いじめ?俺には関係無いな (超P)
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どうやら俺は周りとは少し違うらしい。

さて、読者の皆さんは『いじめ』という物を知っていますか?

作者は知っています。
小学校の時に誰々ちゃんが誰々君を好きー、だとかいうネタでからかいます。
からかいは感染し、クラス全体に出回る時はすでに遅し。
もう対象の子は泣いています。ついでに囃し立てた子は怒られて泣いています。

………作者は隅っこで本を読んでいたので関係はありませんでしたが。


ま、誰でも見た事、聞いた事、関わった事があるであろういじめ、の現場にこういう子がいたらという設定で書き殴って行きます。




最初に言っておきます。
この作品は胸糞です。そして文才無き作者が全力で頑張った結果がこれです。




書き直し始めました。9月12日現在


ある所に一人の男の子が生まれました

 

 

その子は望まれて生まれた子ではありませんでした

一人の男が浮気相手との間に作ってしまった、生まれるべきではなかった子供なのです

父親が知らない場所で知らない間に、母親が『たった一人で』産んだのです

 

 

付き添いの人も医者も、父親すらいない孤独な状況の中

母親は長い我慢の末ようやく我が子を抱きしめる事ができました

母親は心の底から神様に感謝をしました

 

この子を無事に生ませてくれてありがとう

 

長い間大切にしてきたお腹の子は今、やっとの思いで外の世界へ出てきてくれたのです

母親はそんな我が子に対して微笑みながら言いました

 

お母さん「生まれてきてくれて、ありがとう」

 

ですが母親は分かっていました

この子がこれからとても辛い目に合うという事を

 

この子の支えになってくれる場所は無く

この子の助けになってくれる人はおらず

孤独は常に付き纏い

苦悩は決して消え去らない

 

それでも母親は最低な我儘を我が子に言います

それは我が子へ愛を注ぐと同時に、何かの呪いのようにも聞こえました

 

 

どうか、優しい子になりますように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツイてない

 

浩太(何でだ何でだ何デダ⁉︎ たった一回遊んだだけの女が何で孕む⁉︎……しかもガキだけ残して死ぬとか………意味わかんねーよ!!?)

 

浩太は激しく後悔していた。

 

新婚生活に飽きていた。

だから新婚旅行の後、すぐに”前から関係を持っていた”女を抱いた。

それだけ。

それがこんな事になるなんて。

 

浩太「俺が何したってんだよ!…………こんなの、絶対に分かれる羽目にになるじゃねーか………」

 

激しく髪を掻き毟り、苛立ちをなんとか掻き消そうとする。

だが嘆いても嘆いても事実は変わらない。

浩太の目の前には名も知らぬ我が子がいた。

この子を頼みますなんて、心底ふざけてるとしか思えない手紙と共に。

 

浩太「お前なんて…………お前なんて…………生まれてこなけりゃ良かった…………」

 

精一杯の恨み言。

母親と違い、一切の愛の無い言葉は赤子の心によく突き刺さる。

 

 

子供というものは不思議な力を持っているもので、今は分からなくとも理解できてしまうのだ。

この人は自分を好きじゃない。この人の中には怒りと後悔しかない。

 

 

(なぜこの人は僕を嫌っているの?なぜ母さんのように愛してくれないの?)

 

 

意味がわからない。どうして自分を愛してくれないのか?

お母さんは自分を愛してくれた。とても暖かかった。なのに。

 

 

どうしてこの人はこんなにも冷たいのだろう?

 

 

こんなにも高度な悩みも、赤ん坊は言葉にできないだけで心に抱えているのだ。

人の心は生まれたばかりの頃、透明な色をしている。

世間の荒波に飲まれ、人のイザコザに揉まれ、少しずつ黒くなっていくのだ。

だがこの赤ん坊は違う。

生まれたばかりの身で、父親から受ける愛情の代わりに大きな悪意を受け取ってしまったのだ。

 

そんな事が三ヶ月続いた。

そして苦悩の末、赤ん坊は親からの愛を諦めた。

壊れかけの赤ん坊は一つの悟りを開くと共に、完全に壊れてしまった。

 

 

 

 

1999年 8月15日

 

自宅にて如月浩太の愛人の子、如月達也(きさらぎたつや)、2時4分誕生。

× × 病院にて如月浩太の妻の子、如月真也(きさらぎしんや)、2時5分誕生。

またこの時『如月達也の母親』の様子が急変し、帰らぬ人となる。

 

2000年 6月18日

 

× ×病院にて如月家の長女、如月咲(きさらぎさき)、13時47分誕生。

 

2004年 4月16日

 

隠し子如月達也の存在が如月浩太の妻の耳に入り、同日離婚。

 

 

2004年 5月1日

 

如月達也が如月家での生活を始める。

 

 

 

 

 

 

幼稚園

 

その日は達也達三人が初めて幼稚園に通う日だった。

浩太は真也と咲を抱きかかえ、歩いて幼稚園の園長先生のところまで挨拶に向かった。そして受け持ちの先生の所へ三人を預けに行った。

 

先生「それでは、真也君と咲ちゃん、それと達也君をお預かりしますねー」(あら、この子だけ服が汚れてるわね?まるで泥水に転んだみたいな汚れ方………)

 

その先生は露骨に汚れた達也を避けた。

達也もそれを分かったのだろう。 ”これ以上不快にさせないように” この先生には何があっても近づくないと決めた。

 

浩太「では、よろしくお願いします」

 

先生「はい、では三人をお預かりしますね」(考えすぎよね。流石に独りで歩いてくるような年齢じゃないもの)

 

真也「パパー」

 

咲「ぱぱー」

 

達也「……………(服の汚れ………落とさないと変に思われるか?帰るまでになんとかしないと……くそっ、流石に3キロを歩いて通うと足が保たないな………)」

 

浩太「ははっ、じゃあ後でね」(帰ってきてまだ汚れてたら殴るか………)

 

 

浩太は真也と咲の額にキスをし、急いで仕事へと向かう。

達也には目もくれなかった。

浩太がいなくなった後園長は、子供達に聞こえないように担任の先生に小さな声で話す。

 

 

園長「………先生、ちょっとお話が」

 

先生「えっ?はい分かりました」

 

真也「?」

 

咲「?」

 

達也「……………」(あの女の人………あの職業にむいてないな)

 

 

 

 

 

物陰

 

園長「達也君なんだけどね?ちょっと訳ありで………あの子、どうやら隠し子みたいなの………」

 

先生「そうなんですか?………優しくしてあげたほうがいいんでしょうか?」(隠し子………面倒な子ね)

 

園長「あの子、父親から疎まれてるらしくてね?あまり関わらないほうがいいわ」

 

先生「えっ、そんな」(それであの子が泣き出したら迷惑じゃない)

 

園長「面倒事はごめんだからね……分かったら行って頂戴」

 

先生「………はい」(ま、知らないふりしてればいいか。汚い子は嫌いだし)

 

 

 

それから先生は達也の近くにいるのを避けた。

園長先生から言われたこともあったが、そもそも達也の最初に来ていた服を見た時の第一印象から汚らしい下品な子だと決めつけていた。

 

 

先生「はーい、みんなー?今日はひらがなを書いてみようねー?」

 

園児「ひらがなー?」

 

園児「なにそれー?」

 

園児「僕知ってるよ!こーゆーのでしょ!」かえる?

 

園児「わー!ひろしくんすごーい!」

 

園児(やっぱりまだ5歳ね………”る”の字が反対だわ)

 

真也「ふんふふーん」かえる

 

先生「まぁ!真也君は書くのが上手ね!」

 

真也「へっへーん!」

 

先生(真也君は他の子とはレベルが違うはね………父親から仕込まれてるのかしら?…んっ?………⁉︎なにこの子……!)

 

先生(漢字で蛙を⁉︎しかも殆ど大人と変わらない……!な、何なのこの子………不気味だわ………)

 

先生「た、達也君?今日はひらがなを書くのよ?」

 

達也「……………」(かえる、なら既に書いてる………別に残りの時間に漢字を練習していても問題はないだろ…)

 

先生「だからね?こっちの紙にちゃんとかえる、って書きましょう?」

 

達也「書いてるだろ?」

 

先生「えっ?」

 

 

 

 

達也「振り仮名。書いてるだろ」じとっ

 

 

 

 

先生「………!」ぞくっ

 

先生(この子………!こ、怖い!死んだような眼をしてる………!)

 

先生「せ、先生はちょっと他の子を見てくるねー?」

 

達也「いいよ。来なくて」(そこまで)

 

先生「えっ?」

 

 

 

 

達也「もう来なくていい?嫌だろ?俺の所は」

(そこまで露骨に嫌がられると不快だ)

 

 

 

 

 

先生「そ、そんな事」

 

達也「先生、俺はですね?嫌な事は嫌だと言える人間になりたいんですよ」

 

先生「な、何を言ってるの?」

 

達也「これは俺の想像ですが………先生は俺を避けている。意識的であれ無意識的であれ自分を避けている人には近づいてほしくない。お互い損しかしないんですから。だからもしそうなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也「俺から離れてくれません?」(面倒はごめんだ………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先生「⁉︎」

 

達也「聞こえましたよね?こんな屁理屈を並べて授業を受けないガキ、嫌でしょ?できる事なら離れていただきたい。早急に」

 

先生「……………先生、行くわね」

 

達也「ご自由に」

 

達也(………………なんとなく分かった、他人を嫌うという事が)

 

 

それ以来、先生は達也君の近くに寄らなくなった。

真也君は周りの子よりもよく勉強が出来た。運動もできて人気者だった。

咲ちゃんは可愛い女の子だった。男の子が少し苦手だけど女の子とはよく遊ぶようになり、真也君と同じく人気者になった。

 

 

 

みんな、達也君が遊んでいる所を見なかった。

 

 

 

ただずっと。

自分の席で本を読んでいるだけだった。

 

運動会の時は教室で。文化祭の日はトイレの個室で。給食の時はパンだけ食べてどこかへ消えた。

卒園の日まで。

 

 

 

 

 

 

卒園式

 

 

園長「皆さんはこれから小学校に入ります。頑張って偉い大人になってください。」

 

園児共『『園長先生!ありがとーございまーした!』』

 

先生「後で皆さんには先生からのメッセージが書いてある連絡帳を返しますね!家に帰ってから、見てくださいね?」

 

園児共『『はーい!』』

 

達也(荷物は後でゴミになるな……………捨てるか)

 

担任はその日、涙を零しながら園児達を見送った。

だがその時見てしまった。

 

 

 

 

つまらないという顔で連絡帳を丸めてゴミ箱に捨てた、如月達也の姿を。

 

 

 

 

担任は自分のした行動は棚に上げ、達也の行動を信じられないという目で見た。

そしていつしか子供を信用できなくなり幼稚園をやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲「ぱぱー!」

 

真也「おとーさーん!」

 

達也「………ただいま」(今日から食事が減るな………小学校、確か本で見た情報だと給食が出るらしいな。となると………一ヶ月ぐらいは水とつくしと………あとは野菜でも育てるか)

 

浩太「おかえりなさい!真也!咲!」

 

咲「ぱぱー?達也お兄ちゃんもいるよー?」

 

真也「そうだよー?おとーさん?忘れちゃ、めっ!」

 

浩太「………あははー、ごめんね?おかえり達也」

 

達也「部屋行ってるから」スタスタスタ

 

真也「おにーちゃーん!後であそぼーね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

小学校入学 一週間前

 

 

真也「ぱぱ!ランドセル見に行こう!」

 

浩太「いいぞー!好きな色のを選べよ!」

 

真也「あっ、待って!お兄ちゃん!ランドセル見に行こう!」

 

浩太「……………達也っ!早く来い!」

 

真也「ヒッ、ぱぱ?………怖いよ」

 

浩太「あぁ!ごめんね真也?怖かったな?…………達也ー」

 

達也「どうしたんだ?」スタスタ

 

浩太「………ランドセルを買いに行くぞ」

 

達也「………黒でいい」

 

真也「えっ?」

 

 

 

 

 

達也「黒色のでいい」(出かける必要はない。無駄に父さんをイラつかせることはない)

 

 

 

 

 

真也「えー?青にしようよ!カッコいいよ!」

 

浩太「……黒だな?」

 

達也「えぇ」

 

浩太「わかった。咲ー!買い物行こう!」

 

咲「えー………咲、お兄ちゃんと家にいるー」

 

浩太「ご飯食べに行こうな?」

 

咲「行く!お兄ちゃん!行こっ?」

 

達也「面倒だ」

 

咲「えー?」

 

浩太「ほら、達也はいいんだ。行くぞ?」

 

達也(二人と出掛けたいという思いが分かる………行かなくて正解だったな)

 

 

 

 

 

 

 

 

達也は幼稚園生活の間、一度も泣いたことがない。

 




トラウマがでてくる可能性あります。


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どんなに辛くても。

投稿して10分以内に感想が来たので死ぬほどビビりました。
何か自分の知らない利用規約に引っかかったのかと………

そうそう、この少年は俗に言うぼっちであり、オタクであり、嫌われやすいタイプの人間です。










皆様のトラウマが出てこないことを祈ります。


真也がランドセルを買ってから一週間が経った。

 

 

今日は小学校の入学式。

みんなはちゃんとした服に着替えてピカピカのランドセルを背負い、ニコニコ笑顔で体育館へと入る。

保護者はそれぞれ我が子の晴れ姿を写真に収め、泣くものもいる。

 

例に漏れず、如月浩太もそうだ。

如月真也、そして妹の如月咲の写真を撮っては悦に入っている。

 

 

 

無論、嫌っている達也の写真など一枚もないが。

 

 

 

 

 

 

校長の話

 

 

校長『えー、皆さんはこれから〜』

 

真也「お兄ちゃん。後で寿司屋と焼肉屋、どっちに行くか決めた?」

 

達也「………なんの事だ?」(そんな予定は入ってない………まさか)

 

真也「えっ?お父さんが好きな方に連れてってくれるって………知らないの?」

 

 

 

 

 

 

達也「……………あぁ『そのことか』」

 

 

 

 

 

 

 

達也「悪い。俺は後で用事があるんだ(こういう時、真也みたいなのは自分だけ贔屓にされている事を嫌がる、つまり正しい答えは『食事に行く事を知っていた上で行けない理由があるという程で話す』)」

 

真也「用事?なにそれ?」

 

達也「………べつに何でもいいだろ?そんなに俺の事が好きなのか?」

 

真也「うん!…………僕もいっていい?」

 

達也「……………この冗談は早過ぎたな。だがダメだ」

 

真也「えー?なんで?」

 

達也「親父が一人になっちゃうだろ?」

 

真也「だってお兄ちゃんとあんまりご飯いったことないんだもん………」

 

達也「とにかく駄目」

 

真也「なんで?」

 

達也「俺は寿司も焼肉も嫌いなんだ」

 

真也「…………じゃあラーメン」

 

達也「おい」

 

真也「やだ。お兄ちゃんとご飯食べたい」

 

達也「……………はぁ(真也の笑顔と親父の笑顔…………どちらを取るか)」

 

 

 

達也は父親から愛されてはいない。

だが父親が嫌いではない。

 

帰り道

 

 

結果として達也は、真也の笑顔ではなく浩太の笑顔を選んだ。

達也は真也にトイレに行くと言い、裏門から家の中へと一人で帰っていく。

真也はそれを知らずに正門で兄を待つ。

 

 

浩太「真也ー!お待たせ!」

 

真也「お父さん。お兄ちゃんは?」

 

浩太「…………さぁ?」

 

真也「えっ」

 

浩太「いいよ。『どうせ家にいるから』早く食べに行こう。どっちがいい?寿司?焼肉?それともレストランとか?なんでもいいぞー?」

 

真也「で、でも!僕お兄ちゃんとご飯食べたい!」

 

浩太「………真也ー?咲もお婆ちゃんもお爺ちゃんも待ってるんだ」

 

真也「でも!」

 

浩太「言うことを聞きなさい」

 

真也「……………うん」

 

浩太「よし!いい子だ」にこっ

 

 

 

 

 

 

 

 

レストラン

 

 

祖父「浩太」

 

浩太「父さん」

 

祖父「達也がいないようだが?」

 

浩太「………友達の家に遊びに行くってさ」

 

祖父「今日は家族全員での食事の筈だが?」

 

浩太「で、でも!今日は折角の入学式で!」

 

祖父「入学式に自分の子供を食事に連れてくのはいい」

 

浩太「! じゃあ!」

 

祖父「だが一人足りないな。儂は帰る」

 

浩太「待ってよ父さん!」

 

祖母「あらあら宗介さん。どちらへ?」

 

宗介「幸、儂は帰る。後はお前たちで食え。勘定はこれで払え」

 

幸「でも今日は折角の家族全員での食事ですよ?貴方がいなくては」

 

宗介「一人足りないではないか」

 

幸「宗介さん」

 

 

 

 

 

 

 

幸「誰も欠けてなどいませんよ?」

 

 

 

 

 

 

 

宗介「……………とにかく帰る」

 

幸「………そうですか」

 

真也「お爺ちゃん!帰っちゃうの?」

 

宗介「真也…………立派な人になるんだ」

 

真也「?」

 

浩太「父さん!」

 

 

宗介は浩太の言葉に耳を貸さず、金だけ置いてレストランを立ち去る。

 

 

浩太「くそっ…………なんで父さんは達也なんかを!」

 

幸「大丈夫よ浩太。あの人もいずれ分かるわ」

 

 

 

 

 

 

幸「達也などいらないという事を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道

 

宗介は肩を落とし、自分の荷物を置いてある浩太の家へと向かう。

 

 

宗介(…………我が子に差などない。自分の血を受け継いだ可愛い息子じゃないか。儂の孫は二人ではない……三人だ)

 

宗介(確かに離婚は達也の発覚だ。だが達也が生まれてしまったのは浩太の責任。……………いや、生まれてしまったのではない。『生まれてきてくれた』のだ)

 

宗介(儂は…………何をしてやれるのだろうか?幸も達也を居ないものとして扱う。浩太は達也を除け者にする。真也もいつ洗脳されるか分からん………)

 

 

 

 

 

 

 

如月宅

 

 

宗介が家に入ろうとすると、中から掃除機をかける音がする。

 

 

宗介(………誰もいない筈だ。なぜ掃除機の音がする?)

 

 

宗介は用心して中に入る。

どうやら掃除機の音は浩太の部屋から聞こえてくるようだった。

 

 

 

 

 

達也「…………あ、祖父さんか」フィィィィン!

 

 

 

 

 

 

宗介「…………達也」

 

 

 

 

宗介が見たもの。

それは小さい腕で必死に浩太の部屋に掃除機をかける達也の姿だった。

部屋は散らかっており、ビールの空き缶や食い散らかした菓子の袋などが散乱してある。

部屋の隅には簡単に掃除ができるように『使い慣れた』モップや雑巾が置いてある。

 

 

 

 

宗介「……………何をしている?」

 

達也「何って………掃除ですよ」(まずい、この人は優しすぎる。俺の現場は世間一般的に見てもかなりおかしい。それをどうにかしようとなんてされたら親父がなにをするか……)

 

宗介「……………なぜ?」

 

達也「それは言われたからですね」(いや、ここにこの人が来ている時点で親父は既に俺に怒りを抱いてるだろう)

 

宗介「……………誰に?」

 

達也「貴方の息子に」

 

宗介「……………なぜレストランに来ない?」

 

達也「呼ばれてませんし、知りませんでしたから」

 

宗介「……………何をだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

達也「今日食事をする事を」

 

 

 

 

 

 

 

宗介「………………!!」

 

宗介「…………………………今からレストランに来い」

 

達也「いや、行きませんよ」

 

宗介「……………なぜ?」

 

 

 

 

達也「親父は嫌がりますからね」

 

 

 

 

宗介「……………………⁉︎」

 

達也「婆さんも嫌がるでしょうし………面倒臭いですから」

 

宗介「……………それでいいのか?」

 

達也「……?すみません。どういう意味ですかね?」

 

宗介「そんな生き方でいいのかと聞いているんだ………!」

 

達也「問題無いですね」

 

宗介「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

達也「これが俺ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを聞いた時。

宗介は耐え切れずに長年枯れていたと思っていた涙を零してしまった。

腕が震えた。おそらく足も震えが止まらない状態だろう。

宗介は思った。

 

 

なぜ、こんな扱いを受けなければいけないのかと。

 

 

まだ達也は5歳だ。

 

行きたい所もある。やりたい事もある。食べたいものもある。

ワガママを言っても許される年齢だ。

しかも今日は一生に一度の小学校の入学式。

普段なら駄目なお願いでも受け入れてもらえる日だ。

浩太はそれなりに大きな会社で働いている。

給金だって三人の子供を育てるには十分過ぎるぐらいには貰ってる筈だ。

なのに

 

 

この子は父親から掃除をしろと言われているのだ。

 

 

 

掃除道具を見れば分かる。

 

かなり使い慣れた状態だ。

きっと今回が初めてでは無いのだろう。先程の掃除機のかけ方も小学生とは思えない程に慣れていた。

そして達也の生気の無い目、とても5歳がする瞳では無い。

 

これではまるで死人がするような目ではないか。

 

宗介は耐え切れなくなり、泣きながら達也を抱きしめる。

 

 

宗介「達也っ……………お前は、お前は………!」

 

達也「ちょ、祖父さん離して下さいよ、掃除ができないじゃないですか」

 

宗介「掃除なんてしなくていいんだ………!」

 

達也「掃除をしないと家が汚れるんですよ!」

 

宗介「そんなのどうでもいい………!」

 

達也「いや、これは俺の仕事ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

宗介「子供が仕事などするな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

達也「仕事と言っても家事の範疇ですし」

 

宗介「………!それで、お前は幸せなのか?」

 

達也「俺は幸せですよ」

 

宗介「嘘をつくんじゃない……!」

 

達也(この人は親父とは違う生き方をしている…………薄っぺらい優しさを振りまくような事をしない、中身のある言葉で人と話す人間性)

 

達也「嘘なんかついていない。今こうして生きてるのが幸せですよ」

 

宗介「それは幸せではないんだ……………!『当たり前のこと』なんだ!」

 

達也「その当たり前が俺にとっては幸せなんですよ。こうして養ってもらっている事こそが俺の幸せ。これ以上は望まないし望めない。あー、俺は何て幸せなんだろう」

 

宗介「儂のところに来い!」

 

達也「婆さんが嫌がるでしょ」

 

宗介「お前は儂の孫だ!誰にも否定はさせん!」

 

達也「…………宗介さん」

 

宗介「な、なに?」

 

達也「宗介さん、俺は幸せだよ」

 

宗介「なぜ………名前で儂を呼ぶ?」

 

達也「俺はですね?今の環境に満足してる」

 

 

 

達也「父の元で比較的不自由の無い生活を送らせて貰ってるし、兄弟も元気で過ごせてる。学校にも通わせてもらってるし服も着せてもらえてる。食事も貰えるし睡眠も取らせて貰えてる」

 

宗介「………なにを言ってる?」

 

達也「更に言えば」

 

達也「法の下で守られているし人権もある。基礎的な教育は学べたし人間としての扱いは受けられる環境にある。呼吸をする事ができるし話す事ができる」

 

 

今達也が言っている事は、基本的に子供が受ける事のできる権利である。

それはできて当然、当たり前の権利。

 

 

それを幸せと言ったのだ。

 

 

達也「だから宗介さんの所へは行けません」

 

宗介「せめて………せめて、いつものように呼んでくれないか?」

 

達也「できません。宗介さんは本来、俺とは関係の無い立場ですし」

 

宗介「なぜだ……!儂の所ならお前ぐらい育てられる……!」

 

達也「あの人はいずれ貴方の椅子を継ぐおつもりです。今からでも無駄な行動は慎んだ方がいい。後で捨てられてしまいますよ?」

 

宗介「………一つ教えてくれ」

 

達也「なんでしょう」

 

宗介「どこでその知識を得た?」

 

達也「………」

 

宗介「その年でその話し方、判断力、知恵を持つのははっきり言って異常だ………どこでその才を得た?」

 

達也「…………ま、宗介さんならいいでしょう」

 

宗介「頼む………教えてくれ……!」

 

 

 

 

達也「教わったんですよ、世界から」

 

 

 

 

宗介「世界……」

 

達也「この世界では俺以上の扱いを受けている子供が沢山いる。俺はね?どんな扱いでも生きていればいいんだ。逆に言えば何があっても生きていたい。だから学んだ。本から、テレビから、先生から、動物から、天気から、会話から、辞書から、同級生から、環境から、扱いから、そして」

 

 

 

 

 

 

達也「貴方から」

 

 

 

 

 

 

宗介「……………」

 

達也「…………はっきり言って俺は貴方から優しさを学ばなかったらタダの廃人になっていた。ですが俺は優しさを知った。貴方は俺が初めてここに来た時、一人だけ受け入れてくれた。その時の優しさは俺の世界を変えた」

 

宗介「…………ならなぜ?」

 

達也「優しさは麻薬みたいなもんです。触れれば触れるほど頼りきってしまう。だから俺は貴方を拒絶する」

 

宗介「………」

 

達也「俺がここに留まる理由は十分だ」

 

宗介「………頼みがある」

 

達也「了承するとは限りませんがなんでしょう?」

 

宗介「最後だ。これが最後でいい。儂に甘えてくれ」

 

達也「………………」

 

宗介「お前が何を思っていようが、何を考えていようが関係無い。儂の孫であり、儂の家族である事に変わりは無い。儂は可愛い孫に甘えたい、………いや、甘えてもらいたいのだ。………たとえそれが最後になろうとしてもだ」

 

達也「何をしろと?」

 

 




救いは今の所無いです。


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残酷だけど、俺は愛を知った。

お祖父ちゃんは如月グループの会長です。


宗介「…………精一杯、儂の可愛い孫を抱きしめさせてくれ」

 

達也「………ま、いいですよ」

 

達也(愛を教えてくれる本当の意味で優しい人………俺はあなたと出会えた事を誇りに思う)

 

宗介は全力で愛を込めて孫を抱きしめる。

 

これから長い間愛を感じないであろう愛する孫に。

自分の環境に何も不満を感じる事ができ無い可哀想な孫に。

劣悪な環境で孤独になってしまった哀れな子供に。

 

 

宗介「儂は何があってもお前を見捨て無い」

 

達也「……………………………はぁ、これが最初で最後です」

 

 

 

達也「ありがとう、祖父さん。俺は貴方に愛を教えてもらった。幸せを教えてもらった。生きる喜びを教えてもらった。初めてこの世界も捨てたもんじゃないと思えた。人は信頼できる生き物なのだと思えた。俺は孤独から救われた」

 

 

達也は言い終わると宗介から離れる。

宗介は名残惜しそうにするが、達也はスルッと宗介の腕の中から出てしまう。

まるで『もう孫でいるのは終わりだ』とでも言うように。

 

 

 

宗介「もう…………儂はお前にできる事はないのか?」

 

達也「…………一つだけ」

 

宗介「!なんでも言ってくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也「俺、本が好きなんですけどね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1年 遠足

 

 

真也「お兄ちゃん?何読んでるの?」

 

達也「本だよ」ペラ

 

真也「知ってるよー、そうじゃなくて何の本?」

 

達也「人間失格」ペラ

 

真也「ふーん、面白い?」

 

達也「お前にゃ理解できんよ」ペラ

 

真也「ふーん………あっ、この前の入学祝い、何貰った?」

 

達也「………本と環境と図書カード」ペラ

 

真也「本ってそれ?」

 

達也「…………おう」ペラ

 

達也(このやり取りに意味は無い。全く無い。それでもこのやり取りを望む小学生は何を考えて言葉を話してるんだ………?理解できん)

 

真也「でも今遠足だよ?」

 

達也「遠足中に本を読む事が罰則の対象だという事実は無い。更に言えば例えそれが罰則の対象だとしても小学生なら大した罰則にはならん」ペラ

 

真也「遊ぼうよ!」

 

達也「俺はいい」ペラ

 

真也「えー?なんでー?」

 

達也「眠い」ペラ

 

???「あー!達也の奴本なんか読んでるー!ダメなんだぞー!」

 

真也「かんちゃん!」

 

かんちゃん「真也!なんで止めないんだよー!」

 

真也「お兄ちゃんね?眠いんだってー」

 

かんちゃん「せんせーにいってやるー!」

 

