深淵歩きとなりて (深淵騎士)
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第一章 始まる物語
プロローグ


これはユグドラシルとフロムソフトウェアのゲーム『ダークソウル』がもしコラボをしていたらこんな至高の41人の1人が居ました。というIFのストーリーになります。そして独自設定ですが、この世界のユグドラシルのサービス開始とダークソウルの発売は比較的近しいものにしております。あらかじめご了承ください。

拙い文ではございますが、何卒お願いいたします。



深淵歩きアルトリウス

 

『ダークソウル』というゲームの、ラスボスに仕える四騎士の一人。本編では名前しかでない彼だが、DLCにてその姿を拝んだとき、身震いした。あの剣の使い方、狂戦士を思わせる雄叫び。

 

なんてかっこよさなんだ。

 

それからアルトリウスにどはまり。彼の装備一式でゲームをプレイし、対人でも彼の剣と大盾で戦った。ああ、あのジャンピング回転切りを当てたときは思わず歓喜していた。俺のゲーム人生に一辺の悔いなし……。

 

 

 

 

 

そしてとある日、友人にたまたま誘われてプレイすることになったオンラインゲーム……DMMO-RPG『ユグドラシル』。ファンタジー系であり、その自由度から注目を浴びたゲーム。個人的にはダークソウル一筋だったためあんまり乗り気ではなかったが、友人の誘いということでやることに。やはり影響されてか作ったキャラも、異形種を選び大剣メインの剣士キャラ、名前も『アルトリウス』としプレイすることに。

 

ながら作業で遊んでいた俺に、このゲームに熱が入る出来事が訪れた。なんと、ユグドラシルとダークソウルがコラボ、アルトリウスを完全再現できる装備データが課金アイテムとして現れたのだ。これは手にいれるしかない。注ぎ込み注ぎ込み、幾ら使ったであろう、最早覚えていない。ようやく手にいれたアルトリウスの防具……喜びに染まっていたがまだ終わりではない、次は武器だ。

 

所謂コラボダンジョンというものがあり、俺はそこへ潜り込んだ。しかし俺を待っていたのは地獄であった。始めたばかりということもあり、武器の素材が手にはいる階層は到底たどり着けるはずもない。そしてなによりも恐ろしいのは……

 

PK《プレイヤーキラー》だ。

 

ダークソウルにも対人はあったが、それとはまた別物で十人に囲まれてリンチを受けるなんてザラだし、ユグドラシルでは異形種はPKしてもPKとして見なさないというし、異形種狩りをメインにプレイしているという話も聞く。友人が人間種にしとけよと言われたのをその時ふと思い出した。

 

だが、ダークソウルで鍛えられた折れない心、そう簡単には諦めやしない。この程度、七周目を迎えた四人の公王に比べれば屁でもない。

 

それから何度も何度もダンジョンへ、PKへと挑戦した。そんなある日だ。初めて……初めてユグドラシルで仲間が出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナザリック大地下墳墓』というダンジョンがある。そこ史上最悪と比喩されるほどの難解ダンジョンであり、同時にユグドラシルトップクラスのギルド……『アインズ・ウール・ゴウン』の根城だ。

 

そんなナザリック第9階層にて、巨大な円卓に41人分の豪華な椅子。そこにポツンと座っている黒の豪華なフードを羽織った骸骨が居る。

 

彼こそがこのナザリック大地下墳墓の主、アインズ・ウール・ゴウンの長である『モモンガ』だ。眼窟の奥に揺らめく赤い揺らめきは、先程まで誰かが居たであろう席へと向けられる。

 

 

「今日がユグドラシルのサービス終了日ですし、せっかくですから最後まで残っていかれ……ませんか……」

 

 

掠れそうな声が室内に響き、消えていく。そう、本日は絶大な人気を誇ったユグドラシルのサービス終了日だ。モモンガはギルドメンバーを呼び掛け、最後を共に過ごさないかと、この皆で作り上げたナザリックにて最後を……と。モモンガからは軽いため息が零れた。

 

楽しかったあの日々、忘れられる筈もないあの日々、目尻が熱くなる思いだろう。モモンガはそれを思い出すと

 

 

「ふざけるな!!」

 

 

机を思い切り叩きつけ、血が昇った頭は直ぐに冷め我に帰る。分かっていた筈だった。アインズ・ウール・ゴウンにメンバーは全員社会人であった。それが加入条件でもあったし、皆それぞれの生活がある。仕事から帰って、疲れた身体を押してまで来てくれた人も少なくはない。寧ろ感謝しなければならないのだ。

 

 

「分かってる……けど……」

 

 

そんなとき思いもよらぬ声が

 

 

「荒れてますね、モモンガさん」

 

「!?」

 

 

下げていた顔を勢いよく上げると、此処に居る筈もない人物が居たのだ。

 

 

「ア、アル……さん?」

 

 

何かの動物を模しているのだろう独特な形状の兜に、灰色を基調とした鎧に群青のマント。特徴的なその防具を身に纏っており、この場所へと入ってこれるのは一人しかいない。モモンガは何度も目を疑った。だが目の前にいるのは紛れもなく……

 

 

「はい、正真正銘アルトリウスですよ」

 

 

まるで放たれた弾丸の如く、モモンガはアルさんと呼んだ彼のもとへと駆け寄る。

 

 

「本当にアルさんなんですよね!?」

 

「本当にアルトリウスですよ、見ての通り……それと」

 

 

突然アルトリウスが頭を下げたのだ。

 

 

「え……?えっ!?ちょっ!?」

 

「長らく連絡出来ずに、本当に申し訳ありませんでした。本当にどの面下げてって感じですよね」

 

「そんなことありません!!アルさんが連絡出来なかったのは仕方なかった……ことです……し」

 

 

手を何度も振るモモンガは止め、静かに彼の顔を見る。

 

 

「お身体の方は大丈夫なんですか?」

 

「ええ、無事完治。ご覧の通り、此処に来れるだけの元気はありますよ」

 

 

アルトリウスこと、洞上翔。実は三年前から音信不通になりユグドラシルにログインしていなかった。理由は一つ、病魔に犯されて入院していたからだ。モモンガもこの事はギルドメンバーの一人から教えてもらっており、彼の無事の帰還を望んだ。だが三年も連絡が来なかったため、どうなったか心配で眠れない日もあったという。今回のユグドラシル終了に従い、来るかどうかわからない彼にもモモンガはメールを送っていた。結果、こうして再会することが出来たのだ。

 

 

「そうですか……良かった……本当に良かった」

 

「ご心配お掛けしたようですね。それとメールを見たときは驚きましたよ、実は退院したの、今日だったんで気づくのに遅れてしまいました」

 

「えぇっ!?いいんですか!?此処に居て!?」

 

「勿論です」

 

 

すっとモモンガの横を通りすぎ、その一室に鎮座されている金のケーリュケイオンをモチーフにした杖『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の前にたつ。ギルドに一つしか認められない、ギルド武器と呼ばれる物。それと同時に、ナザリックと同じく、皆の汗と涙の結晶とも言える物であろう。アルトリウスもこれを作るために奮闘していた。

 

 

「楽しかったですよねぇ……」

 

「……はい」

 

 

モモンガもアルトリウスの横に並び、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを見る。

 

 

「初めて会ったときの事覚えてますか?」

 

「忘れられる筈もありませんよ、アルさんがPKされかかっているときに俺とたっち・みーさんとぶくぶく茶釜さんと助けに来て」

 

「モモンガさんにギルドに入りませんかって誘われて、あんまりにもはっきりしないもんだから、茶釜さんに怒られて、加入することになって」

 

「怒られて加入ってなかなかありませんよねぇ……」

 

「確かに、でも……あそこで入ることを決意しなければ、俺は此処には居られませんでしたから。ほんと、感謝してるんですよ」

 

 

感謝しているのはこちらもだ。モモンガはそう言おうとしたが、アルトリウスが人差し指を立て

 

 

「もう残された時間も少ないですし、せっかくです。最後は玉座の間で終わるの待ちませんか?」

 

「……ですね、それじゃ」

 

 

骨ばかりの手でそのギルドの象徴を手にすると、黒いオーラが立ち込め、それはまるで苦悶する表情にも見える。まさに禍々しいの一言に尽きるだろう。するとアルトリウスはモモンガの前に膝まづく。その光景はまるで魔王と騎士のようだ。

 

 

「我が王よ……ご命令を……」

 

「アルさん……」

 

 

ここは彼に合わせようと

 

 

「我が忠義の騎士、アルトリウスよ付き従え」

 

「はっ……最後の時まで何処までも……こういうの憧れてたんですよ」

 

「良いですね……それじゃ行きましょうか」

 

 

先程の堅苦しい気配は消え、モモンガはアルトリウスに背を向けアルトリウスもそれに合わせて立ち上がる。二人が向かう今宵最後の時を迎える玉座の間へ……

 

 

 




作者はデモンズの嵐1で侵入出待ちしていたで御座る。


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第一話

作品をお気に入りにしてくれた方々、本当に感謝いたします!
感想が来たり、お気に入り件数が増える事が私にとって励みになります!これからもよろしくお願いいたします!!


モモンガとアルトリウス、そして広間で待機をしていたNPC『セバス・チャン』とメイドを引き連れ玉座の間へと来た二人。モモンガは玉座へ、アルトリウスは傍らに、セバスとメイドは玉座の前に膝まづく。

 

 

「結局ここまで来た人、一人もいませんでしたね」

 

「確かに、あの大軍で来た時は少しやばいかなとは思ったのですが」

 

 

懐かしむように、玉座の入り口を見て次に視線を違うものに移す。視線の先はナザリック地下大墳墓、守護者統括のNPC『アルベド』だ。

 

 

「アルベド……か」

 

「セバスはたっち・みーさんが作ったキャラで、どんなのかは大体わかりますが……アルベドは……」

 

「見てみます?」

 

 

コンソールを開き、設定欄を開く。アルトリウスもそれを見ようと、モモンガの隣に立つ。どれどれと覗き込むとそこは文字の海であった。思わず二人は凝視する。

 

 

「ながっ!なんだこれ!」

 

「……思い出した、アルベド作ったのタブラさんだ」

 

「そういえばあの人、設定魔だったなぁ」

 

 

コンソールをスクロールしていき、ふとアルトリウスに

 

 

「そういえばアルさんの作ったNPCって……」

 

「ん?ああ、俺のNPCは第6階層の森林エリアに居ますよ。あれには俺の領域の守護をさせてますから」

 

「そういえばそうでしたね……げっ」

 

「どうしました……えぇ……」

 

 

アルベドの長々しい設定が終わりを迎えると、最後の一文で二人は絶句する。アルベド、こうしてみるとかなりの美人なキャラに仕上がっている。考案したタブラの本気を伺えるであろう。だが肝心な最後の文は……

 

 

「ちなみにビッチである……って」

 

「タブラさんらしい……」

 

 

するとモモンガはスタッフを用いて設定変更画面を出した。

 

 

「モモンガさん?」

 

「いえ、最後ですし変えちゃおうかなと。流石にこれはな~と思いまして」

 

 

アルトリウスはガチャリと音を立たせながら腕を組む、確かにこの設定は如何様なものかと。とりあえずとモモンガはその問題の一文を消す。あいたその空間、せっかくなので何か新たな文字を入れようかとモモンガは悩む。すると何かを思いついたようにアルトリウスはモモンガの手を取り

 

 

「アルさん?」

 

 

彼の手を取ったままのアルトリウスは文字を打ち込んでいく。

 

 

「モ、モ、ン、ガ、を、愛、し、て、い、る。……って何打ち込んでって、ああ!」

 

 

そのまま決定ボタンを押し、設定変更は完了した。抗議しようとしたモモンガであるが、まあまあと宥められる。

 

 

「最後ですし、きっとタブラさんも許してくれますって」

 

「そ、そうですかねぇ……」

 

 

思い出すモモンガ。アルトリウスは中々に茶目っ気のある性格で、その外見からはそぐわない発言でギルドを和ませたり、笑いを生んでいたりした。度々モモンガや他のギルドメンバーも彼のネタにされることも少なくはなかった。

 

そして迫る終わりの時。玉座の間にそれぞれ配置された41種類の旗。どれ一つとして同じサインは入っていない。モモンガ、たっち・みー、死獣天朱雀、餡ころもっちもち、ヘロヘロ、アルトリウス。それぞれのギルドメンバーのサインだ。それを見て懐かしさで込み上げて来る思いが二人にはある。

 

 

「あと……一分」

 

「終わりますか、俺達の……このナザリックが……あ」

 

 

アルトリウスはモモンガの方を向き

 

 

「このナザリックを……アインズ・ウール・ゴウンを今迄守ってくれて本当にありがとうございます。最後にあなたに会えてよかった……おかげで俺はこうして晴れやかな気持ちで終わりを迎えることができます。」

 

「俺も……アルさんが元気になってこうして会いに来てくれた……それだけで胸がいっぱいですよ。欲を言えば、アルさんがこうして居る事を他のメンバーに伝えられないのが悔やまれますよ」

 

「まあそれは仕方ないということで……」

 

 

静かに灰色の篭手に包まれた右腕をモモンガに差し出す。

 

 

「えっと……あんまり気が利いた言葉見つからないんですが……お疲れ様でした、モモンガさん」

 

「はい、お疲れ様でした……アルさん」

 

 

二人は固く握手を交わす。最早時間はない、これが彼等にとって最後の言葉になるであろう。

 

 

 

 

そして、ユグドラシルは終わりを迎える。様々な物語、様々な思いを乗せて。

 

 

 

──だが、彼等の物語は……まだ終わらない。これから『始まり』を迎えるのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒れ果てた神殿のような場所。そこには30人にも及ぶ武装をした一団が何かを囲んでいるように位置している。中心には背後の翼を生やした異形を守るように立つ二人、

 

方や深紅のマントはためかせる、剣と盾を装備した純銀の騎士。方や群青のマントを風に揺らす、身の丈程はある両刃の大剣を持つ灰色の騎士。

 

 

「アルトリウスさん、ここは俺が囮になります。その人を連れて逃げてください」

 

「断ります、どう考えても蹴散らして堂々と歩いた方が手っ取り早いですよ、たっち・みーさん」

 

 

アルトリウスと呼ばれた騎士は大剣を肩に置き目の前にいる雑兵共を見やる。

 

たっち・みーと呼ばれた騎士はギシッと鎧を鳴らし、背を預ける騎士を見やる。

 

 

「そうですね……では行きますか!」

 

「了解!!」

 

 

二人の騎士は駆けて行く、互いに勝利を信じて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

アルトリウスはサーバーが終了したと思いゆっくりと瞼を開けた。しかし目の前に広がる光景は、自分の部屋のディスプレイではなかった。一面広がる森林、自分は夢でも見ているのだろうか。いや違う、確かに自分は目が覚めている。

 

 

「どういうことだ……」

 

 

本来なら混乱するであろう、ユグドラシルは終了し本来なら自分は自室に、このような光景が目に映ることはありえないだろうと。だが彼は気味が悪いほどに冷静であった。何故かは皆目見当もつかないが。

 

立ち上がり周囲を確認しても木、木、木、そればかりだ。ふと彼は違和感を覚える、やけに目線が高いと。彼の実際の身長はそこまで高くない。最後に行った健康診断では167cmであった。自分の体を見ると

 

 

「これは……アバターの……まま?」

 

 

彼の姿はユグドラシルのキャラのまま、アルトリウスの姿のままであった。彼は一つの可能性を考える、もしかしたらサーバーダウンが延期になったのでは?そして自分は他のエリアに強制ジャンプされたのではないかと。

 

 

「全く、最後は綺麗に終わりたいと思ったのにこれか……モモンガさんもまだ残っているのだろうか」

 

 

フレンドリストを見て表記がオンラインとなっていればビンゴだ。早速コンソールを開こうと腕を振るが、コンソールは出ることがなかった。それどころか

 

 

「強制終了もGMコールも何一つできないだと……」

 

 

声は焦りの色が伺えるが、頭の中は変わらず冷静。しかしこの状況は明らかに異常事態、何か……何かこの状況を打破できる手はないかと。すると背後から物音が聞こえる。自分と同じ状況にあるプレイヤーではないかと振り向くと

 

 

「グオオォオオ……」

 

 

低い唸り声を上げる猿とも人間とも判別がつかない醜悪な顔、3mに及ぶ巨大な体躯。大の大人ほどあるその腕には木で作られた棍棒を持つ。まさに人食い大鬼《オーガ》という名が相応しい外見の化け物だ。しかも一体ではない、5体もの化け物が現れたのだ。

 

アルトリウスは身構える、今あれこれ考えている暇はない。目の前の化け物が今まさに自分にへと迫り来ようとしている。おぞましいと思えるその姿だが、別段恐怖を感じない、寧ろこいつ等は自分より格下であろうと、ならば──

 

 

「打ち倒すのみ」

 

 

右手を肩よりも後ろへと持っていくとその空間だけが歪み、剣の柄がゆっくりと出現しそれを掴み荒々しく引き抜くと全様が露になる。

 

 

深淵の大剣

 

 

アルトリウスの大剣を元に様々な希少なデータを厳選し組み込み、二つの能力を併せ持つことに成功した神器級《ゴッズ》には遠く及ばずとも非常に強力な武器として彼の最高の相棒として存在する。その青い光を灯す身の丈ほどある刀身は、見るものに美しいという思わせる他に、冷たい煌きは戦慄も覚えるだろう。

 

 

「久々の戦闘だ……」

 

 

アルトリウスは盾など不要と考え

 

 

「深淵歩きの業を見よ──」

 

 

眼前の敵へと詰め寄る、奴等をこの剣の錆にしてくれようと……

 

 




この作品の主人公、中々の厨二でございます。

最下層で初めてバジリスクを見たときの鳥肌が立ちまくるあの感覚、そして同時に思った事……フロムやらかしてくれたなと。


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第二話

今回後半はオリジナル展開が入ってきますのでご了承ください。


アルトリウスが異変に巻きこまれた同時刻、玉座に居たモモンガも同様の事態が起こっていた。彼は何処かへ飛ばされた訳でなく、モモンガそのものの姿で玉座に座ったままであるが。傍らにはアルトリウスは居らず、自分だけがここに存在してしまっている。そして何よりも、彼を混乱させる事が起こった。

 

NPCであるはずのアルベドが話しかけてきたのだ。

 

命令することでしか動くはずのないNPCが、確かに己の意思を持って声を出し、自分と会話をしている。AIにそういうプログラムが組まれていれば別だが、ここまで流れるように進むのは可笑しい話だ。

 

 

「モモンガ様?」

 

「いえ、じゃない、いや……何でもない。セバス」

 

 

物は試しと目の前に膝まづく執事、セバスに声をかけてみる。

 

 

「はっ」

 

 

口が開き返事をする。まずそれ事態がユグドラシルではあり得ないことであった。怒濤の勢いで混乱の渦が出来上がるモモンガである。

 

それにGMコールも効かず、伝言も上手くいかないのかノイズのような音が走るばかり。この混乱を何とか抑え今何が必要かを考える。情報だ、それを集めないことにはどうしようもない

 

「今すぐ大墳墓の周辺地理を確かめろ。仮に知的生物がいた場合は交渉して友好的にここまで連れてこい。交渉の際は相手の言い分を殆ど聞いても構わない。行動範囲は周辺1キロだ。極力戦闘行動は控えろ、現状何が起こるか解らんからな。あとメイドを一人連れていけ、最悪な場合そいつだけを帰還させ1つでも多くの情報を確保するのだ」

 

「了解致しました」

 

「それと……」

 

「はい?」

 

「何でもない」

 

 

アルトリウスが居なかったか?と聞こうとしたが、もし居ないと答えられたときの事を想像し言葉を喉の手前で止める。

 

セバスの様子を見る限り、彼は自分に忠誠心を持っている様子だ。恐らくアルベドもそこにいるメイド達もだろう。だが他のNPC達は?もし持っていなければ襲われる可能性だってある。自らの権力は一体何処までも通用するのかを確認する必要がある。彼に匹敵するNPCは5体に……

 

 

「では、セバスについていく1人を除き、他のメイドたちは各階層の守護者に連絡を取れ。そして第6階層、アンフィテアトルムまで来るように伝言を伝えよ、時間は今から1時間だ。それが終わり次第、お前達は9階層の警戒態勢に移れ。アウラに関しては私から伝えるので必要は無い……行け!」

 

「「「はっ!!」」」

 

 

玉座の間からぞろぞろとメイド達が出ていく。モモンガは右手薬指にはめられた指輪『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を見る。

 

 

(果たしてこの指輪の効果は生きているのだろうか)

 

 

この指輪の能力はナザリック大地下墳墓内の各部屋を無制限に自在に転移することが出来る指輪だ。ナザリックは特定区間に転移阻害を施しているため、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは中々便利なアイテムとなっている。

 

 

(やることは沢山だ……そうだ)

 

 

まずはと、モモンガは行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック大地下墳墓、第六階層。そこはナザリックでも最大の広さを誇りほぼ全域が森林地帯となっている。現在、モモンガはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンにより転移が成功し、この広大なエリアのとある場所へと向かっている。

 

 

「確か……この辺りの筈……ん?」

 

 

森を駆け抜けてくる一つの影、それは音から察するに此方へと向かってきている。この階層を守護して居るのはぶくぶく茶釜のNPC──

 

 

「フェンリル、ストーップ!!」

 

 

森より現れた黒いオオカミのような生き物は、モモンガの数mで止まるとそのまま姿勢を低くする。その大きな体の背中には小さな子供を乗せており、子供はピョンと飛び降りると恐るべきスピードでモモンガの元へとくる。その子供の肌は薄黒く、特徴的な長くとがった耳。

 

 

「いらっしゃいませ、モモンガ様!あたしの守護階層までようこそ!」

 

 

右手を胸に当て、その肩まで揃えられた美しい金の髪を揺らしながら、軽く腰を折るダークエルフの少女。この第六階層を守護する、ぶくぶく茶釜が創造したNPCの双子の一人『アウラ・ベラ・フィオーラ』は人懐っこい笑みを浮かべている。

 

 

「あ、ああ、元気そうだな、アウラ」

 

「はい!あたしはとっても元気です!ところで、モモンガ様は何故この場所へ?」

 

「確認したい事があってな。アウラ、この先にアルさ……アルトリウスの住居があるだろう?そこへ行きたい」

 

 

その言葉に対する返答をアウラは濁す。

 

 

「えっと……わかりました、ご案内します。フェンリル、待っててね」

 

「頼んだぞ、アウラ」

 

 

 

 

 

 

 

「此方になります」

 

 

アウラへと連れて来られたのは、木々が少し空けた広い場所だ。そこには古びて朽ちた遺跡のようなものが存在していた。朽ちているとは言ったものの、造形物としてはかなり立派なもので過去には大きな繁栄をしていたのではないかと思わせる。

 

モモンガはアウラの横を通り過ぎ、その遺跡に近づこうとすると影から静かに誰かが現れる。紺色の衣服が全身を包み胴には黒い鎧を身に着けており、顔を白磁の仮面を付け素顔を窺い知ることはできないが線の細さから女性ではないかと思われる。その者はモモンガの眼前まで行き、頭を垂れ膝を地に着ける。

 

 

「これは我等が絶対なる王、モモンガ様、そしてアウラ様……ようこそ御出で下さいました」

 

 

鈴のように美しい声が響く。彼女は『キアラン』この遺跡、アルトリウスの住居を守るNPCだ。

 

 

「キアラン、アルトリウスは居るか?」

 

「……居りません」

 

 

単刀直入に言われモモンガは言葉を失う。正直解りきっていた、だがもしかしたらという希望に掛けてみたかったのだがそれも打ち砕かれた。アウラはバツの悪そうな表情でキアランから視線をずらす。そうかとモモンガは言うと、彼女が現れた瓦礫の上に巨大なオオカミが座していることに気づく。

 

 

「あれは……」

 

「シフ!」

 

 

アウラはぱあっと表情を明るくしそのオオカミの名を呼んだ。『シフ』はアウラを一瞥すると瓦礫から飛び降りゆっくりとモモンガの元へ。先程のフェンリルとは違い、揺れる灰色の立派な毛並みはハイイロオオカミを沸騰させる。

 

 

「シフ、そこに留まれ」

 

 

静止の言葉を投げかけるキアランであるが、シフは留まることなく歩みを進める。キアランは仮面の奥で焦りに駆られ、一方のアウラは腰に束ねた鞭に手を掛ける。

 

 

「シフ!何故止まらない!!」

 

 

シフはモモンガの目と鼻の先までくるとすんすんと鼻を鳴らし、モモンガの匂いをかぎ始めた。次第にその次にくぅんと悲しげな鳴き声へと変わり瞳がモモンガと重なる。シフはオオカミ、人の言葉など発しない。だがその瞳から訴えようとしているのは何か、モモンガは気づく。

 

 

『私の友人はどこに居る?何故此処に来ない?』と

 

 

「すまない……シフ」

 

 

その言葉により耳と尻尾を下げ、振り向きそのまま何処かへと歩いていった。残されたモモンガ達には何処となく良くはない空気が流れる。するとキアランは

 

 

「もしかしたら……シフはモモンガ様から、アルトリウスの匂いを感じたのかもしれません。我々は彼に作られし存在、そしてシフは何よりも彼を信頼しておりますゆえ……彼の匂いがしたため帰還したのではないかと考えたのでしょう」

 

「そうか……」

 

 

どうしようもできない、自分には彼女達に何を、どんな言葉を投げかければ良いのか解らないのだ。

 

 

「……邪魔をしたな、キアラン」

 

「いえ、何か御座いましたら私共をお使い下さい。貴方様の盾となり、刃となりましょう……」

 

「ああ」

 

 

アウラに行くぞと声をかけ、再び森へと戻っていたモモンガ達。キアランはそれを見届けると彼女もまた遺跡の影へと消えていったのだった。

 

 

 

 

 

 




生で受ければ瞬時にHPは奪われ、盾で受ければスタミナは一気に削れ、しかも大抵複数体いる。奴等は本当に許しがたいですね。

車輪スケルトン、お前のことだよ。


この作品における、アルトリウスの種族データを簡単ではありますが記載いたします。

アルトリウス 異形種

通称 深淵歩き
    忠義の灰騎士

役職 至高の41人 切り込み隊長

住居 ナザリック地下大墳墓 第六階層森林エリアの古びた小さな遺跡

属性 ??? カルマ値:0~???

種族レベル デスナイト:15レベル
      アンデッド:15レベル
      ゴーストナイト:10レベル
       ほか

職業レベル ソードマスター:10レベル
      ベルセルク:10レベル
        ほか


このようになっとります。ちなみに、今回登場したアルトリウスのNPCキアランとシフは他のNPCとは違い、アルトリウスを『友』と認識させております。


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第三話

お気に入り件数が250件を超えました。この作品をご覧の方々、本当に感謝の言葉以外見つからない程感激しております。皆様が少しでも面白いと思える作品にしていこうと心より思います。


「はぁ」

 

 

軽いため息を吐きながら、灰色鎧の騎士、アルトリウスは剣を地面へと突き刺し立てる。足元には袈裟に、縦真っ二つに、首を一閃にされたオーガの死体が転がっていた。一体の死体にどっかりと腰を下ろす。硬いのか軟らかいの良くわからない、居心地の悪い感触だ。彼がこのオーガ達と戦った感想は一つ

 

弱い

 

あまりにも弱すぎる、この程度だとは思っていなかったのだ。だが今のは所謂

 

 

「フル厨装備にして戦う、序盤の亡者兵士と言った所か」

 

 

ボソッと呟き、自分の手を見る。オーガを切り裂いたときの感覚、周囲に漂う生臭い血の香り。どれもユグドラシルで体験することの出来ないことであった。もしかしたらゲームの世界が現実になったのではないか?彼は推測する。あり得ない、それはあまりにも非現実的すぎる。だが、目の前の現実を見てしまうとその説は濃厚になってしまう。

 

ともあれと立ち上がり、剣を背中に納める。こう大剣を背中に携えると、今から冒険でも始まるのでないかと、気分は幾分高揚する。

 

 

「まずは……」

 

 

もしこの場にモモンガが居れば何をするか、情報収集だ。彼ならまずは情報を集め、これからの行動方針を決めるべきと判断するだろう。

 

 

「さて、どちらに向かうか……」

 

 

左右を見渡すと彼からまたため息が漏れる。

 

 

「とりあえず宛もなく歩くか、邪魔者は多そうだが」

 

 

先程と同種のオーガであろう。数も十体前後、視界に映る肉の壁はアルトリウスに不快感を覚えさせる。面倒だ、只それだけを口から放つと

 

 

 

 

 

「――消えろ」

 

 

 

 

 

森の鳥達が一斉に飛び立つ―――

 

森の生き物達が逃げ惑う―――

 

森の全てが震える―――

 

 

 

 

 

「ぐおおぉ……」

 

 

アルトリウスから放たれる異常までの殺気、オーガの群れは一匹残らず口から泡を吹き地面に身体を倒した。彼は心底驚く、ほんの少し、本当にほんの少し殺気を込めて言葉を放ったのだが、まさかオーガ達が気絶するとは微塵も思っていなかった。

 

 

「……」

 

 

言葉を失うアルトリウス。

 

 

「……行くか」

 

 

オーガに視線を向けず足を動かす。宛てもない旅、今まさに始まったのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が歩き始めてある程度時間が経った。太陽かれこれ二回、月も二回昇った。途方もなく歩き続けたのだが、彼の身体には異常が起こっている。いや、特別病的な事は起こっていない、寧ろ絶好調なのだ。それが本来であれば妙な話しになる。何故ならアルトリウスは一切休みも取らず、ずっと足を止めないからだ。

 

疲労感もない、空腹感もない、睡魔すら襲ってこない。間違いなく自分の身体は異常だと。病み上がりの身体だ、疲れたら休みもうとしたが幾ら歩いても疲れないためこうしているのだ。

 

 

「俺の身体……どうなってんだ……」

 

 

ただ疲れないのはある意味良いことだと、無理矢理良い方向へ考える。そうでもなければやってられないだろう。幸いオーガのようなモンスターの類いは襲いかかってこない、まるでアルトリウスに恐怖を抱いているように一定距離を置いて彼の様子を伺っているのだ。

 

すると遠目であるが、森の先に村と思わしきものが。ようやく人間に会えると解ると足取りが軽くなる。

 

 

「まずは情報収集といこうか」

 

 

 

 

 

 

 

「すまない」

 

「はい?ひっ!!」

 

 

第一村人発見!と意気込んで話しかけたのだが、予想外の反応が帰ってくる。ふとアルトリウスは自分の姿を考えてみた。

 

明らかに大の大人よりも頭1つ抜けた2mはある身長、全身を包む鎧。本来なら顔が見えるような兜なのだが、顔の位置は井戸の底の様に暗くなっている。更には背中に身の丈ほどを剣。これで警戒か恐ろしいという感情が出ないほうが変だろう。

 

 

「警戒しなくてもいい、私は旅のものだ。この辺りの周辺地理を知りたいのだが、村長の類は居るか?」

 

「は、はあ……少々お待ちを」

 

