【完結】 艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話 (しゅーがく)
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第一章
第一話  着任した......


提督の世界異動から始まります


今日も俺は艦これをやっていた。

遠征任務に出し、演習を行い、デイリー任務を消化する。そして、第一艦隊で海域を解放する。作業の様に思えるこれも、面白さの一つだと俺は考えている。

今俺がやっている艦これ、《艦隊これくしょん》は第二次世界大戦中に大日本帝国軍が建造した軍艦が女体化し、深海棲艦という敵を倒していく育成ブラウザゲームだ。

ひと時流行り、アニメにもなって放送された。それ程に人気の出たゲームだった。

俺は一通りデイリー任務を消化し終えると、第一艦隊の編成を確認した。

長門、扶桑、山城、日向、赤城、加賀。これが俺の第一艦隊だ。重巡軽巡や駆逐艦が居ないのは単に火力が出ないと言う短絡的な理由で、もし夜戦になってもこれまでの経験から、負けることはなかった。

確認し、改装から装備を確認すると俺は出撃画面に移動し、出撃させた。

 

〈出撃!〉

 

画面にそれが映ると、編成された艦隊が深海棲艦と戦い、海域を進んでいく。

俺はそれをただ眺めているだけだ。そうすれば、勝手に戦闘は終わり、次のマスに進んでいく。

そうだとばかり思っていた。

だが今日は違った。

画面が光だし、辺りが光に包まれた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

光に包まれ、それが収まると目がだんだんと慣れ、辺りの様子が判るようになった。

様子を理解する前に違和感を覚えた。座っていたはずなのに、今、立っている様に感じている。そして、部屋の匂いがしない。強いていうなら外の匂いだった。そしてほんの少し潮の匂いが混じっている。

 

「俺の家ってこんな磯臭かったか?」

 

と呟いて匂いを嗅いでいると、目がやっと見えるようになり、辺りを見渡せるようになった。そして、見渡すと俺は混乱した。

 

「は?......ここどこ?」

 

そこは煉瓦の塀が並ぶ場所だった。

何処かもわからない。取りあえず見渡してみると、後ろには商店街というか店が並んでいる。左右は取りあえず塀。

少し離れたところに塀から飛び出ているところがあったので、俺はそれを見にいった。

 

「横須賀......鎮守府......。ほーん。」

 

俺は目の前の文字に対して読みはできたが、理解はできなかった。

横須賀という言葉。神奈川県にあるアメリカ軍が使っている昔軍港だったところだ。

俺はその横須賀鎮守府と書かれたものをまじまじと見る。それが書かれているのはブロンズの板で、光を反射していた。光を反射しているのなら俺の姿も反射して映っている訳だ。

 

「ん?なんか反射してるな......。おわっ!!」

 

俺はいつ以来、というか思い出そうとすれば結構記憶に新しい学ランを着ていた。だたし白色。

そして、手袋をしていて、腰には拳銃と軍刀がぶら下がってる。どう考えても服装は軍人。しかも第二次世界大戦中の日本海軍将校の正装だ。

俺が自分の姿に戸惑いつつも慌てていると、どこから現れたのか、兵士が現れた。

その兵士の姿は俺にとって見覚えのある姿だ。なぜなら、陸上自衛隊の迷彩服だったから。そして、携えている小銃も自衛隊が使っている89式自動小銃だった。

 

「どうも。」

 

兵士はそう言って俺に近づいてきた。

 

「あっ、どうも。」

 

俺がそうやってキョドりながら返すと、兵士は小銃を肩からおろして塀に立てかけた。

 

「戸惑っていらっしゃいますね?すぐに説明できる者が到着しますので、それまでお待ち下さい。」

 

そう兵士は俺に笑いかけた。

俺もそれにつられて引き笑いをして、その場でぼーっと空を眺める。

 

(ここ、ほんとにどこなの?)

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

兵士が俺に話しかけてきて2分くらい経った頃、一人の女性がこちらに向かってきた。

とても兵士には見えない華奢な体格、メガネ、長い黒髪、高校生かと思ってしまうセーラー服調の制服。

俺は彼女に見覚えがあった。

 

「初めまして、提督。私は大淀です。こちらへどうぞ。」

 

そう言うと大淀は振り替えてって現れた方向に歩いていく。俺は取りあえず付いてこいと言われたので、付いていくことにした。

兵士に礼を言うと、『自分の仕事ですのでお気になさらずに。』そう言った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

長い髪を揺らしながら進む大淀に俺は話しかけた。状況が呑み込めてないのだ。

 

「大淀、でいいんだよな?」

 

「はい、大淀ですよ。どうされました?」

 

俺は唾をのみ込んで言った。

 

「俺の事を提督って言ったけど、どうして?」

 

俺がそう聞くと大淀はクスリと笑った。

 

「私では説明出来ません。ここに入って頂いて、お聞きになって下さい。」

 

そう言って大淀が止まったのは、執務室と木の板に書かれている部屋の前。これまで通ってきた部屋より大きな扉で、重厚な雰囲気を出している。

俺はそれに手をかけて開いた。この時、心拍数が自分でも判るくらいに跳ねあがったのは言うまでもない。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

扉を開けて中に進むと、中では6人。これまた見覚えのある顔が並んで敬礼をしていた。

俺がその様子に呆気を取られていると、端に立っていた長身の女性が歩いてくる。大淀の件で大体想像はついていたが、俺に向かってきているのは長門。戦艦 長門だ。

 

「提督。私は第一艦隊旗艦 長門だ。」

 

「おっ、おう。見れば判る。」

 

俺はテンパりすぎて変な風に返してしまった。

 

「まず、提督に謝りたい。済まない、いや、申し訳ございません。」

 

長門は俺の前でそう言うと、深く頭を下げた。

俺はどういう状況なのか掴めないまま、更に長門に謝られて頭が追い付いていなかった。

 

「いやっ......その前に、状況を教えてほしい。えっ?なんで俺......。」

 

俺は何故こんなところに居るのか、状況が判らない。俺はパソコンの前に居たはずだ。どうして画面の中にしかいないはずの長門が目の前に居るんだ。俺は山ほど聞きたい事があったが、取りあえず長門の謝っている訳を聞くことにした。それが俺の状況の理解に繋がると思ったからだ。

 

「提督はパソコンで指示を出していた世界から、私たちが深海棲艦と戦争をしている世界に連れてこられたんだ。その事に関して謝りたい。」

 

長門はそう言うと、執務室にあったホワイトボードに何かを書き始めた。

 

「まず、提督の身が置かれている状況だが、提督は現在横須賀鎮守府の長だ。」

 

「うん。それはこの状況で判ってる。俺が知りたいのは、何故君たち艦娘が俺の目の前に具現化しているかだ。」

 

俺がそう言うと、長門はホワイトボードに丸を2つ書いた。そしてそれを線で結んだ。

 

「右の丸と左の丸の関係性は現在の提督の状況を完結に現したものだ。右の丸は今、提督が認識している状況。左は提督がパソコンで指示を出していた状況のあるところだ。」

 

そう長門が言うと、俺の中である言葉が出てきた。

 

「......平衡世界、いや、異世界か。」

 

「正解だ。ここは深海棲艦が海を支配している世界。そして、提督は深海棲艦が居ない世界から私によって呼ばれ、この世界に現れた。」

 

長門はそう言うと、再び頭を深く下げた。

 

「私たちは提督の事情を考えずに、無理にこの世界に呼んでしまった。本当に申し訳ございませんでしたっ!!」

 

俺は今どうしてこうなったかは理解ができた。だが、その真ん中がぽっかりと空いたままだった。それは、如何して俺が長門たちによって深海棲艦が海を支配している世界に呼ばれたのかだった。

 

「大丈夫だ。混乱したけど......。それで、どうして俺を呼んだんだ?理由があるのだろう?」

 

俺がそう言うと、長門は下げていた頭を挙げて、艦の名前を唐突に挙げて言った。

 

「......長門、赤城、加賀、雪風、熊野、夕張......共通点があるだろう?」

 

俺は挙げられた艦娘の共通点を考えた。答えはすぐに出た。

 

「......レア艦だ。それも俺が保有している。」

 

「そうだ。」

 

長門は答えると続けて言った。

 

「彗星十二型甲。」

 

「レア艦載機。」

 

「そうだ。ここまで言えば判るだろう。」

 

俺は頭を回転させることなく答えた。

 

「......俺は最近始めたばかりだ。そして建造や海域でのドロップで出にくい艦娘を多数保有していて、かつ通常ならばそれなりに進んでいないと連続で艦載機開発ができないのにかなり初期で彗星十二型甲を出した。」

 

「そうだ。今挙げた艦娘と彗星十二型甲は提督のいた世界で司令部のレベルが一ケタ台で出した。」

 

「それがなんの関係があるんだ?」

 

そう俺が言うと、長門が何かに手招きをして手の上に乗せた。

 

「提督の様な人間が指揮する司令部にはこちらの世界の秘書艦、つまり私の手のひらに居る妖精から特別な力が与えられるんだ。それを≪提督を呼ぶ力≫とそのままの意味で言う。」

 

「そうか......。初期に幸運な艦隊司令部にはそんな報酬が......報酬って言っていいのか?」

 

「言っていいだろう。少なくとも私たちにとっては報酬以外の何物でもない。」

 

そう長門は言うと息を整えた。

 

「つまり、幸運な艦隊司令部には特別報酬としてその艦隊司令部を指揮する提督をパソコンで指示をしている世界からこちらの世界へと呼び、直接指揮を執ってもらえるという訳だ。」

 

俺は長門の説明にところどころ違和感を覚えていた。

 

「聞いてもいいか?」

 

「いいぞ。」

 

「俺が君らの前に現れる事が報酬なのか?それとも直接指揮を執ってもらえる事が報酬なのか?」

 

「どっちもだ。」

 

そう長門は答えた。

だが、長門は俺の質問に答えていない。

 

「なぁ、結局のところ俺を呼んだ理由は何だ?」

 

そう言うと、長門を含むその場に居た艦娘全員が顔を俯かせてしまった。

それを何も言わずに俺は眺めていたが、すぐに長門は顔を上げた。

 

「深海棲艦がいるこの世界......そして艦娘がいるこの世界ではな、人間から海を奪った怪物として深海棲艦は憎まれ、私たちは救世主と称えられていた。」

 

長門はそう言ってまた顔を俯かせてしまった。

 

「だが根源は同じ。私たちも海から現れたのだからな。それを怪しんだ人間が言ったんだ。『艦娘も深海棲艦なんじゃないか。』って。それ以来人間は私たちを鎮守府という檻に閉じ込め、私たちが出撃するのに必要な資材を送る代わりに海を取り戻してほしいと言われた。」

 

長門の握る拳が力み、見ていても判る程に食い込んでいく。

 

「人間たちはそれの要求の見返りに何がほしいかと私たちに問うたんだ。それに私たちは唯、『提督が、私たちを指揮してくれる司令官が欲しい。』と言った。」

 

長門の握る拳が震えている。

 

「そうしたら人間たちは執務室にこんなものを置いた。」

 

そう言って俯いたまま長門はあるものの前に立った。それは俺も見慣れたもの。印刷機だ。

 

「人間は私たちにこれを渡すとこう言った。『この機械からお前らの欲しがっている指揮官から命令書が届く。これ通りに作戦行動を取れ。それとこれは別世界とつながっている。それも君らに好意を持っている人間が命令を出している。』そう言ったのだ。」

 

俺はこれがその言葉で何なのか理解できた。

俺がやっていたブラウザゲームでの艦これで出したありとあらゆる命令はこれによってここに届いていたのだ。

 

「つまり......君らは自分らを指揮する提督、つまり俺が欲しかったという事か?でもそれが何で初期でレア艦や艦載機を保有しているところにのみ限定されるんだ?」

 

そう言うと長門はさっきまで俺の視界にもちらちらと入っていた妖精を手のひらに乗せた。

 

「この妖精たちがそう決めたんだ。妖精は私たちの艤装を操作してくれたり、工廠で私たちを建造したり、装備を開発したり、入渠の世話をしてくれる。その中の開発を行う妖精が最初の建造をしに言った吹雪に言ったそうだ。『この先、早い時期にレア艦や装備を多く建造・開発できたら君らの望みをかなえてあげれるよ。』と。」

 

その言葉で俺の中での辻褄が合った。

色々と端折れば、幸運であったなら提督にも会えるだろうという事だ。

俺はそれを言っても尚、俯いたままの6人を見た。そうすると長門が再び口を開いた。

 

「......妖精からはその後に続きを言ったそうだ。『もし、それが出来たとしても私は執務室にある命令書が出される機械の向こう側の人間。つまり別世界の人間だけ。』とな。」

 

「それが俺。」

 

「そうだ。それとな、まだ続きを言ったんだ。『だけど私はその人間がもしここに居ることを嫌がったら別世界に帰すつもりだからね。』と。だから.......。」

 

そう言って震えが増す長門を俺はどうもしてやれない。

 

「だから、それが叶った私たちの前に現れた提督、あなたが帰りたいと言うならば............帰る事が出来る。」

 

そう言ってもなお長門たちはまだ震えていた。

 

「てっ、提督はどうする?いま私の手のひらにいるのがその妖精だ。ここで帰りたいというなら、帰る事が出来る。その代り、こちらに残る場合は一生提督の居た世界には帰れないぞっ。深海棲艦との戦争の最中、死んでしまうかもしれない......。」

 

俺はこれまでの話を聞いていて深く考えるまでもなかった。

長門の言った人間が気になって仕方ないのだ。長門が言う話から考えるとこの世界の長門の言う人間は俺の居た世界に何等かの干渉ができるという事だ。それが怖いのだ。

だから、俺はそれの監視の為に......。

 

「......分かった。提督としてここに居続けよう。」

 

そう言うと全員が顔を一斉に挙げた。

 

「本当かっ!?嘘じゃないな!?」

 

「あぁ。長門の言うには艦娘は非人道的に扱われているみたいだな。」

 

俺は表立った理由を言う事にした。いま言うべきじゃないと思ったからだ。

 

「そうだが......。それだけか?」

 

「それと、俺の居た世界はつまらないんだ。」

 

そう言うと近くで長門たちと同じように震えていた大淀が手を震わせながら俺に一枚の紙を渡した。それは提督になった人間の名前を書き込む紙だ。

俺はそれを受け取ると、大淀が差し出したペンで名前を書き込んだ。

 

「あぁ......やっとだ。」

 

そう言って長門たちはその場に居た全員で喜んだ。俺はそれをただ眺めている事にした。今後の事を考えなければならなかったからだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

数分一頻り騒いだ6人は俺がボケーっと眺めているのに気が付き、再び整列した。

 

「すみません。嬉しくて......。」

 

長門は頬を染めながらそう言うと、咳払いをして号令をかけた。

 

「全員、提督に対し、敬礼っ!!!」

 

一糸乱れぬ敬礼に俺は戸惑いつつも適当に答礼した。

 

「提督は判っていると思うが、形式上自己紹介をさせてくれ。私は長門型戦艦一番艦 長門だ。」

 

「私は扶桑型航空戦艦一番艦 姉の方、扶桑です。」

 

「扶桑型航空戦艦二番艦 妹の方、山城です。」

 

「伊勢型航空戦艦二番艦 日向だ。」

 

「一航戦、航空母艦 赤城です。」

 

「一航戦、航空母艦 加賀です。」

 

全員が俺の目の前で言った。

 

「「「「「「提督、ご命令をっ!!」」」」」」

 

 




暇になって書き始めたのがこれです。
今までの私の作風からは少し外れていますが、楽しんでいただきたいと考えております。
これ以降、第七話まではストックですので、順次公開させていただきます。

因みに、第一艦隊。この話に登場した艦娘の編成は自分が使ってる編成です。

ご意見ご感想お待ちしております。


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第二話  提督、三週間した後に皆の前に姿を見せる

 

着任してからというもの、俺は一日中執務室と執務室に隣接する私室を行き来して生活している。

こんな生活も初めて三週間。着任してから三週間こんな生活だ。

俺が執務室で書類と睨めっこしていても、長門しか執務室にはおらず、食事は時間になると何故か赤城と加賀が持ってくるのだ。

朝昼晩の三食はどれもバランスが取れていて、とても食べがいのあるものだった。

今日も昼の時間、赤城と加賀がお盆を持って執務室に入ってきた。

 

「失礼します。提督、お昼ご飯の時間ですよ。」

 

俺はそれを合図に書類との睨めっこをやめて、執務室にあるソファーに腰を掛けた。書類を見ていた机で食べてしまうと、書類に食事のカスやら液やらが飛んでしまうからだ(※もう初日にやらかした)。

 

「ありがとう。」

 

俺は持ってきてくれた赤城に礼を言うと、箸を手に取り手を合わせて食べ始めた。

そして食べながらある事を考える。

俺は執務室と私室以外に行っていないんだ。

俺の居た世界で艦これのSSでは食堂や風呂を入渠に見立てた設備、甘味処、練習場、いろいろな設備があったが、初日に大淀に案内された時は執務室に直行していた。

そして、俺の目の前によく現れる長門や赤城、加賀などの第一艦隊以外の艦娘を見ていない。これまた初日の案内で執務室に来る道中に艦娘を見なかったのだ。

俺は目の前で俺と同じメニューを頬張る長門や赤城、加賀に何気なく聞いてみる事にした。

 

「なぁ、俺、この部屋と私室以外に出た事ないんだけど。」

 

そう言うと、長門たちは肩をピクリと反応させた。それも同じタイミングでだ。

 

「そっ、それはだな......。」

 

長門がどもりながら言う。その様子のおかしさに俺は不信感を抱いた。

 

「この部屋と私室、生活するには十分な設備があるし。お手洗いも風呂も。食事だって赤城と加賀が持ってくるし。」

 

「そっ、そうですね。」

 

今度は赤城が少し冷や汗を出しながら答えた。

 

「と言うか、6人以外の艦娘に逢ってない。扶桑と山城、日向は報告書を持ってくるけど、他の艦娘のもその3人が持ってくる。俺はてっきり皆自由に執務室に来るものだと思っていたんだけど?それに、全体の連絡で俺の着任も知らせると持ってたんだけど?」

 

「......。」

 

加賀が黙ったまま冷や汗を少し出しながらそれとなく目を赤くしている。

 

「そもそも、現状俺ってここに軟禁されてるの?」

 

そう言うと全員がプルプル震えだした。俺は横で食べていた長門に声をかける。

 

「どうしたのさ。」

 

「いっ......いやっ......その、だな......。」

 

明らかに動揺する長門。

俺はそれを見て溜息をついて箸を置いた。

 

「......なんとなく分かった。怒らないから説明して。」

 

俺がそう言うと、長門が箸を置いて説明を始めた。

 

「提督が着任することが決まった日。私たちは全員を集めた状態で提督の事を皆に発表することを検討していたんだ。」

 

俺はその様子を脳内で想像する。6人が円になって話しているところを想像すると少し笑えてきた。

 

「検討した結果。夜の夕食時、全員が集まるだろうと私たちは考えてそれ通りに物事を進めていたのだが......。」

 

「だが?」

 

「遠征艦隊、12名がその時刻になっても帰還出来なかったのと、提督着任の前日の北方海域キス島への出撃に大型艦が多数出撃していった影響で大型艦のほとんどが入渠していたから夕食の時に艦娘が多数の駆逐艦と私たち第一艦隊しかいなかったんだ。」

 

俺はそれを訊き、記憶を辿る。確かにこの世界に来る前日に金剛を求めてキス島に多数の大型艦を出撃させていたのを思い出した。第四艦隊解放の為でもある。

 

「確かに。あれって、そんなに時間かかって......たな。次の日の入渠に回して寝たと思う。」

 

「あぁ、夜中まであの機械からの命令書が止まらなかったからな。そう言う訳があって初日にチャンスを逃してからというもの、連日のキス島への出撃が重なって夜中にまで入渠に時間を費やしたから出来なかった。」

 

そう言った。

俺はそれを聞いて考える。別に6人のせいじゃなくて俺の無理な連続ローテーション出撃のせいじゃん!と内心叫んだのであった。

 

「そうか......というか、俺の采配ミスか。済まなかった。」

 

俺はそう謝ると立ち上がり、執務室の机の上にある出撃表を手に取って見た。

この後、午後に重巡と軽空母の艦隊でキス島出撃があった。俺はそれにバツをうった。

 

「......午後の出撃は全部取りやめだ。夕食前に全員を集めて俺に挨拶させてくれ。」

 

そう俺が言うと、3人は頷いて、また食事を摂り始めた。

そして俺は一つ思った。

 

「さっきの反応はなんだったんだ?」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は壁にかけてある時計を確認した。時刻にして3時。丁度書類が片付いたので、今日の仕事は終わりだった。

仕事と言って書類を片づけているが、大体が報告書。

出撃に出た艦娘と消費資源、戦果-。それだけを書いて行く。艦娘から提出される報告書を元に完結に纏めたものを艦娘曰く人間に渡すらしい。俺も人間なんだけど。

俺は長門の話した人間の話は多分、海軍や防衛省の人間、総理大臣みたいな人間の事を指しているだろうと考えていた。報告書とならば防衛省だ。

そちらに渡す報告書を手書きかと思っていたが、何故かパソコンで書いて印刷したものを長門に渡している。印刷には俺が着任する前に俺から届いていた命令書が出てきていた機械を使っている。やはり印刷機だった。

さっきは回りくどく言ったが、艦娘からの報告書は手書きなので、俺がパソコンで打ち込んで印刷しているだけだ。俺が着任した事を門の前に立っていた兵士やらなんやらかんやらで、艦娘のいう人間からそう言う命令が下ったのだ。

俺は大きな欠伸をすると、艦娘の手書きの報告書を纏めていた長門に声をかけた。

 

「なぁ、長門。」

 

「なんだ?」

 

「この後、俺の挨拶をする訳だけど。皆は提督着任の条件やらは知ってるのか?」

 

俺がそう言うと、長門は少し考えた後に答えた。

 

「多分、知ってると思うぞ。古参組は特に......。」

 

そう長門は答えた。

 

「なら長門が俺を呼び出す力を妖精から受け取ったことは?」

 

俺がそう聞くとまたもや長門は肩をピクリとさせた。この反応は昼に見た。何かを隠している様だ。

 

「知ってる......。というか、初日の時点でかなりの人数に知られている。」

 

そう答えると長門は続けた。

 

「......あくまで私の予想だが、三週間、提督が着任された事を知らせなかった。だが、私が力を持ち、呼び出した事は知ってる。もしかすると、第一艦隊以外の艦娘は提督が着任拒否をして戻ったと思っているかもしれない。」

 

「......。」

 

開いた口が塞がらないとはこのことを言うのだろうか。そう思った瞬間だった。

初日の話では艦娘の唯一欲しい提督が着任拒否だなんて、俺が艦娘なら単艦出撃してるだろうな、そう考えた。艦娘にとってそれ程の存在なのだ。

 

「......それって、大分不味いんじゃないか?」

 

「あぁ、物凄く不味い。士気に関わる問題だ。」

 

俺は眉間に手を当てた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は遂に執務室と私室の外に出た。

初日には歩いたが、廊下はどこか学校みたいな雰囲気が出ている。というか、建物自体が学校と似た作りになっている様だった。

俺は長門たち第一艦隊の全員の案内によって艦娘全員が集まっている夕食時の食堂に来ていた。

因みに俺が今いる場所は普段は使わないという食堂の入り口の前。全員が食堂に居るので廊下で立っていても大丈夫だろうと長門が言ったのでそこで待っている。

そうすると、中から声がし始めた。

 

「注目っ!!秘書艦より全体へ連絡だ。」

 

日向が声を出した様だ。先ほどまで騒がしかった食堂は一瞬で静まり返る。

 

「秘書艦の長門だ。今回夕食時ではあるが、連絡だ。」

 

全員静かに聞いている様だ。

 

「三週間前、私が提督の呼び出しを行った事を知っている者はどのくらい居るのだ。挙手せよ。」

 

数秒経った後、長門はまた口を開く。

 

「全員か。」

 

長門がそう答えると、少し音がしなくなり、長門が指名した。

 

「む、霧島。どうした。」

 

「秘書艦が提督の呼び出しを行って三週間が経ちます。それなのに、どうして私たちの前に姿を見せないのでしょうか?」

 

そう霧島が言うと、ざわざわと艦娘が話し始めた。

 

「そうだよ......あれから三週間。着任したっていう連絡はおろか、噂も立たなかった......。」

 

「じゃあやっぱり、着任拒否したっていう噂、本当だったのかな?」

 

「......私たちも自分たちの司令官に逢うことも無く水底に消えるのかな............。」

 

廊下からでも判る食堂がどれ程空気が悪くなっている事が。まるで葬式だ。

そうすると、一際ハッキリとある声が聞こえた。

 

「でもさ、ちょうど三週間前の出撃で夕立が海域でロストしたよね?ロストっていう表現は今まで使ってこなかった。」

 

時雨がそう言ってる。口調的に俺はなんとなくそう感じた。

 

「一週間後にロストした海域から鎮守府近くの浅瀬で座礁してる夕立を発見したよね?それってこれまでの僕たちの置かれた環境が変化したってことじゃないの?」

 

時雨は淡々と話していく。そしてついにそれを口にした。

 

「この異常は三週間前から始まったと考えていいんじゃないかな?そう考えるとこの環境の変化、特に僕たちの置かれた環境の変化で一番大きな影響を与えるのはなんだろうね?」

 

そう言うと全員のざわつきが消え失せた。

 

「どうなんだい、長門?」

 

時雨がそう言うと、長門が口を開いた。

 

「.......済まない。連絡が遅れていたのだ。入ってくれ。」

 

俺はその合図で食堂の普段使われていない扉を開いて入った。

入った瞬間、とてつもない数の視線を感じたがそれを見ることなく、長門の元へ歩いていく。

 

「此方は私たちへ指示を出してた提督だ。時雨の言う通り、三週間前に着任している。」

 

長門がそう言った瞬間、食堂は歓声で溢れた。耳を劈く様な音量で、思わず耳をふさいでしまったが、その声と表情から喜んでいるのは見て取れた。

 

「三週間前に提督として着任した。皆、よろしく。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

一頻り騒いだ後、それぞれ席について歓迎会を始めた。もちろん俺のだ。

歓迎会が始まるやいなや、俺の前に時雨が来た。表情は画面で見るような表情。なんとなく想像はしていたが、普段の表情からは読み取る行為が出来ないみたいだった。

 

「提督。」

 

「ん?なんだ??」

 

俺がそう答えると、時雨の立つ背後に少し違和感のある艦娘の髪が見えた。それはサイドに少し刎ねた赤みがかった金髪。俺はそれが誰だか一瞬で分かった。

 

「提督が三週間前に着任したお蔭で、提督着任で起きるイレギュラーが起きたみたいだ。そのイレギュラーが夕立を救ったみたいだよ。」

 

そう言った時雨の背後から、夕立がひょこりと顔を出して出てきた。

 

「提督さん......。ありがとう!」

 

そう言ってニコッと笑った夕立は俺の司令下にある夕立、記憶にある夕立とは違っていた。なぜなら、その夕立は改二になっているのだから。

 

「あぁ......というか、夕立。改装できるまでの練度だったか?」

 

そう言うと夕立は眉を吊り上げてフンスと鼻息を出すと言った。

 

「ロストしていた一週間、鎮守府海域の製油所とかいろんなところを移動しながら鎮守府を目指してたけど、疲労で敵の砲撃受けて大破して逃げてたらどうやら座礁したっぽい!」

 

そう言うとピョンピョン俺の前で夕立は飛び跳ねた。

 

「普通ならロストした時点で轟沈してるっぽいけど、ただ夕立ははぐれただけっぽい。今は長門さんと同じくらいの練度だよ!提督さん褒めて褒めて~!!」

 

そう嬉しそうに言う夕立の横で時雨は困った顔をして俺を見ていた。

 

「夕立は一週間、自分の艤装に接敵して轟沈させた深海棲艦の数を記していたんだ。座礁してみつかった時、その印は11。一人で11も轟沈させたんだ。褒めてあげなよ。」

 

そう時雨に言われて俺は夕立の頭に手を置いた。

 

「そうだったのか、夕立。よくやったよ。」

 

「わふー!」

 

夕立は髪の刎ねたところをピョコピョコさせて喜んだ。

そんな事をして歓迎会をすごしたが、時雨と夕立と話した後色々な艦娘に絡まれて困ったのは言うまでない。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺の歓迎会が終わり、執務室に帰ってきた時には外はすっかり暗くなっていた。

そして新たな疑問に直面する。

俺はてっきり戦艦・空母は大飯食らいだとばかり思っていたが、普通の女性並みにしか食べなかった。

一緒に執務室に入ってきた赤城に訊いてみる事にした。

 

「なぁ赤城。」

 

「はい?」

 

赤城はどうやら執務室にある機械、もとい印刷機に用事があったらしくそれの前に立って返事をした。

 

「俺はてっきり戦艦や空母の艦娘は大飯食らいだとばかり思っていたんだけど......。」

 

そう俺が言うと少し怒った風に赤城は答えた。

 

「提督!?それは艤装の方ですっ!私たちは提督の食べる量と同じくらいしか食べませんよっ!」

 

俺の中で戦艦と空母が大飯食らいだという事が覆された。

 

「ふーん、艤装がねー。というか艤装?」

 

俺がそう反応すると、赤城は印刷機の用事が済んだのか数枚の紙を持つと俺を呼んだ。

 

「提督、付いてきてください。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は真っ暗なところを赤城と歩いていた。それは一か月振りの外。夜の海辺は潮と共に冷たい風が吹き、俺の身体が上着を欲したくらいだった。

平然と歩みを進める赤城の後ろで、見える景色が変わらない事に気が付いた。

そうするとすぐに赤城が立ち止り俺の方を向いた。

 

「これが艤装です。」

 

そう言って赤城が指差したのは、黒い壁。夜だから暗いので何か判らないが、取りあえず黒くて大きなものだというのが判った。

 

「なんだ?壁か?」

 

「違いますよ!」

 

そう言うと赤城はどこから現れたのか、妖精に何か言うとその妖精はどこかへ消え、数秒後、目の前の壁をどこかのライトが照らした。

それは壁ではなく大きな船だった。

 

「これが艤装です。まぁ、私なんですけどね。」

 

そう言って近くにあったラッタルに足を掛けた。

 

「付いてきて下さい。」

 

そう言われ俺もラッタルに足を掛けた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

数秒上るとボートがクレーンにかかっており、ソレの横を通り過ぎて、階段を上りを繰り返して、やっと広いところに出た。

 

「ここは上部甲板です。ここまで来れば判りましたよね?」

 

俺は黙って頷いた。

 

「大量に食べるのは艤装なんですよ。燃料と弾薬、鋼材、ボーキサイト。全て私が出撃した時に消費される資材はこの艤装が給油、艦載機の修理、撃墜された艦載機の補充、被弾箇所の補修、整備なんかに使われます。と言っても艦載機の修理は正直資材を消費しませんけどね。」

 

そう言うと近くに寄ってきていた妖精を赤城が撫でた。

 

「なので、提督がいらした世界で私がどんな風に言われていたかは提督の言葉でなんとなくわかりましたけど、実際はこうなんですよ?」

 

そう言って赤城は笑った。

 

「すまなかった。」

 

「いえ、いいですよ。」

 

俺は謝ると、甲板から見える夜空を眺めた。

そうしていると赤城が恐る恐る声をかけてきた。

 

「......因みに、提督?」

 

「ん?」

 

「提督のいらした世界では私はなんと呼ばれていたんですか?」

 

「......大食艦、妖怪食っちゃ寝とかかな。」

 

「ひどいっ!!!」

 

この後、俺が赤城に『俺は妖怪食っちゃ寝だなんて思ってないぞ。』と言ったときに加賀とすれ違った。

 

「提督、何故赤城さんが涙目なんでしょうか?」

 

俺はふとある事を思い出して赤城に言った。

 

「そういえば、加賀も赤城と同じように大食いキャラつけられて、実は赤城より食べるとか言われてた。」

 

「......くくくっ!!」

 

赤城は口を押えて笑っていたが、加賀は何のことかわからずに俺を睨んでいたので取りあえず走って逃げる事にした。

因みに赤城には加賀が生粋の提督LOVE勢扱いの方が多かったという事は黙ってた。

 




ここから多くの独自設定と独自解釈が乱射されますのでご注意を。
提督挨拶の時の話と知られざる赤城の秘密的な感じの話でした。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第三話  第四艦隊解放① 長門編

「長門ー。」

 

俺は朝食を済ませると長門を呼んですぐに執務に入った。

一番最初に始めるのはデイリー任務だ。俺的にデイリー任務だと思っているのは建造、開発、出撃だ。建造、開発に関しては開発資材が無い為に1回ずつ。普通は4回ずつみたいだが、ウチの鎮守府にはそんな余裕が無い。

 

「デイリー任務だ。戦艦レシピで建造、赤城を連れて艦載機の開発をしてくれ。」

 

「了解だ。して提督。」

 

俺が指示を出すと長門は顎に手をやって聞いてきた。

 

「何故、戦艦レシピなのだ?鎮守府には十分と言える戦力が揃っているでは無いか。建造するならば空母レシピの方が良いと思うのだが。」

 

俺はこの長門の発言に少しイラつきを覚えた。長門はこの世界に俺を連れてくるまでもずっと秘書艦だっただろうに。

 

「長門さんや。」

 

「なっ、何だ。」

 

「ウチは資材不足だろう?」

 

「そうだな。主に開発資材だが。」

 

「ボーキサイトもだろうが。そのボーキサイトを集める為に必要なんだよ。」

 

俺がここまで言っても長門は顎に手をやったままだ。

 

「......さっぱり分からんな。」

 

「金剛型1番艦がウチには居ないだろう?金剛が来れば第四艦隊使用許可が出るんだよ。それに、比叡たち。何だか寂しそうだから、一番上の姉貴に早く逢わせてやりたい。」

 

「成る程、遠征艦隊を三艦隊編成するのか。そう言えば、霧島なんかはかなり早くに進水してたな。比叡や榛名も結構昔から居たな。というか、本音は後者だろう?」

 

「今更かよ。ノーコメントで。」

 

俺はこの時、秘書艦のポンコツさを垣間見た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が今日の分の書類を終わらせて外を眺めていると、長門が建造と開発を終わらせて赤城と共に執務室に入ってきた。

 

「どうだった。長門。」

 

「あぁ。一応金剛型を建造したのだが......。」

 

「本当か!?」

 

「......比叡の、艤装だった。すまん。」

 

これはよくある事で、何度も挑戦しては金剛型の金剛以外の艤装が出来上がる事が多い。その他は重巡ばかり出る。

今回もそれだった様だ。その横で赤城はドヤ顔をして立っていた。

 

「なんだ赤城。いい結果だったか?」

 

「はいっ!天山でしたっ!」

 

「おぉ!そうか............っておい!天山はウチはあまり余ってるわ!」

 

俺がノリツッコミをかますと、赤城は舌を少し出した。

俺が2人の報告を聞き、机で項垂れていると、長門が俺に提案をした。

 

「提案。金剛を出すなら金剛の姉妹に任せてみてはどうだ?」

 

長門の提案は何となく気分をそういう風にさせる提案だった。

金剛型を出すなら金剛型を秘書艦に建造を行う(※作者が勝手に思ってるだけです)。俺的にはいいと考え、その提案に乗る事にした。

長門の提案は次の日から始める事にした。

 

「じゃあ明日からやろう。長門、その時だけ秘書艦変わってくれ。」

 

「了解した。」

 

こうして俺の金剛建造での第四艦隊解放への道を進み始めた。

 




今回から数話がこの第四艦隊解放の話になります。
実際に作者がやったことを小説化しているだけなので、下らないところがたくさんありますが、ぜひ読んでください。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第四話  第四艦隊解放② 比叡編

長門の金剛型による金剛建造の提案があった次の日、朝食後に比叡、榛名、霧島、長門が来ていた。

 

「司令。私、何故呼び出されたか何となくわかりました。」

 

俺が執務室の椅子に座って4人の方を向くと、霧島が不意にそう言った。

 

「そうか。なら言ってみろ。」

 

「ズバリッ!!金剛お姉様が建造された、とか!」

 

霧島がそう言うと比叡と榛名は拍手し、喜んだ。

 

「遂に金剛お姉様に会えるんですね!」

 

「ありがとうございます、提督。お姉様に合わせてくださるなんて。」

 

俺と長門はそう言って喜ぶ3人の空気を一気にぶち壊した。

 

「いや違う。」

 

「「「そんなっ!?」」」

 

流石姉妹といったところだ。とても息が合っている。

 

「ひえぇぇぇぇ!司令!酷いですっ!!」

 

「榛名は大丈夫ですっ。少しっ......。」

 

「そっちでしたか......。」

 

3人がそれぞれそう言うと俺は咳払いをし、説明を始めた。

 

「まぁ今回来てもらったのはその金剛が関係しているんだがな。」

 

俺は机に肘をついて言った。

 

「お前たちに1日ローテーションで秘書艦に就き、建造を行ってもらう。」

 

俺がそう言うと、すぐさま長門が補足をした。

 

「お前たち金剛型が秘書艦の状態で建造を行えば、金剛を建造する確率が上がるのでは無いか、という事だ。」

 

そう言うと3人は飛び上がった。俺としては意味が分からない喜びだったが、この際どうでも良かった。金剛さえ建造できれば、資材回収が捗る。

 

「と、いう事で比叡っ!今日は比叡だ!」

 

「はいっ!任せて下さい、司令ぇ!」

 

比叡はそう言うとガッツポーズをして見せた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

少し話した後、榛名と霧島は自室へ戻っていった。これから執務に入るからだ。

長門は建造方法を比叡に教えている。

俺はというと、遠征に行っていた艦隊が持って帰ってきた資材をつけていた。

 

「いいか。工廠の建造妖精にだな、『戦艦レシピで』というと建造が始まる。」

 

「ほぅほぅ。成程っ!」

 

「建造時間のところに『4時間』と出たら金剛型だ。これが今回、貴様に与えられた任務だ。」

 

長門が俺に迷惑にならない程度の音量で比叡に説明している。

ある程度聞こえていて逆に気になってしまっていることは黙っておこう。

 

「それをすれば金剛お姉様に逢えるという訳ですね。」

 

「いや。そういう訳もないんだ。金剛だとしたら建造ドッグから出てくるのは金剛と金剛の艤装だが、金剛以外なら艤装だけが出てくる。注意しておけ。」

 

「そうなんですか......。だけど私は気合っ、入れてっ、行きますっ!!司令っ!今すぐに金剛お姉様に逢えますからねっ!!!」

 

そう言って比叡は走って工廠に行ってしまった。

そんな姿を眺めていた俺と長門は同じことを思った。

 

「「アイツで大丈夫なのだろうか?」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

程なくしてドタドタと走る音が執務室にまで響いてきた。

 

「ひえぇぇぇぇぇぇ!!!司令っ!!」

 

俺も長門も想像した通り、比叡だった。

比叡の目にはうっすら涙が見える。きっと建造で金剛が出なかったのだろう。

 

「どうだった?」

 

俺は意地悪く聞いてみた。

 

「4時間が出たのでウキウキしていたら、霧島の艤装でしたよっ!!」

 

俺は想像通りだったので反応に困った反面、これをやられると結構ガチで来るものがあるのでなんも答えなかった(※本当にそうでした)。

 

「そうか。比叡で失敗とはな。金剛をこよなく愛していると俺は思っていたのだが。」

 

「そうですよ!金剛お姉様をとても愛してますよ!ですが、出ませんでした......。ひえぇぇぇぇぇぇん!」

 

比叡は同じような口癖を発しながら部屋を出て行った。

俺の第四艦隊解放への道は始まったばかりだ。

 




今回も第四艦隊解放の話です。
今後、結構続くと思います。前回のあとがきに実際に作者のした事と書かせていただきましたが、発言というかリアクションもそっくりそのまま書いてます。

ご意見ご感想お待ちしております。


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第五話  第四艦隊解放③ 榛名編

 

「よっしゃ!今日も始まったな。長門ー。」

 

俺は朝食を済ませるとすぐに執務に入った。

今日は昨日の失敗を糧に前に進むのだ。今日の建造の為に来る金剛型は榛名だ。

 

「提督?」

 

俺が頬杖をついていると、不思議に思った榛名が話しかけてきた。

 

「あぁ。昨日の建造、比叡から聞いたか?」

 

「はい。なんでも、霧島の艤装を出してしまったとか。」

 

榛名は少し悲しそうな表情をした。

どうやら少し比叡に期待していたようだ。その様子を見るに俺と同じような期待だったのだろう。

 

「今日呼ばれたのは、判っているよな?」

 

「はい、もちろんです。比叡お姉様の仇、榛名が取りますっ!」

 

「じゃあ、長門から説明を訊いてくれ。俺は執務を始めるが、行くときには声をかけてくれ。」

 

「はい。」

 

俺がそう説明すると、比叡の時と同じく長門からの説明が始まった。

 

「工廠に行って建造妖精に『戦艦レシピで』というと建造が始まる。」

 

「建造ってそんな風に行われていたのですね。」

 

「そうだ。そうしたら、建造時間のところに『4時間』と出たら金剛型だ。これが今回、貴様に与えられた任務だ。」

 

前の日同等の音量で長門が榛名に説明している。前の日では比叡のリアクションに少し長門は戸惑っていたが、榛名は落ち着いているので結構すんなりと説明が進んでいる様だった。

 

「そうすれば金剛お姉様に逢えるという訳ですね。」

 

「いや。そういう訳でもないんだ。金剛だとしたら建造ドッグから出てくるのは金剛と金剛の艤装だが、金剛以外なら艤装だけが出てくる。注意しておけ。」

 

「そうなんですね。それでも榛名は大丈夫ですっ!その艤装は近代化改修に回されるのですよねっ!提督っ!今すぐに金剛お姉様に逢えますからねっ!!!」

 

そう言って榛名は楽しそうに執務室を出て工廠に行ってしまった。

そんな光景を見て俺はある事を思った。

 

「なぁ、長門。これデジャヴ。」

 

「奇遇だな。私もそう思ったところだ。」

 

「「本当に大丈夫だろうか?」」

 

「「あっ、これもデジャヴ......。」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

榛名が工廠に行って数十分が経った位、俺は資材残量を見て悩んでいた。

今回の第四艦隊解放への投資として結構な数の資材(石油と鋼)を溜めていたが、一日一回とはいえ回数を重ねると資材が心持たなくなるのも時間の問題だった。

現に、出撃していった攻略艦隊(※今、長門は入渠中)は、北方海域はモーレイ海哨戒の攻略に向かって、ボス前撤退してきたところだった。

修理に幾多の資材が消え、ボーキサイトが撃墜された艦載機へと変わっていった。

 

「はぁ......。」

 

俺が溜息をつくと、執務室の扉が開いた。榛名が立っている。という事は建造が終わったという事だ。

 

「おっ、榛名。どうだった?」

 

俺がそう言うと、榛名は涙目になって机のところまで歩いてきた。

 

「すみません......提督......。建造で出てきたのは妙高型の艤装でした......。」

 

俺はこのセリフにも強烈な違和感を覚えた。

 

「そっ、そうか。だけどまだなんとか油と鋼は余裕がある。まだ続けられるぞ。」

 

「すみませぇぇぇん。」

 

榛名は深々と頭を下げた。どうやら失敗してしまったことを相当悔やんでいる様だった。

 

「比叡が出来なかったから、榛名ならどうだろうと任せてみたが......。」

 

そう考えなしに言ってしまったばっかりに、泣き出しそうだった榛名の瞳から涙がこぼれた。

 

「榛名はっ、榛名はっ、大丈夫じゃないですぅぅぅぅ!」

 

榛名はそう言っていつも訊く口癖を少し変えた言葉を発しながら部屋を出て行った。

まだまだ俺の第四艦隊解放への道は続く。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「そういえば、今日の建造はどうなったのだろうな。」

 

長門はそんな事を考えながら入渠していた。

 




今回も第四艦隊解放の話でした。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第六話  第四艦隊解放④ 霧島編

 

前日、前々日と失敗したが、今回は大丈夫だろうと考えながら俺は朝食を摂っていた。

こう毎日同じことを考えていると、作業の一環みたいな感じていつの間にか朝食を食べ終えていた。

 

「長門ー。」

 

そして今日も朝食が済むなり長門を呼んで執務をしに向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

執務室の俺の机の前で腕を組んでメガネを光らせている霧島は、今かと俺の指示を待っている。

一方俺はというと、先日の出撃の際に消費した資材表を見て頭を抱えていた。

 

「うーん。やっぱり攻略艦隊って損傷受けた時のダメージが......。」

 

一応俺の視界には霧島は入っているが、何も言わないので俺も何も言わないでいた。

これまで俺のところに訪れた時は、入ってきてすぐに要件を俺に伝えていた為、俺は今日の任務についてきたのかと思っていたが何も言わないのでどうしたのだろうと思っていた。

 

「......司令。」

 

遂に霧島が口を開いた。

 

「なんだ?」

 

「建造、行ってきます。戦艦レシピでよろしいのですよね?」

 

「あぁ。頼んだ。」

 

そう俺が答えると、霧島は普通に執務室を出て行った。

近くで見ていた長門も口をポカンと空けたままだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

霧島が建造に向かって5分後。俺はある事を思い出した。

 

「そう言えば長門。」

 

「なんだ?」

 

「霧島はウチの金剛型で一番最初に来た奴だったな。」

 

俺はさっきまで忘れていたが、霧島はかなり初期にウチで建造された戦艦だった。長門と扶桑型姉妹に次ぐ戦艦だ。高速戦艦、いわゆる巡洋戦艦であったゆえに足の速い艦だけの高速戦闘艦隊なんて考えていた時期の霧島は旗艦だった。

ついでに秘書艦もやっていたので、ある程度執務は理解している。

そのことを俺は忘れていた。

 

「霧島に建造と開発教えたの、俺だわ。」

 

「そうだな。」

 

そう長門に言うと俺は執務に戻った。と言っても、今後資材をどうしていくか。この戦艦レシピの奴をいつまで続けるかを考えるだけだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

程なくして霧島は工廠から戻ってきた。

 

「司令。任務失敗です。」

 

霧島はそう言うと長門のいる本棚の方に向かった。

 

「長門。私も手伝いますよ。」

 

「あぁ、ありがとう。」

 

執務室に変な空気が流れたのは言うまでもない。

だが、霧島は失敗だったことは伝えてくれたが一体何が建造されたかまでは教えてくれなった。

俺は何ができたのか聞いてみることにした。

 

「なぁ、霧島。何が建造できたんだ?」

 

俺がそう言うと、見ていた書類のファイルから目を外すとこっちを見た。

 

「最上です。今、熊野が鎮守府を案内しているところです。」

 

そう言うと霧島は再びファイルに目を落とした。

最上、最上型重巡洋艦 一番艦である最上はまだウチの鎮守府には着任していなかったので、正直うれしかった。

だが、何故最初にここに連れてこなかったのかが気になった。

 

「なぁ、何故最初にここに連れてこなかった?」

 

俺がそう言うと霧島はファイルから目を外すと、ファイルを閉じて仕舞った。そしてメガネのポジションを戻した。

 

「それは、少しいたずらをしてみたくなりました。」

 

そう言う霧島のメガネはキランと光った。

 

「「そういうのやめてやれ。」」

 

俺と長門は同じことを思ったのか、同じタイミングで言った。

 

「長門にだけは言われたくないです。」

 

と、霧島は返す。

そうすると、少しばかり執務室に笑いが出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「ここが食堂ですわ。」

 

「へぇー。」

 

熊野はついさっき建造された最上を鎮守府を案内して回っていた。

工廠の前を通りかかった時、霧島に捕まって頼まれたのだ。だがその時に、提督が着任している事は伏せておいてほしいと言われたので意味も分からずに取りあえず、案内をしていた。

 

「じゃあ、次に行きましょうか。」

 

熊野がそう言って最上を見ると、最上は下を向いていた。

 

「ねぇ、熊野。」

 

「何でしょう?」

 

「提督は、提督は着任していないの?」

 

訊かれたことは提督が居るかどうかだった。

熊野は一瞬居ると答えるところだったが、霧島に言われた事と、少し自分もいたずらしたくなってしまったのだ。

 

「(ごめんなさい。最上姉さん!好奇心が私をっ!!!)えっ、えぇ。時期的にはもう着任できる時期はもう過ぎてますが。」

 

「そっか......。割と遅めの建造だとは思っていて、もしかしたら、ほんの数パーセントの可能性を願った僕は少し夢を見過ぎたようだね。」

 

そう最上が答えると、再び鎮守府の案内が再開された。

 

(本当にごめんなさいっ!最上姉さんっ!!!)

 




2つの話を同時に書くのは難しいですね。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第七話  第四艦隊解放⑤ 解放編

俺は今日も起きて朝食を摂っている。朝食べなければ、力が湧かないからだ。

何故なら昨日まで金剛型に建造をやらせても金剛が進水しなかったからだ。

 

「くっそ......。ご馳走様。長門。」

 

俺は箸を置いてトレーを戻して長門を呼ぶと執務室に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は執務室の机に向かって資材表を見ていた。数が芳しく無い。

今日も資材不足に悩んでいると、長門が声を掛けてきた。

 

「なぁ、提督。今日は私は秘書艦では無いと提督は言っていなかったか?」

 

そう言われ顔を上げると、長門の他にもう一人艦娘がいた。

白雪。吹雪型駆逐艦 2番艦だ。

俺はそれを言われ、ふと思い出していた。今日は駆逐艦の練度上げの為に今日1日は駆逐艦を秘書艦にすると言ったのを。

 

「司令官。忘れていたんですか?」

 

ふて腐れたように頬を膨らます白雪は、普段から大人しいとは思っていたが、こんな一面もあるんだなぁと思っていると続けざまに白雪は口を開いた。

 

「忘れてた......のですか?」

 

「いっ、いや。忘れてなどいない。」

 

「そうですか。では、キス島ですよね?」

 

そう言うと白雪は眉を吊り上げて勝気な表情をした。

 

「そうだ。接敵し殲滅したら戻ってこい。それの繰り返しだ。」

 

「いえ、大丈夫です。ですが出撃する前に建造と開発をやらせて下さい。高角砲の数が少ないので。」

 

「分かった。勝手は......。」

 

「分かりますよ。それと建造では戦艦レシピですよね?」

 

「あぁ。頼んだ。建造と開発の報告後に出撃してくれ。」

 

「分かりました。」

 

白雪はそう言って執務室を出て行った。

取り残された俺と長門は昨日と同様に話をしたが、建造の話にはならなかった。

白雪の言った装備の話を俺が振ったからだ。

 

「長門。今の駆逐艦に装備できる装備の数と種類、分かるか?」

 

「あぁ、艤装についていないものなら。」

 

「そうか。艤装についているものは分からないのか?」

 

「分かるのだが、駆逐艦は数が多い故、ちゃんとした数が把握出来ていないんだ。」

 

長門はそう言うと持っていたファイルをこっちに持ってきた。

 

「艤装から外されているのは、12.7mm単装砲が4、10cm連装高角砲が6、三連装魚雷発射管が6、四連装魚雷発射管が3、対空機銃が7.7mmと12.7mmが其々7だ。」

 

「そうか。」

 

俺は何が足りていないのか分からなかった。

駆逐艦は元々単装砲は装備しているし、魚雷発射管は基本的に出撃する艦娘にしか持たせなかった。

 

「提督、白雪は高角砲が足りないと言っていた。きっとキス島に出撃する事が近いと知っているのだろう。」

 

「成る程。連撃の為か。」

 

そう俺は思い、顎に指をやった。

 

「それだったらもう3回、白雪に任せるか?」

 

「そんな事をすればただでさえ少ない開発資材が......。」

 

「そうそう成功するものでもない。試しにだ。」

 

そう俺が長門と話していると、建造と開発に行っていた白雪が帰ってきた。

そして白雪の後ろには見覚えのある改造巫女服を着た長身の艦娘が居る。

 

「司令官。結果は、開発では高角砲が出ました。建造では、金剛型戦艦 1番艦の金剛さんが進水です。」

 

俺と長門はその知らせに飛び上がり、持っていたファイルやら書類を落としてしまった。

 

「本当か!?」

 

「白雪。私はやってくれると思っていたぞ!」

 

と大げさに喜ぶ俺と長門を少し白雪は変に思ったのか顰めて続けた。

 

「結果、第四艦隊が解放されたので遠征艦隊の新規編成を提案します。」

 

「そっ、そうか!すぐに編成するぞ、長門っ!!」

 

「おうともっ!!」

 

俺と長門はあまりの嬉しさに金剛を無視して艦隊編成を始め出してしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と長門がせっせと第四艦隊の艦隊候補を検討している間、白雪と金剛は入り口に立ち尽くしていた。

 

「こっ、金剛デース。」

 

「私は吹雪型駆逐艦 2番艦 白雪と申します。よろしくお願いいたしますね。」

 

白雪が後ろにいる金剛に向かってそう挨拶すると、俯いていた頭を金剛は急にあげた。

 

「提督ぅー!!目を離さないでって言ったノニー!!!何してるデースッ!!!!」

 

と言って金剛はせっせと第四艦隊候補を検討している俺のところに来たのは言うまでも無い。

因みに昨日着任した最上は霧島と熊野に怒っていた姿を白雪が見かけたとか。

 




これにて第四艦隊解放の話は終わりです。
実際に作者のやったことですので、真に受けないでくださいね。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第八話  提督の挨拶回り① 思いつき編

どうも、今回初めて前書きに書かせていただきます。

初回から投稿を開始して一週間が経ちました。これまでにはUA7550、お気に入り117件もして頂きました。とても感謝しています。というか驚いてます。正直ここまでになるとは思ってなかったものですから......。

今回より、不定期更新となっております。毎日更新することは大変困難ですので、週に何話かが更新できればと思っております。

では、これからもよろしくお願いいたします。



俺は今、非常に困っている。

何故なら、昼食を済ませて執務をしていると、金剛が執務室に入ってきて目の前で頬を膨らませて怒っているのだ。

 

「提督ぅー?どーいう事デース!」

 

何故金剛が怒っているかというと、白雪が建造された金剛を連れて執務室に来た時、俺は白雪から『建造では、金剛さんが進水です。』と言われ、すぐに第四艦隊の編成を始めてしまったからだ。

 

「いやぁ......すまない。これには深い訳があるんだ。」

 

「それは言い訳デス!......というか、提督が着任してる鎮守府に進水したんデスカ!?私っ!?」

 

驚き、アホ毛が頭上で跳ね上がる金剛に長門が溜息をついた。

 

「なぁ提督。金剛型ってのは皆こうなのか?」

 

俺はそれに静かに頷いた。そして金剛に応答する。

 

「そうだよ。俺は君が進水する約一か月前に着任したよ。」

 

「そうだったんデスカ!確率的には提督のいる鎮守府に着任できる事なんてありえないって言われてマシタので、私はすっごく幸運デース!」

 

そう言ってピョンピョン跳ねる金剛を見て、どうしたものかと考えていると金剛は急に跳ねるのをやめた。

 

「......ってぇ!私はそれが聞きたかったんじゃないデス!何故、あの時私を無視したのデスカ!」

 

「あー、回避出来なかった......。何故かと言うとだな、遠征を三艦隊編成にしたかったんだよ。」

 

俺はそう言って肘を付いた。

 

「まぁ、私が部屋に案内された時には妹たちは全員居ましカラネ。それデ?」

 

「今日、金剛の歓迎会をやるときに判ると思うぞ?」

 

俺がそう言って乾いた笑いをすると、不貞腐れた顔をしながら金剛が近づいてきた。

 

「ンー。何となく想像はついたネ。それで私を無視して艦隊編成をしたという事デース?」

 

「そうなるな。」

 

そう言うと金剛はニコリと笑った。

 

「なら、仕方ないデスネ。確証は得てないデスガ、提督の横に立ってる秘書艦と、ここに来る最中に正規空母の艤装がありマシタカラ。では、余り執務中の提督に迷惑をかけてしまうのもあれデスカラ、お暇しマス。」

 

そう言って金剛は執務室を出ていってしまった。

金剛が出て行って襲われた妙な違和感を俺は持っていた。俺の想像もとい、SSなんかで見てきた金剛みたいなキャラじゃなかったからだ。

 

「なぁ、長門。」

 

「ん?どうした。」

 

「金剛ってああいうキャラだったの?」

 

長門は俺にそう聞かれ、顎に手を置いたがすぐに答えた。

 

「演習なんかでは他の鎮守府の金剛を見かけたが、もっと騒がしい奴だったと思うぞ?」

 

俺は長門の騒がしいという言葉に苦笑いしたが、やっぱりそうだったみたいだ。どうやら、ウチに来た金剛は俺が感じたように変みたいだ。

 

「やっぱりそうか?俺は出会い頭に『ヘーイ提督ぅー!秘書艦を私にしてくだサーイ!』とか言われるのかと思ってた......。」

 

「提督、私も同じことを思っていた......。」

 

俺と長門は2人して頭を抱えた。その光景を報告書を出しに来た赤城が笑ったのは別のお話。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

金剛の歓迎会は夕食にする事になっていた。

現時刻は夕食の午後6時半の30分前。俺はある事を考えていた。自分の歓迎会の時に出来なかった、所属する艦娘全員に会ってみようという事だ。

俺の歓迎会の時には最初に挨拶した直後に囲まれてそれを長門が吹き飛ばしてから(※第二話にはそんな描写ありません。)、時雨と夕立しか来ずに、殆ど第一艦隊のメンバーで飲み食いしていたようなものだったからだ。

今は秘書艦の長門も歓迎会の準備で執務室には居ない。俺一人だけだ。そこである事を思いつく。

 

「金剛の歓迎会に便乗して、全員と話してみよう!俺の歓迎会では第一艦隊のメンバーに囲まれててできなかったからな!」

 




自分の中での金剛のイメージがうまく表現できたと感じてます、はい(←自己満足)

次は出来上がってますが、火曜日の午後以降を検討しております。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第九話  提督の挨拶回り② 駆逐艦編


先日の投稿から約1日が経過しました。
あれ以来更に読んで下さって、今ではUAが一万に届きそうです。

またまた前書きに報告させていただきました。


 

『金剛さん 進水おめでとう!』

そう書かれた幕の下で金剛はマイクを持っていた。今から始まるのは、金剛の歓迎会。朝に白雪が建造して進水させたのだ。

檀上の上で金剛は堂々と立ち、あれこれと自己紹介をしている。

 

「......そういえばサー、私が進水してすぐに提督に挨拶しに行くと無視されたヨー。酷いデース!」

 

そう叫んだ金剛はきっと提督に何か面白半分で艦娘が言うと思ったのだろうが、金剛の予想は外れて全員がホッとしている。特に空母。

 

「ン?何ですカ?この空気......。」

 

そう言う金剛に檀上の近くの席に居た比叡が金剛に向かって言った。

 

「金剛お姉様を迎える為に提督はピンチな状況なのに資材を投げてまで色々していたんですよ......。大型艦はキス島で金剛お姉様の捜索に、駆逐艦や軽巡洋艦は遠征任務にひっ切りなしに出撃してましたから......。」

 

そう言うと金剛が口をポカーンと開けて黙ってしまった。

比叡が黙ると次は比叡の横に座っていた榛名が言った。

 

「色々と試行錯誤をして果てに私たち姉妹が秘書艦で建造をすればいいのではないかと仰って......。」

 

まだ口をポカーンと金剛は開けている。そんな姿を見つつ次は霧島が言った。

 

「私の予測ですが、比叡お姉様の仰った通り、提督は鎮守府の戦力増強に向けての先駆けとして遠征に迎える艦隊を一つ増やしたかったんだと思います。榛名には油と鋼材は何とか余りがあるとか言ったそうですが、実は共に心もとない量しか残ってなかったんですよね......。」

 

そう言った霧島の言葉にまだ金剛は口をポカーンと開けている。そんな長時間開けてたら口の中が乾かないのだろうか。

そんな事を言った霧島の言葉は全員が聞いていた訳で、その事情もなんとなく察しては居たみたいだった。特に遠征にひっきりなしに出されていた遠征艦隊のメンバーと空母や航空戦艦は。

俺の横で座っていた長門が俺の方をチラッと見ると、不敵な笑みをしたと思ったら長門は金剛に言った。

 

「とか、金剛型には伝わっているみたいだが、提督は本当は比叡たちが寂しがっているのではないかと言っていたぞ?」

 

そう言う長門はニヤニヤとしていた。

俺は急に顔が熱くなり、前に置いてあった水を一気に飲んだ。

そうしていると、比叡たちが金剛同様にポカーンと口を開けていた。何という状況だろうか。

 

「とまぁ、今回のキス島周回と建造の本当の理由はこういう訳だ。」

 

そう言った長門はふぅと一息ついて水を飲んだ。

俺は本当に恥ずかしくなり、その場から立ち去りたくなる衝動に襲われた。一刻も早くここから立ち去りたい。

そう思っているとポカーンとしていた金剛が戻ってきた。

 

「提督......。やっぱり、そうだったんデスネ。」

 

「あぁ......。」

 

俺は金剛にそう言われ、素っ気なく返した。そうすると金剛は命一杯息を吸って、大きい声で言った。

 

「この恩、私は皆さんに返しマス!キス島周回でも何でも来いデス!!!お蔭で妹たちに逢えましたカラネ!!今後は私がその役をやりマース!!」

 

そう言うと歓迎会会場もとい食堂は大きな拍手に包まれた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

金剛の宣言が終わり、全員が用意された豪華な夕食に舌鼓している時、金剛が俺のところにやってきた。

因みに俺は何故か知らないが、ずっと第一艦隊のメンバーに囲まれている。執務室以外に出るとだいたいこんな感じだ。どうにかならないのかと思っていたところだった。

 

「提督ー。」

 

「ん?何だ?」

 

そう言うと金剛は頭を下げた。

 

「昼はごめんなさいデス。提督が無視していたので私、へそ曲げてマシタ。」

 

理由はそれだった。

 

「いいさ。俺の方こそすまなかったよ。俺もあれはなかったと反省している。」

 

「私もだ。すまなかった。」

 

そう言うと金剛はパァーと笑顔になった。

 

「ならよかったデス!それで、提督ぅ!明日の秘書艦を私にしてくだサーイ!!」

 

そう言われ俺と長門は椅子から滑り落ちそうになった。

 

「「......やっぱり想像通りだった。」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

滑った椅子から体勢を元に戻した俺は既に食べ終わった食器を纏めていた。夕食前に思い付いた艦娘たちへの挨拶回りの為だ。

 

「む?どうした?今日は執務を終えたはずだが??」

 

「いやなんだ。よく考えたら俺の歓迎会の時も長門たちと食ってただけだし。他の艦娘たちとも話してみようかなって思ったからさ。」

 

「そうか。」

 

俺は長門が俺の受け答えに返した事を聞くと、秘書艦にする云々でまだ俺の近くに居る金剛に声をかけた。

 

「金剛ー。」

 

「ハイ!提督ぅー、私を秘書艦にするノ?」

 

「いや、それは考えてるところだが、一緒に皆のところを回らないか?」

 

俺がそう言うと金剛は快く了解してくれた。

だがその時俺はまだ知らなかった。艦娘たちにそれぞれ挨拶で回ることがどれ程大変なのかという事を。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

最初に俺と金剛が来たのは、駆逐艦が集まっているところだ。

他の集団とは別の意味でワイワイと賑やかだった。席が高いのか結構の艦娘が足をぶらぶらとさせながら食事を楽しんでいる。近づく俺と金剛にいち早く気が付いたのは、俺の初期艦である吹雪だった。

 

「あっ、司令官と金剛さんだ!」

 

その声に周りで食事していた艦娘が全員進める箸を止めた。そして俺と金剛を見た。

 

「ホントだっ!」

 

「この前は遠目だったし、食堂に来る時間が不規則だから会わないんだよねー......。」

 

わらわらと集まってくる艦娘に俺は困惑したが、すぐに金剛が助け舟を出してくれた。

 

「ヘーイ!提督が困ってるヨー?」

 

「「「「はーい。」」」」

 

何という発言力。俺はこの時は見えてなかったが、どうやら金剛の表情が変化したらしい。

 

「あっ、ありがと。金剛。」

 

「どういたしましてネー。」

 

そう言うと金剛は眉を吊り上げた。ドヤ顔。憎めない。

金剛のドヤ顔を見ていると、俺に一際大きい声で呼んだ艦娘が居た。

 

「司令官っ!」

 

そう言った艦娘はポニーテールとサイドテールの中間あたりの位置で髪を結っている。綾波型駆逐艦 一番艦の綾波だった。

 

「おわっ!どうした?」

 

「いえ......そのっ......。」

 

もじもじとする姿をただ俺はじっと見守る。何かを伝えようとしているのは十分判っていた。

 

「執務は......いつもどれくらいに終わっているのでしょうか?」

 

綾波が言ったのは、俺の仕事がどれくらいに終わっているかだった。

ふと、俺は自分の居た世界での艦これを思い出す。夜中と言っていい時間に俺はプレイしていた。この世界にもそれが影響していたらしく、秘書艦は基本的に深夜に指令書を受け取っていたみたいだったのだ。

それを綾波は俺が深夜にやっているのではないか、という質問を遠まわしにしてくれたのだと俺は思った。

 

「朝食後すぐに始めて、昼過ぎには終わってるよ。」

 

そう言うと俺の周りに集まっていた駆逐艦娘が全員一点をギロリと見た。その先に居たのは第一艦隊。約一か月、それに一週間俺の周りから第一艦隊の誰かが離れる事はなかった。

そして、その睨んだ理由が俺には判らない。何か言われているのだろうというのは察したが、具体的な事は分からなかった。

 

「私たちは第一艦隊の方から提督は夜まで執務しているって聞いてました......。お昼ご飯だって一緒に食べたいのに......。」

 

俺は眉をハの字にしている綾波を見て、俺も駆逐艦娘と共に第一艦隊のメンバーに目をやる。

俺に見られ、肩をピクリと跳ね上げるメンバーはあからさまに顔をそらした。

 

「そうだったのか。なら明日、一緒に食べよう。」

 

「はいっ!!」

 

そう俺が顔を第一艦隊のメンバーから外さずに綾波に応えると、綾波が返事するのが聞こえた。トーンで喜んでいる事が判る。

それが聞こえたのか、赤城と加賀がこちらを見た。ちらりと。

そんな2人を俺は見る。表情を変えずに、無表情で。

 

「なら提督っ!私たちとも遊ぼうよっ!!」

 

そう言ってきたのは白露だった。白露型駆逐艦 一番艦の白露だ。俺の中ではずっと『イッチバーン!』って叫んでるイメージがあったものだから、目の前にひょこっと視界に入ってきた時は身構えたが、そういう訳でもない様だった。

 

「たち?何人だ??」

 

「6人!私と時雨、村雨、夕立、五月雨、涼風。私の妹たちだよっ!!」

 

「分かった。」

 

俺は白露のも返事をするが、目は離さない。第一艦隊のメンバーから目を離さない。今のところ、何も変わらないが、動揺が扶桑型姉妹の方にも伝播したようだ。正規空母と航空戦艦合わせて4人がちらりと見た。俺はそれを見返し。無表情でだ。

 

「司令ぇ!雪風は司令の役に立ちたいですっ!!」

 

白露の後ろからひょこりと俺の視界に雪風が入ってきた。俺がこの世界に来る切っ掛けの一端を担う存在だ。

 

「そうか?でも雪風はいつも役に立っているぞ?」

 

「いえ、違うんです......。雪風は雪風の幸運を最大限に使って、司令の役に立ちたいのです!」

 

「そうか、分かった。明日からの開発は雪風に一任しよう。雷装を充実化したい。それに対潜装備も欲しかったんだ。」

 

「雪風の得意な開発ですね!頑張りますっ!!」

 

そう言ってニコニコする雪風を視界に捉えつつも俺は第一艦隊のメンバーの方に目を向けたままだった。今度は日向に動揺が伝播したみたいだった。俺はてっきりそういうのには日向は流されないとばかり思っていたから少し残念。

 

「あー、すまんがこれ以上聞いていると朝になってしまいそうだ。これ以上は執務室の前に箱を置くからそこに名前と俺に何かしてほしい事を書いてくれ。俺の出来る範囲でやろう。」

 

そう言うと周りを囲んでいた駆逐艦娘はニコニコながら自分の席に戻っていった。

それを尻目に俺は第一艦隊のメンバーの方をまだ見ていた。もう今度は全員に伝播している。ちらりと見ては肩を飛び跳ねさせている。

 

「第一艦隊、集合。」

 

俺がそう小さく呟くと、全員が目にも留まらぬ速さで俺の目の前に移動し、整列した。一糸乱れぬ動きに少し関心したが、俺はそれを見たかった訳ではない。

 

「言いたい事、分かるよな?」

 

俺がそう言うと6人はガタガタと震えだした。横にいつの間にか駆逐艦と話していたはずの金剛が立っているが、金剛は青い顔をしている。

 

「「「「「「すみませんでしたっ!!」」」」」」

 

俺はそれを訊き、少し間を置いた。

 

「......。じゃあいい。解散。」

 

「「「「「「はっ!!」」」」」」

 

その場に居た全艦娘は同じ事を思っていた。この提督は怒らせてはいけない、と。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は第一艦隊のメンバーが元の位置に戻ったのを確認すると、駆逐艦娘や金剛の方を見た。そうすると、全員が何故か敬礼している。

 

「ん?どうした??」

 

「いっ、いえ!何でもないデス!」

 

金剛は両手をパタパタさせながら言った。その様子はさっき第一艦隊のメンバーが見せたようなものと似ている。何かを金剛は隠している。俺は直観的にそう思った。

 

「嘘だろー。なんか隠してる。」

 

俺がそう言うと、金剛はふぅと息を吐いた。

 

「......さっきの提督は、怖かったデス。着任して一日目にして私は色々と学んだデース。」

 

そう言った金剛は敬礼していた手を下げてニコリと笑った。

俺はそれを見て視線をそらし、駆逐艦娘の方に目をやる。未だに、敬礼したままだ。

 

「どうした?敬礼だなんて。」

 

「いえ!」

 

吹雪がそう答えた。どうやら型毎に並んでいる様だった。一番最初の特型駆逐艦だから吹雪が返事したようだった。

 

「あー、言い忘れてたけど。」

 

俺がそう言うと、駆逐艦娘が肩を震わせた。

 

「執務室にはいつ来てもいいぞ。さっきは綾波にああは言ったものの、グダグダと執務している。だけど、節度は守ってな?」

 

俺がそう言うと皆パァーと笑顔になった。

どうやら、大本はそれだった様だ。執務室に行ってみたい、のだろう。

そう思っている俺を金剛は見ていた。だが、金剛は少し頭を抱えていた。

 

(この提督。結構鈍感デース。)

 

俺に聞こえない様に金剛は溜息を吐いた。





ぶれないのが金剛......。
これは揺るぎないです。この流れでお分かりの様に、ここで話数を稼ごうという魂胆であります←
この提督の挨拶回り以降は単発ネタにしたいと考えてます。
今後偶に出てくる建造と開発の結果は大体、その日のデイリー任務の結果ですのであしからず。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第十話  提督の挨拶回り③ 軽巡洋艦編

前回の投稿から約1日過ぎての投稿となります。

毎回見るたびにUAが伸びていてとてもうれしいです。励みになります!

今日のデイリーはちょっとアレでした......。早々いい装備が出る訳じゃないのが艦これの醍醐味なんですかね?


俺と金剛は駆逐艦娘たちのところを離れ、軽巡洋艦が集まっている場所に来ていた。

一見、駆逐艦娘よりも数は少なく見えるが、駆逐艦娘よりも成長している身体の為か使っている場所は同じくらいの広さだった。

近づいた俺と金剛をいち早く見つけたのは、軽巡内でも練度の高い五十鈴だった。

 

「提督じゃない。どうしたの?」

 

そう言うと、全員がピクリと反応し、こちらに振り向いた。

 

「俺は唯の金剛のオマケだよ。」

 

そう言うと金剛が俺の横に立った。

 

「ハーイ!この度、秘書艦に任命された金剛デース!」

 

「んな訳あるか!」

 

と、俺は金剛にツッコンだ。金剛は俺がツッコむのを予想していたかのように舌をペロッと出した。

 

「と言うのは嘘デース。本当は全員に挨拶で回ってるネー。さっきは駆逐艦娘のところに居たヨ。」

 

そう言うと金剛は腰に手をやった。

 

「んで俺は色々バタバタしていたのと第一艦隊が離れてくれなかったから皆の顔を見るためにね。」

 

そう言うと軽巡の艦娘は全員箸を置いた。駆逐艦娘では見られなかった光景だ。

 

「金剛型戦艦 一番艦 金剛デース!軽巡の皆さんは確か遠征が多いと聞きまシタ!縁の下の力持ちに挨拶デス!というのが本当の挨拶デス!」

 

そう言うと金剛は見渡した。駆逐艦娘の時はわらわらと集まってきたり全員で睨んだりと忙しかったので、来るのかと身構えたようだった。

だが、金剛の予想は違った。軽巡の艦娘はその場で全員がお辞儀をした。これが違いというものなのだろうか。

 

「縁の下ね......。確かにそうかもしれませんね。特に長良型と天龍型、球磨型はずっと遠征ですしね。あっ、申し遅れました。私は長良型軽巡 名取と言います。」

 

そう言ったのは名取。長良型軽巡で、主にボーキサイトとバケツの回収に向かっている遠征艦隊の旗艦を任せている艦娘だ。

 

「確かにな。帰ってくるなり補給してすぐに遠征。ちったぁ前線に出たいがな......。あぁと、俺は天龍。」

 

そう言ったのはハニカんだ天龍だった。その天龍の姿に少し、俺はイメージが崩れた。もっと戦闘狂だと思っていたからだ。

 

「軽巡は3分の2が待機要員だクマ。だけど戦闘に出る艦娘もいるクマね。クマは球磨だクマ。」

 

そう言ってアホ毛をピョコピョコさせたのは球磨。球磨型軽巡だ。

 

「んで、戦闘要員が私たち。川内型軽巡とそこの北上くらいかな。私は川内型軽巡 一番艦の川内よ。」

 

そう言って挨拶したのは川内だった。まだ、改装前の状態だが、ここでまた俺の中でのイメージが崩れた。

 

「そうデスカ。皆さん、ありがとうございマース!お蔭で私は進水できたヨー。」

 

そう言った金剛は頭をぺこりと下げた。なんと礼儀正しいのか。俺はてっきり艦の大きさで上下決まってるのかと思ってたが、一応早い順的なのはあるみたいだ。

 

「とまぁ、俺も元の目的を達成する為に来たし、少し話していくか。」

 

「そうデスネー。」

 

そう言うと、俺は空いてる席についた。もちろん軽巡の艦娘が集まる辺りでだ。

そうすると、数人集まってきた。どうやら、さっき喋らなかった艦娘のようだった。

 

「初めまして、提督さん。私は由良。長良型軽巡です。」

 

そう言って丁寧にお辞儀をしたのは由良だった。長い髪を後ろでポニーテールにし、紐で纏めている。特徴的な髪型の艦娘だ。

 

「あぁ。俺は自己紹介要らないよな?どうした?」

 

「いえ、これもアレですよ。常識?という奴ですかね?」

 

「社交辞令か?」

 

「そうです。でも本音は提督さんとお話してみたかったというものですがね。」

 

そう言うと由良は笑った。

 

「まぁ今回は提督さんに訊きたい事があってきました。」

 

「ん?」

 

俺が返事をすると、由良の後ろから数人現れた。

 

「俺は球磨型軽巡 木曾だ。」

 

「長良型の長良です。」

 

「多摩だにゃ。」

 

「おう。」

 

後ろに現れた全員が自己紹介をし、俺が返事をすると由良が俺に訊いてきた。

 

「金剛さんの歓迎会でするような話ではありませんが、せっかくです。聞きたい事は、遠征艦隊の編成についてです。」

 

そう言うと由良は指を折って遠征艦隊のメンツをあげて言った。

 

「第二艦隊は天龍、龍田、第六駆逐隊。第三艦隊は球磨、多摩、第七駆逐隊。新設の第四艦隊は名取姉さん、長良姉さん、私、初雪、深雪、叢雲。遠征艦隊にしては編成が重すぎやしませんか?」

 

俺はそう言った由良をじっと見つめた。どうやら結構考えていたみたいだった。そして今日、俺に訊くことにした。そう言う事らしい。

 

「確かに重いな。遠征から帰還する度の補給でせっかく回収してきた資材も消費されてしまって、残らないこともあるな。」

 

「でしたら、少し軽巡の数を減らしては?」

 

そう言う由良は少し悲しそうな表情をした。俺はそれにすぐに気付き、答えを言う。

 

「それはダメだ。俺は遠征艦隊に編成する艦娘を合う言葉で言うと準戦闘要員としている。例えが悪いがな。」

 

そう言うと分かったのか、由良の後ろに居た木曾たちも暗かった表情がパァーと晴れていった。

 

「そうでしたか。」

 

「あぁ、木曾は北上の様に戦闘要員として何れ出撃するであろう難関海域に出てもらいたい。今は待機だけど、何れ出撃要員に起用する。由良は対潜能力が高くその手の作戦には是非出てもらいたい。長良は水雷戦隊の旗艦候補だ。多摩は姉に球磨が居る。多摩は近くで球磨を見習って欲しいんだ。」

 

そう言うと全員が黙ってしまった。だがただ一人、納得出来てない艦娘が居た。夕張だ。

 

「提督っ!私はっ!?」

 

夕張は机を叩き立ち上がった。

 

「聞いてみれば、出撃要員も遠征艦隊編成メンバーも色々あるみたいだけど、私はどうなの?!」

 

夕張は白い顔を赤くして怒っていた。

 

「夕張は......。」

 

「どうしたのよ!」

 

俺は夕張を戦闘にも遠征にも加えない理由を言うまいか考えた。だが、夕張の様子は言わざるを得ない状況にあった。あんなに怒らせてしまっては何とか許して貰わねば。

 

「夕張は自分の事を何と名乗ってる?」

 

「......兵装実験軽巡、夕張......ですけど。」

 

「自分の艤装の性能、ちゃんと考えろ。2900トンの艤装の割に5500トン級の軽巡が搭載する兵装を積めるじゃないか。」

 

「それがなんだっていうの?」

 

「一応、夕張も戦闘要員だぞ。君らの言う艦娘内での割方だと。」

 

そう言うと夕張は別の意味で顔を赤くした。

 

「でも......私、海に出たのは4回しかないし......。」

 

「そりゃそうだ。その4回は試運転だし。今までは駆逐艦娘のレベリング、つまり経験を積ませることをしていた。今は川内がやっているが、直に夕張の番だ。」

 

そう言うと夕張は溜息を吐いた。

 

「そうよね......。提督って確か待機艦へ魚雷発射管は乗せませんでしたよね。私の艤装、四連装魚雷が載ってますし......。」

 

そう言うと静かに座って聞いていた周りの軽巡の艦娘が声をあげて驚いた。

そして最初に夕張に声をかけたのは川内だった。

 

「夕張......。あんた相当期待されてるよ。」

 

「なんで?」

 

川内はそう言って軽巡の艦娘の方を向いて言った。

 

「魚雷発射管を艤装に載せてる子、手挙げて!」

 

その声で手を挙げたのは五十鈴、神通、北上。紛れもない戦闘要員だった。

 

「魚雷発射管を使ってるのは戦闘要員だけ。しかもよく第一艦隊と交代で出撃する軽巡としてだよ。でも戦闘要員にくくられる川内型でも私と那珂はまだ魚雷発射管を提督に載せてもらってない。そうだよね?」

 

「そうだよー。」

 

那珂は川内の横でそう答えた。

 

「ねぇ提督。ウチの装備品って確か魚雷発射管が足りてないんだよね?」

 

俺は突然川内に振られて慌てて答えた。

 

「あっ、あぁ。全体に行き渡らせる量は無い。」

 

俺の答えを聞いた川内は夕張を見つめた。

 

「これ、提督が先行して戦闘要員として起用する艦娘の艤装への改装だよ。そうでしょ?」

 

俺は話しだした川内の内容が俺に振られるのが目に見えていたので今度は脳内で瞬時に準備していた。

 

「そうだな。五十鈴たちにもそう言う指示を出した。」

 

そう言うと夕張は走って俺のところまで来た。結構遅いが。

 

「提督......すみません。何も考えずに。」

 

夕張は深々と頭を下げた。

 

「まぁ、遠征にも出撃にも出ないと不安にもなるか......。こちらも済まなかった。もう少し配慮すべきだった。」

 

そう言うと夕張は笑顔で頭を挙げた。それは曇りのないものだ。

 

「提督っ!私、頑張りますね!」

 

「あぁ、頼んだ。」

 

俺はそう言って笑顔で去ろうとする夕張を止めた。俺が最初に言った事を答えてない。川内に持ってかれたからだ。

 

「おおっと、まだ俺のさっきの確認に答えてないだろ。夕張?」

 

「何がです?」

 

「兵装実験軽巡は特別に他の軽巡よりも多くの装備品を装備できるじゃないか。」

 

「......そうでしたね!ありがとうございますっ!」

 

そう言うと夕張は照れ臭そうに自分の席に戻っていった。

そんな姿を見ていた川内と那珂は俺に突っかかってきた。

 

「提督の着任の件は話は聞いてたから自己紹介はしないけど、夕張に期待しすぎじゃない?」

 

そう言って川内は不貞腐れてしまった。

 

「いや。そんな事ない。夕張に経験を積ませて水雷戦隊の旗艦に起用するつもりなんだ。長良と共にね。」

 

「えぇー。私は?」

 

そう言った川内に俺はある事を言ってみた。本当にそれに反応するのかと思いながら。

 

「川内は......夜戦になる可能性の高い海域に行ってもらう為に他の軽巡よりも早くに経験を積ませているんだ。」

 

「ほんとっ!?」

 

案の定、川内の目が輝いた瞬間である。

 

「てことは私が第一艦隊のメンバーと交代して出撃する時は......。」

 

「ほぼ間違いなく夜戦に突入する。」

 

「やったー!!」

 

そう言って離れて行ったが、那珂だけはその場に残っていた。

 

「提督ー。」

 

「なんだ?」

 

「ライブやってもいい?」

 

それは那珂のいつものアレみたいだ。アイドル云々の話だ。

俺は別に嫌に思ってないし、雰囲気が良くなると思い、ゴーサインを出すことにした。

 

「いいぞ。だけど歓迎会の時だけな。それ以外は自主的に合間にレッスンしててくれ。」

 

「やったー!!ありがとー!!」

 

川内と同じく那珂も離れていった。どうやら、落ち着いていると思っていた軽巡の艦娘も余り変わらなかった様だった。

俺がどのタイミングで夕張を出すか悩みつつ、来る軽巡の艦娘の相手をしている合間、金剛が話しかけてきた。

 

「提督ぅー。私は?」

 

「何が?」

 

「夕張みたいにサー、なんかないの?」

 

そう言う金剛に俺はキッパリと言った。

 

「ない。」

 

金剛がしょんぼりしてしまったのは言うまでもない。

 

「仕方ないだろう。金剛型戦艦は35.6cm連装砲が合うんだ。41cm連装砲は出来れば積ませたくない。」

 

そう言ってもしょんぼりしたままの金剛になんて言ってやろうかと考えていると、五十鈴が来て言った。

 

「確か金剛型戦艦には対空電探がいいんじゃなかったかしら?うちにはまだ私のしかないけど。」

 

そう言って五十鈴は去ってしまった。それを訊いた金剛が元気になったので俺的には良かった。

そして俺の袖を金剛が掴んで言った。

 

「明日の開発、電探をお願いできませんカ?」

 

俺は考えあって建造・開発をしているので、これの答えはすぐに言えた。

 

「それはまた今度な。」

 

「えぇー!いいじゃないですカー!!」

 

そのやり取りを俺に話しかけるのを待っていた神通は思った事があった。

 

(前に私が開発した時、対空電探出しました......。)

 

俺は神通が思った事にまだ気づいてはいない。

 




これ、よく考えたらまだ重巡とか色々艦種あるんですよね......。
因みに会話に出てくる艦娘は全員前線に出っ放しの艦娘です。甲標的とボーキサイトが欲しいこの頃です。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第十一話  提督の挨拶回り④ 重巡洋艦編

前回から3日後になりました。
書置きなんですよね......。予約投稿しておけばよかった......。


軽巡の艦娘とも一通り話したところ、皆が阿武隈の進水を待っている様だった。どうやら、形式に象った水雷戦隊を編成したいそうな。

俺はそんな事を考えながら行き着いた先は重巡の艦娘が集まる場所。軽巡や駆逐よりも落ち着いている。

俺と金剛がすっと近づき、声を掛けようとした時、一番最初に気が付いたのは青葉だった。

 

「司令官!どうしました?」

 

青葉はポニーテールを揺らしながら来たが、その姿に違和感を覚えていた。俺のイメージではゴシップ記事を書くためにずっとカメラを持ち歩いているイメージだったが、何も持ってない様だった。

 

「いやなんだ、金剛と挨拶で回ってるだけだ。」

 

「そうですか。青葉もできれば司令官の歓迎会の時に色々インタビュー、お話したかったのですが色々ありまして......。」

 

そう言うと、いつの間にか青葉の横に来ていた衣笠がウンウンと大きく首を縦に振った。

 

「提督の歓迎会では提督の周りに常に第一艦隊が居たから近づきにくかったんだよねー?青葉。」

 

「そうですよー!あれ、どうにかならないんですか?」

 

青葉と衣笠はそう言って今、第一艦隊のメンバーが居るところを指差した。先ほど軽巡や駆逐の艦娘のところに居た時に見た時とあまり様子は変わってなかった。

 

「俺もできれば自由にしてたいけど......。」

 

「司令官?」

 

「あいつ等ずっと誰かは俺の近くに居るんだ。」

 

そう言うと青葉は手を打ち、人差し指を立てた。

 

「成程!付き人、みたいな!?」

 

「それだな。」

 

俺と青葉がそんな会話をしていると、金剛が入ってきた。

 

「それは私も同感ネー。進水の挨拶に行った時も、昼に行った時も長門が居たデース。」

 

「そりゃ秘書艦だからな。」

 

そう言うと金剛は頬を膨らませた。

 

「長門が出撃してる時はどうしてるデース?」

 

「大体赤城が居る。」

 

「オゥ......。全く予想通りデス......。」

 

そう言うと金剛は頭を抱えた。

 

「ちょっとー、衣笠さんをほっておかないでー。」

 

と俺と金剛の会話に入ってきた衣笠は少し不貞腐れていた。

 

「大体提督は第一艦隊が近くに居て近づきにくいし、すぐ金剛さんと話弾んじゃうし、衣笠さんともお話してよ!」

 

俺はそう言われ、ちょうど途切れていた金剛との会話を切った。そしてすぐに衣笠に向く。

 

「んで、衣笠。なんかあるのか?」

 

「うん。」

 

そう言うと衣笠はこれまで俺が聞かれなかった事を聞いてきた。その質問は辺りを一瞬で静かにさせる程の威力。艦娘全員がこちらに耳を傾ける内容だった。

 

「提督って、何歳?」

 

それを衣笠が口にした瞬間、青葉はどこからかメモ帳とペンを取り出して書く準備をしていた。

 

「あれ?言ってなかったっけ。」

 

「言ってませんよー。これは提督七不思議ですからねー。」

 

そう言う青葉はワキワキしている。

 

「勿体ぶってないでちゃっちゃと言いなさいよー。提督ー。」

 

そう言って茶々を入れたのは足柄だった。

 

「あー。俺は18だ。」

 

「「「えぇー!!!」」」

 

金剛、青葉、衣笠の驚きの声に混じって周りの艦娘から絶叫が轟いた。それ程の驚きだっただろうか。

 

「何だよ。」

 

俺がそう言うと、金剛は口をパクパクさせながら言った。

 

「わっ、私の方が年上デス......。」

 

「はっ?」

 

俺は一人で驚いた。てっきり同い年くらいだと思っていたからだ。というか艦娘に年齢があったこと自体驚きだった。

俺は恐る恐る聞いてみる事にした。

 

「なぁ金剛......。金剛は何歳なんだ?」

 

そう言うと金剛はニコッと笑って言った。

 

「今年で103になりマース。」

 

「どぅぅえぇぇぇぇ!?」

 

と一人で俺は驚いた。こんな若いのに103歳......。艦娘恐ろしい。

と一人で先ほどの金剛の様に口をパクパクしていると、すぐに金剛は訂正をした。

 

「と言うのは冗談デー、この身体で言えば19になりマス!」

 

そう言うとぬっと現れた大淀が説明を始めた。

 

「艦娘には年齢がありません。ですので、人間が身体的に見た年齢を与えたんです。駆逐艦は例外を除いて大体13~16。軽巡は15~18。重巡は16~19。戦艦は19~21。空母は14~20です。」

 

俺は開いた口が塞がらなかった。色々とあるとは思っていたが、この様だとはうっすら感づいてはいた。

 

「そうなのか。まぁ、俺的には関係無いがな。」

 

「関係無いんですか。まぁ、司令官ならそう言うと思ってましたが。」

 

青葉はそう言うと衣笠の腕を掴んで、続きはまた今度でと言って席に戻ってしまった。そして青葉と衣笠の後ろに居た高雄型姉妹が俺に話しかけてきた。

 

「提督、提督の歓迎会では話しかけ辛かったので遅れて申し訳ありませんが、ご挨拶に。私は高雄型重巡 高雄です。それと姉妹の愛宕、摩耶、鳥海です。」

 

「おう。俺も話しかけに行きづらかったからこうして回ってるんだ。よろしく。」

 

高雄はイメージ通りの感じだった。規律というのが存在するかはさておき、礼儀正しい。そう感じさせた。

 

「と、挨拶を済ませておおもとは提督に色々と聞くためです。」

 

そう言った高雄は手を胸の前で組み、深呼吸をする。高雄はそんな深刻な事を聞くのかと俺は内心覚悟を決めた。

 

「私たち高雄型は戦艦の皆さんの交代要員として第一艦隊に編成される事があります。」

 

「そうだな。」

 

高雄が言い出したのは編成の事だった。俺はそれを聞いててっきり高雄は俺に金剛を進水させた今、どうしていくのかというのを訊きに来たのかと思った。だが、違った。

 

「一か月前、長門さんが提督を呼ぶ力を妖精さんから受け取ったと聞いた日。私たちは第一艦隊と交代で出撃した報告書を提出に執務室に来ていました。」

 

突然高雄は一か月も前の事。しかも俺が着任した日の事を話し出した。

 

「部屋をノックして手を扉に付けた時、聞こえたのです。『艦娘は非人道的に扱われているみたいだ。』と。」

 

どうやら着任した日の長門との会話を聴かれていた様だった。

 

「それを言ったのはその時は人間、つまり私たちに資源を渡し、戦争をさせている人間ではないのかと。ですが提督の歓迎会で分かったんです。あの時あれを言ったのは提督だったという事が。」

 

高雄がそう発すると、再び食堂は静まり返った。

 

「私も秘書艦を何度か経験しているので分かっていますが、提督。提督は自分の居た安全で平和な世界を捨ててまでもただそれだけの理由でこの世界に提督として留まったのではないかと。」

 

「......。」

 

俺は沈黙してしまった。確かに何度か高雄を秘書艦にした覚えはあった。それも結構前だ。

目の前の高雄が求める俺のこの世界で提督として生きる理由がそれだけではないのではないか、そう疑っているのだ。

 

「......提督。」

 

高雄は俺が思考を巡らせているところに水を差した。

 

「正面の門の人間の兵士。所属は陸軍憲兵です。ですが、今は提督の部下という事になってますよ?」

 

そう言って高雄は俺の元から離れていった。どうやら見透かされている様だった。それは高雄が言った言葉から見透かされてた事も察知させる様な言葉も含まれている。

どうやら、ソレが言いたかっただけみたいだった。

高雄がそう言って離れたのを見ていた愛宕や摩耶、鳥海は不思議そうな顔をしてその場を離れてしまった。だが、そんな様子なのはそこだけではなかった。俺と横の金剛の周りもそんな表情をしていたのだ。

 

「......ありがとう、高雄。」

 

俺は小さい声で高雄に礼を言った。たぶん誰にも聞こえては無いだろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

高雄と俺の作り出した雰囲気も若干和らいだ頃、茶のポニーテールを揺らしながら歩いてくる艦娘が居た。

 

「ごきげんよう。」

 

「あぁ。」

 

それは熊野だった。ウチに最初に配属された重巡。今は重巡の中で一番練度が高く、初期海域突破時の旗艦は長門と交代して務めて貰っていた。

 

「私は重巡、熊野ですわ。」

 

「うん知ってる。」

 

俺がそう答えると熊野は腰に手をやった。

 

「先ほどの高雄さんの話、聴かせていただきました。提督、提督が動くのなら私もお手伝いいたします。その時は声をかけて下さいな。」

 

熊野はそう言って去ってしまった。

どうやら熊野にも見透かされてしまっていたみたいだ。今日、初めてちゃんと面と向かって話したというのにだ。

 

「提督ぅ?」

 

金剛が小首を傾げてそう言った。どうやら、熊野の言った意味が判らなかったみたいだった。判らないのは当然だが、さっきからこればかりなので気になってしまってるのかもしれない。

 

「何でもないよ。......どうやらもう俺に話のあるのは居ないみたいだ。駆逐艦の方で執務室への出入りを俺が許可したのを聴いていたんだろうな。明日以降来るだろう。」

 

「そうデスネー。では次、行きまショウカ。」

 

そう言った金剛は椅子から立ち上がり、きょろきょろし始めた。

 

「どうした?」

 

「イエ、次は空母のところに行きませンカ?」

 

「いいぞ。」

 

どうやら空母の集まるところを探していたみたいだった。俺がそんな光景を見てると金剛は早速、見つけたようなので歩き出した。

それに付いていく俺は、前を歩く金剛の揺れるアホ毛に目が行っていた。何とも不思議だった。

 

(あのアホ毛はどうやって立ってるんだろう?)

 

空母の集まりのところに着くまでそればかり俺は考えていた。

 




建造開発共にうまくいかない今日この頃......。
嘆いても仕方ないですね。

続編は不定期になりそうです

ご意見ご感想お待ちしてます


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第十二話  提督の挨拶回り⑤ 空母編


ここまで引っ張ると結構ネタが尽きていくものですね(蒼白)。
今回はネタ尽きたかと思ったのですが何とかかけました。ネタ尽きたならやめちまえって思うのですがねw

UAやお気に入りが順調に増えていてとてもうれしいです!感想なんかは投稿する度に送って下さる方もいるのですごく励みになってます。


 

俺と金剛は空母の集まる席に来ていた。

第一艦隊の赤城と加賀はどうやらあの集まりを解散して、空母の集まりに入ってきたみたいだった。

我が鎮守府所属の空母は赤城と加賀の正規空母を筆頭に主に軽空母で構成されている。

 

(ハッキリ言って空母の運用に関しては、赤城と加賀と飛鷹と隼鷹以外は殆ど出てないんだよね......。)

 

俺は楽しそうに飲食する空母の艦娘たちを見て思った。

それに、鎮守府には何故だか空母の建造が上手くいかない事が多かった。

俺が空母レシピの指示を出す事数十回(※ボーキサイトが潤沢にあった時代。)では、数十回中空母を引いたのは加賀の一回だけ。他は全て海域攻略中にドロップした者と、赤城は報酬だ。

 

「あら、提督。どうされました?」

 

赤城は何食わぬ顔で俺にそう言った。さっき、俺に謝ってたじゃないか。

 

「挨拶回りだよ。第一艦隊の奴らに何処に行くにも付いてこられてただろ?それで皆近寄り難かったみたいだから、俺から出向いてるって訳。」

 

そう言うと赤城はポンと手を打った。

 

「確かに提督の近くには必ず第一艦隊のメンバーが居ましたね。というか私たちって皆さんから怖がられてたのですか?!」

 

赤城はそう言って驚いた。どうやら本人は自覚がなかった様だった。

そりゃ大型艦ばかりに囲まれてる俺のところに突入しようだなんて誰も考えないだろ。特に駆逐艦とか。

 

「はぁ......。まぁ、そう言う訳で駆逐艦の艦娘のところから順に回ってるっていう訳だ。」

 

「そうですか。では、私たちのところに来たという事は私たちと話をする為に?」

 

「そうなるな。だけど赤城と加賀は別だな。軽空母の艦娘たちと話すよ。」

 

そう言うと赤城はよほどショックだったのか、持っていた箸を落とした。それを横で見ていた加賀が無言で何かを悟ったかのように赤城の肩に手を置いた。

 

「提督ぅ?今のは少し酷いと思うデス。」

 

そして何故か金剛がジト目で俺を睨んだ。

 

「ん?だが、事実だろ?」

 

「あー、やっぱり酷いデス。早く赤城に謝るべきデスヨ。」

 

俺はそう言う金剛に約一か月の出来事を話した。俺の責任だが、第一艦隊によって俺の着任を秘匿にされていたことを。

 

「まぁ、奴らは俺をほぼ軟禁してたしな。俺の責任のところも大きいが。」

 

そう言うと金剛は驚いた。多分、軟禁という言葉が出てきたからだ。

 

「そっ、それは私でも擁護できまセン......。」

 

金剛がはぁと溜息を吐く。赤城は金剛の擁護に期待していたみたいだが、バッサリ切られてしまってまた落ち込んでしまった。

これは流石にフォロー入れなくては、俺はそう思った。

 

「まっ、まぁ。あんなでも赤城たちだけで食べるのも結構楽しかった......?」

 

顔から火が出そうになるほど恥ずかしくなった。フォローのつもりだったが違う意味にとられ兼ねない。俺はすぐに軽空母の艦娘たちが居るところに移動した。

そんな俺と金剛の姿を目で追っていた赤城と加賀の表情は俺には良く見えなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

軽空母が4人で集まって何かの会話をしていた。近くに居る俺と金剛には気付かずにしていた会話は、艦載機運用についてだった。

俺はその様子に驚いた。何に驚いたかと言うと、俺の居た世界でのイメージが強い隼鷹が零式艦戦21型と天山の併用に関することを話していたからだ。

俺の中でのイメージは皆も同じだろうが、『酒ぇ~。酒は美味いねぇ~、ヒャッハー!』的なのを想像していた。

だが、現実。現実と言ってもいいのだろうか疑問だが、目の前で真面目にそんな内容の事を話している事に驚いた。

 

「盛り上がってるところ悪いね。」

 

俺は引きつる顔を笑みで隠しつつ話しかけた。

そうすると皆が一斉にこっちを向いて言った。

 

「「「「提督、私も52型が欲しいです!あと、彗星も!」」」」

 

「それは無理だっ!」

 

軽空母の艦娘たちの願いは一瞬にして打ち砕かれた。

こやつ等ボーキサイト不足を知ってのその願いかと俺が口角をピクピクさせていると、俺と軽空母の艦娘たちの間に加賀が割って入った。

 

「貴女たちも提督も少し頭を冷やして下さい。提督、表情に出てます。」

 

俺は加賀に言われ、少し息を整えた。それを見ていた加賀は少し崩れていた襟を整えて俺に言った。

 

「提督。」

 

「なんだ?」

 

「52型や彗星に回す資材など、そんな余裕は無いのでしょう?」

 

「そうだな。」

 

「そう、全ては烈風、彩雲、流星の為に......。そんなに溜め込んでいたのでしょう?」

 

「いや、違うし。」

 

俺は最初、加賀はいいことを言うのかと思っていた。だが、違った。加賀は自分に回されるであろう高性能艦載機に注ぎ込むのだと言うのだ。

 

「どうして?」

 

「どうしても何も、開発に多く回すだけのボーキサイトはありませんっ!」

 

そう言うとその場は一瞬にして葬式ムードになってしまった。

軽空母の艦娘の願いを打ち砕き、加賀の求める高性能艦載機の開発にも使わないと言ったからだ。無理もなかった。

 

「ほーい、提督ー。何でボーキサイトをそんなに温存してんだ?」

 

この葬式ムードの中、俺に声をかけたのは隼鷹だった。

俺がどう答えようかと悩んでいると、金剛が口を出してきた。

 

「それはきっと第一艦隊の空母の補給で手一杯だからだと思いマス。見たところどちらも改造されていて、艦載機搭載数も増えている様ですシ。」

 

「成程なー。じゃあさ。提督。ボーキサイトが溜まるまで不定期でやっていた駆逐艦や軽巡洋艦の練度上げ、空母なしで出してみたらどう?」

 

俺は隼鷹の提案を訊いて、自分の身体に稲妻が落ちてきた様な衝撃を感じた。

第一艦隊から空母を外す。その様な考えは今までした事が無かった。基本的に航空戦が戦いを制す、とか言うじゃないか(※にわか知識)。それをあえて止める。その考えには至らなかった。

 

「......。」

 

「どうした提督?」

 

「隼鷹。隼鷹なら編成、どうする?」

 

俺は動揺を隠しつつ恐る恐る聞いてみた。

 

「そうだなー。練度上げをする駆逐艦や軽巡を旗艦に、傘下に戦艦5かな。資材はかなり食われるだろうけど、ボーキサイトよりかは集めやすいだろ?」

 

「その案、頂き。明日から再編成だ。」

 

俺はそう言うと、その場から聞いていただろう赤城と加賀を呼び出した。俺の前に来た赤城と加賀はかなり焦っている。と言うか、動揺している。

会話の内容から察すれば、この後何を言われるのか分かるからだろう。凄い速さで足を震わせて、額には脂汗が滲み出ている。こういった反応を見ると、人間とそうたいして変わらないように俺は思えた。

 

「近くに居た2人には予め連絡しておく。」

 

「はい......。」

 

「......。」

 

俺は元気のない一航戦を見ながら、心を鬼にしていった。

 

「明日を持って現第一艦隊を解体。新第一艦隊を編成する。」

 

「はぃ......。」

 

「分かりました......。」

 

消え入るような返事をした後、2人は足取りのおぼつかない様子で自室に戻ってしまった。それ程ショックだったのだろうか。

 

「ねぇ提督。」

 

そんな空気の中、俺に話しかけてきたのは飛鷹だった。

 

「どうした?」

 

「ボーキサイトを溜めるってことは、それを開発や海域解放の時に使うって事?」

 

「うーん、そうなるだろうな。」

 

「じゃあ、開発できたもの次第では私たちにも新しい艦載機が来るって事でいいの?」

 

「そうなるな。だがやはり第一艦隊、おおっと、一航戦に優先するがな。」

 

そう言うと軽空母の艦娘たちは喜んだ。

それは可能性次第で自分らにも新しい艦載機が貰えると分かったからだ。それまでの空気を圧倒する勢いで喜ぶ艦娘たちを俺と金剛は微笑ましく見守っていたが、金剛が肘で小突いてきた。

 

「提督ぅー。電探ーー。」

 

「まだだな。」

 

「酷いデース......。」

 

このやり取り、なんかデジャヴの様にも感じたが、俺は軽くあしらって喜んでいる軽空母の艦娘を見ていた。

そうしていると、喜んでいる艦娘の中に違和感を感じた。赤、茶、そんな感じの色に紺色の様な色をしたスカートを履いた軽空母も居る。

俺の目にはどう考えても鳳翔にしか見えないのだ。

 

「ん?」

 

「どうしたデース?」

 

俺が首を捻っているのに一番最初に気づいたのは、横に立っていた金剛だった。

 

「いや、俺の中でイメージが崩壊した様な......。」

 

「何ノ?何か衝撃的なものでも見てしまったのデスカ?」

 

「そんな感じだな。」

 

そう言うと今度は金剛が首を捻った。どうやら金剛にはソレが違和感に感じない様だ。

 

「どこが違和感なのですカ?」

 

「鳳翔だ。」

 

そう言うと、喜びから何が貰えるのかと艦載機の話で盛り上がっていた軽空母の艦娘から俺の声を聴いていた鳳翔が俺の方を向いた。

 

「どうされました?」

 

そう言って俺に微笑んだ鳳翔は、ゲームで、俺の居た世界でのイメージを崩壊させる様な雰囲気を出している。

俺の中では日本最初の空母として建造されたという歴史から、『お艦』つまり、母親の様な雰囲気を持っているのだとばかり思っていたが、目の前の光景はそれを全て否定している。

見た目、人間の年齢に換算すると16が妥当だなと思うレベルだ。

そんな状況に俺は無性にアレをしたくなった。

唐突に俺は鳳翔に立ってもらい、その前で背筋を伸ばした。

 

「鳳翔。」

 

「はっ、はい!何でしょう?!」

 

改まった俺の姿勢に鳳翔は萎縮して、少し声が裏返っていた。

 

「すみませんでしたっ!!!!」

 

「「「「えぇーー!!!!(エェーー!)」」」」

 

俺の唐突の謝罪に鳳翔は慌ててオロオロしていたので、俺はすぐに訳を説明した。すると『そうでしたか。なんとなーく予想はしてましたよ。』と言ってくれた。

何という優しさ。これは贔屓ではないが艦載機は鳳翔優先にしようと俺は心に決めた時であった(※明らかに贔屓です)。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

鳳翔への謝罪の後、軽空母の他の艦娘にも俺の居た世界での印象をしつこく聞かれたので、あれこれと答えた後、俺と金剛はその場を離れていた。

 

「ねぇ、提督ぅー。」

 

「どした?」

 

金剛がまた頬を膨らませている。

 

「電探が欲しいデス。」

 

「はいはい。」

 

俺が軽空母の艦娘の元を離れる時、鳳翔に次の艦載機開発での艦載機は鳳翔に回すというのを訊かれてしまったようで、その時からずっとこの調子だった。

 

「不貞腐れてもまだやらないぞ?」

 

「ブー!」

 

パンパンに頬を膨らませた金剛は、ツカツカと戦艦の艦娘が集まるところに足を向けていた。

 

「そんな顔で姉妹に会うのか?」

 

「これは提督のせいデス!妹たちに怒られるといいデス!」

 

「そうかよ。」

 

金剛はそう言ったが、提督の前を歩く金剛は少し笑っていた。その表情は俺は見ていない。

 





あと少し、あと少しなんです。
これが終わるとその日の進行形で話が書けるようになるんですよ!(迫真)

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第十三話  提督の挨拶回り⑥ 戦艦編


前回の投稿から結構時間が経ってしまいましたね......

この時期は忙しいんですよねw


戦艦勢は人間で言う比較的に成長している女性の容姿をしている。

金剛は、戦艦の艦娘が集まるところに着くと、すぐさま姉妹のところに行ってしまった。

ここで普通は挨拶をするのかと思っていたが、どうやら金剛は戦艦の艦娘とは先に挨拶を済ませていた様だった。

俺は、金剛のいない状態での挨拶回りになってしまう。

視界にチラチラと長門や扶桑型姉妹が映っているので、殆ど話したことのない扶桑型姉妹のところに行った。

 

「よう。」

 

「あら、提督。どうされました?」

 

俺が後ろから挨拶すると、扶桑が笑顔で返してくれた。

 

「あぁ、いろんな艦種のところを回っているところだ。まぁ、戦艦は殆ど最後だけどな。」

 

そう言うと扶桑は肩をピクリと震わせた。どうやら、俺の着任挨拶の時の事を聴いていたようだった。

 

「そっ、そうですか。」

 

「あぁ。」

 

そう言うと、俺と扶桑の間に山城が入ってきた。眉を吊り上げている。様子から察するに怒っている様だった。

 

「ちょっと提督っ!扶桑お姉様に近すぎやしませんか?それになんか移りそうです!」

 

そう言った山城は腕を組んだ。

 

「こら山城。提督に失礼のない様に......。」

 

それをおっとりした感じで止める扶桑。何だか、この様子にはしっくりくるものがあった。

 

「別にいいさ。」

 

俺はここである事を思い出した。それは俺が着任した日の事だ。

 

「こう見えても山城、俺が着にっ......ムグムグ」

 

「あはは!提督、何言ってるんですかぁ?」

 

山城は察知したのか、俺の口を塞いで笑った。

『俺が着任した時、すっごい喜んでたじゃん。』って言いたかったのに。そして俺と山城、扶桑の会話をいつの間にか戦艦の艦娘が周りから固唾を飲んで見守っていた。因みに、空母の艦娘も近いので見ている。

だが、そんな空気を扶桑がぶち壊した。

 

「あら山城?あなた、提督の着任をすごく喜んでたじゃない。提督の目の前で飛び跳ねて......。」

 

その言葉に周りが吹き出した。相当面白かった様だ。俺の口を押える山城も顔を真っ赤にしている。

 

「扶桑お姉様っ......、あんまりですっ......。」

 

俺の口を押えたままの山城は今にも泣きだしそうな表情で扶桑に訴えた。だが、もうそれも意味がない。ワヤワヤと一部始終を見ていた艦娘たちが集まってきていたのだ。

 

「プハッ......本当の事だろ?」

 

俺が何とか山城の手を振りほどいて、面白そうだから追撃を仕掛けた。

 

「提督、酷いです!」

 

俺がそう言うと山城は扶桑の後ろに隠れてしまった。二人ともそんな身長的には変わらないので、そこまで隠れれてないが。

その様子を見ていた日向が俺の横に立った。

 

「そうだ、酷いぞ提督。私にも41cm連装砲を載せろ。」

 

無表情で訴える日向だが、俺が着任した日の件、日向も飛び跳ねてたじゃないか。と内心思いつつ、今の装備のあまりがどれだけあるかを俺は頭の中で考えだした。

 

「全然話しが噛み合ってない......41cm連装砲はあまりはあるけど、ちょっと載せる訳にはいかないな。」

 

「どうしてだ?」

 

俺はあまりがあるを思い出すと、いたずらっぽく日向の要求を聴かなかった。

何故なら、俺の視界の端で山城がすごい悪い顔をしている。俺もそれに乗っかろうと思ったからだ。

 

「そうだなー。おっ、山城。何でか分かる?」

 

「ん?何故、山城に訊く?」

 

俺はここで唐突に山城に訊いた。その時、一瞬山城は目を光らせた。どうやら俺の考えていた通りだったみたいだ。

 

「日向も私と一緒で提督が着任した時、飛び跳ねてたじゃない。」

 

そう言うと、余裕をかましていた日向の顔がみるみる赤くなっていった。まるで、熟していくリンゴを見ている気分。

 

「なっ!?何おう!」

 

そう言った日向はフーフーと鼻息を噴き出し、顔が赤いままでお怒りモードに入ったみたいだった。

そんな様子に見かねた長門が山城と日向の間に入っていった。

 

「どうどう、落ち着け日向。」

 

そう言った長門に向かって山城と日向が言い放った。

 

「「長門だって飛び跳ねてたじゃない!(だろう!)」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

山城と日向と長門の三つ巴はギャーギャーと喧嘩をしている様だったが、俺はこっそりと抜け出していた。

今は扶桑と話している。

 

「そう言えば、扶桑たちって殆ど執務室に来なかったな。」

 

そう言うと扶桑は、飲んでいた湯呑を置いた。

 

「そうですね、基本的には金剛型の3人に色々と相談されてましたから。」

 

そう言った扶桑はふふっと笑い、湯呑を手に取った。

 

「相談って?」

 

「何でも、提督の着任が遅いのはどうしてだろうか。連日のキス島出撃は何なんだろうか。ボーキサイトが少ないのはどうしてか。などと言われて、山城と一緒に長門が持っている資材の出入りに関するファイルを見たり、キス島周辺の特性を調べたりしてました。」

 

「それが、執務室に来れなかった理由?」

 

「そうなります。」

 

そう言って湯呑のお茶を扶桑は飲んだ。

 

「あと私もキス島への出撃はありましたので、入渠していたりしてましたし。」

 

そう言って扶桑はまた湯呑を置いた。今度は中が無くなったからだ。

 

「そうか。」

 

「山城が『不幸だわ。』とか口癖の様に言うから、なんか私まで不幸に感じてしまって......。出撃する度に損傷している気がします。」

 

そう言った扶桑はすくっと立ち上がると、まだ言い争いをしている3人の間に割って入った。

 

「......。......、......。」

 

何かを3人に言った様だが、俺からは聞こえなかった。

扶桑がそう言うと、3人は言い争いをピタリとやめた。どうやら、さっき扶桑が何かを吹き込んだみたいだった。3人が何も言い合わなくなると、扶桑は再び自分が座っていたところに戻ってきた。

 

「何を言ったんだ?」

 

俺はあの3人に何を言ったらすぐに辞めさせられたのかが気になった。一言で黙らせたのだ。好奇心から聞きたくなったのだ。

 

「えぇ。『提督に3人の装備を全員水偵にして貰いますよ?』と言っただけです。」

 

そう言った扶桑に俺は何も言わなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は扶桑とまた少し話した後、今度は金剛が居る金剛型姉妹のところに来ていた。

何やら優雅にティータイムが始まっている。どこから出したのか分からないティーセットで紅茶をすすっていた。

 

「あっ、提督ぅー!」

 

そして一番最初に気づいたのも金剛だった。

 

「よう。もう回ったから。」

 

「そうですカ。なら私たちと一緒にティータイムネー。」

 

そう言うと、金剛は余っていたティーカップに紅茶を注いだ。そして俺の目の前に突き出した。

 

「どうゾ。」

 

「ありがとう。」

 

俺は受け取った紅茶を飲んだ。至って普通のストレートティーだ。

 

「うん。」

 

俺はティーカップを置くと、肘を付いた。これまで回ってきた疲れがどっと来たのだ。

 

「はぁぁぁぁー!!」

 

「どうされました?」

 

真っ先に訊いてきたのは榛名だった。

 

「どうもなにも疲れた......。」

 

「そうですか。」

 

そう言うと、榛名は俺の前にクッキーを置いた。

 

「甘いものを食べると多少はマシになりますよ?」

 

そう言って榛名は自分の椅子に座った。

 

「ありがとう。」

 

「いえ。」

 

俺はそのクッキーを頬張りながら紅茶を飲み、残りの時間を過ごした。

偶に金剛に何かを言われ、それに答える。他の艦種の艦娘も来ては俺と話してを繰り返した。

正直このほうが楽だ。どうやら、金剛型の艦娘への恐怖感は無い様で、駆逐艦の艦娘なんかも俺のところに来たりした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

歓迎会が終わり、食堂には一部の艦娘と妖精しか残っていない。俺はギリギリまで金剛たちと紅茶を飲んで、グータラしていた。

他では片づけが始まっている。俺はそれを手伝う事にした。

 





ウチの戦艦勢は結構そろってるんですよね。あと大和型と陸奥だけですw
中々建造では出せませんねw

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第十四話  提督の挨拶回り⑦ 妖精・その他編


どうも、前回から一日後の投稿です。

では、ちょっと今回は異色なんで違和感ありあり、ガバガバですが我慢して下さい(真摯)



 

食堂の片づけはどうやら駆逐艦の艦娘が数人と給糧艦の艦娘の間宮と伊良湖がやっている様だ。

 

「何か手伝いましょうか?」

 

俺はそう言って間宮に話しかけた。皿は丁寧に艦娘が帰るときにそれぞれで流しの近くまで運ぶようなので、間宮はせっせとそれを洗っていた。

 

「提督?提督に手伝っていただくなんて......。」

 

「いいさ。」

 

俺は間宮が洗った皿を皿布巾で拭き始めた。布巾は間宮に訊いて使っていいものを使っている。

 

「何時もこれくらいなんですか?」

 

「はい。」

 

間宮は顔色一つ変えずに皿を洗っている。

そしてさっきはよく見てなかったけど、よく見たら間宮も俺の想像よりも遥かに若かった。せいぜい19か20というところだ。

そして例の如く、俺は姿勢を正した。

 

「間宮、済まなかった!」

 

「何がですっ!?」

 

俺の突然の謝罪に間宮は困惑した。無理もないが、俺は鳳翔の時と同じように説明をしたら納得してもらえた。こういうところは何だが俺の予想通りだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は皿洗いを済ませるとあちこち散らばっている物を回収に食堂内をウロチョロしていた。

あっちには瓶。回収し忘れたコップ。台拭き。いろんなものがまだ残っていた。それを見つけれた分だけ持って歩いていると、テーブルの上を忙しなく動いていた妖精が立ち止り、俺の方を向いた。

 

「提督。」

 

妖精は俺を呼び止めて、話し出した。

 

「なんだ?」

 

「私は装備の倉庫の妖精です。装備に関して少しいいですか?」

 

そう言った妖精はサイズ感的に出せないくらいの大きさの紙を俺に見せた。その紙には俺が装備を廃棄した日時と個数が記録されている。秘書艦である長門が管理する書類の一部のコピーの様だった。

 

「ここ、艦載機についてです。」

 

そう言った妖精は別のところに居た妖精を呼び寄せた。

 

「この妖精は艦載機に搭乗する妖精です。」

 

「はい、私は天山の妖精です。」

 

そう言った妖精の言葉に少し反応してしまった。天山。今、装備で数個余らせている艦載機だ。比較的出しやすい艦上攻撃機だ。

 

「提督、私たちを軽空母の艦娘の艦載機に乗せ換えてくれませんか?」

 

そう天山の妖精に言われた。気付けば天山の妖精らしき妖精が数人集まっている。

 

「そうだな......よし、分かった。明日、軽空母の改装にて艦載機の更新をやるよ。天山の妖精たちもそのつもりでお願い。」

 

そう言うと、妖精たちは笑顔でちりぢりに作業に戻っていった。

 

「妖精が頼みに来るなんて思わなかった......。」

 

妖精が全員離れたあと、俺はそう呟いた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

しばらく食堂の中をウロチョロして回収し忘れたものをあらかた集め終わると、間宮と伊良湖が俺のところにやってきた。

 

「提督、ありがとうございました。」

 

間宮はそう言って、食堂の椅子で休んでいる俺の前の席に座った。伊良湖はその横に座った。

 

「......提督、もう慣れました?」

 

「何が?」

 

俺がだらけて座っていると、唐突に間宮はそう訪ねてきた。

 

「別の世界から提督は呼ばれた訳ですし......。環境の変化とか?」

 

「あぁ、大丈夫だよ。これでも環境適応能力は高いから。」

 

俺はそう言って突っ伏せた。本当は環境適応能力だなんて言ったが、結構疲れていた。意味があるのかと疑問を持ってしまう様な書類を片づけたり、何ともない執務室の窓から見る空を眺めるのにもだ。

 

「そうですか。ですが、無理をしないで下さいね?」

 

そう言って間宮はアイスを俺の目の前に置いた。

 

「私が作ってるアイスです。良かったらどうぞ。」

 

「ありがとう。」

 

俺は礼を言って、スプーンですくって口に運んだ。口に広がるのは甘いバニラの香りとひんやりした刺激。アイスは俺のいた世界では日常的に食べていたが、なんだか別物の様に感じた。

 

「......おいしいよ。」

 

「ありがとうございます。それでですね、提督。提督に言っておかなければならない事がいくつかあるのですが。」

 

俺がアイスを頬張っているのを眺めながら間宮はそう言った。横に座っている伊良湖は口一つ開かない。

 

「ん?」

 

「艦娘の事です。」

 

そう言った間宮は俺にアイスをできるだけ早く食べるように言った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「艦娘は深海棲艦が出現して、日本近海および太平洋をあっという間に収めた頃、出現したんです。」

 

間宮が言った事は、俺が着任した時に説明した言葉を詳しく言ったものの様だ。

 

「そしてそれと同時に妖精も現れ、海域奪回が始まったんです。これは多分秘書艦の長門さんから聞いてるとは思います。」

 

「あぁ。」

 

俺は素っ気なく返した。

 

「私たちが現れた時、日本の状況は最悪でした。日本は経済大国として世界に君臨していたとは思えない程になっていました。枯渇する資源、慢性的な食糧難、貧困......。それが日本を襲っていたんです。」

 

「原因は一つしかありませんでした。深海棲艦の出現であらゆる貿易相手国との貿易線が寸断されたんですから。」

 

「そのような状況で私たちが出現した。私たちというより、同じ姿を纏ったもう一人の私たちでした。」

 

「もう一人の私たちが出現した時、日本は既に領海を失っていました。当時護衛艦と呼ばれていた軍艦は全て、当時で言う海上自衛隊の近海哨戒や前線を押し上げる作戦で喪失してましたから。」

 

「その時突然現れたもう一人の私たちが最初に見たのは、東京湾に攻め込んだ深海棲艦の艦隊でした。そしてもう一人の私たちはそれを自分がどうして現れたのかわからないまま、深海棲艦に砲を向けていました。」

 

「東京湾に攻め込んだ深海棲艦の艦隊は6隻。一方、もう一人の私たちは何十隻という大群でした。容易に深海棲艦は撃破されました。」

 

「最初、人間は私たちを見て戸惑いました。深海棲艦を撃破した艦は全て旧式の軍艦ですからね。しかも、横須賀の米海軍が居たらしい基地に私たちは停泊したからです。」

 

「すぐに当時陸上自衛隊と呼ばれていた人間たちがもう一人の私たちの艦に入ったんです。ですが人ひとりとして居なかった。」

 

「幽霊船だとか言われてましたが、もう一人の私たちは自分の艦に人間が乗ったのも、そう比喩したことも分かっていました。だから、もう一人の長門さんはこう言ったんです。」

 

「『幽霊船とは失礼だな。』と。」

 

「腰を抜かした人間は艦から慌てており、上司に知らせると、すぐに偉い人間が現れてもう一人の長門さんに『何者だ。』と聞いたそうです。」

 

「もう一人の長門さんは『私は戦艦長門。国の湾内に未確認艦艇が侵入していたので撃破させてもらった。』と言ったそうです。」

 

「そうすると偉い人間がもう一人の長門さんに『姿を現しては貰えないだろうか?』と聞かれました。」

 

「もう一人の長門さんは、提督の知っている長門さんの姿で艦橋から姿を現しました。人間たちは驚き、銃を突きつけたそうですが、もう一人の長門さんはありとあらゆる砲を人間たちに向けたそうです。」

 

「そこからその場でもう一人の長門さんと偉い人間とで話し合い、もう一人の長門さんが人間に協力して深海棲艦を撃滅すると決めたそうです。そこからは長門さんから聞いていると思います。」

 

俺は突然の説明に驚いた。

この世界ではそんな事が起こっていたのだ。今の艦娘の状況の根源である、人間との接触がこのような事になっていたなんて俺は思っていなかったからだ。

 

「......訊いてもいいか?」

 

「はい。」

 

「もう一人ってなんだ?」

 

俺が疑問に思ったのはそれだった。俺のいた世界ではもう一人とかそう言う表現はしてなかった。艦娘はカード。つまりダブる事が日常茶飯事だからだ。それをもう一人という表現を使うことに違和感があったからだ。

 

「もう一人ってのは、そのままの意味です。この世界には同じ顔をした艦娘がごまんといます。ですがそれぞれ性格やらが少しずつ違うんです。」

 

そう間宮は言った。確かに演習などをやる時、相手艦隊に同じ艦が居ることがある。だが、この世界に来てからは演習を見てない。指示を出すだけだったからだ。

 

「そうか。」

 

「はい。」

 

俺は考えた。艦娘が人間側について戦う理由は。だが、どうして人間に深海棲艦と同じだと言われたのかが疑問だった。そして妖精の存在もだ。間宮の話では妖精も同時に出現したと言ったが、さっきの話では一回も出てこなかった。

 

「あと、妖精についてだが。一緒に出現したって言ったけど、どうして艦に乗り込まれた時に妖精の姿が人間に見られなかったんだ?」

 

「それは、提督も分かるでしょう?あのサイズです。艦内ならどこでも隠れる事が出来ます。妖精たちは艦内に隠れてたんですよ。」

 

そう答えると、伊良湖も遂に口を開いた。

 

「あと所謂ドロップ艦や建造艦に関しては、提督のところに既にその艦の艦娘が居ると現れないんです。」

 

「そう言う事だったのか。」

 

俺は伊良湖から聞いたことも何れ訊こうと思っていたので、そのまま聞き流した。そして次の疑問を訊く。

 

「それじゃあ、なんで人間に艦娘も深海棲艦と同じだって言われ始めたんだ?」

 

そう言うと間宮が説明を始めた。

 

「それは人間と協力して深海棲艦を倒し始めた頃、人間に頼まれて深海棲艦の写真の撮影を依頼されたんです。」

 

「その時に取られたのは戦艦と空母。深海棲艦の戦艦と空母は割と艦娘と似たような感じだったんです。艦に人間と同じような少女が居て、艦を操作する。それはどう見ても深海棲艦と私たちをイコールで結ぶには十分な素材でした。」

 

「それは最初は自衛隊内だけで言われてましたが、遂にメディアに流れてしまって国民に知れ渡ったんです。そこからです。艦娘が鎮守府に閉じ込められたのは。これ以降は長門さんから聞いてると思うので言いませんよ?」

 

そう言って間宮は一息ついた。

俺は間宮の艦娘が鎮守府に閉じ込められた理由はなんとなく想像していたので、確認になってしまった。

もう、疑問に思う事は無かった。

 

「そうか、分かったよ。」

 

「はい。」

 

そう言うと伊良湖は立ち上がり、お茶を入れると言って席を外した。そうすると再び間宮は口を開いた。

 

「あと、艦娘は異常に提督に執着します。」

 

突然言った間宮の言葉に驚いた。異常に執着する、意味が判らなった。

 

「どういう事だ?」

 

「そのままの意味です。私たちは腹を空かせたり、感情があります。人間は艦娘を人間同等として扱っていたんです。ですが艦娘には欲しいもの、欲求と言うか物欲?人間で言う三大欲求以外の欲が無かったんですよ。」

 

そう言った間宮は少し顔を赤らめたが、俺は気にせず聞いた。

 

「それで、欲が無かったのと提督に執着するのにどういう関係が?」

 

「人間に深海棲艦を倒してもらっているから何かを贈ろうと言われても、艦娘たちは欲しいものが無いと答えたんです。」

 

「だけど、提督は欲しがってた。」

 

「そうです。自分たちを指揮する指揮官が欲しいという共通の欲があったんです。それを言ってみると人間は大層困ってたみたいですね。」

 

「俺はそこまで提督に執着する理由が判らない。」

 

そう言うと、お茶を入れに言っていた伊良湖が戻ってきた。

 

「艦娘は生まれた時から提督を求めてるんですよ。」

 

そう言って伊良湖は俺の前にお茶を置いた。

 

「そうか。」

 

俺はその伊良湖の言葉にこれ以上訊くのも意味がないと思った。それが艦娘にとっての自然だったんだ。理由なんてないんだ。聞いても無駄だと察したのだ。

 

「じゃあ、提督に執着するってのは......。」

 

「言葉そのままの意味で捉えてもらえればいいです。」

 

そう言われて俺は黙ってしまった。最後に訊きたかった事がそれだった。本当に言葉通りの意味だったのか、という事だ。

 

「ではもう大丈夫ですので、提督もそろそろお休みになって下さい。」

 

俺はそう言われ、お茶を飲み干すと、私室に戻った。

もう艦娘がどうのってのは考えないほうがいい、と俺は感じたのだった。

 





やっと挨拶回りが終わりましたよ。疲れた.....。
まさか7本立てになるとは思ってませんでしたよw

次からはほぼリアルタイムでの話にするつもりですので。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第十五話  雪風の開発日記①


今回から、提督の挨拶回り駆逐艦編で雪風の言っていた事の話がちょくちょく挟まれていきます。
不定期、すごく短いのでまぁ小ネタ的なものですので。


俺は今日の開発建造を任せる秘書艦、出撃させる旗艦、いつもの長門を朝の執務室に呼んでいた。

 

「雪風。今日の開発建造を任せてもいいか?前に言ってたろ?」

 

「はいっ!」

 

元気よく返事をする雪風を微笑ましく眺めると、俺は次の艦娘に指示を出した。

 

「今日の出撃は敷波、旗艦を頼む。」

 

「はーい。」

 

そう答える敷波は、俺のところから編成表を引き抜いた。編成表には敷波以下、長門と金剛型戦艦四姉妹の名前が入っている。

何時も行う練度上げに使う編成だ。

 

「何時ものメンバーね。制空権はいいの?」

 

「ボーキサイトをなるべく消費したく無いんだよ。弾着観測射撃は出来ないが、頼んだ。」

 

そう俺が言うと敷波は長門と共に部屋を出て行ってしまった。

残っているのは雪風と俺だけだ。

 

「雪風。一週間、建造と開発をやってもらう。」

 

「はいっ!対潜装備と魚雷ですか?」

 

「そうなるな。あと高角砲も確保したい。10cmの方だ。」

 

「了解しました!」

 

雪風は俺の指示を聞いて、走って執務室を出て行った。俺はまだ開発数とか言ってないんだがなぁ、と思いつつ、海域攻略と次に行う練度上げの対象を考え始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

雪風は程なくして帰ってきた。どうやら終わったみたいだった。

ニコニコした雪風が、結果の書かれた紙を俺のところに持ってくる。

 

「......おぉ。」

 

結果に俺は驚いた。

建造開発の回数を言ってなかったのに、言おうと思ってた数をこなしている。建造1回と開発4回。建造は戦艦レシピだった。

肝心の結果はというと、雪風が説明を始めた。

 

「開発で10cm高角砲と8cm高角砲が出ました!2回は失敗でしたけど......。建造では4時間です!」

 

雪風の言った結果は、まぁなんと言うか普通だった。

だが、8cm高角砲が出たのは正直嬉しかった。

そして金剛型の艤装が出てくる様なので、俺はそちらには驚かなかった。

 

「ありがとう。また明日、頼む。」

 

「了解ですっ!」

 

そう言うと雪風は俺の横に座った。どうやら何かあるみたいだった。

 

「どうした?」

 

そう俺が聞くと、雪風はいつ取り出したのか、艦娘の艤装に与えた装備一覧を俺に開いて見せた。

 

「司令ぇ。どうして雪風は魚雷発射管が渡されているのでしょうか?」

 

それは多分、鎮守府にある装備と俺のやり方を知っての疑問なのだ。

 

「それはだな......。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺がこの世界に呼ばれる前の話。

まだ発展途中で、任務を片っ端にやっていた時期があった。

 

「次は......『水雷戦隊!バシー島緊急展開』か。水雷戦隊......。」

 

俺はマウスのカーソルを移動させ、編成の上でクリックした。

保有する艦娘を眺め、水雷戦隊の編成を考える。

当時は水雷戦隊に配属する軽巡洋艦と駆逐艦の育成がほとんど進んでいない状態だった。

 

「ここは五十鈴を旗艦に、雪風、吹雪、白雪、時雨、夕立かな。」

 

俺はそう考え、第一艦隊に編成させた。

そして改装を行う。装備の入れ替えだ。

俺は五十鈴には20.3cm連装砲と魚雷、電探を持たせ、駆逐艦には12.7cm連装砲と魚雷を載せ始めていた。

雪風の改装を行う時にあることに気づいた。

12.7cm連装砲が足りてないのだ。

 

「どうしよ......。余りなんて無いし。」

 

俺は考えた末、決断したのは、雪風に魚雷発射管を2つ載せる事だった。

もし、夜戦に入った時、カットイン攻撃をしてくれるかもしれない。そんな希望を持っての改装だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「それは、何でだろう。雪風の運を買っての改装だったのかも。」

 

「そうですか!」

 

喜ぶ雪風はそのまま廊下に飛び出していってしまった。まぁ仕事は終わったから良かったんだけど。

 

「そういえば、改装ってどういう事になってるんだ?」

 

俺の頭に浮かんだのは、そんな疑問だった。

雪風のいなくなった執務室に俺の唸り声がこだまする。

 





これリアルタイムの方がいいんですが、結構前に書いたのでちょっと古いです。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第十六話  戦艦勢、キス島へ殴り込み①

単発ネタのつもりです。
駆逐艦レベリングの裏の話というかなんというかって感じです。

駆逐艦は育て辛いですね......。


朝、俺は執務室である作戦の説明を始めていた。

キス島レベリング。練度上げだ。

昨日の挨拶回りで隼鷹が提案した空母を使わずに戦艦5隻と旗艦に駆逐艦を入れるという編成を試す。今、俺が駆逐艦の艦娘1人と戦艦の艦娘5人に説明している。

説明と言っても、ただそういう編成になった経緯を言ってるだけだがな。

 

「提督、これでは弾着観測射撃ができないのでは?」

 

長門が俺の説明を終わらせた時に訊いてきた。

 

「そうだな、制空権は取れないもんな。」

 

俺はそれを軽くあしらって、名前を呼んだ。

 

「長門、金剛、比叡、榛名、霧島。駆逐艦の護衛、頼んだ。」

 

「「「「「了解。」」」」」

 

そして、並んでる一番端でおどおどしている敷波に声をかけた。

 

「敷波は戦艦の護衛下で思う存分経験を積んで来い。」

 

「わっ、分かった。」

 

そう言うと6人は執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は最近、第一艦隊旗艦と秘書艦を分ける事を覚えていた。

秘書艦をいつもやっている長門が第一艦隊で駆逐艦の護衛に出ている今、普段だったら秘書艦のいない状態で執務をしているが、赤城と加賀が手伝いに来ていた。

秘書艦としている、という事になっている。

 

「このファイルはどこだったかしら?」

 

「それはあそこよ、加賀さん。」

 

2人は手分けしてファイルに書類を挟んだり、片づけたり、出したりを繰り返している。

いつも長門にやってもらっていたが、そういえば偶に赤城が変わりにやっていたことを思い出した。そして加賀は秘書艦の経験が無い。手伝うと志願したが、何をすればいいのかわからないので、赤城に訊きながらやっている状況だ。

そんな2人を眺めながら俺は書類と睨めっこをしていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

程なくして第一艦隊が戻ってきていた。

執務室に旗艦をしていた敷波が報告に来ていた。

 

「......って感じ。経験は積めたわ。昼戦での戦闘は大方ね。」

 

そう言って俺に艤装への補給明細を渡してきた。明細から察するに、弾薬と油が尽きるまでキス島付近に居たようだ。撃破数も第一艦隊で24隻。大体4回戦った計算だ。

 

「分かった。このままだとどれくらいで改造できる?」

 

「そうだね......また明日同じ要領でやればいいと思う。」

 

そう言って敷波は俺の机に置かれていた、所属艦娘の詳細にある駆逐艦の艦娘の状況を見た。

 

「ふーん。吹雪、白雪、綾波、時雨ね......。この娘たちは改に改造したんだ。」

 

「あぁ。俺が着任して一週間くらいの時かな?」

 

そう俺がいうと、敷波は鼻で笑った。

 

「ふんっ。この現場たたき上げ的なレベリング、結構飽きるって聞いたよ?」

 

「それは知らなかった......。」

 

そう言った敷波に敷波と一緒に来ていた長門と秘書艦をしてくれている赤城と加賀はウンウンと頷いた。

 

「行き過ぎてキス島周辺の海域とか覚えましたよ?」

 

「敵の構成もな。行く最中にどういう作戦で行くかとか決めれるレベルでな。」

 

そう言った長門と赤城は溜息を着いた。

俺が着任してから一週間後にやっていたレベリングでは長門と赤城はずっと同行していたからだ。

 

「そうか......。でもまぁ。いい経験にはなるんじゃないか?」

 

「そうだがな......。今日の出撃はもうないんだろ?少し休んでくる。」

 

そう言って長門は執務室を出て行った。

 

「じゃあ私も。綾波に色々聞いて勉強するよ。じゃあ。」

 

そう言って敷波も出て行った。

 

「じゃあ、私たちは再開しましょう。」

 

赤城の号令で俺と加賀は執務に戻った。

 




敷波を選んだのは、今レベリングしているのが敷波だからという単純な理由ですw
そのうち軽巡とかも出すつもりですがねw

次回は今日のうちに出します。予定では7時半です!

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第十七話  戦艦勢、キス島へ殴り込み②


前回の続編です。



 

敷波を旗艦とした戦艦中心のレベリング艦隊は今日も出撃だ。

朝、朝食を摂り終えた艦娘は俺の居る執務室に来て整列している。

 

「集まったか。じゃあ、昨日同様に敷波の護衛を頼んだよ。」

 

「任せておけ。」

 

長門は敷波の横でガッツポーズをして見せた。

 

「だが提督。戦艦しか編成しないレベリングは聞いた事が無いぞ?」

 

長門はガッツポーズをした手を下げると腕を組んで言った。

俺も戦艦だけの編成でのレベリングは聞いた事が無かった。だが、これもボーキサイトを温存する為だ。被弾率や弾着観測射撃ができないというデメリットがあるが、止むを得んかったんだ。

 

「そりゃそうだ。ウチ独自だ。まぁ、気にせず出撃してくれ。」

 

「分かったよ、司令官。いってきまーす!」

 

そう言って敷波は戦艦の艦娘5人を連れて執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

敷波達が出て行ってから、今日の執務はそんなに無かったので早々に片づけると、加賀が話しかけてきた。

 

「提督。もうボーキサイトは遠征艦隊がひっきりなしに出ているので十分に溜まりました。」

 

そう言って加賀は俺に資材表を見せてきた。

確かに他の資材と殆ど同じ数、ボーキサイトは溜まっていた。これだったら正規空母である一航戦を第一艦隊に戻しても問題ないだろう。だが、俺はそれよりもやりたいことがあった。

 

「だがまだ加賀たちを第一艦隊に戻す気は無いぞ?」

 

そう言うと加賀は手を顎にやって考え始めた。そしてすぐに答えが出たように、顎から手を放した。

 

「艦載機開発......ですか?」

 

加賀が言ったのは俺が第一艦隊に戻さない理由だった。

 

「あぁ。開発資材の数を鑑みて、4回だけ。」

 

俺がそう言うと、丁度最近開発を頼んでいた雪風が執務室に入ってきた。

 

「司令!今日も頑張りますっ!!」

 

元気よく雪風は言ったが、俺は申し訳ない気持ちで今日の開発について説明した。

 

「すまん雪風。今日は建造だけ頼めるか?」

 

「どうしてでしょう?司令。」

 

「開発は対潜装備じゃなくて艦載機を開発したい。今日だけのつもりだから、加賀と行ってきてくれるか?」

 

「......はい!分かりましたっ!建造は戦艦のやつでいいですか?」

 

「そうだ、じゃあ頼んだ。」

 

雪風は一瞬、暗い表情をしたが直ぐに状況を整理して分かってくれた様だ。そうすると雪風は加賀の袖を掴んだ。

 

「加賀さん!いきますよ!!」

 

「はい。」

 

俺はそう言って2人仲良く執務室から出て行く姿を眺めつつ、終わった書類を整理した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「提督。」

 

加賀と雪風が出て行ってすぐ、赤城が俺に話しかけてきた。

 

「なんだ?」

 

「加賀さんよりも私の方が運が高いのですが......。それに加賀さん、まだ開発した事ないですよね?」

 

「あっ......。」

 

今さら止めに行く気にもなれず、俺は今日の開発は諦める事にした。また違う日にやろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

加賀と雪風の事をすぐに忘れて、俺はのんびり赤城とお茶を飲んでいると、執務室に加賀と雪風が入ってきた。

 

「司令っ!終わりましたよ!」

 

そう言って雪風は俺に結果を書いた紙を渡してきた。

其処には建造で、4時間20分が出たことと、開発で出てきた装備が書かれていた。

 

「やりました。」

 

加賀は少し口角を上げているので、どうやら結果は良かった様だ。俺は雪風から受け取った紙を読んだ。

 

「ふーん。扶桑型の艤装に......零式艦戦52型2つと九九式艦爆、失敗ね。」

 

俺は何とも言えなかった。加賀がどや顔していたのでてっきりレア艦載機が出たのかと思っていたからだ。

 

「ありがと、2人とも。」

 

俺はそう言って雪風から受け取った紙を書類の束の上に置くと、整理を始めた。勿論、装備に関する書類の整理だ。

 

「では司令、雪風は戻りますっ!」

 

そう言って雪風は元気よく執務室を飛び出していった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

日が傾いた頃、昨日と殆ど同じ時間に敷波たちが帰ってきた。

だが昨日と様子が違っている。

 

「お疲れさま。......ん?どうした??」

 

俺が暗いオーラを纏っている敷波に訊いた。すると突然、敷波は泣き出してしまった。

 

「......グスッ......。今日の昼に私を庇った長門さんが大破したの......。大きい爆炎が上がってて、長門さんの艤装がすごく傾斜してて......。」

 

そう言った敷波からすぐに俺は視線を長門に切り替えた。

確かにところどころ打撲を負ったのか、痣がある。

 

「どうした?」

 

俺がそう言うと長門は口を開いた。

 

「......旗艦を守るのは僚艦の務めだ。ずっと気にするなと言っているんだがな......。」

 

そう言って長門は困った表情をした。

俺はこればっかりは俺から何かを言ってやることが出来なかった。

俺は実際に海域に出た訳でもないので、大口叩いて言っても滑稽なだけだ。そう思ったのだ。

そうすると短い沈黙から赤城が敷波に声をかけた。

 

「敷波さん。」

 

「グスッ......はい......。」

 

「私と向こうで話しましょうか?吹雪さんも呼びましょう。」

 

そう言って敷波の背中を押しながら赤城は執務室を出て行った。

俺はその状況を察した。赤城は駆逐艦レベリングを初期に経験している。それにかなり早くの着任だ。色々と経験してきた事を話すのだろう。吹雪に至っては初期艦。呼んだ理由も明白だった。

俺は何も言わずに2人を見送った。

 

「......赤城には後で礼を言わねばな......。」

 

そう言って長門は敷波の代わりに書いたのか、報告書を俺に渡すと執務室を出て行った。それに続くかのように金剛型の4人も執務室を出て行ってしまった。

どうやら、この空気を察したのか。金剛が俺に何も言わないのは少し以外だったが俺は気にも留めずに長門の報告書を読み始めた。

 

「......ふん。.............そうか。」

 

報告書には長門が大破した際の状況が事細かに書かれていた。

敷波の不注意。金剛型の4人は状況に合わせてかく乱をしていた様だった。実質、敷波の護衛は長門だけだった様だ。そんな中、砲撃戦の最中、気を抜いた敷波に向けて撃たれた雷撃を長門が代わりに受けた。と。

俺は報告書を読み終えると、後ろにあったもう一枚の紙の存在に気づいた。

 

「......出撃編成表と、出撃許可印......。まさかっ!!」

 

俺は執務室の窓から外を見た。

戦艦が5隻、単縦陣で出撃している。前から長門、金剛、比叡、榛名、霧島。独断出撃だ。

もう既に港から出ている。止めれない。加賀は居るが、俺が焦っている要因が分かっていない様だったし、軽空母の艦娘を呼び出しても間に合わないかもしれない。

俺はもう待つことにした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夜も更けて、加賀を部屋に帰した頃、長門たちが執務室に入ってきた。

 

「長門。」

 

俺は長門たちが独断出撃してからというもの、夕飯も加賀に頼んで持ってきてもらい、ずっと執務室から港と沖を見ていた。

 

「分かっている。独断出撃だ、どんな罰も受けよう。」

 

長門はそう言って目をつむって立ち尽くした。

俺はその姿を見て立ち上がり、長門の前に立った。

 

「......貴様等は何故止めなかった。」

 

俺は長門の前に立ったまま首を金剛たちの方に向けた。

 

「それは、あの深海棲艦たちのやり方に頭に来てました。ここで轟沈させておかなければ、同じ手で気付かなかった艦娘を轟沈させると思ったからです。」

 

俺には霧島の言った意味が理解できなかった。やり方。殺り方だろう。報告書に無かった何かがあるのだ。

 

「どんなやり方だ。」

 

「深海棲艦は自分らの水雷戦隊を分断し遊撃してました。これは今まで見たことのないものです。そして深海棲艦の水雷戦隊は私たちを上手く分断して、旗艦をほぼ裸の状態にしたんです。」

 

そう榛名は言った。

 

「裸になった旗艦に深海棲艦らは水雷戦隊に編成されていた雷巡チ級より魚雷を数十本と撃ち込んだんです。そのやり方が私たちにとって危険だった。」

 

比叡が続けて言った。

 

「だからすぐに消しに行ったんデス。今回は長門が気付いてダメージコントロールしやすい角度で壁になりマシタガ、次はどうなるか分かりまセン。それに壁になった長門は20本も魚雷を受けてマシタカラ。」

 

金剛はいつもの口調だが、すごく冷たい声でそう言った。

 

「そうか。」

 

俺は4人から語られた鮮明な状況を鑑みて、長門の罰を考えた。

 

「長門。」

 

「あぁ。」

 

「朝一で敷波のところに赴け。それと明日1日は敷波共に休暇とする。」

 

俺はそう言って頭を冷やすために執務室から出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「あっ......あぁぁぁぁ......。」

 

俺が出て行ったのを見届けた長門と金剛たちは膝を小鹿の様にガクガクさせていた。

 

「提督がすごく怖かったデス......。」

 

「はい......。司令からお叱りを受けないようにしないと......。ひえぇぇ。」

 

「榛名、お風呂に入りたいです......。下着がっ......。」

 

「想像以上の人でした......。」

 

金剛たちはそう言って震えていた。一方、長門はというと、少し放心していたとか。

 





これは少し提督の一面がwww
あと色々話の関連付けのつもりのところもあるので違和感があったら感想の方でお答えします。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第十八話  軽空母戦隊が早々に終わらせてきた①

駆逐艦の艦娘のレベリングを一昨日行った。昨日も敷波のレベリングによってキス島への出撃があったが、今日は違う。

一度攻略したカムラン半島に敵艦隊が再集結しているのだ。

執務室には張り詰めた空気が流れている。

飛鷹、隼鷹、神通、吹雪、白雪、時雨は俺の机の前で一列に整列している。

新しく艦隊を編成した軽空母戦隊だ。この艦隊によって俺はカムラン半島を再度攻略を命令した。

 

「飛鷹、この編成は理解しているな?」

 

俺は某ロボットアニメのサングラス如き姿勢で飛鷹に言った。

 

「分かってるわ。軽空母戦隊、カムラン半島、もうアレしかないじゃない。」

 

「分かっているならいい。」

 

俺はそう言って手をほどくと、命令した。

 

「第一艦隊、軽空母戦隊はカムラン半島に出撃、敵を撃滅せよ!」

 

「「「「「「了解ッ!」」」」」」

 

「って言いたいところだけど、艦載機が......。」

 

見事に俺の頑張って作った雰囲気を隼鷹がぶち壊した。

 

「だぁぁぁぁ!!それっぽく雰囲気作ったのに。......改装な。分かった。」

 

俺は紙を取り出して書き始めた。それは改装の指示書。

順番に改装する装備を書いていく。軽空母には余っている天山と彗星、零式艦戦52型を。五十鈴には20.3mm連装砲、61cm四連装酸素魚雷発射管、21号対空電探。駆逐艦には10cm連装高角砲と61cm三連装魚雷発射管に改装する指示を書いた。

 

「出撃前に改装だ。これ通りに頼む。」

 

俺はそう言って紙を渡した。

 

「ありがとうございます。......艦載機あるじゃん。なんで軽空母の方に回さなかったの?」

 

「いちいち書くのが面倒なんだよ。ほら、この出撃で腕の感覚を戻してくれ。」

 

「了解。じゃあ、行きますか。」

 

そう言って飛鷹は艦隊を連れて執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「提督。」

 

飛鷹たちが出撃したという知らせを受けてから1時間くらい経った頃、長門が俺に声をかけた。

 

「なんだ?」

 

「本当に良かったのか?軽空母戦隊。」

 

長門が聞いたのは軽空母戦隊で良かったのか、という質問なのかと俺は思ったが違った。

どうやらこの世界でも出撃する場所や任務に関しての練度の関係はやはりあるらしい。俺も自分の居た世界で何度か見たが、確かに軽空母戦隊のカムラン半島攻略はどの他の提督もかなりの高練度艦を編成して出撃させていた。

今回、俺が編成して出撃させた艦隊は平均練度が22くらいだ。飛鷹の28を筆頭に隼鷹16、五十鈴が23、駆逐艦が全員20だ。飛鷹と五十鈴、駆逐艦に関しては改造をしたが、隼鷹は全くの状態だった。

 

「......俺は運だと思う。」

 

「何故だ?」

 

俺は練度うんぬんを踏まえずの出撃ではないつもりだったのだ。

 

「カムラン半島は南西諸島海域の一番最初の攻略場所だ。それを考えると比較的低練度でも攻略が可能だという事がうかがえる。」

 

「だか、最初に攻略した時は艦隊に戦艦や重巡が居ただろう?」

 

「そうだな。あの時駆逐艦も編成していれば、改造前の経験の浅い駆逐艦はボスに到着する前に轟沈してしまうかもしれないだろう?」

 

「そうだが......。やはり、駆逐艦が主編成の軽空母戦隊にカムラン半島が攻略できるとは思えない。」

 

俺は長門のいう事に溜息を吐いた。俺の居た世界では艦娘のありとあらゆる性能を数値で表していた。だが、それはこの世界では存在しない。理屈的に考えれば駆逐艦は改造しても装甲の薄い艦なのだ。

 

「長門、俺の居た世界では艦娘の艤装の破損状態を数値で表現していたんだ。」

 

「ん?破損状態??」

 

「あぁ。所謂体力みたいなものだ。まぁ耐久値という表現だったが。その耐久値は艦種によって大きく違ってくる。例えば長門。」

 

「なんだ?」

 

「今長門は改造をしていて、改の状態だろう?」

 

「そうだな。」

 

「この時、長門の耐久値は90と表現されていた。」

 

長門は俺の言葉に顔をしかめる。無理もない。この世界にはないものだからだ。

 

「それは高いのか?」

 

「あぁ、高い。戦艦の艦娘の中では大和型、ビスマルクに次ぐ高さだ。」

 

「そうか。」

 

長門は澄まし顔でそう言った。

 

「だが一方、改造前の駆逐艦の耐久値は15だ。」

 

「15だとっ!!低すぎる!」

 

「あぁ、俺も出撃させた駆逐艦の艦娘がこの耐久値ならわざわざ軽空母戦隊を組んで出撃なんぞさせんよ。」

 

俺は見ていた書類を置くと、肘を付いた。そうすると長門は慌てて言った。

 

「なら今すぐに撤退させるべきだ!危険すぎる!」

 

「だが改造前って言っただろう?」

 

「??」

 

長門の頭上にハテナが浮かぶ。どうやら理解できてない様だ。

 

「軽空母戦隊に編成した駆逐艦の艦娘は全員改造済みだ。だからおのずと耐久値が変わっている。」

 

「そうなのか?」

 

「出撃した駆逐艦の艦娘の耐久値は30。改造前の2倍だ。」

 

そう言うと、長門は落ち着いた。どうやら頭が冷えたみたいだ。

 

「なら......下手な攻撃を受けても一撃で大破することは無いな。」

 

「そう言う事だ。」

 

俺はそう言うと次の書類に手を伸ばした。

長門はそれ以来、ずっと考え事をしている様だったが、俺は放っておくことにした。

だが内心この出撃は博打であるとも俺は考えていた。平均練度21という艦隊での攻略は聞いた事が無かった。それに低練度ならではのデメリットもある。

俺はああは長門に言ったものの、とても不安であった。

 




いやー。これもまた自分の中で古い話です。
本当にリアルタイムのを書きたいのに......。まぁ、雪風の開発日記でいくらでもかけるんですけどねwww

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第十九話  軽空母戦隊が早々に終わらせてきた②

前回の続きです。
今回は少し短めですので、連投させていただきます。


俺は心配しつつも、執務をして時間を過ごしていると、飛鷹が帰ってきた。

執務室に入ってきた、今回カムラン半島に出撃していた艦隊全員が目立った外傷がなかった事に驚いたが、俺は見ていた書類を置くと、飛鷹が言う報告に耳を傾けた。

 

「軽空母戦隊、ただいま帰還しました。」

 

そう言って並ぶ彼女らの顔には、笑みがあった。どうやら結果が良かったのだろう。

 

「そうか。んで?」

 

「カムラン半島にいた深海棲艦を掃討出来ました!」

 

「うおぉぉ!本当か!?」

 

「はいっ!」

 

飛鷹が発した言葉に俺は興奮を隠せなかった。

そうそう攻略できるとは思えなかった任務だった。そもそもカムラン半島を最初に攻略した時には第一艦隊に既に戦艦が編成されていた。そんな高火力艦の入った編成でのカムラン半島攻略を経験していた俺は、火力不足が目に見えている軽空母と軽巡、駆逐艦のみの編成での出撃では攻略は到底不可能と思っていた。

だか、彼女らはそれをやってのけたのだ。運というのもあるだろうが、貧弱な装備に改にはなったものの経験の浅い駆逐艦で攻略できたのだ。

 

「取りあえず入渠させておけ。飛鷹たちは風呂に入って来い!報告書は何時でもいい!!」

 

「了解しました!失礼します。」

 

飛鷹たちは意気揚々に執務室を後にした。

残された俺と長門はしみじみとした雰囲気の中、同じことを考えていた。

 

(なんてウチの艦隊司令部は運がいいんだろう))

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夕食頃には軽空母戦隊がカムラン半島への出撃に成功したという話は艦娘の間に広がっていた。

そんな中、その話を聞いて焦っている連中もいた。

 

「軽空母戦隊......。商船空母(飛鷹、隼鷹)と二水戦の軽巡(神通)と初期艦(吹雪)と弾幕女(白雪)、武勲艦(時雨)か......。あんな奴らに後れをとってたまるかよ。」

 

執務室の前に立ち竦んでいるのは天龍だ。

三川艦隊という編成で出撃する計画が立っているのを天龍は良く知っていた。鎮守府が出来てすぐに配属された天龍は、一度だけ秘書艦を経験している。その時に印刷機から出てくる指令書に書かれた編成、三川艦隊を見ていた。その三川艦隊も軽空母戦隊同様に出撃がかかる事を知っているのだ。

だが、いまだに出撃命令が出ない。というよりも、天龍自身がずっと遠征艦隊に組み込まれているので外される事はまずないだろうと考えていた。

 

「だけど提督が言ってたっけ......。『遠征艦隊は準戦闘要員』だとか。つまり、近いうちに第一艦隊に配属されて戦闘に出されるって事だろ?」

 

天龍は扉に近づく足音に気づき、その場から離れる事にした。

 




いやー。本当にある事があるんですね(小並感)
今のレベルでできるとは思ってなかったです、本当に。
装備もそんないいものを使ったわけではないので嬉しいですw

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第二十話  雪風の開発日記②


2時間前に投稿したばかりだと言うのに、すぐに投稿します!
今回はリアルタイム投稿です。今日のウチの鎮守府での建造開発の結果があります。



 

「今日も頼んだぞ、雪風。」

 

「はいっ!頑張りますっ!!」

 

そう言って雪風は執務室から飛び出していった。

今日の開発建造はそれぞれ4回づつ。俺が雪風に指示したのは建造は戦艦レシピ2回と、レア駆逐レア軽巡レシピ2回。開発はオール対潜装備レシピだ。

これまで建造は1日1回だったが、開発資材が遠征艦隊の活躍と、最近の不運から溜まっていたので今日は使う事にしたのだ。

長門は俺にもう少し溜めてはどうだろうかと諭したが、俺は無視した。

何故なら、今諭した長門の姉妹艦と日向の姉妹艦を狙っているからだ。まぁ、そう上手くいく訳もないだろうと考えては居たが、違った。

早々に帰ってきた足音に俺と長門はドキリとした。

足音が3人だ。1人は雪風だとして、残りは誰だ?鎮守府に所属していて、報告書を出しに来たとかか?と俺は思った。

 

「なぁ長門。」

 

「何だ?」

 

「昨日までの報告書は受け取ったか?」

 

「あぁ。もう既に処理も済ましただろう?」

 

俺は心臓が跳ね上がった。これはもしやとも思ったからだ。

だが、そんな俺に長門は声をかけた。

 

「足音、3人の様だがもしかしたら提督に逢いに来た艦娘かもしれんぞ?」

 

俺は長門の言葉に今度は諭された。もしかしたらウチの艦娘が俺に逢いに来たのかもしれない。確かに歓迎会の時に気軽に来てもいいと言ったが、このタイミングか!?そう思った。

 

「いや、新造艦ってのもあるだろう。」

 

俺は3人が入ってくるのを待った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「司令ぇ!新しい仲間が建造できましたっ!!!」

 

そう言って元気よく入ってきた雪風の後ろに見慣れない2人の艦娘。これはもう新造艦としか考えられない。

 

「そうか!」

 

「「えっ!?ここって提督が居る鎮守府だったの!?」」

 

俺が喜んでそう言うと、雪風の後ろの2人は驚いた表情をした後、顔を真っ赤にした。

 

「少しお手洗いに行ってきますっ!!」

 

「わっ、私もっ!!」

 

そう言って新造艦の2人は真っ赤になった顔を隠しながら執務室を出て行ってしまった。

俺は2人のシルエットを見て思い出していた。あの2人、どちらも戦艦の艦娘だ。それも俺が狙っていた艦のだ。

 

「てっ、提督っ!あれはっ、あれはっ!!」

 

「そうだ!長門の妹だろう!?」

 

今にも泣きだしそうな長門の問いかけに俺は少し興奮気味に答えると、長門は涙を流した。

 

「やっと......やっと逢えた。」

 

そう言った長門の横顔はどこか疲れた様な表情をしていた。

これまで連日演習キス島への出撃を繰り返していた長門は、演習で自分の妹だが妹でない艦娘を何度も見ていた。俺もそれは演習を受けるときに艦隊編成で確認していた。

妹の姿をしているが、妹でない。これほど苦しい事はあるだろうかと俺はいつも考えていた。だから、連日雪風に戦艦レシピを頼んでいたのだ。幸運をもって引けないだろうかと願って。

それが今日、叶ったのだ。

 

「あぁ。資材にして金剛の進水から数えたら油18000、鋼材36000を溶かしたからな(※本当に使いました)。お蔭でドッグに妙高型と愛宕型の艤装が大量に並んでいるが......。」

 

「ありがとう、提督......。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

長門は数分涙を流すと、目を拭き、雪風の前に立った。

 

「ありがとう、私の姉妹を。」

 

「いえ!これは雪風が提督に頼んだ私の仕事ですっ!!このために雪風はやってきたんです!」

 

そう言った雪風に長門はお辞儀をすると、俺の横に戻ってきた。そして雪風は俺に結果の書かれた紙を見せた。

 

「ふむ......建造では長門型二番艦と伊勢型一番艦が進水。名取の艤装と神通の艤装ね......。開発は、12.7cm連装砲と、開発失敗が3回っ!?」

 

「えへへ。建造で運を使い果たしてしまった様です!」

 

そう言った雪風は紙を置き、開発失敗した時の余る開発資材の数を書き込むとソファーに座った。どうやら出て行ってしまった2人を待つ様だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「お騒がせして申し訳ございません。」

 

そう言って入ってきたのは、さっき顔を真っ赤にして執務室を飛び出していった2人だった。

 

「大丈夫だ。雪風からの報告を訊く時間があったからな。俺はここの提督を任されている。」

 

そう言うと2人はパァーと顔が明るくなった。どうやら新造艦にも提督が鎮守府に着任しているところに進水できる事はとても稀な事みたいだ。

 

「私は長門型戦艦二番艦 陸奥よ。」

 

「私は伊勢型戦艦一番艦 伊勢。」

 

「「よろしくお願いしますっ!!」」

 

そう言った陸奥と伊勢に俺はある紙を渡した。改装指示の書かれたものだ。

 

「さっそくで悪いんだけど、改装を頼む。それと陸奥は今日から第一艦隊の旗艦を務めてもらう。」

 

俺はそう言って座った。

 

「わかったわ。」

 

そう言うと陸奥は紙に目線を落とした。どうやらなんの改装が行われるのか確認している様だ。

 

「......九一式徹甲弾っ!?」

 

「ん?なんかあったか?」

 

「いっ、いえ。進水したばかりの私に九一式徹甲弾だなんて......。」

 

そう言った陸奥に長門が近づいて小声で言った。

 

「それはかなり昔に開発でたまたま手に入れたんだ。貰っておいて損はないだろう?それにここには艦隊司令部レベルに見合わない装備がいくつもあるんだ。」

 

そう言った長門はすぐに陸奥のところを離れて俺の横に戻ってきた。

 

「......因みにその装備って?」

 

そう恐る恐る言った陸奥に、小声で長門が言ったことが聞こえていた俺は口を開いた。

 

「46cm三連装砲が2基。決戦用だ。何れ長門と陸奥にそれぞれ1基ずつ改装してもらう。」

 

俺がそう言うと口をポカンと開けていた伊勢が少し興奮気味に言った。

 

「やっぱり幸運の鎮守府だったんだ!!提督が居る時点でそうだけど......。因みに艦隊司令部レベルっていくつなの?!」

 

「ざっくり20くらいだ。」

 

俺がそう言うと陸奥と伊勢の目が点になった。

そうとうの衝撃を受けた様だった。

 

「おーい、戻ってこーい。」

 

目が点になった陸奥と伊勢の目の前で手を振ってみせたが全然戻ってくる気配が無かったので、俺は取りあえずそのままにして雪風からもらった紙を書き留めると長門に渡した。

新造艦が来るといつもこうしている。外に出さない進水日の書かれたファイルを長門はいつも纏めていたのだ。

 

「では、雪風は戻りますね!」

 

「あぁ、ありがとう。」

 

その様子をずっと眺めていた雪風は落ち着いたのを見届けるとそう言って執務室を出て行った。

 

「今日のは特段すごかったわ。」

 

俺はそう呟いて、執務に戻るのであった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「「はっ!?」」

 

気が付いた陸奥と伊勢は自分の居るところを確認すると、見やすい位置に紙が置かれていた。

 

『いつまで経っても起きないから俺と長門は昼ごはん食いに行ってくる。食堂だ。』

 

そう書かれていた紙を2人で読み、すぐに執務室を出て行った。

そのあと、進水したばかりの2人は鎮守府の中を彷徨ったそうな。

 





一度に陸奥と伊勢が来るとは思ってなかったですよ!うれしいです。
これで大型艦建造でしか建造できない戦艦以外は全て揃いました!大型艦建造にはまだ少し資材の余裕が無いので手が出ませんね。

因みに作中にある資材量。あれは一日にウチの鎮守府が消費する資材の何十倍です。こんなんやってるから万年資材不足なんですよね......。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第二十一話  レベリング艦が戦艦だとこうなる

今回は建造で出たばかりの陸奥のレベリングの話です。
色々と考えた結果、艦隊編成を見直し、効率を考えましたのでご了承ください。


「昼も終わったし、出撃させるか。」

 

俺がそう言うと長門は少し困った表情を俺に向けた。

 

「朝言ってた......その......陸奥を本当に出すのか?」

 

「あぁ。進水したばかりとはいえ戦艦だ。デカイ艦で皆を先導できる艦娘になって欲しいからな。」

 

俺がそう答えると長門は表情を曇らせながら俺に出撃編成表を手渡した。

そこにはいつも行う戦艦5随伴の艦隊ではなく、戦艦1重巡2駆逐1空母2の編成が書かれていた。

 

「ん?これはいつもと違うな。」

 

「そうだな。これは私が編成したものだ。今までのレベリング艦隊では油と弾薬を大量に消費してしまう。そこで、最近溜まってきたボーキサイトを使おうとな。」

 

長門はそう言って俺に渡した表の戦艦のところに指を指した。

 

「ここに陸奥を入れるんだ。そうすれば、接敵前の航空戦で敵艦隊が大打撃を与えられなければ陸奥がより多くの事を経験出来る。それにキス島でいつも行く場所には空母が居ない。そう艦載機も落とされないと思うぞ?」

 

そう言って次は空母のところに指を指した。

 

「空母2のところには正規空母1と軽空母1がいいだろう。正規空母には赤城、軽空母には祥鳳を推す。赤城はウチでも高練度の古参だ。祥鳳はウチの軽空母の花形である飛鷹型に次いで輝くのではないかと私は思うんだが。」

 

次に長門は重巡2のところを指差した。

 

「ここには砲撃戦に慣れている重巡を入れるといいと思う。ウチでは高雄と熊野だな。奴らもココの古参だ。それに万一損傷した場合は摩耶と鳥海を交代で出してやって欲しい。奴らは金剛を求めてのキス島への連日出撃でグンと実力を伸ばしている。いい手本になるかも知れん。」

 

そして最後に駆逐1のところに指を指した。

 

「ここには吹雪たちを入れても良いだろうが、まだ経験の浅い駆逐を入れて欲しい。大型艦に囲まれての経験はいつもの戦艦5随伴の時と変わらないだろう?」

 

そう言って長門は満足したのかスッと元の位置に戻った。

 

「長門、お前......。」

 

「む?何だ?」

 

「まさかシスコン?」

 

「??」

 

俺がそう疑って言うと、聞こえなかったのか小首を傾げている。

 

「シスコンとは何だ?」

 

俺はこの長門の回答を聞いて椅子から滑り落ちた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「昼終わってすぐに悪い。」

 

俺はそう言って目の前に並ぶ6人に目をやった。

左から陸奥、高雄、熊野、雪風、赤城、飛鷹。俺が滅多に組まない編成だ。それもあってか、陸奥以外は少し戸惑っている。

 

「説明する前に、紹介だ。陸奥。」

 

「はい。私は長門型二番艦 陸奥よ。」

 

そう言うと、5人から歓声が上がった。5人はこの鎮守府では古参だ。艦娘が10や20だけだった時代に活躍した艦娘たちだ。もっとも今でも活躍しているが。

 

「今日の建造で進水したばかりだが、早速レベリングに行ってもらう。」

 

俺がそう言うと赤城が手を挙げた。

 

「レベリング......経験を積ませるという事はキス島ですか?」

 

「あぁ。」

 

そう言うと赤城は執務室をキョロキョロと見渡した。

 

「......金剛型の4人が居ませんが?」

 

「それはだな、編成を変える事にしたんだ。長門の助言でな。」

 

そう言うと納得したのか赤城はあっさりと引き下がった。

 

「じゃあ、行ってきてくれ。油と弾薬がもつまでならいい。それと損傷を受けたら帰って来い。」

 

そう言うと6人は敬礼をして執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

日が傾き、空が赤く染まった頃、キス島に出ていた艦隊が戻ってきた。俺は丁度執務を終わらせて外を眺めていた。海のはるか遠くに黒い影が映ったかと思うと、それは段々大きくなり次第にそれが艦影だと分かる。

 

「帰ってきたみたいだな。」

 

艦影は陸奥を先頭に高雄、熊野、雪風、赤城、飛鷹の順で単横陣で港に入ってきた。

程なくして6人は執務室に足を運び、俺の前で報告をしている。

 

「......結果、高雄と雪風の損傷を鑑みて帰還しました。」

 

そう言った陸奥の顔には少し疲れが見えている。一方他の5人はそうたいして疲れていない様だった。

 

「そうか。初陣お疲れ様。ゆっくり風呂に入ってくるといい。艤装は入渠させておけ。それと今夜は陸奥と伊勢の歓迎会だ。」

 

そう俺が言うと、6人は艤装を入渠させて風呂に入る為に執務室を出て行った。

そんな姿を見ていた俺と長門は陸奥の報告を思い返していた。

 

「陸奥の報告では自分は損傷しなかったと言ってたな。」

 

「みたいだな。初陣で損傷なしとは、あまり聞かないが......。」

 

俺と長門は不思議に思ったが、確かに俺が眺めている時にも艤装には損傷の後は無かった。

俺と長門はそのまま執務室を出て、食堂で陸奥と伊勢の歓迎会の準備を始めるのであった。

因みに今回のレベリングで陸奥は1回の戦闘毎に経験がかなり詰めた様な事を言っていた。

 




本編では濁しましたが、本編で使いました編成にて旗艦が戦艦で重巡2駆逐1正規空母1軽空母1で3-2-1レベリングをすると大体旗艦の戦艦がMVPを取ります(※稀に空母が取ってきます)。その際に貰える経験値は大体1100です。
てっきり350くらいかと思っていましたが、本当に貰えるんですよねw
正規空母にはなるべく艦戦を載せる事をお勧めしますw

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第二十二話  提督の知らなかった真実

今回は単発ネタです。
連続ネタを書きたいんですが、ネタが思いつかない......。


「すみません、司令ぇ......。」

 

「あぁ、こういう事もあるさ。」

 

今日の雪風は絶不調だった。開発が何故か4回が全部失敗に終わり、最近続けているレア軽巡レア駆逐レシピ4回もいい結果が出ていない。

俺はそれに頭を悩ませていた。何故なら余裕ある資材に俺の心はオープンになり、建造回数を緩めることなくここまで来た。

やばいっ!油が3000切ってるじゃねぇか!と、叫んだ時にはもう遅かった。だってそれ今日だったからな。

 

「まっ......まぁ、気にするな。今日の分は終わりだ。明日また頼むよ。」

 

「はい......。」

 

雪風は俺にそう言われ、執務室をトボトボと出て行った。その背中にはいつもの元気さが見られず、少し不憫に思った。

 

「はぁ。軽巡は......っと、名取と五十鈴、川内、那珂の艤装ね......、近代化改修かな?」

 

俺はそう呟いた。これは俺の居た世界で艦これをやっている時の常套手段だ。解体は流石に気が引けたからだ。

その呟きに長門は反応して、俺が近代化改修を行う指令書を取り出した時に声をかけてきた。

 

「提督、いつも思っていたんだが......。」

 

「何?」

 

「五十鈴の艤装をそのまま近代化改修に回すのは勿体ないと思うのだが。」

 

長門はそう言った。俺は長門の言った言葉からある言葉を連想させていた。

五十鈴牧場。五十鈴は練度12で改造でき、その際に改造された五十鈴は21号対空電探を持っている。それを求めて数多の提督は五十鈴を練度12まで上げてから装備を取り、解体または近代化改修の材料にする。

そのことを指している。俺はなんか気分が乗らなかったのでそれをやっていなかったが、まさか艦娘からその様な事を聴かされるとは思ってもなかった。

 

「それは練度を上げて改造した時に所持している電探の事か?」

 

「そうだ。ウチの鎮守府は何故か電探には恵まれないだろう?五十鈴の艤装から貰うのが一番簡単で確実だ。初期の五十鈴が第一艦隊所属だった頃は、赤城もそれに助けられてたからな。」

 

「そうか......。」

 

俺は何とも言い難い感情になっていた。怒り、憎しみ、そんなものじゃない。悲しみみたいなものの混じった感情だ。

 

「俺はそんな事をしたくない。」

 

「何もやれとは言ってないだろう。ただ、戦力増強には先駆けとして21号電探が必要なのだ。」

 

「だけどそれはやれって言ってるようなものだろう?」

 

「提督がそう捉えてしまったのなら謝るが、必要だと私は考えるぞ。」

 

「嫌だっ!!そんな事っ!!」

 

俺はその勢いで執務室を飛び出してしまった。

 

「あっ!おい、待てっ!!!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は長門の止める声も聴かずに執務室を飛び出して走ったが、よく考えたら俺、食堂と執務室以外行った事がないから迷うだろう、確実に。

充てもなく、ずっと同じような景色の続く廊下を走り、建物を飛び出していた。

俺がこれまで住んでいた建物は想像以上に大きく、作りが凝っている。3階建てでとても横に長い。色は少し煉瓦っぽいが、とても建物の雰囲気に合っていた。

俺はその足で鎮守府の中を歩いた。鎮守府は檻の様だと比喩されていたが、本当にその通りだった。四方、正確には三方は煉瓦造りの塀で囲まれていて、向こう側が見えないようになっていた。

そして、その敷地はかなり広く、通っていた学校も端から端まで歩いて20分以上かかったがそれ以上に広かった。敷地内には俺の出てきた建物の他にいくつか建物が立っており、それぞれに看板が立っていた。

寮、闘技場、酒保(※雑貨や日用品が売ってる店)、事務所、門兵詰所......。色々な建物があった。闘技場がなんなのか気になったが、中から柔道なので聴くような音がしたから武道場みたいなものかと考えて通り過ぎた。

建物の他にも、木のカーテンのかかった屋外テラスや運動場的なものもあった。

俺は彷徨った挙句、海岸のコンクリートでできた防波堤の上で座っていた。吹き付ける潮風にあおられて、遠くに見える船を眺めた。

そうしていると俺の背後に誰かか歩み寄って立った。

 

「あら提督が執務室と食堂以外に居るって珍しいじゃない。」

 

そう言って俺の横に来たのは五十鈴だった。さっき長門と話していた五十鈴だ。

 

「あぁ......ちょっとな。」

 

「何よ、五十鈴が訊いてあげるから言ってみなさい。」

 

「あぁ。」

 

俺は洗いざらい聞いてもらった。と言っても、この話に関係のある事だけだが。

他の事を話してしまうと、ショックを与えてしまうかもしれないからだ。例えば捨て艦や単艦出撃、無理な出撃などだ。

俺の話を五十鈴は有無も言わずに黙って聞いてくれた。

 

「そう言う事があって、ろくに出た事のない鎮守府をウロウロしてここに行き着いたって事ね。」

 

「そうだ。こんな事、本人の前で言っても虚しくなるし、本人は傷つくだけだろうけどな。五十鈴?」

 

「何?」

 

「幻滅したか?俺は自分の意思でやろうとしている。電探の為に。」

 

俺がそう言うと五十鈴は少し考えた後、答えを出した。

 

「良いんじゃない?確かにウチの鎮守府はやけに装備が揃ってるけど、電探は皆無だったものね。」

 

「良いのか?俺の話だと、練度を12まで上げたら解体、良くて近代化改修に装備剥ぎ取られてしまうんだぞ?」

 

「そうね。でも必要な事なんでしょ?強くなる為に、生き残る為に。そのための先駆けとしてするのならね。」

 

俺は黙ってしまった。当の本人でさえ、長門と同じ事を言うのだ。

五十鈴牧場は俺の居た世界でSSでは大抵、同じ艦娘が複数で練度が12まで上げられたら剥ぎ取られて解体される。そんな描写が多々あって、決まってそのシーンはシリアスに書かれていた。

何も言わずに解体されていく五十鈴......そんな事を俺は想像していた。

......ん?

 

「なぁ五十鈴。」

 

「何?」

 

「同名艦が建造・ドロップされた時ってどんな状態なんだ?」

 

俺は唐突にそんな事を訊いてしまった。

いつかの記憶にそんな話をいっぺん誰かと話しているんだ。だが、その状態がどうなっているのかだけ思い出せないでいた。

 

「そうね......。ドロップされたのは、内部構造がボロボロだったりするけど、すぐに使える状態だったりするわ。建造されたのは、ピカピカで出来立てって感じ。」

 

「艦娘は?」

 

「居る訳ないじゃない。同名艦だったら建造・ドロップした鎮守府にその艦娘が居たら建造・ドロップされた艦には艦娘は居ないわ。」

 

「はへぇ!?」

 

情けない声で反応してしまった。

五十鈴の口から説明された事はつまり、俺の想像していた様な事は起きないという事だ。

 

「だけど、他の鎮守府には同名艦がいるだろう?あれはどうなんだ?」

 

「あれはそれぞれの鎮守府に同じ艦娘が存在できないって事。つまり、他の鎮守府には同じ艦娘が少しずづ違う存在としている。いわば顔が似ている唯の他人みたいなものよ。」

 

俺は一瞬で身体から力が抜けるのを感じた。

 

「そうだったのか.......。じゃあ、さっき俺が言った五十鈴牧場ってのは?」

 

「その五十鈴牧場って言うのが何かわからないけど、他の鎮守府の五十鈴が似たような事を言っていたわ。確か『艤装を乗り換えて練度を12にしたらその艤装を改造してすぐに艤装を取って解体するのよ。忙しいったらないわ。』とか言ってたわ。」

 

俺は自分の世界での作り話に踊らされていたことをここで実感した。本当はそんな事が起きていたのだ。

五十鈴牧場とは、五十鈴が同一の艤装を複数乗り換えて練度を上げ、12になったら改造して剥ぎ取り、解体する。そういう事だったのだ。

 

「......ありがとう、五十鈴。」

 

「えぇ、当然よ。」

 

俺は五十鈴にお礼を言うと、五十鈴が『執務室まで遠回りで送って行ってあげるわ。案内をしてあげる。』そう言って俺を遠回りで鎮守府を案内してくれた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は長い五十鈴の案内を聞きながら執務室の前にやっと着き、俺は執務室の扉を開いた。

 

「提督っ!どこへ行っていたんだ!」

 

「すまん。」

 

俺が入って長門の一声がそれだった。

 

「さっきは強く言い過ぎた。すまん、提督。」

 

強く言ったかと思うと長門は間髪入れずにそう俺に言った。

 

「いいさ。」

 

俺はそう言って机に着き、近代化改修の書類から書き込んだ五十鈴の文字を消した。

 

「五十鈴。忙しくしてしまうな、すまん。」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「いや、何でもない。」

 

どうやら俺の呟いた言葉は長門には聞こえなかった様だ。

 




これが五十鈴牧場の真実だ(白目)
と言っても作中だけですがねw
ネタ感が全然ありませんが、かなりネタです。笑えませんが。
最近自分で書いたのを読み返すんですが、かなりの頻度で長門が出てますね。いや、毎回出てる。これは秘書艦ローテにしたほうがいいのか?設定上、第一艦隊旗艦と秘書艦は別って事になってるんですがねw

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第二十三話  雪風の開発日記③

単発ネタです。


「あー、雪風。」

 

「はい!」

 

朝、雪風は朝食を摂るとすぐに執務室に来てくれていた。

 

「今日の建造だが、開発は昨日と同じで建造はレア駆逐レア軽巡レシピ4回やってくれ。」

 

「はいっ!」

 

雪風は俺の指示を聞くとすぐに執務室を出て行った。開発に向かったのだ。

その光景を眺めていた長門は目を細めている。

 

「どうした、長門?」

 

「何だろうな......いつもの光景が平和に思えた。外洋ではずっと戦争をしているのにな。」

 

そう言った長門は今日こなす分の書類を俺に渡してきた。いつも渡される枚数は5枚。本当に少ない。俺はてっきり書類が山積みになっているのばかり思っていた。この世界に来るまでは。

何でもここに回ってこない書類は長門の言う人間が処理しているらしい。長門の見解だと、戦争を押し付け更に気が遠くなる程の量の書類をやらせていては何時か艦娘が反乱を起こすのではないか。過労で戦争どころでは無くなるのではないかという事らしい。

 

「俺は外洋の戦闘を知らないからな......。この世界に来る前、この世界の存在なんて知らなかった。平衡世界だなんておとぎ話だったよ。」

 

「そうか......。私たちは知っていたがな。」

 

そう言うと長門は俺に手渡した書類を眺めると話を切り出した。

 

「......提督。提督の居た世界の話をしてくれ。」

 

「何だ、藪から棒に。」

 

「気になったんだ。深海棲艦のいない世界が。」

 

俺は話すことにした。もし俺の居た世界の存在そのものを知らなかったというのならば話すのを控えようと考えていたが、目の前の彼女は知っている。だが、どんな世界なのかは知らない。

俺もこの書類を片付けたら暇だから付き合う事にした。

 

「いいぞ。だがこれを片付けてからだ。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

この世界に来てどれ位経っただろうか。主観時間的には二か月がいいところだ。それまで書類を3時間で片付けていたが、やろうと思えば1時間半で終わらせることができた。

勿論、手は抜いてない。

俺は長門に訊かれていた俺の居た世界の話をしようと考えた。

 

「長門、さっき言ってた話をしよう。」

 

「あぁ、聴かせてくれ。」

 

「まず何から行こうか......。長門は何が聞きたい?」

 

俺はこの世界と、艦娘の行っている生活があまりに俺の居た世界と違い過ぎるので、どれを話もいいのだがここは長門の知りたいところだけを話してみようと思った。

 

「そうだな......。私がこの世界に呼ぶまで、昼の時間は何をして過ごしていたんだ?いつも指令書は夜中に届いていたからな。あぁ、土曜日と日曜日は朝とか夕方にも届いていたが。」

 

ベタな事だった。『何をしていた。』はどこの世界に行っても聞かれる事なんだなと俺は思い顎に手をやった。

 

「まず、俺の年齢を当ててくれ。何歳だと思う?」

 

「うーん......、ここに来る人間より遥かに若いからなぁ......18くらいか?」

 

「正解だ。」

 

俺は長門の観察眼に少し驚いたが、動揺せずに続けた。

 

「俺の居た世界では18歳は『高等学校』っていう学校に通う事が多いんだ。俺もそうだった。」

 

「学校か......私は通った事がないが、楽しいのか?」

 

「人によるが、俺は楽しんでいた。」

 

「そうか......。」

 

俺がそう答えると長門は少ししょんぼりしてしまった。

 

「だが、楽しく無い事もあるぞ?朝から夕方まで勉強してから家に帰るんだ。」

 

「それは楽しくないかもな。高等学校とは、名前の通り高等......高度な教育を受けていたという事か?」

 

「そうだな、高度な普通教育と専門教育を俺と同じ年代の男女が入り混じって学ぶんだ。」

 

「私たちは基本的な道徳、習慣、読み書きが進水した時から備わっているからこの生活には困らないからな......。ちなみに提督はどんな事を学んでいたんだ?」

 

「それは科目の事か?科目なら現代文、古文、数学、物理、化学、世界史、政治経済、英語......あと保健体育、美術、情報だな。」

 

「そっ......それは多すぎやしないか?」

 

「そうか?俺の学んでいた量は普通くらいだが、知ってるところだと生物、日本史、倫理、現代社会、アラビア語、フランス語、とか聞くぞ?」

 

「後半が何言ってるのかわからないが、凄い量だな。それを朝から夕方までやっていたのか?」

 

「いや時間を決めて週5日でやってた。」

 

ここで長門の学校に関する質問は途切れてしまった。

そうすると長門は顎に手をやり、何かを考え出したと思ったらすぐに口を開いた。

 

「私たちには人間から見た年齢がつけられてるのを金剛から聞いたと思うんだがどうだ?」

 

「あぁ、聞いてるよ。見た目でつけられたってやつね。」

 

「そう。私は人間に20歳と言われたんだが、提督の居た世界ではそれくらいの女子は何をしているんだ?」

 

「そうだな......20歳くらいだと大学っていって高等学校よりも更にレベルの高い専門教育をする学校に通うか、専門学校という将来が固定される様な学校に通うか、働いてるな。」

 

「大学?というのはさっきの高等学校から連想して大体想像できたが、高等学校と違いはあるのか?」

 

「あぁ、なんでも自由な時間に勉強をして遊ぶ。人生の夏休みって言われている時期だ。」

 

「そうなのか......では専門学校とは何だ?」

 

「手に職を付けるとか、国の認定のいる職業に就きたい人間が通う学校だ。」

 

「成程。では、働くとはいったい何をしているんだ?」

 

「大体が事務、商業、医療現場、技術職......色々な事をしているよ。」

 

「そうか......。」

 

そんな話をしていると、廊下から足音が聞こえていた。誰かか来ている。しかも足音が2人だ。

 

「おっと、誰かが来たみたいだな。悪いがこの話はまた別の時に。」

 

「あぁ、その時も頼む。」

 

そうすると、足音が執務室の前で止まり、扉が開いた。

 

「司令ぇ!新しい仲間が進水しましたっ!」

 

「「またかっ!?」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「島風ですっ!速さなら誰にも負けません!」

 

そう言ってうさみみをピョコピョコさせているのは今日進水したばかりの駆逐艦、島風だ。どうやらまた雪風は運が全快らしい。

 

「よろしく。俺はここの提督だ。」

 

「ええぇぇぇ!!提督が居る鎮守府!?やったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

と毎度の如くこの反応である。

長門と雪風はそれを微笑まし気な顔をして眺めていた。

 

「雪風、結果は?」

 

「はいっ!建造では島風ちゃんと、他は全部艤装でした!開発は10cm連装高角砲が2こと失敗です。すみません......。」

 

「大丈夫だ。昨日と同じなんだろ?」

 

そう言うと雪風は笑顔で答えた。

俺はすぐに島風を案内するように促し、雪風のその任を与えた。さっき長門に俺の居た世界の話をしていたら不憫な島風の話を思い出してしまったからだ。

雪風がきっといい友達になってくれるはずだと考えての事だ。

 

「雪風、島風に鎮守府を案内してあげて。」

 

「了解しましたっ!行こっ!島風ちゃん!」

 

「うん!」

 

2人は元気よく執務室を飛び出していった。

俺と長門はその後姿をみとって、同じことを口にしていた。

 

「「デジャヴだ......。」」

 




雪風の開発日記シリーズが3回目となりましたが、雪風が開発に行ってる間の下りはどうしてもこうなるみたいです。
ちなみに、島風が出た瞬間窓空いてるのに喜んでしまった......恥ずかしい。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第二十四話  雪風の開発日記④


単発ネタが恒例化している今日この頃。
ウチの鎮守府の雪風は本当に雪風です(白目)



 

今日も俺の目の前に雪風は笑顔で立っている。

朝食を終えてすぐに雪風はどうやら執務室に来たみたいだ。口角に米粒が付いている事は黙っておこう。

 

「司令ぇ!今日はどうされますか?」

 

元気よく言った雪風はどうやら今の口の動きで米粒が落ちたみたいだ。俺はそれには気にも留めずにある事を考えていた。

戦艦は出揃った。重巡軽巡を集めるのには骨が折れる。というか、重巡に関してはもう大型艦建造でしか出ないもの以外は揃っていた。軽巡も阿武隈と大井を残して他は揃っている。

となると、潜水艦に手を出すのだろうが俺はあえてこう言った。

 

「建造は今日は空母レシピを4回だ。」

 

俺がそう言うと、執務を手伝っていた長門が書類を手から放してしまったみたいだ。

 

「ん?どうした長門。」

 

「いや、あれだけボーキサイトに困ってたじゃないか!!ボーキサイトを食う空母を建造するだと!?」

 

長門の威力に圧倒されたが、俺は負けじと反論する。

 

「これも戦力増強だ。例え建造されても出撃させなければボーキサイトは減らないし、最近足りてないのは油の方だろう?さして問題ない。」

 

俺はその一言で長門を黙らせた。そして雪風に再び言った。

 

「建造は空母レシピだ!4回。そして開発はいつも通りだ!」

 

「了解しました!」

 

雪風は俺の指令を聞き届けると、執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「なぁ提督。」

 

長門は雪風が出て行ったしばらくした後、俺に話しかけてきた。

 

「どうした?」

 

「最近私のところに艦娘がいっぱい来るんだが。」

 

「どうして?」

 

「何でも秘書艦をやりたいそうな。今まで基本的には私がやり、交代で赤城にやってもらっていたが、他の艦娘がやりたいと言い出してな。」

 

「良いんじゃないか?長門だって書類整理に追われるのは嫌だろう?」

 

「あれは私が自分の意思でやっているんだ。あれは今後、役に立つかもしれん。」

 

どうやら秘書艦の交代を頼まれている様だった。

確かに一日の大半は長門と過ごしている。長門も俺の顔ばかり見てるのも嫌だろう、そう思った。

 

「そうか......だが秘書艦の話、いいと思うぞ?」

 

「......あぁ。提督がそう言うなら。」

 

何だか長門は寂し気な表情をしたが、どうしてそんな表情をするのか俺には分からなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

長門との会話が途切れてしばらくすると廊下に3人分の足をが響いている。

 

「おい長門.......まさか。」

 

「いや......まさかな......。」

 

それは昨日も一昨日も同じことを経験している俺と長門からしたら、もう間違いなかった。新造艦だ。今日は俺は雪風に空母レシピを要求していた。

となると、廊下の足音2人は空母という事になる。

 

「一昨日は陸奥に伊勢、昨日は島風だぞ!?」

 

「雪風は何という奴だ......。」

 

俺と長門は表現し難い空気に圧迫されていた。雪風は一体何をしたらそんな事を起こせるのだ。そう思えてならなかった。

そうしていると、足音は執務室の前で止まり、雪風が執務室の扉を開いて入ってきた。

 

「司令ぇ!新しい仲間が進水しましたっ!!」

 

そう言った雪風の背後から2人の艦娘がひょこっと頭を出し、俺の前に進んできた。

 

「しょっ......翔鶴型二番キャン......妹の方、瑞鶴でシュッ!あうぅ......。」

 

「祥鳳ギャタ軽空母、ジュイ鳳ですっ!」

 

俺の目の前でカミッカミでそう言ったのは、翔鶴型二番艦の瑞鶴と祥鳳型二番艦の瑞鳳だった。

 

「俺はここの鎮守府の提督だ、よろしくな。」

 

「あっアゥゥ......提督が着任してるところだなんて......心の準備ガッ......。」

 

「ショ、翔鶴姉。私やっぱり幸運の空母だったみたい......。」

 

俺が自己紹介(※本人はそう思ってます)をしたというのに、目の前の二人は顔を真っ赤にしながらそんな事を呟いていた。

何だか2人を見ていると途端に悪戯がしたくなった俺は、少し一芝居打つことにした。

 

「どうした2人とも......。」

 

そう言って俺は席から立ち上がり、2人に近づいた。

そして額に手を当ててやる。

 

「ん......熱いぞ?熱でもあるのか?」

 

「てっ、提督さんっ!?」

 

「提督っ!?」

 

そう言って顔から湯気を出したかと思うと、すごい勢いで仰け反られた。その速さ、我慢してなければ吹き出すほどの勢いだった。

 

「まぁ、その様子なら問題なさそうだな。今日もありがとうな、雪風。」

 

「はいっ!」

 

俺は何事もなかったかのように雪風に話をそらし、席に戻った。

 

「2人とも今日からここの所属だ。頑張ろうな。」

 

そう言ってはにかんでみた。

そしてすぐに雪風に指示を出す。

 

「雪風。2人に鎮守府の中を案内してやってくれ。」

 

「はいっ!2人とも、行きますよ!」

 

雪風は元気よく返事すると、2人の袖を掴んだ。

 

「さぁ!一杯案内しますよっ!!」

 

そう雪風の声に混じって何だか俺を呼んでいた気がしたが、無視した。

瑞鶴と瑞鳳はそのあと、鎮守府を歩き回り夜に俺と長門主催の歓迎会に出た。その時には無邪気な笑顔になっていた様に見えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

長門は歓迎会の間、皆が騒ぐ食堂である事を思い返していた。

 

「提督ってあんなセリフ言う様な人だったか?」

 

長門は俺の悪戯に気付いていない様だった。

 





連日雪風は建造で当たりを出しますね。
これが雪風なのかと実感する最近であります(あきつ丸感)

この頃雪風の開発日記が恒例化しすぎてちょっと面白みがない様な気もしなくもないです。どんだけレア艦出すんだよっ、ってマジで思ってますw

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第二十五話  初めての休暇


今回はちょっと長すぎるかもしれません。あと内容がスッカスカですので、ご注意を。


 

俺は今日という日を待ち望んでいるのが普通なのだろうが、そう言う訳でもない。

連日の遠征や出撃で疲れているんじゃないかと俺は鎮守府全体に休暇を出したのだ。と言っても、普段何もしていない待機艦には代わりに遠征に行ってもらうと通達したが。

 

「はぁ......やっぱこの時間に目が醒めるな。」

 

時計に目をやると針は6時を過ぎた辺りだった。

俺はそのそのと布団から這い出て、休みだがいつもの格好に着替えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝の食堂は思ったよりも艦娘が居た。多分俺と同じ理由だろう。

 

「おはよう、間宮。」

 

「おはようございます。今日は何に致しますか?」

 

「あー、じゃあおまかせで頼める?和でも洋でも良いから。でも中華は朝から出さないよね?」

 

「はいはい。提督それ好きですね~。席にいて下さい。妖精が持って行きますから。」

 

俺はそう間宮に言われて、いつもの席に座った。

俺は朝食を待ちながらいつもなら編成やらを考えている時、別のことを考えていた。

五十鈴の件で鎮守府に何があるのか大体把握できたが、もう少し何かある気がしてならないのだ。

 

「何かないかな?」

 

俺は頬杖をついて考え出した。

先に思いついたのは、事務所と門兵詰所に行ってみる事だ。五十鈴曰く、そこは艦娘の言う人間がいる場所だという。

次は海岸の埠頭にある艤装を見に行く事だ。俺はこれでも軍艦やなんやらの兵器とか好きな人間だ。生で見れるなんてそうそうある事じゃないから見てみる価値はある。

次は妖精と話してみる事だ。これまで妖精とは事務的な事しか話した事がなかった。妖精と何か面白い話でも出来ればと思ったのだ。

俺はその3つから決心した。まずは、妖精と話してみよう、そう考えた。

丁度そんな事を思いついた頃に妖精が俺の朝食を持ってきてくれた。ちなみにお盆に乗せられたのを4人くらいで運んでいる。

 

「ありがとう。」

 

「いえ!これは私たちの仕事ですのでっ!」

 

俺が礼を言うとそう言って妖精はにっこり笑った。俺は目の前にいる妖精を見た。

今ここで話をつけて朝食後にでも話してみようかと考えついたのだ。

妖精が持っているお盆を受け取ると、俺は去ろうとする妖精を呼び止めた。

 

「なぁ、今日暇な妖精っているか?」

 

「そうですねー、というかどうしてそんな事を聞くのですか?」

 

「妖精と仕事以外の事を話してみたくてな。」

 

俺がそう言うと妖精は顎に手をやった。

 

「成る程......。私たちは今日、食堂の当番なのでお相手は出来ませんが、非番の妖精がいますのでそちらに声をかけておきますね。」

 

「ありがとう。君とも今度話してみたい。」

 

「えぇ。私が非番の時なら喜んで!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は朝食を摂り終わり、食器を洗い場まで持っていくと食堂を出ていた。

朝食を持ってきた妖精が話をつけて非番の妖精が執務室に行くと言っていたので俺はその足で執務室に戻っていた。

長門の居ない執務室は案外静かで、朝食が終わったのに雪風は来ない。休暇だからだ。きっと思い思いに過ごしているのだろうと俺が考えていると、執務室に妖精が2人入ってきた。

 

「おはようございます、提督。」

 

「おはようございます。」

 

そう言って入ってきた。

俺はそれに返すと、執務室の机の上まで来た妖精に私室にあった座布団に座らせた。

 

「おはよう。知ってると思うが俺がここの提督だ。今日は非番だそうじゃないか。」

 

「そうですよ。ですが暇する予定でしたので有難いです。提督と話してみたかったものですから。」

 

俺の言葉に返してくれる方の妖精はもう1人の妖精と違って白衣の様な格好をしている。もう1人の妖精は戦闘服、艦載機乗りな様だ。

 

「まぁ話してみたかっただけなんだけどな。」

 

「そうみたいですね。」

 

俺は早速色々聞いてみる事にした。

 

「ちなみに君たちは普段はどんな仕事を?」

 

「普段は工廠の開発担当です。最近調子悪くてすみません。」

 

「私は赤城さんの零戦隊の一番機です。」

 

2人はそれぞれの仕事を言った。最初の白衣の方はやはり非戦闘員で、もう1人は艦載機乗りだった。しかも赤城の零戦隊。

 

「そうか、いつも世話になってる。」

 

「いえ、非戦闘員は楽な方ですよ。戦闘員は艦娘よりも深海棲艦に近付きますからね。」

 

「私は零戦隊なのでそこまで近付きませんが......。」

 

そう俺が言うとフンスと白衣の方が鼻息を力いっぱい出した。

 

「それはそうと、俺は仕事の話をするつもりじゃないんだ。」

 

「と、言いますと?」

 

「俺が別の世界から呼ばれたってのは知ってるだろう?だからこの世界の事をなんも知らないんだ。知ってる事は艦娘の事、それもごく一部くらいだし。」

 

「成程......。つまりこの世界の事を訊きたいと?」

 

「そう言う事だ。」

 

俺がそう言うと白衣の方が話し始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「私たちは艦娘の出現と同時に現れたので、それ以降で知ってることなら。」

 

「今、この国は日本国を改め、日本皇国を名乗っています。国連でも承認済みです。最も、国連も今機能してるかどうかですが。」

 

「世界各地に深海棲艦が出現したんですよ。同時に。」

 

「ですから地球上のあらゆる海洋航路が使えずに貿易が行えない状況です。」

 

「ですが日本とドイツは貿易ができるんですよ。艦娘がいるからです。」

 

「最近ではイタリアでも艦娘が出現したとかなんとかっていうのをドイツの輸送船に乗っていた乗員がそう話したそうです。」

 

「次に国内ですが、物資不足が起きてます。ですが何とか持ってます。艦娘が出現してから私たち妖精によって食料を生産するプラントが開発されたので。ですが資源は人間が直接指揮する1つの鎮守府が遠征によって確保しています。」

 

「ですので物資不足だとは正直思いません。」

 

「次に経済ですが、国内だけで生産消費が間に合っています。ですので多分ですが提督のいらした世界とあまり変わりありません。豊かと言ってもいいでしょう。」

 

「政治ですが、先ほど日本皇国と名乗っていると言いましたがその名の通り、全権を天皇陛下に委ねている形になっております。」

 

そう言うと白衣の妖精は一息吐いて姿勢を崩した。

 

「大まかなこの世界の事です。何か詳しく聞きたい事はありますか?」

 

そう言った妖精に訊いた。

 

「じゃあこの鎮守府を出たら、俺の居た世界と変わらない日本があるって事でいいのか?」

 

「そう取ってもらえてよろしいかと。ですが何等かは違う筈です。」

 

俺は更に訊いた。

 

「この世界と俺の居た世界の違いって艦娘以外にあるのか?」

 

「政治が天皇制という事と、提督の......何ていいましょうか、雰囲気?を見ると私たちが出現する前の日本人の様な感じがするので、そこから説明しますと、自衛隊はありません。」

 

白衣の妖精は続けた。

 

「政党もありません。ですが軍があります。」

 

俺はなんとなく想像していたことを妖精が言った。俺が着任した日。門の前に居た陸上自衛隊の戦闘服に身を包んだ人、あれがとても警備の人間に見えなかった。

 

「陸海空軍ありましたが、深海棲艦によって海軍の保有する艦艇は全て轟沈したので実質、陸空軍しかいません。」

 

「そうか。」

 

「ですが、海軍上層部は残ってます。造船所がありますのでそこで資源を少しずつ溜めながら艦艇を作ってるらしいです。」

 

俺はもう十分な事を訊いた。知りたい事もだ。

そうすると白衣の妖精が唐突に言った。

 

「艦娘と私たち妖精の存在は、国民には秘匿されてます。国民は今も海軍が戦っていると思っている様ですね。まぁ、その通りですが。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が白衣に妖精にこの世界について話をすると、今度は零戦隊の妖精が俺に訊いてきた。

 

「提督のいらした世界はどんなんだったんです?」

 

俺はこれを長門の時の様に話すべきかと思ったが、ここは話の流れにのった内容を話すべきだと考えた。

そう、この世界と俺の居た世界との繋がりだ。

 

「平和な世界だったよ。深海棲艦なんていない......。」

 

「人間たちは深海棲艦に恐れる事無く至って平凡に生活していた。俺もだ。」

 

「日本で平和じゃなかったのは国会と政策に反対してデモを起こしている連中だけ。」

 

俺はそう妖精に話した。

 

「そうですか......。この世界に来た時はどう思いました?」

 

「驚いたさ。椅子に座っていたはずなのに光に包まれて、やっと見えるようになったと思ったらここに居た。」

 

何だか白衣の妖精はバツが悪そうな顔をしている。

 

「『提督を呼ぶ力』ですね......。あれは開発班が管理している力です......。すみません。」

 

「いいさ。あっ......言い忘れてた。」

 

「??」

 

「俺の居た世界の俺ぐらいの年の男は結構、そういうのを想像しているんだ。」

 

俺はそう言ったが恥ずかしかった。

 

「えっ?何をです??」

 

「何だろなー。」

 

恥ずかしくて訊き返されてもちゃんと俺は答えなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

あの後、妖精とは色々な事を話した。

こういう休暇に皆がやっている事や、面白かった事、白衣の妖精は俺が欲しいものを用意してくれるとのことだったので色々と頼んだ。

白衣の妖精と零戦隊の妖精とは2時間くらい話し、2人の妖精は戻っていった。

妖精の居なくなった執務室は静かになり、俺は寂しさに襲われていた。

 

「......皆はどうしてるもんかね。」

 

俺はそれが気になった。妖精との話の中に、鎮守府には娯楽施設の類が一切無いのと、時間を潰せる様なものもない。本は戦術指南書と資料室の一角にある表紙の古びた本しかないらしい。

勿論俺の部屋もそうだったがテレビなんてものも無く、ラジオもないらしい。

 

「これは妖精に頼むか、事務所に行くか......。最悪門兵に賄賂?」

 

俺の思い立った手はこれくらいしかなかった。賄賂に関しては俺が着任した事はその日に人間に書類が送られて、俺への賃金が出たのだ。しかも破額だ。1年提督をやっていた日本人が一生働いて稼げる金の5倍は入る。

あまり部屋から出ない俺にとっては溜まっていく一方の金だった。ならばこうやって使うのも悪くなかった。

 

「普段から妖精には負担をかけているから、妖精に頼まずに行こう。」

 

俺はそう決め、まず鎮守府内にある人間のいるところである事務所に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は鎮守府にある事務所に来ている。鎮守府で人間がいる場所だ。

ここでは、どうやら搬入物資の管理や鎮守府への任務の受理などをしているところらしい。これは長門に訊いたことだが、受けて完遂できた任務は俺が報告書を書き、ここに提出しているという事だった。それの提出は長門がしていると言っていた。

 

「こういうのは慣れないんだよな。」

 

俺はそうぶつぶつ言いながら事務所の扉を開いた。

中には受付的なものがあり、その奥で6人くらいが仕事をしていた。

受付に居る所謂受付嬢は目を点にして慌てて俺に対して敬礼した。

 

「どっ、如何されました?!」

 

ここに提督が来たという事で受付嬢は気が動転し、慌てている。その騒ぎが聞こえたのか、仕事をしていた6人もこちらを見るなり俺に敬礼した。

 

「申請?お願い?みたいなもので来たのですが。」

 

俺はそう言ってそのまま受付嬢に訊いてみた。

 

「物資の要請は出来ますか?」

 

「はい、出来ますが......。何を?」

 

「娯楽品です。」

 

そう言うと奥から人が出てきた。

 

「娯楽品ですか......提督がお使いになるので?」

 

「いや、艦娘たちのです。」

 

そう言うと奥から出てきた人がさっきまで平凡そうな顔をしていたのに途端に怖い顔をした。

 

「......何故です?」

 

「白々しいですね。」

 

俺がそう言うと苦みを感じた様な表情をした。

 

「......。」

 

俺が嫌味を言うと途端に黙ってしまった。

 

「俺はこの世界に艦娘によって呼び出された人間です。勿論、この世界についてはあまり理解が出来てないですが。」

 

「......知ってますよ。」

 

俺はなんとなく目の前の人の身なりを見てみる。

下はビジネスマンが履いている様なビジネススーツ。上にはシャツを着ていて、ジャケットも羽織っている。あまり見たことが無いが、結構高そうなスーツだ。

それに朝、妖精に訊いた話。この世界の日本は豊かだ。だがその豊かさも艦娘や妖精によって成り立っている様なものだ。

 

「そう言えば鎮守府にある施設なのに民間なんですか?ここは。」

 

俺はワザとらしくそう言った。そうすると目の前の人は普通に答えた。ここは海軍の人間が居る。全員海軍所属だ。と。

俺はそれを訊くと続けた。

 

「要請出来ないのなら出来ないと仰って下さい。その代り、昼から民間のトラックが頻繁に出入りするかもしれないのでよろしくお願いします。」

 

俺はそう言って事務所を出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「よく考えたら俺もだな......。」

 

事務所を出て行こうとする俺を止める人などおらず俺は執務室へ戻っていた。執務室には提督が着任した時の為のマニュアル的なものがあるらしい。それに外出やらなんやらの制約などが書いてあるという。

事務所の人に言いかけた言葉を再び俺は頭の中で考えたら、俺もそっち側だったので少し気分が悪かった。

『あなた方を肥やしてるのは艦娘なんですよね?』

その言葉は今の日本皇国海軍と艦娘との関係、ひいては日本皇国そのものと艦娘との関係を一言で表した言葉だ。

艦娘を深海棲艦だと言って隔離するが戦力として深海棲艦という敵を丸投げした国と、母国の土地を侵略されまいと邪険に扱われても尚戦い続ける艦娘。

妖精の話では、現在の日本の経済を回しているのは艦娘だという事。鋼材、油、アルミニウムその他の地下資源を回収してくるのも艦娘。食う食べ物を安定して手に入れるためのプラントは妖精。

訊いてる限り胸糞悪い話だった。

俺もその人間だという事にも同時に気付いていたのだ。

執務室から無機質(※紙は有機物です)に命令を下し戦地に送る。俺も艦娘たちに肥やされてるんだ。

 

「今日は休暇だけど、いつもなら戦地に何人かは居る時間だな。」

 

俺はそう呟いて執務室に入った。

やはり休暇の日なので執務室の中には誰もいない。

 

「確かここに......あった。」

 

俺は机の引き出しを開けて探すと、奥の方にあったマニュアルを引き抜いた。

マニュアルを開いてみると、目次で内容が分かれていて俺の見たところは真ん中らへんのページにあった。

そこを開いてみると、簡潔に纏められていた。外出する際は門兵に何時に戻るかというだけ。護衛に私服で門兵が1人着くらしい。

仰々しい手順が書かれていなかった事に安心して、そのまま門兵詰所に向かった。因みに金はというと、カード払い。俺の居た世界と同じ様だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は門兵詰所の前に来ていた。中では8人くらいの門兵が休憩なのか、雑談をしている。

 

「すいません。」

 

俺はそう言って詰所に入った。そしたら事務所同様の反応をされた。だがこっちの方が敬礼はしっくりくる。

 

「外出したいんですけど、いいですか?」

 

「はい。マニュアルは読まれましたか?」

 

俺がそう言うとどうやら階級の高い隊長的な人が出てきた。休憩中の門兵の中でも一番歳を取っている様にも見える。

 

「読みました。」

 

「買い物ですよね?二等兵っ!護衛だっ!!」

 

「はっ!!」

 

隊長に二等兵と呼ばれた門兵は休憩していた兵の中で一番若い様に見えた。俺とほぼ同年代だ。

 

「よろしくお願いします。」

 

「はいっ!!」

 

俺はこの後、二等兵が私服に着替えてくるのを待って鎮守府を出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「で、まずは私服を買うと?」

 

「そうですね。提督の服装は目立ちますので。」

 

俺は二等兵と一緒に鎮守府から歩いて6分くらいにあるユ○クロに来ていた。この店、俺の居た世界にもあるわ。

 

「というかここで取りあえず私服を買ってからの買い物です。提督の軍装は後で仲間が鎮守府に持って帰りますので。」

 

「分かりました。」

 

俺は適当に服を身繕い、そのまま会計して着替えて出た。そうすると外には私服の門兵が待っていて、ユニ○ロの袋に入った軍装を持って帰っていった。

 

「という事で提督は何の買い物を?」

 

「鎮守府にテレビを繋げようかと。取りあえず20台買って、門兵の監視下で設置します。」

 

「私たちでの監視下でですか?」

 

「艦娘の寮に設置する......つもりですが試験運用です。まずは食堂に設置します。ですので買うのは20台じゃなく1台ですね。」

 

「えぇ!?それって......。」

 

「大丈夫ですよ。業者には艦娘の姿を見せないつもりです。秘匿されてるのでしょう?」

 

「そうです。国民だけでなく、軍でも今では限られた部署にしか知られてない存在ですから。」

 

俺と二等兵がそう話していると、気付いたら目的のテレビのある家電屋に着いた。

 

「じゃあ吟味しますか。」

 

「えぇ。」

 

俺と二等兵は店内に入り、家電コーナーの一際目立つところにあるテレビのコーナーで吟味を始めた。

見ていくテレビのメーカーは俺の居た世界にあるメーカーと同じだった。

その中でこれでいいだろうというのを見つけ、店員に声を掛ける。

 

「すみません。」

 

「はい!」

 

声を掛けた店員は営業スマイルで接客を始めた。張り付いた様な笑顔は判り易い。

 

「このテレビ買いたいのですが?」

 

「はい!では、色々と見積もりを......。」

 

そう言われて俺と二等兵はその店員と話し出した。

本体のサイズはどうするか、電話線は通っているか、どう設置するか......。ほんの20分の間でその話を終え、最後は業者に設置を依頼するかを決めた。

だがここで俺は少し戸惑った。軍事施設に民間の業者を入れていいのかという事だ(※作者の偏見です)。

だが考えるまでもなかった。艦娘の存在など国民が知る由もない。適当に海軍が新設した施設だとごまかせばいい事だ。幸い設置場所は食堂。ごまかせる。

 

「......設置をお願いできますか?」

 

「はい!業者が向かいます。それと、アンテナも設置します。よろしいですか?」

 

「はい。ですがそちらはこちらで用意しますアンテナだけ下さい。」

 

「えぇ......判りました。では会計を。」

 

こうして会計を済ませた。因みにアンテナは軍事施設故、工兵に頼む。門兵に工兵の資格、更に電気工事の出来る人間が居ればの話だが。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と二等兵は家電屋でテレビの話を付けたあと、本屋に来ていた。

テレビの他の娯楽を買うためだ。雑誌なんかは週刊や月刊で常に更新され続けるので、文庫本を片っ端から買い集める。漫画もあった方がいいのかと思い、適当に俺の知っていて女の子の読みそうな本をこれまた買い集めた。

買い物を終える頃には2人では持てない量になっていたので、門兵の隊長が車を回してくれた。

そして俺はその車に乗っている。

 

「ありがとうございます。車を回していただいて。」

 

「えぇ、それにしてもたくさん本を買ったんですね。」

 

「まぁ。提督と言うのは案外暇なものですし。」

 

俺はそう言って答えた。

そうすると俺はタイミングがいいと思い、テレビの件を話した。

 

「すみませんが、テレビを食堂に設置するつもりなので業者の監視を頼めますか?」

 

「はぁ......えらく変な事をするんですね。いいですよ。私がやります。」

 

「それと工兵はいますか?電気工事ができる人。」

 

「そいつが電気工事が出来ます。資格も持ってますよ?テレビのアンテナ設置ですか?」

 

「その通りです。」

 

俺がそうやって会話していると、助手席に座っていた二等兵が慌てだした。

 

「ほっ、ほんとですか?!久々にやるので少し不安なんですが......。」

 

「大丈夫だ!二等兵は軍人になる前、テレビのアンテナ設置を仕事にしてたじゃないか!!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

結局一緒に買い物に行った二等兵にアンテナの設置を頼んだ。明日にでも朝からやるといったので俺は頼んだ。

そしてテレビの設置に来る業者に何と言おうかと悩む。

 

「まぁ、秘密にして貰えばいいか。適当に誤魔化せば。」

 

俺はそう思い、運んでもらった本の山に囲まれながら俺は寝た。

因みに隊長の車に積み込んだのはあまりにも多いからと言って段ボールに詰められた本で、それを執務室の横の俺の私室に運んだのは、暇そうにしていた艦娘に頼んで運んでもらったものだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

次の日、俺は艦娘全員に休暇延長を伝えた。今日のテレビの工事の為だ。なので午前中の食堂の出入りを禁じた。

そして今、俺の目の前で目を点にしている業者が居る。

 

「えっ......ここは軍事施設?!」

 

そう業者の男は驚いていた。

 

「えぇ。新設の基地です。兵士の娯楽の為に食堂にテレビの設置を。」

 

俺がそう言うと男は深々と頭を下げた。

 

「軍の基地での仕事っ!?とてもうれしいですっ!!」

 

そんな男に苦笑いする俺と二等兵、隊長であった。

そのあとすぐに二等兵はアンテナの設置、男はテレビの設置をはじめた。

思いの他、二等兵の手際の良さがあって1時間で終わったのには驚いた。業者の方も1時間半で終わらせてくれた。張り切ってやってくれた様で、ありがたい。

 

「では、ありがとうございましたっ!!」

 

そう言って設置を終えた業者の車は走り去った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はいつもなら全体の連絡は艦娘全員が収容できる食堂で行っていたが、業者が帰った後すぐに艦娘を俺は運動場に集合させていた。

 

「あぁー全体への連絡だ。」

 

俺はメガホンを持って話し始める。因みにマイクやスピーカなんかは無く、俺にそんな知識もなかったので致し方なくこれを使っている。

 

「この休暇中、食堂にテレビを設置した。」

 

「この後は昼の時間だと思う。楽しんでくれ。」

 

俺がそう言うと、喜ぶのかと思ったが真逆というか無反応だった。

だがその中で長門と赤城、吹雪など秘書艦経験のある艦娘だけが反応したのが見えた。

 

「......まぁいい。あと資料室に本を貯蔵した。戦略指南書でもない、ただの文庫本や漫画だ。」

 

これには全員が反応した。

 

「資料室に置くことにする。明日から使えるので是非、使ってくれ。では解散だ。」

 

俺がそれを伝えるとぞろぞろと建物に入っていく。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が昼を食べに食堂に来てみると人だかりができていた。

人だかりの先にはテレビがある。だが、電源は点いていない。テレビを見たことのある長門と赤城、吹雪などの秘書艦経験のある艦娘がテレビの前に立ち、何かを待っている様子だった。

 

「どうしたんだ?」

 

俺が長門や赤城、吹雪たちに近づくと、俺に訴えてきた。

 

「これは本当にテレビなんですか?!」

 

吹雪は少し興奮気味にそう言うと続いて赤城も俺に訴えた。

 

「あの、人間が映るやつですよね!?」

 

そして最後に長門が訴えた。

 

「遠目でしか見たことがなかったんだ!どうやって使うんだ!?」

 

そう言うと周りに集まっていた艦娘が俺にこれが何なのかという説明を要求してきた。

俺は説明が面倒だった。正直、テレビが生活の中に当たり前にあるのでどういうものかという説明が難しかった。今までテレビが何かなんて聞いてくる人もいなかったからだ。

頭を回転させた。上手く伝わる説明......。いつも執務室で使っているパソコンなんかも引き合いに出してもいいが、どれ程の数の艦娘が執務室に出入りしたのかも分からないから説明の材料としては不合格だ。

なら、いっそのことどうにか説明するしかなかった。

 

「テレビとは、遠くに映像を電波で送ってそれを受信し、画面に映し出す機械だ。判り易く言えば、『映像無線』と言ったところだろう。」

 

そう言うとおぉーという歓声が上がり、俺にどうやって使うのかという疑問が多くぶつけられる。

そんなに一気に言われても俺が聞き取れないと言うのに。

俺はテレビの横にあるリモコンを取ると、電源を入れた。そうすると、昼時だ。ニュースが流れている。女子アナウンサーによる最近話題のスイーツなんかの紹介がされていた。

それには艦娘全員から歓声が挙がった。

 

「前列には駆逐艦の艦娘を、駆逐艦の艦娘は姿勢を低くして見ろよ。あと、近いと目が悪くなるからな。」

 

俺はそう言ってリモコンをポケットにしまった。

そして昼食を受け取りにトレーを取り、カウンターに行ったが人気が無い。

キョロキョロと見渡すと、間宮がテレビを見ている艦娘の後列に紛れて見ていた。どうやら、間宮もテレビを見るのは初めてだったらしい。

俺はほとぼりが冷めるまで待つことにした。

艦娘が集まり、テレビを見る様は何だか昔映画で見た様な気がしてならなかった。

 

「......何だっけか。......あぁ、Always さっ......。」

 

と言いかけた時に赤城が俺の横に座った。

 

「ん?満足したのか??」

 

「はいっ!余り見ていても時間を取られていく様な気がしたので、スイーツ?の話が切り替わった辺りで切り上げてきました。」

 

そう言って机にトレーを置く。俺と同じでカウンターに行ったのだろうが、間宮が居なくてもらえなかった口らしい。

 

「それで、どうしてテレビがあるんですか?」

 

赤城に訊かれたので素直に話すことにした。

 

「あぁ。鎮守府には娯楽が無いだろう?だから昨日買ってきた。」

 

「そうですか......。そう言えば今日の朝、門から変な恰好をした人間が入っていくのを見ました。提督と門兵も居ましたよね?」

 

「あれはテレビを設置してくれたんだ。門兵は護衛、というか監視だ。」

 

「そうですか。」

 

そういうと赤城は足をパタつかせてテレビの人だかりの方を見つめた。

 

「私、一度だけ門兵詰所にあるテレビを見たことがあったんです。」

 

そう赤城は切り出した。

 

「それは何かと尋ねたら『テレビだ。』と答えてくれて、数分だけ見させて貰ったんです。」

 

「そうか。」

 

「その時に教えて貰ったんです。テレビは娯楽品で、それに材料に鋼材や油が使われている事に。私たちが使っている燃料と装甲と似たもので出来ているもので、この国ではその鋼材や油が少ない事も。」

 

「......。」

 

「テレビを作るためにどれだけ苦労しているのか、艦娘である私は分かったのですよ。この娯楽品は私たちが死と隣り合わせで手に入れたもので出来ているって事に。だけど、私たちの手の届くところには無かったんです。門兵詰所にあって事務所にあって、私たちの近くに無いものでした。」

 

赤城はそう淡々と語っていく。

 

「本の存在はそれよりも以前から知ってました。本の存在を知ったのは事務所です。私が報告書を持って行った時でした。受付の女の人が何かを見ていたんです。それは何かと聞くと、『本だ。』と答えました。どんな物なのかと聞くと、『文字の並んだ読み物。貴女が持っている報告書の様な見た目をしているけど、内容は物語だ。』そう言ったんです。」

 

赤城は足をパタつかせるのをやめた。

 

「娯楽品は鎮守府の中で私たちの手の届くところにはありませんでした。戦闘し、食事し、寝るだけ。そんな生活をずっとしてきて私や長門さんや吹雪さんは娯楽品の存在を知ってしまった。」

 

そう言うと赤城は俺の方を見た。

 

「だから、ありがとうございます。用意して頂いて。」

 

赤城は照れ隠しなのか少し舌を出して俺にそう言った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

テレビはあまり艦娘が集まり、昼の時間も押しているので強制的に電源を落とした。ブーイングが起きたが、長門や赤城、吹雪が止めてくれたことによって昼食が食べれるようになり、俺は空きっ腹にやっと食べ物を入れることができた。

俺が昼食を食べていると、再び赤城が俺の横に座ってきた。どうやら何か話があるようだ。

 

「提督、提督の用意した本やテレビに制限を付けることを提案します。」

 

そう真剣に言った赤城に俺は昼食を頬張りながらただ一言で返した。

 

「無論、そのつもりだ。」

 

そう言って口の中の物を飲み込んだ。

 

「テレビは俺の監視下で朝昼晩の食事時のみに制限するつもりだ。テレビの操作をするリモコン、これの事だがこれは俺が管理する。」

 

そう俺が言うと、赤城は首をコクコクと縦に振った。

 

「本は、用意した本全てを番号で管理、資料室からの持ち出しを禁止する。」

 

これは図書館にある貴重図書の管理法と同じだ。

 

「成程。判りました。では、明日の朝に連絡するといいでしょう。」

 

そう言うと赤城は昼食を食べ始めた。

 

「あっ、夕食の時の方が良さそうです。」

 

そう言って再び赤城は箸を進め始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼食後、俺が執務室で休んでいると様々な艦娘が執務室を訪れていた。勿論、テレビの事だだ。

何でもいつ見れるのかとか言うのだったが、昼食後俺が帰ってきて40分後の事だった。その時に訪れたのは夕立。そして俺に言ったのは『金剛さんがテレビを点けた。』という事だった。

何故それを俺に報告するのかと聞くと夕立は『きっと提督さんが勝手に点けるのはいけないって言うと思った。』とのこと。まぁその通りだが、俺は早速夕立と食堂に向かった。

食堂に点いてみると、案の定人だかりが出来ていた。

 

「提督ですわね。どうされたんですの?」

 

俺が入ってきた事に気付いたのは、溜息を吐いて目頭を押さえていた熊野だった。

 

「夕立から聞いてな。来たんだ。」

 

「やっぱりですわね......。あれはやはり勝手に使ってはいけないものでしたのね。」

 

そう言った熊野は深く溜息を吐くと手を叩いた。

 

「はいはいっ。皆さんこっちを見なさいな。」

 

俺は熊野がこちらを見るように誘導してくれたのかと思い、テレビの周りに集まる艦娘たちのところへ行った。

 

「夕方に言うつもりだったが、今言おう。テレビは朝昼晩の食事時にのみ点ける。それ以外では使わない事にした。それと勝手に点ける事を禁止する。点ける時は俺が点けるからその間は良しだ。」

 

そう言うとブーイングの嵐が起きた。いつ見てもいいじゃないとか聞こえてくるが、俺は少し声を荒げて言った。

 

「食事時以外は仕事に集中して欲しいんだ!俺もなるべく早くに来て点けておくから。」

 

そう言うと理解できたのかバラバラに散っていった。その連中を見ていると、皆比較的最近に進水した艦娘と駆逐艦ばかりだった。

俺に言いに来た夕立をはじめ、テレビを見ていた艦娘に止めるように説得していたのは戦艦勢の一部、空母勢、重巡勢、軽巡の一部と古参組だった。

金剛と比叡はそのテレビを点けた方だったが。金剛よりも後に進水した陸奥は止める説得している側だったのには驚いた。

 

「提督ぅー。どうして自由に見ちゃダメなんですカ?」

 

俺のところに膨れっ面で来た金剛はそう言った。

 

「金剛は自分が出撃してる間、ずっと待機艦がテレビを見ていたらどう思う?」

 

「うーん、私も見たいデス。待機艦はずっと見れて羨ましいデスネ。」

 

「そうだろう?だから食事時だけに制限したんだ。」

 

「平等に......って事デスカ?」

 

「そう言う事だ。」

 

そう言うと金剛は納得したのは機嫌を治し、比叡と食堂を出て行った。それを訊いていた駆逐艦や最近に進水した艦娘たちも納得したのか話しながら食堂を出て行った。

 

「なぁ夕立。」

 

「なぁに提督さん。」

 

「俺、嫌われた気がする。」

 

「それは無いっぽい。例え嫌われたとしても夕立は絶対嫌いにならないよ!」

 

「ははは、ありがとな。」

 

俺は夕食までの時間は夕立と時雨に資料室に居れる本の運搬や整頓を手伝ってもらった。

休憩に夕立と時雨には手伝ってくれたからと言って、本を特別に読ませたりもした。いろんな本がある中で本に番号を書いていき、本棚に入れて行く。

そんな事をして残りの休暇を過ごした。

 





一万字超えちゃいましたw
それと、少し書き方がいつもと違っててすみません。
休日を書きましたが、まるで休暇に娘の為に買い物をして回るお父さんの様なwww
そんな歳でないのにw

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第二十六話  見掛けなかった新造艦たち


今回はウチの鎮守府で忘れられていた新造艦の話です。


 

俺は今日も執務を早々に終わらせて、ぐーたらしながら本を読んでいた。最近娯楽の為にと言って大量に本を買ってきたが、そのついでに興味を惹かれた目ぼしい本を大量に買っていた。

テレビの件はどうやら納得されて、駆逐艦の艦娘なんかは楽しみにしてるらしい。らしいというか、金剛が勝手に点けた件以来、よく遊びに来るようになった夕立と時雨から訊いた事だった。

あと娯楽を増やしたのと同時に、秘書艦を色々な艦娘にやらせてみる事にした。初回はそれぞれの艦種から秘書艦の経験がある艦娘を補佐に付けてだが。

因みに今日はテレビが設置された日から一週間が経っている。

 

「うーん、やっぱりSFはいいね。」

 

俺はそう呟いて本を閉じた。

俺の買った小説や漫画は基本的にSF系が多い。単純にロマンを感じるからという理由だったが、この世界の小説は見たことのない内容ばかりだった。

今読んでいたのは『Tomb Darshing』とかいうロボット物。妙に現実感のあるロボットで、主人公が異世界からの転生者だということ。俺の境遇と同じ設定だ。そして敵の設定がエグイ。何だよ、人を喰うって!

そう思いながら表表紙を眺めた。表紙にはロボットの絵と主人公の絵、そしてヒロインの絵が書き込まれている。ラノベ的な何かじゃないかとも思ったが、そんなことは無いらしい。

 

「......。」

 

そんな俺の姿をじっと観察してたのは、よく遊びに来る夕立だった。だが今日は遊びに来た訳では無く、秘書艦として来ている。初回なのだが、吹雪の補佐は要らないと言い張り、譲らなかったので試しにやらせてみたら、長門並みに執務が出来たのだ。

俺はてっきり『提督さんー。あそぼー。』とか言うのかと思って、買い物の時にコッソリ買っていたトランプを懐に隠していたのに......少し残念だった。

仕舞には『提督さん、執務終わったっぽい?ならキス島攻略に向けての艦隊編成を考えましょ?』とか言い出した。流石に俺もそれには驚きを隠せなかったが、取りあえず編成を考える事に。

結局、ものの20分で艦娘の選抜と改装を色々とやりくりして、出撃する際に使う書類を作ってしまった。何という夕立の有能さ。びっくりした。

それで話を戻すが、夕立はさっきから俺の手が持っている本に目線が釘付けにされていた。

本を見るのは初めてなのかと俺は思い、訊いてみる事にした。

 

「なぁ、夕立。」

 

「なぁに提督さん?」

 

「本が珍しいのか?」

 

俺がそう言うと夕立は首を横に振った。

 

「ううん。ここ一ヵ月はほぼ毎日資料室で戦術指南書を見ていたっぽい。だから本は見慣れてるっぽいよ。」

 

夕立はそう言ったが、目線は本を刺していた。

 

「なら、物語の書かれた本が珍しいとか?」

 

「そうよ。資料室には童話集しかなかったから......。少し気になるっぽい。」

 

そう言う夕立は未だに視線は動いていない。

 

「なら俺が私用で買ってきた本、読ましてあげようか?と言ってもSFしかないけど。」

 

そう言うと夕立は首をコクンと縦に振った。

俺は正直、この様子の夕立に戸惑っている。俺のイメージはさっき言った様に『提督さんー。あそぼー。』とか元気いっぱい言ってくるのだとばかり思っていたし、執務には不真面目だとも思っていた。それに、戦闘狂だとも言われているが、さっき考えたキス島攻略の編成では艦隊の安全を第一に考えていた。

そして、不用意に飛びついたりもすると思っていたが、してこない。だけど犬耳っぽい髪はピョコピョコとする。俺の艦隊の夕立は特に変な個体なのかと思っている。

だから、活発で元気な夕立でなく、大人しい夕立に戸惑っているんだ(※作者の夕立に対するイメージがかなり私的です)。

 

「提督さんのおすすめをお願いね。自分で見ても分からないから。」

 

そう言われて偶に『ぽい』の入らない夕立の言葉を訊いて、席を立ちあがった時、執務室の扉がノックされた。

そしてゾロゾロと艦娘が入ってくる。

俺は何事かと思って、視線をそっちに移したら、これまで見たことのない艦娘が3人いた。そしてその3人は半べそをかいてる。

 

「んぉ?!」

 

俺はその様子に驚き、変な声を挙げてしまった。

 

「あっ、陽炎ちゃん!」

 

そう言って夕立は座っていた椅子から立ち上がると、陽炎のところへ駆け寄った。

 

「夕立......。私たち、先週まで提督の存在を知らなかったの......。」

 

そう言った陽炎に俺は戸惑った。知らなかったという意味が判らないのだ。建造されたのなら俺の部屋まで案内されるし、ドロップでも俺のところまで必ず連れてこられるはずなのに知らなかったと言われた。

 

「ひーん。夕立ちゃーん。」

 

そう言って夕立に抱き着いたのはセーラー服にスク水。はたから見たら唯の変態だが、鎮守府に居る時点で察しが付く。

 

「赤城さんがよそよそしいと思ったら...ウゥ......。」

 

こっちは長い袖で涙を拭いていた。

 

「えっ......どういう事?」

 

俺がそう言うと、3人の中で比較的落ち着いてる、陽炎が俺に近づいてきた。

 

「私は陽炎。私たちは二週間前に進水した新造艦よ?先週進水した新造艦のお祝いラッシュがあったのに、私たちの時は無かったし、提督が着任してる鎮守府だっていう事も聞いてなかったのよ。」

 

そう言った陽炎は、幸運なのか不幸なのか分からないわと言って続けた。

 

「そこで夕立に半べそで泣きついてるのが伊168。潜水艦の艦娘よ?それとそこで袖で涙を拭いてるのが蒼龍さん。赤城さん加賀さんに次ぐ二航戦よ。」

 

そう言った陽炎の言葉は俺の疑っていた疑問を晴らした。やっぱりそこの夕立に抱き着いてるのは潜水艦の艦娘だったのだ!