 

かんちゃん、と呼ばれたクラスメイトは先生を呼びに行ってしまった。

面倒だ、そう思い達也はその場から去り、近くの木の陰に隠れた。

 

 

達也(結局、爺さんには迷惑をかけてしまった…………あの書斎、マンション一室をくれるなんて………図書券だっていくら分だ?本もかなりある…………もう本不足には困らない。だがこの恩は一生かけてでも返さなきゃならないな)

 

???「達也くーん!」

 

達也「……………中谷か」ペラ

 

未来「もー、未来って呼んでほしーの!」

 

達也「何か用か?」ペラ

 

未来「あそぼーよ!滑り台で!」

 

達也「俺が本を読んでるのが分からないのか?この天然め」ペラ(その年頃の子は他人の事情など御構い無しに遊びに誘う。そしてそれを断るとまた面倒な事になる。具体的に言うと泣いたり怒ったり)

 

未来「えー、つまんないのー」

 

達也「そうか?俺は面白いと思うがな」ペラ

 

未来「未来がつまんないのー!」

 

達也「お互いの価値観は違うようだな。じゃあ解散という事で……………」ペラ

 

かんちゃん「あっ!いた!達也!」

 

先生「達也君?みんなと遊ばないで本を読んでるっていうのは本当なの?」

 

達也「えぇ。この通り」ペラ

 

かんちゃん「ダメだぞ!みんなで遊ばなきゃ!」

 

達也「みんなってのは誰の事だ?」パタン

 

かんちゃん「えっ?」

 

達也「みんなってのは学年での事か?それともクラス?まさかこのメンバーの事を言ってる訳じゃないよな?」

 

かんちゃん「えっ、えっ、えっ」

 

達也「(確か………そう)前城、俺は体調があまり良くないんだ。だから俺はいい」

 

先生「本当なの?達也君」

 

達也「生徒を疑うんですか?」

 

先生「そ、そんな事はないけど………」

 

かんちゃん「なんでお前ばっかり………!う、うがー!」バリッ

 

 

思い通りにならない苛立ちと、理解できない内容の会話を目の前でされたストレスから、前城は達也の本を引っ張って破いてしまう。

そして走って何処かへと逃げてしまった。

 

 

先生「あ、何て事を!ちょっと待ちなさい!寛太君!」

 

未来「酷ーい」

 

真也「あーあー、お兄ちゃんの本が」

 

達也「…………」ヒョイ

 

先生「ごめんね?達也君。寛太君も悪気があったわけじゃ」

 

達也「じゃ、俺向こうで寝てますんで」スタスタ

 

先生「えっ」

 

達也「それじゃ」スタスタ

 

先生「あ、ちょっと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

川の近く

 

 

達也「…………ふぅ」ペラ

 

 

達也(中谷未来、近所に住む中流階級のお嬢様。入学後に話すようになり真也とは遊ぶ仲に。いわゆる幼馴染という奴だ………だが人の空間に入り込んでくるタイプ、俺と合わない)

 

達也(前城?寛太、クラスのガキ大将でヤンチャ。先程が初の会話だが………こちらはジャイアンになりそうだな……おそらく中谷に恋心を抱いてる。面倒だ)

 

達也「………だからと言って合う人間がいるわけじゃないんだけどな」

 

???「なんの話ー?」

 

達也「(……!)横寺か」

 

達也(横寺蓮歌、マイペースでおっとりとしたいわゆる天然の女子。反面、誰にでも優しいので男子の” あの ”イジワルの標的になりやすい)

 

蓮歌「何してるのー?」

 

達也「お前も見て分からんのか………本を読んでるんだよ」ペラ

 

蓮歌「なにをー?」

 

達也「人間失格」ペラ

 

蓮歌「わっ、あれ読んでるのかー」

 

達也「………知ってるのか」

 

蓮歌「うん、知ってるよー」

 

達也「…………そうか」ペラ(他の子よりは接しやすいが………やはりまだ子供か。沈黙はつまらないと感じるらしい)

 

蓮歌「話終わっちゃうよー、何かお話しよーよー」

 

達也「他の奴らと遊んで来いよ。ここにいるよか何倍もマシだぜ?」ペラ

 

蓮歌「男子が虫近づけてくるんだもーん」

 

達也「………それはある意味仕方がない」ペラ

 

蓮歌「達也君と一緒の方がいいー」

 

達也「なぜ」

 

 

 

 

 

 

蓮歌「優しいからー」

 

 

 

 

 

 

突然拍子抜けな事を言われた達也は一瞬、本を読む手を止めてしまう。

だがすぐに手を進めて本を読もうとしたが、読む気が失せてしまったので本を閉じて中谷と話をする事にした。

 

 

 

達也「……………やれやれ、頭は大丈夫か?………買い被り過ぎだ」パタン

 

蓮歌「?なにそれ?」

 

達也「…………………何でもない」

 

蓮歌「わたしも寝ていーい?」

 

達也「別に構わな………人の腹を枕にするのはどうかと思うがな」

 

蓮歌「寝てるーおやすみー」

 

達也(寝てる人間はおやすみと言わないぞ、横寺)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れ

 

 

達也「…………んっ?しまった!」(集合は3時!!この空色だと5時は回っている!)

 

 

先生「おーい!達也君ー!蓮歌ちゃーん!」

 

 

先生「どこなのー!返事をしてー!」

 

 

達也「起きろ!横寺!もう日が暮れる!」(捜索が始まってもおかしくない!)

 

 

 

 

 

 

 

 

学校

 

 

先生「なんであんなところ行ったの!」

 

蓮歌「うわぁぁん!ごめんなさぁぁい!」

 

先生「達也君も!どうして黙ってるの!」

 

達也「………すいませんでした」(あの後、結局絞られてしまった。中谷は心配をかけた事について怒られ、俺は心配をかけた事と中谷を誘ってグループから離れた事を責められた)

 

先生「もうじき親御さんが来る………こってり絞って貰いなさい!」

 

???「蓮歌、蓮歌!」

 

蓮歌「おがぁさぁぁぁん!」

 

蓮歌母「蓮歌をあんな危ない所に連れてくなんて………!なんて子なの⁉︎」

蓮歌の母の癇癪が達也に目一杯降りかかる、と同時に連絡を受けたのであろう浩太が走ってこの場に向かってくる。

 

浩太「あぁ!すいません!達也の父でございます!」

 

蓮歌母「あなたが達也君のお父さん⁉︎ちょっとあなたご自分の子供にどんな教育をしてるの!」

 

浩太「すいませんすいません!うちのがとんだご無礼を!」

 

例歌母「謝っただけじゃすまないわよ!」

 

 

 

 

 

 

浩太「お前も謝れ!」バキッ

 

 

 

達也「ぐふっ」ドサッ

 

いつものように達也の頬を殴りつける浩太。

いつも通りに殴ってしまった浩太はその場に生まれた違和感に気づかない。

 

蓮歌母「⁉︎」

 

蓮歌「⁉︎」

 

先生「⁉︎」

 

目の前で起きた事に理解が追いつかない周りの面々は突然の出来事にパニックになっている。

それもそのはず

中学生や高校生ならまだ教育方針次第では殴る家庭もあり得なくはない。

だが小学生の頬を振りかぶって殴るなど虐待といっても過言でないのだ。

 

 

 

浩太「ほらっ!ちゃんと!頭を地面につけて!謝るんだ!」ぐりぐり

 

 

その後に続けられる執拗な追い討ちに、蓮歌の母親は怒るどころではない。

 

蓮歌母「ちょっと!あなたやり過ぎよ⁉︎血が出てるじゃない!」

 

浩太「えっ?あぁ、これはうちの教育方針なんです」ドスッ!

 

先生「で、でも」

 

浩太「女の子を川に連れていったりして!もし溺れでもしたらどう責任とるんだ⁉︎あぁ⁉︎」ドガッバキッ!

 

達也「ご、ごめんな」(ま、まずい!親父、殴るのはいいがこの場所でこのタイミングは非常にまずい!)

 

浩太「ふざけるなよッ!お前がッ!やったことがッ!全部ッ!俺に来るんだぞッ⁉︎」ゴスッゴスッゴスッ!

 

蓮歌母「もういいわよ!やめて!やめて頂戴!」

 

先生「お父さん!それ以上は危険です!」

 

浩太「ふうー、ふうー、…………こいつも反省しております。どうかご勘弁を」

 

蓮歌母「え、えぇ」

 

浩太「それでは真也が待っていますのでこれで失礼させて頂きます」

 

達也「」

 

浩太「………んっ?なんだこの本?ボロボロな………捨てちまえ」

 

達也「」

 

 

 

 

 

父が消えた後

 

 

蓮歌「あれ………達也君の大事な本」

 

蓮歌母「えっ?」

 

蓮歌「お祖父ちゃんがくれたって………」

 

蓮歌母「…………とってあげましょう」

 

蓮歌「いいの⁉︎」

 

蓮歌母「………………………えぇ(あんなの見せられてこれ以上酷い事出来るわけないじゃない)」

 




DVはいじめに繋がる原因の一つです。


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教育と折檻は紙一重だ。

今回は胸糞悪い感じです。


如月家

 

学校での一時的な教育を行った後。

気絶した達也を担いで家に入り、浩太は達也を自分の部屋で『教育しなおす』。

浩太にとって最も気に入らない事。それは『視線が集まる』事である。

シングルファザーという面倒くさい立場というだけでも耐えきれないというのに、このクズはよく問題を起こす。

 

校内でどういう問題が起きているのかは重要ではない。というかどうでもいい。

 

問題なのは『こいつが問題に関わっている』という事だ。

 

だから体に覚えさせ、思い出させる。

もう一度自分の価値を体に教える為に。

もう二度とこのような間違いが起きない為に。

 

何度も何度も何度も何度も何度も。

 

浩太「おい…………起きろ」

 

達也「」

 

浩太「一度言ってわからないようなら体に教える。前にも言ったなぁ?」

 

達也「」

 

浩太「…………起きろッ!」

 

浩太は助走をつけて達也の腹を全力で蹴り飛ばす。

達也の体は小学生のそれとなんら変わらない。当然、大人の足で蹴り上げられたら宙に浮く。

ちなみに達也はこの時に痛みで一度目が覚めている。

 

だが自身の置かれている状況を理解し、もう一度自分で意識を飛ばす。

 

達也「」

 

浩太「チッ………また意識を飛ばしたかよ?………本っ当に気味の悪ぃ特技だな………」

 

達也「」

 

浩太「まぁな?………いつもならここで放置するけどさぁ?」

 

達也「」

 

浩太「今日はいい物があるんだよねぇ……」

 

 

そう言うと浩太は仕事用の鞄から器具を取り出す。ニタニタと、逃げる事のできない弱者を痛めつける愉悦を楽しんでいるのだ。

 

その器具の色は暗く、とてもゴツい。

先端には金属で出来た小さい刃が付いており、一目で危険なものだという事が分かるほどに凶悪な外見である。

 

その器具の名は『スタンロッド』である。

 

スイッチを入れる事で大出力の電流を発生させるというれっきとした『武器』である。

用途は主に囚人や捕虜の拷問などに使われる。

このスタンロッドは威力は抑えてある。だが、それでも大人が痺れるぐらいの電圧だ。

小学生が受けるには十分過ぎるぐらいの電圧である。というか小学生が受けるようなものでは無い。

 

 

浩太「じゃあ始めるぜ?」

 

浩太がスイッチを入れるとスタンロッドはバチバチと音を立てて放電する。

 

達也「ひっぎぃッ⁉︎…………カハッ⁉︎」(ヤバイ!ここまで強力な電撃はさすがに我慢できない!)

 

達也は電流を受けた瞬間に目が覚ました。

脳が危険信号を出したのだ。このままでは死ぬと。

 

達也は父親からあらゆる拷問紛いの教育を受けている。

タバコの火を押し付けられ、洗面器に顔を長い時間押し付けられ、電撃を浴びせられる事もあった。

だから多少はあらゆる責めに耐性がある。

 

だがそれも常識の範囲内だ。

 

人間はおろか、猛獣さえもダウンさせる電撃を浴びては無事では済まないだろう。

 

 

 

浩太「それキモいからねー?てか動くなよ!」ドゴォ!

 

達也「ぶふぅ⁉︎」

 

浩太「お前さぁ………なーんであんな面倒なことしたわけ?」

 

達也「……ハァ…………ハァ…………?」

 

浩太「だーかーらー」

 

 

 

 

 

浩太「なんで俺に迷惑ばっかりかけんだよって言ってんのッ!」ドスッ!

 

 

 

 

 

 

達也「グッ⁉︎」

 

浩太「気絶すんなよ?今のはただお前の腹にちょっとだけつま先を当てただからな?」

 

達也「………………」

 

浩太「本当なんで生まれたの?ねぇ?」

 

達也「…………あなたが…………俺を、作ったから」(まだ耐えられる、まだ耐えられるはずだ、その程度ならまだ)

 

浩太「おめーなんていらねーんだよッ!」バチバチッ!

 

達也「ぐ、ぐわあぁぁぁぁぁぁあ!?」(連続で⁉︎あと5秒は待たないと!)

 

浩太「あーあ………首筋にくっきりと焦げ目がついちゃったなぁwww」

 

達也「」ピクピク

 

浩太「ははっ!きめぇ!きめぇよ!なーに痙攣してんだよぉ!」ドゴッ!

 

達也「ぐ、………………うっ!」(流石、に、身体が、言う、事をき、聞かな、い、、)

 

浩太「うわっ!吐いたよこいつ!きったねぇなぁ………ざけんなっと♪」ブスッ

 

達也「いギィィイィィ⁉︎」ガタガタガタガタ

 

浩太「大丈夫だよー、太ももにはな?大切な器官はないんだよ?だからどんなにカッターが刺さってもだいじょーぶ♡」 ドスッドスッドスッドスッ!

 

達也「ふ、ふうぅう、ふうぅう」(意識を、いしきを、イシキヲ!)

 

浩太「…………深呼吸による痛覚の麻痺、ねぇ………どこで覚えたんだか知らないけど………」

 

達也「ふうぅう!ふうぅう!」(何としてもこの人に俺を殺させはしない!、、真也の、咲の、親、は、人殺しになんてなってはダメだっ!呼吸を!酸素を供給しろ!血流をよくしろ!脳に酸素を回して意識を保て!)

 

浩太「いくら何でも刺し傷は無理っしょwww無理無理www」

 

達也「………ふぅ…………ふ、ふぅ」(死ぬものか、死ぬものか、死ぬものか、死ぬものか、死ぬものか)

 

浩太「あ、やべ!死ぬ?おい死ぬなよ?」

 

達也「…………………ふ、ふ、ふぅ」(当たり前だ………宗介さんのくれた愛を、真也のくれた家族の絆を、咲のくれた兄弟の繋がりを、こんなところで捨てたりできない、)

 

浩太「………んー、ま、これ使って心マもできるしー………」

 

 

 

 

 

 

浩太「そこ、片付けとけよ?」

 

 

 

 

 

 

 

達也「…………………ふぅ、ふ、ふぅ」(おわっ、終わった、のか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩太は部屋と達也自身の傷の後始末を押し付けると、真也達の寝床へ向かう。

辺りには静寂だけが残り、達也は一人、深呼吸で痛みを和らげようとする。

 

 

 

(…………”今日も生きることが出来た”………)

 

(あの人が殺人を犯せば”弟達や宗介さんは悲しむ”………それだけは避けなければ………!)

 

(…………目立った外傷は右の足と肋骨………左の鼓膜……あ)

 

 

 

 

 

(舌の感覚が無い…………)

 

 

 

 

 

(……………やれやれ、俺も精神が未熟だな………ショックで五感の一つを失うなんて)

 

 

 

達也はこの家に来てからほぼ毎日

 

 

 

浩太から家庭内暴力を受けている。

 

 

 

否、それは家庭内暴力などいう生ぬるい物では無い。

それは拷問に近い。

気に入らない事があれば全て達也に矛先が向く。

しかも殴る蹴るだけでは無く先程のように拷問器具を使う事もあるのだ。

 

 

包丁で刺された事は何度もある。

電気椅子は死ぬかと思った。

水責めは思い出したくない。

断食の時は最後の方の記憶が無い。

首を絞められる体験をして生きてる小学生は珍しいだろう。

失明、失聴はまだ無いが今回は治らないかもしれない。

 

 

役所に行けば一発で父は捕まる筈だ。

 

 

 

だがそれはしない。

自分の体さえ耐え切れるのならば何も問題は無いのだから。

いや、むしろ自分でストレスを発散できるのであれば好都合だ。

 

弟達は危険にならないのだから。

 

このまま自分はあの人のストレスを発散させなければいいだけの事。

 

 

 

 

それが最善の道だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

 

咲「おはよーお兄ちゃん!」

 

真也「おはよー………咲」

 

達也「あぁ、おはよう。二人とも」

 

真也「あー!お兄ちゃん!昨日はどこに行ってたのさ⁉︎」

 

達也「………あー…………悪い,ちょっと野暮用でな」

 

真也「僕、昨日トランプやりたくてずっと待ってたんだよ!」

 

咲「咲もー」

 

達也「悪いな、無理だ」

 

真也「むー………父さんが来たからいいけどさー」

 

 

 

 

浩太「おはよう。二人とも」スタスタ

 

 

 

 

真也「あ!父さん!おはよー!」

 

咲「ぱぱーおはよー」

 

達也「………おはようございます」

 

浩太「……………さて、ご飯にしようか。もう出来てるな?」

 

達也「……えぇ」

 

真也「お兄ちゃんって早起きだよねー」

 

咲「咲、お兄ちゃんより早く起きた事ないよー?」

 

達也「……………ははっ、俺は誰よりも早く起きてるからな」

 

咲「えー」

 

浩太「ほら早く食べなさい。咲?お父さん仕事があるんだ。早く行くぞ?」

 

咲「わわわ!待ってよう!」たったったっ

 

真也「お兄ちゃん!今日学校行く時にしりとりしようよ!」

 

達也「………俺より早く家を出れたら考えてやらん事もない」

 

真也「負けないもんねー!」たったったっ

 

 

 

 

 

 

浩太「………………傷は?」

 

達也「消しましたよ」

 

浩太「見つかったら殺すから」

 

達也「肝に命じます」

 

浩太「真也としりとりをするな」

 

達也「……えぇ」

 

浩太「あいつが事故に遭わないように守れ。いいな?」

 

達也「はい」

 

浩太「後お前、今日は家に帰ってくるな」

 

達也「………はい」

 

浩太「ランドセルに必要なもんまとめて3日ぐらいどこかに行ってろ。真也達は隣の家に預ける」

 

達也「………(………女か。異性の匂いをプンプンさせるのは真也達の教育に悪いと理解できないのか?)分かりました」

 

浩太「書類は?」

 

達也「ここに。………それと今回の企画は少し穴が多い気が……」

 

浩太「お前の意見は聞かん。お前は仕事だけしてろ」

 

達也「はい(………あの効率の悪さで企画が通る訳がない)」

 

 

 

 

 

 

 

一時限目

 

 

先生「はーい!二人組を作ってー!」

 

真也「お兄ちゃーん!一緒に」

 

達也「先生。余るのでペアをお願いしていいですか?」

 

先生「えっ?」

 

達也「ペアを」

 

真也「お兄ちゃん?僕と」

 

唯「ねー、真也君?あたしとペア組まない?」

 

真也「唯ちゃん?………いいよ!」

 

???「せんせー!みんなできたー!」

 

先生「えっ、でも達也君が」

 

 

 

 

達也「先生」

 

 

 

 

先生「な、なに?」

 

達也「ペアをお願いします」

 

先生「………しょうがないわねー」

 

 

 

 

 

 

休み時間

 

 

蓮歌「…………ねー」

 

達也「(横寺………!関わるのは避けた方がいい)悪い、トイレ行ってくる」

 

蓮歌「あっ!…………行っちゃった」

 

???「蓮歌ちゃん!何してるの?」ドキドキ

 

蓮歌「あ、あのね?達也君に話したい事があったんだけど………」

 

???「!俺呼んでくるよ!」

 

蓮歌「えっ」

 

???「行ってくる!」

 

蓮歌「へ?えぇ?えええ?」

 

 

 

 

 

達也(…………授業前までここにいるしかない)

 

???「達也!」ドンドン!

 

達也「……誰だ?」

 

勇太「勇太!なんか蓮歌ちゃんが話したいんだって!」

 

達也「……………悪いが腹痛でな」

 

勇太「ちゃんと話さないとダメなんだぞ!」

 

達也「(どこの世界に腹痛よりも会話を優先させる決まりがあるんだよ)聞いてたか?俺は今腹痛で」

 

勇太「でてこいよー!」よじよじ

 

達也「………危ないぞっ!落ちたらどうする気だ⁉︎」

 

勇太「へっへーん!お前がドア開けないから……って、あ⁉︎」ずるっ

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス

 

 

先生「………勇太君?なんでドアに登ったりしたの?」

 

勇太「ヒグッ………だって……ぐすっ………達也が………ぐすっ………ドアあげないがら!」

 

達也「…………(…………あー、これで診察して骨折してたら面倒だな……)」

 

先生「達也君?トイレで何してたの?」

 

達也「…………ちょいと腹痛で」

 

先生「…………(面倒ね………でも一応怪我人がでてるし……達也君が怒られて終わればいいわよね)お父さんを呼ぶしかないわね」

 

達也「…………!(どこをどう解釈したらその解決方法に結びつくんだ?)」

 

先生「お父さん怖い?でもだーめ。ちゃんと怒られて来なさい。いいわね?」

 

達也「………はい(…………2日続けて、か…………死んじまうのか、俺?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩太「お前はッ!俺をッ!おちょくってんのかッ⁉︎」ドガッバキッドスッ!

 

達也「ぐふっ、うごっ、ひぎぃ!」(笑うしかないな………いや、笑う体力がもったいない、やめよう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日 昼休み

 

 

勇太「オイ!」

 

達也「………(勇太………だっけ?上の名は………)望月か」

 

勇太「決闘だ!」

 

達也「………ごめんだね」

 

勇太「男と男の戦いだ!校庭に来い!待ってるからな!」

 

達也(いかないけどな)

 

 

 

 

 

 

 

 

先生「で?なんで泣いてるの?(………めんどくさっ)」

 

達也「達也が来るって言ったのにぃ!」ぼろぼろ

 

達也「………(……いってないんだが)」

 

先生「(ま、こっちの親呼べばいっか)お父さん呼ぶからね?」

 

達也「…………はい(……………やべっ、流石に足震えてきた)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩太「死ねぇ!死ねぇ!もう死んでくれよぉ!」ドスッドスッドスッ!

 

た「ヒギィィぃぃい⁉︎イギぃィぃいあぁぁぁあア⁉︎(腹にカッターか………声は我慢できないな………もはや笑えないぞこれ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也は二年に上がる頃、既に悲鳴を上げる事はなかった。

 

 

 

 

 




達也は自分が不幸だとは本当に思っていません。

自分を犠牲にするという風にも思っていません。

ただ、大切な人を傷つけたくないだけなのです。





その思考は歪んでいるのですが。


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俺は友達を失った。

いじめ?……………普通に不幸なしょうねんのお話ですねこれ。


ま、いじめも入ってくるんですがね?
それは後になります。やっぱ家庭環境が悪いのもいじめを受ける理由の一つではありますから。
それと小学生とあれば喧嘩の理由なんてものはないんです。
単純に気に入らないとか、些細な事で問題にしてしまうのです。



怖いですよね…………。


 

 

誕生日

 

 

リビング

 

 

「誕生日おめでとう!真也!」

 

「お兄ちゃんおめでとー!」

 

「真也?お誕生日、おめでとうね」

 

「え、えへへ」

 

「ほーら見てみろ!前から欲しがってたゲーム機だ!」

 

「わあっ………ありがとう!父さん!」

 

「お兄ちゃん!これあげる!」

 

「四つ葉のクローバー!すごいや!ありがとう咲!」

 

「はいこれ。宗介さんと二人で買ったのよ?」

 

「自転車だぁ!」

 

「よかったなぁ真也」

 

「…………うん」

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

「…………父さん!」

 

「どうした?」

 

「………お兄ちゃんとお祖父ちゃんは?」

 

「……………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

家の付近の公園

 

 

「……………」

 

「………………達也」

 

「………うわっ、爺さん!…………何してるんですか、今日真也の誕生日ですよ?早く家に戻ってください」

 

「…………お誕生日おめでとう」

 

「そいつはどうも。早く戻って下さいよ」

 

「……………何か欲しい物はあるか?」

 

「…………強いて言うならコーヒーを」

 

「………そんな物でいいのか?」

 

「十分ですから。本当に早く戻って下さいよ………」

 

 

宗介は近くの自販機でブラックを二本買って一本を達也に渡す。

 

 

「…………これを」スッ

 

「……………これは?」

 

「………ブックカバーだ」

 

「俺は」

 

「儂はもう受け取らん」

 

「…………………いがいに卑怯ですね」

 

「なんとでも言え。お前はこうでもしないと何も受け取らん」

 

「……………ありがとうございます」(本当に優しい人だ………本当にあの人の父親なのか?)