 

アルトリウスは第一村人(彼命名)が小走りで走っていくのを見届けると

 

 

(……装備変えといたほうが良かったか?流石にこれじゃ目立つだろうし)

 

 

マントを摘まんで離した後、腕を組み悩む。どうやらアイテムボックスは健在の模様で、前に取り出した深淵の大剣以外にアイテムは残っており、彼がユグドラシルを退く前の状態で保存されていた。中を色々確認して安心したが、在ろう事か糞団子まで残っていたのは別の話だ。すると先程の第一村人が戻ってくる。

 

 

「お待たせしました、村長の元まで案内します」

 

 

ああと小さく頷きアルトリウスは第一村人の後を付いていく。流れていく村の光景を見ていくと、まさにファンタジー世界の一般的な村と呼べるような家屋が並んでいる。それと刺さる村人からの視線が地味に痛いとアルトリウスは少し肩身狭い思いを味わうことに。第一村人がとある家の前に止まると

 

 

「ここが村長の家です」

 

「助かった、礼にこれを」

 

 

腰元から取り出すような仕草で、アイテムボックスを開き何かを取り出す。第一村人はアルトリウスに金の硬貨を手渡された。

 

 

「こ、これ、金!?」

 

 

驚く第一村人を放置し扉を開ける。普通の人間サイズの扉の為、少しかがんで扉をくぐるとそこには白い髭を生やした老人が居た。

 

 

「旅のお方、ようこそ御出でくださいました。わしがこの村で村長をしておりますペトルスと申します」

 

「は?」

 

「な、何か御座いましたでしょうか?」

 

「い、いや……(何であれと同じ名前してるんだよ、思わず反応しただろうが)」

 

 

アルトリウスのやや怒気混じりの声に村長は、何か失礼に当たることをしただろうと思い焦る。

 

 

「すまない、何でもないんだ。私の名はアルトリウス、旅の者だ。今回尋ねたのは、この周囲の地域等が知りたくて来た。何分この地に踏み入れたばかりでな、右も左も解らん状況なのだ」

 

「成るほど、解りました。では……」

 

 

そこから村長から様々な情報を得た。周辺国家、地理状況。どの国や地域はどれも彼が聞いたことのないものばかりであった。それと一つ、城塞都市エ・ランテルという場所があり、そこには冒険者が集まる組合が存在しこの村から多少は近い都市とのことだ。

 

 

(更に情報を集めるならば、そのエ・ランテルに向かうべきだろう)

 

 

一つでも多い情報は欲しい、彼の頭の中ではそれで一杯だ。村長は何やらごもりつつ

 

 

「ア、アルトリウス様は何処かの騎士様であったのでしょうか?」

 

「何故そう思う?」

 

 

一瞬だけ村長はアルトリウスの背後に置いている、深淵の大剣に視線を移す。

 

 

「その立派な剣と鎧、そしてその立ち振る舞い。何処かの国に居た高名な騎士様と思いまして」

 

「……そうだな、とある場所の王へ仕えていた騎士……間違ってはいない」

 

「おお!やはりそうでしたか!」

 

「ふむ……では村長、私はこれで失礼するとしよう。貴重な情報、感謝する。それと村の者達を脅えさせて申し訳ない」

 

 

深々と頭を下げるアルトリウスに村長は両手を振り

 

 

「いえいえ、お気になさらず!」

 

「それとこれは気持ちばかりの礼だ、先程の村人の一人に渡したものと同じものであるが」

 

 

机の上に第一村人に渡した物と同じ硬貨を二十枚ほど置く。

 

 

「金の……硬貨?」

 

「どれほどの価値があるかはわからんが、偽物ではないはずだ。鑑定して売れば少しは足しになるだろう」

 

「感謝いたします、アルトリウス様。それでどちらに向かわれるので?」

 

「エ・ランテルに向かおうと思う」

 

「でしたらここから東に向かったところに、カルネ村という場所があります。途中で寄るのもよろしいでしょう」

 

「感謝する、それでは」

 

「お気をつけて、貴方様の旅にご加護を……」

 

 

深淵の大剣を再びある場所へと携え、別れの言葉と共に村長の家を出るアルトリウス。だが扉を閉めたとき、兜の天辺に付けている房が挟まって非常に滑稽な姿を見せてしまったのは、彼にとって大きな(内面的)ダメージになったいう。

 

 

 




この間のモモンガの行動は基本原作どおりです。ええ、勿論アルベドのおp……失言するところでした。
ちなみに今後もシフ、キアラン以外のダークソウルのキャラを出していきたいと思いますのでお楽しみに。

それと、アルトリウスって日本声優を採用すれば、どんな声していそうですかね?渡し的にはクールな声のイメージがございます。

今回のアルトウスはモモンガと同じく演技をしております。彼が演技すると若干壮大な態度へと……


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第四話

カルネ村の戦いがこれより始まります。ここから展開が変わっていきますのでご了承ください。気づけばお気に入りをしてくれた方々が600以上……本当に嬉しくて気分が高揚します!!


「ぐぁあ……だず、げで……」

 

 

鎧の兵から悲痛な叫びが木霊する。声を発しただろう地面に倒れた兵の胴体に人の頭部ほどの幅はある剣が突き刺さっている。剣はずるりと持ち上がり

 

 

「ぎゃっ!!!!」

 

 

トドメを刺すように再び深く突き入れられる。絶命した兵は白目を剥きながら絶望に満ちた表情をしていた。回りに居る兵は恐怖し慄く、目の前に居る絶対的な力を持つ存在に。

 

ああ、そこに無惨に貫かれた仲間の様に自分達も殺されるだろう

 

そこに居る鎧の騎士に―――

 

 

 

 

 

数分前―――

 

 

 

 

 

「ふむ……」

 

 

豪華な漆黒のローブを纏った骸骨が鏡を見ながら、右手を伸ばしスライドさせたりしている。鏡にはその姿は映らず代わりに広大な草原が。

 

「この遠隔視の鏡《ミラー・オブ・リモート・ビューイング》の操作方法が解れば……」

 

声の主、モモンガは傍に居るセバスに聞こえないほどの声で呟く。指定したポイントを映し出す鏡型のアイテムでユグドラシルでも微妙と評価される物であったが、今となっては外の風景を見ることが出来る貴重なアイテムとして重宝される。

 

この遠隔視の鏡の操作を解明するために彼此一時間費やしていた。だが一向に解らず、こうして今も尚奮闘している。

 

 

(飽きたなぁ……)

 

 

だが投げ出すわけにもいかない、少しでも貢献しなくては彼の下にいるナザリックの者達に申し訳がたたないくなる。適当に両手を動かしていると

 

 

「おっ!」

 

 

俯瞰で見ていた視点が更に広くなり、より広範囲を見ることが可能になった。モモンガは喜びから声が上がる。するとセバスから拍手が起こる。おめでとうございますと言葉を受けた後

 

 

「流石としか申し上げ様がありません」

 

 

それほどの仕事はしていないのだが、ここまで付き合ってくれたセバスからの賞賛を素直に受け入れるモモンガ。

 

 

「ありがとう、セバス。長く付き合わせてすまなかった、本当に感謝している」

 

「主の御側に控え、ご命令に従うこと。それこそが私の生み出された存在意義です」

 

「そうか……もう良いぞ、下がって休め」

 

「いえ、モモンガ様がこうしてご奮闘されているのです、休むわけにはいきません……御厚意は非常に嬉しいのですが、執事は常に主に最後までお付き合いするもので御座います」

 

「……そういうものか」

 

 

真面目だなと内心呟く。さて、ともう一度鏡に向き直り操作を再開する。景色が流れ森が見え始め、村の様なものも確認できた。拡大していくと

 

 

「……祭り、か?」

 

 

村人であろう人間が慌しく動き回る。セバスが鏡の光景を目にすると

 

 

「いえ、どうやら祭りではないようです」

 

 

よく見ると村人達の近くには、全身を鎧で固めた騎士風の者達が。手にしている剣で一人、また一人とその騎士に切り殺されていく村人、抵抗も出来ないまま散り逝く命。

 

虐殺だ

 

目を覆いたくなる光景が遠隔視の鏡を通してモモンガの視界に入る。しかし彼はこの凄惨光景を見ても何も感じない、身体がアンデッドになってしまったからだろうか?その影響で心までも変わってしまったのからだろうか?恐ろしいほどに冷静で居る。もうこの村には価値はない、そう思っている自分に毒づく。

 

 

(俺は……どうすればいい?この世界にやってくる前であれば、助けに行くと直ぐに動いていただろう。だが今の俺はこの村を助けたところで、ナザリックの利益になるのかと考えている……こんな時たっち・みーさんが居れば、アルさんが居れば……!!)

 

 

すると突然動かなくなったモモンガを心配してか、セバスが声を掛ける。

 

 

「どうなさいました?」

 

「……何でもない」

 

「そうですか……それで、この村はどう致します?」

 

 

見捨てる。そう言おうとしたが、頭の中で別の言葉に書き換える。

 

 

「た、たっち・みーさんなら……アルトリウスさんならこの光景を見たら何と言うと思う?」

 

 

他人便りだ、自分で答えを出せないからセバスに聞くしかない。ナザリックの頂点に立つ者としてその言葉は如何な物か?セバスがそう答えると思い、今の言葉を撤回しようとしたが

 

 

「恐れ多きながら御答えさせて頂きます。たっち・みー様ならば『誰かが困っていたら、助けるのは当たり前』と、そしてたっち・みー様の御親友アルトリウス様がこの光景をご覧になっていたら『一瞬でもやりたいと思ったら、自分の意思を信じて行動すればよい』と仰るでしょう」

 

「!?……ッ」

 

 

そうだ、もし二人が居れば間違いなくセバスの言った事をそっくりそのまま言うであろう。目の前には困っている者が居る。一瞬でも助けたいと思った自分が居る。ならばやるべき事は一つだ

 

 

「セバス、私はこのナザリックの主。そうだな?」

 

「はい、モモンガ様はナザリック大地下墳墓の絶対なる支配者、その事実に揺るぎは無いかと」

 

 

セバスは胸に手を当て畏まり言う。

 

 

「ならばセバス、たっち・みーさんやアルトリウスさんの……アインズ・ウール・ゴウンの皆の意思を継ぐ。それがナザリックの主がすべき行動とは思わんか?」

 

「おお……それこそナザリックの主たるお言葉!そうで御座いますね……そうなさって頂けるならたっち・みー様達もお喜びになられるかと思います」

 

 

感銘を受けたセバスは深々と頭を下げてモモンガへと言葉を送る。

 

 

「この世界での私の力を確かめる良い機会にもなろう……ナザリックの警備レベルを最大に引き上げろ、私はこの村へと行く。アルベドに完全武装で来る様に伝えろ」

 

「後詰の準備も、ですね。では村に隠密能力に長ける者と透明化を出来る者を複数送り込んでおきます」

 

「ああ、セバス、守護は任せる」

 

「畏まりました」

 

 

時間は無い、モモンガは直ぐにでも行動を起こそうと考えた。二人の意思を強く胸に抱きながら……

 

 

 

 

 

 

※ 

 

 

 

 

 

村から離れたアルトリウスは現在、カルネ村へと赴こうとしていた。

 

 

「しかしあの、村長は悪い人ではなかったな」

 

 

明らかに怪しいアルトリウスを拒絶することなく、迎え入れてくれた。最初は余所者と言われて門前払いをくらうかと思っていた彼には僥倖だ。だが全てが全て良い人間とは限らない、見極め然るべき行動をとらないと今後に支障を来すであろう。

 

 

「む?」

 

 

何処からか叫び声に似た声が彼の耳に届く、もしかしたら村が近いのではと。しかし先程の声は明らかに悲鳴のようだ。すると木々の間から鎧を来た男達が、明らかな敵意を持って彼の前に姿を現す。

 

 

「何だ貴様、この村の者か?」

 

 

モンスターの次は人間か、とアルトリウスは呆れ返る。今回は人間だから話し合えば穏便に済むのではないかと、お互い出来れば争いは避けたいところであろうと、淡い期待を胸に持つ。

 

 

「私は旅の者だ、この先の村に用が在って来たのだが……」

 

「残念だがこの先の村には行けんぞ。妙な姿をしやがって、おまけに図体は立派と来た」

 

 

アルトリウスを囲むように複数の兵士達が剣と盾を構えて並ぶ。最初に相対した時から避けられないような気がしていた、アルトリスは頭を抑えたくなる。

 

 

「こいつを殺せ!!」

 

 

先程アルトリウスに声をかけた男はこの兵達の上に立つものであろう。男が叫ぶと一人の兵がアルトリウス目掛け突っ込んでくる。

 

 

「うぉおおお!!」

 

「やれやれ……」

 

 

剣はそのまま彼に振るわれた……だが

 

 

「……へ?」

 

 

兵士の振り下ろした剣はアルトリウスの身体には届いていない。彼の左腕に刀身は握られていた。

 

 

「くっ!離せっ!!」

 

 

その左腕から剣を引き離そうと必死に引っ張るがビクともしない、まるで岩に深々と刺さった剣を抜くようだ。彼の左腕に力が込められると

 

パキン!

 

硝子を砕くような感覚でアルトリウスは剣を握り潰した。パラパラと自分の剣の破片が落ちていく様を兵士は唖然として見ている。いや、目の前の現実を認識できなかったのであろう。

 

 

「え?何で?何で剣が……がっ!」

 

 

突如空いた右腕で兵士の頭を鷲掴みにし地面へと落とすと、グチャッという音と共に地面は赤く染まる。

 

 

「……は?」

 

 

何が起こったと言わんばかりに兵達はアルトリウスの腕に視線が集まる。仲間が頭を掴まれた後何をされた?そのまま地面に倒されてからどうなった?兜はぐしゃりと潰れ、守っていた中身は形状を維持することなく潰されたのだ。兜の隙間からは脳髄と思わしき固形物がはみ出ている。

 

アルトリウスは潰した兵を一瞥し

 

 

(あの化け物を殺す感覚と同じ……人間を殺す事に何の躊躇いも無い、何の罪悪感も無い。辺りを飛び回る虫が邪魔だから殺す、そんな感じだ。俺はもう……人間では無くなったんだろう)

 

 

この世界に来て少し経った後に気づいたことだ。自分はもう、心も身体も人間ではない。『洞上翔』ではなく『アルトリウス』として此処に居るのだと。

 

ようやく状況を理解できた男が

 

 

「何をやっている!相手は一人だぞ!?全員で殺しにかかれ!!」

 

 

怒号により兵士達はやぶれかぶれとなってアルトリウスに襲い掛かる。彼は深淵の大剣の柄に右手を添え

 

 

「ふっ」

 

 

抜刀の勢いのままその場で回転する。動きが止まると同時に兵士達も動かなくなった。そして二秒経つと全員の身体がずるりと滑り落ちた。刀身に着いた血を払い肩に置き、アルトリウスは男の方を向く。

 

 

「ひ……ひっぃいい!!!!」

 

 

今度は直ぐに理解できたのだろう、恐怖の色に顔を染め上げ股の辺りに染みが出来ると、後ろを向き逃げ出した。

 

 

「逃がさん」

 

 

アルトリウスは姿勢を低くし、走り出しその後を追ったのであった……。

 

 

 

 

 




冒頭のワンシーンはアルトリウス初見ムービーのような感じですね。今思えばあの時から彼に惚れて居たのでしょう……

後にキアラン達のデータを記載いたします。

DLC来る前は森で結晶エンチャの物干し竿で遊んでいた記憶があります。今もまだ森で対人が起こってるとか。久々に起動しようかなぁ……暗月技量or結晶技量とかのデータがメインでしたがw


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第五話

エンリ・エモットは森林の中を走っていた。一人ではない、妹のネムを連れてだ。何故彼女たちはこうして走っている?簡単だ、命を狙われているからだ。

 

エンリとネムは何時もと変わらない平穏な日常を送っていた、筈だった。村人の一人がバハルス帝国の紋章を鎧の胸元に刻んだ騎士に殺された。そして家族の下に逃げたが騎士達は家にも迫ったいたのだ。父と母はエンリ達を逃がすために騎士の進行を阻んだ、その命と引き換えに。

 

だが逃げ切れなかった。ネムが体勢を崩したのに釣られ、彼女も転んでしまう……直ぐ側には騎士達が。殺される、父や母のように。妹だけでも守らなければ。庇う様に騎士に背を向けると

 

 

「くぅっ!!」

 

 

背中が熱くなる、それと同時に心臓の鼓動が早くなる、熱さから激しい痛みへと変わる。死ぬだろう、騎士達に切り殺され無残にも、妹を守れずに。目を閉じ覚悟をする。

 

 

(せめてネムだけでも……けど、もう……駄目なのかな……?私、死ぬのかな?)

 

 

違う、彼女はまだ死にはしない。何故なら───

 

 

 

 

「心臓掌握グラスプ・ハート」

 

 

 

 

「かぁっ」

 

 

騎士は息を吐き出すような声を上げその場に崩れ落ちる。エンリは何が起こったのか顔を上げるとそこにはこの世のものとは思えない者が居た、死神だろうか、自分と妹を死へと誘う。死神はこちらに向かって歩き出す、気づけば妹の身体が震えていた。目の前に居る圧倒的な存在に恐怖を感じない方が妙な話だ。

 

だが死神は自分たちに目もくれず横を通り過ぎる。

 

 

「ふむ……」

 

 

死神……いや、モモンガは心臓掌握が成功した事に、というより自分の魔法自体が相手に通用した事に喜ぶ。この世界は未だ未知数だ。敵となる者が自分よりも10、100倍近い力を持っていれば太刀打ち等出来ないであろう。今回は襲われていた村を助けに来たついでに自分の力を試す意味合いもあった。そして解ったことはもう一つ、自分の内面的な事だ。先程自分が殺した騎士を見る。

 

――人を殺してもなんとも思わない。

 

何故か、やはり肉体がアンデットだからであろうか。まあいいと内心呟き、残った二人の騎士に視線を戻す。

 

 

「ば、化け物!!」

 

「そうだ、化け物だ。それで?その化け物相手に貴様等はどうする?」

 

 

その気迫に圧され一歩後ずさる。さあ次はどの魔法を試してやろう、そう思ったのだが騎士達の背後の木陰からもう一人騎士が増える。増援かとモモンガは考えるが何やら様子が可笑しい。肩で息をし何から逃げるような……騎士はモモンガに目もくれず仲間に

 

 

「おい!逃げるぞ!奴が追って──」

 

 

影が騎士を覆った。その瞬間──

 

 

「ぎゃあっ!!」

 

 

突如として飛来した何かがよって、地面に身体を括り付けられるように倒れる。

 

 

「ぐぁあ……だず、げで……」

 

 

死に物狂いで助けを求める騎士。胴にはその身体以上の長さはある大剣が突き刺さっており、それがずるりと持ち上がると一気に

 

 

「ぎゃっ!!!!」

 

 

先程よりも深々と突き入れられた大剣。騎士の身体はビクッと跳ね上がり遂には微動だにしなくなった。剣の主である者はゆっくりと顔を上げ、向けられた視線は騎士達に恐怖を覚えさせ慄き始める。殺される、間違いなく、勝てるはずも無い。そこに居る骸骨の化け物は何やら動かない、逃げるならば今だ。

 

 

「にげろぉ!!」

 

「ひぃいい!!」

 

 

逃走、背を向け今まで出した事の無い速度で走る。逃げれればこっちのものだ、味方を引き連れて……その甘い考えは容易く崩れ去ることになるであろう。

 

 

「ぬうん!!」

 

 

剣を突き刺さった騎士の亡骸ごと持ち上げると、そのまま一気に振るう。亡骸は剣より離れ凄まじい勢いで逃走する騎士へと

 

 

「があっ」

 

 

短い悲鳴と共に激突し吹き飛ぶ。首は在らぬ方向へと曲がり確実に死を迎えた。

 

 

「まさ……か……」

 

 

モモンガは驚愕する。そこに居るのは間違いなくユグドラシルの最後を共にした友、そして此方の世界は来ず元の世界で幸せに暮らしているだろうと思った者だ。

 

 

「アルさん……」

 

「ん?ああ!モモンガさん!」

 

 

見た目から想像出来ないような軽い反応に彼が間違いなく、彼はアルトリウスだと解る。喜びのあまりアルトリウスの元まで駆け寄った。

 

 

「アルさん何で此処に──」

 

「モモンガさんストップ」

 

 

手を上げ待てというジェスチャーを取るアルトリウスは、剣を村の方角へと向ける。

 

 

「あそこの村、今どんな状況になってます?」

 

「鎧を着た騎士みたいな奴等が村人を殺しに回ってます」

 

「やっぱりか……モモンガさんが此処に居るということは、あの村を助けに来た……ってことでいいんですね?」

 

 

何時にも無い真面目な、表情は兜で解らないがその声から察することが出来た。肯定の意を示すようにモモンガは首を縦に振る。向けていた剣は次に彼の肩の上に行く。とんとんと数回剣で肩を叩き

 

 

「再会を喜んでる暇はありませんね、アルさん。先にやるべきことをやりましょう」

 

「賛成です、私は先に村に行って奴等掃討してきます」

 

「あ、少し待ってもらえます?」

 

「?」

 

 

心臓掌握によって殺した騎士に視線を向け

 

 

「中位アンデッド作成……デス・ナイト」

 

 

黒いドロドロとした物が現れそのまま死体へと覆いかぶさる。靄は死体へと溶け込んでいくと身体が一度跳ね上がり、ゆらりと立ち上がる。鎧の隙間などから黒い液体が溢れ始め、全体を包み込む。モモンガは「げっ」と若干引いた素振りを見せ、アルトリウスは「お~」と感嘆の声を上げる。

 

 

「アルさん何だが楽しそうですね……」

 

「こんな時に不謹慎かもしれませんが、こういうの結構好きなんですよ」

 

 

アルトリウスはダークファンタジー物に目が無い。こういった死体を操る魔法や魂を呼び覚ます魔法、それらに強く関心を持っている。昔モモンガの使う魔法を見て何時も目を輝かせていた。そして死体は姿を変えた。2mを越す身長へとなり姿だけではなく、鎧も武器も何もかもが変わり中位アンデット、デス・ナイトへと変貌した。

 

 

「よし、アルさん、デス・ナイトと共に奴等を殲滅してもらえますか?俺はあの少女の傷をどうにかしてから行きます」

 

 

脅え二人のやり取りを見ていることしか出来ない少女達の方向く。

 

 

「解りました、任せてください」

 

「お願いします。デス・ナイトよ、アルさんと共にこの村を襲っている騎士を殺せ!」

 

 

そう命じると

 

 

「オオオオォォォォォォ!!!!」

 

 

けたたましい咆哮を上げ、標的を殲滅せんと駆ける。アルトリウスもくるりと方向を変え今も尚殺戮が行われているであろう村へと向かうために、彼は森林の中をデス・ナイトを追うように駆け抜けていく。

 

 

 

 

 

 

 

仄暗くとても広い空間。灯りは中心にある、焦げた捻じ曲がった刀身の剣が立てられた篝火だけだ。そこには大きさはバラバラだが三つの影がある。一つは女性特有の細さを持った人影。一つはその影よりも大きく炎によって照らされる、その身体に纏った黄金の輝き。そしてもう一つはそれよりも巨大で野性味溢れる防具、肩には何かの骨だろう肩当てが装備されている。

 

 

「アウラ様とマーレ様から報告があったが、このナザリックは別の場所へと転移したらしい」

 

「別の場所だと?」

 

「ああ、何処に転移したかはまだ解らないが、ナザリック周辺は草原になっている」

 

「それは妙な話さね、大地下墳墓の周りは毒の沼地であろう」

 

 

兜によって顎は摩れないが、それに近い動きで「う~む」と野太い声を上げる巨人。

 

 

「周辺がどうなってるかはどうでもいい、我等がすべき事は一つ。最後に残ってくださった至高の41が一人……モモンガ様から受けた御命令。この領域を、ナザリックを守護する事だけだ」

 

「そうだなあ……アウラ殿やマーレ殿の気に入っているこの、あの者が帰るであろうこの場所を守る。それが私達が作られた意義であろう?」

 

 

小さな人影は立ち上がる

 

 

「そうだ……何時になるかは解らない、だが我等はそれでも待とう。彼が愛したこの地で……」

 

 

その言葉を皮切りに空間は闇へと閉ざされた。

 




この作品を見てアルトリウスに興味を持ってくれた方々が居て嬉しいですね~。
今回の騎士、私的にガッチガチに武器と防具固めて戦う、北の不死院の亡者ですね。つまりチュートリアル!!


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第六話

因果応報、したことは必ずや自分に帰ってくる、良いことも悪いことも。殺しているのだ殺されるのは当たり前だろう。アルトリウスは口には出さず、左右分割された騎士の死体を見てそう思う。

 

デス・ナイトと共に村へとやって来た時に最初に見た光景が、この騎士が老婆を嬲り殺しにしている所だ。必死に助けを求める罪無き者を、まるで虫の足を一本一本むしるように。アルトリウスは真っ先にこの騎士を深淵の大剣で縦に一閃した、不愉快だったからだ。ふとデス・ナイトを見ると次々に騎士を殺していく。

 

今手に掛けているのは金、金と叫んでいる男だ。哀れにもデス・ナイトの凄まじい力で踏まれ死が刻一刻と近づいている。他の騎士は誰も助けにいかない、目の前で仲間が殺されそうになっているのに。

 

 

「お、おだじゅけて――」

 

 

その言葉を最後に何かがへし折れる音と共に騎士は事切れた。推参な光景を目にした騎士達は錯乱したかのような悲鳴上げていく。

 

 

「落ち着け!!」

 

 

一人の騎士の怒号により辺りは静まりかえる。

 

 

「撤退だ!合図を出して馬と弓騎兵を呼べ!残りの人間は笛を吹くまでの時間を稼ぐ!あんな死に方はごめんだ!行動開始!」

 

 

その命令により騎士達は我に返り行動を開始した。この状況での的確な指揮、一糸乱れぬ見事な動き。アルトリウスはほうと声をあげ、指揮をした騎士に向かって歩く。騎士はアルトリウスを眼前に捉え迎え撃とうと試みる。

 

 

「名を知らぬ騎士よ、称賛に値する……人間は良い」

 

 

まるで喜んでいるような何処と無く優しげな声を騎士、ロンデスへと投げ掛ける。

 

 

「おおおお!!!!」

 

 

しかと柄を握りしめ、アルトリウスへと駆ける。正々堂々真正面から斬りかかる、良い男だ。こんな虐殺の指揮等しなければもっと優秀な指揮官になっただろうに、アルトリウスは残念がる。

 

 

「殺すには惜しいな……」

 

 

ロンデスの耳に聞こえたのはそれが最後の言葉になる。気づけば視界に首のない自分の身体が入り込んでいた……。アルトリウスは剣に付着した血を払う。

 

 

「……ん?」

 

 

デス・ナイトの動きが突然止まる。まだ四人ほど騎士は生き残っているのだが、上空から

 

 

「デス・ナイト。そこまでだ」

 

 

見上げるとアルトリウスは呆気に取られる。声の主は想像通りモモンガだ。しかし腕には籠手、胴には鎧、顔にはかなり奇妙な仮面を着けている。アルトリウスはその仮面が何なのかを熟知している。

 

『嫉妬の仮面』

 

クリスマスの夜に一定時間ログインしていれば、自動的にアイテムボックスに入るという謎のアイテムだ。つまりクリスマスなのに悲しくユグドラシルへログインしたプレイヤーへの哀れみ……なのだろうか。アルトリウスもこれを持っているが一度たりとも装備したことない。

 

 

(モモンガさん……他にいいのあったでしょうに……)

 

 

 

 

 

 

事態は収まった。モモンガさんは騎士達に脅しを掛け自分の飼い主の下へと逃がした。村は実質助かった事になる、尊い犠牲は出たが。村を救った対価としてモモンガさんは情報を求めた。当初の目的として私は情報を欲してこの村にも訪れようとし、この事態に関与したのだが……まさか彼とこんな場所で再会するとは思わなかった。

 

モモンガさんは情報を得たら俺にも提供してくれるらしい。こちらとしてはありがたい、それに北東に2キロ行った所にナザリックがあるらしい。私だけではなく、彼とナザリックもこの妙なファンタジー世界に飛ばされたとの事。どうやら私は然程遠くは無い場所へと飛ばされたみたいだ。もっと遠く離れていたらと思うとぞっとする。

 

そして現在、村長の家の前で私はモモンガさんが出てくるのを待っている。少し前に彼から非常に興味深いことを聞いた。それは……

 

 

「……」

 

 

無言で腕を組み、壁に背を預けて私の側で跪く女性を見る。黒い中々格好いい全身甲冑を身に纏い、こめかみからは山羊のような角だけが露出している。間違いなく、この女性は……

 

 

「アルベド」

 

「はい、どうなさいましたか、アルトリウス様」

 

 

綺麗な声で反応をしてくれる女性……アルベド。彼女はナザリックのNPC、感情を持たず只命令を待つだけの存在、の筈なのだがこの異世界へ転移した事により、他のNPCも同様に明確な意思を持ち行動しているとの事だ。

 

 

「何故私に対して跪いている?」

 

「貴方様は至高の御身の一人、忠義を尽くすのは当然です。アルトリウス様、一つお聞きしたい事があるのですが」

 

「……何だ」

 

 

アルベドは顔を上げその兜のスリットから、黄色の光が一瞬見えたような気がした。

 

 

「何故ナザリックから御姿を御消しになったのでしょうか?」

 

 

さて困ったものだ。病気になってて入院した、等と言っても信用は無いかもしれん。現実世界なら通るが、この世界では通らんだろう。

 

 

「……ナザリックよりも遠い地へと行っていた、様々な経験を得るために。私は学んだ、私自身の視野の狭さに……」

 

 

嘘は言っていない、入院中は本当に様々な経験をしたのは事実。現に私は己の視野の狭さの、器量の小ささのせいで何度も失敗をした。チラリとアルベドを見る。

 

 

「……つまり、己の力を高めるために旅に出たということですね!」

 

「……へ?」

 

 

今少し違う事をいった気がするが……何故そんなにスリットの奥がキラキラしている!!