そして、二航戦の蒼龍。ウチの艦隊の航空戦力の増強を意味していた。つい最近瑞鶴が進水したと言うのに、それよりも前に進水していたなんて知らなかった。

だが、同時に疑問が再び生まれた。どうして連絡が無かったのか。

 

「夕立。」

 

「はいっ。」

 

「雪風を連行。それと、赤城もだ。今すぐに。」

 

「了解。」

 

俺は淡々と夕立に命令をすると、さっきまでイムヤに抱き着かれていたはずなのに姿を消した。目に見えないスピードで執務室を出て行ったみたいだった。

そしてその場に俺と3人が残される。

 

「済まない。こちらの不手際だ。俺はここの鎮守府の提督だ。よろしくな。」

 

そう言うと3人は敬礼をした。最も、陽炎以外の2人はボロボロと泣きながらだったが。

そしてそれを言った数秒後に夕立は帰ってきた。脇には雪風と赤城。2人とも目を点にしている。

因みに赤城を呼んだ理由はすぐわかる。

 

「雪風、ここ二週間で俺が頼んだ以外に無断で建造をしたか?」

 

「いえっ!していないですっ!!!」

 

俺は雪風の前に立ち、頭を撫でて、そのまま視線を赤城に向けた。

 

「赤城、『特務』で何をした。」

 

赤城は冷や汗をダラダラと垂らしている。

 

「ほっ、報告の不手際でしてませんでしたっ。建造を間違えて3回してしまったんです......。」

 

ショボーンとする赤城を尻目に俺は雪風の頭から手を放し、3人の前に立った。

 

「済まない。ウチの妖怪食っちゃ寝が......。」

 

そう言って俺は深々と頭を下げた。

 

「俺も気付いてやれなくて済まなかった。」

 

俺がそう言うと赤城が酷いっ!とか言ってるがそれを無視して陽炎は返事をした。

 

「いいのよ。でも、提督の着任している鎮守府だなんて今まで思ってもなかったわ。まぁ、最初の出会いはアレだったけど、よろしくね。」

 

そう言ってくれて俺は少し罪悪感があった心を濯いでくれた。

そしてそのまま視線を赤城に戻す。

 

「それで、赤城。不手際起こしたのにもかかわらずに報告を怠り、進水したばかりの艦娘に案内もやらずに投げ出したのか?」

 

「いっ、いえ。案内はしました。ですがっ......。」

 

「この二週間、来てただろうが!その時に言えばよかったのにっ!わざわざ探してここに来たんだろう!?」

 

と少し怒鳴ってしまった。

赤城は古参で戦闘でもほとんど損傷を受けずに帰還するし、皆のお姉さん的な立ち位置にいるのにも関わらず結構お茶目で子供っぽいところがあるのがいいところなのだが、流石に今回のは怒らなければならなかった。

 

「すみません......。」

 

「俺に謝ってどうするよ......。」

 

「すみませんでした......。」

 

赤城に3人に謝らせた後、俺はふぅと一息吐いて全員に声を掛けた。

 

「今から食堂に行くか、着いて来い。赤城も怒鳴って悪かった。」

 

俺はそう言って夕立と陽炎、イムヤ、蒼龍、赤城を連れて食堂に向かった。

確かご飯時以外にお菓子を出しているというのを食堂で訊いたからだ。勿論連れて行くのは3人の歓迎会のつもり、案内したというのならほかの艦娘とも顔を合わしているだろう。歓迎会を開いてやれなかったのは少し心残りだが、せめて俺が今いるだけでやってやろうと思った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

食堂で間宮に少しお菓子を頼んで、ささやかな歓迎会を開いた。

後々、加賀と長門が来て赤城に追い打ちのお叱りをしたのは流石に俺は止めなかった。

その後もちらほらと艦娘たちが集まり、20人くらいでの歓迎会になって、結局時間が経つと遠征艦隊が俺を探して合流したりを繰り返し、いつもの歓迎会みたいになってしまったのは俺も正直驚いた。

 





冒頭の夕立の下りはなんとなく入れてみました。深い意味は無いですw
それと赤城のキャラですが、他にあってないところを色々ブッコんでます。違和感あると思いますが。特にお茶目なところとか......意外と怒られるのが嫌で隠しちゃうところとか、数日で忘れているところとかw

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第二十七話  雪風の開発日記⑤


何日ぶりの投稿でしょうか。最近障れていなかったので、今日の建造と開発結果です。



 

今朝も雪風は執務室に来ていた。

俺はそんな雪風にいつもの様に指示を出す。だが、今日は違った。

 

「雪風、今日も頼んだ。」

 

「はいっ!」

 

雪風に言うが、そのまま視線をずらす。ずらした先には改造巫女服姿の艦娘が2人立っていた。

 

「提督ぅー!どうしたデース?」

 

「提督、榛名は何故呼ばれたのでしょうか?今日の秘書艦が榛名なのでしょうか?」

 

俺の目の前でそう言った金剛と榛名はすっごい笑顔で俺を見ている。

そんな2人に向かって俺は言った。

 

「金剛と榛名に来てもらったのは、雪風の開発について行ってもらう為だ。2人は雪風に開発のやり方を訊いて、電探レシピを4回頼みたい。」

 

俺がそう言うと2人は対極の反応をした。金剛は不貞腐れて、榛名は喜んでる。

さっき榛名は俺に秘書艦にする期待をしていたが、俺が言ったのは開発。何で喜んだのか分からないが、金剛は頬をプクーと膨らませていた。

 

「私を秘書艦にするのかと思ってまシタ!......まぁ、頼ってくれるのは嬉しいんですケド。」

 

「はいっ!秘書艦でなくても、榛名は提督に頼みごとをされるだけでも大丈夫ですっ!!」

 

頬を膨らませる金剛に、ニコニコ笑う榛名に俺は少しだけ説明をして雪風に2人を連れて行くように頼むことにした。

 

「金剛。今日の開発は、金剛が欲しがっていた電探の開発だぞ?やりたくないのか?」

 

「ですケド......秘書艦やりたいデス......。」

 

金剛が我儘を言うので、奥の手を使う事にした。

これぞ、大人の汚い手だ(※提督はまだ18で金剛よりも1歳年下です。詳しくは11話をチェック!)。

 

「そうか......金剛にも秘書艦やって貰おうかと思ったのにな......。」

 

と言ってチラッと見る。効果てきめんだった。

既に執務室から居なくなっていたのだ。

 

「すみません、金剛お姉様が......。」

 

「気にしないで。」

 

「はい。では榛名も工廠に行って参りますね。」

 

そして榛名は普通に執務室を出て行ったが、廊下出るなりドタドタと音を立てて走っていった。

俺は3人出て行った執務室の扉を少し見つめると、視線を移動させた。移動させた先には時雨がいる。今日の秘書艦を任せている。

時雨は『僕は何時でも良かったけど、うれしいな。』と言って朝食後にすぐ来てくれた。

 

「ん?どうしたの、提督。」

 

俺がそんな時雨を見ていると、視線を感じたのか俺の方を見た。

 

「どうもないさ。というか時雨は何をしてるんだ?」

 

「あぁ、これだよ。」

 

そう言って俺に見せてくれたのは戦術指南書。それも水雷戦隊の運用に関する事だ。

 

「戦術指南書......水雷戦隊のやつか?」

 

「そうさ。夕立に影響されちゃってね。僕もよく見てるんだ。今は防空に関すること、艦隊護衛艦の役目を果たす時に必要な戦術や装備の使い方を見ているんだ。」

 

そう言って時雨は俺の方に本を持ち上げ、表紙を見せてきた。

 

「そう言えばその戦術指南書シリーズって何であるんだ?」

 

「そうだね......吹雪が言っていたんだけど、どうやら初期の艦娘が残した物を各鎮守府にコピーして置いているらしいんだ。理にかなった戦術や陣形配置なんかが書かれてるよ。」

 

時雨の言った『初期の艦娘』はきっと、この世界に艦娘が突然現れた時辺りの艦娘の事だろう。

 

「そうか......。そう言えば、戦術指南書とかは持ち出しが大丈夫なのか?俺が管理している訳じゃないんだけど。」

 

「大丈夫だよ。提督が資料室に収めた文庫本や漫画は管理することになってるけど、戦術指南書は基本的に持ち出して大丈夫なんだ。そもそも見る人がいないからね。」

 

そう言って時雨は本に視線を落とした。

そんな光景を見て俺はふと思った事がある。時雨が執務をしていないのだ。何のための秘書艦のローテーションなのかも分からない。俺は長門が自分のところに秘書艦の交代の要求がたくさん来るからと言ったからこうしているのに。

 

「......。」

 

俺は本を読む時雨を見て黙り込んで、自分のやるべき書類に目を通した。

今日はやる量が少ない。そもそも今日は出撃させる気が無いのだ。何故なら、油が足りないからだ。連日の建造開発で油を結構使ってしまい、演習分しか使える量が無いのだ。

なので今日は演習と遠征だけを行っている。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

雪風たちが執務室を出て行って1時間くらい経った頃、時雨が戦術指南書を閉じた。どうやら読み終わった様だった。

 

「ふぅ......。」

 

「時雨、役に立つ事はあったか?」

 

「うん。僕の艤装に装備されている武装がどういう局面で強いとかね。」

 

そう言って戦術指南書を置いた。

 

「ねぇ提督。」

 

「なんだ?」

 

戦術指南書を置いた時雨は俺に話しかけてきた。

 

「提督の私室にも本があるんでしょ?僕も見たいな。」

 

「なんだ、夕立に訊いたのか。」

 

「うん。」

 

そう言って席を立った時雨は俺の手を引いて私室へ向かった。

案外強引なところもあるんだな、とか考えつつそのまま私室の扉を開いて本の置いてあるところに案内した。

 

「......私もいるんだがな。」

 

長門はそんな光景を黙って見ていたのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺の私室にある本を時雨に貸して、執務室の戻ってしばらくすると雪風たちが戻ってきた。

そして俺と長門は固まる。

廊下を歩く足音が4人だ。雪風、金剛、榛名とあとは誰だ。まさかまた新造艦なのかと俺と長門はアイコンタクトで会話を繰り広げていると、雪風たちが執務室の扉を開いて入ってきた。

 

「司令ぇ!ただいま戻りましたっ!!」

 

と言って入ってきた雪風の横でもじもじとしている艦娘に目をやった。金剛でも榛名でもない艦娘。新造艦だ。

 

「雪風ちゃんっ!提督が着任してる鎮守府だなんて聞いてないよ~。」

 

そう言って彼女はもじもじとしている。

 

「俺はここの提督だ。よろしく。」

 

「ひゃいっ!よろしくお願いしますっ!!私は飛龍型航空母艦 飛龍ですっ!」

 

何でここに最初に来る艦娘は全員カミッカミなのかと疑問に思いつつ、雪風に鎮守府の中を案内するように指示を出した。

雪風は毎度の事で分かっていたのか、飛龍の袖を掴んで部屋を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺の目の間で立ち竦む金剛と榛名は何かを言いたげにしていた。

 

「どうした?一緒に来たって事は開発も終わったんだろう?」

 

そう言うと金剛はどこかで訊いた事のある様な悲鳴を挙げて訴えた。

 

「ひえぇぇぇ!!開発が4回中3回も失敗しちゃったデス!しかも、できたのは13号電探っ!これは使い物にならないデスヨ!!」

 

と言った。

確かに13号電探はその号数の低さから分かる通り、性能のよろしくない電探だ。

しかも金剛は4回中3回も失敗したと嘆いていた。これは相当悪運だったんだろうと思わせる結果だ。

 

「すみません、提督......。電探レシピはボーキサイトをかなり消費するみたいで、あったボーキサイトがかなり減ってしまいました......。」

 

と、資材の方を心配する榛名であった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

その頃、演習には五十鈴が旗艦を務めていた。

しかも操っているのは自分の艤装じゃない。海域でドロップしたものを綺麗にしたものだ。

そしてこれをやっている理由、それは改造した際に生まれる21号電探だ。これが目的だった。

所謂、五十鈴牧場である。演習艦隊には最近進水したばかりでもう練度が40超えている陸奥と古参の高雄と熊野、赤城に祥鳳で出ていた。

旗艦らしく艦隊に指示しながら五十鈴はある事を思い出してた。

昔、演習であった別の鎮守府の五十鈴が『艤装を乗り換えて練度を挙げるの大変なのよね。』と言っていた事に。

今日の演習前に五十鈴は見てしまっていたのだ。港に停泊出来ない艤装が港の奥にある倉庫に入れられ、そしてそこに五十鈴の艤装が3つあるのを。

 





安定の雪風でしたw
今日の新造艦は飛龍です。これで南雲機動部隊が編制できます。使うかはさておきですがw
今回の開発は金剛と榛名に2回ずつやって貰いました。その結果が13号電探が1つ......。
これまで雪風の開発日記と赤城と瑞鶴の艦載機開発記録(※こちらは単発ネタとして少しインパクトが無いのでボツ)を経験してきた自分にとってかなりショッキングな開発でした(汗)

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第二十八話  他の鎮守府は


最近、初期の頻度からだいぶ落ちましたね。
暇がないという言い訳でもしておきましょうか。

今後かなり更新が遅れると思います。


 

金剛と榛名が報告を終えて出て行ったあと、時雨が俺に声を掛けた。

 

「ねぇ提督。演習見に行かない?」

 

「ん?どうしてだ?」

 

「丁度今日の演習は五十鈴がやってるんだろう?五十鈴は水雷戦隊で旗艦を良く任されているからね。戦場以外の目線で見てみたいんだ。」

 

俺は時雨の提案に乗り、演習を見に行くことにした。

因みに演習は鎮守府の安全海域で演習弾でやっている。被弾した箇所にはペンキが付き、妖精が被害状況を報告することで艤装の動きを制限していくらしい。

この説明は演習を見に行く道中に時雨から訊いた事だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

演習場というか、海に俺と時雨は来ている。

沖の方で演習をしている様だが、俺には砲撃音しか耳に入ってこない。時折爆発音が聞こえるのだが、それはきっと砲撃が被弾した音なのだろう。

 

「そう言えば提督って艤装に乗るのは初めてかい?」

 

時雨はボケーっと外を眺めていたかと思うと俺にそう言った。

今、時雨は艦内の妖精にあちこち指示を出している。と、言っても操舵と監視員だけらしいが。

 

「いいや。赤城の艤装に乗ったことある。」

 

「赤城か......。」

 

俺がそう言うと時雨は遠い目をした。赤城という言葉に反応したかのような様子に俺は違和感を持ったが、気にせずに外を眺めた。

そうすると、時雨が話し出した。

 

「提督は僕をキス島に改造できるまで出撃させてただろう?あの時、一回だけ僕が大破した事があるんだ。」

 

そう言った時雨の目はいつもと同じ方向を見ている。

 

「艤装が炎上して、妖精が消火活動やしている間に僕は一酸化炭素中毒になって気を失ったんだ。」

 

「......。」

 

俺は黙って聞いている。

 

「気が付くと炎上していた僕の艤装は長門が曳航していて僕は赤城の膝の上で寝てたよ。あれからどうしたのかと聞くと僕が気を失った直後に敵の陣形が崩れたから長門が突撃したんだって聴かされた。」

 

時雨はさっきまで見ていた方向から俺の方に顔を向けた。

 

「ウチの鎮守府で古参最強って言われているんだよ。長門と赤城は。扶桑や山城もそうだけどね。」

 

そう言って時雨はクスッと笑った。だがすぐに真面目な顔に戻った。

 

「僕も古参なんだ。4人の背中を追っていくつもりさ。戦闘では僕を護衛艦にして欲しい。近づく敵を蹴散らしてやる。」

 

そう言った時雨の目には明らかにさっきまでとは違う力が込められていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

演習場に着くと、2艦隊がそれぞれ砲撃し合い、乱戦になっていた。

陸奥が砲門をすべて使ってあらゆる方向に砲撃している。高雄と熊野は最大船速なのか、すごい波を立てながら縦横無尽に駆け回っている。

その中、異様な速度で航行しているのが五十鈴だ。

砲撃はしていない様だが、魚雷は撃っているみたいだ。五十鈴が通った後で相手艦が大きな水柱を上げたのだ。

その後方で航空戦を繰り広げている赤城と祥鳳は護衛もなしに善戦している。

戦場を目の当たりにして、何も思わない訳が無い。だが、何も言えない。もしこれが深海棲艦との戦闘だったなら、炎上している艦は今頃轟沈しているのだろう。

一際大きな破裂音がしたかと思うと、祥鳳の艤装、飛行甲板に砲弾が吸い込まれるのが見えた。どうやら弾薬庫に被弾したみたいだった。艤装はすごい勢いで炎上して居るかのような忙しない動きをしている。

これが実戦だったら祥鳳は既に轟沈している事だろう。そう感じた。

 

「祥鳳が轟沈判定が出たみたいだ。」

 

そう時雨が言った。どうやら本当にそれだけの被害が出た様だった。

 

「戦局は大丈夫だよ。陸奥は提督のたたき上げで今では古参組と同じくらいの練度だ。」

 

時雨はそう言った。

ちなみに俺と時雨は遠目から見ているが、甲板から見ていた。やる事のない妖精も一緒になって見ている。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

演習が終わるころに時雨と俺は戻っていた。

時雨が満足したと言ったからだ。どうやら勉強ができた様だった。

そのまま時間が過ぎ、夕食時は俺と時雨は戦術について話していた。そんな感じに今日も終わると思っていたが違った。

時雨が俺に唐突にノートを差し出した。そのノートは酒保で売ってるものだ。

 

「ん?」

 

「これにはね、他の鎮守府の様子が書かれてるんだ。あくまで僕が見てきたところだけだけどね。」

 

そう言って時雨は差し出したノートを開いて見せた。

そこには日にちと所属、編成が書かれており、使ってきた装備なども書かれている。そしてその直下にはずっと続く文章。読むと演習で訪れた鎮守府に関する事が書かれていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

9月15日 第112艦隊司令部 第一艦隊

 

金剛(旗艦)、比叡、神通、夕立、赤城、祥鳳

 

41cm連装砲4基、零式水偵12機、21号対空電探、14cm単装砲2基、四連装魚雷、12.7cm連装砲、三連装魚雷、零戦21型、九七艦攻、九九艦爆。

 

鎮守府はこちらとあまり変わらないが、外壁などに落書きが目立つ。敷地内で大規模な暴動が起きた形跡有。門兵、職務怠慢。

棟入り口には木刀を所持した艦娘数人が常に立っている状態。

演習艦隊の艦娘の表情に違和感。

埠頭に潜水艦の艤装が停泊。尚、損傷している。大破状態。

駆逐艦と軽巡洋艦の艦娘の目の下にクマを確認。連日連夜の遠征任務と思われる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が読んだのはそこまでだった。

途中で読む気が失せてしまった。何故時雨がこれを記録していたのかはさておき、この様な状況の鎮守府が普通みたいだった。さっき読むのを切り上げる前にペラペラと数ページ捲ってみてみたが、どこも同じことが書かれている。

 

「許せないよ、僕は。」

 

そう言った時雨は俺の開いていたノートに視線を落とした。

 

「提督の居た世界で僕たちの世界はゲームだったんでしょ?」

 

「......そうだ。」

 

唐突にそんな事を時雨が言った。

 

「この現実を見てほしい訳じゃない。改善してもらったところで僕らの、艦娘の扱いに関しては何も変わらないからね。だけど、ゲームだったとしても酷いと思うんだ。提督は途中で読むのをやめてたけど、埠頭で大破した潜水艦を見たって書いた後に出撃しているところも見ているんだ。入渠させられずにね。」

 

そう言った時雨の目には怒りと言うより、悲しみの感情が溢れているように見えた。

 

「このページを書いたのはね、提督が着任するって噂を聞いた4日後だった。そんな他の鎮守府を見てみて僕はその時『提督が着任してなくても、僕らは他の鎮守府に比べたら幸せなんじゃないか』って思ったんだ。」

 

そう言って時雨は俺の手の上にあるノートを数ページ開いた。

 

「ここのページに記録したのは、提督が2ヵ月以上、指令書が送られてこなかった鎮守府だよ。」

 

そう言ってトントンと指を刺した。

 

「見に行ったけどかなり酷かった。建物はボロボロ、外壁もボロボロで、門兵は居ない。だけど艦娘は居るんだ。どうやら提督の着任が止まってしまうと色々な物が鎮守府に入ってこなくなってしまった様で、敷地内の炉端に僕と同じ駆逐艦が栄養失調で倒れてたよ。それに重巡から上の大型艦は全員で釣竿を下げて魚釣ってた。食べるものが無いって言って。」

 

そう言って時雨は隣のページを指差した。そこのページは他のページと違って書かれている事が少ない。

 

「たまたま通りかかった鎮守府だけど、ここの鎮守府は提督が半年以上命令書を送らなかったらしくて、艦娘が全員餓死したところよ。最期まで残った艦娘は艤装で自分を撃って自殺したみたいだけどね。最後は人間によって死体は回収されて清掃がされたんだ。」

 

そう言った時雨は俺の手の上からノートを拾い上げた。

 

「これが僕の見てきた他の鎮守府。不確かな情報だけど、提督みたいに提督が着任した鎮守府は無いみたいだ。」

 

そう言って時雨は俺の横の席から立ち上がった。

ちなみに今の会話は食堂でしてました。周りの艦娘は引き気味な艦娘もいるが、他の艦娘たちは眉をひそめていた。

 





他の鎮守府の話です。
といってもブラックのところですが。放置されたアカウントの事も書かせていただきました。因みに作者の想像ですのであしからず。

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第二十九話  静かな日、蒼い空。


今日はなんか雰囲気違う話です。
そしてすごく適当な構成......。

まぁ、ノリで書いた単発で本編とは全く関係ないんですがねw


 

いつも通りの朝、布団を恋しく思いながら着替えて私室から出てみると執務室に蒼龍がいた。

 

「おはようございます、提督。」

 

俺は顔を洗って歯を磨きはしたが、まだ寝惚けていて状況がよく掴めてなかった。

 

「おはよ......。」

 

俺はそうふてぶてしく返すと、椅子に座って出された報告書の枚数を数える。

本当に執務と言ったら報告書の整理と消費資材の計算、消耗品の発注くらいなのだ。

 

「あのっ......提督っ?」

 

手を胸の前でモジモジとしている蒼龍にそう言われて顔を上げた。

 

「なんだ?」

 

「お腹が、空きました......。」

 

そう言う蒼龍はお腹を押さえていった。どうやら鳴りそうな様子だ。

俺はそう思い顎に手をやる。

鎮守府は人間が艦娘を閉じ込める檻の様な施設。一応人間は居るが、結構艦娘に対しては消極的な態度をする。

そして艦娘の扱いが酷いのだ。食事をする艦娘に対しての用意される食料は計算された量しかないのだ。それに、蒼龍の様に御飯時でない時間に腹が空いた艦娘は食事の時間まで我慢しなくてはいけない。普段、動いてばかりいる彼女らにとってはとても辛い事だ。

それに関しては間宮も悩んでいるというのを聞いた。そして酒保はあるものの、本当に必要な日用品くらいしかない。お菓子なんかも置いていないのだ。

 

「腹が減ったのか......朝食までは時間あるし......。」

 

俺は時計に目をやる。時刻は6時を回ったところだ。ちなみに朝食は8時だ。蒼龍の様子だととても持ちそうに無い。

 

「火の使えるところなんて食堂くらいだけだろうし......そもそも食材が無い。」

 

そう言ってはぁと俺がため息を吐くと、蒼龍が俺に火の使える場所があると言った。

そこは共用炊事場。艦娘の寮にある炊事場らしいが、使う機会はせいぜいお茶を淹れる時くらいだと蒼龍は言った。

 

「すまんな......我慢してくれ。」

 

俺がそう言うと蒼龍はションボリしてしまった。

悲しそうな表情でお腹を押さえる姿は何だかアレだが、気を紛らわしてもらう為に色々と話してみる事にした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝食まで30分という時間まで迫った頃、俺と蒼龍はある話題で盛り上がっていた。

艦載機だ。

最近大きく艦載機の異動をしたんだが、その時に工廠の妖精が変な事を言っていたという。

『変な艦載機が出てくる。』

というのを蒼龍がたまたま聞いてしまったらしい。その話は俺のところまで報告がないという事は、妖精たちが隠しているという事。何かあったのだろう。

それと蒼龍が何故執務室にいたかというと、朝早くに目が覚めてしまってその時にはお腹が減っていたらしい。行くところもなく、二度寝しては寝坊してしまうと思い執務室にいたという事らしう。ちなみに今日の秘書艦は蒼龍だ。

 

「変な艦載機ねぇ......。」

 

俺がふーんと言いつつ考えていると、何かを思い出したのか蒼龍が指を立てて言った。

 

「そういえば、妖精さんがその後に『飛行甲板からの発着艦が出来ない。』って言ってた。どういう意味だろう?」

 

そう言った蒼龍の言葉に俺はある事に気づいた。

変な艦載機で発着艦が出来ない。変な艦載機はさておき、発着艦が出来ないというのはきっと、着艦フックが無いのと、滑走路の距離が足りないという事だ。

 

「そう言えば蒼龍たち艦娘は軍艦だった頃の記憶があるのだろうか?」

 

俺が唐突にこんな質問をしたのは、変な艦載機について分かる可能性があるからだ。もし軍艦だった記憶があるなら当時の海軍についての事なら大体分かるはずなのだ。

そんな質問をされた蒼龍はキョトンとしていたが、すぐに答えてくれた。

 

「ありますよ。」

 

ただそれだけだった。

蒼龍にあるという事は他の艦娘にも同様に記憶があるはずだ。そう考えると解決の糸口になるものは一つ。当時終戦まで生き残った艦娘に訊けばよいのだ。

俺はその事を蒼龍に言わずに、別の話を始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝食の時間。蒼龍は時間になるや否な食堂に行こうと言い出して、俺は蒼龍に連れられて食堂に来ていた。

食堂は結構騒がしく、多種多様な艦娘がそれぞれ食事を摂っていた。

俺はさっき蒼龍に言わなかった生き残った艦娘に変な艦載機について聞くことにした。ついでにこの前話した妖精を見つける事に。白衣の方の妖精だ。あの妖精は自分を開発担当だと言っていた。何か分かるかもしれない。そう思った。

 

「提督、早く食べましょ!」

 

そう言って横で蒼龍が茶碗を持ってご飯を食べ始めた。俺はそんな蒼龍を尻目に白衣の妖精とある艦娘を探していた。

妖精は忙しなくウロチョロしているのですぐに居るか居ないかは判断できるが、艦娘はそうもいかない。俺はある艦娘の艦種の集団を探していたのだ。

その艦娘を見つけるのにはそう苦労しなかった。何せ集団が大きいからだ。

 

「モグモグ......提督、どうしたんですか?」

 

「あぁ、ちょっと用事がある艦娘が居てな......ちょっと行ってくる。」

 

俺はそう言って蒼龍の元を離れて、その艦娘のところに向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「鳳翔。」

 

俺はそう言ってある艦娘を呼び止めた。

鳳翔だ。鳳翔は軍艦時代に日本初の航空母艦として日本帝国海軍を背負った艦だ。

 

「はい、どうされました?」

 

柔らかい笑顔でそう答えた鳳翔はこちらを振り向いた。

手には空いたトレーがある。どうやら食べ終わって戻るみたいだった。タイミングとしては丁度いい。

 

「少し聞きたい事があってな、少しいいか?」

 

「はい。これを片づけてから伺います。」

 

そう言って鳳翔は軽く会釈すると人ごみに消えて行った。

俺が鳳翔を見送ると、そのまま蒼龍のところに戻って行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「おかえりなさい。もう用事は終わったんですか?」

 

「あぁ。」

 

俺は席に着いて一息吐いてから箸を手に取った。

 

「そう言えば、誰に用事があったんですか?」

 

無邪気にそう聞く蒼龍に俺は朝食を頬張りながら答えた。

 

「鳳翔だよ。」

 

そう言うと蒼龍は何の驚きもせずに、ふーんと答え、俺が食べ終わるのを待っていた。

 

「そう言えばさっきの変な艦載機の件なんですけどね。」

 

そう蒼龍が切り出した。突然、待っている間に話していた内容に戻ってきた様だ。俺は口に入っていたので頷いて返事をした。

 

「昔もそう言う事が何回かあったって記録があるって妖精さんが言ってました。それも艦載機や砲に限定して。」

 

そう言って蒼龍は指を折りながら名前を挙げだした。

 

「艦載機では紫電改二、震電改、烈風、烈風改......。砲では試製51㎝連装砲なんかがそうですね。」

 

俺は蒼龍の挙げた物については知っている。

そしてそれがこの世界で当たり前の装備である事。そして、それらは今起きているイレギュラーと同じ様に生まれたものだという事だ。

だが、どうして紫電改二や震電改が艦載機として運用しているのだろう。当たり前で気付かなかったが、俺はそんな事を疑問に思った。

この世界に呼ばれる前、興味を持って艦これに登場する艦載機の実物を調べた事があった。

零式艦戦は言わずと知れたものだったので調べなかったが、それ以外の艦載機については調べた。

そうすると、おかしな点があるのだ。紫電改二も震電改も元の名は紫電改と震電。それも海軍が開発した局地戦闘機。いわば飛行甲板からではなく、滑走路から飛び立つ陸上戦闘機だという事だ。

 

「そうか......、成程な。」

 

俺はそう言って納得し、そのまま箸を進めた。

一方、蒼龍は何の事だか分かっておらずに、頭上にハテナマークを浮かべている。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

執務室に戻った俺は早々に執務を片づけて、ソファーに座っていた。

俺の目の前には鳳翔が居る。朝食の時に呼び出しておいたのだ。蒼龍は何故、こんな事になっているのか分かっていない様だったが、俺と鳳翔の会話から徐々に理解していく。

 

「鳳翔。軍艦だった頃の記憶はあるか?」

 

「えぇ、ありますよ。鮮明にとは言えませんが、かなり覚えています。」

 

そう言った鳳翔に俺は一言だけ、言った。

 

「その頃の記憶と、現状で食い違っているところがあるか?」

 

そう言うと鳳翔は頷いた。

 

「あの頃は、艦載機と言ったら零戦と九七艦攻、九九艦爆、天山、彗星でした。ですが今では私たちの鎮守府にはありませんが、紫電改二や震電改に似たものは何度か見たことありますが、どれも陸から飛んでました。」

 

当たりだ。

今起きているイレギュラーについて説明がついたのだ。鳳翔に訊いたのは終戦まで生き残り、復員船として活躍した後、解体されたという歴史があり、あの戦闘を一から十まで見ていたという理由からだった。

そして、今回のイレギュラーは新装備だという事も分かった。

 

「ありがとう。じゃあ今から工廠に行くか。」

 

俺はそう言って立ち上がり、執務室を出た。後ろから蒼龍と鳳翔が着いてくるのを気にせずに進んだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

工廠には頭を抱えた開発担当の妖精がいた。休みの時、俺の話し相手をしてくれた妖精だ。

 

「どうも。」

 

「あぁ、提督!どうされたんですか?」

 

そう言った白衣の妖精を手のひらに乗せて言った。

 

「変な艦載機を見せてくれ。」

 

そう言うと黙って頷いて白衣の妖精は俺と蒼龍、鳳翔を奥に案内した。

工廠は忙しなく動いているイメージだったが、動いていなかった。どうやら俺からの指令が無い限り動かない様だった。建造するためのドッグも見えたし、よくわからない機械もたくさんあった。

俺と蒼龍、鳳翔はそれを横目に見つつ、工廠の奥に来た。そこは元は空きスペースだったところだと白衣の妖精は言ったが、大きな布に覆われたものがある。

これが例の変な艦載機だという事はその場に居た誰もが分かった。

 

「ちょっと、あの布をどかしますね。」

 

そう言って白衣の妖精は俺の手から降りて、大きな布を取っていった。

布から現れたそれは、今まで見てきた艦載機の中では大型だった。そして胴が太い。と言うか、エンジンが大きいのだ。

この特徴、俺には記憶があった。

 

「雷電......。」

 

それは雷電だった。戦争末期に海軍が開発した局地戦闘機。

俺の予想は合っていた。紫電改二や震電改よりかはグレードが低いが、史実では迎撃機として有名だ。

 

「雷電ですか......ですがコイツは艦載機ですのでさしずめ、雷電改と言ったところでしょうか。」

 

そう言った白衣の妖精は俺の肩によじ登ってきた。

 

「提督、これはどうしましょう。」

 

「使おう。」

 

俺は迷いなくそう答えると、未だに状況が掴めていない蒼龍と鳳翔を確認すると、俺は白衣の妖精に話しかけた。

 

「これはもう使えるのか?」

 

「えぇ、1スロだけですが。」

 

「じゃあ今すぐ改装だ。蒼龍の航空隊に入れろ。」

 

「了解。」

 

俺と白衣の妖精は最低限の会話を交わし、俺は蒼龍と鳳翔を連れて工廠を出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「という訳で実証試験だ。蒼龍、頼んだ。」

 

俺は執務室に帰るとすぐに蒼龍に艤装で湾内に出てもらうように命令をした。鳳翔には護衛監視役として着いてきてもらう。

 

「えぇと......あの、提督?」

 

「ん?」

 

「あの、雷電改とか言うのの試験ですか?」

 

不安そうに尋ねる蒼龍を俺は一蹴した。

 

「そうだ。」

 

「えぇ......。」

 

そう言う蒼龍の腕を取って、すぐに執務室を俺は飛び出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

海は静かで綺麗だった。今日は快晴で、雲一つない天気。程よく涼しく、照り付ける太陽の光も温かい。

 

「提督ー。行きますよー。」

 

そう呼ぶ蒼龍の声に俺は我に返り、タラップに足を掛けた。

今、俺は埠頭に来ている。目の前には蒼龍の艤装、正規空母 蒼龍が浮いている。その巨体は以前近くて見た赤城に引きを取らない大きさだ。

蒼龍に無理を言って乗せてもらう事になったのだ。戦闘の時は絶対に提督を乗せないと、決まっていると聞かされたと蒼龍が言っていた。どうやら俺の知らないところでいろんなルールが作られているらしい。

俺がタラップを上り終えると蒼龍が俺の手を引いた。

 

「早く行きましょうっ!」

 

そう元気よく言う俺は何も言わずに手を引かれるがままに階段を上り、甲板に出た。

潮風は吹き付け、甲板からは鎮守府がよく見えた。埠頭には蒼龍と鳳翔の艤装しかなく、朝に演習をしに行くように命令した五十鈴以下の艦隊は既に出ていて、他の艤装はどうやら倉庫の方にあるらしい。

 

「出よう。と言っても数kmだけでいい。」

 

「了解。」

 

そう言うと、蒼龍の艤装からエンジン音がし始めて、蒼龍の周りに居る妖精がせわしなく動き出した。どうやら持ち場につくようだ。

そうしていると蒼龍が艦橋に入ると言い出し、それについて行った。

ぐるぐると回りながら階段を上がり、艦橋についたころには既に移動は完了しており、停船している。鳳翔の艤装から艦載機が発艦したのか、上空には零戦21型が19機飛んでいる。どうやら哨戒らしい。

 

「じゃあ蒼龍。雷電改を出してくれ。」

 

俺がそう言うと蒼龍は近くの妖精に指示を出した。

するとすぐに甲板のエレベーターが上昇してきて、中から雷電改が現れた。工廠で見た時は外ほど明るくなかったので、分からなかったが、艦載機特有の塗装がされていた。

甲板に出てきた雷電改の発動機が唸りを上げて、プロペラが回転しだしたかと思うと、すぐに雷電改は発艦していった。

それに続くかのように次々と発艦し、最終的には空に12機の雷電改が飛んでいる。

雷電改は編隊を組み、空を飛び、色々な動きをしてみせた。旋回、上昇、急降下......自由に飛んでいるかのように見えたがそういう訳でもなく、蒼龍曰く『あれでも立派な試験ですよ。』という事らしい。

そんな雷電改を見上げた俺と蒼龍は一言も交わさずに、ただじっと空を見上げていた。

空には砲撃の音もなく、ただ雷電改が飛び、その背景がとても蒼い空だった。

俺にとってはいつもの風景かもしれない。だが、蒼龍たち艦娘にとってはこの光景はとても平和で穏やかな日なんだろうなと俺は感じた。

 





これはちょっとクサい話ですね。黒歴史になりそう......。
まぁ、これも提督がいると言うイレギュラーで解決させますw

艦これの艦載機に関しては本当に疑問があったので書きました。史実では紫電も震電も陸上での運用が想定されていた海軍の局地戦闘機だったんですよ。何で、艦載機なんだろうなって考えての今回の話です。艦載機の戦闘機といったら零戦しかないと思うのでw

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第三十話  雪風の開発日記⑥

いやー。海域攻略が停滞しております。キス島と1-5を同時にやってますがどちらも駆逐艦を使うんですね......。改の数が足りない......。


今朝も雪風は執務室に来ていた。

何時もの開発と建造の指示を仰ぐためだ。

 

「司令ぇ!今日はどうしましょうか?!」

 

俺はそう言われて考える間もなく、すぐに答えた。最近の開発・建造はレシピが固定化されて結構面白みのないものになりつつあったが、そうは言ってられない状況だ。

またボーキサイトの枯渇が進んでいるのだ。第一艦隊のレベリングもかなりハードな組み込みをしているからだ。

 

「開発は対潜レシピを4回。建造は空母レシピ1回とレア軽巡レア駆逐レシピを3回だ。」

 

「了解しましたっ!」

 

俺の指示を聞いた雪風は早々に執務室を元気よく出て行った。最近は結構調子がいいのか、連続でいい当たりを引いてくる。俺としてもとてもうれしい限りだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

雪風が出て行った執務室にはまだ艦娘が何人も残っていた。秘書艦と秘書艦補佐、第一艦隊旗艦、それと長門。

今日の秘書艦は神通だ。補佐に五十鈴。第一艦隊旗艦は夕張だ。

 

「えっと......提督?」

 

夕張は不思議そうな顔をして俺の事を呼んだ。どうやら呼び出された理由を理解していないらしい。趣旨は伝えたつもりだったんだが。

 

「夕張、今日からレベリングだ。改になり次第、任を解くけどな。」

 

そう言うと夕張はパァーと笑顔になった。遂に待ち焦がれたレベリングが来たからだろう。これでよく分からない自分の立ち位置からおさらばできるのだ。

金剛の歓迎会(※第十話参照)で俺から聞かされた準戦闘要員という肩書と、普通なら渡されるはずのない装備に戦闘要員と同等の扱いを受けている夕張はこの瞬間を楽しみにしていたのだ。

 

「そうですか。でもっ、私は頑張りますよ!!提督の期待に全力で答えます!」

 

そう言って執務室を出て行こうとする夕張を俺は引き留めた。

 

「ちょっと待った。まだ随伴艦を連絡してない。」

 

「あちゃー、すみません。」

 

元気よく出て行こうとした夕張の出鼻を挫くことになってしまったが、俺は気を取り直して読み上げた。

 

「随伴には金剛、摩耶、鳥海、祥鳳、瑞鳳を付ける。瑞鳳も序に経験してきてもらうつもりだ。」

 

「了解しましたっ!では、行ってきますっ!!」

 

そう言って今度こそ夕張は元気よく執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

執務を始めて30分。俺が書類を見ていると、視界の端でチラチラとこちらを見る神通が俺に映っていた。

 

「どうした神通。」

 

「はい......少し気になることがありまして。」

 

そう言った神通から吐かれる言葉に俺は驚いた。

 

「鈴谷さんの歓迎会ってやらないんですか?」

 

「んがっ!?」

 

驚いて変な声を出してしまったが、この前の蒼龍とイムヤ、陽炎の件に続いてまた執務室まで案内されなかった艦娘が居たとは思わなかった。

 

「鈴谷だってぇ!?」

 

「はい......。4日前くらいから風のうわさで鈴谷さんが進水した事を訊いていまして......。昨日、海岸を歩いていると黄昏た鈴谷さんを見たんですが。」

 

俺はすぐさま命令を出した。

 

「五十鈴、赤城、連行。」

 

「はぁ......了解。」

 

やれやれと言わんばかりに五十鈴は手を挙げて執務室を出て行った。

ちなみに五十鈴は鎮守府にあった五十鈴の艤装全ての練度を上げて21号電探を回収したので、任務が解かれていた。それが終わったのが昨日だったので、夕張のレベリングが入ったのだ。

 

「提督。」

 

「なんだ?」

 

俺が溜息を吐いて頭を掻いていると、神通がまた俺を呼んだ。

 

「蒼龍さんのときもこんなことありましたよね?その時も赤城さんを連行したみたいですが、どうしてですか?」

 

そう言った神通は抱えていた書類を俺の目の前に置いた。抱えていたと言っても数枚だが。

 

「俺が気紛れで開発と建造を赤城に頼むことがあるんだ。開発は艦載機でって言ってあるが、建造は自由にやって貰っている。俺はそれを『特務』って言ってるけどね。」

 

「はぁ......。でもなぜ赤城さんに?」

 

「ウチの傘下の空母の中で一番信頼しているからだな。少しアレだけど。」

 

そう言って俺は書類に視線を落とした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「赤城さんを連れてきたわよ。」

 

そう言って五十鈴が執務室に戻ってきた。

その連れられてきた赤城は五十鈴の影に隠れているが、身長差ゆえに隠れきれてない。

 

「赤城、また『特務』で......。」

 

「またやっちゃいました......。今すぐに呼んできますっ!!!」

 

そう言って赤城は執務室を飛び出していった。その姿は今まで見たことなかったので少し新鮮だったが、神通はポカーンとしていた。五十鈴は古参組なので偶にその姿を見ていたのだろう、やれやれと言った感じで首を振っている。と、その時俺は持っていたペンを机の下に落としてしまった。

コロコロと転がり、座りながらでは届かないところに入ってしまったので俺は椅子から降りて屈んで机の下に潜り込んだ。

そうすると赤城がすぐに鈴谷を連れて戻ってきた。何か話しながら来たみたいだ。

 

「すみません、鈴谷さん。この前のでここの案内を忘れてました。」

 

「赤城さんしっかりして下さいよぉ~。って、ここって執務室?」

 

「はい。」

 

そう言って赤城は執務室の扉を開いた。

鈴谷は物珍しそうに執務室を見渡して、何で秘書艦が2人もいるんですか?とか赤城に訊いているが、なんで驚かないんだろう。

俺はペンを手に取ると、よっこいせと言って椅子に座りなおすと、鈴谷が何かを言いかけて口を止めた。

 

「ふーん。やっぱり提督は居ないのかぁ......。もう艦隊司令部レベルも提督着任条件を超えているけど、レア艦がいっぱい進水してたから散々歩き回って探したんだけ......ど......。」

 

俺の顔を見るなり鈴谷はフリーズした。

なんか不味いものでも見たのかと俺は一瞬不安になったが、鈴谷が瞬時に警戒したのを見て俺は何事かと身構えた。

 

「っ!?なんでこんなところに人間がいるの!?」

 

と俺に対する第一声がそれだった。俺は椅子から滑り落ちそうになるのを堪えて、座りなおしたが鈴谷は続けて俺に訴えた。

 

「そこは鈴谷の提督が座る椅子でしょ!?鈴谷は進水した直後の案内で提督のところに連れてこられなかったから着任してないと思って、それでも少し期待して歩いて探したのにっ!!誰っ!?」

 

その必死な訴えに俺は質素に返した。

 

「その提督だけど?」

 

「はいっ?!」

 

そう訊き返した鈴谷はみるみるうちに顔が赤くなっていった。

俺はそんな鈴谷から視線を外し、赤城を見る。

 

「赤城。」

 

「はい......。」

 

「彗星と流星......蒼龍に載せ換えようかなぁ。」

 

「いやっ!!それは私の艦載機ですっ!!」

 

「次は?」

 

「もうしません......。」

 

俺はそれだけすると、鈴谷に視線を戻した。さっきは顔を真っ赤にしていたが、今度は口をパクパクしている。なんか金魚みたい。

 

「......本当に鈴谷の提督?」

 

「そうだけど?」

 

「ここの司令官?」

 

「そうだけど?」

 

よく分からないやり取りをすると鈴谷はパァーと笑顔になった。さっきまでも険しい表情や、怒りの表情から一転したのだ。

 

「ホントのホントに鈴谷の提督なの?!」

 

「だからそうだって言ってる。」

 

「やったー!!提督の着任してる鎮守府に鈴谷は進水したんだー!!!」

 

と最終確認的なのをした後に鈴谷は飛び跳ねて喜んだ。ここに新造艦で来る艦娘全員がこんな感じなので、俺はもう見飽きて来ていたが、鈴谷は俺がど滑りすることを言った。

 

「確率的に提督の着任している鎮守府に進水する可能性はゼロって言われてたのに、提督のいる鎮守府に進水できるなんて鈴谷、チョーラッキーじゃん!!!って事で明日から鈴谷を秘書艦にしてね!!」

 

それを訊いた鈴谷以外全員は同じタイミングで言った。

 

「「「「金剛かコイツ......。」」」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

鈴谷の秘書艦にしてして攻撃はそのあと1時間以上続き、最終的には熊野を呼んでみたところ熊野はプンスカと怒り始めた。

 

「鈴谷さんっ!提督を困らせちゃいけませんわっ!!さぁ、行きますわよ!!!」

 

「痛いって熊野ぉ~!!耳っ!耳が千切れるっ!!!提督ぅ~助けてぇ~!!」

 

と言って強制退出した鈴谷と入れ替わりで雪風が戻ってきた。

今日は何だか雪風の様子がおかしかった。それに、いつも新造艦の艦娘を連れ居るのに今日は1人だった。

 

「司令ぇ......すみません。雪風、やっちゃいました......。」

 

そう言って雪風からの報告が始まった。

開発では九三式水中聴音機しか開発できず、他は全部失敗に終わったという事。建造では千歳の艤装、雪風の艤装、羽黒の艤装、神通の艤装を出した様だ。

雪風の艤装を出した辺り、十分幸運な気がするが今までの経歴から考えて今日は失敗という事らしい。

 

「大丈夫だ。そういう日だってあるんだ。また明日、頑張ってくれ。」

 




新登場と鈴谷ですが、いろんなSSであるような処○ビッ○とかじゃなく、金剛の性格っぽくしました。私見ではありますが、金剛とどことなく似ている気がするんですよね......。主に性格。
今日は珍しく雪風が雪風しませんでした......。それでもソナーを持ってくるというww

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第三十一話  工作員、艦娘の怒り。①

今回は最近の単発から脱して、シリーズに入ります。
あと、本話を読めばわかりますが、雪風の開発日記の内容が少し変わりますのでよろしくお願いします。


はぁ~。」

 

俺は執務を終えると、疲れた様な声を出して背伸びをした。

まぁ、いつも通りの午前終わりだったが、書類はいつも通りの数しかなかった。

 

「お疲れ様です。」

 

俺の横に立っていたのは、今日の秘書官の加賀だ。

毎日の秘書艦ローテーションで秘書艦になったのは初めてだ。いつも赤城と一緒に来て、仕事を覚えていたからか執務の手伝いをしてくれた。

前から思っていたが、俺の中での加賀のイメージは無表情・無反応・冷たい態度的なのを想像していたが、そうでもなかった。

面白ければ笑うし、ちゃんと反応も返してくれる。態度もフランクって言ってもいいだろう。俺の中でのイメージが出来上がった原因はきっと、雰囲気だと感じていた。

 

「では、提出に行ってきますね。」

 

そう言って加賀は俺の机に乗っていた片付いた書類を手に取ると、鎮守府にある事務所に向かった。そこは、鎮守府の行う行動全ての報告書が集約されて、軍の本部に送られる場所だ。

 

「いってらっしゃい。」

 

俺はそう返すと、外を眺めた。

外は青空が広がり、埠頭に停泊している艤装が見えた。長門、陸奥、赤城、加賀、高雄、愛宕、摩耶、鳥海、川内、神通、那珂、五十鈴、夕張、吹雪、白雪、時雨、雪風、島風、綾波、敷波。改造が施されて、かなりの頻度で出撃する艤装が停泊し、残りは倉庫の方にあるらしい。

今日の出撃は無く、演習と遠征だけだ。朝食を済ませて数十分後に、埠頭から遠征艦隊が遠征に向かうのを眺めていたのを覚えている。眺めている俺に仕事をして欲しいと加賀に怒られて仕事を始めたのも記憶にあった。

 

 

「そう言えば、工廠からのアレがあったような。」

 

俺は提出しない書類の中から、工廠から届いた書類を引き抜いた。

それにはこの前、発見された新たな艦載機である雷電改に関する書類だ。それと雷電改以外にもイレギュラーが工廠で起きている様で、建造は分からないが、開発に関しては狙った装備を開発できるようになっていたらしい。これまで気付かなかったと食堂であった時に白衣の妖精から聞いていた。

そのため、開発を雪風に任せはしているが、物の指定ができるので、実質雪風に頼っているのは建造だけだった。

白衣の妖精曰く『建造に関しては完全自動化されているので、指定が出来ません。運だよりですね。』とのことだった。

俺が工廠からの書類を眺めていると、ある一枚の書類に目が行った。

門番詰所の、しかも隊長からの書類だった。門番詰所から届く書類はこれまでなかったので何事かと思い、見てみた。

 

『提督殿。ここ数日、外周塀付近に不審な人を門兵がよく見かけております。目撃した門兵曰く、全員男で身体つきは兵士そのものだとか。その事に関して話がありますので、詰所までお越し頂けませんか?』

 

というものだった。

俺は加賀への置手紙を書くとすぐに執務室を出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

詰所には隊長とこの前の休暇で護衛に就いてくれた二等兵が居た。

 

「すみません。お呼び出ししてしまって。」

 

「いえ、大丈夫ですよ。執務も終わっていましたし。」

 

俺は用意されていた椅子に座ると、隊長もその正面に座り、二等兵はその横に立った。

 

「そう言えば先日、自己紹介を忘れていました。私は門兵、警備部隊長の武下大尉です。」

 

俺はそう言った武下大尉の自己紹介を訊いて、この世界に来てまともな自己紹介をしたなと思いつつ、よろしくお願いしますとだけ言って話題を切り出した。

 

「それで、どういったご用件でしょうか。不審人物に関してだという事は分かってますが。」

 

「えぇ、その不審人物に関してです。」

 

そう言うと武下大尉はどこかから本を出してきて、俺の目の前に置いた。そこには組織図が書かれている。

 

「提督の素性は我々も分かっておりますので、その話をする前に我々の組織に関して説明されていただきます。」

 

そう言って武下大尉は話し出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「艦娘が現れた後、自衛隊は解体されて軍となりました。艦娘の言う『人間』とは軍所属の人間の事を指してます。」

 

「陸海空と構成された軍は、深海棲艦との闘いで海軍のみ力を失っていました。艦艇は悉く沈められましたから。」

 

「軍に関してはここまでです。ここからは鎮守府に関連のある組織についてです。」

 

「鎮守府に常駐している人間は全員海軍の人間です。そして出入りする人間は全員陸軍の人間です。具体的には海軍は、海軍人事部、海軍拠点常駐部。陸軍は、陸軍兵站部です。」

 

「以上が関連のある組織です。ここからは本題に入らせていただきます。」

 

「門兵が目撃した不審人物に関しては具体的な組織と目的まで分かりました。というか、それ以外の組織・目的がないんですよ。」

 

「不審人物は海軍諜報部。目的は提督の暗殺です。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

武下大尉から発せられた言葉に俺は理解出来なかった。

俺が暗殺される。

理由が分からなかった。

 

「......どうして自分が暗殺されるんですか?」

 

そう俺が訊くと、武下大尉が俺に訊いてきた。

 

「海軍上層部は提督の着任はありえないと目論んでいたんですよ。ですが、提督が着任されました。この世界の鎮守府で提督が着任されているところはこの鎮守府の他はありません。これまで海軍は提督のいらした世界から送られてくる指令書を無機質に処理して深海棲艦を駆逐していくシステムに満足していたんですよ。ですが、面と面の指示が出ている鎮守府が出来てしまった。海軍はそのイレギュラーの排除に乗り出したんです。」

 

「そのイレギュラーが自分という事ですか。」

 

「そうです。提督の着任は夢物語だと思っていた艦娘の中である鎮守府に提督が着任したらしいという噂が流れたらどうなるのでしょうね。」

 

そう言って武下大尉は溜息を吐いた。

 

「......システムに発生したバグを消すんですよね。」

 

「えぇ。無機質になるべく艦娘に関わらずに深海棲艦を殲滅することが海軍上層部の意向です。そのための、バグの消去。提督の暗殺という事なんです。」

 

「では不審人物というのが諜報員だと分かったという訳ですね。」

 

そう言うと武下大尉は頷いた。

 

「私はこちらの世界の事情で別の世界の人間である提督が暗殺されてしまうのは許せないのです。ですので、提督の耳に入れていただこうとお呼び出ししました。」

 

そう言った武下大尉は何かを覚悟したかのような表情をしている。

 

「提督を護衛出来ればよいのですが、艦娘には我々は結構嫌われているようですので直接は何もできません。」

 

そう言った武下大尉の言葉に続くかのように二等兵が割って入ってきた。

 

「ですがっ!その護衛を艦娘に頼むのはどうでしょうか?!自分は風のうわさで艦娘は『提督という存在にかなり執着する。』と聞いてます!我々のような人間よりも遥かに高度な護衛ができると思うのですが?!」

 

そう言った二等兵は言い切ると武下大尉の拳が飛んできてそれが腹部を直撃した。

 

「......この二等兵が言った通り、我々がやらねばいけない仕事を艦娘に頼んでは貰えないでしょうか?我々は周辺警備を強化いたします。」

 

そう言って武下大尉は何かの書類を懐から出した。

 

「これは提督権限でこの鎮守府の組織の制限を解除する書類です。」

 

そう言って武下大尉は続けて言った。

 

「この鎮守府は言うなれば一つの国家としてとらえる事も出来ます。ですので、鎮守府の最高司令官である提督が権限で鎮守府に存在する組織の権限を制限開放ができるんです。どうか、これをお使いください。」

 

そう言って武下大尉が俺に差し出した書類には『警備部に逮捕権を与える。』とだけ書かれた紙だった。その下に俺の書くであろうサイン欄がある。

俺は黙ってそのサイン欄にサインをした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は内心イライラしていた。

この世界に振り回されて、さらに殺されると来たものだ。自分勝手な軍に対しての怒りだった。

その姿を執務室に帰ってきた加賀が見ていた。

 

「てっ......提督?どうされたの?」

 

俺は声を掛けてくれた加賀にある事を言った。

 

「赤城を呼んでくれ。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「提督、どうされました?」

 

加賀に連れられた赤城が執務室に入ってきた。俺がどうして赤城を呼んだかと言うと、門兵詰所に行ったことのあると言うのを訊いたからだ(※第二十五話参照)。

それに、一番理解が早いのではないかと俺の勝手な赤城への想像だった。

 

「すまんが、加賀。少し席を外しては貰えないか?」

 

「えっ......えぇ。」

 

俺は加賀に訊かれたら不味いと思い、執務室から出てもらう事にした。執務室には俺と赤城の2人だけになった。

 

「えっと......どういった御用で......。」

 

そう戸惑いながら言った赤城に順を追って説明をし始めた。門兵からの報告、呼び出し、会話内容、俺の暗殺に関して、全て話した。

最後に俺の暗殺される理由を言った瞬間、赤城からただならぬオーラが出たのを感じた。怒り、憎悪、それを皮膚を直接刺激するくらいのオーラだ。

赤城はいつものニコニコとした温かい表情から一転し、オーラにあう表情をしている。ゾクゾクとする寒気がするくらいだ。

 

「それは、許せませんね......。私たちの提督に愚かにも手を掛けようとするなど......。」

 

「あぁ。俺もこんな理由で殺されるのは嫌だ。だから先ず手始めに赤城に頼む。......護衛を頼めるか?」

 

そう言うと赤城は頷き、その瞬間、赤城の身体が光で覆われた。

その光に覆われて数秒後、赤城の周りの光は無くなり、赤城は見慣れぬものを持っていた。

甲板のような模様の板。和弓。矢を収める矢筒。手にはグローブのようなものを付けている。この姿に俺は記憶があった。この姿は俺の居た世界での艦これでのキャラのしていた艤装だ。

 

「これならば何処でも艦載機を発艦させる事が出来ます。提督、ご安心下さい。」

 

そう言って赤城は微笑んだ。そして顎に手をやって考え始めると、何かを思いついたのか、部屋の外で待っているだろう加賀を呼んだ。

 

「加賀さん、戻ってきてください。」

 

そう赤城が言ったのが聞こえたのか、加賀は執務室に入ってくるが、赤城の様子を見て驚いていた。

 

「加賀さん。人間が奪いに来ます。」

 

その俺には分からない抽象的な言葉だけで分かったのか、加賀も赤城同様に光に包まれて俺の見たことのある格好になった。そして加賀の顔がとてつもなく怖い顔をしていた。

 

「提督。開発をしてもいいですか?」

 

そう言った赤城は加賀に目配せをして俺の方に向きなおるとハッキリと言った。

 

「偵察機が欲しいです。確か、彩雲が開発できたと思うので。」

 

俺はそれに黙って頷くと加賀は光に包まれていつもの格好に戻ると執務室を飛び出していった。

 

「この件を艦娘全員に知れるのは時間の問題ですので、昼に集まる際に連絡しましょう。」

 

そう言った赤城に俺は黙って従う事にした。

これまでに見たことのない赤城の姿。いつもはおっちょこちょいで結構お茶目な赤城だが、今の赤城にはそれが微塵もない。厳格な軍人の様に見えるのだ。

 




いやぁ、赤城の別の一面と新しい設定の追加です。
これまでは軍艦の指揮をする艦長的な役目をはたしていた艦娘が艤装を変化されて体と直接つなげるというw

これ、本当に大丈夫かと思う作者です。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第三十二話  工作員、艦娘の怒り。②

 
昨日は投稿できませんでした。足釣ったまま寝てしまった(←どういう状況)




昼になり、赤城に言われた通りその時いるメンバーに俺の暗殺を目論んだ動きが報告されたと連絡を入れると食堂内で殺気が沸いた。

今にもその殺気で人を殺せるのではないかという勢い。ピリピリと張り詰めた空気に俺は飲まれていた。

ここまで怒るとは思えなかったのだ。そしてその空気の中、赤城が話し出した。

 

「提督。私にこの件を任せてはくれないでしょうか?」

 

そう言ったのだ。

この件を任せる。その意味として、当事者である俺がどうこういう訳では無く、赤城がどうにかするというのだ。

 

「任せるって、俺は警備部との連携も考えていたんだが?」

 

「門兵詰所で私がテレビを見たことは知ってるじゃないですか。あそこの隊長とは何度か話したこともありますし、あの隊長なら人間でも私は信用できると思います。」

 

そう言ったので俺は黙って頷くと、赤城が声を挙げた。

 

「この件に関して私、一航戦 赤城が指揮を執りますっ!!指揮の元、艦娘は迅速に行動されたしっ!!呼び出す艦娘は集合っ!比叡さん、時雨さん、夕立さん、朝潮さんっ!!」

 

そう赤城が呼び出すと、目にも留まらぬ速さで赤城の前に呼ばれた4人が姿を現した。

 

「比叡さんを旗艦とする『番犬艦隊』を編成、常に艤装を身体に纏い、提督の護衛に尽力して下さい。」

 

「「「「了解!(っぽい!)」」」」

 

と、早速対策が出された。

赤城の呼び出した比叡、時雨、夕立、朝潮はウチの艦隊司令部でよく犬っぽいと言われている艦娘だ。比叡は金剛にじゃれつく姿と、『待てっ!』というと待つ仕草から。時雨と夕立は時雨は何故か分からないが夕立はその犬っぽい髪型からだろう。朝潮は提督である俺に対する従順な姿勢からだろう。

取りあえずこの艦隊名を付けた赤城に言いたい。実に合ってる。

 

「空母の艦娘は私と共に彩雲、零戦で鎮守府上空を24時間体制で哨戒します!その他の艦娘は3人1組で警備艦隊を結成。名簿が出来次第、警備部と連携を取って鎮守府内巡回です!番犬艦隊同様、哨戒・巡回中は艤装を身に纏う事。」

 

その一声で食堂内がざわつき始め、警備艦隊が結成されていく。どうやら皆、バランスを考えての編成みたいだった。全体的に艦種が偏らない様な編成になっていく。

警備艦隊はものの10分で組終わり、それぞれの旗艦が赤城に報告していく。

 

「全員決まりましたね。では警備部の方には私が話を付けますので、警備艦隊は待機、空母の艦娘は2人ずつ哨戒任務をお願いします。」

 

といった感じに、流れるように決まっていった。

この間、俺は何をすればいいのか悩んでいたが、結局番犬艦隊の連中に囲まれたままだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼食後、俺は赤城の指揮で始まった工作員に対する警戒を鑑みて燃料とボーキサイトが多く手に入る遠征艦隊を組んでいた。

因みに、日ごろから遠征艦隊に組まれている軽巡・駆逐の艦娘は遠征がある事を悟っていたのか、警備艦隊の編成には加わっていない。その代り、ひっ切りなしに遠征任務に出ると意気込んでいた。特に球磨。

今は執務室に戻り、赤城と番犬艦隊の連中に囲まれている。執務は午前で終わっていたので、手持無沙汰になっており、取りあえず本を読んでいた。

逐一報告が入るのかと思っていたが、そういう訳では無いらしく、哨戒の空母の艦娘の艦載機が交代毎に状況報告に飛んでくるだけみたいだった。あと赤城は昼食を終えると早々に門兵詰所に赴いていた。そしてすぐに連携を取り付けたそうな。

 

「司令、工作員って塀の向こう側をウロウロしていたんですか?」

 

唐突に比叡が訊いてきた。

 

「そうみたいだ。何度も来てウロウロしていたと。」

 

「それは侵入するための偵察なのでしょうか?だとしたらその工作員、諜報部とか言う割に結構間抜けですね。」

 

そう比叡は言った。俺には間抜けな意味が判らなかったが、他の番犬艦隊の夕立や時雨、朝潮は分かった様で頷いている。

 

「確かに間抜けだね。僕だったらスパイとか使うけどな......。」

 

そう時雨が言った。スパイを使う。諜報員を送り込むという事だ。もしスパイだったとしたら外の不審人物はフェイクで、本命は既に鎮守府内に入っている事になる。

一瞬、その場の空気が張り詰めた。

 

「そもそも人間が私たちの提督さんをこんな風にしか用意できないのが悪いっぽい。必死に頑張らせておいて、いざ提督さんが着任すると都合が悪いって言って暗殺とか......意味わからないわ。」

 

「そうですね。私たち艦娘の扱いが最悪なのは前からでしたが、ここまで酷いと私たちが蜂起するとか考えないんでしょうか?」

 

続けて夕立と比叡もそう言った。2人のいう事は最もだった。自らが指揮する訳では無く、別の世界の人間を徴用して艦娘の前には姿を現せないようにして危険な戦地に赴かせて、自分らは艦娘が回収してくる資源と妖精が開発した食糧生産プラントで肥える。艦娘が知るこの世界の人間のすべてだった。

 

「取りあえず4人で俺を囲むのをやめてくれ。」

 

そう言って俺が溜息を吐いた。

これまでの会話は俺の周りの4方を番犬艦隊が囲んだ形で会話がされていた。俺を中心に会話をするのは、話に入っていない俺からしたら結構苦痛だ。それに俺も一応人間なんだよね。今までツッコまなかったけど。

 

「いえ!こうでもしないと意味がありませんので。」

 

そう言って朝潮は身長が足りないのか、ピョンピョン跳ねてそう言った。

 

「そうか?」

 

俺は首を傾げつつ、取りあえずやめるように言った。

それからも本当に番犬艦隊は俺と行動を共にした。移動する道すがら金剛と鈴谷にすれ違う度に、なんか視線を感じたが俺は気にせず移動をしていた。

歩いている道中、ひっきりなしに聞こえるのは哨戒中の彩雲だ。実物スケールではなく、何だか縮小されている。飛び去っていく艦載機は1秒につき4機。結構な頻度だ。

それと鎮守府の外では警備艦隊だろうか、艤装を身に纏って外を歩いている。というか、警備をしている。門兵詰所も総動員しているのか、詰所の入り口に必ず人が立っているが、今日は立っていない。

それと移動中の建物内はとてつもない殺気で充満していた。どうやら待機中の警備艦隊がその雰囲気を醸し出している様だ。それを考えると番犬艦隊はまだいい空気なのだろう。夕立はさっきから鼻歌歌いながら歩いている。

 

「そういえばどこに行くのかしら?」

 

そう言って鼻歌を途中で切り上げた夕立は唐突に聞いてきた。

 

「屋上だよ。確かめたい事があるんだ。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

屋上には五十鈴に案内されて以来来てなかったが、今日は久しぶりに来てみた。どうやら自由に出入りできるように、出入り口にはかぎが掛かってなかった。

五十鈴の時もそうだが、すんなり入れて内心かなり驚いている。

 

「外の風は気持ちいな。」

 

俺はそう呟いて、吹き付ける潮風を浴びた。

いつもそうだが、午前中に執務をして残りは執務ではない事をやっているから基本的に執務室と食堂、私室しか行っていないのだ。せっかく五十鈴に案内してもらっても、それ以来行ってないところがたくさんある。この屋上もそうだった。

 

「ですね。私やお姉様、妹たちもよく来てますよ?」

 

「夕立はあんまりかな......。」

 

「僕も......。」

 

「私は初めてきました。」

 

4人多種多様な反応をしてくれたが、俺はそれにはお構いなしに風に当たっている。暑過ぎない日差しに、寒すぎない風。とても愛称が良く、さわやかな気分に段々なっていった。

 

「さて、戻るか。」

 

俺は十分に風に当たると、そう言って4人を連れて再び室内に戻って行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼の後は屋上に行った以外、いつも通り過ごし、既に夕食の時間になっていた。

俺が4人と赤城で来ると、いつも和気藹々としている食堂には重苦しい雰囲気が流れていた。

赤城曰く『収穫なし』とのこと。一刻も早く捕まえたい様子だった。だが、この夕食後も警備は24時間体制で行うとのことなので、この後も警備艦隊が何個か出て行くようだった。ちなみに空母は夜間飛行が難しいらしく、やらないと赤城から聞いていた。

夕食はいつもなら誰かと話しながら食べているが、今日はどうやら未菜そんな気分じゃないらしい。凄く静かに食べている。俺もいつもよりかなり早く食べ終わってしまったのですぐに執務室に帰った。正直、こんな空気の食堂に居たくないと感じていたからだ。

執務室に帰ると、番犬艦隊のメンバーが全員交代で見張りをするとのことだったので、羽織れるものを貸して俺はすぐに寝る事にした。いつもより早い就寝だった。

 




番犬艦隊結成です。
このネタは前々から用意していたので、やっと使えたって感じです。メンツに違和感がある方がいるかもしれませんが、あれは作者の偏見で決まった艦隊ですのであしからず。

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第三十三話  工作員、艦娘の怒り。③

 

赤城指揮の下の航空哨戒と合同警備が始まって一週間が経っていた。

これまでの鎮守府侵入者は無し。不審人物はいつもの男のみ。至って平和だった。

それまではずっと比叡と夕立、時雨、朝潮と過ごし、寝るときも俺の寝室で寝ていた。

それに関しては一部の艦娘から抗議があったようだが、赤城が一蹴したそうな。いつもの赤城でない事に俺は戸惑いを感じつつも護衛の下で執務をしていた。

執務に関しては最低限の遠征のみしか行っていないので、いつもすぐ終わるくらいしかない執務も一段と早く終わる。たとえるなら学校から課される宿題のプリント一枚的な奴だ。

執務を始めてものの30分でその日の執務が終わるのだ。

 

「あー、暇だ。」

 

そんな事を呟いたのは、午前11時。いつもこれくらいに執務が終わるというのに、ここ一週間は2時間前に終わっている。

本を読むのにも飽きてきていて、手持無沙汰なのだ。

そうしていると、執務室にゾロゾロと工廠の妖精が入ってきた。何事かと身構えたが、どうやら彼女らも仕事が無くて暇だという事だ。いつもなら建造や開発などをした後、工廠を綺麗にする事で結構な時間を使っていたから、最近していない建造や開発によって汚れる事無く、暇すぎたので磨いたらしい。今日、それすらも終わってしまったらしい。本当に暇だとのこと。

俺はある事を考えていた。艦娘の待遇改善。鎮守府から出ずとも娯楽が楽しめる施設を作るのはどうだろうかと考えた。

この課題は話題には出さなかったが、日ごろから俺が考えていたことだ。いつもなら色々としていて結局提案せずじまいなので、丁度良かった。

 

「施設を作る事は出来るか?」

 

「えぇ、もちろん!」

 

俺はそう元気よく答えた妖精に何を頼もうかと考え出した。食べもを買える場所。最初に思い付いたのはそれだった。

以前、蒼龍が早朝に腹を空かせて俺の部屋に来ていたのを思い出したのだ。この鎮守府では食堂で出るご飯以外は手に入らないらしい。嗜好品なんて以ての外だそうだ。

だが、新築しても仕方ない。酒保を増設して置くものを増やしてもらう事にしよう、そう思い至った。

 

「じゃあ、酒保の拡張を頼む。」

 

「どれくらいの広さに?」

 

「取りあえず倍だ。」

 

「了解っ!行くよっ!!」

 

俺が妖精に頼むと、相当暇だったのか今すぐ始めるらしい。早々に部屋を出て行ってしまった。

 

「提督。」

 

その姿を見送った後、時雨が話しかけてきた。

 

「どうして酒保を拡張するんだい?」

 

凄く素朴な質問を俺にしてきた。時雨はどうやらあの酒保で満足しているらしいが、俺からしてみたら小さい店もいいところだった。手に入るのはタオルと下着くらいだったから(※一度行って恥かいた)拡張したいのは俺の願望でもあった。

 

「買えるものを増やすんだ。今はタオルと下着しか売ってないだろう?そこに食料品を増やそうと思うんだ。」

 

そう言うと時雨はふーんとだけ言って、さっきまで読んでいた俺の貸した本に目線を戻してしまった。

ちなみに番犬艦隊のメンバーは思い思いに過ごしている。それでも俺の護衛はやっているが。

比叡は戦術指南書の戦艦に関する物、夕立と時雨は俺の貸した本、朝潮は俺の前で正座している。何故正座しているのか聞いたが、よくわからない回答しか返ってこなかったので俺も気にしない事にした。

はたから見たら相当カオスな状況だが、俺はもう見慣れた。これが一週間続いたからな。

それにしても比叡が戦術指南書を読んでいる姿は笑える。そういう者には疎いと思っていたからだ。

 

「ん?何ですか、司令?」

 

俺の視線に気づいたのか、比叡が本から顔を外して俺を見たが俺は何でもないと言ってすぐに視線を戻させた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

こんな事をして俺は執務室に居たが、外では色々な事があったらしい。報告では、陸軍兵站隊の輸送トラックは今まで顔パスで入れたそうだが、今回の事で警備がかなり厳重になり、艦娘と門兵による身体検査と物資確認が行われるようになったらし。最初の補給トラックの運転手は心底驚いた表情をしていたらしい。

それと上空を飛んでいる哨戒機の数が尋常じゃなく、3日前に衝突事故があったと報告書が入っていた。誰の艦載機かは知らないが、問題にはならなかった。

更に、鎮守府敷地内の巡回が4個警備艦隊だったのが今では倍の8個警備艦隊が巡回しているそうだ。その数では回り切れないと赤城は言ったらしいのだが、そこまで密な警戒がしたいとのことだったのげ許したらしい。

と、様々な事が起きていたと言うのを赤城から聞いている。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼過ぎに突然、赤城が血相変えて執務室に入ってきた。

 

「番犬は臨戦態勢に移行して下さいっ!提督っ!」

 

どうやら侵入者が居るらしい。

さっきまで各々の過ごし方をしていたが、すぐに俺の周りを囲んだ。

 

「提督と番犬は避難場所に移動して下さいっ!」

 

そう言うと赤城は走り去った。走る後ろ姿で、あれが見えそうになったがそれは黙っておく。

さっき赤城の言った避難場所とは鳳翔のところだ。

侵入者があった場合、埠頭に停泊している鳳翔に乗り込むことが決まっていた。いつの間にか決まり、俺はそれに従っているだけだが。

 

「司令っ!行きますよ!全艦、輪形陣っ!」

 

そう比叡は言って俺の腕を引いて走り出した。これから俺たちは鳳翔の元へ向かう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

埠頭では鳳翔が待っており、俺と番犬艦隊のメンバーはすぐに乗り込んだ。

この先、どうするかは聞いていないが、どうやら籠城という形らしい。

入り口は全て閉鎖するとさっき鳳翔から説明があった。いつも穏やかな表情をしているが、今日はどこか違和感のある笑顔だった。

俺は気にも留めずに鳳翔の後を追った。

鳳翔に籠城して数時間が経った頃、赤城から侵入者の確保が知らされた。それはどうやら斥候だったらしいが、脅威度的には其処まで高くないので鎮守府の幽閉施設に収容される事になったと後あとから報告を受けた。

結局、鳳翔に籠城して出てきたのは夜を回っていて、俺はこれがあと何回も続くのかと思うとうんざりしてならなかった。

 





今日は思ったほど、書けてませんでしたね。
このシリーズはもうそろそろ終わらせるつもりなので。いつまで続くのやら......。

ちなみに番犬艦隊を番犬とまで訳すようになってしまったのは悪気はないです。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第三十四話  工作員、艦娘の怒り。④


最近忙しくて書いてられませんでした......。艦これもやってられなかった......。
という訳で続きです。



 

鳳翔の艤装に乗り込んだ俺と番犬艦隊は鳳翔に連れられて艦載機格納庫に来ていた。

 

「提督。ここなら安全ですよ。」

 

そう微笑んだ鳳翔に、俺と番犬艦隊のメンバーの緊張が途切れた。

それまでの移動では影をなるべく歩き、警備艦隊と門兵の混成警備部隊が俺の護衛に外を歩いていたが、その間はずっと警戒していた。そのせいか、鳳翔の艤装に乗り込むとすぐに気が抜け、予定していた格納庫に到着するや否な糸が切れたようになったのだ。

 

「入口は全て警備が付きますし、侵入はされないでしょうね。あとは警備部隊が侵入者を捕獲してくれさえすれば出れますから。」

 

そう言って鳳翔は格納庫にあった零戦21型の主翼に座った。よいしょっとといった感じで少し高い位置にある翼に乗り上げると、足をぶらぶらさせて座った。その後に提督もどうですかと尋ねられて、まだ大丈夫だとだけ答えて格納庫の中を見渡した。

格納されている艦載機には全て識別のためだろう、胴体部にマーキングがされている。だが暗くて色までは分からない。

 

「それにしても、提督。」

 

「ん?」

 

突然呼ばれて俺は鳳翔の方を見た。

 

「赤城さんに全て任せても良かったのですか?」

 

俺はその質問をもう一度訊き返そうか迷った。

全て任せてよかったのか。その言葉は、俺が何も指示せずとも事が片付いたのかと言う意味なのだろうか。それとも、赤城に対する皮肉なのか。

これまで度々色々な事を忘れては俺に怒られてきた赤城の事を鳳翔は何度も見てきたのだろう。同じ空母だ。そんな赤城に今回の俺の命が懸ったこの事件を赤城に指揮を委ねてよかったのかという事なのだろう。

俺が答えに困り、辺りを見ると夕立と時雨も俺を見て黙っている。彼女らもその事に関して疑問に持っていたのだろうか。だが、俺はそんな赤城でも任せてもいいと思い至って赤城に指揮を委ねたのだ。

 

「俺は良かったと思うぞ。あれでもウチの古参だ。」

 

「そうですか......ならいいですけど。」

 

そう言って鳳翔は再び足をパタパタさせ始めた。

 

「ですが提督。私なら、私の艤装の飛行甲板にも数人、艦娘を配置しますよ?」

 

唐突にそう言い放った鳳翔は暗くてよくわからないが、笑っている。

それを訊いて俺は心臓が飛び跳ねた。甲板に配置が無い。それは、もし上空から侵入されて且つ俺が鳳翔の艤装に逃げ込むのを見られていたら......降下部隊で制圧されてしまい、物量に物を言わせて潰しに来るだろう。いつ訊いたか覚えてないが、資源輸送の為にこちらの世界の人間もほんの一握りだが提督が居るとの事。そこの配下の艤装を身に纏った艦娘が降下部隊に混ざっていたら......そんな予感が脳裏を過った。

 

「大丈夫でしょうが......。」

 

鳳翔はそう言って格納庫の天井を見上げた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

外では艦娘総動員でありとあらゆるところで侵入者捜索が行われていた。

皆血眼になって探している。艤装の砲を視線の先に向けていつでも砲撃できるように構えながら警戒している。上空でも空母たちの艦載機による哨戒が行わている。現状、何も連絡が入ってこない辺りを鑑みると、まだ発見できていないのだろう。そう考えるのが自然だった。

数多とある艦隊のとある警備艦隊で共に血眼になって侵入者を探している彼女、最上も皆と同じ気持ちだった。

初め、提督口から訊いた『暗殺されるだろう。』と言う言葉を聞いたとき、最上の心の中で何かが動いたのだ。

最上が進水した時には既に提督は着任していたが、建造をしてくれた霧島と案内をしてくれた熊野からは一切聞かされず、自分は他の自分と同じ様に提督の居ない鎮守府でただ無機質に来る命令通りに出撃して、褒めてくれない印刷機のある執務室に報告書を持っていくものだとばかり思っていた。だが、最上は提督が着任している事を知らされて驚いた。

提督が着任している鎮守府に進水できる事なんて確率で言えばほぼ0%だ。最上の深層心理にもそれは深く刻み込まれていた。

提督の姿を初めてみたのは最上が進水して数日後の事だった。その日に金剛が進水したのだ。それまでは提督が着任していると初めは驚いたが、一向にそれらしき姿を見る事は無かった。だが、同じ艦隊司令部の艦娘は揃いも揃って提督提督と言っている。最上は無機質な生活に飽き、求めている提督の幻覚でも見ているのかと思っていた。だがそれは一瞬にして消された。

金剛の歓迎会で提督が金剛と共に挨拶に回っているというのが風のうわさで聴こえたのだ。これも幻覚だろうと最上は疑ってかかったが、何だが重巡の仲間がうるさいと思いそちらに視線を移すとそこには女性しかいない鎮守府に異様な風貌の人が居た。一瞬、人間かと思ったが。やはり人間だ。ただの人間じゃない。周りを囲む艦娘が揃ってその人間を提督と呼んでいた。その人間もそれに否定することなく、艦娘の受け答えをしている。

あれが提督、0%と言われてきた提督だった。最上は席を立ちあがり、今すぐにでも提督のところに駆けて行きたかったが、我慢した。もしここで悪い印象を与えてしまっては、提督に嫌われてしまうかもしれない。提督の周りの艦娘の表情を見る限り、提督はとてもいい人間な様だった。人当たりもいい。それに訊けばここの艦隊司令部の傘下では轟沈なし。ロストという奇妙な記録は残っていたが、バリバリのホワイトだと分かっていた。損傷すればかすり傷でも入渠でき、補給も出撃する度に満足にできる。こんな鎮守府、そうそうない。

何時しか最上の心は提督に向いていた。

だが、それからしばらくしての事。提督の口から告げられた自分の暗殺。

理由を聞けば最悪だった。最上たち艦娘を平等に扱わず、鎮守府という檻に閉じ込めた張本人である人間が提督を暗殺するように仕向けたとの事だった。どのツテの情報かは提督から聞かされなかったが、最上に怒りが積もっていたのは自分自身よくわかっていた。

自由を奪い、権利を奪い、意思がある艦娘を道具の様に扱う人間が、自分たちから今度は提督を奪うと言うのだ。

気付けば、最上はその人間の殺害の事だけを考えていた。自分らの提督に手を下す人間を殺す。自分たちの唯一欲しかった提督を目の前から消そうとする人間を殺す。それしか頭になかった。

 

「くそっ......侵入者......。見つけたらただじゃ置かないぞ。」

 

最上はそう口走っていた。周りの同じ警備艦隊の艦娘も定期的にそんな事を口走っていた。

そんな最上と同じ警備艦隊は由良と白露だ。

それと何故か人間である門兵も共に警備として行動している。本来ならば彼らも人間と一緒で、最上たちに酷い事をするのかと思っていたが、『地上で魚雷は撃たないで下さいよ。』と軽口叩かれてから話す事は全部どんな提督か、いつも何している、そっちの飯は間宮さんとかいうのが作ってるらしいが美味しい、など日常的な事ばかりだった。

ここまで艦娘に敵意を出さない人間に会うのは自分の中での常識ではありえない事だった。

そうして警備している事数時間、不意に門兵が最上に話しかけた。

 

「最上さん......でしたよね?ここの艦隊司令部には一体、何人の艦娘がいらっしゃるのですか?」

 

最上はその言葉に驚いた。これまで人間は艦娘を数える時、『隻』を使っていたが門兵は『人』と言った。気はずっと立っていたが、最上はそれには気付きうれしく思った。

 

「多分......80人くらいだと思います。」

 

「そうなんですね。ならこの総勢100人超の監視網を侵入者はとてもじゃない限り、通り抜けられませんね。ははっ。」

 

そう言って門兵は携えていた小銃を構えなおした。

最上はそんな門兵にこれまでに感じたことのない人間の雰囲気を取っていた。提督のようなそんな雰囲気だ。

その刹那、最上は変な音に気付いた。破裂音の後にすごい速度で迫って飛翔する物が飛ぶ音。それは戦場で聞き慣れた音だった。砲撃音。陸地の方から聞こえたのでこの場合は発砲音だろう。だがその音なら最上も偶に聞いていたが、何だか最上の中で胸騒ぎがし始めた。由良と白露をの方を見てみると、彼女らも同じ胸騒ぎを感じているのか額にうっすら汗をかき、眉毛も垂れ下がっている。

最上は瞬時に状況を考えた。その時、叫び声が聞こえた。その叫び声の持ち主には心当りがあった。夕立だ。

夕立と言えば番犬艦隊として提督の護衛として動いている艦娘だ。そんな艦娘の叫び声だなんて、何かあったに違いない。それも、最上たちが感じていた胸騒ぎに説明が付く事象が。

それを考えた時には最上と由良、白露は走り出していた。

 





この編はいつまで続くのやら......(オイ
とまぁこんな訳で思い立ったネタはそのまま使う作者の悪い癖でございます(白目)
今話の書き方的に先が見えてしまうのは仕方ない......うん。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第三十五話  工作員、艦娘の怒り。⑤

 

俺は数時間鳳翔の格納庫で警備から捕縛した知らせを待っていたが、一向にその連絡は入らなかった。

そして既に日は傾き、空が紅色に染まろうかという時、暇つぶしに格納庫を見て回っていた俺と番犬艦隊はもう見るものが無くなり、ずっと零戦21型に座っていた鳳翔のところに戻ってきた。

 

「あら提督、満足しました?」

 

「あぁ。以前赤城の艤装にも乗ったことがあったが、あの時は飛行甲板に行っただけだったからな。格納庫には入ったけどよく見えなかったし、良かったよ。」

 

俺はそう言って鳳翔に笑った。これは作り笑いではなく、純粋に楽しんだ笑いだった。

 

「そうですか。ここには零戦と九七艦攻しかありませんのに楽しんでいただけたならうれしいです。」

 

そう言って鳳翔は零戦の翼を撫でた。

 

「......最近提督が始めなさったレベリング艦隊の編成ですが、メインで祥鳳型を使っているという事は水面下で彼女たちのレベリングも兼ねているのでしょうか?」

 

会話が途切れて暇なるのが嫌だったのか、鳳翔は俺にそんな事を聞いてきた。

 

「そうだけど、どうして?」

 

「いえ。あの編成では初撃で艦載機がかなりの数の深海棲艦を撃破できるのが目に見えているのでそうかなと思っただけです。」

 

そう言って鳳翔はフフフと笑った。

 

「旗艦に駆逐、戦艦1、重巡2、軽空母2......。随伴が練度足りずでない限り相手に撃たせる事無く勝利できることもある編成だが、元を辿れば資材の消費をなるべく抑える為に長門が出した案なんだ。これのお蔭で結構助かってるところもある。連日の空母建造にかかる資材に関してもそうだ。」

 

俺はそう言って零戦を見た。

 

「そういう理由もあったんですね。」

 

そう言うと鳳翔は俯いてしまった。

 

「ん?」

 

俺は鳳翔が座っている零戦を見ていたので、鳳翔がうなだれるところも視界に入り声を掛けた。

 

「どうかしたのか?」

 

そう言うと鳳翔は黙ったままだった。

 

「......私は世界初の空母として建造された空母、その名を継いでます。単翼機が無かった時代、私は軍の空母として出撃して戦果を挙げてました。ですが時代が進むにつれて前線から遠のき予備艦になった。この姿で生を受けた時、私は再び大海原で艦載機を発艦し、戦果を挙げ提督に褒めていただく事に期待してましたが今も出撃は両手で数える程度......。提督が暗殺されると言う連絡を聞いてから今度こそ提督の役に立とうと空母のペア編成をするときに瑞鶴さんに声を掛けました。ですがその直後に赤城さんに呼ばれて行ってみるとこの任務。艤装で提督を匿い、艤装に私は座っているだけ。..................私は......本当に必要なのでしょうか?匿うならば重厚な戦艦でも良かったですし、潜水艦の艦娘だっています。厚い装甲板の中や海の中の方がよほど安全だと私は思うんです。」

 

そう語る鳳翔に俺はこれまでの編成なんかを思い出していた。

鳳翔は確かに両手で数えられる程度しか出撃していない。それもメインではなく、交代要員。歴史に関しても俺の把握している程度だが、確かに建造されてからはあちこちで引っ張りだこだったかもしれない。だが赤城や加賀が生まれ、正規空母が生まれ行く時代に次第に鳳翔は前線から離れ、予備艦となった。建造中の大和を隠すという任務もあったが、遥かに大きな大和を小柄な鳳翔が隠せる訳もなく、当時の軍人に罵られたという事だ。

だが彼女は知らない。俺が言ってないだけで、執務を把握している赤城が言ってないだけで、鳳翔はどの作戦にも予備艦として登録されていた。俺が着任してからもずっと予備艦には鳳翔。誰か空母が損傷したら鳳翔が出ることになっていた。だが俺の運あってか、毎度損傷が軽微なまま海域を解放してきたが故に鳳翔は出撃する事が無かったのだ。

俺が俺の居た世界でも空母の交代要員は鳳翔と決めていた。あの時には片手で数えて折った回数よりも少ない数しか交代させてないが、少なからず貢献は出来ていたと俺は感じていた。

そんな事を巡らしていると、黙って聞いていた夕立が俺の横に立った。

 

「鳳翔さん、何を勘違いしているのかしら?」

 

そう言った夕立は表情を変えずに続けた。

 

「鳳翔さん、それはこの任を任せた赤城さんの気持ちを踏みにじってるんですよ。鳳翔さん《だから》任せたのではないのですか?」

 

夕立は『だから』という単語を強調して言った。

 

「そうなんでしょうか.......?」

 

鳳翔は元気を無くしてそう言った。

 

「鳳翔さんは知らなかっただけです。夕立は以前秘書艦として執務室に行った時、提督さんの机に置かれていた編成表にはどれにも鳳翔さんが交代要員として備考に書かれていたんです。夕立がレベリング中だった時にも鳳翔さんの名前はずっとありました。順位はどれも2番。出撃する艦娘の次に出る欄に入っていたんです。」

 

そう夕立が言うものの、鳳翔は相変わらずだった。

 

「夕立や他の皆もその順位には賛成なんです。」

 

そう言って夕立は時雨の元に戻っていった。

 

俺はその場に流れる空気が嫌になり、離れる事にした。それだけ言っても信じてくれずに落ち込んだままの鳳翔を見たくなかったのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は鎮守府に背中を向けて夕日を見ていた。鳳翔の飛行甲板には確かに艦娘が立っていない。

潮の音しか聞こえない甲板で俺は溜息を吐いていた。

さっき鳳翔に俺は言ってやれなかった。ただ一言『鳳翔はウチの艦隊司令部に必要な艦だ。』とだけ。

だが俺は言えなかった。確かに鳳翔を俺は予備艦としている。それはあくまで出撃して損傷した空母の代わりという事だが、うちの空母は何故か無傷でいつも帰ってくる。

何でも艦隊が防空にも徹してくれているからだとか。

 

「あぁ......。」

 

今自分の身に置かれた状況も忘れるくらいに俺は悩んだ。

如何すればいいのか。ただそれだけだった。

そのあと、夕立が追いかけてきてくれたのか金属が当たる度に鳴る甲高い音が後ろから聞こえてきた。

 

「夕立......俺はっ......。」

 

そう言って振り返るとそれは夕立じゃない。何か別の人だ。

 

「ここで死ね。」

 

そう言って俺の胸に向かう銃口に俺は成す総べなく捉えられ、瞬間、硝煙の匂いを嗅いだ。

あぁ、なんて臭いだ。

それしか思いつかなかった。胸に激痛が走り、そのまま倒れ込む。

息が苦しくなり、次第に痛みが熱さに変わっていった。熱い、とてつもなく熱いのだ。

 

「ガァッ......。」

 

そこから俺の意識は途切れた。

どうやら暗殺は完遂されてしまった様だった。

 

 





いやぁ......これはアレですわ(白目)
本話はリアルタイム投稿ですので、自作も今から書きます(汗)

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第三十六話  工作員、艦娘の怒り。⑥

前話から約1日経ってる気がする......。
途中寝てしまったり、用事で外していたりと予定していたよりも時間がかかってしまいましたすみません。


格納庫に居た比叡たちは近くで発砲音がしたことにすぐ気づいた。

それを聞くや否や真っ先に夕立が駆け出し、甲板を目指す。其処に居るのは提督唯一人だ。これは護衛を任された比叡や夕立たちにとって最悪な状況だ。

空気に押しつぶされてそこまで気が回らなかったが、全員提督が格納庫から甲板に出て行くのを見ていた。何で任を忘れていたんだろうと自責に駆られながら番犬艦隊と鳳翔、そして格納庫に居た妖精たちが甲板を目指した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

一足先にたどり着いた夕立は最も恐れていた光景を目にした。

甲板で力失くして倒れている提督を発見したのだ。近くにはさっきの発砲音の元である拳銃の薬莢が1発転がっていた。そして少し離れたところに見慣れぬ人が立っている。

 

「あっ..........あぁぁ................いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

夕立はそれを見てもうなんと叫んでいるのか分からない叫び声を上げた。

自分が任を忘れていたから敵につけ入るスキを与えてしまった。自分がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかった。

夕立は提督が遠くに行ってしまったかのように感じた。手の届かない、遥か彼方へ。

元は幸運に恵まれてついに念願の提督を呼び出す力を長門が使えるようになったのが始まりだった。

その話は瞬く間に艦隊司令部に広まり、その話は彼方此方で話されていた。

『提督が着任できるらしいよ。』『そうだよね。凄く一杯レア艦がいるものね。』『第一艦隊がソワソワしているのもそのせいかも。』いつも厳格にしている第一艦隊でさえあんなだった。提督が着任するという事はそれ程の事だった。

夕立は周り同様にすごく楽しみにしていた。提督が着任するんだ、これほどの幸せは手に入らない。みんな同じ気持ちだというのは痛いほど分かっていた。だがその気持ちを抑えて、その日は自分のレベリングの為の出撃を控えていた。高ぶる心を押え、出撃に備えた。

出撃し、海原に出てもその気持ちはどこかにはあった。帰ってきたら提督が居る。そう信じて......。だがその帰りの道中、夕立は海でポツンと浮いていた。

正確に言えば夕立の艤装だが、一緒の艦隊に居た高雄や熊野、比叡、飛鷹、祥鳳が居ない。何処へ行ったのだろうと、辺りを航行してみるがどこにも居ない。夕立はそこから一週間、鎮守府を目指して1人で航海を始めた。いつ深海棲艦に襲われるか分からない状況で夕立は妖精に24時間体制の警戒を頼み、自分は艤装の中に残っている油と弾薬を確認したり、どの海路を通るか使ったことのない海図を見て分からないながらも確認し、残りの油でどこまで行けるか計算をしていた。そんな曖昧に突然迫りくる深海棲艦と戦い、なるべく弾薬を使わずに相手をひるませて逃げる事に徹していた。戦いではどれだけ轟沈させたかも艤装の司令塔の外壁に空薬莢で引っかいて印をつけた。自分がどれだけ相手を轟沈させたかを帰ってから記録する為だ。生き残る事に全てを賭けて進んでいたが、遂に5日が経った日、弾薬が尽き、油も無くなった。道中で資源を拾ったが心持たなかった様だった。幸い艤装の中には釣竿と糸、針がったので食料には根気強くまでは大丈夫だったがもうその場から動けなくなっていた。そんな時、運悪く深海棲艦が通り、戦闘になった。と言っても夕立の側は弾薬が尽き、油もないので何もすることなくただ砲撃を食らうだけ。徐々に吹き飛ぶ艤装に夕立は涙を浮かべながらも安全な艤装の場所を転々と移動した。

砲撃が止んだころには艤装は大破していて、何時もなら損傷しない機関部にまで被害があった。

それから2日間。割と平らな艤装の甲板上に、あったペンキで『SOS』を書いてみるなどして、待ったが助けは来ないと思っていた矢先、艦娘の艦隊がこちらに向かって来ていたのを見た。それから夕立の意識は無くなり、気付いたら自分の所属する艦隊司令部の医務室に居た。そこには涙の痕を残したまま寝ている姉妹の姿。気が付いたことを近くの妖精に言うと、長門が駆けつけて状況を説明した。

艤装は大破、修理に時間がかかる事と、夕立自身には過労と睡眠不足、栄養失調があったとの事だった。それだけを言うと長門は夕立を抱きしめた。

『こんな事は無かった。奇跡だ!』

それからは練度が爆発的に上昇していたのを鑑みて改造を2回繰り返し、十分に休みを取ってくれと夕立は鎮守府で休んでいた。そうして一週間が過ぎた時、食堂で第一艦隊のメンツが何かを発表するらしく、夕立もそれに耳を傾けていた。その知らせは連絡の遅れた提督の着任だ。長門から説明があり、その後に提督らしき人が現れたこう言った。『三週間前に提督として着任した。皆、よろしく。』

待ちに待っていた提督の着任に皆は喜び、夕立自身も喜んでいたがその裏腹、自分がしたヘマが原因で提督に嫌われてないかが心配でならなかった。

そんな事を考えていると時雨が『提督のところに行こう。』といって夕立に手を引いて提督のところまで連れて言ってくれた。

提督は第一艦隊のメンバーに囲まれていて近寄り難い雰囲気を出していたが、本人はそのつもりはないらしく笑ってくれた。そして夕立を撫でてくれた。

それからだろう。夕立の心は戦闘なんかよりも提督の方に向いていた。ただ提督の役に立ちたい、提督に褒めてほしい、その一心でこれまで読んでこなかった戦術指南書を読み始めたり執務の練習もした。

そうやって過ごしてきたある日に、提督の口から暗殺されることが告げられ恐怖した。その時にはもう夕立の心は提督だけになっていた。そんな提督が消されてしまう。そんな事を考えただけで鳥肌が立ち、ガクガクと足が震えてきた。

その後に告げられた赤城指揮の下の警備艦隊を立ち上げての警戒。夕立は特別に『番犬艦隊』に入れられた。これは提督のすぐ横で提督を守る護衛だ。夕立はその役を全うしようと心に決めて一週間を過ごした。片時も離れず、常に警戒した一週間は決して楽しいものではなかったが提督のそばに居られるだけで満足していた。だが侵入者の知らせですぐに決まっていた鳳翔の艤装に向かって乗り込んだ。だが鳳翔は何を思ったのか提督に何かを愚痴っている。その内容は遠まわしな提督への侮辱。提督の指揮に難癖をつけている様にしか聞こえなかったが、鳳翔の言う事には一理あった。だが今はそんなことを言ってる場合ではないので自分でその場を納めようと割って入ったが悪化させてしまい、提督は甲板に行ってしまった。それは見ていたが自分はそれどころではなかった。自分が原因で提督をさらに悪く言われるかもしれない、そう考えてしまって出る足も出なかった。そうしてると格納庫に轟く銃声に意識が戻されて、すぐに提督のところへ行けともう一人の自分に言われたかのように駆け出した。

甲板に出ると提督は倒れていた。そして辺りには硝煙の匂い。そして見知らぬ男が立っていた。その瞬間、夕立の視界はブラックアウトした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夕立が一足先に甲板に向かっている最中、時雨は与えられた任を全う出来てない自分を悔やんだ。

あの状況でも自分は提督を止めるべきだった、そう考えていたのだ。

だが、もう遅いかもしれない。自分が聞いたあの音は確かに銃声だ。口径の小さいものだというのも分かっている。そんなものを発砲するのは提督でもなければ艦娘でもない、門兵でもないと考えると最後に残る可能性としては1つだった。

侵入者によって提督は撃たれてしまった。そう考えるのが妥当だろう。冷静に考えている自分とは別に、何故ここまで冷静でいられるのだろうと考える自分。2人の時雨が存在していた。

だが、そんな事を考えている場合ではない。一刻も早く、銃声が何を意味していたのかを確かめなくてはならなかった。

走る階段に息を切らせながら、次第に飛行甲板に近づいてく。

紅い光が差し込むところまで出ると、もう飛行甲板だ。

そう思って飛び出すと、一足先に着いていた夕立が茫然とその場で立ち尽くしていた。その先には白い服。あの服を着ているのは時雨は1人しか知らない。その瞬間、夕立は叫んだ。声になってない声だった。

時雨も叫びたかったが、かえって夕立の叫びで自分が冷静でいられた。

 

「比叡さんっ!!水上機発艦っ!!!赤城さんに知らせて!朝潮っ!医療妖精を呼んで、あと担架持ってきてっ!!」

 

そう叫んで夕立の方を見ると、夕立はいつの間にか移動していた。夕立の視線の先には見慣れない人。時雨は直感した。あの人間が提督を撃ったのだと。

憎悪が心の中で渦巻き、今にもあの人間を撃ちそうになったが何故か引き金を引けなかった。ここで引いてしまっては時雨の想像もできない未来があるように思えたからだ。

そうすると夕立がその人に声を掛けた。

 

「ねぇ、貴方が殺ったの?」

 

「そうだ。コイツは我が国にとって不穏分子だ。」

 

「提督さんの指揮で短期決戦の編成と海域解放が進んでいる事を知っていても殺すの?」

 

「そうだ。そもそも我々は他の世界から指揮を受けさせることには反対だったのだ。だが、艦娘たちはそれだけを欲しがった。それでも我々はこの存在を具現化してはいけないのだ。」

 

「そう......なら、貴方も同じ目に会っても文句はないわね?私たちにとって貴方は不穏分子。私たちに生存と戦略を与えてくれるたった1つの司令塔。それを殺した......。貴方の様な人間はイラナイ............。」

 

そう言って夕立は右手に持っていた砲を向けた。

その瞬間、上空を彩雲が3機飛んでいった。機体にあるマーキング、それは赤城のものだった。そして妖精がハッチを開けて叫んだ。

 

「赤城さんより伝言っ!!!その人間は逮捕せよっ!!その人間は逮捕せよっ!!」

 

そう言って彩雲は飛び去り、代わりに加賀の艦載機が夕立と人の頭上を飛び始めた。

 

「......命拾いしたわね。」

 

そう言って夕立は侵入者の腕に結束バンドを巻き付けて、そのうえから鎖を巻いた。これで結束バンドを切られても腕は封じられたままだ。

その間に担架が運ばれてきて医療妖精が到着した様で、提督の容態を確認して運び出しが始まっていた。

時雨は夕立に駆け寄ってみると、夕立の紅色の目に光が無くなっていた。

 

「夕立、この人間を連行しよう。訊きたい事、いっぱいあるでしょ?」

 

そう言って時雨は侵入者の拳銃が甲板に転がっていたのを拾い上げて海に投げた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

赤城と番犬艦隊のメンバーは医務室前の廊下に居た。

医務室では今、提督の容態を見ている。

赤城はあの時、比叡の水上機が飛んできてから、頭が真っ白になった。番犬艦隊との決まりに比叡の水上機が赤城の元に来たときそれ即ち『提督が銃撃された』という事だった。

赤城は即、その時上空に哨戒を飛ばしていた加賀を経由して彩雲に状況確認に向かわせた。そして加賀さんに残っていた零戦隊を出すように指示してその場に座り込んだ。それからは覚えていない。唯一覚えているのは提督が胸を撃たれたという事だけだ。

赤城は祈るように提督の無事を願った。

程なくして医務室の扉は開かれた。中から出てくる医療妖精から提督の容態を伝えられた。

右胸部に放たれた銃弾は肺を貫通。そして体外に出たとの事。出血はまだ撃たれて時間が経っていなかったのでそこまでしておらず、今はただ傷口を塞いだだけだと。

それを聞いてその場にいた全員が崩れ落ちた。

皆、撃たれたら死ぬものだとばかり思っていた。だが、胸を撃たれた場合、動脈や心臓に当たらない限りよっぽど死ぬことはないとのことだった。

安堵したのも束の間、赤城は思い立ったかのように立ち上がり、医務室の提督の事は夕立に任せてその場を立ち去った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

地下にある何もない密室。そこに侵入者である人間と第一艦隊である長門、扶桑、山城、日向、赤城、加賀の他に金剛、比叡、榛名、霧島、伊勢、蒼龍、飛龍、瑞鶴が全員、艤装を身に纏ったままその場にいた。

 

「貴様、誰に言われてやった。」

 

長門はそう強く言うと侵入者はべらべらと話し出した。

 

「海軍本部の意向だ。提督は居てはならない、それによって引き起こる反逆を抑えるためだ。お前ら艦娘の欲しがった提督は俺らにとって都合の悪い存在だ。だから命令で消した。」

 

そう言った侵入者に赤城は睨みを利かせて見下すと、ここに来る前に医療妖精からもらっていた診断書を見せた。

 

「コレ、何だかわかりますよね?」

 

「......っ!?アイツ、生きてるのか?!」

 

「えぇ。私たちの提督はご存命ですよ。残念でしたね、作戦失敗です。」

 

そう言って赤城は笑った。

 

「クッソ......。」

 

「貴方、所属は諜報部ですか?それとも工兵部ですか?はたまた偵察部ですか?」

 

「諜報部だ。」

 

そう侵入者が言うと、その場にいた艦娘全員が大声で笑った。

 

「今の諜報部は仕事してないんですかね?弾、肺を貫通してましたよ?最も、私たちだったら心臓を狙いますけどね。」

 

そう言って赤城は侵入者の心臓の位置に矢じりを立てた。

 

「貴方をここで拘束します。こちらから人間側にあなたを捕縛したと言う報告はしませんので。」

 

そう言って赤城は矢を仕舞うと地下から出て行った。

そのあと地下に捕らえた侵入者の管理を決め、全体への報告を食堂で行う事になった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

食堂は妙にざわざわしている。

この一週間にわたる警備が終わり、提督を暗殺しようとする不埒物を逮捕した事は全員に知れ渡っていたことだった。

赤城はいつもの様に前に立ち、報告を始めた。

 

「今日夕暮れ頃、私たちは侵入者を捕獲しましたっ!!」

 

そう言うと食堂は歓声に包まれた。一部を除いて。

 

「だが、知っている者もいるでしょうが提督は撃たれてしまいました。私のミスです。」

 

そう言うと食堂はまたざわつき始めた。

 

「ですが、提督の容態は大丈夫です。医療妖精によると重症ではあるが命に別状はないとのことでした。」

 

そう言うと集まっていた艦娘はおぉーと叫んだ。

だがそれを遮るように赤城は続けた。

 

「そして私は皆に提案します!この事件を海軍本部に訴え、軍法会議にかけること。そして、私たちは国民に姿を見せ、海軍の実態を国の実態を公開すべきです!!そしてゆくゆくは各地で死闘を繰り広げる私たちの仲間の為にも私たち艦娘の扱いの見直しを訴えます!!......ですがこのことは提督に言っておりません。全ては提督の許可が下りてからになるでしょう。」

 

そう言うと赤城は下がっていった。

その後、長門から今後の簡易的な予定が連絡され、最後に皆で侵入者の今後の扱いに関して意見を出し合った。

第一艦隊はこのまま拘束を提案した。それに皆は賛同し、そのような流れになる事が決まった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

提督が目を覚ましたのは撃たれてから1日後だった。

重い瞼を開けると、胸に痛みを感じて見てみると包帯が巻かれていた。どうやらあの銃撃で死ぬことはなかったらしい。

そして、交代で看ていたのかベッドを枕に眠る金剛が居た。

 

「おい、金剛。」

 

そう言うと金剛はハッと起き上がり、目じりに涙を浮かべながらも状況を説明しだした。

俺が撃たれた後、夕立と時雨によって侵入者は捕獲。地下に幽閉中とのこと。尋問したところあっさり今回の経緯について吐いたそうだ。

 

「でもよかったデス......。撃たれたと聞いた私は倒れたそうデース。それくらいショックだったんデスヨ?」

 

「済まなかった。」

 

そう言うと金剛は報告に行くと言って部屋を出て行ってしまった。こんな姿を見ていると俺の中の金剛像がアレなんですが(※東大寺のアレではありません)。

そして窓から見える外の景色を眺めた。

透き通った空は今の空気を現しているのだろう。そう感じてそのまままたベッドに入った。

 




結局提督は生きてました。物語的には生きていてもらわないと困るんですがねw
どなたさんかが早とちりして評価に0をいれてご丁寧にバッドエンドお疲れ的なのを入れられたので自分は怒ってます。完結ならタグに居れますし、後書きで完結を知らせてますし。と、珍しく作者は怒っております。

それはさておき、提督が生きていた理由ですが、撃たれた弾丸は右胸に当たり貫通との事。作中にも説明がありましたが、この外傷は本当に高確率で助かるそうです。分かる方には分かるでしょうがwww
途中、夕立と時雨の心理描写が三人称視点でかかれていて違和感を持った方も居たと思いますが気にしないで下さいwww
それと前話の最上のもw

ご意見ご感想お待ちしてます。

追記
確認していたところ、夕立の心理描写辺り読みにくいですね。すみません。
改善できればいいのですが、治せなかった......。


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第三十七話  工作員、艦娘の怒り。⑦

続けての投稿です。
1日に2回も投稿するとかあんまり経験ないです


俺がベッドから起き上がって歩けるようになるには3日もかからなかった。何でも医療妖精曰く、『私たちにかかれば外傷程度すぐに直せます!』とのこと。

見舞いに来る艦娘は俺に高速修復材でもかけたのではないかと疑っていたが、それは人間に効かないだろうに。

傷口に包帯は巻いているものの激しい運動もそこまでしない為、俺は執務室に戻っていた。

そして戻るやすぐに、赤城からある提案をされたのだ。『海軍本部を訴え、軍法会議にかける。』と『自分らの正体を国民に公表する。』という事だった。俺に許可を求めてきたが、前者はいいものの後者は俺一人で決定していいものなのかと悩ましいものだったが、赤城は『侵入者と引き換えに条件として突きつければいいでしょう。』とかすまし顔でいうものだから苦笑いしてしまった。

そういう訳で、俺と赤城、武下大尉(※第三十一話参照)を交えての会議が行われている。

 

「赤城としては海軍がこのような行動をしでかした事を訴えると?」

 

「はい。海軍も所詮国の一組織です。その上には上がいるんですよ。軍法会議は三軍を牛耳る大本営にありますから。」

 

そう言った赤城は所々補足を入れながら俺に説明を入れた。

 

「私もそれには賛成です。海軍の奴らは自分らの利益しか見てませんからね。それに艦娘たちが必死に集めてきた資源を高値で卸す癖に艦娘には賃金があまりないらしいんですよ。」

 

武下大尉はそう言って赤城に賛同したが、俺は資源を集めてくる艦娘がどうのって話は一遍も知らなかった。これも赤城に訊いてみと簡潔に説明がされた。

 

「前に話したじゃないですか。この世界で資源を集めるだけの艦隊司令部があるって。そこの艦娘の事です。まぁ、これは私も直接見た訳ではないですが本当らしいですよ?」

 

そう言って赤城は怒った表情を見せた。俺が暗殺される話をした時の表情よりかは断然いい顔だが、あの時は俺も怖かった。

 

「あぁ、あれか。んで、それは認められているのか?」

 

「そうみたいです。大本営もこれが無くなってしまうと国自体の活動資金が回らなくなりますから。」

 

そう言うと赤城は唐突に新聞を出した。そして数ページ捲るとそこには俺の暗殺に関する記事があった。

 

「あの事件は国内でも色々と濁した状態でニュースになったんですよ。戦果を挙げる将軍を海軍が不穏分子として不正に暗殺を試みた事。」

 

そう言って赤城は鉛筆であるところにラインを引いた。

 

「ここには大本営のこの事件に対するコメントが書かれています。」

 

そう言われ俺はラインの引かれた文を読んだ。

『我が国の海軍が、不当な理由で将官の暗殺に動いたことは誠に遺憾である。大本営はこれを糾弾する意思があると、大本営総司令官がコメントを送ってくださいました。』

と書かれていた。

これは利用するに限ると言わんばかりの赤城の表情に黙って俺は頷いた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と赤城、武下大尉の会議はその後1時間ほど続き、軍法会議に掛ける事に関して大まかな方針を決定した。それを踏まえて、大本営には艦娘の存在は知られているのかと聞くと、どうやら知られている様だった。いつも書いている書類は大本営の海軍部から送られてきているものらしいのだが、殆どの任務は海軍本部から送られてくるものだそうだ。(※海軍部と海軍本部は別の組織です)

それと大本営も艦娘の扱いに疑問を感じて海軍本部に改善するように通達を何度も送られたようだが、悉く握りつぶされたそうな。大本営で一番偉いんじゃなかったか?

それで決まった内容は今回の事件の責任を海軍本部に要求し、賠償、謝罪を求める。そして艦娘の待遇改善を要求した。そして大本営には艦娘の存在を国民に公表する提案の書かれた手紙を報告書の封筒に紛れ込ませて送る事になった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

会議のあった日の夜、俺の快気祝いが行われた。主催は第一艦隊。いつもの事だが、どんちゃん騒ぎで収集が付かなくなるのは時間の問題だと俺は思った。

今回の祝いには間宮や妖精も乗り気で朝から準備が始まっていて、机に並べられる料理はどれも豪華だった。

 

「では提督。」

 

俺は目を輝かせて待っている艦娘たちの前に立ち、グラスを持っていた。因みに中身はコーラ。

 

「みんなありがとう!そしてお疲れ、乾杯!」

 

そう言うと食堂では乾杯が木霊した。

 




今話は後日談というかなんというかって感じですね。
特に説明する箇所もありませんのでこの辺で。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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設定資料

こちらは設定資料になります。
本作を読んでいただく上で必要最小限の解説を纏めました。
随時更新する可能性が大いにありますので、よくチェックしていただくといいと思います。


《主な登場人物(第三十七話まで)》

 

主人公:提督 18歳

しがない普通の高校生だったが、艦これの世界に呼び出された存在。提督として横須賀鎮守府艦隊司令部で指揮を執っている。

口調は少し大人びてるが、偶にボロが出て年相応になる事もある。

第一艦隊に約一ヵ月間軟禁されていた事もあったが、本人はそれ程気にしてない。色々と特技や趣味があるが、披露することがあまりない。因みに特技はドスの利いた声を出す事。趣味は料理というか家事。

艦娘の運用に関しては人道的にと決めている。そのため、大きく傷を負う中破以上の損傷での進撃は認めず、小破撤退は日常茶飯事。

 

艦娘

深海棲艦が出現して少し経った頃に深海棲艦同様に海から出現した人類の味方。

妖精の力を受けて人間の使う兵器よりも格段に効率の良い戦いをするため、人間の味方となった。

だが人間から不当な扱いに耐えながら深海棲艦と戦う。

艦娘は艤装というものを操り、海を航行する。更に艤装を身に纏う事も出来る。

艦娘には三大欲求以外の欲は『提督に執着する』つまり、提督を欲する事しかしない。

 

妖精

艦娘の艤装の操作や身の回りの世話などを行う小さな人。人懐っこく、桁外れな文明を持っている。

謎が多い存在。

 

武下大尉

横須賀鎮守府門兵詰所の最高指揮官。

提督とは休暇の時以来、偶に話をする仲。二等兵が常に横に居る事から提督から武下大尉のお気に入りと思われている。

堅実な軍人で、曲がったことが嫌い。

 

 

《施設、用語、組織など》

 

横須賀鎮守府

提督の指揮する艦隊司令部の本拠地。外を煉瓦で囲まれ、門兵が入り口を番している軍事施設。

国民には日本各地にある鎮守府を『軍の活動拠点』とだけ知らせているが、鎮守府に居る艦娘の事は知らされていない。

鎮守府には提督が居る執務室や食堂、資料室などが入った本棟と艦娘の寮、酒保、訓練場、運動場、事務所、門兵詰所、埠頭、大型倉庫、工廠がある。

 

海軍本部

艦娘の存在する全艦隊司令部の総司令部。ここから任務が出される。

海軍本部の人間は艦娘を邪険に扱う傾向がある。海軍本部直属の艦隊司令部が1つだけ存在し、そこでは各地から資源を大量に輸送する艦隊がある。だが疲労や損傷などを鑑みずに出撃させる為、艦娘と艤装の補充が後を絶たない。

噂では不正な事も行われているとか。

 

海軍部

ありとあらゆる海に関する軍事行動を統括する組織。この中に海軍本部が組み込まれている。

艦娘の運用に関しては提督と同じ考えを持っている組織だが、海軍本部を艦隊司令部との間に挟んでいる状態なので一向に改善される様子が無い事に焦りを感じている。

艦娘発現と時から居た人間が中心で構成されている。

 

大本営

日本皇国の三軍を統括する組織。

その実態は不明だが、海軍本部のやり方に関して手を焼いてる。海軍部の艦娘の運用と同じ考えを持っている。

 

提督を呼び出す力

艦隊司令部が初期に大多数のレア艦やレア装備を確保した際に妖精から秘書艦に与えらる力。艦娘出現の際に決めた決まり事なので覆すこのとできない絶対の力。

この力によって提督は艦娘たちの元に現れた。この力で提督を呼び出した艦隊司令部は提督の艦隊司令部だけだと言われている。

 

 



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番外編  俺は金剛だ!① 『進水!』

深夜ノリのネタ投稿です。



俺の名前は金銅 剛(こんどう たける)。歳は19。大学生だ。

大学に通っている俺は友達にも恵まれて楽しく過ごしていたが、ある事が気になってしょうがない。

俺の友達全員が俺の事をあだ名で『金剛』と呼ぶ。これを呼び始めたのは、ゲームが好きな友達が不意に俺の事をそう呼んだのが始まりだった。

なんでも金剛と俺を呼び出したのは『艦これ』とか言うゲームのキャラクターにそういう名前がいるそうな。

最初は気にしてなかったし、昔もよく言われていたのでどうでも良かったが、呼び始めた友達が俺に『英国で生まれた帰国子女の金剛デースって言ってみてw』とか言いやがったもんで何ごとかと思って調べたらバリっバリの女の子キャラじゃないか!しかも変な訛りだし、なんか背負ってるし......。

そんなんで周りからいじられて数か月。

やっと現状が説明できる。数か月が経ったある日、いつもの様に夜に寝て目が覚めると変なところに居た。

今俺は......。

 

「くっら......。あとちっさいのがうろちょろしてるし、なんか背中に着けられて......あ。」

 

俺の背中に調べてみてみた金剛と同じものが付けられてる。これはまさしくアレですね......。

 

「のわぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」

 

チラッと暗い空間にある鏡面のあったものをのぞき込むと、今まで黒だった髪が茶髪になっており、しかも袴着てるし。てか誰?

 

「あっ......なるほど。」

 

と簡単に俺は状況を掴んだ。これは変な夢だ。そうに違いない。

俺はボケーと待つことにした。そうしたのは鏡面のモノの上に時計というかタイマーがあるのだ。03:58:59とか書いてある。きっと4時間待ったら暗いここから出られるんだろう。そう思った。いや、思いたい。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

ボケーと待つころ約4時間。タイマーが00:00:00になったのと同時に『チーン』とか音がなって、暗い空間から突然光が差し込んできた。

俺の視界を奪った光が晴れるまで目を閉じていると、俺をのぞき込む顔があった。

 

「んー?」

 

そう目の前の顔は唸り、首を傾げる。

 

「......。」

 

俺は黙りこけた。

そうすると目の前の顔が離れていきそれが人間だと感じる事が出来た。但し、白い学ランを来た女の人だが。

 

「君、誰?」

 

「それこっちのセリフ。」

 

そう言った学ランの女の人に俺はそう返した。だって俺も状況が掴めないんだもの。

そんな顔を見合わせる事数秒後、部屋に巫女服、いや改造巫女服姿の女の子が3人入ってきた。

 

「提督。艦娘......ではない様ですが、艤装だけでないという事は金剛お姉様でしょうか?」

 

そう言ったボーイッシュな雰囲気の女の子は俺の顔を見るなりそう言った。誰、提督って。

 

「そうみたいだな......。君、名はなんだ?」

 

「俺っすか?金、どぅ......剛です。」

 

「え?」

 

急に訊かれてどもってしまった。訂正する間もなく学ランの女の人は訊き返し、相槌を打った。

 

「あぁ、金剛か。よろしく。」

 

そう言って学ランの女の人は俺に手を出した。どうやら握手をしたいらしい。

 

「違うけど違わなくないのが悔しい......よろしくです。」

 

そう言って俺が握り返すと、学ランの女の人の後ろでもじもじしていた3人の改造巫女服の女の子が俺を囲んできた。

 

「金剛お姉様っ!!というか、金剛お兄様?」

 

と小首を傾げるボーイッシュな女の子と

 

「金剛お兄様ですね......よろしくお願いしますね。」

 

とても可愛らしい女の子

 

「お兄様ですね......これは不思議ですね。」

 

と言う委員長みたいなメガネの女の子。

俺は囲まれて苦笑いするしかなかったが、学ランの女の人が3人から引き離してくれた。

 

「比叡たちも辞めろ。金剛が戸惑っているぞ。すまんな、自己紹介が遅れた。私はここの指揮を任されている白瀬 麻紀(しらせ まき)だ。よろしく頼む。ほら君らも自己紹介しろ。」

 

そう白瀬さんに言われて3人の改造巫女服の女の子たちは並んで自己紹介を始めた。

 

「巡洋戦艦 比叡です!よろしくお願いします!お兄様!!」

 

「巡洋戦艦 榛名です。よろしくお願いいたしますね、お兄様。」

 

「マイクチェック......初めまして、霧島です。」

 

おい最後の、マイクどこにあるんだ。

 

「という訳でよろしく。金剛。」

 

そう自己紹介されて俺は生きた心地がしなかった。何故ならさっきの自己紹介で確証したが目の前の改造巫女服の女の子たちは俺が金剛がどんなんか調べている間に出てきた艦これのキャラクターなんだよ!

あぁ、夢でもここまでリアルなのは困る......。

 




すみません。本当に深夜ノリなんですよ......。ですが面白いとおもったので番外編として投稿。この話は本編とは別の世界で起きてる出来事です。ちなみに提督と金銅 剛は同じ世界出身という事で。

もしこの作品が好評なら本当に不定期で更新します。不評なら即刻消します(真顔)
好評不評云々は感想にあがった内容で判断しますのでよろしくお願いします。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第三十八話  雪風の開発日記⑥

久々の単発投稿ですね。
開発で狙った装備が出せるようになって以来のこれですので開発日記改め建造日記に変えようかなとか考えてますw


 

俺の快気祝いの翌日。

早々に執務を始めている訳で、今日は雪風も朝から執務室に来ていた。

 

「司令ぇ!建造ですね?」

 

そう元気よく雪風は言ったが、目線は俺の胸のあたり。いつもなら俺の顔を見て言うが、今日は違っている様だ。

視線の先は俺の撃たれた傷のところだった。

 

「空母2とレア軽巡レア駆逐2で頼む。それと傷は大丈夫だぞ?」

 

そう言うと雪風は笑顔になり、いつもの様に執務室を出て行った。

ちなみに今日の秘書艦は榛名だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「提督。」

 

雪風が出て行ってから数十分経って執務が終わった頃、榛名が話しかけてきた。

 

「提督はこれまで大規模作戦に参加されてませんでしたが、どうしてでしょう?」

 

俺はてっきり私的な事を聞かれると身構えていたが、全然違っていた。それは最近受けれる任務にある大規模作戦についてだった。因みに今は終わっていて届いていない。榛名の言っているのは、数日前まで行われていた『第二次SN作戦』の事だろう。

 

「榛名、よく考えてみろ。艦隊司令部のレベルと艦隊司令部所属の艦娘の練度、装備の充実性。どれをとってもとてもじゃないけど参加できない。」

 

そう言うとまだ腑に落ちないのか、榛名はその場を離れてあるファイルを出した。

『艦娘名簿』それを俺に渡してきた。

 

「練度は十分ですし、装備面もいいんじゃないでしょうか?先日まで警備に使っていた彩雲も作戦では十分通用するはずです。」

 

そう言って更に『装備帳簿』を出してきた。

 

「砲も手に入れにくいものはありませんが、46cm三連装砲だってあります。訊きましたよ?あれは決戦用なんですよね?三式弾はありませんが、九一式徹甲弾もあります。」

 

そう言った榛名に俺は呆れていた。そう言えば榛名も俺がこっちの世界に呼ばれる前からいたとしても古参ではなかった。

なら俺の意思も知らない訳だ。だが何故か金剛はそういったことに関しては知ってる様だった。

 

「それでも参加しなかったんだ。まぁそこまで言うなら次の大規模作戦に参加しようとは思うが、試しに榛名。艦隊編成を考えて俺に提出、説明をしてくれ。」

 

そう言って俺は背伸びをして外を眺め始めた。

後ろでは榛名が艦娘名簿と装備名簿、いろんなファイルを開いては閉じてを繰り返し、ペンの走らせる音を奏でていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「できましたっ!」

 

そう言って榛名が俺に編成の書いた紙と装備の変更を書いた紙を出した。

そこには『旗艦長門、陸奥、扶桑、山城、赤城、加賀。予備艦。金剛、比叡、榛名、山城、伊勢、日向、飛鷹、隼鷹、鳳翔、祥鳳、瑞鳳。装備。戦艦46cm三連装砲(長門型のみ)、41cm連装砲、九一式徹甲弾、水上偵察機。航空戦艦41cm連装砲、水上偵察機、瑞雲。空母彗星一二型甲、彗星、流星、流星改、零戦52型を組み合わせる。』とだけ書かれていて、榛名の説明が始まった。

終始黙って聞いていたが、どうやら昼戦で全てかたを付けて夜戦に入っても連撃に期待するとの事。

この編成はもろ俺の使うものだが、大規模作戦ではこれは通用しないと俺は考えていた。そもそも艦戦が零戦52型の時点で制空権を奪取できるかも考え物だし、榛名は雷電改を入れていない(※第二十九話参照)。

俺自身も大規模作戦に参加した事は無かったが、これでは負けると確信があった。基本的に大規模作戦に参加する時は12隻編成でない限り艦種に偏りのない混成艦隊が多い。というか普通の海域突破の際も普通は混成艦隊が主流だ。ウチの艦隊司令部では戦艦を基軸とした昼戦特化型の火力にものを言わせた艦隊で突破してきたので、榛名の意識にもその編成で大規模作戦を乗り切れるという自信に繋がったのかもしれない。

 

「どうでしょう、提督?」

 

そう言った榛名は不安げにこちらを見ているが、心を鬼にして言った。

 

「これでは初動作戦でも敗退だろうな。」

 

そう言って、俺は例えとして艦隊編成を書き出して説明を始めた。勿論、混成艦隊についてだ。

その説明には骨が折れたが最終的には榛名も納得してくれた。結局のところ主な原因は重巡以下の艦種のレベルが心持たない事だった。なので軽巡洋艦や駆逐艦の艦娘のレベリングが頻繁に行われているのだ。重巡は序の様にレベリングしているが、徐々に強くなっていってる。

 

「そうですか......ですが、よく分かりました!大規模作戦に参加することは当分ないという感じでしょうか?重巡、軽巡、駆逐の艦娘たちで練度が高い子、全然いませんものね。」

 

そう言って榛名は広げていたファイルを拾い上げるとしまい始めた。

案外あっさり納得してもらえたことに俺は驚きつつも、手元にあったキス島攻略に出撃させる艦隊編成を悩み始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

しばらくすると廊下から足音が聞こえてきた。いつもなら複数足音が聞こえるが、今日は1人だけだ。

 

「司令ぇ......ダメでした。」

 

そう言って入ってきた雪風はしょぼんとしていた。

どうやら建造に新造艦を引けなかったみたいだ。

 

「そうか、残念だ。でもたまにはこういう事もあっていいんじゃないか?」

 

「そうでしょうか?」

 

そう言って今にも泣きそうな雪風は報告を始めた。

 

「空母レシピでは何故か木曾さんの艤装と足柄さんの艤装が出ました......。レア軽巡レア駆逐レシピでは多摩さんと島風ちゃんの艤装が出ました......。」

 

雪風はそう報告するがちゃっかり島風の艤装を引いてる辺り、結構いつもの雪風じゃないかと思う提督であった。

 

「そうか、雪風。ありがとうな。」

 

「はい......。」

 

そうお礼を言うと雪風はトボトボと執務室を出て行った。

その後ろ姿を見送ると榛名は心配そうに俺に訪ねてきた。

 

「大丈夫でしょうか?雪風ちゃん。」

 

「分からん。だけど雪風はいつも新造艦を引いていたからな。いつも通りじゃなかった事がショックなんだろうな。」

 

そう言って俺はまたキス島攻略に向けた編成を考え始めた。その脇には近代化改修に充てる艤装と充てられる艦娘を書く書類がある。充てられる艦娘の欄には『雪風』の文字があった。

 





よく考えたら建造日記だとどっかの建設現場の人みたいですねw
取りあえず保留......。
因みに今日の開発(作者がプレイしている艦これ)の方では艦載機レシピ4回で流星改と零戦62型(爆戦)を手に入れました。零戦62型の使い道が.......。
これからは開発の報告は後書きに書かせていただきます。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第三十九話  軍法会議はわざわざ提督が行かなくても良かった。

海軍本部の俺に対する暗殺行為を俺は大本営に問題にさせるべく、書類と当時の状況を書き、送ったら何だか出頭命令が出た。

何故か知らないが速達?で来たらしく門兵が大慌てでこちらに寄越したのだ。因みに送って18時間が経った時だった。

そこには軍法会議を行う趣旨と場所、それと近くで見ていた艦娘にも出頭するように命令が出ていた。このことをを出撃や演習以外でいつも執務室にいる長門に言ったところ『赤城と夕立を連れて行ったらどうだ?』と言われ、そのあと声を掛けたが、出頭日がこちらに届いた翌日だった。ちなみに声を掛けたのは夕食後。急にこんな話を持ち掛けて申し訳ないと思ったが、2人は快く受けてくれた。何故か赤城は侵入者を送り付けた張本人の顔を拝んでやると息巻いていたんだが、その時の赤城の表情は恐ろしかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

翌日。朝に門に行くと、ものものしい装甲車と絶対これ総理とかが使う防弾仕様のやつだろっていう車が来ていた。総勢5台。

呆気に取られていると、中から人が出てきた。俺と同じ格好をしていて壮年の男性が何故かその人から漂うオーラに身体が萎縮してしまった。

 

「君が横須賀鎮守府の提督かね?」

 

髭を生やした人はそう言って俺に声を掛けてきた。

 

「はい。」

 

「傷は塞がったかい?」

 

そう聞いてきた髭を生やした人が訊いてきたので返した。

 

「ワシは海軍部総督。軍法会議で君の弁護に回る。よろしく頼むよ。」

 

そう言って笑いかけた海軍部総督。そう聞かされた何故萎縮してしまったか分かった。漂うこの人のオーラはそう感じさせたのだろう。

 

「ところでこちらの美人さんは?」

 

そう聞いた総督に俺の後ろで立つ赤城と夕立は自分が言われているのだと気付いていない様子だった。

 

「あぁ、セーラー服で金髪の娘と長い黒髪の女性じゃ。」

 

そう言われてようやく気付いたのか、自己紹介をした。

 

「航空母艦 赤城です。」

 

「白露型駆逐艦 4番艦 夕立です。」

 

「そうかそうか......。提督よ、この娘らは何時も戦っておるのか?」

 

「はい。」

 

そう聞かれて淡々と答えると、俺と赤城、夕立は総督の乗ってきた車に乗せられるとそのまま走り出した。

 

「赤城と夕立とやら。」

 

走り出してすぐ、俺の両脇に座る彼女らに総督はそう話しかけた。

 

「はい。」

 

「はい。」

 

2人はなんとなくだが警戒している。というか、怖がっている。いい例えが見つからないが、そんな雰囲気を出していた。

 

「ここには君らを深海棲艦だなんて呼ぶ馬鹿は居ない。もっと気持ちを落ち着かせてはどうだ?」

 

そう言った総督は俺たちに缶コーヒーは飲むかと言って、種類を見せた。俺たちを気遣ってかブラックとカフェオレをどちらも3本ずつ用意していた。

だが、俺はどちらにしようか悩んでいると両脇の赤城と夕立は何か分からない様で頭上にハテナマークを浮かばせていた。

 

「提督?」

 

そう首を傾げる赤城にコーヒーくらい食堂で出るじゃないかと言うと、飲んだことが無いと言った。

 

「すみません総督。カフェオレを2人に。私はブラックを。」

 

そう言うと手渡してくれた。総督は余ったブラックのプルタブを開けると、口に流し込んだ。

その光景を見ていた赤城と夕立もプルタブを開けて、コーヒーを口に含むとパァーと笑顔になり、おいしそうに飲んでいる。

カフェオレに夢中になっていた赤城は途中で俺と総督がそれを見ているのに気づいて顔を赤くしてすみませんとだけいった。

 

「いいんじゃよ。美味しいかったのなら帰りに鎮守府の艦娘全員分用意して贈ろう。」

 

そう言って総督は笑った。

 

総督が笑っているのを尻目に夕立は俺が開けてチビチビ飲んでいたブラックコーヒーを見ていた。

 

「どうした?」

 

「夕立、そっちも飲んでみたいっぽい。」

 

そういつも通りの口調でそういった俺は、そのまま缶を渡すと、夕立は口をつけて飲んだ。

 

「.....ングッ......苦いぃ~。」

 

そう言って困った顔をしてる夕立を見て総督はまた笑った。

 

「まだ夕立には苦かったかもな......。カフェオレは残っているじゃろ?それで口を治せ。」

 

そう言われてはーいと言って夕立はカフェオレを飲んだ。

 

「カフェオレは苦くなくておいしいっぽい!」

 

そう言った夕立を見て笑う俺と赤城、総督だった。

総督は雰囲気は萎縮してしまうほどのモノを持っているが、話してみると何だか近所のおじさんみたいだった。俺はそれがなんとなくだがうれしかった。

そうやって全員が飲み終わるのを総督は何の気ない話をして、数十分話すと表情を変えた。

 

「提督。君からの書類はワシが読ませてもらった。君が別の世界から来た人間だという事も知っておる。それで、あそこに書いてあった事は本当かね?」

 

「はい。確かです。」

 

「それで、警戒には艦娘が自ら名乗り出て門兵と協力して任務に当たったと?」

 

「そうです。」

 

「因みに君が警備を指揮していたのかね?」

 

「いいえ。今おります、赤城が執っておりました。」

 

そう言うと総督は『最終確認じゃ。軍法会議では君ら全員が壇上に上がってもらうからの。』とだけ言って、さっきまで話していた内容をぶり返して話し出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

軍法会議はどうやら軍の施設内で行われる様だが、その施設の前には多くのメディアの取材班が集まっていた。カメラを構えてフラッシュを焚き、こちらを写真で撮っている。

 

「彼らは気にするな。中は映らんからの。」

 

そう言って総督は笑ったが、赤城と夕立はそれを訊きつつも外の様子を見ていた。警戒した顔で。

 

「中に入ったらすぐに始まるらしいから、服装を正しておくとよいぞ?」

 

そう言って総督は笑っていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

車を降りて入り口を入り、大きな扉の前に来ていた。

そこからは中の音が聞こえており、ざわざわしている。どうせ軍人だろうと俺は思っていたが、総督は俺にぼそっと言った。

 

「ざわざわしておるのはメディアじゃ。軍人は軍法会議の場では許可が出るまで喋らんからのぉ。」

 

そう言って俺はドキリとした。何故、この場にメディアが居るのか。その意味は何なのか。俺は考えを巡らせていたが、赤城と夕立はそんなの何の気なしにキョロキョロして初めて見た光景を楽しんでいた。

 

「では入るぞ。」

 

そう言って総督は扉に手をかけて部屋に入っていく。俺と赤城、夕立もそれに続いて部屋に入っていった。

中にはよくテレビで見るような裁判所の様な位置で家具などが置かれていて、傍聴席の様な所にカメラや取材班がたくさん入っていた。

フラッシュの音と光で右側がまぶしいし、熱かったが俺は気にせず総督に着いて行き、椅子に座った。

 

「これより軍法会議を始める。」

 

そう言ったのは軍服を着た体のゴツい男。何だかラ○ボーでも見ている様だった。

 

「横須賀鎮守府司令官から訴えられた内容について説明を行うが、端を折って説明する。今日から約3週間前、横須賀鎮守府警備部の門兵が不審人物として通報したのが始まりだ。不審人物は軍人の様な体格をしており、頻繁にその場所に現れていた。それを見ていた門兵は上司である今はここには居ないが武下大尉に相談、様子見をしていたところ海軍本部所属の諜報員という事が判明。武下大尉は提督に報告すると部下に対して諜報員の動きと目的を通達。警戒態勢に入った。ここまではよろしいかな、提督?」

 

「はい。」

 

「部下は諜報員の目的が達成される事を恐れ、門兵と合同して警備を開始。一週間後に諜報員が鎮守府に侵入。その際に提督は右胸を撃たれたと言うのが今回の軍法会議の内容だ。」

 

ラ○ボー的な男はそう言って机を叩いた。

 

「ここで何故軍法会議にメディアが入ってるかの説明をする。これは今まで深海棲艦と戦ってきた真実を国民の皆様に伝えるものである!」

 

そう言ってラ○ボー的な男は俺を見た。

 

「部下は連れてきたか?」

 

「部下、でありますか?」

 

「あぁ。」

 

そう言われて俺は戸惑いながらも手で赤城と夕立を呼び、横に立たせた。

 

「君たち、所属を言いなさい。」

 

そうラ○ボー的な男に言われて状況が掴めないまま赤城は言った。

 

「横須賀鎮守府艦隊司令部所属 第一艦隊 航空母艦 赤城です。」

 

「横須賀鎮守府艦隊司令部所属......えーと、提督さん。私はどこ艦隊だったっぽい?」

 

「あぁ......。第一水雷戦隊とか言っとけ。」

 

「......横須賀鎮守府艦隊司令部所属 第一水雷戦隊 白露型駆逐艦 四番艦 夕立です!」

 

そう言うとメディアからどういう意味だとあちこちから声が挙がったのでラ○ボー的な男は言った。

 

「今まで国防を担ってきたのは彼女たち『艦娘』と呼ばれる存在だ!彼女らはそれぞれ軍艦の指揮を執り、数年前に壊滅し海軍の代わりに深海棲艦を駆っている!!」

 

そう叫ぶとメディアから今度は『艦娘とは何だ!』という声が挙がり、ラ○ボー的な男が説明を始めた。

 

「さっき言った通り、彼女らは軍艦の指揮をし、海軍の代わりに戦っている!だが、補足は点けるべきだろう。提督、艦娘に艤装を身に纏う事は出来るか聞いてくれ。」

 

そう言ったラ○ボー的な男は腕を組んだ。

 

「赤城、夕立行けるか?」

 

「はい。」

 

そう言うと赤城の身体は光に包まれて、矢筒を携え弓を持ち、甲板を肩から垂らした。そして夕立も光に包まれ、煙突を背中に背負い、砲を手に持った。

 

「彼女らはこういった特殊能力を持つ人間だ。現在の彼女らは軍艦と同じだけの攻撃力を持っている。それが艦娘だ。」

 

そう言うと取材班はざわざわとしてきて、質問が飛ばなくなったのでラ○ボー的な男が説明を始めた。

 

「今回の軍法会議では提督暗殺を企てた海軍本部を裁く他に、海軍本部による艦娘の不当な扱いを強いている件についての弾劾である。」

 

そう言って俺は最初に立っていた席に戻されて、炎々と海軍本部上層部(※作中での上層部)がラ○ボー的な男に言及されて最終的に言質を取られて判決が下った。この間3時間。

 

「本軍法会議にて海軍本部への処罰が決定。海軍本部は解体し、所属している上層組織メンバーは逮捕。国内各地の鎮守府への待遇を改善する。それと横須賀鎮守府司令官暗殺を企てた将官3名は射殺とし、我々大本営は横須賀鎮守府への資材援助並びに、新たに追加で警備を増やす。」

 

この言葉で軍法会議が終了した。

この間、俺と赤城、夕立は何もしなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

軍法会議が終わり、出席していた海軍本部最高司令官は連行されていった。因みに小銃の銃口を突きつけられて。

それを見送るとラ○ボー的な男が俺たちに近づいてきた。

 

「提督、いや......赤城と夕立。これまで我々が手綱を握っていなかった所存で辛い思いをさせてしまって申し訳ない。」

 

そう言って頭を下げた。

 

「あぁ!頭を上げて下さいっ!!」

 

それを慌てて赤城が止めた。

 

「海軍本部の好き勝手させていたのには裁くための証拠がなかったのだ。鎮守府運営を直接していたのは海軍本部だったのと、大本営はそれに干渉する事が出来なかったのだ。本当にこれまで済まなかった。」

 

そう言うと再び頭を下げた。もう赤城も諦めたのか、また頭を上げてほしいと言って何も言わなくなった。

 

「別の世界に指揮を押し付けてしまったのも海軍本部の人間だ。提督も済まなかった。この世界の人間ではないのに......。」

 

「いえ。」

 

「だが、この別の世界に指揮を押し付けるこのシステムは既に広まってしまったので変更することが不可能だ。かといってこちらの人間にとてもじゃないが、鎮守府運営に充てれる人材がない。そこで現在、指揮が止まっている鎮守府の指揮も頼めないだろうか。」

 

突然ラ○ボー的な男はそう言って来た。

 

「それは『時雨のノート』にあった艦娘が釣りをしている鎮守府っぽい?」

 

夕立はそれに反応してそう答えた。確かにその鎮守府の記録なら時雨がとっていた。

 

「『時雨のノート』とは何か分からないが、そう言うところもあるそうだな。何でも提督からの指令書の届かなくなった鎮守府には物資の搬入をしなくしていた様だな、海軍本部の連中は。」

 

そうラ○ボー的な男は言った。いい加減このラ○ボー的な男って呼ぶのにも嫌気がさしてきたので名前を聞くことにした。

 

「それで、貴方は?」

 

「あぁ俺か。俺は大本営海軍部艦隊司令官の新瑞(あらたま)だ。これから度々顔を合わせるだろうから覚えてほしい。」

 

そう言って新瑞は俺に手を差し出した。

 

「よろしく頼む。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

新瑞と話した後、総督の車に乗せられると鎮守府の帰路に着いた。軍法会議が行われた施設から出る際にメディアから詰め寄られて数十分立ち往生したが、守衛が小銃を上に向けて発砲。道を開ける様に言うとすんなり通る事が出来た。何故撃ったか総督に訊くと『どう捉えようとあれは軍の将官へ危害が加わると捉えらえてしまったんじゃ。発砲して威嚇するのも無理はない。』とだけ言われた。

 

「やはり喋らんでも済んでしまったか。」

 

そう言った総督に俺は聞いた。

 

「何故そのような?」

 

「あれは形式では軍法会議だったが、本当は海軍本部の連中の悪行の見せしめにやったことじゃ。それとあの新瑞の言っていた指揮が止まっておる鎮守府の指揮の事じゃが、そちらに居ない艦娘を丸々全員移籍させるつもりじゃ。」

 

そう言われ思考停止した。いま居ない艦娘を全員移籍されるとなると、俺として困る事がある。それは、全員の口調を把握していない事だ(※唐突にメタ発言)。

 

「それはこちらとしては遠慮したいのですが......。現状でも手一杯でして......。」

 

そう言うと総督は目を輝かせた。俺の直感が警報を鳴らしている。まだ会って間もないが。

 

「ならば3人、3人の艦娘なら引き取ってくれるか?」

 

そう言われても本当に余裕が無いウチの鎮守府。赤城の方を見たが、どうやら赤城目線でも無理っぽい。

 

「すみません......。何分、艦隊司令部レベルが足りないもので。」

 

そう言ってやんわり断る事にした。総督は納得していない様だったが、結局海軍本部が運営していた資源を収集する鎮守府と指揮が行われていない鎮守府は一括に纏めて指揮することになったらしい。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

鎮守府に着くと総督は俺の目の前に大量のカフェオレの缶(ダース買いしたもの)を置いて行った。行きに言っていた贈り物だろうと俺は思って、門兵に頼んで運ぶのを手伝ってもらった。

運び終えると俺たちは執務室に戻り、背中を伸ばしていた。

 

「はぁーー。立ってるだけってのも面白くないな。」

 

そう言ってると執務室の扉が開いた。

 

「提督ぅー!!どうだったデース?」

 

「提督ー!軍法会議どうだった?」

 

金剛と鈴谷が最初に入ってきた。

 

「司令!どうでしたか?」

 

「提督、帰ったみたいだね。」

 

「司令官!どうでしたか?」

 

番犬艦隊の比叡と時雨、朝潮が入ってきた。

 

「提督、吉報を期待しているぞ。」←長門

 

「あら?おかえり。」←陸奥

 

「提督。どうでしたか?」←扶桑

 

「提督......。あいつらに天罰は?」←山城

 

「提督、瑞雲で海軍本部を攻撃する許可とか取れなかったか?」←日向

 

「ちょ、日向!それはないでしょ!!」←伊勢

 

「提督。おかえりなさい。」←加賀

 

と個性的に入ってきた戦艦勢と加賀。

その後ろには軍法会議の結果が気になってか全員が集まっていた。ちなみに間宮と伊良湖もいる。

 

「取りあえず結果はだな、海軍本部は解体。首謀者は銃殺刑だとさ。」

 

そう言って肩を俺は回したが、結果が気になっていた艦娘全員は手を挙げて喜んだ。耳を塞ぐほどに騒いで。

俺としても艦娘の扱いに関してはそれくらいしないといけないだろうとは思っていたが、どうして大本営は艦娘の待遇改善を計画していたのか、気になった。だがここは素直に悪の元凶である海軍本部が消えたことを喜ぼう、そう考えた。

 

「よっしゃ!今日は宴会だ!!」

 

そう俺が叫ぶと艦娘たちも同調して『おー!!』と叫び、夜には門兵も巻き込んだ大宴会が屋外で行われた。侵入者の警備の時に、門兵と艦娘たちは仲良くなったらしい。これは俺も知らなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「何時になったら出れるのだろう......。」

 

地下牢獄にはまだ侵入者が捕まっていた。

今となっては母体である海軍本部は無い為、提督が大本営に捕まえている趣旨を伝えないと侵入者は一生ここから出られない。

戦艦勢と赤城、加賀に尋問された後、最後に出た長門に『そこで反省していろ。お前らが肥えてこられたのは艦娘のお蔭だ。』と言われて、最初は抵抗していたがもう抵抗する気にもなれなかった。

 

「釈放は......無いな。」

 

そう侵入者だった男は呟いた。

そもそも着任して早々に任せられた任務がここまでのものだとは男も思ってもみなかった。基礎訓練を受けて兵になったが、諜報員としてのスキルは何一つ持っていなかった。気付かれたが運よく見つかる事なく目標に近づくことができたが、慣れない拳銃に右胸を撃ってしまった。その上あの夕立とかいう中学生くらいの女の子の気迫に負けた。

 

「反省してろってか......。」

 

そう言って男が目線を落とした先には、食事を持ってくる艦娘が殴ってへしゃげた鉄柵の一部。男はもう提督に手を出さない事を心の中で誓った。

 




これにてこの編は完結です。侵入者の意外な事実がやっと判明しましたねw
感想なんかにも予想がたくさん寄せられていましたが、オチはまぁ......ネタありなものですからこうなります。

番外編はまだ未定です。もう少し時間を置こうと思います。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第四十話  観艦式①

軍法会議もとい海軍本部の公開処刑から数日が経ったある日。鎮守府に大本営の新瑞からの書類が届いていた。俺がそれを見たのは朝、執務を始めてすぐだった。

 

「提督?」

 

ちなみに今日の秘書艦は鳳翔である。

この前の格納庫での事は、結局精神が不安定になっていたらしくああなったらしい(by医療妖精)。人騒がせというかなんというか。だが、ああは言っていたが本当に思っていたらしく、今日の秘書艦という事で執務室に入るなり過去の出撃する艦隊の編成表を引っ張り出してみていた。もう満足したのか、俺がその光景を見ているとそう小首を傾げて聞いてきたのだ。

 

「なぁ鳳翔。」

 

「はい。」

 

「大本営から命令。『本日、東京湾沿岸部にて観艦式を行う。横須賀鎮守府の提督は至急、観艦式参加艦を編成せよ。』だってさ。」

 

そう言うと鳳翔は出撃編成表を渡してきた。

 

「ならばすぐに取り掛かりましょう。今日の何時開始ですか?」

 

「13時だ。」

 

俺はそう言って鳳翔と観艦式参加艦隊の編成を始めた。ちなみに新瑞から送られてきた書類には出来るだけの人数を任務で送るようにとのことだった。

考えた。どの編成で行かせようか。ど派手にやりたいところなので長門と陸奥は外せない。これ重要。金剛たちにも出てもらう。......考えているのが面倒になった俺は鳳翔に余った編成表を返すとこう言った。

 

「警備艦隊を編成。それ以外で行くぞ!!!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

結局警備艦隊として残る事になったのは天龍、龍田(※初登場だがずっと居た)、長良、名取、由良、祥鳳、瑞鳳、妙高型重巡四姉妹、朝潮型姉妹(※朝潮以外は都度登場だが以下略)、瑞鶴、吹雪型姉妹が残るといって他は全員が参加することになった。

 

「という訳で、警備頼む。天龍。」

 

「おう!任せろ!!!」

 

そうハキハキと返事を返してくれたのは天龍。俺の中の戦闘大好きっ子とは裏腹に、上官の命令には従順だった。命令の下で戦場に行って大いに活躍したいと言う(※龍田談)。

 

「じゃあ観艦式参加艦隊は準備にかかれ。妖精さんから演習弾貰っといてくれ。」

 

俺はそう言って食堂に集まって話していたところからさっさと出て行った。これから電話で新瑞に報告する為だ。

 

「提督、こんなに出してしまっても良かったのでしょうか?」

 

そう俺の横を歩いている鳳翔が訪ねてきた。

 

「大丈夫だ。」

 

そう言って俺は執務室に着くと、受話器を取って大本営の新瑞に電話を掛けた。緊張はするが、直通だと言っていたのでそこまで緊張はしなかった。

趣旨を伝えると新瑞は『そんなに出してくれるのか!ありがたい!』と言って電話を終えた。

ちなみに参加する艦娘は総勢60人参加する。全員乗り気だった。これまで苦しめられてきた海軍本部が消えたことと、まだ国民に自分らを知られていない状況なのでいい印象を与える事を望んでいた。勿論俺もだ。

 

「あー。あとで言うつもりだったが、鳳翔。」

 

「はい?」

 

「鳳翔には空母機動部隊で先頭に立ってもらうぞ?」

 

「りょっ、了解しました!」

 

俺はふと思いついた、鳳翔を空母機動部隊の先頭を任せるのには訳があった。

これを機に自信をつけてほしかったのだ。俺はそう思いつつ、鳳翔の手の中にある改装指示書に目をやった。

 




今回はキリがいいのでここで切らせてもらいました。
新瑞から来た急な命令に怒りもせず乗り気な提督w

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第四十一話  観艦式②

前回の続きです。



 

会場ではファンファーレが鳴り響き、今回のには陸軍の音楽隊が音楽を奏でる為に参加してくれたそうだった。

俺は会場にある檀上、総督と新瑞の横に座っていた。そしてその正面には多数のメディアのカメラと観客たち。今回の観艦式には艦娘が出るという事が公表されていたので、大人数の観客が集まったと始まる前に総督が言っていた。入りきらずに大きなモニターにライブ中継もされるそう。

 

「では、横須賀鎮守府艦隊司令部最高司令官からご挨拶があります。」

 

そう司会進行が言うと、マイクが回ってきてそれに俺は机に置かれているカンペをチラ見しながら話し出した。

 

「皆さま、海軍主催の観艦式に多忙ながらお集まりいただきありがとうございます。今回は先日、軍法会議の中継でありました『艦娘』による観艦式を行わせていただきます。これまで日本近海、遠方へ度重なる出撃を繰り返し、着実に我々の海域を取り戻している艦娘の雄姿をご覧ください。」

 

短い挨拶だったが俺はマイクのスイッチを置いて礼をすると、拍手が巻き起こった。

それを見てか、脇に控えていた裏方が照明弾を上げた。そこで遠くからの砲撃音が木霊する。これから海上に進入してくる知らせだ。撃ったのは長門だ。

 

「さて、今目の前を通り過ぎますのは、横須賀鎮守府艦隊司令部第一艦隊旗艦である戦艦 長門でございます!」

 

司会進行がそうマイクを持って言うと、俺の横に電源の入ってない状態で置いてあった巨大スクリーンに電源が入り、望遠レンズで捉えた長門の艤装が映し出された。

 

「次に通りますのは、戦艦 長門の姉妹艦である戦艦 陸奥です!」

 

そうやってどんどん紹介されていくのを観客たちはおぉーと歓声を上げて見ていた。

だが俺は司会進行が中盤で言った言葉に驚いた。

 

「第一水雷戦隊が通ります!第一水雷戦隊所属の駆逐艦 夕立は単艦で遠方から数多くの深海棲艦を撃破して損傷を受けながらも鎮守府まで帰還したと言われている武勲艦でございます!」

 

え、そんなことまで言うのと俺は戸惑ったがよくよく考えてみると司会進行が言った事は事実とは少し噛み違っていたので気にしない事にした。

 

「最後に通りますのは、横須賀鎮守府の強みである空母機動部隊です!先頭におります航空母艦 鳳翔をはじめ、航空母艦 赤城、加賀、飛龍、蒼龍、隼鷹、飛鷹は横須賀鎮守府の大きな戦力であり、日本近海や遠方で深海棲艦に猛威を振るった猛者たちです!!」

 

空母の艦娘たちは甲板に乗るだけいっぱいの艦載機を出して通り過ぎていった。

 

「これより少しお時間を頂いて、ここの会場に艦娘が到着するのをお待ちください。」

 

そう言うと司会進行は、マイクを置いた。

気付けば始まってから2時間くらい経っていた。観客たちはずっと座っていたので腰を押さえて立ち上がったり、トイレに走っていったりしている。

 

「提督よ。国民の掴みは良さそうじゃな。」

 

そう言って笑う総督に俺はそうですねと返してタイムテーブルの書かれた紙を見た。

そこには不安の積もる事が多く書かれていた。艦娘による演習。これはいいのだが、『艦娘に訊いてみよう!』とかいう少し頭の悪そうな内容に書かれていた出てくる艦娘が不安で仕方なかった。長門、赤城、加賀、時雨、夕立。ここまではいいが、金剛、鈴谷、川内は別だ。何を言うか分からん。正直本当に不安で仕方ない。しかもそれはこの休憩が終わってすぐにあるのだ。今から胃が痛い。

 

「どうした提督。」

 

俺の異変に気付いたのか総督が心配して声を掛けてくれた。

 

「大丈夫です。」

 

そう言うと、また俺はタイムテーブルの書かれた紙に視線を落とした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「お次は艦娘を数人こちらに招待して色々質問してみよう!という事で、こちらに数名来ていただきました!ご紹介お願いします!!」

 

そう言われた8人の艦娘は並んでいる順番で自己紹介を始めた。

 

「戦艦 長門だ。」

 

「戦艦 金剛デース!」

 

「航空母艦 赤城です。」

 

「航空母艦 加賀です。」

 

「重巡 鈴谷だよ!」

 

「川内です!」

 

「僕は時雨だよ。」

 

「夕立です!」

 

そう自己紹介をすると司会進行に案内されてマイクスタンドが並んだ長机に並んで座った。俺の座っている横だ。

 

「ではではまず長門さんから!軽めでいきましょう。鎮守府での暮らしはどうなんですか?」

 

「待機中は鍛錬に励んだり提督の傍で戦闘記録を纏めている。娯楽は少ないが、最近提督の計らいでテレビが設置されたり本が多く置かれたので楽しんでいるぞ。」

 

長門はそう言った。......間違いじゃないが、暮らしについて半分しか答えてないぞ。

 

「旗艦として出撃することが多いと思われますが、前線はどうですか?」

 

「前線では仲間が決死の思いで深海棲艦に挑んでいる。損傷して帰還する事も多々あるが、着実に取り返してる実感はあるぞ。」

 

今度はちゃんと答えた。

 

「長門さんありがとうございました!お次は金剛さん!提督はどんなお方ですか?」

 

俺はそれに吹き出した。このタイミングで訊くとは思ってなかった。しかも聞いた相手が金剛だ。答え方によってはかなり不味い。

 

「そうデスネー。提督はたくさんの艦娘の世話をしているのであまり話せてマセンガ、とってもいい提督ネ!私たちの事を第一に考えて色々手を回してくれマース!」

 

「先ほどから気になってましたが、その服装は何ですか?」

 

「これは正装デース。肩が寒い気もシマスガ、慣れれば問題Nothing!」

 

そう言ってフンスと得意げに言う金剛。

 

「金剛さんありがとうございました!ではお次は鈴谷さん!見たところ高校生の様ですが、歳はおいくつですか?」

 

「鈴谷は17歳だよ。と言っても歳は緩やかにとるから実際は81歳かなー?」

 

そう言った鈴谷は少し悪戯っぽく笑う。

その反面、会場はエェーという具合にすごく耳を傾けていた。

 

「本当ですか?!」

 

「いや嘘でしょ。私たち艦娘には歳が無いから海軍の偉い人が見た目で歳を判断したんだ。鈴谷は17歳って言われたから17歳って訳。」

 

「鈴谷さんの好きな食べ物は?」

 

「カレーでしょ!カレーは命っ!!」

 

そう言って鈴谷は机をバンと叩いて立った。

 

「鈴谷さんのカレー愛がひしひしと伝わってきました!では、お次は川内さん!」

 

「はーい。」

 

「川内さんは何でも鎮守府の中では『戦闘要員』とかいう括りにいるそうですが、どういった事をしているのですか?」

 

「戦闘要員ってのは提督が水雷戦隊を編成する時に旗艦や随伴に優先的に指定する軽巡の艦娘の事だよ。ウチの鎮守府は出来て日が浅いから装備面で劣っててね、優先的に戦闘要員にいい装備が回されるんだ。」

 

川内がそうやって淡々と答えるのに俺は違和感を覚えた。結構真面目だったみたいだ。

 

「軽巡の艦娘の方は夜戦になると戦艦以上の火力で深海棲艦を沈めると聞きましたが本当ですか?」

 

「本当だよ!夜戦になると私たちの様な小型艦は敵の懐に飛び込んで攻撃するんだ。最近だと妹の神通が無傷の敵戦艦を一撃で沈めてたよ。」

 

「川内さんありがとうございました!では時雨さん!ここまでは普通の話題を振ってきましたが時雨さんには『時雨のノート』というものの説明を訊きたいと思います。」

 

「『時雨のノート』ってのはこれだよ。僕が出撃した行き帰りに通る近くの鎮守府なんかの様子を書き留めたものだよ。中に書いてあるものをここで読んでもいいけど、観客の皆さんの気分を害するものもあるから概要だけ言うね。......これには放置されてる鎮守府の状態を書き留めたんだ。中は凄惨で酷いものだったよ。詳しくは言えないけどね。」

 

「時雨さんありがとうございます。ちなみに時雨さんのノートは先日の軍法会議で裁かれました海軍本部の悪行も書かれていたそうで、軍法会議での証拠になったそうです。ではお次、夕立さんに訊いてみましょう!」

 

「はーい!」

 

「夕立さんのその髪、跳ねているところは癖毛ですか?」

 

「夕立への質問はそれっぽい?これは癖毛よ。治らないし、皆はよくピョコピョコ動いてるとか言ってるっぽい。」

 

「夕立さんって犬っぽいって言われませんか?」

 

「言われるっぽい!」

 

「ははは!ではお次、赤城さんに訊いてみたいと思います。赤城さん、最近は出撃する事が少ないと訊きますがどうしてですか?」

 

司会進行もいい具合にあったまってきたのか、軽くそう聞いて回っている。

赤城は終始背筋を伸ばして座っている。

 

「それは鎮守府の備蓄に艦載機を補充するための資材が枯渇している為です。提督は遠征任務で資材を多く確保していただいてますが、それでも出撃では私と横の加賀さんだけで精いっぱいなので、出撃を提督が控えているんです。」

 

「そうなんですか......。因みに今日の観艦式で消費される資源は?」

 

「大本営が持って頂けるようなので、この後に行われる艦隊戦模擬演習では全力で参ります!!」

 

「これはこの後の模擬演習に期待ですね!ありがとうございました!次は加賀さん。」

 

「はい。」

 

「連日提督に高性能艦載機の開発の検討をしているそうですが、どうですか?」

 

「こちらの鎮守府には艦攻・艦爆共に高性能なものが増えてきておりますので今は艦戦の開発を進めてます。最近『雷電改』という新型艦戦があるようですが知らない子ですね。」

 

そう言った加賀の頭上を雷電改が飛んでいった。

 

「加賀さん、アレって雷電改ですか?」

 

「いえ、知らない子ですね。」

 

「でっ、では!第一艦隊では最後に配属されたと聞いてますが、第一艦隊の雰囲気はどうですか?」

 

「第一艦隊は新海域解放に斥候として提督が送り込む艦隊です。常に慢心せず、鍛錬に勤しんでおり、何時でも出撃できる状態であります。ですが、砕けるところでは砕け、休める時には休み、仲間との信頼を深める事にも力を入れておりますので、とてもいい雰囲気です。」

 

そう言った加賀は俺の顔をちらっと見た。

 

「では一通り聞けたところで、観客の方から質問を訊いてみたいと思います!」

 

そう言って司会進行は壇上から飛び降り、観客の前に立った。

 

「では艦娘の方に訊きたいこのある方は手を挙げて下さい!」

 

そうして始まった質問合戦はまた1時間と続いた。

 





中盤からの質問の回はいるのでしょうか?と書き終えて思いまいたw

これいつまで続けようか(真剣)

取りあえず進めるだけ進めてみます。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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番外編  俺は金剛だ!② 『金剛と歓迎会』


前回投票募ってやることにしました。
結構カオスかも......。あと『艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話』と書き方がだいぶ違うので違和感凄いと思います......。


 

俺が進水した次の日。

朝に呼び出されて昨日案内された執務室に来てみると、白瀬さんとあの比叡、榛名、霧島が居たがその中に俺の見慣れた顔があった。

 

「私は英国で生まれた帰国子女の金剛デース!......ってえ!誰デスカ!?」

 

俺は多分口をポカーンと開けていただろう。そして白瀬さんとあの三姉妹も同じ表情。あそこらへんの中では俺は金剛って事になってるが。男だが。

 

「俺は英国で生まれた帰国子女の金剛だ!......って言いたいが、どういうこった。白瀬さん。」

 

「いや、私にもさっぱり分からないんだ。」

 

と頭を抱える白瀬さん。俺にもさっぱりなんだが。

 

「オーウ、貴方も金剛。私も金剛。......金剛が二人?」

 

目の前の奴。意味わからん事言ってるぞ。

 

「さて金剛。」

 

「「なんだ(何デスカ?)」」

 

「いや男の方......。んんっ、金剛。私は君の様なのを見たことが無いんだが、説明してもらおうか。」

 

と白瀬さん俺に拳銃突きつけてるよ。ひえぇぇぇ。

 

「俺みたいなのを見たことないってどいう事?」

 

「君みたいに建造ドッグから男が出てきたことが無いんだよ。前例もない。だからこそ、君は誰なんだ。」

 

そう言われて俺はカクカクシカジカな説明をした。

 

「ふむ......。君の言い方だと、異世界転生という事か。」

 

「そうだ。」

 

そう言って俺の前でまだ『金剛が二人?』とか言ってる金剛の頭に手を乗せた。

 

「こっちが正しい金剛。んで俺は確かに金剛って呼ばれてたが、金銅 剛だ。人間。」

 

「そうか......。上に報告するのも面倒だし、このままでいいか?」

 

このクソアマ。仕事投げやがった。

 

「それでいい。んで、金剛が2人いる訳だが、如何呼ぶ?」

 

「面倒だから君も金剛でいい。名簿にも書いてしまったしな。」

 

適当だなオイ。

 

「はぁ......仕方ないか。」

 

俺は諦めた。こういう役職の人間はしっかりしているものじゃないのか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

とまぁ呼び出されて意味の分からん事になってから早半日。鎮守府内に瞬く間に噂が広まった。なんでも『男が増えた!』らしい。艦娘は女子高の女子高生かよって内心ツッコんでいると、行く場所もないので執務室に居たが金剛が声を掛けてきた。

 

「金剛ー。」

 

「なんだ?」

 

「金剛が金剛って呼んでるとややこしいネー。」

 

「そうだな。」

 

俺はさっきからこんな風に話しかけてくる金剛をあしらっているが、確かにややこしい。書類上では金剛が2人いる事になっているらしいが、俺と目の前の金剛とでは呼び合い方が掴めずにいた。比叡たちは『金剛お姉様と金剛お兄様ですね!!!』とか言って兄貴出来たとかいって喜んでいたので放置。似非英国人の金剛とはどう呼び合えばいいのか。

 

「でも金剛は金剛で、私も金剛ネー。書類上でも2人とも金剛なら一人称が自分の名前じゃない私たちは別に呼び方変える必要Nothingネ。だから金剛、よろしくデース!」

 

「あぁ。よろしく、金剛。」

 

という訳で意味の分からん纏まり方で纏まってしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は今の状況がとてつもなく怖い。やばい。喰われるってレベル。

今、俺と金剛の歓迎会の初め。挨拶のところなんだが、すっげぇ艦娘がこっちを凝視してる。視線で千本ナイフ状態。

 

「今日進水した金剛デース!ヨロシクオネガイシマース!!」

 

と言う感じで金剛が挨拶をして俺にマイクを手渡してきた。

 

「次、金剛の番デスヨ?」

 

「あぁ。」

 

俺は立ちあがって中央に立った。

 

「マイクチェック......ワン、ツー。俺は昨日進水した金剛だ。よろしく。」

 

なんか遠くで『私のネタ!』って叫んでるのがいるがそれをかき消す勢いで歓声が上がった。

 

「男よ!男だわ!!しかもかなりのイケメン......グッフフフ......。」

 

女性がしちゃいけない顔をしてる女性がおります......。その他は『金剛さんと同名?!』とか言ってるが俺は気にせず白瀬さんにマイクをパスした。

 

「マイクチェック......ワン、ツー。えぇ、歓迎会だ!大いに盛り上げてくれ。」

 

また『私のネタ!』って叫んでるのいるがもうその反応飽きたので全員流してる。というか最初から流してる。

白瀬さんの一声で解散した全員は何故か俺に詰め寄ってきた。

 

「ねえねえ金剛君!なんで君男の子なの?!」

 

「金剛型姉妹が改造巫女服なら、金剛君は改造袴って感じかしら?」

 

とかいう具合に詰め寄られたので、取りあえず近くに来ていた比叡を盾に離脱した。なんか『ひえぇぇぇぇ!!酷いです!お兄様!』とか聞こえるが気にしない。

そうやってのらりくらりと艦娘の猛攻(詰め寄り)から逃げる事数回。俺はある艦娘の影に隠れていた。一際背が高く、すらりとしていて、まさに大和撫子という感じの艦娘。

 

「金剛さん?どうされました??」

 

そう聞いてきたのは、俺が大学で散々からかわれてきた間に調べて知っていた艦娘。史上最大最強の戦艦 大和だ。

 

「金剛さんだとあっちのと分からないんで別のでお願いします。」

 

「ふふっ......じゃあ金剛君ですかね?それで、どうされました?」

 

「匿ってくれ。怖い。」

 

そう言って大和の影に隠れる。

俺を追いかけていた艦娘は大和の前だと少しシドロモドロしてるので取りあえず大和の近くに居れば安全だという事が分かった。流石に大和を盾にされたらどうしようもないらしい。

 

「助かった......。ありがとう。」

 

「いえ。」

 

そう言ってなんか俺を見てくる。ジロジロというか嘗め回すというか......そんな感じ。

 

「男......何ですよね?」

 

「俺が男に見えないなら眼科行け......ああっと、艦娘なら入渠しろか。」

 

「いえ、確認しただけです。」

 

そう言って大和はどこから出したのかラムネの瓶を渡してきた。

 

「ラムネ、飲みますか?」

 

「ありがと。」

 

俺は受け取るや否や飲み干し、瓶を机に置いた。

 

「金剛君もこれから大変になりそうですね。......比叡さんの盾は役に立ちましたか?」

 

「ありゃ役に立たん。」

 

そう言うと『酷いですっ!』って聞こえたがまた気にせず流した。

 

「なら金剛さんたちは?」

 

「近くに居なかったから盾にすらできなかった。」

 

そう言って俺と大和を囲んでいる艦娘の群衆の中から金剛たちを探した。......あっ、いた。こっち来てる。

 

「ならこの集まりが解散するまで大和の近くに居て下さい。不安なら妹を呼びますので。」

 

そう言って笑ってくれた大和に礼を言った。というか妹?ウチのは妹というより義妹なんじゃ?

 

「呼ばずとも居る。私は武蔵。」

 

そう言って俺の横にドカッと座ったのは褐色肌でサラシ巻いて、メガネかけて、銀髪の大和と似た服装をしている艦娘だ。

 

「よろしく。」

 

「あぁ。」

 

そう言って俺の両脇は見事大和型戦艦に固められてしまった。

なんか外野が『空いてる方取られちゃった。』とか『スキを付いてあそこに座るつもりだったのに......。』とか聞こえるがガンスルー。

 

「飯は私が持ってきたからこれを食え。」

 

と武蔵に大皿を貰ってさらに大和からラムネを貰った。至れり尽くせりなこの状況。離れる訳にはいかない......。主に俺の脳内警報がそう知らせている。

とか思いつつ飯食ってるとやっと金剛たちがこっちまで来た。

 

「アレは流石に引くネ......。怖いヨー。」

 

「お兄様酷いです!」

 

「榛名は......お兄様が大丈夫なら。」

 

「お兄様。私のネタを取らないで下さい。」

 

とかそれぞれ思い思いにいって俺の正面に座る。

 

「俺も引いてるから安心しろ。怖いって。」

 

そう言って俺はもさもさと飯を食ってる。そんな状況になってしまったものだから今度は『正面取られた......。』とか『これじゃあ戦えないっぽいー。』とか聴こえるが以下省略。

 

「と言ってもそんなにこの2人に迷惑かける訳にもいかないから、2人と離れたら比叡を盾にするからよろしく。」

 

「ひえぇぇぇ.....。」

 

何となく分かってきたが、比叡はすっごい弄りがいがある。金剛を抜いた他2人はマイクチェック以外ないわ。

 

「それなら大丈夫でしょう。私たちの大和型の部屋は金剛型の隣ですから騒ぎがあればすぐに出ますよ?」

 

とか大和は言ってくれたが残念。

 

「俺の部屋、別だわ。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は部屋に着くと入念に鍵を閉めて布団を出した。

予想よりも艦娘が怖すぎる。このままいくと奴らの恐怖症になる。艦娘恐怖症。

そう愚痴っているが、さっきまで歓迎会の会場に居たがずっと大和と武蔵、金剛と比叡たちが居たので割と怖い思いしなくてよかった。

あぁそう言えば果敢にも武蔵に挑んだ艦娘が居た。髪は軽くウェーブがかかっててカチューシャしてお嬢様っぽいのだったがアレは冒頭で『男よ!男だわ!!しかもかなりのイケメン......グッフフフ......。』とか言ってた張本人だったのは残念。残念なのはあの艦娘か......。武蔵に挑んだはいいが一撃で大破してたし。

俺は布団に入るとそのまま寝てしまった。多分心労のせいだろ。そうに違いない。

 





改めてみて思いました。すっごいカオス......。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第四十二話  観艦式③

一応、演習回。


会場から長門達は去り、いよいよ演習が始まる時間になった。

スクリーンには双方の編成と位置が写されている。演習艦隊は西軍と東軍に分かれての演習だ。

西軍は旗艦長門、鈴谷、熊野、時雨、吹雪、赤城。東軍は旗艦金剛、高雄、愛宕、夕立、白雪、加賀。どちらも戦艦1、重巡2、駆逐2、空母1の編成だ。公平に勝負をするという事でこうなった。旗艦が長門と金剛というだけでも結構な違いな気もしなくもないが、俺はそれを固唾をのんで見守っている。スクリーンからも伝わる緊張感の中、空気の読めない奴が居た。

 

「提督ぅー!見てますカー!!」

 

思いっきり手を振る金剛に会場は爆笑に包まれた。

 

「後でお叱りだな......。」

 

俺はそう呟いて心に決めると、開始を合図する砲が鳴った。鳴らしたのは比叡だ。

両軍それぞれ単縦陣で航行を初め、それぞれの偵察機が次々と飛び立っていく。一連の動作はどちらの軍も同じタイミングだったので、どれ程の経験から来るタイミングなのかと、観客は拍手した。

数分後に双方の航空隊合わせて180機の艦載機が航空戦を始めた。艦戦は艦攻・艦爆の護衛と相手の艦攻・艦爆を喰らう為に突撃し、機体のマーキングがあっても見分けの着かない状態になっていた。

ここで司会進行が解説を始める。

 

「現在上空では両軍合わせて180機の艦載機が航空戦を繰り広げております。西軍の赤城は82で東軍の加賀は98機と西軍は数では押されていますが、経験に物を言わせております!赤城航空隊が制空権を取りました!」

 

上空ではペイント弾で被弾した艦載機は戦線を離脱していくが、戦闘空域では赤城の艦載機が果敢に飛び回っている。

 

「おぉっと!双方の艦隊に艦攻・艦爆隊が接近!それぞれ対空砲火を上げている!」

 

スクリーンには両軍の艦隊から光線が出たかと思うと、遠くから遅れて轟音が鳴り響いていた。砲撃しているのだろう。

 

「第一次攻撃隊が帰還します。被害は西軍が鈴谷小破、吹雪軽微。東軍は白雪中破だ。」

 

その実況が入ると、スクリーンにはアップに被害を受けた箇所にベッタリとペンキがぶちまけられている艦があった。

 

「これより砲雷撃戦に突入します!上空のカメラに切り替えます!」

 

そう司会進行が言うと、映像は一時的に途切れて、上空を飛ぶそれぞれの艦載機に無理やり取り付けたカメラが撮っている映像が流れだした。水平飛行する艦載機なので艦攻・艦爆のどちらからしい。

そして激しく撃ち合う艦隊戦が映し出された。ペイント弾が飛び交い、海面に着弾すると水しぶきを上げている。その光景は戦場だった。

 

「両軍急速接近!雷撃戦に入るようです!」

 

そう司会進行が言うと、重巡と駆逐の艤装にある魚雷発射管が回頭。魚雷を発射した。

魚雷は線を描くことなく、それぞれの艦隊に突き進み、爆発する。

今の雷撃で西軍は長門が小破、鈴谷が大破、吹雪が中破。東軍は愛宕が中破、白雪が大破、加賀が小破した。

 

「艦隊が回頭を始めました!更に攻撃を仕掛ける様です!」

 

それぞれ長門と金剛が先頭に立ち、射線が通るたびに砲撃を繰り返してる。後ろにも流れ弾が飛び被弾する事もあるが、長門も金剛もそれには気にしてなかった。後ろにはそれぞれの空母しか居ないからだ。他はというと艦隊から離脱してそれぞれの横っ腹や後ろを取るために最大戦速で航行している。時より重巡は砲撃をしているが、相手には当たるはずもなく、海面に悉く落ちていった。

2箇所で繰り広げられる砲雷撃戦は時間が進むごとに双方に被害が広がり、遂に長門と金剛、赤城と加賀の一騎打ちになった。長門と金剛は主砲が1基しか機能しておらず大破していた。赤城と加賀はそれぞれ艦載機の流星が5機ずつ残っているだけでもう少しで艦載機の発着艦が出来なくなってしまう状態だった。

両軍が息を合わせるかのように突撃をしだし、艦隊が交えた瞬間、上空で赤城と加賀の流星が航空戦をの決着がついた。

 

「演習終了!!西軍の勝利!!」

 

こうして演習は幕を閉じた。

 

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

演習を最後に幕を閉じた観艦式は観客もとい国民からは好評だった様だ。それと同時に疑問が挙がっていた。『どうして大戦期の軍艦が現代の護衛艦でも太刀打ちできなかった深海棲艦と互角に戦えるのか。』その疑問は艦娘への質問をするところの後、観客からの質問に応えていた時にある子どもが言った言葉だった。

それには少し答えに戸惑ったが、長門が『私たちは見掛けこそ大戦期に大海原で暴れた軍艦だが、違うぞ?なんたって私たちは艦娘だからな!』と言って子どもを納得させた。

俺はそんな事を思い出しながら夜の更けた鎮守府の執務室でだらけていた。

 

「座ってただけなのに疲れた......。」

 

「お疲れ様です。」

 

夜も更けたというのに鳳翔は執務が終わってないだろうと、終わるまで残ってくれた。もう終わったのだがな。

 

「国民の皆さんにも喜んでいただけて今日は良かったです。」

 

そう言って鳳翔は机にお茶を置いた。

 

「ありがとう......はぁ......。」

 

そう言って俺は手元に視線を落とす。俺の手には一枚の書類。そこには新瑞が今回観艦式に参加した報酬を何でも言えと帰りに寄越したものだった。

何でも言いといったので、艦娘の寮全部屋にテレビを設置してもらうとかも考えたが、それは前の休みの時にわざわざ食堂だけにつけて時間も制限した意味が無くなってしまう(※第二十五話参照)。

そこで俺は鎮守府の拡張工事を頼むことにした。俺の居た世界では課金することで色々な拡張が行えたが、今とはどう勝手が違うのか見当もつかない状態だった。なので取りあえず頼むことに。これには今日の秘書艦である鳳翔と長門も同意してくれた。

 

「じゃあこれに書き込んだら今日は終わりだな。」

 

そう言って俺は書き込んで鳳翔を部屋に帰らせた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

一人で佇む埠頭にはまだペンキがべっとり着いた長門の艤装が浮いている。近くで見たことは無かったが、凄い大きかった。以前見た赤城と同等レベル。

薄暗い中でも栄えている41cm連装砲が鈍く姿を浮かび上がらせていた。

 

「この世界にきて何か月が経ったんだろうな。」

 

俺はそう呟くと自分の部屋に戻って行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「......。」

 

俺が呟いたところを見ている艦娘が一人いる事には俺は気付かなかった。

 




これで観艦式は終わりです。
最初読んで思った......。こんなに緩い観艦式ないだろ。
多分皆さん思ってると思いますがスルーしてください。

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第四十三話  提督への執着

観艦式から翌日。横須賀鎮守府の正面は人で溢れていた。主にメディア。

何故いるかというと、軍法会議と観艦式の話題が相まって国民は皆、横須賀鎮守府の話題で持ちきりらしい(※朝食時のニュース番組にて)。

そこで多くの情報を手に入れようと、メディアが動いた様だった。

 

「中へは入れてもらえないのですか?!」

 

「艦娘に関しての情報の速報とかは無いのですか?!」

 

「今日も出撃するのですか?!」

 

その取材陣波に必死に向かうのは横須賀鎮守府警備部だった。今日はこんな状態なのでいつも小銃だけ持っているが、防弾アクリル盾を持っている。通せんぼには最適だ。

 

「何もお答えする事は出来ません!」

 

そう叫んでいるのは門兵の列に入っていた武下大尉だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はその様子を執務室の前の廊下にある窓から見て苦悩していた。

あんな状態じゃ、他の入り口付近にも張られていて物資の搬入が出来ないのだ。

 

「こうもメディアはどこ行っても同じなんだな......。」

 

と溜息をもらしていると今日の秘書官である叢雲が俺の横に立った。

 

「あそこまでやると門兵の人たちが威嚇射撃するかもしれないわね。業務妨害だとか言って。」

 

そう言ってニヤニヤしていた。

 

「確かに騒ぎが執務室まで来て集中できないが、やっぱり小銃撃つのか?」

 

「撃つんじゃない?」

 

そう言って叢雲は門兵の壁の後ろにいる門兵に指を指した。その門兵は何か武下大尉から指示を受けたのか小銃を上に構えている。

その瞬間、撃鉄を落としたのか発砲音が聞こえた。

 

『提督は今の執務に追われている!国民に安全に暮らして頂く為に働いていらっしゃるんだ!!静かにしたまえっ!!』

 

そう叫んでいるのがここから聞こえた。

 

「ほら、撃ったでしょ?」

 

そう言って叢雲は鼻を鳴らした。

だが撃ったのも甲斐なしにまだ取材陣が『提督から一言だけでもいただけないでしょうか!』とか『外国との交易は出来る状態に何時になるのでしょうか?』とか叫んでいる。

 

「あぁ......撃った甲斐無しね。そう言えば警備部に与えた逮捕権はまだ凍結してないの?」

 

俺は叢雲に言われて思い出したが、俺が暗殺される云々の時にそんな権限を与えたのを思い出した。

 

「まだしてないな。」

 

「これは公務執行妨害で本当に逮捕されかねないわね。」

 

そう言って叢雲は溜息を吐いた。

黙って外を見ていてもまだ取材陣の騒ぎは収まらず、俺はしびれを切らした。

 

「叢雲。」

 

「何?」

 

「赤城と加賀に偵察機発艦。鎮守府内外を哨戒を伝えてくれ。」

 

「まさか?!」

 

そう言って俺はその場を離れた。

 

「仕方ないわね......。」

 

そう言って叢雲は走り出した。赤城と加賀が居る場所に向かって。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「大本営に取材許可を取り付けたんです!中に入れてもらえませんか?!」

 

「観艦式に参加した艦には全部に艦娘が存在しているのでしょうか?!」

 

そんな騒ぎが段々近くなってくる。

俺は棟を出て正面の門に向かっていた。

 

「赤城さんと加賀さんに偵察機発艦を知らせてきたわ。もう飛んでると思うけど。」

 

そう言って俺の横を叢雲が歩いている。

結局やってくれるのは俺の想像通りだった。

 

「本当に行くの?」

 

そう言う叢雲に俺は行くとだけ伝えると、叢雲は唐突に艤装を身に纏った。

 

「......アンタにあいつ等が詰め寄ったら殺してしまうかもしれないわ。」

 

そう言って槍みたいな艤装で地面をタンと叩いた。

 

「そう言えばそんなんだったな。すまん。」

 

「いいわ。あいつ等に近寄らせなければいいもの。」

 

そう言って歩いて行くと、取材陣がこちらが近づくのに気付いたのかこちらに色々投げかけてき始めた。

 

「提督!日本周辺の海域はどこまで解放できましたか?!」

 

「大本営に取材許可を取り付けたので中に入れては貰えませんか?!」

 

そう叫ぶ取材陣の壁になっていた門兵はこちらをチラッと見るとすぐに慌てた様に声を挙げた。

 

「皆さま!提督に近づかれてはダメです!!!もしも何かあればこちらは一切責任が取れません!!」

 

壁になって押さえている門兵が尋常じゃない声でそう言うのに対して取材陣はそれに聞く耳持たず叫んでいる。

そして既に上空では赤城と加賀の彩雲が飛んでいた。

 

「落ち着いて下さい!!提督に近づかないで!!」

 

そう必死に叫ぶ門兵たちは知っているのだ。提督に危害を加えたらどう艦娘が豹変するか。

観艦式で説明はされたのか定かではないが、軍法会議での場では一応説明がされているのだ(※作中にはその場面はありません)。新瑞が『艦娘は提督という存在を欲し、それを海軍本部から抑制されてきた。提督が欲しいのなら強い艦を初期に集めておけと言われ、強い艦は初期には手に入らない鎮守府では提督という存在は居ない。唯一横須賀鎮守府ではそれに成功し、提督がいるのだ。彼女らがあまりにも提督を欲するので『提督への執着』とその欲を名付けましたが、この提督への執着が今回の暗殺を止めるカギとなったのです。艦娘は事前に手に入った情報を提督から訊き激怒。人柄が変わる程に豹変したのだ。それ程、提督への執着があるのだ。』(※抜粋)そう説明があって尚、全国放送だったのにも関わらずその放送に関与していたマスコミ取材陣はより一層門兵を押していた。

 

「提督!一言お願いしますっ!!」

 

そう叫ぶ取材陣。それを血相を変えて抑える門兵たち。凄い光景だった。

門兵たちは鎮守府警備の時に怒り狂った艦娘を目の当たりにしているのだ。俺が撃たれて気を失っている時、医務室に運んでいる最中はすごかったとそのあとに武下大尉から聞いていた。

撃たれてぐったりした俺の姿を見た艦娘たちは同時に夕立と時雨が連行する侵入者に対して罵声と砲撃、脅し、脅迫、なんでもやったそうだ。想像しただけで怖い。

 

「提督!!一言だけでも!!」

 

「落ち着いて!!!そんなに提督に近づいたらダメだ!!!!」

 

もう門兵も切羽詰まって敬語が無くなっている。

 

「静かにっ......」

 

俺がそう言いかけた時、一際大きな砲声がしたかと思えば俺の前に金剛と鈴谷が立っていた。いつの間に来たんだと思ったのも束の間、金剛が話し出した。

 

「ヘーイ、皆さーん。提督に詰め寄ったらノー!ヨ。これ以上は提督に危害が加わると判断してもいいデスカ?」

 

「鈴谷もこれはちょっとね。」

 

そう言って金剛と鈴谷は艤装を身に纏った。

 

「金剛さん!大本営から許可が下りたので提督に取材させていただけないですか?!」

 

そう言って身を乗り出した取材陣の中に居たニュースキャスターの腕を金剛が掴んだ。

それを見ていた門兵一同、顔面蒼白。

 

「貴女!今からでも遅くない!!金剛さんに謝って手を引っ込めるんだ!!!」

 

そう叫ぶ門兵。だが金剛はそのニュースキャスターが持っていたマイクを取ると眺めた。

 

「オーウ。これは何デスカ?」

 

「それはマイクです!音を取る機械です!!提督!それに何か一言!!!」

 

そう言うと金剛はマイクを折った。ニコニコしながら。

 

「えっ?」

 

そう言ったニュースキャスターに金剛は言った。

 

「ギルティデース。門兵さん、この人逮捕デスヨ?」

 

そう言った金剛の横で鈴谷は艤装の20.3cm連装砲をニュースキャスターに向かって構えた。

 

「何を言ってるのでしょうか?」

 

「提督がどうしてここに来たかは知りませんガ、それまでは貴女たちの声が棟まで響いてマシタ。棟には出撃して身体を癒してる艦娘や仕事をしている提督が居マシタ。それに軍法会議で私たちの事、訊きませんでしたカ?」

 

そう言った金剛はニュースキャスターを引き寄せた。

 

「私たちは『異常に提督に執着』するのデース。提督に降りかかる火の粉、飛沫、風、何でも『害』と見なしマース。だからギルティデース。」

 

「どういう事でしょう?」

 

「要するに逮捕デース。アハッ、良かったデスネー。提督の門前なので私たちはここまでしか出来まセンガ、無断で進入若しくは門兵さんの壁を突破して提督に近づこうものナラ、燃えカスデス。」

 

すっごい良い笑顔で金剛は言ってるが内容が笑顔になれない。

 

「他の人達も提督に取材したいナラ、大本営と提督の許可を得て、私たちの監視の下で取材して下サーイ。門兵さん、この人を拘束するデース。」

 

そういった金剛は武下提督の下にニュースキャスターを引っ張っていき、手錠を掛けさせた。

俺はこれまで黙ってきたのには理由があった。頭上に飛んでいたのは彩雲だったはずなのに、今は零戦52型と彗星だからだ。

 

「何故私たちがこうなのかは大本営に問い合わせてみるといいデース。それと今上空を飛んでる艦載機たちが、さっきまでは偵察機でしたガ、今は戦闘機と爆撃機デス。相当怒ってるみたいデスヨ?......それと大本営から許可を取っていると言ってた人、こっちに来てくださいネー。」

 

そういった金剛に取材陣の1グループ。ニュースキャスター1人とカメラマン1人、音声1人が金剛の前に来た。

 

「叢雲。大本営に確認を取ってきてくれませんカ?」

 

「分かったわ。」

 

そう言って叢雲は走って行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

数分後叢雲は帰ってきた。どうやら本当に許可は取っていたらしい。あとは俺が許可を出すかどうかだという事だ。

 

「提督はどうしますカ?」

 

そう訪ねてきた金剛に俺は即答した。

 

「受ける。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

あの後、移動し門兵詰所で取材を受ける事になった。騒ぎを聞いた艦娘が詰所に来て俺の護衛と取材陣の監視役として同席することになった。叢雲と金剛、鈴谷。他は外で待機。

 

「すみません。門前で騒いでしまって。」

 

ニュースキャスターの第一声はそれだった。

 

「いいえ。」

 

「では。私たちはテレビ横須賀の者です。取材に応じていただきありがとうございます。」

 

そう言って始まった取材だがどうやらカメラと音声が仕事を始めたので始まっている様だった。

 

「軍法会議でありました、艦娘たちの『提督への執着』とはどういうものなのでしょうか?」

 

そう聞かれ俺は答えた。

 

「艦娘たちには三大欲求以外の欲求がその『提督への執着』だけしかないと言われてます。」

 

「三大欲求以外の欲求がそれだけしかないのですか?」

 

「そういう訳ではありませんが、大きく心身ともに影響を与えるモノとしてという意味です。各地に点在する艦隊司令部にはそれぞれ提督という存在はありませすが、存在はしません。艦娘の受ける指示は全て電文として届き、各地の艦隊司令部の艦娘はそれに従って戦闘をしてます。軍法会議で大本営海軍部の者が説明していました通りです。」

 

「では先ほど金剛さんが言っておられた『提督の前では......』って言うのはもし提督の前でなければどうなりますか?」

 

俺ははっきりと言った。これを言わなければもしかしたら本当に艦娘たちの怒りを買う事になるからだ。

 

「鈴谷が構えていた20.3cm連装砲の餌食か、私が殺してましたネ。」

 

そう金剛は答えた。

言葉を失うニュースキャスターに金剛は続けた。

 

「それで済めばいいですガ、最悪、本土に向けて横須賀鎮守府艦隊司令部傘下の艦娘全員が砲爆撃しマス。先ず貴女方のテレビ横須賀本社は更地になってますネ。」

 

そう金剛はニコニコしながら言った。一方ニュースキャスターはすごい汗を掻いている。

 

「こ、こういったことは全て知らせておいた方がいいと思うので少し先ほどの門の前での状況から艦娘の皆さまがとったであろう対応を全てお教え下さいませんか?」

 

そう言ったニュースキャスターはどれだけチャレンジャーなのかと俺は思った。それには鈴谷が答えた。

 

「門を突破すれば鈴谷が手あたり次第20.3cm連装砲を撃ってたよ。提督に近寄れば叢雲が全員斬ってたし、いつまででもあそこに溜まってたのなら門兵さんを退避させて機銃掃射と爆撃されてたね。万が一提督に詰め寄って気分を害してたなら大本営と洋上プラント、資源保管所と資源の採れる施設とそこで働く作業員の家以外は更地だったね~。」

 

そう鈴谷は顎に手をあてて言うが、取材陣はガクガク震えている。

 

「それとニュースキャスターさんがあのまま門兵さんに逮捕されていたならここから生きては出られなかったね。骨も出られないかも。」

 

俺もこれには流石にビビった。恐ろしすぎる艦娘たちの提督への執着。

 

「分かりました......。帰り次第、各マスコミにそう伝えます。では、色々と取材をさせて下さい。」

 

そう言って気を取り直したニュースキャスターは取材を始めた。普段の執務は何をしているか。艦娘たちはどんなふうに戦っているか。印象に残っている事。いろいろ訊かれた。

結局取材は30分ほどで終わり、取材陣は艦娘たち監視の下、入ってきた正面の門に送られた。

 

「ありがとうございました。」

 

そう言って取材陣は帰って行ったが、まだ門の前に他の取材陣がいた。

 

「こちらにもお願いします!」

 

「どうか一言お願いします!!」

 

そう叫ぶ取材陣だったが俺は背を向けた。相手をしていたら日が暮れてしまう。俺は武下大尉を呼び出すと10分以内に立ち退かなければ逮捕してくれとだけ伝えてその場を離れた。

 

「10分以内に立ち退かなければ私たちは貴方がたを逮捕する権限を持ってます!!速やかに立ち去りなさい!」

 

そう叫ぶ武下大尉の声に俺は安心して棟に戻って行った。

 




今回はマスコミの話でしたね。艦娘が提督の為ならどこまでするかが見れたと思います。これぞ提督への執着ですね。

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第四十四話  母港拡張と侵入者の反省

最近暗い話が多いですね。まぁ進行上仕方ないですが......。


俺は今日は早々に起きて準備をしていた。今日は母港の拡張工事が終わる日なのだ。

大本営に観艦式の報酬として要求していた工事だが、思いのほか早く終わった。想定していた期間の1/10くらいだったが。

ちなみにこの鎮守府で増えた施設は、棟が大きくなった事。酒保が巨大化。ニュータウンに建設されるのではないかというレベルの大きさになっていた。そして門兵詰所と事務所の建物も巨大化。独房が設置されたり、鎮守府の端に監視塔が立ったり、人員補充があった。これまで20人くらいだったらしいが今では100人以上。大所帯になった。しかもその任に就く門兵は全員エリート揃い。しかも艦娘の存在を心から感謝し、上官と任務に忠実な人間のみが集められた。大本営の警備部もこれくらいだとか新瑞は笑い飛ばしていたがどうなんだろうか。

 

「司令。執務はこれだけなのでしょうか?」

 

俺の横で首を傾げているのは不知火。今日の秘書艦だ。

 

「いつもこれくらいだ。朝には終わるんだよ。」

 

そう言って俺は背中を伸ばす。

 

「海軍部の新瑞さんでしたか?いくら観艦式の報酬とはいえここまでするとは思いませんでした。」

 

そう言って執務室の向かいの廊下から望む新しい風景に息を飲んだ。

そこからは酒保が見えている。そして交代だろうか門兵が交代をしていた。

 

「俺もだ。俺はただ『母港の拡張』を頼んだだけなのにな。」

 

そう。俺は母港の拡張だけを頼んだのだ。そうしたらこの様。

艦娘たちも目を輝かせていたが、酒保で働く従業員と新しく異動された門兵に対しては敵対心丸出しでいた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「提督。完成した酒保と新しく門兵の任に就く人間だ。」

 

そう新瑞が言うと、俺の前に100人以上の人が並び、俺に向かって敬礼していた。

 

「ここからここまでが酒保の従業員だ。」

 

「酒保責任者の三河ですっ!」

 

そう新瑞に紹介されたのは見るからに30代の女性。その後ろに並んでいる酒保の従業員も全員女性だ。

 

「よろしくお願いします。」

 

俺はそう言って答礼した。

 

「残りは新たに門兵に配置された陸軍の士官・下士官たちだ。」

 

「「「「「よろしくお願いしますっ!!」」」」」

 

「よろしくお願いします。」

 

そちらにも答礼をした。

 

「提督は母港の拡張をこちらに要求してきたので、一応倉庫や工廠、入渠施設の拡大はしたが艦娘たちの為の施設をつくらせてもらった。これは我々からのせめてもの罪滅ぼしと思って欲しい。」

 

そう言って新瑞が見た目線の先には、艤装を身に纏った艦娘。ウチの艦隊司令部傘下の艦娘たちだった。新瑞の言葉は聞こえている様だったが、明らかに酒保の従業員と新たに加わった門兵に対して威嚇というか警戒をしている。今にも何かすれば砲撃しかねない。

 

「海軍部の新瑞さん。これは何の真似です?」

 

そう言ったのは赤城だった。

 

「これは海軍部からの罪滅ぼしだ。非人道的に扱ってきた配下の組織の。」

 

「そうですか。ですがこれ程に人間が居ると提督にもしもの事が起きたら、こちらは大本営を消し炭にすることだってできますよ?」

 

そう言うと酒保の従業員と新たに入った門兵たちが身震いした。俺の位置から見えないが赤城が何やらすごい顔をしたらしい。

 

「何か艦娘たちの気に触れる事をすれば殺してしまっても俺は何も言わん。こいつ等はそれも承知で来ているからな。それにここ横須賀鎮守府は提督のシマなのだろう?ここでのルールは全て提督にある。」

 

「そうですね。」

 

そう言って赤城は話した。

 

「長門さん、お願いします。」

 

そう言って赤城は下がった。その代りに長門が出てきて大きな声で言った。

 

「まだ我々は貴様等を信用した訳では無い!いつぞやとバカな侵入者の様に提督の命を狙うというのなら何時、どこに居ても私たちに殺されると思え!信用を得たくば、まず提督から信用されてみせろ!」

 

そう言って長門は下がった。

 

「それにしても提督。これでは彼らがビビってしまう。」

 

そう言って新瑞の視線の先には俺と新瑞、酒保の従業員と新たな門兵の間に艤装を身に纏って並ぶ艦娘たち。砲門は全て酒保の従業員と新たな門兵の方を向いていた。そして上空では偵察機と爆撃機、戦闘機が空を埋め尽くす数飛んでいた。

 

「長門と赤城が聞く耳持ってくれませんでしたので......。」

 

そう言って俺は溜息を吐いた。

 

「まぁ仕方ないだろうな。そう言えば地下に提督を暗殺に来て失敗した海軍本部の諜報員が捕らえられているそうじゃないか。」

 

「そうですね。『提督への執着』があるというのに私は何故艦娘たちに殺されなかったのか不思議です。」

 

そう言うと横に居た不知火は答えた。

 

「私たちは司令を守るために警備艦隊を結成し門兵さんと共に鎮守府の警備を務めていました。それ以前に提督は門兵さんに『逮捕権』を与えて逮捕する事を頼んでいたんです。門兵さんと警備をする私たちにもそれが有効になっているだろうと思い、手を出しませんでした。」

 

そう言った不知火はすごい眼力で新瑞の目を見て言った。

 

「では不知火たちはその命令が有効になっているという事で殺さなかったという事か?」

 

「はい。本当は憎くて憎くて仕方が無くかったですが。」

 

そう言った不知火は変わらずに新瑞を見て言った。

 

「そいつはまだ生きてるか?こちらで裁きたい。」

 

そう新瑞が言うと不知火は俺の顔を見た。俺が答えろという事らしい。

 

「分かりました。ではこれが解散した後にでも。」

 

俺はそう言って酒保の従業員と新たな門兵への挨拶を終わらせると執務室に戻った。

新瑞はここに既に居た武下大尉率いる門兵たちにここでのルールを酒保の従業員と新たな門兵に聞かせる為にここに残ると言った。終われば向かうとのことだったので、俺はそのまま執務を片づけようと棟に戻ったのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「まだやってますね。」

 

そう言った不知火は窓から武下大尉の注意を聞く新しい鎮守府の人間を見ていた。

 

「そうだな。そう言えば何で不知火たちは武下大尉たちを信用しているんだ?」

 

「それは提督の身を第一に考え、所属を問わずに我々に協力し、私たち艦娘を普通の人間の女性の様に扱ったからです。」

 

そう言った不知火は表情を変えずに続けた。

 

「私たちはずっと『兵器』『化け物』などと呼ばれて迫害され、しかも戦争を肩代わりしてきました。そんな私たちはずっと『人間の様に扱って欲しい』と考えていたのです。彼らは私たちを怖がらずに人間の様に接して下さいました。だから信じる事にしたんです。私たちを本当の仲間の様に思ってくれる人間ですから。」

 

そう言ったのだ。

 

「そうか。だから武下大尉たちを。」

 

「はい。」

 

そう返事をした不知火が視線を戻すとどうやら終わった様だった。

解散の号令をしたようだが腰を抜かしていたり、小便を漏らしたりしてしまったみたいで1/3が動けない様だった。

 

「新瑞さんが来る。案内してくれるか?」

 

「はい。」

 

俺と不知火は侵入者の引き渡しの為に拘束されている地下に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と不知火、新瑞とその士官は鎮守府の棟の地下にある牢に向かっていた。

地下はひんやりとしていて少し肌寒かったが、耐えられない程ではなかったので気にせず歩き進んだ。

地下牢に到着するとそこには監視なのか艤装を身に纏った朝潮が居た。

 

「司令官!どうされました?」

 

「この人を大本営に引き渡す事になったからな。」

 

そう言って視線を牢に移すと衝撃が走った。

牢の鉄格子は拉げ、ぐにゃぐにゃに曲がり、周辺のコンクリートの壁は彼方此方凹んで崩れていた。

 

「なんだ......これは。」

 

そう俺が言うと朝潮が説明した。

 

「これは食事を持ってくる艦娘たちがやったんです。ここに来る度に司令官が血まみれで運ばれる様子を思い出すって言いまして。でもこの人を殺せないからこうするしかないって言って殴って帰るんです。」

 

そう言った朝潮も怒っているのだろうか、握りこぶしに血が滲んでいた。

 

「そうか。だがもう面倒を見る事はしなくていい。新瑞さんが連れて行くからな。」

 

そう言うと朝潮が笑顔になった。

 

「そうですか!!正直今すぐにでも殺したいですが、提督の前です。やれないですが、連れて行くという事は処刑ですよね?」

 

そう朝潮は無垢な笑顔でそう新瑞に訊いた。

 

「もちろんだ。」

 

そう新瑞は答えた。

それに気付いたのか牢の中に居た侵入者はげっそりした表情でこっちに来て言った。

 

「提督......撃ってしまい申し訳御座いませんでしたっ......。私は海軍本部に所属していた際に先輩から『提督が着任したお蔭で鎮守府が反乱するかもしれない。あんな不穏分子、殺してしまうべきだ。』とずっと聞かされ続けてきました。それはこの手で提督を撃った時に消えましたよ......。直後に来た艦娘に言われました。『そう......なら、貴方も同じ目に会っても文句はないわね?私たちにとって貴方は不穏分子。私たちに生存と戦略を与えてくれるたった1つの司令塔。それを殺した......。貴方の様な人間はイラナイ............。』と。捕まってここに連れてこられる最中に艦娘たちに浴びせられた罵声には『私たちの司令官を返せっ!司令官をっ!!』が混じって聞こえました......。それには記憶があったんです。まだ海軍の軍艦があった時代、私が小学生だった頃、帰ってこなかった護衛艦の乗組員の父を持つ友人がそう父を返せと叫んでいたんです。唯一返ってきた満身創痍の護衛艦の艦長に噛み付いてそう何度も......。それから私なりに考えてみたんです。......艦娘にとって貴方という存在は何よりも無くてはならない存在。あの頃の私にとっての父の様なものだったんですね......。急所を外したので提督は生きていらっしゃいますが、私は軍人として恥ずべき事をしました......。」

 

そう言った侵入者の目には力が無い。

 

「違いますよ。」

 

そう割って入ったのは朝潮だった。

 

「司令官は父という存在ではないです。司令官は私たちにとって命より、本来守るべき祖国の島よりも大切な方です。貴方にこの際教えましょう。艦娘の『提督への執着』を。」

 

そう言って朝潮はつらつらと休むことなく提督への執着を説明した。

 

「ははっ......私はなんてバカなのだろう......。知りもしないでこんな事をしてしまった......。」

 

そう言って力のない目を俺に向けた。

 

「私は海軍本部の様に染まってしまったのですね......。」

 

そう言うと新瑞は侵入者の腕を掴むと立たせてそのまま連れて行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

後で新瑞から書類と共に送られてきた封筒の手紙に書かれていたことだが、侵入者は軍法会議に掛けられた。結果は有罪。横須賀鎮守府艦隊司令部傘下の艦娘の怒りを鎮める為に謝罪に出向きその後に射殺されることが決定したそうだ。

 

「後味が悪いな......。」

 

今日の秘書艦であった不知火を寮に帰して1人になった執務室で読んだそれは俺の気分を沈ませた。

侵入者は海軍本部の意向に染められた人間だった。いわば被害者と言ってもいいのだろう。そんな人も裁き、殺す事になった事。俺の心に靄を残していった彼は今どうしているのだろうか。

 

 




侵入者の語る真実はどうでしょうか?

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第四十五話  償い

 

侵入者が新瑞に連れて行かれた翌日。今日も新瑞が来ることになっていた。今日の要件は艦娘の前での侵入者の晒し。つまり艦娘の怒りを鎮めるという事だ。

 

「司令官。今日はアレですね~。」

 

俺が艦娘がどう豹変するのか胃を痛めているという時に今日の秘書官である綾波はその抜けた様なホンワカ雰囲気でアレとか言いだした。

 

「アレって?」

 

「今日は鎮守府に出来た酒保が開くのでしょう?早く行きたいなぁ~。」

 

すっごいふにゃっとした表情でそう言う綾波だが、そのあとそのふにゃっとしたまま話を続けた。

 

「ですがその前に司令官を撃ったあの人が来るんですよね?処刑されるって聞いたのですが?」

 

「そうだな。来るのは何でも艦娘たちの怒りを鎮める為に謝罪に来るんだと。俺には逆効果な気がするが。」

 

そう言うと綾波は『そうですね~。』とか言うものだから椅子から滑ったのは言うまでもない。

だが俺は昨日、どういう処遇になるかというのを読んでいて思った事があった。あの人を殺してなんになるというのだろうか。確かに俺はあの人に殺されかけた。だが、あの人は洗脳されていたと考えてもいい。海軍本部の意向に染められていたのだ。

ならそれに気づいた今、あの人を殺してどうすると言うのか。洗脳が解けたのならいいのではないか。そう俺は思っていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

一つ思い返す事があった。俺が金剛の歓迎会の後に片づけを手伝った後に間宮から聞かされた艦娘の事。

あの時間宮は艦娘が隔離された理由を『それは最初は自衛隊内だけで言われてましたが、遂にメディアに流れてしまって国民に知れ渡ったんです。そこからです。』と言ったが、何故観艦式には恐れずに観客がたくさん集まり、メディアがあそこまで注目したのか。疑問だった。

それは簡単な事だった。知れ渡ったと言うがその方法とその情報の詳細についてだ。人の噂は歪曲しながら伝播する。きっと国民に知れ渡った時には艦娘と言う文字は残っていなかったのだろう。さしずめ『こちらに味方する深海棲艦』と言ったところだ。

ここまで考えて思考を切り替えた。今、目の前には昨日まで地下で拘束されていた侵入者が跪いている。多くの艦娘に囲まれて。

 

「私は重大な過ちを犯しました......。許してほしいとは言いません............。申し訳ございませんでした......。」

 

手枷をつけられ、地べたに座る侵入者はぼさぼさの髪を垂らして謝罪した。これは艦娘に向けてであり俺にも向かっている。

艦娘の目には怒り一文字しかなく、俺がここに来る際に艤装を身に纏うのを禁止しなければ今頃穴だらけになっていただろう。

俺はその侵入者の目を見た。

涙が溜まり、涙の痕が残っていた。きっと連れて行かれた後に泣いていたのだろう。

 

「......。」

 

艦娘たちは黙って見ている。

俺の判断を待っているのだ。

新瑞は鎮守府で俺に会うなり『ここでのアレを終わらせればあいつは処刑される。このシマから出るには提督の声がいるだろう?それまでは何時までもいるさ。』そう言ったのだ。

俺の裁量でここでこの侵入者は殺す事も出来る。どんな方法でもだ。だが俺にはつっかえるものがあった。この侵入者は海軍本部の歪曲した考えで染まった洗脳が解けている。もう唯の諜報員。所属も海軍本部だったがそれも今は無いので無所属。この人にも絶対家族が居る筈だ。そう考えると俺はここで『連れて行け』などと言えなくなっていた。

その一言で取り戻した自分の意思が殺されることになってしまうからだ。それよりも、これまで深海棲艦を駆る事には躊躇しなかったが、人を殺した事は無かったのが俺にブレーキをかけていた。

 

「司令官?」

 

俺の横に立つ綾波も不思議そうに俺の顔を覗き込む。

 

「何でもないさ......。」

 

俺は決心した。何と言われようと、そうすると。

 

「諜報員だったか?」

 

そう俺は切り出した。

 

「はい......。」

 

「そうか。」

 

俺は間を置いた。

 

「......家族は?」

 

そう俺が言うと綾波を始め、居た艦娘は何を言っているのか理解できない顔をしていた。

 

「います......。父、母......それと、もう何か月と逢ってませんが、妻、娘がっ......。」

 

そう言って電池の切れかけた携帯端末を俺に向けた。

 

「......。」

 

休みの時に家電屋に二等兵と行ったがこんなもの売ってたのか。買えばよかったと考えた後、それを言った。

 

「反省は。」

 

「嫌と言うほどしました......。私が空母の艦娘の艤装の飛行甲板の上で私にイラナイと言ったあの艦娘が目の前にあの時の表情で浮かんでくるんです......。そして昨日、駆逐艦の艦娘から聞かされたあの話......。昨日から朝まで方時と耳から離れませんでした......。」

 

「そうか。なら自分の言っていた事、覚えいるか?」

 

「はい?......海軍本部の先輩の話でしょうか?」

 

「いや、それの後だ。」

 

「友人の話ですか?」

 

「あぁ、俺は満身創痍で帰ってきた護衛艦の艦長の様にはなりたくない。武下大尉っ!」

 

俺は唐突に武下大尉を呼ぶと一言だけ言った。

 

「制服の予備、ありますか?」

 

「っ!?正気ですか?!曲がりなりにも提督を殺そうとした張本人ですよ!?」

 

そう言った武下の声にやっと状況が掴めたのか艦娘たちがざわざわし始めた。横の綾波もオロオロしている。

 

「分かっている。新瑞さん、ここは私のシマであってここからは私の声がなければ何もできないのですよね?」

 

「あっ......あぁ。」

 

新瑞に確認を取ると俺は侵入者の前に座った。

 

「俺は海軍本部の諜報員が俺の暗殺を企てている事を聞いたときから対策を取っていたんだ。何だと思う?」

 

「......そっ、それは警備に艦娘が出ていましたので、それでしょうか?」

 

「違う。俺は逮捕を命じたんだ。」

 

そう言うと周りで見ていた赤城が大声を上げた。

 

「待ってくださいっ!確かに逮捕を命じましたが、まさか仲間としてここに置くので?!」

 

そう言うと周りの艦娘や綾波も気付いたのかざわざわし始めた。綾波は『本当なのですか?殺さないなんて......。』と言っている。

 

「その通りだが、問題あるか?」

 

そう言うと今度は長門が立ち上がった。

 

「コイツは提督を殺そうとした奴なんだぞ!?」

 

そう言うと長門の前に俺は歩みを進めて立ち止った。

 

「彼は洗脳されていたんだ。昨日の引き渡しの際、海軍本部の意向に染められていた事が分かったんだ。もうその洗脳は解けている。今は何ら変わらない人だ。」

 

「だがっ!」

 

そう続けた長門の言葉を遮るように言った。

 

「俺に裁けと?!彼はあの海軍本部に洗脳されていたんだ!!!お前らと同じ被害者だろうがっ!!!」

 

「でもっ!」

 

長門はまだ食い下がってきた。

 

「ならば長門......。」

 

「なっ、なんだ。」

 

「長門にこの場で命令を下してもいいのだぞ?」

 

「どういう命令だ。」

 

「『解体』だ。」

 

そう言うと周りの艦娘はおろか、新瑞も驚いた。

 

「何故だっ!?」

 

「彼は俺の殺人未遂をした。長門は俺に何をした。」

 

そう言うと俺が着任して挨拶した日までに進水していなかった艦娘が長門を囲んだ。

 

「......。」

 

長門は黙ってしまった。

 

「そうだ、長門。アレは俺にミスもあったが一ヵ月もなぁ?」

 

そう言うと長門は引き下がった。

 

「それに彼はもう絶対にやらないだろう。配置も艦娘の目に触れないようにするさ。」

 

そう言って侵入者に近づいた。

 

「ウチに諜報員が欲しい。なってくれるか?」

 

「えっ?......。」

 

そう言った侵入者は状況が掴めていない様だった。

 

「いいですよね?新瑞さん。」

 

「あぁ。提督がそういうなら処刑を取り消そう。」

 

そう言って新瑞は部下を連れて少し離れた。

 

「任務を与える。侵入しようとする者、侵入を企てている者をマーク。侵入した際、逮捕せよ。」

 

そう言って武下が持ってきていた予備の門兵の服を渡した。

 

「諜報員なんだろ?その能力を生かしてくれ。艦娘と門兵を欺いた諜報能力は凄かった。」

 

そう言って俺はその場を離れる事にした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

場所は変わって食堂。

俺がどうしてあの判断を下したかの説明をしていた。

どうしてそうしたのかという経緯、主に昨日あったことを説明する提督がそれでいいならと自分らの前に本当に現れないならいいと納得してくれたが、今は違う事で騒ぎになっている。

俺が長門に言ったアレだった。

 

「落ち着け。」

 

俺が宥めているのは俺の歓迎会より後に来た艦娘。最上、金剛、陸奥、伊勢、島風、瑞鶴、瑞鳳、陽炎、イムヤ、蒼龍、飛龍、鈴谷が全員艤装を身に纏い、長門に砲を向けていた。

 

「あれとは何デスカ?!答えて下サイ!!」

 

そう言った金剛に合わせてガシャンとそれぞれの艤装から音がした。給弾したのだろう。

 

「落ち着くんだ金剛!」

 

そう言うと囲まれていた長門が大丈夫だとだけ言って説明をした。

 

「提督は着任されてから一ヵ月、第一艦隊である私たちが提督の着任を連絡せずにいたんだ。」

 

そう言うと長門は一息ついて続けた。

 

「一ヵ月間、提督は執務室と私室しか行き来せず、食事も執務室で三食摂っていたんだ。」

 

そう言うと金剛の艤装の主砲4基が動き出した。

 

「それは軟禁デス!!」

 

そう叫んだ金剛と長門の間に俺は入っていった。

 

「落ち着くんだ金剛。言っただろう、俺にも非があったんだ。それに丁度その時期は金剛の事で皆に出撃や遠征で出払ってたし。」

 

そう言うと金剛は身に纏った艤装を消した。

 

「......ならいいデスケド。」

 

そう言ってプクーと頬を膨らませた。そして周りの艦娘も艤装を消した。どうやら納得した様だ。

 

「ありがとう金剛。」

 

俺はようやくその場を納める事が出来た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「司令官~。」

 

そう執務室で呼ぶのは綾波。侵入者の事や長門の騒ぎが落ち着き、執務室に戻ってからすぐだった。

 

「なんだ?」

 

「司令官が仲間に引き入れたあの侵入者の名前って聞いたんですか?」

 

そうぺかーと表現してもいい具合の表情に少し戸惑いつつも、聞いて無い事を思い出した。

 

「あ、聞いてない。」

 

「確か『巡田(めぐりだ)』さんとか訊きました。」

 

「そうか。」

 

俺は手元にあったメモにその名前をメモった。

この後、武下が執務室を訪れて巡田はどうするかという方針の話をし始めた。

取りあえず今日は休ませて家に帰らせる。出勤は門兵の夜間警備の交代の時間に来させるとの事。所属を鎮守府警備部に書き換えておくこと。巡田の交代要員を用意しておくとの事。色々と決めて行った。そして最後に、艦娘が通るであろう場所から配置を離すという事が決まった。

 




これで侵入者の騒動は終わりです。
長かったですねー。ラストはちょっと強引だったかと思いますが、自分は満足してます。

最近雪風の開発日記を書いてない気がします。いいネタが出てこないんですもの......。頑張って雪風w

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番外編  俺は金剛だ!③ 『出撃!』

 

俺は朝起きて支度を済ませると食堂に来た。

腹が減っては戦は出来ぬとか言うからな。まぁ入るだけで空気が変わるのは分かっていたがここまで顕著に変わると俺もびっくりする訳だ。

トレーを持って並ぶと前後がこっちをチラチラと見ていた。

 

「なっ、何だよ。」

 

「はっ?!いえ。何でもないです!!」

 

そう答えるだけだった。

というか昨日の歓迎会で全員の自己紹介があると白瀬さんが言ってたのに結局追いかけまわされて無くなった。この娘誰なんだ?

 

「名前、なんていうんだ?」

 

「はひぃ!私は五月雨といいます!」

 

そう言った。確か初期艦として選ぶことができるっていうところに書いてあった様な。

 

「五月雨、よろしくな。」

 

「はいっ!」

 

顔を真っ赤にしてそう言う五月雨に俺は笑いそうになるのを堪えた。すっごい声裏返ってるんだよ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

トレーを持った俺と五月雨はなんかの縁と言って一緒に食べる事になった。横で五月雨が『私いつもドジばっかなのに今日はついてる!』って言ってたけどそれは置いといて、現在、脱出不可能な状態に陥っております。

 

「五月雨ぇ~。ずるいぞー。」

 

と言って五月雨に似た服を着た子が現れた。だがずるいぞーって五月雨の名前を呼んだくせに俺の空いてる横に座った。

 

「金剛君だ!あたいは涼風ってんだ!」

 

この涼風も五月雨同様に声裏返ってる......。

 

「おー、よろしく。」

 

そうとだけ答えて飯をかき込む。何だかここに居ちゃいけない感じがするんだ......。なんか素敵なパーティー的な何かが起きそう。

 

「あー!!私が一番を取ろうとしてたのにー!」

 

そう言ってまた増えた。今度は正面が埋まった。

 

「モシャモシャ。」

 

それをシカトして食べ続けるが、すっごい猛攻が来てる。質問攻めだ。

 

「どうして金剛君はそんな風なの?!」

 

「金剛君は強いっぽい?」

 

「雨は好きかい?」

 

どんどん顔が近づいてくる。怖い怖い怖い!!

 

「だぁー!静かにしてくれ!」

 

そう言って黙らせると飯をかき込む。今さらだが飯美味い。

 

「私は金剛君のイッチバーン貰うよ!」

 

「夕立にご用事はないっぽい?でも夕立はあるよ!」

 

「僕もかな?」

 

そう言う。こいつ等諦めねぇのかよ!!気付けば後ろも囲まれている。怖いんだけど。さっきから『グフフッ......。』っての聞こえてますから!あの人居るんでしょ?!

 

「やっぱ怖いわ......近い近い近い!!顔を寄せて来るな!!」

 

「それは酷いよー!」

 

「酷いっぽい!」

 

「僕も怖かったかな?」

 

そりゃそうだ。何も言われず座って質問攻めにあって顔寄せられたら誰だって怖いだろうが。しかも目がギラギラしております。俺は同じ目を見たことあるぞ!大学で可愛い子を見つけた友達じゃねぇか!俺は可愛い子ってか?!アホか!!

 

「まあまあ白露ちゃんたち落ち着いて......。昨日もそれやって逃げられてたでしょ?」

 

なんという大人なのだろうか。五月雨......。

 

「「「えぇー。」」」

 

そしてこの一体感である。

 

「モグモグ......ング......じゃあ五月雨、俺は提督のところに行く。さらばだっ!!」

 

俺はトレーを持ってその場を走り出す。だって後ろからの圧から逃げたかったんだもの。あの人いたし。武蔵に一撃で轟沈させられてた人。今武蔵達居ないから無理。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は食堂を逃げるように去り、執務室に来ていた。昨日一日居て分かったんだ。あそこは安全だ!艦娘たちの猛攻(詰め寄り)に怯えなくて済むからな!

 

「うーっす。」

 

そう言って執務室に入ると既に金剛たち四姉妹は居た。そして白瀬さんも。

 

「金剛か。遅いな。」

 

「るっせ。今日は金剛たちも大和と武蔵が居なかったから囲まれてたんだよ。盾(比叡)も居ないし。」

 

「ひえぇぇー!盾とか酷いです!」

 

そう言って俺は金剛のところに行く。金剛の近くが結構安全なのだ。コイツ結構ふわふわしてる癖にな。

 

「オゥ、金剛ネー。Good morning!」

 

「おっす。着任2日目だけんど何するんだ?」

 

「今日は私たちの初陣ダヨー!」

 

そう言って金剛はガッツポーズする。初陣ってそんな感じでいいのかよ......。なんかこうもっと『初陣......初陣で死なないといいんだけど......。』的なのじゃねぇの!?

 

「そうか。って事は深海棲艦を駆りに行くと?」

 

「その通りネー。」

 

そう言って金剛が俺に一枚の紙を手渡した。上には編成表と書かれている。

 

「この編成で鎮守府正面海域を航行するネ。基本的に駆逐艦級と軽巡級しかいないカラ、楽らしいネ。言わば『無双』って奴デス!」

 

こいつさらりと何えげつないこと言ってんの?無双ってあれだろ?ほら、単機でザクとか斬りまくるガン○ム無双的な無双だろ?

 

「そうかよ......。」

 

「まぁ帰還したらそのあと補給してすぐに南西諸島沖の残敵掃討デスケドネー。」

 

そう言って目を輝かせている。どうやら楽しみらしい。

 

「それで今日の編成デース。」

 

そう言って金剛は編成表の上から説明を始めた。

 

「上から私、金剛、五月雨、涼風、蒼龍、飛龍ネー。安パイと言うか安全策と言うかって感じデスネ。」

 

そう言って金剛は俺の手を引いた。

 

「今から艤装装着して出撃デス!Follow me!」

 

と言われて出て行こうとすると比叡、榛名、霧島に通せんぼされた。

 

「どうしましたネー?」

 

そう金剛が言うと大粒の涙を比叡が流しだした。

 

「お姉様とお兄様を危険な海域に出撃させたくありません!!ひええぇぇぇぇぇん!」

 

「榛名もです!」

 

「私は共に戦いたいですが......。」

 

そう言って並ぶ比叡と榛名に白瀬がチョップをかました。

 

「この2人が居ればもっと進んで、戦争も時期に終わる。黙って見守るのが先任であり妹でしょ?」

 

俺、初めてこの人が真面目な事を言ってるところを見た気がする。

そんなこんなで俺と金剛、五月雨、涼風、蒼龍、飛龍の艦隊が鎮守府から出撃していった。五月雨と涼風は知ってるけどあとの2人は誰だ?

 





ネタにあまり走れてないという......。仕方ないですねw
かの狼さんはどこでも出現しますのでw

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第四十六話  酒保、開店!

