真・恋姫✝無双 新たなる外史 (雷の人)
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プロローグ:劉備軍
第一話:王泰と一刀と劉備


182年、この年は忘れられない年、当時洛陽・・・否、漢帝国全土の悪政の根源となっていた十常侍、その弾劾に無謀にも挑むも、失敗。この義挙に乗ってくれた陳蕃様を始めとした多くの忠臣が処刑された、俺は官職を剥がれ、その日の内に紫牙と共に洛陽を脱出した。

 

党錮の禁 、宦官の手により、大将軍竇武、大傅陳蕃を始めとした外戚が一掃され、この時より、漢帝国の疲弊は加速の一路を辿る。

 

あれから二年、世には黄巾党なる匪賊が横行するが、官軍の殆どが機能しておらず、民は略取され続けていた。

 

あの日洛陽を逃げた俺たちは、冀州の東端にある農村にたどり着く。

 

見ず知らずの俺たちを助け、住む場所まで与えてくれた恩義に報いるべく、自警団を組織し、開墾などに関し自分が持ち得る知識を総動員し助力している。

 

この日、俺は鍬を片手に畑を耕していた。

 

「おぅ青焔、そろそろ飯の時間だぞ」

「ああ、もうそんな時間か」

 

俺の名は王泰、字を文令、真名を青焔という。俺に今声をかけてきたのが周倉、真名を単、この村で俺に出来た親友であり村の若者のまとめ役である。

 

「そういやぁよ、黄巾賊が結構近くまで来てるみたいだぜ」

「・・・、本当か」

「ああ、南皮の城がこの間襲撃を受けたらしい」

「・・・それなりの備えをしなけりゃならないか」

 

道端で考え込む二人、するとそこに・・・

 

「あの~、ちょーっと宜しいですか?」

 

少女の声、に二人が同時に振り向く。緋色の髪をした・・・歳の頃は紫牙と同じぐらいであろう少女がいる。

 

「見ない顔だが・・・どうした?」

 

と、真っ先に単が反応する。

 

「はい、この村に王泰さん、って方がいると聞いて訪ねて来たんですけど」

 

その言葉に、顔を見合わせる二人、少し間を空けてから青焔が少女へと向き合う。

 

「俺が王泰だが・・・まぁこんなところで立ち話も何だ、今から飯にするところだから良ければ来ると良い」

「え?良いんですか?あ、でも・・・」

「どうした?」

 

ちょっと迷っているらしい少女に問いかけると。

 

「村の外に皆を待たせてて・・・」

「何だ、連れがいるのか・・・なら連れてくると良い」

「ホントに良いんですか?」

「構わない、話なら飯のあとでも聞けるだろう」

「でも・・・」

 

どこか遠慮がちに言う少女、しかしグゥウウウ、と、腹の音がその場に響けば、顔を真っ赤にする少女。

 

「腹は正直だな」

「う、わ、分かりました」

 

それから四半刻後、王泰の家。

 

「夜の分まで見込んで作ったつもりでしたが・・・まさか全て平らげられるとは」

 

驚いた表情をしているのは名を法正、字を孝直、真名を紫牙。洛陽官吏だった頃から付き従ってくれている、言わば弟のような存在だ。力仕事が苦手なので家事全般を受け持ってもらっている。

 

「申し訳ありません、うちの大食らいが・・・」

 

と、申し訳なさそうに頭を下げる黒い長髪が印象的な少女は関羽、と名乗っていた。

 

「ほら鈴々、ちゃんとお礼を言わないと」

 

と、傍らの小柄な大食らい少女に声をかけている少年が北郷一刀と名乗る、彼ら曰く天の御使いなる存在らしい。

 

「ごちそうさまなのだ!」

 

と元気に言う赤髪の小柄な大食らいが張飛と言っていた。

 

「すみません、ご馳走になってしまって・・・」

 

と、こちらもまた申し訳なさそうに言うのは諸葛亮と名乗っていた少女だ。

 

「でも、その、美味しかったです」

 

と、はにかみながら言うのが鳳統という少女だ。

 

「うんうん、すんごい美味しかったよ」

 

と、かなり満足げに語るのが先に会った劉備と名乗る少女だ。

 

「さて、本題に入って貰おうか」

 

片付けを紫牙に任せれば、青焔は六人へと向き合い、単刀直入に話題を切り出す。

 

「あ、はい」

 

どうやら、劉備が仲間内の一番上らしく、声の調子を整え語りだす。

 

「王泰さんは今の世の中をどう思いますか?」

「どう、とはまた大まかな話だが・・・嘆かわしい、としか言えないな。官が民を搾取し搾取された民が黄巾を被り同じ民を搾取する、負の連鎖だ」

 

と、思っていた通りの事を語る。

 

「はい、私たちもそう思います・・・だからこそ、なんとかしたいと思うんです」

「ふむ」

「力の弱い民たちが虐げられる今の世の中を変えるために、私たちはこれまで戦ってきました、でも私たちだけの力じゃどうしても足りないんです、もっともっと、多くの民を助けるために、もっと力が欲しいんです」

「それで」

「実は私、以前に洛陽の盧植先生の下で学んでいた時期があったんです」

 

その言葉に、わずかながら驚きを覚える。

 

「盧植先生の門下だったか」

 

盧植は学者でありながら将としても有能であり、実直なその性格から宦官らも党錮の禁では処断せず将軍位に座らせている程の人物だ。

 

「はい、それで少し前に先生に意見を聞きにいった事があったんです」

「ふむ、それで」

「その時に盧植先生から言われたんです」

 

曰く、党錮の禁を逃れた者に王泰という者がいる。天下に挑むならば彼の者の力を得るべし、と。

 

「お願いします!私たちには王泰さんのお力が必要なんです!」

 

深々と、土下座までする劉備。そこまで自分を評価してくれている、その事は純粋に嬉しい、だが自分にも今の生活がある、自分が今いなくなればこの村はどうなる、そう、考えた結果。

 

「・・・頭を上げてくれ、俺はそんなに立派な人間じゃあ無い、申し訳ないが他を当たってくれ」

「・・・ダメ、なんですか?」

 

ようやく頭を上げた劉備。

 

「すまないがお断りさせて貰おう」

「・・・分かりました、あ、でも私たちしばらくこの近辺に滞在してますから、気が変わったら来てくださいね!」

「・・・まぁ、心には留めて置こう」

 

断ったというのに天真爛漫な笑みでそういわれ、一瞬戸惑いを覚えるが、社交辞令みたいなものだ、とその時は思っていた。

 

あれから三日たった頃、今度は北郷一刀が訪ねて来た。

 

「迷惑、じゃなかったかな」

 

今日は雨、どの道農作業も出来ず暇を持て余していたので。

 

「構わんさ、丁度暇していたところだ」

 

と俺は答えた。

 

「そう言えば前回は聞かなかったが・・・何故君は劉備たちと行動を共にしている?」

 

前回少し疑問に思った事を問いかけてみた。

 

「あー、実は・・・」

 

北郷の口から語られる。曰く自分は何百年も未来から来たという事、曰く劉備たちと出会ったのはまったくの偶然だと言う事、そして・・・

 

「でもさ、今は本気で桃香・・・劉備たちの力になりたいと思ってる」

 

彼の思いもまた本物である、と知った。それでも・・・

 

「以前と変わらないさ、俺はこの村に恩義がある、その恩を返しきれたとは思っていない、だから・・・」

「そっか・・・んじゃあまた来てみるよ」

 

と、笑いながら去っていった北郷。

 

「俺は・・・」

 

北郷が帰った後の自宅にて、床下からかつて使っていた大矛を取り出す、手入れだけは欠かしていないので、錆びる事も無く、かつてのままの輝きを保っている。

 

「・・・・・・・・・」

 

その姿を、窓から覗いていたのは隣家の男性だ、その後、真っ直ぐに村長の家へと入っていった。

 

それから更に四日たった頃、劉備と北郷が連れ立って来た。

 

この日は農作業の予定も無く、家でのんびりしていた。

 

「根気強いものだな」

 

と、苦笑しながら招き入れる、紫牙も慣れたもので三人分の白湯を出し、下がる。

 

「でも、今回で最後にしようと思います」

「ほう?」

「昨日話し合ってさ、無理に誘い続けてもダメだ、って話になって」

「成程な」

「それで王泰さん・・・」

「申し訳ないが俺の気持ちは変わらん・・・俺は・・・」

「行きたいんだろ?」

 

三度目の断りを入れようとした途端、口を挟んできたのは単だった、いつの間にか入口に立っている。

 

「何を言う、俺は・・・」

「とっくに村の皆は気づいているんだぜ?お前がどこか燻ってるってな・・・・それに・・・外に出てみな」

「外?」

 

単の言葉に、外へと出れば、村人のほとんどが集まっていた、自警団の連中もいる。

 

「青焔さん!行きたけりゃ行っていいんだぞ!?」

「俺らは十分助けてもらった!青焔さんはもっとでっけぇものも助けられるはずだ!」

「青焔さんが心配しなくてもこの村ぁ俺らが護ります!!」

 

口々に感謝の言葉と後押しの言葉を言う村人たち。

 

「皆・・・」

「御主が思うとるよりこの村ぁ強いんじゃぞ?」

「周延さん」

 

村長の、単の父が村人をかきわけ現れる。

 

「御主はわしらのために尽くしてくれた、そろそろ、御主自身のために生きるべきじゃ」

「・・・」

「行きたいんじゃろ?」

 

何時も見せてくれた、安心するような笑みを浮かべる周延の顔を見、一度頷けば北郷と劉備へと振り向く。

 

「北郷一刀様、劉備玄徳様」

 

その場に膝をつき、深々と頭を下げる。

 

「この不肖者を二度ならず三度もお訪ね頂き先ずはありがとうございます、そのご厚誼にお答えすべくこの王文令、及ばずながらお力添え致します」

『・・・・・!』

 

一瞬、ポカーンとしてから顔を見合わせる北郷と劉備

 

『ありがとうございます!』

 

と見事に同じ動作、セリフを言う。

 

「紫牙、付いて来てくれるな?」

「はい、無論」

 

コクリと頷く紫牙

 

「こいつは法正孝直、俺の元部下だが今も付き従ってくれている、出来れば連れて行きたいんだが・・・」

「歓迎ですよ!」

「そうだな、今は一人でも優秀な人が欲しいし」

 

二つ返事で了承されれば、特に持っていくモノも無く、大矛だけを背負い村を出ようとする、と・・・

 

「よう、待ってたぜ」

 

単がそこにいた。

 

「単!?どうしたってんだ・・・」

「親父の命令でな、村を代表してお前についてって恩返ししてこい、ってさ」

 

笑いながら歩み寄る。

 

「劉備殿、本郷殿、許可、してもらえるか?」

 

と、問いかける単の言葉に返されるのは紫牙の時と同じだった。




以前の時には無かった青焔参入の話ですね、前と違って紫牙も既にこの時には青焔の下にいるわけです。ここを皮切りにドンドン話を広げていこうと思います。


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第二話:そうだ、幽州へ行こう

さて、青焔と紫牙、単の三人が劉備軍に参加して分かった事がある。

 

ここの連中は荒事には滅法強いが基本、それ以外はさっぱりだ、という事だ。

 

鈴々と単に関しては論外、二人は完全な武力バカだ。

 

一刀に関しても同じ、そこそこ教養はあるが異国出身の一刀に高望みは出来ない。

 

朱里、雛里は大丈夫と思ったが二人とも知識量に経験が追いついていない。

 

愛紗に関しては多少、他よりマシというぐらい。

 

盧植先生に学んだという桃香に期待を抱くもそれを無駄な期待だったと思い知るにさほど時間は掛からなかった。

 

結果、現在九名で運営する劉備軍の基幹的な部分は全て青焔と紫牙がまかなう事になっている。

 

現状をまとめると立ち位置としては放浪の義勇兵、兵糧に関しては元々評判が良かったせいか、賊を追い払った村からある程度の援助をもらいながら歩いている。

 

ただし問題なのはその兵士、どうやら今までその時その時に村人たちの力を借りていたらしく、劉備軍としての兵士はゼロなのだ、ではもらった兵糧はどうしてスッカラカンなのだ?と問いかけたなら、無言で鈴々へと視線を写した愛紗の表情から察した。

 

「さて、こっからどうすりゃ良いと思う?」

 

今宵は野宿、それでももしもの時のために見晴らしの良い場所へと陣取っている。

 

「んー・・・どこかの領主に援助を願うのが楽なのですが・・・」

 

と、呟いたのは紫牙だ。

 

「ですがそこそこ名の売れた義勇兵、ぐらいで援助を期待するのは・・・」

 

言い淀む朱里。

 

「んー・・・あ」

 

何かを思いついたのか、ポン、と手を叩く桃香。

 

「何か良い案でも?」

 

と愛紗が問いかければ。

 

「そう言えばね、幽州に盧植先生のところで一緒にお勉強した友達が赴任する、って言ってたのを思い出したんだ」

「幽州・・・と言えば公孫賛ですか?」

「そうなの!だからね、そこに行ってみないかなー・・・って」

 

顔を見合わせたのは紫牙と朱里だ。

 

「どう思います朱里」

「十分可能性はあるかと、人手不足だ、とも聞きましたし」

 

ぐるり、と二人が雛里へと視線を向ければ、おずおずと、頭を縦に振っている

 

「桃香様」

「幽州へと向かいましょう」

「へ?いいの?」

 

キョトンとした表情で言う桃香。

 

「ですが・・・このまま行って良いものか・・・」

 

と、声を上げたのは愛紗だ。

 

「かつての学友とは言え兵も持たぬ者が訪れたところで会っていただけるでしょうか?」

「んー・・・」

 

考え始める桃香、そこに青焔が口を挟む。

 

「公孫賛って白馬長史だろ?ならこのままでも良いさ」

「へ?」

「ありゃあ公明正大な奴だ、俺らが行けば素直に能力を評価した上でそれなりに待遇してくれるさ」

「白れ・・・公孫賛ちゃんの事、知ってるんです?」

「あのな、俺を誰だと思ってやがる」

 

ビッ、と己の胸元を親指で指せば。

 

「万能型」

「頼れるお兄さん、って感じかなぁ」

「なんでも出来る人かと」

「強い人なのだ」

「武力バカ」

 

以上は順に一刀、桃香、愛紗、鈴々、単の解答である。

 

『・・・・・・』

 

無言になる紫牙、朱里、雛里の三人。

 

「・・・・・俺は元洛陽官吏だ、ある程度名の売れた連中なら面識もあるさ」

 

おぉ、とどこか関心した表情になる5人。

 

コイツラ本当に大丈夫なんだろうか、そう感じつつ、一路幽州へと向かう一行だった。




青焔はなんでも出来る男なんです。さぁて次回は幽州へとまいります、その前もありますが・・・ね。


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第三話:再開と出会い、そして契

一行は冀州を真っ直ぐに北上して、幽州は公孫賛の本拠、北平を目指していた。

 

「・・・・・遅いな、単」

 

とは言え全員が徒歩である以上、進行速度は遅いものであり、この日は野営する事になった。

 

念のため、単に周囲の探索に赴かせたのだが・・・・・・

 

「青焔!!」

 

草むらをかき分けて現れた単の表情は、どこか焦ったものだ。

 

「どうかしたのか?」

 

と、一刀が問いかければ。

 

「この先で賊と義勇兵らしき連中が戦闘中、義勇兵側が圧されてる」

 

その言葉に緊張が走る。

 

「数は」

「義勇兵が50ぐらい、賊が200近く」

「よし、案内しろ」

「青焔!?」

「義を見てせざるは勇無きなり、見つけちまったなら手ぇ貸すのが道理だ」

「私も行こう」

「私も行きますよ」

「わ、私も行きましゅ」

 

愛紗、紫牙、朱里が同行する事になり、鈴々に一刀、桃香、雛里の護衛を任せ、5人は一路その場へと向かう。

 

しばし、森を駆けると開けた場所に出る、確かに50ほどの義勇兵が囲まれている、指揮者は・・・銀髪おさげの少女が見える、彼女だろう。

 

「どうするよ」

「どうするもこうするもねぇだろ」

 

ゴキゴキ、と首を鳴らせばブゥン、と大矛を振るい。

 

「行ってくらぁ」

 

ここと義勇兵らが囲まれた場所の間にはちょっとした崖がある、それを青焔は事も無げに飛び降りた。

 

「ちょっ!?」

「青焔殿!?」

「青焔様!!?」

「青焔さん!?」

 

:戦場

銀髪おさげの少女・・・楽進の頭と心は、焦りでいっぱいだった、四倍近くの敵、統制の取れない味方、最早自分の指示も通じない、万事休す、かくなる上は武人として玉砕を、そう、思った途端、声が聞こえてくる。

 

「玉砕にゃちょっと速ぇぞお嬢ちゃん!!!」

「!?」

 

その声に、周囲を見る、がいない、違う、上だ、そう気づくまでにそう時間はかからない。

 

ズドォオオオン、と轟音を立てて着地したのは、白髪で紅眼、大矛を肩に担ぐ青年だ。

 

「何だテメェ!!」

「邪魔だ!!」

 

突如の乱入者に、賊は勝っている余裕からか威勢良く、声を荒げる。

 

「王文令、義により助太刀するぜ」

 

その言葉と同時に、襲いかかる賊の数は20ほど、危ない、そう言葉を投げかけようとした楽進だったが、その声が発せられる事は無い。

 

「温いぞクソガキ共が」

 

一閃、ただそれだけで、20人の賊は、全員が胴から真っ二つに裂かれていた。

 

「こ、こいつ強ぇぞ!!全員でかかって潰せぇ!!!」

「―――!?」

 

全員がかり、今斬った20を除いても180、その数が一人に殺到する、無事でいられる訳が無い、加勢を、そう思った楽進の目の前に、大きな掌が差し出される。

 

「よくぞここまで奮闘した、疲れて・・・・るだろ?俺に任せろ」

 

無理だ、できるわけが無い、そう思いつつも、青年の言葉とその背に安心感すら覚える。

 

「さぁさぁ!!俺はここだぞ!!!この首欲しけりゃかかって来い!!!」

 

吼える男、その背に、楽進は、憧れを、覚えていたりもした。

 

 

 

ものの四半刻、それだけの時間で、賊は壊滅していた、途中で愛紗と単の二人が乱入してきたおかげでかなり助かった。

 

「さて・・・・と、無事だったかお嬢ちゃん」

 

青焔は背後へと振り返る、銀髪の少女が、駆け寄ってくるのがわかったのだ。

 

「ありがとうございました、なんとお礼を申し上げたら・・・・・・」

「構わんさ、俺らが好きで乱入したんだからよ」

 

澄んだ眼をしている、真っ直ぐな娘なのだろうな、と感じた。

 

「あの、それでお願いがありまして」

「お願い?」

「はい」

 

いつの間にか、他の義勇兵たちも集まってきている。

 

「私たちも、連れていっていただけないでしょうか!」

「ふむ・・・それは」

 

クルリ、と振り返れば、こちらに走ってくる四つの影を見て。

 

「うちのご主君に聞こうか」

 

「大歓迎だよ!!」

「宜しくな」

 

例に漏れず二つ返事で加入を了承する桃香と一刀。

 

「では改めまして、楽進文謙、真名を凪と申します!以後宜しくお願いいたします!」

 

深々とお辞儀をする凪。

 

「んじゃあ取り敢えず・・・青焔」

「んぁ?」

「凪の世話頼んだ」

「世話ってお前よ」

「勿論皆で色々教え合って助け合うけど、基本的には青焔任せって事で」

「まぁ・・・良いか、宜しくな凪」

「はいっ!!」

 

:三日後:幽州北平城

太守府前、青焔と桃香を先頭にして、門を叩いていた。

 

「公孫北平太守に会いたい、王文令と劉玄徳が会いに来た、と言えば分かるはずだ」

 

門衛の兵士にそう言えば、二人いた兵士の一人が太守府へと入っていく。

 

少しした頃、赤い髪をした女性が、息を切らせながら走ってきて、青焔の前で停止し、肩を掴んで。

 

「文令なのか?」

「ああ」

「本当に本物か?」

「触れるだろ?脚もあるだろ?」

「そうか・・・・よ・・・・」

『よ?』

 

思わず、女性のタメに対して、皆が反応する。

 

「よかったぁあああああああ!!!」

 

がしっと、青焔に抱きつく女性。

 

『えぇえええええええええっ!?!』

「お前が死んだと聞いてあの時は涙が止まらなくて」

「ちょっ、伯珪!」

「でもこうやって生きててくれて本当に」

 

生存を喜ばれている、それは嬉しいがむにゅむにゅと柔らかい感触が体にあたっている、しかも皆の前で。

 

結局、桃香に助けられて伯珪を引き剥がした。

 

 

「すまない、取り乱した」

「もぅー白蓮ちゃんったら・・・・」

「桃香もひっさしぶりだなぁ」

「私もびっくりしたよー、白蓮ちゃんが太守様なんて」

 

太守府の大広間で、キャッキャと会話する桃香と白蓮、こと公孫賛伯珪。

 

「しかし、文令が生きていて嬉しいよ」

「なんで死人扱いなんだよ」

「太傅も大将軍も処刑されたと聞いて、文令も死んだと思ったんだ・・・多分、各地の諸侯も同じように思ってると思うぞ」

「マジか」

「まぁ生きててくれて私は嬉しいよ、洛陽時代の数少ない友人だしな」

 

その言葉に。

 

「あれが友人の生存を喜ぶ時の行動か?」

「むしろあれは・・・」

「ふむ、この先の展開が楽しみな事で・・・」

 

なんて単、朱里、紫牙の三人がひそひそ話をしている。

 

「それで桃香に文令、どうしてここに?」

「ああ、それなんだがな・・・」

 

青焔が事情を説明すれば。

 

「ならしばらくここでゆっくりしていくと良い」

「・・・・・対価は人手、か?」

「ご名答、何分手が足りなくてな、いる間でいいから色々手伝ってもらえると助かる」

「それぐらいならお安い御用だよ!」

 

二つ返事の桃香。

 

「おや伯珪殿、お客人ですかな?」

「お、子龍、いいところに来たな」

 

白を基調とした衣装に身を包む青髪の少女が、室内へと入ってくる。

 

「こいつは趙雲子龍、うちの客将で色々と手伝ってもらってる」

「お初にお目にかかる、趙雲子龍でございます」

 

恭しく一礼する趙雲、そして桃香たちがそれぞれ自己紹介をして、最後に青焔が前へと出る。

 

「王泰文令だ、宜しく」

 

何気なく握手を求めるように、差し出した手、趙雲がそれを握る。

 

「ー!」

 

感覚が告げている、この少女は強い、と。

 

「王泰殿」

「む?」

「お手合せ、願えますかな?」

「・・・・・・望むところだ」

 

抱いた直感は同じだったらしく、ニヤリと笑い合う。

 

:北平城練兵場

東方、大矛を肩に担ぐは王泰。

 

「さぁ、こっちは何時でも良いぜ」

 

西方、直槍を構えるのは趙雲。

 

「こちらも準備は整っております」

 

立会人を務めるのは、眼に鋭き光を持つ老将。

 

「この仕合の立会人、この厳綱が勤めさせて貰おう!」

 

名を厳綱と言い、公孫賛の父の代から公孫家に仕える老臣だ。

 

「いざ・・・・・・始めぃ!!!」

 

厳綱の掛け声と共に、両者が一気に距離を詰める。

 

「うぉおおおおおおおおお!!!」

「はぁあああああああああ!!!」

 

甲高い金属音、王泰が横に振り払った大矛は、趙雲の直槍で見事に受け流されている。

振り切ったその隙に、趙雲が懐へと潜り込もうとするも、腕力任せに大矛を切り返してくる王泰。

一撃与えるだけの時はあった、だがこの一撃を受けたら終いだ、そう直感した趙雲はバックステップで一気に距離を取り直し、その間に王泰も、大矛を構えなおす。

僅か数秒のぶつかり合い、だが、それを見る皆の眼には、その打ち合いが眩しく見えた。

 