 

 

「何て素晴らしいお考えなのでしょう!我等守護者よりも強く、気高い存在であるアルトリウス様が、更に高みを求める為に……現状で満足している私達とは雲泥の差、貴方様を見習い、私も向上心を持たねばなりません!」

 

「ああ……うん、これからも励め?」

 

 

はいとアルベドは良い返事で返してくれた。

 

 

「てっきりアルトリウス様は私達とナザリック、そしてモモンガ様を見捨てたとばかり思っていました……ああ、何て私は愚かなのでしょう」

 

 

その言葉に胸が少しだけ痛む。私に残った人の心が軋んでいるのだろうか?アルベドは更に深々と頭を垂れる。

 

 

「御許しください、アルトリウス様」

 

「いい、誰にも告げずに姿を消したのは私だ、非は私にある……そうだな、この案件が終わったら私はナザリックへ帰還しよう」

 

「それは大変喜ばしいことです。皆も同様、喜ぶことでしょう」

 

 

ふと思い出した、私のNPC達を。あいつらもアルベドと同じように意思を持っているのだろう、会うのが楽しみだ。そうこう話していると、モモンガさんが村長の家から出てきた。

 

 

「お待たせしました」

 

「いえいえ、それで情報は得られましたか?」

 

「はい、十分とは言い難いですが現状で満足するしか」

 

「そうですか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

村では葬儀が行われ、死んでいった者達を弔っている。先程モモンガが助けた少女達も両親の墓の前で泣き崩れていた。モモンガ……いや、『アインズ・ウール・ゴウン』とアルトリウスはその様子を遠くから見ていた。

 

モモンガは自分とアルトリウス以外のギルドメンバーが現れるまでその名を語るつもりとのこと。それと同時に皆の意思を継ぐと言う意味でもあるらしい。アルトリウスはそれを快く承諾した。アインズ・ウール・ゴウンは長い間彼一人の手で継続できたに等しい、ならばその名はモモンガの為にあると。そして皆が戻ってきたら、モモンガに戻れば良いと。

 

 

「それで死んだ村人を蘇えらせようとしてるんですか?」

 

 

アルトリウスはアインズが、ロープの下で撫で回しているワンドを見て投げかける。

 

 

「蘇生の短杖《ワンド・オブ・リザレクション》で果たしてこの世界の人間が蘇るかどうか解りません。もし効果が無くこれが消失したとしてもまだストックはかなりあります」

 

「それは止めておいた方がいいでしょう、人間は死にます、遅かれ早かれ。そしてどんな存在にも生まれた時から死というのものが付き纏います、その道理は私達が幾ら人間から懸け離れた存在になったとしても覆してはいけない気がします」

 

 

軽く首を横に振りアルトリウスはアインズに向き直る。

 

 

「すいません、変なことを言いました。異形になった私が何を言っているのでしょう」

 

「いえ、今の状況を考えて何もかも不足している事態ですし、下手に蘇生させて妙な状況になっては目も当てられませんから。それに蘇生させるメリットがありませんからね……」

 

「……難儀なものですね」

 

 

すると葬儀が終わり、一人の青年がアルトリウスの元へと走ってきた。

 

 

「えっと、アルトリウス様でよろしいのですよね?」

 

「ああ」

 

 

腰を勢いよく曲げ、頭は腰よりも低い位置に下げる。

 

 

「祖母の敵を取ってくれてありがとうございます!」

 

 

ふとアルトリウスは思い出す、騎士に嬲り殺しにされた老婆を。彼はその老婆の孫か何かだろう。

 

 

「……君はそれで良いのか、私を恨んでないのか?私が間に合っていれば君の祖母が助かったのだぞ?」

 

 

青年は口ごもるが

 

 

「確かに……そうですけど、あそこで死ぬのが祖母の運命だったのかもしれません。ですが、祖母の命を奪ったあの騎士が平然と生きている方が僕にとって何よりもも許せない……あの時、騎士が貴方の手で殺されたとき、僕は貴方を恨むよりも感謝の気持ちで溢れかえりました。だから、お礼を言わせてください。ありがとうございました!」

 

 

もう一度頭を下げると村へと駆けて行った。アルトリウスはアルベドからピリピリとした気配を感じ、アインズもそれに気づき

 

 

「アルベド、お前は人間は嫌いか?」

 

「はい」

 

 

即答かとアルトリウスとアインズは内心突っ込む。アルベドは更に言葉を続けた。

 

 

「脆弱な生き物、下等生物。虫のように踏み潰したらどれほど綺麗になることでしょうか」

 

 

アルベドの過激な言葉にアインズは頭を抑える。アルトリウスが一歩前に出ると

 

 

「確かに私達異形なる者にとって人間は弱い、指で突けば弾け飛ぶだろう、撫でれば潰れよう。だがな、人間には私達に無い強さがある」

 

「私達に無い強さ?……それは一体……」

 

「それは自分で気づけねば意味が無い……精進せよ」

 

 

付け加えるように

 

 

「アルベドの気持ちは十分にわかる、その考えを捨てろとは言わん。だがこの村では冷静に、優しく振る舞え。演技というのも重要だぞ」

 

「はっ、畏まりました」

 

「よし、ではアルベド、アルさん。ナザリックへと帰るとしましょう……と言いたいが」

 

 

モモンガの視線の先には、緊迫感のある表情をしたカルネ村の村長。彼が此方に向かって駆け寄ってきたのであった。アインズは小さな声で

 

 

「また厄介事か……」

 

 

 




この世界で月光剣とか出たらどんな位置づけになるんですか気になります。月光剣だけではなくて他の特殊な武器も上位に組み込みそうです。

※内容を少し修正しました。


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第七話

「……どうかされましたか、村長殿」

 

「こっちに馬に乗った騎士風の者が近づいているそうで……」

 

「ふむ……」

 

 

アインズとアルトリウスは顔を見合わせると、アインズは頷き

 

 

「任せてください。村長殿の家に生き残りの村人を至急集め、村長殿は達と共に広場へ」

 

「はい!」

 

 

今も尚健在しているデス・ナイトも引きつれアインズ達は広場へと赴く。すると村長の言った通り、此方に向かって騎士風の者達が複数やってきた。彼等は先程の帝国の紋章を入れており、装備を統一させていた騎士達とは違い、簡潔に言えば装備の纏まりが無い者達だ。

 

広場に到着すると綺麗に整列し、馬に乗ったまま一人の屈強な風貌をした男が出てくると、アルトリウスとアルベドはアインズよりも一歩前に移動する。男はデス・ナイトに視線を向けた後、アルベド、アルトリウス、アインズの順に視線を変えていく。

 

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長『ガゼフ』。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を退治するために王の御命を受け、村々を回っている者である」

 

「王国戦士長?」

 

 

聞きなれない単語に思わずアインズは疑問符を浮かべる。

 

 

「王国戦士長……確か王国の御前試合で優勝を果たした人物で、王直属の精鋭兵士たちを指揮する者、王国最強とも唱われている……だな」

 

「アルトリウス様の言う通りです……本物かどうかは……」

 

 

以前に訪れた村で得た知識を口に出すアルトリウスに村長は相槌を打つ。

 

 

「この村の村長だな?横に居る者達は誰だ?」

 

「初めまして、王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が騎士に襲われておりましたので助けに来た魔法使いです。彼女は私に仕えている戦士アルベド、そして」

 

「アインズ様に仕える騎士、アルトリウスだ」

 

 

各自己紹介が終えたことでガゼフは馬から降りアインズに頭を下げる。

 

 

「村を救っていただき感謝の言葉も無い」

 

「(ほう……)」

 

 

ガゼフの行動にアルトリウスは感心を覚えた。王直属の戦士だ、それを鼻に掛ける者だって居る。だが彼からはそんな雰囲気は感じられない。アインズ達のような身も知らず、ましてやあからさまに怪しいであろう者に対して頭を下げ感謝の言葉を出す。アルトリウスはガゼフに興味を持ち始める。

 

 

「いえいえ、実際は私も村を救ったことによる報酬目当てですから、お気にされず」

 

「そうか……では申し訳ないが、どのような者達が村を襲ったのか、詳しい話を聞きたいのだが?」

 

「少しお待ちください」

 

 

アインズは何も無い空間に腕を突き出すと、彼の腕の先が黒い空間に消える。そこから損傷の少ない鎧を取り出す。ガゼフや村長達は驚く表情を見せるが、一方のガゼフは直ぐに引き締める。

 

 

「この鎧の持ち主がこの村を襲っておりました」

 

 

取り出された鎧を受け取り、様々な角度からガゼフは見る。

 

 

「……確かにこれは帝国の鎧のようだな、だが中身はそうなのかは確証できない」

 

 

鎧の形状と紋章を見てガゼフは村長の方を向き

 

 

「もしかしたら、スレイン法国の騎士が帝国の振りをしていたという可能性があるわけです。帝国と王国の仲を更に悪化させるために」

 

「な、なんと……」

 

「さて、アインズ殿。もうしわけないがこの鎧を頂いていきたい」

 

「構いませんが1つだけ条件があります」

 

「条件?」

 

 

ガゼフは眉間に皺を寄せる。金銭か?それとももっと別の?ガゼフは様々な事を考えたが

 

 

「彼処に居る私の僕がいます。デス・ナイトと言うのですが、あれと一戦交えて欲しい」

 

「なっ!?アインズ様!?」

 

 

真っ先に反応したのは村長だ。

 

 

「王国最強の力を是非この目に焼き付けておきたいのです」

 

「……了解した、皆も構わないな?」

 

「戦士長がお決めになったのなら」

 

「異論はありません」

 

「えぇ!?」

 

 

ガゼフの部下達も口を揃えて肯定を示す。アインズは内面でほくそ笑む。王国最強、もし今後の害になるようであれば此処で力を把握しておこうという魂胆だ。もしデス・ナイトよりも強ければそれ相応の対応を、もし弱ければそれまでだ。しかしアインズも予想しない人物が動き出す。

 

 

「お待ちくださいアインズ様、彼とは私が戦いたいのですが」

 

「え?」

 

 

思わず間抜けな声を出してしまうアインズだが

 

 

「ごほん!アルトリウス、何故だ?」

 

「王国最強という異名をもち、見る限り相当な剣の使い手。同じく剣士である私と純粋にどちらが上か、興味がありまして」

 

「む……わかった、アルトリウスに一任しよう」

 

「感謝します……ということだ、私が相手で構わないな」

 

「異論はない」

 

 

よしとアルトリウスは呟き、アインズと伝言《メッセージ》で会話を始めた。どうやら伝言はアインズとアルトリウスが接触したことによって使用することが出来るようになったようだ。

 

 

『すいません、しゃしゃり出てしまって』

 

『いえ、でもなんでアルさんは彼と戦いたいと?』

 

『さっきもいった通り、純粋に興味があるのですよ』

 

 

伝言を切りアルトリウスとガゼフは広場の真ん中へと相対する。ガゼフはバスタートソードを両手で、アルトリウスは深淵の大剣ではなくクレイモアを右手で構える。

 

 

「怪我をしても恨まんでくれよ」

 

「それは此方の台詞だ」

 

 

互いに視線は反らさない。審判を申し出たアインズが

 

 

「両者構えてください……では、始め!」

 

 

火蓋は切って落とされた。先に動くのはガゼフ、アルトリウス目掛けてその手に持ったバスタートソードを振るう。アルトリウスはクレイモアでその一撃を防ぎ

 

 

「でやぁぁぁぁ!!!!」

 

 

力強く横薙ぎに剣が流れ、剣を縦にすることでそれを遮る。二秒ほどつばぜり合い、ガゼフは更なる猛攻を加える。そこから数回に渡る剣劇が繰り広げられた。

 

ガゼフの剣はその鍛え上げられた体から繰り出される激しくも華麗な剣舞。アルトリウスはその体躯では想像できない素早く隙のない動きで全ての攻撃を捌いていく。ガゼフは一旦距離を置き

 

 

「やるな、アルトリウス殿。だが、このままでは埒があかん。武技を使わせてもらおう」

 

「武技?」

 

 

剣を強く握り締め再度アルトリウスに肉薄する。

 

 

「うおおおお!!《四光連斬》!!」

 

「!?」

 

 

打ち出されたのは四つの剣閃、それを受け止める。

 

 

「まだまだぁ!!《六光連斬》!!」

 

 

次は六つ、激しい火花を散らしバスタートソードとクレイモアはぶつかり合う。ガゼフは更に《流水加速》と叫ぶと突然動きが速くなる。剣を引き切っ先が向かってくるが、クレイモアの刀身で受け止める。

 

 

「これが……武技……!」

 

 

 

 

「何だ、あの騎士。戦士長の攻撃防ぐだけで精一杯じゃないか」

 

「まだデス・ナイトだっけ、そっちの方が強そうだったな」

 

 

ガゼフの部下が口を揃えてアルトリウスの事を言う。アルベドは部下達を睨むが、アインズが彼女の肩に手を置く。

 

 

「アインズ様……」

 

「抑えろ、アルベド」

 

「しかしよろしいのですか?あの下等生物共はアルトリウス様を罵倒しているのですよ?」

 

 

低く、凄みのある声でアルベドは言うが、一方のアインズは何やら余裕な雰囲気を出す。

 

 

「確かにあの人が罵倒されるのは許されざることだが……あの人は負けることはまずありえん、まず左腕も使っていない。よく見ていろ」

 

「?」

 

 

 

 

「ふん!!」

 

「くっ!!」

 

 

思い切り振られたクレイモアにガゼフは飛び退く。

 

 

「……」

 

 

ふとガゼフはアルトリウスの足元を見る。足跡が複数地面に着いているが、それは全部ガゼフの物だけだ。

 

 

「(先程から薄々気づいていたが……アルトリウス殿はあの場から一歩も動いていないか)」

 

 

あれほどの斬撃を防ぎつつも、その場から一切動かずに居る。間違いなく、手を抜かれている。すると

 

 

「良い剣筋だ、ガゼフ殿。昔の私であれば最初の一太刀で切り伏せられていただろう」

 

「そう言って頂けるとは光栄だ……だが貴方も防いでばかりでは私には勝てないぞ」

 

 

ふむとアルトリウスは自身の手に握るクレイモアを見た後

 

 

「ガゼフ殿、少しお聞きしたいことがある」

 

「なんだ?」

 

 

一度クレイモアを振った後、ガゼフに剣先を向け

 

 

「貴公は何の為にその剣を、何を守る為にその剣を振るう?」

 

「……王の為、この国の為に我が剣はある。その為ならこの命を投げ捨てる覚悟もある!!」

 

「ッ!?」

 

 

アルトリウスは震えた。別に恐怖等ではない、目の前に居る男。彼は自分よりも確実に強い意志で此処に立っている。ガゼフの言葉にアルトリウスは感激した。

 

 

「(……人間は素晴らしい。私には此処までの意思はあったか?いや、無い……弱いからこそ倒れ、何度も立ち上がる。人間の意志の強さは異形なものとは違う。異形となり人間を止めてから気づくか……皮肉な話だ)」

 

 

顔が見えていれば彼は笑みを浮かべていただろう。アルトリウスはガゼフの目を見る。

 

 

「形は違えど私も王の為に剣を振るう者、ならばこれより敬意を払って相手をしよう」

 

 

クレイモアを肩に置き

 

 

「ガゼフ殿、我が剣から視線をずらすな、神経を研ぎ澄ませろ。これより踏み込むのはこの世界の者がまだ踏み入れた事の無い領域だ……しかと見ろ、深淵歩きの剣を……!」

 

 

 




この作品のアルトリウスの声は置鮎 龍太郎さんで脳内再生してください(笑)

ダクソの武器はホントいいですよね~。個人的には3にも栄華の大剣枠or刀系武器も出て欲しいところです。


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第八話

「(雰囲気が変わった?)」

 

 

別段何か武技を使ったわけでもない、特殊な構えをしたわけでもない。だが明らかに先程とは違う雰囲気を醸し出すアルトリウス。

 

 

「行くぞ」

 

 

その瞬間

 

 

「ぬおっ!?」

 

 

滑るように移動し、ガゼフの眼前へと迫るとクレイモアを切り上げる。防ぐガゼフだが、彼の身体は衝撃で浮き上がる。次は浮き上がった所に上からの斬撃を加えガゼフの足が地に着くと、地面が僅かに凹みだす。

 

 

「ぐっ!おおおお!!!!」

 

「ふっ」

 

 

剣をはね除けると、アルトリウスは素早く後方へと飛び退く。

 

 

「鎧を身に纏いながらも、あの身のこなし、そしてあの腕力……凄まじいな」

 

「……」

 

 

アルトリウスは飛び上がり、空中で身体を一回転しながらその勢いで降り下ろす。案の定受け止められるが、再び飛びもう一度縦回転で斬りかかる。更にもう一度、三回目の斬撃にガゼフは後ろへ後退する。

 

 

「(守りに徹していれば勝機はない、ならば!)」

 

 

下がる足を踏み止めさせ、思いきり大地を蹴りあげる。

 

 

「《流水加速》!!」

 

 

武技によって向上した移動速度はまさに弾丸の如く。迎撃を試みるアルトリウスなのだが

 

 

「《即応反射》!!」

 

 

クレイモアの切っ先は空を突く。

 

 

「何!?」

 

 

視界より消えたガゼフ、そしてアルトリウスを影が覆う。《流水加速》によって彼の眼前まで迫り《即応反射》で動きをキャンセルし瞬時に背後へと飛んでいたのだ。ガゼフは確信する、獲ったと。

 

 

「ちぃ!!」

 

 

誰もが一撃を与えたと思った最中、ガゼフは吹き飛ぶ。背後から刈り取ろうとしたガゼフなのだが、アルトリウスは振り向く勢いのまま左足を軸としその場で回転しガゼフを弾き飛ばしたのだ。辛くも空中で体勢を立て直し、地面に着地する。

 

 

「獲ったと思ったのだがな」

 

「流石に先程のは肝が冷えた」

 

 

一瞬も油断できない戦いが此処にある。村長やガゼフの部下は息を飲む。目のまで起こっているのは人間を超えた者の戦い、王国最強のガゼフとそれに匹敵する強さを持った騎士アルトリウス。

 

 

「(居るものだな、強者というものは)」

 

 

ガゼフは思う、今まで一戦交えた相手で此処までの強さを持った者は居ない。同じ剣士ならば尚更だ。

 

 

「くく……ふははっ!!」

 

「?」

 

 

笑い出したガゼフにアルトリウスは首を傾げる。

 

 

「すまない、気が触れたという訳ではない。やはり私も男ということだな、強敵にはやはり心が躍る」

 

 

一呼吸置き

 

 

「感謝するぞ、アルトリウス殿。楽しいと思える戦いは初めてだ」

 

「それはなにより、此方の方こそ感謝する。貴公との戦いは私にとって良い経験となった」

 

「そうか……」

 

 

二人は真正面に捉える。そして──

 

 

「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

「しっ」

 

 

ガゼフはこれ以上に無いほど柄を握り締める。アルトリウスは右腕に力を込める。駆け抜ける彼等は既に目と鼻の先、次の一撃で雌雄が決するであろう。

 

 

「でりゃああああぁぁぁぁ!!!!」

 

 

猛々しい声と共に振り下ろされる剣。アルトリウスは下方寄り切り上げ、そして───

 

 

バギィン!!!!

 

 

何かが砕ける音と同時にガゼフとアルトリウスの動きは止まり静寂が訪れた。空より何かが落ちてくる、剣の刀身だ。

 

 

「……折れたか」

 

 

静寂を破るのはアルトリウス、自分の手に握られたクレイモアを見て呟く。クレイモアは中心から先がへし折れていた。

 

 

「ふむ、武器が壊れた以上戦えないか」

 

 

折れたクレイモアをその場に投げ捨てると

 

 

「ガゼフ殿、貴公の勝利だ」

 

 

背を向けアルトリウスはそれだけを告げ、アインズの下へとアルトリウスは歩んでいった。すると一気に騎士からの歓声が沸きあがる。ガゼフは唖然とする、突然訪れた勝利に。

 

 

「私が勝った……?」

 

 

ふと捨てられたクレイモアと折れた刀身をガゼフは見る。何か違和感を感じた、何かが可笑しいと。それを拾うと

 

 

「……まさか」

 

 

刀身には傷一つ付いてはいなかった。妙な話だ、あれほどの攻撃を受けて何故か?それに見る限り普通の剣よりは頑丈に作られているだろうクレイモアは何故折れたのか。ガゼフは一つの結論に至る。

 

 

「何と言う御仁だ、底が知れぬ……」

 

 

群青のマントを揺らしながら自らの主の下へ行く騎士の背中をガゼフは見る。

 

 

 

 

「すいません、負けてしまいました」

 

 

軽く頭を下げながらアルトリウスはアインズに謝罪をする。

 

 

「武器がまともであればアルトリウス様が敗北等……」

 

「違うぞ、アルベド、アルさんはワザと負けたのだ」

 

「ワザと?」

 

「……ばれてましたか」

 

「ばれますって、あんな戦い方をしていれば」

 

「?」

 

 

二人の意図にアルベドは解らない様子。

 

 

「アルさんは戦士長の攻撃を全て同じ箇所で受けていた、というわけだ」

 

 

そう、どんな強固な物でも一点を集中して突けばいずれは崩れる。アルトリウスはガゼフの全ての攻撃をクレイモアの一箇所で受け、同じ箇所でガゼフの剣に当てるように攻撃していた。結果、耐え切れなくなったクレイモアは折れたのだ。アインズの言葉にアルベドはようやく理解する。

 

 

「……流石はアルトリウス様、ですが何故あの男にそのようなことを?」

 

「今回戦ったのは、私の力がどこまで通用するかを知りたかったのだ。最初から勝敗等には興味が無い、どうせなら勝ちを譲ろうと思っただけだ」

 

「成る程、至高の方の意図が解らないとは、誠に申し訳御座いません……」

 

 

深く頭を下げるアルベドによいとアルトリウスは頭を上げさせる。

 

 

「さて、用は済んだな。鎧は彼に預けて……」

 

 

いざナザリックへ、そう考えたアインズなのだが広場に一人の騎士が息を切らしながら来る。騎士は大声で

 

 

「戦士長!村の周囲に複数の人影が!村を囲むように接近しております!!」

 

 

 

 

 

 

家の影でガゼフ、アインズ、アルトリウスは一つに視線を絞る。

 

 

「確かにいるな……」

 

 

今見えるのは三人の人影、いずれも軽装備で身を整える者達だ。そして目を引くのは光り輝き翼を生やす何かだ。

 

 

「一体彼らは何者なのですか?それに何が狙いで……」

 

「恐らくあの浮かんでいるのは天使、そして横に居る者達は魔法詠唱者《マジックキャスター》……あそこまで数を揃えられるのはスレイン法国……狙いは私でしょう」

 

 

ガゼフは苦笑しアインズが

 

 

「戦士長が狙われている……ですか」

 

「この地位についていれば……な。それに奴等は噂に聞く特殊工作部隊《六色聖典》。であろう、数も腕もあちらが上だ」

 

 

落ち着いていては居るが心では焦っていると見える。アインズとアルトリウスは顔を合わせ

 

 

『アインズさん、気づいてます?』

 

『はい、あの天使と言われている者……炎の上位天使《アークエンジェル・フレイム》に似てますね。けど何故』

 

『解りませんが、ここは……』

 

「ゴウン殿」

 

 

二人が伝言で会話をしている中、ガゼフが声を掛ける。

 

 

「よければ雇われないか?それかアルトリウス殿、若しくはあの騎士をお貸していただけると嬉しいのだが」

 

「……お断りさせていただきましょう」

 

 

アインズは少し悩んだ後に答えを出す。

 

 

「そうか……では王国の法を用いて強制徴集……と言いたいところだが、抵抗はするのだろう?」

 

「勿論です」

 

「流石に貴方方に抵抗されては、奴等と戦う前に全滅だ……ゴウン殿、アルトリウス殿……お元気で、この村を救った事、感謝する」

 

 

ガントレットを外しガゼフは手を出す。アインズはその手を握り、次にアルトリウスへ。アルトリウスは左手を差し出した。

 

 

「貴殿と会えた事、そして剣を交えることが出来て良かった」

 

 

彼はアルトリウスの左手を両手で握る。

 

 

「そうか、貴殿は左利きか……ふっ、どちらにせよ本気は出していなかったという訳だな」

 

「申し訳ない」

 

 

ガゼフは静かに首を横に振る。

 

 

「構わない、戦えただけでも私は嬉しい」

 

 

アルトリウスの手を離し

 

 

「御二方、我が儘を言うようだが、もう一度……もう一度この村を守って欲しい。今差し出せるものは無いが、このストロノーフの願いを何とぞ……」

 

 

言葉を手で制し、アインズは

 

 

「了解致しました。この村は必ず守りましょう。このアインズ・ウール・ゴウンと」

 

「深淵歩きアルトリウスの名に掛けて」

 

 

二人の誓いにガゼフは安著する。彼等なら必ずこの村を守りぬいてくれると。

 

 

「感謝する、最早後顧の憂いなし……私は前のみを見て進ませていただこう」

 

「ガゼフ殿、これを」

 

 

何処から取り出したのだろうか、アルトリウスは黒く少し反り返った剣をガゼフの前に出す。

 

 

「この剣は?」

 

「私は特殊な力を持った武具を集めるのが趣味でな、これはその一環で手に入れたものだが。竜の尾より生まれたこの剣、きっと貴公の役に立つだろう」

 

「では私はこれを渡しておきましょう」

 

 

アインズからは変わった見た目をした彫刻だ。ガゼフは二人から送られた品を手にする。

 

 

「ありがたく頂戴しよう……では」

 

「「御武運を」」

 

 

アインズとアルトリウスはガゼフの姿が消えるまでその背中を見送った。

 

 

「良かったんですか?アルさんが彼に付いて行くと言ったら俺は承諾したのですが……」

 

「現状、相手の力も解らないのです。下手に動いて後手に回ることはしたくありません……ですが」

 

 

見えなくなったガゼフを思い出し

 

 

「あそこまでの武人です、死なせるには……だからこそ、私はあの剣を渡したんですよ」

 

 

彼なら上手く使ってくれる、アルトリウスはそう信じていた……

 

 




果たしてアルトリウスがガゼフに渡した剣は何なのか!?

そういえば8階層の桜花聖域という場所にいる、まだ名前も出ていないNPC。巫女服らしいのですが、私的に巫女服キャラはかなり好きなので本格的に登場してほしいですね!!


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第九話

 

 

夕焼けで大地を染める茜色。馬に誇り、ガゼフとその部下達は野を駆ける。相手は魔法詠唱者、遠距離戦をするのは愚の骨頂、故に懐に潜り込み食らいつく。そして敵の包囲網を此方に引き付け、村から遠ざけるのが目的だ。

 

 

「……」

 

 

ガゼフは背に携えた黒い剣を見る。アルトリウスから送られた品、特殊な力を持つ剣だというが、一体どんな能力を秘めているかは皆目見当はつかない。だが、この剣から間違いなく異質な何かを感じ取ることが出来る。

 

 

「存分に使わせてもらう……行くぞぉぉ!!奴等の腸を食い散らかしてやれぇぇ!!」

 

「「「おおおおおお!!!!」」」

 

 

咆哮に続く大気を揺るがす大声、標的はスレイン王国の特殊工作兵。開幕にガゼフは弓を手に取り、矢を番え力の限り弦を引く。ヒュンと風を切る音と共に矢は魔法詠唱者の頭部へ。だが矢は岩に当たったかのように弾かれた。強固なヘルムには見えない、恐らく魔法による防御が働いているのだろう。思わずガゼフは舌を打つ。

 

 

「!!」

 

 

魔法詠唱者がガゼフ目掛け魔法を放った。その時、馬が常体を起こし動きを止めガゼフはすぐさま馬から飛び降りる。一人の騎士がガゼフの事を呼び、手を差し伸べるが阻むように天使が迫ってくる。

 

 

「うぉおおおお!!!!」

 

 

黒の剣を抜刀し天使に切り掛かった。刀身は天使の胴に食込むと、そのまま軽く寸断した。四散した天使はキラキラと粒子となり消え、その中でガゼフは一瞬呆気に取られる、想像以上に天使は脆かった事に。いや、若しくはこの剣の切れ味なのか。柄を握った時からガゼフは気づく、この剣の能力そして自分の手の一部になったかのように馴染む事に。

 

 

「馴染む、恐ろしい程に……いける!!」

 

 

確信は強さへと変わる。そして魔法詠唱者は更に天使を召喚した。

 

 

「一体一体は大したことが無いが……数が多いな」

 

 

数の暴力、これほど脅威なものはない。部下達は包囲が縮まり次第撤退と命令しており今此処には彼一人、圧倒的に不利。だが彼の作戦は一つ成功している、この場に居る魔法詠唱者の数は五人、村を囲んでいたものの全てだ。敵の目は此方に向いており村から引き離している。

 

目的の一つは果たした。するとガゼフの耳に何かが聞こえてくる。馬が駆けてくる音、男達の咆哮とも聞き取れる声。

 

 

「あ、あいつら……」

 

 

視線の先には撤退したはずの部下達。

 

 

「包囲が縮まったら撤退……と言ったはずなのだがな、全く……」

 

 

苦笑するガゼフは

 

 

「自慢の奴らだよ、本当に!!」

 

 

ガゼフも後れを取らぬよう駆ける。思わぬ状況とはいえ天使と騎士の強さは明白、不利な事には変わりない。ならばこの戦況を変えるにはどうするか。指揮官を狙うしか方法は無い。ガゼフは獣が獲物を見つけたかのように、一番後方で一回り大きな天使を傍らに置いている男を見る。

 

 

「奴が指揮官、ならば!!」

 

 

複数の天使がガゼフの前に立ち塞がる。

 

 

「邪魔だ!!」

 

 

剣を頭上まで振り上げると刀身に風が渦巻く。

 

 

「解る、この剣の力が!!」

 

 

そして振り下ろす。その時、地面と接した剣が轟音を上げ凄まじい衝撃波を生む。大地を這い一直線に居た天使、そして魔法詠唱者が巻き込まれずたずたに引き裂かれた。

 

 

「おお……」

 

 

感嘆する、想像以上だと。想定外の出来事に魔法詠唱者と六色聖典の隊長、ニグンはたじろぐ。

 

 

「何だ……あの剣は……ちっ!総員、次の天使を召喚せよ!ストロノーフに──」

 

 

指示を出そうとしたがそれよりも早く、ガゼフはもう一波を放つ所であった。ニグンとガゼフの視線は交差する、此方に向かって先程の衝撃波を放つ心算だ。そして再び振り下ろされた剣、大地を削る衝撃の波はニグンへと。

 

 

「くそっ!!」

 

 

悪態を突きながら横っ飛びするニグン。衝撃波は少しずれ、彼の傍らに居た天使に直撃し光の粒となりて消えうせた。ニグンは目の前で起こったことに身体を震わせ

 

 

「な、なんだとぉおおおおお!!!!」

 

 

戦場に響く怒号。先程消え失せた天使は監視の権天使《プリンシパリティ・オブザベイション》。天使の中でも上位に位置する、普通の人間が相手をしてまず勝てるはずが無い。それにニグンには生まれながらの異能《タレント》というものを持っており、召喚したモンスターを強力にするといった能力を兼ね備えている。しかし、そのタレントによって召喚した上位天使がたった一撃の衝撃波で無に帰ったことに、ニグンは憤慨する。

 

 

「天使を容易く切り裂くその刀身、驚異的な威力の衝撃波!?何だその剣は!!」

 

「とある御仁より預かった剣だ、それ以上は知らん」

 

 

恐らく上位の魔法武器と推測するニグンは表情を歪めたまま

 

 

「ストロノーフを殺せ、そしてあの剣を回収しろ!」

 

 

命令により天使達はガゼフへ向かう。

 

 

「お前ら!俺の背後に回れ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

 

殆どの天使がガゼフに来た事により、部下達は容易く後退することが出来た。眼前に天使だけが居ることを確認すると

 

 

