とある部隊長の独白 (⚫︎物干竿⚫︎)
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とある部隊長の独白

主人公

階級:中尉
神機:第一世代型
刀身:バスター(クレイモア系)
装甲:シールド(汎用シールド系)

古参の神機使いの一人。

一応の容姿。
白髪の目立つ黒の短髪で、髭剃りなどが面倒なので無精髭が目立つ。
春夏秋冬問わず灰色のオーバーコートを着込み、その下にはー1日十喰と言う趣味の悪いロゴの入ったシャツ。都市迷彩柄のズボンを履いている。


この世界はどうしようもないくらい人間に厳しく、そして何よりも美しい。

そう思ったのは何年前の事だろうか。

 

 

『中尉の周囲にアラガミの反応を多数確認。すぐに移動してください。包囲されます」

 

耳につけたインカムからオペレーターの声が聞こえる。

オペレーターの言葉の中のアラガミとは、人類だけに限らず、この地球上に存在するあらゆる存在にとっての天敵と言える存在だ。

 

アラガミは今から10年ほど前に初めて発見確認されたオラクル細胞と言う細胞生物の集合体である群体生物で、その体を構成するオラクル細胞は“生物であろうがそうでなかろうがとにかく捕食し、取り込み変化する”と言う特徴がある。

 

それでどう言う事が起きたかと言うと、オラクル細胞を持たない通常の兵器群はアラガミの前にはほぼ無効化され人類は身を守る術を失った。なにせ、銃弾なら奴らに着弾した時点で取り込まれるし、刀剣の類で斬ろうとすれば、それも奴らに触れた瞬間取り込まれる。まぁ、流石にミサイルなどの大型質量兵器は一程度の効果は示す。周囲への被害を考えなければ、殲滅も出来るには出来た。

 

だが、周囲への被害を無視すればどうなるかと言えば、都市の壊滅や死傷者だ。それを減らすために抵抗しているのに出していては本末転倒だ。だからこそ、あの頃は正しくこの世は地獄だった。まぁ、今では決して少なくはない犠牲の上にオラクル細胞やアラガミの研究も進み、奴らにほぼ一方的に蹂躙されるような事は無くなった。

 

オラクル細胞を持たない兵器で駄目ならば、オラクル細胞を持った兵器を作ればいい。そうして開発されたのが神機と呼ばれる兵器だ。

俺も持っているが、人が振るうにはあまりにも大きな代物だ。なにせ俺が持っているものなどは、全長が2メートルを越し、幅もすっぽりと俺を隠してしまうほどに巨大だ。とてもじゃないが、普通に考えて人が振るえるようなものじゃない。

 

だが、俺達神機使い。またの名を神を屠る者ゴッドイーターならば扱える。

ネタをバラすとオラクル細胞による身体能力強化だ。俺達神機使いの体内には偏食因子と言う人の手が加えられたオラクル細胞が埋め込まれていて、これによって、神機の使用や身体能力強化などを可能としている。

 

 

 

「さぁて、かかって来いバケモノども」

 

言った瞬間、すぐそこの廃墟と化したビルの窓ガラスを突き破って白い巨体が飛び出してきた。

全体的に見ると、鳥のようにも見えるが全然違う。翼は無いし、何より仮面のような甲殻で覆われた頭部と何かの顔のようにも見える尾が大きすぎる。このアラガミの名はオウガテイル。名前の由来は尾が、このかつては日本と呼ばれた極東地域に古くから伝わる鬼と言うバケモノの顔に良く似ている事からそう名付けられたらしい。まぁ、どうでもいいことだが、

 

飛びかかってくるオウガテイルに対して、俺は横にずれて攻撃を回避して、肉厚で巨大な神機の刃をオウガテイルの横っ腹に叩き込む。頭部と違って、羽毛のような毛に覆われただけの胴は柔らかい。そのまま攻撃を続ける。

 

切っ先は下に柄を上に向けて、半ば背負うようにして構え、真下から一気にオウガテイルの顎に向かって振り上げる。オウガテイルの顎が大きく跳ね上がり、頭部の甲殻にヒビが入る。続けて、神機の柄を両手で握り担ぐように構え、力を溜める。それに合わせて神機の機関部から刀身を覆うように赤黒い光が溢れ、それが3メートルにも達するような光の刀身を形作る。溜めた力を一気に解放し、神機を振り下ろす。

 

オウガテイルの顔の甲殻が完全に割れて、そこから肉とは違う発光する何かが見える。オラクル細胞の集合体だ。この中にアラガミの全身のオラクル細胞を統括するコアが存在し、それを破壊することで、アラガミはその活動を停止する。

 

神機の切っ先を真っ直ぐオウガテイルに向けて、神機に宿るオラクル細胞を解放する。

機関部の上下部が変形し、まるで何かの生き物の頭部のような形を作る。捕喰形態。ある意味で、神機の本来の姿がこの形態だ。神機には、アラガミのコアが組み込まれている。つまりはこれも広い意味では一個のアラガミと言う訳だ。

 

アラガミを使ってアラガミを狩る。なんとも形容がし難いことだが実際、これ以外アラガミひいてはオラクル細胞に対抗する術が無い現状は文句も言えない。

 

捕喰形態となった神機がオウガテイルの甲殻が割れた部分に食い付き、神機がオウガテイルを放した瞬間、糸の切れた人形のようにオウガテイルが倒れ伏し、雪だるまが溶けるようにその姿が崩れていく。コアを失い、オウガテイルとしての姿を保てなくなったのだ。

 

それにしてもおかしい。これだけ戦闘の音をさせているのに、他のアラガミが集まって来ない。どういう事だろうかと考えていると、

 

 

「ひ、ひぃぃいいいい!? た、助けてくれぇぇえええ!」

 

人の声だ。

 

 

「密漁者か……」

 

破棄されたこの都市廃墟はある種の宝の山だ。なにせ、現在は人類が活動出来る範囲が限られている以上、資源も限られてくる。そして、この都市廃墟には廃棄された車などの、再利用可能な資源がそこらじゅうにある。今の悲鳴の男もそうだが、食い詰めた連中がこうして出張って来てアラガミに食い殺されると言う事例は後を絶たない。

 

 

「要救助者を確認。直ちに保護する」

 

『了解です。すぐに撤退ルートを送ります』

 

「了解……さて、とそれじゃあ人命救助と行くか」

 

 

瓦礫を軽く蹴って飛び越していく。これもまた神機使いとしての異常なまでの身体能力の賜物だろう。

さっきの声を辿って行くと、そこには壁際に追い込まれたいかにも食い詰め者と言った風体の男と、それを追い詰めるように扇状に包囲している6匹のオウガテイルと巨大な猿のようなアラガミが1体いた。この猿のようなアラガミの名はコンゴウ。それなりに危険な部類のアラガミで、新米神機使いにとっての脅威とも言うべきアラガミだ。まぁ、1番恐ろしいのは群れた雑魚アラガミだがな。

 

腰に付けたポーチの中から手投弾を取り出す。これはスタングレネード。アラガミ出現以前から今に至るまで現役の数少ない兵器のひとつだ。相手の視覚を奪うこの手投弾には殺傷能力は無いが、アラガミの足を止めるという事に関しては優れている。

 

 

「目をつぶれ!」

 

 

包囲網の中に飛び込み、男にそう指示をして、手投弾を地面に叩きつけるようにして投げる。世界が一瞬白く染まる。そして、アラガミの動きが止まる。視界を奪われて混乱している。その間に俺は男を肩に担いでさっさと逃げる。

 

相手にできなくも無いが、非戦闘民と言う重りを付けながら相手出来るほど驕り高ぶっちゃいない。て言うか、驕り高ぶった瞬間この世界では死ねる。

 

 

 

幸いなことにアラガミ達は追いかけて来なかった。スタングレネードへの抵抗力が薄いまだ若いアラガミだったのかは知らないが、まぁ助かった。おかげですんなりと脱出地点でヘリに乗っておさらば出来たんだから、

 

 

「とりあえず、これに懲りたら外に出るのは諦めることだな」

 

隣で下を向いて何も言わない密漁者の男にそう言う。

向かい側には俺と男を回収した後、別のポイントで乗って来た同じ隊の神機使い達が座っていて、雑談に興じている。

 

「仕方ないじゃないか……配給だけじゃ辛いんだよ……神機使いには分からんだろうけどな」

 

「減らず口が聞けるなら大丈夫だな。それと生活辛いのはこっちだって一緒だ。確かにあんたらに比べたら俺達は優遇されてるだろう。だが、それは命の対価だ」

 

「……ちくしょう……俺も神機使いになれさえすれば……」

 

「神機使いになれればなんだ? 良い生活が出来るって? そんな訳がないだろう。俺からすればあんたらの方が羨ましいよ。辛く苦しい生活なのは知ってる。でも、命の心配をしなくて良いことがどれだけ素晴らしいことか。俺達はいつ死ぬか分からない。今日死ぬかもしれないし、明日死ぬかもしれない。そんな死と隣り合わせなのが俺達神機使いってもんだ」

 

 

俺の同僚はもう殆ど残っちゃ居ない。両手がいっぱいになるほど居た同僚達は皆、作戦行動中に死んでいて、もはや片手で数えられるくらいしか残っちゃ居ない。

 

 

ヘリの窓に目を向ける。その向こう側には夕暮れの日が照らす世界が広がっていた。

荒れ果てた文明の残骸が広がる世界が夕日に染め上げられて、俺の心をつかんで離さない。

 

この地獄のような好きになれるような要素はひとつとしてありやしないこの世界だが、この美しい光景だけは好きだ。

 

 

 




ゴッドイーター2RBをやってて、なんとなく思い付いたそれだけのネタ。
主人公の名前は特に考えてない(何

ブラッドとの作戦行動は殆ど無いが、ブラッドの面々との交流はそれなりにある。


まぁ、どっちにしろ続かないボツネタだけどねー。
とりあえずゴッドイーター面白いです。ストーリー? うん、あれはあれで良いんじゃ無いかな?


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ブラッド隊長

通称アナグラと称されるこのフェンリル極東支部は、世界中各地に点在する数多くの支部の中でも最大級の戦力を有している。もちろん数は本部に配属されるゴッドイーターより少ない。だが、代わりに個人個人の力量がこの極東支部においては1人で、他地域での複数人分に匹敵する戦力になる程高い。

 

まぁ、自画自賛するようであまりこう言うことは言いたくないが、俺程度の力量でもこの極東以外の地域でなら精鋭クラスでやって行けるくらいだ。まぁ、要するにそれだけこの極東地域ってところがヤバい。だから、自然とゴッドイーターの質は上がる。そうしないと死ぬからな。てか、それでも死にかける。

 

と、話が逸れたな。

 

極東支部に所属するゴッドイーター達は強い。年単位で生き延びている奴なんかは種類にもよるが、1人でアラガミの群れすらも退ける。防衛班と呼ばれている第二、第三部隊などが実際にそれをやっている。

俺? まぁ、出来なくはないがあんまりやりたくはない。アレは精神が磨り減る。

 

 

まぁ、そんな粒揃いが揃う極東支部においても精鋭と呼ばれる奴らは少なからず居る。

まずは、フェンリル極東支部独立支援部隊クレイドル。これに所属しているゴッドイーター達だ。

 

雨宮リンドウ、ソーマ・シックザール、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、神薙ユウ。

この4人を知らないゴッドイーターはまずもぐりもいいところだ。

 

雨宮リンドウ。未だに生存している数少ない俺と同時期にゴッドイーターになった奴の1人で、ある種生ける伝説とも言えるほどの凄腕ゴッドイーターだ。

ソーマ・シックザール。極東支部の前支部長の息子で、類稀な身体能力と神機との親和性からなる戦闘力は世界でもトップクラスだろう。

アリサ・イリーニチナ・アミエーラ。ロシア支部から転属してきた最初期の第二世代型神機の使い手で、これと言った弱点の少ない堅実で強い模範的なゴッドイーターの1人だろう。

神薙ユウ。こっちも最初期の第二世代型神機の使い手で、もちろん強いわけなんだが……こいつは多分、かの第零世代型と称される神機でも十分にアラガミと張り合えるんじゃなかろうかと言うバグだ。正直、強すぎて評しようがない。

 

 

そして、極致化技術開発局所属技術試験用特殊部隊ブラッド。

血の力、ブラッドアーツなど新たなゴッドイーターの姿とも言える部隊だ。

 

北峯サクラ。ブラッド隊隊長。「喚起」と言う血の力を持ち、聖域とされている螺旋の樹跡地で起きた一連の事件における最大の功労者である。指揮能力はもちろん個人の力量も素晴らしい。

シエル・アランソン。ブラッド隊副隊長。「直覚」と言う血の力を持ち、戦術的な戦運びを得意としているが、その場その場の状況に合わせた臨機応変な対応にも優れる優秀なブラッド隊の頭脳。

ギルバート・マクレイン。「鼓吹」と言う血の力を持ち、新規にゴッドイーターとなった者が多いブラッド隊において唯一の転属者である。素晴らしい戦闘力の持ち主の1人であると同時に優秀な技術者でもある。

香月ナナ。「誘引」と言う血の力を持ち、神機と血の力を活かした豪快かつ大胆な戦い方で、ブラッド隊の切込み隊長。

ロミオ・レオーニ。「対話」と言う血の力を持ち、仲間の支援を重視した戦い方を得意としていて、ブラッド隊における縁の下の力持ちとも言える。

リヴィ・コレット。現状血の力の目覚めは無いが……

 

 

 

「……なんで俺はデータベースで、ブラッドの連中の情報なんざ見てんだ……」

 

ついさっきまで見ていたページを閉じて、端末から離れる。

 

 

「あ、中尉さん!」

 

嬉しそうに頭に青い大きなリボンを付けた少女が駆け寄って来る。ちなみにこの子がブラッド隊隊長のサクラだ。背中にかかる程度の青みがかった黒い髪をしていて極東の人らしい顔立ちだが目が青色で、他地域の血が混じっているのが伺える。

 

「どうした?」

 

で、なぜだか知らんがやけに懐かれている。おいそこ、ロリコンとか言うんじゃねぇ。と、話を戻そう。そんなに世話した覚えも無いし、それどころか以前のアラガミの大進攻の時なんかは逆にお世話されちゃった側だから、なぜに好印象なのかが不思議でならない。

 

「これから時間ってありますか?」

 

「まぁ、少しくらいはあるな」

 

この後、隊の連中との訓練があるが……まぁ、大丈夫だろう。それにどうせあいつらサボタージュ決めこんで来ないだろうし、

 

 

「で、なんでラウンジ? 茶でも奢ってくれるのか?」

 

「ちーがーいーまーす」

 

「じゃあ飯でも奢ってくれるのか」

 

でも、別に金には困ってないし、それ以前に料理番のムツミちゃん居ないぞ。

 

「惜しい! 答えは……」

 

そう言うと、サクラはカウンターの中に入って行くと白いエプロンを着けて、

 

「中尉さんに料理をご馳走したいと思います!」

 

「悪い。用事入ったから失礼する……「逃がしませんよ?」……」

 

にっこり笑顔でカウンターの向こうから腕を掴まれて、身動きが出来ない。いや動けなくはない。でも、それやるとサクラに被害が行く、そうすると後々、面倒なことになるから出来ない。俺が大人しく椅子に座ると、俺の腕から手を放して、ご機嫌な様子で料理を始めた。

 

 

「どうぞ召し上がれ♪」

 

そんな言葉と共に俺の前に出されたのは……料理と呼んで良いのか分からない名状し難い何か《ダークマター》と暗に称されるものだった。これを食えと言うのか……

 

 

「えっと、サクラさん? これは一体?」

 

「黒い何か。私の得意料理です」

 

この子暗にダークマターって認めちゃったよ。それで、それを俺に食えと!?

 

「あ、漫画とかで良くある名状し難い破壊兵器とは違って、普通に食べられますよ」

 

「似てるっていう自覚はあるんだな!」

 

「味はどうとでもできるんですけど、見た目だけはどうしてもダメなんですよね。そう言うわけで、一口どうぞ!」

 

「……い、いただきます……」

 

まぁ、本人も味は大丈夫って言ってるし食っても大丈夫……だよな?

スプーンで皿の上のソレを掬って、口を開けて中へ放り込む。次の瞬間。

 

 

「普通に美味いわこれ」

 

「でしょ!? でも、皆食べてくれないんです」

 

「だろうな。普通、こんな見た目のもんを食えるのはよっぽど飢えた奴か、こういう見た目に慣れてる奴くらいのもんだ」

 

見た目最悪だが、味は普通に良い。なんでこんな黒いのにトマトケチャップに類する味がするのか不思議だ。

 

「これ、お母さんが良く作ってくれてたんです」

 

「へぇ、この娘にしてこの親って言った感じだな」

 

あ、なんかこれやみつきになるかも……ヒョイパクと口に運ぶ手が止まらない。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末様でした。あの……良かったら「待った。そのセリフは駄目だ。俺みたいなおっさんじゃなくて、もっとちゃんとした好い人言ってやんな」……」

 

マジで、俺はいつこんなに好感度稼いだんだ? てか、ここで受けたらマジでロリコン否定出来ない。

 

 

「まぁ、お前の良いところを見てくれる野郎はそこらじゅうに居る。そのうち見つかるさ」

 

サクラにそう言って、ラウンジから出ると、

 

「「ロリコン乙」」

 

部下2人がニヤニヤしながらそう言って来た。

 

「よーし、揃ってるな? そんじゃま……訓練がてら、オウガテイルをモグモグしに行くぞー。1人頭ノルマは10匹で」

 

バカ言ってる2人の襟首をつかんで引っ張ってミッションを受けるための総合カウンターに向かい、適当に任務を受ける。さーて、今日は何匹間引くか……

 

 




……まさかの続きだよ。ネタ出来ちゃったよ。
とりあえず、中尉さんとその部下はオリキャラで、ゲームでは存在しない第五部隊(笑)でござるよ。

さて、ブラッド隊長のサクラちゃん。キャラはRBでわっちが使ってるキャラがベースでござる。
なんでか分からんけど、オジコンキャラになりました。自分でもなぜこうなったのか分からぬぇ!


とりあえず、この子の使ってる神機もゲームでわっちが使ってるのと同じ感じで、


刀身:シロガネ長刀極型
銃身:シロガネ狙撃極型
装甲:シロガネ大盾極型
制御ユニット:アサシン
強化パーツA:銃弾強化 弾丸
強化パーツB:隠型の達人
デバイス:黄泉返り
BA:疾風ノ太刀・鉄or無尽ノ太刀・蒼

こげな組み合わせだ。素人乙? 好きにスキル組めるんだから、見た目に走って何が悪い。


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休暇

暇だ。日々の任務で溜まりに溜まってたデスクワークの類も片付いた。て言うか、俺はどちらかと言うと、神機をぶん回す実働よりもこう言うデスクワーク系の方が好きと言うか得意だ。

 

さて、なぜ俺はこうして暇をしているのかと言うと、昨日言ったミッションでちょっと神機をやらかしてしまった。まぁ、かれこれ10年以上使ってるからどんなに定期的に細かくメンテをしてたって、時にはこうなる。単純に強度不足に陥りつつある。何せ、最近のアラガミは硬いのが多い。オウガテイル程度の小型種ですら少し前の中型種並みだ。

 

 

「そろそろ強化も考えるか……」

 

最後に強化を行ったのが5年前あたりだったはずだ。今は新種の出現や新たな鋼材の開発によって、新しい強化が可能なはずだ。とは言え、俺の力量で狩れるような相手の素材でなければ強化のしようがない。金? 金ならばら撒き出来るくらい有り余ってるよ。使う機会も無けりゃ、自分以外に金が掛かる相手も居ないからな。

 

まぁ、俺だけで無理なら部下連中とかサクラでも誘えば良いだろう。それにそんなに焦る必要も無い。神機が直らない事には緊急事態になろうとも何も出来ないだからな。

 

 

 

「隊長」

 

学生服のようなものを適度に着崩した部下の1人の大重アキラがビールの入った缶を手にやって来た。今年で18になるウチの隊の優秀な前衛だ。ちなみに1年前に入隊したこいつの神機はロング、スナイパー、タワーの組み合わせの第二世代だ。てか、部下2人とも第二世代型だからウチの隊で第一世代型なのは俺だけだと言う……何らかの悪意でも働いてるんだろうか……まぁ、そんな愚痴は置いておいてだ。

 

「おい。お前未成年だろうが」

 

「そう硬いこと言わずに飲みましょうや。それに、今の御時世未成年とか無いじゃないっすか」

 

「いや、一応はあるぞ」

 

「でも、そんなもんを律儀に守ってるのなんて今しや外部居住区にだって居やしませんて」

 

そう言って、左手に持った方の缶を押し付けて来る。

まぁ、俺もアキラくらいの歳の頃には普通に愛すべきバカ達と酒盛りしたりしてたわけだし、あまり強くは言えない。

 

 

 

 

ラウンジの窓際のカウンターに並んで座り、その向こうの居住区を見ながらビールを飲む。それにしても、この配給のビールは不味い。これなら普通に水でも飲んでる方が個人的には良い。

 

 

「隊長は何でまだ現役で戦い続けてるんっすか? もう何度か退役の話出てるんでしょ?」

 

「そりゃあお前ら若造がまだまだ頼り無いからに決まってる……と言えれば、少しはカッコが付くんだろうが、単に俺がそうしたいからまだ戦ってるんだよ。それにまだ30とちょっとだ。後10年は現役で居るつもりだよ」

 

「10年て……下手すりゃ俺とかマギーの方が、先に消えるかもしれないっすねぇ。それが殉職か退役かは分からねぇけど」

 

今、アキラの言葉の中に出て来たマギーと言うのは、俺のもう1人の部下で、ウチの隊の優秀な後方火力だ。神機はブラストかスナイパー、バックラー、ショートの組み合わせだ。と、噂をすれば何とやらだ。

 

 

「そうですね。私もアキラも10年も生きていられるか分かりませんし」

 

白と青のいわゆるゴスロリ系のフリルだらけのドレスみたいな私服を着たほぼ白に近い金の長髪の少女がコツコツと靴の音をさせてやって来た。この少女がマギーこと、マギリア・リヒトイェール。現在17歳。フェンリル本部にて入隊直後、極東支部配属になると言う色々と薄幸な奴だ。

 

「んだよマギー。お子様は引っ込んでな」

 

「子供じゃありません。もう立派なレディです」

 

「俺からすればどっちも子供だけどな」

 

「「ロリコンは黙ってろ」」

 

「俺はロリコンじゃねぇ! 確かにサクラとかみたいな年下になんか好かれるけど、俺は断じてロリコンじゃねぇ!!!」

 

こいつら1年前の来たばっかの頃は従順で綺麗な良い子だったのに……なんでこんなに汚く……アレか? アラガミとの戦闘によるストレスが原因か?

