅刻するのは構わないが、初日に遅刻だけは避けたい。

 

転校初日に遅刻なんかしたら、不良のレッテルを張られかねん。

 

「あ~。もう間に合わない!貴方の能力で学校まで一気に行きましょう!」

 

「はぁ!そんなことで使うのかよ!」

 

「良いから早く!」

 

あ~、くそっ!

 

俺は友利の命令に従い、能力を発動させる準備に入る。

 

そして、きっかり三秒後、能力の発動を感じた。

 

脚力だけの強化。

 

行ける!

 

「行けるぞ!」

 

「よし、おぶれ!」

 

俺の返事を聞く前に友利が俺の背に乗る。

 

「しっかり掴まってろよ!」

 

そう言い、跳躍をする。

 

そして、一瞬で電柱よりも高く飛び上がり、そのまま電柱を足場に更に飛ぶ。

 

「てか、このまま学校に降りたら目立つんじゃないのか!」

 

「生徒会室に突っ込んでください!」

 

「はぁ!」

 

「生徒会室の窓ガラスならいくら壊れても問題ありません!」

 

そう言う問題かよ!

 

そうこうしてるうちに、学校が見え始めた。

 

こうなりゃ、自棄だ!

 

「生徒会室は?」

 

「あそこです!」

 

友利が指さすところを確認し、俺は最後の木の枝を踏む。

 

全身に力を籠め、足をバネのようにして動かす。

 

「おりゃあああああ!」

 

俺は顔を片手で覆い、そのまま生徒会室の窓ガラスを突き破り生徒会室の中に入る。

 

「ふぅ~…………成功だ」

 

「いや~、高城の瞬間移動と違って、ある程度加減が効く辺り便利っすね」

 

「俺は乗り物かよ…………それより怪我は無いか?」

 

「はい、問題無いです」

 

俺の背中から降り、友利が答える。

 

「私は教室へ行くんで、貴方は職員室へ。では、後ほど」

 

そう言い残し、友利は生徒会室を出て行った。

 

「………なんで転校初日からこんな疲れにゃならんのだ」

 

またしても溜息を吐き、俺は職員室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

職員室へ向かい、担任となる教師と一緒に教室へと向かう。

 

教室は1-Bだ。

 

「一之瀬響です。よろしくお願いします」

 

一言そう言い、教室を見渡すと友利が窓側の一番前の席に、高城と言う奴が通路側の一番後ろの席に居た。

 

高城の奴はなんか手を振ってる。

 

席は高城の隣になった。

 

一時間目が終わり、俺の周りには様々な奴がやって来た。

 

転校生の宿命って奴か。

 

一人一人の質問に答えているうちに休み時間はどんどん過ぎていき、気が付けば昼休みまでの休み時間ずっと質問されっぱなしだった。

 

「………はぁ~、疲れた」

 

「お疲れ様です」

 

隣から高城が労ってくる。

 

「そう言えば、自己紹介がまだたったな。一之瀬響だ。あの時は不良を蹴散らしてくれてありがとな」

 

「礼には及びませんよ。私は生徒会の使命を果たしたに過ぎません。おっと、申し遅れました。高城丈士郎と申します。以後よろしくお願いします」

 

握手をし、互いの自己紹介を終わらせる。

 

「ところで、一之瀬さん。お昼はどうするんですか?」

 

「ああ、生憎何もない」

 

「では、学食に参りましょう。今ならまだ席は空いてるはずです」

 

「でも、ここから学食まで遠いだろ。今からじゃ間に合わないんじゃ」

 

「そこは、私の能力の見せ所です」

 

そう言うと高城は能力を使い教室を飛び出した。

 

飛び出すと同時に、何かが割れる音と壊れる音、そして、女生徒と思われる悲鳴が聞こえた。

 

どうやら、ピタリと止まる以外にも方向転換も出来ないみたいだ……………

 

学食に向かうと、高城が席に座りながら手を振っていた。

 

血まみれで。

 

「お待ちしておりました」

 

「た、高城………大丈夫か?」

 

「ああ、これですか。慣れていますから」

 

高城は笑いながら頭や顔の血を拭く。

 

周りは周りで特に気にもしてない。

 

慣れてるのかよ!

 

「今日は私のおごりです。どうぞ、学食で数量限定の牛タンカレーです」

 

「いいのか?」

 

「はい」

 

「悪いな」

 

席に着き、カレーを一口食べる。

 

「お、うまいな。今までに食べたカレーで一番うまい。牛タンもトロトロで最高だな」

 

「喜んでいただけて嬉しい限りです」

 

カレーを二人で食べてると、俺はあることが気になり、高城に聞いた。

 

「なぁ、友利はなんで一年なのに生徒会長なんだ?」

 

「この学校では生徒会長に学年は関係ありません。能力者としての責任感や行動力が最優先されます」

 

「ふ~ん、なるほどな………………」

 

てことは、アイツは一人で生徒会長の仕事の重圧に耐えてるってことか。

 

その時、高城の携帯が震えた。

 

高城が電話に出ると、二言三言会話をし電話を切る。

 

「協力者が現れました」

 

「協力者?」

 

「生徒会へ集合ってことです」

 

そう言って、高城がカレーを掻き込むので、俺も慌てて掻き込む。

 

カレーを食べた後、高城と生徒会室に向かうと、友利は奥の椅子に座って弁当を食べながら俺達を待っていた。

 

ちなみに、何故か俺が今朝破壊したガラスは直っていた。

 

業者の仕事早くないか?

 

待つこと数分、行き成り生徒会の扉が開き、全身ずぶ濡れの茶髪で長髪の男が入って来た。

 

その姿に俺は驚き、口が開いたまんまになった。

 

男は、中央の机の上に置かれた地図の上に指を差し出し、水滴を落とす。

 

「能力は……空間移動」

 

そう言い残し、男は去って行った。

 

「………誰だ?」

 

「協力者です。ああやって、能力者の場所と能力を教えてくれるんです」

 

「なんでずぶ濡れなんだ?」

 

「服を着た状態で全身ずぶ濡れにならなければ能力が使えないんです」

 

何て言う不完全な能力だ。

 

「…………大庭高校か。早退していくぞ」

 

友利が口に箸を加えた状態でそう言う。

 

「え?午後の授業はどうするんだよ?」

 

「その辺はご安心を。生徒会に所属している限り、どのように行動していようと内申書へのデメリットはありません」

 

生徒会は何でもアリかよ。

 




タイトルをCharlotteっぽくしているつもりなんですか、どうもそれっぽくない感じがしてならない


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初仕事

*能力者の能力を精神操作から空間移動に変えました

理由は精神操作だと、どのような悪用をするか思いつかなかったからです。


「では、聞き込みを開始するぞー」

 

清々しい位の棒読みで友利の声が響く。

 

「はい」

 

「………おう」

 

俺達三人が居るのは大庭高校と言う地元では進学校で有名な学校だ。

 

そこに、余所の学校の制服を着た男女が三人、校門の前で集まってたら嫌でも目を引く。

 

おまけに下校時刻だ。

 

滅茶苦茶注目されてるんだが……………

 

「はい、行きますよー」

 

友利が俺の袖を掴み、引っ張って歩き出す。

 

「待て、友利。制服が伸びる。てか、なんで俺を連れて行く」

 

「貴方は今回初めての仕事なんで、私と一緒に行動してもらいます。ぶっちゃけ、私の能力は一対一なら問題ないですが、多人数相手だと意味がありません。なので、私の護衛もかねて付いて来てもらいます」

 

友利の言い分に納得し、黙って友利の後に付いて行く。

 

高城はいつの間にか、何処かに行ってた。

 

やることは簡単。

 

聞き込みをする。

 

最近急に変わった人、挙動がおかしい人を見なかったかなどと質問していき、能力者を探すと言う物だ。

 

はっきり言おう。

 

今の俺達の方が十分に怪しい!

 

他校の生徒が行き成り、変な人を見かけなかったかなんで聞いて来たら、それこそ、お前が変だよってツッコまれる行動だ。

 

もうちょっとまともな方法で能力者を探せないのかよ。

 

「ほら、アンタも聞き込みの一つぐらいしたらどうですか?」

 

友利に背中を叩かれ、文句を言いつつ、聞き込みをする。

 

「あ、すいません」

 

「ひっ!」

 

近くに居た男子生徒に声を掛けたら、行き成り挙動不審な態度を取った。

 

「ちょっと聞きたいことが」

 

そう言い掛けたら、男子生徒は行き成り走り出した。

 

「え?」

 

「ボサッとすんな!追うぞ!」

 

友利に怒鳴られながら、男子生徒の後を追う。

 

「彼奴にキックなりなんなりして、動きを止めてください!」

 

「結局実力行使かよ!」

 

怒鳴りながら、脚力の強化を行い、一気に男子生徒との距離を詰める。

 

そして、そのまま体当たりをして男子生徒を転ばし、その男子が落した鞄を友利が掴み、中身を出す。

 

すると、大量の小物が出て来る。

 

この小物………今話題のアイドルのグッズだ。

 

確か……………ちょっと止まる系のコンビニのスイーツみたいな名前のバンドのボーカルだっけ?

 

「この小物、ライブイベント限定の物やプレミア付きの物、既に販売中止になったものまであるな」

 

「こりゃ、黒で決まりっすね」

 

「お、お前ら何なんだ?」

 

叫ぶ男子を無視し、友利は男子に近づき尋ねる。

 

「これは、貴方が盗んだものですね」

 

「な、何言ってるんだ?そんなわけないダロ」

 

「語尾裏返ってんぞ」

 

「最近、学内で盗難事件が続いてると聞きました。ここにあるもの、盗難された物ですよね」

 

「…………別に貴方を突き出すつもりはありません。これが貴方が盗んだものではないなら、盗品を買った線が濃いです。なら、誰から買ったのか教えて下さい」

 

友利の言葉が真実なのかか分からなく、男子生徒は疑いの目を友利に向ける。

 

「教えてくれないと、学校側に貴方が盗難事件の犯人だと告げ口しますよ」

 

「………………三年の倉橋先輩から買いました」

 

あっさり吐いたな。

 

まぁ、冤罪で犯人にされたらたまったもんじゃないよな。

 

「よーし、三年倉橋を捕まえるぞー」

 

友利が棒読み気味で言って、走り出す。

 

「あ。おい、待て!」

 

慌てて後を追うが、気が付くと友利の姿は無かった。

 

「…………見失った」

 




次回、フラグが立ちます。


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仕事完了

「ここに能力者かいるのか」

 

友利は一人空き教室の前に立っていた。

 

能力者である倉橋が放課後ここにいるのを聞き、やって来た。

 

だが、ここに来る途中で、今日生徒会に入ってばっかりの響をどこかに置いてきてしまった。

 

しかし、気にせずそのまま一人で調査を続行し、倉橋自身のロッカーから証拠となる盗品と販売物の売買の記録、顧客リストなどをビデオカメラに納め、空き教室へと向かった。

 

すると、空き教室の扉が開き、中から数名の男子が出て来きたので、友利は近くの物陰に隠れる。

 

そして、空き教室には倉橋一人となった。

 

その瞬間を逃さず、友利は能力で倉橋から見られないようにして、教室へと入った。

 

「今日もいい稼ぎになったな」

 

空き教室の中央では、男子生徒が札束を数えていた。

 

「それにしても、この能力って便利だな。これさえあれば、どれだけ物を盗んでもバレないし、店の品も手に触れずに盗める。俺って世紀の大怪盗かもな」

 

(とんだ思考ですね)

 

「この能力に目覚めてから金に困ることは無くなったし、本当に便利だよ」

 

そう言い、男子生徒は能力で教卓に置いてあるペットボトルを自分の手の中に移動させる。

 

(能力使用の証拠も取れたし、忠告と行きますか)

 

友利は能力を解き、男子生徒の前へと現れる。

 

「釣れた」

 

「な!?だ、誰だ?」

 

行き成り現れた友利に、男子生徒は驚き狼狽える。

 

「どうも、生徒会長の友利です。別の学園のですが」

 

「ど、どうして、よその学園の生徒会長が?」

 

そう質問する男子生徒に友利は答えず、カメラで男子生徒を撮り続けながら話し続ける。

 

「まさか、学内を騒がせ続けてる盗難の犯人が、こんな人畜無害そうな男子生徒だなんて。誰も思ってもいないでしょうね」

 

「…………盗難って、一体何を根拠にそんなこと言ってるんですか?」

 

「お客さんの一人がゲロったんっすよ。それと、貴方のクラスのロッカーを調べさせてもらいました。ロッカーに会った盗品と販売物の売買の記録、顧客リストなどは全部このカメラに撮っておきました。それとこれを見てください」

 

ビデオカメラの画面を男子生徒に向け、能力を使用したシーンを見せると、男子生徒は驚きと悔しそうな表情をする。

 

「貴方は空間移動の能力を持ってる。その能力を使って、人の物を奪い、それを他の人に売ってお金を得ていた。どうして、こんなことを?」

 

「……………俺の家はとても厳しいんだ。高校生だってのに月の小遣いは三千円。そんなはした金で、何が出来ると思う?高校生にとって三千円なんて一週間もあれば使い切っちまう!だが、この能力で盗んだものを相場より安く売れば金になる。だからだ!」

 

「遊ぶ金欲しさにって奴ですか。そんな、犯罪犯した未成年の言い訳みたいなこと言う人、まだ居たんっすね」

 

ふざけた様な態度をとる友利に、男子生徒は苛立ち、能力を使った。

 

すると友利の上半身の制服が消え、下着だけの姿になった。

 

「………なるほど。目で視認したものを空間移動する能力ですか」

 

上半身が下着姿なのにも関わらず友利は平然と立っていた。

 

「お前………………恥ずかしくないのか?」

 

「なんで下着見られたぐらいで恥ずかしがらないといけないんですか?」

 

その言葉が余計に腹だったのか今度はスカートも能力で移動させ、友利は下半身も下着姿となった。

 

流石に恥ずかしいのか、友利は僅かに身じろぎをする。

 

そのことに気付いた男子生徒は、友利に近づくとその手を掴んで抑えた。

 

友利は捕まれた状態で能力を使うのは意味がないのを分かっているので能力を使わずに対抗する。

 

しかし、足を払われて倒れ込み、男子生徒に馬乗りをされる。

 

「お前の能力は姿を消せるみたいだが、こうされたら姿を消しても意味ないよな」

 

この時、友利は響を連れて来るべきだったと後悔した。

 

「なぁ、男子の間で一番売れる物って何か知ってる?それはね……………女子の生写真だよ」

 

そう言い、男子生徒は携帯のカメラで友利の下着姿を撮ろうとする。

 

「武士の情けで、顔にモザイクは入れてやるから、顔バレはしない。だから、安心しろ」

 

男子生徒が携帯のボタンを押す。

 

 

 

 

 

押そうとした瞬間、友利が見たのは、夕日をバックにこちらへ向かう響の姿だった。

 

第三者SIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響SIDE

 

友利を見失った俺は、仕方なくこの高校の屋上へと上がり、視力を強化し、友利を探すことにした。

 

もう少しで能力が切れそうだと言うところで、俺は友利を発見した。

 

だがそれは、空間移動の能力者の能力によって服を奪い取られてるところだった。

 

相手は男だ。

 

まずい!

 

そう思ったが、今の俺は視力以外普通の男子高校生だ。

 

ここから、向かいの校舎まで向かったらそれこそ時間がない。

 

能力が切れて三十三秒のインタパールが終えた瞬間、能力を発動し、脚力を強化して、向うに飛んだ方がいい。

 

俺は焦りながら能力が切れるのを待った。

 

能力が切れたのは友利が能力者の男と取っ組み合いになった瞬間と同じだった。

 

早く!早く三十三秒経ってくれ!

 

三十三秒が経った瞬間、男は友利を押し倒し、馬乗りになった。

 

同時に脚力を強化し、友利達が居る教室へと一気にジャンプする。

 

そして、そのまま空き教室の窓ガラスをぶち破り、男の背後を取る。

 

「な!?」

 

男が俺に気付いた瞬間、俺は鳩尾を殴る。

 

男は苦痛に顔を歪めるが、反撃しようと俺に攻撃を仕掛けて来る。

 

その攻撃を躱し、顎を蹴り上げ倒す。

 

そのまま男は倒れ、気を失う。

 

「友利!大丈夫か!?」

 

「ええ、まぁ、一番危なそうな所は回避できたって感じです」

 

「なんで、俺を置いて行った?」

 

「置いて行ったんじゃなくて、貴方がはぐれただけですから」

 

「そうであっても、俺を置いてくな。お前が襲われてるの見てこっちはヒヤヒヤしたんだぞ」

 

そう言って、俺は制服の上着を脱ぎ友利に掛ける。

 

「それで、体隠しとけ」

 

「………………どうもっす」

 

「………で、こいつはどうする?」

 

「取り敢えず、縛って置きましょう。暴れ出したらこまるんで」

 

俺の制服の上着を着ながら友利が言う。

 

俺はその男子生徒の腕を背中で縛り、目が覚ますのを待った。

 

「い、いてて…………」

 

「目が覚めましたか?」

 

友利がビデオカメラ片手に問いかける。

 

男子生徒は友利の顔を見ると、今度は俺の顔を見る。

 

「テメー、さっき俺を殴った………」

 

「友利と同じ生徒会の者だよ」

 

「さて、本題に入りましょう。私たちは別に貴方を警察に突き出すつもりはありません」

 

「…………本当なのか?」

 

「はい。ですが、このまま能力を使い続けたら、酷い人生になります。実験として科学者に解剖とかされたいですか?」

 

「か……解剖……」

 

「はい。だから、警告です。その力は思春期の病の様なもの。いずれは消えます。お金はまっとうなバイトでもして稼いでください」

 

「……………もし、俺がその警告を無視して能力を使い続けたらどうする?」

 

「貴方が能力を使ったどうかは分かります。貴方を探し出したのと同じ手段で」

 

「で、警告を無視したら次は実力行使。痛みで分かってもらう」

 

そう言い、俺は強化した握力で中身の入った缶ジュースを握りつぶす。

 

「……………分かった。能力はもう使わない。アンタたちの言うことに従う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局上は見つからなかったのか?」

 

「どうやら、物を移動させる前に何処に移動させるかをはっきりさせる必要があるそうです。それをしないと、予期せぬ場所に移動するらしいんですよ。スカートの方は、幸いにもすぐ近くに移動してました」

 

今の友利の恰好は下着の上から俺の制服の上着を着て、下はスカートの状態だ。

 

「さて、帰りましょうか」

 

「ああ」

 

こうして、俺の生徒会での初仕事は、無事終わりを迎えた。

 

ちなみに、高城だが、何故か、アイドル研究部と言う部に聞き込みをし、部員と意気投合していた。

 

まさかのアイドルオタクかよ……………………

 



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優しい味

生徒会の初仕事を終えたその日の夜。

 

懐かしい夢を見た。

 

知らない女性と一緒に、桜並木を歩く夢。

 

繋がれた手を見て、隣にいる自分より背の高い女性を見上げる。

 

見上げられていることに気付くと女性は、にっこりと笑い、俺の頭を繫いでる手とは逆の手で優しく撫でた

 

本当に知らない女性だった。

 

だけど、何故か懐かしいと感じた。

 

そこで夢が終わった。

 

あの人は一体誰だったんだ?

 

布団から起き上がり制服に着替える。

 

その時、上の方は昨日友利に貸したことを思い出した。

 

「返してもらわないとな」

 

「そうだと思って返しに来ました」

 

「…………昨日もそうだが、どうやって入ってくるんだ?」

 

「部屋の鍵ぐらい三十分もあれば開けれます」

 

ロッカーのカギを開けたり、部屋の鍵まで開けたり、お前の手先はどんだけ器用なんだよ。

 

「まぁ、返しに来てくれた事は感謝する」

 

上着を受け取り袖を通す。

 

「俺、今から朝飯なんだが」

 

「どうぞ、待ってますんで」

 

……………コイツ、また集るつもりか?

 

「「…………………」」

 

互いに目を合わせたまま一歩も引かなかった。

 

数分後

 

「「いただきます」」

 

結局、友利の目力に敵わず、俺は泣く泣く朝食を提供した。

 

今日の朝食はトーストとハムエッグだったので、皿洗いもすぐに終わり、学校まで能力を使わずに済んだ。

 

「おはようございます」

 

「おお、おはよう」

 

隣の高城に挨拶をし、席に着く。

 

「今日も友利さんと登校ですか?」

 

「ああ。部屋まで制服の上着を届けに来てくれるのはいいんだが、朝飯を集られたらこっちの身が持たねぇぜ」

 

「仲が良さそうで安心しました」

 

「はぁ?どう見たら、俺と友利が仲が良いんだよ?」

 

「……………彼女の能力はご存知ですよね」

 

急に高城が声のトーンを下げて言う。

 

「?そりゃ、一度目の当たりにしてるしな」

 

「対象の人間以外から視認されない。言い換えれば、それ以外の人間からは見えるんです。それなりの理由があるとは言え、彼女が能力を使って暴力を振るってる姿を周りの人間が見ていたら、どう思うでしょう。監視カメラにはただの喧嘩にしか映らない。そんなことをしていたら、嫌われ者になるのは当然かと」

 

そこまで聞き、俺は席に座る友利を見る。

 

友利はイヤホンで音楽を聞きながら、ビデオカメラを弄っていた。

 

「だから、貴方の様に気軽に話し合える関係の人がいるのはいいことなんです」

 

気軽にね……………………

 

そう言えば、俺にとっては友利が始めてなんだよな。

 

先生や施設の人間以外で、俺がまともに会話できる奴って。

 

ま、それは高城にも言えることか。

 

「ま、積極的に仲良くするつもりはないが、俺は俺なりにアイツと仲良くさせてもらうよ。無論、お前ともな」

 

「それは光栄です」

 

その後、適当に高城と雑談をしてると担任がやって来てホームルームが始まり、授業開始となった。

 

授業を終えた昼休み、教科書やノートを机に仕舞うと高城が隣りから声を掛ける。

 

「一之瀬さん。今日は学食にしますか?それとも、パンにしますか?」

 

「そうだな…………今日はパンにでもしとくか」

 

席を立ち購買に向かおうとすると、友利が目の前に現れた。

 

「どうした?」

 

「協力者が現れましたか?」

 

「いえ、違います。用があるのは貴方にです」

 

「俺?」

 

「ええ。これをどうぞ」

 

そう言って、渡されたのは小さな包みだった。

 

「開けていいのか?」

 

「どうぞ、ご自由に」

 

高城が俺の手元を覗き込むのを感じながら、包みを開ける。

 

そこには二段に分かれた弁当箱があった。

 

「………弁当?」

 

「昨日のお礼です。他意は無いんで」

 

「そうかい。ま、お礼って言うなら遠慮なく貰っとく。弁当箱は後で返せばいいか?」

 

「いらないんで、そのまま上げます」

 

そう言うと友利は自分の席へと戻り、コンビニ弁当らしきものを鞄から取り出し食べ始める。

 

「では、私はひとっ走り購買まで行ってパンを買ってきます」

 

「あ、ああ」

 

昨日と同様に能力を使い購買へと、高城は向かった。

 

数秒後、昨日と同じように血まみれの姿で高城はパンを買って来た。

 

「ただいま戻りました」

 

「な、なぁ、本当に大丈夫なのか?」

 

「制服の下に防具を着ているのでそれ程深い傷はありません」

 

そう言って高城が胸板を叩くとコンコンっと音が聞こえた。

 

「いや、体より守るべきところがあると思うが…………」

 

頭から吹き出す血と流れる血を見て俺は言う。

 

「お、今日はカツサンドに卵サンド。当たりです」

 

席をくっつけ、向かい合う形で昼飯を取る。

 

高城がパンの包みを破る前で、俺は弁当箱の蓋を開ける。

 

中身はシンプルに卵焼きと唐揚げ、ポテトサラダにリンゴ(ウサギカット)が入っており、下の段にはおにぎりが二つ入ってた。

 

「うまそうだな」

 

「そうですね」

 

カツサンドを頬張りながら高城が言う。

 

箸で唐揚げをつまみ口に放り込む。

 

「…………」

 

「どうですか?」

 

正直言うと微妙だ。

 

まずくはないが、うまいわけでもない。

 

だが、人が作った料理なんて久々だな。

 

「ああ………うまい」

 

そう言って卵焼きも口に放り込む。

 

ちょっと焦げてるが、食えないわけじゃない。

 

だが、俺は弁当を食べることに夢中で気付かなかった。

 

教室の外から数名の女子が友利を睨みつけるように見ていることに。

 




第七話の友利が料理を作ってるシーン。

あの時の体勢から、友利は料理を作り慣れてないと言う意見が出ています。

なので、友利の料理は微妙な味設定にしました。


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称号授与

授業が終わった直後、友利が急に数名の女子によってどこかに連れてかれた。

 

友達って雰囲気ではなかった。

 

むしろ、女子たちは友利の事を恨むような、憎むような瞳をしていた。

 

友利はと言うと、抵抗することもなく連れてかれた。

 

ビデオカメラを机に置いたままにして。

 

高城に聞こうと思ったが、いつの間にか帰っているし……………

 

仕方がない。

 

自分で調べるか。

 

教室を出てみると、既に女子たちと友利はいなかった。

 

「なぁ、アンタ」

 

「あん?何?」

 

近くに居た男子に声を掛け、聞いてみることにする。

 

「さっき、とも………生徒会長と女子が数名教室から出て行ったけど、何処に行ったか知らないか」

 

「ああ、さっきの女子たちな。多分いるなら校舎裏だぜ。あそこは学園で唯一、監視カメラが無い場所だからな」

 

「監視カメラが無いからってどういうことだ?」

 

「決まってるだろ。リンチだよ、リンチ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校舎裏に向かうと、そこでは友利が言われた通りリンチに遭っていた。

 

友利は、抵抗せずずっとイヤホンで音楽を聞き、黙ってリンチを受けている。

 

顔を殴られ、腹に膝蹴り、倒れたら髪を掴んで起き上がらせる。

 

「おら、起きろよ!まだまだこんなもんじゃねぇんだぞ!」

 

そう言って、再び殴る。

 

高城の言ってたことが理解できた。

 

アイツはずっと暴力って方法で、能力を悪用する奴等を脅し、能力を使わないように忠告する、もしくはこの学園への転校を承諾させてきた。

 

故に、敵が多い。

 

中には、この学園に在籍しながらも能力を悪用する生徒もいる。

 

そんな生徒にも友利は能力を使って暴力で解決する。

 

俺は暴力が悪いとは思わない。

 

むしろ、そう言う言っても聞かない奴等には身を持って経験させ、言い聞かせるのが最適だ。

 

だが、暴力による支配は、反感を買う。

 

恐らく、友利は承知の上であんな方法を取ってるんだろう。

 

承知の上だからこそ、抵抗しない。

 

助けた方がいいよな……………

 

 

 

 

響SIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友利SIDE

 

今日も校舎裏に連れてから、リンチを喰らう。

 

これも能力者を脅す為また能力者の保護の為に暴力と言う手段を使った私が、引き起こしたこと。

 

抵抗することはしないし、逆にやり返すこともしない。

 

いつも通り、イヤホンでお気に入りのバンド「ZHIEND」の歌を聞きながら終わるのを待つ。

 

ああ…………痛ぇーな……………

 

「アンタさ……少しは反省の色でも見せたらどうなの?」

 

反省って、何を反省すればいいんでしょ?

 

私は自分のやってることを理解してる。

 

理解した上で、どのような目に合うのかも考えたうえで暴力と能力を使ってる。

 

むしろ反省すべきはこいつらなんじゃ?

 

能力を使えば、研究者に捕まって人体実験や解剖の素材になると言ったのにも関わらず、能力を未だに悪用に使う。

 

ま、どっちにしろこいつらも私も同じか。

 

「………アンタのさ、そう言う態度が最初から気に食わないんだよ、こっちは!!」

 

拳を高く振りかざし、振り下ろす。

 

私はただ目をつむって拳が来るのを待つ。

 

……………おかしいっすね。

 

何時まで経っても痛みも衝撃も来ない。

 

目を開けてみると、そこにはその女の振り下ろそうとした腕を掴んで立っている一之瀬響がいた。

 

「その辺にしておけ」

 

 

 

友利SIDE END

 

 

 

 

 

 

 

響SIDE

 

「なっ!?て、転校生………」

 

「転校生じゃねぇ。一之瀬だ」

 

女子の手を掴んだまま離さずに会話をする。

 

「女が寄って集ってリンチとか褒められたことじゃないぞ」

 

「アンタには関係ないだろうが!」

 

女は俺の手を振り解いて、俺を睨みつけて来る。

 

そんな女を無視して友利に近づき、手を差し出す。

 

「大丈夫か?」

 

「………余計なことしないで貰えますか?」

 

「悪いな。お前が承知の上でこうなってるのは分かっているが、どうも我慢できなかった」

 

無理矢理手を掴み、友利を立ち上がらせる。

 

「帰るぞ」

 

そう言って、友利を引っ張る。

 

「ちょっと待てよ!こっちは話が終わってないんだよ!」

 

「そうか………なら、これで話は終わりだ」

 

「テメー、人をおちょくりやがって…………どうなっても知れねぇぞ。覚えとけよ」

 

「覚えとけね…………なら、俺からも一つ覚えといてもらおうか」

 

下に落ちてる手の平サイズの石を拾い、手の中で回す。

 

そして、能力で握力を強化し、一気に握りつぶす。

 

石は粉々に砕け、欠片になって地面に落ちる。

 

「生徒会に新しく入った転校生は危険だってな」

 

睨みを利かして、ドスの入った言葉で威嚇する。

 

「うっ…………くっ、そいつの味方したこと後悔するからな!」

 

女たちは、捨て台詞を吐いて逃げ出し、その場には俺と友利だけになった。

 

「これで貴方、完全に彼奴らから私と同列な位置に格付けされましたよ」

 

「結構だよ」

 

手に着いた土埃を払い、友利を見る。

 

「帰ろうぜ」

 

そう言って、友利の頭を軽く叩き、横を通り過ぎる。

 

「生意気なんっすよ……………ありがとうございます、響」

 

友利が言った最後の言葉。

 

それが何といったのか風がうるさくて聞き取ることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、いつも通りに起きると、またしても友利が俺の家のソファーで寛いでた。

 

もう驚きもしない。

 

黙って二人分の朝食を用意し、黙って席に着く。

 

「これどうぞ」

 

飯に手を付けようとすると、友利が何かを渡してきた。

 

それは、友利が腰につけてるポーチの色違いのポーチだ。

 

「こいつは?」

 

「カメラ、いつも鞄に入れてますよね」

 

「ああ、写真を撮りたいって思ったときにいつでも撮れるようにって思ってな」

 

「鞄よりもそっちのほうが取り易いんであげます。私のと色違いですが、使い勝手はいいんで、気に入ると思いますよ。まぁ、昨日助けてくれたお礼です」

 

「………サンキューな」

 

ポーチの中に鞄から取り出したカメラと予備バッテリーを入れる。

 

うん、ぴったしだ。

 

ちなみに、昨日の一件で俺に「生徒会の番犬」や「生徒会長の犬」など不名誉極まりない称号がついた。

 



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似てゆく響

「待てこらー!」

 

「待つかぼけぇ!」

 

現在、俺は全力疾走してる。

 

今日も今日とて能力を悪用する能力者を捕まえ、脅し、能力を使わないように忠告する。

 

生徒会の活動だ。

 

「高城!裏から回ってくれ!挟み撃ちだ!」

 

「了解です!」

 

高城を裏から回し、俺も全力で走り、追いかける。

 

「捕まえました!」

 

前からやって来た高城になす術なく能力者は捕まった。

 

「そのまま押さえてろ!」

 

脚力を強化し、一気に近づく。

 

そして

 

「おらぁ!」

 

相手の後頭部に蹴りをぶちこみ気絶させる。

 

「よし、捕獲完了!」

 

「……やり方が、友利さんに似て来ましたね」

 

高城が能力者を解放しながら言う。

 

友利に似てきたとか勘弁してくれ。

 

その後、目を覚ました能力者には忠告+脅しで、今後能力は一切使わないことを誓わせ、俺と高城はその高校を後にした。

 

今日は俺と高城の二人だけだ。

 

例の協力者が示した場所が二か所あり、俺と高城、友利の二手に分かれ能力者の捕獲に回った。

 

「あぁ………疲れた………後、腹も減った」

 

「今日は昼前に出ましたし、お昼がまだでしたね」

 

互いに腹も空き、昼がまだだったこともあるので、近くの定食屋に入り遅めの昼食を取ることにした。

 

「学生が平日のこの時間に、こんな所にいたら不良に思われないかね」

 

「ご心配なく。我々は生徒会ですから」

 

そうだった。

 

生徒会活動なら内申へのデメリットは無いんだったな。

 

「それにしても、最近の貴方はやる気に満ちてますね。」

 

「そうか?」

 

「ええ、まるで友利さんの様に。まさに………右腕ですよ」

 

「右腕?」

 

聞きなれない言葉に耳を傾ける。

 

「知らないんですか?最近、噂になってますよ。生徒会に入った転校生は危険で、生徒会長の右腕。生徒会長に手を出したら痛い目に合う。そんな噂で学園は持ち切りです」

 

右腕ね………

 

生徒会の番犬や生徒会長の犬なんて不名誉な称号を貰ったりしたが、右腕とはかなり豪勢な称号だな。

 

ま、番犬や犬よりはマシか。

 

注文した定食を食べようとすると、俺の携帯に友利から着信が入った。

 

「最近では私ではなく貴方に掛けますね」

 

「そうかもな。どうした?」

 

高城に答えながら電話に出る。

 

『大至急、陽野森高校に来てください』

 

それだけを言って友利は電話を切った。

 

「どうしました?」

 

「大至急、陽野森高校来いとさ」

 

「では急ぎましょう」

 

出された料理を味わう暇もなく、俺と高城はかき込むように食べる。

 

金を払い、そして二人で全力疾走しながら陽野森高校へと向かう。

 

陽野森高校までは結構距離があり、着いたのは友利から電話を貰って三十分後の事だった。

 

「おっせーな!お前ら何年だ?」

 

訳の分からん問いを無視し、話掛ける。

 

「で、俺らを呼びよせてどうしたんだよ?」

 

「能力者と思われる人を見付けました。この男です」

 

そう言って、俺と高城に録画した映像を見せる。

 

そこには、まるで眠る様に椅子にもたれる男が映ってた。

 

数秒後、男ははっと目を覚まし、目の前の紙に書き込みを始める。

 

どうやらテストの様だ。

 

「小テストの様子です。恐らく、この男が憑依の能力者です」

 

「なら、授業が終わったら捕まえて、忠告すればいいだろ」

 

「そうなんっすけど、今日一日この男を観察した所、こいつ結構ゲスイ奴なんですよ。恐らく、絶対しらばっくれます」

 

「なら、有無も言わさない状況に追い込めばいいだけだ」

 

「ちなみにどうやって?」

 

「簡単だ」

 

俺はたった今思いついた作戦を二人に話すと友利はにやりと笑い、「その作戦でいきましょう」と言った。

 

高城は「性格まで友利さんに似て来ましたか」っと溜息を吐いた。

 



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乙坂有宇

作戦は簡単なものだ。

 

まず今回の能力者、乙坂有宇を陽野森高校の生徒会長さんに呼び出してもらう。

 

そして、彼にカンニング容疑の疑いがあるとでも言ってもらい、入学後にやった実力テストをもう一度やってもらう。

 

で、生徒会長の手には乙坂有宇の答案用紙のコピーを持ってもらう。

 

もちろん、中身は答案用紙のコピーなんかじゃない。

 

恐らく、乙坂は答えを見ようと生徒会長に乗り移る。

 

後は、その場面を一部始終友利のカメラで撮り、言い逃れできない状況へと持ち込む。

 

「では、手筈通りにお願いします。私は部屋の隅で監視カメラで監視してるんで私には触れずにお願いします」

 

「分かりましたが、貴方たちは一体…………」

 

「俺らの事には触れずにお願いします。貴方は、俺達の言った通りにやってくれればいんで」

 

「はぁ…………」

 

生徒会長さんは不思議そうに俺達を見て、行動に取り掛かってくれる。

 

「では、高城は外で、響は校門前にて待機で」

 

「分かった」

 

「了解です」

 

「よし、では乙坂有宇を捕まえるぞー」

 

いつも通りの棒読み。

 

指示に従い、校門前で待機する。

 

放課後だけあって、やっぱり生徒達からの注目も集まる。

 

正直キツイ。

 

早く終わってくれないか……………

 

すると、一人の女子が俺の隣に立った。

 

まぁ、隣って言っても距離的には三メートルぐらいは空いてるが。

 

黒い髪の長髪で、整った顔をしてる。

 

誰かを待ってるのか?

 

そう思って、待ち続けると、誰かが走って来た。

 

あれは、乙坂有宇じゃないか。

 

どうやら、逃げてきたようだな。

 

「走って!」

 

乙坂有宇がそう叫び、その女子の手を掴む。

 

だが、行き成りの事に付いて行けず、女子はそのまま倒れる。

 

「っ……くそっ!」

 

そう言い残し、乙坂有宇は逃げて行った。

 

乙坂有宇の確保が最優先だが、怪我人を放置も出来ないか。

 

「アンタ、大丈夫か?」

 

「あ、は……はい」

 

女子を助け起こしてると、高城もやってくる。

 

「高城、アイツを追え。お前なら余裕で追いつけるだろ」

 

「任せてください」

 

高城は頷くと乙坂有宇の後を追う。

 

「響、乙坂有宇は?」

 

友利も走りながらやってくる。

 

「今、高城が追いかけてる。俺達も後を追うぞ」

 

「では、おぶって下さい」

 

「………………はい」

 

一目に付かない所に移動し、能力を使い一気に移動した。

 

集合場所の河原で高城の到着を待っていると、向かいの岸から高城が乙坂有宇を抱き、空へと上がり、そのまま落下して、川を水切りし、やってきた。

 

「すっげー、人間て水切りみたいなことできんだ」

 

「いや、単に高城の能力のなせる業だと思うが」

 

高城はずぶ濡れになりながら乙坂を引きずり、川から出てくる。

 

「ゲホっ!………い、今のは………?」

 

「瞬間移動です。字の如く、一瞬で移動する能力ですが、都合よくピタリと止まりません。この能力のおかげで、何度病院送りになったことか…………」

 

涙ながらに語る高城に同情せざるを得なかった。

 

「そんなことより、僕をどうするつもりだ?」

 

乙坂有宇は仰向けの体制で聞いてくる。

 

「我々の学園に転入してもらいます」

 

そこで、ようやく友利が口を開き、近づく。

 

「はぁ!?転入!?」

 

「はい。貴方の様な特殊能力者はあなた以外にもいます」

 

「なに!?」

 

「でも、それは思春期の病のようなもの。いずれは消えます。それが消えるまで、私たちの学校、星ノ海学園に通ってもらいます」

 

「はぁっ!?」

 

「既に親権を持ってる方に話は済んでます。しっかし、ルックスだけでモテそうなのに、なんで態々優等生を演じる必要があったんですかね?ああ、お蔭でお目当ての女生徒とお近づきになれたか」

 

女生徒っていうと、あの時の女子か。

 

確かに、美人ではあったな。

 

「くっ……貴様!」

 

乙坂有宇が立ち上がり、友利に掴み掛ろうとする。

 

だが、乙坂が掴む前に、友利は一歩引き、手を躱す。

 

直後、乙坂は驚いた表情を浮かべる。

 

能力を使って乙坂有宇の視界から消えたか。

 

そして、乙坂の顔を左右から殴り、ボディーブローを当て、最後に顎を蹴り上げ、乙坂を倒す。

 

「な………なん、だ?き、消えた?」

 

「それが友利の能力だ」

 

乙坂の疑問に俺が答える。

 

「透明人間になれるのか?」

 

「それは違う。友利の能力は一人の対象者から視認されない能力だ」

 

「ちなみに、貴方には私たちの生徒会に入ってもらいます」

 

「はぁ?」

 

「貴方の能力使えるので協力してください」

 

「……何に?」

 

「貴方の様に能力を悪用する人間を脅し、守るために」

 

その言葉に乙坂は呆然と、俺達を見つめた。

 



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デジャヴ

「イテテ、あの女………容赦なくぶん殴りやがって」

 

「悪いな、乙坂」

 

乙坂の隣を歩き、乙坂の家へと向かう。

 

何故乙坂の隣を歩いてるかというと、俺が個人的に心配だったので送っている。

 

「アンタが謝ることじゃない。で、アンタも僕と同じクチなのか?」

 

「違う。俺は、友利に助けられたんだ」

 

「助けられた?」

 

「能力に目覚めて、自暴自棄になり、ストレス発散と日々の生活費の稼ぎの為に不良を狩って、生活してた俺を、友利は助けてくれた。まぁ、他にも色々あったが、とにかく、俺は友利に救われたんだ。だから、アイツの為にこの力を使ってやろうと思った。それだけだ」

 

「ふ~ん…………好きなのか?」

 

乙坂の質問に思わず、転びかけた。

 

「好きね………正直分からん。アイツの事は好きだが、それが愛情か友情か。それか分からん」

 

「…………そうか」

 

乙坂の家に着き、俺は帰ろうと乙坂に声を掛ける。

 

「じゃ、俺は帰るな」

 

「帰るのか?折角だ、上がって行けよ」

 

「いいのか?じゃ、お言葉に甘えるぞ」

 

「ああ。(あれ?どうして僕はコイツを誘てるんだ?)」

 

乙坂が何故か不思議そうな顔をするが、取り敢えず後に続いて階段を上がる。

 

「ただいま~」

 

「おかえりなさいませ!有宇お兄ちゃん!」

 

扉を開け、乙坂が言うと中から元気いっぱいの声が聞こえた。

 

お兄ちゃんってことは、妹さんか。

 

「わあっ!?どうしたの、その顔!?」

 

乙坂が顔に怪我をしているのに気付き、妹さんが慌てる。

 

「えっと、体育の時間にちょっと……な」

 

「あ、そうそう!叔父さんから凄い話を聞いたのですぅ!あゆと有宇お兄ちゃんが星ノ海学園の中等部と高等部に特待生として転入すると聞いたのですぅ!本当なのですか?」

 

「(マジかよ)……まぁ、本当だ」

 

「おお!それは家計が助かるのですぅ!それと叔父さんからお祝いに美味しいものが届くそうですぅ!」

 

妹さんは両手を上げて大喜びする。

 

本当に中学生か?

 

言動が幼すぎる気がするぞ。

 

「でも、いいのか?学校が変わるだぞ。友達とも別れることになるし」

 

「今は、スマホで顔を見ながらおしゃべりできるので、それほど寂しくはないのですぅ!」

 

「……そうか」

 

「ところで、そちらの方はどちらさまなのですぅ?」

 

妹さんが俺に気付き、声を掛けて来る。

 

「星ノ海学園の生徒会の一之瀬響です。お兄さんは、星ノ海学園に来たら、すぐに生徒会の仕事に参加してもらうから、そのことでお話をしに上がらせてもらったんだ」

 

「おお、そうでしたか!乙坂歩未と申します!有宇お兄ちゃん共々、よろしくお願いしますのですぅ!」

 

「折角だ、晩飯も食べて行けよ」

 

「いや、流石にそこまでお邪魔するわけには」

 

「それは名案なのですぅ!是非食べて行ってください!」

 

妹さんもとい、歩未ちゃんに押し切られる形で、俺はそのまま乙坂家で晩御飯をごちそうされることになった。

 

台所では、歩未ちゃんが鼻歌を歌いながら料理をしてる。

 

「乙坂、つかぬ事を聞くが、親御さんは?」

 

「離婚した。で、僕らを引き取った母親は、親権を叔父さんに押し付けて、どっかに消えた」

 

「………すまなかった。変なこと聞いて」

 

「いや、気にしてない。家族は僕と歩未の二人だけ。そう思うことにしたから」

 

乙坂の奴は結構、強いな。

 

親に捨てられたにも関わらず、妹と二人で強く生きようとしてる。

 

そうしてる間に、晩御飯はできたらしく、俺と乙坂の前に料理が置かれる。

「今日の夕飯は、有宇お兄ちゃんの大好きなオムライスなのですぅ!」

 

「へぇ~、うまそうだな。ありがたく頂くよ、歩未ちゃん」

 

「はい!どうぞなのですぅ!」

 

スプーンを手に取り、いただきますと言ってからオムライスを食べる。

 

一口目を入れて、俺が思ったことはこれだ。

 

(甘っ!?)

 

なんだ、このオムライスのライスは!?

 

甘いぞ!

 

「どうでしょうか?」

 

歩未ちゃんが目を輝かせて聞いて来る。

 

「えっと………このライスに何を入れたの?」

 

「それは、乙坂家特製のピザソースなのですぅ!お口にあったでしょうか?」

 

正直に言うと、甘い。

 

少なくとも大人の舌には合わない。

 

だが、こんなに目を輝かせてる子にそんな事は言えない。

 

「あ、ああ………美味しいよ」

 

「やったー!」

 

喜ぶ歩未ちゃんを横目にし、乙坂を見る。

 

(毎晩、こんなに甘いのか?)

 

(毎晩どころか、毎日だ)

 

乙坂の苦労が目に浮かんでくる。

 

こればっか、食ってたら、将来糖尿病まっしぐらだな。

 

「ああ、お母さんのオムライス、久々にたべたいなぁ」

 

「……母さんの事は忘れろ」

 

「まだ怒ってるの?許してあげてほしいのですぅ」

 

「僕たちに両親はいない。家族はお前と僕の二人だけだ」

 

「そっかぁ。でもね、あゆ時々思うんだ。もう一人家族が居たような気がするのですぅ」

 

「それは気のせいだ。兄妹は僕とお前だけ。他にはいない」

 

歩未ちゃんの話に乙坂は冷たく言い返す。

 

「気がするって言えば、お客さんがうちに来たのって懐かしい感じがするのですぅ」

 

「そうなのか?」

 

「それも気のせいだ。うちに人が来たのは今日が初めてだ」

 

乙坂と歩未ちゃんの話に耳を傾けながら、甘い以外は普通においしかったので、なんとか完食する。

 

そして、食後のお茶をもらい、帰ることにした。

 

「今日は悪いな。ごちそうになって」

 

「いや、別にかまわない。誘ったのは僕の方だ」

 

「明日は引っ越しだろ。学校が終わってからになるが、手伝いに行くよ」

 

「悪いな、頼むよ」

 

「おお、響お兄ちゃん、明日も会えるですか?」

 

歩未ちゃんが元気な声で聴いて来る。

 

「ああ、手伝いに行くよ」

 

そう言って、歩未ちゃんの頭を撫でる。

 

歩未ちゃんは気持ちよさそうに目を閉じる。

 

その瞬間、何かが頭を過った。

 

にこにこと笑う、女の子。

 

その横で仏頂面をする男の子。

 

そして、その様子を見て笑う男の人と女の人。

 

この光景……………どっかで見たことがある?