 

「司令官!酒保が開店したみたいですよ!」

 

そう言った綾波に引かれて俺は執務室を後にした。

ちなみにさっき食堂には集まっていたが、食事をしていた訳では無い。全員が集まるのにちょうどいい場所が食堂なのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

酒保には開店ののぼりが立ち、この前に挨拶があった従業員がせっせと通る客(艦娘)に挨拶していた。

 

「はぁ~。酒保がすごい事になってます~。」

 

俺の手を引いたままの綾波はキョロキョロと辺りを見渡していた。

酒保には俺の目からしたら当たり前のものが沢山置いてあった。服、食べ物、本、家電(テレビ、ラジオ、パソコン、携帯端末は無し。)、雑貨、どれも生活には使うものだ。

 

「こんなにものがあると買うものに困っちゃいますね。」

 

「そうだな。」

 

歩き回る事数分。俺はある事をふと思い出した。綾波が今『買うものに困っちゃいますね。』と言ったが、艦娘の給金はどうなっているのだろう。俺は気になった。

 

「なぁ綾波。」

 

「何ですか?」

 

「毎月どれくらい貰ってるんだ?」

 

「えぇとですね......18万円くらいですかね?大きくなる程お金はいっぱい貰えるみたいですが......。」

 

そう言って綾波は彼方此方に目移りさせていた。

 

「そうか。」

 

俺はここで話をやめた。下世話でもあるが、お金の話になるとキリがない。日々戦地に赴く艦娘に対して足りないのではないかと思うが、それを言い出したら国内の全土に何万人といる艦娘の給金を払うだけでかなりのお金が飛んでいくのだ。

 

「ですが、これまであまり使ってこなかったのでいっぱいあるんですよ!お洋服とかお菓子とか、いっぱい買いたいですっ!」

 

そう言って綾波は笑った。

 

「そうか。今日は皆ここに来てるだろうから姉妹と行ってきたらどうだ?」

 

「いえ、今日は秘書艦ですので!司令官の傍を離れる訳にはいきませんよ?」

 

そう言ってフンスと鼻息を噴き出した。どれだけ気合が入っているかが分かる程だ。

そうしていると、俺と綾波の周りにはたくさんの艦娘が集まっていた。ここまで集まって歩いていると、どこかの打ち上げパーティーを思い出す。更に、従業員も俺の前に現れた。

 

「これは提督っ!ご来店ありがとうございますっ!!」

 

そう言った従業員はあまり近すぎると艦娘に殺されかねないのを分かっていたのか、数m先で挨拶をした。

 

「あぁ。こっちこそ艦娘たちの娯楽の為にありがとう。」

 

「いえ!」

 

そう言うと従業員は笑って立ち去った。それからというもの通る度に挨拶された。これはこれで何か別のモノを感じる。

 

「あっ!司令官っ!あそこにお菓子があります!!」

 

そう言って綾波が走っていってしまった。それを俺は追いかけるのであった。

それからというもの、綾波の買い物に付き合った。回れるところは全部回り、回りきって出る頃には閉店の時間になっていた。酒保の閉店時間を俺は完成前に5時と定めたのだ。全ては働く従業員の為であり、空いている事で艦娘の生活が乱れてしまう事を懸念しての事だった。それには何ら異議もなくすんなりと通り、結果、俺と綾波が出た頃の酒保の前には艦娘の人だかりが出来ていた。どうやら皆もギリギリの時間まで居た様だった。

 

「さて、帰るか。綾波、一回綾波の部屋まで荷物を運ぼう。手伝うよ。」

 

そう言って俺は綾波の買った物の紙袋を数個持ち上げると歩き出した。

待ってくださいと言って追いかけてくる綾波に振り返っては、夕食に遅れると言って。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今日の夕食時、食堂は凄い賑わいがあった。俺は綾波の部屋。厳密には綾波型駆逐艦の部屋に荷物を運んですぐに食堂に向かい、テレビを点けていた。これはテレビを設置した時からの事で、できるだけ楽しんでもらう為だった。だがテレビに釘付けになっている艦娘ばかりではない。

酒保でどんなものを見つけたとか、何を買っただとかっていう話で盛り上がっているのだ。この光景を見ているとやっぱ艦娘は女の子なのだろうと俺に思わせた。

 

「司令官、酒保は朝の10時から夕方の5時まではやってるんですよね?」

 

そう言って俺の横で夕食を食べる綾波は訪ねてきた。

 

「そうだ。色々考慮してなるべく長い間開けてもらう事になっている。今後、増設されて色々な施設が入るかもしれないな。」

 

そう言って俺も夕食を口に運ぶ。

今日はいつもの和食とは違って、洋食だ。間宮も酒保を訪れた様でその際に買った料理本を見て作ってみたと言っていた。

今日のメニューはハヤシライス。カレーライスは出るがこれは今まで出たことが無かった。俺も正直驚いている。とても美味しいのだ。さっき1杯食べ終わってお代わりしに行ったくらいだ。

 

「ハヤシライスもおいしいですね~。」

 

そう言う綾波はまたぺかーとなっていたのでそうだなとだけ答えて俺もハヤシライスにスプーンを伸ばし続けた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夕食が終わり、時間が過ぎると綾波を部屋に帰るように言って今は執務室で一人だ。

静かになった棟の中はとても気味が悪かったが今日は違った。艦娘の寮から笑い声が聞こえる。きっと酒保で娯楽品を見つけてそれで遊んでいるのだろう。次の日の出撃や遠征に響かない程度に楽しんで欲しいと思って、俺は椅子から立ち上がった。

もう今日は寝よう。そう思ったのだ。

 





内容はうっすいですが、これまでのシリアスな感じからは出れたと思います。
最近指先が痛いんですよね。昼間はずっとペンを握って、夜はキーボードですからねw
楽しいんでいいですが、キーボードのよく打つキーがハゲ始めたのはここだけの話www

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第四十七話  雪風の開発日記⑦


今日のはリアルタイムです。


 

「提督、資材が結構溜まりましたね。」

 

そう言って俺に今残ってる資材の残量を書き留めた書類を渡してきたのは今日の秘書官、高雄だ。

最近駆逐艦の艦娘を秘書艦にしていたが、その際に巡洋艦の艦娘から『私たちもやりたい!』という声が挙がったので今日は、付き合いの長い(※初期から居た)高雄に頼んだ。

 

「そうだな。各資材10000超えでボーキサイトは空母全力運用でも耐えれるだけか。」

 

それくらい溜まっていた。これなら難関海域にピストン出撃を行っても耐えれるくらいだ。バケツも遠征艦隊がよく持って帰ってくるので、かなりの数のバケツがあった。

 

「そうですね。難関海域に挑んでみるのも良さそうです。」

 

そう言った高雄はニコッと笑った。

一方、執務室で雪風が俺の指示を待っていた。いつもの建造の指示を貰う為だ。

 

「司令ぇ!今日はどうしますか?」

 

「今日はだな......。空母で頼む。」

 

「分かりました!」

 

そう言って元気よく雪風は執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「雪風ちゃんはいつも元気ですね。」

 

「そうだな。最近は結構通常建造でも出せる艦が揃ってきたし、被りも多い。空母はまだ来てないのがいるからな。」

 

そう言って俺は近くにあった瑞鶴の書類を指差した。

 

「......瑞鶴さんという事は、翔鶴さんの事ですか?」

 

「そうだ。翔鶴が来れば艦隊司令部の航空戦力はかなり固められる。」

 

そう言ってトントンと現在の艦載機の開発数の書かれた紙を指差した。そこには着実に進む艦載機の更新が書かれていた。既に赤城と加賀の艦載機は烈風改、流星改、彗星一二型甲などが揃っており、場合によっては雷電改に載せ換えれる。雷電改は迎撃機としての運用を想定しているので、出撃する際には搭載しない事になっていた。

 

「最近は蒼龍さんと飛龍さんが戦術構想だとか言って資料室で艦載機の特性とかを勉強してましたよ。赤城さんと加賀さんに追いつきたいって言ってました。」

 

「そうか。赤城と加賀はウチの艦隊の空をずっと守ってきたからな。」

 

そう言って窓から空を見上げた。

 

「そういえば、扶桑さんたちもずっと資料室ですね。」

 

「何故だ?」

 

高雄は何故か知らないが俺の知らないところの艦娘の状況を教えてくれている。

こちらとしてはいいことだが、彼女たちは勝手に提督に何やってるかの報告をされるのはどうなんだろうな。

 

「突撃陣形の考案とか言ってました。あと本を読んでますね。」

 

突撃陣形に俺は引っかかったが、取りあえず流した。あとで扶桑たちに訊けばいい話だからだ。

 

「そうか。他も酒保行ったり資料室に居たりトレーニングか?」

 

「そうですね。皆笑顔も増えましたし、良かったです。」

 

そう朝の執務後の時間を高雄と話して過ごした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼前になると雪風が報告に帰ってきた。あと何故か雪風と一緒に五月雨も来ていた。

 

「司令ぇ......。」

 

そう雪風は今にも泣きだしそうな表情をしている。

 

「何かあったか?」

 

そう言うと雪風から出た言葉に俺と高雄は凍り付いた。

 

「間違えて大型艦建造をしてしまいました......。ですが出たのは比叡さんの艤装です......。」

 

「「ひえぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

事情を聞くと、雪風が工廠に行く途中で五月雨と会い、五月雨が建造しているところを見てみたいと言ったので一緒に行った。工廠で雪風が建造妖精と話している間に五月雨はドッグを見て回っていたがその際に何かのスイッチに触れてしまった。そうすると建造が始まり建造妖精から『五月雨さんが大型艦建造のレバーを引いたのですが良かったのですか?』と言われ大型艦建造が行われている事が発覚。止めれないかと聞いても始めてしまったからどうしようもないと言われたとの事だった。

 

「「ごめんなさいっ!!」」

 

そう言って2人は頭を下げた。そしてそのあと、雪風から受け取った資材消費の書留を見て、俺と高雄はまたもや凍り付いた。

資材のほとんどが無くなっていた。海域にはピストン出撃できない程度。ボーキサイトに至っては赤城と加賀で出撃した場合、4回の補給しかできない程度しかなかった。

 

「提督っ!!ごめんなさいっ!!遠征で元の数、集めてきますから......グスッ......。」

 

五月雨は到底無理な事を言って泣き出してしまった。単艦での遠征で油と弾薬、鋼材を7000とボーキサイトを2000も集めてくることなんて到底不可能だ。

 

「そんなことしなくていい。」

 

俺はそう言って泣いている2人の頭を撫でた。

 

「やってしまったから仕方ないだろう?それに元々出撃の回数が少ないウチだからあれだけ資材があったんだ。大丈夫だ。」

 

「ですが......。」

 

「いいんだ。休暇に入ったと思えばいい。」

 

そう言って2人を泣き止むまで撫で続けた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は2人が泣き止んだところで姉妹たちと遊んでくるといいと言って解散させると、真っ白な灰になった。

 

「あのっ......大丈夫ですか?提督?」

 

心配して俺に高雄が声を掛けてくれるが、俺が燃え尽きたのには理由があった。

 

「開発資材が......残ってない......。」

 

あった開発資材が0になっていたのだ。

 

「ええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

執務室に木霊する高雄の声を聞いて愛宕と長門が来たが、俺には説明出来なかった。

 




まさか間違えるとは思わなかった......。お蔭で資材が底をついてますwww
笑えない......。
当分、雪風の開発日記シリーズは出来ないと思います。遠征組にがんばってもらいますよ。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第四十八話  提督がレクリエーションを提案した。

 

資材消滅事件(※前回参照)から翌日。全面的に鎮守府の活動が止まった状態だ。

 

「執務は無し......。詰まらん。」

 

俺は背もたれに持たれながら天井を見上げた。今日の秘書艦である摩耶が腕を組みながら声を掛けた。

 

「そうかよ......。結構楽しみにしてたのにな。」

 

「そうか。すまなかったな。」

 

そう言って返したが、俺はある事を腹の内で考えていた。レクリエーションだ。

艦娘同士の交流を深める為に、鎮守府にある運動場を最大限に使って、運動会をすることを考えていた。まだ誰にも話していないが。

 

「さぁーて、ないなら仕事探してやるか。」

 

そう言って俺が最初に手に取ったのは掲示板に貼る全体連絡票。ここに書き込んで貼れば連絡が瞬く間に全体に広がっていく。これを利用して運動会をしようというのだ。

ちなみに運営には運動が苦手そうな奴らに声を掛けるつもりだ。

俺が黙々と考えていると、暇そうにしていた摩耶が覗き込んできた。

 

「運動会って何だ?」

 

俺はその摩耶の一言で椅子から滑り落ちた。そしてすぐに体勢を元に戻す。

 

「運動会ってのは身体を動かす競技をチームに分かれて競う会だ。チームには連携や絆が生まれるから丁度いいと思ってな。」

 

「そうかー。どんなことをやるんだ?」

 

「リレー、短距離走、長距離走、長縄飛び、障害物競走、綱引き、二人三脚とかがベターだが俺はここに騎馬戦と門兵を巻き込んだリレーと短距離走をやろうかと。」

 

そう言うと摩耶は目を輝かせた。

 

「面白そうだな!!」

 

そう言ってキラキラし始める摩耶に少々引きながらもツラツラと全体連絡票に書いていく。

出来上がった頃には摩耶が相当楽しみなのか少し挙動不審になっていた。何気に怖かったので見なかったことにして貼りに行くとともに長門と赤城を呼びに行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「という事で運動会をやろうと思ってな。」

 

そう言うと長門も赤城も乗り気なのか一つ返事でやる事になり、詳細は俺が決める事になった。

 

「運動会ですか!!何だか楽しそうですね!!」

 

「身体を動かすには丁度いいな!」

 

そう言ってキラキラになったのは言うまでもない。

結局俺が考えて行くことになった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

競技は50m走、100m走、200m走、100m×4リレー、200m×4リレー、1000m走、長縄飛び、障害物競走、綱引き、二人三脚、ボール投げ、騎馬戦、門兵vs艦娘三本勝負(200m×10リレー、200m走、綱引き)が上げれた。門兵のやつは武下に訊けばできるだろう。

チーム分けは6チームに分ける。それぞれに均等に艦種が渡るように分ける、これが条件で後ほど艦娘たちに決めさせればいい。

場所は鎮守府の運動場。運営には俺と大淀、武下(出る事が決まれば)、門兵数人。これくらいならできるだろうと俺は書き留めた。

 

「ふぁー。」

 

俺が欠伸した頃にはもう昼になっていた。摩耶はというと、酒保で買ったであろう本を読んでいた。

 

「ん?終わったのか?」

 

俺が欠伸したので気付いたのか摩耶は本から目線をそらしてこちらを見た。

 

「決まったさ。あとは武下大尉に協力を要請するだけだ。」

 

「そうか!楽しみだな!!」

 

「さっきからそればっかだな。」

 

そう言って俺は紙を持って執務室を出た。因みに摩耶もついてくると言ってこれから武下のいる警備部棟に向かう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「武下大尉。」

 

俺はそう言って警備部棟の武下の部屋に入った。

 

「あぁ!提督!どうされたんですか?」

 

そう言って外を眺めていた武下がこちらに来た。

 

「今度ウチで運動会を開こうかと思いまして、人員を回してくれませんか?」

 

「いいですねぇ!新人と古参を均等に回しますよ!」

 

こちらも一つ返事で協力を取り付けれた。

 

「ありがとうございます。」

 

「それで、運営の方ですか?」

 

「それもそうですが、競技にも出てもらおうと思っています。」

 

そう言うと武下大尉は驚いた様子を見せた。

 

「たまげた......。是非参加させてください!」

 

俺はある程度説明をすると、武下は集めてまた報告に行くとだけ言ったので俺は帰った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼食時、食堂は一つの話題で持ちきりだった。朝に貼られた全体連絡票に運動会をすると言う趣旨の事が書かれていたからだ。

そこには補足説明が入っていて、身体を動かす競技をチームに分かれて競う会と書かれていて、見るからに楽しそうだったのだ。既にチーム分けを始める算段が立ち始めていた。

それぞれ長門、扶桑、伊勢、金剛、赤城、蒼龍というリーダーを元にそれぞれが均等に分かれるという分け方だった。

 

「美味いな。今日はオムライスか。」

 

俺はそんな楽しそうな光景を昼食を摂りながら見ていた。そんな俺の横に間宮が座ってきた。

 

「どうした?」

 

「私も参加したいです!」

 

そう言った間宮にどうしようかと悩んでいると、速攻艦娘たちに連れて行かれたのでどこかのチームには入ったのだろう。

 

「提督ー。私たちは?」

 

そう言って現れたのは、妖精たち。今日の食堂当番の妖精たちの様だ。

 

「そうだなー。運営に参加で、開発班の妖精にマイクとスピーカー、テントを用意してほしい。それとそれぞれの艦娘にあった体操服を作ってくれ。」

 

「了解~。」

 

そう言ってぱぁーと妖精たちは散っていった。どうやら納得してくれた様だ。

艦娘たちは楽しそうにチーム決めをして、種目に関しても考え始めていた。よく見ると、全艦娘が集まっているようだったのでここで一つ。何かビックイベントをブッコんで見るのもいいと思った。

 

「みんな聞いてくれー!運動会で優勝したチームは景品をつけるぞー!!」

 

そう言うとワァーと騒がしくなり、更に種目決めに熱くなっていった。

そんな艦娘たちを見ていると、本当に女の子の様に見えて仕方ない。心から笑っている様に見えるのだ。俺はそれだけでも見れて幸せだった。

 





今回から新しいのが始まります!
資材が無くなって出撃の出来なくなった鎮守府で提督がはじめたレクリエーションはどう影響を与えて行くのか。
最初の話は移動が多いのと、簡潔に書いてるところが多いので少しつまらないと思います。

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第四十九話  運動会①

花火が撃ちあがる秋の陽気に俺は運動場でマイクを持って立っていた。俺が全体連絡票で連絡してから一週間。鎮守府は騒がしかった。あれこれと作戦を考え、練習し、試行錯誤している艦娘をよく見かけたのだ。

全ては今日の為に、と長門が気合入れて言っていたのでそうなのだろうと俺は思っている。

 

「これから運動会を開催する!取りあえず、ラジオ体操からで。」

 

そう言うと何かに期待していたのか整列していた艦娘と門兵たちはズルッと滑った。

 

「ほらほら広がれー。」

 

そう指示を出してCDからラジオ体操を流し始める。

朝から始める運動会だが、昨日の夜に門兵と運営総出でライン引きと設営をしていたので実質俺は昨日から運動会が始まっていた。と言っても俺は競技に出ないけど。

体操が終わると、整列して選手宣誓を行い、それぞれの席に戻させる予定だったが一向に変える気配がない。

 

「ん?どうした?」

 

「どうしたもないですよ!優勝したチームの景品を教えてほしいんです!」

 

そう言った比叡に賛同するかのように全員がウンウンと頷いた。

 

「こればっかりは教えれないな。優勝してからの秘密だ。」

 

そう言って無理やり解散させた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

それぞれのチームを色で分ける事になった。長門がリーダーのチームは白。伊勢がリーダーのチームは黒。扶桑がリーダーのチームは青。金剛がリーダーのチームは黄色。赤城がリーダーのチームは赤。蒼龍がリーダーのチームは緑と色で分け、それぞれに色の着いたゼッケンを渡してある。とても分かりやすい状態にしておいた。因みに門兵チームはいつもの迷彩服なので着替える必要なし。

そして応援に何故か暇を持て余した酒保の従業員が来ていた。

 

『100m走に出場する選手は入場門に集合して下さい。』

 

アナウンスが流れた。因みにアナウンスは大淀がやっている。

100m走は各チーム4人が出場する。トラックをそれぞれのチームの選手6人で半周を走るのだ。俺がここから見ていて思ったのは、駆逐艦の艦娘が多い事だ。

 

『第一走は......』

 

大淀のアナウンスが続く。

スタート位置に出てきたのは五月雨、暁、朝潮、霞、電、夕張。なんか違う艦種が混じっているのは気のせいだろう。そうしているとスタートを知らせる鉄砲が鳴った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

日がてっぺんを通過したころ、昼休憩に入った。

それまで走る競技は大体終わり、残すところ綱引きと騎馬戦、門兵vs艦娘三本勝負が控えている。

疲れが出始めたのか、結構バテバテだがそれでも楽しそうに笑っていた。俺はこれを待っていた。海の事を忘れた女の子の顔だ。

 

「提督。お昼ですよ。」

 

そう言って俺を呼んだのは大淀だった。どうやら昼に呼ばれたらしい。ちなみに今日の昼は間宮に頼んで作ってもらった弁当。因みに全艦娘の分があって、出場する門兵の分も用意してもらった。これも運動会の醍醐味だ。弁当を食べる。これは俺の気持ちを懐かしく感じさせるものとして十分だった。

 

「提督、芝のところで食べましょう。」

 

そう言って大淀の後ろから夕張がひょこりと出てきた。運動会最初の競技である100m走でスタートでズッコケた夕張だ。

 

「夕張、膝は大丈夫なのか?」

 

「はい。手当もしてもらいましたので大丈夫です。」

 

そう言ってぺシぺシと自分の擦りむいた膝を叩いていた。

 

「じゃあ行こうか。」

 

俺は間宮からもらった弁当を片手に運営のテントを離れた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

芝には結構な艦娘が集まって食事をしており、とても楽しそうにしている。それぞれのチームで作戦会議をしつつ食べ、駆逐艦の艦娘は早く食べ終わるとゴロゴロとしていた。

 

「芝ね......。ブルーシートとかしくもんだが、まぁいいか。」

 

俺はその場に座り込み、弁当を開く。中身は至ってシンプルでおにぎりにおかず、デザートだ。おにぎりの具材には昆布と梅。おかずは卵焼きと肉団子。デザートにランダムなのだろうか、俺のにはリンゴで夕張のにはみかん、大淀のには梨が入っていた。

 

「いただきます。」

 

箸を取り、手を合わせて食べ始めた弁当は本当に昔の運動会の昼に食べたものを連想させた。

円を描くように座る夕張と俺と大淀は食べながら色々な話をした。基本的にはあの場面で何があったのが面白かったなど......。俺の印象に残っているのは、雪風が玉入れで転がっていた玉を一発で全部入れたことだ。流石は幸運を持っているだけある。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

『続いては騎馬戦。それぞれのチームを2つに統合し、西軍と東軍に分けて戦います!!』

 

その大淀のアナウンスと共に一斉に騎馬が入場門から入ってきた。色は紅白で分かれている。

 

『西軍大将!夕立!』

 

そう言ってアナウンスが入ると、一際堂々と佇む夕立が手を挙げた。

 

『東軍大将!時雨!』

 

アナウンスが入ると時雨は手を大きく挙げた。

 

『合戦開始ですっ!』

 

その合図と共に笛が鳴り、一斉に騎馬が突撃を始めた。

ちなみに騎馬が戦闘不能状態に入るには騎手の鉢巻きを取られた場合のみのルールだ。

白熱する運動場での騎馬戦に応援にも熱が入っている。凄いコールだった。そして続く合戦は10分にも及び、遂に大将同士の一騎打ちとなった。

 

『どちらに軍配が挙がるのでしょうか!』

 

実況の大淀にもかなり熱が入ったようだ。凄い解説を飛ばしている。

そうしていると夕立と時雨はにらみ合い、一瞬のすきに突撃を仕掛けた。

迫りくる両者の手が額の鉢巻きに行き、壮絶な取り合いが始まった。

 

「大人しく駆られてくれないかな?」

 

「それはこっちのセリフっぽい!」

 

そう言い当て双方ともに譲ろうとせずに懸命に戦った。その間4分。遂に決着がついた。勝ったのは夕立だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

次に控える門兵vs艦娘三本勝負はとても熱が入り、始まる前から闘志ですごい盛り上がりを見せていた。

準備運動を始める門兵に作戦会議をする艦娘が目立つ中、第一種目目の200×10リレーが始まろとしていた。

 




凄い眠い状態で書いているので誤字がすごいと思います。そして久々に身体を動かしたのでその筋肉痛やらで身体が痛い......。

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第五十話  運動会②

湧き上がる運動場で、選手紹介が行われていた。

 

『艦娘チーム。第一走者、川内。第二走者、那珂。第三走者、神通。という順で金剛、比叡、榛名、霧島、鈴谷、熊野、瑞鶴が出場します!続いて、門兵チーム。門兵チームは日々門を守り、鎮守府を、守ってくれる人たちです!』

 

そう大淀のアナウンスが入ると会場は盛り上がった。

 

『最初は200×10リレーです!第一走者は位置に着いて下さい。』

 

そういって始まる三本勝負は激しい戦いの始まりだった。

リレーでは双方接戦を繰り返し、抜いては抜かれをしていた。結局はアンカーになった時、瑞鶴が思いのほかに走るのが早く、その勝負は艦娘チームの勝利になった。

 

『続いて、200m走です。艦娘チーム。瑞鶴、夕立、島風です。門兵チームは南門の門兵さんと巡回の門兵さん、警備担当の門兵さんです。』

 

アナウンスで選手がトラックに入り、手を振る。黄色い声援が飛び交う中、200m走は始まった。こちらは艦娘チームと門兵チームでそれぞれ1人ずつ走り、3回戦うものだ。

1回目の鉄砲の合図で走り出し、トラックを走って回る。とてもいい勝負だ。それを後の2回とも行い、結局門兵チームが勝った。どうやら直前にリレーに出た瑞鶴はまだ息が戻っていなかったので本来のスピードを出せなかった様だ。

 

『最後に、綱引きです。それぞれ10名が綱を引いて、制限時間内にどこまで引けるかの勝負です。』

 

最後の種目になり、応援も激しいものに変わった。綱引きには力自慢の艦娘が出る様だ。長門、陸奥、金剛、比叡、榛名、霧島、赤城、加賀、蒼龍、飛龍。

俺はてっきり大きい艤装を持っているから力があるとかそう言うのは関係なく、単純に経験との事。門兵も強者ばかりを出してきたようで、相当気合が入っている。

 

『よーい、はじめ!』

 

最後の開始の合図はどうやら大淀だったらしく、その合図で双方が綱を引き始めた。門兵は力の限り引っ張っているが、艦娘たちは何か作戦があるようだ。よく観察していると、姿勢を一定にして低くし、同じ息で綱を引いていた。綱を引くたびに、門兵側の綱は徐々に引かれて行き、時間になるころには艦娘の方は長くなっていた。つまり艦娘の勝利という事だ。

湧き上がる歓声に俺は耳を思わず塞いでしまったが、その光景が俺に思い出も思い起こさせていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

食堂では打ち上げもとい、お疲れ会が開かれ、出場した艦娘全員と門兵を招待してのご飯が始まった。

全員ヘトヘトになりながらも、話に花を咲かせ、楽しそうにしている。

 

「やってよかった......。」

 

俺は今日の夕飯であるカレーをすくいつつ呟いた。

今日見た艦娘たちの笑顔は間違いなく、女の子だった。艦娘は深海棲艦だと罵られ、兵器だと言われ続けてきた存在だがこんなにも女の子らしいところがあったのだ。俺も日々それは生活する中で垣間見ていたが、ここまで直接的に感じたことは無かった。

 

「お疲れ様でした、提督。」

 

そう言って俺の横に大淀が座った。

彼女はずっとアナウンスで話しっぱなしでのどが痛いのか声を抑え気味で俺に話しかけてきた。

 

「お疲れ、大淀。」

 

そう言うと俺は楽しそうに話を盛り上げる艦娘たちの方に視線をやった。

 

「私は今回の運動会をやってよかったと思います。提督が着任されてからもかなり笑顔は増えましたが、今日のは無邪気な笑顔でした。海を、戦いを忘れた女の子の顔。そういう風に見えたんです。」

 

そう言った大淀はカレーを口に運んだ。

 

「俺もだ。提案してよかったよ。みんなが楽しんでくれたのならな。」

 

俺は食べ終わった皿をよけると肘をついて眺めた。

 

「そうですか。......皆と笑っていられる今が、私は凄く幸せです。一昔前までは鎮守府で戦い食べて寝るだけの生活をしてきてました。ですが、今はとても日々が楽しいです。鎮守府で起こる楽しい話、日に日に発展を続ける施設、新しい仲間が増えていく瞬間、皆が無事に帰ってくるのを見守る海辺......。日々はとても楽しいものになりました。」

 

そう言ってスプーンを置いた大淀は俺の方を向いた。

 

「それも全て提督が着任して下さったお蔭です。ありがとうございます。」

 

そう言って深々と大淀は頭を下げた。

 

「......俺はこれが当たり前だと思うぞ。」

 

そう言って不意に手を大淀の頭に乗せた。

 

「俺は皆に死を強要する存在でもある反面、誰一人失いたくないと考えている。何があろうとだ。そしてここにいる以上、楽しく生活して欲しいんだ。」

 

そう言って大淀の頭を撫でた。

 

「色々と制限は掛けさせてもらっているが、それでも人間の兵士レベルだ。それよりも緩いかもしれない。だが、艦娘である以上に女の子だろう?」

 

そう言って俺は大淀の頭から手を放してトレーを持って立あがった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夜の鎮守府はいつもより早く静かになった。どうやら皆疲れてしまったみたいで、夕飯を食べるなりその場で寝てしまった艦娘も居る程だ。

俺はそんな鎮守府を散歩し、埠頭で空を見上げていた。最近ふとここに来ることが多くなった俺は何でここに引き寄せられるかも分からないまま、ただ空を見上げた。

空を覆い尽くすほどの星の数々は俺が居た世界からは考えられない程、綺麗に見える。

 

「......少し寒いな。」

 

俺はそう思い、部屋に帰る事にした。

 




最近内容が薄くなりつつあることに焦りを感じております。まぁ時間がないからあまり長く考えられないってのが原因なんですがねw
運動会もこれで終わりです。因みにこれを書いたのは最近、そういう事を作者がやったからです。やって帰る頃に筋肉痛が来て翌日もダメでしたね......。ですが楽しかったので良しです。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第五十一話  景品


前回までの運動会の話に色々協議に関する事が噛みあわないところがあるみたいなので、あらさがしに追われてます(汗)




 

運動会の次の日。朝食に集まっていた艦娘たちはそわそわしていた。

朝に俺から景品に関する事が伝達されると、昨日の閉会式に言われていたからだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

『これにて全競技が終了しました。参加者は全員整列して下さい。』

 

そう大淀のアナウンスが入ると、皆はゾロゾロと並んでほんの1分で並び終えた。

 

「姿勢を楽にして構わない。......取りあえず艦娘vs門兵三本勝負の結果を伝える。」

 

そう俺が言うと、どこから聞こえるのかドラムロールが鳴りだした。

 

「......艦娘チームの勝利だ!おめでとう!」

 

そう言うと拍手と歓声が起こった。門兵の方も見てみると悔しそうにはしているが、どこか清々しい様な顔をしている。

俺もそれに合わせて拍手をした。艦娘チームの勝因は、綿密な作戦立案だった様だ。どうやらそれぞれの協議に合わせた艦娘を集めて参加し、更に勝つための作戦を練っていた様だ。ちなみに艦娘の身体能力は艤装の馬力なんかは関係ないらしい。

 

「提督さーん!!優勝はどこっぽいー!?」

 

そう拍手が鳴りやまぬ会場で夕立が叫んだ。

その叫び声を聞いていた全員の拍手と歓声が鳴りやむ。

 

「そうだな......。運動会優勝チームは......。」

 

またドラムロールが鳴りだした。

 

「ゼッケン色......赤っ!赤城チームだ!!」

 

そう俺が言うと、赤いゼッケンを着ている艦娘たちが飛び跳ねた。

勝因は、赤城のチームにあったのだ。

 

「やりましたっ!」←赤城

 

「赤城さん、やりましたねっ!」←瑞鶴

 

「やったぁ!」←瑞鳳

 

「かけっこなら負けませんでした!」←島風

 

「幸運の女神が微笑んで見えます!」←雪風

 

「はぁ~。楽しかったですねぇ。」←綾波

 

「こんな私でも......うれしいです。」←神通

 

「夕方だっ!もうちょっとで夜だね!」←川内

 

「応援は那珂ちゃんにおっまかせ~!」←那珂

 

「楽しかったですねー!」←青葉

 

「僕たちが勝つのは目に見えていたよ。」←時雨

 

「お風呂入りた~い。」←北上

 

「楽しかったクマー!」←球磨

 

「楽しかったですね。」←鳳翔

 

俺と大淀は『まぁそうなるだろうな。』と思っていたので想定の範囲内だったが、本当にやるとは。

 

「と、いう事で優勝は赤城チームだ。」

 

会場に拍手が起こった。

 

「因みに優勝景品は明日の朝、連絡するぞ。」

 

そう言って運動会は幕を閉じたのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

運動会での赤城チームは一つの席に集まり、景品が何かと盛り上がっていた。

 

「柔らかいお布団とかでしょうか?」

 

鳳翔がニコニコしながらそう言った。

 

「いえ、提督は艦娘寮に入ったことが無いのでそう言った物じゃないと思いますよ?」

 

赤城が首を捻りながら言った。

 

「お菓子詰め合わせとかですかねー?」

 

ぽわぽわした表情で綾波はお茶を飲みながら言った。

 

「司令官がすぐに教えてくれますよ!」

 

そう言った青葉に全員が同調して、今俺が立っている方向を見た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「赤城、集合!」

 

俺がそう言うと赤城はささっと俺の前に来た。

 

「なんでしょうか?」

 

「チーム集めて。」

 

そう言うとチームがさささっと集まってきた。さっきも思ったがこっちに来るの早すぎる。ここから赤城たちが居たところまで20mくらい離れているのに。

 

「集まったか?」

 

そう言って俺は全員を連れて食堂を出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

執務室に着くと全員を中に入れて、自分はいつもの椅子に座り肘をついた。

 

「それで提督、執務室に何かあるのでしょうか?」

 

そう言ったのは赤城だった。いつも来ていて中の様子くらい把握しているだろうにと俺は思いつつ、口を開いた。

 

「実はだな......。」

 

そう言うと全員がゴクリとのどを鳴らした。

 

「赤城たちが欲しいものが分からなくて、何も用意していない。だから、赤城たちが欲しいもの、したいことを何でも叶えてやろうと思ってな。」

 

そう言うと、全員がおぉーと言ってざわざわし始めた。そうしていると赤城が俺に話しかけてきた。

 

「そうなら何故あそこで言わなかったのですか?」

 

赤城の疑問は最もだった。だが俺にはあそこで言わなかった理由がちゃんとあったのだ。

 

「あそこで言ってしまっては面白くないだろう?だからなんとなくだ。」

 

「そうですか......確かに言われてみるとそうですね。ワクワクが高まりましたし。」

 

そう言ってニコニコと赤城は微笑んだ。

 

「という訳だ。いつでも願いを言ってくれ。じゃあ朝食を食べに行こうか。」

 

赤城たちは俺がそう言うと執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「赤城たち、艦娘の特性から赤城たちが欲しいものはもうないと思ってたんだがな......。結局全員分思いつかなかったし。」

 

これが俺の本音だった。

三大欲求はあるがその他の欲求が提督の着任以外にほとんどない艦娘に景品をやろうだなんて俺もそんなに想像できなかったから用意できなかった。苦渋の策でこれを思いついた俺は我ながらあっぱれだと思う。

 





今回で運動会は終わりですね。次回からどんな話にしようかと悩んでます。
未だに資材が戻らないのでその辺でもいいとは思うのですが......。開発資材集めに苦労をしてます。任務で受け取ってもいいのですが、なかなか難しいですね(汗)

ご意見ご感想お待ちしてます。


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番外編  俺は金剛だ!④ 『接敵!』


1日空いてしまいました......。昨日は一日中家に居なくて疲れて帰ってきたので......。という言い訳です。


 

ドッグに来た俺は何か先に来ていた五月雨と涼風に挨拶すると、咄嗟に離れた。すっごい身の危険を感じてるんだが。

 

「あれー?金剛君??」

 

「金剛君がなんか離れてっちゃった......。ショック......。」

 

そう言ってる2人はそれぞれ緑と黄の着物を着たミニスカの女の子だった。そして長い袖をブンブン振ってる。何で振ってるんですかね?

 

「オゥ?どうしたデース??」

 

突然離れた俺に金剛が話しかけてきた。

 

「なんかあの2人がすっげぇ怖い。」

 

そう言って取りあえず五月雨を盾にした。

 

「ちょっ......私を盾にしないで下さいぃぃ~。」

 

そう言う五月雨を無視して五月雨の肩を持って俺の前に立たせた。

 

「自己紹介くらいさせてよ......。私は航空母艦 蒼龍。よろしくね。」

 

「私は航空母艦 飛龍。よろしくねー。」

 

そう言って袖をパタパタする2人に取りあえず会釈したが、五月雨を盾にしたままだ。

 

「私は比叡さんの代わりじゃないですよ~。」

 

そう言ってオロオロする五月雨を取りあえず黙らせて、にじり寄ってくる蒼龍と飛龍から距離を置こうと後退し始めた。

 

「にひひ......今なら武蔵さんもいないから、大破させられることはないね!」

 

「観念して私たちとお話しましょ?」

 

そう言って迫りくる2人から距離を詰められる。

 

「怖い怖い、そうやって来るから俺は逃げるんだよ!!」

 

そう言って五月雨の肩から手を放して金剛のところに退避した。

 

「そんなこと言ってないでお話しようよ~。」

 

「甘味処にでも行ってお茶でもどう?」

 

「何かナンパされてる気分っ?!すっごい怖いですっ!!」

 

そう言って俺は金剛に張り付いたままだ。

 

「毎度毎度金剛はなんでそうなのデスカ?......2人とも辞めてほしいデース。金剛が嫌がってるの分からないデスカ?」

 

そう言って金剛は仲裁してくれた。ありがと!

 

「そんなつもりなかったんだけどなー。」

 

「ごめんね金剛君?」

 

金剛に言われて蒼龍と飛龍は離れてくれた。

 

「助かった。ありがと金剛。」

 

「いいえ、No problemネー。」

 

そう言ってニカッと金剛は笑った。

 

「では、出撃するネ!Follow me!」

 

その号令で俺たちは水面に足を付けて浮かんだ。なんだかどうやって移動すればいいのか分かっている様で、俺は何も考える事無く地上を歩くように水面を滑りだした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

案外海の上を滑るのは気持ちのいいものだ。偶に口に海水が入るが。

 

「偵察機発艦っ!」

 

そう言って後ろで蒼龍と飛龍が艦載機の彩雲を発艦させている。弓で矢を放ち、矢から艦載機が現れる。何とも面白いものだ。

ブオォォンと音を立てて彩雲が急上昇するのを眺めて俺は周りを見渡した。

見渡す限りの青い海に本当に敵、深海棲艦が居るのだろうかと疑問に思いつつ偵察機を出してから30分後、通信が入ったようだ。

 

「我、敵艦隊を発見。」

 

そう言った蒼龍に艦隊に緊張感が走る。敵で艦隊とはいえ、所詮は駆逐艦や軽巡だけだと言っても、気を抜いたらダメージを受けると俺は聞いていた。

痛いかはさておき、ダメージを受けるのは俺は嫌だった。なんなら他のメンツのダメージを受けた姿は見たくない。何でも、ダメージを受けるとそれが来ている服に伝わるらしく、服かボロボロになればなる程、ダメージが蓄積されている事になるらしい。この知識、こっちの方に来てから勝手に頭に入っていたものだ。

 

「全艦、単縦陣っ!空母は後衛に!」

 

そう言った金剛の指示で各自が動き出す。金剛、今日が初陣じゃなかったのかよ。

 

「私と金剛は突撃シマス!五月雨と涼風は援護お願いネー!」

 

「「了解!」」

 

あ、俺、突撃する事になっちった......。

 





疲れてるとすぐに寝てしまうので極力ネタはストックしておく事にしました。
というかこの番外編はストックしないんですがねwwこっちは本当に不定期。
というかこれまでタグには不定期いれているのにいつも毎朝7時半に投稿していたという.......。変えようかな。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第五十二話  赤城の願い

運動会から2日後。

そもそも長い休暇に入った原因である資材不足の事から秘書艦になれていた赤城が今日の秘書艦に就いてもらっている。

 

「提督のやっておられる資材収集法で数日すれば回復すると思いますよ?」

 

そう言って赤城はこの資材不足を一蹴した。

なんでも日ごろやっていた俺の運用は枯渇していた開発資材を溜めやすい方法だったらしく、上手くいけば1日に数個が余分に手に入るらしい。俺は気付いてなかったが。

 

「確かに、この前まで1桁だったのがやっと2桁になったな。」

 

そう言って俺は資材残量を書き記した書類を見た。開発資材の欄には26の文字。26こは溜まった様だ。

 

「各資材も以前よりも少し多いくらいには集まってますので、運用を再開してもよろしいかと。」

 

そう言われ俺は他の資材残量を見た。確かに4つともに1万は超えていた。これなら普通に遠征とレベリングをやっても問題ない様だ。

 

「ならレベリング再開だ。それと、レベリング用の艦隊を再編する。」

 

「今回はどのような編成で?」

 

俺は思いついたかのようにそう言った。思いついたかのように言ったが実は、前々から考えていた編成だった。

 

「レベリング対象は重巡、旗艦に置く。下に戦艦2、雷巡1、空母2だ。」

 

「出撃先は?」

 

「キス島。所謂3-2-1だな。ここが一番効率がいい。」

 

そう言って俺は編成予定の艦隊の編成予定表を赤城に見せた。

 

「高雄、長門、陸奥、北上、祥鳳、瑞鳳ですか......。低燃費とはいいがたい微妙な編成ですね。」

 

「だが、以前運用していた編成よりマシだとは思うが。」

 

そう言って俺は何も書いてない紙を出して書き始めた。

 

「基本的にキス島で最初に接敵する敵艦隊は軽巡以下の小型艦だ、運が悪ければ雷巡も居るが大体がそうだろう?」

 

「そうですね。エリートやフラグシップもいますが。」

 

「空母を連れて行けば最初はアウトレンジから一方的な爆撃・雷撃ができる。それにあっちはあまり対空装備が無いようだしな。そのあと、北上に甲標的で雷撃。その時には運が良ければ4、悪ければ1は確実に沈める事が出来る。」

 

「あちらもこちらより練度が低いですからほとんどは初撃で3は落ちますね。」

 

「そうだ。その後、制空権はこちらにあるので戦艦2による弾着観測射撃、殲滅。という事だな。」

 

「成る程......ならば空母の枠は私たちの様な正規空母の方がよろしいのでは?」

 

そう言った赤城のキョトンとした表情を見て溜息を吐き、説明をした。

 

「いいか?資材が回復したとはいえ、ボーキサイトは有限なんだ。できるだけ温存したい。」

 

「私たちだと、確かにボーキサイトは消費が早まりますね。」

 

「だから軽空母を運用するんだ。それにこの先、軽空母を運用する必要が出てくるかもしれないだろう?レベリングを兼ねている。」

 

「分かりました。」

 

そう言って赤城はパタパタとファイルの片づけを始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はいつも通り、執務を午前中に終わらせて今は昼食を食べに食堂に来ている。

 

「最近は洋食が出てきたので、楽しみが増えましたね。」

 

そう言ってモゴモゴとパスタを食べる赤城が言った。

そう言えば昼食はよく秘書艦と摂るがどうやらこれは秘書艦の特権らしい。さっき赤城に言われて初めて知った。俺と一緒に食べて面白いのだろうかと考えてしまった。

 

「そうだな。俺は和食でもいいが......。」

 

そう言ってフォークでパスタを巻いて俺は口に運んだ。

 

「提督が着任されてからというもの、鎮守府で楽しい事がどんどん増えていってます。」

 

唐突に赤城はそう言いだした。

 

「そうなのか?」

 

「はい。提督が着任してからは心が躍り、新しい子がいっぱい増えて、その度に歓迎会を開いて、運動会をやったり......。提督の命が狙われた事もありましたが、今では提督の命を守る一人ですものね。」

 

そう言った赤城は優しい笑みをしていた。

 

「......許したのか?あの人を。」

 

「えぇ。.......夜中に提督が報告を訊きにわざわざ警備棟に向かうのも見てますからね。それに以前鎮守府内を散歩していた時に見かけたんです。あの人が傷だらけになって茂みに潜んで外を睨んでいたのを。あんな姿になってまでやってくれているのも私は見てますから......。」

 

「そうか。」

 

「最初はまた提督の命を狙うのではないかと思って監視をしていたんですが、違いました。諜報員という特殊技能を持ってる故に出来る事を精いっぱいやって、提督の命を守っていたんです。だから私は許しました。」

 

そう言って赤城は食べ終わったパスタの皿にフォークを置くと口をハンカチで拭いた。

 

「......そう言えば事務所の人たちが入れ替わったって知ってました?」

 

赤城は唐突に話をずらしてきた。どうやらあの話はもう終わりみたいだ。

 

「知らないな。俺はいかないしな。」

 

「事務所の人たちがすごくフレンドリーな人たちになったんですよ?この前、酒保に置いてないものを頂いちゃいました!」

 

そう言ってニコニコする赤城に俺はそうかとだけ答えて聞くに徹することにした。赤城もああいう一面を持っていたとしても女の子なんだなと思わせる瞬間だった。

 

「もうっ!訊いてますか?!」

 

「訊いてるぞ?なんだっけ......酒保で売ってないケーキだったか?」

 

「違います!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

午後の事を本編で俺は見たことが無い(※急なメタ発言)。

午後は基本的に何もしてない。グダグダして秘書艦と話し、訪れる艦娘と話したりしているだけだ。

 

「提督。この前の願い事の件、いいですか?」

 

唐突にそう言いだしたのは赤城だった。さっきまで時雨が来ていて、丁度その話をしていたのだ。ちなみに時雨は悩んでるらしい。

 

「ん?なんだ?」

 

そう言うと赤城は息を吸っては吐いてを繰り返し、呼吸を整えるといつもなら堂々と言うのに今回ばかりは縮こまっていた。

 

「外に......行きたいです。」

 

そう言った赤城は何とも表現し難い表情をしていた。期待、不安......そんな感じだ。

だが、外に俺が連れて行くのはいいが、そもそも艦娘を鎮守府から出してはいけないんじゃなかったのかというのが引っかかった。以前、長門は『鎮守府は艦娘の檻』だと言っいた。つまり、艦娘は鎮守府からは出撃以外で出れないという事になる。だが、この前の軍法会議や観艦式はどうなのだろうか?

考えて見ればどちらも海軍の任務、軍法会議は任務ではないがその類のものだった。私用では出れないのだろう。

 

「どうしてだ?」

 

俺は取りあえず理由を聞いてみた。

 

「私たちの知らない世界が外には広がっているんだと思うんです。いろんなものが溢れていて、私たちはそれを知らない。そのいろんなものを私は知りたいんです。」

 

そう言った赤城は黙ってしまった。どうやら俺の返事待ちらしい。

 

「............俺も連れて行ってやりたい。どうにかしよう。」

 

そう言って俺は赤城をどうやって連れ出すかを考え出した。

一方赤城は喜んでいた。外の世界が見れるという期待と、ある事を実行に移すチャンスだと考えていた。

 




眠気との戦いに何度も勝ち進み、やっとここまできたけどもう限界......。
とかいう茶番は置いといて、今回は赤城と提督しか登場しないwww

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第五十三話  瑞鶴の願い

昨日、赤城の願い『外に出てみたい。』というのを悩んでいた。

どうやって連れ出そうか......。最悪、門兵を付ければいいだろうと考えていたが、結局どうするかは後回しにした。

あの願いを言った後、赤城は『いつでもいいので。』と付け足していたのだ。できるだけ早くに決着はつけようと思っている。

 

「ねー。提督さん?」

 

そう言って俺が赤城の願いについて考えるのをやめた瞬間、声を掛けてきたのは瑞鶴だった。

俺が着任してから進水した比較的最近の艦娘だ。そのためか練度は結構低い。というか、殆ど出ていない箱入り娘状態だった。

 

「どうした?」

 

そう俺が訊くと瑞鶴は時計を指差した。

 

「朝ごはん、行かなきゃ。」

 

俺はそう瑞鶴に諭されて、執務室を後にした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

食堂の朝食にパンが出るようになったのは最近の事だ。これも酒保が出来たおかけだと間宮は言っていた。この頃の食堂のレパートリーの増え方が尋常じゃないので結構心配していたりもする。

 

「パンってぱさぱさしてると思ってたわ。」

 

そう言って横でパンを食べている瑞鶴はいい具合に焼いたトーストにマーガリンを塗って食べていた。ごくごく一般的な食べ方だ。ちなみに提督はマーガリンとあんこを塗って食べるのが好きなので近いうちに酒保にあんこを買いに行くことを検討している。

 

「マーガリン塗ればしっとりするし、そもそもそんなぱさぱさしたパンはないだろう?」

 

「そうなの?見るからにぱさぱさしてそうだったし......。」

 

そう言って瑞鶴はコップに入った牛乳に口をつけた。

 

「しっかし、パンと牛乳って本当に合うわね~。」

 

「ビックリするくらいな。俺も好きだったよ、その組み合わせ。」

 

そう言って俺もトーストを食べていたが、飲み物はコーヒーだ。ブラックは食事時に飲まないと決めているので今飲んでいるのは砂糖とミルクが入ったものだ。

 

「提督さんはコーヒー飲んでるもんね。」

 

そう言ってトーストを瑞鶴は口に運んだ。

 

「......提督さん。」

 

「ん?」

 

話が途切れたかと思って黙っていたが、まだ瑞鶴は続きがあったようだ。

 

「初めてなんだ......。だから失敗もあると思うけど、よろしくね。」

 

「おっ、おう......。」

 

そう何が初めてなのか聞かされなかったので、適当に返した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝食を摂り終えた俺と瑞鶴は執務室に戻り、執務を始めていた。瑞鶴は今日が初めての執務であり、秘書艦なので一応赤城に補佐を頼むつもりだったが、そう毎回毎回補佐を頼んでも申し訳ないので俺は直接説明することになった。

説明と言っても俺が作成して纏めた物を事務室に届けたり、ファイルを出し入れするだけだからさして問題ではない。何故か知らないが、瑞鶴はファイルの出し入れは簡単に覚えたからだ。

そう言う事もあり、執務を初めて小一時間するとすべて終わり手持無沙汰になった。これもいつもの事だが。

 

「こんだけなの?」

 

「そうだけど?いつも通りだな。」

 

そう言って俺は背中を伸ばした。

 

「もっと書類が山積みで提督さんとヒイヒイ言いながら片づけるのだとばかり思ってた。」

 

「俺もな、着任したてはそう思ってたよ。」

 

そう言って俺は指を鳴らした。

 

「でもこんなに早く終わるだなんて......。いつも昼の後とか行こうか躊躇してた私バカじゃん。」

 

「それは皆そう言ってるから大丈夫だろ。」

 

俺は続けてあくびをした。最近だが、こうも気の抜けた行動をすることが多くなってきた様な気がしていた。なるべく皆の前ではその姿を見せないようにと動いていたが、やはり時が経てば変わってしまうものだな。

 

「だらしないわよ、提督さん。」

 

そう言って瑞鶴もぐだーと背を伸ばしていた。

 

「瑞鶴が言えた口かよ......。いつもこうだからな。」

 

そう言って姿勢を戻して何かないか探し出した。午前中は暇であろうと仕事を探して片づける事にしていた俺は、いつも通りに動き出した。執務を始めて一時間が経とうとしていた時だった。瑞鶴が唐突に俺に向かって言った。

 

「提督さん!私の願い、聴いてくれる?」

 

「何だ、藪から棒に。」

 

「私の願い......翔鶴姉を進水させてほしいんだ!」

 

そう瑞鶴は力強く言った。

俺は瑞鶴の願いの返事を返そうとした時、瑞鶴はそれを遮って続けた。

 

「私ってたまーに演習で出ることあるでしょ?」

 

「そうだな。」

 

「相手艦隊にはもちろん五航戦の私や翔鶴姉だっているわけじゃない?」

 

「そりゃそうだ。」

 

「相手にいる翔鶴姉は翔鶴姉だけど、私の翔鶴姉じゃない。その鎮守府の私の翔鶴姉。だから、私は翔鶴姉に早く逢いたい!そしていつも不幸だと言ってる自分に提督さんがいる鎮守府に着任できたんだよって言ってあげたい......不幸なんかじゃないって言ってあげたいんだ......。」

 

そう言った瑞鶴の頭に俺は手を置いた。

 

「その願い、瑞鶴の願いだが同時に俺の願いであり、皆の願いだ。瑞鶴が翔鶴が居なくて寂しい思いをしているのを少し小耳に挟むからな(※主に赤城から)。今の運用はボーキサイト温存を優先した使い方だ。翔鶴を迎えるための準備をしている。」

 

そう言うと瑞鶴は笑顔になった。さっきまでの不安を抱えた表情から一変し、あどけない笑顔を俺に見せた。

 

「ありがとっ!提督さんっ!!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は瑞鶴の願いを訊いて、少し瑞鶴が席を外した時、懐に隠していたある書類を出して眺めた。

其処には『建造結果報告書』つまり、建造を任せている雪風が出した艦娘の艤装などを知らせる紙だ。持ってる枚数は7枚。挑んだレシピもメモられている。全ての報告書には空母レシピの文字。雪風も気付いているようだが、ウチの鎮守府で通常建造で出る艦娘で出ていない艦娘は1人しかいない。それを挑み続ける提督にそれ以外に目的を見いだせないのだ。

 

「瑞鶴......瑞鶴の願いは何時か叶えてやれる......。いつになるか分からないが。」

 

そう俺は呟いて外を眺めた。

席をはずしていた瑞鶴にどうしたと聞かれても何でもないとだけ言って執務に戻ったが、あと少しで建造結果報告書を見られるところだった。





今日も今日とて眠気との格闘でした......。今日は遅くまで残っていたので始める時間自体遅かったので......。ちなみに毎朝7時半に投稿されている最新話は前日の夜中に作者が書いてます。
新しい艦娘が来ない......。

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第五十四話  瑞鳳の願い

前回から2日おいてしまいました。
追い込みでやることがあったんです(白目)


 

瑞鶴が秘書艦だった翌日。今日の秘書艦は瑞鳳だった。ここまで来て大体想像していたが、なぜこんなにも運動会で赤城チームだった奴が来るんだろうとか思いながら俺が執務室の扉に手をかけた。

 

「おはようございますっ!提督っ!」

 

もう瑞鳳は執務室に来ていて、もう貰って来たのか今日の書類を脇に抱えて立っていた。

 

「おはよう......。席に置いてきてくれ。それと、朝食を食べに行こう。」

 

「はいっ!」

 

瑞鳳は元気に返すとトタトタと執務室にある秘書艦用の机と椅子に持って来ていた書類を置いてきた。

 

「ではいきましょうか?」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝食を終えた俺と瑞鳳は執務室に戻り、執務を始めていた。

執務と言っても毎度の事で、既に終わりつつある。開始1時間程経った頃だった。

瑞鳳があれこれと提案してきた。

 

「提督っ!建造を出さなくていいんですか?」

 

そう言った瑞鳳の手には口頭で伝える建造レシピのためのメモと建造結果報告書だった。

 

「あぁ、忘れていたよ。今日は雪風がキス島攻略に出て行っているから瑞鳳がやってくれ。」

 

「はい!それで、レシピは?」

 

「空母レシピ1回だ。」

 

そう言うと瑞鳳はメモに何やらメモを取ると、足早に執務室を出て行った。どうやらこれから工廠に向かうらしい。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

瑞鳳が出て行ってから執務が終わったので、窓から外を眺めていると廊下から2人分の足音が聞こえてきていた。

1人は瑞鳳だろうと言うのは見当がついたが、もう1人は誰だろう。そんな事を考える間もなく扉が開かれた。

 

「提督、新造艦です!」

 

そう言って入ってきた瑞鳳の方を見ると、すっごいキラキラしてる艦娘が居た。

 

「瑞鳳さんっ、提督が居るんですね!!やったぁ!!!」

 

そう言って自分より少し小柄の瑞鳳の肩を持って揺らしているのは、俺がまだ見たことのない新造艦だった。

俺は窓から視線を外し、席に着くと瑞鳳から建造結果報告書を受け取った。そこには『軽巡洋艦 阿武隈』の文字。目の前でキラキラしてるのが阿武隈という事になる。

 

「俺がここの提督だ。よろしく。」

 

そう言って俺は被っていた帽子を取ってあいさつした。

 

「私は軽巡 阿武隈ですっ!よろしくお願いします!」

 

そう言って目をキラキラさせてこっちを見る。なんかこの反応は新鮮だった。今までは俺が提督だと分かると一頻り騒いでから喜ぶか、噛み噛みの挨拶をしてくれるかのどちらかだったんだ。

 

「あぁ......。瑞鳳、今日の執務は終わったから阿武隈に鎮守府を案内してあげてくれ。案内が終わったらもう一度執務室に戻れ。」

 

「了解しました!では行きましょうか?」

 

「はい!」

 

瑞鳳と阿武隈を案内に出し、俺はまた立ち上がり外を眺めた。

眺めていた先には、埠頭に停泊する我が艦隊司令部屈指の強さを誇る船たちだ。幾度とない戦闘を潜り抜け、新人教育の為に身を挺し、海域という海域を解放してきた猛者たち。

そんな艦の甲板でお茶会を開いているのだ。

誰の艤装かというと、赤城ので、参加メンバーは正規空母たちと金剛型姉妹、扶桑と山城だ。

何だかそんな光景を見ていると、普通の女性のお茶会の様に感じてならなかった。広げているのは紅茶と茶請け。クッキーやスコーンみたいだった。

それを肴に楽しそうに話している。

俺がそれを眺めているだけで、艦娘の待遇の改善がなされた事を今さらながら実感していた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

程なくして瑞鳳と阿武隈は執務室に帰ってきた。

そうすると執務室に入るなり、阿武隈はあんなものがあったとかという話を俺にマシンガントークし始め、収集を付けるのに時間が掛かりそうだったので呼んでおいた姉妹艦の五十鈴に引き渡した(※身柄引き渡しではありません)。

そんなこんなで今は俺と瑞鳳の2人だけになった。

 

「あんなに阿武隈が喜ぶとは思いませんでした。」

 

そう言って瑞鳳は提出書類を纏めながら俺に言った。

 

「俺もだよ。艦娘として生まれる前にある記憶というかそういうものには、提督が居ない事が前提なのか?」

 

「そうですよ。私たちはあの印刷機から出てくる指令書で行動する事というのは覚えている状態で目覚めますから。」

 

そう言って纏め終わった書類を封筒に入れた。

 

「そうか......待遇に関してもか?」

 

「そうです。だからあんなに阿武隈は喜んだんでしょうね。酒保や事務棟、警備棟を見て驚いてましたから。それに酒保には少しだけ入ってきました。」

 

そう言って瑞鳳は纏め終わった書類を脇に抱えた。

 

「これを提出して帰ってきたら、私の願いを聞いてくれますか?」

 

そう唐突に瑞鳳が言ってきた。勿論、俺は断る気は無いのですぐに頷いて返事を返した。

 

「では、いってきます!」

 

そう言って元気よく瑞鳳は執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

瑞鳳は帰ってくるなり、俺の前に立ち、自分の願いを言った。それは俺の想像もつかない事だった。

 

「陸に滑走路を?」

 

瑞鳳は鎮守府敷地内に滑走路を造ってほしいと俺に頼んだ。唐突で、俺が訊いてきた中で一番突拍子もないものだった。

 

「はい。提督のところに詳細な報告書は届いていないと思うのですが、現在工廠では未確認の装備品が多数開発されています。砲に関してもそうですが、飛行機型の装備が工廠の奥でシートをかぶせた状態で放置されています。飛行機型の中には着艦フックがないものもあるので、ソレ専用に作ってほしいんです。」

 

俺はもっと個人的な事を頼んでくるのかと思っていたのに、こうも仕事熱心だと少し心配だが、瑞鳳のいう事も一理あった。そこで俺は本当にその願いでいいのかと聞くことにした。

 

「本当にそれでいいのか?」

 

「はい!調べ終わってないですが、未確認の装備の中にとても有効なものもあるようですから、更に提督や鎮守府を守る力になると思うんです。」

 

そう言った瑞鳳の目は強い力が籠っていた。

 

「分かった。どうにか手配しよう。それといい機会だ、大本営に雷電改の詳細データとまとめて報告しようか。」

 

そう言うと瑞鳳はニコッと笑った。

 





瑞鳳の願いは自分優先でなく、周りが優先の内容でした。自分的にも瑞鳳は周りにとても優しい性格だと思っているので、丁度いいかと思いました。

瑞鳳の口から知らされる新たな未確認艦載機と飛行機たちはいったい何でしょうね(ゲス顔)
楽しみです!

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第五十五話  ジャム島攻略作戦

 

朝。俺は今日の秘書艦である熊野と、今日の出撃艦隊を執務室に集めていた。

理由は簡単だ。キス島攻略で目を逸らしていたジャム島攻略に向けて艦隊を編成したのだ。普段なら掲示板に貼られる出撃艦隊の出撃先がキス島に対して、今日はジャム島と書かれていた。それを見た艦娘たちは身体を奮い立たせ、朝は早々に朝食を済ませていた。俺から交代要員として呼ばれるのを考えての行動だ。

そして、出撃する艦娘たちが俺の前に並んでいる。

 

「旗艦に戦艦 長門。以下、重巡 高雄、駆逐艦 雪風、駆逐艦 時雨、空母 赤城、軽空母 飛鷹は本日、西方海域解放に向けた橋架けとしてジャム島を攻略してもらう。」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

俺の眼の前に佇む艦娘たちは俺が艦これを始めた初期から所属している古参たちだ。足りない練度を気合で足し、迫りくる深海棲艦に果敢に立ち向かった戦力の乏しかった時代を支えた艦娘たちだ。

 

「途中、潜水艦の襲撃が予想される。雪風と時雨はこれより改装。ソナーと爆雷投射機を持っていけ。」

 

「「了解!」」

 

そう言うと俺は最後に声を掛けた。

 

「何時もなら旗艦だけが出頭し作戦命令を訊く、が今回は新海域の攻略だ。想定していない事も多々起きるだろう。だがそれを交わしてジャム島を解放して欲しい。これを伝えたかったから全員出頭と伝えた。進軍し、戦果を挙げよ!」

 

「「「「「「はっ!」」」」」」

 

俺の言葉に応えた艦娘たちは気合の入った返事を返した。

 

「長門。頼んだぞ。」

 

「分かっている。こっちには赤城が居るんだ。私が砲撃するまでも無いだろうな。」

 

そう言って長門は笑って執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と熊野は第一艦隊が埠頭から出撃するのを見送ると、すぐに執務に入った。

今日の執務はいつもと違い、1枚多かった。一枚多いのは瑞鳳の願いである滑走路の建設だ。大本営に送り、新瑞と総督の許可を得る。返事など待たずとも分かっているが、形式上出さなければならないのだ。俺は面倒に思いながら、建設する趣旨(※嘘)を書き留めて封筒に厳封した。

 

「あら提督、それは何ですの?」

 

終わっていた書類を纏めていた熊野が厳封した封筒を見るとそう尋ねてきた。

 

「それは大本営、新瑞さんと総督に直送のものだ。中には鎮守府の設備拡張の許可を願う書類が入っている。まぁ、送らずとも結果は見えてるが。」

 

そう言って最後の書類に俺は手を伸ばした。

 

「そうですの。設備拡張とは、何を建設するのですの?」

 

「滑走路だ。」

 

そう言うと熊野は驚いた。

 

「滑走路......空母があれだけいるのにまだ足りないのですか?」

 

「そうじゃないんだ。何でも工廠にカバーのかけられた飛行機がいくつもあるらしいんだ。それの為だ。あと用途はいくらでもある。」

 

そう言って最後の書類にサインを入れて熊野に手渡した。渡した書類で今日の執務は終わり。熊野が事務棟に出しに行けば終わりだ。

 

「そうですのね......。雷電改といい、何なんでしょうね?」

 

そう言って熊野は事務棟に向かうべく、執務室を出て行った。

俺は背伸びをして固まった首と指をほぐし、熊野のいた角度から見えないところにいた白衣の妖精に声をかけた。

 

「来たって事は俺が行くのを分かっていたのか?」

 

「そうですよ?昨日瑞鳳さんが工廠に来て私に言っていたので、早い方がいいと思いまして。」

 

そう言って白衣の妖精は俺の肩に乗った。

 

「では工廠に行きましょうか。」

 

そう言った白衣の妖精に少し待つように言って俺は熊野宛てに『工廠に行ってくる。』とだけ書いて執務室を出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

工廠に着くといつも通りなのか、今日はまだ建造の指示を出してないので動いてなかった。工廠担当の妖精たちは端でお茶を飲んで談笑したり、何かの会議をやっているのか真剣にディスカッションをやっていた。そんな姿を横目で流し、以前雷電改のあった工廠の奥に到着した。そこには雷電改の時とは違い、布をかぶせられている物がいくつもあった。

 

「全部順に見せましょうか。」

 

そう言って白衣の妖精は俺の肩から降りると、被せていた布を剥がしていった。順番に出てくるものに俺は驚いていた。一目見た瞬間でそれが何だか分かる。全部当時の陸軍が使用していた戦闘機や爆撃機ばかりだ。

 

「隼......2枚じゃないから一型じゃないな......。それとこれはなんだ?」

 

「それは疾風です。奥にまだあります。」

 

そう言って白衣の妖精は俺を奥に導いた。

其処は薄暗く、何も置かれていないところにポツンと布を被ったものが置かれていた。

 

「これが出たのには私も驚きましたよ。」

 

そう言って白衣の妖精が布を剥がすと出てきたのは巨大な胴体と翼。翼には6基のエンジン。

俺は目を疑った。それは伝説であり、計画のみがあったとされる長距離爆撃機。

 

「富嶽が......。」

 

「そうです。大戦期に開発できなかったものが、開発できました。陸用ですが深海棲艦相手に使えるでしょうか?」

 

そう言った白衣の妖精は首を捻った。

 

「大丈夫だろう。使えなくても、長距離を高高度で飛べるなら輸送に使える。」

 

俺はそう言ったが、全く別の用法を考えていた。

 

「それで、今回開発された未確認の装備はこれだけか?」

 

「そうです。他には用途が分かっている物がありますので、追って連絡します。」

 

そう言われ、俺は富嶽の前で考え事を少しした後、執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が工廠から執務室に戻ると、熊野が待っていた。どうやら提出は終わったらしい。

 

「おかえりなさい。どういったご用件でしたの?」

 

「あぁ。未確認の装備を見に行っただけだ。」

 

そう答えて俺は自分の席に座った。

 

「アレですわね......。えぇと......飛行機?と言っても艦載機ではない様ですが。」

 

「そうだな。あれは陸軍で使われていたものだ。しかもそのうち2つは名前はあっても実在したかは知られていないものだ。」

 

そう俺は答えて、ある事を考え始めた。富嶽の運用について。そして、陸軍の飛行機はどう使われるのかについてだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼はいつも通り食堂で済ませ、やる事も無いが執務室に戻ってダラダラしていると、埠頭の方が騒がしくなっていた。どうやら出撃していた第一艦隊が戻ってきた様だ。

俺はいつも通り執務室の窓から埠頭を見下ろす。

 

「っ!?熊野っ!走れっ!!」

 

俺は埠頭に到着した第一艦隊の雪風と飛鷹の艤装が炎上しているのが見えた。それを見るなり俺は熊野を連れて執務室を飛び出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と熊野が到着する頃には第一艦隊の艦娘と埠頭に来ていた艦娘、妖精たち総出で消火作業が行われていた。

 

「状況は!!」

 

俺は陣頭指揮を執っていた長門に走り寄り、そう尋ねた。

 

「第一艦隊はジャム島の攻略に成功したが、敵艦載機の雷爆撃で雪風と飛鷹が炎上したんだ。消火作業をしながら帰って来たのだが、鎮守府に着くまでに鎮火しなかったようだ。」

 

そう言って長門が拳に力を込めた。

 

「敵本隊までは順調だったんだ。威力偵察艦隊も航空戦で半壊、敵に撃たせる間もなく殲滅。提督が警戒していた潜水艦も雪風たちが爆雷で片づけた......。だが、本隊は軽空母と重巡が中心の機動艦隊、こちらも機動艦隊だ。損傷覚悟で戦ったが、見ての通りだ。雪風と飛鷹は被弾して炎上だ。」

 

そう言った長門の拳を俺はとった。

 

「これまでは比較的に安定した戦いだったが、これからは激しさを増すばかりだ。見たところ2人の艤装は共に中破程度。炎上も当たり所が悪かったんだろうな。」

 

「そうだな。」

 

「これからの戦いを見据えて、今後は大破で帰ってくる事もあるだろう。味方を曳航する事にもなるだろう。」

 

長門は黙って聞いている。

 

「......俺は小破以上が出たら撤退を徹底してきたが、その信念を捨ててまで戦う時が来るだろう。そんな時、安全な本土に居る俺より戦場で戦う長門たちが考えて動くんだ。どうやれば味方がこれ以上傷つかずに進むか、どうすれば戦いに勝てるか、如何すれば隣に居る味方の命を繋ぐが......。平和な世界から来た甘ちゃんだが、俺はそう思うぞ。」

 

そう言って俺は長門の手を話すと指示を出した。

 

「雪風と飛鷹の艤装を優先して入渠させよ!それ以外は入渠ドッグ前で待機だ!!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が埠頭から執務室に戻ると電話がかかっていた様だったので折り返した。すると繋がったのは総督のところ。要件はどうやら早速滑走路の奴を見た様だ。

 

『滑走路の建設を許可する。』

 

それだけだった。なんでこうも甘いんですかね、と言おうとすると切られたのでまた別の機会で言ってみようと思った。

俺は椅子にぐったりと持たれると熊野が心配そうに体調を気遣って聞いてくれたが大丈夫とだけ答えた。そうすると執務室の扉が開き、鈴谷が入ってきた。

 

「提督ー!鈴谷もレベリングしてよ!」

 

そう言って飛びついてきたので、危険を察知して緊急回避した。

 

「ヘブッ!」

 

そう言って鈴谷は誰も座ってない椅子にダイブしたのを見て俺と熊野は笑った。勿論この後鈴谷に躱した事を問い詰められて、身体が勝手に動いたとだけ言っておいた。

 

 

 




いやぁ、新たな装備が追加されましたね。隼に疾風、富嶽。提督がどう使うかが気になりますね。
それと鈴谷についてですが、どこかのあとがきでも言った気がしますが、ほぼ金剛の性格と同じですのであしからず。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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番外編  俺は金剛だ!⑤ 『殲滅!』

番外編です。どういうスパンなのかは秘密ですw


 

「金剛っ!最大戦速ネー!」

 

そう言って出力を上げているのか金剛が離れていく。援護に就いた五月雨と涼風もそのあとに続いていた。

 

「金剛君っ!直掩は出すから安心してね?」

 

そう言った蒼龍を俺は見た。

ニコッと笑っているが、この状況に俺は疑問を感じていた。

 

「金剛!蒼龍たちの護衛は要らないのか?!」

 

そう言っても金剛は聞こえていないのか、敵艦隊の方に遠ざかっていく。

 

「クッソッ!......蒼龍、俺は護衛に入る。敵艦に近寄らせないからな。」

 

そう言って俺は蒼龍と飛龍の方を見た。

2人はニコニコとしている。なんか怖いんだけど......。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

艦隊を二分してから数分が経った頃、俺の居る場所にまで砲撃音が聞こえてくる。味方か敵かは聞き分けられないが、確実に音源は接近してきている。

俺は武者震いと言っていいのか分からない震えがきていた。足がガクガク言っている。まだ直接感じては居ないが、戦場に居る俺は何時殺されるかもわからない状況だ。そんな状況の最中、これから死地に赴くかと思うと恐怖、後悔、そんなものに心が震えていた。逃げ出したいと訴えている。ここから離れて来た道を引き返せば助かると、頭の中で叫んでいる。だが、身体が動かない。何故なら......

 

「んふふ~。金剛君、大きいね!」

 

「男の子って感じだね!」

 

両腕を蒼龍と飛龍にホールドされているからだ。

 

「離れて......。なんでこんなことに.......。」

 

俺は必死に振りほどこうとするが、動かすたびに腕がアレに当たってるんですが......。

 

「ここ戦場だろ!?何やってんだよ!!」

 

そう言っても2人は離れてくれない。

 

「えー。いいじゃん。減るもんじゃないし......。」

 

俺のメンタルバーが減ります。

 

「まだ敵も来てないし......。」

 

さっきから周りに轟く音は何なんですかね?

 

「だあぁぁぁぁぁ!!緊張感持ってくれ!!」

 

そう言って俺は思いっきり腕を振りほどいた。

そうすると何故かさっきまで俺の腕に絡みついていた蒼龍と飛龍が俺に向けて弓を引いていた。

 

「えっ?!なにっ?!」

 

そう言うと蒼龍が俺に言った。

 

「頭下げてっ!!」

 

俺は言われるなりに頭を下げると、蒼龍と飛龍が弓を放ち、艦載機が飛び立っていった。その先には撃ち漏らしか、中破した敵が迫っていた。それに放たれた艦載機が爆弾を投下していく。その爆弾は敵に吸い込まれて直後、爆発した。

 

「ごめんね。急に矢先向けて。」

 

「金剛君の後ろに敵がいたからさ......ね?」

 

そう言う2人を見て俺は溜息を吐いた。

 

「先に言ってくれ。殺されるかと思った。」

 

「そんなことしないよ?!」

 

そう言って返してくれた飛龍を見ると照れ臭そうに頬をかきながら飛行甲板で艦載機を収容していた。

 

「この先もまだまだ続くからね!」

 

そう言われ俺は金剛たちが進んだ道を辿って航行し始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

結局あれから戦い続け、帰る頃にはボロボロというか汗まみれになっていた。

だって激しく動くし、背中のやつはまぁまぁ重いんだよ。そして煙突から出る排煙が熱い。

そんな事を考えながら鎮守府に帰ると、まぁ当然の如く出待ちされていた。

 

「金剛君が汗まみれ.......何か別の方向に......グフフ......。」

 

うわぁ......武蔵にワンパンされてた人がいる。なんか怖さ増してるんだけど。

ちなみに損傷は軽微だ。

 

「帰ってきたか。すぐに入渠したまえ。」

 

人混み、いや艦娘混みのなかに居た白瀬さんがそう言ってくれたが、入渠って修理のことらしいが、どういった物なのか分からん。

入渠と聞いた瞬間、蒼龍と飛龍の目が輝いたのを見た限り、面倒なのは確かだ。取りあえず金剛に助けを求めてみる。

 

「入渠ってなんだ?」

 

「オゥ......ええとデスネー。私たちの艤装を修理することを指すネー。端的に言えばお風呂ダケド。」

 

そう金剛に俺は絶望した。艦娘がする事で艦娘は全員外見が女性。もうお察しだ。

 

「俺入れねぇし!!」

 

そう訴えるのも束の間、俺の両脇はがっちりと蒼龍と飛龍にホールドされていた。

 

「さぁ、お姉さんと一緒に行きましょうね~。」

 

「行きましょ、行きましょ!」

 

「比叡っ!!比叡っ!!!ひえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

俺は比叡に助けを求めたけど、苦笑いを返された。どうやらちゃんと入渠してこいとのことらしい。

諦めるわ......。

 





安定の足柄ですが、オチとしては入渠に連行されました。
しかし、がっつきすぎな気もしますが、これはこれでいいという事にしておいてください。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第五十六話  雪風と島風、綾波の願い


今回はちょっと変化もしれません。


 

今日の秘書艦は島風。前日(熊野)は違ったが、何故こうも運動会での赤城チームが連続するのだろうかと考えながら俺は朝食を摂っていた。

 

「提督っ!」

 

そんな俺がどうしてだろうかと考えているのを露知らず、隣に座る島風は執務で何するのかと聞いてきていた。

 

「どうした?」

 

「執務って何するの?」

 

「そうだなー。今日の書類を事務棟に取りに行って、俺が書いて、それを事務棟に届けるって感じだ。大体全部で1時間くらいだ。」

 

そう言うとほぇーと言って、島風はお茶を飲んだ。

 

「それだけなんだ......。知らなかったなぁ.......。」

 

「そうか。」

 

俺は横で朝食を摂り終えた島風を待たせながら残っていた朝食を考え事をしながら頬張っていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

執務室に戻る最中に、『事務棟に行って書類貰ってくる。』と言った島風と分かれた。何でもそっちのほうが速いだからだそうだ。

俺は執務室に着いて席に座ると、執務を始める準備をした。と言っても、ペンとハンコを出すだけだが。

そんな事をしていると、書類を受け取って戻ってきた島風が執務室に入ってきた。

 

「提督、貰って来たよ!」

 

そう言って島風が渡してきたのはいつもと同じ枚数の書類だった。内容も同じ。

 

「ありがとうな。」

 

俺は島風に礼を言うと、執務を始めた。

俺が執務を始めると基本的に仕事のない秘書艦はだいたいが戦術指南書を読んだり、掃除をしたり、執務室から離れなくてもできる事をやっていた。島風はどうやら戦術指南書ではなく兵器の有効な運用に関する本を読んでいる様だ。俺も一度夕立が読んでいたのを気になって聞いてみた事があるが、返事は戦術指南書の時と同じだ。戦術指南書にかかれている事、特に兵器に関する事をさらに詳しく書いたものらしい。基本的に駆逐艦が読むときは、護衛艦が使う装備、対空装備、魚雷、ソナー、爆雷に関するところらしい。魚雷に関しては種類が豊富な為、結構読むのに苦労するらしい。それと、同じ単語が何度も出てくるので途中でその単語の意味が判らなくなると言う(ゲシュタルト崩壊)。なので休み休み読むのがいいらしいが、島風は結構長い時間読んでいる。魚雷のところでなければいいが、わざわざ集中しているのを止めてまで訊こうとは思わなかった。

 

「ふんふん......10cm連装高角砲はそういう使い方が......。」

 

なにやら島風はぶつぶつと言った。10cm連装高角砲。それは俺が単純に12.7cm連装砲が嫌いという理由で改装された艦娘が持っている通常装備だ。

 

「でも基本的に水雷戦隊しか組まない私たちには必要なのかな?」

 

島風は一人で自問自答を繰り返していた。10cm連装高角砲でも相手にダメージが与えられている現実、別に12.7cm連装砲じゃなくてもいいんじゃないかとか、物によってはもう少し大きいものも積めるなどと言っている。

 

「そう言えばこの前カレー洋を攻略した雪風ちゃんと時雨ちゃんの艤装には10cm連装高角砲が乗ってなかったって言ってたっけ......。」

 

俺はそれに心の中で『対潜装備していたからな。』と答えた。

 

「......潜水艦が居たって言ってたから対潜装備でもしてたのかな?」

 

どうやら島風はちゃんと答えが導けた様だ。

 

「一度私の艤装にも対潜装備乗せたことあったなぁ......。外見は覚えてるんだけど......ふーん。九四式爆雷投射機と九三式水中聴音機......。一般的な対潜装備なんだ。」

 

ペラペラと装備解説が書いてある本を島風は捲った。

 

「三式爆雷投射機と三式水中聴音機......こっちの方が精度がいいんだ......。ウチにはあったかな?」

 

そう言って島風は立ち上がり、ある装備が書かれているファイルを開いた。

 

「......無いんだ。これあればもっと戦えるのに。」

 

俺はそんな風に独り言を言いながら勉強する島風を見ていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼が過ぎ、島風と昼食を摂った後、執務室に雪風と綾波が訪れた。

 

「どうした?」

 

そう俺が問うと、雪風が運動会での景品について言い出した。

 

「司令ぇ。景品は何でもいいのでしょうか?」

 

そう俺に訊いてきたのだ。

 

「ん。何でもいいぞ。俺が出来る範囲でなら。」

 

そう言うと、綾波はどもりながら言った。

 

「司令官と......お昼寝っ、したいです。」

 

そうもじもじしながら言う綾波の言った言葉を反芻した。

昼寝がしたい......俺に言わなくても勝手にやれるもんじゃないのか?だが、昼寝の前に何かつけていたな......。

 

「......俺とか?」

 

そう聞くと綾波はこくんと頷いた。

 

「司令ぇにこんなことを頼むのは少しアレかと思ったんですが......どうしても......島風ちゃんもそうなんでしょ?」

 

そう雪風は島風に言った。島風もこの2人が来てからは本を閉じていたので、聴いていたんだろう。首を縦に振った。

 

「本当にそれでいいのか?」

 

そう俺が訪ねると全員が頷いた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

結局俺は綾波と雪風、島風と一緒にお昼寝タイムに入った。

寝る場所は全員が寝れる大きさの布団がある場所。俺の私室になってしまったわけだが、3人とも思い思いに寝ている。

綾波は俺の脇腹辺り、島風は綾波の反対側。雪風は島風の横で俺の腕を枕にしている。

当の俺はというと案外寝れないもので、ずっと天井を見上げていた。

 

「これ......あれっしょ?『ドモ、テイトク=サン。ケンペイデス。』って奴。」

 

俺はそんなことを呟きながら目を閉じた。

 





何か傍から見たら唯のロ○コン提督な気がしますね。ロ○コンである気はないんですがねぇ......。
島風に提督が説明した執務内容は他に茶汲みと掃除、作戦草案考案、書類代筆なんかがある予定(設定)ですが、初回という事でそれだけとしてます。

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第五十七話  川内型姉妹の願い

今回はちょっと変かもしれません。それと感想次第ですが、内容を初期投稿から大幅に変更するかもしれません。




「提督ぅー!おっはようございまーす!!」

 

俺が気持ちよく寝ていると言うのに、耳元で大きな声が聞こえた。

 

「何だ......那珂か。」

 

「そうですよー!今日の秘書艦、貴方だけの秘書艦でアイドルの那珂ちゃんでーす!」

 

間髪入れずに脳天にチョップをかました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「いったーい!酷いですよ、提督!」

 

そう言いながら自分の頭を撫でる那珂に俺は言った。

 

「起こすならもう少し優しくしてくれ。あと声がデカい。」

 

「そうかなー?丁度いいと思ったけど......。」

 

「確かに眠気が一発で飛んだが、同時に怒り覚えたわ......。次やるときは止めてくれよ?」

 

「はーい。」

 

案外聞き分けの良い那珂に俺は少し戸惑いつつも、着替えるからと言って那珂を私室から追い出した。

というか何で那珂は起こしてくれたんだ、と考えつつ時計に目をやる。時間は7時。朝食の時間が始まって30分が経った頃だった。

 

「あっ、成程ね。」

 

俺は手をポンと叩くと、那珂がどうして起こしに来たか分かった。

要するに俺は少し寝坊したのだ。那珂は秘書艦だから先に執務室に来ていたが、俺が中々起きてこないのでわざわざ起こしてくれたみたいだ。

 

「後で礼いっとかなきゃな......。」

 

そう言って俺は手袋をはめると扉に手をかけた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

何時もより遅れて食堂に行くと、普段合わないメンツが居た。こう時間が違うと変わるものだなぁと思いつつ、那珂とトレーを持ち、朝食を貰う。ちなみに今日はオムレツとハム、サラダ、パン。間宮さんは一体どう90名近くの艦娘の食事を用意しているんだろうか。

そう考えつつ、俺は那珂と席に着いた。

 

「いっただきっまーす!」

 

そう言って元気よく朝食を食べ始める那珂の前にあったのは、ご飯、味噌汁、漬物、お浸し、焼き魚、納豆......。日本の朝食のテンプレを想像させるようなものだった。

 

「今日もおいしー!......提督はそんだけで大丈夫なの?」

 

そう言って那珂は俺の方を横目で見て言った。

 

「あぁ。足りなければどうにでもなるし、基本的に動かないからな。」

 

そう言って箸でオムレツを切って口に運ぶ。

 

「執務の時間も短いし、提督室から出ないんでしょ?」

 

そう言って那珂はポリポリと漬物を食べていた。

 

「そうだな。基本的には。」

 

「不健康だなぁ......。お散歩とかは?」

 

「前に鎮守府一周した以来だ。」

 

そう言うと那珂はもう食べ終わるのか、味噌汁を啜っていた。

 

「じゃあ今日、執務終わらせたら運動しよ?」

 

そう言って立ち上がった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は執務室に帰ってから放心状態だった。何故なら那珂、自称艦隊のアイドルな癖に、執務で艦娘がやってもいいものを全部持っていきあがった。しかも3分で終わらすし......。長門と島風以上に執務ができる様だ。しかも新しいレベリング艦隊編成を一人で考え始めてついさっき俺に確認で見せてきた。見せられたものはとても完成度の高い編成。資源を気にせずに色々な艦娘のレベリングも行える編成だった。

 

「那珂......。」

 

「何?」

 

「那珂って優秀なんだな......。」

 

「何それ酷い!那珂ちゃん、基本的な事は何でもできるよ?」

 

キャハとか言い出しそうな表情で俺に言うが、確かに何でもできる。侮れぬ、那珂。

 

「んー!予定よりも早く終わっちゃったね。外行く?」

 

そう言って那珂は俺の手を引いて執務室を出た。案外強引でなく、やんわりと痛くない程度で引っ張ったのでここでも那珂の優秀さを垣間見た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と那珂が外に出ると、外には川内と神通がバトミントンをしていた。

 

「それっ!」

 

「はいっ!」

 

そう言ってラリ―を続ける川内と神通に那珂は話しかけた。

 

「川内ちゃん、神通ちゃん。提督連れてきたよ!」

 

そう言って俺の手を引いて前に出す。

それを訊いた川内と神通はラリーをやめ、こっちを向いた。

 

「提督ー。身体動かすんでしょ?バトミントンやろーよ。」

 

「提督が嫌でないなら......是非......。」

 

正反対な性格の2人はそう俺に言った。

 

「バトミントンかぁ......。半年ぶりかな?」

 

そう言って俺は上着を脱いだ。少し寒いくらいとはいえ、運動すれば暑くなるから脱いだだけだ。

 

「おっ!提督、腕なんかまくっちゃって......私と勝負する?って言ってもラリーだけどね。」

 

そう言って川内はパスパスとシャトルを上に向かって打った。

 

「じゃあ私が変わります。どうぞ。」

 

そう言って神通が俺にラケットを渡してきた。

 

「ありがとう。じゃあやるか!」

 

そう言って俺と川内のラリー対決が始まった。

どちらも打ちにくいであろう場所に狙ってシャトルを打つが、何とかどちらも打ちかえし、一歩も譲らない。

俺の身体も温まり、それと同時に息も上がり始めていた。これだけ動いたのだ。仕方ない。一方の川内も負けじと打ち返している。額には汗。あちらも身体が温まり、息が上がりだしている様だ。俺はここで勝負をかける事にした。

俺がこの世界に来る前、体育で友達相手にやっていた技。......名前は特にないがだまし討ちだ(※作者が本当にやってます)。打ち損ねたかのように見せて相手を油断させたのち、地面に落ちる擦れ擦れでゴルフの如く、シャトルを打つ。力加減を間違えればかなりの距離を飛ぶが、言っても拾いに行けない程度ではない。この技でシャトルが拾いに行く間に落ちる事は何度もあった。

 

「これで......。」

 

そう言って川内は俺の外しやすいコースを狙ってきた。今がチャンスだ。俺はワザと外した。スカッという空気を切る音が聞こえた。

 

「よしっ!」

 

そう言って小さくガッツポーズをする川内を見る暇なく、俺は技を繰り出した。

 

「甘いぞっ!フェイクだ!!」

 

パスッという軽い音と共に、シャトルが打ちあがった。

 

「うそっ!」

 

そう言ってシャトルを追いかけるのもすでに遅し。着地予想ポイントには川内は間に合わなかった。

 

「うそー!提督、どんな技使ったのさー!!」

 

そう言ってプンプンする川内に耳打ちで説明した。この後、那珂が川内とやると言うのを訊いたからだ。

 

「成る程ねー。そりゃ、初見は打てないね。」

 

そう言って川内は笑いながら離れて行った。俺は那珂にラケットを渡し、神通が見ている近くに行った。

 

「提督ってバトミントンお上手なんですね。」

 

「いんや。俺は遊び程度でしかやったことない。」

 

そう答え、俺は川内と那珂がラリーをやっているのを眺めた。

2人とも均衡な勝負をしていて見るには面白みにかけているものだった。だが、川内が那珂が打ったのを見切ってニヤリと笑った。

 

「せいっ!」

 

その掛け声と共に盛大にスカした川内だが、間髪入れずにラケットを振り回した。

 

「はっ!」

 

今度はラケットに当たり、飛ぶ。シャトルは今までのよりも速さを増して、打ち辛いであろう那珂の正面にシャトルが勢いよく飛んでいったがあっけなく打ち返された。

那珂は飛んでくるシャトルを見て数歩下がっていたのだ。

 

「甘いよ、川内ちゃん!」

 

そう言い放って打ったシャトルは川内が那珂に打ったのと同じくらいの弾速で川内の正面を捉えた。

そしてシャトルを川内は打つ統べなく、地面に落下してしまった。

 

「あちゃー。無理だったか......。」

 

そう言って川内はトントンとラケットで肩を叩くと、休憩にしようと言って近くのベンチに腰を下ろした。

 

「疲れたー。幾ら水雷戦隊の出番がないからって言っても、駆逐艦は護衛として出てるからねぇ。私も出たいな。」

 

そう言って俺の方を川内がチラッと見た。

 

「脈絡なく話を繋げて訴えても仕方ないだろう。俺の方針、知ってるだろ?」

 

「まぁね。......でも本当に最近はバランスをとれた艦隊編成が多いよね。これまで昼戦撃破が主眼だったみたいだけど、夜戦も想定内なの?」

 

「それもあるが、基本的には対潜の為だ。最近出撃する海域は潜水艦が多いもんでね。」

 

俺は川内の言葉に受け答えて背中を伸ばした。よくよく考えてみたら、この世界に来てからはずっと執務室にいたりしていたので外で何かしたことが無かった。

いい気分転換になったし、何より身体を動かせて楽しかった。那珂に感謝しないとな。そう考えた矢先だった。那珂が俺にある事を話した。

 

「運動会の景品、今使ってもいい?」

 

そう言って那珂はラケットを立てかけると俺の方を向いた。

 

「私、いいや、私たち川内型姉妹の願いは、皆が笑顔で過ごせる事かな。」

 

そう言ったのはいいが、とても抽象的な願いだった。

 

「深海棲艦を倒しながら、誰も欠けずに終戦を迎えたい。それまでは油まみれになって硝煙塗れで戦うのは覚悟してるよ?だけど、それだけじゃ私たちはせっかく提督が変えてくれた待遇の前とあまり変わらない。だからあの時なかったこの姿になった楽しさを感じたい。」

 

そう言った那珂の目にはとても力が入っていた。

 

「楽しい事、うれしい事、いっぱい知りたい。そう思ったんだ......。だから提督......これは私たちの願い。そして、艦娘の願い。」

 

俺はここまで那珂に言わせてしまった。

確かに待遇の改善を考えて行動してきたが、俺が着任してから2ヵ月で変わったことなどちっぽけなものだったのかもしれない。もっと知りたいと那珂は訴えた。

 

「わかった。......俺もこれまでは設備とかの事ばかり考えてたけど、違う事でいいんだよな?」

 

「うん!この前やった運動会みたいなのをまたやりたい!」

 

俺は考えを巡らせた。

ここに来てから改善してきたことよりもインパクトのあるもの......。あった。楽しい事......かは分からないが、那珂は楽しめる筈の事が。

 

「今思いついた。」

 

「ん?」

 

俺が手をポンと叩いたのを那珂は見ていた。

 

「那珂。自称艦隊のアイドルだったよな?」

 

「自称って......そうだよ!私は艦隊のアイドルっ!」

 

「じゃあ、やるか!」

 

そう言って俺は那珂の肩をポンと叩いた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は那珂に今思いつく事を伝えた。

『艦隊のアイドルになれ。』それだけだった。俺はこういったプロデュースをしたことが無いが、踊りも曲も那珂に丁度いいものがあるじゃないか。そう思ったのだ。

 

 

 

『恋の2-4-11』

 

 

 

いつだったか俺の居た世界で提督100万人突破したことから艦これユーザーがニコ○コ動画にアップロードしたオリジナルソングだ。ちなみにD○Mが公認しているらしい。

これを使わない手は無い。

だが問題点があった。どうやって原曲と振付の動画を手に入れるかだった。

俺はバトミントンをやった後、執務室に帰りながらそんなことを考えていた。横では本格的なアイドルができるという事で、那珂はとてもご機嫌だ。スキップまでしている。

だが俺はある存在を忘れていた。

妖精なら何とかできるかもしれない。そう思い至ったのだ。

 

「それで、私が呼ばれたんですね?」

 

現在、俺は執務室の机の上に呼び出した工廠の開発班の妖精。通称、白衣の妖精を呼んでいた。

 

「そうだ。だから俺のいた世界から引き抜けるか?」

 

「提督を丸々こっちに連れてきましたからね。造作もないです。ついでにDVDに焼いて、歌詞カードを作っときます。」

 

そう言って白衣の妖精は去っていった。

そんな光景を眺めていた那珂は不思議そうに『恋の2-4-11ってなんだろ。』とか言っているんで俺が説明をした。

 

「那珂。」

 

「何ー?」

 

「俺が別の世界から来たってのは知ってるよな?」

 

「うん。」

 

「その世界ではな、那珂のための曲が作られてたんだ。それが恋の2-4-11。」

 

それだけ言うと那珂は喜んだ。

自分専用の曲があったという事に驚きがあるというのと、それを自分が歌って踊れるということにだ。

 

「那珂が歌って踊れるようになった暁には別の事を計画しよう。と言っても、那珂のソレのお披露目の舞台だけどな。」

 

「えぇー!!那珂ちゃん専用の曲が用意される上にステージっ......。那珂ちゃん、本気出さなきゃ!」

 

そう言って気合を今から居れている那珂を尻目に別の事を俺は考え出した。

 

(那珂のバックダンサーどうしよう......。)

 

俺はこれを夕飯時まで悩む羽目になった。

ちなみに那珂の恋の2-4-11お披露目は、暫定だが『鎮守府文化祭』というのを開き、そこに訪れた観客に見てもらうという事だ。

 




( )これは提督の心の声ですのでお願いします。
恋の2-4-11をネタに使うとどっかから苦情とか、削除依頼とか来ませんかね?
とてもいいと思ったので使ったんですが......。詳しい方、ぜひ教えてください!

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第五十八話  青葉の願い


前回の投稿から3日経ってしまいました......。忙しいと時間を忘れてしまうとはこのことですね。




 

那珂たち川内型姉妹からの願いを訊いた次の日。結構遅くまで起きていた俺は、これまた遅くまで寝ていた。

意識が戻りつつあるなか、俺の顔を覗き込む輪郭がぼんやりと浮かび上がった。髪は薄いピンク。こんな色の髪をしているのは鎮守府には2人しか居ないと記憶していた。

 

「おはよーございます。司令官。」

 

そう言って俺が完全に目を開いたのを確認した時に言ったのは青葉だった。そう言えば今日の秘書艦は青葉だった。

 

「......あぁ。おはよ。」

 

俺はのそのそと温もりの恋しい布団から出ると、青葉に部屋から出てもらい着替えた。

 

「さて。さっきも言ったけど、おはよう。」

 

「はい!おはようございます!」

 

そう言って元気よく青葉は返事をした。

 

「朝食の時間はもうすぐですよ!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝食を済ませた俺と青葉は執務室に帰ってきて、今さっき執務を終わらせたところだ。

 

「いつもこれだけなんですか?」

 

青葉は椅子に座ってパタパタしながら言った。結構詰まらなかったみたいだ。

 

「そうだが?最も、他の秘書艦は自分で仕事を見つけてやってたけどな。」

 

そう言いながら俺は書類を纏めていた。

本来ならば秘書艦がやってくれていたが、今日が秘書艦初体験の青葉にはまだ察しがつかなかったのだろう。

 

「そうなんですか......。これからどうするんですか?」

 

そう訪ねてきた青葉に俺は纏めた書類を突き出す。

 

「これを事務棟に。これは秘書艦の基本的な仕事の一つだ。」

 

そう言って渡すと青葉は『ほえー。これが出してる書類ですかー。』とか言いながら見ようとしていたので止めて、行かせた。

俺の目の前で開けそうになった青葉は、どうせ道中に開けるんだろうなと思いつつ、俺は背筋を伸ばした。最近の執務が終わった後の日課みたいなものだった。終わったら背伸びをする。結構腰が鳴って気持ちいものだ。

 

「はふぅ......今日もペキペキ言ったなぁ。」

 

そう言って俺は机の端に置いてあった本を開いた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

程なくして青葉は帰ってきた。どうやら寄り道せずにすぐに行って帰ってきた様だ。この様子を見ていると、書類の中身は見ていない様だ。

 

「本当にアレって何なんですか?」

 

少し膨れっ面で俺に青葉がそう言った。

 

「ただの書類だ。消費資材糧、諸連絡......そんなもんだ。」

 

「そうなんですか。じゃあ偶に増える書類何かは何があるんですか?」

 

なんでそこまで知っているんだろうと、疑問に思いつつ俺は答えた。

 

「アレは特別な事が書いてある。最近だったら滑走路の建設だ。」

 

俺はそう言って執務室の窓から外を眺めた。視線の先には滑走路の工事が行われている現場がある。

大方完成しているのか、今は横に隣接される倉庫なんかを作っている様だ。

 

「そうなんですね......。だから増えたと。」

 

「余分に何かをするたびに増える。俺は今まで1枚追加しか経験してないがな。」

 

そう言って外から視線を外した。

 

「俺としては増えても増えなくても暇なのには変わりない。俺も書類が増える事に関しては適度に増えても気にしない。」

 

「そうですか......。」

 

横で青葉は腰を掛けた。

 

「そう言えば滑走路の建設がもう終わるようですよ?」

 

そう言って青葉は建設をしている方向を向いた。

滑走路は鎮守府の敷地を広くしても何なので、海に作っていた。ちなみに工廠の妖精に頼んだら快く引き受けてくれた。資材に関しては鋼材と油だけでいいと言われたので好きなだけ使う事も許可をしていた。

律儀に妖精たちは使用した鋼材と油を記録して執務室に報告書として提出しているが、減ってる量はちゃんと数えてなければ気付かないくらいだ。

 

「司令官。滑走路は何に使うんですか?」

 

そう青葉は俺に訊いてきた。

 

「新戦術だ。戦いが楽になるかもしれない。」

 

俺はそれだけ言って椅子にもたれ掛かった。

 

「新戦術......新たな戦い......深海棲艦を殲滅する近道ですね。」

 

「そうともいう。だが、効くとは限らない。俺が構想している戦術では実証しないと優位性が証明されないからな。」

 

「実戦で使えないと意味がないんですね。」

 

「そうだ。」

 

俺は欠伸をしつつ答えた。

 

「......脈絡もないですが司令官。私の願い、聞いてくれますか?」

 

突然青葉は俺に言ってきた。

 

「唐突だな。それで?」

 

「はい。......戦闘時以外で私がカメラを持ち歩くことを許可して欲しいんです。」

 

青葉は唐突だった。

 

「別に戦闘以外で何か持ち歩いちゃいけないなんて規則作った覚えないが?」

 

「違うんです。私はこの鎮守府の皆の自然な笑顔を写真で撮りたいんです。そしてアルバムにしたい、そう思ったんです。」

 

青葉は手を前でもじもじさせながら言っている。

 

「そのためには提督の許可が居ると思ったんです。みんなの笑顔を写真で残す。みんなで集まった写真を残す。............私たちの帰る場所を再確認したいんです。」

 

そう言った青葉に俺は箱を渡した。中には適当に見繕ったカメラとメモリーカード、ケースが入っている。

 

「えっ......これは?」

 

何を渡されたのかと少し不思議がっていたが、青葉は中身を確認した途端喜んだ。

 

「カメラですね!」

 

「あぁ。青葉にあげようと思ってね。俺も持ってるし。」

 

そう言って俺は唐突に机の下からカメラを出した(※カメラを買ったタイミングはご想像にお任せします)。

 

「それを使って皆の笑顔を写真で撮ってくれ。そして記念撮影だ。皆で集まって並んだ写真を撮るんだ。」

 

そう言うと青葉は目を輝かせた。

 

「ありがとうございますっ!!」

 

「ただし、誰かを撮るときは撮っていいか聞く事。勝手に撮ったら嫌な思いをするかもしれないだろう?」

 

そう言って俺は手に取っていたカメラを仕舞った。

 

「はいっ!」

 

その時の青葉の笑顔は普通の女の子の顔をしていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺があげたカメラで青葉はその日の夕食時に食堂で全員を集め、記念撮影を提案した。

艦娘たちは誰もが乗り気になり、ひな壇を作って全員で並んだ。端とかで良かったのに俺はわざわざ最前列センターに就任。いわゆる校長先生ポイントに位置した。その周りを艦娘が囲んでいき、シャッターを下ろすのはセルフタイマーで写真を撮る事にした。

青葉は慣れない手つきでタイマーをセットして、大慌てでひな壇に戻り、姿勢を正してにっこりと笑った。

撮れた写真には皆の笑顔が映り、自分たちと共に俺が映っていた。集合写真だが、その写真は青葉や他の艦娘たちにとってかけがえのないものとなった。総勢90名と1名。全員が幸せそうな表情をしている。

 





ここまで忙しいと毎日投稿は難しそうです。これでもやっと時間を見つけてあげた感じですし......。
最低でも12月入るまでは不定期になりそうです。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第五十九話  新戦術①

瑞鳳の願いである滑走路建設も完了し、工廠にあった隼と疾風、富嶽が次々と滑走路横の格納庫に収納されているのを俺は見ていた。

牽引車に引かれながら工廠から途切れる事のない飛行機の線は1時間も途切れる事のなかった。

 

「提督。いよいよですね。」

 

俺の横でそう言ったのは、今日の秘書艦の瑞鳳。滑走路建設完了と航空隊配備、初陣という事で提案者である瑞鳳に秘書艦が譲られた。

 

「あぁ。だがまずは試運転が必要だ。」

 

俺と瑞鳳は執務室の窓から見ながらそんな事を話していた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺というイレギュラーの存在がもたらす影響というものが次々と発覚していた。まずは未確認兵器の誕生。深海棲艦の戦闘パターンの変化が目立ったが、最近発覚したことがあった。

これまで艦隊上限が6隻、連合艦隊が12隻と決まっており、連合艦隊に関しては特定の海域でしか使用できなかった。だが、出撃する艦の総数の上限が無くなっていた。自由な編成が可能になったという事だ。

それも兼ねた編成表が朝の掲示板に貼られていた出撃編成表で艦娘にも知られた。

今日の出撃艦隊は長門旗艦とする特務艦隊。傘下。陸奥、高雄、愛宕、摩耶、鳥海、川内、神通、那珂、夕張、吹雪、白雪、雪風、島風、白露、時雨、村雨、夕立、赤城、加賀、蒼龍、飛龍。計22隻の大艦隊だ。

 

「提督より、本作戦の説明を賜る。」

 

そうかしこまった口調で長門はそう言った。

俺は高くはない壇上に上がり、1列で横に並ぶ艦娘たちの顔を見た後、その後ろに並ぶ今回の編成に加えられなかった艦娘の顔を見た。全員期待と不安で一杯だという表情をしている。

 

「本作戦について説明する。」

 

「本作戦の第一目標は海域の解放ではない。皆も知っているだろうが、建設が完了した滑走路の優位性を証明するための作戦だ。」

 

「特務艦隊は計22隻という大艦隊でありながら本隊ではない。本隊は高高度を編隊飛行する大型戦術爆撃機 富嶽である。」

 

「出撃地は北方海域、キス島。これまで我々を手古摺らせてきた海域だ。本来ならば小型高速艦での隠密奇襲作戦が常套だが、今回は無理やり突破を試みる。」

 

「特務艦隊は空母を囲む輪形陣にて海域に侵入。敵航空勢力を殲滅。その後、深海棲艦を富嶽で爆撃する。」

 

「富嶽は通常の彗星の爆弾搭載量の40機分に相当する。上空を飛ぶ富嶽爆撃隊は230機。彗星9200機分の爆弾を抱えて飛んでもらう。」

 

「特務艦隊の任務は富嶽爆撃隊の露払いだ!空母は雷電改、紫電改二、彩雲に艦載機を載せ換えておけ!」

 

その場の空気は凍り付いていた。

俺の口から伝えられた作戦内容。特に大艦隊が本隊でなく、上空を飛ぶ爆撃隊が本隊であるという事。上空の爆撃隊は彗星9200機分の爆弾を積んでおり、鎮守府に所属する空母が全て彗星に載せ換えても足りない数だ。

 

「この作戦が叶えば、安定した戦いが期待できる!心してかかれ!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と瑞鳳の頭上を爆撃隊、230機が飛び立っていった。

轟音を響かせて上空に上がっていく様子には俺と瑞鳳は圧倒された。

 

「作戦......叶うといいですね。」

 

そう言った瑞鳳は段々と小さくなっていく富嶽に手を振った。

その一方で俺は少し頭を抱えていた。

 

「何で......こんなに食うんだよ。」

 

俺の目線の先には資材消費量が書かれた紙。油と弾薬が半分以上持っていかれた。

 

「恐ろしすぎる......。」

 

俺は項垂れた。これから再び、資源温存を中心とした運営を覚悟した瞬間だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

特務艦隊旗艦 長門は自分の艤装の司令部から海を見ていた。

長門らが出撃してから数時間後に本隊である爆撃隊が来るのだ。

 

「爆撃機による海上絨毯爆撃。効果があって貰わねば意味がない。」

 

そう長門は呟いて空を仰いだ。これから爆撃隊が通るであろう空はとても透き通っていた。

 

「これなら早くこの戦争も終わる。提督の身の安全も内部だけに集中すれば良くなる......。提督......。提督の事、鎮守府、仲間、全てを守って終戦を迎えたい。」

 

長門は一息ついて指示を飛ばした。

 

『爆撃隊直掩隊は直ちに発艦せよ!』

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

海域解放に駆り出される艦娘たちが一気にいなくなった鎮守府内はとても静かだった。遠征艦隊は相変わらずひっきりなしに資源を運んでいるのでいつも見掛けないが、今日は特段と静かだった。

いつも外から聞こえてくる楽し気な笑い声も、訓練をする艦娘たちの声も、演習で発砲する艦砲の砲声も何一つ聞こえなかった。

 

「静かだな......。」

 

俺は既に終わらせた執務の後、瑞鳳が提出しに事務室に行ってる間、埠頭を見ていた。埠頭にはもしもの為の金剛型姉妹と妙高型姉妹、五十鈴と北上、瑞鶴、飛鷹、隼鷹の艤装が停泊していた。

 

「おっ......また甲板でティータイムしているな。今度は俺も後で混ぜてもらおうか。」

 

停泊している金剛の艤装の甲板でティータイムが開かれていた。ちなみに今回の参加者は金剛、比叡、榛名、霧島、五十鈴、夕張、北上だ。瑞鶴と飛鷹、隼鷹は一応やる事があるようで参加していない。

何をしているかというと、特務艦隊の近くまで爆撃隊が接近するまでの護衛をしている紫電改二の管制だ。念のためという事で頼んでおいたことだ。

 

「......爆撃隊が特務艦隊の上空を通過するまで2時間。そろそろ海上では交戦しているころだろうか。」

 

俺はそんな事を呟きながら瑞鳳の帰りを待っていた。

 




いよいよ実戦投入です。
どれ程効果があるかは次回にご期待下さい。この話の投稿から1日以内には投稿するつもりです。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第六十話  新戦術②

 

瑞鳳が提出から帰ってきて、かなりの人数が居ない状態の食堂で昼食を摂り終えた後、俺は滑走路に来ていた。

何もない平坦な滑走路では偶に妖精たちが走っているのが目に入るが、それよりも俺は230機の爆撃隊が出て行ってから追加で出来た富嶽が格納庫に収められるところを見ていた。それぞれの尾翼に番号が掛かれ、今俺の目の前で入れているのは248番だ。

富嶽以外にも格納庫には入れられていて、一式戦闘機二型と三型、総称『隼』が400機。四式戦闘機一型乙、『疾風』が250機が所狭しと並んでいる。

 

「どうされました?」

 

俺に話しかけてきたのは、格納庫の管理を任せている妖精だった。

 

「ん。どんな状況か見てみたくてな。」

 

「そうですか。このままいくと富嶽だけでも500機超は生産されるでしょうね。他の戦闘機たちもそれぞれ400ずつ。」

 

そう言って妖精は俺の肩によじ登った。

 

「これらに更に雷撃が可能なものも加われば、この滑走路だけで深海棲艦と戦えますよ。」

 

そう言って飛び降りて仕事があると言って妖精はどこかへ行ってしまった。

確かにこれだけあれば制空も簡単だろうし、富嶽の絨毯爆撃と雷撃機があれば一端の空母の様な運用ができる。そういう事なのだろうと俺は思い、その場を離れた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と瑞鳳は帰還してくる爆撃隊の数を数えていた。一列になって滑走路に進入してくる富嶽を『正』の文字で紙で数えていく。今は丁度100を超えたあたりだ。

不調を訴えて戻ってくる富嶽は無かったが、たまにエンジンから煙を吹いている富嶽も着陸していたので、多分敵迎撃機に撃たれたのだろう。これは特務艦隊の帰還を待って聞くしかない。俺としては赤城がそんなヘマをするとは思えなかったから、確認という形になるが。

 

「......よっと。提督。230機全て帰還しました。」

 

横でずっと『正』を書き続けた瑞鳳は最後の富嶽の着陸を見届けると、書き記した『正』の数を数えて俺に報告した。

 

「そうか。......特務艦隊の帰還予定時刻は?」

 

「およそ30分後です。結構近くまで戻ってきてるみたいです。」

 

そう言われて俺は埠頭の先を見た。確かに長門を先頭に大艦隊がこちらに来ていた。

 

「確認した。あとは報告を聴くだけだな。」

 

俺はそう言って自分の席に座り、俺の元に届いた滑走路の妖精からの報告書を見ていた。

そこには予定していた数の飛行機の調達が完了し、格納庫への格納も完了したという知らせだった。それと、格納庫の不足を懸念して新規増築を訴えるものだ。俺は迷わずサインを入れて、滑走路の妖精への返事を書き留めた。

ちなみに滑走路から届く報告書なんかは滑走路主任という妖精がいるらしく、その妖精から届いている。

 

「隼、疾風、富嶽の配備が完了したそうだ。」

 

俺はそう言って瑞鳳にどれだけの配備数か書かれた紙を見せた。

 

「隼が400機。疾風が400機。富嶽が500機......。何処の航空隊ですか?!」

 

「横須賀鎮守府航空隊だが?正式名は決めてないけど。」

 

そう言うと瑞鳳は顎に手をやりうーんと唸りだした。どうやら航空隊の名前を考えている様だ。

 

「......それぞれを戦闘機は20機ずつで割って番号充てるだけでいいと思いますよ?ひとくくりの名称はきっとそのうち愛称が付きますから。爆撃機も20機で割って番号充てればいいと思います。」

 

「成る程......。まぁ、横須賀鎮守府航空隊だと艦載機か陸上機か分からないからな。」

 

俺は紙とペンを出し、番号順に部隊を編成した。

 

「1番機から20番機は第一飛行戦隊。21番機から40番機は第二飛行戦隊。41番機から60番機は第三飛行戦隊......。」

 

「1番機から20番機は第一爆撃中隊。21番機から40番機は第二爆撃中隊。41番機から60番機は第三爆撃中隊......。」

 

最後まで書き上げると滑走路主任の妖精宛ての封筒を用意した。同封するのは機体番号ごとに割った部隊編成と趣旨の書いた便箋。すぐに入れて封をした。後で瑞鳳に持って行ってもらう。

 

「部隊を分ける際には尾翼や胴体にマーキングするんですけど、あちらに任せてもいいですよね?」

 

瑞鳳は俺が封した封筒を受け取るとそう聞いてきた。

 

「あぁ。何でも好きにマーキングするといいと伝えておいてくれ。もう直ぐ特務艦隊が埠頭で投錨するだろう。」

 

そう言うと瑞鳳は走って執務室を飛び出していった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

滑走路から戻った瑞鳳と執務室で待っていると、長門以下特務艦隊だった艦娘たちが執務室に入ってきた。報告との事。

 

「戻った。戦果を報告する。」

 

そう言って長門は書き留めてあったんだろう紙を出して読み上げた。

 

「爆撃隊による海面絨毯爆撃によって深海棲艦は殲滅。キス島を解放した。」

 

思っていた通りの戦果だった。富嶽による海面絨毯爆撃は効果を絶大に発揮していた。だが、資源を大量に消費する欠点はあった。

 

「キス島にはかつて送り込まれていた日本皇国陸軍守備隊約5000名の生存を確認。私の艤装で収容して帰還したが、まだ艤装に残してある。」

 

俺は衝撃を受けた。キス島に人間が居たと言うのだ。これまで解放した海域には須らく人間は存在しておらず、残っていたのは手つかずの資源だけだったからだ。

 

「どんな様子だった?」

 

「ひどく疲れていた様子だ。私たちの存在が確認されて鎮守府に隔離される前に送り込まれた様だから私たちの事は知っていた。」

 

「そうか。今から話しに行こう。鳳翔と祥鳳、瑞鳳は偵察機と零戦を準備だ。すぐに知らせろ。」

 

「了解した。」

 

長門は俺が会うと言ったのに反対はしなかった。たぶんいつもの様に空から見張る事を言ったからだろう。

 

「すぐに向かう。」

 

俺は執務室に居た全員を引き連れて埠頭に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

遠目から長門の艤装の甲板を見ても分かるくらいに人が乗っていた。

それを眺めつつ空を見上げると、零戦と彩雲が飛び始めていた。もう発艦させたのかと思いつつ、何時嗅ぎ付けたのか今度は熊野が艤装を身に纏い俺の前を歩いている。その後ろには無傷で帰還した特務艦隊の艦娘たちがこれまた艤装を身に纏っていた。ちなみに艤装を身に纏うと、埠頭に停泊している艤装は消える。

 

「キス島守備隊......。話によると数年間、島に取り残されていたと訊きましたわ。」

 

熊野は俺の前を歩きながらそう言った。

 

「そうなのか?」

 

「えぇ。何でも米軍の撤退に置いて行かれたとかと訊きましたわ。」

 

そう言う熊野はこちらを向かずにずっと前を向いて歩いている。もう長門の艤装が目の前だからだ。

カンカンと音を立てて上るタラップで少し緊張しながらも俺は歩みを進めた。上りきると、甲板には座っている兵士たちが居た。装備は持っている様だが、結構手直しした後があり、皆来ている戦闘服もヨレヨレになっている。

 

「何か来たぞ......。」

 

「艦娘が一杯居るぞ。」

 

「あの白い服のは何だ?」

 

「というか艦娘が艤装を纏ってるっ!」

 

そうわざわざする甲板で熊野が砲を鳴らした。炸裂する手に持った主砲は噴煙を上げた。

それを訊いた兵士たちは黙った。それが何を意味したか理解できたようだ。

 

「貴方がたはキス島守備隊で間違いありませんわね?」

 

「そうだ。」

 

1人立ち上がりそう答えた。

 

「では整列して下さいな。」

 

そう熊野が言うと立ち上がっていた兵士が号令をかけた。

 

「整列っ!!」

 

ザザッという音と共に全員が立ち上がり、並んだ。

 

「提督。」

 

そう熊野に言われ俺は咳ばらいをした。

 

「......キス島守備隊の皆さん。救助が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。私は横須賀鎮守府の提督です。」

 

そう言うと少しざわついた。

 

「ウチの艦隊が急に現れた時、さぞや驚いたと思います。今いる戦艦 長門に言われて甲板に乗り、帰ってきたのは私は先ほど長門の方から聞かされました。」

 

そう言って俺は息を飲み込んだ。

 

「と、言っても仕方ないので取りあえず、お疲れ様でした。ここは日本です。貴方たちは日本に帰ってきました。」

 

そう言うと整列していた兵士たちは涙を浮かべ、袖で拭き、座り込んでしまうものも居た。

 

「島風。」

 

「はいっ!」

 

「大本営に緊急連絡『キス島の残存守備隊を収容、日本に帰還。』だ。」

 

俺は島風を呼び出して、そう伝えるとすぐに連絡を取ってもらう為に行ってもらった。

 

「労い、報酬、何でも大本営に要求してやりましょう。私が無理を言って通します!」

 

そう言うと帰ってきた兵士たちは泣きながら雄叫びを挙げた。数年間戦い抜いた辛さから解放され、やっとの思いで帰還した日本の地が踏める喜びに浸っていたのだ。

 

「やった!!帰ってこれたぞ!!」

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!妻と息子に逢いてぇぇぇ!!」

 

「俺は生きてるぞ!!」

 

そう思い思いに叫ぶ中、整列の位置からずれる事無くある兵士が俺に言った。

 

「空を埋め尽くした爆撃隊は何ですか!!あれが深海棲艦共を木っ端みじんにしたんですよ!!すっげぇデカいし!!」

 

「アレは富嶽。大型戦術爆撃機です。」

 

そう言うと兵士たちは揃って『おぉ!』と言った。

 

「大本営からトラックが来ます。兵士の皆さんは長門から降りて並んでいて下さい!」

 

そう言って島風がタラップを駆け上がってきて言った。どうやら連絡はついた様だ。

 

「凱旋ですよ。行先は大本営です。」

 

俺はそう言って降りて行った。それに続くかのように兵士たちも並んで降りて、埠頭に整列した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

キス島守備隊の生還で大本営は沸いた様だった。

メディアの横須賀鎮守府への取材許可を求めるものと、横須賀鎮守府宛ての感謝状何かが段ボール箱に入りきらない程届いたと俺は聞いた。

生還兵の凱旋では近くの陸軍基地から音楽隊やらが集まり、盛大な式典の様になったとの事だった。

 





これにて新戦術の話は終わりですね。結局成功しましたが、キス島守備隊のネタは届いたご感想から影響を受けて書きました。パクリですかね?
本編では解放されましたが、ゲームの方ではまだ手古摺ってます。いつになったらクリアできるのやら......。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第六十一話  鳳翔の願い

 



俺は外の騒がしさに目を覚ました。

凄いデジャヴを感じるが、布団から這い出て服を着ると外に出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

がやがやという表現はとても使いやすいと思った(※唐突なメタ発言)。

鎮守府の正門にはいつしかの様にメディアが集まっていた。だが、今回は違う。それぞれが取材陣ごとに固まり、何かを待っている様だった。がやがやしているのも身内で話をしているだけみたいだった。

 

「整理券とかないんですかね。」

 

「アホか。ここはそう言う場所じゃないぞ。艦娘の機嫌を損ねて、更に提督を不快にさせてしまったら物理的に首が飛ぶ。」

 

「アレってマジなんですかね?」

 

「テレビ横須賀から重要文書として会長直々の直筆で書かれたものに書かれてたんだろ?間違いないだろうさ。」

 

「確かあの時、国営放送さんも居ましたよね?」

 

「あぁ。テレビ横須賀のキャスターが金剛さんの怒りを買いました。提督がいらっしゃったから良かったものの、いらっしゃらなかったらその場で斬首。若しくは俺ら毎木っ端微塵でしたよ。」

 

「えぇ!?金剛さんってあの金剛さんですよね?!観艦式の質問コーナでニコニコ答えていた......。」

 

「そうですよ。......私もあの顔しか知りませんでしたから、金剛さんが怒るともう......。マイク1こ片手で折りましたし。」

 

本当の事を言ってるけど、金剛が何か不憫に思えてきた。

 

「そう言えば、艦娘たちの怒りを見分けるポイントがあるらしいんですよ!」

 

「ぜひ教えてください!」

 

「上空を飛ぶ艦載機らしいんですよ。最初は彩雲とかいう偵察機なんですが、一歩手前まで行くと戦闘機と艦上爆撃機に変わります。」

 

「それって......。」

 

「『今すぐにでも殺せるぞ。』って意味らしいです。」

 

「おいおい。今は飛んでないだろう?」

 

「焦りましたよ......。一応押さずに待っているつもりですが、こちらが思ってなくてもあちらが騒ぎだと思われてしまうと......。」

 

「本社毎消されますね......。」

 

確かにそうらしいし、艦載機で見分けれるが『今すぐにでも殺せるぞ。』っていう意味なのだろうかと考えつつ俺は正門前に着いた。

俺を見るなり、話をしていた取材陣は黙り込み、順番的に最初なのだろうか、国営放送のキャスターが門兵に止められるところまで来て話した。

 

「国営放送の者です。大本営の取材許可を得ましたので取材に上がりました。」

 

そう言ったキャスターは女性だが、声も震えている状態で尋ねてきた。

 

「取りあえず落ち着いて下さい......。こちらは大本営からその様な知らせを受けていないので。」

 

そう言って俺は咳ばらいをした。

 

「それより何故こんな早くに集まっているのでしょうか?」

 

俺は正門のこちら側にかかっている時計を見た。時刻にして5時前くらいだ。

 

「朝の......朝のニュースで取り上げようかと思っていたんです。キス島から生還した守備隊の救出に関して。」

 

そうキャスターは言った。

 

「そうか。だからこんな騒ぎになってるんですね......。それより、今すぐここを離れた方がいいと思います。エンジン音です。零戦と彗星でしょうか?」

 

そう俺が言うとざわっとなった。そして空を見上げていた俺がキャスターの方に向き直ると、鳳翔が立っていた。艤装を身に纏っている。

 

「......。」

 

鳳翔は何も言わずに俺の顔を見た後、キャスターの方を向いた。

 

「.......国営放送ですか?」

 

「はひ......、大本営から取材許可を得てますので......。」

 

そう言った瞬間鳳翔はキャスターが何かを言いかけたのに被せて言った。

 

「何時だと思っているのですか?」

 

その瞬間、その場が凍り付いた。俺は普通に鳳翔が言っただけにに感じたが、そうではなかったらしい。

 

「朝の、5時前です。」

 

「こんな明朝に鎮守府に詰めかけて何がしたいんですか?取材ならもっと他に方法がありますよね?」

 

「......。」

 

キャスターは黙りこくってしまった。

 

「そもそもこの場に提督がいらっしゃるという事の意味、分かっていますか?」

 

そう言った鳳翔にキャスターは首を横に振った。

 

「貴女たちが明朝に正門に集まり、門兵さんにお世話になっている騒ぎで提督は目を覚まされたんですよ。私たちはこれを『提督の気を害した』と判断します。」

 

そう言った瞬間、キャスターはガクガク震えだした。俺が現れるまで話していた事、すなわち艦娘の怒りを買ったのを分かった瞬間だった。

 

「あっ............あのっ............私っ......そんなつもりじゃ......。」

 

「貴女につもりが無くても、そうなのデース。」

 

いつの間にか金剛まで現れた。

 

「ガルルルルルルッッッ!!」

 

俺の横にいきなり現れた夕立は威嚇しているのだろうか。犬っぽくなっている。

 

「フフフ......君たちはもう出れないよ?」

 

時雨が夕立の反対側に居た。

それを見ていた門兵は金剛に駆け寄った。止めるのだろう。

 

「金剛さんっ!少し落ち着いて下さいっ!提督からまだ本意を聞いてません!」

 

そう言った門兵は金剛の意識をこちらに向かせた。

 

「提督ぅー?」

 

そうこちらを向いて聞いてきたのはいつもの金剛だった。

 

「たまたま早く起きて散歩してただけだ。何か不味かったか?」

 

俺は今にも殺されるかもしれないキャスターの為、今言える最大限の嘘を言った。

 

「もう......今日も執務なんですから、ちゃんと寝て下さいよ?」

 

そう言った鳳翔は偵察機を発艦させ、零戦と彗星を出しているであろう赤城と加賀のところへ連絡に行かせた。

 

「そうだな......というか何でこんな集まってるんだ?」

 

俺が鳳翔に返事をして後ろを振り返ると、ほぼ全員と言っていい艦娘たちが艤装を身に纏って立ち尽くしていた。

 

「いえ、榛名は提督の身の危険を感じたので。」

 

「提督が呼んでいたような気がしてな。」

 

「身の危険を感じてないし、そもそも日向。抜刀してんじゃない。仕舞え。」

 

「もう仕舞うつもりだったさ。」

 

全員がそう言って構えていた砲や刀を下した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝食時。俺は今日の秘書艦である鳳翔と共に食べていた。

 

「それにしても皆早く起き過ぎた。」

 

「正門の騒ぎで皆さん起きたと思いますよ?」

 

そう言って鳳翔は味噌汁を啜っていた。

 

「そうか。」

 

「はい。」

 

俺は今日は珍しく和食を食べていた。たまにこうやって食べるのもいいなと思いながら箸を伸ばす。

 

「今日の執務はどうされますか?」

 

「取りあえず正門前にはまだいるんだろ?大本営に至急確認をとって取材を受けようと思う。但し、俺のメンタル的に1つが限界だ。一番最初に取り付けたところと話そうと思う。」

 

「了解しました。」

 

そう言うと鳳翔は食べ終わったのか、温かいお茶を飲んで言った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

結局、大本営に一番最初に取り付けていた国営放送の取材に応じた。

大量の艦娘に囲まれながらだったが、聞かれたのはキス島解放に関する事だった。それと、帰還した守備隊が口を揃えて言った富嶽についてだった。ここで富嶽の説明をしても仕方がないと思い、『新型の爆撃機です。』とだけ答えて濁した。

取材は1時間で終わり、10時を超える頃には国営放送は撤収していった。見送りに行った時には既に門の前に居た他のテレビ局の取材陣は居なくなっており、空には零戦も彗星も居ない状態だった。

 

「執務はいつもより1時間遅れになってしまいましたね。」

 

そう言って鳳翔は先ほど出来上がった今日の提出書類を脇に抱えて行った。これから事務棟に提出に行く様だ。

 

「だな。たまにはこういうのもいいかもな。」

 

そう言って俺は背中を伸ばした。

 

「そうですね。のんびりと片づける執務もいいですね。」

 

そう言って鳳翔は提出の為に執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼下がりの鎮守府。俺は珍しく外に出ていた。

暖かい訳でもない、むしろ肌寒いくらいの気温の中、俺は海を眺めていた。

これからの戦い。富嶽が出来たことにより、だいぶ楽にはなるだろうが、これがいつまで続くのか。そう考えると気分を落としてしまった。

何も知らされずにこの世界に呼び出された俺は、これまでかなり頑張ってきたと思う。仕事面に関しては元から少ないので問題ないが、艦娘たちとどう接していくかだった。

本来、人間ならば気難しい年ごろであるはずの艦娘は何も言わずに戦場に赴いている。人間にどれだけ蔑まれようが、周りで何が起ころうがだ。そんな艦娘を見てきて、俺は何をしているんだと思うばかりだった。鎮守府から出撃させて俺は鎮守府に籠ってる。男である俺が何をやっているんだと思うばかりだった。

 

「海軍は実質無いに等しいんだったな。」

 

この世界での日本において、船は残ってない。厳密に言えば戦闘艦だが、艦娘出現以前から深海棲艦との攻防で数は減少。艦娘登場後も艦娘の艤装と共に出撃、数を減らしていった。最期の船は高齢艦であった『イージス艦 こんごう』。深海棲艦出現以前からあった船だが、最後の最後まで戦い抜き、この湾内に入られた時、沈んだと言う。

その直後、艦娘が出現した。

どういう因果なのかは分からないが、もう人類には反撃の剣が艦娘しか残っていない状況には変わりがない。世界最強と謳われていた米海軍太平洋艦隊第七艦隊もそのころには全滅していた。

 

「何やってんだよ......。」

 

俺は頭を掻いて立ち上がった。

 

「新しい戦術、新しい編成、新しい海域の解放......。こんなことを考えている場合じゃないが、普段もそんなことを考えていられる時間は違えどこうやって時間を潰してきたな。」

 

その足で俺は執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が執務室に戻ると、鳳翔はずっと待っていたのか、椅子に座って船を漕いでいた。

 

「寝てるし......。」

 

俺はこんなところで寝ると風邪を引くと思ったので、起こした。

 

「ここで寝るな。風邪引くぞ。」

 

そう言って肩を揺らしてやると、次第に目を開いた鳳翔は自分が寝ていた事に気付き慌てて立ち上がった。

 

「すみませんっ!寝てしまって。」

 

「大丈夫だ。午後は基本的に休みみたいなものだからな。秘書艦も。」

 

そう言って俺は席に座った。

 

「それはそうと、俺は外に出るって言ったのになぜ鳳翔は?」

 

「それはですね......。私の願いを聞いていただこうかと思いまして。」

 

そう言った鳳翔は手をもじもじさせながら言った。

 

「願いか......俺の答えられる範囲でなら。」

 

そう言うと意を決したのか鳳翔は言った。

 

「私に提督の昔話を聞かせて下さい。」

 

それだけだった。

 

「えっ?俺の昔話?」

 

「はい。私はもっと提督の事を知りたいと思っていますので、提督の昔話も聞いてみたいと思ってます。」

 

そう言った鳳翔は柔らかい笑みをこちらに向けた。

 

「つまらないだろうけど、いいのか?」

 

「はいっ!」

 

俺は鳳翔に頼まれた願いを叶えてやる事にした。

そのあと、夕食時まで俺は昔話を鳳翔に言って聞かせた。俺の居た世界での出来事。俺が体験した事。鳳翔が興味を持ったものは何でも話した。

それは俺に時間を忘れさせてくれるものでもあった。

 




あと時雨と北上、球磨ですね。
途中途中色々挟みながらでしたが、結構長く感じました。次回からは......お楽しみに(ゲス顔)

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第六十二話  悪夢

前回から数日が経っての更新です。




僕はいつも通り目を覚ました。

カーテンの隙間から差し込む朝日で、瞳孔の開いたままの目にとっては毒だったので目を細めて洗面所に向かう。

髪を整えて、ゴムで結うと制服に着替えて姉妹たちと部屋を出た。

この朝食の時間はいつも皆、ドキドキしている。時間が合えば提督と同じ時間に食べる事が出来るのだ。ただでさえ提督の周りには他の艦娘が居るのに、僕と言ったら駆逐艦で身体も小さい。提督に近づきたくても近づけない事がよくあるのだ。

今日の朝は外れだ。どうやらもう提督は食べ終わって、執務室に向かってしまった様だ。幸運艦が言ってあきれるな、とか思いつつ朝食を口に運ぶ。これもいつもと同じだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今日の秘書艦は僕がよくお世話になっている神通さんみたいだ。時間になると決まって秘書艦に選ばれた艦娘は事務棟に書類を受け取りに行く。僕も一回だけやったことがあるが、この鎮守府が大きくなる前の事だ。広くなった鎮守府の中を書類を持って歩くことは無かった。

 

「今日の出撃編成表を見に行こうよ!」

 

朝食を摂り終えた後、そう姉の白露が言うので皆で見に行くことにした。たまーにだけど、僕の名前が入ってる事がある。水雷戦隊が編成されるときは提督は必ず僕を入れてくれるんだ。出撃して帰還すると、提督は僕に『お疲れ』ってぶっきらぼうに言うけど、僕はそれがうれしくていつも頑張っているんだ。

掲示板に貼られている出撃編成表の前に来た僕たちは編成を見ながら、どういう意味なのか考えてしまっていた。

出撃編成表には『旗艦 山城、扶桑、最上、時雨、満潮』これは遠い昔の記憶。提督が着任する前の事だ。鎮守府が創立して二週間と経たない時、任務で編成された艦隊だ。その艦隊でオリョール海域を奪回せよという任務。成功すれば報酬が貰えたその任務には、当時資材の少ない事が分かっていた僕たちはすぐに出撃した。

だが、僕の記憶に間違いがあるのではないか?

最上さんは提督が着任してから一か月後に進水していた記憶があるのだ。僕はよくわからない上書きされている記憶に戸惑いながらも、今日の出撃艦隊の旗艦である山城の元に向かった。姉妹にはいつも心配をかけているが、僕はいつも大丈夫だとだけ言って出撃している。提督は小破や中破が出た時点で撤退命令を下すからだ。絶対誰も沈まない。皆そう考えていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

出撃先はオリョール海域。僕の記憶では新しい方ではないが、僕や山城たちにとってこの海域はとても簡単だった。現れる深海棲艦は全て低練度の小型艦ばかり。偶に重巡や雷巡が出るくらいで、ボスに行かなければ航空戦にもならない。今日の出撃では最深部まで到達し、ボスを撃破する事。僕のいる鎮守府で第一艦隊を言わしめる山城と扶桑、僕は水雷戦隊としての経験が豊富だから負けるはずがない。最上だって、提督の現場たたき上げ練度でかなり屈強にはなっている。満潮は遠征任務が多かったせいか、そこまで練度は高くないが、十分に戦えるだけの実力は持っていた。それにこの4人とは面識があるというか、よくお茶を飲んだり話したりするメンバーなので、攻略に向けて進軍する艦隊でも会話が途切れなかった。

 

「オリョールか......あそこは手ごたえがなさすぎるのよねー。」

 

「山城?手ごたえが無いと言っても敵は敵。打つべきなのよ?」

 

「僕はオリョールは久々だから緊張してるけどな......。」

 

「わっ、私は緊張なんかしてないわ!」

 

思い思いに話しているこの4人の背中を見つめて僕は懐かしい気分になっていた。

僕はこの4人の背中を守ると決めていた。僕の中に残されている記憶。嫌な記憶にこの4人の姿を重ねてしまっているからだろう。

 

「満潮、緊張してるじゃないか。僕は平気さ。」

 

そう言って僕は満潮に微笑みかけたが、相変わらず硬い表情をしていた。

 

「そうは言ってもね......本当に私は遠征艦隊上がりだからね!」

 

そう怒る満潮をなだめながら、進路の先に見てくるだろう島を探した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「旗艦 山城より全艦隊へ。これより戦闘海域に突入する!」

 

その号令と共に僕らはオリョール海域の戦闘海域に突入していった。入ったといってもそう景色が変わるわけでもないが、気を引き締めると言う意味でもこれは必要だと思う。

 

「水上機発進っ!艦隊、単縦陣っ!!」

 

山城の号令で単縦陣に組み直し、進軍する。オリョール海域では何度も枝分かれする海路を辿りながらボスを目指しているが、運が悪ければ逸れてしまう。僕もだが、艦隊の仲間も一緒になって集中し、海路を選んでいく。

 

「水上機より入電。敵艦隊を発見。」

 

流れるように伝える扶桑だが、これが一瞬震えた。こんな扶桑を僕は見たことが無い。

 

「敵艦隊.....戦艦ル級6、その他小型艦合わせて......60っ!?」

 

その数に僕は耳を疑った。これまで深海棲艦が僕らがキス島を攻略した時みたいに6隻を超える艦隊で攻められているのだ。自分がこちらの立場になれば分かるが、とても肝が冷える。

 

「扶桑姉様っ!鎮守府への打電は?」

 

「出来ないわ......。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

助けを呼ぶこともできず、ただ進軍するのみをしていきた僕らにも限界が来ていた。

全員何かしら艤装に損傷を受け、応急処置をしながら進んでいる。妖精さんたちも全員力を合わせて進軍している状態だった。

 

「このままボスまでたどり着けたらいいけど......。」

 

僕は心配になったがそれよりもこの先に起こる事に僕の身体が警戒しているのだ。

オリョール海域にこんなところがあったなんて。そんな風に皆口を揃えて言っている。扶桑はあんなことを言っているが、正直もう撤退しなければならない。

 

「僕は、撤退を進言するよ。」

 

僕はそう訴えた。

 

「私も同感だわ。こんなオリョール、見たことない......。危険すぎる。」

 

山城はそう言うと、艦隊に旗艦として命令した。

 

 

 

 

「全艦隊に告ぐ。艦首反転。撤退せよ。」

 

 

 

 

号令に合わせて回頭を始めるが、もう遅かったのかもしれない。

だって、

........................

................

......

 

目の前に深海棲艦の艦隊がいくつもあるのだから。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

激しい砲雷撃戦の最中、あることを思い出していた。

これは僕の遠い昔の記憶。艦だった頃にあった。

『スリガオ海峡突入』

それと酷似していた。

 

「不味いな......。」

 

僕がそんな事を呟いた刹那、爆発音がした。大きな音だった。

そちらに目をやると、扶桑の艤装が炎上している。艦も傾いている。魚雷を喰らった様だ。

 

「扶桑っ!!被害は!?」

 

「......。」

 

応答が無い。

 

「扶桑っ!!」

 

「......ウッ......機関......停止。」

 

どうやら艦娘の方も大丈夫なようだ。だが機関停止とは痛手だ。扶桑が止まってしまったのなら、山城に曳航してもらうしかない。

 

「まってて!山城をっ!!」

 

そう僕が言うと、扶桑は止めた。

 

「ダメよっ!ダメ......。」

 

「何でっ!?機関が停止したなら曳航してでもっ!」

 

「もう......ダメなのよ......。」

 

そう言った扶桑は離れてとだけ僕に言った。

 

「提督に伝えて......。扶桑は欠陥戦艦だと言われても挺身して戦ってきました。努力は欠陥をも超える事を証めっ......。」

 

轟音が轟き、光に包まれたかと思うと、目の前にあった扶桑の艤装は消えていた。

 

「えっ......扶桑っ、扶桑っ!!」

 

そう僕が叫んでいるのに、他の皆は撤退を続けている。

だが、叫び声を僕は聞いた。

今度は満潮だ。雷撃を受けた様子。

 

「満潮、機関停止。航行不能っ。」

 

「待ってて!僕が曳航するからっ!!」

 

僕が艦首を回頭させてそちらに向かおうとすると、また止められた。

 

「ダメ!来ちゃ、ダメ。」

 

「何でさ!満潮は機関部がやられただけだろう?!」

 

そう僕が叫ぶのにも答えてくれるが、絶対に近づくなと言う。

 

「アンタまで止まっちゃったら、良い的よ......。私を顧みず、前進しなさいっ!!」

 

「嫌だっ!!曳航してでもっ!!」

 

そう叫ぶと、妖精が『雷跡接近っ!』と叫んだ。魚雷が接近しているようだ。僕が振り返ると白い跡を引きながら進む魚雷。その進路の先には満潮の艤装があった。僕が盾になろうとも、今から動いたら間に合わない。

 

「もう、終わりの様ね......。」

 

そう満潮は呟いた。

 

「終わってなんかないよ。アレの進路を変えればっ!」

 

「もう間に合わないっ!!!」

 

そう叫ぶ満潮。

 

「司令に伝えて......。私は何もできずに果てた。碑も要らない。悲しんでくれるのならそれで......。」

 

僕は機関全力運転をして進路に飛び込もうかとしたが、間に合わなかった。吸い込まれるかのように満潮に接近した魚雷は艤装に当たり、爆発。

 

「満潮っ!!!!」

 

もう僕が叫んだ時には遅かった。

魚雷が命中した満潮の艤装は真っ二つに割れて、沈没。艦橋部に居る筈の満潮の姿も見えない。正確に言えば、見る事が出来なかった。衝撃のせいだろう、ガラスが汚れていたのだ。

僕はその場にとどまれないと判断した。ガラスにこびりつくアレはもう、僕には分かってしまったから。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

撤退を続ける僕と山城と最上は、砲弾の飛び交う最中を進んでいた。いつも扶桑の事を気にかけている山城も目に涙を命一杯溜めている。最上も黙って航行と索敵に力を入れていた。

 

「海域を脱出しよう。」

 

僕はそればかりを繰り返していた。明確な目的意識を失うとどうなるか、僕は直観的に分かっていた。何としてもこの地獄から抜け出す。何としても扶桑と満潮の最期を伝えなければならない。そう考えていたが、最悪な事が起きた。

山城の艤装に魚雷が被雷したのだ。1本だけだが、雷撃を喰らうのはそもそも割に悪い。現に山城の艤装は傾斜し始めていた。

 

「山城っ!大丈夫かいっ!?」

 

「えぇ!被雷しただけよ!こんなのいつもと同じっ!」

 

そう言ったのも束の間、再び魚雷が接近してきていた。

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

その叫び声と共に山城の艤装が爆発。

 

「機関室被雷っ!機関停止っ!」

 

そう報告するが、そんな報告必要ない。何故なら、もう山城の艤装は建て直し出来ない程に傾いていたからだ。

 

「山城っ!無理しないでっ!!」

 

「えぇ。でも、最期に......一矢報いてっ!!」

 

轟音が轟き、山城の主砲から噴煙をまき散らして砲弾が飛翔する。だが、深海棲艦には1発たりとも当たらなかった。

 

「それでも、私はっ!!」

 

そう言った山城の視界の端に、魚雷が映る。

魚雷は山城の艤装に当たった。大爆発を起こし、砲塔が吹き飛び、艦が本格的に傾斜を始める。

 

「山城っ!!」

 

「......。」

 

山城からの応答はなかった。砲塔が吹き飛んだ影響で艦橋で火災が発生。火の手が大きくなっていた。

 

「......もう、ダメだ。僕らは残してもらった命を繋ぐんだ。」

 

そう言って僕の艤装の横にピタリと最上が艤装を止めた。

 

「もしかしたら、山城は生きてるかもしれない......。あの艦橋からいつもの様に出てくるかもしれないじゃないか!」

 

そう叫ぶ僕に最上は言った。

 

「そんなのありえないよ!見えるだろう!あの炎っ!」

 

そう指差した最上は、轟轟と燃え上がる炎を見ていった。あの炎の中、生きていられる訳が無い。

 

「僕だって、正直ダメみたいなんだ。砲撃だって当たったし、魚雷だって......。」

 

そう言った最上の方に僕は視線を移した。最上の艤装は艦橋が一部吹き飛び、炎を上げている。それに構造部もボロボロだ。よく戦闘が出来たと言うレベルだ。

 

「消火して鎮守府に戻ろうっ!皆を連れて扶桑たちを探さなきゃっ!!」

 

そう僕は機関をふかし、艤装から煙を上がらせた。だが最上は一方で、煙突から煙が上がってない。

 

「どうしたんだい?早く戻ろうっ!」

 

「もう、ダメみたいなんだ。」

 

そう唐突に切り出す最上。

 

「何が?」

 

「機関が停止してる。目も機能してないんだ。それに、構造体がぐちゃぐちゃで、崩壊寸前。」

 

そう言った最上の上を深海棲艦の艦載機が飛んでいた。

 

「これじゃあ時雨を逃がす盾にもなれやしないな......。」

 

そう言った最上の艤装の上空では深海棲艦の艦載機が急降下を始めていた。

 

「対空射撃っ!最上っ!頭上っ!!」

 

そう叫んで対空射撃をするが、もう間に合わなかった。落ちてくる爆弾には弾が当たらず、最上の艤装に当たった。大穴を開ける威力で、あらゆるものをも吹き飛ばした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

気付けば僕は鎮守府の医務室に居た。

起き上がると、目の前には提督が居た。提督は目を腫らして、疲れ切った顔をしている。

 

「んん......提督っ?」

 

「......あぁ。時雨、おはよう。」

 

そう言った提督は乾いた声で笑った。

 

「おはよう。」

 

僕はそう返して、さっきは気付かなかったが提督の手に握られている物に目をやった。

 

「提督?」

 

「......時雨が単艦航行しているのを遠征から戻ってきていた艦隊の潮が発見したんだ。」

 

そう言って提督が差し出した手のひらにあったのは髪飾り。

 

「時雨は気を失っていて、妖精たちによる独断航行だったんだが、潮が時雨がこれを握っていたのに気づいた。......これって、扶桑と山城の髪飾りだろう?」

 

そう言って提督は僕の頭に手を伸ばした。

 

「......聞かせてくれよ......扶桑の......皆の、最期。」

 

その言葉に僕は現実に引き戻された。僕は生き残った。だが、皆は居ない。提督の口ぶりなら、僕以外にはいなかったんだ。

 

「俺、俺は、気付いていたんだ......。あの日。長門たちが独断で出撃したあの日の報告で。深海棲艦も俺というイレギュラーに反応して変化しているのを。そして俺は、深海棲艦の戦術理論の微かな変わりにも気付いていたっ!!!!なのにっ!!!......これまで何もしてこなかった。」

 

そう嘆く提督の顔が涙でぐしゃぐしゃになっているのを僕は唯茫然と見ていた。

 

「......俺は、提督失格かな。艦娘を4人も死なせてしまった......。こんなに暖かい女の子をっ!?......兵器だ、深海棲艦だと罵られても黙って戦ってきた艦娘たちをこんなに......こんなことあってたまるか!!!」

 

提督はそう言って僕を抱き寄せた。

 

「そうだろう......時雨?」

 

「......。」

 

僕は答える事が出来なかった。ボロボロになった提督を見て、これまで堂々としてきた提督がこんな風になってしまったのを見て。

 

「何か言ってくれ、時雨......。」

 

「判断ミスで殺したと言ってくれ......。」

 

「俺を罵れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

そう言う提督の胸に抱かれながらも僕は何も言えなかった。何故なら、僕が......。僕が..................

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______皆を見捨てたから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夢と現実とが混ざっている状態で時雨は目を覚ました。

部屋には朝日が差し込み、いいコントラストを出している。冬に差し掛かった天気で布団を少し動かしてみると外から冷たい冷気が布団の中に入ってきた。

 

「......夢?」

 

時雨はそう呟いた。

今まで見たビジョン、それは夢だったみたいだ。だが、妙にリアルで、妙なところが多かった。まず、艤装に乗った状態で艦娘同士での会話は基本的に備え付けの無線機だ。だが、あの夢では話しかければ艦橋と艦橋とで話が出来ていた。それに皆が沈んでいった様子だ。時雨が記憶している史実とはかけ離れている。

 

「夢だった......みたいだね。」

 

時雨はそう言って覚めた目を開いて立ち上がった。早起きしてみるのも悪くないと思ったからだ。

 

 

 

 




すみませんでした。今日まで忙しかったんです。この言い訳結構使ってますが、この時期に忙しい人と言ったら分かる人は分かるんじゃないでしょうか?

今回のは少し長いです。一発投稿のものですが、一応、次の話に関連付けさせようかと思います。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第六十三話  時雨の願い

 

俺が起きて執務室に入るともう、今日の秘書艦の時雨が居た。何だか、表情がおぼつかない。

 

「おはよう......どうした?」

 

俺がそう言うと急に動き出したかと思うと、時雨は俺の来ている服の裾を掴んで離れなくなってしまった。

 

「どうしたんだ?」

 

そう聞いても答えてくれない。これは何か訳アリなんだろうと、直感で感じ取ると、最初に思い付いたのは俺ならではの事だった。

 

「......いじわるされたのか?」

 

そう俺が訊くと、時雨の裾を掴む力が強くなった。どうやら違う様だ。

 

「じゃあ......体調悪いとか?」

 

今度も違った様だ。

 

「何だよ......何も言わなかったら分からないだろう?」

 

そう言うと時雨は言い出した。

 

「夢を......見たんだ。」

 

俺にはそう聞こえた。

夢を見た。それだけでこうなってしまう程のものだったのかと、考えを巡らせていると、時雨は話し出した。

 

「おかしい世界だったよ。山城たちと最上、満潮と一緒にクリアしたはずの任務を受けてオリョールに行ったんだ。その先で僕たちは深海棲艦の大群と遭遇して、僕以外が沈んだ。」

 

そう力なく言う時雨に俺は何も声を掛けてやることが出来なかった。

 

「僕が単艦で航行しているのを遠征帰りの名取の艦隊に拾われた。そのあと、気を失っていた僕の代わりに航行をしていた妖精に変わって長良に曳航してもらって鎮守府に帰って来たんだ。」

 

段々鼻声になっているのが分かる。

 

「目を覚ましたのは医務室のベッドの上で、横に提督が居たんだ。そして提督は自分の判断ミスだ、俺を責めろと言って僕を抱きしめてたんだ......。でも、扶桑たちを沈めてしまった原因は僕で、皆僕を生かすために沈んでいった......。僕が見捨てたんだ......。」

 

そう言って泣き始めてしまった時雨を俺は背中に手を回した。

 

「大丈夫、大丈夫だ。」

 

俺はそう言って時雨の背中を撫でた。

 

「それは夢だったんだ。悪い夢。」

 

そう続けて言った。

 

「扶桑たちは居るし、最上や満潮だっている。心配するな。」

 

そう言って俺は時雨の頭を撫でた。

 

「夢......だもんね。......うん、僕は大丈夫。」

 

そう言って時雨は俺の腕の中から出て行った。

 

「時間だよ。朝ご飯食べに行こう?」

 

そう言ってそれで涙の痕を拭いた時雨は執務室の扉に手をかけていた。俺はそれに続くかのように扉に歩みを進める。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

前にも経験しているが、時雨は執務ができる。やった後は基本的に戦術指南書を読んでいるが、最近は物語を読んでいるようだ。

俺はそれを横目に見ながら、現在の鎮守府にある装備を確認していた。砲に関しては申し分ない。副砲も通常艦隊分はある。その他の兵装も電探以外は揃っている。それに目を通した後、滑走路の格納庫に入れられた陸上機の記録があった。

隼と疾風の用途はやはり戦闘機だ。だが、富嶽には色々な可能性が秘められている様だった。富嶽は改装することができ、爆弾庫を全て取り外し、電子機器を詰め込んだ偵察機と爆弾庫を外してコンテナを入れれるようにした輸送機があるようだ。その他にも改装できそうなところがあったみたいだった。

 

「うーん。偵察機は正直欲しい......。輸送機はどうなんだ?」

 

俺はそう考えて結局500機ある富嶽を更に増産することを決定。偵察機型を5機と輸送機型を10機、新たに工廠に要請する書類を書き留めた。

 

「増産するのはいいが、いざ使う時ってあるのか?」

 

そんな事を思いながら提出に行く書類の束に紛れ込ませた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼を過ぎた辺り。俺がとても暇になる時間だ。許されるのならば昼寝がしたいが、そうはいかない。いつ、緊急の話が舞い込んでくるか分からないからだ。

俺は欠伸を手で押さえつつ、本を読んでいた。すると、時雨が唐突に話しかけてきた。

 

「提督。」

 

「ん、なんだ?」

 

「僕のお願い、聞いてくれるかい?」

 

唐突に時雨は運動会の景品を使うと言い出した。

 

「聞いてやるとも。......言ってくれ。」

 

そう言うと時雨は意を決したかのように口を開いた。

 

「僕の願いは......みんなの艤装に付いている無線機の性能の向上かな?」

 

そう言った時雨は暗い顔をした。

 

「そうか......。」

 

俺はその顔を見て察し、理由なんかは聞かない事にした。

きっと、それは今日時雨が見たと言っていた夢からなんだろう、そう思った。それとも、前々から思っていたのを聞いてくれたのかもしれない。俺は少なくともそう感じた。

 

「手配しよう。......飛び切り良い奴だ。」

 

そう言うと静かに時雨は笑った。

 





前回があれだけの文字数だったのに、今回と来たら......。
取りあえず、簡潔に終わらせてしまった。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第六十四話  北上の願い

珍しく普通に起きたのでボケーと執務室の椅子に座っていると北上が入ったきた。

 

「おはよー提督ー。」

 

そう言いながらおさげをふらふらさせてポスッと北上は椅子に座った。

今日の秘書艦は北上だ。北上は結構早い時期から艦隊にいた気がするが、こうして秘書艦をやってもらうのはなんだかんだ言って初めてだ。

 

「朝食まで時間あるけど、どうする?」

 

北上は寒いのか縮こまりながらそう言った。

 

「ダラダラする。」

 

俺はそう言うとグデーっと机になった。縮こまった北上は驚いた表情をしている。

 

「提督がそんな風にしてるなんて聞いたこと無かったんだけど......。」

 

「普段はやらん。」

 

俺はそう言って腕を枕にした。さながら、授業中に寝る学生の様だ。

 

「へー。私もー。」

 

そう言って北上はもぞもぞと動き出した。どうやら縮こまった態勢から変えてるようだ。俺は突っ伏せてるから音しか聞こえないが、俺は気にせずにそのまま寝てしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は突然身体が揺らされるので目が覚めた。身体が北上が揺らしていた様だ。起こしてくれたみたいだった。

 

「おぅ......寝てたのか......。ありがとう、北上。」

 

「どういたしましてー。それより提督。朝ごはん食べそびれちゃった......。」

 

そう言って北上は時計のある方向に指をさす。時計は丁度8時30分を指していた。朝食の時間は6時30分から7時30分までと決まっており、それ以外では間宮が倉庫にある食糧を確認に行ってしまうので、言っても誰もいないのだ。

 

「寝過ぎたか......。後から不満が出るだろうな。主にテレビ。」

 

そう言って俺は遠い目をした。

テレビが食堂に設置されてから結構時間が経っているが、未だに俺が管理をしていた。勿論電源のオンオフもだ。これまでは6時30分から7時30分まで俺が居座り、テレビの管理をしてから電源を落として執務に向かうってのが決まりだった。だが、時間になるのと同時に全員が集まって食べるので今は間宮に管理を頼んでいる。だが間宮は電源のオンオフが分からないと言っていた。

 

「だろうね。でも仕方ないと思えば仕方ないんじゃない?」

 

そう言って北上は秘書艦の椅子に座った。

 

「そうだが......。」

 

「気にしすぎだって。昼は行くんでしょ?」

 

「勿論。」

 

そう北上に言われて俺は取り敢えず座り直した。

 

「と言うか食いそびれて腹が減ったな。」

 

「そうだよー。お腹減ったよー。」

 

そう言って北上はお腹を押さえた。ちなみにまだ改二になっていないのでへそは出してない。

 

「どうしよ......。コンビニとか無いし......。」

 

俺は考えを巡らせた。そしてある事に思い至った。

 

「あっ、俺が作ればいいか。」

 

そう言った瞬間、ガタッという音と共に北上が立ち上がった。

 

「それマジ?」

 

「マジだ。無いんだろう?」

 

そう言って俺は立ち上がり、私室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は私室に戻るなり、冷蔵庫を開いた。冷蔵庫の中には卵と牛乳、レタス、厚く切られたベーコン、パンが入っていた。こうも丁度いいものが残っていたと思いつつ、俺はボウルやら色々と出して料理を始めた。

つい最近だが、俺の部屋にIHコンロとカウンター、シンクができたのだ。理由はこういう時に使う為だ。それと唐突に作りたくもなるのでその時の為。

 

「おぉ......提督の部屋ってこうなってるんだ。」

 

そう言って北上が俺の私室に入ってきた。

 

「ねぇー、私のもあるよね?」

 

「当たり前だ。北上も食いそびれたんだろう?」

 

そう言いつつも俺はフライパンから目を離さない。

今作っているのはオムレツだ。間宮のには味が劣るかもしれないが、結構自信がある。

それとあとでベーコンを焼いてレタスを割いて完成だ。

 

「北上、パンがオーブンで焼けてるだろうから出しておいて。」

 

「ほーい。」

 

そう言って俺は出しておいた皿にオムレツを乗せた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

全部ができるのにそんなに時間はかからなかった。そもそもオムレツ2こ焼いてベーコンを焼くだけだ。時間がかかる要素が無い。

俺と北上は俺の私室の机に向かうと食べ始めた。

 

「オムレツとベーコン、レタス、パンねぇ......。いいねぇ。」

 

そう言って北上はいただきますと言って食べ始めた。俺もそれに続くかのように食べ始めた。

 

「んまっ!!ふわとろじゃん!!」

 

そう北上は一口目のオムレツを食べて叫ぶとあれもこれも食べ始めた。無言で。

俺はそれを眺めつつ、もそもそと食べている。

北上と食べたことはなかったが、結構北上は丁寧に食べる。

 

「このベーコン、そのままだったら食べるのに苦労しそうだけど、切ってあって食べやすいよ。」

 

そう言って口をモゴモゴしてパンを食べる北上。

 

「そうか。ナイフとかは極力使いたくなかったからな。ごちそうさま。」

 

俺はそう答えて、食べ終えた皿を持ってシンクに向かった。

 

「食べ終わったら皿とか洗うから持ってきてくれ。」

 

そう言って水に浸してあったフライパンやボウルを洗いだした。

北上もすぐに食べ終わり俺のところに皿を持ってきた。

 

「ごちそうさま、提督。」

 

「お粗末様。先に戻っててくれ。」

 

そう言って俺は洗い物に戻るが、北上は俺の部屋から出て行こうとしなかった。どうやらさっき座っていた椅子に座り直したようだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が洗い物を終わらせて手を拭いていると北上は声をかけてきた。

 

「提督って料理出来たんだ。」

 

「そりゃな。自立してから困らないようにって両親に小さい頃から家事を一通り仕込まれてたからな。というか出来て当然だろう?」

 

そう言って手を拭いたタオルを洗い物カゴに投げると俺はドアノブを握った。

 

「執務を始めようか。悪いが北上、書類を取ってきてきて。」

 

「りょーかい。」

 

俺と北上は執務を始める為に俺の私室から出た。

 

「ひょっとして提督って女子力高い系?」

 

そう小さく呟いた北上の言葉は提督には聞こえなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

いつも通り執務をこなし終わったら昼食の時間になっていた。

俺と北上は執務室を出て食堂に向かった。

食堂にはいつものように艦娘たちが集まって食事をしている。いい匂いが俺の鼻腔をくすぐった。

 

「今日のお昼は蕎麦みたいだねー。」

 

北上そう言ってトレーで間宮、正確に言えば妖精から受け取った蕎麦を眺めて言った。

 

「蕎麦か。俺は好きだから嬉しい。」

 

そう言って席に座った。勿論、北上は隣に座った。俺の隣でもいいのだろうかと考えつつ、蕎麦につけるつゆに薬味を放り込んで、蕎麦を啜り始める。

そうしていると俺の前の席が埋まった。誰だろうかと顔を上げてみるとそれは蒼龍だった。

 

「おはようございます、提督。......うーん。正確にはこんにちは?」

 

そう言われて俺は顔を上げた。

 

「蒼龍か。おはよう?こんにちは?、まぁいいが。どうした?」

 

そう言うと蒼龍の口から放たれた言葉の回答に困った。

 

「今朝は提督が来なくて間宮さんが心配してましたよ?」

 

蒼龍が言うと周りにいた艦娘たちはガタッと音を立てた。

 

「寝坊だよ。8時30分までに行けなかったんだ。」

 

そう言うとまた周りでガタッと鳴った。

 

「提督が寝坊ですか......お腹減ってるのなら私非番なので酒保で食べれるものを余分に買ってきましょうか?」

 

「ん?あぁ、別にいいぞ。食ったからな。」

 

そう言うと蒼龍の頭上にハテナが浮かんでいるように見えた。

 

「何か買い置きでもあったんですか?」

 

「いんや。自分で作ったさ。」

 

そう言うと蒼龍はもちろん、聞こえているであろう艦娘全員が何かしらの音を立てた。

 

「食器は丁寧に扱えよ......。」

 

そう言うと蒼龍は謝って落とした箸を拾うと、俺に聞いてきた。

 

「提督って料理できるんですか?」

 

「当たり前だ。」

 

そう言うと周りで『えぇー!』の合唱が起こり、俺は耳を塞ぐ羽目になった。

 

「それってあの......即席とか?」

 

「アホか。ちゃんと作るわ。」

 

そう言うと俺の横で蕎麦を食べていた北上が口を開いた。

 

「提督の料理、美味しかったよ。ありゃ、間宮さんとは別のおいしさ......。」

 

そう言って北上は再び蕎麦に意識を戻したが、周りの艦娘はそれどころじゃないみたいだ。

 

「北上さん......いいなぁ。」

 

そんな事を言ってる蒼龍の背後では凄い騒ぎになっている。

 

「提督の手料理っ!?」

 

「食べてみたいデース......。」

 

「雪風も食べてみたいですっ!」

 

そうわらわらと言っている背後だが、北上はまた口を開いた。

 

「私室も良かったなぁー。広くて、小奇麗だったし。」

 

俺はもうこの言葉で収集が付かなくなるのが分かったので何も言わないようにした。何故、ここまで反応するのだろうかと考えつつ俺は蕎麦を啜った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼の騒ぎから脱出した俺と北上は執務室に戻ってきていた。

 

「あー。お腹いっぱい。」

 

そう言って北上は秘書艦用の椅子に腰をかけていた。

 

「そうだな。」

 

俺は手元にあった書類を眺めながら答えた。手元にあったのは景品の達成数を記した紙。もう北上が言えば、全員分が出たことになる。

 

「そう言えば、北上。」

 

「ん、何?」

 

「北上は景品、願いは決まったか?」

 

俺がそう言うと、北上はポンと手を叩いた。

 

「忘れてたよ。」

 

「なんだそりゃ。」

 

北上はどうやら忘れていた様だった。

 

「んーとね。」

 

そう言って北上は考え始めた。

 

「......。」

 

俺はそれを黙って見ている。

 

「......決めた!」

 

そう言った北上は笑顔だ。

 

「ちゃんと提督に休んでもらう事。」

 

そう言った北上に対して俺は椅子から滑った。

 

「私たちは第一艦隊によく入る出撃要員はたまに休んでるけど、提督は休んでないでしょ?だからどっかで休みの日を入れる事。」

 

そう言った北上の笑顔は優しかった。

 

「分かった......。偶に休みを入れよう。」

 

俺はそんな仕事をしている感じはしてなかったが、部下である北上に言われたんだ。休もうと考えた。それに、俺はやりたいことがあった。

それがある山を俺は見つめた。

 

「時間もいっぱいあればゆっくりできるもんな。」

 

そう言った俺の顔を不思議そうに北上は見つめていた。

この後も執務が終わっていたので、ダラダラと過ごした。

 




前回は文字数が少なすぎて嘆いていたのにその次でこれとか......すみません。

次回で景品は終わります。そのあとから、どうしていきましょうかね......。ネタはあるんですがね。一応。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第六十五話  球磨の願い

 

重たい瞼を持ち上げて俺は凍てつきはしないが、寒い外気から隔絶していた布団から出ると、すぐに着替えて執務室に出た。

執務室には既に今日の秘書艦である球磨が秘書艦用の椅子に座って待っていた。

 

「おはようクマ。」

 

「おはよう。」

 

そう言った球磨は特徴的なアホ毛を揺らしていた。

 

「もう今日の執務の書類は持ってきてあるクマ。いつもこれくらいクマ?」

 

そう言った球磨は首を傾げた。

 

「そうだ。だが、急に枚数が増える事がある。」

 

そう答えると、球磨はふーんとだけ答えて秘書艦のやれる仕事を始めた。俺はその瞬間、壁にかかっている時計に目をやった。今の時刻、6時15分。食堂はまだ空いてない時間だ。

 

「まだ時間があるから少しやっておこうか。」

 

俺もそう呟いて、椅子に座った。

昨日から誰も座ってなかった椅子はひんやりしていて少し気持ちよかったが、自分の体温ですぐに暖かくなった。

今日の執務を始めるが、いつも通りだったので何も考える事無く、手が進んでいった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と球磨は6時30分になるとすぐに食堂に向かい、朝食を摂り始めた。勿論、秘書艦特権で球磨は俺の横に座っている。

そんな球磨を見ていてある事を思い出した。球磨は遠征艦隊の旗艦を務めている。秘書艦として抜いてしまったら誰がその穴を埋めるのだろうか。

そう考えたが答えはすぐに出た。空いた旗艦の席に夕張を昨日の夜に入れたのを思い出した。直接頼みに行ったが、別にそこまでしなくていいと夕張に言われた。

 

「朝はやっぱり和食に限るクマ。」

 

そう言いながらがつがつと食べる様は結構面白かった。年端もいかない女の子が、青春真っ盛りの男の様にご飯を食べているのだ。

 

「朝から食欲旺盛なんだな。」

 

「当たり前クマ。この後、すぐに遠征に......行かないんだったクマ。」

 

そう言って自分でツッコンだ球磨は食べるペースを落とした。

 

「偶にはゆっくり食べるのもいいクマ。」

 

そう言って俺と球磨は黙って朝食を摂った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝食を摂り終えた俺と球磨は執務室に戻るなり、執務を始めた。

朝にやっておいたせいか、かなり早く終わってしまった。いつもなら10時過ぎに終わっていたが、今日は9時には片が付き、球磨が提出に行ってしまった。

 

「やる事ない......。」

 

俺は窓から埠頭を眺めてそう思った。

朝の9時に執務が終わってしまうだなんて考えもしなかった事だったからだ。

 

「少し......別の事を考えるか。」

 

俺はそう考えて、紙とペンを取り出し、おもむろに書き出してみた。

埠頭からの出撃の取りやめと、出撃ドッグの建造。寮の独立化。艦娘の府外探索。警備の強化......。色々と考えが浮上してきた。だがその中でも重要だと考えたのは、深海棲艦の戦術パターンの変化に対する対策と鎮守府への直接攻撃への懸念だった。

前者は、大分昔に発覚していたが、これまでに対策という対策を練ってすらいなかった。後者は単に鎮守府の安全面を考えた結果だ。鎮守府にはこれといった防衛火器が無い。唯一あると言えば艦娘の艤装と、先日運営が始まった滑走路だけだった。それだけでは鎮守府を直接強襲された際、如何する事も出来ない事態になり兼ねない。そう考えたのだ。

 

「前者は長門と赤城、古参組を集めて会議だな。」

 

俺はそう言って紙に書き込むと、後者に対する案を考え出した。

 

「防衛火器......既存のものを買い取ってもいいが、深海棲艦に有効なのだろうか。だが、艦娘の登場以前は護衛艦が深海棲艦と戦っていたという。効果はある可能性があるな。」

 

俺はそう考え、既存の防衛火器の購入を視野に入れた。そして、防衛火器と同時に必要なものを考え出した。それはすぐに思いついた。

 

「......シェルターか。」

 

防空壕とも言っていい。艦砲射撃から身を守る施設が無いのだ。なので、そう言った物を作らなければならないと俺は考えた。

 

「だが、作ったとしても艦娘は収容できるかもしれないが、艤装は......。」

 

そう考えたが、艦娘は艤装を身に纏えるのでその状態で入れば問題ない。

 

「なら、広いのがいいのか。」

 

俺は考え、結局、シェルターを作る事は決定した。それに伴って保存食の購入、日用品の買い溜め、色々としなければならない事が発生した。

 

「それはおいおい、買えばいいか。」

 

俺はシェルターの建造を決定した。これに関しては大本営に許可を取らずに勝手にやろうと考え、工廠の妖精に頼むことにした。

そんな事を考えていると球磨が提出から帰ってきた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

球磨は俺がさっき考えていた事を一緒になって考えてくれた。

俺の挙げたことには同意してくれた。だが、まだ足りないと言った。

 

「シェルター......防空壕はどういう作りにするクマ?」

 

そう聞かれ、俺は一般的な事を答えた。

 

「鉄骨を入れたコンクリートだ。」

 

そう言うと球磨は唸った。どうやら違う様だ。

 

「コンクリートで作るのはいいと思うクマ。だけど、深さはどうするクマ??それに入り口の数、空調......問題はあるクマ。」

 

そう言って球磨は俺の使っていた紙に図を書き始めた。

 

「深さは200mくらいでいいと思うクマ。入り口の数は鎮守府の四方にそれぞれ2つずつ。中央に1つ。空調はアレだクマ......そう、海水を電離して酸素を作ればいいクマ。それなら一応酸素は無くならないクマ。」

 

そう言って四角を書いたところにあれこれと書き足していった。

だが、俺はそこで尋ねてみた。

 

「海水を電離するのはいいが、電離する設備を破壊されれば空調は止まるぞ?それに、電力供給だって止まる可能性がある。」

 

俺がそう言うと球磨は唸った。電離に関しては俺もいいアイデアだと感じた。酸素ボンベを大量に置くとかだったら万が一火災が起きた時には鎮守府ごと吹き飛ぶことになる。

 

「電力供給に関してはアレがあるクマ。」

 

そう言って球磨は首を傾げた。そして何か思い出したかのようにそれを言った。

 

「核を使うクマ?原子力発電所なら海岸沿いに作れるし、電力も大量に手に入るクマ。」

 

そう自慢げに言った球磨を俺は一蹴した。

 

「核なんて使ったら、想像できない問題がいっぱい起こる。却下だ。」

 

そう言うと球磨は新たな手段を挙げた。

 

「じゃあ電柱をやめて地下に電線を埋めればいいクマ。」

 

これでシェルターの電力供給に関する問題は解決した。

 

「じゃあ今球磨があげたので大方いいと思うから計画を始める。」

 

そう言って俺は計画書を書き始めた。これで俺の執務は増えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が計画書の大筋を書き終えた時、球磨がこちらをずっと見ている事に気が付いた。

 

「どうした、球磨。」

 

「景品の事クマ。」

 

そう球磨は唐突に切り出した。

 

「景品がどうかしたか?」

 

「球磨の願いを聴いてほしいクマ。」

 

そう言うと球磨は椅子を座りなおした。

 

「いつ鎮守府が深海棲艦に襲われるか分からないクマ。だから守るための武器が欲しいクマ。球磨たちの艤装だけで対処できない事も考えられるからだクマ。」

 

そう言った球磨に俺は答えた。

 

「分かった。早急に進めよう。」

 

そう俺が答えたのに満足したのか、球磨は再び自分の仕事に戻っていた。

俺はそんな球磨を見た後、既存の防衛火器を調べ出したのは言うまでもない。

 





結構淡白な話になってしまいました(汗)
今回で景品の話は終わりです。まだ願いが叶ってない艦娘のはどこかの話でちょくちょく入れて行くので心配なさらないで下さい。

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第六十六話  雪風の開発日記⑧

「と、まぁ、久々の建造だな。」

 

「誰に言ってるんですか?」

 

俺は執務室の椅子に座りながらそう言った。

 

「これまでは建造に関しては雪風が頻繁に出撃していたからやってないんだ。」

 

そう俺が言うと今日の秘書艦である愛宕が首を傾げた。

 

「確かにかなりの頻度でいませんでしたね。私も結構出撃してましたし。」

 

「そうだな。という事で、雪風。レア軽巡レア駆逐レシピを頼んだ。」

 

「はいっ!」

 

ずっと俺と愛宕のやりとりを黙って聞いていた雪風は元気よく執務室を出て行った。

建造を最後にやった日から今日まで数えて約二週間(※実際は結構頻繁にやってます)、為に溜まった資材は結構限界量に達していた。連続出撃もなんでもござれという勢い。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

執務をしながら俺はある事を考えていた。それは、この世界に数多とある鎮守府があるのに何故海域の解放がウチの鎮守府基準なのかという事だ。

他の艦隊司令部だったらもうかなり深部まで攻略が完了しているところだってあるはずだ。なのに何故、ウチのが基準なのか。俺は考えた。そこで俺は愛宕にある事を訊いてみた。

 

「愛宕。」

 

「何ですか?」

 

ニコッと笑って答えてくれた愛宕に俺は聞いてみた。

 

「日本各地に鎮守府は何万個とあると思うんだが、何故海域が解放されてるところがウチの鎮守府基準なんだ?」

 

そう言うと愛宕はすぐに答えてくれた。

 

「それが分かってないんですよね。私たちは着実に海域を攻略していると言えます。ですが、他の艦隊司令部は出撃しているのにも関わらず海域を解放していない......。ですけど、損傷して帰ってくるんですよ。『深海棲艦と交戦した。』と言ってね。」

 

俺には理解できなかった。

出撃しているのにも関わらず、攻略が出来ていない。意味が判らなかった。そして、何故ウチ基準なのかも。

 

「ウチ基準なのは判りかねますが、他の鎮守府はあってないような存在と言えると私は思いますよ?」

 

そう言って愛宕は自分の仕事に戻っていった。

愛宕から教えてもらったこの謎は、解決法の見当もつかない様なものだった。

何故、こちらの開放状況に合わせてあるのか......。

 

「さっぱり分からない。」

 

俺はそう呟くと、執務に戻る為、思考を切り替えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

執務が終わり、球磨が秘書艦だった時から考えている計画書を見ていると執務室の扉が開かれた。

 

「司令ぇ!新しい仲間です!!」

 

そう言って雪風は入ってきた。

 

「えっ?司令?......提督っ!?」

 

そして雪風の背後に居た新しい仲間は驚いていた。何かわたわたとたどたどしくすると俺の前に出てきた。

 

「軽巡洋艦 大井です。よろしくお願いします。......如何して椅子の後ろに隠れているんですか?」

 

俺は大井を見るなり、椅子から立ち上がり椅子の後ろに隠れた。その間、1秒。

 

「如何してって......魚雷がっ......いや何でもない。」

 

俺はそう言って椅子の後ろから出ると、雪風に指示を出した。

 

「雪風、北上を連れてこい。」

 

「はいっ!」

 

「北上さん!?」

 

ここまで予想通りに反応をしてくれるのは俺的には良くもなく悪くもなかった。

 

「提督、北上さんはいるんですね!」

 

「居るぞ。最近はずっと第一艦隊だが、今日は休みだから。」

 

そう俺が答えると大井はそわそわし始めた。

 

「北上さん......ふふっ......。」

 

「こっ......これがあの......アレ......うん。」

 

俺は言いかけた言葉を飲み込み、雪風が来るのを待った。

雪風はそれ程北上を見つけるのに時間が掛からなかったようですぐに執務室に帰ってきた。

 

「雪風ぇー。何なのさ......。」

 

そう言って執務室の扉から北上が入ってくると、大井はおずおずとしながら北上に挨拶をした。

 

「北上さん。私は大井ですっ。」

 

「んぁ?大井っち?......おぉ、大井っちね!」

 

そう言うと北上は手を差し出した。

 

「よろしくね、大井っち!」

 

「はいっ!北上さんっ!」

 

俺の目の前で熱い友情、もとい熱い視線が一方的に飛ばされている様は何だか本当に予想通り過ぎて拍子抜けしてしまった。

 

「あー、悪いんだけど、大井。雪風から鎮守府を案内してもらって。」

 

「はい?今、北上さんと話しているんですが?」

 

そう言った大井は俺に向けて結構怖い表情を向けた。これがクレ○ジーサ○コレ○な訳かと内心痛めていると、いきなり執務室の空気が悪くなった。というか、豹変したと言った方が差し支えなかった。

 

「大井っち。」

 

「何ですか、北上さん?」

 

北上に呼ばれて振り向いた大井は絶句した。何故なら、さっきまで笑顔でいた北上はいつの間に出したのか艤装を身に纏っている。

そして周りでも愛宕と雪風も艤装を身に纏っていた。

 

「えっ?どうして艤装を......。」

 

そう大井が言葉を失った一方、俺は動けなかった。執務室に張り詰めた空気が俺の動きを抑制していたのだ。

そして北上と雪風、愛宕の砲が全て大井を捉えた。

 

「提督?これ、何なんですか?北上さんが私に向けて砲を......。」

 

そう言って俺の方を再び見た大井はさっきとはまるで違う表情をしていた。

 

「......北上。」

 

尋ねてきた大井をそっちのけで俺が北上に声をかけた。

 

「なーに?」

 

「大井には無いのか?」

 

「いやー、あるはずなんだけどね......。」

 

そう言った北上は魚雷発射管に魚雷を装填した様だ。

 

「私にあるとか何言ってるんですか?」

 

困惑した表情で大井は俺を見ている。

そんな大井に俺は一言だけ言った。

 

「大井、これは俺ではどうしようもできないからどうすればいいか考えるんだ。」

 

そう言って俺は立ち上がって窓の外を眺めた。

 

「ちょっと!説明して下さいよ!!」

 

そう大井が言った刹那、空の銃声が鳴り響いた。撃ったのは雪風だ。たまたま余っていた7.7mm機銃を操作した様だ。

 

「大井さん、ダメですよ。」

 

そう言った雪風の声はいつもの明るい声でなく、冷たく凍てつく様な声だった。

 

「ヒッ......撃たれたっ!?何でっ!?」

 

そう言ってガクガク震える大井に北上は冷めた声で言った。

 

「本当に分からないの?」

 

「えっ......えぇ。」

 

「本当に本当?」

 

「はい......。」

 

そう言った北上は魚雷発射管と砲を大井に向けた。

 

「じゃあここで藻屑となりなよ......。」

 

そう言った北上は生気のない目で大井を捉えた。

 

「いっ......いやっ......。何でっ?......何でっ.......。」

 

ガクガク震えながら涙目になる大井に魚雷発射管から今にも魚雷を撃ちだそうとする北上の手を俺は掴んだ。

 

「もういいだろう北上。大井は俺たちの仲間だろ?」

 

そう言うと北上は構えていたものを全て下に下げて艤装を消した。愛宕や雪風も同様に消した。

そんな状況を見ていた大井はぺたりと座り込み、青い顔をしている。

 

「あのな大井。」

 

「はい......。」

 

俺は座り込んだ大井に視線の高さを合われる為に座り込んだ。

 

「北上たちには『提督への執着』というものがあるんだ。俺の身に危険が降りかかる、そう判断すると艦娘たちは皆艤装を身に纏ったりその危険を排除しようとする。さらに俺の気を害したと判断したら同様にするんだ。」

 

「つまり私は......。」

 

「北上たちに俺の気分が大井によって害されたと判断されたんだろうな。」

 

そう言って俺は大井に手を差し伸べた。

 

「あんまり座ってても汚いだろう?ほら。」

 

「ありがとう......ございます。」

 

大井は俺の手のひらに恐る恐る手を載せた。俺はその手を引いて立ち上がらせ、俺も立った。

 

「いいの、提督?」

 

「いいさ。」

 

そう言って俺は椅子に座った。

それを見ていた大井は俺の前に立った。

 

「ごめんなさい......。提督。」

 

そう謝ってきた大井に俺は笑った。

 

「北上たちはいつも早とちりするから、大丈夫だ。」

 

「ありがとうございます。」

 

そう俺が言うと大井は笑ってそう言った。

 

「ほら、鎮守府見てこい。結構広いぞ?」

 

「はい。では、行ってきます。」

 

大井は雪風と北上に連れられて執務室を出て行った。

その姿を見送ると不意に愛宕が俺に話しかけてきた。

 

「本当に気分は害さなかったのですか?」

 

「あぁ。」

 

俺はそうぶっきらぼうに答えて、大井が来る前まで見ていた計画書に目を落とした。

 




久々のこれですね。
そしてついにウチにも大井が来ました。念願のハイパーズができるようになります。
大井の性格に関してですが、多分一番手をこませるところだと思います。頑張っていきます。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第六十七話  計画書破棄

「おはようございます。提督。」

 

俺が朝起きてくると既に大井が執務室に居た。今日の秘書艦、というか建造されてからこの方大井はレベリングや何かで忙しかった。だが今日は休み。厳密に言えば別の艦娘がレベリングなので俺が秘書艦として指名しただけだ。

 

「おはよう。今日は朝早くからすまん。」

 

「いえ。朝食の時間を考えるとこれくらいがいいんですよ。」

 

そう言われて俺は壁にかかっている時計を見た。現在は6時10分。そうは言っても結構早い時間だ。

 

「加古はもう起きてるか?」

 

「えぇ、叩き起こしましたよ?」

 

そう言うと大井はドヤ顔をした。

 

「加古はいつも起きないから秘書艦に頼んでやってもらっててな、すまん。俺が艦娘の寮に行く訳にはいかないんだ。」

 

「古鷹さんから訊きましたよ。何でも長門さんじゃなければ起きないとか。」

 

そう言った大井は何でだろうと首を傾げた。

 

「長門が......何で?」

 

「怒るらしいんですよ。」

 

そう言って大井は秘書艦の席に座った。

 

「長門が?......無いな。」

 

俺も自分の椅子に座ると最初に計画書を引っ張り出した。勿論、シェルターに関する物だ。

構造。設備をどうするか。電源はどうするか。そんな事を書いた書類だ。

 

「ふーむ......一回集めるか。」

 

俺はそう呟いた。こればかりは他の意見も取り入れたい。だが、目の前にいる大井はまだ日が浅いので任せられない。そう思い、朝食の際に集める事にした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と大井の前に古参組の艦娘が集まっていた。長門、赤城、高雄、吹雪が並んで座っている。

 

「重要案件につき、集めた。」

 

そう俺が味噌汁を啜りながら言うと、困った顔をして長門が言った。

 

「重要案件ならば食堂で話さなくてもいいだろう?」

 

そう言った長門に続いて大井が言った。

 

「長門さんと赤城さん、高雄さんはレベリングで海域に出るんじゃありませんか。至急の案件なんでしょう。」

 

そう言って大井も味噌汁を啜った。

 

「朝からそんな話が出るだなんて、何でしょうか?」

 

赤城も俺と大井同様、味噌汁を啜りながらそう言った。

俺は赤城もブレないなと思いつつお椀を置いた。

 

「重要案件とは、現在水面下で進んでいるシェルターの建造だ。」

 

そう言うと全員が頭の上にハテナマークを浮かべた。シェルターの必要性に疑問を感じているのか、はたまたシェルターという単語の意味を知らないのか。

 

「シェルター......防空壕の事ですか?」

 

赤城はそう言いかえた。

 

「防空壕とも言う。最近の深海棲艦の戦術パターンの変化によって起こる不測の事態に備えて建造するべきだと俺のところに意見具申があってな、それに伴って建造することになった。」

 

そう言うとあまり海域に出ない吹雪はよくわかってない様だが、他の長門たちは分かった様だ。

 

「シェルターの用途は鎮守府に直接攻撃を受けた際、避難する場所だ。救援など待ってられない事態に備えて、地上にある施設を地下にも作ろうと思う。」

 

そう言って俺は持ってきていた予定見取り図を開いて見せた。

 

「シェルターには食料、生活に必要な設備、入渠場、ドッグ、倉庫を用意する。外気と遮蔽される事も備えて海水電離層で酸素の供給を行えるようにする予定だ。」

 

そう言うと長門は何かを呟いた。

 

「......これは......吹雪っ!」

 

突然長門は吹雪を呼ぶとある事を訊いた。

 

「あの紙、持っているか?」

 

「私室にあります。」

 

「持ってきてくれまいか?」

 

「分かりました。」

 

俺は何の事だか分からずに取りあえずその紙を丸めた。

 

「とまぁ、そんな計画が動いている。そこで俺は長門たちに助言を貰いに来た。正確に言えば意見を貰いに来たと言うのが正しい。」

 

そう言って俺は脇にその紙を置くと、茶碗を持った。

 

「どう思う?」

 

俺がそう言うと高雄は答えた。

 

「それは吹雪ちゃんが帰ってきてからお話します。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

吹雪は数分で帰ってきた。その片手には何やらファイルが握られている。表紙には何も書いてないが、年期は経ってない様だが何度か開かれた様な雰囲気を出している。

 

「それは?」

 

そう俺が訊くと吹雪は俺にそれを渡してきた。

 

「それはこの鎮守府にある『もう一つの施設』だ。」

 

そう言われて俺が開いてみると、中には地図がある。鎮守府を書かれたものだが、異様な事に彼方此方に赤く丸で囲まれているところがあった。

 

「提督。シェルターなぞ作らずとも、もうある。それはここが普通の海軍基地だった時代に作られたものだ。用途は『深海棲艦の基地強襲の際の避難場所。兼地下司令部。』。提督が考えていたものがそのままある。」

 

俺は絶句した。もう既にそのような施設が存在しているなど、知りもしないものだったからだ。

 

「入渠場とドッグを増設すれば提督の考えていたものができるだろう。」

 

そう言って長門は食べていなかった朝食に箸を伸ばし始めた。

 

「ですので、わざわざ作らなくともいいんですよ?」

 

吹雪はそうニコッとして言うと朝食を摂りはじめた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は執務室に帰るなり、吹雪が持ってきたファイルを俺の考えていた計画書を机に置くと項垂れた。これまで考えてきた事がほんの数分で消し飛んだからだ。

 

「大井......。」

 

一緒に帰ってきていた大井に俺は声を掛けた。

 

「はい。」

 

そう答えてくれた大井に俺は計画書を差し出した。

 

「処分しておいてくれ。」

 

「はい。」

 

俺は結局項垂れたまま30分間過ごし、執務を始めた。

ちなみにそのあと、工廠の妖精に地下施設の増設を頼みに行ったら快く了解を得た。すぐに着工して、明日から使えるようにするとの事。どれだけ仕事早いんだ。

 




結局地下にあったという......。とんでもないオチですみません。
大井が秘書艦をするとどうなるか、少し想像がつかなかったものですから少し淡白になってしまってるかもしれません。

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第六十八話  リランカ島空襲

早朝、執務室には前日に呼ばれていた艦娘たちが集まっていた。

高雄、愛宕、北上、雪風、赤城、加賀。全員がこのメンバーの呼ばれた意味が理解できなかった。

 

「おはよう。」

 

そう言って俺が執務室に入ると、何とも言えない表情を全員がしていた。

 

「これは......どういった意図の編成なのでしょうか?」

 

赤城がそう俺に尋ねてきた。

そんな赤城に向かって俺は胸を張り、口を開いた。

 

「これより、高雄以下の艦隊はリランカ島に進軍。島を占領する深海棲艦を殲滅せよ!」

 

「「「「「「はっ!!」」」」」」

 

息を合わせてそう高雄たちは答えた。

 

「と言っても富嶽も出るんだがな。2個爆撃中隊。」

 

ズゴーという効果音が聞こえた。さながら昭和の漫才の様だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝食の時間よりも前に出撃していった高雄たちを見送ると、丁度今日の秘書艦が執務室に入ってきた。

 

「ゼェハァ......提督っ、艦隊はっ?」

 

「今しがた出撃したところだ。爆撃中隊ももう雲の上だろう。」

 

「不幸だわ......。」

 

そう言って姿勢を戻したのは山城だ。

 

「朝食だ。食堂に行こうか。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝食を終えた俺と山城は執務を片付けていた。と言ってももう殆ど終わっている。どうやら今日の出撃で出た誰かがもう持ってきて手を付けていた様だった。半分近くが終わっていたのだ。

 

「やらなくても良かったのに......今日また暇になる。」

 

そう言って最後の書類を書き終えた俺は背を伸ばした。

 

「提出してきますね。少し酒保に寄ってきますがいいですか?」

 

山城は俺が積み上げた書類の山(※1mmもありません)を手に取るとそう言った。

 

「ん?何か買うものでもあるのか?別に構わないぞ。」

 

「ありがとうございます。では、行ってまいります。」

 

そう言って山城は執務室を出て行った。

俺はそれを見計らったかのように引き出しからある冊子を出した。現在残っている装備のリストだ。厳密に言えば、新瑞に連絡を付けて取り寄せた倉庫で眠っている自衛隊・海軍時代の遺品だ。

中には深海棲艦にも通用する装備がいくつもあり、増産すれば対等に戦えると言われたモノ......SPYレーダーまでも取り外されたものが残っていた。

 

「......出来るだけ多くの装備が欲しいな。」

 

そう言って俺は欲しいものをリストアップしていった。SPYレーダー、CIWS、地対艦誘導弾、短距離地対空誘導弾......興味本位で要塞砲をリストアップしてみた。

どれも書類上、かなりの数があるらしく、如何使うか困っているものらしい。

 

「取りあえずあるだけ寄越してもらうか。」

 

俺はそう言って備考に『あるだけ』と書き込んだ。それがあの悲劇につながるとは想像もしてなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

リストを折って封筒に厳封していると山城が帰ってきた。手には酒保に行ったからだろう、袋が握られている。

 

「おかえり。すまないが書類が増えてしまった。」

 

「大丈夫ですよ。今できたのなら急ぎではないでしょうし。」

 

そう言って山城は袋を秘書艦用の机に置くと俺が厳封した封筒をマジマジと見た。

 

「これ......大本営宛てですか?」

 

「あぁ。新瑞さん宛てだ。」

 

そう言うと『何かは存じ上げませんが、何か取り寄せるんですか?』と俺に聞いてきたので回答に戸惑った。だが俺の答えを聞く間もなく山城は袋から箱を出した。

 

「ん?それは?」

 

そう俺が訊くと山城がそれを俺に差し出した。

 

「こっ、これはっ、.......その......お姉様が提督とお茶を飲みたいと言っていたので、それ用のを......。」

 

そうもじもじしながら言う山城からそれを俺は受け取った。

 

「ありがとう、山城。大切に使わせてもらうよ。それと扶桑に今日の午後にでもお茶をしようって言ってくれるか?」

 

「はいっ!」

 

山城はどうやらシスコンではなく姉思いの妹だった様だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼食を終えて俺は山城と埠頭にある扶桑の艤装の甲板の上に来ていた。そこには机が出されていてシーツがかけてあり、椅子が7脚用意されていた。

机の上にはまだ焼きたてなのか、クッキーが並んでいる。

 

「お待ちしてました。」

 

そう言って扶桑が35.6cm連装砲の裏から出てきた。

 

「うお!連装砲の裏からかよ!!......それよりお茶なのに甲板か。」

 

そう言って俺は辺りを見渡した。正面は海、左は艦首、右は35.6cm連装砲、背後は鎮守府とよくわからない処に居た。

 

「ここは落ち着けますので、結構皆自分の艤装の甲板でこうやってお茶を飲んだりするんですよ?」

 

そう言って扶桑は椅子に腰を掛けた。山城も定位置なのか扶桑の横に座った。

 

「提督はこちらに......。」

 

そう言って案内されたのは山城の反対側だった。

 

「ありがとう。」

 

俺は礼を言うと腰かけて箱を取り出した。

 

「提督、それは?」

 

「あぁ、これか?これは......ムグッ!」

 

俺が『山城からもらった。』って言いかけたら咄嗟に立ちあがった山城に口を押えられてしまった。

 

「あはは!提督、どうされたんですか?」

 

「ムグムグッ!!」

 

俺は言葉を発せずにいると山城が色々歪曲した説明を始めた。

 

「今朝お茶しましょうって言ってみたら『自分のカップがあるんだ。持って行ってもいいか?』って言ってたので多分それですよ!」

 

無理やり感が滲み出ているが、扶桑には分からなかったらしい。

 

「そうなの?では提督、それをお預かりしますね。」

 

そう言って扶桑は箱から出したカップを手に取った。そして紅茶を注ぎ始める。

そうしていると誰だろうか、話し声が近づいてきた。

 

「今日も扶桑たちとティータイムネー!」

 

「この時間はいつもゆったりしてますもんね!」

 

「榛名は今日、スコーンを焼いてみました!」

 

「スンスン......ふむ、どうやらもう飲み始めているようですよ。」

 

その話し声で誰だかすぐに分かった。金剛型姉妹だ。

 

「そう言えばサー。今朝赤城たちが出撃していったみたいですネー。行先は......西方海域でしょうカ?」

 

「リランカ島でしたっけ?空襲を仕掛けるって噂の。」

 

「朝早くに富嶽が飛んでいったのでそうでしょうね。」

 

「ですが編成が結構弱腰でしたよ?重巡2に雷巡1、駆逐1、空母2......普段の提督ならしない編成です。」

 

そう言いながら俺たちの前に金剛たちが現れた。

 

「こんにちはデース!扶桑と山城!」

 

そう言って手をブンブン振りながら現れた金剛たちは俺を見るなり目が点になった。

 

「今日は俺も参加してる。」

 

そう言って俺は紅茶を啜った。

 

「んなっ!」

 

「んななっ!」

 

「んなななっ!」

 

そう次々に言う比叡と榛名、霧島。

 

「「「「提督が居ます!(デース!)」」」」

 

そう叫ぶ4人に俺はすかさずチョップをかました。勿論痛くない様に髪に触る程度。

 

「るっせ。静かにしてくれ。」

 

そういって俺は座りなおした。

 

「どっ。」

 

「ど?」

 

「どっ、どうして提督は居るんですカ?!」

 

「居ちゃ悪いか。」

 

金剛は自然に俺の横に椅子に座るとそう訊いてきた。

 

「居ちゃダメだなんてとんでもないデス!むしろhappyネー!」

 

そう言ってニコニコする金剛。

 

「じゃあいい。」

 

俺はそう言って海を眺めながら紅茶を飲んだ。何か格好つけてるみたいで嫌だったが、角度が角度だけにそちらしか見えない。

そうして始まった俺と扶桑姉妹、金剛姉妹のお茶会は結構続いた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

日が傾き始めて空が紅くなってきた頃、空を轟轟という音が響き始めた。これは富嶽のエンジン音だと誰しもが分かった。

 

「帰ってきたか。山城、執務室へ。」

 

「はい。」

 

俺は立ち上がると扶桑に礼を言った。

 

「ありがとう。美味しかったよ。」

 

「えぇ。こちらこそありがとうございます。」

 

そう扶桑は俺に微笑みかけた。

 

「行くぞ、山城。」

 

「はい。」

 

俺と山城は足早に執務室に向かった。

その一方、片づけをしていた金剛と榛名は俺のティーカップをマジマジと見つめていた。

 

「榛名、これって......。」

 

「えぇ、間違いありません......。」

 

そう言って榛名は山城のティーカップを横に置いた。その瞬間、金剛と榛名は中破した(※心です)。

 

「なななっ!」

 

「これはっ!」

 

並べられた2つのティーカップは同じ色、同じデザインだった。これはまるで......。

 

「ペアカップデース!!」

 

「ペアだったんですね!?」

 

この日、出撃してないはずなのに入渠場に居た金剛と榛名を見かけたとか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

日もだいぶ傾き、暗くなった頃、執務室には高雄たちが帰ってきていた。これから報告だ。

 

「ただいま帰還しました。戦果をご報告します。」

 

そう言って高雄は報告を始めた。

 

「道中の深海棲艦と何度か交戦しましたが無傷です。そしてリランカ島へは爆撃中隊が爆撃をしたので、問題ないです。こちらの勝利です。」

 

「うん。分かってた。」

 

俺はそう言って立ち上がった。

 

「祝いだ!順調に進む海域解放を祝して!!」

 

「「「「「「おーー!!!」」」」」」

 

祝いではどんちゃん騒ぎになり、途中門兵が暴れる艦娘を抑える為に入ってきたのはここだけの話。

武下は俺とそれを眺めていた。

 




1発でリランカ島クリアしました。編成は作中のと同じです。
あとお茶会に書いてて違和感がありましたがそのままにしちゃいましたw

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第六十九話  提督の嘆き①

 

俺は朝起きて届いていた新瑞からの封筒を開いて絶句していた。

 

『本日、提督が要求してきていた装備を搬入する。0900より輸送隊が到着するので正門を開けておくこと。妖精にも設置を手伝ってもらうので連絡をつけておいてくれ。』

 

俺はそれを机に置くと秘書艦の伊勢を連れて朝食に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は伊勢と共に正門に来ていた。新瑞から届いていた手紙通りに動いている訳だが、遠くから迫りくる車両隊がとてつもなく大きく見えた。

 

「あれ......鎮守府に置くんですよね?」

 

伊勢は搬入する兵器のリストを見ながら言った。伊勢が見ていたのは丁度、要塞砲のところだった。

コンクリートで蓋をされた旋回砲塔の要塞砲は自身の砲弾でもそれは貫通出来ないとされている頑強な砲だ。それが荷台に分解して積まれていた大型トラックが鎮守府に入っていく。

 

「というか、誘導弾って何ですか?」

 

そう聞いてきた伊勢に俺は返した。

 

「誘導弾って言うのは英語で言うとミサイルという。」

 

「ミサイルって?」

 

「伊勢たちに判り易く言えば、敵を自動追尾ができるロケット砲だな。」

 

そう言うと伊勢は驚いた。たぶん自動追尾ができるという辺りだろう。

 

「自動追尾っ!?それって撃ったら敵目掛けて......。」

 

「迎撃されない限り敵を追い続ける。」

 

そう言うと伊勢は俺の両肩を掴んだ。

 

「私の艤装にそれ、載せて!」

 

「無理だ。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

頼んでいたものが色々搬入され、取りあえず置く場所が無いので運動場もといグラウンドに停めてもらったが、端から端まで埋め尽くしていた。

 

「壮観だな......。」

 

俺はそう言いながら眺めていた。

要塞砲、1基2門が16基。地対艦誘導弾発射機6基。弾頭数120発。短距離地対空誘導弾発射機20基。弾頭数2000発。SPYレーダー1基。CIWS40基。数を見るとそうでもない様だが、実物が全て目の前にあるのだ。とんでもない数に見えた。誘導弾の弾頭を運ぶだけで大型トラックの半数を使っている。

 

「提督、これらはどこに設置するんですか?」

 

そう言ってきた伊勢が地図とペンを持って言って来た。

 

「要塞砲は全基沿岸部に均等に並べる。」

 

そう言うと伊勢が出っ張ったところに均等に印をつけた。

 

「CIWSは施設の屋上。それ以外は広いところに集中配備。」

 

伊勢は建物の上にCIWSの印をつけて、あまり使われていないところにそれ以外のマークを付けた。

 

「妖精さんに頼んでおきます。」

 

そう言うと伊勢は地図を畳んだ。

 

「こんな兵器......使うんですか?」

 

伊勢は訪ねてきた。

 

「使うか使わないか......使いたくない、だな。」

 

「?」

 

伊勢は頭上にハテナマークを浮かばせた。

 

「これを使う時、それは鎮守府が深海棲艦に襲われた時だけだ。」

 

そう言うと伊勢は拳に力を入れた。

 

「そんな事、させない......。」

 

そう言った伊勢に俺は続けて言った。

 

「これは最悪を想定した処置だ。あって損はないだろう?それに俺は伊勢たちに期待しているんだ。」

 

「それは?」

 

「いいだろう、俺はそう思ってるからな。」

 

そう言うと俺は執務室に足を向けた。

だがそれを遮る男が居た。新瑞だ。

 

「提督、在庫処分ありがとう。」

 

そう言うと新瑞は軽くお辞儀をした。

 

「いえ、必要だと考えましたので。」

 

「そうか。」

 

そう言うと新瑞は俺に一枚の書類を手渡した。

 

「これは?」

 

「俺からの置き土産だ。」

 

そう言うと新瑞はすたすたとジープに向かってしまった。

 

「どういう意味だ?」

 

そう言いつつ俺は書類に目を通した。そこには納品書があった。

 

「んー。要塞砲にミサイル類、レーダー......F-2とF-15J改......はぁ!?」

 

そう言って顔を上げて新瑞を探した。新瑞はもう既にジープを走らせて正門前まで行っていた。走っても追いつかない距離だ。

 

「如何使えってんだ......。」

 

俺はそう言うと執務室に帰ると伊勢に行って執務室に帰った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

外で工事が始まったのか、カンカンと甲高い音を聞いていると執務室に伊勢が戻ってきた。

 

「執務は終わってますし、少しお話しませんか?」

 

そう言われて俺は顔を上げると伊勢の方を見た。

 

「なんだ?」

 

「提督が唯一いらっしゃるこの鎮守府。私は何か嫌な予感がするんですよ。」

 

そう脈絡なく伊勢は言い始めた。

 

「嫌な予感って?」

 

「何とも言えない、何かです。」

 

「さっぱり意味が判らない。」

 

そう俺が言うと伊勢が不貞腐れたような表情をした。

 

「そうですか......。ですが、そんな気がするんです。」

 

そう言った伊勢は俺の机から出来あがった書類を取ると事務棟に行くと言って出て行ってしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

横須賀鎮守府は結局沿岸部が要塞砲で埋まり、要塞の様になってしまった。対艦対空ミサイルと近接対空機銃まで置かれてしまったらハリネズミと言われてしまう。そんな気がしていた。

 

俺は早々に設置が完了していた要塞砲を執務室の窓から眺めてそんなことを考えていた。ちなみに要塞砲やら搬入された兵器の類は全部妖精が扱うらしい。どうやら手の余る妖精が居るらしく、それらに任せる様だった。

 

「使いたくないな......。」

 

俺は要塞砲を見ながらそう呟いて窓を閉めた。

 





今回はこれで終わりです。①が付いているという事は続編があるという事なのでよろしくお願いします。
続く話で付いている題の意味が理解できると思うので楽しんでください。

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第七十話  提督の嘆き②

俺は頭を抱えていた。

何故なら、午後になって執務室の椅子でくつろいでいるといきなり夕立が飛び込んできたのだ。いつもの夕立ならちゃんとノックをして、俺の確認を取ってから入ってくるのだが(※赤城と夕立以外は普通に入ってきます)、飛び込んできたのは初めてだった。そしてそんな夕立の口から言われた事に衝撃を受けた。

 

「鎮守府正面に未確認艦を発見したっぽい!!」

 

俺はすぐさま立ち上がり、執務室の窓からそれを確認した。

未確認艦はかなり接近してきていた。艦娘たちはそれぞれ艤装に乗り込み、指示一つでいつでも砲撃できる体勢を整えていた。要塞砲も全基がその未確認艦を捉えている。

そうしていると、未確認艦から人が出てきた。軍服を着ている。その軍服を着た人は両手を挙げたまま叫んだ。

 

「我々に先方を攻撃する意思はない!提督にお話がある!」

 

そう叫ぶ人に向けて砲門が微調整された。

そんな中、夕立から続いて報告があった。

 

「全艦娘、全妖精からです。いつでも砲撃指示を、とのことです。」

 

そう言われた俺は夕立に伝言を頼んだ。

 

「夕立、全艦娘、全妖精に通達。所定地に戻れ。繰り返す。所定地に戻れ。」

 

「了解っぽい。」

 

俺がそう言うと夕立は艤装を身に纏ってどこから出したのか分からないが、受話器に話しかけた。

 

「提督から伝言です。所定地に戻れ、所定地に戻れ。」

 

そう言い終わった夕立に俺は頼みごとをした。

 

「護衛、頼めるか?」

 

「了解っぽい!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と夕立、秘書艦の伊勢は未確認艦の甲板に現れた人と話す為に未確認艦の近くまで来た。そうすると叫んでいた人が甲板から現れた。

 

「すみません。急に。」

 

そう言って近づいてきた彼に夕立と伊勢が立ちはだかった。

 

「おぉっと......それ以上は......ね?」

 

「それ以上は許さないっぽい。」

 

伊勢は刀を抜き、夕立は砲を構えていた。

 

「......失礼しました。では、本題に入らせてください。」

 

そう言った彼は咳払いをした。

 

「私は日本皇国陸軍 強襲揚陸艦 天照(てんしょう) 艦長の的池です。本日はお願いがあって参りました。」

 

そう言って的池は紙を懐をから出した。そしてそれを読み上げる。

 

「貴艦は先の空襲にて奪還されたリランカ島の占領を命ずる。」

 

的場はもう1枚捲った。

 

「横須賀鎮守府艦隊司令部 貴艦隊は天照をリランカ島まで護衛されたし。 新瑞。」

 

そう言うと的池は紙を畳んだ。

 

「そう言う事です。それにあたって鎮守府に寄港してもよろしいかと。」

 

そう言った的池に向かって夕立が言った。

 

「リランカ島......この前陥落させたところ。占領するって事はその船には人がいっぱい居るっぽい?」

 

それにすぐさま的池は答えた。

 

「もちろんです。ざっと1000人はいますよ。それに重機や食料も積んでいます。」

 

そう的池から訊いた夕立は俺の方を向いた。

 

「夕立は条件付きで寄港を許可してもいいと思うわ。」

 

そう言った夕立に続いて伊勢が言った。

 

「ただし、厳重な警備の下。さらに水雷戦隊の監視下でです。」

 

そう言われて天を仰ぐと、空に雷電改が飛んでいた。赤いマーキング、赤城艦載機だ。戦闘機が飛んでいるという事は、かなり警戒されている。

 

「許可します。但し、条件は呑んでもらいますよ?」

 

「分かってます。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と伊勢、夕立が戻ると早速食堂で警備艦隊が結成されていた。編成に関しては侵入者の時と同じような編成の様だ。それ程に警戒されているという事だろう。だが、目に血走った様子は見られなかった。

 

「赤城、今回も指揮艦は?」

 

「私です。前回と同じような警戒網を張ります。」

 

そう言って赤城は笑うと、艦娘で犇めき合う中に戻って行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

何事もなく夕食を摂り終えた後、強烈な不安感に襲われていた。

理由は明白だった。

天照という揚陸艦に乗っている人たちは艦娘の事は知っているが、本質を知らない。俺のイメージでは必ず兵士と言えば何かをやる。女性の容姿をしている艦娘が居る施設なら猶更だ。間違いを起こし、艦娘に殺されかねないと不安を抱いてしまっていたのだ。

そんな矢先、外が騒がしくなった。声的には艦娘だ。俺はその瞬間、執務室を飛び出していた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「武器となるものを置き、手を頭の後ろで組みなさいっ!」

 

艦娘3人と門兵3人の混成警備隊が迷彩服を着た男たちを捕らえているところだった。

 

「どうしたっ!!」

 

俺がそう駆け寄ると鳥海と那珂、村雨がこちらを向いた。

そして状況を鳥海が説明しだした。

 

「先ほど、警備中に不審人物を発見。捕らえたところです。警備部に現在有効になっている逮捕権を行使。地下の牢に拘束します。」

 

そう言った鳥海は笑っていなかった。一方、手を組んでいる迷彩服の男たちはへらへらとしていた。

 

「へへっ......生で見たことなかったけど、艦娘って可愛いじゃん。」

 

「観艦式にはいなかった艦娘だね。名前、なんていうの?」

 

そう言っている迷彩服の男たちに門兵が小銃の銃口を向けた。

 

「口を慎め。」

 

だた門兵はそう言った。そして門兵の1人がこちらを向いた。

 

「提督。どうやらこやつ等は教わっていない様です。鳥海さんたちと長時間接触させておくのは危険だと判断します。逮捕権を行使して警備棟の地下牢に拘束してもよろしいでしょうか?」

 

そう言った門兵は俺のよく知る人物だった。それは武下大尉とよくいる二等兵。食堂のテレビのアンテナを設置した二等兵だった。

 

「分かっている。すぐに連行しろ。」

 

「了解。」

 

そう言うと二等兵は銃を迷彩服の男たちに突き付けた。

 

「本時刻を持って貴様らを拘束する。」

 

そう言って結束バンドで腕を縛ろうとした瞬間、迷彩服の男の片割れが言った。

 

「危険ってどういうことだ?艦娘が可愛くて可愛くてって事か?......それとも俺らに襲われるからか。そりゃそうだろ。そんな布面積の小さい服着たり、セーラー服着たりしてる娘がいるんだ!」

 

そしてもう一人の方が口を開いた。

 

「ていうかアンタ何者だよ。そんな若い奴、軍隊には居ないぞ?居るなら精々士官学校か。つーか、ほんと何なの?見てくれは海軍将校様みたいだが、コスプレかぁ?パパの仕事着でも着てるんですかー?」

 

そう煽ってくる2人に俺は無言だった。今の俺の心境が知られてしまったら、この2人がどうなるか分からない。そして横須賀鎮守府がどういう場所なのか、身をもって知る事になる。

 

「......司令官さんを侮辱しましたね......。」

 

小さい声だが微かにそう聞こえた。

 

「えっ?何だって?」

 

そうへらへらしながら訊き返す迷彩服の男のこめかみに鳥海が先ほどまで身に纏ってなかった艤装の20.3cm連装砲が当てられていた。

 

「司令官さんを侮辱しましたね!!!!」

 

鳥海がそう言った瞬間、那珂と村雨も艤装を身に纏った。

 

「提督を侮辱した......。」

 

「司令官を侮辱した......。」

 

そう言う那珂と村雨に迷彩服の男が少し引きつらせながら言った。

 

「なっ......なんだよっ!提督って誰だよ!ていうか、コイツこそ誰だよ!偉そうにしあがって、クソガキがぁ!」

 

そう迷彩服の男が俺に言い放った。

その刹那、砲声が辺りに鳴り響いた。

俺が鳥海たちから撃たれたもので無い事を確認すると周りを見渡した。すると先ほどまで居なかった、金剛と鈴谷、時雨、夕立、赤城、加賀が居た。艤装を身に纏っている。

 

「へへっ......俺的にはこいつらよりもグラマーな赤城や加賀の方が良かったんだよ。」

 

「俺は金剛ちゃんかな?」

 

そう言った2人に向かって強烈な殺気が飛んだ。

 

「なんだ?」

 

そう言った2人に加賀が近寄って行った。

 

「そこの......。」

 

「何だよ。」

 

そう言った迷彩服の男の胸倉を加賀が掴んだ。

 

「提督の面前で無ければ殺してます。先から少しずつ切り落として......痛みに悶えながら死ぬんでしょうね。碌な死に方じゃないですよ?」

 

そう言った加賀はすぐに言い換えた。

 

「あ......でもやっぱり、深海棲艦にお土産として艦爆から落とすのもいいですね。」

 

そう言った加賀は縄を取り出した。

 

「死ぬのは提督の面前ではないので問題ないです......。」

 

そう言って男に縄を巻き付けた。

 

「一部の深海棲艦は喰うらしいですよ?人間を......。生きたまま喰われるってどんな感じなんでしょうか?」

 

そう言った加賀の目は笑ってなかった。

そんな様子を俺は黙って見ていたが、流石に声を掛けないと不味いと思った。

 

「おい加賀。」

 

「はい。」

 

「手を引け。」

 

「ですが......。」

 

「手を引くんだ。」

 

そう言うと素直に加賀は手を引いた。

そして俺は二等兵に声をかけた。

 

「こいつらを牢屋にブチ込んどいてくれ。それと揚陸艦に伝令。『貴艦の乗組員を逮捕した。』」

 

「了解しました。」

 

俺はそれだけを言うと、逮捕の説明を求める男たちの声を無視して執務室に戻って行った。そして帰る最中、これだけではない様な気がしてならなかった。

 




2話分投稿しようかと思ってましたが、無理そうなのでこれくらいで。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第七十一話  提督の嘆き③

 

夜も深まると、次第に外の騒ぎにが顕著に聞こえるようになった。そのスパン、約1時間。

俺はもう出て行かないと決め、寝る事にした。なぜなら必ず明日、的池から会談が要求されるはずだからだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が朝、起きてくると既に執務室には秘書艦が待っていた。今日の秘書艦は陽炎みたいだ。

 

「おはよう、司令。」

 

そう言うと陽炎はいつもの執務の書類ではないものを渡してきた。

 

「ん?これは?」

 

「昨夜の逮捕者リストよ。」

 

そう言われて俺は渡された紙に目を通す。そこには総勢13名の名前が書かれていた。

 

「そうか......ありがとう。」

 

「うん。じゃあ、食堂に行こう!」

 

そう言って軽い足取りで執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

食堂はいつも通りな雰囲気を出していたが、数が少ない。その理由には検討が付いていた。

警備で外を回っているのだ。だが、それにしては数が少ない。いつもなら満席なのだが、20席は空いている。それだけの艦娘が外の巡回をしているという事だ。それに、揚陸艦の周りには常に艦娘が目を光らせている。それの数も居ないのだろう。

 

「どうしたの、司令?」

 

そう言いながら陽炎はトレーを2つもって現れた。

 

「何でもない。それよりありがとな。」

 

そう陽炎に礼を言って俺は席に着き、朝食を摂り始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

これは私の独断専行だが、今、的池という男と話をしている。

 

「正規空母、赤城か。」

 

「えぇ。」

 

的池はそう私に言った。

 

「命令書を見せていただけませんか?」

 

「いいとも。」

 

的池は懐からその命令書を出して差し出した。

確かに書かれていた書類には間違いはない。だが決定的に違うところがあった。

 

「陸軍からですか?」

 

「そうです。私たちは陸軍の上陸部隊ですからね。」

 

そう訊き返し私は次の命令書に目を通した。其処には驚きの言葉が書かれていた。命令書そのものが海軍のものではなかったからだ。

 

「こっちも陸軍......海軍からの命令ではなかったんですか!?」

 

「命令ではありませんよ。ここに停泊するのは『お願い』ですし、護衛も『お願い』ですからね。」

 

「くっ......。」

 

命令書を受け入れる前に目を通さなかったのが仇となったことに気付いた。

 

「提督もこのことには了承して頂きましたし......問題ないですよね?」

 

そう言った的池は壁にもたれた。

 

「それにこの任務、国民の為なんです。」

 

そう言った的池は別の紙を出して私に差し出した。

 

「......リランカ島を貿易中継基地とする!?」

 

「えぇ。ヨーロッパ諸国の様子はドイツを通して分かっていますので、貿易をここを通して行おうという計画が陸軍で行われています。」

 

そう言った的池は壁にかかっているリランカ島を指差した。

 

「相手国はここまでドイツ海軍の艦娘の護衛の下、リランカ島に貿易物資を輸送。日本海軍はこれを積んだ貨物船、もしくは潜水艦で東進。南方海域に点在する泊地を休み休みしながら本国に帰還。南方には海軍の泊地があるそうじゃないですか。そこを中継した貿易ですよ。」

 

そう言った的池の言動に私は怒りを覚えた。何故ならこの計画、多分提督も知らない事だ。そして何より護衛を務める艦娘の事情を無視した計画だったのだ。

 

「こんな計画......私は賛成しかねます。これから提督にお伝えしてすぐに大本営に報告をっ......。」

 

そう言って行こうとした瞬間、的池に手を掴まれた。

 

「これは我ら陸軍に残された生命線なのですっ......海に現れた深海棲艦と海軍が戦うのを非力な我らは加勢できない悔しさに指を咥えていたんです......。ならばせめて苦しい思いをしている国民の為に生命を擲って危険な海外貿易の発展を進めようと.......。」

 

「いい加減にしてください!」

 

私は的池が並べる言葉に遂に我慢が出来なくなった。

 

「国民の為、悔しい思いをしてきた、何言ってるんですか!かつて海軍には護衛艦という船があり、深海棲艦と戦ってきた。それは私たちも知ってます。ですが、陸軍は指を咥えていたですって?やれることを懸命に探して、加勢するんじゃないんですか!!」

 

「それは陸軍も探してきた!地上から海軍を援護できるヘリや航空機、ミサイル......噴進砲を開発をしてきた!だが、効果は無かった。ただ悪戯に兵を死なせるだけだったんです!」

 

そう言った的池は壁を叩いた。

 

「ならばやれることを......せめて国民が豊かに暮らせるように......そう考え、これを計画したんです。」

 

そう言った的池を赤城は一蹴した。

 

「それが叶ったとして、陸軍は何をするんですか?私たちに輸送艦の護衛を押し付け、計画した陸軍は何をするんですか!提督にこのことは報告させていただきます!!」

 

そう言って今後は手を掴まれないように赤城は走った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

息を切らした赤城が執務室に入ってきて俺と陽炎は驚いた。

先ず走ってくるようなことが一度も起きなかったこれまで、こんな赤城を見たのは初めてだった。

 

「提っ......督っ......!」

 

「どっ、どうした。」

 

ゼェハァ言いながら入ってきた赤城に戸惑いつつ、俺は赤城の方に耳を傾けた。

 

「停泊している揚陸艦の的池さんが読み上げた命令書、陸軍のものでした!それに、停泊も護衛もお願いだと......。」

 

そう言った赤城に俺は思考が混濁してしまった。

命令じゃなかったのか。お願いってどういうことだ。陸軍からだと.......。そんな思考が入り混じる中、俺は赤城に一つ訊いてみた。

 

「お願い......それって正規じゃないって事か?」

 

「そうです。非正規のものです。それに陸軍はとんでもないことを考えてますよ!」

 

その後に続いた赤城の証言に俺は開いた口が塞がらなかった。壮大な貿易計画と実行に映った時、全てを海軍に投げ出すという計画。そんな計画の話を聞いた。

 

「それは本当か?」

 

「五分五分ですが、こうして動いているとなると本当かと......。」

 

俺はここで覚悟を決めた。

 

「揚陸艦を見張る水雷戦隊に連絡っ!!『揚陸艦を抑えろ!』」

 

「りょ......了解!」

 

状況を横で聞いていた陽炎は慌てて通信するために艤装を展開した。

今鎮守府で起きている事態、俺は相当大事になると想像していた。

 





いつも通りじゃない時間で投稿させていただきます。
いやぁ......結構感想の方に今後の展開の予想とか届いていたんですが、その時点で書ききってなかったので戸惑いましたw

秋イベは順調に進んでおります。まだE-1ですけどw
E-2までは進むつもりです。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第七十二話  提督の嘆き④

 

俺の目の前には的池が居る。今いるところは執務室。水雷戦隊が抑えた後、ここに連れてきたのだ。

 

「的池さん、ここへの停泊も護衛『依頼』も陸軍のものだったんですよね?」

 

「えぇ。」

 

そう言った的池は懐から紙を出して差し出した。

その紙は普段俺が見ている様な紙ではない。間違いなく海軍のものではなかった。

 

「陸軍ですね......。ここへの停泊も護衛『依頼』も命令ではなかったと?」

 

「そうです。あくまでも『お願い』です。」

 

そう言い切った的池の顔を見た。

 

「海軍には話は通してあるんですか?」

 

そう言うと的池は苦いものを食べたような顔をした。

 

「......そうですか。」

 

俺はそう言って的池から受け取った紙を返した。

 

「それよりもまず、聞いていただきたいことがあります。」

 

俺はそう切り出し、艦娘の事を話しだした。提督への執着、艦娘が怒る理由、昨夜の逮捕者の逮捕理由、全てをだ。

そうしたら的池は少しため息を吐いた。

 

「はぁ......。」

 

「ん、どうしたんですか?」

 

そう俺が訊くと答えた。

 

「貴艦隊に護衛を頼むことを決めた時、全員分のビラで艦娘について知らせたんですよ。ですが、彼らはそれを信じなかったんです。だから艦娘たちの怒りを買ったんでしょうね。」

 

そう言って頭を抱えた。

 

「知ってはいたんですね?」

 

「はい。」

 

そう俺が確認するのを聞いていた陽炎が艤装を身に纏った。

 

「今すぐ仕舞え。」

 

俺はそれを間髪入れずに止めた。

 

「現在は鎮守府の地下牢に拘束されてるんでしたよね?」

 

「そうです。」

 

「何とか出しては貰えませんかね?」

 

そう言った的池の顔を俺は見た。その瞬間、陽炎はそれに抗議した。

 

「ダメよ。あいつ等は何もわかってないわ。それに上陸許可を司令が出していた記憶もないわ。」

 

そう言った陽炎の言動に的池は答えた。

 

「上陸許可ですか?」

 

それを疑問に思った様だ。

 

「そうよ。」

 

そう言った陽炎はいつもの目で無く、血走った眼で的池の目を見て言った。

 

「横須賀鎮守府という土地は言うなれば『司令のシマ』なのよ。ここでのルールは司令のみなの。司令の許可で居る事が出来、司令が許さなかったら入れない。司令の気を害したのなら殺し、司令を侮辱したのなら殺す。それがここの、鎮守府のルールなの。」

 

そう言った陽炎を見て的池は震いあがっていた。

 

「私たち艦娘は司令の指示以外は聞くことも無いわ。要するに司令が全てなの。」

 

そう言った陽炎は少し間を置いてから言った。

 

「でも、司令が手を差し出すと言うのなら私たちは全力でそれに答えるわ。例え貴方たちの護衛任務だろうとね。」

 

そう言ったのだ。

 

「......提督。」

 

そう俺の顔を見て言った的池に俺は答えた。

 

「ちゃんと正規の手続きをしてまた来てください。リランカ島の占領、貿易拠点としての開発をするための先遣隊なんですよね?」

 

「はい。」

 

俺はそう言うと立ち上がった。

 

「では、1時間以内に用意を済ませて鎮守府埠頭から出て行って下さい。海軍に話を通して、横須賀への正式な依頼ならば、受けましょう。」

 

そう言った俺は陽炎に的池を揚陸艦に送るよう伝えると部屋を出ようとした。その時、的池が俺に声を掛けた。

 

「地下牢に居る乗組員を解放しては貰えないですか?」

 

そう言った的池に俺は返事をした。

 

「そればっかりは無理です。彼らは艦娘たちの逆鱗に触れたんですから。」

 

そう言って俺が執務室を出て行ってから30分後、強襲揚陸艦 天照は埠頭から出航していった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼を越えた頃、俺と陽炎は朝にやれなかった執務をやっていた。今日の執務はいつもより多い。何故なら大本営に今回の話の報告書と、こちらで幽閉中の兵士の取り扱いについての書類があるからだ。

 

「そう言えば、捕まっている兵士たちはどうなってる?」

 

俺は兵士の取り扱いに関する書類を手に付ける前に陽炎に訊いた。

 

「そうね......現在、警備棟地下で装備を奪って監禁中だったと思うわ。」

 

そう言って陽炎は棚を雑巾で拭いていた。

 

「門兵たちに差し入れでも用意しようか......。」

 

俺はそう言いながら兵の取り扱いに関する書類に書き始めた。どの兵を捕らえていて、どう扱っているかと鮮明に書き込み、終わった書類に重ねた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は酒保で食べ物と飲み物を買うと、警備棟に足を運んでいた。陽炎はいつも警備してくれてる礼がしたいと言って、丁度お腹を空かしてるだろうからと間宮のところでおにぎりを握ってきた様だ。俺と陽炎は両手に大きい袋を下げて警備棟に入った。

 

「提督っ!どういった御用件でしょうか!」

 

俺を出迎えたのは二等兵だ。鳥海の警備艦隊と共に行動していた奴だ。

 

「差し入れです。昨日はありがとうございました。」

 

「私からも、いつも警備ありがとう!」

 

そう言って二等兵に渡した。

 

「こんなに......ありがとうございます!丁度仲間たちも腹を空かしていたので。陽炎さん、早速いただきますね!」

 

「えぇ!」

 

そう言って二等兵は奥のカウンターの方に置きに行くと戻ってきて俺に要件を訊いてきた。

 

「それで、要件は?」

 

「ん?ただあれを渡しに来ただけです。」

 

そう言ってカウンターに置かれた袋を指差した。

 

「これは、わざわざ......ありがとうございます!」

 

そう言って敬礼をする俺は手を下げさせた。

 

「いつものお礼だと思っていただいて結構ですよ?それに、艦娘たちと仲良くして頂いているみたいですし。」

 

そう言って俺はグラウンドの方に目をやった。

そこでは駆逐艦の艦娘、第六駆逐隊が休憩中の門兵数人とバトミントンをしていた。傍から見たら事案に思われたり、遊ぶ親子の様にも見える。

 

「あの娘たちは良く来るんですよね。私も何度か話したことがありますが、つい最近改造して提督に対潜装備を頂いたとかで潜水艦狩りを楽しみにしていると言ってました。」

 

そう言った二等兵は優しい笑顔をしていた。

 

「陽炎さんも前はよく来てましたよね?」

 

そう言った二等兵に陽炎は慌てだした。

 

「ちょ!何言ってるの、西川さん!」

 

そう言った陽炎を落ち着かせると、俺は陽炎が言った名前に違和感を覚えた。

 

「......西川さん......ですか。」

 

「はい。西川二等兵であります!」

 

そう言った西川は敬礼をした。

 

「ですからもういいですって。電気工事の時はまた頼らせてもらいますね。」

 

そう言って俺と陽炎は西川にこれからもよろしくとだけ言って警備棟を後にした。

後々武下から『わざわざありがとうございました。』と礼の書かれた手紙が届いた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

執務室に帰ると早速書類を出してくると言って陽炎は出て行ってしまったので、俺は窓から埠頭を眺めていた。

いつも見ている景色に少し飽きを感じ始めていたが、今日はそうでもない。埠頭から少し離れたところに赤城と加賀、瑞鶴、蒼龍、飛龍の艤装が浮いている。どうやら乗り込んで何かをしている様だった。

そう言えばと思い出して、記憶を辿った。この時間に赤城たちが陸軍の隼、疾風と制空戦演習をするための許可願いを出していたのを思い出した。そのために埠頭から離れた様だった。

上空を舞う戦闘機たちは機銃を撃ち合い、当たった演習弾があれば離脱していく。それを見ていて、俺は何だか血が騒ぐような思いをしていた。

数十分見続け、遂に上空には数機しか残っていない。零戦52型が2機と、隼が1機。疾風が1機だ。海軍対陸軍なら同数だが、旋回戦を得意とする零戦と隼とは相異なる疾風は一撃離脱を得意としていた。そうは言っても、日本機という括りだが。

そんな中、零戦のペアが攻撃を仕掛けた。1機は上昇していたのでそこから急降下。もう1機は隼に挑む。急降下をしている零戦目掛けて上空を飛んでいた疾風も急降下を始めた。

遠目の戦闘、俺は急降下する零戦に目をつけていた。その機体には赤いマーキング。赤城航空隊だ。しかも1番機。乗る妖精と俺は話したことがあった。その片割れはこれまた赤城航空隊。だが何番機かは分からない。一方の陸のほうのは何処戦隊かも分からない。

隼と零戦が交わった刹那、急降下していた零戦が急降下を辞めて急上昇を始めた。何故だと思ったがどうやら追いかけてきていた疾風に気付いていた様だ。隼に演習弾が着弾したのを確認すると、フラップを開き、縦旋回をして疾風の後ろに回り込んだ。高速域での旋回は零戦は得意じゃないはずだが、疾風よりもマシだった様だ。回避運動をする疾風を軸線に捕らえ、そして成す総べなく疾風の機体に演習弾が何発も当たった。

今回の演習はどうやら海の方の勝ちらしい。

結果を見届けると俺は陽炎が帰ってくる頃合いだろうと思い、椅子に座りなおした。

 

 





まだまだ提督の嘆きは続きますよ。嘆いてませんからね。
今回は航空戦の様子を書いてみましたが、結構伝わらないかも......。機体の性能は結構違っているかもしれません。ご了承ください。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第七十三話  提督の嘆き⑤

陽炎はすぐに戻ってきた。普通なら手ぶらなのだが、何故か一枚の紙を持っている。

 

「司令......コレ......。」

 

そう言って俺に渡して来た紙は武下からのものだった。

地下で拘束している兵が煩いと言う。その騒ぎは警備棟の地上階にまで聞こえる。早急な対応を求めるものだった。そして詳しい話はこちらで説明すると。

 

「......。」

 

俺は黙って立ち上がり、執務室を出ようとした。

 

「待って。」

 

腕を陽炎に掴まれた。

 

「護衛は要らないの?」

 

その意味は『私が付いて行かなくていいの?』だ。つまり、とても不安にさせるものだという事。

 

「書かれている通り、無しの方がいいだろう?」

 

そう言って陽炎に腕を放させて俺は警備棟に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

警備棟ではさっきあった時とうって変わって、とても緊張した表情をした西川が迎えてくれた。

 

「大尉のところへ案内します。」

 

そう言って西川はさっきまで持ってなかった自動小銃の安全装置を確認すると歩き出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

案内された部屋は武下が使っている部屋だった。

そしてそこには巡田も居た。

 

「お待ちしてました。提督。」

 

「提督。」

 

2人は俺に敬礼をしたが、すぐに止めてもらった。

 

「敬礼はいいです。それで、艦娘を遠ざけて、どうしたんですか?」

 

そう訊くと武下と巡田は壁に立てかけていたんだろう、短機関銃を手に取った。そして弾倉を差し込み、安全装置を確認する。

 

「見れば判ります。ついて来てください。」

 

そう言って武下は部屋を出て行った。それに着いて行くと俺の後ろに巡田が付いてきた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

新しく出来たばかりの警備棟だが、どうやら地下の牢は以前、巡田を入れていた牢と同じものだ。つまり、ただ繋げただけの様だった。

艦娘が来る度に叩いて行ったという格子も元通りになっていて、その奥に兵がいた。ここまでくる間、ずっと喚く声が聞こえ、不快だったが、近づけば近づくほどに音量は上がっていく。

 

「出せよ!!!こっから出せっ!!!!!」

 

そう言って格子を叩いているのがほとんどだ。これをずっとやっている様だ。但し生理現象の時や食事時には止まるようだ。

 

「おいっ!!!白いの!!!こっから出せよっ!!俺らが何したっていうんだ!!」

 

「揚陸艦から出て歩いただけなのにこんなところに入れられて、意味わからねぇよ!!」

 

「反逆罪的なやつですかぁ?!」

 

そう言っている。それを俺は黙って聞いていた。そうすると巡田が不意に短機関銃の銃口を上に向けると、数発撃った。室内で密閉された空間なので、発砲音は響き、耳鳴りみたいになっている。

 

「貴様等黙れっ!!」

 

そう巡田が言うと武下は短機関銃を肩にかけた。

 

「ここにいらっしゃるのが、横須賀鎮守府艦隊司令部司令官だ!」

 

そういきなりいうものだから俺は少し戸惑った。

 

「そっ、そうです。俺がここの司令官です。皆からは提督って呼ばれてますがね。」

 

そう言うと騒いでいた中の1人が話しかけてきた。

 

「クソガキじゃねぇか......何が司令官だ。......んで、司令官様はここから俺らを出してくれるのか?」

 

そう聞いてきた。俺は少しイラッとしたがそれを抑えた。だが抑えたつもりになっていた様だ。巡田がそれに察知したのか、話しかけてきた兵に銃口を向けた。

 

「おい。......慎め。」

 

「チッ......。んで、出してくれんの?」

 

そう聞いてきたので俺は現状を伝えた。

 

「現在大本営にて貴官らの扱いに関しての書類を提出したところです。明日まで待ってください。」

 

そう言うと兵は格子を叩いた。

 

「はぁ?さっさとしろよ!何で捕まったのかもわからないし、捕まえたのはMPでもなかったから猶更意味わかんねぇんだよ!説明しろ!!」

 

そう言った兵に俺はイライラを抑えつつ説明した。

 

「貴官らの乗り込んでいた揚陸艦には『停泊許可』を出したにすぎません。誰も『上陸許可』を出してませんよ。よって違反です。」

 

そう俺が説明すると後ろから声がした。ここに居る筈のない声の持ち主。

 

「それに私たちの怒りを買いマシタ。命令違反をし、身勝手に歩き回り、艦娘に手を出そうとした。そして、提督を侮辱しマシタ。」

 

金剛が居たのだ。

 

「金剛っ?!」

 

「ハイッ!金剛デース!」

 

そう金剛は俺に笑顔を向けた。

 

「この中に2人、いますよネ?提督に面と向かって侮辱の言葉を投げかけたの......。」

 

そう言って金剛はツカツカと格子の前を歩いて立ち止った。

 

「お前デース......。所属と階級を言いなサイ。」

 

そう言って金剛は格子を蹴った。ガンと高い音が響き、そのあとすぐに静寂に包まれた。

 

「おい金剛......。」

 

そう俺が言うと金剛は姿勢を戻して言った。

 

「こればっかりは提督が許しても、私たちは許せないんデス。私たちの提督を虚仮にした......コイツは私たちの提督をバカにしたんデス。」

 

そう言われ俺は何も言い返せなかった。いくら提督への執着があるとしても、たったこれだけの事でこんなに反応するとは思ってもみなかったからだ。

 

「何とか言え、ファ○ンガイ。」

 

金剛の口調がおかしくなった。片言な口調が無くなったのだ。

 

「やっぱり加賀に頼んで深海棲艦の棲地に落としてもらいますカ?それとも叢雲に頼んで斬首しますカ?それともそれとも標的にして皆で小口径対空機銃の的にしますカ?」

 