 

いや、考えるまでもなく、極東支部の連中のノリのせいだな……

サカキ博士と言う人畜無害の皮を被ったゲテモノが頭やってるとこだ。下がおかしくないはずがなかった。

 

 

「きょ、今日のところはこのくらいで勘弁してやる……」

 

「そ、それはこっちのセリフです。このヘンタイ」

 

ギャーギャー言いながら取っ組み合いやってた2人も落ち着いたらしい。

 

 

「お前ら本当、仲良いな。第一部隊のエリナとエミールにも負けてないぞ」

 

「「うわ、こいつと仲良しとかマジ勘弁」」

 

おお被ってる被ってる。それも一言一句全くのズレのない綺麗なシンクロ具合だ。

 

 

「おいマギー。かぶせてんじゃねぇよ」

 

「そっちこそ、何かぶせてやがるんです?」

 

「「………」」

 

俺の頭の中で、2度目のゴングがカーンとなり、アキラとマギーの取っ組み合い第2ラウンドが始まった。

それを見守りつつ、愛すべきバカ達のことを思い出す。

 

もうアラガミに食われたり、何だったりで死んじまった友人達。

 

 

「よう」

 

「リンドウ。戻ってたのか」

 

白い背中にフェンリルのロゴが入ったロングコートを着た、腕には本来あるべき赤と黒の腕輪ではなく金色のガントレットを付けた前髪が若干長めの男、数少ない同期の生き残りである雨宮リンドウがやって来て、俺の隣に座る。

 

「補給と諸々の報告にな」

 

「そうか。お前も大変だな。そんなになってまで、こき使われるんだから」

 

「別に良いんだよ。俺も好きでやってんだからよ。て言うか、アレ止めないのか?」

 

「止める必要あるか?」

 

「ないな」

 

取っ組み合いを続けているアキラとマギーの姿は、昔の俺達に似ている。

今は俺もだいぶ丸くなったが、昔はそれはもうアラガミを1匹でも多くぬっころすことしか眼中に無かった俺と人命最優先で時にはアラガミをも戦力として用いたリンドウとは殴り合いになったりもした。その度にボロボロになって、それで……まぁ、若気の至りと言えば若気の至りだな。

 

 

 

「り、リンドウ大尉!?」

 

取っ組み合いを続けていたはずのアキラが素っ頓狂な声を挙げてそう言う。ああ、そういや若いロング使いにとって、リンドウは憧れを通り越して、ある種の崇拝対象だったっけか……

 

 

「おう。いかにも俺が雨宮リンドウだ。で、お前さんは?」

 

「じ、自分は大重アキラ伍長であります! おい、マギーも挨拶しろって!」

 

「何なんですか急に……マギリア・リヒトイェール上等兵であります」

 

なんだかんだ言いつつもマギーも名乗る。一応、この2人の階級は年齢的に考えれば低くないどころか普通にそれなりに高いと言っておこう。

 

 

そこからは嬉し恥ずかしな俺の過去の恥エピソードとかを面白おかしく(リンドウが)喋ったりしながら酒飲んだり、取っ組み合い(俺とリンドウ)したりして、最終的に俺とリンドウは2人仲良く懲罰房行きになりましたとさ。誠に遺憾である。




実力は天と地の差があるけど、あまり気にせずバカをやるスタイル。
ウチの中尉さんとリンドウさんはお互いにふざけあってバカやれるマブダチと言う話。異論は認めるともよ

……にしても、数あるゴッドイーターの二次創作で主人公の年齢が三十路を突破したのなんて他にあるのかしら、

ちなみにオリキャラのアキラ君とマギーちゃんは平時とミッション時で服を変えます。何も無い時は制服っぽいのにゴスロリで、戦闘時にはフェンリル指定の戦闘服を生真面目に着ていきます。

本当にどうでも良い話、アキラ君はGE2時代に使ってたマイキャラがベースでござる。


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遺された神機

さて、俺達ゴッドイーターがアラガミをぬっころすのに使う神機だが、これの中には、遺された神機と言うある種神機の残骸のような物がある。作戦行動中のゴッドイーターがアラガミに捕喰されることは日常茶飯事(まぁ、ここ数年極東支部から殉職者は出ていないがな)で、そうなった場合は、神機だけでも回収するものだが、作戦エリアに強力なアラガミが居るなどで回収出来ない場合もある。そうして、戦域に残された神機を『遺された神機』と呼称して、回収をしている。

 

もちろん残骸の為、遺された神機は神機として機能しない。だが、それでも死んでいるわけではなくて、神機としての力は残されている。その残った力をゴッドイーターの間ではスキルと呼び、それを自分達が使っている神機に取り込むことで様々な能力を高めることが出来る。

 

 

「……さて、強化の素材を集めるためにミッション行きまくったは良いが、のこじんの在庫が凄まじいぞ」

 

 

アキラとマギーを引き連れて、ミッション行ったは良いが、なかなか目的の素材が出なくて、何回も何回も行きまくってたらとんでもない数になった。一応、言っておくがのこじんって言うのは、遺された神機のあだ名みたいなもんだ。

 

この膨大な数の中から使えるスキルを選ぶわけだが、数が多いからなかなか選べない。

てか、スキルの組み合わせなんてこれまで考えた事もなかった。神機の性能はもちろん大切だが、神機の性能が良いだけでどうにかなるほどアラガミは甘い相手じゃない。

 

だから俺は、神機の強化よりも自分の強化……ダミーアラガミを使った模擬戦とか戦術の勉強とかばっかりをやってた。まぁ、無駄どころか実になってるから後悔はしていない。て言うか、そもそものこじんを使った神機の強化ってごくごく最近可能になったばっかで、いまいち良く分からない。

 

……今なら「ここをこうしてこれをそうして云々」と頭をこねくり回してる銃型のゴッドイーターの気持ちが分かる気がする……

 

 

 

「まぁ、こんなもんか」

 

隣の端末で俺と同じようにのこじんでの強化をやっていたアキラがそう言って端末から離れる。

え、もう終わったのか? 流石、若者は新しいのに慣れるのが早いな……はぁ、俺も老けたな……

 

「アキラ、ちょっと良いか?」

 

「なんすか?」

 

ここは若いのの手を借りよう。おい年長者と言う声が聞こえてきそうだが、分からんもんはしょうがない。

 

「この遺された神機のがな……」

 

少し横に退いて、アキラに画面を見せると、

 

「……隊長。もしかしてのこじんでの強化、1回もやってないクチっすか?」

 

「その通り。おっさんには良くわからんからな」

 

「誇れる事じゃないっすよ。まぁ、隊長の腕ならのこじんで強化しなくても十分やってけるんでしょうが」

 

そう言いながら、アキラがせっせと操作をして表示されたのこじんの中から色々と選んでいく。そして、50前後の数を選んだところで、

 

「隊長の戦い方ならここらへんのスキルが相性良いと思うっす」

 

「どれどれ……」

 

アキラに変わって、リストアップされたのこじんを見る。そこには近接攻撃強化やらアスリートやら整息、捕食時回復だのなんだのとずらずらりと並んでいた。これだけの数をあんな短時間で……アキラ凄いな……

 

「とりあえず、バースト時間延長は挿れとくか……それに近接強化、と……」

 

継承させるスキルを選択して、登録しておく。ここから先は整備班の仕事だ。次のミッションまでには登録したスキルが継承されているだろう。

 

 

「ありがとな。やっぱ、年取って来るとこう言う新しいのに付いてくのがキツいわ」

 

「じゃあ、なおさら隊長は第二世代に乗り換え出来ないっすね。第二世代に乗り換えたらのこじん以外にバレットエディットと言う苦行が……」

 

「ああ、あれな」

 

バレットエディット。銃型の神機を扱うガンナー達が最高の弾丸を目指して、日々知恵を絞る苦行だ。まぁ、データーベースに各銃身ごとのエディットの参考があるからそれを使うのも手ではある。ちなみに我が極東支部のデーターベースのエディットの参考例は本部認定のものの凡そ倍はある。

 

それと言うのも、ブラッド隊の副隊長のシエル・アランソンがそれは大層バレットエディットに熱心な探求者であるためだ。アサルトから最近導入されたばかりのショットガンに至るまで豊富に存在する。噂では、近々彼女が作成したものがフェンリル公式エディット参考例に幾つか追加されるとか、

 

 

「バレットエディットって大変だよね。私なんか半分シエル任せにしてるし」

 

「いやいや、流石に人任せはダメっしょサクラさん」

 

「そうだぞ。銃を使うならもっと銃弾にもな……」

 

ん?

 

「「いつの間に現れた!?」」

 

ナチュラルに会話に参加していたサクラに今更ながら驚く、

 

「そこで男2人でターミナルでなにかやってる時?」

 

つまりはほぼ初めから居らしたんですね!

 

 

「ま、まぁいいか……そうだサクラ。お前はのこじんはどうしてるんだ?」

 

「あ、俺も気になる」

 

サクラはそんなに期待しないでくださいよと言って、

 

 

「まぁ、普通に使えそうなのがあったらインストールしますけど、そうでないなら数あっても邪魔なだけですし、リビルドして整理……って、どうかしました?」

 

「なぁサクラ? そのリビルドってなんだ」

 

聞くとサクラはしまったとでも言いたげな顔をして、

 

「すみません。まだリビルドは試験的なもので私がそれのテストをしてるんです。多分、そのうち他の人達も出来るようになると思うから期待しててください。まぁ、頑張るのは私じゃなくてリッカさんだけど」

 

整備班班長のリッカか……リンクサポートデバイスやらサクラだけが現在使用可能なブラッドレイジシステムの開発などで、本部からもその技術を高く評価されている技師で、この前神機をやらかした時に俺もお世話になっている。

 

 

「それはそうと、中尉さんの神機の強化のための素材集め、なんで誘ってくれなかったんですか? 中尉さんと一緒に行けるの楽しみにしてたのに」

 

「あーそう言えば、すっかり忘れてたな」

 

「隊長。女の子との約束忘れるとか、流石にないっすわ」

 

「だよねっ! そういう訳で、中尉さんにはこの後、罰として私とお出かけしてもらいます!」

 

あれ? なんか話がどんどんわけわかめな方向に……

この後どうなったかって? 俺ロリコン疑惑が極東支部外にまで広まったとだけ言っておこう。チクショウメッ!




なんか知らんけど、ヴィータさんがバグってゴッドイーターが出来なくなった(血涙
緑ランプが点滅した状態で停止して画面完全に真っ暗!

くそうくそう。こうなったら、出来ない分の鬱憤をぶつけて更新しちゃる!
内容? ただの自己満ですが何か?


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お仕事風景※バイオレンスな描写を多々含みます

力を溜めに溜めた神機を振り下ろす。大きな猿のようなアラガミ、コンゴウの顔面を覆う甲殻が割れ、その大きな両手で顔面を押さえて悶える。

 

そこに剣形態の神機を手にしたアキラとマギーが飛び込んで攻撃を仕掛ける。アキラが神機を水平に構えるゼロスタンスを取り、そこから一気に走りコンゴウを駆け抜けざまに斬りつける。すると、斬りつけた場所を基点にして無数の斬撃が発生しコンゴウを斬り刻む。マギーはそのまま特殊な構えも無く神機を振り抜く。その斬撃と共に風の刃がコンゴウを斬り刻む。うん、自分で説明して何だが、斬り刻んでばっかだな。

 

ちなみに2人の攻撃で発生しているのはブラッド隊の十八番であるブラッドアーツだ。

以前のアラガミの極東支部への大侵攻の際に、ブラッド隊隊長のサクラの血の力「喚起」によって、極東支部に所属するゴッドイーターの全員がこのブラッドアーツに目覚めている。アキラが疾風ノ太刀・鉄。マギーが風断ちの陣と言うブラッドアーツで、俺は溜め斬りのチャージクラッシュを強化するブラッドアーツ、ブレイカーと言うブラッドアーツだ。

 

 

なされるがままになっていたコンゴウが起き上がり、丸太のような極太の剛腕を振りかぶって叩きつけるように振り下ろすが、攻撃を予測していたアキラとマギーは既に距離を取っていて空振りに終わる。

 

 

「メンドクセェ……無駄にタフなんだよなコンゴウ」

 

「極東支部のゴッドイーターが皆揃ってブラッドアーツを習得して、それに適応進化した結果このタフさ……ホントめんどーです」

 

コンゴウくらいなら1人でも狩れる2人からすれば、ただ、無駄にタフなだけだ。何とも頼もしいことだ。

だが、若いからこそ甘い。

 

コンゴウが一瞬でコンゴウが2人との距離を詰め、両の剛腕で強烈なラリアットをぶちかまして、吹っ飛ばす。

マンガのキャラクターのように吹っ飛んだ2人が瓦礫に叩きつけられる。

 

 

「ゴァァァアアアアア!!!」

 

コンゴウが勝ち誇るように吠える。

 

「うるせぇんだよ大猿野郎」

 

奴のケツから生えた尻尾に捕喰形態にした神機を食いつかせて、バースト化して身体能力にブーストを掛け、一気に引っ張って放り投げる。無駄に鍛えまくって、ゴッドイーターとしてもかなり力ある方だとは思ってるが、それでも流石にあの巨体は重たい。

 

なお、コンゴウを放り投げた先には真っ直ぐ突き出した鉄骨があって、コンゴウ自身の体重もあって背中から深々と鉄骨に突き刺さる。これで少しは時間を稼げるだろう。壁に叩きつけられて、ノックダウンしている若者達の方に向き直って、

 

 

「お前ら自分の力量に自信を持つのは良いが、俺はこうも言ったよな? どれだけ研鑽を重ねて実力を上げようが、決して相手を侮るなって」

 

とりあえず2人にリンクエイドをかけて、復帰させる。リンクエイドとは戦闘不能になったゴッドイーターを復活させるゴッドイーターならば誰しもが可能としている基本技術だ。にしても、即死に近いダメージを受けても即復活が可能とか、オラクル細胞万能過ぎて笑える。まぁ、代わりにごっそり体力持ってかれるのはご愛嬌というやつか。

 

腰に付けたポーチから回復錠を取り出して、口に放り込む。回復錠はゴッドイーターの全身のオラクル細胞を活性化させることで瞬間的に自然治癒能力を爆発的に強化することによって、受けたダメージやリンクエイドで分け与えた体力を極短時間で回復することが出来るスタングレネードと並ぶゴッドイーターの標準装備品だ。

 

 

「おかわり入りましたー、ってとこか」

 

神機を担いで串刺しになったコンゴウにトドメを刺すために歩み寄ると、ビルの瓦礫の隙間から新たにコンゴウが2匹現れる。1匹はほぼ活動不能状態とは言え、3体同時は流石にキツい。

 

 

「けどまぁ、俺は1人じゃねぇ」

 

新手のコンゴウ2匹の顔面を2つの弾丸が穿つ。

 

「スンマセン……」

 

「申し訳ありませんでした」

 

「別に謝らんで良い。全ては行動で示せ」

 

「「了解」」

 

 

 

『ミッションお疲れ様でした! 流石の戦いぶりですね!』

 

インカムからミッションの達成を知らせる声が届く。あの後、更にコンゴウが増えて合計5体となった。とりあえず、スタグレ祭りでコンゴウの足を止めて全部ぬっころした。

 

 

「……しんどい……」

 

「早く帰ってシャワー浴びたいです……」

 

瓦礫に背中を預けてもうヘトヘトですと体で表現しているアキラとマギーがそう言う。

 

「良い加減慣れろよな。別に今回が乱入初めてって訳でもないだろ」

 

むしろ、ミッション中のアラガミの乱入なんてものこの極東地域じゃ当たり前だ。多分ミッション100回行って、98回は乱入有りで残りの2回が乱入無しと言った具合だろう。一応、こいつらも極東地域でゴッドイーターとして1年くらいは経つんだし、良い加減慣れても良いと思うんだが、

 

 

「慣れとか関係無いっすよ。疲れるもんは疲れるんすよ」

 

「アラガミの乱入報告に全く動揺も何もないのは、それはそれでアレな気もしますけどね」

 

ああ、単に体力不足か。

 

 

「シエル考案の極東式ガチ訓練メニューやらせるか……」

 

「「待って!? 極東式ガチって何!?」」

 

「そりゃあアレだ。アラガミの乱入による連戦も想定した超激ハード特訓メニュー。元はブラッド隊用に考案したらしいが、流石にガチ過ぎて考案者であるシエル本人もお蔵入りさせた代物だ。とりあえず一言、コレをこなせるようになればこれくらいのミッションちょっとしたお散歩気分でこなせるようになるぞ」

 

マジでこのメニューはヤバい。可能かどうかの検証のために1回、一通りこなしてみたが精魂尽き果てた。その事を考案者本人に話したら軽く引かれた。解せぬ……と、そんなことはともかくだ。俺もそれなりの数の修羅場も死線も越えて来たつもりだが、そのどれよりもヤバいと感じた。こんなもんを新人にさせるのは流石に鬼畜過ぎるからお蔵入りにしてたが、今のこいつらならギリギリこなせるだろう。才能も実力も有る俺みたいな凡人の下に居るには勿体無いくらいの原石だ。多分5年も経験を積めば俺なんか軽く超して行ける。

 

 

「マジで勘弁してください。今の訓練メニューでもかなりキツいのにそれ以上とか!」

 

「そ、そうです。あ、あれ以上訓練はミッションに異常をきたしますっ!」

 

必死だなこいつら。てか、今の訓練メニューがキツいのは当たり前だろう。ガチ式をベースに組んだ訓練メニューなんだからな。て言うか訓練はキツくないと意味が無い。命の危機とかも基本的に存在しないからこそ、実戦よりもよりキツくハードでないと身にならない。これは俺の実経験だ。

 

 

「大丈夫だ。俺が普段からこなしてる訓練メニューになるだけだから、大丈夫。行ける行ける」

 

「「マジ無理です。勘弁してください」」

 

おい。土下座するほどか?

土下座とは、この極東地域に古来より存在する相手に陳情を求める最上級の姿だ。相手に己の首を差し出すようにも見えるその姿にどれだけ本気であるかが伺える。

 

 

「まぁ、体力不足はミッション連れ回してるそのうちにどうにかなるか。そろそろ対象アラガミのランク上げても良い頃合いだしな。てか、良い加減ヴァジュラぬっころせ新人共」

 

いつの頃からか、極東支部ではヴァジュラを狩れてやっと一人前と言う風潮がある。

ヴァジュラとはライオンのようにも見える電撃を操る能力を持った大型種のアラガミで、戦闘能力も大型の名に恥じないものを持っている。特に自身の周囲に電気を放つ放電攻撃には要注意だ。

 

「アレをぬっころせろか軽く言ってくれんなぁ! この鬼隊長は!」

 

「隊長。他の地域でのヴァジュラの扱い知ってますよね?」

 

もちろん知っている。極東以外のとこならヴァジュラの襲撃はアラガミの支部への大侵攻と同等くらいの緊急事態だ。まぁ、それだけ極東とそうでないところでは違いがあると言うわけだ。

 

 

『あ、あのー……もう迎えが到着してるんですけど……』

 

 

ギャーギャーとやかましい部下達を引き連れて、迎えのヘリに乗り込んで窓から世界を見る。やっぱり、美しい。限りなく人間に厳しくて先の見えない世界だとしても、これだけは絶対に変わらない。




てな訳で、コンゴウ祭りじゃぁあ!!! 5匹しか居ないけど!!!
ちなみに今回のアキラ君とマギーちゃんの「コンゴウくらい楽勝だぜ」からのピチューン! はゲーム内でのわっちなんだぜ! 侮ったら負ける。小型アラガミですら時と場合によっちゃかなり脅威。


中尉さん。ゴッドイーターとしての才能はそこまででもない。微妙に神機との適合率が良いくらい。だから、生き残るために徹底的に自分を鍛えてます。それでようやく上の下くらいの力量で御座います。
ちなみにアキラ君とマギーちゃんのゴッドイーターとしての素質はほぼ原作主人公並と言うチートっぷり。でも、油断するとフルボッコだドン♪なのです。まさにゲームでもわしだ!


バグからヴィータさんが自力復帰してくれたぜ! やったね(おいやめろ
てな訳でゴッドイーターで引き続き遊んでるじぇ。やっぱり、刀身ロングが一番使いやすいね! ゼロスタンスが便利過ぎる。初代? 知らないね。俺ってばGE2から神喰いになったゆとりだから!