「・・・・・凄い、ですね」

「ああ・・・・・青焔殿の一撃も凄まじいがそれを受け流す趙雲の技量も凄まじい」

「・・・俺は、あれに追いつけるのか・・・・、いや追いつくしかねぇんだな」

 

王泰がまともに受ければ体ごと吹き飛ばすような豪撃を何度も繰り出し、趙雲もまたその豪撃を一寸の誤差も無く受け流し続けている。

 

「・・・青焔さんって凄い強いね」

「ああ、こんな人が味方にいる・・・・それは凄い事で・・・・」

「?」

「俺ももっと強くならなくちゃ、って思うんだ」

 

今度は王泰がその豪撃に緩急を付け趙雲を揺さぶり始める、が趙雲もそれに動じる事無く、相変わらずの調子で攻撃をさばき続ける。

 

「・・・・・・青焔様・・・・・実の楽しげに武を振るう・・・」

「凄い、としか言えません」

「でも・・・・それを可能な限り活かすのが、私たちの仕事だよ紫牙さん、朱里ちゃん」

 

わざと乱雑な振るい方をして趙雲を誘い出そうとするが、乗ってこない。

 

「あんなに楽しそうな子龍、初めて見たよ」

「ワシも初めて見ました・・・・・」

 

思いっきり、縦に大矛を振り下ろす王泰、それを好機と見たのか、その一撃を回避しながら、右に抜けようとする趙雲。

 

「っ・・・・・おぉおおおおおおおおっ!!!」

 

吼える王泰、次の瞬間、重力に任せて振り下ろされていた大矛の鋒が、力任せに上へと跳ね上げられる。

 

「っ!?」

 

誰もが予測しえぬ軌道、それは相対していた趙雲も同じであり、その鋒は見事に、趙雲の持つ直槍を、跳ね飛ばしていた。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

趙雲の首筋に突きつけられる大矛。

 

「・・・・・参りました、私の負けです」

「・・・・・そうか」

 

ズゥン、と音を立てて落ちる大矛、そして王泰は、その場に倒れ伏した・・・・・・

 

趙雲―――星は、倒れた王泰に、皆が心配して集まる様子を、遠目に観ていた。

 

「・・・・・・・」

「おう、ご苦労だったな子龍」

「厳綱殿」

 

その肩に置かれたのは厳綱の固く、大きな手だ。

 

「・・・・どうだった、王泰殿は」

「強かったです、それ以上に・・・・・・その眼に形容し難い何かを、感じました」

「興味が湧いたか」

「それは・・・・・・」

 

珍しく言い淀む子龍。

 

「行きたけりゃ行って良いんだぞ、子龍」

 

バッ、と振り向けばそこには公孫賛がいる。

 

「伯珪殿」

「そもそも子龍は客将であって家臣じゃないから無理に縛り付けるつもりは無いし」

「ですが・・・・・」

 

煮え切らない子龍、恐らく、人手不足であるここを気遣っているのだろう。

 

「んじゃあ命令だ!文令たちと一緒に行け!いいな!?」

「は。はい」

 

世話の焼ける奴、と思うと同時に、珍しいものが見れた、と言った風情で、公孫賛は仕事へと戻るのだ。

 

:深夜

趙雲との一騎打ちが終わった直後に気絶した青焔は、真夜中に眼が覚めるも、寝付けず城壁の上を散歩していた。

 

「・・・・・・」

 

嬉々として武を振るったのは何時以来だろうか、とかんがえていた。太傅の下で仕事をしていた頃に、大将軍直々に武芸を教えられていたころは、楽しかったと覚えている、だが今日、趙雲とした一騎打ちは、その時よりも楽しかった。

 

「こちらにおりましたか」

 

背後からの声に振り向けば、そこには趙雲の姿が。

 

「俺を探していたのか?」

「はい、少々用向きがございまして」

 

身を翻し、趙雲へと向き直る。

 

「用、とは?」

「王泰殿は、いかなる理由があって劉備殿、北郷殿の下に?」

「・・・分からん」

「では理由も無く付き従っている、と?」

「そこも自分ではよくわかっていない、ただ・・・・あの二人の思いが本物だという事、その二人から力が必要だ、と言われてこの二人のためならば、と思った」

「・・・・・王泰殿は、実は野心がお有りでは?」

「・・・・・どうして、そう思う?」

 

僅かに、冷や汗が頬を伝う、紫牙に一刀しか知らぬことではあるが、確かに自分には野心、とも言えぬようなものではあるが、目的があって桃香や一刀と共にいる。

 

「あの一撃の重みは、ただ忠誠を誓うだけでは持ち得ぬ重さでございました、何か強き信念があるのだろう、そう感じたのです」

「・・・・・俺はな、中華の統一をしたいのだ」

「中華統一、ですか?」

「ああ」

「何故」

「・・・・・・今の中華は乱れている、最早漢王朝の威光一つでは抑えきれぬ程に、な・・・・故にだ、それが大将軍竇武様、大傅陳蕃様の願いだった・・・・・俺はその意志を託されたのだ、だからこそ・・・」

「王泰殿が頂点として、ではダメなのですかな?」

「俺じゃ駄目だ、人を惹きつける魅力というものが無い・・・」

「劉備殿や北郷殿にはある、と?」

「そうだ、そしてあの二人の下で天下取りを支える、それが俺のやり方だ」

「ふむ・・・・・ではその道中、私にも手伝わせていただけますかな?」

「趙雲殿が、か?」

「はい、有能なる将たるもの副将の一人や二人は必要でございましょう?私をお使いなされ」

「何故?」

「好奇心故、王泰殿に、あのお二方の作る天下に興味が湧きました・・・・私は、王泰殿の槍となって働きましょうぞ」

「そうか・・・・・・っ!?誰だ!!!」

 

不意に、視線を感じた、今の今まで気づかなかったとは・・・・

 

「・・・・・・」

 

望楼の影から出てきたのは凪だった。

 

「いつから、いた」

「最初から・・・です、お部屋から出てくるのが見えまして・・・・念のためと」

「・・・・・今の話も全部聞いてたか」

「はい」

 

どうしたものか、と思う。あまり良い場面では無い、臣の臣など本来持つべきものでは無い、それを見られてしまった・・・・

 

「青焔様、今の話ですが・・・・・」

「あー、そのだな・・・・」

「私にも、手伝わせてください!」

「へ?」

 

キョトン、とした顔をする。

 

「私は、青焔様の戦う背に憧れておりました、その背中を支えさせていただけるならば、光栄の至です」

「分かって言ってんのか?俺の下って事ぁそれ以上の出世は望めねぇぞ」

「はい、それでも青焔様と共に戦いたいのです」

「む・・・・・・」

「無粋、というものでしょうぞ?ご主君」

「ちょっと待てご主君って何だ」

 

呼び方が引っかかって、思わず趙雲を見る。

 

「生涯を賭けてお仕えする方をご主君と呼んでなんの差し支えがございましょう?」

「頼むから普通に名前で呼んでくれ」

 

少しばかり、頭を抱えていると、いつの間にか凪と趙雲が、並んで片膝をついている。

 

「この趙雲子龍と」

「楽進文謙」

「身命を賭して王泰様にお仕えする所存」

「何卒、我が真名」

「星」

「凪」

『その名をお預かりください』

 

片膝付いて真名を預けるという宣言、それは、一つの覚悟の形、自分にできるのは・・・・

 

「分かった、その覚悟、その真名と共に預かる、星、凪」

 

こうなったら腹を括るしか無い、最早歩み始めてしまったのだから。

 

「俺の事は青焔、と呼ぶように」

「分かりました、青焔殿」

「了解です!青焔様!」

 

これからが大変だな、と思いながら、星空を見上げるのだ。




さて、星と凪の二人がやっぱり青焔の下に収まりました。ここで一旦視点を劉備軍から離し、魏、呉の話に少し移りたいと思います。


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プロローグ:孫堅軍
第四話:孫家と袁(術)家


:揚州秣陵城

秣陵は、孫堅が収める揚州の中枢を司る街だ、交通の便の良さから人の行き来も多く、漢南部でも指折りの発展度を誇る都市である。

 

その城郭の上から、外の景色を眺める偉丈夫が一人、褐色の肌に黒髪、男は名を孫堅文台、真名を赤虎(セキコ)という。

 

「こちらにおられましたか、赤虎様」

「おう、尚か・・・・」

 

赤虎の振り向く先には、走って来たのだろうか、肩で息をする青年が一人、名を諸葛謹子瑜、真名を尚。

 

かつて赤虎に仕えていた諸葛玄の甥だ、その才は叔父をも凌ぐだろう、そう考えた赤虎は、諸葛玄が亡くなり行く宛を無くしていた尚を引き取り育てる事に決めた、生まれた子が女子ばかりだったので男子を育てるというのは非常に楽しく感じていたのを覚えている。

 

「皆さんが探しておりました、そろそろ軍議の時間です」

「ああ、そんな時間か・・・・よし、行こうか」

「はい」

 

張昭に付かせて内政などを学ばせ、弟に預け軍学を学ばせたところ、その才覚は想像以上だった。

 

「ところで尚」

「なんでしょう?」

「うちの娘を誰か貰ってくれんか?」

「雪蓮様に殴られたいのでしたらご自由に、ですが私はお断りいたします」

 

歳は次女と同い年だったと記憶している、時折こうやって娘の一人を嫁に、と思うのだが断られてしまう、まんざらでも無いはずだよな、とか考えたりする、だって俺の娘は皆綺麗だもの、とか考えたりするあたり赤虎は親バカなのだろう。

 

:秣陵城軍議の間

「お待たせいたしました」

 

尚が扉を開けると、そこには今秣陵にいる孫家の主要人物が勢ぞろいしている。

 

「いいわ、どうせ父様がフラフラしてたんでしょ?」

 

赤虎と同じ褐色の肌に桃色の長髪の女性は孫策伯符、真名を雪蓮と言い赤虎様の長女だ。

 

「まったくお父様は何時もだらしないんだから」

 

そして同じく褐色の肌に桃色の、短髪の少女。名を孫権仲謀、真名を蓮華、赤虎の次女だ。

 

「お前ら実の父親に向かって容赦無いね」

 

少しばかり、赤虎を憐れむような表情をする青の総髪の男が魯粛子敬、真名を雷刃(ライハ)、雪蓮の幼馴染であり、尚にとっては兄貴分のような人物だ。

 

「まぁ雪蓮らしいというか蓮華様らしいというか」

 

こちらで呆れ顔な黒の長髪に眼鏡の女性は周瑜公瑾、真名を冥琳、雪蓮、雷刃の幼馴染。

 

「ふぉっふぉっ、若い連中が元気が良いのぉ」

 

ケラケラと笑う白髪頭でヒゲの長いお爺さんが張昭子布、真名を氷岐(ヒョウキ)、赤虎の父の代から仕えているという、文官筆頭も務めるスーパー爺さんだ。

 

「戯け、何時までも話が進まぬ・・・赤虎様、早う席へ」

 

左目に眼帯をつけた、筋骨隆々な男、名を程普徳謀、真名を誾、赤虎の幼馴染であり、筆頭武官の職を担う。

 

「うむ」

 

尚が末席へと座し、赤虎が上座へと座る。

 

孫堅、孫策、孫権、魯粛、周瑜、張昭、程普、諸葛謹、孫家の本営である秣陵はこの八人により収められている。

 

「では、此度の議題だが・・・」

 

誾が立ち上がり、円卓中央に地図を広げる、地図は揚州一帯のもの、数箇所にバツ印が付けられている。

 

「近頃、揚州全体・・・・否、漢全体での賊の出没件数が増加しておる、しかも想像を遥か超えた速さでだ」

「とは言うがのぉ、どの程度の規模なのじゃ?」

「百人以上の規模の賊の出現率が特に多い、また中には統制の取れた動きをするものもある」

「賊が統制だと?」

「然り」

 

ただでさえ凶相な顔を歪め、誾が頷く。

 

賊が増えている、そのせいもあり中央にいたはずの孫静、黄蓋、韓当、朱治、祖茂といった主要武官の殆どが出払う、という状況にあるわけで。

 

どうしたものか、と思案する一同、そんな中、あ、と何かを思い出したような声が響き、皆がそちらを向く。

 

「ああ、そう言えばちょっと話が逸れるが・・・」

 

ヒラヒラと手を上げる雷刃。

 

「美羽から手紙来てたぜ?」

「美羽から?」

 

袁術公路、真名を美羽、揚州と隣接する寿春一帯を収める名門袁家の少女、今は亡き彼女の父袁逢と赤虎が洛陽官吏時代の友人であり、その関係もあってか同盟を結び、何かと協力体勢を取っているのだ。

 

「ああ、人手がどうしても足らんから貸してくれ、とさ」

 

やはりか、と皆がため息をつくのだが、それには理由がある。

 

美羽は名門袁家の出自だ、だが異母姉の袁紹の存在がある、袁家内の主だった人材を袁紹に連れて行かれた上に、袁家の威光を見せつけるなどという訳の分からぬ理由から、寿春一帯で賄うには多すぎる10万という軍勢を背負わされている、それをまだ10歳そこらの美羽に張勲、紀霊、閻象の四人だけで動かさなければならないというのだから当人らにとってはたまったものではない。

 

「う・・・・む、すまんが誰か行ってくれるか?」

 

この状況だ、赤虎とて本来は人手を貸し出すなどしたくない、だが娘同然に接してきた美羽の嘆願、これを断れる程赤虎は非情では無いのだ。

 

「・・・分かりました、私が行きましょう」

 

そういって尚が立ち上がると。

 

「お父様、私も行って参ります」

 

と、蓮華も立ち上がる。

 

「分かった、あと甘寧と馬忠も連れて行け」

 

その言葉を背に聞きつつ、二人は軍議の間をあとにするのだ。

 

「灰、話は聞いていますね?」

「はっ!」

「直下の兵300だけを連れて行きます、何時でも出れる準備を」

「御意!」

 

軍議の間の外に待機していた二人の人物。

 

黒髪ポニーテールの少年、名を馬忠、真名を灰、尚の補佐役である。

 

そして紫色の髪に切れ長の眼、どことなく常に不機嫌に見える少女、名を甘寧興覇、真名を思春、蓮華の副官であり護衛も勤めている。

 

「思春、私の隊にも動員の命令を出して頂戴」

「御意」

 

せわしなく駆けていった灰とは違い、音一つなくその場からいなくなった思春。

 

「しかし、名門というのも大変なようですね」

「ええ、四人で十万の軍なんて過剰兵力なんて話では済まないわ」

「貞さんが心労で倒れないかが心配ですね」

「七乃と祈の補佐があっても厳しいでしょうしね」

「我々四人の加勢で少しでも楽になって欲しいものですが・・・」

 

一度顔を見合わせた尚と蓮華は、深くため息を一つつくのだ。

 

:3日後:寿春城

兵数500に尚、蓮華、思春、灰と数人の新人を伴い、孫家からの派遣組が寿春へと到着していた。

 

「おお、来てくださったか・・・お待ちしておりました」

 

城門で迎えに出てくれた目の下にクマを作り、黄色の重装備に身を包む、名を紀霊、真名を貞、袁術軍にその人あり、とまで言われる筆頭武官だ。

 

「貞さん・・・少し窶れましたか?」

「最近しっかりと寝ているの?顔色も悪いわよ」

「これでも、初めに比べれば寝ている方なのですが・・・」

 

乾いた笑いを浮かべる貞さんは、相変わらず忙しいらしい。

 

「おや?」

 

ひょっこりと姿を現したのは黒いおかっぱ頭の、人形では無かろうかと思わせる程容姿端麗な少女。

 

(ごくつぶし)、蓮華様、いらっしゃってたので?」

「んー、私の読み仮名がおかしかったのは・・・・・・気のせいかな?」

「気のせいでしょう」

 

ケラケラと笑うこの少女、名を閻象、真名を祈、袁術軍の筆頭文官だ。

 

「あら(ごくつぶし)さん、いらっしゃってたんですかぁ?それといらっしゃい蓮華さん」

「やっぱり君ら私の事を違う読み仮名で呼んでるよね?」

「なんの事でしょう?」

 

その後から現れた青髪の少女、名を張勲、真名を七乃、袁術軍の・・・・・・一応軍師らしい。

 

「おお、尚!蓮華!よく来てくれたのじゃ!」

 

その合間を縫ってがしっと尚に抱きついてきた金髪の少女こそ、この寿春を収める袁術公路、美羽である。

 

「美羽様の頼みとあってはこないわけにも行きませんよ」

「そうよ美羽、貴女は私にとっても妹のようなものなのだから」

 

そういって二人で美羽の頭を撫でると気持ちよさそうにしている。

 

「さて、こちらの状況をお教えいただけますか?」

 

尚が早速、と本題に入る事にした。

 

「うむ、近頃増えてきた賊に少々引っ掻き回されていてな、陳蘭や李豊、梁綱といった経験不足の連中が対処しきれなくなってきているのだ」

「ああ・・・とは言えこちらも今回は私を含めた四人意外は経験の浅い者です、ので・・・・」

「ので?」

「どうせですから経験を積ませましょう、堅実に賊を仕留めながら、です」

「おお~」

「パチパチパチ」

「・・・・・他人事みたいにしていますが七乃さん、祈さん、貴女方もですからね」

『えー』

 

ふぅ、とため息を一つつけば。

 

「さて蓮華様、思春さん、灰、亞莎さん、夕姫さん、香さん、荷下ろしを済ませましょう」

 

今回連れてきた三人の新人、一人は呂蒙子明、真名を亞莎、一人は潘璋文珪、真名を夕姫、一人を虞翻仲翔、真名を香、それぞれ黄蓋、祖茂、張昭の三人の推薦により将校へと昇格した人材であり、今回の寿春への遠征を機に経験を積ませてくれ、と頼まれたのだ。

 

「そう言えば尚、三人を遠征後誰に預けるか、決めたの?」

「はい、亞莎さんは雷刃さんに、夕姫さんは誾様に、香さんは冥琳様に、それぞれお願いする心づもりです」

「それは新人たちを師事させる相談かしら?」

 

面白そうなものを見つけた、と言わんばかりの表情で口を挟んでくるのは祈だ。

 

「ええ、そうですよ」

「何か意見があるなら聞くけれど?」

「んー、香ってあの片目隠した娘よね?」

「ええ、間違いありませんが・・・」

「なら君が担当すれば良い」

「・・・・・・私がですか?」

「援軍の責任者に選ばれるという事は孫家でもそれなりに引き上げるつもりがあるのだろう?ならば後進の指導ぐらいしてみたらどうだい?」

「そうね、それも一理あるかも知れないわ」

「いえ、ですが・・・」

 

自分に指導など出来るのだろうか?と思案する尚。

 

「まぁこの遠征が終わるまでに決めれば良いよ、君が決める事だし」

 

自分で言っておいて自分は関係無い、と言わんばかりにコロコロと笑う祈、色々と荒れるかも知れない、そんな予感を感じる尚であった。




尚の立ち位置は原作の呉ルートの一刀に近いです。多分フラグ立ちまくります、どうなるかは・・・・楽しみですね(w


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第五話:次世代

:寿春西部原野

 

「呂蒙隊、潘璋隊は右より、李豊隊、梁綱隊は左より敵軍を締め上げてください!」

 

兵数はこちらが千、あちらが500、揚州に出る賊よりも規模の大きいものだ。

 

右翼からは亞莎、夕姫の率いる300の騎馬が、左翼からは李豊、梁綱の率いる300が賊軍を両側から締め上げている。

 

「美羽様、大丈夫・・・・ですか?」

 

後から聞こえる声に振り向けば、顔を蒼白にしながらも、戦場から眼を離さない美羽、と傍らで心配そうにする七乃。

自分で戦場を見る、そう言った美羽の眼には何か強い者が宿っており、七乃や祈、貞も止めたのだがその程度で止まるわけなど無く、結果として、今の状況にある。

 

「これが、戦」

「ええ、そうです」

「・・・人が死んで行くのじゃ」

「はい、それが今の世の中です」

「・・・・・・」

 

ふぅ、と息を一つつけば。

 

「紀霊隊、甘寧隊、馬忠隊に合図を!中央を潰します!」

 

本陣100を残し、紀霊、甘寧、馬忠が300の重歩兵で中央を抜く。

 

「・・・・・・さて、後始末は祈さんと香さんに任せましょう」

「・・・・・そうね」

 

あっさりと壊滅した賊、既に尚たちが寿春へと来てから半月が経つが既に出撃数が数え切れない事になっている。

亞莎、夕姫の将としての素質はそもそも高水準、半月の間に才能を開花させつつある、また李豊、梁綱ら袁家の将も、素質としては亞莎、夕姫には劣るものの、努力と経験でそれらを補い、並び立っている。

 

:寿春城太守府

出迎えた祈と香、この半月の戦は、この二人をも成長させた。

元々能力はあるのに発揮しきれていなかった祈。

内向的な性格のせいで実力が表面に出なかった香。

度重なる戦の戦後処理などを二人が中心となって行う、という事はやや荒療治ではあったものの、二人の能力を引きずり出すという結果に繋がっている。

 

「秣陵から書状です」

 

祈から手渡された書状を、尚が受け取り、その場で読む。

 

「私と蓮華様に帰還命令、ですか」

「どういう事?」

「わかりません、ですが・・・・恐らく何か動きがある、という事でしょう」

 

クシャリと書状を丸めれば。

 

「香さん、亞莎さん、夕姫さん、帰り支度を済ませましょう・・・思春さん、灰」

「はっ」

「はい」

「残り任期の一月半、貴方がたにここを任せます」

「!?」

「尚様、それは・・・」

「異論は認めません」

「理由を、聞かせていただけますか」

 

思春の、重く低い声に、ふぅ、と息を一つ吐き出せば。

 

「今の孫家には若手の将が少ないです、主だった将も孫静様、黄蓋様、韓当様、程普様、祖茂様は既に30を超えました、朱治様も30手前です、若手の指揮官も雪蓮様、冥琳様、雷刃様が24です」

「・・・・・・」

「私も将、というよりは軍師に近いですし蓮華様も前線の将ではありません、故に・・・・・・」

 

ピッ、と思春を指差し。

 

「思春さんや灰、お二人には成長して貰わねばなりません・・・・前線の将として、ですので半月の任期の間に課題を設けます」

「課題、ですか?」

「はい」

 

思春に向けていた指を、上へと向けて立てれば。

 

「賊がここまで組織的に動く、という事は当然指揮官がいます・・・・お二人と寿春の人員で、これを討ってください」

『・・・・・・』

 

課題、と気軽に出すには難題だ、その指揮官が見つけられないから鼬ごっこを繰り返していたというのに。

 

「正直ですね、私は指揮官の居場所に心当たりがありました、ですが・・・・・あえて討ちませんでした」

『!?』

「皆さんを成長させる時間が欲しかったので、ですが・・・・本営からの呼び戻しとなれば任期中に戻るのは難しいでしょう、ですから・・・・貴方がたに任せます・・・・・」

 

クルリ、と身を翻す尚、その背を、顔を真っ青にした二人が見送るのだ。

 

「厳しくしすぎじゃない?」

 

太守府の門を出ると、そこには蓮華が。

 

「あの二人ならば出来る、と踏みました、それに見つけ出す手がかりもこの半月で与えています・・・課題とは要するに」

「それに気づけるか、という事?」

 

無言で頷く。

 

「前線の将に、特にあの二人のように攻めに回る将に必要なのは敵将を探り当てる嗅覚です」

「嗅覚?」

「はい、軍の配置、兵の動き、様子などから状況を探り当てる能力です・・・黄蓋様や韓当様がこういうのは得意ですね」

「それを思春と灰にも求める?というわけ?」

「はい、先ずはあの二人です・・・今のところは、ですが」

 

ようやく、納得した表情を見せる蓮華。

 

