怪奇な東方放浪記 (クロノス12)
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第0章 偶然と必然のプロローグ 1.仮面の男

クロノス12です。
初投稿作品で、至らない所も所々ありますでしょうが、お手柔らかにお願いします。
それでは、どうぞ。














「……唐突ですが、こんにちは。」

真っ暗闇の中。
カチッ。
スポットライトが一つ点き、暗闇の一人を照らし出す。

「………ふむ、私の正体は誰か、と?」

「そうですねぇ、正体に関しては教えかねますね。
私は『語り部』という任を背負わされた者、とでも言いましょうか。
まぁ、少し大げさですか。」

「名前の方はその内に分かるでしょう。
………何故そう言えるか、ですか?
秘密でございますよ。」

男は話に区切りをつけるかのように手を鳴らした。

「………さて、皆様にこれからご覧頂きますは、実に独自的である男の、実に不可思議な物語でございます。」

その男は、高そうな白いタキシードに同じく高そうな白いシルクハット、そして黒いマントを羽織っている。

「主人公はある男でございます。
最も、何処にでもいる普通の男という訳ではございません。
なぜなら──」

男の口調は何処かの執事、もしくは老年の紳士のようであった。

「人には、色々な性質というものがございます。
優しい、怖い、気品がある、下品である……
頭が良い、頭が悪い、力が強い、弱い………
それら一つ一つが違う中で、一体何を基準として普通だという者を決められるでしょうか?」

「もし全ての人の性質を平均したとすれば、必ず矛盾が発生するものでございます。
自殺願望を持ちつつ、生きる夢を持つ。
上品であるが、下品である。
そんな事、あり得るのでしょうか?」

「私は今でもあり得ない、と考えていますので、決して彼を普通の男、とは呼びません。
事実、彼は少々特殊でございましたから。」

「そもそも、真に普通たる者から物語が生まれる事はありません。
幾つかの怪奇点(イレギュラー)を持つ者のみが物語を生み出す事は、歴史が暗に証明していることでもあります。」

「そんな彼の物語ですが、しばしば物語には【承】と呼ばれるものが起こるものです。
そんな【承】は【起】の後、着実に来たるべき時を目指して準備されていく物でございます。
俗に言う、起承転結ですね。」

彼の顔についている不気味な仮面。
それがこの男の顔を隠している。
眼のところにバツの切り込みが入っており、更に口の所は笑っている気味の悪い仮面。
男は続けた。

「今からお話しする物語は、そんな不可思議な男の哀しみの物語でございます。」

「皆様はこの物語の不可思議を解く事ができるでしょうか?
この男の哀しみを理解出来ますでしょうか?」

「私に出来るのは、それを語るのみでございます。
なぜならば、私は『語り部』でございます。
物語が終わるまでに、貴方は正解を見出せますか?」

彼がこう言った時──

「不可思議を解く気概をお持ちの皆様は、もちろんお連れいたしましょう。」

彼を照らすスポットライトが──

「不思議な不思議な、物語の世界へと……」

消えた。




















「なんとも偶然とは、奇怪なものでございますね。」



どうでしょうか?
批評や、これこれをこうした方が良いという意見、大募集中です。


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2.色無き部屋

こんにちは。
初感想が予想以上に嬉しかったので、早速投稿です。
改善点など随時募集中です。
では、どうぞ。


「……ん?………ここは?」

真っ白な部屋。
うつ伏せで目覚めた俺は独りでにそう呟く。

「………………」

覚醒しきらぬ頭の中に辛うじて浮かぶ一言。
………何処だ?
確か……俺は布団で寝てた筈……?

「……なんで俺はこんな所にいるんだ?」

つい独り言が漏れる。
ここまで来た事の経緯が全くわからない。
とはいえ、一番最後に残っている記憶が曖昧であるのも事実であった。

落ち着いて、自分の事を思い出していく。
俺の名前は、仮陽影人。
今はちょうど高校2年生の…………夏頃だった筈だ。
得意なことと言えば特になく、苦手な事と言えば運動くらいだった。
これといって将来の目標もなければ、自殺願望があった訳でもなく、夏休みを無意味に過ごしていた…………

頭が覚醒してくるにつれて、俺にはこれが夢ではない事がわかってくる。
何処にいるのかはわからないが、生まれてくるのは焦燥感。
大体、夢ならもうそろそろ醒めてもいい頃合いだ。

兎に角この部屋から出よう、と思い周りを観察する、が

「…………あれ?」

四方八方真っ白な部屋。
それは()()()であり、()()()だった。

「……おい、どういう事だよ。」

扉が──無かった。
つまり、この部屋は完全に密室。
完全に密室?そんな馬鹿な。
俺の頭の中に浮かんだ言葉は「この世に完全な密室は存在しない」というよく聞く台詞。
実際、その通りだ。
この世に完全な密室など存在しない。
全くもってその通りだった。

「……そんな、馬鹿な事なんて、ある訳ない。ある訳ないんだ。」

だが無い。無い。無い。無い。
いくら探してもドアノブすら見つからない。
それどころか窓すらもない。
目に映るのは──白ただ一色。
俺の中に生まれた感情は"恐怖"と"激昂"。
半ば狂乱状態になりながら叫ぶ。

「何なんだよこの部屋は!
ふざけんな!とっとと出しやがれ!」

イラつき壁を思い切り叩く。

ガンッ!!

…………その音に呼応したのだろうか?
何処からかズザザザッと音が聞こえた。
これは……スピーカーの音か?

───鎮マ…、運…二…バ…シ者…。───

そしてスピーカーから"ナニカ"が聞こえた。
急に聞こえた音に驚きながらも、俺は声を張り上げた。

「誰だ!いるなら出てきやがれ!そして俺をここから出せ!」

俺は恐怖した。俺は不思議だとか怪奇だとかは全く信じていない。
だが、これは完全に俺の考えられる事の範疇を超えている。俺は虚勢を張りつづけた。

───汝、…ヲ知……ル…リ…。───

また、"ナニカ"が聞こえた。
だが、やはりノイズが酷い。

「はぁ!?なにほざいてんだ!」

───汝、…ノ……持………ナリ…。───

また、"ナニカ"が聞こえた。
しかし今度は何故かよりぼんやりと。

「……一体なにを言っている?」

俺は自分の中に生まれた恐怖と激昂が少しづつ萎んで行くのが分かった。
代わりに生まれてくるのは、この声を聞き取るべきだ、という使命感。

───汝、コ…ヨリ……レタ………リ…ス…シ…。……為、汝…去ノ…界ニ…生……ベシ…。───

……さっきから、どうしたんだ?
酷くノイズがかかった様で聞き取れない。
尚もスピーカーの低い声は続く。

───……レタ…………シタ時、…タ……前……ヲ現…。……時、汝……テヲ………。───

ノイズのかかった様な声はききとれない。
しかし、最後の言葉はいやにくっきりと、そしてはっきりと聞こえた。

───選択セヨ。ソシテ決定セヨ…。───

そして、この言葉を区切りに訪れる静寂。

「選択せよ…そして決定せよ………?
い、いきなり何だったんだ……?」

俺は困惑した。
覚えもないのに、白い密室の中にいた事もそうだが、問題はこの声だった。
何だか、頭の中を反芻するかの様な言葉だ。
重要である気がしてならない。

さっきの言葉には何かが足りない。
何が足りないのかはわからないが。
一体何が足りない?
何かが足りない?何かが足りナい?何カが足リナい。ナニカガ足リナイ。ナニカガタリナイ。ナニカガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ








タ リ ナ イ












「……グッ……!?」




しかし突然、強い痛みが頭を貫ぬく。
景色と思考がぼんやりと混ざり合って行く。
そして……全てが白……に………





プツン





そこで俺の意識は途切れた。

























ザッ……














ザザザッ………












───傍観者ヨ。汝モ、選択セヨ…。───













ブツッ。





どうだったでしょうか?
感想、批評募集中です。


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第1章 完璧と十全のデバック 3.未来都市

現在は書き溜めがあるので、早く投稿出来ていますが無くなったら遅くなってしまうかも。
それでは、どうぞ。





「ん……?ここは………?」

俺は目を覚ました。
身体中が軋む様に痛い。
ぼんやりとした意識の中。
そして頭に浮かぶ言葉。

<……なんで俺はこんな所にいるんだ?…>

<…扉が──無かった。…>

<…選択セヨ…。>

<…ナニカガタリナイ…。>

「───ッ!」

突如として頭が覚醒する。
そして襲いかかる吐き気。
恐怖により激しくなる動悸。
呼吸が荒くなる。
そうだ、確か俺は───

「あの白い部屋にいた……んだよな?」

とはいえ、周りは白くはなかった。
目の前に広がる景色は緑溢れる森。

なら、一体ここは何処だというんだ?
あの部屋は密室だったはず。
どうして俺は、こんな所にいるんだ?
あれから、どうやって俺は外に出たんだ?
頭に次々出てくる疑問に、俺は答えを見出せなかった。

「あれは悪夢であって欲しいな………」

自分の願望はこうである。
が、そもそも夢にせよ何にせよ、一体ここは何処なんだ?
夏休みだと思ったら白い部屋にいて、次に目を覚ますとそこは緑溢れる土地だった。

「……………状況把握だな。」

自分で何を言ってるかがもう既にわからない。
とにかく、俺は開けた道の方へと歩いて行った。











「………何だコレ。」

開けた道を進んで行き、俺は街を見つけた。
……見つけたまでは良かったのだが、その見つけた街というのが問題だった。

「こんな街、見た事も聞いた事も無いぞ……」

俺が見つけたのは、まさに未来都市。
巨大な塔を中心として、透明なケーブルのようなものが張り巡らされている。
この都市がどっかの漫画とかで出てきそうな、いわゆるコ○ニーとかと呼ばれていても違和感を感じ無いだろう。
一体……さっきからなんなんだ………?

「………ハッ!」

危ない危ない。目の前の事に気を取られ過ぎて、今色々な事を忘れかけていた……。
この場で目的を見失うのは、まぁ簡単に言えば自殺行為だろう。

「とにかく、行ってみるか……」

俺は都市が見える方向へと、足を運んだ。















「………はぁ。」

近くに行ってみると、その都市はより壮大に感じられた。
都市を覆う透明のドーム。
空を走る色取り取りの乗り物。
そして目に付くのは何と言っても、中央にそびえ立つ塔。
……やはり、現代にこんな都市は存在しない。そもそも、そんな技術が無い。
……俺は未来にでも来たのか?

其処に1つのロボットらしき円柱状の物を見つけた。
それは、いわゆる門の警備員的な役割を果たしているようだった。

「ロボットまで……」

………今更ロボットなんかで驚いてたまるか。
俺は声を掛けることを決め、それに近づいて行った。

「あの……すいません。」

話しかけると、ロボットの上体が回転し赤いセンサーの様な光がこちらを捉えた。

『ハイ。何カ御用デショウカ?』

流れてくる機械的な音声。
というか日本語通じるのか……
急に襲ってきたりはしないようだ。
俺はその事に安堵しながら、聞いた。

「……ここって、何処ですか?」

『ココハ、都市デス。』









…………………………







暫く訪れる静寂。
いや、そりゃ見れば分かるんだが。
どうやら、質問の意図がうまく伝わらなかったらしい。
俺は、また質問する。

「いや、都市って事は分かるんですが……
この都市の名前を教えて下さいませんか?」

『……?
質問ノ意図ガ読メマセン。』

「えっ?」

質問の意図が読めない?どういう事だ?
これだけわかりやすく説明したのにか?
俺は、動揺しながらも他の質問をした。

「な、なら、今って何年ですか?」

『何年?ソレハ何デスカ?』

「はっ?」

訳が分からない。
言葉自体は通じるのに、意味が通らない。

「いや、2000年とかの年ですよ?」

『年、トハ何ノ単位ナノデスカ?』

「何の単位か、って……」

やはり何かがおかしい。
あの白い部屋も含め、此処もまた想像の範囲を超えている。
俺はどんな世界に迷い込んでしまったんだ?
すると、ロボットの頭からランプが出てきた。ランプは、まるで俺の不穏を煽るかのように赤く点滅していた。

『ピピッ。不審者ト認識。束縛シマス。』

ロボットは機械的な音声でこう告げた。

………フシンシャ?
フシンシャって、不審者の事か!?
冗談じゃない!
質問しただけで不審者扱いとは堪ったもんじゃない。
俺は反論した。

「不審者!?ただ質問しただけだろ!?」

『意味不明ナ質問ヲ繰リ返シテイル時点デ不審デス。ソシテ、貴方ノデータハデータベース二存在シテイマセン。大人シクシテ下サイ。』

「そんな事知るかよ!」

すると、ロボットの頭の辺りから黒光りする何かが出てきた。

『モシ大人シクシナイノデアレバ、実力行使二出マスガ宜シイデスカ?』

恐らく、「銃」。
その黒い銃口がこちらを覗く。

「なっ………!」

流石に武力行使に対しての対策は持ち合わせてない。ロボットから出てきた銃の前に俺はなす術もなく、都市の中から出てきた男達に束縛され、連行されて行ったのだった……









一体全体、何でこんな事に……




いかがだったでしょうか?
感想、批評、随時募集中です。


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4.事情聴取

テスト勉強?知らんな。
ということで投稿です。
それでは、どうぞ。



「さて、一体君は誰なのかな?」

俺はある建物の一室、取調室の中にいた。
俺が捕まったのはいわゆる都市の警護団。
捕まった俺は真っ先に尋問されたのである。

「誰って言われても……」

俺はドギマギしながらこう答えた。
……正体を聞かれても、こっちだって混乱しているのだ。兎に角、ここで自分の名前を言っても仕方あるまい。
俺は機が来るまで、黙っている事にした。
すると、警備員は尋問するような口調で言った。

「君はこの都市の市民ファイルの中に記録がないんだ。だから誰かって聞いてるんだ。」

成る程。だから誰か、と聞いた訳か。
ならば無視するわけにもいくまい。
……黙っているつもりが、いきなり話し出す事になるとは、なんとも間抜けな話だが。

「僕の名前は仮陽影人です。」

「カリヒカゲト……ふむ、やはりないな……で、一体なんであんな所に?」

やはり来たか………
正直、ここで矛盾やいざこざが起こるととてつもなく面倒な事になる。
俺は慎重に話を進めた。

「……経緯を正直に話しても良いんですが、そもそも信じて貰えるかが怪しいんで話したくはないんですが。」

そう聞くと、男は怪訝そうな顔付きになる。

「経緯?一体どういう事かな?」

「僕が此処まで来る事となった理由です。」

そう言うと、男は考え込み始めた。
少し間をおいて、迷ったように彼は答えた。

「…………わかった。
内容次第だが、取り敢えず信じよう。」

それは良かった。
俺は自分の推論を交えた見解をその男へ伝えた。

「わかりました。
………今、僕がいるこの時代の事です。
少なくとも、僕は今までこんな都市の存在を知りませんでした。
恐らくですが、俺はこの世界の住人じゃありません。」

そう思いたい。
もしくは夢であって欲しいのだが。
男が、より怪訝な表情を浮かべる。

「…聞きたい事は山程あるが1つ聞こうか。
この世界の住人ではない、とは?」

「……前提として、一つお聞きしたいのですが。」

「……ん?あぁ、なんだね?」

質問に質問を返されて面食らった警備員は、
少々不機嫌そうに答えた。

「もしかして、もしかしてですけど。
『都市』は、ここにしか無いものなんですか?」

質問すると、警備員はより一層怪訝そうな表情になる。
まるで、「何を当たり前の事を聞いているんだ」とでも良いそうな表情で。

「あ、あぁそうだね。
恐らくこの星には、都市はここにしかないよ。」

やっぱりそうだったのか。
ロボットの時の合点がいった。
俺は説明する。

「確かに、僕はこんな高度な都市は見た事もありません。
半自立型のロボット。
この都市を覆うドームのような物。
空を浮く羽の無い乗り物。
……ですが、逆にここまで規模が小さい都市はあり得ないと思うんです。
僕の生きていた世界にはこの世界のそこら中に──尤も一つ一つはこの都市には劣りますが──都市がありました。」

「………」

警備員の男は押し黙ってしまったが、それでも俺は続ける。

「それが成長していって、こうなるっていうのは、ちょっとおかしいなと思って。
だって、規模が小さいって事は人口が少ないって事ですよね。」

「いや、でももう約10億人もこの都市にはいるんだが?」

反論する警備員。
だが……やっぱりそうなのか。

「やっぱりそれじゃ『少ない』です。
確かに一つの都市としては、僕からしてみれば完全にありえ無い規模です。
ですが、僕が生きていた世界には大量の都市があり、総勢65億人弱はいました。」

「65億………」

「……この世界は、僕の元いた世界とは完全に別世界です。
ですが、恐らく僕は望んでここにきたわけでもありません。」

「……どうしてだい?」

「……記憶がないからです。」

俺の話は一区切りついたつもりだ。
だが、これで相手が信じるとは到底思えない。
そりゃあそうだ。何者かわからない相手が「私は異世界から来ました。ですから解放してください。」なんてどこの馬鹿でも信じる訳がないだろう。

「………ちょっと失礼。」

俺の予想通り、警備員らしき男は扉を開けて部屋から出て行ってしまった。







暫くして、男が帰ってきた。
その警備員の右手にはよく分からない機材が。
警備員は言った。

「君が言っている事が私には到底信じられない。
だがな、この世にはこんな便利な機械があるんだ。」

警備員はその機材を机の上に置いた。

「その名も嘘発見器。
君が嘘をつけばアラームで知らせてくれるという優れ物だ。」

「……はぁ。」

……いや、嘘なんてついてないが。
男は得意げに言い放つ。

「私が質問する事に全て「はい」で答えてくれ。
もし、全てアラームがならなかったら、君の言う事を信じよう。」

「……はい。」

「では、「君が言った説には嘘が混じっていない。」」

「はい。」

当然だが、アラームは鳴らない。
警備員は面食らったような表情をする。
が、質問を続けた。

「で、では、「君は我々に敵意がない。」」

「はい。」

またまた当然だが、アラームは鳴らない。
警備員は、心底驚いたように言った。

「まさか……全て本当なのかい?」

「はい。」

最後の質問にも、アラームは鳴る事はなかった。
警備員が席を立つ。

「分かった。
君は本当に異世界から来た住人のようだ。
ちょっと報告してくるから、待っていてくれ。」

警備員は走りながら、どこかへ行ってしまった。






どれ位経ったのだろうか?
………訪れる沈黙が耳に痛い。
この部屋の外が、あの未来都市だとは。
防音もしっかりしてるんだなぁと、どうでもいい事ばかり考えていると、扉が開いた。

「先生、こちらです。」

「へぇ。一体何を話していたのかもう一度話して頂けるかしら、仮陽影人君?」

………先生?
聞こえた声は二人だった。
片方は警備員の男で、もう一人は先生と呼ばれた人物。
その人物を見やる。









その瞬間、俺の中の時間が止まった。

そんな……馬鹿な……

「…………嘘だろ?」

だって………そんな事はあり得ない……

「何がかしら?」

だが、幾ら目を疑ってもその眼に映るのは紛れもなく───

「……アンタまさか、あの───?」

「えぇ。流石にご存知のようね。」

あぁ、確かに知っているとも。
確かに知っているが………
これは知る知らないの次元の話ではない。
だって───

「まさか………あの世界なのか?」

俺はゲームとしてのこれを知ってるんだぞ?
それが、なんで目の前に?
どうしてお前が現実にいるんだ?














「知っているなら話は早いわ。
私は、八意永淋。貴方の推論を聞きにきたの。さぁ、話して下さる?」





感想、批評、絶賛募集中です。


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5.忘失

気がついたらお気に入りが3人増えていた。
………嬉しいっ!
では、どうぞ!




八意永淋──。

東方projectで永夜抄6面のボスの一人。
不老であり、能力を一つ持っている。
その名も「あらゆる薬を作る程度の能力」。
こんな強力な能力に「程度」がつくのは、多少不思議に思うが、まぁそういう物らしい。
種族は月人。通称「月の頭脳」。
他にも色々あるが、まぁメジャーなのはこの辺だろう。

………で、何で永淋が同じ次元にいるんだ?
少なくとも、俺が生きていたのは三次元であって、二次元ではない。
記憶には三次元から二次元に渡る装置、ましてや二次元の物を三次元に持ってくる装置などは無かった筈だ。
そんな技術、地球にあってたまるか。
じゃあ、一体どうして……?

まただ、またこの感覚だ。
まるで、この世界が現実じゃないかのような、絵空事であるかのようなこの感覚。
動悸が激しくなる。
またなのか………

<ナニカガオカシイ…。>



いや、違う。





<ナニカガタリナイ…。>

「……もしもし?聞こえてるかしら?」

「………」

赤と紫の服。
良く言えば奇抜なデザインだし、悪く言えば単なる変な服だ。
……だが、今となっては笑えない。
そいつが眼の前にいるんだからな。

「……どうしたんだろうか?」

「精神安定剤でも持って来ればよかったかしら?」

とにかく一度深呼吸。
慌てるな、現実を見ろ。

「…すいません。気が動転してしまって…」

「あ、あらそう。本当に大丈夫なの?」

「……はい、大丈夫です。…多分。」

「まぁ、大丈夫なら良いのだけれど。」

誤魔化せたか?
あの警備員やっぱり分かってなくて、よりによって月の頭脳を当てにしたのか……
まぁ、自分でも支離滅裂な事を話しているのは理解してるが。

「では、お話しましょうか……」

上手く理解してくれると助かるが……
兎に角、これは八意永淋だと考えて説明しなくちゃだからなぁ……
頭と舌がしっかりと回るといいが。

















「へぇ……つまり貴方はこの世界、少なくともこの時代に生きる者では無いって事ね。」

「……まぁ、そういう事になります。」

俺が一通り経緯を話すと、八意永淋はそれをあっさりと理解してしまった。
尤も二次元と三次元の世界、白い部屋、そこで聞こえた謎の声、記憶の事は話していないのだが……
そもそも、自分が上手く理解も説明も出来ていない物がどうにかなる筈がない。
逆にどうにかされたら困る。

「やはり、私にはわかりませんね……」

警備員は未だに唸っている。
常人が分からない支離滅裂な説明をあっさりと理解する所、流石月の頭脳と言うべきか。
……まぁ、そもそも八意がいる事が一番の疑問でもあるんだが。

「とにかく、貴方が現れた所まで案内して欲しいわ。状況説明だけじゃ限界があるし、物的証拠があれば、それが解決の糸口になるかもしれないからね。」

無いとは思うが。
まぁ行きたいなら連れてくのも良いだろう。
そんな事より、だ。

「案内するのは良いんですが……
僕に対する罰はどうなるんですか?」

「まぁ、その嘘発見器を突破されたのかもしれない以上、完全に無罪放免というわけにはいかないけれど、逮捕って事はないと思うわよ。」

「そ、そうですか……」

そいつは良かった。
無罪の罪で捕まるってのは御免だ。

「わかりました。でも、細かい所までは覚えて無いんでよろしくお願いします。」

兎に角、俺と永淋と警備員達は森へ向かったのだった。

とはいえここで一つ分かった事がある。
この世界は俺が住んでいた世界とは違った世界なのだろう。
だって……八意永淋が現実にいるとは思えんしな。それに未来都市もそうだ。
八意永淋がいる時点で、ここは──

「過去のパラレルワールドって事なのか……?」

「影人君、案内頼むわ。」

「あっ、はい。」















「多分、この林を抜けた先です。」

森を進んで行くと、割と見た事がある木の配置の所へとやって来る事が出来た。
……にしても、思ったより方向感覚があるとは。生まれつきそうだったのだろうか?
割とどうでも良いが。

「何かあるかしらね?」

「僕は気が動転していたので何とも……」

まぁ、今も落ち着いているふりをしているだけで、結構慌てているんだがな。
何で二次元世界が混ざってんだか。
割とポーカーフェイスは得意でよかった。
ポーカーフェイスというか、いっつも無表情なだけなんだが。

「ここです。……ん?」

「何か書いてあるわね……?」

恐らく、俺が現れたと思われる所の土の上になんか書いてある。気付かなかった。
最初から書いてあったのか?


「えっと……




『人は《自壊》を防ぐため、《忘失》する。
人は《忘失》し、《空虚》を覚える。
人は《空虚》を自覚し、《恐怖》する。
人は《恐怖》を知り、《絶望》する。
人は《絶望》し、そしてまた《自壊》する。
これ即ち、条理なり。
何故、これを命持つものが与えるのか。否。
これら全て自然の摂理の中でのみ許容される事柄なり。
喜べ。汝には『知る』権利が与えられた。
拒否するならば、自然の摂理を以って滅びるが良い。さぁ、選択せよ。』



…ですって。」

永淋が書いた文字を読んでくれた。
……思わず微妙な表情になってしまった。
これは例の"ナニカ"の仕業か?
白い部屋の時もそうだが、アイツは何が言いたいんだ。全く理解できない。

警備員達も首を傾げている。
永淋は……何か考え込んでいる。

「あの…何言ってるんでしょうね、コレ。」

取り敢えず聞いてみた。

「………簡単に説明すると、



『人間というのは、自身を崩壊させるのを防ぐ為に物事を忘れる。
忘れた物事がある事に対して、何かがぽっかりと空いたように感じる。
その様に感じる自分がいる事に恐怖する。
そして、自身の恐怖が増大し、絶望する。
そして、それはまた自壊を生み出す。
これは、つまり必然である。
この流れを命ある者がどうこうすることはあり得ない。これは自然によってのみ与えられる事である。
喜べ。貴方には、忘れた事を知る権利が与えられた。
もちろん拒否するのも良いが、それならば忘れた何かで、そのうち滅びてしまうだろう。
さぁ、どちらかを選べ。』




って事かしら……随分な違訳だけどね。」

永淋が簡単に訳してくれた。
………訳されてもよく分からない。
そもそも、「分からないわ」とでも言うのかと思いきや、まさか通訳されるとは。
月の頭脳、恐るべし……

「………なるほど?」

つまり、お前が忘れてる事を放置しておくとその内自壊ループしてしまうから、知ろうとする為に動いて良いぞって事かね?

「俺は何を忘れている……?」

「なんか、余計分からなくなっちゃったわね……」

確かに永淋の言う通り俺には新しく≪忘失≫の謎が加えられてしまった。
──が、収穫もあった。

「いえ、多分これも必要な情報です。
兎に角、いまの俺には全く情報が足りないと思うんです。少なくとも、これは意味の無い情報ではありません。
解決の糸口は見当たりませんが、その内見つかると思います。」

少なくとも情報が足りないよりも、分からない情報がある方がマシだろう。
………多分。

「力になれなくて御免なさいね。」

「いえ、ここまで来るという発想がそもそも無かったんで、ありがとうございます。」

これで、一旦探索は打ち止めとなった。
≪白い部屋≫に、≪ナニカガタリナイ言葉≫、そして≪謎の文字≫。




さてこれが、俺の記憶の手がかりとなると良いんだがなぁ……



どうでしたか?
感想、批評絶賛募集中です。
……感想の方が嬉しい事は嬉しいんですがね。


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6.悪夢

実はテストが終わり、安堵していたりして。
兎にも角にも、もう6話目です。
では、どうぞ。





「あぁ、影人君、そこの上の瓶取って。」

「……これですか?」

「えぇ、ありがとう。
……あ、後その上の錠剤も。」

「これですか?」

「これ、風邪薬よ………」





現在、俺は八意永淋の薬品研究所にいる。
実はあの後、こんなやり取りがあったのだ。

───────────────────────

「ところで、影人君。ここから行く当てはあるの?」

帰り道の途中、永淋にそう聞かれた。

「……いえ、ありません。」

急に別世界に飛んできた俺には、行く当てどころかこの先の事すら考えてなかったのだ。
………まぁ、この先の事を考えられた状況じゃなかった、というのが一番大きかったのだが。

「じゃあ、貴方私の所で働いてみない?」

「へっ?」

少し、というか随分予想外な質問が飛んできた。確かに、俺に行く当ては無い。
それどころか、ここの地理すらわからない。
その時の俺の頭には、こう出てきた。




行く当てが無い カタッ

「働いてみない?」カタッ

働かざるもの食うべからず チーン





「あっ、はい。よろしくお願いします。」

「えぇ、明日からよろしくね。」

即答だった。
まぁ、そりゃそうだろう。
行く当てが無いのに、誘いを断るなんて普通の人間のやる事じゃない。
少なくとも、俺は普通の人間のつもりだ。

「じゃあ、今日は研究室で寝て頂戴。」

「はい、わかりました。」

彼女は、鳩が豆鉄砲を食ったようにこちらを振り向いて言った。

「……貴方、適応力高いって言われない?」

「……こんな状況、滅多に無いですからなんとも言えませんが、確かにそうですね。」

まぁ、別に寝れるなら何処でも良いや。

───────────────────────

そんなこんなで現在に至る。
この薬品研究室は、なんというか独特な香りがする。
なんというか、病院っぽい匂いがする。

「影人君、今度はそっちの瓶を取って頂戴。」

「わかりました。」

それもそのはず。
薬品研究室とは名ばかりで、8割は都市での怪我人や体調不良の人達がやってくるクリニックのようなものになっていた。

「永淋先生!今日もお美しい!」

「はいはい。体調を崩してないのなら、邪魔しないで頂戴。」

……なんか違う奴もいるが。

まぁ、とにかく永淋は薬品調合。
俺は使い走りとして働いていた。








だがしかし、そんな何時ものある夜の事。
緊急患者が運び込まれる事となった。

「……緊急患者?」

「えぇ。
どうやら、車同士の事故に巻き込まれたそうよ。直ぐにここで手術をしないと。」

いくらハイテクでも、事故は起こるんだな。
俺が思った最初の感想はそうだった。

「という事はここに運び込まれるて来ると?」

「そうよ。後1分ね。
貴方にも手伝ってもらうわよ?」

……1分後?