 

「……………真也は自転車を貰っている筈だ」

 

「そうですか」

 

「…………欲しくならないのか?」

 

「今の所魅力は感じませんね」

 

「…………そうか」

 

「…………そろそろ真也の所へ行ってください」

 

「…………お前は?」

 

「俺にはここでブランコに乗る義務がありましてね」

 

「………………戻るぞ」

 

「ダメです」

 

「………あそこはお前の家だ」

 

「あそこは父の家です」

 

「お前の居場所が無くなってしまうではないか」

 

「元から俺の居場所はありません」

 

「……………戻るまで儂は帰らんぞ」

 

「…………はぁ、……………好きにしてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始業式

 

 

「………(今日から2年………てか今日の給食なんだろ)」

 

「………ねぇ」

 

(面倒事を避ける方法、話しかけられているのは自分ではないと思い込む)

 

「………聞こえてないのかな?」

 

(一貫してシカト)

 

「…………むぅ」

 

(新しい人脈は新たな誤解と面倒ごとを生み出す事になる。したがって俺は必要最低限の人脈も作らない。………………この考えはある意味革命的だな)

 

「話しかけてるんだけどな………」

 

「…………」

 

「てい」手刀 どすっ

 

「モルスァ」(変な声が出てしまった)

 

「なんなんだいその反応は………」

 

(人の首にいい斬れ味の手刀かましといてよく言えるなこいつ)

 

「誰だ?知り合いなら覚えてると思うが…………悪いが記憶に無い」

 

「知らないのも無理はないさ、今初めて会ったからね。と言うわけで初めまして、僕は佐藤亜利沙というんだ」

 

「そうか、俺は名乗るほどの者じゃない。それじゃ」

 

「………?時代劇の真似事かな?だとすればその使い方は正しくはないね。それと自己紹介をされたら自己紹介を返すのが常識だよ?」

 

「自己紹介を返さない無礼者には関わらないのが常識だぞ?」

 

「…………面白いね君は」

 

「俺が言える事ではないがお前本当に小2か?」

 

「僕が聞きたいよ。家庭内暴力を当然のように受け入れる小学生なんて信じられない」

 

「!」

 

「その体の傷、一人で誤魔化すには無理があるんじゃ無いかな?」

 

「…………………だとしたら?」

 

「僕はね?君とこれから仲良くしたいと思っているんだ。協力できないかな?」

 

「…………分かった」

 

「じゃあ名前を教えてくれないかな?」

 

「どうせもう知ってるんだろ?」

 

「知っているかどうかは問題では無いよ。自己紹介とはそのプロセス自体が重要だからね」

 

「自己紹介とは自身の情報の上部を述べる行為だ。すでに知っている相手に知っている事を話す行為に生産性が見出せない」

 

「生産性の無い物などこの世にいくらでも存在するよ」

 

「…………面倒な話し方をするやつだ………如月達也だ。これからよろしく」

 

「よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育

 

 

「はーい!去年と同じように二人組を作ってねー!」

 

「達也、僕と組まないかい?」

 

「………(他のやつだと傷を見られる可能性があるな)そうだな」

 

「ね、ねぇ!亜利沙!私と組まない?」

 

「?すまない。僕は達也と組むんだ」

 

「へ、へー。そうなんだー。じゃ、じゃあいいわ。またね!」

 

「………さて、準備体操からだね」

 

「…………(……面倒な事にならなきゃいいけど)だな」

 

(………亜利沙ちゃんとが良かったのに!…………ていうかあいつ、去年蓮歌を泣かしたやつじゃない……ひょっとして亜利沙ちゃんも泣かす気⁉︎)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌週

 

 

『如月達也は変態』 『如月達也は泥棒』 『如月達也に触れると病気になる』

 

 

「なんだこれは…………」

 

「いじめの初期段階だろうな。机に掘られてたり、他のクラスに見えないだけマシだ。黒板だからすぐに消せるしな」

 

「………達也、君はどうしてそんなに冷静でいられるんだい?君の名誉に傷が付いているんだよ?」

 

「直接的な被害が無いからな。それにこの程度で傷がつくような名誉ならいらない」

 

「…………そうか、君はそういう人間だったね」

 

「あぁ。だから特に問題はない(今の所はな)」

 

(…………だが僕は親友が虐められて冷静でいられるほど大人じゃない)

 

 

 

 

「あっ、……………見てあれ」ヒソヒソ

 

「…………うわ、あれ本当なの?」ヒソヒソ

 

 

 

 

「………………」ギロッ

 

「女の子を睨みつける行為に価値は無いぞ?それともあれか?気になる輩でも見つけたか?」

 

「僕は今二つの理由でとても不愉快だよ」

 

「落ち着け、アホらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プール開き

 

 

(さて………腹部の傷は誤魔化しづらいな)

 

「この水着を着ればいい」つ【水着】

 

「…………言うまでもなく用意してくれているとはな」

 

「君の一番近くにいるんだよ?分からなくてどうするのさ」

 

「にしてもスウェットタイプか。確かに上も着るからばれないけど………俺一人でこれは目立つな」

 

「君の分だけ持ってくると思うかい?」

 

「その言い方から察するにお前自身の分もあるんだな?」

 

「まぁね、僕は女性用だけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プールサイド

 

 

「とは言ったものの。…………傷は大丈夫かい?」

 

「肋骨がまだ治りきってないな」

 

「………あれかな?君は痛覚を遮断する事ができるのかな?」

 

「まさか。我慢して耐えてるだけさ」

 

「屈強な戦士でも肋骨を折ったまま泳ごうとは思はないよ」

 

「折れてるのは2〜3本だからな。特に問題はない」

 

(〜〜!また亜利沙ちゃんと⁉︎………あんなに仲良さそうに!亜利沙ちゃん……!今助けてあげるからね!亜利沙ちゃん亜利沙ちゃん亜利沙ちゃん亜利沙ちゃん亜利沙ちゃん亜利沙ちゃん亜利沙ちゃん亜利沙ちゃん亜利沙ちゃん亜利沙ちゃん亜利沙ちゃん亜利沙ちゃん亜利沙ちゃん亜利沙ちゃん)

 

 

 

 

 

 

 

 

プール終わり

 

 

 

「先生〜!」

 

「あらどうしたの?雲雀ちゃん」

 

「私のパンツが無いのー!」

 

「えっ?本当に?」

 

「うん!」

 

 

 

 

男子更衣室 壁 女子更衣室

 

 

「で、どうだった?なんとか耐え切れたかい?」

 

「今の所はな………後で痛みが来るかもしれないが」

 

「洒落にならない冗談はよしてくれ」

 

「あぁ、悪かっ…………」

 

「………どうした?」

 

「………………はぁ」

 

 

【パンツ】

 

 

「何かあったのか?」

 

「…………やれやれ」

 

「何かあったのかい?」

 

「…………私怨か」

 

「?ねえ、どうかしたの?」

 

「何でもない」

 

「先生を呼ぼうか?」

 

「いらん。余計な心配はせんでいい」

 

「んー?あれ?達也ーなんだそのパンツー?」ひょい

 

「うわー!こいつ女のパンツなんか持ってるぞー!」

 

「せんせーに言ってやれ!」たったったっ

 

「……………違うよね?」

 

「ご想像にお任せするさ」

 

「なら想像した事を言おう。僕は君の持っていたと言う女性用の下着は誰かが仕組んだ物だと思っている」

 

「例えどんな想像をしようが最終的に判断を下すのは世間だ。この場合はクラスメイトと先生方だがな」

 

「……………僕は君の味方だ」

 

「いらん」

 

「どうして?」

 

「頼む」

 

「…………………頼むほどなのかい?」

 

「あぁ」

 

(僕は君の味方でいる事も駄目なのかい…………?)

 

 

自己犠牲の末に平和を望む姿勢

それはとても歪んでいて、正しさなんて微塵も感じない。

でもそんな姿はヒーローにしかできないんだ。

そんな君の隣で君を支えたい

そんな思いを抱く事さえ、君は頼むほどに拒否するのかい?

 

 

 

五時限目

 

 

「今日、雲雀ちゃんの下着が盗まれました」

 

「………」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「知っている人は手をあげてください」

 

「せんせー、達也だよ!」

 

「さっき持ってたもんなー」

 

「そうなんだろ達也!」

 

「…………………おう」

 

(…………そんな⁉︎否定しないなんて⁉︎)

 

「……………達也君?先生怒らないから正直に言いなさい」

 

「何をですか?」

 

「雲雀ちゃんの下着、盗ったわね?」

 

「………はい」(えっ?俺もうさっきそう言ったよな?)

 

「…………いい加減にしなさい!」

 

「何をしたのか分かってるの⁉︎」

 

「大体あなたはーーーーーーーー」

 

 

 

 

 

「……………(つぎに貴女は、『この事はお父さんに言いつけますからね!』という)」

 

 

 

 

 

 

「この事はお父さんに言いつけますからね!」

 

「はい」

 

(……………………こんな事って!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

如月家

 

 

「なぁ………お前ももう2年生だよなぁ」

 

「………そうですね」

 

「俺もな?いつまでも痛めつけるのは飽きるんだ」

 

(狂ってる………………殴らないなら精神的に追い詰める気か?)

 

「だから趣向を変える事にしたんだ♪」

 

(……………………まさか)

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃじゃーん!今回は薬物でーす!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「やっぱりって顔だなぁ………つまんね」

 

「…………うっ(内面は強化してない………副作用は面倒だな)」

 

「おっwwwビビってる?wwwwねぇwwねぇwwビビってるwwww?」

 

「…………どこで手に入れたんですか」

 

「合法に決まってんだろーがバーカwwwwww」

 

「…………」

 

「ちょっと後輩に薬出しもらってなぁ…………鬱になったって事でwww」

 

「それは犯罪ですよ………」

 

「……………うるせーなー」

 

(くるっ!)

 

「オメーは考えなくていーんだよッ!」プスッ

 

(………入ってくる!)ドクドク

 

「これさー?なーんか脈拍を上げるやつらしくてさー?」

 

「⁉︎」

 

 

 

 

 

「規定量以上はやばいらしいんだよねぇwww」

 

 

 

 

 

 

 

5分後

 

 

「」ガタ、ガタ、ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!

 

「うっわぁ……………痙攣きめぇwwwやばwww」

 

「」ブルブルブルブルブルブルブル

 

「あ、後で心拍数跳ね上げるのも使うから死ぬなよ?」

 

「」ブルブルブルブルブルブルブルブル、プッツーン! ガクン!

 

「あ、落ちた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

通学路にて

 

 

「達也!どうしたんだその内出血は!?」

 

「佐藤………今日は休むと言ってくれ」

 

「病院に行くよ!君…………そのままじゃいつか死んでしまう!」

 

「」ガクン

 

「達也!達也!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院 亜利沙の父の勤務先

 

 

「パパ!達也は⁉︎」

 

「………亜利沙、あの子はどういう生活をしてる?」

 

「た、多分……………DVを受けてる……」

 

「DVか。…………そんな生ぬるいものか………?」

 

「どういう事?それより達也は⁉︎」

 

「驚異的な回復力だよ………それにしても異常だ………………(身体中に焦げ付いた後、注射痕、鞭打ちの跡、青痣、骨折の跡傷、切り傷、刺し傷、火傷の跡、………ありとあらゆる拷問の跡のようなものがある……DVなんてもんじゃない)」

 

「やっぱり…………!」

 

「………生きてるのが奇跡だよ。内出血もほぼ止まりつつある。まるでサイボーグだ。心身ともにあり得ない強度だよ」

 

「…………………………僕では助けられないの?」ポロッ

 

 

 

 

 

(………………………危険だ、亜利沙と関わらせないほうがいいな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

 

「やはりもう起きてたね」

 

「………………佐藤が連れてきたんですか」(この憐れむような煙たがるような表情、おそらく佐藤の血縁者、そして俺のような患者を何人も見てきている)

 

「僕は亜利沙の父親でね、ここの院長も勤めてある。1人ぐらい入院させる権限ぐらいは持ってる」

 

「…………帰ります」

 

「待ってくれ」

 

「なんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「もう、亜利沙に関わるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。分かりました」(当然だな。頭のおかしい親を持っている子供の側に我が子を近づけようとは思わない、そしてなにより)

 

「………………驚かないんだな」

 

「えぇ、当然でしょう?」

 

「……………死にそうな時は来てもいい」

 

「分かりました」

 

「………………………」

 

「大丈夫ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不祥事は無かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

「これは俺の妄想ですが…………俺に使われた薬物、ここで誰かが流してたんじゃないかなと、思ってます」

 

「………………謝罪する」

 

「いえ、その人物を解雇して頂いたら結構です」

 

「……………あれならもう既にクビにした。君には血圧を下げる薬、血止め、痛み止め、解熱剤、その他、包帯や傷薬を渡しておく」

 

「どうも」

 

「……………置き場所は?」

 

「あります」

 

「その都度、必要な物は取りに来い。手術も無償で引き受ける。保険は適用されないがな」

 

「…………………分かってます。ここには薬を個人的に使った医者なんていなかった。俺は亜利沙なんて知らない。あなたはタダの親切な医者なだけ」

 

「もう行け」

 

「言われなくとも」

 

 

 

 

 

こうして達也は友を失った。

 

 




………友達ができると思いますか?


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サンタは救えなかった。

聖なる夜。


不幸な少年は何を願うのでしょうか。





12月24日 クリスマス・イブ

 

 

 

街は華やかに彩られ、子供達はサンタクロースの訪れを心から待つ。

クリスマス当日の準備をする為に買い物をし、恋人たちはそれぞれの思い出を作る。

本来はキリスト教のイベントなのだが、時代のせいもあって今じゃ日本人にとっては一大イベントだ。

 

だからこそ浮くだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人で夜の街を歩く小学生は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの人曰く、『家族水入らずで過ごすから失せろ』との事で。

 

 

(流石に無一文で放り出されたのはマズイな…………)

 

 

上着を羽織って靴を履くだけの時間は貰えた。

だがそれ以外のものを持ち出す時間は貰えなかった。

 

………………書斎の鍵が上着にあってよかったと本当にそう思う。

 

死んだら面倒な事になるしな。

 

祖父さんから貰った書斎代わりの部屋は学校を挟んで家と反対の方向にある。

そうでなければあの人に見つかってしまうからである。

 

 

(実の父親のポストを狙う人間だ…………嫌いな息子がマンションの一室を貰ってるなんて知ったら確実に取られる)

 

「あれ?」

 

(確かあそこには幾らか現金を置いておいた筈。なんとか水と食料、毛布だけでも揃えないと凍死する可能性がある………)

 

「おーい」

 

(ここら辺だと………商店街か?でも郊外を通らないと無理だしな………家の方には近づいてばったりあの人達のと会ったら不味いしどうする?)

 

 

 

 

「無視しないでほしいの!」

 

 

 

 

「⁉︎⁉︎⁉︎だ、誰だ!…………って中谷か」

 

「未来って呼んでほしいの!」

 

「………んで?中谷、何の用だ?」

 

「………達也君は意地悪なの」

 

「仕方ないな、これが俺だ。嫌ならワザワザ近づかなくてもいいんだぜ?」

 

「むー………もういいの!それで………こんな所で何をしてるの?」

 

「ちょいと買い物をな」

 

「ひょっとして、商店街へ行くの?」

 

「え、あぁそうだが?」

 

「丁度いいの!未来もケーキを取りに行く途中なの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

商店街

 

 

「……………なんでホールケーキを3つも買うんだ?」

 

「なんでって…………ひょっとして聞いてないの⁉︎」

 

「な、何をだ?」

 

「今日は未来のお家でクラスでパーティをやるの!寛太君が教えてくれる事になってたと思うけど……」

 

「………………ほら、あれだ。真也は家でパーティだからな。兄弟揃って参加しないと思って俺に言うのはしなかったんだろうよ。実際、俺は聞かれても参加しなかっただろうしな」

 

「むぅ………本当なの?」

 

「あぁ本当だとも」

 

「……………………未来ね最近、クラスで嫌な噂を聞いたの」

 

「どんな噂だ?」

 

 

 

 

「……………………達也君が下着を盗んだって」

 

 

 

 

「…………」

 

「本当なの?」

 

「本当だよ」

 

「!」

 

「プールの時に…………雲雀のをな」

 

「う、嘘なの!」

 

「本当だとも。俺は嘘はつかないよ」

 

「………………信じないよ」

 

「お前が信じるかどうかは俺には関係無いさ。俺が盗んだ事には変わりない事にからな」

 

「…………」

 

 

 

大きくて立派な家の前、中谷は歩くのをやめた。

おそらくここが中谷の家なのだろう。

家の中からはどこかで聞いたような声が幾つも聞こえる。

 

 

「………………どうやらここでいいみたいだな」

 

「…………達也君も一緒に来るの」ぎゅっ

 

「手を離してくれ。うちに帰れない」

 

「嫌なの!」

 

「…………………離せ」バッ!

 

「………!」

 

「………じゃあな」

 

「………!達也君のバカぁあぁぁぁあああ!!!!」

 

(…………悪い噂が流れる人間との繋がりは消すべきだ。あんなに優しい女の子が俺なんかと繋がりを持っていてはだめだ)

 

 

中谷は悲しかった。

同じクラスになった優しい男の子。

当然、みんなで一緒にいることが好きな彼女は彼とも仲良くしようとした。

だが誰にでも優しい彼は誰とも仲良くしようとしない。

手を繋いで欲しいという男の子はいた、一緒に遊ぼうという男の子もいた。

 

でも彼は手を離せと、一緒にいたいという素振りさえも見せずに帰って行った。

小学生の彼女には拒絶という行為は受け止めきれないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

商店街の外れ

 

 

「ちょっといいかな?」

 

「?」

 

 

商店街に入る前、丁度人気が無い所で赤いコートを着中年の白髪のおっさんに話しかけられた。

こんな夜更けに子供に話しかけてくる時点でかなり怪しい筈なのだが、不思議と疑う気にはなれなかった。

 

言うなれば……………………そう、まるで聖人のような雰囲気を感じたのだ。

 

コートのおっさんは優しく、そして慈しむような声で俺に言った。

 

 

 

 

 

 

 

「もし、願い事が叶うなら何を願う?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ?」

 

「僕はね?君の願いを一つだけ叶えてあげられるんだ。何か一つ、言ってごらん?」

 

 

自分はサンタとでも言う気なのか。

このおっさんは願いを叶えてくれると言った。

 

 

「何でもいいのか?」

 

「何でもね。君が望む物をあげられる」

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の周りの人間、全てに幸運を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが俺の願い。

 

俺なんかいなくても幸せでいられるような世界にしてほしい。

弟も妹も、祖父さんもあの人達も。同級生もその家族も。全員が泣く事の無い世界が望みだ。

 

 

「本当にいいのかい?」

 

 

おっさんは悲しそうな顔をしている。

 

 

「願いが叶うのなら、でしょ?」

 

「…………そうだね」

 

「じゃあ、俺行くんで。もしこの質問をするんなら他の人間にした方がいい」

 

「……………」

 

 

俺は少しの間、前に進んで歩く。

振り向いてみると、そこにはもう誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空の上

 

 

「君の願いは君を滅ぼす」

 

「僕は君に幸せを届けたかった」

 

「君がそれを望むというのなら」

 

「僕はそれを叶えよう」

 

「でも」

 

 

 

 

 

「他の子の願いも叶えなくちゃいけないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来の家の前

 

 

「………………何してるんだ」

 

「…………関係無いの」プイ

 

「まさかとは思うが………俺と別れてからずっとここにいたのか?」

 

「……………」

 

「中に入れよ。みんなが待ってるぜ?」

 

「達也君もいなきゃつまんないの」

 

「俺は家でパーティがあるんだ」

 

 

 

「嫌なの!」

 

 

 

「……………」

 

「…………あのおじさんも言ってくれたの。達也君に後で会えるって…………でも会うだけじゃ嫌なの!一緒に遊びたいの!」

 

「あのおっさんか…………分かったよ」

 

「………じゃあ!」

 

「ほれ」ポス

 

「………………ペン?」

 

「万年筆な。クリスマスプレゼントだ。いらんなら捨ててくれ」

 

「そ、そんなことしないの!」

 

「そうかよ。じゃあな」 スタスタ

 

「あっ、…………………」

 

「メリークリスマス、中谷」

 

「…………………うん」(なんでだろう、ただの万年筆なのに、とても暖かいの)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大方ショッピングモール内

 

 

「商店街の癖にストーブを取り扱ってる店が無いってのはどうなんだ?」

 

「あっ」

 

「何の為にあんな方まで行ったんだか…………」

 

「達也君?」

 

「うおっ⁉︎………な、なんだ横寺か」

 

「蓮歌って呼んでくれないの?」

 

「名前呼びは好かん。つうかなんだ?親と買い物か?」

 

「うん。明日の準備があって………」

 

「そうか、じゃあな」

 

「ま、待って!」

 

「なんだよ……………早めに頼む」

 

「い、一緒にパーティしない?」

 

「家でする事になっててな」

 

「達也君の本もあるの!」

 

「………………本当か?」

 

「うん!あの人間失格でしょ?」

 

「今度取りに行ってもいいか?今日は本当に駄目なんだ………」

 

「……………うん、じゃあ今度ね」

 

「助かる。…………あれは本当に大切なんだ」

 

「お祖父ちゃんがくれたんだよね?」

 

「……………………おう」

 

「ページとか………完全には直らなくて」

 

「補修してくれてるだけでも十分だ」

 

「うん」

 

「………………悪い、もう行く」

 

「………分かった。じゃあね?」

 

「メリークリスマス、横寺」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書斎前

 

 

「何でここにいるんだ?」

 

「うん?僕がどこにいようが僕の勝手だと思うけど?それともこの時間にいる事を心配してくれてるのかな?」

 

「当たり前だ。親はどこだ?」

 

「し、心配してくれるんだ……………親なら下にいるよ」

 

「佐藤、何か用なのか?というか用があるから来てるんだろうが」

 

「君が僕の父の病院に来た日。あの日から君は僕と話さなくなったね」

 

「そうか?意識してなかったから覚えたないな。悪い、今度から話すようにするよ。これでいいか?」

 

 

 

 

「茶化さないでくれ!」

 

 

 

 

「………」

 

「僕はあの日からずっと孤独だったんだ!君とペアを組もうとしても君はいないし!話しかけようとするとすぐにトイレへ向かう!今日だって君と過ごしたかったのに君は電話にも出ない!」

 

「………」

 

「僕の父に何か言われてるのかい?だったらそんなもの」

 

「帰ってくれ」

 

「え」

 

「帰ってくれ」

 

「い、嫌だ!僕は今日君と」

 

「………………………迷惑だ」

 

「…………っ!」

 

「お前のその行動は回り回って俺を苦しめるんだ。それをわかってするような奴じゃないよな?分かったら帰ってくれ」

 

「…………僕は諦めない」

 

「無駄な事だよ」

 

 

 

 

そう言って俺はドアを閉める。

 

扉の向こうからずっと、悲しみの叫びが聞こえてきた。




「達也君と一緒にパーティができますように」

「達也君と仲良くできますように」

「達也ともう一度、親友でいられますように」

「俺の周りに不幸な人間がいなくなりますように」







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恋は盲目とは言うもので。

3年生になった主人公。

新しい環境に少しだけ戸惑う。
新しいクラスで嫌がらせを受ける毎日。
そんな毎日を彼は何も言わず受け入れる。



親友と同じクラスになれた佐藤。

自分に降りかかる災難を苦と思わない親友。
親友の為になりたいのに何もできない毎日。
そんな自分が許せなくて情けない。



それでも時は進み続ける。


新学期

 

 

今日から3年に進級する。

俺はあのクリスマスがあった日から誰とも喋っていない。

 

 

父親には『クリスマスは家にいるな』と言われた。

その間は祖父さんから貰った書斎でなんとか乗り切った。

 

だがそれでも光熱費はあまり出したくない。

今でこそ祖父さんが置いていった金でなんとかやりくり出来るが………いつ家を出てけと言われるか分からない状態だ。

 

金を稼げない年齢である以上、あの金は多く残しておいたほうがいい。

 

だからあの後、クリスマスの終わりと共に家へと帰るつもりだったのだ。

だが人間、長い間その場所にいないと帰りづらくなるもので…………

 

 

 

 

率直に言うと女がいた。

 

 

 

 

俺と弟の部屋には俺の私物はなく、弟の私物は妹と同じ部屋に移っていた。

おそらく、あの父親がどこかで作った愛人だろう。

 

…………いや、既に離婚はしてあるから恋人だ。

 

 

 

後日、父親からは予想通りの答えが来た。

 

 

家を出て行けと。

 

父の中では俺はいらないも同然、こうなることは前から分かっていた。

 

幸い、住む場所は確保できているから問題無いが…………父親への説明が難しい。

あの部屋を持っていることは知られてはいけないが、住む場所があることはいずればれてしまう。

 

…………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅

 

 

「ただいまー!」

 

「ただいまー!」

 

「ただいま」

 

「おかえり真也、咲………………それと達也」

 

「父さん!新しいクラスね!前のクラスの友達沢山いた!」

 

「咲も咲も!桃華ちゃんと一緒だった!」

 

「俺、荷物まとめてくるから」スタスタスタ

 

「それは良かったな!真也!それともう一つ良いことだ!今度からお前も小遣いをやることにしたぞー!」

 

「えっ本当に⁉︎」パァァ

 

「えー、ずーるーいー!咲も欲しいよー」

 

「ははっ、咲はあと1年経ったらなー?………真也、お前に1万円を毎月渡す」

 

「い、1万円?」

 

「不服か?なら」

 

「い、いやそんなこと無いよ!」

 

「ねーパパー、達也お兄ちゃんは?小遣い無いの?」

 

「……………………咲、達也はな?今日から別の家で暮らすんだ」

 

「えっ」

 

「お兄ちゃん別の家に行っちゃうの?咲そんなのやだー!」

 

「達也が自分でそう言ったんだ。だから達也は小遣いは無いんだ」

 

「お、お父さん」

 

「なんだ?」

 

 

 

「それ、本当なの?」

 

 

 

「本当さ。達也に聞いてみるといい」

 

「……………お兄ちゃん!」たったったっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女の部屋

 

 

「お兄ちゃん!」ガチャ

 

「………どうしたんだ?家の中では静かにしなさい。お兄ちゃん、お前をそんな風に育てた覚えはないぞ?」

 

「別の家に住むって本当なの⁉︎」

 

「………そういうことか」

 

「ねぇ!本当なの⁉︎」ユサユサ

 

「本当だとも。ていうか服を掴むな首を揺するな」

 

「僕もいく!」

 

「ダメに決まってんだろ」

 

「なんで⁉︎」

 

「なんでってそりゃお前………」

 

 

 

 

 

「ダメだからだよ」

 

 

 

 

 

「意味わかんないよ!」

 

「父さんに聞いてみろ。ダメって言うから」

 

「なんでなんでなんで⁉︎」

 

「あーうるさい。もういいだろ?俺は行くぞ」スタッ

 

「! 僕もいく!」ガシッ

 

「腰に捕まるな。ええい鬱陶しい」

 

「やだ!」

 

 

 

 

「ちょっとー、私の部屋に誰かいるんだけど?」

 

 

 

 

 

 

「…………あー、すいません。すぐ出てくんで」

 

「早く出てってよ」

 

「ほら行くぞ」

 

「やだ!」

 

 

 

 

 

「……………ちっ、鬱陶しいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

 

「ではー教科書の32Pを開いてーーーーーー」

 

(……)

 

「……………」じー

 

(……………)

 

「……………」じー

 

(…………………………超、見られてる)

 

 

 

 

「……………」じー

 

(確かに無視してるよ?クリスマス以降佐藤のほうすら見てない)

 

「……………」じー

 

(だからと言って)

 

「……………」じー

 

 

 

(隣の席でずっと見てるのは無いと思うんだ)

 

 

 

「……………」じー

 

(大体、異性間でこういう行為をしてると囃し立てる奴が出てくる)

 

「………………」ヒソヒソ

 

「………………」ヒソヒソ

 

(そしてどちらのルックスがよければ良いほど、妬む奴が出てくる)

 

「………………」ギリッ

 

(既に分かりやすいぐらい嫉妬してるのが1人。………確か前田だったか?)

 

 

キーンコーン、カーンコーン

 

 

 

(そして面倒なことになる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休み時間

 

 

(休み時間が始まると嫌がらせは途端に加速する)

 

(取り敢えずは陰口から)

 

「…………………」ヒソヒソ

 

「…………………」クスクス

 

(第2段階は物理的な嫌がらせ。足をかけたり肩にぶつかってきたり)

 

「………………」ドンッ!

 

「おっと」

 

「イテェだろ!謝れよ!」

 

「悪い」

 

「ふざけんな!」パキッ

 

(こうして殴る口実ができる。………実際はこんなの口実にもならんがな)

 

「この!この!」ポスッぽスッ

 

(体格差が出始めるこの年齢、大きな体の子は馬乗りになって殴る。だが俺も殴られて育った身。腰の入ってないパンチはタオルよりも軽い)

 

「参ったか!」

 

「………悪かったな」

 

(これで済めばいい)

 

 

 

「ちょっと!達也君がかわいそうじゃない!」

 

「そうよそうよ!」

 

「達也君かわいそー」

 

 

 

(微塵も可哀想などと思っていない連中が自己満足の為に寄ってたかって虐めてた側を叩く)

 

 

「えっ、俺は、あの、その」じわっ

 

 

(そしてこちらが泣き出して泥沼だよ)

 

 

 

「………………」じー

 

(まだ見てんのかいお前は)

 

 




嫉妬、いじめの理由の一つ。


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嫉妬は加速する。

嫉妬



……………………怖いねぇ。


放課後 教室

 

 

将来何の仕事に就くか。

 

 

小学校に入って直ぐに担任からこの質問をされる。

当時の俺は具体的な自分の将来が想像できず、無難に公務員と答えた。

………まぁ、その時は担任から微妙な顔をされたが。

だが今ならこれだけは言える。

 

もし、将来仕事につくとしたら小学校教師にだけは絶対にならない。

 

なぜなら

 

 

 

 

「それで?なんで喧嘩になったの?」

 

 

 

 

 

こうやって一々問題に立ち会わなければならんからだ。

 

 

「だって!ヒグッ、達也が!お、おれ、おれの肩に、グスッぶつかってきて!」

 

(こうやって事実はどんどん捻じ曲げられていく。なるほどこうやって冤罪は作られていくのか…………ってなんでやねん。正確にはお互いの肩がぶつかった、だ。その言い方じゃ俺が当たりに行ったように聞こえる)

 

「だから殴ったの?」

 

「ヒグッ、ひぐっ、、お、おれ!達、也に、謝れ、って!謝れっ、て言ったもん!」

 

「そしたら?」ハァ

 

(溜息つくのも分かる。なぜならさっきから何言ってるのかほぼわからん。泣くか喋るかどっちかにしたらどうだ?と言ってもこの歳じゃ泣くだけになるな。つうか溜息俺に聞こえてちゃ駄目だろ)

 

「達也、謝んねぇんだもん!わぁぁぁああん!」ブワッ

 

(えっ俺『悪い』っつったよな?あれか?悪いは謝罪にならないってのか?)