 

「響お兄ちゃん?」

 

「どうした、一之瀬?」

 

「あ……いや、なんでもない」

 

いや、気のせいだ。

 

ただのデジャヴに決まってる。

 

そう自分に言い聞かせ、俺は乙坂家を後にした。

 




歩未ちゃんは響に懐きました。


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馬に蹴られろ

授業が終わり、帰り支度をしてると高城が話しかけてきた。

 

「一之瀬さん、この後お暇ですか?」

 

「悪い。この後、乙坂たちの引っ越しの手伝いに行く予定なんだ」

 

「それは奇遇ですね。私たちも引越しの手伝いに行くんで」

 

いつの間にか、俺の背後に居た友利が俺の襟を掴む。

 

「と言う訳で、全員で行くっすよ」

 

「別に逃げないから、襟を離せ」

 

三人で、マンションへと向かい乙坂たちがこれから住む部屋へと向かう。

 

友利は、何食わぬ顔で扉を開けようとする。

 

「待て、友利。断りもなしに入るな」

 

「別にいいっしょ」

 

「ダメだ」

 

そう言い、インターホンを押す。

 

「どちらさまでしょうかぁ?」

 

この声は歩未ちゃんか。

 

「こんにちは。一之瀬だけど、手伝いに来たよ」

 

そう言うと、扉の向こう側からドタドタを走ってくる音が聞こえ、扉が勢いよく空いた。

 

「響お兄ちゃん!」

 

歩未ちゃんが勢いよく飛び出し、そして、俺の腹部目掛けて頭突きを繰り出した。

 

「ぐふっ!」

 

鳩尾にいい一撃を貰い、口から何かが出そうになるが、それを我慢し、受け止める。

 

「昨日ぶりだね。でも、頭突きは危ないから今度からは止めて」

 

「わかりましたのですぅ」

 

「よし、良い子だ」

 

そう言って、頭を撫でると昨日みたいに目を細めて喜ぶ。

 

「どうやら、乙坂さんの妹さんと、仲良くなってみたいですね」

 

「ああ、昨日乙坂の家に行った時にな」

 

歩未ちゃんの頭を撫でながら、答えると友利が携帯を取り出し、何処かに電話駆け出した。

 

「すみません、警察ですか?目の前に、ロリコン犯罪者が居るんですが」

 

「ちょっと待て!」

 

「響お兄ちゃん、ロリコンって何かのコンテスト?」

 

「歩未ちゃんは知らなくていいからね!」

 

「すみません、ロリコンじゃなくてペドフェリアでした」

 

「友利さぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

必死に友利に言い訳をし、事情を説明すると、「わかりました」っと言って、舌打ちをし、女の子がしてはいけない顔をして、不機嫌となった。

 

俺が何をした?

 

高城はと言うと「女心が分からに人ですね」っと言ってたが、意味が分からん。

 

「一之瀬………と、お前たちも来たのかよ」

 

「二人だけじゃ大変でしょ?お手伝いに来ました」

 

「自己紹介がまだでしたね、私は高城。彼女は友利さんです」

 

「一之瀬はともかく、お前たち二人は余計なお世話だ」

 

「響には随分優しいっすね。ホモですか?」

 

「違う!(………言われてみれば、どうして僕は一之瀬に対してここまで友好的なんだ?)」

 

「人手は多い方がいいだろ。さっさと引っ越しを終わらせようぜ」

 

「では、手分けして始めましょう」

 

「はい」

 

高城が上着を脱ぎ、放り投げるといつの間にか割烹着に着替えており、俺と乙坂は思わず驚いた。

 

引っ越しは順調に終わりに向かい、途中、友利が能力で歩未ちゃんを驚かせたり、乙坂の叔父さんからのお祝いの品が金さんラーメンだったり、歩未ちゃんが必要以上にスキンシップしてきたり、そのたびに、友利が携帯で警察に連絡しようとしたり、舌打ちしたり、不機嫌になったり、してはいけない顔をしたりと色々あった。

 

本当に色々あったが、とにかく終わった。

 

「では、我々はこれで失礼します」

 

高城が上着片手に、割烹着姿で言う。

 

着替えろよ。

 

「帰っちゃうの?晩御飯作るから、食べて行ってほしいのですぅ」

 

「五人分の食器が無い」

 

「といことらしいので」

 

歩未ちゃんは目に見えて落ち込んでる。

 

そんな歩未ちゃんの頭に手を置き、友利は優しい表情と瞳で話掛ける。

 

「大丈夫。また会えますから」

 

「……うん!」

 

友利の言葉に歩未ちゃんは笑顔になり、俺達を元気に見送ってくれた。

 

「意外だったな」

 

「何がですか?」

 

「歩未ちゃんが絡むと不機嫌だったから、てっきり年下は嫌いなんだと思ったが、そうじゃなかったんだな」

 

そう言うと、友利は無言になり、そして止まる。

 

そして、勢いよく振り返ると、俺の足の甲を踵で踏んづけた。

 

「あがっ!?」

 

「一回馬に蹴られて死んで来い、ガチで」

 

足を押さえて蹲る俺に冷たく吐き捨て、友利は去って行った。

 

「お、俺が何をしたって言うんだ…………」

 

「やれやれ、見ていて飽きないお二人です」

 

高城の言葉を聞き、俺は足の痛みに涙を流した。

 



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転校

乙坂が転校してくる日。

 

俺たち生徒会メンバーは職員室の前に集まっていた。

 

「失礼しました」

 

乙坂が出て来て、職員室の扉を閉めると友利が声を掛けた。

 

「ようこそ、我が校へ」

 

「うわっ!」

 

俺達の顔を見て、乙坂は溜息を吐く。

 

「……ここでは全生徒が特殊能力者なのか?」

 

「いえ、その可能性がある者、前兆がある者の方が大半です」

 

そう言えば、その辺の事はあまり聞いてなかったな。

 

全員が全員、特殊能力者ってわけじゃないんだな。

 

「でも、それだけの理由で転入だなんて」

 

「昔、我々の様な特殊な力を持った者は、尽く脳科学者のモルモットにされたんっすよ。一度捕まったら人生おしまい」

 

「はっ!そんな大げさな」

 

乙坂が鼻で笑う。

 

「私の兄のことなんですけどね」

 

友利があまりにも冷静にそう言う物で、俺と乙坂は言葉を失った。

 

「能力者を守る為にある人物が今のシステムを作り出した。兄は間に合いませんでしたが」

 

友利の奴、兄貴が居たのか。

 

まぁ、そんな事情があったら言いにくいだろうけどな。

 

「でも、お前は僕にその力を使えと言ってるじゃないか」

 

「生徒会だけは特別なんです」

 

「お前の様に、能力を悪用する特殊能力者を保護又は脅して力を使わせないようにする。それが生徒会が特別に能力を使うことを許されてる理由だ」

 

「だけど、なんで僕がそんなことを!」

 

「まぁまぁ、いいじゃねぇかよ」

 

怒った様に怒鳴る乙坂の肩を叩き落ち着かせる。

 

「その代わりにそれ相応の手当ても出る。家計が助かるし、歩未ちゃんに余計な負担を掛けさせなくても済むぜ」

 

俺がそう言うと乙坂は少し悩むが、結局は折れてくれた。

 

そして、乙坂のクラスは俺達と同じだった。

 

「乙坂有宇です。陽野森高校から来ました。よろしくお願いします」

 

乙坂は俗に言う、イケメンスマイルで笑う。

 

クラスの女子たち(友利を除く)から黄色い歓声を浴び、男子(俺と高城を除く)から嫉妬のまなざしを受けている。

 

だが、クラスに俺と高城、友利の三人が居ることに目を見開き驚いていた。

 

一時間目の後、乙坂は俺の時と同様に質問攻めに合っていた。

 

昼休みになると流石に人も乙坂への質問を止めた。

 

「乙坂さんは、お昼はどうされるんですか?」

 

高城が前を覗き込むように、乙坂に尋ねる。

 

乙坂は慌てて、何かを隠し、答える。

 

「いや、何もなくて」

 

「では、一緒に学食に行きましょう。案内します」

 

「そりゃ、助かる。…………アイツは誘わないのか」

 

乙坂が友利の方を見てそう言う。

 

「貴方が良ければ誘っても構いませんが」

 

「………いや、いい」

 

友利は誘わずに、三人で歩きながら学食へ向かうと既に、席は満席で空いてるところは一つも無かった。

 

「空いてないな」

 

「では、購買でパンを買って教室で食べましょう」

 

「いや、無理だ。購買もかなり混んでる」

 

俺が購買の方を見ながら答えると、高城は笑顔で返してきた。

 

「ご安心を。そこは私の能力の見せ所です」

 

「使っていいのか?」

 

「監視カメラの死角から狙います。ですが、あまりの早さ故、どのようなパンになるかは運次第です」

 

目つきを鋭くし、ポッケか小銭を出した瞬間、俺達の視界から高城の姿は消え、学食は大惨事になり、ガラスは破壊された。

 

「お待たせしました」

 

俺と乙坂の背後から声を掛けられ、振り向くとそこには血まみれで笑顔の高城がパンを手に立っていた。

 

「おっ、今日はカツサンド。当たりですね」

 

「だ、大丈夫なのか?」

 

「制服の下に防具を着ているので、特に深い傷はありませんが」

 

いや、前も言ったけど頭から血が噴き出てるからな。

 

教室へと戻り、高城が体を張って買ってきてくれたサンドイッチを手に取っる。

 

「全部カツサンドじゃないか」

 

「瞬間移動ですよ。品定めする暇があるとでも」

 

「しかも潰れてるぞ」

 

「瞬間移動ですよ。物を掴む力のさじ加減が可能とでも」

 

不完全な能力だとでも言いたげな目をして、乙坂はカツサンドの袋を開ける。

 

そして、席で一人、コンビニ弁当を食べる友利を見る。

 

「生徒会長なのに女友達もいないのか?」

 

「対象の人間以外から視認されない。言い換えれば、それ以外の人間からは見えるんです。それなりの理由があるとは言え、彼女が能力を使って暴力を振るってる姿を周りの人間が見ていたら、どう思うでしょう。監視カメラにはただの喧嘩にしか映らない。そんなことをしていたら、嫌われ者になるのは当然かと」

 

話を聞いて、あの日、友利にリンチしていた女生徒の事を思い出した。

 

今思い出してもむしゃくしゃする。

 

「でも、中学生になるまで、彼女はそんな性格ではなかったそうですよ」

 

「え?」

 

「おっと、こちらに来ましたよ」

 

高城の言う通り、友利が弁当を食べながらこちらへとやって来た。

 

「協力者が現れます」

 

「は?どういう意味だ?」

 

「生徒会室に集合って意味だ」

 

協力者がなんなのか分からない乙坂は、俺達の後を不思議そうに付いて来て生徒会室へと着く。

 

「一体何が始まるって言うんだ?」

 

乙坂がそう言った直後、外から濡れた足音が聞こえ、そして、扉を勢いよく開けて入って来た。

 

「うわぁ!?なんだこいつは?」

 

乙坂の声を無視し、協力者は地図の前に立ち、指を一本差し出す。

 

水滴が落ち、地図を濡らし、協力者は口を開く。

 

「能力は………念写」

 

そう言い残し、協力者は生徒会室を出て行った。

 

「今のは!?」

 

「特殊能力者の場所と能力を教えてくれる協力者だ。見た目が気になるかもしれんが、時期になれる」

 

「難波高校か。待ち伏せすっか。早退していくぞ」

 

「え!?何しに?」

 

「捜査に決まってるっしょ」

 

「警察でもないのに?」

 

そう言う乙坂に友利はあきれるように溜息を吐く。

 

「その警察に見つかりでもしたら、その特殊能力者の人生は終わりなんです」

 

「マジかよ」

 

高城の説明に乙坂までも溜息を吐き、俺達は難波高校へ向かった。

 



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兄の所へ

「では、聞き込み開始―」

 

「はい!」

 

「おう」

 

いつも通りの友利の棒読みに俺と高城が返事をする。

 

友利はビデオカメラ片手に聞き込みを始め、高城も聞き込みを始める。

 

「一之瀬、何をすればいいんだ?」

 

「取り敢えずは生徒への聞き込みだ。能力が念写だから写真関係でまつわる噂を聞くのがいいだろ」

 

「やってられるか。ただの頭のおかしい連中だろ」

 

「ま、傍から見ればそうだろうな」

 

苦笑し、俺も聞き込みを開始する。

 

そして、現在

 

俺が聞き込みで得た情報は、女性の下着姿の写真が取引されている情報のみだ。

 

恐らくは、その写真を売ってる奴が念写の特殊能力者なんだろう。

 

「情報が少なすぎるな。もうちょっと聞き込みをするか」

 

再度聞き込みを開始しようとすると、スマホに友利から着信が入った。

 

「友利、どうした?」

 

『特殊能力者が見つかりました』

 

「本当か?」

 

『はい、二年E組有動という生徒です。これから、有動が所属する弓道部へ向かうので来てください』

 

それだけ言うと友利は通話を切る。

 

弓道部へ向かおうとした時、少々やることを思い出し、弓道部へ向かう前にそこへと向かった。

 

用事を済ませ、弓道部へ行くと、入り口前に、乙坂と高城が待機し、弓道場では友利と有動が会話をしていた。

 

「一之瀬、お前一体どこに行ってたんだ?」

 

「それは後だ。高城、今の様子は?」

 

「友利さんが、有動さんに念写の能力で撮った写真について話してます」

 

入り口から中の様子を見ると、有動は一瞬だけ悔しそうな表情をしたが、すぐに冷静に言葉を返した。

 

「写真?念写能力?なんのことだが?」

 

白を切るつもりか。

 

だが、俺は懐に手を入れ、あるものを出す。

 

「残念だが証拠がある」

 

弓道場内に入り、有動の足元に何枚か写真を投げ告げる。

 

「アンタの部室のロッカーにあった写真だ。証拠として、俺のデジカメに動画で保存してある。部室のロッカー程度なら、簡単に開けられるぜ」

 

友利に習っておいて良かったぜ、ピッキング術。

 

まぁ、能力使って指先の感覚を強化したおかげでもあるが。

 

用事と言うのはこれのことだ。

 

「こんな真似して金を稼いで、嬉しいか?写真を売られた子が悲しむとか思わなかったのか?良心が痛まなかったのか?」

 

「仕方がないだろ!親が病気なんだよ!金が必要なんだ!」

 

「家庭的な問題ですか?例えそうだとしても、そんな金を貰って親御さんは喜ばないっすよ」

 

有動は友利を睨みつけ、懐から写真に使われる紙を取り出す。

 

「お前の下着姿を念写した。ばら撒かれたくなかったら、全てなかったことにしろ」

 

「え?今ので念写終わりっすか?パないな!でも……そんなの需要無いっすよ?」

 

「………どこからどうみても上玉だろ」

 

「まじっすか!?褒められたー!やったー!」

 

「今喜ぶことじゃないだろ」

 

友利が喜び、俺がツッコんでる間に、乙坂は有動へ乗り移ると写真を友利目掛けて投げ渡す。

 

「ナイス」

 

友利がそれをキャッチすると、乗り移りが終わり、有動が手元に写真が無いことに気付いて、慌てる。

 

「な!?写真が……」

 

「ここにありまーす。………積みました。観念してください」

 

流石に終わったと思ったが、次の瞬間有動は信じられないことをした。

 

弓を構え、矢を友利へと向けた。

 

「全てを見なかったことにしろ」

 

「……矢を人に向けるなんてさいてーです…武道精神………ナッシングだよ!!」

 

友利がダン!と床を踏んで言う。

 

それに驚き、有動は矢を持っていた手を離し、矢が友利の顔を目掛け飛ぶ。

 

だが次の瞬間、友利と有動の間を何かが通り抜け、いつの間にか矢が消え、窓ガラスが割れた。

 

恐らく、高城が能力で矢を取ったんだろう。

 

俺は有動に近づき、弓を奪う。

 

「人に向けて弓を引くな…………弓道を習う時、最初に襲わるべきことだろ。それを、自分の身の安全の為に破る。本当に最低だな」

 

そう言うと、有動は何も言わず黙って下を俯いた。

 

「私たちは別に、貴方を警察に突き出そうとは考えていません。ただ、貴方がその能力を使い続けていると、酷い人生になります。実験体として、科学者に解剖とかされたいですか?」

 

「か、解剖!?」

 

「だから、警告です。その能力は思春期の時のみに現れる病の様なもの。いずれは消えます。お金はまっとうな方法で稼いでください」

 

有動は膝をつき、能力を使わないことを誓った。

 

これで一件落着か…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、いつもこんな感じでやってるのか?」

 

帰り道のバス停でバスを待っていると乙坂がそう聞いて来た。

 

「はい。特殊能力者を兄の様な目に合わせない為に」

 

「………えっと、実際、科学者に捕まったお前の兄さんはどうなってるんだ?」

 

「……隠すようなことでもないですし、明日行きますか」

 

「何処に?」

 

「兄の所です」

 



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信頼できる人

「では、行きましょう」

 

翌日、午前の授業が終わると友利が俺達に近づいてそう言った。

 

「高城は行かないのか?」

 

「遠慮しておきます。三人に行って来て下さい」

 

高城を除く俺達三人は、電車を使い、友利の兄が居る場所へと向かった。

 

「お昼はまだですよね」

 

駅に着くなり、友利が聞いて来る。

 

「ああ」

 

「そのまま来たからな」

 

「なら、駅弁買いましょう」

 

そう言って友利は売店で駅弁を購入し、それを電車の中で食べていた。

 

いや、電車ってこれ普通の電車の中なんだが。

 

しかも、紐を引っ張って温めるタイプの弁当をこんな場所で食べるなよ。

 

他の乗客に迷惑だろ。

 

そう思いながら、横に座る友利を見る。

 

友利はそんなことも気にせず、もくもく弁当を食べている。

 

「あれ?それ食べないんですか?」

 

乙坂が買って手を付けてないサンドイッチにまで手を出すか。

 

乙坂が電車を降りてから食べるように説得し、友利は乙坂のサンドイッチをバス停でバスを待っている時に食べていた。

 

どんだけ食えばいいんだよ。

 

さっき、俺の買ったおにぎりも食ってたよな。

 

そう思ってるうちにバスが到着し、乗り込んでから数分後に、友利がお兄さんの事を離し始めた。

 

「兄が特殊能力者になったのは、私が受験で国立の附属中に合格した時の事です。うちは母子家庭でしたので、国立を受けたのも家計の為でした。兄はバンドやっていて、レコード会社と契約する寸前でした。ですが、兄はレコード会社と契約できず、私も進学が出来ませんでした」

 

俺と乙坂は同時に息を飲んだ。

 

「私と兄が寮がある学校から入学の誘いが来たんです。母は、そっちの方を私たちに勧めてきたんです。兄は、猛反対してました。ですが、母が土下座をしてまで行ってくれと言ったんです。初めてでした、母が土下座をする姿なんて」

 

俺達は何も言わずにただ友利の話を聞いていた。

 

「そこは見かけは学校で、友達もすぐにできました。ですが、毎日学校が終われば健康診断みたいなものを受けさせられ、兄とは同じ学校なのに会えない。兄を探そうとすると、決まって友達がそれを止めようとした。兄はその間ずっと、科学者たちの実験体にされてました。兄の能力は空気を自由に振動させる能力。その能力でギターの音を様々な音色に変えていたことから、科学者に発見された。その能力を解析すれば、通信をジャミングできるし、電波ジャックも可能と科学者は考えた。兄と会えたのは約一年後。兄は………もうかつての兄ではなかった。私を妹と認識することさえできなかった。友達と思ってた人達も、用意された仮初の友達。私が放課後毎日検査を受けていたのは兄妹だと、能力を発現する可能性が高いから。もう誰も信じないと心に決め、その施設から兄と一緒に逃げ出しました」

 

「……その後、どうしたんだ?」

 

「唯一信頼できる人と出会い、助けられました」

 

「その人は「あ、次降ります」

 

信頼できる人が誰なのかを聞けず、俺達は次のバス停で降りた。

 

そこは、病院だった。

 

長い階段を上り、病院へ着くと、友利は面会の手続きをし、俺達をお兄さんのいる病室へと案内した。

 

そして、友利が扉を開けた瞬間、俺と乙坂はその光景に思わず目を見開き、固まった。

 

友利のお兄さんは発狂し、羽毛布団を引き裂いて中身を部屋中にばら撒いていた。

 

「こ、これは………」

 

「また鎮静剤が切れてる」

 

友利は分かり切ったような様子で、ナースコールをし、近くの椅子に座った。

 

「………友利、お前のお兄さんは一体何をしてるんだ?」

 

恐る恐る友利に尋ねると、友利はいつものように答えた。

 

「作曲です。兄はこれで、ギターを弾いてるつもりなんです。唸って聞こえるのは主旋律。メロディーなんです」

 

そうしてる間、看護師さんが慌ててやって来て鎮静剤を打った。

 

その様子を見て友利は

 

「あ~あ………また布団がダメになった」

 

小さく、そして、悲しそうにそう呟いた。

 

鎮静剤を打たれ、友利のお兄さんは落ち着き出し、そして、暴れるのを止めた。

 

だが、その様子はまるで魂がなく、ただの抜け殻のような感じだった。

 

「外に行きませんか?今の時間、ちょうど絶景ですよ」

 

お兄さんを車いすに乗せ、外に出て、友利の案内で移動する。

 

着いた場所の絶景に俺と乙坂は思わず息を飲んだ。

 

「凄いっしょ?」

 

「……凄い」

 

「……ああ、絶景だな」

 

夕日に照らされ海面が美しく輝いていた。

 

ありきたりな表現だが、その表現が最もしっくりくるぐらいに絶景だった。

 

「こんな特別な環境……一体どうやって?」

 

「唯一信頼できる人のお陰です。一番美しい景色の病院に無償で入れてくれました」

 

「そこまでしてくれる人がいるのか……」

 

「………はぁ……やっぱり興味を示さないか」

 

「でも、もしかしたらもうすぐ特効薬ができるかも」

 

「こんな患者を救う研究なんて、どこもしてませんよ。科学者にとって、私たちは乾電池と同じ。能力が使えなくなったら別の能力者で実験する。元能力者を助けるメリットはない。………………私たちも明日はどうなってるかは分かりません」

 

「怖いことを「乙坂」

 

俺は乙坂の肩を掴み、首を横に振る。

 

俺が何を言いたいのかを察し、黙り込んだ。

 

「…………すまない」

 

「………そろそろ帰りましょう」

 

帰りのバスの中。

 

俺たちの間に、言葉は無かった。

 

心なしか、行きの時よりの俺達の距離は開いていた。

 

「…………大変だったんだな」

 

「同情っすか?止めて下さいよ、カンニング魔のくせに」

 

乙坂らしくもない発言に、俺は少し驚きつつも何も言わず外を見続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室へと帰り、簡単な夕飯を食べた後、俺はベランダから星空を眺めた。

 

友利があの時言った布団がダメになったって言葉。

 

口では、ああは言っても、きっとお兄さんが回復することを信じてるんだろうな。

 

「…………今の俺がアイツにしてやれることってなんだろうな」

 

そう呟き、俺は空を眺める。

 

綺麗だな…………

 

そう思った時、俺は部屋を出て屋上へと上がった。

 

指先の感覚を強化し、屋上へと繋がる扉の鍵を開ける。

 

屋上へと出ると、夜風が顔を撫でる。

 

見ると、屋上には先客が居た。

 

そして、その先客は俺の知ってる奴だった。

 

「友利、何してるんだ?」

 

「その言葉そっくりそのままお返しします。貴方こそ、ここで何を?」

 

「星空が綺麗だったから、屋上から観ようと思っただけだ」

 

「私も似たようなもんです」

 

会話がそこで途切れ、二人で黙ったまま星空を見上げる。

 

「………少しだけ、期待していたんです」

 

「え?」

 

「………兄が、昔みたいに笑うのを。毎回、兄の面会に行くたびに、もしかしたら症状が良くなっているかもと。僅かながら期待している自分が居るんです」

 

やっぱり、友利はお兄さんの事を諦めきれていないんだ。

 

「馬鹿みたいですよね」

 

「………泣けとまでは言わねぇよ」

 

そう言って、俺は友利の頭に手を置く。

 

「お前は強い奴だからな。人前で泣くなんてことはしないだろうがよ、辛けりゃ言葉にしてもいいんだぜ。言葉を聞いて受け止めてやるぐらいなら、俺でもできるからよ」

 

柄にもないことを言って少々恥ずかしくなり、頭を掻きながら誤魔化す。

 

すると、友利が正面から抱き付いて来た。

 

「お、おい!?」

 

「すみません………少し、こうさせてください」

 

声が僅かに震えているのが分かり、俺は黙って抱き付かれたままでいた。

 

暫くすると、友利は顔を僅かに赤くして離れた。

 

「ありがとうございます……少し落ち着けました」

 

「そうかい。そりゃ、良かったな」

 

行き成り大胆な行動に驚きしたが、友利の為になったなら良かった。

 

「帰りましょう。もう遅いですし」

 

「ああ、そうだな」

 

屋上の扉を閉め、友利と降りる。

 

「なぁ」

 

「はい?」

 

「これからも、頑張って行こうぜ、奈緒(・・)

 

俺が下の名前で呼ぶと奈緒は一瞬驚いた表情をするが、すぐ笑顔になった。

 

「………当たり前ですよ」

 

その笑顔を見て、俺は思った。

 

今はまだ、こいつの役には立てないかもしれないが、いつか絶対に役に立てる存在になる。

 

少なくとも、奈緒が言ってた唯一信頼できる人ぐらいにはな。

 




これで友利は完全に落ちたと思います。


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口寄せ

ある日の朝、乙坂が元気なく教室へと入って来た。

 

「おはようございます」

 

「……ああ、おはよう」

 

「元気がないな。体調でも悪いのか?」

 

「僕は基本こんな感じだ。特に朝はな」

 

鞄を机に置き、だるそうに座る。

 

「では、今日のお昼は奮発して数量限定の牛タンカレーにして、テンションを上げましょう」

 

「数量限定って、間に合うのか?」

 

「私の能力を使えばいともたやすく!」

 

「そうだったな」

 

そして、昼になると同時に高城は扉を開け、能力を使い学食へと向かった。

 

いつも通り、色々壊しながら。

 

「乙坂、悩んでも始まらないぞ」

 

「分かってるよ」

 

乙坂と二人で学食に向かうと、昔見た光景がそこにはあった。

 

高城が血まみれの姿で笑い、テーブルには用意された牛タンカレー。

 

「お待ちしておりました」

 

「取り敢えず、お前は病院に行った方がいい気がするんだが……」

 

「これぐらい、もう慣れっこです」

 

高城は笑顔でそう言い、テーブルに置かれてる紙ナプキンで血を拭きとる。

 

そんな高城に呆れながら、乙坂は席に着いてカレーを一口食べる。

 

すると、乙坂は俺が知る限り一番素晴らしい笑顔で喜び、涙を流していた。

 

「迸るスパイス!これぞカレー!うまい!」

 

「ご期待に添えて良かったです」

 

「やっぱりカレーって辛い物だよな」

 

まぁ、歩未ちゃんの料理は甘いからな。

 

普通の味に飢えてるんだろう。

 

「中辛ですが……このぐらいがお好みですか?」

 

高城は若干引き気味に聞く。

 

「牛タンもトロトロで最高だよ」

 

「カレーがお好きなんですね」

 

「ああ、今思い出したよ」

 

涙を流してカレーを完食する乙坂を横目に俺もカレーを食べる。

 

うん、やっぱりうまい。

 

あらかた食べ終わると同時に、奈緒から着信が入り、電話に出る。

 

「どうした?」

 

『協力者が現れます。すぐに生徒会室へ来てください』

 

「わかった」

 

通話を切り、二人を見る。

 

「協力者だ。生徒会室に行くぞ」

 

生徒会室へと向かい、暫く待つと、いつも通り協力者がずぶ濡れで現れる。

 

「なぁ、どうしてアイツはいつも濡れてるんだ?」

 

乙坂が隣りにいる高城にこっそりと聞く。

 

「能力の関係で、服を着たまま濡れてないと能力が使えないんです」

 

いつも思うが、本当に不完全な能力だよな。

 

協力者はいつも通り、地図の前に立ち、水滴を落とす。

 

「能力は………口寄せ」

 

「口寄せ?」

 

「降霊術だな。自分に死者の霊を憑依させる。イタコって言った方が分かりやすいだろう」

 

「インチキとかじゃなく、それを本当に使えるとすれば凄いじゃないか」

 

「もう一つ……発火」

 

更にもう一つの能力を告げ、協力者は去って行った。

 

「二つの能力を有してるなんて!?」

 

「すぐに確保した方がいいですね。ですが………」

 

奈緒は地図の前へと移動し、協力者が示した場所を見る。

 

「これ、ただの道です。移動中ですね」

 

「平日の真昼間に?学校サボってるとか?」

 

「それがっすね、ここ人気のない細い路地のはずなんですけどね」

 

特殊能力者が平日の昼間に人気のない通りを移動してる………

 

乙坂の言う通り、ただのサボリならいいが、もし、追われてるとしたら………

 

「それがどうしたんだよ?」

 

意味が分かってない乙坂を無視し、俺は奈緒に話しかける。

 

「奈緒、早急に確保に向かった方がいいと思うぞ」

 

「無論です。では、行きましょう」

 

協力者が示した路地へと向かうと、そこは確かに細い路地で昼間だと言うのに、なぜKあ妙に薄暗かった。

 

「ここであってるのか?」

 

「はい」

 

四人で路地を進んでいると、脇に置かれてる箱に奈緒が注目する。

 

「どうした?」

 

「どうやら、その特殊能力者は急いでたみたいですね」

 

箱をよく見ると、僅かにずれていて、ずれた部分にはほこりが付いていなかった。

 

そして、道の先を見ると真新しい足跡が二人分あった。

 

「奈緒、こっちには足跡がある」

 

「一つはせまい間隔で、もう一つは大きい」

 

「恐らくだが、女の子が男に追われている可能性が高いな」

 

「事件性があるな」

 

「ただ追われてるだけならまだいい。もし、その追ってる男が研究者ならその子は危険だ」

 

「先を急ぎましょう」

 

路地を急いで通り抜けると、スナックの店先で煙草を吸ってる女性がおり、話を聞いてみた。

 

「ああ、さっきのあれね。アイドルが追われてるって撮影でしょ」

 

「アイドル?」

 

「ほら、今人気のある…………そう、西森柚咲ちゃん」

 

「西森柚咲?」

 

「聞いたことあるな」

 

「……ええ!?ゆさりん!」

 

高城が異常なテンションで食い付いて来た。

 

その場を離れて、高城に問いかける。

 

「知ってるのか?」

 

「通称ハロハロ!How-Low-Halloと言うバンドのボーカルも務める今人気上昇中の歌って踊れるアイドルです!」

 

「お前。アイドルオタクだったのか!引くな!」

 

高城の異常なテンションに引きながら、友利が叫ぶ。

 

「小学六年生の時分に、ローティーン向けファッション誌の第十四回読者モデルオーディションでグランプリを受賞し、専属モデルとしてデビュー。その次の年にはムーブメント朝のレギュラー出演が決まり、二年後、受験を理由に降板。そして高校生になって再び芸能界に」

 

「落ち着け。話を戻そう」

 

暴走する高城を乙坂が止め、そして、乙坂がいい顔で話し出す。

 

「その子が特殊能力者で何か問題を起こし追われてる。違うか?」

 

「言われなくても分かってますよ」

 

「くっ…………えっと、シーレックスプロダクション所属か。電話すれば早いんじゃないか?」

 

「相手はアイドルだぞ。事務所がそう簡単に情報を話すわけないだろ」

 

自分の意見を尽く論破され、乙坂が落ち込む。

 

「ですが、どうします?」

 

高城の言う通りだ。

 

圧倒的に情報が少なすぎる。

 

その時、奈緒が声を上げた。

 

「不審者発見!追います!」

 

奈緒の後に続き、走り出すと路地の曲がり角で男が、奈緒の顔を殴り飛ばす。

 

「奈緒!……くっ、乙坂!アイツに乗り移れ!高城!能力で体当たりしろ!」

 

「え?」

 

「分かりました!」

 

乙坂が乗り移る前に高城が能力で走り出す。

 

乙坂は咄嗟に能力を使い、男に乗り移って高城の方を向く。

 

高城は男の腹に体当たりし、そのまま壁に叩きつけた。

 

壁にヒビが入り、男は口から血を吐いて倒れる。

 

「実際にいたいのは僕だから!この作戦は使って欲しくないんだが!」

 

「なら、次からはお前が良い作戦を考えろ」

 

乙坂にそう言い、奈緒を助け起こす。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ。くそっ、ビデオカメラ壊れたらどうすんだよ!」

 

ビデオカメラより自分の体を心配しろよ。

 

そう思いつつ、俺は重体の男の傍へと移動する。

 

「さて、ほら起きろ」

 

男の頬を叩き、無理矢理起こす。

 

「洗いざらい全部吐いてもらうぞ。全部話したら救急車呼んでやる。お前は、何者だ?」

 

「お、お前たちこそ、一体………」

 

「質問してるのは俺だ。俺の質問だけに答えろ。でないと」

 

強化した拳を壁に叩き込むと、その部分が凹み壁が形を変える。

 

「こうなるぞ」

 

「………仕事を頼まれたんだ」

 

「何の?」

 

その質問に対し、男はそっぽを向き答えずにいた。

 

「答えろ。命あっての物種だろ」

 

「………西森柚咲を探してる」

 

「誰に頼まれた?」

 

「太陽テレビ」

 

「の誰だ?」

 

「知らない。本当だ」

 

「…………分かった。もう救急車は呼んであるから、安心しろ」

 

その場を離れ、男が救急車で運ばれるのを確認してると、後ろから声を掛けられた。

 

「お前ら、何者なんだ?」

 

振り向くと、底には赤いジャケットを羽織った男が居た。

 

「西森柚咲さんを探してる者です」

 

「通称ゆさりんです!」

 

高城は無視して男は話を続ける。

 

「何のために?」

 

「追われてるようなので保護しようかと」

 

「柚咲の知り合いなのか?」

 

「大ファンです」

 

次の瞬間、奈緒が高城の腹を蹴り飛ばし、高城は飛ばされる。

 

「一々話の腰を折るな!」

 

「………見ていたが、どうやってあの男を倒した」

 

「俺達は特殊な能力を持ってる。それも、西森柚咲と似た力だ」

 

「な!?………なんでそれを?」

 

「私たちであれば、その子を助けられるかと」

 

「……………なら、証明してくれ。アイツと同じ力を持ってるってことを」

 

「同じではありませんけど……ほい」

 

そう言って、奈緒は(恐らく)男の視界から消えた。

 

「な……消えた!?」

 

「信じてもらえましたか?」

 

「……ああ。付いて来いよ。けど、きっと混乱するぞ」

 

「どういうことですか?」

 

「ややこしいことになってんだよ。お前らの目で確かめてくれ」

 

男の言った言葉に俺たちは疑問符を浮かべ、その男の後に続いた。

 



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黒羽美砂

男に案内され着いたのはもう経営してないであろうクラブだった。

 

中に入り、案内されるまま部屋の一室へと入ると、そこにはニット帽をかぶった男と、西森柚咲がいた。

 

「戻ったか」

 

ニット帽の男は赤ジャケットの男に声を掛ける。

 

西森柚咲はと言うと、パイプ椅子に座り、マシュマロを両手で持って食べていた。

 

マシュマロって両手で食べるの逆に辛いと思うんだが…………

 

「本物のゆさりん!」

 

高城は目の前に本物の西森柚咲が居ることに感激し、近づこうとする。

 

それを赤ジャケット男が捕まえようとすると、するりと体をくねらせ躱し、西森柚咲へと近づく。

 

「ハロハロのCD!全部持ってます!」

 

「………ありがとうございます!」

 

西森柚咲は、高城に若干引きつつも笑顔を浮かべ、お礼を言った。

 

高城はまるで神でも崇めるかのように膝をつく。

 

これがアイドルの力が。

 

目の当たりにすると凄いな。

 

「おい、なんだそいつらは?」

 

「美砂と同じ、特別な力を持った連中だ」

 

「美砂?本名は柚咲じゃなくって、美砂なのか?」

 

「それがややこしい所なんだ」

 

俺が尋ねると赤ジャケット男は頭を掻きながら言うと、ニット帽男が赤ジャケット男の脇を肘で突っつきながら話す。

 

「おい、いいのか?こいつらに話して」

 

「彼奴らをその力で撃退してくれた奴等だからな」

 

「では、直接事情聴取してもいいっすか?」

 

「くだらねぇこと聞きやがったら無事では帰れないと思え」

 

無事ねぇ………果たして無事で済まないのはどっちだろうか………

 

ま、くだらないことを奈緒が聞くはずがない。

 

高城は正直、微妙だが。

 

「初めましてー、友利と言います」

 

奈緒はビデオカメラ片手に西森柚咲に近づく。

 

「初めましてー、ゆさりんこと、西森柚咲です!」

 

自分でゆさりん言うのか?

 

それって少しイタイぞ。

 

「いやー、アイドルって生で初めて見ましたー。まるで作り物の様に可愛いっすね」

 

「私もそこまでお近づきになりたい」

 

高城が暴走気味に前で出る。

 

高城を奈緒が抑え、質問を開始する。

 

「では、まず、貴方の本名を教えて下さい」

 

「黒羽柚咲でっす!」

 

「テメーには聞いてねぇ!」

 

高城が質問に答え、その言い方にイラッと来たのか奈緒は渾身の力を込め、高城を蹴り飛ばす。

 

「黒羽ってかっこいい名字だな」

 

「本名の方が芸名っぽいな」

 

「はい、良く言われます!でも、黒い羽なんて、あまりにもアイドルっぽくないとのことで、西森と付けてもらいました!」

 

「で、黒羽さんは、黒羽さんではない時がある。それは自覚してますか」

 

「自覚はしてない。なんでそんなこと知ってるんだ?」

 

「テメーに、聞いてねぇよ」

 

「んだとっ!?」

 

赤ジャケット男が代わりに答えると、奈緒は高城に向けたような顔をして赤ジャケット男に言う。

 

「で、黒羽さんどうですか?」

 

「そうなんですよ!眠り病というんでしょうか、最近いつの間にか寝ていて起きると違う場所にいたりする…ということがありまして。お医者さんには多重人格のおそれがある…とか言われちゃってます」

 

「そうですか。多重人格ではないので安心してください」

 

事情聴取を止め、奈緒は赤ジャケット男とニット帽男に話をする。

 

「彼女は我々と同じ特殊能力者。死人を自分に降霊させる能力です」

 

「まじかよ」

 

「その能力を使い、貴方たちの言う美砂って子を呼ぶ出してるのでは」

 

「美砂?」

 

マシュマロを食べていた、黒羽が反応する。

 

「どうしました?」

 

「何も聞くな」

 

ニット帽男が奈緒を止め、黒羽に美砂の事を聞くのを止める。

 

「お知合いですか?」

 

「柚咲の一つ上の姉だ。半年前、事故で無くなってる」

 

美砂の話をすると、急に黒羽の様子が変わり、雰囲気、瞳の色、そして、少しではあるが髪の色に僅かな変化が現れた。

 

「てめえ……見ず知らずの相手にあれこれ教えてるんじゃねえよ!!」

 

行き成り黒羽が、ニット帽男の腹部をける

 

「ぐっ…!?」

 

「ええええええっ!!?」

 

アイドルの予想外所か、予想の斜め上を行き過ぎる行動に高城が声を上げる。

 

声に出してないだけで、俺と乙坂も驚いてる。

 

「もしかして、貴方が美砂さん?」

 

奈緒は嬉しそうにビデオカメラを構えて聞く。

 

「狭い場所に揃いもそろってうっぜぇな!!!」

 

黒羽の変わり様………いや、黒羽美砂と言う人物の性格に驚きを隠せずにいると、美砂は掌を翳した。

 

すると、何もない所から火が上がり、別の所に掌を翳すとそこが燃え出す。

 

能力をコントロールできてる!

 

てか、何やってるんだ!

 

「うおっ!すっごい能力!」

 

奈緒は興奮気味にカメラでその様子を録画する。

 

高城は驚きのあまり、乙坂に抱き付いていた。

 

「止めろ、美砂!全員焼き殺す気か!?」

 

赤ジャケット男がそう言うと、美砂は舌打ちをする。

 

「…………そいつはセンスがないな」

 

センスのあるなしで、人を焼き殺すのかよ!

 

美砂が指を鳴らすと、火は嘘のように消えた。

 

「驚きました。自由に呼び出せるのではなく、主導権は美砂さんの方にあるんですね」

 

「なんか文句あるのかよ?」

 

「と言うことは類まれなる憑依体質。そして、その柚咲さんに憑依する美砂さんが発火能力者」

 

「…ああ」

 

「この二人との関係は?」

 

後ろにいるニット帽男と赤ジャケット男について奈緒が聞くと、美砂はすぐに答えた。

 

「生きてた頃、ヤンチャしてた仲間だ」

 

「何故妹さんが追われてるかご存知ですか?」

 

そう聞くと、美砂は顎を動かし、ニット帽男に指示をする。

 

ニット帽男は懐からスマホを取り出し話した。

 

「こいつだ。どっかの現場で柚咲が間違えて持って帰ったテレビ局の大物プロデューサーの物だ。それにメールが届いて、柚咲が読んじまった」

 

「メールを読んで追われるってことは、ヤバイメールなのか?」

 

ニット帽男に尋ねると、ニット帽男は頷き話しを続ける。

 

「金の使い込み。ヤバい連中との付き合い。サツに持っていけばしょっ引かれる内容だ」

 

「電源は切ってありますか?」

 

「ああ。だが、昨日までは切ってなかった」

 

「なら、携帯のGPS機能でこの辺りにいることは知られてるな」

 

「今更、返したところで無事には済まないだろうし、警察に行けば、黒羽さんがそのプロデューサーを売ったことになり芸能活動が出来なくなる」

 

となると、別の方法を取るしかないか。

 

安全かつ、黒羽の今後に影響が出ないようにする方法か……………

 

「なら、テレビ局ごと燃やしてやる」

 

「馬鹿か!そんなことしたら、妹さんが警察に逮捕されるわぁ!」

 

「テメー何様だ!ああん!」

 

「テメーこそ、妹さんを少年院送りにしたいのか?ああん!」

 

女二人が女がしてはいけない顔をして、メンチを切り合う。

 

何て言う構図だ。

 

美砂は少年院って言葉に、表情を変え、椅子に座る。

 

「くっ………そいつはセンスがねぇな」

 

「冷静になって下さい。妹さんを助けたいですよね」

 

「もちろんだ」

 

「なら、協力しあって、相手を逆に脅しにかかりましょう」

 

「……勝算は?」

 

「私は脅す作戦を立てるのが大の得意なんです。信じてください」

 

「リップが良いなぁ。分かった。言う通りにしよう」

 

「お二人も協力してください」

 

「もちろんだ」

 

「美砂が言うなら」

 

そこで、急に美砂が体の力を抜き、どうしたのかと思うと、雰囲気や瞳・髪の色が黒羽のに戻った。

 

「あれ?ひょっとしてぇ、私、また寝てましたかぁ?」

 

「お疲れなんですねぇ。大丈夫っすよ。焼きマシュマロでも食べて落ち着いてください」

 

「あ!マシュマロが焼きたての焼きマシュマロに!」

 

先程、美砂が焼いた焼きマシュマロを黒羽は美味しそうに食べ始める。

 

すると、高城が額を壁に叩き付けはじめた。

 

「私はゆさりんと……今後どう接すればいいのか……さっぱり分からない……」

 

異常な事態に、高城はぶっ壊れ額から血が噴き出すまで壁に額を叩き付けた。

 

そんな高城を無視し、作戦会議が始まった。

 



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歩む道

今回の作戦は、大物プロデューサーが黒羽に手出しできないようにするのが目的だ。

 

まず、柚咲に乗り移った美沙が、プロデューサーを呼び出す。

 

恐らく、相手は一人では来ないで、数人、少なくとも三、四人は人を連れて来ると推測できる。

 

そこで、まず赤ジャケット男とニット帽男は防火服を着た上で連れてこられた人間と入れ替わる。

 

そして、美沙の発火能力で二人を燃やす。

 

防火服を着てるし、火もすぐに消すので大けがはしない手筈だ。

 

残りも、乙坂や高城、奈緒、俺の能力でこっそりかつ大胆に倒す。

 

こうすることで、西森柚咲は謎の能力を、それも複数持ってると、プロデューサーに認識させ、今後逆らえなくさせる。

 

作戦としては、完璧だが、少々問題もある。

 

それは、信用できない人間の前で能力を使うという事だ。

 

もし、そのプロデューサーが、西森柚咲は謎の能力を持ってることを他人に話したらどうなる?