「……えっ」

つい、声が出てしまった。
……速くね?まだ心の準備が……





「どいて!どいて下さい!」

実際、1分後に急患を引き連れた男達がやってきた。
例の緊急患者は───

「……うっ」

恐らく30代半ばの男だろう。
頭から大量の血を流している。
そして、腕と足があらぬ方向へとひしゃげていた。
吐き気がする……
本物ってのはこんなにも………

「……影人君。駄目なら良いのよ?」

永淋が俺を気遣ってくれた。
悪いが、今回は流石に無理だった。

「はい……すいませんが失礼します……」








研究室に戻ると、また吐き気がした。

目を見開いたる人間。

悲惨な状態の腕や足。

そして───赤く滴る血。



「………?」

何だろうか。
今、ほんの一瞬頭に激痛が走ったような……

「……ア"ッ!?」



頭をハンマーで殴られたかのような頭痛が広がる。こんな酷いのは生まれて初めてだ。
痛い!!痛い痛い痛い!!



イタイッッ!!





十──────十────十──十──────十



ザ──────ッ

『い………ッ……………人。』

『…ん!……て……………サ…!』

タッタッタッタッ。



ザ──────ッ

ザ───ッ

グチャッ。グチャッ。グチャッ。

『…………》

〔………………!………………!』

《…………!!…………………!!!】

ザ──────ッ
ヌチャリ。

『………………………!!》


ザッ───ザ───ッ




ザッ……



プツン。







──十────十─────十───十────十










「…………」

「あっ、起きたわね。
貴方、部屋で倒れてたから驚いたわよ。」






「…………八意さん。申し訳ありませんが、一人にさせて下さい。」

「……えっ?いきなりどうしたの?」

「お願いしますっ!」






「……え、えぇ、別に良いけど、無理はしないでね。」






「……わかってます。」

ガチャッ。バタン。




「…………」

なんだ、今のは?







…………







とにかく、寝よう。







あれは、悪夢だ。








俺は目をまた閉じる事にした。









きっと起きたら、あんな夢は忘れるだろう………。




いかがでしたか?
謎だけが増えていっているけど大丈夫なのか?
……まぁ、多分大丈夫です。
感想、批判大募集中です。


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no number 理屈

さて、調子に乗って2話連続投稿です。
今回は本編の進行に特別関係はしません。
しませんが…?
では、どうぞ。







「こんにちは、お久しぶりでございます。」

カチッ。
黒の中に生まれる光。
光の中に見える人影。

「どうも。一部の皆様、お待たせしました。
……おや?別に待ってなどいない?
ふふふっ。それは誠に失礼いたしました。」

光の中に立っていたのは例の男。
高そうな白いタキシードに、高そうな白いシルクハット、黒いマント、そして──
彼の象徴でもある、気味の悪い仮面。

「さて、どうでしょうか?
不可思議を解決する糸口は掴めましたでしょうか?
……尤も、ここまでで糸口を掴まれてしまったのであるなら、その方を私は天才と呼ばざるを得ないのですがね。」

彼の表情は全く読めない。

「仮陽影人。
実に面白い男でございます。そしてまた、大きな謎を抱える男でもあります。」

「布団で寝ていたら、白い部屋にいた。
なんとも信じ難く、不思議な事でございます。そして、また目が覚めたら目の前には未来都市が。
……もし私なら、少し遠慮させていただきたい展開ですね。」

「そして、彼の見た悪夢。
これこそまさに、不可思議でございます。
とはいえ──」

彼は一瞬言葉を切った。

「彼の物語はまだまだ始まったばかり。まだ、彼の物語は起承転結の【起】すら、未完全であるのです。
お楽しみはこれから、という訳でございます。」

そこで彼は首を傾げた。

「……ふむ?なぜ私がそんな事を知っているのか?そして、結局正体は何なのか?」

すると、突然彼は手を口に当て笑い始めた。

「ふふふっ。
やはり……浅はかでございますね。」

「ヒトというのは、これだから面白い。
何故、ヒトというのはすべての事に理由や理屈を求めようとするのでしょう。」

「確かに、実際それはとても良い事ですし、生物の中でも異端な行為でございます。
ですが──」

気のせいだろうか?
彼の仮面の目元の切り込み。
奥までは見えない筈なのに、一瞬彼の目が見えたような気がした。

「私はタネは明かさない主義ですので。
そもそも、すべての事に理由や理屈があるとお考えですか?」

「全てには理由や理屈が存在する。
勿論、それを間違った考えだ、と一蹴する気はさらさらありません。
私は一つの考えを一蹴するなど、全く持って馬鹿らしい事だと考えておりますので。」

「ところで、ヒトにはすべてを合理的に考えるのは不可能です。何故ならヒトは感情を持つからでございます。
……もし、全てを合理的に考える事が出来るものがいるならば、それはヒトの皮を被った、感情の無い悪魔でしょうか。」

「皆さんは同じヒトと助け合います。
例えば、募金。
例えば、献血。
例えば、臓器移植。
……見返りなど無いのに、何故ですか?
貴方はそこに理屈が必要だと考えますか?」

彼の問い掛けは、まるで静かに迫ってくるかのように重い物だった。
彼が言葉を切ると、静寂が訪れた。
彼は唐突にまた笑った。

「……ふふっ。冗談でございますよ。
このように、どうでも良い事を考えながら生きるというのも、案外面白い物ですよ。」

チン。
唐突に金属音が辺りに響く。
すると、彼の手に懐中時計が現れた。

「おや、そろそろ時間のようです。
私には所用がありますので、これで。
どうぞ、この先も物語をお楽しみ下さい。」

デジャブだろうか。
彼がこう言うとスポットライトが

「では。」

消えた。

























「遂に運命の歯車は回り出しましたか。
これは始まりの象徴なのでしょうか?それとも───」





いかがでしたか?
ちなみに、この男は筆者のお気に入りです。
引き続き感想、批判大募集中です。


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7.お使い


やっぱり書き溜めがあると安心出来る自分がいる。
せめて一日一つは投稿する予定です。……多分。
では、どうぞ。









「本当に大丈夫なの?」

「はい、ご心配おかけしました。」

あの後二度寝してから起きると、もう朝になっていた。
永淋は心配してくれているが、もう本当に大丈夫なのだ。
多分グロテスクなのが駄目だったのだろう。
そう思いたい。

「………じゃあ、早速仕事に戻って頂戴。
また、気持ち悪くなったりとかしたら休んでいても良いんだからね?」

やっぱり、心配してくれているようだ。

「はい、ありがとうございます。」

……だが不快だ。
実に不快だ。
謎が多すぎる。

今日の仕事に集中出来るだろうか……?





結果からいうと、仕事には集中する事が出来た。
今日はたまたま患者の数が多く、懸命に働かなければならなかったからだ。
そして、疲れ切った俺は直ぐに寝てしまった。
今度は夢すら見ない、深い眠りだった。












「はい?およびですか?」

次の日。
俺は朝から永淋に呼び出された。
呼び出しとは、初めての経験だが。
昨日なんかヘマしたっけ?

「えぇ。
実は私、今薬の材料を切らしてて………
お使いを頼みたいのよ。」

なんだ。
何かと思ったらお使いか。

「はぁ、そうですか。わかりました。
……地図って頂けますか?」

未だに地理を知らない俺には、周りを歩くのに地図が必須だ。
少なくとも、地図が無ければ同じ道を5回は通れる自信がある。

「えぇ。そう言うだろうと思っておいて。
はい、これよ。」

「ありがとうございます。」

ええっと……?
ここか……?
















「遠いなぁ……」

歩きながら、憂鬱になってきた。
片道15分とは……まだ薬品調合の手伝いの方が楽だったなぁ……
八意も面倒な役回りを押し付けてきたもんだ。

そうこうしているうちに、目的地を発見。
目的地の店は、なんだか小汚く小さかった。
ここだけ、時代が遅れているような?

「おう、坊主!何がいるんだ?」

店に入ると、おっさんが声をかけてきた。
坊主とは失礼な。俺はもう17なのに。

………にしても、坊主とは懐かしい。
あの時を思い出す。


───────────────────────


『坊主!起きろよぉ!』

『なんで、坊主って呼ぶのさ!』

『いいんだよ!坊主は坊主なんだからよ!』


───────────────────────


「………永淋先生の使い走りできました。」

「おぉ!永淋先生か!
で、何が必要なんだい?」

永淋から渡されたメモをおっさんに渡す。

「ふむ、ちょっと待ってな。」











暫くして、おっさんが戻ってきた。
すまなさそうな表情で、彼は言った。

「……すまんが坊主、今一つ在庫を切らしててな。薬草の一つなんだが。」

「あ、そうですか。」

「薬草を取りに行った親父が中々帰って来ねぇんだよ。心配だが、店を離れる訳にも行かなくてな……」

ふむ、おっさんの親父さんが。
という事は、もうおじいさんじゃないのか?
おじいさんが薬草を取りに行って戻って来てない……有りがちだな。
……なんだかすごい心配になってきた。

「……僕が見てきましょうか?」

「お、助かるぜ坊主!
多分親父はそこの森を入ったすぐの所でウロウロしてる筈だ!頼んだぜ!」

「はい、任せれました。」

……まぁ、永淋には帰ってから事情を話せばどうにでもなるだろう。
薬草も要るんだから取ってこないとな。
そうして、俺は森の方へと駆けていった。

















「おう!店番してたか?」

「えっ!?親父!?」

「ははっ!張り切って沢山取ってたら時間を忘れちまっててな!」

「じゃあ、入れ違いってことか!?」

「……お前、さっきからどうしたんだ?」

「さっき、永淋先生の使い走りの人がここに来たんだ!
で、親父が帰ってくるのが遅いって事を伝えたら、探しに行っちまったんだよ!」

「何っ!?不味いぞ……」

「ちょっと俺、行ってくる!」

「待てっ!これを持ってけ!」

「……親父、これがあるって事はまさか…」

「……そのまさかだ!
あそこには出るんだよ!」










「デカイ"穢れ"が!!」










いかがでしたか?
次回は遂に物語のキーマンが。
次回も楽しみにお待ち下さい。


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8.黒い俺

0時投稿の筈が寝落ちだと……!?
それではどうぞ。





〜古代の森〜

「……にしても、丁寧語がこんなにもスラスラ出てくるとはなあ……」

俺は森へ向かう途中で一人ごちる。
コミュ障の俺にまさかここまで丁寧語を話させるとは、神にもわかるまい。

……丁寧語と言えば。

──────────────────────



『いいか?
丁寧語っていうのは、知っておくと人生損しないんだぞ?』

『へぇ!じゃあ教えて、────!』

『あぁ!もちろんだとも!』

『わーい!』



──────────────────────

「……元気だといいなぁ。」

そんな事を考えている間に、いつの間にか森は眼の前に広がっていた。

「……広い。」

いや、ちょっと待て。
広い……というか、広過ぎる。
入り口辺りっていったいどの辺だ?

「この辺……か?」

取り敢えず手始めに呼んでみる事にした。

「すいませーん!
今、薬草を取ってらっしゃるご老人はいらっしゃいませんかー!」

………しーん。
森からは物音一つしない。
不気味だ。
それとも、最初から何もいないのか。

「聞こえてないのか、或いは……」

俺は前者の可能性を信じて、森の奥地へと進んでいった。








〜古代の森・奥地〜

「随分深くまで来たな……」

まぁ、現地の人は広いのを知っててここも入り口ら辺、と言ったりするかもしれない。
いや、知らんけど。
とにかく、おっさんの親父を探し出さない事には始まらない。



すると───

ガサッ。

「んあ?」

物音?もしかしておじいさんか?
少なくとも空耳じゃない事は確かだ。
……見てみるか。
俺は音の聞こえた方へと、草の根を掻き分けて進んでいった。












暫くして、やや開けたところに出た。
沢山の植物が自生している所だった。
……もしかして、ここにいるのか?

「どなたかいらっしゃいませんかー?」

また、俺は大声を出して呼んでみた。
すると────

ガサガサガサッ。

嫌に大きな物音が聞こえた。
……恐らく背後の草の中から聞こえたんだと思う。

「……あのー?」

……なんだろう、この感じ。
凄く嫌な予感がする。

「…………」

恐る恐る振り返る。








「キ"シ"ャ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!」








「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」

後ろにいたのは、まさしく異形。
そこには頭は狼、体は熊のような生物が四つん這いで立っていた。
まさに人智を超えた存在だった。
俺は、恐怖の余りその場から動けなかった。

人間というのは、多々恐怖を感じるものだ。
もちろん、俺だって恐怖を感じた事はある。
だが、人間というのは本当の命の危機を感じる直面した時、動けなくなってしまう。

まさしくその通りだった。

「…………」

目の前の異形は涎を垂らしながら此方にやってくる。
俺の頭の中は既に真っ白だった。
叫ぼうにも、言葉が浮かばない。
逃げようにも、足の動かし方が分からない。
完全に八方塞がりだった。

目の前に異形の顔がやって来る。
俺の体は金縛りにあったかのように動かなかった。

唐突に鋭い牙を持つ口が開かれた。
あぁ──終わった。

「誰か、助けてくれ……」

俺は人生の最期にそう呟く事しか出来ない。
実に哀しいものだ。

そして、異形の口が俺の頭と体を二つに分断させようとする。
俺は目を固く閉じた。
……人生の最期ってのは、呆気ないな………

















ザクッ。



















『勝手に幕降ろすんじゃねぇよ、バーカ。』















「………?」

走馬灯だろうか?
今、声が聞こえたような……?

『……ちっ、目の前を見ろ、目の前を。』

「……は?」

走馬灯じゃない。
恐る恐る目を開く。
すると目の前に広がっていたのは───

















異形の屍体。そして周りには血。
最も目についたのは、屍体の上に座る青年。











『初めまして……は、ちょっと可笑しいな。
そう思わねぇか、俺?』













彼は不気味に笑っていた。

これは、一体………?

其奴の顔は、まるで『俺』だった──。



いかがでしたか?
キーパーソン、登場。
感想大募集中です。


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9.正体

今日寝落ちするほど、私は甘くないのだよ!

なら、最初から寝落ちするなよって話なんですけどね(´・ω・`)
では、どうぞ。






「助かった、恩にきる。」

俺は、目の前の男に礼を言った。
だが、男は迷惑そうにこう答えた。

『助けた訳じゃねぇよ。
お前が死んだら、こっちもゲームオーバーだからな。』

…………?
『こっちもゲームオーバー』?

「………上手いこと事態が呑み込めないんだが?」

『まぁ、いきなりじゃ確かにそうだろうな…………
お前、ちょっと下を向いてみろ。』

「下?」

『そうそう、下だ。』

言われて下を向いてみた。
……特に変わりない靴が見えるが?

『………なんか足りないものってないか?』

「はあ?足りないもの?」

『その中に違和感を少しでも感じられるか?』

………ん?
その時、俺は違和感の正体に気付いた。
足りない。根本的に在るべきものが足りない。

「………どういう事だ?」

『どうやら分かったようだな。』













『俺の名は【影】だ。よろしく。
まぁ名と呼べるかどうかも怪しいんだがな。』



影。



それはありとあらゆる物体が光を遮った時に生まれるものである。
実体はない………と思っていた。

俺は下を見て違和感を感じた。
それは、()()()()()()、という事だった。
普通、下を向いたら自分の影で地面には光が当たりづらく、暗く見えるはずだ。
だが、下を向くと、そこには太陽の光で輝く植物の葉があったのだ。
まるで、太陽の光が俺を無視しているかのように、だ。

『違和感を感じるなら、いいんだ。』

「いや、何がだよ?」

すると、突然影は頭を掻き毟り始めた。

『……うぁぁあ!やっぱり説明面倒くせぇ!
ちょっと待ってろ!』

「お、おう。」

すると、影は立体性を失い、地面に沈んでいった。
………なんというか、こういう所で新鮮な驚きを感じない自分がいるのが恐ろしい。







暫くして。

『お待たせしました。』

「……はっ?」

だがしかし、今度は新鮮に驚いた。
次に地面から現れたのは女性だったのだ。
黒髪に黒いワンピース。
そして、なんというか、美しい。
……どういう事だ?

『さっきの形態は、それこそ主が命の危機に晒された時にしか使わないのです。』

「……主?」

『えぇ。
改めてまして、【影】でございます。
どうぞ、お見知り置きを。』

………影?
コイツがさっきの?

「……お前、本当にさっきの影なのか?」

『えぇ。
いちいち性格や姿を変えるのに、元の姿に戻らなければいけないものでして。』

成る程。
成る程………?

「………いやいや、そうじゃなくてだな。
お前、女にもなれるのか?」

『……あぁ、そこですか。
先に申し上げておきますが、一応私に性は存在しません。』

「……へぇ。」

『生きている物ではないので、当たり前と言えば当たり前の事でございますが。』

「そう……なのか?」

『そういう物でございますよ。
……ところで、そろそろ本題を話させて貰ってよろしいでしょうか?』

「あぁ、すまない。
ところで、本題って言うのは?」

影は一呼吸置いてこう答えた。

『私が三次元的に存在している理由でもありますが、主が持つ【程度の能力】の事でございます。』

………程度の能力?

「おい、それって───」

『えぇ、聞いた事はあるでしょう?
東方のキャラが持っている、アレですよ。』

『そして主は能力を………持っています。
その名も、








【影を司る程度の能力】









で、ございます。』



「……うそーん。」




マジか……
影を司る程度の能力………
具体的に、何が出来るんだろうか。

『次いで説明させて頂きたい………
のですが、お時間のようです。
また、お会いした時にお話しさせて頂きますね。』

影はそういうと地面に消えようとしていた。

「……えっ?ちょ、ちょっと待て!」

『では。』

しかし、遅かった。
【影】は完全に【影】に戻った。

「おーい!大丈夫かー!?」

その直後、背後から人の声。
………おっさん?
おっさんが、こっちに向かって走り寄ってくる。

「…………」

……正体を知られたくなかったのか?

「はぁ……はぁ……
すまねぇな坊主。大丈夫だったか?」

「……ま、まぁ一応大丈夫です。」

「そりゃ、良かっ………うおっ!?
坊主、背後の穢れはどうしたんだい!?」

突然、おっさんが驚いたように言った。

背後の………なんて言った?

「えっ?」

「それだよ!それ!」

俺の後ろには異形の屍体。






……やべっ。






「……あー、えーっと、僕がコイツを見つけて気絶してる間にこうなってました。」

「……そりゃ、運が良かったのかねぇ?」

……俺にどう答えろと。














とにかく、俺はおっさんをうまく誤魔化して都市へと戻ってきた。
おっさんの親父さんは、

「いや!本当に申し訳ない!」

とずっと謝ってきた。

「いえ、無事ならばそれで良いんですよ。
そんな事より。」

俺には気になった事があった。

「ん、なんだ?坊主?」

「あの、【穢れ】ってなんですか?」

あの時、おっさんは俺の後ろには倒れていた異形の屍体を見て、こう言った。

≪坊主、背後の穢れはどうしたんだい!?≫と。

つまりは、あの異形は【穢れ】という事となる。………穢れってなんだ?

「なんだ、坊主。穢れも知らんのか。
穢れっていうのは、最近になってこの辺に現れた奴らの事だ。
奴らの持つウイルスかなんかに感染しちまうと、何年か経つと死んじまうんだよ。」

「………何年か経つと死ぬ?」

「確か、80年くらいじゃなかったかな?」

おいおい、それって寿命じゃないのか?
………つまり寿命はあいつら、通称【穢れ】からやって来たって訳か………。

「貴重な情報、ありがとうございます。」

俺はおっさんの親父さんにお礼を言った。
そうすると、俺はこう言われた。

「しっかりした坊主だなぁ………」




だ!か!ら!



俺は坊主じゃないと!












「……無理しすぎじゃないかしら?」

帰って早々、八意にお小言を言われた。
一昨日の尋常ではなかった俺の様子を見て、心配してくれているようだ。

「……確かにそうですね。」

「貴方、死んだら元も子もないのよ!?」

八意がヒステリックに叫ぶ。
……そりゃ、そうだろうが。

「僕のせいで死んだとなると、寝覚めが悪いのですよ。」

「はぁ………
お願いだから、こんな無謀なことは今後一切やめて頂戴!」

「は、はい。すいませんでした。」
















その日の夜。
俺は【影】を呼び出した。

『お呼びですか?主………よ?
……ここ、何処です?』

「トイレだ。」

『何故よりによってトイレなんです?』

「あの時から八意の監視が厳しくてな。
……外に出るにも、八意直属の護衛兵が監視してくるんだよ。」

『それはそれは。誠に御愁傷様です。』

「………で、森の時の続きを話してもらおうか?」

『わかりました。
それでは、はじめに主の能力で可能な事から話していきましょうかね………』



いかがでしたか?
ところで私、イラストを描いたのです。
まぁ、そんなに上手くないのですが。


貼ってあるんで物好きな方はどうぞ。


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10.【程度の能力】

今回はタイトル通り能力解説。
……地の文を増やしたい筆者が通りますよっと。

では、どうぞ。




『さて、まず主の持つ能力の効力ですが。
簡単に申し上げますと、大きく三種類がございます。
第一に《創造》。第二に《硬化》。
そして、第三に《空間》でございます。』

「……ふむ。」

創造に硬化、空間か……
どれも影とは何の因果もなさそうな言葉だが、一体どういう事だろうか。
影は一呼吸置いて話し始めた。

『第一の力、創造。
その名の通り、ありとあらゆる物質を創造する事が出来ます。
ただし、内部の構造が複雑であったり外部に凹凸があり過ぎると失敗します。』

『この能力のキーワードは、
〈あらゆる事象は、平均的に零になる〉
という事でございます。
例えば、光を遮るように物体を置くと、そこに影が発生しますよね?』

「透明でもない限り、そうだな。」

『では逆に、光を遮る物体があるかのように影を創造すると、どうなると思いますか?』

物体の陰にならない影?
物体が光を遮らないのに影が創造されるとどうなるか………

「……ならば、逆に物体が創造される?」

『えぇ。その通りでございます。』

影はさらりと肯定した。
これが物体創造の原理か。
……地味に汎用性高すぎるんじゃないか?

「………なんとも恐ろしい力だな。」

『ですが、二次元的物質から三次元的物質を生み出す、という事はかなり難しい事でございます。
影を限りなく三次元的物質に忠実に、そして正確に作らなければならないからです。』

『特に細かい造形や、内部構造が複雑な物を創造する事が苦手です。
これらの物体創造をすると、平気で2,3日寝込みますのでご注意を。
後、創造する物質が大きければ大きいほど、希少であれば希少なほど体力を消耗します。これもご留意下さい。』

「成る程、注意するか。」

………一つ疑問だ。
〈あらゆる事象は、平均的に零になる〉
これは一体……?

「その、あらゆる事象がうんたらかんたらってのは、どういう意味だ?」

『簡単に申し上げますと、影は負です。
そして、現実世界に存在する全ての物質は正に属するわけでございます。
つまり、地球上すべての物質は影と足されるとすべて零になるという事でございます。
ですから、影というマイナスを創造すれば、物質というプラスが創造される事が必然なのでございます。
でなければ矛盾が解消出来ませんので。』

影は説明口調でペラペラと話していく。
………なんというか、長い。

「わかったような、わからないような……」

『まぁ、細かい事は実践で知れば良いのですから、別に問題ございません。』

「そうなのか。」

『えぇ。
現在話しているのは、あくまでも予備知識でございます。詳しくは、またお使いの時にお話致しますゆえ。』

『第二の力、硬化。
これは割と簡単な力でございます。
その名の通り、影を固める事が出来ます。』

『勿論、硬さには限界があります。
精々鉄が良いところでしょうか。
基本的に未知の物体や、鉄以上の硬さには硬化させる事はできません。』

『とはいえ影を尖らせ固める事もできますし、私を実体化させているのもこの力でございます。
この能力のキーワードは、
〈簡単な力ほど侮る事無かれ〉
でございます。
簡単で単純な能力ほど、使い方は考えようでございます。』

「ほぉ。」

使い方は考えようねぇ。
しばらく使い道について考えるのもいいって事か。

『そして第三の力、空間。』

「これだ、これがよく分からん。」

『そうでございますか。
この能力のキーワードは、
〈四次元〉でございます。
これは………説明するよりも実践した方が早いと思います。』

「実践?」

『そうですねぇ………主よ、四次元ポケットってご存知でしょうか?』

「………そりゃあ、知ってるが?」

四次元ポケットってあれだろ?
某ネコ型ロボットの持ってるあれだろ?

『簡単に言えばそれが使えます。
黒い円をイメージしながら、力を込めて下さい。後は勝手に出来るはずです。』

「おう、ちょっと待ってくれよ……」

イメージしながら力を右手に込める。
………………


すると音もなく俺の右足の隣に黒い円が現れた。

「おお。」

『成功ですね。
その中は無限空間になっているので、収納に便利ですよ?』

「ふーん。」

試しにトイレのトイレットペーパーを入れてみた。
すると、確かにトイレットペーパーは黒い円の中に消えていった。

今度はその円の中に手を突っ込むと、さっきのトイレットペーパーが出てきた。

『あ、因みに出現させたり硬化させた影は念じれば消滅します。』

そう言われ、試しに念じてみる。
すると黒い円はどんどんと縮こまっていき、最後には何も残らなかった。

「………本当だ。」

………にしてもこの能力、単純に影を司ってるだけの能力じゃないな。
特に物体創造が、強い。
どれ位体力を使うのかが未だにわからないのが難点だが、便利な事に違いない。

『まぁ、便利なのはこれだけでは無いんですけどね。』

「さらりと心を読むな。」

影はさらりと聞き流し、話を進める。

『さて、次に私について……と言いたいところですが、生憎自身の事はうまく説明出来ないので、今度にして貰って宜しいですか?』

そういうものだろうか?
実は秘密があったり、とかしないだろうか。
とはいえ、そんなに知識を詰め込まれても憶えきれないというのが本音だが。

「まぁ……いいぞ。」

『ありがとうございます。
もう夜でございますので、主もそろそろお休みになって下さいまし。』

「あぁ、分かった。」

『それでは、またの機会に………』

そして、影は立体性を失った。
そのまま影は暗がりの中に音も無く沈んでいったのだった。



影を司る、か。

一癖も二癖もありそうだが、うまく使いこなせるように考えていこうか……




いかがでしたか?
えっ?能力に影があんまり関与してない?
……彼の能力の真骨頂が明かされるのは、今ではないという事だよ!
感想、批判募集です。


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11.計画

ヤバイ!書き溜めがもうなくなってきてる!
と、あわあわしている今日この頃。

では、どうぞ。



ある日。

「………えっ?」

俺は八意の言葉に耳を疑った。
今、なんて言った?