 

「あのね?大志君」

 

(あ、大志って言うのか)

 

 

 

「何があっても人を殴っちゃ駄目よ?」

 

 

 

(それは違うな。人を殴るのは間違いではない。有事の際き自衛や防衛の為に他者に適切な暴力を振るうのは正しいし、ボクシングや総合格闘技では他者に暴力を振るうのが仕事だ。正しくは意味なき暴力は駄目、という事)

 

「君の手は人を殴る為にあるんじゃないのよ?」

 

「う、うん」ぐすっ

 

「分かればいいのよ」ふんす

 

(そして、 その手は何の為にあるのかを説明しない。まだ小3だぞ?教師がそれを教えなくてどうするんだ………誰かを助ける為に、とか人の為に、とかなんでもあるだろ……………根本的に教師に向いていないな)

 

「さて、お次は君ね」

 

(無駄な時間になりそうだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書斎

 

 

「ただいま」

 

 

しーん

 

 

(ま、誰かいたら怖いけどな)

 

 

この部屋に帰るのも慣れた物だ。

仕方なく事情を祖父さんに話して光熱費も面倒見てもらえるようにした。

…………本当に仕方なくて。

 

 

折り畳み式の大人用シングルベッド、枕、掛け布団。

 

一人分の皿、ホテルなどに置かれている小さな冷蔵庫。

 

 

一人暮らしできる程の家具や家電を用意してもらった。

本以外にも昔の映画やそこそこの数のゲーム、パソコンも買ってもらった。

 

………………………本当に嬉しくて自然とにやけてしまう。

 

 

(本当に贅沢な一人暮らしだ………………いやマジで)

 

 

 

だが心配なのは兄弟だ。

あの家で不当はあつかいを受けていないだろうか。

父は生活していけているのだろうか。

 

あの家に帰れない今となっては考えても意味がない。

かと言って考えないでいれる訳がない。

 

 

「……………スマホか」

 

 

今の状況ではあれが必要になってくる。

流石にこれ以上祖父さんに迷惑はかけられない。

 

ここまで面倒見てもらっといて今更何言ってんだ、って感じだが………これ以上はやばい。何がって俺の罪悪感が。良心の呵責で死んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

登校中 通学路

 

 

(リスクが多いがバイトでもするか?)

 

 

結局昨日からずっと考えていた。

内職………株…………体でも売るか?いや、止めとこう。

 

 

「ねぇ」

 

「…………」

 

「やっぱり無視するんだね」

 

「…………」

 

「僕ね?」

 

「…………」

 

 

 

「父さんから聞いたよ」

 

 

 

「…………」

 

「父さんは君との会話を許可してくれなかった」

 

「…………」

 

「君も多分、僕と会話をしてくれないだろうしね」

 

「…………」

 

「けど君といる事は禁止されてないんだ」

 

「…………」

 

「手紙でのやりとりもね?」

 

「…………」

 

「これ、僕のメールアドレス。誰にも教えちゃダメだよ?」スッ

 

「…………」

 

「受け取って、くれないかな…………?」

 

「…………」ごそっ

 

「!」パァ

 

「…………」スタスタスタ

 

「待って!僕も一緒に行くよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業中

 

 

(達也は僕のメールアドレスを受け取ってくれた!)

 

「…………」かきかき

 

(つまり僕とまだ友達でいるんた!)

 

「…………」かきかき

 

(僕はもう分かっている…………!達也は僕を傷つけない為に近寄らせないんだ!達也が困る事は絶対にしない!僕は達也を影からサポートするんだ!)

 

「………………………………」メモメモ

 

「?」

 

 

 

『授業中だ。しっかりしろ』

 

 

 

(………………くうぅ!これだよ!こういうやりとりがしたかったんだよ!)

 

 

 

 

「…………」ギリッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休み時間

 

 

「な、なぁ、亜利沙」ドキドキ

 

「…………?ええっと……前田、君?なにかな?(この感じ………まさか)」

 

「話があるんだけどさ……」ドキドキ

 

「(あぁ…………やっぱりか)………ここで話せる?」

 

「いや!………ちょっと校舎裏に来て欲しいんだ」ドキドキ

 

「う、うん。分かった(…………達也の近くにいたいのに)」

 

 

 

 

校舎裏

 

 

「それでなにかな?」

 

「亜利沙はさ、達也とどういう関係なんだ?」

 

「親友さ(最高のね)」

 

「!じゃあ付き合ってないんだな⁉︎」

 

「ま、まぁね(いつかはそうなるけど。…………絶対)」

 

「あ、あのさ」

 

「うん。(……………やだなぁ)」

 

 

 

 

「俺と付き合って下さい!」

 

 

 

 

「うん。ごめんなさい」ぺこり

 

 

 

 

「えっ⁉︎」

 

「ごめん、話はそれだけ?僕戻るね」スタスタスタ

 

「待って!なんで?どうして!」まわりこみ

 

「僕、君の事知らないから」避け

 

「これから知っていけるよ!」さらに

 

「付き合うとかなんかやだ」避け

 

「なんでさ⁉︎」さらに

 

「……………僕好きな人いるから」避け

 

「…………達也か?」

 

「違うよ(本当はその通りだよ)じゃあ戻るから」ダッシュ

 

 

 

 

 

 

「……………」ギリッ

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からは嫌がらせの嵐。


果たして前田君は主人公に嫌な顔をさせる事ができるのか⁉︎


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辛くないか、だと?

本編とは関係のない話をします。

作者は最近、書いてばかりで他の方の作品を読んでません。
そしてホームも見ていません。

あげて一週間も経ってないこの作品はとてもいい評価を受けています。





推薦されてた





驚きのあまり本当に悲鳴をあげました。えぇ、盛大にね。
狐様。推薦、ありがとうございます。

これからも頑張って書こうと思います。


ある日

 

 

「………次は確か」

 

 

国語だ。

 

そう思い机の中から教科書とノートを取り出す。

 

出てきた教科書にはカッターナイフで切りつけられた痕があった。

ノートもボロボロで使い物にならない。

 

 

「…………ふぅ」

 

 

少し短めの溜息を吐き出し、それらを机の中にしまい込む。

 

 

(………おそらく原因は嫉妬)

 

 

先程、佐藤は呼び出されていた。

あれはおそらく告白だろう。

あのルックスだ、小学生なら簡単に惚れちまうだろうよ。

そしてこれをやったのは前田か?

一番顕著に嫉妬してたもんな、あいつ。

 

 

問題はこれを佐藤が見たらどうなるか、だ。

 

 

(普通ならいじめられていると考えて親身に考えてくれるだろう。………………だがもし、『原因が自分への恋心が嫉妬に変わった物』と知ったらあいつは自分を責める……………それだけは)

 

 

 

 

 

 

止めなきゃならない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国語の時間

 

 

「達也ー、教科書の56Pを開けー」

 

「忘れましたので廊下に立ってます」スチャ

 

「なにぃ?仕方ないな………佐藤、見せてやってくれ。廊下には行かんでいい」ガシッ

 

「分かりました妻夫木先生」

 

(いらんことをいうな妻夫木!)

 

『はい、どーぞ』かきかき

 

『悪い、恩にきる』かきかき

 

「……………」ギリッ

 

(こいつが気づきませんようにこいつが気づきませんように)

 

 

 

 

 

 

 

 

給食

 

 

「……………今度は箸ね」

 

 

箸 ボロボロ

 

 

「達也?どうかした?」

 

「⁉︎…………」ぶんぶんぶんぶん!

 

「………何か隠してる?」

 

『給食を取りに行こう』かきかき

 

「………ふぅん、いいよ」

 

(心臓に悪い。…………スプーンをつかうか)

 

「……………これ、ゼリーあげるね」ひょい

 

『ありがとよ』かきかき

 

「ううん。僕、このゼリー好きじゃないから」テレッ

 

「……………」ギリッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み トイレ

 

 

おいおい、小便器は満員かよ。

これじゃ大便器に行くしかねぇじゃねーか。

…………面倒くせぇ。

 

 

「……………はぁ」

 

 

耳を塞いで、目を瞑って………………

 

 

 

 

 

 

バシャ!

 

 

 

 

 

「………………意外に冷たいな」ビショビショ

 

『あっはっはっは!』

 

『ププッwww』

 

『くっせぇなぁ!www誰か糞してんぞ!www』

 

(してねーのに臭うって事はお前の鼻ん中は糞が詰まってんのか?)

 

『バーカwwwバーカwww』

 

『アーホwwwアーホwww』

 

(バカときたらアホがよく出てくるのはなんでだろーな?)ふきふき

 

『がっこーくんな!』タッタッタッ

 

『邪魔だバーカwww』タッタッタッ

 

『死んじまえ!』タッタッタッ

 

 

足音が遠くなっていったので、トイレの個室から出る。

トイレの中は使ったままのバケツや走っていった時に突っかかったのであろうモップなどが散乱していた。

 

 

(これじゃ誰か虐めたって言ってるようなもんだろ。片付けてから素知らぬふりしてりゃいいんだよ)

 

 

散乱した物を元の位置に戻し、水切りで水を履いてからトイレを出る。

 

 

 

「あ」

 

(あ)

 

「…………何その水」

 

(最っ悪のタイミングじゃねーか……………)

 

「いじめられたの?」

 

「……………違う」

 

「嘘」

 

「違う」

 

「嘘じゃない。僕と話してるのがその証拠」

 

「……………あ」

 

「達也は頭がいいよね?でも僕と話さないと決めてるのに話してる。それは焦ってる証拠」

 

「…………」

 

「………………前田君だよね?」

 

「…………」

 

「僕ね?」

 

「…………」

 

「達也の邪魔になりたくないんだ」ふるふる

 

「…………」

 

「でもね?」ふるふる

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

「…………もう我慢できないよ…………?」じわっ

 

 

 

 

 

「…………」

 

「なんで1人でやろうとするの?」ぽろぽろ

 

「なんでなんとかしようとしないの?」ぽろぽろ

 

「なんで全部隠すの?」ぽろぽろ

 

「なんで頼ってくれないの?」ぽろぽろ

 

「達也はさ、嘘言わないよね?」ぽろぽろ

 

「で、でもさ?」ぽろぽろ

 

「本当の事も言ってくれないよね?」ぽろぽろ

 

「………………」

 

「僕ってそんなに頼りないかなぁ?」ぽろぽろ

 

「そんなに頼りたくないのかなぁ?」ぽろぽろ

 

「僕っていらないのかなぁ?」ぽろぽろ

 

「もう、もうね?」ぽろぽろ

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕、達也が分かんないよ?」ぽろぽろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

「まだ何も言わないんだね」ぽろぽろ

 

(ごめん)

 

「ばか」ぽろぽろ

 

(ごめん)

 

「ばか、ばか」ぽろぽろ

 

(ごめん………っ!)

 

「ばかああぁぁぁぁぁ……、ばかああぁぁ…………」ぼろぼろ

 

 

 

佐藤は泣きながら、行ってしまった。

この時、俺は佐藤を追いかけるべきだったのだろう。

追いかけて佐藤に謝ればよかったのだと。今でも思う。

 

 

 

 

でも俺にはできなかった。

 

 




次回は中学に飛びます。


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幸せの価値観なんて人それぞれだろ?

今回からは中学生編。

間違ったままの二人はそれぞれ成長していく。


兄弟は兄をどう思うのか。


父は何を思うのか。


絆とは存在するのだろうか?





始業式

 

小学校を卒業すると、俺は次の舞台へ移動しなければならない。

可愛らしく無慈悲な攻撃ばかりの時代は終わり、代わりにもっと別のベクトルの攻撃ばかりの時代へ移る。

気に入らないことがあれば泣き喚き、相手に単純に怒りをぶつけるだけが暴力ではなく、陰口や嫌がらせなどの陰湿な攻撃も出てくるのだ。

高校と比べれば可愛いものなのだろうが、それでも小学校よりは甘くないに違いない。

 

そんな下らない予測をしている間に始業式は終わりを告げていた。

 

今は各々のクラスへと移動し、簡単なホームルームが始まっている。

担任の教師が最初に自己紹介をし、生徒へ自己紹介を促す。

 

「えー、今日からお前らを受け持つ事になった、藤原和也だ。1年間よろしく頼む、では、自己紹介を」

 

第一印象は苦労人、と言ったところだろうか。

 

顔を見る限り年はまだ三十代前半ぐらいだろうが、頭髪に白髪が多すぎる。

いい感じに混じっているので染めているように見えるからまだいいが、あれはかなり苦労をしてきたに違いない。やっぱり教師になるのだけは止めておこう。

 

「新井はじめです。趣味は映画鑑賞、特技は英会話です。どうぞよろしくお願いします」

 

お次に自己紹介をしたのはなんともいけ好かない甘いマスクをしたハンサム。

映画鑑賞に英会話教室とは………狙ってるのか?

 

「ーーーーー」

 

「ーーーーー」

 

真也「如月真也です!趣味はバスケ!特技もバスケ!部活動もバスケです!よろしくお願いしまーす!」

 

 

達也「如月達也。以上」

 

海斗「黒井海斗だ………」

 

「ーーーーー」

 

美久「遠藤美久です。趣味は歌う事、特技は演じる事です。よろしくお願いします」

 

「ーーーーー」

 

 

亜利沙「………佐藤亜利沙です。趣味は旅行、特技は剣道です。部活動は居合部と剣道部を。生徒会長を務めてます。どうぞよろしく」

 

 

「ーーーーー」

 

未来「中谷未来です。趣味は踊る事、特技はバスケなの。部活は女バス、よろしくお願いします」

 

「ーーーーー」

 

「ーーーーー」

 

良「野崎………良だ」

 

「ーーーーー」

 

蓮歌「横寺蓮歌です、趣味は寝る事とー………特技はー

………寝る事?部活はやってないでーす。生徒会書記でーす、よろしくー」

 

 

 

 

 

「それじゃあ全員揃ったな?男女別で4人でグループ作ってくれー」

 

 

(これまで通り余るまで待機、かな)ふわぁぁ………むにゃむにゃ

 

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ

 

 

 

 

 

 

亜利沙

 

 

(………………達也は動く気配なし、か)

 

蓮歌「亜利沙ちゃん、一緒にグループ作ろー?」

 

亜利沙「蓮歌ちゃん?いいよ一緒に組もう」ニコッ

 

未来「あー、未来も一緒がいいの!」

 

蓮歌「いいよー」

 

亜利沙「もちろん」

 

未来「よかったのー、未来1人だけ仲間はずれは嫌なの!」

 

美久「…………」オロオロ

 

蓮歌「……ねーねー」

 

亜利沙「どうしたんだい?」

 

蓮歌「あの子さー」ごにょごにょ

 

未来「あ、未来もそう思ってたの!」

 

亜利沙「そうだね。………ねぇ、遠藤さん」

 

美久「ひゃ!…………わ、わたし?」

 

未来「一緒にグループにならない?」

 

美久「い、いいの?」

 

亜利沙「もちろん」

 

 

 

 

 

 

達也

 

 

達也(今日は豚定食かな)ぐうぅぅぅ

 

はじめ「すみません」

 

達也「ん?どうした?」

 

はじめ「いえ、よかったら同じグループになってくれませんか?」

 

達也「あぁ………やめとけ、俺のことは知ってるだろ?」

 

はじめ「いえ、僕も同じ穴の狢ですよ」

 

達也「………………じゃあ2人で待ってるか」

 

海斗「おほん!」

 

達也「いやー、それにしてもお前もあれだな、俺なんかと同じクラスになるとは不運なやつだな!」

 

はじめ「いえ、そんなことは」

 

海斗「おっほん!」

 

達也「いやいやいや、俺の嫌われっぷりは知ってるだろ?なんで俺なんかと」

 

海斗「うおっほん!」

 

達也「ちょ、なんなん?」

 

 

 

海斗「やっと気づいたか!………くっくっくっ、我が名は海斗=ジークフリード……貴様らにいい話を持ってきた…」キラーン

 

 

 

達也「勧誘はお断りだ、あっち行け」

 

海斗「あぁ!待って超待って違うから!」アセアセ

 

はじめ「おそらく、グループに入りたいのでは?」

 

達也「お前もかよ……俺が居るぞ?やめとけ」

 

海斗「ふっ!我と他の者とでは時間の流れが違うわ………」

 

はじめ「おそらく、同類だと言いたいのでしょう」

 

達也「お前もか………………ま、よろしく頼むわ」

 

海斗「ふ!我についてこい!」

 

はじめ「…………後一人ですね」

 

達也「そしてあそこに1人。………おーい」

 

 

 

 

 

 

良「ンぁ?」ギロッ

 

 

 

 

 

 

達也「いや、なんでも無いわ」くるっ

 

はじめ「ちょ、なんで戻ってくるんですか」

 

達也「あの目は筋もんだ………殺られんぞ」

 

はじめ「バカ言ってないで連れて来て下さいよ!」

 

達也「えぇ………まじなん?」

 

はじめ「えぇ、まじです」

 

達也「えー………あの、あれだ、同じグループならへん?」

 

良「…………………おう」

 

 

 

仲間(仮)がさん人増えた。

 

 

 

和也「よーし、それがお前らの最初の班な。女子と男子は後で先生がテキトーに合わせるー」

 

 

はじめ「どうやら、1学期は同じのようですね」

 

達也「だろうよ。逆に班にならないのならこのままグループ分けはただの嫌がらせだ」

 

海斗「うむ、我はこのように少人数の部隊を作るのは好かん…………」

 

良「……………おい」

 

海斗「は、はひ⁉︎」

 

良「なんだァその話し方は?」

 

はじめ「………これはこれは」

 

達也「いや、メンチ効きすぎでしょ」

 

良「……………るせぇ」

 

はじめ「はい」

 

達也「すいませんでした」

 

良「チッ………」

 

 

 

 

達也「まぁ!冗談はこれぐらいにして、だ」

 

 

 

 

はじめ「おや?何か始めるのですか?」

 

達也「この面子、明らかに共通点があるよなぁ?お前は知らんが」

 

はじめ「確かに。僕もそう思ってました」

 

海斗「わ、我とこの人物に共通点⁉︎ないない、そんなのない!」

 

良「………………嫌われてるってことか?」

 

達也「お、意外にわかる?」

 

良「…………………ふん」

 

達也「全員でさ、どんな感じだったのかを言いあおうぜ?」

 

はじめ「………では、僭越ながら僕から言わせてもらいます」

 

達也「おうよ」(お?空気読んだな)

 

 

 

 

 

 

はじめ「この顔で沢山の同性から嫌われました」

 

 

 

 

 

 

 

達也「むかつく程のハンサムだもんな」

 

はじめ「………まぁ」

 

達也「自覚してないのもあれだが自覚してるのもむかつくな」

 

はじめ「おっと、これ以上はあれなので次行きましょう」

 

達也(トラウマ出てきたな………)

 

海斗「我がいこう」

 

良「…………………とっとと話せよ」

 

海斗「は、はい………ええっと………昔からちょっと…………周りにウザがられて………」

 

達也「厨二病はウザがられるもんなぁ」

 

はじめ「女性からも低評価を受けてしまいますしね」

 

海斗「………あ、あいつら………俺の事を、キモいって……」

 

良「いや、きもくはねーな」

 

海斗「!」

 

達也「およ?まさかフォローする?」

 

はじめ「これは…………意外ですね」

 

良「……………キモいヤツはセコイ奴らだ。お前みたいなヤツは個性が強いだけだ」

 

海斗「ほ、ほんとに?」

 

良「……………後は拳で語ればダチぐらい作れるだろ」

 

達也(さてはこいつ友達いた事無いな?)

 

はじめ(バリバリの不良ですね。友達の作り方が異質すぎる)

 

良「…………で?お前はどうなんだ?」

 

達也「ぬ?」

 

はじめ「…………そうですね、僕も気になります」

 

海斗「遠慮はいらん。話してみよ」

 

達也「………そうだなぁ」

 

 

 

 

 

達也「クズな事やってたらクズになってた」

 

 

 

 

 

はじめ「フォローのしようがありませんね」

 

達也「するとこねーもん」

 

良「…………クズには見えねーな」

 

海斗「普通に見えるのだが………我の目がおかしいのか?」

 

達也「いや、いつもクズなわけじゃねーからね?」

 

良「ほう?じゃあクズな時はどんなクズなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

達也のターン

 

 

達也「まず人を信じないな」

 

良「そりゃクズだな」

 

はじめ「いやいやいや、それだけではクズとは言いませんよ」

 

達也「次によく人を無視する」

 

海斗「無視される側としてはきついのではないか?……………我は知らんが」

 

はじめ「えぇ、確かに無視はキツイものです……………本当に」

 

良「無視なんてのは気に入らねえヤツにはして当然だろォが。他にはあんのか?」

 

達也「うーん………あ、一度だけ」

 

 

 

 

 

 

 

達也「親友を裏切った」

 

 

 

 

 

 

 

 

亜利沙「………!」

 

未来「亜利沙ーどうかした?」

 

亜利沙「な、なんでもないよ」

 

蓮歌「なんでもないって顔じゃないよそれ………」

 

亜利沙(裏切っただって?自覚してながらなぜ謝りに来ないんだ⁉︎ていうかそれ全部僕にしてた事じゃないか!)

 

未来「亜利沙の顔………阿修羅みたいなの」

 

美久「私の目には不動明王のように見えるわ………」

 

蓮歌「おっ、美久ちゃんも結構ノリいーねー」

 

美久「わ、私は別に」

 

亜利沙(いつもそうだ!僕が生徒会に入る時に誘おうと思ったのに、生徒会に入りたい男子を呼んできてその隙に僕を避けて!話しかけてもいつも聞いてなかったふりをして!ていうか4年間も聞こえないふりなんかして何のつもりなんだ!)

 

亜利沙(ていうか一度⁉︎数え切れないほどだよ!傷付けられたのなんて!最初の一回だけとでも言うつもりかい?毎日裏切られてるよ馬鹿ッ!)

 

 

 

 

 

はじめ「……………先程からあちらから物凄い形相の女子が見てきますが」

 

達也「気にすんなよ」

 

海斗「わ、我、少し気分後悪くなってきた」

 

達也「風邪でも引いたか?」

 

良「無理あるだろ………」

 

達也「それよりもだ」

 

はじめ「?」

 

達也「俺トイレ行ってくる」

 

海斗「あ、我もゆく!しばし待てい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トイレ

 

 

 

達也「………………ふぅ、戻るか」

 

海斗「…………………そうだな」

 

 

 

 

ペチャクチャ

 

 

「あれ?海斗じゃね?」

 

「あ、マジじゃん、よぉ、海斗www」

 

海斗「お、お前ら………」

 

「まだwwwジークフリードwwwとかwww言ってんのwww」

 

海斗「あ、あの……………その」

 

「聞こえねぇんだけど?え?なになに?」

 

海斗「…………………うぅ」ふるふる

 

「うっはwwwwwwきめぇwwwwww」

 

「ププッ「うぅ」だってさwwwwww」

 

「マジwww厨二きめぇwww」

 

 

達也(なるほど、こいつらか)

 

 

「あれあれ?お隣にいるのはあの『達也』君ですか?」

 

「うっわー厨二と『達也』とかwww」

 

「おいwwwおいwww」

 

達也(多分こいつら電気の紐相手にボクシングやるタイプだな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下

 

 

達也「…………」

 

海斗「……………なにも言わないんだな」

 

達也「何か言って欲しいのか?」

 

海斗「…………」

 

達也「俺はなにも言わんしなにも思わんよ」

 

海斗「…………強いんだな」

 

達也「そうか?」

 

海斗「さっき…………お前は少しも顔を歪めなかった」

 

達也「歪めるポイントあったか?」

 

海斗「あの『達也』って言われてたじゃないか」

 

達也「名前を呼ばれただけだな」

 

海斗「…………俺、もう嫌だよ」

 

達也「何がだ?」

 

海斗「………馬鹿にされるの」

 

達也「ほう」

 

海斗「………………厨二病ってさ、そんなにダメなのかな?」ふるふる

 

達也「………」

 

海斗「厨二病ってだけで馬鹿にされなきゃならないのかな?」ふるふる

 

 

 

 

 

達也「厨二病ってダメなのか?」

 

 

 

 

 

海斗「……………へ?」

 

達也「厨二病が法に触れてるわけではない。そして校則で縛られている訳でもない。………考えたんだがな?ダメな理由がわからん」

 

海斗「……………」

 

達也「馬鹿にされてるってのはな?お前がそう思ってなきゃ馬鹿にされてないんだよ」

 

海斗「で、でもさっき俺の事を笑ってたし」

 

達也「厨二と『達也』。お前の名前は最初しか出てない。そしてあいつらはその言葉を言いながら過呼吸になってただけ。実際何言ってんのか分からなかったしな」

 

海斗「………………」

 

達也「だからお前がなんで泣いてるのか分からん」

 

海斗「………………ありがとう」

 

達也「?」

 

海斗「気が楽になったぞ」

 

達也「…………そうか」

 

 

 

 

 

 

生まれて初めて

 

少しは人を救えたのかもしれない。

 

 

そんな馬鹿な自己満足に浸っていた。

 




名前ありは後から活躍。


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勝手にしてくれ。

さて





お気に入り600超えました。






このような駄文を気に入ってもらえてとても嬉しく思います。
評価は高いものから厳しいものまで沢山ありましたが…………
とりあえずコメントには全部返信します。

これから頑張る上でお願いしたいのですが

みなさんの体験、お教えいただけませんか?





ネタが尽きそうで………………



どうやら黒井はいじめられていたらしい。

 

 

厨二は一年の頃からあったようで、その頃は今よりも酷かったらしいが……

にしても中学ってのは恐ろしいもんだ。

 

自分と違うだけで攻撃の対象にする。

自分達の作ったノリに合わせられない奴は敵、そいつは異常、そいつは普通じゃない。

だから攻撃してもいいものだと思い込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかもこのノリ、高校でも続くんだよなぁ………

 

流石に社会だとこのノリは些か合わない物があり、自然と消える。

 

 

人間、環境が変われば自分も変われるなんて事はない。

 

 

新たな環境でも、同じような別のノリがあってそのノリに潰される。

この問題をどうにかするには二つ。

 

 

一つ、誰もいないところでひっそりと暮らす。

 

一つ、近寄られないタイプの人間になる。

 

 

どっちかを選べば簡単にこの問題は解消できる。解決はできんがな。

そして人間は簡単に自分を変えられない。

 

初めて自分を変える場合、それは13年間の自分を否定するようなものだ。

 

お友達を作ろう!

そんなもの友達のいなかった者にしたら因数分解よりも難しく、親の心情よりも理解しがたい。

 

共通の話題を探そう!

話す事自体が難易度の高い物だと分からんのか?

 

新しい自分を見つけてみよう!

今の自分を否定されてる状態で新しい自分を見つける事自体が難しいのに、見つけた自分をまた否定されたら立ち直れなくなるかもしれんぞ?

 

外へ出て遊ぼう!

中で遊ぶ事を否定するのか?そして一人で遊んでいたら外でも虚しくなるだけだ?一人以外で遊ぶことができれば中でもみんなと仲良く遊べるだろうよ?