「ふぅぅ……《六光連斬》!!」」

 

 

一振りにて六つの斬撃を打つ武技とこの剣が合わさるとどうなるか。刀身が地へと叩き下ろされると耳を覆いたくなるほど音と同時にガゼフから六方向へ広がる衝撃波が出来上がる。衝撃波に触れた天使は全て消滅し、逃げ切れなかった魔法詠唱者も蹂躙される。大地にはまるで獣の爪痕のように抉れていた。

 

 

「凄い……」

 

「圧倒的だ……」

 

「勝てる、勝てるぞ!我等が戦士長と共なら!!」

 

 

次々に希望を見出していく部下達。彼等の下には王国最強、異界の武器を手にしまさに鬼に金棒とも言える存在が居るのだから。

 

 

「ば、か、な……」

 

「ニグン隊長!我々はどうすれば!!」

 

「ご指示を!!」

 

 

残されたのは二人の魔法詠唱者だけ、形成は此方が不利になりだした。たった一つの武器で追い詰められた事に歯を食いしばりニグンは決断する。

 

 

「うろたえるな!……奴は正しく竜の如き強さだ……ならば!!」

 

 

懐より取り出したのはクリスタル。

 

 

「認めよう、ガゼフ・ストロノーフ。貴様は確かに強い!そしてその武器によって更に力が向上している!だが、此方にも切り札はある……」

 

 

クリスタルは徐々に輝きを増していく。

 

 

「また天使を召喚するわけではないだろうな!」

 

 

ガゼフの言葉がさも可笑しいような、ニグンはせせら笑う。

 

 

「違う……見せてやろう、遥か昔法国の人間より恐れられていた凶悪なドラゴンを滅す事が出来た、最強の騎士の姿を!!」

 

 

天へと掲げ、光り輝くクリスタル。クリスタルが割れると一箇所に黒い光が集まる。それは形を作っていくと2メートルは軽く越す人型へと変貌すると光は晴れ、姿が露になっていく。

 

元々は違う色であっただろう黒く錆びた様な色の鎧、手に持つは十字槍。獅子を模した兜は荒々しくも美しさをも感じる。ニグンは手を広げ

 

 

「見よ!これが最強の槍騎士……古《いにしえ》の竜狩りだ!!」

 

 

古の竜狩りと呼ばれた騎士はゆっくりと腰を落とすと……

 

 

「え?」

 

 

ガゼフの部下達の前に来ていた。

 

 

「思い知れ、竜を屠る者の力を」

 

 





この世界に来たことによって飛竜の剣さんがアップを始めました。

私執筆中は基本的にBGMを聞いてるのですが、何時もアルトリウス戦とダクソ2の虚ろの巨兵戦とブラボのガスコイン戦のBGMを何回も聞いております。あの曲達は素晴らしい…



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第十話

「手始めだ、ゴミを掃除しろ」

 

 

ニグンの言葉に竜狩りは動き出す。複数人いる真ん中で長大な槍を薙ぎ払うと範囲に居た部下達は全て

 

 

「なっ」

 

「ぎゃっ」

 

 

短い悲鳴と共にある者は胴が、ある者は首が寸断される。一人の部下が竜狩りに切り掛かろうとするが

 

 

「っ!?消え──」

 

 

既にそこには居ない竜狩り、部下の死角へと移動し胴を貫く。葬った相手から穂先を引き抜き次なる標的を決める。

 

 

「やめろぉおお!!」

 

 

飛び掛るようにガゼフは肉薄し、竜狩りは振られた剣を銅金で受け止める。押し切ろうと力を込めるがビクともしない。槍を押し上げ、ガゼフは仰け反ると竜狩りの蹴りが腹へと当たり吹き飛ぶ。

 

 

「戦士長!ぐっ」

 

 

彼を呼ぶ部下は穂先で頭部を切り払らわれ、血と脳髄を撒き散らかす。すると体勢を低くし左手を地面に添えた。まるで跳ねたバネのように前に跳躍、凄まじい速さで部下との間を通り抜けた。

 

何が起こったか解らない、ただあの騎士が凄い勢いで移動して気づけば後ろに居た。部下達は竜狩りの姿を捉えようと振り向くが視界が急に傾く。何故自分の腰が目の前にあるのだろう、疑問に思ったときには全てが真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

「あの騎士は……」

 

 

村の小さな小屋の中。アインズは遠隔視の鏡を取り出し、ガゼフ達の状況を見ていた。部隊の指揮官であろう男が召喚した謎の槍騎士、アインズはその騎士に見覚えがある。ふとアルトリウスを見ると腕を組み鏡から一切視線をそらさない。そもそも遠隔視の鏡でガゼフの動向を見たいと言い出したのはアルトリウスである。

 

 

「アルさん、あの騎士ってまさか……」

 

 

彼はアルトリウスの創り出したNPCを知っている。ナザリック第六階層のアルトリウスが住居としている『最初の火の神殿』。そこは三体と一匹のNPCが主に守護をしている。そのNPCの中であの古の竜狩りと酷似した騎士が居た。揺るぐ事の無い忠義を持つ、あの金獅子の騎士。

 

 

「……」

 

「アルさん?」

 

 

ふらりとアルトリウスは動き、背に携えた深淵の大剣を左手に持った。アインズはすかさず伝言を繋げる。

 

 

『アルさん、もしかして行くんですか?』

 

『すいません……行きます』

 

 

ゆらぁっと首だけをアインズに向ける。顔に当たる部分の空洞の奥に、血の様な赤い光が一瞬だけ煌いたように見えた。

 

 

『あれは元々王に仕えていた存在のはずです。あんな外道に使われていい存在じゃない。それに、ガゼフ殿を殺させるわけにはいかない』

 

『……そうですね、あの人は俺も嫌いじゃない。寧ろ生きていて欲しいと思っているほどです。アルさん俺も行きます、バックアップはお任せを』

 

『決まりですね』

 

 

二人の会話が終えるとアルトリウスは右手に鈍い灰銀の盾を装備するとアルベドの方を向き

 

 

「そうだ、アルベド1つ頼まれてくれないか?」

 

「頼みと言わずとも命令をして頂ければ如何様にでも」

 

「ふっ……ありがとう、それでは……」

 

 

 

 

 

 

「まさかここまでとは……」

 

 

ほぼ全滅に近い、ガゼフの部下の殆どがやられ地に伏してる者ばかりだ。未だ立つのはガゼフのみ、そして敵は絶対なる強者だ。

 

 

「あらかた片付いたな」

 

 

ニグンには見える。最強と謳われた王国戦士長ガゼフの死が、我が手中にある最強の騎士の手によって迎えることになる未来が。

 

 

「さてストロノーフ、最後に言い残しておきたいことはあるか?」

 

「……何?」

 

「私に竜狩りまで出させたのだ、敬意を評して死に行く貴様に最後に遺言くらいはこの世に残させてやろうと思ってな」

 

 

ゲスの考える言葉だ、吐き気を催す。だがガゼフは薄々気づいていた、あの竜狩りに自分は勝てないのではないかと。彼の身体は、竜の尾より生まれし武器、ドラゴンウェポンの1つ『飛竜の剣』の特殊攻撃の反動を受けていた。一発衝撃波を放つ度に筋肉と骨が悲鳴を上げ、更には武技によって負担は増加している。

 

だがガゼフは不適に笑む、ここで戦うことを止めたらガゼフ・ストロノーフの名が廃る。飛竜の剣を構え

 

 

「私はガゼフ・ストロノーフ!貴様のような国を、民を脅かす者に負けるわけにはいかない!!例えこの身が朽ちようとも!!」

 

 

ガゼフは走る、竜狩りを見すらえひたすらに。間合いに入った、後は剣を振るだけ。縦に、横に、袈裟に、逆袈裟に何度も斬撃を与えようとするが単調な軌道、全てを槍に遮られ竜狩りの身体に届くことはない。体力的に武技も使えないがそれでも諦めない、ガゼフの何が此処まで突き動かすのか。

 

攻撃の手が緩んでいくと、竜狩りは合間に槍を突き出す。先端はガゼフの身体へ沈み、そこから赤い液体が伝う。

 

 

「ぐふぅっ……!まだだぁぁああ!!」

 

 

逃がさんと槍を掴み、刀身を地面に走らせる。衝撃波は明らかに威力が下がり、先程の規模はない。だがそれでも直撃し竜狩りの鎧に傷を付けた。

 

 

「があぁぁ!!」

 

 

竜狩りはガゼフの身体を槍ごと持ち上げる。重力と体重がもろにかかり、穂先は深く肉を裂き入ってくる。そのまま勢い良くガゼフの身体は放り投げられ地面に叩きつけられる。

 

 

「まだ、だぁ……」

 

 

満身創痍だろう、口から血を吹き出し息も絶えてしまいそうだがガゼフは身体に鞭をうち立ち上がる。

 

 

「人間が竜狩りに勝てるはずがない。それに貴様の努力は無駄な物だ、あんな辺境の村さえ守ろうと思わなければ少しは生き長らえたものを……貴様を殺した後にあの村の人間を全て殺してやろう、貴様が命を掛けてまで守ろうとしたあの村をな!これ以上の屈辱はあるまい!」

 

「……残念だがあの村には私よりも強い者達がいる」

 

「貴様より強い?ふん、下らんハッタリか」

 

「事実だ」

 

「……戯れ言を。竜狩りよ、その十字の槍を持って奴を仕留めろ。いいな、確実にだ」

 

 

竜狩りはニグンの命令を聞き入れる。槍を数回回し、身を屈める。先程とは違う速度での突進。ガゼフには見えなかった、その速さが。穂先が自分の胴を貫こうと直ぐそこまで来ている。不思議とその間はゆっくりに見えていた、だが身体は動かない、自分が死ぬと解っているから。

 

 

「ゴウン殿、アルトリウス殿……あとはお任せしますぞ」

 

 

 

それが最後の言葉となることだろう……

 

 

 

しかし彼はまだ意識があった。私はあの槍を受けた、なら自分は何故未だに健在している。何故か?答えは自ずと出た。

 

 

「良く奮闘なされた、ガゼフ殿」

 

 

視界に映るは灰色の鎧、群青のマント、左手には剣を右手には盾を。見る者全てを惹き付けるであろう騎士がそこにはいた。

 

 

「あ、アルトリウス殿……」

 

「やはりその剣を預けて正解であった。だがあれは人間には手が余る、私達に任せてもらおう」

 

 

ガゼフはアルトリウスの言葉を受けた後に、アインズより手渡されたマジックアイテムが発動、彼と倒れていた部下達は姿を消し、代わりに現れたのはアインズだ。盾に受けていた槍を払うと、竜狩りはアルトリウスよりも遠くに距離を置く。

 

 

「何者だ」

 

「初めまして、スレイン法国の方々。私の名はアインズウールゴウン。そして彼は私の騎士、アルトリウス」

 

 

突然現れた、異様な姿の魔法詠唱者と剣と盾を携えた騎士にニグンは舌を打ち。

 

 

「ストロノーフは何処に行った」

 

「彼は村へと転移させました」

 

 

眉間に皺を寄せアインズを鋭く睨むが、アインズは全く動じず言葉を続ける

 

 

「一つ言っておきましょう、貴方方は彼と会うことはもうない」

 

「何だと?」

 

「先程の貴様の言葉を聞いていた……貴様は私とアルトリウスが救ったあの村の人間を殺すと言った。不愉快だ、貴様にはそれ相応の苦しみを味わってもらおう」

 

 

ニグンの表情は強張る。あの魔法詠唱者は何を言っているのだろうか、不愉快なのは此方だ。ようやく追い詰めた獣を逃がされあまつさえ自分に苦しみを与えると。口角がつりあがり竜狩りへと指示を出す。

 

 

「あの不愉快な魔法詠唱者を殺れ」

 

 

竜狩りはアインズに視線を合わせ前方へ飛ぶ。彼の前に立つアルトリウスの横を通りすぎようとしたが

 

 

「誰が通っていいと言った」

 

 

右脚で竜狩りの顔を蹴り、元いた位置へと飛ばす。深淵の大剣の切っ先をニグン向け

 

 

「貴様はそこで唯命令をするだけか」

 

「ほざけ、竜狩りに一蹴り浴びせただけでもう勝ち誇った気分か?標的を変えろ、あの騎士を殺せ」

 

 

やれやれとアルトリウスは頭を振り

 

 

『あいつが来るまでの間、あれの相手、してもいいですよね』

 

『元からその心算です、任せました!』

 

『了解』

 

 

伝言が終えると既に竜狩りは彼の目前へと来ており、三連突きを繰り出してくる。アルトリウスは身体を横に向けかわす。穂先が横向きになるとそのまま振るわれ、それを屈む事で回避、足元を剣で獲ろうとするが上へと飛び失敗に。上空に居る竜狩りは槍を回すと黒いオーラを纏い出した。

 

 

「……闇か」

 

 

落下する勢いで大地に降りると着地地点から黒い波動が放たれる。右手の盾で受けやり過ごすが、波動が消えると竜狩りの姿は無い。

 

 

「甘い」

 

 

アルトリウスの背後から金属同士のぶつかる音が響いた。深淵の大剣を背中へと当て、背後からの十字槍の奇襲を防いだのだ。アルトリウスは後ろへと下がりつつ振り向くと力強く竜狩りにシールドバッシュをする。盾による打撃を受けた竜狩りは側方へとローリングし距離をとる。

 

 

「ふむ……馴染んできたな」

 

 

左手首を回し肩へと置く。ちらりとニグンを見るとさもありえないような表情をしていた。

 

 

「何なんだ貴様は、何故竜狩りと互角に戦える!」

 

「うん、そうだな……」

 

 

剣を地面へと突き刺し立てて置く。アルトリウスは自身の左手を見つめ

 

 

「私は暫くの間〝運動〟というものをしていなかった。そのせいかこの肉体なら兎も角、頭の中のほうが相当鈍ってたらしい。肉体では追いついても頭の中では追いついていないからな、逆もまた然り、それでは話にならない。だがガゼフ殿と戦い、少しづつ馴染んできた。そしてそいつと何度か打ち合って更に馴染んだ。それに……」

 

 

竜狩りを指差し

 

 

「そいつの動きは〝慣れた〟攻撃はもう届かないよ」

 

「慣れ?そんなものでこの最強の騎士、竜狩りに敵うはずが無い!!ハッタリ、そうハッタリだ!」

 

「試してみるか?なあ、竜狩り」

 

 

その言葉に反応するかのように竜狩りの鎧はガチガチと鳴り始めた。それは怒りだろうか、天を仰ぎ

 

 

「□□□□□ッッッーーー!!!!」

 

 

声にもならない声を上げ両手で槍を持ち突進する。まさに神速、常人では捉える事すら出来ない境地。土煙を巻き上げ、風を切り眼前の障害を突き殺そうとする。槍の届く範囲に来た。恐ろしいほどの力任せの突き、穂先は彼の胴に……

 

 

「遅い」

 

 

届くことは無かった。空いていた左手に見事掴まれると彼等を中心に風圧が起こる。必死に竜狩りはその手から槍を引き抜こうとするが一切動きはしない。

 

 

「言っただろう、慣れたと。お前の攻撃は私には届きはしない……さて、そろそろ来たか」

 

 

アルトリウスの後方の時空が歪み渦が出来上がる。それは転移魔法、転移門《ゲート》。そこから出てきたのはアルベドであった。掴んでいた穂先を離すと竜狩りは勢い良く後ろへと飛ぶ。

 

 

「お待たせしましたアルトリウス様、彼をお呼びしました」

 

「ありがとう、アルベド」

 

「勿体無きお言葉!では……」

 

 

一礼し転移門の前から退く。アルトリウスが転移門へと向くと彼と同等の大きさの人影がゆっくりと出てくる。頭部は獅子を、身体は太陽の如く煌きを、手には象徴である十字槍を。

 

 

「……久しぶりだな」

 

 

四騎士が一人『竜狩り』の二つ名を持つ金の騎士───

 

 

「オーンスタイン」

 

 

 




Ω<オーンスタインが召喚されました


次回で恐らく一巻までの物語が終了いたします。それまでお付き合いしていただくと幸いで御座います。


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第十一話

 

「このオーンスタインってどんなキャラなんですか?」

 

 

純白の鎧に身を包んだ騎士、ワールド・チャンピオンたっち・みーはアルトリウスにそう尋ねる。視線の先にあるのはアルトリウスが創造したNPCだ。

 

 

「んーそうですねぇ……仲間思いの騎士……ですかね」

 

「仲間思い?」

 

「はい、知っての通りダークソウルのキャラなのですが、スモウっていうボスと共にプレイヤーの前に立ち塞がります。その時にどちらか片方先に倒すと状況が変わるんですけど、オーンスタインを先に倒すとスモウが彼の亡骸を叩き潰して力を奪います」

 

「……結構酷い事するんですね」

 

「まあスモウは処刑に喜びを見いだす残虐な性格してるんで……それでスモウから倒すと、オーンスタインも亡骸から力を取るんですが、彼は手を優しく添えるんです。まるでスモウを大切な仲間として意識しているみたいに」

 

 

ほうとたっちは感心する声を上げる。

 

 

「私的にも好印象なキャラですね。なんというかその口振りですと、アルトリウスさんはオーンスタインの事相当気に入ってるように見えます」

 

「ええ、アルトリウスってキャラが居なかったら、オーンスタインの装備でアバター作ろうとした程ですから。だからこそ俺は──」

 

 

 

 

 

 

現れた黄金の騎士『オーンスタイン』はアルトリウスの横に並び立つ。

 

 

「お前が呼んでいるとアルベドから聞いて耳を疑った。戻って来たならばナザリックに顔ぐらいは出せ」

 

「すまない、事情があって行けなかった」

 

「……まあいい、お前が戻ってきた、その事実で十分だ。それで……私を呼んだ理由はあれか?」

 

 

オーンスタインは十字槍をぐるんと回し、黙して此方を見る竜狩りへと向けた。

 

 

「ああ、奴は……竜狩りだ」

 

「ならば私が相手をするのが道理か……いいだろう」

 

 

兜の奥から低く声が発せられる。一方のニグンはオーンスタインの姿を見て口を開けたまま呆然としていた。すると表情を一気に変え

 

 

「金色の竜狩り……まさか……ありえない!!ありえるはずが無い!!」

 

 

握った拳を震わせて叫ぶ。

 

 

「その眩い鎧の色は古の竜狩りと呼ばれる前の物……この時代に存在するはずが無い!何者だ貴様!」

 

「……我が名はオーンスタイン、竜狩りオーンスタインだ。貴様が否定しようとも私が竜狩りであることは揺るぐ事の無い事実、そしてそこに居る竜狩りは私の末の姿なのか、それとも竜狩りの名を語る模倣者か……」

 

 

十字槍を両手で握り構えを取る。視線を向けるは古の竜狩り、自身と同じ二つ名を持つ騎士。

 

 

「どちらにせよ、名を語るのならばその槍を構えろ、その槍で私を貫いてみせろ……来い、名も知らぬ竜狩りよ!!」

 

 

オーンスタインの言葉を皮切りに竜狩りは低く唸り声を上げながら、身体に黒い闇を纏い突進する。対するオーンスタインは十字槍に雷が纏わせる。金と黒の衝突が始まった。

 

目掛け突き出された穂先は、同じく突き出された穂先とぶつかり合う。鬩ぎ合う槍から大地を焦がす雷が、大気を汚す闇が溢れ出す。穂先が弾かれると黄金の竜狩りは槍を片手に持ち直し、上段より振り下ろす。黒の竜狩りは両手で槍を持ったまま、下段から切り上げる。火花を散らす二つの十字槍。黒の竜狩りは圧され体勢を少し崩す。その隙を逃さんと黄金の竜狩りの繰り出した刺突は黒の竜狩りの兜に一閃の傷を与えた。

 

だが仕留めた訳ではない、黒の竜狩りは何事も無かったかのように槍を逆手に持ち替えて後方へ飛び、槍が闇に覆われた。槍投げるように振るうと闇が切り離され、鋭利な形状となって黄金の竜狩りを襲うが彼もまた闇ではなく、雷を穂先へと集め薙ぎ払う。闇は雷に打ち消され消え去った。

 

 

 

 

「互角……ですかね」

 

 

アインズはボソッと呟く。

 

 

「いえ……オーンスタインが押してます」

 

 

何故そう思うのかアインズは不思議に思うが、アルトリウスより直ぐ言葉が来る。

 

 

「オーンスタインはあの竜狩りの動きを完全に把握し、奴より一歩先に行った捌き方をしています」

 

「なら……オーンスタインは勝つんですね」

 

「恐らく……負けるはずがない、オーンスタインが……」

 

 

 

二人は距離を離すとオーンスタインは

 

 

「……獣だな、ただ本能的に槍を振るうているだけ……哀れ」

 

 

ピクリと竜狩りは反応する。

 

 

「オォォォォォ……」

 

 

まさに獣のような声を出す竜狩り。もはや彼の者に正気というものは無いのであろう、オーンスタインは哀れみの籠めながら言葉を放つ。

 

 

「自我は無くなり、攻撃に意思も籠っていない、闇へと染まり鎧は朽ちている……掛ける言葉が見つからないな」

 

 

槍を回転させた後右手に持ち、体勢は低くなり左手は地面へと添えられる。

 

 

「次だ……次の一撃で雌雄を決するとしよう……」

 

「ッ!?□□□□□ッッ!!!!」

 

 

竜狩りもオーンスタインと似た体勢を取る。二人の間を風が吹き抜け、一枚の葉がゆっくりと落ちてきた。

 

それが落ちた刹那―――

 

アルトリウスに迫った時よりも更に速く竜狩りは駆ける。しかも闇ではなく、彼の古の記憶がオーンスタインと戦うことで目覚めたのか、黒い雷を放なっている。黒雷と共にオーンスタイン目掛け突いた―――

 

 

はずだった。消えた、オーンスタインの姿は最初から其処に居なかったかのように音もなく消え去った。攻撃が失敗した竜狩りは辺りを見渡す。前方後方、左方右方、空さえにオーンスタインは居ない。

 

すると背後からバチィッと雷の走る音が聞こえた。竜狩りは直ぐ様振り替えるが何も居ない。次に前から聞こえそちらを向く、またしても居ない。そして徐々に雷の音が激しくなってきているのに気づく。目の前に一筋の電光が通りすぎた。それと同時に彼の周囲には何回も電光が走り始める。

 

電光の主は当然オーンスタイン。そう、彼は竜狩りですら一切捕捉することができない速度で縦横無尽に移動しているのだ、まさに雷の如く。何時此方に来る、何時攻撃を仕掛けてくる。そう考えているのだろうか、竜狩りの動きは止まる。

 

ふと音が止んだ、竜狩りの身体が少し揺らいだ。彼は自分の胴体を見る。金色の装飾が施されている槍が鎧を貫いていた。槍を持ちし騎士、オーンスタインも目の前に。そして槍からは凄まじい威力の雷が流れだし、竜狩りの身体全身に走った。

 

槍を引き抜き、くるりと回し竜狩りに背を向ける。竜狩りは力無くその場に仰向けに身体を倒した。

 

 

「ば、バカなあぁぁぁ!!!!」

 

 

ニグンから悲痛な叫びが聞こえた。

 

 

「負けたと言うのか!?古の竜狩りが!?こんなふざけた事が……!!」

 

 

途中で言葉が途絶えた。オーンスタインは不審に思い振り向くと、竜狩りが槍を杖に立ち上がっていた。身構えたオーンスタイン。

 

 

「そうだ!立ち上がれ!立ち上がっていた奴等を殺せ!法国の誇る最強の騎士の力をー……」

 

 

竜狩りはニグンの方を向いた。そして彼の方へと歩いていく。

 

 

「な、何だ……」

 

 

二人の魔法詠唱者の側まで来ると、彼等の首を槍で切り飛ばした。ニグンは焦りの色を見せ

 

 

「何をしている!敵は彼方だ!……来るな!来るなぁ!!」

 

 

かの槍騎士はニグンを殺そうとしているのだろう。他にも眼もくれず、一直線にニグンの方へと歩いていく。身を凍えさせるような程の殺気が竜狩りから滲み出ている。もう目と鼻の先だ、ニグンは恐怖からかその場にへたり込む。竜狩りはニグンの側へ来ると槍を逆手に持ち変える。

 

 

「ひぃぃ!!た、助けてくれ!いやください!!助けて頂ければ望む額を用意―――」

 

 

槍が落ちたときにはニグンの声は聴こえなくなった。残るのは静寂のみ。

 

 

「……」

 

 

竜狩りはよろけながら槍をニグンの死体から抜き振り返る。槍は手から落ち、そのまま膝を地へと着ける。彼はオーンスタインを見た、そしてこう言い残す。

 

 

 

―――ありがとう

 

 

 

彼の身体は静かに光りへとなる。まるで蛍のような光りは空へと上り消えていき、もう暗くなった空に舞い幻想的な風景を作り上げた。やがて完全に消え、槍だけがその場に残った。

 

オーンスタインはその槍へと行き、槍を手にする。

 

 

「……礼か。何に対する礼かは知らない……だが私は誤解していた、貴公は立派な騎士だ。私との戦いで雷の力を呼びさまし、自らの意思を取り戻した。貴公は私の末の姿でもない、模倣者でもない……一人の‘竜狩り’だ。安らかに逝け、名も知らぬ……いや」

 

 

一つの光の粒をオーンスタインは眺めそれに彼の槍を向ける。

 

 

「『古い竜狩り』よ」

 

 

 

 

 

 

戦いは終わった、宝石を散りばめたような夜空がアルトリウスの灰銀の鎧を照らしている。彼の目的地はある民家だ。

 

 

「ガゼフ殿」

 

 

扉を潜ると、ベッドの上で横になっているガゼフがいた。側には彼の部下が。

 

 

「アルトリウス殿!すまない、席を外してくれ」

 

「わかりました、それでは」

 

 

ガゼフに一礼し、アルトリウスの横を通り抜けていく。アルトリウスはベッドの傍らまで行くと、ガゼフは上体を起こす。

 

 

「傷の方は大丈夫なのか?」

 

「このような傷大したことはない、これくらいで根を上げては騎士長の名が廃る」

 

「勇ましいな」

 

「それはそうと、ゴウン殿は?」

 

「今外で待たしている」

 

「そうか……アルトリウス殿、この度は本当に感謝の言葉もない……ゴウン殿とアルトリウス殿が居なければ今頃……おっと」

 

 

ベッドの直ぐ横に立て掛けてあった飛竜の剣をガゼフはアルトリウスへと差し出す。

 

 

「お返ししよう、この剣のお陰で私は戦えた」

 

「……」

 

 

するとアルトリウスは剣を僅かにガゼフの方に押す。

 

 

「これはガゼフ殿に託そう、私よりも上手く使ってくれそうだ」

 

「しかし……」

 

「私が良いと言っている、その代わりに頼みたい事が」

 

「?」

 

「手入れはしっかりしてくれ、その剣は以外と繊細だ」

 

 

アルトリウスの言葉にガゼフは笑む。

 

 

 

「……わかった、この剣、受け取ろう。大切に……大切に使わせてもらう」

 

「ああ。それでは私は行く、あまりアインズ様達を待たせるわけにはいかないからな。お元気で」

 

 

軽く頭を下げ、アルトリウスはその場を立ち去ろうとしたが

 

 

「アルトリウス殿」

 

 

制止の言葉に立ち止まる。

 

 

「また会えるだろうか」

 

 

暫しの間アルトリウスは考え、顔を少しだけガゼフに向ける。

 

 

「この空は一つに繋がっている。この空の下にいる限り、いつか必ず相見える」

 

「その時は今回のように味方であってほしいものだな」

 

「ふっ……そうだな。ではまた会おう、ガゼフ殿」

 

「ああ、ゴウン殿にも宜しく伝えておいてほしい。ではまた会おう、アルトリウス殿」

 

 

別れの言葉を交わしアルトリウスはガゼフの下を後にする。外へとでるとアインズ、アルベド、オーンスタインが待っていた。

 

 

「お待たせしました、我が儘に付き合ってくれてありがとうございます」

 

「はは、気にしないでください。それじゃ行きますか」

 

「はい……私達のナザリックへ」

 




次回で本当に一巻が終わります。二巻目に入る前に番外話を入れていきたいのでお付き合い頂ければと思います。

話はかわって、アニメのミニコーナー的な『ぷれぷれぷれあです』があるのですが、この名前で『ぷりぷりぷりしらちゃん』とか変な名前を考えてた私が居ます。自重致します……


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第十二話

 

 

ナザリックへと私達は帰還した……のだが帰還して早々に第六階層に連れて来られたのだが、何故だろうか。玉座の間に皆を集めていると言うし……待たせては不味いんじゃ。オーンスタインも玉座の間へと既に足を運んでいるだろうし。

 

 

「アインズさん、始めに玉座の間に行く予定では?」

 

「その前にアルさんと会わせなきゃいけないんですよ」

 

 

思わず首を傾げる。ん?こちらの方向は確か……

 

 

「……」

 

 

森が開けたところに出て、目に入ったのは懐かしの最初の火の神殿……そうだ、私は第六階層の森林エリアにこれを創ったんだ……ん、もしかして

 

 

「まさか会わせなきゃいけないのって」

 

「アルさんのNPC達ですよ。ほら早速……」

 

 

突然地鳴りがする。此方に何かが来ているのだろう……とても大きな何かが。それが木々を割るように出てくると

 

 

「久しい顔だのう」

 

 

低く篭った声で私を見ながら巨人は……四騎士の一人『ゴー』が懐かしむかのような言葉を掛けてくれる。

 

 

「おぉ、モモンガ様もご一緒で」

 

 

跪こうとしたがアインズさんが手で静止し、ゴーは立ったまま此方をもう一度見る。

 

 

「久しぶりだな、ゴー」

 

「それはこちらの台詞でもある、永らく姿を現さんものだから心配したぞ。だが見る限り元気そうだな、何より何より」

 

 

はっはっはとゴーは笑う。まさか帰ってきてここまで喜ばれるとは。オーンスタインの時も感じていたが、私のNPCとこうして会話をするというのも中々不思議な感覚ではある。だが私は寧ろ感動の方が大きい、こうして心配していると言ってくれただけで涙が流れるならとっくに号泣していることだろう。そうだ……

 

 

「ゴー、キアランは―――」

 

「此処に居る」

 

 

既にゴーの足元に仮面を着けた女性、キアランが其処にいる。キアランは後ろで束ねた絹のような金髪を揺らしながら此方に歩み寄ってくると、私の腕にそっと触れた。

 

 

「……何故突然姿を消したのかは理由は聞かない……だけど私達はお前が帰ってくるのをずっと待っていた……だから言わせてくれ」

 

 

伏せていた顔を上げる。

 

 

「お帰り、アルトリウス」

 

「……ただいま、キアラン」

 

 

キアランと言葉を交わすと、ゴーは笑いながら茶化す。

 

 

「おーおー、キアランが仮面の中で顔を赤くしとるのぅ」

 

「だっ!誰がしているか!!適当なことを言うな、ゴー!!」

 

 