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新人

 

今俺はいつも訓練で使っている隔離室とは違う場所にいる。

忘れもしない神機適合試験の為だけの場所で、適合失敗者を始末するための場所だ。

 

俺の目の前には緊張したような面持ちで2人の少年と少女が立っている。少年は明るめの黒い短髪で、少女を庇うように立っていて、背中に届く程度の長さの栗色の髪をした少女は少年の背中に隠れるようにしている。どちらも俺の半分ほどの年齢だろう。神機との適合成功率は15歳ごろから20歳あたりが一番成功率が高いと言われているから、たぶん俺の予測は間違ってないだろう。て言うか、なんかこの構図、俺が目の前の子供らを脅してるみたいで地味に心に来るんだが……

 

 

「さて、なんでここに居るかは理解してるな?」

 

そう聞くと、2人はこくりと首を縦に振り、少年の方が恐る恐ると言った感じに口を開く。

 

「……ぼ、僕達が適合出来るかもしれない神機が見つかったから、です……」

 

「その通りだ。で、俺はお前達が神機と適合出来るかを見届けるために呼ばれてここに居る」

 

俺のすぐ隣には俺の神機が格納保管されているハンガーがあって、いつでも手に取れるようになっている。適合失敗時のための保険だ。まぁ、俺やリンドウがゴッドイーターになった時に比べれば技術の進歩とか偏食因子の改良だとかで適合失敗は余程のことが起きない限り、発生しなくなった。それでも失敗する時は失敗するからこうして保険として、隊長職クラスのゴッドイーターがつけられるわけだ。

 

 

「あ、あの」

 

少女の方が話しかけてきた。か細くて小さな声で、思わず聞き逃しそうになった。

 

「なんだ?」

 

「おじさんはなんで、ゴッドイーターになったんですか?」

 

「おじさん……まぁいいや。俺がゴッドイーターになった理由? お前らと一緒だよ」

 

まぁ、今みたいにひとつ神機に1人じゃなくて、ひとつの神機に10人とかだったが、それは黙っておかないといけない。そう言う守秘義務が俺の世代にはある。とは言っても、長い事ゴッドイーターやってる連中は大体どんなもんかは知ってるがな。

 

 

「つらくないんですか?」

 

「少なくとも、目の前でなんも出来ずにツレとかがアラガミに食い殺されていくよりは、よっぽどマシとだけ言っとくよ」

 

て言うか、サカキ博士はまだか。出来ればさっさと来て欲しい。あんまり長い事会話とかしてると、その時が余計キツくなるから、できる事ならあまり候補者との会話だとかはしたくない。

 

 

 

『待たせてすまないね』

 

スピーカーからサカキ博士の声が聞こえてきた。やっと来やがったかキツネ顔め。

 

『僕はここフェンリル極東支部の支部長のペイラー榊だ。さて、それじゃあ急で悪いけど……鹿目マサヤ君、そして一ノ瀬ユイ君。これから君達の神機との適合試験を始めさせてもらうよ』

 

その言葉とともに床から、赤茶けた色の2つの金属で出来た『棺』が出て来た。これには神機が収められていて、適合者が見つかるまでの間、神機を眠らせておく文字通りの棺だ。

 

空気の抜けるような音をさせて、棺の上半分が持ち上がり、今か今かと2人を待っている。

うん、何度見てもやっぱり邪悪な魔物が口を開けてるようにしか見えないな。これ。

 

 

『まずは一ノ瀬ユイ君。君から行こうか』

 

スピーカーからのサカキ博士の指示に従って、ユイと呼ばれた少女が左側の棺に向かって、棺の側面のちょうど中央あたりにある半円状のスリットに右腕を差し入れる。すると、棺の上半分が降りて完全に固定する。

 

そして、次の瞬間。部屋いっぱいに悲鳴が響き渡る。

 

 

「ユイ……っ!」

 

駆け寄ろうとするマサヤの肩を掴んで止める。マサヤが抵抗するが、ゴッドイーターと普通の人間とでは圧倒的に身体能力が違うから、俺の手から逃れる事が出来ない。

 

とりあえず、マサヤを押さえながら神機をいつでも手に取れるようにしておく。

マサヤに睨まれるがこのために俺はここに居る。だから、こいつになんと思われようともこうするしかない。

 

 

1分ほどでユイの悲鳴は聞こえなくなり、そこから更に1分ほどが経って、ようやく棺の上半分が上がってユイが解放された。解放されたユイの右手首には見慣れた赤と黒の手枷のような腕輪が付いていた。

 

 

アラガミ化する様子もない。適合成功だ。

それを確信したところで、マサヤを解放する。俺の手から解放されたマサヤがユイに駆け寄る。すると、ユイが糸の切れた人形のように倒れ、それをマサヤが慌てて抱きとめる。

 

 

「ユイ!」

 

「そんな大声出さなくても大丈夫だよ」

 

「で、でも、お前急に倒れて……」

 

「ちょっと疲れただけだよ」

 

 

2人のやり取りから目を逸らして、携帯端末で医療チームに連絡を入れる。それから5分と経たずに現れた医療チームが担架にユイを乗せて連れ出していく。向かう先はもちろんメディカルルームだ。

 

 

「そんな顔しなくても、適合試験をパスすればすぐ会える」

 

「……あんたさっき、それ取ろうとしたよな」

 

たぶん本来の口調であろう少し荒い言葉遣いでそう言って来た。不満そうな顔を浮かべてだ。

 

「そりゃあそうだろ。俺は万が一、適合に失敗した時そいつを処理するためにここに居るんだからな。なぜ処理をするのか分からないって顔だな。まぁ、それもそうだろうよ。フェンリルは適合試験の事をきちんと伝えないからな。簡単なパッチテスト? そんなもん嘘八百だ。実態は今見た通りだ。そんでだ。適合に失敗したらそいつはアラガミ化する。だから、俺みたいなのが神機で処理をする。分かったか?」

 

なんか知らんが、子供相手にキレちまってるよ。

 

 

『中尉。あまりそう言う機密情報をペラペラと喋らないでくれないかな。色々と面倒だから』

 

「別に問題ないだろ。どっちにしろここからは適合試験をパスしてゴッドイーターになるか、失敗して肉塊になるかのどっちかでしかここからは出れないんだからよ」

 

『……はぁ。これが終わったら、3日間の懲罰房行きと半月の減俸それと反省文の提出をしてもらうよ』

 

「別に嫌とは言わねぇさ」

 

『さて、待たせて悪いね。それじゃあマサヤ君の適合試験を始めようか』

 

 

ユイと同じようにマサヤが右手を棺に差し入れ、棺の上半分が降りて来て、適合が始まる。

マサヤの手首が入った棺のスリット部分から黒い触手が伸びて来て、マサヤの右腕の皮膚を裂きながら這い上がって行く。神機からの侵喰だ。それを見ながら神機をハンガーから取る。

 

マサヤの神機からの侵喰が右肩関節あたりまで行くとそこでピタリと止まる。適合成功か失敗か微妙なところだ。俺がどうするか考えていると、マサヤが棺に頭を一度ぶつけた。その瞬間、腕の触手がしゅるしゅと棺の中へ戻って行き、棺が開き、マサヤが仰向けの大の字に倒れる。

 

 

 

「適合成功、だな」

 

神機をハンガーに戻して、倒れているマサヤのところまで行き、

 

 

「どうだ? 人間やめた感想は」

 

「最悪だ」

 

 

その後、マサヤもメディカルルーム行きとなり、俺はそのまま流れるように懲罰房行きとなった。

懲罰房の中で頭を冷やして、改めて考え直したが、結局なんでマサヤ相手にキレたのかわからなかった。てか、反省文が面倒くさい。





HAHAHAHAHAHA。これはヒドい(笑)
書き上げといてなんだが、これはヒドい。

さぁ、なんか新キャラ生えたぜ。
鹿目マサヤ君(16)と一ノ瀬ユイちゃん(15)この子らはどんなゴッドイーターになるんだろう。そもそも生き残れるのか……さてさて、どうなりますことやら。


にしても、今回中尉さんのキャラがなんかブレすぎな……いや、そんな細かい設定のないキャラだけど……


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英雄の帰還

 

第5部隊に配属されたマサヤとユイの実戦訓練のため、少数のオウガテイルとかの小型アラガミばかりをぬっころす軽いミッションばかりで最近フラストレーションが溜まり気味な今日この頃。

 

今日も今日とて、オウガテイル2匹と言う報酬が小遣い銭程度にもならない軽いミッションをこなして極東支部に帰還する。なお、軽いミッションと言えるのもこのクソッタレでブラックな職場に慣れきった俺達くらいで、新人2人には少々堪える模様。

 

ん? 俺が新兵の頃? 疲れたとかキツイとか言ってる余裕なかったですけど何か? 文字通り月月火水木金金状態でしたけどなんか文句ある? まぁ、月月火水木金金なのは今も変わらんけどな、実際ゴッドイーター各員に支給されるカレンダーには土日祝の文字はない。

 

ああ、ちなみにだがマサヤとユイの神機は第二世代型だ。だから、なんで部下ばっかりが第二世代型なんだよ。……いや、第二世代型への乗り換えの話来たとしても蹴るけどさ。前に出ることしか出来ないから、そう言う体がもう体に染み付いてて、銃とかついてても知らない子ですね状態になる様しか見えない。

 

 

 

「つ、疲れました……」

 

「お、俺も……」

 

ロビーの昔からずっと設置されたままの年代物ソファーに、疲れ切った新兵2人が座り込む。そういや最初の頃はマギーとアキラもこんな感じだったっけか……まだ1年だっていうのに懐かしいな。

 

そうそう、マギーとアキラはこの任務には同行していない。他の隊の任務について行かせて経験稼ぎをさせている。接触禁忌種の類でも出てこなければけろりとした姿で帰って来るだろう。

 

 

「お疲れさまでした。報酬は各人の口座に振り込んでありますので、ご確認ください」

 

ブラッド隊の面々とともに例の移動要塞フライアから極東支部に転属となったオペレーターのフランが諸々の手続きを済ませてそう言う。ちなみにだが、こう言う新兵教育系のミッションの報酬は同行したベテランゴッドイーターよりも新兵への分配が多い。俺は特に気にならないが、気にする奴は気にする。

 

 

「そう言えば、なんか支部の連中がなんかざわついてる気がするんだが、何かあったのか?」

 

「本部出向中の神薙ユウ大尉が近々、戻って来られるそうですので、それででしょう」

 

「あー、あいつ帰って来るのか」

 

神薙ユウ。元第一部隊隊長で極東支部独立支援部隊クレイドルの隊長。極東支部において初めて第二世代型神機との適合に成功した最初期の第二世代型神機使いの1人で、数年前のとある事件において多大なる功績を挙げた数多くいる英雄的功績を持つゴッドイーター達を押しのけて唯一『英雄』と称されるほどの凄腕ゴッドイーターだ。

 

 

「そう言えば、ブラッド1から中尉への伝言を預かっています」

 

「伝言?」

 

「10月の13日……と、日時だけなのですが、何かわかりますか?」

 

「あーうん。よーく分かった」

 

10月の13日……それはサクラの誕生日だ。まぁ、これくらいのことはちょっと調べればすぐに分かることだし、この日はたぶんブラッド隊がラウンジを使って、サクラの誕生日パーティーでもするだろう。やたらと隊員同士の仲が良いからなあそこ。

 

でだ。サクラからの伝言の真意はそれとは違う。いや、間違ってはいないが、ちょっと違う。伝言の意味はこう言うことだろう。13日は予定を空けておけとそう言うことだ。

 

 

「顔色が悪いようですが?」

 

「いや、ちょっと先のことを考えてたら、ちょっと頭痛がな……」

 

頭痛をこらえつつ、新兵2人のところまで戻る。頭痛は無理矢理忘却の彼方へと追いやって、

 

 

「ご苦労さん。まだ、危ういとこはあるがまぁ、そこは時間が解決してくれるだろ。ミッション行きまくって、さっさとこのアラガミをぬっころすだけの簡単なお仕事に慣れろ」

 

いくら相手がアラガミとしては最も弱い部類に入る種だとしても、まだまだ実戦投入されて日が浅い新兵では恐怖の方が強いようで、それが2人に無駄な動きをさせている。大げさな回避行動やどうでも良いところで装甲を開いたり、タイミングがずれて被弾したりとお世辞にも好成績とは言い難い。

 

けどまぁ、これが普通の新兵だ。どっかの独立部隊隊長の人みたいなのとかがおかしいだけだ。

それに色々と足りないところはあっても基礎訓練で覚えたことを活かそうと努力はしている。戦い方の模索が出来ているならはじめの内は十分だ。て言うか、そのために新兵の教育系ミッションには俺みたいなベテランが同行しているわけだ。

 

 

「隊長みたいにサッと攻撃を避けて、ズバッと攻撃ぶち込むにはどうすりゃ良いんです?」

 

「や、やっぱり上官にその言葉遣いはダメなんじゃないかなぁ?」

 

「気にするな。そのうち嫌でも敬語を使って喋るようになるからな。で、どうやったら俺みたいに出来るか、か……とにかく相手を観察して、そいつがどういうタイミングでどういう動きをするかを覚えるしかないなー。ぶっちゃっけ、俺の戦い方はそうやって時間をかけて積み上げたもんだからな」

 

そう。全ては経験だ。俺みたいな凡才が生き残るにはそれしかない。1匹でも多くのアラガミと戦い、その個々の動作を覚え、どういう風にどういう挙動を取るのかを少しずつ体に染み込ませて、必要に応じてそれを引き出す。土壇場で隠されていた力が覚醒するなんてのは、それこそ本当にごく一部の天才だけだ。

 

 

「いつもいつもそうやって、自分を卑下すんのはやめた方が良いっすよ隊長」

 

「そうです。隊長は十分に強い方です」

 

なんか出撃用の昇降エレベーターからフェンリルの正式な戦闘服姿のアキラとマギーが出てくるなり、そう言ってきた。

 

「おう、おかえり。てかお前ら話聞いてたのか?」

 

「いんや、単に言わなきゃいけねぇ気がしただけっす」

 

「同じくです」

 

こいつら……

 

「でもまぁ、どんな話してたかは大体が想像つくっすよ。そこの新兵がどうしたら隊長みたいになれるのか的な質問して、それに隊長がいつも通りの俺は凡人だー発言で返事……大体こんなとこっすよね」

 

「……お前、なんかそう言う系の感応波でも発現したのか?」

 

「いや、1年も同じ隊でかつ、同じ部屋で生活してりゃあそんくらいの察しはつきますって」

 

「まぁ、私は別部屋ですけど隊長の人となりは、知ってるつもりですから、どういう発言をするかは大体の察しがつきます」

 

空き部屋の都合とかいろんな理由から、第5部隊の面子は基本的に共有の大部屋生活をしている。他の隊はどうやらそんなことはないらしい……俺は厄でも憑いてるんだろうか……けどまぁ、流石に男女くらいは分けてあって、俺、アキラ、マサヤ。マギーとユイと言った感じに分かれてる。

 

 

「お前らがどう言おうが、俺は凡人だよ。とてもじゃないが、リンドウとかみたいにはなれん。さて、話は終わりにして、飯でも食いに行くぞ」

 

 

 

そうして、新兵2人の実戦教育やらをやっている間に時間が過ぎて……

 

 

●●●●●●

 

 

極東支部の屋上、大型の輸送ヘリの着陸なども想定して広く大きく造られたヘリポートに一機のヘリコプターが着陸し、側面部のスライド方式の昇降口から背中に大きくフェンリルのマークが入った青と白のところどころにプレートを施した戦闘服姿の若い女性が降りてくる。ヘリが巻き起こす風で黒い長髪が暴れる。それを手で押さえながら、

 

 

「運搬ありがとう」

 

「こっちこそ、あの極東の英雄とご一緒出来て光栄でしたよ。それじゃあ!」

 

女性とパイロットはそう言葉を交わすと、ヘリの側面部ハッチを閉じて、再び空へと飛び上がって行った。女性はそれを見送ると、支部の中へと続くエレベーターに乗り込んだ。

 

 

●●●●●●

 

 

 

10月9日木曜日1644。極東支部内の緊張は最高潮に達していた。ラウンジにいる者、ロビーでソファーに座って談笑する者、フェンリルが誇るスーパーコンピュータ『ノルン』の端末を操作する者……皆一様に昇降エレベーターへと意識を向け、今か今かとその時を待っている。

 

 

「なんでみんなあんなにピリピリしてるんだろう?」

 

「知るかよ。て言うかユイ、変なこと喋ってると面倒なことになるからおしゃべりは無しな」

 

「あ、ごめん……」

 

「だがしかし、もう遅い。5周追加な」

 

今は、極東支部の地下に設けられた大規模グラウンドで、新兵2人の体力作りトレーニングの監督をしている。2人が言っていたように今頃上は、極限の緊張感が支配していることだろう。まぁ、どうでも良いことだ。そんなことよりもマサヤとユイのトレーニングの方が大事だ。

 

 

「ん?」

 

チンと言う古めかしいエレベーターの目的の階到着を示す金がなったかと思うと、見覚えのある。黒い長髪の女がエレベーターから降りてきた。

 

 

「ふふ、やっぱりここにいましたね」

 

「サカキ博士に報告はしたのか?」

 

「もちろん」

 

「久しぶりだな、神薙」

 

「ええ、久しぶりですね中尉」

 

そう言って、俺の隣で『英雄』神薙ユウがにこりと笑う。





なははは! 何も考えずに突っ走ったらこのザマよ!
みんなはもっと考えて指を走らせようね! 間違っても、わしみたいに何も考えずに突っ走っていくのはやめようね!

なぜか公式初代主は女の子に化けました。黒髪ロングの大和撫子風な感じに、


リザレクションの体験版楽しいれす。
GE2の時代に比べてコンゴウサンとかシユウサンが強い気がするけど、まぁ新作だし強くて当たり前だよね!
なお、対シユウ戦において、NPC差し置いてオチるという始末。サクヤさんの回復弾ありがてぇ、ありがてだよぉ……!


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英雄の帰還②

英雄。この言葉で誰を連想するかは人それぞれで、俺もそうだと思う。まずこれの候補に名が上がるのは雨宮リンドウだろう。実際、あいつはそう言われるだけのことをやって来た。だが、あいつは英雄とは呼ばれない。それに本人が「俺は俺がやりたいようにやって来ただけだ」とか言って否定するだろう。

 

じゃあ、英雄と呼ばれるのは誰かって?

それは、俺の隣で出向中の出来事を愚痴も含めて聞いてもいないのに喋っている神薙だ。

 

こいつは、一定階級以上のゴッドイーターにすら情報規制がかかるほどのとんでもない事件を解決に導いた。その功績によって、英雄と呼ばれるようになった……だが、俺にとっては『英雄』ではなくて、色々と手間のかかる後輩だ。

 

 

「本当、本部の人間って現場舐めきってますよ。なんでたかだかオウガテイル程度が出没する程度のエリアを通過するのに、重装甲車4台に30人規模のゴッドイーターを投入するんですか? それくらいのところ極東なら非戦闘民ですら護衛も無しで移動しますよ」

 

まぁ、言わんとしてることは分からないでもない。重装甲車を4台も動かすだけの燃料が有れば、かなりの広範囲までゴッドイーターを展開させられるし、30人ものゴッドイーターが居れば、アラガミの大規模な群れの掃討だって難しくはない。要するに無駄だ。

 

で、こんなことが出来るのはフェンリル本部である程度以上地位にある奴ら。いわゆる重役とかそんな感じの連中だけだし、あいつらは後ろからあれこれ言うだけで実際の戦場がどんなのか知ろうともしないような連中ばっかだ。きっと今も、自分の権力と私腹のためにアホなことを会議室でやってるんだろうよ。

 

「それに、あのピザデブ。顔合わせる度に嫌らしい目をしてからに……」

 

「おい素が出てるぞ」

 

「っは!? す、すみません!」

 

「気にすんな。俺以外は誰も聞いてない」

 

ん? マサヤとユイ? 俺らの与太話なんて聞いてられる余裕は持たせてないから大丈夫。

 

「中尉」

 

「ん?」

 

「サカキ博士から懇意にしている女性が居ると聞いたんですけど、そこらへんお話してもらえますか?」

 

笑顔なのに笑っていないというアレが出た。

なんでサクラと言い神薙と言い、俺が少なからず女と親しくしているとこうなるんだ。いや、神薙の方が酷いか。朝起きたら神薙の自室のベッドに拘束されてた時はビビった。

 

え? そこで何があったかって? 簡単に言うと、いただきますされたんだよ。って言わせんなトラウマなんだから。

そして、神薙こそが俺ロリコン疑惑の大元である。

 

とりあえず、おとなしくゲロっとかないと後が恐ろしいことになりそうだ。まぁ、どっちにしても俺の未来は真っ暗なんだけどな。

 

はぁ……なんで、俺はこんななんだ……

 

 

「へぇ、ブラッド隊の……ふふ、色々とはっきりとさせておかなくちゃ……」

 

こいつやべぇ……どうにかこいつの思考を逸らさないとサクラがヤバイ。そして俺もヤバイ。前も言ったようにブラッド隊は仲が良い。仲間に下手なことしようもんなら隊の全員でお礼参り……なんてのも強ちありえなくもない。

 

特にシエルとかジュリウスはヤバイ。お前らサクラ好き過ぎるだろ。ってくらいだからどうなるか想像もしたくない。試作バレットの的にされたりブラッドアーツの訓練場の丸太人形にされたりするかもしれない。

 

 

「そ、そうだ神薙。そろそろ上の連中に挨拶して来い。どいつもこいつもお前が帰って来るってんで、超気張ってるんだ」

 

「それもそうですね。サカキ博士にも、顔を見せて支部の皆安心させて欲しいと言われてますし」

 

よし。話を逸らせたぞ。俺の未来が繋がった!

 

「ブラッド隊の隊長さんのこと、またあとでゆっくりと聞かせて下さいね?」

 

……とか思ってた時期が俺にもありました。チキショウ! やっぱりこの世に神は居ねぇ!

 

 

●●●●●●●●●

 

 

マサヤとユイのトレーニングは2人がランニングを終えた後に軽く筋トレ(俺的観点)を済ませたところでお開きにした。流石に2人とも体力的に限界そうだったからな。俺は無茶はさせても無理はさせない。まぁ、俺自身は無茶も無理も島くるけどな。そうしないと進化を続けるアラガミや若手達について行けない。いやはや凡人は辛いぜ!

 

地下グラウンドに併設されたシャワーで汗を流してからエレベーターで上に上がった俺は神々の黄昏に遭遇した。いや、正確にはその一歩手前ぶつかり合う直前だ。

 

 

「今なんて言ったのかな? もう一度言ってくれる?」

 

「中尉に近づかないでと言ったのよ。この阿婆擦れ」

 

「随分と口の悪い英雄も居たもんだね……英雄だかなんだか知らないけど、私と中尉さんの邪魔しないでくれるかな?」

 

 

俺はそのやり取りを見た瞬間、俺は自室のある階層のボタンを押して、逃亡することにした。

 

 

「おぉっと、こんなとこで逃げるなんて男が廃るってもんだぜ?」

 

明らかに引っかき回して楽しむ気満々の雨宮さん家のリンドウ君が、黄金の籠手の手で、エレベーターの扉を押さえている。この野郎……!