 

普通の人なら冗談だと思って、笑うだろうが、それがなんらかの形で研究者やその関係者の耳に入ったら大変なことになる。

 

ましてや、複数も能力を持ってるとなれば、危険度もかなり高い。

 

「なぁ、奈緒一つ提案があるんだが」

 

 

響SIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三者SIDE END

 

 

深夜、人気のない場所で太陽テレビの大物プロデューサーは西森柚咲が来るのを一人で待っていた。

 

プロデューサーを含めその場所に五人の男が居た。

 

「遅い……いつまで待たせる気だ」

 

プロデューサーは西森柚咲が来ないことに腹を立てはじめる。

 

すると、正面の闇から足音が聞こえ始めた。

 

「やっと来たか」

 

プロデューサーはにやりと笑うが、現れた奴を見て驚いた。

 

それは西森柚咲ではなく、全員黒ずくめの男が立ていた。

 

「太陽テレビのプロデューサーだな。お前が欲しいのはこのスマホだろ」

 

「なっ!?そ………それをどこで………!?」

 

「西森柚咲が間違えって持ち帰ったスマホ。ここにはお前の悪事がぎっしりあった。これは返してやる。その代り、西森柚咲には手を出すな」

 

「俺の事を知られたんだ。あのアイドル娘に、未来はない!」

 

「…………そうか。なら、力で教えてやろう」

 

そう言って、男が指を鳴らすと、一人の男の体から火の手が上がり燃え始める。

 

「うああああああああ!?」

 

「な!?」

 

「もう一人」

 

「うわああああああ!」

 

男がもう一度鳴らすともう一人燃え出し、その場に倒れる。

 

「な、なんだ!?何が起きてる……!?」

 

「言っただろ、言っても分からないなら、力で分からせるってな」

 

「お、お前何者だ……?」

 

「西森柚咲のファンだよ。陰ながら見守り、西森柚咲を助けるな」

 

そう言って、手を振り下ろすとナイフを持っていた男が急に、ナイフを自分の足に突き刺す。

 

「ぐああああああ!?」

 

今度は、手を横に振ると、ナイフを持っていた男の隣に居た男が吹き飛ばされる。

 

「ま、待て!」

 

「待たない」

 

男が拳を振ると、距離があるにもかかわらずプロデューサーは殴られ、男が足を振り下ろすと、頭上から何かが落されたような衝撃が来る。

 

「う、うううっ……!」

 

「スマホは返す」

 

男はスマホを放り投げるように、プロデューサーに渡す。

 

「もし、西森柚咲に手を出してみろ。今回は痛い目を見るだけで済んだが、次は死ぬぞ」

 

「う………うわああああああああ!!!」

 

プロデューサーは地面に転がる男たちを見捨て、その場を逃げ出した。

 

「作戦は成功っすね」

 

「みたいだな」

 

友利が現れ、黒ずくめの男は被っていたフードを外す。

 

その男の正体は響だった。

 

 

第三者SIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響SIDE END

 

俺の提案は簡単だった。

 

まず、プロデューサーの前に現れるのは美沙ではなく、俺。

 

俺は西森柚咲とは直接的な関係はない人間を演じる。

 

この方法なら、影から謎の能力者が西森柚咲を見守っているとプロデューサーに思い込ませれるし、西森柚咲に手を出したら殺されると言う恐怖も与えた。

 

また関係ない人間を演じれば、西森柚咲が能力者と関係があるとは思われない。

 

もしかしたら、怪しまれるかも知れないが、黒羽自身が能力者を演じるよりはマシだ。

 

火を出したのは美沙で、燃えた二人は赤ジャケット男とニット帽男。

 

二人の男には防火服以外にも、耐火ジェルを皮膚に塗ったので火傷は無い。

 

ナイフを自分の足に差した男は、乙坂の能力で乗り移り差してもらっただけだし、吹っ飛んだ男は、高城の瞬間移動。

 

プロデューサーが殴られたのは奈緒が姿を消して、プロデューサーを殴り、踵落しをしたから。

 

とにかくこれで一件落着だ。

 

「ご協力ありがとうございます」

 

「いや、こっちこそ助かった。お陰で、柚咲に手を出したら危険な目に合うって思わせられたし、柚咲自身への危険も減らせた。もうあのプロデューサーは、柚咲に逆らえないだろう」

 

「いえ、まだそうと決まったわけではありません」

 

奈緒がそう言うと、美沙と男二人が表情を変える。

 

「能力者として怪しまれなくても、能力者の関係者として、科学者に怪しまれたら大変な目に遭うかもしれない。それに、万が一能力者とばれたら、実験体として解剖されるかもしれない」

 

「と言う訳で、我々の星ノ海学園へと転入して、我々と行動を共にして下さい」

 

「そんな、なんでだよ!?」

 

赤ジャケット男が怒鳴る。

 

「科学者に捕まれば、人体実験の日々になり、二度と日常へは戻れなくなります。我々の学校と併設するマンションが、黒羽さんにとって日本で一番安全な場所なんです」

 

「………それは、柚咲にとって良い話だ。是非そうしてくれ」

 

「待ってくれ!じゃあ………えっと」

 

「柚咲の力が無くなれば、もう二度と美沙には会えないってことか?」

 

赤ジャケット男の代わりにニット帽男が訪ねると、赤ジャケット男はまくしたてて話す。

 

「そうだ!それを聞きたかった!」

 

「まぁ、そうですけど、そもそも故人ですよ。これまで会えてた方が不自然なんじゃないですか?」

 

「……でも!」

 

「ショウ!」

 

奈緒に掴み掛ろうとした赤ジャケットもといショウをニット帽男が止める。

 

「コイツの言う通りだ。美沙はもう……いないんだ。ここで美沙とはお別れ。そう決めないか?」

 

「………じゃあ、最後に思いの丈を伝えさせてくれ」

 

ショウの為に、俺達はその場は離れ様子を見る。

 

「えっと………なんつうか………こんな時に言葉が出てこねぇ」

 

「……ショウ。お前、あたしに気があったのか?」

 

「うっ………そうだよ!俺は、美沙!お前が好きだった!恥ずかしい話だけと、恋してた!それを伝える前に逝っちまって…………それも原付のニケツで事故。俺だけは怪我で済んで………お前を殺したのは俺だ」

 

「そっか……そかそか。それは大変な思いをさせ続けちまったな。でも、そういうスリルを求めたのはあたしだ。自業自得だ」

 

ショウは涙を流し、美沙にすがりつく様に泣く。

 

「泣くなよ、柄にでもねぇ。……ショウ、あたしの事は忘れて明日からはお前の人生を歩め。いつまでも死人のことを引っ張るな。でないと、この先お前の人生狂って、幸せになれないぜ」

 

「………分かったよ、美沙。俺はお前のいない俺の道を歩む。お前への思いを断ち切る。そうして生きて行く」

 

「よし。………二人とも、幸せな人生送れよな」

 

「ああ」

 

「おうよ」

 

「………じゃあな!ずっとありがとな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最高に、楽しかったぜ!」

 



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野球

keyと言えば野球回ですね


黒羽が転校してくる日。

 

教室内はその噂で持ちきりだった。

 

「マジかよ?西森柚咲が転校して来るって」

 

「まさか。芸能学校じゃあるまいし」

 

「でも、本当だったら嬉しいぃ!」

 

やっぱ、人気だな。

 

昨日うちに帰った後、ハロハロの曲を何曲か聞いたが、中々に良い曲だった。

 

まぁ、ファンになる程ではないが、そう言ったら、高城が怒り狂いそうだし黙っておくか。

 

「流石はゆさりんです!既に盛り上がっていますね!」

 

高城が興奮気味に言うと、高城の前の席の乙坂がめんどくさそうな顔をする。

 

「本人が来たらどれだけの騒ぎになるんだ?考えるだけで煩わしい」

 

その時、教室の扉が開き、担任が黒羽と一緒に入ってくる。

 

「静かに。そこ、席に着け」

 

黒羽本人が来たことにクラス中が騒めく。

 

「今日から入る転校生だ」

 

「ゆさりんこと黒羽柚咲です!」

 

黒羽がそう言うと、クラス中が歓喜の声を上げる。

 

「そこ着席しろ!そこ、踊るな!」

 

こんな場でもゆさりんって言うのか。

 

クラスが騒ぐ中、黒羽が口元に手を当て

 

「……しいぃ――――――――」

 

そう言うと、クラスが一瞬で静まり返る。

 

「お仕事とかで出席できない時とかありますけど、皆さんとの高校生活、思いっきりエンジョイしたいと思います!皆さん、よろしくお願いしまぁす!」

 

クラスに静寂が訪れる。

 

その静寂を破壊したのは、高城だった。

 

「ゆっさりん!ゆっさりん!ゆっさりん!ゆっさりん!」

 

拳を振り上げ、!の部分で斜めに振り下ろす。

 

立って、その行動をすると、クラスが男子たちのゆさりんコールで騒がしくなる。

 

「静かにしろぉ!」

 

担任が出席簿を教卓に叩き付けて怒鳴るも、ゆさりんコールは続いた。

 

「黒羽の席はそこ。座りなさい」

 

黒羽の席は奈緒の隣で、その席の周りの男子たちは喜んでいた。

 

黒羽が奈緒に近づくと

 

「よろしくお願いします」

 

先に挨拶をした。

 

「はぁい!色々ご迷惑を掛けると思いますが、よろしくお願いします!」

 

顔も向けずに挨拶する奈緒に、クラスから非難の声が聞こえる。

 

それも相手に聞こえる声量でだ。

 

思わず、ムカつき、持っていたシャーペンを音を立ててへし折る。

 

すると、クラスの連中は冷や汗を掻き始め、黙り込んだ。

 

俺も随分と嫌われたもんだな。

 

放課後になると、クラス全員が黒羽の周りに集まる。

 

この光景を見るのは三回目だ。

 

最初は自分の時に。

 

二回目は乙坂で、三回目は今。

 

とくにすること無いので、デジカメのメモリーの整理をしてると、男子の一人が黒羽とアドレスを交換しようと勇気を出して声を掛けた。

 

「友達になって下さい!メアドの交換を!」

 

「テメー!抜け駆けすんなよ!」

 

「メアド位いいだろ!」

 

なんかヤバそうな雰囲気だな。

 

止めるか。

 

カメラを仕舞い、喧嘩になりそうな男子を止めようとすると黒羽がその男子たちの間に入る。

 

「お二人とも、仲良くですよ」

 

「は、まさか出るのか!アレが!」

 

「アレ?」

 

急に高城が表情をこわばらせ、黒羽に注目する。

 

「なっかなおりぃ~、なっかなおりぃ~、なっかーなおりのおまじない!」

 

「出た――――――!ゆさりんのおまじないシリーズ13!仲直りのおまじない!」

 

高城が興奮しながら声を上げる。

 

「はい!二人は仲直りしましたぁ!」

 

「……悪かったな」

 

「いや、俺こそ」

 

なんか知らんが、おさまったみたいだ。

 

「なんだ?おまじないシリーズって?」

 

「柚咲さんが暫くレギュラーとして出演していた朝の情報番組ムーブメント朝、通称ムブ朝の今日の占いで、運が悪かった視聴者に向けて送っていたおまじないの数々です!」

 

「シリーズ13って一体いくつあるんだよ?」

 

「全部で64!ですが、ダブりがありまして、実際は63ありまして「引くな!」

 

奈緒が高城の後ろで叫び、高城の話を止める。

 

「おっと、協力者が現れましたか」

 

「はい」

 

そう言って、奈緒は黒羽の席へと近づく。

 

「黒羽さん、今すぐ生徒会室まで同行して下さい」

 

そう言って、黒羽の手を掴み連れ出す。

 

そんな奈緒に非難の声を上げる奴がいるが、奈緒はそれを無視する。

 

「行きますよー」

 

生徒会室に着くや否や、高城は、すごい勢いで黒羽に話しかけていた。

 

「柚咲さん!先程のおまじないシリーズ13仲直りのおまじない、素晴らしかったです!」

 

「すごーい!そこまで詳しく知って貰ってたんだ!」

 

「はい!柚咲さんが出演されてる間はずっとチェックしていましたので」

 

「わぁーい!ありがとうございます!」

 

ミーハー過ぎるな。

 

悪いが、引くぞ。

 

いや、引かせてもらおう。

 

「ところでぇ、何をするんでしょうか?ここで」

 

黒羽の質問に俺が答える。

 

「これから協力者が現れるんだ。言っておくが、あんまり驚くんじゃないぞ」

 

「へ?」

 

それと同時に、いつも通りに協力者がずぶ濡れの状態で扉を勢いよく開ける。

 

「わっわっわっわ!!?」

 

黒羽は驚きながら奈緒の後ろへと隠れる。

 

やっぱ驚くか。

 

俺も最初は驚いたし。

 

そして、いつも通り水滴を地図の上に落す。

 

「能力は……念動力」

 

そして帰って行った。

 

「えっと……結局何が起きたんでしょう?」

 

「特殊能力を持っている奴がそこに居るってことと、その能力が念動力だってこと。お前もこうしてあの男に見付けられた」

 

「おおっ!それはすごぉい!よぉし、ゆさりんも頑張るぞ!おおっー!」

 

「ここは学校か」

 

また学校かよ。

 

まぁ、思春期の時にのみ出るから発生場所が学校ばっかなのは仕方がないが………

 

「関内学園……よし、ビンゴ!」

 

「え?何が?」

 

乙坂がそう聞くと、奈緒はスポーツ新聞を出す。

 

「これ!先週のスポーツ新聞!わたし、目ぇつけてたんですよ!」

 

付箋があった場所捲るとそこには高校野球の記事があった。

 

「三試合連続完全試合。ナックル冴え渡る。プロ入り間違いなしの超高校級投手」

 

ほぉ、高校生でナックルを物にし、しかも三試合全て完全試合とは恐れ入る。

 

これは将来有望な人材だな。

 

それが、この投手の本当の力ならな。

 

「翌日、その練習を見に行ったんすよ。皆さんも見てください」

 

そう言って奈緒は、ビデオカメラをテレビにつなげ、映像を流す。

 

映像には投球練習の映像が流れ、映像では例の投手がナックルを投げていた。

 

「うわ!凄い変化球だな」

 

「メジャーリーグ選手並ですね」

 

「所がどっこい、今度は投球する選手の手に注目してください」

 

そう言って、次の映像を見せる。

 

横からズームで撮った映像だ。

 

例の選手が、ボールを投げようとした瞬間で映像が止まる。

 

「見てください。変じゃないですか?」

 

「どこか?」

 

分からない乙坂は無視し、俺は手に注目する。

 

「なるほど、手の握りがおかしいんだな」

 

「その通りです」

 

奈緒が野球ボールを取り出し説明をする。

 

「ナックルは回転を極度まで抑えて不規則に動く球種で、人差指と中指をこうボールに突き立てて投げるのが基本なんです。彼の握り方はストレート。ストレートだと回転が加わり、さっきのように揺れたりしません」

 

「えらい詳しいな」

 

「詰まる所、投げた直後に念動力でボールを動かしている、と」

 

「はい」

 

「おお!これまた凄いですぅ!」

 

「甲子園の予選が始まったら手遅れになります、すぐに行きましょう」

 

と言う訳で、俺達生徒会一行は関内学園へと向かった。

 

野球部へと行き、例の投手、福山を呼んでもらった。

 

「星ノ海学園の生徒会の者でーす」

 

「なんのようですか、練習中に」

 

かなり微妙な顔をしながら、聞いて来る

 

「すみませ〜ん」

 

「え!西森柚咲!」

 

福山は現役アイドルが居ることに驚く。

 

高校球児に知られてる辺り、やっぱ黒羽は凄いんだな。

 

「彼女の事は無視して、今は私の話を聞いて下さい」

 

そう言って奈緒は真剣な目つきになり、福山を見る。

 

「短刀直入に聞きます。あなたは念動力を使ってナックルボールを投げていますよね?」

 

「……念動力?超能力のですか?そんなの持っているわけないでしょ。生徒会でなく、オカルト研究会ですか?」

 

まぁ、普通はしらばっくれるよな。

 

「アンタの持ってる念動力は思春期にのみ出る病の様なものだ。甲子園に行ってプロになったとしても、その頃には能力は消えてなくなる」

 

「それどころか、もしその能力が誰かに知られたらしたら、あなたは捕まり、二度と野球が出来ない体になりますよ。これは忠告です。その能力はもう使わないでください」

 

「捕まるって誰に?」

 

「貴方の様な能力者を研究してる科学者達にです」

 

「そんな馬鹿げたことを信じろと」

 

「………わかりました、では私の方を見ていて下さい」

 

そう言うと奈緒は能力を使ったらしく福山は驚く。

 

「なっ!」

 

「信じてくれましたか?」

 

再び福山の前に現れ尋ねるが、福山は何も話さなかった。

 

黙り込む気か……

 

「往生際が悪いなぁ。丸焼きにでもすっか?」

 

すると黒羽が美沙に変わり、発火の能力を使う。

 

「おい!」

 

乙坂が美沙、いや、黒羽か?……とにかく、美沙の手を掴み後ろへと下がらせる。

 

「ああん!?」

 

「あ、いや……ごめん」

 

謝るなよ。

 

「こんな所で見せびらかすな!」

 

「チッ!」

 

美沙は舌打ちをしながら火を消し、唾を地面に吐き捨てる。

 

体は現役アイドルの物なんだからそんな真似するな。

 

「ああっ!?ゆさりんのだ液がっ!いや、美沙さんのだ液か?反応に困るぅー!」

 

高城が地面に這いつくばり、唾が捨てられた地面を凝視する。

 

「「引くな!」」

 

奈緒とハモッた。

 

流石にこれは引かざるを得ない。

 

乙坂だけでなく、美沙、そして福山までもが引いていた。

 

「本題に戻ろう。結局どうするだ?」

 

「そうですね……………」

 

暫く考え込むと、奈緒はにやりと笑った。

 

「では、うちの野球部と貴方の学校の野球部で野球で勝負しましょう。私たちが勝たらいう通りにして下さい」

 

「………分かりました。僕たちが勝ったら、もう関わらないでください」

 

「はい。……それにしても、プロにはなれないのに、何が貴方を突き動かすのか分かりかねます」

 

「………甲子園に行く。それだけです」

 

 

 

 

 

次の日曜日に、星ノ海学園のグラウンドで試合をすることを最後に決め、俺達は学園へと帰ることにした。

 

「あのナックルを打てる奴が、うちの野球部にはいるのか?」

 

「こっちも能力を使うから大丈夫です」

 

「へぇ~。どんな能力者がいるんだ?」

 

「いや、うちの野球部には素質さえあれど、能力者はいません」

 

「だったら、どうやって?」

 

この時点で、もう分かった。

 

奈緒と過ごしていれば、奈緒の奴が何を考えているかは大体予想はつく。

 

「俺達もチームに入って野球をするんだな」

 

「響の言う通りです」

 

「はぁ~!?僕たちもチームに加わってるのかよ!」

 

「でないと勝てませんから。それに、うちの学園の敷地内なら騒ぎにならないので」

 

「ま、妥当ですね」

 

「久々に燃えるか」

 

燃えてもいいが、燃やすのだけは止めろよ。

 

てか、まだ戻ってなかったのかよ。

 

そして、不安を抱えたまま、俺達は日曜日を迎えた。

 



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友情の為に

日曜日

 

星ノ海学園のグラウンドに関内学園の野球部とうちの野球部が集まり整列していた。

 

俺達も参加するので、今は全員で整列してる。

 

「礼!」

 

『よろしくお願いします!』

 

審判の声を合図に、礼をし、各ベンチへと移動する。

 

円陣を組み、リーダーである奈緒が全員を激励する。

 

「負けたら全員ケツバットな」

 

スパルタな激励だ。

 

「仕舞って行くぞ、おー」

 

「「おー!」」

 

『……おー』

 

元気よく返事をしたのは高城と黒羽のみ。

 

他は乙坂を除きだるそうに返事をする。

 

「プレイボール!」

 

関内高校が先行。

 

なんとうちのピッチャーが見事三者三振で一回表終わらせた。

 

「へ~、うちの野球部のピッチャー凄いな」

 

「凄くないっすよ。むしろ、うちのピッチャー相手に打てないとか、相手バッター、ヒデェーなー」

 

「そんなに酷いのか?」

 

俺達の会話を聞いたらしくピッチャーはずっこける。

 

「おい!急な試合で本気出してるのに、なんだその言いぐさは!?」

 

「事実ですので」

 

「テッメー!試合放棄するぞ!」

 

ピッチャーはグローブを地面に叩き付け怒鳴る。

 

「それは困ります、投げてください」

 

「だったら、ちゃんとは考えて喋れよ!」

 

「黒羽さーん。お願いしまーす」

 

「はい!」

 

奈緒が急に黒羽に話しかけ、黒羽は敬礼しながら返事をする。

 

「おっまじないー、おっまじないー、れっいせいーになるのおまじない!」

 

「出たー!ゆさりんのおまじないシリーズ9!冷静になるのおまじない!」

 

「はい!これで冷静になりました!」

 

黒羽のおまじないのお陰でピッチャーのテンションは上がったみたいだ。

 

顔が締まりのない顔になってるが。

 

「引くな!」

 

そんなピッチャーに喝を込める意味も兼ねて、奈緒は叫ぶ。

 

一回裏は俺達の攻撃。

 

福山は念動力でボールを動かし、同じく三者三振で終わらせる。

 

「ありゃ、本物のナックルだぜ。打てねーよ」

 

帰って来たバッターがそう言う。

 

「ケツバットなりなんなりしてくれ」

 

誰一人、福山のナックルを打てる気がしないらしく諦めモードになってる。

 

「それにしても、よくあんな球、捕球し続けられますね」

 

「キャッチャーも超高校級なんだろ。福山とは違って、本物のな」

 

二回表。

 

ランナーが二塁へと進み、バッターは福山。

 

福山は、うちのピッチャーの球を打ち上げる。

 

普通ならフライでアウトだが、球が向かったのは黒羽の方。

 

恐らく、黒羽では球を捕れない。

 

そう思い、走り出そうとすると、黒羽が走り出し、フライ球を捕った。

 

見た感じ美沙と入れ替わったみたいだ

 

美沙は、そのまま三塁へと投げるが、ボールは地面を数回バウンドし、セーフとなった。

 

「チッ!柚咲の肩、よえーな!」

 

反応は出来ても、体は付いていけてない。

 

どうやら、運動能力は黒羽の方に依存してるのか。

 

その後は、なんとか善戦し八回まで無得点で抑えたが、九回表で、うちのピッチャーのスタミナが切れかけてるらしく、フォアボールを出したり、簡単に打たれたりし始めた。

 

そして、1アウト満塁。

 

ヤバい状況だ。

 

タイムを入れ、全員が集合する。

 

「こっちも能力を使いましょう」

 

「具体的には?」

 

「貴方が相手バッターに乗り移るんです。そして、残り二人のバッター、やる気なく振って下さい。貴方はボール球でいい。ワイルドピッチには気を付けて下さい」

 

「あ、ああ」

 

ピッチャーは悔しそうに帽子のつばを掴み、顔を隠す。

 

此処に来て、能力の使用だし、悔しいのも無理ないか。

 

試合再開となり、乙坂が早速乗り移る。

 

そして、呆気なく1ストライク。

 

2ストライクとなり、最後の一球。

 

それを投げようとうちのピッチャーが投げようとすると、三塁の関内学園のキャッチャーが走り出す。

 

「キャッチャー!」

 

奈緒が反応し叫ぶ。

 

しかし、間に合わず、結果はセーフ。

 

此処に来て一点を取られてしまった。

 

「何がセーフなんだ?」

 

乙坂は何が起こったのか把握できずにいる。

 

「ホームスチール、盗塁だ」

 

「くそっ!くそっ!」

 

乙坂の質問に答え、奈緒が悔しそうに声を上げ地面を蹴る。

 

九回裏。

 

俺達の最後の攻撃だ。

 

これで、俺達が一点も取れなければ負け。

 

今後一切、福山には関われなくなる。

 

最初のバッターはアウトとなり1アウト。

 

次のバッターは高城だ。

 

「とにかくバントでボールに当ててください。そして、能力を使って一塁ベースを駆け抜けてください」

 

「果たして視認されるでしょうか?」

 

「証拠はスーパーハイスピードで撮っておきます」

 

「分かりました」

 

高城がバッターボックスに立ち、バントの構えをする。

 

それに福山が表情を変えたが、すぐに戻り、ボールを投げた。

 

しかし、見事にバントは失敗し、2ストライク。

 

もう後がない。

 

三球目。

 

高城は前に飛び出しながら、バントをしボールがバットに当たる。

 

しかし、ボテボテの球。

 

キャッチャーはボールを拾おうと動き出すが、その前に高城が能力を使って一塁ベースを駆け抜け、土手へとぶつかる。

 

周りは何が起こったのか訳が分からない様で、狼狽えだす。

 

「ほらぁ!ファーストベースに触れてます!ほらほら、セーフっしょ?セーフっしょ?」

 

奈緒の持つ証拠映像に審判は表情と口元を歪める。

 

「………セーフ!」

 

審判はこのジャッジでいいのかかなり葛藤していたが、証拠を信じセーフと言った。

 

「よくやった!貴方の犠牲は無駄にはしません!」

 

高城は顔にモザイクが入るぐらいの有様になり、病院へと搬送された。

 

そんな高城を奈緒は褒め称えていた。

 

「誰か代走!」

 

高城の代走が一塁に立ち、良い感じになった。

 

続いてのバッターは美沙だ。

 

美沙は非力な黒羽の力を補うために、自分の感覚でボールを打った。

 

ボールは飛び、ワンバウントし、外野のグローブに収まる。

 

その間に、美沙は一塁へと出て、これで1アウトランナー一、二塁。

 

「すっげー。イチローみたい」

 

奈緒は美沙のバッティングに感心しながらカメラを回す。

 

「奈緒、次はお前の番だぞ」

 

「私の送りバントが成功したら、後は1ヒットでサヨナラです」

 

「正直に言うが、あのボール、俺は打てないぞ」

 

「そこは能力の使いどころです。期待してますよ」

 

そう言って、カメラを俺に預け、奈緒はバッターボックスに立った。

 

奈緒の送りバントは成功し、2アウトランナー二、三塁。

 

次の打順は俺だ。

 

俺に打てるのか?

 

「なぁ、一之瀬」

 

バッターボックスに立とうとすると、乙坂が俺に声を掛ける。

 

「僕がアイツに乗り移って、ボールを投げればいいんじゃないか?五秒でも、それぐらいはできる」

 

乙坂の提案は確かに、確実だ。

 

だが…………

 

「悪い。今回は能力無しでやらせてくれ」

 

「え?」

 

「とにかく、勝手に乗り移ったりしたら後で説教だぞ」

 

乙坂にそう忠告し、俺はバッターボックスに立つ。

 

まずは第一球。

 

これは見逃し、ストライク。

 

大体、ボールが落ちる位置は分かった。

 

後はタイミングよくバットを振るだけだ。

 

第二球。

 

バットを振るもタイミングが合わず、空振りでストライク。

 

残り一球。

 

もう後がない。

 

第三球はなんとかタイミングは合うも、当たり方が悪く、後方へと飛び、フェンスに当たる。

 

「ファール!」

 

タイミングはばっちりだ。

 

後は、前に飛ばすだけ。

 

だが、そこからが苦戦した。

 

バットにボールは当たるも、ヒットにならずファールのみ。

 

ファールにするだけで精一杯かよ……………

 

そして、十球目。

 

先程と同様タイミングを合わせてバットを振る。

 

しかし、先程とは違ってボールが落ちるタイミングがずれた。

 

ここにきて、タイミングをずらしやがった!

 

バットは空しく空を切り、俺は空振りしてしまった。

 

ここまでか…………

 

「終わってない!走れ!」

 

奈緒の声が聞こえた。

 

思わず後ろを振り返ると、キャッチャーがボールを取り損ね、ボールが後ろへと転がっていた。

 

そうか!

 

タイミングが変わって、捕球できなかったんだ!

 

そう考える前に、俺は走り出し、一塁ベースを踏んでいた。

 

そして、三塁のランナーがホームベースを踏み、美沙が走る。

 

そして、滑り込むように美沙がホームへと向かう。

 

美沙がホームに触れる瞬間、福山がキャッチャーからボールを受け取りタッチした。

 

結果はどうなった?

 

「セーフ!ゲームセット!」

 

審判のその叫びに、俺達のベンチから歓声が上がった。

 

「勝てたのか?」

 

「はい、勝てました」

 

一塁に座り込む俺に、奈緒が手を差し伸べる。

 

その手を取り、立ち上がると、奈緒が不思議そうに聞いて来た。

 

「どうして能力を使わなかったんですか?能力を使えば、もっと楽に打てたと思いますが」

 

「………確かに、能力を使えばもっと楽に打てたはずだ。でも、そんなことしても意味がない。アイツには、本当の意味で、能力を使ってもらいたくないからな」

 

そう言うと奈緒は訳が分からなさそうにする。

 

帰り支度を済ませ、俺達は福山と会った。

 

「試合は我々の勝ちです。約束通り、その能力は今後二度と使わないでください」

 

福山は何も言わず、沈黙した。

 

「………僕は平凡なピッチャーだ」

 

福山が急に話し始めた。

 

「けど、キャッチャーのタカトは違う。本当に脚光を浴びるべきキャッチャーだ。ずっとバッテリーを組んできた。うちの野球部が弱いのは分かってた。それでもアイツは僕と組んでくれた。僕と組んでくれることを選んだんだ。だから、アイツを、甲子園へ連れて行きたかった。この不思議な力で、プロからも注目される大舞台へ!」

 

「私利私欲ではなく、友情の為に能力を使っていたと」

 

「………ああ」

 

なんとなく、福山とあのキャッチャーを見ていたから分かっていたが、やっぱり親友の為に使っていたんだな。

 

でも…………

 

「確かに甲子園に行けば、プロからも注目される。だが、もし彼が真実を知った時、それで喜ぶと思うか?」

 

俺は奈緒より一歩前に出て、福山に話す。

 

「能力を使って甲子園に連れて行ってくれてありがとう。そう言うと思うか?」

 

「そ、それは……………」

 

「きっと彼は、お前と二人、そして、野球部の皆と力を合わせて甲子園に行きたいと思ってるはずだ。それと、お前が能力を使って自分の野球部を甲子園へ行くってことは、他の高校の野球部は甲子園に行けないってことだ。甲子園の為に人生を野球に捧げてる高校球児だっている。お前は、自分の仲間や自分を応援してくれる人、そして、他の高校球児たちの思いを、踏み躙ってるんだぞ」

 

福山は何も言わず、下を俯く。

 

「今回、私たちはズルして勝ちました。それは貴方も同じ。貴方はずっとズルして投げて来ました。でも、ズルなんかしなくても、ちゃんと見てくれる人はいます。大学でも、社会人野球でも。貴方は親友として、隣でずっと見守って行けばいいと思います」

 

奈緒の言葉に福山は顔を上げる。

 

「いつか自慢できる日が来ます。アイツは僕の親友なんだぜって。絶対っす。大丈夫っす」

 

その言葉を聞き、福山は吹っ切れたような表情になった。

 

「そうだな。アンタの言う通りかもしれない。もう能力は使わない。約束する」

 

「はい」

 

「それとアンタ。ありがとうな」

 

福山は俺の方を見て礼を言って来た。

 

「アンタの言葉で自分の犯した過ちに気付けたよ。俺は知らず知らずに多くの人の応援や思いを踏み躙ってた」

 

「そう思うなら、お前の相棒と仲間を信じてやれよ」

 

「ああ」

 

福山はそれだけ言い残し、仲間の下へと戻った。

 

「ちょっとした実験です。彼に乗り移って下さい」

 

奈緒が去っていく福山の背中を見ながら、乙坂に言う。

 

「え?どうした?」

 

「だから、ちょっとした実験です」

 

「被験者に言う言葉じゃないぞ」

 

「彼が被験者です。ご安心を」

 

乙坂は溜息を吐き、能力で福山に乗り移る。

 

倒れそうになった乙坂を奈緒が受け止め、数秒後、乙坂は自分の今の状態に気が付き、慌てて離れる。

 

「うわぁっ!?」

 

「ありがとうございます」

 

「いや、別にいいんだが…………何か分かったのか?」

 

「今はまだ分かりません。しばらく様子見です」

 

そう言う奈緒は、ずっと福山を見ていた。

 

何故態々、乙坂に乗り移らせたのか。

 

それが気になりつつも、俺達はマンションへと帰宅した。

 




次回はスカイハイ斎藤回ですが、その前にオリジナルストーリーを入れます。

次回はオリジナルになるのでお楽しみに。


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ゲーセン

オリジナル回です。

取り敢えず、主人公とゆさりんを仲良くさせます。


ある日の放課後。

 

協力者は現れず、生徒会活動は無く俺は暇を持て余してる。

 

高城は黒羽の限定グッズを買いに行くといい、乙坂は本屋に今日発売の新刊を買いに、奈緒はいつの間にかいなくなっていた。

 

「家に帰っても暇だし、どうすっかな」

 

そう言えば、最近近くにゲーセンが出来たって乙坂が言ってたな。

 

行ってみるか。

 

早々に帰り支度を済ませ、俺はゲーセンへと向かう。

 

ゲーセンが見えると店先でうろうろしてる生徒が居た。

 

「あれ?黒羽」

 

その生徒とは黒羽だった。

 

「よぉ、黒羽」

 

「あ!一之瀬さん!」

 

俺が声を掛けると、黒羽は笑顔で振り向く。

 

「何してるんだ?仕事は?」

 

「今日はお休みなんです!だから、ゲーセンって所に行ってみようと思って」

 

「なるほど。で、来たは良いけど、入る勇気がないと」

 

「う~………お恥ずかしながらそうなんです」

 

黒羽がしょんぼりとした表情で言う。

 

「なら、俺と入ろうぜ。俺もゲーセンに行くつもりだったし」

 

「本当ですか!ありがとうございますぅ!」

 

黒羽と並んでゲーセンに入ると、ゲーセン特有の騒がしさが聞こえる。

 

「これがゲーセンですか!なんかすごい所ですね!」

 

「そうだな。で、何して遊ぶ?」

 

黒羽はゲーセンの中を一通り見渡し、あるゲームに注目する。

 

「これにしましょう!」

 

「シューティングゲームか。いいぜ」

 

百円を二枚投入し、ゲームを始める。

 

「うわっ!敵が一杯ですぅ!」

 

「ほら、黒羽も撃て!」

 

「はい!」

 

二人で騒ぎながら、やること数分。

 

画面には真っ赤なGAME OVERの文字が映ってた。

 

「すみません……負けてしまいました………」

 

「いいっていいって。こういうのは楽しんだもん勝ちだ。次は…………黒羽。あの格ゲーやろうぜ」

 

「格ゲー?」

 

「格闘ゲームだよ。手元のレバーとボタンで操作するゲーム。向かい同士の機械使えば対戦もできるし対戦しようぜ」

 

「はい!いいですよ!」

 

互いに向かい合うように座り、ゲームを始める。

 

黒羽は初心者らしくたどたどしい動きだ。

 

ちょっと遊んでみるか。

 

軽く隙を作り、様子を見ようとしたら、次の瞬間、キャラが俊敏な動きをし、俺のキャラを一瞬で倒した。

 

「………え?」

 

「はっ!よえーな!」

 

思わず前を向くと、そこには黒羽ではなく、美沙が居た。

 

「格ゲーならあたしの領分だ。本気で来いよ」

 

「……いいぜ、美沙。お前は俺を本気にさせた」

 

これでも、不良狩りしてた頃はゲーセンで格ゲーの鬼と呼ばれてたんだ。

 

簡単には倒れないぜ!

 

再度コインを投入し、二戦目に入る。

 

俺と美沙の試合は白熱し、互いに一歩も譲らぬ接戦だった。

 

「やるじゃねぇか!」

 

「そっちこそ!」

 

残りHPは僅か。

 

それは向うも同じ。

 

これで決める!

 

俺は必殺コマンドを入力する。

 

すると、美沙も同時に必殺コマンドを入力し、同時に必殺技が出る。

 

俺の必殺技は威力は低いが、連撃回数が多い。

 

対して、美沙の必殺技は威力はあるが、連撃回数が少ない。

 

どっちが勝つか分からない。

 

画面では、必殺技同士が相殺する効果音が聞こえる。

 

必殺技の発動が終わり効果音が止まる、そして、俺と美沙のキャラは同時に倒れ、DRAWの文字が出た。

 

引き分けか。

 

「あたしが引き分けとはね。これでも、格ゲーでは負けなしだったんだけどな」

 

「俺も格ゲーには自信があったんだけとな」

 

そう言って、互いに笑い握手をする。

 

「また対戦しようぜ!」

 

「おう。次は勝つぜ!」

 

そう言って、美沙は体を黒羽に返した。

 

「あれ?私何を………どうして、一之瀬さんと握手してるんですか?」

 

「ああ~…………気にすんな。それより、次行こうぜ」

 

その後、エアホッケーやレースゲーム、太鼓を叩く系の音ゲーや様々なゲームをして楽しんだ。

 

意外にも音ゲーやダンスゲーでは、黒羽に負けた。

 

流石は現役アイドル。

 

今は、自販機横のベンチで休んでる。

 

「ゲーセンって初めてなんですけど、とても楽しいですね!」

 

「黒羽はこういうところに来るのは初めてなんだよな」

 

「はい!お仕事で忙しかったのもありますが、お姉ちゃんにゲーセンは高校生になってからって言われてて。………お姉ちゃんは、少し前に亡くなっちゃったんですけど」

 

「…………美s……お姉さんは良い人だったか?」

 

「はい!子供の頃からいつも助けてくれて、私には自慢のお姉ちゃんでした!」

 

「………よかったな。さて、休憩は終わりだ。次は何する?」

 

「では、あれがやりたいです!」

 

そう言って黒羽が指さしたのは、クレーンゲームだった。

 

「あの猫さんのぬいぐるみ!可愛いです!」

 

黒羽にクレーンゲームの説明をし、黒羽は意気揚々と百円を投入してゲームを始める。

 

しかし

 

「一回も取れません…………」

 

若干涙目になってる。

 

「ちょっと貸してみろ」

 

黒羽と交代し、中を見る。

 

あそこにいる奴が狙い目だな。

 

百円を入れ、アームを動かす。

 

アームの先が、輪っかに引っ掛かり、ぬいぐるみが持ち上がる。

 

ぬいぐるみはそのまま落ち、取り出し口から出る。

 

「ほら、取れたぞ」

 

「え?貰っちゃっていいんですか?」

 

「ああ。今日付き合ってもらったお礼だ」

 

「うわ~!ありがとうございます!」

 

それにしてもクレーンゲームでずいぶん時間かかったな。

 

「後一回何かして帰るか」

 

「じゃあ、最後はアレにしましょう!」

 

そう言って指差したのはプリクラだった。

 

少し抵抗があるな。

 

女子と二人でプリクラって…………

 

「行きましょう!」

 

「お、おい!」

 

黒羽に引っ張られるままプリクラの機械に連れ込まれる。

 

「えへへ♪プリクラって一度撮ってみたかったんです」

 

そう言われると、断り辛い。

 

仕方なく、一緒にプリクラを撮ることにした。

 

機械の合成音声にしたがい、フレームを選び、ポーズを取り、写真を撮る。

 

『最後の一枚だよ』

 

ラストになり、俺は少しほっとした。

 

『最後は好きなポーズで撮ろう』

 

「あ、一之瀬さん!ちょっと、そこでじっとしてて下さいね」

 

「?……ああ」

 

黒羽に言われて、じっとする。

 

『行くよ?3……2』

 

カウントが始まる。

 

「一之瀬さん、今日はゆさりんに付き合ってくれて」

 

『1!』

 

「ありがとうございます♪」

 

そう言って、黒羽が俺に腕組みするように抱き付く。

 

それと同時に、シャッターが切られる。

 

取り出し口からはプリクラが出て来て、黒羽が嬉しそうにそれを二つに分ける。

 

「はい!一之瀬さんの分です!」

 

「お、おお………ありがとな」

 

受け取ったプリクラの中の一枚。

 

そこには、黒羽に抱き付かれてる俺の写真がある。

 

高城に見られたら、血涙を流しそうだ。

 

俺はそれを制服の内ポケットに仕舞う。

 

「黒羽、そろそろ帰ろう。部屋まで送る」

 

「はい!」

 

何かこそこそしてる黒羽に声を掛け、ゲーセンを後にした。

 

「あ、そうだ、一之瀬さん。これからはゆさりんのことは柚咲って呼んでください!」

 

「え?いいのか?」

 

「はい!生徒会の仲間ですし、それにお友達には名前で呼んでほしいです!前、乙坂さんにお願いしたら断られてしまって」

 

乙坂の奴、名前ぐらいいいだろ。

 

「ああ、分かった。なら、柚咲も俺のことは響でいいぞ。一之瀬は長いしな」

 

「はい!響さん!」

 

部屋の前に着き、柚咲に別れの挨拶をし、俺も自分の部屋に帰った。

 

ちなみに、柚咲が何をこそこそしてたのかというと、プリクラで撮った写真を貼ることのできるスペースがあそこにはあり、そこに、俺と腕組みをしてる写真を貼っていたそうだ。

 

理由を聞いたら、「なんとなくです!」っと言われた。

 

そして、そのことを知った高城が血涙を流していた。

 

乙坂からは、「お前、いつか後ろから刺されるんじゃね?」と言われた。

 

後、奈緒が何故が不機嫌になり、俺は一週間ほど奈緒の命令でパシリさせらされた。

 




書いていて、ゆさりんが奈緒よりヒロインっぽいと思いました。

奈緒とゆさりんのダブルヒロイン?

アリかもしれない。


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空中浮遊

サブヒロインとしてゆさりんを追加しました。

ゆっさりん!ゆっさりん!ゆっさりん!ゆっさりん!( ゚∀゚)o彡°

でも、友利落ちです


昼休みの時間。

 

いつも通り、高城と乙坂と昼飯を食べるために、机を移動させようとすると、飲み物が無いことに気付いた。

 

「悪い、飲み物買ってくるから先に食っててくれ」

 

そう言い、財布を手に廊下に出る。

 

一回にある自販機で水を買い、一口飲む。

 

喉が渇いてたから美味い。

 

すると、長髪の男子生徒が、俺の脇を通り、自販機でコーヒーを買った。

 

こんな生徒いたか?

 

長髪だし、いれば気付くと思うんだが。

 

まぁ、この学園に来てまだそんなに長くないし、知らない生徒が居ても不思議じゃないか。

 

キャップを閉め、教室に戻ろうとすると後ろから声が掛けられた。

 

「友利が校舎裏に連れて行かれた。早くした方がいいぞ」

 

「え?」

 

振り向くとそこに先程の長髪の男子はいなかった。

 

今のは………………それより、奈緒が校舎裏にってことはまた彼奴らか。

 

「くそっ!目を離すと直ぐにこれだ」

 

水を上着のポケットにしまい、校舎裏に向かって走り出す。

 

校舎裏に着くと案の定、奈緒がリンチに遭っていた。

 

「おい。お前ら、懲りずにまたリンチか?」

 

俺に気付くと、この前の女は笑ってこっちを見た。

 

「ふん、生徒会長様の犬っころのご登場ですか」

 

「その言い方は止めろ。俺には一之瀬って名前がある。ま、アンタらに名前なんか呼んでほしいとは思わないがな」

 

「そう言えるのも今の内さ。アイツが例の男だよ」

 

すると、近くに居た大柄な男が立ち上がり俺の前に立つ。

 

でかいな。

 

180はあるか?

 

「悪いがここで退場してもらうぜ」

 

「退けよ。俺は奈緒に用があるんだ」

 

「退くかよ。こっちは、金貰ってんだ。お前がどんな奴が知らないが、俺の能力を知ればビビるぜ。俺の能力は偏光能力って言ってな、周りの光を屈折させ自分の位置を錯覚させることが出来るんだぜ。これで、俺にはどんな攻撃も当たら」

 

「黙れ」

 

最後の言葉を言わせずに、俺は男の首を掴んで、能力で持ち上げる。

 

「あ……!!?………が!!」

 

「喧嘩するなら口より手を出せよ。しかも、ご丁寧に能力をペラペラと。お前の能力、こうして掴んでたら意味ないよな。自分の位置を錯覚させれても、こうして掴まれてるんだし」

 

そう言い、俺は首から手を離し、男を地面に落す。

 

「げほっ!がほっ!」

 

「今回は見逃してやる。だが、二度目は無いと思え」

 

「ひ………ひいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

男は、情けない声を上げると一目散に校舎へと逃げた。

 

「なっ!テメー、逃げてんじゃ」

 

「おい」

 

女どもに再び声を掛けると、女どもは体を震わせながら俺の方を見る。

 

「お前らは二度目だよな。なら、覚悟は出来てんだろ」

 

拳を鳴らし、ゆっくりと近づく。

 

「響、ストップっす」

 

俺が実力行使に出ようとすると、奈緒が止めに入った。

 

「それ以上、貴方の拳を汚す必要はありません」

 

「………分かった」

 

拳を下ろし、女どもをもう一度睨みつける。

 

「さっさと行け。もうこんなこと止めるんだな。もし、またやるってんなら、その時は奈緒が止めても俺は、お前たちを潰すからな」

 

女どもは我先にと言わんばかりに仲間たちを押し退けながら醜く逃げて行く。

 

「奈緒、大丈夫か?」

 

「前みたいに殴られただけです。大丈夫です。慣れてますから」

 

「慣れてるからって問題じゃないだろ」

 

俺は先程の水を取り出し、ハンカチに染み込ませ、奈緒の頬に当てる。

 

「つっ!」

 

「沁みるか?」

 

「ええ、まあ」

 

ハンカチを奈緒に渡し、俺は近くの物陰に視線を移す。

 

「居るんだろ?乙坂」

 

「……バレてたか」

 

乙坂が物陰から気まずそうに出て来る。

 

「物陰から女が殴られるのを黙って見てるとは、いい趣味してるな」

 

「ねぇよ、そんな趣味」

 

すると奈緒の携帯に着信が入った。

 

「協力者が現れます。行きますよ」

 

生徒会室へと三人で向かい、扉を開ける。

 

「ひゃあ!?どうしたんですか、その傷!?」

 

柚咲が奈緒の頬の傷を見て驚く。

 

「リンチにあってきました~」

 

「はわわわわ~!?病院に行かなくて大丈夫なんですか!?」

 

「慣れてるんで平気です」

 

「なら、お礼参りと行っとくか!」

 

急に美沙に変わった。

 

唐突に変わるのは止めてくれ。

 

ギャップがあり過ぎる。

 

「行かねーし、そんな必要ないっすよ」

 

「チッ、つまんねー」

 

そこで、協力者がいつも通り現れ、地図に水滴を落とす。

 

「能力は………空中浮遊」

 

そう言い、生徒会室を出て行った。

 

それにしても、今の声………さっきの奴と似てる?

 

「よし!来たー!」

 

奈緒は一冊の雑誌を机に叩き付け、俺達に見せて来る。

 

付箋が貼ってあるページを開き、内容を読む。

 

「フライング・ヒューマノイド発見?」

 

「この黒い影がその人だと言う訳ですね」

 

胡散臭い記事だが、特殊能力者となれば話は別だな。

 

「まだこんなオカルト誌にスクープされてるだけですが、このまま放置すれば大変なことになります。行きましょう」

 

「行くってどこに?」

 

「ここ山の中ですね」

 

「憶測ですが、空を飛ぶ特訓をしてるんでしょう。張り続けてればいつか現れるはず」

 

「張り続けるって何時まで?」

 

「もちろん、現れるまでです」

 

「FU〇K!!」

 

「ゆさりんにそんなこと言わせないでください!」

 

「では、まず私たちの食糧を買いに行きましょう」

 

すると高城が美沙に近づき、話掛ける。

 

「あの~、柚咲さんに戻っていただけないでしょうか?」

 

「ああん!?そんなことはあたしが決める!なんでテメーの指図を受けないといけねーんだよ!」

 

「こうなるからです!」

 

美沙が高城の胸倉を掴み脅し、高城が叫ぶ。

 

「お前らー、行っくぞー」

 

奈緒はマイペースだ。

 

「……大丈夫なのか?このチーム?」

 

乙坂の意見に思わず心で同意した。

 

まずは近くのスーパーへと行き、食料を調達に向かうと奈緒は買い物かごの中にトウモロコシを大量に入れてくる。

 

「なんでトウモロコシばっかなんだ?」

 

「バーベキューって言ったら焼きトウモロコシっしょ!」

 

「ちょっと待て!そんなことしたら煙でバレるだろ!」

 

バーベキューの言葉に乙坂が反応する。

 

「逆に向うから近づいて来るかもしれませんよ。後は、ステーキ用の肉に、スペアリブ、ウインナー」

 

「肉ばっかだな。野菜も食え」

 

「いいじゃないっすか、肉」

 

「ダメだ。乙坂、なんか野菜を持ってきてくれないか?」

 

「安心しろ。もう持ってきた」

 

乙坂の手には数種類の野菜があり、それを買い物かごへと入れる。

 

「お、獅子唐か。いい物選んだな」

 

「え~!獅子唐?」

 

「辛さが良いアクセントになるんだよ」

 

「貴方たちが食べてくれるならいいですけど」

 

何て言うか、奈緒の奴結構な偏食家だよな。

 

将来が不安になるぜ。

 

不満そうにする奈緒を宥め、俺達は買い物を進めて行く。

 

 

響SIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのー、高城さん」

 

「はい!なんでしょう?」

 

「響さんと友利さんって仲良いですよね。ひょっとして…………お付き合いしていたりとか………」

 

「いえ、それはないでしょう。ですが、友利さんは一之瀬さんを、一之瀬さんは友利さんを互いに信じています。あの二人の関係は、俗な言葉では言い表せれない。そう思います」

 

「そうですか………そっか」

 



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食料の調達が終わり、俺達はタクシーを使って例の山へときた。

 

「私と黒羽さんで食糧を運ぶので、男子はテントとバーベキューコンロを運んでください」

 

「え!?テントってことは、泊まり!?」

 

「能力者が出るまで張り続けるって言ってただろ。その時点で、泊まりになるってことぐらい考えろ」

 

乙坂にそう言いつつ、俺はテントの入った袋を持ち上げる。

 

「あの~、着替えとか無いんですけど~」

 

「別に着替えなくても死にはしませんから」

 

確かにそうだが、女としてそれはどうなんだ?

 

終わってないか?

 

「さぁ、行きましょう」

 

山道を歩き続け、オカルト誌にあった場所と同じ場所に着いた。

 

雑誌の写真を比較した限り、ここで間違いないだろ。

 

「暗くなる前にテント張るか」

 

袋からテントを取り出し、適当な場所で張る。

 

「あ、そこ危ないですよ」

 

適当な場所を探しつつ、テントを広げてると奈緒がそう言って来た。

 

次の瞬間、乙坂が急に、しゃがみこんだ。

 

「乙坂、どうした?」

 

「ふ、古井戸があった………」

 

なるほど古井戸に落ちたのか。

 

「奈緒、お前知ってたなら事前に言っておけよ」

 

「いや、落ちたら落ちたで面白いと思いまして」

 

「命に係わる冗談は止めてくれ………もっと向うの方で張るぞ」

 

「了解です」

 

「穴は責任持って私が塞いでおきますのでご安心を」

 

どうやって塞ぐ気だ?