そう言った金剛はまた格子を蹴った。

 

「希望はありますカ?」

 

そう金剛が訊くと兵は口を開いた。

 

「牢から......出せ。」

 

そう言った。確かに。微かな声だったが金剛は聞き逃さなかった様だ。

 

「ハァ?......何で出さなきゃいけないんですカ?ファ○ンガイが出るときは深海棲艦に肉弾爆撃する時だけデース。」

 

そう言ってさらに金剛は格子を蹴った。

 

「んだよファ○ンガイって......俺は青木だ。それに何で殺されなきゃいけないんだ。軍法なら命令違反は降格とかだろ?何でいきなり処刑なんだよ。」

 

そう言った青木は金剛を睨んだ。

 

「だから言ったじゃないデスカ。提督を虚仮にしたって。ここでは重罪、いえ。軍法よりも重いルールデース。」

 

そう言って金剛は艤装を身に纏った。

 

「てめぇはどれで死ぬのがいいかって聞いてるデス。肉弾爆撃?斬首?標的?それとも......仲間が見ている目の間で引き裂いてやりましょうカ?」

 

金剛は格子に手を掛けるといとも簡単に格子を歪ませた。兵士じゃ壊せないくらい固く作ってある格子がぐにゃりと曲がったのだ。

 

「ヒッ......馬鹿力女がぁ!コイツに何言おうがてめぇには関係ないだろうが!」

 

青木の言葉に沸点に達したのか金剛から表情と目の輝きが無くなった。

 

「関係ありマス......。」

 

そう言って格子を蹴った。

 

「船一隻作るのにどれだけの資材が居るか知ってマスカ?」

 

「ハァ?何だよいきなり......。沢山だろ?」

 

「てめぇらを肥えさせている食料をどこで作ってるか知ってマスカ?」

 

「意味わかんねぇ。農家の人たちだろ?」

 

「てめぇらがいつも見て下品に笑っているテレビ、どうやって作ってると思いマスカ?」

 

「それは知ってる。工場で作ってんだろ?」

 

「戦場を......知っているんデスカ?」

 

「......。」

 

最後の言葉に青木は黙った。

 

「全部はずれデース。船にはてめぇらが働いても一生稼げない分のお金で買える資材で作られてマス。食料は私たちの仲間が開発した食料プラントで生産されてマス。テレビは私たちと同じ艦娘が、砲弾魚雷が飛び交う最中、必死に集めてきた資材を使ってるんデス。」

 

「それを訊いた理由は何だ?俺が無知だって言いたいのか?」

 

「耳の穴かっぽじってよく聞くデース。......全部てめぇの目の前にいる艦娘のお蔭なんデス。その艦娘が唯一の提督を侮辱するような言葉、聞いて黙っているとでも思ったんですカ?」

 

そう言って金剛は格子を殴った。

 

「そう言えばニュースとか見てますカ?」

 

金剛は突拍子もない事を言い出した。

 

「......見てるぞ。」

 

「人類の生活圏が広がっているのは知ってますヨネ?」

 

「あぁ。」

 

「それに大きく貢献しているのはどこの誰デスカ?」

 

そう言うと青木は震えだした。ガクガクと音を立てて。

 

「......横須賀鎮守府......艦隊司令部......司令官......。」

 

「当たりデース!私たちの提督ネー!」

 

そう言って金剛は目に光をともしてないが笑った。とても不気味だ。

 

「ここはどこデスカ?」

 

「ここはっ......横須賀鎮守府、かんたい、しれいぶ......。」

 

「またまた当たりデース!」

 

そう言って金剛はこれまでの蹴りとは比較にならない程の蹴りを格子にした。格子は聞いた事もない音を出して裂けた。

 

「お前は提督のシマでしでかしたんデス。」

 

そう言って格子の間から金剛は手を入れて青木の髪を掴んだ引っ張った。

 

「ソノクソキタナイクチ、モウヒラカナイホウガイイデス。」

 

そう言った。

その金剛を見て青木は目を必死に動かし、辺りを見た。そして武下に目を付けた。

 

「助けて......ください。」

 

そう今にも泣きだしそうな口で言った。下の口は開きっぱなしで、アンモニア臭が微かにしている。

そんな青木の方に武下が歩きでると金剛の横に立った。

 

「金剛さん......それくらいで。」

 

「......ハイ。」

 

金剛は武下に言われて青木の髪をパッと放すと俺の横に来た。既に目には光が戻っていて、何時もの金剛に戻っていた。

そして金剛は俺に話しかけてきた。

 

「今警備棟の前に艦娘が全員詰めかけていマス。こいつらを殺すと言ってマス。何とか古参組が止めてますガ、何時まで持つか分かりマセン。それと、さっきの私の演技で他のも相当追い詰められた様デス。早急に判断を付けた方がいいデス。」

 

そう言って俺に笑いかけた。だが俺は笑ってられない。警備棟の前に怒り狂った艦娘が沢山いると言うのだ。

 

「提督。如何いたしましょう。」

 

そう聞いてきた武下に一言だけ言った。

 

「大本営からの連絡まで待機です。それと貴官らは静かに待機していて下さい。汚いところですが、休みだと思っていただければ。」

 

そう言って俺は金剛を連れて牢のある地下から出た。武下と巡田はここの特性を伝えると言って残った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と金剛が警備棟から出てくると、古参組が壁を作って他の艦娘を突破させまいとしているところだった。

 

「何やってる。」

 

俺がそう後ろから話しかけると、全員の動きが止まった。

そうすると目を血走らせた赤城が答えた。

 

「殺しかねない勢いだったので止めてました。」

 

「そうか。......戻ろうか。」

 

そう言って俺は歩き出した。

 

「なぁ金剛。」

 

「何デスカ?」

 

横を歩く金剛に訊いてみた。

 

「何であの時、あそこに居たんだ?」

 

そう訊くと金剛は笑顔で答えた。

 

「あいつらを殺すためデス。ですが提督が来たのでやめマシタ。」

 

「そうか。」

 

俺は何の詮索もせずにただ前を向いて歩き続けた。

 




金剛、再びキレる。そしてイメージ崩壊。

このくだり結構やってる気がします。
それと今回は巡田の登場と、二等兵の名前が分かりました。艦娘中心の話でなく、人間たちの話になりましたが、まぁいいでしょう。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第七十四話  提督の嘆き⑥

俺は珍しく朝早くに起きた。まだ秘書艦の来ていない執務室で朝食と秘書艦が来るまでの時間を、本を読んで過ごした。執務はいつも秘書艦が取りに行くのでいつも行かなかったが、本当はどうなっているのだろう。そんな事を思い、本を閉じた。

立ち上がり、執務室を出た。執務の書類を取りに行くためだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「おはようございます。」

 

そう言って事務棟に入るとそこは何というか、役所みたいな内装をしていた。カウンターが並び、ソファーが置かれ、番号を知らせる電光掲示板がかかっている。

 

「提督ですか。番号札はいいのでどうぞこちらに。」

 

そう言われて俺は呼ばれたカウンターに足を運んだ。

 

「朝早くにどういった御用件でしょうか?」

 

そう聞いてきた事務員は起動したてなのだろうか、少しPCの操作をして言った。

 

「執務の書類を取りに来ました。」

 

そう言うと事務員は驚いた表情を見せた。

 

「何時も艦娘の方が来ていたので、てっきりそうなのかと!?......ゴホン、ではただいまお持ちします。」

 

そう言って事務員は立ち上がると、奥に行ってしまった。俺は内心、もうあるのかよとかツッコんでいるがそんな事はどうでもいい。すぐに事務員が帰ってきた。

 

「こちらが今日のですね。」

 

そう言って渡してきたのはいつも秘書艦が持ってくる書類と、たまに混じっている大本営からの封筒。どうやら返信が届いた様だ。

 

「ありがとうございます。」

 

俺は礼を言って立ち上がると、足早に執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

執務室に戻ると、既に秘書艦が来て待っていた。

 

「提督か。おはよう。」

 

そう言って出迎えたのは日向だった。

 

「おはよう。」

 

返事を返すと席に座り、書類を置いた。

 

「なんだ、取ってきてしまったのか。」

 

「暇だったからな。すまん。」

 

そう言って返事を返すと、俺は大本営から届いていた封筒を開け、中を確認する。

 

『逮捕した兵に関しては陸の管轄なので早急に返還されたし。殺して等いないだろう?それと陸が計画しているリランカ島を貿易中継地にする話だが、大本営で審議会が開かれる予定だ。結果は追って連絡する。』

 

そう書かれていた。ちなみにこれを書いたのは新瑞だ。

俺はそうだろうなとは思っていなかったのでそこまで深く考えなかったが、覗き込んでいた日向は違った。

 

「あいつ等を......返すのか?」

 

そう聞いてきた。

 

「あぁ。こればっかりは仕方ない。」

 

俺はそう答えて封筒に仕舞うと、日向は秘書艦用の机にもたれた。

 

「金剛から聴いた。何でも提督を直接侮辱した輩が居たんだろう?」

 

そう言った日向はいつもの表情だったが、どこか怒っている様だった。

 

「居たには居たが、金剛が黙らせたよ。いつもの表情何処行ったと俺はそれを見ながら思ったね。」

 

「金剛は提督が絡むと途端に怖くなるからな。赤城や鈴谷もそうだが。」

 

そう言った日向は俺が持ってきた書類の中から秘書艦がやれる書類を引き抜くと自分の机に置いた。

 

「警備棟に詰めかけた艦娘を制止させてたのは赤城たちだろう?」

 

「そうだな。」

 

「赤城は多分真っ先に牢に殴り込んで殺したかっただろうに。」

 

俺はあの時の赤城を思い出した。血走った眼、アレはそういう事だったのだ。

 

「その感情を抑えて、皆を止めた。流石だな、赤城は。」

 

そう言った日向は続けて言った。

 

「だから提督も赤城には特別に信頼しているんだろう?」

 

そう言って日向はペンを走らせる。

 

「そんなつもりはないんだが......。」

 

俺は答えた。

 

「そうなのか?てっきり『特務』とやらを任せているから、そうなのだと思っていたが。それに警備艦隊を二度も編成したがその時はどっちも赤城が指揮艦をしていた。信頼を寄せていると思われて十分だろう?」

 

そう言うと日向はペンを置いた。

 

「時間だ。朝食を食べに行こうか。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝食を摂り終えると俺は地下牢の兵を大本営に送るためにトラックの準備を始めた。と言っても警備棟に連絡を入れて送るだけだが。

 

「日向、艤装は絶対展開するなよ。」

 

「分かっているさ。だがコイツだけはどうしてもダメだ。」

 

そう言って日向が手をかけたのは刀だった。

 

「それも......艤装なのか?」

 

「そうだぞ。と言っても艤装を身に纏っている時にしか使えないがな。」

 

俺と日向は執務室を出て警備棟に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

警備棟には察していたのか既に入り口前にトラックが2両止まっていた。

 

「提督、おはようございます。」

 

そう言って話しかけてきたのは西川だった。

 

「おはようございます。」

 

俺は挨拶を交わすと警備棟に入っていった。

警備棟に入ると近くに居た門兵に声を掛けた。

 

「武下大尉を呼んでください。地下の兵を送り出します。」

 

「了解しました。」

 

門兵は快く答えてくれ、すぐに呼びに走っていった。僅か数十秒で戻ってきたので度肝を抜かれていたが、どうやら近くに居た様だった。

 

「おはようございます、提督。」

 

「おはようございます。武下大尉。」

 

「それで、兵を大本営に?」

 

「えぇ。今朝、届いたので。」

 

「分かりました。準備は出来ているので、すぐにでも。」

 

そう言って武下は門兵から自動小銃を借りた。

 

「今からトラックまで連行します。」

 

そう言って離れて行った武下を俺は追いかけなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

手錠を付けられて歩かされる兵を俺は遠目から見ていた。

誰も項垂れ、生気のない表情をしていた。そんな中、1人は違っていた。それは青木だ。金剛に突っかかっていた兵だ。辺りをキョロキョロし、何かを探している様だった。

そんなのを眺めていると、その青木が叫んだ。

 

「どっかで見てるんだろ?!ガキ司令官!!」

 

そう叫んだのだ。それを聞いていた日向は刀に手を掛けたが、留まっている。

 

「どうせ釈放されて俺は兵役に戻されるんだ!てめぇに何言おうがいいんだよ!」

 

そう叫んでいる。俺は駆け出そうとしていた日向を制止した。

 

「後方で座ってなっ!!!」

 

そう叫ぶ青木を連れていた門兵が自動小銃のストックで押した。

 

「ここで見たこと全部外で喋ってやるからな!!どうなるだろうな、ここはよぉ!?きっと解体だ!鎮守府は消えるだろうな!!」

 

俺は苦虫を食いつぶしたような気分だった。昨日、金剛に散々言われてあまつさえ助けを乞うた奴がまたもそんなことを言っているのだ。そんなことをしていたら嗅ぎ付けた艦娘に何されるか分からない。今ここで日向を落ち着かせているが、他に行ってると日向が行きかねない。俺が動けずにいると、門兵の1人が自動小銃を構えた。

俺の居るところからは何を言っているのか分からないが、この後何をするかは想像がついていた。

炸裂音が当たりに響き、青木は腕を抑えている。

そしてそのままトラックに放り込まれた。

 

「落ち着けよ、日向。」

 

「あぁ、私は至って冷静だ。今の銃声で正気に戻れたよ。」

 

そう言った日向は刀から手を放した。

 

「門兵があいつを撃ったんだろ?」

 

「あぁ。腕だけどな。」

 

そう言って日向は近くのベンチに腰を下ろした。

 

「こんなことで我を忘れる様では古参組が笑われるな。」

 

そう言って腰を伸ばしている。

そんな日向の姿に、特に腰から下げている刀に俺は目が行っていた。さっきまでは気にしてはいなかったが、日向は刀を『艤装だ。』と答えた。艤装を身に纏っていない状態でありながら、刀だけを出すことができるとは、部分展開的な奴なのかと思った。

 

「日向。さっきから気になっていたんだが。」

 

「ん、何だ?」

 

「その腰の刀。艤装なんだよな?」

 

「そうだが?」

 

あたかも当然かの様に日向は答えた。

 

「艤装は特定の装備を身に纏う事ができるのか?」

 

そう俺が訊くと日向は手を顎にやった。

 

「うーん......。こういった艤装を纏ったときに近接戦闘武器が出るのは例外的にいるんだ。だが理由は分からない。」

 

そう言ったのだ。確かに艤装を身に纏った状態で近接武器を持つ艦娘は居る。日向もそうだとしたら姉妹艦の伊勢もそうだろう。そして叢雲や天龍、龍田もそうだ。

 

「そんなものなのか?」

 

「そんなものだ。さて、執務をしに戻ろうか。」

 

そう言って日向は立ち上がった。

 

「そうだな。」

 

俺はそんな日向の横を歩き、執務室に戻って行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

3時ごろに日向が書類を出しに行くと引き換えに大本営から手紙が届いていた様だった。

 

「状況から察するに......あいつ等の処遇についてだろうな。」

 

そう言われて俺は封筒を開けた。

 

『鎮守府よりトラック2両に分けられた兵をこちらに引き取った。そちらで拘束され、裁かれる事なく送られてきた様なのでこちらで軍法会議を開かせてもらった。そちらの証人に西川二等兵を借りたがすまん。結果を先に言うと青木ともう1人以外は降格処分を下した。青木ともう1人は銃殺だ。彼らは巡田の時の様にはいかず、自分らのしでかした事を理解していない。私らは軍法会議の場で艦娘と鎮守府の事を事細かに伝えたが反省の色無しと判断し、一度そちらに向かわせた後、処刑する。』

 

そう書かれていた。それをのぞき込んでいた日向は鼻を鳴らした。

 

「当然だな。」

 

そう言ったのだ。俺はその手紙を仕舞うと机に突っ伏し、ある事を考えだした。巡田の事だ。

巡田は洗脳されていた。だから洗脳を解かれたのち、状況を理解し、罪を償う事を決めていた。誰に謝るわけでもなく泣き、後悔したのち、何をされるか分からない鎮守府に怯えながら来て、頭を下げた。

だが今回の青木らは違う。洗脳なんかされていない。上辺だけの知識で舐めてかかり、痛い目に会ったのにもかかわらず今朝のアレだ。ここに連れてきても巡田の様にはいかない。その場で艦娘の怒りを買い、殺されるのは明白だった。

 

「くそっ......。」

 

俺はそう呟き、天井を仰いだ。

 




予想はされていたと思いますが、刑が決まりました。ですがまだ執行はされてません。この先何が起こるか分かりませんよ?(ゲス顔)

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第七十五話  提督の嘆き⑦

俺は誰かに身体を揺さぶられたので起きた。

俺の身体を揺さぶったのは鈴谷だった。俺は誰が秘書艦になるのかをいつも楽しみにしていたが、今日という日だけは楽しみにしてなかった。

今日は青木と他1名がココに来る。巡田の時から通過儀礼になっている様だが、今回は厄介だ。何せ反省の色を見せてないらしいからだ。

 

「ちぃーっす、提督。」

 

「おはようぐらい言え......おはよう。」

 

俺を揺さぶって起こした。

このタイミングで最悪な引きだ。

昨日の晩、日向と話をしていた時、色々と艦娘同士での話やお互いの評価などを訊いた時、たまたま聞いた名前を俺は忘れてなかったからだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「そう言えば日向。」

 

「ん、何だ?」

 

俺はある事を訊いてみた。

 

「何か厄介事が起こる度にいきなり現れる金剛とか居るだろう?あれって何なんだ?普段の金剛からしたらおかしいと俺は思うんだが。」

 

俺がそう言うと日向はあからさまに顔を引きつらせた。

 

「そ、そうだな......。提督の耳には『近衛艦隊』というのがある事は耳に入っているか?」

 

そう言った日向の言葉に俺は疑問を思った。そんな艦隊を編成した覚えがない。

 

「なんだそれは。」

 

そう訊くと日向は淡々と艦娘の名前を挙げた。

 

「首領:金剛。幹部:加賀、鈴谷、神通、叢雲で構成された非公式艦隊だ。」

 

そう言った日向は少し怖がっている様だった。

 

「その他にも所属している艦娘はいる......。」

 

「その『近衛艦隊』って?」

 

そう訊くと日向は重苦しい雰囲気を出した。こんな日向は見たことが無かった。

 

「非常時にいち早く提督の近くに展開する艦隊だ。......だが、提督に認めてもらっていない非公式の艦隊故に組織的な行動はしていない。あくまで非常時のみに結成される艦隊だ。」

 

そこまで聞けば結構聞こえの良い艦隊だがどうやらまだ続きがあるようだった。

 

「実はだな......ここの艦隊構成員は『提督への執着』が強い者で構成されている。だから提督の敵とみなしたものすべてに露骨に攻撃的になる。提督は金剛がおかしくなるところを見たことがあるだろう?」

 

そう言われて俺の中にある記憶を探し出した。そしてその中に該当する事柄があったのだ。巡田の時、最初のメディアの時、そして昨日の時。巡田の時はすぐには現れなかったが、それ以降はすぐに現れていた。気配も出さずに一瞬だ。

 

「......。」

 

「沈黙は肯定と受け取るぞ。......その『近衛艦隊』が万一『提督への執着』を刺激する様な事象に出くわすと、人格が一変するんだ。そうなってしまうと提督でしか止める事が出来ない。そう私は考えている。」

 

そう言うと日向は一呼吸置いた。

 

「......まぁ、明日のアレで『近衛艦隊』の構成員が秘書艦にならない事を祈ってる。」

 

そう言って日向は寮に戻って行った

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昨夜日向に言われた最悪の事態に今、直面していた。

今日の秘書艦は鈴谷。『近衛艦隊』幹部。メディアの時も昨日の事も、何処からともなく現れていた。

 

「提督ぅー。朝ごはん食べて、早く執務終わらせよー!」

 

そう言って高々と腕を天に突き上げる鈴谷に対し、俺はとてつもない焦燥感に押しつぶされそうになっていた。

この状況をどう打破するか。できれば鎮守府内で2人を殺すのは勘弁してほしかった。俺の精神衛生上宜しくないってのと、そもそも死と身近にかかわりたくなかったからだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝食を摂り終えて、鈴谷は執務の書類を取りに行くと言って事務棟に向かって行った。すぐに帰ってきたが様子がおかしい。

 

「どうした鈴谷。」

 

そう訊くと鈴谷は黙って1枚の紙を見せてきた。

それには青木他1名を連れて鎮守府に寄った後、射撃場に行く。と書かれていた。

 

「提督......それってあいつらがココに来るって事?」

 

そう聞いてきた鈴谷の目に光は無い。あの時の金剛と同じ状態だ。

 

「そうだがすぐに帰るらしいぞ?心配すんなって。」

 

そう言って鈴谷に言い聞かせた。鈴谷は素直に聞いてくれたが、俺は内心とても焦っていた。日向に教えてもらったのは頭と幹部だけ。そのほかにも何人もの艦娘が所属していると言う。

 

「これは......またアレを出すべきだな。」

 

俺は机の引き出しからある紙を出して書き始めた。

其処には『艦娘、艤装を身に纏うべからず。』そう書いた。つまり、『近衛艦隊』所属の艦娘の動きを封じたのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

通りには人だかりができ、その中央をトラックが通っていく。その中には青木ともう1人が座っている。ここに来る理由があるから黙ってきたのだろう、そう思った。

だが、違っていた。この2人が来た理由、それは提督に頭を下げるためだ。

そのために来たのに、2人とも静かなままだ。どうやら反省したみたいだ。

そしてそのトラックは俺から結構離れた距離で停車し、荷台の2人を投げ出した。案外丈夫な物で、打ち身だけで済んだ様だった。

 

「いっつぇぇ......。」

 

そう言って掛けられた手錠をカチャカチャ言わせながら座りなおした。

そして2人そろってこういったのだ。

 

「「私たちの御不敬をお許しください。」」

 

そう言ったがこの言葉には誰しもが気付いた事があった。適当に挨拶をしているのが居たのだ。上の空で、時々艦娘たちを見ている。青木だ。

俺は頭を挙げさせた。

 

「そうですか......。」

 

俺はそう言って歩み出そうとすると鈴谷に停められた。それはあまりにも急で、止めた手の力は強かった。

 

「ダメだよ。それ以上あいつらに近づいたら......。」

 

そう言った鈴谷の目には光が無かった。

 




いやぁ新設定です。詳しいのは以前に投稿した設定資料に追加しておくのでよかったら読んでおいてください。これからの話、出てくるかもしれないので。

それよりも最近、これを書くだけで精いっぱいで艦これをやっている暇が......タスケテ......眠すぎる。

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第七十六話  提督の嘆き⑧

「痛いじゃないか......。」

 

そう言って俺は鈴谷の顔を見る。

 

「あっ......ごめん。」

 

そう言っていつもの調子じゃない様子で鈴谷は謝ってきた。

一方俺と鈴谷の前で手を付いている青木ともう1人は顔を上げていた。

 

「......それで、青木さんでしたか?」

 

「......。」

 

俺が咳払いしてそう言うと頷いた。きっと自分の周囲の空気に押しつぶされているんだろう。

俺はこの時、内心葛藤していた。巡田の様に反省している様子もない、未だに僅かだが反抗的な目をしているこの2人だが、俺は何としても殺したくはなかった。

どうすれば銃殺を避けられるのか。そもそもこの2人は陸軍所属。こちらが勝手にやれないと言うのも現状だった。どうすればいいのか......そればかりが脳内を駆け巡る。

考える時間を稼ぐために俺は全く関係のない話を持ち掛けた。

 

「階級を訊いた事がありませんでしたね。階級はどれくらいでしょうか?」

 

「二等兵だ.......です。」

 

「二等兵......です。」

 

そう答えていく。

 

「所属はどこでしょうか?」

 

「陸軍 第五方面軍第三連隊です。」

 

「同じです。」

 

俺はその間も考えを巡らせた。

 

「リランカ島に占領軍として送られるという事は、工兵ですか?」

 

「いえ......特技兵ではないです。」

 

「自分は工兵です。」

 

青木は一般兵の様だが、もう1人の方は特技兵だった様だ。

 

「......観艦式の中継は見られましたか?」

 

「はい......海を駆ける艦は巨大で、あれに日本が守られていると感じ安心感があった一方、とても悔しかったです。」

 

そう青木は答えた。これが本心なのか定かではない。俺はそう感じ、掘り下げて聞くことにした。

 

「悔しかった......何がですか?」

 

「艦娘の様な存在に守られているという情けなさと、自分が何のために軍に志願したかが分からなくなったからです。」

 

そう言った青木は本当に悔しそうな顔をしていた。

 

「最後に......昨晩はよく寝れましたか?」

 

そう訊くと青木ともう1人は顔を見合わせた後、声を揃えて言った。

 

「「寝れませんでした。」」

 

そう答えたのだ。

 

「寝れなかったと言うと?」

 

「ここから連れて行かれた後、軍法会議に召集されました。その場で自分のしでかした罪状と、その罪の重さを訊きました......。あの時、言っていた『シマ』という言葉の意味、今ではよく分かります。その事を考えてると、寝れなくなりました。」

 

「同じです......。」

 

そう俺が着実に時間を伸ばしていると、鈴谷が誰かを通して話が回ってきた。

 

「提督。」

 

「なんだ?」

 

「お客さん。......私も着いて行くから。」

 

そう言われたので俺は2人に離れるから姿勢は楽にしていていいとだけ言って離れた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

警備棟の応接室に俺は連れて行かれ、中に案内されると中学生か高校生くらいの男が居た。

 

「はっ......初めまして......。」

 

そう言ってカチコチの挨拶をしてきた。

 

「初めまして。何か御用の様で。」

 

俺がそう言うと、その男は驚きの言葉を発した。

 

「僕は青木二等兵の弟です。」

 

そう男が言うと俺は座れと言って座らせ、何故来たかの理由を聴くことにした。

 

「そうですか。それで、どんな御用件ですか?」

 

そう訊くと弟は立ち上がったかと思うと姿勢を正して俺に頭を下げた。

 

「僕の兄がすみませんでしたっ!!凄く悪い事をしたと聞いたので......。」

 

そう言った弟の目には涙が溜まっていた。

 

「昨日、陸軍から通知があったんですよ......。『青木二等兵は上官に対し不敬を働いた。』とか書いてあったのですが、その上官がまさか横須賀鎮守府の提督だなんて思いもしなくて......。」

 

そう言って通知を見せてきた。この世界ではこんな風なんだと思いつつ、それを見ていたが、その紙には『銃殺』の文字が無い。

 

「これだけでしたか?」

 

そう俺が訊くと弟は頷いた。これは知らされてない様子だと言うのは一発で分かった。

 

「そうですか......。」

 

そう俺が言って椅子を座りなおすと、座った弟はまた頭を下げた。

 

「本当に申し訳ございませんでした!軍がこの程度で許すとは思えませんが、どうにか兄の刑を軽くすることは出来ませんか?」

 

そう弟は俺に訊いてきた。それに答えようとすると、横で立っていた鈴谷が口を挟んできた。

 

「刑を軽くするも何も、ここでやった事だよ?それに何やったか教えてあげようか?」

 

そう言った鈴谷に弟は黙って頷いた。

 

「じゃあ言うよ。......君のお兄ちゃんはね、『上官への不敬』『命令違反』で逮捕されたんだ。」

 

そう言った鈴谷の表情は少し怖かった。というより薄気味悪かった。ニヤニヤしていたのだ。

それにうって変わって、弟の方は信じられないとでもいいたいのだろう表情をしている。

 

「そっ......それって、禁固刑ですが?......。」

 

「そうだねぇ......そうだったらいいのかも。」

 

そう言った鈴谷の顔を見て弟は言った。

 

「じゃあ、不名誉除隊とかですか?」

 

「それでもないなぁ......。」

 

そう言うと弟は思いつめたような表情をした。もう思いつく刑が無いのだろう。

 

「銃殺だよ。」

 

そう鈴谷はポツリと言った。だが弟はそれを聞き逃さなかった。

 

「じゅう......さつ......。それって死刑じゃないですか!?何故ですか!?『上官への不敬』と『命令違反』なら重くても不名誉除隊ですよね!?」

 

そう言うと鈴谷は首を振った。

 

「ううん、銃殺刑なの。」

 

「何でっ?!」

 

「提督にやったからね。」

 

そう言うと弟は俺の方を向いた。

 

「そうなんですか?!」

 

「まぁ......そうですね。」

 

そう言って俺は顔を伏せた。

 

「そんな......。なんとか、何とかなりませんか?」

 

そう弟は俺の方を見るが、鈴谷が俺の口が開く前に言った。

 

「何ともならないよ。君は海軍本部の軍法会議のやつは知ってる?」

 

「はい......。見てました。」

 

「そこで、海軍部の偉い人は何て言ってた?」

 

「......。」

 

そう言うと弟は黙ってしまった。もう何もかも察したのだろう。自分の兄がしでかした事を。だが、諦めていない様だった。

 

「ですけど、銃殺は流石に......。」

 

「当たり前だよ。何て言ったって提督の事をね......死刑は当然じゃん?」

 

そう言って鈴谷は腕を組んだ。

 

「こればっかりはダメなんだ......。こうしなきゃダメ。」

 

そう言って鈴谷は部屋の前で待っている門兵に声を掛けて、弟の事を頼んだ様だ。

 

「提督、そろそろ戻ろう。」

 

俺はどうする事も出来ずにただ、弟の視線を背中に感じたまま部屋を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今、非常に不味い事になってます。提督が鈴谷さんに呼ばれてどっかに行ってしまったのをいいことに、どう2人を殺めようかと艦娘たちが段々と血を滾らせているのが見えてます。

横に居る北上さんも例外ではないみたいで、艤装は出せないからどう殺すかをぶつぶつと呟いてる。こんな北上さんを私は見たことが無かった。

 

「北上さん?大丈夫ですか?」

 

「んぁ?......そうねぇ......大丈夫じゃないかも......。」

 

そう言って答えてはくれるけど、視線はずっとあの2人に向いたまま。他の艦娘も同様にそうだった。そんな時、誰かが声を挙げた。

 

「ダメですっ!ここで殺すのはっ!!皆さん、頭を冷やして下さい!」

 

そう叫んでいるのは多分、雪風ちゃんだろう。提督が何ていうのか分かっているかのようだった。ここで殺してはいけない。

私の買被りかもしれないけど、提督はこの2人の銃殺を何とかしようとしてるんじゃないかって思う。だけど声が出ない。皆を止める為に挙げる声が出ない。

皆からあふれ出る憎悪のオーラが私のその行動を阻害している様に感じた。

 

「ここで殺しちゃったら提督は喜ばないっぽい!皆、頭を冷やそうよ!!」

 

今度は夕立ちゃんが言い始めた。あの娘は離れた海域で置き去りにされて1人生き残ったって言われている猛者らしい。他の鎮守府の夕立と違ってすごく大人しく、静かだという印象だ。だが、提督の事を一番に考えているところは同じらしい。

駆逐艦の艦娘が2人も声を挙げたんだ。私だって.......。

 

「ここで殺めてしまってはいけません!そもそもここで殺すのではないのでしょう?!」

 

どうだ、効果はあったか?...................無かったようだ。さっきと変わらない。

さっきので吹っ切れたので、続いて叫んでみた。

 

「もし、そんなことをしてしまったらって考えないんですか!?提督に嫌われてしまうのではないんですか?!」

 

..................効果は絶大だ。どうやら『提督に嫌われる』という言葉がいいブレーキになったみたいだ。皆、にじり寄りつつあった距離を置き、最初に居た場所に戻って行く。

 

「大井っちありがとう。正気に戻れたよ......。」

 

そう言って北上さんがこっちを向いて笑ってくれた。

その後も続々と声が挙がり、結果的に全員が待機位置に戻った。私には『提督への執着』なるものがあまり感じられないそうだが、ここで殺してしまっては提督に嫌われるのは目に見えていた。私自身、提督に嫌われるのは嫌だからって理由で止めたのもあったが、止めて良かったと思える。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と鈴谷が戻ってくると、全員が微動だにせず、ただ青木ら2人を見ている様子だった。どうとも表現し難い情景で少しおかしかったが俺は前に進み、今日も来ていた新瑞に声を掛けた。

 

「新瑞さん。」

 

「何だ?」

 

俺は意を決してその言葉を言った。

 

「この2人の刑を軽くは出来ませんか?」

 

「ほう?」

 

そう言うと鈴谷が咄嗟に俺の袖を掴んだ。

 

「ねぇ、どうして?」

 

そう言った鈴谷の目には少し光が消えかけていた。

 

「ここでは殺されないが、俺に関わった人間が殺されるのは嫌なんだ。それにこの2人はちゃんと教えられてなかった。俺は、的池にも過失があると考える。それに......。」

 

「それに?」

 

新瑞がそう訊き返した。

 

「それに、青木二等兵の弟が直訴に来たんです。兄の刑をどうか軽くしてくれと言って。」

 

そう言うと新瑞は腕を組んだ。

 

「だがどうするのだね?刑を軽くすると言っても元は陸の人間。」

 

「元なんですよね?」

 

「あぁ。」

 

「なら......。」

 

俺はそう言って歩き出すと2人の前に立った。

 

「死ぬのと生きるの、どちらがいいですか?」

 

そう訊くと答えた。

 

「もちろん、生きたいです。」

 

「生きたいです。」

 

そう言ったのを確認すると俺はまた新瑞のところに戻った。

 

「禁固3年。その後は海軍に奉仕する、でいいでしょうか?」

 

そう訊くと新瑞は頭を掻いた。

 

「あぁ、分かったよ。禁固3年。その後海軍に奉仕な。つまり海軍に入るという事か?」

 

「そうです。」

 

俺はそう言ってその場を立ち去ろうとした。だがそれは日向の言っていた例のメンバーに停められた。

 

「何で銃殺を辞めさせたんデスカ?」

 

金剛がそう訊いてくる。

俺はそれに答えたかったが、場所が場所だ。答えれなかった。

 

「ここを離れて話そう。」

 

そう言って俺は歩き出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

集まっていた場所から大分離れ、埠頭の近くまでくると俺は振り向いた。其処には金剛、鈴谷、神通、叢雲の他に十数人の艦娘が来ていた。

 

「古参組は知っているだろうが、俺は別の世界から長門の得た『提督を呼ぶ力』によってここに現れた、そうだろう?」

 

「はい。そうです。」

 

神通は答えた。

 

「俺の居た世界の事を知っているのはどれくらいだ?」

 

そう言うと皆顔を見合わせて首を振った。

 

「なら教えよう。......俺の居た世界では日本は戦争なんかしちゃいない、平和な世界だった。それに日本の治安も良かった。だから俺は今までに人の死やなかんかにかかわってきたことが無い。俺はそんな世界の住人なんだ。」

 

そう俺が話していても誰も口を挟まない。

 

「そんな世界の住人だったからこそ、俺は人を俺の直接の理由で殺されるなんて嫌なんだ。軍法会議が決めたことでも嫌なんだ。だから、変えさせてもらった。納得しろなんて言わない。これが俺のやり方だ。」

 

そう言うと皆黙って頭を下げた。どうやら納得した様だ。

俺は一息つくと、元の集団に戻り、今後の話を新瑞と交わした。

これから2人を刑務所に連れて行き、禁固刑を執行するとのことだった。俺はこれで全て終わったと思っていたが、これではまだ終わらない。俺の心の片隅に残っていた伊勢の懸念があるのだ。

 




いやぁ......まだまだですよ?
続きます。

最近眠気に襲われる時間が早くなってきて困ってます。10時半には確実に眠くなってます。この時間にいつも書いているので、本当にどうしようもないんですよね......。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第七十七話  提督の嘆き⑨

青木らが鎮守府で謝罪した翌日。俺は執務室の窓から埠頭を見ていた。

埠頭には一定間隔で並べられた要塞砲が設置されており、その砲門は海を捉えている。鎮守府正面に現れて、攻撃するなぞ考えたくもないが、保険だ。今後どうなるか分からない。俺が現れた事によって発生しているイレギュラーもどれ程の数があるかも想像がつかないからだ。

 

「要塞砲......確か、妖精が操作すると言っていたな。」

 

俺はそんなことをふと思い出して口ずさむと、丁度工廠の開発班の妖精。白衣の妖精が来ていた。

 

「そうですよ。アレは妖精が操作します。」

 

そう言って白衣の妖精は机の上にある適当な段差に腰を掛けた。

 

「見てくれはアレですが、中は安全装置と発射機以外は完全自動化されてます。自動装填、自動旋回、自動仰角修正をやります。」

 

「そうか。」

 

俺は目線を外さずに答えた。

 

「この前搬入された兵器類は全て設置が終わっており、試運転も終わってます。」

 

そう言って白衣の妖精は言ったが、詰まった。何かを言いかけた様だ。

 

「ですが......どうしてもあの戦闘機だけは使えないんです。」

 

そう言って白衣の妖精は俺の顔を見た。

 

「あの戦闘機って?」

 

「F-15J改とF-2です。アレはとてもじゃないですが、妖精には扱えません。」

 

そう言ってやれやれと言わんばかりのジェスチャーをして見せた。

 

「そうか。だが解析はやれるだろう?」

 

「もちろんです。」

 

そう訊くと白衣の妖精は目を輝かせた。その妖精は持ってきたのであろう書類をめくってそのページを見せた。

 

「ジェットエンジンを解析して、噴進動力機構を開発している最中です。完成できれば既存の陸上機には搭載可能です。」

 

そう言って白衣の妖精は不敵に笑った。

 

「そうか......頼んだ。」

 

俺はそう言って白衣の妖精を見送った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

秘書艦が執務室に入ってきたのは白衣の妖精が帰ってから10分後くらいだった。

 

「おはようございます、提督。」

 

そう言って入ってきたのは榛名だった。

 

「おはよう。じゃあ、朝食に行くか。」

 

「はいっ!」

 

俺は榛名を連れて執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今日は演習で長門や赤城らが出て行っている。朝食後に俺のところに来て、意気込んでいた。その理由は、ウチの鎮守府よりも遥かに司令部レベルの高いところと対戦するからだ。しかもあちらの方が全員練度が高いと来た。ここで低い練度でも負けないというところを見せつけると言って出て行ったのだ。

俺と榛名はそう意気込んで行く6人を見送った後だった。

 

「長門さん......ああいうものの、よく自分らよりも格上の艦隊をボロボロにして来るんですよね......。」

 

そう困った表情をして榛名が言った。

榛名の言う通りなのだが、長門らが出る演習は決まって勝ちを取ってくる。普通に演習をしているだけらしいが、何故勝てるのかは分からない。長門曰く『戦術と私たちの経験だ。』らしいが、全くもって意味が判らない。あちらさんだってそれなりに経験をして挑んできているというのにだ。

 

「そうだよな......榛名はここの艦娘が少なかった時代の事を誰かに聞いているか?」

 

そう訊くと榛名は首を横に振った。

 

「そうか......。海域の解放。それこそ鎮守府正面海域の頃から長門は居たんだ。あの頃は今と違って大型艦はあまりおらず、居たのは赤城と霧島くらい......。他は軽巡や駆逐艦ばかりだったんだ。そのころから長門には世話になっている。たぶんそこから来ているんだろうな......経験というものは。」

 

そう言って俺は執務のペンを止めた。

 

「そうなんですか......というか霧島がそんな早くからここに居たのに驚きです。」

 

「霧島は高速戦艦という事で、損傷が出る様な海域で霧島旗艦の高速艦で集めた艦隊で進軍させていたな......。難関である沖ノ島も霧島旗艦の時に突破したんだ。」

 

「霧島って......実はかなりこの鎮守府に貢献しているんでしょうか?」

 

「そりゃな......。初期を支えた最古参の一角だ。」

 

そう言って俺は肘をたてて顎を置いた。

 

「ウチの古参組は濃いが、本当に頼りになる。レベリングだってそうだ。」

 

そう言って俺は頭を掻いて姿勢を戻した。

 

「取りあえず執務に戻ろう。」

 

そう言った刹那だった。鎮守府内に警報が鳴り響いた。俺が訊いた事もない音......ではない。よく映画である様な空襲警報のようなサイレンだった。

そう思った矢先、榛名は血相を変えて俺の手を掴んだ。

 

「空襲ですっ!!......海域を突破してきたようですね、早く避難をっ!」

 

そう言って俺は走らされた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は今、地下にある施設の艦隊司令部に居る。

ディスプレイが所狭しと並び、それを妖精たちが操作をしていた。何とも言えない光景に俺は視線をずらし、俺の肩に乗っている妖精に話しかけた。

 

「状況は?」

 

「はい。先日搬入したSPYレーダーがかなり前に敵影を感知しました。ですので、警報をならせていただきました。」

 

そう言った。

俺はここでこの前搬入した兵器が役立つ時だと思い立ち、指示を出す。

 

「要塞砲、装填開始。」

 

「装填開始します。」

 

俺はまず要塞砲に指示を出した。

 

「対空・対艦噴進砲、起動。目標、敵艦隊。」

 

「目標敵艦隊。」

 

「標的を捉え次第発射。CIWS起動、対空警戒を厳となせ。」

 

「了解しました。」

 

俺は着実に指令を出した。

 

「艦娘は艤装を身に纏った状態でシェルターに退避だ。全員入り次第、隔壁を封鎖だ。」

 

「了解。」

 

そして最後まで指示を出すと、少し体勢を崩した。

 

「まさかな......。」

 

俺は溜息を吐いた。

その瞬間、地面が揺れた。

 

「対空・対艦戦闘開始しましたっ!噴進砲発射っ!!」

 

この前搬入されたミサイル群が飛翔する。それはモニターに映っていて、分かるのだが、様子がおかしい。

 

「......対空・対艦噴進砲、目標を捉えていませんっ!雲の上に出ますっ!」

 

カメラが最大限まで捉えられるところまで中継されたが、最後は映らなかった。

 

「どういうことだっ!」

 

そう言うと、丁度閉鎖を終えて報告に来た武下が言った。

 

「これらは全て、レーダーや人工衛星と接続して使うものです。鎮守府に搬入されたのはどうやらレーダーと同期して使うものだったみたいですね......。」

 

そう言ったのだ。

 

「なら、CIWSも......。」

 

「いやあれは本体にレーダーが内蔵されているので、鎮守府上空に敵機が入ってきたら自動で迎撃してくれるでしょう。」

 

俺はそれを聞いて安心したが、それでも搬入されたCIWSは40基。どれ程の艦載機に襲われるか分からないが、多分大丈夫だろうと俺は考えた。

 

「要塞砲が敵艦隊を補足しましたっ!砲撃開始っ!」

 

そう妖精が言うと、再び地面が揺れ始めた。どうやら要塞砲の砲撃による衝撃波の様だ。

 

「敵艦隊、砲撃開始。目標、鎮守府地上設備及び、防衛火器っ!!」

 

俺はその時モニターを見ていた。遥か遠くに居る深海棲艦が光、刹那、要塞砲の衝撃よりもさらに大きな衝撃で身体がよろめいた。

その時、無線が入った。

 

『提督っ!ココには出撃用のドッグがあるんですよねっ?!私たちを出してくださいっ!』

 

そう叫んでいるのは伊勢ら、戦艦の艦娘と、高雄ら重巡の艦娘たちだ。そしてその後ろには瑞鶴ら空母の艦娘も居る。全員艤装を身に纏った状態で訴えていた。

 

「こんな砲撃戦の最中、出て行ったら撃つ間もなく損傷を受けるぞっ?!それに空母は既に戦場と化している海で何ができると言うのだっ!!」

 

俺が訴えると瑞鶴は叫んだ。

 

『この鎮守府の近くの沿岸に住んでいる住民を救助するわっ!』

 

そう叫ぶ瑞鶴の後ろで蒼龍と飛龍、飛鷹と隼鷹、祥鳳と瑞鳳、鳳翔が頷いていた。

 

「護衛を付けていけっ!それとこっちに戻らずに近くの港に入って住民を下したのち、護衛とともにその海域を死守せよっ!!」

 

『護衛はこっちで勝手に決めていってもいいよね。』

 

「もちろんだ。」

 

そう俺が答えると無線が切られた。

 

「出撃ドッグ解放します。」

 

俺と艦娘との会話を訊いていた妖精が出撃ドッグを開くと言った。

 

「順次、出撃させます。伊勢、日向、扶桑、山城、金剛、比叡、榛名、霧島が出撃します。」

 

そう言うと何かのゲートが開いたのだろう、そのあたりが妙に騒がしくなり、鎮守府を映すモニターに伊勢と日向、続々と戦艦が出て行った。

 

「次、高雄らが出撃します。」

 

霧島が出てすぐ、高雄、愛宕、摩耶、鳥海、最上、鈴谷、熊野、妙高、那智、足柄、羽黒が出て行った。

 

「次、瑞鶴ら出撃します。」

 

羽黒が出て行ったあと、瑞鶴、蒼龍、飛龍、飛鷹、隼鷹、祥鳳、瑞鳳、鳳翔が出て行った。

 

「次、護衛艦が出撃します。」

 

鳳翔が出てると、川内、神通、那珂、五十鈴、夕張、吹雪、白雪、白露、時雨、村雨、夕立が出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

戦闘が始まって数十分。どうやら伊勢ら迎撃に向かった艦娘と奇襲を仕掛けてきた深海棲艦らが接敵した様だ。鎮守府への砲撃が止み、静寂が訪れた。

 

「被害は......。」

 

俺がそう訊くとあちこちから被害状況の報告が入る。

 

「鎮守府本部、半壊。」

 

「警備棟、全壊。」

 

「酒保、軽微。」

 

「その他設備、損傷大。」

 

そして最後に入った報告が一番酷かった。

 

「滑走路、崩壊。格納庫が炎上中!」

 

俺はその報告を訊き、格納庫が写されているモニターに目をやった。

そこでは確かに火災が発生している。格納庫を覆い包む大きさの炎だ。

 

「提督......あの中にあった陸上機は全て......。」

 

「焼けただろうな......。」

 

俺は一気に脱力した。

陸上機は艦娘たちが保有する艦載機よりも遥かに多い数があり、生産にもかなり資材が使われた。一式戦闘機 隼が400機。四式戦闘機 疾風が400機。富嶽 爆撃型が500機。偵察型が5機、輸送型10機が全て焼失。かなりの痛手で、鎮守府の戦闘能力を殆ど持っていかれた。

 

「.......クソッ!」

 

俺は無気力に壁を殴った。ジンジンと痛む拳を抑えながら俺はモニターに映る、深海棲艦の艦隊を睨んだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

演習が終わり、鎮守府に帰る最中、私の電探に反応が出た。

明らかに鎮守府正面海域で海戦が起きている。激しい砲撃戦だ。

 

「何が起きているんだっ!......取りあえず、赤城に偵察機を出して貰おう......。」

 

私は赤城に偵察機を出すように頼むと赤城はすぐに偵察機を出してくれた。

 

『鎮守府で何が起きているかは分かりませんが、絶対良く無い事です。戦闘警戒をしましょう。』

 

そう言って無線を切られた。

私は唯、遥か彼方に続く水面を見つめて思う事があった。

 

「提督......。大丈夫だろう?」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は空母と護衛艦を連れて砲撃戦の最中を突っ切り、鎮守府横の漁港に来ていた。私たちは近隣住民を艤装に乗せて避難させることを提督に頼み、それを任された。

 

「避難する方は兵の指示に従って乗って下さいっ!!」

 

私はメガホンを構えてそう叫ぶ。

何とか入り込めるギリギリまで行き、そこからは連絡艇に乗って指揮を執っていた。

 

「私たちは横須賀鎮守府の艦娘ですっ!!提督の指示を仰ぎ、救助任務を受けていますっ!!速やかに乗艦して下さい!!」

 

私は絶え間なくそう叫んでいる。漁港には国民らが大切なものを抱えて不安そうな表情をしながら並んでいる。そんな中、ある人が叫んだ。

 

「一体どうなっているんだ!!着実に海域を奪回しているんじゃなかったのか!!」

 

「本土近海にまで入り込まれてしまっては海域も本当に取り返したのか怪しいぞ!!」

 

こうなる事は予想はしていたが、本当に言われるとは思わなかった。

 

「今回は想定してなかった深海棲艦の奇襲ですっ!!それも沸いたように現れましたので、仕方ないんです!!それに地上被害は鎮守府だけですっ!!!」

 

そう叫ぶと分かってくれたのか、静かになった。

 

「瑞鶴さん。もうすぐ乗艦完了です。」

 

そう私のところに報告に来たのは連れてきた門兵だ。

 

「ありがとう、門兵さん。次の港に行きましょ!!」

 

私は連絡艇を艤装の近くに停めさせてすぐに艤装に乗り込み、次の港を目指した。

もう結構港を回り、結構な数の人を乗せている。艤装に搭載している艦載機は全部甲板に出し、載せられないのは全て卸してきた。他は全部上空警戒をしている。

 

「瑞鶴さん。もう瑞鶴さんの艤装には乗りませんよ......。」

 

そう報告を受け、私は悩む。他のところはどうなのか、不意に無線を手に取り他に状況を聴いた。

 

「瑞鶴より艦隊。まだ人は乗りそう?」

 

『蒼龍、まだ乗りそうです。』

 

『飛龍、まだ乗りそう。』

 

『飛鷹、もう無理よ。』

 

『隼鷹、甲板のを発艦させればまだ乗りそう。』

 

『祥鳳、無理です。』

 

『瑞鳳、無理そうです。』

 

正規空母は流石大きいから乗るようだが、軽空母は限界か。そう私は思い、一度決心した。

 

「瑞鶴より艦隊。まだ乗りそうな蒼龍さんと飛龍さんはまだ行ってない港に行ってください。無理な私たちは一度、安全な港に行きます。」

 

そう決断を下し、救出艦隊は私の独断で2分することになった。

 




伊勢の予感的中。鎮守府直接攻撃です。
深海棲艦の目的はまだ不明ですが、一体どうなるのやら......。

最近毎日出せなくてすみません......。リアルが忙しすぎて笑えますwww
今日明日は早く、帰りも遅かったので結構疲れてますが、頑張ります!(二週間休みが無いんですよね......)

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第七十八話  提督の嘆き⑩

「最大戦速で突っ込む!我に続け!!」

 

私は無線で艦隊にそう叫んだ。

戦艦と重巡で構成された迎撃艦隊。航空支援も絶望的なこの状況で、危機的状況を打破するにはこうするしかない。頭の中ではその事だけしか考えてなかった。

敵艦隊がどんな編成で、どれだけいるかも知らされてない現状、突撃は死を意味しているが、しなければ鎮守府が何より提督が危険だ。今はシェルターに守られているが、シェルターもいつまで持つか分からない。

それに空母の艦娘が近隣住民の救出を申し出た。私にとってこの皆の行動は異常だ。鎮守府が攻撃されていると言うのに、提督の心配でなく、外の心配をしたのだ。何故だ。

そんな考えが頭の中を巡り、荒らす。

 

「敵艦隊見ゆ!」

 

視界に映る深海棲艦の艦隊。距離的にはそうだろうと薄々感づいていたが、やはりそうだった。戦艦と重巡主軸の水上打撃部隊。しかも数は12。厄介だ。

 

「砲撃戦用意っ!」

 

私の指示で妖精たちが慌ただしく動き始める。給弾、残弾確認、配置確認......。

 

「ここで食い止めるっ!」

 

私は火ぶたを斬りおとし、終わるか分からない戦闘に突入した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「皆......行ったな。」

 

俺はモニターを見ながらそう呟いた。そして自分の非力さを呪った。

艦娘たちの戦闘をこんな近くで感じる事が無かったが、今こうして出撃していった。鎮守府を守るためだ。

モニターには迎撃に出た伊勢と救助に向かった瑞鶴らの艤装がもう点になって見える。この鎮守府に残っているのは北上と大井、それとレベリング待ちの駆逐艦らと古鷹、加古、青葉、衣笠だけだった。

秘書艦も出撃してしまった。

 

「無事に戻って来いよ......。」

 

俺は唯祈る事だけしかできなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は任務、遠征艦隊として資源の運搬を普段しているが、今日の海の雰囲気に違和感を覚えていた。

いつもの静かな海じゃない。直感でそう感じたのだ。

 

『天龍ちゃん?』

 

「あぁ、わりぃ。」

 

僚艦である龍田に心配をかけてしまった。取りあえず、資源は回収してバーナーも手に入った。これで万年枯渇していた資材も少しはマシになるだろう。

一方でお供の第七駆逐隊の艦娘たちは元気な様だ。さっきからずっと無線で会話をしている。その内容は至って普通だ。昨日のご飯は美味しかった、酒保で何を見つけた、今日は提督に会えるか、とても楽しそうだ。

だが俺はとてつもない不安に心が蝕まれていた。

 

「......全艦。」

 

俺がそう呟くと皆は静かになり耳を傾ける。

 

「全艦、持っている資材を破棄しろ。」

 

『えっ......どういう事?』

 

『天龍さん、一体どういうことですか?』

 

『何かあったんですか?』

 

『......。』

 

『......。』

 

皆驚き、質問を飛ばしてくる。

だが2人は違った。曙と潮だ。

 

『了解。資材を投棄します。』

 

『分かりました。』

 

曙と潮の艤装からドラム缶やコンテナが海に投げ出されていく。

 

『一体どういう事。天龍ちゃん。』

 

龍田がそう訪ねてくる。

 

「嫌な予感がする......。最大戦速で鎮守府に向かう!会う深海棲艦は無視だっ!!!」

 

俺は妖精にエンジンを最大まで出力を上げてもらい、鎮守府を目指す。一刻も早くたどり着くためだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が地下に潜ってから3時間以上経った。相変わらずどこの艦隊も戻ってこないが、今の状況が分からない。

 

「状況は。」

 

「依然変わりません。」

 

こちらも手詰まりだ。それに艦砲射撃でSPYレーダーが破壊された様だった。レーダーも使えない。もうこの鎮守府に残されたのはCIWSのみ。伊勢らが撃滅して戻ってくるのを祈るしかなかった。その刹那、CIWSが動き始める。

 

「敵艦載機急降下!」

 

そう妖精が言ったときにはもう遅かった。

半壊していた本部が吹き飛んだ。

 

「敵艦載機群接近!」

 

そう叫びモニターには空を黒く染める艦載機がこちらに向かってきていた。それに応戦するCIWSも発射速度が速いので時間が経てば弾が切れる。次第に動かなくなるCIWSを数え始めるとキリがない。その間もどんどん爆撃は続き、被害のなかったものにまで出始めていた、そんな矢先、無線が入った。

 

『司令官!対空射撃くらいなら出来るわ!』

 

その声は暁だった。そして無線と同期されているモニターには残っていた艦娘全員が映っていた。

 

『陸上で艤装を展開すれば砲台くらいになるさ。』

 

そう響がすまし顔で言った。

 

『大丈夫よ!実は避難中に私たちは対空機銃に換装してあるから!』

 

『大丈夫なのです!』

 

そう雷、電も言った。

 

『心配ないです!』

 

『鎮守府をこれだけ痛めつけられていて黙ってなんてられないわ!』

 

『駆逐艦の底力見せてやろー!!』

 

そうバックで叫ぶ駆逐艦の艦娘。

 

『だから心配しなくていいわ。陸上で艤装を出すなら轟沈の心配もないしね......。司令官、見ててよね!!』

 

そう言って俺の返事を聴く間もなく無線は切られた。

 

「くっ......駆逐艦の艦娘まで......。」

 

俺は机を殴った。

 

「提督っ......。」

 

横に立つ武下も悔しそうな表情をしている。

 

「私たちにはできる事がありません。せめて、せめて無事に帰ってきてくれることを......。」

 

そう武下は言った。

そうしているとモニターに駆逐艦の艦娘たちが映り、運動場に均等に並んだかと思うと、それぞれの身体が光だし、その場に艤装が現れた。そしてそのモニターが丁度音声を拾っていた。

 

『駆逐艦の咆哮よ!!思い知れーーーー!!!』

 

そう叫ぶ暁の声を拾っていた。そしてその掛け声と同時にそれぞれの艤装から火が上がり、対空射撃が始まった。合計何十、何百という対空機銃が火を噴き、上空の深海棲艦の艦載機に襲い掛かる。

そんな様子を見て、視線を下にずらした。運動場の土にそれぞれの艤装が刺さっている。というか喫水線にまで土に埋まり、それが何十とあった。

 

「......。」

 

俺はその光景をただ茫然と見ていただけだった。

そして駆逐艦の艦娘たちを映していたモニターが映らなくなった。どうやらカメラに被弾したのだろう。

次々と消えていくモニターを茫然と見つめていた。爆撃が激しさを増し、駆逐艦の艦娘が身を挺して防空しているにも関わらず、爆撃を許しているという事は、相当な数に襲われているのだろう。俺はこんな風に冷静に分析をしている一方、この状況は実は夢なんじゃないかと思い始めていた。きっと悪い夢だ。そう考える事で現実から逃げ始めていた。

 

「俺は本当にどうすればいいんだ?」

 

そんな考えが頭の中を駆け巡った。

 

「俺には何ができるんだ......!?」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

その頃、島陰に隠れていた黒い塊が動き出した。護衛は駆逐艦のみ。一際大きな艦影を海面に漂わせ、艦橋に立つグレーの髪を揺らす少女は口元を歪ます事無く、腕を挙げた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は葛藤していた。

皆が死と隣り合わせで戦っている。俺はそんな中、何もできずにただ安全なところに居るだけ。皆に守られ、皆に助けられ......。情けない。

 

「俺にやれることは......。」

 

そう言って辺りを見渡す。そしてそれを目に捉えた。

 

「全艦娘に繋げてくれ。」

 

俺はそう言って手に取る。そして口に寄せ、開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦え......戦えっ!!!!戦えっ!!!!!!戦えぇぇぇぇぇえええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

届いたか分からない、俺の叫び。俺がしてやれる精一杯の事だ。それはただ戦う艦娘に戦えと言う事。鎮守府が攻められたから、何か守りたいものがあるのかもしれない。そんな艦娘たちに戦う『意味』を俺は増やした。もしかしたら鎮守府は全壊して、再建不可能に陥るかもしれない。守りたいものを守れないかもしれない。そんな不安定な理由に俺は強固な戦う『意味』を増やした。少なからず『提督への執着』のある艦娘たちに提督である俺が叫ぶ『戦え』という言葉は大きな意味を持つだろう。

これを聴いた人は頭がおかしくなったのかと勘違いするかもしれないが、聴いた艦娘は意味が理解できる筈だ。そう信じたい。

 

「ハァハァ......。」

 

叫んだ俺はマイクを置き、息を整える。その刹那、頭上で爆発音。衝撃波が伝わり、視界が暗くなった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

一際揺れる地面に違和感を覚えつつも対空射撃をしていた私は合間に辺りを見渡した。何となくだが、嫌な予感がする。

 

「妖精さん、継続して対空射撃をお願いします!」

 

そう言って艦橋の窓に走り寄り、辺りを見渡す。さっきまでなかった大穴を私は発見した。場所は.......

 

______________________________

 

 

____________________

 

 

__________シェルターの直上

 

 

 

 

「あっ.......あぁぁぁぁぁぁ。」

 

私は思考が停止してしまった。これは何かの間違い、悪い夢のような気がする。

そんな私を心配したのかこの状況をまだ確認していない荒潮が無線を入れてきた。

 

『どうしたの?』

 

「あぁぁぁぁ......あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

叫びながら引っ叩く私の頬はジンジンと痛む。これは現実だ。

 

「あぁぁぁぁぁ.......荒潮っ......荒潮っ!!!」

 

『何っ......よっ......えっ?』

 

荒潮も状況に気が付いた様だ。陥没する地面を見つめているのが艦橋越しでも見える。次第に私の視界はぼやけ、頬を涙が伝う。

 

「あそこは......あそこにはっ!!司令官がっ!!!!司令官がああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

そして私は視線をずらし、妖精に言った。

 

「対空砲火、増強です。早くっ!!!!」

 

そう言うと妖精は慌てて動き出し、走って行ってしまった。

 

「朝潮より防空艦隊......。対空射撃に集中しながら聞いて下さい。......先ほどシェルターの直上の地面が陥没しました......。状況は分かりませんが、あの陥没です......。一刻も早く艦載機を殲滅し、救援を呼びましょう......。」

 

私はそこから上空を見上げ、睨んだ。

 

「攻め入った事、後悔させます......。」

 

殺意が込み上げてきて、もう止めれそうにない。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

目の前が真っ暗になったのに気づき、たまたまポケットに入れていた携帯端末のライトの機能を使って辺りを照らした。

辺りは天井が崩れた様だが、機器に全て乗り、九死に一生を得た状態だった。だがここも危険だ。俺は辺りに居る筈の武下を探した。妖精はさっきから足元をちょろちょろしているが、どうやら出口の確保をして居る様だった。

 

「武下大尉!」

 

叫ぶと返事が聞こえる。俺は其処に走り寄ると、頭から血を流した武下を見つけた。ぐったりした様子で持たれている。

 

「大丈夫ですか?!」

 

「大丈夫ですよ。破片で切っただけですので......。」

 

そう言って武下はハンカチを持っていたのか、それで傷口を抑え、姿勢を低くした。

 

「妖精たちが出口の確保をしています。ちなみに妖精は全員健在で、私の部下は救出に出た艦隊に乗り込ませていますのでここに居る人間は私と提督だけですからね。」

 

そう言って武下は笑った。

 

「そうですか......そう言えば、間宮と伊良湖は?」

 

「どうやら救出艦隊、瑞鶴さんに着いて行ったようです。食料を運ぶ設計ですが、人も多分運べますよ。」

 

そう言って武下は滲んだハンカチを裏返し、また傷口にあてた。

 

「すぐに出口は開きます。外に出ましょう。」

 

そう言われて俺は武下の横に腰を下ろした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は不安に押しつぶされそうになりながらも、鎮守府を目指して全速を出していた。艦隊もそうだ。艦隊には私、陸奥、扶桑、山城の低速艦が居るので、かなり機関室に無理をさせている。しかも普段の最大戦速では出せないだろう速度を出している。

 

「赤城っ!」

 

私は無線にそう叫び、今の状況を訊いた。

 

『先ほど、偵察機が帰ってきました......。鎮守府は現在......深海棲艦の爆撃を受けている模様です。』

 

それを訊いた瞬間、私の身体に電流が走った。

朝は何ともなかったかのように思えた鎮守府で今現在、深海棲艦から爆撃を受けているとの事。次第に視界が揺らぎ始め、同時にふつふつと何かが立ってきた。

 

「ここから零戦隊を出せないか!?」

 

『もう出してます!それと偵察機に周辺海域の捜索を頼みました。時期に襲っている艦隊が見つかると思います。良かったです......たまたま装填はしてませんでしたが、実弾が格納庫にあったので。』

 

そう赤城が言う。

 

『......戦艦の私たちは、演習弾しか積んでないわ。行っても役に立つとは思えないわ。』

 

扶桑がそんな消え入りそうな声で言った。

 

『それに私たちの艤装には演習弾で被弾した時のペンキがべっとりと付いてる......海域に入っても目立つだけよ。』

 

山城が続けて言った。

 

「そうだな......だが、何もせずに指を咥えて見ているなど、できるものか!?」

 

そう言って私は近くに居た妖精に訊く。

 

「実弾は弾薬庫に入っているか?!」

 

そう訊くと妖精は頷いた。

 

「私のには実弾が載っている。私だけでも吶喊する!」

 

そう宣言すると、陸奥も無線で答えた。

 

『あら、長門。私のにも実弾が載ってたわ。私も加勢させていただこうかしら?』

 

私はふふっと笑い、息を呑み、口を開いた。

 

「赤城、加賀。私には直援は要らん。鎮守府上空の防空に全て回せ!」

 

『分かりました。』

 

『了解です。』

 

頬を叩き、顔を上げる。そして居るであろう深海棲艦の方向を睨んだ。

 

「扶桑、山城はどうするんだ?」

 

そう訊くと、一応無線は入っている様だが応答を考えている様だった。そしてすぐに答えが返ってくる。

 

『......戦列には加わるわ。』

 

「なにっ?!」

 

演習弾しか積んでいないと言った扶桑がそう言いだした。

 

『でもあくまで戦艦の数で圧倒するだけよ。砲撃はするけど効果のない演習弾。それだけで威嚇にはなるはず......。』

 

そう言って扶桑は妖精に指示を出していた。

 

『私は姉様に着いて行きます。』

 

どうやら山城も参加する様だ。

 

「赤城と加賀は丸裸になるがいいか?」

 

『えぇ。』

 

『大丈夫よ。』

 

2人も返事をくれた。

 

「では、目視出来次第突撃する!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

妖精たちが出口の確保をし始めて1時間ほど経った。その頃には出口が出来、人が這い出る程度の穴が開けられていた。

妖精たちが安全を確認すると言って聞かなかったので、先に行かせたがどうやら安全だった様だ。俺と武下はすぐに呼ばれて、這い出る。だが、出るまでに時間が掛かる。這って5分ほど進むと、光が差し込み視界が開ける。

急に光を見たので見えなかったが、次第に視界が鮮明になっていくのと同時に現状を把握する事が出来た。

崩れた本部棟。跡形もない工廠。辛うじて部分部分残っている酒保。警備棟に関しては更地になっている。そしてその先にある滑走路は未だに黒煙を吐き出して燃えている。何より目に入るのは、シェルターがグラウンドの真下で、その周りを囲む駆逐艦の艤装。どれもあちこち拉げていて、炎上しているものもあった。そして俺が這い出てきたところ、そこは大きく陥没し、その穴を茫然と見つめる駆逐艦の艦娘の姿があった。全員煤を被り、痣だらけ。服は破け、ボロボロになっている。そしてその表情も絶望、ただそれだけだった。

俺はそんな光景に言葉を発することもできず、辺りの状況を見ているだけだった。

 

「司令官......。」

 

そう誰かが呟いた。

 

「勝ちましたよ......。敵機は全部撃ち落としました。総勢200超。これって大戦果ですよね......。」

 

呟いていたのは朝潮だった。

 

「私たち、経験のない駆逐艦がここまでやれたんですっ......。なのにっ............。」

 

朝潮は地面の砂を握った。小さな手は砂を掴み、力を込める。

 

「なのにっ......あんまりですよ......。せっかく............せっかく、司令官に居てもらえるようになったのにっ!!」

 

大粒の涙が地面に降っていた。

 

「こんなのっ......こんなのっ......。あんまりですよ......。司令官。」

 

そう呟いた声で俺は我に返り、歩みを進めた。

朝潮の周りは朝潮と同じようになってしまっている艦娘が居る。数を数えると全員居る様だ。良かった。

 

「司令官っ......。」

 

「なんだ?」

 

俺は朝潮の声に答えた。

 

「司令官?」

 

「そうだが?」

 

そう言うと朝潮は地面を見つめていた顔を上げてこちらを向く。いつもの顔で無く、年相応というか、身体から見た年齢相応の泣き顔。目を腫らし、鼻を染め、口はへの字になっている。皆そうだ。

 

「司令官っ!!!」

 

そう叫ぶと全員が飛びあがり、俺のところに駆け寄ってくる。

 

「のわぁ!!いきなり飛びつかないでくれ......。」

 

「司令官、司令官、司令官......大丈夫だったんですね!!」

 

「あぁ。奇跡的に。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

この後、演習艦隊や伊勢が率いた迎撃艦隊、瑞鶴が率いた救出艦隊、遠征艦隊が続々と帰還してきた。演習艦隊と遠征艦隊は機関に無茶をさせた様でオーバーヒート寸前だったらしいが、間に合ったとの事。迎撃艦隊はどうやら交戦中に敵の背後から長門らが吶喊してきたのを気に一気に押し込み、殲滅したらしい。瑞鶴ら救出艦隊は爆撃が飛び交う最中を近くの港を転々と周り、深海棲艦の攻撃にさらされた人は1人も居なかったとか。護衛艦が身を挺して守り抜き、全員送り届けた頃には鎮守府上空の敵機は居なくなっていたとの事。遠征艦隊は異変に気付いたそれぞれの旗艦、天龍、球磨、名取が資源を投棄して全速力で戻ってきた様だった。

 

「皆......。」

 

俺は瓦礫に座っている。そんな俺の正面に全員が並んでいた。

 

「助かったよ......。それと想定外の事態が連鎖して起きた今回の襲撃は俺の采配ミスだ。」

 

全員が俺の方を見ている。

 

「......長門。」

 

「なんだ......。」

 

俺はある仮説を考えていた。それはこの世界で起きたこれまでの出来事。それを裏付ける話。

 

「俺を......俺を呼び出して、良かったと感じてるか?」

 

「えっ......?」

 

長門は俺の不意な言葉に困惑している。

 

「長門や他にも話した事があるかもしれないが、俺の居た世界の話をしよう。」

 

俺はそう言って服のフォックを外した。

 

「俺の居た世界では......この世界は『艦隊これくしょん』というフィクション、つまり作り話だ。」

 

「そして俺の座る席。それは『艦隊これくしょん』に置いてのプレイヤー、つまり遊ぶ人だ。」

 

「この世界は俺の居た世界では『遊び』だった。」

 

「長門の様な艤装を身に纏った女の子たちを指揮して深海棲艦と戦い、海を解放していく育成型ゲーム。」

 

「プログラムだったんだ。君たち艦娘はカードとなり、編成し、海域に出撃させ、損傷すれば入渠させ、足りなくなれば建造をする。そんなプログラム。」

 

「元は俺は軍艦とかが好きだったってのもあって興味を惹かれた。そして始めたんだ。」

 

そう言って俺は一息ついた。周りは黙って聞いている。

 

「新米少佐から初めて、初期艦は吹雪だったな。」

 

「そこから仲間が増えて......ある日突然目の前が真っ白になった。」

 

「そこから気が付いたらこの世界だ。大淀に連れられ、長門たちと出会い、ここでの生活を始めた。」

 

「最初はここから離れる事も出来たんだ。俺の意思で。だがそれをしなかった。」

 

「何の力でこのような事が起こり、そして今後どのように俺の居た世界に影響を与えるのか......。それがここに留まった最初の理由だ。」

 

「どうだ......元は俺は艦娘の事を考えて残ったわけじゃない。自分の世界を、自分を心配して残った。それにほんの少しの好奇心。」

 

「..................でも今回ので分かったよ。『俺たち』は無責任に他の世界で戦争を強いてきた。」

 

「自らは全く安全な世界に居て、艦娘たちは自らの身を投げ打って深海棲艦と戦う。そんな事をだ。」

 

「だけどそれはこちらに留まる事を決めてからも変わらない。本土が深海棲艦に攻撃されるという脅威はあるものの、艦娘に守られ、艦娘に世話になり、艦娘に戦争を強いた。」

 

俺は込みあげてくるものを必死に抑えた。

 

「話を戻そうか......。俺はそんな中、ある事に気付いた。」

 

俺が言いかけると全員が息を飲む。

 

「......気付いているんじゃないか?長門。」

 

そう俺が訊くと長門は黙って頷いた。

 

「夕立の帰還......雷電改の開発......存在するはずのない富嶽の開発......隼、疾風の開発......鎮守府に滑走路を建設......。そして、深海棲艦に見られたという戦術パターンの変化......今日の深海棲艦の本土攻撃......。何時から始まった?」

 

長門は答えない。俯いたままだ。

 

「それは........................

 

_________________________________________________

 

______________________________

 

 

__________

 

 

 

 

 

 

俺がこの世界に来てからだ。

 

 

 

 

 

_________________________________________________

 

______________________________

 

 

__________

 

 

...........................。」

 

 

「俺がこの世界に来てから起きたことだ。これまでイレギュラーが起きてきたが、全ての元凶は俺だ。夕立が帰ってこれたのも、あるはずのない航空機が出来たのも、滑走路が出来たのも、深海棲艦の戦術が変化したのも.......鎮守府が襲われたのもだ。」

 

そう言って俺は腰に手を掛ける。

 

「数多とある鎮守府は、今日も俺の居た世界から来る指示で進撃し、海域を取り戻しつつあるんだろう?」

 

そう言って俺は立ち上がる。

 

「俺が入り込んだせいで起きたバグだ......。いつかは消される。」

 

俺は腰のものを引き抜いた。

 

「ダメっ!!ダメ、ダメデース!!何考えてるデスカ!?」

 

金剛が俺の手に握られているものを奪いに来る。

 

「良いのかっ!?俺が現れたせいでいろんな事象が変わっているっ!!またいつ起こるか分からないイレギュラーに俺はどう対応すればいいんだっ!!!それにこの世界はたとえゲームの中だとしても生きてる人がいるっ!そんな数えきれない人たちを俺の存在一つと天秤に掛けられるかっ!!!!」

 

「それでも、提督は私たちに必要デス......。帰ってくる場所、帰りを待つ人、そこの提督が居る事が必要なのデス......。」

 

「そりゃ自己中じゃないか......?」

 

「勿論。」

 

そう言われて俺は腕を下す。その手に握られている物を金剛は奪った。

 

「強引じゃないか?」

 

「これくらいで丁度いいデス。こんなモノ、そもそも要りマセン。私たちが居るからネー。」

 

そう言って金剛はポイッと後ろに投げた。

 

「何が起きようと、私たちは提督に着いて行きマス。」

 

「どう変化しようと、私たちは提督から離れマセン。」

 

「帰る場所を失っても帰りを待ってくれる人がいるならば、私たちは戦場に出マス。」

 

「そしてちゃんと帰ってきますカラ......。」

 

そう言った金剛の言葉に俺は決心がついた。

もう迷わない。もう悩まない。この世界から出れないと言うのなら、もがいて生きて行こうと。

 

「......分かった。」

 

俺はそう言ってフォックを締めた。

 

「全員注目っ!!!」

 

そう叫ぶ。

 

「俺たちの家を荒らした馬鹿野郎に仕返しだっ!!!!!」

 

「「「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」

 

そう叫んで返事を返したのは艦娘たち、門兵、鎮守府に務めて救援艦隊の手伝いに着いて行った事務棟の人たち。

 

「だがその前に再建だな。というか腹減った......。」

 

そう俺は腕を下して言うと、全員が滑っていた。この昭和ノリ、俺は嫌いじゃない。

俺は前に突き進むと決めた瞬間だった。

目に映るは壊れた鎮守府、燃え上がる滑走路、ボコボコになった地面。そして笑う艦娘や門兵、鎮守府に務める人たちだった。

 




ちょくちょく書いてましたが、ここまでかかるとは.......。それと、これからが本編な気もしなくもないです、はい。
あちこち視点移動してますが、その都度、誰視点かは一応分かるようにしているので。



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お気に入り登録者1000人突破記念回を予定しております。かなりメタかったり、いつもの書き方でなくなる可能性があります。乞うご期待!!


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第七十九話  鎮守府復興

 

「だがその前に再建だな。というか腹減った......。」

 

そう言って俺は瓦礫に腰掛ける。

辺りを見渡すと、皆笑いあっているが今何もない状態だということを分かっているのだろうか。

 

「取りあえず、大本営に連絡入れないとな。」

 

俺はそう言って武下の方に向かうと、頭に包帯を巻いた武下は笑っていた。

 

「武下大尉。至急、大本営に連絡を。」

 

そう言うと武下は笑いながら言った。

 

「あー、必要ないですよ。」

 

「どうしてです?」

 

「救出艦隊について行ったウチの部下が、避難誘導中に電話を使って連絡を入れたそうです。もうじき来るんじゃないでしょうか?」

 

「何がっ!?」

 

武下はそう言って海の方を眺めた。

すると赤城や加賀らが艦載機を発艦させ始めた。そして長門や金剛らは全員、海を睨んでいる。

何かが来たようだ。

 

「未確認艦が接近中っ!」

 

そう赤城が叫ぶ。

 

続いて艦載機からの連絡が入った様だ。それの報告も赤城が言う。

 

「未確認艦は......揚陸艦『天照』ですっ!」

 

俺は動揺した。こんなタイミングで来たのかと。そしてこの状態の鎮守府を空けてリランカ島に向かえということなのかと考えた。

 

『的池です!上陸許可をっ!』

 

マイクで言っているのだろうか、ここからでも聴こえた。

 

「的池のみ許可する。って言っても、聞こえないのか。」

 

「自分が行きますっ!」

 

そう言って西川が走って行ってしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「急にすみません。」

 

的池はこの前来た時の様に現れた。

 

「いえ。それでどういった御用件でしょうか?ちなみに今、リランカ島への護衛任務は出来ませんよ?」

 

そう言うと的池は首を横に振った。

 

「そうではありません。今回は任務でここに来たんですから。」

 

そう言って的池は俺に紙を手渡した。

 

「揚陸艦『天照』は食料、毛布、テント、簡易トイレ、簡易風呂、発電機を積み、至急横須賀鎮守府に向かわれたし。  発 大本営総督......成る程。」

 

そう俺が読み上げると的池は俺に言った。

 

「これから支援物資の荷下ろしを許可して下さい。と言ってもトラックを下すだけですが。」

 

そう言って的池は頬を掻いた。

 

「分かりました。但し、こちらの門兵が下ろします。よろしいですね?」

 

「はい。」

 

俺は的池に門兵数人を連れて戻ってもらい、紙を再び眺めた。

わざわざ揚陸艦に載せなくても、陸路を使えばすぐだっただろうに。そう考えてしまった。だが海を使った理由があるはずだ。それはすぐに俺も、周りも理解することになる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

横須賀鎮守府の周囲を囲む塀。その要所には門兵が交代で使う詰所がある。そこは被害を受けずに残っていたので、門兵たちがそこに保管してある装備を取りに行き、警備を再開し始めた矢先だった。

俺と長門、赤城、妖精代表、武下で今後どうするかと検討をしている時だった。門兵の1人が走ってきたのだ。

 

「提督っ!」

 

そう言って走ってきた門兵はズレたヘルメットの位置を治すと話し始めた。

 

「鎮守府正門に自治体が集まって、デモが起きてます!!」

 

俺は血の気が冷めるような思いをした。これまで鎮守府に押し掛けるのはメディアばかりだったのに、今回は自治体だと言うのだ。いいようによっては、排除される可能性もあるからだ。

 

「すぐに行くっ!!」

 

俺は検討中の話し合いを投げ出して、正門に走った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

『深海棲艦との戦争は海でやれ!国民の傍でするんじゃない!!』

 

『国民を巻き込む気かぁー!!』

 

演説車をどっかから借りてきたんだろう。スピーカーから抗議の言葉が飛んできていた。正門では盾を構えた門兵が並び、壁を作っている。それを押すかのように自治体の議会の人なのだろう、叫んでいる。

 

「戦争は外でやれー!」

 

「これ以上、国民を不安にさせるなー!」

 

俺は冷や汗が出た。

これは非常に不味い状況だ。こんな時、もしも『近衛艦隊』の構成員が近くに居たら......。そう考えた時にはもう遅かった。

空にはエンジン音が轟き、それに気づいて見上げると零戦52型が飛んでいる。マーキングを確認した。赤城と加賀だ。加賀は近衛艦隊の構成員。しかも幹部だ。

非常に不味い。

俺は息を整えて門兵の壁の後ろに立った。

 

「私は、横須賀鎮守府艦隊司令部司令官です!!」

 

声を張り上げ、自治体を黙らせた。

 

「率直に言いましょう。我々は深海棲艦の奇襲を受けました!目的は鎮守府内にあった飛行場の破壊!それが成し遂げられた今、深海棲艦は居ません!」

 

「それがどうしたってんだよ!」

 

俺の声に反発した声が聞こえる。

 

「なので安心して下さい!」

 

俺はこれを言って不味いと直感で感じた。説得力が足りないのだ。

 

「安心できるか!!今回あったら次があるかもしれないだろう!?」

 

最もな抗議が飛んできた。

 

「その時は近づかせる前に排除するまでですっ!」

 

「気付かなかったらどうするんだ!」

 

少しイラッとしたが表情に出さないように我慢しながら応える。

 

「気付かなかったらまた鎮守府が焼かれるだけです!」

 

「それに国民が巻き込まれるかもしれないだろう!」

 

頑固だと内心思いつつ、返答を考える。が、背後に寒気がしている。もう俺の直感が最悪な事を伝えていた。

 

「ヘーイ、皆さん。どうしたデスカ?」

 

金剛が来た。また俺の真後ろまで来ていた様だが、さっきまで全然気づかなかった。

 

「おい!今回のこと、どういうことか説明しろ!」

 

そう1人が叫んだ。

 

「ン―、そうですネー。今回の鎮守府奇襲攻撃は私たちも対策は取ってマシタネ。鎮守府に使える兵器をできるだけ持ち込んで、私たちも出撃しまシタ。だけど、爆撃を許してしまったんデス。」

 

「哨戒は出ていなかったのか!?」

 

「出てましたヨ?」

 

金剛はそう答える。

 

「なら何故近づかれた!」

 

それは俺が答えた。

 

「レーダーには艦隊、艦載機群は捉えて迎撃は早期に始まってました。ですが、鎮守府にあったものでは接近されるまで撃ち落とせなかったんです。」

 

「何故だっ!ミサイルとかあるだろう!?」

 

「ありました!ありましたけど、使えなかったんです。」

 

そう言うと叫んでいる1人が門兵の壁にぶつかってきた。

 

「ミサイルがあれば近づかれる事無く全部落とせただろうが!」

 

「不調で艦載機を捉えられなかったんです。」

 

そう言うと壁にぶつかってきた人が門兵の盾を殴った。

 

「じゃあ何で、何でここまで接近させた!?」

 

「ミサイルが使えない我々は迎撃には戦闘機が出る筈でしたが、出撃命令を出すころには飛行場は燃え、戦闘機も破壊されていたんです。ですから、対空機銃で落とす必要があったんです。」

 

「だから近づけたのか!?」

 

そう言って盾をバンバンと叩く。

 

「そうです。」

 

そう俺が答えると金剛がその人に近づいて行った。そして周りに聞こえるように大きい声を出した。

 

「貴方たちは、その時何をやっていたんですカ?」

 

そう訪ねた。いきなりそんな事を聞いて、意味が判らなかったが次第にその意味が判っていった。

 

「港に空母の艦隊が来ていて、安全なところまで護衛付きで運ぶっていうもんだからそれに乗ってたさ。」

 

「フーン。」

 

金剛はそう言って俺の方を向いた。

 

「この人たちを鎮守府に入れまショウ。今の状態を見てもらいマス。」

 

「どういうことだ?」

 

そう俺が訊くと金剛は手配を始めていた。

 

「門兵さん。この人たちから数人でグループを作って案内して下サイ。勿論、グループ毎に門兵さんが監視をつけて下サイ。」

 

「分かりました。金剛さん。」

 

そう言って金剛は俺の横に来た。

 

「皆さんには、鎮守府をご案内しマース。突然意味が判らないと思いますガ、まぁ貴方たちが非難する鎮守府がどういうものか、見てもらいマス。」

 

そう言って金剛は空を見上げた。

 

「赤城と加賀の零戦が哨戒に出マス。念のためですヨ?」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はあるグループに着いて行っていた。門兵の盾を殴り、俺に色々抗議していた人が居るグループだ。

そのグループの自治体の人はさっきから口を塞いでいる。何故かというと、通るところ燃えさかり、地面は抉れ、墜落した深海棲艦の艦載機が転がっているからだ。そして埠頭に来て要塞砲を見た。要塞砲は砲の辺りを砲撃を喰らってボコボコになっていたり、爆弾の直撃でターレットごと飛んでいるのを歩きながら見た。さらに全壊した本部棟、酒保、警備棟、事務棟を見て、最後に艦娘や事務棟の人が集まっている広場を通って運動場に出てきた。運動場には対空射撃をしていた駆逐艦の艤装が地面に刺さり、炎上し、艤装が囲んでいる中心は陥没していた。

その光景には誰もが言葉を失っていた。

 

「......何でこんなところに船がっ。」

 

そう誰かが呟いたのを聴いていた金剛は返事をした。

 

「ここの真下には空襲を受けた時の為に、海上自衛隊時代に作られた地下施設があったんデス。そこに提督たちは居マシタ。地上にあった対空機銃が使えなくなった時、地下に避難していた駆逐艦の艦娘が自ら防空すると言ってここに自分の艤装を出したんデス。そうですヨネ、提督?」

 

「あぁ。」

 

そう言って金剛は艤装を眺め、火が鎮火されていた艤装に触った。

 

「これは......朝潮デスネ。」

 

そう言って艦の側面に周った。

 

「朝潮なら......居マシタ。」

 

そういって金剛はタラップを上がり、朝潮を連れてきた。

グループに居た自治体の人は驚愕した。年端もいかない少女がいたからだ。

 

「どうしたんですか、金剛さん?」

 

「イエ、少し話したくなりましてネ。......損傷具合はどうですカ?」

 

「大破です。幸い艦橋に攻撃は当たりませんでしたが。」

 

そう話していると盾を殴っていた人がぼそりと言った。

 

「少女じゃないか......。」

 

それを金剛は聞き逃さなかった。

 

「ハイ。少女ですヨ?」

 

「ということは、この辺にある壊れている船には全員......。」

 

「朝潮くらいの女の子が居マス。」

 

そう言うとグループはざわざわし始めた。

 

「軍法会議の時も思ったけど......。」

 

「これはどうなんだ?」

 

そう言っている。

 

「それにこんなに密集して、あの陥没しているところを守っていた様に見えるが、どういうことだ?」

 

そう盾を殴っていた人が言うと朝潮が話し出した。

 

「あそこは地下施設の司令部、提督が居たんですよ。最も、今は潰れてますが。」

 

「こんな幼い少女に戦わせて、司令官は地下に逃げていたのか......。」

 

そう誰かが言った瞬間、金剛は嘲笑うかのように言った。

 

「こんな幼い少女が戦っている間、貴方たちは何やっていたんデスカ?空母で安全な港に送って貰ったんデスカ?」

 

「うぐっ......だがこんな少女に戦わせて、良くないとは思わないのか?!」

 

それを訊くと金剛はどこから出したのか、資材消費に関する書類を俺に出した。そこには鉄と鋼材、弾薬、油がそれぞれ300ずつ書かれている。

 

「提督、これにサインしてくだサイ。」

 

俺は少し戸惑って、何の真似か聞いた。

 

「どういうことだ?」

 

「彼らは少女に戦わせるなら自分らで戦闘艦を作って深海棲艦と戦うそうデース。資材がないだろうと思いまして、少し分けてあげようカト。」

 

そう言うと盾を殴っていた人は声を挙げた。

 

「まて!どういうことだ!俺はそんな事、一言も言ってないぞ!」

 

それを訊いた金剛は振り向いた。

 

「朝潮たちに戦わせないということはそう言うことデース。かつての海上自衛隊の様に、戦ってきてくだサイ。」

 

「そんな......絶対死ぬじゃないか。」

 

盾を殴っていた人がそう言った。

 

「じゃあどうしますカ?」

 

「とにかく、こんな少女を戦わせるのはモラル的にだな......。」

 

俺はここまで我慢してきたがもう限界だった。

 

「そうか......ならここに居る自治会の人はここに残り、鎮守府復興後の海域哨戒に出て貰います。朝潮たちの代わりに。」

 

そう言うと盾を殴っていた人が驚き、抗議しだした。

 

「どうしてだ!」

 

「朝潮たちを戦わせない為です。貴方たちが朝潮たちで空く穴を埋めるのでしょう?これから大本営に海上自衛隊時代の護衛艦の設計図を送るように頼みますから、作られた護衛艦に乗り、出撃して下さい。」

 

そう俺が言ったのを訊いた金剛は追撃を仕掛けた。

 

「どこの海域にしましょうカ?」

 

「沖ノ島にするか。あぁでもあそこなら最高でも重巡でだから......護衛艦1隻で行ってもらうか。重巡の艦娘も少女だし。というか、艦娘全員に言えるが全員少女だ。」

 

俺はそう言って背中を向けた。

 

「待て、意味が判らんぞ!俺らを護衛艦に乗せて出すだと!?」

 

「そうですけど?」

 

そう言って俺は振り返った。

 

「そもそも貴方たちがここに来て抗議するのも御門違いです。攻撃が始めるまでに近隣住民の避難の為に艦娘たちは率先して救出艦隊を結成しましたし、ある艦隊では自殺覚悟で敵中に突っ込むことを考えていた艦娘もいます。何もかも、この鎮守府の為。そしてその後ろにある住宅街や商店街、スーパー.......そこで生活している国民の為だったんです。そしてこのシステムを作ったのは大本営ですから。」

 

俺はそう言ってため息を吐くと、続けた。

 

「大本営が決めたということは、陛下がお決めになった事。どうぞ、抗議して下さい。」

 

そう言って俺は艦娘や事務棟の職員が集まる広場に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

あの後、鎮守府の中を見て回った自治体の人たちは出て行った。抗議しても自分らが助けられたことには変わりないし、鎮守府以外には被害が無い。ボロボロになってまで戦い続けた艦娘の艤装を見たからだろう。

それからは抗議にくる団体は居なかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

鎮守府が襲われてから3日が経った。俺は建物を見上げていた。

 

「早すぎるだろう......。」

 

俺が見ていたのは本部棟だ。妖精たちが建造しなおすと言って襲われたその日の夜から作業を初めて、今日完成したそうだ。他のところでも抉れた地面は元通りになり、全部の建物は出来上がっていた。滑走路も元通りになった。

 

「そうですかね?」

 

俺の肩に乗っている白衣の妖精はそう言った。

 

「普通何か月とかかるだろうが。」

 

「これでも掛かった方ですよ?」

 

俺はそれを訊くともう反論することを辞めた。妖精たちは巨大な戦艦を4時間で作ったり、富嶽を途切れることなく作り続ける様な集団だったのだ。

 

「そうか......。じゃあ、通常に戻るか。」

 

そう言って俺は新しくたった工廠に白衣の妖精を送ると、執務室に向かった。

 

 




題名がオチに行ってしまった!?
ということで、今回は少し読み辛いかもしれません。すみません。

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第八十話  勉強会

新しく出来た執務室で俺は書類処理に追われていた。被害報告書に自治体への対応に関する書類、消費資材の計算。

 

「陸上機はそもそも設計図がなかったから......妖精が開発していたジェットエンジンだけか。」

 

俺は工廠の白衣の妖精に聞いて、現状作れる装備を確認したところ、大体のものが作れた。だが備考に書かれていた『噴進動力機構の設計図は焼失』ということなので別に新たなジェット戦闘機のサンプルを請求する書類が届いていた。

 

「これは頼めるだろうか.......。」

 

俺は不安になりつつ大本営宛てにこちらで調達できないもののリストに加えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が全部の書類を書き終え、背伸びをしていると秘書艦の飛龍が話しかけてきた。

 

「今日の執務は多かったようですが......。」

 

「そうだな。復興後だし仕方ない。」

 

俺はそう言って背を戻し、頬杖をついた。

 

「それにSPYレーダーを失った今、高性能電探の代わりになるものを探さないといけない。」

 

そう言うと飛龍は袖から紙を出した。

 

「その事なんですが、じんこうえいせい?というのが使えるのではないかと門兵さんが言ってましたよ?」

 

俺はそれを聞くなり机を叩いた。

 

「それだっ!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は飛龍の言った人工衛星を使うことを念頭に入れ、正門の前に来た。すっかり元に戻った鎮守府を見て回り、行き着いた先がここだった。

 

「お疲れ様ですっ!」

 

門兵が俺に向かって敬礼をする。俺はお辞儀をして返すと、門の前に立った。

 

「......メディアと自治体。いいイメージは俺たちに持たないだろうな。」

 

俺は3日前の事を思い出していた。

襲撃の騒ぎにどういうことか問いただす彼らに俺は事の顛末を説明したが、結局は妖精から伝わった現代兵器が正常に動いている事を聞いただけだった。妖精たち......艦娘にはミサイルの事を噴進砲の様なものだと説明していたのが仇となったのだ。

目標を追いかける機能がある事を説明していなかった。

だがCIWSは起動し、防空に従事した。これはきっと設置するだけで良かった事を知っていたからだろう。そしてSPYレーダーもレーダーと付いてくるから電探みたいなものだと言う事は理解できていたんだろう。

完璧に慢心だった。

 

「結局は八つ当たりだったのか?」

 

俺はあの時の対応を思い返していた。

 

「もうあんな風になるのは嫌だ。」

 

言い争い、頭に血が上った。最後には論点がズレたのは俺は反省していた。

 

「......。」

 

俺は正門に背中を向けると、執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は執務室に戻ると飛龍を連れて滑走路に来ていた。理由は勿論、隼と疾風、富嶽の生産だ。数の検討をするためである。そのために白衣の妖精も連れてきていた。

 

「格納庫は何時でも拡張可能ですが、わざわざ見に来る必要があったんですか?」

 

俺の肩に乗る白衣の妖精はそう言った。

 

「ある。それに相談もあるんだ......。」

 

そう言って俺は格納庫に入った。

格納庫はかなり広く、何も置かれていない。中では妖精たちが黒板を使って何かをしている様だった。俺はそれをマジマジと眺めた。

 

「迎撃、しかも爆撃機への戦法か......。」

 

俺は黒板に書かれた図を見て一発でそれが迎撃戦の方法を示している事が一発で分かった。

 

「提督......分かるんですか!?」

 

そう訊いてきた飛龍に俺は頷いて答えた。

 

「左から『正面攻撃法』『一撃離脱法』『ジグザグ攻撃法』。最後のは本当にそう言っていたか分からないけどな。」

 

そう言って俺は黒板を使って説明している妖精に話しかけた。

 

「ちょっといいか。」

 

「これは提督、どうされました?」

 

「この講習、今更やってどうするんだ?」

 

そう訊くと妖精は答えた。

 

「今まで我々は対戦闘機戦闘を想定した訓練を積んできました。ですが、先の戦闘で爆撃機の迎撃が我々の主任務なのではないかと感じ、こうして迎撃戦闘を想定した戦法を教えています。」

 

そう答えた妖精に俺は満足した。もし意味もなく教えていたのなら、少し考え物だったからだ。

 

「......そういえば提督、何故あの図を見ただけで分かったんですか?」

 

そう妖精が訊いてきた。

 

「そうだな......。俺がこの世界に呼び出される前、俺の居た世界で俺は疾風や隼が登場するゲームをやっていたんだ。」

 

「ゲームですか......。」

 

「そうだ。と言っても唯のゲームじゃない。航空機の特性を反映させたゲームだ。だから他の国のに比べて零戦は良く回るし良く燃える。」

 

そう言って俺はある事を思い出した。

 

「白衣の。」

 

「何でしょうか?」

 

「雷電改、アレは元は何だ?」

 

「雷電三二型です。」

 

「着艦フックが付いてるだけか?」

 

「はい。」

 

俺はすぐに飛龍の方を向いた。

 

「飛龍。」

 

「はいっ!なんでしょうか?」

 

「雷電改の運用法を教えてくれないか?」

 

そう訊くと飛龍は考え出した。そしてすぐに答えが出た様だ。

 

「そうですねー。零戦隊に混じって出してますね。」

 

俺は深い溜息を吐いてしまった。

 

「他の使い方をしている艦娘は居るか?」

 

そう訊くと俺は大体誰が答えるだろうな、というのを想像して聞いた。そしたら見事、ビンゴ。

 

「鳳翔さんと隼鷹さんですね。」

 

「運用法は?」

 

「零戦隊とは分けて、発艦してからすぐに上空に出しますね。」

 

俺はまた深い溜息を吐いた。

 

「あの......どういうことでしょうか?」

 

そう訊かれたので俺は答えた。

 

「雷電は零戦と違って旋回戦が得意じゃないんだ。どちらかと言うと一撃離脱戦闘を得意とする戦闘機。雷電改を出していて、妙に雷電改の被撃墜数が多いと思ったことはないか?」

 

「言われてみれば......多いですね。」

 

そう答えた飛龍に対して俺は一言だけ言った。

 

「至急、雷電改の運用方法説明会を開く。」

 

そう言って俺は滑走路に来た本当の用を忘れて執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は執務室でホワイトボードを引っ張り出していた。

理由は明白。空母の艦娘たちに正しい雷電改の運用法を教えるためだ。そして飛龍に頼んで、空母の艦娘全員を集めてもらった。

 

「あのー、どういった御用件でしょうか?」

 

そう訊いてきた赤城に俺は答えた。

 

「勉強会だ。」

 

そう言うと隼鷹は立ち上がった。

 

「えぇ!勉強会とか、嫌だぁー!」

 

そう言った隼鷹を座らせ、俺は説明を始める。

 

「んじゃあ、始めるにあたって先ず質問するから。......雷電改を艦載機使うのはどれくらいいる?」

 

そう訊くと全員が手を挙げた。

 

「そうか。......さっき発覚したんだが加賀。」

 

「はい。」

 

「加賀の雷電改の運用法を教えてくれないか?」

 

そう言うと俺は加賀にペンを渡した。ホワイトボードに書けと言う意味だ。

それを受け取った加賀は立ち上がり、ホワイトボードに箇条書きをした。『・戦闘機なので零戦隊と交える。・制空戦に参加させる。』そう書いて俺にペンを返してきた。

 

「やりました。」

 

そう言ってドヤ顔で座る加賀の箇条書きに俺は赤いペンでバツをうった。流石にこれには驚いたのか大半の空母の艦娘たちは驚いている。

 

「違うし......。じゃあ次の質問。この中で、雷電改......雷電についての性能やらを資料室で調べた者は?」

 

そう訊くとやはり鳳翔と隼鷹が手を挙げた。

 

「手を挙げなかった他のは、どうして調べなかった?はい、瑞鶴。」

 

そういって俺は瑞鶴に調べなかった理由を説明させた。

 

「えぇと......戦闘機な訳だから、空対空戦闘をするんでしょ?」

 

そう言った瑞鶴に重ねて質問をした。

 

「それはどういう意味でだ?制空戦闘機としてか、要撃機としてか。」

 

「制空戦闘機としてだけど......。」

 

そう言った瑞鶴に俺はある紙を渡した。

 

「これは?」

 

「それは雷電改の基本性能を書き留めたものだ。他にも配布するから後ろに回せ。」

 

そう言って最前列に座る艦娘に手渡した。

そしてそれを見た艦娘たちは驚きの声を挙げている。ちなみに鳳翔はそれを眺めた後すぐに机に置いてこっちを見ている。隼鷹は見る間もなくホワイトボードのを見て何かを思い出しては笑っていた。

 

「いいか?雷電改は制空戦闘機じゃない。要撃機だ。加賀たちに分かりやすい言葉で言うと局地戦闘機。持っている上昇力と速力を生かしてはるか上空に上がり、敵の頭をド突く。そんな戦闘機だ。」

 

そう言って俺は隼鷹を呼んだ。

 

「隼鷹。」

 

「ん?何だい?」

 

こっちに来た隼鷹に俺はペンを渡した。

 

「零戦と雷電改での動きの違いについて説明、よろしく。」

 

そう俺は言って離れると、隼鷹はホワイトボードに線を書いたりしだした。そしてそれが終わると皆の方を向いた。

 

「じゃあ説明するよ。零戦隊は基本的にこうやって敵と接敵させるだろう?だけど雷電改は違う。雷電改はこうやって接敵させるんだ。」

 

そう言って隼鷹は零戦と書いた丸は真横に線を引いて、雷電改と書いた丸は山なりに線を描いた。

 

「雷電改は上空から敵を見下ろした状態から急降下か緩降下で敵の頭を取って潰すんだ。敵編隊を抜けたら頭を上に向けて急上昇。降下によって得たエネルギーをそのまま上昇するエネルギーに変換するんだ。」

 

そう言って線を付け加えた。

 

「これを一撃離脱法っていうんだ。提督、あってる?」

 

「あってるぞー。」

 

何やら満足したのか隼鷹は俺にペンを渡して自分の席に戻って行った。

 

「さっき隼鷹が説明した通りだ。正しい雷電改でする戦闘はこれだ。旋回戦は出来なくはないが、零戦みたく回らない。おすすめはしないよ。」

 

そう言って俺は書かれた文字やらを消して『一撃離脱法』とでっかく書くとホワイトボードを叩いた。

 

「これを使えば、制空戦が有利になるどころか、艦隊にまで侵入する爆撃機・雷撃機をこれまで以上に減らすことができる!今後はこの戦法を使ってくれ。」

 

そう言って俺は解散を伝えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

日が傾きつつある時間。俺は執務室から外を眺めていた。さっき俺のところに空母の艦娘全員が訓練願を出してきた。理由は明白だ。

 

「うわっ......3機小隊で急降下とか。」

 

全員が雷電改での一撃離脱法の習得をするということだった。さっき小隊で急降下させていたのは瑞鶴の雷電改だろう。随分と無茶な事をしている。

俺はそれを眺めつつ、外に足を延ばした。近くで見る為だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夕食の時間になると艦娘たちはテレビそっちのけで何やら話をしている様だった。俺の横で食べる飛龍がその理由を『これまでの戦術の見直しをしている。』とだけ言って黙々とご飯を食べるので俺は不思議に思っていた。

そして何故か駆逐艦の集まりで夕立と時雨が囲まれているのが目についた。俺が見ているのに気が付いたのか、夕立と時雨は俺に助けを求めたが仲間の為だと言って助けはしなかった。最終的には諦めた様で、あとでみんなで資料室に行くと言っていた。

 




今回は鎮守府復興一発目だと言うのに、余り関係のない内容でした。話が少しずつ逸れたんです。すみません。
雷電改が今まで正しい使い方で無かったというのに驚きでしょうが、仕方ないです。ちゃんと調べなかった人たちが悪いんですから......。

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第八十一話  たからもの

私が演習で鎮守府を離れている間に空襲された。私は空襲後の鎮守府を見て回ったが、どの建物も全壊していて目も当てられない様な様子だった。そして運動場の真ん中にポッカリと空いた大穴を見て、取り乱したのを覚えている。私も古参組でその存在を知らなかった訳では無い。運動場の下には、嘗て鎮守府を使っていた海上自衛隊が作った地下シェルターがある。そしてそこに着くまでに見た景色。本部棟が崩れていたのを鑑みれば、この地下シェルターに提督が居たのは考えなくても分かる事だった。

私は取り乱し、その大穴を覗き込んで涙目になっていた時、心配していた提督が私の後ろから話しかけてきたのだ。

 

『どうしたんだ、赤城。』

 

そう私に言ったのは今でも覚えている。こんなに陥没しているんだ、絶対生きて等居られないと思っていたのに、心配していた提督は生きていたのだ。

感極まり提督の前で泣いてしまったのは恥ずかしかった。

だが、私は今、浮かれている。何故なら、提督がいつか私との約束で外に連れて行ってくれると言ったのだ。それにあたって、私は着て行く服を考えていた。だが箪笥を開けると、ある事を思い出した。鎮守府が空襲された際、艦娘寮も焼け落ちたのだ。酒保で買った私服ももうない。

 

「......これは、慢心でしょうか。」

 

そう思い私は今から服を買いに酒保に走るのだった。通りかかった加賀さんを連れて。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はボケーっと空を見上げていた。何故そんなことをしているかというと、理由は唯一つ。赤城を待っているのだ。

今日は欲しいものがあるので外に行くのだが、赤城の願いの事を思い出して誘っておいたのだ。赤城は着いて行くと言って張り切っていたが、俺はある事を思い出していた。先日の深海棲艦による奇襲で鎮守府施設は全部焼け落ちたのだ。艦娘寮も例外ではない。きっと赤城は誘った昨日、大慌てで準備したのだと思うと少し申し訳ない気持ちになっていた。

ちなみに今いるところは正門じゃない普段はトラックが入ってくる門だ。何故こんなところなのかというと俺の数十m離れたところで小銃を持つ門兵であった。あの門兵は西川だ。昨日の夜、ダメ元で西川に今日の配置を訊いてみたところここだった。なので赤城が出て行くのを見逃してほしいと頼み込んできたのだ。そうしたら西川は条件付きで秘密にすると言ってくれた。

 

『黙っておきますが、赤城さんにいつもの格好をさせないで下さいね?私服です。赤城さんは黒髪ですので、それくらいなら怪しまれないと思いますから。』

 

と。だから誘う時も赤城には私服でと伝えてあった。

 

「お待たせしました。」

 

突然話しかけられ、そっちを見ると赤城が居た。厳密に言えば、ここに来るのは赤城だけだから赤城だと分かったようなものだが。

何時もの袴とミニスカの格好ではなく、その辺を行き交う20代の女性の様な感じだ。上手く表現できないが、そんな感じだ。

 

「あっ、提督。今、失礼な事考えませんでした?これでも一応、酒保で雑誌を買って見てるんですからね。」

 

「考えてないぞ。んじゃ、行くか。」

 

そう言って俺は赤城を連れて歩き出した。

 

「提督。」

 

そう言って俺は門の前で呼び止められ、西川の方を向いた。

 

「......はい。これならバレないですね。......赤城さん、もう一般人の女性ですね。艦娘って言われても信じられませんよ。」

 

「あ、ありがとうございますっ。」

 

そう言って赤城は俺の後ろに隠れてしまった。

 

「じゃあ、頼んだ。鎮守府で俺が消えたとか騒ぎになったら『門兵のコスプレして門の前に立ってる』とか適当に言っておいてくれ。門の前を探しだしても数時間はかかる。」

 

「はははっ、了解しました。」

 

そう言って俺は西川に見送られて鎮守府を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺も一応、私服で出てきたが普段からあの軍装をしていたので日の高いうちにこの格好で出歩くのはとても新鮮だった。肩パット入ってないだけでこんなに違うとは......。

そう考えつつ俺と赤城は繁華街に来てウィンドウショッピングをしていた。さっきから赤城が食べ物に目移りしているのはかなり面白い光景だが、足を止める事はしなかった。だが、俺と赤城が足を止めなくても周りは足を止める。理由は明白だ。

私服姿の赤城。すっごい美人なのだ。通る男たち皆足を止める。見てて笑える光景だが俺は笑えない。何故なら『なんだあの男。美人な娘連れて......。』的な視線が痛い。

とか考えてると赤城がある店で足を止めた。

 

「ん?どした。」

 

そう言って赤城が見ているものを俺も見た。

それは檻に入れられた子犬だった。きゃんきゃん鳴いて、赤城が足を止めて見ているとそちらに走り寄り、ガラスに足を掛けている。

 

「可愛いですね......。」

 

「そうだな......。」

 

そう言って俺と赤城は子犬を眺め。満足すると再び歩き始める。

すると、赤城が話し始めた。

 

「ありがとうございます。」

 

「何が?」

 

「連れ出して下さって。......皆に黙って出てきたんですよね?」

 

「そうだな。西川二等兵は知ってるけどな。」

 

そう言って肩を並べて歩く。

 

「外ってこんなんだったんですね。」

 

そう言って赤城は繁華街を流し見て言った。

 

「あぁ。」

 

「ご飯を食べるお店や、服のお店、装飾品のお店、大きなお店......。私たちが知らない世界......。」

 

そう言って赤城は寂しそうに呟いた。

 

「そして、私たちに与えられなかった世界......。」

 

俺は黙って聞いた。

 

「行き交う人たちは皆、幸せそうで楽しそうですね。」

 

「そうだな。」

 

そう俺は返事をすると、赤城は続けた。

 

「皆さんは海の事を知ってるんですよね?」

 

そう言うと赤城はさらに寂しそうな表情をした。

 

「私たちもああやって、生きて行きたいです。」

 

そう言って赤城はふぅと言ってある建物を指差した。

 

「......あれ行きましょう!」

 

そう言って赤城が指差したのはゲームセンターだった。赤城は俺の手を取り、ぐいぐいと引っ張る。

ゲームセンターの後も服屋やスイーツの店、本屋、百貨店を回り楽しんだ。その間、赤城が戦いを忘れたかのような今までに見たこともない笑みを見せてくれた。

そして帰る時、両手に荷物を下げることになるだろうと思って気合入れてきたが赤城は食べ物は買って食べていたが、何も物は買わなかった。何も言わずに歩いているとどうやら、同室の加賀への配慮だそうだ。私服も燃えてしまったから新しく買い、途中でトイレに入って着替えたらしい。それも事務棟の近くのだ。

満足そうに歩く赤城の横を歩く俺は声を掛けた。

 

「何も物は買わなかったみたいだが、良かったのか?」

 

そう訊くと赤城はニコッと笑った。

 

「えぇ。買ってしまってもどうしようもないと思いまして。」

 

そう言った赤城に俺はあるものを手渡した。

 

「これは?」

 

そう訊く赤城に封を開ける様言った。

封を開けた赤城は驚いた様だった。俺があげたのは小さい懐中時計だった。

 

「わぁ......ありがとうございます!......ですが、良かったんですか?」

 

そう訊いてきた赤城に俺は答えた。

 

「何も買わないのは見ていたからな。百貨店で赤城が貴金属のコーナーでケースに入ったものをまじまじと見てる間にな。」

 

そう言って俺は照れ臭くなってそっぽ向いた。

 

「それなら持ってても何ら不思議じゃないだろう?」

 

そう言って俺は歩く速度を速めた。

 

「そうですね......。」

 

俺と赤城は歩いて時に鎮守府の話、時に仲間の話をしながら帰った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は夜中、相部屋の加賀さんが寝たのを確認すると起きて月を眺めていた。

今日、提督に連れられて鎮守府近くの繁華街を訪れた時のことを思い出していた。率直にとても面白かった。色々な店を見て回って、美味しいものを食べた。本屋に入った時は良さそうな本を見つけたけど、買って行ったらバレてしまうし、提督にも迷惑をかけてしまうと思って我慢した。

......だけど、私の本来のこの願いの目的は達成された。その目的とは、今私の手に握られている懐中時計だ。

本当ならば、私が記念にと言ってペアの何かを買って渡す予定だったが、あまりに外のが珍しすぎて買えなった。大きな誤算だ。だけど、提督から買ってもらえた。

少し話は逸れるけど金剛さんが『近衛艦隊』なるものを結成している様だ。私はそれには参加していない。何故なら、既に作らずともあるのだ。それに私が居る方には『近衛艦隊』程の過激な行動は慎む制約がある。全て提督に迷惑を掛けない為であり、提督の身を案じての事だ。こっちが好き勝手やったら提督が連れて行かれる事も懸念しての処置だ。

と前置きはこれくらいにして、提督からもらったこの懐中時計は私の宝物です。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

何処から嗅ぎ付けたのか、沸いたように俺の前に金剛と鈴谷が現れた。

 

「今日はどこに居たんですカー!探してたんですヨ!」

 

「そうだしー!マジ疲れたんですけど!」

 

そう言ってくる2人に俺はあの事を言った。

 

「何だ。気分転換に門兵の服を借りて門で立ってたよ。」

 

そう言うと2人はポカーンと口を開けた。

 

「門兵さんのところなら何度も行ったノニ......。」

 

「鈴谷たちの負けだねぇ。」

 

そう言う2人に俺は時計を見て行った。

 

「つかこんな時間に来ないでくれ。何時だと思ってんだ。」

 

俺の見た時計の時刻は午前1時すぎだ。俺が気持ちよく寝てたら起こしてきたのだ。

 

「オゥ......ごめんなサーイ。」

 

「ごめんねー。」

 

俺はそれを聞くと毛布を頭まで被った。寒いからだ。

 

「はーい、おやすみー。」

 

そう言って目を閉じたが、ギシッという音と暖かいものが触っている事に気付き、俺は飛び起きた。

 

「ぬわっ!入って来るなよ。」

 

「「エェー(えぇー)」」

 

「えぇーじゃない!」

 

そんな感じに夜は更けて行った。

 




かなり間を置いきましたが、やっと赤城の願いが叶いましたね。ですが赤城が何を企んでいたかが少し分かりづらいような気もしなくもないです。そして突然明かされた『近衛艦隊』と相対する赤城の言った別の集まり。いつ明かされるのやら......。ちなみに提督が赤城にあげた懐中時計に深い意味はありません

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第八十二話  隠されていた真実

俺は朝からある事に悩まされていた。

現状の防衛体制では問題がある事に先の奇襲で思い知らされたからだ。思い付きで仕入れた対空対艦兵器もほとんどが使用できずに鉄くずになってしまった。

これからどうすればいいのか......そう考えだしたのだ。

 

「そもそも、何であんなに余っていたんだ?」

 

俺は考えている時、ふとそんなことを考えた。

陸軍の装備なら退役まで使われるものだろうが、どう考えてもどれも最新式とは言えないが使える年代のもの。それに置いて行ったジェット戦闘機の件もある。

そんなことを思い、俺は執務を始める前に武下のところに行くことにした。武下なら教えてくれると思ったからだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「それで私のところに来たと。」

 

そう言った武下は顎を抑えている。

 

「そうです。何故ああも簡単に装備品をこちらに流したのか......不思議に思ったんですよ。」

 

そう言うと武下はある事を口走った。

 

「そうですか......国連が機能しているか怪しいって話はしましたっけ?」

 

「いや......どうでしたっけ?」

 

そう言うと武下は説明を始めた。

 

「日本がドイツとだけ国交がつながってるのはご存知ですよね?」

 

「はい。」

 

「この意味、分かりますよね?」

 

そう言われ俺は身体に電流が走ったのを感じた。それは裏を返せば、『ドイツ以外と連絡が取れない。』という意味も含んでいる。

 

「現在、そのような状況の中だったのにも関わらず、深海棲艦出現してからも連絡は取れないが存在が確認されていた国があったんです。」

 

そう言うと武下は大きく息を飲んだ。

 

「ロシア、アメリカ、中国です。」

 

「その三ヵ国は隣国でありアメリカは日本に駐屯地を持っていました。ですので、確認が取れていたんです。ロシアと中国は成層圏から日本領空に戦闘機を急降下させて存在を知らせ、アメリカは軍のホットラインがあったので直接確認は取れていたんです。」

 

そう言うと武下はふぅと溜息を吐いた。

 

「話を戻しましょう......。三国の存在が知れていたその時は対空兵器は必要でした。当時はまだスクランブルがありましたからね。ですが次第になくなっていったんです。最後に確認されたのはロシア空軍 MiG-21。朝鮮戦争からベトナム戦争時の骨とう品ですよ。そんな骨とう品が飛んでいたのを知った政府の誰かが言ったんです。『あんなものを出してくるとは......そうとう数を減らされたか。』と。それ以来飛んできてません。アメリカは多分聞いてるだろうとは思いますが......。」

 

「海上自衛隊と戦って日本に居たアメリカ海軍の艦隊は全滅......。」

 

「そうです。ですので対空兵器も必要なくなったんです。当時は深海棲艦の艦載機に対して撃っても当たりませんでしたから。対艦兵器は深海棲艦発現直後に使っても効果が無い事が分かったので、お蔵入りしたんです。」

 

そう言った武下の話を考え、俺はある事を聞いた。

 

「てことは、ここに来たあのミサイルらは......蔵で眠ってた骨とう品......。」

 

「そうです。使えない事が分かっていた兵器たちですね。」

 

そう言われて俺は納得がいった。それならあれだけの数をすぐに回せる理由も付く。

 

「結局のところ、余り物です。それと戦闘機の件ですが、あれに関しても多分......。」

 

「お蔵入りした戦闘機たちですか。」

 

「はい。......ですが、使えないと分かっていて回してきたということは何か考えのあっての事......。」

 

そう言った武下にジェット機がどう使われたを言った。

 

「あれは使えないと分かった後、工廠で解析されたんですけど......妖精があれを元にジェットエンジンを作るとか......。」

 

「それが目的ですかね?」

 

そう言って武下は立ち上がった。

 

「このことはなるべく話さない方がいいでしょう。特に事務棟の連中には。」

 

「はい。」

 

そう言って俺は警備棟を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「どこ行ってたんですか、司令。」

 

そう言って執務室で仁王立ちしていたのは比叡だった。どうやらこの時間に居るということは、秘書艦らしい。

 

「ちょっと野暮用。さて、朝食でも行くか。」

 

そう言って俺は比叡を引き連れて食堂に向かった。

食堂に向かっている最中、俺は一昨日飛龍が勧めた人工衛星を使った監視をどうするか脳内で検討していた。俺は武下との話を踏まえて、決断を下した。人工衛星を使った監視はしない。そう決めたのだ。

俺の居た世界では一応、日本は軍事衛星は持っていない。そう言った情報を仕入れるならばアメリカに頼むしかなかった。

この世界ではどうなのだろうか。日本が軍事衛星を持っている。それの確証を裏付ける事象が無い。そもそも日本が日本皇国を名乗りだしたときにはすでに深海棲艦が居た。そのことには既に外部との連絡は途絶えていただろう。よって、日本は独自の軍事衛星を持っていないと結論付けたのだ。

 

「いただきます!」

 

俺がそんな考え事をしながら席に着くと、横で比叡ががつがつとご飯を食べ始めた。がつがつという表現が正しいかは、分からないがそういう勢いで食べているということだ。

 

「......ムグムグ......司令は食べないんですか?」

 

そう訊いてきた比叡のお蔭でこちらに戻ってきた俺は、少し冷めかけた朝食に手をつけた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝食を食べ終わった時には、別の防衛システムを思いついていた。それは、前時代的な方法。偵察機を常に出す事だ。

色々考えているうちに思い出したことがあった。1つは、現状で開発は欲しいものを作れるということ。2つは、滑走路があり、空母の艦娘がわざわざ発艦させなくてもいつでも出すことができるということ。それが、思いついた警戒方法に繋がったのだ。

空母の艦載機が近代化が進むにつれて、九七艦攻、九九艦爆、零戦21型が順次、倉庫に居れらている現状、これらを再利用できるのではないかという考えに思い至ったのだ。

艦攻と艦爆は投下機を外して増槽を付け、長距離飛行できるように改装すればいい。零戦21型は初期迎撃に使えればいいのだ。

思い立ったら即行動、俺は執務を速攻で終わらせ、比叡を連れて工廠に向かった。

 

「成る程......おおよそ理解出来ました。」

 

そう言った白衣の妖精は首を捻りながら言った。

 

「使えるか?」

 

そう訊くと白衣の妖精は俺の肩に飛び乗り、今製造中の航空機のところに行けと催促した。

 

「提督......絶対忘れてましたよね?」

 

そう言って白衣の妖精が指差したのは富嶽だった。だが、形状が違う。

 

「偵察型。作ったじゃないですか。高高度長距離偵察に向いてるのは富嶽です。提督が提案して下さった件は短距離偵察に適しています。そちらで採用しましょう。こちらでも随時改装を始めますが、数十機はいじらないで保管しておきますね。」

 

そう言って白衣の妖精は俺の肩から飛び降りた。

 

「いじらないのは、念のためのものです。全部改装してしまったら問題ですからね。」

 

そう言って俺と比叡の前から白衣の妖精は立ち去った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「今朝はいきなりどうしたんですか?」

 

俺と比叡が執務室に戻ると、唐突に比叡がそう訊いてきた。

 

「これまでの防衛体制の見直しをしたからソレの為の準備。」

 

そう言うと比叡は首を傾げた。

 

「ですがSPYレーダーなる高性能電探があるって聞きましたが?」

 

「それはこの前の奇襲で壊れた。」

 

そう俺は答えて椅子に座った。

 

「そうなんですか......それにしても、初めて工廠であんな奥まで行きました!」

 

そう話を切り替えた比叡はあれがすごかった、これがすごかったと話しはじめ、結局終わったのが昼食が始まるまでだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が執務室でくつろいでいると、秘書艦の比叡が唐突に話しかけてきた。

 

「司令......。」

 

「ん?」

 

俺は体勢を戻し、比叡を見ると不安そうな表情をしていた。

 

「相談があるのですが......。」

 

そう言って比叡は袖から紙を出した。

そこには『近衛艦隊 艦娘募集! 皆で共に提督を守りましょう!』そう書かれていた。

 

「『近衛艦隊』とは何でしょうか?どうやらその艦隊の旗艦を金剛お姉様がやっている様なのですが......。」

 

俺はこめかみを抑えた。

 

「あぁ......。聞いた話によると、『近衛艦隊』は非常時に俺の周りにいち早く展開する艦隊だと。だが俺はそんな艦隊の結成は許可を出した覚えもなければ、申請も受けていない。だから非公式の艦隊故に組織的な行動はしてないそうだ。あくまでも非常時のみに結成される艦隊だ。」

 

そう言うと比叡は腑に落ちてない表情をしている。

 

「本当に......それだけなのでしょうか?」

 

そう訊いてきた比叡に俺は答えた。

 

「はぁ............。比叡は『提督への執着』ってのは知ってるか?」

 

「はい。私も金剛お姉様と同じくらい司令は大切ですからね。」

 

そうさも平然な表情で言われて少し俺は照れたが、説明を続けた。

 

「『近衛艦隊』はその『提督への執着』が強いもので構成されているらしい。だから『近衛艦隊』の本質は提督の害となるものへの無差別に攻撃を実行する艦隊。金剛がときより怖く感じる時があるだろう?」

 

「はい......。」

 

「その時は金剛の中で俺への害を見つけて攻撃的になっている証拠だ。」

 

そう言うと比叡はしょんぼりしてしまった。

 

「金剛お姉様はそんなことを......私たちだけじゃ足りないのかな。」

 

俺は比叡が言ったことが耳に引っかかった。

 

「それはどういうことだ?『私たちだけじゃ足りない』ってのは。」

 

そう言うといかにもやってしまった様な表情をした比叡が渋々語りだした。

 

「『近衛艦隊』が無くても同じ機能を持つ非公式艦隊があるんですよ。」

 

そう言って比叡は艦娘の名前を挙げだした。

 

「赤城、長門、陸奥、扶桑、山城、霧島、高雄、愛宕、鳥海、青葉、衣笠、古鷹、加古、球磨、多摩、北上、木曾、天龍、龍田、吹雪、白雪、雪風、白露、時雨、村雨、夕立、綾波、敷波、朝潮、そして私が立ち上げた古参組中心の非公式艦隊『親衛艦隊』。有事の際、司令の為に動く、司令に手を出させない為の艦隊です。ですが、先ほど聞いた『近衛艦隊』ほど攻撃的じゃないです。制約の下で行動を起こすものです。」

 

そう言った比叡は俺の右胸を指でつついた。

 

「ここを撃たれる原因になった事件、思い出してください。」

 

そう言われて俺は思い出した。巡田に撃たれた事を。そして俺の近くに四六時中いた比叡たちを。

 

「あの時『番犬艦隊』と言われていた私や夕立、時雨、朝潮はメンバーです。司令の話によれば『近衛艦隊』だったなら、あの人をその場で殺してますよね?多分。」

 

「そうだな。」

 

「ですけど、私たちは警備艦隊として逮捕権の与えられた門兵さんと一緒に警備をしていました。ですので、殺さずに拘束したんです。これが『親衛艦隊』の制約の下で行動するという意味です。」

 

そう言って比叡は話を変えた。

 

「それに『近衛艦隊』は組織的な行動はしてないと言ってたじゃないですか?」

 

「そうだな。」

 

「一応、2日に一度集まる事があるそうです。それを私は覗いた事がありますが、あちらはメンバーがあまり増える様子がありません。小規模な組織です。」

 

そう言って比叡は秘書艦の椅子に座った。

 

「一方こちらは、発足以来かなり人数が膨らみました。最近だと、大井ですね。」

 

そう言った比叡の言葉に少し驚いたが、俺は黙って聞く。

 

「最近はやり過ぎる『近衛艦隊』の監視の仕事が増えたんですけどね。......まぁ、安心して下さい。」

 

そう言って比叡は笑った。

だが俺は笑えなかった。自分の艦隊内部でそんなことになっていたとは思いもしなかったからだ。

俺の居た世界では比叡は割と提督を好む性格でないというのがテンプレだったが、こっちのはそうではないのかもしれない。

俺は溜息を吐いて茫然と向かいの壁を眺めた。

 




比叡から語られた新たな非公式艦隊が分かりましたね。前回、赤城の回想で赤城が言っていたものですね。
いやぁ......これ下手したら艦隊司令部所属の艦娘を二分する事になるのかも......。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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特別編  つまるところ、メタな話

 

朝起きてみると、今日の秘書艦は赤城だった。既に執務室におり、書類も持ってきてあった。

 

「おはよう。」

 

「おはようございます。」

 

そうにこやかに答えた赤城はいつもなら何も持っていない手に、封筒があった。

 

「それは?」

 

そう訊くと、赤城は俺にそれを手渡してきた。

中を見てみると、『お気に入り登録者1000人突破記念』とだけ書かれた紙が入っていた。

 

「どういうことだ?」

 

「そういうことです。」

 

そう赤城が答えると、執務室にノックして長門が入ってきた。

 

「お気に入り登録者1000人突破記念と聞いて。」

 

そう言った長門は赤城の横で腕を組んで立ち竦んだ。

 

「待って......全く状況が呑めない。」

 

そう言うと赤城は説明を始めた。

 

「私たちが登場する『艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話』がお気に入り登録者が1000人突破したんですよ!」

 

そう言って赤城はフンスとした。

 

「私たち?それはどういう......。」

 

「どういうもなにも物語ですからねー。」

 

そう言って赤城は俺の使っている机に置いてあったパソコンを引っ張ってきて、カタカタと入力。すぐにこちらに向けてきた。

 

「これですよ。」

 

そう言って見せられた画面にはそういう題名が書かれており、話の内容も俺が辿ってきた過去そのものだった。

 

「なにこれ。凄い怖い。」

 

そう言って俺は赤城からマウスを引っ手繰るとブラウザバックした。

 

「あぁー!今日の更新分が......。」

 

そう言ってしょんぼりする赤城に俺はマウスを返し、長門に訊いてみた。

 

「んで長門。どういうこと?」

 

そう言うと長門は腕を組んで唸った。

 

「うーん。どういうことだと聞かれても、そう言うことだとしか答えれないな。」

 

そう言って長門は組んだ腕を解くと、どこから出したか分からないボードをこちらに見せた。

 

「という訳で作者から、『メタな話でもしておけ』ということでするぞ。」

 

と言って長門はボードを投げた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は普段通り執務室に居るのだが、いつもとは様子が違う。何故なら、普段ならこんなにも居ないからだ。せいぜい俺と秘書艦、報告に来たり遊びに来るくらいで5人は超えたことなかったのに、今は10人いるだろうかというレベルだ。

 

「と言う訳で司会は私、長門と。」

 

「赤城でお送りしますこのコーナ。」

 

デデンという効果音の後、ホワイトボードがニョキっと出てきてそこには『つまるところ、メタな話。』と書かれていた。

 

「本作『艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話』の舞台裏なんかをボロボロと言っていきます!」

 

と言って赤城はボードを出した。

 

「最初はコチラ!『提督への執着ってなに?』ですね。最初にもってこいですね。」

 

そう言って赤城はボードを入れ替えた。

 

「『提督への執着』とは、公式(本作の)設定から引用すると『艦娘たちが自分らが艦隊行動するにあたって、必要な司令塔を欲した。だが、海軍本部(※今はありません)が制限を掛けたことによって全艦娘に起きた共通意識。提督が存在する鎮守府では艦娘が提督に対して過保護になる。』だそうです。噛み砕くと、『提督を大切にする。』ということですね。」

 

そう赤城が言うと、トークが始まった。

 

「提督がこっちに呼ばれてから色々変わったからな。」

 

と長門。

 

「ですがこれは強さがあります。執着意識が強いと、過保護過ぎるということが起きますね。金剛さんとかにそれが見られますね。」

 

「オゥ。そうデスカ?」

 

そう言った金剛に向かって全員が強く首を縦に振った。

 

「......自覚無いデース。」

 

「だけど、弱いのも居るよねー。大井っちとか。」

 

北上が丸まりながらそう言った。

 

「確かに......大井は過保護というか、うーん。」

 

それを聞いて唸っていたのは鈴谷だ。

 

「他にいませんでしたっけ?」

 

そう言って吹雪は指をおって数えだしたが、1で止まっている。

 

「......いませんねぇ。」

 

吹雪はそう言って目線を長門に向けた。

 

「わっ、私かぁ?そうだな......割と我を忘れてしまう事態でも我を忘れずに対応する奴が......雪風と夕立か?」

 

そう言った長門に皆が否定した。

 

「それは無いですね。雪風ちゃんは『私の運を使って司令ぇの役に立ちたいですっ!!』とか言ってますし、夕立ちゃんは『提督さんに褒めてもらいたいから今日も戦術指南書だよ!』とか言ってさっき分厚い本持って資料室行っちゃいましたよ?」

 

そう言ってごちゃごちゃとトークを繰り広げる皆に切りのいいところで赤城が止めに入った。

 

「『提督への執着』は皆あるんですから、強い弱いなんていいじゃないですか。そう言えばこの設定、他の作品と違いを出すためにわざわざ作ったらしいです。それでは、次行きますよ。」

 

赤城がそう言うとデデンという効果音が鳴った。一体どこから聞こえるんだ。そして唐突に何言ってんだ。『他の作品と違いを出すため』って。

 

「次はコチラ!『巡田さんって今何やってるの?』ですね。これは長門さんから説明を貰いましょうか。」

 

そう言って赤城はボードを長門に手渡した。

 

「警備部 諜報班の巡田がこの鎮守府に入った経緯は知っているな?提督の暗殺を企てた海軍本部(※今はあり以下省略)の犬だった頃に鎮守府に潜入したが失敗して捕縛された人間だ。軍法会議で裁かれ、死刑執行直前に提督が拾ったんだったな。」

 

そう言うとさっきまで黙っていた川内が話し出した。

 

「そうだよー。今では警備部 諜報班班長。鎮守府に近寄る敵性非艦娘勢力の動向を見張る諜報員だね。いつもは鎮守府の門の出入り口付近で擬態して監視してるけど、何かあったらすぐに捕まえてくるんだっけ?」

 

そう川内は俺に訊いてきた。

 

「そうだな。週一で警備棟に呼ばれるな。不審者を捕まえたって。」

 

そう俺は言ったが、捕まった奴の捕まった理由がしょぼいのだ。

 

「例えばどんな不審者?」

 

案の定、川内は聞いてきた。

 

「真似するぞ......コホン......『まっ、待ってたら、金剛ちゃんが出てくるかなって......金剛ちゃんカワイイ......ドゥフw』だそうだ。」

 

そう言うと金剛が俺の肩をぺシぺシ叩いてきた。

 

「カワイイってもぅ!提督ぅー!」

 

「真似って言ったからな。」

 

一方、聞いてきた川内や他のはドン引きしていた。

 

「......えっと、結局そいつはどうなったの?」

 

そう川内が訊いてきた。

 

「あぁ。確か、武下大尉の厳重注意と今後、近づかないという誓約書を書かせて、釈放。というか、蹴りだしてた。」

 

そう言うと皆大体想像できたのか『あぁー』と言っている。

 

「他にはありましたか?」

 

赤城はそう返してきた。

 

「他か......。あとは大体メディア系だな。」

 

そう言うと皆分かってたみたいな反応をした。

 

「では、次行くか。赤城。」

 

「はい。では、次!」

 

デデンという効果音と共に赤城はボードを出した。俺はもうツッコまないぞ。

 

「次は『近衛艦隊ってどんなメンツなの?』......あぁ......。」

 

そう言って赤城は黙って金剛に席を変わった。

 

「これは私から説明させてもらうネー。非公式艦隊『近衛艦隊』は提督の為に動く非組織的な非公式艦隊ダヨー。メンツはデスネ......私と、鈴谷、加賀、神通、叢雲が幹部でそれ以外が榛名、鳳翔、妙高、那智、足柄、羽黒、長良、名取、由良、那珂、暁、響、雷、電デス。」

 

そう言うと赤城が金剛の横に立っていった。

 

「ちなみに『親衛艦隊』は今金剛さんが挙げた艦娘以外ですね。」

 

そう言うと金剛は笑った。

 

「仕方ないデース。こっちは『提督への執着』が強い艦娘しかいませんからネー。」

 

そう言って笑う金剛だが、俺は笑えなかった。俺の中で一番『提督への執着』が強いのは、言ってる本人だからだ。しかも顕著に出た時、金剛は怖い。

 

「まぁ、次に行きましょうか。」

 

そう赤城が言った瞬間、デデンと効果音が鳴った。

 

「『艦これにない艦載機や滑走路がどうしてあるの?』です!」

 

そう言うと赤城はポイッとボードを投げた。

 

「これは私が説明しますね。といっても作者さんからもらったメモを読むだけですが。『提督が着任した鎮守府への特典みたいなもの。』だそうです。」

 

そう言って赤城はメモを仕舞った。

 

「これにて、終了です。ちなみにこの企画、メタな話をするものでしたが、結構メタくなかったような気がします。それでは最後に宣伝を。」

 

そう言うと赤城は咳ばらいをした。

 

「『艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話』は不定期更新です。毎日7時30分に更新されますが、たまに作者さんの都合で1日2日遅れる事があります。今後ともどうかよろしくお願いしますね。」

 

そう言って赤城は撤収していった。ちなみに居た長門たちも撤収していってしまった。

俺は1人状況を未だにつかめていない状態で執務室に居た。

 

「結局、なんだったんだ?というか、赤城っ!!秘書艦だろー!!」

 

執務室から大きい声で提督が呼んだので慌てて赤城が帰ってきたのは言うまでもない。

 

 




お蔭さまでお気に入り登録者1000人突破しました!ありがとうございます。
本作始まって3ヵ月ほど経ちましたが、始めた当初はここまで成長するとは思いもしませんでした。あれから考えると、不定期といいつつ毎日投稿してますね。
最近は忙しいというのもあり(2週間以上休みなし)、2日おきな時もありますが、できるだけ毎日出したいと思っています。

どうでもいいですが、自分は朝の8時頃と昼の1時、夜6時過ぎに定期的にチェックしてます。タイミングが合って、余裕があれば感想に返信したいのですが、基本的に夜に返してます。

今後とも宜しくお願いします。


ご意見ご感想お待ちしてます。


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第八十三話  復興完了

俺は執務室の窓から鎮守府を眺めていた。

鎮守府が奇襲を受けてから一週間ほどが経ったが、全部の施設が元通りになり、稼働している。もう奇襲を受ける前の鎮守府と何ら変わらない状態だった。

と、言いたいところだが、最近頭を抱える事が無くなったかと思ったらまた1つ増えたのだ。

 

「司令官さん、また今日も来てますよ。」

 

そう呆れた表情で入ってきたのは、今日の秘書艦である鳥海だった。

 

「またか......。」

 

そう言って俺は終わっていた書類を鳥海に渡すと、執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は今、西川と途中で合流して正門に向かっている。

 

「どうしちゃったんでしょうね?」

 

そう西川は言ってるが、それは俺も言いたい事だった。

 

「馬鹿な議員共は出て行けっ!」

 

全てはこの声から始まった。

鎮守府が奇襲された際、抗議に来た自治体の事をどこかで知った近隣住民が怒ったらしい。理由は『自治体は市民の事を考えずに一目散で艦娘に助けてもらった癖に、攻撃された事を抗議しあがって。俺らが空母の艦娘に救助されている間も、ここの人たちは皆爆弾の雨に耐えていたんだぞ!』らしい。ここの人たちというのは、事務棟で働く海軍の非戦闘員と、酒保で働く人たちの事を言ってるらしい。確かにあの時、空母に載せて避難させるより、地下シェルターの方が安全だと思って入れて爆撃を体感してるが......。『提督の歳も見てわからんのか!軍が減りに減った人口からなけなしに未成年まで戦場に駆り立ててるんだぞ!情けないとは思わないのか!』とかも言ってるらしい。ソースはその時正門の番をしていた門兵。

 

「やっぱやってますねー。」

 

そう言って西川は門の向こうを見ていた。

確かに、何かの団体と何かの団体が睨みあっている。ちなみに静かな方が近隣住民らしい。

 

「危険な基地はここから出て行け!」

 

「国民を危険にさらすな!」

 

「深海棲艦との戦争はよそでやれ!」

 

そう聞こえてくる。だが近隣住民の方は黙って睨みを聞かせていた。そして誰かの合図で一斉に団体の方に歩み始める。

 

「出て行け。」

 

「何もしなかった馬鹿共は出て行け。」

 

「艦娘と司令官を悪く言うな。」

 

そう通常の会話のトーンで言いながら進む近隣住民は狂気に思えたが、これは多分俺や休んでいる艦娘への配慮だろう。騒ぎを大きくすると来ることを知っている様だ。

 

「何だ!皆、怖い思いをした仲間じゃないか!!」

 

そう叫ぶ何かの団体の声は段々遠ざかって行った。

 

「終わった様ですね......。また近隣住民の人たちが束になって押し返したんでしょうね。」

 

そう西川は苦笑いしながら言った。

 

「そうだな。」

 

そう言って俺は執務室に戻って行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が戻ると、鳥海も苦笑いしていた。

 

「アレは非難されないだけ、うれしいですが追い返し方が怖いですね。」

 

「俺もそう思うよ、叫ばずに会話のトーンで言いながら詰め寄ってくる。想像しただけでも怖い。」

 

そう言って俺は新たに机に置かれていた書類に目を落とした。どうやら俺が見に行ってる間に鳥海が事務棟に行ったみたいだった。

書類の内容は、『支援物資の納品』と書かれている。鎮守府が奇襲に遭ってから3日経ったころから始まったコレは特産品や娯楽品などが詰められた段ボール箱が送られてきていたものだった。送り主はどこだか分かっているのだが、ずっと送ってきてくれている。

 

「また来たか......。お礼の手紙は送ったんだがな。」

 

「はい。しかも武下さんがわざわざ行ったんですよね?」

 

「コチラとしては本や特産品を送ってくれるのはありがたいんだが、資料室に置く本を選別するのは大変なんだけど......。」

 

そう言って俺は右端に置いていた送られてきた本のリストを見た。たぶんこの机に置かれた書類の中で一番多い枚数だ。

 

「そうですね。資料室も今や戦術指南書よりも寄贈された本が多すぎて、資料室というより図書館みたいなんですよね?」

 

「そうだな......。」

 

そう言って俺はさっき鳥海が持ってきた書類に目を通した。

 

「うわっ......今度はテレビまであるぞ......。」

 

「テレビですか......。食堂にはありましたよね?」

 

そう言うが、テレビなんて高価なものを無償で受け取るのには少し抵抗があった。そこで、俺は遠い昔の記憶を何故だか思い出した。

那珂というか、川内型姉妹の願いをここで叶えるいい機会だ。序に近隣住民やこんなけ支援物資を送ってくれる人たちへの感謝の意味を込めて......。

 

「やるか。」

 

俺はそう言って立ち上がった。那珂を探しに行くために。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

探そうとしなくても案外すぐに見つかるものだ。埠頭や運動場に行けば大概の艦娘は見つかる。

 

「那珂ー!」

 

「はーい!」

 

俺が呼ぶとすぐにこっちに来た。仲がいいのやら川内や神通も居る。

 

「この前の事覚えてるか?」

 

「この前って?」

 

「バトミントンしただろう?あの時俺がいった事。」

 

そう言うとみるみる那珂はキラキラが増していき(※そう見えるだけです)ズイッ前に出てきた。

 

「ステージをって奴だよね?!」

 

「あぁ。」

 

「提督がこの話をしに来たって事は?!」

 

「おうとも。」

 

そう言うと那珂は飛び上がった。よほどうれしい様だった。

 

「だがまだだがな。」

 

そう言うとズゴーと那珂たちが滑った。

 

「まだ大本営に許可を取ってない。取れ次第、計画を立てて開くぞ!」

 

そう言って俺はすぐに方向転換した。執務室に行き、大本営に送る書類を作るためだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

書類は出来てすぐに送った。やる事になった経緯と、やる内容を書き留めた。

横で見ていた鳥海は終始不思議そうに見ていたが、俺がニヤニヤしながらだったのを見たのか楽しい事なのだろうとは感づいた様だった。

 

「ふふっ。」

 

「どうした鳥海。」

 

「その書類、許可が下りるといいですね。」

 

「あぁ。」

 

俺はそう言って書き留めた書類を封筒に入れて封をし、鳥海に渡した。

 

「では、出してきますね。」

 

そう言って鳥海は執務室を出て行ってしまった。

それを見送った俺は紙を出して、ある事を考え出した。何をやるか、どういう配置を取るか......那珂のバックダンサーはどうするかだ。

もし許可が取れたとしても準備には相当時間が掛かる。それまでの間に選ばれたバックダンサーは全員ダンスの練習をしなきゃいけない。そう考えると、バックダンサーは一番最初に決めるべきだ。そう思い、色々と挙げて行く。

 

「第四水雷戦隊......。」

 

そう思い付き、俺は調べ始めた。

 

「村雨、夕立、五月雨、舞風、涼風、朝潮か......。」

 

そう思い、挙げてみたものの舞風まだドロップしてなった。

 

「うーん。舞風は無理だ。じゃあアレだな。これで一応、那珂に訊いてみるか。」

 

そう言って俺は舞風にバツをうって紙を折った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夕方になる頃には鎮守府は妙な雰囲気が流れていた。ソワソワしているというかそんな感じ。

俺は夕食が始まる前に、俺は食堂に行ってテレビの電源を付けていた。もう結構集まっていて、俺が付けるなりわらわらと艦娘たちが集まってきた。

 

「この光景も慣れたな......。」

 

俺はそう呟いて、テレビに集まる艦娘たちを見た。駆逐艦が前列を占領するあの陣形だが、駆逐艦の艦娘に混ざってデカいのが居る。そんなのを眺めていると、誰かが列に入り、そのデカいのは連れて行かれた。

 

「離すデース!霧島ぁー!!」

 

「ダメですよお姉様!司令が大型艦は後ろで見なさいって言ってたじゃないですか!」

 

「クスン......酷いデース。」

 

「ちゃんと守らないと司令に怒られますよ。」

 

そう言って霧島が手を放すと、金剛が俺の横に来るのはいつもの事だった。

 

「霧島にまた引っこ抜かれマシタ......。」

 

「当たり前だ。」

 

そう言って俺は金剛に軽いチョップをかます。

こんなのが『近衛艦隊』で頭をしてるんだからちょっと変な感じだったりもする。

 

「でも見たのは見れたので、良いデス。」

 

そう言って金剛はニコニコしだした。

 

「そうか。」

 

そう言って俺も今いる席からテレビを眺めるのだった。

 




3日で復興が終わったと言いましたがアレは大まかにと言う意味です。今回のはちゃんと機能を始めたと言う意味で復興完了ですので。
色々と外でも起きてますが、提督はまだまだ色々あるんですね。

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第八十四話  準備

 

返事はすぐに返ってきた。

 

『条件の下、許可する。横須賀鎮守府周辺の自治体やメディアへの評判が悪いようだ。イメージアップ戦略の一環として重要施設以外を一般公開し、盛り上げてくれ。条件は一般と特別、特種に分けてもらう。特種はそちらのレッドリストに載っている人間が訪れた際、監視門兵を付けての公開だ。他は意味が判るだろう。訪れる客は抽選にしてもいい。  新瑞』

 

ということらしい。つまり許可が出たということだ。俺は早速、那珂のところに走った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「という訳で許可が下りた。」

 

そう言うと那珂は首を傾げた後、ハッと思い出した様だ。

 

「ってぇ!色々端折り過ぎ!......でも分かったよ。これで那珂ちゃんはステージに立てるんだね!」

 

そう言った那珂は飛び跳ねた。

 

「そうだ。それで、レッスンの方はどうだ?」

 

そう訊くと、那珂は親指を立てた。

 

「完璧だよっ!歌って踊れるから!」

 

そう言って那珂はその場で少し踊って見せた。

 

「分かったから......それでだな、バックダンサーの事だが。」

 

そう言うと那珂は動きを止めて真剣な表情になった。これから海域に出撃するのかという様な表情。

俺はそんな那珂に見られて少し躊躇したが、すぐに言った。

 

「バックダンサーは村雨、夕立、五月雨、涼風、朝潮に頼もうと思う。」

 

そう言うと那珂は何か察したのか相槌を打った。

 

「それならそこにあと2人、増やしてもいいかな?」

 

そう言った那珂は俺の持っていたメモをひょいっと取り、何かを書き足した。

 

「......由良と長良......どうしてだ?」

 

「由良ちゃんも長良ちゃんも四水戦だよ?このメンバーはそういうことでしょ?」

 

そう言った那珂はキャハとか言ってメモを俺に返してきた。

 

「那珂ちゃん、由良ちゃんと長良ちゃんにオファーしてくるね。それと、何時になる予定なの?」

 

「未定だが、開催する事は決定だ。」

 

そう言うと那珂は走って行ってしまった。どうやら由良と長良を探しに行ったようだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は再びいつかの様に、長門、赤城、高雄、五十鈴、吹雪を執務室に集めていた。勿論、草案の出し合いの為だ。

 

「鎮守府で文化祭を執り行う。」

 

そう俺が切り出し、ホワイトボードに書いた。俺の言ったことには皆、驚いていた。驚いたということは文化祭の意味を知っているということだ。資料室に増えた漫画や小説、テレビから得た情報だろうが、皆目を輝かせている。

 

「文化祭か!楽しみだな!!」

 

「文化祭と言えば露店や出し物、ステージ......凄く華やかそうですね!」

 

「まさか鎮守府でやるとは思いもしませんでした......。」

 

「頭が痛いわ......。」

 

「楽しみです!!」

 

そうそれぞれが言うが、五十鈴だけが乗り気じゃない様だ。

 

「如何した五十鈴。」

 

「如何したもこうしたもないわ。提督、文化祭を開いたとして開催期間は正面海域やら警備やらが手薄になるんじゃないの?そっちを考えたら不安で仕方ないわよ。」

 

そう言った五十鈴が両手を挙げてジェスチャーして見せた。

 

「誰が......1日だけだと言った......。」

 

そう言って俺はホワイトボードに書き足した。

 

「文化祭は3日間連続で行う!!」

 

そう言って黒いペンをバシンと叩き付けた。

 

「この間、艦娘は正面海域哨戒を交代で行いながら皆で楽しんでもらう。更に、何とか門兵の方にも口をきかせて増員できないか相談してみるつもりだ。」

 

そう言うと五十鈴も納得してくれた様で、すぐに何をするかの会議が始まった。

あれこれと挙がる事を書き留めていき、一定数溜まったら投票を繰り返す。そんな作業を続ける事、1時間。やっとの事で終わった。結局決まったのは、露店、鎮守府ツアー、艤装試乗(抽選)、特設ステージで那珂のライブと出し物披露会。暫定的にそれだけが決まった。

 

「まぁ楽しい決め事はここまでで、運営やらなんやらかんやらで決める事が山ほどある。」

 

そう言って俺は地図を広げた。横須賀鎮守府の地図だ。

 

「立ち入り禁止区域を指定する。まずはこれからだ。」

 

そう言って俺は赤いペンを握った。

それを聞いていた長門が指をさした。

 

「本部棟......理由を聴こうか。」

 

「ここは横須賀鎮守府の脳だ。機密情報もある。一般人が入っていいところじゃない。」

 

そう長門が言ったので俺と他の艦娘はそれに納得し、俺は本部棟を赤く囲みバツをうった。

そうすると赤城が今度は工廠を指差した。

 

「ここには富嶽や隼、疾風が格納されています。こんな装備があると知られたら何が起こるか分かりません。」

 

そう言われ迷わず俺はバツをうった。

 

「なら滑走路と格納庫もダメですね。」

 

高雄が挙げた。それにもバツを書き入れた。

 

「警備棟と事務棟もダメね。それに酒保も一部はダメでしょうね。」

 

そう五十鈴が言った。俺はそれを聞き、それらにもバツをかき込んだ。そうしているとアワアワする吹雪が居たので声を掛けた。

 

「どうした吹雪。」

 

「いえっ!他にないかなぁ......って。」

 

そう言ってしょげてしまった吹雪にもう大丈夫だぞ、とだけ声を掛けておいて、他の事を決め始めていった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と会議をしていた艦娘たちは夕食の食堂で生気が抜けたみたいにだらけていた。

あれからというもの会議は4時間続き、おおよそ全ての方針などが決まったので時間も頃合いだったので食堂に来ていた。

 

「ヤバい......久々にこれはキツかった。」

 

俺は夕食が届くまで机にぐだーとなっていた。こんなになったのは久々だ。高校で最後の授業が終わった後みたいな気分になっている。

 

「だらしないですよ。」

 

そう言いながら隣に座ったのは鳥海。大本営に送った書類、最速で届いたのは言うまでもないだろう。一体、どんな書類送信方法なんだろうか。

 

「いや......これは無理。」

 

そう言ってガクッとなる俺を見て鳥海は変だと言ってクスクス笑っていた。

 

「そう言えばどこまで決まったんですか?」

 

「んぁ......大方決まったぞ。費用に関しては考えずにやるつもりだ。それと今回のは艦娘主体でやって貰う。」

 

そう言ってむくりと俺は起き上がった。

 

「艦娘主体とは......どういうことでしょうか?」

 

「そのままの意味だ。計画、設営、販売とかをやってもらう。こっちが手を出すのはほんの一部だけだ。」

 

そう言って俺は頭を掻いた。

 

「そう言われましても......一体私たちは何をすれば......。」

 

「文化祭と言えば分かるだろう。露店を出したり、ステージで出し物をしたりして楽しむんだ。」

 

そう言うと鳥海は目を輝かせた。

 

「本当ですかっ!?......文化祭。本や漫画で見て一度やってみたかったんですよ!」

 

「そうか。」

 

そんなことを話していると、夕食が来たので俺と鳥海は食べ始めた。

他の艦娘たちも会議に参加していた艦娘から訊いた話でこんな風になっているんだろうな、と考えつつも俺は鳥海に質問攻めに遭いながら夕食を楽しんだ。

ちなみにこの日の夕食の時間はテレビの前に集まった艦娘は少なかったとか。

 





今日は少し薄いと思います。すみません。
途中で寝落ちとか笑えませんね。
今回からは楽しい系のシリーズですね。①とか数字がついていくのでw

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番外編  俺は金剛だ!⑥ 『帰還とお話し』

助けてくれ!野獣二匹に狙われている!......何て叫んでも誰も来てくれない訳で、俺は蒼龍と飛龍に引きずられて入渠もとい風呂に来た。

やはり俺の感は的中して、男子風呂などなく、一つしかない入り口に引きずり込まれ、風呂に放り込まれた。

 

「グスン......もう、お嫁に......女じゃないや。」

 

そう言って俺は放り込まれた風呂場で取りあえず下着だけになり、端に来ていた服を寄せた。

 

「誰も居ませんよーに!」

 

そう祈って身体を洗いにシャワーのところに行った。そこには備え付けのシャンプーとボディーソープがあり、更に持ち込めるように台が大きく作られていた。

備え付けのを借りてワシャワシャして入渠しに浴槽にドボンした。

 

「ふぃ~あったけぇ~。」

 

そう言いたくなるくらいに絶妙な温度で、とても気分が良かった。が、そんな気分を一瞬でぶち壊す声が聞こえた。

 

「えっ?!男の人?!」

 

そんな声が聞こえ俺は、慌てて目を覆った。こんな不可抗力で身体を見てしまうのは相手に申し訳ないからだ。

 

「ひゃっ!金剛君っ!?」

 

そう言ったのは聞こえるが、誰が言ったのか分からない。

 

「えっ、ちょっと......えぇー!」

 

そう俺の見えないところで焦っている艦娘が居る様だ。

 

「すみません!二航戦の奴らに放り込まれて......今すぐ出るんで!」

 

そう言って目を覆った片方の手で隠し、立ち上がると捕まった。

 

「ごめんなさい。こんな機会、滅多にないので......。どうか手をどかして私を見て下さい。」

 

そう言われた。

 

「いや、身体を何かで隠してくださいね?」

 

「もう隠してますよ。」

 

そう言われ俺は目を覆っていた手を恐る恐るどかした。そこにはタオルを身体に巻いて、湯船につかっている銀髪の艦娘がいた(※湯船にタオルを浸してはいけません)。

 

「貴女は?」

 

「私は翔鶴型空母一番艦 翔鶴です。」

 

そう言った翔鶴は頬がほんのり赤くなっていた。

 

「俺は......って自己紹介しなくていいか。」

 

「そうですね。」

 

俺は視線を避けつつ話した。

 

「どうして金剛君はここに?」

 

「蒼龍と飛龍に投げ込まれた。」

 

「えっ!?」

 

そりゃそんな反応するだろうな。確かにアレは投げ込まれたと言っても過言ではない。抵抗も虚しく、ここまえ引きずられたからな。

 

「悪いな......。なんか。」

 

「いえっ!......寧ろ幸運だったと......あっ!何でもないですっ!!」

 

そう言ってワタワタする翔鶴を視界の端に入れながら俺はある事を疑問に持った。

 

「いつまで入渠してればいいんだ?」

 

そう言うと翔鶴は答えてくれた。

 

「損傷したんですか......様子を見ると軽微みたいなのでもうそろそろ大丈夫だと思いますよ。」

 

「そうか、ありがとう。そう言えば翔鶴はいいのか?」

 

「はい。まだ時間がかかりそうなので、ゆっくりしてます。」

 

翔鶴はそう言って笑った。長い事入居しているということは、かなりの損傷を受けたということらしい。俺は何も言わずに立ち上がり、出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「あぁー!もう出ちゃうの!?」

 

そう蒼龍に騒がれたので身体を隠しながら蒼龍たちを見ないようにして身体を拭き、さっさと出て行った。ちなみに衣装の方は綺麗になっていた。洗濯した後みたいになっている。

ちなみにあちらはタオル一枚。

 

「うっせぇ!いきなりブッコむ奴が居るか!!」

 

そう言って俺は帯を整えると、プンスカと出て行った。

そんな俺の姿を見ていた蒼龍と飛龍がしょんぼりしていたのは俺は知らない。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は執務室に行き、提督である白瀬さんに文句を言いに来ていた。

 

「いきなり入渠もとい風呂に投げ込まれたんだけどっ!」

 

「そうらしいな。すまんな。」

 

そう言いながら白瀬さんは何やら書類を片づけている様だった。

 

「まぁいいけど......。蒼龍と飛龍には注意しておいてくれよ?」

 

そう言ってソファーに腰かけた。

何故言うだけ言って帰らないかと言うと、割と本気でここが一番安全だからだ。これまで数は来てないが、確実に金剛型か大和型の艦娘がいる。今は居ないがな。

 

「キツく言っておこう。」

 

そう言って白瀬さんは書類が片付いたのか、立ち上がり、俺の正面に座った。

 

「そう言えば昨日今日で何も言ってなかったな。」

 

そう切り出した白瀬さんは状況から察するに何かの説明をしてくれるようだ。

 

「金剛が来た世界とこことの相違点を教えてやろうと思ってな。」

 

そう言って白瀬さんは俺に新聞を見せてくれた。ちなみに俺はこっちに来る前は携帯でニュースをチェックするタイプだった。

 

「......読んで違和感はあるか?」

 

そう言われて一面を読んでみる。......特段変に思ったことは無い。ところどころ使ったことのない単語が入っているのが多分こことの違いだろう。

 

「ところどころ分からない単語があるくらいだ。だが、俺の居た世界でもこんな事はあったぞ。」

 

そう言って新聞の一面を指差す。

この新聞の一面は、『税率引き上げに反対の声』という題で書かれていた。

 

「そうか。ならこっちの政治体制とはもしかしたら変わらないかもな。」

 

そう言って白瀬さんは肩を竦めた。いや、俺ここの世界の政治体制とか知らないから。

 

「そうか......。だがこんな話がしたかったんじゃないだろう?」

 

そう訊くと、俺に渡していた新聞の一面にある写真を白瀬さんは指差した。その写真は状況から見るに、国会での画像。討論をしているのか、なにか分からないがそんなんだ。

 

「違和感を感じないか?」

 

そう言われたので俺はその写真に目を凝らした。

 

「女性議員が多いな。」

 

そう言うと白瀬さんは新聞を俺の手から持っていくと開いて見せた。俺はもしやと思い、ページにある写真を片っ端から見て行く......。

 

「気付いただろう?」

 

そう言って白瀬さんは足を組んだ。

 

「どういうことだ?」

 

そう訊くと白瀬さんは足を戻した。

 

「金剛の言動、行動を見ていて思った事と、金剛が違和感に思った事......纏めると答えが出る。」

 

そう言って白瀬さんは新聞を畳んだ。

 

「金剛は私たちにとっては見たこともない存在。」

 

それは知ってる。

 

「金剛が異世界から来たと言うなら分かるだろう?」

 

そう言われ俺は頭を捻った。異世界からきたが、もう全部ぶっ飛んでて今更考えても仕方ないようにも思えるが、そんな俺を見ていた白瀬さんはすぐに答えを教えてくれた。

 

「つまりだ......金剛が取っていた言動、行動は私たちにとって本来ならば金剛に取らなければいけなかった行動。」

 

そう言って白瀬さんは一呼吸置いた。

 

「私は金剛が来た異世界が男性が女性を守るという慣習があったんじゃないかとな。」

 

俺はそう言われてすぐに思いついたのは、この世界では男性と女性の立場が入れ替わってるということだ。全く持って異世界らしい。

 

「そしてだな......この世界は男性が少ないんだ。」

 

そう言われ俺は開いた口が塞がらなかった。もう色々ぶっ飛んでて理解できないを通り越している。

 

「はぁ?......そりゃ、うん。」

 

そう俺は曖昧に答えた。

 

「そちらではどうだか知らないが、遺伝子的には男性の方が弱いってのがあってだな、生まれてくるまでに母親の卵子までに到達できる男性の染色体をもった精が殆ど届かないんだ。」

 

そう言って白瀬さんは溜息を吐いた。

 

「だから男性は非常に貴重で、生まれてきたのならかなり大切にされる。そしてポンポン増える女性が男性を守る社会が出来たんだ。」

 

そう言われ俺は怖くなった。昔、そんな話題を友達同士でしたことがあったが、かなり緩い内容だった。『街を歩けば目を引く』『何をしなくてもモテる』そんな事を言いながら最後には『そんな世界に生まれたかった』とか友達が言う始末。実際感じてみると怖いものだ。

 

「だから金剛、お前の姉妹は大丈夫だと思うが他は気を付けろ。そうしないと怖い思いをする。」

 

いや、もうしてます。

そう言いかけたのを堪えて俺は言った。

 

「分かった。......そう言えば白瀬さんは何ともないのか?」

 

「ん?私か?......何ともないわけないだろう。耐えてるんだよ。」

 

そう言われスッと距離を置いた。

 

「ちょっと待てっ!何故そんな距離を取り始めるっ!」

 

「だって白瀬さんの話を聞いてみると、俺の居た世界で言う俺は女性的な存在で、更にそれよりも扱いがいい。そして、見方を変えれば俺はライオンの檻に入れられた鹿だっ!」

 

そう言って距離を置いて行く。

 

「そう考えると白瀬さんは怖すぎるっ!!にじり寄らないでくれっ!!」

 

「待てっ!!落ち着いてっ!!」

 

「口調がおかしいぞっ!」

 

そう言われて俺は立ち上がり、執務室で追いかけっこが始まってしまった。

逃げる俺と、逃げる俺をなぜ逃げると言って追いかける白瀬さん。俺にとっては逆なのだろうが、状況が状況だ。逃げるしかない。

 

「今は金剛が居なんだ!逃げる場所が無いっ!!」

 

「待て金剛っ!私はそんな下卑た感情はっ!」

 

「信じれるかっ!!」

 

そう繰り広げられた追いかけっこは報告に来た金剛が来る30分間続いた。

 




いやぁ面倒な設定を入れてしまつた......。違和感あればお知らせください。
それにしても疲れている状態でのテンションで書くとかなり酷いですね......。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第八十五話  鎮守府文化祭(仮)①

俺はいつもよりもかなり早くに起き上がり、早々に準備をして執務室を出て行った。

寒い空の下、鎮守府正門前には大勢の人が集まっていた。それを整理する門兵たちは朝早いというのに、とても楽しそうに見える。

今日はというと、鎮守府文化祭(仮)の初日だ。

これまで色々と準備をしてきたこの催しを成功させる為、艦娘は勿論、門兵や事務棟の職員たちは尽力していた。物資の調達、設営、人員配置......やる事が沢山あったがどれも楽しみながらこなしていき、今日を迎えた。

 

「入口はコチラになります!」

 

そう叫ぶ門兵の声を聴きながら、遠目で見る景色は俺がこの世界に来て忘れていた記憶を蘇らすには十分だった。

ちなみに、入口では身体検査と手荷物検査がある。これは勿論、軍事施設だからという理由がある。それによって一般と特種で分けていた。と言っても宣伝の際に危険物、通信機器の持ち込みは禁止している事を知らせていたので持ってくる人なんていない様だ。殆どが検査を終えて入っていき、待機場所に集められている。

 

「待機場所からは出ないようにしてください!」

 

そう言って警備部総出で取り仕切っている様子は本当にここは軍事施設なのかと思わせるものだった。

 

「おはよう、提督。」

 

そう言って様子を眺めていた俺に突然話しかけてきたのは、新瑞だった。だが様子がいつもと違う。いつもなら俺と同じで白い学ランを着ているのに今日は私服の様だ。

 

「おはようございます、新瑞さん。」

 

「今日は楽しませてもらうぞ。今日は有休で来てるからな。」

 

そう言った新瑞の後ろから現れたのは、新瑞の奥さんなのだろうか、女性と子どもが1人出てきた。

 

「そうですか。是非、楽しんで行ってください。」

 

「無論だ。......さて、待機場所に行く。」

 

そう言って行こうとする新瑞を俺は止めた。

 

「待ってください。『特別』でご案内しますよ。」

 

「ははっ。そりゃあり難い。」

 

俺は近くの門兵を呼ぶと、特別案内だと伝えて新瑞と別れた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は新たに作った地下施設の司令部に居た。ここは前回の教訓を生かして、潰れた地下シェルターの遥か深くにまで下げた。これで爆撃で潰れる心配はない。

モニターに映されているのは、鎮守府各所にある防犯カメラだ。今は待機場所だけに人が集中している。その他の場所では、艦娘たちがせっせと露店の準備をしていた。

 

「各所、報告。」

 

そうマイクに言うと、あちこちから報告が入る。

 

「露店指揮艦 間宮。準備完了です。」

 

露店は鎮守府に張り巡らされた道路の要所に立つ食べ物屋や、遊べる射的屋、御面屋などだ。正規空母の艦娘が店番のところでは弓もできる様だ。

 

「案内係指揮艦 天龍。準備完了だぜ。」

 

案内係は数名のグループを組み、そこに艦娘が案内役として付いて鎮守府を回る係だ。

 

「アトラクション指揮艦 陸奥。準備完了よ。」

 

アトラクションと言っても、それぞれの艤装に載せて少し航海するだけのものだ。艦種によっては色々あるそうだ。ちなみにこれを思いついたのはイムヤ。

 

「警備 朝潮。既に巡回中!」

 

警備は艦娘たちがお世話になる様な輩は居ないだろうけど、念のためと言ってその班を作った。と言っても人数は少なく、それぞれの場所に居る艦娘からの通報で駆け付け、門兵に引き渡すという役割だ。

 

「よし!」

 

そう意気込んで俺はマイクを別のところに繋げてもらった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

『これより、鎮守府文化祭(仮)を開催します。』

 

そのアナウンスと共に待機場所は騒がしくなっていた。

私はその様子と艦載機から訊いていた。

 

「加賀さん。」

 

「えぇ。」

 

そう言って私は艦載機の妖精たちに言った。

 

「これからアクロバット飛行をします!皆さん、練習の成果ですよ!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「起こしの皆さん、上空をご覧ください。」

 

俺はアナウンスを続けた。

 

「余興として、我ら横須賀鎮守府所属 第一航空戦隊の空母 赤城、加賀の艦載機隊によるアクロバット飛行です。飛行するのは零式艦上戦闘機五二型、艦上爆撃機 彗星、艦上攻撃機 流星です。爆弾、弾薬は下ろしてありますので危険ではありません事をご了承ください。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

アクロバット飛行が終わり、訪れた人たちが思い思いに鎮守府の中に散って数時間が経った頃、地下司令部は束の間の休息に入っていた。

休息とは言うが、監視カメラから送られてくる映像からは目が離せない。行き交う人たちは物珍し気に施設を見て回っている。

 

「立入禁止区域はどうなってる?」

 

そう訊くと、俺の肩に乗っていた白衣の妖精は答えた。

 

「門兵と艦娘が警備中ですが、問題ない様です。」

 

そう報告された。

 

「問題は起きているか?」

 

そう訊くと、白衣の妖精は俺の肩から飛び降り、彼方此方走り回った後、俺のところに戻ってきた。

 

「問題を起こした輩を数名拘束中です。艦娘が運営する催しには問題は起きてません。」

 

「問題を起こした?」

 

そう俺が訊き返すと、白衣の妖精は俺の肩に飛び乗った。

 

「艦娘に手を出そうとした若い男性が居た様です。」

 

俺は何となくそれは想像ついていたので、聞き流した。すると白衣の妖精は続けた。

 

「処分は如何しますか?」

 

「事情聴取した後、今後一切しないように言い聞かせて解放だ。ここで拘束したままにしてしまっては良くない。」

 

「了解しました。門兵に事情聴取を頼んでみます。」

 

そう言って白衣の妖精は俺の肩からまた飛び降りた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昼時になり、露店が賑わって来た頃、俺に白衣の妖精が『提督も私服に変装して楽しんでみてはいかがですか?』と何か含みのある顔で言われたので乗って私服に着替えた俺は鎮守府内を歩いていた。

行き交う人は皆、『鎮守府とかいう軍事施設なのに何か学校みたいだね。』とか『艦娘、皆優しくて元気ね。』とか言いながら歩いているのを見ると俺は何だか嬉しく思えた。広いところでは、艦娘数人で即興のイベント何かを開いたりしているのを見ると何だか本当に文化祭をしている様な気分になっていた。即興イベントの許可は出した覚えが無いので3日後にあの艦娘たちは呼び出しだな。

そんな中、俺はある一角に来ていた。埠頭だ。そこでは艦娘の艤装に乗る事ができるアトラクションみたいなものがやっており、多分一番人気なのだろう。凄い人数が列を成していた。最後尾では巡回中の門兵が艦娘に捕まって頼まれたのか、『2時間待ち』と書かれた看板を持って立っている。

 

「お疲れ様です。」

 

そう俺は癖で唐突に声を掛けてしまった。

 

「お疲れさ......提督じゃないですか。」

 

お疲れを普通のトーンで言ったかと思うと、すぐに小声になってそう門兵は言った。

 

「提督ですよ?」

 

「どうされたんですか?私服着て......誰かと思いましたよ。」

 

そう言った門兵はヘルメットにバラクラバは外さないでそう言った。この門兵には見覚えがある。どんな時でもバラクラバを取らない門兵だ。結構有名だったりする。長政伍長と呼ばれていたので俺も長政さんと呼んでいる。

 

「妖精に私服で見て回ってきたらどうだと言われましてね。」

 

そう言うとなんとなく察しがついたのか、長政は近くで同様に捕まって看板持ちをしていた門兵に声を掛けた。

 

「特別案内だ。ここの列で通して。」

 

「はぁ?了解しました。」

 

呼ばれた門兵は何か分かっていなかったようだが俺に『どうぞ。』と言って先導を始めた。

 

「では、お楽しみくださいね。」

そう言われて俺は会釈をして先導する門兵に付いて行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

付いて行った先では、陸奥が立っており、どうやら艤装に乗る事が出来る様だ。

 

「陸奥さん。」

 

そう声を掛けた門兵に陸奥はすぐに反応した。

 

「あら、門兵さん。どうかしたの?」

 

「特別案内です。」

 

「了解したわ。」

 

そう言って陸奥はコチラを向いた。

 

「戦艦 陸奥よ。よろしくね。」

 

そう言った陸奥が俺に気付いてないのか、俺は少し声を変えて返事をした。

 

「よろしくお願いします。」

 

「はーい。」

 

陸奥が全く気付く様子がなかったので、結構おかしく思っている。

そうしていると規定人数が乗ったようなので、入り口を封鎖して陸奥が話し出した。

 

「皆さん、こんにちわ!私は戦艦 陸奥よ!よろしくね!!」

 

そう言うと返事が返ってくる。主に子どもだが。

 

「これから鎮守府から出航して1時間航行するわ。楽しんで行ってね。」

 

陸奥が挨拶をすると、全員で艤装を探検して回った。と言っても中には入らずに、外だけだったが。それでも戦艦にはいろいろな装備があるので、かなりの時間つぶしになった。特に41cm連装砲の時にはその大きさに圧倒され、動く様子も観察した。そして陸奥の艤装には九一式徹甲弾が積んである。それの実弾模型が置かれていたので、それを見た観客は皆驚いていた。ちなみに稼働してない武装は説明があったが、適当に見繕った言い訳を言っていたのは結構笑えた。

こうして流れる戦艦の上で潮風を浴びながらゆったりとした時間は結構いいものだった。時間差で出航した駆逐艦 夕立とすれ違ったが、その時は観客は皆手を振っていた。夕立が手を振っていたからだが。

 

「これから鎮守府に帰投するわ。面舵いっぱい!」

 

そう陸奥が叫ぶと、陸奥の艤装は加速して右に回頭を始めた。

艤装が右に傾くのを感じで歓声を上げる客に陸奥はニコニコとしていた。

 

「そう言えば私の2つ後が潜水艦の艦娘だったわ。皆さん、左手をご覧ください。」

 

そう言われて皆が左の海面を見た。

 

「潜望鏡が見えますね。アレは伊号潜水艦です。まぁ彼女はイムヤと読んでほしいらしいけどね。」

 

そう言った瞬間、潜望鏡が沈み、潜水艦が姿を現した。

 

「あら、出てきちゃったみたいね。」

 

そう言って陸奥は手を振った。

俺はそんな光景を眺めながらある事を思った。結構セリフが作られている様だったのだ。きっと決めた当初からそう決まっていたのだろう。

イムヤの艤装を通り過ぎ、ゆっくりと鎮守府に戻ってきて、俺は陸奥の艤装から降りた。

大きい艤装なので安定しているかと思ったが、そうでもなかった。波に船体が揺らされていたので、そこそこ揺れていたのだ。

俺は少し上ってきた胃液を必死に飲み込み、次の場所に移動した。

 




はじまりましたねー。後半は提督が私服に着替えての巡回でしたが、結構気付かないものです。あと結構提督も悪ガキなところもありますね。あえて黙って乗る辺りとかw

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第八十六話  鎮守府文化祭(仮)②

 

陸奥の艤装から降りた俺は、露店が並ぶ一角に足を運んでいた。ここらでは色々な艦娘が露店を企画してやっている。流し見している時、丁度目に留まったのは北上と大井が仕切っている看板にはたい焼きと書いてあるのをわざわざバツ書いて『魚雷焼き』と書いて売っていた。眺めてみると、たい焼きを作っている様にしか見えないが型は完璧に魚雷の形をしている。中身はというと、つぶあんとこしあん、カスタードらしい。

 

「あら、いらっしゃい。どれにしますか?」

 

俺が見ているとそう大井が声を掛けてきた。話しかけ方から察するに、猫被っておられるご様子。

 

「こしあん1つ。」

 

「はーい。80円ですねー。」

 

「中途半端っ!?」

 

俺は思わずツッコんでしまったが、どうやら聞こえていなかった様だ。大井は魚雷焼きを紙に包むと渡してきた。

 

「どうぞ。」

 

「ありがとう。」

 

俺は魚雷焼きを受け取ると、80円きっかり置いて、ベンチに座る事にした。

ベンチに座ると、露店の並ぶ向かい側が良く見え、さっき買った魚雷焼きの両脇では、長良と名取、五十鈴が仕切るりんご飴と球磨と多摩、木曾が仕切る外洋遠征体験の話をするところなどがある。以外にも外洋遠征の話のところは人気があり、北上と大井のところか長良と名取たちのところでりんご飴を買って食べながらその話を聞くと言うなんとも考えられた配置になっていた。

今俺がいる通りでは他にも露店が出ている。俺が珍しいと感じたのは、夕張と島風が仕切る蕎麦屋だ。よりにもよって蕎麦かよ、とツッコみたくなるのと夕張と島風というコンビが面白い。島風が蕎麦を茹で、夕張が提供する。何とも変な露店だ。

他には時雨が他の駆逐艦の艦娘と募って、戦術指南書を元にした講義をしていた。何故、講義しているのかさて置き、その内容には結構珍しいのか観客が結構集まっている。

 

「魚雷焼き......味はたい焼きだけど、たい焼きより食べやすい。」

 

眺めながら食べる魚雷焼きはそう感じさせた。縦長の魚雷焼きは口に入りやすかったのだ。

 

「うっし。じゃあ移動だな。」

 

俺は立ち上がり、ゴミをゴミ箱に入れると移動を始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

鎮守府内を歩き回っていると、案内役とそのグループとすれ違った。

 

「ここは格納庫と呼ばれていて、あのキス島守備隊救出任務に赴いた艦隊と共に飛んでいた大型機が格納されています。」

 

そう説明していたのは龍田だ。なんとも言い難い違和感を持ったのは俺だけだろう。説明を訊いているグループの人たちは『おぉー』とか言ってる。

 

「そう言えば、他の海域にある島を攻めた時の話なんですけどねぇ~。」

 

そう切り出し始めた龍田は話し出した。

 

「その島を空襲するからって赤城さんと加賀さんを艦隊に加えて出撃させたんですけどね、不安だからってキス島守備隊の人たちを救出した時に使った大型機で爆撃させたんですよ~。」

 

そう龍田が言うと、グループの誰かが龍田に質問した。

 

「龍田さん。キス島のことなんですけど。」

 

「あら、どうぞ。」

 

「キス島救出に行った艦隊と飛行機の数が尋常じゃなかったって聞いたんですけど、どうだったんですか?」

 

そう訊かれた龍田は少し考えた後、小声で言った。

 

「秘密なんですけど、22隻編成の大艦隊と大型機230機が出撃してましたね~。」

 

そう言うとさっきと同じように『おぉー』と歓声が出た。

 

「まぁ私は資源回収任務でそっちに行ってませんでしたけどね~。」

 

そう言って龍田は次に行くと言って歩き出した。

後で案内役を集めて、回るところと話していい内容に制限を掛けようと決めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

案外バレないもので、結構艦娘ともすれ違ってはいるが誰もこっちに気付かない。少し楽しくなってきた俺は、色々と他にも回った。他の露店や違う艦娘が担当している案内役を見たりして時間を潰していった。

そして結構楽しくなって来た頃、丁度露店の前を通った時、榛名が変な男に絡まれているのを見た。

 

「やめて下さいっ!」

 

「いいじゃん!ちょっとお話ししようよー。」

 

「榛名ちゃんって言うんだー。俺、船詳しくないから分からなーい。」

 

そう言ってる2人に絡まれている榛名は腕を振りほどこうとブンブンと振り回すが、振りほどけない様だ。いつもなら構わず艤装を出しているところだろうが、文化祭を開くにあたって決め事をしていた。それは『開催中は艤装を装着してはいけない。装着する際は有事の時のみとする。』だ。

一緒に店番をしていた比叡はアワアワして、霧島はどうやら通信機で警備の艦娘と門兵に連絡している様だった。

 

「やめて下さいったら!」

 

そう言って引きはがそうと振り回すが、全然離してくれない様だ。

 

「休憩は何時はいるの?」

 

そうニヤニヤしながら聞く男はズリズリと引きずっていく。

 

「霧島!まだなの!?」

 

「結構遠いところに居る様で到着が遅れるそうです。」

 

「門兵さんは!?」

 

「これまでに捕まった人の事情聴取で人手が不足している様で......こっちも到着が。」

 

そう言ってどうしようどうしようと慌てふためく比叡と霧島は口を揃えて『こっちに逮捕権があれば。』って言っている。逮捕権は門兵が居ないと艦娘にも効力を出さない決まりらしい。そう以前、聞いたのだ。

周りにも野次が溜まりはじめ、段々と見えなくなっていく。

俺が動かないのには理由があった。俺がもし突っ込んでいって相手に怪我をさせてしまった時の事。その逆もまた然りだ。特に逆に関しては怖い。艦娘が決め事を簡単に破るとは思えないが、豹変する事間違いなしだ。もしそうなってしまったら、初日にしてこの催しの意味を失くしてしまう。

俺は葛藤した。どうするべきか......。そんな時、聞こえた榛名の声で俺は決めた。

 

「提督っ!」

 

そう榛名が監視カメラの方を向いて叫んだのだ。

 

「殴り込みはダメだ......。落ち着いて懐柔だ。」

 

俺はそう自分に言い聞かせて、野次馬の波に入った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が人を掻き分けている間も榛名と男どもの争いは激しさを増していた。比叡も我慢がならなかったのか、離すように言っているが聞く耳を持たない様だ。

 

「ちょっと通して下さい。」

 

そう言って掻き分けて行く事、1分くらいで榛名たちの前に出る事が出来た。

 

「その辺にしてくれませんか?」

 

そう俺は切り出した。

 

「あん?んだよ。」

 

「その辺にして離してあげて下さい。」

 

そう言うと男たちはこっちを見た。

 

「お前には関係ないだろ。」

 

そう言って榛名の腕をグイグイと引っ張る。

 

「穏便に済ませたいのならその辺にしてください。さっき門兵と警備に連絡が行ってこっちに来るそうですから。」

 

「んだとっ!そんな事知るか!ここの門兵はもやしみたいなのばったじゃねぇか!俺みたいに強くないとな!」

 

そう言って男はムキッして見せた。結構身体には自慢があるらしい。門兵をもやしというくらいだ。

そうやって見せてきた時、その男が首からドッグタグをぶら下げているのが見えた。ドッグタグを付けているのは軍人だ。ということは、ある手が使える。俺はそう思い、もういい慣れた文句を言い始めた。

 

「仕方ないですね......所属はどこですか?」

 

「は?」

 

俺がそう聞いた瞬間、男共と周りに野次馬は何言ってんだコイツみたいな空気を出した。俺は丁度メモとペンがあったから取り出した。

 

「だから、所属はどこですか?」

 

「所属ってどういう意味だよ。」

 

「そのままの意味です。」

 

そう言うと男は自慢気に言い出した。

 

「陸軍 第五方面軍第三連隊だ!俺は深海棲艦が現れて以来初の奪還した島の占領軍として派遣される兵だ!」

 

俺は溜息が出た。この男の言った第五方面軍第三連隊には聞き覚えがあった。強襲揚陸艦『天照』が最初にこの鎮守府を訪れた時の乗組員だ。

 

「あーはいはい。」

 

俺はメモを取って、容姿の特徴を書き留めた。

 

「深海棲艦共に奪われていた島をまた人間が使えるようにするんだ。」

 

「そうですか。」

 

そう言いながら俺はメモを取っていく。

 

「それで、てめぇは何だってんだ。」

 

そう言った男に俺は近づいて周りに聞こえない程度の音量で言った。

 

「俺は横須賀鎮守府艦隊司令部司令官です。」

 

そう言うと俺は離れたが、男は信じず、果てには笑い飛ばしていた。

 

「はははっ!傑作だわ!お前がぁ?」

 

そう言って榛名を引っ張った。

 

「そうですけど?」

 

そう言うと男は俺の胸倉を掴んだ。

 

「だったらなんだって言うんだ?ここでお前を殴ったら俺が機銃掃射でも食らうとでも?こんな人集まる中でか?」

 

そう言って小声で言いながら顔を寄せてきた。

 

「それは無いです。」

 

そう言うと男は掴んだ胸倉を放さずに持ち上げた。

 

「だったら大丈夫だろう?」

 

そう言った瞬間、野次馬が退き始めた。そしてその退いた道を艦娘と門兵がこちらに進んでくる。

そしてその場の空気は一瞬にして凍り付いた。

コチラにしか見えないが、警備の艦娘である不知火が凄い形相で男を睨んでいた。そしてその両脇を歩く門兵は短機関銃を持っている。

 

「そこの貴方。何をしているのですか?」

 

そう訊いた不知火は一歩近づいてきた。そう訊かれた男は何も答えない。一方で門兵は野次馬を追いやり、男の両側に立った。

 

「もう一度訊きます。貴方は何をしているのですか?」

 

「......。」

 

「貴方は何をしているのですか?」

 

黙りこくった男は不知火を見た。

 

「へっ、チビが何できるってんだ。」

 

そう言って男は俺を離すと、不知火に詰め寄った。

 

「お前が何かは知らねぇがお前こそ何をしているんだ。」

 

そう言った男に不知火が一瞬俺の方を見ると、同じことを訊き返した。

 

「貴方は、何をしているのですか?......アナタハ何ヲシテイルノデスカ?」

 

そう言った不知火の顔が般若みたいになっている。

 

「逮捕権を執行します。この男を拘束して下さい。」

 

そう言った不知火に合わせて応援で増えた6人の門兵は榛名を掴んでいる男ともう一人を拘束した。

 

「では司令、失礼します。」

 

そう言って不知火は拘束された男たちを連れてどっかに行ってしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

榛名を俺が立たせると比叡と霧島が駆け寄ってきた。

 

「ひえぇぇ!ビックリしましたよ!」

 

「司令がこんな事をするなんて......。」

 

そう言った2人を置いて榛名が俺に言った。

 

「ありがとうございます。提督。提督が来なかったら、不知火ちゃんが来る前にどっかに引きずられていました。」

 

そう言って榛名は潤ませた目を拭いた。よほど怖かったのだろう。

 

「いいさ......。」

 

そう言って俺は座ったままの榛名を立たせた。

 

「そう言えば提督。何で提督はいつもの服じゃないのですか?」

 

そう訊いてきた榛名に俺は答えた。

 

「隠れて俺の居ない時の艦娘の実態調査だ。他の奴には秘密にしておいてくれよ。」

 

そう言って俺は笑ってその場を立ち去った。

 





何だかこういう感じの問題って置きますよね。リアルでも自分は体験してますw
第五方面軍第三連隊は問題児ばかりですねー(白目)

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第八十七話  鎮守府文化祭(仮)③

陸の奴らと榛名との騒ぎの後、結局何も起きずに初日は終わった。

夕方になり、日が落ちて1時間程経った時間が終わりの時間だったが、それまで人が絶える事は無かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今日は前日とは少し違う。

前日では露店、アトラクション、案内があったが今日はそこにステージが入っていた。ステージでは艦娘が企画した出し物の他に、那珂によるライブも行われる予定だった。

俺は最初からステージの裏に来ていた。最初の出し物はクイズ大会だ。参加者が色々な問題に答えていくものだが、決まりで真面目な回答はダメで、ボケなければいけないという鬼畜ルールがあるようだ。

完璧に笑いを取るステージだが、参加した艦娘は割とお調子者みたいなのが多かった為に結構ウケていた様だ。

そしてクイズ大会の後が、このステージの本番で、那珂のライブだ。

ライブと言っても1曲だけだがそれでも、これが本番だ。

クイズ大会の舞台が撤収し終わり、ライブの舞台の設置が始まった頃、裏には那珂とバックダンサーになっていた村雨と夕立、五月雨、涼風、朝潮と更に由良と長良も居た。

 

「よーし!大トリは那珂ちゃんたちだよ!レッスンの成果、見てもらおう!!」

 

「「「「「「「おー!!」」」」」」」

 

円陣を組んでそう言っている様子は、懐かしく思えた。

 

『続いては、川内型軽巡洋艦 那珂と水雷戦隊によるステージです。』

 

アナウンスが入ると、ステージの照明は落とされ、那珂たちが駆け出して行った。ちなみに、いつもの制服姿ではなくちゃんと衣装を作って着ている。

出て行った瞬間、さっきまでのクイズ大会の余韻が残っていたのか結構熱い雰囲気に囲まれた観客席からは、何事かとザワザワしているが、すぐに様子は一変した。

 

「第四水雷戦隊っ!那珂ちゃん、いっきまーす!」

 

そう那珂が叫んだ瞬間、照明が点き、音楽が流れ始める。

那珂のライブが始まったのだ。

その曲が始まると、よくわからないが盛り上げる為に騒ぎ初めて、サイリウムが点き始めた。

そして俺はここで盛り上げるためのサプライズを入れていた。2日目ということで、手の空く門兵にコールを頼んでいた。曲が進んでいくと、コールを入れるところも通るのだが、そこでコールが入っていく。門兵たちも気が利くのか、コールの紙を周りに渡していた様で、結構な人数がコールをしていた。

キラキラと輝く舞台に盛り上がるコール。これがライブなんじゃないのか、と心の中で思いながら俺は裏から眺め続けた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

那珂のライブの熱が残ったまま次の催しが始まった。次の催しはトークショーの様だ。那珂のライブのセットが片づけられると、別のセットが出てきて、ほんの1分で設置が完了した。貴休憩を挟んでから、司会進行役の霧島が出て行った。

 

「ライブの次はトークショーです!司会進行は私、金剛型戦艦 四番艦の霧島が務めさせていただきます。」

 

そう言って切り出した霧島は上手の方に手をやった。

 

「それでは、出ていただく艦娘の皆さんです!」

 

そう言うと拍手が鳴り、1人ずつ出て行く。

 

「観艦式の際、トークをしなかった方々に頼みました!最初に、戦艦 陸奥。」

 

「どうもー。」

 

「彼女は文化祭(仮)では、アトラクション。つまり艤装の試乗をやってます。ちなみに陸奥さんは、現場叩き上げで皆に頼られる強いお姉さんです。」

 

陸奥はいつもの格好でひらひらと手を振りながら出て行った。

 

「次は、観艦式の際に出ていた鈴谷さんの姉妹の重巡 熊野。」

 

「ごきげんよう。」

 

「彼女は、鎮守府を初期から支えた歴戦の猛者です。御淑やかな雰囲気の女の子ですが、一度戦場に出れば戦艦に引きを取らない強さを持ってます。」

 

熊野は霧島の紹介に顔を赤くしながら陸奥の隣に行った。

 

「3人目は、正規空母 瑞鶴。」

 

「こんにちはー。」

 

「彼女は鎮守府ではかなり結構後に来た艦娘ですが、ムードメーカーとしていつも皆を和ませていただいてます。」

 

そう紹介され、『古参じゃなくて悪かったですねー。』と言いたげな顔をしながら熊野の横に行った。

 

「4人目と5人目は長門さんと陸奥さんに並ぶ、提督の伝家の宝刀、戦艦 扶桑と山城。」

 

「「こんにちは。」」

 

「ザ・大和撫子のお2人は海域奪還に繰り出した初期を支え、熊野さんと並ぶ歴戦の猛者です。ですが、山城さんがドジっ娘なので結構アレですけどね。」

 

そう言われ、『なにおう!』と怒る山城を扶桑が引っ張っていった。

 

「6人目は我が扶桑さんと山城さんと共に海域奪還に繰り出した駆逐艦 吹雪。」

 

「こっ、こんにちはっ!」

 

「吹雪ちゃんはこう見えても一番鎮守府に詳しいんですよ。吹雪ちゃんは案内役として文化祭(仮)で務めているので、是非彼女に頼んでみるといいでしょう!」

 

そう言われて頭を掻きながら山城の横に立った。

 

「以上、6人で鎮守府に関するトークをしようと思います。......と言っても話せる範囲でだけですが。」

 

そう始まった霧島司会進行のトークショーは結構盛り上がり、途中、喋っていいのか怪しい内容まで言っていたのでヒヤヒヤした。

瑞鶴がうっかり陸上機の話をしそうになっていたのだ。

それ以外は何ら問題が無かった。観客の心も掴めた様だった。トークショーは1時間続き、最後にはネタが尽きたのか、艦娘の私生活の話にまで発展していた。

俺が訊いて一番衝撃的だったのは、何かの拍子に霧島が言った『金剛は意外と勤勉で最近は鎮守府の施設の構造を覚える為に地図をよく見ている。』だった。俺だって覚えていないどころか、本部棟ですら怪しいのにそんな事をしていたのかと思った。陸奥が言った『長門が皆に秘密で猫を飼っている。』というのにはステージの艦娘や裏に居た艦娘と俺、門兵は一斉に吹き出した。イメージがなかったからだろう。と言っても、俺は居た世界でのイメージもあったのでそこまで問題ではなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「これでトークショーは終わりです。休憩を挟んだ次は急遽、昨日露店で行われていました駆逐艦 時雨の戦術講義をしてもらうことになりました。」

 

そう言って霧島は掃けていった。通りで上手に時雨が居る訳だ。そして、観客の方が何だか騒がしくなってきた。どうやら抜ける人は抜けて、全員が整列させられている。そして、出てきたのは机と椅子だった。

 

「ブフォ!」

 

俺はさっきも吹き出したが、また吹き出してしまった。どうやら真面目な講義な様だ。ご丁寧に椅子と机が並べられ、即席の青空教室的なものが出来た。

 

「さて。......僕は白露型駆逐艦 時雨だよ。今回、急遽僕が露店で公開していた講義をやってほしいとのことだったのでこれから簡単な模擬講義をするね。」

 

そう言って出て行った時雨は戦術指南書とマイクを持って出て行った。そしてステージには大きなスクリーンが映し出された。

 

「本当なら僕だけ何だけど、今回は『戦術指南書の番人』って言われてる夕立にも一緒にやって貰うね。夕立は観艦式の時に来ていた人は分かると思うけど、遠方から1人で帰ってきた武勲艦なんだ。」

 

そう言って時雨は俺の方を見た。

 

「っと......提督。」

 

いきなり話しかけられた。ステージに集中して欲しい。

 

「何だ?」

 

俺は出来るだけ聞こえる声で答えた。

 

「夕立の話、してもいいかな?」

 

「ダメなところ以外はいいぞ。」

 

そう答えると満足したのか時雨は再び前を向いた。

 

「提督から許可が出たからするね。夕立は遠方から帰ってきたって言ったけど、本当は鎮守府近海で座礁してたんだ。燃料弾薬が尽きてボロボロになって動けなくなっていたところをね。これ以降は夕立から訊いた方がいいから変わるね。」

 

「夕立は1人で帰ってくることになった時はこれからやる講義の内容、夕立たちに先輩が残していったこの本を読んでなかったの。だけど、帰ってきて分かった。この本は夕立たちが生き残る為に必要な内容が全て入っている、この本の内容を覚えれたら夕立たちは駆逐艦の艦娘として立派になれるって。だから帰って来てからは暇があればこの本を読みに行ってたから『戦術指南書の番人』だなんて呼ばれるようになったんだわ。」

 

そう言って夕立はマイクを置いた。

 

「という訳で、今からは簡単な内容ということで、駆逐艦のメリット・デメリットについての講義を始めるね。」

 

そう言って急遽始まった時雨と夕立の講義は難しい内容をやっているのだが、頭にスッと入ってくるものだった。多分、この2人の教え方が上手いのだろう。時雨と夕立の講義を受ける為に残った観客も机といすが用意された後に、配られた資料を見ては顔を上げて講義を聞いている。さながら大学のオープンキャンパスだ。そんな様子に思えた。

結局、模擬講義は40分行われたが、どうやら反響が良かったらしく、『艦娘がどのように戦っているかが分かった!』という声が多数寄せられたようだった。

これで一応、ステージを使った出し物は終わりだが、まだ日が高い。鎮守府文化祭(仮)はまだまだ今日も続く。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はステージの裏手から出ると、昨日と同様に、私服に着替えて、艦娘の実態調査をしていた。

まだ誰一人としてバレていないのが、結構楽しかったりする。もう何度も出会った艦娘もいるのだが、全然気づかない。

俺は昨日回れなかった、別の露店のところに来ていた。

今いるところは、甘味処。間宮がやっている露店だ。ちなみに出ている露店で一番大きかったりする。規模的に見ても露店を通り越してるようにも思えた。甘味処ではアイスクリーム、最中、パフェの甘いものと軽食が出る様だ。手伝いに伊良湖も来ていて、結構忙しそうにしている。

俺は注文カウンターに続く列に並んでいた。そして時期に俺の番になり、間宮にアイスクリームを注文した。

 

「アイスクリームを一つ、お願いします。」

 

「はーい。200円になりますねー。」

 

俺はそう言われて200円を渡そうとしたら、間宮に手を掴まれた。

 

「えっ?」

 

そう俺が驚くと、間宮は周りに聞こえないくらいの音量で言った。

 

「提督ですよね?私服を着ているところは初めて見ましたが、似合ってますよ?」

 

そう言われて俺は少し慌てたが、すぐに間宮は手を離してくれた。

 

「ではあちらでお待ちしていて下さいね。」

 

そう言われて流されたが、間宮には私服を着て口調を変えるだけでは通用しない様だ。俺は出されたアイスクリームを受け取って、空いてる席に座って食べ始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

間宮を出た後、ブラブラとしていると急に視界が暗くなった。

 

「うおっ!?」

 

「だーれだ?」

 

俺はそう言われて考え始めた。声的には女性、しかも若い。そしてこんな事をしてくるのは艦娘しかない。さらに、物静かな艦娘はこんな事をしないだろう。行き着く先には結構アクティヴな艦娘でそれなりに大きい。

 

「飛龍?」

 

「違うしっ?!」

 

今の口調で分かったので、俺はすぐに答えた。

 

「じゃあ、鈴谷。」

 

「あたりー!」

 

そう言われてやっと視界が明るくなった。目が明るさに慣れた時には鈴谷が俺の目の前に立っていた。

そしていきなり鈴谷に言われた。

 

「提督ぅ?私服に着替えても分かるよー?」

 

何と言うことだ。これまでバレてきてないと思っていたのに。

 

「何だと!?」

 

「て言うのは嘘ー。鈴谷は分かったよ?」

 

そう言ってニカッと鈴谷は笑った。

 

「そうか。」

 

「うん!」

 

そう俺が答えると、鈴谷は俺の横に並んだ。

 

「提督を見つけたから話しかけたんだー!んふふー。」

 

そう言って自慢気に胸を張った。

 

「そうかー。と言うか鈴谷は何かの役はやってないのか?」

 

俺は歩き始めると鈴谷が付いてきたので話を切り出してみた。

 

「ないよー。今は休憩みたいな?」

 

そう言って横を付いてくる。

 

「みたいなって......。まぁいいか。」

 

そう言って俺は鈴谷を連れて回ってしまったので、結局バレてしまったのは言うまでもない。

 

 




いやー、まだまだ続きますよ。それと、昨日の感想への返信が遅れてしまい、すみませんでした。昨日は精神的ダメージが大きい事が起きたので少し凹んでいたんですよねw
立ち直りましたがねw くよくよしてても仕方がないのでw

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第八十八話  鎮守府文化祭(仮)④

今日は鎮守府文化祭(仮)も最終日。

朝から慌ただしく準備が始まる鎮守府ではこの2日間、ゆったりとしてきた俺も慌ただしくしていた。

何故なら、急に新瑞から手紙があったのだ。

 

『そちらに皇国に派遣された艦娘を案内する。案内役を余分に用意しておいてくれ。』

 

との事だった。どういうことだと、俺は首を傾げたが、派遣されたという単語から連想できるのは海外艦だということ。だが、この鎮守府には居なくとも他の鎮守府にはドイツ艦やイタリア艦は存在しているだろうにと思ったが、取りあえず準備を進めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

最終日は午後3時から行われる横須賀鎮守府で一番輝いていた艦娘グランプリなるものがあるらしく、訪れた客から投票してもらい、順位を決めるというものだ。これはどうやら警備部が取り仕切るらしい。俺はタイムスケジュールに入れただけで知らない。

そんな事を考えていると、どうやら海外艦が来た様だった。

 

「すまない急に。」

 

「いえ、大丈夫です。」

 

そう言って車から降りてきた新瑞に俺は敬礼をした。

 

「命令書ではああ書いたものの、本当は提督の艦隊に移籍させてほしいんだ。」

 

いきなり新瑞はそう口走った。

 

「えっ?何言ってるんですか?」

 

「提督の艦隊に移籍させてほしい。」

 

そう言って新瑞は俺に資料を手渡した。其処には6枚の紙。それぞれに艦娘の顔写真が貼られていて、艦種と武装が書かれていた。

 

「どういうことですか?」

 

俺は少しだけ渡された紙を見ると、新瑞にそう訊いた。

 

「艦娘と鎮守府のイメージアップ戦略のつもりだ。それと大本営が運営する遠征司令部(遠征と鎮守府防衛のみを行う鎮守府)で建造されたのだが、司令部の司令官をその娘らは『提督』と呼ばないんだ。だが君の事は『提督』と呼んだ。だからだ。」

 

そう言われて少しこんがらがったが、要するに後者が本音ということだそうだ。俺はもう連れてきてしまったものだから追い返すわけにもいかないので、渋々首を縦に振ってしまった。

 

「そうか。ありがとう。彼女らは次に到着する車に乗っている。艤装は同時に着くトラックに載せてあるので、夜にでも埠頭の方に浮かばせておけばいい。」

 

そう言って新瑞は手をひらひらとして乗ってきた車に乗って行ってしまった。

俺は受け取った書類を改めて目に通し、溜息を吐いた。どう艦娘たちに説明しようか......。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は車に揺られて、遂に念願の横須賀鎮守府に移籍になった。司令部の高官に頼むこと1ヵ月、手配に一週間。どれ程待ち焦がれたことか。

全ては私が見た『提督』の為にだ。

提督の姿を見たのは、司令部にテレビが設置されて間もないころだ。大型艦である私が出撃することなどなく、暇を持て余してテレビを見ていた時、たまたま横須賀鎮守府艦隊司令部の艦隊の観艦式の様子がテレビに映し出された。そこに映った、大本営高官と共に座るあまりにも若い男。彼をあの場に居た艦娘は揃って『提督』と呼んでいた。

私はこの司令部の高官をそんな風に思ったことはないし、指揮を受けようだなって思ってもない。それは私と同じ出身の艦娘も同じようで、私と共に移籍を願った。

 

「ふふっ......楽しみね。」

 

私は楽しみで楽しみで、窓から近づいてくる横須賀鎮守府を見るだけで頬が緩んだ。それは一緒に乗っている私と同じことを思った艦娘も同じで、皆嬉しそうにしている。

早く提督に会いたい。私はそんなことを考えて車に揺られた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

臨時ということで、手の空いていると言った足柄を連れて誰も出入りしていない入口で待っていた。

 

「提督?一体何なの?」

 

「まぁ......な。」

 

俺はそう呟き、門の向こうを眺めた。それはこれからここにやって来る艦娘の為だ。

 

「まぁ、いいわ。」

 

そう言って足柄は姿勢を崩して、俺と同じ方向を向いた。

てっきり足柄は事あるごとに絡んでくるものだとばかり思っていたが、それは間違っていて、どうやら好戦的な艦娘でしっかりしているお姉さんみたいに思われているらしい。

だが俺はある事を思い出していた。この足柄、近衛艦隊なのだ。どういった意図で所属しているかは知らないが、近衛艦隊だ。注意を払ってないと、これから来る艦娘に攻撃的になってしまうかもしれない。

俺は空気を余分に飲み込んでしまった。

 

「あら、提督。何か勘違いしてないかしら?」

 

「......何が?」

 

足柄は俺の方を見るなりそう言った。

 

「私は確かに『近衛艦隊』よ。でもね、好きで居る訳じゃないわ。暴走する那智姉さんと羽黒のストッパー役よ。勿論、妙高姉さんもね。」

 

そう俺の心を見透かしたように言った。

 

「そうか......。」

 

「だから心配しなくていいわ。」

 

そう言った足柄は俺の肩をポンと叩いた。

そんなことをしていると、門の前に車が止まった。止まった車は新瑞が乗ってきた車と同じ車種だが、大きめだ。そしてその後ろには大きなトラック。間違いない。

 

「許可を。」

 

「いいですよ。」

 

俺は車から降りてきたドライバーにそう言うと、ドライバーは戻って車を門から中に居れた。ちなみに門の開閉は門兵に頼んである。

車は侵入してきて俺の前に止まると、ドアが開かれた。

そこから新瑞から受け取っていた資料の艦娘が出てきて、整列をした。

 

「私はビスマルク級超弩級戦艦 ネームシップ ビスマルクよ。」

 

「私は重巡 プリンツ・オイゲンです!」

 

「駆逐艦 レーベレヒト・マースです!」

 

「駆逐艦 マックス・シュルツです。」

 

「潜水艦 U-511......です。」

 

「グラーフ・ツェッペリン級航空母艦 グラーフ・ツェッペリンだ。」

 

そう言って彼女らは敬礼をした。

 

「現時刻を持って貴艦隊に移籍するわ。提督、よろしくね。」

 

俺は書類を見て分かっていたが、付いて来てもらった足柄は口をポカーンと開けていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は足柄を正気に戻した後、執務室に全員を連れてきていた。

 

「俺は横須賀鎮守府艦隊司令部司令官、提督だ。よろしく。」

 

そう言って俺は被っていた帽子を取った。

そうするといきなりビスマルクが頭を下げた。

 

「急な話、ごめんなさいっ!新瑞さんに無理言って移籍させて貰ったの......。」

 

そう言ったのと同時にプリンツたちも頭を下げた。

 

「知ってる。だから顔を上げて。」

 

そう言って俺は6枚の書類を置いた。

 

「こっちもいきなりだから色々と準備してなくてね、今は催しでどこも手が空いてないんだ。君たちの為の準備は後回しになるが構わないか?」

 

「えぇ。」

 

俺は頭を掻きながら言った。

 

「よし。なら、俺は歓迎する。ようこそ。」

 

そう言って俺は立ち上がった。

 

「ありがとう。」

 

そう言ったビスマルクに続いて他の艦娘も続けざまに礼を言った。

 

「まぁ詳しい話は後で、今はウチで開かれている文化祭(仮)を楽しんできてくれ。その後にみんなに紹介するから。」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

「足柄は秘密にしておいてくれ。」

 

「分かったわ。」

 

「じゃあ解散。それと足柄、もう一つ。」

 

俺は解散の号令を掛けたら、出て行こうとする足柄を引き留めた。

 

「ビスマルクたちの案内、頼めるか?」

 

「えぇ、了解よ。」

 

足柄はすんなりと頼まれてくれた。足柄が連れて行く6人を見送った後、俺は背伸びをして置いた書類を纏めておくとステージ裏に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

ステージ裏に向かったのは特に意味はない。

やる事が無かったのと、単なる暇つぶしだ。ここでは午後から行われるグランプリの準備が行われていたので、それを手伝っているに過ぎない。

あれこれと増える仕事に手伝いつつ、懐かしい雰囲気を味わっていると、セットは完成してしまい、準備が整ってしまった。

そして、それのほんの数時間後、グランプリのステージが始まった。

司会進行は昨日も見た記憶のある霧島と、那珂が務めている様だ。最初は2人のトークから始まり、すぐにグランプリ発表が始まった。順位は5位からつけられるらしく、鎮守府全体のスピーカーから音が出るようなので、多分他のところの人たちはラジオ感覚で聞いているのだろう。

 

「グランプリ、第五位は......。」

 

ドラムロールのなる効果音の後、艦娘の名前が挙げられる。

 

「露店 蕎麦屋の夕張!」

 

そう霧島が言うとワ―と歓声が上がり、モニターには夕張の写真が映し出された。

 

「えー、選ばれた理由ですが.......回転の速い厨房に比べて焦りながらせっせと運ぶ姿が可愛かった、接客の笑顔が良かった、何もないところで転びかけている姿が微笑ましかった、などでした!」

 

そう言う風なのかよと内心ツッコみながら聞いている。

 

「続きまして、第四位は......。」

 

ドラムロール以下略

 

「アトラクション、艤装試乗の伊-168、イムヤです!」

 

「理由ですが......潜水艦に初めて乗った、潜水艦の中の説明が判り易かった、無茶振りでも笑顔で応えてくれた、などです。何をやったか気になるところですが、次に行きましょう。」

 

霧島は持っていた紙を捲ってマイクを持ち直した。

 

「第三位は.......。」

 

「案内役、天龍!」

 

「理由はですね......外見は怖いけど接してみるととても優しい娘だった、小さい子の面倒見が良くてどこへ案内されるのも安心できた、たまに挟む話もとても面白かった、だそうです。」

 

どんどんと進んでいくグランプリの結果に気になるところがあった。

警備部が仕切るこのグランプリだが、決めてどうするのかという話だ。俺はミスコンみたいなものかと思っていたが、聞いてる限りそういうものでもない様だ。

 

「続いて第二位は......!」

 

ドラムロールの音が大きくなり、ライトも使ってそれっぽい演出が入った。

 

「露店、戦術指南、時雨!」

 

「これに関してはコメントが長いものが多かったため、1つだけ読み上げます。......戦術指南を聞いたけど、話の内容は難しく専門用語が多かったが、逐一説明を分かりやすく入れてくれていたのでとても面白かった。時雨さんの様な先生が欲しい。......ですね。」

 

そして最後になった。最後の発表には結構大がかりで、選ばれた艦娘はステージに上がらなければならないらしい。

 

「栄えある第一位は......!!」

 

ドラムロールが第二位の時より一層大きくなり、ライトも演出が激しくなった。

 

「......露店、榛名!」

 

第一位だったのは榛名だった。何故選ばれたのかはなんとなくだが、想像はつく。

 

「コメントが膨大で集計が今でも続いてます。一部、抜粋しますね。......丁寧で笑顔が素敵だった、御淑やかで町中に居たら絶対注目を浴びる、アイドルかと思った......他にもたくさんあります。では、榛名は上がってきてください。」

 

そう霧島が言うと、顔を真っ赤にした榛名が舞台下に来た。

 

「霧島......緊張して話せそうにないです......。」

 

そう言って顔を俯いて言う榛名に構わず霧島は舞台に引っ張り上げた。

 

「少し彼女は緊張してるみたいですが、彼女が榛名ですね。ちなみに私と同型です!」

 

そう言って霧島は榛名と自分の頭にあるカチューシャを指差した。

 

「では、これにてグランプリの発表を終わります!引き続き、鎮守府文化祭(仮)をお楽しみください!」

 

こうしてグランプリ発表は終わった。選ばれた艦娘は一応景品的なのを貰えたようだが、俺には教えてくれなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が一息ついて舞台裏に出ると、足柄が待っていた。

 

「ビスマルクたちの案内は終わったわ。一応、聞かれた艦娘たちには『日本在住の外国人の方』って言っておいたけど良かった?」

 

そう俺に言って来た。

 

「あぁ、多分大丈夫だ。」

 

「そう......。そうそう、少しいいかしら。」

 

そう言われて俺は足柄に着いて行った。

何か話があるようだが、俺は内容は見当がつかないがどういう話になるかはなんとなく想像がついた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

連れて行かれたのは執務室だ。外のにぎやかさが聞こえてくるが、その場に流れる雰囲気は外とは違っていた。

 

「『近衛艦隊』について、私から話しておくわね。」

 

そう足柄は切り出した。

 

「近衛艦隊についてどこまで知っているかはさて置き、提督に話しておかなくちゃいけないと思ってね。」

 

そう言って足柄はソファーに座った。

 

「近衛艦隊は『提督への執着』が強い艦娘によって構成されているって言われてるけど違うわ。『提督への執着』が強く、攻撃的になりやすいのは首領と幹部、那智姉さん、羽黒、名取、暁、雷だけよ。他は監視ね。榛名は金剛と鈴谷を、鳳翔は加賀を、長良と由良は名取を、暁は響、雷は電、神通は那珂、叢雲は全員で監視しているわ。」

 

そう言って足柄は溜息を吐いた。

 

「少なからず『提督への執着』が備わっている私たちは提督の身の危険は察知できるわ。でも、金剛や那智姉さんよりは遅い。それにあそこまで攻撃的にはなれないわ。殺したくなる衝動に駆られたのは貴方が撃たれた時だけ。」

 

俺は足柄の向かいに座った。

 

「だから勘違いして欲しくなかったの。近衛艦隊が何かをやらかしても私たちは違うって言えるようにね。」

 

そう言って足柄は首を振った。

 

「それと言っておかなくちゃならない事があるの。」

 

足柄は俺の目を見た。鋭い目で、さながら餓えた狼だ。

 

「金剛と鈴谷は監視していてもダメだわ。すぐに姿を眩ます......。これまでは無かったけど、今後もしかしたら彼女たちの独断で誰か人を殺しかねないわ。」

 

そう言って足柄は立ち上がった。

 

「さ、こんな話してたら辛気臭くなっちゃったわ。外行きましょうか。」

 

そう言われて俺は黙って頷いた。

足柄に言われて思い当たる節がいくつもあった。確かに金剛と鈴谷はどこからともなく現れる。その理由がはっきりとしたのだ。それと俺はやはり『近衛艦隊』を誤解していた様だ。半分が実は監視だったなんて思いもしなかったからだ。そして具体的な名前と人数を聞いたのはこれが初めてだった。

俺は気分を入れ替え、外に繰り出した。

 




遂に海外艦が登場ですね。今回は特殊という意味で、移籍という理由を使わせていただきました。違和感があれば教えてください。
それと新たに分かった近衛艦隊の実態......。たぶん想像していた人もいるでしょうね。

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第八十九話  鎮守府文化祭(仮)⑤

文化祭(仮)の最終日ももう日が傾いていた。本来ならばこの時間、帰っていく人たちの見送りをする筈だった。だが今は警備棟、尋問室に居た。

目の前には挑戦的な目つきをした男。そしてその両脇には短機関銃を持った部下。

 

「陸軍第五方面軍第三連隊だそうですね。」

 

そう言うと目の前の男は嗤った。

 

「君のいろんな同僚に会ってきましたが、ここまで素行の悪い輩はいませんでしたよ。」

 

そう言って男の階級章を見た。伍長。下士官だ。

 

「ここで言える事は唯一つ。......提督に手を挙げた罰は軍法会議で耳の穴をかっぽじってよく聞いて下さい。」

 

「ハァ?!どういうことっすか!?」

 

男は自分の階級章を見たのか、敬語にはなっていたが咄嗟に出た言葉はなってない。

 

「君が犯したのは『上官への不敬』。普通ならその場で刑が執行されますが、ここは違います。特殊な軍事施設だということをお忘れなく。」

 

「特殊な軍事施設だということは分かってますが、違うって......。」

 

「相手が悪かったんですよ。よりにもよって提督に......。あの場で殺されなかった事が奇跡ですね。初めて野次馬に感謝する時です。」

 

そう言うと目の前の男は顔を真っ青にした。

捕まって、きっと暴行とかで逮捕されたんだろうとばかり思っていたが、まさかあの状況で殺されていたかもしれないだなんて聞かされたら青くなるのも当然か。

 

「じゃああの私服を着てたガキが提督ってことっすか?」

 

「そうですね。」

 

そう言うと男は事を理解したのか、ガクッとなってしまった。

 

「俺は、どうすればいいっすかね?」

 

「そうですね......。死ぬ覚悟で提督の前に出て行って頭を下げて来ればどうにかなるかもしれません。」

 

そう言うと男は顔を上げた。

 

「今からでもいいっすかね?」

 

「どうでしょうね。今頃、見送りとかしてるでしょうからその後なら。」

 

そう言うと男は覚悟を決めた様だ。さっき言った事をちゃんと頭の片隅に残しているのだろうか。『死ぬ覚悟』、こういった若者がよく使う言葉だが、自分の言った言葉には若者がよく使う意味ではない。言葉通りの意味だ。

 

「......大尉。」

 

「何ですか?」

 

男は立ち上がろうとした自分を止めた。

 

「俺が手を出した艦娘、名前分かりますか?」

 

「戦艦 榛名です。とても優しくて気配りが上手で、いつも皆の心配をしてくれる娘です。」

 

「そうっすか......。」

 

自分は再び立ち上がった。

これから提督を呼ぶにあたっての覚悟が居る。あの怒れる金剛をどう収めるかだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

見送りを終えた俺は武下に呼ばれて警備棟に来ていた。

理由は呼ばれた時点で明白だった。榛名の腕を掴んでいた男の事だろう。俺は一応、足柄に伝えて警備棟に足を運んでいた。

 

「お待ちしてました、提督。」

 

そう言って迎えてくれた武下はいつも通りだった。

 

「奴ですかね?」

 

「そうですね。」

 

俺はそれだけ聞いて、武下の後ろを付いて行った。

着いた先は、尋問室というプレートの掲げられた部屋だった。前に来ると、ドアの前に立っていた短機関銃を持った門兵が扉を開けた。

 

「ありがとうございます。」

 

礼を言って入ると、榛名の腕を掴んでいた男が地べたに座り、土下座をしていた。

 

「はぇ?」

 

俺はあの時、粋がっていた姿しか見てないのでこの格好には衝撃を受けた。

そしてその男は声を挙げた。

 

「すみませんでしたっ!」

 

出る精いっぱいの声だったんだろう。かなり室内に響いた。

そしてその言葉に俺は驚いていた。

 

「俺、あの時入ってきたのが提督だと分からなくて、汚い言葉と暴力をしてしまいましたっ!!大尉から聞いた話だと自分はすぐに軍法会議ということ。ここを離れる前にせめてっ!!」

 

そう言って男は顔を上げた。

 

「せめて自分の仕出かした罪を認め、提督に頭を下げるべきだと思いました!」

 

あの威勢はどこへ行ったのやらと考えていると、後ろから声がした。

 

「あのっ......どうして榛名が尋問室にっ......。何か悪い事でもしてしまったんでしょうか?」

 

そう言って入ってきたのは榛名だった。どうやら武下は榛名も呼んでいた様だ。

 

「あっ......。」

 

榛名が俺の背中を見てこっちに来ると、地べたに榛名の腕を掴んでいた男が居たのに声を挙げてしまった様だ。

その瞬間、男は再び頭を下げた。どうやら思いっきり頭を下げたらしく、鈍い音がした。

 

「すみませんでした!強引に腕を引っ張ってしまって!」

 

そう言った男に榛名は慌てた。多分、俺と同じことを考えたのだろう。

その瞬間、俺の背後にまた気配を察知した。寒いと思ったのは多分俺だけかもしれない。恐る恐る後ろを振り返ると、金剛が居た。どうやってここまで気配を消していたのか。そして、よくよく考えてみたら足柄から訊いた金剛のストッパー役が今ここに居る時点で野放しになっていたのは明白だ。

 

「フーン。コイツが私の妹と『提督』に手を挙げたファ○ンガイデスカ。」

 

金剛の目が据わっている。そして何故か艤装を身に纏っていた。不味い状況だ。もしかしたら勝手に機銃に改装しているかもしれないからだ。

 

「こっ、金剛。」

 

「ハイ!」

 

金剛はニコッとしてこっちを見た。

 

「何故ここに......。」

 

そう言うと金剛はニコッと笑って、男を見た。

 

「コイツの処理デスガ、遅れたみたいデスネ。提督の判断に任せマース。」

 

そう言って榛名の横に立った。

俺は金剛から視線を外すと、男を見た。

 

「分かりました......。俺は気にしないので、処分は引き渡した後に訊いて下さい。」

 

俺はそう言って部屋を出た。俺が出て行けば金剛が付いてくるはずだから取りあえず金剛を離すことができる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が執務室に戻ると、今日移籍してきたドイツ艦勢が居た。

 

「おう......そろってどうしたんだ?」

 

そう言うと腕を組んでいたビスマルクが口を開いた。

 

「足柄からここの案内などされたから報告よ。それと......『近衛艦隊』と『親衛艦隊』の事よ。」

 

そう言うとビスマルクは帽子を脱いだ。

 

「何のことか話を聞いたわ。......ここの鎮守府が特殊なのも知っているし、他の鎮守府がどういう状況かも知ってる。でもどうにかならないのかしら?いつか仲間同士で撃ち合いになるんでなくて?」

 

そう言われ俺は考えた。

今日来たばかりのビスマルクが分かって、俺が分からなかったのは何かがマヒしていたのかもしれない。確かに、『近衛艦隊』と『親衛艦隊』の存在はやがては同士討ちに発展する可能性がある。きっとどちらが俺にとって最良の選択かということだろう。理性的に働く『親衛艦隊』と何でも攻撃的になる『近衛艦隊』。きっとどちらも正しいと思い、行動するのだろうが、その意見が衝突する時が何れやって来る筈だ。それをビスマルクはたった数時間で懸念したのだろう。

 

「そうだな......。」

 

俺はそれだけしか答えれなかった。

何故なら改善もできない状況だからだ。『近衛艦隊』の勢力が小さいのはせめてもの救いだが、実際その存在に助けられた事がある。

 

「だが、なくすことは出来ない。『近衛艦隊』は非公式であり、『組織的行動はしない』んだ。俺から言ってもどうしようもない。彼女たちが止めなければな。」

 

そう言って俺はビスマルクの横を通り、自分の椅子に座った。

 

「それより今日で文化祭(仮)が最終日だったんだ。こんな話をしていても仕方ない。打ち上げ兼ビスマルクたちの歓迎会をやるから、是非出てくれ。」

 

そう言うと俺は机に置かれていた紙を見た。そこには足柄からのメッセージがあった。

 

『彼女たちに近衛艦隊と親衛艦隊の事を話しちゃったけど問題ないわよね?それと彼女たち、近衛艦隊の素質があるわ。注意ね。』

 

そう書かれていた。

俺はその紙を書類に紛れ込ませて立ち上がった。

 

「あーそうそう。」

 

俺は執務室を見渡すビスマルクたちに声を掛けた。

 

「何か?」

 

答えたのはグラーフ・ツェッペリンだった。

 

「何故一気に増えたのか聞かれたら、『提督の引き抜きだ。』って答えてくれ。『頼み込んで移籍させて貰った。』なんて言ったらなにされるか分からないぞ?」

 

「それは『近衛艦隊』の奴らにか?」

 

「そうだ。」

 

俺がそう言うと全員が頷いた。

 

「じゃあ打ち上げ兼歓迎会までここに居るといい。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

さっきから俺は本を読んでいるが、ビスマルクとグラーフ・ツェッペリンがこちらをマジマジとみている。プリンツ・オイゲンはまだ執務室をキョロキョロと見渡して、レーベレヒト・マースとマックス・シュルツは何かを話している様だ。それよりもU-511が上の空になっているのが少し気になる。

というかさっきからマジマジとみられて本に集中できない。

 

「なんだ?」

 

そう訊くとグラーフ・ツェッペリンが訪ねてきた。

 

「執務はやらないのか?」

 

そう訊かれて俺は机の上にある書類に目を落とした。

 

「......今日は資材を建造と開発はしてないし、出撃も哨戒しか出てないから少ないんだ。」

 

そう言って俺は書類を見せた。置いてあった書類は2枚。哨戒に出ていた艦隊の報告書と消費資材報告書だけだった。

 

「成る程な......。だがそれは今日の分なのだろう?アトミラール。」

 

そうグラーフ・ツェッペリンは言ってきた。

 

「そうだな。」

 

俺がそう答えるとグラーフ・ツェッペリンは俺の手から書類を持って行った。

 

「アトミラール。なら私がやっておこう。秘書艦の机とパソコンを借りるぞ。」

 

そう言ってグラーフ・ツェッペリンは椅子に座った。

 

「あぁ......ありがとう。グラーフ・ツェッペリン。」

 

「問題ない。それとグラーフ・ツェッペリンでは呼びにくいだろう?」

 

そう言われて咄嗟に出た名前を言った。

 

「ならグラーフ。」

 

「それはドイツ語で伯爵だ。アトミラールが私を敬ってどうする。」

 

そう言われ再び考えだしたが、いいものが思いつかなかった。

 

「うーん、思いつかないなぁ。」

 

「なら私の名前にもなっているグラーフ・ツェッペリン、つまりツェッペリン伯爵のフルネーム『フェルディナント・フォン・ツェッペリン』から何処かを略せばいいだろう。」

 

「どこも訳せないからな......それ。」

 

そう言うとグラーフ・ツェッペリンは『そうか?』とだけ答えて溜息を吐いた。

 

「......ならグラーフと呼んでくれ。私も言ってなんだが思いつかなかった。」

 

そう言ってグラーフは俺の代わりに書類を片づけ始めた。

この後、すぐに打ち上げの準備が整い、打ち上げに向かったのだが相変わらずの騒ぎだった。

そしてビスマルクたちの紹介もし、皆で交流を深めるといって一層うるさくなったのは言うまでもないだろう。その時俺は間宮のところに避難していた。最近、こういった宴会みたいなものになると最初に食べてるだけ食べておいて間宮のところに避難するのが常になっていた。

 




結構話が飛びました(汗)
というか金剛がまた出てきましたね。神出鬼没ですね本当に。まぁ提督のいうことは素直に聞くだけ良いですがね。
それよりグラーフ・ツェッペリンの良いあだ名が思いつかなかった。最初は『フェル』とか考えてたけど無理があるwww
巷ではグラ子とか呼ばれてるみたいですが、できれば使いたくないですね。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第九十話  提督と金剛とドイツ艦

 

文化祭が終わり、余韻に包まれたまま打ち上げに入っていた。

食堂では艦娘たちがあれこれとワイワイしていて、とても楽しそうな雰囲気を醸し出していた。これを見ると、やってよかったと思えてくる。

俺の背後で緊張した様子のドイツ艦勢は曰く『日本艦も所属している司令部に居たけど、日本艦とは挨拶はおろか、見たこともない。ここに来てからも足柄としか話してないし、露店にいた艦娘らしき姿も分からなかった。』ということなので、今から入る食堂には艦娘しかいないと考えると緊張するとのことだった。レーベとマックス、ユー、プリンツは結構緊張している様子だ。ちなみにグラーフとの話の後に、自分たちのも好きな風に呼んでいいと言われたのでこう呼んでいた。ビスマルクは略しようがない。

 

「入るか?」

 

そう訊くと、皆頷いたので俺は扉を開いた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

案外あっさりと溶け込んだようなので、俺は榛名と熊野を呼んで話をしていた。

 

「なぁ、榛名。」

 

「はい。」

 

俺はそう切り出した。

 

「『近衛艦隊』の事だが......。」

 

榛名は『近衛艦隊』と聞いた瞬間、肩を跳ね上がらせた。

 

「あるつてで詳細を聞いた。榛名が金剛と鈴谷の監視をしているそうだな。」

 

「はい......他に空いてる人が居ないので。」

 

そう言った榛名はしょんぼりしてしまった。

 

「俺はこっちに来た金剛と鈴谷しか知らないが、何かを察知した時、どんな変化があるんだ?」

 

「......金剛お姉様は普段、とても優しく元気な方ですが、察知した瞬間に表情が変わるんです。冷たい、張り付いた様な表情。比叡お姉様もあの金剛お姉様には甘えようとしません。私はやらなければいけない役を果たすために引き留めるのですが、いつも振り切られてしまいます......。」

 

「鈴谷は?」

 

そう訊くと榛名は首を傾げた。

 

「鈴谷さんはいつもと変わらない様子ですよ?金剛お姉様が怒っていても鈴谷さんは平気そうな顔をしてます。ですけど、忽然と姿を消すんです。」

 

俺は榛名の言ってる意味が判らなかった。忽然と姿を消す。よく聞く表現だが、それを会話で言う人を俺は初めて見た。

 

「どういう意味だ?」

 

「そのままの意味です。榛名が視線を落としたり、ずらしたりして戻した瞬間にはもう居ないんです。音も立てずにいなくなってしまうんです。」

 

俺はなんとなく理解が出来た。つまり金剛はあからさまに怒って強引に行き、鈴谷は怒ってないように見せかけて姿を消す。

 

「そうか......。」

 

俺はそう言って切り上げると、今度は熊野に話しかけた。

 

「熊野から見て鈴谷はどうなんだ?」

 

「私は『親衛艦隊』ですので、監視という名目で鈴谷の横にはいますが、概ね榛名さんの言う通りですわ。忽然と姿を消す......こんな表現を口にするのはこれかもしれませんが。」

 

そう熊野も言ったのだ。

 

「引き留めることは?」

 

「出来ませんわ。彼女らが動くということは、一時的に提督の身の危険を回避できるということ。私たちにとっても利が発生するんですの。」

 

そう言って球磨のは腕を組んだ。

 

「というより提督。私たちの仕事を勘違いしてませんこと?」

 

そう言って来た。

 

「どういう意味だ?」

 

「私たちの仕事は、彼女たちが怒ってどこかに行くのを止めるのではなく、彼女たちが手を下そうとするのを止める事ですの。提督の身の危険を察知するのが私たちよりも格段に敏感ですので、そのあたりは彼女たちを頼ってますの。ですけど、その後の行動に問題がありますの。」

 

そう言って熊野は水を飲んだ。

 

「私たちは本当なら殺してやりたいと思ってますわ。これは『近衛艦隊』と変わりませんわ。ですけど理性の方が優勢なんですの。『もし殺してしまったらどうなるのか。』『責任を追及されたらこの鎮守府は、提督はどうなってしまうのか。』そんな事が先に頭を支配します。ですけど彼女たちは『殺してやる。』『提督に手を下した罰、私がこの手で払ってやろう。』という様な感情が支配するんですの。つまり彼女たちは『提督への執着』が発動している期間は『獣』ですの。」

 

そう言って一息つくと再び始めた。

 

「そうは言いますけど、私たちも彼女たちの理性を働かせる努力はしてますわ。大体、大本営が鎮守府で起きた事件をそのまま軍法会議に持っていくのかという事自体が私たちが手を下さなくても相応の罰を相手に与える事が出来ますし、提督次第で私たちがこの手で殺すことだってできますからね。」

 

「榛名たちは提督の一声で人を殺せるんですよ?今ここで皇居を攻撃しろと言われれまきっと榛名たちは艤装に走っていき攻撃を始めるでしょうね。」

 

そう言ってきた。

俺は最後に言ったことを黙って流し、答えた。

 

「理性を働かせる......効果は?」

 

「『執行役』つまり金剛さんと鈴谷たちの事ですが、効果はあります。先日、暁と雷が理性を戻しましたわ。これで私たち『監視役』側ですわ。他にも名取と羽黒、加賀さんもこっち側になったわ。」

 

そう訊き俺は少し安心したが一方で、金剛と鈴谷、那智、神通、叢雲はダメなのかと思った。

 

「言い忘れていたわ。叢雲は『執行役』側でありながら割と理性はありますわ。だけど何故『執行役』側なのか理解できませんわ。」

 

「それは榛名も同感です。」

 

そう口を揃えて言った2人の間で俺は腕を組んだ。

 

「そうか......。だけど理性のある叢雲は『監視役』側に戻すことは容易だと思うんだが?」

 

「そうですわね......。」

 

俺の言ったことに同意した熊野に反して、榛名はどうやら違うようだ。

 

「榛名は叢雲が『わざと監視役』側に居るように思えて仕方がないのですが......。」

 

そう言った榛名も腕を組んだ。

 

「難しいな......。」

 

同じ格好で3人が唸っていると、ビスマルクとグラーフが来た。

 

「提督、なに辛気臭い空気出してるの?」

 

「アトミラール、ここだけ妙に浮いているぞ。」

そう言われて俺は組んでいた腕を解いた。

 

「すまんな。それでどうした?」

 

「一通り挨拶が終わったのよ。」

 

「だからアトミラールの元に戻ってきた。」

 

そう言って2人は俺の両脇に座った。その瞬間、榛名と熊野が少し不機嫌になったような気がした。

 

「それにしても提督は若いのね。」

 

「あぁ、18だ。」

 

「そうか、私と同い年じゃないか。」

 

そう言って絡んでくるビスマルクとグラーフに俺はシドロモドロし始めた。

 

「そいえばな、あれから考えたんだが、『フェルト』と言うのはどうだ?略で女性名詞っぽいだろう?」

 

グラーフがそう言って来た。

 

「そうだな......。だが。」

 

「私は自己紹介でもう言って来たぞ?」

 

俺の逃げ道が封鎖されてしまった。

 

「アトミラールだけグラーフ呼びだと皆、不思議がるのではないか?」

 

「......そうだな。」

 

俺がそう言って諦めた時、後ろから声がした。

 

「提督が困ってマース。離してあげて下サイ。」

 

金剛だった。後ろを振り返ってみたが、いつもの様子だった。

 

「離すも何も捕まえてないわよ?」

 

そう反論するビスマルクだが、確かに捕まって等居ない。会話の中では八方ふさがりだったが。

 

「ビスマルクに入ってマセン。グラーフ・ツェッペリンに言ってるんデス。」

 

「私も捕まえている等と思ってないが。」

 

そう言ったフェルトに金剛は言った。

 

「昨日今日でいきなり鎮守府に『移籍』してきた新参者をそうやすやすと信用できまセーン。そんなのが2人で提督の両脇に座っていたら何してるのか不審に思われマス。」

 

そう言った金剛は続けた。

 

「それにグラーフ・ツェッペリンの方は目つきが悪くて怖いデース。」

 

そう言い放った金剛に反してビスマルクは必死に笑いを堪え、フェルトは少し目に涙を浮かべていた。

 

「クフッ.......ツェッペリンが目つきが悪い......確かにその通り......フフッ。」

 

そう言いながらビスマルクは悶えていた。

 

「結構私、気にしてるんだがな......。」

 

そう言って落ち込むフェルトだった。

 

「ほら、だから私にそこを変わるのデース!!」

 

そう言って飛びかかる金剛に俺とビスマルク、榛名、熊野は口を揃えて言った。

 

「「「「そっちが本音っ!?」」」」

 





最初のシリアスな感じから一気に落とす......楽しい(真顔)
ということで、今回は打ち上げ兼歓迎会の一部でした。金剛がグラーフ・ツェッペリンと絡む辺り、結構面白そうですね。
それとグラーフ・ツェッペリンの愛称ですが感想に頂きました『フェルト』を採用させていただきました。しっくりきたものですから......。

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番外編  俺は金剛だ!⑦ 『俺と狩人と狼と』

白瀬さんの話で大体の世界の状況が掴めた。

何だよ!男が少ないって......。体験してみてわかるが、そんな世界に幻想を抱いてる諸君。恐怖以外の何物でもない。

 

「ヤバいなぁ......。」

 

そうブツブツと言いながら俺は歩いているが、そんな俺を露知らず、目を光らせた存在が今かと待っていた。

その刹那、一匹の狼が俺の眼の前に現れた。

 

「金剛君っ!私とお茶しない??ねっ!?お茶しようよー!!お姉さんが奢っちゃうぞ☆」

 

「うわっ......一発KO狼だ。」

 

俺は思わず武蔵に一撃で大破させられていたのと狼に見えるというのが合わさったあだ名を出してしまった。ちなみに、初めて話しました。

 

「一発KO狼とは失礼しちゃうわ!武蔵と大和が居ない今、チャンスなのよ......!もう後がないの......。」

 

うわっ、さっむ!