 

「リンドウ君。その手を放そうか? 今なら俺怒らない」

 

「だが断る」

 

「おいこらリンドウてめぇ」

 

プッツンして、リンドウに殴りかかろうとした瞬間。

 

「「中尉(さん)はっきりしてください」」

 

オワタ。

とりあえず、大爆笑中のリンドウ君は後で絶対ぶっ飛ばす。懲罰房? そんなもんが怖くてゴッドイーターなんざやってられっか!

 

この日の夜。ラウンジにて行われた神薙のおかえり宴会にて、俺とリンドウによるガチファイトがメインイベントとして設けられ、その場にてやりあったが、やっぱり伝説のロング使いには凡人バスター使いじゃ敵わんかったよ……




本気で何も考えずネタに走ってみたザマがこの様だよ。笑いたまえよ諸君。

むむぅ……あれだけ最初は苦戦に苦戦を重ね、あと一回オチたら終わりと言う死闘まで演じたクロムガウェインさんだというのに、一回倒してからはなぜか1オチもしていないと言う。アレか? あのストーリー初登場の時にはなんらかの補正でもついてるのか!?

RBダウンロードクエスト『バベルの片影』にてブラッドの皆とクロムガウェインさんをフルボッコにしてこう思った。

てか、良い加減サクラちゃん以外のブラッドの皆も出してやりたいなー。まぁ、出たら出たでキャラ崩壊の激しい別人達が出てくるがね! ダメダコリャ!


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狩って狩って狩って狩りまくれ

支部長室などの重要性の高い施設が集まった極東支部の役員区画と呼ばれるところの一角、会議室に極東支部所属の部隊の隊長達が集められている。なにがしかの緊急事態でも発生したんだろう。

 

やいのやいの各人がそれぞれの予想を話あっていたが、茶髪のおさげをしたオペレーターの竹田ヒバリを伴って会議室に入って来たサカキ博士の姿を確認した瞬間一様に静まるのは流石は隊長と言ったところだ。

 

「急に呼び集めてすまないね。皆に集まって貰ったのは他でもない。もはや極東地域恒例の大規模なアラガミの群れのこの極東支部への進攻だ」

 

サカキ博士がそう言って、ヒバリに指示をすると後ろの大型モニターになんらかのビデオ映像で、そこには100は余裕で超えるであろう無数のアラガミが映っていた。

 

「この群れの中核を成しているのは、ガルム神属感応種マルドゥークです。そして、取り巻きにガルムが10体居て、他にも無数の中型種と小型種の反応があります」

 

感応種と言う言葉に全員が顔を強張らせる。俺だって、一気に余裕が消えた。感応種とはアラガミの中でも特に強力な感応波を放ち、個々が特殊な能力を持っている。おまけに強力な感応波の影響で、通常の神機が良くて機能不調、悪ければ完全に機能が停止してしまう。まぁ、これは問題無い。

 

元々、感応種の影響下でも問題無く神機が機能していたブラッド隊。その隊長であるサクラの血の力(概要は聞いたが、俺にはさっぱり分からなかった)『喚起』によって、極東支部に所属するゴッドイーターも感応種の強力な感応波の影響下でも問題無く神機を扱えるから戦えなくなるなんてことは無い。

 

それでだ。俺達全員がここまで緊張している理由は相手がマルドゥークであることも関係している。

 

マルドゥークの感応波は周囲のアラガミを呼び寄せる。これがなんだって思うか? じゃあ、少し考えてみろ。マルドゥークとの戦闘に集中してたら、死角からオウガテイルの棘飛ばしとか、コンゴウのスーパーラリアットォッ!!! とか来てみろ。なんの反応も出来ずに直撃貰って戦闘不能になるわ。

 

おまけにマルドゥーク自体の戦闘力も文句無しに高いわけで、しかも今回のは数も多いと来た。緊張しない理由がどこにも無い。

 

「ちなみにこの映像は無人哨戒機によって、半日ほど前に撮影され、つい30分程前に届いた物だ」

 

「「「それをもっと早く言え!!!」」」

 

全員のツッコミがサカキ博士に炸裂した。てか、半日前とかちょっとシャレになんねぇって!?

 

アラガミの移動速度を考えれば半日もあったら、ほとんどすぐそこまで来れるぞ……ヤバい。これはヤバい。あ、そうだ。

 

 

「サカキ博士。俺のとこの新人達はどうする? 面倒見てる側から言わせて貰うと出したくない。まだオウガテイルの1匹ですら精一杯だから、こんなのに出したら、まず間違いなく殉職する」

 

まぁ、あれこれ理由付けて置いてくけどな。アキラとマギー? 大型種にぶつけなけりゃ何とかなるから連れてきます。人手が足りないから半人前でも使うとも。

 

「そうだね。君の判断に任せるよ」

 

「了解」

 

「さて、相手は強大だが、いつものように行って来て、いつものように帰って来てくれ」

 

殴りたいこの笑顔。きっと、今この場に居るゴッドイーターは全員こう思った事だろう。

 

 

 

「大規模討伐ミッションですか……」

 

「回復錠足りっかなぁ」

 

大規模討伐ミッションはアキラもマギーも初めてだから緊張している。

 

「あ、あの本当に私達はここに待機なんですか?」

 

「ああ。半人前以下の奴はただ邪魔でしかないし、こっちまで危なくなるからな」

 

厳しい事だが事実だ。今のユイとマサヤのような半人前以下の実力じゃあ足を引っ張るどころか他を道連れにしかねない。実際、目の前でそうなったのを俺は見てるからな。

 

「何もせず引っ込んでろって、じゃあ俺達はなんなんだよ……」

 

うつむいたマサヤがボソリとそう言った。

お前達が何かか……少なくとも俺の中では、まだどっちも完全なゴッドイーターではない。見た目の通りただ神機が使えるだけの子供だな。

 

マサヤとユイを残して、アキラとマギーを連れて神機を取りに向かう。

 

 

●●●●●●●●●

 

 

「撃って撃って撃って撃ちまくれぇっ! オラクル無くなってもアンプル使うなりなんなりして撃ちまくれ!」

 

アキラとマギーにそう指示とも言えない指示をして、俺はもはや白い肉壁と言っても差し支えの無いくらいの数のオウガテイルに向かって突っ込む。

 

後ろからの2人の援護射撃を受けつつ、眼前のオウガテイルの顔面をかち割りそこに持ってきた手榴弾をぶち込み、爆破させてコアを破壊。そしてすぐさま跳躍して、押し寄せて来たオウガテイルを躱し、落下しながら神機を振り下ろし、互いにぶつかり合ってきりもみしているオウガテイル達をまとめてぶった斬る。

 

「がっ!?」

 

着地した瞬間、緑色の虫のようなアラガミ、ドレッドパイクの突進をもろに食らって吹っ飛ばされて瓦礫に叩きつけられ一瞬、意識が吹っ飛んふぁ。復帰する時には目の前にオウガテイルのデカイ口がばっくりと開いていた。

 

「くせぇんだよ」

 

神機をその口にぶち込み、そのまま神機を捕喰形態にして、その頭部をコアごと捕喰させてバースト化。瓦礫の中から出て、回復錠を口に放り込む。

 

「俺らん隊長に何やってくれてんだテメェッ!!!」

 

その怒声と共に目の前に居たドレッドパイクが無数の斬撃に切り刻まれ肉片に姿を変える。

 

「無事ですか隊長!?」

 

大質量のオラクル弾でアラガミ達を文字通り焼き払いながらマギーが声をかけてきた。

 

「あの程度でダメになるなら、俺も引退だなぁっ!」

 

白い色をした堕天種のコンゴウの拳を装甲で受け止める。動きが止まったコンゴウの顔面で爆発が起こりそのままダウンする。倒れたコンゴウ堕天種に神機を食い付かせてバースト時間を延長させて、チャージクラッシュを叩き込む。そこへ、アキラの狙撃が入りコアを撃ち抜く。

 

 

「今ので何匹だ!?」

 

「小型が50で中型が今ので3です!」

 

マギーがショートソードにした神機でオウガテイルを斬り刻みながら答える。

 

「ルォぉぉぉおおおおおお!!!」

 

赤と緑のデカイ犬みたいなアラガミ、ガルムが現れた。

やれやれ、ここで大型種のおかわりか……

 

 

「今日は長い1日になりそうだ……」

 

強制解放剤を神機のコア部分にぶち込む。すると、一瞬右手首から痛み走りバースト状態が深くなり、神機からの侵喰が進む。

 

さてさてどうなるのやら……





今回の独自設定解説(ハウスルールとも言う)

強制解放剤使えば、バーストレベルを上げられる。ただし、ゲームで言うとこの体力ゲージが下がる。1から2でマックス150の半分、2から3でさらに半分。
ちなみに体力増強剤とか使っての上限回復はバースト中は不可能。


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狩って狩って狩って狩りまくれ②

ガルムが後ろ足に比べて大きく発達した強靭な前脚を振り下ろす。それを展開した装甲で受け止める。俺の両脚に装甲車を受け止めて止めた時みたいな重圧がかかる。バースト化してなかったら今頃俺はぺしゃんこだ。

 

アキラとマギーは周囲の小型共と中型を任せて、ガルムの相手を始めてから5分。それなりにダメージは与えたと思うが、まだまだ元気いっぱいだ。腰に付けたポーチから回復錠を取り出して、それを口に放り込んで脚の痛みを回復させて、

 

「根性!」

 

上から未だに押さえ込んで来るガルムを押し返して、力を溜めて振り下ろす。より濃密になったオラクルの長大な刃がガルムの左顔面を捉え、大きく抉り取る。なかなかにアレな光景だが気にしてられん。

 

「うぉ!?」

 

何かを感じ取って、大きく後ろに飛び退くと、すぐ目の前で火柱が上がる。危ない危ない。

 

ガルムは自身のオラクルを地面を通して移動させ、離れたところに火柱を起こしそれで遠距離の敵を薙ぎ払う攻撃を持っている。で、今のがそれだ。

 

この攻撃の厄介なところはどこから来るか分からない事だ。一応、オラクルの変化による発火の直前の光で見分けられるが、それを見てからの回避は難しい。まぁ、あいつに張り付いてればこの攻撃は来ない。

 

ガルムが一瞬で距離を詰めて来て、前脚の爪を横薙ぎに振るって来る。それを装甲を開いて受け止めて、それを利用して体をコマのように回して神機をガルムの頭部に叩きつける。それにガルムがたたらを踏み、一瞬体勢が崩れた。

 

「そろそろ終いと行こうか!」

 

力を溜めて、それをガルムに叩き込む。が、

 

「マジかよ」

 

歯で噛んで俺の攻撃を止めていた。そしてそのまま俺を神機ごと放り投げて、噴水の残骸らしき瓦礫に叩きつける。

 

「あーしくった」

 

瓦礫にぶつかった俺の体がバウンドして崩れ落ちる。その最中で、ガルムの前脚が振るわれ、それが近づいて来る。ガードは出来ない。体が動かんからな。やっぱ痛いよなぁ……

 

ごしゃ。それが俺が最後に聞いた音だった。

 

 

●●●●●●●●●

 

 

小型のアラガミが全然減らねぇ。さっさとこいつらを片付けて隊長の方に行かねぇとだってのに、後から後から出てくる。

 

「チッ! オラクル切れだ!」

 

神機の銃を撃つためのオラクルを回復させるアンプルももう品切れだ。あとは剣で切って回復させるしかねぇ。

神機を剣形態に変形させて、突っ込んできたオウガテイルの突進を躱して斬り刻む。

 

つーか、なんでスナイパーよりオラクルの消費が激しいブラスト使ってんのに、マギーの奴じゃオラクル切れを起こさねぇんだ

 

「邪魔です! さっさと塵になりなさいな!」

 

やっぱ、こいつおっかねぇ。いや、第4部隊の誤射姫様こと台場カノンさんのアレに比べりゃ可愛いもんだけどよ……

 

「ぜりゃぁぁあああ!!!」

 

ブラッドアーツ“疾風ノ太刀・鉄”で小型共の合間を走り抜けながら斬り刻み、駆け抜けたところで後ろを振り向き、最後尾の虫みたいなアラガミ、ドレッドパイクに神機を食い付かせてバースト化する。

 

 

ーーーぉぉぉおおおん!!!

 

 

ガルムの咆哮だ。今は、隊長が俺達から引き離したところで相手にしているが、あんなのを1人で相手にしようとかマジで隊長とかみたいなゴッドイーター歴長い人らはどうかしてるし、すげぇと思う。

 

 

『リョウゴさんが戦闘不能に陥りました! 近隣のゴッドイーターは急いで救援に向かってください!』

 

 

は?

一瞬俺の手が止まる。いや俺だけじゃない。マギーのアラガミ爆殺も止まってる。

 

隊長が戦闘不能だって?

 

 

「きゃあっ!?」

 

「マギー!?」

 

隊長の戦闘不能の報告に衝撃を受けているとマギーがオウガテイルに押し倒されて、今にもやられそうになっていた。

 

「やらせるかよ!!!」

 

目の前で誰かが奴らの食い物にされるのを見るのはもうごめんだ。だから俺はゴッドイーターになったんだ!

 

地面を蹴り、他のは無視してマギーを押し倒しているオウガテイルに向かって走る。

 

「力を貸せッ!!!」

 

神機に向かって叫ぶ。その瞬間、神機の中枢部のコアが輝き、俺の体が何かに押される様に加速する。その加速に乗せてブラッドアーツを発動させる。駆け抜け様に斬りつけたオウガテイルが文字通り真っ二つになる。

 

「あ、ありがとうございます……そ、それよりも隊長が!?」

 

「分かってらぁ! マギー任せて良いか?」

 

「ええ! 隊長を頼みましたよ!」

 

「死ぬんじゃねぇぞ!」

 

マギーに背を向けて、隊長がガルムを引っ張って行った方に向かって走る。瓦礫の山の上を全速力で走る。そして走り抜けた先は元々公園か何かの広場の様なところだったのか、やけに開けていて瓦礫らしい瓦礫も無いところだった。そこで俺が見たのは、

 

 

いくらかダメージを受けて傷ついたガルムと、その大きな口に咥えられてボタボタと赤い血を流している隊長の姿だった。

 

 

俺の手から神機がこぼれ落ちてがしゃんと音を立てる。それにガルムが気付きこっちを見た。そして、ぺっと隊長をその口から放り投げてゆっくりと近付いて来る。

 

「ぉぉぉおおおん!!!」

 

ガルムが俺に向かって吠える。半ば反射的に足下の神機を拾い上げて構える。

 

「よくもやりやがったな……」

 

神機を握る手に力が籠もる。それに合わせてコアの輝きも強くなる。

 

「ぶっ殺してやる!!!!」

 

ガルムに向かって走る。勝てるかどうかなんてどうでも良い。ただただ、こいつが憎い。絶対にぶった切ってやる!!!

 

衝動に任せて神機を振り下ろす。それをガルムはとてもダメージを受けているようには思えない軽いステップで躱すと前脚を振り下ろしてくる。

 

「ぐぅうう!?」

 

装甲を開いてそれを受け止めるが、オウガテイルやコンゴウなんかとは比べものにもならないくらい重てぇ。

 

「けど、それがなんだってぇんだ!!!」

 

押し返して、ガルムを切りつけるが浅ぇ。こんなのじゃ倒せねぇ……もっとだ。もっと強く鋭く!

 

ガルムの反撃を躱して、その腹下に潜り込んで目の前の腹を斬る。今度は神機の刃が深く滑り込み、大きく切り裂いた。

 

よし、もう一撃! と思ったところでガルムが後ろに跳び、俺の攻撃が空振る。だが、今あいつは逃げた。そいつは効いてるってことだ。

 

追撃をしようと走り出した瞬間、俺は炎に飲まれ大きく吹っ飛ばされた。何が起きた!?

とりあえず、口に回復錠をいくつかまとめて放り込んで回復してあいつが何をしたのか考える。

 

 

「ぉぉぉおおおん!!!」

 

咆哮と共にガルムが一瞬で距離を詰めて来て、前脚を振り下ろして来る。それを後ろに跳びながら装甲を展開する。ガン! とそれにガルムの爪が当たり、更に後ろに吹っ飛ばされる。

 

ごろごろと地面を転がって、朽ちた電灯にぶつかって止まる。全身の痛みを堪えてすぐさま横に転がると、がしゃんと音を立てて電灯が崩れ落ちる。立ち上がるとガルムがすぐそこに居て、もう次の攻撃に移っていて、前脚が降り下ろされようとしている。

 

ガード? 無理だ。ぺしゃんこになって終わりだ。あれを受け止めれるほどのバカみたいな筋力なんざ俺にゃねぇ。

 

回避? ギリギリ間に合わねぇ。

 

増援が来る? それこそ絶望的だ。どこもかしこも手一杯で、増援なんて送れる余裕はねぇ。極東支部からなんて言わずもがなだ。

 

ガルムの巨大な前脚が迫る。

やっぱ、俺ごときじゃあ隊長がやられちまうような大型はダメだったか……

 

 

「あっさりと諦めてんじゃねぇよ」

 

目を開くと、隊長が神機をで俺をガルムから守りながら立っていた。

なんでと思うよりも、隊長の神機が輝きが気になった。バーストとは異なる赤黒いその輝きは神機だけに留まらず、隊長の体まで包み込んでいた。

 

 

●●●●●●●●●

 

 

激痛で意識が戻って来ると、アキラがガルムの相手をしていた。

おい。何がどうなってる? てか、それはそうとしてこの腹の風穴はマジで何があった?

 

「……動け……ねぇ……」

 

血が出すぎたらしい。今こうして意識が復活してるのが奇跡ってところか……そういや、俺の神機はどこ行った?

 

辛うじて動く首から上だけで探すと、噴水の辺りに突き刺さってるのが見えた。が、流石にあそこまで取りに行くのは無理だ。辿り着く前に失血であの世行きだ。

 

けど、どうする? アキラがガルムの相手をするのはまだ早い。このままあいつがやれるのをここで見てろって?

 

「……冗談じゃねぇ」

 

神機に向かって、血に濡れた手を伸ばす。すると、神機から黒い見慣れた触手が伸びて来て、それが腕輪のコネクターに触手が接続され神機が手元に戻って来る。

 

「こん……じょう……!」

 

神機を地面に突き立てて立ち上がると、何やら神機が輝き始めた。バーストとは違う赤黒い輝きだ。まぁ、なんだって良い。腹の風穴ふさがってて血もなんか止まってるし丁度良い。

 

てか、俺が復帰するまでの間にアキラがピンチになってる!?

 

「行けるか? いや、考えるまでも無いか」

 

神機を肩に担ぎ走る。神機をぶん回すには不向きだが、単純に走る事を考えればこれが一番良い。何より安定するからな。

 

前脚をアキラに振り下ろそうとしているガルムとアキラの間に割り込んで、神機を背中に回し刃を地面に突き立てて装甲を開く。その瞬間、背中と両脚に衝撃が走る。それを堪えつつ、

 

「あっさりと諦めてんじゃねぇよ」

 

ぽかんとした顔でこっちを見ているアキラにそう言い、腰のぶら下がってるぶっ壊れてないスタングレネードを取って、口でピンを引き抜いて頭上に向かって放り投げる。パッと一瞬閃光が走り、背中の重圧が消える。装甲を閉じて、神機の刃を引き抜いて後ろを振り向きスタングレネードの効果で動きを止めるガルムに向き直って、神機を肩に担ぎ、力を溜める。

 

「ちぇすとぉぉおおおお!!!」

 

叫びながら神機を振り下ろす。ぐしゃりとガルムの頭が完全に潰れて無くなる。そして、首の傷口から神機をぶち込んでコアを捕喰させてトドメを刺す。

 

「え、ちょ何? 何が起きてんだよ? マジで意味分かんねぇんだけど? なんで明らかに致死レベルで瀕死だった人がピンピンしてんだよ!?」

 

「俺もよく分からん。てか、アキラお前の通信機ちょっと寄越せ。俺のぶっ壊れてんだ」

 

「残念ながら俺のもっすわ」

 

ははは。どっちも壊れてダメか。

 

「じゃあ、残りに期待して合流すっか」

 

「っすね」





さて、ついに主人公の中尉さんに名前を付けましたとさ。
菅森リョウゴがフルネームでございます。ってか、今回もまたひっでぇもんだ。

主人公にはチートを持たせないモブ路線のつもりだったのに、瀕死からの大復活と言うモブにあるまじき事をさせちまったよ……まぁ今回限りだけどね! これ以降は普通にそこそこ強いゴッドイーターやらせるつもりだよ。てか、こっからチート化するのはアキラ君とマギーちゃん……!


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狩って狩って狩って狩りまくれ③

アキラ曰く、孤軍奮闘中のマギーと合流するために出来るだけ高速で移動する。なぜマギーが1人で戦っているのかなんて、考えなくても分かる。俺が戦闘不能になったからだ。てか、アレ一回絶対死んでるよな? 明らかに血の量もヤバかったし。

 

「隊長本当に大丈夫なんすか?」

 

俺の後ろを付いてるアキラのこのセリフももう5回目だ。自分も死にそうになったってのに、ここまで心配してくれるってのは有難いことだが、

 

「だから、大丈夫だって言ってんだろ?」

 

むしろ好調なくらいでちょっと不気味だが、人手が少ない今の状況なら好都合だ。それにしても、あの輝きはなんだったんだろうか。

 

まぁ、そこは俺じゃなくてサカキ博士とか技術屋共が考えることだな。

 

 

マギーの居るエリアに到達すると、そこには大質量のオラクル弾で群れごと文字通り粉砕玉砕されるアラガミ達とその中央で、いつも通りの落ち着いた顔で、大口径のブラストの銃身からオラクル弾をばら撒き続けるマギーが居た。何このバ火力……いや、誤射姫様とかブラッドのロミオとかブラスト使いの銃火力凄まじいけどさ……

 

砲撃を続けるマギーの後ろから大きく傷付いたコンゴウが迫り、その豪腕を振り下ろそうとする。が、その腕で爆発が起こる。

 

 

「マギーと三日三晩掛けて作った破砕爆裂弾はどうよ?」

 

ドヤ顔で銃形態の神機を構えたアキラがそう言う。てか、破砕爆裂って何? それってブラストとかショットガンの領分でスナイパーでやることじゃねぇよな?