 

正直不安しかない。

 

奈緒の事は信じているが、こう言うことに関しては不安しかない。

 

テントを張り終え、夕食の準備をする。

 

炭に美沙が発火の能力で火を付け、準備は終了。

 

「便利だなー」

 

「ライター代わりに使いやがって、なんてセンスの無さだ!」

 

そう言う美沙をスルーし、奈緒はトウモロコシを焼き始める。

 

焼けたトウモロコシに醤油を掛けると勢いよく煙が昇った。

 

「目立ち過ぎだろ」

 

乙坂の言う通りだが、奈緒はああ見えて計算高い人間だ。

 

無策に、目立つ真似はしないだろう。

 

「焼きトウモロコシさいこー!まぁまぁ、皆さんもどうぞー」

 

奈緒が焼きトウモロコシを頬張りながら言う。

 

「チッ!ここは譲るか…………あれ?」

 

美沙が柚咲に体を返すと、高城が素早く柚咲に焼きトウモロコシを差し出す。

 

「どうぞ!焼きトウモロコシです!」

 

「わぁ~!ありがとうございます!わぁ~これおいしぃ~!」

 

「でしょでしょ~!!焼きトウモロコシなら任せてくださいよー!あとはー肉肉ぅ~!」

「野菜も食えよ」

 

奈緒が肉を焼いて行く中、乙坂は買って来た野菜を焼いて行く。

 

「スペアリブ、うんまっ!」

 

「ウィンナーのパキっと噛んだ時のジューシー感!!」

 

肉のうまさに、奈緒と高城が歓声を上げる。

 

「肉だけじゃなく、野菜もはさんで食べろ~」

 

乙坂は人参を焼きながらぼやく。

 

その様子を見ながら俺は獅子唐を齧る。

 

「ほわ!このお肉おいしい~!」

 

「タレもいいっしょ!」

 

「結局野菜食ってんの僕と一之瀬だけじゃないか」

 

肉だけしか食べてないってどんだけ偏食家なんだ………

 

そう思った時、柚咲の口元にタレが付いてるのに気付いた。

 

「柚咲、口にタレが付いてるぞ」

 

「ふぇ?本当ですか?」

 

そう言って、たれを拭おうとするが見当違いの所を拭っていた。

 

「ここだ、ここ」

 

そう言い、口元のタレ指で取る。

 

ティッシュは……………無いから舐めるか。

 

「ふぁ!?」

 

「なああああ!!」

 

指に付いたタレを舐めると、柚咲と高城が声を上げた。

 

「どうした?」

 

「一之瀬、お前がしたことを考えて見ろ」

 

えっと、柚咲の口元に付いたタレを指で拭いて、それを舐めた。

 

そこで、俺は自分がした行いの重大さに付いた。

 

多分、拭いたときに柚咲の唇に指が僅かに触れたと思う。

 

いや、触れただろう。

 

で、俺はその指を舐めた。

 

言い換えれば、柚咲と間接キスしたことになる。

 

「あ、柚咲、悪い!全く気付かなかった!」

 

「い、いえ!全然平気ですよ!」

 

そう言うが、柚咲は顔を真っ赤にしていた。

 

「ゆさりんと……間接キス………許すまじ………」

 

高城は壊れてしまい、持っていた割り箸で地面を何度も突き刺す。

 

「ふんっ!」

 

奈緒は俺の足の甲を踏み、更に脛を蹴り飛ばしてきた。

 

「イッテェェェェェェェ!!?」

 

俺は脛と足の甲を押さえ蹲る。

 

「な、何するんだよ!?」

 

「貴方のデリカシーの無さにイラッと来ました」

 

確かにデリカシーが無かったとは思うが、だからてこれはあんまりだ!

 

そして、乙坂はというと

 

「騒がしい奴等だ」

 

そう呟き、獅子唐を齧っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になり、全員が思い思いの方法で過ごしていた。

 

俺はというと、皆から少し離れた所に居た。

 

「………綺麗な星空だな」

 

そう呟き、俺はデジカメを夜景モードにし、星空を撮る。

 

いい一枚だ。

 

「一之瀬、何してるんだ?」

 

「乙坂こそ、ここに何の用だ?」

 

「いや、さっきまで友利と話しててその帰りにお前を見かけたからちょっとな」

 

「そうか。俺は星空撮ってたんだよ、綺麗だったからな」

 

「星空を?」

 

乙坂はそう言い、上を見上げる。

 

「……確かに綺麗だな」

 

そう呟き、乙坂はずっと星空を見ていた。

 

俺も乙坂と同じように星空を眺め続けた。

 

「なぁ、一之瀬は夢とかあるか?」

 

「急にどうした?」

 

「いや、さっき友利と話してて、アイツ、いつかZHIENDのPVを撮るのが夢だって言ってたから。お前もあるのかなって」

 

「そうだな…………夢か」

 

夢と言う言葉を聞いて、少し考える。

 

「強いて言うならコイツだな」

 

そう言って、俺はデジカメを見せるように言う。

 

「デジカメ?」

 

「話せば長いんだが、簡単に言うとこのデジカメは俺の恩師がくれた物なんだ。そして、その人が俺に行ったんだよ。いつかこのカメラで撮った俺が辿った人生を見せてくれって。だから、いつか見せるんだよ。俺のアルバム(人生)を。あの人に」

 

「………そうか」

 

「ああ、だから、お前の写真も撮らせてもらうぞ」

 

「へ?」

 

そう言って、俺はマヌケ面してる乙坂の顔を撮る。

 

「あ!?お前何撮ってるんだよ!」

 

「素晴らしいマヌケ面ありがとう!」

 

「その写真消しやがれ!」

 

暫くの間、俺と乙坂の騒がしい声がその辺りに響き、そして、奈緒に「うるさい」って言葉と共に拳をもらった。

 

就寝時間になると、奈緒は二手に分かれて監視をすると言った。

 

最初に俺達男子が四時間寝て女子と交代する。

 

テントに入り込み、寝る準備をしようとすると、乙坂が音楽プレイヤーを取り出した。

 

その音楽プレイヤーに俺は見覚えがあった。

 

「乙坂、それ奈緒のじゃないか?」

 

「ああ。なんかくれた」

 

へぇ~、音楽プレイヤーごとやるなんて豪快だな。

 

そう思い、俺は目を閉じた。

 

意外にも睡魔はその直後にすぐ来た。

 

そして、またあの女性の夢を見た。

 

目が覚めたら丁度四時間経った後だったので、俺は乙坂と高城の二人を起こし、奈緒たちと交代した。

 

またあの人の夢か。

 

泣きじゃくる俺を優しく抱きしめ優しい言葉を掛けてくれる女性。

 

とても暖かい夢だったな……………

 



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スカイハイ斎藤

「うおっ!ニジマス!ニジマス釣れた!」

 

「くそっ!それよりデカイの釣ってやる!マスだ!マス来い!」

 

「私も負けません!」

 

何というか、皆はしゃいでるな~。

 

そう思いながら、俺は釣り針に新しい餌を付け、川に放る。

 

張り込み二日目。

 

今日は食材調達と言うことで近くの川まで行き魚を釣ってる。

 

魚を釣るのはいいんだが、さっきから背後で俺達を見ている奴が気になるな。

 

奈緒が何も言わないし、俺も無視するか。

 

「お!俺も釣れた」

 

釣れた魚は内臓を取り除いて、塩を振って焼く。

 

「ニジマス美味いなー!」

 

「ゆさりんさん!これ、いい感じに焼けました!」

 

「ゆさりんじゃねえよ!」

 

「うわぁあ!?」

 

「でも、柚咲に譲るか…………あれ?」

 

美沙から柚咲に変わり、そこに高城が焼き魚を差し出す。

 

「これ、私が食べてもいいんですか?」

 

「はい!」

 

「ありがとうございますぅ!」

 

何というか、これ張り込みって言うかただのキャンプだよな。

 

そう思いながら、俺も焼き魚に齧り付く。

 

うん、うまい。

 

「あの~、今日もお泊りですか?」

 

「はい。何か問題でも?」

 

「お風呂に入りたいな~っと思いまして」

 

「大丈夫です。用意してあります」

 

そう言い、奈緒は柚咲を連れて何処かに行く。

 

数分経つと奈緒だけが戻ってきた。

 

「風呂が用意してあるのか?」

 

「女性専用です。男子は川で体を洗ってください」

 

この時期、夜中に川で水浴びはキツイと思うぞ。

 

まぁ、女性が入った後のお湯に入るのもアレだし仕方がないか。

 

「うわあああああああ!!!ゆさりんの入った後のお湯に入れないなんて~!!」

 

「引くな!!」

 

それは流石に引くし、キモイ。

 

夜になり、俺達男子三人は川で水浴びをしていた。

 

水を浴びていると乙坂が高城の方を見ながら一言言った。

 

「お前………着痩せするんだな」

 

乙坂の言う通り、高城の服の下はかなり筋肉が付いていて、かなり強そうに見えた。

 

「私の能力上、体を鍛えるしかなかったのです。いくら防具を着ていても、やはり怪我をしない肉体改造が必要でしたので」

 

高城の言い分には納得だ。

 

俺も不良狩りをしていたころは、能力で力を強化出来ても、それを使いこなす技術が必要だったからな。

 

「能力を使いこなすために、そんなことまで」

 

「はい。でも他人ごとではないかもしれませんよ」

 

「あなたももしかしたらこの先自分でも予想できないような試練が待っているかもしれない…という意味です」

 

「はっ、他人に五秒しか乗り移れない能力で何が出来るってんだ」

 

「それはあなたが…」

 

そこで高城は言葉を噤み、黙る。

 

「なんだよ?」

 

「………いえ、それだけ甘いマスクを持ってるなら、女性関係で苦労しそうですねっと思ったのですが、言うのが癪になっただけです」

 

「全くだ。この能力のおかげで才色兼備な女性振られたばっかりだ」

 

「賢明です。恋や愛だとかはこの能力を失って自由になってから築くべきです」

 

「具体的には何歳になったら消えるんだ?」

 

「高校を卒業する頃には消えているでしょう」

 

「あと二年か…長いな」

 

「はい……我々には長い時間です。………にしても冷たすぎ」

 

高城がくしゃみを一つするのを聞きながら、俺は思った。

 

二年間。

 

その二年が経つまでに俺達は生きているのか?

 

学園は能力者を守っていてくれるが、それも完璧じゃないはずだ。

 

もし、研究者たちが強硬手段、例えば武力を使って学園を襲ったり、学外で生徒を連れ去ったりするかもしれない。

 

とくに俺達生徒会は、能力者の確保の為、学外で能力を使用することもある。

 

一番危険なのは俺達、星ノ海学園の生徒会なのかもしれない。

 

入浴及び水浴びが終わると、昨日と同様に交代制で睡眠をとることになった。

 

「明日は月曜だぞ。そのまま登校するのか?」

 

「だから言ってるっしょ。現れるまで張り続けるって」

 

「それじゃあ、まるで住み着いてるみたいじゃないか?」

 

「それが狙いなんっすよ。それに、授業を休んだことで私たちの内申に影響はありません」

 

「もしそうだとしても、家に帰りたい。妹がいるんだ」

 

「そんなこと分かってますよ」

 

「だったら一旦帰らしてくれ、すぐ戻るから」

 

「ダメです。それを許可したら、他の皆もそれをしてしまいます。それに、大丈夫だと思いますよ。明日には決着が着くと思いますんで」

 

そのことの意味が分からないまま、俺達はテントに入り交代の時間まで眠ることにした。

 

翌朝の朝飯は焼きトウモロコシだった。

 

朝から焼きトウモロコシって、そんだけ奈緒の奴焼きトウモロコシ好きなんだよ。

 

「あのー」

 

誰かから呼びかけられ声がした方を向くと、上を走る山道にバンダナを巻いた男が居た。

 

「貴方たちはここで何をしているんでしょう?」

 

まさか、本当に現れるとはな。

 

いや、まだコイツが能力者である確証はない。

 

ここは慎重に行かないと。

 

「いやー、今家出中なんですよ皆。理由は様々ですが意気投合しましてー。はっはっは!」

 

相変わらず棒読みな言い訳だ。

 

「ずっとここに居続ける…と、いうことでいいでしょうか?」

 

「はい。ここだとばれませんからー!」

 

「でも僕にばれてしまいましたね。親御さんも心配しているでしょう」

 

男は携帯を取り出し、警察へ連絡しようとする。

 

「警察を呼んだら貴方も捕まりますよ」

 

「なっ!どうして!?」

 

「ここ、私有地っすから」

 

「「「「ええ!?」」」」

 

私有地であったことに俺達は驚きを隠せず声を上げる。

 

「それと、これは貴方ですよね」

 

そう言い、奈緒がこの前のオカルト誌の写真を男に見せる。

 

「なんですかそれは?」

 

「貴方が飛ぶための練習しているスクープ写真です」

 

「飛ぶって」

 

「ここは都内で近いしあなたにとって好都合な山だった。けど私たちが居ついて一向に帰る気配がない。だから焦れたあなたはこうして姿を現した。私たちを追い払ってまた空を飛ぶ練習をするために。そうですよね?」

 

「飛べるわけないし、頭おかしいだろ。警察を呼んでおく」

 

「ならどうしてこんな山に来たんだ?」

 

俺は男にそう呼びかける。

 

「栗を拾いに来たんだ」

 

「今の時期、栗は無いぞ」

 

てか、まだ七月に入る前だぞ。

 

普通に考えて栗が落ちてる訳がない。

 

もっとマシな嘘を考えろよ。

 

「それに、すでにこの時間にあなたがいた証拠これで撮っちゃったんですけど~」

 

奈緒があざとく言う。

 

それに男はイラつき、俺達の方へ向かってくる。

 

「厄介なことを!よこせ、消す!」

 

男は飛び降り、地面に降り立つ。

 

しかし、地面には降り立てず、そのまま地面の中へと落ちた。

 

確かあの辺は、古井戸があったはず。

 

「しゃ!」

 

「まさか古井戸を落とし穴に!?」

 

驚愕してると、古井戸から男が勢いよく飛び上がり、俺達の前へと降り立つ。

 

その様子を奈緒はしっかりとビデオカメラで撮っていた。

 

「そりゃ底知れぬ穴に落ちたら能力使って飛びますよね~。ま、クッション用に枯草入れといたんですけど、お陰で凄いスクープ映像が撮れました」

 

「私たちにも教えていないトラップがあったとは………悪魔の様な人だ」

 

高城の言う通りだが、お陰でこの男が能力者である証拠は撮れた。

 

後は脅して能力の使用を止めさせれば

 

「そいつをよこせ!」

 

すると、男は奈緒の手からビデオカメラを奪おうと奈緒に襲い掛かる。

 

奈緒は取られまいと必死に抵抗する。

 

「乙坂!早く乗り移れ!」

 

「その間に瞬間移動で倒します!」

 

「でも、あれ痛いんだが………」

 

乙坂が躊躇っていると男は奈緒の手からビデオカメラを奪い取っていた。

 

「貰った!」

 

ビデオカメラを手に男は空高く飛び上がった。

 

空中浮遊って言うか、跳躍の方がいいんじゃないか?

 

「くそっ!やるしかないのか!」

 

乙坂がそう言うと、乙坂の体から力が抜け地面に倒れる。

 

まさか乗り移ったのか?

 

まてよ、それってつまり…………

 

空を見上げると再起ほどの男が落下していた。

 

やっぱ落ちてやがる!

 

奈緒が走り出し、落下地点へと急ぐ。

 

だが、向うの方が早く落ちる。

 

間に合わない!

 

「止まれ――――――――!!」

 

男(乙坂)がそう叫んだ。

 

すると、急に落下がするのが止まり、そして、木と同じ位の高さから落下した。

 

「はっ!」

 

そこで乙坂が目を覚ます。

 

「無謀な賭けに出ましたね」

 

「こんなことなら、さっさと乗り移ってればよかった」

 

まさか、能力者に乗り移るとその能力者の能力が使えるとは驚きだ。

 

全員で男が落ちた場所へと行くと、男は地面に仰向けの体制で倒れていた。

 

「なんなんだ……何が起きたんだ一体………」

 

どうやら無事みたいだ。

 

「打撲か骨折か。まぁ、結果オーライです。ビデオカメラも無事ですし、よかったですね」

 

「お前……何者なんだよ………」

 

「俺達もアンタと同じ特殊能力を持ってる奴だ。だが、この能力は思春期の病の様なもの。いずれは消えて無くなる」

 

「でも能力を知られたら科学者たちのモルモットになります。それは嫌ですよね?」

 

「くっ…」

 

男は視線を逸らす。

 

「では飛んでいるときに能力が消えたらどうします?転落死しますよ?命まで懸けてやることですか?」

 

そう言っても男は何も言わず俺達から目を逸らす。

 

「美沙さん、お願いします」

 

そう言うと美沙が一歩前に出て手の平から炎を出す。

 

「そうか…僕にだけ与えられた能力だと思っていた。ほかにもいたのか…」

 

男は体をゆっくりと起こし、空を仰ぎ見る。

 

「…いつかは空を自由に飛べるようになって、スカイハイ斉藤の名で、ハリウッドスターになろうと夢見ていたのに」

 

スカイハイ斎藤ってダサいな。

 

「その気持ちもわかりますが、あなた自身のためにその能力は今後使わないでください」

 

「…分かった」

 

男もとい斎藤は悲しそうにそう言った。

 

だが、これにて一件落着か。

 

「無事終わりましたね」

 

「長かったな~」

 

「ああ。本当に長い一日だったよ」

 

本当にな。

 

心の中でそう呟き、俺は空を仰いだ。

 

本当に長かったな………………

 



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崩壊の能力者

今日から星ノ海学園は夏服に衣替えする。

 

着慣れない夏服に袖を通し、学校へと向かう。

 

昼休みの時間になると今日はもう協力者が現れると言うことなので、全員生徒会室で昼飯を食べることになった。

 

食べ始めて数分後、いつも通り協力者がずぶ濡れの状態で扉を開けて入ってくる。

 

やはりと言うか、行き成り扉を勢いよく開けるので、乙坂と柚咲はビビっていた。

 

そして、地図に水滴を垂らすと能力を告げた。

 

「能力は………崩壊」

 

協力者が出て行くと扉も閉じられる。

 

そこで、乙坂がバランスを崩し椅子代わりにしていた段ボールから落ちる。

 

「崩壊?どんな能力だ?」

 

上体をお起こしながら乙坂が言う。

 

「さぁ?狙った物を壊せるとかそんな所でしょう………にしても」

 

破壊じゃなくて崩壊。

 

その違いがなんだか怖いな…………

 

「場所は?」

 

「ここは………併設する我々のマンションですね」

 

「なら、能力者がいて当然じゃないか」

 

「そうでしょうか?平日の子の時間に居るんですよ?」

 

「何が言いたい?」

 

こいつ、ここまで言って分からないのか?

 

「親は特殊能力者にはならない。思春期のみにしか発症しないからな。となれば」

 

「風邪でも引いて欠席してるとかでしょう」

 

奈緒がそう言うと、乙坂の表情が変わった。

 

「乙坂どうした?」

 

「何か知ってるんですか?」

 

「……きっと偶然だ」

 

「話してください」

 

「………僕の妹が熱で寝込んでるんだ」

 

「やっぱり兄妹だと両方発症する可能性があるのかも………」

 

いつの間にか奈緒は、柚咲の顔を至近距離から見つめ思案顔になっていた。

 

「ま、私たちに専門的なことは分かりませんし、お見舞いも兼ねて歩未ちゃんが本当に発症したのか確認しに行きましょう」

 

「奈緒、相手は病人だぞ。大人数で行ったら迷惑だ」

 

「それもそうですね。なら、私と響が行きましょう」

 

すると乙坂が急に何かを考え始め、柚咲を見つめる。

 

「どうかしました?」

 

今度は高城を睨みつけるように見つめる。

 

すると奈緒が急に声を上げた。

 

「へぇー、キリンってああやって寝るんだー」

 

「そうなんです。キリンは眠る時、首をとくろの様にまい………って!キリンがいるんですか!?」

 

キリンに反応し高城が窓に近づき外を見る。

 

「何処!?何処!?」

 

「おりゃあああああああ!!!」

 

高城の背後から奈緒がドロップキックをかました。

 

「うわあああああああああああ!!?」

 

高城は窓ガラスを突き破って悲鳴を上げながら外へと真っ逆さまに落ちた。

 

「あわわわわわわ!?」

 

奈緒の行き成りの行動に柚咲は青ざめ、乙坂はガッツポーズをしていた。

 

俺はスマホを取り出し、119番へとコールした。

 

「彼奴が来るのは野暮かと思いまして」

 

「すいません。救急車一台お願いします。はい、いつものです」

 

そう言い、俺は通話を切る。

 

「あの……大丈夫なんですか?」

 

「高城は制服の下に防具を着てるから頭から落ちない限り大丈夫だ」

 

「では、放課後この四人でお見舞いに行きましょう」

 

俺は遠くで聞こえる救急車のサイレンと外から聞こえる生徒の悲鳴を聞きながら、割れた窓ガラスの外を見つめる。

 

崩壊…………なんか嫌な予感がする。

 

放課後になり、俺達はマンションへと向かう。

 

「コンビニでお見舞いの品を買わせてください」

 

「私も買いたいでーす!」

 

奈緒と柚咲がお見舞いの品を買うと言うことで俺達はコンビニへと向かう。

 

「僕もお粥のレトルトを買って帰りたかったところだ」

 

「お粥でもレトルトはどうかと思うぞ?」

 

「僕にはそこまで料理ができる腕は無い」

 

「なんなら俺が作るぞ」

 

「作れるのか?」

 

「少なくともお前よりは出来る」

 

「では、晩御飯は響の作るお粥にしましょう」

 

「ですね~」

 

「お前たちは帰ってから自由に食べればいいじゃないか?」

 

「そう言うなよ、乙坂。皆で食った方がうまいし、それに」

 

俺はそこで言葉を小さくし、乙坂のみに話しかける。

 

「柚咲は引っ越して間もない。一人での食事は寂しいだろうし、奈緒は親に科学者へと売られてたった一人のお兄さんは、自分の事を覚えていない。今も奈緒は一人きりなんだ」

 

「………そうだな。僕はまだ妹が居るだけマシなんだな。分かった。夕食は皆でお粥にしよう」

 

「ああ」

 

コンビニへと入り、お粥の材料を購入する。

 

材料以外にも、お茶やスポーツドリングなども購入し、会計する。

 

「1360円になります」

 

「う!?………予算オーバーだ」

 

乙坂が財布の中を見ながら青ざめる。

 

「いいよ、乙坂。俺が出すから」

 

「………悪い」

 

乙坂は気まずそうに謝ってくる。

 

こいつが謝るなんてね。

 

随分丸くなったな。

 

そう思い、財布から万札を取り出そうとする。

 

「あ、これもお願いします」

 

奈緒が横からなめ茸の瓶を三つレジに置く。

 

「何故…………なめ茸?」

 

「えぇ!なめ茸最強っしょ!お粥に乗せても抜群の相性ですよ!」

 

「僕は構わないが、一之瀬の財布から出るんだ。一之瀬に許可貰えよ」

 

「別にかまわない。これも一緒にお願いします」

 

なめ茸も一緒に会計を済ませお釣りをもらう。

 

「すみませ~ん!」

 

柚咲は大きな声で、レジの後ろにある大きな菓子折を指差す。

 

「あのクッキーの缶!貰えますでしょうか?」

 

まさかアレを買う人が本当にいるとは…………

 

「2500円になります」

 

しかも高い。

 

おまけに、高そうな紙袋にまで詰められた。

 

あれってそんなに凄いものなのか?

 

そんな疑問を持ちつつ、俺達はマンションへと向かった。

 

乙坂の部屋の前まで付くと乙坂は柚咲の方を向く。

 

「この部屋だが、妹は相当なお前のファンだ」

 

「それは会うのがますます楽しみになってきました!」

 

「だが、アイツは今熱で寝込んでいる。あまり興奮させてはいけない。少なくとも鼻血が出る」

 

興奮して鼻血を出すとか漫画じゃあるまいし…………

 

「だから、行き成りではなく徐々に「あれぇ~?ひょっとしてゆさりん?」みたいな感じでお願いしたいんだが」

 

「では、変装用のマスク付けておきますね」

 

そう言い、柚咲はサングラスにマスクの装備をした。

 

何て言う不審者?

 

「よし!」

 

よし!なのか?

 

「ちょっと待っててくれ」

 

そう言い、乙坂は部屋の中へと入って行った。

 

暫くすると二人の女の子と一人の男の子が部屋から出てきた。

 

三人は俺達に会釈と挨拶を帰って行った。

 

歩未ちゃんの友達か?

 

すると、奈緒がいつの間にか部屋の中へと入って行った。

 

待ってろって言われただろ。

 

溜息をついて、俺と柚咲も続く。

 

「こんにちは!お邪魔しまーす!てかしてまーす」

 

「待ってろって言ったろ!」

 

「入れ替え制かと思いまして」

 

絶対嘘だ。

 

「よ!歩未ちゃん。久しぶり」

 

「おお!友利のお姉ちゃんに響お兄ちゃんなのですぅ!」

 

「また会えるって言ったでしょ」

 

「それともう一人お客さん」

 

それを合図に柚咲が部屋に入ってくる。

 

「初めまして~」

 

「………ゆ……さ……り……ん………うはぁ!!」

 

「「「「うおわ!?」」」」

 

本当に鼻血が出た!!

 

リアルで興奮して鼻血出す人初めて見た!

 

てか、マスクとサングラスしてるのに分かるの!?

 

「止血します!」

 

奈緒が素早く動き、歩未ちゃんの鼻を押さえる。

 

「下向いて口で息して」

 

奈緒の指示に従い歩未ちゃんは下を向きながら息をする。

 

すると、鼻血は見事に止まった。

 

「おお!凄いのですぅ!」

 

「ふぅ~、良かった~」

 

柚咲は安堵し、マスクとサングラスを外す。

 

「………ゆ……さ……り……ん………うはぁ!!」

 

また鼻血出た!

 

「止血します!」

 

そして、また奈緒が歩未ちゃんの鼻を押さえる。

 

「あわわわわ!鼻血が止まるおまじないしましょうか?」

 

「止めろ!余計に悪化する!」

 

有り得ないと思いたいが、この様子を見ると本当に悪化してしまいそうだな。

 

「ふぅ………生ゆさりん殿………驚いたのですぅ」

 

どうやら喜んでもらえたようだ。

 

「じゃあ、乙坂。台所借りるぞ」

 

「ああ、悪いな」

 

皆を部屋に残し、俺は台所でお粥づくりを始める。

 

といっても簡単な卵粥だ。

 

三十分も掛からないで完成し、全員を居間に呼ぶ。

 

テーブルには五人分の卵粥となめ茸の瓶が置かれた。

 

「「「「「いただきまーす」」」」」

 

俺が作った卵粥を一口食べると

 

「「めさめさおいしいのですぅ!!」」

 

歩未ちゃんと柚咲がそう言った。

 

「確かにうまい」

 

「相変わらずうまいっすね」

 

乙坂にも中々に好評だった。

 

意外にもお粥となめ茸は相性が良くこれもうまかった。

 

なめ茸の瓶を二つも開けてしまい、晩御飯が終わる。

 

それと同時に、柚咲の携帯に着信が入った。

 

相手はマネージャーらしく内容は仕事みたいだった。

 

「すみません、これからお仕事ですぅ」

 

「ええ!」

 

「相手は現役の芸能人だ。仕方がないだろ」

 

「おお、そうでした!ゆさりん殿!お仕事頑張って下さいでござる!」

 

「はい。歩未ちゃん、お大事に」

 

全員で玄関まで見送り、後片付けに入る。

 

「乙坂、皿洗うから手伝ってくれ」

 

「別にこれ位いつでも洗えるだろ?」

 

「そう言うと、奈緒が怒るぞ。文句言わずにさっさとやる。皿拭くだけでいいから」

 

「まぁ、わかった」

 

皿洗いもササッと済ませ、歩未ちゃんを布団まで連れて行く。

 

「薬飲んだらもう休め。布団掛けてやるから」

 

乙坂の言うことを素直に聞き、歩未ちゃんは布団に入る。

 

「いいお兄ちゃんで良かったね」

 

まぁ、単純に妹に甘いだけなのかもしれないけどな

 

「うん!でもね、寝るのちょっとだけ怖いんだ。昼間に怖い夢見ちゃって」

 

怖い夢か…………

 

「熱がある時に悪夢を見るのは良くありますますから、気にしなくていいと思いますよ。ちなみに、どんな夢でした?」

 

「おい。悪夢を態々思い出させるな」

 

「………そうですね。では、帰るとします」

 

「歩未ちゃん、またね」

 

「はい!」

 

歩未ちゃんに別れの挨拶をし、玄関を出る。

 

乙坂が見送りに来た。

 

「貴方から歩未ちゃんに悪夢の内容を聞きだしといてください。それが崩壊の能力への手かがりになるかもしれません」

 

「待て!まだ歩未が特殊能力者と決まったわけじゃないだろ!」

 

「確かに証拠はないが、可能性は高い。それに、崩壊の能力………とても嫌な予感がする」

 

「私も同感です。なので、聞き出して下さい。歩未ちゃんの為にも」

 

「………わかった」

 

「もし明日、熱が下がっていても念のため休ませてください。現時点では、情報量が少なすぎます」

 

「………わかった」

 

奈緒はそれだけ言い、帰って行った。

 

「……乙坂、俺も帰るぞ。何かあったら連絡くれ」

 

「……ああ」

 

乙坂に別れを告げ、俺も部屋に帰る。

 

「このまま何事も起きなければいいんだがな…………」

 



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崩壊

翌日、生徒会室で乙坂が歩未ちゃんの悪夢に付いて話した。

 

内容は地面が分かれて行くと言うものらしい。

 

「地面が分かれて行く……何かの暗示でしょうか?」

 

高城が考えながら話す。

 

ちなみに頭や顔に包帯が巻いてあったり、ガーゼが貼ってありと痛々しい。

 

「奈緒、もしかしたら崩壊の能力は狙った対象を破壊するんじゃなくて、辺り一帯を破壊する能力なんじゃないのか?それなら、破壊じゃなくて崩壊ってなるのもうなずける」

 

「確かに、その可能性が一番に高いですね。でも…………やっぱり情報が少な過ぎる」

 

奈緒は落ち着きなく動き回って話す。

 

「どうするんですか?」

 

「今の所できるのは、中学校にも大量の監視カメラが設置されてるのでそれで能力の傾向を窺うぐらいです。後は教師に歩未ちゃんへの注意を促すぐらいですかね」

 

やはり、今の段階でできるのはそれぐらいか。

 

せめて、どんな能力なのかがはっきりすればある程度対策は立てれるんだがな………

 

「中学校には人が大勢いるので何かあったら危険です。マンションの方が安全です。もう少し情報を集めたいので明日も休ませてください」

 

「風邪が治るおまじないしに行きましょうか?」

 

柚咲が急にそう言い出した。

 

何故そう言う話になる?

 

柚咲は柚咲なりに考えてるんだろうが、意味が分からない。

 

「出たー!ゆさりんのおまじないシリーズ!21!風邪の治るおまじない――!」

 

高城は相変わらず暴走してやがる。

 

「引くな!」

 

「いや、また鼻血出るし勘弁してくれ」

 

「では、治ってからにしますね」

 

「………そうしてくれ」

 

そして、特に進展もなく今日は終わった。

 

翌日。

 

登校してきた乙坂に話し掛けた。

 

「乙坂、歩未ちゃんの熱はどうだった?」

 

「もう下がったが、言われた通り今日一日休ませた。ま、熱がぶり返すこともありえるからどの道休ませるつもちだったがな」

 

やっぱ妹に甘いな。

 

そう思いつつ、授業を受け昼休み。

 

今日も三人で学食で昼飯を食べる。

 

「怪我の方は大丈夫なのか?」

 

乙坂が一昨日の事で高城に話し掛ける。

 

「一昨日生徒会室から落されたことでしょうか?」

 

「ああ」

 

「よくあることなので、あれぐらいのアクシデントには対応可能です。まぁ、出会ったころは即入院でしたが」

 

「……友利がリーダーでいいのか本当に不安になってくるな」

 

「……貴方が思ってる以上に計算高い人ですよ」

 

「高城の言う通りだ。アイツはアイツなりの考えと信念を持ってる。信じてやれよ」

 

そう言うと、携帯に奈緒からメールが入る。

 

「呼び出しだ。さっさと食べるぞ」

 

「はい」

 

残りのパスタを必死に食べ、急いで生徒会室へと向かう。

 

生徒会室には既に、奈緒と柚咲が居た。

 

「ようやく来たか」

 

「三人共パスタだったので、掻き込む事も出来ず申し訳ありません」

 

「そんなパスタをくるっくるっ巻いて食べる余裕がよくあったな!」

 

「お説教なら後でいくらでも聞くから、要件を頼む。何かあったのか?」

 

俺が本題に入るように仕向けると、奈緒は真剣な眼差しで俺達に言う。

 

「歩未ちゃんが登校しています」

 

「え?いや、学校にも連絡して今日は休ませてるはずだが」

 

「今朝の状態は?」

 

「熱は下がったが、ぶり返しが怖いから休むように言った」

 

「平熱だからか」

 

そこで俺は気付き、尋ねた。

 

「まさか、自分の判断で登校したのか」

 

「平熱だったからでしょう。三時間目から登校してるようです」

 

「え?」

 

「嫌な予感がします。急いで歩未ちゃんの様子を見に行きましょう」

 

慌てて外に出て、隣の中学校まで走る。

 

だが、距離があり過ぎる。

 

「こっちです!」

 

奈緒の後に続いて来たのは、中学校の敷地と高校の敷地を仕切る金網フェンスの所だった。

 

「何をするんだ?」

 

「ショートカットです!」

 

そう言い、奈緒は金網に手を引っ掛け登って行く。

 

俺達も金網を登り、中学校の敷地内へと潜入する。

 

中学校の校舎に向かって走り、校舎が見え始めた頃、俺達の目の前で校舎の一部が崩れ崩壊した。

 

その光景に俺達は唖然とし、ただ見つめるしかできなかった。

 

辺りにはけたたましく非常ベルの音が鳴り響く。

 

「これが………崩壊」

 

「行きます!」

 

「ダメだ!危険過ぎる!」

 

救助に向かおうとする高城を奈緒が止める。

 

能力による崩壊は止まっても、二次災害でまた崩れる可能性がある。

 

今、行くのはダメだ。

 

「あ………歩未……歩未―――――――!!」

 

乙坂は叫びながら、崩壊した校舎の瓦礫の山へ走っていった。

 

「行くな!巻き込まれるぞ!」

 

奈緒が呼び止めるが、乙坂は瓦礫の山を登って行く。

 

「奈緒たちは此処にいろ!乙坂は俺が連れて来る!」

 

そう言い残し、俺も乙坂の後に続いて瓦礫の山に向かう。

 

「乙坂!」

 

瓦礫の山の中で乙坂は必死に瓦礫を退かしながら歩未ちゃんの名前を呼び続けた。

 

「乙坂!ここは危険だ!早く逃げるんだ!」

 

肩を掴みながら叫ぶが、乙坂には聞こえていないのか瓦礫を退かす手を止めようとしない。

 

「くっ………恨むなよ」

 

殴って気絶させてでも、連れて行こうとした矢先、柱の一部だったコンクリートの瓦礫が音を立てて崩れ、俺達の真上に落ちてきた。

 

俺は咄嗟に、乙坂の上に覆いかぶさり目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その直後俺は意識を失った。

 



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見守る

「…………ここは?」

 

意識が戻った時、俺の目の前に移ってたのは白い天井だった。

 

顔を横に動かすと、看護師が居た。

 

俺が起きてることに気付くと、慌てて何処かに行き、そして、医者を連れてきた。

 

「一之瀬さん!気分はどうですか?」

 

気分?

 

悪くはないが、体中が痛い。

 

どうしてこんなにも体が痛いんだ?

 

「俺は………どうして……ここに?」

 

「覚えてないんですか。貴方は、星ノ海学園中等部での崩落事故に巻き込まれたんです」

 

そうだ………確か、崩壊した瓦礫の校舎に向かった乙坂を連れだそうとして…………

 

そこまで考えた瞬間、俺はベッドから上半身を慌てて起こす。

 

その瞬間、強烈な痛みが体を襲う。

 

その痛みに耐えれず、体を抱えるようにして呻く。

 

「無茶しないで下さい!命に別条は無いとは言え、大怪我だったんですから」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……乙坂は?乙坂は無事ですか?歩未ちゃんは?」

 

苦しそうに息をしながら尋ねる。

 

「乙坂さんの方は貴方が庇ったお陰で軽傷ですみました。ですが、妹さんの方は……………」

 

医者の表情が全てを語っていた。

 

歩未ちゃんは助からなかったんだ。

 

「…………そうですか」

 

その後、俺は暫くの間、検査の為に一週間ほど入院することになった。

 

乙坂は大丈夫だろうか?

 

たった一人の家族を失ったんだ。

 

家族を失う悲しみは良く分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから三日後、高城と柚咲の二人が見舞いに来た。

 

「二人とも久しぶりだな」

 

「ええ。一之瀬さんがご無事で何よりでした」

 

「早く良くなって学校に来てくださいね」

 

「ああ。…………なぁ、乙坂はあれからどうしてる?」

 

非常に聞きにくいことだが、気になったので聞いた。

 

「それが………妹さんの葬式の日以降一度も部屋から出てきていないんです」

 

「そうか……………アイツの気持も分からなくもない」

 

「私もお姉ちゃんが亡くなった時は、暫く塞ぎ込んじゃったので乙坂さんの気持ちは分かります」

 

此処にいる全員、乙坂には立ち直ってもらいたいと思ってる。

 

だが、今の乙坂には何を言っても無駄だ。

 

アイツ自身が立ち直ろうとしないと意味がない。

 

結局、どうする事も出来ないのか…………

 

「そう言えば、奈緒は?」

 

「友利さんですか?彼女は能力者関係で用事があるから暫く学校を休んでますが、態々休学届を出して休んでるんです」

 

「………そうか」

 

それだけ会話すると二人は帰って行った。

 

二人が帰った後、俺は携帯を手に携帯使用可のラウンジへ向かう。

 

掛ける相手は奈緒だ。

 

数コールすると、奈緒が電話口に出る。

 

『はい。友利です』

 

「奈緒、俺だ。乙坂なんだが、今近くに居るのか?」

 

『よく分かりましたね。今、彼の近くに居ます』

 

やっぱりか。

 

いくらなんでもこのタイミングで能力者を保護しに行くとは考えにくい。

 

それに、生徒会活動なら授業をさぼっても内申に影響は出ないのにも関わらず、休学届を出し、さらに、奈緒は歩未ちゃんの事で責任感を感じてる。

 

だから、乙坂の近くにいると思ったが正解だったか。

 

『……………今から言う所に来て貰えますか?』

 

「え?」

 

『私の勘ですが、彼を救えるのは貴方だけだと思います』

 

「………分かった。救えるかは分からないが、行く」

 

『ありがとうございます』

 

俺は病室に戻ると点滴の針を引っこ抜き、高城達が持ってきてくれた制服に着替え、病室を後にした。

 

電車に乗り数十分後、ある駅に着いた。

 

「お待ちしてました」

 

駅では奈緒が出迎えてくれた。

 

「乙坂は?」

 

「こちらです」

 

そう言って案内されたのは、ゲーセンだった。

 

「ゲーセン?」

 

「彼はここ最近、毎日ネットカフェで寝起きし、食事はピザとみたらし団子のみ。ここのゲーセンのシューティングゲームで遊ぶのが日課になってます」

 

「食事がピザとみたらし団子だけって、そんなの体に良くないだろ

 

「ええ。それでサラダを差し入れたんですが、手つかずです。おそらく、…………今の彼に何を言っても無駄です。暫くは見守るべきです」

 

「ああ、賛成だ」

 

頷きながら、俺は狂ったような笑みを浮かべてゲームを楽しむ乙坂を見続けた。

 

このままだと、アイツは壊れちまう。

 



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おかえり

乙坂を見守り続けて数日が経った。

 

相変わらず、乙坂はネットカフェで寝起きし、ピザを食べ、みたらし団子を食べながらゲーセンでシューティングゲームをする。

 

俺と奈緒は同じネットカフェの一室を借り互いに交代して仮眠を取りながら乙坂を見守り続けた

 

だけど、見守ってるだけじゃダメだ。

 

どうにかして、アイツを救わないと。

 

るある日、乙坂はいつも通りみたらし団子を買ってゲーセンへと向かった。

 

俺は外で待機し、奈緒は能力を使って近くで見守る。

 

乙坂はいつもここで、ゲーセン閉店時間までシューティングゲームをする。

 

が、今日は先客が居たらしく、乙坂は団子を食べながら順番を待った。

 

だが、先客の高校生は連コインでプレイし続ける。

 

マナーがなってないな。

 

そう思って見続けると、高校生たちはずっとプレイし続けた。

 

すると、乙坂が切れ、食い散らかした串を蹴り飛ばし、ぶつけた。

 

ゲームをプレイしていた高校生二人と、近くで別のゲームをしていたリーダー格の高校生が乙坂に近づき、乙坂を店から連れ出す。

 

その後に続く形で奈緒が店から出て来る。

 

「奈緒、これヤバいんじゃないのか?」

 

「そうですね。後を追いましょう」

 

後を追って着いたのは、薄暗いトンネルだった。

 

「ケンカ売ってきたのはテメーの方だぞ」

 

「ちょっと痛い目見てもらうぞ」

 

「へ~、僕に勝てるかな?来いよ」

 

乙坂は挑発するように笑う。

 

「暫くゲームが出来ない体にしてやろうか」

 

乙坂の胸倉を掴み、坊主の男が言う。

 

すると乙坂は能力を使い坊主男に乗り移った。

 

そして、そのままリーダー格の男を思いっきり殴り飛ばした。

 

「テメー、行き成り何してくれてんだ!?」

 

「いや!確かに俺はコイツを!?」

 

「おっと、仲間割れですか?大丈夫?」

 

坊主男は今度は乙坂の方を向き、殴りかかるが、その前に乙坂がもう一人の男に乗り移る。

 

体から力が抜けたことで坊主男の拳を躱し、坊主男の腹に蹴りを入れる。

 

リーダー男はナイフを取り出し、斬り掛かるが、乙坂に乗り移られ、ナイフを無事な男の腕に投げつけ刺す。

 

そして、勢いよく走り、頭を壁に向ける。

 

当たる直前で能力の発動が終わり、リーダー男はコンクリート壁に頭を強くぶつけそのまま倒れた。

 

乙坂は袋の中からみたらし団子を取り出して食べる。

 

「て、テメー………一体何を……」

 

最後の言葉も聞かずに乙坂は、リーダー男に近づき、串を脚に突き刺した。

 

「ぐあああ!?……つつつっ!?………あああ!!」

 

「もう一本あるよ~」

 

そう言いもう一本食べ、串をまた突き刺す。

 

「うあああああああ!!?」

 

「僕が強いだけさ。次僕に歯向かったら文字通り殺してやるよ」

 

乙坂はそう言い残し、その場を去った。

 

「……響。救急車を呼んでおいてください」

 

「…………ああ」

 

俺は悪い方向に変わりつつある乙坂の背中を見続け、救急車を呼んだ。

 

後を追い続けると、今度は別の不良に絡まれていた。

 

「テメーか?一人で権藤の連中をのしたってのは」

 

「権藤?中にはそんな奴もいたかもね~」

 

流石は不良。

 

こういった噂が広まるのが早い。

 

「俺は細山田だ」

 

「数分後には忘れてそうな名前だな」

 

乙坂はそう言い笑う。

 

「大した度胸だな。まったくナメられたもんだ。テメーら、ちょっと教えてやれ」

 

その瞬間、乙坂は一人の男に乗り移り、隣の男を殴る。

 

そして、能力が消える直前で、自分の顎目掛け殴る。

 

「何やってんだ、テメーら!」

 

細山田が叫ぶが、その間に乙坂はナイフを持った男に乗り移り、細山田の足を刺す。

 

「あああ……!………うう!」

 

細山田は足を押さえ、その場に蹲る。

 

乙坂は細山田の後ろに回り、髪を掴んで上を向かせ、右目の真上に団子の串を持ってくる。

 

「片目………潰しちゃっていい?隻眼の細なんとかって言う、厨二病的な肩書きが付くよ」

 

「ひっ……!ひぃ!」

 

「何迷ってんの?隻眼、かっこいいじゃん。いくよ~」

 

そう言って串を刺そうとした瞬間、細山田は声を上げた。

 

「分かった!俺の………負けだ!」

 

細山田がそう言うと、乙坂は細山田を解放する。

 

そして、乙坂は不良を倒すことに快感を得たのか、街を歩き回り不良を次から次へと挑発し、倒す。

 

俺の時と同じだ。

 

最初は俺も、生活費を稼ぐために不良を狩っていたが、と途中からは不良を倒すのが楽しくてしょうがなかったのを覚えている。

 

今のアイツはあの時の俺だ。

 

そんな乙坂に俺は何もできず、俺は自分の無力さを痛感した。

 

そして、次の日。

 

夕方の時間帯、乙坂はまた別の不良グループと喧嘩していた。

 

全員を倒し、団子を食べていると一人の男が何かのケースを求めて手を伸ばしていた。

 

「何だよこれ?大事なものなのか?」

 

そう言いケースの蓋を開ける。

 

中身を見ると乙坂はにやりと笑い、男を見る。

 

「そういうことか」

 

夜になり乙坂は人気のない場所へと移動する。

 

雑誌の上にケースから白い粉を出し、それを丸めたレシートで吸おうとしていた。

 

薬かよ!