もはや癖になりつつあるのだが、一つ、息を吐いて空を見上げれば。

 

「さて、戻りましょう・・・・・秣陵へ」

 

時代は、静かに動き始めている、尚は、それを感じ取っているのだった。

 

:秣陵北部

 

帰路も鍛錬のため、と行軍速度を僅かに落とし、寿春と秣陵の中間地点で夜営する事になった。

 

「さて、と・・・本題に移りましょうか」

 

あちらこちらで焚き火を囲む兵士たち、そのうちの一つには、尚、蓮華、夕姫、亞莎、香が集まっている。

 

「夕姫さん、亞莎さん、香さんには秣陵に戻り次第、それぞれ別々の方に師事していただきます」

「師事、ですか」

「はい、この半月で、正直三人共私の予想を上回る技量を身につけてくださいました」

「・・・」

「後は先達の背を見て学び取っていただきます」

「誰が、誰に師事する事になるのでしょうか?」

 

ピッ、と手を上げて問いかけてきたのは亞莎だ。

 

「夕姫さんは誾様の下へと行っていただきます」

「んげっ!?・・・せめて他の・・・」

「異論は認めません」

「鬼!悪魔!」

 

誾は性格は外見にそぐわず案外穏やかなのだが軍務に携わる時にはその限りでは無い、孫家の将兵、また近隣の賊をして『隻眼鬼』と呼び恐れ敬われているのだ。

 

「亞莎さんは雷刃様の下へとついていただきます」

「理由を・・・お聞かせ願っても?」

「今の孫家で前後衛両方をこなせる将は雷刃様ぐらいです、亞莎さんには雷刃様に次ぐ両面の将となっていただきたいのです」

「私に出来るのでしょうか・・・・・・」

「大丈夫、できますよ」

 

雷刃は普段やる気なさそうにしているが、時に猛将として前に出て、時に知将として後で指示を出す、万能型の将、亞莎に目指して欲しいのはその位置だ。

 

「そして香さんですが・・・」

「・・・・・・はい」

「私が受け持ちます」

「!尚様が・・・・ですか?」

「はい」

「あの・・・・」

 

ふと疑問を持ったのか、亞莎が手を上げる。

 

「冥琳様では・・・・ダメなのでしょうか?もしくは氷岐様」

 

香の性格は内向的、と言うよりもむしろ人間不信に近いものがある、否、男性不信であろうか、自分もそれを知っているし、亞莎も知っているので女性である冥琳か唯一、香が慣れている氷岐を提示したのだろう。

 

「私も最初はそう考えました、ですが香さんには次世代の軍師として活躍していただきたい、ので内政専門の氷岐様は除外です、冥琳様でも良いのですがあの方も筆頭軍師を継いで、今また陸家のご息女を弟子にとっております、これ以上の負担はかけられません・・・ですので私が受け持つことに致しました」

 

そして何より、これから先を戦い、生き抜いて貰うためには男性不信など乗り越えてもらわなければならない、そのための配置でもある。

 

「私や蓮華様、おいてきた思春さん、灰を含め、ここにいる将校は次世代の孫家を担う者」

 

空を見上げる。

 

「多少強引であっても、皆様には強くなっていただく」

 

それが今は亡き叔父との約束なのだから・・・・・・




尚は前作に比べて率直な物言いをするようになりました。
次回は曹魏編です。


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プロローグ:曹操軍
第六話:新人武官四人


:陳留城市街地

 

「ふむ・・・老酒を瓶で一つ、貰おうか」

 

真昼間だと言うのに酒問屋で酒を買い求める青年が一人。

 

「はいはい、何時もお買い上げありがとうございます曹純様」

「いやいや、店主、ここの酒は良い物が多い・・・また寄らせてもらうぞ」

「はい、お待ちしております」

 

青年は名を曹純子和、真名を蒼季。

 

「隊長、また昼から酒ですか」

 

いつの間にか背後にいる部下に注意される。

 

そう、この男、一応陳留の警備隊長などやっているのだ。

 

「榊ぃ、良いじゃねぇか」

 

クルリと振り向けば、全身に傷を作っている男、名を鄧艾士載、真名を榊、警備隊の副長でこう見えて・・・蒼季よりも歳下なのだ。

 

「いえ、隊長たるもの皆の規範とならなければなりません、我々部隊長もそうであり・・・・」

「榊」

「?」

 

ちょいちょい、と榊の真後ろの茶店を指差す。

 

「わー、ここのお茶すっごく美味しいの~♪」

「でしょ?ここは飲茶も美味しくって・・・」

「んー、良い香りです」

「全く、このようなところ榊副長に見られたら・・・」

「そう言いながら真っ先に席に座ってましたよね?」

「まー堅いこと言いっこ無し無し」

 

ピキピキ、と青筋の立つ音が聞こえた気がする。

 

「貴様らぁああああああああ!!!!!」

 

憤怒の形相で駆け出す榊。

 

「何で副長が此処にいるの!?」

「わわ!?おっちゃんが来た!」

「榊、少し落ち着くのです」

「貴女は落ち着きすぎです」

「す、すみません!すみません!」

「後生や!その振り上げた拳をギャー!!」

 

茶店で堂々とサボっていたのが警備隊所属の、いわゆる部下たちだ。

于禁文則、真名を紗和、部隊長。

許褚仲康、真名を季衣、部隊長。

徐庶元直、真名を愛理、経理担当。

曹休文烈、真名を唯夏、副長。

典韋、真名を瑠琉、部隊長。

李典曼成、真名を真桜、部隊長。

この六人と自分と榊で警備隊の根幹を担う人材たちである、副長一人を覗いてサボり癖があるのが玉に瑕である。

 

:警備隊屯所

七人は、正座させられて榊に説教されていた。

 

「全く!大体お前らはこの陳留の治安を担う人材としての自覚が・・・!!」

「いつ来ても賑やかだねぇ・・・・」

 

屯所内に響く暢気な声に、皆が振り向く。

 

「荀攸様!?お見苦しいところをお見せしてしまい・・・・」

「いやいや、気にしないで欲しいな」

 

髪や髭が灰色な男性、名を荀攸公達、真名を伯、頼りなさげな印象を与えるが、この陳留の筆頭軍師である。

 

「で、伯さん今日はどういったご用件で?」

 

正座させられていた蒼季が、いつの間にかあぐらをかき、伯へと問いかけていた。

 

「ああ、そうでしたそうでした」

 

榊が茶を出し、それをずず、と啜る伯。

 

「華琳様が、武官数名を推薦するように、と」

「人数はこっちに任せる、と?」

「ええ」

 

ふむ、と考える仕草をして一同を見回す。

 

「季衣、瑠琉、紗和、唯夏・・・・・お前ら行ってこい」

『へっ!?』

 

素っ頓狂な声を上げる四人。

 

「ふむ、彼女らですか」

「はい、武力で季衣と瑠琉、指揮能力の高さで紗和と唯夏です」

「ちょっと待ってよ兄ちゃん!?」

「イキナリ過ぎです、にい様!」

「隊長ー」

「むぅー」

 

ふくれっ面な四人。

 

「そもそもお前ら四人は元々並の武官以上の力量はあったんだ、それを自発的に推薦しなかったのは俺の怠慢、華琳が伯さんまで寄越したって事は『いい加減にしろ』ってぇ忠告だろうしな」

「他の三人はどうして残すのですか?」

「真桜は城壁修理とかやってもらいたいからな、で部隊指揮担当に榊、そして愛理がいなくなったら隊の経理が成り立たなくなる」

「なんとも否定し難い理由なのー」

「そういうこった、否定し難いと判明したから覚悟ぉ決めろい」

 

それ以上に突然の昇格に不安を感じる四人。

 

「必要以上に構える事はありませんよ」

 

どこか、聞く者を安心させる伯の優しい声音。

 

「私も時々、街中に降りて皆さんの仕事を見ていたのですけどね、彼の見立ては正しい、貴女方なら十分にやれますよ」

 

:翌日:陳留城謁見の間

曹仁、夏侯惇、夏侯淵、伯、徐邈、荀彧ら陳留の主要人物がこの場に集合していた、そして中央に座す金髪カールの少女こそが、陳留の太守、曹操孟徳、真名を華琳。

 

「面をあげなさい」

 

片膝を付く蒼季から一歩引いて同じ体勢をとっていた季衣、瑠琉、紗和、唯夏の四人、声をかけられれば5人が同時に顔を上げる。

 

「それで蒼季、後の四人が推薦する人材?」

「ああ、一押しだ」

「蒼季、半端な人材だったら・・・・お前の首を刎ねるからな!」

「勘弁、俺はまだ死にたくない」

「まぁ姉者、先ずは実力を見てからだろう」

「助かるね、毎度」

「ふむ、苦労するな蒼季」

「そう思うなら止めてくれると助かるんだがね、兄貴」

 

先ずはこちらの武官三人。

黒のロング、デコを出している女性が夏侯惇元譲、真名を春蘭、猪。

青髪で片目を隠しているのが夏侯淵妙才、真名を秋蘭、春蘭の妹であり制御役。

濃青の髪で糸目な男が曹仁子孝、真名を氷影、兄。

 

「まぁ問題ないとは思うのだがね」

「ありがとうございます、伯さん」

「まぁ、蒼季君の推薦ならば信頼するよ」

「そういって貰えると助かる」

「春蘭、始末する時は一声かけなさい、手伝ってあげるから」

「お前ね、そういうのは人目が無いときにしなさいな」

 

こちらは文官組。

痩身の女性が徐邈景山、真名を慧南、顔色が悪いが病気持ちとかそういうわけでは無い、一応、幼馴染である。

もう一人の猫耳少女、荀彧文若、真名を桂花、敢えて言うなら蒼季が嫌われているわけでは無い、異性自体が嫌いらしい、まぁ、一人を除き、だが。

 

『・・・・・・』

 

あまりに軽い雰囲気なこの場に、あっけにとられる三人。唯夏に至っては、ほとんどが知り合いであるために呆れ顔程度である。

 

「意外だったかしら?許褚、典韋、于禁」

『へ?』

「ふむ、確かに・・・・他所では有り得ぬ程弛緩した空気だろうな」

「ですがまぁそれがここらしさ、と言いますか」

「おいおい慣れて行けばいい」

「っつーわけよ」

 

そろそろ、と手が挙げられる、それは紗和のもの。

 

「隊長って何者なの?」

 

その問に答えたのは周囲の人物だ。

 

「次席武官だな」

「脳筋」

「酒好き」

「警備隊長ですね」

「優秀な武官だよ」

「認めたくは無いけれど能力は確かよ」

「従兄、ね・・・・まぁ能力も優秀だから次席武官に置いているのに警備任務しかしないから・・・・」

『・・・・・・・』

 

無言になる四人。

 

『次席武官~!?』

 

どうやらこれに関しては唯夏も知らなかったようだ。

 

「隊長ってそんなに偉かったの!?」

「初耳だよ兄ちゃん!」

「それとは露知らずご無礼を!」

「全くそうは見えないですから」

「お前ら結構遠慮ねーのな・・・まぁ良い、ともかくだ・・・次席なんて肩書きはついてるが今日からお前らと同じ武官だ、まぁ接し方はいつも通りで構わねーぜ、仕事で分からん事があればここにいる面子に聞け、大抵答えてくれるだろ」

 

と、蒼季がこの場を締める。

 

:夜:陳留城中庭

四人の武官昇格祝いの大宴会が行われていた、華琳に氷影、蒼季、春蘭、秋蘭、伯、慧南、桂花らはもとより榊や愛理、真桜らも参加、城中の文武官が集められての大騒ぎになった。

 

飲み比べの始まる春蘭と伯、榊。出された料理に関して議論を交わす華琳、瑠琉、愛理。既に飲みすぎでダウンしている慧南、紗和、真桜。ひたすら食べる季衣。要所要所を抑えていく秋蘭、唯夏そして・・・

 

「ふにゅー」

「相変わらず、兄貴には懐いてるのな、桂花」

「ん、蒼季か」

 

酒の入った盃を氷影に手渡し、そのとなりに座る蒼季、氷影の膝の上では桂花が気持ちよさそうに寝ている。

 

「新しい風が吹き込み始めている」

「だな、五年前は5人しかいなかった」

 

華琳の父曹嵩が亡くなり華琳が家督を継いだ、その時の華琳の宣言は、今でも覚えている。

 

《私は中華を統一するわ、氷影、蒼季、春蘭、秋蘭・・・私に、力を貸して頂戴》

 

「今にも後にも華琳が土下座なんてしたのはあれだけですからねぇ」

「全くだ、まぁ・・・それだけ本気だっつー事なんだろうし」

 

しばしの沈黙、そして。

 

「生き抜こうぜ、兄貴」

「ああ、それで華琳の目的も果たせれば万々歳だ」

 

ニヤリ、と笑い盃をぶつける二人、満月が煌々と夜空を照らす、そんな日の事だった。




桂花と言えば原作でも1、2を争うツンツンですが・・・・デレます!デレるんです!(大事な事なので二回言いました)実は偉かった曹純:蒼季、史実でも荊州南部を任されたぐらいだからそれなりに能力はあったんだろう、と。まあ、周瑜に直ぐ奪われたんですけどね。


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第七話:予感

:夜:陳留城

:氷影自室

 

「・・・・・・桂花、自分の床で寝なさいと何度言いました」

 

軍務を終え、自室に戻った氷影、自分がいつも寝ている床の上には、寝間着姿の桂花が。

 

「いえ、今夜こそお情けを」

「帰りなさい」

 

まるで猫でも扱うかのように首根っこを掴んで部屋の外へと放り投げられる桂花。

 

「んー」

 

さて、男性嫌いの筈な桂花が氷影に対してこういう事に及ぶのには理由がある。

 

五年前、まだ桂花は曹操軍に仕官しておらず、貴族の子息として何不自由無く暮らしていた。当時、曹操の父曹嵩に桂花の父荀緄が仕えており、曹家と荀家の関係性は良好とも言えた。

そんな中、曹家と荀家の繋がりを危険視した豪族の一人が、刺客を送り出した、狙いは桂花、曹家の領内で娘が殺され、しかも刺客がわざと捕まって曹嵩に命じられた、と虚言を吐き両家の繋がりを崩す計画だったらしい。

それを防いだのが氷影と蒼季、伯の三人だった。その計画を一速く察した伯が氷影と蒼季に桂花の護衛を依頼、当時繋がりのあり今は軍で隊長職などについているゴロツキたちに協力を仰ぎ計画阻止へと動いた。

結果としては成功だった、しかし刺客から桂花を庇い氷影が重傷を負う。

話を聞くと当時は、助けてもらった恩義を返すべく氷影の看病を買って出た桂花、まぁ借りを作るのが嫌いというのは当時からだったらしい、だが看病をしながら、当時の状況を思い返すに連れ、不思議な思いが心を埋め尽くしていったのだと言う、何をしていても氷影の事を考えてしまう、と。

それが恋である、と気づいた桂花は、生来持ち合わせていた行動性を遺憾なく発揮し、死ぬ気で経済学、軍学などありとあらゆる知識を学び華琳の眼に留まる程の力をつけ仕官したのが二年前、そして今に至る、というわけだ。

 

:蒼季自室

 

「お前らね、四人でこの床に入りきれるわけねーでしょ、自室に帰りなさい」

『えー』

 

自室に戻った蒼季が見たのは、やたら扇情的な格好で床に横たわる真桜、唯夏、愛理の三人、並みの男性なら慌て、スケベなら手を出しただろうが蒼季はそうもいかないわけで、サラッとまっとう至極なツッコミを入れて三人を部屋から追い出す。

 

この三人が蒼季にこうやって色仕掛けをするのは以前から続いている、だが意に介さない蒼季。

 

真桜は、元は義勇兵だった。紗和と二人で山賊と戦うために郷里の若者に呼びかけ義勇軍を結成、したのだが規模100人程度に対し唐突に500の賊に襲われた、抗う事も出来ず、死を覚悟した時に現れたのが蒼季率いる300の歩兵だった。数で劣るのに見事な連携で賊を駆逐する兵士たち、その中を、無人の野を行くが如く駆け抜ける蒼季の姿に「キュンと来た」と真桜は語る。

 

唯夏は、蒼季の従妹である。小さい頃から何かと蒼季に助けられる事があったらしい。何時か自分も「お兄ちゃん」を助けたい、そう思って鍛錬を積み重ね、蒼季より数年遅れで入った軍。蒼季は以前よりも更に強く、そしてカッコ良くなっていた、一目惚れ、というのもおかしい、元々地盤が出来上がっていたんだろう、ともかく、好きになってしまった、昔の優しいお兄ちゃんの面影を残したまま、凛々しく成長した従兄の姿が。

 

愛理は、あの時行き倒れていた、水鏡塾で諸葛亮、鳳統と言った友人と共に学び、その力を試したいと友人たちよりも早めに荊州を出たのが一年前、しかし幼き容姿ゆえか、どこに仕官しようとしても相手にされず、食うにも困り、陳留の街までたどり着いた時には、栄養失調で倒れていた。

次に意識を取り戻した時、その人は傍らにいた、ぶっきらぼうな、それでいて優しい声で大丈夫か、腹は減っていないか、と声をかけてくれた。

体調も回復し、普通に動けるようになった頃、自分を助けてくれた人、曹純に頼み込んで任官試験を受け、その実力を認められて曹純の下で働くようになった、全てはこの人のおかげ、生涯を、自分の全てをこの人に捧げよう、そう思った。

 

:朝:陳留城食堂

ため息をつく兄弟二人。

 

「最近桂花が・・・・」

「そっちぁ一人だろ、こっちは三人だ」

 

聞く人が聞けば逆ギレされかねない状況ではあるが。

 

「早々に想いに答えてあげれば良いじゃない」

『華琳』

 

二人が視線を向けた先には、華琳がいる。

 

「食堂でとは珍しいな」

「今日の朝餉が酢豚だと聞いたのよ、料理長の酢豚は美味しいのよ」

「華琳が認める程とはな」

 

取り敢えず朝飯を食べ始める三人、君主に筆頭、次席武官の座る席にわざわざ近づくもの好きは少ない。

 

「一応言っておくがな」

 

切り出すのは蒼季だ。

 

「想いに答えれば良い、と言うがな・・・・それは思った以上に責任を伴うもんだ」

「うむ、軽い気持ちで答えて良いものでは無く、こちらもそれ相応の覚悟を要する」

「今はまだ応えるつもりは無い、何時か応える時が来るかもしれんが・・・今は無い」

「二人とも堅く考えすぎではなくて?」

「言っとけ」

 

それからしばし無言で食べ続けて華琳が先に席を立つ。

 

食堂の入口を通り過ぎると、華琳が。

 

「と、言う事らしいわ、後は貴女たちの努力次第よ?」

 

楽しげに哂う、物陰に隠れていた桂花、愛理、唯夏、真桜が姿を現す。

 

「気づいてらっしゃったのですか?」

「あの朴念仁二人は気づいていないようだったけれどね」

「それであんな言葉を投げかけられたので?」

「ええ、何時までもただただ断られるだけでは不憫だもの、貴女たちは私にとっても大事なのだから、しっかりした人と恋をして公私共に幸せになり、尚且つ私を支えて欲しいの」

「氷兄と蒼兄はしっかりした人だ、と?」

「ええ、主観的にも客観的にも有望な、ね」

「んー、頑張ります」

「ええ、頑張って頂戴」

 

華琳は本気で四人を応援している、自らの収める土地に住まう民には幸せになって欲しく、臣下たちも幸せであって欲しいからだ、そして・・・・四人の男を選ぶ眼は確かだと思っている、あの二人なら申し分は無い、落す手伝いをするのに些かの抵抗も無いのだ。

 

:午後:陳留郊外

ここ半年程で、賊の数が増加しつつある、その事を榊も感じ取っていた。

 

「押せ!」

 

榊の号令に応じて、突撃を仕掛ける兵士たち、本来は蒼季が賊討伐に出るはずなのだが代理として榊が戦場に出ていた、その指揮は歴戦の武官たちにも劣らず、堅実な采配で賊を討伐仕切っていた。

 

「・・・・・・黄色の巾、か」

 

ことさら、近頃の賊は妙な事に黄巾を身につけている連中が多い、強さも以前の賊と違う。

大陸が荒れる、榊は、確かな予感を持っていた。

 

:夜:陳留城警備隊屯所

 

「以上が報告になります」

「おう、ご苦労」

 

今日の賊討伐の結果報告をする榊、懐から竹簡を取り出し。

 

「それとこちらが新任部隊長の人事案です、お目通しを」

 

手渡された竹簡を、開いて眼を通す。

 

「朱霊に文聘、王忠、王基か・・・・無難な人事だ、お前から当人たちに伝えてくれ」

「承知しました」

 

普段通りならば、ここで報告が終了し、榊も屯所を出るのだが、直立したまま動かない。

 

「どうした?」

「近頃、黄巾をまとった賊が増えております」

「ああ、そういやぁ秋蘭とか兄貴もそう言ってたな」

「何か、嫌な予感がするのですが」

 

この副長は、妙な勘が働く、そのおかげで回避できた危機もあった、信用出来る勘だ。

 

「・・・・俺もそう思う、まぁ・・・・何かあるとすれば三ヶ月以内、かな」

「・・・・大事に、ならなければ宜しいのですが・・・・」

 

二人の予感は、図らずとも的中することになるとは、この時は思いもしなかった・・・・・・




想像以上に桂花が氷影にデレデレです。曹操陣営がやや孫堅陣営に近しい空気になりつつありますね、まぁそれはそれで面白いので放置しますけど。


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黄巾の乱
第八話:覇王と軍神


《黄巾賊を討伐せよ》

 

小難しい文面で書かれた詔勅が各地の諸侯に届けられたのだが要約してしまえばそんな内容だ。

 

陳留の曹操、揚州の孫堅、西涼の馬騰、天水の董卓、冀州の袁紹、寿春の袁術、襄陽の劉表、益州の劉璋、徐州の陶謙、斉南の鮑信、定陶の張邈、幽州の公孫賛とありとあらゆる群雄へと詔勅が渡る。

 

:幽州北平城

届けられた詔勅の内容を、桃香たちに説明する白蓮。

 

「私は、お前らが独立する良い機会だと思っているんだけど・・・・」

 

やや、遠慮気味に言う白蓮、分かっている、一州牧として、自分よりも名声を得つつある一団を留め置けないという考えと、一個人として、友人である桃香、青焔を追い出す事を忌避する、その板挟みなのだろう。

だから当然、桃香や一刀たちは。

 

「そうだな、白蓮、世話になった」

「うん、ありがとうね白蓮ちゃん」

 

白蓮の下を離れる決断をする。

 

「でも兵隊さんがいないよねぇ」

「んー50名じゃあ心もとねぇなぁ」

「とは言え現状策があるわけでも・・・・」

 

頭を捻る桃香、青焔、紫牙。

 

「ならば北平で募兵していけば良かろう」

 

声を上げたのは、白蓮の配下、老将厳綱だ。

 

「厳綱、勝手なことを言うな、私だって出兵のために徴兵をだな」

「その分は我々正規兵が奮起いたしましょう、何より友人の門出に兵を持たせたという名声を得れば宜しい」

「むー、名声よりも実利、と言いたいところだけど・・・・・」

 

その視線が、星へと向けば。

 

「分かった、募兵してってくれ・・・・・まぁある程度残してくれると助かる」

 

そんな白蓮の、ちょっと悲痛さが混じる言葉。

 

結局、5000ほどの兵が集まった。

 

「ここまで集まれば壮観だな」

「凄い・・・・・ねぇ」

「うっわ・・・・・」

「ここまでの軍勢を見たのは、始めてです」

「今まで見たこと無いぐらい多いのだ」

「洛陽時代は良く見ていたはずなのですがね」

「はわわー」

「あわわー」

「・・・・・何かの冗談だろ?」

「ふむ、絶景かな」

「・・・・・・」

 