 

「ま、バースト状態で神機を活性化させてねぇと、ロクな破壊力も出ねぇ上にコスパもすこぶる悪い正直ネタバレットも良いとこなんだけどなコレ」

 

「当たり前です。そもそもがソレはブラスト用でスナイパー用じゃないんです。本来の火力で運用出来さえすればご覧の通り、アラガミを薙ぎ払えますけどね。と、隊長無事で……血!?」

 

コンゴウを仕留めて、マギーはこっちにやって来てそう言う。てか、バレットって銃身によって異なるのか。まぁ、それもそうか。全部で一緒ならオラクルの貯蔵機能があるブラスト一択だもんな。

 

「落ち着け。ちょっと戦闘不能になってる間にガルムにがぶりされて、腹に風穴空いただけだ」

 

「十分大事ですよ!? は、早く極東支部に……!」

 

「もう塞がってっから大丈夫だ。ほれ」

 

血で真っ赤に染まった服の腹部分をめくって見せる。そこには傷跡一つない。日々の鍛錬で鍛えに鍛えた腹筋があるだけだ。

 

「ブラッドのリヴィ少尉の血の力とやらですか?」

 

神薙が戻って来る少し前辺りにリヴィこと、ブラッドのリヴィ・コレット少尉も血の力に目覚めている。『慈愛』と言い、能力は感応波によって、味方のオラクル細胞を活性化させて回復させると言うものだ。

 

「いんや、なんか神機が光って俺にまでその光が来たと思ったら治った。てか、リヴィはブラッドのメンバーだからこの大群体のボスのマルドゥークの方に掛かりっきりだっての」

 

「そう言えば、そうでしたね。ところで、アキラは意気揚々と向かった割りにはボロボロですね」

 

「流石に大型の相手はキツかった」

 

「当たり前です。隊長が戦闘不能にされるような相手ですよ? アキラ程度の腕でどうにかなる訳が無いでしょう」

 

「うるせぇ!」

 

「喧嘩すんな。それよりもマギーお前の通信機貸してくれ。俺もアキラもぶっ壊れちまったんだ」

 

マギーはそう言うと、耳元につけていた通信機を外して差し出してきた。それを受け取って耳に当てて、

 

 

「極東支部聞こえるか? 俺だ。状況を教えてくれ」

 

『ちゅ、中尉ご無事なんですか!?』

 

通信機の向こうで、オペレーターのフランが驚いている声が聞こえる。おいおい俺ぁ別に死んで無いぞ?

 

『中尉。すぐに極東支部に帰還してくれ』

 

「サカキ博士。今は引き上げてる場合じゃ『支部長命令だ』……了解。直ちに帰投する」

 

通信を切って、通信機をマギーに返す。

 

「隊長。帰還がどうのって、やっぱり……」

 

「なんもねぇから心配すんなって」

 

……そう思いたいだけだがな。

 

 

●●●●●●●●●

 

 

あの後、指定された回収ポイントに向かうと、何やら技師連中が居て俺の神機を封印状態にして俺が乗ったのとは別のヘリで極東支部へ持ってった。

 

で、アラガミの大群体についてだが、ブラッドの奮戦によって群れの首魁のマルドゥークが討伐されたことで半ば自然的に崩壊し、今は一部の隊で残党狩りの真っ最中だそうだ。なお、この残党狩りには神薙も投入されているため、今日の夕飯時くらいにはカタが付くだろう。

 

ん? 大討伐戦自体に神薙は居なかったのかって? その通りだ。まだ神薙はブラッドアーツを修得出来ておらず、感応波の影響で神機がまともに動作しない確率がかなり高いからあえて外されていたそうだ。

 

 

「で、サカキ博士。俺を呼び戻した理由はなんなんだ? リッカも一緒ってことは神機も込みの話ってのは分かるが」

 

場所はサカキ博士の専用のラボだ。サカキ博士と整備技師共を取り纏める班長の1人である楠リッカが居る。この時点で俺と神機その両方の話になるのは確定的だ。

 

「結果から言わせてもらうよ中尉。一時的に君の神機を封印することになった」

 

「はぁ?」

 

「詳しくはリッカ君から話を聞いてくれ」

 

人に丸投げかよこのキツネ……まぁ、良いか。

 

「それじゃあ話すよ。中尉の神機は今、制御出来てるけど暴走してる状態にあるんだ」

 

制御出来てて暴走? それって確か……

 

「ブラッドレイジシステムだっけか? あれみたいな状態になってるのか?」

 

「ブラッドレイジとはちょっと違うね。あれはサクラの感応波でもって神機の全てを引き出してるだけで、暴走とは違うよ。まぁでも暴走のギリギリ一歩手前ってところは似てるかな」

 

「じゃあどう違うんだ?」

 

「簡単に言っちゃうと、このままなんの対策も取らずに使い続けたら、そう遠くない日に中尉の神機はアラガミ化しちゃうんだ」

 

「だからその対策とやらが出来るまでは封印ってわけか」

 

「そう言うことだねそれとは別なんだけど、中尉の侵喰度が一気に上がってるからむしろ、そっちの方が心配だよ」

 

そう言って、リッカがサカキ博士を見やると、

 

「そうなんだよ中尉。今回の戦闘で一気に侵喰度が8パーセント上昇して、合計で46パーセントだ。正直言って、これ以上戦場に立ち続けるのを私は推奨しない。丁度良い機会だ。真面目に引退を検討してくれ」

 

「……引退ね」

 

侵喰度の上昇で一気に白く染まった頭をボリボリと掻いて、

 

「まぁ俺もアラガミ化はしたくねぇし。今回の任務で良い加減限界も感じて来たとこだしそれも悪かねーかもなー」

 

どれだけ鍛えててもやっぱり衰えってのは出てくる。今日のガルムにやられる決め手になったアレだって、後3年……いや、1年でも若けりゃなんとか捌けてたはずだ。いやはや本当俺も歳を取ったもんだ。

 

サカキ博士のラボを出て、部屋に戻ると、

 

「「中尉(さん)!」」

 

神薙とサクラが居て、鬼気迫る表情で大丈夫なのかとか色々と聞いて来る。て言うか、こいつら残党狩りはどうした?

 

「終わらせたに決まってるじゃないですか」

 

「大型の類も全部始末してあったし、小型と中型くらい楽なもんですよ。伊達に英雄って呼ばれてません」

 

「ああそう……てか、読心術はやめろ。って、どうした!?」

 

なんかいきなり2人が泣き始めた。おいおい俺なんかしたか!?

 

「……だ、だって中尉さんが戦闘不能になったって……」

 

サクラがそう言って、神薙がコクコクと頷く。お前ら仲良くなったのか、おじさん嬉しい。てか、俺は本当に幸福者だよなぁ。こうして泣いてくれる女が居るとか、

 

「中尉さん……」

 

「中尉……」

 

「いやあのお2人さん? ここは、我が第5部隊の野郎連中の共同部屋でしてね?」

 

「大丈夫です。アキラ君には言ってありますから」

 

良くねぇ。なんでよりにも寄ってアキラ!? せめてマサヤに……って!?

 

 

「アッーーーーーー!!!」

 

 

今日も極東支部は騒がしい。




さてさて、前回のチートの代償はでかかった中尉さんことリョウゴおじさん。神機が使えません! おまけに侵喰度がもはや完全にレッドライン!

さぁ、盛り上がってまいりました。


中尉「こ、腰が……! 良い年したおっさんにアレはキツかった……」
竿「ガルムちゃんによるいただきます(物理)からの恋する乙女2人のよるいただきます(意味深)……」


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トレーニング

どうも、神機封印食らって書類仕事やる以外はぷー太郎なおっさんです。部下達は今日も元気にお仕事です。そういや、俺がぷー太郎やってる間に、アキラとマギーがヴァジュラぬっころしてとうとう一人前の仲間入りを果たしました。

 

祝ってやらねばと、パーティーの画策中……有り余ってる金を使って、ちょっと豪勢に行くか……

 

 

「あー暇だー」

 

「だったら、うちのトレーニングに付き合ってくださいよー」

 

ラウンジにて、サクラ作の例の黒いアレを食いながら、愚痴ってるとそんなことを言われた。まぁ、それも悪くはないだろう。シエル考案のトレーニングメニューをこなしてるブラッドなら、俺のやってるトレーニングにもある程度はついてこれるだろうし、

 

だが、こう言っちゃなんだが、サクラ以外のブラッドとは面識が正直無いとも言える。副隊長のシエルとは仕事上、多少の付き合いがあるが仕事以外のプライベートでは、件のガチ式くらいでしか付き合いが無い。

 

「サクラ。言っちゃあ悪いが、俺はお前以外のブラッドとは面識無いが大丈夫か?」

 

「大丈夫大丈夫。中尉さんは知らなかもだけど、皆は知ってるから」

 

 

そういう訳で、

 

 

もはやどこに何があって、どれだけの広さがあるのかも手に取るように分かるくらい慣れ親しんだ極東支部地下鍛錬グラウンドにて、

 

 

「という訳で、今日はよろしく頼むわ。一応、自己紹介しとくが、俺は菅森リョウゴだ」

 

サクラを含むブラッドの面々を見ながら名乗る。にしても、本当に若いのしか居ないな……サクラもそうだが、全員が全員うちのアキラとかとそう変わらないくらいだろう。まぁ、1人はそこそこっぽいが……

 

「副隊長のシエル・アランソンです。中尉のことは隊長からお聞きしています」

 

サクラの隣に立っている銀髪を何やら独創的なツインテール風な感じに結いあげた少女が名乗る。サクラから俺をどういう風に聞いてるのか超絶気になるが、それはまぁ置いていて、

 

「こんな暇人のおっさんに付き合わせて悪いな」

 

「お構いなく。こちらこそ、胸をお借りするつもりで行きたいと思います」

 

「そんな期待すんなって、俺ぁただ任期が長いだけなんだから気楽にいこうぜ。気楽に……そんじゃ、まずは軽くランニングくらいでも行っとくか」

 

ちなみに俺の軽くランニングは、一周約1㎞のこのグラウンドを×50程度だ。バリバリの精鋭部隊ならこれくらいは軽くこなせるだろう。と思ったんだが、

 

 

「……はぁ……はぁ……キッツイ……」

 

と、幼さの抜けきっていない中性的な感じのする金髪の少年、バスター使いのロミオ・レオーニがグラウンドに座り込んでそう言う。

そして、ロミオ程では無くとも他のブラッドの面々も少なからず、息を切らしたりしている。

 

「あ、あれだけ走ったのに汗ひとつかかないなんて、隊長から聞いてた通りスゴイ人だぁ……」

 

そう言うのは、短い黒の髪を猫か犬の耳のようにピンと立てた少女、ハンマー使いの香月ナナだ。こっちもはぁはぁと息を切らしている。

 

「てか、ハンマー使いならこれくらい出来なきゃ、ロクに立ち回れねぇぞ? ハンマーなんてバスターすら余裕で超える超重量のシロモノを振り回したいなら、鼻歌歌いながら走りきる余裕を持たねぇと」

 

「き、厳しい……」

 

それどころか、これの倍の数もこなせなきゃ満足にアラガミとやりあえんぞ? まぁ、銃があるからある程度はなんとかなるんだろうがな。それに、ブラッドは基本的に強力なアラガミの相手が多いから単身任務には出ない。これも大きいだろう。

 

 

「中尉。少し良いだろうか?」

 

「ん?」

 

金髪のどこぞの英雄譚から出て来た英雄のような端正な顔立ちの青年、ブラッド元隊長で、以前のフライアで発生したクーデターの片棒を担いだ言っちゃあ悪いが、前科持ちのジュリウス・ヴィスコンティが話しかけてきた。こいつはまだまだ余裕があるようだ。

 

「銃を用いないアラガミとの戦闘について、話を伺いたい」

 

「俺なんぞに聞かなくても、お前らならなんとかなるだろ」

 

「確かに、万が一にも神機の銃身が使用不能になった際に対応出来るよう、近接形態だけでも戦闘が出来るよう訓練は積んでいますが、あくまでも訓練でしかありません」

 

「なるほどな……けどまぁ、ブレンダンとかタツミとかに聞くのと殆ど変わらんぞ?」

 

あいつらももう古参と呼んで問題無いレベルのベテランだ。俺とかリンドウあたりと一括りに考えても問題ない。でだ、そんくらいのレベルにまで達したら、全員が全員ほぼ同じようなことを答えるだろう。

 

「まぁ、基本中の基本だが、アラガミの攻撃に当たるな。全部の動きを見切れ、これは基本中の基本であり同時に対アラガミ戦の極意でもある……まぁ、これくらいのことは理解してると思うけどな」

 

むしろ、ゴッドイーターとしてこれを理解出来ない奴は早死にする。だから、俺はアキラやマギー、マサヤとユイにはどんな雑魚アラガミ相手でも余裕は持っても、絶対に油断するな下に見るな。と、常々言っている。

 

何せ、アラガミと言うのは、どんな雑魚であろうとも一般人はもちろんのこと、俺達ゴッドイーターすらをも一撃でぬっころせるんだ。こっちは長年の経験と技量でようやく出来ることを、生成されたての生まれたてホヤホヤの奴ですら普通に出来る。チートも大概にしろって話だ。

 

 

「つまり答えは、自分で考えろ……と、そう言うわけですね」

 

「まぁそう言うことだ。ここらへんは誰かに教わるんじゃなくて、実戦を重ねてひとつひとつ覚えて実にしていくしかない。今でこそ、俺ぁ部隊長なんてのをやってるが、昔はアレだぞ? 味方の足引っ張りまくるどうしようもねぇ雑魚ゴッドイーターだったんだぞ?」

 

大した技量も無いのに、アラガミに突撃しまくってオチまくって、救援に来た仲間も倒れて……やめとこう。トラウマが蘇る。

 

「さて、と……休憩もこんくらいにしとかないと、折角温めた体が冷めちまうし、そろそろ本格的におっ始めますか」

 

とりあえず、さっきのランニングの具合からしてもアキラとマギー用の訓練メニューで良さそうだ。俺のは流石に無理だろう。サクラとかシエルにジュリウスとかはともかく、ロミオとナナがついて来れないだろう。

 

 

「「終わった〜」」

 

ロミオとナナの比較的体力無しコンビが言うなり、大の字でグラウンドに寝転ぶ。

 

「いい運動になったな」

 

「シエルの考案したものとは、こうクるものが違うな……」

 

黙々とトレーニングをやっていたブラッド最年長のギルバート・マクレインとリヴィ・コレットがそんな話をしている。こいつらはもうちょいハードでも良かったらしい。ま、どっちもブラッドとは違うそれぞれの古巣で経験豊富らしいから納得と言えば納得だ。

 

「疲れたね〜。いっぱい汗かいちゃった」

 

「あ、あの一緒にシャワーでも……」

 

そう言うシエルからサクラへと送られる熱い目……うん。そう言うのもあるよな。

 

てか、やりきった感溢れるブラッドの諸君だが、

 

 

「とりあえず、お前らは何、もう終わったみたいな顔をしてるんだ? まだ半分残ってて、これはただの小休止だ」

 

そう、まだ全行程の半分程度である。

この小休止自体が、折角の休日なのにこんなおっさんに付き合わせて悪いなーと思ったから設けてるだけで、本来なら無い。

 

「それじゃあ次はダミー神機持って、素振りと行こうか。軽く500回くらい」

 

戦闘中には3桁どころか4桁近い数、神機をぶん回すんだ。これくらいは普通に出来るだろう。ちなみにダミー神機ってのは、神機っぽい形をしてるだけの対アラガミ装甲製の訓練用道具だ。なお、このトレーニングで使うやつは通常のやつの1.5倍増し程度重量増してあるが、

 

 

さぁ、しごいてこうか。



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復帰

ミッションに向かうアキラ達を見送って、俺は技術屋共の城に向かう。リッカからの呼び出しだ。

 

技術部区画は、所属する技師全員が作業に使う共用の大部屋とその中にパーティションで小分けされた班ごとの固有スペースがあって、奥には各班の班長だけが持つことを許される専用の作業室がある。

 

にしても、本当に何がしかの機械の音が絶えない場所だ。

まぁ、この騒がしさは嫌いじゃない。

 

 

「おーい、リッカ来たぞー」

 

班員達と作業に勤しんでいたリッカに声をかけると、作業の手を止めて、こっちを振り向いた。

 

「ちょっと離れるから後よろしく頼んだよ」

 

「任せといてください!」

 

副班長と思しき、機械油と何かで汚れて黒ずんだツナギ姿の男がリッカに元気良くそう返事を返す。そして、リッカは俺のところまで来ると、

 

 

「お待たせ。それじゃ、付いてきて」

 

「あいよ。ところで、お前んとこの班でイジってたアレって神機兵だろ?」

 

神機兵と言うのは、ブラッド隊の所属する極致化技術開発局によって開発され、現在は重機の運搬などの後方支援に用いられている全長5メートル程度の大型の人型兵器で、元々はゴッドイーターでない普通の人間でもアラガミと戦えるゴッドイーターの代わりとなる戦力として期待されていた代物だ。

 

そうであるだけにスペック的には十二分にアラガミとの交戦にも耐えうるそうだが、操縦がなかなかに難しいらしく、戦闘用では用いられることはない。そう言えば、サクラはこれに一回乗って、それで懲罰房入りしたとか何とか言ってたな。

 

 

「うん。レア博士からの依頼でね」

 

レア・クラウディウス博士。極致化技術開発局室長で、神機兵開発の総責任者だったはずだ。直接会ったことは無いが、なかなかに良い女だと言うのは、極東支部きっての遊び人、真壁ハルオミ談。

 

「てか、アレ新型か?」

 

「うん。この極東支部で試験運用するんだって」

 

「ま、なんかの役に立つってんなら俺は大歓迎だけどな」

 

そんな話をしている内にリッカの作業室に到着した。リッカが慣れた動きで、解鍵のパスコードを入力すると、鍵が外れる音と共に扉が開き、中に入る。

 

部屋の中は、俺にはよくわからない機材とかで一杯で、人1人が動くのが精一杯と言った感じで、部屋の中央の作業台の上に俺の神機が安置されていた。そして、俺が作業台に近寄ると神機から触手が伸びてきて、勝手に腕輪のコネクターに接続する。

 

 

「おいおい。そんなに待ち遠しかったかよ相棒」

 

「うんうん、やっぱりこう言う事か」

 

「なに1人でそんな分かった風に、うんうん言ってんだ?」

 

「まずは、これを見て」

 

そう言って、リッカがタブレット型の端末の画面を見せてきた。そこには何かのグラフが上下に2つ並んでいて、上のものはグラフの上下の差が激しく落ち着いた感じがしないが、下の方は多少の上下の乱れはあっても、ほぼ横一線と言った具合だ。

 

 

「上のグラフは今日まで測ったもので、下のグラフが今測ってる神機の安定稼働率なんだ。何をやっても落ち着かないから、試しに中尉を呼んでみたんだけど、正解だったよ」

 

「なんだそりゃ。まるで、親が近くに居なくて泣き喚く赤ん坊じゃねぇか」

 

「それだけ、神機の自我がはっきりしてるんだろうね。まぁ、中尉の侵食率だとそれは危険なんだけどね……本当にそれでも出るの?」

 

「当たり前だろ」

 

サカキ博士には良い加減キツイとかいい歳とか言ったが、それでもやっぱり俺はずっと立ち続けていたい。

 

 

「そう言うと思ったよ。だから、ちょっとした保険をかけておくよ」

 

リッカはそう言うと、あれよあれよと言う間に俺の腕輪に電極とその他コード類を繋ぎ、接続したキーボードを叩いて何かを入力していく。

 

「一程度以上、戦闘時間が経過したら強制的に神機が停止するようにしたから、これで少しは神機からの侵食も抑えられると思う」

 

「一程度ってどのくらいだ?」

 

「1時間くらいかな」

 

1時間……まぁ、先手必勝短期決戦が基本だから、1時間もあれば十分に戦えるか。

 

「あ、それとね。神機が活性化するバースト状態はあまり多用しないでね。神機がまた暴走するかもしれないから」

 

マジか。実質のバースト禁止とか……まぁ、なんとかするしかないわな。それに、バースト状態でなくたってやりようはいくらでもある。

 

 

てなわけで、

 

 

「早速やって参りました復帰ミッション」

 

おおよそ3ヶ月ぶりのミッション。錆びつきに錆びついた勘を磨き直すためにひとまずは軽くオウガテイル狩り。目標の討伐数は3体。

新人育成ミッションと同じくらいの簡単なミッションだが、鈍りに鈍った今の俺にはこれくらいからがちょうどいいだろう。

 

個人で複数を討伐する時の基本は、いかに各個撃破するかだ。ん? ベテランなら複数のアラガミに囲まれても鼻歌歌いながら撃破してみせろよって? アホか。むしろ、いかに上手く各個撃破に持ってくかが、ベテランとしての腕の見せどころだっての。

 

そして、そう言う点で考えた場合。中型種や大型種のアラガミより小型種の方が厄介だ。奴らは本能的に自身のアラガミとしての強さが然程でもない事を理解しているから、いかなる状況であろうとも群れようとする習性がある。だから、それを利用して罠に嵌めて、皆で寄って集って叩くだけの簡単なお仕事ですって状況に持ってきやすくもあるが、それはゴッドイーター複数人が居てはじめて出来ることで、単身任務の俺にとってはただただ面倒でしかない。

 

 

「見つけた……って、1匹ヴァジュラテイル混じってんぞ、おい」

 