 

俺が止めようとする前に、奈緒が動き、薬を吸おうとしていた乙坂の手ごと薬を蹴り飛ばした。

 

「………お前………いつから……?」

 

「ずっとです」

 

「俺もいるぞ」

 

俺も乙坂の前に姿を現す。

 

「一之瀬………お前もずっと僕を………?」

 

「俺はお前がゲーセンではしゃいでる時からだ」

 

「それより、この先に進んだらもう二度と人としては戻れません。だから、止めました」

 

「………誰かの差し金かよ?」

 

「いえ、休学届を出してます。プライベートです」

 

「俺は病院で入院中だったが、抜け出してきた」

 

「何のために!」

 

「……お前が心配だからだ」

 

俺は乙坂を真っ直ぐ見つめ言う。

 

「……私も責任を感じてるんです。あの時、私が取った行動は適切だったのではないか?すぐにでも歩未ちゃんを安全な場所に確保すべきだったのではないか?とです。だから、貴方が立ち直るまで付き合う。そう決めたんです」

 

すると乙坂は立ち上がり怒鳴る。

 

「余計なお世話なんだよ!大体、お前に僕の気持ちが分かるのか?どうせ分かんねーだろ!お前なんかに…………僕の気持ちが分かってたまるか!」

 

その言葉を聞き、俺は乙坂の胸倉を掴んだ。

 

「乙坂………いい加減にしろよ。テメーだけが不幸だと思ってんじゃねぇよ!」

 

「なら、お前は僕の気持ちが分かるのかよ!?」

 

「ああ!痛いほどにな!だから、言ってやるよ!薬なんか使って一時的に楽になった所で、何も変わらない!お前が自分の意志で変わろうとしない限りな!」

 

「………………るさい」

 

「歩未ちゃんが亡くなって辛いのは分かる!だがな、薬に手を出して体がボロボロになれば歩未ちゃんは悲しむぞ!」

 

「……………うるさい」

 

「自分の所為でお前が壊れて行くってな!」

 

「うるさい!」

 

乙坂が叫んで、俺を殴る。

 

「知ったような………知ったような口を聞くなぁ!」

 

俺の腹に跨り、俺の顔を殴る。

 

「僕の気持ちが!分かるってなら!どうしてこうなってるのかも!分かるだろ!だったら!ほっといてくれよ!」

 

!の度に乙坂は俺の顔を殴る。

 

最後の拳を受け止め俺も負けじと叫ぶ。

 

「ほっとけるかよ!」

 

「なんでだ!」

 

「友達だからだ!」

 

そう言うと、乙坂の表情が変わり攻撃の手が緩む。

 

それを好機とみて、俺は頭突きを乙坂の額に当てる。

 

「悪いが、お前をぶん殴ってでも連れて帰るぞ!」

 

「やってみろよ!」

 

互いに叫び合いながら殴り合う。

 

唇を切ったり、鼻血を出したり、頬に痣が出来ても俺たちは殴り合った。

 

いつの間にか雨が降り、俺達の体温と体力、気力を奪っていく。

 

そんな俺達を奈緒は傘を差して黙って見つめていた。

 

俺も乙坂も吐く息からもう体力が無いのが分かる。

 

それでも、俺と乙坂は最後の力を振り絞り、走り出す。

 

「うおおおおおおお!!」

 

「うあああああああ!!」

 

互いの拳が交差するようになり、互いの頬に当たる。

 

そして、俺と乙坂は糸の切れた操り人形の様に仰向けに地面に倒れた。

 

「はぁ………はぁ………はぁ………一之瀬………結構強いな………」

 

「はぁ………はぁ………はぁ………乙坂も……やるじゃねぇか………」

 

体を雨で濡らしながら俺達は会話をする。

 

「なに青春物の少年マンガみたいな展開してるんですか?」

 

そんな俺達の間に、奈緒が入ってくる。

 

「取り敢えず二人とも濡れてますし、温かいお風呂に入りましょう。その後は、温かい食事です。食事は元気の元気の源ですから」

 

「……飯ならちゃんと食ってる」

 

「……みたらし団子とピザのどこがちゃんとした飯だ?」

 

「……なら何を食えってんだ?」

 

「任せてください」

 

奈緒はそう言うと携帯で誰かに電話をする。

 

「ああ、すみません。……はい。あと、風呂も沸かしといてもらえますか?……ありがとうございます」

 

「……何勝手にセッティングしてんだよ?」

 

奈緒は乙坂の方を向きながら、指を一本立てる。

 

「一口です。一口だけ食べたら、もう関わりません。響もそれでいいですよね?」

 

「ああ、いいぜ」

 

濡れた体を起こし、乙坂に手を伸ばす。

 

「ほら、行くぞ」

 

「………一口だけだぞ」

 

そう言い、乙坂が俺の手を取る。

 

「では、行きましょう」

 

俺達が着いたのは高城の表札が掛けられた大きな民家だった。

 

「高城?」

 

「彼の実家です。でも、誰もいないから安心してください」

 

そう言い扉を開け中に入る。

 

「用意しますから、先に風呂に入って下さい」

 

「何を食わせる気だ?」

 

「それは出来てからのお楽しみです」

 

台所に向かう奈緒の背中を見つめ、乙坂は風呂場へと向かった。

 

数分後、乙坂と入れ替わるように風呂に入る。

 

着替えは何故か用意されていて、俺は新しい制服に袖を通す。

 

乙坂も制服だ。

 

居間へ戻ると乙坂はソファーに倒れ寝ていた。

 

疲れてたんだろう。

 

そう思い、俺は向かい側に座り時間が過ぎるのを待った。

 

「はい、できました」

 

その言葉と共に、乙坂が跳ね起きる。

 

乙坂の目の前には、オムライスが用意され、その上にひでんとケチャップで書かれていた。

 

「どうぞ」

 

「冷めないうちに食えよ」

 

乙坂はスプーンを手に一口食べる。

 

「……同じ味だ!」

 

「だったら良かったです」

 

「どうして?」

 

「貴方のお母さんはレシピノートを残していたんです。勝手に持ってきちゃいましたが、オムライスのページだけ大きくはなまるが書いてありました。恐らく、貴方の一番の好物だったのではないでしょうか?」

 

色褪せたノートを開き、オムライスのページを見せるように出す。

 

そこには「秘伝ソースで有宇君ご機嫌!」と書いてあった。

 

「歩未ちゃんは、お母さんが居なくなった後もこのノートを見てずっと同じ味を再現していたんだよ」

 

「………あれが………最後のオムライスだったのか………」

 

乙坂がそう呟くと、目から涙が零れ始めていた。

 

そして、勢いよくオムライスを食べ始めた。

 

「……くそ……甘くてまずいのに………なんだよこれ!」

 

「早食いは健康上良くないっすよ」

 

「落ち着いて、ゆっくり食えよ」

 

「…………ああ」

 

泣きながら乙坂はオムライスを完食し、奈緒から渡された濡れタオルを目に当てていた。

 

「………なぁ、二人とも」

 

「はい?」

 

「なんだ?」

 

「……僕はこれからどうすればいいんだ?」

 

「生徒会に戻ると言うのはどうでしょう?」

 

「でも、もう二度と関わらない約束をしたじゃないか」

 

「それは一口だけ食ったらの話で、完食したらって話じゃないだろ。…………戻ってこいよ」

 

そう言うと乙坂は笑い、俺達に顔を見せた。

 

「そうだったな………分かった。生徒会に戻るよ」

 

「よかったっす」

 

「ああ、お帰り」

 

そして、俺達は笑い、乙坂の帰りを受け入れた。

 




雨の中、喧嘩するのはkeyでは必要だと思うんですよね。

CLANNADでも、リトルバスターズでも、エンジェルビーツでもあったから、今回雨を降らして乙坂とオリ主を喧嘩させました。


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PV

翌朝、乙坂の学園復帰の日、俺は乙坂家の前で乙坂が来るのを待っていた。

 

ドアを開け出てきた乙坂の顔にはシップやガーゼが貼ってある。

 

それは俺も同じだった。

 

「よぉ」

 

「ああ」

 

それっきり互いに無言になり、互いの顔を見つめる。

 

「ぷっ……!」

 

「くっ……!」

 

「はははははははははっ!!」

 

「はははははははははっ!!」

 

そして、同時に笑い出した。

 

「乙坂、お前の顔ヒデェーな!」

 

「一之瀬こそ、ヒデェー顔だぞ!」

 

笑い合いながら俺と乙坂は学校へと向かった。

 

「あ、乙坂さん!お帰りなさってはわわわわわ!!?どうしたんですか?その顔って響さんも怪我してますぅ!!!?」

 

登校した俺達の顔を見て柚咲が驚き慌てる。

 

高城の顔を見ると、分かってますよと言いたげな目をしていた。

 

俺と乙坂は顔を見合わせて同時に言い訳をする。

 

「「野球勝負で喧嘩になった」」

 

「野球で喧嘩ですか!?」

 

柚咲ってもしかしてツッコミの才能でもあるのか?

 

「お帰りなさいませ」

 

そんな中、高城は乙坂にそう声を掛けた。

 

「ああ、長い間迷惑を掛けた…なっ!?」

 

乙坂の声が急に変になり周りを見てみると、クラスの男子共が乙坂を妬むような目で見ていた。

 

柚咲の奴に心配されて羨ましいのかよ。

 

アイドルってスゲェー。

 

「謝られることじゃないですよ」

 

「そうですよ。これで、生徒会皆が揃いましたね!」

 

俺達生徒会メンバーがこうしてるのにも関わらず、奈緒は一人席でビデオカメラを弄ってた。

 

「では、復帰のお祝いに乙坂さんにはこのおまじない!」

 

「まさか!」

 

柚咲のおまじない発言に高城だけでなく、男子たちが立ち上がる。

 

「だぁいじょうぶ!結果は忘れはだぁいじょうぶのおまじない!」

 

「出た―――――!!記念すべきゆさりんのおまじないシリーズ!ナンバ―――――――1!大丈夫のおまじない!」

 

高城は何処から出したのか分からないハッピを着て怪しげな踊りを踊る。

 

そして、高城だけでなく他の男子もハッピを着て一糸乱れぬ踊りを踊る。

 

「ムブ朝初登場の日に思い付きで占いコーナーを丸潰しにしたいわくつきのおまじない!」

 

それダメじゃね?

 

「引くな!」

 

高城の話を聞いていた奈緒が叫ぶ。

 

「あ、ゆさりんおはよー!」

 

やって来たクラスメイトの女子が柚咲に挨拶をする。

 

「ニューシングルの発熱デイズ、予約したよ!」

 

「俺も俺も!」

 

「僕も!」

 

ゆさりんコールからクラスは一気にハロハロの新曲での話で盛り上がった。

 

「私も無論、予約済みです」

 

高城は眼鏡を輝かせ、予約の券を九枚出す

 

そんな高城に男子が歓声を上げる

 

予約しすぎだろ。

 

そんな中、乙坂は笑顔でいた。

 

「どうした?」

 

「いや、相変わらず騒がしいなって思ってさ。」

 

「………ああ、そうだな。うざいぐらいにな」

 

「有り難いよ。これまでの通りの日常が送れそうでさ」

 

まだ乙坂の表情には気ごちなさと暗さがあるが、歩未ちゃんを亡くした時と比べれば遥かにいい表情をしている。

 

いい傾向だと思う。

 

「実はなんとここに!」

 

柚咲が教卓の前に立ち、クラスの皆に見えるように何かを掲げる。

 

「チャチャーン!ニューシングル発熱デイズの初回特典のPVが!」

 

『見たぁあああああああい!!』

 

「引くな!」

 

叫ぶ全員に奈緒が叫んだ。

 

昼休みになり、高城が早速席を立つ。

 

「では、先に学食に行ってます」

 

俺達の返事を聞かずに高城は能力を使い学食へと向かった。

 

「………またか」

 

「行こうぜ」

 

学食に行くといつぞやの光景がそこにはあった。

 

牛タンカレーが三つと、血まみれの高城。

 

「お待ちしていました。どうぞ」

 

そんな高城に乙坂は笑っていた。

 

「これはお前なりの復帰祝いか?」

 

「そんなつもりはありません。私も久々に、このメニューが食べたかっただけです」

 

こいつなりに気を遣ってるんだろう。

 

本当に良い奴だよ。

 

「またこいつが食えるなんて嬉しいよ」

 

そう言い乙坂が席に着き、カレーを食べる。

 

「やっぱ美味いな!」

 

「はい。何度食べても飽きることはありません!」

 

すると行き成り奈緒からの呼び出しが来た。

 

「呼び出しだ」

 

「来るのか」

 

「おそらく」

 

三人で頷き合い、カレーを一気に食べる。

 

そして、食べて直ぐにも関わらず、俺達は生徒会室まで全力疾走する。

 

着く頃には、脇腹が居たくなり、吐きそうな気分になった。

 

「おっせーな!お前ら何座だ?」

 

「いつも急すぎるんだよ!…うぷ」

 

吐くならトイレ行けよ。

 

「では、全員揃いましたし、黒羽さんのPVでも観ましょうか」

 

「は?」

 

「お恥ずかしい限りですぅ!」

 

まさかと思うが、このために全員呼んだのか?

 

「や…………やったあああああああ!!」

 

高城が回転しながら拳を突き上げて叫ぶ。

 

〇コ〇コ動画なら昇竜拳とかのコメントが付きそうだ。

 

「誰よりも早く見れるなんてぇええ!!!!!うおおおおおおおおお!!!!!」

 

生徒会室での高城の騒ぎっぷりに俺達は呆れ顔になる。

 

「とまぁ、一人熱狂的なファンがいるので酷い出来でも大丈夫っすよ」

 

荒い息を上げる高城を無視し、奈緒がテレビを起動し、PVを流す。

 

そのPVを見た時の俺の感想はというと、かっこいいの一言だった。

 

高城はと言うと、興奮しテレビ画面に頬ずりし始めた。

 

もちろん、奈緒が蹴り飛ばした。

 

そして、PVが終わった。

 

「ご清聴ありがとうございますぅ」

 

だが、PVが終わったにも関わらず、誰一人として何も言わなかった。

 

「……おい、何か感想言ってやれよ」

 

乙坂がそう言うが、高城はと言うとあまりの感動に意識が別次元へと逝っていた。

 

「ダメだなこりゃ」

 

高城の顔の前で手を振ってみるが、反応がなかった。

 

「いいじゃないですか」

 

意外にも先に感想を言ったのは奈緒だった

 

「友利さんに褒められるなんてゆさりん うれしい~!」

 

「あ、今自分のことをゆさりんと言ったので減点」

 

「「えぇえ~!!!!」」

 

復活した高城が柚咲と一緒に声を上げる。

 

「友利さんの中では今何点ぐらいになってるんでしょうか…」

 

「歌が10点、曲が20点、衣装が20点、編集が30点、本人の痛々しさで -51点」

 

「え、えーと」

 

「ということは…」

 

「29点だな」

 

「テストなら赤点で補習だな」

 

「PVだけで採点のやり直しをお願いしますぅ」

 

奈緒にしがみつき、柚咲がお願いする。

 

「なら、80点」

 

わぁああ!と高城と黒羽はハイタッチをする。

 

「良かったですねー!」

 

「ゆさりん嬉しい~!」

 

「19点まで下がりました~」

 

「「えぇえええ!!!」」

 

「まぁまぁ」

 

声を上げる二人を宥め、俺は感想を言う。

 

「PVのみなら80点だし、そう悪い評価でもないだろ。それに、俺は良かったと思うぞ」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ、かっこよかったし、普段の柚咲と違ってよかった。普段が可愛いならこの柚咲はかっこよくて美しいだな」

 

「そ………そうですか…………」

 

そう言うと柚咲は顔を赤くして俯いてしまった。

 

どうしたんだ?

 

「マイナス30点にまで下がりました」

 

「ええええええええ!?」

 

一体何が起きてそこまで下がるんだ!?

 

「なぁ、高城。あれどう思う?」

 

「質の悪い病気でしょう」

 

あの二人も何を言ってるんだ?

 

「ま、私はファンでもないですし、商売としては100点かと」

 

「へえーお前にしては意外だな」

 

「とりあえず!もう一回PVが見たいです!!」

 

「え~次が最後だぞ~」

 

柚咲の点数が急激に下がったことは一時忘れ、俺達はもう一度PVを観た。

 



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サラ・シェーン

「それにしても遅いな」

 

乙坂がそう言った

 

PVも観終わり、協力者が現れるのを待っているが一向に現れる気配もしないし、外から濡れた足音も聞こえない。

 

確かに遅い。

 

「ああ、今日アイツ来ないっすよ」

 

「え!?」

 

まさか本当にPVを観るためだけに呼んだのか?

 

「じゃあなんで呼んだんだ?」

 

「へっへ~実はですね~」

 

じゃん!!と奈緒が机の上にZHIENDのライブチケットを置く。

 

「ZHIENDのライブチケットですね」

 

「しかも明日じゃないか。これ」

 

「ZHIEND?」

 

「柚咲さんは知りませんでしたか。友利さんが大好きな、ロックバンドですね」

 

「ロックじゃねー!ポストロックだ!」

 

机を叩いて奈緒が怒鳴る。

 

「ぽ、ポストロック?」

 

「ウィキで調べろ!」

 

高城が言われた通りにスマホでポストロックに付いて調べる。

 

ポストロック:リズム・和音・音色・コード進行などの点で従来のロックには見られない特徴がある

 

「ますます分かりませんが………」

 

要するに従来のロックトは違うロックのスタイルってことか?

 

よくわからんが…………

 

「んなこたぁどうでもいいんだよ!!ここにZHIENDのライブチケットが2枚ある。さて、これをどうしようかと言うのが問題だ」

 

「意味が分からないんですけど…」

 

「要は、もう一人連れて行ってもらえるという事ですよ」

 

「なるほど!……でも、私そのなんとかロック知らないですし~」

 

「はあ…海外での評価、知名度はすげえ高いのに…あなたの歌が100点満点だとしたら、ZHIENDは100万点です」

 

「満点以上の点数があるとは…」

 

「はうあうああ~」

 

柚咲が涙目になってる。

 

まぁ、あんなこと真正面から言われたら傷付くわな。

 

「で、誰か名乗りでるものはいないのか?」

 

「私も特に興味はありません。………そうだ一之瀬さんが行ってあげてください」

 

「俺?」

 

「そうだな。一之瀬が行ったらどうだ」

 

高城と乙坂が俺に勧めて来る。

 

見ると奈緒は期待したような目をし、柚咲は少し不安そうな目をしていた。

 

え?なんでそんな目するの?

 

てかな、俺もZHIENDは良く知らないし、それにロックにも興味が無い。

 

だから、ポストロックにだって興味があるはずない。

 

そう言えば、乙坂は奈緒の音楽プレイヤー持ってたな。

 

てことは、ZHIENDの音楽も入ってるはず。

 

「乙坂、お前奈緒から貰った音楽プレイヤーにZHIENDの歌は無かったのか?」

 

「え?いや、あったって言うか、それしかなかったが」

 

「ならお前が行けばいいだろ」

 

そう言うと乙坂は「は?」みたいな表情をする。

 

「俺はZHIENDの歌を知らないんだ。知らない奴と言っても楽しくないだろ。なら知ってる奴と言った方が楽しいに決まってる」

 

「待て待て!なんでそうなる!?てかなんだよ、その消去法のような決め方は!!…そうだ美砂は?」

 

「BPM260の超高速ツーバスが聴けるなら行く」

 

「BPM260の超高速ツーバスは聴けないので、ご遠慮ください」

 

その瞬間柚咲と美砂が入れ替わり、柚咲は奈緒に睨まれてることで怯えていた。

 

「とにかく、乙坂で決まりだな」

 

俺が笑ってると、高城と乙坂は奈緒の肩に手を置く。

 

「友利さん………次がありますよ」

 

「友利、落ち込むな」

 

「………別に落ち込んでませんが」

 

え?どうして?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道、俺は乙坂と帰っていた。

 

「なぁ、一之瀬。どうして僕と帰ってるんだ?」

 

「うん?たまには別に良いだろ。それより、晩飯一緒に食おうぜ」

 

「………ああ(こいつも、こいつなりに気を遣ってくれてるんだな)」

 

適当な話をしていると、前から白杖を持った赤い髪の女性が歩いて来た。

 

前に居た生徒たちはすみませんと言い、道を開ける。

 

俺達の方にも来たので俺達も横にずれ道を譲る。

 

その時、何が英語をぼそっと呟いた。

 

すると乙坂は何かに気付いたのかその人に声を掛けた。

 

「How………なんだっけ?」

 

「英語無理なら話掛けるなよ」

 

そう言うと、その女性は行き成り俺達の前に移動してきた。

 

「お前たちは、モダン焼きを食わせてくれるのか?」

 

「え?日本語大丈夫なんですか?」

 

「モダン焼きだよ!モ・ダ・ン・焼・き!」

 

「モダン焼き?」

 

「お前らもか…誰も知らねえ…日本なのに…なぜだ…Jesus!!」

 

女性はまるで悲劇とでも言いたげに座り込んで叫ぶ。

 

「それはそばの入ってるお好み焼きのことか?」

 

「そう、それだ!何処に行けば食える!?」

 

「広島焼きで良ければお好み焼き屋に行けばあると思うが」

 

「それはそば入りなのか!?」

 

「あ、ああ」

 

「是非連れて行ってくれ!」

 

女性の迫力に押され俺と乙坂は女性を街のお好み焼屋に連れて行った。

 

「いらっしゃぁい」

 

「広島焼き二つ」

 

二つ?

 

三つじゃないのか?

 

「後、生中!」

 

「はぁいよぉ」

 

この店員、変わった声だな…………

 

「僕はウーロン茶。一之瀬は?」

 

「俺も同じので」

 

「はぁいよぉ」

 

「あ、やっぱり広島焼き三つで」

 

どうやらまだ歩未ちゃんの事を引きずってるみたいだな。

 

仕方がないよな。

 

俺も両親を失った時はそうだった。

 

こらばっかは時間を掛けていくしかないよな。

 

そう思ってるとき、乙坂をそ女性は鋭い目で見ていた。

 

「くぁあああああああっ――――!効くぅ――!」

 

出されたビールを女性は一気飲みし、言う。

 

そこに店員がやってくる。

 

「自分らで焼くかぁーい?」

 

「あ、この人、目が不自由なんで焼いてください」

 

「はぁいよぉ!!!……ってふぁ?目が見えないって!?あんた…まさか…!!」

 

「あ、ちーす!ZHIENDのボーカル。サラ・シェーンでぇーす」

 

ZHIENDって奈緒が好きなバンドの!?

 

まさか、乙坂の奴それを知って……………

 

「さ、サラさんがこんな小汚いお好み焼き屋に来られるなんでぇ!!?あ、明日ライブ行きます!そそそ、それで!色紙にサインを!!?」

 

「あ、いいよぉ」

 

簡単にサインを引き受け、サラさんは色紙にサインを書く。

 

さらさらと書くな。

 

目が見えないのは生まれつきじゃないのか?

 

「はいどうぞ」

 

「ありがとうございまぁす!では、こちらお召し上がり下さいいいいいやあああああ!」

 

テンション高ぁ!!

 

出された広島焼きをサラさんは頬張り厳しい表情になる。

 

「何か問題か?」

 

「………生地薄っ!」

 

「そりゃ、モダン焼きじゃなくて広島焼きだからな」

 

「そりゃそうか!これはこれでうまい!流石japan!」

 

これはこれでよかったらしくサラさんはうまそうに食べていた。

 

「ありがとうございやしたぁ!ライブ楽しみにしてやぁす!」

 

店の会計はサラさんが出してくれた。

 

まさか奢ってくれるとは。

 

「悪いな、ごちそうになって」

 

「ありがとうございます」

 

「ところでさ………アンタたち、何か良くないことでもあったのか?」

 

「「え?」」

 

「息遣いや声色で分かるんだよ。ずっと悲壮感丸出しなんだよな。誰か身近な人を失った………とか」

 

「………流石だな」

 

「よかったらさ、話してくれるかい」

 

話していいものなのかと思ったが、話を聞いてもらうことにした。

 

「つい先日、妹を事故で亡くして」

 

「なんてこった!ここまで親切にしてもらったんだ!妹さんに煙を上げさせてくれ!」

 

「煙?」

 

「……線香のことか?」

 

「そう!それだ!」

 

「いや、そこまでは」

 

「頼む!上げさせてくれ!そうさせてほしい!頼む!」

 

手を合わせ頭を下げるサラさんに俺達は驚く。

 

「分かった!分かったから頭を上げてくれ!」

 

「取り敢えず、乙坂の家に行こう」

 

サラさんを連れ、乙坂の家まで案内する。

 

線香を上げて手を合わせるサラさんを見ながら、俺はあることを思いつき、乙坂に提案してみた。

 

「乙坂、少し提案があるんだが」

 

俺の提案を聞き、乙坂はうなずいた。

 

どうやら乙坂も考えていたみたいだ。

 

失敗するかもしれない提案。

 

だがやってみる価値はあるかもしれない。

 

「なぁ、頼みがある」

 

「ん?」

 

「………会ってほしい人が居るんだ」

 



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奇跡

「アンタのバンドが好きな兄妹がいるんだ」

 

乙坂と俺の提案とはサラさんを奈緒たちに会わせることだ。

 

いや、正確には奈緒のお兄さんに合わせる。

 

お兄さんはサラさんのバンド「ZHIEND」のファンだったそうだ。

 

なら、生でサラさんの歌を聞けば何かが変わるかもしれない。

 

それが俺達の考えだ。

 

「そいつは………ただのファンってだけじゃなさそうだね」

 

「まぁ、その通りだ。待ってくれ。ちょっと連絡を取ってくる」

 

そう言い、俺は携帯を手に外に出る。

 

スマホから奈緒に電話を掛けると数コールで奈緒が電話に出る。

 

「奈緒、俺だ」

 

『どうかしました?』

 

「実は、今色々あって、ZHIENDのボーカルのサラさんと居るんだ」

 

『…………そうですか』

 

「疑わないのか?」

 

『いえ、貴方が嘘を吐く理由は無いですし信じてます』

 

「………なぁ、奈緒。これは乙坂とも考えたんだが、サラさんをお前のお兄さんに会わせようと思う」

 

『なんでですか?』

 

「………もしかしたら、サラさんとの出会いで何かが変わるかもしれない」

 

『………可能性としてはゼロではありませんね。でも、やるだけ無駄になるかもしれませんよ』

 

「それでも!………俺と乙坂はこれに賭けて見たいんだ」

 

『………分かりました。では、貴方たちに任せます』

 

「ありがとう。病院に俺達が面会に行くって伝えてくれ」

 

『はーい。了解でーす』

 

通話を終え、俺は部屋に戻り乙坂とサラに許可が取れたことを伝える。

 

「連絡は取れた。今から行くところは少し遠いんだが、戻らないといけない時間は?」

 

「時間なんて惜しまないよ。何処にでも連れてってくれ」

 

「でも、明日ライブなんだろ。本当にいいのか?」

 

「バンメンやプロデューサーさんが、うまくやってくれるさ」

 

笑ってそう言うサラさんに俺と乙坂は自然と笑みを浮かべた。

 

サラさんを連れて、外に出て駅まで向かう。

 

その途中で乙坂が携帯を取り出すが、すぐに溜息を吐いた。

 

「また重苦しい溜息吐きやがって。妹さんの事でも思い出したか?」

 

「……本当なんでもお見通しだな」

 

乙坂は辛そうな表情をし、駅までサラさんを連れて行く。

 

電車に乗り、あの病院まで向かう途中、サラさんが急にあることを言い出した。

 

「腹ぁ減ったなぁ」

 

「え?さっき食ったばっかだろ」

 

「さっきのは昼飯。次は晩飯」

 

「何が食いたいんだ?」

 

「駅と言ったら……立ち食い蕎麦だろ!」

 

サラさんの要望に応え、俺達は途中の駅で降り、立ち食いそばを食べる。

 

サラさんはコロッケ蕎麦に感激し、とても喜んでいた。

 

晩飯も終え、俺達は目的の駅に着きバスに乗る。

 

夜と言うこともあってか乗客は少ない。

 

「なぁ、一つ聞いてもいいか?」

 

「ん?いいよ」

 

乙坂が遠慮気味に、サラさんに質問する。

 

「デリケートな部分で悪いがその目、完全に見えないのか?」

 

「ああ、何にも見えない」

 

「……サインが書けるってことは最初から生まれつき見えないってことじゃないよな」

 

「ああ、でもこれは懺悔なんだ」

 

「懺悔?」

 

「罪滅ぼしだ。アンタらは人生に付いて考えたことはあるか?」

 

藪から棒な質問だな。

 

「人生ってのは一度きりだろ。私は、バンドのフロントマンとしてステージに立つことを夢見てたんだ」

 

そこから、サラさんは自分の過去を話してくれた。

 

自分の人生は気付いたときは手遅れと言い、テレビで自分と歳の近い奴が成功してるのを見て神を恨む。

 

そんなサラさんに、乙坂は今は成功してるだろっと言った。

 

するとサラさんはズルをしたからだと答えた。

 

日本でも売れたことがあるらしく、一時期は時の人や社会現象なんてまで言われてたそうだ。

 

だが、その結果、莫大な金が動き、周りの目も悪い方に変わった。

 

そして、家族にまで迷惑を掛け、弟さんも金目的で誘拐されたそうだ。

 

「だから、そう言うのは止めにしたんだ。地味なバンドのフロントマンになって、最後は引き換えに視力を渡して、ジ・エンドさ」

 

「渡したって……誰に?」

 

「そりゃ、神様だろぉよ。まぁ、アンタらにはまだ分からないか。もしそんな時が訪れるた時には………うまくやれよ」

 

そう言うサラさんの目は何かを物語っていたが俺にはそれが読み取ることが出来なかった。

 

そうこうしてるうちにバスは目的地に着き、俺達は降りた。

 

「目的の場所は見えているんだが、もう少し歩いてもらう必要がある」

 

「あいよぉ」

 

サラさんを支えながら、階段を上る。

 

「すまないな、こんな遠い場所まで」

 

「ほぉ、自分で気付いているか。今のアンタはとても優しい。昔はそうじゃなかっただろ?」

 

「ははは!乙坂、完全に見透かされてるな」

 

「自覚は無かったがな」

 

「………きっと、良い出会いが会ったんだろうな」

 

乙坂は黙り込み、考えながら階段を上った。

 

病院に着き、面会の件を伝え病室の前まで来る。

 

「どういう状態になってるか分からない。心の準備だけはしてくれ」

 

「ああ、アンタの声でヘビィな感情は十分伝わってくる」

 

俺と乙坂は頷き、病室のドアを開ける。

 

そこでは、前と同じようにお兄さんは布団を引き裂き、絶叫し、作曲をしていた。

 

「鎮静剤が切れてる……」

 

「凄く……奇妙な感覚だ。なぁ、その人は今何してるんだ?」

 

「作曲………らしい」

 

「それは………思ったよりヘビィだな」

 

「かつてはアンタのバンドに憧れたギタリストで、メジャーデビュー寸前だったんだ」

 

「…………そっか」

 

そう言うとサラさんは、お兄さんに近づき、そして歌を歌い始めた。

 

初めてZHIENDの、サラさんの歌を聞いたが、とてもいい曲だ。

 

本当にロックの曲なのかと疑うぐらいに綺麗で、透き通った歌。

 

まるで神に捧げるかのような歌だ。

 

そして、サラさんが歌を歌い出してお兄さんに変化が表れ始めた。

 

布団を引き裂いて、羽毛を毟るのを徐々に止め、表情も静かなものへと変わり始めた。

 

最後には、微動だにせず、鎮静剤を打ったときと同じようになった。

 

「友利一希さん。俺達が分かりますか?」

 

俺はお兄さん、一希さんに近づき尋ねる。

 

「俺達、妹さんの、奈緒さんの友達です」

 

「……………奈………緒」

 

言葉を喋った!

 

「そうです!奈緒です!」

 

「…………奈………緒」

 

まだオウム返しの様にしか喋れないが、やったんだ!

 

「なにやら奇跡が起きたようだな」

 

「ああ、アンタの歌が起こしてくれたんだ」

 

乙坂は涙ぐみながら、サラさんに言う。

 

まだ道のりは長いが、これで一歩前進した。

 

帰りのバスの中、俺と乙坂の中には何かをやり切った充実感があった。

 

だが、まだこれからが本当の道のりの始まりだ。

 

達成感に浸るのは、一希さんが本当に治った時だ。

 

「一歩前進って言ったところか。」

 

「ああ、そんなところだ」

 

「今日は充実した一日を送れて良かったよ」

 

「そう言えば、明日乙坂とさっきの人の妹がサラさんのライブに行くんだ」

 

「ほぉ、なら明日はアンタと言うお客が居ることを意識して歌うよ。それと、その妹さんのこともな」

 

「ああ」

 

「アンタもいつか来てくれよ。私のライブにさ」

 

「ああ、今度機会があったら必ず行かせてもらう」

 

その後、サラさんを引き取りに来たマネージャーさんに、サラさんを引き渡し俺達は帰り道を歩いた。

 

「なぁ、一之瀬」

 

「ん?」

 

「僕を変えてくれた人だが、恐らく、お前と友利だと思う。あの時、友利が僕を助けてくれて、お前が本気で僕とぶつかり合ってくれた、だから、今の僕が居るんだと思う。ありがとな」

 

「それは、奈緒にも言ってやれ。恐らく、自分が責任を感じてただけですとか言うだろうけどな」

 

「違いない」

 

その時携帯に着信が入り、見ると奈緒からだった。

 

「奈緒、どうした?」

 

『病院から連絡がありました。今は病院の外です』

 

「入れ違いだったか」

 

『看護師さんから連絡があり、駆けつけました。私の事も気付いてくれました。あんな兄、久々で…………貴方たちの判断は正しかった。なのでお礼を言いたかったんです』

 

「俺たちは何もしてない。全部、サラさんのお陰だ」

 

『それでもです。ありがとうございます』

 

「……その言葉、乙坂にも言ってやれ、今変わる」

 

乙坂に携帯を渡し、乙坂は俺の携帯を耳に当てる。

 

「僕だ………………ああ…………もちろん」

 

そう言い、俺に携帯を返した。

 

「じゃあな、奈緒。また学校で」

 

『はい。…………今度は、ライブに行きましょう、私と』

 

「…………ああ、その時を楽しみにしてるよ」

 

携帯を切り、俺は星空を見上げた。

 

そこに輝く星はとても綺麗で透き通っていた。

 

いつか、そう遠くない日に奈緒と一希さんが笑って暮らせる日が来る。

 

そんな願いを込め、俺は目を閉じ星に祈った。

 



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告白と再会

サラさんと会った翌日、俺は布団で目を覚ました。

 

寝ぼけた頭を覚醒させるため、風呂場へ行き、顔を洗う。

 

トーストを焼き、ハムエッグを作って朝食を食べ終え、俺は一息ついた。

 

「さて…………今日は何をしよう…………」

 

遣ることもないし、暇だ。

 

そう言えば、今日柚咲の奴、仕事休みって言ってたよな。

 

ちょうどいいし、遊びにでも誘うか。

 

スマホから柚咲を選び、電話を掛ける。

 

『もひもひ~、柚咲でふけろぉ~』

 

なんか食ってる?

 

朝飯中だったか?

 

「柚咲?俺だけど」

 

『ふぁ!?ひ、響さ…!ムグッ!~~~~~~~!!?』

 

詰まらせたみたいだ…………

 

数秒後、何かを飲む音が聞こえ、柚咲が電話口に出る。

 

『ど、どうしました?』

 

「ああ、今日暇だったら一緒に遊ばないかって思って」

 

ガラガラガッシャーン!!

 

電話の向こう側で何かが割れる音と、慌てる柚咲の声が聞こえた。

 

「あ~…………もしかして何かまずかったか?」

 

『いえいえ!そんなことないですよぉ!あ、遊びにですよね!全然いいですよ!』

 

「じゃあ、三十分後ぐらいに迎えに行くから」

 

『はい!待ってます!』

 

電話を切り、少し考える。

 

「………柚咲の奴、かなり慌ててたな」

 

何を慌ててたんだ?

 

そう考えてるうちに、時間になり、柚咲を迎えに行く。

 

「柚咲、迎えに来たぞ」

 

インターホンを鳴らし、ドアをノックすると柚咲が私服で出て来る。

 

「すみませ~ん。お待たせしました」

 

「よし、行こうぜ」

 

柚咲を連れ、やってきたのは雑貨屋だった。

 

最近できた店で結構色んな雑貨が売っており、中には女性向けの商品もあったりする。

 

柚咲は目を輝かせて店の中を見回る。

 

俺も何かいいものは無いかと物色しながら歩くと、あるものに目を付けた。

 

それは、猫のストラップだった。

 

その猫はジト目で相手を見つめてるような眼差しで、それが何処となく奈緒に似てる気がした。

 

「響さん、どうしたんですか?」

 

「いや、この猫のストラップ。奈緒に似てるなって思ってさ」

 

「あ………そ、そうですね…………」

 

「買って行って見せたらどんな反応するかな?」

 

そう言い、俺はそれを手にレジへと行く。

 

雑貨屋を後にし、俺達が次に来たのは服屋だった。

 

近々夏物を買おうと思ってたし、丁度いい。

 

柚咲が俺の服を選んでくれるとのことで、折角なのでお願いした。

 

「響さん、こんな服とかでどうですか?」

 

「色合いとか結構好みだな。デザインもいいし、これにするよ」

 

柚咲が選んでくれた服を購入し、店を出る。

 

「そう言えば、響さんが来てるその服は自分で選んだんですか?とてもいい服だと思いますよ」

 

「ああ、これか?残念だが、これは俺が選んだんじゃなくて奈緒が選んでくれたんだ」

 

「友利さんがですか?」

 

「ああ、入学前に俺の服が必要だってことで、選んでくれたんだよ。結構お気に入りなんだぜ」

 

「そうですか…………ふ~ん」

 

なんだが、さっきから柚咲の反応が薄い気がするな。

 

どうしたんだ?

 

「………響さん。ゲームセンター行きましょう」

 

そう言って柚咲はこの前俺と来たゲーセンに俺を引っ張って連れてきた。

 

「折角だし、前回のリベンジするか?」

 

「はい!」

 

前回やったシューティングゲームをし、そこから格ゲーを除き、前回を同じゲームをプレイした。

 

「またプリクラ撮るのか?」

 

「はい!」

 

そして、またプリクラの機械まで俺は来ていた。

 

女子と二人でプリクラはかなりきつかったからもう撮りたくなかったんだが、柚咲相手だと、どうも断り辛い。

 

前回と同じように機械の合成音声にしたがい、フレームを選び、ポーズを取り、写真を撮る。

 

『最後の一枚だよ。最後は好きなポーズで撮ろう……………』

 

「響さん」

 

「ん?なんだ」

 

『行くよ?3』

 

「私、響さんのこと」

 

『2』

 

「好きです」

 

「え?」

 

行き成りの言葉に柚咲の方を振り向こうとする前に、柚咲が近づき、俺の頬にキスをした

 

『1!』

 

それと同時に、シャッターが切られる。

 

「ゆ………柚咲?」

 

「お返事はいつでもいいですから。よく考えてください。響さんが何を選んでも私は恨みません。でも…………私を選んでくれたら嬉しいです」

 

そう言い残し、柚咲は俺を置いて走り出した。

 

「あ、柚咲!」

 

慌ててゲーセンを飛び出すが、辺りに柚咲の姿は見えなかった。

 

間に合わなかったか…………

 

それにしても、柚咲が俺の事を好き?

 

夢か?

 

試しに頬を引っ張るが、痛いから夢じゃない。

 

てか、選ぶって何をだ?

 

付き合うか付き合わないか?

 

でも、それだと最後の私を選んでくれたら嬉しいの意味と繋がらない。

 

まるで、柚咲以外に俺の事を好きな奴がいるみたいな言いぶりだ。

 

そう思った時、誰かが俺の肩を掴んだ。

 

「よぉ、響………久しぶり」

 

その声に驚き、俺は振り返る。

 

そこには見知った顔が居た。

 

「哲二!」

 

稲葉哲二。

 

同じ施設に居て、俺が能力で殺しかけた奴だ。

 



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頭痛

哲二は施設内ではかなりの嫌われ者だった。

 

俺と歳が近いこともあって、よく俺の事を苛めの対象にしていた。

 

そして、俺は哲二に連れられて空き地に連れてこられた。

 

「哲二。俺を此処に呼んで何の用だ?」

 

「ああん?そんなもの、考えなくても分かるだろ?お前が俺に何をしたのかをな」

 

俺がコイツにしたこと。

 

能力を無意識に使い、俺は哲二を殺しかけた。

 

幸いにも助かったが、コイツはそのことを恨んでるんだろう。

 

「そのことについては謝る。すまなかった」

 

「謝って済むと思ってるのか?俺はお前のせいで死にかけたんだぞ?なら、それ相応のことをしてもらわないとな」

 

「殴って気が済むならいくらでもしてくれ」

 

「そうかい、なら遠慮なく殴らせてもらおうか!」

 

そう言うと哲二は俺の顔を思いっきり殴った。

 

相変わらず痛いな。

 

まぁ、殴って気が済むならそれでいい。

 

耐えるのは慣れてる。

 

「大体お前は最初から気に食わなかったんだよ!施設の中で一番の入居者だがしらないが、結局はただの親無し子だろうが!それなのに、皆は俺よりもお前に懐いて…………おかしいだろうが!俺はお前よりも強い!強いんだ!それなのに、誰も俺の事を慕おうとはしないし、逆に俺を恐れる!そんなことあってたまるか!」

 

そう言うと、哲二は殴るのを止めた。

 

「次は………コイツでやってやるよ」

 

そう言って哲二は拳を握ると近くのコンクリートブロックを拳で粉砕していた。

 

その光景に俺は驚いた。

 

「そ、その力は…………」

 

「お前に殺されかけてから急に変な力に目覚めてな。こいつはいいぜ。体の力が強くなって、どんな奴にも負けない。最高だよ」

 

「……………哲二よく聞け。お前の持ってる能力はお前だけが持ってるものじゃない。他にも大勢の人がお前と似たような力を持ってる。そして、その力は思春期の病の様なもの。いずれは消える」

 

俺は立ち上がりながら言う。

 

「だが、その力を無暗に使えばお前は捕まるぞ」

 

「…………誰にだ?」

 

「能力を研究してる科学者にだ。もし捕まれば、二度と自由にはなれない。これは忠告だ。このままだとお前は捕まって、解剖されたりするかもしれない。だがら、その能力は二度と津空くな」

 

「………………詳しいな。てことは、お前も俺と同じような力を持ってるんだろ。なら、使えよ。俺とお前、どっちが強いかはっきりさせようぜ」

 

「お前!俺の話聞いてたか!?」

 

「ああ、聞いてたさ。でも、そんなことどうでもいい!俺はお前を潰したいんだ!科学者なんか、この能力で返り討ちにすればいい!」

 

「…………なら、力づくで分かってもらう」

 

拳を握り、能力を発動させようとすると、哲二は地面に手を付いて俺の側頭部に蹴りを入れた。

 

「悠長にしてんじゃねぇよ!」

 

俺がふらつくと、俺の頭を掴み地面に叩き付ける。

 

それを何度も繰り返す。

 

「あらら~?もう終わっちゃったか?つまんねぇな。なら、もっと愉快なことしてやるよ。この能力で、お前が居る学校を襲う。お前の新しい友達も居場所も壊してやる。それで、俺は言うんだ。お前の友達ですってな。そうすりゃ、お前は孤独だ。よかったな!また一人ぼっちだぞ!ギャハハハハハハハハハハハ!」

 

「黙れよ」

 

俺は哲二の口の左側に手で掴む。

 

そして、そのまま、横に引っ張って地面に叩き付ける。

 

掴む際、爪を立てて引っ張ったので口の中は切れたみたいだ。

 

「がぁつ!………テメー!」

 

「俺の事殴ってもいいし、俺の事を馬鹿にしても構わない。だがな、俺の友達に手を出すって言うなら容赦はしない」

 

「この野郎!」

 

哲二は俺に向かって走り出し、拳を振る。

 

俺はその拳を全部躱す。

 

この程度なら、不良たちの方が速い。

 

「くそっ!なんで当たらねぇんだよ!」

 

「お前の拳には何もないからだ」

 

そう言い、俺は哲二の最後の拳を躱し、下から顎を打ち上げるように殴る。

 

哲二は一メートル程飛び、そのまま地面に倒れ気絶する。

 

「取り敢えず、奈緒に相談か。いや、まだライブ中だろうし、ここは高城だな」

 

それにしても、コイツの能力俺のと似てた。

 

いや、俺の能力そのものじゃないか?

 

同じ能力者が複数いるのか?

 

その辺は聞いていないから分からないな。

 

その辺の事も高城に聞きがてら、電話するか。

 

高城の番号を呼び出し、電話しようとすると、急に頭痛が起きた。

 

だが、それはただの頭痛ではなかった。

 

徐々に痛みが大きくなっていき、俺は我慢することが出来ずに、その場にしゃがみこんだ!

 

「なんだ…………!この痛み……!どんどん強くなってくる…………!」

 

頭を抱え、必死に耐えようとするが無理だった。

 

「う………うわああああああああああああ!!!」

 

俺は叫び、そのまま気を失った。

 



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姉弟

「うおおおおおおおおおわ!!?」

 

左隣りの席に居る有宇が行き成り絶叫を上げた。

 

「わあああああああ!!」

 

それに驚き、有宇の左隣に居る有宇の妹、歩未ちゃんも声を上げる。

 

「有宇お兄ちゃん、一体どうしたのでしょうか?」

 

「すまん。ZHIENDの新曲があまりに衝撃的過ぎて」

 

「だからって大声を上げるな。びっくりするだろ」

 

「悪い、響。でも、やっぱりZHIENDは凄い。ずっと忘れられないような曲だ」

 

有宇は嬉しそうに目を細めて言う。

 

本当にZHIEND好きだな、コイツ。

 

俺はポストロックなんぞ良くわからん。

 

「お前の方は?」

 

「いつも通り、ロック聞いてたよ。歩未ちゃんは?」

 

「ハロハロは安定のハロハロでござったぁ!」

 

嬉しそうに拳を突き上げて歩未ちゃんは喜ぶ。

 

その時、アナウンスが聞こえた。

 

『Dブロックの夕食の時間です。繰り返します。Dブロックの―――』

 

「おお!お腹ぺこぺこなのですぅ!」

 

歩未ちゃんは席を降り、駆け足で食堂へと向かう。

 

俺もヘッドフォンを定位置に戻し、有宇と共に食堂へと向かう。

 

その時、俺の背後でクラシックを聞いてる年老いた研究者に目が止まった。

 

この人何時もいるよな。

 

それにこの人、他の研究者とは何かが違うんだよな。

 

「響、行くぞ」

 

「あ、ああ」

 

有宇に言われて歩き出そうとうすると、その研究者が声を掛けた。

 

「クラシックはいい。澱みがまるでない。数式の様にな」

 

ヘッドフォンを外し、科学者は俺と有宇を見て、食堂へ向かう歩未ちゃんを見つめる。

 

「あの()は、君たちの妹さんか?」

 

「ええ」

 

「俺は違います。まぁ、妹の様な子ですが」

 

「そうか…………可哀想に」

 

この人………やっぱり他の研究者とは違う。

 

他の研究者は俺達をモルモットの様に見つめるが、この人は俺達を人として見ている。

 

だから、こんな悲しそうな表情をするんだ。

 

「なんで貴方はここにいるんですか?」

 

有宇が質問すると、研究者はすぐに答えてくれた。

 

「常に突飛、もしくは研究者にとって困る仮説は嘲笑される。君たちは天動説を知っているか?」

 

「地球が宇宙の中心とかって言う説ですよね」

 

「うむ。今からにして見れば、突飛な考えじゃが、当時はそれが普通だった。だが違った。最初に異論を唱えた者がどうなったか分かるか?」

 

「異端扱いされたぐらいしか」

 

「そう。異端視され、追いやられ、何もできなくなった。私の様にな」

 

そう言い、研究者は再びクラシックを聞き始めた。

 

俺達はその言葉に疑問を持ちながらも食堂に移動する。

 

待っていた歩未ちゃんと合流し、列へと並ぶ。

 

今日のメニューはカレーか。

 

「やったぁ!今日のご飯はカレーなのですぅ!」

 

「また能力促進の化学物質が入ってて、薬の様な味がするんだろうな」

 

「ま、食えるだけ有り難いと思おうぜ」

 

「それでも、カレーには人を幸せにする美味しさが詰まってると思うあゆなのですぅ!」

 

「本当に歩未ちゃんは面白い考えをするな」

 

そう言い俺は歩未ちゃんの頭を撫でる。

 

「えへへ♪………隼お兄ちゃんと由美お姉ちゃんもいたらいいのにね。五人での食事」

 

「兄さんと由美さんの能力はあまりにも吐出し過ぎてる。それは無理だ」

 

「あ、そっか。なんの能力だっけ?」

 

「時空移動、タイムリープ。それと、時空間制御能力だ」

 

「おお!それは凄過ぎるので「歩未ちゃん静かに!」

 

咄嗟に俺は歩未ちゃんの口を覆い黙らせる。

 

「その凄過ぎる能力で二人は閉じ込められてるんだぞ!」

 

有宇がきつくそう言うと歩未ちゃんは悲しそうな顔をする。

 

「そっか………二人とも可哀想」

 

「だから、この話題はもうするな」

 

カレーを受け取り、席に付いて食べ始める。

 

姉さんの能力。

 

時空間制御能力は非常に凄い。

 

隼翼さんの力、時空移動は文字通り時空を移動できる。

 

姉さんもそれはできる。

 

だが、凄いのはそれだけじゃない。

 

姉さんは時空移動だけでなく空間転移、時間停止、時間の流れを制御までできる。

 

そして、俺の能力。

 

俺の能力はまだ発現していないが、ここの施設では兄弟が能力者の場合、その兄弟も連れて収監される。

 

だが、正確には俺の能力はまだ発現されてないと科学者たちに思われてる。

 

俺の能力がもしバレたら姉さんや隼翼さん程じゃないにしろ拘束される可能性がある。

 

だが、それもいずれはバレる。

 

その前に手を打たないと。

 

そう考えてると、背後に一人の男性が座る。

 

茶髪の長髪でイケメンの男。

 

熊耳だ。

 

「久しぶり。そのまま前を向いてろ」

 

「熊耳、何があったのか?」

 

「テレパシー能力者を見付けた」

 

「本当か?」

 

「ああ。しかも送受信可能だ」

 

「凄いな。だが、捕えられてるんだろ」

 

「ああ。だが、考えがある。まず、右後ろのリーゼントの男に乗り移れ。俺が連れてきた粉砕の能力者だ。威力は弱いがな」

 

有宇は能力を使い、リーゼントに乗り移る。

 

「次はテレパシー能力者の場所だ」

 

そう言って、熊耳は見えないように有宇に紙の切れ端を渡す。

 

「タイミングには気を付けろ。お前達は俺達の唯一の希望だ。失敗すればお前たちも処分され、俺達も後を追うことになる」

 

「ああ、分かってる」

 

「任せてくれ」

 

その後、カレーを食べ終わると熊耳は銃を持って警備員に連れてかれた。

 

「おい」

 

帰る途中、一人の警備員が有宇に銃を突きつける。

 

「貴様、何か受け取らなかったか?」

 

「……………何も」

 

「お前は?」

 

今度は俺の方に聞いて来る。

 

「別に」

 

「………そうか」

 

そう言い、警備員は熊耳を連れて食堂を後にする。

 

「あの方は、どうしてあゆ達とは扱いが違うのでしょうか?」

 

「兄さんや由美さん程じゃないが、それなりに凄い能力を持っているからだ」

 

夕食後は能力の検査を受け、後は就寝するだけだ。

 

これで、姉さんと隼翼さんを助ける準備は整った。

 

後は、タイミングだ。

 

『本日のプログラムは以上です。呼び出しを受けた被験者以外は、速やかに自室へ戻って下さい』

 

「じゃあ、戻るか」

 

「そうだな。もう眠たいぜ」

 

「おお!そう言えばあゆが呼ばれていたのでした!」

 

その言葉に俺の眠気は一気に吹っ飛んだ。

 

「そんな大事なことどうして!」

 

有宇が話そうとした瞬間、警備員が俺達の前に現れる。

 

「来るんだ」

 

歩未ちゃんを銃で促し、連れて行こうとする。

 

「待て!おかしいだろ!能力を持ってない妹が呼び出しをくらうなんて」

 

有宇が追いかけようとした瞬間、背後から別の警備員がスタンガンで有宇を気絶させる。

 

「有宇!お前、何しやがっ!」

 

そして、俺もスタンガンで気絶しその場に倒れた。

 

俺が目が覚めたのは地震の様な揺れと警告を知らせるアラームとアナウンスだった。

 

『Dブロックを閉鎖します。次の指示があるまでその場で待機してください』

 

「一体何が起きたんだ!」

 

扉を開けようとするが反応は無い。

 

「くそっ!」

 

体当たりも試みるが、開く気配はない。

 

「嫌な予感がする…………」

 

時間が経つに連れ、警告のアラームとアナウンスは止まり、静かになる。

 

すると、さっきまで開かなかった扉が急に開いた。

 

不思議に思い、外に出ると娯楽室で出会った研究者が怪我を負ってそこに居た。

 

「貴方は!それにその怪我!」

 

「説明は後だ。今はもう一人の彼を」

 

そう言い、隣の部屋の有宇の扉のロックを解除した。

 

「有宇!無事か!」

 

「響!それに、アンタ!」

 

「時間が無い。すぐに説明する。妹さんの能力が無理矢理引き出されたのだ。能力は崩壊。Dブロックが閉鎖されたのは、その能力により崩壊したためだ」

 

「歩未は!?」

 

「無事だ。だが、その能力が危険過ぎるため、拘束状態になっておる」

 

「拘束って、姉さんや隼翼さんみたいに?」

 

「いや……解剖された後、処分されることに」

 

解剖と処分と言う言葉に有宇は立ちすくみ、絶望の表情になる。

 

「立ちすくんでる場合か!お前達の持つ真の能力があれば助け出せるだろ!」

 

「「え?」」

 

「“略奪”と“直感”と言う最強の力を!」

 

「何故それを?」

 

「急げ!時間が無いぞ!」

 

確かにこの人の言う通りだ。

 

急がないと!