「だから、決まったのよ。
穢れの脅威を逃れるために、月へ行くって計画がね。」

月に行く。
八意は実に素っ気なさそうにそう言った。

「……さいですか。」

俺の返答も、割と素っ気なかった。
それに対し、八意は不思議そうに言った。

「さいですかって……貴方も行くのよ?」

……あぁ、そうか。
まだ言ってなかったっけか?

「申し訳ありませんが、僕は月へは行けません。」

悪いが俺は絶対にこの星を離れない。
俺の記憶の鍵は確実に、この星にしかないと考えているからだ。

東方の世界にすっ飛ばされてきた時点で、それを俺は頭の中でずっと考えてきた。
一体、何故俺はこんな世界に飛ばされたのか、を。
そこで出た結論は、
【今までの不可思議と、この世界観は確実に関係している。でなければ、わざわざ飛ばされた理由が分からない。】
というものだった。

少なくとも、俺は幻想郷には行かなければならない。
俺の中にはそれの使命感が大部分を占めていた。

「………冗談も程々に「だから。僕はこの星に留まる事を決めているんで。」

冗談を言っているつもりはさらさらない。
これが、現実だ。
とはいえ、八意に話のペースを持って行かれると不味い訳で。

「「………」」

そして訪れる重い沈黙。

「……なら、勝手にして頂戴。」

八意はそう吐き捨てて、部屋を出て行ってしまった。
荒々しく閉まる扉と、静寂の訪れる部屋。

『良いのですか、追いかけなくて?』

「うおっ!?」

『驚かせてしまいましたか?』

「急に出て来ないでくれ。
見つかったら困るし、何より驚く。」

いつの間にか隣に実体化した影が急に話しかけてきた。
やはりいきなり影が実体化すると、心臓に悪い。

「というか、追いかけてどうする?
俺が地球に留まるのは確定事項だからな。
確かに八意には世話になったが、こればっかりは譲れないんだ。」

『そうでございますか。
まぁ、進路は主に任せますので。』

「わかったから、影に戻れ。」

『承知致しました。』














「へぇ………」

あの後、俺は"歴史館"へと向かった。
実は俺はここにある所用があったのだった。

歴史館。
それは、今までの文化や科学の発展の様子をリアルな映像で観ることが出来る施設だ。
曰く、子供にも大人気なんだとか。

『………主よ。
私は貴方を無駄の少ない人だと判断しておりました。何故わざわざこんな所に?それとも私の見解は間違っておりましたか?』

隣には既に実体化した影。
本人(?)曰く、
『実体化した状態で私を人でないと見分けられる者はいません。』
らしいので、実体化を許可させておいた。

「無駄の無いって見解は間違ってるな。
俺には色々と無駄があるぞ?」

『はぁ。そうでございますか。』

影の気の抜けたような返事を尻目に、俺は探索に没頭したのだった。
















………小一時間ほど歴史館を回ってみたものの、お目当てのものはなかった。

『主よ、一体何を捜していたのですか?』

「………この先を生き抜く為の絶対条件だ。お前は知っているか?」

『何をでしょうか?』

「いや、それはだな───」













話が終わると影は真っ先にこう聞いてきた。

『………正気ですか?』

「正気も何も、この条件を満たしておかないとどうする事も出来ないだろう?」

『まぁ、確かにそうですが。』

「だろ?で、知ってるか?」

『……限りなく近い方法を知ってはいます。』

マジかよ。そりゃあ良かった。
どうやら俺は運命の女神に見放されて無いらしい。

『……ですが主よ。
主はその事のために、限りない代償と人を辞める覚悟をお持ちですか?』

影の口調は本気だった。
限りない代償に人を辞める覚悟、か。

『最初にご忠告しておきます。
決してそれは、正しい行為ではございません。ございませんが、必要な事であるという事も存じ上げております。
そこの折り合いはご自分で判断なさるようにして下さい。』

「……………」

『少なくとも、それを判断なさるのは他ならぬ主のみでございます。
もし覚悟をお持ちであるのでしたら、またお呼び下さい。
その時はもうお止め致しませんので。』

そして、影は立体性を失った。

ここは大きな悩み所……か?


















俺は影を呼び出す。

『やはり、主に変える気は無いのですね。』

「………だが、一応計画はまだ実行しない事にした。」

『ふむ、それは良き事でございます。
……ですが、何故ですか?』

「……そもそも時間は幾らでもあるからな。少し考える時間が欲しいんでな。」

『………仰る通りでございます。
焦らず、少しお考えくださいませ。』

そして影は二次元的に戻り、俺は八意の研究所へと戻っていったのだった。






























「さて、選択の時が………ん?」

「はぁ?つまり確定している、と。」

「でしたら、別に私が出る幕でもありませんか。」

「残念ですねぇ。」

「さてはて一体、彼との手合わせはいつになるのでしょうか。」

「仮陽影人殿、楽しみにしていますよ……」

「くっくっく……」



いかがでしたか?
割と書き溜めが危険な事になっているので更新速度が遅くなってしまうかもしれません。
感想、批判募集です。


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12.欠点

遂に書き溜めが消えてしまった!
というわけで、詳細は後書きへ。

それでは、どうぞ。



『ふむ、実践を行うのですか?』

「あぁ。詳しい力も知りたいしな。」

ある日の昼下がり。
いつものトイレの中で、俺たちは話し合っていた。
……話場所がトイレに限定される事に、時々哀しさを感じるんだが。

『そうでございますか。
ところで、八意様直属近衛兵をどうやって巻くつもりでございますか?』

まだまだだな、影よ。
その言葉を聞いて、俺は得意そうに鼻を鳴らした。

「ふん、わかってないな。
それを含めて実践なんだよ。」

『……はぁ。』

………まぁ、気の抜けた影はほっといて、実践と行こうか。













〜side 永淋〜

「大変です!八意様!」

お昼を食べてゆっくりしていたら、扉を勢いよく開けて、近衛兵が部屋の中に入って来た。

「いきなり何よ?」

「そ、それがっ……はぁっ……!」

近衛兵は息切れが激しく、言葉を上手く話せないようだった。
………一体何が彼をこんなにも驚かせたのかしら?
少なくとも、穢れが出た程度じゃ驚きもしないのに。

「落ち着きなさい。
何言ってるのかわからないわよ?」

近衛兵はやっとの事でこう言った。

「はぁっ……仮陽 影人に巻かれました!」

「……えっ!?」

影人が逃げた!?
一体どうして!?

「トイレに入ってからが不審に長かったので、捜してみるともぬけの殻になっていました!申し訳ありません!」

「謝るのはいいから捜して頂戴!」

彼は何処へ行ってしまったのだ!?
影人を一人で歩かせておくと、ろくなことがないのに!
もし彼が穢れに殺されてしまったら………

「これは不味いわね……」








〜side 影人〜

『本当に宜しかったのですか?』

「いいんだよ。どうせ言っても許して貰えるはずが無いしな。
予行演習ってことにしとけ。」

俺のしたことは簡単。
窓から出ただけ。

『警備ついてんのに、窓から逃げられるって
本当に警備の意味あるんですかね?』

「さぁ?そんな事よりとっとと行くぞ。
どうせ追っ手がやってくるだろうしな。」

えらくザルな警備な事だ。
こんな事ならわざわざ警備なんてつけなければいいのに。

『では、森でまたお呼びくださいませ。』

そして、俺は影を平面化させた。

















『ここが、例の森でございますか。』

「そうだな。」

俺たちが向かったのは、例の【謎の言葉】の書いてあった森だ。
ここならそうそう見つからないだろう。

ところで、後から聞いた話によると実はこの森は例の薬草の森とつながっているそうだ。
イメージとしては、円形の都市を半月状の森が取り囲んでいる、とでも言った感じだろうか。

「ここなら見つかるまい。
さっさと練習済ませて帰りたいしな。」

『承知致しました。
では、手始めに創造からでございます。
目を閉じて創造させたい物質を思い浮かべて下されば、勝手に創造されるでしょう。』

ふむ、簡単だな。
では早速。


……………………………


ドサッ。

目の前に何かが落ちた音がした。

『成功………ではございませんね。
なんですか、これ?』

なんだこれ。
目の前にあったのは、唐辛子とさくらんぼが合体したかのような木の実があった。

「あれっ?林檎をイメージしたんだが?」

『これ、林檎のイメージですか!?』

……コイツ、驚く事あるのか。
全く、失礼な奴だな。
すると、何かを思い出したように急に頭を抱える影。

『………あぁ……私としたことが、重要な事を話忘れていました。
創造についての注意点を3つ程お話させて頂きます。』

「いや、それを先に言えよ。」

『申し訳ございません。
てっきり話終わったと思っておりまして。』

影はその辺の切り株に腰を下ろして、話し始めた。

『……では、まずは一つ目。
創造の力で食料品の創造は、かなりの熟練度を持っていないと不可能でございます。』

食料品の創造は不可能?

「はぁ……?それまたどうして?」

『創造の能力は、どちらかというと形に依存するものでございます。
ですから、希少な物体を使えばその分体力を使ってしまうのです。』

『食べ物というのは、単に形だけの物質ではないのはお分かりのはずです。
特に味。これを物質創造の追加情報で与えるのは限りなく不可能に近くなってしまいます。』

『何故なら、細かすぎるからでございます。
味というのは、一つの条件で表す事はかなり難しいのです。』

なるほど。
<希少なら、希少な程>。
そもそも味というのは全てが違うから、希少に含まれるって事か。

『そして2つ目。
物質に依存する物質は完全ですが、影に依存する物質は不完全である、という事でございます。』

「…………」

『例を提示しましょう。
ある所に伝説の剣がございました。
そしてそのレプリカを一つ作って、伝説の剣と競り合いをさせました。
さて、どちらが先に壊れるでしょうか?』

「……そりゃぁ、レプリカだろ。」

『何故でしょうか?』

「だって、それは本物じゃないんだろ?
どうやって伝説の剣に勝つんだよ?」

『そうなのでございます。
ですから影で生み出した剣は、同じ種類の剣よりも圧倒的に壊れやすいのでございます。』

「耐久性も違う……と。」

結構重要な事があるな。
全く、なんでこれを先に言わなかったのか。

『そして3つ目。
これは【影を司る能力】全てにおいて言える事でございますが。






夜から朝。
つまりは日の入りから日の出までは、
()()()()()使()()()()()。ご留意下さい。』

………………………!?

「……えっ!?」

『影というものは然るべく、光源が存在しないと存在し得ません。
月光では、能力を使うのには薄すぎるのでございます。』

「……じゃあ、お前は?
確か、お前を実体化させているのも<硬化>の能力だって言ってたよな?」

『そうでございますよ?
トイレの中で使えたのは、天井に電球があったからでございます。
これが光源となっていたので。
ですから厳密に言えば、光源がないと使えません。』

「なるほど……」

にしても実に良く出来た能力だ。
これさえあれば、他に何も要らないレベルで強力だ。
……強いて言うなら、食べ物と夜にも使える力が欲しい所だが。

「とにかく、練習あるのみだな!」

『その意気でございます!』

















ちなみにこの数分後、あっさりと近衛兵に見つかり、八意に大目玉を食らったのはまた別の話。



いかがでしたか?
書き溜めの事ですが、3つ程溜まるまで更新をストップさせて頂きます。お待たせするのは申し訳ありませんので、最近書いた挿絵を載せる……かもです。
感想、批判大募集中です。


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13.前日

なんだか、とても久しぶりのような気がする。

では、どうぞ。


「さて、もう一度説明しておくわ。
明日の10時には、ロケットが月に向けて出発するわ。
……貴方がどう言おうとも、この都市の人間は全員乗る事になってるわ。途中でやっぱり戻る、なんて事はできないわよ。」

ある日。
寝ていた俺を叩き起こした八意は何かの説明をし始めた。
寝起きの俺に八意の言葉なんぞわかるはずもなく、取り敢えず朝食を済ませてからまた話を聞く事にした。
そして今に至る。

「……はいはい、わかりましたよ。」

とはいえ、俺が抱いた感情は、
「ふーん、で?」程度の物だったが。

俺が脱走してから、恐らく1ヶ月後。
八意に説明されたのは、月行きロケットの概要だった。

実は、前回脱走してから余計に護衛が厳しくなって、全く外に出れなかったのだ。
……出ようとも思えば出来ただろうが、その後が面倒な事になるのもあったが。

にしても、一つ思う所があった。

「なんというか、唐突ですね。」

何故、このタイミングでロケットを月まで飛ばさせる必要があるのだろうか?
少なくとも、焦る必要はあるまいに。
それとも、俺が部屋に軟禁されてる間にもう計画が進行済みだったとか?

「……貴方、穢れは知っているでしょう?」

穢れというとあの狼頭の化け物の事か。
だが永淋曰く、
「穢れは貴方が見たらしい種類の他にも色々いるのよ。熊なのに腕が羽だとか、犬なのに尻尾が妙に長かったりだとかね。」
だそうだ。

……それを聞いて、なんともシュールな絵面が想像できた。
我ながら実に呑気な物だ。

「はい、勿論知ってますが。」

「実は昨日、大量の穢れがこの都市に向かって来てるという事が分かったのよ。」

………さらりと重大な予告だな。
なんで俺の回りには重大な事を隠しておく奴らが多いんだろうか?
俺が一人難問に頭を抱えている事も知らず、永淋は話を続けた。

「……しかも、明日よ。」

……何度もいうが、なんで俺の回りには(ry

「……早いですね。
というか、なんで今更穢れが?
別に穢れは今までにも居たんですよね?」

そもそも穢れというのは、いわゆる妖怪、もしくはそれに類似する存在の事を言うらしい。
……絶対にそうか、と言われるとなんとも言えないところもあるが。

「そう言われても、何故か急に襲いかかってくるようなのよ。
まぁ、穢れなんて昔からそうなのだけれど。」

「確かに。」

俺は即答した。
襲われた手前、納得せざるを得ない。
なんで彼奴らはああも攻撃的なんだろうか。

「まぁ、用意くらいはしておきなさいよ。
ギリギリになって忘れ物、なんて言ったって戻ってこられないんだからね。」

「まぁ、用意するものなんて大してない……!?」

突然、俺の足に違和感。
びっくりして、下を向くと。





俺の足をツンツンしている黒い物体。
いや、黒い物体というか黒い指。




……これって影か?

「どうかしたのかしら?」

いきなり下を向いた俺を不思議に思ったのか
永淋がそう聞いてきた。

「い、いえ、なんでもありません。」

今度は永淋が怪訝そうにこう尋ねてきた。

「……というか最近、貴方少し変じゃない?」

「えっ!?」

嘘だろ、まさか影がバレた?
流石に驚きを隠せずに反応してしまった。
バレるような行動はしてないが、一体どこで?

「夜中トイレに行ったと思ったら、しばらく帰ってこないし、一体何をしてるのかしら?」

「……え、いや、その……」

よりによってそこか………
なんとも痛い所を突かれた。
バレないとは思っていたのだが、バレるとどうしようもない。
何か良い言い訳はないか……

「夜中にトイレなんかに行って何かする訳でも………」

と言いかけ、ハッとした表情で永淋はこっちを向いた。
……なんだ?もしや本当にバレたか?

「……ごめんなさいね、デリカシーがなかったわ………貴方位の年頃はそういう事には敏感なのよね………」

永淋は申し訳なさそうにそう言った。
一体、何を言ってるんだ?
もしかして、何か勘違いしてるのか?

「どういう………」

……あっ。
言いかけて俺もハッとした。

「「……………」」










………気まずい。実に気まずい。


いや、ちょっと待って欲しい。
俺の名誉に誓っていうが、トイレには別にそういう事をしに行っている訳ではない。

確かにそういう事をしている訳ではないのだが、そう勘違いされるとどう言い訳をして良いものか。
そういう事ってどういう事か?
察してほしい。

微妙な表情で唐突に永淋が立ち上がった。
そして俺の肩をポンと叩くと、足早に部屋から出て行ってしまった。

「……………」

世界一不名誉な勘違いをされた俺は、静かな部屋に取り残されてしまった。











…………泣いていいだろうか?













『……くくっ……で、どうするのですか?主よ………ふふっ……』

「しばくぞ。」

とりあえず影を呼んで用を聞くといきなり笑われた。
もちろん行き先はトイレの中。
……この一連の事件のせいでトイレが俺のトラウマになりそうだ。

『……だから、主は地球に残るのでしょう?
どうやってロケットから脱出するのですか?…………ふふっ』

「いつまで笑ってんだ。
そもそも脱出なんか出来ないだろ。壊れないように頑丈にできてるっていうのに。」

『では、どうするおつもりで?』

何を言っているんだこいつは。
俺は簡潔にこう答えた。

「簡単さ、乗らなければいい。」

そもそも乗らなければ、脱出する必要もないだろうさ。何故わからない?
影は一瞬キョトンとした。
一拍子置いて、影はこう言った。

『……一応聞いておきますが、雰囲気的に八意様に引きずってでも連れて行かれそうなのですが、その辺はどのようにお考えでいらっしゃるのですか?』

「なんとかなる…………多分。」

多少願望も含まれてるが。
影は呆れたように言った。

『結局行き当たりばったりですか………』

「まぁ、そういう事になるな。
…………というかさっきから笑ってるが、そもそもお前が余計な事をしなければこんな事にはならなかったんだよ!」

『……ふふっ。』

「笑うなぁぁぁぁぁぁぁ!!」









一方その頃。

「……本当に何やってるのかしら?」

トイレから聞こえてくる叫び声に対して、八意はより大きな疑問を抱くのだった。



いかがだったでしょうか?
活動報告にも書きましたが、更新を木曜日0時にしました。
投稿頻度が遅くなりますが、のんびりやっていきたいと思います。
感想、大募集中です。


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14.脱出

週一にしてから、勉強が捗って仕方のない筆者です。
勉強面倒くさい………
では、どうぞ。








「影人、そろそろ起きて頂戴!」

月へのロケット発射当日。
私は影人を起こしに来た。
影人は、いつも寝起きに弱いからだ。
そんなこんなで実は、もう影人を起こすのも習慣となってしまったりしている。

にしても朝食も殆ど食べないのに、一体彼はどうして昼まで働けるのだろうか?
私は朝食を食べないと一日が始まる気もしないのに、実に不思議に思う。
今更ながら、これも私の疑問の一つとなっているのだった。

閑話休題。

「……んぅ……おはようございます……」

やっと、影人が目を擦りながら起き………

「………んぅ………」

るかと思いきや、二度寝しようとする。
…………いやいや、ちょっと待ちなさいって!

「早く起きなさいってば!」

しょうがなく、影人の布団を剥いだ。

「うぅ………ん……」

すると影人は芋虫のように、うねうねと布団の中に戻ろうとする。
………この子って起きる気あるのかしら?

「早く起きないと、ロケットに載せる荷物が用意出来ないのよ!早く起きて頂戴!」

「…あぁ……おはようございます……」

やっと起きた影人が目を擦りながら挨拶してきた。
相変わらずいつまで経っても朝に弱いのは変わらないものだ。
いい加減変わって欲しいものだ、とは思うが。

「今日は朝から大変よ。
早く起きて頂戴。荷物やらを運ぶわよ。」

「……あぁ……はい…………」

とにかく、私はまた眠ってしまいそうな影人を連れてロケットへの荷造りを再開するのだった。














なんやかんやあり、11時頃。
私達は無事にロケットの搭乗を果たした。

「皆様、当ロケットは月へと発射されます。
お忘れ物なきよう、お願い致します。」

どこからともなくアナウンスが聞こえる。

「それでは離陸体制に入ります。
少々衝撃が来ますので、ご注意下さい。」

………ちなみに影人は隣でグースカ寝ている。
朝が早くてまだ寝足りなかったのだろうか。
真相はわからないけれど、まぁ、ぐっすり寝てるみたいだし、良しとしましょうか。

「10、9、8、7、6、5…………」

アナウンスがカウントダウンをする。

『おい。』

「……………?」

随分と唐突だった。
また、どこからともなく声が聞こえた。
………空耳だろうか?

『左だ、左。』

「……あぁ、貴方ね。」

いつの間に起きていたのだろうか。
影人がこっちに向かって話しかけてきた。

『すまんが、手短に話すぞ。』

………?
なんだか、影人の様子がおかしい。
いつもなら、敬語を使い話しかけてくるのに
何故かタメ口だったからだ。

それ以外にも違和感はある。
なんというか……………立ち振る舞いに隙が無い………とでも言えば良いのだろうか。
まぁ、とにかく何かがおかしかった。

『いいか、心して聞けよ?





「0」





俺はアンタの知っている『仮陽影人』じゃない。』



……私には嫌に静かにそう聞こえた。

ロケットが発射したのだろうか。
私には何がなんだか分からなかった。
…………今、彼はなんといった?



「説明して下さる?」

『……あぁ、説明したいのは山々だが、そろそろ『俺』が危ないんでな。
まぁ、簡単に言えば俺は単なる『影武者』って奴だ。』

「影武者…………」

『そうそう、影武者。
詳しいカラクリは説明できんが、まぁ、もう一人の俺は下にいるってことだ。』

影人に見える男はそう説明した。


………なんとなく予感はしていたが、やはり彼は………

「そう………わかったわ。」

『……へぇ、止めないんだな。』

「止めても、もう遅いでしょ?」

「下にいる」という事はつまり、ロケットの下。
未だに真下の星にいるのだろう。

『おっと、そろそろ限界か。
まぁ、また会ったらその時はよろしく。』

「えっ!?まだ聞きたいことが」

『じゃあな。』

唐突に彼はそう言うと、真黒な液体のようなものに彼はなってしまった。
そして、床の中へと消えていってしまった。

「本当に不思議で身勝手な子ね…………」

「さよなら………」


















「キシャァァァァァァァァァ!!!」

「ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

一方その頃。
俺はえげつない匹数の穢れに追われていた。

「くっそぉ!なんでばれたし!」

俺はやはりどうしてもロケットには乗れなかった。
だが、それを永淋が許すはずがない。
というわけで、一芝居売ったのだ。


───────────────────────

「確か、お前のもう一つの方って……」

『もう一つというと………主にそっくりの方ですか?』

「あぁ、確か前言ってたよな。『二重人格のような物』だと。」

『えぇ、そうですね。
………何なら変わりましょうか?』

「あぁ、頼む。」

『少々お待ちを。』












『よう、久しぶりだな、【俺】。』

「おう、こちらこそ。」

『で、何用だい?』

「すまんが頼みがある。
俺のふりをして、ロケットに乗ってくれないか?」

『何故だ?』

「………説明が面倒くさいんで省くが、とにかくある人を欺くためにお前が必要なんだ。
ぱっと見て、俺とお前が入れ替わったことに気付く奴はいまい。」

『……あぁ、なるほどな。脱出タイミングは?』

「………ロケット発射後ならいつでもいいが、本当にいいのか?」

『はっ。俺が失敗するわけねぇだろう?』

「……ふっ、頼もしいな。じゃあ、頼む。」

『任されたぜ。』


───────────────────────

こうして俺と影は入れ替わり、万事上手くいったのだ………が一つ誤算があった。

それが、

「ギィィィィィィィぃぃぃャァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

こいつらである。

完全に忘れていたのだが、そもそも穢れが大量に襲ってくるのを原因として、ロケットが発射されたのだった。

じゃあ、穢れは誰を狙うのか。
言うまでもなく、矛先は俺へと向いた。
そして、逃げ続けているのである。

「はあ………はぁ………」

にしても数が多い。
このままでは逃げきれるかどうか………

『待たせたな。』

「うわっ!?」

急に右から声が。
そこにいたのは、まさしく俺だった。

『脱出完了だ。』

「お、おお!実にご苦労様だった!」

どうやって帰還したのかは知らんが、まぁ、とにかくロケットからの脱出には成功したのだし、良しとしようか。

「………ところで、だ。」

『ん?』

影は不思議そうにこちらを振り向く。
俺は寒気がするのを抑え、こういった。

「こいつら、どうにかしてくんない?」

「「「「ギジャィァァァァァァァァァァぃぁぁァァァァァァァァァァァァ!!!」」」」

いつの間に現れたのか大量の穢れ。



『帰ってきたらすぐ仕事とか、ブラック企業かなにかなんだろうか…………?』

影はそう呟くと、視界から消えた。







数分後。

そこには穢れなき大地が穢れの死体によって覆い尽くされたのだった。



いかがだったでしょうか。

感想募集中。


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15.不可欠

………あーぁ、中間テスト、無くならないかなぁ。
そんな感じの今日この頃。

ではどうぞ。







『さて、これから如何致しますか?』

穢れの死体の山に立つ影はそう聞いた。
………いつの間に敬語の方に戻ったのか。

「………とりあえずは、必要な事からこなしていこうとは思っているが。
あと、死体の山に立つのはやめとけ。
一応、死んだ奴らに失礼だろう?」

『それは失礼しました。』

影は死体の山から跳ぶと、綺麗に着地した。
………相変わらず、デタラメな身体能力だ。

ところでデタラメ、といえば。

「……お前、無駄に強くないか?」

そうなのである。
今はどうなのかは知らんが、俺に瓜二つの時は圧倒的に強かった。
敵の間を駆け抜けながら、敵をバッサバッサと剣で薙ぎ倒していく。
……俺には絶対にあんな動きは出来ない。
そもそも剣すら振れない。

というか、そもそも一介の高校生が剣、ましてや真剣なんぞを振るのがありえんのだ。
そんな奴がいたら、まさしく『異質な存在』として迫害、もといいじめられるに違いない。
……実際がどうかは知らないし、完全に俺の偏見だが。
まぁ、真剣はともかく、剣なら剣道部か何かが振ってそうな気はするが。

『……まぁ、そもそも私達の存在意義は主の護衛と生きる為の手助けですしね。
前提的に私達影は、体力を気にせずに動く事が可能です、生物ではないのですから。』

………相変わらずチートみたいだ。
だが、影は首を竦めながら言った。

『とはいえ、この身体も色々と弱点があるのですよ?
前回もお話ししましたが、陽の登る間しか行動できませんし。
心臓を突かれても死ぬ事はございませんが、場合によって消滅する事もあるのですよ?』

………消滅する事もある?

「おい、初耳だぞ。」

『そもそも、言っておりませんから。
というか、細かいことを説明していたら例えではなく本当に一夜が明けますよ?
とりあえずは、重要な事からお話ししていっているのですよ。』

「腑に落ちん………」

影は消滅する。
かなり重要な事だ、と思うのは俺だけだろうか?それとも俺がおかしいのだろうか?