オウガテイルを引き連れるようにして、群れの先頭をのしのしと歩く、オウガテイルに似ているが、どことなく大型種ヴァジュラのようにも見えるアラガミ名はヴァジュラテイル。

 

激しい生存競争の中で、稀に小型種であっても大型種を捕喰する程の力を得るものがいて、ヴァジュラテイルもそう言ったもののひとつだ。なお、大型種を捕喰するだけあって、そこいらの小型となめてかかると死ねる。

 

 

「まぁ、なんとかなるだろう」

 

神機も「任せろ」とでも言うように陽の光を反射している。



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復帰②

 

のしのしと歩く、オウガテイルとヴァジュラテイルは互いが互いをフォローしあえる位置取りをしていて、なかなかに攻め難い。

 

分断を考えずに突っ込めば、一太刀を叩き込むのも容易だが、一太刀やった後にフルボッコされるのは見え見えだ。全く、こう言う時、銃型、特にスナイパーなら遠距離から1匹ずつ仕留めるってのが出来るんだろうが、剣型じゃあそれは無理ってもんだ。

 

てか、制限時間的にもあんまりモタモタしてられない。今も腕輪に追加されたカウンターの数字がどんどんと減っていく。

 

 

「っし。行くか」

 

潜んでいた廃墟から出て、走りながら携帯端末を取り出して作戦エリアのマップを見る。そこには、俺のアイコンと纏まって動く3つの赤いアイコンが表示されている。

 

そして、今俺は赤いアイコン。あのヴァジュラテイル達が移動する先であろう半ば倒壊した立体駐車場を目指して走る。

立体駐車場に到着したところで、もう一度端末でアラガミの位置を確認すると、アラガミのアイコンがひとつ群れから外れていて、残りの2つが向かって来ている。

 

何も考えなら、ここはこの分かれた方に向かうべきなんだろうが……俺の直感は行くべきでないと告げている。もう言ったと思うが、オウガテイルをはじめとした小型種は本能的に群れようとする。それはオウガテイルの上位種であるヴァジュラテイルも変わらない。だから、こうして群れから離れるってのは、何がしかが起きたと考えるべきだ。

 

 

……ゴゴゴ。

 

 

「どっかで廃墟が崩れたか?」

 

オペレーターに状況を聞くべきなんだろうが、残念ながらサポートのオペレーターはこのミッションには付いていない。元がオウガテイル3体の討伐と言う内容だったし、それに復帰したてとは言え、俺も古参の1人だ。だから問題ないだろうということで、オペレーターのサポート無しになった。

 

ゴッドイーターも人員不足だが、同じようにオペレーターも人員不足なのである。

 

 

「あ?」

 

マップに表示された1匹だけになっていたアイコンが消えた。それはつまり、そのアラガミがくたばったってことだが、誰がやった? 乱入してきたアラガミが居るならマップに表示されるはずだし、俺の他にもゴッドイーターが居るなら、それも同じように表示されるはずだ。

 

…………。

 

 

「極東支部。聞こえるか?」

 

『は、はい。こちら極東支部です』

 

若干、パニック気味な感じのする返事で、返答が返ってきた。声の感じからして、新人のウララか。

 

「緊急事態だ。至急、回収のヘリを寄越してくれサビ落としがどうとか言ってる場合じゃねぇ」

 

『分かりました。すぐに手配しますので、戦域から離脱してください』

 

「了解。出来るだけ急いで頼むぜ」

 

通信を切って、立体駐車場から出るとそこでオウガテイルに遭遇した。そして、嫌な予感が当たったらしい。頭部の甲殻が割れていたり、最大の特徴の尻尾が半ばから無くなっていたりと素人目に見てもボロボロも死に体と言える姿だ。おまけに俺の姿を認識しているにも関わらず、無視して走り去って行く。まるで何かから逃げているようだ。

 

ここで問題になるのは、何から逃げているのかと言うことだ。

 

奴らにとって、ゴッドイーターは脅威のはずだ。が、それを無視するほど一心不乱に逃げると言うことは、俺達ゴッドイーターを相手にする気にもならない程の脅威があると言うことになる。

 

じゃあ、奴らがゴッドイーターをも無視して逃げるほどの脅威と言えばなんだ?

 

 

ずるずると何かを引きずる音が聞こえる。それもこっちに近づいて来る。つまりはそう言うことだ。

 

 

「……新種のアラガミだよな」

 

 

廃墟の陰から、一体の龍とも人とも取れる姿のアラガミが左手に瀕死状態のヴァジュラテイルを手に現れた。

 

この特徴と合致するアラガミは俺の知識にはハンニバル種しかない。が、俺の知るハンニバルとは大きく異なる。

 

「いつからハンニバルはボルグカムランみたいな重装アラガミになったんだ?」

 

全身を鈍く鋼色に輝く装甲質の甲殻に包み、左腕の下腕部分の籠手状の甲殻は大きく肥大化し、盾のようになっており、右腕に至っては肘から先が神機のロング系の刀身のようになっている。なんだこいつは、

 

 

「ガァァァァアアアアアアアアア!!!」

 

ハンニバル(?)が吠え、左手に引きずったヴァジュラテイルを投げつけて来る。それを神機で払いのけると、目の前に陽の光を反射して輝くハンニバル(?)の右腕の切っ先があった。

 

 

●●●●●●●●●

 

 

神機を預けて、エレベーターに乗ってロビーに向かう。

 

 

「なんだかんだで、上手く行ってますね。少しは隊長代行らしくなりましたか」

 

隣のマギーだそう言う。

俺とマギーの後ろでは、マサヤとユイが疲れ切った顔で互いが互いを支えるようにして立っている。

 

ちょっと前までは、俺とマギーもあんなだったんだよなぁ……そりゃあ隊長もトレーニング厳しくするよなぁ。

 

「お前も副隊長って言われても、やってけそうだよな」

 

「あなたは色々と頼りないですからねぇ、色々と必死ですよ。後ろの2人にも目を配らないといけませんし」

 

「言外に俺がそこらへん出来てねぇみたいに言うなよ。まぁ、出来てねぇけどさ……本当、隊長すげぇわ。俺達にも目を配って指揮やっても、あれだけの働きが出来んだからよ」

 

データベースで見た隊長の個人戦績はホント凄かった。4桁を余裕で突破するほど大量の小型種、4桁近い数の中型、3桁近い大型……これだけの数のアラガミを狩ってるゴッドイーターはそこまで多くない。

 

これだけ出来るってのにあの人は「俺は凡人だよ。常に必死でやってるだけだ」としか言わない。そりゃあ、リンドウ大尉とかと比較されちゃあそう思うのもしょうがねぇのかもしれねぇけど……

 

「てか、いつになったら隊長じゃ復帰出来んだろうな。やっぱり、隊長代行とかキツすぎる」

 

「そうですね。そろそろ、復帰してもいい頃合いだと思うんですけど」

 

ガコンとエレベーターが止まり、自動でドアが開く。

後ろの2人に声をかけてロビーに出ると、何やら騒々しい。なんか起きたのか?

 

 

「応答してください! リョウゴさん!」

 

「偏食場の異常は認められません! 一体、どうなってるんだ!?」

 

 

ミッションカウンターから聞こえてくる声に俺達は自然と走り出していた。疲れ切っていたマサヤとユイもそれが無かったかのように走っている。そして、カウンターに辿り着き、

 

 

「おい! さっきのはどう言う事だ!?」

 

俺はオペレーターを怒鳴りつけていた。2人居るオペレーターの片方、女の方が少しビビってるがどうでもいい。そんな事よりも……!

 

「少し落ち着きなさい」

 

マギーにビンタされた。そして、マギーは俺の胸ぐらを掴んで、

 

「ここでオペレーターに怒鳴ってもしょうがないでしょう。それよりも冷静に少しでも話を聞くんです。それで? 隊長がどうしたんですか?」

 

後半はオペレーターに向かって、マギーがそう言う。

オペレーターが答えようとしたところで、別の声が聞こえてきた。

 

「中尉の神機の封印は、今日解除されたんだよ。それで、彼は現場訓練としてミッションに向かい、今こうなっている……そうだね?」

 

サカキ支部長がやって来て、階段をタンタンと降りて来ながらそう言う。

 

「はい。回収のヘリの要請の後からこんな状態に……」

 

「リョウゴ君は何か言っていたかい?」

 

「少し焦った様子で、緊急事態だ、とそう言っていました」

 

「彼が緊急事態とそう言ったんだね? 中尉の現在位置は?」

 

「おそらくはまだ贖罪の街かと思われますが、正確にどこに居るかまでは分かりません。腕輪も神機もともに探知出来ておらず……」

 

「現在出撃しているゴッドイーターで、向かえそうな隊はあるかい?」

 

「はい。帰投中のブラッド隊と、ブラッドアーツ修得のために同行している神薙大尉が丁度、今近くに」

 

「それは僥倖だ。至急、向かうよう伝えてくれるかい? 一刻を争うからね」

 

「待ってください! 俺達も……「それは出来ない」なぜですか!?」

 

一刻を争うって支部長も言ったじゃねぇかよ!

 

「彼が緊急事態だと言ったんだ。この極東で10年以上をゴッドイーターとして生き抜いて来たある意味、私よりもこの極東を知っている菅森リョウゴと言う男がね。だからこそ君達を行かせる事は出来ない」

 

「でも……!」

 

「あまりこういう事は言いたくはないんだが、今の君達では恐らく無駄死にする事になる。それを彼を許さないし認めない。君達もよく知っているだろう?」

 

 

俺はただ拳を握って、血が出そうなくらいに下唇を噛み締めるしか出来なかった。悔しい。俺の、俺達の力じゃあ、俺達の隊長を他人に任せる事しか出来ねぇんだ……それがたまらなく悔しい。





さぁ、ようやく(まぁ、たったの2話くらいの間だが)の復帰かと思ったらまさかの敵登場で御座いぃー。
新種なハンニバル系のオリアラガミ。いやー本当大変なのと出会っちまったもんだ。鈍った腕とか勘を取り戻すための実戦訓練的な軽い気持ちで出て来たらこの有様。ひゃっはー。ホントに極東地域は地獄だぜぇー。

ちなみに現在の中尉さんだと余裕で負けれます。このオリアラガミ。
さぁ、ブラッドの皆と極東の英雄は間に合うのか……


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クロガネ

 

空中を行くヘリの機内にて、

 

「皆聞いてたよね。これから、中尉さんの救出のために贖罪の街に向かうよ。おそらく新種のアラガミとの交戦になると思うけど……まぁ、大丈夫だよね」

 

通信を切って、ブラッドの皆とユウさんを見回す。

 

「俺の対話の力が有れば、どんなアラガミだって余裕だって」

 

「確かにロミオの血の力は強力だが、あまり過信しすぎるな」

 

「分かってるって」

 

いつものように調子に乗るロミオにリヴィがそう釘を刺す。いつもの光景だね。

 

「でも、実際ロミオ先輩の血の力って本当に凄いよねー。アラガミの動きを止めちゃうんだもん」

 

どこからかおでんパンを取り出したナナが、それを頬張りながら言う。まぁ、凄いというかチートも良いところだけどね。私の血の力の喚起って他の人に血の力を発現させたり、ブラッドアーツに目覚めさせたり出来るけど、ぶっちゃけそれだけなんだよね……

 

 

「感応種であろうと神融種だろうと任せておきなさい。サクラのおかげでブラッドアーツの修得も出来たことだしね」

 

持参していたポットからお茶を出して、それを優雅に飲んでいるユウさんが言う。て言うか、やっぱりユウさんっておかしいよ。複数種のブラッドアーツを修得するし、その威力もちょっと世界が違うし……これが色んなゴッドイーターからバグって言われる極東の英雄……

 

「隊長。贖罪の街のマップ情報が来ました」

 

「あ、シエルありがとう」

 

シエルからタブレット状の端末を受け取って、マップを開く。

贖罪の街は全体でみると異様に広い。だから、幾つかのブロックごとに区分けしていて、今回のマップは廃墟ビルも多いCブロックだった。ここのどこかに中尉さんが居て、未知のアラガミと交戦している……

 

 

「なんだあれは?」

 

ジュリウスが外を見ながらそう言う。それに吊られて私達も外を見る。オラクル細胞によって強化された視力で捉えたものは、倒壊したビルと、土煙の中から姿を見せる鋼色のボルグカムランのように全身を重厚な装甲に包んだハンニバルのようなアラガミだった。

 

 

「なんであのアラガミはマップに表示されないの?」

 

普通ならどんなアラガミであれ、オラクル細胞の反応はある筈だから必ずマップに表示される。それが無いと言うことは自身の反応を隠すステルスの力を持った新手の感応種? にしては、感応種独特の感応波も感じないし……

 

 

「先に行くわよ」

 

そう言って、いつの間にか神機を手にしたユウさんがヘリの昇降ハッチを開いてそこから飛び出して行く。

 

「私達も行きましょう」

 

「そうだね。皆、出るよ!」

 

神機を持ってヘリから跳び降りる。地面まで普通に10メートル位あるけど、ゴッドイーターの身体能力なら問題無く着地出来る。

 

 

「って、もうあんなに行ってる!?」

 

殆ど間は空いてない筈なのに、ユウさんはもう何十メートルも先を走っていた。

 

 

●●●●●●●●●

 

 

 

迫る切っ先を無理矢理体をひねって躱す。絶好の反撃チャンスだが、今の体勢では神機を振るえない。てか、振るえても切れん。

 

着地して、間を置かずに後ろに跳ぶ。ブン! とハンニバル(?)の剣が横一閃に振るわれ、あわや真っ二つにされるところだった。

 

 

「くらいやがれ!」

 

スタグレのピンを抜いてハンニバル(?)に投げつける。パッと一瞬光が世界を包み込み、ハンニバル(?)の動きを止め……ない。

左腕の盾で防御していた。マジでボルグカムランかよこいつ。

 

装甲を開いて前に翳すと、大きく後ろに吹っ飛ばされる。いやはや亀みたいに防御すんのが精一杯とかマジ自分で自分が笑える。

 

装甲を畳んで前に出る。せめて一太刀くらいはぶちかましたい。そんな俺の感情を感じ取ったのかどうかは知らないが、ハンニバル(?)がかかって来いとでも言うかのように身構える。

 

間合いに入った瞬間、ハンニバル(?)が右手の剣を振るう。しゃがんで、それを躱してそこから前に倒れるようにしながら、地面を蹴る。そして一気に俺の間合いまで距離を詰めて、神機を振り上げてハンニバル(?)を空中に打ち上げる。そして、いつものように力を溜めて、落ちて来るハンニバル(?)に合わせてチャージクラッシュを叩き込む。

 

が、

 

チャージクラッシュのオラクルの刃をハンニバルの剣が真っ二つにする。マジでか? 濃縮した高濃度のオラクル刃を叩っ斬るってどんなレベルだよ?

 

体勢を整えてハンニバルが両足で着地して、お返しとばかりに突きを放って来る。速い。ただその一言に尽きる攻撃だ。装甲を開いての防御も間に合わない。

 

「なら、躱すだけだっての……!」

 

横に跳んで躱すと、ハンニバル(?)はそのまま真っ直ぐ前進し、廃墟のビルに突っ込む。それで無くとも建っているのは不思議なくらいにボロボロになっていた廃墟が音を立てて崩れ落ち、土煙を立てる。そして、瓦礫を吹き飛ばしながら真上に飛び上がったハンニバル(?)が俺の前に着地する。てか、無傷かよ。

 

 

「さーて、こりゃあ厳しいぞ? もしかしてここで俺人生幕切れか?」

 

汗をぬぐって、ハンニバル(?)の一挙手一投足に意識を集中させる。今のところこいつをどうにか出来る手立てが思い付かない。だから、観察だ。これまでずっとやって来たことだ。生き残るために、

 

ハンニバル(?)が動く。左の盾を前面に構え突っ込んで来る。シールドバッシュってとこか。大きく後ろに跳んで、突き出し切った盾を蹴って更に跳びハンニバル(?)の剣の間合いから離れて着地して、観察を続ける。

 

それから数分間、ハンニバル(?)が攻めて俺が守るのが続くと、ハンニバル(?)の胸部甲殻が、ノルンのデータでだけ見たことがある零號神機兵なるもんよろしくバクんと開き、そこから緋く輝く結晶体のようなものが顔を覗かせた。その瞬間、俺は反射的に神機の装甲を開いて構えていた。次の瞬間、俺は全身を焼かれるような熱に包まれながら大きく吹っ飛ばされた。

 

なんだ今のは?

 

なんとか立ち上がって、神機を見ると、装甲とバスターの刀身が半分溶けて変形していた。マジか? アマテラスの熱線とかを受けても殆ど傷付かない装甲を溶かすってどうなってんだアレ。

 

そして不運は重なると言うのか、ピーピーピーと言う音と共に神機と腕輪の接続が絶たれた。時間切れだ。

 

 

「ん?」

 

なんかハンニバル(?)の動き鈍くないか? と言うより疲れてるのか? まぁ、人のことは言えんか。やっぱり体力の衰えは否めんと言うことか……神機の方のこともあるとは言え、この好機を活かせんとは、情けない。

 

とりあえず、奴がへばってる今のうちに逃げないとな。神機の使えないゴッドイーターとか、ただのアラガミのエサだ。

 

 

「……そういや、お前も居ましたね……」

 

立てる程度に復活したヴァジュラテイルが立っていた。そう言えば、瀕死になってただけで死んでなかったなぁ……ああしくった。ハンニバル(?)ですっかり忘れてた。そりゃあ30分以上も経てば立てる程度には治るよな。

 

ヴァジュラテイルが口を開く。考えるまでも無く食いついて来る気だ。

 

 

 

「アラガミ風情が何をしてるのかしら?」

 

その言葉と共に、ヴァジュラテイルの頭がパァンと風船が割れるように弾け飛ぶ。

 

「助けに来ましたよ中尉」

 

「バトンタッチって言えよ」

 

神薙とハイタッチをして後ろに下がると、

 

 

「さぁて、あの鉄仮面どうしてやろうかしら」

 

未知のアラガミが相手だってのに、なんとも頼もしい後輩だよ。

 

 

「やっと追い付いた……って、中尉さん!?」

 

「おうサクラ」

 

「大丈夫なんですか!? 怪我とかは!?」

 

「落ち着け。ちょっと火傷しただけだ。それにお前も隊長だろ。あんまり部下の前で取り乱した姿見せんな」

 

「は、はい!」

 

「分かったなら、さっさと部下に指示出して動く」

 

パンと手を叩くと、サクラはブラッド隊の面々の方を見て、

 

 

「私、ジュリウス、ナナが前で真ん中にロミオとギル。シエルは後ろから支援。リヴィは念のために中尉さんの側で護衛をお願い。

……それじゃあ、行くよ!」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 

やれやれ、あとは見てるだけか……ままならねぇなぁ……





やられはしなかったけど、ダメージ与えられなかったと言うね。
しかも、神機のタイムリミットも来て戦えません。あとはもう見てるだけです。

たぶん極東の英雄(バグ)が次回、暴れ回る。


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クロガネ②

 

神薙が片刃の一見ロングにも見えるバスターの刀身が取り付けられた神機で切り掛かる。

 

あの刀身は神薙自身がリッカと共に研究開発したバスター並の一撃の重さとロング並の鋭さを追求した世界でただ一本の代物らしい。一応、作れなくはないそうだが、アレ一本作るのにべらぼうなくらいの希少な鋼材と複数種の強力なアラガミの素材が必要になるそうで、実質的に神薙の専用のものとなっている。

 

そうなだけあって、その威力は既存の刀身を軽く凌駕する。

 

 

「はぁっ!」

 

気合いの声と共に、浅くだが、確実に神薙の一撃はあのハンニバル(?)を切った。軽い切り傷程度のものであろうと、ダメージはダメージだ。俺が現状で出来る限りを尽くしても傷1つ与えられなかったあのハンニバル(?)に初見で傷をつけた。

 

まぁ、神薙と俺じゃあゴッドイーターとしてのレベルが大きく違うから、俺には出来なくてもあいつなら出来て当然なのかもな。

 

そして、神薙が追撃の一撃を放つが、ハンニバル(?)はこれを盾で防御した。流石に神薙の神機でもあの盾は破れんか。

 

 

「ユウさん!」

 

サクラが呼びかけると、神薙が後ろに下がって、それと入れ替わりにブラッド隊が前に出る。サクラとジュリウスとナナが直前と左右から同時に攻撃を仕掛け、その後ろから更にロミオとギルバートが銃形態の神機で銃撃による追撃を行い、ハンニバル(?)が反撃の様子を見せるとシエルが正確な狙撃によって、それを妨害して完全に封じ込めてしまう。

 

相手の動きを封じ込める。大型種を狩るときの基本だ。ここでどれだけのダメージを与えられるかによって、アラガミ討伐の成否が分かれる。

 

 

「なにこいつメチャクチャ硬いよ!? 」

 

「俺の血の力も殆ど効果がねぇよ!? どうなってんだこいつ!?」

 

「く……! 刃が通らん!」

 

「硬い上にロミオの血の力も効かないなんてね……! でも、流石に射撃は効いてるはず。皆、攻撃の手を止めないでね!」

 

サクラがそう言い、前でハンニバル(?)を叩いていた3人も神機を銃形態に変形させて、銃撃を加える。

 

 

「射線を開けなさい!」

 

 

そこへ神薙の怒号が響き、サクラ達が言われたように射線を開ける。その瞬間、神薙が溜めに溜めたオラクルを解き放つ。赤黒い濃縮されたオラクルと共に凄まじいスピードで距離を詰めて神機をハンニバル(?)に打ち込む。チェイサーと呼ばれるチャージクラッシュの変化系のブラッドアーツのひとつだ。

 

 

「っ!?」

 

「嘘でしょ!?」

 

雨霰とオラクルの弾雨が降り注ぐ中で、ハンニバル(?)が動き、右の剣で神薙の一撃を受け止めていた。そして、そのまま剣を横に振るって神薙を吹っ飛ばす。幸い神薙は俺みたいな無様を晒すこともなく、無事に着地する。