 

「有宇、行くぞ!」

 

「ああ!」

 

俺と有宇は走り出し、Cブロックへと向かう。

 

Cブロックへと繋がる扉は、有宇がリーゼントから奪った粉砕の能力で中の機械を破壊し開ける。

 

「有宇、テレパシー能力者の居場所は?」

 

「こっちだ!」

 

心を読み取られないように心を無心にし、部屋へと近づく。

 

「ここか!」

 

『誰だ?』

 

頭の中に声が!?

 

これがテレパシーか!

 

「顔さえ見えれば!」

 

有宇は下の隙間から部屋の中を除き、能力を奪う。

 

「響、受け取ってくれ!」

 

俺は有宇の手を握る。

 

俺の能力“直感”は、全ての物の仕組みや構造などを振れただけで理解する事が出来る能力で、その副産物として、触れた能力者の能力を理解しコピーすることができる。

 

ただし、この能力は能力者の体に二秒以上触れてないといけない

 

二秒以上触れてないと、その能力を感じ取れずコピーできないからだ。

 

そして、有宇みたいに能力を複数所持してる能力者はその能力者が使用してる能力をコピーできる。

 

「よし『有宇、聞こえるか?』」

 

『ああ、聞こえる!急ごう』

 

テレパシー能力が無事にコピーできたことを感じ取り、俺と有宇は走り出す。

 

Bブロックを通り抜け、Aブロックへと入る。

 

ここに姉さんと隼翼さんが…………

 

Aブロックに居る能力者の声が頭の中に聞こえる。

 

その中で、俺は姉さんの声を見付けた。

 

方向も分かる!

 

『姉さん!俺の声が聞こえるか?響だ!』

 

『響!?テレパシーの能力をコピーしたのね!』

 

『時間が無いから説明するよ!歩未ちゃんの能力が暴走して、歩未ちゃんが解剖の後処分される!』

 

『歩未ちゃんが!?くそ、研究者どもめ!こんな拘束さえなければ、すぐにでも能力で過去に飛べるのに…………』

 

『今から助けに行く!だから、能力で隼翼さんと過去に行って未来を変えてくれ!』

 

もう少しで、姉さんが隔離されてる部屋に着けると言うときに、急にアラーム音が響いた。

 

「なんだ!?」

 

すると、通路一体にガスが噴出される。

 

くそ、こんな時に!?

 

そう思ってると壁から手が生え、人が現れる。

 

それは七野さんだった。

 

「七野さん!」

 

「くそっ!お前みたいなシスコンの為に……時間が無い!俺の透過能力を持ってけ!」

 

「で、でも!」

 

「早く!時間が無いって言っただろ!」

 

「すみません!」

 

俺は七野さんに触れ、透過能力をコピーし、その直後有宇が能力を奪った。

 

「いたぞ!」

 

背後にガスマスクを付けた警備員が現れ、銃を向ける。

 

「早く!こっちだ!」

 

七野さんに押される形で俺と有宇は壁を通り抜ける。

 

その直後、壁の向こう側で銃声が響く。

 

「七野さん………」

 

「くっ……すまんない!兄さんたちが世界を変えてくれるから!」

 

「有宇!俺はこっちだ!隼翼さんを必ず助けてくれ!」

 

「ああ!響も由美さんを助けろよ!」

 

二手に分かれ、俺達はそれぞれの相手を助けに行く。

 

だが、壁を一枚通り抜けるととてつもない疲労感が俺を襲った。

 

くっ………これが七野さんの能力を使う上でのデメリットか…………

 

だが、こんなことで立ち止まってる時間は無い!

 

壁を更に一枚、二枚、三枚と通り抜け、五枚目の壁を通り抜ける。

 

そして、そこには姉さんが居た。

 

鎖や猿轡などありとあらゆる拘束具で拘束されていた。

 

俺は最後の力を振り絞り、近くの機械のボタンを押す。

 

すると、拘束具は音を立てて外れ、姉さんを解放した。

 

姉さんは自由になった両手で猿轡を取る。

 

「ごめんね、響」

 

「俺は大丈夫………姉さん。後は頼んだよ」

 

「ええ、任せて」

 

部屋の外には警備員が集まり、扉を開け始める。

 

「未来のために」

 

扉が開かれ、暗い部屋が明るくなる。

 

「いえ、私たちの為に」

 

そして、とうとう扉が完全に開かれる。

 

「未来を変える!」

 

姉さんは手を口に持っていき、親指を勢いよく噛んだ。

 

頑張って…………姉さん、隼翼さん。

 

「処分!」

 

警備員の声が聞こえ、銃声が聞こえた。

 

そこで、俺の意識は消えた。

 



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姉弟の再開

「うわああああああああ!!」

 

俺はベッドから飛び起きる。

 

息の荒い呼吸を整え、辺りを見渡す。

 

ここは………病院?

 

「目が覚めたか?」

 

そこに現れたのは、前に自販機の前であった茶髪で長髪のイケメンだった。

 

「………熊耳」

 

「ほぉ、俺の名前を知ってるか」

 

「夢の中でアンタを見た。教えてくれ、アンタは知ってるんだろ!俺の事や姉さんの事!」

 

「………いいだろ。教えてやる。だが、その前に付いて来てくれ」

 

ベッドから起き上がり、熊耳の後に付いて行く。

 

「なぁ、俺を病院まで運んだのって」

 

「ああ、俺だ。ついでに近くで気絶してた能力者も保護しておいた」

 

「そうか………ありがとう」

 

「礼はいい。………ここだ」

 

連れ来られたのは病室だった。

 

ここに何の用だ?

 

「誰だ?」

 

中から声が聞こえた。

 

これは奈緒の声。

 

「特殊能力者発見の能力者と言えば分かるか?」

 

熊耳は前髪を垂らし、奈緒に見せる。

 

「おお、お前か!乾いたらイケメンだな」

 

乾いたらってなんだよ?

 

そう思いながら、俺も病室に入る。

 

ベッドでは乙坂がいた。

 

「一之瀬、お前も一緒だったのか?」

 

「ああ、頭痛がして倒れて熊耳に運んでもらった。それで、色々思い出した」

 

「お前も!」

 

「ああ。で、熊耳どういうことが教えてくれるんだな」

 

「そうだ!兄さんのこと知ってるんだな!」

 

「まぁな」

 

「教えてくれ、全て!」

 

「落ち着け。そのつもりで来た。黙って付いてこればお前たちの疑問は全て分かる。そして、助けに行くんだ妹を、乙坂歩未を」

 

どういうことだ?

 

「死んだ人間をどうやって助けるって言うんだ!」

 

「今のお前達なら分かるだろ。兄、隼翼と、姉、由美の能力がなんなのかも」

 

まさか、俺たちに姉さんたちの能力を使わせるってことか?

 

「………あの、隼翼さんと由美さんって、あの二人ですか?」

 

今まで話に付いてこれなかった奈緒が聞いて来る。

 

「ああ、そうだ」

 

「うっそ!お前達、あの二人の弟かよ!?全ッ然、似てないな!」

 

「奈緒、姉さんたちを知ってるのか?」

 

「兄が廃人になってから私に道筋を教えてくれた方たちです」

 

てことは、奈緒が言ってた唯一信頼できる人達って、姉さんと隼翼さんだったのか・・………

 

「あの、私も会いに行っていいですか?ご無沙汰していますので」

 

「いいだろ。付いて来い」

 

俺達は病院を後にし、外へ出る。

 

外には、黒塗りの車に眼鏡を掛けた男性が待っていた。

 

車に乗り込み、俺達は眼鏡の人が運転する車で山の奥まで連れてこられた。

 

病院を出た時は、夕方だった為、今はもう夜だ。

 

山を登り、ある場所に着くと熊耳は岩肌に向かって何かを操作する。

 

すると、目の前の岩が動き、中に地下へと続く階段が現れた。

 

「凄いっすね!」

 

「金だけはあるからな」

 

階段を降りて行き、どんどん地下へと降りて行く。

 

「ここは?」

 

「いわば超能力者の研究施設だ」

 

「それは僕たちの敵じゃないのか?」

 

「違う。つべこべ言わずについてこい」

 

「すっげー!!録っていいっすか?」

 

「いいわけないだろ」

 

「ちっ」

 

一番下まで降りると鉄のドアがあり、それをパスワード入力と指紋認証、網膜認証で解除する。

 

「随分厳重だな」

 

「ここが最後の砦だからな」

 

ドアの中はエレベーターで俺達は更に地下へと降りる。

 

そして、ある一室の扉を熊耳がパスワードを入れて開ける。

 

仲は、大きな本棚と来客用の椅子とテーブル。

 

奥には机と椅子が置いてあった。

 

「有宇、響君。久しぶり」

 

横を向くとそこには男性が居た。

 

この人が隼翼さん…………

 

「あら?私もいるわよ」

 

後ろを振り向くと、そこには車いすに乗った女性、そう、夢の中で見た俺の姉さんがいた。

 

「ね、姉さん………」

 

「ええ、久しぶりね。響」

 

そう言い、姉さんは中に入っていく。

 

「連れてきたぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

隼翼さんは白杖を付きながら熊耳さんのサポートを受け、歩く。

 

目が見えないのか?

 

「まだ思い出してないのか?」

 

「ああ、前泊が消した記憶は思い出してない様だ」

 

「消した記憶!?なんっすかそれ!?」

 

奈緒が消した記憶がなんなのか気になり、声を上げて近づく。

 

「その声は奈緒ちゃんか!ご無沙汰だな」

 

「最後に会った時と変わって、更に可愛くなったわね」

 

「はい!今でもお二人が示してくれた道を歩み続けています」

 

「ああ、助かってるよ。よくやってる」

 

そう言い、隼翼さんは奈緒の頭を撫でる。

 

「奈緒ちゃん、お姉さんにはハグがいいな」

 

「はい!」

 

奈緒は姉さんの要望通り、ハグをする。

 

「で、有宇と響君はどうした?有宇にとって、俺は血の繋がった兄貴で響君は俺のことを実の兄の様に慕ってくれてただろ!感動の再開で、抱き付いてきてもいいんじゃないか?」

 

「そうよ。ほら抱き付いて着なさい。有宇君もお姉さんがハグしてあげるわ」

 

二人は手を広げて言う。

 

「いや、その、なんていうか………」

 

「色々混乱してて、まだ疑問だらけなんだ………」

 

「なんだよ、寂しいな」

 

「でも、それも私たちの自業自得よね」

 

「ああ、全部話してやるか。なぁ、ぷー」

 

「ああ」

 

「「「ぷー!?」」」

 

まさか熊耳だからぷー?

 

なんて言うあだ名だ……………

 

「では、話しましょうか」

 

「長い長い、俺と由美のタイムリープ話を」

 

「興味津々です!」

 

俺と乙坂は覚悟を決め、二人の話を聞くことにした。

 

一体二人は、何を語るんだろう?

 



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タイムリープ

行き成りですが、タイトル変えました。

理由は、主人公の右腕感が薄いという事です


私と響の両親は響が三つの時に交通事故で死んでしまった。

 

響は、両親がいなくなりいつも泣いていた。

 

そんな弟を私はただ抱きしめることしかできなかった。

 

親を亡くした可哀想な姉弟。

 

周りからそうみられていた。

 

だが、私たちは確かに親を亡くして辛かったが幸せではあった。

 

隣りに住む乙坂兄妹のお陰だ。

 

親を亡くして落ち込んでいた私たちを励まし元気づけてくれた、私たちのもう一つの家族。

 

とくに、乙坂兄弟の次男、有宇君は響と同い年と言うこともあってすぐに仲良くなった。

 

お互いに親が居ない身と言うこともあり、互いに助け合い生きてきた。

 

そんな生活がずっと続くと思われた。

 

だが、そんな生活は研究者どもの手によって壊された。

 

私と隼翼が能力を発現し、それに伴い響と有宇君、歩未ちゃんも施設へと連れていかれ、私と隼翼は能力の危険性から拘束された。

 

だが、熊耳、前泊、目時、七野、そして、有宇君と響たちが私たちを助けるために動いてくれた。

 

そして、私たちはタイムリープを行い過去へと戻った。

 

「はっ!」

 

目が覚めて私は、自分の姿とカレンダーの日付から自分たちが捕まる三年前の時間に戻れたことが分かった。

 

「姉さん!遅いよ!」

 

その声に反応し、前を見ると響が鍋を抱えて立っていた。

 

「早くしないと朝ごはんに遅れるよ!」

 

「ごめん、すぐに準備するから」

 

服を着替え、隣の乙坂家へと向かう。

 

「響お兄ちゃん、由美お姉ちゃん!おはようなのですぅ!」

 

元気よく歩未ちゃんが挨拶をして迎え入れてくれる。

 

「よぉ、響。味噌汁持ってきてくれたか」

 

「ああ、お前のご要望通りに、豆腐とワカメのな」

 

「ナイスだ」

 

響は有宇君に鍋を預け、朝食の準備を始めた。

 

そして、隼翼。

 

隼翼は私の顔を見て頷いた。

 

これから三年間。

 

三年間の間に、奴等に対抗する方法を考えるんだ。

 

まず、私たちは熊耳の仲間になることから始めた。

 

未来でした約束を果たすために。

 

「凄い能力者が現れたな」

 

「……やっと来たか!」

 

「え?なんの話だ?」

 

目の前に現れた熊耳に、隼翼はすぐにかけつけた。

 

「俺たちは絶対に世界を変えてやろうと誓い合った心の友だぞこいつ~!」

 

「待て!寄ってくるな!」

 

熊耳に抱き付いた隼翼と熊耳は、そのまま河原の坂を転げ落ちた。

 

まったく、子供ね。

 

スカートに付いた草を払い、ゆっくりと下に降りて行く。

 

「…なんなんだお前は!」

 

「俺たちの能力は知っているはずだぞ?」

 

「…まさか未来で会ってる?」

 

「その通りだ!」

 

「未来で会ってたとしても今は他人だ!馴れ馴れしくするんじゃない!」

 

熊耳は抱きつく隼翼に抵抗し、突き飛ばす。

 

「んだよ釣れないなあ、ぷー」

 

「ぷー!?」

 

「熊耳で熊だからぷーってそう呼んでたんだぜ?」

 

「まさか俺がそんな呼び名を許していただって!?」

 

………そんなあだ名、呼ばせてくれなかったのに。

 

私は呆れながらも、二人の会話を聞いて笑みを浮かべた。

 

そして、熊耳は私たちをある場所へと案内した。

 

熊耳は既に能力者を集め一つの集団を作っていた。

 

そこには、前泊に目時、七野の三人が居た。

 

「タイムリープ能力者の乙坂隼翼と、時空間制御能力者の一之瀬由美だ」

 

「ひっさしぶりー!…って言っても通じないんだよな」

 

「どういう意味?」

 

「お前たち三人とも未来ですでに出会っているらしい」

 

「そんな話を信じろと?」

 

七野の奴、コイツはこんな時からずっとこの性格なのね。

 

まったく子供ね。

 

「まずは七野。障害物を通り抜ける透過能力の持ち主。けどたった一枚の壁を通り抜けただけで極度に疲れる」

 

「何!?」

 

「次に目時。お前は催眠能力の持ち主。相手を眠らせられるがその後自分まで眠ってしまう」

 

「……う…」

 

「次は前泊。人の記憶をピンポイントで消すことができる。しかしその記憶は対象の体に触れ長い時間をかけて探す必要がある」

「すごい。完璧ですね」

 

「先に熊耳から聞いていたかもしれないだろ!」

 

まったく、七野は馬鹿ね。

 

「それは熊耳も信じないってことよ?アンタ、馬鹿でしょ」

 

「んだと!?」

 

「止めなさい、七野。事実でしょ、彼女の言い分も、貴方の頭が悪いのも」

 

「テメーは一言余計だ!」

 

怒り出した七野を目時が止める。

 

一々カリカリしちゃって…………

 

そして私たちは未来での特殊能力者の陰惨な末路を彼らに話した。

 

未来で熊耳たちと立てた計画も。

 

私たちが取りうる手段は一つ…

 

「能力者を集めて自分たちを守るんだ」

 

こうして私たちは能力者だけの組織を作りはじめた。

 

だが、所詮は子供。

 

大人の力に敵わず、自分たちの身を守ることはできなかった。

 

しまいには、他のメンバーが仲間を助けに行くと言う強硬手段にまで走ったりもした。

 

「俺達には守る力が足りない。そもそも子供だけで守るのが無理だったんだ」

 

熊耳の言葉に隼翼は考え、あることを提案した。

 

「大人の力を借りよう」

 

「はあ!?そんなの信用できるわけないだろ!!」

 

七野が怒鳴る。

 

「なら、他にいい案があるの?なら教えてほしいものね」

 

「んだと!?」

 

「騒いで相手の意見を否定する前に、自分も何か案を考えなさいよ」

 

七野と言い合いをしてるとまた熊耳が口を開いた。

 

「元能力者ならどうだ?何人か心当たりが居る。やってみる価値はあるんじゃないか?」

 

「まぁ、貴方がそう言うなら」

 

否定的だったメンバーも熊耳の一言で納得する。

 

流石ね。

 

「でも、具体的にはどうする、隼翼、由美?」

 

「ん~~………少し考えさせてをおくれよ、ぷー」

 

「隼翼に同じ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隼お兄ちゃん15歳のお誕生日おめでとうございます~!」

 

隼翼が15歳の誕生日を迎えた。

 

もうすぐ研究者たちに捕まる。

 

その前に、タイムリープしないと。

 

考えていると、隼翼はテレビを凝視していた。

 

テレビを見ると、そこには宝くじのCMが映ってた。

 

『今年は前後賞合わせて六億円~!』

 

六億…………それだけの金があれば大人でも動かせるわね。

 

隼翼を見ると、隼翼も同じ考えらしく頷いた。

 

翌日、私たちはすぐに仲間の下へ行き、この案を話した。

 

「資金を集めよう」

 

「ほぉ」

 

その案に、熊耳が声を上げる。

 

「私たちが過去へタイムリープして、宝くじや競馬なんかのギャンブルの情報を集める」

 

「へぇ」

 

「その先は?」

 

「更に能力者を集めて、もっと強大な組織を作るんだ」

 

「またコイツの言いなりになるのかよ!」

 

相変わらず否定的な意見ね。

 

「なら、案があるなら言いなさい。隼翼の考えた案より、大層立派で確実性のある案なんでしょ?でなきゃ、そんな否定的な意見言わないわよね」

 

見下すように、そして威圧的に七野に言う。

 

七野は怯えながら舌打ちをする。

 

私に口喧嘩で勝とうなんて百年早いのよ。

 

「じゃ、また過去で会おう。一から説明し直すのが面倒だけどな」

 

「特に七野にはね」

 

そして、私たちは何度目か分からないタイムリープを行った。

 

タイムリープした直後、私は自分の体の変化に気付いた。

 

脚の力が弱くなってる………………

 

どうやら私の能力は使えば使うほど、身体機能が落ちて行くみたいだ。

 

そして、隼翼もそれは同じだった。

 

隼翼の能力は使えば使うほど、視力が落ちて行くのだった。

 

隼翼の能力は目に光が入らないと使うことはできない。

 

これはかなり問題だった。

 

私の能力では過去に飛べるのは三日前までが限界。

 

しかし、隼翼のタイムリープ能力が私の能力と共鳴し、タイムリープの限界を超えさせてくれる。

 

隼翼の力が無いと私は三日前より過去には飛べない。

 

だから、急ぐ必要があった。

 

それから、私たちは更に能力者を集め、大金を得る道筋を作り上げた。

 

何度もタイムリープをして。

 

その度に、隼翼の視力は落ち、私は体がどんどん弱くなった。

 

だが、そんな事とは裏腹に、状況は一転しなかった。

 

「くっ…また研究施設に先を越されてしまった」

 

「これで何回目?最近多くない?」

 

「これでは能力者の奪い合いだ。彼らを守る環境が必要じゃないか?」

 

「う~ん…もう少し案を考えさせてくれよ、ぷー」

 

そして、隼翼はまた15歳の誕生日を迎えた。

 

もう何度目かしらね。

 

この時から、私は松葉杖が無いと歩けないぐらいにまで身体機能が落ちていた。

 

恐らく、次のタイムリープで隼翼は視力が無くなる。

 

チャンスはあと一回、どうすれば………………

 

「そういえば兄さんと由美さんは受験のシーズンだね。高校はどうするの?」

 

「姉さんは体が弱いし、その辺のパックアップもしてくれるところがいいよね」

 

高校………パックアップ……………それだ!

 

「有宇!響君!それは会心のアイデアだ!」

 

「流石は私の弟たち!」

 

「僕は何も言ってないよ?」

 

「俺も何も言ってないけど………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度飛ぶよ、ぷー」

 

「どうして?」

 

「資金を集める組織はできたわ。だけど、まだ皆を守ることはできてないわ」

 

「でも、それだとお前達は………」

 

「ああ、分かってる。恐らく次飛べば、視力を完全に失う。由美もきっともう動けないぐらいに身体機能が落ちるだろう。だから、これはラストチャンスだ」

 

「そのチャンスでお前たちは何をするんだ?」

 

「「学校を作る」」

 

「学校?」

 

私たちの案に熊耳が尋ね返す。

 

「前にも言ったろ?この能力は思春期を過ぎると消えるって。だからその間だけ能力者を守るための学校をつくればいいんだ。そうすれば発症前の有宇や歩未、響君たちも守ることができる」

 

「なるほど。でも本当に最後の賭けなんだぞ。視力すら完全に失うんだぞ。由美だって、もう体を動かせなくなるかもしれないだ」

 

「まあ、為せば成るさ」

 

「それにまだ分からないでしょ。もしかしたら、私はまだ動けるかもしれないし、隼翼もまだ目が見えてるかもしれない。そう考えたら、結構気楽なもんよ」

 

「…………なんつーか…お前達は相変わらずだな」

 

「目見えなくなった俺をちゃんと見つけてくれよな!」

 

「体が動かせなくなった私もね!」

 

「ふっ、任せろ」

 

熊耳と約束をし、私たちは最後のタイムリープを行った。

 

そして、私は一人では動けない体になり、隼翼は視力を完全に失った。

 

そこから究極の道筋を、動けない私と光が見えない隼翼は、熊耳たちと共に歩み続けた。

 

最後の仕上げにある学校法人を買収することにした。

 

なかなか骨が折れる仕事だったが最後のみんなの喜びようで気が晴れた。

 

「ふう…これでなんとなるだろ」

 

「ああ、よくやった。だが、これからだぞ」

 

「そうだな。それで、ぷー。お願いが二つある。まず一つ目、有宇と歩未と響君の記憶から

俺たちの存在を消してくれ」

 

「それと、有宇君たちの記憶から響の記憶も消して。そして、響にも同じことを」

 

「どうして?」

 

「そうしなければ俺たちはこの先自由に動けなくなるからな。もう表には出れないんだよ」

 

「分かった。だが、何故弟たちの記憶から互いの記憶を消すんだ?由美、お前は弟に一人で生きて行かせるのか?」

 

「その辺は大丈夫よ。元能力者の工藤さん。あの人が経営する施設に居れる。工藤さんとはもう話は済んでる。あの子が三歳の時からあの施設に居る様に思わせる偽装ばっちりよ」

 

「それに他人を装わせる方が、あの子達の危険が減る。だからだ」

 

「なるほど………で、二つ目は?」

 

「二つ目は、お前は日本中で同じような組織を作り能力者を保護できる学校を作っていってほしい」

 

「確かに、俺達の目が届かない場所でも能力者は守らないとな」

 

顎に手をやり、熊耳は納得する。

 

「しかしそんなまねをしたら俺自身も顔が知れ渡って危険になる」

 

「それなら、お前のその長い髪で顔を隠すってのはどうだ?」

 

「いいわね。お化けみたいになって誰も顔を見ないようにするかもね」

 

「ふっ、なるほど。水でも被れば完璧だな」

 

そう言うと熊耳は花瓶を手に取り、中の水を頭から被った。

 

まさか、本当にやるとは…………

 

「本当に被ったのか?」

 

「ああ」

 

「熊耳、アンタ結構イケメンね。顔だけでなく」

 

「だろ?」

 

すると急に笑いが込み上げ、私たちは笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人の記憶を消すために、私たちは全員で私たちが住んでるアパートへ向かう。

 

扉をノックすると歩未ちゃんが怒りながら出迎えてくれた。

 

「隼お兄ちゃん!それに由美お姉ちゃんも!どこに行ってたのでしょうか!?すっごい心配したのですー!」

 

「ああすまない。実は友達も連れてきた」

 

「来て」

 

目時が現れ歩未ちゃんに挨拶をする。

 

「え?ま、待ってほしいのです!今、お部屋の片づけを!」

 

「歩未ちゃん」

 

「あ、はい?」

 

目時が歩未ちゃんを呼び止め、能力で眠らせる。

 

眠ってしまった歩未ちゃんを受け止め、目時は眠そうにする。

 

「歩未?」

 

すると有宇君が玄関まで来て、目時に気付く。

 

「誰だ!?」

 

警戒する有宇君に、目時は眠いのを堪え、能力で眠らせる。

 

有宇君はすぐに眠ってしまい、顔を流しにぶつけ、眠る。

 

その直後、目時はすぐに眠ってしまった。

 

「連れてきたぞ」

 

私の部屋に行ってた七野は響を背中に抱え、有宇君たちの隣に並べる。

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

「ええ、響は一度眠ると目覚ましで無いと起きないの」

 

「分かりました」

 

そう言い、前泊が能力を使い三人の体に触れ、記憶を消す。

 

その間に、部屋から隼翼のものを運び、私たちの部屋から荷物を全て運び出す。

 

朝が来るころには、記憶の消去は終わり、前泊に感謝をした。

 

隼翼は別れを惜しむように、三人の額にキスをした。

 

七野に頼み、響を背負ってもらいそのまま、施設へと向かった。

 

「工藤さん、響をお願いします」

 

「ああ。この子は私が守る。約束しよう」

 

「はい…………じゃあね、響」

 

響の頭を撫で、私は響に別れを告げた。

 

こうして、私たちは響君と有宇君、歩未ちゃんの元から姿を消した。



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救う

「はい。おしまーい」

 

「以上で私と隼翼のタイムリープ話でした」

 

「タイムリープを繰り返して、今の教育機関を作り上げたなんて………すごい」

 

奈緒の言う通りだ。

 

凄過ぎて話に着いていけなかったかもしれん……………

 

「奈緒ちゃんのお兄さんは間に合わなかったけど。ごめんね」

 

「いえ、今順調に回復してるんで大丈夫っすよ」

 

「…記憶を消されていたのか………」

 

「ああ」

 

「視力を失ったりや体の機能が低下していくのに………」

 

「試してみたけどやっぱり飛べなかった……」

 

隼翼さんは悔しそうに片目を押さえ言う。

 

「姉さんは今、何処まで体が弱ってるんだ?」

 

俺は気になっていたことを姉さんに聞く。

 

「まず両脚は完全に動かせないわ。それと左腕も簡単な動作はできるけど、難しいのは無理。聴力も低下して、少し声や音が聞こえづらい。後は、免疫力の低下かしらね。これでも、元は健康優良児なのよ」

 

そう言って笑う姉さんは何処か辛そうだった。

 

「でも、まだやり残したことがあるんだ」

 

「………歩未を助けること」

 

「そうだ」

 

「でも、どうやって………」

 

「お前の能力”略奪”で俺と由美の能力を奪ってだ。能力者の能力を奪い取る。それがお前の能力なんだよ」

 

「…確か夢でもそんなこと…」

 

「私と高城は知ってましたよ」

 

「「はぁ!?」」

 

「最初から貴方の能力は彼が見抜いていました」

 

奈緒が熊耳の方を見て言う。

 

確かにそうだな。

 

「だが、奈緒。俺は知らなかったぞ」

 

「生徒会に入って日が浅い貴方に余計なことを教えるべきではないと思って黙ってました」

 

そう言い、奈緒は乙坂を見つめる。

 

「調査の結果、貴方は自分の能力を乗り移る物だと勘違いしていましたが、正しくは能力を略奪する手段が乗り移ることだったんです。その証拠に、今まで乗り移った能力者は能力を失ってます」

 

「なら、毎回大がかりなことしなくても、僕が乗り移れば済んだじゃないか!」

 

「それだと意味がないんだ。能力を使う危険性を理解させる必要があるからだろ」

 

奈緒は頷き、更に言葉を続ける。

 

「それに、能力を奪い続けるとあなた自身どんな恐ろしい存在となるか」

 

「ある意味、ここまで気づかれなかったのが幸いだな」

 

「さっすが、二人とも!分かってるぅ~!」

 

「じゃあ………」

 

乙坂は自分の手を見つめ、手のひらを前にかざす。

 

すると奈緒の背後に合った本が動き、乙坂の顔に当たった。

 

念動力だ。

 

「俺の能力自体は失われていないはずだ。それと由美の能力を奪ってお前が過去に飛び歩未を救うんだ。いいか?」

 

「隼翼さん。どうして姉さんの能力まで必要なんですか?」

 

考えてみればタイムリープするだけなら姉さんの能力まではいらないはずだ。

 

「由美の能力は時空間制御。文字通り時空間を制御できるんだ」

 

「私と隼翼は、確実に同じ時間軸に飛ぶ必要があった。だから、私は自分の能力で時間軸を固定して、隼翼とタイムリープしてたの」

 

だから、姉さんの能力も必要なのか…………

 

「飛ぶ先は歩未が能力を発症する日だ。その日に飛び崩壊という危険な能力を歩未から奪い去ってくれ。そのあと何も知らないでいる俺にこれまでの経緯を説明してくれればいい。分かったか?」

 

「…………分かった」

 

そして、乙坂は隼翼さんからタイムリープ能力を奪った。

 

「さぁ、次は由美の能力を「待って下さい」

 

乙坂が姉さんの能力を奪おうとする所で俺は声を出した。

 

「時空間制御能力は、俺の能力でコピーします。できるよね、姉さん」

 

「え、ええ………響の能力“直感”は全ての物の仕組みや構造などを振れただけで理解する事が出来る能力で、その副産物として能力を理解することでコピーできるわ」

 

「待ってくれ一之瀬。これは僕がやらないといけないことだ。お前まで巻き込むわけには」

 

「あの日、歩未ちゃんを救えなくて後悔したのはお前だけじゃない。俺も後悔してるんだ。それに、お前一人にそんな重荷は背負わせたくない。俺にも、背負わせてくれ」

 

「……………そうだな。お前にとって、歩未は妹みたいな者だもんな」

 

「ああ」

 

「まったく、響は昔から頑固なんだから」

 

姉さんが車いすを動かし、近づいて来る。

 

「ほら、持っていきなさい。いいわよね、隼翼?」

 

「………やれやれ、響君は変わらないな」

 

「姉さん、隼翼さん………ありがとう」

 

そう言い、俺は姉さんを抱きしめた。

 

「ふふっ………流石は私の弟ね。………………有宇君と、二人で頑張ってきなさい」

 

「ああ」

 

「有宇君、響をお願い」

 

「はい」

 

乙坂も頷き、俺達は並ぶ。

 

奈緒の方を見ると、奈緒は笑顔で俺を見てくれた。

 

その笑顔だけで、安心できる。

 

ありがとな、奈緒。

 

「行くぞ!響!」

 

「必ず助けるぞ!有宇!」

 

「「いっけぇええええええええ!!!!!!!!!」」

 

姉さんと隼翼さんの言葉と共に、俺たちは能力を発動し、過去へと戻った。

 

歩未ちゃんが能力を発症する日に。

 



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救えた命

見慣れた天井が視界に入った

 

「戻って………これたのか?」

 

タイムリープした実感がわかず、俺は暫く呆然とした。

 

「そうだ!日付は!?」

 

飛び起きるように布団から出て、携帯を掴む。

 

日付は歩未ちゃんが能力を発症した日。

 

よかった………どうやらタイムリープは成功したみたいだ。

 

日付の確認が終わると、有宇へと電話を掛ける。

 

「有宇、俺だ!」

 

『響!お前もちゃんとタイムリープできたんだな』

 

「ああ。歩未ちゃんは?」

 

『いるよ、生きてる』

 

「そうか…………必ずやるぞ」

 

『ああ』

 

その後、有宇と合流し、学校へと向かい、昼休み。

 

生徒会室で待ってると熊耳が現れ、地図に水滴を垂らした。

 

「能力は………崩壊」

 

そして去っていく。

 

「崩壊……どんな能力なんでしょう?」

 

 

「さぁ?狙った物を壊せるとかそんな所でしょう………にしても」

 

ここまでは前と同じだ。

 

「場所は?」

 

「ここは………併設する我々のマンションですね」

 

「ちょっといいか?恐らく、僕の妹が能力者だ」

 

「何を根拠に?」

 

「風邪を引いて寝ている。こんな時間に、マンションに居るってことは間違いない」

 

「貴方にしては鋭いですね。ま、私たちに専門的なことは分かりませんし、お見舞いも兼ねて歩未ちゃんが本当に発症したのか確認しに行きましょう」

 

「待て、奈緒。相手は病人だ。大人数で行ったら迷惑だ。俺とお前の二人だけで行こう。有宇いいか?」

 

「ああ、響の言う通り、そうしてくれるとありがたい」

 

「…………なるほど、そうだな。そうですね。そうしましょう」

 

奈緒は何かを察してくれたらしく、頷いてくれた。

 

「しっかし、貴方たち急に仲良くなりましたね。昨日まで、名前で呼び合う関係ではなかったのに」

 

その言葉に、俺と有宇は顔を見合わせ笑った。

 

「ま、色々あったんだよ」

 

「本当に色々な」

 

「「「ん?」」」

 

三人は頭に?を浮かべ首をかしげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、コンビニでお粥の材料を買い、マンションへと向かう。

 

歩未ちゃんに会い、お粥を作り、三人で食べる。

 

「では、帰るとします」

 

「歩未ちゃん、またね」

 

「はい!」

 

歩未ちゃんに別れを告げ、俺達は外に出る。

 

「悪夢の内容を聞きだしといてください。それが崩壊の能力への手かがりになるかもしれません」

 

外に出ると奈緒がそう言う。

 

有宇は少し黙り、そして口を開いた。

 

「なぁ、友利。もし、僕と響が未来からタイムリープしてきたって言ったら信じるか?」

 

「………信じますよ。貴方たちなら歩未ちゃんの為にそれぐらいはする人です」

 

「話が速いな。やっぱり、俺と有宇の本当の能力知ってたんだな」

 

「ええ。協力者が教えてくれましたから」

 

「明後日、歩未がその崩壊の能力で死んでしまう」

 

「俺達はそれを阻止するためにタイムリープしてきたんだ」

 

「そうだったんですか…………では、貴方たちだけでは不安なので生徒会も協力します」

 

「……それは頼もしいな」

 

沈黙が訪れ、誰も口を開かない。

 

「あのさ、友利。お前の事少し誤解してた。歩未を失って、自暴自棄になった僕を助けてくれたのはお前と響だった」

 

「ま、俺はただ有宇と殴り合っただけだったけどな」

 

「そうだな。あの時の拳、痛かったぞ」

 

「それはこっちもだ」

 

「なに青春物の少年マンガみたいな展開してるんですか?………ま、未来の事なので知りませんが、貴方がそう言うならそうなんでしょう」

 

「色々酷い目にあったりしたけど、お前は常に正しかった………ありがとう」

 

「それは…………どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後、歩未ちゃんの風邪も治り、今日から歩未ちゃんは学校へ登校する。

 

校門まで俺と有宇は歩未ちゃんを送り校門で別れることになった。

 

歩未ちゃんの崩壊の能力は既に有宇が略奪の能力で奪ってる。

 

これで、歩未ちゃんが崩壊の能力で死ぬことは無くなった。

 

後は、歩未ちゃんが崩壊の能力を使ってしまった原因を除く。

 

「じゃあな、帰りも迎えに来るから」

 

「病み上がり出し、あまりはしゃがないようにね」

 

「はい!では暫しのお別れなのです!」

 

そう言い、歩未ちゃんは学校へと向かった。

 

ここからが肝心だな。

 

「おはよーございます」

 

振り向くと、そこには中学校の制服を着た奈緒と柚咲、それと髪を七三分けにし、半そでワイシャツにネクタイ姿の高城が居た。

 

「よく手に入ったな、それ」

 

「高城、お前の恰好はなんだ?」

 

「私はどうやっても中学生には見えないので、教師に変装です!」

 

それバレた時に言い訳できないんじゃないか?

 

「そう言う貴方たちはそのままでいいんですか?」

 

「ああ、歩未の兄として」

 

「歩未ちゃんの兄貴分として」

 

「「相手の前に現れたいからな」」

 

「得策です。威圧感が全然違いますので」

 

俺達はにやりと笑い、もう一度全員の顔を見る。

 

「みんなよろしく頼む!」

 

「はい!乙坂さんの妹さんの命、絶対に救いましょー!おー!」

 

「おー!」

 

こんな時でもテンションが高いな。

 

だが、幾分か楽にはなった。

 

「ちなみに、命を救うおまじないはありません!」

 

「すみません!」

 

「さ、こちらです。裏口から行きましょう」

 

二人をスルーし、俺達は裏口から入る。

 

俺と有宇は、前回崩壊した校舎の所で身を隠していた。

 

ここが崩壊したってことは、ここで歩未ちゃんが能力を使ったってことだ。

 

なら、ここにいれば必ず歩未ちゃんと歩未ちゃんが能力を使ってしまうきっかけを作った奴が来る。

 

「おい!お前、ここの生徒か?」

 

ん?どうした?

 

「わ、私は、ここの学校の教師です!」

 

高城?

 

「見ない顔だな。職員室まで来てもらおうか」

 

「あ、ちょ、ちょっと!分かりました!行きます!行きますから!」

 

やっぱり駄目だったか。

 

だが、まだ奈緒と柚咲がいる。

 

「あれ?君ゆさりん?」

 

「い、いえ!人違いですよ」

 

「どう見てもゆさりんだよ!」

 

「皆!ゆさりんがこの学校に転校してきたぞ!」

 

「本当だー!」

 

「テレビで見るよりきれー!」

 

やっぱアイドルだからすぐにばれたか。

 

「あ、あわわ………ケッ!ゆさりんじゃねぇよ!」

 

「え~?どう見てもゆさりんじゃん」

 

「じゃあ、これでどうだ?カ~、ペッペッペッ!これがアイドルのすることか?」

 

妹の体で何やってるんだよ、アイツは…………

 

「あ~!!」ゆさりんのだ液!どうすれば~!」

 

ここに第二の高城がいるとは……………

 

「引くな!」

 

「あれ?この子も可愛いよ!」

 

「もしかしてゆさりんと同じアイドルじゃね!」

 

「…………ッ!」

 

「あ、こら逃げるんじゃねぇ!」

 

「あ、逃げたぞ!」

 

「追えー!」

 

変装した意味なかったな。

 

てか、普通に生徒会としていれば良かった気もする。

 

それからさらに時間が流れ、どんどん崩壊の時間が近づいて来る。

 

その時、歩未ちゃんが凄い勢いで階段を上って屋上へ繋がる扉を開けようとした。

 

だが、扉は鍵が掛かってるらしく開かなかった。

 

そして、歩未ちゃんに続いて、この前歩未ちゃんのお見舞いに来ていた黒髪長髪の女の子がカッターナイフを手に上って来た。

 

「貴女の所為だ……だから、貴女が痛い目に会うの!」

 

カッターナイフを振り上げ、歩未ちゃんに切り掛かろうとした瞬間、有宇がロッカーの中から飛び出て歩未ちゃんの前に出る。

 

「なっ!だ、誰!?」

 

女の子は有宇に驚きながらもカッターを向けようとする。

 

それと同時に、俺は親指を噛み時空間制御能力の時間停止を発動させる。

 

時間を止め、俺は下から彼女に近づき、カッターナイフを奪い取る。

 

それと同時に、能力の発動が終わり、時間が流れる。

 

女の子手突き出すように向けるが、その手にカッターは無い。

 

「あ、あれ?」

 

「探し物はこれか?」

 

俺はカッターを見せながら、歩未ちゃんの前に移動する。

 

「ちょっと脅させてもらうぞ」

 

有宇は念動力を使い、窓ガラスを破壊する。

 

「ひっ!」

 

「俺からも脅させてもらおうか」

 

俺は奈緒の能力で、女の子の視界から消え、持っていたハサミでその子の前髪を切る。

 

「な、何が!」

 

「次妹に危害を加えよとしてみろ」

 

「次はこれぐらいじゃ済まさない」

 

「分かったらとっと失せろ!」

 

女の子は慌てて階段を駆け下りその場から消えた。

 

「怖かった!」

 

歩未ちゃんが、涙を流し有宇の背中に抱き付く。

 

「よかった………無事で。今日はもう帰ろう」

 

「うん!」

 

抱き合う二人を見て、俺は歩未ちゃんを救えたことを実感した。

 

よかった………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩未ちゃんは有宇の腕に抱き付いたまま離れようとしなかった。

 

助けに来てくれたのが余程嬉しかったんだろう。

 

そんな俺達の前に、熊耳と一人の女性が現れた。

 

「……なんだ、もう来たのか?」

 

「……随分と早かったじゃないか。熊耳」

 

「ほぉ、俺の事を知っているのか?」

 

「ああ」

 

「まぁな」

 

「「ぷー」」

 

熊耳のあだ名を呼ぶと、熊耳は一瞬驚くがすぐに笑った。

 

隣りにいる女性は口元を隠し笑った。

 

「話が早い。来てもらおう、三人共一緒に」

 

「ああ、連れて行ってくれ。兄さんと」

 

「姉さんの所にな!」

 




響が現在コピーしてる能力

身体機能強化(稲葉哲二)

不可視(友利奈緒)

瞬間移動(高城丈次郎)

降霊術(黒羽柚咲)

発火(黒羽美砂)

時空間制御(一之瀬由美)

念動力(福山有史)


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彗星

熊耳さん(年上だからさん付)と目時さん(名前は車の中で知った)に連れてこられて、俺達はこの前来た特殊能力者の研究所に来た。

 

この前の部屋の中に入ると姉さんと隼翼さんが俺達を迎えてくれた。

 

「よぉ、有宇、歩未、響君」

 

「……あの~、どちら様で?」

 

「僕たちの兄さんと、響の姉さんだよ」

 

「訳あって貴方たちから私たちの記憶を消させてもらったの」

 

「え?本当に?何故でしょう?」

 

「まぁ、色々あったんだよ」

 

「みたいだね」

 

歩未ちゃんは話が理解できてないらしく有宇と隼翼さんの顔を交互に見た。

 

「有宇、響君。二人は、それぞれの能力“略奪”と“直感”を自覚し、それによって得た能力を使った。だから、歩未と共に来てもらった」

 

「つまり、どっちにしろ俺達は此処に来ていたんですね」

 

「なら都合がいい」

 

俺と有宇は未来で姉さんと隼翼さんの言われた通りにこれまでの経緯を説明した。

 

「そうか、俺のタイムリープを奪い、由美の時空間制御をコピーしたのか。それはよくやったな」

 

「で、これからどうなるの?兄さんたちと帰れるの?」

 

「それは無理ね。有宇君の能力はどんな能力でも奪える最強の能力。それに加え、隼翼のタイムリープまで持ってる。それは、あまりにも脅威よ」

 

「どういうことですか?」

 

「有宇の能力を悪用とする奴等が現れるかもしれないからですね」

 

「ああ。残念だが、これまで通りの生活は送れない。その能力が消えるまでここで過ごすんだ」

 

「ここで!?」

 

「ああ。知ってると思うがここは特殊能力の研究施設。いわば、日本で一番安全な場所だ」

 

「じゃあ、付いて来て」

 

そう言うと、姉さんと隼翼さん部屋を出て、俺達をある場所へと連れてきた。

 

そこには、白衣を着た大人たちが、たくさんいた。

 

その中に、俺と有宇は知ってる顔を見付けた。

 

「これはこれは、よくお出でなさった」

 

「この人が研究チームの責任者の堤内先生よ」

 

知っている。

 

この人は夢で俺と有宇を助けてくれた人だ。

 

「ここは?」

 

「この先、二度と能力を発症させないワクチンを開発する研究施設だ」

 

「ワクチン?僕たちは病気なのか?」

 

「うむ。まさに特殊能力は病のようなものであるから、次粒子が降り注がれる前に、全世界の人々に投与せねばならない」

 

「粒子?」

 

「シャーロット彗星と言う、長期彗星をご存知かな?」

 

堤内先生の話によると、シャーロット彗星は75年の周期で地球に接近し、その時に未知の粒子を地球に降り注ぐ。

 

その粒子は脳神経までにもぐりこみ、一番多感な時期、思春期になると粒子を吸った人間の脳の眠っている部分を呼び覚まし、能力を発症させる。

 

大昔にもシャーロット彗星は地球に接近し、その時にも能力者が現れた。

 

その能力を恐れ、人々は能力者を魔女とし、魔女狩りまでも行った。

 

そして、十二年前にその彗星が待機を掠め、粒子をばら撒き、能力者を生み出した。

 

今後その様なことが起きない為にもワクチンの開発が進められ、日本では製造の段階に来ているそうだ。

 

「なら、これでもう安心なんだね」

 

「いや、守られてるのは俺と由美が統率する日本だけだ。魔女狩りは今だに行われてる」

 

「でも僕たちには関係ないんじゃ」

 

有宇の奴、普段の様子から何度なく分かってたか、頭弱いな。

 

「それは違うと思うぞ、有宇。もし海外の能力者が手を組んでテロなんか起こしてみろ。日本も関係ないとは言えないぞ」

 

「でも、ワクチンがあるじゃないか」

 

「感染者はワクチンで抑えられるが、既に能力が発症した者には効かない」

 

「じゃあ、特効薬を作ればいいじゃないか!」

 

「簡単に言うな。薬一つ作るのに、どれだけの時間がかかると思ってるんだ?10年以上が掛かるぞ」

 

「響君の言う通りだ。これから世界がどうなっていくかは分からない。けど、お前らのことは守って見せる」

 

「………わかった。でもせめて、歩未に兄さんの記憶を思い出さしてやってくれ」

 

「無理だ」

 

「どうして!僕と響は取り戻せたのに!」

 

「なんで二人が記憶を取り戻せたのかは分からない。何か大きな要因があったのか、それとも偶然か。どちらにせよ、今は無理だ」

 

「そんな………歩未が可哀想じゃないか………」

 

有宇は悔しそうに拳を握る。

 

歩未ちゃんは話が分からないらしく、こめかみを指で押しながら考える。

 

隼翼さんは、そんな歩未ちゃんの目線に合わせしゃがむ。

 

「歩未、俺がお前達の兄貴、隼翼だ」

 

「私は響の姉の由美よ」

 

「目が不自由な俺と体が弱い由美だが、よろしく」

 

「よろしくね」

 

「う~~~~ん…………では、隼お兄ちゃんと、由美お姉ちゃんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

受け入れ早いな。

 

流石は歩未ちゃん。

 

次に俺達は姉さんたちの仲間を紹介された。

 

熊耳さん、目時さん、前泊さん、七野さんだ。

 

「コイツらが友達だ。能力者でもある」

 

「乙坂歩未です!よろしくお願いします!」

 

「よろしく」

 

「よろしくね、七野、壁抜け見せた上げたら」

 

「いいだろ。腰を抜かすなよ!」

 

そう言い、七野さんは走り出し壁を通り抜けた。

 

「おお!凄いのですぅ!」

 

「ここのレクリエーションは充実していて、楽しいものいっぱいあるわよ

 

「音楽とかハロハロとかあるですか?」

 

「もちろん」

 

「やったー!」

 

「勉強は俺が教えてやるからな」

 

「はーい!」

 

そんな会話をしながら、俺と有宇以外部屋を出て行く。

 

「何だが、僕だけ距離を置かれてる気がする」

 

「考え過ぎだろ。気にすんなって」

 

乙坂の背中を叩きながら励ます。

 

歩未ちゃんを隼翼さんに取られて拗ねてやがる。

 

すると七野さんが疲れ切った様子で部屋に戻ってくる。

 

「へぇー、へぇー………あれ?もう誰もいない?」

 

なんか七野さんの扱いが可哀想に見えてきた……………

 

そう思ってるとまた扉が開き、今度は姉さんが入って来た。

 

「響、ちょっと話があるの。来て」

 

姉さんに着いて行くと、先程の部屋に隼翼さんが居た。

 

「隼翼、連れてきたわ」

 

「ご苦労」

 

「隼翼さん、話しって一体………」

 

「響君、君には星ノ海学園に戻っていつも通りに生徒会活動をしてもらいたい」

 

「どうしてですか?俺はてっきり俺も此処に居させられると思ったんですけど…………」

 

「それも今から説明する、座って」

 

席に座ると、隼翼さんも俺の向かい側に座り理由を説明してくれた。

 

「まず能力者の保護の為に君が必要だ。今の生徒会メンバーを見た所、いざという時、彼等を守る為の力が不足している。それを解決するためにも、君は必要だ。幸いにも、君がコピーで使った能力は人目では分かりにくい能力だから、有宇程危険は少ない」

 

「それに、能力者の保護の時も、何かと物騒でしょ。その時の為にも、一人は闘える人が必要なの」

 

確かに高城の能力は一回使えば自分もダメージを受けるし、美砂の能力は強力だが下手すると人を殺しかねない。

 

美砂がするとは思えないが、生徒会の目的は能力者の保護であって、懲らしめることじゃない。

 

「分かったよ、俺は学園に戻る」

 

「すまないな、守ると言った矢先にこんなことを押し付けてしまって」

 

「いいですよ、それに俺自身、ここより生徒会に居る方が楽しいんで」

 

「……すまない。次、熊耳が学園に向かう時、一緒に行ってくれ」

 

「はい」

 



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拘束

*書き直しです。少し原作とは古木さんの扱いを変えました。


暫く寛いでいると、熊耳さんがやって来た。

 

「隼翼、由美。能力者が現れた。学園に行ってくる」

 

「ああ。ついでに響君も連れて行ってくれ」

 

「いいのか?」

 

「響は有宇君と比べると危険性はかなり低いから問題無いわ。古木さんの方にはこっちから連絡してあるから事情を説明しなくてもいいわよ」

 

「わかった。一之瀬、行くぞ」

 

熊耳さんの後に続き、外に出ると待機してあった車に乗る。

 

「古木さん、星ノ海学園まで頼みます」

 

後部座席に座り、シートベルトを装着すると、古木さんの手が僅かに震えてることに気付いた。

 

「古木さん?どうかしましたか?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

古木さんはそう言い、車を発進させる。

 

すると、車は着た時とは違う道を通り、別の道へと入った。

 

「?…何故曲がらなかったのですか?」

 

「…………すまん、熊耳、一之瀬君。俺はお前達を別の所へ連れて行かねばならない」

 

売られたのか?