勢いよく振り返り羞恥からか声を荒げる。すぐにはっと我に帰りアインズさんに頭を垂れる。

 

 

「お見苦しい所をお見せしました、モモンガ様」

 

「いや、構わない。ところであいつはどうした?」

 

「あいつ?……ああ、シフの事でしょうか。シフなら……」

 

 

その時、森を何かがとてつない速さで駆け抜けてきた。私は気づけば心が昂っていた。居る、直ぐ側まで。それは森から飛び出し、私の目の前へと着地した巨大な狼。私が最初に作り出したNPC……

 

 

「シ……フ」

 

 

名前を呼ぶと頻りに私の匂いを嗅ぐ。

 

 

―――がう

 

 

小さく吠えた。私はゆっくりと頭に手を伸ばそうとすると、その場に伏せた、撫でろと言わんばかりに。その灰色の毛並みに触れようとし、一瞬止まったが迷わず触れる。

 

 

「ッ……」

 

 

とてももふもふしている、ここまで触れて気持ちがいいと感じたことがない。優しく撫でているとシフは耳をピクピク動かし、尻尾を振り眼を閉じている。僅かに感じるシフの鼓動……。

 

そうだ、生きているんだ。オーンスタイン、キアラン、ゴー……そしてシフ。彼等はもうNPCという命令を待つだけの存在ではない。各名前を持った意思と命を持った生き物なんだ。アルベドも、そして他の存在達も……

 

手を止めてそんなことを考えていたらシフが鼻で腕を弄る。もっと撫でろと言っているのだろう。

 

 

「すまん」

 

 

もう一度撫で始めると満足そうな表情に見えた。私はしゃがみ

 

 

「シフ……寂しい思いをさせた。お前だけじゃない、皆にだ……」

 

 

シフと視線が合うと、私はその頭に自分の頭を当てる。

 

 

「安心してくれ、もう私は何処にも行かない……最期まで一緒だ……」

 

 

顔を撫でるとシフは立ち上がり

 

 

アオオオオォォォォン

 

 

天を仰ぎ遠吠えを上げる。この森全てに響き渡るようなその遠吠えは私の心は震えた。

 

シフは私にとって初めてのNPCだ。まだ右も左も知らない時代、アインズ・ウール・ゴウンの皆の協力でNPCを作った。真っ先にシフを生み出した時はインしてはシフの下で二時間は共に居た。私にとっての原点にも近い。だからシフには他のNPCとは少し違う思い入れがある。勿論、他の生み出した四体も深く愛している。皆、私のかけがえのない‘友’なんだ……

 

離れはしない、寂しい思いはさせはしない……二度と……。

 

 

「ありがとうございます……」

 

 

アインズさんにそう感謝の言葉を言う。彼はシフ達に会わせたくて先に私を此処へ連れてきたのだろう。本当に優しい人だ……だからこそ私はこうしてアインズさんに着いて行くことを決めたんだ。

 

 

「シフ達が喜んでいるようで良かったですよ、ではそろそろ行きますか。今後の方針、そして俺の名を変えたことを全員に伝えに」

 

「はい、キアランお前も一緒に同行してもらいたい」

 

「わかった」

 

「シフとゴーは待っていてくれ、後に最初の火へと行く」

 

「心得た、では待つとしよう」

 

「がう」

 

 

よしと呟き

 

 

「では行きましょう」

 

「ええ、っとその前にアルさんに今後の方針、先に伝えときますね。実は――――」

 

 

 

 

 

 

玉座の間にて、多くの者達が居た。人ではない、多種の異形が何かを待つように跪いていた。その何かは時を待たずしてくる。スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを右手に持っているアインズだ。彼は玉座

へと深く腰を落としそこから見える光景に

 

 

「(圧巻だ……素晴らしい)」

 

 

心の中で喝采を送る。

 

 

「さて、今回勝手に個人で動いたことについてを詫びよう。カルネ村で何があったかはアルベドから聞くように。そして至急、ナザリック地下大墳墓の皆に伝えたいことがあるのだが……まず彼の帰還を喜ぼう」

 

 

一同が後ろを向くと玉座の間の扉が開く。現れるのは右には竜狩りオーンスタイン、左には王の刃キアラン、そして中心に位置するのは深淵歩きアルトリウスだ。数人から声が漏れ出す。

 

 

「ア、アルトリウス様だ……」

 

「アルトリウス様が御戻りに……!」

 

 

それらの言葉を背景にアルトリウス達は歩き出す。一定の距離を進むとオーンスタインとキアランは左右に別れ、列に加わりアインズに跪く。アルトリウスは列の中心が割れて行くのを確認しそこを進んでいくと、玉座まで来、アインズの直ぐ横へ立つ。

 

 

「我が騎士アルトリウスが此処に帰還した。では……」

 

 

二人は顔を見合わせ頷くとアルトリウスは皆のほうを向き

 

 

「まず先に皆に謝ろう、誰にも告げずナザリックから姿を消した事……本当にすまなかった」

 

 

軽く頭を下げると辺りはどよめくが彼の言葉に静まり返る。

 

 

「私は永らく旅をしていた、何時も気に掛けていた……このナザリックの事を。そしてナザリックは私の帰るべき場所だと恥ずかしながら後に気づいた……正直どのような顔をしてここに立つか恐怖していたのだが、皆の顔を見てそれは和らいだ……あまり私に時間を割くわけにはいかないな、アインズ様」

 

 

ああとアインズは相槌を打ち

 

 

「上級道具破壊《グレーター・ブレイク・アイテム》」

 

 

‘モモンガ’を意味する旗が床へと落ちると皆は旗からアインズへと向けられた。

 

 

「私は名前を変えた……アインズ・ウール・ゴウン……アインズと呼ぶが良い。異論のある者は立ってそれを示せ」

 

 

誰一人として立つ者は居ない、皆が彼に、アインズに忠誠を向けている証だろう。アルベドが顔を上げ

 

 

「ご尊名伺いました……アインズ・ウール・ゴウン様」

 

「よし、それではこれより私達の方針を厳命する……皆、私は争いが嫌いだ」

 

 

アインズは手で顔を覆う。

 

 

「今回赴いた村で解った事、どうやらこの世界は争いで満ちているようだ……私とアルトリウスはそれについて嘆いた、何処に行っても起こる争い、もう十分だ。だからこそ!」

 

 

カツンとスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが地面を突く音と共に立つ。

 

 

「アインズ・ウール・ゴウンの名の下に、この‘世界を一つ’にする!!そして───」

 

 

アルトリウスが一歩前に出て

 

 

「この世界から争いを‘無くす’それが我等、アインズ・ウール・ゴウンの最終目的だ」

 

「所詮夢物語と笑うかもしれない、だが私とアルトリウス、そして皆が居ればそれが可能と思っている!だからこそ、私達に力を貸して欲しい……このアインズとアルトリウスに!!」

 

 

玉座の間の皆が一斉に立ち上がる

 

 

「アインズ様万歳!!」

 

「アルトリウス様万歳!!」

 

「全ての者よりアインズ様、アルトリウス様に絶対なる忠義を!!」

 

 

シモベ達が唱和する、震えんばかりの声がアインズとアルトリウスの耳に届く。

 

 

「生きているものに知らしめろ、我等が戦に終焉を迎えさせる者だと!今はこの世界の事を解りきっていない、準備の段階だが何れ本格的に動き出すことになる。その時はこのナザリックの力を最大限に使わせてもらおう。皆の活躍、私達は大いに期待している!!」

 

 

再び賛美が沸き起こる。アインズ、そしてアルトリウスは互いに顔を見合わせ決心する。このナザリックを何時か帰ってくるかもしれないアインズ・ウール・ゴウンのメンバーに見せても恥じない存在にすることを。そして世界にこの名を広め、もしかしたら自分たちと同じようにこの世界に来ているメンバーに名が届くようにと。

 

これより始まるのだ、我等ナザリックの物語が……

 

 




これにて第一巻の物語が終わりです。次回数話空白期の話を更新使用と思います。

そしてアルトリウスの言ったシフ以外の四体。オーンスタイン、キアラン、ゴー、そしてもう一体は誰か?次回それを明らかにしますのでお楽しみに!

シフにもふもふオオカミの通り名がつきました(大声


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空白期
第十三話


今回オリジナルワールドアイテムを登場させます。ご了承ください。


ワールドアイテムというものがある。

 

ユグドラシルにおいて、全てのアイテムの頂点に立つといったものだ。どのワールドアイテムも破格の性能で、対抗するには同じワールドアイテムか職業『ワールドチャンピオン』でしか抗う事が出来ない。そしてそのワールドアイテムの一つ

 

『最初の火』

 

というアイテムが存在する。効果は二つで一つは所持者のレベル上限を解除できる。一見地味に見える能力……なのだが、本来ユグドラシルのレベル制度は種族レベルと職業レベルを足して100が最大値となる。最初の火の所持者はその100を越え更に種族レベル、職業レベルに新たに加算することができる。更に公式から最大レベルが幾つか定められていない。詰まり天辺が見えず、その最大値に届くまで永遠にレベルが上がり続けるという。1レベル上がるのに必要な経験値はかなりのものだが、それでも止まることを知らないレベルアップは凄まじい物であろう。最初の火を手にした者の成長は止まることがないのだ。

 

ちなみにこのアイテムはダークソウルとのコラボダンジョンの超高難易度のステージで稀に登場するエネミーを倒し、極僅かな確率でドロップで手に入れることの出来るアイテムであった。そのドロップ率ははっきりいって極悪で正に天文学的な確率、何千回倒してもドロップしないこともざらで、コラボ終了まで誰も手に入れることが出来ないのではと噂されるほど。しかもそのエネミーも殆どでないもので周回しようにも手間が掛かる。あまりにも酷いと言うことで運営にクレームが来たこともある。

 

しかしこのアイテムを手にいれた者が現れた。その者は最初の火によって更なる力を手にした……そのプレイヤーは、かの極悪ギルドアインズ・ウール・ゴウンのメンバーだった。

 

そう、あの騎士である……

 

 

 

 

 

 

玉座の間を後にしたアルトリウスは真っ先に最初の火の神殿へと赴いた。四騎士達は各守護すべき場所へと待機させ、彼とシフだけが神殿へ。神殿の入り口は門のような建造物になっていて、霧が掛かっており中の様子を伺うことが出来ない。

 

 

「……何故か緊張するものだ」

 

「?」

 

 

シフはアルトリウスの顔を心配そうに覗き込む。

 

 

「……行こうか、シフ」

 

 

霧に手を掛けゆっくりと中へとアルトリウスとシフは入っていく。霧が明けるとそこは夕焼けに染まった途轍もなく大きな広間だ。豪華なシャンデリアを天井からぶら下げ、奥へ左右に並ぶ立派な柱、太陽の光を迎え入れる窓も素晴らしい装飾で固められている。目を奪われるような壮大な景色はアルトリウスに昔の日々を思い起こさせる。

 

 

「懐かしいな……」

 

 

最初の火の神殿はナザリックの第六階層に存在し、更に内部は四つの階層に別れている。その一つが此処『アノールロンド』だ。その名の通り、アノールロンドを元にボスステージを参考にして作られた場所だ。アノールロンドと同じく変わる事の無い美しい夕焼けが常に差している。正面、その上の階、右と左にも入り口と同じく霧の掛かった門がある。アルトリウスは正面の門へ向けて歩き出すとシフは彼の後を追う。

 

再び霧を潜ると次に現れる景色は闇。真っ暗く、一箇所にしか明かりが灯っていない。それに足元一面は灰が積もっている。此処こそがワールドアイテム、最初の火を保管している『最初の火の炉』だ。中央にある篝火に彼は近寄る。

 

 

「こいつのお陰で色々と助かったものだ」

 

 

主の帰りを喜んでいるかのように火は、最初の火は揺らめきを増していた。何故アルトリウスは此処に来た理由、それは最初の火のもう一つの効果にある。その効果とは、自分のレベルを自由に上げ下げ出来ること。勿論自分の最大レベルから上に上げることは出来ないが、下げることは出来る。対した効果ではないが、彼はこれを使いわざと自分のレベル下げてプレイしていた。遊びでレベル1縛り等の制限プレイをするためだ。彼が最後にインした時にも使用しており、凡そ20前半でその時はプレイしていた。残りのレベルは全て最初の火の中にある。アルトリウスは自分の力を回収しに来たのだ。

 

 

「シフ離れててくれ」

 

 

アルトリウスの言う通り少しだけ遠ざかり様子を見ることに。彼は静かに火へと手を伸ばす。

 

 

「最初の火よ、私の力……回収させてもらう」

 

 

吸い寄せられる様に火はアルトリウスの腕へと触れる。その時、火の勢いは増した。

 

 

「ぐ、おおおおおぉぉぉ!!!!」

 

 

火は全身に周り彼の身体を焼く。苦痛の声をあげその場へと倒れ

 

 

「がう!!」

 

「来るな!!」

 

 

思わずシフはアルトリウスに駆け寄ろうとするがその一言によって足を止める。尚もアルトリウスの身体を火は蝕んで行く。

 

 

「くそ……回収するだけで……こんな事が……!!」

 

 

想定外だ、アルトリウスは熱によって苦しめられながら悪態を突く。すると

 

 

「な、んだ……頭の中に何かが……!」

 

 

 

 

「あーまたウルベルトさんとたっちさん喧嘩してる……」

 

「はぁ……アルさん呼んでき──」

 

「もう来てますよ」

 

「あ!アルさん!それじゃ後は仲裁役にお願いしますね~」

 

「何時から仲裁役になったのやら……解りました、全く喧嘩するほど何とやらか……」

 

 

 

 

「アルさん、やまいこさん!」

 

「モモンガさんどうしました?」

 

「ようやく当てたんですよ、あのレアアイテム!」

 

「おめでとうございます、ところでどれ位注ぎ込んだので?」

 

「えっと……ボーナス殆ど……」

 

「あー……まあ超の付くレアアイテムですからね、俺なんて諦めましたし……ん?どうしました、やまいこさん?」

 

「そ、そんなレアなものなんですか?」

 

「モモンガさんがボーナス注ぎ込むレベルですからね、かなりですよ。……まさか、やまいこさん」

 

「え、っと……あのボク……てちゃったんです」

 

「へ?」

 

「今なんて……」

 

「ボク一回のガチャで……当てちゃいました」

 

「……強運の持ち主ですね」

 

「ああああああそのガチャ運別けてくださいよぉおお!!」

 

「モモンガさんが壊れた!?」

 

 

 

 

「例のギルドにちょっかいを?」

 

「ええ、あいつら俺達の仲間に胸糞悪い事してきましたからね、報復がてらにと。俺とアルトリウスさんの二人なら確実に潰せれるってわけですよ」

 

「まあアインズ・ウール・ゴウン内で魔法職最強のウルベルドさんが本気になれば、ある程度のギルド相手には出来ますけど……俺はそこまででは」

 

「ナザリックの深淵騎士が何弱気になってるんですか!」

 

「深淵騎士じゃなくて深淵歩きです……まあ、まずはギルマスであるモモンガさんとかに意見聞いてからですね……」

 

「OKでたら行くんですね!それじゃ聞いてきますぜ!!」

 

「……行っちゃった。全く、面白くはなりそうかな……?」

 

 

 

 

みんな、許してくれ……私は何も出来なかった……。誰でもいい、奴らを……あの闇を止めてくれ……。ああ、もう持たない……お前だけでも助かってくれればそれで良い。

 

 

───シフ

 

 

 

 

 

「っは……」

 

 

短く息を吐き出しアルトリウスは正気に戻る。火は吸収されるように彼の身体へと消えていった。

 

 

「くぅん……」

 

 

シフが彼の腕を軽く舐める。

 

 

「大丈夫だ……シフ」

 

 

よろよろと立ち上がりアルトリウスは先程脳に浮かんだビジョンを思い出す。

 

 

「さっきのはユグドラシル時代の記憶?それに最後のは私の記憶には……」

 

 

幾ら考えても答えは出ない。考えることを止め彼は頭を横に振り、左手を何かを確かめるように何度か握り頷く。

 

 

「無事戻ったか」

 

 

どうやら最初の火より力の回収に成功したようだ、彼は身体の奥から力が溢れかえってくるのを感じている。そしてシフを撫で

 

 

「心配させたな、シフ。用は済んだ、それじゃ此処から出よう」

 

 

がうとシフは吠えた。

 

 

「私の力は全て戻った、次は武器の確認をしよう。『アルヴィナ』の所に行こう」

 

 




この作品における最初の火はレベル制限解除という能力にいたしました。

話は変わりますがキアランは仮面をはずすときっと美人だと思うんです!!


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主人公データ

要望がありましたのでアルトリウスのステと設定を書きました。


ユグドラシルステータス

 

名称

アルトリウス

 

通称

深淵歩き

 

趣味

制限プレイ

武具集め

 

役職

至高の41人 切り込み隊長

 

住居

ナザリック地下大墳墓第六階層 最初の火の神殿

 

属性

中立 カルマ値:-50

 

種族レベル

亡者《アンデッド》:15LV

亡者騎士《アンデット・ナイト》:10LV

亡者王《アンデット・キング》:5LV

不死人[課金]:5LV

 

職業レベル

ソードマスター:15LV

ベルセルク:15LV

ナイト:15LV 

ファイター:15LV

ディフェンダー:15LV      

ソードダンサー:10LV

ガーディアン:10LV

ケンセイ:5LV

マーセナリー:5LV

ウェポンマスター:5LV

深淵歩き[特殊職業]:5LV

 

種族レベル+職業レベル 計150レベル (最初の火によりレベル上限変更)

種族レベル:35

職業レベル:115

 

備考

アルトリウスの装備で上から下までを固め武具もそれに準じている。ギルドメンバーの協力の元、ダークソウルコラボダンジョンをコンプリートし、最初の火を手にした有数のプレイヤーとなる。職業は全て近接特化し物理戦闘ならばアインズ・ウール・ゴウントップクラスの強さを誇る。魔法職最強のウルベルドと組んで戦った時は敵ギルドから非難の嵐が来るほど。遠距離戦闘に乏しいためそれらの相手には苦戦を強いるが、特殊武器で何とか補っている。

 

性格は心優しく他人に良く気を使う。動物好きで一日戯れても足りないとの事。ギルド内では良い相談役となっており、よく悩み相談を持ちかけられる。皆と仲は良好で例を挙げると、ブループラネットとはアノールロンドの夕焼けを作ることで協力してもらい意気投合する。モモンガの黒歴史こと『パンドラズ・アクター』の作成に関与していたり。女性プレイヤーではやまいこと仲が良く、彼女の引っ込み思案な性格をどうにかする事に助力していたことも。そしてたっち・みーとウルベルドの喧嘩を速攻で止めれる喧嘩仲裁役としても重宝されている。ちなみに茶目っ気があり、若干厨二っぽい一面もある。

 

ユグドラシルのサービス三年前に病魔に倒れギルドへと帰還できなくなった。そしてサービス終了少し前に病魔は完治、ギリギリでモモンガと再会を果たし異世界へと共に飛ばされる。彼は元の世界へ戻る気は無く、シフやキアラン達と共にある事、モモンガの剣となる為に異世界へ留まることを望んだ。余談だがシフのモフモフした毛を一晩中モフっていたいと考えていることも。

 

 

ダークソウル風ステータス

 

 

名前

ARTORIAS

素性

騎士

 

LV 150

 

体力

50

記憶

8

持久

30

筋力

40

技量

40

耐久

12

理力

27

信仰

27

 




需要があるかわかりませんが、一応現状このようなステになっております。


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第十四話

 

 

「~♪」

 

 

何処からともなく陽気な鼻歌が聞こえる。そこは古びた木造の内装、内装にあわせた木のテーブル。大の大人サイズの木箱しかない殺風景な部屋だ。再び鼻歌が聞こえるが、この部屋には誰もいない。いや、人はいない。要るのはテーブルの上に乗っかっている丸々とした猫だけだ。

 

 

「~♪……おや、随分と懐かしい顔だね」

 

 

猫が喋った、本来なら驚愕することであろうが、声をかけられた人物、アルトリウスは気にもとめず猫へと返答する。

 

 

「久しいな、アルヴィナ。元気そうでなによりだ」

 

「あんたもね、キアランから帰ってきたとは聞いていたけど、いつ顔を出すか待ってたんだよ」

 

「それはすまない、立て込んでいたものでな」

 

「いいさ、わたしゃ所詮猫、気にしなくていいよ」

 

「拗ねるなよ」

 

「拗ねて無いさ。ところで何のようだい?」

 

「武器を幾つか持っていきたい。ちょっと試したくてな」

 

「わかったよ」

 

 

アルヴィナは木箱に視線を移すと蓋が勝手に開く。アルトリウスはその木箱の中身を物色する。

 

 

「そういやアルトリウス」

 

「ん?」

 

「竜娘にはあったかい?」

 

「……まだだな」

 

「会いに行っておやりよ、あの娘だってキアラン達と同じくあんたの帰りを待ってたんだからさ」

 

 

ふとアルトリウスは思い出す、白く美しいかの容姿を。アルヴィナは実のところアルトリウスが作成したNPCではない。彼の友人が作りこの部屋『黒い森の小屋』を守護するように設定したのだ。アルトリウスのNPCは他にいる、彼が最後に作り上げたNPCが……

 

 

「そうだな、落ち着いたら行くとしよう。彼処にも用はある」

 

「そうするといいさ」

 

 

そしてアルトリウスは幾つか武器をアイテムボックスに収納する。

 

 

「さて私は行く、また来るよアルヴィナ」

 

 

籠手に包まれた手でアルヴィナを優しく撫でるとゴロゴロ喉を鳴らす。

 

 

「そんな優しくされても何もでないよ」

 

「期待してたのだがな」

 

「言うねぇ、坊や」

 

「坊や言うな。ふっ、それではな」

 

 

手をヒラヒラさせながら出口へとアルトリウスは歩む。

 

 

「……良かったねぇ、シフ。これで寂しい思いはしなくてすむよ」

 

 

 

 

 

 

ほの暗い通路を歩くアルトリウスとシフ。進路を塞ぐ鉄の格子に阻まれるとそれは勝手に持ち上がって行く。格子の向こうへと行くと視界に映るのは円型に大きく空けた天井、何層にもなった客席だ。此処は円形劇場アンフィテアトルムと呼ばれる第六階層にある闘技場だ。

 

丁度中心にこの階層の守護者、アウラ・ベラ・フィオーラとその双子の弟『マーレ・ベロ・フィオーレ』がおり、アルトリウスの存在に気付き

 

「「アルトリウス様!」」

 

 

アウラは元気よく、マーレはまるで女の子のような走り方で彼の下へと。

 

 

「マーレ遅い!」

 

「お姉ちゃん速すぎるよぉ~はふぅ……」

 

「全く!おっと、アルトリウス様、シフ、ようこそ!円刑劇場へ!」

 

「ぐるぅ」

 

「突然来てすまないな、迷惑を掛ける」

 

「そんな滅相もない!至高の御方の一人、アルトリウス様が来られて迷惑何て一切思いません!」

 

「……」

 

 

ふとアルトリウスはマーレを見るとマーレはビクッと身体を跳ねさせ顔を伏せる。アウラはムッと表情を変えてマーレの背後に周り

 

 

「マーレ、アルトリウス様に失礼でしょ!」

 

「ううぅ……ごめんなさいぃ……」

 

 

ギュ~とマーレを締めるアウラ。何故かその光景にアルトリウスは微笑ましく見る。

 

 

「(……こんなに元気に動くなんてな、あの人にも見せてあげたかった……)」

 

 

軽く咳払いをし

 

 

「アウラそれくらいにしておけ」

 

「はい!」

 

 

アウラはパッとマーレから離れると、アルトリウスはしゃがみマーレと比較的近い目線になる。するとマーレは少し目線を反らす。

 

 

「どうしたんだマーレ、私が何かしたか?」

 

「えっと……その……」

 

 

口ごもるマーレ、呆れたアウラが

 

 

「マーレ、まさかあんたアルトリウス様の事、怖がってるの?」

 

「お、お姉ちゃん……!」

 

 

成る程とアルトリウスは呟いた。確かに彼は表情が伺えない為何を考えているか解らない、それに基本的に物静かなためあまり良くない印象を与える。アウラの言う通りマーレは気弱な性格のためアルトリウスを怖がっているのだ。

 

 

「マーレ、怖がることは無い、私にとってお前達は大切な存在だ、傷つけるようなことは一切しない。だから安心してくれ」

 

 

金色の頂点をアルトリウスは撫でるとマーレは顔を赤くしていた。さてとアルトリウスは立ち上がる。

 

 

「アウラ、マーレ。私が此処に来たのは少し実験をするためだ。此処を借りてもいいか?」

 

「勿論です!ところで何の実験ですか?」

 

「私の武器について……む?」

 

 

アルトリウスの頭のなかに声が流れてくる。声の主はアインズのようだ。

 

 

『アルさんいまどちらに?』

 

『闘技場です、武器の性能を確認しようと』

 

『俺も行ってもいいですか?ちょっと息抜きをしたくて……』

 

『構いませんよ』

 

 

会話が終えるとアウラ達の方を向き

 

 

「どうやらアインズさんが来るようだ」

 

「アインズ様が!?」

 

「ああ、今すぐに来ると……噂をすれば」

 

 

彼が入ってきた入り口からアインズがやって来た。

 

 

「アルさんの武器興味があったんで来ちゃいました」

 

「ユグドラシル産の武器に比べれば地味に見えますよ……」

 

 

苦笑しながらアインズ達から距離を置く。

 

 

「アインズさん、最悪の状況も考えられるのでアウラ達の前に」

 

「わかりました」

 

 

アイテムボックスに腕を突っ込み一つの大剣を取り出した。全体がまるで岩のような質感で刀身は所々が橙色になっており何かの紋様のように刻まれている。

 

そして思い出す、ガゼフに託した剣の事を。

 

「(飛竜の剣は彼処まで強力な衝撃を放つことは出来なかった、此方の世界に来て威力諸々が変化したのかもしれない……ならば同じくドラゴンウエポンのこいつはどうなるか)」

 

 

ドラゴンウエポンの一つ『古竜の大剣』の柄を両手で持つ。

 

 

「はっ!」

 

 

剣を高く持ち上げ降ろす勢いで地面へと叩き付けた。すると軽く4mは越す凄まじい衝撃波が放たれ、地面を這って行く。やはり想像していたものよりも衝撃波の規模が大きくなっているとアルトリウスは確信する。衝撃波は闘技場の壁へと当たり、壁を伝い駆け上がっていく。そのまま闘技場の外へと消えていった。

 

 

「規模は上昇し、能力は健在か……使えるな……では」

 

 

古竜の大剣はしまい新たな剣を取り出す。次の剣は柄に当たる部位は紐で縛られており、刀身が美しい黒曜石のようなもので形成されている。この剣はアルトリウスの所持しているドラゴンウエポンの中でもお気に入りの一つとして存在している物だ。

 

 

「アインズさん、防護壁張っておいてください。この武器の威力、私も把握できません」

 

「?解りました……マジックシールド!!」

 

 

自分の前面にアインズは魔法防御を発動する。それをアルトリウスは確認すると柄を両手で逆手に持ち地面へと突き刺す。

 

 

「!?」

 

 

アインズは目を疑った。刀身が地面へと刺さった瞬間、この闘技場全てを覆いつくさんとばかりに黒い炎がアルトリウスを中心に発生した。炎がマジックシールドに触れると鬩ぎ合い、今にも砕けそうになる。アルトリウスが慌てて刀身を引き抜くと少しづつ炎は消えていった。

 

 

「すごい……」

 

 

思わず声が漏れたアウラ。アルトリウスは『黒竜の大剣』を眼前へと持っていく。

 

 

「……これは側に味方がいるときは使わない方が良いな」

 

 

黒竜の大剣をアイテムボックスへ収納する。

 

 

「凄まじい威力ですね、アルさん」

 

「正直予想外です。恐らく私の持っている武器の殆どが威力が向上している……そうだ、アインズさんに前々から渡したかった剣があるんですよ!」

 

「俺に?」

 

「ええ、アインズさんにも装備できるように調整して完成させたんですけど……これこれ」

 

 

アルトリウスがアイテムボックスより引き出したのはおぞましい外観をし、異様な瘴気を纏った反り返った剣だ。それをアインズへ手渡すと彼は空へと掲げ様々は角度から見る。マーレは恐る恐るその剣を見ていると

 

 

「……もしかして、骨で出来てるんですか?」

 

「鋭いな、マーレ。その剣は『墓王の剣』。死の瘴気を纏っていて、生命を持つ者に対して強力な猛毒となります。きっとアインズさんに似合うと思ってずっと持ってたんですよ」

 

「おお……これ貰っても良いんですか!?」

 

「その為に作ったんです、お気に召しましたか?」

 

「良いですよこれ!おお~墓王の剣か~」

 

「ナザリック地下大墳墓の王たるアインズ様に相応しい剣ですね!」

 

 

アウラは剣を見ながらに言う。喜んでいるアインズの姿を見て、アルトリウスは全身を骸骨で作り上げられた死を司る王を思い出していたのはまた別の話である。

 

 

 




アインズは墓王の剣を手に入れた!

ずっとアインズ様にこの剣を持たせて上げたかった……次回、アルトリウスと階層守護者の一部のお話に。お楽しみに!


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第十五話

「守護者達が私に会いたいと?」

 

 

最初の火の神殿の木陰で、気持ちよく寝ているシフに寄りかかったアルトリウスはキアランに問う。

 

 

「帰還したアルトリウス様に御挨拶をしたい、とのことだ。断る理由もないだろ」

 

「そうだな……皆アノールロンドに呼んでくれ」

 

「わかった、統括のアルベド様に伝えておく」

 

 

踵を返しキアランは姿を消す。するとシフは瞼を開け顔だけを上げる。

 

 

「挨拶か、別にそんな必要はないと思うんだけどな。まあ来てくれるのはありがたいんだが……如何せん他の皆の忠誠が重すぎる。これはアインズさんも苦労するよな」

 

 

シフの頭を撫でながらに言う。

 

 

「キアランとかオーンスタインとかみたいな感じが丁度良いものの……しかしお前本当に撫でられるの好きだな」

 

 

言葉に笑みを含みながら、左右にリズムよく振られるシフの尻尾を見て言う。当然と言う様にシフは吠えた。

 

 

「さあ、アルベド達が来る前に行くとするか」

 

 

 

 

 

 

キアランがアルベド達を呼びに行って数分が経った。私はアノールロンドの夕焼けを見ながら時を待つ。しかし本当に綺麗な太陽だ……ブループラネットさんとこの景色を見たかったな……。しかし太陽か、良いな太陽……誰も見てないよな?