いつも通りなのは青焔、紫牙、星ぐらいだろうか、後は見たことの無い数の兵士に一様に驚きを隠せないでいる。

白蓮に頼まれて賊討伐に出た時でさえ最大1000ぐらいだったのだ。

 

:二日後:冀州南部

白蓮の「集め過ぎだー!!!」という叫び声を背にしながら幽州を出て二日、ここに来るまでに何度か黄巾賊とぶつかっている。

 

「青焔様」

「応」

 

背後から声をかけてくるのは廖化元倹、真名を六花。

 

幽州で募集した兵士の中で、際立っていたわけでも無かったのだが、彼女の率いてた隊は立ち回りが上手く、効率的な戦い方をしていた。

一兵士として扱うのは惜しい、とその日の内に彼女を訪ねた、色々と設問し話を聞くと、非凡さを感じ、異例とも言えるような副官抜擢をしたわけだ。

実際、非常に優秀な仕事をしてくれるし、自分も前線に集中出来るのだが何故か星や凪とのあいだに火花が散っている。

 

「劉備様がお呼びです」

「分かった」

 

今現在、劉備軍は三つの部隊に分類されている。

 

一つは王泰が率いる前衛部隊1000、法正、楽進、趙雲、廖化が所属している。

一つは劉備が率いる本隊2000、関羽、張飛、諸葛亮が所属している。

最後に一刀率いる後衛部隊2000、鳳統、周倉が所属している。

この三部隊を上手く各隊の軍師たちが連携させる事で、先ず先ずの戦果を上げる事に成功している。

 

「・・・・・っ!?」

 

ぞわっ、と寒気が走る、背後を振り返るが、微笑みを絶やさない副官がそこにいるだけだ。

 

「どうかいたしましたか?」

「あーいや、なんでもねぇ」

 

前へと向き直る青焔、その後では、六花が黒い笑みを浮かべていた。

 

:本隊幕舎

中へと入れば既に本隊の四人と、後衛の一刀と雛里が出揃っている。

 

「スマン、遅れた」

「いえいえ、大丈夫ですよ♪・・・さて朱里ちゃんからの報告なんだけど」

「はい、斥候からの報告で東の方に官軍の存在を確認しました」

「官軍?」

「はい」

「旗は?」

「曹・・・・」

「!?」

 

顔色が一気に悪くなる青焔。

 

「青焔様、いくら真名に青が入っていても顔色まで真っ青にする事も無いでしょう」

「違ぇよ!」

「何か・・・・あるのでしょうか?」

 

六花の毒づいた言葉に、続くように雛里が問いかければ、その動きが止まる。

 

「・・・・・・正直、曹操に会いたくない」

「なんでです?」

「・・・・・・」

 

無言、そして静寂、しかしそれはすぐに破られる事となる。

 

「失礼いたします」

 

入ってきたのは凪だ。

 

「どうした?何かあったか?」

 

この空気を変える好機だ、後で頭撫でてやろう、そう、思ったのも束の間。

 

「官軍の曹操様が桃香様、他主要人物にお会いしたいと」

 

死刑宣告だった。

 

「あ、分かりました、じゃあお通ししてください♪」

「はっ」

 

桃香が許可を出せば駆け出す凪。

 

「おっとぉ・・・・そう言えば仕事残ってんだ、じゃ!」

 

シュタッと手を挙げて、ここから逃げ出そうと、駆け出そうとした途端、がしっと、力強く両腕を掴まれた。

 

「・・・・・・・・はい?」

 

振り向けば、黒い笑みを浮かべる六花と、さっきまでいなかったはずの星が、自分の両腕を掴んでいるではないか。

 

「おやおや青焔殿、明日の進軍準備ならば私が済ませましたぞ」

「さぁ、これでここから逃げ出す必要も御座いませんね?」

 

笑顔だ、ニッコリと、お世辞抜きで綺麗だと思う、だが、二人とも眼が笑っていない、眼が語っている「曹操とどういう関係だ」と。

 

「あら?珍しい事もあるものね、死人と再開出来るなんて」

 

突如聞こえた声に、顔を幕舎入口へと向ける。

 

小柄で金髪、特徴的なカールした髪、そして何より、矜持を全面に押し出したようなその眼。

 

「・・・・・・孟徳・・・・・・」

「あら、誰がそんな呼び方をして、と言ったかしら?せ・い・え・ん?」

「・・・・・・・華琳」

「宜しい♪」

 

昔からこの女は苦手だった、武では優っていた、戦技盤でも負けた覚えは無い、なのに、勝ち切った感覚も覚えた事が無かったのだ、何より・・・・・・

 

「青焔様、少々お話が」

「ありますので前衛幕舎へ、凪もお呼び致します故」

「待てお前ら!俺に何をする気だ!?」

「あらあら、大変そうね」

「テメェのせいだ!!」

 

それから、少ししてようやく騒ぎが収まると。

 

「で、何しにきやがった」

「ああ、忘れていたわ」

「忘れんなや」

「冗談よ、劉備軍と共同で軍を進めたいと思って提案をしに来たのよ」

「そっちの兵力は」

「8000弱よ」

「合わせて一万三千、か」

「ええ、一万を超えればそれなりの相手でも対応出来るでしょう」

「・・・・・・相談する、時間をくれ」

「ええ、構わないわ」

 

ちょいちょい、と桃香、一刀、朱里、雛里、紫牙、愛紗を呼び集めて議論に入る。

 

「単刀直入に意見を」

「私は賛成です、味方が多ければ色々できますし」

「俺も賛成、かな・・・・」

「私も賛成です」

「私も賛成します」

「・・・・一概に賛成、とは言い切れませんが・・・」

「私も同じく」

「賛成四、反対二・・・可決で良いか」

 

劉備軍で重要案件が登った場合は基本、この七人で議論される、青焔が議事進行で、他六人で意見がまとまれば良し、まとまらなければ青焔も乗り出す、という形をとっている。

 

「一応はその話に乗る・・・・が、何で俺ら何だ?」

 

純粋な疑問、手を組む、というだけならば揚州の孫堅や幽州の白蓮、斉南の鮑信などもいたはずだが。

 

「そうね、理由は3つかしら」

「一つは?」

「先ずは貴方、天の御使いを見極める事」

「俺ぇ!?」

「ええ」

「それは置いといて二つ目は?」

「え、置いとくの?」

「最近名の上がってきた劉備軍の力を見たいから」

「置いとかれた」

「じゃあ、最後はなんです?」

「貴方がいるからよ、青焔」

『・・・・・・は?』

 

その場にいた全員が、一斉に頭の上に「?」を浮かべる。

 

「あの言葉、忘れたわけでは無いでしょう?私は貴方の事は本気なの」

「俺ぁてっきり冗談だと思ってたがね」

「私ね、一度手に入れると決めたら何がなんでも手に入れるの」

「知ってらぁ」

「そういう事よ」

 

そう言えば、ヒラヒラと手を振りながら幕舎を出る華琳。

 

「さて青焔様」

「あの言葉とは?」

「なん・・・・・なのですか?」

 

六花に星、いつの間にか凪まで加わって、三人が据わった眼でこちらを観ている。

 

「・・・・・・実はな」

 

話は洛陽官吏として働いてた頃に遡る、当時の太傅陳蕃に補佐として召抱えられた自分は、陳蕃の使いとして中常侍曹騰の屋敷へと使いを頼まれていた。

屋敷の中へと案内される途中で、華琳と始めて出会った、綺麗な娘だな、と感じたのを記憶している。

 

「何というか、話に出てくる人物が既に雲の上の人ばかりですね」

 

と、愛紗が漏らす。

次に会ったのは宮中晩餐会を抜け出し、宮殿の廊下で涼んでいた時だった。

 

:回想:洛陽宮殿外周廊

 

「堅苦しいばかり堅苦しいものだ」

 

陳蕃様も、乗り気では無かったようで既に諸用がある、といって屋敷へと戻っている、自分ももう少ししたら戻るか、そんな事をかんがえていた。

 

「また会ったわね」

 

不意に、かけられた声、妙に澄んだ声だという記憶がある、振り返れば、曹騰の屋敷へと赴いた時に見た少女だ。

 

「確か曹騰殿の屋敷で・・・・」

「曹操孟徳、曹騰の孫よ」

 

この頃、不良官吏などと呼ばれていた青焔は、相手が中常侍曹騰の孫だと知っても動じる事など無く。

 

「そうか、俺は王泰文令ってんだ」

 

と、自己紹介を返している。

 

「少し、話でもしないかしら?」

「まぁ・・・・構わんがな」

 

それから、取り留めのない話を続ける、軍学、政治、世論、農耕、商業、築城、とにもかくにも様々な事を話し続けていた。

 

「貴方は面白いわね」

「あ?」

 

ふと、顔を見れば、少しばかり寒気が走る。

 

「貴方が欲しい」

「冗談は・・・・」

「いいえ、冗談などでは無いわ、あの太傅陳蕃が傍らに置いた程の人物、どれほどかと思ったけれど想像以上だったわ」

 

陳蕃は、あまり人と交わる事を好まない、太傅という地位についてからも、補佐役一人置くこともなく、一人でもくもくと仕事をしていた、それが何のつもりか突如補佐につけられたのが青焔だったのだ。

 

「買いかぶりだな」

「それは私が決める事よ、まぁ今は良いわ・・・でも何れ必ず、貴方を私のモノにしてみせる」

 

そう言いながら浮かべた笑みは、非常に妖艶に見えたものだ。

 

:今

 

「っつーわけよ」

 

青焔の回想話を聞き、矢張り凄い人物なんだな、と再認識する桃香、一刀、愛紗、鈴々、朱里、雛里、紫牙、しかしそれとは別に、六花、星、凪は。

 

「危険ですね」

「うむ・・・・まさかこんな伏兵が居たとは」

「ですが負けるわけには」

 

三人が視線を合わせ、コクリと頷く、それを見ていた青焔は、アイツら仲いいね、ぐらいにしか考えていなかったらしく、後日、三人がかりで詰め寄る姿が見られたとか。




青焔×星&凪&六花&『華琳』、フラグ魔、主人公補正恐るべし・・・・ちなみに青焔のフラグは七本まで増える予定です、もうしっちゃかめっちゃかですね、一刀は桃香&愛紗ルートです。
他二人の主人公、蒼季と尚にどれぐらいフラグを立てるかが楽しみな今です。


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第九話:魏武の大剣VS軍神、孫家の次代

義勇軍に挨拶してくる、そういって陣を出た華琳が、妙にウキウキしているようなイキイキしているような感じで戻ってきた、ここしばらく無かったぐらい上機嫌だ。

 

「何だ、何かあったのか?」

 

春蘭、秋蘭、桂花、愛理、唯夏、季衣、瑠琉、真桜もいつもは見れないそんな上機嫌な姿に声をかけかねたらしく、蒼季が声をかける事になった。

 

「蒼季、青焔が生きていたわ」

 

その言葉に眼を見開いた蒼季、他の面子の殆どが首を傾げる、留守居の氷影や伯がいればまたちがった反応を見せただろうが。

 

「ちょっと待て!だってアイツは・・・・」

「ええ、私もてっきり党錮の禁で太傅と共に処断されたと思っていたのだけれどね、劉備軍に居たわ」

「あのー華琳様」

 

ちょこん、と手を挙げる春蘭。

 

「それは・・・・誰の事ですか?」

「ああ、そうか・・・・華琳、他の連中は知らんだろう」

「そう言えばそうね、氷影と伯ぐらいかしら、知っているのは」

 

「?」を頭の上に浮かべる一同。

 

「王泰文令、先代太傅陳蕃の懐刀と呼ばれた中央官吏よ」

「華琳や俺とは洛陽時代に知り合っててな」

「武、知ともに優れる・・・・・今一番欲しいわね人材としても・・・・一人の女としても」

 

最後の言葉で、春蘭が殺気立つ。

 

:昼

曹操軍側に持ちかけた取引、共に進軍する間の兵糧供給をお願いする。

あちらかの条件は、両軍将校の交流、まぁ得るものもあるだろうと思っていたのだが。

 

「愛理ちゃーん!」

「愛理ちゃんだぁ・・・・」

「え!?朱里ちゃん、雛里ちゃん!?」

 

駆け寄り、再会を喜ぶ朱里、雛里、愛理の水鏡塾組。

 

「凪!?」

「真桜!?」

 

どうやら同郷だったらしい凪と真桜。

 

そして・・・・・。

 

「私と勝負しろぉ!!!王泰ぃい!!!!」

「は?」

 

青焔は、春蘭に七星餓狼を向けられていた。

 

「おい華琳・・・・・」

「相手をしてあげて頂戴」

 

ふぅ、とため息を一つつくと。

 

「分かった」

 

色々と諦めた表情で、応諾するのだ。

 

:四半刻後

七星餓狼を構える春蘭、雲龍を肩に担ぐ青焔が、開けた場所で向き合っていた。

立会人は秋蘭と星の二人。

 

「ふはははは!!七星餓狼の錆にしてくれる!!」

「・・・・・気ィ進まねぇー」

「ほら青焔殿、始めますぞ」

「始め!!」

 

秋蘭の合図と同時に、七星餓狼を振りかぶってくる春蘭、その一撃を先ずは受け止める。

 

「ぐっ・・・・お・・・・・」

「ほう、私の一撃を受け止めるか・・・・そうでなくてはな!!」

 

続けざまに春蘭の攻撃が繰り出される、それを青焔が、最小限の動きで受け止め、流していく。

 

「姉者の攻撃が通らない・・・・・だと」

「流石は青焔殿」

 

驚愕の表情を浮かべる秋蘭と得意げな表情の星。

 

「そろそろ攻めますか」

「は?ってうわぁあっ!!?」

 

春蘭の上段からの攻撃を、一撃で弾き飛ばす。

 

「オラァ!!!覚悟しろ!!!」

 

乱雑に見えて春蘭の防御の隙を突くように繰り出される連撃に、次第に防戦一方になる春蘭、しかも時折攻撃が掠り始める。

 

「春蘭様が圧されてる!?」

「そんな・・・・・」

「ここまでとは・・・・」

「凄い、のだ・・・・」

 

更に加速し始める青焔の連撃に、ジリジリと春蘭が後ずさりを始める。

 

「・・・・正直」

「へ?」

「ん?」

「青焔と比べても春蘭の武は遜色無いと思っていたわ」

 

それどころか、春蘭のガードが揺ぎ始める。

 

「でもそれは大いなる見当違いだったわ」

「というと・・・」

「どういう事です?」

 

「っくぉおおおおおおおっ!!!」

 

苦し紛れに、春蘭が繰り出した袈裟斬り。

 

「青焔はそもそも規格外の更に上を行く存在だ、という事よ」

 

「ふんっ!!!」

 

振り下ろされた七星餓狼の横っ面を、雲龍で思いっきり叩きつければ、構えも何もかもが崩れた春蘭、その喉元に、雲龍の鋒が突き付けられる。

 

「・・・・・・俺の勝ちだな」

「・・・・・私の負けだ・・・」

 

ふぅ、と息を一つ吐けば、ゆっくりと大矛を降ろす。

 

「す、凄いです」

「我が上官殿は想像以上でございましたか」

「あれでは私との一騎打ちも本気では無かったという事か」

 

驚きを隠さない凪と六花、星。

 

「流石ですね、青焔さんは」

「うん、凄いよね」

「あれは・・・・」

「・・・・驚異的ですね」

 

四人の軍師も驚きを隠せない様子。

 

「流石ね、青焔」

「ったく、こういうのはこれっきりにしてくれ」

「約束は出来ないわね」

「なんでよ」

「ほら」

 

ちょいちょい、と指を差す華琳、その先には春蘭が。

 

「王泰!次は私が勝つからな!勝ち逃げなんて許さないからな!!」

「・・・・・・・分かった、期待して待っている」

 

そう答えて、ため息を一つつくのだ。

 

:淮南:孫堅・袁術連合軍本営

朝廷からの勅命に対し、人材の少ない袁術軍と兵の少ない孫堅軍、互いの短所を補うために連合軍として出兵する事を決めた両軍。

袁術軍からは美羽、七乃、祈の三人、孫堅軍は赤虎、雪蓮、蓮華、誾、雷刃、尚、思春、灰、夕姫、亞紗、香の十人が出陣した。

揚州、寿春の留守居は貞、冥琳を筆頭に孫堅軍の古株武官たち、袁術軍の若手武官たちが防衛戦の維持を勤める事になった。

 

「ここまでさしたる戦闘も無く来ましたね」

 

そう、呟いたのは尚だ。

 

「うむ、じゃが良い事なのであろ?」

 

その膝の上に座って頭を撫でられているのは美羽だ。

 

『・・・・・・』

 

その光景をジーッと見ながら、羨ましそうにするもの四名。

 

 

「ふむ・・・・なんなら全員引き取ってもらうか」

 

と、不穏当な事を呟く者一人。

 

揚州自体、黄巾本隊のいる穎川より遠いためか、もう少しで中原だというのに二、三度しか黄巾とぶつかっていない。

 

「だが各自気を抜くな、必要以上の弛緩は慢心を生む・・・・・・・特に赤虎様!雪蓮様!」

「俺?」

「えー、私?」

 

名を呼ばれた赤虎と雪蓮が不満げに声を挙げる。

 

「当たり前だ!赤虎様は護衛もつけずに本営を離れる!雪蓮様に至っては真昼間から酒をカッ喰らう始末!」

「赤虎様、それは君主として二流どころか三流ですよ?」

「姉様、次代の孫呉の当主として自覚をもってくださいとあれほど」

 

ジト目で見ながら言う祈と蓮華。

 

赤虎と雪蓮の乾いた笑いだけが、幕舎に響く。

 

:夕刻:諸葛謹幕舎

蝋燭の灯りで、本拠秣陵からの竹簡を読む尚。

 

「尚様、お疲れのようですが」

 

心配そうに声をかけてきたのは灰だ。

 

「いえ、大丈夫です・・・・本番は、これからですからね」

「そうですか・・・・そう言えば、雷刃様が先程こちらに参られまして」

「雷刃さんが・・・・ですか?」

「はい、また来る、と」

 

何の用だろうか?そうかんがえていた時、幕舎の外から声がかかる。

 

「おう尚、入るぞ?」

 

聞こえてきた声は雷刃のもの。

 

「ええ、どうぞ」

 

何気なしに、返事をすれば、雷刃どころか赤虎、雪蓮、蓮華、誾までが一緒に入ってくる。

 

「・・・・皆さんがお揃いとは」

「済まないな、内密な話しだったのだ」

 

笑いながら言う赤虎に、上座を譲れば、胡坐を用意し6人が座る。

 

「それで、どのようなご用件で」

「うむ・・・・」

 

僅かばかりの静寂、そして。

 

「俺は、この乱が終わったら隠居しようと思う」

『!?』

 

その言葉に、その場の全員が驚く。

 

「ちょっ父様!?」

「隠居は早いでしょ!?」

「・・・・確かにな、だが・・・・周りを見てみろ、曹操に劉備に袁紹に、若手連中が先頭に立って流れてる世の中だ、孫呉がこれから先生き残るためには、若い力が必要だ」

 

言いたい事は分かる、赤虎が悩んだのも、様子を見れば分かる。

 

「ついでに武官、文官、軍師の筆頭三職も総入れ替えする」

「これに関しては儂も承諾した」

「・・・・・誰を据えるおつもりでしょうか?」

「うむ、武官筆頭に雷刃、文官筆頭に冥琳、軍師筆頭に尚、御主を」

「な!?お待ちください!!私には・・・・」

「異論は許さん」

「いや、っつっても・・・・フツー、逆でしょう?」

「私もそう思います、父様」

「そうよねー、冥琳が軍師筆頭で文官筆頭が尚でしょ?」

 

どちらにしろ筆頭に据えられる事には納得はいかないものの、そこも気になっていた、自分は軍師というより文官、と思っている、周囲の認識もそんなものだろう。

 

「冥琳にあって尚には無いものがある」

『?』

「尚には人を育てる才能がある」

「?冥琳にもあるでしょ?」

「うむ、だが質が違う・・・・冥琳の教えは一定以上の能力がなければ到底、理解し得ぬものが多い、そして理解し得ぬ物言いをする」

「ふむ、確かにあやつはそういう節がある」

「だが尚は、無理に理解させぬ、命令、軍務、政務、相手のなし得る範囲からその者の才覚を育て上げる、それは今、この中華において誰も持たぬ稀有な才能だ」

「・・・・・・私、が」

「まぁ乱の収束まで時がある、よく、考える事だ」

 

何かを、考えているような尚。

 

「で」

『?』

 

思い出したような声。

 

「なんで俺が武官筆頭なんです?」

 

雷刃が、ようやくその質問をする。

 

「・・・・雷刃、爪を隠し研ぎ澄ますのはもう十分だろう」

「!」

 

赤虎の言葉に、息を飲む雷刃。

 

「その真名の如く、孫家の道を切り開く雷神となれ」

 

ああ、そうだ、自分はこの眼には弱いのだ、雪蓮にも言えることだが、そんな事を思い浮かべれば、スパァンッと音を立て拱手する雷刃。

 

この時は、誰も、この後に待ち受ける過酷な運命など、想像していなかったのだ・・・・・・




矢張り青焔は呂布並みかも知れません。そして最後に挿入した意味深な一文、それをどう扱い登場人物がどうなるか、全部作者次第です。


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第十話:江東の虎の死、華琳の宣戦布告

:劉備・曹操連合軍

豫州と兗州の境目の賊を討伐し終え、一息ついていた両軍に、一つの報が飛び込む。

 

「伝令!伝令ー!!」

 

本営に駆け込んできた兵士。

 

「慌てるな!落ち着いて述べよ!!」

 

と、青焔が一喝すれば。

 

「はっ!!許昌西北部にて官軍と黄巾が戦闘中!また交戦中の官軍より救援の使者が参っております!!」

 

ざわつく、が青焔、華琳、紫牙、秋蘭は流石と言うべきか慌てる事は無く。

 

「わかったわ、使者を此処へ通しなさい!」

「はっ!!」

 

駆け出す兵士。

 

「許昌北西での戦闘と言うと・・・・」

「孔伷か孫堅、袁術、陶謙の誰かね」

「可能性があるのは・・・孫堅、袁術、ですか」

「うむ、その可能性が高いだろうな」

 

あわあわとしている一刀、桃香を始めとした一同を尻目に話し合う四人。

 

「お連れいたしました!」

 

先ほどの兵士が、一人の・・・・将校らしき青年を連れて戻ってきた。

 

「揚州太守孫堅が配下、馬忠と申します!!」

 

全身が傷だらけ、血まみれになっていた。

 

「今、太守孫堅、同盟の太守袁術以下3万の軍勢が黄巾賊合計八万の挟撃に会い苦戦中!!何卒!!援軍を・・・・」

 

振り絞るような声で叫ぶ馬忠。

青焔と華琳が、判断に迷う、こちらの兵力は一万三千、孫堅・袁術軍と合わせても四万弱、対する相手は倍する八万、ここでの判断を誤れば全滅の可能性もある、必死に頭を振り絞る二人、だったのだが・・・・

 

「分かった!直ぐ案内してくれ!!」

「愛紗ちゃん!!鈴々ちゃん!!すぐに軍を出す準備を!!」

 

勝手に一刀と桃香が返事をしていた。

 

「待てゴラァ!!」

 

反射的に叫ぶ青焔。

 

「お前分かってんのか!?こっちが合流しても相手は倍!!一歩間違えりゃこっちまで全滅すんだぞ!?」

 

最初は、青焔に圧されている様子だった一刀が、キッと睨み返し。

 

「じゃあ聞くけど・・・青焔は助けられるかも知れない味方を見捨てろっていうのか!?」

「・・・・必要があれば見捨てる」

 

青焔は、曲がりなりにも劉備軍の総指揮権を預かる立場、可能な限り、自軍を生かす方策を立てねばならないのだ。

 