 

 

「まさかブラッドアーツをものともしないとは……」

 

俺のすぐ側に居るリヴィがそんなことを言う。俺を瓦礫などから守りながら、血の力で回復させてくれている。

 

「半端な攻撃はまずするだけ無駄だ」

 

「どう言う意味だ?」

 

「言った通りだ。あの野郎、あの甲殻で全身をくまなく覆ってるだろ。あいつはアレで物理的にもオラクル的にも身を守っている。たぶん、マップに表示されていないのはあの甲殻が奴自身のオラクル細胞の反応を隠してるんだ」

 

「オラクル的にも、と言うことは射撃も殆ど効果が無いのでは?」

 

「ああ、たぶんな。あいつが今ああしてサンドバックになってんのは、今野郎が息切れ状態でろくに動けねぇからなんだとは思うが……いい加減戻るだろうなぁ」

 

「そうしたらどうなる?」

 

「ハンニバルの神速種ほどじゃ無いが、カリギュラクラスのスピードで暴れまわる。一撃の威力は、あの剣を食らえばほぼ一撃。それに俺も食らった、胸の甲殻を開いて、そこから撃ち出す砲撃ともなると、直撃食らえばゴッドイーターであっても骨も残らん。これを見ろ」

 

リヴィに俺の神機を見せる。

 

「装甲と刃が溶けている?」

 

「ああ。ちなみにその砲撃を一撃止めただけでコレだ。けどまぁ、砲撃は気にしなくていい。たぶんアレは放熱行為だから、殆ど使われることも無いだろう……と、奴がまた暴れ始めるぞ」

 

 

 

ハンニバル(?)吠え、オラクル弾の中を疾走する。サクラをジュリウスをナナを左の盾を薙いで吹き飛ばし、突きを放つために後ろに引いた右の剣を放ち、疾風を纏って駆け抜ける。

 

ブラッド隊を無視してハンニバル(?)が向かうのは、神薙だ。本能的にこの場で最も危険な相手が神薙であると認識したらしい。

 

 

「そっちから来てくれるなんて……嬉しい限りね」

 

見切るのも難しいほどの高速で放たれた突きを神機の刃で受け、そして流し流れるような動きで、袈裟斬りを叩き込んだ。

 

「硬い。ええ、確かに硬いわね……でも、それだけよ」

 

その言葉と共に、バスターとは思えないほどの高速で放たれる斬撃は少しずつ確実にハンニバル(?)に傷を付けて行く。

 

ハンニバル(?)は熟練を思わせる盾さばきでもって、危険なものだけを止めて、後は無視し剣を振るう。余程あの甲殻に自信があるらしい。

 

 

「後ろがガラ空きだぜ。この野郎!」

 

密かに背後からハンニバル(?)に迫っていたギルバートが、槍形態の神機で攻撃を仕掛ける。チャージスピアの特徴である溜め攻撃のチャージグライドの変化系であるブラッドアーツ、クリムゾングライドを放つ。極限まで活性化したオラクルが真紅の輝きを放ち、それと一体となってギルバートが突っ込む。

 

だが、背中を見せていたはずのハンニバル(?)がそれに反応して動く。神薙の斬撃を躱しながら跳び上がると、空中で回し蹴りを繰り出して槍の切っ先を避けてギルバートを蹴り飛ばし、剣を振り下ろしながら着地し、盾と剣を巧妙に使いながら神薙を攻め立てる。

 

「ぐ……! 重いの貰っちまった……!」

 

瓦礫に叩きつけられたギルバートはそう言って、地面に倒れ伏す。戦闘不能だ。

 

「ギル! 今行くから待ってろ!」

 

そう言って駆け寄ったロミオがギルバートにリンクエイドを施して復活させる。

 

「すまねぇ……」

 

「気にすんなって、で、これからどうする?」

 

ロミオがサクラにそう聞くと、

 

「シエルの指示で中尉さんと一緒に、皆は撤退して。シエルあとお願いね」

 

「隊長は……」

 

「ごめんね」

 

申し訳なさそうな顔でサクラはシエルに謝る。それにシエルは、ひとつため息をつくと、

 

「君らしいですね。分かりました先に回収ポイントに向かいます。……戻って来てくださいね」

 

「うん。絶対戻るから待ってて」

 

そう言うと、サクラは戦い続けている神薙とハンニバル(?)のところへと向かって行く。てか、今のセリフはフラグじゃあなかろうか……

 





完全なる傍観者(つまり使えねぇ)だった中尉さん。
自分で作っといて、なんだがなんだこのチートアラガミ。

ちょっとだけネタバレすると、このオリアラガミの元ネタは某狩りゲーに出て来る。白くてデカくて硬くて厚い近接殺しとの名も名高い例の彼です。


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クロガネ③

 

ハンニバル(?)を神薙とサクラに任せて、ブラッドの奴らと撤退のために回収ポイントに向かう最中、

 

 

「なんで、こんなにコンゴウが居るんだよ!?」

 

神機の刀身でコンゴウの頭をかち割って止めを刺しながら、ロミオが怒鳴る。

 

ロミオの言う通り、どこから現れたのかコンゴウが通常種に堕天種も合わせて10以上居る。しかも、おまけにハンマー系神機が融合した特殊な個体、神融種であるラセツコンゴウが1体。

 

やれやれ、戦えない役立たずを1人抱えながらこれだけの数は、流石に若年ではあっても経験豊富な精鋭部隊のブラッドでも厳しいだろう。

 

けどまぁ……

 

 

「戦えないなら戦えないなりに出来ることもあるってもんよ」

 

スタグレを炸裂させて、コンゴウ達の目を奪うが何体かはスタグレの効果から逃れているものもいる。流石にこれだけの数全部をスタグレ1発ってのは欲張りか。

 

スタグレから逃れたコンゴウ通常種2体、堕天種1体、ラセツコンゴウがこっちを向き、お得意の前転タックルを一斉にかましてくる。それを回避して廃墟に突っ込ませるが、コンゴウ諸共瓦礫が吹き飛ぶ。ラセツコンゴウが何かやったか?

 

無駄に長いことゴッドイーターとして生きてるから、堕天種とか接触禁忌種とか色々とヤバいのも相手にして来たが、流石に神融種との戦闘経験は数える程度しかない。

 

神融種は感応種とはまた違った意味で厄介なのが多い。と言うのも、種融種ってのは神機を取り込んで進化した種で、神機の特徴を多く持っている。例えとしてブラスト系ならば、頭上からの直撃弾やらと特異な軌道の砲撃などをやって来るし、スナイパーなら隠れ潜んでのアンブッシュ……とまぁ、とにかく面白おかしく厄介なのが多い。

 

さっきのは、ラセツコンゴウがその身に取り込んだハンマー系の神機で何かをやったんだろう。ラセツコンゴウとの交戦経験の無い俺にはこの程度のことくらいしか分からん。

 

 

「ごぉぉぉおおお!!!!」

 

 

ラセツコンゴウが吠え、吹き飛ばされたコンゴウと瓦礫が地面に降り注ぐ。真上から降って来たコンゴウを神機で受け止めて、そのまま放り投げる。攻撃は出来なくてもこんくらいは出来る。

 

今はただの重りでしかない神機を構えて、ラセツコンゴウに向かって走る。敵のヘイトを稼いで敵を引きつけ、味方をその攻撃から守る。戦えないゴッドイーターが出来ることと言ったらこんなもんだ。

 

ラセツコンゴウが大きく振り上げた拳を振り下ろす。それをいつもコンゴウの攻撃を避ける感覚で躱すと、ラセツコンゴウが背負うように取り込んだハンマー系神機から発せられた衝撃波によって大きく吹っ飛ばされる。

 

なんとか体勢を立て直すが、既にラセツコンゴウが次の攻撃に移っていた。背中の神機が輝き、さながらハンマーのように降り下ろさんとしている合わせた両の拳を大きく後ろに跳ぶことで回避する。拳が地面に叩き付けられた瞬間、ラセツコンゴウの姿が若干歪んで見えるあたり、大分強い衝撃波が発せられているみたいだが、範囲はそこまで広くは無いが、今の状態でまともに攻撃食らおうもんなら骨折どころじゃすまんなぁ……まぁ食らわんがな。

 

 

ラセツコンゴウと戯れ(なお、一撃一撃が即死モノ)ていると、ブラッドの連中とコンゴウによる大運動会(殺し合いとも言う)が終了したらしく、ブラッドの皆で寄ってたかってラセツコンゴウを叩く作業が開始され、瞬く間に屠られた。流石は精鋭部隊。

 

 

「何が凄いって、神機使えないのにアラガミに向かってけるあんたが一番凄いと思うんだ。俺」

 

「10年以上ゴッドイーターとして勤続してりゃあ、こんくらいは誰でも出来るぞ。少なくとも、リンドウとかタツミにブレンダンをはじめとした防衛班の連中は出来る」

 

ロミオの言葉にそう返して、携帯端末を取り出してマップを見る。

やっぱりマップにはあのハンニバル(?)と神薙とサクラの反応は表示されていない。

 

「やっぱ、あいつはステルス能力持ちの上に超硬くて速いチートってことだな」

 

俺の推測の通りの結果だとしたら、神薙とサクラでもちょっとヤバいか? いや、あいつらなら大丈夫だ。無理でも逃げ切れるはずだ。

 

 

「やれやれ、本当歳は取りたくないわ」

 

神機から伸びてくる触手を腕輪のコネクターにぶち込んで、無理矢理接続する。接続された神機の触手が這い上がって来る独特の感覚を感じながら、神機の状態を確認。

 

装甲は使用不能。機関部問題無し、刀身半壊。

ボロボロもいいとこだなこれ。どっちにしろ、極東支部に帰ったらどやされるんだし、もうちょい無茶してくか。

 

 

「中尉」

 

俺の動きに勘付いたジュリウスが声をかけて来た。

 

「止めるか? 」

 

「当然だ。今のあなたは勿論、その神機の状態では戦いようがない」

 

「戦いようがない。か……昔俺も当時の隊長に同じこと言ったことがあるがその人は、もう捕喰形態しか使えないような状態の神機で敵を倒して戻って来た。じゃあ、俺だってそれくらいはやらないとな」

 

「それとこれとでは話が違う」

 

「同じさ。バカが無茶やって、それを通すだけのことさ」

 

 

 

●●●●●●●●

 

 

 

ハンニバル(?)が振り下ろす。剣を神機で受け止める。重い……!

しかもその上、スピードとそれを活かせる技量もある。久方ぶりに見る強敵だ。このハンニバル(?)は、

 

面白い。楽しい。

 

「さぁ、もっと見せなさい!」

 

ハンニバル(?)の剣を弾き返して、その空いた胴を切りつける。浅くても刃は通る。なら、切って切って切って、切り続ければいい。

 

ハンニバル(?)が盾を翳す。それをインパルスエッジで吹き飛ばして更に切りつける。またハンニバル(?)の甲冑の傷が深くなった。反撃でハンニバル(?)が引き戻した右腕の剣を振り下ろして来るが、ハンニバル(?)の目に銃撃が叩き込まれ、それを妨害する。

 

サクラの狙撃だ。副隊長のシエルの陰に隠れがちだけど、この子もかなりの狙撃の腕がある。多分、射撃だけなら私より上手いだろう。でも、近接戦闘なら私の方が上だし、中尉と過ごした時間だって……コウタ?あいつはマブの付く友達だし、アリサと何やら……と、意識を戻さないとね。

 

 

「なかなかしぶといわね」

 

楽しいのは良いけど、無駄に硬くてタフいのはそんなに好きじゃない。ウロヴォロスとかはもうダメ。あんなのはただの作業よ作業。

 

とか思っていると、ハンニバル(?)が胸の甲殻を唐突に開いた。て、あそこ開くの!?

 

そして、そこから激しく光を放つ結晶体が顔を覗かせていて、今にも何かが出て来そうな感じね。そう思っていたら、本当に何かが出た。直接見ると、目が痛いほどの閃光が結晶体から放たれ、その射線上に廃墟に風穴が開く。崩れたのではなく、当たった部分が消滅したかのように消えている。

 

 

「外れてくれてよかったわ。あれは見てからの防御は……いえ、防御もダメね」

 

「それに防御出来たとしても、神機が保つかどうかですね」

 

おそらく今のはどんなに上手く防御しても神機が破損するわね。防御不可の大技とはますます燃えて来るじゃないの。

 

ペロリと上唇を舐めて、神機に強制解放剤を注入してバースト化してさっきの砲撃行ってからなぜか動かないハンニバル(?)に突っ込む。

 

 



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クロガネ➃

最後の回復錠を口に放り込んで、ついでに強制解放剤を神機に注入してバースト化、そこから一瞬の溜めと共に駆ける。ブラッドアーツ『CC・チェイサー』を放ち、ハンニバルもどきを切りつける。もうどれだけ斬撃を浴びせたか分からない。でも、まだまだハンニバルもどきは元気いっぱい。

 

 

「いい加減飽きてきたわね」

 

「なんで、そんなに余裕なんですか? もう回復錠も回復柱も何にもないんですけど!?」

 

サクラがそんなツッコミを入れて来るけれど、

 

「アラガミとの戦いはアイテムの類が無くなってからが本番よ。それに、あれだけ切り刻めばあの甲殻も効果が大きく減ってるはず。むしろ戦い易いんじゃないかしら」

 

「まぁ、もう甲殻が甲殻の意味を成さないレベルで結合崩壊してるけど……」

 

そう言って、サクラがハンニバルもどきを見る。

ハンニバルもどきの全身を覆う鎧のような甲殻はもはやただの重りでしかないレベルで崩壊している。

 

 

5分くらいずっと警戒するようにこちらを見ていたハンニバルもどきが突如吠える。そして、左腕を大きく裂けた胸部甲殻の部分まで持っていくと、指をその隙間に入れて自身から用済みの甲殻を引き剥がし始めた。それを見ていたサクラは神機を銃形態にして、射撃を叩き込んだ。放たれたバレットがハンニバルもどきの右の脇腹あたりに命中し、ハンニバルもどきの本体を抉る。

 

 

「最後の最後でようやく一撃かぁ、本当かったいなぁ」

 

「それでも傷は傷よ……と、来るわよ!」

 

甲殻を引き剥がす手を一旦止めて、ハンニバルもどきが斬りかかって来る。それを左右に散開してそのこうげきを避けて反撃を叩き込もうとしたら何かが飛んで来る。どうやらあの甲殻の破片らしいそれを刀身の腹で受け止めて逸らす。その間に体勢を整えたハンニバルもどきが、体を捻って右の剣を左の腰にさながら、かつてこの極東に存在したと言うサムライがやる居合いのような構えを見せると、その剣を抜き放ちながら私達の間を駆け抜ける。その瞬間、全身を無数の斬撃に斬りざまれる。

 

「ブラッド……アーツ?」

 

起き上がりながらサクラがそう言う。確かにサクラが言うように先程のハンニバルもどきの攻撃はブラッドアーツに似ていた。でも、ブラッドアーツは神機とゴッドイーターの感応現象によって生ずる技だったんじゃ……まぁ、そんな人間の常識が日々進化を続けるアラガミに通用するわけもないか。 神機と融合した神融種なんてのも居るんだし、ブラッドアーツを扱うアラガミも出て来たっておかしくもない。

 

『聞こえるかい? ユウ君、サクラ君』

 

『俺だ。神薙とサクラ、聞こえてたら返事くれ』

 

耳につけた通信機からそんな声が同時に聞こえた。

 

「はいはい。どっちも聞こえてるわよ」

 

「良かった。通信が回復したんですね」

 

『全員が無事で何よりだ。ところで中尉の神機はなぜ稼働状態にあるんだい? リッカ君から作戦行動時間が1時間を超えたら強制的に接続を解除するって報告を受けてるんだけど……まさかね』

 

『お叱りなら後で幾らでも、とにかくハンニバルもどき野郎をぶっ倒さねぇとな。そっち今どうだ?』

 

中尉が何をやってるか大体察しが付いた。あの人は戻って来ようとしてるんだろう。大人しく私とサクラに任せておけば良いのに本当バカな人なんだから、

 

 

「え? え? 中尉さん。ブラッドの皆と撤退したんじゃ……?」

 

『すまない隊長。中尉がどうしても、と……』

 

『おいジュリウス君。何お前は無理矢理付き合わされてるみたいなことを言ってるのだね? 俺を追い越して最前列突っ走ってる子が何を言ってんだね』

 

『なんでも良いから皆無事で戻って来てね。それと中尉は帰って来たら個人的にも“お話”しようか』

 

『減給でも懲罰房送りでもなんでも好きにしてくれや』

 

ハンニバルもどきの剣を捌きながら通信を続けていると、突然ハンニバルもどきが攻撃の手を止めて比較的損壊の少ない廃墟ビルの方を見ると、唐突に左腕の盾が密着した部分に剣を当てると、ガッと削ぎ落とした……って、なんでいきなり盾を?

 

そう思っていると、その廃墟が爆破音と共にこちらに向かって倒れて来る……何が起きてるの!?

 

瓦礫を跳ね飛ばしながらハンニバルもどきが立ち上がる。そして、そこに白い影が飛び込み、何かがハンニバルもどきに喰らいついた。

 

 

「おいおい、ボコボコじゃねぇか。これならわざわざ戻って来るまでもなかったか?」

 

ハンニバルもどきの首に白色に染まった捕喰形態の神機を食い付かせた中尉が、ハンニバルもどきの背中の上でそんなことを言っている。ハンニバルが振り解こうと大きく体を振り回すけれど、食い付いた神機は離れない上に中尉は激しく動き回るハンニバルもどきの上で踊るようようにめまぐるしく足を動かして、落ちる様子はない。

 

「侵喰率が大台突破したせいか、身体能力がいよいよマジモンの化物の域だ」

 

そんなことを言うと中尉は軽く跳んで、喰い付かせていた神機を離させるとハンニバルもどきの上から降りるけれど、その姿はアラガミをすぐ後ろにしているわりには警戒がなさ過ぎる。あれでは首を落とせと言っているようなものだ。案の定、ハンニバルもどきが剣を振り下ろす。が、その刃を神機から伸びた顎が噛んで止めている。

 

 

「やれやれ、神機の方が危険を察知して勝手に防御とかな。いよいよこの野郎、俺の体をてめぇのもんだとか思ってんのかね」

 

中尉が自嘲気味にそう言うと、神機の顎が1人でに動きハンニバルもどきを投げ飛ばし、バレットの雨がハンニバルもどきに降り注ぎ、

 

 

 

「はぁッ!」

 

黒と金の神機を持ったジュリウスが弾雨の中を突っ切ってハンニバルもどきに切り掛かり、それに合わせて何処からともなく現れたリヴィが鎌型の神機を中尉の神機が喰いちぎった首の後ろに振り下ろす。前と後ろからのはさみ打ちに対して、ハンニバルもどきはジュリウスが袈裟懸けに振り下ろす斬撃を無視し、右の剣を使ってリヴィを迎撃したが、代わりに胴体部に直撃を食らう。もちろんジュリウスが狙ったのはハンニバルもどきが自分で甲殻を引き剥がした部分で、さながら血液のようなオラクルが飛び散る。

 

「まだだ!」

 

そう言って、ジュリウスが完全に振り下ろしきった神機を無理矢理持ち上げて、ゼロスタンスの構えを取って駆ける。ハンニバルもどきが左腕を突き出して迎撃しようとするが、ジュリウスはそれを地面に倒れそうなくらいに体を倒す事ですり抜け、体勢を立て直しながら神機を振り抜く。それと共に無数の斬撃がハンニバルもどきを切り刻む。更に駆け抜けざまに体を反転させて、インパルスエッジを叩き込み、その反動を利用してハンニバルもどきから離れる。

 

 

「まったく、容赦がないな。私に当たったらどうする」

 

いつの間にやらハンニバルもどきから離れていたリヴィがジュリウスにそう言う。

 

「お前なら無事だと判断しただけのことだ。それに実際無事だった」

 

「まったく、随分と変わったなジュリウスも」

 

そんな会話をしているジュリウスとリヴィに向かって、ハンニバルもどきが駆け寄る。相変わらず速い。とても消耗しているようには見えない。まぁ、とりあえず、

 

 

 

「急な登場で思わず動きが止まってしまったけれど、だからって無視はいただけないわね」

 

怒っているのか、ジュリウスとリヴィしか目に入っていない様子のハンニバルもどきに斬撃を叩き込む。ろくに警戒もしていなかった方向からの攻撃を受けてハンニバルもどきが吹き飛ぶ。吹き飛んだ先には剣形態の神機を真っ直ぐ頭上に振り上げたサクラとチャージクラッシュの構えを取るロミオが居る。

 

 

「行くよ! ロミオ! ナナ!」

 

「おう!」

 

「デッカいの行くよぉ!」

 

同時のタイミングで放たれた一撃がハンニバルもどきを地面に叩き伏せる。そこへ更に真上から真紅の輝きを纏ったギルバートが突撃し、完全にダウンしているハンニバルもどきの背中にボロボロになっていた甲殻を貫いて深々と槍の矛先が突き刺さり、ハンニバルもどきがこれまでにない絶叫をあげて、そのまま倒れ伏して動かなくなる。

 

 

 

「結局、俺いらなかったなコレ。ああ、これならこんな無茶しなくても良かったかもなぁ」

 

そう言う中尉の姿は、あまりにも白かった。無機質なまでに白く染まった髪と髭に病的なまでの白い肌。そして、アラガミと同じ黄金色の瞳……どう見ても、手遅れの姿だ。いつアラガミ化したっておかしくない。

 

「中尉さん……」

 

「そんな泣きそうな顔すんなって、ゴッドイーターやってりゃあ良くあることだ。仲間がアラガミになる。てめがアラガミになる。俺みたいに引き際も考えずにバカやってればこうなる」

 

そう言うと、中尉は自分の神機を地面に突き刺すと首を差し出すように座って、

 

 

「俺がアラガミになる前にやってくれ。どこぞの名前も知らんような奴にやられるくらいなら……」

 