『まぁまぁ。
ところで、必要な事をこなしていく、と仰いましたが、具体的には何をなさるおつもりなのですか?』

「そうだなぁ…………」

必要な事、か。
今、俺が一番必要な事柄…………

「悪いが、心当たりが一つしかない。」

いくら考えても、ある単語が頭に浮かんでくる。

『…………一応聞いておきますが、まさかよりにもよって、"アレ"ですか?』

影は手を頭に当てて言った。

「おう、そのまさかだ。
前も聞いたが敢えてもう一度聴こうか、影よ。」














「《不老》になるにはどうすればいい?」

『あぁ………前回の「引き延し」の結果が今日だったのでございますか…………
もう忘れておりましたよ………』

影は残念そうにそういった。










不老。

言葉の通り、決して老いることのない事。

それはしばしば不死と共にされ、人々が永遠に追い求め続けているものである。
追い求めているという所で察して頂きたいが、未だに人類は不老、また不死になる為の方法を確立していない。
…………擬似的にそうなる事は可能かもしれないが、俺の知っている限りでは無いし、あくまでもそれは擬似的なだけだ。

とにかく、今の俺には幻想郷が現れるまで生き延びる為の方法が必要なのだ。
少なくとも俺が健康体で生き続ける事が出来たとしても、残りは精々80年位だろう。

だが、それでは足りない。
少なくとも幻想郷が出現するには……………
数千年クラスの時間が必要だと思う。
どう足掻いても、今の状態で幻想郷へと行く事は不可能なのだ。

そこで不老である。
数千年生きる為には、不老か不死になるしかあるまい。

影は不思議そうに言った。

『……ところで、どうして不死は必要でないのですか?』

不死……ねぇ。

「それは語弊があるな。別に不老だろうが不死だろうがいいんだ。だがな、個人的にはどうしても不死は好きにはなれんのだ。」

何故かは自分でも分からないが。
………いや、分かるか。

「不死っていうのはさ、本当に死にたいと思った時には死ねないんだな。
逆に不老っていうのは、本当に死にたいと思った時に死ねるんだ。
勿論、死にたくない時に死ぬ可能性もあるがな。」

『……えぇ、そうでございますね。』

「悪いが、俺はそこまで生に執着してないんだ。
あぁ、一応誤解を防ぐ為に言っておくがな、勿論死を望んでいる訳ではないんだ。
だがな、俺は幻想郷出現までは生き延びねばならんのだ。でないと、俺の今までの人生が無駄になっちまうからな。」

少なくとも、こんなふざけた世界に飛ばされてきたんだ。何の意味も無いわけがない。
それどころか、心当たりの方が多すぎる。

『成る程。
後ろ向きな発言ではありますが…………まぁ、ギリギリ納得出来ない訳ではございません。
まぁ、生きる目的がないよりは幾分かはマシですね。』

「そう思うのなら、さっさと不老にしてもらおうか?」

『……わかりました、わかりましたよ。
この方法は出来れば取りたくなかったのですけどねぇ。』

『…………最後に聞いておきましょう。
主よ、貴方は不老になる為に代償と人を辞める覚悟をお持ちですか?
持っていなければ、私は主を不老にする事はできませんが。』

「…………人は辞めたくないが、致し方あるまい。俺は代償と死を選択しろと言われたら、代償の方を選択しなければならないからな。」

『覚悟はお持ちのようですね。それならば、私は主に協力致しましょう。
主を不老にして差し上げましょう。』



















『つまりはこうすれば良いのです。』

「…………おい、これって本当に不老になれる方法なんだよな。
間違っても呪いなんか発動しないよな?」

俺の頬を冷や汗が走る。

『えぇ。流石に私もこの場で冗句を言っていられるほど、肝が太いわけではございませんのでね。』

影はさらりと肯定した。
出来れば否定して欲しかったが。

「代償って………これか。」

『えぇ。…………嫌ならばお辞めになってもよろしいのですよ。』

…………辞める?

「…………ここで辞めてどうしろというんだ。
必要不可欠な代償なんぞ払ってやるわ。
決意が鈍る前にさっさとやるぞ。」

つまりはまぁ、辞めるーなんて言葉は俺の辞書にはなかった、という事だった。
















『…………完了です。
あとは馴染むまでの時間ですから、暫くすれば違和感も消滅するでしょう。』

「あー、痛ぇ………これで本当に俺は不老になれたのかね?」

『えぇ、私が保証いたしますよ?』

「…………お前の保証とはまた何とも不安だな。」

『失礼ですねぇ。』


さてさて不老にもなったことだし、そろそろ次の時代に向かおうか。
即ち、諏訪大戦の時代へと!



さて、ついに次話で第1章完結です。
一つ一つの話が短いので、話数が多くなりそうな気配がします。
感想批評、大募集中!


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16.不可能

お久しぶりです。

テストも無事終了したので、また投稿していこうと思います。

……言えない。
また、更新が不定期になりそうだ、なんて言えない!

では、どうぞ。








「さて不老にもなれた事だし、そろそろ次の時代に向かいたいわけだ、が…………」

『どういたしました?主よ。』


















さて、無事(?)不死になれた俺だが。
よくよく考えると一つ問題が浮上した。
何かと言うと。

「………いや、それがだな。
洩矢の国の存在する時代って、俺の生きていた時代から1500年ほど前だった筈なんだ。」

俺の生きていた時代から1500年前。
つまりは54万7500日前。
………多分、計算したらそうなる。
俺が生きていた時代、平成から54万7500日ほど前には洩矢の国が大和の国と色々やってたのだ。

そして、この時代が何時なのかはわからない。
分からないが、それこそ俺の生きていた時代から何千万年も前だろう。
それこそ知能を持った生物こそ、月に移住してしまった訳で、次の知的生命体が生まれる時間など概算できる訳もない。

つまりは、ここから諏訪大戦までの時間など途方も無い訳だ。
問題なのはここである。

「不老になった手前こんな事言うのも変だが…………長くないか?
<諏訪大戦>が始まるまで、さ。」

影は納得したように言った。

『あー、まぁ、主の感覚ではそうでございますか。単純計算で何千万年後ですから。』















【諏訪大戦】とは。

まぁこの話の通り、俺の生きていた時代の平成から数えて恐らく千五百年前。
そんな時代にあった一大戦争である。

東は洩矢の国。西は大和の国。
日本大陸を占領せん、と攻める大和の国と国を守らんとする洩矢の国が激突した戦いだそうだ。

………因みにこの国名を見て、もう気づいてる人も多いだろうが。
洩矢の国の大将は、かの洩矢諏訪子。
そして大和の国には八坂神奈子もいる。
となると大和の国の大将は天照大神だろう。
それ以外に心当たりは無い。

こう見てみると、圧倒的に洩矢の国に勝ち目はない。
天照大神は日本神話の最高クラスの神だ。
わざわざそれに敵対する為に諏訪子に肩入れする、とはそうそう考えられん。

だが、洩矢諏訪子はその戦力を同じにする位の力はあるのだ。
その名も【ミシャクジ様】。
一言で言い表すなら、デカイ白蛇。
そんな奴らがうじゃうじゃいるらしい。

………結局、何が言いたいかというと。

「恐らく、諏訪大戦に介入をする事は難しいだろうよ。」

つまりはそういう事である。
介入するには、さすがに圧倒的な存在だ。
流れ弾が当たっただけで………死にそうだ、

『………ところで介入しなくても、介入させられる事があるというのはご存知ですか?』

………確かに、否定出来ない。
だがな、それは正直どうしようも無いと思うぞ?
神からの干渉なんぞ、防ぐ手立てがない。

「とにかく、物は相談だが。お前って時間跳躍とかできない?勿論未来の方向へとだけど。」

俺は何千万年………だっけか?
とにかく、そんな時間を不老だからと言って悠長に暮らしていられない。
まぁ我慢しろ、と言われたらそれまでだが、気の迷いが起きそうな期間はできるだけ短い方が良いだろう。

影は首を竦めて言った。

『あのですねぇ………何度も言いますが、私達影は万能生命体ではないのですよ?
その辺をしっかり自覚して下さいませ。』

………人を一人不老にしておいて何を言っているのか、こいつは。
尤も、生命体ではない………のか?

「なんにせよ、だ。
出来ないなら後何千万年と生活していかなきゃいけないわけになる。
となると、問題が一つ発生するんだが。」

『はぁ、問題ですか。』

「お前には関係のない話だがな?
………いや、間接的には関係するか。
俺の食事って、どうするんだ?」

人が生きていくためには、どうしてもやらなければならない事がある。
睡眠然り、運動然り。
食事もその中に含まれる。

わざわざ言い直す必要も無いだろうが、人とは食事をせねば生きていけない。
不老であっても、それは絶対だ。

ましてや何千万年である。
これに1年やら、3食やらを掛けると………
まぁ、地球一つが消え去る程度の食事が必要となる……筈だ。

「こんな量、調達できるか?」

尤も、できるか?という疑問よりも、できるのかという否定的な意味の方が強いが。

『無理ですね。
主が食べられる食物は殆ど御座いません。』

「だよなぁ。」

なんとなく、なにを食べれても不味そうだ。

となると、どうにかしなければいけない訳となる。
それで、時間跳躍。
時間跳躍して、諏訪大戦の時代まで跳べばまぁ、まともな食べ物は出来るだろうとおもったわけだ。

『………ですが、一つ思いつきました。
それを説明するついでに、能力の説明も致します。』

「流石だ。」

相変わらずデキる影だ。
悲しい事に、俺の性質を一つたりとも受け継いでないのが救いとなったようだ。












という訳で。

『良いですか?』

「はーい、先生。」

正座する俺。
目の前に仁王立ちする影。
シュールだ。

『先ずはおさらいから行きましょう。
影の力を大きく三つに分けると、どんな物に分類されましたか?』

影は大きく三つの力に分類される。
確かにこいつはそう言っていた。

「えーっと、確か………
『創造』、『硬化』、『空間』だったっけか?」

影は指でオッケーサインをだす。

『その通りでございます、では主よ。
その中でも、『空間』についての重要な事を何と言ったか、憶えていらっしゃいますか?』

空間?
影を収納スペースにできるアレか。

「………四次元………だったか?」

『記憶力がよろしいですね。
その通り、空間の力のキーワードは『四次元』でございます。』

「それがどうしたんだ?」

『では、最後の質問です。
四次元とは、何のことですか?』

………何のこと?
何のことと言われても………?

「さぁ?」

『一般的に四次元というのは、縦、横、奥行き、時間の事でございます。
ところで、主よ。主はこの世界をどの様に移動することが出来ますか?』

「………移動?
移動って言ったら、そりゃあ前と横だろ?」

『坂を登れば上に進む事にもなりますし、逆に降れば下に進む事もできますよ。
よって、主が自主的に移動できるのは3方向のみ。という訳で、主を含む我々は3次元に住む、と言われているのです。
私からしてみれば、常識なのですがね。』

「………馬鹿にされているのは置いといて、2次元なのか3次元なのか分からないお前に言われると、妙に説得力があるな。」

『まぁ、こうして話している時点で私も3次元的存在ですがね。
さて、3次元は定義されました。
では、4次元に住む、と言われる生物はどの様に移動できるとお考えになりますか?』

「前後、左右、上下………と………」

「えぇ、時間です。
つまり4次元に住む者は、まるで前に進み、横に曲がり、上に跳ぶかのように時を自在に進めるのです。」

…………概念的には理解できる。
だがしかし、想像もつかない。

「……想像できんなぁ。」

『でしたら、影の世界へと行かれてはいかがでしょうか?
何度も申し上げました通り、影の力の一つは『四次元』でございます。
つまり、影の世界の中でしたら時をも移動することができるのではないでしょうか?
あくまで憶測ですが。』

「時間跳躍………か。」

『まぁ、あくまで理想論であることをお忘れなく。』

「だが、やってみる価値はある、と。」

『まぁ、そういう事でございます。』

「………やるか。」

案ずるより産むが易し。
後は野となれ山となれ。
どうやらこういう時の為のことわざっていうのは、随分と都合の良いらしい。
















ー影の中ー

「へぇ………意外と広い………」

取り敢えず、試しに影の世界へ入ってみた。

入るのは割と簡単だった。
前回のように、黒いホールを作る。
で、自分からその中に突っ込む。
以上。

『四次元、ですからね。』

ただ、問題なのが。

「暗いな。」

『影の中ですから。』

まぁ、薄々感づいてはいたがやっぱり暗い。
この中で、諏訪大戦の時代まで待ち続けるのは……………ちょっと精神的に不味いだろう。
食べ物が十分にあったとしても、だ。

「……………で?」

『……………で、とは?』

「いや、だから、ここからどうすれば良い?」

『………さぁ?
もう一度申し上げますが、時間跳躍云々の話は希望的観測に過ぎません。
ですから、ここからどうすれば良いのか、というのはお答えしかねます。』

「わーお、なんてハードモード?」

やり方は分からないし、出来るかどうかもわからないとなると、もうどうしようもない。

不老になる時にも思ったのだが、影の要求っていうのは随分と無茶振りなのではないだろうか?

『仕方ないでしょう?
そもそも時を越えるなんて、それこそ神の諸行ですよ?』

「確かにそうだな。」

とにかく。
どうにか時を越えなければ、その時点でお陀仏だ。

「ぐぬぬぬぬぬ……………」

ひたすらに、頭の中で時間を移動する自分をイメージ。
そして体全体に力を込めるっ!














「………………どうだろう。」

数分後。
俺は影に聞いた。

『はてさて。
何も変わっていないように感じますが……?』

そう言って、影は影の世界から身を乗り出した。俺も、影の世界から頭を出す。

周りの様子は。

「………変わりなし、か。」

外の景色は木が一面に広がっているだけで、何も変わっていない。
まぁ、はなから上手く行くとは思ってなかったので、諦めもついたが。

「まぁ、時の跳躍なんて夢のまた夢、か。」

『…………いいえ。』

「………んあ?」

その言葉を聞いた俺の様子を、影は
『開いた口がふさがらない、というような表情をしていた。』と答えた。

まぁ、つまりは、どういうことかと言うと。

『時は跳躍できていません。
………いませんが、この影の世界



時が止まりました。
いえ、正確には未だ止まっています。』


完全に想定外の答えに、二の句を継げなかったという訳だったのだ。




いかがでしたか?
次回投稿は恐らく来月になると思います。

感想、批評、大募集です。


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no number 推測


お待たせ致しました。
一部の皆様には需要があるかもしれない男の登場です。

では、どうぞ。




「どうも。
これで……何度目でしたっけ?」

カチッ。
聞きなれたスポットライトがつく音。
そして見慣れた姿。

「あぁ、3度目。もうそんなに経つのですか。それはそれは。」

相変わらず、ばつ印の目が気味の悪い仮面。
そして、白いタキシードに黒いマント。
あの男だった。

「それはさておき、物語はお楽しみ頂いているでしょうか?」

「なんだかんだで物語はこれで【起】が大方終わったと言えます。」

「ですが、物語はいつも【起承転結】。
【起】が終われば、必ず次は【承】なのでございます。とはいえ────」

「彼の物語の【承】はなんの因果か、非常に長いのです。
なぜなら、彼の物語の【転】は限りなく、複雑で面倒なのでございますので。」

彼は淡々と話をしていく。

「という訳で彼の謎を解く鍵は、少なくともまだ揃ってはおりません。
彼の複数の謎を解く鍵は、一つではないのでございます。」

しかし、彼の口調は変わった。
彼は実に楽しそうに言った。

「……ですが、本当に面白い。
まさかここまで面白くしてくれるとは、思いもしませんでした。」

「古来より出来事や物事は重大である程、第三者から見たときは滑稽で興味深いものでございます。
とはいえ、私も第三者、とは言い難いのが難しいのですがね。」

「とにかく彼の物語は実に重大で、そして私から見れば滑稽で興味深いものでございます。」

「しかし、逆に滑稽で興味深いものであるほど、現実は残酷で哀しいものだ、と相場は決まっております。
……私には、割とどうでもいいですがね。」

そういって彼は、椅子に座った。
あんなもの、いつからあったのだろうか。
少なくとも前回会った時には無かったと思うのだが。

「おや、また質問があると。
……よろしいですよ。答えるかどうかは保証しかねますがね。」














男は黙々と話に耳を傾けていた。
そして話がおわると、答えた。

「ほぉ。中々に面白い見解でございます。
………ですが、その答えは違いますね。」

急に男が右手のひらを出す。

「おっと、私はヒントは教えませんので。
ヒントがあるクイズなんて、面白くないとは思いませんか?
少なくとも私はそう考えておりますので。」

出した右手を引っ込めると、男は少し考えるような素振りを見せた後、こう言った。

「とはいえ……ヒントどころか何もない、というのも少々酷でございましょう。」

また、暫く男は考える素振りを見せた。

「そうですねぇ……
【知識を持つのに何も考えない者は賢いが、無知であるのに考える者は愚かである。】
私の考えでよければ、どうぞ参考にしていってくださいませ。」

「知識を持つ者は、何も考える事なく物事を把握できます。
ですが、本当の知識を持たぬ者はどうしてもその不完全な知識を用いて、物事を考えようと致します。
つまりは、考える事は一番最後の仕上げ程度で良いのです。そもそも、蓄える筈の知識を考える事と同じと考えるのは愚かでございます。」

…………………

「おや、何か考えていらっしゃるようで。
ですが、もうお忘れになったのですか?
知識を持つのに何も考えない者は賢いが、無知であるのに考える者は愚かである。
貴方は本当に知識をお持ちなのですか?」

男は馬鹿にしたように低く笑った。

「……くくくっ。
とはいえ愚かな事もまた一興。
もし、新たな結論がでたならばまたお教え下さいませ。」

椅子を立ち、暗闇の中へと男は消えていく。
帰り際に振り返り、こういった。

「……貴方の答えはまだまだ真実からかけ離れております。
ですが、それはピースが足りないだけの事。
まずは、ピースを捜してくださいませ。」

「楽しみにお待ちしておりますよ。」

そして、彼が指を鳴らすと

何時ものように

スポットライトが消えた。
























「………糸は、いつ紡がれるのでしょう?」




いかがでしょうか?

新章、突入の前触れのこの男。
やっぱりこいつの話を書くのが一番面白かったり。

感想、募集中です。


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第2章 神話と崇拝のミソロジー 17.夢

怪奇な幻想放浪記、第2章突入。

なんだかんだで読んでくださる人がいらっしゃるのが嬉しいです。

では、どうぞ。







ザッ………






サザザッ…………







◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆





「父さん!遊んで!」


「おういいぞ、影人!何がしたいんだ?」


「えーっと………鬼ごっことか?」


「二人で鬼ごっこはちょっとなぁ………
でも、**と3人なら出来るかもな!」


「えーっ!?だってあいつ鬼ごっこなんてや
りたがらないじゃん!」


「そりゃあまぁ、女の子だしな。
でもまぁ、取り敢えず連れきたらどうだ?」


「……うん。」




ザザッ………










「嫌!だってお兄ちゃん走るの速いんだもん!」


「ほらぁ!父さん、二人でやろうよぉ。」


「まあまあ、そう言わずに。
**は何がしたいんだ?」


「……………かくれんぼ。」


「嫌だよ!お前隠れるの上手いんだもん!」


「ふっふっふ、父ちゃんに秘策があるぞ!
隠れ鬼をすればいいじゃないか!」


「えっ!?何それ!」


「まず、鬼以外は隠れる。
そして、鬼は隠れている奴を探してタッチ!」


「お父さん、それじゃあかくれんぼとあんまり変わんないじゃない。」


「いやいや、ここからが重要だ!
かくれんぼは、隠れているのを見つけると負けになるだろ?
だが、隠れ鬼はタッチされるまで大丈夫なんだ!正に、かくれんぼと鬼ごっこの融合!」


「父さん、すげー!」


「じゃあ、最初は父ちゃんが鬼になろう!
逃げろ隠れろー!」


「「わー!」」






ザザザッ…………







ザッザッ…………






ザ──────────────────────
────────────────────────────────ッ







プツン



◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆▼◆








『…………よ!主……!』



遠くで俺を呼ぶ声がする、



「うぅ…………ん……?」



『起きて下さい、主よ。』

目を覚ますと、目の前には影が。

「……夢か。」

『ふむ?
何を見ていらっしゃっていたのかは分かりませんが、恐らく夢でしょうね。』

「そうか………」

夢………か………。






















俺が影の中の時間を止めたあの時から、はや数千年…………
俺は今日も元気に暮らしている。
一体何があったのか。
その事を説明する為に、時はしばらく遡る。


















『時は跳躍できていません。
………いませんが、この影の世界



時が止まりました。
いえ、正確には未だ止まっています。』

影がこういった時、俺は二の句が継げなかった。
が、どうやら影も二の句が継げない、という訳でも無く。
影は次にこう言ったのだ。

『これならば……上手くいくかも知れませんよ!』

俺は思った。

…………何がどう上手くいくというのか。

俺にはまったく分からなかった。

「………すまん。
色々とよく分からないんだが、つまりどういう事だ?」

『あぁ、これは失礼いたしました。
説明がまだでしたね、これから致します。』












「………じゃあつまり?」

まぁ、つまり影の言葉を簡潔にすると。

『えぇ、そうです。
影の中の時間は完全に停止していますが(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
外の世界の時間は動いたままです(・・・・・・・・・・・・・・・)
つまり、この空間は擬似的なタイムカプセル(・・・・・・・・・・・)になっているというわけでございます。』

こうなった。
まぁ、なんというか。

「えらく、話が突発的だな……」

『まぁ、私も時間が止まるとは思っていませんのでしたからねぇ。』

「俺もだ。」

まぁ、つまりは俺はここで暮らせば良い、という事になる訳だ。成る程。












…………ん?
いや、そういえば。

「なぁ、この空間の時間が止まってるんだよな。」

『えぇ、先ほども申し上げましたが。』

「じゃあつまり、お前は俺にこの中で何千年と暮らせと!?」

影は俺の質問にキョトンとした顔で答えた。

『何をおっしゃっているのですか?
物体創造に戦闘訓練、体力作り。

色々やる事はございますよ?』

「嘘だろぉぉぉ!?」



結局俺は、食糧問題を解決した代わりに体力トレーニングに励む事になってしまった訳である。
しかも、数千年間。

とはいえ結局のところ、俺は格闘系じゃあない事がよく分かったらしく影が、

『主は、物体創造の方が向いているかも知れませんねぇ………』

と諦める事となったので、一概に運動トレーニング地獄という訳でもなかったが。



そんなこんなで現在。
俺は夢から覚めたのであった。











「まぁ、なんにせよ、だ。
もうそろそろ人間が生まれる時代じゃないか?」

布団をしまい込み、俺は影にそう聞いた。

因みにこの布団。
俺が影の『創造』の力で創った物だ。
寝心地はそこそこである。

創った後に一ヶ月寝込んだが。

『………あれ?言っておりませんでしたか?
人間なんてとっくに生まれてますよ?』

「なにそれこわい。」

『次いで申し上げますと、
もう諏訪大戦まで一ヶ月を切っております。
まぁ、確実にとは言い切れませんが。』

「…………えっ?」

『ですから、諏訪大戦まで一ヶ月を切っていると………』

「えっ?えっ!?」

『ですから………』









「もっと早く言えぇぇぇぇぇぇぇ!!」











「おいっ!とっととこんな辛気臭い場所を出るぞ!ハリーハリーハリー!!」

俺は外に出る事にした。

『辛気臭いって………』

理由?そんなもの簡単な事だ。

「うるさいわ!暗いんだよここ!
病気にならんとしても、太陽を見ないと気が病むわ!」

暗いからである。実に分かりやすい。
当たり前といっては当たり前なのだが、影の中は暗い。
まぁ、人間はお日様の光を浴びないと生きていけない訳で。
まぁ、全く浴びてない訳でもないが。
影と外の扉を開く。

『はいはい、せっかちですねぇ………』

影がやれやれと言うかのように言った。

「よし、行くぞ!」

いざゆかん!大和大国の地へ!














影から出ると、目の前には足があった。










もっと分かりやすく言うと。









「…………あんた、誰?」








目の前に神様がいた。







…………あれ?やばくね?







いかがでしょうか。

感想はいつも励みとなりますので、常時大募集です!


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18.臨戦

毎週毎週投下して、いざ気がつくともう20話になっていたり。

話数が多くなって、文字数が少なくなりそうな雰囲気がする。

では、どうぞ。





さて、突然だが。



人間が支配する事のできる生物や現象と、人間が掌握出来ない生物や現象の最も根本的な違いとは何だろうか。









答は身体の作りが大部分を占めるであろう、

例えば限りなく希薄な事例を除き、人間は呼吸でしか酸素を取り込む事は出来ない。
だが例えば、呼吸の必要性がない生物がいるならば、水中の奥深くに人間を引っ張り込めばその時点で勝ちは確定する。

他にも極端だが、人間は足のどちらかを潰されるともう自由に動けなくなる。
だが例えば、そもそも足の無い生物であれば、その時点で人間よりも優位である。




このように、人間は足を折られれば動きが止まり、呼吸を止めれば死に、心臓を突かれれば息絶える、弱い生物であるのだ。
だが逆に、人間はある身体の作りでそれらを凌駕しているのである。







その名も、【知能】である。

足を折られたならば義足を作り出し、呼吸が止まれば人工的に呼吸をさせ、心臓を突かれればそれを取り換えるのである。
だから、人間は強いのである。




余談だが、万が一にも人間のような知識を持ち、猛獣のような力を持っている生物はこの世に存在するのだろうか。
もし存在するならば、それは何故世界を統治しないのだろうか。
だが統治という意味であれば、ある意味存在するのかもしれない。






【神】という名で。





閑話休題。








「……………あんた、誰?」


影から出てきた俺が、最初にかけられた声がこれであった。
一瞬で湧き出る【不味い】という感情。

よく考えて欲しい。
貴方の目の前の地面から、全く知りもしない男が突然出てきたら貴方はどう思うだろう?

呼ばれてちらりと上を見やる。
そこにいたのは、案の定というべきか。


「…………わぁーお………」



紫色と白色で不思議というか、可笑しいというべきか分からない服。
服に沢山描かれているある緑色の生物。
そしてトレードマークの黄色いギョロ目帽。



「…………?」



首を傾げた少女は、紛れも無い。

他ならぬ、洩矢諏訪子であった。











ところで、俺がこの空間で一番最初に抱いた感情は、洩矢諏訪子に会う事の出来た事による《歓喜》というか………どちらかというと、それに勝る《恐怖》であった。

どうしてかというと。

【…………………】

諏訪子の後ろの方に黙し控える白い大蛇。
体長は悠に10mはあるであろう巨体をくねらせ、上手いこととぐろを巻いている。
恐らく、これをみて思う事は一つしか無いだろう。キモい、と。
まぁ、一応推測はできたが。

(恐らく《ミシャクジ》………か………)

ミシャクジとは。
洩矢諏訪子というのは、最強クラスの祟り神であると同時に、土着神の頂点でもある。
土着神というのは、その名の通り土に着く神の事である。

そして、ミシャクジというのは端的に言うと、洩矢諏訪子が扱う事のできる最強の土着神なのである。

その異形が一体。
諏訪子の後ろで悠然として居る。

【キサマ………何奴?】

【………マサカ回シ者デハアルマイナ?】

人……いや、一匹が低い声でそう問いかける。
蛇が人に話しかけられる辺り、流石は神といったところか。

(あ、嫌な予感が………)

「回し者」という言葉が出てきたあたりで大体俺は悟った。
恐らく、俺はスパイかなんかとして疑われているのだろう。しかも大和からの、だ。
そもそも、仕方ないと言っては仕方ないが。

「………ねぇ?違うなら何か答えなよ。」

今度は諏訪子がそう聞いてくる、が。

「……………………」

俺は答えられなかった。
勿論、大和の回し者だからではない。
目の前の女、洩矢諏訪子は平静を装っているが、威圧感が半端ではないのだ。
まるで、納得出来ない答え全てを突き返すかの様に。

「答えられないなら肯定とみなすけど、少年?」

嘘は余計に事態を複雑にするだけだと思ったので、ずっと黙っていた、という訳でもなくただ単に気押された訳であった。








「………卑しき大和の者め。
何のつもりで我々の前に現われ出てきたのかは知らんが、殺すぞ。」

諏訪子が明らかに口調を変える。
どうやら断定されたらしい。

【【…………………】】

ミシャクジも、分かりやすくではないが、諏訪子が口調を変えたのを拍子に、態勢が変わった。

(……どの道説明するだけ無駄だろうなぁ。
……まぁいっか!
ここまでの修行の成果も気になるし!
強い奴と戦うのは、ワクワクするしな!)

そして俺もまた考える事を止めて、大和の回し者と断定されたまま、その場の空気に流されて臨戦態勢をとるのであった。











その頃。

『完全に出るタイミングを逃しましたね…………』

影は一人、出るタイミングを逃していたのだった。






いかがでしたか?

感想、批評大募集!