「俺はイヤだ!!そんなやり方してたら俺たちの目指す世の中なんて作れるわけ無いだろ!!!」

「!?」

 

『力無い人たちが虐げられないよう、皆が笑って暮らせる世の中を作る』

 

黄巾討伐戦に参加する時、この理想と、現実の狭間であれ程悩んでいたはずの主君は、迷うことなく、援ける事を選んだ、あれ程、両立は難しいといったのに、曲がる事無く真っ直ぐに、こちらを見据えている。

 

「・・・・・・分かった、俺の負けだ」

 

こういう眼には弱いのだ、ならば自分が出来るのはこの真っ直ぐな主君の心に宿る志を、気持ちを肯定し手助けしてやる事だ。

 

「華琳はどうするよ?」

「勿論行くわ、江東の虎に貸しを作る好機だもの」

 

予想できた答えか、そう思えば声を一つ、張り上げる。

 

「出陣だぁ!!!急げぇ!!!」

 

:二刻前:許昌北西部

多少、気が緩んでいたのだと思う、突如進行方向から現れた黄巾軍六万、孫堅軍、袁術軍の兵の練度を鑑みれば、倍の数であろうと、問題は無いはずだった、統制も何も取れていない敵なのだから。

 

「っ!!美羽は逃がしたか!?」

 

襲撃を受けた尚が、先ず最初にしたのは美羽を逃がす事、蓮華、祈、七乃を護衛に付けた当たり、しっかり逃がすべき者を逃がしたのだろう。

 

「はっ!既に思春さんと兵2000で護衛し東に抜けております!」

 

乱戦の中を器用に斬り抜けながら、尚が言う。

 

「良し!!ならばここから押し返す!!」

『応!!!』

 

気勢を上げ、苛烈な攻めを始める孫・袁両軍の兵士。

 

「状況はどうなっている?!」

「はっ、雷刃さんと誾様が既に先頭を切って黄巾軍の中核に乱入、騎馬隊でかき回しております、また雪蓮様がその隙間を縫い重歩兵で吶喊しております」

「ふむ、ならば我々も・・・・・」

 

前面の敵に乱入したのは二万五千、本隊の五千にも突撃命令を出し決着を、そう思った途端であった。

 

『うわぁあああああああっ!!!』

『て、敵襲だぁああああ!!!』

 

聞こえてきた後方の悲鳴に、赤虎も尚も、反射的にそちらを向いていた。

 

「何だとぉっ!!?」

「馬鹿な・・・・」

 

後方から乱入してきた黄巾軍は二万。

 

「くっ!!!反転せよ!!迎え討つ!!」

「なっ!?赤虎様!!!」

 

それはあまりにも危険だ、兵力差は歴然なのだ。

 

「ここで我らが避ければ前衛の戦に乱入される!そうすれば二万五千は壊滅だ!」

「!」

「勝つ必要は無い!時間を稼げば雪蓮らが前面の敵を討ち滅ぼし援護に戻れるだろう」

「はっ!皆、我らの底力の見せ所ぞ!!」

『応!!』

 

号令の下に、四倍もの黄巾を迎え討つ本隊五千、赤虎の覇気に刺激され、徐々に黄巾を押し込みつつあった。

 

「良し!このままおっ・・・・・・・」

 

突如、途切れる声、振り向いた尚の、眼が見開かれる。

 

「・・・・・・え?」

 

赤虎の喉元に突き立つ一本の矢、口元から滴る血。

 

「せ・・・・・・赤虎様ぁあああああああああ!!!!」

 

響き渡る声に、本隊が恐慌状態に陥る。

 

そして期せずして、雪蓮らも、その異常に感づく。

 

「・・・・本隊が崩れておるだと!?」

 

先ずは誾が吼える。

 

「どういう事!?父様も尚も何やってるのよ!」

 

雪蓮が、それでも斬り進むのを止めずに叫ぶ。

 

「仕方ねぇ・・・・誾さん!雪蓮!こっち頼むぞ!!騎兵500付いてこい!!!」

 

前衛部隊から五百の騎兵を連れて本隊へと向かう雷刃。

 

:四半刻後

なんとか黄巾の波を斬り抜け本隊中枢へと到達する雷刃、そこにいたのは・・・・血を流し、眼を閉ざした赤虎と、それを護り戦う尚の姿だった。

 

「何だ、これは・・・・・」

「・・・・・・雷刃さん、劉表です」

「な・・・・んだと?」

 

尚の口から出た名は、ここで聞く必要が無いはずの名。

 

「後方から襲ってきた黄巾の中に蔡瑁がいました」

「!?」

「独断かどうかまでは分かりませんが、少なからず劉表陣営が関与しています」

「っ!!」

 

ギリッと、握り締めた拳から血が流れる。

 

「・・・・灰は?」

「・・・・東に居たと報告のあった官軍へと向かわせました、援軍をこいに」

「来るのか?」

「分かりません、ですが・・・・」

 

やらないよりはマシ、言わずとも分かることだった。

 

「これ以上圧される訳にゃいかねぇ、戦うぞ!」

「はい」

 

雷刃と尚の眼に焔が宿る。

 

「雷刃さん、行きますよ」

「応」

 

 

:今

馬忠に先導され、到着した一同は信じられない光景を見た、それは5万ほどまでに減った黄巾を、苛烈に、騎馬の限界を超えた動きで叩き潰す五千の歩兵の姿だ。

 

「・・・・何だ、ありゃあ」

 

青焔すら、絶句寸前だった。主攻だったであろう二万弱の兵は後方に下げられ、黄巾とは五千の兵だけで戦っている、その五千が、十倍の五万を完全に翻弄しているのだ。

 

「秋蘭、旗は見えるかしら?」

「魯と諸です」

「魯粛と諸葛謹か」

 

蒼季が、旗印からあたりをつけて、個人名を上げると。

 

「兄さん!?」

 

声を上げたのは朱里だ。

 

『え?』

「諸葛・・・・そういうことですか」

 

紫牙が、納得する、諸葛姓は珍しい二字姓、名まで一致すればそこにいるのは当人に違いないのだ。

 

「・・・・青焔様!」

「分かってらぁ!!!」

「春蘭!」

「はい!華琳様ぁ!!!」

 

青焔と春蘭が、騎兵2000を率いて突撃を敢行する、と同時に馬忠が自軍へと駆け出している。

 

雷刃がひたすらに先陣で敵兵を撫で斬りにし、後方の尚が方向の指示を出す。

 

雷刃が暴風雨の如き武威で、尚が鷹の如く広い視野で、少数精鋭を最大限に活かした戦いを続けている。

 

「雷刃さん!!左後方!!援軍有り!!」

「っ・・・・分かった!!!」

 

:四半刻後

青焔と春蘭が、雷刃、尚に合流し、暴れまわっている。既に三万までに減った黄巾は、ところどころで兵が逃げ始めている。

 

「・・・・曹操殿!!」

 

紫牙が、反射的に叫ぶ、軍を投入するなら今だ、と、だが桂花や朱里、雛里らが眼を見開く。

 

「ちょっと待ちなさいよ!!」

「まだ早いです紫牙さん!」

「それに孫堅さん側にも伝達しなければ・・・・」

 

と、反論する三人。

 

「根拠があってのことかしら?」

 

華琳が、紫牙の眼を見ながら、問いかける。

 

「軍師としての直感です、そして・・・・孫堅軍もこの機で動くはずです」

「軍師らしからぬ言葉ね」

「良く言われます」

「・・・・わかったわ、全軍突撃よ!!」

「華琳様」

「何かしら秋蘭」

「既に劉備軍が突撃してます」

『え?』

 

思わず見たその先には、単と愛紗、鈴々を先頭に突撃を開始した劉備軍が。

 

「成程、鼻の利く将が居た、というわけね・・・・遅れを取るな!!」

「はっ!!」

 

時を同じくして突撃した孫堅軍と共に、黄巾軍を撃破する事に成功したのだ。

 

:一刻後:劉備・曹操連合軍幕舎

戦闘終了後に、こちらを訪ねて来たのは孫堅では無く娘の孫策だった。

 

「お初にお目にかかるわ、孫策伯符よ・・・・今回は助かったわ」

「孫文台はどうしたのかしら?彼が来るのが筋だと思うのだけれど」

「・・・・亡くなったわ」

「なんですって!?」

 

がたん、と椅子を倒し立ち上がる華琳。

 

「喉元に矢が突き刺さってたわ・・・・遺体は程普、袁術、張勲が負傷兵を引き連れて運んでいったわ」

「そう・・・・この乱が終わったら・・・・線香を上げに行っていいかしら?」

「構わないけれど・・・・」

「彼は尊敬すべき英雄の一人だった・・・・」

 

意気消沈するその場、そして。

 

「それで、何か用があって此処に来たのでしょう?」

「ええ、よかったらそっちと一緒に行動したいと思ったのよ」

「成程、大分被害を被ったようだものね」

「ええ、三万居た兵が今は二万弱、恥ずかしい話独力でこの先は難しいもの」

「分かったわ」

「じゃあ今度は劉備軍に・・・・」

「その必要は無いわ」

「え?」

 

その言葉に首を傾げる孫策。

 

「おーう、来たぞ華琳」

 

そこに入ってくる青焔。

 

「ああ、丁度良かったわ青焔、孫策軍が、同行したいそうよ」

 

孫策軍、その言葉に何かをかんじとったのだろう青焔、わずかに間を空けてから。

 

「まぁ・・・・いいんじゃね?」

「えっと・・・・?」

「王泰文令、元洛陽官吏だ・・・・文台殿とも・・・・面識はあったよ」

「そう・・・・」

 

ふと、何かを思い返せば。

 

「そうだ華琳」

「何かしら?」

「春蘭とか鈴々の方からなんだが・・・・」

「珍しい組み合わせね」

 

実は、先日の手合せが終わってから、劉備軍と曹操軍の主要人物はそれぞれ真名を交換したのだ。

 

「宴会やろうってさ」

「宴会、ねぇ」

「ま・・・・兵士連中も滞陣が長い・・・・気晴らしにゃ丁度良いだろうさ」

「そうね」

「伯符殿も、いかがか・・・・文台殿を失って暗い雰囲気の今を、先ずは乗り切ろうではないか」

 

一瞬、キョトン、とした表情の雪蓮だが、すぐに笑顔を見せたのだ。

 

:夜

劉備、曹操、孫策三軍が混ざり合っての大宴会になっていた。

 

「~♪」

「あら紫牙、何を作っているのかしら?」

 

杭で串刺しになった豚を、兵士に命じて火で炙り焼きにしている紫牙のところへ、華琳、瑠琉、朱里、雛里、雷刃などの料理が出来る面子が集まる。

 

「ええ、先程近隣の村から豚が五頭、献上されまして・・・・さっそく焼いていたところです」

「ほう、少し見物してっても?」

「構いませんよ」

「これは・・・・ただ肉を焼いているわけでは無さそうだな」

 

雷刃の言葉に、首を傾げる四人、そして紫牙が笑う。

 

「はい、内臓の処理をして血抜きを済ませた後に野菜と笹に包んだ米を中に入れてあります」

「ほう・・・・」

 

豚を焼く過程で出る水気などを利用して豚の中で野菜と米を蒸しているのだ。パラパラと塩を振っていく。

 

「面白い調理を考えるものね、独学かしら?」

「はい、一通り均整の取れた内容を揃えられる料理です・・・・流浪と農村生活の間に学びました」

 

既に兵士たちは酒盛りを初めており、五頭の豚の丸焼き周辺にはそれぞれ別々の集まりが出来上がっている。

一刀、桃香、華琳、雪蓮、秋蘭、雷刃ら各国首脳の集まるところ。

青焔、星、凪、六花、蒼季、真桜、灰ら適度に飲んで食べる集まり。

鈴々、春蘭、季衣、夕姫ら大食漢の集まり。

紫牙、朱里、雛里、桂花、愛理、尚、蓮華、祈ら頭脳労働担当の集まり。

単、愛紗、唯夏、香らあぶれ者の集まり。

といった具合である。

 

それぞれが様々な話題で盛り上がっている。

 

「聞いておりますか青焔殿ぉ」

「そうです、分かっておいでですかぁ」

「青焔様ぁ・・・・私は、もっとぉ・・・・」

 

首脳の集まりから逃れてきた一刀が、見たのは酔っ払った星、凪、六花に絡まれる青焔の姿だ、右腕にしなだれる六花、膝枕される凪、頭の背におぶさる星。

 

「何その羨ましい状況」

「羨ましいなら桃香とか愛紗に頼めばいいじゃねぇか、多分やってくれんじゃね?」

「桃香はともかく愛紗に殴られる」

「違いねぇ」

 

ケラケラと笑う青焔、一刀は今度は蒼季の方へと視線を向ける。

 

「何その羨ましい状況」

「お前は同じ台詞しか喋れんのか」

 

酔って爆睡する真桜が背中におぶさってて、膝の上ではいつの間にかこちらに来てた唯夏と愛理が膝枕で寝ている。

 

「何(以下略)」

「羨ましい・・・・のですかね?」

 

首を傾げる尚、その狭い膝の上に蓮華、香、祈が寝ている。

 

「尚兄さん・・・・」

「朱里」

「鼻の下が延びてます」

「む・・・・ヤキモチかい?」

「な!?」

「紫牙君にでも頼んでみたらどうだい?」

「はわわ!そ、そんなんみゃっ・・・・・」

 

噛んで顔を真っ赤にした朱里。

 

「あの、尚さんはお三方と・・・・・?」

 

どこか興味津々に問いかける雛里。

 

「なっ!?そそそそんなことあるわけにゃっ・・・・・」

 

噛んだ、しかも朱里と同じ噛み方、周囲の人々は理解する、ああ、本当に兄妹なんだな、と。

 

「・・・・・・」

 

それを遠目に見ながら、どこかブスっとした表情で飲む華琳。

 

「どうしたの?不機嫌そうな顔して」

「何でもないわよ」

「~むにゃむにゃ・・・・ご主人様ぁ・・・・そこはダメだってばぁ・・・・」

「どういう夢を見ているのですか、桃香様は・・・・」

 

酔いつぶれた桃香を膝枕しながら、愛紗がぼやく。

 

「私も青焔に膝枕して欲しーい、って顔ね?」

「ぶふっ!!」

 

雪蓮が、ニヤリと微笑みながら言えば、顔を真っ赤にして吹き出す華琳。

 

「ななななっ!?」

「ふふーん♪図星みたいねぇ~」

「あのねぇ!!!」

「こんな世の中なのよ?いつ死ぬとも限らない、そう父様のように・・・・」

「・・・・」

「だからこそ、しっかり思いは伝えなきゃだめよ?後悔しないためにも」

 

華琳は、無言で歩き出していた。

 

 

ケラケラと笑っていた青焔、その顔が、突如ガシッと掴まれる。

 

「は?」

 

ぐい、と横に捻じ曲げられたその先には、華琳。

 

「おまっ、何・・・・」

 

を、と続ける事は出来ない、口に柔らかい感触、華琳の唇の感触だと気づくまでに、時間はかからなかった。

 

「~~~!!!?」

『あー!!!?』

 

そして明らかに酔い潰れていたはずの星、凪、六花が飛び上がっている。

 

「ぷはっ・・・・」

「ぬっ!?なぁぁあっ!!?」

 

最早状況についていけず慌てふためく青焔。

 

「私は、貴方が好きよ」

「!?」

「返事は・・・・そうね、お互いに無事に乱世を生き抜けたその時に、聞かせてもらうわ」

 

微笑みながら言う華琳、そして視線を星、凪、六花へと向ける。

 

「負けるつもりは無いわよ?三人共」

 

この後、私も、とすがり付いてきた三人を振り払って爆走する青焔、それを追う星、凪、六花に春蘭の姿が見かけられたとか。




・・・・・正直、詰め過ぎました。いきなりの孫堅:赤虎の死についていけない読者の方もいたと思いますが・・・・・物語の進行上、殺す以外思いつきませんでした。孫堅大好きな三国志ファンの皆様、マジ申し訳ありませんでした!!(土下座)m(_ _)m


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第十一話:黄巾の乱・鎮静

決戦の地は広宗、大将軍何進の代理として戦場に赴いた総大将呂布からの通達により、桃香、華琳、雪蓮らは元より、袁紹、張邈、鮑信、陶謙、公孫賛、喬帽、劉岱、劉虞、韓複ら群雄たちも、この地へと集合した、官軍総数30万、うちの三万が桃香、華琳、雪蓮らで、五万が袁紹、ほかは一万から二万ほどの兵力となっている。

 

「大将に呂布、副将に華雄と張遼か」

「まぁ悪くないのではなくて?」

「え?でも軍師とかいないんじゃあ・・・・」

「これだけの勢力を一つにまとめるなんて無理だもの、そしたら朝廷の面目が立てられる武力重視でも良し、ってわけ」

「ほぇー」

 

三軍合同の本営にて、状況を整理する青焔、一刀、桃香、華琳、雪蓮。

 

「さて、この三軍が力を合わせるのは直前までだ」

『へ?』

 

青焔の言葉に、素っ頓狂な声を挙げる一刀と桃香。

 

「ええ、分かってるわ」

「戦場中域までは一緒に、そこからは・・・・・」

「早いもん勝ち」

 

ニヤリと笑い合う三人。

 

「誰が張三兄弟殺っても恨みっこ無しだぜ」

「当然よ」

「当たり前じゃない、ま・・・・私が殺るけどねー」

 

一度、拳をぶつけあえば、それぞれが軍の準備へと向かうのだ。

 

:劉備軍

元々五千という寡兵の劉備軍は、全員が歩兵。

 

「俺、愛紗、鈴々で先頭突っ切るぞ、星、凪、六花はその隙間を突き崩せ、単・・・・後詰は任せたぜ」

「はい!」

「応なのだ!」

「御意!」

「了解です!」

「承知」

「応さ!」

 

僅かな兵と共に、戦場外へと避難する事になった一刀、桃香、朱里、雛里、紫牙の5人。

 

「皆!怪我するなよ!?」

「無事で帰ってこなかったらダメなんだからね!?」

「ご武運を祈ります」

「皆さんなら、きっと大丈夫です」

「・・・・どうか、ご無事で」

 

乱戦の中では如何なる策も用を成さない、そう判断したために置いていかれる非戦闘員扱いの5人は、それぞれに仲間の無事を願うのだ。

 

:曹操軍

ここまでの戦いで七千程までに減ってしまったがそれでも精強さでは群を抜く曹操軍。

 

「桂花、愛理は後退しなさい、真桜を護衛につけるわ」

「分かりました」

「・・・・はい」

「真桜、頼むわ」

「了解です」

 

非戦闘員である桂花と愛理を下がらせ、ほかの将に武力で一歩劣る真桜を護衛として下がらせる。

 

「先陣は春蘭、蒼季!」

「はっ!」

「承った!」

「二の手で秋蘭、唯夏!」

「御意!」

「了承します」

「最後に私と季衣、瑠琉」

『はい!』

「これでこの戦いも最後、各自総力をもって臨みなさい!!」

 

静かなれど気炎万丈、最精鋭曹操軍、出陣す。

 

:孫策軍

大一番を前にして、身をも焦がすような気炎を身に秘めて、孫呉の将兵は、孫伯符の号令を待つ。

 

「我々は、この戦いで偉大なる先君孫文台を失った・・・・黄巾は孫文台の仇である、だがそれ以上に!天下万民の敵!我らが揚州の民に仇なす存在!この戦いで奴らを根絶やしにしてやれ!!」

『うぉおおおおおおおおおおおっ!!!!!』

「先陣を魯子敬!甘興覇!呂子明!」

「応!」

「御意!」

「は、はい!」

「第二陣を潘文珪!馬景信!」

「はい!」

「はっ!」

「最後に私自身が突撃する!!皆の者!奮起せよ!!!」

 

地を揺るがす程の雄叫び。

 

「もどかしいものです、見る事しか叶わぬとは」

「はい・・・・・」

「ならばその力不足を補えば宜しいのです」

「その通りね、これから次第よ、私たちは」

 

尚、香、祈、蓮華は、自身の力不足を嘆かずに、ただこの戦の先を見据えていた。

 

 

 

「全軍突撃ぃいいいいいいい!!!!!」

 

戦場中に響き渡る華雄の叫び声に、諸侯が一斉に軍を進める。

 

「突っ込めぇええええええ!!!!」

「前進!!!」

「行くわよ!!!」

 

同時に、一箇所から突撃する三軍は、中腹あたりまでを、ほぼ同時に進行する。

丁度、黄巾本営との中間地点に差し掛かった頃、三軍が進路を分かれる。

劉備軍はそのまま直線軌道で、曹操軍は斜めに敵軍の隙間を縫い、孫策軍は少し場所をずらしただけで数に任せて突撃を開始した。

 

「っ・・・・・雪蓮殿が矢張り一歩抜け出ている・・・・」

 

紫牙が、呟く。

単純な兵数ならば袁紹が、となるわけだが袁紹軍には主力の将が二人しかいない、数の利を活かしきれないのだ、しかも練度はそこそこ、だがその点、二万の精鋭である孫策軍は数の利を活かしきり突撃を仕掛けている。

 

「いえ、華琳様が雪蓮様を抜きました!」

 

尚が、思わず叫んだ。

どうやら春蘭と蒼季がかなり無茶な攻めを敢行したらしい、曹操軍前の敵軍に大穴が空く、その隙間を逃さず二陣の秋蘭と唯夏がその大穴をこじ開け、後衛の華琳、季衣、瑠琉が、一挙に前へと出る。

そればかりか、大きく遅れたはずの春蘭と蒼季が常識はずれな速度と突破力で再び前衛へと出て行く。

 

「矢張り青焔様は一歩遅れますか」

 

その両軍から一歩遅れた位置にいる劉備軍、いくら最前衛の青焔が規格外の更に上を行こうとも、愛紗、鈴々の武が並外れていても、単騎で駆け抜けられるわけでは無く、兵士の少なさが嘆かれる、妙技とも言える槍術の星、気弾の乱射で敵を撹乱する凪、三節棍で敵の手足を狙い行動不能を誘発する六花、その三者の討ち漏らしを始末する単、個々の力は強いのだが、それでも兵力差は覆せないのだ。

 

呂布率いる何進の名代、董卓軍は本気を殆ど出していないようだ、張遼、張繍の騎馬隊、呂布の本隊を温存し、華雄の重歩兵一万だけが攻めに参加している状態、他にも張邈などは被害を最小限に抑える戦い方をしているし、逆に鮑信軍の鮑忠が劉備、曹操、孫策の三軍に追い縋ろうと無茶な突撃を繰り返している。

 

そして。

 

「張三兄弟!曹操軍が将曹純子和が討ちとったぁあ!!!」

 

その一声で、この戦は終決した。

 

残った黄巾兵の多くが逃げ散り、或いは降伏した。

 

またこの戦いにより、蒼季が偏将軍の地位を賜り華琳も司馬へと昇格し陳留に近い任城の地を受け取った。

 

君主孫堅を失った孫家だったが、美羽の計らいにより今までと変わらぬ領地を、雪蓮が収める許可を得た。

 

そして桃香が平原の相に任命され、劉備軍はようやく、流浪の義軍という形を抜け出す事に成功した。

 

翌日、それぞれ別れを惜しみながら、三軍はそれぞれの本拠へと戻っていく、この後に、新たなる騒乱が待ち受けているとは、一部を除いて誰も予想などしていなかった・・・・




これにて黄巾の乱は終幕となります、次回から何話かは反董卓連合が発足されるまでの間の各勢力の様子を描いていく事になります。
馬忠:灰の字、景信ですが作者オリジナルで付けました、書いてる途中で「一人だけ字無しって語呂悪くね?」と思っての事です。