「嫌です」

 

そう言って、サクラは中尉の前に向かい合うように座って、

 

 

「まだ。まだ何か手があるはずなんです。それに中尉さんも良く言ってるでしょ。最後まで絶対に諦めるな、って」

 

「いやここまで来たらもう何の手の打ちようもない。もう赤線は超えちまったんだ」

 

「でも、でもぉ……」

 

「悪いな。俺はバカだからよ」

 

そう言うと、中尉が無造作にサクラの腹に拳を叩き込んで気絶させた。そして、

 

「サクラを頼む」

 

中尉がそう言うと、ジュリウスが向かいサクラお受け取ってから、

 

 

「まったく酷い人だ」

 

「最低のクソ野郎とでも何とでも好きに言えば良い。実際、その通りなんだからな」

 

そう言葉を交わして、ジュリウスが下がる。さて、と……

 

 

 

「ジュリウス。あなた達は先に回収ポイントに向かってちょうだい。中尉の介錯は私が引き受けるわ」

 

「了解した。シエル皆、行こう」

 

私の言葉に従って、ブラッド隊がその場を離れて行く。

 

 

「そういや、俺がお前とまともに付き合うようになった時もこんな感じに2人だったっけか。まぁ、あん時とは状況が全然違うわけだが」

 

「そうですね。それまでは、良く雨宮教官に同行者を変更してくれって良く頼みましたっけ」

 

「アレな。結構、傷付いたんだぞ?」

 

「私だって、誰も彼も受け入れる聖人君子じゃありませんから、普通に人に対して好悪つけますよ。まぁ、あの時の私はまだまだ子供だったってことで許してください」

 

「まぁ、そりゃあ俺みたいなおっさんよかコウタとか、若いのの方がやりやすいってのは分かるし、気にもしてない」

 

「そう言えば、1人突出して孤立した私を助けに来てくれたこともありましたっけ」

 

「あったなぁ。まぁ、あん時は別に俺としちゃお前が死のうがどうでも良かったんだけどな。でも、お前はアリサ除いたら唯一の新型ってわけで見捨てることも出来なかったわけよ」

 

「そうだったんですか?」

 

「まぁな。あん時散々怒鳴り散らしたのは心配だったんじゃなくて、単純に俺が駆り出されたことに対する鬱憤ばらしの面が強い。けど、あの説教の内容は真面目だからな」

 

「それは分かってますよ……さて、それじゃあそろそろ」

 

「ああ、一思いにサクッと頼むわ」

 

「はい」

 

そう答えて神機を振り上げて、

 

「最後に一つだけ言わせてください。私は、神薙ユウは貴方を心の底から愛しています」

 

一直線に振り下ろした。



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つまるところ

バタバタと回転するヘリのローターの音を聞きながら外を見る。

傾いた夕陽に照らされた人類の文明の跡である廃墟はいつもの様に物悲しくも美しい。

 

……結果から言って、俺は死に損ねた。

 

 

 

●●●●●●●●

 

 

 

正座をして差し出した首に神薙の神機が振り下ろされる。半ば以上アラガミになってようと、まだ一太刀で死ねるはずだ。それに、万が一それで死ねなかったとしても神薙なら確実に仕留めてくれる。

 

思い返してみれば長いようで短い人生だった。俺がまだまだガキだった頃から考えれば、30とちょっとなんて半分も行ってればいい方だが、ゴッドイーターをやってたことを考慮すれば十分に長生きなんだろうが、短い事には変わりがない。まぁ、やりたいだけやった末の結末としちゃあ悪くはない人生だった気がしないでもない。心残りが無いと言えば嘘じゃないが……

 

 

ガギン!

 

 

「嘘!? 神機が!?」

 

「どうした。俺の神機がどうかしたか……って、なんだその機械なのか獣なのか良く分からねぇアラガミっぽいのは」

 

後ろを振り向くと、俺の神機っぽい面影がある狼っぽい四足獣型のこがたアラガミが神薙の神機に食い付いていた。まるで、俺を守るかのようにだ。

 

「それが急に中尉の神機がこのアラガミに……」

 

『カカカ、マダマダコノオトコニハキエテモラッチャアコマル』

 

「「喋った!?」」

 

『オイオイ、ドレダケオマエタチノソバニイタトオモッテイルンダ。オレタチハ、マワリニアワセテヘンカスル。ナラ、コトバダッテツカウサ』

 

こいつなんて事ないように言ってるが、こっちとしちゃあ十分に驚きだ。アラガミとのコミュニケーションは不可能ってのが常識だ。今のこいつのセリフはそれを根底からひっくり返すことだ。こいつの言う通りなら周囲の環境次第では、アラガミとだってコミュニケーションを取るのが可能ってなるじゃねぇか、

 

 

『マァ、ソッチノオマエガシッテルノトオレタチハチガウガナ。アレハ"アレ"ダ。ソシテ、アレトオナジノガデナイカギリオワリハコナイ』

 

「アレってなんだ?」

 

『シオトカヨバレテタヤツダ』

 

シオ? なんだその珍妙な名前は、て言うか神薙が知ってる?

説明はよと言う意思を込めて神薙を見ると、

 

「……特異点って分かりますよね」

 

「ああ、たしか終末捕喰のトリガーって言う特別な存在のことだろう? ジュリウスがそれだったっけか? あ、でも聖域での事件でその特異点としての何かは無くなったんじゃなかったっけか」

 

「はい。それでさっきそのアラガミが言ったシオって言うのは、エイジスでの事故のことは中尉も知ってますね」

 

「まぁ、これでも部隊長なんでな。で、エイジスでの事故。アレはあそこでなんか起きたんだろ? あそこを作るために注ぎ込んだ資材とアラガミのコアの物量で考えれば、なんらかのアラガミが発生してもおかしかない。そんでそのアラガミが暴れるかなんかして崩壊したってとこで、そのアラガミをぬっ殺すのにお前達当時の第一部隊が関わってるんだろうとは予想してたな」

 

「流石ですね。殆ど中尉の言っていた通りです。でも、エイジスの崩壊に繋がったアラガミは出現したのではなくて、前支部長が育成していたんです。終末捕喰を引き起こす最期のアラガミ……ノヴァを」

 

マジか。なんつーもんを作ってんだあの苦労人。本部とか世界のあちこちからのやっかみとか色んな苦労押し付けられて気でも狂ってたのか?

 

 

『イイヤ、タンニアレガカッテニサキヲヨソクシテ、ヒカンシテサキバシッタダケダ。マァ、サカシスギタノガヤツノフコウダナ。カカカ』

 

「それでですね。シオは、その前支部長がノヴァを育成していたのに合わせて出現した特異点だったんです。そして、シオが居なかったら私達は絶滅してます」

 

笑えねぇ。

 

 

「さて、それじゃあ脱線しに脱線した話を戻そう。結局のところお前はなんなんだ? もう神機でもないお前はアラガミでしかないわけだな?」

 

『トコロガドッコイ。コンナダガオレハオマエノジンキダ。ダカラ、オマエニキエテモラッチャアコマル』

 

「もう頭がいっぱいいっぱいなんだが」

 

「私も色々とゴッドイーターとして頭おかしいトチ狂った状況に出会ってきましたけど、こんなのは初めてです」

 

『カカカ』

 

「で、俺はこのままだとアラガミ化しかねんわけで首飛ばして貰いたいとこだが……」

 

『サセネェヨ』

 

 

●●●●●●●●●

 

 

 

以上によって、俺はこうしてヘリに乗っているわけだ。一応、極東支部に連絡を入れたらそれはもう、あのキツネもとい支部長がやたらとハイなテンションで「速く戻って来るんだ! さぁ! ハリーハリーハリー!」とか言っていた。こりゃあ榊博士の愛玩動物(モルモット)行き確定だ。

 

 

『ナニミテンダヨ』

 

ヘリに乗っているブラッド隊の面々が、俺の足元でペットの犬よろしく寛いでる神機をチラチラと見ていると、その視線を煩わしく感じた神機がそう言う。

 

 

「ん……ここ、は……」

 

ずっと気絶していたサクラが目を覚まし、周囲を確認するように見回して俺を見つけると、その目を一気に見開いて、

 

 

 

「中尉さん!? 生きて!?」

 

「わっ!? た、隊長急に暴れないでよぉ!?」

 

「ちょ、ヘリの中狭いんだから暴れんなって!?」

 

飛び起きると同時に動き出したサクラに巻き込まれて、サクラの介抱をしていたナナとその向かいに座っていたロミオがひっくり返る。

 

『ソウゾウシイナ』

 

「騒々しい? いつものことだろう」

 

 

帰ったら確実に色んな連中に怒られるんだろうな……特にアキラとかマギーとかうるさいだろうな。まぁ、あいつらに色々言ってる手前文句も言えんな。ただしリンドウだけは別だ。俺以上に色々とやってるあいつにだけは言われたくねぇ、なんであいつはあんなにチートでイケメンで良妻持ちなんだよ。俺なんか好かれる相手が10歳以上年下ばっかでロリコン呼ばわりしかされねぇ……

 

 

「理不尽だ」

 

『カカカ。セカイッテノハリフジンナンダヨ』

 

「まったくだ」

 

 

 

 

〜?

 

 

 

「いやー、調べ甲斐があったよ。完全に自律化した神機とそれの適合者!」

 

「左様でございますか、そうですか」

 

配線やらなんやらで全身がごちゃごちゃした状態で、アブないおくすりをキメたヤバイ人のようになっている榊博士に白い目を向けて、ともすれば俺以上に酷いことになっている我が神機に目を向ける。

 

 

『カカカ。カンカクガネェカラナンモワカンネェガ、ダカラトイッテゼンシンバラサレルノハナカナカ』

 

「おーい、そこのヤバイおっさん。俺の相棒が変なのに目覚めそうになってるんだが」

 

「気にしなくていい。そんなことよりも、リョウゴ君。君の体が本当に素晴らしすぎるよ! なんで9割以上確実にアラガミのはずなのに反応自体は人間なんだろうか!」

 

「そんなこと俺が知るか」

 

腕を広げて1人いい空気の中に居る榊博士はもはやアブないおくすりをキメてるなんてレベルじゃない。もっと斜め上を行く何かだ。

 

 

はてさて、これでも生き残ったことが良いと言えるのだろうか?

 

 

「あ、そうそうリョウゴ君」

 

「ん?」

 

「君、強制的にゴッドイーターとしては引退だから」

 

「ですよねー。ま、ここまできたら嫌とは言わねぇけどな」

 

「とは言っても、これまで通りに任務には赴いて貰うけどね。ゴッドイーターとしてではなくて、神機兵とかと同じ扱いになるけどね」

 

「それ通るのか?」

 

「通すよ。だって、人材はいつだって欠乏してるんだもの」

 

やっぱりフェンリルってブラックだわ。





超絶テキトーな最終話


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おかわり

思い付いたから出荷よー(何


はいどうも。ゴッドイーター引退したはずなのに相棒の神機担いで毎日毎日アラガミぬっ殺して回ってるリョウゴおじさんです。

 

おかしくね?ゴッドイーター引退したはずなのに、ゲンの旦那とかツバキみたいに戦技教導とかに回るでもなく、なんで一人さみしくアラガミを蹴散らして回らなきゃならないんだか………

 

まあ?アラガミ化進んだおかげで全盛期より体は自由に良く動くんだけどな。にしたって、この扱いは酷くね?訴えても敗訴しかないんだが。フェンリルは何やっても白だから(

 

それにサカキ支部長も言ったように人手不足なのは事実だ。

極東支部に所属するゴッドイーターの数は本部、アメリカ支部に次いで第3位だがアラガミの強さが他所の比では無いのが極東だ。そのアラガミの強さに追随出来るだけの強さを持ったゴッドイーターとなると思いの外少ない。

 

再起不能な負傷や侵喰値の問題から引退を余儀なくされた者が出る度に優先的に新しいゴッドイーターが極東支部に配属され、ゴッドイーターの数自体は維持しているが、少しずつ熟練のベテランよりも新米の数が増えつつあるのが現状だ。その新米達にも多少出来るヤツは居るがそんなのは一握りだ。

 

特に最近は神融種やら例のハンニバルもどき、鎧影種と名付けられた脅威的な強さを持ったアラガミも数多く増えてきた。他所じゃ破滅の象徴とすら見なされるヴァジュラだが、今の極東じゃ冗談抜きで雷を扱う特殊能力持ちの猫でしかない。

 

ちなみに神融種とは神機を取り込んだアラガミがその特性を持って適応進化した種のアラガミでこれまでは世界樹の跡地、正式に新域と命名された場所の外郭部、すなわち最終捕喰が現在進行形で行われているエリアでのみ姿が確認されていたのがいつの間にやら外の世界に進出して来やがった。

 

 

「おっと、危ねえ危ねえ」

 

真っ赤なたてがみが特徴的な犬のような姿を持った大型アラガミ、ガルムが振り下ろしてきた前脚を後ろに大きくバックステップを行なって回避する。

 

振り下ろされたガルムの極太の前脚に籠手のように備わった甲殻が開き、そこから火の粉のように見える濃密なオラクルが溢れ出してガルムが前脚を振るう。爪でめくりあげられたアスファルトの破片にオラクルが絡みつき、それが火球となって迫ってくる。

 

それを相棒の神機を捕喰形態に変形させてそのアギトで受け止める。

 

『マアマアノアジダナ』

 

「そりゃ大したオラクルの質のようで。ありゃあそこそこ長生きなヤツだな」

 

『アア、オモワズタカブリソウダ』

 

「勘弁しろよ?理性カッ飛んだお前制圧すんのしんどいんだからよ。あんまおっさんに無理させんな」

 

相棒とそんな風に会話しながらガルムの腹に潜り込み、地面を抉るようにして真下からガルムの腹に向かって斬り上げる。吸い込まれるように相棒の刃がガルムの腹を切り裂く。そして、相棒を担ぎ直してそこから逃げるのにやや遅れてガルムの前脚がそこを薙いで行った。

 

「コアの位置は分かったか?」

 

『ミギマエアシノツケネノアタリダナ』

 

「地味にめんどいとこにあんなぁ。俺ぁソーマみたく空中で捕喰するような曲芸は無理だかんな」

 

『ワラエルナ。シンタイノウリョクデイエバ、オマエノホウガウエダトイウノニ』

 

「才能に乏しい凡人スペックで悪かったな!身体能力上がっても出来ねぇもんは出来ねぇんだよ」

 

結局、こんな体になってもソーマみたいな曲芸や神薙やらリンドウとかサクラがやるような剣術でボルグカムランの甲殻を断ち斬るとかの神業は無理だった。相変わらず、バスターの刀身ならではの潰すように斬る事しか俺には出来ん。

 

怒りに燃えるガルムを前に相棒とそんなやり取りをしながらガルムが繰り出してくる火球を躱して、無駄に上がった身体能力にモノを言わせ下手な車よりも速いスピードでガルムに向かって突っ込む。ガルムがそれに合わせて迎撃に振り上げた右前脚を叩きつけるように振り下ろして来る。それに足を止めて無理矢理ブレーキをかける。とは言え、足を止めた程度で止まるはずもなく履いたブーツの裏からガリガリと凄まじい音をさせて滑りながらもなんとか止まるのと、目の前にブォン!とガルムの脚が落ちて来るのと、左手を担いだ相棒の柄に伸ばして両手で握るのと相棒が自分の判断でオラクルを刀身に集束させて溢れ出したオラクルが刃を形成するのが同時。

 

「ドンピシャアッ!!!」

 

吠えながら相棒を一気に振り下ろす。ちなみに相棒はある意味神機を超えた存在で、扱えるオラクルとかも普通の神機とは段違いでな?

 

半端な強度のアラガミじゃ、今のコイツのチャージクラッシュを食らったら、当たったとこが消し飛ぶんだわ。こんな風にな。

 

ガルムの右前脚が消し飛び、バランスを崩して倒れ伏す。そんなガルムに捕喰形態にした相棒を喰らい付かせて、

 

『ミツケタゾ。カカカ、オレヲノミコムカ。ダガクワレルノハオマエダ』

 

ガルムが一瞬びくんと体を痙攣させたかと思うとその動きを止めて、コアを失った事で結合を維持しきれなくなったオラクル細胞が自然と分解して消えて行く。

 

気が付いたら相棒の神機がクッソチートな『ぼくのかんがえたさいきょうのじんき』状態で笑える。難点はコイツは捕喰したアラガミのもんはコアもなんも食い尽くすから、アラガミ系素材が回収出来ないって事だろうか。まあ、タダ働きでも食うに困らないだけの金はあるんだが。

 

 

「さて、と………旧奥多摩エリアはコレでクリアか?」

 

『イヤ、マダコノバショノヌシガイル』

 

「奥多摩のヌシねえ………ヤマタノオロチみたいなんでも出て来るのか、あるいはツチノコか……まあどっちも蛇なんだけどな」

 

相棒を担いで更に森の奥へと進んで行く。一応端末で居場所の確認は出来てるが、大分奥の方まで来た。この奥多摩にはなかなか強いアラガミが居た。あのガルム以外にもシユウやらオウガテイルやらそれなり以上に手強いアラガミが揃っていた。

 

「奥多摩でコレって数々の伝説残る群馬エリアとかどうなるんだろうな?後北海道」

 

『サアナ、オレカラスレバウマイノガクエレバソレデイイ』

 

「流石アラガミ。本能に忠実で」

 

森の奥、不自然に開いた場所の手前で脚を止める。

俺が見る先には不気味に脈動する大樹とその周囲に絡みつくように這い回る触手のようにうごめくツタのアラガミが居た。

 

「コレまたでけえなぁ。ウロボロスとかアマテラスよりデカイアラガミとか初めて見たわ」

 

『ウマソウダナァアレ』

 

相棒がガタガタと揺れ出した。コイツがこんな反応するってことは、かなりのオラクル細胞の寄り集まったアラガミらしい。

 

「とりあえず、落ち着け?ここでお前が暴れたら喰うもんも喰えないぞ?」

 

『ワカッテルヨ』

 

相棒の揺れが収まったのを確認して、走る。開けた空間に出た瞬間、大樹に絡み付いていたツタが一気に解けて襲いかかって来る。前に年末の忘年パーティでアナグラの連中皆で見たホラー映画みたいにツタの先は牙の生え揃ったアギトになっていた。

 

まずは最初のヤツを相棒を振り下ろして押し潰し、その押し潰したツタに誘引効果のあるオラクルが充填された手投弾を投げつけて囮にする。目で見て判断する動物型アラガミには眼前で使ったところで効果はないが、目も何もない植物型アラガミには効果てき面だ。潰れた状態でもしぶとく蠢いていたツタに残りのツタが殺到する。

 

「纏めてサヨウナラ!」

 

チャージクラッシュで纏めて消し飛ばすが、本体である大樹型アラガミから新たなツタが伸びてくる。まあ、想定内だ。アラガミに常識なんて求めちゃいけないんだから、新しいツタが出てくる事くらいでいちいち驚いてられない。

 

「どう見る?」

 

『アレラヲイクラツブシテモムイミダナ』

 

「あの樹を伐採するっきゃないか。で、行けそうか?」

 

『デキナイトオモウノカ?』

 

「愚問だったな。お前はただ喰うだけだもんな」

 

襲いくるツタを躱しながら相棒とそんな会話をして、誘引フェロモンの手投弾を適当なところに放り投げてツタの注意を逸らして、大樹本体に向かって突っ込む。

 

「そう来ると思ったよ!」

 

横に跳んで、真下の地面から飛び出して来た根の一部らしきちょっとした木並みに太いトゲを躱しながら相棒を両手でしっかりと握り、ジャンプする。そして、相棒にオラクルを集中させる。

 

相棒の刀身にオラクルが集束して相棒自身の2倍に相当するような長いオラクル刃を形成した。そして、それをフルスイングで思い切り振り抜く。

 

振り抜くのと同時にオラクル刃が相棒の刀身から放出され、それが大樹に向かって放射状に広がりながら向かい、その幹を大きく斬り裂く。

 

「わかったか⁈」

 

着地と同時に凄まじい勢いで戻って来たツタから逃げながら相棒に問いかける。

 

『アア、ミツケタゾ』

 

「流石だ!愛してるぜ相棒!」

 

なんか背筋を冷たいものが舐めたような気がしたが、無視して足を止めて後ろを振り向きながら相棒を振り抜く。さっきと同じようにオラクル刃を放出してまとめてツタを消し飛ばして、一歩踏み込み地面を蹴った反動で大樹との距離を詰めて、ジャンプして塞がりつつある幹の傷に向かって相棒を突き込む。

 

『サア、オマエヲクワセロ』

 

その相棒の言葉と同時に俺に飛び掛かろうとしていたツタがやたらめたらに暴れ始めた。てか、大樹本体まで揺れてんぞおい。

 

『カカカ!スゴイナ!スゴイナァ!オレガノミコマレソウダ!』

 

「おいおい勘弁しろよ?俺とお前繋がってんだから、お前アラガミ化したら俺も一緒くたにアラガミ化すんだからな?」

 

『タリナイ!タリナイゾ!モットヨコセ!オマエヲ!オマエノゼンブヲヨコセェッ!!!』

 

あかん。完全にイってやがる。

触手でリンクしてる右腕が超痛え⁈ヤバい。コレ相棒の適合試験の時並みに痛え⁈侵喰されてるぅぅぅううう⁈

 

そんなこんなで。

 

『ウマカッタ………ヒサシブリノハライッパイダ』

 

「そりゃ何よりで、イチチ………皮膚裂けてやがる。グロい」

 

アラガミ化していない木(超貴重。苗木確保済)に背中を預けて座り込んでそんな会話をする。底無しの食欲を持つオラクル細胞の塊である相棒が腹一杯って、取り込んだオラクルがオーバーフロー起こしてんじゃねえか。

 

「ったく………一回アナグラ帰るしかねえなこりゃ」

 

『マタバラサレルノカ………』

 

「諦めろ。帰ったら俺もあのキツネ目にナニカサレるんだからノーカンだノーカン」

 

やっぱ、フェンリルって超絶ブラックだわ(確信)



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