 

 

 

こういう『いじめアンケート』マジで意味ないと思うぞ。

 

 

 

虐める側と虐められる側

 

この二つはもはや別の次元で物事を考えている。

 

虐められる側にとっては

普通の生活を送りたいのに知らない連中が自分の日常を邪魔する。

 

虐める側にとっては

自分の視界にからかったら面白そうな奴がいるからとりあえずからかう。

 

関わってほしくないのに攻撃される。

 

面白い反応が見たいのに周りはそれを批判する。

 

 

 

 

 

本当にくだらない。

 

 

 

 

未来「ねぇ、達也君」

 

達也「どうした?」

 

未来「今日ね?未来たち親睦会開くんだけど達也君達もこない?」

 

達也「悪い、用事がある」

 

未来「ええぇ?他の日じゃダメなの?」

 

達也「無理だ」

 

達也(本心で誘ってるから面倒くさい………向こうよりは楽だがな)

 

「………あー、お前今日の合コンくんの?」

 

はじめ「………いえ、今日は用事があるので僕は」

 

「ふーん………………じゃ」

 

達也(おい中谷、どうやら男子勢は親睦会じゃなくて合コンのつもりらしいぞ。ていうかその聞き方、まるで『お前は今日の合コンこないよな?まさかとは思うけどえっ、くんの?』に聞こえるぞ?実際そう聞いたんだろうけどよ)

 

海斗「…………」そわそわ

 

「なぁ、今日のアレ、誰ねらい?」

 

「おれ未来」

 

「俺会長だな」

 

「お、おう。全員違うじゃん!頑張ろうぜ!」

 

海斗「…………」ショボン

 

 

達也(誘われるのを待ってても誘われない。かなりきついよな。黒井は合コン、というか親睦会とか意外に興味あるっぽいし。それとあいつ、誰かと狙い目被ったな。目にみて動揺してるし)

 

達也(つかそれで嘘ついて後で泥沼とか考えないのか?………………薄っぺらいな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親睦会改、合コン

 

 

「はーい!じゃあ飲み物頼もうぜー!」

 

「俺コーラ!」

 

「ファンタがいい!」

 

「オレンジ!」

 

「メロンソーダね!」

 

 

「か、会長は何がいい?」

 

亜利沙「………僕は後で頼むからいいよ」

 

「そ、そーかー」

 

 

 

未来「未来、カルピスがいいの!」

 

「おっ?未来ちゃん俺と一緒じゃん!」

 

未来「え、そう?」

 

「本当本当!これって………運命的な?」

 

未来「飲み物被っただけで大袈裟なの!」

 

「あっはっは!」

 

 

蓮歌「えぇっと………」

 

「蓮歌さん、決まった?」

 

蓮歌「ま、まだ…………」

 

「決まったら言ってね?」きらーん

 

蓮歌「う、うん、ありがとう………」

 

 

達也「………………」(帰って寝たいな………)

 

美久「…………あ、あの」

 

達也「ん?どうした?」

 

美久「何にするか………決まった?」

 

達也「烏龍」

 

美久「あ、じゃあ私もそれで………」

 

達也「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後

 

 

「つかさー?しょーじき達也くると思わなかったわー」

 

達也「あ?」(佐藤の目が怖かっただけだがなにか?)

 

「いやだってさー?分かるっしょ?」

 

「それなー」

 

「ビビったわー…………いやマジで」

 

未来「そ、そんな言い方ってないと思うの」

 

「でもなぁ?」

 

亜利沙「………これは親睦会だからね。来ても問題ないと思うけど?」

 

「いやいやでもほら、あれじゃん?親睦会っつてもこない奴インじゃん?」

 

蓮歌「………ダメなの?」

 

「そんなことないよ蓮歌さん。ただね?ちょっと意外だなーってことさ」

 

美久「でも、会話はとても楽しかったわ」

 

「あれ?ひょっとして惚れちゃった系?」

 

美久「そ、そういうわけじゃ」

 

 

 

 

「マジで?すげぇじゃん!」

 

「告っちゃえよ!ほらほら!」

 

「大丈夫だって!ほら達也も!」

 

 

 

 

 

美久「えっと、あの」オドオド

 

未来「はいはい、この話はもうやめーなの!」

 

亜利沙「僕、つくねが食べたいな」

 

「!か、会長!これどうぞ!」

 

「ありがとう」にこっ

 

蓮歌「カラオケいっちゃおー!ほら、美久も」

 

美久「う、うん」

 

「蓮歌さん、僕と歌わない?」

 

蓮歌「私の隣は美久だけー」ぎゅ

 

達也「俺、帰るわ」スタッ

 

未来「えー?帰っちゃうのー?」オロオロ

 

「いんじゃね?」

 

「おつー」

 

「じゃあね」

 

亜利沙「…………僕も帰ろうかな」ゴゴゴ

 

「か、会長はまだ早いって!」オロオロ

 

蓮歌「美久ー、どうするー?」

 

美久「蓮歌が残るなら………」

 

 

 

 

達也「じゃあの」ガラガラ、ピシャ

 

 

 

 

 

((((かえっちゃった………))))

 

(((やっと帰った!)))

 

 

 

 

 

親睦会、ね……………時間の無駄だったわ

 

 

 

佐藤、怖かったな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

 

達也「うぃーす」

 

未来「あ、達也君!」トタタタ

 

達也「朝っぱらからうるさいな」

 

未来「昨日なんで帰っちゃったの⁉︎あの後大変だったの!」

 

達也「………………一応聞くけど、なんで?」

 

未来「他の男子が……………ちょっと」

 

達也「あぁ…………」

 

未来「未来の前の子なんてアレしたいだなんて………」カァ

 

達也「この年頃の野郎は猿だからな」

 

未来「ほんっとになんで帰ったの⁉︎」

 

達也は 「あの状況で逆に残れると思ったの?」

 

未来「だからフォローしたはずなの!」

 

達也「そのフォローは意味をなさない。なぜなら既に奴らは俺の事を邪険に思っていた筈だからな」

 

未来「………酷いの」

 

達也「悪かったよ」

 

亜利沙「僕にも説明して欲しいな」ゴゴゴ

 

達也「…………………」

 

亜利沙「なんでこっちを見ないの?ねぇ?」

 

達也「…………………」 さらさら

 

亜利沙「質問に答えて欲しいんだけど?」

 

達也『トイレ行ってくる』ダダッ

 

亜利沙「逃げるなぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トイレ

 

怖いよ普通に……………あの反応は無いよ。

こうして個室にいないと中にまで入ってきそうだからな。

 

 

 

「つかよ」

 

「あ?」

 

「昨日マジなかったよなぁ」

 

「それな」

 

「達也来たしwww」

 

「マジ笑えねぇって………あいつ自分と俺らの差を理解してねぇんだよ」

 

「普通こなくね?」

 

「マジ馬鹿なんだよあいつ」

 

「いじめられっ子は頭も残念なんだなwww」

 

「会長食えなかったし……………マジうぜえ」

 

「ご愁傷様w」

 

「お前は?中谷とはどうだったのよ?」

 

「殴られたwww」

 

「だっせwwwうわwだっせwww」

 

 

 

中坊のうちから童貞を捨てたいとか………妊娠の怖さを知らんから言えるんだな

 

 

「………やっちゃう?」

 

「達也?」

 

「ほら、去年は大丈夫だったらしいじゃん?」

 

「なんかあいつ、先公にチクらねぇらしいぜ?」

 

「いけるいける、ちっと懲らしめてやるか」

 

「俺らって優しいねー、馬鹿にきちんと教えてあげるなんてさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス

 

 

達也(蜘蛛の糸…………マジ面白い)ペラ

 

「おっと」ゲシッ

 

達也(本が⁉︎)

 

「悪りぃ、気をつけるよ」くす

 

達也「お、おう」(ページがわからなくなっちまった………)

 

「馬鹿みてえwww」

 

「次はさ………」

 

 

 

 

 

 

達也(そろそろ席着いとくか………)

 

 

「よいしょ」すわり

 

「そぉれ!」椅子引き

 

達也「うおっと」ドシン!

 

「www」

 

「ぷくく………大丈夫か?ぷっ!」

 

達也「おう」

 

達也(とりあえず把握)

 

 

 

 

 

 

 

 

掃除

 

 

 

達也「面倒だな……」さっさっ

 

「達也!これ捨てといて!」ゴミ

 

「これもこれも!」ドサドサ

 

達也「おうよ」(………俺の筆箱の中身か)

 

「後これな!」どさっ

 

達也「おー、わかった」(極め付けは鞄ね)

 

 

 

 

 

 

 

 

達也(拾っておくか)

 

 

 

 

 

 

 

 

帰りのホームルーム

 

 

達也「全部持って帰るか」

 

「あれー?達也、何ゴミなんて使ってんのー!」

 

「俺らが捨ててやった筈じゃーん!」

 

達也「最近リサイクルにはまっててな」しまいしまい

 

「新しいの買ってもらえよー!」スタスタ

 

「俺らのクラスでゴミ出すなよなー?」スタスタ

 

達也「気をつけるよ」

 

達也(………鞄まで捨てたら気づかれんだろ。ごみ捨て場に新品の鞄とか大胆すぎるわ)

 

はじめ「おや?」

 

達也「…………面倒くさ」

 

はじめ「達也さん、何をしてるんですか?」

 

達也「荷物をしまってる」

 

はじめ「明日必要な絵の具セットまで…………まさか」

 

達也「その時が来てしまってな」

 

はじめ「なにかフォローしましょうか?」

 

達也「特にいらん」

 

はじめ「……………見つけたら取っておきましょう」

 

達也「いらんと言うに」

 

はじめ「僕が勝手にやるんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

prrrrrrprrrrrr!

 

達也「メール?…………佐藤か」

 

亜利沙『これを見てごらん』

 

達也「ん?Twitterか………」

 

 

 

『俺らのクラスにゴミを背負う馬鹿発見!』画像

 

『見よ!ゴミ捨て場からペンを拾って使う貧乏人の姿を!』画像

 

 

 

達也「担任も苦労するわな………こりゃ」

 

 




眠い…


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どうしようもないだろうな。

久しぶりの妹ちゃん。

ちょっと忘れてたので出します。


 

 

部活

 

「じゃあ今日はここまで!解散!」

 

「「お疲れ様でしたー」」

 

咲「…………はぁ」

 

 

今日も部活が終わり、うんざりする時間が始まる。

 

最近は大会も近いので、6時頃まで学校に残る事が多い。

だから早く家に帰らなくていいんだけどね。

私達中学生は部活がおわるとまっすぐ家に帰らなければならない。

…………偶に寄り道もするが。

 

だが私の場合は違う。

 

学校から帰ると、父を迎えに行かなければならない。

兄が家を出て行ってからというもの。

 

私の家は変わってしまった。

 

 

 

 

 

 

父が連れてきた女性は子供嫌いだった。

 

 

 

 

 

 

あの頃は私もまだ小学二年生で、お兄ちゃんが受けてきた仕打ちがどんなに酷いものかを知らなかった。

料理とは自然と出てくるものだと思っていた。

だから朝も昼も夜も、誰が作っていたのかなど考えもしなかった。

 

掃除は汚れてからするものだと思っていた。

実際は毎日汚れていたのに。

 

誕生日は祝われて当然だと思っていた。

兄が祝われたところは見た事が無いが。

 

 

 

「……………はぁ」

 

 

自然と溜息がでてくる。

 

兄といればまだ気が楽になる。

このどうしようもないモヤモヤを分かち合えるのだから。

だが兄とは学校が違う。

 

父が私を私立の女子中学に入れたばっかりに。

兄から聞いた話ではもう一人の兄も同じ中学にいるらしい。

 

…………………こればかりは本当に父を恨む。

 

 

 

 

 

 

 

今日もまた、父のところへ行く為に電車に揺られ、会社の前まで向かう。

 

父はあの女の人とあまり上手くいってない。

そこから精神をやられてしまい、誰かがいないと挙動不審になってしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

会社前

 

 

咲「………………遅いな」

 

 

既に8時を回っている。

 

 

浩太「ごめん!遅れちゃって!」

 

咲「もう!遅いよお父さん!」

 

浩太「ごめんね?会議が長引いちゃって………」

 

 

会議が無い事も知っている。

こんな遅い時間まで会議がある筈がないと、昔に兄が言っていた。

 

父は会社のかなりいいスポットにいる。

 

どこかで誰かと遊んでいたのだろう。

今の今まで会議をしていたと言うならネクタイも緩んでいるはずが無い。

ベルトも一つ穴を通していない。

朝はすべて通したのに。大方予測はつくけど……………不潔だ。

 

 

 

浩太「咲!どこかで飯でも食べていくか?」

 

 

名前で私を呼ばないで欲しい。

不快な気持ちで一杯になって、つい嫌味を言ってしまう。

 

 

咲「今日はあの人がご飯つくってるんでしょ?」

 

あの人が今日もいない事は知っているのに。

 

 

浩太「……………母さんは今日用事があるらしいんでな」

 

 

父もあの人が他男のところへ行っているのを知っている。

だけれどその事は言わない。

私が中学生っていうこともあるとは思うけど、1番は自分のプライドの為だ。

再婚相手が堂々と浮気をしてるなんて実の娘にばれたら恥ずかしいどころの話ではすまない。

 

 

咲「…………またか」

 

浩太「だ、だから今日は父さんとご飯を食べよう!な?」

 

咲「兄さんは?」

 

 

せめて兄さんを道連れにしよう。

一人でこのろくでなしの相手なんてとても耐えられない。

こちらの機嫌を取ろうといちいち間に触ることばかり言うのだから。

 

 

浩太「………連絡するか」prrrrrr.prrrrrr!

 

真也『父さん?どうかしたの?』

 

浩太「いや、今日はご飯を食べに行こうと思ってな?」

 

真也『……………今日は兄さんと食べるから』

 

浩太「そ、そうか」

 

真也『………………じゃ』プツッ

 

浩太「………真也は達也と食べるってさ」

 

 

当然だと思う。

私でさえお兄ちゃんが受けてきた仕打ちと私たちとの差に感づいているのに、兄さんが気づかない筈がない。

正直、隣にいるだけでも吐き気がする。

お兄ちゃんがしてきた事を考えてこの人を不幸にしたいという思いがないことには気がついた。

だから我慢してこの人の世話をしているが、とても一緒に食事を取ろうとなんて思えない。

 

 

浩太「どこにする?」 にこっ

 

 

それなのにこの人の中では既に食事に行くのは決まっているようだ。

 

気持ちの悪い笑顔を向けないで欲しい。

この人はこの気持ち悪い笑顔をしながらお兄ちゃんに拷問をしていたのだ。

この貼り付けたような下品な笑顔で私たちとお兄ちゃんを差別したのだ。

 

 

とてもお気楽な頭をしていると思う。

一度頭の中を覗いてみた………くはないけど。

 

これ以上この笑顔を向けられていたら私はどうにかなってしまう。そう思い、慌てて特に何の意味も無く、嫌がらせの為に高いものを買わせる。

 

 

咲「…………………お寿司を食べたい」

 

浩太「そ、そうか!じゃあ食べに行こうな⁉︎」

 

 

食事に行くことに肯定的な返答をしただけでこの喜びようだ。

本当に底の知れた人間だ。

薄っぺらくて、矮小で、つまらない人間だ。

 

 

 

 

 

 

寿司屋

 

ある日の放課後のこと

真也は何度も説得して粘った上、ようやく兄と初めて食事に行けることになった。

もちろん達也は納得していなかった。

既に自分は校内でも数少ない嫌われ者である。そんな自分と真逆の真也が一緒にいることを他の知り合いに見られたりしたらどうなるかわかったもんじゃない。

自分と関わらせることで相手を不幸にすることだけは嫌なのだ。

 

 

真也「兄さんはこんな所でいつも食べてるの?」

 

達也「なわけあるかよ………お前が食べたいって言うから連れてきてやったんだぞ?」

 

真也「僕は兄さんと一緒ならどこでもいいんだけど………」

 

達也「やめろ気色悪い……お前は新井かよ」

 

「新井君はこういうことするの?」

 

達也「冗談だよ。つーかもうやめろよな?校内で話しかけんのは」

 

真也「…………やだよ」

 

達也「やめろっての」(ここで折れて欲しいんだが……)

 

真也「僕は兄さんの弟さんだよ?話しかけて何が悪いのさ」

 

達也「それが分からんお前じゃないだろ?こうして外で食事をするのも嫌なんだ」(やっぱり俺の弟か。その程度で折れるような意志は持ってないらしい)

 

真也「……………ねぇ、家に戻ってきてよ」

 

達也「そんなに嫌か?新しい母さんは」

 

真也「………………うん」

 

達也「咲は?」

 

真也「咲は優しいから………あの人にいじめられてる」

 

達也「お前が助けてやらんでどうする」

 

真也「無理だよ………体が動かないんだ、あの人の前だと」

 

達也「……………親父は?」

 

真也「他の女の人を作ってる。僕の知らない所で」

 

達也「なんでしってんだよ」(まさか………手を出されたんじゃないだろうな?)

 

真也「匂いがするからね」

 

達也「…………………はぁ」

 

 

 

面倒だ。

 

こういうのは本当に一番悩ましい。

 

 

親父が未だに暴力を振るうなら帰ればいいだけの事。

それをできないほど弱ってるとはな………やっぱりそんなに強い人じゃなかったか。

 

ドラえもんでも一番怖いのはのび太が潰れる事じゃない。

のび太は雑草だ。

どんなに踏まれても必ず次の日には元どおりだ。

根元から直接刈り取られなければいいだけの話だからな。

 

一番怖いのはジャイアンが倒れた時だ。

ジャイアンは暴君だ。

暴力を扱うのは得意だが、暴力の対象になる事には弱い。

故に一度倒れるともう立ち直るのは望めない。

 

その時のび太はどうするのか?

 

倒れたジャイアンを踏みつけるか?関係ないと無視を決め込むか?

 

どちらでもない。

何もできずにモヤモヤしたままいるだけだ。

 

強い存在に虐げられていた存在は、強い存在の衰弱を見ても何もできないものだ。

 

強いという事は一種のカリスマを持っているという事で。

 

衰弱したという事は見るに耐えない状態だという事で。

 

そんな父を見ても俺は虚しくなるだけだ。

 

 

 

達也「………今日、ちょっと行くか」

 

真也「本当に⁉︎」

 

達也「見にいくだけだ」

 

真也「ありがとう兄さん!」ぎゅ

 

達也「ええぃ!暑っ苦しい!」(………でも、こんな抱擁も初めてなんだよな)

 

 

 

 

 

咲「に、兄さん?」ガタガタ

 

浩太「真也………」

 

 

 

 

 

 

 

達也・真也「「………あ」」

 

 

 

 

 

 

 

咲「兄さん!」だだっ

 

達也「………図ったな?」

 

真也「違う!………父さんとなんて」しゅん

 

達也「分かったよ。もういいよ………」

 

咲「兄さん!どうして私も誘ってくれなかったの⁉︎」

 

真也「咲は父さんと食べるんだろ?」

 

咲「こんなに近くにいるなら合流すればいいでしょ⁉︎」

 

真也「でも」

 

咲「でもじゃないよ!いつも私にばっかり押し付けて!どうしていつもいつも私ばっかり」

 

達也「やめとけよ」パクッ

 

咲「で、でも!」

 

達也「親父見てみろよ」

 

浩太「えっ、えと、俺は別に………」

 

達也「その真っ白な顔じゃ説得力皆無だけどな」

 

咲「あ………と、父さん」

 

達也「もういい。喋るな」

 

浩太「…………」

 

達也「……………………座れよ」

 

浩太「あ、あぁ」

 

咲「………うん」

 

真也「いいの?兄さん」

 

達也「………家族だしな、一緒の席に着くぐらい普通だろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テーブル

 

 

達也「で?何にする?」

 

咲「…………」

 

浩太「…………」

 

達也「座って何も頼まないんじゃつまらんだろ?親父も、咲も」

 

咲「えと………茶碗蒸し」

 

浩太「父さんはまだいいよ………」

 

達也「真也、お前は?」

 

真也「食べる気分じゃない」ツーン

 

達也「…………はぁ」

 

 

 

 

 

 

 

達也「何がしたいんだよお前ら」

 

 

 

 

 

 

 

真也「…………兄さんは何も思わないの?」

 

達也「何もない」

 

真也「だって父さんは虐待を!」ガタッ

 

達也は「俺はそうは思ってない」

 

真也「はぁ⁉︎あれはどう考えても虐待でしょ⁉︎」

 

達也「落ち着けよ………店内で騒ぐな」

 

真也「はっ!…………ごめん」

 

達也「………お前は頭に血が昇るのが早いんだよ」

 

真也「うん……気をつける」

 

咲「で、でも兄さんは」

 

達也「好きに呼べよ。兄さんじゃややこしいだろ?」

 

咲「………お兄ちゃんは父さんをどう思ってるの?」

 

達也「感謝してる」

 

咲「え」

 

真也「え」

 

浩太「…………………えっ?」

 

達也「感謝してるって言ってんだよ」

 

咲「嘘でしょ………?」

 

達也「嘘をつく意味がないしな」

 

咲「…………おかしいよ」

 

達也「ンなもん13年間生きてきてとっくに知ったよ」

 

咲「父さんは………?何も言わないの?」

 

浩太「……………………俺は」

 

達也「今、謝る必要はないから」パクッ

 

浩太「……………なぜ?」

 

達也「今の俺はさ」

 

 

 

 

 

 

達也「辛気臭ぇ顔でしたくもない謝罪をされて、食事の気分を害されたくないんだよ」

 

 

 

 

 

真也「そんなことで………?」

 

達也「そんな事とはなんだ弟よ。いいか?過去の過ちよりも今の食事だ」

 

咲「……………馬鹿みたい」

 

達也「妹よ、確かに俺の成績は低空飛行真っ只中だが、唐突にその事実を告げる必要はないと思うんだ」

 

咲「………………もういいよ」

 

達也「そうか」

 

咲「お兄ちゃん」

 

達也「なんだ?」

 

 

 

 

咲「うちに戻ってきてよ」

 

 

 

 

達也「………なんでまた?」

 

咲「もう」

 

咲「もうやだよ………」ふるふる

 

達也「……………はなしてみろ」

 

咲「うん」ふるふる

 

達也「……………」

 

咲「あの人ね?最近、男の人を連れてくるの…………」

 

浩太「…………本当か」

 

真也「父さんは黙ってて」

 

浩太「でも」

 

達也「親父、あんたの話は後だ」

 

浩太「……………」

 

咲「それで、その人、私の事、いやらしい目で見てきて」ふるふる

 

達也「……………」

 

咲「この前、あの人、買い物、行った時、腕掴まれて、いいだろって」ボロボロ

 

達也「………真也」

 

真也「………………知らなかった」

 

咲「わたし、怖くって、それで」ぽろぽろ

 

達也「もう喋らんでいい」

 

咲「う、うん……」ぐすっ

 

 

 

 

達也「もういい」ぽんぽん

 

 

 

 

浩太「…………」

 

達也「それで?親父は何か言う事はあんの?」

 

浩太「………母さんは」

 

達也「?」

 

 

 

 

 

こうた「母さんは寂しいだけなんだよ」

 

 

 

 




この後、父にかなりイラつくでしょう


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何を望むんだ?アンタは

父親と、ある意味衝突。


 

 

浩太「母さんは寂しいんだよ」

 

真也「…………は?」

 

浩太「最近、みんなで食事とかしてないだろ?だから母さん、ちょっと出来心で他の男に引っかかっちゃったんだよ」

 

真也「何言ってるの……?父さん?」

 

浩太「俺も最近、母さんと話してなかったし……もっと母さんの事を分かってあげるべきだったな。………よし、母さんをここに呼ぶか!」

 

 

達也(継母をここに呼ぶ。話を聞く限り咲も真也もその継母とはうまくいっていない。そして親父との夫婦仲も上手くいっていない。さらに家に他の義理とはいえ娘に手を出すようなタチの悪い男を呼ぶ男グセの悪さ。そんな継母を呼んで何になるんだ?)

 

達也(そして継母の事を名前ではなく母さんと呼ぶ、つまり二人に継母を母親のこととして認める事を強要してる形に近い。向こうは最初から子供嫌いだったはずだ)

 

達也(末期だ…………真也と咲じゃ手に負えない)

 

 

浩太「その男が母さんを騙してるんだよ……………うん、その男が悪いんだ」

 

 

不気味な程の父のその笑顔は二人には害しか及ばさないだろう。

 

 

達也(それだけじゃない。継母に依存し、相手の男に全ての罪をなすりつけている。つまり親父の中では)

 

真也「待ってよ父さん、じゃあ父さんはあの人は悪くないって思ってるの?」

 

浩太「何言ってるんだ真也?悪いも何も」

 

 

 

 

 

 

 

達也・浩太『「母さんは騙されてるだけだ」』

 

 

 

 

 

 

 

咲「………………」

 

咲は何も言えなかった。

考えが甘かった、咲の中ではもう夫婦仲は冷めきっているのだと思っていた。

だが実際はもっと悲惨なものだ。

継母は最初からこの人の事を愛してなどいなかった。

この人が勝手に依存していただけ。

 

こんな簡単で、可哀想な事実だったのだ。

 

 

真也「父さん………」

 

 

真也は達也が家を出てからというもの、毎日父親に対して怒りを感じていた。

なぜ兄を追い詰めたのかと、なぜ自分達だけ愛したのかと。

けれど今、真也は父親に怒りを感じていない。

ただ哀れに思っていた。この人はおそらく誰からも愛されていない。

愛されているように見えていただけ。

 

こんなピエロのような父親がいるのだろうか。

 

 

達也「…………………………まぁ、あれだ」

 

浩太「…………」

 

達也「俺の部屋空いてる?」

 

咲「!」

 

真也「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

如月家

 

 

真也「兄さん!ここが僕たちの部屋だよ!」

 

咲「こっちがわたしの部屋だよ!」

 

真也「こっちが僕の部屋!と言ってもカーテンで仕切ってるだけなんだけどね!」

 

達也「ちょ、うるさ」

 

長年の別居生活がようやく終わったからなのか、咲と真也は高いテンションで達也に部屋を案内する。だが

 

ドンッ!

 

 

咲・真也「「ひっ」」

 

 

唐突に隣の部屋から壁を殴るような音が聞こえる。

と言ってもうるさいなんて程度ではなく、壁をぶち破るような大きな音だ。

 

 

達也「……………ん?この家ってアパートじゃないよな?」

 

咲「うん。………隣はあの人の部屋」

 

達也「親父はどこにいんの?」

 

真也「……………車」

 

達也「………つまりあれか?親父は今奥さんの浮気相手に家を譲っていて、自分は車の中で生活していると?」

 

咲「う、うん。朝とか、あの人たちが起きてない時に家に入ってきて、支度とかしてる……」

 

達也「くだらねーなぁ………情けないねぇ」

 

 

 

達也「………………いまその母さんの相手はいんのかね?」

 

 

 

咲「多分、今叩いた人………」

 

達也「ふーん………」スタスタスタ

 

 

今、達也はほんの少しだけ怒りを感じていた。

自分が責められるのは慣れている。

自分に対する攻撃は精神的でも物理的でも、耐えることさえできればなんとかなる。

だが自分以外の人間となると話は別だ。

 

人間は脆い。

自分のように精神がおかしい人間でもなければ、ちょっとした攻撃でも簡単に崩れてしまう。

 

精神が不安定な父親、精神が未熟な妹、精神が未熟な弟、家族の生活を脅かすような輩はどうにも気に入らない。

 

 

 

 

 

達也「失礼するぞー」ガチャ

 

 

 

 

翔「んだテメェ⁉︎」ガバッ

 

継母「ちょっと何入ってるの⁉︎」

 

翔「うっわ……取り込み中かよ。……………にしても」

 

 

かつて自分が使っていた部屋とは思えないくらいに変わり果てている。

壁には下品な雑誌の切り抜きや下劣な写真、くだらない落書きに殴った跡。

 

そういう事に使う道具や避妊具は散乱し、ゴミも手伝って足の踏み場がない。

香水と整髪料が混ざったような鼻を劈く強烈な刺激臭で部屋が満たされていて気分が悪くなってくる空気。

ろくに手入れもしてない化粧品や洋服、そして貴金属。

 

どうやら本当にロクでもない使い方をしていたようだ。

 

 

 

達也「単刀直入に言う。出てってくれ」(ん?この男………あ)

 

 

 

翔「あぁ⁉︎テメェ誰だぁ?」

 

継母「ちょっとこいつ、………前に出てったガキじゃない」

 

翔「へぇ………おいガキ、殴られたくなきゃ俺の家から出てきな」パキポキ

 

達也「俺の家………ね」

 

翔「オラあっ!」ドスッ

 

達也(メリケンか………痛いなこりゃ)

 

男は容赦なしに全力で達也の顔に拳を叩き込む。

まるで小学生が後の事を考えないで殴るようにメッタメタに。

 

「オラオラァ!」ズガッバキッドガッグキッ!

 

 

 

 

おそらくホスト崩れか何かをしているのだろう。

香水臭い服、女受けする細い筋肉質の身体、そして気に入らん髪型、喧嘩慣れした拳。

 

それにしてとしてもメリケンで中坊の顔を殴打するのは酷過ぎやしないだろうか?

 

俺じゃなかったら軽く気絶してるな。

ま、気絶したほうが楽かもしれんが。

 

 

翔「はぁはぁ」

 

達也「…………ふぅ」(タバコなんて吸ってるからすぐに息が上がる。アルコールの匂い、酒もかなり飲んでるな。しかもこれは………流石にアウトだなこれ)

 

翔「参ったかよ⁉︎あぁ⁉︎」

 

達也(ん?………叫べばビビると思ってんのか?)