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19.代償

昨日は寝落ちしてしまいました。

そして今年も、テストの季節。

では、どうぞ。


ーside 影人ー

諏訪子が地面を蹴る。
と同時に、後ろのミシャクジも両サイドに分かれて這い寄る。

(1対2……か。
影が居れば2対2でも行けるんだが………
分が悪いのは勿論だが、さてどうしたものか………)

「はぁっ!!!」

飛びかかる諏訪子から放たれた鋭い蹴り。
当たればただでは済まないだろう、が。

「………大振りだな。」

俺は後ろに飛び跳ね、諏訪子の蹴りをかわした。

勿論、こんな攻撃当たる訳もない。

当たったら、恐らくその時点でもう終わりだろう。







だが、それが不味かった。









ブチッ









「………んぁ?」






一瞬。
右手の辺りから嫌な音が聞こえた。
振り向くと。











「あららぁ………」

俺の右手の肘から手が。

消えていた(・・・・・)

俺は、直後にバランスを崩してその場に尻餅をついた。
背後を振り返ると。

【………反応シテミセヨ。】

ミシャクジは引き千切った俺の右腕を、真後ろに投げつけた。
……別になんでもいいのだが、とりあえず挑発してみる。

「……いちいち気に障る態度だなテメェ。
黙ってとぐろでも巻いてやがれクソ蛇。」

その瞬間、ミシャクジが大きく咆哮する。
わかりやすい奴だ。

【貴様ァァァァァ!!神デアルコノ我ヲ愚弄スルカ!
引キ千切ッテクレル!】

またミシャクジがおぞましい速度でこちらに飛びかってくる。
それにしても、だ。











「……ふふっ。」


実に簡単に罠に嵌ってくれるものだ。
だって。







俺の右腕なんて(・・・・・・・)ミシャクジに食い千切られる前から(・・・・・・・・・・・・・・・・)とっくにないのだから(・・・・・・・・・・)













ーside 諏訪子ー

私はミシャクジに命令を出し、全速力を出して蹴りを放った。
勿論、これは囮である。

案の定、目の前の男はこれをかわして後ろに飛び退いた。
勿論、これも計画通り。

そして飛び退いた男に、ミシャクジが一瞬で距離を詰め、腕を噛みちぎる。
これもまた、予想通り。

そして予想通りなら、こいつはこのまま私達に敗北するのだろう。
そう確信していた。



「ふふっ。」



予想外だった。
目の前の男は、腕を食い千切られてそして笑ったのだ。

確かに、腕を食い千切られても私達神々は余程の事がない限り、腕だって生えてしまう。

だが、目の前の男は──少々異質な力を感じるものの──神ではない。

だから、所詮神で無き者が神にはどうやっても勝てない。
私はそう考えていた。





だが。






ドザッ






飛び掛かり、男の腕を噛みちぎった筈のミシャクジが、鈍い音を立てて倒れたのを見て、私の考えはあっさりと覆されたのだった。

そして、はっきりと違和感を感じたのだった。









ーside 影人ー

目の前のミシャクジが倒れる。
勿論、諏訪子は動揺するだろう。
俺は、その隙を見逃すつもりはなかった。

一瞬、右手辺りに黒い空間が出現。
そこに手を突っ込み、ガチャガチャと影の中から二本の剣を取り出す。

「おらぁっ!」

取り出した片方の剣を思い切り投合。

だが、本命はこれではない。
そして、もう片方を持って、跳躍。

「!?」

投合された剣に気がついた諏訪子はギリギリで剣を躱した。
剣が彼女を掠める。
だが、それでも数秒遅かった。
諏訪子は無理な体勢をとったあまり、バランスを崩し尻餅をついてしまった。

「神様よぉ!
これでも──くらえや!!」

倒れた諏訪子の右の肩をねらって俺の左手の剣で、思いっきり振りかぶる!

「くそっ!!」

振りかぶった剣を払いのけようと、諏訪子の左手が伸びる。が──

「なっ!?」

諏訪子の右足は俺の手によって阻まれた。


正しくは、ミシャクジに食い千切られた筈の俺の右腕に、だ。

ザグッ!

「あぁっ!」

飛び散る赤い鮮血。
諏訪子が痛みに悲鳴をあげる。
そして、次の瞬間。


剣が小さな爆発を起こし、諏訪子は奥に吹き飛ばされていったのだった。


突然の爆発に対応できなかった諏訪子は。
バンッ!と凄まじい音を立てて壁に身体を強打。そして、そのまま動かなくなった。



「はぁっ………最終兵器を使って正解だった………殺されるかと思った………」














ところで、俺の右腕はミシャクジに食い千切られた。
だが勿論、諏訪子の左腕を払い除けたのは、紛れもなく俺の右腕だった訳である。

さて、一体何があったのか。

それを知るには、ある過去を振り返らなければならない。





憶えているだろうか?

俺からしてみると随分と昔の事だが。






俺が、不老になる為の条件を。


いつぞや影は言っていた。


『主は不老になる為に、限りない代償と人を辞める覚悟をお持ちですか?』






さて、一体限りない代償とはなんだったのか。












それが正に、俺の右腕だった訳だ、




───────────────────────


『主は不老になる為に、限りない代償と人を辞める覚悟をお持ちですか?』

「……今更だな。」

『───わかりました。』

そう言うと影の手に物体が創造されていく。
それは細長く、そして曇りなく………
創造されたのは、普通の鉄の剣だった。

『では………』

次に言った影の言葉に、俺は耳を疑った。

『この剣で、ご自分の右腕を切断(・・)なさって下さい。』


















「………………はぁ?」








いかがでしたでしょうか。

そろそろテストも近いので、更新は2週間程度お休みを頂きます。

ご了承下さい。


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20.イレギュラー

今週の木曜はいろいろあるので、日曜日に変則投稿。

それでは、どうぞ。







不老の儀式。
その際に、あいつはこう言った。

『ですから……』

『ご自分の右腕を、ご自分の手を使って、
切断しなさって下さい、と申し上げたのですよ。』

………嫌とか良いとか、そういう問題ではない。

俺に最初に浮かんだ感情は、

「………はぁ、そりゃあまたどうして?」

疑問。
実に皮肉な事に、俺はあまり驚かなかった。

何故か。
それは、過去に重大な事実をカミングアウトせずに放置した輩がいたからだ。

勿論、コイツだが。
……いや、コイツに限った話でも無いか。

『………話の流れは変えておりませんよ?
勿論、主が不老になる為でございます。』

不老になる為………?
……いつもの事だが、コイツは何を言っているのか、全くわからない。

だがしかし、だ。

「………それは本当なんだろうな。」

『この私が補償いたします。』

今まで、大抵こいつがいう事は合っていた。
まぁ、つまりは。

「…………わかった。」

影から剣を受け取る。

「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!
くそったれがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

俺に選択の余地、もとい迷っている暇すらも無かった、という訳であった。

左手に持った剣を振りかぶる。












今思えばだが。
俺は狂っていたのかもしれない。

よく考えて欲しい。
普通、貴方は不老になれるかどうかもわからないのに、腕を切るだろうか?






ブヂッブヂッ









残念だが、その時の俺は自身の右腕を切ったのだった。
何故だか、恐怖は無かった。









「あアぁああアァああアぁああァア!!!」


尤も、痛みはあったが。


右肩から溢れる血。


俺は痛みのあまり、その後に気を失った。












そして次に目を覚ました時、俺の右腕は真っ黒な状態で戻ってきたのだった。






───────────────────────



「これが、『影』の力………か。
人を辞めた代償、とでもいうべきか。
それとも産物だ、というべきだろうか?」

その腕こそまさに、この影でできた黒い腕。

この腕については、影がやたら難しい説明をしていた記憶がある。
………聞き流したせいで、何を言っていたのか全く覚えていないが。

まぁ、俺の義手として活躍している。
便利な事この上無いのだが………

はっ、として振り向く。
向いた方向は、さっき自身が吹き飛ばした相手の方角。


「取り敢えず勝負あり、だよな………?」


起き上がってもらってもいいのだが。
………いや、あんまり良くないか。
どちらにせよ、倒せたのか倒せてないのかをはっきりさせておきたい。
倒せたと思ったら倒せていませんでした、なんていうのは御免だ。

諏訪子が吹っ飛んだ方の壁へと向かう。
音はしなかった。

「やっぱり気絶してるか?」

まぁ、そもそも自分の真横で爆発が起きてその衝撃で壁に激突、なんて事になればいくら神といえどもタダでは済むまい。



更に近づく、すると。


肉が裂け、右肩から血をべったりと出した諏訪子が倒れていた。
明らかに重症だ。

「っ…………」

まただ。またこの感覚だ。
永淋のところに急患が運ばれてきた時に感じた、この感覚。
胃液が逆流するような感覚。
動悸が激しくなり、眩暈がする。
頭の中に色々な言葉が入り混じる。



【俺が殺したのか?】

【死んでいる訳がない。血を流したところで、やはりコイツは神であるのだ。】

【なら気絶しているのか?】

【騙し討ちでもするつもりじゃないか?】

【いや、なら何故俺が来たのに何も反応を示さない?】

【死んでいるとか?】

【無い無い、こんな程度でこいつが死ぬか?】

【治療を施した方が良いのか?】

【敵に治療を施してどうする?】

【やっぱり俺が殺したのか?】

【さぁな?】

【そうかもな?】

【仮にそうだとして、正当防衛だろ?】

【そうそう、俺は悪くないんだよ、気に病むな。】

【そうだ。俺は悪くない。】

【そうだ。俺は悪くない。】

【そうだ。俺は悪くない。】

【そうだ。俺は悪くない。】










【【【 本 当 ニ ソ ウ カ ? 】】】










ギンッ!

「また、これか………!?」

頭に恐ろしい痛みが走る。
これもまた、経験した事のある痛み。

「あっ、アアっ、あああああ!!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

頭が割れるように痛い。

しかも、前回よりも酷い痛み。

目の前が真っ白になっていく


耳鳴りがうるさい



鉄の匂いが、する




血、の、味が、する















ドサッ





















ーside 諏訪子ー

「うぅ………」

右肩の辺りが痛む。
私は、一体…………?

確か………いきなり現れた男と戦って………
吹っ飛ばされて………それで…………

「…………はっ!?」

飛び起きて周りをキョロキョロと見回す。
だが、人影は特に見当たらない。

「……死んだと勘違いして帰っ───!?」

いや、いた。
何処にいるかと思ったら私の真後ろにいた。
見つからなかったのも無理はない。

「こいつ、なんで倒れて………?」

そう、私の記憶ではこの忌々しい男に吹っ飛ばされたのが最後の記憶だ。
こいつの所為で右肩から血が出ているが、血が出るのはさほど問題ではない。

どちらかというと問題は。

「……この男、まだ死んでいない……」

この男、倒れているだけで息がある。

………殺しておくべきか?
目が覚めたら襲ってくる可能性もある。
やはり、殺しておくべきだろう。
そう思い、私の右手にある物質の輪を出現させる。

この物質は、最近見つけた物質だ。
やけに硬いので、今回の戦いの切り札になるやもしれない。
今回はその試しも兼ねている。

右肩ももう血は収まってきているし、動かしてもさほど痛くない。
これも神であるが故の恩恵だ。

輪を振り上げ、私は呟いた。

「………何者かは知らんが、運が悪かったな。
神に相対する事をも罪と思え。」

そして、その輪を首目掛けて───















ガキン



放たれた輪は骨を絶ち、肉を裂き───













「いやいやいや、何やってるんですか?
貴方様、こんな場所で殺されて一体どうするんです?」

私の輪は、細長い銀に阻まれた。

「……は?」

私はまた目を疑った。
今日は、一度ならず二度までも目の前に人が現れる日のようだ。
目の前に現れたのは。

白い格好の中に映える、黒い布。







そして、可笑しな仮面だった。



「こんな所で死んでも興ざめでしょうに………」





いかがでしょうか?

最近はテストとかテストとかテストとかで忙しい………

感想、随時募集中です。


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21.謎多き男

久しぶりの投稿。
完全に木曜投稿なんで守れていなかったり。
………また、更新不定期のタグでもつけとこうかなぁ……

では、どうぞ。





銀と銀の鍔迫り合い。
呟いた男が剣を振り上げ、諏訪子の輪を弾き飛ばす。

「………誰、貴方?」

コイツ、目の前に急に現れたのもそうだが、倒れているミシャクジや私を見ても恐怖を感じていない、というか目もくれていない。
これは、異常だ。

なぜなら、誰であっても見た事のない物であったり力を持つ者と相対した時には、必ず恐怖を感じる筈である訳である。
人間の感情というのはそういうものだ。
勿論、人に限った話でもない。
私とて神だが、この目の前の男には警戒こそすれど、恐怖がないかと言われると、やはりある。

しかし私からしてみても、コイツは恐怖を感じていない。
そのような素振りは勿論、話し方までにも恐怖感を感じられないからだ。

男は考える仕草も見せず、こういった。

「ふむ、そうですねぇ。別に名前などなんでも良いのですが。」

男は楽観的な話口調でそう答え、直ぐに続ける。

「そうですね、確かにそういえば名前を考えておりませんでした。
そうですねぇ、何か適当に………
謎の男、仮面の男、不可思議の仮面………
格好悪い名前しか思いつきませんねぇ………」

男はひとしきりブツブツと呟くと、何かを思いついたように手を叩いた。

「……そうだ、『奇術師』が良いですね。
私、『奇術師』と申しますので、以後、お見知りおきを。」

そう言い、奇術師と名乗る男は恭しく一礼をした。

「………きじゅつし?」

コイツは『きじゅつし』と自身を名乗った。
だが、その『きじゅつし』というのが分からない。
一体、どういう意味だ?

そんな私の疑問にもお構い無しに、男は話を進めていく。

「えぇ、奇術師。奇術師です。
洩矢の祟神、会えて光栄でございます。」

神を前にして、この態度。

普通の人間、例えばさっき私に襲いかかって来たあの男。
あいつも、少なくとも私の神の威圧というものに怯んでいた。
何故なら、結局の所で人間と神には超えられない壁があるからである。

だが、ここまで考えてはたと気づく。
そもそも、一体何故私が祟神だとわかった?

よくよく考えてみるとおかしい。
こいつは神では無い。それは見ればわかるのだ。
だが、私が神だというのは、私と同じ種族(・・・・)でなければならない。




ん?………同じ種族(・・・・)
まさか、コイツ………

私の中にある仮説が浮かぶ。

急に現れた二人の男達。
しかも二人共、私を神だと見破ることが出来る種族。
片方はともかく、もう片方は私に恐怖すら持たない。
そして、大和の国との対戦が近いこの頃。
これらから、私の頭の中に浮かんだのはただ一つ。





【こいつは、自身の力を隠すことの出来るほどの手練れの神ではないか?】

確かに、大和という大国であれば、それくらいの人材はいそうである。
尤も、私は聞いたこともないが。







「……まさかお前も大和の差し金か!!」

私は声を荒らげた。
相手が正体不明ならまだしも、大和の国の犬とわかってしまえば怖くなどない。
勿論、大和の犬かどうかは分からないが、便宜上そう決めつけてさえしまえば、やりようはいくらでもある、というものだ。

しかし。

「…………はぁ。」

男から相反的に出たのは、ため息。
男は首を竦めながら言った。

「洩矢の祟神よ。
相対する相手が正体不明だからと言って、大和の国の神だと断定するのは、些か早計過ぎますねぇ。
本当にそうお考えなら、まぁ、全くのお門違い、という訳でございます。」

「……………」

目の前の男は随分落ち着いた口調で話した。
………何だか、馬鹿にされているような気がする。
男は続ける。

「まぁ何にせよ、貴女様に用はございません。
用があるのは、こちらの方ですので。
この方、お借りしても宜しいですか?」

そう言って指差したのは、私の後ろに倒れていた、正体不明の男。
コイツを借りる?

「………はぁ?」

そもそも、コイツは侵入者である。
ただでさえ何処のものかも分からない上に、さらにそこにもう一人男が現れ、
『そいつを回収したい』と言っている訳だ。
生憎だが、普通には渡せない。

男は、気の抜ける様な口調で話す。

「いえいえ、ここに放置しておいたらそのまま死にそうですしね。
というかそもそも、貴女様には決定権すらもないのですのであしからず。」

男はそう言った。
私に用がなく、しかも私に聞いたのは単に確認の為だという。

…………明らかに侮辱された事くらい、私にもわかった。
私の中に憤りが生まれる。

「貴様……私を神だと知ってのーーー」

男は私の言葉を遮るように声高に言った。

「えぇ、勿論存じておりますよ。
しかし、申し訳ありませんが、所詮は神でしょう?」

開いた口が塞がらなかった。

「………は?」

耳を疑った。
今、神の事を所詮、と言ったか?

私は、憤りを越して呆れてしまった。
神がどのようなものか理解していないのか?
だが、男は続けた。

「いえいえ。ですから、所詮は神でしょう?
尤も、戦いたいのなら止めは致しませんが。
多少は貴女の実力も知りたいですので。
まぁ…………」

バチッ!

急に男の左手に柄が紫の剣が現れる。
そして、それを構えながら言った。

「貴女が永遠に再起不能になっても、私には保証しかねますが、ね。」

「………っ」

背筋に悪寒が走る。
この男が只者ではないのはよく分かっていたが、今度ばかりはとてつもなく嫌な予感がした。
とにかく、この男と事を交えるのは得策では無いと感じたのだ。
幸か不幸か、私のこういう予感はよく当たってしまう。

「………いや、もういい。その男は好きにしてくれ。」

………逃げた訳ではないのだ。
私はただ、最善の策を講じたまでだ、と自分に言い聞かせる他なかった。

「これはこれは。」

そういうと『きじゅつし』は倒れている男に向かって剣を当てた。
すると、倒れている男は消えて無くなってしまう。

「御快諾感謝致します、洩矢の祟神よ。」

男はまたも恭しく礼をした。
そして、クルリと後ろをむく。

「では、また会うときまで、御機嫌よう。」

男はこちらを振り向きそう告げると、部屋の外へと歩いて行ってしまった。

「………………はぁ。」

溜息が飛び出る。
あの男がいた時のなんとも言えない威圧感。
緊張の糸が途切れた私は、その場に座り込んでしまった。
まさか、神である私に威圧感を感じさせるとは。
あの男、もしかしなくても神なのでは無いのだろうか?




「ーーーおや、言い忘れるところでした。」

「ーーーっ!?!?」

心臓が止まりそうになった。
部屋の外に出て行ったはずの男の声が後ろから聞こえた。
咄嗟に振り向くと、そこにはあの奇妙な男がいた。

「こ、今度はなにをーーー!?」

バチッ!

また甲高い音を立てて、男の右手に紫色の棒のような物が現れた。
そして剣を納刀すると、曲がった柄がまるで杖のようになる。

「奇襲というものは、こういう事ですよ?」

そして、その杖のようなものを私の方へと振りかぶった。

「!?」

私は反射的に目を閉じた。





バチッ!






三度目の雷が鳴るかのような音。






…………痛みを感じない。
恐る恐る目を開けると、体に異常はなかった。

だが、そこには白い靄が発生し、その中には二人の人間のようなシルエットがあった。
とにかく、私は攻撃されなかった事に安堵した。





が、またもや異常に気づく。






シルエットの人間は、何かを何処かに置き忘れてしまった人形の様だった。
靄が晴れると、そこには。








二人の………男?
私には、その者たちの性別が咄嗟には判断できなかった。
それは仕方なかったのかもしれない。
だって、

そいつらには、首がなかったのだから。

「うわっ!?」

思わず尻餅をつく。
別に人型が死ぬのは見飽きている。

だが、こんなにも酷い死に方、しかもそれが目の前に突然現れたのだ。
驚くな、という方が無理な相談だ。

「先程ここまで来る道中の天井に隠れていましたよ?
まぁ、ゆめゆめ警戒を怠るな、という警告とでも言いましょうか。」

「き、貴様は一体………」

「ふふっ、私の事ですか?私は一介の奇術師ですよ。」

死んでいるこいつらは、本当の神だ。
姿こそ人だが、決定的に人とは違うこの感覚。
神である私には、疑いようもなく分かった。

つまり、コイツは神二人を殺した事になる。
しかも、大和の神を、だ。
最早、私にはこいつの正体さえ掴むことさえままならなかった。
余りにも、遠い存在に思えた。

「では今度こそ、御機嫌よう。」

男はまた恭しく礼をすると、部屋の外へと歩いて行ってしまった。

謎の男を失い、訪れる静寂。
気がつくと、あの二つの首なし人形も消えて無くなっていた。

「はぁ…………」

私はその中で誰にも聞かれないような長いため息を吐くのだった。



いかがでしたか?

やっぱりこれくらいしっかりと書いていきたいものです。

感想、批評随時募集中です。


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22.経過

すっごく久しぶりな投稿。
やっぱり不定期投稿のタグはつけておくことにします。




「…………」

さて。
俺はうつ伏せになって倒れていた。
混濁する意識の中。
俺は手を支えにして立ち上がり顔を上げる。

目の前に、木の幹。
右を振り向いてみると、木。
左を振り向いてみても、木。
後ろを振り向いてみると、開けた地から遠くに何かの建物が見えた。
薄目で見てみると、赤い何かが辛うじて見える。

「…………んぁ?」

変な声が出た。
…………なんで、俺は森の中にいるんだ?
まぁ、建物が見える訳だし正しくは森の隅だが。
デジャブを感じるこの体験。
色々と混乱してくる。

とりあえずこんな時は。
また、あの時のように瞼を閉じて思い出す。

頭の中に言葉が浮かんでくる。

〈………あんた、誰?〉

〈………大振りだな。〉

〈神様よぉ!これでも──くらえや!〉

〈 本 当 ニ ソ ウ カ ? 〉















「…………あぁ。」

大方思い出した。
俺は洩矢諏訪子と対戦して、致命傷を与えて、俺がそれを確認して………
そこからの記憶がない。
つまりまた、俺は気絶したって訳だ。

にしても相変わらず、この気絶体質はどうにかならないものか。
まぁ、現状こそ分からないが取り敢えず安全な場所のようだ。
その証拠に人が通る道のようなものがある。

だが、根本的に疑問点が幾つかある。

まず一つ目。
俺はどうしてこんなところにいるのか?
俺は諏訪子と戦っていた筈だ。
仮にも諏訪子と戦っていた場所は境内であり、森の中でもない。
補足すれば、この近くに神社がある、という雰囲気でもない。
まぁ、後ろの建物が気になるところだが、それは置いておこう。

そして二つ目。

「おい、影。」

影を呼び出す。
すると、一拍子遅れて影が隆起する。
隆起した影は、人の形をかたどっていく。

『……はい。お呼びですか?』

完全に人の姿へとなる影。

「お前、何故俺が戦闘中の時に出てこなかったんだ?」

俺は疑問をぶつけた。
そりゃあまぁ、色々あって遅れるのはあり得るだろう。
最も影の事情こそ、詳しくは知らんが。
だが、来ないというのもおかしいのではないか?

影は少し戸惑ったように言った。

『……私にも分かりません。』

「はっ?」

分からない?
そりゃあどういう事だ?

影はもどかしそうに話し始める。

『主の力の影響を受け、私自身の意思で二次元的状態と三次元的状態を変更出来るようになったのは間違いありません。
が、今回に限っては私の意思が無視された、とでも言いましょうか……』

「無視された?」

『えぇ。
言うなればいつも空いている筈の扉に急に鍵がかかった状態になった、と言うのが分かりやすい例えでしょうか。』

「………じゃあつまり、
『いつもならすぐにでも人の姿になれるが、今回は何かの障害のせいでなれなかった。』
ってことか?」

『はい、それで間違いありません。」

「…………急にか?」

『主が影の外に出て暫くしてからの事です。』

「じゃあ、俺が外に出てから何があったのかも………」

『えぇ、見えませんでしたね。
何時もなら見えるはずなのですが。』

……というか、いつも見られているのか。

まぁ、とにかく今までの情報を整理すると、

・俺、諏訪子との交戦後の記憶なし
・気がつくと、交戦場所とは別の場所
・影は介入する事が出来なかった

という事だろうか。

「どういう事だ、オイ……」

『………さぁ?』

まぁ、何が起こってるのか分からない、というのは意外と慣れている。
というか、慣らされたというべきか。

「………まぁいいか。というか、ここ何処だ?」

と言うわけで、こんな対応ができるようになった訳だ。我ながら悲しいものだ。
影は呆れたように言った。

『危機感がございませんね、主よ………』

「逆に聞くが、そもそも分からんものをどう考えろって言うんだ……」

『まぁ、それはそうなのですがね………』

………なんだか一層悲しくなってきた。
ガチで一体なんでこんな状況で放置されてるんだ。

次の瞬間。





ドォォォォォンッ!!


「うわっ!?」

『何事っ!?』

突如大きく甲高い音が鳴り、同時に地面が大きく揺れた。
平衡感覚が失われ、立っていられない。
俺はあえなく地面に組み伏した。

「一体なん……」

『主よ!そのまま伏せていて下さい!』

突如影がそう叫び、俺の頭を押さえつけた。
同時に、俺の頭の上を『何か』が掠めていった。

「うおっ!?」

『……っ!』

俺たちの上を掠めていった『何か』は、地面に叩きつけられて、転がっていった。

「か、間一髪だな……」

不老になっても、右手が影になっても、死の恐怖というものは拭いきれない物だ。

『これは……』

が、影は恐怖に身を縮こめることなく、倒れた体制のまま後ろを凝視していた。
つられて俺も振り向く。


…………ナンダコレハ?


俺たちの後ろに鎮座していたのは、黒い艶を持った「柱状の物体」。
この柱が飛んできたであろう放物線上の木々は、無惨にも吹き飛ばされていて、ないしは木っ端微塵にされていた。

声に詰まる。
こんな非現実的な世界にやってきて感覚が麻痺していたのだろうか。
言うなれば、死という感覚を久しぶりに間近に感じた。

「………今、一体何があった?」

『前をご覧下さい主よ。』

影の即答につられ前を振り向く。
目の前に見えたのは、圧倒的な力の前に無惨に砕き折られてしまった木の幹。
が、その先に。

「………人と……なんだアレ……?」

その先に見えたのは多くの人々。
一目見ただけでも百人はくだらないだろう。
もしかすると千……いや、それどころか万かもしれない。

それとは対照的に、その人々の前にあるのは、白い糸のようなもの。
こちらもかなりの数だが、心なしか動いているような気がする。

そして。

「……げっ。」

思わず声が出た。
目に映ったのは、俺を殺しにかかったヤツ。
そいつは、他でもない洩矢諏訪子。

『………主よ。』

「なんだよ。」

影がこちらを振り向いて言った。

『これが私達の知っている諏訪大戦の経過なのかもしれません………』





いかがでしたでしょうか?
感想大募集。


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23.凄く短い諏訪大戦

どうも、クロノス12です。
スプラトゥーン、Sランク到達して一喜一憂しております。
では、どうぞ。


もし、ある人がこれを見たらこういうだろう。

「なんだいこれは?一体何を示しているんだい?」

と。

或いは、こういうかもしれない。

「一体、人は何と戦っているの?アレは何?」

と。

だが、実際に俺が見たのはそういうものである。
それ以上でもそれ以下でもない。
事実、俺にも最初は分からなかった。
だが。

「これが諏訪大戦……か。」

目の前に広がる光景。
誰がどう見ても、まるで意味がわからないだろう。
遠目に見えるのは、人と白い糸のような物がせめぎあっている様子だけなのだから。

それだけならまだいい、が。

『………申し訳有りませんが、そう断定する他ございません。あまりにも条件が揃い過ぎているのですよ。』

確かに耳を澄ませると、遠くからウオオォォ!だとか声にならない叫び声が聞こえる。
時折、叫び声に紛れて聞こえてはならない音も聞こえてくる。
俺は、音というのは大きな情報であると思った。
本物の戦争は生まれてこの方見た事はないが、これは例外なのでは無いだろうか。

「謝る必要なんぞないが………」

そんな事よりも、だ。
俺にも大体状況が飲み込めてきた。

「じゃああれは………」

『恐らく戦地でございましょう。』

すごく納得した。
じゃああの糸のような生物が憎きミシャクジで、早退する人々が神って訳だ。
なるほどなるほど。
確かに、そこらそこらに赤い斑点がちらほらと見える。

「………逃げるか。」

『はい。』

影も即答した。

逃げるしかない。
諏訪子と戦って分かったが、やはり人間で神を相手にするには些か分が悪すぎる。
しかも、今になって考えてみると、だ。
俺の攻撃を喰らい、倒れていた諏訪子。
あれは全くやられてはいなかったのではないか?