 

 

「太陽万歳!!」

 

 

足を閉じ、背筋をピンと伸ばす。腕は斜めに広げてYのような、かの太陽の騎士の召喚ポーズをとる。

 

 

「……」

 

 

何だろう、こう心が少し躍るな。何時もこんな心境で戦ってたんだろうか……初見プレイではとても頼り甲斐のあるあの騎士は。

 

 

「お待たせしました」

 

「うへぇぁ」

 

 

霧をアルベドが潜ってきて、思わず変な声を上げてしまった……

 

 

「如何なさいましたか、アルトリウス様?」

 

「いや、別に。皆は来たのか?」

 

「はい、今此方に……」

 

 

アルベドがそちらを向き、霧に影が大小六つ浮かぶ。それぞれが明らかになると見知った者達の姿が。

 

第一、第二、第三階層守護者『シャルティア・ブラッドフォールン』。相変わらず可愛らしいゴスロリで身を包んでいるな。

 

二足歩行の虫を思わせる姿をしたライトブルーの異形、第五階層守護者『コキュートス』。うん、カッコいい。

 

第七階層守護者、きちっと整えたスーツの丸眼鏡、目を引くのは銀のプレートで覆われた尻尾を持つ悪魔『デミウルゴス』。そして執事のセバス、勿論アウラとマーレも居るな。アルベド達は横一列に並び跪く。

 

 

「第四階層守護者及び第八階層守護者を除き、各階層守護者御身の前に」

 

 

頭を垂れて重々しい空気が流れる。うむ、こう何と言うかなぁ……息苦しいと言うか。統括であるアルベドが畏まった雰囲気で

 

 

「この度はご帰還なされた―――」

 

「待て」

 

「?」

 

 

この空気のまま居られては私としても持たん。

 

 

「堅苦しいのは好きではない、楽にしても構わないぞ」

 

「しかしアルトリウス様を前にしてその様な事は……」

 

 

困ったものだ……仕方ない。

 

 

「そうか、なら少しでも楽にしろ、これは命令だ」

 

 

その言葉に守護者達が顔を見合わせる。アルベドは此方へ向き直り

 

 

「畏まりました、御命令とあらば」

 

 

幾分か張り詰めていた空気が軽くなった気がする。

 

 

「それでいい、それで挨拶に来たんだったな」

 

「はい、この度、ナザリックに御帰還なされたアルトリウス様に、改めてご挨拶をと」

 

「そうか、態々ありがとう」

 

「勿体なき御言葉」

 

 

確か前にアインズさんから聞いたな。このナザリックのNPC達はギルドメンバーの事を『至高の四十一人』と呼び、忠誠を誓っていると。私も例外ではないという事。さて、一つ試してみるか。

 

 

「だが……皆は本心でそれぞれの創造主が帰還すれば良かった、と思っていないか?」

 

「「「!?」」」

 

「アルベドはタブラさん、シャルティアはペロロンチーノさん、コキュートスは武人建御雷さん、デミウルゴスならウルベルドさん、アウラとマーレならぶくぶく茶釜さん、そしてセバスならたっちさん……私ではなくそれぞれが戻ってくれれば良かった、そう思ってないか?」

 

 

皆は動揺する。

 

 

「嘘は聞きたくない、アルベド、お前はどう思っている」

 

「私はアルトリウス様が戻ってきてくださった、そしてアインズ様が此処へ残ってくださった。それだけで私は充分で御座います」

 

 

爬虫類を思わせる虹彩と金色の瞳が私を射抜く。表情からするに嘘は言っていない。

 

 

「シャルティアは?」

 

「私は少しだけ、ペロロンチーノ様も共に戻ってきて頂ければと思っておりんした。けど、アルトリウス様がナザリックへと戻られた事に対して心より喜んでおりんす」

 

 

 

廓言葉混じりの言葉が耳へと届く。……次だ、視線をコキュートスへと移す。

 

 

「シャルティアト同ジヨウニ、心ノ何処カデ我創造主ノ帰還ヲ望ンデオリマシタ。デスガ、至高ノ御方ガ一人、アルトリウス様ガ御帰還ナサレタ事ハ、何ヨリモ喜バシイト思ッテオリマス」

 

「ふむ……デミウルゴス」

 

「右に同じく、貴方様が此処へと舞い戻られた、その事実に歓喜しない者などおりません。もし居たとすれば私が全力を持って排除いたしましょう……」

 

 

さらりと物騒なことを口走るものだな。だがデミウルゴスらしいと言えばらしいか。

 

 

「二人はどうだ」

 

「えっと……私の言葉がアルトリウス様の御期待に添えるか解りません……ですが、玉座の間でアルトリウス様の御姿を見たときこう心の中がドキドキしました。これって嬉しいって気持ちなんだと思います」

 

「ボ、ボクはアルトリウス様が帰って来てくださって本当に嬉しい……です」

 

 

アウラは胸に手を当て、マーレはほんのり頬を赤く染めながらに答えてくれる。

 

 

「セバス、最後にお前の言葉を聞きたい」

 

「はっ……私は他の守護者の方々同様、アルトリウス様の御帰還を心から喜び、そしてアインズ様、貴方様に付き従う事が出来る、私にとってこれほど幸せなことは御座いません」

 

「……そうか」

 

 

私は今凄まじく感激している、同時に恥じている、自分の軽率な行動に。皆の言葉は嘘偽りのない本心から放たれたもの、本当に喜んでくれているんだ……私は愚かだ、何が試すだ。せっかく皆がこうして顔を出しに来てくれた、帰ってきてくれて嬉しいと言ってくれた。なのに私は意地悪くこんな事を……

 

 

「アルベド、シャルティア、コキュートス、デミウルゴス、アウラ、マーレ、セバス……すまなかった」

 

 

「アルトリウス様!?」

 

「な、何故アルトリウス様が御謝りになることが……?」

 

「皆がここまで慕っていてくれているのに、それに気づかず私は皆の心を踏みにじるような言動をしてしまった。だから謝らせて欲しい……本当にすまなかった」

 

 

アルベド達もどう反応をして良いか解らず、沈黙が訪れる。

 

 

「……こんな愚かな私だが、お前達は付いてきてくれるか?私がお前達の上に立つものとして相応しくないのならば、そう言ってくれれば―――」

 

「そんなことは御座いません」

 

 

遮るようにデミウルゴスが言葉を重ねる。

 

 

「アルトリウス様はアインズ様と同じく、我等を統べる事が出来る絶対的な力を持った御方。決して相応しくないなどあり得ません……ご安心を、私達ナザリックの者達はアルトリウス様に揺るぐことのない忠誠を……」

 

 

深々と頭を下げ、アルベドが続く。

 

 

「各守護者及び守護者統括アルベド……アルトリウス様に忠誠を誓います」

 

「「「誓います(誓イマス)」」」

 

 

皆が続けて言う。

 

 

「……ありがとう、私も誓おう。皆のためにこの剣を振るうと」

 

 

 

 

 

 

アルベド達は神殿を出て、デミウルゴスは少し立ち止まる。

 

 

「もしかしたら……アルトリウス様は私達を試したのかもしれないな」

 

「試ス?ソレハドウイウ事ダ?」

 

「私達の忠誠が果たして本物かどうか、わざとあのような御言葉で私達を動揺させ、本心を伺う御つもりだったのかと」

 

「成る程、それならあの御言葉の意味、納得がいくでありんす」

 

「流石の私でも焦ったが……アルトリウス様の様子を見る限り、御期待に添えれたようだ、安心したよ」

 

 

眼鏡をくいっとかけ直しデミウルゴスは少し冷や汗に近いものを一筋頬に伝わせる。

 

 

「もし、添えれなかった場合……アノールロンドの夕焼けが私達の首を照らしていたのかもしれないな」

 

「く、首!?」

 

 

思わぬ発言にアウラだけではない、守護者全員がどよめいた。

 

 

「流石にそこまでは……アルトリウス様はとても慈悲深い方と存じておりんすが……」

 

「ア、アルトリウス様がそんなこと……」

 

「おや、君達は知らないのかね、あの方の恐ろしさを。セバスは知っていると思うが」

 

「ええ」

 

 

セバスは頷き、デミウルゴスは神殿の方を向く。

 

 

「アルトリウス様が御怒りになられた時の事を覚えている……我が創造主のウルベルド様すら震え上がっていた……思い出すだけで戦慄するよ……」

 

 

想像もつかないだろう、とても温厚なアルトリウスの怒りの姿を、デミウルゴスですら恐怖を覚える姿を。

 

 

「……今後もアルトリウス様、そしてアインズ様のご期待に添えるように尽力致しましょう。ではここで解散にするわ、各守護者は持ち場へと戻りなさい」

 

 

アルベドのその言葉を皮切りに守護者たちはその場から離れていく。残ったのはこの階層の守護者、アウラとマ-レだ。

 

 

「アルトリウス様が御怒りになったらそんなに怖いなんて……」

 

「まあデミウルゴスがあそこまで言うんだものね~……ん?」

 

 

何処からともなく息遣いが聞こえる、入り口の直ぐ側だ。アウラはゆっくりと木陰へと行くとシフがその巨体を大地に寝かしていた。どうやらシフの寝息だったようだ。

 

 

「気持ちよさそうに寝てるね」

 

「うん……」

 

 

アウラは急にそわそわしだす、シフに近づきたいけど、近づかないそんな微妙な動きをしていた。一方のシフは寝息がピタリと止まり、片目を開いた。マーレは少し後ずさる。

 

 

「……」

 

 

瞳はアウラへと向けられて数秒間視線が合う。シフは何事も無かったかのように瞼を下ろし寝に入る。

 

 

「シフに触りたいのか?」

 

「!?」

 

 

振り向けば何時の間にかアルトリウスがアウラ達の背後に立っていた。彼は二人の間を通りぬけシフの所へ。

 

 

「こいつは基本私やキアランにしか近寄らないからな……」

 

 

しゃがんでシフを見て

 

 

「アウラ、此方に来い。マーレもだ」

 

「はい!」

 

「わ、解りました……」

 

 

呼ばれてアウラは駆け寄り、恐る恐るにマーレは近づく。

 

 

「二人が触っても構わないだろう、シフ」

 

 

もう一度瞼を上げて小さく吠えた、良いと言っているのだろう。アウラはゆっくりとその灰色の毛並みへと手を伸ばす。

 

 

「……うわぁ、やわらかい」

 

「そうだろう?モフモフだ、一晩中触っていても飽きん。ほら、マーレも」

 

 

シフの圧倒的モフりに夢心地になっているアウラを尻目に、マーレは若干震えながらかのモフ神様へと。手が身体に触れるとマーレは表情を緩める。

 

 

「なんだかあったかいですね……」

 

 

触れられているシフもどこか気持ちよさそうな様子だ。アルトリウスは立ち上がると

 

 

「二人とも、これからもシフの相手になってやってくれ。私は今後少し忙しくなるのでな、あまり構ってやれなくなる」

 

「何かやられるんですか?」

 

「ああ……ちょっとしたお仕事だ」

 

 

 

 

 

 

エ・ランテルのやや離れた森林、そこには四人の男達が居る。それぞれ一般的な両刃の剣、メイス、弓、杖を携えた若者達だ。何やらゴブリン、オーガ等のモンスターの死体に囲れている。

 

 

「まさかこんな化け物が居るなんてな……」

 

「ペテル、こりゃ逃げたほうがいいんじゃないか?」

 

「賛成なのである」

 

「あそこまでのモンスターが居るなんて聞いてませんでしたし……」

 

 

中世的な顔立ちの少年がゴブリン死体の山に誇る存在を見る。身体はオーガ程の巨体ではないが、それでも2mはある体躯。両腕には大きな鉈を構え、頭部は山羊のようだ。彼等は目の前に居る異形に手こずり、苦戦を強いている。

 

 

「どうにか奴の目を引く、その隙に……」

 

「駄目です、逃げるならみんなで───」

 

 

山羊の異形は突然飛び上がり、少年に目掛けた。

 

 

「ニニャ!」

 

「うわぁああ!!」

 

 

彼の体以上はある鉈が振り下ろされようとしている。他の者は咄嗟の事で追いつくことが出来ない。此処に一人の命が散ろうとしていた……

 

 

 

「……?」

 

 

 

何時まで経っても痛みが襲ってこない。不思議に感じ目を開けると異形は彼の目の前で止まっていた。いや、既に事切れている。よく見ると長い刀身が胴を貫いていた。異形の身体が浮くと、そこには鈍い銀色の甲冑を身体に覆っている者が居る。長大な刀身に突き刺さった異形をそのまま何も居ない所へと放り投げる。

 

 

「……無事か」

 

「え?は、はい……」

 

 

低く、篭った声の主に呆気に取られた少年は取り合えず感謝の言葉を。彼の仲間が側まで来て

 

 

「ニニャ大丈夫であるか!?」

 

「はい……」

 

「仲間が助かりました!えっと、あなたは?」

 

 

刀身に付いた血を払い

 

 

「……私はこの周辺のモンスター狩りに来た者だ……名は」

 

 

首元にぶら下げた胴色のプレートを揺らし

 

 

「メタスという」

 

 

 




これにて空白期は終わり、次回から二巻のストーリーに移ります。
シフのモフモフをモフって一晩中すごしてみたいです。

最後に現れた銀色の騎士は誰なのか、お楽しみに!


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第二章 つらぬく銀閃
第十六話


今回から二巻のストーリーが始まる。それに伴い、今回は二章プロローグで少し短くなっております。ご了承ください。


城壁都市エ・ランテル。そこでは一人の冒険者が少しづつ名を広めており、その冒険者は二つの通り名が付けられている。一つは『銀閃』、武器を振るっている姿から付けられたという。もう一つが身の丈程はある刀身を持つ直剣、それから繰り出される刺突は何者であろうと逃れることは出来ない。モンスターを容赦なくつらぬき殺す事から

 

『つらぬきの騎士』

 

と。そしてそのつらぬきの騎士……名はメタスという。彼の詳細はよく解っておらず、全身を銀の鎧と兜で頭から足の先まで覆い、寡黙で多くを語らない男で美女を一人引き連れているという。謎の騎士として怪しまれると共に、どんな依頼でもこなす優秀な冒険者として知られていっている。

 

そんな彼の正体は……

 

 

 

 

 

少し時は遡り───

 

 

「エ・ランテルで冒険者になる?」

 

 

執務室で腕を組んだ騎士、アルトリウスはこのナザリックの主、モモンガ改めアインズ・ウール・ゴウンを見る。

 

 

「はい、目的としてはこの世界の情報網を構築する為です。そこで冒険者として実績を積んで、クラスを上げていけば得られる情報は多いと考えたんです」

 

「成る程……確かにこの世界のついては解らない事だらけですからね」

 

 

アインズの提案は現状最適な方法かもしれない。エ・ランテルは情報を集める場所として良いとペトルス村長が言っていた事をアルトリウスは思い出す。ただ問題は一つ、誰がその冒険者になるかだ。

 

 

「んで、アインズさんは誰をその役につかせる予定で?」

 

「それ何ですよね……ナザリックの者は人間を嫌ってるのが多い傾向ですから。下手にボロが出てトラブルとかになったら計画に支障が出てしまいます。正直悩んでまして……」

 

 

ふむとアルトリウスは下を向く。すると何か思いついたように

 

 

「その役私が引き受けましょう」

 

「アルさんが?」

 

「ええ、先日の竜狩りと天使を覚えていますか?」

 

 

アインズは以前、法国の魔法詠唱者が、ニグンが召喚した天使と誇り高き槍騎士を思い出す。縦に首を振るとアルトリウスは言葉を続ける。

 

 

「恐らくこの世界にはユグドラシルのアイテム等が流れ込んできている、私達がこうして此処に居るように。もしかしたらプレイヤーも来ている可能性があります。そいつらが私達に好意的に接してくれるかはわからない……仮に戦闘になればまずナザリックNPCでは少し荷が重いかもしれません」

 

 

最早これはゲームではない、現実だ。死んでしまったら元も子も無い、NPC達はギルドメンバーの残した子供のようなものだ、死なせたくは無いという思いが彼にとって強い。

 

 

「なら俺も一緒に……」

 

「アインズさんはこのナザリックの支えであり、最後の砦みたいな存在ですよ、そんな最前線に出るような事は不味いです。それに───」

 

 

兜の奥にゆらりと紅い光が灯る。

 

 

「対人は得意ですから」

 

「……解りました、でも一人は流石にあれですからサポートとして誰か連れて行ったほうが良いですよ。そちらのほうが効率も上がるかと」

 

「まあ、確かに……連れていくなら比較的人間の姿をした者が……」

 

 

数名アルトリウスの頭の中で思い浮かべる。先にキアランが浮かんだ、だが彼女は暗殺者としての能力が非常に高く、あまり他の者に姿を見られたくないという面があり冒険者という表立った行動をするのはあまり向かない。

 

 

「オーンスタインは真面目すぎるから融通効かないし、ゴーは巨人だからアウト。モフ──じゃなくてシフは狼だし」

 

「守護者達は守るべき場所がありますからね……あ」

 

「……アインズさん、もしかして同じこと考えてます?」

 

「ええ、アルさんのサポートをある程度できて人間に近い姿をしている者……」

 

 

二人は同時に

 

 

「「プレアデス」」

 

 

第9階層に存在するメイドチーム『プレアデス』。彼女らは異形種であるがそれぞれ人間に近くデザインされた者、人間に擬態出来る者が居る。しかも戦闘もこなせるので冒険者役として適している。

 

 

「それじゃプレアデスの誰かを連れて行くということでいいですね」

 

「はい、誰を連れて行くかは直ぐに決まりましたよ」

 

「え?誰です?」

 

「そいつは───」

 

 

 

 

 

 

エ・ランテルの住居エリア、そこの大きな広場で二人の男女が歩いていた。片方は全身甲冑で、幾箇所に芸術的な彫刻が刻まれていて、兜は一本の角のような装飾、目に当たる所は横にスリットが入っている。手には長く布に巻かれた何かを持っていて異様さを引き立たせる。片方の女性はローブを着け、首を完全に覆うほどの黒いマフラーのようなもの。艶やかな黒い髪を夜会巻きにし、眼鏡をかけ知的で美しい容姿をしている。広場の人間はその二人に目を惹かれていた。

 

 

「……あの、アルトリウス様」

 

「今はメタスと呼んでほしい、様付けもしなくてもいいぞ。それでどうしたユーリ」

 

 

ユーリと呼ばれた女性は不安そうな表情で彼へと問う。

 

 

「申し訳ありません、メタスさん……本当に同伴がボク……じゃなくて私で宜しかったんでしょうか?プレアデスならば他にも……」

 

「まあ他にも居るかもしれない、だが私はプレアデスの誰か一人と言った時、真っ先にお前を連れて行きたいと思ったんだ。それが理由では駄目か?」

 

「えっと……その……選んで頂きありがとうございます」

 

 

照れからかまともにメタスと視線を合わせれない、プレアデスの副リーダー『ユリ・アルファ』こと『ユーリ』であった。

 

 

「礼をするなら此方のほうだ、お前は立場的にもこういう行動をするのは大変だろう。私の要望に答えてくれて感謝しているよ」

 

「いえ!感謝なんてボクには勿体ないです!」

 

「ボクに戻っているぞ」

 

「あ」

 

 

彼女はアインズ・ウール・ゴウンに三人しかいない女性メンバーの一人やまいこのNPCだ。やまいこはリアルで実際にボクっ娘である。その為、彼女のNPCでもあるユリにも似通った設定が込められているのだろう。

 

 

「別にボクでも構わない、寧ろそちらの方がギャップがあって可愛くて私は好印象だ」

 

「か、かわっ!?」

 

 

頭から湯気が出るのではという程ユーリは顔を赤くし、メタスの背中に隠れるように追従する。二人はとある建物の前に立つと

 

 

「確かこの建物が『冒険者組合』で合ってるな」

 

「はい、位置的にここで間違いありません」

 

「ふむ、では行くか」

 

 

直ぐに冷静さを取り戻して、キリッとした表情をしているユーリに「流石」とメタスは感服する。先にメタスが建物へと入り、それにユーリが着いて行く。

 

そして生まれるのだ、後に語られる高名な二人の冒険者が……

 

 

 




この作品のオリジナルとして、冒険者はアルトリウス、そして付き人はユリ・アルファにしました。ストーリーも原作とは違う展開になっていきますのでお楽しみに!


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第十七話

冒険者

 

最初はこの響きに高揚していた。まだ見ぬ未開の地、モンスターの蔓延る深い洞窟、誰も手に入れたことの無い宝、新しい世界へと踏み込む。そんな夢広がるものだと思っていたのだが……この世界の冒険者という職業は

 

 

「対モンスター用の傭兵と言った所か……夢が無い」

 

 

組合から出て第一声がこれだ。冒険者の仕事は受けた依頼でモンスター討伐、遺跡の探索が主に行う事……探検とかはないんだね、残念だ。首元にペンダントのようにぶら下げた銅のプレートを弄る、これが冒険者の身分証明証とのこと。銅《カッパー》はつまり最初の階級、次は鉄《アイアン》。まずはその階級にならねば。そして最終目標はアダマンタイトだ、そうなれば依頼も得られる情報も有益なものになってくる筈だ。

 

 

「メタスさん、これからどういたしましょう」

 

「そうだな……組合で使うように言われた宿があるからそこへ行こうか」

 

「畏まりました」

 

 

では組合へ、ふと私の後を追うユーリを横目で見る。彼女はナザリックの中でも人間を軽視していない珍しい存在だ。この冒険者という職業に就いた以上、人間との交流は必須。彼女なら良好な人間関係を構築できると思っている。しかし……美人だよなぁ……美しさと知性を感じさせるやまいこさんのセンスには脱帽だ。まあプレアデスのメンバーも綺麗な者ばかりだ。ずっと見ていたことにユーリは気づいたのか

 

 

「えと、ボクの顔に何かついていますか?」

 

「いや……しかしどうもこの視線はどうにかならんものか」

 

 

誤魔化すように視線を周りへと変えると何やら私とユーリが注目を浴びている。

 

 

「まるで珍しい物を見る目ですね……」

 

「ああ、私のこの防具……少々目立ちすぎたかな……」

 

 

腕を見ながらに言う。私が今装備しているこの防具はダークソウルの前作、デモンズソウルに登場するボス、つらぬきの騎士の鎧を再現したものだ。外観も気に入っており冒険者として心機一転、埃をかぶっていたこの防具を取り出したのだ。しかし、ソウルシリーズの騎士はどれも良く外れが無い、素晴らしいものだ。もっと作っておけば良かったな……。

 

 

「……此処か」

 

 

教えられた通りにやってきた建物の前に、扉を開けその中へと。木製の丸テーブルが何箇所に配置され、恐らく同業者だろう男共が真昼間から酒らしきものを飲み、下品な笑いをしている。広さはまあまあか。正面にあるカウンターに足を運ぶ。

 

 

「宿を頼みたい」

 

「……あんた銅プレートだな、相部屋で一泊5銅貨──」

 

「二人部屋で頼む」

 

「チッ……なら7銅貨だ、前払いでな」

 

 

舌打ちをした店主の目の前に銅貨7枚を放り投げる。

 

 

「二階の奥の部屋を使いな」

 

 

親指で階段を指す。私達は宛がわれた部屋へと赴く。

 

 

 

 

 

 

部屋に入り全体を見渡す。少々埃っぽい、だが別に気にすることではないが。

 

 

「メタスさん、本当に此処に滞在するのでしょうか」

 

「む?……私は此処で良いが。ああ、埃っぽいし汚いからな。ユーリは気にしてしまうか……」

 

 

ユーリは首を横に振る。

 

 

「仕方ないとはいえ、メタスさんがこのような場所へ滞在するのは心が痛みます」

 

 

割り切っているだろうがやはりユーリは快くは思っていないか。私はベッドまで歩む。

 

 

「ふむ……」

 

 

ベッドへ腰を下ろすが、そこまでふかふかしていない。実際に寝たらあんまり心地よくは無いだろうな。さてと前振りし

 

 

「お前の気遣いは嬉しい、しかし今此処に居るのはナザリックのアルトリウスではない、冒険者メタスだ。お前もまた同じく、ユリ・アルファでなくメタスの仲間ユーリだ、いいな」

 

「はい」

 

 

前もって、メタスの時である私に対する態度を変えるようには言った。様付けは直ぐ無くなってくれたが、流石にタメ口は使えないか。まあユーリは真面目だからな、そこら辺は仕様がない。

 

 

「まあ、こういうのも悪くは無いと思っている。気楽にいこう」

 

「は、はあ……」

 

 

気分を変え、部屋の窓を開けて外を見るが、都市というだけあってやはり活気がある。道行く人々を眺めると、背中に大きな剣やら何やらをを携えている者もちらほら。ああ、特にあれは目を引く、バケツみたいな兜に太陽の絵が描かれた鎧……

 

 

「……はあぁ!?」

 

「め、メタスさん!?」

 

 

慌てて部屋を飛び出す、階段を勢いよく下りる、他の人間に当たらないように外へと出る。

 

 

「今の人は何処に……」

 

 

何処を見渡してもさっきのバケツ頭は見当たらない……だが、もしかしたらまだ近くに居るかもしれない。

 

 

「おいあんた」

 

 

しかしあの人が居るはずが……見間違いか?

 

 

「てめぇ聞いてんのか!」

 

 

いや、見間違いのはずが無い、あんな目立つ見た目なんだぞ?……ん?振り向くと何やら男が騒いでいた。

 

 

「ようやくこっち向きやがったか。どうしてくれるんだ!酒が台無しになったじゃねぇか!」

 

 

あーそういえばテーブルに少し当たった気がするな、それで酒が落ちたか何かして怒っているのか。

 

 

「悪かった、急いでいたものでな。それで、弁償すればいいのか?」

 

「当たり前だ!!こちとら……」

 

 

すると置いてきてしまったユーリが駆け寄ってきた。

 

 

「メタスさん、何か御座いましたか?」

 

「いや、少し見覚えのある人が居てな、つい飛び出してしまった。まあ見失ったが」

 

「なあ、その姉ちゃんお前の連れか?」

 

「……そうだが」

 

 

突然私からユーリへと向きを変え、嘗め回す様に彼女を見て下卑た笑みを浮かべた。なんか次の言葉が大体想像がつく。

 

 

「酒の代金はいらねぇ、その代わりにこの姉ちゃん貸しな!」

 

 

やっぱり……期待を裏切らない男だよ。

 

 

「断る」

 

「何?」

 

「あっ……」

 

 

ユーリの肩を抱き寄せる。

 

 

「彼女は私の物だ、誰にも渡しはしないし貸しもしない。だが酒の代金は弁償しよう」

 

 

彼女をそっと離し、男に左腕を突き出す。握っていた手を開くと数枚の金貨が、男は慌ててそれを空中で受け止める。

 

 

「それで足りるだろう」

 

「……けっ、我慢してやらぁ」

 

 

金を受け取った男は満足してくれたようだ、酒場へと戻っていく。……柄にも無くかっこつけてやってみたけど……何か思い返すとすっごい恥ずかしい!何!?私のもの!?いやいや!流れでああいってしまったけど、やっぱユーリに引かれてるよなぁ……

 

 

「……」

 

 

チラリとユーリを見たが、俯いていて表情が解らない。 怒らせてしまっただろうか……

 

 

「す、すまないユーリ。あの場を凌ぐ為に思わず……」

 

「トラブルを回避するためのあの行動、正しいかと思われます。お気になさらないでください、メタスさん」

 

 

笑顔でユーリは言う。……怒ってないのか?