建物内で普通くらいの温度なのに、周りの気温が急低下した。ちなみに出遅れた艦娘も凍り付いている。

 

「......因みに、何の後がないんだ?」

 

俺がそう訊くと、狼はうーんと考えだし、答えを思いついた様だ。

 

「何の後がないんでしょうね?」

 

俺は滑った。何故言ったし!

 

「あー、後がないのがないなら遠慮しておきます。後が無くても遠慮します。」

 

「ガーン!」

 

ガーンって口で言う人初めて見たわ。

 

「グスン......初めて会った男だっていうのに......。」

 

そう言って狼は袖で目を隠した。

 

「一発KO狼......泣く事かよ......。あーもう!!分かったから、どこ行くんだ!?」

 

少し可哀想に思えたので言ってしまった。

 

「間宮に行きましょ!」

 

「嘘泣きかよっ!?」

 

狼はケロッとしてそう言って俺の手を取った。

 

「それと私は一発KO狼じゃないわよ。妙高型重巡洋艦 三番艦 足柄よ!足柄でも足柄さんでも足柄姉さんでも好きな風に呼んでもらっても構わないわよ?ちなみに私の一番のおすすめはお前だけど......そうしたら何かケッコンしてるみたいで......。」

 

「そう言うのいいんで......足柄でいいか?」

 

感情の起伏が激しいらしいおおか......じゃなかった、足柄は勝ち誇った様な表情で廊下を進んでいった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

間宮に連れて行かれた俺はどうせそんな食べれないだろうと小ぶりのパフェを頼んだ。というのは建前で遠慮である。どうしても奢りだと言われてしまうと遠慮してしまうのだ。

 

「美味しー♪」

 

セリフに音符が見えるのは置いておいて、間宮でも例外なく艦娘が居る訳で......。

一言で言うならば、物凄く怖い。視線が刺さる刺さる。足柄の向こう側に見える誰だろう......ピンク色の髪で小さい女の子。目つきが戦艦並みだ。

 

「美味いな。」

 

俺はそんな視線を視界に居れないようにパフェに集中する。これまであまりパフェを食べたことは無かったが、何かとてつもなく美味しく思える。何でだろうか。

 

「そう言えば金剛君。」

 

足柄はパフェにスプーンを刺して俺に話しかけてきた。

 

「何時の間に金剛とか連れてきたの?」

 

そう言われて俺は両脇を見た。

右には比叡、左には榛名。そのさらに奥には霧島と金剛が座っている。

 

「いつの間に!?」

 

「あー、気付いてなかったんだ。」

 

そう言って足柄は再びスプーンを取った。

 

「私は気付いてたけどねー。というか、もう第一目標は達成されたからね。」

 

そう言って足柄はパフェのサクランボを口に運んだ。

 

「第一目標って?」

 

俺がそう訊くと足柄は答えてくれた。

 

「金剛君に話しかけて話をすることかしら。それは達成されたわ。大和や武蔵が居ないからね。」

 

そう言って今後はアイスをすくって口に運んだ。

 

「ンク......それと、私への変な誤解も解いておきたかったし。」

 

「変な誤解?......あぁ、一発KO狼ね。」

 

「それよ。案外素直で私的には嬉しいわ。......これなら第二目標に移れるわ!」

 

そう言って足柄は残っていたアイスを口に入れると、前にのめりだした。

 

「それはね......。」

 

そう言ってくる足柄に危険を感じて俺は咄嗟に比叡の襟を掴んだ。

 

「ひえぇ!!」

 

慌てた比叡が俺の前に顔を出し、足柄と額をぶつけた様だ。

 

「ひえぇぇぇぇ、酷いですお兄様ぁ~。」

 

「おう、初戦果だな。」

 

俺はそう言ってぶつけた額を擦っている比叡の頭を撫でた。

 

「ちょっ!?私も撫でなさいよー!!」

 

そう騒いでいると何だか楽しかった。

これじゃあ大学に通っていたあの時と変わらない。そんな気がした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

あの後、余りに騒がしいからといって大和や武蔵、果てまでは提督まで来てよくわからない事になってしまったので逃げてきた。

ちゃんと足柄には礼も言ったし、忙しくなかったらまたとも言っておいた。何でかは俺も分からない。何でだろうな。

廊下を歩いていると、見るからに艦娘ではないし白瀬さんでもないような女性が現れた。

 

「ちょっと君。」

 

「?」

 

俺はいきなり呼び止められて通り過ぎたのを振り返った。

 

「何故、男が......。」

 

「何すか?」

 

「いや、何故男がこんなところに居るのだろうと思ってな。」

 

「あっ......さ。」

 

「さ?」

 

「さよならー!!!」

 

「あっ、こら!!」

 

俺は何だかとてつもない予感がしたので走った。何故なら呼び止めた女性の腕には『憲兵』と書かれていたからだ。英語に直せばMilitary Police、更に直訳すると軍警察。警察を見たら逃げろっていうじゃないか。

 

「待てー!!」

 

「待てと言われて待つかよー!!」

 

そう言って廊下を追いかけられるので結局甘味処の時と変わらない状況になった。

 

「止まれー!!」

 

「涎と煩悩垂らしながら追いかけて来るなー!」

 

そう俺が走りながら言うと、後ろで鈍い音が聞こえた。ゴスッみたいな音が聞こえ、後ろから走る音が聞こえなくなったので俺は振り返った。

 

「ここの憲兵さんも一回憲兵さんに捕まるといいっぽい!」

 

そう言って憲兵の腹にアッパーの居れた状態の金髪の少女はこっちをみた。

 

「困ってるみたいだったから加勢したよ!褒めて―!」

 

そう言って来た少女は伸びている憲兵を踏んでこっちに飛んできた。この少女には不思議とそこの憲兵の様な雰囲気は取れないのであのままだと地面とキスする事になるだろうから受け止めた。

 

「おー、ありがとうな。それで、名前は?」

 

「白露型駆逐艦 四番艦 夕立よ!」

 

そう言って金髪に変な髪の跳ねたところがピコピコと動いているのを見ながら俺は一言。

 

「犬だな。」

 

「犬っぽい?」

 

そう言うと首を傾げたので取りあえず頭を撫でておくことにした。

 

「助かったよ。」

 

「んふふー♪」

 

俺は夕立を撫でつつ伸びている憲兵が持っていた手錠を憲兵に付けて、白瀬さんに報告に行くことにした。

俺はどこに行っても騒ぎを起こす分子になるようだ。この先、思いやられる......。

 




束の間の番外編ですねー。
この世界、まさかの憲兵役立たずというw

それと何だか前半に夕立っていましたよね?あれは別人です。

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第九十一話  提督の苦悩①

 

文化祭(仮)が終わり、ドイツ艦勢が皆に溶け込んだ頃、俺は初めて大本営から送られてくる作戦に参加(※強制)することになった。

大本営から送られてきた書類に作戦名と大まかな内容が書かれていた。

 

作戦名『雷撃作戦』 

横須賀鎮守府艦隊司令部傘下の機動部隊、水上打撃部隊が揚陸艦部隊を護衛して南進。台湾、リンガ、タウイタウイを経由してリランカ島に上陸。友好国ドイツとの貿易中継基地の設営をする。その際、横須賀鎮守府艦隊司令部司令官は作戦中、指揮下の部隊を柔軟に運用することを許可する。

 

ということだった。

俺はこの最後にかかれていた『横須賀鎮守府艦隊司令部司令官は作戦中、指揮下の部隊を柔軟に運用することを許可する。』という文からある事を考えていた。

大本営は富嶽を使うことを遠まわしに言っているのだ。だが、どう運用すればいいのか。航路に出現する深海棲艦を片っ端から海上絨毯爆撃すればいいのか。それとも何かを空輸しなければいけないのか......。俺は頭を抱えてしまった。

だが一つ、分かっている事は揚陸艦『天照』がこの鎮守府に来るということだ。これも俺の悩みの種となっている。

 

「はぁ......。」

 

俺は横須賀鎮守府からリランカ島への航路図(※読めません)を見ながら溜息を吐いた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は滑走路横の格納庫に来ていた。そこには空襲で焼けて以来から製造が続いている陸上機が所狭しと並んでいる。

その一角で陸上機の搭乗員だろう妖精がたむろしていた。

 

「お疲れ。」

 

俺はそう声を掛けた。

 

「お疲れ様です、提督!どうされたんですか?」

 

俺はそう訊かれてどうせ知る事になる作戦の事を話した。ちなみにたむろしていたのはどれも爆撃中隊や飛行戦隊の長たちだった。

 

「うーん......爆撃部隊からしてみると、出して貰うなら護衛が欲しいところです。」

 

そう妖精は言った。

 

「そもそも爆撃部隊に護衛部隊が付くのは常ですし、何より富嶽の対空装備は無いのも同然ですからね。」

 

他の妖精もそんな様な事を口を揃えて言うのだ。

 

「ですけどそうすると護衛部隊は空母から出さなければなりませんし、航続距離の長いに越したことはないので、零戦を護衛に就かせるのが妥当だとは思いますが......。」

 

「零戦は高高度性能が良くない......。」

 

俺はそう呟いた。零戦は低空でのドッグファイトであの鬼性能を発揮するが、高高度で飛行するために必要な過給機が無い。

 

「かと言って雷電改では......。」

 

「航続距離が短すぎるか。」

 

雷電改は元は局地戦闘機なので高高度での飛行に強いが、航続距離が零戦の約1/4なのだ。

 

「難しいですね。」

 

そう言って俺と妖精総勢30人が腕を組んで唸ってしまった。いい案が浮かばないのだ。

 

「あっ......富嶽は確か自由大気圏(高度10000m以上)を飛ぶので、零戦や雷電改ではその高さは飛べませんね。」

 

こうして護衛部隊を付けるか付けないかの話は八方ふさがりになってしまった。

だがある疑問が俺の中に浮上してきた。

 

「というかそもそも高度10000を飛べる深海棲艦の艦載機はあるのか?」

 

そう言うと妖精たちは何かを察した様な表情をした。

そして俺が最初に話しかけた妖精が答えた。

 

「居ないですね。なら護衛なしの方向でいいでしょうね。」

 

そう言ったのだ。だが俺は今いなくても今後は分からないと思い、保険を掛ける事にした。

 

「いや、震電改を迎撃に出せるようにしておこう。震電改なら高度10000を飛ぶことができる。」

 

そうして俺と妖精との話し合いは終わった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はまだまだ考える事があった。

富嶽を使うこの作戦、俺の指揮下にある艦隊と航空隊は自由に使えるのだ。艦隊編成の指定も機動部隊と水上打撃部隊とだけしか書かれてなかった。

俺は悪い笑みを浮かべた。

 

「提督?......怖いですよ?」

 

そう言って来たのは今日の秘書艦の霧島だった。

 

「霧島。」

 

「はい。」

 

「機動部隊と水上打撃部隊を投入するということは最低でも12隻の投入だよな?」

 

「そうですね。」

 

霧島は素っ気なく答えてくれた。

 

「ですけど艦隊護衛という名目で水雷戦隊が必要になるので実質18隻以上ですかね?」

 

「やっぱり?」

 

「はい。」

 

そう言った霧島はメガネが変な風に光を反射していた。

 

「大本営から送られてきた作戦書は見た?」

 

「勿論。あれには船の数の指定がありませんでした。」

 

俺は悪い笑みをした。

 

「不安過ぎるから24隻だ。それも高速艦で固めた艦隊。」

 

そう俺が言うと霧島は立ち上がった。

 

「私の出番ですね。」

 

「あぁ。編成しておくから、その気で宜しく。」

 

「了解です。」

 

こうして俺は艦隊編成をし始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

霧島が秘書艦だった日から数日後、準備が整い、作戦発動の日となっていた。

俺の目の前には出撃艦隊に選ばれた艦娘たちが整列している。

水上打撃部隊 旗艦:霧島以下金剛、比叡、榛名、熊野、鈴谷。機動部隊 旗艦:赤城以下加賀、蒼龍、飛龍、祥鳳、瑞鳳。護衛第一艦隊 旗艦:最上以下古鷹、加古、鳥海、北上、大井。護衛第二艦隊 旗艦:神通以下吹雪、島風、雪風、時雨、夕立。

全員が高速艦だ。

 

「鎮守府には数日帰ってこれないだろうが、頑張ってくれ。」

 

俺はそう言って皆の顔を見た。

皆は急に選ばれたのを不思議に思っているのだろうが、全員何度も組んだことのある艦娘同士の筈だ。連携云々は問題ない。仲の良い悪いは俺が把握できないところなので置いておいたが、それでも、選んだ艦娘は他の艦娘とは違うところがあった。

全員が猛者で、長い事戦っている古参と現場叩き上げの手練れだ。

 

「それとこの作戦が成功すれば、ドイツとの貿易で手に入れた嗜好品はこちらに優先的に回してくれるそうだ。ビスマルク!」

 

「なに?」

 

「ドイツで有名なものを教えてくれ。」

 

俺は唐突にそんなことを言い出した。

 

「観光客がよく買っていくのはニュルンベルクソーセージとか、ビール、コーヒー、フレーバーティー、ワイン、グミ、バームクーヘン、テディベア、かしら。......食べ物が多いわね......。」

 

俺はそれを聞くと向き直った。

 

「聞いたか!?交易が始まれば今ビスマルクが言ったものがいっぱい日本に来る!これから赴く作戦はそれの橋掛けだ!」

 

と俺が言うと、皆がおぉーと歓声を挙げた。

 

「因みに俺が食いたいと言うのもあるが。」

 

出撃艦隊の皆が滑った。このやりとりはもう何回もやっていて、定番化してきていた。

 

「だからさ......生きて帰って来い。絶対だ。......何があっても、何としてでも帰って来い。」

 

そう言って俺は敬礼をした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺の話が終わるとそれぞれが艤装に乗り込み、出撃していった。

鎮守府に残る艦娘と俺、手の空いている門兵や騒ぎを聞いた事務棟の職員や酒保の従業員、俺が埠頭で手を振って見送った。

朝の早い時間だったが、護衛の為に長い旅に出て行った艦娘たちの後ろ姿はとても凛々しく見えた。帰ってきたら飛び切り盛大に歓迎会を開いてやろうと俺は考えた。

だがその一方、高雄が俺に伝言と言って早々に手を振る列から離脱すると、伝言を伝えられた。

 

「赤城さんから伝言です。『普段、提督の身辺には護衛が居ますがそのほとんどが今回の出撃でいなくなります。ですので私たちが帰ってくるまでの期間、『番犬艦隊』を編成させておきました。』とのことです。ちなみにメンバーはビスマルク、プリンツ、レーベ、マックス、ユー、フェルト、朝潮です。」

 

「おい......この編成の理由は聞いたか?」

 

そう言うと高雄は苦笑いして言った。

 

「赤城さん曰く『全員犬に見える娘を選びました!』だそうです。」

 

「やっぱり......。」

 

俺の想像通りだったので肩を落とした。赤城の編成する『番犬艦隊』はその名の如く、本当に俺の近くから離れようとしないので結構柔軟に動けない欠点があるのだ。

これから大本営や出撃していった艦隊との連絡のやり取りで忙しい時もあるだろう。その時にこんな多勢で動いていたら鈍くなってしまうのだ。

俺は思わず溜息を吐いてしまった。

 

「なぁ、高雄。」

 

「はい?」

 

「赤城って過保護だよな。」

 

そう言うと高雄に首を横に振られた。

 

「そうかよ......。」

 

俺は今日の秘書艦である愛宕を連れて執務室に戻って行った。今更だが何故今日の秘書艦に赤城は伝言を伝えなかったのだろうと思ってしまった。

 





うわぁ......結構酷い始まりにしてしまいました(白目)
今回から始まる『提督の苦悩』ですが、これは『提督の嘆き』と似て長編になる予定です。どこまでつづくのやら(ゲス顔)
基本的にはこれまで出てきた艦娘から離れて、残った艦娘との絡みが増えると思います。たぶん......。ですけど、ドイツ艦が『番犬艦隊』に任命されているのでそっちの絡みが殆どになってしまうと思いますが......。

それと、総合で100話を今回で達成しました。みなさまのお蔭でここまで成長する事が出来ました!
100話分の文字数ですが、大体23万字ですので文庫本1冊以上ありそうですねwww
これからも末永く(←末永いの?!)宜しくお願いします。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第九十二話  提督の苦悩②

雷撃作戦が開始して1日目。

何時もと変わらない様子で俺は起き上がったが、部屋の様子は変わっていた。

 

「じー。」

 

「じー。」

 

「......。」

 

「......。」

 

「......(船漕いでる)。」

 

「じー。」

 

「......(船漕いでる)。」

 

番犬艦隊の連中が俺のベッドを囲んで見ていた。

その様子を見た瞬間、俺は毛布を頭まで被せた。

怖すぎる。起きた瞬間、見下ろされていると何かのホラー映画かと思ったのだ。

 

「提督、起きたのなら出てきて欲しいわ。」

 

そう言ってビスマルクが俺の身体を揺さぶった。

 

「いや......起きた瞬間、7人に見下ろされていたら怖いから!」

 

そう言うと俺の身体を揺らす手がもう1人分増えた。

 

「アトミラール。朝だぞ。」

 

今度はフェルトの様だ。

 

「いや今言ったよな?」

 

「ビスマルクは怖かったかもしれないが、私はそうじゃないだろう?」

 

そう言ったフェルトにビスマルクがツッコみを入れた様だ。

 

「ツェッペリンの顔が怖いのよ!だから提督が怖がったのはツェッペリンね!」

 

「それはないな。何故なら私は今、膝枕をしているからな。」

 

デデーンという効果音が聞こえたような気がするが俺は気にしないようにした。

いまフェルトは膝枕していると言ったな。そう思い頭の位置をずらしてみる。そうすると、一定の距離動いた頭が落ちた。どうやら段差に乗っていた様だ。そしてさっきまでの段差は暖かかった。

 

「あ。アトミラール。良いのか?」

 

「良いのかじゃない。何時の間に俺はフェルトの膝に頭を乗せた?」

 

そう言って俺は毛布から頭を出した。視界には皆の顔が映る。ちなみにユーと朝潮は寝ている様だ。立ちながら寝るとか器用だ。

 

「どうだろうな......。起こさなくてはいけないと思ってここに来てからすぐだったか?」

 

「勝手に乗せるな。」

 

後頭部に残る感触で少し慌ててしまった。フェルトはそのままベッドから出た。

 

「提督ー!起きて!」

 

遂にプリンツもしびれを切らして毛布を引っ張ってきた。

 

「分かったから......。手離して。」

 

俺はそう言ってむくりと起き上がると、さっきまで視界に入らなかった執務室とつながる入り口を目に捉えた。そこには扉全開で押しながら覗いている艦娘たち。

 

「......。」

 

「どうしたの?」

 

そう訊いてきたビスマルクを無視して入り口で押し合っている集団に声を掛けた。

 

「何をしている。」

 

「あっ......いや......その......。来たらこんな風になってまして......。」

 

そう言ったのは飛鷹だった。

 

「そうか。」

 

俺はそう言ってビスマルクたちを追い出して、着替えると執務室に入った。

 

「それで、何故鎮守府に残っている艦娘全員がここに集合している?」

 

執務室には俺がいつもの机にたどり着けないくらいの艦娘で溢れていた。

 

「『近衛艦隊』も居ませんし、『親衛艦隊』の幹部たちもいませんから......。チャンスだと思って......。」

 

そう伊勢が言った。

 

「何のチャンス?」

 

そう言うと全員が口を揃えて言った。

 

「「「「「「「「「「提督と仲良くなるチャンス。」」」」」」」」」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はなんとか残留艦娘をなだめると、通信室に来ていた。

ここは時雨の願いである無線機の新調。というか、性能向上を図った時に鎮守府に設置された艦隊と俺とを繋ぐ設備だ。

 

「定時報告せよ。」

 

俺がそう言うとあっちから返信が入った。

 

「護衛艦隊、台湾海軍保有の泊地にて停泊中。」

 

通信妖精だと言って通信機に張り付いている妖精がそう言った。ちなみにこの通信室は地下シェルターにある地下司令部にある一角だ。

 

「妖精、旗艦に繋いでくれ。」

 

「はい。」

 

そう言って指示を出すと、妖精は俺に電話の受話器の様なものを手渡してきた。

 

「提督だ。」

 

『霧島です。司令、どうされました?』

 

そう訊かれて俺は現状を聞いた。

 

「現状を教えてくれ。それと鎮守府を出てからあった事。」

 

『多分そちらでも報告があったと思いますが、現在、台湾海軍が保有する泊地にて停泊中です。台湾までは深海棲艦との遭遇戦が1回ありましたが、爆撃中隊による海上絨毯爆撃によって殲滅。今のところ損害無しです。爆撃を行った爆撃中隊はそのまま鎮守府に引き返したので今日中にはつくと思います。』

 

「分かった。ありがとう。」

 

『はい。』

 

俺はそう言って受話器を耳から話すと通信妖精に言った。

 

「赤城に繋げれるか?」

 

「はい。」

 

やはり全艤装に換装したから繋がるようだ。すぐに受話器から返事があった。

 

『おはようございます、提督。』

 

「おはよう。」

 

『どうしたんですか?』

 

そう言った赤城に俺はビスマルクたちの事を言った。

 

「番犬艦隊など編成しなくても良かっただろう?どうして編成したんだ?」

 

『それは提督が心配だからです。私たち古参が鎮守府に居ない今、提督のいらっしゃる鎮守府を守れるのは番犬艦隊しかいませんよ。』

 

トーンを変えずに言った赤城に聞こえないように溜息を吐いた。

 

「それでも60人強も居るんだぞ?心配し過ぎだ。」

 

『そうでしょうか?提督の危険をいち早く察知できる金剛さんや鈴谷さんは作戦に参加してますし、適切な判断だと思いますが?』

 

「あぁもう、分かった。」

 

どうやら赤城は筋金入りの心配性らしい。

俺は話を変えた。

「それと、霧島から報告を受けた海上絨毯爆撃の事だが、爆弾を投下して帰路に付いた爆撃中隊は何個だ?」

 

『一個です。遭遇した深海棲艦が比較的弱い編成でしたので、この程度で済みました。』

 

「となると帰ってくるのは20機か.,.....。残ってるのは何機だ?」

 

『340機です。』

 

「分かった。気を抜くなよ。」

 

『ふふっ......分かってますよ。』

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

朝からバタバタしていた俺だが、結局はいつも通りだった。番犬艦隊が居る時は、番犬艦隊に秘書艦を任せて執務をこなし、昼前には暇になる。

ただ違うことは、鎮守府がとても静かだということだ。

と言いたかった。

 

「司令官っ!お茶会しましょ!!」

 

そう言って執務室の扉を思いっきり開けて入ってきたのは第六駆逐隊だ。これまで何度か執務室を訪れてはワーワーやり、秘書艦に追い出されていた彼女たちだが、今日も突撃してきた様だ。

 

「いいぞ。」

 

俺はいつものようにそう返事をして立ち上がるとだいたいこのタイミングで秘書艦が『提督は執務でお疲れなのでまた今度にして下さらない?』と誰もが言うのだ。それを渋々追い返されてきた彼女たちだが、今日の鎮守府の体勢はいつもと違う。今日こそはいけると思った様だ。

 

「そうか。なら私が準備をしよう。」

 

「私もご一緒していいですか?」

 

「私もー!」

 

「ボクもいいかな?」

 

「私も。」

 

「ユーも......。」

 

フェルトが立ち上がって準備に向かうと朝潮から全員が賛成の様だった。

 

「ビスマルクは?」

 

そう訊こうと思い執務室の中を見渡すと、既にビスマルクはソファーのところに座っていた。

 

「なっ、なによ。」

 

「......何でもない。」

 

「今の意味ありげな間は?」

 

「.............何でもない。」

 

俺はそういってソファーに座った。ちなみにビスマルクの反対側。そして続々とソファーに座っていった。

 

「皆は何を飲むのだ?」

 

そうフェルトが言うので各々飲みたいものを注文していく。

暁はミルクティー、響はストレート、雷もミルクティー、電はココアと言った。ビスマルクはブラック、プリンツはコーヒーだがミルクと砂糖、レーベとマックスもプリンツ同様、ユーもココアで俺はブラックを頼んだ。

 

「分かった。少し待っていてくれ。」

 

そう言って奥に行ってしまったフェルトを見送ると、暁たちは話を始めた。

 

「初めて成功したわね!」

 

「そうだね。いつも追い返されていたから。」

 

「フェルトさんは話が分かるわね!」

 

「やっとなのです!」

 

そう言い始め、それに興味を持ったのかビスマルクが訊いた。

 

「初めてってどういうこと?」

 

そう訊くと響が答えた。

 

「これまでは司令官のところにお茶の誘いに来ても秘書艦が門前払いをしていたんだ。今日から『番犬艦隊』が司令官の周りに付くから状況が変わると思ってね。」

 

「成る程ね。」

 

どうやら俺の考えていた通りだった様だ。

 

「それにしても司令官。秘書艦はどうしてるの?いないなら私がやってあげるわ!」

 

そう言ってくる雷に準備が終わってお盆を持ってきたフェルトが答えた。

 

「秘書艦なら私がしている。今しがた終わったところだがな。」

 

そう言ってフェルトはお盆を机に置いてそれぞれを配り始めた。

 

「茶菓子はあったものを勝手に出したが良かったか?」

 

「いいぞ。」

 

そう言ってフェルトはどうやらクッキーを出してきた様だ。

 

「「「「いただきまーす!」」」」

 

それぞれ飲み始め、程よくカップの中身が減ってきた頃、暁が俺のカップをガン見しているのに気が付いた。

 

「どうした?」

 

「レディーはブラックを飲むものかと思ってね......。ビスマルクさんだってブラック飲んでるし。」

 

そう暁が言うと得意げなビスマルクは得意げな表情をした。

 

「そうね。でも、大人になっても飲めない人もいるのよ?」

 

そう言ったビスマルクの横でフェルトがジト目で見ていた。

少し変な雰囲気になったので俺は飲んでいたカップの飲み口をナプキンで拭くと、暁に手渡した。

 

「気になるなら飲んでみるといい。だけど、苦かったらすぐに電からココアを分けて貰え。」

 

「大丈夫だしっ!」

 

そう言って俺の手からカップを受け取った暁はブラックをぐびっと飲んだ。その刹那、暁の表情が歪む。

 

「にゃにこれ!苦すぎるっ!!」

 

そう言って電は苦笑いしながら自分のカップを暁に手渡した。

 

「ふーっ!ふーっ!苦すぎるわ!」

 

そう涙目になって言う暁を見て俺は思わず頭を撫でた。

 

「そのうち飲めるようになるさ。」

 

「なっ!お子様扱いしないでっ!!」

 

そう言って顔を真っ赤にして怒る暁だが、撫でるのは嫌がろうとしなかった。

その光景を見ていたビスマルクが自分のカップを置いて言った。

 

「お子様にはまだ早いわね。もう少し成長しないとね。」

 

そう得意げに言うビスマルクの肩にフェルトが手を置いた。

 

「と言うビスマルクはいつもスティックシュガーを3本入れないと飲まないんだがな。」

 

そうフェルトが言うとフェルトの反対側に居たプリンツが爆笑し始めた。

 

「あはははっ!!お腹痛いっ!!!」

 

「なっ!!ツェッペリン、貴女ねぇ!!」

 

「いつもは自分で淹れてから入れるのに、誰かと一緒の時だと決まって私に頼んでいたではないか。黙ってやってやったのだから礼くらい言ったらどうだ?」

 

そう言ってフェルトもくすくすと笑っている。一方、レーベとマックスは苦笑いしていてユーはどうやら猫舌の様で未だにふーふーと冷ましていた。

 

「そう言う訳で、現にここにも飲めないレディーがいるから飲めなくてもいいんだ。」

 

そう言って俺は暁の頭から手を離した。

 

「そうよね。ありがと、司令官。」

 

「おう。」

 

俺と第六駆逐隊で談笑している傍ら、ビスマルクとフェルトは変な言い争いを始めていた。ワーワーギャーギャーやってる様子を見ているとこれでも人間が見た年齢相応だなと感じた。

 

「アトミラール!助けてくれっ!」

 

「いやっ、ビスマルクが面白いからそのままで。」

 

「アトミラールッ!!」

 

そんな光景がとても楽しかった。

プリンツもアワアワしてるし、レーベとマックスは相変わらず、ユーはやっと飲める温度になったのか飲み始めていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺たちはカップが空いたのでお代わりをフェルトに頼んでいた。

待っている間、雷が俺に話しかけてきた。

 

「司令官。」

 

「何だ?」

 

「執務が忙しいときは私を頼ってね!書類、食事の用意、片づけ、何でもやるわ!私を頼ってもいいのよ?」

 

そうにこやかに言う雷に俺は答えた。

 

「忙しかったらな、その時は雷に頼むよ。」

 

「分かったわ!」

 

そんな話をしているとフェルトが机にお盆を置くと、俺の横に来た。

 

「それならば私がやろう。私に任せてくれ。」

 

なんだかこの光景はデジャヴだ。

俺はそう感じて、ビスマルクの方を見て言った。

 

「ビスマルクは大きい暁だな。」

 

そう言うとビスマルクと暁は同じタイミングで驚いた。

 

「「なっ、それはどういう意味よ!」」

 

そう言うとプリンツがまた笑い始めた。今後はお腹を抱えている。

それを見てすぐに俺はフェルトを見て言った。

 

「そうするとフェルトは大きい雷だな。」

 

「「そうなの(か)?」」

 

2人とも口を揃えてそう言ったが、どっちもそうだと俺は思った。

なぜなら雷は世話焼きな性格で、フェルトもまた同じ。なら大きい雷と言われても仕方ないような気もした。

 

「説明しなさい!提督っ!」

 

そう俺の前に来て言うビスマルクを押しのけてビスマルクの席のところにカップを置こうとするフェルトに俺は言った。

 

「ビスマルクが煩いからココアに変えてやれ。」

 

そう言うとフェルトはニヤッと笑った。

 

「アトミラール。既に変えてある。」

 

「でかした。」

 

こうしてまたビスマルクとフェルトが言い争いを始めた。

暖かい部屋で、皆でこういうのも悪くないと俺は思い、これからもやろうと心に誓った時だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「うぅー。提督ぅ~。」

 

妖精があちこちに指示を出している艦橋で私はそんな事を呟いた。

 

「提督とティータイムしたいデース......。」

 

昨日からこんな事ばかり私は言ってます。

 





さて、本作でのグラーフ・ツェッペリンもといフェルトのキャラですが、雷系にしてみることにしました。時報とか聞いてるとそんな感じがしたので......。抗議等々受け付けます。
自分的にはこれがしっくりきますが......。
一方ビスマルクは一般的な性格で行こうと思います。

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第九十三話  提督の苦悩③

第六駆逐隊とのお茶会を開いた翌日は、朝からどの時間が空いてるかなど執務室前がかなり混雑したので、プリンツの提案でくじになった。1日につき一組という決まりが出来た。

俺はそんな騒ぎが落ち着いた時、再び球磨からの具申があった『防衛火器の充実化』を見直していた(※経緯の描写は後日)。

現在、鎮守府の防衛火器は要塞砲が8基16門とCIWSが60基だけだ。レーダーは使わず、交代制で滑走路から哨戒機が飛んでいる。これではまだ薄いんじゃないかという事だった。

それと、警備部の武下から以前鎮守府が襲われた際に救出艦隊に乗艦していった門兵はそんな人数が要らなかったということだった。なので鎮守府に残る門兵が次から多くなるそうだった。

 

「うーむ。」

 

俺は防衛火器の一覧を見ながら唸っていたが、覗き込んでいたプリンツが指摘してきた。

 

「提督ぅ?......徹甲弾ばっかですねー。」

 

俺はそう言われて気付き、それぞれの兵装の使用弾薬欄を見た。

徹甲弾、徹甲弾、徹甲弾......どこまで行っても徹甲弾。CIWSは一応榴弾も交じっている様だが、それは半分の数だ。

徹甲弾は相手の装甲板を貫通させるための弾薬で、基本的には対艦などに使うが、徹甲弾は『貫通させる』ただそれだけだ。榴弾は着弾した周辺で爆風を起こし、吹き飛ばす。主に対人に使う。

つまり、鎮守府への奇襲で使われた防衛火器から撃たれた弾は敵を貫通させるか、内部に入る前に爆発していたのだ。

 

「......弾薬の無駄遣いか。」

 

俺がそう言うと、反対側で覗き込んでいたフェルトが言った。

 

「対空戦闘では主に対空弾薬ベルト(複数の弾種によって構成された弾倉)なんかが使われている。徹甲弾と榴弾だけで対空迎撃するなんて聞いた事がない。」

 

「やはりそう思うか?」

 

俺はそう言って見ていた書類を机に投げた。

 

「だからあんなに被害が出たんだな。」

 

「被害?何かあったのか?」

 

そう訊いてきたフェルトに俺は答えた。

 

「フェルトたちが移籍してくる前にここは一度、深海棲艦に奇襲を受けて全壊しているんだ。」

 

「それは聞いている。焼け野原になったのだろう?」

 

「あぁ。」

 

そう言って俺は首を捻った。

 

「CIWSに使う弾薬と、これから航空機に支給する弾薬ベルトを統一しようと思う。」

 

そう言って俺は新しい紙を引っ張り出して、書き出した。

俺は紙に、『徹甲焼夷弾→破砕焼夷弾→破砕曳光焼夷榴弾』と書いた。それを見たフェルト笑った。

 

「はははっ!それは完璧に落としにかかってるな!」

 

「当たり前だ。少ない弾薬で多くの敵を......だ。」

 

「しかしこれは燃料タンク狙いか?」

 

「そうだ。どこに当てても炎上はするだろう?」

 

「そうだな。......だが、保管する弾薬庫に着弾すればたちまち炎上するぞ?」

 

「弾薬は何であろうと炎上する。爆発するか跳弾しまくるか大火災かだ。問題ない。」

 

そう言って俺は急遽、こちらで書く書類を増やした。

 

「これを工廠に。至急だ。」

 

「了解だ。」

 

書き終えた紙をフェルトは受け取り、執務室を出て行った。

そうするとプリンツが首を傾げて居たのでどうしたのかと聞いた。

 

「どうした?」

 

「いや、なんで銃座や高角砲がないんだろうと思いまして。見てる限り対空兵装はCIWSっていう自動迎撃機関砲しかないみたいですし......。対空兵装と言ったら銃座と高角砲かなって。」

 

これは俺は考えもしなかった。俺が考えたいたのは軍の骨とう品の中から使えるものを引っ張り出す事ばかり考えていたが、銃座や高角砲なら大本営に書類を提出しなくても勝手に作れるのだ。

 

「でかした!プリンツ!!」

 

俺はそう言うとすぐに書類を取り出し、工廠宛てに書き留めた。

内容は20mm機関銃座の開発と設置。12.7cm高角砲の開発と配置だ。それくらいだったら工廠ならばすぐにできるだろう。

 

「......よし、書き終えた。出してきてくれないか?」

 

「はいっ!」

 

今度はプリンツが書類を出しに執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

書類の内容はすぐに実行されたらしく、昼前にはフェルトが持って行った弾薬ベルトの開発が終わり、すぐに銃座と高角砲の開発が終わったとの報告が入っていた。

そして俺は上機嫌で昼を済ませると執務室でくつろいでいた。本当にやる書類が無い。

俺はある事を思い立ち、酒保に行くことにした。

酒保では全壊する前と変わらない様子だった。今日はどうやら訪れる艦娘が少ない様で、結構閑散としていた。俺は通る店を見る事無く、食料品売り場に直行するとホットケーキミックスと板チョコ、牛乳、片栗粉をカゴに放り込んだ。レジでは何だがいつもと違うものを買っている俺に少し驚いたレジ打ちに挨拶して、すぐに執務室に戻った。

 

「ただいま。」

 

そう言って俺は袋を置いた。

 

「ただいまって、レーベとマックスは付いて行っていたわよ?」

 

そう言うと俺の後からレーベとマックスが部屋に入ってきた。

 

「番犬艦隊は離れないっていったじゃないか。」

 

そう言って来たレーベにそうだったなとだけ答えると、俺はすぐに私室に入った。

私室に入るや否や台所に入り、調理を始める。買った材料はほんの一部で他に使う材料は私室にあるので買わなかった。

板チョコを砕いたあと、ホットケーキミックスに温めたバターと牛乳を決まった量だけ入れて混ぜ、そのあとに砕いた板チョコを放り込んでまた混ぜる。それが出来た後、片栗粉と砂糖、卵黄を混ぜた。

2つの生地が出来上がると、オーブンの板を出し、その上にクッキングシートを敷く。そこに丸めた片栗粉の生地を丸めて置き、板チョコの生地はひとまとめにした後潰して切り込みを入れ、離しておいた。そしてその板をオーブンに戻してタイマーを入れる。

 

「ふぅ......。久々にやったな。」

 

そう言って俺がボウルやら洗い物をした後、後ろを見ると朝潮以外全員がポカーンとしていた。

 

「なに......やってるの?」

 

「何って見てわからなかったか?スコーンとボーロだが?」

 

そう言うとビスマルクが膝を付いた。

 

「提督の方が女子力が高いっ......。お菓子作りなんてやった事ないわ......。というかご飯すら作れない......。」

 

「おい、そのorzポーズやめろ。」

 

そう言って俺はビスマルクを立たせた。

 

「アトミラール......。アトミラールは料理ができるのか?」

 

そう訊いてきたフェルトに執務室からひょこっと頭を出した朝潮が言った。

 

「司令官は家事全般出来ますよ?この司令官の私室は司令官が掃除してますし、洗濯物も司令官が洗って畳んでます。ご飯は私は食べたことが無いですが、先日出撃した北上さん曰く『提督の作るご飯は間宮さんとは違う美味しさがあるねぇ』だそうです。」

 

そう言って朝潮は頭をひっこめた。

その瞬間、俺の私室に叫び声が木霊した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

何故わざわざ簡単な焼き菓子を作ったかというと、今日はプリンツが提案したお茶会くじで当たった艦娘の為だ。というと毎回焼くことになるのだが、今日は特別だ。

鎮守府初期から居る古参の日向と初期艦の吹雪と鎮守府最初期の艦娘が1桁だったころから居る白雪の為だ。ちなみに伊勢と叢雲も居る。

 

「失礼する。」

 

そう言って時間になると日向が全員を連れて執務室に入ってきた。

 

「来たか。フェルト。」

 

「分かっている。皆は何を飲むのだ?」

 

そうフェルトは全員が座った後に聞いた。

それぞれは思い思いの注文をしてそれを聞いたフェルトは奥に行ってしまった。ちなみに今回は番犬艦隊は執務室ではあるが別のところでティータイムをしてもらうことになっている。

フェルトは淹れ終えたのか、お盆にカップを乗せて机に置いて行った。そして最後に俺が焼いた焼き菓子を置いて引っ込んでいった。

 

「じゃあいただきますか。」

 

そう言って俺はコーヒーを啜った。他の来ている日向たちもそれに合わせてお茶を飲み、話を始めた。

 

「司令官。いつもはお茶会をしてるんですか?」

 

「してないぞ?訪れる艦娘のタイミングが悪かったのか、そう言うのを許してくれない秘書艦のときばかりだったからな。」

 

「そうなんですねー。」

 

そう言ってコクコクとお茶を飲む吹雪だった。

 

「提督ぅ。今回の作戦に私たちを出さなかったのはどうして?」

 

そう訊いてきた伊勢に俺は答えた。

 

「あの護衛艦隊は高速艦のみで編成された艦隊だ。艦隊線に入れば最大戦速で護衛を残して大型艦は突撃するんだ。そんな艦隊に伊勢は付いていけるのか?」

 

そう言うと苦虫を喰った様な表情を伊勢がした。

 

「無理だぁー!私たちってば低速艦だもん。」

 

「そうだな。だから次の作戦では活躍してくれよ?」

 

「無論、そのつもり!!」

 

そう言って伊勢は掴んだスコーンを食べてのどに詰まらせていた。

 

「ゴホゴッホッ......!」

 

「詰まらせてまぁ......ほれ飲め。」

 

咳き込む伊勢に日向が背中を叩いてお茶を飲ませている。これじゃあどっちが姉か分からないな。

その一方で違うところでティータイムをしているドイツ艦勢は盛り上がっていた。

 

「美味しいわね!」

 

「そうだな。」

 

「ボーロも口の中で溶けて美味しい!!」

 

「美味しいね!」

 

「美味しい......。」

 

「ふー、ふー。」

 

「美味しいです!」

 

そしてビスマルクが言った。

 

「悔しいわっ!!提督がこれを作っただなんて!」

 

「どっかの餓えた狼かっ!!」

 

俺はそう言って後ろを見て突っ込んだ。

そしてそれを訊いたこっちのソファーに居る伊勢たちは目を輝かせた。

 

「これが......。」

 

「北上の言っていた......。」

 

「提督の料理......。」

 

そう言って喉を鳴らした。

 

「怖いっ!!凄い怖いっ!!」

 

俺はそんな5人を見て引いていた。

何故ここまで豹変するのか。分かっていたが、ここまでなのかと思った。というか『提督への執着』はこれには関係ないだろうと俺は思った。そんな事を考えている俺を露知らず、目の前の伊勢たちはこれでもかというくらい食べていた。

ちなみに執務室の前を偶然通りかかった艦娘たちはのぞき見していたらしい。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今、艦内の温度は高い様で、服が肌に張り付いて気持ち悪いです。

 

「ひえぇぇ。」

 

私はパタパタと持ってきた団扇を仰いでいた。

 

「お姉様ぁー。」

 

まだまだ次の泊地は遠いです。早く鎮守府に帰りたい......。

 




今回もお茶会の話になってしまいましたね......。すみません。何誤ってんだろう......。たぶんこのまま行くと、殆どの話がお茶会に終わってしまいそうですね。

オチは今回は比叡にしました。

そう言えば本作は通算UAが19位になってました。皆さんが見て下さってるおかげですね。ありがとうございます!!

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第九十四話  提督の苦悩④

 

フィリピンの群島に沿って航行する28隻の大艦隊は針路をタウイタウイに向けています。

そろそろ回頭する頃ですが、今の序列では少々問題がありますので、全艦隊に指示を出す事にしました。

 

「旗艦 霧島より全艦隊へ。全艦、第三警戒航行序列へ展開っ!!揚陸艦は中列にっ!!」

 

号令でそれぞれが配置に移動し、陣形が整いました。

この陣形は主に対空警戒時に使う陣形ですが、輪形陣なので重要船舶を囲むことができるんです。上空には爆撃部隊と機動部隊から出されている震電改が飛んでいますが、高度10000m以上を飛んでいるらしいので、目視では確認できません。

その瞬間、無線に連絡が入りました。

 

『第九爆撃中隊が敵艦載機の奇襲を受けてますっ!既に7機が大破炎上中っ!』

 

その知らせは自分の耳を疑うものでした。そんな高高度を飛ばないはずなのに、迎撃をされてしまいました。すぐに私は通信妖精に機動部隊へ連絡させました。

 

「飛龍さんの震電改を装備した航空隊は速やかに発艦っ!迎撃に向かって下さい!!」

 

『飛龍、了解!』

 

私は慌てて外へ飛び出し、空を見上げました。

先ほどまでは透き通る青空に白い雲ばかりだった空に、黒煙が上がり何かが降ってきます。妖精から手渡された双眼鏡で見てみると、それは左の翼が無い富嶽でした。燃料に引火しているのか、炎を上げて落下し、海面に激突しました。降ってきたのはその富嶽だけではありません。点々と黒煙を上げて落ちてくる富嶽が見えたのです。

私は艦橋に戻り、通信妖精に言いました。

 

「至急、鎮守府に繋いでくださいっ!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は伊勢たちとお茶を飲んでいる最中、妖精が執務室に勢いよく入ってきた。

 

「提督っ!至急通信室にっ!」

 

その様子はただ事が起こっている様には思えなかった。

俺はカップを置いて既にコーヒーを飲み終わっていたフェルトを連れて飛び出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が走って通信室に入ると、通信妖精が俺に受話器を手渡してきた。

 

「提督だっ!」

 

『提督っ?!イレギュラーですっ!!』

 

そう叫んだ霧島は起きた出来事を説明し始めた。10000m以上を飛んでいた富嶽に深海棲艦側の迎撃機が襲来したということを訊き、俺はやはりかと感じた。これは想定内であったが、まさか本当に起きるとは考えていなかった。なので出撃した機動部隊の艦載機には震電改と他の戦闘機はバランスを取っていた。

 

「迎撃は?!」

 

『既に震電改が飛んでますっ!』

 

そう言った霧島に俺は息を整えた言った。

 

「......被害は。」

 

『現在、富嶽が13機墜落しました。今も増加中です。』

 

「迎撃機の数は?」

 

『12機です......。』

 

俺は机を叩いた。

 

「少ないっ!もっと出せないのかっ!!」

 

『加賀さんの9機を出します。』

 

「それでいい......。艦影は?」

 

『ないです。索敵圏外からだと思われます。』

 

「現在位置は?」

 

『フィリピン沖です。』

 

俺は俺と霧島の会話を訊いていたフェルトから紙を受け取った。そこにはフィリピンからタウイタウイまでの距離が書かれていた。

 

「3/4速で航行。それでも遅いと思ったのなら全速で構わない、早急にタウイタウイに迎え。」

 

『了解しました。』

 

俺はそう言って受話器を通信妖精に渡すと、大本営に提出する報告書を書くために執務室に戻った。

報告書を書き終え、通信室に戻ったのは一度呼ばれてから3時間経った後だったが、その時には深海棲艦の高高度迎撃機は撤退していて、こちらの富嶽が205機撃墜された後だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は半ば休暇みたいになっていた長門を呼び出していた。

何故かというと、護衛艦隊の爆撃機を狙った高高度迎撃機について聞きたい事があったからだ。

 

「説明した通り、先ほど出撃した爆撃中隊の約2/3が撃墜された。撃墜したのは深海棲艦のイレギュラー、高高度迎撃機。どう思う?」

 

そう訊くと長門はうーんと考え始め、ある事を訊いてきた。

 

「提督の言う高高度迎撃機の総数は分かるか?」

 

「そうだな......約60機と聞いている。」

 

高高度迎撃機が撤退した後、帰還した震電改からの情報であるがそれくらいの迎撃機が居たと言うのだ。迎え撃った震電改はセオリー通りの行動を取るが、撃墜は難しかったと。だからこんなにも撃墜されたのだというのも報告で聞いていた。

 

「イレギュラーだと思ってもいいと思う。これは我々が高高度を飛行する爆撃機を持たないと実証できない事象だからな。」

 

そう長門は言った。

 

「やっぱり?」

 

「あぁ。」

 

そう言った長門は少し神妙な顔つきで考えている様だったが、その瞬間、長門の顔が青ざめた。

 

「不味いっ......非常に不味いぞっ!?」

 

そう言って長門は俺の肩を掴んだ。

 

「深海棲艦側に高高度を飛べる迎撃機が存在すると言うのなら、それ以外の種類の航空機が飛べる事になるぞっ!!」

 

俺は一瞬思考が停止してしまった。

長門の言う意味が理解できなかったのだ。だがすぐに理解が出来た。

 

「......深海棲艦側にも大型爆撃機が存在する可能性がある、そう言いたいのか?」

 

「あぁ。」

 

「なんてことだ......。」

 

俺は頭を抱えてしまった。

だが、唯一気休めになる事があった。それは東南アジア、南アジアの各地に泊地が点在している事だ。そこにはそれぞれに艦隊司令部が設置されており艦娘が常駐している。その周辺海域は既にこちら物と考えていいからだ。つまり、本土まで飛来できる距離を飛ばす事は到底不可能だということ。

そしてすぐにやらなければいけない事は、その迎撃機を飛ばした元を排除し、深海棲艦によって占領されている島を片っ端から奪還しなければならない。そして、この護衛艦隊が通った航路はドイツとの交易に使うであろう航路なので安全を確保しなければならなかった。

 

「これも大本営に連絡だな。」

 

「そうだな。早急に手を打たねば、取り返した海をまた取られてしまう。」

 

俺は再び執務室に走り戻り、長門は資料室に行くと言って別れた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

結局俺は再び大本営に提出する書類を新たに書き、すぐに通信室に向かっていた。それは、富嶽を帰還させるためだ。これ以上の損失は良くないと判断したからだった。

だが、残す富嶽もある。今護衛艦隊と共に飛んでいる富嶽の中には偵察型と輸送型も交じっている。偵察型はどの偵察機よりも鮮明な情報を手に入れられる為だ。輸送型にはリランカ島に設置するための大型砲を積んでいたからだ。

俺は通信室に入り、赤城に連絡を取ってすぐに富嶽の爆撃型を引き返させた。護衛は付けることになるが、震電改の航続距離を考えると単独での帰還の方が長くはなるが、迎撃機の飛んでくる範囲外まで送り届けるらしいので任せる事にした。

 

「本当にいいのですか?」

 

そう通信妖精は聞いてきた。

 

「何がだ?」

 

「爆撃機を引き返させて。......海上絨毯爆撃の威力は妖精全員が知ってます。あれほどの爆撃をこれから進む道で使えないとなると、護衛艦隊は何回も艦隊戦をしなければならなくなります。」

 

「そうだな。」

 

俺は頷いた。

 

「最悪、轟沈だって考えられるんですよ?」

 

俺はそう言われて唇を噛みしめた。轟沈だけは絶対いやだったからだ。経験せずに戦争を終えたい、そう考えていた俺にとって轟沈は何よりも嫌な事だった。

 

「大丈夫だ......出撃させたのは古参と手練れ。彼女たちは戦場をよく知っている。上手くやって笑って帰ってきてくれるさ......。」

 

俺はそう言って通信室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺からの報告書を受け取った大本営はすぐに行動を起こした。

重要施設の疎開と各地に防空壕の建設を通達したのだ。

その行動はメディアに漏れ、大きな騒ぎを呼んだ。深海棲艦に空襲される。話を肥大化した情報が国民に知れ渡り、恐怖させた。

各地で現在の戦況を国民に開示する事を要求するデモが発生するなど、国内は荒れ始めていた。

一方で、横須賀鎮守府周辺は落ち着きを払っている。何故ならコチラは勝手に防空壕を建設。鎮守府周辺の住民の為に深く、大きく、居住性の良い防空壕が点々と出来上がっていたからだ。何より、住民たちは横須賀鎮守府の近くに居る限り大丈夫だと思っているらしい。何を根拠にそんな事を言っているのか分からないが、そういう事を俺は度々耳にするようになった。

 

「提督。以前から開発が進んでいた噴進動力機構が完成。新型陸上機が開発できました。」

 

そう妖精が俺に言って来たのだ。

 

「噴進動力機構......ジェットエンジンか。」

 

俺がそう言うと妖精は頷いた。

 

「F-15J改二とでも言いましょう。配備を進めてもいいですか?」

 

「あぁ。最優先だ。」

 

俺はそう言って妖精を見送った。これで高高度から侵入してくる爆撃機は迎撃できることになった。だが、どう索敵するかが問題だった。

大本営曰く『高高度から領空内に進入してくる機影はこちらで察知できる』とのことなので、侵入があればこちらにすぐに連絡が来るとの事だった。地上に被害を出す前に迎撃できるということだ。

俺は椅子の背もたれにもたれて天井を見上げた。これで好転する事、護衛艦隊が誰も欠けずに戻ってくる事を切に願った。

 





今回のは後書きにはいうことはないです。ただただすべてが上手くいく訳じゃないって事ですね。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第九十五話  提督の苦悩⑤

 

今日はお茶会をしてやれないとだけ艦娘に連絡を入れると、早々に執務を片づけていた。

その理由は、工廠に用があるからだ。

昨日開発されたF-15J改二をこの目で見る事と、どう運用するかを決めるためだった。

 

「アトミラール。」

 

変わらず秘書艦の仕事をしてくれているフェルトは俺が終えた最後の書類を手に取ると整えた。

 

「なんだ?」

 

「私が提出で戻ってくるまで少し待っていてはくれまいか?私も工廠に行ってみたいからな。」

 

そう言って俺の返事を訊く間もなくフェルトは執務室を出て行ってしまった。ちなみに番犬艦隊にはF-15J改二の存在は知られていない。俺的には俺個人で行きたかったが、そういう訳にもいかない様だ。最低限、朝潮だけを連れて行くという手もあるが、あとで何言われるか分からない。というよりも、フェルトと突っかかるビスマルクとの間で喧嘩が起きるからだ。

 

「仕方ない。」

 

俺はそう言って背筋を伸ばすと、腕も伸ばした。固まっていた筋肉が伸び、解放されるこの感覚は好きだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

フェルトが帰ってきたので工廠までは全員で行き、中には俺とフェルトだけが入った。

内部は相変わらず物で溢れ、忙しなく妖精たちが作業をしている。今はどうやら哨戒任務に出ていた航空機の点検をしているらしい。

 

「提督、お待ちしてました。」

 

そう声を掛けてきたのは白衣の妖精だ。開発班の妖精。

 

「あぁ。早速だがよろしく頼む。」

 

俺がそう言うと白衣の妖精は俺の肩によじ登ってきた。

 

「何時ものところです。」

 

そう言われて俺は工廠の奥へ歩みを進めた。そんな俺に付いてくるフェルトは不思議そうな表情をしていた。今から何をしに行くのか、何を見に行くのかさえ聞かされていないなら当然だろうが、言わない俺も悪い。

 

「フェルト。」

 

「何だ?」

 

俺は歩きながらフェルトに声を掛けた。

 

「これから鎮守府で開発されたものを見に行く。そのために向かっているんだが、フェルトはいいのか?」

 

「構わない。寧ろ興味がそそられる。是非、見てみたい。」

 

そう言ったのを訊いて俺は何も言わずに進んでいった。

やがて何時ものところにシートを被せてる塊が鎮座していた。例の如く白衣の妖精は俺の肩から飛び降りるとそのシーツを剥がした。

 

「これがF-15J改二です。」

 

そう言われて俺はマジマジとその機体を見る。そうすると強烈な違和感に襲われた。何かが足りない、そう思わされたのだ。

 

「......足りないな。」

 

そう言うと白衣の妖精はF-15J改二の翼の下に入り、あるところを指差した。

そこは普通ならミサイルを担架するハードポイントにミサイルが担架されていないのだ。きっと安全面を考慮して取り外しているんだろうと思ったが白衣の妖精は言い放った。

 

「ここに載せる筈のミサイル......誘導噴進弾はコチラでは開発できてません。解析する物がありませんでしたからね。」

 

そう言って俺の肩に戻ってきた。

 

「但し、ロケットランチャーを担架させることは出来ます。」

 

そう言って白衣の妖精は機体の横に置かれていた筒を指差した。それがどうやらロケットランチャーらしい。

その一方でフェルトは目の前に現れた奇妙な形をした航空機に言葉を失っていた。フェルト曰く『メッサーシュミットとフォッケウルフとシュトゥーカ(スツーカ)しか見たことが無い。』らしい。

 

「......これは、これは何だ?」

 

そう訊いたフェルトに白衣の妖精は答えた。

 

「現代兵器を解析して私たちが作り出した最新鋭航空機です。」

 

「プロペラがついてないじゃないか。」

 

「それはジェットエンジンで飛びますからね。」

 

そう言い放つ白衣の妖精に相反して、フェルトは凄い形相でそれを見ていた。

そんな雰囲気になってしまったので俺は無理やり白衣の妖精に訪ねてみた。

 

「ミサイルが積めないということは、現実、コイツができる戦闘は近距離での格闘戦か?」

 

「そうなりますね。ですけど、この機体に搭載されている機関砲は発射速度が速く、すぐに弾を消費してしまいます。ですので『わざと』機首に配置されていた機関砲を単砲身にしておきました。それと、ミサイルが担架されるレールにはこんなものも用意しています。」

 

そう言って白衣の妖精は俺の肩から飛び降り、小さいシートに覆われていたものを見せた。

それは何と言うか、筒。ロケットランチャーの時もこの反応だったが、本当にそうとしかいいようが無かった。

 

「これは?」

 

そう俺が訊くと、白衣の妖精はその筒に走り寄り、何かを開いて見せた。そこには大量の弾薬がベルトに等間隔で並んでいるもの。所謂、弾薬ベルトが見えた。

 

「これはハードポイントにつける機関砲です。」

 

俺はそれを言われただけで何かは納得がいったが、フェルトはまだ分からない様だった。

 

「フェルトさんが分かるように言えばこれは『ガンポット』です。」

 

そう言うとフェルトも分かったのか、今まであまり話さなかった口を開いた。

 

「ガンポットなら多少わかる。このガンポットは何mmの機関砲なんだ?」

 

「20mmです。」

 

そう言った白衣の妖精は再び俺の肩に戻ってきた。

 

「言い忘れていましたが、F-15J改二以外にも完成している物があるんです。」

 

そう言われて白衣の妖精に言われてF-15J改二を通り過ぎると、そこにもシートの被ったものがあった。

それを白衣の妖精が剥がすと、見たことのあるシルエットのものが出てきた。

 

「これはF-15J改と同時に搬入されてきたF-2を解析して作った航空機。言うなればF-2改ですね。」

 

そう言った白衣の妖精は俺の肩から飛び降りて何かの資料を持ってきて俺に渡してきた。その資料はF-2改のカタログスペックが書かれているらしい。俺はそんな数値を見ても分からないのだが、白衣の妖精から説明があった。

 

「コイツは解析元よりも遥かに性能がいいです。レシプロ機並みの運動性能を有してます。そしてジェットエンジンを積んだことによって高い上昇性と速度を持ち合わせています。」

 

そう言って白衣の妖精は一息ついた。

 

「言うなればこの機体、『現代の零戦』と言っても過言ではありません。これにミサイルが搭載されようモノなら、拠点防衛から攻撃まで色々な任務をすることができます。」

 

そう言い切ったのだ。

俺はそれを訊き、取りあえずということで20機ずつ作るように命令を出しておいた。試験運用だ。鎮守府に近づく深海棲艦への攻勢に使うのだ。

白衣の妖精に一言声を掛けた後、工廠を後にした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

タウイタウイ泊地に付いた私たちは朝と同時に出発し、リンガ泊地に向かっています。

既に赤道近くの地域を航行しているので、気温が暑いです。皆結構参っている様で、私も暑さで疲れていました。せめてもの救いは、艦橋から出ると潮風が涼しいということです。

 

「ふぅー......。」

 

私は艦橋から見渡す艦隊の状況を見つつ、休憩していた。安全圏を転々と移動をしていますが、いつどこで襲われるか分からない海の上でずっと意識を集中していたからです。

 

「リンガ泊地に着けばあとはリランカ島を目指すだけですね。」

 

そう自分に言い聞かせて私は艦橋に戻って行った。

 

「旗艦:霧島より全艦隊。現状を報告せよっ!」

 

私はそう言い放った。このやり取りももう数えきれない数をしています。全ては味方の安全のためであり、任務成功を確実にするためです。誰一人かけてはいけないんです。

次々と入ってくる報告を訊き私は今回も『異常なし』と心の中に唱えました。

 





今回は何か解説っぽかったですね。すみません。
それよりハンデが付きました。ミサイルが出来てないと言う......。ここから勘ぐって下さい。おもしろいと思います。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第九十六話  提督の苦悩⑥

リランカ島へ向かう道中、私たちは妙な霧に入っていました。

視認できるのは私の前を航行する鳥海の艦尾だけです。それも目を凝らさないと見えないくらいです。

 

「霧島より索敵中の艦娘へ。現状報告をお願いします。」

 

私はそう呼びかけました。

この事態に突入してから序列の密度を高め、列の先頭を航行する水雷戦隊は艦同士の間隔を広げて索敵をして貰っています。この状態では機動部隊の赤城さんは索敵機を飛ばせないということだったので、そうするしかなかったんです。

 

「霧島より第二護衛艦隊、応答して下さい。」

 

私は通信妖精から受け取った受話器でそう呼びかけていますが、誰も返事をしません。

 

「神通さんに繋げて下さい。」

 

そう通信妖精に頼み、私はもう一度言いました。

 

「霧島より神通、応答して下さいっ!!」

 

『ザザザザザザッ......』

 

ノイズが混じっていますが、一応繋がっている様です。私はもう一度同じことを言いましたが、結局ノイズが聞こえるだけでした。

次に私たちの水上打撃部隊の先を航行する第一護衛艦隊に繋げてもらいました。

 

「霧島より第一護衛艦隊、応答して下さい。」

 

そうすると返事があった。だがノイズが混じっていてよく聞き分けられない。

 

『ザザザザッもがっザザザザザッ......ザザッせザザザザザザッ。ザザッてきちザザザザザッ......。至急、ザザザザザザザザッ。』

 

聞き分けられたのは応答した本人の『最上』という事と『至急』。理解に苦しむのは『せ』と『てきち』です。『せ』は『戦闘』や『先行』などと捉えられます。『てきち』は『索敵中』か、私が一番この状況に置いて恐れている『敵地』という言葉です。

リランカ島は私たちがつい最近奪還した領域ですけど、私たちが目を離した隙にもう深海棲艦が再占領したかと懸念が脳裏を過りました。

 

「通信妖精さん。鳥海さんに繋げて下さい。」

 

私はこれ以上最上と思われる相手の連絡を訊いても仕方ないと思い、私の艤装の眼の前を航行している鳥海さんに繋げてもらいました。

 

「霧島より鳥海さん。応答を。」

 

『はいザザザッノイズが激しいですが、何とか聞こえますねザザザッ。』

 

確かにノイズが多いが、聞こえました。

 

「序列の先頭の状況を訊いてませんか?」

 

そう訊くと、鳥海さんはすぐに答えてくれました。

 

『ザザッ第二護衛艦隊から通信が途絶している事しかザザザザザッですけど7分前に序列で私たちの第一護衛艦隊に一番近かった神通さんからザザザザッというのを訊きました。』

 

「もう一度お願いします。神通さんから何を訊いたんですか?」

 

ノイズで肝心なところが聞こえなかったので訊き返しました。

 

『ザザザザザッ神通さんがザザザザッ艦を発見したと。』

 

また聞こえませんでしたが、断片が分かりました。『艦』そこから連想される単語は『深海棲艦』。ひょっとしたら先頭の第二護衛艦隊は接敵しているのかもしれないです。

私は緊急で全艦隊に連絡を入れた。

 

「旗艦:霧島より全艦隊へ。戦闘用意っ!繰り返します、戦闘用意っ!」

 

私の号令で艤装の中を慌ただしく妖精さんたちが駆け回りだしました。私の後ろを航行する金剛お姉様の方を慌ただしくなったようです。

 

「何かが変です......。」

 

私はそう呟いて、メガネを上げました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は配備されたF-15J改二とF-2改の運用試験をしようとしている。

滑走路から事前に富嶽を5機飛ばし、数十分後にF-15J改二とF-2改でそれぞれ編成した迎撃部隊を飛ばし、どれ程の性能なのかということだ。

それを始めるにあたって、白衣の妖精からそれぞれの特徴を詳しく聞いていた。何でも結構弄り回したらしく、説明しておかなければならないところが多々あるとの事だった。

 

「それでは、提督。私が先ほどお渡しした資料をご覧ください。」

 

そう言われて俺は手元にある資料を開いた。

 

「工廠でそれぞれにこれまでは搭載できたミサイルですが、物がないと言いました。それは覚えてますか?」

 

「あぁ。」

 

「元になるサンプルが無いんですよね。」

 

そう言ってやれやれと言わんばかりに首を横に振っていた。

 

「サンプルが搬入された時、サンプルにはミサイルは付属してなかったんですよ。」

 

「そうだったのか。」

 

「それとですね、丁度内容的には逸れませんが、工廠で機関砲の事を言いましたよね?」

 

「そうだな。」

 

そう俺が答えると妖精はある本を俺に見せてきた。

 

「これはサンプルのコクピットに置いてあったカタログです。ここを見て下さい。」

 

そう言われて俺はそのカタログで指が刺されている先を見た。そこには『固定武装:M61』と書かれていた。

 

「このM61、通称『バルカン』はどちらのサンプルからも下ろされていたんです。つまり装備を殆ど剥ぎ取られた状態のものが運び込まれたんです。」

 

「は?」

 

俺は耳を疑った。搬入された『置き土産』には一切の武装が無かったと言うのだ。

 

「このイラストを見る限り、バルカンはガトリング砲の様ですが私たちにはこれは作れません。銃器設計ができないんです。」

 

そう言って白衣の妖精は溜息を吐いた。

 

「ですので、サンプルと一緒に運び込まれたミサイルやらの中に紛れいていた『M2ブローニング』を無理やり乗せようとしましたが無理でしたので、私たちの手元にあった『MG151』を改造し取り付けました。」

 

そう言って俺に『MG151』の簡単な説明の書かれた紙を俺に渡してきた。

 

「これは昔、ドイツ第三帝国から輸入した機関砲です。日本では『マウザー砲』と呼ばれていました。優秀な機関砲ですので、搭載させていただきました。ちなみにガンポットのも同じものです。」

 

そう言って俺に次のページを見るように言ってきた。

 

「そこには本来ならばあるはずのM61だった場合と今の状態との比較です。本来ならば機関砲の装弾数は940発です。ですけど、今は装弾数が倍の1880発です。これはバルカンによって取られていたスペースを全て弾薬を収納させるスペースに活用しました。」

 

「そうか。」

 

「それとガンポットはそれ以上に装弾できます。」

 

俺は進んでいく話を聞いて簡潔にまとめた。

作り出されたジェット戦闘機は性能面で従来のものとは五分五分だということ。機関砲は多砲身でなくなり、機体は軽くなり、ミサイルが積めない。俺では理解できない話もあったので割愛するが『初速が違うので従来の機体に装備されている機能がいくつか使えない』ということだった。どうやら自動照準器が使えないらしい。

俺にとっては機関砲の照準は自分でつけるものだろうと考えていたので、あまり変には思わなかったが、どうやらあるのに使えないのは勿体ないらしい。

俺は白衣の妖精からの説明を訊き終えると、運用試験の開始を指示した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

寒空ですけど日が暖かい今日、私は出撃がないので防寒具を着て空を見てました。冬空は空気が透き通っていてとても綺麗ですので、最近はよく空を見上げに外に来てます。

そんな時、これまでに訊いた事のない音が聞こえてきました。

 

「何でしょうか?」

 

私は一緒に外を見ていた雷さんに訊きました。

 

「分からないわね。見に行きましょ!鳳翔さん!」

 

私はその場から立ち上がり、その音の聞こえる方角に行きました。

そこに着くと、見たこともない飛行機が次々と滑走路から飛び立っていくのが見れました。甲高い音で何かを吐き出しながら物凄い勢いで飛び立つソレは私の見慣れた零戦と同じ色合いに塗装された全くの別物です。

そして私の遠い記憶にあったその音の正体に気付きました。

 

「ジェット機......でしょうか?」

 

そう言ったのを訊いていたのか雷さんが私にそれは何かと尋ねてきました。

 

「ジェット機はですね......プロペラの付いたレシプロ機の後に開発された新しい飛行機です。レシプロ機よりも速く飛び、少ない数で敵を倒す......とてもすごいんですよ。」

 

そう言うと雷さんは目を輝かせてそのジェット機が飛び立つさまを眺めていました。

このジェット機が鎮守府の滑走路から飛び立っているとすればこのジェット機は外から持ち込まれたものではないと言うのは確実です。と考えると答えは一つ。提督が作らせたとしか考えられませんでした。

そうでなければどう作ると言うんでしょう。工廠の妖精さんが勝手に作るとは思えません。

そんな事を考えていると雷さんがぼそっと言いました。

 

「陸上機といい富嶽といい......この鎮守府は『イレギュラー』が多いわね。」

 

そう言ったのです。『イレギュラー』これはよく古参組が口ずさむ言葉です。主に提督の絡みの話になると出てくる単語ですが、どうやらその『イレギュラー』というものは私たちが提督をこの世界に呼び出してから始まった事だと言うのです。ちなみに提督が射殺未遂された事件もその『イレギュラー』によるものだと聞きました。

ということは、それに近い何かが私の知らないところで起きているということです。

 

「そろそろ戻りましょうか。身体も冷えてしまいまいたし。」

 

「そうね。」

 

私は滑走路に背を向けて艦娘の寮に向かいました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今日の運用試験、率直に言えば何とも言えない結果になった。

搭乗する妖精の練度不足もあり、編隊による急降下、一撃離脱を上手く出来ずに離脱する羽目になったのと、装弾数が1880発もあるという安心感から当てれなかった。そして、あまりの速度に機関砲を撃つタイミングを逃していたのだ。三度に渡って急降下と急上昇をしていたが、3機編隊によって撃墜判定が出たのは2機だけ。これでは使えないと俺の直感が訴えていた。

白衣の妖精も俺と同じ考えらしく、最終的には実戦投入は延期になった。そして俺は大本営にM61の在庫を取り寄せる事になった。きっとどこかにあるはずなのだ。

大本営に提出する書類にその書類を紛れ込ませ、更にF-15とF-2を調べた後、それらに搭載できるサイドワインダー、スパロー、アムラームのいずれかが無いか確認する事になった。

俺はF-15とF-2を鎮守府に置いて行った新瑞の意図が分からないまま、それらの開発を指示してしまっていた。

 




今回は結構ヘビーな内容でした。まぁ、前回の投稿の反響で上がった考察やらで扇動されたところもあるんですけどねww
取りあえず、ジェット戦闘機の実用化は難しいようです。そして大本営は何故武装解除をした戦闘機をこちらに置いて行ったのか......。真意が気になるところです。

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第九十七話  提督の苦悩⑦

艦隊は丸一日も霧の中に居ましたが、おかしいんです。

既に到着していてもいい時間だというのにも関わらず、到着しません。

終わりの見えないこの霧の正体は何でしょうか。きっと皆同じ恐怖を感じていると思います。

 

「霧島より全艦隊へ。現状を報告して下さい。」

 

私もこの通信はもう両手では数えきれない程聞いています。

 

『鳥海、異常ありません。』

 

『金剛、異常なしデース。』

 

こうやって返答は帰ってきますが、相変わらず序列末端からの連絡がありません。

唯一の救いは後衛までは取次を繰り返して何とか報告が届くことです。

 

『金剛より霧島、序列最後尾の熊野から序列中央まで異常なしの報告デース。』

 

こうやって毎回お姉様が通信を後ろに回して下さっているお蔭で何とかやっていけてます。

その刹那、妖精さんからの報告が飛んできました。

 

「艦前方の霧が晴れますっ!」

 

私は艦橋から身を乗り出してそれを見ました。

貼れた霧の先には海がもちろんあり、そして私たちの見た最後の陸地が視界を覆ったのです。

 

「ここはリンガ泊地っ!?」

 

私の目にはそう見えました。そして私は何かを思い出したかのように艦橋から飛び刺し、後ろを見ました。

其処には同型艦の金剛お姉様の艤装から最後尾の熊野さんの艤装が見えます。

 

「ですけどっ!?」

 

私はまた慌ただしく、前を見ました。前を航行していたのは鳥海さんの艤装だけ。

それらよりも序列の先に居る筈の第二護衛艦隊と第一護衛艦隊の一部が消えていたんです。

 

「霧島より機動部隊へっ!至急、索敵機を発艦して下さいっ!!!」

 

 

『えっ?それはどういう......。』

 

「急いでくださいっ!!」

 

『りっ、了解ッ!全周囲15°おきに飛ばします。』

 

私は通信妖精さんから受話器を受け取るとそう叫びました。

一国の猶予もありません。丸一日のうちに何があったと言うのでしょう。

 

「私の判断ミスですねっ......。」

 

そう、私は霧に入る前に霧に入るかどうかの決定を下していたことを後悔しました。

『ショートカット』だと言って突入したんです。ですがその時はこんなことになるなんて想像もしていませんでした。

 

「どこへ行ったの.......?」

 

私はマイクを返すとそう呟きました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

昨日俺が大本営に出していた書類の返答が届いた。

結果は『M61ならばあるが、何れのミサイルも在庫はない』との事。どうして残ってないのかは分からないが、取りあえずM61がある事が確認できたのですぐにでも新瑞に請求書を書き、送ってもらうことにした。だが、どうして武装解除をした機体を置き土産として置いて行ったのかが謎だった。あるのならばつけておけばいいものをわざわざ外して置いて行ったのだろうか。

俺は悩んだ。

だがM61は請求できる。それさえあればどうにかなるかもしれない。そう考えたのだ。

 

「ガトリング砲はあったのか。大本営もケチなんだな。」

 

そう秘書艦のフェルトは横から覗きながらつぶやいた。別に悪意のある意味ではないだろう。だが、俺もそれは思ったしきっと白衣の妖精もこの連絡を訊けば同じことを思う筈だ。

 

「そうだな。早速取り寄せれないか書類を送ろう。」

 

俺はそう言って最後に書き終えた執務の書類を置くと、引き出しから紙を出して書き始めた。

 

「そう言えばMG151があるそうだな。」

 

「言ってたな。」

 

俺は紙に用途を書きつつフェルトの話すことを適当に相打ちを打った。

 

「その......だな。」

 

フェルトが珍しく歯切れの悪い様子だった。

 

「ん?」

 

俺は書くのをいったん中断して顔を上げた。そうするとフェルトはモジモジしながら言った。

 

「私の艦載機に換装させては貰えないか?」

 

そう言ってきたのだ。別に恥ずかしがることはないだろうと思ったのだが、どうやら頼むこと自体恥ずかしい様だ。

 

「換装するって......メッサーシュミットもフォッケウルフも十分上等な艦載機じゃないか。」

 

そう言うとフェルトは首を横に振った。

 

「メッサーシュミットはT型となっているが、元はE-4型。この機体の武装は20mmモーターカノン1門と7.92mm機関銃2丁。機関銃はいいのだが、20mmモーターカノンに使われているエリコンFF-20機関砲は貧弱なんだ。だから強力なMG151に変えたい。フォッケウルフは元は分からないが、A-5型だとするとこれもMGFF機関砲というのなので性能の良いMG151に変えたい。どうか頼めないか?」

 

そう言ってきたフェルトに俺は単純な質問を返してしまった。

 

「なぁフェルト。」

 

「なんだ?」

 

「モーターカノンって何だ?」

 

そう言うとフェルトはおろか、部屋に居たビスマルクたちもズッコケた。ちなみに朝潮も俺と同じで何か分かっていない様子。

 

「プロペラ軸の中心に銃口がある機関砲だ。機体軸に銃身があるために高い命中率を誇る。」

 

「成る程......。」

 

俺はそう言ってふーんとなったあと、取りあえず白衣の妖精と相談だと考えた。

 

「分かった。相談しておくよ。」

 

「ありがとう!これで換装できれば私の艦載機は艦隊に爆雷撃機を近寄らせない鉾となれるだろう!」

 

そう言ってフェルトは喜んでいた。

結果を最初に言っておくと、モーターカノン自体白衣の妖精も見るのは初めてらしく、組み込めるか分からないとの事だった。実験で1機の貸与を求めてきたので取りあえずフェルトに確認を取って許可を下しておいた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

霧島から連絡があったとのことなので俺は急いで地下司令部の通信室に来ていた。

 

「どうした?」

 

俺がそう訊くと霧島は一言だけ言った。

 

『作戦失敗です。』

 

「何故だ?」

 

俺は訊き返した。何も原因が告げられないまま作戦失敗を決められては俺もよくわからないからだ。

 

『リランカ島に向かう途中、霧に入ったところ、丸一日航行しても出れずにやっと出れたと思ったらリンガ泊地の前でした。それに......。』

 

霧島はどもった。

 

「それになんだ?」

 

『第二護衛艦隊と第一護衛艦隊の一部がロストしました......。いつの間にか序列から離脱。連絡も付かない状態です。』

 

俺は衝撃を受けた。艦隊の約半数がロストしたというのだ。意味が判らない。

 

「戦闘は?」

 

『ありませんでした。ですが......霧を抜ける前にロストした艦の艦娘の無線を傍受してました。』

 

そう言った霧島は呟いていった。

 

『最上、至急のみが聞き取れました『せ』と『てきち』という言葉も聞こえましたが詳細は不明です。』

 

「そうか。捜索は?」

 

『今機動部隊の索敵機が飛んでますが、まだ連絡が無い様です。』

 

俺は頭を抱えた。

この状況、どうして起きたのか意味が判らなかった。霧島は艦隊を分断する事なんてしないはずだ。ならどうして艦隊が消えたのか......。何が起きたと言うのか。

俺は霧島に追ってまた連絡するとだけ言って通信妖精に第二護衛艦隊の旗艦である神通に繋げるように言った。

 

『ザザザザザザザッ......。』

 

ノイズが耳元で鳴り響く。

 

「なんだ......これ。」

 

俺はそう言って耳から受話器を離さずに聞いていると、段々声が聞こえてきて鮮明になった。

 

『こちら第二護衛艦隊っ!こちら第二護衛艦隊っ!』

 

「提督だ。神通、どうした。」

 

俺は落ち着きを払って神通に訊いた。

 

『艦隊が霧に入った途端、無線が使えなくなって今やっと霧を出て回復したところです!それよりも、第二護衛艦隊の鳥海さんと水上打撃部隊、機動部隊、揚陸艦がロストしたみたいですっ!』

 

そう言ったのだ。

 

「今どこに居るんだ?!」

 

『リランカ島です。閑散としていて、沿岸部には爆撃の痕がまだ残ってます。』

 

どうやら神通たちはリランカ島に到着していた様だ。

 

「先ほど霧島と連絡を取ったところ、霧島たちはリンガ泊地に戻ってしまっていた様だ。」

 

『えぇ?!同じ方角を目指して航行してましたよ?』

 

そう言った神通は嘘を言っている様には聞こえなかった。

 

「だが現実、リンガにいるんだ。そこに留まることは出来るか?」

 

『はい。ですが、霧がまだあります。』

 

そう言った神通の言葉にこれからどうするかを考え出した。今すぐに霧島たちを霧に入らせて、リランカ島に付くことを願うか、逆に神通たちを引き返させてまたリンガ泊地からリランカ島を目指してもらうか。一番安全なのは霧が消えるのを待っていくことだ。

俺は考えた結果、答えを出して神通に伝える。

 

「第二護衛艦隊と第一護衛艦隊の一部はその場に残り周辺の安全確保だ。霧島たちが到着するのを待て。」

 

『了解しました。』

 

俺は受話器から耳を離すと通信妖精に霧島に繋げるように言った。

 

『霧島です。』

 

「提督だ。先ほど神通たちと連絡が付いた。どうやらリランカ島に到着していた様だ。これより霧島以下の艦隊は霧が晴れるのを待ち、晴れ次第リランカ島に迎え。」

 

『了解しました。』

 

俺は受話器を通信妖精に渡すと、溜息を吐いて頭を掻いた。

今回起きた自体はどう考えてもイレギュラーの一つと捉えていいものだ。同じ方向を向いていた艦隊がそれぞれ逆方面に着いた。聞いてみればちんぷんかんぷんで意味の分からない話だが、これまで色々な事を起こしてきた鎮守府である横須賀鎮守府ではそれはちんぷんかんぷんでもなんでもない。信じなければいけないものなのだ。

 

「ありがとう。また何かあったら呼んでくれ。」

 

俺はそう言って通信妖精に礼を言って通信室を出て行った。

 




霧の正体が分からないままですね。
これは後へ持ち越しです。
それと、フェルトの言っていた件ですが、自分で調べた結果ですのでもしかしたら違うかもしれません。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第九十八話  提督の苦悩⑧

霧島さんに言われて索敵機を出しています。先程わかったのですが、どうやら霧の中からやっと出れたと思ったらリンガ泊地まで戻ってきていた様です。索敵機の妖精さんから届いた報告でした。

 

「加賀さん。そっちには索敵に出せる艦載機はありますか?」

 

私は通信妖精さんから受話器を受け取り、加賀さんに繋げて貰いました。

霧島さんからの指示はありませんが、必要な行動です。今から索敵機を霧に方に出してみようと思います。

 

『烈風隊が甲板に出てますが......先ほど出したばっかりですよね?』

 

そう返事が返ってきた。その返事は至極当然の回答でしたが、説明します。

 

「多分、霧が晴れ次第出発です。ですので早い方がいいので索敵機に霧を観察させましょう。」

 

『分かったわ。私は左回りに出します。』

 

「なら私は右回りね。」

 

そう言って通信妖精さんに受話器を渡すと私は指示を出した。

 

「甲板で待機中の烈風2機へっ!霧の外縁部を右回りで偵察行動して下さいっ!」

 

発動機の音が轟々と鳴り、烈風が発艦していきました。これでより早く事を進めることが出来るはずです。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

先程赤城さんと加賀さんの艤装から烈風が飛んでいきました。きっと偵察でしょう。行き先を見ると霧。晴れないかの確認の為でしょうね。

提案は赤城さんで間違い無いでしょうね。

 

「霧島より全艦隊へ。霧が晴れ次第、リランカ島に向けて出発します。」

 

私は通信妖精さんに言ってそう受話器に言うと、揚陸艦を見た。甲板には所狭しと物資が並び、艦橋の下は開けていて乗組員が話をしている様です。姿を見る限り、将官ではありませんね。

 

「あの霧、一体何なんでしょうか......。」

 

私の中にはただそれだけしか考えられなかった。

霧が起こした現象。到底理解出来ない事です。

再び入れば何か分かるかもしれませんが、どうなるか分かりません。ここは避けるべきでしょうね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

リランカ島に出撃してから5日が経った日。新瑞が鎮守府に来た。M61と一緒に来たのだが、門で止められた様だ。俺は見に行くために門に向かった。

 

「すみません。鎮守府の警戒レベルを上げているので、貴方を易々と通すわけにはいきません。」

 

そう言って門兵がある人を止めていた。そしてそれを困った表情で見つめる新瑞の姿もあった。

 

「どうかされたんですか?」

 

俺がそう言って新瑞に話しかけた。

 

「あぁ......連れてきた部下が止められてしまってな。あいつには武装解除をさせてあったんだが......。」

 

そう言って困っているので、俺は門兵に話しかけた。

 

「通してやってくれ。」

 

「はっ!ですが彼はこの様なものを......。」

 

そう言って門兵は俺にナイフを見せてきた。みかけはどうやら軍用ナイフの様だ。鞘に刺さっており、随分と重そうだ。

 

「はぁ......隠し持っていたのか。おい、どういう事だ。」

 

そう新瑞は部下に詰めかけた。

 

「いえっ!これは肌身離さず持つものでありますので......。」

 

「バカか!貴様っ!!」

 

新瑞はそう言って怒鳴った。かなりの迫力で、怖い。

 

「ここは他とは違う。いう事を聞くんだ。」

 

そう言って新瑞はその部下の頭を叩いた。

 

「門の近くはいけない。警備棟ならいいか?」

 

そう新瑞が言うのでそうする事にした。本部棟には入れない事が分かっているのだろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

警備棟に入った俺たちは会議室みたいなところを取り、俺と新瑞、そして部下が入った。

 

「アポがあっても良かったんじゃないでしょうか?」

 

そう俺が言うと新瑞は笑った。

 

「はははっ!!いつもの気分だった。今日はこいつを連れている事を忘れていてな。紹介する。」

 

そう新瑞が言うと部下は俺に対して敬礼した。

 

「私は空軍中部航空方面隊所属 第六航空団 天見(そらみ)少尉です!」

 

俺はてっきり陸軍のかと思っていたが空軍だったらしい。何故空軍の兵がナイフを持ち歩いているんだと疑問に思ったが、よく考えたら空軍の人間と会うのは初めてだった。

 

「天見少尉は第六航空団でF-15Jに搭乗している、航空兵だ。」

 

そう言われて俺は何とも思わなかったが、どうしてそんなパイロットがウチに来たのか疑問に思えた。

 

「それで、M61は?」

 

「おっと、そっちが本命だったな。もうそろそろ運んでいるトラックが到着する。門兵と艦娘に検査させた後、運び込む。」

 

「何時もの門ですよね?既に待機してます。」

 

そう答えると俺にM61についての書類を俺に渡してきた。

 

「報告書を見たが弾薬ベルトはそっちで作るようだな。」

 

「はい。」

 

そう答えると新瑞はまた書類を渡してきた。そこには『現代の戦闘機との相違点についての教導』と書かれていた。

 

「これは?」

 

俺がそう訊くと新瑞は答えた。

 

「そちらに配備されたF-15J改二とF-2改を運用するにあたってのレシプロ機との相違点に付いての講習と運用するにあたっての指導だ。そのために天見をこちらに配属させたい。」

 

そう言って俺に新瑞は言ったが、それを押しのけて天見が目を輝かせて言った。

 

「F-15J改二?!F-2改?!なんですかそれッ!!新型ですかっ!?」

 

そう言って新瑞に詰め寄っていた。この人、結構猪突猛進な感じなんだ。

 

「この鎮守府の航空隊に配備されているジェット機だ。」

 

そう新瑞が言うと天見は首を傾げた。

 

「ここの鎮守府?基地には旧世代のレシプロ機しか配備されてないって聞きましたけど?」

 

「これまではそうだったが、つい最近配備されたんだろう?」

 

そう俺に苦笑いしながら新瑞が訊いてきた。

 

「そうですね。試験運用ですがどちらも20機ずつ配備してます。」

 

そう俺が言うと天見は目を輝かせた。

 

「はぁ~!!最新鋭戦闘機のある基地に配属だなんて、昇進ですかね?!」

 

そう言う天見を見て俺は『コイツアホか』と思ったが口にはしない。

 

「違う。さっき言っただろう。教導だ。つまり貴様は教官だ。」

 

そう言って新瑞は部屋を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

返事もしてないのに投げられたと思い放心していると、天見が俺の目の間で手を振っていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「っは?!......大丈夫です。」

 

俺はそう言って手に持っていた書類とM61の書類を持って咳ばらいをした。

 

「取りあえず、事務棟にて待機。外出の一切を禁止する。」

 

そう言うと天見はギョッと驚いた。この感じ、何回も経験している。

 

「いや、何で君にそんな事を言われないといけないんですか?上官を呼んできてください。」

 

そう言うので俺は溜息を吐いて持っていた書類を机に置いた。

 

「はぁ......証明できるものがないんだよなぁ......。」

 

そう言って俺はポケットの中を探り、何か証明できるものはないかと探した。

今、外に出るということで上着を着ているのだが、俺の着ている服はおろか階級章さえも見えない。そして俺はまだ18だ。そう思われても仕方なかった。

上着を脱げばいいんだろうが、上着の下はシャツだ。外に出る前、慌てて出てきたので軍装の上着を着るのを忘れていたのだ。

 

「どうしたもんかね......。」

 

そう言って悩んでいる俺に天見は声を掛けてくる。

 

「ちょっと!呼びに行かないんですか?!ここの司令に挨拶しておかないといけませんし!」

 

そう言って思いっきりイライラした表情で俺に言ってる天見にどういうか悩んでいると、会議室に長門が入ってきた。

 

「ここに居たか。」

 

「ん?」

 

俺は振り返ると、長門が困った表情をして言った。

 

「ドイツの奴らが提督が帰ってこないと騒いでいるんだ。どうにか......む?貴様は誰だ?!」

 

俺にそう言って視界に映った天見にいきなり敵対心を向けた長門は艤装を身に纏った。

 

「部外者だな!両手を頭の後ろで組め!」

 

長門が急に艤装を身に纏ったのを見て驚いた天見は言われた通りに腕を組んだ。

 

「艦娘っ!?」

 

そう言って驚く天見だが、長門が流れるような速さで艤装に何時の間に換装したのか、7.7mm機銃を天見に向けた。

 

「貴様っ!何者だっ!!」

 

そう言う長門と驚く天見の間に俺は割って入り、長門に艤装を仕舞うように言った。案外長門は聞いてくれて、すぐに艤装を消してくれたが、警戒しているのには変わりない。

 

「そう威嚇するな、長門。」

 

「あぁ......『提督』がそう言うなら。」

 

そう言ってすんなり長門は俺の後ろに立った。その一方、天見は顔面蒼白。長門が言った言葉に反応した様だ。

 

「提督っ......提督って、ここの司令官ですか?」

 

「そうだな。横須賀鎮守府艦隊司令部司令官だ。」

 

そう長門は澄まし顔で言った。

長門の言葉を聞いた天見は一層顔が青くなり、両手を組んだまま膝を付き、床にゴンと額を打ち付けた。

 

「もっ、申し訳ございませんっ!!まさか、司令だとは思えなくて......。」

 

そう言った天見に長門は過剰反応した。

 

「なん......だと。『だとは思えなくて』だと......。貴様ぁ!!提督を侮辱するのか!!!」

 

俺の背後からかなり酷いオーラを感じている。この感覚は経験がある。あれは金剛が突然現れるときと同じものだ。

 

「よせっ!長門っ!!」

 

「だがっ!」

 

「若いからそうみられても仕方ないんだ。天見少尉、立てるか?」

 

「はい......あっ、いえ......。腰が抜けてしまって......。」

 

そう言ってペタンと座り込んでしまった天見は、少し泣きかけていた。

 

「司令......私は着任して5分で銃殺なのでしょうか?」

 

いきなりそんな事を言い出した。

 

「何言ってんだ?」

 

「横須賀鎮守府で提督や艦娘を怒らせると是もなしに軍法会議でそのあと銃殺だと噂で......。」

 

そう言って今にも泣きだしそうな声で言う天見に長門は言った。

 

「そんな根も葉もない噂......提督は一度たりとも死刑を執行させたことはないぞ。軍法会議で死刑が決まった兵をいつも助ける。そんな人間だ。」

 

そう言って長門は目を泳がせながら続けた。

 

「艦娘はどうだろうな......はははっ。」

 

俺は長門に『艦娘もなかっただろう』と言って天見が歩けるようになるとすぐに事務棟に案内した。

今日のところは待機でと伝え、今後の予定やらを話した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

天見と分かれて何故教官が現れたのかと考えだした。

新瑞の言った事は確かにあっている。レシプロとジェットでは戦術構想が違う。その相違点を見つけ、ジェットに関する知識を費やす。必要な事だが、何かが違う気がした。

何故なら開発される航空機にはそれぞれ妖精も現れる。その意味とは......そもそもそれの操縦には慣れているとうことなのではないか。そう思ったのだ。

だったら天見は必要ない。せいぜい、戦術を考えるときに話し相手になるくらいだ。

大本営は何かを勘違いしているのではないか、そう思った。

 

「考えていても仕方ないか。取りあえず明日、模擬戦を見せてからにしよう。」

 

そう考え、今日はその事を考えるのをやめた。

M61に関してだが、新しく生産された20門が届いた様だった。数は合わないが、妖精が解析してコピーを作ればどうにかなる。そう考え、追加を頼むのを止めた。

ちなみに俺を探していたドイツ艦たちは、余りに長い事帰ってこないので心配しただけらしい。結構なお騒がせだった。

 




今回は新しいキャラの登場ですね。天見ですが、口調から分からないと思いますので一応ここに簡易的な紹介を。
天見は女性。作中にもありましたが中部航空方面隊 第六航空団所属の少尉。パイロットですね。

冒頭のアレですが、まぁ毎回差し込むので。

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第九十九話  提督の苦悩⑨

 

日が明けた朝、天見を連れて俺は滑走路に来ていた。

今日は、天見にF-15J改二とF-2改の模擬戦を見せる為に来た。

 

「あれが新型ですか?......あんまり変わりませんね。それにコクピットブロックが何故黒塗り何でしょうか?」

 

痛いところを天見は指摘してきた。あそこには搭乗する妖精がいるのだが、見せる訳にはいかないからだ。これは俺以外の人間なら誰でもそうで、話した途端に妖精は俺に黒塗りにする要請をしてきたのだ。

 

「それはまぁ、ここにある機体すべてに言えることだから気にしないでくれ。」

 

そう言って俺は飛び立とうとするF-15J改二とF-2改を見た。ちなみに2機小隊編成で、仮想敵は零戦21型だ。こっちは4機小隊だ。

すると轟音を立ててF-15J改二とF-2改は飛び立っていった。

 

「あっ、言い忘れていたがあの長ったらしい名前を呼ぶ代わりに愛称がついたんだったな。」

 

「言ってましたね。F-15J改二は『Ambush Eagle』でF-2改は......何でしたっけ?」

 

「『蒼梟(セイキョウ)』だ。」

 

俺はそう言ってこの様に呼ばれるようになった経緯を反芻する。

妖精たちと今日の模擬戦について話していると、ある搭乗妖精が言ったのだ。『長いんで愛称とかないんですかね?』と。その時、話している内容は全て打ち切られて皆で考えだしてしまったのだ。

F-15J改二はすぐに出たのだが、F-2改の方が出なかった。

そうすると近くを通った疾風の妖精が言ったのだ。

『F-2改が近づいたと分かった瞬間には既に時が遅いじゃないですか?なら梟と、サンプルとして搬入されたF-2が青色迷彩だったので青に梟、『蒼梟』なんてどうでしょうか?』と言ったのだ。結局保留にしたが、最後まで出なかったのでそういう風に呼ぶようになったのだ。

 

「仮想敵部隊はもう飛んでますけど、レシプロ機の相手でいいんですか?」

 

そう訊いてきた天見を尻目に俺はニヤけた。何故なら昨日、新瑞から受け取った書類の中に面白いものが紛れていたのだ。

 

「大丈夫だ。」

 

俺は空を仰いで飛び立ったアンブッシュイーグルを見上げた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

仮想敵との戦闘はすぐに終わった。接敵するやいなや仮想敵が2機撃墜判定が出て、そのあとに蒼梟が各個撃破した。何とも言えない速さだった。

 

「流石ですね。というかミサイルは積んでないんですか?」

 

「あぁ。こちらではまだ用意できないから機関砲だけだ。」

 

そう言って俺は空から目を離さない。深緑と白い腹を見せて飛ぶアンブッシュイーグルと蒼梟は主機の出力を抑えて巡航を始めた。そうすると、遠くから別のエンジン音が聞こえてきて、鎮守府の上空を2機小隊のF-15Jが飛びぬけて行った。

それを見た天見は驚き、遠くて見えないのに天見はその2機の所属を言った。

 

「航空教導団所属機じゃないですか!」

 

「新瑞さんがアグレッサーにあれを頼んだらしい。」

 

「はぁ?!あんなんに勝てる訳ないですよ!!!」

 

そう言って天見は俺に向かって言った。

 

「航空教導団は深海棲艦の領海侵入時に迎撃に出るエース中のエースですよ?!」

 

「どういう意味だ?」

 

俺がそう訊くと天見は説明してくれた。

 

「鎮守府が無い地方で深海棲艦を探知した際に迎撃に行く、艦娘以外で唯一戦っている部隊です。」

 

「地方って?」

 

「主に北海道ですかね?まだ制圧が完了してないので度々深海棲艦の偵察機やら攻撃機やらが飛んでくるんですよ。」

 

そう言われて俺は衝撃を受けた。確かに北方海域は制圧していない。それは置いておいて、深海棲艦が本土を偵察・攻撃に来ているだなんてここだけじゃなかったのだ。

 

「そうか。まぁいい。」

 

そう言って俺は平静を装い、始まろうとしている航空戦を見た。

アンブッシュイーグルは離脱していき、蒼梟が相手のF-15Jと混じった。その前にF-15Jはミサイルを撃ったようだが、蒼梟は全て交わした。

交差すると蒼梟は縦ロールし、回避行動をするF-15Jの斜め上を取った。この位置取りは有利だ。斜め降下すれば相手の被弾面積が広くなり、狙いやすくなる。だが相手も手練れだ。そんなこと分かっていたかのように急降下を始め、逃げ出した。それを追いかける蒼梟はエンジンの出力を上げたのか、蒼い炎を大きく出しながら飛ぶ。

すぐに追いついた蒼梟にF-151Jは急旋回し、格闘戦に持ち込んだ。だが、蒼梟を甘く見ていた様だ。蒼梟はF-15Jよりも遥かに狭い旋回半径でF-15Jの背後を取り、機関砲を撃った。

 

「えっ?航空教導団がっ......ほんの数分で......。」

 

天見が口をポカーンと開けているのを尻目に、帰還してきたアンブッシュイーグルと蒼梟は着陸して、格納庫にそのまま入って行った。

 

「司令。」

 

「なんだ?」

 

俺は返事を返すと、天見の方を見た。天見は酷く顔を青くしている。

 

「私にあんな化け物の教導をしろと言うんですか?」

 

「あぁ。見てわかったと思うが、ミサイルを運用しない戦術しかとれない。格闘戦術を利用したジェット戦闘機による迎撃任務をこなすにあたって、新瑞さんが天見少尉をここに連れてきた。」

 

「それは分かりますが、私は何を教えればいいんでしょうか?」

 

そう訊かれて俺は悩んだ。確かに、何を教えればいいんだろうか。それに相手をどうするかだ。妖精はわざわざ自らの姿を隠したと言うのに、どうやって教えるのか。

そう考えると、この天見は何のためにここに来たのか分からなくなる。

ただ、アンブッシュイーグルと蒼梟はミサイルを積んでいない。もし、ミサイルを積むことになった時に運用方法だけになるが......。

 

「ミサイルが配備された時、教導を頼む。」

 

「了解しましたっ!」

 

俺は天見と共に滑走路から離れて行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

霧は晴れ始めたのはリンガ泊地に戻ってきてから6時間程経った頃でした。赤城さんらが艦載機を偵察に出していた様で、霧が晴れてすぐに行動が出来ました。

今は欠けた先頭を私たち、水上打撃部隊が任を負っています。私は中央後方。旗艦という理由でこの配置です。

それと先ほどから機動部隊から艦載機が行ったり来たりしているのですが、どうやら周辺偵察の様です。霧を見つけたらすぐに知らせれるようにと。

 

「針路そのまま。」

 

私は航海妖精さんにそう言って前方に見えて来るであろうリランカ島を待った。

あそこに到着できればこの作戦は終了です。私たちが護衛任務が終了して撤退すると、特別任務がリンガ泊地に送られるそうですが、それはどういう意味なのか全く分かりません。

それとリランカ島には度々補給物資の運搬を大本営から命令されるそうですが、それは遠征艦隊が担う様なので私としては遠征艦隊の無事を祈る事しか出来ません。

 

「リランカ島が見えます。」

 

そう観測妖精さんから連絡が入り、私は水平線の彼方を見つめました。少しずつ見えてくる島影と、黒い斑点。リランカ島です。黒い斑点は先に到着していた第二護衛艦隊と第一護衛艦隊の一部でしょうか。

岸に揚陸艦が接岸し、物資を下ろし終わり次第私たちは帰還です。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

リランカ島に揚陸艦が接岸すると、私は先に到着していた艦隊を見ました。

彼女たちの艤装には何らかの損傷を受けたような跡はないです。リンガ泊地では一度艦隊の補給と修理がありましたからね。ここまでの道中に戦闘をしなければ損傷をする筈がないんです。それはともかく、彼女たちが遭遇戦をしていないと分かっただけでも良かったです。

 

「霧島より神通さん。」

 

『はい。』

 

私は投錨すると通信妖精さんに神通さんに繋げてもらいました。

 

「霧の中での出来事、教えていただけませんか?」

 

そう私が訊くと、神通さんは話してくれました。私たちと通信が取れなくなった時の事、霧の中で何か見てないか、広範囲に索敵陣が敷かれていたのに、他の艦娘とは連絡を取り合えたのかという事。

聞いている限りでは、私たちと起きていた事は変わりませんでした。広範囲に広がっていたので霧を出るまでは肉眼では確認できなかったと言ってましたが、通信は僚艦とは取れたということです。霧の中では何も見ていないと、これも私たちと同じです。

 

「取りあえず、無事でよかったです。荷下ろしを見届けたら帰路に着きます。」

 

『了解しました。』

 

私はそう言って通信を終わらせると通信妖精さんに受話器を渡して艦橋にある椅子に座りました。

ここまでくるのに溜め込んだ疲労が来たんです。精神面と体力面です。これまで高速艦隊として結成される艦隊は6隻だったのに対し、今回は24隻と4隻でした。こんな大艦隊の指揮を任せられ、どう導いていくか、私はこれまでにない大きな試練を同時に受けていたんです。

途中、ショートカットのつもりで霧に入ったのは大きな失敗で、作戦を遅らせてしまいましたが、裏を返せば『イレギュラー』を新たに発見することが出来ました。今回の作戦で私たちは本来の報酬以外にも大きなものを手に入れたんです。深海棲艦の高高度迎撃機の存在と謎の霧、これは間違いなくイレギュラーです。これを今発見できたことはとても良かったことです。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

空の雲の上、下に白い絨毯の敷かれた景色を黒い斑点が列を成していた。

それは轟轟と音を立て、目的の為に動いている集団。誰に言われた訳でもない、ただ、目的の為に動いている。

雲の上に来る前、大きく移動する集団を見つけていた。これはチャンスだと言わんばかりに我々は雲の上に上がってきたのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今、俺の目の前に珍しい集団が来ていた。

 

「こんにちは、提督。」

 

「こんにちはだ、提督。」

 

「ごきげんよう、提督。」

 

「こんにちは、司令官さん。」

 

妙高型重巡姉妹だ。何故来ているのかというと、那智が言い出したことらしい。

何でも、俺の重巡のレベリング順序に不満があるとうのだ。

 

「......だから、私たちを起用すればより戦線を押し返せることがだな......。」

 

そう力説する那智だが、確かに妙高型を改二にまですればかなり強い。戦艦並みだ。それに戦艦よりも高速なのでより迅速な作戦行動ができる。

 

「分かった、分かったから!というか那智、今は作戦展開中だって忘れてないか?」

 

「む?リランカ島へ揚陸艦を送り届けたから帰還すると聞いたが?」

 

「ここまで無事に帰ってくるのが任務だっ!」

 

俺はそう言って頭を掻きながら言った。

 

「だが妙高型の優先度を上げるつもりはないぞ?」

 

「何でっ?!」

 

どうやら足柄も早クレベリンして欲しい組らしい。ちなみに妙高と羽黒は何時でもいいと言っている。

 

「現状侵攻作戦には大型の高雄型で十分間に合ってるし、今は遠征艦隊で頑張ってる軽巡の為に別の重巡を育成しなければいけないからな。」

 

そう言って俺が書類を置くと、少し不機嫌そうに那智は言った。

 

「衣笠か?」

 

「そうだな。」

 

俺は那智が名前を挙げてすぐに返事をした。

 

「その後はどうだ?」

 

そう言って胸を張って言う那智を妙高は一蹴した。

 

「それは無いですね。重巡でしたら次は最上型になりますから。」

 

そう妙高は苦笑いして言った。

 

「何よっ!!繰り上げてくれてもいいじゃない!!」

 

そう足柄が言ってくるが今度は羽黒が一蹴した。

 

「それも無いです。最上型と言えば航空巡洋艦に改装されることで有名ですから......。」

 

「えぇー......。」

 

俺はこの様子を見ていた思った。

 

(俺に言いに来なくても結局こんなんなんだろうな。)

 

少し妙高型姉妹のやり取りを見届けて丁度いいところで水を差した。

 

「まぁ、海域の解放が進めば重巡は重宝するし、近いうちにレベリング対象にはなるからそれで勘弁してくれ。」

 

俺はそう言って手を合わせた。

そんな様子を見てか、那智と足柄は納得してくれた。最後にお騒がせしたとだけ言って執務室を出て行ったが、それを見送ったフェルトの横に居たプリンツは俺を睨んだ。

 

「なっ、何だよ。」

 

「提督ぅ~!私はっ?!」

 

俺は取りあえず苦笑いで返し、適当に誤魔化した。

 





ジェット機に愛称を付けましたが結構無理やりでしたね(汗)
違和感があればお知らせください。

結局、任務は終わりましたが色々と謎を残したままですね。ですけどまだまだ続けれるので次回からもお楽しみに。
ちなみに天見は今後出る機会がほとんどありませんwww

ご意見ご感想お待ちしてます。


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特別編  大晦日

 

今日の鎮守府では大掃除が早々に始められていた。皆、気合を入れて彼方此方を掃除している。

何故、そんなことをしているのかというと、今日は12月31日。大晦日だ。

一年の汚れを払って身を清めるとか、新年に気持ちよく神様を迎えられるようにとか言われているが、これはもう習慣に過ぎない。

そんなの関係なく、俺たちは掃除をしているのだ。

と、言いたかったが......。

 

「おい。」

 

「はい。」

 

報告に来たらしい頭巾を頭に巻いた赤城はドヤ顔で俺の前に立っている。

 

「嘘は良くないぞ?」

 

「嘘など言ってませんよ。第一、綺麗にするのは当然の事です。」

 

赤城が報告したのは、大掃除完了の知らせだった。朝少し早く起きて朝食を摂り、掃除を始めたのは午前8時。

赤城が完了を知らせたのは午前11時。

 

「いくらなんでも速過ぎる。」

 

「とは言え、終わりましたからね。艦娘寮は大型艦が中心に取り仕切り、それぞれの棟ではそれを使っている人たちがやりましたからね。」

 

俺は頭を抱えて言った。

 

「本部棟は?」

 

「本部棟は提督と艦娘がやったじゃないですか。」

 

本部棟は艦娘寮で手を拱いていた艦娘が本部棟をやると言って8時半に押し寄せてやっていた。ちなみに俺の掃除場所は執務室と私室。他のところもやるつもりだったが、待機艦勢の強固な壁によって阻まれて結局やれなかった。待機艦勢はこれを機にと気合入れてやっていたらしく、本部棟の一部の廊下はワックスのせいでかなり滑るらしい。本部棟というか俺を手伝っていた西川曰く『あれはスケートリンクですね』だそうだ。

 

「そもそも掃除するところなんて家具の後ろ位ですし......。他の棟なんて想像以上に居る門兵さんが出向いてやったらしいですからね。」

 

赤城はそう言って頭巾を解いた。

 

「という訳で大掃除が終わりました。」

 

そう言って来るので何だか悔しくなった俺は苦し紛れに言った。

 

「艤装は?」

 

そう言うと赤城はすぐに答えた。

 

「それはもう終わってますよ?」

 

軽く一蹴され俺はもう歯向かう気にはなれなかった。

 

「分かった......。夜は宴会だし、それまでは......自由で。遠征艦隊も流石に出撃してないだろう?」

 

「そうですね。今日は哨戒機だけです。」

 

そう言うと赤城は俺を立たせた。何故立たせたかというと......。

 

「さて、私は任務を受けているので、提督!行きますよ!!」

 

と言って俺の手を掴んだ。

 

「引っ張んなし!!歩けるからっ!!!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺がどこに連れて行かれたかというと、食堂だった。

そしてそこには掃除を終えた艦娘たちが全員集合している。何事かと思って見渡すと、ある席に一人だけ座らされている艦娘がいた。

 

「助けてぇ~提督ぅ~。」

 

椅子に座らされて手を縛られている北上だった。

どういう状況なのかさっぱり分からないが、北上を囲んでいる艦娘たちが殺気立っている時点で安易に想像がついた。

きっと北上は『提督への執着』で艦娘たちが怒る事を言ってしまったんだろう。赤城が俺を強引にここに連れてきた時点で色々想像はつくが、他の艦娘が『提督への執着』が発動されても正気でいられる赤城がこんな事をするなら相当な事を言ったんだろう。

 

「何をしたのか分からないが、取り合えず謝っとけ、北上。」

 

俺はそう遠い目をして言ったが、どうやら違うようだ。

 

「違うってばっ!」

 

そう言って暴れる北上の横をよく見ると大井も結構お怒りの様子だ。大井って北上LOVEじゃなかったか?

 

「私でも流石に......ね。」

 

そう言っている大井の表情が怖い。北上が震えているくらいだ。

一体何があったというのだ!!

 

「じゃあ何で?」

 

「これですよっ!!」

 

そう言って俺に見せてきたのは食堂の今日のメニューだ。

レパートリー豊かでいつも皆満足しているし、これが一体どうして北上を怒る原因になるのか俺は分からなかった。

 

「いや、意味わからないから。」

 

「今日の朝ですよ!!」

 

そう言われて俺は朝のメニューを見た。ちなみに鎮守府での食堂の利用法は和洋中で選択でき、それぞれを言って注文する。俺は中華以外で美味しい方という注文をして居るが、この鎮守府では朝は洋食派が多いらしい。俺は洋食をメニューを見た。

そこにはパン、サラダ、オムレツ、スープ。至って普通な気がするが、どこに怒る要素があると言うのか。

 

「至って普通じゃないか。」

 

そう言うと金剛が目を潤ませながら現れた。

 

「朝食でオムレツが出ると事あるごとに北上が『提督のオムレツまた食べたいなぁ~間宮さんのとは違う美味しさが堪んないんだよねぇ』とか言うからデース......。私たちは提督のオムレツすら食べたことないノニ。」

 

「ん。」

 

俺は時間を見て、決心した。大晦日に今年一番疲れる事をする。

 

「分かった。間宮。」

 

「はい。」

 

食堂に集まっているので勿論、間宮も居る。そんな間宮を呼んだ。

 

「今日の昼の洋食枠、俺に任せてくれ。」

 

「えっ......ですけど......。」

 

そう言ってオロオロする間宮に俺はサムズアップした。

ちなみにサムズアップは一部の地域では侮蔑の意味もあるから。ちなみに日本と英語圏は大丈夫で、多分ドイツも大丈夫。

 

「大丈夫だっ!!......多分。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺の長時間労働は2時間に及んだ。

消費した卵の数は90個くらい、バター1kgくらい、牛乳は分からないがすごい量を消費した。だが手伝ってくれた間宮は別に表情を変えなかったのでいつも通りの様だ。まぁ、俺はこんな大人数分の用意はした事ないから仕方ないんだろうが......。

 

「つっ、疲れた......。」

 

食堂の一角で机に突っ伏していると、横に間宮が座った。

 

「お疲れ様です、提督。」

 

「あぁ......マジで疲れた......。」

 

そう言って腕からズレ落ちた頭が机に額をぶつけた。

 

「おごっ......痛てぇ。」

 

「提督はまだですよね?用意しておきましたよ。」

 

そう言って間宮は雑炊を出してくれた。

 

「疲れていると思いましたので。」

 

「ありがと......。」

 

そう言ってもそもそと食べ始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

日も落ちた頃、食堂は改装(※妖精によって)され、どっかの宴会場みたいになっていた。

今日はここで年越し宴会というか、大晦日のパーティー的なのを開く。俺は結局、雑炊を食べた後、すぐにその場で寝てしまったらしく起きたら準備が始まっていた。

 

「うわっ......殆ど出来てるじゃん。」

 

そう言って寝ぼけた頭を持ち上げると、もうそこには白い壁に白い机、白い椅子の清潔感溢れる空間が畳に張り替えられ、長机が並べられていた。食堂にはステージが設けられていて、マイクとスピーカーが置かれている。

完璧な忘年会会場になっていた。何処行ったパーティー。

 

「おはようございます、提督。」

 

そう言って現れたのはまたもや間宮だった。

 

「おはよう。」

 

俺はそう言って立ち上がり、背伸びをした。

 

「さて、始めますか。」

 

「えっ?」

 

そう言って戸惑う間宮に俺は言った。

 

「手伝うから。料理作るのも、何か買い出しに行くのも、もし必要なら鎮守府から出るから。」

 

「ありがとうございます!」

 

そう言って俺は辺りを見渡した。既に日が落ちているところで大体察しはついていたが、もう殆ど出来上がっている。ということで、俺は気合入れて言ったがやる事が無い。

 

「そうですね......今日も門を警備している門兵さんと不休で働いている妖精さんに何か作りますか?」

 

「そうだな。門兵には温かいもの、妖精たちには甘いものでも用意しよう。」

 

そう言って俺と間宮で作り始めた。温かいものの方は取りあえずメニューは間宮に任せ、妖精の方は俺がやる。今からクッキーやら作っても仕方ないからと言って考えている最中に自暴自棄になり、結局パウンドケーキを作る事になった。だが、予想以上に作り過ぎてしまい、妖精たちに配り終わったあと、作った半分以上が残ったのは別の話(※この後、金のカチューシャをした艦娘がかっさらっていきました)。

ちなみに間宮は年越しそばを作ると言っていたが、今からそばは作れないので天ぷらそばにすると言って作っていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「那っ珂ちゃんだよー!今日は盛り上がってるー?」

 

「「「「「「いぇーい!!!」」」」」」

 

「それでは、今年もお疲れ様でしたぁーーー!!!かんぱぁーい!!!」

 

「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」

 

という感じで始まった忘年会(※もうパーティーじゃなくていいです)は那珂が乾杯の音頭を執ってくれた。ちなみにこれからそれぞれで有志が出し物をしていくらしい。

 

「有志一番っ!!那珂ちゃん、歌いまーす!!!」

 

どうやら音頭を執ってくれたのはそのまま有志に入りやすいようにということだったらしい。

那珂は歌い始めた。鎮守府文化祭(仮)で歌ったあの曲を歌いながら踊り、途中バックダンサーも乱入して結構盛り上がった。

途中、五月雨の手からマイクがすっぽ抜けたのは笑えたが、どこに落ちたのだろう。『不幸だわ......。』とか聞こえたので多分山城の方に落ちたんだろうな。

那珂が歌い終わると、夕立だけが舞台に残った。

 

「提督さんは那珂ちゃんだけに曲を用意したらしいけど、妖精さんが見つけたの片っ端から残してくれていたっぽい!!......さぁ、素敵なパーティー始めましょ?」

 

そう言って舞台の照明は落ち、紅いライトがぐるぐると回り始めた。どうやら夕立も歌うらしい。ロック調のリズムに乗って、歌いだす夕立に全員が立ち上がり手を天に突き上げている。忘年会どこ行った。

という流れで次々と艦娘たちは歌っていくが、どうやら最後に歌うのは時雨の様だ。これまでに熊野と鈴谷の時には結構しんみりとした空気が流れたが、この流れから察するに時雨はあの曲だ。

 

「僕で歌うのは最後だよ......じゃあ、歌うね。」

 

そう言って曲が流れ始めるが、何を歌うのか知っているのだろうか。白露型ゾーンは既に涙を流している。感動するのが早い。

 

「ふぅ......ありがとう。じゃあ、次。お願いね。」

 

そう言って歌い切った時雨はマイクを置いて舞台から降りて行った。

そして時雨と入れ替わりで舞台に上がったのは俺だ。

 

「じゃあしんみりしたところで、今から赤城と加賀が配るカードを1枚ずつ受け取ってくれ。」

 

そう言って赤城と加賀が配り始めたのは1桁と2桁の数字が24個書かれたカードだ。

 

「これはビンゴと言って、毎回このガラガラから出てくる数字を俺が読み上げるからそのカードに書かれている数字と参照してくれ。もし読み上げられた数字があったならこうしてくれ。」

 

そう言って俺は持っていたカードを適当な数字のところをぶち抜いた。

 

「まぁこのカードは使わないから、こんなふうに穴を開けていって、縦横斜めで端から端まで空いたら『ビンゴ』と言ってくれ、景品をあげるぞ!」

 

そう言うと皆、カードを構えた。やる気満々の様だ。

 

「最初は真ん中の数字の書かれていないところを穴開けてくれ。じゃあ始めるぞっ!!!」

 

そう言って始まったビンゴ大会はかなり盛り上がった。景品が置かれている台が見えていると言うのもあるが、景品が景品だ。間宮のアイスクリーム6人分と伊良湖の最中6人分がある。先着12人がそれにありつけるのだ。

と言ってガラガラ回すこと十数分で最初のビンゴ者が挙がった。

 

「司令ぇ!やりました。」

 

「うん。分かっていたよ。」

 

そう言って俺の前に来たのは雪風だった。

 

「じゃあ、どっちがいい?」

 

「雪風はアイスがいいです!!」

 

そう言って雪風をビンゴ席に座らせ、ガラガラを回し始める。

時は流れて1時間。最後のビンゴが出た。北上だ。

そうして忘年会は進み、落ち着いて食事をする時間になった時、俺は逃げ場を探していた。

 

「提督も一杯どうだ?」

 

そう言って俺の左腕をがっちりホールドしているのは長門だ。忘年会を始める前に確認したところ、酒は重巡より大型のは許可されているらしく、酒保で酒も買えるらしい。そして長門は酔っている。

 

「提督ぅ~。目を離しちゃダメデース~。」

 

一方、右腕をホールドしているのは金剛だ。

 

「俺は呑めないし、第一未成年だっ!離れろ!」

 

そう言って俺は腕を振り払おうとするが、当たってはいけないところに当たってしまうので全力で抵抗できずにいた。

立ち上がればなんとかなるかもしれないが、それも叶わない。さっきから夕立が俺の膝に乗って離れないのだ。これまでの夕立何処行った?!大人しかったじゃないか!と言いたいほどだ。いや、泣きたい。

 

「夕立もっ、離れろっ!」

 

「良いじゃない~。温かいっぽいっ!!」

 

「俺は十分だっ!!」

 

そう言って抵抗するが、今度は頭をガシッと掴まれた。

 

「提督、何ニヤニヤしてるのかしら?」

 

「アトミラール、酒は飲まないのか?」

 

ドイツの戦艦と空母に絡まれた。

 

「飲めん!飲みたくてもなっ!」

 

そうだ。俺の中では俺の居た世界基準になっている。18歳は酒を飲めない。当たり前だ。

 

「いいじゃないのっ!ほら、飲みなさいっ!!」

 

そう言ってビスマルクに酒瓶の口を口に突っ込まれた。

 

「げほっ!!やめろっ!!」

 

「えぇー!飲みなさいよ~。」

 

飲まされた時にビスマルクの顔が見えたが、赤かった。ビスマルクも酔っている様だ。

 

「だぁーーー!!!誰か助けてくれぇー!!」

 

俺の悲痛の叫びが会場に木霊した。

結局見かねた赤城が止めに入ってくれた。俺に絡んでいた長門、金剛、ビスマルクは海上の端で加賀からお説教を喰らっている。別に何もしていない夕立とフェルトはそのまま俺のところに居るが、気にせずにいると段々と艦娘が集まってくる。俺の正面の席は赤城なのだが、その両脇と俺の両脇に陣を張った夕立とフェルトの脇には艦娘が集まり、20人分の机なのに60人近くが使っている状態だった。

 

「せっま......。」

 

俺は間宮の用意した料理を食べつつ、あの3人が連れて行かれてから初めて口を開いた。

既に両脇とは肩が当たっており、むしろぎゅうぎゅうと押し付けないと座れない状態だった。

 

「それは仕方ないな。何故か集まっている。」

 

そう帽子を置いて食べているフェルトは言った。酒を飲んでいる様だが、絡み癖は無い様だ。

 

「それは仕方ないわね。皆提督と食べたいっぽい。」

 

夕立はジュースなので、酔いはしないだろうが、いつもの感じではない。

まぁ、ぎゅうぎゅうずめだが楽しいので良しとしよう。皆も楽しそうだしな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

結局騒ぎつかれて食堂で皆、雑魚寝した。

 





特別編ということで、大晦日を出させていただきました。気付けは今日は2本投稿ですね。
まぁ、大晦日があるということは、お正月もあるわけで......。
明日をお楽しみに。
ちなみに明日は自分が忙しいので、明日は本編を出すことが出来なさそうです。
これから書きはしますが、間に合わなければ挙げません(白目)
間に合えばいいんですがね。

そう言えば、提督のセリフに少し方言が入ってるかもしれません。すみません。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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特別編  お正月

あけましておめでとうございます。皆さんはどうお過ごしでしょうか?
自分はですねー、作中の提督のところの地の文のところに書いてあるので分かりますよ?元旦は忙しいんです。

では、


俺が起きたのは朝日が昇る前だった。

食堂に居るのは分かってはいたが、見回してみるとほぼ全員が寝ている。昨日は結局ここで雑魚寝したのかよと内心で反省していると、鼻腔をくすぐるいい匂いがした。

出汁の匂いだ。美味しそうな匂い。

俺はむくりと起き上がり、雑魚寝する艦娘たちを躱しながら食堂の厨房まで来た。そこでは、間宮がせっせと用意をしている。お重が大量に並び、今は間宮は鍋の面倒を見ていた。

 

「おはよう、間宮。」

 

「あら、おはようございます。提督。」

 

「悪いな......。皆ここで雑魚寝しちゃって。」

 

「いえ。斯く言う私も寝てましたからね。」

 

そう言うが間宮は目線を鍋から離さなかった。きっとそれは火加減を見ているのだろう。

 

「匂い的には......お雑煮ってところか?」

 

「そうですね。」

 

俺はいつも注文する窓口として使っているところから身を乗り出して見た。俺の予想は的中で、鍋の近くには餅が山積みになっている。アレを全部入れると言うのだ。

 

「はははっ......皆を起こしてくる。」

 

「お願いします。」

 

俺は窓口から身体を引っ込めると、辺りを見渡した。そうするとぽつぽつと起き始めていて、皆『あけましておめでとうございます』と言ってすぐに『少し自室に戻ります!』と言って部屋に走って行ってしまうものだから、手に持っていたアルミのトレーとスプーンをどう使うか迷っていると、一人だけ何時まで経っても起きない艦娘が居た。

加古だ。最初は古鷹に身体を揺すられていたのに、自室だと思い込んでいたのだろう。全然起きる気配が無いので、諦めて古鷹は自分の用意で戻ってしまっていた。俺は全員が戻ってくるのを待ち続け、最後まで起きなかった加古の頭上に立ち、トレーとスプーンをカンカンカンカンと打ち鳴らした。甲高い音が食堂に響き、俺は叫んだ。

 

「敵襲ぅーー!!敵襲だぁーー!!」

 

そんな俺を見て古鷹も参戦した。

 

「重巡はこれより迎撃に向かいますっ!!ついて来てくださいっ!」

 

それを見た他の艦娘も乗って叫び始めた。

 

「敵艦載機侵入っ!!」

 

「敵艦隊目視で確認っ!!」

 

「艦砲射撃を確認っ!!」

 

そう叫ぶ艦娘たちはどうやらレベリングの時に起きてこなかった加古に対しての仕返しのつもりらしい。赤城がすっごい悪い顔で叫んでる。

 

「機動部隊出ますっ!加賀さんっ!」

 

そういきなり言われた加賀はかなり動揺しているが、すぐに意味が判ったらしく切羽詰まった風に返事をした。

 

「分かりました。二航戦、五航戦は赤城さんの傘下にっ!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

それを合図に何も叫ばなかった駆逐艦や軽巡の艦娘はドタドタと畳を走り出し、遂には長門も参戦してきた。

 

「古参組で連合艦隊を結成するっ!行くぞっ!!」

 

その瞬間、加古は飛び上がった。

 

「えっ!?何っ!?......あっ。」

 

そう言って起き上がった加古は俺のにんまりした表情を見て察した様だ。すぐに辺りを見渡しはじめ、へたりと座り込んでしまった。

 

「あっ、焦ったー!本当に来てるのかと思ったじゃん!!」

 

そう言ってくる加古に俺は言った。

 

「いやー、いつも起きない加古が悪いだろう?お灸を据えさせてもらった。」

 

そう言った俺の後ろで加古がレベリングでお世話になった古参の艦娘はピースをしている。他の艦娘たちもニヤニヤしている。

 

「新年早々酷いよぉ~!提督ぅ~。」

 

そう言った加古に反して、俺を含んだ皆が笑い出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

加古は大慌てで自室に戻って用意を済ませに行ったのでそれを待ち、皆でおせちを食べた。特段何があるわけでもないが、おせちだ。

皆でお重をつっつき、食べていく。

ふとそんな感じが懐かしく思え、辺りを俺は見渡した。皆笑顔で食べ、話し、楽しんでいた。そんな時、俺はある事を思い出していた。家だ。

俺の元いた世界での家の様子。両親と兄弟で食べるおせち。皆、昆布巻きが嫌いでウチのおせちには入ってなかったり、お雑煮は今俺の手の中にあるお椀みたいに色々な具材が入っている訳でない。餅菜と餅のシンプルなお雑煮。初詣に車で行って、昼に帰ってきて、余ったおせちを食べる。そしたら親戚が集まり、夜は親戚と騒ぎながらまたおせちを食べる。おせち食ってばっかで、正月が終わると友達と会って遊ぶ。そんな事を思い出していた。

脳裏に浮かぶ両親の顔、兄弟の顔、親戚の顔、友達の顔......。

 

「提督?」

 

俺は誰かに呼ばれた気がしてそっちを向くと、赤城がいた。

 

「何だ?」

 

そう返事を返すと、赤城が言った。

 

「どうして、どうして提督は泣いているのですか?」

 

俺は手の甲で目のあたりを拭うと、手の甲が湿った。俺は泣いている様だ。

 

「はははっ......何でもない。」

 

俺はそう言ってお雑煮を食べるが、どうしても視界がおぼつかない。

 

「何でもないんだ......。」

 

俺はそう赤城に言い続けて、お雑煮を食べた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

おせちを食べたら特段何かをする訳でもなく、艦娘たちは早々に開かれる酒保に言って羽子板を買って外で遊んだり、自室に戻って行ったりした。俺もその後者組で、私室に戻ってきていた。時計を見ると午前8時半。この時間、いつもなら初詣に出かけている。町中を走る車の中からいつもと風変わりしている街を眺めながら大きな神社に行き、お参りをする。

俺は何も言う訳でもなく布団に入り、窓から差し込む光を見た。

 

「『帰れない』か......。」

 

俺はここに来た時の事を思い出していた。

あの時長門に言われた事だ。

 

『ここで帰りたいというなら、帰る事が出来る。その代り、一生提督の居た世界には帰れないぞっ。深海棲艦との戦争の最中、死んでしまうかもしれない......。』

 

あの時帰っていたら、俺は今も変わらない生活をしていた筈だ。だが、俺はこの世界に残って戦うことを決心した。

この世界が俺の居た世界と何らかの干渉ができると考え、それを監視するつもりで残った。だがそんな必要はなかった。俺がこの世界に留まる事を決めたことで、世界のバランスが崩れた。『イレギュラー』だ。これによってこの世界の『艦隊これくしょん』としての世界は狂い始めたのかもしれない。

 

「今さら『帰りたい』なんて言えない......。」

 

俺はそう小声で言った。自分に言い聞かせるように、自分を『帰りたい』衝動から引き離すために。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

提督の様子がおかしかったので様子を見に来ました。食堂でいきなり泣き始めた提督は私がどうしたのかと聞いても『何でもない』の一点張りでしたが、絶対何かあります。

あんな提督はこれまで見たことが無いんです。これまで5ヵ月くらい近くで見てきましたが、提督は何事もうろたえずにこなしてきました。本当に文民だったのか、本当に戦争を知らない世界から来たのかと疑わされる程です。ですけど、私の目の間で提督が小さくなって葛藤している姿があるんです。私が入ってきたのにも気付かずに布団に丸まり、『帰れないか......。』とか、『今更帰りたいなんて言えない......。』と言っているんです。

本当は年相応で、18歳なんでしょう。これまで90人近い艦娘と、鎮守府で働く門兵さんや事務棟の方々、酒保の方々を引っ張ってきた人ですが、こんなにも弱い姿を見せています。もしかしたら何時も夜はこんな風になっているんでしょうか?

私たちの希望を叶えて残った戦乱の世界で提督はその代償をこうやって払っているのでしょうか?家族や親戚、友人と引き離されて知らない世界で軍隊を指揮し、敵を殺せと......。

私は提督が今見せている姿を見る事を私たちは『見ては許されない』と感じました。こんな風にしたのは紛れもなく私たち、艦娘なのだと。

 

きっと提督も提督のいらした世界では若者に交じり、将来を期待され、私たちが知らない様な高度な事を学んでいたに違いありません。

私は秘書艦として提督の近くに居た時、提督の机に乗っていた本に興味を惹かれて見たことがありました。表紙には『数学Ⅲ』と書かれてあり、開いてみるとよく分からない数字の帯があり、私には何が書いてあるのか理解できませんでした。それを見ていた私に提督は『それはこの前テレビを買ったついでに買ってきた本だ。まぁ、本とは言わずに参考書って言うのが正しいんだけどな。』と仰ってました。

私は人間から見て20歳だと言われましたが、そんな私でさえも理解できない本を提督は見ていたんです。何に使うのか提督に訪ねても『将来、使うんだ。』とだけしか答えてくれませんでした。ですけどその後に提督はこう付け足したのです。『だが、もう必要ない。』と。

 

提督を呼び出した長門さんや、提督の危険をいち早く察知して姿を現す金剛さんがこの提督の姿に気付いているとは思いません。そして私が考え着いたのは今、一番提督にとって害であるのは紛れもない『私たち』なのだと言う事でした。

私はその場を静かに離れると、廊下を走って自分の部屋に戻りました。途中、加賀さんから『どうしたの赤城さん。そんなに走って。』と言われましたが、立ち止って話す気に等なれませんでしたので無視して、横を走り抜けました。

 

今、私は提督と同じように布団に入って丸まっています。私たちが求めたものは、本当は求めてはいけないものだったのだと気付き、罪悪感に押し潰されそうになっています。

ガタガタと身体が震えだし、脳裏に訊いた事ない声が木霊しています。奪った、ウバッタ、返して、カエシテ......。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はこんなことをしていても仕方がないと思い、布団から這い出た。何故ならあの時、自分で決めたのだ。この世界に残る事を。こうなる事はあの時、想像できたはずだ。なのに俺はこの世界に残った。だったら俺に課せられた『責任』がある。この世界に残ったのならその責任を全うしなければならないのだ。たぶん......。

俺は這いだして立ち上がると、開けた覚えのない扉が開いていた。誰か来たのだろうか、それとも俺が閉め忘れたのか......。

 

「まぁ、独り言はそんな言ってないはずだからいいか。」

 

そう言って俺は執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

初詣がしたいと思い立ったが、鎮守府を出ても何処に神社があるかなんて知らないので俺は適当に鎮守府の中を歩き回った。

一応、ここに来た時とは違って敷地内の地図は覚えている。何処に何があるのかもだ。

適当に歩き回り、グラウンドで羽根打ちをしている吹雪たちを眺め、埠頭で要塞砲や停泊している艤装を見たりして時間を潰した。

案外あてもなく歩き回るのも乙なもので、それまで見たことなかったものも見れた。例えば、本部棟に妖精がどうやって入ってきているか、だ。主に工廠からの出入りなんかが多いが、どうやら俺たちが普段使っている入口の横に妖精専用の入り口があるようだ。とても小さい入口だ。

 

「寒かったー。」

 

そう言って執務室に戻ってきて、上着を掛けて座ると、誰も居ない閑散とした執務室を見渡した。普段なら秘書艦が居るが、今日はいない。今日は休みなのだ。だからだが、誰も居ないとなると、本当に寂しい。一応、グラウンドから吹雪たちの騒ぎ声が聞こえてくるが静かだ。

俺は思い立ったかのように立ち上がり、食堂に向かった。あそこならテレビがある。そこで正月特番でも見よう。そう思い立ったのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

結局夕飯になるまでそこで正月特番を見ていたが、夕飯になる3時間前には結構な数の艦娘が話を聞きつけ見に来ていた。

何時もの様に離れた席から俺は眺めて、小型艦は前列で座って、大型艦は後列で立ってみていた。3時間も立ちっぱなしで疲れないかと聞くと、今度は畳が敷いてあるからと言って全員がその場で座り込んだ。この光景は何とも言えない、alwa......言いかけたが、そんな感じだ。

 

 




今回は普段とは少し違う感じを出してみました。それと、いきなり本編っぽいところがあります。そちらは本編に関係があるので、要チェックですね。特別編だけ見ずに本編見てる人は途中で置いてかれるかもしれませんね。重要なところですから。

それと、最近評価に低評価つけていただくのはとても見て反省になるのですが、何処が悪いとか教えていただけると嬉しいです。自分の作風を逸脱しない程度に直しますので。
理不尽に2とか3つけられても自分はなんだか不条理な気分になるだけですので......。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百話  提督の苦悩⑩

新年に本編の第百話が突破しましたね。かれこれ5ヵ月くらい続いていますが、これからもよろしくお願いします。


俺は朝起きてから霧島と連絡を取る為に通信室を訪れた。そこで聞いた状況はいつもと変わらずで、もう直ぐ着くとの事。

安心して、執務に入ると内線電話だろう。鳴りだしてフェルトは俺に言った。

 

「さっき帰ってきたばかりだが、通信室にお呼びだぞ。」

 

俺はそう言われてなんだろうと、通信室に戻ってみると慌ただしい様子で通信妖精が俺に言った。

 

「哨戒機より連絡。洋上を飛行する未確認編隊を確認。」

 

俺はそう言われて帰ってきた霧島たちだろうと思った。たぶん、哨戒に相当数の艦載機を出していたんだろう。だが、『編隊』と妖精は言った。赤城がそんな数の哨戒機を出すとは思えないが、帰ってくる道中に深海棲艦と戦闘でもしたのだろうか。収容前なのかもしれない。

だが、違和感があった。『未確認』という言葉だ。文字通りならそれ則、鎮守府には存在しない集団となる。

俺が考えていると続いて通信妖精が続報を言った。

 

「続報です。カラーリングはグレー。」

 

そう言っていた。俺は鎮守府にある航空機の色を全て思い出していた。大体が深緑で腹が白。零戦21型が全面白だ。鎮守府にグレーの塗装がなされた航空機は無い。

 

「っ!?鎮守府内に警報を鳴らせっ!!鎮守府周辺の住民に避難勧告。鎮守府地下の深度シェルターに収容を始めろっ!!」

 

そう叫んだ瞬間、隣の司令室で妖精が警報を鳴らした。

不快な気分にさせるサイレンが鳴り響き、その場にいた妖精たちは顔を強張らせる。

 

「続報まだかっ!」

 

俺がそう訴えると、通信妖精が報告してきた。

 

「未確認編隊は......高度12000mを飛行中っ!!現在迎撃に出れるのはアンブッシュイーグルと蒼梟だけですっ!」

 

「なんだとっ!!?すぐにM61に換装してあるアンブッシュイーグルと蒼梟は全機出撃っ!!疾風は2機小隊にて近海哨戒に出撃だ!!」

 

俺はすぐに指示を飛ばした。

そして現状を整理する。編隊を発見した哨戒機は近海哨戒に出ていた者だろう。となると、低空では無く登れる高度で哨戒をしていたはずだ。そしてその最中、未確認編隊を発見した。

ここまではいい。

 

「続報ですっ!!未確認編隊の総数を確認......652機っ!繰り返します、652機っ!!!」

 

そう言った通信妖精の顔は真っ青になっていた。そしてそれを訊いたその場にいる妖精たちと俺も同様に顔が青くなっていただろう。

侵入してきている編隊は652機だ。そんな数で今まで攻めてきた事があっただろうか。きっと鎮守府に奇襲を食らったとき以来だ。しかもその時よりも数は多い。

 

「そんな数、アンブッシュイーグルと蒼梟の20機だけで裁けれるか?」

 

「無理です。1/4も落とさずに弾薬切れです。」

 

俺は苦肉の策を出した。

 

「ならMG151のままのも出せっ!」

 

そう言うと司令部の妖精は首を横に振った。

 

「今、MG151を装備しているのは全機換装の為に分解中です。」

 

そう言われ俺は身体の力が抜けたように感じた。もう打つ手がない。たった20機で迎撃しなければならない。

多分、鎮守府上空にこれば高射砲を使って迎撃ができるだろうと考えている者もいるかもしれないが、きっと届かない。それは嘗ての戦争で経験しているはずだ。

 

「霧島たちの位置は?!」

 

「遠すぎますっ!」

 

霧島たちは先ほどのやり取りで分かっているが、まだ中部地方の海岸線を航行中とのこと、今から震電改を飛ばして貰っても間に合わない。

どうするべきなのか......。だがそんな迷っている時間は無い。

 

「えぇいっ!!アンブッシュイーグルと蒼梟の稼働機は全て出撃だっ!」

 

「了解っ!!」

 

俺はそう呼びかけて腕を組んだ。非常に不味い。

本当に不味いのはそんな高高度を飛べる深海棲艦の航空機があったことだ。だが俺はそれ以上の衝撃を受ける事になる。

 

「提督っ......。」

 

俺に話しかけてきたのは通信妖精だ。先ほど高高度を飛行する編隊と聞かされて青い顔をしていたが、今度はもう何もかもを諦めた表情をしている。顔に生気が無いのだ。

 

「敵編隊の構成が判りました......。」

 

「何だ?」

 

「大型戦略爆撃機級航空機が大半を占める護衛機付きの爆撃部隊です......。」

 

俺は視界が真っ暗になった。

大型戦略爆撃機級。つまり、富嶽程のサイズだと言うのだ。富嶽程だったらどれくらい爆弾を積んでいるかなんて容易に想像ができる。

20機で一個艦隊を全滅させれる富嶽が何百機と飛翔してきているのだ。そしてそれらには護衛機が居る。もし、アンブッシュイーグルと蒼梟が突入して乱戦になったとしたらどれだけの数を撃墜してこれるか......。

だが、ここで言うべきはネガティヴな事じゃない。

 

「大丈夫だ。大型戦略爆撃機級なら、被弾面積も大きいし、燃料タンクも大きいはずだ。すぐに撃墜できる!!」

 

俺はそう言って指示を出した。

 

「迎撃を開始する。できるだけ数を減らせっ!!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は提督が鳴らしたのであろう警報を訊き、私室を飛び出していた。

ある場所に向かう為だ。それは工廠。

 

「はぁはぁ......。」

 

「どうされました?こんな時に。」

 

呑気に私にそう言う妖精に私はあるものを作る事を頼んだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

通信室には迎撃に向かった航空隊からの通信がひっきりなしに入っていた。

撃墜報告がほとんどだ。どっちを何機撃墜したかという報告だ。これまでには60機まで報告が入っていたが、途中から『弾薬切れの為、帰還します』という報告が増えていった。次第に撃墜報告が減っていき、最期の帰還報告から撃墜報告が途絶えた。どうやら一回の出撃で60機までしか撃墜出来なかったのだろう。迎撃戦をしている最中にも段々と編隊は鎮守府に近づいてきていて、鎮守府に帰り、弾薬補給をしてまた飛び立っても、迎撃に出れるのは精々2回が限度だった。それ以上はもう間に合わない。

 

「深度シェルターへの民間人の収容、完了しました。」

 

その報告が司令部から届き、門兵や事務棟や酒保の人たちの避難も終わったという報告を受けた。

 

「分かった。......哨戒機からの連絡は?」

 

「ありません。低空には深海棲艦はいない模様。」

 

俺は考えた。

大型戦略爆撃機はどこから飛んできたのかと。深海棲艦が島を占領している事は偶にあるが、太平洋に関してはそれは無いと考えられる。東南アジア、南アジアには日本皇国の泊地が点在している。そこ以外のところから飛んできていると考えると、太平洋東岸か東南アジアを越えた東アジアの方面。そこまで戦線を拡大しているつもりはないが、現実あり得る話だ。世界の海を蹂躙していると考えるのが正しいのだろう。

 

「哨戒機は任務を続行。MG151を装備した編隊はどうなった。」

 

「現在上昇中。接敵まで数分です。」

 

MG151を装備した機体には弱点がある。命中率の低さと射的距離の短さだ。MG151はM61よりも射程が短く、弾道が山なりなのだ。そして、備え付けの自動照準器が使えない。

そんな機体がそれぞれ50機ずつ飛んで行っているが、どこまで迎撃できるか見当もつかない。

 

「待機中の艦娘は艤装を装着っ!待機室へ。」

 

上空の爆撃機で忘れていたが、現在待機中の艦娘に指示を出していなかった。俺はすぐに通信妖精にそれを伝え、外のスピーカーに出力してもらった。

これで皆、艤装を纏って地下に来るはずだ。

 

『司令官っ!待機室に長門さんたちが来ませんっ!』

 

そう内線で訴えてきたのは青葉だった。どうやら走ってきたらしく、艤装を纏ったまま息を切らせてそう言ったのだ。

 

「どういうことだ。」

 

そう俺が訊くと青葉は衝撃的な事を口にした。

 

『長門さんたち戦艦が出撃したと他の娘が......。』

 

青葉は顔を青くして言った。

俺は葛藤した。これはどっちなのか、逃亡か無意味な出撃か.......。だが、言えることがある。俺は出撃命令を出していない。それに長門は前科がある。

 

「通信妖精っ!長門に繋げろっ!!」

 

「はいっ!」

 

俺はすぐに通信妖精に言って長門に繋げてもらった。

受話器を受け取ると耳にあてて、出るのを待つ。だがコールが続くだけで、一向に声が聞こえてこない。意図的に出ていないと考えてよかった。

 

「提督っ!」

 

「今度は何だっ?!」

 

俺は呼ばれた方向を見る。今度は司令室の方だ。

 

「洋上に出た長門、陸奥、扶桑、山城、伊勢、日向が砲撃っ!同時に迎撃隊が離脱中っ!!」

 

「何故だっ!!」

 

俺は叫んだ。このタイミングで離脱は不味い。再び鎮守府に爆撃されてしまうからだ。今度は大型戦術爆撃機だ。それも500機超の。全部頭上に落とされたら再起不可能になってしまう。

 

「通信......迎撃に出ていた隊長機が帰還します。」

 

通信妖精は青ざめたままだった。

 

「意味が判らない。ここを焼かれてもいいっていうのか?戦闘機の妖精たちは......。」

 

そう言うと続報が入った様だ。通信妖精が口元を震わせながら報告する。

 

「接近中の......未確認編隊の......殲滅を確認。」

 

「は?」

 

俺は通信妖精までもどうかしてしまったのかと思った。

今まで500機超と残っていた編隊が迎撃機が離脱した戦場で殲滅される訳が無い。どういう意味なのか。そして、今起きている事象は嘘だと言うのか。

俺は確かめるべく、その場から走り出し、外に出た。

上空には真昼間なのに流れ星が大量に落ちてきていた。どれも赤色で、時々爆発をしている。それが何を意味しているのかというと、それが撃墜された深海棲艦の大型戦術爆撃機だということだった。

 

「提督。長門さんから通信です。」

 

そう俺が飛び出してきたのを追いかけてきていたのか、通信妖精が俺の足元でそう言った。

 

「......分かった。」

 

俺は何故今更になって通信をしてきたのか、不信に思いながら通信室に戻って行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

結果から言えば、大型戦術爆撃機の編隊はいた。だが、一瞬のうちに全て撃墜したのだ。

どう撃墜したかというと、長門ら鎮守府に残っていた戦艦たちだった。長門はこの騒ぎからまず俺のところに行くのではなく、工廠へ行き、あるものを至急作るよう頼んだそうだ。

頼んだものとは......三式弾。艦これでは主に陸上型深海棲艦の殲滅の際に使われた特殊砲弾だ。だが本来の様とは違う。

発射された三式弾は上空を飛翔。時限信管によってあらかじめ設定されていた時刻になると信管が炸裂、砲弾から焼夷弾子をばら撒く。その用途は主に、対空戦闘時に使うものだ。一撃の砲弾で何機という航空機を破壊することができるのだ。

長門はそれをすぐに生産し、戦艦の艦娘を招集。艤装に三式弾を積ませて俺に断りなく出航したとの事だった。仰角が足りなかったので岩礁にわざと乗り上げて砲撃したという顛末だった。

だからいきなり迎撃機が帰還すると言って通信してきたのだ。

 

「すまなかった......。」

 

報告に来ていた長門たちは俺の前でそう頭を下げた。

だが俺もこんな対策を考えていなかった。三式弾の存在は知っていたが、もっぱら対地攻撃用の特殊砲弾だとばかり思っていたからだ。

それに長門の判断が無ければこんなに効率の良い迎撃法は無かった。今頃、鎮守府はまた爆撃を受けていたかもしれない。そう考えると、俺は長門たちを怒る気にはなれなかった。

 

「いい。寧ろ、独断とはいえ迫りくる脅威を退けた事を良かったと思う。ありがとう。」

 

俺はそう素直に言って立ち上がった。

 

「だが、俺に知らせてくれても良かったのでは?」

 

そう言うと長門は少し目線を逸らした。

 

「ん?何故目線を逸らす。」

 

そう俺が訊くと、日向が答えた。

 

「岩礁に乗り上げた際、艤装が損傷してしまってな、艦底が削れてしまった。入渠しなければならなくなってしまったのだ。」

 

そう日向は言っただ、更に付け足した。

 

「それに私たちよりも仰角のとれる長門と陸奥だけで十分だった。岩礁に乗り上げて撃ったのは私たち合わせて24門。乗り上げずに長門たちが縦隊で並び、全門斉射していたら16門だったし、それで足りた。」

 

そして日向は腕を組んだ。

 

「結果として私たち伊勢型と扶桑型は出ずとも殲滅できたし、更に岩礁に乗り上げなくても良かった。」

 

そう言うと山城が続けた。

 

「そして三式弾を私たちの艤装に満載したけど撃ったのは1回だけ。全速で向かったから燃料も余分に消費したし、迎撃に出た第二波もすることなくすぐに帰還。」

 

そう日向と山城が言っているのを訊いて反論せずに冷や汗を掻いている長門は震えていた。

 

「だが、最善の手だった!そうだろう?!日向と山城が言うのは結果論だ!!」

 

そう言って長門は怒りだしてしまった。

 

「その通りだ。」

 

俺はそう言って長門と日向、山城の間に割って入った。

 

「その時長門が思いついた最善の手だ。それに長門がこの作戦を思いついて行動している間、日向と山城は何をしていた?ただ長門の案に乗り、長門の案に口を出さずにただ従っただけ......違うか?」

 

そう言うとさっきまで勝気だった日向と山城は俯いてしまった。

 

「そうだが......。」

 

「ならいいんだ。艦底が損傷して入渠が必要でも、燃料を無駄に消費してしまっていても、妖精に無駄足を取らせてしまったとしても......あの物量に任せたアホ戦法で攻めてきた深海棲艦共を一撃で消し去れたのならな。」

 

そう言って俺は長門の方を向いた。

 

「よくやった。柔軟な対応ありがとうな。」

 

「あっ、あぁ。」

 

俺が長門に言うと少し恥ずかしそうに答えた長門を見て俺は席に戻った。

 

「むしろ日向と山城は長門を責めるべきじゃなかった。三式弾の開発をしておかずに、迎撃に数の揃っていない不完全な最新鋭の戦闘機を使った俺の責任だ。」

 

そう言って俺は6人に休むように言って執務室から追い出した。

そして自分を責めた。何故三式弾の開発を怠り、その本来の用途を間違った解釈をしていたのかと。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は今日の騒ぎの顛末を訊いてある事を思い出していた。

私の艤装から発艦される艦載機、メッサーシュミットとフォッケウルフは高高度性能に優れている事を。

 

「活躍の機会を逃したっ......。」

 

私室で私は枕を抱えて凹んだ。何時になったら活躍できるのだろうかと。

 




今日はいつも通りの時間で無くてすみません。
さっき書き終えたんです(汗) 別に明日に回せばよかったんですが、何だかすぐに出したくてですね......。
まぁそれは置いておいて、今回はそんな話になりました。感想の方に送られてきました考察で合っていた方、おめでとうございます。

何だか長門のイメージがすぐに怒る艦娘みたいなイメージがあるようですが、結構周りを見てるんですよね。流石秘書艦歴が長いだけある。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百一話  提督の苦悩⑪

「任務完了。帰投しました。」

 

そう言って並んでいるのは、俺がリランカ島に派遣していた護衛艦隊だった。

全員疲弊してないとは言い切れないが、鎮守府に数日開けたのは初めてらしくとても懐かしんでいた。数日いなかっただけだろうと始めてなら仕方ない。

 

「お疲れ様......戦勝祝いだ!と言いたいところだが、それは明日にしよう。よく休め、解散っ!!」

 

俺はそう言って解散を指示した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺のところに霧島が来たのは、帰還した時から4時間後だった。俺はてっきりすぐに来ると思っていたが、どうやら寝た後に来た様だ。

 

「司令。ご報告です。」

 

そう言って神妙な顔をして俺の前に立つ霧島は話し出した。リンガ泊地からリランカ島までの道中にあった出来事を。

 

「......ということがありました。」

 

報告は10分に及び、それまで霧島は途切れることなく話し続けた。

俺の方に報告があった高高度迎撃機と、霧にまつわる話を聞いたが、どれも俺が通信で霧島から訊いていたことと何ら変わりはなく、それ以上分かった事は無かったようだ。

 

「これは『イレギュラー』ですね。」

 

そう言った霧島の言葉を俺は否定した。

 

「いや、霧に関してはイレギュラーだが高高度迎撃機に関してはイレギュラーではないと考えるぞ。」

 

そう言って俺は立ち上がった。

 

「霧島たち護衛艦隊が帰還中、鎮守府に接近する編隊が居た。」

 

「何ですって?!」

 

俺がそう切り出すと霧島は過剰に反応した。

 

「その編隊は深海棲艦側のものと断定されたが、飛んでいる高度がおかしかった。高度12000m、これは富嶽が飛ぶ高度だ。」

 

そう言うと霧島は顎に手をやった。

 

「ふむ......富嶽が襲われた高高度迎撃機の編隊ですかね?」

 

「いや違う。大型戦術爆撃機級だ。」

 

そう言うと心底驚いた表情を霧島はして見せた。

 

「それはイレギュラーですね。深海棲艦は単発の艦攻・艦爆しか使いませんし、鎮守府が空襲を受けた時のも艦攻・艦爆でしたからね。」

 

「そうだ。だから俺は深海棲艦には大型戦術爆撃機なんてデカ物は持ってないと考えていた、が......。」

 

「あったということですね。」

 

そう霧島が言うと俺は頷いた。

 

「そこで何故俺が富嶽が襲われた高高度迎撃機がイレギュラーじゃないか考えた理由だが、考えられるのは1つ。『今まで確認できなかった』だ。」

 

そう言うと霧島はすぐに答えた。

 

「......震電改ですね。」

 

それだけ言えれば霧島も理解したのだろう。

震電改は俺がこの世界に呼ばれる前からこの世界にあったもの。だが、用途は艦載機だ。制空戦闘を行う戦闘機。だが、実際は高高度を飛ぶ迎撃機なのだ。これまでそう言う使い方をしてこなかったということだ。

深海棲艦とこちら側では艤装や装備面は同じで均衡が保たれている状態と考えると、深海棲艦の方に震電改にあたる艦載機があってもおかしくないと考えたのだ。

 

「そうだな。だからイレギュラーじゃないと言い......きれ......っ?!不味いっ!!」

 

俺はそう言いかけてパニックになった。

そう考えると富嶽を配備し、戦闘に使っている現状、深海棲艦側も大型戦略爆撃機の編隊でこちら側の艦娘たちを海上絨毯爆撃する可能性がある。というか、必ずその戦術を取ってくる。そして俺がパニックになったのは、『ジェット戦闘機』の存在だ。そして何故、滑走路や陸上機の事をすっ飛ばしたのかというと、既に陸上型深海棲艦は実在しているからだ。

 

「どうしたんですか?」

 

「あぁ。遂に格納庫にジェット戦闘機が配備されたんだ。今までの話を繋げると......。」

 

「まさか深海棲艦もジェットエンジンを搭載したものをっ?!」

 

「そう考えるのが妥当だ......。やってしまったよ。」

 

俺はそう言って頭を抱えた。なんてことをしてしまったのだ。ジェット戦闘機何てあちらに配備されたら面倒な事になる。だが、これまでの経験則からすると、これ以上の用途をしなければいいと言う事にもなる。

 

「と考えると、私たちが陸上型深海棲艦を攻めると......。」

 

「確実に迎撃機の中にジェット戦闘機が混じっている事になる......。」

 

俺はそう言って頭を掻いた。

 

「考えていても仕方ない。このことは他言無用で頼む。」

 

「了解しました。ですが、陸上型深海棲艦を攻める際には......。」

 

「分かっている。作戦に参加する艦娘のみに公開する。」

 

「はい。」

 

そう言って返事をすると霧島は出て行った。ちなみに作戦が終わったので執務室には番犬艦隊事ドイツ艦勢と朝潮はいない。それに秘書艦も今日は無いので来てなかった。こんな話、他の艦娘が居る前では出来ないからな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

大本営に作戦成功を伝える書類を書きあげると俺はイレギュラーに関する報告をするかしまいか悩んだ。報告書に書き込んで一緒に送ってしまえば楽だが、そうしてしまってはどうも腑に落ちない。どう反応し、どう対応を取るかが気になるのだ。もしイレギュラーを報告するとなると内容は全てこちら側的に不利になる事ばかりだ。最新兵器を出せばあちらはコチラが用意する数の何倍も投入してくる。そんなんで現在の戦線を維持できるのか。結論を言えば『この戦乱は深海棲艦側の勝利に終わってしまう』ということだった。

だがそれは憶測に過ぎない。この先、どう艦娘を使った作戦を展開するかによって戦局は動く。殲滅できるか、蹂躙されるかどちらかだ。

 

(こんな話、直接伝えた方がいいに決まってる。)

 

俺はそう思い、報告書に紛れ込ませるのを止めて手紙に変えた。宛ては新瑞と総督だ。海軍のトップと大本営のトップならばいいだろう。そこからどうこの話を扱っていくか決めていける。

俺はペンを取り、書き始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は書類を書き終わり、秘書艦が居ないので自分で事務棟に出しに行った。特段変な事は無く淡々と進んだ。

時刻を見ると夕食にいい時間。俺がいつも早く行ってテレビを点けている時間だったので少し小走りで食堂に向かった。

食堂にはもうちらほらとテレビを見に来た艦娘たちが居て、俺が来るのを待っていた様だ。俺に無言のまなざしで訴えて来るのでリモコンでテレビの電源を点けて適当なチャンネルに変えておいた。

ボケーっと見ていると案外時間は過ぎるもので、もう夕食にいい時間になった。俺は間宮に適当に頼むと定位置に腰を下ろして頬杖をついた。その時、今かとばかりに俺の両脇に座ってきた艦娘が居た。ビスマルクとフェルトだ。どうやら自分たちにはこういう利点があってーとかいう売り込みと一緒に何かしないかという誘いだった。

普通に誘ってくれればいいものの、ずいずい来るので俺が引き気味になっていると俺の正面の席に金剛が座った。いつもならまだテレビの前に居る時間だと言うのに切り上げてきた様だ。

 

「ヘーイ提督ぅー。ご一緒しても?」

 

「いいぞ。」

 

俺は金剛を見るなりそう返事をしてビスマルクとフェルトに『やめろ』と言いながら遠ざけようとしていた。そんな様子を金剛はじーっと見つめて5分、遂に口を開いたのだ。

 

「何時から提督にそんなずいずい行くようになったのデスカ?」

 

そう言った金剛はニコッとしていた。

 

「あら、『番犬艦隊』として提督の警護をしていた時からよ。」

 

「私は別に......。」

 

そうそれぞれ真反対な回答をした2人に金剛は特段興味なさそうに『ふーん』と言ってまたビスマルクやフェルトの観察を始めた。

 

「私は魚雷発射管を積んでるから雷撃戦もできるわよ!」

 

「アトミラール。明日晴れていたら散歩に行かないか?雨だったらアトミラールのおすすめの本でも教えてくれ。」

 

そう俺の両脇で言っているのに対して俺は肩を狭めて応えていた。

 

「雷撃戦ができるのは知っているが、ドイツ艦勢の艤装はまだ身に纏うことしかできないじゃないか。それにフェルトの方は行ってもいいけど散歩って......。」

 

「艦として浮かばせることができればの話よ!」

 

「散歩だって寒空だが冬の空は空気が澄み通っていていいじゃないか。」

 

そう言ってくる2人に金剛がボソッと言った。

 

「提督の為に働けない様な艦娘は、提督の近くに居ちゃ駄目デース......。」

 

そう言ったのだ。それは2人にも聞こえていた様で急にビスマルクとフェルトは金剛の方を向いた。

 

「提督の為にって......貴女たちがリランカ島に出ている間、私たちは『番犬艦隊』として提督の近くに常にいたわ!何かあった時、提督の為に直ぐに動けるようにってっ!」

 

「そうだ。私だってアトミラールの補佐をしていたんだ。傍から離れない様に徹していた。」

 

そう言ったビスマルクとフェルトに金剛は答えた。

 

「提督の横に常に立ち、提督が執務室から出るときは常に全員が艤装を身に纏った状態で前後左右を歩き、提督にどう思われるのも顧みずに近くに居なきゃ『番犬艦隊』とは言えないデス。聞きましたヨ?執務室に行くとグラーフ・ツェッペリンは秘書艦席に座り、他はソファーでティータイムしてましたってネ。」

 

そう言って金剛はビスマルクを睨んだ。

 

「私たちが出て行って帰ってくるまで朝潮は何してましたカ?」

 

そう訊くとビスマルクは頭上にクエスチョンマークを浮かべながら指を折りながら答えた。

 

「執務室では提督の横に常に立ち、提督が執務室を出て行く時は必ず艤装を身に纏って付いて行っていたわ。それに提督がお手洗いに立った時は個室の前に立ち、お風呂の時は脱衣所の前に立ってたわ......。」

 

そう言うと金剛はどこから引っ張ってきたのか朝潮を膝の上に座らせて頭を撫ではじめた。

 

「『番犬艦隊』の任務を正しく遂行出来たのは朝潮だけデス。ここに移籍してきた時に訊きませんでしたカ?『番犬艦隊』について。」

 

「聞いてはいたぞ。アトミラールが胸を撃たれた事件の時、一週間『番犬艦隊』がアトミラールの身辺警護をしていたと。」

 

「そうデース。その時に『番犬艦隊』だった艦娘は聞きましたカ?」

 

「比叡、時雨、夕立、朝潮だったか?」

 

そうフェルトが言うと金剛は膝に乗せている朝潮の頭から手を離さずに言った。

 

「『番犬艦隊』としての任務を知りながらそれに従わずに、提督が執務をしている執務室でティータイムをしていたという訳デスカ?」

 

そう言った金剛はふんと鼻を鳴らして言った。

 

「赤城の人選は失敗デシタ。」

 

そう言って朝潮を膝から下ろして立ち去ろうとする金剛をビスマルクが止めた。止めた理由は明白だ。『番犬艦隊』に指名され、任務を遂行した筈なのになぜこのような事を言われなくてはいけないのか、ということだろう。

 

「ちょっと待ちなさいっ!貴女ねぇ、前任者がそういう行動をしていたのは知っていたけど何も今回もそんな行動しなくたって良いじゃない!私たちは提督の護衛をしっかりやり抜いたわっ!」

 

そう言うと金剛はツカツカと戻ってきてビスマルクの目の前に立った。

 

「護衛をティータイムしながらするなんて聞いた事ないデース。その護衛法はどこで習ったノデスカ?私にも是非ご教授下サイ。『SSの戦艦』殿。」

 

俺はこれまで黙って聞いてきたのは、俺には伝えられなかった艦娘同士の話だからだが金剛の言った『SSの戦艦』とはどういう意味なのか。そう考えているとビスマルクの顔はみるみる真っ赤になり怒りはじめた。

 

「なっ!?訂正しなさいっ!!」

 

「おおっと。それはごめんなさいネ、『SSの艦娘』。」

 

「貴女ねぇ!!?」

 

やっと俺の中で意味が判った。どうしてビスマルクが『SSの戦艦』や『SSの艦娘』で怒ったのか。それは『SS』はナチスの武装親衛隊の呼び方だ。ナチスの親衛隊は残虐な市民の殺害などをした集団だというネームバリューがある。たぶんそれに金剛は掛けたのだろう。

何故金剛がビスマルクたちが『番犬艦隊』としての任務をそこまで徹底してやらなかったのかを責めているのか分からないが、今の状況は見ていられるものではない。ビスマルク、果てやドイツ艦にとってこの呼び名はビスマルクの怒り方から見て侮辱以外の何物でもない様子だった。

 

「職務怠慢のいいところデス。与えられた任務も出来ないのデスカ?Sえっ」

 

そう言いかけた瞬間俺は割って入った。

 

「やめろ金剛。」

 

「デスガっ。」

 

そう食い下がってきた金剛に言った。

 

「禁句だ。その言葉は。」

 

俺は多分この時、金剛の目をいつもなら見ない目で見ていたのだろう。

いじめをして楽しんでいる人を見下した様な目、そんな感じだったはずだ。金剛は『ひぅっ......』とか言って俯いてしまった。

 

「ビスマルク、すまない。」

 

「何が?」

 

腕を組んで喧嘩腰になっていたビスマルクに俺は謝った。別に何に対してとは言わなかったが、俺はそうしたのだ。

 

「金剛が言った言葉だ。気にするな。」

 

「えぇ。」

 

ビスマルクは怒りを収めてくれた様でそのままさっき座っていた椅子に座った。フェルトは凄い形相で金剛を睨んでいたので取りあえずフェルトの目の間で手をパタパタさせてみると、こっちに戻ってきた。

 

「む?何だ、アトミラール。」

 

「フェルトも気にするな、いいな?」

 

「分かっているさ。」

 

そう言ってスッと席を座り直すと肘を付いた。

 

「しっかしフェルト。」

 

「何だ?」

 

俺はニカッと笑ってフェルトに言った。

 

「フェルトの睨んでいた表情、すっごい怖かった。」

 

「アトミラールっ!」

 

俺がそう言うとフェルトは頬を紅くして怒ったので笑って誤魔化して俺も席に座った。

 

「普通にしてたらいいんだから、あんな顔で誰かを睨むなよ?」

 

そう言って俺はリモコンをポケットに突っ込むと、ずっと立ちっぱなしで俯いたままの金剛のフォローをしてやろうと金剛に話しかけた。

 

「金剛?」

 

「......。」

 

俺が話しかけても返事をしてくれないので俺は食堂の普段使われない入り口の方に金剛を引っ張っていった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

誰も使わないということもあり、少しカビ臭いが俺は金剛に話しかけた。

 

「どうしてあんなことを言ったんだ?」

 

そう訊くと金剛は長い袖を顔の方にやって、フリフリした。何をしているのかと少し観察するとどうやら涙を拭っているのか、鼻を鳴らしていた。

 

「グスッ......。」

 

「どうしたんだよ......。」

 

俺はそう言って頭を掻いた。こういった場面は何回か経験しているが、その時は大体金剛みたいに静かに泣かずワーワーと喚きながら泣いていたので少し面を喰らった。

 

「......(ゴシゴシ)」

 

「何も言わないのなら分からないぞ?」

 

そう言って言葉を掛けるが何も言わない。

どうしたのだろうかと困っていると金剛は小さい声で話し出した。

 

「だってぇ......ビスたちが『番犬艦隊』として提督の近くに居た時の事を聞いたら、悲しくなっテ......。私だって提督の傍にずっと居たいノニ......。」

 

「......それで酷く当たっちゃったのか?」

 

そう俺が訊くと金剛は頷いた。というか金剛はビスマルクの事をそんな風に呼んでいたんだな。

 

(唯の嫉妬か?)

 

俺は内心首を傾げつつ、頭に手をポンと置いた。

 

「だけどな、アレは言っちゃいけないぞ。」

 

「はい......。」

 

そう言って俯いたままの金剛にどうしてやろうかとオロオロしてしまった。

泣き出す場面には遭遇した事はあるものの、どう対応すればいいのか分からないのだ。取りあえず頭に手を乗せたままだったので撫でておく。

 

「金剛が泣くなんて金剛らしくないぞ。」

 

そう言って俺は手を離した。そうすると金剛は顔を上げて俺の顔を見た。目じりと鼻を紅くしていたが、泣いてない様だ。

 

「分かってマース。」

 

そう言って金剛は笑った。

 

「提督に撫でられたぁ~。」

 

「おい、片言どこ行った。」

 

俺は一変してふにゃっとした表情でアホ毛をピョコピョコされている金剛に冷静な突っ込みを入れてしまった。

 

「んふふ~。」

 

まぁ、こんな表情をしているのなら大丈夫だろう。俺はそう思い、食堂に戻った。

結局金剛はあの後、ビスマルクとフェルトに謝っているのを見た。が、ビスマルクとフェルトの詰め寄りに金剛が加勢したのは言うまでもない。

視界に榛名が入ったので目線で助けを求めたが苦笑いを返されたので、どうやら助けてもらえないらしい。

 




昨日は彼方此方行き来して大変でした(汗)
ホントに年始は忙しいです(白目)

さて、何だか纏まってしまいましたが一応『提督の苦悩』は終わりです。色々謎を残したままですが......。まぁ布石ということで勘弁して下さい。というか布石です。

案の定の最後でしたが、金剛の言った『SSの戦艦』やらはまぁそのままの意味ですので。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百二話  作戦後報告

 

俺が送った手紙の返事はすぐに帰ってきた。何でいつもそんなに速いのか気になるところだが、今はそれどころじゃない。

見たらすぐに来るようにと書かれていたのだ。

 

「執務も終わってるし行くか。」

 

ちなみに手紙の返事は今朝届いていた様で、執務を終わらせてから見た。鎮守府から出るとなると艦娘は絶対ついてくる。そこで本来ならば秘書艦を連れて行くべきなのだろうが、今日の秘書艦は扶桑だ。

俺が報告に行く内容を扶桑は知るはずもなく、連れて行く訳にはいかない。

なので扶桑に断りを入れておかなければならなかった。

 

「扶桑。」

 

「はい。どこかに行かれるのですよね?お供します。」

 

「いや、必要ない。それと俺がどこに行ったか聞かれても散歩と言っておいてくれ。」

 

そう言うと扶桑は眉毛を八の字にして言った。

 

「私には教えていただけないのですか?」

 

「分かったよ......大本営だ。先の作戦で口頭で報告しなきゃいけない事があるからな。」

 

「分かりました。」

 

扶桑は分かってくれたので俺は上着を着て執務室を出た。大本営に向かう前にまずは霧島を捕まえなくてはいけない。そう思い、本部棟を歩き回る。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

案外早く見つかるもので、資料室に居た。どうやら何か調べ物をしていた様子だが、そんなことはお構いなしに話しかけた。

 

「霧島。」

 

「はい。どうされました、司令。」

 

霧島は見ていた本を閉じてこちらを向いた。

 

「大本営に行くぞ。ついて来てくれ。」

 

「はぁ?......了解しました。」

 

どうして連れて行くかの趣旨を言わずに俺はそう言ってしまったのでいまいち分かっていない状態の霧島を連れて行くことになった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は警備棟に行き、武下に車の運転を頼んで大本営に向かった。

車内で俺は霧島に説明をするのだが、俺は武下の耳にも入れておこうと思ってわざわざ武下に頼んだのだ。

 

「それで司令。どうして秘書艦でなく私を連れて行くと?」

 

案の定、乗り込んで走り出した途端に霧島が訊いてきた。

 

「イレギュラーについて大本営の新瑞さんと総督に話すことになった。そのために霧島が付いてくるのに一番適任かと思ったからだが。」

 

「成る程......。」

 

俺はそう言って武下に声をかけた。

 

「武下大尉。」

 

「はい。」

 

「武下大尉にもこのことは話すべきだと思いますので聞いていて下さい。」

 

「了解しました。」

 

俺はそこで整理した内容を霧島と武下に話した。最初話したのは霧島と話をした内容の振り替えり、あとは俺だけが考えたイレギュラーに関する事だった。

話をしていくとみるみる霧島と武下の表情は険しくなった。

 

「イレギュラー......確かに横須賀鎮守府で起こった事は他の鎮守府では起こらなかった事ですが......。」

 

そう言って前を見ながら武下は言った。他のと言っているということは、武下は他の鎮守府の情報を持っているのだろう。

 

「司令が仰った事が本当でしたら、ゆくゆくは......。」

 

霧島は言いかけて言うのをやめた。たぶんその後に辿る未来を言おうとしたのだろう。

 

「ですが信じられませんよ。」

 

そう切り出した武下は続けた。

 

「こちらに合わせて装備を更新してくるなんて......。次はジェット戦闘機でしたっけ?深海棲艦にそれを開発するだけの技術力があるのか、そもそも開発機関の存在すら分からない状況ですのに......。」

 

「だが実際に富嶽級の大型戦略爆撃機は投入されました。」

 

俺はそう言って下唇を噛んだ。

もう戦闘にジェット戦闘機を投入してしまったんだ。ミサイルが運用できなかったのはせめてもの救いだと俺は考えるが、これからどうすればいいのか見当もつかない。だが確証があるのは、艦載機の更新は大丈夫だと言えることだった。

現状、最強の艦上戦闘機なのは烈風と震電改。赤城たちにカタパルトは存在しないので、離陸にかなりの距離を使うジェット機は運用できないのだ。艦爆や艦攻も彗星一二型甲と流星改で十分な火力は得ている。それに使っている艦載機をカスタマイズするのは問題ない可能性がある。それに賭ければいい話だった。

そうこうしているうちに大本営に着き、俺と霧島は総督と新瑞が待つ会議室に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

会議室には俺と霧島の表情とは打って変わって、上機嫌の総督と新瑞が待っていた。

 

「おはよう。まずは、ありがとう。作戦が成功したそうだな。」

 

「はい。予定より少し遅れましたが、どうにか。」

 

俺はそう言って案内された椅子に腰を掛けた。

 

「今日は赤城や夕立ではないのだな。」

 

そう訊いてきた総督に霧島は自己紹介をした。

 

「金剛型戦艦 四番艦 霧島です。」

 

そう言って俺の後ろに霧島は引っ込んだ。

 

「して提督。今日の話とは何だね?手紙をわざわざ別に送って......。」

 

そう訊いてきた総督に俺は話を始めた。

 

「私がこの世界に来て5ヵ月が経ちました。それまでに経験してきた事、得た情報などを集約したんです。」

 

そう言うと新瑞は俺が送った手紙を見て聞いてきた。

 

「それを話すためにわざわざ来たのだろう?」

 

「そうです。」

 

そう言って俺は凄んで言った。

 

「結果から言いましょう。......日本皇国は深海棲艦との戦争を永遠と続けさせられる可能性があります。何故、そのように至ったかと言うと、5ヵ月間の間に考えられない様な事が起きました。」

 

「考えられない事とはなんだ。」

 

喰いついてきた新瑞は手紙を置いてこっちを向いた。

 

「最初は『ロスト』という単語が始まりです。着任してすぐ、我々の艦隊に所属する駆逐艦 夕立はロストし一週間後に座礁した状態で発見されました。『ロスト』という単語を我々は使いません。海域で艦隊から離脱してしまえばその時点で轟沈なんです。次はキス島の深海棲艦の行動の変化です。キス島へ出撃していた戦艦 長門の報告によると『深海棲艦が戦術を変えてきた。旗艦を丸裸にする戦術などしてこなかった。』との事。その次は工廠で本来ならば存在しないはずの艦載機の開発がされました。陸上機もです。幻の富嶽までもが完成形で開発されたんです。次に新瑞さんが鎮守府に置いて行ったF-15JとF-2。それらは工廠で解析され、遥かに性能の良い改良機が開発されました。最後は雷撃作戦中、艦隊を分担した『霧』です。」

 

そう俺が言うと新瑞は握った拳を震わせて言った。

 

「途中の艦載機の話は聞いてないぞっ!特に富嶽。アレさえあれば深海棲艦を全滅できるんじゃないのか!?」

 

そう言った新瑞に言った。

 

「まだ終わってませんよ。.......それだけじゃなかったんです。鎮守府への空襲。これも十分に考えられない事。」

 

そう言って俺は姿勢を正した。

 

「そして作戦終了後に鎮守府に飛来した高高度を飛行する爆撃機。哨戒に出ていた戦闘機が富嶽並みに大きな機体だった、と。」

 

そう言うと総督が肘を付いて言った。

 

「それだけでそう思い至った訳では無いだろう?」

 

「はい。深海棲艦は我々が装備を更新してくるとその後、装備を更新してくるんです。そして我々と同じことをします。つまり今現在最も考えられるのは......。」

 

そう言うと霧島が言った。

 

「ジェットエンジンを搭載した迎撃機が深海棲艦側に現れるということです。」

 

そう霧島が言うと新瑞は顔を青くした。

 

「なん......だとっ......。」

 

そう反応した新瑞に俺は畳みかけた。

 

「それに深海棲艦の方はどうやって作っているか分からないですが、我々よりもはるかに多い物量で攻めてきます。作戦終了後に飛来した爆撃機の編隊は護衛機合わせて約620機。こんな規模の編隊なんてありえませんよ。」

 

そう言うと総督は被っていた帽子をずらした。

 

「だから戦争が永遠と続くのだな。」

 

「そうです。我々は戦術や練度によって攻撃しますが、深海棲艦は物量です。お互い平行線のまま永遠と戦争を続ける、そう考えたのです。」

 

そう言って俺は腰にぶら下げていた軍刀を鞘ごと抜いて机に置いた。

 

「何をしているのだね?」

 

そう訊いてくる総督に俺は言った。これは霧島にも言わなかった事だ。

 

「ただ、深海棲艦に爆撃機もジェット機も無かった時に戻し、本土が安全になる方法があります。......私をこの場で殺す事です。」

 

俺はそう言って頭を下げた。

 

「現在運用されている艦娘へ指令を送るシステム、つまりこの世界を司る理は私をイレギュラーだと判断し、崩れた均衡を元に戻そうとしています。」

 

そう言って俺は顔を少し上げた。

 

「嘗てあった海軍本部は恐らく知っていたんでしょうね。こうなる事を知っていたから私の暗殺を企てた......。」

 

そう言いきって俺は再び顔を下げた。

その時、総督が立ち上がり何かを引き抜いた。

 

「提督をこの場で殺せば元通りなのか......。だが、それで提督はいいのか?」

 

そう言って総督は歩き出した。

 

「いや、提督が良い悪いではない。私たちは別世界の人間に戦争をさせてきた、それも未成年。未来のある青年だ......。」

 

そう言って総督は俺の方に歩いてきた。

 

「提督が言った事は正しい。ここで提督を殺せば元通りになるかも知れぬ。だがこの世界の人間に深海棲艦と戦う力が無い。経済大国と謳われた日本皇国は衰退し、貧困と飢えに苦しむ国民は今は幸せに暮らしているかもしれないが、提督の言う理に囚われ過ぎた。」

 

そう言って総督は俺の横で足を止めた。

 

「だから提督を殺す事など出来ない。国民の為に......。」

 

そう言って総督は俺の顔を上げさせた。

 

「大本営総督として提督に命ずる。横須賀鎮守府に存在するジェット戦闘機及び富嶽は廃棄、現状を維持しつつ海域奪回に尽力せよ。」

 





今回のはノーコメントで。何も後書きに書くことがないものですから......。

そう言えば第何話か覚えてませんが、提督が読んでいた本をハーメルンのオリジナル作品に投稿しようと考えてます。ですけど本作と同時進行になってしまうのでかなり先になりそうですが......。

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第百三話  立て直し

横須賀鎮守府では俺の号令で戦闘行動を小期間休止することになった。

遠征艦隊は勿論の事、最低限の動きしか取らない。そして、鎮守府の2つの設備の解体が決まった。滑走路、格納庫が解体される。昨日の大本営での話で総督から命令された事を遂行するためだ。そして、格納庫にある膨大な数の陸上機は解体される運びとなり、アンブッシュイーグルと蒼梟も解体される。

 

「解体作業、滞りなく進んでいます。」

 

そう言って俺に報告してきたのは赤城だ。今日は秘書艦経験のないまたは少ない艦娘に任せる訳にもいかないので、こうして赤城に頼んだのだ。

 

「そうか。」

 

俺は既に終わらせた書類を積み上げた処を視界の隅に居れて、窓から外を眺めた。

着々と進んでいく施設の解体は、そこにあったものが無くなるのでスカッとする反面、不安が押し寄せていた。自分の立てた仮説が正しければ、これらは必要のないもの。戦況を有利に進める為に必要な措置だと頭では理解していたが、本能は警鐘を鳴らしている。海域奪回にかかる時間と資源が増長するのだ。そしてその分艦娘への危険が増す。

 

「急にこのような事を決めて、本当に良かったのですか?富嶽の海上絨毯爆撃は見ていて爽快でした。あんなにも容易く深海棲艦を撃破出来たんですもの。それにジェット戦闘機だってそうです。アレさえあれば鎮守府の守りはより強固になり、ハリネズミです。」

 

そう不安そうに言ってくる赤城に俺は言った。

 

「いいんだ。メリットの割にデメリットが大きすぎた。それにイレギュラーの原因でもあったからな。」

 

そう言って俺はある事を思いついた。

昨日はこちらは戦術を武器にとか言っていたが、深海棲艦も確実に使ってくる可能性が高い。だが、訊いてみれば陽動なんかはいつもどこでも起きていたという。なら使わない手はない。こちらは戦術を武器に戦えばいいんだ。

 

「赤城、霧島を呼べ。」

 

「分かりました。」

 

俺は現状、最もイレギュラーに関して知っている霧島を呼ぶことにした。

これから作戦会議だ。既定の序列や陣形に加えて、戦闘状態によって柔軟に動ける布陣と、システムの抜け穴を見つけるのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

霧島は分かっていた様な表情をしていた。そして霧島の手には戦術指南書。内容は戦闘海域において取るべき柔軟な対応について。

 

「司令、分かってますよ。」

 

そう言ってきたので俺はお構いなしにホワイトボードを引っ張り出して最初に陣形を考え始めた。

 

「まず、陣形に関してだが。」

 

そう言って俺はペンを手に取り書き始める。左から駆逐艦、軽巡、重巡、戦艦、戦艦、空母の順番だ。

 

「梯形陣を応用する。反航戦・同航戦両方に用いる事を想定しているが、砲撃時、砲門が向く方向から後列から近づいていく。つまり、小型艦から大型艦にかけて相手から近くに見える。これによって最適な砲撃距離から砲撃をする。最も、さっき提示した編成時のみだが。」

 

「ふむ......ですけどこれは深海棲艦に我々の艦種が見分けられない前提の話ですよね?」

 

そう訊いてきた霧島に俺は答えた。

 

「そうか?深海棲艦がどう索敵しているか知らないが、偵察機は必ずいるんだろう?」

 

「はい。ですが、空母が存在する時のみです。」

 

「この陣形は相対する艦隊に空母が見られない時に使うべきだと考える。」

 

そう言って俺は砲撃の向きを書き込んだ。

 

「駆逐艦、軽巡は味方を気にせずに雷撃が可能で大型艦は雷撃を喰らわせれるように釘付けに出来る。それにあっちからみたら本来の大きさと変わって見える筈だ。」

 

そう言って俺は空いているスペースにどう見えるかという予測図を書いた。

 

「確かに......本当にこう見えているなら深海棲艦がどこに砲撃を集中すればいいか分からなくなりますね。」

 

そう霧島が答えたので俺はペンを置いた。順番にやっていくつもりだからだ。ちなみに取りあえず、書いた内容を赤城にメモを取って貰っている。

 

「私が提案するのは、遠征艦隊との併用です。

 

そう言って霧島は口頭で説明しだした。

 

「普通海域では6隻が限度で偶に連合艦隊を組んで出撃する場合がありますが、その時に遠征艦隊を『支援艦隊』としてその海域に派遣、本隊の分隊として攻撃に参加させます。幸い、システム上、奪回が完了していない遠征地への派遣が可能です。なのでそれを逆手に取ります。資源を回収する艦隊を攻撃特化装備に換装し、『わざと』戦闘海域に入らせます。戦闘海域に入った遠征艦隊は『システム上』戦闘は避けられないので戦闘に参加することができます。ですので普通海域、連合艦隊を要する海域共に事実上上限24隻の艦隊で攻撃を加える事が可能なのではないかと考えます。」

 

そう言った霧島はメガネを上げた。

 

「あくまでこれは予測ですので、イレギュラーを引き起こす可能性がありますので、一度、新戦術運用の試験を行うことを望みます。」

 

そう言い切った霧島に俺は訊いた。

 

「それは所謂本当の『支援艦隊』か?」

 

「そうです。あくまで『本隊』の『支援』ですので、システムを逆手にとれるかと......。」

 

そう言って霧島はペンを手に取った。

 

「ですので『支援攻撃』の現在確認できている種類を説明します。」

 

霧島はホワイトボードに『航空支援』、『支援砲撃』、『長距離支援雷撃』と書いた。

 

「これだけの支援が現在使われています。ですので、システムを逸脱しないための攻撃方法を考えなくてはなりません。」

 

霧島はホワイトボードに丸を3つ書いてそれぞれ、目標、本隊、支隊と書いた。

 

「本隊と支隊が離れていなければならない前提条件があります。ですので本隊と支隊は入り混じった混成艦隊を組むことが出来ません。」

 

そして霧島は溜息を吐いて言った。

 

「ですが欠点があります。......システムの逸脱を避ける為に一回の出撃に支援艦隊は1艦隊しか支援できません。そして支援を行った艦隊は一度本隊が撤退するまでは支援をすることができません。ですので一回の遭遇戦では事実上、12隻か18隻でしか攻撃できません。」

 

「そうか......。ここまで聞く限り、システムから出てはいないが、試さなくてはいけないな。」

 

「はい。」

 

そう言って霧島がさっき座っていたところに座ったので俺は立ち上がってホワイトボードの前に立った。

 

「これまで陸上機に関してのみイレギュラーが確認されたが、俺は艦載機にイレギュラーが存在しないのではと考えた。」

 

そう言って俺は呼吸を整えた。

 

「そう考えたのは、深海棲艦の高高度迎撃機によって富嶽の編隊が攻撃を食らったことだ。こちらのイレギュラー発生以前からシステムに組み込まれていた『震電改』は高高度迎撃機だ。だから相手側に居てもおかしくない。そう考えると、艦載機に関してはあらゆる手段が取れると考えた。」

 

そう言って名前を書きだしていった。

 

「現在、艦隊で運用できる艦載機の名前や役割を書き出す。」

 

俺は書き出していった。艦戦は『九六式艦戦』、『零式艦戦21型』、『零式艦戦52型』、『零式艦戦62型』、『零式艦戦53型』、『烈風』、『烈風改』、『震電改』、『Bf109T改』、『Fw190T改』。艦爆は『九九式艦爆』、『彗星』、『彗星一二型甲』、『試製南山』、『Ju87C改』、『零式艦戦62型(爆戦)』。艦攻は『九七式艦攻』、『天山』、『天山一二型』、『流星』、『流星改』。偵察機は『二式艦上偵察機』、『彩雲』、『試製景雲(艦偵型)』。

 

「これらの艦載機の用途はそれぞれ決まっている。だが、ここに『雷電改』が加わったな。」

 

そう言って艦戦のところに雷電改を書き込んだ。

 

「赤城。」

 

「はい。」

 

俺は唐突に赤城に声を掛けた。一生懸命、書記をしているところに悪かったと少し反省した。

 

「赤城は雷電改が配備されてから、相手艦載機に違和感を感じたか?」

 

そう訊くと赤城は即答した。

 

「ないです。」

 

俺はそれを確認すると、ホワイトボードに書き足した。

 

「雷電改、元は雷電三二型と言って海軍が開発した局地戦闘機に着艦フックが付いただけの代物だ。だから試験運用として海軍が当時開発した局地戦闘機を手に入れる。」

 

そう言って俺はホワイトボードを叩いた。

 

「海軍が当時開発していた局地戦闘機の資料を収集、局地戦闘機を作れるものを来るぞ。」

 

そう言って今日の霧島との話し合いというか意見の交換は終わった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は霧島との意見交換の後、赤城と共に資料室に調べ物で来ていた。

ここには海軍に関する資料や、海上自衛隊時代の書籍なんかもおいてあり、たまに掘り出し物があるらしい。ちなみにこの情報源は夕立だ。

俺はそんな資料室である本を探していた、零式艦戦などが活躍していた時代に海軍で開発されていた航空機のリサーチだ。

現在見つけたのは1つだけだが、まだあるはずだ。そう信じて俺は探していた。そんな時、赤城が一際驚いたこえを挙げて取り乱した状態で俺に声を掛けた。

 

「てっ、提督っ!これっ!!」

 

そう言って俺に見せてきたものは、小さく、早く、そしてこの時代に生まれてきた事を後悔しただろう航空機だ。いや、航空機と言っていいのか分からないものだが、これについての資料が残っていたのだ。

これを改装すれば使える、そう確信した。

 




いやーラストはじらしてみましたよww
明日に続きます。ちなみにこれを書いてるときはニヤニヤが止まりませんでした。

霧島と提督の話し合いですが、不満がございましたらお気楽に申してください。自分の考えたものですが、まぁ......はい。

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第百四話  試験運用

霧島との意見交換から翌日。早速俺は動こうとしていた。最初は、梯形陣の応用。俺が考えたものだ。これは急遽、練度上げの為にキス島の残敵漸減に向かわせる艦隊に使ってもらう事にした。編成は旗艦:龍驤、陸奥、愛宕、夕張、磯波、加賀。ちなみに今日の建造(※雪風に頼むのを忘れていた)で建造されたばかりでいきなり出撃する龍驤は結構緊張している様だ。そして、俺を見て何も驚かなかったのは逆に俺が驚いた。

 

「キミィ、建造早々に出撃ってどないせえっちゅうねん。」

 

そう突っかかってくる龍驤の後ろに居るメンバーは苦笑いをしている。どうやら龍驤に同意というか、同情している様だ。それに俺の作戦を伝えたので悪いタイミングだったとでも思っているのだろうか。

 

「すまんな。てことで、行ってこい。」

 

そう言って俺は陸奥と愛宕に目配せすると、2人は龍驤を両脇に抱えて出て行った。

 

「帰ってきたら覚えときぃー!!」

 

遠くで龍驤の声が聞こえるがシカトしておいた。

龍驤たちを見送った俺は手元にある書類を見ている。

これは昨日、執務後に赤城と調べていた局地戦闘機で、現状戦力の補強として使えそうなものの資料だ。

 

「さて提督、工廠に行きましょうか。」

 

そう言って立ち上がったのは赤城。昨日から数日間、霧島との意見交換で出た事を終わらせるまで秘書艦を頼んでいる。霧島も昼以降は執務室に入り浸ることになっている。

 

「あぁ。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺と赤城で調べた結果、既存の試製景雲(艦偵型)は改装できる様で、機首に30mm機関砲を4門搭載できる様だ。

そして、新たに開発できないかと考えたのは『一七試局地戦闘機 閃電』だ。震電と並行して開発されていた局地戦闘機だが、震電の開発の目途が立ったので廃棄された戦闘機だ。これを着艦フックなどの改装を施し、震電と混成の高高度迎撃機として運用する。爆装も可能らしいので、零式艦戦62型(爆戦)と同様の戦闘ができるのではないかと考えた。

それぞれを『試製景雲(艦戦型)』と『閃電改』と呼ぶ。開発できればの話だが。

 

「う~ん......。」

 

そう言って俺の渡した書類と睨めっこをしているのは白衣の妖精だ。

 

「出来ないか?」

 

そう訊くと白衣の妖精は答えてくれた。

 

「試製景雲を改装できますが、閃電は......。」

 

そう言って首を捻った。

 

「艦戦型は30mm機関砲だが。」

 

「分かってますよ。艦偵型には武装がついてませんので、30mm五式機関砲でしたっけ?」

 

「多分。」

 

そう言うと白衣の妖精は近くの妖精を呼び、何かを話すと話し出した。

 

「機関砲は機首配置になりますので回転同調機なんかを発動機につけなければいけないので、少し手間がかかりますが出来ます。」

 

今度は俺が渡した書類の閃電を指差した。

 

「閃電に関しては図面が無く、外装だけですので出来たとしてもかなりの時間を使ってしまいます。見たところ震電改と同じ構造のところがあるので、こちらで震電改を解析することで開発は可能かもしれませんが......。」

 

白衣の妖精はどもってしまった。

 

「が?」

 

俺が訊き返すと、言いにくそうに妖精は答えた。

 

「型番見てる限り震電改の下位互換ではありませんか?震電改の元となった震電と同時並行で開発を行われていた見たいですが、震電の将来性などの目途が付いたから計画が破棄されたものですね。」

 

そう白衣の妖精は言ってはいるが、スペックを確認した。

 

「......私的には閃電の必要性を感じませんが。」

 

「そうか......分かった。手を煩わせても仕方ない。試製景雲の方は頼んだ。」

 

そう言い残して工廠を出ようとしたら白衣の妖精に引き留められた。

 

「待ってください、提督。」

 

そう言って止めてきた。

 

「何だ?」

 

そう訊くと白衣の妖精は俺の肩によじ登り、あの場所へ行くように言った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

工廠の奥。これまでに様々な装備を見てきたところだが、そこにはやはり布が被せてあるものがあった。

だがこれまでに見た中で一番小さいサイズ。大人3人が川の字に寝たくらいの大きさだ。

 

「これが今朝開発されたんです。」

 

そう言って白衣の妖精が布を皮下剥がすとそこから現れたのは白いボディにプロペラのない飛行機。

 

「調べたところ爆弾を搭載していない桜花です。」

 

そう言った白衣の妖精を手で捕まえて俺は言った。

 

「特殊攻撃機なぞ使わないぞ。」

 

凄んで言ったが妖精は怯まずに続けた。

 

「この桜花は違います。爆弾を搭載していないんです。そして機体底部にはそりがあります。」

 

そう言って下ろしてほしいと訴えた白衣の妖精を下すと、桜花に走り寄り、機体の後部下を指差した。

 

「ここに着艦用のと思われるフックがあるんです。......これを鑑みるとこの桜花は存在しえない『特殊戦闘機』だと考えていいんじゃないでしょうか?」

 

さらに白衣の妖精は桜花の後ろにある違うものを見せてきた。それは何やらレールの様なもののようだ。

 

「これは火薬式カタパルトです。艦娘の艤装にある水上機発艦装置ですね。ですがこれでは零式水偵や瑞雲なんかは発艦できません。」

 

白い妖精はカタパルトをポンと叩いて行った。

 

「これは桜花専用の発艦カタパルトです。どうやらこの桜花は陸上から射出できるように開発された『桜花四三乙型』の改装モデルです。」

 

そう言うと白衣の妖精は腕を組んだ。

 

「つまり桜花の爆弾が搭載されていた空白のスペースに大口径機関砲を装備させ、戦艦か巡洋艦からカタパルトで射出。攻撃を行い、空母に着艦すればいいんです。」

 

「大口径機関砲って?」

 

「そうですね......興味で調べたところ当時陸軍の『二式単座戦闘機二型乙』に使われていた航空機関砲『ホ301』というのが40mmだったようなので、それを作ります。これならば当たり所によっては戦闘不能にできますよ?」

 

俺は白衣の妖精が言ったことを考えたがもっと確実なのを思いついた。

 

「待て。確か装備品に毘式40mm連装機銃があったな。」

 

そう言うと赤城は唸りだした。秘書艦で良くいるから分かっているんだろうが、思い出している様だ。

 

「提督、ありますよ。毘式40mm連装機銃。」

 

そう言って赤城が教えてくれたので、白衣の妖精に提案した。

 

「毘式、つまりヴィッカースのライセンス品だな。あれは日本のホ301の資料が少ない状況よりも確実に手に入るぞ。」

 

「そうですね......では、かかります。」

 

白衣の妖精は俺の渡した書類の空きスペースにメモを取ると、走って行ってしまった。これから始めるようなので、俺と赤城は邪魔になるだろうと思い工廠を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

帰る途中、霧島と鉢合わせたので今日工廠で見た桜花について話した。霧島はロケットモーターで飛ぶ桜花に不信感を抱いた様でそれの運用法を訊いてきたが、あくまで艦載機だと告げた。

 

「多分それなら大丈夫でしょうけど......桜花ですか。」

 

そう言って霧島はメガネを上げた。

 

「特殊攻撃機ならぬ特殊戦闘機。40mm連装機関砲を元に通常の機関砲を取り付けて戦闘機として運用する、と......。これはイレギュラーとして反映されますかね?」

 

そういう話をしていると、横を通りかかった鳳翔が立ち止って俺たちに話しかけてきた。

 

「桜花がどうかしたんですか?」

 

そう聞いてくる鳳翔に俺は新たに桜花が工廠で開発されたと言うと驚いていた。それは無理もない。鳳翔の中では桜花は特殊攻撃機だからだろう。俺はそれを分かっていたのでわざわざ後に特殊戦闘機としてん分類になると言うと『そうですか。』と安心した様で俺にある事を教えてくれた。

 

「桜花と言えば一式陸攻のお腹から切り離されてから飛んだと聞いてます。この鎮守府にはその一式陸攻の仕事をできる飛行機がもう無いようですが、どうするんですか?」

 

そう言った鳳翔の言葉に霧島は驚き、俺の方を向いた。

 

「司令っ!これは使えるかもしれませんよっ!!」

 

そう言って興奮気味に霧島は説明を始めた。

 

「赤城さんらや私たちに装備できる艦載機には数多の種類がありますが、イレギュラーとして艦載機の改造は反映されないんですよ!!つまり、大型艦載機が桜花を抱えて飛べば相手には大型艦載機しか現れずにこちらには確実な攻撃ができる特殊戦闘機が手に入る訳です!」

 

そう言っている霧島の脇で赤城も何かを思い出したようだ。

 

「霧島さんっ!そんなことしなくていいですっ!」

 

そう言って赤城は説明をした。

 

「イレギュラーにすら引っかからないものがあるじゃないですかっ!!」

 

「何かありましたか?」

 

「ユーさんが装備していたWG42ですよ!あれは噴進弾発射機ですからアレを弄ったら噴進弾の代わりに桜花が飛ばせるかもしれません!!」

 

そう言った赤城を俺は一蹴した。

 

「アレを弄って桜花を飛ばせるようにしたらもう原型を保ててないぞ。新規装備になってしまう。」

 

そんなことを議論していると鳳翔が手を挙げた。

 

「あの~。」

 

「何だ?」

 

「二式大艇ではダメなんでしょうか?」

 

「「「それだっ!!」」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

その場で鳳翔の案で決まり、二式大艇を装備できる艦娘を探した。そうすると案外簡単に出てくるもので......。

 

「秋津洲ですか?」

 

そう赤城は名前を訊いて首を傾げた。

 

「何だ、赤城。不満なのか?」

 

「いえ。彼女......演習で見かけたことありますが戦闘は出来ませんし二式大艇を飛ばす以外に何かできるという訳では無いんですよね。」

 

そう言うので俺は言った。

 

「必要ない艦娘等居ない。秋津洲だって艦娘だ。」

 

そう言って俺は紙を出して書き始めた。宛ては新瑞。以前のドイツ艦勢の様にこちらに移籍を願っている秋津洲を引き取りたいという書類を書いた。多分、資源回収艦隊の方にいるはずだから確実にこちらに来てもらえるかもしれない。そう考えたからだ。

 

「それにここに来れば特殊戦闘機搭載機の母艦として十分に働ける。赤城の話を聞く限り、秋津洲のイメージは『ごく潰し』酷く言えば『役立たず』みたいな言い方だが、こちらに来ればそんなレッテル吹き飛ぶ。」

 

「そう......ですね。」

 

俺は話しながら書き終えて封筒に入れて赤城に渡した。

これで桜花をイレギュラーとしてあちら側に出さない方法を取る手段で使える手筈が整った。

背伸びをして赤城が事務棟に向かうのを見届けると、俺は欠伸をした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

日が傾きかけた時、執務室に龍驤たちが入ってきた。どうやら帰ってきたみたいだ。

 

「邪魔するでー。」

 

「邪魔するなら出てってくれ。」

 

「ほいなー。」

 

俺は適当に乗ってみた。

 

「ってぇ、アホかっ!報告や。......キミィが提案した戦術、使えたで。」

 

そう言って龍驤は執務室の窓に俺を呼んで埠頭を指差した。

 

「見えるやろ?ウチらの艤装。傷一つあらへん。あっちさんは砲撃してきてもちゃんと照準出来んくて良く夾叉やったわ。ありゃ使えるんとちゃう?」

 

どうやら上々だったらしい。

 

「良かった。じゃあ以降の戦闘では応用しよう。」

 

そう俺が言うと霧島が俺の前に立った。

 

「次は私の提案したのを使いましょう。」

 

「あぁ......。だが試験だから正面海域での試験のみとする。」

 

「はい。」

 

次の日には霧島の本隊と遠征艦隊を使った実質戦力増強の攻略を試したところ、使う事が出来た。だが、イレギュラーとしてこちらに分かるのはまだ先になるのでそれまで待つこととなった。

 




唐突に龍驤建造です。おめでたいというかなんというかって感じですね。
結構ビックリしましたけど......。これで旧一航戦は揃いました。育成が大変になりますね(汗)

それと今回から登場するのは本編にもありますが、桜花が増えます。あと近日中に秋津洲が移籍してきますね。流れ的に。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百五話  障害と赤城の決断と真実

 

俺たちがイレギュラーをどれだけ回避するかを画策し始めて数週間が経った。

やっとの事で霧島の案の結果が出たのだ。結果は......効果あり。但し、あからさまなものだと深海棲艦側に増援が現れる事があったらしい。なので支隊として出る遠征艦隊にはそれなりの手練れで無いといけないという条件が加わった。

そして、白衣の妖精に頼んでいた試製景雲(艦戦型)と桜花の改装が終わり、実機が工廠に2機ずつ置いてあるとの事だった。そして俺の目の前には銀色の髪の少女が立っている。片手には大きなボストンバッグ?みたいなものを持って俺の前で固まっていた。

 

「おーい。......駄目だこりゃ。」

 

俺の顔を見るなり固まったこの少女は秋津洲。ドイツ艦勢が移る前に居た司令部の艦娘だ。大本営の新瑞に手紙を出したら二つ返事だったのはこの際伏せておこう。内容は大体わかるからな。

 

「司令。秋津洲さん、運んでおきますね。」

 

そう言って俺と共にいた霧島が連れて行った。

こんなんでは先が思いやられる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

先行して二式大艇はこちらに送られてきていたので工廠の方で改装がなされていた。二式大艇の背中に載せる事になった桜花は、機首に40mm機関砲を装備していて、どうやら切り離しの時に尾翼に当たるらしく、二式大艇が上昇中でないと切り離せないというハンデが付いた様だったが、運用できないよりましだと思い、俺はそのまま試作機を作って貰った。

 

「い、いきなり実戦かも?!」

 

俺を見るなり気絶(だったらしい)していた秋津洲は俺から伝えられた事にそう反応した。まぁ、無理もない。何週間か前に龍驤も同じ反応をしていたから。

 

「そうだな。だが、鎮守府正面海域だ。接敵するのは弱った小型艦だ。」

 

「分かったかも。......それにしても大艇ちゃんの背中になにやら白いのが乗ってるけど、なに?」

 

そう訊いてきた秋津洲に赤城が答えた。

 

「桜花四三乙型改、特殊戦闘機です。」

 

「それってなにかも?」

 

「私たち艦娘が今のところ操れる唯一の噴進機構搭載戦闘機です。」

 

そう言うと秋津洲は自分の艤装に担架されている二式大艇に走って、背中に乗っている桜花を見上げた。

 

「艦載機?なら赤城さんとかが使えばいいんじゃ?」

 

「私たちでは使えないんです。二式大艇にのみ搭載ができるので、いわば秋津洲さん専用戦闘機ですね。」

 

そう言ったのを訊いた秋津洲は目を輝かせた。

 

「ホントかもっ!?あたしっ、前いたところでは役立たずでいつも海辺に居たの......。役に立てるって聞いて飛んできたけど、こんな風だなんて思ってなかったかもっ!!」

 

秋津洲はピョンピョン跳ねて喜んでいるが、さらっと自分で自虐してたな。

 

「それで、この白いのはどうやって使えばいいかも?」

 

そう訊いてきた秋津洲に霧島が説明した。

 

「二式大艇を哨戒に出し、上空で切り離すだけです。そうすれば桜花に搭乗している妖精が対空・対艦戦闘を始めます。但し、飛ばせるのは1回だけです。飛ばした後は艦隊の空母に桜花が着艦しますので、切り離すタイミングを見極めて下さいね。」

 

霧島が説明したのを訊いた秋津洲は艤装に入っていき、出撃するといって艦隊を引き連れて埠頭から離れて行った。

ちなみに編成は旗艦:秋津洲、熊野、高雄、五十鈴、吹雪、加賀だ。

出撃して沖に出るのを見届けてから戻ろうと思っていたが、何やら艦隊が反転して戻ってきてしまった。

 

「えっ?なに。」

 

俺は戸惑い、埠頭に接岸した秋津洲の方に走り寄ってみると、しょんぼりした秋津洲が艦橋から出てきた。

 

「どうした?」

 

そう言うと秋津洲は目を潤ませながらにわかに信じがたい事を言った。

 

「沖に出れない......。沖に出ようとしたら機関停止しちゃって、後退が出来たから戻ってきたかも......。」

 

そう秋津洲が言うのを訊いていた霧島は何かに気付いたのか、走って本部棟に行き、誰かを連れて戻ってきた。連れてきたのはプリンツだった。

 

「えっ?なにっ?!」

 

そう戸惑っているプリンツに霧島は言った。

 

「プリンツさん、今すぐ艤装を出して沖に出てくれませんか?」

 

「えっ......はっ、はい。」

 

プリンツは霧島の言葉に戸惑いながら、艤装を埠頭に出して、沖に出て行った。だが、秋津洲と同じところで止まってから戻ってきた。

 

「沖に出られない......です。」

 

そう言ったプリンツの言葉に満足したのか、霧島は説明をした。

 

「どうやらここの工廠で建造されたか、ここの艦娘に拾われないと出れない様ですね。秋津洲さん、プリンツさん。前いた司令部では海に出れましたよね?」

 

そう訊いた霧島に秋津洲とプリンツは頷いた。

 

「つまり、『移籍』というのはここに在籍しているだけで戦闘行動は出来ないんですね。」

 

そう言って霧島は溜息を吐いた。

 

「振り出しです......司令。」

 

俺はそう言った霧島に分かったとだけ言うと、半泣きの秋津洲に俺は言った。

 

「秋津洲。」

 

「うぅ~......なにかも......?」

 

「秋津洲の艤装はまだ工廠で建造できないから、どこかの海域で拾ってくるしかない。それまで待っててくれるか?」

 

「......うんっ。」

 

秋津洲は袖で涙を拭きながら応えてくれた。しんみりした空気が流れるこの場所で霧島は言った。

 

「ですけど、沖に出なければいいので沖までの哨戒任務とかは出来ますよ?それに大艇は航続距離が長く、それに桜花も積んでます。それだけでも役に立てるはずです。」

 

「それを先に言えっ!」

 

俺は渾身の突っ込みを入れたところで、正して秋津洲に言った。

 

「艤装が発見されるまで、鎮守府を守る目となるのは秋津洲だ。頼んだぞ?」

 

「分かったかもっ!......じゃなかった、分かった!!」

 

秋津洲は飛び切りの笑顔をしてくれた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は昨日の夜、ある決断をしました。

正月のあの時、提督の事が心配で私室に入った私が見た提督の弱々しい姿、それを見て私は酷く落ち込みました。これまでの5ヵ月間、提督がいらっしゃることを喜び、提督に褒められるように色々な作戦や任務をしてきました。ですが、正月に見てしまったのです。

ただ私は私の理想や願い、希望を叶えて貰っているだけで、提督を追い込んでいるだけでした......。ならせめて、提督をこの戦争からより早く解放し、戦後も帰る事が出来ない提督の為に手を尽くすべきだと......。

なら何をするべきか?一、艦娘がやれることなんて限られてます。現状、できる事を進めておくべきだと考えましょう。

 

日本皇国の経済は艦娘の資源回収によって回っているところが大きいと聞きました。ですので、資金集めの為に資源を調達しましょうか。ですけど、鎮守府の資源保管庫からくすねるのはいけませんので、自分で集めてこなくてはなりません。ですけど、私は資源回収に適していないので、どうしましょうか......。資源回収が出来たとして、どこに保管するかも問題です。私の私室は加賀さんも居ますし、鎮守府内に何か......。

 

(確か吹雪さんが鎮守府の見取り図を持っているとか......。それに金剛さんも独自で鎮守府の地図を持ってますね。)

 

適当に歩き回って保管場所を探すのも野暮ですから、適当に理由を付けて地図を見せてもらうことにしました。

 

「赤城さん?どうしたんですか?」

 

私は思い立ってすぐに吹雪さんが居ると思われる私室に足を運んでいました。出迎えてくれたのは吹雪さんの姉妹艦の白雪さんです。

 

「吹雪さんに用がありまして、いらっしゃいますか?」

 

「もう直ぐ帰ってきますよ。お部屋でお待ちになって下さい。」

 

「はい。ではお邪魔しますね。」

 

私は白雪さんに部屋にあげてもらい、待つことにしました。部屋は広く、どうやら吹雪型駆逐艦全員で共同の様でかなり広いです。

そうこうしているうちに吹雪さんが帰ってきました。

 

「ただいまー!って赤城さんっ!?」

 

何やら袋を下げているので酒保にでも行っていたんでしょう。

 

「吹雪さん、頼み事があります。」

 

そう私が言うと吹雪さんは私が座っている正面に座ってくれました。

 

「頼み事って何ですか?」

 

「鎮守府の見取り図、施設や部屋とかが確認できるファイルを貸してほしいのです。」

 

そう言うと吹雪さんは快く貸してくださいました。返すのは何時でもいいということだったので、私は持って部屋を出て私室に戻りました。私室にはてっきり加賀さんがいると思ってましたが、置手紙で『酒保に行ってきます。』とあったので当分帰ってこないでしょう。私としては好都合です。自分の机に行き、ファイルを広げて隠すのにいい場所を探し始めました。資源を回収するにあたって、回収された資源は全てドラム缶に入れられます。そしてそれは艤装の空きスペースに置かれるのです。帰ってきた時に埠頭に接岸するので、埠頭近くがいいでしょう。収めるのに丁度いいです。案外早く見つかるもので、一度空襲に遭って全て焼け落ちた鎮守府の建造物ですが、妖精さんが図面通りに建て替えたので元々空いていた建物やなんかも全て元通りになっていました。

埠頭近くの林のところに小屋があったのでそこに資源を隠す事にしましょう。

 

次はどう調達するかですが、これはもう出撃した時にときたま立ち寄る放棄された製油所やらで採れる資源を持ってくるしかありませんね。

その際にどう仲間にバレないようにするかですが......彼方此方でドラム缶に入れれるので問題ないと考えました。

 

そして誰かとパイプを繋げておくことですかね。繋げるならばそれなりの地位にいる人間ですが、生憎民間人の方々には蔑んだ感じはしませんが、軍人となると話は別です。特に艦娘について知っている人間となると、『兵器』だ『深海棲艦』だとうるさいのでそう言うことを言わない人間......。鎮守府で働いている人間か、大本営に務めている新瑞さんか総督。総督ならかなりの地位でパイプを繋げておくのに十分だと思いますが、総督です。協力して下さるか分かりません。ですが新瑞さんならどうにかなるかもしれません。

こっそり提督が提出する書類に手紙を混じらせておきましょう。

 

考えついた事は一通りやりましたが、上手く行くか分かりません。ですけど、提督の為です。これからは忙しくなりそうですね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

鈴谷は近衛艦隊で金剛さん並みにヤバい奴とか言われてるみたいだけど、失礼しちゃうなぁ。

確かに提督の危険には敏感だし、一刻も早く駆けつける為にいろんな技を身に着けたけど、そんな簡単に人を殺めたりしないって。だけどさ、提督が本当に危険なら殺す事も厭わないよ?だって、提督が本当に危険の時ってもう既に手遅れじゃん?

というかこんなことをするつもりじゃなかったんだったー。

遂に鈴谷しか気づいてない事に気付いた人が現れましたっ!!

何時もなら提督の居る執務室が見える範囲に居るけど、今は違うよ。鈴谷のレーダーに異常な反応捉えたからその反応源を追ってるんですっ!!どうやら埠頭近くの林に入って行ったけど、その先って何もないんじゃないの?確か小屋があったような気もしなくもない......。戻ってきた反応源は提督の執務室に入っていって便箋と封筒を持って私室に入って行っちゃった。あちゃー......。

 

 

 

 

 

鈴谷と同じことをしてるよ。

 

 

 

 

 

どうしたもんかねぇ......。こっちから近づいて話を持ち掛けてもいいけどさぁ、こっちは既にかなり手回し終わってんだよねぇ。資金も潤ってるし、人間とのパイプもね。

戦闘に関しても抜かりないよ!夜中に勝手に砲撃練習したり、いろんなものを応用したりして戦闘にも強くなってるけどさぁ......。艤装の妖精さんには口回ししてあらゆるところを改造済みなんですよっ!!にひひー。鈴谷だけで複数相手できるよっ!戦争を早く終わらせるためには深海棲艦を殲滅するほかないじゃん?和解も一瞬考えたけど、あんまり戦闘に出して貰えないから深海棲艦と鉢合う機会が無いんだよねぇ......。噂では航空巡洋艦に改装ができる最上型は優先レベリングらしいけど、実際分からないしねぇ~。

 

 

 





これはもうノーコメントです。
感想の考察でも結構前に出てましたが、鈴谷が何をやっているのか......。実はこんなことをしていたんですね(白目)
赤城も行動に移しましたが、遥かに整っているのは鈴谷の方ですのでどうなることやら......。

そして秋津洲、不憫。

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第百六話  提督の知らない事

『親衛艦隊』この言葉を発したのは何時振りでしょうか。最近では金剛さんも鈴谷さんも落ち着いてきて監視の度合いを緩めたばかりですが、何時また豹変してもおかしくありません。

それは置いておいて、今日も私は提督に秘書艦を任されています。信頼を勝ち取っておいたのがここまで役立つとは思いもしませんでしたが、好都合です。昨日紛れ込ませておいた、新瑞さんへの手紙が混じって送られてきているかもしれません。私は朝食を摂る前に足早に事務棟を訪れていました。

 

「すみません。」

 

私は何食わぬ顔で事務棟に入り、、窓口で対応して下さる事務員さんから書類を今かと待ちました。

 

「今日の執務ですね。連続でお疲れ様です。」

 

「ありがとうございます。」

 

私はそれを受け取ると、いつもの調子を装い、事務棟を出ました。

出てすぐに周りに誰も居ない事を確認すると、抱えながら大本営の封筒をチェックし、異質な空気を纏った封筒を引き抜きました。そこには『赤城さんへ』と小さく裏にかかれているだけの、いつもの書類が入っているものと何ら変わらない封筒でしたが、私は懐にそれを仕舞いました。

 

(読むのはタイミングを見計らって誰も居ない時にしましょう。)

 

そう中を早く見たい衝動を抑えながら私は執務室に急ぎました。

そう言えば、昨日寝るまで考えていましたが新たに行動を起こさなくてはならないと考えていました。資源回収なんかの面で一人ではやはり苦しいと思い、協力者を得る事です。それに私は提督の為にと考えてきましたが、今一番すべきことはこんな戦争を早く終わらせる事。深海棲艦の大本を潰すしかありません。脈絡も何もありませんが、資金がどうとか人間とのパイプがどうとかも戦争が終わらなければどうにもなりませんからね。

 

(どう殲滅するべきか......富嶽は無くなってしまいましたからね......。)

 

私は執務室に戻る間そんな事を考えながら歩いていました。

着実に海域を奪回していくのが正当法でしょうけど、それではいつまで続くか分からないです。かと言って勝手に富嶽を使い始めてもイレギュラーに苦悩するだけです。現状を打破するには他の手を打つしかありません。

 

(深海棲艦と和平を結ぶとか?......いや、それはどうでしょうか。)

 

一瞬脳裏を過った方法ですが、余りに低確率すぎます。それに和平を結ぶにはよく生態の分からない深海棲艦と戦闘以外の物理的接触が必要です。ハイリスクハイリターンです。しかもリスクの方が大きいもの。

 

(ですがどんな手を使ってでもこの戦争を終わらせなければなりませんね。)

 

私は執務室に着いたので考えるのを辞めた。執務中に考えもしたら集中できませんし、提督に迷惑かけてしまうかもしれませんからね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

鈴谷が裏で何をしているかの調査が終わりました。

何していたのかと思うと、どこにそんな大金を使うのかという金額を溜め込み、自分の艤装を勝手に改造していました。理由までは分かりませんが、何をしているのか......。彼女も私と同様、監視の目をすり抜ける術を持ってますが桁違いです。鈴谷は忽然と姿を消すらしいですからね。まぁ、私は目を盗んで何回かに分けてその場から離れるのがやっとですが......。

それは置いておいて、やっと私が作っていた地図が完成しましたっ!

地上設備から地下設備、工廠や他の棟の構造まで細部に渡ってリサーチした鎮守府地図。何故これを作ったかって?もちろん提督の為ですよー。それに合わせて私は艤装の妖精さんと一緒に外へ出るためのトンネルも掘っていたんですけどね。外でいろんなものを入手してくるという目的があるんです。まぁそれもこれも赤城が羨ましかったと言うのがありますね。

ある時を境に赤城は懐中時計を持ち始めました。肌身離さず、どこへ行くにも持ち歩いてました。何故そんなものを持っているのか分かりませんが、大体予想がつきます。

運動会の時の景品で言ったんでしょうね。何て言ったかは分かりませんが、懐中時計を手に入れたに違いありません。運動会の景品ということはつまり提督から貰ったもの。赤城だけそんなのズルいです。

おぉっと、話がズレました。完成した鎮守府地図の用途は私の直感が必要だと言っていたからです。理由は分かりませんが、とにかく必要なんです。トンネルの用途は全体に休暇を出さないと丸々一日休めない提督の為に少しの用でも外に出れるためのトンネルですね。というのは建前で外の情報収集の為です。トンネルは一応外への入り口がありますが、入り口のところは妖精さんと協力して部屋みたくして、集音機やらを置いたりモニタを置いたりしてます。

 

(何故情報規制やらをしているか分かりませんが、私たちは何時までも籠の中の戦闘兵器じゃありません。)

 

トンネルの奥は情報収集用の部屋兼外へ出るための入り口なんですよね。

かなり掘り下げてから掘ったトンネルなのでそうそう崩れる心配もないですし、鎮守府側の入り口も分かりにくいところにあります。これを使い始めるにはまだまだ準備が足りませんね。テレビと電気、せめてトイレを設置しなくては......。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は怖い顔をして入ってきた霧島に少しビビりながらも執務を続けていた。

俺の勝手な思い違いかもしれないが、鎮守府内部が変化している様に思える。『近衛艦隊』、『親衛艦隊』なんて言葉を発する事もなくなったし、赤城の様子も少し変だ。昨日からだけど......。

そして今日、霧島が怖い顔をしている。誰かと喧嘩でもしたのか、そんな考えが頭を過るが仕事に私情を持ち込むのだろうか。

 

「司令。」

 

俺がそんなことを考えていると、いきなり霧島に話しかけられた。

 

「なっ、何だ?」

 

俺は少し驚いてそう返すと霧島が俺の近くに来て書類を渡すそぶりを見せながら俺に小声で言った。

 

「赤城さんを追い出してください。聞かれたくない話をしたいので。」

 

そう言われて俺は有無も言わずにそうすることにした。霧島がこんなことをするのは初めてだ。こんなことをしなければならない程の話があるということだろう。

 

「赤城、『特務』だ。」

 

「了解しました。」

 

最近の赤城の特務は『艦載機の一番攻撃に使える戦術を考案する事』だ。これは艦載機の種類やなんかが増え、それに深海棲艦に対して俺たちは戦術や練度を武器にしていくつもりだ。経験豊富な赤城に戦術考案を頼むことで指揮する艦娘が直接考えた方がいいと思ったからだ。俺でも教える事が出来なくはないが、俺が教えれるのは戦闘のテクニック。それも実戦で使えるか定かではない事と、それぞれのテンプレの戦い方だけだった。

赤城は見ていたファイルを閉じて紙に書き始めた。

 

「編成は旗艦:赤城、扶桑、山城、五十鈴、雪風、島風で行きます。」

 

「分かった。招集し次第、出撃。」

 

「了解。」

 

赤城は俺に紙を見せて行くと執務室を出て行った。赤城が出した編成は、俺が赤城に『特務』を任せると絶対に連れて行く艦娘たちだ。話はしてあるらしく、それぞれの艦との連携も想定しているらしい。

赤城を見送った後、霧島が俺の前に立った。

 

「ここの人払いをする程の事でもあったのか?」

 

そう訊くと霧島は写真を数枚出してきた。そこには隠し撮りだろうが、赤城と金剛が映っている。

 

「何だこれは。」

 

そう俺が問うと霧島は怖い顔のまま言った。

 

「青葉さんに頼んで調査して貰っているんです。それがこの結果です。」

 

そう言って霧島は写真の中から赤城の映る写真を俺に見せてきた。

 

「赤城さんが何かを始めました。急にです。」

 

そう切り出した霧島はつらつらと説明を始めた。

 

「昨日、赤城さんは吹雪型の私室を訪れて鎮守府の見取り図を借りて行ったそうなんです。いきなりどうしたのか不安になった吹雪さんが私のところに見取り図なんか何に使うのか聞きに来たので発覚しました。そこですぐに青葉さんに頼んで調査を開始、今朝までやって貰ったんです。」

 

そう言って霧島はどうやら時間列で写真を並べ始めた。

 

「昨日、鎮守府の見取り図を受け取った赤城さんは私室に戻り相部屋の加賀さんが居ない事を確認して見取り図を見始めました。その後、見取り図を仕舞い、寮から出て埠頭の横にある林に入ったんです。行先は小屋。小屋に入るとすぐに出て、執務室に向かいました。この時、執務室には司令はいませんでした。司令の居ない執務室に入った赤城さんは机から便箋と封筒を持つと私室に戻って行ったんです。」

 

霧島が言っている意味がほとんど理解出来なかった。何故、吹雪に見取り図を借りただけでこんなに疑われて内偵されているのか。だが、まだ続きがあるようだ。

 

「赤城さんは私室で何かを便箋に書くと封筒に入れて封をして提督が大本営に提出する書類にその封筒を混じらせたんです。」

 

そう言って霧島は俺に最後の写真を見せた。それは赤城が袖に封筒を入れている写真だ。袖に居れた封筒は大本営の封筒。だがいつも何が入っているか書いてある封筒なのに、何も書かれていない封筒を赤城が袖に入れたのだ。

 

「そして赤城さんは内容の書かれていない大本営からの封筒を袖に入れました。」

 

そう言って霧島は赤城の写真を纏めて言った。

 

「何をし始めたんでしょうね?赤城さんは。提督は赤城さんから何か聞いてないですか?」

 

「いいや、何も。」

 

俺も今初めて知ったことだから分からないが、多分それは霧島も分かっていただろう。確認の意味も含めて聞いていたんだろう。

霧島は赤城の写真を脇に置くと、今度は金剛の写真を広げた。こっちはうって変わって暗い写真が多いが、何故だろうか。

 

「こっちの金剛のは?」

 

「はい。金剛お姉様が何をしているのか発覚したのでその後報告に......お姉様は鎮守府の細部の見取り図を作っていました。私たちが知っている道や、知っているけど使われていない道、知らない道、知っているけど使ってない部屋、知らない建物、知らない部屋......。本部棟だけかと思いましたが、鎮守府にある施設ありとあらゆるところものを作っていたんです。

 

そう言って霧島は広げなかった写真を俺に渡してきた。

その写真に写っていたのは地図を映した物らしいが、そこにある道や部屋は鎮守府の外に伸びているのだ。

 

「予想ですが、お姉様は鎮守府の地下にトンネルを掘ってます。」

 

そう言った霧島の言葉に吹き出しそうになるのを抑えつつ、用途を訊いた。

 

「よっ、用途は?」

 

「分かりません。ですが、鎮守府の外に出ている道の先にある大きな空間。これは部屋を意味しているのだと思いますが、何に使うか分かりません。」

 

そう言った霧島に俺は訊いてみた。

 

「なら金剛が最近買った物から分からないか?」

 

そう訊くと霧島は顎に手をあてて考えだした。答えはすぐに出た様で、指を折りながら順に言っていった。

 

「紅茶の茶葉、つまめるお菓子、写真立て、お洋服......。」

 

そう答えるのはいかにもって感じのものばっかだった。

 

「なら電子機器というか機械だけで絞って思い出してくれないか?」

 

そう言うと霧島は結構時間が掛かった様子だが答えた。

 

「マイクとケーブル、CDレコーダー、CD、ヘッドホン......くらいですかね?」

 

そう言った霧島に率直な意見を言った。

 

「何か録音するんじゃないのか?」

 

俺がそう言うと霧島は首を横に振った。

 

「私もそう思いましたが、違いました。CDレコーダーみたいなのは元からありますし、ヘッドホンも......CDなんて未使用の録音用のでした。それに酒保で買ったその日は部屋にありましたが、次の日にはなくなってましたし......。」

 

そう言った霧島の言葉を整理してどこにやったかを考えるのは容易い事だった。

 

「多分トンネルの奥の空間だろうな。」

 

「私もそう思います......。」

 

そう言って何かを思い出したかのように霧島はある事を言った。

 

「そう言えばお姉様がこの前私服を持って出て行こうとしていたを見かけたことがありました。多分、トンネルの奥の空間でしょうね。」

 

そう言って霧島はポンポンと色々な事を思い出しては俺に言っていった。軍手を干してるのを見たと比叡から訊いただとか、鎮守府の倉庫からスコップを持ち出しているのを誰かが見ていただとか......。全部出すとキリがないくらいに色々な目撃証言があったのだ。そして最後に行き着く先は全て『トンネル』だった。

 

「霧島。」

 

「はい。」

 

「金剛の金の動きに注意しろ。」

 

「了解しました。」

 

俺はそう霧島に言うと広げていた写真を霧島に纏めて渡した。

 

「調査続行だ。」

 

そう言うと霧島はまだありそうな顔をしていた。

 

「ん?まだなんかあるのか?」

 

そう訊くと霧島はあの名前を口にした。

 

「それと次いでに鈴谷さんの事ですが、未だに何をしているのか把握できてません。」

 

「そうか......。」

 

序の様に鈴谷の報告もされたが、無いようなら報告しなくてもいいだろうにと思いながら外を眺めた。

こんな時にアレを言いたくなるな。

 

「空はあんなに蒼いのに......。」

 

「扶桑さんの口癖映ったんですか?」

 

俺は窓から外を眺めてそう呟いた。

 




いやぁ......ここの話ってシリーズにした方がいいのかと思っちゃいますね。話が結構アレですので......。

遂に金剛の行動も明らかになりましたが、他の2人に比べてまた違った動きですね。それと霧島が青葉に内偵を頼んでいるのがなんというか......。

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番外編  俺は金剛だ!⑧ 『権力を持つ人はちゃんと選ぶべきだ』

 

俺がゆっくりと私室に籠っていると、突然ドアがノックされた。ゆったりしているのになんだよと思いつつ扉を開くとそこには腕章を付けた兵士が2人とその後ろにすっごい厚化粧だけど軍服を着たおばさん?が立っていた。

 

「何すか......。」

 

そう俺が頭を掻きながら言うと、厚化粧の人が扇子を仰ぎながら言った。

 

「顔も整ってるし、身体つきも最高......気に入ったわ!」

 

そう厚化粧の人の鶴の一声で俺は腕章を付けた兵士に両脇から拘束された。ちらっと見たが腕章には『憲兵』と書かれている。しかも両方とも顔を紅くして鼻息が荒い。黙っていれば寡黙な女性だと言うのに、その行動が唯の獣に変えてしまう。

怖すぎるっ!!