そもそも、だ。
右肩で小規模といえど爆発が起きた訳だ。
しかも、一応致死量にも届くかもしれないレベルのが、だ。
それで身体が原型を留めている。
やはり、普通ではない。

「合図と共に駆けるぞ……?」

『いえ、私が戻るほうがいいでしょう。』

そう言うと、影は地面の中に沈んでいく。
そして、目の前に黒い空間が見えた。

「よし………」

俺が這いながら、影の中に入ろうとしたその時。

ゴゴゴゴゴ……

「っ!?」

低く唸る様な音。
思わず声が出かけた。
反射的に口を手で抑え、音のしたを向くと。
さっき木々をなぎ倒してきた柱の様な物が揺れていた。

……まさか、生きているのか?
こんな生物は勿論聞いた事もないし、見た事もない。
だが、この非現実的な世界。
何があっても可笑しくないのが現実だ。
柱からの音は継続して鳴り続ける。

「………?」

………ふと、違和感を感じた。
この柱の様な物、どこかで見覚えがある様な気がする。
そして、鳴り続ける音。

………これ、御柱(・・)か?
そもそも忘れるなかれ、この世界は東方に準拠している訳だ。
で、この時代といえば諏訪大戦。
諏訪大戦、洩矢諏訪子と相対した、と言われているのは。

そしてその時、遠目に見えた。
4本程の柱を携え、〆縄のようなものを背中につけ、悠々自適に、世界の法則を無視する如くふわふわと飛んでいる女性。

八坂神奈子だ。

背筋に悪寒が走る。
木々をなぎ倒すだけの力を秘めた柱。
これがあの速度で飛んできたら………!

「くそっ!」

考えついてからの行動は早かった。
手と足に力を込め、瞬発的に影の中に飛び込む。
ドボンッ、と水に飛び込む時の様な擬音が聞こえる。そして、足の隙間から影の外を覗く。

一瞬。ほんの一瞬だが。
影の外に黒い何かが見えた。
恐らく、というか大方さっきの柱だろう。
間一髪。喰らったらヤバかっただろう。

「おい、影!とっとと移動してくれ!
とりあえずこの場から離れるんだ!」

『言われなくても承知しております、主!』

影が、凄まじい速度で移動する。
影の中にいる俺にも、影響が出た。

「うおっ……」

体が後ろに引っ張られるような、まるで車の中にいる時のような感覚。
つまり、影はそれくらいのスピードで移動しているわけだ。

『主よ!お願いしますから頭などを影の外から出さないようにして下さい!』

「おう、わかった。
……離れたら教えてくれ。」

『承知しました。』

そして俺たちは、戦地からの逃避行を図った訳である。








いかがだったでしょうか。
いつもの如く、感想大募集!


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24.安心

久し振りの投稿。
やはり気まぐれ投稿が向いていると思うこの頃。
では、どうぞ。






「はぁ……危なかったな……」

『……えぇ、誠に同意いたしますよ。』

影の中。
俺は溜息をつきながらその場に座り込む。
取り敢えず、一安心できた。

「というか、あいつ……こっち見てなかったな……」

『………どなたの話をしているので?』

影の中に反響するような声に俺は返事する。

「お前には見えなかったかも知れんな。
八坂神奈子だよ、八坂神奈子。
俺らの所に飛んできた柱あっただろ?
あれ多分、というか確実に御柱だ。」

御柱。
八坂神の操ることの出来る柱。
まさか、あそこまでの破壊力があるとは知りたくもなかったが。

『八坂神奈子………
あぁ、成る程。そういう事ですか。
であれば、見られなかったのはある意味幸運なのかも知れませんね。』

「……なんで?」

『私達を見ていて、変に興味を持たれたらこまりますでしょう?』

「まぁ、確かになぁ。」

そもそも、だ、
神奈子はこちらを知覚しておらず、ただ御柱を戻すという行為だけをした訳だ。

だが、人ならあれに掠っただけでもひとたまりもない。
一回受けるだけならまだなんとかなるかも知れないが、頭にでも当たったら即アウトだ。

「……やっぱり、次元が違うな。」

そう考えると、やはり次元が違うとしか思えない。
倒す倒さない以前の問題のような気もする。

『ですが主よ、主が不老の代償を払ってまで幻想郷まで辿り着きたいと思うのであれば、今のクラスの敵はゴロゴロいる筈でございますよ?』

「……勝てるのかなぁ。」

『………そもそも主よ。主はご自身の実力を誤って判断しておりませんか?』

「はぁ?」

頭の中に浮かんだのは疑問。
誤って判断している?
影は続ける。

『ご謙遜なさっているようですが根本的に、主はとっくに人間ではございません。
一番性質が近いので、妖怪と言ったところでしょうか。』

「はっ、冗談はよせよ。
俺があいつらレベルに適うとでも言うつもりか?」

『では、主よ。
貴方は洩矢諏訪子との戦いで生き残れたのはまぐれだと、そう仰るのですか?』

ハッとした。
そうか、確かに俺は洩矢諏訪子を撃退(?)した訳だ。若干影の腕の初見殺し感はあったが。

「……なんだか行ける気がしてきた。」

『そのすぐ調子にのる癖、嫌いではございませんよ。』

「そりゃあどうも。」

『………皮肉なんですがねぇ。』

「知ってるよ。」

ふと、右手の方を見る。
裾の中から出ている手は、真っ黒に燃える炎のような形相だ。
これが、俺が普通ではない証明となる。

「本当に強いのか、俺?」

確かに、俺は洩矢諏訪子と戦った。
そして、取り敢えずだが気絶くらいまでは辿り着いたわけだ。

常人より強いのには自負があるが、一体俺はどの辺の強さにいるのだろうか?

『まぁ、常人以上妖怪以下と言うところでしょうか。強さに関しては未だ測定不能と言うべきでしょうね。』

「そうか……一戦、誰かとやらなきゃなぁ……」

『まぁ、そもそも全員と戦うという前提自体がおかしいのですが。』

まぁ、妥当なところだろう。

「……そんな事より、もう安全な所か?」

『完全に安全かと言われるとやぶさかではないですが、恐らく安全ではある所へは移動済みですよ。』

「……わっかりづらいなぁ。」

『端的に言えば、多分安全な所に着きました、という事でございます。』

「最初っからそう言ってくれ、まどろっこしい。」

『次からは努力いたします。出ますか?』

「いや、良い。
そんな事よりも、この先こういう事に出くわしたらどうするか、だな。」

最悪物語の大筋に関わらないようなモブに徹すれば、戦闘は免れるだろうが……若干つまらなくなるだろう。

「……なぁ、今後こんな事になったらどうすればいいと思う?」

『どう、とおっしゃられますと?』

「いやだから、また俺たちに手に負えない者と対面しなければならなかった時、どうするのかって事だよ。」

『……いや、ですからその絶妙にネガティブな思想をやめませんか?確実に戦わなくてはならない訳ではないのですから。』

「備えあれば憂いなしっていうけどなぁ。」

『一体何年先まで備えるおつもりですか、主よ……』

まぁ、とにかく。
今回はなるべく非干渉的な異世界生活を送れた訳だから、俺に取り敢えず未練はない。
さっさと次の時代に行くための準備でもしてしまおうか。

「とっとと次の時代へ行くか。
また安全な所に移動するなりなんなりしておいてくれ。俺は寝る。」

『かしこまりました。』

さて、これで暫くは安心して眠れそうだ。





だが、心残りはある。
本当にこの時代でやり残してきたことはないか?
何処の世界かは知らないが、記憶を取り戻す為の糸は紡がれているのか?
本当に、俺の選択は間違っていないのか?

そしてそもそも。
俺は不老になってまで、幻想郷に行く意味があるのか?





俺の中にある使命感。
それは、強く幻想郷に行く事を示している。
何故だ?




記憶を無くした筈の俺。
だが、俺は東方の記憶などを覚えている。
何故だ?




沢山の謎は頭の中で混ざり合い、色々な答えが出てきては泡のように消えていく。


とにかく深く考えずに、今は眠ろう………
















ピピッ






ピピッ






ガーーーッ








ートキハミチター

ーセカイハカノウセイヲノコシ、アルイッテンヘトシュウソクスルー

ーショウネンヨ、コエラレルカー

ーイジョウヲマエニシテー


ピピッ




ピピッ










プツン








いかがだったでしょうか?
感想、大募集。


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25.不可解

どうも。
最近、調子よく書き続けれてます。
恐らく春休みだからですかね。
では、どうぞ。



「……………」

「……………」

「……………………?」

違和感を感じた。
俺の混濁する意識の中で、何かが異常を訴えている。

「………………」

「………………」

俺は……寝ていた。
確か次の時代に行くために、影の中で睡眠をとっていたはずだ。
影の時間を静止させれば、その内次の時代がやってくるからだ。

「………………」

「………………」

じゃあ、何だこの違和感は?
やけに、周りが明るいような………?














『主よっ!』

「!?」

影の叫び声で朦朧とした意識が吹き飛ぶ。
そして、頭が覚醒し目がハッキリとしてくる。

『主よ、やっとお目覚めですか!』

「なんだ?どうした?
もう次の時代に着いたのか?」

影が起こしたって事は、つまり次の時代に着いたという事。
何故なら、影は俺の命令を忠実に守るからだ。

だがしかし、目の覚めた俺の前に広がった光景は生い茂る木々。
ここは、恐らく森の中だろう。
何でこんなところにいるんだ?

………いや、違う。
そもそも俺は影の中で寝ていたはずだ。
そして何より。

『違います、主よ!緊急事態です!』

「お、お前、何で人になってるんだよ。」

影が、人の姿をしている。
影によると、影の中で人の形をとるのは不可能らしい。
つまり、ここは外という事になる。

しかも、慌てぶりが尋常ではない。
ここまで慌てている影を見るのも初めてだ。

「おい、何があった?」

落ち着く影を諭すように聞く。
すると、影は若干早口にこうまくし立てた。

『主よ、落ち着いて聞いてください。
私は確かに影になり、主はその中で眠っておりました。
しかし、突然私は影の姿になれなくなったのでございます。』

「………はぁ?」

こいつは何を言っているんだ?
疲れて頭でもおかしくなったのか?

『ですから!影の姿になれなくなった私は、強制的に人の姿になったのでございますよ!』

「…………ちょ、ちょっと待て。」

急に影の姿になれなくなった?
そんな馬鹿な。
人の姿になれなくなった、ならまだ分かる。
何故なら、そもそも影は初めから人ではないからだ。

だが、影の姿になれなくなったというのは、どう考えてもおかしい。
人の姿になる事の弊害にでもあったのだろうか?

「何で影の姿になれなくなったのか、心当たりがあるか?」

『わかりません。ですが、確実にこれは外部からの何かが要因でございます。』

「どうしてそう思う?」

影は確信を持ったかのように答えた。

『突発的過ぎるからでございます。
万が一、内部からの要因であった場合なら、私に気付けないわけがございません。』

「………そうか。」

どうしよう。
急すぎて、頭の整理がつかない。
つまり、影は外部要因を受けて、影の姿に戻れなくなったという訳だ。
外部要因ってなんだ?




だがその時。

「おやおや。やっとお会いになれましたね。」

空気が凍りつく。
この森の中で、やけに耳に残る声がした。

「っ!?誰だ!?」

急に聞こえた声に心臓が止まるかと思った。
だが、男の声は続く。

「あぁ、そうでしたそうでした。
貴方様は私を知らないのでしたっけ?」

『……どなたかは知りませんが、悪ふざけがすぎるのでは無いですか?
姿を表したらどうです?』

影が怒気を孕み、そう言い放つ。
すると、声の主はまたしても気の抜けたように返答した。

「おやおや、これは失礼。」

すると、前の木の背後から一人の男が現れた。

「………………は?」

絶句した。
木の背後から出てきた男。
そいつは白いタキシードに白いシルクハット、そして黒いマントをしていた。

そして。

「どうも、お初にお目にかかります。」

顔には、目の所にバツの印に切り込みがあり、そして口の所にも笑っているかのように切り込みがある仮面をしていた。

『貴方……何者です?』

影の手に、黒い棒のようなものが生まれる。
影を硬化させた棒切れを持ち、影がそう聞く。
しかし、声の主はいざ知らず、なんとも呑気な声で答えた。

「おや、そうですねぇ。
特に名前などは考えていないのですが……」

そう言い、訪れる静寂。
男は暫く考える素振りをみせた。

「うーむ。………あぁ、そうでした。」

そして、何かを思いついたかのように手を叩き、こう言った。

「私、【奇術師】と申します。
以後お見知りおきを、皆様。」

そして奇術師とそう名乗った男は、この場の空気に似つかわしく、とても仰々しく一礼をするのであった。



いかがだったでしょうか。
遂に物語はゆっくりと動き始めます。

誤字脱字、感想大募集です。


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26.奇術師

たまには運動を全力でやろうかと思い立ち、5分後には部屋でゴロゴロしている。そんな日常。
では、どうぞ。





「私、【奇術師】と申します。
以後お見知りおきを、皆様。」

「奇術師………?」

目の前の男は深々とお辞儀をしながらそういった。

何者だこいつ?
明らかに外装からして常人ではないのはわかる。
そもそもこんなキャラ東方にはいない筈だ。

影が右手に剣を構え、威嚇しながらいった。

『答えになっていません。
それ以上の態度は許しませんよ。』

今にも剣を振り回しそうな影を手で制する。

「やめろ。いちいち喧嘩腰で相手をするな。」

『……ですが』

「ですが、じゃない。
これじゃあ話が進まないだろ。」

奇術師は手を大げさに広げながら言った。

「片方の方は、どうやら話が通じるようでございますね。
まぁ、正体とて隠している訳ではございませんよ。
そもそも、私は貴方と初対面ではございませんからね?」

そう言って、奇術師は俺を指した。
初対面じゃない?そんな馬鹿な。
こんな特徴的な男忘れるわけがない。

「……失礼を承知で言うが、俺が貴方のような、その、特殊な人と知り合いなのなら、俺の方が覚えているはずなんだが。」

「それも無理はないでしょうねぇ。
まぁ、なるべくしてなった結果なのですから、私はどうこう言いませんがね。」

『貴方まじめに答えてますか?』

影の言う通りだ。
一度会ったことがあるだとか、なるべくしてなった結果だとか、意味が分からない。

「……重ね重ね失礼だが、馬鹿にしているのか?」

「くっくっく、これは失礼。
そのように聞こえたのなら謝罪いたしますよ。」

謝る態度でもなくケラケラとしながら、奇術師は続ける。

「まぁ、とにかくでございます。
私、貴方のことをいろいろ知っていますよ?」

「知っている、だと?」

「えぇ、それはもう。」

「例えば、現在貴方が記憶をなくしている、右手が影になっている、なんてことまで知っていますよ。」

「んなっ……!?」

「他には………何がありましたっけ?
まぁネタバラシは追々ですねぇ。」

『最後の警告です。貴方……何者です?』

「おぉ、怖い怖い。
ですが教えろと言われましても、私にも秘密の一つや二つはございますよ。
勿論、私の正体も今は教えられません。」

「まぁ、皆様が名前を知らないというのも不便ですので、便宜上奇術師と名乗っているわけなのでございます。」

「………」

『…………』

訪れる沈黙。
それを破るかのように奇術師が手を叩く。
そして、流れるように言った。

「まぁ、どうしても知りたいと言うならば………私と戦ってみませんか?」

「何?」

「もし勝てたのでしたら、私の正体をお教えしましょう。
勝敗は相手に寸止めでお願いいたします。
殺しとは、些か物騒ですからねぇ。」

「……ほぉ、望むところだ。」

手っ取り早くて俺の好みだ。
右手を構える。

「あぁ、そこの方もどうぞ。」

奇術師は、指で影を指して言った。

『…………私達2人を同時に相手にするつもりなのですか?』

「えぇ。まぁ、途中で参戦するくらいなら最初からどうぞ、という意味です。」

『……後悔しても知りませんよ?』

そういうと、俺は自身の想像した剣を取り出し、影は影の剣を生み出し、それぞれ構えた。

「くっくっく。
ではでは行きますよ……?」

奇術師がそう言うと、奴の手に薄い紙のようなものが現れた。
奇妙なその紙は、見ると若干光っているようにも見えた。

『……何でしょう、あれ。』

「今にわかります。
奇符『剣杖・ミステリア』!」

奇術師が高らかに宣言する。
すると。

ジジジッ!

回路がショートするかの様な音が鳴り響き、気がつくと奇術師の手には紫色の杖が握られていた。





俺は酷く、既視感を覚えた。
そんな馬鹿な。
この詠唱、この演出。間違いなく………

「スペルカード!?」

「おや、ご存知でしたか。
いや、まぁ、そういえばそうですか。」

スペルカード。

それは幻想郷の賢者、八雲紫が幻想郷の勝負事の解決策として提案したゲームのルール、『スペルカードルール』に用いられるカードの様なものだ。

スペルカードはその際に用いる必殺技カードの様なもので、相手に弾幕を当てることの手助けをする事の出来るものだ。

つまりは、この時代にはまだスペルカードルールは存在しない。
そもそもまだここは幻想郷では無いのだから。
洩矢諏訪子や八坂神奈子を見ていればわかる。

では、何故目の前の男はスペルカードを持っているんだ?
そもそも、スペルカードなんて現実的にあり得ないものを、どうしてこいつが……?

「くっくっく、不思議そうな顔をしておりますねぇ。」

『………馬鹿な。』

「馬鹿な、と仰られても些か返答に困りますねぇ。
私としては、貴方のような者が存在している方が腑に落ちないのですが。」

「本当に何者だ、お前!?」

「ですから……私に一太刀でも当てて見せて下さいよ。
話はそれからでございます。」

『一層の事、警戒が必要ですね……』

「…………」

『主よ、大丈夫ですか?』

「ふふっ。面白い!面白いなぁ!
俺の実力が正体不明の相手に試せるんだ!こんなに面白そうなことあるか!?」

『あぁ……主がこうなってしまってはもう駄目ですね。
では、なるべく主に怪我をさせない様に努力致しますよ。』

「ではではどうぞ、頑張って下さいませ。」




いかがでしたか?
感想、大募集中。
感想、大募集中。
大事な(ry


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27.その名は

さて、ゴールデンウィークですね。
……まぁやる事といえば英検の対策くらいしかありませんが。
それではどうぞ。




「さて、お手並み拝見と行こうか?奇術師さんよ………」

「言われなくてもそのつもりでございますよ。そう慌てないでください。」

奇術師が杖を思い切り振り下ろす。
すると紫色が降り落ちて、杖の根元から銀色の刀身が顔を出した。

「さて、その名も剣杖ミステリア。
この通り杖の中に剣がある、いわゆる仕込み杖でございます。」

『その杖の説明をして頂く前に、是非とも主の境遇の話をしていただきましょうか。』

影の目がキッと奇術師を睨みつける。
奇術師は首を竦めた。

「釣れないですねぇ。まぁ、いいですが。」

「行くぞッ!」

影人が地を蹴る。
それに合わせ、影も走り始める。

「おらっ!」

影人が剣を振り下ろす。
カキンッ、と剣と剣がぶつかり合う鋭い音が鳴り響いた。

「ふむぅ……」

『ハァッ!』

すると、いつの間に回り込んだのか影が奇術師の背中を目掛けて黒い獲物を振り上げる。

「おっと危ない。」

だが、突然奇術師は鍔迫り合っている剣を手放すと右にステップをとった。
手放された剣は、地面に落ち金属音を立て、
相手を失った影人の剣は、同じく獲物を逃した影の剣と弾かれ合う。

「うおっ……」

『チッ……』

互いの力を込めた斬撃は、互いの体を後ろに大きく吹き飛ばすには十分な威力だった。
影人は情けなく尻餅をつき、影はその場に踏ん張った。
刹那、奇術師が手を振り上げる。

「!?」

するとなんと、奇術師の剣がおかしな挙動を見せ始めた。
手に触れられているわけでもないのに、地面を擦れて動いていく。
そして、その金属の擦れる音が影を真横に振り払う。

『くっ……』

予想外の一撃に、影は間一髪のところで回避する事に成功出来たものの、大きく態勢を崩してしまった。
その隙を、奇術師が見逃すはずもない。

奇術師が右手を振り下げる。
すると不思議な挙動をした剣は、奇術師の元に一直線に戻っていった。
まるで、所有者の元に戻っていくのが当然であるかのように、だ。

「まずは一人目ですね。」

手に戻った剣は、容赦なく振り抜かれる。
振り払われた剣は首元ギリギリを掠め、そして止められた。

『…………』

風切り音が聞こえるころには、剣の切っ先は影の首を先に捉えていた。

「はい、ゲームオーバーでございます。」

影の手から剣が滑り落ちる。
そして、影は悔しそうに口元を歪めた。
奇術師はその手にもつ剣を影人に向ける。

「さて……残りは貴方ですが、どうしますか?まだやります?」

「この数秒で………」

僅か時間にして数秒。
対面する男、奇術師は擬似的な2対1をあっさりと抑えてしまった。

「…………」

影人は一人心の中で想像する。
この戦い、ほぼ確実に勝ち目はないだろう。
相手は完全に手練れで、こっちは戦力を大幅に削られた訳だ。

つまりは、これ以上の戦いは無意味な訳だ。
ここでは、降参を選ぶのが正解だろう。
だが。

「悪いが、これでも俺にも譲れない一線ってものがあってな。
一人になっても諦めるつもりはさらさらない。」

「それは良い事でございますね。
まだ、貴方様の強さを計測しておりませんのでね。こちらとしても好都合でございます。」

突如、影人の様子が変わった。
影人は青筋を立てて言った。

「……どこまでもふざけた奴だな。
お前を見てると苛々してくるんだよ。」

「貴方も大概失礼ですねぇ。
せめて、飄々としていると言ってくださいませんか?」

「ほざけッ!」

剣を振り上げ、構えながら突進する。
奇術師は首を窄めた。

「相変わらず脳筋ですねぇ。
ですが今の貴方では、私を倒す事は不可能ですよ。現実を見せてあげましょう。」

「っ!」

影人の手から思い切り剣が降り下される。
しかし、奇術師は右手に持った剣を地面に投げはなった。
影人に動揺が走る。

(剣を……!?)

「ていっ。」

奇術師が間抜けな声とともに振り下ろされる剣の前に突き出したのは、剣を落とした右手。

影人が違和感を感じ剣を止めようとする、が一度振り下ろされた剣は留まれない。
放たれた斬撃は、奇術師を切り裂こうと迫る、だが。

「!?」

ギィィンッ!!
凄まじい金属音が鳴り響く。
振り下ろされた斬撃はまさに奇術師の手を切り裂く直前で止まってしまう。まるで何かにぶつかったかのように、影人がどれだけ力を込めても剣は進まない。

「くそッ………」

ギチギチと金属の擦れ合う音が聞こえる。
それでもやはり、影人の剣は奇術師の中指に後数センチ届かない。

「ですから申し上げたのですよ。
貴方では、まだ実力不足でございます。」

奇術師が小さくそう呟くと、中指と人差し指を軽く影人の剣に押し当てた。

すると、黒い刀身を持つ剣がちょうど真っ二つに折れてしまった。

「馬鹿なっ!?」

続けて奇術師がその指を横に振り払う。

「ッ………」

突如、大きな横向きのGが影人にかかる。
骨がミシリと悲鳴をあげ、筋肉の繊維も一気に強張る。
耐えきれず、影人の体は綺麗に真横に吹っ飛ばされた。

「カハッ……」

影人は大きな木に頭をぶつけ、そのまま意識を失った。頭から夥しい赤が流れ出る。
慌てて影が近寄る。

『大丈夫ですか!主よ!』

「いやぁ、まだまだですねぇ。」

腑抜けた声を上げた奇術師をまたも鋭い目線がさす。

『貴殿は絶対に許しません……』

「いやぁ、敗者にそう言われましても。
まぁともかく、どうせしばらくは会う事もないでしょう。
どうぞ、又の機会を楽しみにしております。」

そう言うと、奇術師は落としたミステリアを拾い上げ、目の前に振り下ろした。
すると、奇術師の目の前の空間に大きくヒビがはいり割れていく。
砕け散った空間の中から紫色の空間がこちら側を覗く。

『なっ!?待てっ、逃がすかっ!!』

「ではでは、御機嫌よう。」

そして、奇術師はその紫色の空間の中に躊躇なく飛び込む。
そして、一瞬にして紫色の空間はまるでそんな空間など存在しなかったかのように消え失せてしまったのだった。



いかがでしたか?
この物語のスーパーキーマン、『奇術師』。
彼の使うおかしな能力、さてその正体は!?

まぁ、後々明らかにはするつもりですがそれまでに予想しておくのも面白いかもしれませんね。


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28.感情

い、生きてまーす。
流石に投稿を止める事はしませんが、それでも超亀投稿になるのは条理なのでしょうか………
ではどうぞ。



▲◆▼▲◆▼▲◆▼▲◆▼▲◆▼▲◆▼▲◆▼▲◆



ジッ……






俺の体が宙に浮いている。
まるで、神様にでもなったかのように天から地上を見降ろしている。

突然、俺のいる高度が下がって行く。
どんどんと景色が地に近づいていく。

殆ど地上に着きそうになった時、見えた。
子供が………泣いている。







「うわぁぁぁぁん!!うわぁぁぁぁん!!」




「…………?」




ジジジッ……



ノイズとともに、景色がかわる。

男が………何か呟いている。






「貴方は、あくまでも…………。」





『……………」






ジジッ…………………



崩れ去った街の中。

女が………叫んでいる。






「やめて!もうやめてよ!」









『………無理ダな。』






ジッ…………………

酷く、耳鳴りがする。



『俺ハ』



ウルサイ。




「俺自身の為ニやってイる。』








ザーーーーーーッ







▲◆▼▲◆▼▲◆▼▲◆▼▲◆▼▲◆▼▲◆▼▲◆







「……………」

目が覚めた。
ぼやけた輪郭の雲が見える。
と、何かが景色を遮るように俺を見下ろしてきた。

『あっ!?大丈夫ですか、主よ!』

影がこちらを覗き込んでいる。

「………あぁ、多分。」

なんだか懐かしさを感じる。
つい最近も、こんなやりとりがあったな。

『そうですか、それは良かった………』

胸を撫で下ろした様子の影にほんの小さな声で呟く。

「………なぁ。」

聞こえることは期待していなかった。

『はい?』

だが、影はそんな声にもしっかりと反応してくれた。
少しでも、聞こえていないことを願っていた自分に嫌悪感を抱きながら、呟く。

「俺たちは、負けたのか?」

『……………』

胸が痛む。
まだ、あいつとの戦いの傷が癒えていないのだろう。
俺の口からは勝手に言葉が溢れでる。

「俺たちはこれだけ長い間、年数を数えるのをやめるほどの年月を過ごしてきた。
それでも、俺はあいつに勝てなかったのか?
八坂神奈子の時もそうだ。」

俺たちは、まだ勝ち星をあげられていない。
強いて言うなら洩矢諏訪子だが、あいつもまだ生きていた。負け続けだ。

「なぁ。俺たちは………弱いのか?」

神をも越えるだけの年月を過ごし、尚それでも俺たちは勝てないのか?