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日常
第十二話:孫呉の登用試験


:秣陵

孫堅の死より半月が経っていた、新当主である雪蓮を中心に、新人事として軍部筆頭に雷刃、軍師筆頭に尚、文官筆頭に冥琳が台頭していた。

また美羽も、当初は父のようだった孫堅の死に落ち込むも、祈、貞、七乃の励ましにより、今は以前のように快活に、また精力的に政務をこなし始めている。

 

「登用試験・・・・ですか」

 

軍議の間に集うのは孫家の主要人物、雪蓮に蓮華、雷刃、尚、冥琳、氷岐、誾。

 

「ふむ、まぁ早い方が良いだろうな」

 

孫家特有の褐色の肌に黒髪の男性、孫静幼台、真名を諒、先君孫堅の弟。

 

「そうじゃのう、若い連中を育てるにも時間が要るじゃろうし」

 

褐色の肌に薄紫の長髪、妙な口調なのは黄蓋公覆、真名を祭、留守居の武官のまとめ役をしていた人だ。

 

「んじゃ文武両方での募集だな」

「そうですね、人手が多いに越したことはありませんし」

 

雪蓮の「好きなように決めてちょうだい」なんて言葉に蓮華が説教をしながら、大まかな骨組みが決まっていく。

武官試験は簡単な筆記問題と武官たちとの手合せ、主な採用基準は武官たちの判断による。

文官試験は筆記問題と面接、筆記の点数と面接での受け答えにより成否を決め、また適正を見て軍師候補も選んでいくつもりである。

 

「ふむ、問題作成が少々骨じゃが・・・・まぁ不眠不休でやれば何とかなろうて」

「すみません氷岐様、お手を煩わせます」

「ふぉっふぉっ、構わんよ」

「氷岐殿、穏と文官数名をつけます、政務は私と残った者で何とかしますので」

「おぉ、助かるのぉ」

 

陸遜伯言、真名を穏。名門陸家の長女で黄巾の乱の少し前に仕官してきた、実力は申し分無く、今は冥琳の下で文官寄りの仕事を学んでいるが、軍才もなかなかなので軍学も合間で教えていると言う。

 

「武官試験の手合せ担当だが・・・・」

「俺、誾さん、思春、祭さん、灰の5人で十分でしょう」

「えー私はダメなの?」

「当たり前だろうが、テメェの立場を理解しろい」

「ぶーぶー」

 

おおよそ予想通りな雪蓮の反応をよそに、会議は進む。

 

:一週間後:秣陵城練兵場

今試験の参加者は皆一度この場に集められていた、望楼の上から、それを眺める雷刃と尚の二人。

 

「多いな」

「多いですね」

 

二人が一様な台詞を吐く、二人の予想参加者数は合わせ百程、だが今は、それを超えた二百程が集まっている。

 

「一苦労ですねぇ、互いに」

「だな、まぁこの中から孫呉の次代を担う人材を選ぶんだ、気合入れるぜ」

「はい」

 

:午後:武官登用試験・試験官控室

 

「で?どうじゃ」

「何がです?」

「見込みのある者はいたか」

 

思春と灰は会場の方に行っており、控室には雷刃、祭、誾の三人だけである。

 

「そうだなぁ・・・・九番の蒋欽公奕、二十二番の周泰幼平、五十八番徐晃公明」

「ワシとしては三十番の太史慈史義など面白そうじゃのう」

「六十一番張嶷伯岐、六十二番凌統公積」

「見込み有りが六人、まぁまぁの収穫にはなりそうだな」

 

:同刻:文官登用試験・試験官控室

こちらには尚、冥琳の二人が控えていた。

 

「尚から見てどうだ?」

 

筆記試験の結果を見ながら、冥琳が問いかける。

 

「二番の関沢徳潤、七番の劉曄子揚ですかね」

「ふむ、三十番の鄧芝伯苗、四十六番の麋竺子仲などどうだろう?」

「私は軍師候補で選んでいますからね」

「ふむ、その差異か、私は文官候補で選んだ」

 

ふむ、と顔を見合わせる二人。

 

「ともかく、両方合わせで四名ならば良し、でしょう」

「そうだな」

 

:夕方:練兵場

 

「それではこれより合格者を発表する!!」

 

君主である雪蓮が、壇上にたち合格者たちの名と番号を呼ばわる。

合格者は、見込みがある、と言っていた十人に決まり、十人を残した参加者たちが退場する。

 

「お初にお目にかかります、改めて自己紹介をさせていただきたいと思います」

 

尚、雷刃、冥琳が壇上に登る。

 

「私は孫策軍、筆頭軍師を務めさせていただいております諸葛謹子瑜と申します」

「私が文官筆頭の周瑜公瑾だ」

 

二人の自己紹介に、文官試験を受けた四人が驚きの表情を見せる、冥琳はともかく尚は、普通の文官にしか見えなかったからだ、面接なんて担当するぐらいだからそれなりにえらいんだろう、ぐらいの認識しか無かった。

 

「俺が孫策軍武官筆頭、魯粛子敬だ」

 

こちらもまた、5人が驚く中、徐晃だけが矢張り、と言ったような表情で微笑んでいる。

 

「まぁともかく、皆さんは今日から孫家の一員です・・・・孫家の名に恥じぬように、なんて言うつもりはありません・・・・己に恥じぬよう、懸命に日々を励むように」

「あーもう!固っ苦しい挨拶は無し!!!」

「んごふっ!?」

 

突如、挨拶中の尚の頭を掴んで地面に組み伏せる雪蓮。

 

「お祝いよ!!宴会よぉ!!!」

 

最早、この三週間は仕事仕事で酒も飲まずだったのだ、箍が外れたのだろう、祭を巻き込んで宴会の準備に駆け出す、新人たちが、唖然とする中で。

 

「ちょっと尚!?尚ー!!」

「尚様!!」

「尚!!」

 

倒されて気絶する尚を心配して、蓮華、香、思春の三人が、大騒ぎしたとか。

 

:夜:秣陵城太守府・中庭

雪蓮、蓮華、諒、祭、誾、氷岐、雷刃、冥琳、尚、香、思春、灰、穏らと新人十人が参加した宴会は、想定以上の盛り上がりを見せていた。

雷刃の特製火鍋は予想以上の大好評であり、酒飲み組である雪蓮、祭、誾、冥琳らが加速していく。

雪蓮、諒、祭、誾、氷岐と太史慈、凌統、関沢が飲み比べに興じる中、尚、香、穏、劉曄が軍略談義を始め、雷刃を囲んで蓮華、思春、張嶷、鄧芝、麋竺らが今回の火鍋に関しての批評をしながら、新しい調理法への思索を披露し、冥琳、灰、蒋欽、周泰、徐晃が騒ぎを避けながら、粛々と食べて飲むのだ。

 

それからしばらくした頃、雪蓮の発案で、この場にいる全員が、真名を預け合う事になり、新人たちの自己紹介が始まる。

 

「蒋欽公奕!真名を白夜と申します!」

「周泰幼平、真名を明命と申します!」

「徐晃公明、真名を暁」

「太史慈史義!真名を乱と言います!」

「張嶷伯岐です、真名を青河です!」

「凌統公積、真名は林士ってんだ」

「関沢徳潤、真名は美耶です」

「劉曄子揚、真名を鈴李で御座います」

「鄧芝伯苗です、えと、真名は帆で・・・えと、宜しくデス!」

「麋竺伯仲と申します、真名は澄」

 

ここに、新生孫呉の、未来を担う人材たちが出揃うのだ。




新キャラ十人追加・・・・キャラのインフレで幽霊が出ないか心配になりそうですが・・・・鋭意努力していこうと思います。


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第十三話:孫呉のちょっとした日常

登用試験より二日後、新人たちの所属が大まかに決定される。

とは言え、まだ経験も少ないという事で、秣陵勤務者の下に付けられる事が決定した。

 

「それではこれが皆さんの人事になります、上司に着く方々はそのまま、皆さんの師として様々な事を教える事となりますので各自、精進してください!」

『はい!』

 

一斉に返事をして、それぞれ人事通達に従い移動を始める。

 

「それで尚様」

 

劉曄、鈴李は尚の下に就く事になったため、その場に残っていた。

 

「はい、なんでしょう?」

「尚様の部下という事は私は軍師候補、という事でしょうか」

「ええ、その通りです」

「何故、私を?」

 

ふむ、と顎に手を当てながら。

 

「先ずは筆記試験、成績が文句無しの一位だったと言うこと、次に面接で、君は家柄に頼らず己が力で道を切り開きたいがためにここに来た、そう言ったね?」

「はい、皇室に連なるというだけで優遇されるのは不本意でしたので」

「その向上心は軍師に最も大切なものです、だから貴女を選びました」

「そう・・・・ですか、ありがとうございます」

 

微笑みながら、「どういたしまして」と返した尚は、早速仕事の話を始めるのだ。

 

:魯粛執務室

白夜と明命、暁は雷刃の下に配属となり、その執務室を訪れていた。

 

「おう、来たな」

 

雷刃の執務室は簡素なものであり、書類をまとめる棚と机と椅子、地図以外は何も置いていないのだ。

 

「まぁ楽にしてくれ・・・・お前ら三人を俺が受け持つ事になった、が・・・・俺は口で語るのぁ苦手だ、一週間程、俺の仕事を見ていろ、そこから学べ」

「はい!」

「はい!」

「了承しました」

「あとお前ら、場所教えるから後で鍛冶屋行ってこい」

『?』

 

その言葉に首を傾げる三人。

 

「お前らには先陣を駆ける武官として成長してもらいたい、そのためにも急造で使ってる武器じゃなくてしっかりした物作ってきな、料金は俺持ちだから好きなもん作って貰って来い」

「・・・・良いのですか?」

「構わん」

「どうして武器を?」

「武器は将にとって大事なものだ、生半可な武器使って途中でぶっ壊しました、とかじゃ洒落にならんからな」

「私、大斧なんですが」

「構わんと言ってる、どうしても気になるやつぁ戦働きでその分稼げ」

 

ゆっくりと、立ち上がり、歩いて外へと向かう。

 

「何時か俺の背ぇ護れる、そんぐらいまで成長してくれや、な?」

 

風格、と言えば良いのか、その背に、三人は不思議な信頼感を抱いていた。

 

:張昭執務室

 

「ふぉっふぉっふぉっ、早速じゃが手伝ってもらえんかのう」

 

張昭の執務室に入った時、美耶、帆、澄の三人は絶句した、高々と積まれる書簡の山、それを想像以上の速度で処理していく氷岐、70代とは思えない元気さ、三人に話しかけながらも、手は止まらない。

 

「美耶はこっちの屯田計画の方を頼むぞ」

「は、はい!」

「帆は治水案の方を」

「御意です!」

「澄は区画整理計画と商業案を」

「心得ました」

「分からぬ事があれば聞くが良い」

 

ニッコリと笑いながら、手は緩めずに書類整理を続けている氷岐、負けてはいられない、と発奮する三人だった。

 

:練兵場

 

「腕立て二百!始めぃ!!」

 

誾の号令で腕立てを始める新兵たち、の中に混じって乱、林士、青河の三人も腕立てをさせられていた。

 

「ねぇ、これってさぁ」

「間違い無く貧乏クジだよなぁ」

「私も、そう思いますー」

「そこ三人!!私語を慎め!!!腕立て百追加だぁ!!!」

『ひぃっ!!?』

 

隻眼鬼のあだ名で敵味方から恐れられる誾は、もう一つ、味方からの呼び名がある・・・・鬼教官、その厳しい鍛錬は、脱落者も多く出すものの、受けきる事が出来たならば、直ぐにでも什長ぐらいならば昇格出来ると言われている程なのだ。

 

今回この三人がここに配属になったのには理由がある、乱は力はあるが脚が妙に遅く、林士は速さは並以上だが膂力が並以下、青河は技量はあるが力も速さも今一歩足らず、中堅部隊を率いて貰うつもりであるこの三人には、均整の取れた能力を身につけてもらわなければならないからだ。

 

『うひぃいいいいっ!!?』

 

三人の叫び声は、まだまだ続く。

 

「ぬぉおおおおおおっ!?」

 

訂正、ずっと誾の副官待遇だった夕姫が混じって四人でした。

 

:一週間後:夜:魯粛屋敷

各指導担当者が集まって経過報告と軽く飲むという話だったのだが・・・・雷刃が机に突っ伏していた。

 

「どうしたのだ、雷刃よ」

「大斧を全部鉄製なんて聞いてねぇー、しかも長刀まで、矢も鉄製で作るなよぉ・・・・」

「・・・・こやつは何があったのだ?」

「明命、白夜、暁の三人に『好きに武器を作れ』って言ったら請求書が物凄い事になったらしく・・・・」

「ああ・・・・鉄製で大斧、成程な」

 

事情説明をする尚、それを聞いて憐れむような表情をする誾。

 

「ふぉっふぉっ、仕方無いのぅ・・・・諸経費で落としてやろうぞ」

「マジですか!?」

 

復活する雷刃。

 

「先ずは報告からじゃのぅ、まぁあの三人は使えるぞい・・・・優秀じゃ、美耶は外交向けじゃとは思うが農耕の方も十分じゃ、鄧芝も外交向けではあるが何をやらせても問題は無い、澄は商才に関してはワシ以上じゃのぅ、許可が下りるならば責任者にしても良いぐらいじゃ」

「鈴李さんはとにかく飲み込みが早いです、こちらが教える事を吸収し、自分で新たに組み直す力もあります、直ぐにでも使い物になるかと」

「こっちの三人はまずまずだな、三人とも根性はある、夕姫と一緒に育てれば互いに伸びるだろう」

「こっちの三人もまぁ悪かねぇな、明命はどっちかっつーと隠密向けかも知れんが将としての力量もまずまずだ、白夜は弓がとにかく凄いな、祭さんに並ぶかもしんねぇ、暁は一対多数だとかなり強いな、一騎でも強いかも知れんが今は将として多数戦闘を重視して教えている」

 

それぞれの新人たちに対する批評が終わり、そろそろ飲み始めようか、と思った頃。

 

「魯粛様、宜しいでしょうか?」

 

雷刃の雇っている従者が、部屋の外から声をかけてきた。

 

「おう、どうした」

「はい、孫策様と黄蓋様が訪ねておいでです」

「・・・・・・分かった、通せ」

 

従者が駆けて行く音が聞こえる。

 

「約束でもしていたのですか?」

「ふぉむ、珍しい事じゃのぅ」

「あの二人と飲むなど、最初で懲りたと思うておったが」

「違う」

『?』

 

「違う」との言葉に首をかしげる三人。

 

「あの二人は何故かここで宴会やると嗅ぎつけて来るんだ」

「・・・・先代の血のなせる技かのぉ」

「かも知れませんな」

 

心当たりがあるらしい誾と氷岐はうんうん、と頷いている。

 

「やっほー♪飲みにきたわよー♪」

「うむ、相伴に預かりに来たぞ」

 

はぁ、とため息をつく四人。

 

翌日、飲みすぎで二日酔いになった雷刃、尚、誾、氷岐、祭と一人だけ元気な雪蓮が、揃って冥琳に説教される姿が秣陵城で目撃されたとか。




初代宴会嗅覚の犠牲者は程普、張昭、朱治です。そろそろ韓当、朱治、祖茂のあたりも出したいなーとか思っております。


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人物紹介

ここまでの人物紹介を一本にまとめました。


王泰文令(オウタイ・ブンレイ) 真名:青焔(セイエン) 男

年齢:23歳

外見:短めの白髪に蒼い眼、中肉中背。

武器:大矛「雲龍」

冀州のとある農村で暮らしていた元中央官吏。

武の力量は桁外れであり、直感に従い軍を動かす本能重視な猛将、とは言え武一辺倒かと思えばそうでも無く、内政などをさせても並の文官以上の実績を出して見せる。

一刀にのみ明かしたとある野心があるらしく、一刀はそれを容認したためか直属の部下と兵が何人かいる(兵に関しては劉備が平原の相になってから)。

後に魏呉蜀の勢力図を均衡まで持ち込む軍略を見せ、軍神と呼ばれるようになる。

本作最強のフラグ魔。

 

法正孝直(ホウセイ・コウチョク) 真名:紫牙(シガ) 男

年齢:20歳

外見:黒の長髪を髪留めで纏めている。右目の頬に一本傷。

戦術に関して雛里に並ぶ程であり、独自の陣などを用いた独特の用兵を見せる。

軍師、という役職の人間には珍しく大雑把な性格であり普段の行動や事務仕事などは適当なことをしたりするが、戦場に出るとその空気を一変させる。

料理上手、具体的には曹操、典韋を満足させることの出来るレベル。

 

周倉 (シュウソウ) 真名:単(ゼン) 男

年齢:23歳

外見:日に焼けた肌と、蒼い髪が特徴。

武器:十字槍

青焔と紫牙が世話になっていた村の村長の子。村の若手連中の顔役であり、青焔が村に来た当時は何かとぶつかり合っていたが、一度大喧嘩をして以来、互いを認め合い今では親友と呼び会える程の仲になっている。

勇猛果敢でありながら、常に冷静さは失わず、退き時を間違える事が無い・・・・・・が基本脳筋。

面倒見が良く、劉備軍に入ってからも一刀や桃香に武術の基本を教えたり、愛紗の愚痴を聴いたり、暴走気味な鈴々をたしなめたり、疲れた朱里と雛里を担いで移動したりしている。

 

孫堅文台(ソンケン・ブンダイ) 真名:赤虎(セキコ) 男

年齢:45歳

武器:古錠刀

外見:褐色の肌、黒の短髪。

揚州孫家の当主。武勇と軍略に優れている「英傑たちが認める英雄」。

豪胆、という言葉では片付けられない豪快さを持つ人物。

子煩悩であり、三人の実娘はもとより、義理の息子娘とも言うべき尚と美羽に関しても分け隔てなく接しており、尚には三人の娘の誰かを娶ってもらいたいと常日頃から公言している。

黄巾の乱において死亡。

 

程普徳謀(テイフ・トクボウ) 真名:誾(ギン) 男

年齢:46歳

武器:鉄脊蛇矛

外見:左目に眼帯。白髪交じりの髪。

揚州孫家の筆頭武官。赤虎の幼馴染であり、単純な武力では孫家最強。自由奔放で話が逸れたりまとまりがない孫家の面子をまとめ切れる数少ない人物。

冥琳らが入軍するまでは軍師役も努めており、軍事方面の経験においては大陸でも指折りの実績を持つ。

凶相故に怖がられやすいが話をしてみると意外に親しみやすい事が分かる。

 

張昭子布(チョウショウ・シフ) 真名:氷岐(ヒョウキ) 男

年齢:73歳

外見:白髪、腹までの長いヒゲ。

揚州孫家の筆頭文官。赤虎の父の代から仕えており、70歳を超えた今でも背筋を伸ばし、年齢を感じさせぬ働き振りを見せるスーパー爺さん。

自由奔放な孫家の面々に対しては基本傍観体制を貫いている。

 

魯粛子敬(ロシュク・シケイ) 真名:雷刃(ライハ) 男

年齢:24歳

武器:劫、斥(鍔の無い双剣)

外見:青い総髪、無精ひげ。

揚州孫家所属の筆頭武官。雪蓮、冥琳の幼馴染であり、元は名家の出身だが実家が没落したのを機に本格的に孫家に入軍する。

武に関して雪蓮に迫るものがあり、誾は次代の筆頭武官として雷刃を推している。

飄々としており、基本傍観する派。雪蓮を武力で抑え込める数少ない人材の一人。

 

諸葛謹子瑜(ショカツキン・シユ) 真名:尚(ショウ) 男

年齢:18歳

外見:金色の髪。狐目。

揚州孫家の筆頭軍師。内政は氷岐、軍事は孫静に学び、並々ならぬ才覚を発揮し始めている。

今は若手人材の育成を任せられており、仕事時には冷徹な仮面を被り、時に若手武官に厳戒ギリギリの無茶寸前な要求などをするところから良い印象を抱かれにくいが本来の性格は極度のお人好し。

美羽にも懐かれており、蓮華も気がある、思春や祈も彼を意識しており、後にも香など存外好意を寄せられ易いが、当人がそちらの方面に疎く、まったく気づいた素振りを見せていない。

似ていない兄妹と言われるが、極端にテンパると朱里と同じ反応を見せる。

孫呉の主人公的存在。

 

馬忠(バチュウ) 真名:灰(カイ) 男

年齢:15歳

武器:短戟

外見:黒髪ポニーテール。鼻っつらに傷。

尚の補佐を務める武官。武官ではあるのだがなんでもやらせれば出来る、しかし平均程度なため万能とまでは行かず器用貧乏との評価が大半を占める。真っ直ぐな性格で言われた事を間に受けやすく、戦場などで偽報に騙されやすい事から昇格出来ずにいた。が、鍛えれば伸びると感じた尚が補佐役に引き上げた。

 

閻象(エンショウ) 真名:祈(イノリ) 女

年齢:17歳

外見:黒髪おかっぱ。濃紺の眼。

袁術配下の文官筆頭。清楚なイメージを持たせる外見だがその実結構口が悪い。能力としては確かなものであり、過剰兵力を背負った袁術軍がギリギリでも上手く回っているのは彼女の実績が成すところが大きい。

尚に対してつっけんどんな態度を取るものの、なんやかんやで意見などには賛同するいわゆるツンデレ。

 

紀霊(キレイ) 真名:貞(テイ) 男

年齢:27歳

武器:三尖刀

外見:赤髪オールバック。目の下にクマ。

袁術軍筆頭武官。年長者、という事もあり美羽は元より七乃や祈に対しても時には苦言を呈しながらも気にかけている。武力は思春と互角に打ち合う程で軍の指揮も何をやらせても平均以上にこなせる万能型。

必死に十万という過剰兵力を無駄なく使う手法を考えながら扱う日々に睡眠時間は異常に短く、常に目の下にクマが出来ており、それを心配した美羽により孫家からの人材貸出を頼む事がしばしばある。

 

潘璋文珪(ハンショウ・ブンケイ) 真名:夕姫(ユキ) 女

年齢:16歳

武器:双短槍

外見:緑髪ショート、八重歯、ビックリするほどペッタンコ。

揚州孫家の武官。入軍2年目にして将校に昇格した。底抜けに明るい性格、だが胸の事を言われるとキレる(そのときの爆発力を買われ祖茂に推薦されたとの事)。

武に関しては他より一歩抜けるものの、指揮能力に関しては不安が残る。

夏侯惇なみの脳筋であり一度に三つ以上の指示を出すと知恵熱で倒れる。

 

虞翻仲翔(グホン・チュウジョウ) 真名:香(キョウ) 女

年齢:15歳

外見:黒髪ロング、片目だけが隠れている。真紅の瞳。

揚州孫家の文官。氷岐の下で一年間下働きとして使われ、能力を認めた氷岐の推薦で正式な文官として採用される。引っ込み思案だが氷岐に対しては結構心を開いている。

後に尚に師事して様々に仕事を学び、その中で尚に対しても心を開く・・・・・・のを通り越してフラグを立てる事になる。

 

曹純子和(ソウジュン・シカ) 真名:蒼季(ソウキ) 男

年齢:22歳

武器:直槍

外見:黒髪ショート、頭と両腕にバンダナ。

曹操軍所属。華琳の従兄。陳留の警備隊を預かる隊長であり、真桜、紗和、唯夏、季衣、瑠琉、愛理、榊の上司で実は春蘭に続く次席武官。

何事にも鷹揚で普段は酒飲んだり仕事をサボったりとする姿がよく見られるものの、華琳曰く武は春蘭と拮抗し治安維持に関する手腕は大陸五指に入ると評価しており、実際陳留市街地での窃盗事件などの発生件数は蒼季が治安担当に就任して以来年々事件の発生率が眼に見えて減少傾向にある。

酒好きであり、隙あらば真昼間からでも飲んだくれている。

 

曹休文烈(ソウキュウ・ブンレツ) 真名:唯夏(ユイナ) 女

年齢:14歳

武器:片手剣、小盾

外見:青髪ポニーテール。右腕にバンダナ。

曹操軍所属。華琳の従妹。蒼季の部下で警備隊の副長。基本生真面目だが真桜や紗和と共に見回りサボってお茶するなどノリの良さもある。

蒼季に対して恋愛感情を抱いており、同じく蒼季に対して恋愛感情を抱く真桜、愛理と共に奪い合うのでは無く共有する、という意見の下蒼季にアタックを続けている。

 

徐庶元直(ジョショ・ゲンチョク) 真名:愛理(アイリ) 女

年齢:13歳

外見:茶髪ロングのストレート。

曹操軍所属。朱里、雛里の水鏡塾の同期。蒼季の部下で警備隊の経理、人事を担当している。今は文官として仕事をしているが軍才も結構なもの。

普段は物静かだが蒼季との事に関してはその限りではなく街中でも抱きついたり軍議中も引っ付いていたりするのだが、実績もあり仕事に支障をきたしているわけでも無いうえ、見ていて面白いという理由で華琳が放置しているため誰も咎めない。

 

鄧艾士載(トウガイ・シサイ) 真名:榊(サカキ) 男

年齢:17歳

武器:鉄棍

外見:緑髪。全身古傷だらけ。

曹操軍所属。警備隊のもう一人の副長。真面目を絵に書いたような人物でありよく言えば実直、悪く言えば頑固。蒼季に対して隊内で唯一真っ向からものを言える数少ない人物で、それ故に蒼季も信頼している。

12の頃から各地を旅していたようであり、15の時に陳留にたどり着き、入軍。その後曹純隊に配属されて今に至る。経験豊富であり老成気味な性格のせいもあり隊のお父さんのような扱いをされている。

 

荀攸公達(ジュンユウ・コウタツ) 真名:伯(ハク) 男

年齢:32歳

外見:灰色の髪、胸元までのあごひげ。

曹操軍所属の筆頭軍師。桂花の叔父。温厚篤実で皆が認める人格者。実力も筆頭軍師の名に恥じぬものであり戦歴、内政手腕共に華琳が認める。

姪の桂花の男嫌いに関して危機感のようなものを抱いており、荀家が自分と桂花の代で断絶するのでは無いかと危惧する毎日、つまり自分は結婚する気が無いらしい。

蒼季とは気が合い、よく一緒に飲みに出かけている。

 

曹仁子孝(ソウジン・シコウ) 真名:氷影(ヒエイ) 男

年齢:27歳

武器:双刃剣

外見:青髪、糸目。

曹操軍所属の筆頭武官。華琳の従兄で蒼季の実兄。武力的には五番手ぐらいだが指揮能力、こと拠点防衛などの防衛戦に関しては中華で五指に入る実力を持つ。

物腰柔らか、で人の表情の機微などを観察する事に長けている。

桂花が素で心を開いている唯一の異性。

 

徐邈景山(ジョバク・ケイザン) 真名:慧南(エナ) 女

年齢:23歳

外見:痩身、目の下にクマ。

曹操軍所属の文官筆頭。物凄い顔色が悪いが病気持ちとかでは無く、単純に体力の無さと疲れからのものらしく男性陣の評価は一概に「残念美人」。

文官としての能力は非常に高く、桂花と並び立つ程であり、年齢と経験の差から筆頭文官に据えられている。

蒼季の事が気になっているらしいが・・・・・・?