 

継母「翔くんかっこいい!」

 

達也(新しい母さんはまだ30にもなってねぇってのに………もうホストに入れ込んでんのかよ)

 

翔「でてけオラッ!」

 

達也「いやそういうわけにもいかないんでね」むくり

 

達也は何事もなかったかのように起き上がる。

それもそのはず、度重なる拷問の末、達也は自分の体の痛覚を遮断できるようになったのだ。

 

 

翔「ウォッ⁉︎な、なんだよお前!」

 

達也「アンタさ?警察呼ばれたらどうなると思う?」

 

継母「はぁ?何言ってんの?意味わかんないんだけど!」

 

 

達也「浮気してて?男連れ込んで?子供殴って?それで?挙句の果てに未成年と寝るとか…………何年刑務所での生活を望んでんの?」

 

 

継母「そ、それは」

 

達也「アンタもだぜ?アンタ………………今17だろ?先輩」

 

翔「……………お前、『達也』か」

 

達也は「気づくの遅えよ」

 

 

この翔という男、実は達也の元先輩である。

 

というのも既に女絡みの揉め事を起こして退学したのだ。

中学生の女の子を妊娠させ、その上中絶できなくなるほど育つまでその事を黙っていた。

その他にも色々やんちゃを続け、地方のホストクラブで拾われたのだ。

 

 

達也「一年間面倒見てくれたじゃねぇか」

 

翔「あれは」

 

達也「あーいいから、別にアンタの飲酒喫煙を注意とかする気はないし、危ない薬も俺は見てねぇから」

 

達也は 「それと…玉木先輩は一人で育てるってさ。たまに手紙来るけどな?相談とか」

 

翔「…………」

 

達也「……………まだいんの?」

 

翔「……冷めた、帰るわ」

 

継母「待ってよ翔くん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

真也・咲の部屋

 

 

咲「………お兄ちゃん!」

 

真也「兄さん……!こんなに傷が!」

 

達也「救急箱ある?」

 

咲「待ってて!すぐ取ってくるから!」たったった

 

真也「…………あの人は?」

 

達也「男追って出て行った」(そのうち金目当てにまた来るだろうけどよ)

 

真也「………聞いてたよ」

 

達也「そっか」

 

真也「話してよ………」

 

達也「………………去年さ、いじめられてたんだわ」

 

真也「知ってるよ…………クラスが違ったからあんまりよくは知らないけど」

 

達也「あの先輩かなりヤバイ感じの連中とつるんでてな………ま、薬とか出てきた辺りからビビってあんま近寄んなかったけど」

 

真也「そんな怖い人が………」

 

達也「そんでさ、偶に呼び出されて色々とやらされてたわけよ」

 

真也「………どんなのを?」

 

達也「色々だな。3階から飛び降りたり、吸い殻とウォッカが混ざったジョッキを一気飲みさせられたり、トイレの個室で肺活量計ったこともある」

 

真也「…………………すごいね」

 

達也「まだいいほうだったよ。流石にバイクに引きずられた時は死ぬかと思った」

 

真也「うわぁ…………」

 

達也「あとあれだ、本を破られた時に一度ショックで先輩がたの話を聞き逃しちゃってな?その時にお仕置きで身体を固定したまま車に腕を繋がれて引っ張られた」

 

真也「………………それどうなったの?」

 

達也「肘と肩の関節が外れた時に悲鳴で警官が来た」

 

真也「………………だからそんな傷があるんだ」

 

達也「見てみる?一応手術して消したんだけどな………」

 

真也「……………辛くない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

達也「何も辛くない」

 

 

 

おまえらがいるからな

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ほら、簡単だろ?

学校に戻ります。

本格的ないじめが始まります。


学校とは学ぶ校舎と書く。

 

その名の通り、学生達は何かしら物事を学んで覚える為に足を運ぶ。

また、学校生活というものはそれなりに金のかかる所だ。

 

文房具、体育着、給食費、絶対ではないが修学旅行の金も必要である。

 

靴、靴は内履きと外履きの2つがある。

 

またどちらも高い。だから

 

 

 

 

 

 

 

靴を切り裂かれるのは経済的に大打撃である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也(本格的にきたな………原型とどめてないぞこりゃ)

 

 

そして俺が来るのを甲斐甲斐しく待ってたのかクラスメイトABよ。

下駄箱が見える所で見てたら俺にも見えるんだぞ?

 

 

達也(買い直すにしても面倒くさい…………真也に頼むか)

 

???「よぉ!達也!元気か?」

 

???「早く内履きに履き替えたらどうだ?ぷっw」

 

達也「いやー、それがな?俺の靴は俺を嫌ってグレてしまったようでな」

 

???「ププッwwwグレるとかwww」

 

???「おもしれーよこいつ!バーカwww」

 

達也「はっはっは。じゃあ、教室行ってるわ」スッ

 

達也(予備あるし問題ないんだなこれが。悪いな)

 

???「………………ちっ」

 

???「予備とか……………わらえねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

数学

 

 

先生「では、この問題がわかるものはいるかな?」

 

???「せんせー!達也がわかるそーでーす!」

 

先生「本当かね?では達也君、答えなさい」

 

達也「ーーーですか?」

 

先生「違いますね。正解はーーー」

 

???「……………」むすっ

 

???「んだ?あいつ……………ちっ」

 

 

 

亜利沙「大丈夫かい?」こそこそ

 

達也『生徒会長が無駄口叩くな』かきかき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也「今日はゼリーか………」

 

???「蓮歌ちゃん、ゼリーは好きかい?」

 

蓮歌「そだねー、嫌いじゃないかなー」

 

???「じゃあ僕のあげるよ」キラッ

 

蓮歌「わー、ありがとー」

 

???「おい、達也!お前のゼリー貰うぜ!」パシッ

 

達也「おー、勝手にせい」(からかい方がまるで小学生だな………いやまぁ、ちょっと前までそうだったんだけどな?)

 

蓮歌「あ、達也君ゼリーないね。あげるよ」ヒョイ

 

達也「ん、悪い」(持って行かれたのを見つけて自分が貰った分をくれたのか。やっぱりこいつは全面的に善人だな。これから先もそのままでいてほしいが……)

 

蓮歌「いいっていいって」てれっ

 

 

 

???「…………………」イライラ

 

???「……………」イライラ

 

???「僕があげたのに……………」イライラ

 

 

 

 

 

 

 

 

掃除

 

 

???「おーいー!いくぞー!」

 

???「ばっちこい!」

 

???「ピッチャー振りかぶって…………投げた!」

 

 

 

 

 

ドゴッ

 

 

 

 

 

達也「モルスァ」

 

???「わりー。めんごめんご」

 

???「んなとこいるなよー、……………グズ」

 

達也「あぁ、別に大」

 

???「大丈夫かい?傷は冷やした方がいいよ」ベチャ!

 

???「おまwww雑巾www」

 

???「鬼畜がおるwww」

 

???「ほらほら、動かないで、ちゃんと冷やしてあげるから」ぐりぐり

 

達也「……………おうよ」

 

 

 

担任「…………………教師の前でやるか?」

 

 

 

???「えっ!」

 

???「うっわ……………いたのかよ」

 

???「ぼ、僕は別に………」

 

 

 

達也「サンキュー、冷えたわ」ふきふき

 

 

 

担任「……………いいのか?」

 

達也「は?何がです?」ふきふき

 

担任「いや、いいなら別にいいさ」スタスタ

 

 

 

 

 

???「あっぶねー」

 

???「達也のせいでバレるとこだったじゃん」

 

???「このグズが……………死ねっ!」ゲシッ

 

達也「はいはい、ぐずだよ俺は」(たまに思うんだがこれってやってて楽しいか?自分が惨めに思えるだけだと思うんだが)

 

 

 

 

 

 

 

放課後

 

 

???「達也、ちょっとツラかせよ」

 

???「おうよ」

 

達也(無理してツラなんて言葉使うからイントネーション外してんぞ……)

 

真也「兄さん」スタッ

 

達也「真也、帰りに内履き買ってきてくれ10足ぐらい」

 

真也「でも」

 

達也「いいからいけー、今日は遅くなるからなー」

 

 

 

 

 

 

 

校舎裏

 

 

???「よく逃げなかったなぁ?」ニヤニヤ

 

達也(四人で周り囲ってちゃ無理だろうよ)

 

???「なんで呼び出し食らったか、分かるよなぁ?」ニヤニヤ

 

???「そうだな、勉強を教わりたいとかか?」

 

???「ざけんじゃねぇぞ!」ガシッ

 

???「こいつの兄貴はな?すげぇんだぞ!」

 

達也(でたよ、『虎の威を借る狐』。そのすげえ兄貴はここにいるわけじゃないから特に関係ないよな?兄貴来てもお前が呼び出したってばれてお前が怒られるだけだもんな?)

 

???「一々うぜえことばっかりしやがって…………舐めてんのか!」ドン!

 

達也「いや、別に」

 

???「るせぇ!」ばきっ

 

達也(質問しといてるせぇと来たか。てかその殴り方だと腕痛めない?もっとこうやって内側に曲げる感じでやんないと………)

 

???「テメェ、今いくら持ってんだよ?」

 

達也「カードしかないな」

 

???「よこせ!」

 

???「どこだオラッ!」

 

達也「慌てんなよ、これだ」スッ

 

???「へへっ、誰にもいうなよ?」

 

???「言ったら酷いぞ!」

 

達也(酷いてアンタ……………いくつだよ)

 

 

 

 

 

 

 

帰り道

 

 

???「へへっ、何買う?」

 

???「俺、あの限定カード!」

 

???「俺、ハンバーガー30個!」

 

???「俺、遊び尽くしてタクシーで帰る!」

 

 

 

 

 

 

学校

 

 

達也「………体育着あったかな?」

 

美久「達也………君?」コソコソ

 

達也「ん?遠藤、こっちに来るな、今ズボンを履いてない」

 

美久「ご、ごめんなさい!」

 

達也「なにしに来た?」

 

美久「何か話し声が聞こえたから………ひょっとして達也、いじめられていたの?」

 

達也「遊んでた。いじめはないな」

 

美久「そう?」

 

達也「あぁ、…………じゃあ帰るわ」

 

美久「もう?もう少し話したかったのだけれど………」

 

達也「また電話でな。俺はカードを止めなきゃならん」

 

 

 

 

 

 

 




登場人物

主人公 如月達也 タイプ ハルヒばりに他人とずれてるキョン 外見 涼ハル キョン

親友 佐藤亜利沙 タイプ 親友を理解できないヤンデレの才能を秘めた佐々木 外見 涼ハル 佐々木

クラスメイト 中谷未来 タイプ 暴力的でないかつツンデレでもない島田美波 外見 アイマス 星井美希

クラスメイト 横寺蓮歌 タイプ 男子からのアピールをスルーする事に長けているのほほんさん 外見 一週間フレンズ 山岸沙希

クラスメイト 遠藤美久 タイプ 比較的友好的で他人に依存する事が多い如月千早 外見 アイマス 如月千早

クラスメイト 黒井海斗 タイプ 我こそはというよりも俺は本当はすげえやつなんだぜ的な厨二の材木座義輝 外見 斉難 海堂瞬

クラスメイト 新井はじめ タイプ ハンサムでいじめられ過ぎて他人を見捨てる事に抵抗を覚えなくなった人を信じたい古泉一樹 外見 涼ハル 古泉一樹

クラスメイト 渡辺亮 タイプ 捨て猫のダンボールの上にビニール傘置いてついでにコンビニで何か買って来ちゃう系不良 外見 黒バス 火神大我

弟 如月真也 タイプ 兄の事が好きすぎて家族を見捨てて兄のところで暮らしたいぐらいになっちゃったあまとう 外見 アイマス あまとう

妹 如月咲 タイプ 兄の事が好きすぎてマジメに転校しようかなとか考えちゃう系妹 外見 アマガミ 七咲逢

父親 如月浩太 タイプ 達也の事が嫌い過ぎて死ぬ寸前まで痛めつけた上に自分が弱ってくると達也に頼っちゃう頼りない系父さん 外見 ジョジョ 吉良吉影


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それでも知りたくなかった。

実際の体験が含まれます。

ここまで酷くはありませんでしたが。


 

学校

 

 

達也「あの時は悪かったな、変なモン見せちまって」

 

美久「ううん。なんとなくだけど………貴方は悪くないでしょ?」

 

達也「いや、まぁそうなんだけどさ………」

 

 

やはりこの子はいい子だ。

性格が良いとか、外見が良いとかじゃない。…………まぁ、どちらも平均以上なのは確実だが。

 

 

 

誰にでも優しくするというのは、実は難しい事なのだ。

 

 

 

今まさに針のむしろ状態の俺に話しかけられて普通に対応する。

これだけでも側から見たら聖人レベルではなかろうか?

そしてこのクラスの空気を察知してあまり人気のないところで会話をする始末。

もうあれだね、良い嫁さんになるよこいつ。

 

 

美久「でも………大丈夫なの?」

 

達也「気にすんな、気にしたら負けだ」

 

美久「ふふっ………それ間違ってるわよ?」くす

 

達也「いや……………これはだな」

 

 

こういうボケまで拾ってくれるとはな。

何気にノリの良いやつなのかもしれん………ま、じゃなきゃ横寺となんてやってけるわけないか。

 

 

達也「………そういや、昨日はあんな所で何してたんだ?」

 

美久「えっ?あぁ、あそこで歌の練習をしてたの」

 

達也「歌?」

 

美久「えぇ」

 

美久「わたしの弟、来週誕生日なの。わたしは毎年歌を歌ってあげてるの………家はあまりお金がないから」

 

達也「ほう、そりゃ弟さんも良い姉を持ったもんだな。弟さんは幸せだろうよ」

 

美久「ふふっ、どうもありがとう」にこっ

 

美久「それじゃ、わたしは戻るわね」たったったっ

 

 

 

是非とも幸せな人生を送って欲しいものだよ。

…………本当にさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トイレ

 

 

達也「………やべ、漏れる」たったったっ

 

???「それまじかよ?」

 

???「本当だよ」

 

???「無いわー………お前も欲しいモンとか無いわけ?」

 

(ん?なんの話だ?)

 

 

 

 

 

 

???「でも今時誕生日に歌はねぇよ!」

 

 

 

 

 

 

遠藤弟?「だよな!正直寒いってのwww」

 

???「貧乏臭ぇwww無いわwww」

 

???「俺はチャリとか欲しくなったなー」

 

???「遠藤、お前も買って貰ったらどうだ?」

 

遠藤弟?「無理無理。うちは貧乏だからなー、………まじ金持ちの家に生まれたかったよ」

 

???「でもお前のネーちゃん美人じゃん?」

 

遠藤弟?「あいつヤラセてくんねーじゃん?」

 

???「そこはさ、顔隠して無理矢理………」

 

遠藤弟?「それ弟じゃなくてもいーじゃんwww」

 

???「確かに!だなwww」

 

???「ヤる時呼べよ!」

 

遠藤弟?「呼ぶ呼ぶ!全員で腰立たなくなるまで犯してやろうぜ!」

 

(……………遠藤の弟かよ)

 

 

正直、胸糞悪い。

 

なぜ実の姉にそんな事が言える?

姉と仲良く暮らせているのに金が欲しいだと?

金持ちのうちに生まれるってだけで姉と離れ離れになるんだぞ?

 

姉の想いはどうなる?

お腹を痛めて産んでくれた母親は?

必死で働いて育ててくれた父親はどんな気分になると思う?

 

そんな恵まれた家庭でよくもまぁ、姉とヤりたいだの金持ちのうちに生まれたいだのと言えたもんだ。

 

 

 

その日、俺は珍しく給食に手をつけなかった。

 

 

 

 

 

 

翌週

 

 

遠藤弟「姉ちゃん!」

 

美久「大志、どうしたの?学校で話しかけるなんて珍しいわね?」

 

大志「いや、あのさ」もじもじ

 

美久「落ち着いて話してみて?なんなの?」

 

大志「今日の歌なんだけどさ…………」

 

美久「うん、それが?」

 

大志「いや、ちょっと俺の行きたい場所で歌って欲しいなー………なんて」

 

美久「場所?別にいいわよ。他の人に迷惑のかからない場所なら」

 

大志「(よっしゃwww)じゃあ駅前で待ち合わせね!」

 

美久「え、駅?別の街に行くの?」

 

大志「ダメかな?」

 

美久「(誕生日だもの………それぐらいいいわよね)……分かったわ」

 

 

 

達也(…………………どうしたものか)聞き耳

 

 

 

 

 

 

 

昼休み

 

 

美久「達也君、ちょっといい?」

 

達也「お?どうした?」

 

美久「今日ね?弟の為に歌を歌うんだけど………」

 

達也「………………それがどうした?」

 

美久「いえ、良かったらこない?貴方にも聞いてほしくて………」

 

達也「……………おう」

 

 

 

 

 

 

駅前

 

 

美久「お待たせ、大志」

 

大志「え、えぇ〜!?他の人もいんのかよ?」

 

達也「……………」

 

美久「お友達なのよ………だめ?」

 

大志「(んー………いざとなったら誘っちまえばいいや)いいよ!一緒に行こう!」

 

 

 

 

 

 

廃屋

 

 

美久「大志?こんな所で歌うの………?」

 

大志「姉ちゃんってさ」

 

美久「?」

 

 

 

大志「馬鹿だよね」がばっ

 

 

 

 

美久「大志⁉︎何してるの!やめなさい」ジタバタ

 

大志「でてこいよ!」

 

 

ぞろぞろ

 

 

美久「大志………今なら許すわ。やめなさい!」ジタバタ

 

大志「いっつもそれだ。いつまでも子供扱いしてんなよ!」

 

達也「……おい」

 

大志「アンタも混ざれよ!」

 

達也「………………」

 

大志「おい!いいのか?こんな上玉食えるんだぜ?」

 

???「うひひ」カチャカチャ

 

???「馬鹿みたいに来ちゃってさー?ほーんとアホらしいwww」カチャカチャ

 

美久「いや!助けて達也君!」

 

達也「あのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

達也「本当にやんのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

大志「なにいってんだよ!早く」

 

達也「だからマジでやんの?」

 

大志「はぁ?お前何言って」

 

達也「ヤった後は?」

 

大志「は?だから………」

 

達也「その後は何?殺すの?」

 

???「んだこいつ?」

 

???「で、でもさ、………ヤった後どうすんの?」

 

???「知らねーよ!どうすんの、大志?」

 

大志「え、俺」

 

達也「喋らねえようにするには殺すしかねーだろ。じゃないとお父さんとか先生に殺されるかもな。………あ、子供もできるかもしれん」

 

大志「……………」

 

達也「学校はどうなるんだろうな?クラスメイトはどんな反応するんだろうな?親戚も、近所の奴らも。てか警察にパクられるかな?」

 

大志「……………」

 

???「………」

 

???「………」

 

美久「達也君……………」

 

達也「無理な計画はやめとけ?身を滅ぼす。てなわけでそのお粗末なモノはとっととしまえよ。正直とても見苦しい」

 

大志「……………姉ちゃん、俺」

 

美久「…………誕生日は終わり、帰ってて」

 

大志「………………本当は俺、こんなつもりじゃなくて」

 

達也「失せたほうがいい」

 

大志「………………」トボトボ

 

???「俺らも………」ぞろぞろ

 

???「くっそー……勿体ねー………」ぞろぞろ

 

美久「……………」

 

達也「……………」

 

美久「……………」

 

達也「……………」

 

美久「本当はね?分かってたの」

 

達也「……………」

 

美久「大志は私の歌を聴いてなかったの、最初の年以外は。そして去年から私を女として見てたのも」

 

達也「……………立てるか?」スッ

 

美久「ありがとう。」ガシ

 

美久「……今日付いてきて貰ったのも、こんな事があるかなって」

 

達也「………暇だったしな」

 

美久「…………あの子ね?トイレで色々と言ってたらしいの」ふるふる

 

達也「…………」

 

美久「私の歌はね?寒いんだって」ぽろぽろ

 

美久「お姉ちゃんよりも、お金が欲しかったんだって」ぽろぽろ

 

達也「……………俺は」

 

美久「…………ヒック、」ぽろぽろ

 

達也「………………俺は姉のほうが大事だと思う」

 

美久「………………グスッ」ぽろぽろ

 

達也「大志にとっては金の方が大事なのかもしれない。姉なんていらないのかもしれない」

 

達也「だがな?きっとお前がいなくなったらあいつは後悔するだろうよ」

 

美久「………………」ぽろぽろ

 

達也「……………胸は貸してやるから、後で歌を聞かせろよ?」

 

 

 

 

 

 

遠藤は泣いた。

大きな声で泣いた。

大好きだった弟に裏切られた悲しさから。

自分の歌を歌を寒いと言われた悔しさから。

弟を理解できなかった自分の不甲斐なさから。

 

 

 

 

そして達也のあたたかい胸の鼓動を聴いて。

 

 

 

空に向かって泣き叫んだ。




裏切られるのはとても辛いんです。

最初から信じてない人から裏切られるより、信じていた人から裏切られる事の方が十分心に来ます。


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日常は変わらないから日常。

特にイベントの無い達也の日常。


 

 

達也「………………起きるか」むくり

 

達也「………ええっと、パンは…っと」ガサゴソ

 

達也「………………いいや、途中で何か買おう」

 

 

ガチャ、パタン

 

 

???「ちょっと、達也くん?」

 

達也「?………お隣の………おはようございます」

 

お隣さん「ゴミ、ちゃんと分別してないでしょ?」ドスン

 

達也「いや、そんな事は………(そもそもゴミはだしてないぞ?)」

 

お隣さん「もう!嘘おっしゃい!きちんと分別しないと大家さんに言いつけるわよ⁉︎」キーン

 

達也「は、はぁ………すいません(でかい声……)」

 

お隣さん「大体これだから若い子の独り暮らしは」クドクド

 

達也(遅刻コース決定ですありがとうございます)

 

 

 

 

 

 

バス

 

 

達也(この時間だと二時限目始まってるな………)ブーブー!

 

達也「メールかよ」ピッ

 

亜利沙『遅刻かい?なぜ連絡をしてこないんだ?』

 

達也(会長様は朝から元気だね………)『悪い、昼頃着く』

 

???「ちょっと!やめてよ!」ガシッ

 

達也「あ?」

 

???「この人痴漢です!」

 

達也「いや、俺違」

 

???「何?この痴漢め!ちょっとこい!」

 

達也(あーもー、これ学校終わる前に着くか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

コンビニ前

 

 

達也「金毟り取るとか………最近のリーマン怖いな」

 

???「おい………あれ」

 

???「おい!お前達也だろ?」

 

達也「………あれ、先輩じゃないっすか」

 

???「なーにしてんだよ?こんな所でよぉ?」くちゃくちゃ

 

達也「いえ、腹減ったんで買い物を」

 

???「奢れよ」

 

達也「すいません、ちょっと手持ちが無いんで………」

 

???「あぁ⁉︎テメェの分寄越せや!」

 

???「ブチ殺すぞ糞ガキ⁉︎」

 

達也(沸点低いってレベルじゃねー………)

 

先輩「買えねーなら盗んでこいや!」

 

先輩「オラ!盗ってこいよ!」

 

達也(…………事情説明すりゃいっか)テクテク

 

店員「いらっしゃいませー」

 

達也「あのすいません」

 

店員「なんでしょう?」

 

達也「先輩からパン盗んでこいって言われてるんで、代金を棚に置いて持っていっていいですか?」

 

店員「あ、はい、分かりました」

 

達也「どーも(随分と物分りがいいな)」がさっ、テクテク

 

店員「まってください」

 

達也「?」

 

 

 

 

店員「それ、レジ済ませてませんよね?」にたぁ

 

 

 

 

達也「グルかぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校

 

 

達也「コンビニで財布取られる客も珍しいだろうな」

 

???「おい達也!」ニヤニヤ

 

達也「なんだ?」

 

???「こんな時間に来て何してんだよ?」ニヤニヤ

 

達也「遅刻だよ。今から教室に」

 

???「遅刻には罰が必要だろ?俺がオシオキしてやるよ」ニヤニヤ

 

 

 

 

 

校舎裏

 

 

 

ズガッドゴッバキッ!

 

 

 

達也(ストレス発散したいんだろうがな………そんなに息を切らせたらストレスは溜まる一方だぞ?)

 

???「オラ!テメェ何ズボンなんか履いてんだよ⁉︎」ビリッ

 

達也「えぇぇ………(女子の目に入ったら可哀想だな………どうするか)」ガボッ

 

???「ヒャッハッハッ!頭からズボン履いてるぜ!」

 

達也(あー…………佐藤に見つかったら何て言おうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

教室

 

 

亜利沙「達也、僕は最初教室に変質者が入ってきたのかと思ったよ」

 

達也『気にすんな』さらさら

 

亜利沙「とにかくジャージを履いてくれ………目のやり場に困る」

 

達也「……………」カチャカチャ

 

亜利沙「………さて、話は変わるが君。今虐められてるね?」

 

達也『なんの事だか。俺の周りにいじめはないぞ?』さらさら

 

亜利沙「君の基準ではいじめなんて存在できない。死ぬ寸前の怪我を負わされても教育、数人に暴行を加えられてもストレス解消してただけなのだから」

 

達也『とにかく面倒な事はやめろ』さらさら

 

 

 

???「おい達也!会長が話しかけてくれてるのにさっきから何無視してんだよ!」

 

 

 

達也「……………ちょっと理由があってだな」

 

???「言い訳してんじゃねぇぞ!」バキッ

 

達也「モルスァ」

 

亜利沙「…………………仮にも生徒会長の前だよ」

 

???「あ、ごめんなさい!…………でもこいつ会長の事を無視して」

 

亜利沙「彼のは約束があってね。僕と会話できないんだ。それと謝るのは僕にではないよ」

 

???「そうなんですか………おい達也!あんま会長に迷惑かけんなよ!」

 

達也(迷惑かけない為にも離れていいですか?」

 

亜利沙「ダメに決まってるだろ」

 

達也(思考がだだ漏れしてるし…………てかこいつ俺に謝ってねぇ)

 

???「会長!今日のお昼一緒に食べません?」

 

亜利沙「今日は生徒会で食べるんだ、すまないね」

 

???「い、いえ!ではまた今度という事で……」

 

亜利沙「考えておくよ」

 

???「じゃあ俺はこれで」たったったっ

 

達也「……………」

 

亜利沙「……………本格的に始まったのはいつだい?」

 

達也『一週間前ぐらいだったか?』さらさら

 

亜利沙「なぜ教師や僕に言わない?………と言って相談するような人でもないよな、君は」

 

達也『もしお前が関わろうとするのなら。二度とお前とは関わらない』さらさら

 

亜利沙「いじめを見て見ぬ振りってのは意外に辛いんだよ?」

 

達也『それだけが頼みだよ』さらさら

 

 

 

 

 

 

 

休み時間

 

 

達也「……………ふむ、好意を抱いてる相手にキツくあたる事をツン、そして七三の割合で甘えるのをデレ、か」パラパラ

 

クラスメイト「おい達也!野球しようぜ!」

 

達也「…………今本を読んでるんだが」

 

クラスメイト「お前の弟でもいいんだぜ?」

 

達也「………はぁ」

 

 

 

 

今、達也を野球に誘ったのは野球部のエースである。

 

彼は校内でもかなり速い球を持ち、狙った場所に当てるのが得意である。

そしてかなり性格が悪く、後輩を虐めるのを楽しみにして部活に来ている。

達也も最近目をつけられていて、こうして野球に誘われては生傷を増やしている。

 

 

 

達也「一応聞くけどグローブは?」

 

エース「いらねーだろー?親からもらった手があるじゃねーか」

 

達也「けどこうして縛られてちゃその手も使えな」バキッ

 

 

 

 

 

 

 

エース「じゃあ的になれよな?」

 

 

 

 

 

 

 

達也「待ちきれないのかよ………早漏くんめ」

 

エース「お前さー………中学に上がった辺りから生意気になったよなー」

 

達也「そういうお前は随分と大きくなったよな」

 

 

 

達也「なぁ、前田」

 

 

 

エース「………………お前のせいでまた振られたよ」

 

達也「はぁ?何言って」バシッ

 

エース「蓮歌だよ………俺の事は好きになれないってさ!」

 

達也「…………金的は、……反則、じゃね?」バシッ

 

エース「…………昔っからお前気に食わなかったンだわ、俺」

 

達也「へぇ………そ⁉︎」バシッ

 

エース「でも今はお前の事大好きだぜ?