『……主よ、それは違います。』

影が絞り出すように言うのに被せて呟く。

「………いいや違わない。
俺達には、やっぱりこれ以上進むのは………」

『………それ以上は言わないで下さい。
それを言ったら、もうおしまいです。』

俺の言葉に、感情が溢れ出る。

「……っ!いいや!言わせてもらうぞ!
俺は死に物狂いで頑張ってきた!
不老のために腕を切られようが、何千万年と生きる事になろうが!」

「だが、それでも超えられない!
何故だ!どうしてだ!一体俺に何が足りない!
俺は何かおかしいことを言っているか!
答えろ、影っ!」

『主よ、落ち着いてください。』

「落ち着いてられる訳ないだろ!
何故だ!何故負ける!俺は何故負けた!
俺の努力は全て無駄だったのか!
俺には!何も変えられないのか!」

堪らず地面を叩く。
叩いた手からは、不思議と痛みを感じなかった。

『………私には、今の貴方が見ていられません。
だって貴方はあまりにも………』

言われてハッとなる。
なんだか、頬の辺りが生暖かい気がする。

『………主よ。私は永遠に主の味方でございます。
落ち着いたら、また呼んでください。』

「…………」

そう言うと、影はトポンと地面の中に消えてしまった。

「………………」

「くそっ………」

地面が、雫で一段と濃く染まった。

















『………落ち着きましたか?』

「……あぁ。怒鳴りちらしてすまん。」

しばらくした頃には、俺も落ち着いていた。

『いいえ、気にしておりませんよ。』

「だが………」

『一応、最初に申し上げておきますが。』

そう言うと、影はその場に座り込む。
釣られて、俺も地べたに胡座をかく。

「ん?」

『別に私とて、負けたら悔しくはないという訳ではございませんからね?』

「そうなのか。」

『私たちが戦って負けたのは、まさに『生ける神話』と『イレギュラー』でございます。
イレギュラーの方ならともかく、私達は生ける神話を相手取り生きているのですから、そう悲観する事もないのでは?』

つまり、負けたのは仕方ないのだ、と言いたいらしい。

『そしてもう一つ。
我等は洩矢諏訪子に勝っていますよね?』

「……あぁ、お前の言っている事が正しい。
だがな、洩矢諏訪子には勝っていないんだよ。不意打ち気味で倒せたのを勝ちとは言えん。」

『いいえ。倒せれば勝ち、倒されれば負けでございます。倒す手段が毒殺であろうと、暗殺であろうと、敵を裏切らせる事であったとしても勝てば良いのですよ。』

「……いいや。俺はあいつらに正面きって戦い、倒さなければならん。」

『……どういうおつもりですか?』

「さぁな。俺にももう分からんよ。」

『………主よ、もしかして厨二びょ「殴るぞ。」

………沈黙。
影が口を開く。

『……失礼いたしました。ですが主よ、本当に私からしてみると厨n「殴るぞ。」

「そんなもん中三の時にとっくに卒業したっつーの……」

全く何時の話だ。
あれは本当に将来になってからダメージが来る厄介なタイプだ。
過去に行ったら真っ先に抹消したい記憶だ。
にこりと影が微笑む。

『………ふふっ。元気が出ましたか?』

なんだか無性に恥ずかしい。

「図らずも、な。」

『それは良かった。』

「…………ありがとうよ。」

『いいえ、お気になさらず。』

なんだかスッキリとした。
次に自分のやるべき行動が頭に浮かんだ。

「………まぁとにかく、だ。
気持ち切り替えて進むとしようか。」

『えぇ、それが宜しいかと。』

「影、次の時代に進むぞ。」

『承知致しました。』

さて、次の時代は恐らくかぐや姫だろうか。
年代的には妖怪の横行する時代、平安。

「俺はしばらく寝る事にするよ……」

『また着いたら知らせますよ。』

………ふと気になった。次の時代は平安だ。
という事はつまり、次の時代にはあの男はいない、という事になるのか?

あいつが人間であれば、の話だが。

そんな事を考えていると、疲れからやってくる睡魔が俺に襲いかかる。
俺はそれに抵抗する事もなく、ゆっくりと眠りに落ちていくのだった。







いかがだったでしょうか。
この話も着実に進んでまいりまして、そろそろ3章に突入です。
これも皆様のおかげです。

いつものように感想は大募集中ですので宜しければどうぞー。


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no number 不思議


書溜めがあると、安心しますね!
そんな気持ちになるのは私だけでは無いはず。

では、どうぞ。






「どうもどうも。
お久しぶりでございますね。」

もう既にスポットライトはついている。
照らし出すのは、白いシルクハットにタキシード、黒のマントとバツ印の仮面の奇妙な男。

「さて、この言葉をご存知でしょうか?」

「『神は死んだ。』
これは時代の哲学者、フリードリヒ・ニーチェが残した言葉でございます。」

仮面の男は、部屋の隅にある椅子を引きずってこちらに持って来て、座った。

「それもその筈、科学に支配された現代社会では、神などという非科学的、そして抽象的な存在が存在するとは誰も信じません。
勿論、神頼みという言葉もあるように、全く信仰されていない訳ではありませんが。」

「例えば末法、神がいなくなるので世界が滅びるだとか、そんな事は今となってはもはや信じる人もいないでしょう。」

身振り手振りを交え、仮面の男は続ける。

「そちらの方の意味では、成る程確かに神は死んだと言えるのかもしれません。」

「あ、勿論どうでも良ければ、聞き流して頂いて結構ですよ。
私の話は、大方非生産的でございますので。
私自身それは十分理解しているつもりなのですが、いかんせん私は非生産的なほうが好きなようでございます。」

「まぁ、このように世界には面白い発想を持つ者もいるという訳でございます。
これはある種の『天才』と言えるかもしれませんね。」

「どうやら残念な事に、私は頭の天才の仲間入りは果たせなかったようです。
とはいえ、事実ヒトの才と言うのは何処かで均一がとれているものです。」

「まぁ、私も一度だけ他のヒトに『語りの天才』と呼ばれた事もありましたが。
やはり私の才能は語り部に向いているんでしょうかねぇ?」

仮面の男が突然首をかしげる。

「……ところで先ほどから気になっていたのですが。どうしてその様な神妙な顔をしていらっしゃるので?」

「はぁ。物語の中に私に似た人物が出てきた、と。」

男は足を組み、続けた。

「何度もお話はしたと思いますが、これはあくまでも物語でございますよ?私に似た人物の一人や二人出てきてもおかしくは無いのでございます。」

「まぁ、一応この様な反応になるのは想定の内なのですがね。
……はい?私が手に持つ紫色の杖は何か、ですか?」

男の左手には、確かに紫色の杖が握られていた。それを片手で器用にくるくると回しながら、答えた。

「…………単なる杖でございますよ。
まぁ、これが偶然ではなく必然では無いのか、と言われてしまうと私としても『No』とは言えませんねぇ。」

「まぁともかく、でございます。
仮陽影人の冒険は続きます。悠久の時を経て、諏訪大戦を観測し、そして神と相見えた。」

「ですがまだまだ。
彼の【承】はまだまだ終わる気配を見せません。これでやっと五分の二、といったところでしょうか。」

「物語の舞台は神々の住む時代から、妖怪達の巣食う世界、平安へと移されます。」

「彼はやはり面白い。
運命というのは、いつも彼に糸引かれている様です。その先にどんな結末が待っているのやら。」

仮面の男はこちらを凝視……しているのかどうかは分からないが、こちらに顔を向けていった。

「……おや、私の事について何か考察でもしていらっしゃるのですか?
くっくっく………愚かですねぇ。」

「もうお忘れですか?
【知識を持つのに何も考えない者は賢いが、無知であるのに考える者は愚かである。】
で、ございますよ。」

「貴方様の考察は中々鋭くございます。
ですが、やはり材料が足りませんね。
如何に天才的な考察力を持ってしても、情報が無ければ、それは全て無意味なことに成り下がってしまいますので。」

「おや、熱く語ってるともうこんな時間ですか。時は金なり、とは言いますがもったい無いことをした気分では無いですね。」

男はまた椅子を引きずり、部屋の隅に置いた。
暗闇の中に男は消えていく。

「あ、また今度会うのは大分先になるかもしれませんね。
何故かって?秘密でございますよ。」

「ではでは。」

スポットライトの光は

いつもの様に

消えた。





















「…………くくっ。」







いかがでしたでしょうか。
感想、及び誤字報告募集中です。
ちなみにログインしてなくても誤字報告等は出来ますので、是非是非お願いします。


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第3章 月夜と妖怪のエタニティ 30.曇天


さて、第3章。
遂に始まりました。

……現在テスト週間ですが。
では、どうぞ。




さて、何時もの影の中。

「………」

『主よ、何をしていらっしゃるので?』

影に声をかけられ、集中が途切れた。
まぁ、そんなに集中してた訳でも無かったせいですぐに気が散ったのだが。

「ん、あぁ。武器の創造中だ。
………やっぱり複雑な武器は無理みたいだな。」

一体何時だったかは忘れたが、拳銃を作ろうとして中身がスッカスカのが出来たことがあったのだ。
しかも一週間も寝込んで踏んだり蹴ったりだった。

『物体の内部の細分化は、それこそ数年行動不能になるくらいの力が必要ですから。
下手すると死んでしまいますよ。』

「それは御免被りたいな。」

どうやら『創造』の力っていうのは戦闘向けでは無いらしい。敵と対面しているときに創造なんてしたら………気絶してジ・エンドってところだろう。
そんな死に方はお断りだ。

何にせよこの影の空間。
殺風景だったこの空間には色々と物が置いてある。

例えばそこの文机。
創った時に二週間寝込んだ。

椅子。
一週間。

剣。
三週間。

カーペット。
一ヶ月。

スッカスカの拳銃。
一週間。

畳んである布団。
一ヶ月。

……正直文机と椅子辺りは自分で木を切り倒して作った方が早かったのでは無いかと思っている。
創造の練習だと思って割り切ったが。

まぁ、こんな感じで俺の創った物が置いてあるのだ。
何だか生活感が出ている気がする。そんな所に拳銃と剣っていうのもおかしな話だ。

「さて、今回は何を創ろうか……」

さて、剣はもう出来ている。
やはり無難なところでナイフだろうか?
刃渡りを決めるのがやや面倒であるせいで、剣を作ってからは暫く候補に上がらなかった。だが、よくよく考えてみると、結構便利な訳で。
ああでも無いこうでも無いと考えていると。

『主よ。ご想像のところ申し訳ないのですが。』

「ん?」

影はいつもと変わりない様子だ。
いわゆる黒髪ロングって奴だろうか。
そいつを揺らしながら影は言った。

『そろそろ平安の時代でございますよ。』

「おお、そうか。」

そう聞いて反射的に伸びをする。
ついでに欠伸も出そうになった。
閉鎖的空間にいて解放された時に、伸びをしたり欠伸をするのは俺だけじゃ無いはずだ。

「やっぱり長えなぁ………」

『古代から諏訪までの時代を生きなさっているのに、今更何を仰っているんですか?』

「まぁ、普通に考えて長いだろ。」

『御尤もですね。』

こんなところで自身の感覚がずれていないことを再確認するとは……
嫌悪感に苛まれながら体を傾けると、どこかの骨の間からポキリといい音がした。

「さて、とっとと出るか……」

『今度は出るタイミングを計り損ねて、何て事は致しませんよ……?」

「知ってるわ。
というか逆に出てこないと困るんだよ。」

『えぇ、仲間外れというのは勘弁願いたいものですから。では、開きますよ?』

影が地上との扉を開く。
さてさて、ドキドキとワクワクの平安京にレッツゴー………

「………いや待て待て待て。」

『どうか致しましたか、主よ?』

「どうか致しましたか、じゃねぇよ。
前これで出て行ったらえらい目にあったじゃねぇか。」

『……………あぁ。』

気の抜けた声で影は返答しているが、割と前回は危なかった。
正直、自分でも無計画な行動だったと反省しなかったことも無い。

「……ちなみに、だ。
此処から出ると何処に出るんだ?」

『えぇと………どなたかの民家の中ですね。』

「完全にアウトじゃねぇか!」

危なすぎる。
何でこう、わざわざ細かいところに罠が仕掛けてあるんだ。
邏卒に捕まり、俺の冒険はここでおわってしまった!なんて虚しい絵面は見たくない。

『まぁでも、もしかすると泥棒的な意味でギリギリセーフの可能性も………』

「ねぇよ。というかその線もダメだろ。」

逆に何がセーフなのか教えて欲しい。

『冗句ですよ。』

「無表情で言ってんじゃねぇよ。」

何とも笑えない冗句だ。
しかも真顔とは、何とも判別し辛い。

『まぁともかく、都の外に向かいますね。』

「あぁ。」
















『着きましたよ。』

五分もしないうちに影に呼ばれた。
どうやらもう都の外に出たらしい。

「わかった。ここから出れば安全なんだな?」

『えぇ。保証致しますよ。』

さぁ改めて、ドキドキとワクワクの平安京にレッツゴー!

「よいしょっと……!」

影を潜り抜ける、すると










目の前には大量の民家。
人々達の生きる活気的な声。
そして赤と白を基調とした美しくも厳格な都市が広がっていた。
その名も平安京。

此処こそが、俺の放浪の本格的な始まりであり、そして万事に繋がる時代。

新たな発見を探す旅に対する好奇。
そしてこの時代に対する不安。

空はそんな俺の心を示すかの様に、快晴の筈の青空にはどんよりと雲がかかっていた。







いかがでしたでしょうか。

何時ものように、感想大募集中です。


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31.失敗


七夕でも関係なく投稿していくスタイル。
ちなみに願い事はまだ考えていないです。

ではどうぞ。




「……………」

ザワザワ………

『……………』

ザワザワ………

「……………」

ザワザワ………

『……………』











……さて、突然だが簡単に現在の状態と経緯を説明しよう。

『あぁー……失敗しましたね……』

「おい。」

『なんでしょう。』

「………何で俺たち、捕まってんの?」

『………いや、まぁ、そりゃあ影の中からいきなり出てきた私たちを門兵が見たら捕らえるに決まっているでしょう?』

「じゃあ何でお前はわざわざ門兵の前で外に出るように促したんだよ!」

「おい!静かにしろ妖怪どもが!」

つまりはこういう状態である。
虚しい………

「あああぁ!腹立つぅぅぅ!!」

『主よ、少しは冷静に……』

「お前は冷静過ぎるだろうが!
ちょっとは反省しろこのバカ!!」

何でこう、いちいち時代が変わる度にハードモードを選択しなきゃならないんだ。
もうちょっと普通の生活を送らせて欲しい。

『しかし主よ。此処から抜け出す方法なんていくらでもあるではありませんか。』

俺たちは現在、後手の状態を縄で固定されている。確かに、抜けようと思えばやりようはいくらでもあるだろう、が。

「何言ってる。その後が肝心だから逃げるにも逃げれないんだろうが。」

妖怪として捕まえられていた男女が逃走した。そんなことがあれば、俺たちは絶対に平安京内に生きる事は出来まい。
しかも、だ。

「………あれが妖怪か……」

「あぁ、おぞましい………」

「見た目は人間っぽいな………」

「馬鹿っ、騙されるな。そうやって騙したところを丸呑み、だ。」

このギャラリーの数である。
かぐや姫に会うことなど勿論、指名手配書なんて出た日にはおいそれと町すら歩けまい。
まぁこの時代に指名手配書なんてあるかどうかは知らんが。

「おい貴様等!さっきから煩いと言っているのが分からんのか!」

「お前らの方がうるせぇわ!
大体俺は妖怪じゃないって何度も言ってるだろうが!」

「だったらその右腕は何だ!」

「ああ!?これは………」

…………あぁ、成る程。
俺の右腕は肩から全て影で出来ている。
真っ黒く炎のように燃え盛る右腕を見たら、確かに妖怪だと思うだろう。
この門兵の怪訝そうな目線も分かる。

「……ほら、あれだよあれ。
目の錯覚だよ目の錯覚。」

とりあえず適当に誤魔化してみる。

「黙れ!貴様らは此処で打ち首だ!」

ダメだった。
嘘なんてつくもんじゃなかった。

『打算的ですねぇ……』

「しばくぞ。」

相変わらずだが悪びれた様子もなく無表情の影。何だか苛立ちを通り越して呆れてしまった。

『ですが主よ。意外と落ち着いていますね。
もっと取り乱すものかと思いましたが。』

「あぁ。経験の所為かな……」

……あぁ、重ねて言うが虚しい。
こんな所で達観してしまっているなんて。
全く誰の所為だと思っているのか。

「貴様等は悪しき妖怪として打ち首にした後、晒し首にする!
精々、この平安京に足を踏み入れたことを後悔………ぬ?」

すると突然、男が袋から水晶玉のようなものを手に取った。
何も映っていない水晶玉を覗き込む男。
……そして、訪れる静寂。

「……どうしたんだ?」

「処刑は……?」

「何かあったのか?」

観衆たちもざわめきだす。

『……どうしたんでしょうか?』

「さぁ?実はあいつ電波だったとかいうオチじゃ無いだろうか。」

『無いですね。』

さいで。
まぁそんな冗談は置いておいて、だ。

「………っ!…………!!」

マジで何やってるんだこいつ。
水晶玉を見ながら口をパクパクさせてやがる。意味がわからん。

「……本当に電波じゃね?」

『いいえ、彼の汗の量凄いですよ。
………もしかすると、私達の想像の範疇を超える出来事が起こっているのやもしれません。
知りませんが。』

……確かに、言われてみると尋常では無い汗の量だ。何か嫌な予感がするのは気のせいだろうか。

「おい!どうしたんだよ!
とっととこの妖怪の死刑を始めろ!」

突然、野次の中の一人がそう叫ぶ。

「……お、おお!そうだそうだ!」

「早く始めなさいよ!」

それにつられるかのように野次が飛び交う。
ふざけんな、処刑されて堪るか。

「うるさいッッ!!
今はそれどころでは無いのだ!!
黙っていろ大馬鹿者共がァァァ!!」

一喝。
辺りがしんと静まり返った。
いや、お前がうるさい。

「…………っ!聞けッ、民衆よ!!
今現在、この街の北部に鵺が出没している!!」

「鵺!?」

「何だと!?」

鵺という単語を聞くや否や、一度に騒ぎ立てる民衆。
それを超える大きさで、男はまた叫んだ。

「それに伴い、この男の処刑は一時中断とする!!各自、鵺の侵攻に備え万事抜かりなく!!」

「に、逃げろぉぉぉ!!」

「うわぁぁぁぁ!!」

叫びながら、時には声にならない声を上げながら民衆たちは散り散りに去っていった。

「鵺というと………」

『過去の文献に記されし妖怪………ですね。』

「………封獣ぬえか?」

赤と青の珍妙な翼に黒服の少女、封獣ぬえ。
それが今回の鵺と合致するかはわからないが、もしかするともしかするかもしれない。

『かも知れませんね。』

これで八意、洩矢、八坂と合わせて4人目の原作キャラになるかもしれん。楽しみだ。

「おい貴様ら!何を呑気に話している!」

「はぁ?偉そうに言うなら俺のこの後の行動を命令しろよ。お前が何も言ってこない所為で俺たちが話していて何の問題がある?」

『御尤もですが、私達は偉そうに言える立場では無いのでは、主よ?』

「はっ!謂れのない罪で捕らえられてんのに、俺達の立場もクソもあるかよ!」

「チッ、妖怪風情が偉そうに………
おい!貴様らは一旦解放されることとなった!
何処なりと好きなところに行くが良い!」

『随分と緩い処罰ですね……』

「ただし!もし貴様らがまたこの土地を跨ごうものなら、その時は貴様らを処刑する!
二度と、この平安京に足を踏み入れるな!」

ビシッと人差し指を向けて言われた。
……なんだか満足そうな顔をしてるな。

「ほう、俺に対してそこまで言うか。
だったら俺にも考えがあるぞ?」

「………ほう。貴様、何かする気か?」

「何もしねぇよ。
……この俺を鵺の所まで連れて行け。」

刹那、男の目が見開かれる。

「はぁ!?せっかく解放されたのなら逃げれば良い話だろうが!
大体、貴様鵺のところに向かって何をするつもりだ!?」

「はぁ?そんなもん一つしか無いだろ?」

『………何故か嫌な予感がするのですが。』

影の頬に冷や汗が一滴流れる。
……まぁ、大体予感は合ってるな。

「さぁ、鵺退治と行こうじゃないか!」

「………これだから、妖怪の考えは良くわからん。」

男は溜息をつきながら言った。
だから、妖怪じゃねえっつーの。



いかがでしたでしょうか?

次回あたりはおそらく番外編を挟むと思います。
本編をお待ちの方はご了承下さい。


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sub episode 黒き者達

今回は番外編となっております。
物語にはそこまで影響しません。
ではどうぞ。





ある日の昼下がり。

「ふわぁ………」

穏やかな陽光に包まれ、眠気が襲ってくる。
今は影の外、それも森の中。
俺曰く、人は太陽光に当たるべき。
影曰く、ごもっとも。
そして今に至る。

「やっぱり日の光にはなんか不思議と力があるなぁ……」

川の近くで寝そべり、木漏れ日を受けながら俺はそう呟く。
こんな良い天気、眠くならない訳がない。
眠くならなかったら、それは徹夜して変なテンションになってた昔の俺だけだろう。
……思い出すと恥ずかしくなってくる。

『私もそう思いますよ。
私達を生み出したのも、元はと言えば太陽光ですから。』

影は川の中でふよふよと浮かんでいる。
影ってふやけるんだろうか。

「確かにな………んで、状況は?」

『上々です。』

そう言うと、水面で遊んでいた影の手が凄まじい速度で水の中に突っ込まれる。
暫くして、影が川から手を出した。

『はい、どうぞ。』

川の中から出てきた影の手に捕まえられていたのは、銀の光沢を持った川魚。
名前はなんというのだろうか。

「おお、美味しそうだ。」

『そうですね。まぁ私には食事をしないので分かりませんが。』

「元も子もない事言ってんじゃねぇよ……」

川魚をさらりと手掴み。
少なくとも俺には出来んな。
相も変わらず影の運動能力にはうんざり、もとい感嘆させられる。

『どう致しますか、この魚?』

「適当に焼いてくれ。
焼けばきっと大丈夫だと思う。」

『承知いたしました。』

焼いて食べられない魚はあるまい。
すると、影の手の中に黒い塊が現れた。
どんどんとそれは形を形成していき、暫くすると真っ黒い刃物状の形をとった。

「……なぁ、ところで気になったんだが。」

いや、本当に些細な事なのだが。

『何でしょうか、主よ?』

影は俺の話半分で魚を真黒い刃物で捌き、内臓を取り出す。しかも手の上で。
今ではもう慣れたが、最初に見た時は何事かと思ったものだ。

「お前さ、その……」

『何ですか?何かあるのであれば手短にお願い致します。』

俺が話を溜めている間に影はさらりと影の串を生み出す。そして魚を刺した。

「……服ってワンピースしか着ないのか?」

『あぁ、その事ですか。』

影がくるりとこちらを振り返る。
圧倒的なまでに黒く、そして風に吹かれてひらひらと舞うワンピース。まぁそれは良い。
だが、数千年と過ごしてきてコイツのワンピース以外の姿を見た事がない。

『まぁ私の場合、服を着ていると言っても着ていないのとあまり大差ありませんので、気にしませんが。』

「いや、お前が気にしないのは良いんだがな?
そうじゃなくて他に着るものはないのか、って事だよ。」

影は首を傾げた。

『何故です?別に良いではないですか。』

ごもっとも。
そもそもそんな事は数ある異常の中で些細に過ぎないものなのだ。

「流石に水の中にワンピースでダイブした時は俺も驚いたぞ……
まぁ、正直言うと変えてもらわなくても良いんだが、単に俺が気になるだけなんだ。」

だが、気になるものは気になる。
嗚呼悲しきや、人の性。

『そんなに気になるのであれば変えましょうか?』

「……出来るのか?」

『一応、出来ますね。
何が出てくるかは分かりませんが。』

「びっくり箱かよ。」

『冗談でございます。』

冗談か。
分かりづらい。

「何処までがだよ。」

『姿は任意で変えることができます。』

顔の表情は変わらない。
何だか呆れてしまった。

「……じゃあ、とりあえず姿を変えてみてくれ。」

『しばしお待ちを……』

そう言うと、影串の刺さった魚を地面に刺してトポンと地面に消えていった。

数秒後、影は服を変えて現れた。

『いかがでしょうか。』

「うん、良いんじゃないか?
……なんでメイド服なのかは突っ込んで良いのか?」

なんか全体的に白っぽいメイド服。
黒い長髪がよく映えて美しい。

『主の好みでしょう?』

そういうと影はその場でくるりと一回転する。
黒い髪が風になびき、光を浴びて艶めいた。

「違ぇよ。勝手に捏造するな。」

こうやってさらりと嘘を真顔で言えるあたり、こいつに若干の悪意を感じる。
だが本人にはいざ知らず、無表情はいつものことなのでタチが悪い。

『奉仕する者の立場として最も印象の強そうなものを選んだ結果でございます。』

メイド服の裾を持ち上げて、一礼。
様になっている。

「まぁ間違ってはいないな。盛大に間違えてはいるが。」

『では私の着せ替えショーでもいたしますか?』








……今なんて言った?
唐突すぎて理解が遅れたが、俺は冷静に応えた。

「なんでそうなる。」

『そういう目をしていらっしゃったではありませんか。』

また真顔である。
こいつ本当に悪意はあるまいな?

「この目は魚を焼いてくれ、という目だ。」

少し意地悪く返してみた。
すると影はいつもの無表情を崩し、目を見開き口を開けて言った。

『……失礼しました、私としたことが。』

うむ、こいつにしては珍しい表情だ。

「まぁ、そんなに着せ替えしたいならせめて焼き終わってからにしてくれ。」

少し冗談を交えて返してやる。
すると、影の頬がほんのりと赤みを帯びた。

『ち、違いますよ?断じて違います。
決して他の服を着てみたくなっただとか、そういうことではありませんからね?』

………明日は嵐じゃないだろうか。
もしかしてオーロラとか出ないだろうな。

「全く何言ってんだか……」

珍しい影の表情はともかく、魚はまだ串の入ったまま放り出してある。
しょうがないので火を起こして自分で焼いた。

「………美味いなこれ。
おい影、さっきから何してるんだ?」

『………何でしょうあれ?』

影が木を指差す。

「ん?どれだ?」

『あれですよ、あれ。』

影の近くまで寄って指差す方を眺めた。

「………なんだあれ?」

その先には黒い物体。
形は楕円形で、何だか何処かで見たことがあるような気がする。

『何でしょうね。』

「つついてみたらどうだ?」

『そうですね。』

影が黒い棒を生み出し、その物体を突く。
そうすると黒い物体はポロリと取れて、地面に落下した。
すぐさま近くに寄って観察する。

「おい、これって……」

『……ゴキブリですね。』

刹那、そのゴキブリもとい黒光りする物体はこちらに向かって飛んできた。

「にっ、逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!!」

俺はそれから逃げるように猛ダッシュ。
あまりの恐怖に影を置いてきてしまった。
合掌。

『………』

とか思っていたら恐ろしい速度で影が俺を追い抜いて行った。
影と俺の距離はどんどんと離れていく。
一方で後ろから聞こえる羽音はだんだんと近くなっていく。

「置いてかないでぇぇぇぇ!!
嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

こうして、俺の自分探しの日々は浪費されていくのであった。






いかがでしたか?
影のメイド服姿、惹かれるものがあるのは私だけでしょうか。
感想募集中です。


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no number 過去

久々の投稿。
久々なのに、割と根幹に関係するかもしれないです。
では、どうぞ。






「こんにちは。」

光が照らす男。
付けているのはシルクハットと奇妙な仮面。
いつもの男だ。
しかし、今回は最初から座っている様だ。

「今日もお越しいただきありがとうございます。いつもの物語をご要望ですよね?」

そう言い、男が右手である方向を指差した。
つられて見ると、椅子が一つ。
座れということだろう。

「まぁ、そのですね、非常に申し上げにくいことなのですが………」

そう言い、男は自分の仮面をコツンと叩いた。

「いやぁ、私そこまで物覚えが良い方ではなくてですね?あの物語を無くしてしまったのでございますよ。」

「正確には何処においたのか忘れてしまった、ですか。」

「これには流石にお手上げでございます。」

そう言い男は両手を首元まで上げ、首を竦めた。

「まぁまだ後輩にはバレておりませんし、猶予はあるのですが……」

男がそう呟いた直後、暗闇の中から甲高い声が聞こえた。

「……あれ?ない!ちょっと先輩!
あの本一体どこにやったんですかー!?」

「……口は災いの元とはよく言いますが、まさか自分に降りかかるとは予想外でした。
重ね重ね申し訳有りませんが、少々席を外させていただきますね……」

そう言い男は席を立ち、暗闇の中へと消えていった。













数分後。
帰ってきた彼の手元には物語らしき本が一冊。

「どうもどうも。」

「失礼、彼女と少し話してきてですね、私が無くした本を探して貰える代わりに、交換条件を突きつけられてしまいました。」

「まぁ、今回は私の失態ですね。仕方ありません。」

男は椅子にゆっくりと腰を下ろしながら早口にそう言った。

「ところで、せっかく来て下さった貴方様に何も語らずに帰らせる、というのは『語り部』としての名折れでございます。」

「という事で、適当な本を見繕って持って参りました。」

そう言い、男は本を見せた。

「……何の本かと?」

「確かこれは………例の青年、仮陽影人の過去の話でしたかね?」

「ネタバレにならないのか、ですか?
恐らくならないと思われますよ。保証は致しませんが。」

「題名は……『仮陽影人の経験』ですか。」

「まぁ良いですか、それでは……」








仮陽影人の経験





今は夜の……何時でしょう?
なんだか変な音がしています。

グチャッ

グチャッ

戸を開きます。
真っ暗ですが、辛うじて人影が見えます。


グチャッ

グチャッ

近づいてよく観察。

「……………」

おねぇさん……ですね。
こんなところで何をやっているのでしょう。

グチャッ

グチャッグチャッ

グチャッグチャッ


「……………………」

髪は長いけれど、色はわかりません。
まるでモノクロの世界のようです。
不思議です。


グチャッ


急に目の前のおねぇさんが振り返ります。
僕を睨みつけた目は、妖しく紅く血走った目でした。


グチャッ

白黒のおねぇさんの中で紅く光る目。
なんだか怖いです。


グチャッ



「………ねぇ。どうしておねぇさんはこんなところにいるの?」

僕は興味のままに、目の前のおねぇさんに話しかけてみました。


グチャッ


グチャッ


「………さぁね?……もう……私にさえ分からないわ。」

おねぇさんはこっちを振り向こうともしません。寂しいです。

グチャッ


グチャッ


「ねぇ……私も聞いてもいいかしら?」

おねぇさんが話しかけてきました。


グチャッ



グチャッ


「なぁに?おねぇさん。」


グチッ


「なんで………私はこんなところに………うっ………いるのかしらっ………」

突然、おねぇさんが泣いてしまいました。



「おねぇさん。なかないでよ。どうしてそんなにないてるの?」

「分からない………もうっ………何も分からないわ………うっ………」

いったいこんな時、みんなはどうするんだろう?僕には分かりません。



「おねぇさんがなんでないてるのか、ぼくにはわからないよ。」

「ねぇ……どうして?どうして貴方はそんなに残酷なの………?」

ざんこく?ざんこくってなんでしょう。



「ざんこくってなぁに?」

「……どうして………こんなことに……」

おねぇさんは一人で呟いています。



「ねぇおねぇさん。ざんこくってなぁに?」

「……残酷って言うのはね……悲しいことよ………とってもとっても悲しい事なの。」

ざんこくって言うのは悲しい事だそうです。
でも不思議。僕は悲しくありません。



「ぼくはざんこくじゃないよ。
だってぼく、かなしくないもの。」

「…………ううっ………」

おねぇさんはまた泣き出してしまいました。

「おねぇさん。なかないでよ。」

「だって………!」




ズズッ

その時、部屋の扉が開く音がしました。

「おい………そこにいるのは誰だ?」

扉の前に立っていたのは、背の高い男の人です。

「……おにいさんだぁれ?」

僕は、また興味のままに名前を尋ねます。




「あ、貴方………!!」

「こ、これは一体どういう………!?」

おにいさんはおねぇさんを見てびっくりしたみたいです。
おねぇさんもびっくりしたみたい。

「……違うの!これは!これは!」




「ねぇ、おにいさんはなんでないてるの?
おにいさんもかなしいの?」

おにいさんは、何も言わずに泣いていました。不思議です。
どうしてみんな泣くのでしょう?