 

曹洪子廉(ソウコウ・シレン) 真名:武栄(ブエイ) 男

年齢:20歳

武器:狼牙棒

外見:黒い巾、左目下に傷。

曹操軍所属。華琳の従兄。普段は人材発掘と諜報活動のために各地を旅しているため滅多に陳留にはいない。閻柔という偽名を名乗り、旅をする中で劉表軍の黄祖、袁紹軍の沮授、董卓軍の徐栄、馬騰軍の韓遂、劉璋軍の張任など様々な人々と関わりを持ち友誼を交わしている。

 

廖化元倹(リョウカ・ゲンケン) 真名:六花(リッカ) 女

年齢:16歳

武器:三節棍

外見:黒髪ショートボブ、紫紺の眼。

劉備軍所属、王泰の副官。幽州で募兵した義勇兵の中から青焔が選んだ。青焔の仕事の届かぬところを絶妙に補佐する手腕を評価されている。星と凪は女性として警戒しており、その警戒心の正しさを示すように、時折黒い笑みを星と凪に向けている、そう「自分こそが堂々と青焔を援ける事を許可されたのだ」と恣意するように。

 

張繍(チョウシュウ) 真名:夏印(カイン) 男

年齢:25歳

武器:長槍

外見:紫髪、三白眼。青いマフラー。

董卓軍所属武官。騎馬の扱いは霞と同程度であり、彼直属の騎馬隊は突破力に優れているらしく、速さの張遼隊と二枚看板の騎馬隊として有名である。気配に対して敏感であり、伏兵などを読む能力が優れている。

酒好きであり、よく霞と二人で酒屋に入り浸っているらしい。

 

徐栄(ジョエイ) 真名:?? 男

年齢:42歳

武器:大刀

外見:黒い重装鎧、黒い仮面。

董卓軍所属武官。誰も顔を見た事が無い謎多き武官。だが董卓への忠誠心は本物であり、恋も彼を信頼しているので皆も信頼はしている様子。無言のまま敵の首をはねていく様子から「首切り」のあだ名をつけられている。

 

高順(コウジュン) 真名:大凱(タイガ) 男

年齢:29歳

武器:手甲

外見:濃紺の髪、右目に傷。

董卓軍所属武官。重歩兵を率いる猛将であり、凪と同じく体術を基本に気を使った戦闘法を得意としており、気弾を使った爆撃で「陥陣営」の二つ名を得た。主に恋の副官を務める事が多く、恋も音々も彼を信頼し部隊指揮を任せている。

 

沮授(ソジュ) 真名:陽暉(ヨウキ) 男

年齢:35歳

外見:額に十字傷、無精ひげ。

袁紹軍軍師。バカな君主とそれに振り回される二将を上手く制御している苦労人。袁紹の出すそこはかとなく頭の悪い命令に意味を持たせ、また命令に反しない範囲で上手く策を練るあたり優秀さが伺える。

曹操や中原の各諸侯から引き抜きの打診をされるも、それは義に反する事だと受け入れずにいる。

 

鳳徳令明(ホウトク・レイメイ) 真名:藤(トウ) 男

年齢:25歳

武器:矛槍

外見:黒髪、口元に傷、髭。

馬騰軍筆頭武官。荒々しげな外見とは裏腹に冷徹な指揮をする。騎馬の技術に関しては大陸五指に入り(後の四人は馬超、趙雲、張遼、張繍)騎馬と歩兵の指揮を同時にこなす器用な指揮官。

馬家に絶対の忠誠を誓っており、馬家の主君一族のためならば命をも投げ出す覚悟を持ち合わせている。

 

張邈孟卓(チョウバク・モウタク) 真名:伊砂(イスカ) 男

年齢:20歳

外見:黒い長髪、中性的な顔立ち、女物の服。

定陶太守。曹操、袁紹と同じ学舎の同期。二人の間に割って入って仲裁をするのが彼の役目だったらしい。そこそこ有能である事とそこらへんの女性より圧倒的に可愛いかった事から曹操、袁紹両者にとても気に入られていた。

おとなしい性格だが果断さを活かし早い行動を心がけている。

 

孫静幼台(ソンセイ・ヨウダイ) 真名:諒(リョウ) 男

年齢:38歳

外見:褐色の肌、黒い短髪、口元からこめかみまでの傷。

赤虎の弟で、文官。兄とは割と真逆の才能をもって生まれ、旗揚げ当時の孫堅軍でただ一人の頭脳労働担当であり、氷岐が入るまでは軍師と文官業務を、氷岐の参加後も軍師として働いていた。

雪蓮や冥琳が元服するとようやく元来の文官業務に従事する事が出来るようになった。

基本的に大人しく、兄の自由奔放な行動をたしなめる姿を見て、蓮華は育ったらしい。

 

蒋欽公奕(ショウキン・コウエキ) 真名:白夜(ビャクヤ) 男

年齢:17歳

武器:大弓

外見:黒髪ストレート、赤いハチマキ。

明命の幼馴染。今回の登用試験を明命が受けると聞き、心配して共に参加し見事に合格してみせる。明命に対しては異性というよりも妹のような感情を抱いているらしいが、明命の方は・・・・・

弓術に長けており、祭にも比肩する程の実力を持っており、殊更、船上での弓術で右に出る者はいない。

 

徐晃公明(ジョコウ・コウメイ) 真名:暁(アキラ) 女

年齢:19歳

武器:大斧

外見:水色の頭髪、白い頭巾。

今回の登用試験に合格した女性。一瞬、雷刃が本気を出しかけた程の実力者であり、雷刃も、彼女も、互いに何か感じるところがあったらしい。武官の筆記試験では成績一位と雷刃に近い猛将と知将両面の素質を持っている。

掴みどころが無く、何かと妖艶な笑みを浮かべてごまかしている。

 

太史慈史義(タイシジ・シギ) 真名:乱(ラン) 女

年齢:18歳

武器:三叉槍

外見:褐色の肌、真っ赤な長髪、真っ赤な眼。八重歯。

今回の登用試験に合格した一人。一言で言えば熱血系であり、後に合流する韓当と息が会った様子。

単純な膂力は現在孫呉でトップクラスであり、技術を身に付け、将としての心得を学べば良将に化ける可能性も秘めている。

 

凌統公積(リョウトウ・コウセキ) 真名:林士(リンジ) 男

年齢:22歳

武器:双節棍

外見:濃紺の頭髪を帯で束ねている。

呉郡の豪族の嫡男。本来ならば父のコネで入軍する事も出来たが、それを良しとせず自力で仕官を勝ち取る努力の人。普段は飄々としていて不真面目そうな物言いをするが、その実誰よりもしっかりと仕事をこなしている。

 

張嶷伯岐(チョウギョク・ハクキ) 真名:青河(セイガ) 女

年齢:14歳

武器:大剣

外見:銀髪ショート、蒼い眼。

元は益州の豪族の娘。父に決められた許嫁との結婚が嫌で出奔、旅先で評判を聞いた雪蓮のところならば、と登用試験を受けたところ合格した。快活でムードメーカー、入軍後は明命と二人で猫と戯れる姿が目撃されている。

 

関沢徳潤(カンタク・トクジュン) 真名:美耶(ミヤ) 女

年齢:16歳

外見:黄緑の頭髪でツーテール。眼鏡。

祭の古馴染の娘。言われるまで祭は気づかなかったらしい。社交的な性格のためか、外交方面に才能を発揮していき、後に外交担当として文官№3にまで登り詰める。

 

劉曄子揚(リュウヨウ・シヨウ) 真名:鈴李(スズリ) 女

年齢:17歳

外見:金髪ショート、色白。

皇室に連なる一族。家柄で左右される人生を嫌い出奔、道中で出会った暁、青河に誘われ登用試験を受ける事に、最初は本気で受けるつもりは無かったが、受付で四苦八苦しながら仕事をしていた尚の姿を見て、ああいう人がいる所も面白いかも、と考え真面目に受けた。文官成績トップ。

 

鄧芝伯苗(トウシ・ハクビョウ) 真名:帆(ファン) 女

年齢:13歳

外見:茶髪三つ編み。顔が隠れるような大きな帽子。

今回最年少の合格者。その才能は確かなものであり、冥琳が既に自分が育てるつもりで準備を整えている程。やや舌っ足らずであわあわしているがやる時はしっかりとやる。

 

麋竺伯仲(ビジク・ハクチュウ) 真名:澄(スミ) 男

年齢:28歳

外見:緑髪の七三分け。

元は徐州の豪商。徐州僕陶謙の政治がずさんで、法外な税金を要求されたために一家離散、彼は南へと逃れ秣陵近辺の街で働きながら勉強をしていた。今回の登用試験ではその商才が冥琳の眼に留まり合格。

穏やかでお人好し、人一倍の責任感を持つ生来の苦労人。

 

馬良季常、馬謖幼常(バリョウ・キジョウ、バショク・ヨウジョウ) 真名:芹菜、薺(セリナ、ナズナ) 女

年齢:10歳

外見:芹菜が黒髪白眉、薺が白髪黒眉

朱里、雛里の水鏡塾での後輩。「あわわ」、とか「はわわ」、とかは言わない。能力としてはかなり優秀であるが、妹の薺が姉とセットでなければ能力を発揮しきれないため常に二人一組で戦力として数えている。




ここまでの人物紹介を一本化させました。


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第十四話:双子と三角、覇王の書状

桃香たちが平原に赴任して一ヶ月が経った、青焔と紫牙の指導の下、政務を学ぶ一刀、桃香、愛紗、星、凪、六花、凪、朱里、雛里(単と鈴々に教えるのは三日目で諦め、星は何故か出来た)。

 

ある程度、平原の治安や内政が落ち着いた頃、青焔は市街地の警備にあたっていた。

 

「一ヶ月という時間でまぁここまで出来れば上出来、か」

 

まずまずのできだ、と自負している青焔、少なくとも隣領の袁紹や韓複の収める南皮、業よりも発展させた。

 

「?」

 

ふと、視線の先にうつったのは紫牙だ、確か城外での新兵訓練をしていた筈だ。

 

「帰りか?おーい!!」

 

声をかければ、こちらに気づいた様子、なのだが・・・・妙に移動速度が遅い。

仕方なくこちらからも歩み寄れば、その原因が判明する。

足に二人、少女がひっついていたのだ。

 

「紫牙」

「はい?」

「お前・・・・そっちの趣味があったのか?」

「殴りますよ」

 

マジ顔で言われたので訂正してから、話を聞く。

どうやら足にひっついている少女二人は知り合いを訪ねてこの平原を訪れたらしいのだが、人の波に飲まれて場所も分からなくなり、不安になって泣きそうになった時に、紫牙に声をかけられたのだそうだ。

 

「で、一緒に人探ししてた、と」

「ええ、新兵訓練も終わって暇でしたので」

「なる程な、まぁ俺も警邏中だが手伝おう」

「あ、ありがとうございます」

「・・・・ありがとう・・・・・・ございます」

 

ペコリ、と頭を下げる二人の少女、双子、だろうか、髪の色と眉の色が白黒真逆である事を除けば瓜二つだ。

 

「それで、探し人の名を教えていただいても?」

「はい、私塾の先輩でして・・・・」

「諸葛亮と、鳳統」

「ん?」

 

聞こえてきた言葉の断片を集める、頭の中で整理した。

 

「諸葛亮と・・・・」

「鳳統?」

 

コクコク、と頭を縦に振っている。

 

「珍しい事もあるもんだな」

「ええ、全く」

 

笑い合う青焔と紫牙、その様子に、少女二人は首を傾げる。

 

:平原太守府:第二執務室

ギィ、と扉を開ければ、一刀と朱里、雛里が仕事をしている。

 

「朱里、雛里、客だぞ」

「へ?」

「お客・・・・ですか?」

 

首を傾げる朱里と雛里。

 

「二人共、こちらです」

「朱里さん!」

「雛里さん」

『芹菜ちゃん!?薺ちゃん!?』

 

驚いた様子の二人、話を聞けば、この二人・・・・黒髪白眉の馬良と白髪黒眉の馬謖こと芹菜と薺は朱里、雛里の私塾の後輩であり、つい先月、卒業したのだそうだ。

早速学んだ事を役立てようとしたものの、仕官にも伝手が無く、どうしようかと迷っていた時に、朱里と雛里がどこかで仕官しているという話を聞き、先ずは訪ねてみようと言う考えに至ったのだと言う。

 

「それで、二人はこれからどうする気なのかな?」

 

と、一刀が問いかければ。

 

「はい、よろしければ・・・・」

「ここで、働きたい」

「うん、いいよ」

 

即答、ふぅ、とため息一つつきながら、頭を抱える青焔と紫牙、やっぱり、といった表情の朱里と雛里。

ちなみにこの後、隣室の第一執務室にいた桃香に同じ事を聞いたところ「歓迎だよー♪」との事。

取り敢えず、芹菜と薺は朱里と雛里の下につくことにしよう、という話になったのだが・・・・

 

「あの、ですね?」

「宜しければ・・・・」

『法正様と一緒が良いです』

 

との申告があったため、紫牙の下で仕事をする事になった。

 

「はわわ・・・・」

 

妙に紫牙へと懐いた芹菜と薺の二人、その姿を見れば、難しそうな顔をする朱里。

 

「どうしたんだろ?朱里」

「んー多分・・・・なぁ?」

「そう、ですねぇ・・・・」

「?」

 

一刀は分からないみたいではあるが、青焔と雛里はその理由に気づき微笑みながらその様子を見守るのだ。

 

「失礼します」

 

そこへ凪が入室してくる。

 

「そちらの二人は?」

「おう、今日から一緒に働く馬良と馬謖だ」

「始めまして、馬良季常です」

「・・・・馬謖幼常です」

「楽進文兼です」

 

と、挨拶をする三人。

 

「で?何かあったか?」

「あ、はい・・・・曹陳留太守より書状です、桃香様、一刀様、青焔様宛に」

「・・・・分かった、すまんが隣から桃香を呼んで来てくれ」

「はい!」

 

駆け出していく凪、それを見送りながら、青焔が一人呟く。

 

「あー、もう・・・・荒れるなぁ・・・・」

 

:四半刻後:会議室

一刀、桃香、青焔、紫牙、朱里の5人が、この場に集まっている。

 

「さて、と・・・・さっき届けられた書状なんだが・・・・」

「華琳さんからって聞いたんですけれど・・・・」

「ああ、会見の申し入れだ」

「会見?俺たちと?」

「正確には俺ら、華琳、雪蓮の三者会談だな・・・・各自主要の者五名づつで来るように、との事だ・・・・まぁ多方察しはつくが」

「という事は・・・・黄固から何か報告が?」

 

黄固(オウコ)は青焔の旧主陳蕃が独自に使役していた間諜組織であり、黄巾の乱の少し前に青焔に接触、陳蕃の遺志により青焔に仕える事になったのだ。

 

「うむ・・・・世間には公表されて無いが・・・・霊帝陛下が崩御したそうだ」

「え!?でも・・・・」

 

そう、漢王朝の象徴である天子の崩御、その報が未だ伝えられていないというのは?と言いたいのだろう。

 

「簡単だ、劉弁殿下と劉協殿下の後継争いが決まってから発表するつもりだ」

「天子様がお亡くなりになったのは悲しい事ですけれど・・・・それと何の関係があるんです?」

「今洛陽に駐屯する董卓が劉協殿下を擁護している、『先帝の遺志に従うならば劉協殿下を推戴すべし』と、だが劉弁派の袁紹がこれを放っておかない・・・・」

「つまり?」

「袁紹が盟主になり反董卓連合を興すつもりだ」

「董卓さんが気に入らない、が理由ですか?」

「あれはそれをまかり通す大馬鹿だ」

「名門相手によくぞそこまで言えるもので」

「バカをバカと言って何が悪い」

 

憮然とした・・・・どころか明らかに嫌なことを思い出した顔をする青焔。

 

「それで、華琳の要件って何なんだ?」

「連合発足後の対応だろ」

「参加するか?って事ですかね」

「違う」

「それでは一体・・・・」

「ま、行ってみりゃ分かるだろ・・・・っつーわけで返答は応諾、で構わんか?」

 

一座を見回す青焔に、一刀、桃香、紫牙、朱里が頷いていく。

 

「んじゃ行く面子だが・・・・俺、一刀、桃香は決定として・・・・」

「星ちゃんと雛里ちゃんでどうかな?」

「ん・・・・それが妥当か」

 

今現在、鈴々、単、凪、六花が治安を担当し、朱里、紫牙は屯田計画などに日々奔走している、芹菜と薺はきっと紫牙から離れないだろう、となれば残る面子はこれしかいないわけで。

 

「では明日朝一で出立する、準備は整えとけ!」

『はい!』

 

華琳の持ちかけた会合は、一体何を話し合うためのものなのだろうか?予想がついているらしい青焔を除く面子の心持ちは、不安だらけだった。




はわわ軍師とあわわ軍師の後輩はあんまり慌てません。
そして(青焔と星により)加速する紫牙の幼女趣味疑惑、彼の明日はどっちだ!?


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第十五話:任城の一日

:任城太守府

先の黄巾の乱の功績で新たに得たこの地には、氷影と桂花、蒼季、愛理、唯夏、真桜の六人が赴任し、治安、開発などに着手していた。

 

「桂花、北部の津の修繕具合はどうなっています?」

「はい、真桜と愛理を中心に八割方、完了しています・・・・今は蒼季と唯夏が相談して警備案を作成している頃かと」

「南壁はどうなっているかな?」

「真桜が既に修繕を完了、また改良案も提出されておりこちらに纏めてありますのでお目通しください」

「うん、分かったよ」

 

普段、氷影に対しデレっデレで引っ付いている桂花も、仕事中は至って真面目である、公私の区別のためでもあるし、そうしなければ氷影はおろか華琳の不況を買う事になるからだ。

そうなってしまえばいくら伯という叔父の口添えでもどうにもならない、それだけは避けねばならない、だから仕事を始めれば全力を尽くすのだ。

 

「氷兄、戻ったぞ」

 

蒼季を先頭にして愛理、唯夏、真桜が順々に入室してくる。

 

「四人共ご苦労様です」

「津の修理は完了した、今は様子見のために李通に300の兵を率いさせて駐屯させている・・・・二ヶ月様子を見て何事もなければ戻るように指示してある」

「対応としては十分でしょう、唯夏さん、真桜さんは任城の警備任務に戻ってください」

「俺と愛理は?」

「愛理さんには政務の方に回っていただきます、蒼季、君には華琳よりの召集令がかかっています」

「俺に?」

「はい、三日後までに陳留へと赴いてください」

「了解、それまでは?」

「休暇、という事で・・・・愛理さん、真桜さん、唯夏さんも明日までゆっくり休んでください、それまでは文欽さん、田豫さんに頑張ってもらいますので」

「あいよ」

「では休ませていただきますね」

「疲れましたよ」

「あーほなお言葉に甘えます」

 

執務室から退室する四人を見送れば。

 

「さて、私たちは頑張りましょうか」

「はい・・・・」

「一週間後に慧南さんと武栄さんがこちらに赴任してきます」

「そうなんですか?」

「ええ、着任当日は私と桂花さんは休暇なので・・・・」

「?」

 

首を傾げた桂花。

 

「私と一緒に街でも歩きませんか?」

 

微笑みながら提案する氷影に、最初はキョトンとした表情をする桂花、次第にみるみる眼が輝き、満面の笑みを浮かべて返事をするのだ。

 

「は、はい♪」

 

:任城南町

南町は任城で最も発展している商店街であり、必要なものは一通りここで揃う程である。

 

「んー、いい感じで発展してきたなぁ」

「そうですねぇ、仕事をするかいがあるというものです」

「ふむ、仕事の成果を実感する時でもありますね」

「せやなぁ」

 

四人で街を歩く蒼季、愛理、唯夏、真桜。

町並みの賑やかさに、自らの仕事を実感する。

蒼季は愛理、榊、真桜の優秀な腹心三人が黄巾の乱の後、昇格してしまったため、最近は「忙しい」と「仕事ってこんなに多かったっけ?」が口癖になりつつある。

 

「あーしっかし久し振りの休暇だなぁ・・・・」

「そんなに久し振りなん?」

「赴任以来かな、あとは半休とかだったしなぁ」

「何ですかその過密日程は」

「氷兄と桂花なんか武栄と慧南が来るまでは休み無しらしいからな」

「私たちは取り敢えず週二ぐらいで休んでましたからね」

「まぁせっかくの休暇だ、ゆっくりしようや」

 

:深夜:任城・曹純自室

昼間の遊んだ疲れと晩餐の飲酒で完全に爆睡している蒼季の部屋に、忍び込む影が一つ。

 

「・・・・んむ・・・・助け、て・・・・お願いだから・・・・市中引き回しは・・・・」

「どんな夢を見ているのでしょうねこのお方は」

 