 

「いきなりなんすかっ!?拘束して?!」

 

そう俺が暴れながら言うと厚化粧の人が広げていた扇子を閉じて俺のあごへやった。ツツツと伝っていくその感触は気持ち悪い。

 

「あら?海軍大将様が貴方を貰ってやると言っているの。貴方にそれを拒否する権利は無いわ。」

 

そう言ってつんつんと突いてくる。

そんなことをされてイライラし始めたが、どうにかしてこのク[自主規制]から解放されたい。初見で俺の本能が危険だと訴えているのだ。これなら足柄に絡まれていた方が楽だ。

 

「そうすか。......俺はここの所属なんすけど、いきなり変えれるものなんすか?」

 

俺は下手な敬語でそう言う。ちゃんとすればそれなりの敬語も言うけど、この場面ではワザと言っているのだ。

 

「変えれるわっ!何て言ったって私は海軍大将様よ!士官学校を首席で卒業、任官後も異例のスピード出世、若くして海軍大将になったわっ!」

 

俺は『何言ってんの厚化粧ババァ』と言いかけたのを飲み込んで笑った。

 

「そうなんすかっ!凄いっすね。」

 

「そうよっ!だからここの階級の低いお子ちゃまが動かしている鎮守府の貴方も私が移籍させられるわっ!」

 

そう言って連れている他の憲兵の肩をバシバシと叩いている。何という醜い......と言うのもこの厚化粧ク[自主規制]はダルマみたいなのだ。体系で人を判断してはいけないとか言うが、これはあまりにも酷い。まず第一印象が最悪なのだ。

 

「んでもお断りします。俺、ここがいいんで。」

 

そう言って俺は扉を閉めようとした。ちなみに既に両脇から拘束していた憲兵は離れている。

 

「何よっ!私が貴方が欲しいと言っているのっ!」

 

そう言って俺が締める瞬間に扉の隙間に扇子を挟んできてそう訴えてきた。うっとおしい、その言葉に尽きる。

 

「俺は欲してないっす。」

 

そう言って締める力を強めて行くと、あっちは押し負けたのか扉がピシャリと閉まった。

 

『ここを開けなさいっ!』

 

「嫌です。お引き取り下さい。」

 

俺はチェーンを掛けつつそんなことを言ってダラダラしていた位置に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

海軍大将様(笑)を追い返して、グダグダしていると昼の時間になったので俺は昼ご飯を食べに食堂に来ていた。

ここに入ると俺の鼻腔を美味しそうな匂いが刺激する。匂いがより一層俺の空腹を加速させるのだ。そんな中、見たくない顔が居た。

海軍大将様(笑)だ。さっきと変わらずに憲兵を連れている。どうやら食事中の様だ。

 

「クソッ......見たくねぇ。」

 

俺はそう呟いてなるべく離れた場所の席に座ると、食事を始めた。俺の口に運ばれていくおかずたちはどれもとてもおいしい。どっかの高級な店に来たんじゃないかというレベルだ。店出せるぞ、間宮さん。

そんな事を考えていると俺の左側に座っていた艦娘が話しかけてきた。

 

「奇遇ですね、金剛君。」

 

俺に話しかけてきたのは翔鶴だった。

 

「おぉ、翔鶴。勝手に隣座ってごめんな。」

 

「いえ、気にしてませんよ。それより後ろの海軍大将、金剛君を狙ってきたのでしょう?」

 

そう言って翔鶴が顔を傾けて目を合わせないようにそちらを見た。

まぁ、翔鶴の言う通りなんだが。

 

「そうだが、どうかしたか?」

 

「いえ......あの人、結構悪い評判があるんですよ。」

 

そう言って俺の方を見て話し始めた。

 

「あの人、悪事を階級で握りつぶしたりするらしいです。横領、賄賂なんて何時もの事らしいです。それに誘拐もやったって噂です。」

 

そう言って翔鶴は眉をひそめた。

 

「金剛君を連れて行くのは私欲なんでしょうけど、多分人形にされてボロボロになったらどっかのお店に売られるんですよね。」

 

そう言って翔鶴は言うが、すぐにご飯に視線を戻した。

 

「と言っても噂にすぎません。ですけど、さっきもあの人に連れて行かれそうになった様子ですから次は演習で勝ったら寄越せとか言ってくるんですよ。」

 

そう言うと、俺は気になった後ろを振り向いた。

その海軍大将様(笑)が丁度、白瀬さんと話をしている様子だった。白瀬さんは眉間にしわを寄せて、海軍大将様(笑)は扇子を振って笑っている。あの手の人間がする行動だ。どうやら翔鶴の言った通りの様だ。

 

「今しがたその演習が取り付けられたみたいだ。」

 

「そうですか......。誰が呼ばれてもいいようにしておきましょう。私はこれで戻りますね。」

 

そう言って翔鶴はトレーを持って食堂を出て行ってしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「て訳で演習することになった。」

 

「いや、前のセリフないからな。意味わからないから。」

 

とメタいツッコみを入れておいて、本当に演習することになった。

翔鶴の言った通りで、あっちが勝ったら俺を連れて行くらしい。そしてこっちの勝った時の要求はというと......。

 

「こっちが勝ったら前哨任務をあっちに丸投げして、資源調達もあっちから分捕り、バケツを1000個ほど要求した。」

 

と澄まし顔で白瀬さんは言った。

 

「そんなのによく乗ったな[自主規制]も。」

 

「あぁ、『海軍大将様(笑)が佐官から上に行ってない鎮守府に演習で負けたら笑いものですね。』って煽ったら乗った。」

 

「おい。曲がりなりにも上官だろうが。」

 

白瀬さんもなかなかアレだが、乗る[自主規制]もアレだ。何というか、すごくフリーダム。本当に国家機関なのかと疑いたくなる適当さだ。

 

「それでこっちが出す艦隊だが、旗艦は金剛に任せる。」

 

「どっちの金剛だ?」

 

「無論、男のお前だ。」

 

そう言った白瀬さんは俺に編成表を見せてきた。

 

「水上打撃力を重視した海域攻略で使う様な編成にした。まぁ、金剛と交流のある艦娘しか選ばなかったから。」

 

編成表には俺以外に比叡と武蔵、足柄、夕立、翔鶴と書かれていた。確かに俺と交流と言っていいのか分からないが知っている艦娘だが......夕立なんかはさっき話したくらいだけど?

 

「分かった。何時からだ?」

 

「今から行ってこい。」

 

「了解。」

 

俺はそう言って白瀬さんに編成表を返すと、ドッグに向かった。俺がその場を離れる時、白瀬さんが呟いていた言葉が聞こえていた。

 

「ふふっ......馬鹿め。ウチの艦娘を舐めて貰っちゃ困る。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は艤装を身に纏って海上に出ると既に艦隊は集まっていた。

 

「お兄様っ!絶対勝ちましょうっ!」

 

そう言ってガッツポーズする比叡。

 

「金剛君は渡さないわっ!」

 

と言ってドヤ顔する足柄。

 

「悪い娘にはお仕置きね。」

 

と魚雷を発射管から抜いて手に持っている夕立。

 

「勝ちましょうね。」

 

落ち着いた雰囲気で笑っている翔鶴。

 

「相棒を奪う奴なぞこの武蔵が返り討ちにしてくれる。」

 

と俺の肩に手を回して笑っている武蔵。いつの間に俺は武蔵の相棒になったのやら。

 

「おおぅ......取りあえず行くか。俺もあんな[自主規制]のところに行きたくないからな。白瀬さんの方がいい。」

 

そう言って俺は開始のブザーがなるのを訊いて、動き出した。

ちなみにあっちの編成は訊いている。旗艦は大和。こちらにいる大和とは違うらしい。それ以下は伊勢と日向、北上、大鳳、加賀。ガッチガチの攻撃特化らしい。全く分からないが。

 

「あっちの大和は私が引き受けよう。あいつの大和は好かん。」

 

そう言って武蔵は自分の艤装の46cm三連装砲を撫でた。どうやら会ったことがあるらしい。

 

「制空は取れるか分かりませんが、こっちはそれを想定済みです!」

 

翔鶴は矢を放って艦載機を発艦していた。飛び立つ艦載機にはどれも腹に何かしらも抱えていない。それに俺の記憶する零戦とは似ても似つかないシルエットをしていた。

 

「あれは何だ?」

 

「烈風ですよ。提督が全艦載機をこれに変えておけと。私も言われなかったらそのつもりでしたし。」

 

そう言って翔鶴は最後の矢を放った。これで発艦できる艦載機は全て発艦したらしい。

他の僚艦も皆、戦意高揚しているらしく、その中で夕立が浮足立っている。マジで怖い。

 

「ふふふっ......あははっ......あははははははっ!!」

 

「何か目が光ってるんですけどっ!?」

 

足柄曰く、興奮状態らしい。

 

「低速艦相手に遅れは取りませんっ!伊勢と日向なんて赤子の手を捻るようなもんですよっ!」

 

「私も加勢するわっ!序でに雷巡も駆るわね!」

 

そう言って比叡も気合十分の様だ。

 

「よしっ!戦術なぞ知らんっ!空は翔鶴が取ってくれるっ!存分に暴れよう!!」

 

「「「「応っ!!」」」」

 

全速の単縦陣で突っ込む体勢に入ったが、よく考えたら俺の獲物はなんだ?まぁ艦載機を飛ばして武蔵達が引き離させた空母たちを駆ればいいか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「こちらは大将様の艦隊です。」

 

「誰に言ってるんの?」

 

大将様に言われて急遽、演習することになりました。演習相手はつい最近あちこちで話題になっている鎮守府です。どうやら男がいるらしいのですが、その男を掛けて勝負することになりました。

戦う女の園に男がいるなんて訊いた事ありませんが、演習で勝てば男がめでたくこちらの鎮守府に来るということで皆、楽しみにしています。

相手は訊いた事も無い提督の鎮守府。下っ端として働いているみたいですが、我ら大将様の艦隊に勝てる訳がありません。

大規模作戦では中核を担い、いくつもの棲地を奪還してきた鎮守府です。そんな鎮守府相手です。

 

「皆さんっ!張り切って行きましょうっ!!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

獅子奮迅で突き進む武蔵達は凄いの一言しか言えなかった。最初の航空戦で翔鶴は相手の艦爆・艦攻隊を撃破、護衛の艦戦隊と乱戦になり、事実上制空権を確保した。

艦隊を視認すると比叡を先頭に翔鶴の護衛に足柄と夕立を残して俺と武蔵が吶喊した。

最初の宣言は何だったのかと思いつつ、艦隊が見えるようになると相手は動揺をしているように見えた。

 

「うそっ!?艤装を背負ってるっ?!」

 

「そうか......。」

 

そう言っているのが聞こえるが、俺たちとしては関係なかった。

俺はあんな[自主規制]のところには行きたくないし、仲間もその気持ちを汲み取ってくれているはずだ(※主人公は勘違いしています)。

 

「一斉射っ!ってぇーー!!」

 

艤装の砲から砲弾が一斉に吐き出される。その砲弾は弧を描きながら飛翔し、着弾。

装填が終わればまた砲撃をする。そして飛んでくる砲弾を回避するのだが、俺の方に何故か飛んでこない。

 

「旗艦が彼なら撃てないっ!」

 

「全滅させるしかないのかっ?!」

 

そう肉薄してきていた伊勢と日向が言っている。ちなみに俺は比叡に加勢して低速戦艦を相手にしていた。

 

「私は空母を叩くっ!」

 

そう言って離れて行った武蔵の居たところを見ると、ペンキだらけで放心しているあっちの大和が立っていた。

早すぎじゃないかと内心思いつつ、俺は目の前に集中した。

 

「比叡っ!日向を抑えろっ!」

 

「はいっ!」

 

俺は比叡に日向を抑えてもらい、伊勢と対峙した。

 

「はぁ~!貴方を手に入れて見せるっ!(キラキラ)」

 

そう言って凄んでいる伊勢に俺は向けていた砲を元に戻した。

 

「えっ?なにっ?降参??んふふ~!頂きねー!」

 

そう言ってあっちも砲門を逸らしてこっちに来るのを俺は両手を広げて待った。

 

「やったー!!............あっ。」

 

俺はこっちに走ってくる伊勢が見ていないのを確認すると、主砲を一基だけ腹の前に出していた。そして今、その砲門が伊勢の腹を捉えている。

 

「馬鹿だなぁ......。降参する訳ないだろうっ!!」

 

そう言って砲弾を放った俺は、伊勢に着弾して飛び散った返りペンキを浴びて離れた。

ちなみに伊勢も砲撃を喰らって放心している。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺が伊勢を撃破して数分後、翔鶴に接近していた北上を夕立が撃破した事でこちらが勝った。

俺は一度集合場所に集まってみると、皆被弾はしているが損傷大には至らないところばかりに当たっていたのだ。夕立に至っては被弾すらしていない。

 

「勝ったな!」

 

そう言って喜んでいるところに白瀬さんがやってきた。

 

「お疲れだ。お蔭で資材と高速修復材、面倒な任務から解放された!」

 

そう言って俺の肩をバンバン叩く白瀬さんに皆がツッコんだ。

 

「「「「「「そっち?!」」」」」」

 

「勿論。私の艦娘が負ける訳が無いからな......。海からポコスカ撃つ艦隊と、露払いや偵察、なんでもやってきた私の艦隊、強いのは明白だろう?」

 

そう言って胸を張ってドヤ顔をする白瀬さんを見て少し俺は見直した。結構、考えてくれていたんだと。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「むききっ!!悔しい、悔しいわっ!!!何でこんな雑兵艦隊に負けたのよっ!」

 

俺たちの目の前でそう怒鳴り散らしている[自主規制]を俺たちは眺めていた。この光景、かれこれ20分もやっているのだ。しかも初めから同じことしか言ってない。言葉のレパートリーの少なさを見てみると本当に優秀だったのか疑わしいが、見ていて面白いので俺たちは遂に紅茶を飲みながら眺めていた。

 

「長いな。」

 

「あぁ。」

 

俺と白瀬さんはそんな事を言って座っているが、かなり近くで椅子に座って紅茶を飲んでいると言うのに気付かないあたり、軍人なのかも怪しい。

 

「そういえば。」

 

「む?」

 

俺はティーカップを置いて白瀬さんい訊いた。

 

「要求した資材はどうなった?」

 

「あぁ。それなら今頃、あの海軍大将様(笑)の鎮守府からこちらに向かっているだろうな。」

 

そう言ってニヤニヤする白瀬さんを見て俺はティーカップを持ち、飲んだ。

 

「あっ、無くなった。......金剛?!、おかわりっー!!」

 

「ハーイ!!」

 

この光景、傍から見たらかなりカオスだろうな。そう俺は思った。

 





唐突の番外編っ!
自分は何にも言いませんよ?それと[自主規制]の様な上司を持ちたくないデス。

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第百七話  三つ巴①

新瑞さんから届いた手紙を見る良い機会です。提督もタイミングよく私に『特務』を命じて下さいました。

私は艤装の中でその手紙を開きました。

 

『内容、拝見させていただきました。確かに大本営、私たちこの世界の人間は異世界から来た提督に重い責任を負わせていた事には気付いておりました。ですので、それなりの恩恵や融通を聞いては来ましたが、やはり歳を考えるとそうでありましたか。

私としても戦中・戦後の提督の扱いは頭を悩ませており、方針が決まっておりませんでした。まさか艦娘の方から持ちかけられるとは思いませんでしたが、提督を傍で見ていらっしゃる赤城さんをはじめとする艦娘の方々の意見を取り入れていきましょう。

私はその足掛けとして、赤城さんのサポートをしましょう。』

 

そんな内容でした。

要するに、新瑞さんは協力してくれるということです。あちらも同じことを考えていたのなら好都合です。

私は満足しました。大本営の協力を取り付けたのなら、これ以上の力は無いでしょう。

 

それと、私だけで資源を集めるのは難しいので協力を得ました。加賀さんです。何故こういうことを始めたかというきっかけは伏せさせてもらいましたが、加賀さんは快く手伝ってくれると言ってくれました。それにあたって、資源を隠す予定の小屋と新瑞さんから受け取ったものを見せます。

 

「ふーん......新瑞さんねぇ。」

 

そう言って加賀さんは渡した手紙を読んでいます。

 

「分かりました。私にも『特務』が頂けるように提督に口添えをお願いします。『特務』で出る海域に点在する資源採掘場で持って行ったドラム缶に詰めて来ればいいんですよね?」

 

「はい。お願いしますね。」

 

私は加賀さんが読み終わった手紙をそう言って渡してきたので受け取りました。ですが、加賀さんは難しい顔をしています。いつも仏頂面ですが、私は相部屋ですので分かります。

 

「ですが空母2人だと辛いですね。」

 

そう言うと加賀さんは私室の畳に座った。

 

「どうしてですか?」

 

「私たち空母は資材回収に長けてません。駆逐か軽巡にも協力を仰ぐしか効率よく資材は集まりませんよ?」

 

そう言われて見た物の、それは私もとっくの昔に考えています。今は誰を選ぶかというリストアップの最中ですけどね。

 

「それに関しては私が選んでいます。まだ声はかけてませんけどね。」

 

そう言って私は名簿を渡しました。これは秘書艦だから出来る事ですね。こんな形で提督の信用を使うとは、少し罪悪感が......。

 

「成る程ね......。赤城さんの選んでいる艦娘は......うん、誰も提督への思いが強い娘ね。」

 

そう言う加賀さんも近衛艦隊に居たじゃないですかと言いかけたのは黙っておきましょう。

 

「だけどあの娘は居ないのね。」

 

「誰ですか、あの娘って?」

 

私がリストアップして一番協力してくれそうなのは夕立さんと時雨さんです。彼女たちは公私両面を提督に信用されています。今のところ提督が良いと言って私室に入れるのは彼女たちだけですからね。秘書艦であれば起床時に入室は許されてますが、他の娘は提督の許可が無ければ入れません。勝手に提督の私室を出入りできる彼女たちなら提督の為に私に協力してくれるかもしれません。きっと加賀さんも夕立さんと時雨さんの名前を挙げると思っていました。

 

「鈴谷さんです。」

 

加賀さんの口から驚きの名前が出た。資源回収に長けている軽巡や駆逐とさっき自分が言ったばかりなのに何故いきなり重巡の鈴谷さんの名前を挙げたのでしょうか。

 

「何故鈴谷さんなのですか?」

 

そう言うと鈴谷さんから信じられない言葉が出てきました。

 

「鈴谷さんも赤城さんと同じような事をしていますよ?随分と昔から。」

 

そう言った加賀さんは鎮守府の酒保がまだ大きな建物になる前に売っていた小さい手帳を出しました。ボロボロとはいかないものの、使い込まれています。

そんな手帳のあるページを開いて加賀さんは訊いてきました。

 

「『近衛艦隊』が何日か置きに集まって話をしていたのは知ってますよね?」

 

「えぇ。」

 

私が答えると加賀さんは読み始めました。

 

「ある日、集まって話をしている最中に鈴谷さんが『提督の為に外へ出るときに必要なものがあるじゃない?それを集めるのも始めた方がいいと思うんだよね。鈴谷は先に始めてるけど、やる人は言ってね。』と言ってました。これはつまり赤城さんがやろうとしている事に近いのでは?」

 

「そうですね......ですけど、私は提督の為に一刻も早く戦争を終わらせて、帰るところのない提督の為に何かをしようとしているので.......。」

 

そう言うと加賀は首を傾げた。

 

「そうなんですか?彼女も資金の調達、外とのパイプを得るなどやっているそうですよ?」

 

そう言って加賀さんはページをペラペラと捲っていってます。

 

「だけど......まさか赤城さん。」

 

そう言って加賀さんはあるページで捲るのを止めてそのページを私に見せてきました。びっしりと書き込まれた文の中にある一文を見て私は驚きました。

 

「携帯火器やパソコンを先行して手に入れようとしてませんよね?これらは提督が私たちが持っていてはいけないと言ったものですよ?」

 

私の頭の中は一瞬にして真っ白になった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

鈴谷は今日も補給トラックが荷下ろししているところに来てるよ。

いつも間宮さんが食料を受け取ってる最中、鈴谷は補給トラックに乗ってくる運ちゃんと話をするために来てるんだ。

 

「鈴谷さん、はい。」

 

「あざーすっ!」

 

「それにしても偉いねぇ。」

 

「んー?何が?」

 

鈴谷は意気揚々と手紙を見ようと封筒を開けると、運ちゃんは話しかけてきた。

 

「提督の代わりに『官給品』の受け取りだなんて。これ、噂だと危ないものとか入ってるんだろう?」

 

「そだよっ!なんだっけ?......拳銃の弾とか?」

 

そうなのです。鈴谷が受け取っているのは官給品です。でも一般的に言われる官給品ではないのです。

毎日受け取る官給品にそんなしょっちゅう拳銃の弾が入ってるわけないじゃなくて、これは偽装だよ。でも、拳銃の弾が入ってるのは間違いじゃないんだよね。携帯火器と部品が入ってるんだよね。

 

「でも驚きだよ。提督への官給品だけ特別扱いなんだろ?何でも、あの大本営の総督が中身を指示しているだとか......。」

 

「まぁね~。」

 

そう、鈴谷の協力者の一人は大本営の総督なんだぁ。

鎮守府に2回くらい来てるからその時に直接頼み込んでるんだよね。頼み込んでる時期が丁度、鎮守府と人間とがギスギスしてる時期だったから案外話もとんとん拍子で進んだんだけどね。

 

「じゃあ荷下ろし終わったみたいだからもう行くよ。じゃあね。」

 

「うん!ばいばーい!」

 

鈴谷は運ちゃんから受け取った『官給品』の箱を持って提督が見えるとこに行きます!

今日の分が届いたということはアレが完成するんだよねぇ。にひひっ。楽しみだなぁ。

 

そう言えば今日、官給品の中に手紙が入っていたよ。まぁ入れたのは総督だろうけどね。

手紙曰く『新瑞のところに赤城から提督の事に関しての協力要請があったけど、鈴谷の仲間かい?』だそう。んー。鈴谷に身に覚えはないけど、同じ動きをしているのならあっても不思議じゃないねぇ。

取りあえず保留。

 

まだあった。どうやら金剛さんの作っている地下のトンネルが完成したみたい。物を運んでる姿を見たからねぇ。鈴谷も是非その部屋使いたいけど、いいかな~。提督の本意は知らない筈だからね。教えたくないし。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

トンネル奥の部屋にはまだ封の空けてない集音機や偽装の為の造花とかが置いてありますが、今日はそれを使います。

先ほど、コンセントの設置が終わったらしいので妖精さんと一緒に集音機の設置、造花で偽装をする作業をします。と言っても、まだそれしかないので後で机と卓上ライト、ファイル、筆記用具、床にはトンネルの支柱で余った木材を敷きましょうか。

言い忘れてましたが、夜などは私室を抜け出してここで情報収集したものを整理したり、これまで作った見取り図を全て貼り合わせたりします。これの設置が終わればすぐに始めましょう。

 

「妖精の皆さーん、私は机を取ってくるので機械の開封と組み立てをお願いしますネー。」

 

「「「「「はーい。」」」」」

 

私はこれから机を買いに行きます。多分酒保で売ってるので皆が使わない入り口から入ってすぐにここに戻ってきましょう。

もう直ぐです。すぐに情報収集が出来ます。

それと、全ての準備が終われば私室の私の机に隠してある現金を持ってきて外へ少し買い物に行きます。そのために私服を持ち出しておいてあるんですからね。まぁ、機械の箱の上に袋に入れた状態であるだけですから後で別の場所に移さないといけませんが。

 

(これでまた一歩ですね。)

 




今回のシリーズからは提督の視点がほとんど入りません。全て赤城、鈴谷、金剛の視点で行こうと思います。協力者や居る場所で誰かは分かると思いますが、一応後書きには誰の話か書いておきます。ちなみに今回のは順番に赤城、鈴谷、金剛です。
いちいち『○○side』とか書きたくないですからね(←本音)

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第百八話  三つ巴② 赤城編その1

「鈴谷さんが......そんな事を?」

 

「はい。」

 

肝が冷えました。

『近衛艦隊』幹部で説得が出来ずに未だに野放しになっている1人です。そんな鈴谷さんが携帯火器を所持している......つまり、艤装無しでも攻撃ができるということです。ただ、私たち艦娘は人間用の携帯火器の使い方なんかは分かりません。鈴谷さんが人間と同じように使えたら脅威ですが、使えないと考えた方がいいでしょう。

 

「......私は鎮守府で手に入らないもので何かしようという訳ではありませんよ?」

 

「そうですね。私に持ち掛けてきたのも、『資金調達』と『パイプの確保』でしたし。最も、『パイプの確保』は終わっている様ですが。」

 

私はそう言って笑う加賀さんを尻目に、協力者について考えました。

当初の予定通り、加賀さんと相談しながら協力者を選別、話を持ち掛けましょうか。ですが話は加賀さんにしたのと同様、提督の事は何も言いません。これだけは言ってはいけないのです。

 

「取りあえず、協力者を増やしましょう。リストから選び出して、声をかけます。」

 

「はい。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

加賀さんとの相談の結果、私が予定していた通りのメンバーになりました。夕立さんと時雨さん、彼女たちに接触して話を持ちかける事になります。

ですので今は私は資料室に向かっています。多分そこなら夕立さんか時雨さんのどちらかが居る筈ですからね。

私は資料室に入ると、いつもなら物語が置いてあるところに行きますが、今日は戦術指南書のところに行きます。そこに行って人影があれば十中八九夕立さんか時雨さんですからね。

 

「時雨さん。」

 

やはり居ました。どうやら夕立さんは居ない様ですが、予想通り時雨さんは戦術指南書を読んでいました。

 

「僕に何か用かい?」

 

「えぇ。」

 

私がそう答えると、時雨さんは戦術指南書を閉じて立ち上がりました。

 

「物騒だね。」

 

そう時雨さんは言い出しました。

 

「何がですか?」

 

私がそう訊くと時雨さんは私の背後を見ました。

 

「加賀を連れてる。でも今の加賀はまるで『近衛艦隊』の加賀だ。」

 

そう言った時雨さんに加賀さんは何も言いませんでした。見透かされてるのかと一瞬思いましたが、結局話すのなら変わりません。

 

「そうかもしれませんね。......ここでは話しにくいです。人気のないところにでも行きましょう。」

 

私はそう言って人気のないところを探し始めた。と言っても何処に行っても艦娘はいるので結局、私たちの私室に行きました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「それで、話ってなんだい?」

 

私たちの部屋に着いて座った時雨さんはそう切り出してきました。

 

「えぇ、少し『協力』して欲しい事があるんです。」

 

そう私が答えると、突然時雨さんは部屋を見渡しはじめました。何をしているのだろうと、少し黙って見ていると突然立ち上がり、ある場所に立ち止りました。

 

「ネズミが居るみたいだ。」

 

そう言って時雨さんが見ていたのは、押し入れでした。そこには布団しか入っていませんがそこにネズミがいるのでしょうか?

 

「追っ払っていいかい?」

 

「えぇ。」

 

そう言った時雨さんは『失礼するよ。』と言って押し入れを開くと、布団の置いていないところに入り、止まりました。何をしているか分かりませんが、数十秒するとひょっこり戻ってきたので私は話し始めました。

 

「提督への戦中・戦後の待遇の改善と、もしもの時の為の資金の調達を私たちはしています。時雨さんも協力して下さいませんか?」

 

そう私が言うと時雨さんの瞳が私の目をまっすぐと捉えたまま何も言いません。

 

「あの......?」

 

「......ごめんね、少し考え事していたんだ。......赤城の話、かなり端折って言ったみたいだけど、要するに僕に協力を頼んだのは『資金調達』かな?」

 

そう言った時雨さんは笑いました。時雨さんはたった数秒でそれを判断したみたいです。流石です。

 

「その通りですね。」

 

「だと思ったよ。......資金調達の方法は大方、僕たちが回収してこれる資材を余分に持ってきて蓄えるってところかな。必要になった時にどうにかして人間に売りつけてお金にする......合ってる?」

 

「はい。」

 

私がやろうとしていた手口とほぼ正解でした。ですが残念、必要になったら売りつけるのではなく、一定数溜めて売りつけるんです。

 

「......分かった、協力するよ。」

 

そう時雨さんは言ってくれました。

 

「ありがとうございます。」

 

「だけどさ......。」

 

喜んだのも束の間、時雨さんはそう切り出してきました。

 

「待遇の改善って一体何さ。」

 

そう言った時雨さんは自分のポケットから何かを出して私に見せてきました。

それは多分提督の私室にあったものだろう。正式書類だけど私の見たことない書類でした。

 

「これは提督の給与明細だよ。提督は異世界から連れてこられた存在だけど一応働いているからね。」

 

それを私は受け取りました。そこに書かれていた数字を見て一瞬息が詰まりました。

桁がおかしいのです。私、正規空母が人間から貰っている給与は大体月に30万程。基準は海軍軍人らしいですけど、よくシステムは分かりません。ですけど、提督の給与はその桁の2こも3こも違います。

 

「提督はこれだけのお金を貰っているんだ。......普段の様子を見てるとありえないことだけどね。それに鎮守府に大本営から地上設置する兵器が届いた事もあったね。あれ、提督が申請してるんだよ。」

 

そう言って時雨さんは少し息を整えました。

 

「あんな数、一基地の司令官が軍の司令部に願書を出してもそうそう出てこないよ。つまり、提督が頼んだことは多少無茶でも大本営は叶えてきたと考えていいんじゃないかな?運動会や文化祭(仮)も事前に大本営に許可を取っているはずだし。」

 

私は時雨さんを侮っていました。ここまでの情報を掴んでいる事に。私は知る由もなかったことばかりでした。

 

「だから戦中での待遇を改善する項目が見当たらないんだ。それに戦後もだけど、戦中でこれだと戦後も心配しなくていいと思うよ。」

 

そう言ってくる時雨さんに少し心が折れそうになりましたが、私が改善しようと思ったのはそこじゃありません。

提督の背負っている物を少しでも軽く、そして一刻も早く戦争から解放して提督のいらっしゃった世界に少しでも近付けてあげたいんです。

 

「私はそう言ったところを改善するとは言ってませんよ?別のところです。」

 

私はここでしまったと思いました。『別のところです。』なんて言ってしまえば......。

 

「じゃあどこを改善するんだい?」

 

時雨さんは私の想像通りの返しをしてくれました。

私はこの瞬間、脳裏に焼き付いた提督の声とアノ声が聞こえてきました。

 

『帰れないか......。』

 

『今更帰りたいなんて言えない......。』

 

『奪った。』

 

『ウバッタ......。』

 

『返して。』

 

『カエシテ......。』

 

ガクガクと震え始める足を戒めて私は必死に堪えました。そんな姿を見て加賀さんは心配そうにしています。

 

「どうしたの?」

 

そう訊いてきた加賀さんの困った顔を見て私は言う覚悟をしました。あの時、私が見た物を。

ただ気がかりなのは、加賀さんです。加賀さんはそれを訊いて耐える事が出来るのか、それが唯一の心配事です。

 

「いえ......ならば説明しましょう。その前に、今から私が言うことは誰にも言ってはいけません。」

 

そう私がやっと震えの止まった足を擦りながら言うと時雨さんが訊いてきた。

 

「何故駄目なんだい?見たところ夕立にもこの話を持ち掛けるんだろう?」

 

案の定の質問だった。

 

「どうしてもです。」

 

そう言って私は話すことが怖かったですが口を開きました。

 

「私が何故この様な事を始めたのか......。きっかけは言わずとも分かりますよね、提督です。」

 

静かに加賀さんと時雨さんは聞いています。

 

「私はお二人に『提督への戦中・戦後の待遇の改善と、もしもの時の為の資金の調達』という様な説明をして協力を頼んでいますが、違います。」

 

 

 

 

「全ては提督の、これからの為の準備です。」

 

 

 

 

そう言うとお二人はぽかんとしました。

 

「いや、それは分かってるって。」

 

そう時雨さんが言ったので私は言い変えました。

 

「すみません。なら私がこれを始めた経緯を説明します。......お正月の朝、提督がお雑煮を食べながら涙を流していたのを見ましたか?」

 

そう訊くと加賀さんも時雨さんも頷きました。どうやら見ていた様ですね。

 

「提督は『何でもない。』とおっしゃってましたが、私はどうしても気になったのでその後執務室に行ったんです。そしたら普段開いているはずのない提督の私室の扉が開いていました。」

 

そう言うと加賀さんは少し驚いてました。

 

「ずるいわ、私も見てみたいです。」

 

そう言った加賀さんに『話を訊こうよ。』と抑える時雨さん。

 

「私は不思議に思って入ってみたんです。提督の私室は綺麗にされていましたが、靴が脱ぎ捨てられていて、布団がこんもりしていました。」

 

そう言うと時雨さんは不思議そうな表情をしました。

 

「それはおかしいな。提督は靴を揃えて脱ぐはずだけど......。」

 

私は内心そうなのかと思いつつ続けます。

 

「普通に入っていったので提督も気付くと思っていましたが、気付いて起き上がりもしませんでした。そして声をかけようかと思った時、

 

 

 

 

『帰れないか......。』 『今更帰りたいなんて言えない......。』

 

 

 

 

そう仰っていたんです。その声は普段からは考えられないような弱々しい声で、その姿はとても小さかったんです。」

 

そう言うと時雨さんはフラッと身体を揺らしていました。

 

「その時私は悟りました。『90人近い艦娘と門兵さん、事務棟の方々、酒保の方々を引っ張ってきた提督がこんなにも弱々しいのか。』『いつも私たちの知らないところではこんな風になっているのか。』と。その時、提督が持っていらした本の事を思い出したんです。提督が持っていらした本は提督曰く参考書というもので、私たちでは到底理解できない高度な事を学んでいました。そして噂で聞いた『提督が学校に通っていたが、こちらの世界に来てしまった。』と。それらを結び付けた先に見えたのは......。」

 

「そうか......。」

 

時雨さんはここまで言って理解できたのかもしれません。あの時悟った私のようになっています。

 

「そして『帰りたい』という意味ですが、きっと家族や親せき、友人と引き離されて知らない世界で軍隊を指揮し敵を殺せと半ば強要のような形で鎮守府で指揮を執っていた提督の本音なのではないかと考えました。」

 

私はこの最後の言葉はどうしても言いたくありません。ですけど、これを言わなければ私をこの様な提督を困らせてしまう様な行動までさせるものになりません。

 

 

 

 

 

 

「そして、私は思ったのです。≪この提督の姿を見ては許されない、この様に提督を苦しめているのは紛れもなく私たち、艦娘なのだ。≫と。そして私たちが求めた提督の存在は求めてはいけない存在で、≪私たちはこれまで私たちの為に尽力してきた提督の将来をこの手で握りつぶしてしまったのか。≫そう考えたのです。」

 

 

 

 

 

そう言い切った瞬間、加賀さんが脂汗を額から流しながらガクガクと震え始めていました。そして時雨さんも加賀さんほどではありませんが、さっきから『あっ......あっ......。』としか言ってません。

この状況、私はあの光景を見て逃げ出して布団に潜った時の私と同じ状況なのでしょうか。私はそんな2人をどうする事も出来ませんでした。

聞こえているか分からない2人に続けて言いました。

 

「だから私は決めたのです。この戦争を一刻も早く終わらせ、帰る家のない提督の為に手を尽くし、最期まで提督の為に動き、傍に居続けると。」

 

そう言い切ると時雨さんは焦点の合ってない目で私を見つめて言いました。

 

「そんなの......。出来ないっ!?僕たちがあれだけ焦がれた提督が僕たちのせいで苦しんでいるだってっ?!僕たちが求めたから、僕たちが......提督から将来を奪った?!冗談だろう?......赤城っ!!?冗談だろうっっ!!!???」

 

そう言って私の肩を掴んで揺らしている時雨さんに私は溢れそうになる涙を堪えて言いました。

 

「冗談ではありませんっ!......提督が着任する時、私たちは置かれている状況全てを話し、その上で私たちの指揮を頼みました。......提督はその場で帰る選択を棄て、私たちの指揮をして下さるとおっしゃったのです。」

 

時雨さんはそう言うと私の肩から手を放しました。

 

「それなら提督は自ら自分の未来と捨てたとも言えるんじゃないかっ!?」

 

そう言って時雨さんは今度は目を腫らして私に怒鳴りました。

 

「いいえ......。」

 

もうここまで来てしまったら白状してしまおうと私は決め、それを言ってしまいました。

 

「その時、私たちは頼んだと言うより説得した、懐柔した、同情してもらったと言った方が正しい方法で提督に着任して頂いたんです。」

 

そう言うと時雨さんは座りなおし、私の目を見ました。

 

「私たちは嘗て人間たちに救世主と崇められ、その後に籠に囚われて戦争をさせられていると言ったんです。......汚いやり方で、提督の同情を誘ったのです。」

 

そう私は言って目を閉じました。

 

「結果論ですが、その時私は何も知らなかったんです。皆が楽しみにしている事を思い、私も指揮をして下さる提督を欲した、だから提督をどうしても鎮守府に迎えたかった。ですが、それはしてはいけなかった事なのです。」

 

目を開くとフラフラとしている加賀さんと目を真っ赤にしている時雨さんが居ました。

 

「だから、決めたのです。奪ってしまった物を私が返すことのできる精いっぱいのものを返すのです。この身が朽ち果てるその時まで......。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

フラフラしている加賀さんを正気に戻して、時雨さんの目の腫れが引いてから話を再開しました。

 

「ですからもう一度頼みます。どうか、手を貸してくださいっ!」

 

私はそう言って頭を下げました。いえ、土下座ですね。

 

「どうかっ!」

 

そう私が言うと顔を上げて下さいと加賀さんから言われました。

 

「私も......提督の将来を奪った一人です。私もやります。」

 

そう言って下さいました。

 

「僕も......同罪かな。やるよ。」

 

時雨さんもそう言って下さいました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

時雨さんは夕立さんにも声を掛けると言って下さいました。どうやら資料室に来た時点で分かっていた様で、『僕か夕立が居る事を狙ってきたんだろう?』と言ってました。

これで資金調達は問題なくなりました。秘密裏に資源を集めて売りさばき、資金にするのです。

それと、新瑞さんと一度話をしなくてはなりませんね。もう一度、大本営に送りましょうか。幸い、当分の間私と霧島さんが秘書艦なのでタイミングを見計らってやりましょう。

 




今回のシリーズからは3視点+αで行こうと思います。それぞれ赤城編、鈴谷編、金剛編とやりつつ、提督編も出そうと考えています。
それと、お気づきの方もいらっしゃると思いますが、近々第二章に入ります。どのタイミングで入るかはお楽しみに。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百九話  三つ巴③ 鈴谷編その1

 

やっと完成したよ。総督に協力を仰いでから早3ヵ月くらいかな?それまで毎日、『官給品』という名目で毎日の物資搬入時に受け取っていた部品も今取り付けたので最後。

 

「ふぃー!」

 

珍しくはないけど、やり切ったって感じだねぇ。

 

「さてと......もうこれはここでつけちゃおうっ!幸い、人が来ない上に荷物でいっぱいだからね。」

 

鈴谷はそれを持ち上げると、コンセントの近くまで運んで置いた。

 

「さてさて......ポチっとなっ!!」

 

コンセントを繋いだそれの電源ボタンを入れる。そうすると板に光が灯り、音が鳴る。

そう、鈴谷がコツコツと送られてきていた部品を組み立てていたのはパソコンだったんだよね。それも執務室にあるのより大きい奴。大きいからっていいものって訳じゃないらしいけど、まぁ情報収集には必要らしいじゃん?それに、無線通信?よく分からないけどパソコンに番号を打ち込んでどーのって奴も送られてきたからそれも繋げないと......。

 

「えぇっと......うーん(カタカタ)」

 

キーボードっていうのは操作がしずらいねぇ。やってみてわかるけど、提督はこれをカタカタと素早く打ち込んでいたから相当慣れてるんだろうね。

 

「おぉ!繋がったっ!!」

 

説明書(写真付き子どもでも判る解説)を見ながら順を追ってやっていったけど、まぁ早いね。もう終わっちゃったよ。

 

「終わったー!!」

 

こんなに早く終わるなんて鈴谷思いませんでしたっ!!

さて、情報収集を始めましょうか。総督からの手紙、といっても結構前の奴だけどそれにはマウスの右側を押してテキストドキュメントなるものを開くって書いてあるから順に進めて行こうかな。

まぁ簡単にできる訳で、最後のところまで来たよ。最後はインターネットに繋げて得たい情報を収集、写真や文章を片っ端から保存して纏める......らしい。まぁここまで色々順番にやってきたから、鈴谷に出来ない事はないよっ!

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

突然、思い出したんだけど、鈴谷が進水してすぐの時はこんなことを自分が始めるだなんて想像もしてなかった。

何処で訊いたかは覚えてないけど、鈴谷の中にある記憶では鎮守府に進水して深海棲艦を殲滅する事っていう使命があるってことだけど、それにおまけで運がよかったら提督が着任している。だけど、今までそんな鎮守府に進水した艦娘はこれまで戦いに赴いた艦娘の中で本当に『0』に近い数字だって事が鈴谷の中にあったんだ。

だから本当に驚いたんだよね。提督が居る鎮守府に鈴谷は進水出来たんだって。提督のいる鎮守府はとても楽しいらしく、皆が笑って過ごせて、棄てられる事も無いって鈴谷の中にあったから本当に嬉しかったんだ。

だから提督と仲良くなって、いっぱいお話して、遊んで、戦って、いつか終わるだろうこの戦争を生き残ろう、そう決めていたんだ。

 

 

だけど本当は違った。

提督は命を狙われ、世界の理に殺されるかもしれない。それに気付いたのは、いつだったんだろう。

鈴谷が提督の執務室を訪れたら、誰も居なかった。それは仕方ない、時間が時間だったからね。それで提督の私室が見たくなってこっそり扉を開いて覗いたんだよね。そうしたら提督は布団に居たんだけど、様子がおかしかったんだ。

多分悪夢か何かを見ていたんだと思う。うなされていて心配だったから見守る事にしたんだ。鈴谷はそうして提督の傍で様子を見ていたんだけど、時々提督が寝言を言っていたんだ。

 

『帰りたい......。』 『本当に俺で良かったのか?』 『本当にここから出られないのか?』

 

何時もの姿からは想像もできない言葉を寝言で言っていたのに鈴谷は衝撃を受けた。

鈴谷は提督が居て喜んでいたけど、提督は本当は違うんじゃないかって。そして提督着任のシステムを思い出した。提督は異世界から鎮守府に指令を送っていた存在で、一定の項目をクリアして艦娘の代表が提督をこっちに呼び出す力を手に入れる。そしてその力を行使すると、提督は異世界からこちらに転送されて鎮守府に現れる、と。

そして人間たちの様子を道徳的教育がなされている鈴谷たちはその時点で分からなくてはいけなかったんだ。

呼び出す力を行使して提督に着任してもらう事は『提督を家族や親せき、友人から引き剥がして戦わせる』ということに。

だから鈴谷は動き出したんだ。

提督を殺させやしない、最期まで生き残って終戦を迎えるんだ。そして戦争が終わった後、提督の傍にどこまでも居続けて提督が寂しく思わないようにするって。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

パソコンも使えるようになって、数分だけ情報収集をすると、鈴谷はパソコンの電源を切って違うことを始めるよ。

それは、パソコンの部品と一緒に送って貰っていたもの。

武器、それも人間が使う武器だよ。普段から20.3cmなんていうバカデカいのを撃ってる鈴谷からしてみたら豆鉄砲みたいな武器も人間の命を刈り取る道具になるからね。もしもの時の為に、提督に危険が迫っていて鈴谷が近くに居ればその危険を排除するんだ。

 

「うーん。重いなぁ。」

 

鈴谷は片手に拳銃を持ってるけど、すごく重いぃ。両手で撃つっていうことだけど、よく分かんないや。それに普段は弾を抜いておいてって総督の手紙に書かれていたけど、いざという時に使えないじゃん?だから拳銃を持ち歩くときは弾の入った、マガジン?ってのを一緒に持ち歩くつもり。

 

「うげぇ......これ更に重いじゃん......。」

 

鈴谷は拳銃を置くと、さっき届いた部品で最後だった銃。拳銃とは違って大きくて、撃つ弾もそれなりの大きさになった小銃ってのを持ってみた。すごく重くて長い。拳銃もそうだけど、名前は分からないけど、日本で使われているものじゃないらしい。よく分からないや。

 

「さて......弾込めて保管しておこうかね。」

 

そう呟いて鈴谷の見た先には小銃が6丁と拳銃が12丁転がっていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

そう言えば、鈴谷が普段何しているか分からないって聞いたから(※メタです)、少し何しているか教えようかな。

一日を追って説明するよ。まずは起床して身支度をしてからご飯を食べに行く。ここまでは皆と同じだね。それからは出撃のない鈴谷は提督が居るところが見える場所で提督を見てる。本当は秘書艦としてずっと隣に居たいけど、総督からの『官給品』とかあるし秘書艦をやれないという葛藤がっ!......ってのは置いておいて、昼まで『官給品』を受け取って組み立てたりして過ごして、昼ご飯は提督の時間に合わせて食べる。んで提督が出て行くまでテレビを見てる。

昼からは待機かな、特に何かしてるって訳じゃないけど本読んだり勉強したりしているかな。最近の出費がお菓子よりも筆記用具とかに消えてるが少し気がかりだったりする。夕方になったら提督と時間を合わせて夕食を食べて、提督が出て行くまでテレビを見る。

提督が出て行ったら一目散にお風呂に入って、提督が居るところが見える場所で髪を乾かしながら待機。

消灯になる前に一度私室に戻って、消灯してから同室の熊野が寝たのを確認すると居た場所に戻って待機。執務室の電気が消えたら執務室に入って、ソファーに座って待機。3時過ぎたら私室に戻って寝る。

 

(うーん。やってることがストーカーなんだよねぇ......。)

 

そう思ったけど仕方ないじゃん?

こうでもしなけりゃね。うん。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「ここに居いましたのね。探しましたよ。」

 

鈴谷が少し部屋を出ていたら熊野に話しかけられた。

 

「熊野じゃん。」

 

「まったく......いっつもどこほっつき歩いてるのですの?」

 

鈴谷があの部屋に入り浸るようになってからずっと熊野はこうなんだよね。世話焼きかっ!

 

「ん~?散歩だよぉ。」

 

「貴女雨の日もそう言いますわよね?」

 

「傘さしてね。」

 

熊野もいつもこう言うもんだから鈴谷だって言うもん!何してるかなんて知られたくないし、既に心配かけてるけどもっと心配させることになるからね。それに提督に知られたら不味いからね。一応、鎮守府というか大本営から艦娘には情報通信機系の所持は禁止されてるからね。パソコンとかダメなんだよね。勿論、火器の所持もダメだけど。

 

「んもうっ!その放浪癖は何とかなりませんのっ?!」

 

「あーあー煩いって。そうカッカしてるとお肌によくないぞぉ?」

 

こういえば熊野は黙るんだよね。面白い。

 

「かっ、カッカしてませんわ。......コホン。もう少し落ち着いて下さいまし。」

 

それを熊野が言っちゃうのかぁ。ブーメランだよ?

 

「気にしなーい、気にしなーい。それで?なんか鈴谷に用があったんじゃないの?」

 

そう鈴谷が言うと熊野は思い出したのか、目を輝かせた。

 

「甘味処に新しいスイーツが増えたんですの。一緒に食べに行きませんこと?」

 

スイーツねぇ。昔はそう言うの好きでよく行ってたけど、今となってはって感じだよね。ずっと部屋にいるし。機械触ってるし。まぁご無沙汰だからいいかもね。観察も別に最近なら少し離れてても大丈夫だと思う。

 

「いいよー。じゃあとっとと行きますか?!」

 

「はい!」

 

まぁ、たまにはいいよね。息抜きっていうか、そんな感じ?ずっと黙って提督の見えるところで待機してたら疲れちゃうし。でも必要なことなんだけどね。

 





鈴谷編でしたが、幸先既にヤバいですね......。
艦娘の協力者を付ける気無しですね。唯一あり得るのが熊野ですけどね。

なんだか途中で字の文が変なところがありますが、気にしないで下さい。
ほぼずっと一人行動の鈴谷の字の文は難しいですね。そう考えると金剛もだけど......。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百十話  三つ巴④ 金剛編その1

私はいつも着ている改造巫女服(※自覚アリ)を脱いで、私服を着ています。私たちのトレードマークとも言える電探カチューシャも外しました。特徴的なお団子ヘアー(フレンチクルーラー)も解いて、髪を下しています。

この姿をするのはお風呂に入る時か寝る時、この髪型で私服を着るのも新鮮ですね。

斯くいう私服も、酒保で買えるとはいえ着て行く場所がありません。提督がデートに連れ出してくれるなら張り切りますけど......。

 

「......よしっ!」

 

今から私は単身で鎮守府の外に出ます。目的は買い物。と言ってもお洋服や美味しい食べ物が目当てではありません。主に家電屋とホームセンターです。必要なものがあるんですよね。

 

「じゃあ、行ってくるヨ。」

 

「はいっ!お気を付けて!」

 

妖精さんたちはそう言って私を見送ってくれました。

私は完成していた穴から出ると、周りを見渡し、草むらから出ます。ちなみに出口を作ったところは門兵さんの巡回経路から外れているところです。草が多く、普通なら誰も立ち入りません。妖精さんはそこに偽装した道を作ってくれました。

私はそこをくぐって歩道脇の木の陰から出てきます。ここに出口を作ったもう一つの理由は、この歩道は人通りがほとんどないということです。何と言えばいいんでしょうか。取りあえず人間の通りがないんですね。

 

(ここを通って、道に出ましょう!)

 

私はキョロキョロと辺りを見渡して、カバンから地図を出しました。

酒保の本屋は探すところを探せば地図を見つける事は容易いんです。鎮守府周辺をピックアップした本を開いて、あらかじめ出口をマークしておいたところからラインの引かれた道を歩きます。

コツコツといつもとは違うヒールの音を楽しみながら大通りに出てきました。そこに広がっていたのは、私の中に点々とある『街並み』ではありませんでした。見たことのない車が沢山走っていて、歩道を行き交う人間たちは皆楽しそうにしています。

進んでいくと中心街でしょう、大きなビルが立ち並び、私と同じ年齢の女の子や男の子で溢れ、おいしそうなにおいを漂わせ、見たことも無いものが所狭しと並んでいました。

私はてっきり酒保がこの世界の全てだと思っていましたが、違いました。外の世界はこんなにも活気に溢れていて、皆が笑顔で、幸せそうにしています。そんな光景を見て私の中にうずめくモノが目を覚ますと思い、必死に堪えて、目当てのお店を探し始めました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

行き交う店に目を惹かれながら私はやっとの事でお店に着きました。お店の中には酒保では見たことのない家電が並んでいて、騒がしい音で思わず耳を塞いでしまいました。

 

「いらっしゃいませっ!.......って大丈夫ですか?!」

 

私があまりの騒がしさに耳を塞いでいると近くに居た店員さんらしき人に声をかけられました。てっきりこういうお店の全ては女の人が店員をやっているのだとばかり思っていましたが、違った様です。その店員さんの胸には名前の入ったプレートが付いており、そこには『大山』と書かれていました。きっと苗字なんでしょう。

 

「いえ、大丈夫デス。」

 

「そうですか?......何かありましたら声をお掛け下さい。」

 

大山さんはそう言ってニコッと笑うと離れて行きました。

てっきり絡まれるのかと思ってましたが、構え損ですね。

 

(騒がしさには慣れませんが、目当ての物を買いましょうか。)

 

私は店の奥へと進みました。

私の両脇を通り過ぎていく商品は最初は何か分からないものばかりでした。『スマートフォン』って一体なんでしょうか。ですが、その先に見えてくるものは分かります。『印刷機』です。ですけどここにある『印刷機』は全て『プリンター』って名前が書いてあって、何が違うのか分かりません。色合いでしょうか?

その次に目に入ってきたのは、執務室で提督が使っていたのをチラッと見ただけですが、パソコンです。『スマートフォン』と同じで何か分かりませんが、取りあえずすごいものだっていうのは分かります。

そして私の目当てのものが見えてきました。『ボイスレコーダー』です。その商品名から察するにそのままの意味でしょう。声を記録するものです。私は物を眺めてどれがいいか吟味し始めました。長時間録音できるものか、ポケットに入って且つ薄いものか......。

うーんと唸っているとまた声を掛けられました。

 

「何かお困りですか?」

 

そう言って声を掛けてきたのはさっきの大山さんでした。

 

「いえ......どれにしようかなと思いマシテ。」

 

本心だが、本当にどれにすればいいのか分かりません。まぁ私もどう使うかとか決めてないっていうか、使う場面はいっぱいありますからね。

 

「なら一緒に選びますよ?......お客様は何にお使いになるのですか?」

 

そう訊かれて私は唸りながら答えました。

 

「そうデスネー......言質を取ったりダトカ。」

 

「言質っ?!」

 

「部屋に置いておいたりダトカ。」

 

「それって盗聴?!」

 

「まぁ、情報収集ですカネ?」

 

何を驚いていたのか分かりませんが、そういうことができるものを欲しているのには変わりませんので。一緒に選んでくれるということなので偽っても仕方ないです。

 

「うーん?もしかしてお客さんって警察の方ですか?」

 

「エッ?!違いマスヨ?」

 

警察って門兵さんの原隊ですよね(※盛大に勘違いしてます)?、私は違います。

 

「じゃあアブナイ仕事をしてる方なんですか?」

 

危ないって(※再び盛大に勘違いしてます)確かに、危ないことしてますけど(※戦争の事です)危ない事にボイスレコーダーなんて使うんでしょうか?

 

「まぁ......そうなりマスネ。」

 

そう私が言うと大山さんは目を輝かせました。

 

「凄いですねっ!企業スパイですか?!女性スパイってカッコいいなぁ......。」

 

そう言ってるますけど、半分くらい何言ってるのか分かりませんね。ですけど、私はスパイじゃありません。

 

「スパイって......私、スパイじゃありませんヨ?」

 

「えっ?じゃあ何ですか?」

 

そう訊いてくる大山さんに私は言えるだけの事を言いました。

 

「ある人の為に、成すことがあってそのために必要なのデス。」

 

そう言うと大山さんは『そうなんですね』と言って真面目に探し始めてくれました。

 

「お客様?」

 

「何デスカ?」

 

あれこれと手に取って見ていると大山さんが声を掛けてきました。

 

「これなんてどうですか?薄くて小型、軽量です。」

 

そう言って大山さんが見せてくれたのは未使用の消しゴムくらいの大きさのボイスレコーダーだった。

 

「ある人の為に危険な橋を渡ったりするのでしょう?ならば相手にバレない大きさの方が良いと思いまして。」

 

そう言って大山さんは私の手のひらにそれを置きました。確かに軽量で、小さい。いつもの改造巫女服の袖に居れてても何ら違和感がありません。

 

「どれくらい持ちますカ?」

 

「うーんと......8時間ですね。」

 

「十分デス。」

 

私は大山さんにそのボイスレコーダー新品が入った箱を受け取ると、次の売り場を探し始めました。後で纏めて会計すればいいでしょうし。

次の目当ては『カメラ』ですね。

と言っても唯のカメラではありません。鎮守府でもあちこちに設置されている『防犯カメラ』という奴です。私が求める昨日は暗視機能と、モニターに繋げれるかですかね。モニターはこの後適当に選んで買いますが取りあえず『防犯カメラ』というか、『監視カメラ』的なものを探します。

カメラコーナーは基本的にデジカメやら一眼レフっていった酒保でも見掛けるものばかりでしたが、私が探しているものはある区画にありました。

 

「ありましたネー。」

 

誰も周りに居ないのでそう呟いてぐるりと見まわしました。色々なタイプがあるみたいで、小さいものや本格的なものまで色々と取り揃えていて、予想以上に色々ありました。

 

「ウーン......色々ありますネー。」

 

そう言ってあれこれと見ていると、やはり誰かは声を掛けてくるみたいです。

 

「お困りですか?」

 

今度は女性の店員さんが声を掛けてきました。

 

「お困りと言うか、モニターに繋げれるのは無いかなと思いマシテ。」

 

そう私が説明すると分かったみたいなのか、私が見まわしていた棚から1つだけ引っ張り出してきた。

 

「これなんてどうですか?見たところお客様はまだお若い様で、備えて設置されるのでしたらこれがよろしいかと。」

 

そう言って店員さんが見せてきたのは私的には無いかなって思ったものでした。だって、そのカメラ室内用じゃないですか。

 

「イエ......屋外につけるのでそれはチョット......。」

 

そう私が言うと店員さんは箱を元に戻して考え始めました。そしてすぐに私に質問してきたのです。

 

「用途は......やはり防犯ですか?」

 

「防犯......言い得て間違ってマセンガ、そんな感じデス。設置場所は屋外デスネ。雨と潮に強いのをお願いシマス。」

 

そう私が言うと、店員さんは首を傾げました。

 

「雨なら分かりますが、潮ですか?潮って海の?」

 

「ハイ。」

 

私がそう答えると店員さんは『この辺なら大丈夫だと思いますよ』と言ってくれました。そこで私は暗視機能のあるのを探して、手に取りました。

 

「これはモニターに直接繋げれマスカ?」

 

「はい。付属のケーブルで直接繋げる事が出来ます。」

 

そう答えてくれたので私は防犯カメラの売り場から少し離れて、さっき通り過ぎた時に見つけた『小型カメラ』を見始めました。これは使えるかもしれない、私はそう思って1つ手に取って見ました。それは実物大のレプリカの用ですが、さっきボイスレコーダーで見たものとほぼ同じサイズでしたのでこれは使えると思い、小型カメラのコーナーを見て回って一番小さいものを手に取りました。

これでモニターを適当に選んで、一応家電屋での私の目的は達成です。

 

「合計で○○○○○円になります。」

 

そう会計の人が言うので少しギョッとしましたが、お財布から万札を数枚出してお釣りをもらい、家電屋を出ました。

私の片手には中々に大きい紙袋が下げられており、モニターに関しては後で取りに来ると伝えておきました。配送してくれると言われましたが、場所が場所です。バレたら一巻の終わりですからね。重くても自分で運びます。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

一度荷物を置きに入口に戻り、地下の部屋に戻ってから荷物を置いて、また上がると、モニターを受け取りに更に家電屋に戻って、また鎮守府に戻ってをしました。モニターは重たく、運ぶのに苦労しましたが、これも目的の為です。頑張って運び、今度はホームセンターに行きます。

ホームセンターでは足りなくなった造花とスコップ、塩ビ管やら色々と買い、入り口から地下の部屋に持ち帰りました。

用途はですね、造花は監視カメラの偽装に使います。スコップと塩ビ管ですが、水を通したり、トンネルの側面に溝を掘って入口から入ってくる水を誘導して排水します。排水するところはですね、適当に大きな穴を掘ってそこに溜めましょうか。そのためにスコップを買ったんですからね。

 

「サテ。買い物も終わったことダシ、着替えて戻りマスネ。妖精さんたちも組み立てありがとうございマシタ。」

 

「「「「「どういたしましてー。」」」」」

 

私は何時もの改造巫女服に着替えると、私服は地下の部屋の机の上に畳んで置いて鎮守府の敷地内の穴から出ました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私が何故こんな事を始めたかまだ言ってませんでしたね。

始めたのは、鎮守府に進水して数日経った時の事です。私たちは元の記憶に『提督が居た場合、その提督は異世界の人間だ。』という事は知っていました。それに関しては誰もが知っている事です。暇な時、ふとその事を考え始めました。提督が異世界からの人間だって言うことは知っています。ですけど、何故この世界から元々生きている人間が提督をやらないのかという疑問が頭に張り付きました。建造後の鎮守府の案内の時に、案内してくれた白雪が言ってました。『今の鎮守府の体制は、初めてこの世界に現れた艦娘たちが人間と決めた取り決めです。ですけど途中で人間の良いように書き換えられてしまいました。』と。誰もが聞かされることで、勿論白雪も聞いたそうですが他の艦娘はこれを訊いて人間に憎悪を抱くと白雪は言いましたが、私は違ったんです。『書き換えられて、その結果異世界の人間が提督になるのか。』と。

その時はそれを考えること自体、タブーだと思ってましたが、日に日にその考えが頭の中を駆け巡り、私の思考をそこに押し止めてしまっていたんです。そして、遂にその事を考え出した結果、行き着いた答えは『異世界の人間だったなら、提督は望まない意思でここに存在しているのではないか。』と。

だから始めたんです。

私は今、提督に指揮を頼み、提督の指揮の下で海域を奪回していますが、機を見計らって私はこの鎮守府から提督を連れて逃げ出すことを計画しています。それは望まれない事だと言うのは分かっています。ですけど、提督が自分の意思とは無関係な事に巻き込まれていく姿は見てられないんです。ですけどそれだけでは私はこのような事を始めるまでには至らなかったんです。

 

私を突き動かしたのは『近衛艦隊』、事実上壊滅したと言ってもいい非正規艦隊での出来事。

艦娘の間では『提督への執着』が強い艦娘で構成され、提督に降りかかるもの全てを敵とみなし、排除するというような話が噂されていますが、まぁそれも間違ってはいません。実際、提督に降りかかるものは提督の望まない意思で起き、無関係な事ばかりでしたからね。本当の『近衛艦隊』は......

 

 

 

 

「提督を終戦まで守り続け、提督の世界へ返す。」

 

 

 

 

これを目的としていました。ですけど、事実上の活動は全て提督の身辺警護でした。『近衛艦隊』が壊滅した今、私がしなければならない事は、私個人の力で提督を生き長らえさせ、深海棲艦を殲滅し、提督のいた世界へ返す事です。

今はそれを目的としていますが、何か足りないというか分からないような気がしてならないんです。ですけど、何が分からないのかすら分からない。ですからこうやって思いつく限りのことを始めているに過ぎないんです。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

本部棟に入った私は何時もの様に提督の顔を見に執務室に向かいます。

最近は霧島が居ますし、人当たりの良い赤城も居ますから行きやすいんですよね。これまではローテーションで秘書艦が決まってましたが、提督が出した戦闘停止がこうも良いように働いてよかったと思います。

今日も提督に会って、話をするんです。私の考える足りないものを見つける為に......。

 

「ヘーイッ!提督ぅー!!ティータイムしヨー!!」

 

私はそう言って執務室の扉を開きました。

 




ぬおぉぉぉぉぉ!!!

第一話が投稿されてから長らく見て下さってる読者様ならお分かりになると思いますが、始めた当初は、こんなシリアス満載のものにする予定はなかったんですよっ!(怒)
何故こうなってしまつた......自分の魂が『シリアスにしろ~シリアスにしろ~』と訴えてきて、それに従ってしまったのか?!
と言うのが、最近の悩みでございます。
いや、本当に初期から読んでくださってる方々も多分思ってると思いますけどね......。
もう軌道修正は出来ないので、このまま取りあえず第一章を完結させないといけませんね。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百十一話  三つ巴⑤ 提督編その1

 

夜も更け、消灯時間が刻一刻と迫っている9時半頃。

俺は秘書艦の霧島が真剣な眼差しで俺の合図を待っていた。

 

「赤城?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「もう休んだらどうだ?今日も『特務』を頼んだしな......。」

 

「お気遣いありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます。おやすみなさい。」

 

赤城は最近、自分で持ってくるようになった筆記用具とノートを脇に抱えて執務室を出て行った。

 

「さて......。」

 

俺は椅子の腰掛に思いっきり体重を預けて霧島を見た。

霧島は隠していたのか、ファイルが入っている棚からノートを引っ張り出した。

 

「今日までで分かっている事を報告させていただきます。」

 

霧島はそう言ってノートを開いた。

ちなみに赤城が帰ったのは確認済み。霧島が赤城が出て行ってから少しして、廊下を見たからだ。

 

「始める前に艦娘を呼んでいます。もうそろそろ来ますよ。」

 

そう言われて誰だろうかと待っているとほんの1分で足音が聞こえ、執務室の扉が開かれた。

 

「ども、青葉です。」

 

青葉はそう言って入ってくると扉を閉めて、霧島の横に立った。

 

「前回の写真から青葉さんには『内偵』をしてもらってます。今日は一定数の成果が挙がったのでその後報告を。」

 

そう言った霧島に合わせて青葉は俺の前に写真を並べた。

その写真はどれも草、木、雑草......その辺の野にでも入ったのだろうか。

 

「現在、金剛お姉様が作りましたトンネルの入り口を調査中です。詳しい事は青葉さんから。」

 

「はい。ではひとつずつ説明させていただきます。......先ずはここ2、3日の金剛さんがここらをうろつかない時間帯を狙って入り口を捜索しました。結果は見ての通りです。写真で撮った地図を頼りにその辺りをくまなく調査しましたが、入り口らしい入り口はありませんでした。かなり巧妙なカモフラージュを施していると思います。」

 

そう言って青葉は写真を纏めた。

それに合わせるかのように霧島はノートを見た。

 

「それと同時進行で『親衛艦隊』幹部に協力を要請、聞き込み調査を開始しました。結果、金剛お姉様に関しての情報は『軍手を持っていた。』との情報ありです。それと私の方で確認しましたが、お姉様の手のひらにかなり重いものを長時間持っていた形跡があり、財布から数万円が無くなっていました。使った物も不明です。」

 

霧島がそう言うと青葉はバツが悪そうな表情で言い始めた。

 

「調査中、金剛さんに見つかりそうになりました。が、身を隠したことでバレずに済みましたが、いざ出てみると忽然と姿を消しました。あのあたりに入り口があるのは確実です。」

 

「続けて。」

 

俺はそう言って霧島に続きを話すよう指示した。

 

「次に赤城さんですが、赤城さんは金剛お姉様や鈴谷さんよりセキュリティが甘いがゆえに情報を多数手に入れました。」

 

「こっちも青葉が説明します。」

 

そう言って青葉はまた写真を広げた。

 

「赤城さんはどうやら加賀さんを仲間に引き込むことに成功した様です。そしてその後、資料室に向かい、時雨ちゃんと接触。赤城さんと加賀さんの私室に入りました。青葉は話の内容を聞くためにダクトから押し入れの天井裏まで行きましたが、時雨ちゃんに発見されて追い返されちゃいました。」

 

そう言った青葉はしょんぼりした。

 

「バレたんですかっ?!......ですけど今の状況を見るとあまり問題視されていない様ですね。」

 

「はい......それでそこまでの会話内容から判断しますと、赤城さんの口調や表情から深刻な話をすることは明確でした。」

 

そう言って青葉は1枚の写真を俺に突き出してきた。それは赤城と加賀、時雨が目を紅くしている写真だ。

 

「これは?」

 

「隠し撮りです。赤城さんと加賀さんの部屋から出てきた時のものです。状況から察するに涙を流す深刻な話だったということですね。」

 

青葉は写真を纏めると続けた。

 

「その後、時雨ちゃんを尾行。夕立ちゃんと接触しましたがいつもの様子でしたので、尾行を中断しました。」

 

そう青葉が言い切ったのを訊いた霧島は溜息を吐いた。

 

「最後、鈴谷さんです。......鈴谷さんの情報は全く掴めません。日中どこに居て何をしているのかさえです。鈴谷さんと仲が良く、監視を続行している熊野さんでさえも全く分からないそうです。」

 

霧島がそう言うと青葉が割り込んだ。

 

「1つだけ鈴谷さんの情報を入手しました。これは『親衛艦隊』の聞き込みからではなく、間宮さんからによるものですが、『朝の補給物資搬入中に近くで鈴谷さんをよく見かける。』とのことです。ちなみにその時は鈴谷さんは必ずと言っていいほど、箱を持っているそうです。中身は不明です。」

 

何故箱なのだろうか。というか、その箱には何が入っているのだろうか、気になった。

 

「成る程......情報収集を続行せよ。優先するのは彼女たちのこの一連の動きの目的だ。」

 

「「了解。」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

青葉が出て行って霧島だけになると俺はさっき青葉が居る状態では言えなかったことを言った。

 

「なぁ、霧島。」

 

「はい。」

 

「俺は赤城たちの考えている事が分からない。いきなり何を始めたのかと思ったし、何をしようとしているのかも分からない。......だから俺は赤城たちに何をしているのかと言及する事すらできないでいる......。」

 

そう言って霧島を見た。

 

「私も同じです。お姉様が何を思って始めたのか、目的は何なのか、私はそれが知りたいです。ですが......。」

 

「?」

 

霧島はどもった。

 

「ですが、私はあの3人は方向性は違えど同じ目的をもって行動しているのではないかと思います。」

 

そう言って霧島は秘書艦の椅子に座った。

 

「ここの席、秘書艦の椅子はお姉様が変わられる時まで、座りたがっていた椅子です。『提督の傍で働きたい。』、『提督の執務するところを見てみたい。』、『提督に頑張ったなって褒められたい。』そう仰ってました。ですから提督の都合も考えずに秘書艦にして欲しいと頼んでいたんです。ですけど金剛お姉様は変わられてしまった......。異変は地図を眺め始めた時からです。最初は気にも留めませんでしたが次第に見る地図が私たちでは把握しきれていない鎮守府の施設の細部に渡る地図に変わり、最後は自分で書き始めました。いつもティータイムをしている時間でも、提督の執務室に訪れる時間になっても、金剛お姉様は地図を書き続けていたんです。」

 

霧島は珍しくメガネを外して置いた。

 

「そして地図を書かなくなると、今度は姿を眩ますようになりました。明るく、人懐っこく、皆を引っ張っていくお姉様は何時しか一人でどこかへ行ってしまった様に感じました。」

 

俺は姿勢を崩した。

 

「そこまで人柄を変えてしまう程の強い目的意識があっての行動......これは赤城さんや鈴谷さんにも見られることです。赤城さんはいつもニコニコしていて皆から慕われ、だけど結構お茶目で偶に提督に叱られて......そんな赤城さんが何かに囚われたかのように変わり、遂に加賀さんや時雨さんにまで同じものに囚われてしまった。鈴谷さんは進水当初は私たちが演習でよく相手になって貰ってました別の鎮守府の鈴谷さんのような活発で皆を楽しませてくれる、そんな鈴谷さんだったのに今ではどこかへ忽然と姿を消す、そしてどこに居るのか分からない、そんな風に変わってしまったんです。」

 

そう言って霧島は机に視線を落とした。

 

「......金剛お姉様と鈴谷さんには共通点があります。『近衛艦隊』で唯一、懐柔が出来てない艦娘です。豹変したのがその2人なら私たちは目的が絞れましたが、豹変したのは赤城さんも同じでした。赤城さんは『親衛艦隊』実質首領、私たちの親玉です。そんな赤城さんが壊滅した『近衛艦隊』の2人と同じようになってしまった......。」

 

霧島は変わらず机を見続けている。視線を上げようとはしなかった。

 

「提督には伏せてましたが、良い機会です。」

 

そう言って霧島は顔を上げた。

 

「赤城さんは『親衛艦隊』でありながら、『近衛艦隊』首領並みに『提督への執着』が強いんですよ。これまで様々な事件に巻き込まれ、その度に本能で提督の害を消そうとしたはずですが、赤城さんは理性でそれを抑えていたんですね、きっと。ですけど、今の状況から見るに赤城さんに理性が働くとは思えません。......こんな時に提督の身に何か危険が降りかかれば、横須賀鎮守府所属空母最強の赤城さんの高練度の艦載機群と『特務』で得た突飛な航空戦でどうなってしまうんでしょうね......。」

 

霧島は遂に机の上で腕を組んで伏せてしまった。

 

「私たちはどこに向かっているのでしょうか?......そう考える事が多くなりました。人柄が豹変したお姉様に鎮守府最強空母も人柄が豹変、明るい重巡は何処へ消えてしまい、遂には加賀さんや時雨さんまでそうなってしまうかもしれない......。凄く怖いんです。」

 

そう言った霧島の頭に俺は手をポンと置いた。

慰めっていう訳ではない。霧島にとって気休めになるか分からないが、せめて俺ができる事だ。

 

「......大丈夫だ。きっと3人とも帰ってくる。」

 

俺はそう言って手を動かした。左手の指の間を霧島の髪がすり抜けて行く。

 

「どーせまた金剛は『ヘーイっ!提督ぅー!秘書艦をいい加減私にするのデースっ!』とか言って来たり、赤城が特務失敗して俺に叱られてる姿を見たり、鈴谷が元気に誰かと遊んでいる姿を見せてくれるさ。」

 

そう言ったはいいものの、俺も不安だったりする。あの3人の事を鑑みると、他の事には目もくれずに何かをしようとしているということは、何かがあるということだ。これは紛れもない事実であって、それはとても重大な事。それぞれが何かを思って殆ど誰にも相談せずに動いているというのならば、せめて俺は外から来るお叱りを受けるだけはしよう。そう決めたのだ。

 





すっごい詰まった内容になってしまった......。矛盾点もあるかもしれませんがご勘弁を......。久々の提督視点でしたけど、やっぱりこっちの方が書きやすいですね。これが今回から4回周期で回ってくるって考えると、結構疲れそうです(汗)

Twitterで本作の速報をツイートする専用アカウントを作成しました。『しゅーがく』と検索して頂ければそれらしいものがヒットすると思うので是非是非お願いしますっ!
まぁ大体は執筆中の愚痴だとかどうでもいいことを言ってると思いますけどね......(爆)

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百十二話  三つ巴⑥ 赤城編その2

「提督っ!」

 

私は執務が落ち着いたところで提督に声を掛けました。

 

「ん?なんだ?」

 

背伸びしながら応えて下さる提督に私は進言します。

進言すると言っても嘘を吐くんですけどね。始めて真正面から嘘を吐きます。これまでは間接的に色々として提督から大目玉食らったことがしばしばありましたが、この嘘はいつもみたいな嘘でなく、本気の嘘。言ってて意味が判りませんが、必要な嘘なんです。

目の前の提督の為に......。

 

「執務も終わり、私も手持無沙汰になってしまったので『特務』に出てもいいでしょうか?」

 

言ってしまいました。

『特務』。艦載機の適切な運用法や、効率の良い迎撃方法や攻撃方法などを模索する任務です。提督は私に対して『特務』と称して普段しない任務を私に任せます。これは信用から私に頼んでいるらしいのですが、今回はすみませんっ!信用を裏切るような真似を......。

 

「いいぞ。編成は任せる。赤城の好きなようにするといい。」

 

そういつも仰ってくれます。

ですので私はいつもの出撃編成表を1枚取ると、ボールペンで名前を書き込んでいきます。旗艦に私、随伴に加賀さん、時雨さん、夕立さん。夕立さんに関しては時雨さんからの連絡で協力を取り付けたとの事なので編成に加えました。

 

「ん......おい赤城。」

 

提督は出撃編成表をご覧になるとすぐに私にそう声をお掛けしまた。

 

「はっ、はい。何でしょうか?」

 

私はいつものように出て行けるとばかり思っていたので後ろを向いていた姿勢から、元に戻しました。

 

「随伴艦はこれでいいのか?」

 

そう提督は私に尋ねてきたのです。

 

「はい......今回は護衛が少数の場合を想定してでの『特務』です。今までの問題点を引き出します。」

 

「そうか、分かった。」

 

何とかその場を繋ぎ合わせる嘘を言えました。我ながら良く思いついたと思います。こんな理由、ポンポン言えたらいいんですけど......。

 

「では行ってまいります。」

 

私はそう言って執務室を後にしました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

海上に出た私たちは資源の採る事が出来るポイントを転々とし、資源を回収して回りました。

普通は駆逐艦や軽巡洋艦が運びますが、今回は私たちの艤装を利用しました。空母の艤装、格納庫には空きスペースがいくつかあるんです。そこに資源を入れたドラム缶を積み上げます。スペースの面積的には時雨さんや夕立さんが運ぶよりも遥かに効率がいいはずです。

私たちはそうやって弾薬以外の資材を集め、途中で高速建造材や開発資材を拾ったりしながら燃料ギリギリまで回って帰還しました。

私たちの『特務』は一応、提督への報告はするのですが、何時でもいいということになっています。ですので、埠頭に着いてから私は加賀さんと時雨さん、夕立さんと一緒に私の艤装の格納庫に並べてある資材を見に行きました。

 

(こんな量......凄いですね。)

 

私たちの眼下に広がったのは壁が見えないドラム缶の山です。それぞれに何が入っているのか分かるようにラベルが貼ってありますが、多すぎて数える事が出来ません。

 

「赤城さん、資材はどうしますか?」

 

そう私の耳元で言ったのは格納庫妖精さんです。資材の搬入を頼んでいた妖精さんです。

 

「艤装から下ろして、埠頭の目の前の林にある小屋まで移動させます。ですが、私が良いと言うまで始めないで下さいね。」

 

私はあまりの資材の多さに小屋に入りきるか不安になりましたので、小谷の大きさを確認しに行きました。

小屋は私と加賀さんの私室ほどの大きさで、平屋、一部屋。とてもじゃありませんが、あの資材を置くスペースがありません。

どうしましょう......。

 

「ここが小屋なんですね......。」

 

ついて来ていた加賀さんがそう言いながら見渡しています。

 

「アレを仕舞うには狭いわ。」

 

そう言って加賀さんは小屋にあった椅子に腰を掛けました。

 

「......確か工廠に隣接する格納庫。富嶽とかが入っていたところは?」

 

「もう取り壊されてます。」

 

大量に資材を手に入れたのに、保管場所がなくなってしまいました。

私は考えを巡らせます。吹雪さんが持っているファイルみたいに詳細には覚えてませんが、まだ鎮守府には手つかずの施設があったはずです。

 

「......警備棟、警備棟はどうかしら?」

 

加賀さんはそう言って立ち上がりました。

 

「警備棟?あそこは門兵さんが......。」

 

「いえ、地下牢です。一度入ったことがありましたよね?」

 

「はい。」

 

加賀さんは説明してくれました。

加賀さん曰く地下牢は鎮守府が鎮守府として機能する前からあるらしく、今使っている地下牢は一部に過ぎないということです。

そして使われてない地下牢があるといいます。

 

「使われてない地下牢......ここの地下にありますよ。たぶんですが......。」

 

そう言って加賀さんは小屋の中をウロチョロし始めました。そして何かを見つけ、開くとそこには大きな階段がありました。たぶんここが地下牢の入り口なんでしょう。

 

「地下牢は私たちがこの鎮守府を使い始める2年前くらい前までは海軍の人たちが管理していたので、そこまで汚れていないはずです。」

 

そう言って加賀さんは階段を下り始めました。私はそれを慌てて追いかけていきます。

中は薄暗く、少しじめっとしています。少し進むと加賀さんは立ち止り壁を触り始めました。そうするとパチッと言う音と共に電気が着き始め、廊下を明るく照らしていきます。

 

「おぉ......。」

 

「やりました。」

 

加賀さんは自信気にそう胸を張っています。

 

「ですけど加賀さん?」

 

「はい。」

 

「どうしてここの事を知っていたんですか?」

 

私が単純に思ったことです。こんな施設の存在は吹雪さんの持っていたファイルにもありませんでした。しかももしこの施設を知る事が出来るのだとしたら、秘書艦として提督の執務を手伝う他ありません。

 

「ここは『近衛艦隊』の会議場所でした。最も、今は開かれてませんけどね。」

 

そう言って加賀さんは地下牢の一つの牢の中を指差しました。そこにはすのこの上に茣蓙が敷かれ、その上に机が置かれていました。

 

「そうなんですか......。かつてのメンバーがココに来ることは?」

 

「ありませんね。私物を置いて行くことは禁止されてましたからね。それにこんなじめっとしたところに好んで来る様な娘はいませんよ。」

 

そう言って加賀さんは戻り始めました。

階段を上がり、小屋から出ると私と加賀さんは私の艤装に戻り、妖精さんに伝えました。

 

「埠頭のすぐそばの林の中に小屋があります。そのなかにある階段を下って行ったところにお願いします。」

 

「分かりましたっ!」

 

妖精さんはそう言って作業を始めました。妖精さんが作業を始めると、ドラム缶は次々と運び出されていきます。

今説明しておきますが、鎮守府には妖精さんが通る専用の道があります。そこは私たち艦娘や人間には見えないところにあるとのことです。場所は教えてくれませんでした。

底を使って運ぶことで、不審に思われる事無く運び込むことができます。

 

「それにしても凄いね。」

 

時雨さんは妖精さんが運んでいく姿を見てそう言いました。

 

「あんな大きなドラム缶を運び出すなんて......。」

 

どうやら感心していた様です。多分この場に居る全員が同じことを思っているに違いありません。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は資材の運び出すのを見届けると報告の為に執務室を目指していました。その最中、艦娘の中でも珍しい色の髪を靡かせている鈴谷さんを見ました。

進水当初は鎮守府のあちこちで見かけると評判だった鈴谷さんも今では誰もどこに居るのか分からない様になってしまいました。提督の秘書艦として就いている特典として提督とお食事を共にする際はよくというか毎回見かけますが、それ以外で見たことがありませんでした。

私は好奇心で鈴谷さんの背中を追い始めました。

鎮守府を迷うことなく歩き、私が始めてくる区画に入りました。ここは鎮守府として機能する以前に使われていたところです。今では物置や捨てるに捨てれない機密文書が山積みになっているという風の噂の区画です。

そこで鈴谷さんはある部屋に入りました。そこには『第三会議室』と書かれたプレートが掲げられています。きっと会議室として使われていた部屋なんだろうと思ったのと同時に、何故こんなところに鈴谷さんは来たのかという疑問が芽生えました。

普通に秘書艦としてでもここの区画は使わないというのに、普通の艦娘がここに一体何の用なのだろうか。私は直接訊こうかと思いましたが、何かが引っかかり私のその行動を阻害しました。心の奥底で『駄目』と言われているような気がしてならないのです。

私はここまで来たルートを覚えながら執務室を目指しました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夕食の時間。私と霧島、提督で食堂に入りました。提督はテレビを点けなければならないということなので、食堂が動き始める時間に合わせて入ります。大体いつも5時くらいです。この時間になると、テレビを見に来る艦娘たちでテレビの前はあっという間に埋まってしまいます。駆逐艦から戦艦まで、鎮守府に居る艦娘の大体半分はこの時間に来ています。

 

「はぁ~。夕方のこの時間帯ってニュースが結構面白かったりするんだ。」

 

そう言って提督は『最近、コーヒーやめてるから』とか言って緑茶を飲んでます。唐突に言い出したのでよく分かりません。

それよりもテレビの前の群衆に混じっている珍しい髪色、鈴谷さんが目に入りました。鈴谷さんは中列、椅子に座りながら見ています。熊野さんと話しながら見ている様ですが、『第三会議室』に入っていった時の鈴谷さんの様子は見えませんでした。とても楽しそうにしています。

 

「あっ、提督。お疲れ様ですっ!」

 

後発組というか、わざわざテレビの前を陣取らなくてもいいと言って後から来た榛名さんと比叡さんは食堂を見渡しました。

 

「金剛お姉様はいらっしゃいますか?」

 

困った顔をしている榛名さんに提督はテレビの前の群衆を指差しました。

 

「あそこの前列だ。......全く。」

 

そう言って提督はこめかみを抑えます。これも毎日3度は行われることです。

そうです、この後霧島さんが立ち上がって、金剛さんを列から引き出すんですよね。ほら、霧島さんが立ち上がりました。そしてテレビの方に行き、列に分け入って入ると、いつもの悲鳴が聞こえてきます。

 

「ひえっ!霧島ぁー!離すデースっ!!」

 

「いいえっ!毎回毎回やらせないで下さいよっ!!」

 

「まぁ、見たいものは見れたのでいいんですケド。」

 

そう言ってこちらに戻ってくるんですよね。もう結構な数を見ました。今のを見ていて思い出しましたが、一度だけ提督が金剛さんを引き出しに行った時があったんですよね。その時の金剛さんの言い訳が......『てっ、提督ぅ?!わっ、私は金剛型駆逐艦 一番艦の金剛デースっ!......はぇっ?そんな図体デカいって酷過ぎデースっ!!』というのだったんですけど、こっちで訊いていて結構微笑ましいものでした。流石に言い訳を聞いていた霧島さんと榛名さんはぽかんと、比叡さんは『そうですよっ!私たちは駆逐艦ですよっ、司令っ!』って仰ってもう何が何だか.......。

そんな事を思い出していると、提督の席は何時もの陣形になりました。提督の両脇に私と霧島さん、正面に金剛さんと比叡さん、榛名さん。それで私と霧島さんと比叡さんと榛名さんの空いている方の席は取り合いになります。これのファイトもなかなか面白いものです。

 

「提督ぅ。相変わらず戦闘停止デスカ?」

 

金剛さんは肘をついてそう言いました。

 

「まぁな。艦隊の要である航空戦に置いての戦術構想を練ってる最中だ。......だが赤城たちは時より戦術構想の為に残党掃討戦をしているぞ?」

 

そう提督が説明されると金剛さんは口をツーンと吊り上げました。

 

「確かに航空戦は艦隊の要デスケド......。」

 

金剛さんはそう提督に訴えました。

 

「だろう?基盤と応用が出来上がるまでの辛抱だ。それからは新戦術を用いた機動部隊で海域奪回を狙う。」

 

「そうですカー。.......水上打撃部隊......。」

 

どうやら金剛さんは不貞腐れてしまった様です。

私はそんな光景を眺めながら緑茶を飲んでました。寒いこの季節には丁度いいですね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

早朝。いつも目を覚ます時間よりも遥かに早い時間に起きてしまった私は、本を読むために部屋の電気をつける訳にはいきませんでした。そこで私は昨日の昼に見た『第三会議室』に行ってみる事にします。艦娘寮からそこまでは10分くらいです。寝起きの散歩には丁度いいでしょう。

棟内でも冷え込み、私の口からは白い息が吐きだされています。階段を上がり、廊下を進み、『第三会議室』の前まで来ました。今の時刻は午前4時半ごろ。まだ暗いです。

私は意を決して扉を開きました。

 

(うわぁ......段ボールだらけですね......。)

 

『第三会議室』の中は見事に段ボールだらけでした。多分この段ボールの殆どに捨てる手段のない機密文書があるんでしょうけど、今の海軍にとっては機密文書では無く唯の紙切れにすぎませんけどね。ここに置いてある書類は全てここが鎮守府として機能する前のものですからね。ですけど一応機密文書ですので、こういうあつかいなんでしょう。

私は段ボールを眺めながらそこそこ広い部屋を歩き、入り口に戻ってきました。

巡り歩いてもあるのは段ボール、段ボール、段ボール......段ボールだらけでした。一体鈴谷さんはここに何の用があったのでしょうか。暇だからと言ってここにある不必要な機密文書でも見ているのでしょうか。

私は段ボールくらいしか見当たらないこの部屋を出て行きました。この段ボール部屋を巡るだけで30分くらいかかりましたからね。いい時間ですし、執務室の暖房でもつけておきましょうか。

私は『第三会議室』から出ました。

 




いやぁ......今回はヒヤヒヤものでした。はい......。
多分『遂にかっ!?』思った方がいらっしゃったかもしれませんが、残念です。まだまだですよ(ゲス顔)
これはかなり引っ張ると思いますよ。なにせ4人も視点があるわけですからね。これまでの本編では時折挟んでいた視点移動ですが、今回は本格的ですからね。

そして鈴谷が入り浸っている部屋は『第三会議室』という名前でした。

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第百十三話  三つ巴⑦ 鈴谷編その2

 

パソコンってのは便利だよねぇ。すぐに知りたいことが調べられるってのがこれまた良い!と、わざわざ送って貰ってこんな使い方をするためのものじゃないんだけどね。

鈴谷がパソコンを使うのは調べるためって言ったけど、具体的には国内の情勢とか世論、最近の話題なんだよね。えっ?そんなのテレビで見ろって?テレビで調べきれないからこうしてるんじゃん。

国内情勢やら世論やらって言ってるけど、殆どは鎮守府や艦娘、深海棲艦に関する事なんだよね。鈴谷たちとは違う目線ではどう映ってるのかってね。

最初に言っておくけど、調べれば調べるだけはらわたが煮えくり返るかと思ったよ。

何故かと言うと例えば鎮守府だったら......『各地に点在する鎮守府では毎日ひっきりなしに出撃をしているようですが、出撃回数の割に海域の解放が順調で無いように思えます。』、『知能レベルの低い相手にどれだけ苦戦しているのだろうか。』、『税金と資源の無駄遣いなんじゃないのか。』、『金と資源を海に捨てている様なものだ。』といった感じなんだよね。勿論、『貿易拠点の設営に成功。貿易がより活発に。』、『怯まずに挑み続ける鎮守府。海の平和はもうすぐそこまで。』みたいなのもあるんだけど、圧倒的に多いのは否定的な意見かなぁ?

艦娘についても結構挙がってたよ。『特殊能力で機械を出し入れできるとか意味不www』、『あんな女、子どもが本当に戦争している様には思えない。』、『狂言なんじゃないか。精神障○者の集まりなのでは?』みたいな他の関係ない人を侮辱するようなこともあった。他には『軍の開発した愛玩製品の実験体。』、『人造人間みたいな?』とかいうのもあったし。

深海棲艦でもまぁまぁあったね。でも驚きだよ。まさか『深海棲艦って何?船?』とか『どっちが敵で味方か分からないwww』、『戦争してるの?いつから?』と言ったのが多かった。というか大半だった。

そして一番鈴谷を怒らせたのが提督の事。『横須賀鎮守府が最近一般公開するようになって行ってみたけど、提督やっぱガキだったし。』、『あんなんが指揮してるとか意味分からない。』、『あれだけ税金と資金を使い込んで鎮守府は大きくしてるみたいだけど海域奪回が全然進んでない件。深海棲艦って拳銃でも死んじゃうらしいけどw』......提督の事を馬鹿にされてる気分だよ。これ以外にも色々あったけど、結局収束するところはどれだけ国民が関心が無いかってところだった。

世論調べてるときに、一番問題視してる事が政治家の汚職問題だった。政府機関のお金を横領して遊びに使ったとか、別荘買ったとか......。他には国内の資源不足とか、貧富の差とか、タダ飯食らいの軍とか......。

 

「あぁあ......。」

 

パソコンで調べた内容を纏め終わって鈴谷はもう見るのも嫌になったよ。

鈴谷たち艦娘が命の駆け引きをしてる間、鈴谷たちの大義名分の国民たちは金、金、金......。

 

「戦争を艦娘に丸投げした結果だよ......。自分たちの置かれた立場を知らないんだよね......。」

 

そう。日本というか世界各国は深海棲艦によって海を失って、連絡が途絶えてる。海を取り返すために国が動き、軍が動き......皆命を投げ捨ててまで戦った人たちは確かにいた。だけどもう忘れてる。

今、命を投げ捨ててるのは艦娘で、人間じゃない。そう思ってるんだろうね。だから外の世界の話で終わってるんだと思う。

鈴谷たちがこの身体、艦娘になる前、一応鈴谷も軍艦だったころの記憶はあるけど、あの時、人間たちは一丸となって戦ってた。誰か戦争のしたい人たちに扇動されてたけど、それでも一丸となってた。皆、戦争を身近に感じて、恐れていた。

なのに今はどうだろう。海では戦争しているのに、陸はまるで戦争が無いみたいだ。

 

(きっと戦争を感じると途端に国のせい、軍のせい、鈴谷たちのせい、提督のせいにされるんだろうな......)

 

そう、最期に責任を取るのは多分、この戦争で一番知られている責任者。......提督。

 

(自分たちが戦争してる事を知る必要があるんじゃないかな?)

 

鈴谷はそう思う。

別に羨ましいとかそういうんじゃないけど、無責任だと思う。戦争を丸投げして、自分たちの身を自分では守らずに守ってくれる『人』たちに当たる。資源、金、狂言......。

 

「あぁーーっ!!!もうっ!!!!」

 

床に叩き付けた拳がジンジンと痛む。

鈴谷は知らないけど、鈴谷が進水するまでは酷かったって聞いたよ。それで今の状況にみんなが満足してるみたい......。

そんなみんなも『人間たち』と同じ。調べるまで鈴谷もそっちだったけどね......知らなかった頃の鈴谷も同じ。

 

(何より、提督だよ。あんまりだよ......。)

 

そう。今、鈴谷が一番怒ってるのは提督の事を誰も考えてない事。

人間たちは寄って集って悪口合戦だし、艦娘たちはこの『システム』に気付いていない事。前者は仕方ないと思う。教えても理解できる人は少ないだろうね。だけど、鈴谷たち艦娘は違うじゃん。身近に提督が居て、どういう経緯で提督としてこの鎮守府に居てくれてるのか......。いつも皆に付き合って遊んだり、話したりしてる提督は本当は苦しんでて、辛い思いをしてる。それに気付いてない。普通に気付いたら分かる事。

 

(いつになったら気付くんだろう。皆......。)

 

笑い声が廊下から聞こえてくる。

 

『司令官が褒めてくれたっ!』

 

『昨日、一緒に遊んだんだー!!』

 

『提督がさっき新しい艦載機を下さいました!』

 

司令官、司令官、司令、司令、提督、提督......。誰も気づいてないじゃん。

 

「はははっ......誰も気づいてないじゃん。」

 

起き上がって、纏めたファイルを保存して電源を切って箱を被せる。念のためにこうしてる。誰かがもし入ってきてもいいようにね。

そう言えば今日の朝方にここに来たら赤城さんが出てきたっけ。何か考えながら出てきたけど、赤城さんが遠く行ってから入ってみたけど何もされてなかったみたいだからいいけどさ。

入っていくのも見ていたけど、ここをピンポイントで入ったんだよね。もしかして、鈴谷がここに通ってることを知られちゃったかな......。

でも、分からなかったようだからいいけどね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

鈴谷は一刻も早く戦争を終わらせることを目標にしてるけど、どこまで行けば終戦なのか分からないんだよね。地球上の深海棲艦を殲滅したらなのか、太平洋を制圧したらなのか分からない。だけど確実に言える事は、太平洋制圧したら一応終わりな気がするんだよね。といっても出撃する場所にはインド洋とかあるんだけどね。それも含めての制圧だろうけどさ。

 

(大まかな奪回海域予定は『鎮守府海域』と『南西諸島海域』、『北方海域』、『西方海域』、『南方海域』、『中部海域』ってあるから多分全部終われば終戦なんだろうねぇ。)

 

そうだろうなって思った事。

それ以外にはいきなり現れるのを倒すっての以外は無いからね。ちなみに制圧が終わっているのは『鎮守府海域』と『南西諸島海域』かな。『北方海域』と『西方海域』はかなり終わってて、残すのは『南方海域』と『中部海域』。

1/3が終わってるんだよね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

鈴谷は用事でいつも居座っている部屋から出てある場所に入り口がある地下に入ってるよ。

鎮守府には使われてない地下牢みたいなのが点在してて、今鈴谷がいるのは鎮守府の西に入り口があるところ。東のは警備棟がその上に立ってるからね。

ここには溜めた資源が積まれてるんだよね。もうかなり埋めちゃってるんだけど。

 

「ふんふふーん~♪」

 

溜まった資材を眺めながら歩いていると視界の端にちょろちょろと妖精さんたちが見える。ここの妖精さんは鈴谷の艤装の妖精さんたちだけど、こうやって出撃しないときはここの管理をして貰ってるんだよね。

そう言えばどうやって資材を溜めてるかだけど、鈴谷は出撃しないから資源は溜めらんないんだ。だからどうやってるかっていうと......。

 

「鈴谷。」

 

「おっ、イムヤ。ちぃーす。」

 

そう、伊-168ことイムヤがやってます。潜水艦だから出撃しても分からないし、そもそも提督が潜水艦を起用しないからね。

潜水艦の用途と言ったら『デコイ』、『資源回収』とかしかないらしい。よく分からないけど。それをイムヤに頼むのが嫌らしく、イムヤは出撃を数回経験してるだけだったのを鈴谷が引き入れたんだ。

今イムヤは資源回収の為に勝手に出撃してるけど、酷使はしてないんだ。ほどほどに出て、資材を満載して帰ってきて、休む。行く場所はいろんなところ。実を言うと、鈴谷もどこに行ってるのか分からないんだ。でもイムヤは鈴谷がやろうとしてることを理解してくれてる。

 

「使わないから凄い事になってるけど、どうしよっか?」

 

「あぁ......開発資材と高速建造材ね。」

 

そうこの地下は提督がこしらえさせた地下のシェルターにつながるところがあって、そこには入渠場があるんだ。

 

でも備えてるだけで実際使われる事はイレギュラーが起きない限り滅多にないから、イムヤが修理とかに使ってるけどどうしても開発資材と高速建造材は使えないんよ。

建造する訳でもなければ工廠も無い。使う場面が無いんだ。

 

「うーん......どうしようね。」

 

これが今鈴谷が抱えている問題。『資材問題』である。

 

「開発すれば提督のところに連絡は行くし、高速建造材なんて使い道が建造しかないじゃん......。」

 

最近はあえて高速建造材は持って帰ってこない様にしてるらしいけど、現状でかなりの数があるから困っているんだよね。

 

「そうだけど、使わないならどうするの?」

 

「そうなんだよねぇ......捨てるのももったいないし......。」

 

そうやってイムヤと考えた末の結論は、イムヤが資源回収で回る時に高速建造材を置いてくるってことになりました。

よく分からない状況だけど、こうすれば数を減らすことができる。

 

「開発資材はどうにか誤魔化しながら使う?」

 

「そうね,,,,,,誤魔化しながらね。」

 

結局、開発資材の使い方の回答はでなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今日も部屋に籠って提督の様子を見て、今は執務室に居ます。

3時くらいまでここで待機して寝に帰ってるんだけど、この3時まではぼけーっと月明りを眺めてるんだよね。

何が起こるって訳じゃないし、だたの待機だけどさ。

 

(今日は割と見えるんだね。)

 

空を照らす月明りは海と地面を照らしてるけど、この光景は毎日少しずつ変化するから面白いんだ。

そんなことをしてると3時になった。

 

「鈴谷、交代よ。」

 

そう、この時間になるとイムヤと交代して鈴谷は寝るんだ。イムヤはというと消灯時間になったら寝て3時に交代して、提督がごそごそし始めたら私室に帰るっていうのをやってる。寝首をかかれない様にっていうのだけどね。

 

「おやすみぃ。」

 

「はいはい。」

 

鈴谷は足音を立てないように執務室を出て、靴を脱ぎます。

こうすれば足音を立てない様に廊下を歩くことができるんだよね。何故か知らないけど執務室前の廊下は普通に歩くと足音がしちゃうんだよね。靴脱げばしないけど。

 

(鈴谷は夜型なんですってこういう訳なんよ。)

 

誰にいう訳でもなくそう心の中でつぶやきながら私室に戻って鈴谷は寝に行きます。

 





鈴谷に仲間が居ないと誰が言ったか......はははっ(ゲス顔)
イムヤが仲間ならどうして出撃せずに部屋に籠ってる鈴谷が資源を多く持ってるかっていう理由に繋がるんですよね。
そして鈴谷は気付いてないと思うけどちゃっかりシステム外行動してるんですよね。鈴谷がっていうかイムヤがですけど。
さて、どうなってしまうのやら。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百十四話  三つ巴⑧ 金剛編その2

 

毎日一度は行く地下の部屋で私は考えていました。

今日まで精いっぱい今の私ができる事をやってきましたが、もうやる事が無いんですよね。このトンネルは脱出の為に用意しましたし、防犯カメラは元は外への出入り口に誰かが近づいたのを分かるようにするためですから。ボイスレコーダーや小型カメラも念のためって感じですし......。

脱出の為にはお金が必要ですが、それも一応自分の給金を溜めてますからどうにかなるでしょう。

 

(どうしたものですか......。)

 

もう準備する事はありません。時を待つ事を始めましょうか。

連れて逃げるのには絶好のタイミングがありますからね。

提督は朝に執務をして午後は好きなように時間を過ごしていますが、大体が艦娘が居ます。提督一人で時間を過ごしている姿は見たことありません。時間に余裕のあるように見えて隙が無いんです。

 

(何時から目的が変わってしまったんですかね?)

 

地図を書き始めたのは直感ですし、建前というかそういうのは提督が滅多に休めないから抜け出せるようにっていうことですが、もう考えてたどり着いた事が事ですのでもう仕方ないんですよね。

逃げ出す。敵前逃亡ともいいますか。もし実行してしまったらどうなるんでしょうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

考えていても仕方がないので、『やる事ないなら提督の傍に居よう!』と決めて今、執務室の前に居ます。

妖精さんには地下の管理を頼みました。管理と言ってもすることが無いんですけどね。精々モニターで監視するくらいでしょうか?

 

(入りますか。時間的には午後ですから、暇してるでしょうし。)

 

私はここに来る途中に時計を見てそう思いました。

午前中なら執務中ですからね。

 

「ヘーイ!提督ぅー!」

 

思いっきり扉を開いて私は執務室に入りました。

 

「あぁ、金剛か。どうした?」

 

提督は相変わらずそう返してくれます。

提督の両脇というか、秘書艦の席と棚のところにそれぞれ霧島と赤城が居ますけどね。

 

「ティータイムしないデスカ?時間的にも丁度いいかなって思いマシテ。」

 

私はそう言って執務室に掛けられている時計を見ました。時計の針は3時を過ぎたあたりです。

 

「そうだな。......奥でお湯でも」

 

そう言いかけた提督を私は止めます。

 

「イエ、今日は甲板でティータイムしまセンカ?今日は風が吹いてマセンし、太陽が暖かいデス。」

 

私はそう提督を促しました。提督は結構冬に日向ぼっこをするのが好きらしいです。というのも、『外でボケーっとしたい......。』って言ってたのを聞いただけですけどね。

 

「いいな。......とはいっても甲板って誰の甲板だ?」

 

提督はそう訊いてきます。

そんなこと言わずと知れてますよ。

 

「勿論、私の艤装デース。今から行きマショー!」

 

私はそう言って提督の腕を掴んだ。ガシッと掴むと痛いでしょうから、普通に掴んで引っ張ります。

 

「霧島と赤城も早くするデース。」

 

勿論この2人を忘れて等居ません。そんな酷い事する私ではありませんからね。片方は私の妹ですし。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

風は冷たいけど、太陽の光でそこまで寒くない甲板の上。私は机を置き、クロスを引き、椅子を用意してました。

これからティータイムです。私と提督、霧島、赤城で紅茶を飲みながらお話しします。何の話をしようかなって、準備しながら考えてます。

 

(仕事とは関係無い事がいいですよねー。ですけど、提督の居た世界の話は振れませんね。どんな人だったのか聞きたいけど、傷口に塩を塗るようなものです。よしておきましょう。)

 

そんな事を考えながら着々と準備を進めています。私は甲板の準備をしていますが、提督たちはティーセットやお茶葉、お湯、お菓子なんかを用意してます。

と言ってももう終わっていて、甲板まで運び終わってるんですけどね。

 

「あー、あったけぇ。」

 

提督が普段発することのない言葉を言ってます。珍しいですね。相当リラックスしてるんでしょうか?

 

「そうですね。暖かいです。」

 

霧島も誘いに行ったときは仕事をしている表情でしたが、今は仕事をしていないフリーな時の霧島のようです。赤城は変わりませんね。ブレないです。いい意味で言えば裏が無いですが、悪い意味なら隙が無いですかね。自然体のようにも見えますが、そうじゃないようにも見えます。

 

「赤城、運ぶの手伝って下サイ。」

 

「......。」

 

私が最後に大きなテーブルを運ぼうと手を貸してと頼んでも返事をしません。赤城は南の方を見ています。

 

「赤城?」

 

「......。」

 

私は気になって回り込んで赤城の顔を見ました。

 

「暖かいっ......幸せっ......。」

 

赤城はボケーっと太陽の光を浴びて温まってました。

 

「あー、赤城?手伝って下サーイ。」

 

「はっ?!......分かりました。」

 

赤城は私の声でこちらに引き返せたのか、慌てて机に手を掛けました。

 

「いきますよー。」

 

そう言って赤城は『せーの』と掛け声を上げる。私はそれに合わせて持ち上げ、良い位置に机を下した。

 

「あっ、すまん。俺がやるべきだった。」

 

提督も赤城と同じように旅立っていましたが、机の置く音で戻ってきたみたいです。

 

「大丈夫デスヨ。......今から淹れるんで待ってて下サイ。」

 

私はそう言って慣れた手つきで淹れた。

そう言えばここに並んでいるカップ、一つだけ見覚えがありますね。以前、扶桑の甲板でティータイムした時に提督が持ってきたカップですね。山城とペアの......。片割れが居ないので別に気になりませんが、知っているのでやっぱり気になりますね。

 

「ハーイっ!淹れ終ったヨー。」

 

私はそう言って机にカップを置いて行った。

言い忘れてたけど、甲板でお茶を飲むのは皆がやっている事で、それぞれカップや湯呑なんかを持っています。赤城も普段は緑茶や煎茶ばかりだそうですけど、今日はティーカップを持ってきてました。赤城が紅茶を飲んでいる姿も珍しいですね。

 

「はぁ~。紅茶もいいですねぇ。」

 

赤城はそう言って海を眺めながら言ってます。提督や霧島もそんな感じですね。まぁ皆甲板でティータイムするときはこうなるんですけどね。ちなみに夏は自分たちが甲板に焼き肉にされてしまうのでやりませんよ。これは秋冬春にしかやりません。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「そう言えばサ、赤城。『特務』とやらは順調デスカ?」

 

話題を出し尽し、ネタ切れになりかけた頃、私は訊いてみました。最近の出撃はもっぱらそればかりなうえ、内容を知らされてないんですよね。赤城だけが知っていて、呼ばれた艦娘も知る事になるということですが、その事を話す事は固く禁止されているそうです。ですけどやっぱり気になりますね。

 

「あー、それはですね......っと。提督、話も大丈夫ですか?」

 

赤城は話しそうになりながらも途中で気付き、提督に許可を求めました。

 

「うーん......霧島も『特務』の事は知ってるし、金剛に知られて不味い事でもないしな。寧ろ、金剛もそれを経験することになるし丁度いい、話してもいいぞ。」

 

提督はそう言ってティーカップを持ち、口に近づけました。

 

「だそうですので話しちゃいますね。......順調に進んでます。もう少しすれば終わると思いますので、戦争は再開されるでしょうね。」

 

赤城はそう言いました。

 

「となると、奪還作戦をデスカ?」

 

私がそう提督に訊くと、答えてくれました。どうせそのうち話す事になるだろうからということらしいです。

 

「そうなるな。......現状、最前線である西方・北方海域を奪還。南方・中部海域の攻略を行う。......まぁセオリーだな。」

 

提督はそういって肘をつきました。

 

「西方・北方共に本拠地のみですからね。こちらが総力戦を仕掛ければ奪還は簡単ではないにしろ、出来ない事は無い筈です。」

 

霧島も続けました。どうやら霧島もある程度の事は知っているみたいですね。流石金剛型で一番古参なだけあります。

 

「そうデスカ。西方・北方海域の奪還は近日デスネ。」

 

「あぁ。」

 

提督はお茶菓子に手を伸ばして口に運びました。

 

「霧島、赤城。」

 

「「はい。」」

 

提督は突然、強張って2人の名前を呼びました。

 

「夕食後、執務室に長門と吹雪を招集。」

 

そう言った提督は何時もの雰囲気に戻りました。

今のは何だったんでしょうか。これまでに提督の表情はいくつも見たことがありましたが、今のは初めて見ました。ですけどこれまでで今の表情に近いのを見たことがあります。それはリランカ島に護衛艦隊を派遣した時です。

 

「今日の夕飯なんだろな~。」

 

提督はそんなことを言ってますが、今の時刻3時過ぎです。まだまだ時間あるんですけどね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は夕食には少し遅れると比叡に言って執務室に来てます。

何時もなら皆で揃って提督の席に突撃して一緒に食べてますから好タイミングですね。

 

「んしょ、んしょ......ハァ......。」

 

私は執務室に入って提督たちが居ない事を確認すると、家具の隙間やらを見て回りました。何故そんな事をしているのかというと、ボイスレコーダーを仕掛けるためです。

ボイスレコーダーの初仕事が本当に盗聴になるとは思いもしませんでしたが、あって損はないと思いました。

目的は夕食後に開かれる会議です。古参組が集められるということは、今後の作戦行動について話すんでしょうね。上手く録音できていればある程度会話の内容を書き出して、今後の動きに備えます。地下のトンネルと部屋もそれ次第でいけませんからね。それに出撃があったら私のせいで遅れてしまうかもしれませんし。

 

「ココならっ!......ふぅ......オッケーネー。」

 

私は結局ソファーの下に置くことにしました。

多分会議を行うのはソファーのあたりだと言うのは霧島が偶に話していた内容から察することが出来ましたからね。ここなら大きい音ではっきりと録音できるはずです。

ソファーの下に置く前に録音を開始しておいて、私はこの場を退散します。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

食堂に行ってみると比叡が場所取りをしておいてくれたみたいでした。

榛名と比叡の間に一つ席が空いていて、そこの椅子には『金剛』と書かれた札が貼ってありました。ですがその周りの空気は少し淀んでいます。

 

「むうぅぅ......予約って......。」

 

「これは反則ですっ!」

 

「ないわー。」

 

それを見て死んだ目になりかけている艦娘たちでした。

提督の近くでは食べたいですが、さすがの私でもこれはルール違反なのは分かりますよ。私は持っていたトレーを置いて比叡の頭に手を置きました。

 

「あっ!金剛お姉様っ!席、とっておきました!!」

 

そう比叡は私に明るい笑顔を見せてくれます。

とても元気のいい私の妹です。

 

「んー、ありがとデース。デモ、これは反則デス。遅れるとは言いマシタが、これじゃあいじわるデスヨ?」

 

私はそう言って比叡の頭を撫でてあげる。これをやると比叡は喜びますからね。

 

「いじわるですか......すみません。」

 

比叡は分かってくれた様で良かったです。その札を私は剥がして、そこにいる島風に声を掛けました。

 

「島風。」

 

「何ですか?」

 

私は島風を呼びつけて島風の持っていたトレーを持ちました。

 

「えっ?」

 

島風は何だか分かっていない様ですが、私は気にも留めずに続けます。

島風のトレーを比叡と榛名の間の席に置いて、椅子を引きました。

 

「島風、ずっと待っていたんデショ?トレーの料理が冷めてマス。きっと誰よりも先にここが空いてるのに気付いてたんデスヨね?」

 

オロオロする島風の背中を押して私は座らせました。

 

「比叡はきっと私の事を思ってしてくれていたんデショウ。デモ、悪気はなかったはずデス。許してあげてネ?」

 

そう言って私は島風の頭を撫でて別の席を探しに行きました。

後ろでは島風が混乱して何かを言ってるのが聞こえてきます。偶には島風にこういう事もあっていいと思うんですよね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は空いてる席を探して手ごろなところに座りました。

 

「んぉ、金剛さんじゃん。」

 

「隣、失礼するネ。」

 

「どぞどぞ~。」

 

鈴谷の横です。ここが探してて一番最初に目に入った席です。

鈴谷の空いてる席の反対側には熊野が居ます。熊野は確か古参組で相当強いとか聞きました。ですけど最近は出撃しているイメージはありませんね。

 

「あら金剛さん。」

 

「こんばんワ―、デスネ。」

 

私はそう言って箸を取って食べ始めます。その様子を横から見ていた鈴谷が私に声を掛けてきました。

 

「珍しいねぇ。姉妹たちと一緒じゃないって。」

 

「そんな時もありマスヨ。あの娘たちが先に来ていたンデス。」

 

そう言って私はご飯を食べすすめますが、鈴谷が続けてきました。

 

「それよりさー、『例の件』。」

 

「ンー?」

 

鈴谷が言った『例の件』。これが意味する言葉は今、私が動いている奴の事ですね。きっと鈴谷が訊きたいのはトンネルがどうなったかですかね?

 

「終わってるヨー。あとは鈴谷次第ネ。」

 

「鈴谷も一応終わってるけど、ちょっと不測の事態でね。終わってるのに終わってないからさぁ。」

 

そう言って鈴谷は手を合わせて謝ってきました。

 

「ごめんっ!もうちょっと待ってっ!」

 

「勿論、着実にお願いシマース。」

 

そう私と鈴谷は曖昧な単語で会話をしているのを熊野は疑問に思ったみたいですね。

 

「お2人して何の話ですの?」

 

「「ピクニックデス(だよ)」」

 

見事なユニゾンですね。狙った訳では無いんですが、まぁこの誤魔化し方は前々から決めていましたので良かったです。

 

「あら楽しそう。ピクニックの時はぜひ私もご一緒しても良くって?」

 

熊野はそう笑顔で行ってきますが、本当の意味を知っての事ではないんでしょう。私は鈴谷の目を見てすぐに答えました。

 

「勿論デース。多いに越した事はないデース!」

 

そう言って私も笑って言います。これでバレないでしょう。

 

「楽しみにしてますわ......と言うか楽しみですわ......。」

 

熊野は妙に楽しみにし始めてしまったので私と鈴谷は顔を見合わせて苦笑いするしか出来ませんでした。

 





ここに来て更に衝撃の事実ですね。
金剛と鈴谷は手を組んでいた。まぁ、それぞれでって感じですけど......。独立してやってますけども......。無理やり感がにじみ出てますけども(汗)
まぁそりゃ近衛艦隊首領と幹部ですからね。それにどこかの回想か地の文で金剛が近衛艦隊で集まっている時に話したってのがありますからね。知っていて当然です。

これまでは3視点+提督でしたが、2視点に変わる可能性がありますね。
ご了承ください。

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第百十五話  三つ巴⑨ 提督編その2

 

俺の目の前に赤城、霧島、長門、吹雪が立っている。

金剛の艤装の上でティータイムをした後、夕食を摂り、執務室に呼びつけた。

 

「すまんな。夕食後に呼び出して。」

 

俺はそう言って自分の椅子に座る。それに合わせて赤城たちもソファーに座った。

 

「今日はどうした?」

 

長門は座るなり俺にそう訊いてきた。

訊いてくるのは最もだろう。俺が呼び出すのは大体朝か昼だったからな。

 

「今後の方針を決める。」

 

そう言って俺はホワイトボードを引っ張ってきて、ペンのキャップを抜いて書いた。

 

「赤城に任せていた『特務』の終わりが見えかけているからな。」

 

ホワイトボードには『電撃戦』と書いて俺はペンを置いた。

 

「赤城の『特務』によって俺は資材の大半を消費せずに溜め込むことが出来た。それによって溜めた資材を使い、現在戦線が停滞している西方・北方海域の最深部に攻撃を仕掛ける。」

 

そう言うと長門は驚いた。

 

「待てっ!確かに資材は溜まっているみたいだが、あそこは深海棲艦の雑魚がたむろしている訳じゃないんだぞっ?!」

 

そう訴えてくるのも無理はない。

西方海域最深部は深海棲艦の手練れが多くいる。最後までたどり着くまでに相当数の戦闘を繰り返す事が予想されている上、西方海域ではシステム上の関係から出撃には駆逐艦が参加する事になっている。つまり、長門が懸念しているのはまだそこまで経験のない艦娘も編成に入っているからだ。

 

「そんなことは分かっている。だが、航空戦で新戦術を確立する今、効率良く進むにはこれにない程にいい機会なんだ。」

 

そう言って俺は予定編成表を見せた。

そうするとまたもや長門が訊いてくる。

 

「私が心配しているのは艦娘の少なかった時期を支えていた重巡の艦娘の事を心配しているんだっ!高雄や愛宕、熊野......あいつらは精々正規空母を1回見ただけだ。高雄たちにいきなりこんな正規空母や戦艦だらけの海域に放り込むのを私は懸念しているんだっ!」

 

どうやら違った様だ。

世間的にいわれる『ながもん』ではなく、ちゃんと艦隊の事を考えて言っている様だ。

 

「それは心配いらない。......重巡は対空母、戦艦戦闘には十分耐えれるはずだ。」

 

そう言ってやると霧島は長門に言った。

 

「彼女たちとは嫌という程訓練と演習を共にしてきました。私たちよりも遥かに練度の高い艦娘と相対し、殲滅した事もあります。大丈夫です。」

 

そう霧島が言うと長門は引き下がったが、やはり腑に落ちない様だ。長門はああいったが、一番心配しているのは高雄たちの交代要員として挙げている摩耶と鳥海の心配だろう。彼女らは所謂『現場たたき上げ』だが、本当の意味で戦艦や空母と戦った経験が無いのだ。だが、摩耶も鳥海も姉の2人の後を追いかけているはずだ。心配ないと俺は思ったのだ。

 

「取りあえず続けるぞ。」

 

俺はそう咳ばらいをしてから続けた。

 

「作戦開始日からは遠征任務を停止。主力艦隊と共に『遠征』の名目で本隊と3つの支隊による攻略戦を展開する。見せた予定では支隊の戦力は戦艦、空母、重巡で固め、本隊はこのままでいく。」

 

俺が提示していた編成表は4枚だ。

北方海域攻略本隊は旗艦:長門、陸奥、赤城、加賀、北上、大井。第一支隊は旗艦:金剛、比叡、蒼龍、隼鷹、高雄、愛宕。第二支隊は旗艦:霧島、榛名、飛龍、飛鷹、青葉、衣笠。第三支隊は旗艦:扶桑、山城、瑞鶴、鳳翔、古鷹、加古。交代待機に伊勢、日向、瑞鳳、祥鳳、摩耶、鳥海、鈴谷、熊野、最上となっている。

 

「作戦開始は北方海域からだ。西方海域の未確認深海棲艦撃破を以て作戦終了だ。西方海域攻略本隊及び支隊編成は追って通達する。」

 

そう言って俺は自分の椅子に戻った。

 

「ここまでは俺が考えたが、何かあるか?」

 

そう言うと誰も手を挙げない。どうやらこれで大まかなのは良いらしい。

 

「とまぁ、こんな話をした後で悪いが......入って来い。」

 

俺の声に合わせて赤城たちは扉の方を見た。そして開かれた扉の先には2人の艦娘が居た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「霧島。独断で俺が決めたことだ。......了承を得ずに済まない。」

 

そう言って俺は続けた。

 

「『親衛艦隊』にて鈴谷の監視をしている熊野と『近衛艦隊』の叢雲だ。俺がこの『言葉』を言った意味、分かるだろう?」

 

そう言うと俺の両脇に熊野と叢雲が来た。

 

「現在、鎮守府内で不穏な動きがあるのに気付いたものはどれくらいいる?」

 

そう訊くと長門も吹雪は勿論、赤城は手を挙げなかった。霧島は調査をしている人間だから知っていて当たり前だ。

 

「率直に問う。」

 

俺はそう言って赤城の顔を見た。

もうこれは作戦を開始するにあたって支障をきたすと考え、出した苦肉の策だ。

霧島も俺のその様子にかなり驚いている。

 

「赤城。」

 

俺が直視する赤城の表情に曇りは無い。だが、どこか緊張している様だった。

 

「何をしているんだ。」

 

そう言った意味を分かったのは俺と霧島だけのはずだが、赤城は緊張している。普通ならそんな反応は取らないはずだ。

 

「......どういう意味ですか?」

 

赤城は表情を変えずに俺にそう返してきた。

その一方で状況が掴めていない長門と吹雪は色々な思考を脳内に巡らせているのだろう。表情がコロコロと変わっている。

 

「そのままの意味だ。赤城は何をしているのか。」

 

一瞬だが赤城が唇を噛んだ。

 

「言う気になってからで構わない。......本当は熊野と叢雲の話を聞こうと思ってな。」

 

そう俺は言うと熊野に話すように促した。

 

「では、提督から頼まれている事を言いましょう。」

 

そう言って熊野は腕を組んだ。

 

「現在私は提督の命により正式に鈴谷の監視役となりました。理由なら霧島さんならお分かりなるのではなくて?」

 

「......はい。」

 

まだ状況のつかめていない2人を置いて行きそうな勢いで進んでいく。

 

「理由は『鈴谷の動向を調査せよ。』という命により『鈴谷』への監視を強化しました。そして......。」

 

熊野はそう言って長門と吹雪の顔を見た。

 

「長門さん、吹雪さんにはこのことを古参として知っておいていただきたいので、こうして呼ばれたのですわ。」

 

熊野は組んだ腕を解いた。

 

「そもそも提督がこのような事を頼んだのは、以前からあった『近衛艦隊』の神出鬼没の理由と、『提督への執着』に関する事。要するに長門さんや吹雪さんも知っての通り、『近衛艦隊』の監視ですわ。」

 

熊野は歩き出し、ソファーの方に行った。

 

「それが最近、提督は別の命を私にしていましたの。『鈴谷の行動の調査』と『青葉さんの援助』、それに......。」

 

そう言って熊野は赤城の顔を見た。

 

「『赤城さんの行動の調査』でした。霧島さんは表立っての調査をしておられた様ですが、私は裏でやってましたの。その成果の報告ですわ。」

 

熊野がそう言って座っている赤城の前に仁王立ちをした。そんな熊野を見て吹雪は立ち上がった。

 

「待ってくださいっ!今の話のそのままなら『親衛艦隊』の頭である赤城さんは調査の対象になる事は無い筈ではっ?!赤城さんが『近衛艦隊』の2人と同等なのは違いますよっ!」

 

そう言って熊野に吹雪は訴えていたが、甲斐無しに熊野は続けた。

 

「まずは鈴谷から。......鈴谷は鎮守府の使われていない地下牢に独自に収集した資材を溜め込んでいます。近いうちに鎮守府外に搬出されるそうですわ。......それに、外部の人間と何かを取引し、パソコンと携帯火器を隠しています。用途は不明ですわ。」

 

俺も始めて聞かされたが、そこまでして何をするのか。

 

「次は金剛さん。......地下のトンネルに鎮守府内の詳細な地図と私服がありました。それと鎮守府外に出た模様です。こちらは目的不明ですわ。」

 

そう言って今度は熊野は赤城の顔を見た。

 

「赤城さん。......加賀、時雨、夕立と結託して『特務』と並行して鈴谷とは違う地下牢に資源回収。鈴谷と同じで外部の人間と何かの取引をする模様ですわ。」

 

熊野はそう言って俺の方を見た。

 

「この3名は共通した目的があるように思えますが、それが具体的に何かということが分かりませんでした。」

 

そう言って俺の横に熊野は戻ってきた。

その一方、霧島は驚き、長門と吹雪は目を白黒していた。そして赤城はというと、表情を変えないが先ほどよりも更に緊張した様子だ。

 

「次。叢雲。」

 

俺はそう言って叢雲を前に立たせた。

 

「私は司令の『お願い』で武下さんと共に別角度からの調査をしたわ。」

 

そう言って叢雲はA4サイズの封筒をソファーが囲んでいる机の上に置いた。

それには数枚の紙と写真が入っており、それを手に取って出してみた霧島は顔を青くした。

 

「調査内容は『事務棟に入り、内外でやりとりしている書類を見る。』だったわ。そしてその結果がそれよ。」

 

「これはっ......、これは何なんですかっ?!」

 

霧島はそう言って紙を机にぶちまけた。

 

「赤城さんっ!!!」

 

霧島はそう言って赤城の顔を見た。赤城は顔色一つ変えずにただ黙ったいるだけで、何も言わない。

そしてその紙や写真は長門や吹雪も見まわしていた。どちらも顔を青くしている。

 

「......まだ、言えません。」

 

そう言って赤城は立ち上がった。

 

「まだ言うべき時ではないんです。」

 

そう言って赤城は俺の目の前に来た。

 

「提督。」

 

「......。」

 

俺は黙っていると赤城は話し出した。

 

「私たちは『その時』が来るまで『これ』を止めるつもりはありません。ただ、何のためにしているかは今言うべきことではないのです。」

 

そう言って赤城はその場に居た艦娘の顔を見ながら言った。

 

「私たちは気付きました。今度は皆さんが気付く時です。」

 

そう言って赤城は吹雪が見ていた写真と紙を取って見せた。

 

「皆さんが気付いた時、私や金剛さん、鈴谷さんと同じ行動をする筈です。......提督が考えて下さった作戦が完遂した暁には、私のしている事が大々的になります。それまでに気付いて下さい。」

 

そう言って赤城は紙と写真を吹雪に帰して、執務室に置いてあるファイルを抜き取った。そのファイルは艦載機の管理に関する書類のファイルだ。

 

「もし気付かなかったのなら思い出してください。少なからず私たち艦娘にある『提督への執着』を。」

 

俺はそんな赤城を目で追っていた。他の皆も同じだろう。

 

「私は理性で『提督への執着』で起きる殺意を抑える事が出来ますが、気付かなかった貴女たちを私は本能の赴くままに殺してしまっても構わないと思ってます。」

 

「えっ......それってどういう意味ですか?」

 

吹雪は言葉は理解できているのだろうが、赤城の言葉の意味を理解できてない様だ。そう赤城に訊いたのだ。

 

「『その時』までに気付かなかったのなら、貴女たちは私にとって提督の害となります。......長門さん。貴女もですよ。」

 

「なに......っ?!」

 

抽象的な言葉ばかりで何を言いたいのか分からないが、赤城は多分遠まわしにヒントをくれたんだろう。『その時』、『提督への執着』、『自分たち自身が提督の害』......。俺が赤城のヒントから得られた言葉だった。

『その時』とは何時の事だろうと考えていると、赤城が『提督が考えて下さった作戦が完遂した暁』と言っていたのを思い出した。つまり、近ければさっき俺が説明した北方・西方海域攻略作戦が完遂された時が『その時』なのだろう。

『提督への執着』。艦娘なら誰しもが持っている共通意識だ。これまでに色々な艦娘から断片的に情報を訊いてきたが、最終的にその情報のどれもが『提督への執着』という言葉そのものに収束している。それが働くと赤城は言っていた。

『自分たち自身が提督の害』これは多分『提督への執着』からの流れで来ることなのだろう。『自分たち自身』というのは何者なのか。考えられるのは『艦娘』だ。そして『提督の害』これがどういう意味かさっぱり分からなかった。言葉通りならば、今こうして目の前に居る艦娘たちが俺にとっての害となるという意味だ。それはつまり『提督への執着』が働くことを意味していた。

結局のところ、曖昧且つ情報が少なすぎる。検討し辛いのだ。だが、自分で気付くべきだと赤城は言った。これまでのヒントの大本はその気付くべきことなのだろう。

何に気付くべきなのか......。

 

「熊野さん、叢雲さん。」

 

「「......はい。」」

 

「引き続き調査をする分、構いませんが邪魔だけはしないで下さい。多分、金剛さんや鈴谷さんも私と同じですから。」

 

そう言って赤城は秘書艦席に座った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

消灯時間を過ぎ、本部棟と艦娘寮の電気が落ち、真っ暗になって1時間程経った頃、俺の私室に長門と叢雲が来ていた。他の熊野や吹雪は来ない様だ。

 

「叢雲。これが事務棟で見た俺の執務以外で出た書類なのか?」

 

「そうよ。と言ってもコピーだけどね。」

 

俺と長門、霧島、叢雲はその紙を囲んで見ていた。

見ていた書類は便箋に書かれた手紙だ。書いた人物は赤城。内容は俺の待遇改善要求と戦後に関して。

 

「待遇改善?」

 

俺はそう言って首を傾げた。別に今のままでも十分だと思っているからだ。それに戦後とか俺にとっては先も遠い様で遠くない事。戦中である今でさえ待遇が良いのだ。どこに疑問を持つべきなのか分からない。

 

「何故赤城は待遇改善を......。」

 

長門も霧島も首を傾げていた。赤城のヒントとこのコピーとを関連付けるのが難しいのだ。内容にかすりもしてない。

 

「戻ってから何か分かったのは?」

 

そう俺が訊いても誰も手を挙げなかった。

もう考えていても埒が明かない。

 

「考えていても埒が明かない。赤城の言う『その時』までに分かればいいんだ。取りあえず今日は帰れ。」

 

そう言って全員を立たせて執務室の外まで見送ろうと廊下に出た時、叢雲が俺の背中をつついた。

 

「ん?」

 

俺がそう言って振り返ると叢雲の手には小さい黒い箱があった。赤いランプが点滅していて、ボタンが付いている。

 

「これ何だと思う?」

 

そう叢雲が訊いてきたので俺はそれを手に取り、見てみた。月明りで辛うじてシルエットや手触りで形は分かるが、どうして叢雲がそんなものを持っていたのか。

 

「叢雲のか?」

 

「いいえ。さっきソファーの下にこの赤いランプが見えたから。」

 

どうやらソファーの下にあったものらしい。

 

「そうか。ありがとな。」

 

俺はそう言って叢雲を見送った。

そして叢雲の見つけたこの箱は何なのか。もうちょっと明るいところで見ると分かるかもしれないと思い、私室に戻ってから卓上照明をつけて見てみた。

 

「これはっ......!?」

 

それはボイスレコーダーだった。小型で軽量のものだ。

そして俺は酒保の家電屋を思い出していた。酒保にはボイスレコーダーは置いてあるがここまで小型のものは無い。

 

「金剛かっ......。」

 

持ち主をすぐに俺は悟った。俺は買った記憶が無いし、ここには門兵が来ない。そして夕食後の熊野の報告。全てを加味するとそれをする人物は1人しかいなかったのだ。

 





本来ならば今日投稿するはずだった分です(汗)
申し訳ありませんでした。Twitterの方では予定投稿時間の10分後くらいに告知していましたが、こちらには何も言ってませんね。まぁ偶にあるのでそれは置いておいて、話が急展開しました。
濃いです。本当に。それにバレてしまいましたね。でも目的は分からないまま......。
今後の展開が楽しみでもあります。

それと三つ巴の意味に関しては当初は『赤城、金剛、鈴谷』という風に想像していた方も多いと思いますが、それからは『赤城、金剛と鈴谷、提督』が出てきました。
ここで、本当の三つ巴の意味が判りましたね。『赤城と金剛と鈴谷、提督、他の艦娘』ですね。多分......。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百十六話  operation”AL magic”①

ここからは三つ巴続編です。


「これより作戦艦隊は出撃。」

 

早朝の鎮守府はいつもとは違う空気が流れていた。

これまで戦闘停止をしていたが、今日、それを解除する。それと同時に停滞していた戦線を押し上げる攻勢に出るのだ。

だがこれまでは富嶽やシステムに表立って歯向かう様な作戦を展開してきたが故に、『普通』の作戦を展開する今日は作戦艦隊に選ばれた艦娘たちの顔を緊張で強張らせていた。

作戦名『アルフォンシーノの魔法』。アルフォンシーノ列島の辺りではそう呼ばれていた自然現象があるらしい。餌を狙った大量の水鳥が海面を覆いつくす現象の事だ。これの水鳥を艦隊に掛けた作戦名だ。

 

「この作戦の目標は最深部。深海棲艦が塒にしている泊地を攻撃する事だ。」

 

俺は見渡した。出撃する艦娘たちは全員手練れだ。皆戦い慣れているはずだ。

 

「北方海域にはキス島の守備隊を助けに行った以来だ。あの時殲滅した分だけまた復活しているだろう。」

 

皆の顔が歪む。

 

「......今、日本と国交があるのはドイツだけだ。」

 

俺の前に並ぶ作戦艦隊の後ろの待機組に混じっていたドイツ艦勢はピクリと反応した。

 

「大国ロシア、中国、アメリカとの国交はおろか連絡も途絶えたままだ。」

 

俺がそう言うと、見届けに来ていた警備部の門兵たち。それも壮年の門兵たちは頷いた。

 

「この作戦はドイツ以外との国と連絡を取り、国交を回復する事も目的としている。......ちなみにこれは大本営には言ってない。」

 

そう言うと作戦艦隊と門兵たちは滑った。

 

「まぁ、取り返したらあっちの使節を連れてこればいい話だっ!......作戦艦隊は本隊を先頭に出撃っ!目標、アルフォンシーノ列島っ!」

 

「「「「「「了解っ!!」」」」」」

 

「大国に恩を売って来いっ!!」

 

「「「「「「そっちが本当の目的っ?!」」」」」」

 

こうして作戦艦隊本隊機動部隊6隻と支隊18隻はまだ日の上っていない大海原に繰り出して行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は作戦艦隊を見送ると例の如く、囲まれていた。何に囲まれていたのかは言うまでもないだろう。

 

「と言う訳で、また任されたわっ!」

 

ドヤ顔で俺の前にいるのはビスマルクたち、ドイツ艦勢だ。

 

「赤城から『番犬艦隊として提督の護衛』を任された。今度は『番犬艦隊』としての責務を果たすぞ。」

 

そう言うフェルト。

 

「私も金剛にあんな風に見られたくないからねぇ~。提督ぅー。」

 

プリンツがそう言うとレーベとマックス、ユーが頷いた。

 

「分かったから......。」

 

そう言って俺は頭を抱えながら視線を移動させる。その先には艦娘がまだ居た。

 

「番犬補佐艦隊、利根である。」

 

「筑摩です。」

 

「天龍だ。」

 

「龍田だよ~。」

 

「島風ですっ!!」

 

そう自己紹介?をしていく利根たちを見て俺は言った。

 

「補佐は分かったが、なんで炬燵。」

 

そう。執務室の床にはカーペットが敷かれ、その上には大きな炬燵があるのだ。そしてそこに利根たちは入ってぬくぬくとしているのだ。

 

「執務室に12人も艦娘が入るなんて前代未聞だぞ(※特別編で入ってます)。それに炬燵を持ち込むな。」

 

そう言うと利根は膨れた。

 

「なぜじゃぁ~。寒い上にソファーには本命が据わっておるじゃろ?吾輩たちのいる場所がないんじゃ。」

 

そう言うが顔はだらしなくなっていた。他もまた然り。

 

「つうか補佐ってなんだ?」

 

俺は単純にそれを疑問に思った。『番犬艦隊』に補佐を付ける意味がないのだ。常に俺の周りをうろつき、離れない『番犬艦隊』にどうして補佐が。

 

「『番犬艦隊』の補佐ですが、主に提督の針路と背後に距離を取って展開、安全確保をする任務ですね。」

 

筑摩はどこから出したのか、みかんを剥きながらそう言う。

 

「だったら筑摩たちは執務室の外の扉と本部棟の執務室の下に立つべきじゃないのか?」

 

そう考えるのは俺だけではないだろう。離れて護衛ならそれ以外に俺は思いつかなかった。

 

「『番犬艦隊』は赤城が編成させるんだが、今回から補佐を付けることにしたらしいんだ。」

 

天龍はてぺたーっと炬燵のテーブルに頬を付けて言った。

 

「その時に『補佐は提督が執務室にいらっしゃる時のみ傍にいる事を許します。』とか言ってこういう事になったのよぉ~。」

 

龍田は甘ったるい声でそう言った。

 

「それとこの『番犬補佐艦隊』は日替わりですからねっ!!」

 

島風は元気に言うが、身体は炬燵に侵食されている。

 

「はぁー......まぁいいか。」

 

俺は気にしても仕方ないと思い、執務をすることにした。

ちなみに今回からはビスマルクの宣言通り、ぴったりくっついてくるようになったし、俺中心の輪形陣で移動していた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

『支隊』はその特性上、24隻の大艦隊を解くことに意味があるので私たち『本隊』から離脱していった。

かなり遠くに離れ、それぞれの予定航路を前進している。

キス島の攻略に繰り出した時と同じ航路であり、レベリングで何度も通ったところだ。飽きが来ていたこの航路も今は私たちを緊張させている。

いつも頭上を飛んでいる富嶽はもういない。頼もしい大艦隊ではなく通常編成の6隻艦隊だ。

 

(最初は前哨戦だな。......支援は無しで大丈夫だろう。)

 

私はそう思った。だが元から前哨戦に支援は無い事になっていたのでさして問題ではない。

 

「敵艦隊を目視で確認し次第、単縦陣で突撃。一気に畳みかけるぞ。」

 

『『『『『了解っ!』』』』』

 

皆無線で応答してくれた。

 

「前哨戦だっ!」

 

私はそう自分に言い聞かせてこれから始まる激戦に身体を奮い立たせた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私はこの前、夕食後に司令官の執務室に呼ばれた時に赤城さんから訊いた話を思い出していました。

気付かなければならない事。それに気付かなかったのなら私は赤城さんにとって司令官の害となる......。そう頭の中で反芻しては考え、分からなくなり途中でやめるのを繰り返していました。

今は鎮守府で出撃できる数は全て出払っているので遠征任務は何も出来ません。ですので皆、思い思いに過ごしています。私を除いては。

私はあの日に言われてからずっとこのことを考えてきました。

私が提督の害になる。そう言われて何がそう思われる様な事だったのだろうかと、記憶を辿っていく最中、私はある事に気付きました。

 

(そうか。私たちが司令官の害となるということは、司令官にとって私たちの存在が司令官に害をもたらす者という事?)

 

具体的に何かは分かりませんでしたが、ここまではなんとなくですが分かった気がします。

私たちを害とみなす。それ則、私たちが司令官の害となる。それは分かりましたが、何故司令官の害となるのでしょうか?皆目見当もつきません。

 

(そうだ。叢雲ちゃんもあの時居た。訊いてみよう。)

 

そう思い立った私は叢雲ちゃんのところに向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夕食後の赤城の話。赤城の行動を調査していたけど、『提督の待遇改善』がどこに私たちが司令官の害となるのか分からないわ。確かに司令官は軍属にしては待遇が良すぎる。欲しいと言ったものは手に入る。したいと言ったものは出来る。これ程までいち軍人に対する待遇の良さは見たことが無いわ。

だけどこれ以上に赤城は待遇改善を要求していた。赤城は何を思ってそんな事をしたのか分からない。だけど、それを頼んだ大本営もできる限り力を貸すと返答している。意味が判らない。

 

(気付かなくてはならない?)

 

あの時の赤城からは『気付く』という単語が頻繁に出てきた。

 

(私たちは何かに気付いていないと言うことなのかしら?)

 

今のところそれ以外考えられなかった。抽象的な言葉ばかりの内容からここまで引っ張り出せた私にあっぱれと言ってやりたいわ。

だけど、なにに気付かなくてはならないのか全く分からない。

それに『提督への執着』も関連しているとも言っていた。『待遇改善』と『提督への執着』との接点は無いに等しいわ。今のところはね。だけどそれを一緒に並べてきたということは接点があると言う事だと思うわ。

 

(最もすべき事は『何かに気付く』事ね。)

 

最終的に出た答えはこれだけだった。

この答ということは、これの先にまだ続きがあるということ。私はまだ考えなくてはならない。赤城が言った言葉を整理して、記憶して、関連付ける。そうしなければいけない。そう思った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「叢雲ちゃん。」

 

私は同じ部屋で私と同じように考え事をしていた叢雲ちゃんに声をかけました。

 

「なに?」

 

そう言って振り返った叢雲ちゃんは難しい顔をしています。普段も結構仏頂面だけど、それが更に増したような感じ。

 

「赤城さんの言ってた事で分かった事ある?」

 

私は率直に聞いてみました。

 

「吹雪こそ。なんかある?」

 

そう訊き返されたので私はこれまでで考えて分かった事を答えました。

 

「『私たちが司令官の害になる』ことだけかな?叢雲ちゃんは?」

 

そう言うと叢雲ちゃんは私の肩を思いっきり掴んできました。

 

「それよっ!」

 

「へっ?!なにっ!?」

 

叢雲ちゃんは私の肩を話すと説明をし始めました。

 

「赤城は私たちに『気付く』ように言っていたわ。その気付く事は『私たちが司令官の害になる』こと。つまり、私たちは知らなければならない事があるのよっ!」

 

そう言って叢雲ちゃんは私の肩をまたグラグラと揺らしてきました。

 

「知らない事って何ー?というか揺らさないでー。」

 

そう言ってやっと解放された私は一息ついて叢雲ちゃんから説明を訊きました。

 

「知らない事っていうのは、私たちは赤城や金剛、鈴谷が知っていて私たちが知らない事があるの。そしてその知らない事は本来なら知ってなきゃいけない事で、気付いてないといけない事なの。つまり私たちには知らずのうちに何かをしていたという事ね。たぶん。」

 

そう言った叢雲ちゃんは視線を落としました。

 

「何かをしたって?司令官に?」

 

「そうなるわね......。気に障る事をしていたのかもしれないし、司令官の気持ちに気付けなかったのかもしれないけど、気付いた時には私たちは赤城たちみたいになるってことね。」

 

そう言って叢雲ちゃんは手をひらひらさせました。

 

「誰かとの接触を避けながらお金を貯めたり、やってはいけない事をするという事よ。」

 

「そうなの?」

 

「そうなるわ。と言ってもこれだけ分かっても、何の解決にもならないわ。『気付いた時』、お金を貯めてやってはいけない事をする......。『気付いた後』にするという事は、そうしなければならなくなるって事ね。」

 

どんどん叢雲ちゃんは考えを展開していきます。私はそれをただ訊いてるだけです。

 

「そうしなければならくなる......。お金を貯めてしちゃいけない事をしなきゃいけなくなるって、なにに気付いたんだろう?」

 

「さぁね。でも確実に言える事は『全ては司令官』よ。司令官が最大のヒント。司令官に関する事だって考えればいいと思うわ。」

 

そう言って叢雲ちゃんは立ち上がりました。

 

「ありがと、吹雪。貴女のお蔭でかなり分かってきたわ。でもこれから司令官の任務に行くわ。」

 

「事務棟?」

 

「そうよ。じゃあ、また何か気付いたら。」

 

叢雲ちゃんは部屋を出て行ってしまった。

お蔭で私も結構分かってきた気がする。ここは叢雲ちゃんに協力するというか、分かった事をそれなりに教えていった方が良さそうだから教えていきます。

じゃあ私も何かしますか。

 




提督は執務室で溜息。叢雲と吹雪は悩み、長門は考えている暇がないという......。
うひゃーって感じですね。
それと今回から前書きにも書きましたが三つ巴の続編ですね。あれは序章です(白目)
ちなみに題名のAL magicですが、引用はアルフォンシーノの元ネタであるアリューシャンのあたりに起きる自然現象です。大量の海鳥が餌を求めた海面を埋める現象ですね。本編に一応説明ありますがw

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百十七話  operation"AL magic"②

 

北方海域前衛艦隊を撃破した報告が入ったのは、作戦発動から次の日だった。

どうやら哨戒艦隊は支援なしに撃破出来た様で、支隊がそのまま遠征を続行。余剰戦力を後に回すとの事だった。今日中に水上打撃部隊と会敵、交戦に入るとの報告を聞いたばかりだ。

 

「作戦は順調の様だな。」

 

前回もそうだったが、フェルトが秘書艦をしている。

 

「そうみたいだ。......戦術転換、もとい元に戻しただけではあるが、システムの裏を掻いた作戦が通用するようでありがたい。」

 

俺が椅子にもたれながら言うと、フェルトは腕を組んで唸った。

 

「うーん......。以前から訊こうと思っていたのだが、以前の戦術はどのようなものだったのだ?」

 

「編成上限を無視した大艦隊にここから大型戦略爆撃機を何百機と飛ばして攻略してた。」

 

「それは......凄いな。」

 

フェルトは俺が終わらせた書類を纏めると、俺の顔を見た。

どうやらまだ何かあるらしい。

 

「作戦発動前に何かあったと言うのを訊いたんだが......。問題でもあったのか?」

 

フェルトは濁して言ったのか、それとも聞いたままの事を俺に訊いてきたのか分からない。

だが、あの事を訊いているのは事実だった。

 

「あったと言うか、あるの方が正しい。」

 

「これからあるという事か?」

 

「そうだ。」

 

俺はそう言って立ち上がった。

 

「だがこんな人数のいるところで話す内容ではない......だが、何れ全員が関連してくることだ。」

 

「全員がか?」

 

「あぁ。」

 

俺は固まった腰を伸ばすかのように背伸びをして、髪を掻き上げる。

そして頬杖を突いた。

 

「教えては貰えまいか?出撃直前まで長門が普通じゃなかったんだ。」

 

フェルトは不安そうにそう言う。だが、この件を俺の口から話していいのか定かではない。その上、俺でさえもあやふやな部分が多いのだ。

 

「......ああ言ったものの俺も理解できてない部分が多い。残念だが話す事は出来ない。」

 

「そうか......残念だ。」

 

フェルトはそう言って手に取っていた書類に目を落とすと、提出してくると言って執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今日の番犬補佐艦隊は実にマイペースな集団ばかりだ。球磨と多摩、それと第七駆逐隊だ。

球磨たちはいつも遠征任務で鎮守府に居ないのだが、戦闘停止命令と作戦行動中は暇になる。その時間をこうやって使う様だ。俺も、普段話さない艦娘と話すことが出来て結構嬉しかったりもする。

と、言いたいが反面、面倒だ。

 

「クマぁ~。」

 

「たまぁ~。」

 

軽巡2人組は昨日利根たちが置いて行った炬燵で寝ている。そして第七駆逐隊は別の事をしていた。

 

「うひゃー!生ご主人様だよぉ!!」

 

「うっさい漣っ!静かにしなさいっ!」

 

「とか言っちゃってぇ。『生提督だっ!突撃ぃー!』ってしたい癖にぃ。行ってきなさいよ。ほらほらっ!」

 

「ムキー!」

 

と元気溌剌なんだろうが、どう見てもからかっているだけの漣にそれに乗せられている曙の図。

 

「......(ミカン剥いてる)」

 

「......(朧と同じ)」

 

炬燵でくつろぎながらミカンを頬張っている朧と潮の図。

 

「うむ。カオスだ。」

 

その一言で表現できる図だった。

 

「おろ?執務は終わったんですか、ご主人様?」

 

「終わった。」

 

そう言って俺も炬燵に入る。案外大きいので俺が入ってもゆとりがあった。

 

「あぁ。」

 

俺はそう言ってぐでーっとなる。炬燵は人をダメにするとか言った奴、今すぐ俺のところ来い。というか、炬燵作った奴来い。本当にダメになる。

 

「お疲れですか?」

 

「疲れてはないけど、炬燵に入ると無性にこうしたくなる。」

 

「分かりますぅ~。」

 

そう言った漣は曙の猛攻を気にせずにぐでーっとなった。

そのまま寝てしまった事は反省する気は無い。

寝ているとフェルトに起こされたのだが、顔を上げてみると炬燵に入っていた全員が寝ていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

水上打撃部隊もそう殲滅は難しくなかった。

赤城・加賀による先制航空戦にて制空権を確保。その後、北上・大井の先制雷撃によって水上打撃部隊は半数を喪失。残りを私と陸奥の弾着観測射撃で確実に沈めた。

久々の実戦、それもこれまでのような安全な戦いではない本来私たちが繰り広げてきた命の駆け引きは懐かしく思えた。

 

「敵艦隊撃破。損害を報告せよ。」

 

無線に向かって私はそう言う。

 

『陸奥。損傷は軽微。作戦行動に支障はないわ。』

 

『北上。全部夾叉で良かったよ。』

 

『大井。損害無し。』

 

『赤城。艦載機収容完了、補給中です。損害無しです。』

 

『加賀。艦載機収容後、補給。損傷無し。』

 

全員無傷とはいかなかったようだが、痛手は負ってない様だ。

 

「作戦続行。進軍を開始する。次はいよいよ棲地だ......。」

 

私は沈みゆく深海棲艦を見た。

炎上し、胴体が真っ二つになっているものもある。

 

「作戦行動中の全艦隊へ。我々はこれより北方海域最深部にある深海棲艦の根城を強襲する。第一支隊は支援準備にかかれ!」

 

自分の身体を奮い立たせるつもりでそう声を挙げた。

返ってくる艦娘の返事は元気だ。士気も上々。撤退中の第二支隊、第三支隊からは激励が飛んできているが全部に応えている暇はない。

 

「我々に歯向かうモノは全て打ち砕くっ!!」

 

更に自分に言い聞かせ、視線の先に見えてくるであろう泊地の方を睨みつけた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

全館放送で出撃していた作戦艦隊が最深部に到達した事が伝えられました。

確かにさっきから埠頭の方が騒がしいので作戦が順調に進んでいるのは分かっていました。ですが一方で私たちの方は全く進んでません。

昨日以来、進展が無いんです。あそこまで分かりましたが、この先が分からないんです。

私たちは何を知らなければならないのか......。司令官の事だって言うのは分かっているんです。ですけど、司令官の何を知らないといけないのか......直接話してみるというのも手だと思ったんですが、提督がどの時間暇しているのか分からないんですよね。初期艦が訊いて呆れます。

 

「叢雲ちゃん。」

 

私は取りあえず、叢雲ちゃんに声を掛けて司令官と話す場を設ける事を提案します。

 

「何?」

 

「あの話なんだけどさ、司令官と一度話す場を設けた方がいいと思うんだけどどうかな?」

 

叢雲ちゃんにそう言うと、考え込んでしまいました。ですが、すぐに答えは帰ってきます。

 

「いいんじゃない?だけど、司令官の事だって言うのは司令官に言わないで、あの話じゃなくて世間話をするかのように。そこから探りを入れるわよ。」

 

「分かった。」

 

これから執務室に行きます。時間的にも多分大丈夫です。さっき言いましたがどの時間暇しているか分からないってのはそうなんですけど、大体暇してる時間は分かるんですよね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

艦娘が12人も居るところに更に吹雪と叢雲が来た。13人も居て狭いと少し感じていた執務室も2人増えたことで本当に狭く感じてしまう。

昼食を摂って休憩していた時に訪れたので話がしたいってのは分かった。メンツを見ても話があるのは一目瞭然だってのもあるが。

 

「司令官。少しお話しませんか?」

 

吹雪がそう言ってくる。いつもなら嬉しそうに言うのだが、表情が硬い。やはりそうだ。あの話を持ってきたのかもしれない。

 

「分かった。だがちょっと待っててくれ。」

 

そう言って俺は立ち上がり、フェルトに声を掛けた。

 

「フェルト、私室前に立っててくれ。中には俺と吹雪、叢雲が入るから。」

 

「うむ。だがどうして私たちを入れないのだ?」

 

「重要案件だからな。」

 

そう言って俺は私室を開けて吹雪と叢雲を招き入れた。

そして椅子に腰かけ、吹雪と叢雲も近くの椅子に座った。

 

「こうして来たという事は、何かあったのだろう?」

 

そう訊くと叢雲は首を横に振った。

 

「いいえ。ただ司令官と話がしたかっただけ。......考えすぎちゃっておかしくなりそうなのよ。」

 

そう言って眉を八の字にした叢雲が言った。

 

「そうなんですよね......。だから気分転換に司令官とお話しできたらなぁーって。」

 

吹雪もどうやら叢雲と同じようだ。もしかしたら昨日から考えていたのか?そう思った。何故なら吹雪と叢雲は共に鎮守府で待機だ。することはない。だからあの事を考えてしまっていたのかもしれない。

 

「分かった。何でも訊いてやろう。」

 

俺はそう言って冷蔵庫に向かった。

 

「2人は何を飲む?と言ってもお茶と牛乳くらいしかないが。」

 

叢雲はお茶で吹雪は牛乳だという事で氷の有無を訊いて出した。

 

「はい。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ありがとう。」

 

俺は机にコップを置くと、再び聞いた。

 

「何でも聞くぞ?」

 

そう言うと叢雲が訊いてきた。

 

「よく考えたら私たち、司令官が昔何をやっていたとか聞いた事ないわ。......何をしていたのかしら?」

 

「あぁ......学校に行ってたよ。」

 

俺は普通に答える。これは長門や鳳翔に話した事のある事だ。

 

「学校ってあれ?子どもが学ぶ場所でしょ?......そうなんだ。」

 

叢雲はそう言ってふーんと鼻を鳴らした。

 

「学校で提督は何かやっていたんですか?」

 

「そうだな......。皆と同じ事は勉強だな。他では部活動をやったり、先生の手伝い、友達と話したり位か。」

 

俺はそう言って腕を組みながら応える。

 

「学校ってどんなでした?」

 

吹雪は興味津々で訊いてくる。

 

「ど田舎にあった学校だ。皆仲が良くて元気、礼儀正しい生徒ばかりの学校だった。」

 

ここで話が途切れてしまった。

 

「あっ......提督ってご家族は?」

 

吹雪はそう訊いてきた。

 

「親父と母さん、姉貴がいる。」

 

「へぇ~。お元気なんですか?」

 

そう訊かれ俺はどうだろうかと想像をする。

 

「元気だろうな。ここ5ヵ月以上逢ってないから知らないが。」

 

俺がそう言うと叢雲は微かに反応した。

 

「ねぇ司令官。友達いたの?」

 

「何だその言い方。......勿論居たさ。喋って、冗談言いあって、遊んだりしてた奴ら。」

 

「その友達は元気?」

 

「さぁな。家族と一緒でここ5ヵ月以上合ってない。」

 

俺がそう答えると叢雲は眉をひそめた。何かを考え始めた様だ。その一方で吹雪は訊いてくる。

 

「ある妖精さんに訊いた話なんですけど、提督が航空戦に精通してるって本当ですか?」

 

なんじゃそりゃと口に出さないで思ったが、訊いたつては大体想像できる。

 

「精通はしてるかさておき、ある程度は話す事はできるぞ?」

 

「へぇ~。司令官って軍の学校に通ってたんですね!」

 

「んな訳あるか。普通の学校だ。俺がそういうのが話せるのは、戦闘機とかに興味があったからだよ。」

 

吹雪はガーンみたいな擬音が着きそうな表情をした。

 

「でも、妖精さんたちは感心してましたよ?......そう言えば空母の皆さんも司令官に感心してましたよ?」

 

「何をだ?」

 

「艦載機の特性を熟知しているだとか。」

 

「あぁあれね......それは戦闘機に興味があったが故の副産物だ。」

 

そう俺が言うと吹雪は牛乳を飲んだ。

 

「でも流星を戦闘機運用しようだなんて誰も言いませんよ。」

 

どこからそれを訊いたんだろうと思ったが、言い訳をしておいた。

 

「それは流星の翼内に20mm機関砲があるから戦闘機として使う事もできるって言っただけだ。そもそもあれは艦攻として設計されたモノであって、戦闘機として使うモノじゃないからな。」

 

「そうだったんですかぁ。」

 

吹雪ははぇーとでも言いそうな表情をしている。その一方で叢雲は難しい顔をしたままだった。

少し間を空くと、叢雲は考えるのを辞めたのだろうか、お茶を一気飲みすると立ち上がった。

 

「ありがと、楽しかったわ。すこしやる事で来たからお邪魔するわ。」

 

そう言って叢雲は私室から出て行ってしまった。それを見送ったが、残された吹雪に永遠と色々と聞かれたのは言うまでも無い。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

(知らなければならない事......。見えてきたわ。)

 

私は執務室の帰りにそう考えながら歩みを進めていた。

今日、司令官と話して分かったことは『司令官の家族は司令官の居た世界に残ったまま』という事。考えれば至極普通の事だが、別の視点から見ると変わって見えるかもしれない。私はそう思った。

 





今回のシリーズの番犬補佐艦隊はなるべく登場のない艦娘たちを出そうと考えてます。
今日は球磨と多摩、第七駆逐隊でした。

あと話が進展していきます。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百十八話  operation"AL magic"③

私たちは予定よりも早く進軍してしまった。提督への報告には今日中に水上打撃部隊と交戦と言ったが、既に最深部の艦隊と交戦している。

戦火交える水面には立ち上る炎が辺りを埋め尽くしていた。

飛び交う砲弾と頭上に小うるさい艦載機。聞き慣れた発動機の音では無く、聴くだけで強張る音だ。

 

「全主砲、斉射っ!!」

 

硝煙を気にせずに外を睨む。

遥か彼方で水柱が上がり、観測妖精から連絡が入る。

 

「命中弾4っ!」

 

致命傷を負わせることが出来た筈だ。無線にも次々と報告が入ってくる。

 

『戦艦1隻轟沈っ!』

 

『敵空母の飛行甲板が炎上中っ!』

 

吉報だった。既に報告前には空母を1隻沈めていて、且つ、雷巡も1隻沈めている。残るは発着艦の出来ない的に成り下がった空母と損傷が軽微な戦艦、軽巡だけだ。

 

「本隊旗艦より第一支隊。支援を要請するっ!」

 

『準備出来てるネー。艦載機群がそっちに向かってるヨ。』

 

第一支隊旗艦の金剛が答えてくれた。

 

「有難い。支援砲撃も要請する。」

 

『分かったネ。』

 

通信が切れ、私は戦列を見た。乱れていない。流石は初期を支えた艦娘たちだ。だが、その中で新入りの大井はよくやっている。

進水した日に問題を起こしたと訊いているが、それ以来何もしていないどころか、良い話しか聞かない。駆逐艦の艦娘の面倒を見て、積極的に資料室で戦術指南書を読み、自分の艤装を磨く。とても素晴らしい模範だ。

 

「長門より本隊へ。第一支隊の支援が終了した直後、全速で吶喊するっ!赤城、加賀は艦載機の補給を行いすぐに発艦っ!」

 

『『『『『了解っ!』』』』』

 

敵艦隊の反対側を見ると、艦載機群がかなり接近しており、高速で空気を切り裂く音も聞こえた。

その刹那、敵艦隊に多くの水柱が立ち、艦載機群が襲いかかった。

 

「敵艦隊に突撃を敢行するっ!全艦続けっ!」

 

『『『了解っ!』』』

 

「北上と大井は左右に展開し、ありたっけの魚雷をたらふく食わせてやれっ!」

 

『言われなくてもっ!』

 

『そのつもりですっ!』

 

私と陸奥を追い越していった北上と大井は扇状に雷撃をし、離脱していく。

その雷撃針路に入らない様に進み、私は指示を出した。

 

「目標、敵戦艦っ!ビック7の力、侮るなよっ......撃てぇっ!!!」

 

轟音が身体を震わせ、硝煙が視界を遮る。

そして硝煙が晴れると、視界には燃え盛り、沈みゆく敵艦隊が映って見えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

知らなければならない事が大体分かってきた。

私たちは司令官の着任を快く歓迎し、受け入れたわ。それに司令官は最初に着任拒否を行使できる事も知っていたわ。だけども、そんなことをお構いなしにただ『司令官の着任』を喜んだ。だけどそれは私たちの視点。司令官の視点に立ってみてはどうでしょうね。

ここからは私の勝手な妄想だけど、司令官の視点に立ってみたわ。

この世界に指示を出していただけで、唯の学生だった司令官は突然この世界に呼び出された。そして長門たちに着任しては貰えないだろうかという話を持ち掛けられ、説得されたんでしょうね。それで司令官はここに着任することを決めた。

これは表面上の話よ。

 

(司令官って結構ニブチンだから分からないけど、あの人自体何考えてるかは判り易いのよね。)

 

この世界に留まる事を決め、艦隊の指揮を任され、学生では到底負う事のない巨大な責任をいきなり背負った。その重圧はとんでもないものでしょうね。

 

(もし責任に押し潰されそうになっていたのなら、おかしくなっている筈よね......。)

 

赤城が考えている事が司令官の背負っている責任を軽くするためのものなら待遇改善云々って話はないわ。それに責任に押し潰されそうならもっとわかりやすいアクションがあるはずよ。

次の線は、これが一番現実的よね。

 

(いきなり知らない世界に放り出されて軍隊の指揮を任され、自分も死ぬかもしれない世界に居る事。)

 

これならどっかのタイミングで逃げ出してるわ。もしかしたらそれ以前に着任拒否をしていたかもしれない。

最後に、一番あってほしくない事。そして赤城の言っていた事と照らし合わせると、一番可能性がある事。

 

(家族に引き離されて知らない土地にひとりぼっちで居る。周りには仲間もとい艦娘たちが居るけど、それでも知らない人たちだ。)

 

今のに2つ目を加えたら私にとって最悪な事だわ。

それだったら気付いた赤城たちが気付かない私たちを『司令官の害と判断して排除する』という話は繋がるわ。

だけども、ここまで考えてきたのはいいものの、憶測に過ぎないわ。司令官からその本音を訊きださない限りね。

 

「もう一度、話してみようかしら。」

 

私はそう呟いてその場から離れたわ。向かう先は執務室よ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

執務室には番犬艦隊と番犬補佐艦隊が居るわ。時間的には夕食も終えてそろそろ就寝の準備をしなければならない時刻。

 

「失礼するわ。」

 

そう言って私は執務室の扉を開いた。

丁度、解散しているところだったらしく、私の脇を球磨たちが通り過ぎて行った。

 

「ん?どうした、叢雲。」

 

司令官はそう訊いてきた。

 

「また少し話したくなってね......。いいかしら?」

 

「あぁ、フェルト。私室前に立っててくれ。」

 

「了解だ。」

 

司令官はフェルトにそう言うと私を私室に招き入れた。

 

「どうしたんだ?昼の後のは何かすることがとか言ってなかったか?」

 

「えぇ。もう終わったからね。」

 

そう私が答えると司令官はコップにお茶を注いだのを私の目の前に置いた。

 

「お茶の気分じゃなかったらごめんな。叢雲が帰った後に吹雪が全部飲み切っちゃってないんだ。」

 

「いいえ、お茶が良かったの。丁度いいわ。」

 

私はそう言ってコップを手に取ると、お茶を口に含んだ。

 

「唐突に気になったことがあってね......。」

 

「何でも言ってみろ。」

 

司令官は笑いかけてくれているが、これから話す事はそんな表情を一瞬にして吹き飛ばしてしまうかもしれないと考えると少し怖気づいてしまいかけた。

 

「......司令官さ。」

 

「あぁ。」

 

「『寂しい』って思ったことない?」

 

私がそう言うと司令官は表情を変えずに答えたわ。

 

「全然。皆がいるからね。毎日楽しいよ。」

 

答えた司令官の目を見て私は繰り返した。

 

「本当に?『寂しい』って思ったことないの?」

 

一瞬、司令官の目が泳いだ。これは多分嘘だ。

 

「あぁ。」

 

「本当に本当?」

 

そう畳みかけると司令官は口を開いた。

 

「......少し、思う。」

 

「どんな事?」

 

「......家族と友達が居ない事だ。」

 

どうやら予測的中してたみたい。でも最悪な方だった。そして私の脳裏にある言葉が壊れたように流れ出した。

 

『気付かなかったのなら貴女たちは私たちにとって提督の害になりますよ?』

 

『貴女たちは私たちにとって提督の害になりますよ?』

 

『私たちにとって提督の害になりますよ?』

 

『提督の害になりますよ?』

 

『提督の害。』

 

壊れたテープの様に赤城の声でそれが流れ続けた。『提督の害』。これで全て悟ったと言っていいか分からないけど、確実にあと一歩というところまで来たのは分かった。

 

「どうした?」

 

「......あっ......ああぁぁぁぁ......。」

 

引き戻された私の視界に映るのは司令官。心配そうな表情を私に向けている司令官だった。

 

(『提督の害』......これまでの話を整理すればもう少しよ。)

 

口ではもう何を言っているのか私自身分からないが、思考は正常と言っていいか定かではないが、考えられるだけの力は残っている。

 

(司令官はこの世界に『提督を呼び出す力』で呼ばれた存在。そして司令官は司令官のいた世界では学生。つまり勉学に励み、これからの国を背負っていく若者の一人。年齢は18歳でテレビで見ただけの話だとこれからが楽しい年齢。そして、それぞれが夢を持って突き進んでいる......。司令官はその若者の一人だった。)

 

遂に思考も正常に働いてるのか定かではなかった。司令官の呼びかけにも私は応じる事が出来ずに思考だけは進んでいく。

私の本能がそれを考えてはいけないと警笛を鳴らしているが止められない。

 

(という事は......私たちは私たちの勝手な都合で司令官の人生を奪った?)

 

さっきまで司令官の映っていた視界が一気にシャットアウトした。

思考もそれを考えたっきり止まった。

そして一気に現実に引き戻される。司令官が視界に映りさっきと変わらない心配そうな表情をして私を呼んでいた。

 

「叢雲?どうした??おーい。」

 

「あっ......いやっ......。」

 

思考に流入する情報は全て司令官のものばかりで、視界にも司令官しか映っていない。

 

「叢雲?返事しろよ......。目開けたまま寝たのか?」

 

「あぁぁぁぁぁぁ......ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????」

 

突然激しい頭痛に襲われたのと同時に現実が脳裏に焼き付いた。

これが赤城が気付かなくてはならない事だったのか。私の本能がそう訴えている。そしてそれと同時に本能が自害することを私の身体に命令していた。

 

「いやぁ......いやよっ......。」

 

「おい、どうした叢雲?突然泣き出して......なんかあったのか?」

 

相変わらず司令官はそう私に声をかけてくれる。いつもならうれしい事なのだろうが、私はその声を拒絶していた。それを訊いてしまう事はいけないことだと本能が自害を求めるのと同時に訴えてきているのだ。

 

「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤッ!!!!!」

 

「どうしたっ?!フェルトっ!!フェルトっ!!今すぐ入って来いっ!!!」

 

私はその声を聴いて気を失った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

さっき吹雪型の私室のネームシップだからといってここのリーダーを任されていますが、さっき妖精さんから連絡がありました。

叢雲ちゃんが執務室で突然、錯乱を起こして気絶したと司令官が言っていたという事です。

あの叢雲ちゃんが錯乱するって相当の事。何かあったに違いないけど、一体何なんだろう?

私は叢雲ちゃんが運ばれた医務室に足を運び、叢雲ちゃんが目を醒ますのを待つことにしました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

目を醒ました叢雲ちゃんの目には生気がありません。

一体どうしたのかと尋ねると叢雲ちゃんは私の肩を掴みました。普段ならもっと優しく掴む手も今日に限ってはとても強く、爪が食い込んでしまうのではないかというくらいです。そんな叢雲ちゃんは私に言いました。

 

「赤城が言ってた事......分かったわ。」

 

「本当っ?!」

 

「えぇ......だけど気付いてしまうともう戻れない。目を醒ましてから私の頭の中で誰かの声がずっと私に言ってくるの......『死ね。』、『自害しろ。』って。」

 

叢雲ちゃんの言っている意味が判らなかったです。何故そんな事が聞こえてきたのでしょうか。

 

「えっ?それってどういう意味?」

 

「......そのままの意味、よ。......気付くという事はそう言う事みたいね。そして、赤城の言った通りよ。」

 

叢雲ちゃんはそう言って私の顔を掴んで近づいてきました。

 

「気付かない艦娘は確かに『司令官の害』だわ。......だけどね。」

 

そう続けた叢雲ちゃんの目から大粒の涙が流れました。

泣き顔なんて一度も見せてこなかった叢雲ちゃんが突然泣き出しました。

 

「だけどね......本当は自分もその『司令官の害』の対象で、自分の存在がとても気持ち悪いわっ......。『提督への執着』によって起きる殺意は受容してしまうとこうなってしまうのよ......。」

 

そう言った叢雲ちゃんはベッドにもたれ掛かりました。

 

「それで、なにに気付いたの?叢雲ちゃん?!」

 

そう訊くと叢雲ちゃんは口角を不自然に上げて言いました。

 

「私たち艦娘が最も大事にし、大切に想っている司令官のね......。」

 

叢雲ちゃんは突然震え出しました。それを抑えながら振り絞った声で叢雲ちゃんは言いました。

 

「家族、夢......全てを奪ってしまったのよ。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

長門から作戦完了の報告が入り、支隊が続々と帰還してくる。

支隊は交戦をできるだけ避けてきているはずなので損傷はないが、長門たち本隊が気になるところだ。

 

「祝いは持ち越しだな......。西方海域の奪還の後だ。」

 

そうすぐに祝いをしたがる気持ちを抑えて自分に言い聞かせた。

だがその一方、気になる事があった。

昨日の夜、叢雲が突然錯乱を起こした事だ。話していると突然口を開かなくなり、どうしたのだろうと心配して見ていると突然叫び始めた。錯乱という言葉を書いた事はあったが、使ったことは無かった。見るのも初めてだったし、『壊れた』と思ったのも初めてだったが、何故突然ああなってしまったかが分からなかった。

 

(結局、叢雲のあれは何だったんだ?)

 

それに関してとても気になるところだが、俺は深く考えずに長門たちの返りを待った。

ちなみに今日の番犬補佐艦隊は最上、木曾、長良、名取、白雪、雪風だ。中々まともなメンツで安心していたところだ。

最上は結構マイペースで、一人水上機の運用に関する戦術指南書を読んでいた。木曾は瞑想。長良と名取は物語を読んでいた。白雪はファイルを見ていた。何を見ているかは知らない。雪風はというと、さっきから何故かは知らないが俺の欲しいものが分かるらしい。みかんや温かいお茶を淹れてきてくれる。正直うれしい。

と挟んだはいいものの、叢雲が心配だった。

 




遂に叢雲が気付きました。
これまでの傾向とは少し違っていますね。

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第百十九話  operation"AL magic"④

 

北方海域を奪還した作戦艦隊の凱旋だ。

長門曰く、奪還してからそのまま東進。北アメリカ大陸を見たとの事。場所はアラスカだったと言っていた。だが沿岸部は凍り付き、人の気配は感じなかったとの事。北方進出という事で、赤城と加賀がラジエーターの不凍液を積んでいたことから、彗星一二型甲を偵察に出したところ。沿岸から40km離れたところに都市を発見したとの事だった。それよりも内陸は人が居る様で、機体にサーチライトを照射されたので偵察機は慌てて帰還したという事だった。これは全て無線で聞いた事だ。

それよりも今は凱旋待ちだ。足並みをそろえるという事で出撃していた支隊は沖で本隊を待ち、一緒に戻ってくるとの事。

 

「来たわよっ!」

 

ビスマルクの声に埠頭に出ていた全員は声を挙げた。

今までの様な手厚い支援も無い処に戦術を凝らして投入したからだろう。それは皆知っている。だからこそだろう。

戻ってきていた艦隊が埠頭に接岸し、艦娘たちが降りてきて俺の前に整列する。

 

「作戦終了した。北方海域最深部の棲地を撃破した。」

 

そう長門は言った。

 

「あぁ。」

 

「さぁ、まだ作戦は続くのだろう?」

 

「そうだ。」

 

俺が答えると長門は手を天高く突き挙げた。

 

「次もドンと来いっ!だ。」

 

「そうだな......損傷した艦は入渠しろっ!一時的な休息を取る。」

 

指示を出して俺は足早に執務室に戻った。

これから西方海域の攻略に向けて動かなくてはならない。だが、難点が1つある。

それは俺の記憶が正しければ西方海域の最深部は『姫』がいる。特殊な深海棲艦だろうけど、実態は不明だ。何せ未だに挑んだことがないからな。

最深部の『姫』は『装甲空母姫』と呼ばれている。それに俺の居た世界では何度も挑んでゲージを減らし、最期に出てくるのが『装甲空母姫』だ。前哨戦では『姫』じゃなくて『鬼』の表記だったはず。だが、まだ分からない。

そんな事を考える前に負けなければいいのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

叢雲ちゃんが言った言葉。

そのままだったのなら私たちが司令官の何もかもを奪ったという事になります。それだけ言われても言葉の意味自体は理解できますけど、途中の経緯が見えません。何故、私たちが司令官の何もかもを奪った事になっているのか......。

 

「......どういう意味?」

 

そう訊き返すと叢雲ちゃんは答えてくれました。

 

「昨日の夜にもう一度、司令官のところに行ったの。」

 

目に光が戻らない叢雲ちゃんは話し続けます。

 

「そこで私は司令官にただひとこと訊いたの。『寂しいって思ったことはない?』って。最初は私たち、艦娘が居るから平気だって言ってたんだけど......。」

 

叢雲ちゃんは光のない目から涙を流し始めました。

 

「問い返したら、『家族と友達が居ないから寂しい』ってっ?!......私たちは確かにこのことを知ってなければいけなかったっ!?ただただ司令官が着任した事を喜び、幸せな気持ちになったのは私たちだけっ!?......司令官はこの5ヵ月間いきなり家族から友達から引き離されて、知らない土地で戦争をやらされ、重い責任を背負って......。」

 

叢雲ちゃんはシーツを弱々しく握りました。

 

「何よ、『提督への執着』って......。こんなの、ただ司令官を苦しめるだけじゃないっ!!!」

 

叢雲ちゃんは何も発する事の出来ない私の腕を掴みました。

 

「空襲に遭って鎮守府が焼けた時、司令官が自分を撃とうとしてたじゃない?......あれって、苦しさから解放されたいからじゃないの?!上辺ではこの世界の人たちがとか言ってたけどっ?!」

 

「......。」

 

「きっと心の中では辛く感じてるに決まってる......軍隊を指揮して、命を狙われ、日本を背負い、私たちに悟られない様に必死に隠してる......。」

 

ぐしゃぐしゃの顔で叢雲ちゃんが私の顔を見ました。

 

「独りで戦っているわ......。きっと......。寂しさと責任とね。」

 

私は震えて立つことも危うい足に力を入れた。

叢雲ちゃんが言った言葉。多分これが気付かなければいけないことなんでしょう。確かにこれが理由ならあそこまで人を変えてしまうのも分かります。

 

「......本当なの?」

 

そう訊くと叢雲ちゃんは涙をぬぐいながら言いました。

 

「きっとね......だけど、本音は分からないわ。司令官は確かに『寂しい』とは言ってたけど、責任から逃げ出したいってのは訊いてないの。ただその『寂しい』という言葉から連想で来た事がこれだったの。」

 

「そう......なんだっ......。」

 

私は遂に足の力が抜けました。

もう何を考えたらいいのか分かりません。ただ、ずっと脳裏にあるのは紛れもなく『司令官の未来を奪った』って事。初期艦だけじゃありません。この世界に着てすぐなら着任拒否で帰る事が出来ました。だけど司令官はそれをしませんでした。という事はもう司令官のいた世界には帰れない。ここに残ったのならいつ終わるか分からない戦争を一生やらされて、いつか死んでしまう......。こんな事、艦娘なら誰にでも想像ができます。

 

「......これまで、司令官の為に戦ってきたのにっ......。」

 

目から涙が流れてきます。痛い、辛いなんてものじゃありません。

 

「......仇が私たちだなんてっ......。」

 

ただ、長い時間あったのに気付けなかったのだろうという自分への憎悪だけでした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は帰ってきて艤装を入渠場に置いてくると一目散で叢雲と吹雪を探した。

霧島と熊野は共に出撃していたからあの状態で何かを考え、至らせる事は無理だっただろう。だが2人は違う。この鎮守府に残っていたからだ。

何か手がかりを見つけて、彼女らなりに何か至っているのかもしれない。

 

「提督っ!」

 

「うおっ?!なんだ?」

 

執務室に飛び込み私は叢雲と吹雪がどこに居るか聞いた。

 

「叢雲と吹雪は知らないか?」

 

「吹雪は知らないが、叢雲は医務室にいるぞ?」

 

それを訊き私は一目散で執務室を飛び出して、医務室に向かった。

医務室に入ると、目に生気のない叢雲と泣き崩れている吹雪が居た。

 

「どうしたのだ?......それより、何か分かったのか?」

 

私はそう話せるか分からない叢雲に訊いた。吹雪はずっと泣いているからな。聞ける様子では無い。

 

「ええ......何かとは言わずに全てね......。」

 

叢雲は生気のない目をこちらに向けた。

 

「目がっ......死んでいるぞ?」

 

「そうかもしれないわ。」

 

叢雲はそう言って一言だけ言った。

 

「先ずは帰ってきた赤城と金剛、鈴谷に謝りたいわね。」

 

叢雲が言った言葉の意味が判らなかった。

何故突然謝りたいなどと言い出したのだろうか。

 

「どういうことだ?出撃前の深夜に話す時には事態を把握していたが、彼女らに謝る必要が無いと思うが?」

 

そう私が言うと叢雲は首を横に振った。何故だ。

 

「ああやって隠れていたのにはちゃんと理由があるんじゃないの?」

 

そう言って叢雲は私に説明を始める。

 

「隠れながらでなければ気になった私たちの誰かが尋ねるでしょ?『何をしているのか?』って。」

 

「そうだろうな。」

 

「それで答えてしまったら混乱が起きるわ。......いいえ。混乱では済まされないわ。この鎮守府が運営できなくなってしまうかもね。」

 

そう言った叢雲は私の目を見た。

 

「私の目がその証拠。死んでるって言ったわね?」

 

「あぁ。生気が無いように見える。」

 

「吹雪を見て。吹雪は泣いてしまったわ。きっと何かを抑えつけているんだと思うわ。」

 

「そうなのか?」

 

叢雲はそう言うとシーツを握りしめた。

 

「だけどね、真っ先にすることは貴女に伝えるのではなく、彼女らに邪魔をした謝罪をする事と、それぞれの艦種の代表を集めて緊急会議を開く事よ。」

 

「どういうことだ?」

 

私がそう言うと叢雲は生気の無い目を細めて言った。

 

「私たちは一生『海軍本部』に囚われた檻の中に居た方が良かったって事よ。」

 

私はその言葉に怒りを覚えた。せっかく提督が解放してくれたと言うのに、なんという事。

 

「どういう意味だ?!飼われていた方がマシだと言うのか?!」

 

そう言うと叢雲は表情を変えずに言った。

 

「そうよ。」

 

叢雲の目には生気が無い。だが何かまだあるような気がしてならないのだ。だから私は込みあげる気持ちを抑えつけた。

 

「......分かった。今日の夜にでも招集を掛けよう。」

 

「ありがとう......。」

 

私は叢雲に見取られながら部屋を出た。

一体何があるというのだろうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

私は医務妖精にもう大丈夫だと伝えて医務室を出たわ。向かう先は一つよ。

赤城の私室。たぶんここに居る筈。

 

「赤城。」

 

私はそう言って赤城と加賀の部屋をノックしたわ。

 

『空いてますよ。』

 

私は赤城の声でそう言われ、部屋に入っていったわ。

 

「叢雲さん。どうかされたの?」

 

そういつものように柔らかい笑顔で言ってくる赤城に私は話したわ。昨日今日の出来事を。そして赤城がしていた事を肯定する言葉を述べて、最後には謝罪をしたわ。

そんな私を赤城は胸を撫で下ろしたかのように一息吐いて私の横に来た。

 

「『気付いた』のね?」

 

「えぇ。」

 

私は胸を締め付けられるような思いを必死に噛み殺して赤城に言葉を返したわ。

 

「そう......『気付いた』時は辛かったでしょうね......。」

 

「よく覚えてないけど呼びかけにも答えなくなって、何かをぶつぶつ言いだした後に気が動転して、その後失神よ......。見るに堪えないって言ってたわ。」

 

そう言うと赤城は首を傾げたわ。何故だろうかと思ったけど、すぐにそれに関する疑問が赤城から投げられてきたわ。

 

「言ってたって......誰かと一緒に居たんですか?」

 

「司令官とね......。」

 

不味ったと私の直感が知らせてきたわ。ここで司令官の名を出すとどうなるか......。

 

「提督と?......そうなんですか。」

 

良かった。赤城は余り深く訊いてこなかったわ。

 

「えぇ。......それで訊きたい事があってね。」

 

「何ですか?」

 

「『気付いて』分かったんだけど、赤城たちがしている資金調達やパイプを繋げるのは戦後の為ってのは分かったわ。」

 

「そうですね。」

 

「だけど、それを使ってどうするの?パイプを使って今の状況から脱して、資金で逃げると?」

 

「そのつもりですけど......。」

 

私は溜息を吐いたわ。

安直すぎるもの。パイプで司令官の地位や何からをどうにかして、自由になった後は資金を使って消えるという事らしい。

 

「少し詰めが甘いわ。」

 

「んなっ?!」

 

私がそう言うと今まで訊いた事のない声で赤城が驚いたわ。

 

「そもそもこの計画は終戦を迎えるのが大前提なんでしょ?」

 

「そうですよ。確実に海域を取り戻しつつありますし、今日も北方海域を制圧して帰還してきたんですから。」

 

私は頭を抱えた。

赤城はどうやら終戦を迎えてその後に何があるのか考えていない様だったわ。

 

「確かに終わりは見えてきてるわ。だけどね、終わっても司令官はその重責からは逃げられないわ。」

 

「どういうことですか?」

 

私はここまで歩いてくる間ずっと考えていた事を言ったわ。

 

「多分終わったとしても深海棲艦の残党による散発的な戦闘はあるだろうし、その度に艦隊を出撃させなくてはならないわ。そうだったら司令官は一生深海棲艦の残党狩りとして生きる事になるわ。そして深海棲艦の占有する海域を全て解放したとなれば国民からは救国の英雄、大本営からは私たちを上手く操り勝利を掴んだ指揮官。どんなパイプがあったとしてもそんな『駒』をやすやすと手放すとは思えないわ。」

 

そう言うと赤城は少したじろいだわ。ここまで本当に考えてなかったのかしら?

 

「救国の英雄として祭り上げるのは分かりますが、『駒』ですか?」

 

急に赤城から怒りを感じた。多分『提督への執着』が出てきたのだろう。

 

「言い方を悪く言うとだけどね。でも実際にそう見られてもおかしくないわ。」

 

そう言って私は息を整えて続けたわ。

 

「......それとね、赤城は同じ事を考えて行動している艦娘を知ってる?」

 

そう訊くと赤城はすぐに答えたわ。

 

「いいえ。」

 

そう言って私は艦娘を2人挙げた。

 

「金剛、鈴谷......彼女たちも赤城と同じことを考えて、行動している可能性が高いの。」

 

「そうなんですか......。」

 

「あら、あまり驚かないのね。」

 

そう言うと赤城は頷いたわ。

 

「えぇ。」

 

そう返してくる赤城に私は続けたわ。

 

「だからここからは提案。赤城は金剛、鈴谷と接触して協力するのよ。それぞれバラバラだときっと後で揉めるわ。」

 

「確かに......。」

 

「だから3人で話して、協力するの。」

 

そう言って私は口を閉じた。今日赤城の部屋を訪れたのはこれを言う為だと言うのも過言ではないわ。

だけどこれを言って私は赤城にどうされるか分からない。あの場で赤城は『気付かない』艦娘を始末すると言った。それを捻じ曲げる事だから。

 

「あと......。今日の夜、艦種の代表に召集を掛けて伝えるわ。司令官の真実を。」

 

「っ?!」

 

赤城は驚いたようね。そしてあからさまな殺気を私に飛ばしてきた。

 

「でもまだ伝える時ではないわ。今発動中の作戦を終わらせた後に伝えるつもり。......でもあの時赤城が私たちにしてくれたようにヒントを出すわ。赤城が大本営宛てに送った手紙と写真、そして私たちにあの時言った言葉をね。考えて『気付いて』欲しいんでしょ?」

 

「......えぇ。」

 

赤城は殺気を少し弱めると気を落ち着かせたように見えたわ。

 

「話はこれだけ。それとね......。」

 

私は立ち上がって振り返ったわ。

 

「私も赤城に協力するわ。司令官の為に......。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

一応作戦艦隊は帰還したが、番犬艦隊は継続らしい。

なので今日も番犬補佐艦隊が来ていた。今日は、妙高と那智、足柄、羽黒、長良、名取だ。

 

「まったりしてるのもいいわねぇ~。」

 

「そうだな。」

 

炬燵で猫の如くくつろいでいるのは足柄と那智。

 

「うーん......これは......。」

 

何かの本を見ながら勉強をしているのは妙高。

 

「......(本を読んでいる)」

 

多分資料室に元からある本を読んでいるのは羽黒。

 

「ここにドラム缶を置いたらもっと持って帰ってこれると思うんだけど......。」

 

「ここに置いたら下ろしにくいのでは?」

 

何やら自分の艤装の見取り図を開いて、ドラム缶の配置を考えている長良と名取。

 

「うむ......今日も今日とてカオスだな。」

 

そう腕を組んで言った。

毎度のことながら、結構なものだ。

今日も空いてるところにお邪魔させてもらう。空いてるのは妙高の隣だな。

 

「横いいか?」

 

「ええ、どうぞ。」

 

妙高は快く言ってくれたので、肩が触れないようにある程度間隔をあけて入った。入る前に小説を片手に入ったので多分暇もしないだろうと思ったが、もしかしたら必要ないかもしれない。

 

「妙高は何してるんだ?」

 

「えぇ......何か勉強しようと思いまして......これを。」

 

そう言って見せてきたのは英語の参考書だった。こんなものを置いてるのか、酒保は。と思ったのと同時に俺は英語が大の苦手だ。いくら勉強しても身に着かなかったからな。やっとの事で高校生に上がって英検三級が取れたくらいだ。ちなみに三級は中学校卒業程度だ。

 

「うげっ......英語か。」

 

「はい。」

 

俺はチラッと参考書を見て、ノートを見た。ノートに書かれていた妙高の字は案外上手く、綺麗だった。読みやすい。

 

「提督は英語を勉強した事があったのですか?」

 

「まぁ、してなかったら『うげっ』なんて言わない。......中学と高校、で6年間な。」

 

そう言うと妙高は首を傾げた。

 

「中学、高校とは?」

 

「学校だよ。子どもが集まって勉強をするところだ。」

 

「そうなんですか。じゃあ提督もそこに通ってたと?」

 

「そんなところだ。」

 

その話に足柄と那智が食いついてきた。

 

「学校に通ってたの?」

 

「学校に行ってたのか?」

 

そう訊いてきた2人に俺は答えた。

 

「あぁ。」

 

そう答えると足柄が少し興奮気味に訊いてきた。

 

「学校に通ってたって事は色々なことを学んでいたのよね?!なにを学んでたの?」

 

「そうだな......現代文、古文、数学、化学、物理、政治経済、英語......他にも副教科って言われてた体育と情報、美術、保健体育かな。」

 

「現代文って......何?そのままの意味よね?」

 

足柄がそう顎に指をやりながらいった。

 

「あぁ。近代にかかれた小説や評論文を読み解く科目だ。読解力を身につける。」

 

「ふーん。じゃあ授業中はずっと本を読んでたの?」

 

「いいや。普通に教員が講義をしてた。」

 

俺はそう言って持っていた本を開いて、適当に行を指差して見せた。

 

「例えば、ここ。......『分厚い雲から大粒の雨が地面を叩いている。』この文から何を感じる?」

 

「雨が降ってる様にしか思えん。」

 

「そうよね?」

 

そう答えた那智と足柄を一蹴した。

 

「違う。正解は、主人公は悲しい気持ちになっている、だ。」

 

そう言うと那智と足柄は驚いた。

 

「前後の文と主語を読むんだ。そうするとこれの文がそういう意味を持っている事が分かる。」

 

そう言って那智と足柄に本を渡した。

 

「......確かにそうね。」

 

「言われてみれば......だな。」

 

そう言った2人が本を返してきた。

 

「こうやって物語や評論を読み解いていくんだ。」

 

「「へぇー。難しい事をしているんだな(のね)。」」

 

声をそろえて2人は言った。

 

「まぁ、皆やってることだ。」

 

そう言って色々と話した。

何だかこの時間が楽しく思えた。この感覚は久々な気がする。

 





遂に動きますよ。えぇ(白目)
考察が激化すると思うのですが、気にしません。偶に当ててくる読者様もいらっしゃるので毎回ひやひやしております。

一部の艦娘はああやっているのにも関わらず結構のほほんとしてますね。提督。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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番外編  俺は金剛だ!⑨  『いろいろあった』

 

こんなに人に囲まれたのは初めてかもしれない。俺はそう思った。

今俺は、フラッシュが当たる先にいるからな。

 

「海軍の女の園にいらっしゃる感想はっ?!」

 

「鎮守府の暮らしはどうですか!?」

 

「スリーサイズを教えてくださいっ!」

 

さっきの俺の心の声、分かってくれたか?今俺は取材陣に囲まれている。何故そんな事になったかというと、数時間前に遡る。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「バレちった☆」

 

「おい、機密管理くらいしっかりしろ。」

 

白瀬さんはそう言って手を頭にこつんとして言った。なんか腹立ってきた。

 

「んで?バレちったとか言ってるけど、それでどうしたんだよ。」

 

「あぁ、この前の海軍大将様(笑)がどっかで喋ったらしくて、メディアにバレた。」

 

「最悪だ......。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

色々端折ったがそういう訳で、今に至るんだが、一応ここって軍の施設だよね?

凄い人いるんだけど。全員女だけどもさ。つうか最後の、男にスリーサイズ訊いてどうするよ。

 

「あーあー、もう順番に応えるから......ったく、白瀬さんの馬鹿野郎。」

 

俺は小声で悪態を付いてちゃんとメディアの質問に答えてやった。と言っても1社につき1つだけな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「あ"ー疲れた。疲労で死ぬ......。」

 

「お疲れ様です。」

 

俺はやっと解放されたメディアの猛攻による疲れを甘味処で取ろうと思ってどうしようかと思っていたら大和が居たのでついて来てもらった。だって一人だと怖いんだもん......、自分で言ってて気持ち悪かったわ、今。

 

「どこ行ってもメディアってのはクソだな。」

 

「そうなんですか?」

 

「そうだろう?」

 

俺はぐだーっとなりながら大和に話しかける。

 

「ラムネ、飲みますか?」

 

「おぉ、ありがと。」

 

大和からラムネを貰って飲むと、のどを炭酸が刺激して甘い味が口の中ではじける。

というかいつも思うんだが、大和ってどこからラムネ出してるんだ?まぁいいか。

 

「まぁメディアに解放されてもあまり変わらないんだけどな......。」

 

「そう、みたいですね......。」

 

そう言って俺は顔を上げて周りを見渡した。辺りには艦娘が見える範囲で15人くらいいる。怖いっす!皆、目が血走ってますっ!!

 

「でも押し寄せてこないだけいいか。」

 

俺はそう言ってラムネの瓶を傾ける。

中でビー玉が転がり、甲高い音を鳴らした。

 

「あっ、そう言えば、また足柄さんが武蔵に挑むみたいですよ。」

 

「マジで?」

 

「はい。たぶん始まると思うので、見に行きますか?」

 

「あぁ。」

 

急になに言い出したかと思うと、どうやら足柄がまた武蔵に勝負を挑むみたいだ。

また一発で堕ちるか見たいから見に行くことに。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

緊張で張り詰めた雰囲気の中、2人の艦娘が睨み合っていた。一方は身体が大きく、褐色の健康的な肌で白髪の艦娘。もう一方は黒髪でウェーブのかかった髪を纏めていて、身体はそれ程大きくないが、闘志に満ち溢れた目をしている艦娘。

 

「どこからでも掛かってくるがいい。」

 

褐色の艦娘はどんと構え、仁王立ちをしている。その艦娘にもう一方の艦娘は言い放った。

 

「倒して見せるっ!手に入れるためにっ!!」

 

そう言い放った艦娘に褐色の艦娘は答えた。

 

「ふんっ!やってみるがいいさ......。私に挑んでも結果は変わるまい。」

 

そう言い切った直後、艦娘は走り出し、攻撃を仕掛けた。両手足を自在に使い、攻撃を繰り出す。だがそれを褐色の艦娘は避ける事も無かった。

 

「ハエが飛んでいるのか?」

 

「......舐めてもらっちゃ困るわねっ!!」

 

艦娘は一歩引くと、助走をつけてさっきと同じ構えをした。それを見た褐色の艦娘は体勢を買えなかったが、艦娘は直前で攻撃を変えた。最初に手を出すと思いきや、足を出した。その足は褐色の艦娘のすねに当たり、ドンと音を立てた。そしてその場所を集中狙いをする。次々に繰り出される攻撃は全てすねに集中し、褐色の艦娘も遂に動き出した。

 

「やるなっ!だが、私を動かしてしまえばお前はもう負けだっ!」

 

そう言い放った褐色の艦娘に答えた。

 

「それはどうかしらっ!」

 

その艦娘は狙っていたかのように同じすねを狙った。だが今回は違う。これまでは自分のすねや足の甲で攻撃をしていたが、身体を逆回転させ、すねに当たったのはかかとだった。

これまでに出なかったゴンと言う音を立て、艦娘は立ち上がり褐色の艦娘を見た。

褐色の艦娘は額に脂汗を流し、動きを止めている。

 

「そんなっ......まさかっ?!」

 

「重装甲でも片舷狙いなら数撃ちゃいいのよ......。」

 

そう言った艦娘は俺の方を見た。そして走り出す。

 

「勝ったわ~!遂に勝ったぁ~!!!金剛く~んっ!!」

 

そう言って飛び上がってこっちに飛んできた艦娘を俺は見逃さなかった。

隣にいた艦娘の襟を掴み、

 

「ひえっ?!」

 

あと数センチという距離でその艦娘の後ろに入った。

ドサーと音を立てて滑っていくその艦娘を見て俺は思った。

 

「今度は躱させて貰ったぞ。」

 

そう言ってその艦娘を起き上がらせて、取りあえず離れてた。

その艦娘は戦いには勝ったが、勝負には負けたのだ。

 

「うぅ......後がないのにっ......。」

 

その言葉を聞いた者は誰も居ない。だが、寒気はしたと言う。

 





唐突の番外編です。
まぁ......うん。何も言いません。

あと、シリアスな本編から一変したこっちのカオスな感じは結構和みますね。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百二十話  『気付いた』艦娘たち

赤城と話した日の夜。消灯時間が過ぎた辺りに艦娘寮の空き部屋に私は来ていた。

今からそれぞれの艦種の代表を集めて、これまで起きてきて何も解決していない事態のヒントを上げるの。

 

「待たせた。」

 

私の次にこの部屋に来たのは長門だったわ。長門は戦艦の代表。鎮守府でも発言力の大きい艦娘の一人だ。

だが次から入ってくる艦娘が私の指定していた艦娘と違っていた。

 

「お邪魔しますね。」

 

「お邪魔しますわ。」

 

入ってきたのは霧島と熊野だった。

何故、この2人なのか......見当は付く。

 

「済まないな、叢雲。今日呼んだのはこの2人だけだ。」

 

そう言って長門は椅子に座ったわ。

 

「このメンツなら分かるわ。だけど、どうして?」

 

そう訊くと長門は腕を組んで言ったわ。

 

「医務室で叢雲に言われた言葉、考えてみたんだ。......答えは分からないが、まだ広めるべきではないと判断した。それに、今から話す内容は赤城、金剛、鈴谷の件だろう?」

 

流石は長門だ。私より進水は遅いが、数多くの修羅場を潜り抜け、鎮守府で一番強い彼女なだけあるわ。

だけど司令官は『長門は偶にポンコツな発言をするからなぁ』と言っていたのは黙っておきましょう。

 

「そうよ。」

 

そう答えると霧島が訊いてきたわ。

 

「それで、分かった事があるんですよね?」

 

「えぇ。」

 

霧島も流石だ。長門と伝家の宝刀、扶桑と山城とほぼ同時期に進水し、回避率を上げる為に編成される高速艦隊の旗艦を専任している艦娘なだけある。特に霧島は情報収集が得意みたいだし、艤装の妖精への指示も上手いわ。なにより古参というブランドが物を言うわね。

 

「私たちは形はどうあれ赤城、金剛、鈴谷の異常な行動に関して調べて来たわ。」

 

そう言うと霧島と熊野は頷いたわ。

 

「彼女らが何をしているか、それは大方分かってきたけど、どうしてそんな事をしているのか、考えた事はあったかしら?」

 

「......ふむ......何かの目的があるのは明確なのですが、皆目見当もつきませんね。」

 

「霧島さんと同じくですわ。」

 

やはりこの2人も『気付かない』艦娘だったんだわ。そして私も昨日までそっち側だった。

 

「長門。私が医務室で言った言葉、言ってみて。」

 

「あぁ。確か......『私たちは一生『海軍本部』に囚われた檻の中に居た方が良かった』だったか?」

 

そう言うと霧島はすぐに答えたわ。

 

「......提督に関する事ですね。」

 

「当たりよ。」

 

私は続けたわ。

 

「でもなぜそういう事を言ったか......『提督を呼び出す力』に関して疑問に思った事、呼び出した後、何かを考えた事はあったかしら?」

 

「無いですわね。提督が着任されて、嬉しくて嬉しくて、提督の力になろうと心に誓っただけですわ。」

 

よくもまぁそんな恥ずかしい言葉を言えたものだけど、大体の艦娘がそうなのよね。

 

「そう......。じゃあ、何のためにこんなことをしているか......それは......。」

 

少し溜めた。口が少し動かないというのもあるが、言い出しにくい。だが、そんな時、突然扉が開かれた。

 

「叢雲さん。待ってください。」

 

現れたのは赤城、そしてその後ろには加賀、時雨、夕立、金剛、鈴谷、イムヤが居た。イムヤには少々違和感を感じるものの、どういう組み合わせか私は分かっていたわ。

 

「私から説明します。」

 

そう言って赤城は空いてる椅子に座ったわ。他の金剛たちは立ったまま。

 

「私たちが動き出したのは提督のある言葉です。」

 

「ある言葉とは?」

 

長門が訊く。

 

「金剛さんと鈴谷さんは知りませんが、私は提督の『寂しい』、『帰りたい』という言葉で動き出しました。」

 

そう言うとやはり察しがいい霧島はメガネを上げて言ったわ。

 

「はぁ......そう言う事ですか......。」

 

それを赤城は一瞬見て続けたわ。

 

「それ言葉の意味。『寂しい』は家族と友人からいきなり引き剥がされた寂しさです。『帰りたい』はそんな家族がいる家に帰りたいという事でしょう。」

 

赤城は少し震えながらも続けたわ。

 

「提督は苦しんでいるんですよ。私たち艦娘は提督を欲してきました。そして私たちは遂に、『提督を呼び出す力』を手に入れました。当時、歓喜していたのは誰もが知って居る筈です。私もその一人でした。」

 

その赤城に続いて鈴谷が話し出した。

 

「嬉しい、これから楽しみ、提督がいるなんて幸せだ......そう思ったでしょ?でもそれは私たち艦娘だけ。」

 

熊野が急に立ち上がった。どうやら結構呑み込めたみたい。

 

「私たちは提督を大切に想い、かけがえのない存在だと思っている。提督も多分そう思ってると思う。大切って思ってないなら小破中破で撤退なんかさせないし、進水した艦娘が居るたびに歓迎会なんか開かないよ。でもそれは提督の優しさ。」

 

「私たちに見せている真剣な顔、怒った顔、楽しそうに笑っている顔は本心かもしれマセン。ですけど、本当は家族と友人と引き離されて『寂しく』思ってるんじゃないんデスカ?」

 

赤城がまた話し出したわ。

 

「それに提督は平和な世界から来たって知ってますよね?」

 

そう言った赤城に長門と霧島、熊野は頷いたわ。

 

「私たちはそんな平和な世界から来た提督に戦争を強いてきたんですよ。そして"提督"という席に居る以上付きまとってくる責任を背負い、鎮守府を背負い、私たちの期待を背負っています。」

 

赤城は自分で言っていてどうやら辛くなっているのだろう、目が充血してきていたわ。

 

「知ってますよね?提督はたったの18です。私たちは提督のお蔭でテレビを見れていますが、その時に見ませんでしたか?18歳という年齢では学校に通っている事を。そこで何をしているのか......。提督が読んでいた本の中に参考書というものがありました。それは勉学に関する事。しかも私たちでは到底理解できないものでした。それを提督は見ていたんです。そしてまだ知らなかった私に提督は『もう必要ない』と言ったんです。」

 

「赤城......。」

 

私は持っていたハンカチを渡したわ。ボロボロとあふれ出る涙を拭って欲しかったから。

 

「言葉の意味とか最初に言いましたが、私たちは動いている理由......。」

 

ここは私も聞くのは初めてだ。

 

「私たちは、私たちが奪ってしまった提督の未来を少しでも返すために動いているんです。家族、友人、夢......こんな事で返せるとは到底思えませんが、無知で居るよりマシです。」

 

そう言って赤城は言い放ったわ。

 

「長門。貴女には気付いて欲しかったんです。長い間秘書艦をして、一番提督と一緒に居た貴女に......。」

 

赤城から視線を逸らし、長門を見てみると長門は握りこぶしから血を滲ませていた。そしてその拳を壁に叩き付け、崩れ落ちた。

 

「......私が提督の未来を奪ったのかっ?!提督を欲したばかりにっ?!」

 

「そうネ。でも長門だけじゃないヨ。皆が提督を欲していたんだから、『私が』じゃなくて『私たちが』の方が正しいケドネ。」

 

そうすると急に鈴谷が熊野を呼び出したわ。そっちを慌てて見てみるとどうやら熊野が失神したみたい。白目を剥いてる。レディーのしていい表情ではないわね。

 

「叢雲さん。」

 

急に赤城に話しかけられた。

 

「なに?」

 

「叢雲さんに言われた事を考えて、私たちは協力することにしました。計画も見直しです。」

 

「そう......良かったわ。」

 

「えぇ。」

 

赤城はそう言って私が貸したハンカチを『洗って返します』と言って、熊野の介抱に言ったわ。その一歩で時雨が何かを言っている。そっちを見ると時雨が何かをしようとしている夕立を必死に止めているところだった。

 

「どうしたの?」

 

「手伝ってっ!夕立がっ!!」

 

「私のせいで提督さんがっ!!!提督さんがっ!!!あああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

どっから出したか分からないが、首に尖ったものを突き立てている。どう見ても自殺しようとしてる様にしか見えない。

 

「やめなさいっ!それをしてももっと司令官が苦しむだけよっ!!」

 

そう言って夕立にビンタをしたら、尖ったものを離したわ。

 

「夕立は悪い娘だよ......グスッ......。」

 

吹雪みたいに座り込んで泣いてしまった。その後時雨から訊くと、どうやら本当の事を言わずに協力してもらっていたらしい。

それにこんな夕立を見たのは初めてだということ。普段から司令官の為に粉骨砕身してきた夕立だからかもしれないとの事だったわ。

周りを見渡せば死屍累々。混沌としていて、収集が付かない状態になっていた。

 

「......皆さんが落ち着き次第、今後の方針を考えましょう。次の作戦までは時間がありますから。」

 

赤城はそう言って出て行ったわ。

空き部屋に残っているのは動かなくなってしまった長門と失神した熊野と熊野を寝かせる鈴谷、私の様に目が死んだ夕立と夕立を介抱する時雨、座ったまま黙ってしまった霧島だけだった。

 

「もう戻れないわ......。」

 

私はそう思ったわ。

もう戻れない。知ってしまったから......。奪ってしまったものを。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

次の日は出撃は勿論なく、遠征艦隊のみ遠征に出かけて行ったわ。活動はこれだけだと司令官は言っていたらしいけど、たまにあるからあまり気にはしてないわ。

それから朝食の時間に赤城から協力することになった経緯を訊いたわ。

 

「叢雲さんに言われて、考えた後にそれぞれの私室を回りました。」

 

朝食を頬張りながら赤城はそう私に語り掛けてくる。

 

「私が何を見て、聞いて、何をしているか言うと金剛さんは『協力した方が良いネ。』と言って下さいました。鈴谷さんも『人数が多い事に越したことはないじゃん?』っておっしゃって協力することになったんです。」

 

「それで?それぞれの理由と目的は?」

 

「大体同じですね。ですが、金剛さんは違いました。」

 

「と言うと?」

 

赤城から予想もしてなかった言葉が出て来たわ。

 

「金剛さんは私たちみたいに見た、聞いたじゃなくて、進水してからずっと違和感に思っていたそうです。そして話を訊いたりして辿り着いた、そう言ってました。」

 

「じゃあ金剛は感じた些細な違和感とたった1人の艦娘の言葉だけで?」

 

「そうです。」

 

金剛はとんでもない艦娘よ。

どうやって至ったのか詳しく聞きたいけど、気付いた艦娘全員は何かしらのヒントの様なものを手に入れてから辿り着いているわ。赤城と鈴谷は提督の言葉、私は赤城からのヒントと提督の言葉。金剛がこれに辿り着いたのは問題しか書かれてないところからいきなり答えを出すようなものよ。

 

「後でまた昨日のメンバーと叢雲さんが吹雪さんに言ったということなので、吹雪さんを含めた計10名で会議です。それぞれがどこまで準備をしていたのかという報告と、今後の方針について......。」

 

「分かったわ。吹雪に声を掛けておくわ。」

 

「ありがとうございます。」

 

私は赤城の返事を訊いて席を立ち、吹雪を探しに出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

場所は昨日と同じところ。空き部屋に置いてあったものをフル活用して、会議をするわ。

足りないものがあったから買い足したりしたけどね。

 

「早速、私と金剛さん、鈴谷さんがどこまで準備が整っていたかを、まずは私から。資材を回収、換金する前でした。パイプは新瑞さんに協力を取り付けてます。」

 

赤城はホワイトボードに書いたわ。

各資材それぞれ1000余り。収集を始めてそれほど時間は経ってないはずなのに、大型艦のみの編成で全力出撃が数回出来る程も溜めていたわ。

 

「私は資材は溜めてマセン。ですが、鎮守府の外への通路を確保してマス。これは脱出口として使えると考えてマス。」

 

金剛はやはりそうだった様ね。

 

「鈴谷は大体の準備は整ってるよ。資材も売ればかなりの額になる予想だよ。それとパイプを総督に取り付けてるから。」

 

そう言って鈴谷はとんでもない事を口にしたわ。

 

「それと情報収集用にパソコンを1台と、携帯火器も持ってる。使いたくはないけど、念のためね。」

 

そう言った鈴谷に赤城は突っ込んだ。

 

「それは禁止されていますよ?!」

 

そう言った赤城を鈴谷は一蹴したわ。

 

「でも必要じゃん。無ければただお金溜めて終戦を待つだけなんて嫌だよ。鎮守府の外の情報を集める事も必要だと思うんだ。」

 

「ですけど、銃は流石にやりすぎですっ!」

 

そう言った赤城に反論する鈴谷の回答はとても『理にかなっていた』わ。

 

「何か鎮守府で問題が起きて、鈴谷たちの『提督への執着』で衝動に駆られるのが分かった時、提督は『艤装装着禁止令』を出すじゃん?ソレの為だよ。......それを絶対守る鈴谷たちがもし提督に手を下そうとする輩を始末しなければならなかったなら、艤装以外でしなきゃいけないじゃん。なら人間が使う銃しかないじゃん。」

 

「......そう、ですねっ......。」

 

鈴谷はそう言って保有する携帯火器の数を教えてくれた。ここに居る全員が所持できる数だけあるという事。凄いとしか言いようがないわ。

結局この会議は昼食までかかり、書記をしていた加賀のノートは1冊全て埋まっていた。

 




赤城と金剛、鈴谷が協力する事になりましたね。
どう動いて行くか.......気になるところです。

本日分は提督が一切出てきません。会話内では出てきますけどね......。

これでどう動いて行くか、楽しみですね。

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第百二十一話  operation"typhoon"①

 

作戦名『タイフーン』。カスガダマ島沖を牛耳っている西方海域中枢艦隊を撃破するこの作戦は、作戦名の由来通り、深海棲艦に混乱を誘発させる事を目的としている。

別海域の制圧から短期間でこちらの主力を投入した全力攻撃に混乱してもらうのが目的だ。

何故、混乱させるとか考えているのかというと、深海棲艦に戦術思考が増えたからだ。俺がこの世界に来てから起きているイレギュラーの1つを利用させてもらう。

これまで深海棲艦の混乱と言えば、奇襲のみだったそうだが戦術思考が大なり小なりできるようになってからは変わっていると俺や長門ら古参組は見解している。

それと、威力偵察任務を担っている球磨らの意見から『漸撃された深海棲艦側の艦隊にはその都度、補充がある。』というのを訊いてから、作戦が実行される処も多い。補充があるという事は、あちら側の被害を確かめ、鑑みて補充する程度の脳はあるのだ。被害を確かめているという事は、どこにあるか不明の深海棲艦の中枢にも連絡は届いていると俺は考えている。そして末端の各方面の海域を制圧している深海棲艦にもだ。

 

「これより西方海域へ向け、作戦艦隊は出撃。」

 

これから攻める西方海域に北方海域の制圧の連絡も届いている筈だ。

短期間の2方面制圧は無茶がある。それもあちらは分かっているだろう。だからあえて行動するのだ。

 

「目標は最深部、未確認深海棲艦だ。」

 

俺はここに現れる深海棲艦を知っている。だが言うべきではない。それにシステム通りなら連続出撃をしなくてはならいが、どうなっているか分からない現状、言うべきではないのだ。臨機応変に対応するべきだと考えた。

 

「撃破したならばこの大規模作戦は終了となる。心してかかれっ!」

 

「カスガダマまではリランカ島への護衛任務と同じ経路で行く事。」

 

俺は言い聞かせ続ける。

今から出撃する艦隊は前回同様に24隻で出撃、遠征を装い、支援攻撃を加えてもらう。

本隊旗艦:長門、高雄、雪風、島風、赤城、加賀。第一支隊旗艦:陸奥、川内、吹雪、白雪、蒼龍、飛鷹。第二支隊旗艦:扶桑、山城、神通、白露、時雨、飛龍。第三支隊旗艦:愛宕、摩耶、鳥海、村雨、夕立、瑞鶴。

この編成だ。

 

「作戦艦隊は出撃っ!目標、カスガダマ島っ!」

 

「「「「「「了解っ!」」」」」」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

例の如く、番犬艦隊と番犬補佐艦隊が執務室に居る。

 

「提督、カスガダマ取り返したら、あの辺掃討してドイツと大きい貿易ができるわねっ!」

 

「これまで以上に貿易品が増えますよっ!」

 

半興奮気味にそうビスマルクとプリンツは喜んでいた。一方、他の艦娘はというと。

 

「旨い......。」

 

俺の真横でコーヒーを飲んでいるフェルト。

 

「これ、面白いよ。」

 

「そうね......。」

 

机に置いてあった俺の本を見ているレーベとマックス。

 

「......(俺の手元を凝視)」

 

相変わらず不思議ちゃんのユーだ。ちなみに全員艤装を身に纏っている。ビスマルクとフェルトの艤装は大きいので細心の注意を払っているらしい。

それと番犬補佐艦隊はというと......。

 

「ふんふーふん♪」

 

楽し気にお茶を汲んでいる鳳翔。

 

「九九艦爆の足がとっても可愛いのっ!」

 

「瑞鳳、今積んでるのは彗星でしょ?彗星の妖精さんがまた拗ねちゃうわよ?」

 

炬燵で艦載機に関する本を開いている瑞鳳と、その横でみかんを剥いている祥鳳。

 

「......(戦術指南書を見てる)」

 

黙って戦術指南書、水雷戦隊に関する物をすごく真剣に読んでる夕張。

 

「......(爆睡中)」

 

「もぉー......。」

 

炬燵で爆睡している初雪の面倒を見ている磯波。

 

「うむ......。」

 

言わずともカオスだと分かっている俺だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「どうぞ、提督。」

 

俺が執務をしていると、鳳翔が俺の机に湯呑を置いた。

 

「ん?」

 

「お茶です。」

 

「あぁ、ありがとう。」

 

そう言って俺が湯呑を手に取り、口につけた瞬間、鳳翔の後ろでお盆を持って止まっているフェルトが居た。

お盆の上には多分自分のコーヒーと、チラッと見えたがもう一つカップが乗っていた。

 

「......(ズズッ)」

 

チラッとしか見えなかったが、多分あれは俺の周りに居る誰のでもないだろう。ビスマルクやレーベ、マックス、ユーは自分のカップを執務室に置いて行くようになったし、フェルトも然りだ。

俺は執務室に元からあるカップを使っている。どうやら長門がずっと昔から用意していたものらしい。

それがチラッと見えたという事は、多分フェルトは気を利かせて淹れてきてくれたのだろう。

 

「あっ、フェルト?」

 

「......む、何だ?」

 

少し目を赤くし始めているフェルトに声を掛けた。

 

「ミルクと砂糖、一杯ずつ入れてくれないか?」

 

「あぁ......。」

 

そう言ってフェルトがあっちを見た瞬間、俺は手に持っていた湯呑を一気に飲み干し、喉を通って行った熱いのを我慢した。

それを見ていた鳳翔は慌てる。

 

「あっ、あのっ......大丈夫ですか?」

 

「大丈夫......多分。」

 

淹れてくれたお茶を残す訳にもいかずに一気飲みしたが、熱い。

 

「......。」

 

そんな鳳翔とのやりとりを訊いていたフェルトは無言で俺の前にカップを置いて俺の横に立った。

 

「あ、ありがとう。フェルト。」

 

「あぁ。」

 

必死に表情が変わるのを堪えているが、口角が上がっている。

そう言えば言い忘れていたが、ドイツ艦全員に言えることだが、帽子を室内では取る事にしている。なのでフェルトは勿論、ビスマルクたち全員が帽子を取って生活している。

帽子を取るように言ってから気付いたんだが、フェルトは目つき悪いとか言っていたが、帽子を取ればそうでもない。普通の艦娘、人だ。

まぁ、今も取っている訳で、どうやら帽子で顔を隠す癖があるのか、何かあるたびに頭に手を伸ばして帽子が無いとあたふたしている。これは他のドイツ艦にも言える事だ。

 

「......むぅ。」

 

と、フェルトがあたふたしているのを見ていると、鳳翔が膨れた。

何故膨れたのか分からないが、いつもの優しそうな表情ではなく、ムキになっている様子。ぱっと振り返り、鳳翔はおぼんに俺の飲み切った湯呑を乗せて引っ込んで、再び出てきた。

 

「......。」

 

鳳翔も無言で俺の前に湯呑を置いた。

 

「えっと......コーヒーがあるんだが?」

 

「......(そっぽ向いている)」

 

そしてそれを見ているフェルトも眉を吊り上げている。

一体どういう状況なんだ?

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

作戦発動が通達され、私たち『気付いた』艦娘たちは再び艦娘寮の空き部屋に集まっているわ。

メンバーは私、金剛、霧島、鈴谷、イムヤの5人だけ。他の赤城、加賀、時雨、夕立、吹雪は作戦艦隊に編成されているので、今頃洋上だわ。

 

「さて。赤城たちが居ないけど、取りあえず草案だけでも出しましょうか。」

 

「そうデスネ。」

 

半分が居ない状態で会議が始まったわ。

内容はどうこの先動いて行くか。

 

「まず溜め込んだ資材をどう使うか......これは鈴谷、なんかない?」

 

「うーん。パイプ使って売り払うってのが良いと思うんだけど......。」

 

当初、彼女たちが考えていた使い方だわ。

売り払ったお金を提督の為に使う。そう言う事らしい。だけど、具体的な使い先が無いわ。そう言う私は何一つしてないから言えないけど。

 

「でも売り払った後が問題なんだよねぇ。そのお金を提督の為に使うってのはいいんだけど、どこにどう使えばいいのか分かんない。」

 

そう鈴谷は自分とイムヤが溜め込んだ資材の量を書き込んだ書類を見ながらそう言ったわ。

 

「資材って言っても油、弾薬、鋼材、ボーキだけじゃないわ。集めてくる途中で高速建造材や開発資材、バケツも拾ってきてたんだけど、売り払うことも出来ないの。」

 

イムヤはそう言って頭を抱えていた。

私の考えていた以上に資材を集めている様だわ。

 

「じゃあ鎮守府の倉庫にブチ込んじゃえば......。」

 

「ダメです。」

 

鈴谷がそう言いかけると霧島が割って入ったわ。

 

「あそこにある高速建造材などは全て管理されてます。記録に残ってない出し入れはすぐにバレてしまいます。」

 

そう言ってどっから持ってきたのか、執務室で実際に記録の取られている書類を私たちに見せてきたわ。

 

「だから鈴谷とイムヤはバケツはイムヤが資源回収の時に使って、高速建造材は行った先に置いて来てるんだけど......開発資材がどうしようもないんだよね......。」

 

鈴谷がそう言ったわ。確かに開発資材は貴重なものだから高速建造材みたいに簡単に手に入るからと言って置いてくるなんてできないのは分かる。だけど、本当に使い道がない。

そんな時、金剛が言ったわ。

 

「建造に使いまショウ。」

 

「「「「は?」」」」

 

全員が耳を疑った。建造に使うなんて大々的に出来る訳が無い。そう思っていたけど、霧島が口添えをしたわ。

 

「いや、これならいけます。」

 

そう言って霧島はメガネを上げたわ。

 

「鈴谷さん曰く開発資材は3桁突入してから数えてないという事。相当数の数があると考えていいんですよね?」

 

「うん。」

 

「なら簡単です。資材も山の様にあるのならそれを使って建造・開発をすればいいんです。」

 

そう言った霧島に私含め鈴谷とイムヤは分かっていない。

 

「この鎮守府も大型艦建造じゃない通常建造で建造できる艦はもう翔鶴さんしか残ってません。」

 

霧島は何やら説明を始めたわ。

 

「それ以外のレシピで建造を行い、出てきた艤装を近代化改修に使うんです。」

 

「......そうかっ!それで改修を繰り返して私たちの能力値を上げておくんだね!」

 

「そうです。」

 

そう言う事か。

私たちが勝手に近代化改修をしていても提督は気付かない。値で表されてるらしいが、実際のところ艦娘全員分を把握しているとは到底思えない。何十人と居る艦娘の全員の近代化改修の状況を把握していられるとは思えないわ。

 

「資材は残らないし、当初の目的からは逸れるかもしれマセンガ、私たちの戦闘力を上げておくことは、より戦争を早く終わらせる事に繋がりマス。」

 

金剛はそう言って続けたわ。

 

「今、資金を悩む時ではありマセン。いかに早く戦争を終わらせるか、デス。」

 

そう言う事で、草案の一つとして建造に回して自身の戦闘力を強化するというものが追加されたわ。

その次に霧島が提案してきたのは突拍子もないものだった。

 

「金剛お姉様と同じ建造に関してですが、私たちで大型建造を回し、強力な艦娘を集めておくのはどうでしょう?」

 

そう言った霧島は説明を始めたわ。

 

「『移籍』という名目で居るドイツ艦の皆さんや秋津洲さんは鎮守府の沖に出る事ができません。その理由を私は『この鎮守府で建造されてなくて本来の所有権は司令にないから』だと考えています。そして何故これを説明に出したかというと、叢雲さんは分かると思いますが、司令が着任される今もですが建造開発は艦娘が工廠に赴き、妖精さんに頼んでいます。」

 

そう言って霧島は図を書き始めた。

 

「通常の建造もこの鎮守府に元からいる艦娘の手によってされています。つまり、この鎮守府に元からいる私たちが建造開発をすればその際、建造された艦娘は沖に出れます。」

 

「提督の建造命令は無視するって事?」

 

「はい。と言うか、実際、建造命令も口頭で行われています。建造結果報告は一応書類を提出しますが、扱いは普通の書類です。機密書類にはなりません。ですので、私たちの独断で建造開発ができるんです。その例が、鎮守府上空に飛来してきた深海棲艦の大型戦略爆撃機の迎撃。長門さんが提督に無断で三式弾を開発、迎撃に出たことですね。」

 

そう言われてみればそんなこともあった。

 

「ですから建造自体は出来るんです。幸い、高速建造材も恐ろしい量がありますし。ですので、私は強力な艦娘を私たちの手で極秘に建造し、決戦の時に投入する事を勧めます。」

 

霧島の案も一応、草案の一つとなった。

その後、資金として売り払うという話も草案に加え、資材回収は続行という事で話は続いた。

次は、こちら側を増やすにあたってだわ。これに関してはイムヤが提案した。

 

「次は強行偵察艦隊をこちら側に引きずり込むことはどう?」

 

強行偵察艦隊。

その名の通り、各地の海域の偵察を行っている艦隊だ。主に第三艦隊という書類処理をされているけど、艦娘たちの間ではそう言われている。

威力偵察を行い、深海棲艦の配置や編成を調べてくる。そういう任務を一任している艦隊だ。ちなみに、遠征艦隊括りである。

 

「その意図はなに?」

 

鈴谷がイムヤに訊いたわ。

 

「偵察情報をこっちにも流してもらうの。そして資源回収先に一番手ごろなところも見てきてもらうってのはどう?」

 

「成る程。情報戦と安定した資源確保ですね。」

 

霧島はそう捉えたらしいが、私は違ったわ。

 

「それぞれの海域の弱点を探るのね。幸い、私たちの中には古参組が多く、こういった作戦にも引っ張り凧な状況。強行偵察艦隊の情報を使って効率の良い攻撃方法や作戦を現場で判断していくのね。」

 

「そういう情報の使い方もあるね。」

 

どうやらイムヤは私と霧島が思いついた両方の事を考えていたみたいね。

こうして会議は続いて行った。

幸い呼び出しは無かったので、朝から始まり昼をまたいで日が傾きかけたころまで続いたわ。というか吹雪が何も喋らないのを見ると、多分アイデアが浮かんでないんだろうね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

最近俺は不振に思っている事がある。

霧島からの赤城、金剛、鈴谷の情報が曖昧になってきたというか、濁されている気がしてならないのだ。そして別視点で調査を頼んでいる叢雲と熊野も変な様子な事が多くなった。

一体どうしたのだろうか。

その事に関係があるのか分からないが、深雪が執務室に来て俺に訴えてきた事がある。

 

『叢雲と吹雪がなんかこそこそとしてるんだ!』

 

そう言われて俺は『叢雲なら......』と思っていたが、そこに吹雪が入っているのが疑問に思えた。吹雪には何も頼んでいない。

それに、古鷹からも相談があった。内容は深雪と同じだが、それに更にある一言が加えられていた。

 

『鈴谷さんの監視任務をやってないように見えるんですよね。』

 

一体どういう事だろう。

熊野が任務を遂行しないとは思えない。

一体、彼女たちに何が起きたと言うのか......。

 





いやぁ、提督も何かに気付きはじめましたね。
それと、作戦が始動しました。作戦名に深い意味を求めてはいませんよ?
うん。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百二十二話  operation"typhoon"②

 

リランカ島に無事到着した私たちは、今からリランカ島から西進してカスガダマ島を目指す。

作戦行動中、潜水艦に遭遇する可能性が高いからという事で、夜戦で大いに働いてくれる雪風と島風に対潜装備を施している。2人がその装備なら一応、夜戦が不得意な私以外に夜戦を行えるのは実質、高雄しかいない。空母の赤城や加賀は勿論夜戦なぞ出来ない。

 

「日が沈む前にカタをつけなくてはいけないな。」

 

私はそう自分に言い聞かせ、朝日に背を向けた。

 

「準備はいいかっ!これよりカスガダマ島に向けて前進する。各支隊は出航後散開、遠征航路を巡航せよっ!」

 

「「「了解。」」」

 

今回は本隊ではなく支隊の旗艦になった陸奥を見て私は少しうれしくなった。

これまで共に戦線を駆け回った仲間でもある陸奥が支援をしてくれる。これ以上無い程、安心できるのだ。今回は居ないが、比叡や霧島の支援も安心できるが、やはり姉妹であり、提督が進水したての陸奥を戦場に放り出してくれたお蔭で、比叡や霧島に引きを取らない程、成長し、強くなった。

鎮守府に来てから期間は短いものの、実績があり、信頼がある。彼女自身、運の悪さやしきりに第三砲塔を気にしてはいるが、不調で砲撃が出来なかったなんて訊いた事も無い。

それと支隊には私の進水以前から居た扶桑、山城がいる。彼女たちは史実で欠陥戦艦だと言われ続け、出撃を殆ど経験したことのない戦艦だったが、それはあくまで史実だ。

私がこの目で見た扶桑と山城は、少ない味方の矛となり、盾となっている姿だった。『私たちは戦艦だから、持ち前の主砲と装甲を使わずして何が戦艦でしょう。』、『私と共に征く仲間たちを沈ませる訳にはいかないの。』そう進水したての私に言っていた。

だから私も死に物狂いで練度を上げ、技術を磨いた。

性能面で見れば私と陸奥、他の戦艦の方が良い事は明白だ。だが、皆が口を揃えて扶桑姉妹を『提督の伝家の宝刀』と言うのには、こうやって自らのすべきことをして、皆を守り、導き、地道に積み重ねてきた努力がそう皆に伝わったのだろう。

 

(先輩が居るんだ......勇ましく戦って、勝利するんだ。)

 

そう私自身に言い聞かせた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

最深部までは支援なしでは戦えないくらいの激戦だった。空母や戦艦がわんさか居る、水雷戦隊の攻撃が経験してきた中で一番激しかった。

駆逐艦の中で夕立は異例だが、夕立を抜けば一番に強い雪風も中破している。島風はまだ大丈夫な様だ。高雄は後部主砲が吹っ飛んでいる。赤城や加賀も少なからず損傷を受けていた。私も第二艦橋が被弾していた。

 

「長門より第一支援艦隊、支援感謝する。」

 

『勿論よ。』

 

第一支援艦隊の陸奥に礼を言って、前進の号令を出した。

 

「この先は最深部だ。......これまでに経験したことのない激戦を潜り抜け、遂に最深部に攻撃を仕掛ける。」

 

そう言って私は通信妖精に鎮守府に繋げてもらい、指示を仰いだ。状況が状況だ。現場で判断は出来ない。

 

「こちら長門、最深部直前に到達した。だが本隊に損傷艦が多数、私や高雄、赤城、加賀は小破だが、雪風が中破している。指示を仰ぎたい。」

 

『お待ちください。』

 

鎮守府の通信妖精がそう言って多分、提督を呼びに行ったんだろう。

数分待つと提督の声が聞こえた。

 

『提督だ。長門、状況は訊いた。雪風に具合は訊いたか?』

 

「あぁ、だがこのままだと進めば轟沈してしまうかもしれない。」

 

そう言うと向こうから声が聞こえなくなった。だがすぐに聞こえてきた。

 

『近くに第二支隊が居るだろう?そこの神通と交代できるか?』

 

「編成を入れ替えるって事か?」

 

『あぁ。』

 

提督は突拍子もない事を言って来た。

いきなり支隊と本隊の編成を変えると言うのだ。そんな事をすれば、システム外行動だ。

 

「それは多分無理だ。」

 

『......だろうな。作戦艦隊は反転、鎮守府で修理と補給だ。』

 

「......了解。」

 

やはりそうなったか。私はそう思った。

いつもの提督だとこういう判断を下す。誰も轟沈を出さないための指示だ。だが、直ぐ目の前まで来ているというのに提督はそれを知った上で指示したのだ。

 

「もっと、『戦艦らしく』だな。」

 

そう呟いて全艦に撤退指示を出す。

 

「長門より作戦艦隊、本隊に損傷艦多数居るためこれより撤退する。」

 

そう伝えたが、皆からは落ち込んだ返事しか返ってこなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

やはりおかしい。

霧島や熊野、叢雲の様子がおかしいのだ。思い上がりかもしれないが、霧島や熊野は頻繁に俺のところに来ては些細な事も報告していたというのにそれが無い。そして叢雲の目に光が見えないのだ。これは俺も見たことがある。金剛が誰かを殺めようとして、俺のところに現れる時と同じだ。

一体、彼女たちに何があったんだろうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

今日の番犬補佐艦隊は割とまともだ。

 

「......(執務室にあるファイルを見てる)」

 

俺に『水雷戦隊での編成時の報告書を見せてくれ。』と言って許可出して以来ずっと噛り付くように見てる木曾。

 

「......(戦術指南書を見てる)」

 

対潜戦闘と装備に関する戦術指南書と付箋が貼られまくったノートを持って現れた由良。

 

「阿武隈ー。この時ってどうするんだっけ?」

 

「セオリー通りなら、複縦陣で突撃だと思うよ?」

 

水雷戦隊の運用に関する戦術指南書を囲んで何やら勉強をしている鬼怒と阿武隈。

 

「......(みかんを食べてる)」

 

炬燵でみかんを食べている深雪。

 

「......(ジー)」

 

炬燵で寝転がって頭だけ出ている状態だが、俺の方をじーっと見てるイムヤ。

 

「今日は割とまともなんだな。」

 

今日は割とまともなのだ。

これまでの番犬補佐艦隊はかなりカオスだったからな。

執務も終わり、手持無沙汰になった俺はこたつに入りに行った。たまたま空いているのがイムヤの横だったのでイムヤに横に入っていいか聞いた。

 

「横いいか?」

 

「いいよ。」

 

快く良いと言ってくれたので俺はもぞもぞと入っていく。

そして横で寝転がっているイムヤを見てあることを思い出した。俺の方針だ。

潜水艦の運用法がどれだけあるか分からないが、俺の知っている運用法は『デコイ』と『資源回収』だけだった。『デコイ』は深海棲艦が水雷戦隊で対峙して来ることが分かっている時、攻撃を潜水艦に集中させる為に編成する。『資源回収』は有名所を言えばオリョクル、バシクル、カレクルだろうか。隠密性の高い潜水艦がそう言った資材が大量に確保できる海域で資材を集めるためだけに出撃する事だ。しかも何度も出撃させられるらしい。らしいと言っているのは俺はやった事ないし、見たことも無いからだ。

これ以外に潜水艦の用途があるならぜひ知りたいものだ。

と言う訳で、多分大和型が来ても潜水艦以上に箱入りにならないだろうと言う程出撃を渋っているのだ。俺は。

だからウチの鎮守府で一人だけの潜水艦であるイムヤに心の内を訊こうと思う。

 

「なぁ、イムヤ。」

 

「なに、司令官。」

 

頭だけ出しているイムヤは答える。

 

「出撃したいって思ったことはあるか?」

 

「......そうねぇ。」

 

イムヤは考え出した。そしてすぐに答えを出してくれる。

 

「今はまだいいわ。だけど潜水艦の仲間が増えたら、一緒に色々な海域を見たいって思ってるわ。」

 

「そうか。」

 

どうやら表面上はしたいとは思ってないらしい。でも仲間が増えたら、と言った。確かにここ最近というか年越す前から空母レシピをぶん回していたからレア軽巡レア駆逐レシピを回していない。偶には回してみようか。最近、建造や開発もやっていないから開発資材が少し余裕があるからな。

 

「じゃあ、寂しいって思ったことは?」

 

仲間がと言うなら寂しいと思って居る筈だ、俺はそう思った。回答次第で建造をするつもりだ。

 

「......思うわ。寮に帰っても潜水艦の私室には私しかいないもの。」

 

イムヤは紅い瞳で俺を見つめて言った。

 

「そうか。......なら建造するか!潜水艦。」

 

「本当に?」

 

「あぁ。」

 

俺はそう言って立ち上がり、フェルトに指示を出した。

 

「今すぐ建造だ。レア軽巡レア駆逐レシピを4回だ。」

 

「分かった。今すぐ行こう。」

 

そう言ってフェルトに指示を出す。フェルトは建造結果報告の紙を持って執務室を出て行った。

 

「ありがと、司令官。」

 

「いいさ。」

 

そう言って俺は炬燵に深く入った。そんあ俺にイムヤは話掛けてくる。

 

「ねぇ司令官。」

 

「ん?」

 

俺は何か普通な事を聞かれると思っていた。

 

「『辛い』って思った事、ある?」

 

イムヤが訊いてきた事は、意味が判らなかった。なんだ、辛いって。

 

「......どういう意味だ?」

 

「そのままの意味よ。何か『苦しい』とか、『辛い』とか思った事ある?」

 

イムヤの目はさっきとは変わらないが、明らかに何かの思惑があるような訊き方だ。

 

「そうだな......考えた事も無い。」

 

俺は取りあえず、そう答えた。取りあえずと言っても、確かに考えた事も無かった。この世界に来て、色々な事が起きて、こうして生きている事で精いっぱいって感じだ。

確かに、大きく環境は変わった。だが、そんな事も考えている暇なんてなかった。

 

「そう......。でも『寂しい』って思う事はあるでしょ?」

 

「っ?!」

 

イムヤの意味ありげな『寂しい』はどう考えても何かを含んだ言い方だ。

確かに、『寂しい』と思う事はある。だが、そんな事を言ったのは訊いてきた『叢雲』だけだ。何故、イムヤにそんな事を分かった風に言われたのか分からない。

 

「そりゃそうよね。」

 

「......どういう意味だ?」

 

イムヤは俺から視線を外さずに続けている。

 

「『大半の艦娘は気付いてないわ。今のこの鎮守府での生活をなんも疑問に思ってないもの。』」

 

どういう意味だ?