 

 

 

 

 

エース「こんな丈夫なサンドバック、他にいねぇよ」

 

 

 

 

 

達也「………後輩にもこんな事してんのか?」バシッ

 

エース「あぁ?ダメだよ、あいつら………すーぐ弱音吐いて逃げちまう」

 

達也「後輩には優しくしてやらんと……………嫌われんぞ?」バシッ

 

エース「お前以上に嫌われる奴はいねぇよ!バーカ!」

 

達也「球速、上がったな………………」

 

エース「おうよ、それとよ?」

 

 

 

 

 

エース「スイングも早くなったぜ?」カラン

 

 

 

 

 

達也「…………………マジかよ」

 

エース「いやー………この前買ったばっかでよ?古いのいらないんだわ」

 

達也「だから俺を殴って処分か?」

 

エース「ご明察、てなわけでさ」

 

 

 

 

 

 

エース「死ね」ゴンッ!

 

 

 

 

 

 

達也「グッ⁉︎」

 

エース「やっぱお前、サイボーグだわ………頭殴られて死なねぇとかバケモンだよマジ」

 

達也「……………血は流すからな、一応人間だよ」どろり

 

エース「とりあえず大会も近いし」

 

 

 

 

 

エース「千本ノックいってみっか!」ニタァ

 

 

 

 

 

達也(かわいそうなやつだよ)

 

 

 

おれもおまえも




頭は痛いらしいです。


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神よ、これが試練なのですか?

達也の大切が壊れていく様子を書きました。


また、作者はきちんとした理由のある駄目出しはとても嬉しく思っています。
ですからここが〜だからこう感じるので〜だ。というように言っていただけると嬉しいです。

最近とても嬉しく思ったのは、キャラが薄っぺらいという感想です。

人間味を出したいのですがやはり難しいです。

スラングについてはこれを使わないとバカっぽさが出せないという作者の実力不足が理由です。

書き方を誰か教えて下さい。真剣に。



と言うわけで本編をどうぞー。



注意 胸糞あり


達也「なんとか生き延びれた…………」

 

 

千本ノックを受けてかなりの出血をしたが、なんとか応急処置で対応できるレベルに抑えられた。

 

後数回殴られたらやばかっただろう。

 

 

達也(これでまた、一時の平穏が訪れる………)

 

 

 

そう思うと安心できる。

人は攻撃をした後、すぐに同じ相手に攻撃をすることができない。

 

 

善人である自分を捨てきれないからだ。

 

 

その善性はハリボテのようなものなのだが………それを捨ててしまうと人間は理性を失い、獣と同じになってしまう。

そして殺人鬼やテロリストになり、それまでなかったカニバリズムや殺害衝動が生まれてしまうのだ。

だからこれ以上のダメージはひとまず無いと。

達也は安心していた。

 

だが達也は忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は残酷だということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室

 

 

達也「次の授業は………………教科書がある、だと?」

 

 

おかしい。

 

最初にそう思った。

次の授業に必要な教室が『何事もなかったかのように入っているはずがない』

だいたいゴミ箱か窓の外、もしくは資料室のシュレッダーの中に入っているのだ。

 

だが今回は何もされていない。

 

 

 

 

 

(おいおいまさかそんなことがあるはずない………………やめろそれを考えるな………!そっちを見るな…………!その役目は俺の筈だ!)

 

 

 

 

 

 

何があっても認められない事態。

 

 

長年避けてきた唯一の場面。

 

 

これだけは嫌だった。

何があっても、何をされても、この事だけは起こらないように気をつけていた。

殴られても蹴られても、それこそ死ぬ寸前まで追い詰められても。

それを何も感じない自分なら耐えられるから。

だからこそ全てを背負ってきたのだ。

 

なのになぜ

 

 

 

 

 

真也の机は無いんだ?

 

 

 

 

 

 

見ると周りの男子はその事態を異常とは思っていないようだった。

気味が悪いほど静かで冷たい空気が教室を覆っていた。

女子達は笑うものや怯えるもの、横寺に至っては手で顔を覆って声を殺して泣いている。

遠藤も悲しそうな顔で横寺を慰めている。

黒井や新井は悔しそうに唇を噛み締めている。

 

野崎だけは苛立った様子でこちらを見ている。

 

 

 

 

どうして授業が始まるこの時間に真也の机だけない?

 

なぜ周りの男子はそちらを向いて笑っている?

 

なぜ真也はここにいない?

 

いや、それだけじゃない。

 

中谷はどこだ?

 

あいつもいない。

 

机はあるのに中谷だけはいない。

 

あいつは授業をサボるような玉じゃない筈だ。

 

………………いや、もう分かっていた。

 

 

 

 

 

標的を変えられた。

 

 

 

 

 

俺に対していじめが効かないのなら、俺の周りをいじめようと考えたのだろう。

それもかなり大規模な人数で。

 

中谷はあの外見だ、そして一番いじめを嫌う。

人数が集まったのをいい事についでに持っていこうとでも思って連れ去られたのだろう。

 

 

野崎「おい、達也」

 

達也「…………………どうした?」

 

野崎「行くんだろ?連れてけよ」

 

達也「その格好でか?」

 

 

野崎は全身傷だらけだった。

おそらく、真也と中谷を守っていてくれたのだろう。

………真也はいい友達に恵まれたものだ。

 

 

達也「俺は乗り込んでいくなんてかっこいい真似は出来んよ」

 

野崎「あァ⁉︎てめぇ弟見捨てんのかよ⁉︎オォ⁉︎」

 

達也「なんとでも言えよ。俺は喧嘩はしない主義だ」(ほんっとにいい奴だな………ぜひこれからも真也の友達でいてくれよな)

 

野崎「……………見損なったぜ」

 

達也「少しは評価してくれてたって事か?ありがたい事だ。もう見てくれに騙されんなよ」

 

野崎「俺は行くぜ」ガラガラ

 

達也「…………新井」

 

新井「………………本気ですか?」

 

達也「おう、頼むわ」

 

新井「………………困ったものですね、貴方も」

 

野崎「…おい、どけよ新井」

 

新井「僕としてもそうしたいんですがね………」

 

新井「あなたは今、喧嘩なんてできる状態じゃないでしょう?おとなしくしていて下さい」ガシッ

 

野崎「おい!離せ新井!俺は真也を助けんだよ!」ジタバタ

 

 

 

 

 

 

達也「………………行ってきまーす」ガラガラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育館倉庫

 

 

達也「なんとかなるかなぁ………………はぁ」

 

???「おっ?マジできたよあのバカwww」

 

???「うっはwww死ぬんじゃねwww」

 

達也「あのー、すいません」

 

???「あ?きめぇ、普通に話せや」

 

達也「…………弟いない?」(敬語は駄目か……いやでも変わらないんだろうけどな)

 

???「てめぇ何タメ口使ってんだよ!」バキッ

 

???「俺ら先輩だぞゴラァ⁉︎」ドゴッ

 

達也(流石に喧嘩慣れしてるだけあって呼吸はし辛くなる……………だが)

 

達也「いや、ここにいるんだよ、弟とクラスメイトがよ」

 

???「…………タカシくんとこだけど?」

 

???「お前死ぬよ?ま、ここで殺すけどなwww」

 

 

 

達也「いいからこいよ」

 

 

 

その2人は意外に強かった。

 

2人だということもあってか、片方が抑えて片方が殴る。

体を固定されてたから衝撃を逃がすことも出来ない。

 

無呼吸でパンチを耐えても、流石に鉄パイプで首を突かれたら息も吐き出てしまう。

また、2人ともとても嫌味な性格のようで。

膝に思いっきりジャンプして踏みつけられた。

 

 

 

 

多分皿割れたね。

 

 

 

 

だって痙攣止まんねぇもん。

 

 

今も意識は残ってるけど…………正直立てる気がしない。

 

 

???「はぁ、はぁ」

 

???「こいつ、なんで帰んねぇの?」

 

達也「………帰ったらあんたら、2人に何するか分かんないじゃん」

 

???「お、俺………なんか怖くなってきたよ」ガクガク

 

???「俺も………か、帰ろうぜ!」ダダッ

 

達也(倉庫入る前にこれか……………)

 

 

 

 

ガラッ

 

 

 

 

???「誰だ?」

 

達也「宅急便でーす、なんて」

 

???「んだお前?」

 

???「何?りゅーじたち逃げたわけ?」

 

???「うっわ……………こいつ超ボロボロじゃん」

 

???「お前、達也だろ」

 

達也「えぇ、達也です。ところで弟とクラスメイト、返して頂けません?」

 

タカシ「いーぜ?クラスメイトはな?」

 

 

タカシ

そう呼ばれた男が後ろの女に視線を送ると、その女はその視線を合図のように受け取り近くにある薄汚れた掃除ロッカーのドアを開ける。

 

 

未来「」

 

 

そして中から出てきたのはクラスメイトの中谷だった。

 

達也「丁寧に掃除ロッカーに入れとくかよ普通…………というか」

 

タカシ「あぁ」

 

 

 

タカシ「ヤったよ?」

 

 

 

 

???「ギャッハッハ!こいつ馬鹿みてーだったな!」

 

???「最初なんてうるさかったのに、後半なんて『お願いします………やめて下さい………』だもんな⁉︎」

 

???「血なんてグロかったもんねー?マジやばいってあれ!ちょーウケる!」

 

???「お前よりも具合良かったしな!」

 

???「何それ?酷くなーい?」

 

 

 

……………………一体、何を言ってるのだろうか?

 

1人の純潔を奪っておいて、グロかった?良かった?

俺が言えることではないかも知れないが………同じ人間でもこうも違うのか。

未来は最後まで抵抗したのだろう。

 

…………………俺が代わりだったら

 

 

 

悲しい事になんてならなかった。

 

 

 

 

達也「弟は?」

 

タカシ「んー?ゴミ捨て場じゃね?」

 

???「今頃しゅーしゅーじょ?にいってるかもなwww」

 

???「てかさー?うちらの持ち物持ってくって酷くない?」

 

???「そうだなー………………お前さ、ボコられてけよ」ガシッ

 

タカシ「楽に出てけるなんて、思ってないよな?」

 

達也「ご自由に」

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れ

 

 

???「じゃ、帰るかー」

 

???「チクったらこの街で生きてけないとおもえよー?」

 

???「ねー、あたしのパンツ知らなーい?」

 

タカシ「俺が持ってる」

 

???「もー、へんたーい」

 

 

 

 

 

 

 

達也「……………中谷」

 

未来「」

 

達也「……………起きてるわけないよな」

 

未来「」

 

達也「………………さて、真也は…………………うおっ」

 

 

 

中谷を背負って行こうとしたが、膝が折れてしまってうまく歩けない。

 

ケータイも折られたし………困った。

 

 

達也「這いずり歩くしかないなこりゃ………」

 

俺の膝は完全に折れている。おそらく一週間はまともに歩けないだろう。

 

未来「」

 

達也「…………………自殺だけはやめてくれよ」

 

自ら命を絶つのはとても悲しい事だからな。

 

未来「」

 

達也「俺を恨め、俺を憎め、俺を貶め」

 

なんでもいいから目的を見つけなきゃな。

 

未来「」

 

達也「それがお前の生きる原動力になるのなら」

 

そしてそのために生きて

 

未来「」

 

達也「俺は全てを受け入れるから」

 

いつか自由になるんだ。

 

未来「」

 

達也「生きていれば………………生きてさえいれば」

 

 

 

いつか希望を見つけられるからな。

 

 

 

 

本当に、お前は俺に関わらなきゃ良かった。

 

 

 

ゴミ捨て場

 

 

真也「」

 

達也「ふぅ、ふぅ…………ご丁寧に剥かれちゃって、まぁ」

 

真也「」

 

達也「新井………黒井………横寺………遠藤………渡辺………後は」

 

達也「佐藤………か」

 

達也「また、独りか…………」

 

真也「」

 

未来「」

 

達也「俺が普通だったらな…………お前らはこんな目に逢わなかった」

 

真也「」

 

未来「」

 

達也「もう………………さよならだな」

 

真也「」

 

未来「」

 

達也「悪くなかったな……………お前らといるのも」

 

 

 

 

 

最後の暖かさが消えた。

 

 

 

 




大切なモノに触れて欲しくなかった。

それだけ

それだけが希望だった。

それを守れないのなら

俺は修羅の道を行こう。

2度とお前らとは会えない。

別の道を行くのだ。




光などない俺だけの救いの道を、独りで。


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また独りの世界で。

完全孤立の達也。

その世界で何を思うのでしょうか。



そしてその頃、みんなは何を思うのでしょうね?


 

 

 

 

校長室

 

 

校長「君ぃ…………どうする気だね?」

 

担任「どうする、と言いますと?」

 

校長「例のタカシ君………遂に強姦までしたそうじゃないか」

 

担任「…………その件ですが、相手の子には今達也という生徒が付き添ってる状態で」

 

校長「相手の事なんてどうでもいい!」

 

担任「……………」

 

校長「あの子の父親からは莫大な寄付金を貰ってるんだぞ?だからちょっと遊ばせておけばいいモノを…………ヤンチャをさせ過ぎるんじゃいなかね?」

 

担任「はぁ」

 

校長「全く……………被害届を出されたらわしの責任になるんだぞ?」

 

担任「………………(ゲスが)」

 

校長「なんとか事を荒立てないようにするんだ、いいな?」

 

担任「……………………はい」

 

バタン!

 

担任(………………まさか俺のクラスでいじめとはね)

 

担任(いや、いじめなんてレベルじゃないぞこりゃ………達也は膝を壊したし、真也もバスケ選手にはなれなくなった……………そして未来)

 

担任(男性恐怖症……………達也以外は父親も受け付けない、ね…………)

 

 

 

 

 

 

 

ホームルーム

 

 

担任「えー知ってるとは思うが……………」

 

担任「うちのクラスの未来が転校する事になった」

 

 

しーん

 

 

担任「…………理由は分かるな?」

 

担任「お前らが標的になる事もあり得る訳だ。という訳で」

 

 

 

 

担任「原因の生徒は後で来い」

 

 

 

 

 

担任が教室から出て行った後、数人を除いたクラスメイトから一斉に目を向けられた。

全員、俺がこの騒動の原因だと分かっているのだろう。

だから早く出て行けと、俺たちの前から消え去れと、俺たちに関わるなという思いを込めて俺を睨んでいるのだろう。

 

 

野崎「…………」

 

達也(いい感じに睨んでくれるぜ…………さて)

 

 

 

 

 

達也「おいおい?俺が悪いってのかぁ?」

 

 

 

 

 

 

亜利沙「⁉︎」

 

蓮歌「!」

 

美久「…………」

 

ザワザワ

 

ソワソワ

 

達也「ったくよぉ……………辛気臭せぇ顔並べやがって……………クソ共が」

 

野崎「あ?んだてめぇ?」ガタッ

 

達也「おお、怖。まるで俺が悪者みたいな空気じゃねぇかよ?」

 

野崎「てめぇが事の発端だろうが!」

 

達也「俺はいじめられてただけだぜ?」

 

野崎「ざけんな!」バキッ

 

達也「…………ってえなぁ」

 

野崎「お前…………未来と真也はお前のせいで酷い目にあったんだぞ⁉︎」

 

達也「真也?…………あぁ、バスケ選手なんて無謀な夢、もう無理なんだから諦められてラッキーだろ?」

 

野崎「……………!」

 

達也「つーかあいつ、ウゼェんだよ………昔っから贔屓されてたし」

 

 

 

 

達也「自業自得だな!」

 

 

 

 

野崎「てめぇ!」ガバッ

 

達也「あとお前………ひょっとして未来の事好きだったのか?」

 

野崎「………それ以上言うと殺すぞ」

 

達也「うわ、図星か?ないわー……………あんな中古女」

 

???「うわっ………ひど」

 

???「何あいつ………」

 

???「気持ち悪い…………」

 

達也「今ならヤらしてくれるんじゃねーの?だって」

 

野崎「………!」バキッ

 

達也「かはっ…………」

 

達也(いいパンチだな…………)

 

 

ズガッドゴッバキッドスッゴギリッ

 

 

バシッドスッブスッガンッがキンッ

 

 

???「死ね!」バシッ

 

達也(悪い、それだけは無理なんだ)

 

???「お前が代わりになれば良かったんだ!」ドスッ

 

達也(俺もそう思うよ)

 

蓮歌「信じてたのに……………馬鹿ぁ!」ブンッ

 

達也「ゴホッ⁉︎(俺はこんな奴なんだよ………悪いな横寺)」

 

???「オラッ!」バキッ

 

達也(悪かったな………もう消えるからよ)

 

黒井「達也君……………嘘だよね?」

 

達也「黒井………」

 

黒井「達也君……………」

 

達也「お前キモいから」

 

黒井「え」

 

達也「厨二とかねぇよ………マジきめぇ」

 

黒井「…………そ、そんな」

 

達也「ほんっとキモいから」

 

黒井「う、うわぁぁぁぁぁぁあ!」バキッ

 

達也(元気でな…………新井が助けてくれるだろうよ。個性を大切にな、黒井)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

担任「で?こいつが原因なんだな?」

 

野崎「おう」

 

達也「」

 

担任「………………転んだって事にしとく。もう行け」

 

野崎「……おう」スタスタスタ

 

達也「」

 

担任「……………………人身御供、だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指導室

 

 

担任「起きろー」

 

達也「」

 

担任「……………はぁ」パシッ

 

達也「ん?……………あぁ、ども」

 

担任「気分はどうだ?」

 

達也「ばっちしですよ。サイコーにハイってやつですよ」

 

担任「怪我は?」

 

達也「左手を折りました。あとは右の鼓膜が破れてますね」

 

担任「……………病院、行くか?」

 

達也「まさか。治りますよ、これくらい」

 

担任「化けもんだな」

 

達也「ひっでぇ…………教師の言うことですか?」

 

担任「俺はもうお前の担任じゃないし、お前はもううちの生徒じゃない」

 

達也「………………というと?」

 

担任「おめでとう、お前は未来の付き添いでーーー県のーーー精神科に行くことになった」

 

達也「学校はどうなるんですか?」

 

担任「既に通信制の教材を取り寄せてあるんだと。……………あのハゲが」

 

達也「………真也は?」

 

担任「一ヶ月は入院だな」

 

達也「…………」

 

担任「心配はいらんよ、流石に3人目以降は面倒だ」

 

達也「一人で十分でしょう?」

 

担任「俺の目の届かない場所でやるからだ馬鹿モンが…………」

 

達也「……………けっ」

 

担任「未来はお前以外の男性を拒否する。……………他の男性と近づくと幼児退行するらしい」

 

達也「…………親御さんは?」

 

担任「とても言い表せられない顔をしてたよ。主に馬鹿どもへの怒りでな」

 

達也「…………」

 

担任「そこまで自分のヘイト値を上げたいか?このマゾめ」

 

達也「それが最善策でしょ?」

 

担任「最善策以外を選んだほうがいい時もあるんだよ」

 

達也「わっかんねー…………」

 

担任「ほら、支度しろ。お前の親父さんは無関係のスタンスらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来宅

 

 

未来「…………」

 

達也「おっす」

 

未来「達也、君?」

 

達也「おう」

 

未来「………!」だだだだ、ダキッ!

 

達也「おうおう、随分と情熱的だな」

 

未来「怖かったよ……!怖かったよ………!」ガクガク

 

達也「…………………おう」

 

未来「未来ね?抵抗したんだよ?で、でもね?あの人達ね?未来の事をね?」ガクガク

 

達也「喋らんでいい」

 

未来「……………うん」

 

達也「行くか」

 

未来「どこへ?」

 

達也「聞いてないのか………」

 

未来「未来、達也君と遠くへ旅行しに行くって………」

 

達也「…………おう、そうだ。旅行しに行くんだよ」

 

 

 

やりきれない気持ちで一杯になった。

 

平日に同級生と旅行なんてのは普通に考えておかしい。

だが中谷はそんな事にも気づかないほど衰弱しているのだ。

 

体温はとても低く、体は絶えず震えている。

 

肉付きが良くても中谷はまだ中学二年生の女の子だ。

男を受け入れる準備ができていない体を無理矢理貫かれて無事で済むはずかない。

 

………………治るまで、いや

 

 

 

 

一生を尽くして中谷を守らなきゃいかんな。

 

 

 

 

それが俺にできる罪滅ぼし。

 

 

だがこんなのは偽善だ。

罪の意識に囚われたくないという理由から来た俺の妥協策でしかない。

 

 

 

???「そろそろ行きましょう」

 

未来「まま………」

 

未来母「達也君?未来の事……………お願いしますね」

 

達也「任されましたよ……………何があっても」

 

 

 

そのまま俺たちは何時間も車に揺られた。

未来はその間もずっと、震えたままだった。

 

俺には手を握ってやる事しか出来なかった。

 

 




明日に希望を持つからこそ、絶望が襲ってくるのです。


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俺はお前を拒まないから。

未来ちゃんと頑張るお話です。

数少ない救済話となっておりますので他の胸糞で気分が悪くなられた方ほ是非こちらで休憩して行って下さい。
途中でも結構見てらんないシーンがありますが………未来ちゃんは頑張ろうとしてるんです。
一歩ずつ、達也と歩いて行ってるんです。

未来ちゃんは立ち直る為に前を向くのです。

頭の中でアヤネの幸福理論、もしくはダンゴ大家族を流しながら見てください。




未来「ここが未来達のお部屋なんだね」

 

達也「……………どうやらそうみたいだな」

 

 

中谷の様子は今の所大丈夫なようだ。

と言っても油断は禁物だ。

 

先程まで震えていたのだ、いつ馬鹿な行動をとるのか分からない。

昨日の夜、乱暴されたばかりなのだ。普通なら発狂してもおかしくないし、普通の状態でいる事こそあり得ない。

 

気丈に振舞っていても女の子。

俺に出来る限りの事をしてやらなきゃならない。

 

 

未来母「お着替え、ここに置いておきますね」

 

達也「……………どうも」

 

 

 

 

 

未来母「………正直、貴方が憎いです」

 

 

 

 

 

達也「…………」

 

未来母「でも貴方は悪くないのも知ってるの…………」

 

達也「…………俺は」

 

未来母「………貴方がいなくても、あの子はいじめを見て見ぬ振りはしなかった筈」

 

達也「…………」

 

未来母「達也君、あの子を頼むわね」スタスタ

 

達也「…………………」

 

 

 

 

今日は部屋の模様替えだ。

この部屋は精神衛生上の為、壁も床も天井も真っ白だ。

この殺風景な部屋を未来の好きな色に変える必要がある。

 

 

達也「中……………未来、何色がいい?」

 

未来「うーん…………このままでいいの」

 

達也「なぜだ?お前、ピンクとかオレンジとか好きだっただろ?」

 

未来「確かに好きだけど………未来の意見だけっていうのは不公平だと思うな」

 

達也「俺は白か黒のどちらかしか好きじゃないんだよ」

 

未来「じゃあこのままでもいいの!」

 

 

その夜未来は母親と寝る筈だったのだが、俺がベッドの隣で座って一晩中手を握っている事になった。

 

 

 

 

今日は絵を描く事にした。

 

未来は想像力豊かで、見てもないのにウサギをその細かく書いていた。

俺はあまり絵を描くのが得意ではないので、魚のようなウサギを描いていた。

 

その日も未来は俺の手を握っていた。

 

 

 

 

今日は歌を歌う事にした。

 

未来の歌はとても上手だった。

聞けばアイドルになりたかったらしい。

 

だが今となってはそれも叶わぬ夢。

途中でそれに気いたのか未来は、残念そうな顔をして歌うのをやめてしまった。

 

 

その夜、風呂場で手首を切っている未来を発見した。

耐えきれなくなったのだろう。

母親と一緒にすぐに治療棟に連れて行った。

 

 

俺はその日、未来を抱きしめて寝た。

次第に未来の体は震えるのをやめた。

 

 

 

今日は未来を一日中抱きしめる事にした。

 

母親は未来に、未来の小さい頃の写真を見せていた。

小さい頃の未来はとても可愛らしい笑顔をしていて、どこに行くにもスカートを履いている女の子だった。

 

未来は次第に涙をこぼして、俺に二度と自殺なんてしないと誓ってくれた。

 

俺は未来を信じる事にした。

 

何気に初めて他人を信用するので少し緊張するのだが………それでも俺は未来を信じて待つ。

 

 

 

今日は中庭で遊ぶ事にした。

 

未来は踊るのが得意で、綺麗な創作ダンスを俺に見せてくれた。

心が透き通るような何かを感じた。

その時の未来はとても綺麗で、まるで天女のようだった。

 

俺はこの笑顔を二度と曇らせたくない。

 

 

 

 

今日は写真を撮る事にした。

 

未来の親父さんも写真を撮りたがっていたが、未来はそれを拒むので遠近法を使って一緒に映るようにした。

未来は親父さんに遠くから謝っていたが、親父さんは写真を撮れただけで満足だったようだ。

 

 

最後に俺に見せたあの顔は忘れられない。

 

俺は自分のした事の重大さを、今になって理解できたような気がした。

 

人間とはあそこまで悲惨な顔をできるのだと、初めて知った。

おばさんはどう思っているのだろうか?

 

俺は未来のそばにいるべきなのだろうか?