 

いや、この人を見た感じ人を売るような人には見えない。

 

なら、脅されてる?

 

熊耳さんは、ポッケからスマホを取り出し、隼翼さんと連絡を取ろうとする。

 

「家族が……家族が……脅されてるんだ!」

 

「え!?家族がいらっしゃったのですか!?」

 

「………居たと知られれば組織を止めなくてはならない」

 

「…それが規則ですので」

 

「俺はOBとして、お前たちを手伝えることに誇りを持ってたんだ………だからこそ、枷にならないようにと組織に入ったと同時に家族とも別れた。だが、奴等は何処かで別れた家族の事を知り、それをネタに俺を……………!」

 

「…………せめて一之瀬だけでも降ろしてやってくれませんか?」

 

「………彼も連れて来るように言われてる。それはできない」

 

下手に姉さんたちと連絡を取れば、古木さんの家族の命が危ない。

 

姉さんたちが異常事態に気付くのを待つしかないか……………

 

「………はぁ……厄介なことになりそうだ」

 

熊耳さんは古木さんに聞こえないようにそう呟いた。

 

俺達が連れてこられたのは廃工場だった。

 

「ここだ。付いて来てくれ」

 

「「はい」」

 

中は潰れた時から放置されてるらしく埃が舞い、鉄骨や鉄パイプ、ドラム缶などが放置されている。

 

「連れてきたぞ!」

 

古木さんが叫ぶと、現れたのは背の低いサングラスを掛けた外人と、眼鏡を掛けた背の高い細身の外人。

 

そして、上半身裸のマッチョの男と、褐色の肌の小さな女の子だった。

 

「Welcome mighty one」

 

「ヨウコソ、超能力者サン」

 

「異人さんか。やれやれ」

 

「もういいだろ!家族を返してくれ!」

 

「マダダ。モウ一度、働イテ貰ウ必要ガアル。マタ連絡スルカラ出テ行ケ」

 

「そんな!?話と違うじゃないか!」

 

「You do want to meet your family,right?」

 

「家族ト会イタインダロ?」

 

「…………すまん……!」

 

古木さんは悔しそうに俯き、謝る。

 

「いいっすよ。古木さんはご家族の事だけを考えてください」

 

「……すまん!」

 

そう叫び、古木さんは走り、車に乗って去って行った。

 

するとマッチョの男がサングラスの男の指示で動き出し、熊耳さんの腹を殴った。

 

「がっ!?」

 

「熊耳さん!」

 

前のめりになった所で男はひじ打ちを背中に落し、熊耳さんを気絶させる。

 

今度は俺の方を向き、拳を振る。

 

俺は咄嗟に躱し、がら空きのボディに拳を叩き込む。

 

だが、効いてないのか男は平然とし俺に攻撃を再度仕掛ける。

 

二度目の攻撃も躱し、今度は強化した拳で反撃を試みようとする。

 

「ソコマデダ」

 

しかし、眼鏡の方の外人が俺を止める。

 

「ソレ以上抵抗スルノデアレバ、古木ノ家族ハ、今スグニデモ、処分スル」

 

咄嗟に反応して反撃しちまったが、考えたらそうだ。

 

古木さんの家族が人質に取られてる以上、俺達はコイツラに反抗出来ないんだ…………

 

俺は大人しく腕を下ろした。

 

その瞬間、男の拳が腹にめり込み、首の後ろを肘で殴られ俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………う…………んん!?」

 

目が覚めた俺は最初に見たのは椅子に縛られ爪を剥がされたの熊耳さんだった。

 

熊耳さんに呼び掛けようとするが口がうまく動かせず話せない。

 

近寄ろうにも手枷を付けられ、鎖でつながれてる為動くこともできない。

 

能力で強化し壊そうにも、体に力が入らず強動かせないため意味が無かった。

 

「……一之瀬か?」

 

顔を上げると熊耳さんが目を覚まし、俺の方を見ていた。

 

見ると爪だけでなく歯も抜かれていた。

 

「……すまねぇ、何もかも吐いちまったみたいだ。…………話せないのか?」

 

俺は頷いて答えた。

 

「………おそらく………なにか薬でも打たれたんだろう………お前に…………時空間制御の能力を…………使われない………為に…………」

 

熊耳さんは息絶え絶えな声で話し、口から血を吐く。

 

「すまねぇ……隼翼……由美………」

 

姉さんたちの名前を言い、謝る熊耳さんの声を聞き、俺は打たれた薬の所為で朦朧とし、またすぐに意識を失った。

 



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助けに

前話を少し書き直してるので良ければご確認ください


隼翼のスマホの着信音が鳴る。

 

「もしもし」

 

『コノ国デ超能力者ヲ束ネテイル人デスネ?』

 

「(日本人じゃない……)だとしたらなんだ?」

 

『コノ国最強ノ超能力者ヲ熊耳カラ教エテモライマシタ』

 

(熊耳が!?海外のテロに巻き込まれたか!となれば、響君も一緒………)

 

「熊耳は?それと、響君は?」

 

焦りながらも冷静を装い、隼翼は問いかける。

 

『二人トモ命二別状ハナイデス。タダシ、熊耳ハ爪ト歯ハアリマセン』

 

「くっ………目的はなんだ?」

 

『乙坂有宇ガ欲シイデス』

 

「ふざけるな!」

 

『友利奈緒ト言ウ超能力者ヲ誘拐シマシタ。友利ト熊耳、一之瀬、引キ換エニ彼ヲクダサイ』

 

「…………場所は?」

 

『古木ガ連レテ行キマス。乙坂有宇一人デ来テクダサイ。貴方達ノ事ハ、古木ヤ熊耳カラ聞イテイマス。コノ作戦ハカナリ前カラ計画サレタモノ。モシ計画ガズレレバ、過去二戻ッテ運命ヲ変エタト見ナシテ、古木ノ家族ヲ殺シマス。デハ』

 

そう言い残し、男は通話を切った。

 

隼翼は両手を机に着き、自分の失態を悔やむ様な表情をする。

 

「……通話、古木さんへ」

 

スマホに向かってそう言うと、古木さんの携帯へと繋がる。

 

『…乙坂君』

 

「大丈夫ですか?」

 

『……すまない…脅されていたんだ』

 

「いつから脅されていたんですか?」

 

『学園設立に向けて、動き出したころから…』

 

(そいつは厳しいな…………)

 

『自殺も考えた…けど家族を残しては…だから…だからこんなことにっ!!』

 

「俺の判断のせいです。古木さんが自分を苛む必要はありません。ご家族は助けてみせます」

 

『……すまない』

 

通話を終え、隼翼は由美、目時、前泊、七野の四人を呼び作戦を話し合った。

 

「ついに日本にまで、ですか」

 

「しかし、どうして熊耳が?」

 

「古木さんが脅されていた。俺の過ちだ。あの人には過去に家族が居たのに、それを黙認してしまった」

 

「そんな所から………」

 

「なら、古木さんが脅されるより前に、弟さんをタイムリープさせれば」

 

「学園設立前となると俺達が同じ道を辿れるかどうか………それに、これ以上の時空間制御は由美の体には負担が大きすぎる」

 

「私の体の事はこの際どうでもいいわ。でも、設立前だと、この組織自体無くなってる可能性もあるわね」

 

「じゃあ、まず弟に熊耳たちを助けさせたらいいんじゃないか?」

 

「それだと古木さんのご家族が殺される。連中はそれに気付けるように動いてる」

 

「なら、弟さん以外の能力者で」

 

「相手は有宇一人で来いと言ってる。下手をすれば捕まってる全員が犠牲になる」

 

解決策が出てこず、全員が頭を抱える。

 

そんな中、七野が口を開いた。

 

「むしろ、弟一人で行かせた方が勝機があるんじゃ」

 

『え?』

 

「相手も能力者だろうから能力を奪える。失敗してもタイムリープで今ここに戻ってこれば異変は生じないから相手にも気付かれない」

 

七野が自信満々に言う案は一理あるが内容が雑だった。

 

だが、その方法しか案が無いのも事実であった。

 

「…………有宇に賭けるしかないか」

 

隼翼は有宇を一人呼び出し、起きたことを話した。

 

「響達が!?」

 

「寮の警備員がやられた。恐らく相手は海外のプロだ。武装もしてるだろう」

 

「そんな所に僕一人で……」

 

「お前なら大丈夫だ!まずそこに居る全員に乗り移り能力を奪い、武器を捨てさせる。できるな?」

 

「………隠れていない相手なら」

 

「相手はお前を手に入れたがってる。お前を傷つけることは絶対にしない!だが、もし捕まったり命の危機を感じたり、熊耳や奈緒ちゃん、響君の命が危険になったら迷わずタイムリープして、今この時間に戻ってこい!作戦を立て直す!同じ時間軸に戻る必要もあるから、行く前に、由美の能力を略奪で持って行け!後、興奮だけはするな。興奮して崩壊の能力が発動してしまう!」

 

次から次へと矢継ぎ早に作戦を話す隼翼に、有宇は不安を募らせた。

 

自分に三人を助け出せるのか?

 

それが頭の中を巡った。

 

「有宇!分かったか!?」

 

「……なんだよ」

 

「有宇?」

 

「なんなんだよ!僕にそんなことが出来るわけないだろ!一個人でどうにかなるような問題じゃない!僕はズルをしていい点を取っていただけのただのカンニング魔だ!自分のことしか考えてこなかった嫌なヤツだ!周りから良い目で見られたかっただけの、卑しい人間だ!…………そんな僕に…何が…!!!」

 

不安と、自分の気持を考えずに押し付けて来る隼翼に有宇は興奮気味に騒ぐ。

 

それと同時に、崩壊の能力が発動し、施設を崩壊させようとする。

 

「落ち着け有宇!」

 

隼翼は立ち上がり、有宇を抱きしめる。

 

「俺の心音だけを聞け」

 

有宇を優しく抱きしめ、落ち着かせようとする。

 

能力は止まり、有宇も落ち着きを取り戻して席に座る。

 

「すまん、焦り過ぎていた。何かあったら今この時間にタイムリープだ。それだけ覚えろ。………、まだ時間はある。冷静に考えてくれ」

 

隼翼は部屋に有宇一人にし、考えさせる。

 

有宇は一人になり、隼翼の言う通り冷静に考えた。

 

『しっかし、ルックスだけでモテそうなのに、なんで態々優等生を演じる必要があったんですかね?』

 

「思えば酷い出会いだったな」

 

『ZHIENDのPVを撮るのが私の夢なんす』

 

『だから、いつか見せるんだよ。俺のアルバム(人生)を。あの人に』

 

『貴方が立ち直るまで付き合う。そう決めたんです』

 

『友達だからだ!』

 

『必ず助けるぞ!有宇!』

 

「……歩未の時もそうだ。失ってから気付いてちゃ遅いんだ。…………二人が僕を助けてくれた様に、今度は僕が二人を助けるんだ」

 

そう言って立ち上がった有宇の瞳には決意と覚悟の意志が宿っていた。

 

有宇は隼翼たちに覚悟を決めたことを伝えに行く。

 

「決めたよ」

 

「腹をくくったんだな」

 

「ああ」

 

「俺達も後から行く。お前は一人じゃない」

 

それに続いて、車いすに乗った由美が有宇に近づく。

 

「どうぞ、有宇君。私の能力、持って行って。これがあれば、タイムリープしても違う時間軸に飛ばされること無くこの時間軸に飛べるわ」

 

「はい」

 

有宇は略奪の力を発動し、由美に乗り移り、時空間制御の能力を奪った。

 

「分かってるけど思うけど、私の能力を発動させるには自分がどの力を発動させるのかを頭で考えた上で自傷行為……と言うより、痛みがスイッチになって発動するわ。でも、その痛みはちょっと痛い程度じゃダメ。血が出るぐらいの勢いでやらないとダメよ。だから使うときは相当の覚悟がいる。…………大丈夫?」

 

「覚悟が出来てなかったらここにはいませんよ」

 

「……そうね。有宇君、響を………いえ、三人をお願いね」

 

「はい」

 

有宇は一人で坂を降り待機していた車に近づく。

 

古木は有宇の姿を見て申し訳なさそうにする。

 

「貴方が古木さんですね」

 

「……ああ。………乗ってくれ」

 

車に乗り有宇は例の廃工場へと連れてかれる。

 

車を降り、廃工場内に入ると、背の低い外人と眼鏡の外人は上の方から二人を見下ろしていた。

 

(二人。だが大人だ。能力者じゃない………)

 

「連れてきたぞ!」

 

「デハ約束通リ、家族ハ解放シヨウ」

 

「Hey, take this!」

 

背の低い外人がカギを投げ捨てるように上から投げる。

 

「マンションノ鍵ダ。場所ハ札二書イテアル」

 

古木さんは落とされた鍵を慌てて拾い、それを壊れ物かの様に両手で持つ。

 

「………すまない………こうするしか……なかったんだ!」

 

古木さんはそう言い、その場を去った。

 

(よし、行くぞ!)

 

有宇は背が低い方の男に乗り移り、武器を探す。

 

(………何もない!?くっ……!)

 

次に眼鏡の外人の方に乗り移るがこっちも特に武器は持っていなかった。

 

「気ハ済ミマシタカ?」

 

「くっ………響たちは!?」

 

「コノ下デス」

 

「今すぐ三人を解放しろ!」

 

そう叫んだ時、暗がりから褐色の少女が現れ、有宇に向かって飛ぶ。

 

少女が口を開けると眩い光が放たれ有宇は思わず手で目を覆った。

 

少女はそれを見逃さず持っていたナイフで乙坂の右目を手ごと切った。

 

「う…………うあぁあああああああああ!!!!!!!」

 

有宇は右目を押さえながら地面に倒れる。

 

(まずい!早くタイムリープを………!使えない!なら、由美さんの能力で!)

 

親指を口の持っていき、噛みつくが目を切られた痛みから力を入れることが出来ず由美の能力も使えなかった。

 

「ヤハリ片目デハ、過去二戻ル超能力ヲ使ウノハ不可能」

 

「う…………うおおおおおおおおおお!!!」

 

有宇は感情に流されるまま、崩壊の能力を発動させてしまう。

 

「崩壊ノ能力ヲ使エバ、地下ノ三人ハ助カラナイ」

 

その言葉に有宇は冷静になり、今度は念動力を使って鉄パイプを操り二人の外人を攻撃する。

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

(助ける!……助けるんだ!今度は………僕が二人を……………助けるんだ!)

 

一気に終わらせようと力を籠めようとした瞬間、有宇は右肩に痛みを感じた。

 

先程の少女が有宇の背中に張り付き、右肩をナイフで突き刺したのだ。

 

「………うあぁああああああああああああああああ!!!!!」

 

痛みと混乱、助けようとする焦りから有宇はもう冷静になることは出来なかった。

 

有宇うの体から光が放たれ、崩壊の能力が暴走し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃工場は崩壊した。




恐らく次の話を投稿したら最終我が放送されるまで更新を止めます。

最終話を見て最終回をどうするか決めます。

一応オチとしては二通り考えてるので、どちらになるかは最終回の放送で決めます。


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消える命

次に俺が目覚めたのは地震の様な地響きが聞こえた時だった。

 

辺りを見渡すと下着姿の奈緒が吊るされていた。

 

アイツ等、奈緒までさらったのか………

 

地響きが鳴り終ると次に誰かの声が聞こえた。

 

『うおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

この声は有宇だ。

 

助けに来てくれたのか!

 

………有宇が頑張ってるのに俺も頑張らないでどうする!

 

体の痺れはもうない。

 

腕の力を強化し鎖を引っ張る。

 

くそっ!結構硬いな!

 

「一之瀬……何が起きてる?」

 

熊耳さんも目を覚まし俺に尋ねて来る。

 

「有宇が助けに来たんです。きっと隼翼さんたちも」

 

「……なら、コイツを………解かないとな」

 

熊耳さんも腕と足を縛ってる縄を力尽くで解こうとする。

 

『………うあぁああああああああああああああああ!!!!!』

 

すると今度はさっきとは違う有宇の絶叫が聞こえる。

 

そして、またさっきの地響きが聞こえ出す。

 

「まずい!崩壊の能力だ!」

 

「急げ!」

 

熊耳さんは縄を無理矢理引き千切り奈緒の方を助けに行く。

 

「くそっ!………壊れやがれ!」

 

ありったけの力で引っ張ると右腕の鎖が音を立てて壊れる。

 

後は左腕のみだ!

 

だがその時、崩壊の力が地下にまで影響を与え始め、地下の壁や天井が崩壊し始めた。

 

俺は胸ポケットから針金を取り出し、手枷を外す。

 

「熊耳さん、早く逃げますよ」

 

奈緒を抱える熊耳さんに肩を貸し出口を目指す

 

だがとうとう地下が崩壊し始め、俺達の頭上の天井に亀裂が入り、瓦礫が俺達に振り掛かった。

 

能力を発動する時間は無い。

 

そう思った瞬間、体が無意識に動いた。

 

そして、廃工場は音を立てて地下ごと崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れてゆく廃工場を見ながら隼翼たちは唖然とした。

 

「まずいです、崩壊が起きてます!」

 

「タイムリープをしてないのか!」

 

「見たいだけど……どうするの!?」

 

そして、廃工場は大きな音を立てて崩れ、土煙を上げた。

 

「……ぼーっとしてる場合!?助けにいかなくちゃ!」

 

目時と前泊は工場に向かって走り出し、七野は目が見えない隼翼をサポートしながら向かう。

 

廃工場があった場所は、何もなく瓦礫の山となっていた。

 

「………どうなってる?」

 

目が見えず状況が分からない隼翼は尋ねる。

 

「………絶望的です」

 

「でも、探すしかねーだろ!」

 

七野は叫ぶと瓦礫の中へと飛び降り、探し始めた。

 

七野に続いて目時も降りて探し、前泊も隼翼に手を貸しながら降りて探す。

 

「隼翼!」

 

目時が何かを発見し、そこまで前泊と隼翼が近づくと、そこには響達をさらった外人二人がいた。

 

「主犯たちでしょうか」

 

「目時、頼む」

 

外人二人を目時の能力で眠らせ、隼翼たちは再び捜索を開始する。

 

「弟発見したぞ!寸前で念動力で防いだが」

 

七野が有宇を発見し、助ける。

 

有宇を助け起こし、近づいて来る隼翼に話す。

 

「大丈夫、生きてる!ただ………片目を潰されてる」

 

「それでタイムリープができなかったのか。時空間制御も目を潰された痛みで、自傷行為をするだけの力を出せなかったのか…………安全な場所まで頼む」

 

「ああ…………お前一人能力で助かって、三人は死んでるとかやめてくれよな」

 

七野は有宇を背負いそう呟いた。

 

隼翼と前泊は捜索を続け、隼翼は必死に呼び掛けながら探す。

 

「熊耳――――――!奈緒ちゃ―――――――ん!響く――――――――ん!」

 

「見付けました!三人共です!」

 

前泊の声を聞き、隼翼は白杖を放り投げ走り出す、瓦礫につまずきながらも前泊の所に移動する。

 

「こっちです!」

 

隼翼は転び、四つん這いになりながら手探りで探す。

 

「熊耳!何処だ!熊が――!」

 

熊耳な名を呼びながら手を探っていると何か温かい液体の様なものに触れた。

 

僅かに鉄の匂いがする温かい液体。

 

隼翼の頭に嫌なシチュエーションが過った。

 

「しゅ……隼翼………さん」

 

「!?……………ひ、響、くん?」

 

「………やっと来てくれましたね」

 

底には、熊耳と奈緒の二人を庇い重傷を負った響が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やっと来てくれましたね」

 

コンクリートの補強に使う鋼棒が背中に突き刺さり、地下の天井を走っていたパイプが脇腹を貫通していた。

 

出血が多く、意識が朦朧とする中やっと来てくれた隼翼さんの方を見てそういった。

 

「い、一之瀬………どうして俺を………庇った………」

 

俺の下に居る熊耳さんが目を見開き俺に聞く。

 

「…………俺が死んでも…………問題無いですよ…………熊耳さんの能力があれば…………この先も能力者の保護は出来ますから…………」

 

「何言ってる!」

 

隼翼さんは手探りで俺の肩を掴み、俺に言う。

 

「君が死んだら由美はどうなる!?一人になるんだぞ!死ぬな!アイツを一人にしないでやってくれ!」

 

「………姉さんは…………一人じゃありません…………隼翼さんたちがいますから………」

 

「由美の家族は君一人だけだ!俺たちは君の代わりにはなれない!だから死ぬな!」

 

「………隼翼さん…………姉さんに…………ごめんって……………伝えてください」

 

そう言い、俺は今だに気絶している奈緒を見る。

 

なぁ………奈緒…………俺、お前の役に立てたかな?

 

役に立てたなら………嬉しいな…………

 

そう思い、奈緒を見て俺は気付いた。

 

有宇に会ったあの日、俺に聞いて来たあの質問。

 

今なら、分かる。

 

「………奈緒………好きだ………大好きだ…………」

 

まさか死に際に告白するとは…………

 

告白って言えば、黒羽に告白の返事もしないままタイムリープしちまったな。

 

悪いことしたな。

 

そう思い、俺の瞼は俺の意志とは関係なしにゆっくりと下がる。

 

視界がだんだんとボケていき、耳も音を拾えなくなってきた。

 

もう……………終わりか。

 

「ごめんな…………皆」

 

その言葉を最後に、俺の瞼は閉じられ、俺の意識は消えた。

 



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帰らぬ人

徐々に意識が戻り僕は目を開けた。

 

知らない天井が見える。

 

どうして僕はここで寝ているんだ?

 

そうだ……確か、響達を助けに行ってその時目を切られて…………

 

…………思い出した!

 

目を切られて奴等を倒そうと念動力を使っていたら、あの少女に肩を刺されて崩壊の能力を…………!

 

その時の事が鮮明に蘇り、それと同時にあの時の恐怖も蘇った。

 

「うあぁあああああああああああ!!!!!!」

 

崩壊の能力が発動し、この部屋一帯を崩壊させようとする。

 

「フン!」

 

左腕に痛みを感じ、何かが入ってくる感覚が伝わって来た。

 

すると徐々に、興奮が収まり落ち着いて来た。

 

「……痛い」

 

「そりゃ、手術してまだ四日だからな」

 

僕の呟きに七野さんが左腕に刺さった注射器を抜きながら言う。

 

「四日?」

 

「そうだ」

 

「どうして動けない?」

 

「知るかよ。医者に聞いてくれ」

 

七野さんはパイプ椅子に座りスマホを操作する。

 

暫くすると、目時さんに前泊さん、そして兄さんが病室にやって来た。

 

「有宇!目が覚めたのか!……よかった」

 

「……兄さん」

 

「よかった!作戦通り、崩壊は防げたのね」

 

「こんなのは作戦とは言わない。ただの処置だ」

 

「って、あなた処置って打った後何もしてないじゃない!」

 

「医者じゃないし」

 

目時さんは七野さんに怒りながら僕の腕の手当てをする。

 

「何が起きた…なんで僕はこんなことに……!三人は!三人は無事なのか!?」

 

「………熊耳は重傷だったが今は大丈夫だ。奈緒ちゃんも怪我の方は酷くない。二人ともこの病院に入院してる」

 

その言葉に違和感を感じた。

 

どうして響の名前が無い?

 

響は無事なのか?

 

「………兄さん、響は………響はどうなったの?」

 

その質問に兄さんは表情を暗くした。

 

「響君は………二人を庇って…………死んだ」

 

「…………え?」

 

響が………死んだ?

 

「……な、なんだよそれ?笑えない冗談は止めてくれよ。嘘なんでしょ?ねぇ、兄さん!」

 

「…………本当だ」

 

「………そんな」

 

「お前が自分の能力で自らを庇ってる間にな!」

 

「いつまで拗ねてんの!大体、この子の能力に賭けようっていったのはアンタでしょ!」

 

前泊さんと七野さんの声は聞こえていたが、内容までは耳に入ってこなかった。

 

ただ呆然と響の死を認識し、そして否定するの繰り返しをしていた。

 

「連中はタイムリープ能力は必要ないと判断して、崩壊の能力も人質を使えば無理矢理抑え込めれると思ったみたいだ。互いの誤算がこの事態を起こしたんだ」

 

「………僕の所為で……響が………」

 

「あまり自分を責めるな」

 

「……………ねぇ、これからもこんなことが続くの?」

 

「今回の首謀者たちは前泊の力で記憶を消した。だが、恐らく今後もお前の能力を狙ってくる連中はいるだろう」

 

そうか…………続くのか…………

 

そう考えていると時間らしく兄さんたちは病室を出て行こうとした。

 

「あ、待って。まだ聞きたいことがある」

 

皆が振り返り僕を見る。

 

「その………由美さんは……どうしてる?」

 

「おい!こいつ一発殴らせろ!」

 

僕に殴りかかろうとした七野さんを前泊さんが抑える。

 

「………響君は、由美にとってたった一人の血の繋がった家族だったんだ。今はそっとしておいてやってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、体を固体され満足に動けない僕は首だけを動かし外を眺めていた。

 

すると、扉がノックされた。

 

「はいどうぞ」

 

「はいなのですー」

 

入ってきたのは歩未だった。

 

「えぇ!?有宇お兄ちゃん大丈夫なのでしょうかー!?」

 

僕の怪我を見て慌てながら歩未が近寄ってくる。

 

「歩未か。久しぶりだな。動かなければ大丈夫だ」

 

「でも右目はもう見えないって…」

 

「死んでもおかしくないような大事故だったらしい。生きてるだけでも、ありがたく思わなくちゃな。それに、リハビリもすれば前の様に動ける」

 

「だったらいいのですが…」

 

そう言い、歩未はパイプイスに座る。

 

「施設での生活はどうだ?」

 

「みんな優しくしてくれるので大丈夫なのですー!…でも、由美お姉ちゃんはなんだかとっても元気がなくて心配なのですぅ…それに、響お兄ちゃんは遠い所に留学しちゃったのでとても寂しいのです」

 

歩未には響の死は伝えてないのか。

 

それもそうか。

 

もし死んだなんて伝えたら、歩未がどれだけ悲しむか…………

 

僕は一度目の前で歩未を失った。

 

だから、今の由美さんの気持はなんとなく理解は出来る。

 

翌日になると体の拘束は外れある程度は動けるようになった。

 

今日も外を眺めていた。

 

そうしてると今日も扉がノックされた。

 

「どうぞ」

 

「ご無沙汰しております」

 

「高城。確かにすごく久しぶりな気がするな」

 

「思った以上に痛々しいお姿!」

 

「ああ。なんてザマだ」

 

「そんな乙坂さんに、こんな差し入れを持ってきました!」

 

高城はウインクをし、僕の目の前に何かを置く

 

「…なんだよこれ?」

 

「保温機能付き弁当箱です!さて、中身は!」

 

高城は手慣れた手つきで置かれた弁当箱を二つ同時に開ける。

 

そこから漏れる匂いに僕は思わず体が反応した。

 

「この匂い………!」

 

「そう!!我々の思い出!牛タンカレーです!」

 

「………こんなところで再開できるとはな」

 

「食べさせて差し上げます!」

 

高城はスプーンを取り出し言う。

 

「………いや、折角だけど今は食べる気分にはなれないんだ」

 

「いけませんよ。しっかり食べて元気を付けないと治る物治りません」

 

そう言い、スプーンにご飯とカレー、牛タンを乗せ、僕の口元まで持ってくる。

 

「はい、どうぞ」

 

食欲は無いのに、この匂いを嗅いだら猛烈に腹の虫が騒ぎ出した。

 

結局、僕はそれに抗えず高城が差し出すカレーを頬張った。

 

「…………うまい。学園生活を思い出すよ」

 

「そう!まさに我々の青春の味です!まだまだたっぷりあるので!飽きるまでどうぞ!」

 

そう言うと、高城は次から次へとカレーを僕の口元へ運び、食べさせた。

 

カレーを食べ終えると高城は弁当箱を洗う。

 

その後姿を見つめ、僕は思い切って響の事を聞いた。

 

「なぁ、高城。響の事だが…………」

 

そう切り出すと、弁当箱を洗う手を止め、僕を見ずに答えた。

 

「………ええ、聞きました。友利さんと協力者を庇って亡くなったと」

 

「………すまない。響が死んだのは僕の所為だ。僕が崩壊の能力を発動させてしまって、その所為で響が……………」

 

「謝ることではありません。誰も予想できなかった事態です。貴方の所為ではない。きっと、一之瀬さんもそう思ってます」

 

「………そうかな?」

 

「はい。いつまでも自分の所為だと引き摺ってると一之瀬さんに怒られますよ。あの人は、立ち止まることより、前に進む事を望む人ですから」

 

そう言って高城は眼鏡を外す。

 

「失礼。目にゴミが入ってしまったようです」

 

そう言い、水で顔を何度も洗っていた。

 

水の音に混じり、嗚咽が聞こえたが僕はそれを聞かなかったことにした。

 

「では、帰ります。お大事に」

 

「ああ」

 

「早く良くなって友利さんと生徒会に戻ってきてください。ゆさりんと二人の生徒会も、素晴らしいんですが、やはり寂しいものなので」

 

最後にそう言った高城の表情はとても寂しそうにしていた。

 



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信じること

久しぶりの投稿です。

恐らく、後3、4話で終わると思います。



高城がお見舞いに来た次の日、再び誰かがノックをしてやってきた。

 

「はい?」

 

「お見舞いに来ましたー!」

 

やってきたのは黒羽だった。

 

正直、会うのが気まずい。

 

「よ、よぉ、黒羽」

 

「あの……こんなの作ってきたんですが」

 

「もしかして…クリームシチューか?」

 

「すごいです!正解です!」

 

黒羽が鍋を置き蓋を開けると、クリームシチューが湯気を立てていた

 

「ゆさりんの手作りクリームシチューは、元気の源として黒羽家では重宝されているのです!病にも怪我にも効果テキメンなんです!」

 

そうか……あれにはそんな意味があって………

 

「ありがとな」

 

「はい!では、あーんして下さい」

 

「え!?」

 

黒羽の行動に一瞬驚くが、これが黒羽なんだと納得し、口を開ける。

 

高城には見せられないな。

 

クリームシチューを食べ終わると、黒羽は鍋を洗っていた。

 

僕はそんな黒羽の後姿に声を掛けた。

 

「なぁ、黒羽。響の事なんだが」

 

すると黒羽は鍋を洗う手を止める。

 

「この前、お通夜がありました」

 

黒羽は語るように言う。

 

「その次の日にはお葬式で、その後は火葬場。響さんの遺骨は、ちゃんとお墓に入れられました」

 

「黒羽は……参列したんだな」

 

「はい。私だけじゃありません。高城さん以外にも色んな人が来てました」

 

「………すまない。僕の所為なんだ」

 

シーツを強くつかみ、絞り出すように声を出す。

 

「僕が能力を暴走させた所為で、響は……………」

 

「協力者さんから話は聞きました」

 

俺が最後の言葉を言うまでも無く、黒羽がそう言う。

 

「響さんは、守ろうと思えば自分の身を守ることが出来たそうです。でも、響さんは自分ではなく、協力者さんと友利さんを守った。私は、そんな行動を取った響さんを信じます」

 

「黒羽………」

 

「響さんが亡くなって辛いですし、今でも泣いちゃうことがあります。でも………例えどんなに悲しくても辛くても、私は響さんを信じます。だからあの日、響さんがしたことは間違いなんかじゃないですし、乙坂さんは悪くありません」

 

「……高城にも似たようなことを言われたよ。ありがとうな」

 

「はい」

 

そうだ。

 

アイツに聞いてみたいことがあるんだよな。

 

響が死んでからずっと考えていたことが。

 

「なぁ、美砂。いるか?」

 

「え?………死人になんの用だよ」

 

「…人は死んだらどこへ行く?」

 

「…さあな。あたしはまだここにいる。柚咲が手に持つ風船のような存在さ。柚咲の能力が消えたら、あたしはそのままどっかに飛んでっちまう」

 

美砂は軽く発火能力を使って表現する。

 

「そうか…だったら、今のうちに大切な人に会いに行くべきなんじゃないか?」

 

「あ?急になんだよ?」

 

「僕は死にかけるような体験をした。いつ自分がいなくなるか知れないんだ。会いに行く時に会いに行くべきだ」

 

「そいつは…あたしも一度死んでるし、分からなくもねえが…」

 

美砂は髪をくしゃくしゃと掻きながら、黒羽が洗っていた鍋を見る。

 

「そういや、そいつをよく食べてたな。それはおふくろの得意メニューだったんだが、それを柚咲が真似てよく作ってくれたんだ」

 

そうだったのか。

 

…………うちと同じだな。

 

「あたしは柚咲と違って親不孝もんだ。死んじまったのが一番の親不孝なんだけどな」

 

「なら親に会いに行けよ。その力が失われる前に」

 

「ふーん…ま、その意見も参考にさせてもらうよ」

 

そう言うと美砂は引っ込んだ。黒羽がほえ!?とまぬけな声を出す。

 

「私また眠っちゃってましたか?」

 

「大丈夫だ。一つ質問だけど、お前の両親は何をしてるんだ?」

 

「長野県の山奥で、そばを打って提供しています!」

 

「そうか。なら近いうちに会いに行くことをオススメするよ」

 

「ほえ?」

 

「いや!時間がなさすぎる!行け!すぐに行け!」

 

「は、はい!マネージャーさんと相談してみます!!」

 

そう言うと黒羽は慌てて、病室を飛び出した。

 

鍋も持たずに。

 

「………お前でも、きっとこうしたんだろうな。響」

 




次回予告 響君の再登場


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決意

黒羽が見舞いに来て数日、僕はリハビリを始めた。

 

片目が見えないせいで距離感が掴めないため、歩きづらい。

 

これは、慣れるまでに時間が掛かりそうだな。

 

リハビリを終えた後、僕は友利の病室の前に来た。

 

ノックをしようと腕を上げるが、上げた腕を下ろした。

 

会って………何を言えばいいんだ?

 

僕は、どんな顔をして会えばいいんだ?

 

そう考え、僕は友利の病室の前を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そこそこ最後の晩餐!略してそこ晩ー!!』

 

「こんなレギュラー番組を持っていたのか」

 

次の日の昼頃、テレビを付けると、黒羽がテレビに出ていた。

 

 

 

『本日はなんと!ゆさりんこと私のそこ晩を紹介しまーす!』

 

紹介されたのは、黒羽と書かれた看板が出てる店だった。

 

「まさか仕事として両親に会いに行くとは」

 

両親に久々に会ったからか、黒羽は両親に抱きついた。

 

店内はすごく雰囲気が良い。

 

『こちらが手打ちそばに山菜の天ぷら定食でーす!』

 

さっそくそばを食べる黒羽。

 

『おいしぃー!次はよもぎの天ぷらを頂きます!…これも おいしい~!』

 

その語彙の少なさで、よく食レポ番組のMCに抜擢されたな…

 

黒羽と黒羽をこの番組のMCに選んだ人に呆れていると、急に黒羽の声のトーンが変わった

 

『でもぶっちゃけ普通の味。平凡すぎてコンビニでも食えるレベル』

 

「美砂!?一体何を………?」

 

『でも両親の愛…その隠し味で絶品な料理になってる………だから、こんなにも美味しい………』

 

美砂の目から零れる涙。

 

『ごちそう…さまでした…っ!』

 

その姿を見て、黒羽の両親は生前の美砂の面影を思い出したのか、母親は涙を流した。

 

『ごめんなさい………なんか美砂の事を思い出してしまって…………』

 

『ああ……アイツは口も素行も悪かったけど………根は優しい良い子だった……』

 

父親も母親の肩を抱き、悲しそうにそして、何処か懐かしむように言う。

 

「…………いい親孝行になったな」

 

 

 

 

 

 

 

次の日、外を眺めてるとまた扉がノックされた。

 

今度は誰だ?