「違うの……お願い………信じて………」

「………ははっ。」

おにいさんは急に笑い出しました。

「あははっ!おにいさん、なきながらわらってる。へんなかお!」

僕からみると、すっごく変な顔です。



「あーっはっはっは!!
そうかぁ!つまりそういう事だったと!
あの時のアレはここに帰着する訳か!」

おにいさんは笑います。笑い続けます。
ちょっとうるさいです。

「お願い………話を………」

おねぇさんはおにいさんに話しかけているみたい。
でも、おにいさんには聞こえていません。



「そうかそうか!にしても十二分に皮肉の効いた結末だなオイ!
俺は一体、何のために………!」

また、おにいさんの目から涙が落ちました。

「あははっ!へんなかお、へんなかお!」

やっぱりなきながら笑ってるおにいさんは変な顔です。とってもおもしろいです。



「……はーっはっは!!
取り敢えず、あいつに報告しに行かねぇとな!!」

おにいさんは後ろを向いてしまいました。
あいつって誰でしょう?

「待って……!お願い!私は………!私は………!」

おねぇさんがおにいさんの足にしがみつきます。

「うるせぇ黙れ、殺すぞ。」

おにいさんが一言。おねぇさんは放心したように足を離しました。




「おにいさん!とってもおもしろいね!」

僕はおにいさんの顔が面白くて面白くて興味が湧きました。

「あぁそうか、えーっと確か………」

でもおにいさんは、僕の顔を見ると何か考え込んでいるようです。

「……おにいさん、どうしたの?」

「ん?心配すんな。全てがその通りに進むだけだ。よろしく頼んだぞ、チビ。」

「えっ?」

何がよろしく頼まれたのでしょうか。
僕には分かりません。

バチッ

そしてなにかへんなおとがすると、ぼくのしかいはまっくろになりました。















男が、開いていた本をパタンと閉じた。

「……物語はこれでお終いです。」

「まぁなんというか、随分と不思議なお話ですね。読んでいる私ですらやや疑問が残ります。」

男は本を床に置いた。

「この話、オチがない……というか、結局何を示していたんでしょう?」

「……ですが。これは紛れもなく仮陽影人の過去でございます。」

男の話口調は変わらない。
平坦ではないが、さして抑揚もない口調で男は続ける。

「どうしてそう言えるのか、ですか?
これが執筆されたのが、今貴方様に読んでいる「仮陽影人の物語」よりも過去であるからでございます。」

そう言い、男が本の裏表紙を見せる。
そこには小さく『1』と書かれていた。

「『仮陽影人の物語』の裏表紙には『3』と書かれておりました。つまりそういうことでございます。」

「さて……この物語の登場人物は三人。
まず、仮陽影人。
そして、『おねぇさん』『おにぃさん』。」

「この物語の厄介な点は、その登場人物の名前にあります。」

男は、床に置いてある本を指差して続けた。

「題名から辛うじて主人公が仮陽影人である、という事は分かります。」

「ですがその他の登場人物。
名前はおろか、身体的特徴すら分かりません。一体誰なのでしょうか?」

「まぁその答えも、私が無くしたあの本に書かれているのですが………」

男はまたも自分の仮面をコツンと叩いた。

「はぁ……はやく探すといたしましょう。」

そう言い、男は席を立った。

「というわけで本日はここまでとさせていただきます。」

「次にいらっしゃる時までには、例の本を探しておきますので、ご安心ください。」

「では………」

彼がそういうと、スポットライトは何の未練もない様にあっさりと消えてしまった。












「で、物語は何処に置いたんですか?先輩。」

「わかってたら、貴方にパフェを奢るなんて無意味な事はしないのですがねぇ………」



いかがでしたでしょうか?
これは、キーストーリーとでも呼ぶのが適切でしょうかね?
感想、批評、その他もろもろ大募集。


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32.鵺


どうも、クロノス12です。
シャドバって楽しいですよね。
では、どうぞ。




平安京。
その名の通り、都に住む人々の平安を期して作られた都である。
鳴くよウグイス平安京、というフレーズは誰しもが一度は聞いた事があるだろう。

しかし、平安京が作られる前。
つまりはウグイスが鳴く前ということだが、一体それ以前はどうだったのか。
勿論それ以前にも、都は存在していた。

その名は長岡京。
少々博識であったり、受験で習ったり、もしくは今聞いて思い出した人もいるかもしれない。
ともかく、平安京の前には長岡京と呼ばれる都があったのだ。

さて、物事には因果がつきものである。
何故、都は長岡京から平安京へと移ったのであろうか。

答えは単純。
長岡京では不吉な事が相次いだためである。

具体的に言えば、この長岡京の設計をされた者の暗殺や突然起こった飢饉、疫病の大流行などである。

人々はそれらの出来事を重く見て、平安京を造り上げたのであった。

しかし、平安京でも問題が起きた。
それは怪物、いわゆる物の怪と呼ばれる者達の横行である。

物の怪は人を食い殺し、もしくは恐怖を与えた。平安を期する都にはあるまじき姿であったと言えよう。

しかし、人々もただ食い殺されるだけにはいかなかった。そこで組織されたのが妖怪退治であった。
職例を挙げるのであれば、陰陽師などが親しみがあるだろうか。
かの有名な「安倍晴明」も陰陽師であった。

では、妖怪は一種類だけで単調な生物だろうか?
いいや、そうではないことは明白である。

では鵺とは下から数えられるほど弱いのであろうか?
著名であり、姿形もある程度は想像に難くはないだろう。下から数えられたほうが早いとは言えない。

………では逆に鵺とは強いのだろうか?





「はっ、お前みたいな雑魚にやられるか!」

影人の眼の前に控える巨軀。
ベースは虎で出来ているようだが、尾は蛇であり、顔は猿である。
勿論この異形の前に立つ青年、仮陽影人が言う通りに鵺が単なる雑魚の訳はない。
所謂挑発である事は明白だった。

【ギィィィィィィィ………!!】

が、我々の前に羽虫が飛んでいたら鬱陶しく感じ、苛立ちを覚える様に。
その異形もまた、当然の様に憤った。
耳に残る様な、嫌な唸り声。
まるでそれは、この世の生全てを呪っているかの様であった。

『で、作戦はなんでしょう?』

影が手に持った黒い剣をくるりと回しながら尋ねる。

「俺が煽る、お前が倒す。以上。」

さっぱりとした発言の直後、影の回転させていた剣の軌道がブレた。
と、同時に影は小さく溜息をついた。

『はぁ……いっそ清々しいですね。
まぁ、貴方はそういうお方でしたか……
もう良いです。意向に従いましょう。』

影は手に持った剣をポトリと落とした。
しかし、剣は地面に当たって音を立てるわけでなくただ水の様に形を失った。

「頼むぞ、この戦いはお前が要だからな!」

『承知。』

刹那、影が立体物としての形を失う。
影人の視界には、鵺の背後へと回ろうとする影が進んでいくのが見えた。
なるほど、確かにこの様を見れば影人達は物の怪の類いに間違われても何らおかしくはないだろう。

「さて……おい!雑種!
俺を殺してみろ、出来るもんならな!」

左手には黒光りする剣。
右には炎の如く燃え盛る様相を呈している影の義手。

【ギイィィィィィィァァ!!】

が、その黒を前にしても鵺は怯まない。
雄叫びを上げながら、そして地面を砕きながら鵺は一直線に突進。

しかし、影人はそれを見てニヤリと笑った。
持て余していた右手を高らかに空に掲げ、一言。

「喰らえ!黒き束縛を!」

次の瞬間、鵺の影が地面から触手の様に無数に湧き出、鵺の腕足を文字通り束縛した。

【グギッ!?】

予想外の方向からの攻撃に鵺は対応することが出来ず、頭を地面に強く打ち付けた。
地鳴りの様な音がし、辺りから一斉に悲鳴が上がる。
影人は揺れの強さにバランスを崩し、片膝をついたがすぐに元の姿勢に戻った。

「はっ!鈍足風情が俺に向かって突進なんかしたらこうなるわ!頭使え、バーカ!」

そして舌を出しながら、挑発。
鵺の頭に青筋が浮かぶ。

【ガァァァ!!貴様ァァァ!!】

鵺の怒気と共に空気が震える。
更に鵺の腕足の筋肉が一瞬膨張し、腕足を縛り付けていた影はブチリという音を立てて地面に消えていった。

「束縛が………てかお前、喋れるのかよ。」

鵺の束縛が外れても、影人は怯える様子を見せない。それどころか呑気に話す事について驚いていた。
それが、鵺の怒りを加速させる。

【コノ我ヲ侮リオッテェェ………!】

喉の奥から蠢くような低い声。
恨みがましく放たれた言葉はしかし、影人の軽口を抑えるには至らない。

「はっ!わざわざ都にまで入り込んで来たお前の失態だろうが!笑わせんな!」

行動が自由に出来るようになった鵺は、その影人の一瞬の油断を見逃さなかった。
地を蹴り飛ばし、一瞬で距離を詰めた鵺はその右腕を構える。

【アグッ!?】

しかし、右腹部に鋭い痛み。
その影人を引き裂かんとする爪は、それによって留められた。
鵺が痛みのする方を振り返ると、そこには長髪の女性が一人。

『………』

しかし鵺がその影を視界にとらえた矢先、影はまた地面の中に消えていった。
さらに、腹部に刺さっていた黒い槍状の物質も溶け去る。

「おいおい、鵺サマともあろう者が愚かだな。
俺に煽られて不意打ちにも気付かんか。」

影人の表情は至って冷酷。
まるで期待外れな物でも見たかのようであった。

【最初カラコレヲ……!?】

「当たり前だろ。お前ってつくづく救いようのない馬鹿だな。阿呆らしい。」

トドメと言わんばかりに一言。

【………ァァアアアギィィィィャァァ!!】

遂にその一言が、今まで憤慨していた鵺の逆鱗に触れた。

【殺ス!!貴様ダケハ必ズ喰イ殺スゥゥ!!
何ガ有ロウトモ貴様ダケハ必z『オラァァァァァ死ねぇ!!』ガギャッ!?】

べキッと擬音が聞こえてきそうなソレを受けた鵺は、民家を巻き込みながら真横に吹き飛ばされた。

『はーっはっは!!喧嘩を売る相手を見誤るからこうなるんだよ!』

不意打ちしたのは勿論影である。
しかし、それはいつも見慣れた姿では無い。
影の姿は影人が過去に何度か見た、自身にそっくりな姿であった。

「流石の力だな……」

影人の声には、若干の呆れが含まれていた。
それもそのはずである。
あれだけの巨体を、影は拳で吹き飛ばしたのだからその力は尋常ではないだろう。

【ギッ……ガギッ………】

吹き飛ばされた鵺。
その鵺から微かに呻き声が聞こえた。
影人達は近づき、その様子を観察した。

「丈夫だな、まだ生きてるのか。」

流血こそしているものの、まだまだ生きている鵺。尾についている蛇もその衝撃でぐったりとしていた。

『トドメは?』

「要らん。ここまで痛めつければ自分から帰るだろうよ。」

その一言に対して、影は思案顔を見せた。
影人が暫く見つめていると。

『………いや、ちょっと手伝うか。』

影が唐突に一言。
ほぼ脊髄反射のように影人も一言。

「何をだ?」

『なぁに、帰る手伝いだよ。』

そういうと、影は鵺の尾を掴んだ。

『オラァァァァァァァ!!』

影の雄叫びと共に、巨大な鵺の身体は空に飛んでいった。
そして、都の外へと抜けると鵺は都の外に落ち、その衝撃で小地震が起きる。

「……えっ?」

が、影人からしてみればそんな小地震など大したものでは無かった。
そんな事よりも、目の前で起きた事が信じられなかった。

『ふぅ……疲れた。俺は替わるが、あんまり頻繁に呼ぶんじゃねぇぞ?いちいち来るのは面倒くせぇからな。』

鵺を吹き飛ばしたなら、まだ理解出来ないわけではない。
が、鵺を投げ飛ばしたとなると話が変わってくる。
影人は混乱していた。

「あ、あぁ。ありがとう。」

取り敢えず上の空で礼だけを述べると、影はやや不服そうな顔をしながら地面に消えていった。

「……まぁいいか。」

影人は影の力に納得した。
というか、無理矢理にも納得させられた。
目で見たものは疑えない。

「そんな事よりも………」

いつの間にか、影人の周りを陰陽師が取り囲んでいる。
まぁ、当然だろう。

「貴様も物の怪であるな!?
この平安の地より消え去るが良い!」

取り囲んでいる陰陽師の中でも特に影響力が強そうな男性。
その男が一言このように話すと、周りの陰陽師が臨戦態勢にはいる。

「チッ……
結局鵺退治してもこの有様かよ………」

『当然でしょうね。
我々、鵺より強い事が証明されてしまいましたので。』

「まぁ、頭が弱いならああもなるだろうよ。」

影人もしかし、いつの間にか元に戻った影と軽口を叩き合いながらも、臨戦態勢に入るのだった。





いかがだったでしょうか?
いつものごとく、感想批評大募集中です。


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33.邂逅

英検2級面接的な今日この頃。
では、どうぞ。



平安京。
鵺の一悶着により荒れ果てたその北領にて大量の陰陽師が囲むのは、二人の男女。

尤も、男女の風貌はことに奇妙だった。
片方の男は白い服に黒いジーンズである。
更に右手は黒く燃え盛る義手。
その様は、この平安の時代に似つかわしくなかった。

逆に片方の女は、黒いワンピース。
はらりとはためく様は非常に美しい。
が、片手には黒光りする太刀。
その様もまた、この平安の時代には似つかわしくない。

「おいおい!いくらの俺の勝手だからって、鵺を退治してやった恩を仇で返す事は無いんじゃないか!?」

右手を突き出してそう怒鳴ったのは片方の男、仮陽影人。

『全くでございます。
貴方達には先ほど起こった事が分からなかったのですか?
それとも……鵺を倒した我々を看過できない、とでも仰るつもりですか?』

逆にもう片方の女、影は左手を突き出す。
突き出した左手には黒光りする太刀が、その陰陽師の中の一人を捉えて離さない。

『考えれば分かることでしょうが、一応念を押させて頂きます。私達は鵺を倒したのですよ?鵺に相対して体を震わせていたようなら、早く退きなさい。』

凛とした口調で影はそう言った。
勿論の事だが、影は攻撃さえされなければ基本的に攻撃はしない。
彼女がする行為はあくまで「正当防衛」だからである。
影人が命令すればこの通りではないのだが。

「…………………」

しかし、影人達を取り囲む陰陽師達は言葉を発しない。
そして影人達を睨みつける目もまた、変わらない。

「……人の話聞いてんのか?」

その態度に少なからず苛立ちを感じた影人は頭をポリポリと掻き、不機嫌そうにそう呟いた。

『無理もないでしょうね。
だからと言って、彼等から攻撃される理由はございません。反撃はさせて頂きますよ。』

影が左手に構えた黒い一刀の切っ先は、先程影人達に鵺の討伐を依頼した男の方角を指していた。
それは、裏切られた事に対する怒りを込めて。はたまた、鵺退治を依頼した相手に相対せんとする、その神経に敬意を評して。
ともかく切っ先は男の一点を捉えていた。

「っ…………」

捉えられた当の本人は、ばつが悪そうに影人達から目を逸らした。
影から溜息が漏れる。

『彼も彼方側のようですね。
……まぁ、当然ですか。』

影人もまた溜め息をつく。

「彼方側って言っても、お前はともかく俺は同類であるはずなんだかなぁ………」

「…………」

影人達が呑気に話しているのを聞いて、陰陽師達はしかし動けなかった。
影人がこの状況で話していられるその神経に対して、もしくはその隣に立っている女性から密かに発せられている殺気に対してか。
ともかく陰陽師達は只ならぬものを感じていた。

しかし、その空間も長くは持たない。
影が剣を振り下ろす。

『……そろそろ攻撃して下さいませんか?
正当防衛が出来ず、困ってしまいます。』

その言葉に影人は溜息をついた。

「物騒なお誘いだな……だが同感だ。
とっとと攻撃してこい。通せんぼしてても俺たちは倒せんぞ?」

その言葉と同時に、ここまで静寂を保っていた陰陽道達も続々と札を構えた。

「全く血の気の多い奴らばっかりだ……」

そういった影人の右腕が微かに強く燃え上がる。

それは一瞬だった。

一人の陰陽師達が札を構え、突進。
それを皮切りに、他の陰陽師達も続々と影人達を目掛けて突進してきた。

「さぁ……かかってこい!」

影人は、突進してきた一人の陰陽師に剣を振り払い────
















「おらっ………!?」

『えっ?』

影から驚きの声が漏れる。
空を切った剣はその勢いのまま振り下ろされ、その刀身を地にぶつけた。

「…………えっ?」

勿論当の本人もこの様子である。
暫くして、ガシャッと剣が地に落ちた音。

周りを取り囲んでいた陰陽師達は、代わりに木になっていた。
周りを取り囲んでいた古風な建物群は、代わりに生い茂る草木になっていた。
そして影人達が足を踏み入れた平安京は、代わりに鬱蒼とした森林地帯になっていた。

「………………」

『………………』

「………………」

『………………』

沈黙。
言葉はなく、そこには交わされる視線のみ。

「………………」

『……先程までの陰陽師達は?』

静寂を先に破ったのは影だった。
しかしその口調は、質問というよりは疑問口調だった。

「…………影、俺たち平安京に居たよな?」

影人の言葉はしかし其れに返答する訳ではなく、疑問を繋げるような台詞だった。

影人は周りを見渡すと、デジャブを感じた。
そして、昔の何時ぞやの記憶が影人の脳裏を掠める。
神々の時代、突然気絶し近くの森に移動した影人。そこで出会った、アイツ。

【くくくっ……】

(……まさか、な。)

影人は例の過去を思い出し、一人げんなりとしていた。
ただ、この森は少々普通とは様子が違うようだということに影人が気付くのは遅くなかった。

真っ黒い瘴気の様な深い霧。
おどろおどろしい見た目の木々。
この世にこんな場所があったのか、といったような場所である。
少なくとも、影人が見たあの森とは大きく様相が違って見えた。

『……私の記憶が正しければ居ましたね。』

しかし、そんな影人の憂鬱はつゆ知らず影は言葉を繋げる。

『勿論、鵺も倒しましたよね?主に私の右ストレートで、ですが。』

その影の言葉に影人は明らかに不服そうな顔をした。

「はぁ?俺が囮になって鵺を煽ったからだろうが。どちらかというと、俺の方が活躍は大きいだろうが。」

『何を仰います。私の力と速度があってこそでございます。やはりMVPは私の右ストレートです。』

「いいや、今回は譲らんぞ。
俺の囮が奴の気を引いたお陰で倒せたんだ。
これはやっぱり俺にしかできない事だな。」

『そもそも、主は無計画だったでしょうに。
それを実用段階にまで持って行った私が評価されるべきでございます。』

「『むむむ………』」

影人と影が睨み合う。
森の中で向き合う二人。
視線と視線が合い、飛び散る火花。
しかしそれにしては向かい合っている理由が間抜けである。

「……夢なんかじゃありませんわよ?」

そんな二人へ突然声がした。
しかしそれは、若干の呆れを含んだ口調。

「あ?」

『ん?』

影人と影は周りを見渡す。
しかし、目に付くような人物は誰もいない。

『………今の、主ですか?』

「完全に女の声だっただろうが。
俺はそもそもお前じゃないかと思ったんだぞ。」

『まさか、私ではございません。』

「じゃあ、一体誰だ?」

二人はまたも顔を見合わせた。
左右正面背後、この四方に居なければ一体声の主は何処にいるのか。

「まさか……」

そう言い影人は上を見上げる。
影も影人につられて上を見上げた。

「こんにちは、今日は良い天気ですこと。」

「……………」

『……………』

「………警戒するのは分かりますけれど、真っ先に武器に手を掛けるのは流石に失礼ではなくて?」

空に浮いた女性は、影と影人とを覗き込む構図でそういった。

「……解せませんね。」

「あら、何がかしら?」

「貴女が何かは分かります。
ついでに言うなら貴女の名前も分かります。
ですが一つだけ分からなくてですね。」

『……………』

「貴女は何が目的で私に接近したのですか?
八雲紫(・・・)さん。」

「ふふふ……」

空から影人達を覗き込む女性、改め八雲紫。
彼女は妖艶な笑みを浮かべたのだった。





いかがだったでしょうか?
ずいぶん間を空けてしまったのでその点にはお詫びさせていただきます。
感想やら批評やら募集中です。


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第4章 追憶と幻望のクレリティ 34.廻る

お久しぶりです。
こう、自由気ままに投稿していくスタイルは多分永遠に変わることはないでしょう。そう言う性分です。

では、どうぞ。







「…………」

いつにも増して静かな朝。
朝露で濡れた葉が、朝日を浴びて煌めく。

「……あら、茶柱。」

淹れた茶から湯気が収まり始めた頃、彼女はささやかな幸運に気づく。
そしてその茶を啜った。

「…………」

そして煎餅をひと齧り。
パキリ、と小気味のいい音が静かな境内に響く。

「………暇ね。」

誰に聞こえる訳でもなく、彼女は一人ごちる。勿論だが、そんな事を言った所で暇が解消される訳もない。

コツ、コツ、コツ。
そんな暇さ故だろうか、はたまた運命の悪戯か、彼女には小さく足音が聞こえた。

「………幻聴じゃないわね。こんな朝から誰かしら?」

彼女は不思議がった。
こんな朝早くから、行儀良く足音を鳴らす友人は彼女には心当たりがなかった。

足音は彼女へと近づいてきた。
来訪者を歓迎する訳でも、邪険にする訳でもなく、彼女はただ足音のする方に目を向けた。

「………よぅ。」

足音の主は彼女に声をかける。
彼女は大した驚きの様子も見せなかった。

「……何の用?」

「何の用、って事は無いだろ。
なんか用がなけりゃ来るのは不味いのか?」

「生憎こちとらそんなに暇じゃないのよ。」

「それは、炬燵に半身いれてぐったりしながら言う台詞じゃないな。」

そう言われると、彼女は興を削がれたように炬燵の蜜柑に手を伸ばす。
彼女はもう声の主の方向は見ていなかった。

「あんたが来ると碌な事がないのよ。」

彼女は大分投げやりにそう言い放つ。

「随分と酷い言い草だな。個人的にはあいつよりはマシだと思うんだがどうだ?」

「優劣つけられる時点で諦めなさい。」

「ごもっともで。」

そう言い、足音の主は境内に腰を下ろした。
板がミシリ、と軋む様な音がする。

「せめて賽銭でもいれて行きなさい。」

「アイツが入れに行ってるよ。」

そう言い指を指す。
指が刺された方向には、賽銭箱の前に一人の人影があった。

「あいもかわらず、毎回律儀なことだ。」

「貴方も入れなさいよ。」

「阿呆か、二人分に決まってるだろ。
そもそも賽銭の出資者を誰だと思ってるんだよ。」

「あら、賽銭を入れるのに神様にお願いはしないわけ?信心深くないのね。」

「言っとけ。大体、本当に願い事があったら今頃直談判してるわ。」

「これは一本取られたわね。」

「何がだよ。」

二人で下らない事を話していると、賽銭箱の方から足音もなく人影が現れた。
その人影はまもなく、先程の足音の主の目の前で立ち止まった。

『全く、暇なのですか?』

「それは違いないな。」

『ではご自分で賽銭を入れに行っては如何でしょうか?』

「面倒だから却下。」

『まぁどうせそんな事だろうとは思っていましたが……』

「まぁ暇なことは否定しないな。」

そういいちらり、と彼女を見やる。

「なんでこっち見ながら言うのよ。
暇なのはアンタでしょ?」

「俺もだがお前もだろ?」

『どうでも良いですが、そろそろ帰りますよ。今日は少々、予定があります。』

「そうか。名残惜しいが、また来る事にしよう。」

そう言い足音の主は腰を上げた。

「別に来なくて結構よ。」

「そう釣れない事言うなよ、博麗。」

そう言い残し、その二人組は鳥居をくぐって神社を出て行った。
そして、何事もなかったかのように沈黙が訪れる。

「はぁ……」

彼女、博麗霊夢は誰もいなくなった神社で小さく溜息をついた。









「で、今日の予定は?」

鳥居を潜り、階段を降りる途中で男が声をかけた。

『あの方から呼ばれています。
「遅刻厳禁」との事です。』

声をかけられた女は、男の方を向き一言そう告げる。

「そうか。」

『………主よ、何をニヤニヤとしているのですか?』

「そりゃあニヤニヤともしたくなるもんだ。
遂に、辿りついたんだからな。」

「この、『幻想郷』に!」

そう言いニヤリと笑う男、仮陽影人は残りの階段を思い切り駆け下りていった。

階段から見える景色。
自然豊かなそれは、ここが現代とは別の時代だと錯覚させるには十分である。

"幻想郷"。



ここはあらゆるものが住むところ。





"幻想郷"。



ここは現世と隔離されたところ。





"幻想郷"。




ここはー




独自的で不可思議な男その人の、運命の行き着く果てである。





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