窓から入る風に、茶色い髪が靡く・・・・そう、愛理だ。

 

「・・・・蒼季様・・・・」

 

もぞもぞ、と一緒の床に潜り込み・・・・

 

「~~♪」

 

ご機嫌なまま、眠気に身を任せるのだ。

 

:翌日:朝

 

「おはようございますー」

「大将、はよ起きてや」

 

何時ものように、蒼季を起こすために唯夏と真桜が入室してくる。

 

「・・・・ねぇ真桜、何か・・・・膨らんでません?」

「いやらしいなぁ唯夏は」

「意味が違います、何と言いますか・・・・蒼季様一人分にしてはもこもこと・・・・」

「そう言えばそうやなぁ・・・・・・」

 

顔を見合わせ、コクリと頷けば布団の端を二人が掴む。

 

『せーのっ!!』

 

バサッと捲り上げられた布団。

 

『!!!!?』

 

そこには、蒼季に抱かれて眠る愛理、しかもYシャツのような上着とパンツだけで。

 

「んん・・・・?」

 

ようやく、眼を覚ます蒼季。

 

「おぅ・・・・どうした?」

「蒼兄様・・・・それはどういう事でございましょうか?」

「大将、何やらかしてくれとんねん」

「あ?何言っ・・・・・・」

 

傍らに眠る半裸の愛理に、顔がみるみるうちに青褪め、冷や汗が滝のように流れ出す。

 

「お、おい愛理起きろ!」

「むにゃむにゃ・・・・おはよう・・・・ございまふぅ・・・・」

 

眼をこすりながら起き上がる愛理。

 

「なんで俺と同じ床で寝てんの!?」

「蒼季様」

「・・・・何?」

「昨夜は優しくしてくださって・・・・ありがとうございました」

 

その瞬間、唯夏と真桜の髪が逆立ち、背後に修羅が見えた、と後に蒼季は語る。

 

:任城執務室

 

「曹仁将軍!!大変です!!」

 

慌ただしく駆け込んできた兵士の様子に、ただならぬものを感じた氷影。

 

「何があったのです!?」

「はっ・・・・それが・・・・」

 

黄巾残党の襲撃か、もしくは他領領主が攻めて来たか、と身構えていると・・・・

 

「曹純将軍が李典将軍と曹休将軍に追われております!詳細は不明、ただ曹純将軍の表情が異様に怯えていた事と李典、曹休両将軍が螺旋槍と三節棍を振りかざしながらで我々では静止する事が出来ず何卒!曹仁将軍にお出ましいただきたいかと」

 

頭を抱える氷影、何をやっているんだ、と。隣の机に座っていた桂花も呆れ顔である。

 

「放置なさい、ただし城壁、市街地に被害が出るようならば直ぐに知らせなさい」

「御意!」

 

駆け出していく兵士を見送れば。

 

「さぁ、仕事をしましょう、桂花さん」

「はい♪」

 

桂花と愛理の二人は、今日は終始笑顔のままだった。




氷影が桂花の気持ちに応え始めました。
ちなみに蒼季と愛理の事ですが・・・・何もありません、添い寝しただけです、蒼季が寝相で愛理を抱き枕代わりに、愛理はそれだけで幸福度がMAXになって一緒に寝てました。


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第十六話:三勢力(+1)会談

:定陶太守府:会議室

 

「ねぇ華琳ちゃん」

「何かしら?伊砂」

 

華琳と差し向かいに座る少女・・・・に見える少年、名を張邈孟卓、真名を伊砂、れっきとした定陶の太守である。

 

「何で僕のところで悪巧みの相談をしようとしているのかな?」

「なんのことかしら?」

「僕が分からないとでも思ったの?孫策に劉備、死んだと思われていた王泰を含めた各勢力の主要人物たち・・・・華琳ちゃんは何をしようとしているの?」

「それは今からわかるわ、貴女も参加しなさいな」

「今呼び方がおかしく思えたのは気のせいかな?」

「気のせいよ」

 

そうこうしているうちに、ほかの面子がこの場へと入室してくる。

曹操軍からは華琳、蒼季、伯、春蘭、秋蘭。

劉備軍からは桃香、一刀、青焔、星、雛里。

孫策軍からは雪蓮、尚、香、白夜、鈴李。

がそれぞれこの場にいる、そして巻き込まれた伊砂。

 

「さて、七面倒な前口上も何も要らん、状況は把握している、単刀直入に話せ」

「ええ、霊帝崩御、袁紹がそれに乗じて動きそうだ、という情報は入ってきています」

「話が早くて助かるわ」

 

バン、と机を叩く華琳。

 

「恐らく袁紹のバカ・・・・面倒だから以後バカと呼ぶわ、あのバカは今洛陽を抑えている董卓を潰しにかかるはず、そこで・・・・三軍共同戦線を提案したいわ」

「成程」

「ふむ」

「一つ、宜しいでしょうか」

 

ピッ、と手を上げたのは鈴李だ。

 

「構わないわ、えーと」

「孫策軍筆頭軍師諸葛謹の副官、劉曄子揚と申します」

「それで劉曄、何かしら」

「共同戦線を組むには明確な目的と利点が無くば非常に難しいと存じ上げますが」

「最もな意見ね」

「曹操様と結ぶ事により、劉備様と主君孫伯符に対しいかなる利点が生じるのか、出来れば説明願いたく」

 

考え始める華琳、ここでの返答を間違えれば断る口実を与える、それは上手く無いのだろう。

 

「割り込むようで悪いが、一つ、目的に関して提案がある」

 

青焔が手を上げて立ち上がる。

 

「董卓陣営には優秀な人材が多い、董卓当人もそうだが『飛将軍』呂布、『神速』の張遼、『黒騎兵』張繍、『陥陣営』高順、軍師である賈駆、陳宮もそうだし何より『首切り』徐栄もいる、で今回は出来る限りそれらの人材を生かしたい・・・・それぞれが一軍を担えるに十分な実力を持つ猛者だからだ」

「ふむ」

「利点はこれらの人材を得られる事と共同作戦などを組む事で戦術を広く組める事」

「人材の振り分けは如何に?」

「早いもの勝ち」

「把握しました、ならば異論はありません、後は伯符様次第ですが・・・・」

 

視線が、雪蓮へと向く。

 

「前に皆で組んだ時は面白かったわ・・・・」

 

思い出されるのは黄巾の乱、三軍が手を携えた時は、まさしく敵無しだった。

 

「それがもう一度出来る、願ったりだわ・・・・これから先、敵対する事もある、だからこそ最後に一緒に戦うのもいいかなぁ、って思うのよね」

「劉備様は」

「私たちは元々出せる兵力が少ないですし、願ったりです」

「では固めの盃と行くか」

 

そういって青焔が、いつの間にやら持ってきた盃と酒を卓の上に置く。

 

「用意が良いわね」

「いや元々これ終わったら蒼季と飲むつもりだった」

「変わりませんねぇ」

「違いねぇ、どうせだからここにいる面子で飲もうや」

『賛成!!』

 

青焔に蒼季、伯、星、雪蓮、白夜ら三国の酒好き(のんべえ)たちがやたら元気よく賛成している。

 

:夜:張邈屋敷

 

「まぁ僕も一緒に行動させてもらうよ、兵士少ないからね」

 

結局四軍共同戦線になった。

 

「そうだ」

 

飲み始めて少しした頃に、青焔が思い立ったように。

 

「念のため各軍の出陣武将と兵数を確認しても良いか?互いに把握してた方が良いだろ」

 

その案に賛成した華琳、尚(雪蓮は悪酔いして話を聞いていなかった)、伊砂が陣容を書き記していく。

 

劉備軍:兵数一万

武将:劉備、北郷、王泰、関羽、張飛、趙雲、廖化、楽進、諸葛亮、鳳統、法正、馬良、馬謖

 

孫策軍(袁術軍):兵数三万

武将:孫策、孫権、袁術、諸葛謹、魯粛、黄蓋、張勲、甘寧、呂蒙、虞翻、潘璋、蒋欽、周泰、徐晃、劉曄、凌統、張嶷

 

曹操軍:兵数二万三千

武将:曹操、曹仁、曹純、夏侯惇、夏侯淵、荀彧、荀攸、徐庶、李典、于禁、曹休、鄧艾、許褚、典韋

 

張邈軍:兵数一万

武将:張邈、満寵、呂虔

 

「んー伊砂のところ将が少なすぎねぇか?」

「あはは、狭い領地だからね、三人でも何とかできてたんだよね」

「んー」

 

何やら、考え中の蒼季。

 

「何思いついた?」

「へ?」

「昔からの癖だぞ、何か思いつくと考え込むの」

「そうね、さて、何を思いついたのか教えてもらおうかしら」

「いやさ、どうせ三軍合同なら・・・・兵士と将を、ごっちゃまぜにしちまおうか、って」

「いやいやいや、それはいくらなんでも・・・・」

 

無いだろ、と一刀が言おうとした途端。

 

『面白い(な)(じゃない)(わ)!!』

 

青焔、華琳、雪蓮の三人が、同時に叫ぶ。

 

「とすると、だ配分とか考えなけりゃねぇよな」

「そうね、軍師と将の割合は・・・・」

「~♪楽しくなってきたわぁ」

 

と、無駄にやる気まんまんな三名と雛里、伯、尚ら三軍師の合議の結果、以下の編成となった。

 

孫、曹、劉、張連合軍:総兵力七万三千

 

第一軍:大将・王泰:兵力二万

武将:孫策、趙雲、曹純、夏侯惇、楽進、魯粛、徐晃、張飛、法正、鄧艾、満寵

 

第二軍:大将・曹操:兵力二万三千

武将:夏侯淵、廖化、関羽、黄蓋、潘璋、蒋欽、周泰、李典、于禁、曹休、諸葛亮、鳳統、徐庶、荀彧、荀攸

 

第三軍:大将・孫権:兵力三万

武将:劉備、北郷、馬良、馬謖、諸葛謹、袁術、張勲、甘寧、虞翻、劉曄、凌統、張嶷、曹仁、許褚、典韋、張邈、呂虔

 

「第一軍なんか完全突破力重視ですね」

「青焔に雪蓮に春蘭、鈴々・・・・暴走したら誰が止めんだコレ」

「大丈夫よ、榊に刺してでも止めるように伝えるから」

「二軍はひたすらに万能だな」

「秋蘭に愛紗に祭、何があろうとも動じないな」

「朱里に雛里に徐庶、荀彧、荀攸と一番軍師が集うしな」

「三軍は護り重視、と」

「氷影がいるならな」

「結構偏っていますね」

「だけれど考えうる限り最上の布陣よ」

「うむ」

 

この場の全員が、盃を片手に立ち上がる、音頭を取るのは満場一致で選ばれた青焔。

 

「これだけ豪勢な面子が揃ったんだ、やってやれねェ事は何一つ無ぇはずだ」

 

「あのバカに一泡吹かせた上で更に董卓軍の人材も全てあまさず引き入れてやれ!!!」

 

「乾杯!」

『乾杯!!!』

 

今、中華最強の同盟軍が、その歩みを進め始めた。




劉備、曹操、孫策、張邈の同盟軍・・・・戦力的に信じられない勢力ですよね。
次回からはいよいよ反董卓連合開戦です、個人的にやりたい戦いの組み合わせとしては王泰対呂布、夏侯惇対張遼、曹純対張繍、孫策対華雄、鄧艾対高順、関羽対徐栄という感じですかね。
それと青焔のフラグ本数ですが七本と言っていましたが五本に減らす事にしました、多すぎる気がしまして(本編萌将伝の一刀から考えたらそうでも無いんですがね)。
あと一人、誰とフラグが立つんですかねー♪


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反董卓連合
第十七話:出陣前


反董卓連合の発足、南皮太守である袁紹により発せられた檄文は、大陸全土の諸侯へと届けられた。

曰く、董卓による洛陽の暴政、朝廷の私物化、占有、それらを許す事は漢王朝の臣に在らず、董卓を許すな、立ち上がれ、董卓を討て・・・・と。

董卓と袁紹、両名を知る青焔と華琳は、静かにため息をついた。

両雄曰く、「どうせバカが癇癪起こしただけだろう」と。

 

:平原

留守居を兵一万と単に任せ、洛陽へと向かう事になった劉備軍は、兵数の少なさからか差し急いで準備などをする事も無く、落ち着いて出発準備を整えていた。

 

「そう言えば青焔さん、一つ聞きたかったんですけど」

 

ふと、桃香が青焔に質問を投げかけた。

 

「何だ?」

「董卓さんってどんな人なんです?青焔さんや華琳さんが言う分には悪い人じゃ無いって事は分かるんですけど」

「ああ、それは俺も気になった、董卓ってどんな人?」

 

口を挟む一刀、まぁ一刀の場合は元の世界の知識もある分、この世界での董卓について余計に気になっているのだろうが。

 

「少女だよ、儚げで、花が好きで、人どころか虫も殺せないような心優しい娘だよ」

「何でそんな娘を・・・・」

「袁紹が自尊心の塊だからだ」

「つまり?」

「漢王朝の中心である洛陽、大将軍何進が死んで自分が掌握しようとしたら董卓に抑えられた、それが気に食わないだけさ」

「そんなのって・・・・」

「しかも配下がやたら優秀だから性質が悪い」

 

うーん、と唸りながら頭を抱える青焔、そう、君主がバカでも顔良、文醜、張郃の猛将たちに沮授、田豊、審配ら優秀な頭脳が揃っている、それだけに厄介な勢力でもあるのだ。

 

「まぁともかくだ、俺らは領地の位置関係上この連合に参加せざるを得ない、袁紹、韓複、鮑信、孔融に囲まれているからな、華琳だって戦場が真隣だから出ざるを得ない、まぁ雪蓮に関しては無視してもよかったんだろうがこっちに付き合ってくれるみたいだしよ」

 

それだけが救いだ、この三軍が集わなければ何をしようにも力不足だったのだから。

 

「おぅ、ここにいたか」

 

単が、一人の青年兵を伴って現れた。

 

「どうした?」

「ああ、こいつを使ってやって欲しくてな」

 

ピッ、と敬礼をする青年兵。

 

「名は?」

「はっ!姓名を夏侯覇!字を仲権と申します!」

「単、力量はどうだ」

「部隊長格の連中と互角以上、模擬戦やらせても並以上、かなり優秀だ・・・・お前の副官連中皆昇格して手足足んねぇだろ?使ってやってくれ」

 

そう、青焔の副官であった星、凪、六花の三名は今現在、青焔と紫牙による軍部再編に際して将軍に昇格しているのだ、そもそも人材の層が薄いのだから優秀な人材を副官待遇で遊ばせている程暇では無い、という意見の下にだ。

故に一度に三人いた副官を手放した青焔は、確かに最近忙しかったわけで。

 

「あんがとよ、お前は大丈夫なのか?」

「大丈夫だっつーの、机仕事は孫乾と簡雍に任せた」

 

ニヤリと笑う単、「そうか」と一言呟けば、夏侯覇を伴い、一度自宅へと戻るのだ。

 

:王泰私邸

 

「まぁ何も無いところだが入れ」

「お邪魔します!」

 

一応軍部の筆頭である青焔はそれなりの待遇として屋敷を持っている、とは言え会議室代わりに使われたりする事も多く、殆ど寝泊りだけの場所になっている。

 

「さて、・・・・夏侯、という事は陳留の夏侯姉妹と面識はあるのだな?」

 

単も、桃香も一刀も気にしていなかったようだが名を聞いた時に、それが思い立った。

 

「はっ!彼女らは従姉です」

「何故、平原に?君程の実力があるならば華琳も、春蘭、秋蘭も問題なく引き上げてくれただろう」

「少々、思うところがありましたので」

「・・・・差し支えなければ聞かせて貰おうか」

 

ハキハキと答えを返してきた夏侯覇が、言い淀む、が僅かなもので、意を決したように。

 

「自分は・・・・名門夏侯家に生まれました、祖父の血を継いだのか、従姉二人と自分は歳を重ねる事に、武に関して周囲の大人をも凌駕する程になりました」

 

話を聞きながら、白湯を出す青焔。

 

「五年ほど、前です・・・・父から曹操様に仕えろ、と言われました・・・・父と叔父は曹嵩様の部下、その娘に自分の子らを仕えさせる事に何ら違和感は無かったのでしょう、ですが・・・・」

「君は違和感を感じた、か?」

 

無言で首を縦に振る夏侯覇。

 

「父が仕えていたからその主君筋に仕える、と言うのは道理に適うようでそうでは無い、と思うのです、そのような理由から仕えたのではその主君にも無礼にあたります」

 

見たところ一刀らと同い年ぐらいだろうか、五年前と言うならば十二か十三の頃、その時点で既にそこまで考えたと、青焔は、夏侯覇を面白い人材だ、と感じた。

 

「故に出奔、それからは各地を放浪しておりました」

「単に従い付いて来た、という事は劉備様を主君として定める、そういうことか?」

「この街は、笑顔に溢れています、今まで訪れたどの街よりも、このような街を作り上げる君主に興味をもちました、それに・・・・王泰様、実は貴方の部隊で自分は黄巾の乱を経験しております」

「何?」

「あの時の、王泰様のお姿が忘れられないのです、勇敢に皆を振るい立たせ、あの場にいたどの官軍よりも雄々しく戦っておられました・・・・その背に憧れたのです」

「俺の真名は青焔と言う」

「・・・・え?」

「お前のような人物を僅かばかりでも疑った自分が恨めしい、お前程の人物になら真名を、俺の背を預けるに足りる」

 

眼を見開く夏侯覇。

 

「自分の真名は亜紋と申します!」

「亜紋よ、これより中華は乱世に入る、俺はお前を全力で鍛え上げる」

「はい!」

「良いか、みっともなくても良い、生きろ、そしてひとにぎりの矜持を持ち大事にしろ」

「矜持、ですか?」

「それこそが、将たる者を支えるものだ」

「よく、分かりません」

「今はまだ良い、強くなれ!亜紋」

「はい!」

 

夏侯覇仲権、今この時より、乱世の終わる時まで彼は、王泰文令の背を守り続ける事になる。

 

:陳留

 

「というわけで留守居は任せたわ、武栄、慧南」

「留守居が俺たち二人ってどうなんだ?」

「過労で倒れないでしょうか、私は」

 

憮然とした表情の武栄とげんなりした表情の慧南にさらりと言う華琳。

 

「大戦地の直ぐ近くなのだからこんなところでバカをやるバカも・・・・いないとは言い切れないけれど普通の頭ならいないでしょう」

 

バカ、の単語にその場にいた一同が全く同じ顔を思い浮かべる。

 

「武栄」

「蒼季」

 

武栄の肩にポン、と手を置くのは蒼季だ。

 

「俺のとこの部隊長連中を使え、他所の武官文官並みに仕事が出来る、そう『育てた』」

 

蒼季には、曹操軍内で他の誰もが持ち得ない才能がある、育成の才能だ。武も秋蘭と拮抗し、並の文官軍師並みに仕事が出来る、だがいかんせん彼の能力はここで打ち止めなのだ、その彼が次席武官の椅子に座っている理由がそれである、真桜、唯夏は蒼季の育てた人材である、他にも各所に散りばめられている人材には蒼季が育成した者が多いのだ。

 

「うむ、ありがたく受け取る」

「蒼季君は優しいねぇー」

 

ちょっと感動気味な二人。

 

「少し気になったんですけれど」

 

声を上げるのは伯だ。

 

「私や氷影は面識が無いのですが・・・・董卓殿とはどのようなお方ですか?」

「可憐で儚げで、少し前だったならば迷い無く閨に誘っていたわね」

「今は?」

「青焔一筋よ」

「姉者、顔が凄まじい事になっているぞ」

「蒼季、余計な事を聞かないように」

「うーっす」

「なぁ秋蘭」

「なんだ姉者」

「青焔を戦場でうまいこと偶然の事故に見せかけて殺す方法は無いだろうか」

「やったら華琳様に一生嫌われるぞ」

「むぅ・・・・それは困る」

 

それを、少し輪から離れてみているのは氷影と桂花だ、少し前に、氷影は桂花の想いを受け入れた、それ以来、あまり人目を気にせずにいる二人は、こんな場でも手を繋いでいるわけで。

 

「皆さん元気ですね」

「良いんじゃないでしょうか?」

「確かに」

 

微笑み合う二人、にいつの間にか集まる視線。

 

「そう言えばな、以前に北郷から教えてもらったんだが・・・・」

「ん?」

「ああいう二人組を天の国では『バカップル』というらしい」

「意味は分かりませんが何故かしっくり来ますね」

 

これ以降、氷影と桂花の二人を指す固有名詞が『バカップル』になり、恐ろしい事に城下の民にまで浸透したらしい。

 

:秣陵

バンッと机が強めに叩かれる音が、執務室に響く、この場にいるのは雪蓮、蓮華、尚、雷刃、そして留守居である冥琳と諒。

 

「私が留守居とはどういう事だ雪蓮!」

「どういう事もこういう事も言葉の通りよ、留守は冥琳に任せるわ」

「何故遠征軍から私を外したと聞いているのだ!」

 

珍しく激昂する冥琳、まぁ無理も無い事であろう。先の黄巾の乱でも遠征軍から外された、まぁ前回はまだ会議の結果で外した、しかし今回は冥琳の参加していない会議で、勝手に決めたのだ、しかも雪蓮の一存でだ。これに憤慨するのも致し方ない事だったのだろう。

 

「・・・・冥琳、何か隠し事していない?」

「!?何を、言って・・・・」

「気づいていないと思ってるの?何年も一緒にいて」

『?』

 

尚も、蓮華も雷刃も諒もその言葉の意味を掴みかねている。

 

「まぁ私も何かおかしい、ぐらいだったんだけどねー、百合華がこれ、持ってきたのよ」

 

百合華、とは朱治君理の事であり雪蓮、冥琳、雷刃の三人にとって姉貴分のような人である。

まぁそれはともかく、雪蓮が取り出したのは赤く染まった布、冥琳の動作が、こわばった。

 

「・・・・血だと・・・・」

「冥琳さん、それ程までに体調が悪化して・・・・?」

 

冥琳が病弱なのは周知の事実だ、それでも並の武官ぐらいに武芸はできたし、普段はそれをおくびにも出さないために皆が皆、大丈夫なのだろう、と思っていたのだが。

 

「私は大丈夫だ!」

 

何時か動けなくなるかも知れない、それ程に病は自らを蝕んでいる、雪蓮に対し何も出来ないままに病に散る、それを一番恐れているのだ。

 

「冥琳、私はね・・・・皆で泰平の世を見たいのよ」

「雪蓮?」

「私や冥琳、雷刃、蓮華や小蓮、尚に思春に灰に穏、明命、夕姫、百合華、諒オジさん、香、亞莎、暁、白夜、青河、乱、林士、美耶、鈴李、帆、澄、氷岐・・・・皆で笑って暮らしたいの、全てが終わったら。だからね冥琳には今無理をして欲しくないの」

 

その場が静まり返る、いつも、その場の勢いに任せて動いているような雪蓮から聞かされた、未来の話、それはとっても魅力的なもので・・・・

 

「分かった、今回は大人しく揚州を護る事にしよう」

「ええ、頼むわね」

「まぁ武官は灰や誾、百合華もいるし」

「韓当殿も祖茂殿も残る、頑張れ」

「ああ、任されよう」

 

意外に色々考えているんだな、この主君。とか圧倒的に失礼な事を全員が思うのだ。

 

西暦184年・反董卓連合が幕を開ける―――




夏侯覇はゲームでも重宝するお気に入り武将の一人です。基本鄧艾、夏侯覇がいたら他は適当でいいやって感じです、マジで。
次回から本格的に反董卓連合に突入します。
群雄入り乱れ刀槍剣戟が火花散らすシ水関の戦い。
次回!「猪対猪」(半分嘘)をお送りいたします!!


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