なんだ、その意味ありげ、否、その言葉自体に意味を詰め込んだ様な言葉は。それに、今のイムヤの様子は見たことがある。

最近、様子のおかしい霧島と熊野、叢雲と同じだ。これだけは断言できる。『イムヤも霧島や熊野、叢雲と同じだ』という事だ。

 

「大半ってどういうことだ?」

 

「そのままの意味よ。『大半の艦娘は気付いていない』わ。」

 

イムヤの目がどんどん淀んでいく。どうなっているんだ。

 

「もう一度、聞くわ。『辛い』って思った事、ある?」

 

俺はこれまで考えていた思考をすっぱり切り捨てて、考え直す。『辛い』と思った事を。

 

「......『辛い』って考える暇がなかった。......じゃだめか?」

 

「ううん、それでいいわ。......考える暇がなかったのなら、一度考えてみた方が良いわよ?」

 

「そう、かもな。」

 

俺はそうイムヤに言われて、考えはじめた。『辛い』と思った事を。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は炬燵に入りながら考えを巡らせた。

先ず、俺は何をしているかだが、『提督を呼び出す力』によってここに呼び出され、艦娘の指揮官を頼まれた。そして俺はそれを受け入れ、指揮官となった。今は横須賀鎮守府艦隊司令部司令官。

直接、『横須賀鎮守府艦隊司令部司令官』という言葉を考えた事は無かったが、よく考えてみれば横須賀鎮守府は鎮守府と呼ばれているが故、軍事施設だ。そして『艦隊司令部司令官』という事は、実質『横須賀鎮守府』の最高責任者だ。

次に、俺はここで何をしなければならないか。俺はここで艦娘を指揮し、深海棲艦と戦い、海を取り戻す。これは俺がこの世界に来る前、『艦これ』でやっていたゲームの設定と同じだな。まぁ判り易く言えば、『戦争をしている』って事だな。

次、自分が指揮官だという事を考えたことがあったか。率直に言ってない。指揮しているという感覚はあるが、どうだろう。

だが、一つ言える事は俺の指示で大勢の人間と艦娘が動く事だ。これはもうしている事が指揮官だ。そして指揮官と言えば責任がかならず付いてくる。失敗した部下の責任、作戦を失敗してしまった責任、色々な責任。これまで色々な責任を負ってきた。一番は鎮守府の外との関係だ。メディアと艦娘がいざこざを起こしたり、自治体と衝突したり、それを俺は全て見てきたし、責任を負った。だが、目に見えているのはそれだけだ。

考えると、俺の双肩にかかっているのは鎮守府で俺の指示に従う人たちや艦娘だけでなく、鎮守府の近くに住んでいる人々、果てはこの国の人々の命を背負っていると言っても過言ではない。深海棲艦は海をつい最近まで支配していた。そして、陸への攻撃も仕掛けている。それ則、俺の裁量次第で鎮守府の背後に居る人々の命を背負っているのだ。もし俺がこの深海棲艦との戦いで負けるような事があれば、じりじりと深海棲艦はにじり寄ってきて、継戦力を失った俺に鎮守府の背後に居る人々はなんて言うんだろうか。

 

ここまで考えて思い出したが、この世界に来るまでは大学合格を目指して受験勉強を一生懸命やっていた。平日は勿論、土日も勉強していた。高校に上がった時からずっとそんな生活をしていた。友達が遊びに行っている間、俺は学校で勉強をしていた。グラウンドで部活動のする声が聞こえているのに俺は勉強をしていた。

それは全て目指している大学合格に向けられていた。ふと、執務室に掛けられていたカレンダーに目をやる。もう、試験日過ぎている。

年越すまでは勉強を隠れてやっていたが、年越した当たりで多分内心諦めていたんだろうな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「『辛い』か......。」

 

「どうしたの、司令官。」

 

俺はそう口に出していた様だ。

 

「そうかもしれないな。」

 

「なんで?」

 

「こうして落ち着いて考えると見えてなかった事が見えてきたんだ。」

 

そう思って、最期に辿り着いた。

 

「忙し、くはないが......俺は誤魔化していたんだと思う。」

 

「何を?」

 

俺はイムヤに様に寝転がり、首元まで炬燵に入った。身長が高いので足を折ってだが。

 

「『責任』とかかな......。」

 

「そう......。」

 

「それに忘れてたよ。俺、18なんだよな。」

 

そう言って天井を見上げる。

 

「自分で言ってたじゃない。」

 

「そうだな。......今日って何日だ?」

 

俺はさっき自分で見たのにも拘らず、イムヤに訊いた。

 

「27日よ。」

 

俺に現実を突き付けてくるその日は俺の目指していた日はとうに過ぎていた。

 

「はははっ......。」

 

唯、俺は嗤う事しか出来なかった。

 

「どうしたの?」

 

「『終わった』んだなってな。」

 

そう俺が言うとイムヤは急に炬燵から這い出て俺の横で正座した。

 

「私もね、『責任』っていうか、そんなものを感じているの。」

 

「ん?」

 

かしこまったイムヤに俺は目線を向けた。

 

「だから、司令官......。『終わった』かもしれないけど、諦めないで。先ずは、この戦争を終わらせることを考えましょ。」

 

「そう、だな。」

 

そう言ったイムヤは姿勢を崩すとまた炬燵に入った。

一体、何だったんだろうか。イムヤは俺に何を考えて欲しかったんだろうか定かでないまま、俺の呟いた一言からそう結論付けた。それに『辛い』から『責任』に変わってしまっていたことを何も言わなかった。

どういうことなんだろうか。だが考えた後、また思い出した事がある。

いつだったか覚えてないが、赤城が俺の見ていた数学Ⅲの参考書を興味津々に見ていた事だ。俺はあの時、赤城に『これを勉強して何に使うんですか?』と聞かれた後、『将来使うんだ。』と答え、その後に『もう必要ない』と答えていた。この部分の記憶は確かに残っているから間違いないが、何だかこの会話が引っかかる。

 





提督が遂に考えましたね。
イムヤが唐突に仲間の指示なしに行動しましたけど、どういう意味があるのやら。

一方で作戦は失敗して、艦隊が帰ってきます。直前で撤退命令ですね。うん。

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第百二十三話  operation"typhoon"③

 

「作戦艦隊が帰投した。」

 

そう言って埠頭に出迎えに行っていた俺の目の前に、プスプスと火の粉を出しながら航行している本隊の艤装があった。

どうやら炎上もしていたみたいだ。そんな報告は無かったが、いつ燃えたのだろう。

 

「お疲れ。......損傷艦は入渠、作戦艦隊の艦娘は休息を取るんだ。」

 

「「「「「「了解。」」」」」」

 

見るからに落ち込んでいる。支隊の方はそうでもないが、本隊は直接戦闘をしていただけある。最深部直前まで迫れたというのに、撤退しなければならなかった事が相当悔しかったのだろう。

 

「失敗しても......。」

 

「?」

 

俺は横を通り過ぎようとしていた長門に聞こえる声でそう呟く。

 

「失敗しても、それを糧に乗り越える......。そうだろう?」

 

「......あぁ、誰も轟沈しなかった、それだけで十分だ。」

 

そう言って長門は入渠場に向かっていった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は出迎えの後、警備棟に来ていた。

何のためかというと、霧島と熊野、叢雲の調査が意味をなさなくなってきたので、奥の手だ。

 

「......任務中にすみません。」

 

「いえ、提督がお呼びとあらば。」

 

「大丈夫ですよ。」

 

警備棟のある応接室に俺は巡田と西川に来てもらっていた。

 

「それで、どういった御用件でしょうか?」

 

そう訊いてくる巡田に俺は率直に言った。

 

「巡田さんには鎮守府、本部棟に潜入して艦娘の動向を調査して欲しいんです。」

 

「はい?」

 

巡田は『何言ってんのコイツ』みたいな顔をして返事をした。

 

「ちょっと待ってください。......艦娘の動向を調査ですか?」

 

「はい。と言っても艦娘は指定するので、その艦娘だけですが。」

 

そう言うと、少し考えた後、巡田は引き受けると言ってくれた。

 

「それで、どの艦娘ですか?」

 

「霧島、熊野、叢雲です。」

 

俺が名前を挙げると、巡田がまた考え出した。

 

「......霧島さんと熊野さんは出来ますが、叢雲さんは......。」

 

「やりにくいですか?」

 

「いえ。叢雲さんは感が鋭いのと気配を察知するのに長けているみたいなんです。」

 

巡田の言葉で俺はある事を思い出していた。叢雲は『近衛艦隊』でしかもその中でも異質の存在。立ち位置が分からないんだ。

 

「......出来る範囲で構いません。」

 

「分かりました。」

 

そう言って巡田は机に置かれたコーヒーに手を付けた。

 

「西川さんは休憩の合間、艦娘と話す事があればなんでも構いません。霧島、熊野、叢雲の事をそれとなく訊きだしてくれませんか?」

 

「了解しました。」

 

西川はすぐにやってくれると言ってくれた。

 

「提督、私は本部棟に潜入するだけでいいですか?」

 

「えぇ。ですがくれぐれも注意して下さい。巡田さんに頼む前までも別に調査していた時に分かった事なんですが、本部棟のありとあらゆる空間を金剛が把握しています。ですので普通に知られていないであろう廊下や、通路、部屋に居ても見つかってしまう可能性があります。」

 

「金剛さんですか......。下手したら消されますね。」

 

「多分。......ですので、携帯端末で連絡してください。潜入を始める時と潜入中は10分おき、潜入を中断する時と必ず連絡してください。」

 

「了解しました。」

 

俺と巡田、西川はこうして応接室を出て行った。

もう艦娘を頼って調査なぞ出来ない、そう思い至った結果だ。それに、イムヤの事も気になる。赤城もだ。

一体、鎮守府で何が起こっていると言うのだろうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

全員が集まった会議が空き部屋で行われてます。今日は、私たちが作戦中に会議で出た草案やらを検討する事が目的ですが、案外早く終わりました。

資材、開発資材で建造を行い、自分たちの艤装を近代化改修するというのは駄目になりました。理由は長門さん曰く『提督は近代化改修によって艤装の能力が上がるのを数値で記録している。』だそうです。勝手に近代化改修をしてしまえば、数値との相違が生じ、提督に感づかれてしまうとの事でした。

次に、提督が渋っている大型艦建造をしてこちらで勝手に艦娘を取り込むというものですが、これも駄目です。理由は工廠の妖精はこちら側ではないからです。

結局余りある資材は売り払い、開発資材やバーナーなどはそのまま保管する事になりました。

そして、次の議題になります。

 

「次......こちら側に取り込む艦娘の選定ですか?」

 

私がそう言うと、叢雲さんが誰だか言ってくれました。

 

「強行偵察艦隊を取り込むのはどうかしら?」

 

確かに、彼女たちなら妥当だと私も思います。それに、強行偵察艦隊と言えば、これから先、何か有益な情報を手に入れてくれるかもしれませんしね。

 

「私は賛成です。」

 

そう言ってとんとん拍子で会議が進んでいきました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

こちらで新瑞さんに資材売却は可能かという趣旨の手紙を書き、私はフェルトさんに会いに行きました。

 

「フェルトさん、頼まれてくれませんか?」

 

「あぁ、赤城か。なんだ?」

 

「これを作戦艦隊が出撃した時、執務の書類と一緒に事務棟に提出して欲しいんです。」

 

私は少し不安ではありましたが、フェルトさんは快く受けてくれました。

 

「分かった。預かろう。」

 

「ありがとうございます。」

 

私はそう言ってフェルトさんと別れました。

その後は自室に戻って、色々と考えを巡らせます。この先、どうしていけばいいか。提督の事、作戦の事......。ですけど考えたらキリがありません。今は団体行動で動いているんです。私だけで判断は出来ません。皆で話し合って、より良い選択をする。そうしていた方が、断然いいと思っていますから。

 

「赤城さん。今日の会議の事なんだけど。」

 

「はい?」

 

私室で考え事していると加賀さんが話しかけてきました。

 

「強行偵察艦隊を仲間にするって事だけど、最終的には艦娘全員の耳にこの話を入れるんでしょ?」

 

「多分ね......。」

 

そう確認を取るかのように加賀さんは訊いてきましたが、この後、とんでもない事を言い出しました。

 

「なら全員を集めて、話した方がいいんじゃないの?今やっている作戦が終わった後にでも。」

 

「それは考えましたが、士気が下がる可能性がありますので出来ませんね。全体の士気が下がってしまうと、それこと提督に感づかれてしまいます。」

 

「そうですか......。」

 

加賀さんは残念そうな表情をしましたが、加賀さんの言ってる事は一理あります。一気に広めてしまって、全員で行動する。全員が全員、そうなってしまえば、提督は不安になってしまうかもしれませんが、役割分担をすることでそれを軽減できるかもしれないですね。

ですけど、私の中ではやるべきでないという意見の方が強いです。徐々にこちら側を増やして言った方が良いと思います。

 

「ですが何れ全員知らせなければいけません。」

 

「そうですよね......。」

 

私はそう言って机に向かいます。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「榛名。」

 

「はい。」

 

今日の秘書艦は榛名だ。昨日までは番犬艦隊と番犬補佐艦隊が執務室に居た感覚が抜けてないのか、少し寂しく感じる。

 

「明日、リベンジだ。作戦艦隊に夕食後に伝える。」

 

「分かりました。」

 

榛名は何も聞かずに頷いてくれる。まぁ、有難いと言えば有難いが、損もしている気もする。

そしてある事を訊いてみる事にした。霧島の動きについてだ。

 

「なぁ、榛名。」

 

「はい。」

 

「最近、霧島が変だと思った事、あるか?」

 

そう訊くと榛名は首を傾げた。どうやら思ったことは無い様だ。

 

「うーん......特に変だとは思いません。いつも通りですよ。」

 

「そうか......。」

 

次は熊野だ。榛名は確か熊野と一緒の事が多いと言っていたからな。金剛や鈴谷を見張る為に。

 

「熊野は?」

 

そう訊くと榛名はさっきとは違う反応を見せた。

 

「......熊野さんは少し変です。」

 

やはりそうだった。

 

「どういったところだ?」

 

そう訊くととんでもない事が榛名の口から伝えられた。

 

「よく姿を消すようになりました。そう、鈴谷さんやお姉様の様に。」

 

「......なっ?!」

 

どういうことだ。熊野は自分を『親衛艦隊』だと言っていた。なのにも拘らず、そんな事になっているとは予想を斜め上に行っていた。

 

「ですから榛名もよく探してるんですけど、見つからないんです......。」

 

そうしょんぼりした榛名は秘書艦席に座った。

 

「そうか......。」

 

そう言うと榛名から更に驚く情報が出てきた。

 

「というか熊野さんだけではないんですよ。長門さん、加賀さん、時雨さん、夕立さん、イムヤさんもよくいなくなるって訊きました。」

 

「どういうことだ?」

 

「榛名にもさっぱり分かりません。あ、あと。」

 

榛名は続けた。

 

「霧島から訊いたんですが、霧島って『特務』をしているんですよね?」

 

「まぁ......そうだな。」

 

「叢雲さんや熊野さんも『特務』をしているらしく、『特務』と言ってどこかへ行かれるのは見てましたが、最近は何も言わずに行ってしまうんですよね。ですからそう考えると、霧島や叢雲さん、熊野さんが何かをしているような気がしてならないんですよね。」

 

そう言って榛名は『まぁ、思い違いならいいんですけど。』と言って書類を出しに事務棟に行ってしまった。

一体どうなっているんだろうか。思わぬところで情報を手に入れたが、まだ少ない。様子がおかしいのははっきりしたので、巡田の調査結果によるだろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「領空侵犯だと?!」

 

男は驚いた。久々に慌てて報告が入ったかと思ったら、領空侵犯だった。

 

「それで、どこの国だ?冷戦時代の骨董品で飛び回ってるロシアか?」

 

男は煙草をふかしながらそう部下に訊く。だが一方で部下は青い顔をして男に言った。

 

「違います......日本です。」

 

「は?もういっぺん言ってくれ。」

 

「日本です。」

 

男は口をあんぐりと開けて付けた煙草を灰皿に押し付けた。

 

「日本とは連絡が途絶えているぞ?!横須賀に居た第七艦隊と通信が途絶してから何の音沙汰もないじゃないか!」

 

「ええ、そのはずなんですが......。」

 

そう言って部下は男に写真を見せた。その写真は今の時代、ロシアの冷戦時代の戦闘機よりも骨董品、否、化石とでもいえる代物が映っていた。

 

「これは......レシプロじゃないか!?」

 

「はい。それもこの飛行機、専門家が写真から調査したところ......。」

 

部下はどもった。言うのを渋っている。そんな部下に男は急かした。

 

「なんだ、言ってみろ。」

 

「太平洋戦争時に使われていた日本の艦載機です。」

 

「は?その専門家、一回病院に連れて行け。」

 

「いえ、確かにそうですよ!」

 

そう言って部下は新しい写真を男に見せた。その写真は拡大写真で、解像度も上げてある。

 

「深緑のボディに腹は白色。赤い日の丸......。」

 

「当時はジュディ、正式には彗星と呼ばれていた艦爆らしいです。」

 

「なんでこんなモノが......。」

 

そう男が尋ねると、部下は報告書を読み上げだした。

 

「昨日、アラスカ州沖で深海棲艦が動き出したので、警戒していたところ、未確認飛行物体が接近。サーチライトを照射したところ、逃げ出したとの事です。」

 

「数は。」

 

「1機です。」

 

男は新しい煙草を抜き、ライターで火をつけた。

 

「スゥー......極東は生きているんだな。」

 

「定かではありませんが。」

 

そう言って男は自分の背後にある地図を見た。そこには赤い線が太平洋の東に引かれている。ほぼ大陸の擦れ擦れの位置だ。

 

「『世界の警察』が今では国内の治安しか守れていないな......。一度現れたのならまた現れるだろう。アラスカ州に伝えろ。『また来たらその時は話せ。』と。」

 

「分かりました。」

 

男は立ち上がり、窓の外を眺めた。

 

「もう我々に戦うだけの戦力は残っていない......。助けてくれ。」

 

その声を届くのを願った。

 





はい。昨日は申し訳ありませんでした。
偶にある忙しさですね。これからも続くみたいで困ってます。

別視点が増えましたね。まぁ一発で分かるでしょうけど。

それといつも投稿できない時はTwitterで報告してます。ですけど、まぁ今回のはもうわかっているのでここで......明日の分は出せませんっ!!多分書く前に撃沈すると思うので......。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百二十四話  operation"typhoon"④

巡田から潜入するという連絡を貰って、1時間。これまではちゃんと定時連絡があり、確認は取れていた。

最後の連絡から10分後。俺は携帯端末を持っている。

 

「頼んだ初日に動くのかよ......。」

 

そう俺が呟いたのにも無理はない。警備棟で頼んで、榛名と話している最中にメールで潜入を始める趣旨のモノが届いていた。

 

「凄い行動力だ......本当に。」

 

俺はそう言って事務棟に行って帰ってこない榛名を待ちつつ、携帯端末を握りしめていた。そうしていると着信があった。

画面を見ると、巡田である。内容は調査終了との事。

 

「速っ。まぁいいか。」

 

そう俺は独り言を言って紙に榛名宛ての置手紙をしておいた。内容は『警備棟に行ってくる』だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

さっきまで居た警備棟の応接室に俺が入ると、もう巡田が居た。そして、巡田はデジカメを出し、パソコンに繋げた。

 

「提督。まさか一回の潜入でこうも分かるとは思いませんでしたよ。」

 

そう言って巡田は俺にパソコンを見せてきた。

そこには明らかに本部棟の内装だが、本部棟に無いものが映っている。デスクトップのコンピュータだ。

 

「同じ部屋にはもっと恐ろしいものがありました。」

 

スライドショーで見せてくれる巡田の声を聴きつつ、次に映る写真に俺は悪寒がした。

 

「銃か......。」

 

「えぇ。しかもこれは軍が使っている小銃ではありませんね。ロシア製のカラシニコフ系統の小銃です。」

 

そう言ってスライドショーを次々と送っていく。映っているのは銃、銃、銃......。

 

「それで、これはどこで?」

 

「使われていない第三会議室です。上手く偽装されてましたが、まぁ、人が寄り付かなそうな場所なのでその程度でいいんでしょうね。」

 

そう言いつつ巡田さんはスライドショーを送っていくが、あるところで写真を止めた。

止められた写真にはよく知っている艦娘。特徴的な髪色の艦娘だ。

 

「鈴谷......。」

 

「はい。この第三会議室に入って私が出た後すぐに彼女が第三会議室に入っていきました。様子を見ていると、どうやら彼女だけがこの部屋を出入りしている様ですね。この第三会議室のパソコンの近くには座布団も隠されていました。一枚だけです。」

 

そう言って少し視界が揺れている俺の異変に気付いたのか、巡田は『大丈夫ですか?』と声を掛けてくれる。

 

「大丈夫です。......続きを。」

 

そう言うと巡田はスライドショーを再び始めた。

 

「さっきの写真は提督から指定のあった艦娘を探している最中に見つけたものなので、これからが本題です。」

 

第三会議室に隠してあったものだろう、それを映した写真が終わると、俺が見たことのない部屋の写真が出た。

 

「ここは?」

 

「艦娘寮です。ちなみに空き部屋みたいです。」

 

そう言って写真が流れていくと、俺は目を疑う様な写真が次々と流れてきた。

霧島や熊野、叢雲は勿論、霧島たちに調査を頼んでいた赤城や金剛、鈴谷、色々な艦娘が集まって会議をしている。

 

「これは動画で撮ってありますので、再生しますね。」

 

そう言って巡田は動画再生ソフトを起動させ、動画を流しはじめる。どうやら音声も取っていた様で、パソコンから音声も流れ出した。

拾っているのは紛れもない赤城達の声。だが、話している内容がおかしい。

資金の使い道、強行偵察艦隊を取り込む......果ては俺がどういう管理をしているかという情報までもが話されている。大型艦建造やら近代化改修やら言っている。

さっぱり意味が判らないが、このメンツがおかしいのはよく分かる。

 

「なんですか、これ?」

 

「......私にもさっぱり分かりません。ですけど、確実なのは提督の耳に入れなくてはいけない行動であるのにも拘らず、提督に伝えてないという事です。」

 

そう言って巡田はポケットからメモ帳を出した。

 

「この動画を撮る前に話していて私の方で解釈したのだと、『提督に知られてない資材が鎮守府のどこかに隠されている』、『強い目的意識の中での行動』ですね。言い方を変えれば『何かを計画している』、『何かを企んでいる』という事です。」

 

そう言って巡田はメモ帳を閉じた。

 

「......巡田さんはどう思いますか?」

 

「彼女たちの行動ですか?......そうですね.............絶対的な法規を無視してまでやらなくてはならない事ですから......『提督にまつわる事』だと思います。」

 

「俺ですか?」

 

「はい。」

 

どういうことだろうか。確かに、彼女たち艦娘は俺の決めたルールは順守する。決して破ろうとはしない。だが、彼女たちは現状、それを破っているのだ。

そんな時、ある言葉が浮かんできた。

 

『大半の艦娘は気付いてないわ。』

 

イムヤの言葉だ。

映像の中にはイムヤも映っている。もしかすると、この言葉にある大半でない艦娘。それはこの映像に映っている艦娘たちだと言うのか。そして、彼女たちは何に気付いたのだろうか。ルールを破ってまでしなくてはならない事を......。

 

「巡田さん。」

 

「はい。」

 

俺は考えた上である事を訊いた。

 

「『尋問』するべきでしょうか?」

 

そう訊くと、巡田は深く考え始めた。そして、結果を俺に伝える。

 

「するべきだと思います。ここは提督の指揮する鎮守府です。その傘下の部下が何かをしているのであれば、動くべきだと思います。」

 

「そうですか......。」

 

俺は覚悟を決めた。

呼び出し、何をしているのかを問い質す。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夕方。日も傾き、空と水面と陸が紅く染まるこの時、執務室には俺が呼び出した艦娘が居る。

 

「何でしょうか?」

 

赤城だ。

 

「秘書艦もいないようですが......。」

 

そう言う赤城に俺は単刀直入に言った。

 

「前も訊いたが、『何をしている。』」

 

そう言うと赤城は俯いてしまった。何も言わない、というか言えないみたいだ。

 

「俺は赤城の行動を『鎮守府の秩序を乱している』と考えている。」

 

「そのような事はっ......。」

 

赤城が反論してきた。

 

「秩序を乱しているとは思ってません!」

 

「だが、現に赤城『ら』の行動を不審に思っている艦娘が居るんだ。」

 

「『ら』?」

 

「あぁ。」

 

俺はそう言って艦娘の名前を呼びあげて言った。

 

「赤城、金剛、鈴谷、加賀、時雨、夕立、イムヤ、長門......。」

 

赤城は目を丸くしている。

 

「まだ居る。霧島、熊野、叢雲、吹雪。」

 

赤城は目を丸くしたまま黙ったままだ。

 

「密かに集会を開き、どこから持って着たか分からない資材を大量に保有し、あまつさえ俺の命令で無ければしない筈の建造を勝手にやろうとしている......。何をしているんだ、赤城。」

 

赤城は顔を伏せてしまった。

俺の位置からは赤城の表情を見る事が出来ない。

 

「......。」

 

赤城は黙ってしまった。

 

「今は大規模作戦を展開している。それは分かっているか?」

 

「......。」

 

「これまで赤城たちの行動は霧島や熊野、叢雲に俺が頼んで監視・調査していたが、その3人でさえそちら側に行ってしまった。」

 

「......。」

 

一向に赤城は口を開こうとはしない。

何を頑なに言おうとしないのだろうか。

 

「さっきも言ったが、他の艦娘たちが赤城たちの行動に困惑している。そりゃそうだ。古参の殆どがそちらに居るからな。」

 

「......。」

 

「初期から海域解放を担ってきた長門と霧島。長門と霧島と同じように初期から居た熊野。初期艦であり、長門たちと共に海域に繰り出していた吹雪。吹雪と共に出ていた時雨、夕立、叢雲。ムードメーカーで皆を引っ張ってきた金剛。鎮守府唯一の潜水艦であるイムヤ。艦隊の斥候であり目でもある航空隊を最大数運用できる加賀。そして、初期から長門や霧島と共に戦い、絶対的な実力で深海棲艦に立ちはだかり、艦娘たちに慕われ、加賀の先輩である、赤城。............揃って何をしている。」

 

「......。」

 

赤城は一向に口を開かないが、手が動いた。左手が動き、袖に手を入れ、金属音を鳴らして出てきたのは、俺が赤城にあげた懐中時計だ。

 

「資材を溜め込み、外と連絡を取る。......今度は『資材を売る』、『資金を調達する』、『他の艦娘を仲間に取り込む』、『建造を行う』、『近代化改修を行う』......果ては俺の艦隊管理に関する情報までもが話され、挙句の果てには銃器を保有している......。」

 

この言葉には流石に反応した。赤城は懐中時計を持っていた手を揺らして、ビクリと身体を跳ね上げた。

 

「俺が指示していた霧島たちもそうやって『仲間に取り込んだ』のか?」

 

そう言うとやっと赤城は口を開いた。

 

「......違いますっ。」

 

「じゃあ何をしているんだっ!」

 

俺は怒鳴ってしまった。

これまで怒鳴った事が無いと言うのに。怒鳴った事が無いので勿論、赤城も俺の怒鳴ったのは初めてだろう。かなり肩を跳ね上げていた。

 

「言えない事なのか?!」

 

そう言うと赤城は頷いた。そんな赤城は懐中時計を両手で握りしめて、手を震わせている。

 

「このままでは他の艦娘の士気に関わる。古参が揃いも揃って不審な行動をしているからな。そんな古参を見張るかのように提督である俺があれこれと目を配らせていたが不安が増長されるだろう。」

 

そう言って俺は赤城を見た。ソファーで手を震わせている赤城を。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

提督に呼び出されたと思い、柄にもなく喜々と執務室に向かった私ですが、提督はこれまでにない怖い顔をしていました。今までその顔を見たことは何回かあります。それは、巡田さんの時や、メディアが押しかけて来た時、自治体の方々が抗議に来たとき、文化祭(仮)で問題を起こした兵士の前でした。

その目は明らかに何か別のモノを見るような目で、これまで絶対私たちに向けられたことのなかった目ですが、今、提督はその目で私を見下ろしています。

心のどこかで『その目は絶対私たちに向けられる事は無いだろう』と思っていましたが、それは否です。その目で提督は私を見ているんです。

提督をその目で見ていたモノはどれも金剛さんや鈴谷さんが反応し、現れる様な事象。つまり、『提督への執着』が働く様な事が起きている時です。したがって、この目を向けられている私は『提督への執着』によって『処理』される可能性があるという事です。

 

(怖いっ......ここで言ってしまえば楽でしょうけど、そんなことをしてしまえば計画が全てパーです。そうなってしまえば、何も返す事が出来ません......。)

 

俯いて黙っている私に提督はずっと言葉を投げかけてきます。

そんな時、提督の口から知り得ない情報が出ました。『資材を売る』、『資金を調達する』、『他の艦娘を仲間に取り込む』、『建造を行う』、『近代化改修を行う』。それだけではありません。長門や私、秘書艦としての任が長くなければ分からない提督の艦隊管理に関する情報。鈴谷さんの銃器保有の事まで出てきました。

そんな情報をどうやって提督は手に入れたんでしょうか。

 

「......違いますっ。」

 

私は取り繕う意味も無い言葉を言って、また黙ってしまいました。

 

「じゃあ何をしているんだ!」

 

私はその声に驚きました。これまで私は深海棲艦の奇襲やなんかで驚かずに冷静に対処していた自信がありますが、これには驚かざるを得ません。人間に非道に扱われてきた私たちに笑いかけてくれた、人間同等の扱いをしてくれた提督が怒鳴ったんです。

私は思わず懐中時計を握っていた手を震わせてしまいました。怖い。そんな感情が渦巻き、更には色々な妄想が脳裏を走り抜けました。

 

『作戦艦隊の任から解く。』

 

『秘書艦もまだ経験は浅いかもしれないが、高雄や......まぁ最近『番犬艦隊』として俺の横に居たフェルトにでも変わって貰う。』

 

『特務は......他の艦娘に任せる。』

 

提督は私を信頼して色々な任務を頼んでくださいました。それを私は提督からの『信頼』だと思ってます。他の艦娘たちも『赤城さんって提督に信頼されてるんですね。』とよく言われてきました。それが全て失われる。主力である第一艦隊から外され、秘書艦を外され、私の絶対的な『信頼』の意味を持っていた『特務』までもが無くなってしまう。そう思いました。

それは私にとって悲しく、辛い事です。

今、私の手に握られている懐中時計も提督が下さったものです。『景品』だと言って何か訊いて下さると言った提督に『外へ行きたい』と大それたことを頼んだ私を提督は外へ連れ出して下さいました。そんな帰りに提督が下さった懐中時計、『それなら持ってても何ら不思議じゃないだろう?』と仰って私に下さいましたが、それは多分他の艦娘と私への配慮です。

そこまで『信頼』して下さった提督が今、私にアノ目を向けているんです。

身体の震えが止まりません。葛藤と不安です。

 

「わっ、私はっ......。」

 

恐怖で押し潰されそうになる声を必死に絞り出しましたが、提督の顔を見る事が出来ません。

 

「言えないですっ!!私がやろうとしている事、私たちがやろうとしている事っ!!」

 

そう私は振り絞って言いました。そんな私を見て提督はこれまで以上に冷たい目で私を見ました。そして言い放ったんです。

 

「そうか......赤城はあの時言った言葉を覚えているか?『私は理性で『提督への執着』で起きる殺意を抑える事が出来ますが、気付かなかった貴女たちを私は本能の赴くままに殺してしまっても構わないと思ってます。』、『『その時』までに気付かなかったのなら、貴女たちは私にとって提督の害となります。......長門さん。貴女もですよ。』と。ならば俺はこう言う。『俺にとって赤城たちは害だ。』」

 

ガンと頭に衝撃が走ったように思いました。

提督の口から直接『私たちは害だ』と言われたんです。さっきまである程度考える事の出来た頭が回らなくなりました。

提督にその言葉を言われたという事は、私は提督にとって『害』だという事になります。考えてみればそうかもしれません。提督に何も言わず、行動し、提督が不審がっていたのは以前、執務室で言われた時既に分かっていたことです。それが今日、痺れを切らしたんでしょう、提督は私を呼び出して問い詰めたんです。ですけど、私は頑なに言いませんでした。

もうこの時点で分かっていた事なんです。

 

「そんなっ......?!」

 

ですけど私の身体はそれを信じれなかったみたいです。

 

「何を言う。俺の知らないところで資源を貯め、新瑞さんと連絡を取り、パソコンを保有し、銃器を保有している。新瑞さんに関しては自由だと思うが、正直なところ分からない。」

 

考えの停止している私に提督は言葉を投げかけて行きました。

 

「だが、大本営が禁止し、俺も禁止しているパソコンの保有と銃器の保有は駄目だ。それに命令も無い資源回収は以ての外だ。」

 

提督の目がどんどん冷たくなっていくのが分かります。

 

「裏でこそこそと動いて、何かを企んでいるのを見るのはもう沢山なんだ。」

 

そう提督は言いました。一体どういう事でしょうか。確かに私たちは裏でこそこそと動いていましたが、それが『沢山だ』とは。

 

「沢山ってどういうことですか?」

 

そう訊くと提督は語り始めました。

この世界に来る何年も前、提督はある集団に身を置いていた。その集団は男がほとんどおらず、女主体の世界があった。提督はそこに自分の意思をほぼ無視された状態で入れられた。そしてその集団で提督は持っていた力を開花させ、幹部になっていた。その集団は『部活動』というらしい。

その部活動で提督は少ない男の中で志願して入った訳でもない、気の遠くなるような努力をした訳でも無いのに幹部になったが故に、女主体の世界で迫害に遭った。助けてくれる手はどこにもなかった中で裏でこそこそと工作する女たちを見て、それが自分の身に降りかかるのを経験してきたらしい。自分一人を多勢に攻撃され嫌な思いをし、果ては実害もあった。

提督が私たちの行動を不審に思い、艦娘に調査を頼み、取り込まれたら自分で訴えてくるのにはちゃんと理由があったんです。

『何かをしている』という些細な理由でここまで動いたのは多分、提督の本能が警鐘を鳴らしていたんでしょう。

 

「だからもう嫌なんだ......。」

 

そう言う提督の目から光が消えていく。これは金剛さんが提督の危険を察知した時と同じです。

私の本能が私に危険だと知らせています。

そんな時、執務室の扉が開かれました。開けたのは金剛さんと鈴谷さんです。

 

「提督?」

 

「提督?」

 

2人は揃ってそう言いましたが、提督の様子を見て一変しました。私もこんな様子の提督を見るのは初めてですし、勿論金剛さんたちも初めてでしょう。

戸惑う2人に提督は言いました。

 

「お前らは一体何をしているんだ。」

 

目から光の消えた提督はそう言いました。

 

「いやっ......提督の危険を察知したので、来たんデスガ......。」

 

「鈴谷もだけどっ......。」

 

私も今感じたが、提督が害と思っているのは私と金剛さんと鈴谷さんだ。2人は戸惑っているように見えます。

 

「はっ......はははっ......。」

 

力のない笑いが提督の口から洩れました。

 

「赤城。」

 

提督は張り付いた様な表情のまま私に声を掛けました。そして私が答える間もなく、提督は話しだしたのです。

 

「さっきの続きがあるんだが......訊きたいか?」

 

そして提督は私の返事を訊かずに続けました。

 

「俺は最後、こそこそしていた集団......といってもほとんどの奴らだけど、そいつらをどうしたと思う?」

 

そう言って提督は張り付いた表情のまま口角だけを挙げました。

 

「......恐怖で"支配"したんだよ。奴らの仲間同士で不信感を持ち合い、誰も信用できなくした。集団の頭は集団内で社会的に体裁を保てなくさせた。俺はそういう奴らが大嫌いなんだ。」

 

提督は続けた。

 

「あの時は複雑な関係構造をしていたが、今回は単純だ。身内同士で疑心暗鬼させる事は簡単だ。」

 

そう言った提督の言葉を私は反芻した。途中で『集団の頭は集団内で社会的に体裁を保てなくさせた。』と仰った。『集団の頭』つまり私や金剛さん、鈴谷さんの事でしょう。

そうなるとさっき私の脳裏に浮かんだ妄想が現実化してしまいます。

 

「ちょっと待つネ。一体どうなってるノ?」

 

金剛さんが口を挟んできました。たぶん、状況が掴めなないから痺れを切らしたんでしょう。

 

「あぁ。丁度いい。」

 

そう提督は言って、金剛さんと鈴谷さんにも私に言った言葉と同じ言葉で訊きました。

 

「何をしているんだ?」

 

そう言われ、全く理解出来ないのか、金剛さんも鈴谷さんも困った表情をしています。

 

「どういうこと?」

 

鈴谷さんが提督に訊きます。

 

「言ったとおりだ。赤城と金剛、鈴谷、加賀、夕立、時雨、熊野、叢雲、鈴谷、吹雪、長門、イムヤで何をしている。」

 

そう提督が仰ると金剛さんも鈴谷さんも苦虫でも噛んだような表情になりました。

提督は光のない目で金剛さんと鈴谷さんを捉えてまた言いました。

 

「一体、何をしているんだ。」

 

今度は提督の声がいつもよりもトーンが落ちました。

 

「......。」

 

「......。」

 

もう金剛さんも鈴谷さんも私と同じ状態になりました。

戦意喪失というのは丁度いい彼女たちの状態の表現です。

 

「......答える気が無いならいい。下がれ。」

 

そう言った提督は居た場所から机の椅子のところに行き、腰を掛けた。

そして一向に動こうとしない金剛たちを見てもう一度言いました。

 

「下がるんだ。」

 

提督の言葉に消え入りそうな声で金剛と鈴谷は返事をして、執務室から出て行きました。

 

「赤城。お前もだ。」

 

私は返事をする声も出ずにその場を立ち去る事しか出来ませんでした。

 




今回は重くて本当にすみません。まぁ提督の昔話が出たという事で......うん。

そう言えばシリアスが長いと思いますか?
まぁ自分もそう思ってますが、嫌だと感じた方はご一報ください。
そのうちこの長いシリアスともおさらばするんで、それまでの辛抱です。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百二十五話  operation"typhoon"⑤

 

夕食時、全員が集まった食堂で提督から明日から作戦再開の知らせがありました。

編成は変わりません。ちなみに言えば、様子はいつも通りに戻っていました。

 

(一応、心配ですね。あんな提督は初めて見ましたから......。それと、会議はもう無しですね。)

 

私はそう考えました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夕食後、皆がお風呂に入る時刻、私の部屋に金剛さんと鈴谷さんが来ました。たぶん、夕方の事でしょう。

 

「赤城、あれは一体どういう事デース?」

 

そう金剛さんは私に言いました。

 

「以前に提督に何をしているのか問い詰められた事があったんです。」

 

「何をしているかって?」

 

「私たちのしている事、全て提督は知ってますよ?」

 

そう言うと金剛さんも鈴谷さんも驚いた。無理もないでしょう。隠し通せていると思っていたでしょうから。

 

「どういう事デース!?誰かが漏らしたデスカ?」

 

「いいえ、それは無いと思います。何故なら私たちが結束する前から知られていましたからね。」

 

そう言うと今度は鈴谷さんが言いました。

 

「それホント?!あ~あ......。」

 

「いえ、鈴谷さんのは最近分かったみたいですよ?パソコンと銃器所持の事を仰ってましたから。」

 

私はそう言って姿勢を正しました。

 

「もうなりふり構って等居られません。夕方の提督を見ましたよね?」

 

そう言うと金剛さんも鈴谷さんも頷きました。

 

「きっと提督は敏感なんですよ。提督の過去にかなり酷い事があったらしいですからね。」

 

そう言って私に提督が話した事をそのまま金剛さんと鈴谷さんに話しました。

 

「......酷過ぎデスっ。」

 

「よってたかってって感じ?」

 

「そんな風に聞こえました。」

 

金剛さんも鈴谷さんもゲンナリした表情をしました。

 

「......鎮守府も似たような感じだし、ソレと連想されても仕方ない様な......。」

 

そう鈴谷さんは呟きました。確かに似ているかもしれません。提督の仰っていた通りなら、警備棟やらがあるのを考えずに行けば提督と艦娘ですから。

ですけど、提督の周りで起きていた事はここでは起きないと私は自信を持って言えます。ですが、提督は私たちの行動がソレを連想させたという事に関して見れば、起きないと分かっていても疑心暗鬼にはなってしまうのも仕方ないと思います。

提督自身、『提督への執着』に関しては知っているはずですし、そんな提督を排除しようだなんて動きはまず鎮守府内で起きるとは思えません。

 

「そうです。ですから、私たちは早急にこの話を残りの9人に伝えなければなりません。提督に知られてしまった事と、実力行使されてしまうという事を。」

 

そう私が言うと、金剛さんと鈴谷さんは立ち上がりました。

 

「じゃあ集まるのは今日はやめた方が良さそうデスネ。......個々に連絡していくという事デ。」

 

「鈴谷も。」

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

そう言って私たちは解散した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺は警備棟の応接室に来ていた。巡田を呼んで、話をすることなっている。

 

「すみません、遅くなりました。」

 

「いえ。」

 

巡田さんは何時もの服に身を包んで、現れた。

 

「『尋問』はどうなりましたか?」

 

「駄目でした。」

 

そう言って俺は肘をついた。正直、もう参っている。

 

「途中、感情的になってしまいましたが......。」

 

「そうですか。」

 

俺は協力してもらっているからという理由と、半ば愚痴を聞いてもらっているつもりで話している。

 

「それと金剛と鈴谷が乱入してきてしまって、うやむやに......。」

 

俺はどうしようかと考えを巡らせた。一瞬、今発動中の大規模作戦を中止する事も視野に入れたが、今が好機だというのは確実だったので中止しなかった。

 

「それで......赤城さんへの牽制に?」

 

「多分なりました。巡田さんの情報は正しかったようですね。」

 

「それは良かった......って、良くないですね。」

 

「はははっ。」

 

軽く冗談を言ってくれるのはありがたい。

 

「だが、強く言えなかったのが悔しいです。」

 

「?」

 

「頑なに何を目的にしているかというのを吐かなかったんですよ。ですが、俺関連だと言うのは分かりました。」

 

そう言うと巡田さんは考え始め、ある答えを俺に突きつけてきた。

 

「提督関連でしたら......『反乱』とかしか思いつきませんね。ですけど、それは最もあり得ないです。」

 

「『反乱』ですか?......それは止めてほしいです。」

 

俺はそう笑って流したが、内心笑って等居られない。

もし本当にそうなら、古参組のほとんどを占めているあちら側に対抗できる手段が無い。というかそもそも『提督への執着』があるのにも関わらず、どこに『反乱』をすると言うのだろうか。鎮守府の外、大本営に協力を取り付けているのにも拘らず、大本営への反乱だったら滑稽極まりない。

だがある事を思い出した。赤城が大本営に向けて出した手紙の内容だ。あれから俺はあの手この手で調べ、情報を手に入れてきたが、全ての現況のヒントはあの手紙にあるのではないかと思った。

 

「ですよね......。」

 

そう苦笑いする巡田に一応、次の潜入を考えているなら今日の様に入る前にメールを送ってほしいとだけ言って俺は警備棟を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

霧島と熊野、叢雲が置いて行った具体的な最後の情報。赤城の手紙を俺は読んでいた。

内容は新瑞への俺の待遇改善に関する事。やはりそれ以上分かる事は無かった。だが、彼女らの目的のヒントになっている事は確実だ。

 

(待遇改善......俺はこれまで大本営の俺への見返りは不足に思ったことは無いが......。)

 

そう思いながら、何度も手紙を読み返す。

 

(やはり『提督への執着』を越えた行動をしているのは確かだろう。それを越えなくてはならない理由......?)

 

俺は思い出せる記憶を全て思い出して、しらみつぶしに考えた。所々抜けている部分もあるが、ある一つの事が気になった。

赤城と共に何かをしている艦娘にイムヤが居た。

番犬補佐艦隊として執務室に居たイムヤに俺はある事を言われていた。

 

『『辛い』って思った事、ある?』

 

『でも『寂しい』って思う事はあるでしょ?』

 

『『大半の艦娘は気付いてないわ。今のこの鎮守府での生活をなんも疑問に思ってないもの。』』

 

思い出せて且つ、関係のありそうなイムヤの発言はこれだけ思い出せた。

それらを組み合わせて導き出される答えはある。

 

(『辛い』、『寂しい』、『大半の艦娘は気付いていない』という事は、イムヤ、赤城たちは『気付いている』という事になるな。)

 

思考を巡らせる。

 

(あの後、イムヤに考えてみたらどうだって言われたな......っ?!)

 

俺はその後の会話を思い出すまで一生懸命に考えた。その結果が今出た。

 

(赤城たちは俺が『寂しい』と思っている事を知っているという事か?!)

 

俺は立ち上がり、執務室の中を歩き始めた。

 

(『辛い』と訊かれて俺は『責任』と言ったな......という事は、俺が『責任』を誤魔化して、目を背けていた事も知っているのかっ?!)

 

次々と仮説が浮かび上がってくる。

 

(イムヤと話し終わった後、俺は何かを考えていたな......受験かっ?!)

 

机に置いてあった数学Ⅲの参考書を手に取り、更に思い出した。

 

(確かこの本に興味を持ったのは赤城だけだ。その赤城に俺は何て言ったんだ?)

 

「将来使うんだ。.......だがもう必要ない......っ?!」

 

赤城たち艦娘は読み書きと道徳は備わっていると言っていた。なので勉強に関しては皆無の可能性がある。そしていつの日か長門が『学校とは?』と言っていた事も思い出した。つまり艦娘は学校を知らない。

俺は赤城に何に使うかと聞かれて『将来使うんだ』と答えた。『将来』という単語の意味を知らない筈がない。俺はそれを訊かれた後に『だがもう必要ない』と言っていた。

 

「まさかっ?!」

 

俺は考えられる事を総動員してある回答に辿り着いた。

 

『赤城たちは何かを理由に俺の『将来』がどうのって考えているのか?読み書きと道徳しか備わっていない艦娘たちが持っている知識をフル動員した結果が、資材の溜め込みと売却、新瑞との内容のよく分からない手紙、仲間を集め、銃器、パソコンを違反だと分かっていながら所有し、使おうとしている。』

 

そして考えている最中に叢雲が俺に話に来て、途中失神した事を思い出した。俺はあの時も『寂しいと思ったことは無い?』と聴かれ、問い詰められ、叢雲に『......家族と友達が居ない事だ。』と答えていた。

 

『赤城たちの目的は俺の寂しさや責任を軽減させる事か?』

 

そう最後に至った。

自惚れだが、これが一番有力だと俺は思った。

そしてさっき整理し、回答だと考えていた事に疑問を抱いた。

じゃあ何のために資金収集まがいな事をして新瑞と連絡を取り、仲間を集め、銃器やパソコンを手に入れたのか。

目的の仮説が立ったがその代りに行動が不自然に思えた。俺が艦娘の立場なら責任なら現状、秘書艦や事務棟や何かと分担しているところがある。寂しいと思うなら家族や友人はいないが、せめて傍に居る。と考えるのではないか?

 

(目的は仮説立てれたけど、これじゃあ変わらないじゃないか。)

 

そう思い、俺は私室に戻ってベッドに倒れ込んだ。

 

「そうは言っても、目の前には大規模作戦がある。そっちに集中しなくちゃな......。」

 

そう自分に言い聞かせて眠りに入った。

 





前回の投稿でご感想を書いて下さった皆さん、ありがとうございました。
感想というより考察が多いのは何時もの事ですが、色々聞けてうれしかったです。

と本題に入りますが、提督が謎の推理スキルを発動して目的に辿り付きました。が、目的のためにしている行動が理解できないという事態に陥ってしまいました。
うん......まだまだ続きます。
シリアスが辛いと仰って下さった皆さん、まだまだ続きます。ですが、丁度いい節目ですね。これを機に第二章に突入しようと思います。

第二章はどうなる事やら......。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百二十六話  operation"typhoon"⑥

 

一度来たことがあるのと、深海棲艦の補充がまだだったために、私たちは前回撤退した地点まで難なく辿り着く事が出来た。

 

「こちら長門。最深部前まで到達した。指示を仰ぎたい。」

 

私は通信妖精から受話器を受け取って鎮守府と交信している。

 

『お待ちください。』

 

何時もの鎮守府側の通信妖精がそう言うと、地下の通信室に提督が居たのだろう。前回よりも早く出た。

 

『提督だ。話は訊いている。』

 

「あぁ。道中、本隊に中破した艦娘は出ていない。全員損傷軽微だ。」

 

『そうか。ならば前進せよ。』

 

「了解だ。」

 

私は通信妖精に本隊と第一支隊に繋げるように頼んだ。

 

「本隊旗艦の長門だ。これより西方海域最深部に攻撃を仕掛ける。心してかかれ。」

 

『『『『『了解。』』』』』

 

「全艦両舷前進強速。その後、空母は先制攻撃だ。」

 

『『了解。』』

 

何時もの様に堂々とした態度で返事を返す赤城と加賀。

 

「第一次攻撃隊の反転を確認すると同時に私、高雄、島風、雪風は最大戦速で突撃する。」

 

『『『了解。』』』

 

指示をそれぞれに出した。支隊は支隊でちゃんとそこの旗艦が指示を出すので私は其処には触れなかった。

速度を上げる艦隊。私は艦橋から海を眺めていた。そうすると水平線の向こうに影が浮かび上がり、それが何だと感じる。

深海棲艦の艦隊だ。

 

「第一次攻撃隊はもうあっちの艦隊の上空か......。対空見張りを厳とせよ!」

 

私は艦内の妖精への指示も出す。

この作戦、一回撤退する前に訊いたが、ここの最深部は装甲空母なる艦種の深海棲艦がいるとの事だった。という事はあっちも空母機動部隊。こちらに爆雷撃機が来襲する事は目に見えている。

 

『敵機来襲っ!』

 

言わんこっちゃない。準備を整えていた対空戦闘兵装付きの妖精たちや弾薬補給の妖精たちからの連絡は一時的に途絶えた。交戦を始めたという事だ。

 

『第一次攻撃隊が敵艦隊の軽空母と駆逐艦をそれぞれ撃沈しました。』

 

赤城から報告が入る。それを私は待っていた。

 

「全艦隊へ。砲雷撃戦闘用意っ!」

 

通信妖精がそれを訊いて慌ただしく指示をそれぞれの艦娘に飛ばしている。

その通信妖精が一息ついたのを見て、私は全艦隊に繋げてもらった。

 

「単縦陣で突撃を敢行する。全艦我に続け。」

 

返事を聞くまでも無く私は通信妖精に受話器を返した。

 

「我々の征く道に貴様等なんぞ要らないっ!」

 

私の中にあったのはたった一つだ。この海域を取り返し、生きて帰る事。ただそれだけだ。

だが、頭の片隅に残っていたのは昨日の夜、伝え伝えで聞いた提督の事だった。勿論、赤城たちの12人だけの話だ。

赤城曰く、全て提督に知られてしまったとの事だった。私は話を聞いただけで直接何をしている訳でもないが、協力している。叢雲や赤城から聞かされた話は嘘偽りない事だろう。その話を信じているからこそ、赤城たちと同じ志を持って動くと決めたのだ。

だが、それが提督にバレてしまっている。しかもその話をしている最中、呼び出されている事を知らなかった金剛と鈴谷が提督の危険を察知して赤城と提督が居た執務室に飛び込んだという。これが意味する事は赤城はその時、提督に害を及ぼす存在だと認識されたからに他ならない。という事は、赤城と同じことをしている私たちも提督の害となったのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺の周りには作戦が始まったという事で、番犬艦隊が控えていた。

何時もと変わらぬ様子に俺は安心し、執務をこなしていく。だが一つ気になる事があったのだ。番犬補佐艦隊に金剛が居るのだ。

どういう決め方をしているか知らないが、このタイミングで金剛が俺の近くに居てもらうのは俺の精神衛生上良くない。なので、金剛が収まっている炬燵に入る気も失せていた。いつもならなりふり構わず入って誰かしらと話をしていたが、今日は出来そうにない。

 

「アトミラール、炬燵には入らないのか?」

 

何時もなら終わると同時に炬燵に入っていた俺を見てフェルトが訊いてきた。

 

「あぁ。今日はそんな気分じゃないんだ。」

 

「そうか。」

 

フェルトは何も知らない。だから唯俺がそんな気分じゃないという言葉を信じて書類を脇に執務室を出て行った。

 

「提督。貴方、変よ?」

 

そういきなり言って来たのは、フェルトがさっきいた場所の反対側に立っていたビスマルクだった。

 

「どこがだ?」

 

そう俺は目を細めながら言うと、ビスマルクは指を顎に当てて考え始めた。

 

「そうねぇ......雰囲気、かしら?」

 

「雰囲気ね......。」

 

ビスマルクは雰囲気だと言った。確かに変かもしれない。まず炬燵に直行しない時点でおかしいのは明白だったからだ。

 

「何かあったの?」

 

そう心配そうに聞いてくるビスマルクに俺に有無も言わさず膝に乗ってきたゆーを支えながら答えた。

 

「あったというか、今もあるんだ。」

 

「どういう事かしら?」

 

「詳しい事は言えないが、そういう事だ。お蔭で胃が痛いし頭も痛い。」

 

そう言って『はぁ。』と溜息を吐いて見せた。

その一方で俺の膝の上で眠りかけていたゆーは起き、ビスマルクの表情が険しくなった。

 

「胃が痛い、頭が痛いって風邪かしら?」

 

「そうじゃないんだ。」

 

俺はこれを言った瞬間、とてつもない大きな地雷を踏みぬいた気がした。実際には聞こえないが、空耳で爆音が耳を劈いた。

 

「......そうじゃないなら、心労ね。様子を見る限り、何かの心配ではなさそうね......あと考えられるのは......。」

 

「ビスマルク姉さん......。アトミラールが怯えている......だから......何か『危険』、かもしれない......。」

 

そうゆーが言った瞬間、机の前にいたレーベやマックス、プリンツが俺の真横と背中と前に艤装を身に纏った状態で立った。

 

「ユー......怯えてるって......。それは無い、だろう?」

 

そう俺の膝の上にまだ居るユーの頭を撫でた。

その姿を見ていた番犬補佐艦隊の中で何かに1人だけ何かと葛藤している艦娘が居た。金剛だ。

他の番犬補佐艦隊は立ち上がり、艤装を身に纏って執務室の入り口と、外に向かって走り出したのにも関わらず金剛だけは艤装も出さずに居た。

 

「どうしたの、金剛。」

 

そう訊くビスマルクに金剛は答えた。

 

「何でもないデス。持ち場に行きマスネ。」

 

そう言って艤装を身に纏った金剛は執務室の外に出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

単縦陣で突撃を敢行した私たちは、相手艦隊に目を奪われていた。

中に一隻だけ、おかしな構造の深海棲艦が居るのだ。飛行甲板があるのは当たり前だろう。提督からその話は聞いていた。だが、おかしいのだ。

何故、大型艦の、しかも戦艦クラスの砲を装備しているのだろうか。

その光景は突撃した誰もが目を疑い、戸惑った筈だ。勿論、私もだ。

 

「怯むなっ!旗艦がおかしいというのは訊いていただろう?!」

 

私は怯んでいる妖精たちに喝を入れ、そのおかしな深海棲艦を睨んだ。その刹那、装甲空母を見張っていた見張り妖精から叫び声が聞こえてきた。

 

「魚雷接近っ!」

 

「何だとっ!?あっちの艦攻隊は戻ったはずではなかったのか!!」

 

そう私が確かめるように訊くと、見張り妖精が飛んでもない事を口にした。

 

「あの装甲空母から射出された魚雷ですっ!」

 

「なんだとっ?!」

 

気付けば僚艦も回避運動を始めている。こちらも私の指示を出す前から既に回避運動をしていた。

 

「こんな深海棲艦、見たことないぞ......。一刻も早く沈めねば......。」

 

私はそう呟き、装甲空母を睨んだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

警戒の解けた番犬艦隊と番犬補佐艦隊は再び、執務室に戻ってきていつも通り過ごしていた。

勿論、俺もだが。そんな時、炬燵に入っていた金剛が急に立ち上がり、俺の前に来た。

 

「提督、お話良いデスカ?」

 

「......あぁ。」

 

俺は少し考えた後、返事をした。

 

「じゃあ、私室にデモ......。」

 

「分かった。......フェルト、頼めるか?」

 

「了解だ。」

 

俺はフェルトに私室の前に立ってもらって、私室に金剛を連れて入った。

椅子に座るように言って、金剛の正面に座った。

 

「昨日の事なんデスガ......。」

 

そう切り出した金剛の言葉に俺は少し驚いた。

 

「赤城から詳細を訊きマシタ。」

 

「そうか。」

 

金剛は眉毛をハの字にして俺の顔を見た。

 

「私たちのしている事、知っているんですヨネ?」

 

「あぁ。」

 

金剛は俺の顔色を伺いながら続けた。

 

「提督が私たちを『害』とみなすってノモ......。」

 

「言った。」

 

次第に金剛の目は赤くなり、涙が溜まっていく。

 

「提督の為にしてきたってノニ......ウウウッ......。」

 

金剛の頬を涙が伝っていった。

多分、昨日の追い返した後に集まらずに連絡が回ったのだろう。その際に訊いた事を確かめに来たという事みたいだ。

だが、これでハッキリした。金剛たちの目的だ。今金剛は『提督の為にしてきたってノニ』と言った。

 

「知っていた。」

 

「えっ?」

 

「知っていた......と言うのには語弊がある。厳密に言えば、何故金剛たちはあんな事をしていたか、目的が分かった。」

 

そう言うと、金剛は袖で涙を拭いてこっちを見た。

 

「本当デスカ?」

 

「あぁ、推理だけどな。」

 

そう言って俺は金剛に昨日、金剛と鈴谷、赤城を追い返した後に考え着いた答えを言った。

 

「俺の為......俺が感じている寂しさとか責任とか、どうにかしようとしているんだろ?」

 

そう言うと金剛は顔を伏せてしまった。これは答えか?そう思い、続けた。

 

「金剛たちの動いている艦娘がこれまで俺に対して言って来た言葉を、思い出しながら考えた。......もうそれ以外答えがない。」

 

「......(ボソボソ)」

 

「ん?」

 

金剛はそうボソボソと何か言うと、顔を上げた。

 

「その通りデス。私たちは提督が感じている『寂しさ』や『責任』をどうにかしようと動いてイマス。」

 

「そうか。」

 

俺は予想通りだったことが嬉しかった。だが、金剛はまだ続けた。

 

「デスガ、まだあるんデス。」

 

「何だと?!」

 

金剛はそう言って立ち上がり、俺の横に来て俺の目を見た。

 

「決定的に、私たちが動く理由になった元が......。提督はそれに気付いてマセン。」

 

そう言って座っている俺の目線に金剛が合わせて屈むと、俺の右手を取った。

 

「この手は、本当は勉強する為にペンを握っていた手デスヨネ?」

 

俺が何のことだか理解出来てないにも関わらず金剛は続けた。

 

「資材の数の管理や、出撃編成表を書くためじゃない筈デス。」

 

俺は何も言えなかった。

 

「この時間は提督は学校に通って、勉強をして、友達と話していたんじゃないデスカ?」

 

「っ?!」

 

金剛は急に何かを言いだした。

 

「夜は家に、家族の元に帰っていたじゃないんデスカ?」

 

「......。」

 

金剛の俺の右手を取った力が強くなる。

 

「提督には将来があったんじゃないんデスカ?」

 

「......。」

 

金剛の言っている通りだ。今は時間にして午前11時過ぎ。この時間は、もう何か月も前の話になるが、学校で授業を受けている時間だ。

夕方になれば家に帰っていた。そして、俺は将来、夢を目指していた。

 

「皆、『気付いてない』んデス。この事に。」

 

金剛は俺の私室を見渡して、本棚を見つけると俺の手を放して本棚に向かった。金剛はそこからある本を引き抜いた。

参考書だ。

 

「コレ、本ですけど物語じゃないデスヨネ?」

 

「そうだな。」

 

そう俺に確認を取った金剛はその本を元の位置に戻すと、椅子に座った。

 

「少なくとも私は......。」

 

そうどもった金剛は続けた。

 

「少なくとも私は、提督をこの世界に呼び出した時点で『提督の将来を奪ってしまった』と考えてマス。」

 

「は?」

 

金剛はそう言った。涙も少し乾いた少し乾燥している目だろう、それを俺に向けて。

金剛の言った事が多分、艦娘をここまで動かす元になった事だろう。俺の将来を奪ったって、さっぱり分からない。

 

「私たちの欲望のままに提督を求めて、呼び出しマシタ。その時点で提督のいた世界では提督の積み上げてきたモノや沢山あったはずなんデス。それは皆分かっているはずなんデス。でも見ない......。」

 

「......。」

 

金剛は握りこぶしを抑えながら言った。

 

「家族、友人、将来......全てと言っていいものを私たちの為に奪ってしまったんデス。」

 

俺はそう言い切った金剛を見た。

縮こまった金剛の目は怯え、うしろめたさ、そんなものを感じる。だが、金剛はこの世界に来た時点で帰る事を選択出来たという事は知っているのだろうか。

 

「金剛は、ここに呼び出された時点で帰る事が出来たって知っているか?」

 

「ハイ。」

 

そう。俺は自分の意志で残った。自分の意志で艦娘たちの指揮を受けたのだ。

 

「金剛は間違っている。」

 

「どういうことデスカ?」

 

金剛は縮こまったのを治した。

 

「金剛は俺の家族や友人、将来を奪ったと考えているんだよな?」

 

「ハイ。」

 

「違うな。......俺は金剛に奪われたんじゃない、自分で捨てたと同義だ。」

 

「えっ?」

 

頭の上が『?』となっている金剛に構わず続けた。

 

「だから金剛がそんな事で悩まなくてもいい。」

 

困惑する金剛を無視して俺は言った。

 

「俺の『意思』でここに残って指揮をするって決めたんだ。」

 

「そう......デスカ......。」

 

「でも......。」

 

俺はそう言って乾きかけた金剛の涙を拭った。

 

「ここまで悩ませて、色々な事をやったしまったんだな......。」

 

「グスッ......。」

 

俺はここで全部やめろなんて言えなかった。多分今日までずっと準備というか、動き続けてきたんだろう。地図を書き、トンネルを掘った。赤城たちと結託して手探りで色々な事を決めて進めた。これを全部否定してしまうのは直感的にダメだと思った。

だから自分で決めたが、どうしようもない事を言った。

 

「ならこうしよう。」

 

そう言って俺は金剛の頭に手を乗せた。そして頭を撫でた。

 

「ありがとうな、金剛。俺の為にここまでしてくれて......。」

 

「......イエっ。」

 

「確かに俺は色々な物を自分の意志で手放した。だけどやっぱり寂しいものは寂しいんだ。」

 

そう言って俺は金剛の頭を撫でていた手を止める。

 

「ここに来た時からもう俺と金剛、艦娘たちは友人であり、家族だ。寂しくなんかない......。」

 

そう言うと金剛は顔を上げた。

 

「そうなんデスカ?」

 

「あぁ、勿論。楽しいぞ?金剛や皆と飯食って、仕事して、騒いで、遊んで......。」

 

「私もデス。」

 

「家族や友人はもう会えないけど、今の俺にはずっと近くに居てくれる金剛たちがいる。」

 

「ハイ......。」

 

「それだけで十分だ。さっ、戻るか。あんまり長いとフェルトが心配する。」

 

そう言って金剛の手を引いて立たせた。

 

「そうデスネっ......。」

 

もう金剛に涙は無かった。いつもの金剛に戻っている。

これで金剛は何かをしなくなるだろう。トンネルともおさらば、地図は......使えるから譲ってもらうか......。

俺は無理に話を逸らした。

 

「そう言えばフェルトってどこか雷っぽくないか?」

 

「そうデスカ?」

 

「あぁ。フェルトが『もっと私を頼ってもいいんだぞ?』とか言ってたらもう大きい雷確定だ。」

 

そう俺が言うと金剛は笑った。やっぱりこっちの方がいいな。そう俺は思った。

開いた扉の向こうにはフェルトやビスマルクたちが居る。

 

「遅かったな。心配したぞ、アトミラール。」

 

「すまなかったな。」

 

俺はそう言って椅子に座った。

 

「何かあったのなら私を頼ってくれてもいいんだぞ?」

 

そうフェルトが言った瞬間、俺と金剛が笑ったのは言うまでも無い。

 

「はははっ!!!やっぱフェルトは大きい雷だなっ!!」

 

「そうデスネっ!!!」

 

「そうなのか?どこがだ?」

 

「本人分かってないデース!」

 

「はははっ!!」

 

こういった雰囲気がこの鎮守府に戻って来る日も近いなと俺は思った。

 





金剛が話を持ちかけました。結果、金剛が話して提督がそれを丸く収めたって感じですね。でも金剛だけですからねー。まだ11人いるんですよ......。
ですが、こっからシリアスなところを削っていきます。

本当にフェルトは雷です。もうほんと......。凄い似てる。セリフ的にも......。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百二十七話  operation"typhoon"⑦

 

奇形の装甲空母のような深海棲艦を何とか葬り去り、私たちは本隊に陣形を整えるように連絡を入れた。

陣形を組み直し、それぞれの艤装に目をやると、やはりあれから無傷では無理だったんだろう、小破したのが居る様だ。だがもうこれからは撤退するだけ。通信妖精に鎮守府に繋いでほしいと頼み、受話器を受け取った。

 

「本隊旗艦の長門だ。最深部にて装甲空母を撃破した。」

 

向こうで聞いているであろう提督に言うと、いつものように返事が返ってきた。

 

『作戦艦隊は帰還せよ。』

 

「了解だ。」

 

私はその言葉を聞き、嬉しさと不安で半々な気持ちを抑えながら本隊と支隊へ通信妖精に繋いでもらった。

 

「長門だ。作戦終了、これより撤退する。」

 

私はそう言って通信妖精に受話器を返し、目を瞑った。

出撃する前日、赤城や金剛から伝え聞いた話を心配していた。提督が気付いている。という事を。

正直に言って気が気でない。気付かれたところでどうという話だが、提督が知り得ない情報まで持っていたとか。どう手に入れたのか......。

独りで悩んでいても仕方ないのは分かっている。だが、考えてしまうのだ。戦闘中は戦闘に集中していて考える暇がなかったが、いざ戦闘が終わると考えてしまう。これから鎮守府に着くまでずっと考えてしまうんだろうな、と思った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

金剛と俺の私室で話をしてから3日が経った。

あれ以来、巡田さんは半日に一回のペースで潜入していたが、やはり全員が居ない為か何の話にもならない様で、ここで気になる事があると話をするという感じになっている様だった。それに金剛は曖昧な回答を返すようになったと。これは俺と話してからもうやらないと決めたんだろう。

そして今日、西方海域に行っていた作戦艦隊が帰還する。これでメンバーが全員揃う筈だ。そうしたら赤城から伝え訊いた話に関して討論を交わすはずだ。

俺はこのタイミングを狙っていた。

 

「金剛。」

 

「ハイ。」

 

夕食も終わり、執務室に帰ってきてから話があると言ってまた俺の私室に居た。

 

「今日、作戦艦隊が帰ってくる。」

 

「そうなんデスカ?それで、結果は?」

 

「成功だ。最深部の艦隊を撃破した。」

 

そう言うと金剛はニコッと笑った。

 

「そうデスカっ!」

 

「あぁ。」

 

「ソレデ、話ってなんデスカ?}

 

金剛はすぐに切り替えて来たので俺は話し出した。

 

「次、金剛たちが集まって話をする時、俺はそこに突入する。」

 

「オゥ......。」

 

「それで赤城と鈴谷も止める。他の艦娘もだ。」

 

そう言うとなんとなくだが、金剛はしょんぼりした。

 

「ん?どうした?」

 

「イエ......。ただ、それでよかったのかなって思いマシテ......。」

 

「いい。戦争なんていつか終わる......。その後の事はその時決めよう。」

 

「そう、デスネ......。」

 

そう言って俺は金剛とどういう手順で突入するかと、検討を始めた。

数分で話は決まり、結局金剛が一番乗りする時に一緒に入り、隠れている事になった。内心こういう隠れて驚かすのは好きなので、楽しんでいたりする。

 

「じゃあそれで行こうか。......だが、俺的にはあまり女性というか女の子の部屋が集まっているところに行くのはどうかと思うんだけどな......。」

 

「どうしてデスカ?」

 

話をしていて今更ながら思ったことだが、金剛たちが集まって話をしているのは艦娘寮の空き部屋だ。という事は周辺には艦娘たちに私室があるという事。一度、綾波の荷物持ちで言ったことはあるが、やはり見られたくはないだろう。

 

「何と言うか......デリカシーって言うのか知らないが、異性が異性の部屋とかの部屋に有無も言わずに近づくのはどうかと思うんだ。俺とかに知られたくないことだってあるだろうし、見られたくないって思ってる艦娘だって居る筈だ。」

 

「そう言う事デスカー。」

 

俺がそう言うと金剛はニヤニヤしだした。何を考えているんだろうか。

 

「なっ、何だよ。」

 

「何でもないデース。」

 

そう言って金剛は立ち上がった。

 

「じゃあ、やる時になったら呼びに来マース。それでいいデスネ?」

 

「あぁ。」

 

そう言って俺と金剛は私室から出て行った。

扉を開くとやはりフェルトが立っている訳だが、何だか様子がいつも違う。

少し耳を赤くしていたのだ。

 

「どうしたフェルト。耳赤くして。」

 

「いっ、いやっ。何でもない。」

 

そう慌てて答えたフェルトに俺と金剛が何か分からない様な表情をしていると、勝手にフェルトが話し出した。

 

「たっ、たまたま中の話が聞こえてだなっ......そのっ......金剛とは何日か前にもこういうことがあったから......。」

 

俺と金剛が理解できてないと言うのに、勝手に話していくフェルト。

 

「『やる時になったら呼びに来る』って......どういう事だろうかと思ってだなっ......。」

 

そう言いながらあたふたするフェルトを次第に話が呑み込めてきた俺と金剛はアイコンタクトを交わし、少しからかってやろうとする。

 

「『やる事』ってなんだ?」

 

「そうデース。なんで『やる事』で耳を赤くしているデース?」

 

ニヤニヤを隠しながら俺と金剛はフェルトにそう言った。そうすると案の定、フェルトは反応して耳を赤くしながら続けた。

 

「それに『部屋に近づく』とか言ってたから......。」

 

そうもじもじしながら言うフェルトに俺と金剛のからかいは止まらない。

 

「何だよ、なんかあるのか?」

 

「いやっ......その、だなっ......何をするのだろうかと思ってっ......。」

 

俺と金剛は思った、『コイツ、自分で地雷踏んだ。』と。

その瞬間、金剛はポッと顔を赤くして俯いた。勿論、演技。そしてそれを見たフェルトも耳だけが赤かったのが、今度は顔にまで広がっていた。

 

「こっ、金剛っ!そういう事はっ......よく、無いぞっ!!」

 

「そういう事ってなんだよ。俺は今度、酒保で大きいもの買うっていうから手伝うって話だったんだが......。」

 

そう言いながら俺はニヤニヤするのを堪えられずに、そのまま顔に出してしまった。

金剛も顔を上げてニヤニヤしている。

 

「フェルトは何と勘違いしたデスカ?」

 

そんな俺と金剛を見てフェルトの顔の赤さは最高点に達した。

少しフルフルと震えても居る。

 

「フェルト?」

 

「うぅ......。」

 

そう唸ったフェルトはそのまま執務室の部屋の角に行くと、角に向かって体操座りをしてしまった。

 

「えっ、なに、どうしたの?ツェッペリン?」

 

俺と金剛、フェルトのやりとりを見ていたビスマルクがこっちに来て言った。

 

「何というか、勝手に勘違いして自爆した、みたいな?」

 

そう言うとビスマルクは手を額に当てて眉の間にしわを寄せた。

 

「はぁ......。お堅い所が多い上に、素直なんだからっ......。」

 

「「知ってる(デース)」」

 

俺と金剛はビスマルクに返した。

 

「からかわれてショックでしょうね......貴方に......。」

 

そうなんか残念そうに俺を見ながらビスマルクは腕を組んで言った。

 

「どういう意味だ?」

 

「そういう意味よ......全く、ああなったツェッペリンは面倒なのよ......。」

 

そう言ってビスマルクはフェルトのところに行ってしまった。

というかビスマルクが言ってた意味、結構分からないことだらけだったんだが......。

 

「なぁ金剛。」

 

「ハイ。」

 

「ビスマルクの言った意味、どういう事だったんだ?」

 

そう金剛に訊くと、ビスマルク同様に俺の事を残念そうに見た。

 

「まっ、まぁ、ソレが提督のデフォルトなんですカラ、仕方ないデース。」

 

「は?どういう意味だよ。」

 

そう言っても金剛は答えてくれなかった。

 

「さっぱり分からん......。」

 

俺はそう言って炬燵に入るのだった。

 





久々にシリアスじゃない話を書いた気がします(白目)
書いてて思ったんですけど、シリアスに書くのが好きみたいです←
もうこれは性ですね。治りそうにないです。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百二十八話  operation"typhoon"⑧

「報告、西方海域最深部にて深海棲艦の艦隊を撃破。」

 

金剛と話をした翌日の朝、作戦艦隊が帰還した。

全員やり切ったという表情をしている物が多く、俺から『作戦終了』の号令が出るのを待ち望んでいる事だろう。

 

「お疲れ、損傷艦は入渠せよ。」

 

俺はそう指示を出した。そうすると長門が話しかけてきた。

 

「カスガダマ島はリランカ島の様に使うのか?それなら陸軍に掛け合って早く部隊を送った方が......。」

 

そう言いかけた長門に、周りは喜々として頷いている。どうやら護衛任務は嫌いじゃないらしい。だが、残念だ。

 

「それはしない。」

 

そう言って俺は凄んで続けた。

 

「2日後、カスガダマ島沖に反復出撃を行う。」

 

「「「「えっ?」」」」

 

長門たちは声を揃えてそう言った。

 

「何故だ?もうあの意味の分からない深海棲艦は撃破した。この目で轟沈を確認したんだぞ?」

 

そう長門が訴えてくるが俺は無視した。

 

「あぁ。だが再度出撃だ。」

 

「護衛任務で無いのなら訳が分からないぞ?」

 

「護衛任務ではない。今回と同じ作戦艦隊でカスガダマ島沖に出てもらう。」

 

そう言うと長門は下唇を噛んだ。

 

「どういう事なのだ?!」

 

そう俺に掴みかかる勢いで迫ってくる長門に睨みを聞かせた俺は、長門だけに聞こえる程度の声で言った。

 

「長門たちが撃破してきたのは本隊じゃない。本隊がまだ居る筈なんだ。」

 

そう言って俺は離れた。これで長門も意味が判っただろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

夜も深まり、そろそろ消灯時間になるだろうという時間。俺は金剛と共に艦娘寮の空き部屋に居た。

 

「ここで隠れてて下さいネー。」

 

「あぁ。」

 

数日前に決めていた事だ。

金剛に頼んで会議に乱入し、全員を止める。金剛と同じことを考えて動いているのなら、止める事が出来る筈だ。そう考えての行動だ。

 

「もうすぐ来ると思いマス。タイミングはこっちから出しますネー。」

 

俺が隠れるのは空き部屋の押し入れ。4人用の和室で、話を聞くと金剛曰く『艦娘寮にはあちこちに空き部屋がありマス。多分焼け落ちた後に妖精さんが増やしたんでしょうネ。』という事だ。押し入れに俺は入り、引き戸を締めて小さい隙間を覗いた。

そこにはさっき居た所に金剛が座っており、待っている様子。そうすると部屋の扉が開く音がして、艦娘が続々と入ってきていた。

だが皆、無言で入ってくる。作戦艦隊だった艦娘は多分疲れだろう。他は雰囲気にやられてしまっているのかもしれない。

そして最後に霧島が入ってきた。

 

「あれ、お姉様?先にいらしてたんですか?」

 

「ハイ。少し寄り道して、こっちに来マシタ。」

 

白々しい嘘を吐いて、金剛は霧島を横に座らせた。ちなみに、俺の覗いているところからは金剛の顔が良く見える。

 

「では、出撃前のアレの詳細説明を。」

 

そう言って赤城が話し出した。

 

「あの時に伝え聞いたと思いますが、提督はかなりの事を知っています。」

 

「あぁ、それは知ってる。だが、どこまで知っているというのだ?」

 

長門の姿は見えないが、多分腕を組んでいるだろう。

金剛が見えるのでついでの様に霧島や吹雪も見えるのだが、頷いている。

 

「『気付くべき』ところ以外です。」

 

「なにっ?!では資材が隠してあるのもまでか?!」

 

「それだけではありません。鈴谷さんの携帯火器やパソコンもです。」

 

「マジっ?!......どうやって調べたんだろう?」

 

「私たちが資材を使って建造や近代化改修を行おうとしているのもまで知ってました。」

 

「それって、つい最近話した内容じゃないですかっ!?」

 

長門や鈴谷、霧島も次々と驚いていく。他の艦娘もさぞ驚いている事だろう。

 

「一体どうなっているのか分かりませんが、もう隠せてません......。それと早急に決めなければいけない事があります。」

 

そう深刻そうな声色で赤城は話し続けてた。

 

「私たちは提督に『害』と見られているというのは先日、聞いたと思います。」

 

そう赤城が言った瞬間、場の空気が凍り付いた。

 

「それって本当なの?」

 

見えないが、叢雲がそう言った。

 

「えぇ。提督本人が私に仰いました。そこで、針路を決めなければなりません。」

 

皆が息を飲んだ。

 

「ひとつは『提督に全てお話して、私たちが丸ごと『近衛艦隊』に移る』事。もうひとつは『提督に『害』と見られていると言われても突き進む』事。」

 

そう言った瞬間、加賀が多分机を叩いたんだろう。『ダンッ』と聞こえた。

 

「ふたつめです!ここまで準備を整えてきたんです!......提督に恨まれようが、返さなくてはいけませんっ!」

 

「そうだっ!ここまで来てしまっているんだっ!引き下がるわけにはっ!」

 

そう訴える加賀と長門に赤城は言った。

 

「ですがそうなるとこの場にいる全員が『解体』される覚悟が無いといけません。」

 

「それは分かってるっ!だが提督だっ!提督はそんな事しないだろう!」

 

そう言った長門にもう落ち着いて話せなくなったのだろう、赤城も長門と同じ調子で言い始めた。

 

「提督は辛い過去を持ってる事が分かったんですっ!私たちのこの行動はその提督の辛い過去と酷似しているとおっしゃってましたっ!それにその話をしている時の提督はいつもの提督じゃなかったんですっ!」

 

「じゃあどんな顔をしてたンデスカ?」

 

怪しまれないように金剛が発言した。

 

「目に光のない、そんな目をしてました。」

 

「まるで提督の危険を察知した時の金剛や鈴谷の様ね。」

 

そう叢雲が比喩をした。俺そんな目してたのか。

 

「......では挙手で決めましょう。ひとつめにが良いと思う方......。ふたつめが良いと思う方......。」

 

挙手が始まり、皆が手を挙げて行く。吹雪とイムヤはひとつめに手を挙げた様だ。長門や加賀のその他はふたつめに手を挙げたみたいだ。だが、そのどちらにも金剛は手を挙げなかった。これは多分合図だろう。

 

「......金剛さん、貴女はどっちですか?」

 

目を瞑っている金剛は目を開いて一瞬こっちを見ると赤城に答えた。

 

「まだ選択肢は残ってマース。」

 

「まだ何かあるんですか?」

 

そう赤城が言った瞬間、金剛は俺の方を再び見た。このタイミングだろう。俺は押し入れをバッと開けて立ち上がった。

 

「提督に正直に話して、一緒に考える事デース。」

 

俺はそう言って驚いて口が開いたままの赤城の横に行った。

 

「もうお終いだ。赤城。」

 

「何故っ、提督がっ......。」

 

「私が先に来て提督に隠れてもらったんデス。」

 

金剛がそう手をひらひらさせながら言った。

 

「全て分かったんだよ。赤城たちがここまでして動いたのも......。『奪ってしまった』って考えてるんだろう?」

 

そう言って金剛に言ったのと同じ言葉を言った。

 

「自分で捨てたんだよ。家族も友人も将来も......。」

 

「ですがっ!?私たちは提督着任の時に同情を誘う様なっ......。」

 

「あの時赤城たちには同情してなかった。というか捨てたっていうのも語弊があるな。結果的にそういう形になってしまったという事だ。」

 

目の前で起きている事が理解できてない金剛と赤城以外の艦娘は次第にこちらに戻りつつあった。

 

「どういう事っ?!」

 

「俺が言いたいのは、赤城たちは俺の着任に負い目を感じて欲しくないって事だ。」

 

そう言って俺はその場に座った。

 

「だが、ここまで準備をしてきたんだろう?鈴谷なんか危ない橋、渡りまくりだ。」

 

「......うん。」

 

「準備してきたのを全て捨てろだなんてとてもじゃないが言えない。きっと何もかも手探りでやってきたんだろう?」

 

そう言って赤城と鈴谷の顔を見た。

 

「資材を溜め込んで隠し、外と連絡を取り、あれやこれやと色々な策を捻りだした......違うか?」

 

そう言って赤城を見た。

 

「そう......です。ですがそれは前にも仰ってました!」

 

「あぁ。......だが何故俺がここにいるのか......それは、赤城たちが動く明確な目的が分かったからだ。」

 

「『奪ってしまった』ですか?」

 

「あぁ。俺から何もかもを奪ったって考えてるんだろう?だがさっき言ったが、俺は自分で捨てたのと同じだ。赤城たちが奪ったわけじゃない。」

 

そう言って立っていた赤城他数名を座らせ、それぞれの顔を見た。

 

「だからさ『近衛に入る』とか、『何も言わずに恨まれようが進める』とか言うな。金剛が言っただろう?『俺と話して一緒に考えよう』。」

 

そう言うと全員が俯いてしまった。

 

「えっ?どうした??」

 

「ありがとう......ございます。」

 

そう赤城は横で言った。

 

「ずっと『奪ってしまった』と考えていたんです。どう返すか、どうしていこうかと......。ですが、それは勝手に私たちが思っていただけだったんですね?」

 

「あぁ。」

 

「本当に良かったですか?......この世界に来て。戦争をさせられて、責任を背負って、いつ死ぬか分からないこの世界に......。」

 

「良かったかは......どうだろうな。まだ分からない。だけど、良し悪しを決めるのは未来だ。戦争を終わらせ、その先、この世界で過ごしていく方法にあると思う。」

 

そう言って俺は手を叩いた。

 

「湿気た雰囲気出すなって......そら、考えるぞ。どうしていこうか。」

 

そう言っても尚、崩れない雰囲気に俺は嫌気がさした。場違いにもあるが、少し冗談を言おう。

 

「まずはだなー、『奪った』云々はもう無しだ!」

 

そうは言っても顔を上げてくれない。ちなみに金剛は顔を上げている。

 

「だがあるじゃないか、出来る事。」

 

「どんなんデスカー?」

 

金剛が乗ってくれた。ありがたい。

 

「それはだな、これからは戦闘も大事になってくるだろうが、もっと楽しむんだ。また運動会とか文化祭(仮)みたいな事を開いて、思い出作って、皆で笑ってさ。」

 

これでも顔を上げてくれないのか。ならば。

 

「それにだな、俺は家族とか友人とか皆いなくなって寂しいって思うが......。」

 

そう言った瞬間、全員の肩が跳ねた。

 

「だが、俺はここに来てもう金剛や赤城、鈴谷、長門、霧島、加賀、熊野、時雨、夕立、吹雪、叢雲、イムヤ......艦娘たちは俺の友人で家族だ。」

 

「えっ?」

 

俺がそう言うと、鈴谷は顔を上げた。

 

「一緒にご飯食って、仕事して、遊んで......楽しいぞ?寂しくなんかないんだ。」

 

そうするとひとりまたひとりと顔が上がっていく。

 

「だからそれだけで十分だ。」

 

そう言って全員が顔が上がったのを確認すると、俺はニヤッと笑った。

 

「また執務室に遊びに来い。用が無くてもいいさ。それにやけに悩んでいたらしい戦後の事はもう戦後でいい。面倒だ。」

 

そう言って俺は立ち上がった。

 

「また明日な。おやすみ。」

 

俺はそう言って空き部屋を出た。振り向かない。出る前に見た皆の顔はこれまでの曇っていた顔、焦燥感に駆られた顔をしてなかったからな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「という事で、解散デス。」

 

その金剛さんの号令で皆が目に溜まった涙を拭き始めました。

そんななか、私は気になる事があったので金剛さんに訊いてみました。

 

「どうして金剛さんは提督を?」

 

「あぁ、それはネー、ボロボロの隠蔽に情報ダダ漏れでしかも提督が気付くのは時間の問題だと言うのは赤城から訊いた時点で分かったんデース。それに私たちは一方的な意見を押し付けて、提督に何も聞いてなかったンデスヨ。だから訊いてみたんデス。そうしたらさっきみたいに返されマシタ。」

 

そう言った金剛さんは何かすっきりした表情をしてました。

 

「そうなんですね......。奪った訳では無かったんですね。」

 

「提督がそう言ってたデース。考えるだけ野暮ってもんデスヨ。それにまた何かあったこうやって皆で集まって提督と話し合って全部解決していけばいいんデス。」

 

「そう......ですね。」

 

金剛さんが言った言葉は皆聞いていた様です。納得したのか、皆涙を拭いた後には笑顔がありました。

 

「ですけど提督は言わなかったデスガ、『寂しい』とは絶対心のどこかで思ってる筈デース。その時は私たちが提督の近くに居ればいいんデス。」

 

そう言った金剛さんはニカッと笑って見せました。

 

「デハ、霧島ぁー!帰りますヨー!」

 

「はーい。」

 

「じゃあ、皆サン。have a good nightっ!」

 

そう言って金剛さんは空き部屋から出て行ってしまいました。

 

「ん?」

 

そうすると吹雪さんが何か頭を傾げました。

 

「どうしたんですか、吹雪さん?」

 

「金剛さんが英語言ったの始めて聞きました。」

 

「「「「「「「「確かにっ!!」」」」」」」」

 




オチがかなりアレですが、一応長かったシリアス展開もこれで終息です。お疲れ様でした。これからもちょくちょく挟むと思います。むしろ多いかもしれませんが、これからもよろしくお願いします。
と言っててもまだ作戦終わってないんで、サブタイは変わりませんがwww

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第百二十九話  operation"typhoon"⑨

 

俺が空き部屋に行った次の日の朝、赤城たちはすっきりした趣で現れた。

もう、今までとは違う。そう言っている様に思えて仕方なかった。

そして今日、再び埠頭の前に集まっている。

 

「これよりカスガダマ島沖に反復攻撃を行う。」

 

俺はそう言って作戦艦隊を見た。やはりどういう事なのか納得していない艦娘が多々いる様で、しかめっ面をしている。

 

「今回の攻撃目標は未確認深海棲艦。作戦艦隊本隊は会敵しているだろうが、奇形の装甲空母だ。」

 

「あれは先の作戦で轟沈させたぞ?」

 

長門がそう言ってくる。

多分長門は頭では分かっているんだろうが、他の分かっていない艦娘に向けてああやってワザと聞いたのだろう。

 

「あれは完全稼働していない奴だ。今作戦で相対するのは完全稼働した奇形の装甲空母。」

 

俺は一呼吸置いた。

 

「『装甲空母姫』と呼称されるその奇形深海棲艦は他の深海棲艦の違い、航空・砲雷撃戦全てが出来る深海棲艦だ。」

 

作戦艦隊の艦娘がつばを飲み込んだ。

 

「他と比べ、タフな艤装に正規空母並みの艦載機搭載量、戦艦並みの砲塔、巡洋艦並みの雷撃力。本隊も味わっただろう。砲撃する装甲空母、雷撃する装甲空母。」

 

俺はそう言って凄んだ。

 

「だがされど装甲空母だっ!艦載機が飛んで来れば落としてしまえ、砲撃されたのなら撃ち返せ、雷撃されたのならこちらも雷撃だ。カスガダマ島沖はまだ補充が来てないだろう。前回同様に最深部までは難なく進むことができる。」

 

そう言って俺はニヤリとした。

 

「ここで再編成を行う。作戦艦隊本隊はそのままだ。支隊は1つ減らし、第一支隊に戦艦を集中させる。第一支隊旗艦:陸奥、扶桑、山城、金剛、比叡、瑞鶴。第二支隊旗艦:霧島、榛名、川内、時雨、蒼龍、飛龍。」

 

作戦艦隊がおどおどしながらその呼ばれた通りに並び直した。

 

「第一支隊は最深部の支援砲撃を行ってもらう。」

 

そう言った俺に陸奥は乗っかってくれた。

 

「その戦艦5と空母1で固めた意図は何?」

 

「空母の艦載機による弾着観測を行いつつ、戦艦5による"飽和攻撃"を行う。」

 

「"飽和"?」

 

「つまり、富嶽の海上絨毯爆撃と同じ状態を作る。」

 

そう言うと陸奥は黙った。他の艦娘も質問は無い様だ。

 

「第二支隊は道中の援護だ。」

 

そう言うと第二支隊に選ばれた艦娘は返事をした。

 

「作戦艦隊は出撃っ!!」

 

「「「「「「了解ッ!」」」」」」

 

作戦艦隊から外された艦娘を残して、再編成された作戦艦隊の艦娘が走り出し、それぞれの艤装に乗り込んだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

例外無く、執務室には番犬艦隊と番犬補佐艦隊が集まっていた。勿論、番犬艦隊はドイツ艦勢で番犬補佐艦隊は入れ替わりだ。

今日はというと伊勢、日向、鈴谷、熊野、夕張だ。珍しく5人だった。

 

「あ"ー終わった。」

 

そう言って背伸びをして首を鳴らした。いつもこんな事を言っているが、この世界に来てからずっと執務は小一時間もかからない程度しかない。書類が数枚だけで、たまに増えても2、3枚と言ったところだ。

 

「お疲れ様だ。コーヒー淹れるか?」

 

そう訊いてくるのはフェルト。これももう恒例化してきている。

 

「貰うよ。」

 

そう言って顔を挙げてみると大体、ビスマルクが横に居て正面にレーベとマックスがいる。俺の執務が終わったのを確認した途端にユーが俺の膝の上に来る。

一瞬というか、乗ってくる度に思うのだが、これは何というか犯罪的な雰囲気を漂わせている。何とは言わないが。

 

「淹れたぞ。熱いから少し冷ましてから飲んでくれ。」

 

そう言って俺の前にコーヒーの入ったカップを置いてフェルトはそのまま横に椅子を持ってきて自分のコーヒーも飲み始める。

 

「ありがと......。うん、美味い。」

 

「そうか。」

 

そう言って少し飲んだ後、俺は思い出したかのように横でシュガー3本入りのコーヒーをドヤ顔で飲んでいるビスマルクに声を掛けた。

 

「ビスマルク。」

 

「ん、なに?」

 

「リランカ島での貿易で今度大量にモノが入っているそうなんだが、何分ドイツ語が読めない。」

 

「そうなの?」

 

ビスマルクはコトリとカップを置くと腕を組んで言った。

 

「あぁ。外国語は英語しか習った事無い上に、苦手だ。日常会話でさえ無理なレベル。」

 

「そう......それで私に何を?」

 

「鎮守府に入ってくるモノに日本語訳を書いた付箋を貼っておいてくれないか?」

 

「えぇ、任せなさい!」

 

俺がそう頼むとビスマルクは胸をドンと叩いた。凄く自信あり気に返事しているが、なんかありそうだ。俺はチラッとフェルトの方を向いた。

 

「あー、それならレーベとマックスの方がいい。」

 

「どうしてだ?」

 

フェルトは何かを察したかのようにそう言うと俺を引き寄せた。

コーヒーの匂いと女の子特有の匂いが鼻を擽るのを我慢しながら耳を傾けた。

 

「ビスマルクは日本語を話すのは堪能だが、字は無理だ。日本語を書けと言うと平仮名しか書けない上に間違いだらけだ。止めておけ。」

 

「そうなのか?」

 

そう言うとフェルトは俺を離した。

 

「ビスマルク。」

 

「なに?」

 

フフンと言いたげな雰囲気を出しているビスマルクに一言言った。

 

「やっぱさっきのなし。」

 

「何でっ?!」

 

フェルトはその後に『私もそこまで得意じゃないが、レーベとマックスなら読み書き共にできる。そっちに頼んでみてくれ。』と付け足したのでその通りにした。

だが、ふと目に入った時計がまだ10時を指している。ここから昼までつまらないから何かしようと考えた時、丁度いいのがあった。

 

「そう言えばビスマルク。」

 

「何よ......。」

 

さっきのを断ったからか、少し不機嫌になっているビスマルクに俺は紙とペンを差し出した。

 

「自分の名前を書いてみてくれ。」

 

「はぁ?......いいけど...........はい。」

 

そう言って紙を俺から受け取ったビスマルクはサラサラと書いて俺に見せてきた。そこにはどう見ても筆記体で『Bismarck』と書かれていた。しかも凄く綺麗だ。

英語が嫌いな俺が何故筆記体が読めたかというと、学校の英語の教科担任がプリントを刷る度に筆記体で出してきていたからだ。

 

「違う。日本語でだ。」

 

「え、嫌よ。」

 

俺が日本語でと言うとすっぱり嫌と言われた。

 

「さっき頼んだ仕事、やっぱビスマルクにやって貰おうかと思ったんだが......。」

 

「何よ、そうならそうと早く言いなさいっ!」

 

そう言って紙にまたペンを走らせ始めたビスマルクの表情はさっきとは大違いだった。眉の間にしわが寄り、少し唇を噛み、『あれー?』と言いながら書いて数分後。俺に見せてきた。

 

「どうよ!」

 

と言ってドヤ顔で見せてくるのはいいが、『ビ』が『べ』になっているし、『ス』も『ヌ』になっている。『マ』も『ヌ』になり、『ル』は辛うじて書けているが、『ク』は『ケ』になっていた。繋げて読むと『ベヌヌルケ』。しかもそれが筆記体の下に書かれているので、破壊力が倍増されている。

 

「ひっ、平仮名はっ?」

 

「むぅ......分かったわよ......。」

 

そう言って俺は笑いたいのを抑えながらビスマルクに言った。ちなみに俺の膝の上に居るユーと後ろのフェルトは俺同様に笑いを抑えるのに必死みたいだ。

 

「これでいいかしら?」

 

そう言ってビスマルクが見せてきた。今後は『び』は『で』になっていて、『す』は『よ』に見えなくもない。『ま』はまぁ、読める。『る』は『ろ』と判別が出来ない。『く』は書けていた。繋げて読むと『ですまるく』または『でよまるく』、『ですまろく』、『でよまろく』。

どうやらフェルトの言っていた事は本当だったらしい。

 

「フフフッ......ングッ......ビスマルクっ?」

 

「なっ、何よ?」

 

「やっぱ無しだっ......。」

 

俺は腹を抑えながらそう言っている。ちなみに見に来たレーベとマックスは苦笑いしていた。

そして、前にも似たような事があって爆笑していたプリンツがファイルの整理を終えてこっちに戻ってきた。

 

「どうしたんですかー?えー......なになにっ......ブフッ!!」

 

吹きだしたプリンツは机に手を掛けてカタカタと揺れながら顔を俯かせて手で口を覆い、プルプルと震えだした。

 

「ちょっと、どうしたのよ!」

 

そうこの場で唯一状況を掴めていないビスマルクは俺の肩を揺らしながらそう言うが、まだ机にその紙が置かれている。それを見た瞬間、俺はもう我慢できないだろうと思っていたから顔を上げれなかった。なので、首を横に振り『何でもない』と言っている様に見せる。

 

「訳分からないわ。全く......ほら、プリンツもそこで震えてないでちゃんと立ちなさい。」

 

そう言ってビスマルクがプリンツの肩を掴んだ瞬間、もうプリンツは我慢の限界だった様だ。

 

「あはははっ!!やっぱりビスマルク姉さまは最っ高っ!!」

 

「まっ、まぁね!もっと褒めてもいいのよ?」

 

盛大に噛みあってない会話を俺とユー、フェルトは笑いが収まるのをただ我慢し、レーベとマックスは苦笑いを続けたまま聞いていた。そんな時、こっちの騒ぎが気になったのか伊勢と鈴谷がこっちに来た。

 

「どうしたの?」

 

「なんか面白そうじゃーん。」

 

そう言って来た2人に笑いを堪えながら俺は身振り手振りで来ちゃ駄目だと伝えるが、伝わるはずもなく、机に置かれた紙を鈴谷が拾って見た。

その刹那、鈴谷もさっきとプリンツと同じ体勢で笑いを堪え始めた。

 

「クククッ......オナカイタイッ!」

 

そう訴える鈴谷の手から伊勢が紙を取って見た。そうすると伊勢は少し笑うと、俺を呼んだ。

 

「提督っ!」

 

「......(笑いを堪えているので話せない)」

 

俺が向いたのを確認すると、紙を折って筆記体とカタカナの『ベヌヌルケ』が書かれている方を見せた。そして伊勢はドヤ顔をしてこう言ったのだ。

 

「どうよ!」

 

俺はこの一撃で笑いが決壊しそうになり、どうやら後ろでようやく落ち着き始めていたのだろうか、顔を上げていたフェルトがまた顔を伏せてしまった。

その一方、伊勢は折ったところを開いてこちらに見せてきて言った。

 

「これでいいかしら?」

 

そうドヤ顔で言うのだ。もう俺も我慢ならなくなり、笑いが決壊する。

 

「ははははははっ!!!似てないけど、それはっ!!!」

 

そうすると連鎖的にユーとフェルトも笑いだしてしまった。

 

「あははははっ!!」

 

「ふふふふっ。」

 

そうすると鈴谷が机を掴んでいた手が離れ、そのまま床に鈴谷が転がってしまった。

 

「アハハハハッ!!オナカガヨジレルゥッ!!」

 

そう叫んでいるが。もうこれはプリンツのアレより酷かった。バタバタと暴れ、笑い転げる。笑い転げているのを見たのは初めてだ。

そんな俺たちを見てビスマルクは言った。

 

「もうっ!みんなどうしたの?!」

 

そう憤怒するビスマルクを笑いが落ち着いた俺は呼んだ。

 

「なによっ!」

 

「一緒に酒保行くか?」

 

俺はそう言うと急に笑いが止まり、視線が俺に集まってくる。

 

「何で?」

 

「ドリルを買に行こう。たぶん売ってるから。」

 

「え?酒保の家電屋にドリルは売ってなかったわよ?」

 

そう言ったビスマルクにまた俺たちは笑い出した。

ちなみに俺が言っていたドリルは小学生がやるような平仮名とかを練習するドリルの事だ。

というか、ビスマルクは何の用途があって酒保でドリルを探したんだ。よっぽどこっちの方が俺は気になった。

 





今回はノーコメントで行きます。
多分書いてた時間帯が悪いんですね(白目) そういう時間帯だと変なノリが出てしまいます。

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第百三十話  operation"typhoon"⑩

 

カスガダマ島沖には本当に先日倒した様な装甲空母の深海棲艦が居た。だが様子が違う。

最深部に到達した連絡を提督に取り、偵察機の情報を待っている。本当に様子が違うのだ。

奇形もいいところで前回の装甲空母と同じく、大きな艤装に戦艦並みの砲塔、随時入ってくる連絡の中に入ってる魚雷発射管......それに、その装甲空母の周りの深海棲艦もおかしいのだ。何にも似つかないシルエットをしている。一言で済ませてしまうなら『気持ち悪い』に限る。そうとしか表現できない形をしているのだ。

 

「赤城さんから偵察結果です。奇形の装甲空母、未確認深海棲艦2、駆逐艦級2、潜水艦級1。」

 

「ありがとう......本隊並びに第一支隊に通信を繋いでくれ。」

 

私はそう言って緊張なのか、震える足に喝を入れ、通信妖精から受話器を受け取った。

 

「長門だ。これより最深部に鎮座する深海棲艦の艦隊に攻撃を仕掛ける。偵察により相手の編成が分かった。装甲空母1、未確認深海棲艦2、駆逐艦級2、潜水艦級1。」

 

一呼吸おいて続けた。

 

「初撃は第一支隊による"飽和攻撃"を敢行、その後本隊の赤城、加賀両名の第一次攻撃隊の発艦、会敵後本隊は突撃を敢行する。」

 

『第一支隊了解よ。』

 

『『了解。』』

 

「あちらの頭は奇形の装甲空母だっ!前回も撃破出来たっ!なら今回失敗する訳ないっ!必ず成功させ、作戦成功の報告を提督にしてみせろっ!!突っ」

 

そう言いかけた瞬間、通信にノイズが入り始めたのか、通信妖精が慌て始める。

 

「どうしたっ?!」

 

「無線に障害が発生し、ノイズがっ!」

 

「それは分かっているっ!。」

 

無線機に障害が出るのも、ノイズが走るのも普通の事だが何故か通信妖精が慌てている。ただ事ではないのは確かだ。

その刹那、スピーカーから聞いた事のない声が流れ始めた。

 

『......フフッ......フフフッ......。』

 

誰の笑い声だろうか。だがその声色は何処か嫌悪感が出てくる。

 

「なんだっ?」

 

「分かりません。どこからの通信なのか......。」

 

通信妖精も困惑し、先ほどから慌ただしく動いていた他の妖精たちも足を止めている。

 

『フフフッ......フフフフッ......。』

 

ただ笑い声だけしか聞こえないのが数回続くと、通信が切れた様だ。慌てて通信妖精がさっきまで繋げていたところに繋げ直した。

 

「怯むなっ!これより攻撃を開始するっ!!」

 

怯むなと言ったところでどれだけがこちら側に戻ってこれたか分からない。だがやるしかないのだ。ここを制圧することができれば、日本から西との国交は回復する見込みがあったからだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺はというと、今は執務室にはいない。もっと言えば鎮守府にも居ない。どこに居るのかというと、大本営だ。

今日は新瑞と総督に折り言った話があるため、連絡を取って前回大本営に行った時みたく、車に揺られて大本営に来ていた。

だが俺が緊張するというよりむしろ、呆れていた。

俺の後ろには番犬艦隊全員と番犬補佐艦隊も全員の計12人の艦娘が付いて来ていたからだ。まぁ、仕方ないのだが。

 

「待っていた。」

 

俺が色々と事情を説明し、今までは応接室か新瑞か総督の部屋で話をしていたのだが、今回は会議室でとなった。こちらに配慮してもらったのだ。

 

「すみません。急に......。」

 

「いいさ。さ、座ってくれ。」

 

俺は総督に促されるように席に座るのだが、座る音を立てたのは俺だけだった。

番犬艦隊は俺の横と後ろ、前に立ち、補佐艦隊は距離を置いて立っていたのだ。

 

「......座らないのか?」

 

「いえ、これはしなければならない事ですので。」

 

そうフェルトが言って他の艦娘は微動だにしない。

 

「気にしないで下さい。彼女らの考えあっての行動です。」

 

「いい。では、提督。今回はどういった御用件かな?」

 

総督は柔らかい笑顔でそう言うが、目を見るとどこか別のところを見ている様に見えて仕方がない。

だが、気にせずに用件を言った。

 

「現在、横須賀鎮守府艦隊司令部は大規模作戦を発動中です。北方・西方海域の制圧を目指した作戦が今も進行してます。」

 

「そうなのか?して、現状は?」

 

何も発動理由などを聞かずに現状を訊いてくるあたり、さすがだと思った。

 

「75%が完了。現在最終段階に入ってます。」

 

「それまでの成果は?」

 

「北方海域の制圧。アルフォンシーノ方面最深部を根城にしていた深海棲艦の中枢を撃破。西方海域では海域最深部のカスガダマ島沖へ反復攻撃してます。時機に制圧の報告が入るでしょう。」

 

そう言った瞬間、新瑞がガタッと音を立てた。

 

「なにっ?!アルフォンシーノ方面だとっ?!」

 

そう言った新瑞に総督は訊いた。

 

「やはりそうか?」

 

「えぇ!」

 

そう2人は主語述語がかなり抜けた会話をすると俺に言った。

 

「提督よ。今日のここに来た目的はもう果たされた。」

 

「何故です?」

 

「アルフォンシーノ方面はアメリカのアラスカに近い群島。という事は、そこを経由してアメリカと連絡が取れるという事だ。提督の今日の目的はアメリカへの使節要請、若しくは使節受け入れ態勢を整える事を伝える事。違うかい?」

 

「違わないです。」

 

「なら早速政府に伝えよう。それと......。」

 

総督は組んでいた手を開いて言った。

 

「カスガダマ島......否、ドイツを経由してユーラシア大陸の各国へ連絡を取る。」

 

俺は何も言えなかった。そう言った総督の雰囲気に圧倒されて声が出なかったのだ。

 

「......これまで全く連絡の取れなかった各国と連絡を取り合い、深海棲艦による攻勢が終息しつつあることを伝えねばならない。」

 

そう言った総督からさっきの雰囲気は消えていた。

 

「まぁそれもこれもまだ残っている海域がある。それを取り返してからだな。」

 

「そうですね。」

 

そう言って総督は手元の紙にメモを取ると、ペンを仕舞って俺の両脇に控えていたビスマルクとフェルトを見て言った。

 

「しかし、彼女らは厳格としているな。ぴしりと立ち、微動だにしない......。厳格な艦娘だ。」

 

そう言われてもビスマルクとフェルトは動かなかった。

そう言えば言い忘れていたが、今日は公務というか鎮守府から外に出ると言うのと、偉い人に会うと言う理由で帽子を被ってきているドイツ艦勢。

今見て思い出したが、フェルトは帽子を取ればそうでもないんだが、帽子を被る時、深く被り且つ彼女自身目つきが悪いところがあるので印象は最悪なのだ。総督はそれを気にしていないのだろうか?

 

「だが怖いな......。」

 

「どうしてです?」

 

総督は笑いながら言うので俺は訊き返してみた。まぁ、何故怖いかなんて理由は一つしかない。

 

「私たちは艦娘に信用されていないのかね?」

 

俺の周りを囲んでいるドイツ艦勢は艤装を身に纏っている。しかもビスマルクに至っては砲口が総督の方を向いているのだ。

俺はここに来る道中、ビスマルクに言ってはいたのだが、そこが砲の通常位置らしく、艤装で言う正装みたいなものだと言われた。

 

「いえ、彼女たちの正装みたいなものらしいです。」

 

「そうか......。」

 

そう言うと総督は立ち上がった。

どうやらこれで終わりの様だ。俺ももう話す事は無いから、好都合だった。

 

「ではこれで終わりだ。気を付けて帰ってくれ。」

 

「ありがとうございます。失礼します。」

 

俺たちはそう言って会議室から出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「はぁー緊張したー。」

 

車に乗り込み、第一声を上げたのはプリンツだった。

 

「何が?」

 

「だって、大本営ですよ?海軍部の一番偉い人に大本営で一番偉い人ですよ?緊張しますって。」

 

そうビスマルクに言うプリンツは顔を赤くしながら言った。相当緊張していたんだろう。確かプリンツの立ち位置は俺の背後だ。

 

「ビスマルク姉さまは緊張しなかったんですか?」

 

「そうねぇ......あまりしなかったわ。あの場所に居た人のほとんどは知った顔だったし、総督の顔は有名じゃない。どんな人柄かは知らなかったけどね。」

 

「はえー、そうなんですか~。」

 

こういう時はちゃんと大人なビスマルクだが、横でまたフェルトが笑っている。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、今朝アトミラールに大本営に行くと聞かされた後の準備の時にビスマルクがだな......。」

 

そうフェルトが言いかけた瞬間、ビスマルクがフェルトの口を塞いだ。

 

「なっ、なに言ってるのよ!」

 

「ムグムグ。」

 

この構図は何度も見た。

大体こういう時はビスマルクが何かをしていたのをフェルトが見ていたという事だろう。まぁ大体予想ができるので俺は止めもしなかった。

 

「ツェッペリン姉さまは何を言いかけたんでしょう?」

 

そう首を傾げるプリンツに俺は適当に答えて、窓の外を眺めているレーベとマックスに声を掛けた。

 

「どうした?」

 

そう訊くと窓から視線をこちらに戻して話し出した。

 

「外はあまり見たことが無いからね。どうしても気になっちゃうんだよね。」

 

「そう言う事。」

 

そう言ったレーベとマックスはまた視線を窓の外に戻した。

視線の先にはきっと何でもない街並みが映っているんだろうが、彼女らにとってそれはとても新鮮なんだろう。

 

「外、歩いてみたいか?」

 

そう訊いてみると、外を眺めたまま2人は頷いた。

 

「やろうと思えばいくらでもできそうだけどな......いかんせんやる勇気が出ない。」

 

「と言うと?」

 

話に食いついたのは以外にもマックスだった。

 

「面倒だからな。」

 

「ふーん。」

 

俺がそう言うと再びマックスは窓の外に目線を戻した。

少し期待させてしまったのかもしれないと心の中で少し反省をして、俺も外に目をやる。

過行く街並みはやはりどこも同じとしか言えなかった。俺がこの人生で見てきた街並みと全く変わらない。どこにでもあるような街並み。

やはり俺たちの見る世界とは違うんだなと改めて痛感した瞬間だった。

俺もそうやって外を眺めていると、ユーが俺に話しかけてきた。

 

「どうして......ユーたちは外に出れないの?」

 

ユーの疑問は素朴で、とてもまっすぐだった。だが俺はどう答えてやるのが正解なのか分からない。

 

「日本やここに住む人たちの為に戦っているユーたちはいわば歩く機密だからな。だからもし攫われたり、脅迫されたり、尋問されようモノなら大問題だ。」

 

そう適当に言い訳を言った。少し後ろめたさがあるが仕方がない。

本当のところ、俺も本当に外に出てはいけない理由なんて知らない。だが、俺に限っては休暇で外出申請をし、護衛の下なら出れるが気遣って俺も鎮守府の外に出る事は出来る。だが、こうやって外に出れない艦娘を気遣って外に出ないようにしている。出たのは一回だけ。食堂のテレビを買ったりした時だけだ。

 

「そう......何ですか......。でもアトミラール......さっき出ようと思えば出れるって......。」

 

聞かれていた様だ。どうしようと頭を捻らせるが、丁度いい答えがあった。

今乗っている車は大本営の要人用だ。当然、運転しているのは大本営の人間。この人に聞かれたら不味いとでも言っておけばいい。そう思った。

 

「あぁ......。ちょっと寄ってくれ。」

 

「はい......。」

 

俺はユーに寄って貰い、小さい声で答えた。

 

「鎮守府の人間じゃない人に聞かれたらいけないから、鎮守府で教えるよ。」

 

「分かった......。」

 

どうやら納得してくれた様だ。俺は再び、視線を窓の外に戻した。

流れゆく景色はいいものだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

男はアラスカからの報告書を積み上げていた。

あの日、日本の骨董品の目撃から今日までの報告書だ。今日までに見たという証言はあったかと自分の目で確かめている。

部下には『私も見ましたが、無いですよ。』と言われたが、どうしても自分の目で見たい。そう思ってわざわざ持ってきてもらったのだ。だがやはりない。

男の部下たちの中では『幻想じゃないか。』とか言われ始めている様だが、男はそうは思ってなかった。きっと生きている、そう信じているのだ。

 

「これも無い......こっちも無い......。」

 

もう殆どの報告書を読んでいた。男が読んでいない報告書はもう手にあるモノだけ。

男は意を決し、報告書を開いて読んだ。その刹那、男に衝撃が走った。

アラスカからの報告書だが、内容が今までは『異常なし』の一点張りだったものが、突然おかしな文に変わっていたのだ。

 

『アルフォンシーノに停泊していた深海棲艦の艦隊が消えた。そしてアラスカ沿岸部に大量の深海棲艦の艤装の残骸と思われる漂着物が散乱している。』

 

という文に目が惹かれた。

艦隊が消えたというのと深海棲艦の残骸が大量に流れ着いた。それを意味するのはアラスカ一帯に居た深海棲艦がどこかに攻撃され、悉く轟沈したという事だ。

男は立ち上がり、受話器を取った。

 

「国防総省に連絡を......。長官に繋いでくれ。」

 

男は紙に走り書きをして国防総省長官が出るのを待った。

 

『はい......どうされました?』

 

「至急軍を動かす。準備してくれ。」

 

『またテロ予告ですか?」

 

「違う。軍をある場所に派遣する。」

 

そう男が言った瞬間、電話口の長官の口調が一変した。

 

『陸ですか?』

 

「違う。海軍だ。」

 

『......了解です。ですがもう動く船と言ったら漁船くらいしか......。』

 

「それでいい。アラスカ、アルフォンシーノ群島に偵察だ。」

 

男はそう言って受話器を置いた。

 

「残骸が意味しているのは......あの日の骨董品は幻想ではないという事だっ!日本は生きているっ!!」

 

 





急に提督が動き出しましたね。
何をするかはお察しの通りです。これも提督の中で進行中の作戦が成功する見込みがあるからでしょう。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百三十一話  operation"typhoon"⑪

 

交戦を始めてどれ程経っただろうか。

駆逐艦級は轟沈させた。だが、未確認深海棲艦はまだ中破と言ったところだろう。それに装甲空母もまだ小破だ。

一方こちらは痛手を負っていた。まだ夜戦には程遠い時間。だが、空母の艦載機隊が壊滅していた。現在飛べるのは赤城の烈風隊と彩雲。対空しか出来ず、決定打として爆雷撃を出来ずにいた。更にこちらの雪風、島風共に中破。私も中破。高雄は大破している。

 

『まだっ......戦えますっ!!』

 

高雄はそう言って私に無線で言っていたが、彼女の艤装は後部主砲群とカタパルトが吹き飛んでいた。弾薬庫に被弾したのだろう。

 

「長門より第一支隊へ、支援砲撃要請っ!」

 

「はいっ!」

 

通信妖精に無線を通じて、支援砲撃を頼んだが、支援砲撃は面制圧に使うというがここでは当たればラッキーなレベルだ。夾叉がほとんどだ。

 

「昼戦中に装甲空母の砲戦力を削ぐっ!主砲、目標、装甲空母艦首っ!てぇーー!!」

 

爆音が轟き、光の弾が主砲から飛び出し、飛翔する。それはみるみる小さくなり、水柱を上げた。

 

「全弾夾叉っ!」

 

「次っ!誤差修正後、随時砲撃っ!」

 

私はこれまでに経験したことのない焦りを感じていた。

ここまで手痛くやれたのは深海棲艦の機動部隊と交戦した時以来だ。だがその時はあちらの空母は2以上。今は1だ。

なんてザマだ。そう私は言い続けていた。

前々回、最深部前に来て撤退した時の事をまだ私はどこかで根に持っていた。あの時、もっと上手く指揮出来ていれば。提督の注意を十分聞き入れていれば。そんな結果論を並べていた。だが所詮結果論だ。もしかすると私たちはあの時、進軍を選択され、誰かが轟沈していた可能性だってあるのだ。それに比べれば大したこと無いのかもしれない。それでも私は根に持っていた。

撤退の二文字は負けを意味している。

 

「第一支隊の支援砲撃が来ますっ!」

 

通信妖精がそう伝え、第一支隊が居る方向を見た。水平線でいくつも光、光の弾がこちらに向かって飛んでくる。そして深海棲艦の艦隊に降り注いだ。

水柱を大量に上げ、一瞬視界が悪くなったがすぐに晴れ、艦影が見える。

 

「未確認深海棲艦大破っ!轟沈しますっ!」

 

飛沫の中で爆発が起こり、黒煙を上げた。それは未確認深海棲艦だった。

 

「よしっ!」

 

私は黒煙を睨むと続けて通信妖精が話してきた。

 

「雪風さんと島風さんが潜水艦を撃破しましたっ!」

 

「良いタイミングだ。本隊全艦に通達、少し距離を置く。」

 

そう私が言うと、艦橋に居た妖精たちが手や足を止めてこちらを見た。

 

「どうしてですか?今なら戦力がかなり削ぎ落とされています。これ以上攻める機会は無いと思いますが。」

 

「いや、それでもだ。」

 

私はそう言って通信妖精に受話器を受け取り、全艦に繋げてもらった。

 

「長門だ。これより少し後退。夜襲を仕掛ける。」

 

そう言った瞬間、受話器越しでも緊張が伝わってきた。

 

「私と雪風、島風で突撃を敢行する。大破している高雄と赤城、加賀は待機だ。」

 

『待ってくださいっ!』

 

私がそう言っていると高雄が入ってきた。

 

『私も突撃しますっ!探照灯照射くらいできますっ!』

 

そう言った高雄の声からは何か焦りとは違う感情が感じられたが、私はそれを許可しない。

 

「ダメだ。赤城と加賀の護衛を頼む。」

 

『でもっ!!』

 

「大破しているのに何が出来ると言うのだっ!自分の身を守るだけで精いっぱいであるのに、夜襲を仕掛けるなど自殺に等しいっ!」

 

『ぐっ......!』

 

多分高雄は自分の下唇を噛みしめただろう。

私がそう言ったのは高雄の大破は結構重いのだ。受話器越しに聞こえる高雄の妖精たちの報告は酷いものだった。

私が確認した時は後部主砲群とカタパルトが吹き飛んでいたが、さっきの聞こえた報告ではカタパルトデッキも吹き飛び、艦橋下部にも1発食らっている様だ。

 

「大丈夫だ......。安心していろ、高雄。」

 

『?』

 

「忘れたか?鎮守府に艦が少なかった頃、私たちは幾度となく夜戦を繰り返し、勝利をもたらしてきた。」

 

『っ?!』

 

私は艦橋にたまたま来ていた船体のダメージを見て回っていた妖精がしていた報告を聞いていた。

妖精曰く『小破と速報で伝えましたが、軽微です。』だ。

 

「一撃程度食らっても耐えられる。私はビック7だからな!」

 

日が傾きかけた洋上で私の後退の号令が轟いた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

番犬艦隊はというと相変わらずで、番犬補佐艦隊は今日は普通だった。

 

「......(本を読んでいる)」

 

多分酒保で買ったんだろう、本を炬燵で読んでいる古鷹。

 

「......(爆睡中)」

 

古鷹の横で爆睡している加古。

 

「北上さん、みかん入ります?」

 

「ありがと~、大井っち~。」

 

炬燵に入り、北上に餌付けをしている大井と炬燵でぼーっとしている北上。

 

「......(みかんを剥いている)」

 

一生懸命になっている理由が分からないが、みかんを剥いている五月雨。

 

「......(爆睡中)」

 

五月雨の横で爆睡している涼風。

1/3が寝てるこの状況も変だが、俺は空いているところに足を入れた。本当なら足を伸ばして入りたいところだが、正面に座っている北上か大井に足が当たってしまうので胡坐で座った。それに大井に足を当てた日にはどうなるか分からない。俺自身もそうだし、大井も、この執務室もだ。理由はそんなもの1つしかない。

そんな俺に最初に話しかけてきたのは古鷹だった。

 

「提督、執務は終わったんですか?」

 

「あぁ。本に集中していたのを途切れさせてしまって済まない。」

 

「いえ、元から集中してませんでしたし。」

 

そう言った古鷹は自分の横で爆睡している加古の顔を見た。加古は頬を炬燵に押し当て、口を開いて寝ている為口から唾液は垂れているし、たまに『ンゴッ』とか言うのでそれは集中できないだろうな。

 

「......後で机、拭いておきますね。」

 

「あっ、あぁ。頼んだ。」

 

そう言うと古鷹は本を閉じた。

 

「それはそうと、昨日はどちらまで?どうやら大本営の車が来てたみたいですけど?」

 

聞いてきた古鷹はどうやら俺たちが出て行くところか、帰ってきたところを見ていたみたいだ。

 

「大本営だ。少し用事があってな。」

 

聞かれた通りに返して俺は頬杖をついた。

 

「招集ではないんですよね?」

 

「そりゃ勿論。」

 

「ではなぜですか?」

 

結構食いつきのいい古鷹に少し圧倒されたが、ここであの話をしてしまってもいいと俺は考えた。どのみち知れるなら別に今教えても問題は無い。

 

「アメリカとの国交回復に向けて動くんだ。」

 

「ですがアメリカとは昔、米海軍第七艦隊が全滅した事で連絡が途絶えていたって......。」

 

「今発動中の大規模作戦の前半、北方海域でアルフォンシーノ群島周辺に屯ってた艦隊を撃破したのは知ってるだろう?」

 

「はい。」

 

「そのおかげでアメリカと連絡が取れる事が分かったんだ。」

 

そう言って俺は立ち上がり、自分の机から書類を持ってきた。

 

「アラスカ上空に本隊の赤城が彗星を偵察に出したんだ。その時、内陸部に町を発見。サーチライトを照射された。」

 

「そんなことが......。」

 

「町を見つけ、サーチライトを当てられたという事は人がいる。そして、深海棲艦が海を支配しているのにも拘らず領土争いをしない限り、この町はアメリカの国に属している。」

 

「そうですね。」

 

「という事はアメリカは生きていると考えてもいい。だから大本営に報告に行ったんだ。ただ、少し時間は経ってるけどな。」

 

そう言って俺は持ってきた書類を古鷹に見せた。それを見た古鷹は読み切ると、俺に返し、質問をしてきた。

 

「という事はこっちから使節を送るか、あちらから使節を連れてくると?」

 

「そういう事になる。」

 

「では、私たちが派遣されるんですね?」

 

そう訊いてきた古鷹にもう一枚俺は書類を見せた。それはいつも送られてくる書類の中に入っていたものだ。

 

「それには大本営が指揮している鎮守府が請け負う事になっている任務だ。殆どが資源輸送任務だが、大型艦が多く任務として出撃する予定のところを見るんだ。」

 

「北方海域ですか?」

 

「そうだ。北方海域にそんな数の出撃があるという事は、俺たちがしなければならない哨戒任務を肩代わりしている。つまり、あの一帯の深海棲艦の残党を殲滅して安全を確保する準備だという事だ。」

 

「という事は私たちは派遣される事は無いと......そういう事ですね?」

 

「あぁ。」

 

そう言って書類を返してくれた古鷹は本をまた開いた。

俺は持ってきた書類を戻しに行こうと立ち上がり、机に置くと今度はプリンツに話しかけられた。

 

「どうした、プリンツ。」

 

「ちょっと提督に話があってね。」

 

そう言って俺にどっから持ってきたのか独和辞典を俺に見せつけてきた。開いたページにプリンツは指を指している。

 

「ん?どうしたんだ、プリンツ?」

 

「だからー、ここ読んで!」

 

そう言われ、俺は指に刺されているところを読んだ。

 

「プリンツじゃないか。」

 

「そうですよっ!って、違います!日本語訳を見て下さいっ!」

 

そう言われて俺は日本語訳を見た。プリンツの日本語訳は"公子"となっている。多分"公子"というのは貴族の男子というのが直訳だと書いてあるが、一般的な日本語訳だと"王子"や"親王"らしい。

 

「へー。そうなんだ、プリンツ。」

 

「だーかーらー、提督は私の事を『王子』とか『親王』って呼んでる事になるんですよ!」

 

俺はここではっと閃いた。つまり、プリンツは俺がフェルトを『グラーフ』と呼んでいた事と同じことになっているんだろう。

 

「分かった、オイゲン。これでいいか?」

 

「うんっ!Danke!」

 

そう言って満足そうに独和辞典を置きに戻ろうとするプリンツを引き留めた。

 

「ちょっと待った。何で今訂正したんだ?訂正するならフェルトの時みたいに言えばよかったじゃないか。」

 

そう言うとオイゲンはモジモジし始めた。

 

「だって、まだあの時は勉強中でしたし......。」

 

「あー、分かった。」

 

俺はそれだけで納得した。勉強中だったのなら仕方がない。

 

「ん?今訂正したって事はオイゲンはまだ勉強中?」

 

「うん。今は応用を勉強中です!日常会話なら大丈夫なのでっ!」

 

そう言って笑ったオイゲンは独和辞典を置きに本棚に向かったが、俺は視線をずらした先にビスマルクが居たので少し観察してみた。

ビスマルクは俺が見た途端あからさまに目を逸らした。という事は、言う事はたった一つ。

 

「ビスマルク。」

 

「なっ、なに?」

 

「勉強しろ。」

 

そう言うとビスマルクは艤装をガチャガチャ言わせながらこっちに来て言った。

 

「大丈夫よ!話せるからね!書けなくたって生きていけるわ!」

 

ビスマルクは胸を張って言うが、書けないのは致命的だという事に気付かないのだろうか。

 

「はぁ......大規模作戦が終わったら通常の運転に戻るだろう?」

 

「そうね。」

 

「秘書艦のローテーションに俺は口出しした事無いが、ビスマルクだけはローテーションに入れるなって言っておく。」

 

俺がそう言って炬燵に入ろうとするとビスマルクが怒って説明を求めてきたのは言うまでも無いだろう。

説明には俺は『字か書けないと秘書艦は勤まらない。』の一転張りで耐えしのいだ。

 





連続でビスマルクが弄られているのは気にしないで下さい。

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第百三十二話  operation"typhoon"⑫

 

後退に成功し、夜を待った私たちは月明りを頼りにあの艦隊を探した。

 

「観測と見張りから連絡は?」

 

「ありません。」

 

艦隊が前進微速で交戦していた当たりの海域を航行しつつ深海棲艦を探しているが、一向に見つからない。日が落ちてから今までの航行時間と戻ってきた距離からだともう遭遇してもいい頃だというのに全く見つからない。

これまでで夜戦に入ってきた時も今日のと同じ手法を使って夜戦に挑んでいたが、必ず計算通りに会敵していた。なのになぜ、遭遇しないのだろうか。

その刹那、眩い光が私の艤装の前を航行していた島風の艤装に照射された。

 

「島風さんから入電っ!艦隊発見っ!!」

 

通信妖精の声で艦橋内が一気に騒がしくなる。

 

「続いて、相手の陣形は単縦陣。反航戦ですっ!」

 

私はこれを読んでいた。あらかじめ、陣形を変えていたのだ。複縦陣。反航戦の際、損傷した味方艦を相対する面と反対側に配置し、すれ違う。被害の大体は前列に喰らう。

これを取るにあたって島風と雪風にはちゃんと聞いておいた。夜戦においてのダメージは大きい。それ故、損傷したままで突入すると最悪轟沈の可能性もあると。だが、彼女たちはそれは無いと答えた。私は共に初期から戦ってきた雪風と、こうして古参の攻略にまで投入される程まで頑張った島風を信じている。

どれ程の損傷であろうと、生きて帰ると彼女たちは言っていたのだ。そのために赤城と加賀の甲板では消火用ホースが今、用意されている。万一直撃を喰らって炎上してもすぐに消火作業ができるようにと。

 

「よしっ!夜戦だっ!一撃で葬り去るっ!!」

 

私はそう宣言し、通信妖精に島風と雪風に繋げてもらった。

 

「島風、雪風。準備は?」

 

『早く撃ちたーい!』

 

『準備、出来ていますっ!』

 

「そうか......。頼みは島風と雪風の魚雷掃射だ。装甲空母に当ててくれ。」

 

私はそう言って受話器を返し、主砲に徹甲弾の装填を指示した。もう目の前まで来ているのだ。

 

「もう交差するっ!全主砲、斉射っ!ってぇーー!!」

 

私の艤装の41cm連装砲、4基8門が一斉に火を噴いた。そしてその弾丸は相手艦隊に向かい、柱を上げる。

 

「命中っ!」

 

観測員の報告が入り、続報に期待をする。

 

「......艤装が炎上中っ!」

 

その瞬間、艦内は湧き上がった。報告でそう聞いたものの見える者には見えるのだろう。無論、私にも見えている。赤い炎を上げている装甲空母が見えるのだ。

 

「未確認深海棲艦が発砲っ!砲撃、来ますっ!」

 

さらに入った報告は私の耳には入っていなかった。何故ならその光はコチラに向かってきていたのだから。

そして数秒もしないうちに耳を劈く炸裂音と衝撃に身体が打ち付けられた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

俺がビスマルクの勉強しろと言っていた日の午後。

昼食はいつも通りだったが、どういう訳か食べ終わって執務室に戻ると激しい眠気に襲われていた。

気を確かに持たないと今すぐ睡魔によって意識が刈り取られてしまう様なそういった状態に陥っていた。

多分、この時の俺は傍から見たら、授業中にウトウトしている生徒にしか見えないだろう。何故なら机に向かっているからだ。

 

「どうした、アトミラール。」

 

そんな俺を心配してか、フェルトが声を掛けてくれた。

 

「眠いっ......。今にも寝てしまいそうだ......。」

 

眠気と格闘している俺は何とかそう返事を返すとフェルトが用意してくれていたコーヒーを一気飲みした。

だが、意味は無い。コーヒーのカフェインで眠気が吹き飛ぶとか言った人、それは個人差もあるがコーヒーをよく飲む人はもう効果が無いと考えて良い。その良い例が俺だ。

事あるごとに眠気に襲われたらコーヒーを飲んで早3年。もう身体が慣れていた。この世界に来る直前の眠気解消法はミントのタブレットを口に含んで噛み砕いた状態で、冷えた炭酸水を飲むことだ。あまりの刺激と冷たさで眠気が吹き飛ぶ。だが生憎、ミントのタブレットも炭酸水も無い。

 

「昼寝......か?もう執務も終わっている事だし、急用も入るとは思えない。私室で寝て来るか?」

 

「いいのか?」

 

「あぁ。机で寝られても仕方ないだろうし、アトミラールも机で寝たら身体が痛くなるだろう?」

 

俺はフェルトのその言葉に甘えて、立ち上がり、私室の扉を開いた。

そして吸い込まれるようにベッドに向かい、その道中に上着を脱ぎ、ベッドに収まった。

その刹那、これまで耐えてきた睡魔に一気に襲われ、俺は眠気に陥落した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

何時間経っただろうか。俺はぼーっとする頭にエンジンをかけ、目を開く。

寝ている位置から壁掛け時計が見える。時刻は4時。3時間近く寝ていた様だった。そして俺はむくりと起き上がろうと腕に力を入れた瞬間、片腕に重みを感じ、そのまま起き上がれずに再びベッドに吸い込まれた。

 

「何だっ?」

 

俺は重みを感じている腕の方に目をやると、そこには俺の腕にしがみついて寝ているフェルトが居た。普段しているケープもとり、手袋も取った状態だ。

 

「......。」

 

俺は絶句した。何故ここでフェルトが寝ているのか。

確かフェルトはあの時、唯俺に昼寝をしに行くことを進めていただけだった。いつの間に入り込んで、寝ていたのだろう。だが、あり得る事は番犬艦隊の任務としてすぐ傍に居なくてはいけないからだとか言って傍に居たはいいものの寝てしまったという事だ。

そんな事を考えているが、今、非常に不味い状態だ。俺が頼んだわけでもなく腕にしがみつき寝ているフェルトを俺はどうにかしてしがみつきから解放してもらわねばならない。

だが無理に引き剥がせないのも俺だった。

 

「一体どうすれば......。」

 

ここまで俺が解放云々で悩んでいるのには理由があった。

俺の中で艦娘も普通の女の子同等で、たまにチョップをかます艦娘も居るが大体は部下であり、友人であり、家族の様に扱ってきた。

それで、俺の中でのフェルトは友人。一緒にビスマルクをからかったり、話をしたりするそんな関係だ。そんな友人であるつもりでいる俺だが俺の中で確固として決めていた事があった。それは、勝手に異性の身体に触れない、という事だった。

友人だとかさっきは言ったが、それでもフェルトは女の子だ。俺の認識がそう捉えている。だから多分、こうなっているんだろう。

回りくどく説明したがどういうことかと手短に説明すると、俺はフェルトが起きるまで俺は立ち上がる事が出来ない。

そんな事を俺が考えていると露知らず、もぞもぞと動いているフェルトは動くことによって俺の腕を掴んている位置がズレていく。

 

「......起きろ、フェルト。」

 

俺は声を掛けて起きる事を促すが、全く起きる気配が無い。

 

「起きろ。」

 

そう言っても全くフェルトは目を開かない。身体を捩らせたりはしている。

 

「起きてくれ、フェル......ト。」

 

俺が声を掛け続けていると俺はある方向に目線が吸い込まれた。そこは扉だ。執務室と私室を繋ぐ扉。だが扉は開いていて、そこには多分今の姿を見られて一番不味いのがいた。

そいつは扉を閉めてズカズカとこっちに来ると、しがみついていたフェルトの腕から解放してくれて溜息を吐いて困った顔をした。

 

「はぁ......全く。ツェッペリンも大概のモノね。」

 

そう。多分フェルトが一番この姿を見られてからかってくるであろう相手、ビスマルクだった。

 

「ありがとう。それと、どういうことだ?」

 

「えぇ。提督が昼寝をすると言ってフラフラと私室に入っていったあと、彼女が『護衛も必要だろう?私が傍で見てくる。』と言って私室に入っていったの。私たちも行こうかと聞いたんだけどいらないの一点張りで、私たちは結局私室前の扉に立つことにしたわ。そしてさっき、提督の声がしたから起きたのだろうと思って入ってきたらコレよ。」

 

そう言って悪い笑みをするビスマルクはフェルトの肩を掴んで揺らし始めた。

 

「起きなさいっ!ツェッペリンっ!!」

 

ガクガクと揺らされ、フェルトもこっちの世界に戻ってきたか。

 

「あっ、あぁ......ビスマルクか。どうした?」

 

「どうしたじゃないわよ。提督、もう起きてるわよ?」

 

「なにっ?!」

 

そう言って立っている俺にフェルトは『Guten Morgen、アトミラール。』と呑気に言って来たが、もう俺はこの後の展開が予想で来ていた。

 

「ふふっ、まぁいいわ。」

 

「む、何だ?......っと、起こしてくれたのはビスマルクだったな。ありがとう。」

 

そう言ったフェルトを無視したビスマルクは俺の横に来て、急に腕にしがみついてきた。

 

「なっ、何をしているんだ。ビスマルクっ!」

 

あからさまに慌てているのか、そう言ったフェルトを尻目にビスマルクはニヤニヤしながら言った。

 

「貴女、自分で『護衛も必要だろう?私が傍で見てくる。』とか言っていたくせに寝てるんじゃないわよ。色々脱ぎ捨てて提督の腕に絡みついて。」

 

「なっ!?」

 

ビスマルクにそう言われたフェルトは急に慌てだした。

 

「私は寝ていた訳では無いぞっ?!......護衛、そう!護衛でそうしていたんだっ!」

 

「苦しい言い訳よ。貴女によくいじられる私だけど、しばらくはこれで対抗させてもらうわ。それに提督も貴女が離れてくれないと言って困っていたしね。」

 

「うぐっ......そうなのか、アトミラール?」

 

棄てられた子犬みたいな顔で見てくるフェルトに少し視線を逸らしながら俺は答えた。

 

「まぁ......そうかもしれない。」

 

「そうか......悪かった。」

 

そう言って明らかに暗くなったフェルトを尻目にビスマルクが俺に訊いてきた。

 

「そういえば、どうして無理に引き剥がさなかったの?腕だけなら別に......。」

 

俺は訊かれるだろうなとは思っていたが、やはり聞かれたので答える事にした。

 

「そういう信念なんだよ。」

 

「ふーん。引き剥がさないってのが?」

 

「違う。不用意に異性に接触しないって事だ。ビスマルクだって気のない異性にべたべたされたり、突然部屋に来られたりしたら嫌だろう?」

 

「まぁ、そうだけど......。」

 

俺がそう言っているとドンドンビスマルクの目の温度が変わっていった。

 

「多分当たり前になっているだろうが、俺は艦娘寮には本当に何かないと入らないし、艦娘には話はするが触れはしない。」

 

「言われてみれば......確かに来ないわね。用事があると大体が伝言というか、誰か艦娘が提督の要件を言ってくものね。」

 

「前、金剛と俺がフェルトをからかったときの事覚えてるか?」

 

「勿論。」

 

「ああいう風に大きい買い物とかして重いものを運ぶときに手伝う事はする。」

 

そう言って俺は私室の隅で今にも体操座りしそうなフェルトをちらっとみてビスマルクに視線を戻した。

 

「という訳だ。つまり、嫌がりそうな事はしない。そういう信念だ。」

 

「でもからかいはするわね。」

 

色々並べて説明したのに一刀両断されてしまった。

まぁ、別に矛盾しているところがあるのは分かっているから別にいいと俺は思っている。

 

「取りあえず執務室に戻るか。......フェルト、戻らないのか?」

 

俺がそういうとフェルトは立ち上がり、ケープを羽織って手袋をすると執務室に戻ってしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

別にさっきのでご機嫌が斜めになったわけではない様で、普通にしているフェルトを見てまぁいいかと俺は思った。

触れるのを嫌がっている訳では無く、触れないようにしているのだ。別にその意図は十分伝わっただろうから。

 

「お昼寝ですか?」

 

執務室に戻ってきて最初に話しかけてきたのは大井だった。

 

「あぁ。眠くてな。」

 

俺がそう答えるとニコッと笑って俺に詰め寄ってきた。

 

「うわっ、何だよ......。」

 

「アレ、どういう事ですか?」

 

そう訊いてきた大井が指差しているのは炬燵でぼーっとしている北上だった。

 

「人に指差したら駄目だろう。ましてや大井の好きな北上だってのに。」

 

「そうですけど......って、質問に答えて下さい!私の気付かぬ間に何してくれていやがりますのっ!」

 

「あー、アレね。」

 

そう言った大井の何に気付いた俺は説明を始めた。

 

「大規模作戦に作戦艦隊が帰還中に北上に出撃して貰ってた。」

 

「それは分かってますよっ!私が聞きたいのは何故改二になってるかですっ!」

 

そう言った大井はぼーっとしている北上の横に並んだ。ちなみに大井はまだ改で深緑のセーラー服を着ているが、北上はへそ丸出しのベージュというかクリームな色をしているセーラー服だ。

 

「何故ってそりゃ、北上の練度が50に到達したからな。」

 

「私、まだ25ですよ?!」

 

「知ってる。」

 

俺に何を抗議したいのか分からないが、取りあえず何かが気に喰わないってのは伝わっている。

 

「んー。大井はあれか?」

 

「やっと気付きましたか?」

 

「北上を勝手に改二にした事を怒ってるのか?」

 

そう言うと大井はおろか、起きていて聞いていた古鷹や五月雨、ドイツ艦勢までも『は?』と言いたげな表情で俺を見ていた。

 

「なにっ?!違うのか?!」

 

そう言うと大井がそっぽ向いてこういった。

 

「私も早く改二になりたいです......。だから私を使って下さい。」

 

言い方がアレだが、まぁ大体伝わった。おもちゃをねだる子どもみたいなものだろう。俺も子どもだが。

 

「分かった。だがいいのか?」

 

「何がです?」

 

俺はそう言って首を傾げている大井に言った。

 

「北上はああ見えていろんな海域を渡り歩いている。轟沈寸前まで損傷して帰ってきた事もあった。俺にこうやって急かしに来たという事はそう言う事だが、いいのか?」

 

俺は渋るだろうと思っていたが、真反対の反応をしてきた。

 

「そんなのドンと来いですよ。寧ろ、重雷装巡洋艦が何が箱入り娘ですか。提督は気付いてないかもしれませんが、私、大体の出撃先って演習かキス島なんですよ?」

 

そう言った大井は悔しそうな表情をしていた。

 

「聞きましたよ。私の進水の為にカツカツな資材を切り詰めてたって......。それって私が重雷装巡洋艦に改装されるのを知っていて、戦力として前線に投入することが目的だったんじゃないですか?」

 

大井は顔を伏せてそう言ったが、ぼーっとしていた北上が突然口を開いた。

 

「それは違うよ、大井っち。」

 

「えっ?」

 

「私が寂しくない様に、同じ艦種になる大井っちを出来るだけ早く鎮守府に進水させようとしてたんでしょ?ねー、提督~。それに多分大井っちが箱入りなのは時期が悪かっただけじゃない?」

 

そう言った北上の言葉を聞いていた大井は俺の顔を見た。

 

「そうなんですか?」

 

「そう言う事になる。他の艦娘の育成や、海域の攻略で忙しかったからな。今の大規模作戦が終われば重巡の育成と並行して大井はこの先出撃しっぱなしかもしれないな。」

 

そう言うと大井は『ふーん。』と言った。多分、納得したのだろう。だが俺にはまだ続きがあった。

 

「と言っても出撃先はキス島だけどな。」

 

「やっぱりっ!!!」

 

それを訊いていた北上や古鷹は笑い出し、他の艦娘たちが苦笑いしていたのは当然だろう。

笑っていた艦娘はキス島のレベリングをしていた。他の艦娘はそれを知っていたからだ。





西方海域の続きが気になるところですが、まぁ......察して下さいね。散々フラグ立てておいて......。

後の鎮守府での話ですが、結構提督の性格も出てきましたね。相変わらず端で体操座りをしようとするフェルトですけど。
それと大井が久々の登場ですね。つんけんした態度をしないのは、察してやってください(白目)

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百三十三話  operation"typhoon"⑬

 

激しい衝撃に気を失ってしまっていたのか、私がむくりと起き上がると私はベッドの上に居た。

 

「......起きましたか。」

 

そう言ったのは見慣れた顔、赤城だ。

 

「どうなって......私は艦橋にっ......。」

 

私が居たのはどう考えても私の艤装には無い設備。格納庫だ。

そう言うと赤城は説明してくれた。私が気を失っていたであろう辺りから。

未確認深海棲艦の砲撃が直撃。大破したと言う。だが状況が状況だったらしい。被弾したのは第一艦橋の下部。電信測量系の機材が積んであるところだ。

だが、何故私が運び出されたのだろうか。

 

「出火したんですよ。火の手が長門さんのいた上部にまで来そうでしたので、退避させていただきました。」

 

そう言った赤城は続けて報告してくれた。

私の艤装に砲撃が直撃した後、雪風と島風の雷撃が生き残っていた装甲空母と未確認深海棲艦に直撃。装甲空母はどうやら読み違いで大破していたらしく、雷撃が決定打となり轟沈。未確認深海棲艦ももう小口径砲で弱点を狙えば轟沈というところまで痛めつけたという。

 

「そうか......大破したのは......。」

 

「長門さんだけです。担ぎ出されたのもですが......。」

 

「そうか......。」

 

私は胸がズキリと痛くなった。私は夜戦に入る時、耐えて見せると大判叩いていたのにも拘らず、気絶してしまった。それに艤装は耐えたと言っても損傷は激しく、曳航されている状態だという。

 

「曳航か......。提督に言われたな。」

 

「何をですか?」

 

「きっとこれからは大破してでも戦う事になる。誰かを曳航して戻ってくる事になるだろうと......。まさか誰かを曳航する前に、自分が曳航されるとはな......。皆の信頼もこれで堕ちただろうか。」

 

そう言うと赤城は首を横に振った。

 

「それは無いですよ。」

 

「何故だ?」

 

「多分貴女はたまたまだろうと仰るだろうと思いますが、長門さんの後ろは高雄さんだったんです。長門さんに直撃していなければ高雄さんに当たってました。それも当たり所の悪い、一撃で轟沈する場所です。」

 

「......ふっ......たまたまだろう?」

 

「そう仰ると思いましたよ。ですけどね、何がともあれ、その一瞬で味方が轟沈するのとこうやって担ぎ出されるの、どっちが良かったですか?」

 

「そんなの、こっちが良かったに決まってる......。」

 

「そうですよね。」

 

そう言って私は起き上がり、少しフラフラしながら赤城の艦橋に向かった。

赤城の艦橋では慌ただしく妖精が動き回っており、私の横を通る妖精全員が『大丈夫でしたか?』と心配してくれた。

そして艦橋に着いた私は自分の艤装を見た。確かに炎上している。この時赤城が教えてくれたのは、もう燃えているのは外部だけで、内部は問題ないという事と、高雄が私が被弾した瞬間、放水の準備を始めてまだ砲弾が飛んでいるにも関わらず、外で消火の指揮をしてくれていたという事だ。そして今は赤城がその消火を引き継いでいて、もう直ぐ鎮火するという。

 

「......ありがとう。」

 

「いえ。長門さんは私たちのリーダーですからね。」

 

「そうか。」

 

私はそう言われて嬉しくなった。これまで確かに、旗艦をする事は多かった。経験が多いからと言ってキス島に進水したばかりの艦娘を連れて行く事は今でもある。

そういう風にみられていて嬉しかったのだ。

 

「もう鎮守府への報告も済んでいます。貴女の無事もね......。皆が待ってますよ。それに......。」

 

そう言って赤城が指差したのは海上に浮かぶ、見慣れた艤装。第一支隊と合流したのだ。

そして一番前を航行しているのは私とほぼ同じ艤装、陸奥だ。艦橋に目をやると、遠くてよく見えないが私の直感が『陸奥が泣いている』というのだけは分かった。そしてその後ろを航行しているのは扶桑と山城。こっちは見えないが、きっと微笑んでいるんだろうな。

 

「陸奥さんも早く長門さんの顔を見たいんじゃないでしょうか?」

 

「そうだな。」

 

私たちはこうして鎮守府まで帰っていった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

早朝、俺や他の艦娘たち、非番の門兵や話を何処から訊いたか知らないが酒保の人たちが埠頭に集まっていた。

日がまた昇る前、俺はビスマルクに叩き起こされて通信室にて赤城から作戦完了の報告を訊いた。装甲空母との激闘の末、損傷艦をいくつも出したと言うのもだ。

それを出迎えるためにこうして来たのだが、何故ここまで集まったのだろうか。早朝と言ってもまだ太陽の光が海の向こう側に少し見えるだけでその姿は確認していない。

 

「もう直ぐ帰ってくる頃だ。」

 

そうフェルトは俺に双眼鏡を渡してきたので、それで帰ってくるであろう方向に向けた。

水面が少し光り、空を反射しているがその先にもやもやと人工物が見えてきた。

あれは多分、ウチの艦隊だろう。

 

「帰ってきた。」

 

そう言った瞬間、周りが騒がしくなり俺に『本当に撃破したんですか?』という様な趣旨の事を訴えるのが聞こえてくる最中、もやもやとした姿がはっきりと見えてきた。

皆は心が躍り、初の大規模作戦成功に喜々としていた。眠気も吹き飛ぶような勢いだ。

それに面白い光景も見れている。

 

「心配だ......。」

 

「どうした?」

 

「島風ちゃんが怪我してないか......。」

 

来ている非番の門兵は駆逐艦の艦娘。今回は島風や雪風の心配をしているのが多い。

 

「大丈夫だろ。昼頃、またかけっこをせがみに来るだろうさ。」

 

「だといいが。」

 

とやり取りをしている一方で、酒保の人たちも何だかざわざわしている。

 

「高雄さんが心配ねぇ。」

 

「よく酒保に来てましたものね。」

 

「料理の腕を上げるとか言って食材を買って行ってはレシピを訊いてきたりとか......。」

 

そんな事してたのか。高雄。

その他にもあちこちの門兵や酒保の人たちは出撃している艦娘の心配をしていた。偶に配置に関することとかも話題に入っているから後で該当する艦娘は呼び出しだ。

それより、そんなのを聞いていると、埠頭に作戦艦隊が接岸し、艦娘たちが降りてきた。

 

「報告。西方海域にて装甲空母を撃破、ただいま帰還した。」

 

そう言った長門の艤装を俺は見上げた。

あちこちに被弾痕があり、艦橋下部には直撃弾で炎上した後がある。それに他の本隊の艤装にも必ず何かしらの損傷が見受けられた。

その中で一番酷かったのは高雄。後部主砲群は吹き飛び、カタパルトとカタパルトデッキ共に跡形もなくなっていた。どう考えたってこれは大破だ。多分、長門も大破だろう。

 

「あぁ。」

 

そう俺が言うと18人に目配せをした。

 

「お疲れ様。これにて作戦終了だ。皆、損傷が激しい順に入渠させろ。」

 

そう言って笑いかけたが、後ろから声がした。

 

「提督っ!早速、私をレベリングにっ!」

 

この声は大井だ。そう言った大井はズカズカと前に来て俺にもう一度同じ事を言った。

 

「私をレベリングにっ!」

 

「アホか。」

 

そう言って俺は一蹴して長門を見た。

 

「当分砲撃はしたくないな。」

 

「私もいいです......。」

 

「雪風はまだ大丈夫ですっ!」

 

「入渠、早く終わらせよー!」

 

「私ももう当分深海棲艦は見たくないです。」

 

「私も。」

 

長門に続いて本隊の艦娘は全員そう答えた。

 

「という訳で、面倒を見てくれる艦娘は全員お疲れだ。また明日辺りに頼んで来い。」

 

そう言ってぶーぶー文句を言う大井を無視して俺は全体に指示を出した。

 

「ほら、解散だっ!しばらく休むぞっ!」

 

この後、編成やら配置を知っていた門兵と酒保の人は呼び出しをして俺と武下でキツく叱った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

作戦艦隊を出迎えた後、今日の秘書艦を俺は待っていた。

 

「遅いな。もう朝食いかなくちゃいけないんだが......。」

 

そう独り言を言っていると、執務室のドアが思いっきり開かれた。

そしてそこに居たのは、陸奥だった。

 

「遅れてごめんなさい。」

 

そう言って肩で息をしている陸奥を落ち着かせて言い訳を聞いた。

 

「如何して遅れた。」

 

「長門と話していたのよ。どうして無理をしたのかって。」

 

「無理?」

 

「えぇ。自分が大きいのを分かっていて艦隊を退避させるわけでもなく、盾になってたのよ。」

 

「そうか......。」

 

そう言った陸奥の言葉に俺はどうしてそんなことを長門がしたかがすぐに分かった。

 

「理由は教えてくれなかったけどね。」

 

「そうか。」

 

俺はそう言って陸奥に食堂に行こうと言って歩き出した。

何故、長門がそれをしたか。それは艦隊を二分することをシステム外行動だと分かっていたからだろう。あからさまな艦隊の二分は今後、何らかの影響を出す。それを見据えての無理だったんだろう。

埠頭で解散号令をして武下と門兵や酒保の人と話をする前に高雄から訊いていたのだ。

 

『一撃程度食らっても耐えられる。私はビック7だからな!』

 

そう言ったそうだ。多分、そういう意味だろう。

 

「早く行かないとテレビに沸いている駆逐艦の艦娘たちがしびれを切らしてくる。」

 

「そうね。」

 

俺と陸奥は小走りで食堂に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

書類をしていると、陸奥から入渠時間に関する書類が回ってきた。

現在、長門と高雄が入渠中で、長門が6時間で高雄が3時間。やはりかなりの攻撃を受けていた様だ。

 

「バケツは使う?」

 

「あぁ。何のために溜めてきたか分からないからな。それに、そっちの方が後が閊えなくていい。」

 

「了解。指示を出しておくわ。」

 

俺は何食わぬ顔でこうやって執務をしているが、よく考えたら陸奥って始めての秘書艦じゃなかったか、と思った。

 

「そう言えば陸奥。」

 

「何かしら。」

 

「今日が初めての秘書艦か?」

 

「えぇ。」

 

やはりそうだった。

 

「初めてにしては手際がいいな。」

 

「何故かしらね。」

 

そう言って陸奥は答えると書類を出してくると言って執務室を出て行ってしまった。

 

「あぁ......。終わったのか......。」

 

俺は独りになった事で、やっと作戦が終了した事を実感した。

作戦中は常に番犬艦隊が周りを囲んでいたからだ。今日はそれがない。だが一方で寂しくもあった。執務室がこんなに広いとは思わなかった。

昨日までは12人近くこの部屋に居たから寧ろ狭いだろうと思っていたのにも拘らず、今は独りだ。

そう思いながら俺は視線をずらす。執務室に炬燵があるのだ。

 

(いつから炬燵があるんだ?)

 

俺はそう思いながら炬燵の電源を入れて、炬燵に収まる。

じわじわと温かくなり、俺は机に顎を突いた。

 

「ひぇー。」

 

と一言発して、目を閉じる。

ここまで平和だと思った事は無い。やっぱり番犬艦隊が居る時は作戦発動中で、自分がこの目で見る艦娘たちが戦場に赴いている。とてもじゃないが、心が休まる事も無かった。それに、作戦中で心も休まらないという時でも作戦中じゃなくても鎮守府では赤城たちを始めとする数人の艦娘によって水面下で緊張とはまた違う類のモノが蔓延していた。

だが、それも今はない。解決された。

清々しい気持ちで、俺は炬燵に収まっていたのだ。

と突然、執務室の扉が開かれ、艦娘が入ってきた。

 

「お邪魔しますね。」

 

「ちぃーっす。」

 

入ってきたのは赤城と鈴谷だった。

 

「どうした?」

 

と聞くと2人は口を揃えて言った。

 

「「秘書艦が書類を持って歩いていたのを見たから。」」

 

と答えた。つまり遊びに来たみたいだ。

 

「そうか。」

 

そう言うが、俺の体勢は威厳なんてものはありはしない。

炬燵でだらけているだけなのだ。

それを見た鈴谷は履いているローファーを脱ぎ捨て、炬燵に収まってきた。それを見た赤城も靴を脱いで炬燵に収まる。

 

「温かいねぇ。」

 

「温かいです。」

 

そう言った2人も俺みたく、だらけはじめた。

炬燵は人を駄目にすると言った人、多分どんな生き物でも駄目になります。

 

「帰りました。って、貴方たち何してるの?」

 

書類を出しに行っていた陸奥が帰ってきて早々、俺たちにそう言ってくる。

困った顔をしているので俺は言った。

 

「陸奥も入れ。もう今日の分は無いんだ。」

 

「いいの?」

 

「勿論。」

 

そういう事で陸奥も炬燵に収まったわけだが、その後も続々と艦娘が執務室を訪れ、結局炬燵に12人くらいが収まる事になった。

他の艦娘は炬燵待ちでソファーに座ったりする事になるのだが、そんな姿を見かねて俺が出ようとすると押し戻された。

何故戻すのかと聞くと、皆口を揃えてこう言うのだ。

 

「提督が出て行ったら意味ないじゃん。」

 

どうやら俺と話に来たと言う。炬燵に収まった状態で俺と話がしたいという事だった。

どうしてそうしたいのかというと、どうやら番犬補佐艦隊が任務中、俺とそうやって話をしていた事を艦娘同士で話していて、『私も』という事らしい。

昼前になって一度追い返した後、山の様に積みあがったみかんの皮を袋に詰める羽目になったのを俺と陸奥は溜息を吐いてやった。というか、無尽蔵にみかんが出て来るなと思っていたらどうやら誰かが酒保で箱買いしたのを廊下に置いている様だった。

それを見た俺と陸奥は開いた口が塞がらないのはこういう事だと学んだのであった。

 





これにてoperation"typhoon"は終了ですね。
ここでお知らせです!
次回より、第二章に突入っ!!

とお知らせしておいて、炬燵とみかんの組み合わせは最強ですよね。出れなくなります。

ご意見ご感想お待ちしてます。


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第二章
第百三十四話  発表


 

 俺は珍しい事ではないが、緊張している。

数日前まで展開されていた大規模作戦。作戦名『アルフォンシーノの魔法』、『タイフーン』によって制海権を取り戻した海域が倍になった。これで日本近海、南西諸島海域、北方海域、西方海域を取り戻し、残すところは中部海域と南方海域のみとなった。

 そこで何故俺が緊張しているのかというと、大本営からの命令でこれまでの成果を国民に知らせると言うのだ。別に新聞やニュースでも使えばいいだとうと思っていたのだが、一応艦娘のイメージアップや軍への支援、協力を助長を促すための政策、戦略みたいなものだと言うのだ。俺もそれだったらと、参加に積極的な文を送り返したばっかりにこんなことになっているのだ。

 

「新瑞さん。」

 

「なんだ?」

 

「私はこんな事になっていると聞いていません。」

 

 そう、今俺が居るところは大本営正面玄関。そこに設置された舞台の袖。

舞台の前にはテレビカメラが規則正しく並んでいる。そしてその間には新聞記者などが入り込んでいた。

 

「これはイメージアップ戦略だと言っただろう。2/3を奪回した今、これで国民たちの心を少しでも落ち着かせなければならない。横須賀鎮守府が空襲された記憶もまだ新しいからな。」

 

「そうですけど......。新聞やニュースだとか手はありますよ?」

 

「これが一番威力があるんだ。」

 

「火力ですね......。」

 

「あぁ。」

 

 俺はもう新瑞に何を言っても無意味だともう心の中では気付いていたが、最期の悪あがきをした。だが無理だった。

 

「因みにだな、提督。」

 

「何ですか?」

 

「これから始めるのは全て生中継だ。」

 

 俺は頭が痛くなった。全て生中継という事は、カメラの数を数えるだけで数十台。多分、地方局からも来ているのだろう。

 

「私が先に出て話をする。その後に呼ぶ。」

 

「分かりました。」

 

 俺はそう言ったものの、こういった事にはめっぽう弱い。そして自信が無いのだ。多分、慌てて噛む。そして何を言おうとしていたのかド忘れするだろう。そんな事になれば最悪な結果が見える。

 

『これより、大本営発表を行います。』

 

 アナウンスが入り、新瑞が舞台に出て行った。

 

「私は大本営海軍部長官、新瑞である。我々からの発表というのは、今までいつだったか深海棲艦が現れてからというモノ、良い報告を国民に伝えた事は一度もない。」

 

 新瑞が並べられたマイクに向かってそう言っている。

 

「今回も凶報や訃報ではないだろうか、そう思った国民は大多数を占めているだろう。この場で知らせたものは確かに、有能な指揮官や英雄達の殉職、制海権の喪失などばかりであった。」

 

 そう言った瞬間、新瑞は壇を叩いた。ドンとなり、一瞬、テレビ局クルーが肩を震わせた。

 

「だが今回は凶報でも訃報でもない。待ちに望んだ、吉報、朗報である事をここに言っておく。」

 

 新瑞はそれを言い切ると、俺の顔を見た。舞台に来いという合図だろう。

 

「その吉報、朗報はこの者に報告してもらう。皆も知っているであろう、横須賀鎮守府艦隊司令部司令官だ。」

 

 そう言った新瑞は俺と入れ替わった。

 

「数日前まで我々、横須賀鎮守府艦隊司令部は深海棲艦への大規模海域奪還作戦を展開していました。その報告をいたします。」

 

 一呼吸置いて俺は続けた。

 

「海域奪還作戦によって我々は北方海域、西方海域を深海棲艦から奪い返しました。」

 

 その瞬間、テレビ局クルーは騒ぎ出し、携帯電話を取り出したり、メモを開いて書留を始めたりし始めた。それに俺は構わず続けた。

 

「それによってこれまでのドイツとしか連絡が取れなかった状態から、ドイツとは貿易が始まり、アメリカや欧州、アフリカなどと連絡が取れる可能性が出てきました。それと、北方海域を奪還した際、作戦に参加していた空母艦載機がアラスカ上空を偵察。街がある事を確認しました。アメリカは生きています。」

 

 俺はそう言いきり、新瑞と交代した。

 

「どの国とも連絡が途絶えた孤立無援の戦いはもう終わった。先ほどの報告に付け足すと、我々が深海棲艦に奪われた海の約2/3を奪還している。あと少しだ。あと少しするとこの長い戦争が終わる。......以上だ。」

 

 そう言い切った新瑞は一歩後ろに下がった。それを見計らった様にアナウンスが入る。

 

『これを持ちまして、大本営発表を終了します。』

 

 アナウンスが切れた瞬間、俺と新瑞は歩き出し、舞台から降りた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺が大本営の車で横須賀鎮守府に送って貰い、門を潜ろうとした時、俺は溜息の出る光景を見た。

 テレビ局のスタッフ、クルー、新聞記者等が居るのだ。

 

「またか......。」

 

 そう呟くと、付いて来ていた護衛艦隊が溜息を吐いた。ちなみにどこに居たかというと、舞台とカメラの間だ。勿論、艤装を身に纏って。

 

「またデスカ。」

 

「懲りないねぇ。」

 

 そう言うのは金剛と鈴谷だ。そして、更に長門、陸奥、赤城、加賀が護衛として来ていた。まぁ、赤城と加賀が来た理由などひとつしかない。あの時、俺や新瑞が話している間中ずっと空を彩雲と烈風が飛んでいた。もう俺も諦めが付いているから気にならなかったが、テレビ局の方は気が気でなかったみたいだ。

 

「今度のはどうするんだ?」

 

「そうだな......多分取材内容は今日の発表に関する事だろうし、同じことを言う羽目になりそうだから......。」

 

 俺がそう言って面倒くさそうにしていると、赤城が俺には話しかけてきた。

 

「ですが新瑞さんの仰ってた通り、アレの対応をするのはこちらに利益がありますよ?」

 

「そうだろうね。やるか。赤城と加賀は到着後、すぐに埠頭へ行き艦載機を発艦。それと金剛と鈴谷は頼めるか?」

 

 俺がそう言って金剛と鈴谷を見るとニコッと笑った。どうやら受けてくれるようだ。

 

「じゃあ金剛と鈴谷はついて来てくれ。人数を増やしても構わない。」

 

「了解デース。」

 

「わかった~。」

 

 気の抜けるようなやり取りをして俺は長門と陸奥を見た。何かあるだろうかと思って見てみたが、分からない。何も言わないのだ。

 

「長門と陸奥は何かあるか?」

 

 俺は見ても分からなかったのだろうと思い、声を掛けると長門が話し始めた。

 

「私も同行する。それと門兵を数人、呼ぶことは出来るか?」

 

「非番の人に頼めば大丈夫だ。」

 

「そうか。」

 

 それだけだった様だ。何故、門兵を呼ぶのか分からなかったがそのまま陸奥も話す様だったのでそちらに耳を傾けた。

 

「私は特にないわね。だけど、私も同行するわ。」

 

「結局全員来るんだな......。分かった。」

 

 こうして車内で色々と話しているのを運転手が聞いていない訳が無いわけで、降りて礼を言う時に震えていたのは俺には何故だか分からなかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺と護衛含んだメンツで取材陣の対応を始めて終わったのは、最初から約2時間経った頃だった。それぞれ時間を指定し、別室に呼び込んで受ける。だが車内での俺の想像通り、今日の事についてだった。それと多かったのはアメリカの安否やなんかだった。全滅するまで日本と共に戦っていた第七艦隊の事もあるんだろう。全滅した第七艦隊に関しての報告はどうするのかと尋ねられたが、回答に困ったのは言うまでも無い。他には偵察機が見たアメリカの街はどうだったかとか、西方海域が解放された事によって南西諸島はどんな様子に変わったかだとかあったが俺もいちいち覚えていない。約2時間話しっぱなしでのどが痛いのだ。

 

「お疲れ様でした。」

 

 執務室で俺をそう労ってくれたのは赤城だ。今日の秘書艦はというと、指定はしていない。今日の大本営行きのお蔭で秘書艦としての仕事が出来ない事が分かっていたからだ。

だが何故赤城が俺にお茶を淹れて立っているのかは謎である。

 

「あぁ。赤城もありがとう。」

 

「いえ。」

 

 そう言って手に持っていた湯呑を机に置くと俺は背伸びをした。

 

「まだ午前中だと言うのに疲れた......。やはりああいうのは慣れないな。」

 

 俺がそう言うと赤城は『やはり』と言った事に興味を示した。

 

「『やはり』って、経験があるのですか?」

 

「ある。だけどもうあんな経験は二度と御免だ。」

 

 そう言ったのを俺は不味ったと直感的に思った。もうこんな事を言ったら赤城が訊き返してくるのは目に見えているのだ。

 

「あんなとは?」

 

 言わんこっちゃない。

だが別に言っても良かった。聞かれて話す事は赤城に話してあることと関連があるからだ。前、赤城たちが資源を溜め込み俺の為に動いていた時に話した事だ。

 

「前に『部活動』について話した事があっただろう?」

 

「はい。提督が嫌な思いをしていたという......。」

 

「あぁそれだ。」

 

 『部活動』という単語を出しただけで身構える赤城に少し笑えたが、別にあの時の様な話をする訳では無い。

 

「俺は部活動で幹部になっていたって言っただろう?」

 

「そうですね。」

 

「幹部になるって事はそれ相応の能力や実績があったんだ。俺は眠っていたのが開花しただけだけど。」

 

 そう言って俺は少しでも暗い雰囲気を取っ払ってやろうと話す。

 

「幹部になる前、俺は部活動の顧問。つまり最高責任者に俺は指名されて特別な役割を与えられたんだ。」

 

 そう言いかけた時、俺はある事を思い出した。赤城は部活動が何か分かっているのだろうか。というか、俺が何の部活動をしていたのか知っているのだろうか。俺の記憶が正しければ知らない筈なのだ。

 俺は途中で話を切り上げて赤城に訊いてみた。

 

「と、話す前に訊いてもいいか?」

 

「えぇ。」

 

「赤城って部活動の事知ってるか?」

 

 そう聞くとさも当然の様に答えてきた。

 

「知ってますよ。その部活動に所属している人間は全員同じような趣味や興味、特技とかを持った人が集まって何かをすると言う事だけですが。」

 

「そうだ。例えば野球なら野球部。サッカーならサッカー部と分けられるな。」

 

 そう言って俺はここで言ってしまってもいいかと頭の中で葛藤が始まった。

別に恥ずかしくはない。だが俺がどういうイメージが赤城の中にあるのかが問題だ。赤城の反応次第で俺は布団の中に速攻収まる自信があった。

 

「提督は何だったんですか?女性が多かったと仰ってたので......うーん.......。」

 

 赤城は自分から当てに出てきた。これはいいタイミングだ。俺の気持ちの整理が付く時間を稼いでほしい。

 

「テニスですか?」

 

「違う。」

 

「そんなっ?!」

 

 初っ端から外してきた。有難い。

 

「では、バレーとかは?」

 

「違う。」

 

「提督って身長高いですよね?」

 

「そうだが、男子でバレーするにしたら小さい。」

 

 赤城は俺の回答を訊いて考え始めた。

 

「テニスでバレーでないなら......バトミントンとかはどうでしょう?川内型の娘たちとやっているのを見たことがありますし。」

 

「不正解だ。」

 

 赤城は思いつくのを手あたり次第言っていくが、一向に答えが出ない。それもそのはずだ。

何故なら普段の俺からそのようなイメージが浮かび上がる事が無い。浮かび上がる奴が居ればそいつは変態か頭のネジの本数がかなり飛んでいる。

 

「では......ボディビル......。」

 

「アホかっ!?あんな筋肉ダルマに見えるか?!」

 

 俺はそう突っ込んだが、何故ボディビルなのだろうか?そもそも女子が多いと言ってあるのにボディビルだなんて......。それは置いておいて、結局出てこなかった。

 

「もう分かりませんよ。正解は?」

 

 そう訊いてきた赤城は目を輝かせている。何故そこまで輝かせるか分からないが、俺はその赤城に若干引きながらも答えた。これまでの不正解の連続で俺の心に決心がついたのだ。

 

「......ガッショウ......。」

 

 多分、これまでにない小さな声で言ったんだろう。赤城は聞こえていなかった様だ。

 

「えっ?」

 

「合唱だ......。」

 

 そう言うと赤城が止まった。

 

「......ん?赤城?」

 

 俺がそう呼びかけても全く反応しない。それ程までに衝撃的だったのか。

 

「合唱......ですか?あの、大晦日の夜に皆で見ていたあの......アレですよね?アレで途中で大人数でやっていた......。」

 

「それだ。」

 

 そう答えると赤城は目をさっきよりも更に輝かせて聞いてきた。

 

「それでその合唱部で幹部をしていたという事は、提督は歌が上手いんですか?」

 

 それを訊いてくると思った。俺はそう内心思い、答えた。

 

「ほどほどにな。」

 

「それで、今日の大本営でのアレと何が関係が?」

 

 赤城はどうやら覚えていたらしい。その話をしていたのはこの話に入ってから20分も前の話だ。

 

「大勢の前で話しただろう?」

 

「そうですね。というか、提督。よくやってるじゃないですか。」

 

「そうだがなぁ......。」

 

 俺は意を決して言った。

 

「俺は大きい大会で懐刀としてソロをしたんだよ。」

 

 そう言うとてっきり驚くと思っていたが、赤城はそうではないらしい。ソロが分からない様だ。

 

「ソロって何ですか?」

 

「ソロっていうのは、合唱の最中に1人で歌う事を言うんだ。つまり大勢で歌っている最中、俺以外が歌うのを辞めて俺だけが1人で歌ったという事だ。」

 

 俺が説明した事でやっと理解できたようだ。『あぁー!』と言い出し、案の定の事を言って来た。

 

「大会でソロをするという事はつまり賞を取るために高得点を狙ったという事ですね。高得点を取るなら上手な人がやる、という事は提督は上手なんですか?!」

 

 そうありきたりなリアクションをした後、俺に赤城はこう言った。

 

「歌って下さいっ!!」

 

 そう言って目を輝かす赤城を俺は一刀両断する。

 

「嫌だ。」

 

「えぇー。いいじゃないですか。」

 

「嫌だ。」

 

 俺はぶーぶー文句を言う赤城を無視して炬燵に首まで入った。

 結局、誰かが執務室に遊びに来るまでせがまれたが、誰かが来た瞬間にやめてくれたのはありがたい。多分、言いふらすのは俺が良いと思わないと分かっていたんだろう。

 




 今回から第二章に突入します。それと第二章から変更点が増えました。改行を入れたことですね。それ以外は変わりません。

 第二章に入ってもノリは殆ど変らないので多分「本当に第二章?」と思った方もいらっしゃると思いますが、入りました。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百三十五話  利根と蒼龍と金剛たちと

 大本営で発表をした昨日から無期限の休息期に入った。と言うのも、これまで俺たちが請け負っていたほぼすべての任務を大本営の鎮守府が肩代わりするとの事だった。発表前の時点では、北方海域の哨戒くらいした変わらないと言っていたのに、急にそういう連絡が入った。俺としても困ったものだったが、理由を訊くとどうやら大本営の鎮守府が経験が浅い事が問題になっていたらしく、解放したが残党がチラチラといる取り返した海域の残敵掃討などをするとの事だった。日本近海から順を追っていくという事なので練度を上げる事も同時にするらしい。それと、よっぽどのことが無い限り、横須賀鎮守府は作戦行動をしなくてもよいと言うお触れも出た。

 普通なら喜ぶべきだろう。休みなのだ。だが俺は喜べなかった。大本営は眼中にないのかもしれないが、横須賀鎮守府の様に数多とある鎮守府や泊地には提督が存在しない。そしていつも出撃と言って向かっている先の調査などもしなくていいのだろうか。俺はそんな事を考えていた。考え始めたのはつい最近だが、多分一番問題なのはここだろうと考えている。

 別に俺が勝手に動き出してもいい。だが、面倒なのだ。鎮守府の外での行動になるのは当たり前、そうなると勝手に出来ないのだ。それは大問題だ。

 

「何難しい事を考えておるのじゃ。」

 

 そう俺が考え事をしている最中に話しかけてきたのは今日の秘書艦である利根だ。

 

「色々落ち着いたから考え事をしててな。すまん、なんかあったか?」

 

「いいや、何もないのじゃ。提督の様子がおかしかったから声をかけただけじゃ。」

 

 利根はそう言って伸びをしてぺたんと机に寝てしまった。

 

「あまり仕事はしておらぬが、疲れたのじゃ......。」

 

「そうか。」

 

 欠伸をする利根にそう俺は返し、立ち上がった。椅子を戻して、炬燵の電源を入れて身体を炬燵に収める。

 それを見ていた利根も立ち上がり、こちらに来た。だが入ろうとしない。

 

「どうした?入らないのか?」

 

 そう俺が訊くと利根は俺の腕をおもむろに掴み、立ち上がらせた。

 

「ずっと屋内に居ても仕方ないじゃろう?偶には外にでも行ったらどうじゃ?」

 

 そう言った利根の目は優しい目をしていた。俺はそれを見て言った。

 

「利根は俺の姉貴かっ!......まぁ確かに滅多に外に出ないが......。」

 

 俺がそう言うのを無視してか、利根は別の方に食いついた。

 

「吾輩が提督の姉となっ?!」

 

 俺はやってしまったと思い、そちらに視線をずらす。その先には利根の表情がコロコロと変わっている様子があった。俺はそれを見るなり炬燵から這い出て、執務室を出て行った。たぶんこれが最善の判断だろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務室を出て行っても行く当てもない。私室なら色々あるのだが、生憎執務室からしか私室には入れない。もし私室に入っていたなら俺は俺が逃げ出した状況を掴めていない利根の集中砲火に耐えなければならなかった。それだけは避けたかった。だから廊下に出たのだが、このありさまだ。

 

「あー、行く宛無いなー。」

 

 そう言いながらブラブラと歩き回る始末。本部棟から出ても特にどうという訳では無いので、俺は本部棟の中で俺が行った事のない部屋を見て回る事にした。と言っても見たことのある部屋というのは、普段使われていると表現される部屋がだいたいそうなので、行った事のない部屋となると、使わない部屋になる。

 だがよく考えてみると、この本部棟はいつぞやの空襲で焼け落ちた後、妖精によって立て直されたモノ。今更珍しいものなんてないのは目に見えていた。俺は本部棟を歩き始めて10分で本部棟の中を歩くのを止めた。

 次はどこに行こうかと悩む。何もない廊下で立ち止まっても仕方ないので、休憩用の椅子というか空間に行き、そこで座って悩み始めた。外に出てもさっきの序での様に思い出したが、他の建物も全て空襲で焼け落ちている。今立っているものはそれから妖精によって建てられたものだ。見て回ってもつまらない。

それならどうしようかと考え始める。何かお菓子を作るにしても私室に行くには執務室を通らなければならない。本を読むにしても執務室に置いてある。誰かと話をするなら執務室に居れば勝手に来る。結局、執務室に居なければどうしようもないのだ。

 

「諦めて帰るか。」

 

 そう言って俺は執務室に足を向けた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務室に帰ると未だに悶えている利根が居たので少し放置し、炬燵の電源を入れて足を入れる。そうすると、やっと戻ってきた利根が『はっ!?』と言って炬燵に入ってきた。

 

「温かいのじゃ~。」

 

「そうだろ?」

 

 そう言ってふにゃっとなった利根を見て俺も炬燵で腕を枕にした。

 

「ってぇ!?違ぁーう!」

 

 突然利根はそう叫んで机をバンと叩いた。

 

「吾輩が姉とはどういうことじゃ!?」

 

 利根が俺が忘れたかった話を蒸し返してきた。ここで逃げるにしても利根は戻ってきているし、速攻捕まる自信があったので俺は仕方なく話す事にした。

 

「俺、そうやってよく姉貴に怒られてたんだよ。」

 

 そう言うと『そうか。』とか言ってまたふにゃっとなる利根に俺はツッコミを入れた。

 

「そうか、じゃない。そんなんでよく納得出来たな。」

 

「そう言われてものぉ......吾輩は別に嫌な気、せんかったのじゃ。」

 

 利根はそう言いながらみかんに手を伸ばした。

 

「どういう意味だ?」

 

「提督の姉でも別に吾輩は違和感を持たぬ。19だからの。そうなると、年子じゃな。」

 

 そう言ってみかんを剥きながら笑う利根に俺は冷静にツッコミを入れた。

 

「利根の弟は遠慮しておく。」

 

「なぜじゃ?!」

 

「姉っぽくない。」

 

 そう俺が言うと利根はみかんを口に放り込みながら答えた。

 

「そうかもしれぬが......ぐぬぬ......やはり吾輩がちんちくりんだからかの?」

 

 利根はそう言うので思わず俺は視線を逸らしてしまった。

 

「ぐぬぬぬぬっ!......まぁ良かろう。仕方ないのじゃ。」

 

 えらく諦めの速い利根であった。

俺としては誰が姉の様で誰がいないが妹の様かなんて考えたことも無かった。意識してなかったからだ。それに艦娘としての括りになっていたから猶更だろう。

 

「それにしても暇じゃのぉ......本当に執務はあれだけなのか?」

 

「あぁ。アレが普通の量だ。」

 

「腑に落ちぬ......もっと多いかと思っておった。」

 

「俺もだ。」

 

 そう不毛な会話のキャッチボールをして沈黙に包まれた。

何か話題を見つけて話せればいいが、俺はそこまで話が上手くない。すぐに止まってしまい、今の沈黙に戻ってしまうだろう。

そんなことを考えていたら、突然執務室の扉が開かれた。

 

「提督っ!」

 

 入ってきたのは蒼龍だった。袖をブンブンと振り回しながら俺のところに来て座り込み、炬燵に収まったかと思うとキリッとして俺に言った。

 

「お腹空いたっ!」

 

 多分数秒、俺と利根の思考は止まっただろう。まさか俺のところに来てそんなことを言うとは思いもしなかった。だが、俺はすぐにある事を思い出した。いつぞやの蒼龍が秘書艦の時、朝早くに執務室に来て俺に『腹が減った』と訴えていた事を。

 

「酒保に買いに行ってこい。」

 

 そう言うと機用に座ったまま袖をブンブンと振り回して言った。

 

「やだっ!」

 

 そう言った蒼龍を見て利根が俺に言った。

 

「提督、こやつは吾輩より姉に向いてないと思うぞ?確か、同型艦ではないが飛龍を妹だとか言っておったのぉ。」

 

「あぁ。俺もそう思った。」

 

 そういうやり取りをしているのにも拘らず、蒼龍の耳には入っていないみたいで袖をブンブン振り回していた。

 

「どうして腹が減ったのに俺のところに来るんだ?」

 

「蒼龍よ、みかんならあるぞ?」

 

 俺がそう尋ね、利根はみかんを差し出したが違うらしい。蒼龍は首を横に振って答えた。

 

「何か作って欲しいんです!」

 

「はぁ?......と言うか朝食食べたばかりだろう?」

 

 俺はそう時計を見ながら応える。今の時間は9時20分過ぎくらいだ。今日の朝食はいつも通りの時間だったはずだから、朝食を食べて1時間と少し経った頃だ。

 

「でもぉ......。」

 

 そういう蒼龍に俺は呆れて立ち上がった。

 

「仕方ないなぁ......何が食べたいんだ?」

 

 そう尋ねる俺に蒼龍は即答した。流石の速さに俺と利根はかなり引いたが、蒼龍は気にしてない様だ。

 

「フレンチトーストがいいなぁ。」

 

 蒼龍のリクエストを訊いて俺は唸る。理由は明確だった。

 

「フレンチトーストは時間が掛かるからやめておいた方がいい。」

 

「どうして?」

 

「今から作ったら食べれるのは夕食前くらいだ。」

 

 フレンチトーストは簡単なように見えて奥が深い。食パンを溶き卵と牛乳、砂糖が混ざった液に浸けてから焼くものだが、普通は浸けてすぐに上げて焼く。だがこれは正直言ってフレンチトーストとは言い難いものだ。美味しいものを作るなら液に浸けて数時間放置してちゃんと液がパンに浸み込んだものを焼くのがいいのだ。

自分で食べるならまだしも、人に食べさせるなら美味しいのを作ってやりたいと思っているので俺は却下したのだ。

 

「えぇー!......じゃあ、えぇと......うーん......。」

 

 蒼龍は考え出した。どうやら俺にフレンチトーストを焼いてもらう気満々で来たらしい。却下された時の事を考えてなかったみたいだ。

 

「今、何があるの?」

 

 そう訊かれて俺は有無も言わずに私室の扉を開いて、冷蔵庫を覗いた。

中には醤油などの調味料、卵、牛乳、ネギ、ベーコン、ソーセージ、バター......色々と入っている。昨日、酒保で買い足していた事を思い出した。普段俺が使うものは大体入っている。これなら色々と作れる。それに今朝、足りなくて炊いて余らせたご飯が茶碗一杯半あった。

 

「蒼龍。どれくらい空いてる?」

 

「うーんと、それなり?」

 

「なんだよ、それなりって......。」

 

 俺はそれなりと答えた蒼龍なら食べれるかと思い、余らせていたご飯やら色々と出した。

ご飯、バター、牛乳、チーズ、ネギ、ベーコン、塩、コショウ、あらびきコショウを並べて手を洗い、鍋を出した。

 

「何でご飯と牛乳?」

 

 そう首を傾げる蒼龍を尻目に俺は調理を始めた。

蒼龍には悪いがこれ以外のメニューは思いつかなかったのだ。卵かけご飯でも出してやればよかったが、一回冷えたご飯で卵かけご飯をやるのは美味しくない。色々ある中で、少し腹に溜まるものをと考えて思いついたのがこれだけだったのだ。

 

「今更だが、蒼龍は牛乳大丈夫か?」

 

「えっ?大丈夫だけど?」

 

「そうか。」

 

 俺は確認を取ってネギをみじん切りに切る。そしてベーコンも同様にみじん切りにして、鍋を温める。

鍋が温まったらバターの塊を放り込んで、溶け切るまで熱する。

 

「何作るの?」

 

 そう訊いてくる蒼龍に答えた。

 

「リゾットだ。」

 

「リゾットとはなんじゃ?」

 

 利根も疑問に思ったらしく、訊いてきた。

 

「リゾットは米を使ったイタリア料理だ。日本で言う雑炊みたいなものだな。」

 

 そう答えつつも俺は手元を休めない。温まって溶けたバターにみじん切りにしたベーコンとネギを投入して、ネギの色が変わるまで火にかける。

ネギの色が変わるのを確認したら、計った牛乳を投入した。

 

「ほいっと。......少し放置。」

 

 そう言ってまな板と包丁を洗って、干して少ししたら鍋の加減を見る。

 

「同時進行......。」

 

「何とっ......。」

 

 後ろでそんな事を言ってるが俺は気にしない。

鍋の牛乳が沸騰を始めてきたら弱火にしてご飯を投入して混ぜる。そしてまた数分間放置。

 

「んで、利根は食べるのか?」

 

「くれるのか?くれるのなら有難く頂こう。」

 

「そうか。」

 

 俺は確認を取って皿を2枚出しておいた。そして使わない調理器具を洗い、干して鍋を睨む。

タイミングを逃すと少し焦げるのだ。焦げると美味しくないのでそれの監視だ。

 

「日本の雑炊みたいなものって言ってたけど、似ても似つかないね。」

 

「そうじゃな。牛乳では作らんだろうに。」

 

 そう後ろで会話を繰り広げる蒼龍と利根に内心で『当たり前だ』とツッコミを入れてから鍋のなかを混ぜ、牛乳がトロトロとしてきたのでチーズを入れて再び混ぜる。

チーズが溶け切ったのを確認すると塩とコショウを振ってから小さいスプーンで味を見る。気に喰わなかったらまた塩コショウをして、満足いく味になったらそれを皿に分けた。そして最後にあらびきコショウを振って蒼龍と利根に椅子に座るように言う。

 

「出来たから椅子に座れ。」

 

「「はーい。」」

 

 俺の指示にすぐに従い、座ったんのを確認するとそれぞれの前に出した。何もないと食べれないのでフォークも出し、俺は片づけを始める。

 

「食っていいぞー。」

 

 それを訊いた蒼龍と利根はフォークを手に取り、リゾットを食べ始めた。

鍋やら箸を洗いながらだったが、後ろで何か言いあいながら食べているので不味くはなかっただろう。牛乳を大量に使うリゾットは牛乳のクセや独特の匂いが熱することによって増長するので嫌な人もいるのだ。後ろの会話を訊いている限りどちらも問題ないみたいだ。

 鍋を洗い終わり、調理器具を拭いて元の場所に戻し終わると丁度食べ終わった様だった。

 

「ごちそうさまでした。」

 

「ごちそうさまであった。」

 

 そう言って手を合わせているところを見たのでいいタイミングだったみたいだ。

 

「お粗末様だ。皿を持ってきてくれ、洗うから。」

 

 有無も言わさずに俺は皿を洗い始めて、すぐに干すと手を拭いてから私室の換気扇を点けて執務室に戻った。

その時、同時に蒼龍と利根も執務室に戻るように言って追い出した。何も言わなかったら延々と居座る様な勢いだったからだ。

執務室で俺が炬燵に入ると、利根と蒼龍も入ってきて蒼龍が俺に言った。

 

「提督。」

 

「ん?」

 

「オムレツの時も思ったんですけど、どうして提督は料理が出来るんですか?テレビとか見てるとイマドキの若い人は料理はからっきしだって......。」

 

「あぁ。俺は両親から一通りの家事を叩きこまれてるからな。というかこれは前も言ったぞ?」

 

「そうでしたっけ?」

 

 俺はみかんに手を伸ばしながら蒼龍の疑問に応える。

 

「男の子なのに?」

 

「あぁ。男が料理しててもなんら不思議じゃないだろう?」

 

「そうでしょうか?」

 

 俺はみかんを剥いて口に放り込みながら応える。

そんな姿を見て利根が言った。

 

「オムレツの時は半信半疑じゃったが、今回のでハッキリしたな。」

 

「そうか。」

 

 俺は適当に流してみかんをつまんでいく。その刹那、執務室の扉が開かれた。

 

「ティータイムですよー!」

 

「お茶にしましょう!」

 

「司令っ!執務が終わった頃だろうと思いましてお茶の......。」

 

 そう言って入ってきたのは金剛型四姉妹だった。

 

「ヘーイ!提督ぅー!ティータイ......スンスン......熱した牛乳の匂いがするデース。」

 

 最後に入ってきた金剛がそう言った。

 

「それはだな、さっき提督がっ......ムグムグ......。」

 

 俺は慌てて利根の口を塞いで苦笑いをする。

 

「ティータイムの誘いか?俺は別に構わんが?!」

 

「ムグムグッ!!」

 

 利根の口を押えながら俺は押し切ろうとするが、ダメだった。相手は金剛だったからだ。

 

「何か作ったデスカ?」

 

「ムグムグムグムグッッ!!」

 

 利根の口を必死に抑えるので精いっぱいだった俺は蒼龍を警戒していなかった。

 

「あぁそれはですねー、提督にリゾットを作って貰ったんですよー。」

 

 にっこり笑う蒼龍はとんでもない爆弾を落としていった。

それを訊いた金剛たちはズカズカと俺の前に来て言う。

 

「「「「私にも!!」」」」

 

 そう言って来た金剛たちに詰め寄られ、利根の口を離してしまい、俺は壁際まで追い詰められた。

 

「あー、そのだな......。」

 

「私も食べてみたいですっ!」

 

「司令っ!私もっ!」

 

「私も気になりますっ!」

 

 俺は苦渋の言い訳をした。

 

「もう冷蔵庫の中身を使い果たしたんだ。また今度な?」

 

 そう言うと遠くから金剛の声がした。方向的に私室の方だ。見てみると扉が開いていて金剛がひょっこり顔を出している。

 

「冷蔵庫の中、まだいっぱい入ってマスヨ?」

 

 俺の退路が絶たれた。もう作るしかないのか、そう思った矢先、俺はある事を思い出した。

艦娘とて女の子だ。それも人間がそう言ったとは言え、艦娘の年齢的に気にするものがある。それはカロリーだ。俺はよく考えてないが、多分カロリーとか考えているだろう。

それを武器にする。

 

「といってもリゾットはなぁ......。」

 

「どうしてですか?」

 

 食いつきやすいだろうと思った比叡は案の定、食いついてきた。

 

「カロリーが高いんだ。間食するには重い。」

 

「がーん!」

 

 遠いところで蒼龍がそう言っているのが聞こえた。そして目の前の比叡たちもじりじりと後ろに下がっている。

 

「さぁ、どうする?さぁ!」

 

 じりじりと俺は前に進んでいった。そうすると金剛が答える。

いつもなら笑っているが、今はしゅんとした表情だ。

 

「諦めマース。また別の機会に......と、いう事でティータイムに行きまショー!」

 

 そう言われ俺は比叡に捕まり、序での様に利根と蒼龍も連れて行かれた。

ティータイムはやっぱり甲板上で、いつものように始まる。太陽は温かいが、吹く風は冷たい。温度差があるところに紅茶を飲むことで更に温度差が開く。

俺と蒼龍、利根、金剛たちは昼になるまでそこでティータイムをした。

 話す事等無いように思えて結構ある。絶えず会話は続き、楽しいティータイムになった。

 




 前回のは諸事情により更新できませんでした。すみません。

 という事で今回も平和な内容でしたね。蒼龍がいると安定すると自分は思ってます。金剛たちもいますが、落ち着いているのでほのぼのとさせました。
 それと、作中のリゾットのレシピですが、かなり短縮させたのを書かせていただきました。あてにしないで下さい。

 活動報告を投稿させていただきました。是非、ご覧ください。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百三十六話  遠征艦隊と話して、瑞鶴と話して

 俺は執務が終わると今日の秘書艦である瑞鶴を連れて、埠頭に居た。

何故、埠頭に居るかというと、滅多に会わない遠征艦隊と話をするためだ。大本営の鎮守府がいくら出撃任務をしているとはいえ、資材は溜めなければならないので遠征艦隊にはずっと遠征に行ってもらっている。

 第六駆逐隊の練度が改造可能に達するまでは遠征艦隊に入れていたが、入れ替わりで待機だった第七駆逐隊や、ずっと遠征をしている陽炎型とはあまり話をしてないのだ。今日の遠征は1回で止め、話をしようと思い立ったのだ。

 だが、横で俺と一緒に待っている瑞鶴は少し不機嫌だった。

 

「ねー提督さん。」

 

「何だ?」

 

 俺は埠頭から海を眺めていると瑞鶴が話しかけてくる。

 

「執務室からでも埠頭は見えるし、別にここで待ってなくてもいいんじゃない?」

 

 そう言うのだが、俺が何故埠頭で待つのか、理由がちゃんとあるのだ。

 いつぞや利根に偶には外に出ろと言う様な事を言われたので、それも兼ねている。外の空気を吸い、外を感じているのだ。

 

「外で待ってたいんだ。なんなら瑞鶴だけでも戻ってるか?」

 

 そう言うと更に瑞鶴は不機嫌になる。

 

「いいもん、別にっ!......と言うか結構前に頼んでた瑞鶴のお願いはどうなってるの?」

 

 瑞鶴はそう言いながら腕を組んだ。瑞鶴のお願いというのは多分、翔鶴を進水させてくれという事だ。運動会の景品で俺に頼んできたことだ(※第五十三話参照)。

 

「上手くいってない。翔鶴が進水してないので分かるだろう?」

 

「そうだけど......。」

 

「特に最近は空母レシピでも空母が出る事が無いんだ。」

 

「そうなんだ。」

 

 俺はそう言いつつも海を眺めている。ゆらゆらと揺れる水面は太陽の光を反射していて、とても綺麗だ。

海に反射している光の中に黒いシルエットが浮かび上がってくる。何かとぼーっと見ているとそれは次第にはっきりと目に映りはじめ、それが艤装だと分かった。

 

「帰ってきたな。」

 

 どんどんと近付いてくる艤装が埠頭に接岸すると、艦娘たちが降りてきた。

 

「提督じゃないか。どうしたんだ、一体。」

 

 そう話しかけてきたのは最近、輸送任務で艦隊の旗艦をしている木曾だ。先任の天龍から引き継いでいる為、天龍以外のメンバーはそのままだ。

 

「遠征に出てる艦隊に連絡があってな。今日の遠征任務は終了だ。」

 

「そうか。了解だ。」

 

「聞き分けが良いんだな?」

 

「そりゃな......。お前がそう言うならそうするさ。」

 

 そう言った木曾は全員を並ばせた。

 

「こいつらを引っ張ってきた天龍には頭が上がらないな。」

 

 突然そう切り出した木曾に俺は首を傾げる。

 

「どうしてだ?」

 

「やんちゃ、お転婆、なんだよ。それに加えて、龍田は俺に手を貸してくれるが、一応俺に指導する立場でもあるからあまり口出しをしてこない。だから俺はこいつらの面倒に四苦八苦という訳だ。」

 

 そう言って木曾は朧の頭に手を置いた。

 

「私はお転婆じゃないです。お転婆なのは漣と曙で、私と潮は巻き添えです。」

 

「そうだったな!」

 

 木曾は朧の発言に笑い、不満そうに木曾を見つめる漣と曙。

 

「アンタねぇ!私たちの方が輸送任務の経験は長いのよ!」

 

 そう木曾に抗議する曙に潮が『やめなよ~』という。

 

「そうかもしれないが、俺は軽巡だ。水雷戦隊を組むのなら駆逐艦のお前らじゃなく、俺たち軽巡を旗艦にする。そうだろう?」

 

「そうだな。」

 

「だから俺は旗艦としての経験を積むためにこうして編成されたんだ。俺が編成されてそう感じているのなら、そう言う事だ。」

 

 木曾はそう解釈していた様だが、あながち間違いじゃないかもしれない。俺は教育というかそういう事に関してはからっきしだったので、艦娘の、特に駆逐艦の艦娘への常識の補填などの事は考えていない。

そもそも俺の前によく現れる駆逐艦の艦娘は全員が大体の礼儀や何かは心得ていた。そもそもそんな必要性をはなっから感じていなかったのかもしれない。

 

「私の方が先輩なんだから、多くの知識と経験は私に勝ってないわ。アンタなんて私からみたら進水したてのひよっこよ!」

 

 そう言い放つ曙に木曾は顔色一つ変えずに答える。

 

「その通りだな。俺はまだひよっこだ。だが、お前が俺に輸送任務に関して助言できたとしても、旗艦としての心得を手解く事は無理だ。経験が無いんだろう?」

 

 全く持ってその通りだ。俺は基本的に駆逐艦を旗艦にする編成はレベリング時以外ありえない。あくまで護衛役か夜戦戦力などに使うだけだからだ。

 

「それはクソ提督の采配よっ!いつもいつも軽巡と戦艦、空母しか旗艦にしない上、駆逐艦なんて少数しか前線に出ないじゃないっ!」

 

「それが提督の戦略方針だから仕方ない事だ。」

 

「そんな事分かってるっ!だけど長い間キス島の攻略に手古摺って延々と資材を浪費していたのはどこのどいつよっ!私たちが集めてきた資材が湯水のように無くなっていく様は怒りを覚えたわっ!」

 

 曙はそう言っているが、間違いではない。

今は無いが、富嶽による爆撃でキス島を強行奪還するまでは軽巡と駆逐艦で出撃させていた。だが何度挑んでもダメで、道中に撤退は常だった。俺の小破、中破撤退や、ダメコンを乗せない事が理由で進軍できなかったのだ。

 まさかその時の資材の使い道に遠征艦隊の艦娘にそんな風に思われていたなんて思いもしなかった。

 

「すまなかった。」

 

 俺はそう曙に言った。俺自身、曙の言っている事は正しいと分かっていたのだ。

それに俺の基本戦術に関して疑問を持つのも当然だ。効率が悪いのと、時間が掛かるのは分かっているのだ。その分、資材が浪費されることも。

 

「本当よ、このクソ提督っ!いい加減、戦術やらを学びなさいっ!」

 

 そう言い捨てた曙はフンと鼻を鳴らしてそっぽ向いてしまった。

 

「すみませんご主人様。曙ったら......。」

 

 俺のイメージに無くそう漣が言うが、俺は別にいいとだけ漣に言った。

潮はそんな曙を怒っているが、別に本当に怒っているという訳では無く、『ダメだよ曙ちゃん。そんな事いったら。』という具合だった。朧は何も言わずにただ、待っているだけ。

そんな状況に後ろから声を上げて歩いてきた人がいた。

 

「おい木曾。」

 

 天龍だった。何故ここに居るか知らないが、顔を見ればすぐに分かる。怒っている。かなり。

 

「なんだ?」

 

「曙、借りるぞ?」

 

 そう言った天龍は木曾の有無も聞かずに曙を連れて行った。抵抗する曙を力づくで抑えつけ、天龍は曙を引きずって行ってしまった。

その姿を見ていた龍田が俺に言った。

 

「提督?あまり気にしちゃ駄目よ?」

 

 そう言って龍田は木曾に声を掛けると木曾が号令を出した。解散だ。

そしてその場に木曾が残り、俺に話があると言った。

 

「どうした?」

 

「お前が遠征艦隊に俺を天龍と交代で入れた理由って、アレか?俺が第二次改造で姉貴たちみたいになるっていう......。」

 

「その通りだ。だが、苦戦しているみたいだな?」

 

「まったくだ。」

 

 そう言って木曾はせっかく休みが出たから休んでくると言ってそのまま戻って行ってしまった。この場に残っているのは朧と漣、潮だった。

 

「提督。曙の事は悪く思わないで欲しい。」

 

「曙は口が悪いだけなので、ご主人様っ、気にしないで下さいっ!」

 

「後で耳にタコができるくらい言っておきますから......。」

 

 壮絶な曙抜きの第七駆逐隊からフォローが入った。どうやら俺が曙の評価を下げるのではないかと思ったみたいだ。

 

「俺は気にしてない。曙の言う通り、だったこともあるかもしれないしな。」

 

 そう言って俺は朧たちを見送ってその場に留まる。まだ遠征艦隊は帰ってきてないのだ。

俺がまた海を眺めはじめると、瑞鶴が声をかけてきた。

 

「流石にあの娘、口が悪すぎると思うんだ。」

 

 俺が無反応であるにも関わらず、瑞鶴は話し続ける。

 

「提督さんにクソ提督って......提督さんはどうも思わないの?」

 

 そう訊いてきたので俺は答えた。

 

「どうだろうな。クソって言われるのは嫌だけど、クソ提督って呼ぶのが曙っていう艦娘だろう?」

 

「そうね。」

 

 そう言ったら後ろで瑞鶴が消え入りそうな声で言っている言葉が聞こえた。

 

「あの娘、殺してやろうかしら。」

 

 その時の瑞鶴のオーラに圧倒されて何も言えなかったが、殺してやるのは流石に不味いので俺は止めた。

 

「それはやめろ。俺の艦隊の艦娘で貴重な戦力だ。」

 

「聞こえてたの?......まぁいいわ。だけどあまり酷いと私も我慢できないかも。さっきのでも結構限界だったから。」

 

 そう言って笑う瑞鶴だが、さっきまで何も言わなかったのはそう言う理由だったみたいだ。

 

「頼むから止めてくれよ?」

 

「うん。」

 

 俺はそう瑞鶴に言って、また海を眺めはじめる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 次に帰ってきたのは強行偵察艦隊だ。球磨、多摩、磯波で編成されている。

 

「お帰り。」

 

 そう俺が埠頭で出迎えると、球磨は少し驚いた顔をしてみせた。

 

「珍しいクマ。提督がこんな所にいるなんて。」

 

「たまにはいいだろう?」

 

 そう言うと、球磨も多摩と磯波を並ばせた。

 

「ここに居るって事は何か話があるクマ?」

 

「あぁ。といっても少し話をして、今日の遠征任務は終わりだがな。」

 

「そうクマ。」

 

 結構淡白な球磨に少し戸惑いつつも俺は色々聞いてみた。

 

「そう言えば、球磨たちの練度はもういい頃合いだな。」

 

「そうにゃ。あとちょっとで20になるにゃ。」

 

 俺は少し腕を組んで考えた。

改造可能練度に達したら、遠征艦隊から外して出撃要員にしようかと考えた。だが、後継者がいない。軽巡は多いように思えて案外少ないのだ。

 

「改造まであと少しだな。頑張れ。」

 

「分かってるクマ。」

 

 球磨たちはそういう話を終えると、遠征先であったことを話してくれた。強行偵察艦隊として武力行使をしつつ偵察する任務を負っている彼女たちだからこその話だろう。

一度、別の鎮守府の艦隊を見かけたりだとか、戦闘を目撃する事があるらしい。遠目からの観察らしいが、ウチの鎮守府と同じような感じで戦闘を繰り広げられているらしい。噂だと何処に行ってるか分からない他の鎮守府の艦隊も一応、戦闘をしているとの事。だが、それはどうやら南西諸島や、北方海域、西方海域に限定されるらしい。

 

「ありがとう。球磨たちはもう今日は休んでくれ。」

 

「分かったクマ。」

 

 ひとしきり話をした後、球磨たちと別れたが俺はまだ埠頭に居る。まだ遠征艦隊が戻ってきてないのが1つあるのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 最後に帰ってきたのはボーキサイトの輸送任務をしている名取たちだった。

 

「おかえり。」

 

 俺はそう出迎えた。

彼女たちの艤装にはドラム缶が積まれており、そこにボーキサイトが入っている様だ。

 

「あっ、提督さん。お疲れ様です。」

 

「司令官がお出迎えだなんて、うれしいわ!」

 

 そう言っている名取と長良の後ろでドヤ顔で陽炎たちが立っていた。ニヤニヤしている。

 

「司令っ!拾ってきたよ!」

 

「拾ってきました。」

 

「落ち取ったんやで。」

 

「そんなに欲しかったの?でも結構溜まってきてるよ?」

 

 そう言う陽炎たちの手には家具コインが握られていた。

俺が名取たちに遠征に行ってもらってるのはボーキサイトを一度に大量に運んでこれる遠征任務だ。ボーキサイトの消費が激しいのでずっと行って貰ってるが、その遠征は家具コインももらえるのだ。だからこうして偶に家具コインを持って帰ってくる。

 

「ありがとう。」

 

「どういたしまして!これが欲しいってのは分かってるからねっ!」

 

 陽炎はそう言って笑った。他の不知火や黒潮、秋雲も笑っている。

見た感じ疲れてなさそうだが、分からない。こうやって資材を大量に持って帰ってくる遠征はドラム缶の積み込みと、荷下ろしが大変だと前に誰かから訊いたのを覚えていたので、あまり引き留めるのも抵抗があった。

残念だが、木曾や球磨に任せている艦隊みたいに長い時間話をしている訳にもいかなかった。

 

「そうか。......名取。」

 

「はいっ!」

 

「今日の遠征はこれでおしまいだ。あとは休んでてくれ。」

 

「分かりましたっ。」

 

 そう言うと趣旨が伝わっていたみたいで、足早に全員を連れて戻って行った。経験がものを言うなと思いながらそれを見送って俺は瑞鶴に言った。

 

「瑞鶴。付き合ってくれてありがとう。俺たちも帰るぞ。」

 

「いいって。さっ、帰ろっか。」

 

 俺は瑞鶴と一緒に歩き出した。執務室に戻って、何をする訳でもないがいなくてはならない。艦娘たちが訪れてくるのは分かっているからだ。

 

「ねぇ、提督さん。」

 

「なんだ?」

 

 歩きながら瑞鶴が話しかけてくる。

 

「最近、大井と私が組むこと多いけど、この前の大規模作戦のあとに大井が叫んでたアレ?」

 

「あぁ。何でも早く改二になりたいんだと。」

 

「成る程ねー。」

 

 そう言って唇を尖らせた瑞鶴はどうやら拗ねたらしい。

 

「瑞鶴の練度は改二には程遠いぞ?」

 

「分かってるよ!でも、試製甲板カタパルトは欲しいわ。」

 

「勲章を取るにはまだ練度と経験、装備が無いから無理だ。」

 

「それは......まぁ、そうかもしれないね。」

 

 そんな事を話ながら執務室に帰ると、炬燵に艦娘が数人収まっていたのを見て俺と瑞鶴が固まったのはもう恒例だ。

大体、秘書艦と俺が何か用事で執務室から出ていると、遊びに来た艦娘がそこで温まっているのだ。今日は時雨と夕立。由良だ。

その3人の相手をしつつ、瑞鶴が艦載機の運用とかを訊いてくるのでそれに答えていた。

 瑞鶴曰く、瑞鶴の航空隊には彩雲がいないらしい。やはり良い装備は一航戦に回しているから、そうなっても仕方ない。だが瑞鶴は良く調べている。倉庫で使われていない流星などがある事を知っていた様だ。

改装してやるからとあしらって今日は過ごした。

 




 ギリギリ間に合ったっ!(←6時半に書き終えた人)
寝落ちして早く起きたから書いてましたが、普通に間に合いました。

秘書艦なんかは残している人数が少ないくらい回ったと思いますので、なんか登場回数が会わないっていう艦娘も出てくるかもしれませんが、ご了承ください。

 ご意見ご感想お待ちしてます。

 と、その前に。イベントの事を本編に書くつもりが無いのでここで知らせておきますね。
 やっと大淀が手に入りました。どうやら大淀掘りが流行ってるらしいですね。簡単に手に入りました!
 という事で、どこかで任務嬢から格上げされた大淀が出てくる予定です。


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特別編   Valentine's Day

 昨日、今日の秘書艦を決めるクジが白熱していた様だ。いつもならわいわいとやっているものだが、叫び声、鳴き声などが聞こえてくる。普段、秘書艦のクジは夕食後の食堂で引いているのだ。勿論、夕食後なら俺も食堂に居る訳で、次の秘書艦が誰か把握している。

それは置いておいて、昨日のクジは何時もと違っていた。

 

「何だったんだよ、昨日のは。」

 

 俺はそう言いながら執務室で肘を突いていた。時刻にして6時20分。すぐに食堂に行かなければならない時間だと言うのに、秘書艦が来ない。

 

「と言うか遅いなぁ......。」

 

 待てど全然来ないので俺は立ち上がり、執務室の扉を開いたその時、目の前に今日の秘書艦が立っていた。

 

「何でこういう時に引いちゃうのよ......。」

 

「やっと来たのか?」

 

 今日の秘書艦は大井だった。大井ならかなり早めに来るタイプだと言うのに、珍しい。

それと俺には大井の第一声は聞こえていない。

 

「おはようございます、提督。」

 

「おはよう。来て早々悪いが、すぐに食堂行くぞ?」

 

「あっ、はい。」

 

 俺は扉を締めると大井の横を通り過ぎ、食堂へ急いだ。

 食堂はいつも通りワイワイとしていたのだが、それは俺が入ってくるまで。俺が入った途端、静まり返り、全員がこっちを見ている。

俺は何の事だが分からずにそのままトレーを持って間宮に頼みに行った。

 

「おはようございます。」

 

「おはよう。いつも通りで。それと今日はどうしたんだ?」

 

「中華以外ですね......ふふふっ。そのうち分かりますよ。」

 

「はぁ?よく分からないけど......。」

 

 俺はそう言って席に着くと、妖精たちが朝食を運んでくる。

今日は洋食になった様だ。と言ってもこの頃は間宮は洋食に和洋を入れ替えて出してくれる。飽きが来ないし、有難い。

 

「いただきます。」

 

「いただきます。」

 

 俺と大井は手を合わせて朝食を食べ始める。俺の横は日ごとに変わるので、誰が据わってようが気にしない。煩いのも居れば静かなのもいる。大井は静かな方だ。だが、俺の知っていた大井なら煩い筈だ。『北上さん、北上さん』と連呼し、脅迫され、作戦が悪いだのなんだのいちゃもんをつけて来て、態度の悪いのが普通なのだ。

 

「......(無言でご飯食べてる)」

 

 やっぱりこうやって無言でご飯を食べられたら調子が狂うというか、多分、ここに来て一番インパクトがあったのは大井のこれだろう。俺の視界には北上もいる。近くで座ってご飯を食べているんだが、大井はそれに反応せず黙々とご飯を食べていた。

 

「なぁ、大井。」

 

「ん......何でしょう?」

 

「北上がいるけど、そっちに行かなくていいのか?」

 

 そう訊くと、大井は溜息を吐いた。どうやら違うようだ。

 

「北上さんならいいんです。姉妹艦ではありますが、親友みたいな関係ですし......ですけど、ずぼらなところもあるので面倒を見なくてはいけませんが......。」

 

 そう顔色一つ変えずに答える。

 

「そうなのか。」

 

「はい。......それに今日は提督の傍を離れる訳にはいきませんからね。」

 

「秘書艦だもんな。」

 

「はぁ......。」

 

 俺を残念な人を見るような目で見た後、黙々とご飯を食べる大井に少し戸惑いつつも俺はご飯を食べ終わった。

 

「あっ、待ってください。私、食べ終わってないです。」

 

 そう言いながら慌ててご飯を書き込んだ大井は立ち上がり、俺の横にトレーを持って立った。

 

「ん?まぁいいか。」

 

 俺は戸惑いが増長しつつも気にせず食堂を後にした。

執務室に向かう道中、大井は何かに警戒している様に歩いていたのでなんだろうと思っていたが、別にそれは今日に限った事ではないので放置しておくことにした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 この提督。どうやら気付いてないみたいですね。

今日はバレンタイン・デイ。女の子、もとい艦娘たちが何もせずにいる訳がありません。多分、食堂に入った時点で突撃をしようとしていたのが数人いたので威嚇しましたが、もし1人で入っていたら猛攻に遭っていたこと間違いなしです。

 赤城さんたち、古参組や主力として前線に出ずっぱりな方たちは何を考えているのか分からない事が多いですが、それ以外なら何を考えていて、何をしようとしているのかは大体分かるんですよね。

駆逐艦たちやかつて『近衛艦隊』として居た方々は日頃から『提督への感謝が絶えない』とか言い続けているし、私自身鎮守府という設備自体が良いものではないと感じていましたが、全くそうではなかったんです。

 疲労を無視した連続出撃や傷を負っても長時間放置、捨て艦と呼ばれる戦法、提督との連絡が途絶えた鎮守府は衰退し、荒れ果てる。そうだと思い込んでいました。ですがこの鎮守府に進水したら違ってました。艦娘の事を考えた出撃、かすり傷でも入渠でき、捨て艦なんて以ての外で小破でも撤退、鎮守府は繁栄していてすべての施設が巨大で充実していました。こんな鎮守府があるのか、そう思いながら生活していると皆、口を揃えて『提督が良くしてくれた』と仰るのです。

 確かに、そうなんです。私も満足してます。こんな生活は他の鎮守府に進水していたら夢にまで思うでしょう。

だから、猶更、バレンタイン・デイには何もしない訳にはいかないんです。

 日頃の感謝、気持ちを伝えるべく、そして提督と話をするために艦娘たちが何もしていない訳がありません。ですけど私の横で呑気に歩いている提督はいつもと様子が変わらないのは何ででしょう。

 

「執務の書類は?」

 

 提督は執務室の前に着くとそう私に訊いてきました。

 

「朝持ってきてましたよ?」

 

「そうか。なら早速始めて、炬燵に入る。」

 

 噂で聞きましたが、最近の提督は執務が終わるとすぐに炬燵に入るらしいんです。いつも難しい顔というか、怖い顔をしている事も多い提督ですが、その時は何というか年相応という感じらしいんです。私もそんな提督を見てみたいと思ってますけど、それどころではないんですよね。

 こうして私が提督の傍をぴったりくっついて離れないのには理由があるんです。

それは......。

 

「ヘイッ!提督ぅー!!バーニングっ......」

 

「はいはい、今は執務中ですから出て行ってくださいねー。」

 

 こうして執務室に強襲をしてくる艦娘たちから提督を守る為です。

この鎮守府にいるだけの艦娘全員が、こうして強襲してくるはずですのでこうやって安全を確保しているんですよね。提督の事になって暴走するのが艦娘ですから、多分見境なく動くと思うんです。

 何故、こんな事を考え付いたかというと、私の特性です。『提督への執着』が無い私だからこそ、考える事が出来る事でした。

 

「なっ......今、金剛来たよな?」

 

「いえっ!来てないですよ?!」

 

 私はそうやって誤魔化しながらあと12時間位過ごさなくてはいけないんですね......。先が思いやられます。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺が執務室で執務を初めてから終わらせる約1時間の間、秘書艦の大井は忙しそうに扉と俺の近くを行き来している。何があるのだというのだろうか。

そもそも、大井が扉の方に行く度に誰かしらの声がする。誰かが来ているのではないだろうか?それなら意地悪せずに入れてあげればいいのものの、何が嫌なのだろう。

 大井は『提督への執着』が極端に少ない異例の艦娘だ。だから俺も少し期待している事がある。『提督だから』とかじゃなくて、大井は俺を1人の人間として見てくれているのではないかと考えている。他の艦娘は俺をそういう風に見ているように見えて仕方ないのだ。俺自身を見ていると、そう考えている。

 

「あ"-。終わった。」

 

「お疲れ様です。」

 

 俺が最後の書類を書き終えると、大井はそう言って積み上がった(※と言っても1mmもありません)書類を見ると、執務室から出て行こうとする。だが途中で立ち止まり、こちらを向いて言った。

 

「一緒に、行きませんか?」

 

 突然言われ、俺の思考回路がショートしかける。先ず、これまでの秘書艦がそんな事を言った試しがない。そしてそれを初めて言ったのが大井だという事だ。

あり得ない。俺はそう思った。だが、大井が変なのは進水した時からだ。今に始まった事じゃない。俺はソレの回答をした。

 

「分かった。」

 

 何も羽織る事無くそのまま立ち上がり、俺は大井を連れて出て行こうと扉を開くとそこには鎮守府中のと言えるくらいの人数の艦娘が押し寄せてきていた。

見晴らしの良い窓も、廊下だって全く見えないくらいだ。

 

「えっと......あ、あはははっ。」

 

 俺は取りあえずそれを見て笑うと、大井が俺の袖を引っ張り、そのまま艦娘の壁を乱しながら進んで行った。

艦娘とぶつかるのを繰り返して数十回。艦娘の壁を乗り越えた後、そのまま大井に『走りますよ』と言われてそのまま走り出す。何故、こんなことになっているのか分からないが、そうしなければいけないと思い、俺は走り出した。

 本部棟内をひとしきり走り回ると、誰も見てないのを見計らって本部棟を飛び出し、すぐに物陰に入った。

息を切らせながら大井が物陰から本部棟を睨んでいたので、どうしたのか尋ねた。

 

「どうしたんだ?」

 

「ハァハァ......どうしたもっ......ないですよっ......。......このまま、色々経由しながら事務棟に向かいますからっ。」

 

 そう言う大井の本意には俺は気付かない。

 

「分かったから、取りあえずここから出ようか。」

 

 今いるのは本部棟を出てすぐにある林の中だ。

 

「いえ、このまま林伝いに事務棟を目指します。」

 

「何故だ?」

 

「まぁ、そんな気分なんですよ。」

 

 俺は大井がそうしたいならとそのまま林を進んだ。

林の中は案外ちゃんとしていて、うっそうと生い茂っているという感じは見受けられない。管理の行き届いたものだ。と感心しながら歩いていると、いつの間にか事務棟に到着し、また林の中を通り抜けて本部棟まで戻ってきた。

そして、俺と大井は本部棟から出てきた時と同じ場所に居た。

 

「なぁ。」

 

「はい。」

 

「どうしてそこから入り口を見ているんだ?」

 

「そりゃ......いえ、何でもないです。」

 

 大井はしきりに入り口を気にしている。さっぱり分からないが、隠れながら進むなら俺は都合の良いところを知っていた。

 

「隠れながら執務室に帰りたいのか?」

 

「えっ?......まぁ、そうですけど......。」

 

「ならいいところを知っている。」

 

 そう言って俺は内ポケットから紙を出した。普段持ち歩いているものだが、何故持ち歩いているかというと、金剛にしつこく持てといわれて持っているものだ。話によれば、隠し通路の入り口など、色々な事が書いてあるらしい。

 中を開いてみると、確かに本部棟の地図にあちこち線が引いてあり、出入り口のところには印をつけてあった。

 

「これ、何ですか?」

 

「金剛から貰った。まぁ、これを使わせてもらおう。」

 

 そう言って俺は地図を見ながら隠し通路に入っていった。

隠し通路の中は薄暗ければよかったのだが、真っ暗だった。入り口から入って、入り口を締めると途端に真っ暗になった。

 

「きゃっ!!」

 

 大井が暗くなった途端にそう叫ぶものだから俺も驚いたが、すぐに携帯端末のライトを点灯させて大井の足元を照らした。顔を照らすとまぶしい思いをするからだ。

 

「大丈夫か?」

 

「えぇ......それにしてもここは何ですか?」

 

「隠し通路らしい。これで執務室まで行ける。

 

「そう、なんですね。」

 

 俺は携帯端末を胸ポケットに入れて地図を見ながら歩き出した。進行方向は照らされていて見えているが、手元は薄暗く、なんとか見えるという具合だ。そして地図を見ながら歩く俺の背中にぴったりとくっついている大井は『まだですか?』と何度も聞いてくる。どうやらこういうのは苦手らしい。

 

「もう少しで......よっ、と。」

 

 俺は執務室の壁に隠されていた入り口を押し開けて、執務室に入った。今まで暗いところに居たためか、目が慣れずにいると次第に慣れはじめ、何時もの様に見え始めた。そこは、いつもの執務室だ。

 

「はぁ......。」

 

 俺は炬燵の電源を入れて入ると、大井も炬燵に入ってきた。

 

「どうして、俺を連れて?しかも他の艦娘から隠れなくても良かっただろう?」

 

 そう訊くと大井は溜息を吐いた。

 

「はぁ......。いいですか?」

 

 大井はそう言うと話し始めた。

 

「提督の執務の邪魔をして欲しくなかったのと、色々と面倒事が起きるからですよ。」

 

 そう言って大井はみかんを手に取った。

 

「面倒事って?」

 

「艦娘たちが見境なく提督に突撃する事が予想されていたので、それが面倒事ですかね。」

 

 俺もみかんを手に取り、剥き始めた。

 

「そうか。」

 

「まぁ、私は目つきも悪いですし感じ悪いとよく言われるので人払いには丁度いいんです。」

 

 そう大井は遠い目をしながら言った。

その目はどこか悲しそうに思えた。

 

「感じ悪い?そりゃないな。」

 

「何故ですか?」

 

 俺は思ったことを口にした。

 

「目つきが悪いのは、まぁ......北上関連だろうからいいだろうけど、感じ悪い事は無いと思う。何故なら、大井はこうやって俺を案じてやってくれただろう?だから俺の中では大井は感じ悪くない。良い娘だな。」

 

「そっ、そうですか?」

 

「あぁ。『提督への執着』が無いに等しいという事なら、その辺に居る一般人と変わらない。そんなんだったら俺は大井みたいな娘には俺は見向きもされないし、関わってこようなんてしない。」

 

 そう言って俺はみかんを口に放り込んだ。

 

「もしかしたら何かあるかもしれない、それだけでこうやってしてくれるのは良い事だ。だから俺は大井を感じ悪い奴なんて思ったりしないさ。優しい娘だ、大井は。」

 

 俺はそう言いながら最後のみかんを口に放り込んで、深く足を入れた。

俺がどう思っているか、別に大井は聞きたかった訳では無いだろうが、見る限り結構気にしている様だった。目つきが悪い事も、感じ悪いと思われているかもしれないという事も。だがあえて答えた。そうすることで大井の気がまぎれるならと思って。

 

「ありがとう、ございます......。」

 

 少しどもりながらも大井はみかんを口に運んでいた。

 

「そんな事、言われた事無かったです。」

 

「そうか。」

 

「嬉しい、です......。」

 

 大井はそう言って俯くと、がさごそと何かをし始めた。座りながらだが。

少しがさがさすると、俺の目の前に何かが置かれた。ぼーっとしていたので何か分からなかったが、次第にそれが何か分かる。

 

「いつもありがとうございます。私や鎮守府の皆の為に色々しているせめてもの感謝です。」

 

「ありがとう。開けてもいいか?」

 

「いえっ?!夕食後くらいにして欲しいです......。」

 

「分かった。」

 

 俺はその包みを受け取ると、立ち上がり、普段使っている机の艦娘の死角になるところに置いた。机の上だから俺が取り忘れる心配もない。

 

「......てっきりそのまま置くのかと...........。」

 

「そんな事しない。これからも艦娘の猛攻を跳ね返してくれるんだろう?」

 

 そう言って俺は炬燵に再び入って、ぼーっとし始めた。

 それからというもの数分置きに艦娘たちの執務室突入が図られ、それを大井が事前に察知しては追い返していた。その騒ぎはぼーっとしていても耳に入るもので、数時間粘った末に『あまりに大井が入れさせてくれない』との事から制限時間付きで入室を許可にし、1人ずつ執務室に入ってくるようになった。いつのまにそんなことを決めたのか分からないが、誰か来てはものを置いて行き、入れ替わる。

 置いて行くものは決まって箱、それもラッピングされている箱だ。それが炬燵の上に積み上がっていく。適度に積み上がると大井が俺が普段使っている机に移動をしてくれたりとよく分からない事になった。そして最後の艦娘が出て行くと、俺は気付いた。今日の日付だ。

 

「あー、今日は2月14日か。」

 

「やっと気付いたんですか?」

 

 机に山積みになっている箱や袋を眺めながら俺は大井に言った。

 

「これまでこんな貰った事は無いな。初めての経験だ。」

 

「そうなんですね。」

 

「毎年、俺はそっちの人間じゃなかったからな。貰うとこういう気持ちになるんだな。」

 

 何だか嬉しいと思っている俺がいる。多分部下としての社交辞令だろうが、それでも嬉しかった。だが、社交辞令にビックリするくらい大きいのを持ってくるのはどうかと思うが、俺は気にしてない。

 

「そうですか。......でも赤城さんとかには驚かされましたね。こういう事には関心が無いのかと思ってました。」

 

 大井はそう言いながら笑っている。赤城も制限時間に従った入室でものを置いて行っていた。出ていく時に『何だか緊張しました。よくお話しするのに......。』とか言っていたのはなぜだろうか。

 

「俺はどうとは言わない。だが忙しくなるなぁ。」

 

「何がですか?」

 

「お返しだよ。一体何人いるんだよ......大井は数えてた?」

 

「はい。ざっと90人超ですね。全員の艦娘と、偶に酒保の人も居ましたが......。」

 

 俺は溜息を吐いた。これから約3週間後、俺はお返しの準備で大忙しだ。

 

「そんなにか......。大変だぁ。」

 

 そう言って俺は机の山を見上げた。これは食べきれるだろうか。いつまで食べ続ければ終わるのだろうかと思う程だった。

 

「まぁ、大井のお蔭で猛攻に遭わなくて済んだな。ありがとう。」

 

「いえ、気にしないで下さい。」

 

 そう言って俺と大井は夕食までゆっくり時間を過ごした。途中、北上も入ってきて炬燵で3人だらだらとしていたのは楽しかった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 夕食後、大井から貰った包みを開いてみる。

そこにはカードが入っていた。

 

『執務で無理をすることは無いですが、作戦立案や色々な悩み事で無理をしないでくださいね。提督が倒れたら私だけでは収集がつきませんから。それと、いつもありがとうございます。 大井』

 

 俺はカードを読むと、箱を開けて中を見た瞬間、ふき出した。何故なら......