 

「はい?」

 

「おはよーございますなのですぅ!」

 

来たのは歩未だった。

 

「歩未、おはよう」

 

「有宇お兄ちゃん、お誕生日おめでとうなのですぅ!」

 

そう言って、歩未は僕の前に弁当箱を突き出す。

 

「誕生日?」

 

「本日は有宇お兄ちゃんの16歳のお誕生日なのですぅ!」

 

そう言えばそうだったな。

 

最近色々あり過ぎて忘れてた。

 

「と言う訳で久々に腕を振るったのですぅ!」

 

嬉しそうに弁当箱の蓋を開けると、そこにはオムライスがあった。

 

歩未のオムライス…………懐かしい………

 

「あのー、食べてくれるでしょうか?」

 

「あ、ああ!もちろん!」

 

「ではお口を開けてくだされー!」

 

「いや!自分で食べるよ!」

 

「リハビリ中の人には無理させられません!はい!あーん!」

 

「…あーん」

 

口を開け、オムライスを一口入れてもらう。

 

あれ?美味い。

 

いつも通り甘いのに、とても美味い。

 

これが美沙の言ってた隠し味なのかな……………

 

「どうでしょうか?」

 

「うん!美味い!」

 

「おぉー!それは良かったのですー!」

 

その後も歩未に食べさせてもらい、俺はオムライスを完食した。

 

その後、歩未は施設に帰り、僕はリハビリを始めた。

 

最近やっと松葉づえ無しで歩けるようになった。

 

片目だけで距離感もなんとか掴めるようにもだ。

 

「有宇」

 

声を呼ばれ前を見ると、底には兄さんと目時さんがいた。

 

「兄さん、それに目時さんも」

 

「大分頑張ってるようだな」

 

「回復おめでとう」

 

「まだ完全じゃないけどね」

 

「……有宇」

 

すると兄さんが神妙な面持ちになる。

 

「頼みたいことがあるんだ」

 

そう言って、僕が案内されたのは屋上だった。

 

そこには、由美さんが車いすに座ったまま、ずっと空を眺めてた。

 

僕は由美さんに近づき、話掛けた。

 

「由美さん」

 

「………あ、有宇君。もう大丈夫なの?」

 

由美さんが僕の方を振り向いて笑う。

 

だが、心の底からの笑顔じゃない。

 

それもそうか。

 

響を……たった一人の家族を失ったんだ。

 

あの時の僕と同じだ。

 

「ずっとここにいるって聞いて……大丈夫ですか?」

 

「……大丈夫よ。ここでは警察沙汰にはならないから」

 

「そうじゃなくて、僕が言いたいのは」

 

そこで僕は言葉を止めた。

 

由美さんの肩が震えていた。

 

「……ごめん、有宇君。一人にして。風が強くなったら部屋には戻る。だから…………お願い」

 

結局何も言えず、僕は屋上を去った。

 

「有宇でもダメだったか」

 

「今の由美さんには誰が何を言っても聞いてくれないよ」

 

屋上の扉の近くで待っていた兄さんにそう言う。

 

「ねぇ、兄さん。これからどうなるの?」

 

「………海外ではテロ集団が一斉蜂起し始めてる。日本も時期に巻き込まれるだろう」

 

兄さんはそれ以上何も語らず、由美さんの所へと向かった。

 

僕はその背中を見送り、病室へと帰った。

 

「お久っす」

 

一瞬、思考が止まった。

 

何故なら、僕の病室に友利が居るからだ。

 

「……友利!?」

 

「なんでそんなに驚いてるんですか」

 

「いや…唐突だったから」

 

「私はひと足先に退院できたのであなたと話をしようかと。お兄さんから何か聞きましたか?」

 

椅子に座り直し、僕の方を向く。

 

僕は気まずさから友利に背中を向けたままベッドに座る

 

「すぐ日本も海外のテロ活動に巻き込まれるって」

 

「…そうですか」

 

「僕の能力を狙って、また襲われるかもしれない。もう誰も失ったり不幸にしたくない。僕の力でなんとかできるならしたいけど方法が分からない」

 

手で顔を覆い、項垂れる。

 

「………一つだけなら方法はあります」

 

その言葉に僕は友利の方を振り向く。

 

「方法があるのか?教えてくれ!」

 

ベッドに乗り友利に詰め寄る。

 

「お兄さんの研究所では次の彗星が来たときに能力者が生まれないためのワクチンを完成させているんですよね。なら、貴方の能力で今いる世界中の能力者の能力とこれから発症する能力者の能力を奪うんです」

 

「え?」

 

「もちろんリスクもあります。何千何万という能力を得た場合、貴方に何が起きるか………全人類を滅ぼしかねない化け物にもなりえます。それでも尚、正気を保っていられるか………………ぶっちゃけ力技です。でも、これは貴方にしかできない。これが私が考えられる方法です」

 

そ、そんな方法、普通に考えたら無理だ。

 

だが、それしか考えられないのも事実だ。

 

「実は、この話をするつもりはなかったんです。でも貴方は歩未ちゃんを救うために未来から帰って来たり私や熊耳さん、響を助けに来てくれた。ただのカンニング魔だと思っていましたが今のあなたなら信じられます」

 

「えらい評価が変わったな」

 

「まあ私の策にしては、無謀が過ぎました。忘れてください。それでは今日はこれで失礼します」

 

そう言って友利は病室を出て行こうとする。

 

そして、僕は友利を呼び止めた。

 

「待ってくれ、友利」

 

友利は立ち止まり僕の方を振り返る。

 

「やるよ」

 

「いやいや、無謀過ぎっしょ」

 

「いや、やるよ。僕はお前に恩がある。そのお前がそれしか方法が無いって言うならそうする」

 

「動機が薄いっすね」

 

「でも、またあんなことが起きるかもしれない。今度は僕がお前を救いたい。だから…」

 

「なして?」

 

「僕が響の親友で、家族だからだ」

 

「は?」

 

僕の理由に友利が一言、そう言った。

 

「響が言ってた。自分は友利に救われた。だから、お前の為にこの力を使うって。響を死なせた僕が出来る唯一の償い。それが、響の代わりにお前を救うことだ」

 

「…………響は響です。貴方とは違います。それに、響が死んだのは事故です。貴方が気に病む事ではありません」

 

「ああ、分かってる。これは僕のエゴだ。僕がやりたいからやる。それだけだ」

 

「本当にどうなるかも分からないんですよ!」

 

友利が持っていたお菓子の箱を床にたたきつけ怒鳴る。

 

「奪った能力が暴走して、周りを破壊し尽すかもしれない。それならまだしも、奪った能力であなた自身が死んでしまうかもしれない。それでもいいんですか?」

 

「僕は死なない」

 

そう言うと、友利は驚いた顔をする。

 

「前にも言ったが、僕は前の世界で歩未を失い、自暴自棄になっていた。揚句、薬に手を出して自分で自分の体を壊そうとした。そんな時、それを助けてくれたのはお前と響だった。お前達に救われた命だ。だから、僕はこの命を無駄にしない。そして、死なない。全ての能力者の能力を奪って、必ず、戻ってくる」

 

友利は暫く黙ると、再び顔を上げて、僕の方を見る。

 

「絶対に帰ってくる。それが条件ですよ」

 

「ああ」

 

「もう誰かを失ったり誰かが不幸になるのが嫌なのは貴方だけじゃないですから。お忘れなく」

 

「忘れないよ」

 

「では、約束です」

 

そう言って、友利は僕に小指を向ける。

 

その意図が理解出来、僕の小指を友利の小指に絡める。

 

「嘘ついたら指詰めろ。指切った」

 

「はは……詰められるのは敵わないし、絶対に守らなきゃな」

 

「はい。では、まず私から」

 

友利は両手を広げる。

「え?」

 

「片っ端から能力を奪い去るんでしょ」

 

「そうか…これから僕がやろうとしてるのは、そういうことなんだな」

 

「はい」

 

「…すまない」

 

「謝る必要なんてありません。これで真っ当な人間に戻れるので」

 

僕は決意を決め、能力を友利に使った。

 

五秒後、能力が終わり、僕は友利の能力を奪った。

 

友利は二、三度と自分の体を見て、笑った。

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になり、僕はもう一度由美さんの所を訪れた。

 

「由美さん、僕が全世界の能力者の能力を奪い助けてみせます」

 

「…無理よ、やめなさい」

 

「僕は響の命を無駄にしたくないんです」

 

「そんなのは私だって一緒よ!」

 

由美さんは涙を流し怒鳴った。

 

「私は、響を………私の唯一の家族を守りたい!その気持ちだけでずっとこの道を歩んできた!それなのに!それなのに……………!」

 

由美さんは拳を握り、自分の膝を叩く。

 

「だからです。だから、僕は行くんです。もうこれ以上誰かを失いたくない。これ以上大切な人を不幸にしたくない。それは、由美さんも同じはずです」

 

その言葉を聞いて、由美さんは顔を見上げる。

 

「すでに友利の能力を奪いました。僕は引き返しません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の病室に兄さん、目時さん、前泊さん、七野さん、そして由美さんが集まった。

 

そして、僕は友利の提案を話、自分の決意を語った。

 

「思い切った作戦だな」

 

「でも、どうやって能力者を?」

 

「能力者の組織のリーダーの近くには熊耳と似た能力者がいるはずだ。そいつから能力を奪うんだ」

 

「有宇くん、海外へ飛びなさい。日本は私たちに任せて。こちらも能力者を束ねる大組織。能力が消えるまで抑え込むわ」

 

立ち直った由美さんを見て、兄さんたちは笑顔を浮かべた。

 

「それぐらいできないとあの子に顔向けできないもの」

 

「有宇、今お前は16歳だから、時間はあまりない。能力を失う前に頼む。資金の事は心配しなくていい。こちらに任せてくれ」

 

「ああ」

 

そして翌日、僕は病院を退院した。

 

家に戻って荷造りしたら、すぐにでも海外に飛ぼう。

 

「乙坂さん」

 

すると高城と黒羽が僕の前に現れた。

 

黒羽の方はどうやら美砂の方らしい。

 

「お前達、どうして?」

 

「友利さんから話を聞いたんですよ」

 

「あたしらの能力も奪っていきな。少しでも力になれるかもしれねえ」

 

「つまり…もうお前とは…」

 

「まあそういうこった。ここらがセンスのいい引き際だぜ」

 

「…………分かった。三人の能力を貰う」

 

二人に乗り移って、三人の力を貰う。

 

これで、瞬間移動と発火、口寄せまでも奪ったか。

 

「ほえ?えーっと…何があったんでしたっけ?」

 

「柚咲さん。実は、お姉さんから手紙を預かっています」

 

「え?」

 

高城はその手紙を黒羽に渡す。

 

黒羽はそれを読み上げた。

 

『柚咲へ。最高に楽しかった。生徒会のあいつらとつるんでるのが楽しかった。

 

でもただ一つ辛かったのは柚咲、お前とずっと一緒に居たのに、ずっとすれ違いだったことだ。

 

最高に愛してる。

 

では死人は死人らしく、ここらでおさらばだ。

 

美砂より』

 

黒羽は涙ぐみながら手紙を読み上げた。

 

「姉はいつも…皆さんと一緒にいたんですね…」

 

「ああ。僕たちも楽しかったよ」

 

「ですね」

 

「なら……良かった…」

 

高城がふっと笑って俺の方を見る。

 

「絶対に戻ってきてくださいね。なんてったって私たちは同じ病を持ち苦しみながらも共に高校生活を過ごした友達なのですから!」

 

「だな!」

 

「はい!」

 

俺達三人は拳をぶつけ合い、そして笑った。

 

そして、拳をぶつけた直後、僕は急激に意識を失った。

 

「乙坂さん?」

 

「どうしたんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、久しぶりだな、高城、柚咲」

 



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旅立ち

「よぉ、久しぶりだな、高城、柚咲」

 

俺がそう言うと二人は驚いたような顔をした。

 

「なんだよ。久々の再開だぜ。もっと喜んでくれよ」

 

「まさか………一之瀬さんですか?」

 

「さすが高城。察しがいいな」

 

「え?え!?ど、どういうことですか!?」

 

状況がわからないらしく柚咲はうろたえる。

 

「一之瀬さんが、柚咲さんの口寄せの能力で乙坂さんの体に乗り移ってるんですよ!」

 

「ええ!?」

 

ま、驚くのも無理ないか。

 

しかし、他人の体を借りるって妙な感じだな。

 

美砂もこんな感じだったんだろうか。

 

「それにしても、二人とも本当に久しぶりだな」

 

「……全くですよ。しかし、またこうして貴方と話せるとは……夢のような気分です」

 

「だな」

 

そう言って俺は柚咲に近づく。

 

「柚咲。お前に言いたいことがあったんだ」

 

「は、はい!」

 

「信じれないと思うけどさ、俺と有宇は未来から来たんだ。でさ、その未来でお前、俺に告白してきたんだぞ」

 

「ふぇええええええ!?」

 

そう伝えると柚咲は顔を真っ赤にしてうろたえ出す。

 

「………ごめんな。俺、お前の気持ちには応えられない。俺はもう死んでるし、それに、好きな人がいたんだ。だから、ごめんな」

 

そう言うと、柚咲は少しうつむいた後、笑顔で俺を見てくる。

 

「なんとなく、分かってました。こうなるんじゃないかなって。だから、謝らないでください。私は、響さんと一緒に思い出を作れただけで嬉しかったです」

 

「ありがとうな。俺なんかよりいい男、捜せよ」

 

「無理ですよ。響さんより素敵な人なんていませんから」

 

俺は最後に柚咲の頭をなで、高城に顔を向ける。

 

「高城………奈緒を頼むぞ。俺の変わりに、アイツを支えてやってくれ」

 

「………はい。どこまで一之瀬さんの様に勤められるか分かりませんが。やらせていただきます」

 

「じゃあな、二人とも。お前たちと出会えて、最高だったぜ!」

 

最後にそういい残し、俺は体の主導権を有宇に返した。

 

「あれ?僕は一体…………?」

 

「たった今、一之瀬さんの霊が乙坂さんの体に乗り移ってたんですよ。口寄せの力で」

 

「本当か!?…………僕も、あいつと話したかったな」

 

有宇は高城と柚咲に別れを告げ、自宅へと帰った。

 

そして、鞄に日用品や着替えなど様々な物を入れ、部屋を後にした。

 

扉を出ると、奈緒が外にいた。

 

「待っていました。これを持って行って下さい」

 

奈緒が差し出したものを有宇は受け取る。

 

それは単語帳だった。

 

英文と英文の読み方、日本語訳まで丁寧に書かれている。

 

「今の私にはこれぐらいしかできないので。それさえあれば、最低限の会話は大丈夫だと思います」

 

「一晩でてくれたのか」

 

「あなたの偏差値はたかが知れてますから」

 

「ただのカンニング魔だからな。僕は」

 

有宇は苦笑をして、単語帳を胸ポケットにしまう。

 

「そうだ。代わりにコイツを預かっててくれ」

 

そう言って有宇が差し出したのは、奈緒から貰った音楽プレイヤーだった。

 

「………分かりました。帰ってくるまで預かっておきます」

 

奈緒は笑顔でそれを受け取った。

 

「そうだ。会って欲しい奴がいるんだ。聞こえてるんだろ?だったら、出て来いよ」

 

有宇に言われ、俺は有宇の体に乗り移る。

 

「久々だな……奈緒」

 

「……ええ。本当にお久っす」

 

「大体の事情は知ってる。俺も乙坂と一緒に行く。少しでも助けになればって思ってな」

 

「なりますよ。だって、貴方は彼の親友で、家族なんですから」

 

「ああ。そうだな」

 

そこで沈黙が流れた。

 

そして、俺は奈緒に伝えたいことを伝えた。

 

「奈緒、俺はお前のことが好きだった」

 

「はい。私も響のことが好きです」

 

「……両思いだったんだな」

 

「そうっすね。貴方が黒羽さんといちゃついてる度にこっちは終始イライラでしたよ」

 

「だからって歩未ちゃんにまで嫉妬するか?」

 

「恋した乙女は欲深いんです」

 

「そうかい………じゃあな」

 

最後にそう言い、体を有宇に返す。

 

「………いい話はできたか?」

 

「はい、お陰様で」

 

しばらく会話が止まる。

 

有宇の腕は震えていた。

 

だが、有宇はその震えを押さえ、奈緒を見る。

 

「………じゃあ。行ってくる」

 

「はい!行ってらっしゃいませ!!」

 

有宇は歩き出し、そして星空を見上げた。

 

これから過酷な旅が始まる。

 

それでも、俺と有宇は歩み続ける。



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伝えたい事

マンションを降り、空港へ向かおうとすると、有宇の目の前にある人が現れた。

 

「熊耳さん!」

 

そう、熊耳さんだ。

 

「よぉ、乙坂有宇」

 

「もう大丈夫なんですか?」

 

「まぁな…………隼翼と由美から事情は聞いた。本気なんだな?」

 

「………ああ。もう後には引かない。本気だ」

 

「………なら、持って行くことをお勧めする能力者がいる」

 

「何?」

 

「俺がつい最近見つけた能力者だ。能力は………霊の視認と対話」

 

その能力に有宇が片目を見開く。

 

「今のお前には必要なんじゃないか?」

 

「ああ、ありがとう!熊耳さん!」

 

有宇は能力者の場所を聞き、すぐにそこへ向かった。

 

向かった場所には一人の男が蹲る様に座っていた。

 

「怖い……怖い……なんでこんなものが見えるんだよ………」

 

どうやら、霊が見えることに恐怖を感じているみたいだ。

 

「今その能力から解放してやるよ」

 

そう言い、有宇は能力を奪った。

 

有宇は恐る恐る辺りを見渡す。

 

そして、俺の方を向き、固まった。

 

「ひ、響……」

 

『よぉ、有宇』

 

試しに手を振ってみると、有宇は涙ぐみ笑った。

 

『俺も一緒だ。不安になることはないぞ。一緒に、頑張ろう』

 

「ああ!」

 

そして、空港に向かうと、隼翼さんと姉さんが居た。

 

「見送りは俺達だけでさせてもらう。有宇、お前に任せて置きながらこんなことを言うのはおかしいかもしれんが言わせてくれ。無茶だけはするなよ」

 

「ああ、分かってるよ。兄さん」

 

「有宇君、体に気を付けて。それと、海外でのテロに巻き込まれる可能性もある。命が危ないと判断したらすぐに逃げるのよ」

 

「はい」

 

そこで、有宇が俺に目くばせをする。

 

俺は納得し、有宇の体に乗り移る。

 

「姉さん、隼翼さん。お久しぶりです」

 

「……まさか、響君なのかい?」

 

「はい。口寄せの能力で、今有宇の体を借りてます」

 

そう言い、俺は姉さんを見る。

 

「姉さん」

 

「……響」

 

「………………行ってきます」

 

「………ええ。いってらっしゃい」

 

たった一言。

 

それだけ言い、俺は体を有宇に返した。

 

「もう話は終わったの?」

 

「ええ。ありがとうね、有宇君。形はどうあれ、もう一度響と話せてよかったわ」

 

「いえ、俺は別に大したことは…………」

 

「これ、持っていてもらえるかしら」

 

そう言って姉さんは、有宇に俺のデジカメを差し出した。

 

「お守りよ。形見のつもりで持ってたけど、有宇君が持っていて頂戴」

 

「………分かりました。必ず、返しに行きますね」

 

有宇はデジカメを受け取り、鞄にしまう。

 

「ほら、もうすぐ飛行機の時間よ!乗り遅れたら大変なんだから!」

 

「は、はい!じゃあ、行ってきます。兄さん、歩未の事任せたよ!」

 

最後にそう言い、有宇はゲードへと向かう。

 

「由美、良かったのか?」

 

「何が?」

 

「もう一度会えたんだ。もう少し話していても良かったんじゃ…………」

 

「いいえ、大丈夫よ。もう十分に話せたわ。…………あの子が何を思って、何を伝えたかったのか」

 

「流石は、姉だな」

 

「…………帰りましょ。これからは大忙しよ」

 

「ああ」

 



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壊れゆく有宇

前回の話の最後に少し付け加えをしました。

有宇に響の持っていたデジカメを預けたことになっています。


俺と有宇が最初に向かったのはシンガポールだった。

 

で、有宇はと言うと今、職員に質問をされているところだった。

 

奈緒が作ってくれた英語リストをみながら話す。

 

やっと解放してもらい、入国の許可を貰う。

 

「ふぅ……あの職員のおっさん、怖かった~」

 

『最強の能力者がビビってんじゃねぇよ』

 

「それにしても、まずは何処に向かうか………」

 

『隼翼さんが言うには、この国にも能力者の組織があるんだろ。なら、まずそいつらに接触するんだ』

 

「でも、僕たちは相手の顔を知らないぞ」

 

『有宇、いいこと教えてやるよ。そう言う情報って意外と簡単にてに入るんだぜ』

 

俺の助言通り、有宇は組織の一員と接触した。

 

この男は、能力者ではないが組織の関係者らしい。

 

しかも、金に困ってると来た。

 

「ええっと……プリーズ!リスト!」

 

そう言って有宇が紙幣を数枚差し出すと、男は引っ手繰るように奪い、有宇の手にメモリーカードを渡す。

 

そして、そのまま素知らぬ顔で去っていく。

 

「まさか、本当にリストが手に入るとは………」

 

(だから言っただろ)

 

すぐさまリストの中を見るが、書いてある言語が英語ではなく俺は読めなかった。

 

まぁ、英語でも有宇は読めないだろうな。

 

「取り敢えず、まずはリーダーと接触だな」

 

渡されたリストの中にはリーダーの良く行く場所や乗ってる車まで書いてあり、そこへ向かうとリーダーの車があった。

 

「これか」

 

有宇は念動力を使い車を開け、中に乗り込む。

 

暫くするとリーダーの男がやって来て車に乗り込む。

 

乗り込むと、有宇は奈緒の能力を解除し、能力を奪う。

 

その後は、美砂の発火能力を使い、後ろから脅す。

 

「えっと……いふゆーむーぶ……ゆーふぁいやー……ゆあーリーダー?」

 

棒読みで奈緒の単語帳から英語を読む。

 

「……Who are you?」

 

「……アンユージュアル アビリティープレイヤー!」

 

「!?」

 

有宇がそう言うと、リーダーは驚いた表情になる?

 

「なるほど……心を読む能力か。That's right!クエスチョン!ワット、ドューユールック……ユージュアル アビリティープレイヤー!」

 

炎を近づけながら尋ねる。

 

男は考えないようにしているようだが、結局は心を読まれる。

 

「アンジェロ……そいつが能力者を見付けてるんだな。サンキュー!」

 

そう言い、リーダーの携帯を奪い、車を降りる。

 

そして、出られないように念動力で車の扉を壊す。

 

路地に向かうとアンジェロは二人の男に守られていた。

 

有宇は片方の男に乗り移り、もう一人を殴り倒す。

 

その行動にアンジェロは驚き、腰を抜かす。

 

乗り移りが終わると、その男の後頭部目掛け石ブロックを投げつけ倒す。

 

「What!?」

 

「アーユーアンジェロ?」

 

有宇が尋ねながら近づく。

 

「Who are you!?」

 

「アビリティーイズシックレス、ユードゥーノットユーズアビリティー 」

 

そう言い、能力を奪う。

 

アンジェロは呆気にとられたが、すぐに地図を見て声を上げた。

 

「なるほど。地図を見るのか」

 

その場を去り、有宇は街の小さな宿屋に泊ると早速、買った地図を広げる。

 

『どうだ?』

 

「凄いぞ!何処に能力者が居るのが一目で分かる!完璧な能力者探知能力だ!」

 

『なら、早く行動しよう。この国の能力者の能力を一気に奪うぞ』

 

「ああ!」

 

地図を仕舞い、有宇は空中浮遊の力で能力をどんどん奪っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南アフリカ共和国 北部。

 

廃ビルに居る能力者の能力を奪おうとするが、部屋に鍵が掛かっていて、入れなかった。

 

『有宇、俺に任せろ』

 

俺は有宇の体に乗り移り、扉の鍵に触れる。

 

やっぱりだ。

 

俺も有宇に乗り移ってる間は自分の能力が使えてる。

 

直感の能力で鍵の構造を理解し、針金を使って簡単に開ける。

 

中をこっそりのぞくと三人の男たちが銃を手に部屋の中でテレビを見ていた。

 

能力者は確か一人。

 

残りの二人は能力者じゃないな。

 

俺は使い慣れた身体機能強化を使い、一気に部屋の中に入る。

 

俺の侵入に男たちが驚く。

 

まず手前の奴を下から殴り、そのまま服を掴んで近くの男に投げつける。

 

そして、マシンガンを構えてる奴の首を掴み、そのまま持ち上げ意識を奪う。

 

「制圧完了っと」

 

三人を倒した後、俺は自分の体の異変に気付いた。

 

テレビから聞こえる言語が外国語ではなく日本語に聞こえる。

 

能力の翻訳か。

 

良い能力だな。

 

有宇に体を返すと有宇は辺りの光景に驚いていた。

 

「これ、響が全部やったのか?」

 

『ああ。それより、有宇この男が能力者だ。コピーしたから分かるが、コイツの能力は翻訳だ』

 

「本当か!?」

 

有宇はすぐに男に乗り移り、能力を奪う。

 

「おお、本当だ……コイツは良い能力だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エジプト

 

また一人能力者の能力を奪う。

 

能力者だった少年は何が起きたのか理解できなかったらしく辺りを見渡す。

 

すると有宇の姿を見た瞬間、驚き慌てる。

 

「せ、隻眼の死神!」

 

そう言い、走り去った。

 

「なっ!?」

 

『まさか自分がそう呼ばれるとは思ってなかったか?』

 

「なんていう恥ずかしい名前だ………」

 

有宇は恥ずかしさから頭を手で押さえる。

 

すると、急に驚き出す。

 

『どうした?』

 

「今のイメージは……?」

 

有宇はおもむろに近くの露店に並んでるリンゴを一つ掴む。

 

リンゴはたちまち凍ってしまった。

 

『凍結の能力か』

 

「どうやら、いつの間にか、どんな能力なのかも分かる能力を奪ってたらしい」

 

その後も、能力を奪い続け、また一つの国から能力をずべて奪い去った。

 

今日はもう夜だったので、野宿することにした。

 

有宇は近況を隼翼さんに衛星電話で話していた。

 

「また一つの国の能力を全部奪ったよ。他にも、言語を翻訳する能力や寝なくても活動できる能力を奪ったよ」

 

『凄いじゃないか、有宇。でも、あまり無理をし過ぎるなよ。なんだったら一度日本に帰ってきてもいい』

 

「いや、またすぐにでも他の国に行くよ。早く世界中の能力を奪わないと」

 

『………そうか。だが、本当に無理はするなよ』

 

「ああ、分かってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アフガニスタン

 

「うわあああああ!」

 

「ふぅ」

 

アフガニスタンでまた一人能力を奪うと、有宇は溜息を吐き、頭を触る。

 

『有宇、今度の能力はなんだ?』

 

「病気を悪化させる能力だ」

 

そんな能力まであるんだな。

 

「次だ」

 

次にやってきたのはアフガニスタンにある能力者の集まりだった。

 

「能力者に能力で戦わせてるのか」

 

千里眼の能力で集落の様子を確認すると、能力を持った少年が能力の特訓をしていた。

 

「うん?あの列……」

 

『どうした?』

 

有宇は確認するように地図を見る。

 

「おかしい。あそこの集まりには能力者が一人しかいない」

 

『それも、あそこに乗り込めば分かるだろう』

 

「ああ。今夜忍び込もう」

 

夜になると、有宇は一人の能力者を襲い、能力を奪う。

 

頭を触り能力を知ろうとすると

 

「分からない……?おい、ここはなんの集まりだ?」

 

少年は答えようとしないが、心が読める有宇には意味が無かった。

 

「キャリア?」

 

『なるほど。感染してるがまだ能力は発症してない奴を集めてるんだろう』

 

「そういうことか」

 

有宇が地図を見ると納得するように頷く。

 

「能力者探知能力と同じように地図を見ればキャリアが分かるのか。だけど、僕の能力じゃ、発症前の能力は奪えないし………」

 

『これは病気なんだろ。この前奪った能力はなんだ?』

 

「そうか!」

 

有宇は気付くと、すぐに感染者がいるテントに行き、病気を悪化させる能力を使う。

 

少年は苦しそうにするが、能力が発症すると同時に、有宇が奪う。

 

「……よし!行ける!」

 

地図を見て有宇がガッツポーズをする。

 

「これからは、キャリアの方も奪って行かないとな」

 

そして、その集落からも全ての能力を奪い、俺と有宇はその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インド 北部

 

空中浮遊の能力で廃寺院に向かい、中に入る。

 

すると、銃声が響き、有宇が撃たれる。

 

だが、バリアの能力のお陰で有宇に弾は当たらない。

 

「弾が切れるまで撃てぇ!」

 

数百発の弾丸を受けながら、有宇は前方にバリアを広げ、銃を持った兵士たちを吹き飛ばす。

 

兵士たちは吹き飛び気絶する。

 

そこで、有宇は膝を着き、体を震わせた。

 

『有宇!大丈夫か!』

 

「あ、ああ………大丈夫だ。ちょっと、驚いただけだから」

 

やっぱり、能力を奪い過ぎて体に負担が掛かり過ぎてる。

 

精神の方にもだ。

 

まだ能力を奪ってない国は沢山ある。

 

このままだと有宇が危ない。

 

だが、今の俺は有宇の代わりに能力を奪う事は出来ない。

 

こんなことなら、生きてる内に有宇の能力もコピーしておけば良かった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペルー共和国 郊外

 

次にやってきたのはペルーで、そこに居た能力者は女の子で、治癒の能力だった。

 

女の子はその能力を怪我をした人の為に使っていた。

 

『良い子だな』

 

「ああ………でも、例え善行に使われてるとしても奪わないといけないんだ。すまない」

 

有宇は女の子に謝ると能力を奪った。

 

「これで、治癒の能力も奪ったか」

 

そう言い、有宇はガラスに映った自分を見つめる。

 

「………この目の傷を治したら、僕はタイムリープ能力まで取り戻してしまう(取り戻せば、響を救うことが…………)」

 

『有宇』

 

有宇が何を考えているのかなんとなく分かり、それを止める。

 

『そんな事の為に、能力を奪うんじゃないだろ』

 

「………ああ、そうだ。世界中の能力を奪う。それが僕の目的だ」

 

有宇はそう言い、また能力を奪いに動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キューバ共和国 市街地

 

その日の朝、有宇はベッドの上で叫んでいた。

 

「うるさい…うるさい!うるさい!うるさいうるさいうるさい!」

 

鳴り響く電話、外からの騒めきやホテル中の声にテレビの音、車の走る音など様々な音を拾ってしまい有宇はここ数日ちゃんと休めていない。

 

能力で肉体的な疲れは無いだろうが精神的な疲労はあるはずだ。

 

俺が有宇の体に乗り移り、有宇を休ませる。

 

だが、口寄せの能力にも時間制限がある。

 

これは後で知ったことだが、口寄せで乗り移ると、乗り移れる時間は三時間が限界。

 

さらに、一回乗り移ると暫くは乗り移れない。

 

せめて、三時間は有宇を休ませよう。

 

俺は、テーブルに置いてある衛星電話を手に取る。

 

「もしもし、隼翼さんですか?」

 

『響君か?有宇は?』

 

「………奪った能力の所為か、それとも能力を奪い過ぎた所為か分かりませんが精神的にかなり疲れ切ってます。このままだと、全ての能力を奪う前に有宇が壊れるかもしれません」

 

『………これ以上は限界かもしれないな。迎えを送る。もう日本に帰ってこい』

 

「…………すみません。それはできません」

 

『分かってるのか!このままだと有宇が!』

 

「………例えそうだとしても、有宇は絶対に帰らないはずです。能力者がいる国が残り一つになったら連絡します。それじゃあ」

 

そう言い、俺は一方的に電話を切る。

 

三時間後、能力が切れ有宇に体の主導権が戻る。

 

「僕は………一体……?」

 

『有宇、大丈夫か?』

 

「響……ああ、大丈夫だ。お陰で少し休めたよ」

 

『……………すまない。隼翼さんからの電話で、もう帰ってこいって言われたけど、断った。お前の意志も聞かずに………』

 

「いや、いいさ。どの道、僕もそうした」

 

そう言い、有宇はベッドから起きる。

 

「さぁ、次に行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サウジアラビア 西部

 

サウジアラビアに着いたのは夜遅かった。

 

前の有宇なら夜でも能力を奪いに行ったが、今の有宇には奪いに行く元気がなかった。

 

宿屋に泊り、テレビのニュースを眺める。

 

「明日はここか………少し休もう……」

 

そう言い、睡眠薬を取り出す。

 

「無理矢理にでも………体を休ませないと…………」

 

そして、有宇は無理矢理眠りについた。

 

だが、眠りについて僅か数分後、有宇は急に起き出した。

 

『有宇?』

 

声を掛けるが有宇は反応せず、そのまま何処かへ行く。

 

俺もそれに着いて行き、何処へ向かうのかと考えていると有宇が来たのは能力者が集まってる組織だった。

 

すると有宇は行き成り崩壊の能力で施設を破壊した。

 

『有宇!一体何を!?』

 

声を掛けるも有宇はそれを無視し、念動力や発火、奪って来た能力で攻撃に使える能力を使いまくり施設の職員や警備、果ては能力者まで攻撃する。

 

乗り移ろうにも、此処に来る途中の飛行機で俺が有宇に乗り移ったからまだ乗り移れない。

 

俺は有宇が暴れまわる姿をただ見てることしかできなかった。

 

一通り暴れると、有宇は能力を全て奪い、そのまま宿屋に帰った。

 

血に濡れたまま、地図の裏に赤い文字で色々書き、そして、最後は死んだようにベッドに倒れ込んだ。

 

そのまま有宇は朝になるまで目を覚まさなかった。

 

朝になると有宇は目を開け、ニュースを見て驚いた。

 

何故なら今日行く予定だった組織の施設が襲われたと言うニュースだったからだ。

 

「い、一体何が…………ハッ!?」

 

有宇は自分の体が血まみれで、ベッドの血に濡れているのに気付く。

 

「僕が…………やったのか…………?……………ダメだ、記憶が混濁してる…………もう、寝ちゃいけない、寝ちゃダメなんだ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イタリア 南部

 

銃声がホテルの一室で響く。

 

イタリアのマフィアが有宇を狙い襲って来た。

 

有宇は抵抗するわけでもなく、ただ黙って椅子に座っていた。

 

銃弾はバリアの能力で防いでいる。

 

「僕は…………ここで何をしているんだ?なんで戦場にいるんだ?」

 

有宇がそう言う。

 

記憶も失い欠けてる。

 

その時、マフィアの弾丸が、有宇の鞄を撃ち抜く。

 

するとその中に会った、奈緒が作った単語帳が空中に散る。

 

その瞬間、有宇は怒り、念動力でマフィアを天井に叩き付ける。

 

有宇は立ち上がり、ふらふらとした足つきで単語帳を拾う。

 

「何だこれ?…………そうだ、僕は約束したんだ………誰と?一体………誰と約束したんだっけ?」

 

この時から、有宇はもう殆ど壊れかけてしまった。

 

そんな有宇に、俺は何もできずただ見てるだけしかできなかった。

 




次回で最終回になると思います。


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二度目の別れ

すみません。

最終回は次回になります。


有宇が壊れ始めてからも、俺たちは………いや、有宇はずっと能力者の能力を奪い続けた。

 

予知の能力者の能力を奪ってからはさらに奪うスピードが速くなり次々と能力を奪い続ける。

 

だが、そこには目的も意思も感じられない。

 

ただ、能力を奪う。

 

理由も知らずに有宇はそれを続ける。

 

能力者から能力を奪うその姿は、歩未ちゃんを失った時の有宇に似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

アリゾナ州 郊外。

 

「もうつらいよ~。やだよ~。こんな大変なこと誰が思いついて、どうして僕がやることになってんのさ~」

 

有宇は子供のように文句を言いながら、能力を奪った能力者を引きずる。

 

「もう十分だろ~!誰か変わってくれよ~!」

 

そう言い、能力者を掴んでいた手を離し、地面に倒れこむ。

 

「あ、そうだ。いいこと思いついた。この地球ごと乗っ取っちゃおうかな。全能だし!僕が神!全て僕が決める!そうしよう!うはははははっ!!」

 

『有宇いい加減にしろ!』

 

体がない俺にできることはこうして呼びかけることしかできない。

 

『そんなことのために能力を奪ってきたわけじゃないだろ!自分の目的を思い出せ!』

 

「………なんだよ…てか、誰だよお前はぁ~………死んでるのにウザイなぁ~……幽霊なんだから黙っててよぉ~……」

 

そう言い、有宇が起き上がると有宇の胸ポケットから奈緒の単語帳が落ちる。

 

「んだよこれ…汚ぇな!」

 

そう言って蹴り飛ばす。

 

が、有宇は我に返ったように蹴り飛ばした単語帳に駆け寄り、庇う様に倒れこむ。

 

「…どうしてなんだよ。……どうしてこれを蹴飛ばしたことを後悔してんだよ……なんなんだよ…どうしてそれで泣いてんだよ…何なんだよ…まだ頑張れってのかよ…くぅ……」

 

有宇は涙を流して言う。

 

『有宇』

 

俺は有宇のコートのポケットを指差す。

 

『そこにあるもの出せ』

 

有宇はのろのろとした手付きでそれを取り出す。

 

俺のデジカメだ。

 

『中に写真があるはずだ。見てみろ』

 

デジカメの使い方は覚えてるらしく、有宇は無言でデジカメを操作する。

 

そこには、俺が今まで取ってきた写真がたくさんあった。

 

高城の、柚咲の、奈緒の、歩未ちゃんの、そして、有宇の。

 

それ以外にも今まで俺たちが過ごしてきた思い出の写真がそこにはあった。

 

『皆、お前の帰りを待っていてくれる人たちだ。その人たちのために、お前は頑張ってるんだ。思い出せなくてもいい。だから、今ここでもう一度誓うんだ。皆のために、全ての能力者から能力を奪って、無事に帰ることを』

 

「……………わかったよ。もう少し、頑張るよ…………響」

 

そう言って有宇は立ち上がり、デジカメを仕舞って、単語帳をお守りのように首から掛けてぶら下げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有宇はその後も能力を奪い続けた。

 

だが、前のような感じはそこにはなかった。

 

皆の下に帰る。

 

今はそのために能力を奪い続けている。

 

それだけでも十分だった。

 

少なくとも今の有宇には………

 

 

 

シベリア地方 イルクーツク

 

「せ、隻眼の死神!」

 

有宇を見て男が逃げ出そうとするが、有宇は念動力で動きを止める。

 

「……響。あいつの能力コピーしておいてほしい」

 

『なんでだ?』

 

「わからない。でも、あの能力をコピーすることは響のためになるって予知の能力で出てる。詳しくはわからないけど」

 

『分かった。コピーしよう』

 

有宇の体に乗り移り、男に触れるこれでコピーは完了。

 

再び有宇に体を返し、能力を奪わせる。

 

そして、とうとう能力者がいる国は日本からそう遠くない国、中国のみとなった。

 

人口が多いだけあって、能力者もそれなりにいる。

 

そして、中国の北京。

 

一人の少年から能力を奪うと、少年は慌てて逃げ出した。

 

「これで……あと一人……」

 

『有宇、もう一息だ。頑張れ。これで全て終わるんだ』

 

「ああ、終わらせて帰らないと」

 

有宇は木の棒を手に歩き出す。

 

そのとき、風を切る音が聞こえ、有宇が崩れ落ちる。

 

見ると有宇の足にボウガンの矢が刺さってた。

 

そして、もう一発、矢が有宇の肩に当たる。

 

「やった!あの死神を、ついにやってやった!」

 

矢を撃ったのは中国人の男で、男は嬉々としながら有宇に近寄る。

 

すると、俺たちの前に一人の女の子が立ちふさがった。

 

「弱い者虐めしちゃ駄目!」

 

「弱い者虐めって…お前そいつらのこと知ってんのか!」

 

「知らない!でもそんなことしちゃだめ!」

 

「そいつらはすげえ賞金首なんだよ!仕留めたら大金が手に入るんだよ!」

 

「それでもだめ!」

 

すると男はボウガンを少女に向ける。

 

「だったらお前にも痛い目にあってもらうしかねえな!」

 

「好きにしたらいいじゃない!あたしは絶対に!退かない!」

 

男は容赦なくボウガンを少女に撃つ。

 

少女を目を閉じるが、矢は飛んでこなかった。

 

矢は少女の目の前で止まり、地面に落ちた。

 

「まさか……最後の能力が……勇気だなんてな」

 

有宇は立ち上がり少女を優しい目で見つめた。

 

「だが、それは蛮勇。死ぬところだったぞ。………もういいから家にお帰り」

 

そして、有宇は少女からも能力を奪った。

 

すると、少女は先ほどまでの威勢のよさを失い震え出す。

 

それでも、足を震えさせながらも有宇を守るように手を広げる。

 

この子は、能力なんかなくても十分に勇気がある子だ………

 

「君は十分勇気のある女の子だよ…だから…お行き」

 

「……じゃ、じゃあせめて助けを呼んできます!」

 

少女はそう言い走り出す。

 

その少女の背中を見つめ有宇は呟いた。

 

「………終わった」

 

そしてフラフラとした足取りで杖を手に歩き出す。

 

その背中に向け、男はもう一度矢を放つ。

 

矢は有宇の背中に刺さり、有宇は力なく倒れる。

 

「へへっ……これで一生遊んで暮らせる金が手に入る……」

 

男が有宇に手を伸ばした瞬間、その手を横から止める。

 

「なっ!」

 

「おい、おっさん。何、俺の親友に手を出してるんだよ」

 

まさか、あの時、シベリアでコピーした能力が死んだら効果を発揮する能力、霊体の実体化なんてな。

 

「お、お前、今どこから!?」

 

「金しかない空っぽの頭に入れて置け。俺の親友に手を出したら、殺す!」

 

握力を強化し、男の腕を握りつぶす。

 

骨が折れる音が響く。

 

「う、うあああああああああ!!?」

 

男は折れた腕を押さえ、転げ周り気絶した。

 

「有宇!」

 

俺は男を無視して、有宇に駆け寄る。

 

「有宇!しっかりしろ!」

 

「響……よかった。あの能力、コピーしといて正解だったな」

 

「早く、治癒の能力で怪我の治療を!」

 

「あの能力は、発動までに時間が掛かるんだ。……間に合わない」

 

「駄目だ!死ぬんじゃない!」

 

「………僕、お前と親友でよかったよ。…………じゃあな」

 

そう言って有宇は目を閉じた。

 

「有宇!死ぬな!目を開けろ!」

 

俺の叫び声に誰も声を返してくれなかった。

 

「くっ………俺に治癒の能力があれば………」

 

そのとき、俺はあることを思い出した。

 

自分の生命エネルギーを相手に渡す能力をコピーしていたことを。

 

俺は決心し、有宇の体から矢を抜き、俺の生命力を与える。

 

すでに死んでいる俺の生命力は殆ど無いらしく、数秒で生命エネルギーは底を尽きた。

 

まだだ!

 

俺の魂全部持っていっても構わない!

 

だから、有宇を助けてくれ!

 

すると、俺の思いが通じたのか俺の体が光り、先程とは違う感じがした。

 

有宇の怪我はみるみると治っていき、そして顔色もよくなっている。

 

よかった…………これで、もう大丈夫だ……………

 

そのとき、空から俺たちを誰かがライトで照らした。

 

「有宇!」

 

空にはヘリが来て、中から隼翼さんが俺たちを見ていた。

 

隼翼さんも間に合った。

 

これで有宇はもう安心だ。

 

それが分かった途端、俺は自分の瞼が落ちるのが分かった。

 

あの時と同じだ。

 

死ぬ直前の感覚と。

 

でも、あの時と同じで後悔は無い。

 

自分の親友を守れたんだからな。

 

俺は満足だ……………

 



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これからの記録、そして……

第五十話にしてCharlotte~君の為に……~ 完結です

オリ主が死んでしまい「なんじゃこら!」状態でありながら最後まで読んでくださった方々に感謝です。

最後に、重大発表があります。


ある日、由美と隼翼、熊耳、前泊、目時、七野の六人はある墓の前に居た。

 

『一之瀬家之墓』

 

ここには由美の両親と弟の響きが眠っている。

 

線香を上げ、六人は手を合わせる。

 

「父さん、母さん。響と三人で仲良く過ごしててね」

 

由美はそう言うと悲しそうに空を見上げる。

 

「………本当に一人になっちゃったわね」

 

そんな由美の肩に隼翼は手を置き、言う。

 

「なぁ、由美。俺と………俺達と家族にならないか。形なんかじゃなく本当のな」

 

「………それ意味分かって言ってる?」

 

「ああ。俺は本気だ。それに、お前を一人にはできないよ」

 

由美は右腕を伸ばし左肩に置かれた隼翼の手に重ねる。

 

「そのお誘い………喜んで受けるわ」

 

「ああ」

 

熊耳が気を利かせて由美の車いすを操作し、隼翼の前に合わせる。

 

隼翼は膝を着き、見えない目で由美の左腕をゆっくりと取り、指に指輪をはめる。

 

すると、由美がくすくすと笑い出す。

 

由美だけでなく、熊耳も前泊も目時も七野も笑い出す。

 

「な、なんだよ?」

 

「ふふ……そこは薬指じゃないわよ」

 

「な!?本当か?………はぁ、なんか締まらないな」

 

そう言って頭を掻く隼翼を見て、由美は言う。

 

「いいんじゃない。これが私達なりのやり方ってことで」

 

「………そうだな」

 

「これからよろしくね。旦那様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある病院の一室。

 

そこでは有宇がベッドに横たわり眠りについていた。

 

そのベッドの隣では奈緒が本を片手に有宇が目覚めるのを待っていた。

 

すると、有宇の目が開き辺りを見渡す。

 

「ようやくお目覚めですか?」

 

その声に反応し、有宇が奈緒の方を振り向く。

 

「お疲れ様でした。約束、守ってくれましたね。肉体的にも精神的に疲労が見られるとのことですが、命に問題はありません。でも、暫くは安静だそうです」

 

奈緒の言葉を呆然と聞き、有宇は体を起こす。

 

「………友利か」

 

「……!?………記憶があるんですか?記憶喪失程度は覚悟してたんですが、予想外ですね」

 

奈緒がそう言うと、有宇の片目から涙が零れる。

 

「響が…………響が助けてくれた………!」

 

涙が落ちシーツにシミを作る。

 

「彼奴は、自分の命を僕に分け与えてまた死んだ。折角能力で戻ってこれたのに、僕の所為で響がまた死んだんだ!」

 

シーツを破れるかの勢いで掴み、有宇は泣き叫ぶ。

 

そんな有宇の手を奈緒は優しく握り締める。

 

「きっと響なら………こう言います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          俺 の 分 ま で 生 き て く れ な 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響は他でもない貴方の為に自分の命を貴方に与えた。貴方だから、自分の命を、魂を預けたんです」

 

「響の………魂?」

 

「はい」

 

そう言って有宇の胸の中心に手を置く。

 

「ここに彼の命が、魂が息づいている。それを託されたんですから、貴方は彼の分まで生きるんです」

 

「………そうだよな。これも僕にしかできないことかな?」

 

「はい。そうです」

 

いつの間にか、奈緒も涙を流していた。

 

奈緒は涙を拭き、精一杯の笑顔を浮かべた。

 

「そう言えば、まだ言ってませんでしたね。乙坂有宇君、お帰りなさい!」

 

「……ああ、ただいま!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有宇の体力も戻り始め、外への外出許可を貰うと生徒会メンバー+歩未ちゃんは有宇を外に連れ出す。

 

奈緒は愛用のビデオカメラを取り出し、弄る。

 

「ずっと、撮りたくない物ばかり撮って来たビデオカメラですが、これからは皆を撮り続けます。幸せな日常をたっくさん撮って行きます。なので、幸せな思い出をたっくさん残していきましょう!」

 

「いいですね!」

 

「はい!」

 

「あゆも入れて貰えるでしょうか?」

 

「はい、もちろん!」

 

前と変わらぬメンツに有宇は息を吐き、言う。

 

「なんて言えばいいのかな……」

 

「思ったことをどうぞ」

 

高城に言われ、有宇は今思ってることを言う。

 

「……これからが楽しみだ。そして、命を、魂を預けてくれたアイツの為に、生き続けよう。そう思うよ」

 

有宇がそう言うと、皆は笑顔を浮かべる。

 

「すべてはこれからですよ!」

 

「そうなのですぅ!」

 

嬉しそうに叫ぶ、柚咲と歩未に有宇は思わず笑い、奈緒の方を見る。

 

「これからは楽しいことだらけですよ!」

 

そう言って笑う奈緒は、何よりも輝いていた。

 

その時、大きな風が吹き、思わず全員が目をつぶる。

 

奈緒も髪を手で押さえ目をつぶる。

 

その時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             お 疲 れ 様 、 奈 緒 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉が奈緒の耳に強く響いた。

 

思わず奈緒は、風が吹き去っていく方向を見つめる。

 

そして、目に涙を浮かべながら、笑う。

 

「貴方も、お疲れ様です。……………響」




次回予告

死んだ世界戦線?

あなた入隊してくれない?

貴様が新入りか?

お前、高城か!?

たっく、センスがねぇな!

お前とは仲良くできそうだな

これなのか?

オペレーション・トルネードよ!

あれが天使?

私は生徒会長よ

お前は戦うのか、あの子と?

できることならあたしだってしたくないよ

一体、どっちが正しいんだ?

AngelBeats~残響~ 近日投稿予定!


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その後………

最後の後書きの為だけにやりました。

お気に召さない方はバックを推奨します。


一人の女性がとある墓地を歩いていた。

 

手には水が入った桶と柄杓、そして菊の花束があった。

 

そして、とある一家の墓の前に立つと、墓の掃除を始める。

 

「たっく………ちょっと時間を置くとすぐにこれですよ。雑草生えるの早いつーの」

 

女性はぶつくさと文句を言いながら雑草を抜き、墓に水をかけ磨く。

 

墓の掃除を終えると、新しい花を沿え、御供え物として持ってきたまんじゅうを置く。

 

「どーも。おはよーございます、響」

 

女性の名は友利奈緒。

 

この墓に眠る一之瀬響とは高校時代の生徒会仲間だ。

 

響は高校一年の夏、とある事件に巻き込まれ、その時に友利を庇って亡くなった。

 

彼が死んで三年。

 

友利は19歳となっていた。

 

「さて、何から話しましょうかね………高城からにでもしますか」

 

墓の前に座りながら、友利は話しかける。

 

「高城の奴、大学に進学しました。しかも、学部は教育学部。アイツ、教師になりたいそうっすよ。何故かって聞いたらアイツ「自分も一之瀬さんのように、誰かの為に行動する大人になりたいからです」って言ったんですよ。どんな教師になるか楽しみですね。まぁ、相変わらず黒羽さんのファンやってるらしいですけど。学内でゆさりんファンクラブとか作って、そこの会長やってるみたいですし。あの辺は変わってないみたいですけど」

 

「黒羽さんは芸能活動が忙しいらしくて、進学はしてません。でも、すごい人気ですよ。ハロハロは解散しちゃいましたが、ソロデビューしてます。今度、映画にも出るんですよ。しかも主演っすよ主演!今では誰もが知ってる人気アイドルです。友人に有名人がいるってなんか凄いですよね」

 

「歩未ちゃんは星ノ海学園に進学しました。もう能力者じゃないから、進学する必要はないんですが、自分の兄や私が通った学園に通いたいって。しかも、私のような生徒会長を目指すって言うんですよ………私なんかいい反面教師です」

 

「次は凄いですよ。なんと、乙坂有宇は医学部に進みました。人助けをしたい。貴方が救ってくれた命を、今度は違う人を救う為に使う。そう言ってました。でも、ここからが大変でしょうけどね。試験だって補欠合格ですし」

 

「隼翼さんと由美さんは、工藤さんの施設で働いています。二人とも子供達に人気ですよ。特に由美さんなんか、子供たちがやんちゃ過ぎて車椅子の身には大変だとか言うぐらい人気です。………今度、あの二人、式を挙げます。私も招待されてるんですよ、きっと凄い良い式になると思います」

 

言いたい事をあらかた言うと、友利は墓石をじっと見つめる。

 

「私は大学には進学しませんでした。実はあるカメラマンの人に弟子入りして、今はそこで雑用しながらカメラの技術を叩き込まれてます。しかも、その師匠ってのが、乱暴でしてね!間違えると、すぐに手を出してくるんっすよ!………でも、凄く良い人です」

 

そう言って友利はため息を吐く。

 

「さて、もう行きますね。実は、午後から仕事なんで」

 

空になった桶を手に立ち上がる。

 

「また来ますね。次は皆できます」

 

そういい残し、友利は来た方向へと帰っていく。

 

『がんばれよ、奈緒』

 

何処からか声が聞こえた。

 

友利は思わず振り返る。

 

そして、墓の隣に響が立っているのが見えた。

 

驚き、目を擦りもう一度見ると、今度は何も見えなかった。

 

「………はい。頑張りますね」

 

顔に自然と笑みが浮かび、友利は晴れやかな気持ちで墓地を後にした。




予告

「響!友利!熊耳さん!よかった、無事で……!」




ありえたかもしれない未来。




一つのIF。




「とにかく皆無事でよかったよ」




「ありがとな、有宇」




だが、決してそのIFが正しいとは限らない。




「テロだと!?このタイミングで!」




「海外の組織が強硬手段にでやがったんだよ!」




最強の能力を手に入れようと、動き出す敵組織。




「駄目だ……!いくら過去に逃げでも……あの能力からは逃げられない……!」




「有宇!響君と共に逃げろ!」




選択された行動は一つ。




「未来に飛べ!」




未来へのタイムリープ。








「な、なんなんだ……この世界は………!」




一人の能力者によって統治された、恐怖の世界。




未来に飛んだ響と有宇は、何をするべきなのか。




「いたぞ!能力者だ!」




「捕まえろ!」




行われる能力者狩り。




「どうなってんだよ!思春期を終えたら、能力は消えるんじゃ無かったのかよ!」




能力者の特殊部隊。




未来の現状がわからぬ二人の前に、現れたのは一人の女性。




「どーも。お久しぶりです、反乱軍のリーダー、友利奈緒です」




「どうして未来はこうなった!?」




「現れたんですよ。略奪に続く、最強の能力者が」




万の能力を使う最強の能力者




「略奪が……効かない!?」




「これが…………最強の能力者……!」




「駄目だ……勝てない!」











「諦めるのか?」





「立て。まだ終わってはいない」




現れた謎の男。




その正体は………




「あんたは………!」




「過去に戻れ。そして、奴を殺せ」





「十年前のこの日、その時でしか奴は殺せない」




「お前だったのか………」


IF story Charlotte~未来を変えて……~  現在作成中


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