 

 

「そういえば、見覚えのある方が居ると言っていたのですが……」

 

「ん、ああ……見失ってしまった。恐らくあれも冒険者……会える日が来るかもしれない。さて、宿は確保した、次は依頼を受けよう。組合へ向かうぞ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

円形劇場の中心で金の鎧の騎士と漆黒の鎧を纏った者が二人。

 

 

「ではアインズ様、何時でも構いません。打ち込んで来てください」

 

「ああ」

 

 

グレートソードを両手に構えた戦士、アインズはオーンスタインに肉薄する。

 

 

「うぉおお!!」

 

 

力強く振られたその右手の剣はオーンスタインの槍に防がれる。左手の剣で突くが後ろへと飛び回避、アインズも前方へと跳躍し更に攻撃を加える。

 

 

「でええぇぇい!!」

 

 

勇ましい咆哮と共に双刃は竜狩りを刈り取ろうと迫る。だが全ての攻撃はいなされ、決定打どころかまともな一撃すら与えられない。ある程度剣と穂先が切り結ぶとアインズはピタリと止まる。オーンスタインはゆっくりと構えをとき

 

 

「……上手くいかないものだな」

 

 

アインズはボソリと呟く。

 

 

「流石は竜狩りオーンスタインか」

 

「お褒めに預かり光栄で御座います」

 

 

彼の前に膝を着き、アインズはヘルムを消す。

 

 

「やはりこうして剣を取って戦うというのも良いものだ。しかも相手は近接職に特化した戦士、経験になる。それでどうだ、オーンスタイン、何か指摘するところはあるか?」

 

「恐れ多きながらお答えさせて頂きます。アインズ様の剣より振るわれる一撃、素晴らしいもので御座います。しかし、豪腕にて振るわれるだけの剣では素早い者にとって恐るるに足らず、かと」

 

「成る程……力任せだけでは駄目か……ではもう一度手合わせしてもらいたいが構わないか?」

 

「望まれるなら何時まででもお付き合いいたします」

 

「ありがとうオーンスタイン」

 

 

もう一度アインズは剣を構えヘルムを装着、オーンスタインはくるりと槍を回し彼をみすらえる。

 

 

「(アルさんだって頑張ってるんだ、俺も一つでも何かを身に付けないと……まずは何時か必要になる近接戦、それを完璧なものにしなければ!)」

 

 

地面を蹴り上げ、漆黒は黄金へと駆ける。

 

 

 

 

 

 

「すまない、カッパーで受けられる依頼で一番難易度が高いものはあるか?」

 

 

組合で私は受付嬢に聞く。正直、掲示板に貼っている依頼書は私では読めないものであった。ユーリも文字が読めない、だからこうして聞くしか無い。

 

 

「解りました……今でしたらこれですね。ここからやや離れた森林地帯で低級のモンスター討伐というものが」

 

「ならばそれで構わない」

 

「畏まりました、ではこの依頼を引き受けるということで申請しておきます、少々お待ちを」

 

 

手続きが済むまで時を待つことにする。モンスター退治か、精々楽しませてもらうとしようか。

 

 





鎌、ありますよね。生命狩りの鎌とか。そしてブラボの葬送の刃。個人的に葬送の刃のモーションがめちゃくちゃかっこいいと思うんですよね。仕掛け武器という少しジャンルの違うものではありますが、葬送の刃の鎌モードのモーションで生命狩りの鎌を振るえたら、とても素晴らしいと思うんですよね~


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第十八話

 

依頼を受けたメタスとユーリは組合から現地へと向かった。受付嬢はその姿を見届け一時間が経ち、組合員の一人が彼女の下に。

 

 

「すまない、東方に離れたあの森林、あそこで受けられる依頼の内容を変えたいのだが」

 

「何かあったんですか?」

 

「……実はあの森で何人か冒険者がモンスター討伐に行ったんだが、謎のモンスターと遭遇し……殆どが殺されたと」

 

「!?」

 

 

受付嬢は青ざめる。そして入り口を見るが、その森へと向かう冒険者達の姿はとっくに居ない。

 

 

「皆シルバーのプレートだったのだがな……調査をしたい、ゴールド以上のプレートに募集を」

 

「そ、それが……」

 

「?まさか……!!」

 

「はい……カッパーの冒険者二人がその森へ……」

 

「何と言うことだ!連れ戻せ!」

 

「もう此処をたって時間が……」

 

 

組合員は絶句する。カッパーの冒険者の実力はたかが知れている。前回森へ行った冒険者は皆シルバー、それが太刀打ち出来ないと言うことはカッパーではまるで話にはならないだろう。すると

 

 

「何かあったのか?」

 

 

一人の男が二人に声を掛ける。その風貌は奇妙、バケツのようなヘルムに鎧の正面には自分で描いたのだろう、顔のついた太陽が。左手に装備した盾にも同じく太陽が描かれており、腰にはごく普通なブロードソードを一本。しかし、首にぶら下げられているのは紛れもなく、冒険者最高ランク『アダマンタイト』のプレートだ。その事から、この男は相当な実力者なのだろう。

 

 

「おお、貴方は『太陽』の!」

 

 

 

 

 

 

依頼を受けたメタスとユーリ、彼等は目的地である森に迫っていた。メタスは先頭に立ち意気揚々と歩く。

 

 

「……此処だな」

 

 

此処が依頼にあった森と判断し、メタスは躊躇いもなしにその森へと進入する。ユーリも彼の後を追い森の中へ。

 

 

「何があるかわかりません、お気をつけくださいメタスさん」

 

「ああ、気を抜いて殺られるなんて無様な真似はしたくないな」

 

 

此処は自分の知らない土地、いくら下級と言えどもこの世界の基準は不確かだ。だからこそメタスは細心の注意を払い行動しようと考えた。

 

 

「……何だろう、妙な気配がするな、ユーリ……ユーリ?」

 

「……!は、はい!何でしょう!」

 

「気を付けろと言ったのはお前の方だろう、お前がぼーとしてどうする」

 

「申し訳ありません……」

 

「……まあ危うくなったら私が守る、心配するな」

 

「はい……」

 

 

ユーリは俯き答える。そして先程の事を思い出していた。

 

 

「(アルトリウスさ―――じゃない、メタスさんに肩を抱かれたとき何故かこう、心が跳ね上がるようだった……何なんだったのかしら……あの感覚は)」

 

 

言い様のない感情がユーリの頭を一杯にしていた。するとメタスは突然立ち止まる。

 

 

「……血の匂い?」

 

「?」

 

 

ユーリも微かに感じた動物の血の匂い。此処からそんな遠くない場所であろう、そこから異質な気配も感じる。

 

 

「ユーリ、構えておけ」

 

「はっ」

 

 

両手に厚手の革に鉄の鋲を埋め込んだ武器、セスタスを装備しその場所へとメタスと共に走る。流れていく景色の中、血の匂いはいっそう濃くなる。

 

 

「これは……」

 

 

足元には何体ものゴブリンの死骸、全て体をズタズタに引き裂かれ四肢は寸断され、臓物をはみ出させていた。メタスは一体の亡骸に近づき

 

 

「大きな刃物で切り裂かれたような痕だな……同業者か?いや、これは……!?」

 

 

ゆっくりと大きな何かが此方へと近づいてくる。恐らくこの惨状を引き起こした張本人だろう。二人は身構え、その姿が明らかになるとメタスは目を疑った。

 

 

「何故こいつが此処に……」

 

 

眼前に居るのは彼の知るモンスターその物であった。『山羊頭のデーモン』、大きな体躯から繰り出される二振りの鉈は、並みの人間では到底受け止めるものではないだろう。メタスは左手に持った得物に右手を掛けようとしたが、ユーリが彼の前に立つ。

 

 

「メタスさん、貴方の手を煩わせる訳にはいきません、ここは私にお任せを」

 

「いけるか?」

 

「お忘れですか?ボクはプレアデスの副リーダーですよ、戦闘には自身があります」

 

「……ふっ、わかった」

 

 

獲物を下げ、後ろへと後退する。

 

 

「危なくなったら加勢する」

 

「はっ」

 

 

マフラーをたなびかせながら、ユーリは疾走する。山洋頭のデーモンは此方へ来るユーリに鉈を振り下ろす。身を横へ傾けさせ鉈による一撃を回避、鉈を足場にし飛ぶ。

 

 

「はぁああ!!」

 

 

空中からの殴りかかるが山洋頭はバックステップでかわし

 

 

「ヴォォオオオオオ!!!!」

 

 

地面へついた彼女を切り裂こうとジャンプして両手の鉈を振るうが、ユーリは山羊頭のデーモンの懐に潜り込む。そのまま掬い上げるようにボディーブローが決まり、ユーリの拳は山羊頭の腹にめり込む。怯む山羊頭のデーモンであるが、体制を立て直しうなり声を上げ袈裟に斬りかかろうとしたが、その前に彼女は少し跳び

 

 

「せいっ!」

 

「グモォォッ!?!?」

 

 

見事な蹴りが顔面に直撃し、その巨体を地面に倒す。まだと言わんばかりにユーリは再び跳び、右の拳で

 

 

「終わりよ」

 

 

山羊頭のデーモンの胴体に勢いよく殴打、口から血飛沫を吐きぐったりと力尽きた。ユーリはふうと一息つく。

 

 

「流石は戦闘系、こうも早く奴を倒すとは。やはりお前を連れてきて正解だった」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

 

メタスは死体となった山羊頭のデーモンの側による。

 

 

「しかしこいつも此方にか……む?」

 

 

ここから少し離れた場所から咆哮が聞こえた。間違いなく山羊頭のデーモンのものだった。

 

 

「もう一体いたか!ユーリ、行くぞ!」

 

「はっ!」

 

 

二人は森の中を駆け抜ける。気配は強くなり、奴だけではない、他に人間の気配も感じる。

 

 

「……居たか!」

 

 

そこには山羊頭のデーモンと四人の首に銀のプレートをぶら下げた者達が。今まさに山羊頭のデーモンは杖を持つ少年に飛び上がかろうとしていた。メタスは得物に巻かれた布を取り払うと、木漏れ日がその銀色の剣を照らし出す。異様な長さをした刀身が特徴の『つらぬきの剣』を構え、山羊頭のデーモンの背後へと瞬時に迫る。

 

 

「逝け」

 

 

声すら上げさせず、剣は山羊頭のデーモンの心臓を確実に貫き絶命させた。力無くぶら下がる山羊頭のデーモンを何もいない方向へと剣を振るい投げ捨て、その場にへたりこんでいる少年に声を掛ける。

 

 

「……無事か」

 

「え?は、はい……ありがとうございます」

 

 

彼の仲間であろう男達が駆け寄る。

 

 

「ニニャ大丈夫であるか!?」

 

「はい……」

 

「仲間が助かりました!えっと、あなたは?」

 

 

血が付着した刀身を振るい

 

 

「……私はこの周辺のモンスター狩りに来た者だ……名はメタスという。そして彼女は私の仲間の」

 

「ユーリと申します」

 

 

軽く頭を下げ挨拶をするユーリ。メタスは剣を持った男の方を向き

 

 

「この森ではこいつが低級モンスター扱いなのか?」

 

「そんな筈はありません。こんなモンスター初めて見ますし、しかも相当の強さを……あ、申し送れました、私は『漆黒の剣』のリーダー『ペテル・モーク』といいます」

 

「漆黒の剣?チームのようなものか」

 

「そんな所です。他のメンバーを紹介したいところなのですが、此処は危険です。森の外へ行きましょう」

 

「……そうだな、危険な場所で暢気に話すのもあれだ」

 

「決まりですね、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

「この森か」

 

 

馬に乗った奇妙な騎士がメタス達が入り込んだ森の前に来ていた。いざ入ろうとしたが、六人の人影が此方に向かってくる。

 

 

「彼らは……」

 

 

騎士は馬から降り、その者達の下へと行く。

 

 

「すまない」

 

「?ぬぉおおおっ!!」

 

 

メタスは声を掛けてきた騎士を見てすっ頓狂な声を上げる。

 

 

「どうした?」

 

「い、いや、すまない変な声を上げてしまって……」

 

 

するとペテルは興奮気味に

 

 

「貴方はまさかアダマンタイト級冒険者『ソラール』さんではありませんか!?」

 

「いかにも、俺はソラール、この森に謎のモンスターが現れたと聞いて来たのだが……」

 

「それなら彼が倒しましたよ」

 

「?」

 

 

メタスは手に持っていた布に包まれていた何かを地面に下ろし広げると、山羊頭のデーモンの頭部が晒される。

 

 

「こいつは……何の因果か……これを貴公が?」

 

「私と彼女が倒した」

 

「ほう……」

 

 

ソラールはメタスをじっと見つめる。

 

 

「失礼を承知で聞くが……貴公と俺、何処かで会ったことがないか?」

 

「!?……さあな、私は知らない」

 

「むぅ、そうだよな、こんな格好をしていれば普通覚えているはずだからな。変な事を聞いてすまない、ウワッハッハッハ!」

 

 

豪快に笑うソラール。

 

 

「俺はこの森を少し調査するが貴公等はどうする?」

 

「私達は街に戻ろうと思います」

 

「そうか、気をつけてな。貴公等に太陽の加護があらんことを」

 

 

ソラールは彼等の横を通りすぎ、メタスはその背中をずっと見ていた。

 

 

「メタスさん、彼と何か?」

 

「……いや、何もない。戻ろうか」

 

 

首を横に振り、彼は街を目的地に足を動かし始めた。後を追うように、ユーリと漆黒の剣のメンバーも歩き始めた。

 

 

 




Y<太陽万歳!!


出してしまいました、ソラールさん。果たして彼は同じソラールの名を持つ別人なのか、それとも…

次回もお楽しみに!


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第十九話

「では、改めて自己紹介を」

 

 

街へと戻り、組合の会議室のような場所に現在彼等は居た。机を挟み、ペテルは立ち上がり。

 

 

「私が漆黒の剣のリーダのペテル、それで彼がチームの目と耳であるレンジャーの『ルクルット・ボルブ』」

 

「よろしくな、旦那、ユーリちゃん」

 

「……旦那?」

 

「……ちゃん?」

 

 

妙な呼ばれ方に首を傾げるが、気にせずペテルの方を向く。

 

 

「そして治癒魔法や自然を操る魔法を得意とする、森祭司《ドルイド》の『ダイン・ウッドワンダー』」

 

 

ダインは優しく微笑み

 

 

「よろしくお願いする」

 

「最後に漆黒の剣の頭脳『ニニャ』、スペルキャスターという二つ名を持っています」

 

「よろしく、メタスさん、重ね重ねではありますが助けてもらい本当にありがとう御座います。それとペテル、その恥ずかしい二つ名止めません……」

 

「いいじゃないですか、カッコよくて!」

 

「そうは言っても……」

 

 

不服そうな表情をとるニニャ。するとルクルットがメタスに

 

 

「因みになこいつ、タレントもちなんだよ」

 

「タレント……生まれながらの異能の力か」

 

「はい、彼のは魔法適正というもので、習熟に八年掛かる魔法が四年ですむとのことで」

 

「素晴らしい能力だな、私にはそういった物がない。羨ましい限りだ」

 

「いえ、僕よりももっと凄い能力を持った人は居ますよ……」

 

 

少し場が暗くなったせいか、ルクルットが話を変える。

 

 

「そういえば貴方達はつい最近冒険者になったばかりなんですよね」

 

「ああ、そうだ」

 

「今回の一件でカッパーから上がるということで!」

 

 

そう、山羊頭のデーモンを討伐したことによって、メタス達のランクが見直しされカッパーから上のプレートへと昇格するとの事だ。彼等にとっても想定外であり、重畳な事であろう。

 

 

「運がよかっただけ、奴を倒せたのは私に注意が向いてなかったからだ」

 

「そんなことはありませんよ、私達では傷一つ付けれなかったモンスターです。それを一撃で仕留めるなんてメタスさんは凄い冒険者ですよ!」

 

「……」

 

 

褒められ思わず黙り込む。そしてメタスは立ち上がり右手を差し出す。

 

 

「これも何かの縁。貴公等とは友好的な関係を築いていきたいのだが、どうだろう」

 

「勿論ですよ!此方こそお願いします!」

 

 

笑顔で応え彼の手を握り握手を交わす。メタスは内心上手くいったと感じていた。何処かの冒険者と交流を築く事がこの街での目的の一つであり、そこから更に輪を広げていく。この漆黒の剣の皆は彼を好印象に思っており、彼としてもファーストコンタクトは完璧なものであろう。ただ彼が一番気になるものは別にある。二人は手を離し椅子へと座る。

 

 

「そういえばあのソラールという男は一体……」

 

「ソラールさんですか?彼はたった一人で行動していて、聞いたこともない土地からやって来たらしく誰も見たことのない光の槍の魔法を放ち、凶悪なドラゴンですら倒すとか」

 

「まさに現代に生きる英雄、アダマンタイトの中でも指折りに入る実力の持ち主なんだぜ」

 

「ほう……」

 

 

果たして彼は自分の知るアストラのソラールなのか、それとも同じ名で同じ容姿をしている別人なのか。メタスはわからない、だが何時か確かめる時が来るであろう。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

バケツヘルムの騎士ソラールは森の深部で対峙していた。牛のような角を持ち、山羊頭のデーモンよりも大きな身体にそれに見合った大斧を持つ。

 

ゆっくりと距離を詰め、ソラールが動き出す同時に『牛頭のデーモン』も走る。彼はスライディングで牛頭のデーモンの股下を潜り抜け、背後まで行くと瞬時に立ち上がり切り掛かる。

 

 

「ふんっ!」

 

 

牛頭のデーモンは振り向き斧を振り回すが、ソラールは木に向かい飛び更に蹴り上げ空へ。

 

 

「ぬぉおおお!!!!」

 

 

剣を牛頭のデーモンの頭に突きたて、脳天を串刺しにする。痛みから牛頭のデーモンは荒ぶり身体を激しく揺らし、ソラールを振り落とそうとする。だが微動だにせず、彼は更に剣を突き入れる。

 

 

「グォオオオオオオォォォォ……」

 

 

そのまま背中から身体を倒し、彼はその前に飛び地面へ着地。すると剣を直ぐにしまい、右手に雷が宿り始めた。それが徐々に形を作っていきやがて槍のような形状へと変わる。

 

 

「むぅうんっ!!」

 

 

少し離れた場所へと雷の槍を投げるとそこに山羊頭のデーモンが居り、胴を容易く貫き殺した。

 

 

「むぅ……やはりこの世界は混じっているのだな」

 

 

自分が葬ったデーモン達を見てため息混じりに言う。

 

 

「しかし……あの騎士……」

 

 

彼はメタスの事を思い出す。自分の記憶の中にあの鎧を纏った者は居ない、のだが。

 

 

「何故だろうな、彼からは何処か懐かしいような……共に剣を合わせて戦ったような感じがする……」

 

 

何時、何処で?彼には解らない、一体あの騎士は何者なのか。幾ら記憶の海を探っても見つけ出すことは出来なかった。

 

 

「まあいい、また会った時にでもゆっくり話せばいいか……ん?」

 

 

ふと空を見る。木々の間から差す木漏れ日、それはソラールを照らしていたのだ。

 

 

「良い太陽だ……諦めないぞ、あの不死人に笑われぬように俺は絶対に自分の太陽を見つけ出してみせる」

 

 

両手を斜めにゆっくりと広げ『太陽賛美』のポーズを取るソラールだった。

 

 

 

 

 

 

ナザリックに一時帰還したアルトリウスは執務室へと向かっていた。道中、一人のメイドと出くわす。彼女は立ったまま頭を軽く下げ

 

 

「お帰りなさいませ、アルトリウス様」

 

「ああ、ただいまナーベラル」

 

 

プレアデスが一人『ナーベラル・ガンマ』にアルトリウスは問う。

 

 

「アインズさんは執務室にいるか?」

 

「はい、アルトリウス様の報告をお待ちしております」

 

「解った、ありがとう、下がっても構わない」

 

「はっ」

 

 

再び執務室へと進路を戻す。そして執務室の扉までたどり着くと

 

 

「アルトリウス、ただいま戻りました」

 

「お帰りなさい、アルさん!」

 

 

扉を開け出迎えてくれたのはアインズ、彼の下へと歩く。

 

 

「冒険者として一日動いてみてどうでした?」

 

「漆黒の剣というチームとの交流関係を築くことに成功しました、あとは彼らと一定の行動を共にして情報を集めて見ます。それと少しお話したいことが……」

 

 

アルトリウスは此処までの経緯を話した、山羊頭のデーモンの事等様々だ。

 

 

「やはりアルさんの言うとおり、この世界はユグドラシルの要素だけが混じっている訳ではないようですね……アルさんが冒険者になって正解だったのかも。ユリ・アルファもアルさんの期待通りに動いてくれてるみたいだし」

 

「変な奴らも来てなければいいんですよね……公王とかイザリスとか……下手をすれば私も太刀打ちすることが難しい奴も居ますから」

 

「う~ん……」

 

 

アインズは唸る。アルトリウスが苦戦するとなれば、彼も苦戦をすることは確実。そういう存在が現れた時の事も考えねばならないと思うと頭痛がしそうになる。アンデッドとなった彼がなることはないが。

 

 

「引き続き冒険者として行動はします、何かあれば直ぐに報告しますから」

 

「そうですね、何かあったら俺が手を貸しますので!」

 

「ははっ、その時は是非」

 

 

そうしてアルトリウスによる報告が終わり会話も終了する。執務室を後にしたアルトリウスがこの後思いっきりシフをモフモフしている所を、アウラに見られたとか見られなかったとか、アウラがそれに混じりシフをモフっていたとかはまた別の話である。

 

 

 




見事漆黒の剣と交流関係が出来たメタス、そしてソラールさんの戦闘。

次回は物語が動き出します、お楽しみに!


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第二十話

「……」

 

 

暗く、光も差し込まない森の中でメタスは眼前に立つ異形を切り殺す。

 

 

「せいっ!!」

 

 

勇ましい声と共にユーリの拳から放たれる打撃は異形を容易く吹き飛ばす。

 

 

「これで全部か」

 

「そのようですね」

 

 

辺りを見渡すと数十体に及ぶ化け物の死体が転がっている。オーガ、ゴブリン、どれも大した力を持たぬモンスターばかりだ。

 

メタスが冒険者となって三日が経ち、彼はエ・ランテルから南方の地域のモンスター討伐に出向いていた。理由は一つ、先日の山羊頭のデーモン、そしてソラール。この世界へやって来ただろう他の存在を見つけるためだ。だがあれ以来デーモンの姿を見ないし、ソラールも何処かへと行っているらしく会うことも出来ない。

 

 

「そう簡単には見つからんか……いや、そもそもこの間のデーモンは偶然に居合わせただけなのかもな……ユーリ、アイテムの整理をしたい。私は一度ナザリックへと帰還する。なるべく直ぐには戻るよ」

 

「畏まりました、では私は宿に行きます。何かありましたら報告いたします」

 

「頼んだ」

 

 

 

 

 

 

「さて……む?」

 

 

アルトリウスがナザリックへ戻るや否や一人の悪魔が彼の前に頭を垂れていた。

 

 

「お待ちしておりました、アルトリウス様」

 

「デミウルゴス、一体何のようだ?」

 

「実は御相談したいことが……」

 

「わかった……此処ではなんだ、神殿へと行こう。話はそれからだ」

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

「アルヴィナ」

 

「おやまあ、あんたならともかく珍しいのが来てるねぇ」

 

「お邪魔させて頂こう」

 

 

神殿の内部、黒い森の小屋に来たアルトリウスとデミウルゴス。アルヴィナは二人を出迎えると身体を起こしテーブルの上から飛び降りる。

 

 

「何か話でもするんだろう?厄介者は去るとするよ」

 

「すまないな、アルヴィナ」

 

「手数を掛ける」

 

「私は猫、気にすることはないさ。それじゃあごゆっくり」

 

 

そう言い残しアルヴィナは霧の向こう側へと行った。アルトリウスは側にあった椅子をテーブルの前に置き

 

 

「座ってくれ」

 

「いえ、お気遣いは嬉しいのですが……」

 

「前にも言っただろう、堅苦しいのは好きではないと。誰もいない、畏まることはないさ」

 

「……恐れ多いですが、御言葉に甘えさせていただきます」

 

 

デミウルゴスはアルトリウスが用意した木の椅子へと腰を掛け、一方のアルトリウスはテーブルを挟んだ反対側の椅子に。

 

 

「それで話と言うのはなんだ」

 

「はっ、実はアルトリウス様が此度、冒険者として行動をしているとの事ですが……御供を増やして欲しいと思いまして」

 

 

思わず頭に?を浮かべるアルトリウス、まず彼は理由を聞く。

 

 

「理由を聞こうか」

 

「アルトリウス様の御供のユリ・アルファなのですが、確かにあれは強い、プレアデスの中でも優秀です。ですが、予測不能の事態にアルトリウス様を御守りすることができるかどうか、守護者レベルの敵がもし現れたならユリ・アルファ一人でどうにかできるか。そう考え、やはり御供を増やしたほうが良いと考えたのです。何卒御検討を……」

 

 

眼鏡の奥からキラリと光るものが見えた気がする。アルトリウスは彼の眼を一切反らさず見る。

 

 

「成る程、盾役は多い方がいい……そう言いたいのだな」

 

「左様で御座います」

 

「デミウルゴス、お前が私を思っていてくれているのは本当に嬉しい……だがな、不要だ」

 

「何故でしょうか?」

 

「いいか、私はなお前達を友が産み出した息子娘だと、絶対に失いたくない掛け換えのない存在と思っている。盾なんかにはしたくない」

 

「……ですが」

 

 

食い下がらないデミウルゴスにアルトリウスは悩む。

 

 

「……それならば八肢刀の暗殺蟲《エイトエッジ・アサシン》を一体ほど付けてほしい。隠密行動に長けたあいつなら私のバックアップは容易だろう、文句は無いな」

 

「はっ!私の要望に応えてくださりありがとうございます」

 

 

テーブルに付きそうな程頭を下げるデミウルゴスによせとアルトリウスは一言。彼が頭を上げるのを確認すると

 

 

「そういえば一つ聞きたい、お前は人間をどう思っている?」

 

「……私達ナザリックの者からすれば取るに足らない存在ではあります」

 

「成程……これはナザリックの皆にも言う予定だがお前に先に言っておこう」

 

「?」

 

「前にアルベドが人間を虫と言っていた。虫は……人間からしても所詮虫だろう、だが虫の中には人間を殺す事ができる毒を持った奴もいる」

 

 

その言葉にデミウルゴスは彼が何と言おうとしてるか理解できた。

 

 

「そう言う事ですか……人間の中には私達を殺す事が出来る者がいるかもしれない、だから油断はするなということで御座いますね」

 

「物分かりが良くて助かる、お前のそういう所私は好きだ」

 

「ありがとうございます、では今後は人間に対する考えを改める事に」

 

「そうしてくれ」

 

「それでは私はこれで失礼いたします」

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

デミウルゴスは神殿の前で小さくため息を漏らしていた。

 

 

「難儀しているなぁ、デミウルゴスよ」

 

「ゴーか」

 

 

入口の横でゴーが胡坐でナイフのようなものを用い木を彫っていた。

 

 

「何とかアルトリウス様に願いは届いたよ、御供に隠密行動に長けた八肢刀の暗殺蟲を増やしていただけるとのことだ」

 

「ほう、それは何より」

 

「しかし──」

 

 

眼鏡を掛けなおしアルトリウスに言われたことを脳裏に思い起こす。

 

 

「掛け替えのない存在……か」

 

「む?アルトリウスがそう言ったのか?」

 

「ああ、あの方は非常に慈悲深い。私達にさえその優しさを向けてくださる……そこに付けこむ輩がいないか心配だよ」

 

「そうだな……あの者は優しすぎる……」

 

 

手を止めゴーは六階層の天井を見やる。するとデミウルゴスは思い出したかのように

 

 

「ところで君は今回何を作っているのかね?」

 

「ああ、途中ではあるが……」

 

 

地面に置かれたのはオオカミを模した木の彫刻だ。ほうと声をあげデミウルゴスはその未完成の彫刻に釘付けになる。ゴーの言った通り、半分までしか彫られていないがオオカミの毛並み等を精密に再現されており、一種の芸術となっている。

 

 

「やはり君の彫刻は逸品だな、恐れ入るよ」

 

「はっはっは、それを言うならデミウルゴス、貴公が前に見せてくれた骨で作ったものも中々の物ではないか」

 

「実は私も新しいのを作成したのだが、今度お見せしよう」

 

「楽しみだ、ならばこれを早く完成させるとするか」

 

 

神殿の前で二人の笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

アルトリウスはデミウルゴスが去ったあと、『底なしの木箱』を漁っていた。

 

 

「……魔封じの水晶が使えるという事は、前にあの陽光聖典の隊長が証明済み。ならば私の持っている物も使用可能という事か」

 

 

取り出しテーブルに並べる。それぞれがモンスターを召還することができる物で、右から灰、赤、緑、茶の光を放っている。

 

 

「うーむ、どれも試してみたいな。お、車輪スケルトンの後で使ってみるか。……?」

 

 

アイテムボックスから橙色の石を取り出す。その石は振動しており、彼はしゃがみ床にその石を用いて“ユリ・アルファ”と文字を書く。この石は『橙の助言ろう石』。本来ならその場にメッセージを残すだけの代物だが、この世界に来てから効果が変わり、橙の助言ろう石持つ者間でメッセージを送ったり受け取る事ができるようになっていた。相手のメッセージを受け取りたい場合、その者の名前を書くことで次にメッセージが地面へと浮かぶ。アルトリウスは昔を思い出し、伝言ではなくこちらを好んで使っているようだ。

 

 

「何々……」

 

 

ユリの名前が消え次第に文字が現れる。

 

 

「漆黒の剣が会いたいと、ね……早急に行くとするか」

 

 

アルトリウスはテーブルの上の魔封じの水晶と、底なしの木箱に幾つかアイテムをしまい、幾つか取り出しアイテムボックスに入れると立ち上がる。そして向かう、エ・ランテルへと。

 

 

 




アルトリウスが持ち出した魔封じの水晶、それぞれ何が封じられているかはお楽しみに。


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第二十一話

ひさしぶりの更新となります、ども黄金騎士です。間違えました、深淵騎士です。

この度は皆様に謝罪をしたいと思います。勝手に更新を止め楽しみにしていただいた方々へ、本当に申し訳ありません。頃合いを見て、今後もしっかり更新をしていきますので是非読んでくださればと思います。


最初の火の神殿を出、アルトリウスはやや速足で通路を歩いていく。ふと気づくと、通路の端に白い人影が一つ。

 

 

「む、アルベドか」

 

 

アルトリウスは足を止めると美しい容姿の守護者統括、アルベドと視線が交わると彼女は笑みを浮かべて歩み寄ってくる。

 

 

「私に何か用か?ならば早急に頼む、今からエ・ランテルに行かねばならぬのでな」

 

「……」

 

 

アルベドは辺りを見渡し、他の誰かに見られていないかを確認すると更にアルトリウスへと迫り

 

 

「ああっ……アルトリウス様ぁ!」

 

「!?」

 

 

突然彼の身体に身を寄せてきた。頬は赤く染まり、吐息もやや荒い。アルトリウスは今の状況に混乱するが何故このようなことになったのか、当のアルベドに問うことにする。

 

 

「ど、どうした、アルベド……何かあったのか?」

 

「ようやく、ようやく二人きりに……アルトリウス様がお戻りになられたときから直ぐにでもこうしたいと思っておりました……しかし私は守護者統括を任された身、感情に流されて行動する訳には……ですがもう我慢出来ません……私の愛する御方……」

 

 

彼女の眼を見てこれはふざけている様子でも、演技をしている様子でもない。愛おしい者に対する表情と感情だと。

 

しかしアルトリウスは冷静に考える、ナザリックのNPCは基本、設定に準じたものとなっている。それはデミウルゴスや自身のNPC達を見れば解ること、ならばアルベドは本来の設定であれば最後の文『モモンガを愛している』にそって自分ではなくアインズに対して愛情を向けている筈と。

 

 

「……アルベド、もういいか?」

 

「はっ!……申し訳ありません、私ごときがアルトリウス様の時間を奪ってしまうなど……如何様なる罰でもお受けいたします」

 

 

我に帰ったアルベドは離れ彼の前に頭を下げる。

 

 

「いい、お前は生きている。一時の感情に流されるのも生きているが故だ。何故お前が私に愛情を向けているかはわからんが……二人きりになりたいのなら後に時間を作ろう」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ、では私は行く。それではな」

 

「はい、行ってらっしゃいませ、アルトリウス様」

 

 

横を通りすぎるアルトリウスにアルベドは深々と腰を曲げる。

 

 

「……アインズさんに聞いてみるか」

 

 

今は部屋にいるであろうアインズと伝言で会話を試みるアルトリウス。

 

 

『アインズさん、聞こえますか』

 

『聞こえますよ、何です?』

 

『ついさっきアルベドにめちゃ愛してる宣言されたんですけど、何かご存じで?』

 

『へ?……』

 

 

黙ってしまうアインズ。数秒沈黙が続くと

 

 

『もしかしたら……最後に設定変えたのが影響したのかも』

 

『ん?あの時はモモンガを愛しているにした筈ですよね』

 

『実は……』

 

 

 

「アルトリウス様……」

 

 

視界から遠ざかっていくアルトリウスの背中を見つめるアルベド。その表情は何処か儚げだ。

 

 

「……私のために時間を作ってくださる……くふふ」

 

 

うってかわって含みのある笑みになる。

 

 

「ご機嫌だな、アルベド」

 

 

背後より声を掛けられ、そちらに身体を向ける。声の主はキアランのようだ。

 

 

「ええ、アルトリウス様が私と二人きりになる時間を作ってくださるのよ。嬉しくないはずが無いわ」

 

「そうか、何よりだ」

 

「貴女が羨ましいわ、キアラン。あの方の手で産み出された存在の一人……」

 

「そう怖い顔をするな、別に彼に作られたからといって特別な感情はない、あくまでも私とアルトリウスは友人さ……」

 

 

 

『……なるほど、そういうことでしたか。何時の間に変えたのやら』

 

 

アルトリウスは歩きつつ納得した声をあげる。

 

 

『アルさんが旗を眺めてる時に、ですね……まさか最後の所を『アルさんを愛している』に変えた事が影響するなんて思いもしませんでした……』

 

 

そう、ユグドラシルが終わりを迎えるあの時に、アインズはアルトリウスが此方を見ていない隙に、猛スピードで仕返しとばかりに名前の所を変えていたのだ。流石にアルトリウスでは文字数が足らないため、愛称のアルさんで書いたとのこと。

 

 

『そういえば守護者集めたときとかも俺に対する反応が淡白だった気が……逆にアルさんを見ているときはなんか表情とか違っていましたし……すいません、余計なことをして』

 

『いえ、元はと言えば私が変えたのが始まりです。まーあの時は最後ということで舞い上がってましたし……お互い悪かったと言うことで一つ。此方としても対して迷惑はしてないので』

 

『そう……ですね』

 

『それでは私はこのままエ・ランテルへ行きますので』

 

『はい、それでは』

 

 

伝言を終え急いでエ・ランテルへと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

「待たせてすまない」

 

「メタスさん!いえいえ、とんでもありません!」

 

 

組合の一室へと来たメタスは漆黒の剣のメンバーに謝罪しつつ机を挟み、彼らの向かいに、ユーリの隣へと行く。ユーリはメタスに軽く会釈をしペテルの方を向く。

 

 

「それで、私に用があると聞いたが」

 

「はい、明後日エ・ランテルから離れた平原地帯でモンスター狩りをしようと思いまして……そのですね」

 

「……」

 

 

彼が何を言いたいか、メタス直ぐに把握した。つまりは協力してほしいのだろう、断る理由もないしメタスは彼等と更に親交を深める良い機会だと判断する。

 

 

「ペテル殿、回りくどい事はする必要はない。貴公が私に何を言いたいかはわかっている。引き受けよう、ペテル殿」

 

「ホントですか!?」

 

「よろしくお願いしますね!」

 

「旦那がいりゃ百人力だな」

 

「うむ、心強いのである」

 

 

ペテル達は一同に喜ぶ。ではとペテルは立ち上がると

 

 

「私達は準備に取り掛かりますのでこれで」

 

「ああ」

 

 

漆黒の剣の皆は一斉に席を立ち

 

 

「それじゃな、旦那、ユーリちゃん」

 

「失礼するのである」

 

「では明日」

 

 

皆と挨拶を交わし部屋にはメタスとユーリだけが残る。

 

 

「事は順調……でしょうか」

 

「ふむ、今のところはな。ランクも一気にゴールドに、そして一定の信頼を持てる友人が出来た。さて、ここからどう転ぶかはわからん」

 

 

ふとメタスは窓を見る。

 

 

「……少しだが、嫌な予感がするのは何故だろうな」

 

 

 

 

 

 

「やっほーカジッちゃん」

 

 

何処かの地下にて飄々とした口調で若い女性が老人へと声を掛けている。

 

 

「その呼び方は止さんか……とお前に言っても無駄だろうな、クレマンティーヌ」

 

 

眉間に皺を寄せ、半ば諦めたような声を出す。

 

 

「で、何をしに来た」

 

「んー?ちょーっとの間エ・ランテルから離れるから声かけとこうと思って」

 

「別にお主が何処に行こうが、ワシはどうでも良い」

 

「ひっどいなー……ってなんだ、テメーもそこに居たのかよ」

 

 

薄暗い物陰からゆらりと金色の鎧を纏った騎士が現れる。

 

 

「あいっかわらず悪趣味な鎧着てるわよねー」

 

 

クレマンティーヌという名の女性は対する騎士の風貌を見る。両肩から自らを抱きしめるような腕状の装飾が施されており異質な気配を放っている。

 

 

「悪趣味か……貴様のような輩に言われるとは思いもしなかったな」

 

「……んだと」

 

 

目元をひくりと動かし、短刀の取り出す。

 

 

「ほう、やるか?またやられたいと見える……」

 

 

騎士も両手に湾曲した刃の剣を持つとガシッちゃん……ではなくカジットは仲裁に入ろうとする。

 

 

「止めんか……忘れたか、クレマンティーヌ。お主は前にこやつに半殺しにされただろうに」

 

「……ちっ」

 

 

聞こえるように舌を打ち、背を向けてそのまま歩き去っていった。騎士はショーテルをしまい

 

 

「カジット、私も少し此処を離れる。理由は聞くな」

 

「わかった……」

 

 

騎士も何処かへと姿を消してしまった。

 

 

「……英雄級の実力を持ったクレマンティーヌが一切敵わん男……『ロートレク』か。油断ならぬ奴だ」

 

 

一人で誰にも聞かれることなくその声は消えていく。カジットのいる場を照らしていた松明の炎が激しく燃えていた、まるでいずれ起こる出来事の激しさを表すように……




はい、まさかのアルベドの設定が変わっていると言うことが今になって明らかに。しかも対象はアルトリウス!?