 

 

 

今日は未来の前でうっかり昨日の事を言ってしまった。

 

未来は泣き叫んで『達也君がいてくれたから未来はここにいるの!』と言ってくれた。

それからそこら中の物を俺に向かって投げつけてきたのだが………最終的に許してくれた。

 

やはり未来は優しい子だ。

 

 

 

今日は室内プールで泳ぐ事にした。

 

だが未来は俺に肌を見せようとしない。

どうやら自分は汚れたのだと思い込んでいるのだろう。

そんな事はないのに。

 

そんな事では人は汚れたりしないのに。

未来は不安なのだろう。

もし自分の体を見せて俺が自分を拒絶したら、確かにそうなってしまったらもう未来は立ち直る事は無いだろう。

だが俺が未来を拒絶する事はない。

 

俺のたった一人の友人なのだから。

 

 

 

 

 

 

未来は最近、よく笑うようになった。

 

 

なんでもないただの会話の最中にもはにかむようになったし、俺がボケをかました時には突っ込む余裕も出てきたようだ。

このまま順調に良くなってくれればいいと心から思う。

 

 

 

 

 

最悪だ

 

未来が部屋を出て行くタイミングで親父さんが入ってきてしまった。

 

未来は気を失い、親父さんはそれを見ると泣いてしまった。

おれはすぐに治療棟へ電話を入れたが、未来は3日間目を覚まさなかった。

 

親父さんはその日からたった3日でやせ細ってしまった。

 

おばさんは親父さんの療養のために温泉へ連れて行くらしい。

 

 

 

 

未来が目を覚ました。

 

幸い、今回は幼児退行が出なかったようだ。

 

目が覚めたお祝いとして、未来も親父さん達とは違うの温泉へ連れて行く事にした。

未来はその日 、とてもテンションが高かった。

 

俺は未来の喜ぶ姿が見れて満足した。

 

………………最近、書き方がジジ臭い気がしてきた。

 

 

 

 

今日は温泉に行く日だ。

 

未来は俺の側だと安定していて、おばさんの側だと30分ぐらいは我慢できる。

親父さんは論外だが。

 

今日行く温泉は混浴があるようだ。

タオルの持ち込みはオーケーなので、俺は未来と一緒に入る事にした。

馬鹿をしないかとても心配だ。

 

普通の中学生なら興奮してそれどころじゃないだろう。

だが入るのは異常者と患者だ。

 

俺は未来の事が心配で体を見てもなんとも思わなかった。

未来は俺をどう思っていたのか知らんが。

 

……………………そしてここでは劣情を吐き出せない事に気付いた。

 

 

 

未来の症状は少しだけ収まっているようだ。

 

今では父親との距離が5メートルもあれば会話ができる。

親父さんは初めて俺に感謝をしてきた。

 

娘を助けてくれてありがとう、と。

 

俺は言い表せられない思いでいっぱいになった。

 

 

 

 

担任から電話があった。

 

真也が退院したらしい。

真也は荒れていて、以前の面影はまるでないらしい。

そして驚く事に、あの連中とつるんでいるのだとか。

亜利沙は俺の事で責任を感じ、生徒会長を辞めたいと騒いでいたようだが、担任がそれを止めてくれたらしい。

 

なんだかんだであの先生、俺と同じ匂いがする。

 

何にしてもここを出たら真也の頭を引っ叩いてやらんといかん。

 

 

 

 

未来は最近、性欲が溜まってきているようだ。

 

両親も連続して仕事を休むことが出来ず、俺もいるので数日間仕事に戻った。

未来はそれをいい事に劣情を吐き出したいようだ。

だがそれはトラウマを呼び出すことに繋がる。

そういう事に嫌悪感を抱かなくなるようにする為には1度全部忘れさせる事が重要だ。

 

俺は心を鬼にして未来を止めた。

 

 

 

 

そうして半年が過ぎた。

 

 

 




未来は達也に少し依存しています。


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雨、ね………俺は好きだよ。

未来ちゃんは幸せにしますね。


この場所に来てからもう半年になる。

 

未来の症状は以前よりも良くなってきている。

最近では俺がいなくても夜寝れるようになったし、殆ど日常生活は自分でなんとかできるようになった。

自傷行為もしなくなってきたし、前向きな考えをするようになった。

良い傾向だ。

だがそれゆえに俺は未来を哀れに思ってしまった。

 

 

 

あれから俺は知りたくない事実を知ってしまったのだ。

 

 

 

本当に救いようのない馬鹿ばっかりで気が滅入る。

どうして未来が俺に依存したのか、どうして実の母親は警察に届けを出さなかったのか、今になってやっと分かった。

 

 

 

 

この二人は未来を愛していない。

 

 

 

 

正確には『娘として愛していない』のだ。

 

最初は未来のこれからを考えて届けを出さないのだと思った。

被害届と言うのは必ずしも出す事が正しいとは限りない。

なぜなら届けを出すという事は『自分は事件と関わっている』という事を公表するようなものだからだ。

 

それゆえに届けを出さずに身内のみで解決する者も増えている。

 

おそらくそれは難しい方法なのだろう、だがそれは確実に届けを出すよりも波風を立てないで済むのだ。

 

 

 

俺は未来の両親が未来の為を思ってその選択をしたのだと思っていた。

 

だがあの二人からは愛を全く感じない。

 

 

 

愛とは祖父さんが教えてくれた温かいものだ。

 

 

 

あんな取って付けたような笑顔は祖父さんはしなかったし、商品のように扱う事もしなかった。

本当に心の底から相手を想い、支える事の出来る笑顔とは一切の嫌悪感を感じさせない。

そして安らぎを産むのだ。

 

性別も年齢も、人種も宗教も、関係なく信頼出来る感情、それが愛。

 

俺はかつて祖父さんからそれを教わった。

なのに未来の両親からはそれを感じないのだ。

最初は俺の勘違いだと思っていた、俺がおかしいだけで未来の両親は未来の事を愛してるのだと。

 

 

だが俺は聞いてしまった。

 

 

 

 

以前

 

 

母『あの子も良くなってきてるわね………』

 

父『あの調子なら先方も文句は言わんだろうよ』

 

母『物好きな人もいるのね』

 

父『本当に助かったよ………長年金をかけてきたのが無駄になるところだった』

 

母『私なら死んでも嫌だけどね…………』

 

父『傷物になった子供が良いとはな……………逆にこうなって良かったのかもな』

 

母『ちょっと、いくら何でも不謹慎よ?………事実だけどね』くすっ

 

父『お前も大概じゃないか』

 

母『あの子はどうするの?』

 

父『そのうち金でも握らせるさ。なーに、あの年頃の餓鬼は金さえあれば何でも言う事を聞くものだよ』

 

 

 

 

あの時俺に見せた表情は娘を傷つけられた事で出たものではなく、自分の娘が売れなくなった事からきた顔だったのだ。

 

 

 

 

生まれて初めて同情から涙を流した。

 

未来はこの事を知らない。

未来の中では、自分の両親は自分を想い支えてくれる最愛の親なのだ。

 

両親は金をかけて育てたと言っていた。

こうなって良かったのかもと言っていた。

 

未来はそんな両親の事を信じている。

なんて

 

 

 

 

 

なんて皮肉なんだろうか。

 

 

 

 

 

未来「どうかした?」

 

達也「…………………未来」

 

未来「怖い顔してるの………未来、嫌だな」

 

達也「悪い、ちょっとこの問題が分からなくてな」

 

未来「もー……………貸して?」

 

達也「………………」サッ

 

未来「ここは〜〜〜だから〜〜〜になるの、分かった?」カリカリ

 

達也「なるほど、分からん」

 

未来「むぅ…………もう休憩!」

 

 

 

今、俺は未来と勉強をしている。

 

普通なら俺達は受験生一歩手前だ、療養中でも勉強はしておくべきだろう。

ここに一生居れるわけではないし高校卒業は社会で自然と求められてくる。

 

未来は元々ポテンシャルの高い人間だ。

 

俺なんかよりもずっと先の内容を学んでいる。

それに比べて俺は……………まぁ、中の下だとだけ言っておこう。

 

未来は女子校へ行かせるつもりだ。

 

 

つもりというのも、未来は俺に通う高校を委ねてきたのだ。

 

 

両親は既に相手を見つけおり、嫁ぐ事を勧めてくるようだ。

例のあの会話の相手なのだろう。

未来はそれを望んでいないというので、俺は進学を勧めた。

もちろん俺とは違う場所にだ。

 

俺は今回、祖父さんの力を借りる。

 

真っ向から両親の思惑を叩き潰してもらう。

祖父さんなら簡単だろうし……………利用するようで心苦しいが、未来のこれからを守るためならば手段は選ばない。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日、祖父さんに面会に来てもらった。

 

名目上は俺との面会だが、本当の理由は未来の両親に睨みを利かせてもらう為だ。

祖父さんともなるとかなり顔が広い。

クソみたいな思惑の一つや二つ、握り潰すのは簡単らしい。

 

そして思い通りの反応をしてくれた。

 

祖父さんに睨まれたあの二人の顔は忘れられない。そして両親は祖父さんとの話し合いの末、未来の親権を手放すようだ。

 

その時の祖父さんは俺なんかと比べ物にならない程怒っていた。そして、悲しんでいた。

 

 

 

 

未来の母親は祖父さんに金を請求したのだ。

 

 

 

 

どうやら未来を女として迎えると勘違いしたらしい。

祖父さんは怒りのあまり、小切手を投げ捨てて『好きなだけ持っていけ!この外道どもめ!』と言ってしまったらしい。

 

祖父さんは本当に俺のヒーローだ。

 

 

その後に祖父さんは未来と話をした。

未来もなぜか、祖父さんを拒む様子がなかった。

 

後で聞いたところ、俺と同じ匂いがしたのだと。

 

…………………思わず顔がにやけてしまった。

俺にも嬉しいという感情は勿論ある。

この世で数少ない俺のヒーローと同じ匂いがすると言われたのだ。

嬉しくないはずがない。

 

 

ともあれ、これで未来は祖父さんの娘となった。

ある意味。これで初めて未来は自分の足で進めるようになったのだ。

 

 

 

それと、未来は自分の両親の事を知っていた。

愛を感じる事ができなかったのだと。

 

だがこれからは俺と祖父さんが一緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

もう独りじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来「本当に行っちゃうの?」

 

達也「おう」

 

未来「……………でも、また標的にされるでしょ?」

 

達也「ンなもん関係ねぇよ。俺には真也の頭を叩いてやる義務があるんだ」

 

未来「…………寂しいよ」

 

達也「祖父さんがいるだろう?向こうでもお前を守ってくれるさ」

 

宗介「……………お前も来ていいんだぞ?」

 

達也「はぁ?…………俺の居場所はあの街ですから」

 

宗介「………………咲がマズイと思ったら連絡を入れてくれ」

 

達也「何かあったんですか?」

 

 

 

 

 

 

宗介「浩太が自殺したよ」

 

 

 

 

 

 

達也「………………」

 

宗介「仕事がうまくいってなかったらしい」

 

達也「咲と真也はどうなってるんですか?」

 

宗介「二人で暮らしてるようだ。………だがかなり荒れてるらしい」

 

達也「……………………やれやれ」

 

未来「………手紙、書くからね」

 

達也「………おう」

 

未来「………………メールはダメなんだよね?」

 

達也「多分一週間もケータイが保たない」

 

未来「………会いに行くのも」

 

達也「駄目だ」

 

未来「………………またね」

 

達也「おう………………お」

 

 

雨が降った。

 

空は明るいのに。

 

 

未来「…………………雨だね」

 

達也「みたいだなぁ………」

 

未来「達也君、雨は好き?」

 

 

 

達也「雨、…………好きだよ、未来」

 

 

 




こうして未来ちゃんは祖父さんと共に達也とは離れた場所で暮らします。
未来ちゃんは女子校に通う事になりますが、祖父さんが面倒を見てくれます。
また、祖母さんは既にお亡くなりになられているので未来ちゃんが虐められる事はありません。

祖父さんの家は人間しかいません。

未来ちゃんはやっと、安息の地を見つけたのです。


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殴れよ、全力でな。

今回から高校生編です。




◯◯高校 入学式

 

 

 

達也(あー……………サボりたい)

 

???「………ねぇ………あれ………」

 

???「本当?……………マジで……し」

 

???「恥ずかし…………のか?」

 

???「…………うわ……………きも………」

 

達也(懐かしいな…………このアウェー感)

 

 

 

 

 

 

新クラス

 

 

井出「はい!今日からみんなの担任を受け持つ事になった、井出翔太だ!みんな、1年間よろしくな!」

 

???「せんせー、かっこいー!」

 

???「よろしくねー」

 

井出「おう!」

 

達也(女たらしだな………さっきから一度も野郎の方を見てない)

 

井出「えー、新クラス最初の日に言う事ではないと思うがー………最近、世間ではいじめの事が騒がれているな?そこでだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

井出「うちのクラスではいじめは無いようにしよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

井出「俺はお前らを信じてるからな!うちにいじめは無い!」

 

達也(は?)

 

???「せんせー、だいじょーぶだよー」

 

???「俺らの中にいじめなんて無いって、なぁ?」

 

???「そーそー、俺ら親友だもんな?」

 

達也(親友、ね……………そう言えば佐藤もここに居るらしいな)

 

???「ねー?この後どうするー?」

 

???「うちらどこでもいーよー」

 

???「じゃあ〜〜〜行こーぜ?」

 

???「いや、それはなくない?」

 

達也(どこでもと言ってませんでしたかね?貴女)

 

 

 

 

一言で言うなら異国の地だ。

 

おそらく高校入学よりも前からの付き合いで纏まっているのだろう。

知り合い同士で固まるので一人の人間がよく目立つ。

 

それにしてもなにを言ってるのか分からん。

 

よく注意して会話を盗み聞きしてたが、会話の途中で否定をするのも肯定するのもあるわー、もしくはないわーのどちらかで済ませ、同意の時にはそれな、などの言葉で済ませている。

 

半年でここまで人は成長するのか………なんだか人類の進化の過程を見ているような気分だ。

 

それと確かここは制服が決まっているはずなんだが…………セーラー服はあんな感じだったか?

男子のブレザーはまだ原型が分かるが………女子のはまるでコスプレだ。

 

これが高校生か?………少し怖いぞこれ。

 

 

 

 

 

 

 

休み時間

 

 

達也(うーん………本を忘れるとは俺もマヌケだな………図書室とかあったっけ?)テクテク

 

???「あれ?」

 

達也(できる事なら図書室と購買は見つけておきたいところだが………)

 

???「ねぇ、あなた」

 

達也「……………ん?ってお前」

 

 

 

 

 

 

 

美久「久しぶりね、………達也君」

 

 

 

 

 

 

 

達也「………お前もここに進んでたのかよ」

 

美久「蓮歌も一緒よ?………後は新井君がいるわ」

 

達也「黒井は?」

 

美久「亜利沙と同じ進学組に」

 

達也「…………………野崎は?」

 

美久「………進学はしなかったわ」

 

達也「ほう………蓮歌は一緒のクラスなのか?」

 

美久「知らないの?私達は達也君の隣のクラスよ」

 

達也「そうなのか。ま、あまり関わる事はないと思うがな」

 

美久「………………今でも同じ生き方をしているのね」

 

達也「生き方なんて簡単に変えるもんじゃない」

 

美久「蓮歌は………あなたの事を恨んでいるわ」

 

達也「それが正しい反応だ。あの時の俺は面倒事を呼び込む元凶だったからな」

 

美久「ふふっ………私はそうは思わなかったけどね」くすっ

 

達也「…………やっぱアンタは賢いな」

 

美久「新井君も気づいてたんでしょ?」

 

達也「あいつは協力者だからな」

 

美久「協力者?」

 

達也「あぁ、そうだ」

 

達也「俺に対して行われるストレス発散の為の行為、あれは俺以外の人間に被害が及んだら意味が無い。なんせ俺に集中させる為に俺は行動してるんだからな」

 

美久「………新井君はあなたに攻撃が行くように仕向けていたの?」

 

達也「勘違いするな。あいつはあくまで俺に攻撃がいきやすいようにフォローしてくれてただけだ。その言い方だとあいつが俺に攻撃をしてたように聞こえる」

 

美久「………ごめんなさい。それと、何をしているの?」

 

達也「あ?図書室を探してるんだよ」

 

美久「図書室ならこの先だけど………どうして?」

 

達也「いや、なに…………本を忘れてな」

 

美久「そう…………あ、私もう行くわね?」

 

達也「おう、じゃあな」

 

美久「ふふっ………またね」ふりふり

 

 

 

 

 

 

図書室

 

 

達也「結構色んな本があるんだな…………」

 

???「……………」パラ

 

達也「……………お、メロス」パラパラ

 

???「……………」パラ

 

達也(他にも人がいるな………静かにしとくか)パラ

 

 

 

 

 

 

???「いやー、どこも開いてなくね?」ドサ

 

 

???「本当本当!食堂とかマジで先輩ばっか!」

 

 

???「それな、 いやー………マジとっとと卒業しねーかな」

 

 

???「つかさ?ここ良くね?」

 

 

???「あっ!ここで飯食うの良くね⁉︎」

 

 

???「それあるわー」

 

 

 

 

???「あ、あの………」

 

???「あ?何、つか誰?」

 

飯田「図書委員の飯田です…………ここは飲食禁止になってるんで………」

 

???「はぁ?一年の癖に先輩に生言っちゃうわけぇ?」

 

???「ちょっと飯食うだけジャン?別に良くね?」

 

飯田「で、でも…………規則で決まってて」

 

???「規則規則って………うるせぇんだよ、どいつもこいつもよぉ」

 

???「広いんだから別にいーじゃんよー」

 

???「そうそう、場所は有効活用しないとなー?」

 

???「おっ?お前良くそんな言葉知ってんじゃん」

 

???「いや、俺天才だからさぁ」

 

???「何それウケる」ケラケラ

 

達也(……………絵に描いたような馬鹿だな。つうか本に臭いがつくんだよ、飯の臭いもアンタらの香水の臭いも)

 

???「てなわけで俺らはほっといて〜」

 

飯田「あ、やめてください!」

 

???「あ?………お前さぁ、女だからって殴られねぇとか思ってる系?」

 

???「やめとけよ〜、その子ビビってちびるかもよ?」ケラケラ

 

???「いや、マジこういう奴は一遍締めねぇとわかんねぇし」パキポキ

 

飯田「あ、あの………やめて」

 

???「うるせぇんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也「はいストップしてー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「あ?」

 

達也「いやー…………すいませんけどね?」

 

 

 

 

 

 

 

達也「それ、俺の役目なんすわ」

 

 

 

 

 

 

 

???「は?何お前?」

 

達也「達也っつーもんです。よろしくどーぞ、先輩」

 

???「………舐めてんのか、おい?」

 

達也「いえいえ。でもその子殴るのはどうかなー………と思いまして」

 

???「カッコつけてんのー?だせーよー?」けらけら

 

達也「ははは、すいません。でも殴るのはやめましょ、ね?ここは穏便に」

 

???「るせぇよ」バキッ

 

達也「モルスァ」

 

???「てめぇ………ちっとツラ貸せや」ぐい

 

???「おぉ?やっちゃう系?俺頑張っちゃうよー」パキポキ

 

???「あたしらトイレー」ガタ

 

???「んだ?生理かよ?」

 

???「ちげーしバーカ」テクテク

 

 

 

 

 

 

 

人気の無い廊下

 

 

先輩「んで?達也とか言ったっけ?お前分かってんだろうな?」

 

達也「何のことだか」

 

先輩「とぼけんなや!」バキッ

 

達也(…………ふぅ、久しぶりのは響くねー)

 

先輩「おめぇ、明日から金持ってこいや」

 

達也「さーせん、いえ金無いんで」

 

先輩「殺されてぇのか?」ぐい

 

達也(殺す、ね………………実際に殺せないのに使うなよな………小物に見えるから)

 

先輩「お前さ?馬鹿なわけ?」

 

達也(さっきからずっと疑問系で話してんなこいつ………キョロ充ってのはこういう奴だったか?確か違ったような………)

 

先輩「とりあえず今日は先輩の怖さ教えてやるからよ」

 

達也(そりゃどーも)

 

先輩「授業料として財布置いてけよ」

 

達也(なんでやねん)

 

 

 

 

ズガッドゴッバキッゴスッ!

 

 

 

 

 

達也の高校生活初日。

 

 

殴られて財布を失ってうえ半身裸で帰った。




最悪のスタート?です。

あ、それと宜しければ評価をおつけ下さい。
キャラクターが気に入らないなどの意見は感想で聞くことができますが、話自体を気に入らないという方は評価の方が分かりやすいので。

でも面倒ならいいです。


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床の冷たさ。人の冷たさ。

いよいよ夏休みも終わりました。

皆さんは必死こいて宿題を消化してますか?
作者は今後悔でいっぱいの週末を送っています。

そんな中、ふと頭に浮かんできた主人公いじめのネタを消化したいので勉強の合間に親の目を掻い潜って小説投稿をしています。
これがけっこうバレないもので。
机の下にスマホを置いて書いてるので、結構間違いがあるかしれません。(いつも以上に)

では、どうぞ。



あの先輩方から解放された後、俺は中々出来ない体験をする羽目になった。

 

上半身は裸、下半身はパンツ一丁という日本では中々見られない姿にされて全身に落書きを施されてしまい、全速力で走って帰ったのである。

悔しいというよりは恥ずかしかったのを覚えている。

 

そして今日

 

いつものように教室へ向かったのだが………

 

 

 

達也「なんなんだ?この騒ぎは?」

 

???「俺らのクラスに先輩が来てんだよ」

 

達也「ふーん………」テクテク

 

 

ガラッ

 

 

達也「ういーっす」

 

先輩「おはよー達也ちゃーん?」

 

達也「………っす(あらら………俺の机に座ってらぁ)」

 

先輩「あらあら?元気ないじゃん、どうしたんだよ?」クスクス

 

先輩「先輩が挨拶してんだからさぁ、もうちっとなんかねーのかよ?」

 

達也「ここは先輩方の教室じゃないっすよ?」

 

先輩「あぁ、俺ら達也ちゃんに用があったんだよ」

 

 

 

 

 

達也「………………場所変えますか」

 

 

 

 

 

先輩「あ、じゃあさ、俺らのとっておきの所いこーぜ?」

 

達也「………………どうぞ」

 

 

 

どうやら先輩方は昨日の続きをしに来たようだ。

大方日頃の鬱憤を晴らしに来たのだろう。

2年のは3年には強く出る事が出来ない、それは何故か。

 

 

 

 

3年は自分らよりも恐ろしくて強い存在だと認識しているからだ。

 

 

 

 

1年間しか違いが無いと思われがちだが、その1年間はとてもでかい。

学園生活では虐げる者と虐げられる者がいて、自分達は当然虐げる側にいる。

そんな彼らだからこそ、虐げられる側の苦しみを理解している。

3年を敵に回す事は虐げられる側に移動する事と同じだ。

そんな弱肉強食の世界を自分達よりも1年も長く生き抜いてきたのだ。

当然ながら恐ろしい猛者共に立ち向かえるわけもなく、俺ら1年が入るまでは底辺で縮こまってたのだ。

 

そして1年が入ると自分達よりも弱い存在ができ、2年は底辺ではなくなる。

そして俺のような標的を見つけ、今までの八つ当たりをする。

 

 

 

 

 

 

トイレ

 

 

達也「男子便所っすか?」

 

先輩「いーだろ?俺らの溜まり場だよ」

 

先輩「お前もこれからここに来んだよ」ニヤニヤ

 

達也「なんつーか………すごいっすね」

 

 

2年の階の男子便所、壁は穴が開いていたり下品な落書きがされてあったりしていてとても汚ない。

そして床にはタバコの吸殻や空の缶ビールが散らばっている。

 

そして一番奥の個室。

 

血が飛び散っている事から、気にくわない奴の制裁場所なのだろう。

 

 

達也「で、俺に何の用っすか?授業あるんすけど」

 

先輩「金」

 

達也「……………昨日財布持っていったじゃないっすか」

 

先輩「はぁ?持ってねーよ、なぁ?」ニヤニヤ

 

先輩「俺も無ーなぁ」ニヤニヤ

 

達也「…………今日は俺1円も無いっすよ」

 

先輩「ふーん…………しらばっくれんだぁ」

 

 

 

グイ、バシャン!

 

ゴボッ!ゴボボボボ!

 

 

 

達也「………………!」ジタバタ

 

先輩「水の中で思い出せよなぁ?どこにしまったのさぁ」グイグイ

 

達也(便器の中に顔突っ込むとか……!)ジタバタ

 

先輩「ふっ、あっはっはっは!こいつアホみたてぇに暴れてるぜ!」

 

先輩「早く金出さないと溺れちゃうよ?トイレん中でwww」

 

達也「………ゴボッ……ゴボボボ!……ゴボッ!」ジタバタ

 

先輩「ん?www聞こえねーんだけど?www」グイ

 

達也「…………マジで…ゴボッ持っゴボッ、ゴボボボッ………ねぇ……」ジタバタ

 

先輩「んだよ………マジで無ぇのかよ」

 

先輩「白けんなー………」

 

達也「はぁ、はぁ………本当っすから」ハアハア

 

先輩「………じゃあ、ウゼぇからこれで勘弁してやるわ」

 

達也「ッ!」ジュウゥゥ

 

先輩「手の甲にタバコの痕、んん〜wwwお前今日から吸ってるって疑われんなwww」

 

達也「……………帰っていっすか?」

 

先輩「んな頭で?臭ぇし煙たがられんぞ?」

 

達也「つっても仕方ないんで」

 

先輩「ふーん………明日は金持ってこいよ?」

 

達也「善所します」テクテク

 

 

 

 

ヒソヒソ、ヒソヒソ

 

クスクス

 

見てあれ………

 

………………トイレの

 

……うわ………きも…………

 

近づくのやめよーよ

 

 

 

達也(煙たがるのではなく隠れて笑うのね…………あぁ…………腐ってんなこいつら)

 

 

達也(逆に助かるが…………この分だとクラスでも変わらんな)

 

 

 

 

ガラッ

 

 

達也「すいませーん、遅れましたー」

 

担任「おおっ!達也か………ってお前なんだその頭!」

 

達也「まぁ、色々とありまして」

 

担任「………………保健室、いや、今日はもう帰りなさい」

 

達也「は?」

 

担任「保健室には早退した事を言っておく。帰りなさい」

 

達也「なんでこんなんで」

 

担任「言うことを聞け!」

 

達也「…………」

 

担任「そんなナリで他の生徒に迷惑がかかると思わないのか!この問題児め!」

 

達也「……………すいません」

 

担任「分かったらとっとと失せろ!臭くてかなわん!」

 

達也(どうしてこうなったのかは聞かんのね………)

 

 

 

 

 

 



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思いの行く末。

久しぶりの更新
多忙ってのは恐ろしいもんで、ハーメルン利用してたって事すら忘れさせる。

とりあえず思い出したのでまた再開しますよっと。


 

教師なんてロクなもんじゃない。

 

そんな事は10年以上前から知っている。

子供に対して教鞭をとる職種だ。

それなりに学が必要で、学以外にもカリスマ性だったり指揮能力だったり、コミュ力だったり、いろんなことが必要とされる。

 

建前上、生徒の模範となるべき姿の教師ってのは立派でなけりゃならない。

 

だから 『率先して生徒を孤立させる』 ってのはどうかと思うぜ?

 

先輩方から受けた教育の傷跡、それをそのままの状態で教室にはいるべきじゃないってのは分かる。

だがそれで怒鳴りつけるのはなんなんだ?

俺の中で最も模範にしたくない教師No. 1だよ……

 

 

 

 

早退を余儀なくされた俺は仕方なーく、唯一を俺を受け入れてくれる愛すべき我が自宅(書斎)へ帰る。

 

 

「さーて……やることやりますか」

 

ここ数日まともにできてなかった溜まった仕事をこなす。

 

「先ずは…………えーっと、これか」

 

手に取った物は送られてきたばかりの手紙、差出人の名は「玉木」

 

『久しぶりですね、達也くんお元気ですか?

私の方はもうすっかり体調も良くなり出産後の問題も何とかなりました。

この子も達也くんの考えてくれた『楓』という名前で呼ぶと喜んでくれて、それを見ると私はとても嬉しく思います。

あれからもう一年以上経ちますが…達也くんは未だに考えを変える気は無いのでしょうか?

と、いうのは無駄でしょうね。

達也くんの選んだその生き方はとても辛いものだと思います。

人の幸せを願う優しい君は、自分の幸せを考えられる事ができない。

前の私とは正反対ですね……本当はそんな君が楓のお父さんになってくれたら、と思っているのですが…

まぁ、それはまたの機会に。

お祖父様から聞きましたが達也くんのお祖母様が体調を崩されたのだとか。

あまりお祖母様に良い印象は持っていないのでしょうが…それでも君がお祖母様の孫である事に変わりはありません。

偶には見舞いにでも行ってあげてください。

 

最後に

もし、未来ちゃんのように辛い現実に押しつぶされてしまうような方がいたら連絡をください。

私は君の味方です、いつでも頼って下さいね?

 

いつか如月になりたい玉木祐子より

 

「………いや本当に押しが強いなオイ」

 

この人は本当にいつでも押しが強い。

俺の2つ上の先輩で、子持ちの大学生。

元はこの近くの高校にいたがとある生徒のせいで妊娠をしてしまい、堕ろしたくないという本人の願いを尊重して、俺と祖父さんが遠くの街へ送った。

 

確かに父親がいないよりはいた方がいいとは思うが…

ともあれ元気なら良かった。

 

 

「………もう一通の手紙は」

 

 

先出し人の名は「未来」

 

『元気かな?

私は今、通ってる女子高の寮からこの手紙を書いてるよ!

前は辛かったけど…今はこっちで楽しくやってるからね!

先生も、もちろん生徒も、みーんな女の子ばっかで全然怖くないよ!

そのうちイケナイ恋が芽生えそう……なーんてね!

私、最近はいろんなことを勉強してるの。

アイドルはもう無理だけど……踊るのは好きだからいっぱい練習してるの!

将来はダンス講師になりたいんだ……だから上手くなったら私のダンスを見てね?

 

普通に恋したい未来より

 

「………同じ手紙でもここまでアピールに差が出るんだなぁ」

 

どんな内容の手紙でも、手紙を読んでいるだけで嬉しく思える。

自分は愛されてるなぁ、そんな気分になれる。

 

幸せだ

 

殴られただとか、嫌がらせを受けただとか。

そんな些細な事全てがアホらしく思えてくる。

 

今自分は幸せで、前を向いて生きてるよ、ってそんな知らせを受けられる。

それだけでも本当に嬉しいものなんだなと、実感する。

 

 

 

体の損失

左肩裂傷、右の人差し指と中指共に骨折、左鼓膜破裂、全身打撲、全身切り傷

経済損失

学生鞄及びその中身、外履き、ケータイ損害

 

こんななりでも全然不幸だと思わない。

 

 

あぁ、生きてるって幸せなんだなぁ




ちょい短いかな?って思っても書き足さない。

理由?そんなもん書き方と設定を忘れたからだよ。
次どんな話書こうかな……誰かなんかありません?


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