そして表れた金色の鎧騎士……奴はまさか……

この変化が物語りをどう変えて行くのかお楽しみに!!


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第二十二話

 

「では一度ナザリックに戻るとしようか」

 

「わかりました」

 

 

漆黒の剣との対談が終えたメタスは一度、組合を後にしようとする。待合室を出ると広間のほうで何やら騒ぎが。

 

 

「……ニニャ?」

 

 

騒ぎの中心にいるのは漆黒の剣のメンバーの一人、ニニャだ。対するのは赤い髪の女性である。よく見るとニニャの近くにはペテル達は居ない。

 

 

「何かあったのでしょうか?」

 

「そうだな……」

 

「メタスさん?}

 

 

メタスは人の波をかき分け、ニニャの元へと行こうとする。

 

 

「ニニャ」

 

「あ、メタスさん……」

 

 

彼がメタスの存在に気付くと暗かった表情が更に暗く、女性は激しい剣幕で此方を睨む。

 

 

「誰?こいつの知り合い?」

 

「……そうだが。ニニャ、何かあったのか?」

 

「えっと実は……」

 

「そいつがぶつかって、私のポーションが割れちゃったのよ!」

 

 

右手に持っているのは割れたビン、女性は体をワナワナと振るわせて

 

 

「せっかく生活ギリギリでようやく買えたっていうのに!そいつは弁償できないって言うし!」

 

「そんなに大切なものなら管理を徹底すればよいだろう」

 

 

指摘されうっと声を漏らす。しかし尚も引きそうにない女性にメタスはため息を漏らす。すると女性はメタスのプレートに気づき

 

 

「……あんたゴールドなんだ。ゴールドならポーションの1つや2つ持ってるんでしょ?そいつの知り合いなら代わりに弁償してよ」

 

「は?……それは……お」

 

 

後から追い付いたユーリがやって来て彼の横に立つ。

 

 

「ちょうど良い所に。ユーリ、お前はポーションを持っているか?」

 

「え?はい、持ってはいますが……」

 

 

アイテムボックスより出した赤い液体が入ったビン、それをユーリから手渡される。そのまま女性にビンを放り投げると慌ててキャッチする。

 

 

「赤い……ポーション?」

 

「私も代わりはそれしかない、今はそれで気をおさめろ」

 

「……いいわ、ほら退いて!」

 

 

明らか不機嫌そうな女性はそのまま外へと出て行った。ニニャがメタスの元へと来ると申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

「ごめんなさい、メタスさん……僕のせいでトラブルに」

 

「気にするな、ところでペテル達はどうした?」

 

「みんなは街へ向かいました。僕はちょっと組合に用があったので此処に……そしたらあの人にぶつかっちゃって」

 

「なるほど、運がなかったようだな……これを期に気を付ければいい」

 

「そうします……えっと、何かお礼をしたいのですが……」

 

「別にいい私が勝手にしたことだ、礼など不要」

 

「……解りました、本当にありがとうございます。僕はこれで」

 

 

ぺこりと頭を下げて受付の方へと向かっていった。ユーリは微笑みながらメタスの顔を見る。

 

 

「お優しいのですね、メタスさんは」

 

「彼はもう我等の友だ、困っていれば手助けする。それとすまないな、勝手にポーションを渡してしまって」

 

「いえ、ナザリックへ戻れば補充できますのでお気になさらず……?」

 

 

何処か思う所があったのだろうか、メタスは黙りこんでいた。

 

 

「どうかなさいましたか?」

 

「……いや、何でもない」

 

 

体の向きを出口へと変え

 

 

「さて、今度こそナザリックへと向かうぞ」

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

ナザリックへ帰還した二人。アルトリウスはユリの方を向き

 

 

「私はアインズさんの所へと行く。ユリは明日の準備をしておいてくれ」

 

「かしこまりました、では……」

 

 

ユリを見届けるとアルトリウスはナザリックの主、アインズの元へと。彼は脚を動かしていると突然立ち止まる。

 

 

「……デミウルゴスに頼んでおいた八肢刀の暗殺蟲か」

 

 

彼の背後、何も居なかった筈のそこには虫型の異形が居た。八肢刀の暗殺蟲、ナザリックに15体しかいないモンスターでありこの個体はアルトリウスの言う通り、デミウルゴスの指示により彼の元に馳せ参じたのだろう。

 

 

「これよりあなた様を影から補佐させていただくことになりました」

 

「デミウルゴスは本当に仕事が早い、助かるな。これからよろしくたのむぞ……えっと何と呼べばいい?」

 

「アルトリウス様の望むようにお呼びください、特には名前がございませんので」

 

「不便だな……」

 

 

どう呼べばいいか悩んだが、アルトリウスはふととある名前が思い付く。

 

 

「お前に名前とか付けてもいいか?」

 

「アルトリウス様から名を頂けるのであれば身に余る光栄でございます」

 

「なら……『シバ』と名付けよう」

 

「シバ……畏まりました、これより私はシバと名乗らせて頂きます。アルトリウス様、感謝致します、我が全身全霊を掛けてあなた様の為に力を振るいましょう……それと一つお耳に入れたいことが」

 

「?」

 

「どうやらエ・ランテルにてアルトリウス様の事を嗅ぎ回っている不届き者がいるようです」

 

「ほう?」

 

 

腕を組みシバに向き直る。冒険者となったばかりでゴールドへと即昇格、ましてやあのような目立つ甲冑にユリのような美女も連れ歩いている。そんな者の動向を探ろうと誰かが動いているとのことだ。

 

 

「どういたしましょう、この私が始末致しますか?」

 

「……確かに、余り嗅ぎ回られてこちらの事がバレるのは厄介だな」

 

「では……」

 

「だが殺すな、生け捕りにして私の前に出せ。そして慎重に行動しろ、もしお前に何かがあったら心配だ」

 

「勿体なき御言葉……」

 

「それとこれを持っておけ」

 

 

アルトリウスの手のひらには鈍い灰色の指輪がある。シバはそれを受けとると不思議そうに眺めた。

 

 

「これは……?」

 

「その指輪を身に付けていれば一回は死を逃れることができる。いいか、一回だけだ」

 

「おお……名前だけではなくそのような貴重なものを預けて下さるとは……」

 

 

シバは半歩下がると

 

 

「それでは御命令通りに行動を移そうかと……御期待に添えれるように尽力してきます」

 

 

姿が消えるとアルトリウスは腕を組み直す。

 

 

「……『犠牲の指輪』一応異形種でも効果があるのはオーガとかで実験済み、これであいつはある程度の状況でも対応できるな。しかし嗅ぎ回っている奴……ね。プレイヤーなら厄介かもしれないなーしかしどうしてこうも道中で脚を止めさせられるのか……まあいいか」

 

 

細かいことは気にしない、そう考えその廊下を歩いていく事にした。

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

 

陽気な鼻唄と共に森を歩いていくアウラ。

 

 

「シ~フはどっこかな~」

 

 

どうやらシフを探して居るようだ。何時も昼寝をしている神殿入り口付近には居なかった、だとすれば考えられる所は一つ。アウラはその場所へと向かっている。

 

 

「あれ?」

 

「ム?」

 

 

道中ばったり出くわしたのは水色の甲殻の虫戦士、コキュートスだ。

 

 

「コキュートス、どうしたの?」

 

「実ハオースタインヲ探シテイテナ、何処ニ居ルカ解ルカ?」

 

「ん~……」

 

 

 

腕を組んで悩む仕草をとる。

 

 

「そういえば闘技場に向かっていったの見た気が……」

 

「フム、闘技場カ……恩ニ着ル」

 

 

コキュートスはアウラに会釈をし、闘技場があるであろう方向へ歩いていった。

 

 

「また鍛練するつもりなのかな?好きだなーコキュートスも……おっといけないいけない」

 

 

気を取り直して、目指すべき場所へと脚を動かし始める。

 

そしてついたのは神殿の裏に位置する木々が少し空けた場所だ。中心にそびえ立つ大きな建造物、まるで墓のようにもみえ周囲には何本もの剣が突き刺さっている。

 

 

「あ!居た!」

 

 

建造物の裏に見える灰色の毛、紛れもなくシフである。アウラはゆっくりと歩み寄っていくと

 

 

「……」

 

 

シフは瞼を閉じ何時ものように寝ていた。が、何時もと違うのが一点。シフの柔らかい毛に埋まるように誰かがすやすやと寝息を立てて眠っているのだ。

 

 

「何であんたが寝てんのよ……」

 

 

ジトっと睨む先にはアウラの弟、マーレが居たのだ。

 

 

「あれ……」

 

 

アウラに気づいたのか、マーレは重い瞼を上げて起きる。

 

 

「あ、お姉ちゃん」

 

「あ、お姉ちゃん。じゃないでしょ!何で此処で寝てるの!」

 

 

シフを起こさないように極力小声でマーレに言うアウラ。マーレは慌てて起き上がる。

 

 

「えっと、シフに連れて来られて……気づいたら一緒に寝てた……」

 

「……何時からあんたシフと仲良くなったの」

 

「少し前から……かな?」

 

 

アウラは盛大にため息をつく。彼女はシフが好きでもっと仲良くなりたいと思っている、だが何故か避けられているようで中々絡む事が少ない。一方でマーレは自分の知らぬ所でシフと良好な関係を築いていた、少し複雑な心境のようだ。

 

 

「……」

 

 

シフが突然顔を上げて何処か一点を見ていた。

 

 

「シフどうしたの?……え?アルトリウス様が帰ってきた?」

 

 

 

 

 

 

「なるほど、例の冒険者チームと一緒に、ですか」

 

 

アインズの部屋にて、アインズはふむと一息置くと

 

 

「アルさん的にはその漆黒の剣をどう思ってます?」

 

「そうですね……見ていて昔の自分を思い出す人達……と言ったところです」

 

「昔?」

 

 

思わず首をかしげるアインズ。

 

 

「なんと言いますか、皆で一緒に戦って、皆で一緒に苦しみを分かち合う……彼等を見て羨ましいって感じましたし、仲間ってやっぱりいいなって再認識しましたよ」

 

「アルさん……」

 

「そうだ、色々落ち着いてきたら何とか暇を見つけてこの世界を冒険してみませんか?きっと楽しいですよ」

 

 

その言葉にアインズは両手を握り振る。

 

 

「いいですね!守護者達にどう説明して外に出るか悩みますが……まあ、それは後々決めるとして。冒険ですか……その日が来るのが楽しみです」

 

「ええ、その為に頑張りましょう!」

 

 

アルトリウスはアインズに拳を突きだすと、彼は頷き

 

 

「はい!」

 

 

彼もまた拳を突きだす。骨だけの手と手甲に包まれた手がコツンと合わさる。

 

 

「そう言えばアルさん」

 

「?」

 

 

拳が離れるとアインズは思い出したように

 

 

「気になったんですけどアルさんの『あれ』今は使えるんですか?」

 

「……まだ試してないですね。あれはユグドラシルなら別に問題がないんですが、現状は……アインズさん、もしなんですけど……私がアインズさん達に剣を向けるようなら躊躇いなく殺してください」

 

「え?ア、アルさん何を言って……」

 

 

冗談で言っている様子ではない、だからこそアインズはアルトリウスの思いがけない言葉に焦りを見せている。

 

 

「私はアインズさんに、このナザリックの皆を傷つけたくない。だからもし敵に回ったら躊躇いなく殺してください……」

 

「……解りました、けどそんな事にならないように願っていますよ、俺は」

 

「……私もですよ、絶対にそんな事には……なりたくないですから」

 

 




犠牲の指輪に一体何回助けられたことか。2になったら修理できる指輪が出来てちょい楽にはなりましたが。

それと今まで少し多忙で感想返しが出来なかったので、今回からしっかりと感想返しをしようと思います。


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第二十三話

「さて……」

 

 

小屋で一準備終え鎧を着直す。蝋燭に照らされた銀の鎧は鈍く煌めく。アルトリウスは横を向くと

 

 

「態々見送りに来る必要など無いだろうに」

 

 

笑顔のアルベドがそこに居た。

 

 

「いけませんか?」

 

「……いや、嬉しいよ。こうして何処かに行くとき、誰かに見送られるというのは」

 

 

今までそういう経験が少ない彼にとってアルベドの行動は心に来るものであった。するとアルベドが周りを見渡し

 

 

「そういえば、この小屋に立ち入ったのは初めてになりますね」

 

「そうだったな……別に最初の火の炉以外は特に制限を掛けていない、好きなときにくるといい」

 

「かしこまりました、ところで……アルトリウス様のお部屋は何処にあるのでしょう?」

 

 

何故そんなことを聞くのだろうと少し疑問に思ったが、彼は答えることにする。

 

 

「私の部屋か?ふむ、アノール・ロンドを入って右の入り口だ。荒らさなければ何時でも入っても構わない」

 

「本当ですか!?」

 

 

ずいっと近づくアルベドに思わずたじろぎ

 

 

「あ、ああ……大したものはないぞ?私の収集したもの位しか……む?」

 

 

何かの気配を感じアルトリウスはアルベドの肩に手を置く。

 

 

「シバから報告を受けねばならない、すまないが……」

 

「解りました、それではアルトリウス様……お気をつけて」

 

「ありがとう、アルベド……あ、そうだ、月明かりの大剣持っていかなければ」

 

 

 

 

 

 

「メタスさん……か」

 

 

組み合い待合室でニニャは今この場に居ない者の名を呟く。鈍い銀色の鎧で身を包み、直剣を振るい敵を穿つ騎士の名を。

 

 

「どうしたーいきなり」

 

「いえ……不思議な方ですよね、メタスさんって」

 

「確かに」

 

 

ぺテルは頷く。

 

 

「冒険者になったばかりなのに三日も経たずにゴールドへと、更にかなりの実力を持っていてそれを鼻にも掛けないし」

 

「あのユーリちゃんもメタスの旦那の仲間だから相当な実力者だぜ」

 

「結構噂になってるみたいですしね」

 

 

そうこう談笑をしていると一人の少年が待合室にやって来た。

 

 

「えっと、漆黒の剣の皆さんですよね?」

 

「ええ、あれ?あなたは……」

 

 

 

 

 

 

「ンフィーレア?発音しにくい名前だ」

 

 

アノール・ロンドの夕日の中、漆黒の剣との約束を果たすべく、アルトリウスは出立前にシバから報告を受けていた。どうやらそのンフィーレアという人物はエ・ランテルでは有名な薬師であり、先日からアルトリウスの事を調べていたようだ。

 

 

「目の前に突きだそうと思いましたが、その者の性格、能力を見てもアルトリウス様の脅威とは考えられませんでした。ですのでどう対処すればいいか御聞きしたく御座います」

 

「……放っておけ所詮は薬師だ、好きに泳がせろ。目障りになるようなら排除すればいい」

 

「はっ!」

 

 

頭を垂れるシバを尻目にアルトリウスは考える。

 

 

「(何故薬師が私を?……ンフィーレアか、後で接触してみるか)」

 

 

アルトリウスはシバの方を向き

 

 

「さて、そろそろ行くか。ユリも待っている」

 

「はっ、影にて御供致します」

 

 

 

 

 

 

ユーリと合流したメタスは組合に到着、待たせているだろう漆黒の剣の皆の元へと。建物の中へと入り受付を通りすぎようとしたが

 

 

「メタスさん」

 

「……何だ?」

 

 

受付嬢に呼び止められ足を止める。

 

 

「メタスさんにご指名の依頼が……」

 

「依頼?誰からだ」

 

「は、はい……ンフィーレア・バレアレさんです」

 

「ほう……」

 

 

シバから報告があった薬師の少年、ンフィーレアが受付嬢の近くにいた。

 

 

「初めまして、ンフィーレア・バレアレといいます」

 

「これは丁寧に、私はメタス。そしてこちらが私の仲間の―――」

 

「ユーリともうします」

 

 

自己紹介は済んだ、メタスはンフィーレアに向けて

 

 

「さて折角のご指名だが、済まないな。先約が入っている」

 

「漆黒の剣の方達とのですか?」

 

「……そうだが」

 

 

何故彼がそれを知っているのか、直ぐに答えてくれる者が側へと来ていた。

 

 

「メタスさん!」

 

「ニニャ」

 

 

小柄で少女と呼ばれても違和感のない少年、ニニャが笑顔で彼のもとへと。

 

 

「皆はもういるのか?」

 

「はい、待合室に」

 

 

ふとニニャはンフィーレアを横目で見ると

 

 

「実はメタスさんに相談したいことが……」

 

「?」

 

 

 

 

 

「成程、ンフィーレアの薬草採取の護衛をしつつ、私達も道中に現れたモンスター討伐をすると」

 

 

待合室にメタス一行と漆黒の剣メンバー、プラスでンフィーレアが机を囲んで座っている。ペテルが申し訳なさそうに苦笑いをし

 

 

「はい、すいません……勝手に話を進めてしまって」

 

「僕の方こそごめんなさい、言葉が足らなかったです……」

 

 

メタスは、いやとペテルとンフィーレアの二人が頭を下げるのを止めさせる。彼としても丁度いい機会であった、漆黒の剣の依頼を受けつつ自分を嗅ぎまわっているンフィーレアの事を逆に探れるかもしれない。

 

 

「利害は一致している、護衛ならば数が多い方がいい、それに私達だけではなくペテル殿達にも報酬を出すのならば別に言う事はない」

 

「本当ですか!」

 

「ああ……」

 

 

ンフィーレアの言葉に首を縦に振り肯定を示すと、彼は立ち上がり

 

 

「では準備に取り掛かり出発しよう」

 

「「「はい!」」」

 

 

漆黒の剣の皆も立ち上がり、一同は待合室を出ていく。メタスはユーリに近づき

 

 

「あのンフィーレアという薬師から目を離すな、八肢刀の暗殺蟲を一体監視には付けているが、近場からでしかわからない事もある。何か不審な行動をしたら知らせてほしい」

 

「はっ、お任せください」

 

 

彼女ならあの薬師の行動を見逃すことはないだろう、期待を込めメタスは頷き自分もまた出発の準備へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

エ・ランテルから出立したのは昼を回った後の事だ、馬車を中心に隊列のように並び森の周囲に沿って進んでいる。この道は比較的モンスターの出現率が高く、ペテル達の依頼をこなすには打ってつけだ。例の異世界《ロードラン》より現れし者達が居れば話は別だが。

 

モンスターも大した強さもなく、エ・ランテルでは一際有名になっている『つらぬきの騎士』と『拳姫』が共に居るという事でペテル達は一定の安心をしている。因みにユーリの異名は勇ましく、そして華麗な拳技を用いて戦うことからそう名付けられたとか。

 

すると先頭を歩いていたルクルットが、自身の右側を歩くメタスに声をかける。

 

 

「ところでさー旦那ってどっかの国の騎士とかやってたの?」

 

「……何故そう思う?」

 

「だってさ、そんな鎧着てるし剣術だって相当なもん、しかも振舞とか見たら誰だってそう思うって!」

 

 

彼の言葉にダインはうんうんと傾く。

 

 

「……いや、平民だったよ、私は」

 

「うっそ!」

 

「どうやったらそこまでの強さを手に入れたか聞きたいですね……」

 

 

一瞬メタスは考えたが

 

 

「例え何度挫け倒れても、例え剣が折れたとしても、自分を強く持ち『折れない心』を持つことだ」

 

 

この言葉は熱が特にこもって放ち、自分にも言い聞かせるように言う。彼は振り返る、折れない心を持ったからこそ今までやってこれた。ペテルやニニャ達は納得したように

 

 

「メタスさんが強い理由、ちょっとわかった気がします」

 

「……しばらく歩いたが、皆も疲れたろう。此処で一度休憩をとらないか?」

 

 

彼からの提案にペテル達は快く受ける。

 

 

「そうですね、モンスターと戦うのであれば常に身体は万全にしなければなりませんから」

 

 

馬車を止め各自はそれぞれ行動をとる。メタスはニニャに

 

 

「ニニャ、少し聞きたいことがあるのだが」

 

「なんでしょう?」

 

「実はだな……」

 

 

メタスは彼からこの世界の魔法について様々なことを尋ねる。生産魔法という塩や砂糖等を作り出す物や、危険を知らせてくれる物など耳にしたことのない魔法があることを教えてくれ、途中からンフィーレアも加わり更に知識を得ることが出来た。

 

 

「それと、雷の槍を放つことが出来る魔法も存在するのか?」

 

「雷の槍……確かソラールさんが使用するって言われてる物ですよね。僕も実際には見たことがないのですが、彼の魔法は誰も見たことも聞いたことのない物で今現在はソラールさんだけの魔法になります」

 

「……成る程、ならば結晶の槍を飛ばす魔法は?」

 

 

結晶の槍、その単語にニニャとンフィーレアの表情が少し強張る。

 

 

「えと……メタスさん、何故結晶の槍の事を知っているんですか?」

 

「?」

 

 

疑問符を思わずメタスは浮かべ、ンフィーレアは少し小さな声になって話を始める。

 

 

「結晶の魔法は確かに存在します、けど誰もその魔法を求めないのです」

 

「ほう、余程の理由があるようだな」

 

 

はいと頷き、これから先の話は少し長くなると念を置く。

 

 

「……かつてとある国を脅かした白い竜が居ました。その龍は絶大な力を誇り、口からは炎ではなく結晶のブレスを吐き人間を貫ぬき殺したと。そして一人の旅人に遂には倒され、人間が死体を調べてそのブレスをどうにか再現できないかと研究をしました。結果は成功、竜のブレスを模した結晶の魔法を扱えることができるように」

 

 

ンフィーレアの話に食いつくようにメタスは聞き入る。

 

 

「しかし悲劇が起こりました。その研究に関わった者達は次々に狂っていき、果てには殺し合うという最悪な事態が発生して国は結晶の魔法が原因と考え、二度と使われないように研究資料を封印されました。けど時代が進むにつれ、どこからか結晶の魔法を聞き付けた者達がそれを求めようとしましたが……」

 

「皆同じように狂ったというわけか」

 

「はい……」

 

「呪われし魔法とも言われて今や誰も追い求める者はいないんですよ」

 

 

まさかこの世界にかの魔法が伝わっているとは思いもしない。もっと話を聞こうとしたが

 

 

「これ以上お喋りしてる暇は無さそうだぜ」

 

 

 

 

 

ルクルットの言葉通り、複数のオーガとゴブリンの群れが彼等に向けて進軍していた。漆黒の剣の皆は武器をそれぞれ構え陣を組む。一方のメタス達は

 

 

「……ユーリ、ンフィーレアの守りは任せた」

 

「はっ」

 

 

つらぬきの剣を抜き、両手で構えを取りながら

 

 

「先陣は私が切ろう」

 

「あ!メタスさん!」

 

 

大地を滑るように駆け、飛び込み横に凪ぎ払われた純銀は残光を残光の軌道を描く。オーガの体はその残光に沿いゆっくりと斜めにずれていった。

 

切断された半身が地へ落ちると同時に騎士は次なる標的へと既に向かい、角度を付け回転しながら切り捨てる。

 

この間僅か10秒、ペテルは余りの速さに下舌を巻く。彼だけではない、その剣劇を横目で見ていたルクルット達もだ。

 

 

「すごい……」

 

「ありゃゴールドどころじゃないぜ……下手すれば……」

 

「ミスリル……いや、アダマンタイトにも届くかもしれないのである……」

 

 

感嘆の声を上げる。ニニャが彼の戦いに見入っていると

 

 

「ヒヒッ!!」

 

 

草むらを這いゆっくりと近づいていたゴブリンの一体がニニャに飛びかかる。

 

 

「わわっ!」

 

 

棍棒が降り下ろされるその前に、ニニャの頭上を腕が通りすぎる。

 

 

「ぐぇっ!!」

 

 

ゴキャッ―――

鈍く響く音がし、ゴブリンの身体は放り投げられる。

 

 

「私の戦いに驚いてくれるのは嬉しいが、今は自分達の事を専念したほうがいい」

 

「は、はい!」

 

 

ルクルットが弓を捨て剣を抜きながら

 

 

「すまねえ旦那!」

 

「いい、後衛はしっかりと守っておけ」

 

 

今だ此方に向かうオーガの群れの後方……メタスは気配を感じ

 

 

「気を付けろ、こいつらの長がいるようだ」

 

「えっ!?」

 

 

先程までオーガ達の身体で見えていなかったが、ようやく姿を現した。大鉈を両手に携える大きな体躯。

 

 

「あいつはこの前の!」

 

「山羊頭のデーモン……ペテル殿、オーガとゴブリンは任せる、私は奴を殺る」

 

「わかりました!」

 

 

互いに頷くとメタスは大地を踏みしめ走り抜ける。オーガ、ゴブリンを無視し後ろにいる山羊頭へと肉薄し

 

 

「ふんっ!!」

 

 

切り下ろすが鉈を横に構え防ぐ。もう一方の鉈で掬い上げるように振るうとメタスは身体を横に向けて難なく交わす。

 

 

「グモオオオォォ!!」

 

 

力強く二つの鉈が振り回され、メタスはバックステップで距離を取る。山羊頭はメタスに鉈を向け

 

 

「グオフッ!!」

 

 

吠える。この行動になんの意味があるのか、ふと考えるが

 

 

「メタスさん!そっちにオーガが!」

 

「……」

 

 

顔だけをそちらに向けると此方へと迫ってくる二匹のオーガ、メタスは先程よりも長い距離をバックステップで移動しオーガの間を通りすぎ

 

 

「邪魔だ」

 

 

前進すると共にオーガの体躯を切り裂き、そのまま山羊頭に近づく。山羊頭が再び短く吠えると一体のオーガが山洋頭の前にたつ。

 

 

「奴等の指揮をしているということか……以前の個体とは違うな」

 

 

冷静に分析しつつ高く飛び上がりオーガを踏み台に、つらぬきの剣を逆手に持ち直し

 

 

「ガッ……」

 

 

脳天に深々と刀身が差し込まれ、勢いよく引き抜く。山洋頭はぐらりと傾き大地に巨駆を横に倒す。踏み台にしたオーガを一睨みすると怯えるように逃げようとしたが

 

 

「逃がすか」

 

 

手のひら大のナイフを投擲し見事眼に刺さる。悲痛の声を上げながら目を抑えその生じた隙を逃さず、メタスはオーガの身体を貫く。

 

 

「……ほう」

 

 

オーガが倒れるとペテル達が奮闘している様が視界に入る。ニニャがペテルに魔法を掛け強化し、オーガとゴブリンを攻撃、彼に横槍を入れようとしたゴブリンにニニャが魔法の矢を放つ。ダインは草を操りオーガの足止めを、ルクルットはニニャが魔法の詠唱をしている間に彼を狙うゴブリンを狩っていく。

 

穴のないチームワーク、メタスは賞賛を贈る。

 

 

「素晴らしいチームだ……一人一人互いを信じ連携をとっている……良いものだな」

 

 

彼らの姿に昔の自分とアインズを照らし合わせ、懐かしくも切ない感覚がメタスの心を締め付けていた。

 

 




更新遅れて申し訳ありません……

そういえばダークソウル3のトレーラーが出てましたが、薪の王とか深淵とか見知った単語でてきてちょっと歓喜しております!


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