 

「大井は感謝だとか言ってたな......。」

 

 中身はハート形のチョコレートだったのだ。

 

「これは違うだろう......。」

 

 そう呟きながらも俺は食べるのであった。

 皆から貰ったものをいつまでに食べきれるかは神のみぞ知るだろう。一応、言っておくが甘すぎるものは得意ではない。

 




 今日はバレンタインデーという事で、特別編にしました。
 
 内容は......うっすいので、はい......(白目)
  
 ちなみにオチは自分ではありませんが、実際に見たことがあります。受け取った本人は複雑そうな顔をしてましたけどね。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百三十七話  行動と書類

 

 男は大きなカメラの前で咳ばらいをした。これから始める事、普段からやっている事だが、今日は違う。

沿岸部の被害報告や、殉職者の報告、防衛線の状態、他国との連絡、そんなものじゃない。今日言う事は審議され、決められた事。訃報では無いのだ。

 スタッフがカメラに電源を入れ、親指を立てる。合図だ。

 

「私はアメリカ合衆国 大統領、アドレ―・エンフィールド。これはホワイトハウスから国民へ向けた報告です。」

 

 アドレーは一呼吸置いて、続きを話した。

 

「私がこの場に立ち、国民にこの姿を見せる時は必ず悪い報告をしてきました。それは殉職者の名の読み上げ、防衛線の状態。」

 

「これまで本土を侵攻された事のない合衆国をここまで追い詰めた深海棲艦が国民を危険に晒し、それを守るべく武器を取った英霊たちの名をここで読み上げてきました。」

 

「『世界の警察』や『超大国』と合衆国は比喩されてきました。ですが深海棲艦の前では我々は手も足も出なかったです。領海を失い、沿岸部の街は放棄しました。そんな比喩、もう無いんですよ。」

 

 アドレーはマイクに向かって語る。

 

「合衆国未曽有の危機に、国民は先の見えない未来を見ているでしょう。目のほんの数m先は真っ暗で、分からない。そんな中を合衆国は進んできました。」

 

 アドレーはそう言うと、スタッフに指示を出し、画面に画像を表示させた。

その画像はアラスカで撮られた画像だ。

 

「そんな我々に希望の光が差し込んだのです。この写真はアラスカで撮られました。どこかの領空侵犯機でもなければ深海棲艦の偵察機でもないこの写真に写る飛行機は日本です!」

 

「第二次世界大戦中、合衆国と天と地の差をつけた物量でぶつかり合った時代、非凡な日本軍が使っていた船を駆る軍用機です。何故そんな旧世代の骨董品と言えるものが撮られたかは理由は分かりません。見間違いかもしれないです。ですが、合衆国と深海棲艦に海を奪われて以来目にした異国の飛行機はこれが初めてなのです。」

 

 画面から画像が消された。

 

「そこで我々は軍を動かし、調査に出ました。アラスカ州沿岸部の調査。そして......外洋に出たのです。」

 

 そうすると画面に画像が何枚も映し出されていった。映された画像は轟沈され、漂流している深海棲艦や爆散した艤装の一部などが写された。

 

「合衆国が誇る軍を投入してでさえ、殲滅できなかったアラスカ州アルフォンシーノ群島付近の深海棲艦が一掃されていたのです。これは先ほど映しましたアラスカ上空を飛行していた日本の飛行機が現れた後です。」

 

「これが何を意味するか......。」

 

 アドレーはダンと壇を叩いた。

 

「数多の国と連絡の途絶え、カナダやメキシコ、南米と何とか生き長らえてきた合衆国以外にも生きている国があるのです!」

 

「しかも彼らは深海棲艦と今も戦っています。我々が軍を避難させ、殻に閉じ篭っている間も......。」

 

「我々よりも遥かに条件の悪い国が戦っています......。ならば我々合衆国がすべきことは唯一つ!」

 

「数年間で避難させた軍、そしてそれまでに新造された軍艦を使い、深海棲艦に再び立ち向かう事っ!アリューシャンを橋頭保とし、我々の海を取り返すっ!」

 

「ですから国民は協力して下さい。もう殻に閉じ篭っている時は過ぎました。国民全員の力を合わせ、深海棲艦に打って出ましょう!」

 

 そうアドレーが言い切るとカメラのスタッフが止めた合図を出した。

もう合衆国は閉じ篭って等居られない。そう思っての今回の話だった。

 

「今日も素晴らしかったです。大統領。」

 

「そうか。ありがとう。」

 

 アドレーに話しかけてきたのは、アドレーの秘書だ。

 

「ホワイトハウスに取材しに局やカメラマンが集まるでしょうね。」

 

「覚悟の上だ。その他にも覚悟せねばならないな。」

 

 アドレーはそう言ってボディーガードに囲まれながら大統領専用車に乗り込んだ。

 

「えぇ。深海棲艦相手に戦争をしますからね。」

 

「そうだ。先代の大統領は国内治安維持に力を入れていた。私は失ったものを取り戻すのに力を入れよう。」

 

 アドレーが眺める車窓からの景色は灰色。合衆国は活気がある国で有名で、いつも笑いが絶えなかったが深海棲艦が現れてから変わってしまった。最初はハワイを失い、そして合衆国の西岸と東岸で深海棲艦と戦を繰り返し、戦った者たちは殆ど生き残らなかった。

絶望の淵の世界だ。

 

「だが深海棲艦に有効ではない手立てである生き残った軍艦を投入するのはやはり気が進まぬ。」

 

「そうですね。」

 

「深海棲艦の駆逐艦1隻を撃沈させるのにこちらは10隻は覚悟しなくてはならない。戦艦や空母を相手にするというのなら、たとえそれが1隻だったとしても現有するすべての軍艦を投入しても撃沈できる保証はない。」

 

 アドレーはそう言いながら顔を歪めていた。

 

「どうやってアラスカまで到達したのだ、日本は。日本にある軍艦は通信が途絶えた第七艦隊からの最後のホットラインでは最新は3隻。それがどうなったかは知らないが、今生きていたとして、どうやってアラスカまで来ることが出来たのだ?」

 

「それは私も疑問に思っております。」

 

「君はこれにどういう仮説を立てるかね?」

 

 アドレーはホワイトハウスまでの戯れだろう。そう秘書に訊いた。

 

「通信が途切れる前、日本は日本皇国と国名を変更しました。日本皇国。つまりそれまでの日本国とは違い、天皇が一番上だという事です。これまで第二次世界大戦で日本にかけていた足枷が無くなったであろう今、第七艦隊から連絡の途絶えてから我々の想像を絶する軍艦を作り出した、というのはどうでしょうか?」

 

「はっはっはっ!!一番あり得るだろうな。日本という国はおかしなところが多い。工業では類を見ない程の発展を遂げ、我々の想像を凌駕する物を開発する。信頼と安全、コストをバランスよく作るが信頼と安全はかなりのもの。そんな国が本気を出すとどうなるか......私は知らない。」

 

 アドレーはそう言って窓を眺める。

 

「ですがアラスカに居たあの飛行機は骨董品です。もし我々の知る由のないオーバーテクノロジーだというのなら、あの外見にする必要はないでしょう。」

 

「そうだな。」

 

 アドレーと秘書を乗せた大統領専用車はホワイトハウスへと向かっていった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺の手元に大本営からいつもの書類で無いものが来ていた。それは、北方海域までの深海棲艦の殲滅を確認との事。

つまり大本営の鎮守府がレベリング次いでに殲滅をしたという事だろう。

 

(となると次は、使節派遣か受け入れだな。)

 

 その書面を読みながらそんな事を考える。

これは俺が大本営に出向いて話をしてきたことだ。そして政府への連絡も終わっていて、準備も整ったと言うのを数日前に聞かされている。もう動くだけというところまで来ているのだ。

 

(そうなっても大本営の鎮守府が護衛で行くんだろうな。)

 

 今回の書類ともう一つ、書類が同封されていた。

それは深海棲艦との戦いで護衛艦 こんごうを失って以来、建造をしてなかった護衛艦を建造し、完成したという文面のモノと、建造された護衛艦の書類だ。この書類を見ていて思う事があるのだが、未だに護衛艦という名前は離れないらしい。理由は分からないが、もうそういう呼び名はもう違うだろうと俺は思った。

 かざばな型汎用護衛艦1番艦 かざばな。そう名付けられた船はこんごうを失ってから建造された新鋭護衛艦。対潜・対空共に前型たちから良い部分を引き抜いた性能を有している。なのでそれだけの兵装を積むために巨大化。日本の護衛艦は駆逐艦と表現されるが、これは巡洋艦並みだ。

 

(大きさ、兵装の数共に化け物だ。)

 

 率直な俺の感想だった。

そんな俺を見ていた今日の秘書艦、摩耶が俺の顔を覗き込んできた。

 

「それ、なんかあったのか?」

 

 そう訊かれ俺は紙から視線を外した。

 

「あったと言うか、もう既に時遅し、だ。」

 

 俺は見ていた紙を置いて大本営が北方海域の深海棲艦を殲滅した事に関する書類を摩耶に見せた。

 

「ふむふむ......殲滅したぁ?!」

 

「あぁ。レベリングを兼ねて出撃していたそうだ。まぁ、殲滅が目的だったが。」

 

「そうかぁ......しっかし、何故殲滅する必要があったんだ?別にもうあそこには占領に陸の奴らがっ......。」

 

「行ってない。また上層部に置いて行かれると思っているらしく、陸軍のどの部隊もてこでも動かない様だ。軍らしからぬが、仕方ない。」

 

 そう言って俺は机の上にある書類を纏めた。さっき見ていたものの他にも大本営からは普段の執務で処理しなければならないものの他にも届いているのだ。それも目に通さねばならない。

 

「ちょっくら出してくるな。」

 

 そう言って提出する書類を持った摩耶が出て行ったのを見て俺はまだある書類を開封した。

 次の書類はかなり時間が掛かったが、雷電改の報告とどう処置するか、そして他の鎮守府に配備するのかというものだった。

回答は駄目だった。大本営は雷電改を認めたが現状維持。そして他の鎮守府への実装はかなわなかったとの事。やはりそこまで出来ないという事らしい。

 次は、リランカ島の状況だ。

現在、予定していた設備をかなりの数の建造を完了しており、土地の整備などが残っているのと、探索していない島のエリアの探索があるらしい。そしてそれの序での様に入っているのは、リランカ島への補給物資の輸送任務についてだった。たぶん、こっちが本音だろう。

 まだある。大本営前に『艦娘を一般化させよ!』、『縛りつけて戦わせていいのか!』という様な内容の抗議デモが起きているとの事。度が過ぎる事も多くあり、その度に逮捕者が続出するかなり危ない事が起きている様だ。それに関する注意だった。

だがこれはもう遅い。毎日のように正門前で起きているのだ。本部棟までは響いてこないが、度々逮捕者や負傷者が出るとの事。俺も逮捕者の尋問にはよく呼ばれて顔を出すが、何とも言えない。

 

『あんなに可愛い艦娘たちを独り占めだなんてズルいでゴザルッ!!』

 

『鎮守府を一般開放するべきであるッ!!』

 

 と叫んでいた。俺が尋問室に入るなりガタリと立ち上がり、門兵に銃口を突きつけられながらも『ハーレム提督でありますッ!我ら同士が積み上げた屍たちが憎悪のオーラを我らに纏わすッ!』とかよくわからない事を言っていたが全員スルーしていた。

今更ながら考えてみると、かなり不味い事をしているんだろうが、きっと関わりたくなかったのだろう。武下の説教の後すぐに大本営に連れて行かれた。俺はそいつらの顔を覚えていない。

 

(抗議やなんかの活動は何時もあるが、最近加速が激しいな。)

 

 そう思い、考えを巡らせる。そうすると答えが出てきた。たぶん、人前に出る事が数回あったからだろう。それにテレビも何回か映っている。それを見た国民がそう訴えてきているだけだ。たぶん。

 

「たっだいまー。おっ、見終わったか?」

 

「あぁ。1つだけ余計なものが入っていたが、まぁいいだろう。」

 

「余計なもの?どれどれ?」

 

 そう摩耶が興味津々に見て来るので、これならいいだろうと抗議に関する書類を渡した。

それを受け取った摩耶は読みはじめ、読み終わると同時に書類を引き裂いた。

 

「あんのクソ共がぁっ!!思い出したら腹が立ってきたっ......。」

 

 そう言って秘書艦の席に座っていた摩耶は見るからにイライラしている顔をしていた。

実は摩耶はこの抗議をしている連中に絡まれているのだ。

 たまたま摩耶が正門の前を通りかかった時、丁度抗議が行われていてそれを少しみたら色々言われたそうだ。涎垂らしながら。あまりにもその光景がショッキングだったらしく、本当に嫌な思いをしたと言っていた。

 何を言われたのか分からないが、尋問室のを聴いている限り大体予想が付くので黙っておく。

 

「まぁまぁ。もう忘れちまえ、そんな記憶。」

 

「そうだといいが、まだ記憶に新しい。いつになったら忘れれるか分からないな。」

 

 そう不貞腐れた摩耶は立ち上がり、炬燵に足を入れた。

電源を入れて、身体を奥に滑り込ませる。

 

「温かいなぁ~。いいなぁいいなぁ。提督はいつもこれに入って執務してるのか?」

 

「いや、さっき見てただろう?俺はちゃんと机に向かってやっていただろう?」

 

「あははっ......そいやぁそうだったな。」

 

 摩耶はそう言って照れた。

 

「まぁ、何にせよ、色々大本営から届くって事はそれだけ何かが動いてるって事だろう?」

 

「そうなるな。」

 

「そうかっ!......にひひっ。」

 

 ニヤニヤしながら炬燵で暖をとる摩耶を目の前にして俺と摩耶はみかんを食べながら色々と話をした。

途中、鳥海や高雄、愛宕が入ってきて大騒ぎになったりもしたが、こういうのも悪くない。そう俺は思った。

 





 遂に男が分かりましたね。それと思惑もですが......。なんだか無謀な気もしますけどね。

 大本営からの書類を見るという話が殆どでしたが、普段の描写外では大体提督はこうやって大本営から提出の必要のない書類を見ていたりもするという事でした。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百三十八話  使節と抗議

 

 アドレーは目の前に映る光景に息を飲んでいた。海に浮かぶ船を目に焼き付けそれを自分の記憶と照らし合わせる。

導き出される答えは、だたひとつ。

 

「こっ、これはっ?!」

 

 明らかに旧世代の軍艦が浮いている。かつて合衆国に小国でありながら挑み、戦った国の軍艦。

その軍艦から人が降りてくる。アドレーのボディーガード、アラスカの米軍基地から派遣された州兵約100人が銃を構え、安全装置を解除する。

 

「貴方が大統領ですね?」

 

 そう言った人は軍服を着ていた。英語で話をしている。

 

「いかにも。」

 

「そうですか。私は日本皇国政府と天皇陛下より承った任務により派遣されました、天見と申します。」

 

 天見はそう言ってアドレーにお辞儀をした。

 

「日本人を見るのはおそらく海が奪われてからでしょう。驚かれているのは分かっております。」

 

 アドレーは何も言わないが、天見は話を続けた。

 

「そちらでも確認されているでしょうが、日本皇国は深海棲艦と未だに戦争をしています。我々も領海を失い、国家存続が危ぶまれておりましたので合衆国がどのような状況か把握しているつもりです。」

 

「未だに、だと?」

 

「えぇ。日本皇国は未だに戦争をしております。私の背後で浮いております軍艦を用い、艦隊戦で深海棲艦と戦い続けております。」

 

「これは、旧世代の軍艦ではないか。何故このようなもので現代科学の結晶である現行艦でさえ太刀打ちできない様な深海棲艦と叩か飼う事が出来るのだ?」

 

「それはお教え出来ません。」

 

「何故だ?」

 

「私たちはこうやって戦っていますが、常に首元にナイフが突きつけられた状態。ナイフを突きつけている者の機嫌を損ねると一瞬にして国土が焦土と化します。」

 

 アドレーや護衛のボディーガード、州兵までもが動揺した。

天見の言っている意味が分からないのだ。

 

「私の任務を遂行せねばなりません。大統領。」

 

「そうか。」

 

 アドレーは動揺を抑え込み、天見に答えた。

 

「先ず、連絡の途絶えていて安否の確認も取れなかった我が国の存在をそちらに確認していただく事です。」

 

「あぁ、確認した。確かに、日本の様だな。そちらに控えている兵の肩にあるワッペンは確かに日本だ。」

 

 天見は少し笑うと続けた。

 

「次に国交、貿易の再開です。」

 

「そうか。だがそれは民間に任せてある。政府からは何もできない。」

 

「そうですか。」

 

 天見はそう言って最後に懐から封筒を渡した。

 

「失礼します。」

 

 ボディーガードがそれを天見から受け取り色々見る。簡易的なX線や、中を透かして見たり、触ってみたりしてからアドレーに渡された。 

 アドレーは受け取ると封を開き、中を確認する。

 

「っ?!」

 

「こちらに駐留していた米軍全部隊は帰る日を夢に見て、当時貧弱であった我々と共に戦い、散りました。米海軍第七艦隊は全滅。空軍は深海棲艦の艦載機を倒すべく、当時の航空自衛隊と共に航空戦を繰り返し、修理不可になった戦闘機のみを残して全滅。陸軍は国内の島々で暮らしている住民救出の為に当時の陸上自衛隊と共に点々と揚陸作戦を繰り返して今残っているのは一個中隊。」

 

「ホットラインが途絶えた訳では無いんです。敗北を繰り返している本国に助けを求める事の出来なかった在日米軍は深海棲艦と戦う決め、日本と共に戦火を交えたんです。」

 

 アドレーは手を震わせながら言った。

 

「ロナルド・レーガンは?」

 

「千葉県の房総半島沖で沈みました。」

 

「本当に全滅したのか?」

 

「いいえ、壊滅です。もう機能を維持できない程にまでなってます。現在は政府の指示で残っている米軍人は全員手厚い対応を受けています。」

 

「そうか......。」

 

 アドレーは封筒を秘書に渡すと天見を見た。

 

「日本皇国はどうしてそこまで出来たのだ。我々よりも遥かに資源の少ない、人もいない、兵器も無い日本にっ?!」

 

「それは私の背後の船たちのお蔭です。」

 

 天見は笑った。

 

「そうか......。」

 

 アドレーはそう言って秘書に話しかけると写真を受け取り、天見に見せた。

 

「この画像に映っている飛行機、これは約1ヵ月前にアラスカで撮られたものだ。これは一体なんだ?」

 

 天見はその写真を受け取り、じっくりと見る。そして答えた。

 

「これは彗星。艦上爆撃機です。」

 

「ほう。」

 

「我が国において、数々の海を深海棲艦から奪い返し、アリューシャンの艦隊を全滅させた艦隊の艦載機ですね。」

 

 その言い方に違和感を覚えたアドレーはまた訊いた。

 

「その言い方、そこの軍艦がやったのではないのか?」

 

「えぇ。こちらに空母は来てますが、この空母の艦載機に彗星はありませんし、なによりこんな良い艦載機を使っていないんです。」

 

「じゃあ何だと言うのだ?」

 

 天見は狙っていたかのように答えた。

 

「横須賀鎮守府艦隊司令部所属の空母機動部隊。先ほど申しましたアリューシャンの深海棲艦を全滅させた艦隊です。」

 

 アドレーは震えた。アリューシャン群島に居た深海棲艦の艦隊。6隻相手に軍が戦っていた時代に、大艦隊を投入していた。総数大小の艦艇合わせて60隻。結果は全滅した。陸上から航空支援として飛び立っていた戦闘機も対空砲火の餌食になったりとかなり損耗した戦いだった。

 

「......ここに来ている艦隊ではないのだろう?ならどんな艦隊があそこを根城にしていた深海棲艦を全滅させたのだ?」

 

「本隊と支援合わせて24隻です。ですが実際に戦っていたのは6隻です。」

 

「なんだとっ?!」

 

 アドレーは空想と現実の見分けがつかなくなっていた。アドレーの中では深海棲艦を1隻轟沈させるのにかなりの被害を出すと言うのに、たった24隻で、しかも戦ったのはたった6隻だ。

 

「ここまで到達するのに撃沈された船の数は?」

 

「0です。」

 

 アドレーは耳を疑った。今、アドレーの目の前に居る人間がなんと言ったのか。アドレーの耳には『0』と聞こえていた。それはつまり生き残った船の事なのだろうか。

 

「もう一度頼む。撃沈された数は?」

 

「0です。」

 

 アドレーは現実を受け入れられなかった。合衆国の海軍が軍艦を沈めに沈めても抗う事が出来なかった深海棲艦相手に被害を0でここまで辿り着けたと言うのだ。

 

「ばっ、馬鹿なっ?!」

 

「本当です。海を駆け回り、あちこちの海を取り戻している横須賀鎮守府艦隊司令部所属艦は1隻たりとも轟沈してはいません。」

 

 アドレーは黙ってしまった。予想を斜め上に行き過ぎたこの話を信じれないと言う反面、それだけの事が出来たからここに辿り着けたのではないかと思う。

 

「さて、大統領。日本皇国政府は提案します。」

 

「なんだね?」

 

 天見がそう切り出した。

 

「政府は深海棲艦に海を奪われて以来のファーストコンタクトに私を派遣しましたが、合衆国はどうされますか?」

 

「......首脳会談の場を設けたい。日本皇国の政府と。」

 

「分かりました。」

 

 天見はアドレーのその言葉を聞くと、これで日本に帰るとだけ言い残し、帰ってしまった。

動き出した旧世代の軍艦たちは海を動きはじめ、地平線へと消えていく。それを見ていたアドレーに報告が入った。

 

「大統領。日本の軍艦に侵入する作戦の結果です。」

 

 戦闘服に身を包んだ男がボディーガードに囲まれながらこちらに来た。

 

「どうであったか?」

 

「作戦失敗。甲板に上がった途端、機銃の銃口をあちこちから向けられ、兵に即時退艦すれば大事にしないと言われました。」

 

 男はそう震えながら言った。

 

「上がった途端だと?」

 

「はい。監視の目が無いところを突いて上がった筈なんですが、カメラも無いのに見つかってしまいました。」

 

 アドレーはますます奇妙に思った。被害を出さずにここまでたどり着けた軍艦に、謎の監視網、旧世代の軍艦を使う意図。全てが分からなかった。

 

「ホワイトハウスに戻る。早急に日本へ送る使節の選定だ。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は遠目から正門を見ていた。

今日も抗議が起きていると聞き、執務が終わるなりここに見に来ていたのだ。

 

「鎮守府を一般開放せよ!」

 

「艦娘についての情報開示を求めるっ!」

 

 そんな叫びが木霊し、それをアクリルの盾で抑え込む門兵は必死に通すまいと押し返している。

 

「提督、どうされましたか?」

 

 見ていた俺に話しかけてきたのは西川だった。

 

「最近毎日のようにあるっていう抗議を見に来たんです。」

 

「見ても面白いモノなんてありませんよ。抗議内容が不順ですし、仲間たちも日に日にイライラを募らせています。幾ら逮捕しても、幾らこちらが押し返しても塊となって立ち上がり、押してきますからね。どんな考えあっての抗議なんでしょうか?」

 

 西川の言葉を聞きながら俺は抗議している人たちを見た。

よく覚えていないが、尋問室で見たような人間がわんさかといる。そして点々とだが、一眼レフを持っているのも居る。

 

「あー......。」

 

 俺はそれを見てなんとなく察した。

 

「どうかしたんですか?」

 

「あいつらの目的が分かりました。」

 

 そう。俺は建前でこうやって抗議している事が分かった。

 

「目的ですか?」

 

「はい。目的は艦娘です。これは西川さんも分かってるとは思います。」

 

「えぇ。」

 

「あいつらは艦娘と接触し、写真を撮るつもりなんですよ。」

 

 そう言うと西川は首を傾げた。

 

「写真ですか?何故写真なんか......。」

 

「艦娘は全員に言えることだが、美人美少女揃いだ。それも絵に描いた様な。だからやつらは求めた。画面の向こうから来たのかと思わせる様な艦娘を写真に収めようと。」

 

 そう言うと西川は滑った。

 

「提督が仰りたいことは分かりましたが、写真を撮ってどうするんですか?」

 

「そうだな......。言いたくはないが、つまり良く無い事だ。」

 

「そうなんですね。」

 

 俺は西川と話しながら門兵と抗議している人間との押し合いを眺めている。

 

「いい加減にしてほしいな。これは公務執行妨害は効きますかね?」

 

「えぇ、十分です。」

 

「一掃します。他の門兵に連絡し、各要所の警備を最小限にし他は抗議している連中の背後と側面を取り全員鎮守府内に引きずり込み、まとめて逮捕します。」

 

「了解しました。」

 

 西川は走り出し連絡に回ってくれた。そんな俺と西川の会話を訊いていた今日の秘書艦である満潮は心底嫌そうな顔をした。

 

「全員逮捕?」

 

「あぁ。」

 

「こいつらを鎮守府の中に居れるのだけは嫌だわ。」

 

「俺もだが、もう一気に捕まえて牢屋送りにした方が世間的にもいいことだ。」

 

「それは言えてるわ。」

 

 少しすると、どうやら動き出した様であちこちからアクリルの盾を持った門兵が抗議している連中を囲み、正門が開かれ入った途端に一気に逮捕が始まった。手錠をするために盾を離すから鎮守府に入ったからと我先に走り出す抗議していた連中を追いかけ平均10秒で逮捕していった。全員逮捕するのに3分もかからなかった上、それを見ていた俺と満潮を手錠を掛けられ連行される連中は気の強い満潮が俺の後ろに隠れる程の視線を浴びせた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 地下牢に満タンになる程の逮捕者のリストを警備部から受け取り、俺は大本営に事の顛末の記した手紙を満潮に送って貰った。

満潮は『早く鎮守府から追い出してほしいわ。』とか言っていたが、それも出来ない。それ相応の対応を取ってからでないと、またあの抗議が始まるからだ。

 

「本当に行くの?」

 

「あぁ。」

 

 帰ってきた満潮に開口一番、俺は地下牢に行く事を伝えた。理由は大人しくしているか、反省をしているのか。

普通の抗議なら俺もちゃんと考える。だが、今回のは唯の抗議じゃない。抗議している言葉から連想されるものは全て、下卑た様に聞こえる。下心が見えるのだ。

 

「護衛はいるでしょ?艤装は?」

 

 満潮はそう俺に訊いてくる。

 

「駄目だ。」

 

 そう言うと満潮は『そう。』とだけ言った。他の艦娘に比べて物わかりが良いのか。

 

「門兵さんにはついて来てもらうんでしょ?」

 

「何を言わずともな。」

 

 俺と満潮はそう言って警備棟に入り、逮捕者たちを見に行った。

全員が牢に入れられ、座り込み、何かの話をしている。俺には何の話をしているのか分からないが、俺たちが入ってきたのを察知すると、すぐに会話は中断され、こちらを全員が凝視した。

 

「提督。大本営に連絡は?」

 

「既にしてあります。ですが今回は、軍では裁けませんね。」

 

 ついて来てくれたのは西川含んだ門兵6人。全員が小銃を携えていたが、地下牢に来る途中で短機関銃に変えていた。

 

「民間人ですものね。ですが民間人とはいえ、軍事施設へのこの行為ですからそれ相応の罰則があるでしょうね。」

 

「分かりませんが、そうなんですか?」

 

「はい。」

 

 西川はそう言いながら俺の横を歩く。

 

「彼らは反省しているんでしょうか?」

 

「こうして牢に入れられてますからね。ここに連れてくるまでは散々騒いでいたらしいですが、入れられた途端にこの様子だそうです。」

 

 俺は地下牢に入れられている逮捕者を一回、見流すように見た。

 

「それと彼らから所持品を全てこちらに渡して貰っています。その中は大体がカメラでした。撮影目的だというのは正解だった様です。」

 

「やはりそうでしたか。」

 

「それと近隣住民からの圧力も何度かあったらしいですが、気にせずやっていたとの事です。」

 

「分かりました。大本営からの結果を待ちましょう。」

 

 俺は満潮を連れて牢の前を歩く気にはなれなかったので、西川と近くを通っただけにした。

 執務室に戻った後、大本営から連絡が入り、すぐに警察から護送車が到着するとの事。門兵がまた逮捕者に手錠をかけ、門の外で護送車に引き渡しが行われた。

 




 
 先にここでお知らせしておきますが、アメリカに行った天見は横須賀鎮守府にいる天見ではありませんので。

 それからはノーコメントで......。すみません。後書きに書くような内容がないですので......。

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第百三十九  抗議団体の一掃は艦娘ではなく大本営でもなく......

 今日も正門には抗議する団体が来て、抗議をしていた。

内容はいつも通りで、正直面白くない。どう面白くないかというと、レパートリーが無さ過ぎて面白くない。

大体が、鎮守府の一般開放と艦娘に関する情報開示。内容に関してはどうやら一般の前に出た艦娘以外にはどんなのが居るのか。前回行われた文化祭(仮)では厳しい身体検査や持ち物検査などをクリアしてないと入場できず、怪しまれた人間はすぐに追い出されたという。つまり、艦娘をもっと知りたいという事らしい。それは大本営としてもいいイメージアップに繋がるが、それを訴えている人間には不信感を募らせているのはこちらと同じようだ。

 というか、昨日、全員逮捕したと言うのに昨日と同じ規模で抗議が行われているのにはどういう事か分からないでいた。

 

「今日もやってるのか。」

 

「そうみたいだね。」

 

 今日の秘書艦である最上は俺のつぶやきに答えた。

 

「昨日全員捕まえて大本営送りになったんでしょ?なのにまたこんなに集まったんだ。」

 

「そうなんだよ。ったく......。どうしたものかね?」

 

 そう俺が言うと最上はさっきまでいた秘書艦の机から離れ、俺の前に来た。

 

「僕にいい考えがあるよっ!」

 

「どんなだ?」

 

「あえて中に入れるんだ。」

 

「は?」

 

 俺は耳を疑った。何故、嫌がるはずの艦娘である最上がそんな事を言い出したのか。

 

「でも条件を付けるんだ。」

 

「どんなだ?」

 

「手荷物は全て預かりで、身体検査と金属探知機を通って貰ってから誓約書を書かせて指印して貰ってから門兵さんの監視付きで入れるんだ。」

 

「手荷物と身体検査、金属探知機でほぼすべてのモノを預かるのは分かったが、誓約書って何書かせるんだ?」

 

 そう俺が聞くと最上は凄い笑顔だが、とんでもない事を言った。

 

「『もし私が提督の執務や艦娘の仕事を邪魔した場合、銃殺されてもいい。』ってね。」

 

「最上......。」

 

「って書かせて鎮守府の施設は全部閉じて鍵締めして何処も入れないようにするんだけどね。僕たち艦娘は本部棟と艦娘寮は行き来できるようにするってのはどう?」

 

「まぁ良いが、あいつらの目的は艦娘だぞ?ただ道歩かせるだけでいいのか?」

 

 俺がそう訊くと最上は首を横に振った。

 

「それだけじゃないんだよね。提督にも協力してもらうけどいい?」

 

 最上が提案してきた。

 

「提督は本部棟と工廠を行き来してもらうよ。その代り、番犬艦隊と金剛さん、赤城さん、朝潮をつける。」

 

「その意図は?」

 

「艦娘を見かけたら彼らは何かしらのアプローチをするはずだよ。そして何かアプローチをしてきたら、門兵さんに脅してもらう。」

 

 俺は溜息が出た。最後のは多分、脅した後に地下牢送りにするんだろう。

 

「どうやって脅す?」

 

「銃口を突きつけて手を挙げさせてから連行。」

 

「んで?」

 

「地下牢に入れて武下さんから説教。」

 

「あー。銃殺ははったりか?」

 

「当たり前だよ。」

 

 俺は何も聞かずに決めた。

 

「よし。それやるか。」

 

「うん。」

 

「ただ、色々俺が追加させてもらう。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 正門の鎮守府側、少し進んだとところに仮設テントを立ててもらい、俺は門兵を数人呼び出して色々と伝えた。

勿論、驚かれたが最後のオチには納得した様で、皆が乗る事に。ここに来る前、武下にも説教を頼んできたので問題なし。

 そしてすべての準備が整い、始まった。拡声器を持った門兵が抗議している集団に言った。

 

「提督が許可を下さったっ!これから中に入って貰うが、1人ずつだっ!」

 

 1人ずつというのは、手荷物と身体検査、金属探知機を通らせてからテントに1人ずつ入らせ、誓約書を書かせる。

そして、最上の目的であった艦娘へのアプローチを誘発させるために門兵の監視の元行動するのは3人まで。

 

「やっと、我らぼ悲願が叶う時が来たッ!」

 

「これでっ......。」

 

「提督はハーレム主人公の様だが鈍感ではなかった様だっ!」

 

 そう言いながら手荷物と身体検査、金属探知機を通るために列を成し始める。

 

「最後のは腑に落ちん。」

 

「はははっ......。」

 

 俺がそう呟くと最上に苦笑いされたが、まぁいい。

どんどんと列が動くのを見届けると、俺は振り返った。

 

「という事で、頼んだぞ。」

 

 俺の後ろには最上の作戦にあった番犬艦隊と赤城、金剛、朝潮がいる。

 

「いい加減煩いったらなかったからいいわ。」

 

「そうだな。勘弁してほしかった。」

 

 腕を組みながらビスマルクとフェルトがそう言う。

 

「俺もだ。まぁ、今回のはまた一掃するだけだ。作戦決行。」

 

 俺たちは所定のところに行き、本部棟と工廠の間を歩き始めた。

俺が歩き、その横を秘書艦である最上が歩く。付いてくる番犬艦隊と赤城、金剛、朝潮。人選はまぁ、今更気にしても仕方ないが、このメンバーで歩いている。黙って歩いていたら不自然だという事で、話しながら歩くことになった。

 

「この往復だけを繰り返すってのは何だか疲れますね。」

 

 最初に言い出したのは赤城だった。いきなりメタな事言ってるので、少し慌てて話の軌道修正をする。

 

「フェルトさんの艦載機って何だか彗星に似てますよね?」

 

「メッサーシュミットの事か?そうだな......。」

 

 話し始めて詰まった2人に俺は口を挟む。

 

「彗星はメッサーシュミットが元になってるからな。似てるのも仕方ないだろう。」

 

「成る程......。」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。」

 

 どうやら2人とも違いを見いだせていなかった様だ。まぁ、詰まっていた時点でその通りなんだが。

 

「赤城たち空母の艦載機は殆どが空冷式だ。その中で空冷式以外のモノと言ったら彗星くらいだろう。例外で三式戦闘機も彗星と同じ発動機を使ってるんじゃなかったか?」

 

「良く知ってるのだな、アトミラール。」

 

「まぁな。」

 

 俺はそう適当に答えながら周りを見渡す。まだ来てない様だ。

 

「あ、あと、フェルトさんが訓練してるときに使ってる爆撃機。スツーカですよね?何でもとても強いだとか。」

 

「いや、それは違う。制空権が完璧に取れてないと発揮できない強さだ。訓練では制空権は関係ないからな。」

 

「そうだったんですね。」

 

 フェルトと赤城で艦載機談義が始まったので俺はそっちから耳を外し、最上の反対側を歩いている金剛に話しかけた。

 

「最近なんか面白いことあったか?」

 

 本当に適当な質問をした。

 

「特にないデスネー。皆さんいつも通りデスシ......あっ。」

 

 金剛は何か思い出したみたいだ。

 

「この前、比叡が珍しく酒保で本を買ってきたのを見かけマシタ。」

 

「それって別に、面白くない......。」

 

「それで何の本を買ったか聞いたのデスガ、『ひえぇ......こっ、これは見せれませんっ!』とか言って頑なに教えてくれなかったノデ、霧島と取り押さえて見てみたンデス。」

 

 金剛はニコニコしながら言っているが、結構笑えない。比叡がなんだか可哀想に思えてきた。

 

「そしたら、本を買ったと思ったら漫画デシタ。しかも、進げk」

 

「おっとそれ以上はいけない。」

 

 どうやら金剛曰く、纏め買いをしたらしく、皆には自分が読んでから見せようかと思ってたらしい。

金剛は別に比叡が読み終わるのを待ってから借りるつもりだったとか言ってたが、比叡がそう言って頑なに見せなかったのは前になんかあったらかだそうだ。金剛はそこは教えてくれなかった。

 というか、そんな漫画まで置いているのか。酒保は。

 

「それでどこまで借りれたんだ?」

 

「4巻まで読みマシタ。」

 

「そうか。比叡は何巻まで買ってた?」

 

「うーんと、確か17巻くらいデスカネ?」

 

 金剛の口から漫画の話が出たことに驚きつつも俺は話を続けた。

 

「そう言えばその漫画の元になったのはあるんだ。俺はそっちが好きでなー、マブr」

 

「おっと、それ以上は駄目デース。」

 

 言いかけたのを金剛に止められた。

そんなこんなして話をしながら歩いていると、前から歩いてくる集団がいた。あれは見るからに門兵と抗議していた人のグループだ。

 自然に見えるように全体に目配せをして、俺は会話を続ける。

 

「んで、話変えるがいいか?」

 

「大丈夫デース。」

 

「金剛的には前線に重巡と航巡、駆逐、どれが増えて欲しい?」

 

 俺がそう訊くと金剛は悩みはじめた。

 

「うーん......。重巡は攻撃力とダメージ受けた時の消費資材量を見てバランスが取れてますシ、航巡は空母からの艦載機の他にも航空戦力を投入できると言うのは良いポイントデース。駆逐艦は言わずとも、数が欲しいというのは本音デスネー。」

 

「全部それぞれ欲しいって感じか?」

 

「そうなりマース。」

 

 そう話をしていると、あちらと反航戦で交わる時、あちらが足を止めた。

 かかったかと誰もが思った。

 

「ぬふおぉぉぉぉ!!!金髪碧眼ロング(ビスマルク)と、金髪ツインテ(フェルト)っ!しかも赤城さんと金剛ちゃんもいるっ!!」

 

「これは運がいいでござるゥゥゥ!!」

 

 俺たちは直感で感じた。こいつらヤバいと。

 

「何よアンタら。近付かないでくれないかしら?」

 

 多分これで焦ったのは俺と門兵だろう。

 

「金髪碧眼ロングはツンデレ属性ですかあぁぁぁ!!??」

 

「キタ、キターーーーー!!」

 

 何だかとても楽しそうだ。

ビスマルクは少しイラッとしたのか、顔をゆがめている。

 

「それに見たことない娘もっ......銀髪ショート(レーベ)、赤髪ショート?(マックス)、銀髪ロングで不思議ちゃん(ユー)、金髪碧眼(オイゲン)にっ!!」

 

「黒髪ロングのロリっ娘(朝潮)だぁぁぁ!!」

 

 改めて言う。とても楽しそうだ。

そして叫ばれた朝潮は俺の背後に隠れてしまった。

 

「アトミラール。こいつらが例の?」

 

「あっ、あぁ。」

 

「アトミラールだとっ?!」

 

「アトミラールとは英語で言えばアドミラールっ!日本語で言えば提督っ!!アトミラールはドイツ語だぁ!!」

 

「まさか、この金髪ツインテ(フェルト)は外国人っ?!」

 

 もう一度言う。とても楽しそうだ。

 

「あの、お名前はっ?!」

 

 凄い勢いでフェルトに名前を聞いた1人に少し引きながらもフェルトは答えた。

 

「......グッ、グラーフ・ツェッペリンだ。」 

 

「グラーフ・ツェッペリンだとっ......。」

 

「我は知らぬな......飛行船の方は知っているが、失礼ながら艦種は?」

 

「航空母艦だ。」

 

「艤装中に計画中止になった奴だー!」

 

 ビクついたフェルトも流石に無理だったのか、ビスマルクの背後に行ってしまった。

 

「艦娘はやはり絵から出てきたように思える......。まさにそんな感じでござるッ。」

 

 とここまで来てもうダメだったらしい、門兵が動き出した。

 

「動くな。そのまま跪け。」

 

「ひっ......なんだっ?」

 

「なんでござるかっ?!」

 

 門兵は突きつけた小銃の安全装置を解除する。カチャッと音が聞こえ、2人は肩を跳ね上げた。

 

「誓約書違反だ。連行する。」

 

 無慈悲な門兵の淡々とした口調に状況を呑み込めていない2人は抵抗をするが、勿論門兵に適う訳も無く、すぐに手錠を掛けられた。

 

「何でっ、僕たちがっ?!」

 

「我は何もしてないでござるっ!」

 

 そう言っている2人は引きずって警備棟に門兵が入っていった。

 

「2人確保だな。」

 

 そう言うと残っていた門兵がビスマルクとフェルトに敬礼をした。

 

「大丈夫でしたか?」

 

「えぇ。覚悟はしていたわ。」

 

「無論、私もだ。」

 

「他の方は?」

 

 門兵に訊かれ、全員が首を横に振る。大丈夫なようだ。

 

「では、作戦続行ですね。次が来ますので、宜しくお願いします。」

 

 そう言って残っていた門兵も警備棟に入っていった。

 これからさっきみたいな事が幾度となく繰り返され、後半は余りにもテンプレだったので笑いを堪えるので必死になっていたほどだった。そして、終わったのは開始から2時間後。勿論、全員地下牢に連れて行かれた。

 

「お疲れ様。すまなかったな。凄い心労を掛けたと思う。」

 

 そう言うとビスマルクは首を横に振った。

 

「いいえ。いつも番犬艦隊として提督の横に居る事しか出来ない私たちが少しでも役に立てたもの。どんな任務であれ、良かったと思ってるわ。」

 

「そうか。」

 

「それよりこの後、武下さんの説教が始まるのよね?」

 

「そうだな。」

 

「良い年した大人が濡らさなきゃいいけど......。」

 

 ビスマルクはそう言って笑った。

 

「もし濡らしたら掃除させればいいさ。」

 

 そうニヤニヤしながら言うフェルトはクックックと歯を見せている。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 武下の説教で全員がこってり絞られ、大本営に連れて行かれたのを見たが、どうなったかは知らない。

多分、警察に引き渡されて牢屋に入ったんだと思う。

 




 今回のやっつけ感はどうにも抜けませんでした(汗)
これで終息すればいいんですが、どうなるかは話が進まないと分かりません。それまでは終わったとは思わない方がいいです。
 秘書艦で、今回の作戦を考えた最上も酷いのか優しいのか分かりませんね。艦娘には会えるけど即逮捕って......。黒いと思います。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百四十話  会談①

 

 アドレーの指示の元、日本に送る使節団が東京港に入港した。

大本営の鎮守府から北方海域より護衛しつつ、訪れた使節団は日本に着いて目を丸くしていた。

 沿岸部から東京湾には漁船が沢山停泊しており、丁度漁から帰ってきた漁船が横を通過していったのだ。

沿岸部からは完璧に退いているアメリカからしてみると、異常だろう。特に、横須賀辺りはとても栄えている。

 

「今日の来日は横須賀鎮守府の見学と、外務省と会談が目的でよろしいですか?」

 

 使節団の長である、フレンツ・アルバリアンはそう訪ねてきた日本の通訳に答えた。

 

「はい。大統領より承った任務です。序でに移動中、新しい日本を見て行こうと思ってます。」

 

「分かりました。」

 

 通訳はフレンツに笑いかけると、まずは外務省と話をすると言ってタイムテーブル通りに動き始めた。

 フレンツは移動中、窓の外をずっと眺めていた。日本国から日本皇国へと変わった新たな日本はどのようになったのか、それだけを見ていた。だが、フレンツからしてみると今の日本は日本国の時の日本と変わらない。というより、戦時中である雰囲気すら感じさせない様子に心底驚いていた。深海棲艦の出現でアメリカの国内情勢は大きく乱れ、崩れた。今も尚、それはあると言うのに、日本にはそれを感じさせない。まるで、深海棲艦を外の世界の夢物語だと思っているのではないかと錯覚させる様な様子に見えた。

 

「戦争中ではないのか、この日本は。」

 

 流れる平和な世界の様子を見続けたフレンツは外務省との会談を終え、ホテルで夜を明かし、車に乗り込んでいた。

 今日の予定は海を駆け回り、深海棲艦と戦っている日本皇国の矛を見に行くのだ。

 

「横須賀鎮守府というのはどういうものなんですか?」

 

「艦隊司令部の置かれた軍の重要拠点にして、国防、深海棲艦への一本槍です。提督のお蔭で私たち国民は豊かな生活を送れています。」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。それに提督は、観艦式に積極的に参加されたりだとか鎮守府を制限付で公開をしたりとイベントが多々ありました。」

 

「本当に軍事施設なんですか?」

 

「はい。」

 

 フレンツは疑問に思った。そんなオープンな軍事施設など訊いた事も無い。しかも国防の要だと言われている重要拠点だと言われていたのに。

 

「ただ、これから横須賀鎮守府に行くにあたって注意があります。」

 

 フレンツに突然神妙な様子で話し出した通訳。

 

「注意ですか?」

 

「はい。横須賀鎮守府に入るには制限があります。」

 

 そう言った通訳はフレンツと通訳を乗せている要人専用車の背後を走る自動車に目をやった。

 

「彼らの武装解除が必要となります。」

 

「どういう理由で......。」

 

「横須賀鎮守府は軍事施設でありながら、敷地内は日本皇国の憲法、法律、軍法が一切通用しません。」

 

「は?」

 

 フレンツは思わずそんな声を出してしまった。

 

「憲法、法律、軍法が適用しないってどういうことですか?」

 

「横須賀鎮守府は日本皇国海軍に籍を置く軍事拠点ですが、日本皇国政府や大本営は横須賀鎮守府の敷地内を別の国と捉えています。」

 

「横須賀鎮守府が別の国?」

 

「はい。ですが、憲法、法律、軍法はある条件下で適応されます。ある条件というのは、提督の前に居る時です。」

 

 声の出ないフレンツに通訳は話を続けた。

 

「ですがそれは提督の一言で適応されますので、もし何も提督が仰らなかったなら何をされても文句は言えません。」

 

「何をされても?」

 

「はい。もし、その場で殺されても文句は言えないんです。」

 

「無法地帯ですね......。」

 

「いえ、厳格とした法律がありますよ?」

 

「憲法も法律の軍法も無いようなところにある訳ないです。」

 

「提督という法律があるんです。全ては提督の一声です。」

 

 フレンツは想像を始めた。深海棲艦を駆り回り、海を奪い返すほどの性能を有した軍艦を指揮している人間を。

恐ろしい人間なのだろうと思い、フレンツの脳裏には凄い形相をした人間が写されていた。

 

「おっと、忘れてました。その横須賀鎮守府の提督から連絡を受けてまして、護衛の武装解除はしなくていいそうです。」

 

「そうですか。」

 

「はい。」

 

 フレンツは胸を撫で下ろした。丸腰で出て行く訳にはいかないと考えていたからだ。

 現在の日本の体制はアメリカはよく知らない。なので外交官であるフレンツに護衛が付いたのだ。もし、何かの抑止力になればという理由で大統領がそう命令を下していたのだ。

 

「ですが注意して下さい。」

 

「今度は何ですか?」

 

「亡骸を何体も本国に持ち帰る羽目にならない様にという事です。理由はさっき話した通りです。」

 

 そんな話をしているとその横須賀鎮守府に到着した。

 フレンツは通訳に誘導され、正門の前に立った。

 フレンツには同行として本国のテレビ局がついて来ていた。深海棲艦に海を奪われて以来の海外での取材だ。外交官フレンツに密着するみたいなものらしい。

 

「アメリカの使節ですか?」

 

 フレンツは日本語が分からないので通訳に通訳してもらいながら話をする。話しかけてきたのは衛兵というか、警備の兵だ。

 

「そうです。」

 

「皆さんを集めて下さい。」

 

 そう門兵が言ったのに対してフレンツは少し抗議をした。

 

「何故、門の外で私たちは下ろされたんですか?門の中で下ろすのが普通でしょう?」

 

「いいえ。先ずは使節の方々が鎮守府に入る事が出来るかを見ます。使節団の方々は手荷物検査と身体検査、金属探知機による検査を受けてもらいます。護衛の米兵の方々はナイフを置いて、小銃からは弾を抜いて下さい。」

 

 通訳された事をフレンツは訊いて違和感を覚えた。国賓であるのにこの扱いは何だと。正直フレンツは専用車の中で通訳から訊いた事を殆ど信じていなかった。軍事施設がその国の法にのっとってないなどと言うので普通に考えたらありえないからだ。

 通訳は門兵のその発言を通訳してフレンツとその護衛に伝えるが、護衛は困ったというよりも不振に思った。ナイフを置いて行き、弾を抜いておくなどそれでは護衛の意味をなさないのだ。

 

「それはどういう意味ですか?」

 

 護衛の1人が門兵に訊いた。勿論、通訳を介してだ。

 

「そのままの意味です。この門を通り、提督とお会いになるのでしたらしていただかなければなりません。これでも緩い方です。普段なら武装解除を求められますし、護衛はひょっとしたら入れないと言わてたと思いますよ?」

 

「何をバカげた......。」

 

「入りたくば従ってもらいます。」

 

 門兵は頑なに引き下がろうとしない。余りに言葉に言葉を重ね、エスカレートした時、門兵が小銃の銃口を護衛に向けた。

 

「聞けないのならここから去って下さい。もしそのまま行くのでしたらここで銃殺します。」

 

「何っ?!私はアメリカ国民だぞ?!戦争をおっぱじめる気か?!」

 

「戦争を始めても横須賀鎮守府が勝利しますので心配ありません。」

 

 そう言い合う2人にどう見ても偉いであろう服装をした人間が現れた。

 

「何の騒ぎか?」

 

「はい。頑なにナイフを置き、銃から弾を抜かずに入ろうとするので......。」

 

「そうか。まぁそれなら車に待機してもらえばいい。申し遅れました、私は横須賀鎮守府警備部の武下です。」

 

 フレンツはてっきり現れた人間が提督かと思ったが、違った様だ。ここの警備の長だった様だ。

 

「武下さん。このとてもじゃありませんが、国賓への扱いではない様に思えますが、一体警備の教育はどうなっているんですか?」

 

 さながらクレーマーの様にフレンツは武下に言ったが、武下は顔色ひとつ変えずに答えた。

 

「これでも緩い方です。どうかお願いします。」

 

「分かりました......。護衛の者は指示に従って下さい。」

 

 フレンツは腑に落ちないどころか、不信感だらけで仕方なく従った。これも大統領の任務の為だ。

 

「提督のところへは私がご案内します。それとメディアの方々、門内への侵入は提督から許可は得ましたか?」

 

 一通り終わり、腑に落ちてない護衛を連れて歩き出そうとした時、武下は立ち止ってそう言った。

護衛の後ろにはカメラを構えたアメリカのテレビ番組のクルーがいた。カメラの電源は入り、ガンマイクは伸ばされている。

 その質問を通訳がメディアにすると『してない。というか出来無い。』と答えると、武下は言った。

 

「拘束させていただきます。鎮守府へ来ると聞いてましたのは使節団の方々と護衛だけと聞いてます。聞いてない者たちを入れる訳にはいきません。今すぐ引き返すというのなら、拘束は見逃しましょう。」

 

 そう言った武下から尋常じゃないオーラが発せられた。それは特有のオーラだった。

 

「では。こちらに。」

 

 武下はメディアが訳も分からず門の外に出てったのを確認すると、フレンツら使節団と護衛を連れて本部棟へ向かい始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 フレンツは本部棟の案内された部屋に居た。そこは見るからに会議室だ。応接室の様なものではない様だ。

少し待っていると、扉が開かれ、1人の青年が入ってきた。見るからに年は20も行ってない青年だ。青年は会議室の中を歩き、椅子に座った。そこはフレンツの正面。そこに横須賀鎮守府の提督が座ると言われていたので、心底驚いた。

 

「私が横須賀鎮守府艦隊司令部司令官です。アメリカ使節団のフレンツ・アルバリアンさんですね?」

 

「はい。」

 

 青年は自分の事を提督だと言った。

 フレンツは信じれなかった。この青年が、通訳や会った日本人が口を揃えて言う提督なのだろうか。

そして、不信感が増長した。この年で佐官になり、しかも深海棲艦から海を奪い返して回っている指揮官だと言うのだろうか。

 

「今日はどういった御用件でしょうか?」

 

 そう言った提督にフレンツの不信感は更に増長される。

 

「今回は大統領からの命により、横須賀鎮守府を見て来るように言われています。その前に、提督にご挨拶を。」

 

「そうでしたか。」

 

 気さくと言っていいか分からないが、普通に返してくる提督。

 

「それでですね、今日の門の前での出来事。あれは一体どういうことですか?」

 

 そうフレンツが聞くと提督は苦笑いをする。

 

「あれは諸事情で......すみません。」

 

「門の外で下ろされると言うのもどうかと。」

 

「それも事情があります。」

 

 フレンツはそう言いながら言及をするが、提督は事情などと言ってはぐらかす。いい加減、言わない提督にフレンツは言い放った。

 

「国賓に対しての対応がなってないと言いたいのです。それに、護衛への装備の制限など。あれをしてしまえば護衛の意味が無くなってしまいます。それに、そちらの警備兵が護衛に銃口を向けました。アメリカと戦争をするつもりですか?」

 

 フレンツは何も言わない提督にそう言及する。

 

「あれでもかなり妥協してもらったんです。それにこちらの門兵が護衛の方々に銃口を向けたのにはこちらの指示に従わなかったからではないですか?」

 

「そうだが......。」

 

 提督は顔色一つ変えずに続ける。それをフレンツは少し不気味に思った。

 

「まぁいいです。本題に入りましょう。」

 

 そう切り出したフレンツは率直に言った。

 

「深海棲艦と互角に戦うのに何故旧型艦が使われているんですか?」

 

「そうですね......。」

 

 フレンツはどうだろうかと思った。これまで数分話してて分かった事だが、この提督は身なりは軍人だが軍人では無い。そして、話も素人だ。どう深海棲艦と互角に戦えるのか聞き出せると思ったのだ。だが、それはあっさりと砕かれる。

 

「機密です。ですがひとつ、言える事があります。それは、旧型艦に見える別の船という事ですね。」

 

「どういう意味ですか?」

 

「お答えできません。」

 

 フレンツの計算外だった。そうやすやすと言う訳では無い様だ。

もうこれを聴くことは出来ないだろう。警戒されてしまっているのは見え見えだった。次の話に切り替えた。

 

「そう言えば基地にはずいぶんと人がいないんですね。兵士や乗組員はどこに?」

 

「私も末端の兵士や乗組員の状況まで掴めないので分かりかねます。」

 

 これもダメだった。そうフレンツは思った。次の話を考える。何でも言いから情報が欲しかった。

 

「ここが日本皇国として扱われてないと聞きました。どういうことでしょうか?」

 

 フレンツはそう言って提督の顔を見た。これまでのとは違い、効果があった様だ。答えを出し渋っている様子。

フレンツは次に提督の口から発せられる言葉が楽しみに思った。

 

「ここ横須賀鎮守府は事実、ひとつの国として機能してます。私を頂点とした横須賀鎮守府という国家です。」

 

「そうなんですね。それで、それは誰が決めたことですか?」

 

 フレンツは『しめた』と思い、渾身の質問を提督にぶつけたが、状況が一変。一緒に会議室に入っていた門兵が安全装置を解除した様な音を発した。

何かに触れたのはもう言わずとも分かっている。何に触れたのか、正直フレンツは知りたくなかった。

 

「それはお答えできかねます。」

 

「そうですか。なら、この司令部以外の棟とか見せていただけないでしょうか?私としては何故、基地の中に大規模な工場とショッピングモールの様な建物があるのかが気になります。」

 

 フレンツは冷や汗を額から垂らした。何故なら門兵が見るからに警戒態勢なのだ。それに触発されてか、護衛もマグポーチに手を掛けている。いつでも給弾して射撃できるようにしているんだろう。

 

「それは出来ません。工場とショッピングモールの様な建物はお見せすることは。」

 

「何故ですか?」

 

 フレンツはこれでまた答えれないと提督が答えると思った。そうすれば、『何故これまでの事、全て答えれないんですか?』と訊こうとしていた矢先、突然会議室の扉が開かれた。

 そこに立っていたのは、日本風の衣装に身を包んでいる少女。奇抜ともいえるそのファッションにフレンツは目を丸くした。

そしてその少女は袖口に手を入れると、黒い塊を手に持っていた。拳銃だ。

 

「そこまでにしてください。」

 

 少女はこれまで通訳を介して話をしていたフレンツと提督の間に入り、流ちょうな英語でそう言った。

 

「門兵さん。彼らに逮捕権を執行します。」

 

 そう無表情の少女を見てから提督の方に目をやると、呆れたかのような表情をしていた。

そうすると提督はその少女に話しかけ、少女の手から拳銃を奪った。そして日本語で何か言うと、頭を下げた。

 

「部下の無礼をお許しください。」

 

 そう言った。

 

「部下、ですか?軍でありながら日本の軍人はあのような恰好をしているのですか?しかも年端も行かぬ少女です。」

 

「それは彼女の私服です。気にしないで下さい。」

 

 そう提督が言うと、その少女を会議室から追い出した。日本語だったが、唯一聞き取れた単語があった。『コンゴウ』だ。

それがどういう意味なのかはフレンツにとってさっぱり分からないものだったが、何か有力な情報を手に入れたと確信できた。

 

「提督、逮捕権とは?」

 

「そのままの意味です。といっても鎮守府内と正門前のみ有効ですが、逮捕された場合、牢屋に入れられますよ?」

 

 提督の発した言葉はもう国家として成り立っていた。それをフレンツは直感で感じた。

 

「それと早く鎮守府から出る事をお勧めします。」

 

 突然提督がそんなことを言い出した。

 

「何故ですか?」

 

「横須賀鎮守府は私が法律と言われていますが、それは否とも言えます。」

 

「それがどういう意味で?」

 

「意味を考えてはいけません。」

 

 提督はそう言って席を立った。提督が立って退出したのならそれは強制的に解散という事になる。

 そしてフレンツは使節団を連れて立った。

 

「提督の言ったことを信じましょう。今すぐここを出ます。」

 

 そう言ってフレンツは一時、横須賀鎮守府を離れた。

 





 今回の会談は全てフレンツ視点だという事に気付きましたでしょうか?気付かなかったのならもう一度読み返して下さると意味が判ると思います(※気付かない人いないでしょう)。

 提督が必死に情報を隠そうとしているのにはちゃんと理由があるのでお楽しみに。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百四十一話  会談②

 

 フレンツは諦めてはいなかった。日本皇国がどうやって深海棲艦と互角に戦っているのかを知る事を。

そもそも、提督は何故あそこまで隠そうとしているのかが気になる。通訳曰く『横須賀鎮守府は日本皇国とは異なる存在』と言っていた。なら、その横須賀鎮守府が運用している艦隊も日本皇国のモノであるとは限らない。そしてあまりに少ない人員で、あれだけの規模の基地を運営しているとは思えない。更に、フレンツに拳銃を向けた少女は何者か。

 

「今日も頼んでみよう。」

 

 そうフレンツは一緒に日本に来ていた他の使節にも伝えた。

再度、提督と話をする。今度は、別の視点だ。なぜそこまで機密にする必要があるのか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 使節団は再び、横須賀鎮守府の正門の前に来た。

この時、フレンツ以外はまた情報を聞き出せないだろうと考えていたが、フレンツは違っていた。

フレンツの手には日本の新聞がある。それを通訳に翻訳してもらい、それを見たのだ。

 一面には横須賀鎮守府の事が書かれていた。そして、そこに何度も出てくる単語があった。

 『艦娘』。そう呼ばれている存在がある。紙面を見る限り、年の若い女ばかりだと書いてあった。フレンツにはそれが見覚えがあったのだ。昨日、フレンツに銃口を向けた少女。その少女は軍事施設に居ながら、軍服を着ておらず、独特な服を着ていた。新聞にあった写真の『艦娘』と呼ばれている少女たちもそれぞれ、特徴的な服装をしていたのだ。

フレンツは直観的に日本皇国が深海棲艦と相対する事が出来る理由が『艦娘』にあるのではないかと考えていた。

 

「着きました。」

 

「ありがとう。」

 

 通訳がそう言ってフレンツを専用車から下ろす。下ろされた場所は正門前。昨日と同じ場所だ。フレンツはそうすると護衛に目配せをした。フレンツはここに来る前にある事を護衛に指示をしていた。

 

『ライフルは置いていけ。』

 

 その意図はライフルを携えていたら必ず、『武器から弾を抜いておけ。』と言われるのは自明の理だ。それならばもうライフルは置いていけという事。そして腰にぶら下げているナイフもだ。だが、拳銃はどうするのか。それは、防弾ベストの内側に入れておく事だ。

 あちらの金属探知機は簡易的なもので、昨日着た時にも防弾ベストは着用していたが、脱げとは言われなかったのだ。それがねらい目だとフレンツは思い、護衛にそう言っておいたのだ。

 

「使節団の方々ですね。」

 

 門兵はそう訊いてくる。それに通訳が日本語で応え、昨日と同じように色々と始まった。今日は抵抗せずに素直に従い、全員が止められることなく通過する。

フレンツは上手く行ったと思いつつ、それを表情に出ないようにしながら提督と話をする部屋に入った。フレンツが部屋に入るともう既に提督は席に座っていた。何かアクションを起こすわけでもなく、フレンツは向かいの席に座った。

 

「今日は私からお聞きしたい事があるのですが、よろしいですか?」

 

 提督はそうフランツに言うと、フランツはすぐに返事をした。

 

「はい。こちらも機密に触れない程度ならお答えします。」

 

「なら遠慮なく......。」

 

 そう言った提督は少し咳払いをすると訪ねてきた。

 

「先ずは、我々の艦隊の艦載機がアメリカ合衆国領海と領空内に侵入してしまったことを今更ながら謝罪を申し上げます。」

 

 そう言った提督は頭を下げた。

何故謝ったかはフレンツは分かっているつもりだった。もし、自分でもそうしていただろうと考えていた。そして、そのお蔭で双方の生存確認が出来たのだ。それは利があったのだ。

 

「その事に関しては大統領は今回の侵犯はお互いの生存確認がなされたので良しとすると申しておりましたので、お気になさらず。」

 

「ありがとうございます。」

 

 フレンツは答えると手元の新聞に視線を落とした。いつ、訊くべきなのかとタイミングをうかがっていた。

 

「日本皇国と連絡が途絶えてから、貴国ではどのような体制を取っておられたのですか?」

 

「戦力が残っていた初期は抗戦をしてましたが、戦力が削られ切った頃に軍は撤退し、一切抗戦をしませんでした。」

 

「そうなんですね。こちらも同じです。」

 

 何を聞いてくるかと思えば、回答の予想が簡単につきそうなものを訊いてきた。フレンツは身構えて損した気分をした。

 

「沿岸部からは国民は離れていると聞いておりますが、全ての船が無くなった訳では無いんですよね?」

 

「勿論です。民間船は放置されていますが、政府が管理している船は全て動かせるようにはなってます。」

 

 少しフレンツの予想とは違う質問が飛んできたが、機密になんてかすりもしてないので普通に答えた。

 

「今の、日本をどう思いましたか?」

 

「そうですね......深海棲艦との戦争が起きているのかと思わされる様な、異世界の様だと思いましたね。」

 

「そうですか......。」

 

 提督はフレンツのその回答を聞き、少し気を落としてしまったみたいだ。

 

「すみませんが私からお尋ねしたかった事は以上です。そちらは?」

 

 フレンツはチャンスだと確信した。このタイミングで新聞の事を聞けば、何か有力な情報が手に入ると確信していたのだ。

 

「えぇ。この新聞にある『艦娘』について教えてください。」

 

 そうフレンツが言った瞬間、提督は顔をしかめた。ビンゴだ。そう確信した。

そしてここまで言われてしまえば、断れまいと考えていた。

 

「分かりました......お教えしましょう。」

 

「本当ですか?」

 

「はい。よくよく考えてみれば、何れ知られる事でしたので。」

 

 そう言って提督は立ち上がり、一度、扉を開いて出て行ってしまった。そしてほんの1分すると、誰を連れて戻ってきた。

フレンツはその誰かに見覚えがあった。昨日、フレンツに銃口を向けた少女だったのだ。

 

「彼女がその『艦娘』です。」

 

「はぁ......。それで、彼女が何だと?」

 

 そうフレンツが聞くと、にわかに信じがたい事が提督の口から語られた。

 

「彼女たちは貴国と同じように窮地に立たされ、戦闘艦が全滅した時、現れた我々の味方です。」

 

「現れた?」

 

「はい。現れ、この東京湾の奥深くに入り込み、海岸部の街を焼こうとしていた深海棲艦を一掃。そして我々に味方をすると誓った者たちです。」

 

 フレンツは必死に脳内で情報を処理した。現れたなんて単語は都合がいい。どういう意味なのだろうか。どこからともなくなのか分からないが、取りあえずこのままだと処理しきれないので言葉のそのものの意味で捉えた。

だが安息を取り戻したフレンツの脳内に更に爆弾が投下された。

 

「彼女らがあの旧型艦を操り、海を駆け、深海棲艦を駆っている張本人です。」

 

「なんだと......。」

 

「それに、金剛。艤装を。」

 

 フレンツが驚きを隠せないでいると、提督はその少女を呼び、少女が光に包まれた。

そしてその光が消えていくと、その少女の腰にとてもではないがその華奢な身体では到底支えれないであろうサイズのモノを背負っている。そしてその背負っているモノには明らかに砲塔が4つ、乗っていた。サイズは小さいが、どうみてもそうだった。

 

「今、彼女が腰に背負っているモノは艤装と呼ばれています。」

 

「艤装っ?!戦闘艦の装備ですか?!」

 

「はい。彼女らはいわば特殊能力を持った少女たちという事です。」

 

「特殊能力で、特殊だから深海棲艦と互角に戦えるという事ですか?」

 

「そうなります。」

 

 そう提督は白状した。だがそれはあまりにフレンツの想像をはるかに超えたモノだった。

特殊能力、艤装を背負う、年端も行かない少女。それはフレンツの思考を乱し、正常な考えをすることを阻害した。

 

「にわかに信じがたいですが、現行艦ですら歯が立たない深海棲艦です。特殊であるからこそ戦えたとなると、信じざるを得ないですね。」

 

「ありがとうございます。」

 

 そうフレンツが言うと、提督は答えた。

だがその後、提督は続けた。

 

「この際ですから、横須賀鎮守府にはいる為に何故あそこまでされたのかというのも説明させていただきます。」

 

「そうですか。」

 

「理由は大きく1つあります。それは、この艦娘が現在、日本皇国と協力関係にあるという事です。」

 

「それはつまり?」

 

「日本皇国海軍扱いですが、軍としてくくってもいいのかあやふやな立ち位置です。」

 

「さっぱり分かりませんね。」

 

 フレンツはそれを訊くと、率直な感想を言った。それ以外思いつかなかったのだ。

 

「まぁ、協力関係だと思って下さい。それで彼女たちは最初、日本皇国内では英雄と称えられていましたが、深海棲艦の大型艦になると彼女たちと似ていると言う理由から、人類に味方をしている深海棲艦だと勘違いされ、国内でデモや暴動が起こるのを避ける為に政府が彼女たちを隔離したんです。」

 

 提督の口から語られる話は多分かなり端を折ってあるのだろうが、大体の情景は予想出来た。

 

「ただ戦わせていると感じていた当時の軍は戦争を肩代わりしている礼に彼女たちが求めるものを聞いたそうです。そうしたら皆は口を揃えて『指揮官が欲しい』と言ったそうです。」

 

 フレンツは口を挟まずに聞いた。

 

「それに困り果てた軍は私を指揮官として鎮守府に入れたんです。」

 

 最後の締めにはいささか違和感があるものの、フレンツは大体納得した。もう何をどう聞けばいいのか分からない状態でもあったのだ。

 

「それで、どうしてここまで厳重に?」

 

 辛うじて聞けたのはこれだった。それに提督が答える。

 

「指揮官を欲しているのは、日本皇国に散らばる他の鎮守府でも同じでした。それは艦娘たちは本能で指揮官を求めていたんです。ですが、指揮官が着任するには確率が0に近い事を成し遂げなければならず、それをクリアしたからこそ、艦娘は外から入ってくるものを何でもそう警戒するようになってしまったんです。私を失いたくないが一心に考え、行動していった結果がこれだったんですね。」

 

「成る程......。」

 

「だがどうして艦娘ではなく、門兵がその指示に従っていたか......。それは、私が暗殺未遂に遭った時、艦娘の怒れようから艦娘の思いを汲み取るようになったんです。艦娘を怒らせない様にと。」

 

「何故怒らせてはいけないのですか?」

 

 フレンツはその質問をしなければよかったと後悔した。

 

「艦娘は私に関わる事に敏感で、私が怒っていれば艦娘もその対象に怒ります。そうすると彼女たちはこういうんです。『それに攻撃を加えましょう。』と。民間人が住んでいる地域でも、国の機関があるところでも、皇居に攻撃を加える事を厭わないのです。」

 

 フレンツはそれを訊いて、信じられなかったが信じるしかなかった。もうここまで聞かされて、自分の脳では処理しきれないのだ。全てが分から無いことだらけだ。

 

「もし、怒る対象になってしまうとどうなるんですか?」

 

 フレンツはそう訊くと、提督は表情を変えずにとんでもないことを言った。

 

「そうですね......。なら、こうしましょう。今、私はこちらに居る門兵に怒っているとしましょう。」

 

 そう提督が言った途端、少女は信じられない動きで門兵の前に立ち、置いてあったボールペンのノックしてペン先を門兵の目にあと数mmで刺さるという距離で止めた。

 

「そうするとこうなります。殺そうと動き出すんです。」

 

 そう言った提督に聞こえない程度の声でフレンツは言った。

 

「イカれていやがる......。」

 

 フレンツは咳ばらいをして言った。

 

「......暗殺専門の部隊でもこんな事はしませんよ。何者なんですか?」

 

「艦娘です。」

 

 フレンツはそう言って聞くも、提督に一蹴された。

 

「つまり、艦娘は私に降り注ぐあらゆる危険を察知し、跳ね除け、私が害だと思ったものを即刻排除しようとします。」

 

「......。」

 

 もうフレンツは返事をする気にもなれなかった。

フレンツはやっと昨日、提督が言っていたことの意味が判ったのだ。ここが日本皇国でありながら、あらゆる法が有効でない理由が。

 

「分かりました......。ありがとうございました。」

 

「いいえ。」

 

 フレンツはそう言って席を立つと足早に会議室から出て、専用車に乗り込んだ。

本能がここから出て行った方が良いと訴えていたからだ。

 





 これで会談は一応終わりです。これからは偶にアメリカ視点になる事がありますので、お願いします。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百四十二話  陸と海が動く

 

 俺は新瑞の横で開いた口を必死に閉じようとしていた。

何故かは目の前の広がる景色にある。正門前を埋め尽くす深緑の人影。新瑞曰く、全員が陸軍所属。何故ここに居るのかというと、仕事の無い陸軍が遂に大本営で音を上げたそうだ。それを聞いた新瑞が海軍が陸軍に依頼をし、この様な形になったとの事。海軍の兵は最近、他の鎮守府の警備で余計に回したお蔭でタダ飯食らいだった兵が殆ど出払ってしまったとの事。

そして何故、この様な事になっているのかというと、原因はアメリカの使節との会談のあった直前に正門前で抗議をしていた連中への対策だそうだ。ちなみにこちらには武下には連絡していたらしい。

 

「一体......何の真似ですか?」

 

「これは下ご、おっと失礼。抗議している国民への威圧と言っていい。横須賀鎮守府、軍事施設へのこういった行為は法律で禁止されている。もう2回も提督の世話になったんだ。」

 

「仏の顔を三度まで、ですか?」

 

 新瑞の言った事に、今日の秘書艦である加賀はそう言った。

 

「そうだ。これまでは横須賀鎮守府の現有戦力、警備部の門兵。総数約100人で抑えていたものの、どうやら他の警備部所が手薄になるみたいだ。だから陸に頼んで兵を派遣してもらった。」

 

 こう言うものの、陸とは仲が良いとは言えない状況ではなかったのかと俺は思ったが飲み込んだ。

実際、仲が悪いのならこんな見方を変えればおもりみたいな事を引き受けるとは思えない。

 

「彼らは第三方面軍 第一連隊。陸軍では珍しい海軍を嫌っていない事で有名な陸の部隊だ。それと今リランカ島にいる第五方面軍 第三連隊も同じく海軍をそこまで嫌っていない事で有名だ。」

 

「やはり陸と海は関係が......。」

 

「悪いのかもしれない。だが海の方は其処まで嫌ってはいないんだ。陸が一方的にという感じ。多分だが、深海棲艦との戦争初期、海は護衛艦やらが戦っていたが、陸は何もできなかった。対深海棲艦用の兵器の開発に力を注ぎ、何度も試したが悪戯に兵を死なせていた。国の為に戦えなかった、そして国の為に命を賭して戦えた海を憎んだんだろう。」

 

「そうなんですね。」

 

 俺の予想通りというか、いつぞやに誰かから訊いた話だ。

 

「陸がこの部隊を寄越したのも海の事を嫌ってないからだろう。」

 

 そう言った新瑞は言った。

 

「彼らの第三方面軍は艦娘が現れてから編成された生まれの若い部隊。」

 

「どういう意味ですか?」

 

「新設だが、それなら数字が大きくなるはずだ。だが、大きくなっていない。何故なら艦娘が現れる前に第三方面軍 第一連隊は全滅しているからだ。横須賀などこの周辺に点在する基地に駐屯している陸軍の大体が第三方面軍だ。第一連隊は内地、山梨辺りの基地の部隊だ。彼らの先代は沿岸部でなく、重要拠点に駐屯している訳でもなかったことから当時、健在だった小笠原諸島の守備隊として派兵された。」

 

「小笠原諸島って......。」

 

「そうだ。日本近海、沖ノ島攻略戦の途中で深海棲艦から取り返した島だ。」

 

 全て察しがついた。この後、新瑞が言う事も。

 

「だが後退を繰り返していたが故に領海や経済水域を失い、遂に小笠原諸島も前線になってしまった。海軍が撤退するまでの間、当時の第一連隊は通用しないと言われていた自走砲や大口径砲、戦闘ヘリを使い、文字通り"時間を稼いだ"。そして全滅したんだ。だから全滅してしまった連隊の名前をそのまま使う事になったんだ。」

 

 新瑞は遠い目をして続けた。

 

「彼らはだから海を嫌わない。先代の第一連隊は海の為に、国民の為に命を賭して戦った。その部隊名は唯の部隊認識の為の名前に過ぎないが、それ以外に大きな意味を持っている。先代の様にあれ、と。そして先代は全滅してしまったが、今度は全滅しない為の戒めとして。という訳で、彼らは陸軍から派遣された一時的な門兵の増強要員だ。」

 

「分かりました。」

 

 そう俺は頷いたが、新瑞は今後は加賀の方を向いた。

 

「彼らを信用できるか?」

 

「......さぁ。でも、これまでの陸の人とは違います。どこか、門兵さんたちと同じように見えます。」

 

「そうか。......噂で聞いたんだが、ここの門兵は艦娘と仲良くやっているようだな。」

 

「はい。とてもよくしてもらってます。」

 

 加賀はぶっきらぼうにそう新瑞に応えるが、それを訊いていた新瑞は満足した様だ。

その場から歩みを進めて、帰ると言って帰ってしまった。

 

「新瑞さんが渡して下さった資料によると、こちらに警察の護送車も何台か来ているみたいですね。」

 

「そんなものまで......。」

 

「彼らは自覚してないらしいですが、この行為がどのような結果を招くのか。」

 

「そうみたいだ。艦娘に殺される可能性だってあるというのに......、テレビや新聞で一応知らせてはあるんだがな。」

 

「はい。理解力に乏しいのかしら?」

 

 そう加賀は小首を傾げた。

俺は何も言わなかったが、加賀のその考えには同意だった。もう2回も全員が刑務所送りになっているというのに、これだ。ここまでして自分の欲望を満たしたいのだろうか。

 

「もう実力行使はしているし見せつけた。ここまでしたのに来るとなると加賀の言う通りになる。」

 

 そう言って溜息を吐くと、声が聞こえてきた。

 

「艦娘の情報を開示せよっ!!」

 

 俺が恐れていた事は起きた。本当に来たのだ。

 

「あら、来てしまった様ね。これで理解力が乏しいと分かったわ。もう彼らに何を言っても理解してもらえないわ。」

 

「そうみたいだ。」

 

「門の外の兵も動くようよ。」

 

 そう加賀が言ったので俺はそっちに目をやった。

兵によって出来た壁が動き出し、抗議を始めた連中の方に向かっていく。

 

「即刻解散し、この場を離れろ!この行為は法律によって禁止されている。」

 

「鎮守府を開放せよっ!」

 

「即時解散せよっ!従わない場合は実力を行使するっ!場合によってはテロ行為とみなすっ!」

 

 テロ行為。反政府組織がする行為をそう呼ぶ。テロ行為だったなら実力行使と言って"制圧"される可能性もある。

 

「加賀。」

 

「はい。」

 

「今すぐ門兵の下士官に連絡。『彼らを"制圧"する事は許さない。全員を拘束し、護送車で搬送する。』」

 

「分かりました。」

 

 俺はそう加賀に指示を飛ばして、行動させた。

この様子なら抗議する連中は動かない。そうすれば第一連隊が"制圧"してしまってもおかしくないのだ。もしかすると暴徒鎮圧用のラバー弾を撃つのかもしれない。だがそれは当たりどころが悪ければ死んでしまうだろう。俺はそう思ったのだ。殺してほしくない。そう考えているからこその指示、お願いだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 結局あの後、第一連隊の派遣されていて表に出ていたのと、裏で待機していたのを合わせた全兵力。おそよ600人が抗議していた連中を取り押さえ、護送車に押し込んで搬送された。

多分、この後数日間拘置所に入れられた後、裁判だろう。結果は見えている。牢屋行きだ。

 俺は護送車が走り去り、第一連隊の派遣された指揮官と少し挨拶をすると執務室に戻ってきていた。

外に出ていた時には既に執務は終わっていたのでやる事は無い。なので炬燵に入ってぼーっとしている。最近どんどん駄目になってきた様な気もしなくもないが、仕方ない。炬燵が悪いのだ。

 

「提督。」

 

 お茶を淹れてきた加賀が戻ってくると、そう言って俺に話しかけてきた。

 

「何だ?」

 

「彼らは......どうしてあそこまでするのですか?同胞が捕まっても、捕まる事を恐れずに......。」

 

 加賀はそう言って炬燵に入った。

加賀は表情からは読み取れない。結構、感情の起伏が激しい艦娘だと思っていたが、何故だろうか。1mm足りとも何も表情を変えずに、俺の顔を見ている。

 

「加賀。彼らの目的は何だと思う?」

 

「そうね......『艦娘の情報を開示せよ』、『鎮守府を一般開放せよ』って言ってるから、艦娘を積極的に受け入れたいという目的?」

 

 加賀はそう言った。この回答は俺は加賀から出て来るとは思ってもみなかったが、俺も模範解答を知っている訳では無い。

 

「俺はだな、彼らが1人ひとりカメラを持って来ている事と、ときたま鎮守府付近の不審者で捕まる人との相違点が多くある事から、艦娘が目的だと思う。」

 

「どういう意味ですか?」

 

「艦娘の情報はそれなりに国民は知っている。それは軍法会議や観艦式、文化祭(仮)で大きくメディアで報道された筈だ。だが実際に艦娘の姿を映したものは軍法会議と観艦式のみ。艦娘はその時に出ただけでは無いと知っているんだ。」

 

 俺は続けた。

 

「つまり、他の艦娘をメディアを通して知らされないのなら自ら見に行こう。そして頑なに撮影を禁止されている艦娘を撮りたい、というのが建前だと考えている。」

 

「建前?」

 

「そうだ。本音は......。」

 

 俺は少し詰まってしまった。建前だと言わなければ加賀はさっきの事を信じてしまうかもしれない。だが建前だと言った途端、本音が発生し、建前が嘘だと知られてしまう。

だが、正直加賀が知るのも時間の問題だと思う。ここまで抗議している連中が押し寄せてきているんだ。何故このような事をしているのだろうと考え始める艦娘は少なからず居る筈だ。もしそれで俺の様に考えてしまったら最後、どのようなアプローチがあるか想像がつかない。

 

「本音は、艦娘を撮影する事。」

 

「はい?」

 

「と言っても多分だが、好奇心から来るものではないと思う。」

 

「だったら何をするために?」

 

「加賀は自分たち艦娘の容姿をどう思う?」

 

「そうね......皆年は若い女の子で顔は整っているし、スタイルもいいと思うわ。」

 

「それなんだ。」

 

 加賀は自分たちの姿を客観視出来る様だ。

 

「つまり、艦娘をアイドルか何かと勘違いしている。」

 

「アイドル.....成る程......。」

 

 アイドルで通じるか不安だったが、通じた様だ。

それにしても俺も結構な例えを考え付いたものだ。これ以外で表現するなら、絵から出てきた様な整った容姿だとか言っていたかもしれない。正直、この表現は意味が判らないから使いたくなかったのだ。

 

「彼らは戦争を知らない。政府や大本営は知らせてはいるが、代理戦争を続けて長いだろう?」

 

「そうね。」

 

「だから戦争を別の世界で起きているものだと思っている。だから軍事施設である横須賀鎮守府はタダ飯食らいだと不味いからこうして国民の為にイベントを開き、楽しませろという事だ。」

 

「そう......。」

 

 加賀はそう言ってお茶を飲んだ。

 

「守るに値しないわね。」

 

「どういう意味だ?」

 

「そのままの意味です。戦時下でありながら観艦式や文化祭(仮)があったのも提督のお蔭。それすらに気付かないず、あまつさえそれを更に求めるなど提督と横須賀鎮守府の海域奪回の任の邪魔になります。自重して欲しいものですね。」

 

「そうだな......。」

 

 そう加賀はキツい事を言ったが、続けた。

 

「でも、知らないだけ幸せなのかもしれませんね。」

 

「ん?」

 

「私たちはひとつの鎮守府で1人しか現れる事が出来ません。もし1人が消えてしまったなら、新しい私たちが現れる。そんな事は残酷で、見ていられないと思います。それに......。」

 

「それに?」

 

「いえ、何でもありません。」

 

 加賀が何を言おうとしたのか分からないが、言いたい事は分かった。俺もそれは重々承知している。艦娘が消えてしまえば、次が現れる事も。

 

「ですが私はそんな人間も居ていいと思います。頭の中がお花畑で、外を見ない人間。そんなんじゃない人間が存在しない訳が無いんですから。」

 

「そうだな。」

 

 その後はこの話を一切止めて、別の話に切り替えた。

普段、どんなことがあるのか。仲良くしてくれる艦娘の話や酒保の人たちの話。食堂の話。

やはりその時の加賀は感情の起伏が激しく、怒ったり笑ったりしていた。

 





 今日もあいつらが来ましたが、いつもと対処が違います。
まぁ、ちょこちょこと情報が出て行ってますが......うん。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百四十三話  来訪者

 

 大規模作戦から1ヵ月。抗議団体の抗議活動は長く続き、アメリカからの使節団が鎮守府に2度訪れてから少し経った今日は特段何かあるわけでもなく、北方海域や他海域にて継戦できるように大本営の鎮守府は練習航海や残敵掃討戦を繰り返している。

率直に言って俺の、俺たちの仕事が無い。強いて言えば西方海域への残敵掃討戦と南方・中部海域への偵察があるが、まだ動き出さなくてもいいと俺は考えていた。それらを攻略するにあたって、現状の鎮守府戦力と練度が見合わないと俺が考えていたからだ。

なら、レベリングをすればいいだろう。だが、レベリングをしたくても北方海域は残敵掃討が行われた。今行っても何もいない現状だ。時間が経てば、アルフォンシーノ群島にはたむろしないだろうが、それなりの深海棲艦は出没するようになると予想している。その時、大本営の鎮守府が手に負えなくなり、且つ、こちらに余裕があればレベリングを行う事になっていた。

 

「なぁ、どれくらい続くんだろうか?」

 

「分からないわ。」

 

 今日の秘書艦はイムヤ。あの事件以降、イムヤは金剛や鈴谷までとはいかないが結構遊びに来るようになった。だが今日は秘書艦として執務室に居る。

 

「でも司令官。大本営の鎮守府が通らないところに向けて継続的に出撃させてるじゃない。」

 

「いいだろう?レベリングはやろうと思えばできる。」

 

 俺がさっきああいったものの、レベリングをやっていた。

大本営の鎮守府は北方海域をアルフォンシーノ直通ルートを通るが、レベリングは違う。逸れていくのだ。だから比較的残党は残っているのだ。それを漸撃していっている。

 

「作戦終了直後の大井さんが司令官に訴えてたわね。改二にしてくださいって。」

 

「あぁ。だから重巡メインのレベリングに初撃を加えさせる為に大井を艦隊に入れてる。」

 

「そうなんだぁ。んで、今レベリング中の艦娘は?」

 

「最上。航空巡洋艦に改装して以来、滅多に出撃してなかった。」

 

「最上さんねぇ......。航空巡洋艦っていう艦種の運用方法は?」

 

「からっきしだ。」

 

「でもその前は鈴谷さんのレベリングしてたわよね?」

 

「そうだな。」

 

 俺は終わった書類をイムヤに渡した。

鈴谷のレベリングは大規模作戦直後から始まり、これまでのレベリングで一番時間が掛かった。改装できるまでの練度の半分しかなかった為に演習と出撃を繰り返し、何度も何度も入渠させ、言い方が悪いが酷使してきた。それでも改装に漕ぎ着けたのは2週間後。駆逐艦のレベリングに1週間費やしてきた俺にとって長く感じた。

 

「それで、目標練度は?」

 

「20前半。そこまで来れば航空巡洋艦としてのノウハウはある程度吸収できているだろうから。」

 

「それならもう少しね。」

 

 イムヤは書類を抱えて扉に向かって行った。

 

「提出してくるわ。それと建造をやっていたわね?」

 

「あぁ。今日は高速建造をしてないから迎えに行ってやれ。」

 

「分かったわ。」

 

 そう言ってイムヤは執務室から出て行ってしまった。

建造に関しては俺は約束を2つしていた。1つは瑞鶴と翔鶴を進水させる事。もう1つはイムヤと潜水艦を進水させる事だ。現在、ボーキサイトが不足していて、空母レシピをやっていられるほど資源はない。なので比較的少量で済む潜水艦建造に力を入れていた。これまでは数々の艤装を出し、近代化改修に回してきた。お蔭で改修限界値まで到達した艦がいくつも増えたのだが、一向に目的が達成されないでいた。それに建造や開発に関して雪風に専任していたが建造開発を任せていた当時は練度がそれ程高くなく、俺が駆逐艦を中々前線に出していない時期だった為に俺にそう進言してきていたが、今では駆逐艦屈指で練度が高く、前線にも結構な回数出る事があるので専任を解いていた。

現状、建造開発を行っているのは秘書艦やレシピをしているする場合はそれに見合った艦娘に頼んでいる。今日のはイムヤに頼んでいたのだ。

 

「今日こそ、出て来てほしいな。」

 

 俺はそう考えてきた。未だにイムヤは広い部屋を1人で使っている(※ユーはドイツ艦で固められた私室で暮らしてます)。寂しい思いをしているのは自明の理。一刻も早く同じ艦種の艦娘を進水させたいそう俺は考えていた。そう考えていた刹那、廊下を誰かが走ってきた。足音は2つだ。

勢いよく開かれた扉の向こうにはイムヤが居て、その隣には見慣れない艦娘が立っていた。

 

「来たわよ!司令官っ!!」

 

「えっ?!なにっ?!どうなってるでちか?!」

 

 そうオロオロして俺の顔を見るなり驚き、イムヤの背後に隠れてしまったその艦娘は特徴的な語尾とイムヤと同じような恰好をしていた。

 

「来たか。」

 

「ほら、挨拶っ!」

 

 俺がそう言って彼女の顔を見た。彼女はオロオロしながらもそれに答える。

 

「伊五八ですっ!」

 

 そう彼女は言った。伊五八という事は、つまりはイムヤ的に言えばゴーヤだ。

 

「あぁ、よろしく。」

 

「ゴーヤって呼んでもいいよ?」

 

「そのつもりだ。」

 

 そう言ってカチコチしながら挨拶したゴーヤの横でイムヤはプルプルと震えていた。

そんな様子のイムヤにゴーヤはオロオロしながらどうしたのかと聞くが、イムヤは首を横に振るだけだ。

 

「嬉しくって......。」

 

「何がでちか?」

 

「司令官が建造を優先してくれてたの。潜水艦を出すために。」

 

 そう言った瞬間、ゴーヤは『そうでちか』とだけ言ってさっきまで緊張していた様子から一変した。

 

「潜水艦を出すって事はそれはずっと海に出てなければならないでちか?資源を集めて帰り、デコイをしたりするでちか?」

 

 そう言ったゴーヤに俺は驚いた。どうやら艦これにおいての潜水艦の酷い扱いに関しては知っているみたいだ。

だが、そんなゴーヤにイムヤは言った。

 

「司令官はそんなことしないわ。資源は十分に遠征艦隊が持ってくるし、司令官は後さき考えずに使わないの。」

 

「ならどうしてでちか?」

 

「私が寂しいだろうからって、そう言って優先させてくれたの。潜水艦の私室は広いけど私しかいない。ずっと1人でいたから......。」

 

「そうでちか......。提督。」

 

「なんだ?」

 

「ありがとうでち。」

 

「あぁ。」

 

 俺はなんだか照れ臭くなったが、これで約束は果たされた。だが先約が残っている。そう考えると少し怖い。

瑞鶴だ。よくあるような『爆撃するわよ?』的なのは無いが、それでも拗ねたら面倒だ。

 

「鎮守府を見て回って来い。あとイムヤ。」

 

「なに?」

 

「もう寂しくないか?」

 

「えぇ。それに寝るとき以外はずっと誰かが一緒に居てくれたからね。」

 

「そうか。あと海、見に行くか?護衛を付けてどこでも行きたかったら言ってくれ。」

 

「この休み中にでも頼むわ。」

 

 そう言ってイムヤはゴーヤの手を引き、執務室を飛び出した。

これから鎮守府の中を案内するんだろう。時間的には昼より少し前、殆ど回れずに戻ってきそうだ。そう思いながら頬杖を突く。

 

(良かった......。)

 

 ただそれだけだったがその刹那、扉が開かれた。其処に居たのは瑞鶴だ。

 

「提督さん?」

 

「なっ、なんだ?」

 

「さっきイムヤちゃんに頼まれたんだけど、秘書艦代理として少しここに居るわね。」

 

 そう言って入ってきた瑞鶴は少ししかめっ面をしながら秘書艦用の席に座った。

そして俺の方を見て言った。

 

「イムヤちゃん、知らない娘連れてたけど誰?見てくれはどうやら潜水艦みたいだったけど?」

 

 俺は思考を巡らせた。だがどう手を打っても仕方ない状況だ。あの恰好をしていてここに居たという事はもう答えは1つしかないからだ。誰でもそう考えが収束してしまうだろう。

 

「今朝建造された、伊五八だ。」

 

「ふーん。」

 

 俺が素直に言うと、瑞鶴は唇を尖がらせて立ち上がった。

そのままこっちに来ると俺の横に立ち、ずいっと寄ってきた。

 

「なっ、ど、どうした。瑞鶴?」

 

「私のお願いは?」

 

「は?」

 

「だ~か~ら~!私の翔鶴姉の進水は?!」

 

 そう言って俺の肩を揺らしてくる。

 

「私の方が早かったじゃん!!時間あるじゃん!!提督さんー!!」

 

「揺らすなっ!......空母の建造には資材が掛かるんだ。回数を重ねるごとに資材が大幅に減少していって、運用に支障が......。」

 

「翔鶴姉ー!皆待ってるんだよ?!」

 

「皆?」

 

 そう言った瑞鶴の言葉に俺が反応すると瑞鶴は俺を揺らすのを止めた。

 

「正規空母で進水してないのは翔鶴姉だけなの!だから皆待ってるんだ。翔鶴姉をさ。」

 

 そう言った瑞鶴はまた俺の肩を掴んだ。

 

「だから、早くしてよー!」

 

「分かったっ!分かったから、揺らすなっ!」

 

「本当に?!」

 

「あぁ!」

 

 そういうやり取りをしてやっと解放された俺だが、そんな俺の居る執務室の扉がまた開かれた。

扉を開いたのは赤城と金剛だ。この組み合わせと、赤城の焦燥を隠しきれていない顔を見ただけでただ事では無い事は理解できた。

 

「大変ですっ提督ッ!!直ぐに厳戒態勢にっ!!未確認艦が接近中ですっ!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 今日もだが実質休みの為、鎮守府のあちこちに散らばっていた艦娘はそれぞれの要所に集められ、話を聞いていた。内容は同じだ。

本部棟、酒保、警備棟の3か所でそれぞれ、俺、赤城、金剛が散らばり伝え話し、行動を起こす。

未確認艦の艦種は不明。だが、これまでにあった揚陸艦とは違う。哨戒任務で急遽出撃した加賀艦載機からの連絡が無ければ行動が出来なかった。そしてその時、加賀が自分の艦橋から身を乗り出し、叫ぶ。

 

「未確認艦は戦艦っ!艦隊を組んでいる模様っ!戦艦以外は現行艦と酷似し、揚陸艦の姿も見られますっ!」

 

 それを聞いた俺は指示を出す。呼び出しだ。

 

「門兵さん、今すぐ事務棟に走りそこにいる天見というパイロットを連れて来てください!」

 

「分かりました。」

 

 門兵は走り出し、天見を呼びに行く。

 

「提督、指示をっ!」

 

 赤城がそう俺に言ってくる。たぶんこれは迎撃に出たいんだろう。そんな雰囲気を俺は感じたが、俺は毛頭そのつもりはない。

今回のに関してはおかしい点がある。それは未確認艦接近と連絡が入り、その後の続報で7隻以上と聞かされた事。そして、あちらは輪形陣で接近中。続々と報告が入る中、その陣形や動きに関して夕立が覚えがあると答えた。何に覚えがあるのかというと、戦術指南書ではないが、資料室に残されていた戦闘記録だ。艦娘と護衛艦が共に戦っていた時代のモノだ。もうこれだけあればアレが何なのかは見当がつく。

 

「地下司令部に入る。だが長門と陸奥、鈴谷、雪風、北上、瑞鶴はこのまま出撃。俺から指示があるまで砲雷撃戦は許さない。」

 

「「「「「「了解。」」」」」」

 

 俺はそう言って地下に行くと伝えた。あそこなら通信設備が最近、どんどんと更新している為、人工衛星やらを使わないのなら無線など色々通信機材がある。

それを使わない手はない。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は通信妖精に未確認艦の戦艦に無線を繋げるように言った。そして耳に当てているところから呼びかけが聞こえてくる。

俺が普段聞かない言語。日本では使いはするが以前よりも使わなくなった言語が聞こえてくる。英語だ。

それを確認すると、妖精にこのまま通信機材を背負うと言って俺は地上に出た。

予め、携帯無線機で繋げてもらったので外に出る事が出来た。

 外に出ると、門兵が天見を連れて来ていた。

 

「あの、司令官?どうされたんですか?」

 

「仕事をお願いできますか?通訳です。」

 

「一応、出来ますが......。」

 

「じゃあこれを耳に。」

 

 そう言って俺は無線機を背中から下ろして、天見に受話器を渡した。受話器からはずっと呼びかけが聞こえてきていた。

受話器を耳にあてると、天見は英語を話し出した。予想通りだ。パイロットというのは優秀である。英語が出来なければいけないのは分かっていた。だから呼んだのだ。

 

「通訳を。」

 

「はい。えぇっと......。」

 

 天見はそう言うと英語を話し、数秒すると入力マイクを押さえて俺に言った。

 

「米海軍だと言っています。」

 

「こちらは横須賀鎮守府艦隊司令部と伝えて下さい。それと、何故こちらに来たか。」

 

「分かりました......。」

 

 天見はそのままマイクを話すと離し、話しだす。すぐに手でマイクを押さえて俺に言った。

 

「日本皇国に見せに来たと。深海棲艦に抗う力を手に入れた。だそうです。」

 

「政府への許可はあるか聞いて下さい。」

 

「分かりました......。」

 

 天見はまたマイクに英語で言う。すぐにまたマイクを押さえて俺に言った。

 

「許可は取ってあるそうです。そして横須賀鎮守府の埠頭への入港許可を求めてきています。」

 

「許可します。ただし、上陸は許しません。」

 

「伝えます......。」

 

 天見が英語で伝え、少しすると立ち上がった。

 

「最初の任務が通訳だとは思いませんでしたよ。......何時になったら原隊復帰ですか?」

 

「ずっと事務棟ですものね。それに天見さんの配置移動に関する書類はきてません。」

 

「そうですか......。この後も通訳を?」

 

「はい。お願いします。」

 

 俺はそう言って無線機を背負って1回地下に下ろしてきてから地上に出た。

降りた際に出撃していた長門たちには未確認艦の艦隊のエスコートを頼んだので、直に埠頭にやってくる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 埠頭に接岸したのは戦艦1と現代戦闘艦8、揚陸艦級2、現代空母2だ。それにどうやら潜水艦もいるらしいが、沖で待機しているとの事。俺の周りを非番だった門兵が取り囲み、戦艦の横で立っていた。そして、長門たちはそれぞれの艦を取り囲むように展開してもらっている。

俺を囲んでいた門兵の1人がぼそりと言った。

 

「あれは、アイオワ級戦艦......。」

 

 アイオワ級戦艦。第二次世界大戦中のアメリカ海軍の戦艦だ。大戦後も現役で、実艦は記念館になっているらしい戦艦だ。

そんなアイオワ級戦艦を見ていると、艦橋からいかにも海軍軍人らしい人と、兵士、そして一際目立つ格好の少女が現れた。

 

「接岸許可......。上陸は出来ないのか?」

 

 そう言った海軍軍人はコチラに向かって言った。

 

「私は米海軍特種艦 戦艦 アイオワ艦長、ウェールズ・マスキッド。そして......。」

 

「私はアイオワ級戦艦 アイオワよ!」

 

 俺と門兵は思考停止した。

目の前に日本やドイツ以外の艦娘を目の当たりにした。噂程度でイタリアの艦娘も居ると聞いていたが、アメリカはそもそも艦娘がいれば海岸まで領海が狭まる事は無かった。そうすると目の前に居る艦娘は、最近現れたと考えていいのだろう。

 

「私は横須賀鎮守府艦隊司令部司令官です。アポ無しで乗り込むとは、ここがどんな施設か分かっているんですか?」

 

 俺は正直、何故いきなり乗り込んできたのか理解できなかった。普通、使節を介して知らされるものではないのかと決めつけていたのだが、それを真正面から来たのだ。

 

「分かっている。数々の海を奪回し、人類の海を広げている艦隊の司令部だ。それがどうかしたか?」

 

 ふんぞり返っているウェールズは俺にそう言った。

 

「我々は米海軍。世界の海と秩序を守る米海軍だ。体制が変わり、艦娘が早々に出現したお蔭でここまで出来た島国が何を言っているのだ?」

 

「そうですね。」

 

 俺は頭に血が上ったが押さえ、一応相槌を打った。

 

「我々は戦える。帰ってきた使節団の結果報告で色々と知る事が出来た。海軍が横須賀鎮守府に手を拱いている事も、陸軍が交易ルートの確保に奔走している事......そして、」

 

 ウェールズはとんでもない事を言った。と言っても知られていてもおかしくないが。

 

「中部・南方海域への攻撃を計画している事もだ。中部海域は我々の領土である。中部海域を攻撃する事即ち、アメリカを攻撃する事である。」

 

「でっ、ですか......。」

 

「ハワイが陥落してから、あそこは深海棲艦の根城となったのだ。あそこは深海棲艦がいるが、元は合衆国の領土である。」

 

 そう言ったウェールズは鎖に手をかけた。

 

「攻撃は許さん。」

 

 そう言って少し呼吸を整えたウェールズは話を切り替えた。

 

「それに大統領は危惧しておられる。日本皇国の戦力、海域奪回して回った救国の英雄の元に最大戦力が集中し、しかもそれが制御出来ないでいる。実質横須賀鎮守府は国として機能しており、しかも独裁制。いつ反乱を起こすか分からない、と。全世界が叶わなかった深海棲艦の討伐に横須賀鎮守府だけは大きな被害を出さずにこれまで続けてこれ、実績も残している。その力はどの国の軍隊にも及ばない。」

 

 俺は何も言わなかった。

 

「提督。考えているよりも強大な力を持っている事は自覚しているのだろうか?一度反乱を起こそうと思えば必ず成功する。それ程の力が提督の手にある。」

 

 俺どころか門兵も黙ったままだ。沈黙は肯定を意味すると言うのは当たっている。反論できない。まず俺に関してはそんな事も考えた事が無い。門兵はあるかもしれないが、場合によってはこれまで築き上げてきた信頼が一気に失われる。それを恐れてか誰も口を開かなかった。天見でさえもだ。

 

「我々も海域奪回に乗り出す。その話をしに日本まで来たのだ。」

 

 そう言ってウェールズは艦橋に入った。それを追う様に兵士とアイオワが艦橋に戻って行く。

それをただ見ている事しか出来なかった。

ここまでウェールズの話を聞いて明らかなのは、艦娘の出現とアメリカ合衆国は海軍を以て深海棲艦と再び戦うという事。そして中部・南方海域をウェールズは何も知らない。俺も知らないが、ウェールズよりかは把握しているだろう。

 

「民間用の港に入り、政府と大本営と会談をするみたいですね。」

 

 天見は惚けていた俺にそう話しかけた。天見の手には手紙があり、それを読んだみたいだ。

 

「そうなんですか?」

 

「はい。」

 

「内容は?」

 

「アメリカ合衆国が艦娘を持つようになり、パワーバランスが傾いたと考えているんでしょう。」

 

 そう言った天見は手紙を和訳してから俺に渡してくれると言ってそのまま事務棟に帰っていった。

俺は武下に声を掛けた。

 

「パワーバランス......。失った力を取り戻すって意味ですね。きっと。」

 

「私もそう思います。深海棲艦によってアメリカ合衆国は大打撃を被ったそれを取り返す為に力を取り戻すという事でしょう。」

 

 俺もそれは分かっていた。だがやはり何度考えてもウェールズは知らなさすぎる。

 

「武下さん。部下の動揺は沈めておいてください。」

 

「無論そのつもりです。」

 

 俺はそう言って伸びをした。

そんな俺のところにイムヤが来ていた。

 

「司令官。ちょっといい?」

 

「あぁ。」

 

 俺はイムヤに呼ばれて、すぐに解散の指示を出し、執務室に戻ってきた。執務室には赤城も来ており、何だか重苦しい空気に包まれていた。

 

「どうしたんだ?」

 

 そう俺が聞くと赤城は溜息を吐いて困り顔をした。

 

「アメリカの艦娘......記憶ではありますが頭に血が上ります。」

 

「司令官、私も。」

 

 そう訴えてくる彼女たちの表情は怒りというよりももっと別の感情の様に思えた。

 




 
 色々盛りだくさんですが、まぁ......眠気との戦いでしたので......。
イムヤとの絡みもダークな感じは無く、明るくていいと思ったので今回の様になりましたが、最後は色々残して終わらせておきます。
 艦これ改での新実装艦であるアイオワをネタにさせていただきました。というか、元から布石っぽくしてたつもりですので多分気付いていた方もいらっしゃると思います。

 ご意見ご感想お待ちしてます。



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第百四十四話  一難去ってまた......

 今日の秘書官は、金剛だ。

何というか初めてな気がとてつもなくしている。これまで記憶の中にある金剛型が秘書艦をしたのは比叡、榛名、霧島だ。どれだけ記憶を遡っても、金剛の秘書艦経験はない気がする。気がするだけだ。もしかしたらあったかもしれない。

 

「終わった。金剛、提出頼めるか?」

 

「分かりマシター!行ってきマース!!」

 

 そう言って金剛は上機嫌で書類を片手に執務室を飛び出して行った。

朝食の時に比叡に訊いた話だが、どうやら秘書艦が今日だと分かってからずっとテンションがいつも以上に上がり、昨日もなかなか寝付けなかったらしい。

俺は内心で『遠足前の小学生か』と呟きながらその話を聴いていた。

 執務が始まって約1時間。いつも通りに終わり、一息吐いていると執務室の隠し扉が開かれた。そしてそこから出てきたのは、巡田だった。どうしてそこを知っているのかと言うと、赤城、金剛、鈴谷が動いて居た時に証拠をつかむために巡田に渡していた本部棟内の隠し通路の地図を覚えたのだろう。そして何故、こんなところから現れたのか......訳など大体想像がつく。

 

「提督。失礼します。」

 

「巡田さん、どうかしたんですか?」

 

「米海軍艦隊が鎮守府に再び来るとの事。厳戒態勢を敷くことを愚考します。」

 

 巡田がここに現れる訳。それは、鎮守府に深海棲艦や沖の方から接近する艦艇があった場合。それと、鎮守府に陸から侵入しようとする輩が危険だと判断された時だ。今回は、海だ。それも沖からでは無いアプローチ。

 

「......分かった。巡田さんは持ち場に戻って下さい。」

 

 そう言うと普段なら首を縦に振る巡田が横に振った。

 

「......どうしてですか?」

 

「出来ません。」

 

 そう言い切った巡田は俺に提案してきた。

 

「米海軍の先日の来航。そして、アメリカに向かった使節団の話を訊いてみると持ち場に戻る事は出来ません。」

 

「艤装に侵入していたっていう奴ですね......。」

 

「はい。ですから持ち場に戻る事をせず、私たち諜報系長けた門兵を集め、アンブッシュする事を提案します。」

 

 そう言った巡田の目はこれまでに見たことのない目をしていた。

そしてその目は俺を捉えていたが、俺に向けられたものでない事は直感で感づいた。この目はこれから来る艦隊に向けられるであろう目だ。

 

「アンブッシュ......迎撃ですね。」

 

「はい。機密を盗まれる可能性があります。」

 

 そう言った巡田は少し上唇を噛むと、続けた。

 

「それに......艦娘の拉致、も考えられます。」

 

「どうしてっ......。」

 

「戦力増強、以外考えられません。」

 

 巡田はそう言って俺に向かって敬礼した。

 

「全員捕まえ、提督の御前で跪かせてみせます。」

 

 そう言い、巡田は隠し通路に戻ってしまった。どうやら俺の返事を聞かずに行ったところ、どうやら確定らしい。

 

(艦娘と他の門兵にも連絡を入れないとな。)

 

 俺は思い立ち、行動を始める。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 巡田の話通り、米海軍のアイオワと共に来ていた艦隊が鎮守府の埠頭に入ってきた。

そして停止して投錨すると、橋を下ろしてきた。今回に関しては俺は入港も上陸も許可していない。この時点では俺は何をしてもいいのだが、相手が相手だ。アメリカなのだ。それに横須賀鎮守府ではどうなってるかなんて知った事は無いだろう。

 

「提督。入港も上陸も許可がいるかね?といってももう、入港はおろか上陸しているがな。」

 

 俺の横でウェールズの話した言葉を天見が翻訳する。

 

「そのようですね。......今日はどのような御用件で?」

 

 そう俺が聞くと、ウェールズはすぐに答えた。

 

「今日は念押しだ。中部海域は我々米海軍が総力を挙げて制圧する。日本皇国海軍の出る幕は無い。それに領土侵犯を犯す事になる。国際的に干されたくはないだろう?」

 

 鼻にかけたように話すウェールズの言葉を淡々と訳する天見は俺に訳を終えると話した。

 

「この前から気になっていたんですが、中部海域というのは?」

 

「中部海域というのは太平洋の中央にある海域です。そこはハワイがある場所ですが、今は深海棲艦がいる海域です。」

 

「はぁ......。」

 

 聞いてきた天見はそれで満足したのか、俺の返答も伝えて訳を続けた。

 

「アイオワがいれば深海棲艦など怖くも無い。それに日本皇国にばかり良い顔させて等居られない。それだけだ。」

 

 得意げに言ったウェールズを見て俺はゲンナリしつつ、俺の横に門兵が来た。連絡の様だ。

連絡はこうだった。埠頭や要塞砲周辺の警備中、見知らぬ戦闘員を捕獲したとの事だった。来ていた戦闘服の肩にアメリカの星条旗のパッチが付いていたとの事。どうするかという指示が欲しかったようだ。俺はその返事に武装解除させ、警備棟の一番綺麗な地下牢に居れる事を伝えた。着ていた 入れる

そしてその後、俺はウェールズに明らかにこれまで向けてきた目を覆した。それには気付いたウェールズは話を変えてきた。

 

「何かあったのかね?強盗でも押し入ったか?」

 

 そう言ってへらへらしているウェールズに俺は返答した。

 

「えぇ。どうやら見たことのない強盗だった様です。優秀な警備が"処理"しました。安全ですね。」

 

 そう言った途端、ウェールズは目を見開いた。

驚いたのだろうか。

 

「スキューバ装備に短機関銃、覆面、戦闘服......とんだ恰好をした強盗です。近頃の強盗はこんな風なんですかね?」

 

「どう"処理"した?」

 

「聞きたいのですか?」

 

 俺はそう言うと巡田がこちらに来た。

来た巡田は俺とウェールズに発現許可を貰うと答えた。発言

 

「武装解除し、拘束された後、引きずりまわされ、通りすがる鎮守府に居る人間や艦娘に死なない程度に何かをされます。そして大本営に連れて行かれ、処分が下されます。処分を下すの等、1分もあればいい方でしょう。その後、ここに拘束されて来て何十何百という目の前で土下座をし、惨たらしく殺される......。鎮守府に手をかけたことを後悔させます。」

 

 そう語った巡田だが、今の話は巡田の体験談だ。より鮮明に、リアルに語られた巡田の言葉にウェールズは脂汗を拭いながら言った。

 

「それはっ......国際法にっ!?」

 

 ボロを出したみたいだ。巡田が拳銃を引き抜くと門兵全員が小銃を構えた。

それと同時に他の門兵が報告に来た。

 

「停泊中の艤装にも侵入者ありです。全員捕縛し、地下に連行します。」

 

 そう言って門兵は立ち去った。

 

「地下に連れて行き、どうするのだ。」

 

「名前と所属を言わせ、拘束。大本営に連絡を取ります。」

 

 そう俺は答えると天見は訳す。

それを訊いたウェールズは部下と少し話をした後、俺に言った。

 

「その不埒な輩の"処理"、こちらに任せてはくれまいか?」

 

「いいえ、結構です。」

 

 俺はそう答えて話を戻した。

 

「私からひとつ、お教えしておきます。中部海域への侵攻でそちらは甚大な被害を被るでしょう。しかも深海棲艦の艦隊を壊滅させる間もなくです。」

 

「なん、だとっ......そちらに出来て我々に出来ない訳が無いだろうっ?!」

 

「貴艦隊は壊滅します。艦娘1人でやれることなんてそうそうありませんからね。」

 

 そう言って俺は言い放った。

 

「そもそも私が貴官にお教えせずとも、気付かなければなりません。」

 

「我々、米海軍を舐めてもらっては困る。では、帰らせてもらう。」

 

 そう言ってウェールズはアイオワに乗り込み、抜錨を指示したのか、錨が巻き取られていく。

それを見送り俺は執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 金剛は執務室に帰ってくるなりファイルを漁り始め、見つからなかったのかそのまま『資料室に行ってキマス。』と言って執務室を飛び出したかと思えばすぐに帰ってきた。

 

「違和感があったので調べてみたらビンゴデシタ。提督、これを見て下サイ。」

 

 そういって金剛は俺にある本を開いて見せた。そこにはアイオワに関する事が書かれていた。基本情報、兵装、戦歴など......退役までの話が書かれていた。

違和感というのどの辺りか知らないが、1つ言える事がある。深海棲艦の現れる前に中東で起きた戦争に艦娘の存在しないアイオワは出撃していた。それに近代化改修があり、兵装が現代化していた。もしそれがあのアイオワにもあるのなら、『イレギュラー』が出てくる。

更に、アメリカは『イレギュラー』の事を知らない。知らずにアイオワに妖精が作った現代兵器を使わせるとそれに応じた深海棲艦の新たな兵器を投入してくる。経験済みであり、それはとても恐ろしい事だ。更にその被害がこちらに及ぶ事も考えられた。

 

「アイオワが近代化改修もとい、改造をしてしまえば飛び道具が強くなってしまいマス。」

 

「そうだな。それに彼らは『イレギュラー』を知らない。もし妖精に何かを作らせていたならば深海棲艦は同じようなものを投入してくるだろう。」

 

「ハイ。なのでアイオワの艤装を離れたところから調査してた青葉の資料を持ってきマシタ。写真やレポートなど......。」

 

 俺の指示なくそこまでしていたのかと少し感心した。だがどう対策するか話さなければならない。

 

「ですけど変なんデス。」

 

 そう切り出した金剛は机に青葉の資料を広げて見せた。

レポートと写真が数枚だけだが俺はそれを見て目を見開いた。明らかにミサイルがあるのだ。それに発射管が何本もある。

 

「これは......。」

 

「多分ですが、記念艦として残っていたアイオワを無理やり動かしたのではないかと思いマス。」

 

「そっちが九割九分そうだな。」

 

 俺はそう言った後、続けた。

 

「多分アイオワだと名乗った艦娘も民間人か軍人だ。艦娘じゃない。」

 

「その様デス。それに艤装には人間がたくさん乗ってマシタ。全員船を動かすための乗組員デス。」

 

 溜息を吐いて俺は頭を掻いた。面倒な事になった。

本当に中部海域を攻めると言うなら止める義理などない。だが攻めたとして、アメリカはどうするのか。ウェールズの様子を見てると色々と思うところがある。傲慢で鼻にかけた様な話し方だった。大統領は違うかもしれないが、ウェールズは軍人だ。それに自らを艦長と名乗ったが更に艦隊指揮官だとも考えられた。厄介だ。

 

「艦隊を編成して中部海域の入り口に斥候を送ろう。米艦隊の中部海域侵攻を確認次第連絡を入れて撤退だ。」

 

「編成はどうしますカ?」

 

「隠密性が欲しいところだ。イムヤとゴーヤに出て貰おう。」

 

 俺はそう言って編成表を書き、脇に置いた。

これからどうするかを考え始める。イムヤとゴーヤに行ってもらったとして、どうするのか、だ。

そんな時、執務室の扉が開かれた。開いたのは赤城だ。

 

「提督っ!アイオワだけが戻ってきましたっ!」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 埠頭に佇むアイオワの周りにはさっき去った現代艦は無い。ただアイオワだけが居た。それに何だかウェールズの乗っていたアイオワとは違ってみえる。誘導弾を積んでいないのだ。

そんなアイオワの艦橋から誰かが出てきた。ウェールズじゃない、見てくれから察するに艦娘だ。

 

「ハーイ、アドミラル。ミーはアイオワ級戦艦 一番艦 アイオワよっ!」

 

 埠頭に集まっていた艦娘や門兵たちは面を喰らい、言葉を失った。勿論俺もだ。

 

 




 月から水まで更新できませんでした。リアルで少しパソコンが使えないところに居ましたので......。携帯でやってもよかったんですが、全角のスペースが無いので無理でした(←挑戦してた)

今回のは題名から察せれますね。ころころと状況の変わる鎮守府です。もうごちゃごちゃですね(汗)

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第百四十五話  来たのは争いの素か平和の素か

 

 金髪碧眼、ピチッとした服に身を包み、こちらに手を振っている少女はアイオワの艦橋から出て来て手すりに捕まると手を振った。

 

「ハーイ、アドミラル。ミーはアイオワ級戦艦 一番艦 アイオワよっ!」

 

 そう言った彼女に俺は目を白黒する。ほんの数時間前まで居たアイオワはやはり予想通りだったと言うのだろうか?

記念艦を使って攻めるのか。

 

「あっ......えーっと......。」

 

 俺の頭はショートしかけていた。

ちなみに他の艦娘や門兵もだ。

 

「あっ、アドミラルって、ウェールズさんの事か?」

 

「ウェールズ?誰それ?」

 

 そうアイオワが言い放ったのを聞いた俺は横で同じくショートしかけている金剛によって耳打ちをした。

 

「マジモンだぞっ!数時間前に居たのに来やがった!!」

 

「本当デースっ!幻想とかじゃないデスヨネっ?!」

 

 そう言って金剛は眉毛を吊り上げた。金剛は疑っているらしい。

 

「ちょっと、アドミラル?何こそこそしてるの?」

 

 そう言って俺と金剛の間にズイッと入ってきたアイオワは心底不満であるように振る舞っていた。

 

「それでアドミラル、話があるんだけど。」

 

 そう言って改まったアイオワに俺は真正面に立った。

金剛もその空気を読んだのか、横に立ち口を閉じた。

 

「私を拾ってくれないかしら?」

 

「何故?」

 

「気付いたら沖に居たのよ。それに私の本能がここに居たいと言っているわ!お願いっ!」

 

 そう言ってアイオワは絡んでくる。俺はそれを必死に押しのけるが効果が無い。関係なしに突っ込んでくるので金剛に助けを求めようと金剛を見たが俺は一瞬にして顔面が蒼白になった。

金剛は指をぽきぽき鳴らしながらこちらに近づいてくる。俺の本能が赤い警告灯を灯しながらサイレンを鳴らしている。危険だと。だがそれは俺に向くことは無かった。

 

「アイオワ、何してるデスカ?色仕掛けとは、許さないネー!」

 

「そんなつもりないけれど、そんな風に見えたの?」

 

「見えたのデース。それに、貴女本当にアメリカの艦娘デスカ?」

 

「えぇ、そうよ?」

 

 そうアイオワが答えると金剛は首を傾げた。どうやら何か違和感があるようだ。それを見ていた俺はアイオワの腕をどけて金剛に話しかけた。

 

「違和感でもあるのか?」

 

「そうなんデース。数時間前に居たアイオワには憎悪?みたなものが渦巻きマシタ。でもここにいるアイオワには不思議と浮かんで来マセン。」

 

「そうか......他の艦娘もそうなのか?」

 

 そう目線を艦娘たちに向けると全員が頷いていた。どうやら昔の記憶があるが、アイオワには関係ないらしい。数時間前のアイオワは艦娘たちの記憶にある軍艦だった頃、砲弾を交えたからこその憎悪だと考えてもいいだろう。この場にいるアイオワは艦娘たちと一度たりとも撃ち合ってない。そう結論付けて問題ない。

 

「なら、アイオワ。」

 

「何?」

 

「ここに居ろ。」

 

「やったー!センキュー、アドミラルっ!!」

 

 そう言って飛びつくアイオワを押しのける俺は金剛に手伝ってもらいながら脱出した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は武下、巡田、天見と共に地下牢に来ていた。金剛も居るが、艤装は禁止している。

これから会うのは米艦隊から鎮守府に放たれた兵だ。

 牢に着き俺はある程度離れたところから中を見た。総勢12人。この数をどうやって捕まえたかは聞きたくないがこのまま拘束しているのは問題がある。だが、尋問しない訳にもいかないのだ。

中に座っている兵を見まわして声を掛けた。

 

「1人ずつ名前と所属を言って下さい。」

 

 それを訳す天見の指示に従ったのか、それぞれ1列に並び次々と話し始めた。

所属は決まって陸軍だったが聞くだけ俺はその話を信じられなかった。

 

「全員同じ部隊という事でいいですか?」

 

 そう訊くと全員が頷いた。

 

「では現場指揮官は?」

 

「俺だ。」

 

 そう言って立ち上がったのは30代後半くらいの男が深緑だが門兵や巡田が使う様な戦闘服ではなかった。

 

「アメリカ陸軍 第4旅団戦闘団 第7歩兵連隊。普通部隊ですね。」

 

 天見はそう訳したが、武下は難しい顔をしていた。

 

「本当にその陸軍の普通部隊なんですかね?」

 

「どういう意味ですか?」

 

 俺は武下に訊き返した。

 

「まだ敵陣とは言えませんが、ここに潜入し情報を集め誘拐をしようとしていた......。そんな任務を一般兵にやらせるとは思えません。彼らは特殊部隊なのでは?」

 

 そう言った武下は現場指揮官に睨みを利かせた。

それを見ていた天見はどうやら英語で聞いた様だ。その返答はすぐに帰ってくる。

 

「違うみたいですね。本当に第7歩兵連隊だそうです。」

 

 そう天見は言ったが巡田が持っていたものを天見は借りてニヤッと嗤うと英語で何かを聞いた。

それには現場指揮官は動揺し、視線を逸らした。何のことだか分かっていない俺に天見は持っていたものを俺に見せた。

 

「日本と連絡の途絶える前のアメリカ軍では普通部隊に短機関銃、サブマシンガンは装備されてません。装備されていたのは特殊部隊でした。」

 

 そう言って天見は弾倉を抜き、チャージングハンドルを引いて薬室に入っていた弾丸を抜くと安全装置をかけて俺に銃の先を見せた。

 

「これにはサイレンサー、消音器が付いています。消音器なんてつけるのは特殊部隊の特殊任務中だけですよ。疑わしいです。」

 

「隠密作戦行動中で無ければサイレンサーなんて使いませんよ。」

 

 天見と巡田は揃ってそう言った。言い方からしてみると2人はこの投牢されているのは特殊部隊だと言いたいみたいだ。

でも俺にはそれを見分ける経験や術すらも持っていない。仮に特殊部隊だったとして、情報を盗み、艦娘を攫ってどうするというのか。理由なんて明白だ。盗んだ情報を糧とし、艦娘は米軍で何かに使うのだろう。それは戦闘か研究は定かではない。

 

「天見さん、通訳を。」

 

「はい。」

 

 俺はそう言って天見に通訳再開を言って話した。

 

「本当にその所属なんですか?」

 

「......あぁ。」

 

 歯切れの悪い返答に俺は悩んだ。揺らいでいるのか、分からない。

 

「まぁいいです。何よりこれが物語っているようですからね。」

 

 俺はそう言って天見からサイレンサー付きの短機関銃を受け取った。

 

「鎮守府に解き放たれた貴官の同族は貴官合わせて12人ですか?」

 

「さぁ、どうだろうか。」

 

 そうニヤリと嗤った現場指揮官を見て俺は溜息が吐きたくなった。

 

「金剛。」

 

「ハイ。」

 

「何時間で見つけられる?」

 

「そうデスネ......もう全員捕まって死んでると思いマスネ。」

 

 金剛は俺の訊いた趣旨が伝わったらしく、俺が聞きたかった回答をしてくれた。

それを天見は訳して現場指揮官に伝える。

 

「何だとっ......彼らは潜入任務にっ!!」

 

 どうやら口を滑らせたようだ。

 

「米軍から投入された特殊部隊ですね?違いますか?」

 

 現場指揮官は黙り込んでしまった。沈黙は肯定と成す。俺は天見に目をやる。

 

「合衆国に対し、政府を通して貴官らの送還に関する協議を行うことにします。いつ帰れるか分かりませんが、それまでここで我慢して下さい。場所が悪いですが、休暇だと思えば気は少しは楽になるでしょう。」

 

 そう言って俺は地下牢から出て行った。

珍しく、金剛が暴走しなかったのはどうやら制御ができるようになったらしい。それにこちらには実害はまだない状態だった。もしこれで実害があったのなら金剛はためらわずに何かをしていただろうと予想が安易につく。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 食堂ではパーティーが開かれていた。なんのパーティーかと言うと、アイオワとゴーヤの進水パーティーだ。

久しくしてなかったので皆、盛り上がっている。羽目を外し過ぎないようにとは言ってあるが、別にいいだろうとも思っている。

酒は出るが、皆酔いつぶれるなんて事はしないのだ。そんなことがあったのは大晦日の時だけ。それ以外は皆、それなりに飲んでいただけだったのだ。

 

「ミーはアイオワ級戦艦 一番艦 アイオワよっ!よろしくー!!」

 

 そうマイクを持って叫ぶアイオワに拍手が起こった。どうやら危惧していた事は避けられたらしい。

アメリカ艦だからと言って毛嫌いする事はないらしい。それと、皆フレンドリーにしている。何故か知らないが金剛と仲良くなったようだ。俺の横で静かに肉じゃがを突いている金剛だが普段ならギャーギャーするものの、静かこの上ない。

 

「伊五八、ゴーヤって呼んでね!よろしくっ!」

 

 2人の自己紹介が終わった様で、ワーワーとなり始め、アイオワやゴーヤは艦娘に囲まれる。あれこれと質問をしにごった返すその様はどこかの学校の転校生に寄って集っている様子にそっくりだ。

俺は経験が転校した経験も転校生がクラスに入ってきた経験も無いが、皆こんな風になってしまうのかと頭を抱えていると金剛が話しかけてきた。

 

「提督。私、最初にアイオワを見た時、とても憎く思いマシタ。」

 

「それってあそこのアイオワか?」

 

「イイエ、変な艦長を乗せていたアイオワデース。その艦には今すぐ沈めてやろうかと思う程、憎たらしく思ってましたが、やっぱりあのアイオワにはそういう感情が出て来マセン。」

 

 そう言って金剛は口に肉じゃがのじゃがいもを放り込んで飲み込むと続けた。

 

「私たちに対抗して作られた巡洋戦艦のはずナノニ。デモ、そういう感情が沸かない事は良い事デース。今日から仲間デスカラ!」

 

 そう言って金剛は口に肉じゃがを掻き込むと立ち上がりアイオワを呼んだ。

 

「アイオワー!こっち来るデース!!」

 

「おっ!オケー!今すぐに!!」

 

 アイオワは質問に来た艦娘たちを『また後で聞くわ』と言ってこっちに来た。

 

「どうしたの金剛?」

 

「提督に何か話しておくなら今が良いデス。後にすると中々提督とは話せないデスカラネー。」

 

「そうなのー?アドミラルはそんな偉い人には見えないけど......。」

 

「そんな事ないデース!提督の階級は中佐。佐官ダケド、直接艦隊指揮をしてるのは提督だけデース。他のは大本営とかに居るだけデース。」

 

「それって凄いの?」

 

 俺を挟んで何かが始まった。

 

「凄いデスヨ!それに提督は"救国の英雄"って呼ばれてるデース!今でも危険はありますが海を自由に動けるようになりマシタ。提督の采配で全て深海棲艦から取り返したのデース!」

 

「へぇー!」

 

「まだまだこんなんじゃないデース!陸軍主導デスガ、欧州との貿易も始まろうとしてマスネ。それも提督のお蔭デース!更にっ!つい最近まで大規模作戦を展開してたネー!」

 

「ミーの仕事があぁぁ!!ノオォォォン!!」

 

 何やらよく分からない事になっているが、面白いので静かに聞く事にした。

 

「あちこちと連絡が回復しましたシ、もう残ってるのは中部・南方海域だけネー。」

 

 そう金剛が言い放つと、アイオワは俺を見るなり両肩を掴んだ。

 

「中部・南方海域攻略にはミーも作戦に加えて!」

 

 それを俺と金剛は一刀両断する。

 

「「練度が高まればいい(デース)。」」

 

「じゃあ早速レベリングを組んで!疲労なんて言葉、知らないわ!!」

 

 そう言うと別のところからにょきっと現れた大井がズカズカとやってきて俺とアイオワの間に入った。

 

「今は!私がレベリング中ですっ!貴女に譲らないです!!」

 

「いいじゃない!オーイ!」

 

「何ですかその『オーイ』ってぇ!!」

 

 そう騒ぎ出したので俺はそそくさとその場に紛れて離れた。

離れた先には赤城がいた。いつもの雰囲気だったが、俺を捕まえるなり空いている椅子に俺を座らせた。

 

「提督。前にアイオワさんに憎悪が渦巻くって言ったの覚えてますか?」

 

「あぁ。」

 

 赤城はそう離すと遠い目をしながら金剛とアイオワ、大井が騒ぐ所を見ると言った。

 

「でもあのアイオワさんにはそんな思い、ひとかけらも出て来ません。それはきっと......。」

 

 そう言いかけて赤城は袖を直すと言った。

 

「提督の艦娘だからでしょうか。」

 

「そう......かもしれないな。」

 

「彼女は私たちと戦ってくれる、何処で作られてどこの国のかは関係無いです。昔の連合国やら枢軸国なんて深海棲艦に食わせてしまえばいいんです。」

 

 赤城はそう言って髪を触ると続けた。

 

「彼女を番犬艦隊に加えます。」

 

「は?」

 

 等々にそう言うと赤城から俺に伝えられた。

どうやらアイオワは沖から来たが、もう沖に出れない様だ。これは番犬艦隊であるビスマルクやらのドイツ艦勢と同じだ。だから番犬艦隊として動いてもらうとの事。

 

「本人の同意は?」

 

「得てますよ。ビスマルクさんにも伝えてあります。」

 

「そうか。」

 

 俺は立ちあがり、未だに騒いでいる金剛たちに割って入った。

 

「どうどう、そんな暴れるなって。」

 

「「「暴れてないデス!(です!)(わ!)」」」

 

 そう言ってぜぇはぁ言う彼女たちを見て俺や赤城は笑った。

髪が乱れ、頬を膨らませて言うその様はとても面白かったのだ。

 





 昨日は今日の分も書いていたので更新できませんでした。すみません。
最近スパンが変ですが気にしないで下さい。ネタが浮かばないという事もあるんですけどね(汗)

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番外編  俺は金剛だ!⑩  『時が経つと』

 鎮守府に来て結構時が流れた。最初は色々な事に戸惑い、その時々で問題を起こし起こされ、楽しい時間を過ごした。

と言っても些細な事だ。大きな事は起きずに、大体が足柄だったり蒼龍と飛龍に絡まれたりだったがな。

 

「金剛君っ!早く来てよー!!」

 

 こんな調子で俺は今日も鎮守府で生活をしている。

鎮守府に来たのはもう数ヵ月も前の事だった。あれから白瀬さんは昇進したりして鎮守府は大きくなった。下っ端が担う作戦、任務でさえもそつなくこなし、コツコツと実績を積み上げた結果だと白瀬さんは言っていた。と言っていても未だに偵察や露払いをしているのであまり変わらない。そこに主力艦隊としての任務も入ってきてる訳だから実働する俺や艦娘たちよりも遥かに頑張ったのだろう。だが白瀬さんはいつも遊んでいる様に見えていたがな。

 

「今行くから少しは黙ってだな......。」

 

 今から俺は年に一度行われる観艦式に参加する為、鎮守府から離れて横須賀に来ていた。

観艦式にはその年に功績を挙げた鎮守府の主力艦隊が出席するのだ。

これから観艦式だ。今回の観艦式に出るにあたって白瀬さんとは一悶着あった。俺の式典参加で鎮守府で揉めた。何故かと言うと男の艦娘だなんて現れたら騒ぎが起きかねないという事になるとかならないとか。だが俺が海軍大将に気に入られて連れて行かれるやらの騒ぎのお蔭で結構知られているので問題ないとなった。

 今、観艦式会場で俺は蒼龍と飛龍に捕まりながら海に立とうとしていた。これから海を走り、観艦式となる。見世物になる訳だがいつもの事なのでそれ程緊張してなかった。

 

「では、行きますか。」

 

 俺はそう言って号令を出し、海の上を走り出す。

飛沫を上げながら海を走り、後ろを確認する。観艦式には艦隊の隻数規定はない。今、俺の後ろを航行しているのは蒼龍と飛龍、比叡、大和、武蔵、翔鶴、瑞鶴、足柄、羽黒、夕立、時雨だ。全員武勲を挙げた実力者たちだ。そもそも大和型と言うものは一度海に出れば戦果を挙げると言われているが、白瀬さんの大和型は一味違った。全戦無敗で、武蔵に至っては素手で深海棲艦を轟沈させる。素手で戦うのは白瀬さんの長門じゃない他の長門らしいが、見たことが無い。演習でさえも武蔵は素手で戦うので偶にストップがかかる程だ。

 

『次は、舞鶴第五鎮守府所属艦です!かの有名な金剛型一番艦 金剛がおります!』

 

 アナウンスが入り、俺は会場の前を走り、手を振る。こういうサービスも必要だと白瀬さんから言われている。全くその通りだが、この黄色い声援はどうにかならないのだろうか。

 

「キャー!!金剛くーん!!」

 

「カッコいいわー!!」

 

「私とケッコンしましょー!!」

 

 目の焦点の合ってない黙っていれば美人な人がそんな事を叫んでいるのだ。黄色いというよりむしろ、叫んでるのは脳内ピンク色だ。俺はそうである自信がある。

 

「あはははっ......はぁ......面倒だ。」

 

 俺の本音はそんな人たちの相手をするのが面倒だと言う事だ。唯一そう言う目で見ないのは金剛(本物)と比叡、榛名、霧島、大和、武蔵くらいだ。偶に遊びに来る夕立なんかも懐いた妹みたいな気もしなくもない。そこまでやらしい感じはしないのだ。じゃれてるだけって感じ。他は足柄並びにとなる。ガツガツ来る。いい例が蒼龍と飛龍だ。こいつ等、かなりぐいぐい来るのだ。この前なんか、俺の部屋に押し入ってきて『男の子だから掃除とかしないでしょー?!私がしてあげるー!!』と言って扉ぶち破ってきたもんだが俺は流石に怒った。だが俺の部屋は案外片付いている。そういうのは好きなんでね。残念そうに帰ろうとしたもんだがら扉直してから帰れと言って扉を治させた。

 白瀬さんは最近結構俺に構ってくるようになった。やれ秘書艦だの、やれ開発と建造してこいだの、やれ接待だのと言って俺を連れまわす。まぁ白瀬さんは言うなれば上司みたいなもんだから逆らえないが、それ相応の対価はあるんだ。給料上乗せだったり接待だったりすると帰りに奢ってくれる。気前がいいのか分からないが俺がラーメン啜ってるのを横から見てニコニコしてるもんだから気分はいいんだろうな。

 そんなこんなで話が脱線したが、面倒なのだ。

 

「モテモテじゃないのぉ~。でも金剛君は私とケッコンするもんねー?」

 

「蒼龍ズルいっ!金剛君は私とケッコンするもんねぇ?」

 

 観艦式で会場の前の航行が終わるなりそう言って蒼龍と飛龍は間合いを詰めてくる。俺はそれを後ずさりしながら距離を置くが、すぐに距離を縮めてくるのだ。こんな時は、と思い辺りを見回してすぐに走りだした。

走った先には武蔵がいる。武蔵の背後に回り、艤装の煙突に捕まった。

 

「ん、どうした金剛?」

 

「まただ。助けてくれ!」

 

「仕方ないなぁ、ほら。蒼龍と飛龍、金剛を追いかけるなら私の屍を越えて征け!」

 

「「えぇ~。」」

 

 というやりとりももう何回やったか覚えていない。

大和や武蔵がいなければ金剛とかに匿ってもらうが、誰も居ないとただ走り回るだけになるんだ。あれ、結構疲れるんだよ。

 

「さぁかかってくるがいい!!」

 

「いやぁ~.......。」

 

「遠慮しておくよ......。武蔵にはかないっこないもん。」

 

 そう言ってトボトボと退散するのを見て俺は武蔵の陰から出てくる。

 

「いつもすまないねぇ。」

 

「それは言わない約束だ。」

 

 これも恒例行事だ。

 

「と言って退散すると思ったかっ!!」

 

 そう言って飛びついてくるのはさっき後ろを向いて遠慮すると言った飛龍だ。それに驚き、俺は身をかわす。躱された飛龍はそのまま武蔵に捕まり、身体を固められるのだ。これも恒例だ。

 

「いだだだだっ!!痛いってばっ!!!」

 

「卑怯な騙し討ちが失敗したからこういう目に遭うんだ。」

 

「あははっ......。」

 

 絞め技をかけられている飛龍を苦笑いしながら見る蒼龍は頬を掻きながらこちらに来た。

 

「これも恒例だよね。もう金剛君が来てから時間も経ったし、それもそうだけどさ。」

 

「そうだな。」

 

 そんな事を話しながら俺たちは海を眺める。

 

「どう?ここの生活には慣れた?」

 

「あぁ、慣れたよ。」

 

 そう訊いてくる蒼龍に俺は淡白に返した。だがどうやら蒼龍が求めていたのと違った様だ。

 

「でも金剛君、急にこっちに来たって言うじゃない?向こうの事はいいの?」

 

 そう訊かれて俺は黙ってしまった。これまで考えても来なかった事だ。毎日が新鮮で、色々な出会いがあって飽きない日常。それが当たり前の様に流れていた。

蒼龍に訊かれる様な事なんて、微塵も考えてなかった。というよりも考えれなかったのだ。

 

「うーん......。これまで忘れてたから別にいいと思ってる。それに、いつか帰れるだろうさ。」

 

「そっか......いつか帰るんだね。」

 

「あぁ。」

 

 俺は水面を眺めながらそんな事を考える。

 

「と言っても未だに戦闘は嫌だな。適当に突っ走る奴らばっかだし、大体の空母護衛は俺やってんじゃん。」

 

「そうだね。よく私たちの横でぶつくさ言いながら護衛してるもんね。」

 

「そうだよ。全く......空母を守らんで何が機動部隊だっ......。」

 

 そう言いながら俺は石ころを蹴ってぶぅーと膨れる。

それを見てくすくすと蒼龍は笑った。

 

「機動部隊ねぇ......。旗艦は大体戦艦だったりするからどちらかというと水上打撃部隊かなぁ?......おっと、金剛君のファンたちが集まってきてるよ。行ってあげなよ。」

 

 そう言って蒼龍はあるところを見て言った。観艦式を終えた艦娘が出てくるところだ。そこには艦娘を見ようと一般の人が集まるのだが、今回は違う様だ。大体の人が団扇やらに"金剛君?"と書かれているのだ。もう一目瞭然だ。俺が目当てだ。

そんな人たちに応えてやれと蒼龍は俺の肩を押した。

 

「人気者は辛いねぇ。いってこーい!!!.......あっ、あとケッコン申し込まれたらキッパリ断ってよねー!!私とケッコンするからー!」

 

「んな事言うか!!」

 

 俺はそう言いながらもはにかみながら歩き出す。

団扇やらを持って集まる群衆に入り、ファンサービスだ。別にこういう事をするのは嫌いではないんだが、大体誰かは鼻血を噴き出して倒れたり、急に高熱を出して倒れたり、興奮しすぎて壊れたりと色々な事が起こるからやりたくないという面もあるが。そういうのは大体一部の人間なので、目を逸らしてやっている。

 

「きゃーー!!」

 

「金剛君っ!!!こっち向いてー!!」

 

「あー、はいはい。」

 

 俺はそう言いつつも対応している。

最近思う事は、作戦行動よりもこういう事が多い件についてだ。もう俺の仕事がこれであるまである。給料貰えるレベルだ。それに艦隊の一部として出撃することもあるので大忙しだ。

 

「金剛君っ!一緒に写真撮ってっ!!」

 

「分かったから、落ち着いて。」

 

 そんなんでも俺は笑顔を忘れない。

もう俺の仕事、艦娘や深海棲艦関係無しでよくね?

 




 最近全く投稿してなかった番外編を投稿させていただきました。
前回よりも時間的にはかなり進んでいる状態です。まぁ、話を見てれば分かりますが何事も無くいます。こっちはほのぼのって決めてましたからね。当たり前ですよ!
 金剛君はもう国民レベルでアレなんでもう何も言いません。

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第百四十六話  牢

 俺は任務の為、体制の変わってしまった日本の軍事施設に潜入した。上官から受けた任務は『艦娘を奪取せよ。』と『何でもいいから情報収集せよ。』だった。前者に関しては特徴などを事前に教えられていた。子どもからハイスクール卒業前後辺りの年の女を連れてくる事だった。そんな年も取ってない若い女を捕まえるのはいささか抵抗があったが、年からして簡単だろうと上官も俺も思っていた。後者に関してはよく分からないが、潜入先自体に入る事が情報収集になるという事で、見たもの聞いたもの全てが情報になるとの事。

仕事が無かったからこの任務はありがたかったが、まさかこんなことになるとは思ってなかった。

 軍事施設に到着し、海から潜入を試みた俺の部隊は16人。4人で1個分隊の1個小隊だ。こんな大がかりにしなくても良かっただろうにと思ったが、上官がそう言うのだ。その通りにした。

海から上がり、ボンベやマスクを岩陰に隠し全員で集まった時、任務を再確認した。皆、気合十分でそれでいて落ち着いてた。上官からは交戦や殺害は出来るだけ避けろと言われてきたが、正直不安で仕方がない。現場の判断で発砲も許可しそれぞれ携帯してきたサブマシンガンの弾倉をチェックし、それぞれの分隊長の確認で俺たちは散開した。

 昼の潜入はいささかリスクがあったが、情報では警備はただの警備兵でそれ程人数も居ない。そして大体がその『艦娘』というものらしいから用意だと思っていた。俺の分隊はそれでも慎重に進み、工場みたいな施設の横に来ていた。中では騒がしく作業をしている音がしているが、人の声はしない。日本の技術者というのは何時でも真面目なんだなと感心していると、隠れている俺たちの近くを女が歩いて行った。ハイスクール卒業くらいの年で顔も整っている。ハリウッド女優だと言われたら信じてしまいそうな女が鼻歌を歌いながら歩いていた。

 

「隊長、どうしますか?」

 

 隊員がそう訊いてくるが俺は首を縦に振らない。潜入早々に捕まえてしまえば荷物になる。そう考えたのだ。

今は情報収集が先だ。

 

「まだだ。今は情報収集の方が先だ。ここは軍事施設だから本部があるはず。そこに行こう。」

 

 俺はそう部下に指示を出し、遠くに見える一際大きな建物を目指して前進した。

大きな建物に辿り着くまで、何度か女を見かけたが全員が別に何かを気にしている訳でもない。自然体のようにも見えた。だが少し違和感があった。ところどころ警備兵が立っている。それに全員アサルトライフルを持っていて装弾してあるみたいだ。その警備兵も目を光らせている。一瞬脳裏に任務がばれているのかと過ったが、こちらの情報は出ていないとの事だったので余り気にせずに大きな建物に入った。

 大きな建物の中はスクールの様にも思えたが違った。木造だと言うのはすぐに分かる。それに床にはレッドカーペットが敷いてあった。どういう意図か知らないがそう言う決まりなのだろう。俺たちは姿勢を低くしながら部屋のノブに手を掛け、入っていく。最初に入った部屋は何も置いてなかった。あるとしたら埃を被った机くらいだった。情報になるようなものはない。出るときは細心の注意を払い、廊下に出て隣の部屋に入る。

隣の部屋にはモノが置いてあって、全部日本語だ。俺は日本語は分からない。精々英語とフランス語くらいだ。

 

「この部屋にあるモノ、一応持っていけそうなものは持っていきますか?」

 

「あぁ。」

 

 部下はそう言ってバックパックに空きを作り、そこになんかの本を入れた。そして紙も1枚だけ。

その後、この部屋も辺りを見回して何かないかと探し、すぐに部屋を出る。細心の注意を払い、扉を開き、廊下に出る。それを繰り返す事5回目にして遂にモノが沢山置いてある部屋に辿り着く事が出来た。どういう部屋か分からないが段ボールや棚が所狭しと並んでいて、調べるならここが良さそうだと俺たちは窓に1人と扉に1人つけて部屋の中を物色し始めた。段ボールからは書類が出て来てそれ以外ない。棚にはファイルが入れられていてそれらも書類が挟まっている。

どう考えても保管庫の様にしか思えない。俺ともう1人がバックパックの空きに適当に入れていると、部屋のどこからか音がした。"コトン"そんな音だったと思う。木造だから何か小動物でもいるのではないかと疑い、一応サブマシンガンのセーフティを解除しておいた。引き金には指はかけない。

 

「あらかた終わりましたよ。そろそろ艦娘とやらを捕まえますか?」

 

 そう隊員が言った瞬間だった。俺の首筋に冷たいものが当てられている。それは鉄の様に冷たく、そして穴が開いているのを感じた。俺の直感はそれを銃口だと訴えている。

その刹那、後ろから声がした。"動くな"と。俺は動きを止め、サブマシンガンを床に置き、手を挙げた。

 

「あなた方を拘束させていただきます。」

 

 そう後ろの声が言ったのに俺は反応し、眼球を必死に動かして辺りを確認した。近くに居た隊員もサブマシンガンを置いて手を挙げている。その背後には黒のBDUに身を包み、拳銃の銃口を突きつけている兵士がいた。

 

「日本軍か?」

 

 そう訊くと後ろから返答が帰ってくる。

 

「えぇ。」

 

 声は落ち着いている。だがどうやら何か作業をしながら銃を突き付けている様だ。俺は全身に神経を集中させ、何をしているのか感じ取ろうとした。それはすぐに分かった。後ろで銃を突きつけながら俺の身に着けているものを取っている。ナイフでベルトなどを切り落としていっているみたいだ。先ずはサブアームを落とされた様で、ガシャンと音を立てていた。その次はナイフ、弾倉、あらゆるものを落とされ、俺は丸腰にされていた。

 

「さて、ここを甘く見ていた様ですが精々嘘を吐かない事ですね。」

 

 そう言われた瞬間、俺は気を失った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 目が覚めるとそこはひんやりと冷たい部屋で檻になっている事から、ここは牢だと言うのは分かった。そうして痛むところを押さえながら起き上がると周りには仲間たちがいた。全員装備は無く、BDUと何もないベストだけだ。ヘルメットも無い。

 

「隊長、気付きましたか?」

 

 そう話しかけてきたのは、俺の分隊で気を失う前に漁っていた片割れだ。

 

「あぁ。この状況、捕まったのか?」

 

「そうです。しかも彼ら、銃を突きつけながら装備を切り落として気絶させた後に身ぐるみ見られたみたいで手元にはものがありません。腕時計さえもです。」

 

 そう言われて俺は身体に身に着けていたありとあらゆるものを確認した。結果は.......何もない。全て無くなっている。隊員の言う通り、身ぐるみ取られてしまっている様だ。

 

「点呼はしたか?」

 

 全てものを奪われているこの状況に不満を持ちつつ、隊員にそう訊くとすぐに返事は帰ってきた。

 

「ここには12人います。それと、この牢は他の牢と並べられている様で、隣に声を掛けましたが返事はありませんでした。それと他にも声を出してみましたが返事は無いです。」

 

「じゃあここに居るので全員か?」

 

「そうだと思います。」

 

 隊員はそう言い切ったが苦しい事だ。ここにいるのは12人。ここに入ったのは16人だ。さっき誰がいるか見渡したが分隊で揃っているという事は分かった。という事は、1個分隊は残っていると考えられる。

 そう考え終わったのはいいが、ひとつ疑問が浮かんだ。対応が早すぎる上、奴らは何者なのか。日本軍だという事は一目瞭然だが、何故俺たちの潜入がこう早くバレてしまったのか。

更にどうやって背後まで近づいたかだ。物音はしたがあれっきりだ。そう考えると恐ろしい。俺たちは彼らがいる部屋に自らノコノコと入っていたって事になる。なんて様だ。

 任務に失敗し、その上捕まってしまった事を考え黄昏ていると誰かが向こうから近づいてくる。俺は目線をそっちにやると、隊員の頭に銃口を突きつけていたのと同じ格好をした奴と明らかに階級の高い人間、軍服を着た男、白い服を着ているが年不相応の男、それに見るからに艦娘がいた。

彼らは俺に分からない言葉で話した後、軍服を着た男が英語で話しかけてくる。

 

「1人ずつ名前と所属を言って下さい。」

 

 そう言われ俺たちは指示に従うべきが悩んだが、状況から察するに尋問というかよく分からないが話さなくてはならない類の状況だろうとそれぞれ答えていく。

答え終ると軍服を着た男は日本語で話すとすぐに返答をしてきた。

 

「全員同じ部隊という事でいいですか?」

 

 その問いには全員が頷いた。

 

「では現場指揮官は?」

 

 そう訊いた軍服を着た男に俺は声を掛ける。

 

「俺だ。」

 

 そう言うと軍服を着た男は日本語で白い服を着た男に何か話をするとその横に居た男がこちらに睨みをきかせてくる。

それから少し話をしたかと思うと軍服を着た男が訊いてきた。

 

「目的は情報収集と艦娘の誘拐ですか?それにあなた方は特殊部隊ですよね?」

 

「違う。アメリカ陸軍 第4旅団戦闘団 第7歩兵連隊だ。」

 

 そう俺が言うと軍服を着た男は日本語訳したのかそれを話すと白い服の男は表情を変えなかったが、その横の男は難しい顔をして白い服の男に何かを聞いた。そして何かを言った後、軍服を着た男が訊いてくる。

 

「本当にそこですか?」

 

「そうだと言っている。」

 

 第7歩兵連隊というのは嘘だ。上官に万が一と言われた偽の所属だ。

本当は彼らが言っている事であっている。俺たちは特殊な任務を担う特殊部隊だ。

そんな事を考えていると軍服を着た男はどうやら向こう側に置いてある俺たちの装備に手を掛けた。手に取ったのはサブマシンガン。カスタマイズされていて、いろいろいじくりまわしてある。それに光学機器やらサイレンサーまでつけているのだ。

そんなサブマシンガンを手に取った軍服を着た男は日本語で何かを話ながら弾を抜いてセーフティを掛けると白い服の男にそれを見せる。そしてサイレンサーを指差して何か言うと説明を始めた。それは数十秒で終わったがすぐに白い服の男が軍服を着た男に何か言うと俺に話しかけてきた。

 

「本当にその所属なんですか?」

 

「......あぁ。」

 

 俺は少しどもってしまったが、ここで違うと言っても利益は無い。

軍服を着た男はサブマシンガンを白い服の男に渡すと俺に話しかけてきた。

 

「鎮守府に解き放たれた貴官の同族は貴官合わせて12人ですか?」

 

 そう訊いてくるので俺は答える。

 

「さぁ、どうだろうか。」

 

 俺はニヤニヤしながら応えてしまったが、白い服の男がそれを見て溜息を吐きたそうな表情をした。

そしてその白い服の男が艦娘を呼ぶと、何かを話し、それを軍服を着た男は訳した。

 

「あなた方の仲間はもう捕まってるみたいですね。それに死んでるかもしれないと......。」

 

 そう軍服を着た男が言うと俺は驚いた。もう死んでいるだとは思わない。しかも今、潜入から何時間経っているかもわからないのだ。

もし2時間気絶していたとして、まだ4時間も経っていない。そんな早くに俺の部下が捕まる訳がない。そう思っていたので発した言葉は慌ててしまった。

 

「何だとっ......彼らは潜入任務にっ!!」

 

 そう言った刹那、軍服を着た男は畳みかけてきた。

 

「米軍から投入された特殊部隊ですね?違いますか?」

 

 そう言われてしまい、俺は何も言えなくなった。負けた。装備は全部奪われ、口も滑ってしまった。

後悔をしていると軍服を着た男は話しかけてきた。

 

「合衆国に対し、政府を通して貴官らの送還に関する協議を行う事にします。いつ帰れるか分かりませんが、それまでここで我慢して下さい。場所が悪いですが、休暇だと思えば気は少しは楽になるでしょう。」

 

 そう言って軍服を着た男たちは出て行ってしまった。

どういう事だ。俺は首を傾げる事しか出来なかった。情報収集をしていた俺たちがココから出ると情報漏えいにならないのだろうか。彼らは俺たちの送還を検討すると言った。普通ならここで拷問してこっちの情報を吐かせるくらいしてもいいだろう。なのに送還なのだ。訳が分からない。

 それに終始気になっていたが、艦娘から飛ばされていた殺気はとても鋭かった。今にも殺すと言わんばかりの殺気に萎縮しかけていた。どういう事なのかさっぱり分からない。どうなっているのだろうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 数時間牢の中に居ると、さっきの軍服を着た男が来た。

何かの書類を持っている様だった。

 

「あなた方に報告しなければならない事で、私が司令の命により来ました。」

 

 そう言った彼は書類を読み上げる。

 

「1つ。こちらの迎撃班と交戦した貴官らの1個分隊の遺体を収容しました。」

 

「迎撃......だとっ?!」

 

 俺がそう言ったのを無視して彼は続ける。

 

「2つ。貴官らの犯した罪は違法入国、軍事施設侵入、銃刀法違反......キリが無いのでこれくらいにしておきます。」

 

「......。」

 

 何も言い返せなかった。

 

「3つ。ホワイトハウスに確認を取りましたが、任務としてなかったようですね。」

 

「なんだとっ!?」

 

 俺たちに課せられていた任務は大統領から承った任務だと訊いていたのでそんな任務を全うする事は何て名誉な事なのだろうかと思っていたのにも拘らず、大統領がそんな任務は無いと言ったのだ。

嘘だという可能性もあるが、分からない。どっちなのだろうか。

 

「質問いいか?」

 

 俺はそう言って軍服を着た男に訊いた。

 

「さっき一番目にあった迎撃ってどういうことだ?」

 

 そう訊くと軍服を着た男は答えた。

 

「貴官らがこうやって入ってくるのは分かっていたんですよ。なので司令が前もって貴官らを捕らえる為に部隊を配置していたんです。」

 

「こっちの任務内容を知っていたのか?」

 

「いいえ、憶測です。」

 

 憶測だけでここまで出来るのかと感心した裏腹、とんでもないところに手を出したのだと俺は頭が痛くなった。

こんなところに手を出そうとしていた数時間前の俺の顔面をぶん殴ってやりたい。

 

「はははっ......。俺たちの完敗だ。少しの間"休暇"を楽しむ事にする。」

 

 そう言うと軍服を着た男は持っていた紙を脇に挟むと一言言って帰っていた。

 

「いい"休暇"を。」

 

 




 今回はずっと米軍の隊長視点での話でした。それと付け足しで話を加えておきました。
はやくこのウェールズ、アイオワらへんから脱出したいですね。

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第百四十七話  処理と甘味

 

 俺は警備棟に来ていた。理由は明白だ。

侵入していたアメリカ軍の特殊部隊の処理についてだ。この件に関しては国外の人間だけにこちらだけで決めかねないという事で、大本営から人が派遣されている。

 

「提督、大本営から参りました神薙(かんなぎ)と申します。」

 

 神薙と名乗った男性は新瑞から連絡のあった派遣された人だ。

 

「米軍の部隊の処理に関して、お話に上がりました。」

 

「わざわざありがとうございます。」

 

 一言礼を言って俺と武下、艦娘からは代表で長門と赤城、大井が座った。

座ると横の大井が俺の脇腹を突いて話しかけてきた。

 

「何で私がこの場に居るんですか?第一、こんな事があったなんて知りませんよ?」

 

「いいんだよ。大井がここに居るのにはちゃんと意味があるから。」

 

 俺はそう言って話を始める。

 

「今回のウェールズ氏の無許可来泊と上陸は目を瞑りますが、艦娘奪取と情報収集をしていた特殊部隊の扱いに関してですがこちらとしては送還しようと考えています。」

 

 そう俺が言うと神薙はすぐに返答した。

 

「大本営の回答は"送還せず"です。艦娘の奪取と情報収集は重大な情報漏えいですから、新瑞長官はそれを良しとしない様です。」

 

「成る程......。」

 

 これまで俺たちの好きにやらせてくれた新瑞も外交となれば話は別らしい。外交という事は政府も絡んでいるんだろう。

 

「では処理は大本営任せという事ですか?」

 

「そうなります。」

 

 俺はそれを訊くと黙って考え始めた。

処理に関してはこちらでやりたくないのが本音だ。それにあの部隊は16人いたと言う。だが捕まえているのは12人。4人はどうしたのか。俺は不思議だった。12人捕まえたという報告以来、何の報告も訊いていないのだ。

あの時、金剛の言った通り、殺されてしまったのだろうか。

 

「そちらの報告書では16人いるようですが、今は12人だとか。説明頂きたいです。」

 

 俺が丁度考えていた事を訊いてきた。だが俺は答えられない。知らないのだ。

少し戸惑っていると、武下が口を開いた。

 

「こちらは事前に部隊の侵入を予測していたので迎撃にこちらも人を回していました。12人は無力化しましたが、4人は接触でしたので交戦状態に入りやむなく殺害してしまいました。」

 

 俺はその事実を訊いていない。

だが正直、これに関しては仕方ないのかもしれない。あちらは銃を持った人間で、こちらも多分拳銃くらいは持っていただろう。あちらは潜入で、見つかればお終いだ。見つかったのなら見つかった相手を処理しなければならない。交戦するのは自然な流れだ。

それが殺した殺されたになってしまうのは銃を使っているからだ。

吐き気が急に込み上げてきたが、俺はそれを飲み込み、その事実も飲み込んだ。俺自身に仕方ないのだと言い聞かせて。

 

「ふむ......。そうでしたか。ならば、仕方ないですね。あちらから仕掛けてきたモノですし。」

 

 そう言って神薙は紙にメモを取ると話を続ける。

 

「彼らの身柄をこちらに引き渡しては貰えませんか?あとは大本営と政府が処理しますので。」

 

 そう言うと長門が机を叩いた。

 

「何だとっ?!あいつらはここに土足で上がり込んで艦娘の拉致と機密を盗みに来て、更に銃撃戦をしたのだろう?!あいつらは殺すべきだっ!全員が捕まるまでに何を知ったか分からないんだぞ?!」

 

 長門の言う事は最もだ。鎮守府の中を歩き回り情報収集していたのなら全員が捕まるまでに大なり小なり情報を手に入れているはずだ。もし、妖精に関する情報や開発した兵器での実戦データが持っていかれたら『イレギュラー』を知らない彼らが何をするか分かったものじゃない。一番考えられるのは大戦時に米空軍が使っていた大型爆撃機を使う事だ。使った場合、あちらが焼け野原になるがこちらのも飛び火する。それだけは何としても避けたい。

実戦データも内容次第ではダメだ。富嶽を何百機と投入した爆撃や富嶽が本隊の作戦、海上絨毯爆撃......これらを知られるのは何としても避けたいのだ。多分、長門はそれを見据えているのだろう。

 

「彼らは日本人ではないんですよ?それに"捕虜"はジュネーヴ条約で人道的な扱いをしなければならないのです。殺すだなんて、違反です。」

 

「だがっ......。」

 

 ジュネーヴ条約。第二次世界大戦で捕虜の扱いが荒んでいたのをきっかけに1949年に締結された国際条約だ。拘束力のあるこの条約を犯すと国際的に孤立するだろう。だが、現状、世界とは連絡が付かないので無視してもいいんじゃないかとも感じたが、先にどうなるか分からない。もし殺してしまえば、記録が残り、それを元に日本が責められる可能性だってあるのだ。

 

「こちらでアメリカとの交渉が済むまで身柄を拘束しておくのは?」

 

 赤城が血走った目でそう神薙に訊いた。赤城も長門同様に怒っているのだろうか?

だが赤城の問いには大井が答えた。

 

「勿論駄目ですよ。ここに置いておいたとして、どうするんですか?面倒を見るのは誰ですか?これ以上、門兵さんの負担を増やしたくはないですよね?」

 

 そう大井が言ったのを聞いた赤城は黙った。

 俺が大井を呼んだのはこういう理由からだった。いつでも理性的でいられる大井なら落ち着いた視点で物事を判断して意見を言うだろうと思ったからだ。

 

「そうですね......。」

 

 俺の中ではもう答えは決まっていた。神薙に頼み、もうアメリカ軍の特殊部隊を引き渡す事。問題になる種は早々に捨てておきたいのだ。

 

「神薙さん。"捕虜"は任せます。移送の準備をお願いできますか?」

 

「了解しました。話が早くて助かります。」

 

 俺はそう言って長門と赤城への説明を大井に任せて話を進めていった。一刻も早く彼らを鎮守府から追い出す事。そして本当は一刻も早く艦娘の近くから遠ざける事だ。

今にも殺されておかしくないのだ。

 最近の傾向で艦娘には元々あった『提督への執着』とは別に、鎮守府の中での仲間意識というか家族みたいに思っているところがあるみたいだ。それは駆逐艦や軽巡の艦娘に顕著に表れている。遊び相手を非番の門兵がやってくれているからだ。多分、近所のお兄さんみたいに思っているのだろう。そんな気がしてならない。

そんな門兵たちがアメリカ軍の部隊と交戦したなんて聞けば心配するのも当然、殺されようモノなら『提督への執着』程ではないにしろ、ある程度箍が外れる可能性があった。

 長門と赤城に一通り話をし終えた大井が俺の脇腹を小突いて話しかけてきた。

 

「はぁ......こんなに面倒なんですね。これを普段は提督だけでやっていたんですか?」

 

「お疲れ。あぁ、そうだな。といってもここまで時間はかからないけど。」

 

「どんな魔法ですか、それ。」

 

 大井は苦笑いしてそう言う。大井の向こう側で長門がすね、赤城が膨れているのを見るとどういった顛末でこうなったか気になるところだが何があったかは聞かない。

 

「まぁいいです。こんな事に新米を駆り出したんですから、甘味処に連れてってください。」

 

 そういきなり言った大井に俺は戸惑いつつ、適当に誤魔化す。

 

「そのうちな。」

 

 そう言ったが大井は抜け目がない様だ。すぐに設定してきた。

 

「今日、執務は終わってると訊いてますので3時にお願いしますね。」

 

「......あぁ。」

 

 いい笑顔でこんな事言うものだから俺は肯定してしまった。

この後、大井に甘味を奢らされるわけだが、そこまで甘味は高くないので置いておく。

 メモを取り終えた神薙を見送り、その後アメリカ軍の兵士たちを護送車で送り出すと俺は伸びをして執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「提督、絶対忘れてましたよね?」

 

 そう言って執務室の扉を勢いよく開いて入ってきたのは大井だった。

 

「何を?」

 

「......はぁ。」

 

 俺がそう答えると大きなため息を吐かれて腕を掴まれた。

 

「応接室で約束したじゃないですか!甘味処に行くって。」

 

「あぁ......はいはい。」

 

 俺はそう言って立ち上がる。それをポカーンと見ていたのは今日の秘書艦、山城だ。

 

「てっ、提督?どちらに?」

 

「甘味処行ってくる。誰か来たら席外してるって言っておいて。」

 

 そう言って俺は扉から出ると、部屋から山城の声が聞こえた。『不幸だわ。』と。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 甘味処に大井と入り、適当に注文する。

今更説明するが、甘味処と言ってもここは食堂だ。朝昼晩以外の時間は甘味処として動いている。間宮が切り盛りしているんだが、どうやら間宮はずっと厨房に立っているらしい。偶に変わってやろうかと考えるが俺は口に出さない。面倒事になるからだ。

 そんな事より、甘味処というのはあまり艦娘は来ないみたいだ。酒保が拡大してから来る艦娘が減ったらしい。こういったおやつの時間に来る艦娘はいるみたいだが、他の時間は基本暇をしているらしい。

 俺はみたらし団子を頼み、大井はパフェを頼んでいた。どんなサイズか気になるところだが俺は大井に話しかける。

 

「なぁ、大井。」

 

「はい、何でしょう?」

 

 俺は大井の横を凝視した。俺はてっきりそこに誰かいるのだと思っていたがそれは幻想だった様だ。

 

「北上は連れてきてないのか?」

 

「北上さんですか?えぇ。どうやら阿武隈さんが魚雷の扱いに関して訊きに来てるみたいです。北上さんがどうかしたんですか?」

 

 そうキョトンと答える大井に俺は重ねて質問した。

 

「てっきり大井だから北上も連れてくると思ってたんだが。」

 

 そう言うと大井は溜息を吐いて答えた。

 

「どんなイメージが張り付いてるか知りませんが、前にも言いましたけど北上さんとは親友みたいな関係ですから。そこまでべたべたしませんよ?ただずぼらですから世話をしてあげないといけないだけで......。」

 

 そう言う大井には特段変なのろけは無い。本当の事の様だ。

 

「そうだったか。まぁいいか。」

 

「お待たせしましたー。みたらし団子とパフェです。」

 

 間宮がお盆に乗せてそれらを持ってくると一端会話は中断し、それを一度口に運ぶ。

甘辛いタレに使って少し焼いてあるみたらし団子はとても美味しいかった。団子ももちもちしていて申し分ない。目の前に鎮座するパフェもそこまで大きくない。おやつなら相応の大きさだ。

 

「甘ーいっ!」

 

 そう言いながら頬張る大井は幸せそうだ。

まぁそんな表情のを見て俺は役得なのかもしれない。少しそれを見た後、俺もみたらし団子を食べる。

 

「提督。」

 

 もさもさと食べていると、突然大井が話しかけてきた。

 

「何だ?」

 

「それ、ひとくちいただけませんか。しょっぱいものが欲しくて。」

 

 そう言ってきたので俺は皿に乗っていた一本を差し出す。

 

「ん。」

 

「いえ、そっちで大丈夫ですよ。」

 

 そう言って俺が手に持っているのを言うので俺が差し出すと、大井は身を乗り出してそれに食いついた。パクリと口を閉じて引き抜くと、団子が1つ無くなっており、大井はモゴモゴさせている。

 

「ありひゃとうごひゃいまふ。」

 

 多分『ありがとうございます。』と言ったんだろうが、そう言いながら顔色一つ変えずに食べるので串を置くと大井に訊いた。

 

「野郎が口付けたので良かったのか?」

 

 そう訊くと大井は表情を変えずに答えた。

 

「別に、なんとも思いませんよ?提督ですからね。」

 

 そう言ってまた大井はパフェを食べ始めた。

そんな大井を見て俺は呟いた。

 

「腑に落ちん......。」

 

 そう思い、食べ差しの団子を口に運ぶ。

何の気なしに話しながら食べるが、それ以外は特段何かあったわけではない。大井がレベリング中に見たことなどを話してくれるので退屈はしなかった。

だが時より大井は困った顔をするので俺が『どうかしたのか?』と訊いても『別に何でもないですよ。』とだけしか答えてくれなかった。まぁそう言うならと俺は深くは訊かなかった。

大井のレベリング中に見たことで衝撃的だったのは、護衛に出ていた比叡の艤装に深海棲艦の砲撃が直撃した事だった。てっきり爆発するものだとみていたらしいが、全く爆発しないので、戦闘終了後に比叡が見に行くと砲弾が艤装に突き刺さっていたそうだ。つまり不発弾だ。それはすぐに妖精の手によって引っこ抜かれたのだが、その処理がぞんざいだったみたいだ。その不発弾を海に投棄したら比叡の艤装、スクリューの辺りで起爆。比叡の艤装のスクリューは一瞬にして吹き飛び、戦闘をしていないと言うのに曳航されたとの話だった。

笑える笑えないじゃなく、唯のブラックな話だったが、そういう話も聞けて俺は嬉しかった。

 

「レベリングはその時その時で色々な事が起きて楽しいです。」

 

 そう言うものだから俺は言った。

 

「レベリングした艦娘は全員、飽きたとか言ってたが大井は意外だな。」

 

「そうですか?楽しみを見出してるんですよ。同じ海域に出てるだけですからね。」

 

 そう言った大井は最後の一口を食べると『ごちそうさまでした。』と言ってスプーンを置いた。俺ももう食べ終わっていたので大井が口の周りを拭き終わるのを見てから会計を済ませて甘味処を出て行く。

 

「ありがとうございました。」

 

「いい。新米を駆りだしたからな。」

 

 そう言って俺は歩き出す。

そんな俺に大井は俺に聞こえない声で言った。

 

「はぁ.,....この人って......。」

 

 と。俺はこの大井の言葉を聞いていない。

 





 今回は少し重い話を入れたので最後に変なのをぶち込みました。
前々から考えていたものですので、入れれて良かったです。
 大井の行動はどういう意味だったのか......。第二章が終わるまでには分かりますよ。たぶん......。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百四十八話  山城は炬燵で丸くなる

 アメリカ軍の部隊が大本営に移送されてから、鎮守府にはまた平和が訪れていた。

もう本格的な出撃が止まって1ヵ月以上が経っているが、未だに大本営の鎮守府のレベリングは終わっていないみたいだ。小型艦。特に軽巡や駆逐艦のレベリングが資材回収の為にかなり上がっているにも関わらず、大型艦はずっと暇を持て余していたからだと新瑞が言っていた。

戦艦、空母、重巡がお互いに協力しながらレベリングをしているとの事。主力として前線に出れる程度にするとの事だったが、具体的な目標は練度80くらいだと言っていた。数値で表されてると違和感があるが、分かり易くていい。

 さっき本格的な出撃はしていないという事だが、あれは嘘だ。レベリングは水面下でやっている。最近は大井のレベリングをやっているが、損傷して入渠すると代わりに熊野がレベリングをしていた。今、丁度大井が損傷して戻ってきたのでいつものように指示を出す。

 

「損傷してきたのか?」

 

「はい......と言っても小破ですけどね。ですけどまだ戦えますよ?」

 

「あー何度も言ってるが駄目だ。入渠して来い。」

 

 そう言って俺は大井を無理やり入渠に向かわせて、熊野を呼びつける。

 

「熊野。」

 

「はい。なんでしょう?」

 

「レベリングだ。キス島の残敵掃討戦。」

 

「了解しましたわ。」

 

 熊野は大井と同じく、飽きたとか言わずに出撃してくれる。レベリングだと言う事も伝えてあるが、何の疑問も持たずに行ってくれる。

熊野は古参だが長い間出撃はしていなかった。戦艦が充実してきた頃から前線を退いていた。それ以来ほとんど出撃はしていなかったが、重巡の全体的な練度底上げの為に熊野にはレベリングに出てもらっている。前線を退いた頃、練度は30程度だったが一度、航空巡洋艦に改装されるまでになって貰うのが熊野のレベリング目標だった。

それも伝えてある。何の疑問も持たずにむしろ、『早く航空巡洋艦になりたいですわね。そうすればより提督の為に戦えるのでしょう?』とか言って好戦的なのだ。熊野はそうは言うものの、大井のレベリングの前は鈴谷がレベリングしていて大井に変わる前に航空巡洋艦に改装されたのを羨ましがっているのもあるだろう。

 

「金剛たち、熊野のサポートを頼む。」

 

「任せるネー!私の改装まで面倒を見てくれたからネー!」

 

 レベリングの随伴として出て行くのは金剛と比叡、瑞鶴、蒼龍、飛龍だ。空母の瑞鶴たちも一応、序でにレベリングをしている。旗艦でなくても経験値はあるのだ。

金剛が進水したての頃、熊野はまだ前線に出ていた時期だった。その頃はレベリングには長門や赤城なども出ていたが、その中に熊野も居たのだ。金剛のレベリングにはずっと熊野を付けていたのは覚えている。多分、その恩返しだろう。

今では金剛の練度は今の熊野の2倍近くあるから立場は逆転しているが、金剛が戦艦故、仕方のない事なのだ。

 金剛は『提督への執着』が強いとずっと言われてきて、イメージもそちらが大きかったが、金剛たちのたくらみが無くなってから俺と話をしてから変わったとよく聞くようになった。いろんな艦娘をお茶会に誘って一緒に楽しんだり、酒保で一緒に買い物をしたり、偶にジョークを言って笑わせてくれる。そんな風に振る舞っていると風の噂で俺は訊いていた。もう怖いイメージが付いていた金剛はどこにも居ないのだ。それは他の艦娘にも言えたことらしいが、詳しい事は知らない。

俺の知らないところでそんな風に変わっていっているのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 今日の秘書艦は扶桑だ。

昨日は山城だったのだが、午前中は警備棟で大本営から派遣された人との会談、午後は大井との約束で甘味処に行ってしまったりしていたので拗ねてしまったと言うのをさっき扶桑から訊いた。

まぁ、俺も約束をして数時間も経たないうちに忘れ、更に山城にも伝えていなかったからだろう。仕方ないとは言えない。拗ねてしまったと言うのなら、何かしてやらないといけないのだろうか。

 

「なぁ扶桑。」

 

「はい、提督。」

 

 俺は頬杖を突きながら執務が終わり、書類を提出し終わった扶桑に話しかけた。

 

「まだ山城は不貞腐れているのか?」

 

「はい。」

 

 扶桑はそう苦笑いをして答えたが、そんなの俺にだって分かる。唯の確認だ。何故確認なのかというと、ずっと山城は執務室に居るのだ。炬燵に入って寝ている。正確には起きているが、寝転がっているのだ。俺の反対側を向いているから表情が見えない。

 山城の機嫌を直そうと試しに『甘味処に行かないか?』と誘ってみたもののとんでもない返しが帰ってきたのだ。それは『また大井さんと一緒に行けばいいじゃないですか。今日は扶桑姉様を置いて行けばいいんです。大井さんと2人仲良くあーんでもしてればいいんです。』とか訳の分からない事を言って来た。最初の2文はそうかもしれないが、最後の文はした覚えが無い訳では無い。というか、そんな風になっただけだ。

 

「はぁ......一体、どうすれば......。」

 

 そう言いながら機嫌を損ねた山城のご機嫌を取る方法を俺は模索し始めた。

と言ってもさっきの甘味処の奴が一番効果的だと思ったのだが、どうしてだろうか。俺はてっきり山城も甘味処に行きたかったのだと思ったのだが、違うのだろうか。

 唸りながら考えていると扶桑が話しかけてきた。

 

「山城の機嫌はそのうちに直りますよ。」

 

 柔らかい笑顔で言う扶桑に俺はそうかと一言だけ言って、あることを考え始めた。

中部・南方海域攻略に向けて動くことにはなっているが、それよりも先にしなければならない事があるんじゃないか、そう最近考えるようになっていた。俺がこの世界に来る前、艦これではイベントで事あるごとという程でもないが、通常の深海棲艦よりも強力な深海棲艦を相手に戦う事がある。鬼や姫と呼ばれるそれらがいない訳が無いのだ。西方海域がこちらの支柱にある今、それは装甲空母鬼並びに装甲空母姫の撃破が示されている。だが、それだけでは無いはずなのだ。

どのタイミングで、どのように姿を現すか分からない。姿を現したのなら即刻撃破しなければならない。なので俺は鬼や姫をどう撃破するかについて考えなければならなかった。

だが、ここで俺にはこれをテンポよく撃破する術はない。何故なら艦これを始めて一、二週間でこちらに飛ばされたのだ。それまでに沖ノ島までは攻略出来ていたものの、直後にある攻略戦くらいしか調べていなかったのだ。これまでかなり有利に事を進めて来たが、もうこれまで以上に有利に進められない。情報戦では五分五分なのだ。

 正直、北方・西方海域攻略に使った二方面短期決戦を使ってもいいが、負担が大きい上、中部・南方海域はそれまで以上に難易度が高い。短期で決着がつけれるとは到底思えないのだ。

ならば、どうするべきか......。

 

「扶桑。」

 

「はい。」

 

 俺は唐突に扶桑に話しかけた。

 

「奪還した海域の完全制圧と中部・南部海域を二方面短期決戦で攻め込むの、どっちがいい?」

 

 そう訊くと扶桑は驚いた顔をしたが、すぐに真剣な表情で考えだした。

多分、質問の意図を理解できたのだろう。不思議と扶桑はそう言うところがあると思う。二次創作では不幸キャラが定着しているが、扶桑自身はそうではないんじゃないかというのが俺の見解。実際、扶桑の運は普通くらいなのだ。

 

「そうですねぇ......私は完全制圧ですかね?」

 

「その心は?」

 

「提督が完全制圧と仰ったという事は、制圧したとはいえ残敵がいるという事。完全な深海棲艦の排斥ではありません。ですので、安全面や今後の事を考えると完全制圧が望ましいです。」

 

 そう言った扶桑は急に立ち上がり、本棚の前に立つとあるファイルを引き抜いた。それはそれぞれの海域の最新情報だ。毎日強行偵察艦隊が見てくるのでそれを記録しているものだ。

 

「これによれば制圧した海域でもまだ深海棲艦はいます。そこを本当の意味で安全にするならば完全制圧するほかありません。」

 

「そうか。......そうするとこれからは戦艦はローテーションになってしまうだろうな。扶桑と山城にも出てもらう事になるかもしれない。」

 

「それは......どういう意味ですか?」

 

「意味なんてひとつしかない。」

 

 どうやら扶桑は残敵掃討に関しては簡単な事だと思っていたらしい。だが俺からの言葉。『扶桑と山城にも出てもらう事になるかもしれない。』という言葉は、それほどまでに損耗する戦いが続くと言う事を意味していた。

 俺の艦隊運用法に関して、海域攻略の通常艦隊編成で戦艦は大体は斥候の時点で長門型、少し損耗してきたら金剛型か伊勢型というローテーションをしていた。これまでに扶桑や山城を攻略に出した事は沖ノ島以来ない。あの時は圧倒的な練度と火力で押し切ったところが多いが、練度に関しては別次元だった。沖ノ島攻略には見合わない適正練度をオーバー30はしていたのだ。

度々訛らない様にと扶桑と山城はレベリングに付き合ったりとしていたが、それでも戦艦の艦娘の中ではかなりの高練度を誇っている。それでいて攻略に出ない扶桑型が攻略に出されるという事は、扶桑型が出なければならない程に追い詰められる可能性があるという事だった。

 

「球磨ちゃんたちが仕入れてくる情報以上に居る可能性があるという事ですか?」

 

「残念ながら。」

 

 そう言って俺は扶桑から離れる。

 

「反復出撃が繰り返される予想もある。疲労の事も考えるとどうしてもそうなってしまうな。」

 

「そんなにもですか?」

 

 そうキョトンとする扶桑に近づいて山城に訊かれない様に小声で言った。

 

「俺個人で知っている事だが、その際に陸上型深海棲艦と対峙することになる。」

 

 そう言って俺は離れて続けた。

 

「まぁその時にはその時に応じた作戦を考えるさ。」

 

 笑いながらそう言う俺の両肩を扶桑がガシッと掴んだ。何だかデジャヴだが関係無い、何かあるのだろう。

 

「陸上型の深海棲艦で何ですかっ?!」

 

 そういう扶桑の表情は真剣そのものだが、何分近い。それに扶桑の手が掴んでいる俺の肩が痛い。

 

「何って、そのままの意味だ。北方海域と西方海域にそれぞれ1つ。それに完全制圧するにしても、これまで対峙してきた深海棲艦よりも強者の可能性が高い。」

 

 そう俺が言うと扶桑は俺の肩から手を放してくれた。

そんな扶桑はいつもと変わらない表情だが、どこか違う気がする。決意、覚悟、そんなものだ。そんな扶桑がぼそりと何かを言った。

 

「カタパルトデッキ、外して貰えないかしら......。」

 

 そう言ったが外したところでどうするのだろうか。それに、今更航空戦艦になっている扶桑をダウングレード出来る訳がない。

 

「それは無理だな。」

 

「そうですよね......。」

 

 そう言って俺はまた頬杖を突いてボケーっとする。

今度は扶桑も同じだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 昼食も食べ終わり少しした時、小腹が空いてきた。時刻にして午後3時。おやつの時間という奴だ。昨日は珍しくおやつを食べたが、今日も食べたくなるとは思わなかった。

十分に昼食は食べたつもりだったが、どうやら足りなかったようだな。

俺は小1時間船を漕いでいた扶桑に声を掛けて甘味処に行くことにした。炬燵で不貞腐れていた山城にも声を掛け、結局山城もついて来て3人で甘味処に入った。

 昨日は適当に頼んでしまったから今日は真面目に考えようとメニューをまじまじと見つめ、間宮に注文する。

 

「五平餅を。」

 

「はーい。」

 

 オーダーをメモする間宮に扶桑も注文する。

 

「あんみつをお願いします。」

 

「あんみつですね、はいっ。」

 

 間宮はメモにすらすらと書いていく、そして書き終わったのか顔を上げて山城を見た。

ついてきた山城は未だにメニューと格闘をしていた。どうやら決まらない様だ。

 

「山城?」

 

 中々オーダーしない山城に扶桑が声を掛けると山城はあっさりと何を悩んでいるのか自白した。

 

「最中と安倍川餅、どちらも捨てがたいです。」

 

 そう言って唸りながら悩んでいる山城は間宮を3分待たせていた。

中々決まらないので俺は間宮に声を掛ける。

 

「最中と安倍川餅も。」

 

「はーい。......では少々お待ちを。」

 

 そう言って歩き去った間宮が厨房に消えたのを見届けると俺は正面を向いた。

正面には扶桑と山城が並んで座っている。扶桑は特段、何があったわけでもないようで、『やっぱり甘味処はいいですねぇ。』と言ってお茶を飲んでいるのだが、山城は俺を少し睨んでいた。

 

「なっ、何だ?」

 

「いえ......どうして2つも頼んだんですか?私、そんな食べないですよ?」

 

 そう言った山城はジト目のまま俺を睨む。そんな山城に俺は言った。

 

「どっちも食べたかったんだろう?余るようなら俺が食べるから。腹減ってるし。」

 

「そう......ですかっ......。」

 

 そう俺が言うと山城は消え入りそうな声でそう言って俯いてしまった。

どういう事かさっぱり分からないが、俺はお茶を飲みながらゆったりと運ばれてくるのを待った。

 

「お待たせしました。五平餅とあんみつ、最中、安倍川餅ですね。」

 

 そう言ってお盆に乗せて持ってきてくれた間宮は丁寧に机に置いて行くと、すぐに引っ込んでしまった。

俺は五平餅に手を伸ばし、口に入れる。昨日のみたらし団子とは違う甘じょっぱさがなんとも言えない絶妙な味だった。それにすりごまが混じっているのか、風味が良い。

 口につかない様に慎重に食べながら俺は2人を観察した。2人とも髪の長さが違わなければ目つき以外で見分けれない程、似ている。おっとりとした扶桑に五十鈴と金剛と赤城を足して3で割り、比叡を足した様な山城。こう言ってて意味が判らないが、そんな感じだ。そうやって観察していると扶桑はもうあんみつを食べ終わっていた。

 

「ごちそうさまでした。はぁ~、美味しかったぁ。」

 

 そう言っている扶桑の脇で山城はそれぞれ半分ずつ残して俺を見ている。どうやら食べきれなかった様だ。というかよく見てみると、最中はぱっくりと真ん中で割れ、安倍川餅も2つ乗っていたが1つだけになっている。

 

「食べれなかったか?」

 

「はい。」

 

 そう言った山城から俺は皿を受け取るとポイッと口に最中を放り込んで飲み込み、安倍川餅もきなこをつけながら食べきった。

 

「ごちそうさまでした。さて、戻るか。」

 

「はい。」

 

 俺は立ち上がり、伝票を持つと会計を済ませて甘味処を出て行った。

執務室に帰る最中、何かを思い出したように山城は言った。

 

「提督。なに自然に会計しちゃってるんですか!」

 

「あぁ、一気にやった方が良くない?」

 

 そう言うと山城が私の分は払いますからと言ってお金を押し付けてくるのでいいと言って押し返すのを執務室に着くまで続けた。

 

「あら、提督。ありがとうございます。」

 

「いい。」

 

「扶桑姉様っ?!」

 

 そんな会話を廊下でしながら帰るのは結構楽しかった。

そんなこんなて山城の機嫌は直ったのだ。

 

 

 




 今回はレベリングの話と扶桑型の話を合わせました。題名はインパクトのあるのを.......。最初の方は全然関係ないんですけどね。
 
 前日のでも提督は甘味処に言ってますが、提督のチョイスは気にしないで下さい。甘くないじゃんって思った人もいらっしゃると思いますが......。

 ご意見ご感想待ちしてます。


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第百四十九話  今日の秘書艦は怒るし出て行く

 

 今日も俺は早々に起きたので執務室に居た。

たまたま早く起きてしまったので6時過ぎくらいから執務室で腰かけていたのだが、今日の秘書艦は大井を彷彿させる早さで執務室に現れた。

 

「おはよう、クズ司令官。」

 

 そう欠伸もしないで入ってきたのは霞だ。そう、今日の秘書艦はこの霞である。

 

「おはよう。というかなんだ、クズって......。」

 

「クズはクズでしょ?」

 

「そんなあたかも普通だと言わんばかりに言われてもだなぁ......。」

 

 俺はそう言いながら霞に秘書艦の席に座って貰った。

 時計に目をやると時刻にして6時過ぎだ。やっぱり大井みたいだ。それにもう霞は執務の書類を持って来ていた。仕事が早いのこの上ない。

 

「まぁ、まだ始めるのには早いからダラダラしてろ。」

 

「言われなくてもそうしてるわ。」

 

 俺はそう言って窓の外を眺める。辺りは薄暗く、窓も結露があるこの時期はやはり部屋の中は寒い。俺はそう思って、ストーブを用意しているがこれがなかなか温まるのに時間が掛かるのだ。

電熱線から放射される遠赤外線によって温まるストーブの欠点だろう。温風が吹きだすものや、エアコンを点ければいいのではないかとも思うだろうが、エアコンも温風を出すのも騒音がある。エアコンなんて室外機がいい例だ。ゴーゴーと唸り、ファンを回して部屋の中の温度を変える機械だから温風を出すのよりも性が悪い。

そんなんだから俺は自分の足元と秘書艦の足元にそれぞれ1台ずつストーブを用意している。ちなみに起きて来て最初に電源を点けたのは部屋の照明よりもストーブの方が先だ。

 

「......。」

 

 手を擦りながら無言で部屋を見渡す霞を見て俺はある事を思い出した。

これまでに霞は執務室に来た事が無いのだ。姉の朝潮なんかはよく来るが、他の朝潮型はぼちぼちというところだ。満潮は他よりも少ないが、用事があるとだけ言って用事を済ませてすぐに帰ってしまうが、霞に関しては本当にこれが初めてな気がする。というよりも俺自身、霞を見るのは初めてな気もしなくもない。5、6ヵ月以上鎮守府に居るが本当に霞を見たのは初めてかもしれない。気付かなかっただけかもしれないが、そんな気がするのだ。だが、正直どうでもいい。これから何があろうと顔を合わせる羽目になるのは目に見えていたからだ。

 そんなこんなで時間が経ち、俺と霞は食堂に向かった。

食堂では秘書艦特権だとか言って俺の両脇のどちらかに座り、片方を姉妹や中のいい艦娘に譲るのが普通なのだが、霞は違った。俺の横を1こ開けて座ったのだ。これまで秘書艦が俺の横に座って食べるのが普通だったので少し違和感や寂しさを感じるものの、俺は箸を伸ばしだ。

そんな風にしているものだから俺の両脇は俺が箸を1回伸ばして口に放り込み、飲み込むまでの間に埋まった。左は朝潮で右は荒潮が座った。

 

「今日の秘書艦って霞じゃありませんでしたか?」

 

 そう首を傾げて尋ねてくるのは朝潮だ。それに俺は答える。

 

「そうだが?なんかあったか?」

 

「いえ......。ただ、秘書艦が食事の時に提督の隣に座らない事があるなんて思いもしませんでしたから。」

 

「あぁ。何でだろうな。」

 

 俺はそう言って朝食に箸を伸ばしていく。

箸を休め休め話しながら朝食を食べ、時間もいい頃合いになった時に俺はトレーを持って立ち上がった。同時に立ち上がる朝潮と荒潮もトレーを持つが、朝潮の向こうで霞も立ち上がった。偶に朝潮と話す時に霞を見ていたが、早々に食べ終わっていたのだ。なら何故、すぐに立ち、執務室に戻らなかったのか。理由なんて考えれば幾らでもあるだろう。霞を挟んで朝潮の反対側に霞と仲良くしている艦娘がいて、話をしていたか、テレビを見ていた。考えたらキリがないが、そんなものだろう。

俺は気にせずにトレーを戻して執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務室に戻れば、執務を始める。霞が持ってきてくれた書類を出して俺がやるのと、秘書艦の仕事を分けて執務を始める。

ストーブはモノから離してつけっぱなしで出てきたので執務室は温かくなっていた。寒さに手を擦る事無く執務に集中できるだろう。俺は黙々と書類を片付けはじめて30分が経った時、霞から声を掛けられた。それまでの間、普通の秘書艦なら色々と話しかけてくるのだが、霞は何も言わなかったので少し驚いた。

 

「ねぇクズ司令官。」

 

「クズって......なんだ?」

 

「終わった。」

 

 そう言って霞は俺に秘書艦が処理する書類を渡してきた。俺はそれを受け取ると、確認をする。一応、霞は秘書艦初経験だからだ。大本営に送る書類に不備があったら修正しなければならない。そう思って自分のしていた書類から一端目を離して書類に目を通す。

霞の字は案外丸っこい字で、読みやすい読みにくいで言ったら読みやすい。そんな字を目でなぞりながら見ていくと、不備を見つけた。ある書類の数字が違うのだ。桁と単位が違う。俺はそれを見てすぐに書類を机に置くと赤鉛筆を取り出し、ラインを付けた。

 

「ここ、違うぞ?単位が違う。それによって桁も見辛くなってる。」

 

「あっ......そこ......。」

 

 そう言って霞は書類を受け取るとそれをマジマジとみてこちらに顔を向けたので『すぐに直す』と言うと思ったが、その予想は180°逆だった。

 

「このままじゃダメ?」

 

「あぁ。読み辛い。」

 

 そう言って俺はペンを持って自分の執務を再開しようかと思ったその時、霞が机をトントンと叩いた。

 

「あのねぇ。私、秘書艦初めてなのよ?」

 

「そうだな。」

 

 突然そんな事を言い始めた。

 

「だからあの機械の使い方もさっぱりだし最初にやり方くらい教えてくれても良かったんじゃない?」

 

 そう言う霞の表情は見るからに怒っている様に見えた。

何故怒っているのか分からないが、俺は落ち着いて返す。

 

「分からなかったのならどうして言わなかったんだ?それに俺は初めて秘書艦をするなら補佐をつけると連絡した筈だが?」

 

「補佐なんて要らないわ。それに最初に説明くらいしなさいよ、このクズッ!そうしたら私だって不備出さずに出来たわよっ!」

 

 そう言ってもう目に見えて怒り始めた霞に俺も少し声を荒げそうになったが、それを押さえ、冷静に返答をする。

 

「こういう事になるから補佐をつけると言ったんだ。昨日の夜の時点で補佐は要らないって返答を口頭でしなかったのは霞だろう?」

 

「知らないわよ、そんな事っ!」

 

 そう言ってヒートアップした霞は色々と言った。

 

「それにコミュニケーションを取るって言ってた癖にクズ司令官は殆ど執務室から出てこないじゃないっ!それにいつも険しい顔してて怖いし、そんな顔してる割に何でそんな自活能力高いのよっ!第一、なんでこんなに長い間出撃停止してるのよっ!意味わっかんないっ!!!」

 

 そう言って霞は執務室から出て行ってしまった。

霞が叫んでいったのは大体図星なんだが、それはどうしようもなかった。執務室から出ないのは秘書艦にごねられたり、炬燵から出れなくなっているから。険しい顔をしているのはこれが普通だからだし、自活能力が高いのは小さい頃から両親に仕込まれたから仕方がない事で、長い間出撃停止しているのは大本営の鎮守府の艦娘が経験を積むためだったり、レベリングをしているからだからだ。

 

「はぁ......まさかキレて出て行くとは思わなかった......。」

 

 そう呟いて俺は霞が投げた書類を拾って赤鉛筆で引いたラインを丁寧に消しておいた。

そしてペンを握ると自分の書類に再び向かったのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 霞が出て行って10分が経った頃、俺が静かに執務をしていると突然扉が開かれた。バンと勢いよく開いた扉の先には霞が顔を赤くして立っている。

息を切らせながら霞は俺の顔を睨みつけながら言った。

 

「何で追いかけてこないのよっ!」

 

 そう言って霞はズンズンと執務室に入り、俺の目の前に立った。

 

「何でって、そりゃ......。」

 

 俺はそう言いかけたはいいものの、この先に何を言うかなんて考えてなかった。ここでもしも変な事を言ってしまえば、更に怒らせてしまうかもしれない。

 

「......なによっ。」

 

「執務があるからな。」

 

 そう言って俺は適当に誤魔化し、書類に目を落とす。

そんな俺に霞はまだ突っかかってきた。

 

「それで、何で最初に教えてくれなかったの?」

 

「何でってさっきも言ったが、補佐を付けるのを断ったからだろう?それに補佐が要らないという事は、秘書艦として執務が出来る自信があるという事だ。だから最初に説明もしなかった。」

 

「はじめっから出来る訳ないじゃないの。教えてくれなければ分からないわ!」

 

 そう言ってなんだか負の無限ループに入りかけた瞬間、再び執務室の扉が開かれた。今度は勢いよく開いた訳ではなく、普通に開けられた。

 

「失礼します。少し資料をっ......。」

 

「私もネー。」

 

 入ってきたのは赤城と金剛だ。珍しい組み合わせという訳では無いが、多分そこで鉢合わせたのだろう。

それに彼女たち同士でよく艦隊には編成される。それなりに交流は持っているだろうから、一緒に居て何ら不思議はなかった。

そんな赤城と金剛は俺と霞のやりとりを廊下から聞こえていたのか、間に入ってくれた。

 

「提督は.......いいけど、霞さんは落ち着いて下さい。」

 

「そうネー。少しクールダウンした方が良いヨ?」

 

 そう諭されて霞は少し黙り、熱を下げる。少し経つと霞は口を開いた。

 

「赤城さんたちには関係ないわよ。ほっておいて。」

 

 霞はそう言ってそっぽを向き、秘書艦の席に座った。不貞腐れたまま。

そんな霞を見て赤城は近付き、視線を同じ位置まで下げた。そして霞に話しかける。

 

「何があったんですか?良ければ教えてくれませんか?」

 

「......(そっぽ向いている)」

 

 そう優しく聞いた赤城を無視して霞は別の方向を向いた。

その間、金剛は俺に何があったか聞いてくる。

 

「何があったんデスカ?」

 

「あぁ。」

 

 俺は訊かれて取り合えず金剛にあった事を全て話した。まぁ金剛はうんうんと静かに聞いてくれるものだから話してて不快にならなかった。正直、冷静さを保つのでかなり中は熱くなっていた俺には丁度良かった。

 

「そんな事があったんデスネ......。」

 

「あぁ。」

 

「まぁ、この後の事はあっちが話してくれなければ進みませんノデ、もう少し待ってましょうカ。」

 

 そう言って金剛は気を逸らすためだろう、俺に漫画を見せてきた。それは進[自主規制]だった。どうやら前に話していた、比叡がまとめ買いしたのを借りたみたいだ。

どうやら俺とその漫画の内容について話すつもりだったらしい。

 

「最初は良かったんデスガ、途中から話がややこしくなって『ウガー!』ってなりマシタ......。」

 

「俺もなったぞ?『ウガー!』って。」

 

「そうデスヨネー......。そう言えば前に提督が言ってたこれの元になったっていうの、ありますカ?読んでみたいデース。」

 

「多分あると思う。だけど、結構ヘビーだぞ?」

 

「大丈夫デース。」

 

 そう言って金剛は持ってきていた漫画を置くとソファーに座り、話を切り替えた。

今度は漫画じゃなくて小説の話の様だ。

 

「そう言えば酒保で永遠の[自主規制]が売られてたので買ってみマシタ。専門用語が多いって聞いてましたが、案外読めるものデスネー。」

 

 そう言って袖からその本を出した。

 

「専門用語って兵器とか戦術の事だろう?ありゃ確かに読む人選ぶな。」

 

「そうなんデース。デスガ私は艦載機以外なら結構大丈夫なので問題なかったデース。それでさっき赤城と会ったからそれ以外の事を訊きながら来たんですケド、赤城ったら偶によく分からない事を言うんデス。『ラダーを少し動かして機体を微妙に流すのは確かに使えます』とか言ってましたがさっぱりデシタ......。」

 

 金剛はやれやれとジェスチャーしてそう言った。確かにその場面の理解は難しいと俺も思う。その作品を読んでる時にそういった知識があって心底良かったと俺は思ったくらいだった。ちなみにそれを読んでいた時に、金剛がさっぱりだと言った場面を何回か他の人に説明した事があった。

 

「おっ、終わったみたいデスヨ?」

 

 そんなこんなで話をしていると赤城と霞との話が決着がついた様だ。

金剛との話を一端中断して赤城の方を見る。

 

「金剛さん、どうでした?」

 

「うーんとデスネ......。」

 

 金剛は俺から訊いた事をそのまま赤城に伝え、赤城と金剛が言った。

 

「霞さんは意地を張らずにちゃんと話せばよかったんですよ?それに不満を一気に言っても提督は戸惑ってしまいますから、ちゃんと順を追って伝えた方が良かったですね。」

 

「そうデース。デモ確かに提督はいつも険しい顔をしてマース。スマイルはしないんデスカ?」

 

 そう言った赤城と金剛に霞は噛み付いた。どうやら腑に落ちない様だ。

 

「何よっ!不満を一気に言っちゃったのは勢いだけど、意地なんて張ってないわっ!2人も揃いも揃って......いいっ!姉妹にも訊いてみるからっ!」

 

 そう言ってまた霞は飛び出して行ってしまった。

そんな姿を目で追いかけた俺と赤城、金剛はそのまま待つことにした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 霞は姉妹全員を連れてきた。どうやら近くに居たみたいでほんの5分で全員が執務室に入ってきた。

どうやら来る道中に霞から話を訊いていたみたいで、俺は霞が連れて入ってくるときに見た他の姉妹の顔を見た瞬間、答えは分かった。赤城や金剛と同じ顔をしているのだ。

 

「ねぇ朝潮姉さんどうなの?」

 

 そう訊かれた朝潮は肩を少し跳ねさせて答えた。

 

「霞は意地っ張りですから......もう少しちゃんと話すべきです。」

 

 朝潮がそう言うとすぐに霞は隣に居た大潮にも答えを求め、それをあと3回した。それでも回答は全部同じ。

それが不満なのか少し震えだした霞に俺はフォローをしてやらないといけないと思い、その場から歩き出し、霞に目線を合わせた。

 

「霞の言ってる事は違う回答だったのかもしれない。俺が霞がいらないと言っても勝手に補佐をつければ良かったのかもしれないし、ちゃんと最初に説明をしておかなければならなかったのかもしれない。戸惑ってる霞に気付いて教えてやればよかったのかもしれない。それに不満に関しては最後のやつだけは連絡をしてなかっただけだからな......それは済まなかった。」

 

「......。」

 

 何も答えない霞に俺は続ける。

 

「俺に自活能力があるのも仕込まれてたから仕方のない事だから。それに険しい顔もデフォルトだ。慣れて欲しい。」

 

「......。」

 

 まだ霞は何も言わない。

 

「だけど俺が執務室から出ないのには理由がある。」

 

「......何で?」

 

 やっと霞は口を開いた。

俺は少し笑って言った。

 

「炬燵から出れないだけだ。」

 

 そう言うと霞は手を握りしめて言った。

 

「こんのおぉぉ、クズ司令官っ!!!!」

 

 そう言って霞は俺を叩いた。

痛くはない。力加減をしているのか、そもそもそんな力がないのか分からなが、霞は俺の肩をポコポコと叩く。

俺はそれが止むまでそのままでいた。

 数分後。霞は叩くのを止めて俺を呼んだ。

 

「ねぇ。」

 

「ん?」

 

「やり方、教えなさいよ。」

 

「あぁ。」

 

 そう言って俺は霞が秘書艦の席に座った横で屈んで、あれこれと教えて行く。

偶に分からないと言われて同じことを言ったりもしたが、霞はちゃんと覚えてくれた。そして不備のあった書類をもう一度やり直すと言って自分で始めてしまったのだ。

そんな姿を俺は見て自分の椅子に座ると、その場にまだ居た朝潮たちは笑って執務室から出て行き、赤城と金剛もソファーに座って見ていないそぶりを見せた

 少し待つと霞は書類を持ってきた。直した書類だ。それを俺は受け取り、見直してそのまま終わった書類のところに置く。

 

「ありがとう。これで終わりだ。」

 

「......ふんっ!楽勝よ。」

 

 そう言ってそっぽ向く霞はさっきまでの表情は無かった。ぶっきらぼうではあるが、どこか笑っているように俺には見えたのだ。

 





 今日は珍しく当たりの強い艦娘を選びました。
まぁ、霞はゲーム通りの口調にしましたが、性格は少し変えておきました。
 書いてて思いまいたが、罵倒を書くのが難しいです......。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百五十話  使節団の謝罪はデジャヴの前に

 

 アドレーは受けた報告に頭に血が上っていた。

 アドレーの指示で再興した海軍がこちらの任務の最中、独断で仕出かしたと言うのだ。具体的には日本皇国領内で無断侵犯並びに工作員の投入。無断侵犯に関してはかなり強引にやっていたそうだが、何のお叱りも無しだった。だがもう一つが問題だ。

工作員を投入した事自体が問題なのだが、投入した場所と内容だ。場所は横須賀鎮守府艦隊司令部。目的は情報収集と艦娘の誘拐。16人の特殊部隊を投入したとの事。

 

「大統領......まだあるのですが、お聞きに?」

 

 アドレーの秘書は顔を青くしているのでアドレーは気になった。

何故、報告で顔を青くしているのか。これ以上の問題があると言うのだろうか?

 

「あぁ、言ってくれ。」

 

 そうアドレーが言うと、恐る恐る秘書は話した。

 

「日本皇国政府からの連絡で横須賀鎮守府艦隊司令部に潜入した米海軍特殊部隊 隊員16名は情報収集中及び誘拐を試みた際に12名が無力化され......。」

 

 ガクガクと震える秘書は消え入りそうな声で続きを言った。

 

「4名が横須賀鎮守府艦隊司令部付きの警備部隊と交戦、全員の戦死が確認されたそうです。」

 

「何だとっ?!」

 

 切迫した勢いでアドレーは言った。

これは非常に不味い事になった。軍の勝手な行動ではあるが、無断侵犯や工作員の投入に加えて他国で交戦したのは今後の日本皇国との関係に亀裂が入る。

 

「誰なんだっ!その時日本皇国に行っていたのはっ?!」

 

「ウェールズ・マスキッド海軍少将です。」

 

「国防総省に連絡だっ!ウェールズ・マスキッドを逮捕せよっ!」

 

 アドレーは即刻指示を出した。そんな事をやるのならこのウェールズしかいないと。この米海軍の日本皇国への航海はウェールズが提案した事だ。

日本皇国が旧型艦と艦娘なる存在を使って深海棲艦と戦っていると言う理由から、記念艦として残っていたアイオワを即刻整備して使えるように指示を出したと言うのに、完了するとウェールズは肩慣らしにアイオワも艦隊に加えると言って許可を求めてきたのだ。

だから、アイオワも何かに使われたのかもしれない。

アドレーの脳内を嫌な未来がうずめいた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 今日もいつものように執務をしていると突然大本営から連絡が入り、アメリカから使節が来るだとか。どうやら俺に用があるらしく、事前に連絡を取り次いだという事だ。

使節という事は、何か話があるのだろう。そう考えると思い当たる節は1つしかなかった。ウェールズが来た時に起きた一連の騒動。あれで米海軍の特殊部隊の1/4と交戦して殺してしまった事だろうか。何か責めれるのではないかと俺は思い、言い訳を考え始めるが埒が明かない。

そんな事をしていると、使節が到着する時間になり、俺は埠頭に出た。この使節の来航にはこれまで和やかな雰囲気だった鎮守府も一瞬にしてピリピリとし、艦娘はほぼ全員が出て来て、門兵も通常装備ではなくベストを着こみ、重装備で俺の前に現れた。そして挙句の果てには上空を烈風と彩雲が飛び回る始末。

あれだけの事があれば当然なのだろうが、いくらなんでも警戒しすぎではないのだろうか。俺はそう思った。

 

「司令、見えてきましたよ。」

 

 今日の秘書艦は比叡だ。俺はこれ程比叡に感謝した事は無かった。これが金剛や赤城、鈴谷だったらどうなっていたことやら......。

 船影を捉え、どんどんと近づいてくるアメリカの艦隊はこの前、来たアイオワの姿はなかった。あくまで現代艦の護衛だけらしい。そしてそこからある人物が現れる。

 

「お久しぶりです。」

 

「フレンツさんですか。」

 

 前回の使節として来たフレンツ・アルバリアンだった。フレンツの顔には前回とは違う雰囲気を纏っていて、何だか緊張し始めた。

どういった用件で来たのかまだ分からないが、俺は門兵たちを少し下がらせてフレンツに声をかける。

 

「今日はどういった御用件でしょうか?」

 

 そう訊くとフレンツは船の上からではあるが頭を下げた。

 

「先日、我がアメリカの艦隊がとんだ事を仕出かしたとの事。本日は謝罪に上がりました。」

 

 そう言うので俺は対策を練っていた言い訳が一瞬で無になったのと、理解が追い付かないので少しテンパるとフレンツに言った。

 

「とっ、取りあえず降りて来てくださいっ!座って話しましょう。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 警備棟の応接室で俺はフレンツとその他使節の3人、武下、天見と共に入った所で話を再開した。

 

「先ほども申しましたが、無断侵犯と工作員の投入、日本皇国の国土で銃撃をしてしまった事を大統領の代わりに謝罪に参りました。」

 

「はっ、はぁ......。」

 

 俺はおろか、武下も面を食らった様子だった。どうやら考えている事は同じみたいだ。

 

「工作員への命令を下した将官には厳重な処罰が下されました事をお伝えしたく......。」

 

 俺はやっと状況を飲み込み、普通に話し始めた。

 

「そんな......こちらは死傷者無しでそちらに4人も殺してしまったのでそちらを謝罪したく......。」

 

「いえいえ、国の窮地を助けていただいたそちらに土足で上がり込み、銃撃をしてしまったのですから本当にっ.......。」

 

 何だか無限にこのやり取りが続きそうだったので俺は取りあえず話を切り上げて、こちらとフレンツの方で情報の噛み違いが無いかを確かめる事にした。

 

「それでですね、そちらで報告を受けた内容をお聞かせください。もし、間違いがあれば訂正させていただきます。」

 

「はい。......日本皇国政府からの連絡で発覚した事です。派遣していた艦隊が無断で横須賀鎮守府艦隊司令部に2度乗り込み、2度目には工作員を放ったと。その工作員の目的は情報収集と艦娘の誘拐。そちらの警備部隊が12名を確保し、4名とは銃撃戦の末、全員射殺されたと。」

 

「おおむね合ってます。」

 

「そうですか。」

 

 俺は平然としている様に見えるフレンツを見て言った。

 

「政府を通して訊きましたが、そちらはこのような事を指示していなかったと?」

 

「はい。あの時に派遣された艦隊は政府に用があったから派遣されたものですが、横須賀鎮守府艦隊司令部に立ち寄るなどという指示はありませんでした。」

 

「独断だったと?」

 

「そうとしか申し上げられません。艦隊指揮官であったウェールズ氏に責任があると判断し、尋問した結果がそうであったので処罰を下しました。」

 

 フレンツはそう言う。

一方で俺はある訊きたい事を訊いた。

 

「それとこの件とは少し関係の無い事なんですがお聞きしてもよろしいですか?」

 

「はい。答えられる範囲でなら。」

 

 許可を得たので俺は訊いてみる。

 

「ウェールズ氏が指揮していた艦隊の旗艦、アイオワは記念艦なんですか?」

 

 そう訊くとフレンツは少し考え、答えた。

 

「そうです。そちらが旧型艦を使用しているのを見てからこちらで残っていた同年代の艦を戦闘できる程度に修繕して運用しています。」

 

 艦娘の事は知っているだろうに、何故そんな事をしているのだろうか。そもそも記念艦を使えるようにしてどうするつもりなのだろうか。疑問がふつふつと湧いて出てくる。

 

「そうなんですね......。他には何か?」

 

「いえ、ありません。」

 

「そうですか。」

 

 俺はそう言って立ち上がる。もうこの件は終わりだ。それに身柄引き渡しの交渉をしてこないという事は、こっちの処理に任せるということだ。

俺が立つとフレンツたちも立ち上がり、また頭を下げた。

 

「この度は申し訳ありませんでした。日本皇国政府の方にも謝罪をと申したのですが、横須賀鎮守府艦隊司令部へと言われましたのでこれにて。」

 

 と言いかけたフレンツは俺に尋ねてきた。

 

「本当に政府は横須賀鎮守府を唯の軍事施設だとは思ってないのですね。」

 

「その様ですね......。」

 

 俺はそう適当に返すとフレンツは帰ると言って自分たちの乗ってきた船に向かい、すぐに出航していった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務室に帰ると比叡が秘書艦の机で船を漕いでいた。

首をかくかくと動かし、今にもズレ落ちて頭を打ちそうだ。

 

「比叡ー。起きろー、ひえー。」

 

 適当に声を掛けると比叡はぼーっと目を開き、そのまま頭を支えていたものが無くなったので頭を机に思いっきりぶつけた。

ゴンと鈍い音を鳴らし、比叡は額を擦りながら俺に言った。

 

「ねっ、寝てませんよ?」

 

 涎の跡を付けながら言われても全く説得力の無い事この上なかった。

 

「はいはい。......それで、執務は?」

 

「完璧ですよ!ほらっ!!」

 

 そう言って比叡は俺に書類を見せてくる。

比叡は俺がこの世界に来て少し経った頃に番犬艦隊として居たことがあったのでその時に執務は覚えた。だが今出来る保証はないと比叡に言ったら『やれますよー!』と言って意地を張ったので経験があるならいいかとそのままにしていたら、まぁ出来ていた。

秘書艦としてはいいのだが、面白くないと俺は思ってしまった。

 

「まぁ......これならいいか。」

 

 そう思ったものの、面倒なのでそのままスルーする。

 俺の執務もあるので昼の時間にならないうちにとっとと済ませてしまおうと執務に集中し始めた。

いつもなら1時間くらいで終わる執務を俺は何故かかなり集中できたので40分で終わらせ、背伸びをする。ポキポキなる背中が気持ちいい。そして少し回すと俺は立ち上がった。

時計を見たらまだ11時前なので食堂に行くには早すぎる。なので炬燵に入る事にしたのだ。炬燵の電源に手を伸ばし、電源を入れ、足を入れる。まだ冷たいがすぐに温まるだろう。

そうやって待っていると比叡も炬燵に入ってきた。

 

「ひえー。まだ温かくないんですね。」

 

「点けたばかりだからな。」

 

 そう言って俺は炬燵の上に乗っているみかんに手を伸ばす。ここに入ってしまうとどうしてもみかんに手が伸びてしまうのだ。それを見ていた比叡もみかんに手を伸ばし、皮を剥く。

そして裂いて口に放り込んだ。俺も同じ動作をしてみかんを口に放り込む。

相変わらずの甘さに満足しつつ、だんだんと温かくなった炬燵に少し深く入り、手も入れる。とても温かい。

 

「あ"ー。温かー。」

 

「そうですねー。」

 

 のほほんとした空気を出しつつみかんを口に放り込むが、段々と瞼が重くなりそのまままどろみに落ちてしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 比叡に声に起こされて俺はまどろみから覚める。

 

「司令っ!お昼ですよー!!」

 

 そう言って比叡は時計に指を指す。食堂が開く時間になっているのだ。俺は慌てて炬燵から這いだし、電源を切って食堂に走った。

 今日の昼メニューは間宮が新しいメニューを入れたとの事で結構楽しみにしていたのだ。俺もだが比叡も勿論、他の艦娘もだ。俺と比叡が来た時にはもうトレーを持って席について食べ始めている艦娘も居た。

俺はトレーを持つと間宮に頼む。

 

「新しいのを頼む。」

 

 その横から入ってきて比叡も頼んだ。

 

「私もっ!」

 

 そんな俺と比叡に間宮は優しく答えてくれた。

 

「はいはい。ではすぐに用意しますね。」

 

 そう言われて俺は席に着いた。比叡は勿論俺の横。と思って一息つくともう俺を挟んだ比叡の反対側は埋まっていた。誰かと言うと金剛だ。

 

「ヘーイ、提督ぅー!」

 

「金剛か。」

 

「今日のランチは新メニューデスヨっ!楽しみデース!!」

 

「そうだな。」

 

「そうですねー!」

 

 金剛の無邪気な笑顔に俺と比叡は答える。

そうしているうちにもうトレーに運ばれてきた。新しいメニューと言うのはチーズリゾット。俺がいつぞや蒼龍に作ったメニューだった。

俺は新メニューとは知っていたが、まさかこれだとは思わなかったので少し動揺しつつ手を合わせる。

 

「いただきます。」

 

「いただきまーす!(マース!)」

 

 横の金剛が何か言うかと思ったが何も言わなかったので俺はそのまま口に運んだ。

俺が作るのとは少し違う味がした。俺の作るのはあらびきこしょうが目立つが、間宮のはチーズとこしょう、ベーコンの風味があって美味しい。それにくどくないのだ。手が進むので俺は何も言わずに食べ続けた。何も言わないのなら勿論、すぐに食べ終わるので最後の1口を入れると辺りを見た。比叡ももう食べ終わっていたが、金剛はまだ食べていた。

 

「美味しかったな。」

 

「はいっ!新メニュー、最高ですねっ!次のも楽しみですっ!」

 

 そうガッツポーズをして見せる比叡に俺は『そうだな。』と答え金剛に目をやった。どうやらやっと食べ終わった様で、口を少し拭くとスプーンを置いた。

 

「美味しかったデース!.......デモ。」

 

「でも?」

 

 俺は何だか悪い予感がした。

 

「提督のチーズリゾットも食べてみたいデース。」

 

 そう言った瞬間、食堂は静寂に包まれた。そしてそれと同時に俺の体内の何かが警報を鳴らしている。これは何かのデジャヴだと。

 

「そうかー?」

 

 そう言って俺は手を合わせて『ごちそうさま。』と言って立ち上がり、そそくさと食堂を後にする。

それを金剛は追いかけて来た。

 

「待つデース!私も食べたいデスっ!!」

 

「誰に訊いたんだっ!!!」

 

「蒼龍デスっ!」

 

「だあぁぁぁぁ!!」

 

 俺は本部棟の中を走りながらそう叫んだ。

これはオムレツの再来だ。今夜、多分食堂に行くと蒼龍が縛りつけられている事だろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 夕食の時間になって食堂に行ってみると案の定、蒼龍は縛りつけられていた。

 

「ん"-!!ん"ん"ん"っーー!!」

 

 ちなみに今回はご丁寧に口まで封じられている。

そんな蒼龍を解放してやる条件はやはりチーズリゾットを食べさせることだったので、後日、俺は間宮に頼み、厨房に立ち続けた。

 





 久しぶりのフレンツの登場です。なんか今回はずっと謝ってる感じでしたが、目的もそれをするためですからねぇ。それにあっさりと提督にアイオワの裏付けも取られましたね。
 比叡と金剛の下りはもう気にしないで下さい。あと2度あることは3度ありますから(白目)

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第百五十一話  買い物

 

 俺は明日、日用品を買いに行こうと考えていた。

丁度、休みなのだ。執務自体を早めて貰っていたので秘書艦も無い。

俺は私室で私物を見ながら何が居るのかを考える。そしてメモ帳にリストアップしていき、ペンを置く。

 

(こんなもんだろうな......。酒保で買える日用品はあるにはあるが、やっぱり女性用しかない。)

 

 酒保は艦娘の為に建てられたものなので勿論、日用品に関しては女性用のものしか置いてない。鎮守府で男性は俺と門兵くらいしかいない上、門兵の寝泊りするところは鎮守府の外にある。だから鎮守府内で買い物をする必要が無いのだ。

 

(大荷物になったら迎えを頼めばいいか。)

 

 そう思って立ち上がり、執務室に出ようと扉を開いた瞬間、目の前に金剛が居た。

体勢的に扉に耳を当てていたのは確実で、俺が扉を開いた途端に仰け反った。

 

「あっ......そのー......。」

 

 そう言いながらモジモジする金剛に俺は退いて欲しいとだけ言って、そのまま執務室の自分の席に座った。

 

「何か用があったのか?」

 

「えっとデスネー......。」

 

 珍しく歯切れの悪い金剛に俺は急かさずに待った。急かしても良かったが、多分とんでもないことを言うに違いないからだ。

 

「そのー。」

 

「ん?」

 

 未だにモジモジとしている金剛を見ていて面白くなってきたところで、金剛は口を開いた。

 

「どっかに行くのデスカ?」

 

「は?」

 

 突然そんな事を訊いてきた。

どういう意味だろうか。俺が今からどこかに行くのかと思ったのか。それとも明日外に出る事なのか。全然分からない。修飾語が無いからだろう。

 

「明日、どっかに行くのデスカ?」

 

 最悪だ。どうやら一番よくない方を訊かれてしまった様だ。ここで適当に誤魔化しても金剛は多分ついてくる。そんな気がした。というかそうに違いない。俺の隣を歩かずとも絶対に付いてくるだろう。

 

「えー、あぁ。ちょっとな。」

 

「どこに行くのデスカ?」

 

 やっぱり誤魔化しても無駄だった。俺はもう正直に言ってしまおうと意思を固める。

 

「鎮守府の外にな。酒保で買えないものを買いに行くんだよ。」

 

 そう言った途端、金剛は目を輝かせた。それと同時に俺の脳内でアラートが鳴り響いている。危険だと。

 

「わっ、私も連れてって下サーイッ!!」

 

 思った通りだ。

 

「艦娘は出れない事になってるだろう?」

 

「そうですケド......。」

 

 これは何というか殺し文句というべきだろうか。艦娘がもし、出撃以外で鎮守府の外に行きたいと言えばこう答えるのが良いと言われている。というか言えと言われているのだ。

今は特にそうだ。世間に艦娘の事について知られている今、どんな危険があるか分からない上に艦娘の身体能力も年齢相応というところもある。それは運動会をやった時に分かった事だ。

 

「どうして出たいんだ?」

 

 俺はあくまで出たい理由を訊いた。こんな質問をしておいてなんだが、返答なんて2種類しかない。ひとつは興味があるからで、もうひとつは俺の護衛だ。金剛の場合、後者である可能性が高い。

 

「もちろん。提督の護衛デスヨ?」

 

 俺の予想は的中だ。金剛ならこう言わない筈がないのだ。

だが、赤城の時は叶えてやったが今回はそういう事ではない。ただ俺が出る事を知られてしまったという理由だけだ。

 

「それでもダメだな。それに俺の護衛はちゃんと付くぞ?あっちは軍人だ。相手が銃を持ってなければ完璧だ。」

 

「デモッ......。」

 

 まだ食い下がってくる。諦めが悪いのか、ただ俺を心配してなのか分からないがここでいいと言ってしまえば他の艦娘も連れて行かなければならなくなる。そうするとバレるバレない以前の問題になる。大問題だ。

 

「それに金剛を連れて行ったら他の艦娘も連れて行かなけりゃならなくなる。艦娘によっては髪色が黒じゃないのも居るんだ。そうしたら目立ってしまって面倒事になる。そうしたらとてもじゃないが俺だけじゃ対処しきれない。」

 

 そう言うと金剛は目をウルウルさせ始めた。どういう事だろうか。

 

「......そんなに私と行きたくないデスカ?」

 

 俺にはこの言葉は威力が絶大だ。ここまで拒絶したのに食い下がり、最後にこんな事を言う。

何というか俺の信条みたいなものが崩れてしまう気がした。

 

「はぁ......分かった。」

 

「やった!」

 

 金剛は喜んでいるが束の間だ。

 

「但し、条件がある。」

 

「何デスカ?」

 

 俺はそう言って金剛にいくつか条件を突きつけた。

 

「ひとつ。その髪型を崩す事。特徴的だから外に出たら一発でバレる。」

 

「ひとつって事はまだあるのデスネー。」

 

「ふたつ。そのアホ毛を隠すために何かしらの帽子かハットを被る事。ワックスでぺったんこにしてもいいが。」

 

 俺はそう言って条件を付けていく。

 

「みっつ。金剛の口調はカタコトだから出来るだけネイティヴに話す事。」

 

「カタコト......。」

 

 少し思うところがあるようだ。

 

「最後。オーバーリアクションは無しで。」

 

 全部言い終わり、金剛がこれでも行くと言うのなら俺はどうにかする。金剛の返答を待った。

 一方の金剛は髪を弄ったり、アホ毛をちょこちょこ触ってみたり、少し独り言を言ったりしてからこっちを見た。俺の突きつけた条件を飲むのなら俺は連れて行く、それの回答をするのだ。

 

「分かったネー。でもワックスは無いから何か被って着マース。」

 

「そうか。なら、着いて来い。それでだが、他の艦娘には悟られないようにしろ。分かった?」

 

「了解ネー。」

 

 金剛はそう言って笑顔で敬礼すると執務室から出て行った。たぶん、明日の準備を始めるのだろう。

俺もそれなら動き始めなければならない。門兵の明日の配置を訊いてこなければならない。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 次の日。俺はあるところに来ていた。そこはかつて金剛が妖精たちと掘って機材などを置いていた部屋だ。何故ここなのだろうか。

俺は疑問に思った。門兵に頼みに行こうと部屋を出ると金剛が待ち構えていて、誰にも言わずに出れると言って聞かないので、何故そんな事が言えるのだろうかと。

 

「お待たせしましター。じゃあ入りマスカ。」

 

 そう言って現れた金剛は何時もの服装だ。だがそれなりに大きなカバンを持っている。

 

「分かった。」

 

「多分大丈夫だと思いマスガ、少し着替えるので待っていて下サイ。」

 

 そう言って俺は金剛に連れられて穴を降りていく。

穴を降りるとそこには電気が来ていて、なかなか明るかった。そして歩いていると途中に横穴があり、そこには土が積み上がっていて水もあった。そしてよく見ると通路脇に溝が彫ってある。何の用途があるのか分からないが、気にせず進むと開けたところに出た。

そこには机と椅子は勿論、機材が置いてあった。何処かの通信施設かと思ったほどだ。

そしてその部屋の奥には靴を脱いでいられる様なスペースもある。

 

「すぐに着替えますので少し待ってて下サーイ。あっ、でもこっち見ちゃ駄目デース。」

 

 そう言われ俺はすぐに金剛のいる方の真反対に身体を向けた。

後ろで布の擦れる音を聞き、なるべく聞かないようにしているとすぐに金剛に声を掛けられた。

 

「髪を梳いてカチューシャ取れば行けマス。」

 

「そうみたいだな。」

 

 金剛は可愛らしい服装で佇んでいた。

白い長けの短いワンピースにカーディガンを羽織り、下はプリーツスカートで二―ハイソックスを履いている。手にはアンゴラ帽子が乗っていた。

 

「どうかしましたカ?」

 

 そう首を傾げる金剛に俺はそっぽを向いた。

見てると顔が赤くなっていくのが分かるのだ。

 

「別に、なんともない。」

 

 そう俺は適当に言うと『そうデスカ。』と言って金剛は髪を梳き、帽子を頭に乗せた。

 

「では、行きマショー。」

 

「だな。」

 

 ちなみに俺はもう着替えてある。いつもの制服の下に着てきているのだ。上着は手に持って来たが。

 

 金剛に言われて部屋の来た道の反対側にある梯子を上って外に出ると枯草に囲まれていた。

それ程高くないところから頭を出して歩いて行くと路地裏ですぐに町だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺の用事は早々に終わった。日用品といっても衣類が殆どで、本を数冊買っただけで終わった。案外多くなってしまった荷物を一回、出てきたところに置きに行き、時間があるからと言って赤城の時みたく見て回る事になった。

見て回るのだが、金剛の様子がおかしかった。赤城は物珍しさからキョロキョロとしていたが金剛はそんな事ない。それどころか、まるで分かっているみたいに歩くのだ。

 

「なぁ。」

 

「はい。」

 

 それと違和感があるのが、金剛が片言じゃない事だ。無理しているのは丸わかりだが、周りには分からないくらいのレベルだ。

 

「物珍しさからキョロキョロすると思ったんだが、そうじゃないんだな。」

 

 そう言うと金剛からとんでもない言葉が発せられた。

 

「そうですね......。貴方の為に色々していた時期がありましたよね?」

 

 金剛は外では俺の事を貴方と呼ぶと宣言していた。ここで提督と呼んでしまうとバレてしまうからだと。

 

「そうだな。」

 

「その時に手に入らないものはあそこを使って出て来ては買い物をしていました。」

 

「なっ!?」

 

 そう言いながらニコニコする金剛に反して俺は冷や汗が額から流れてくるのが感じられる。

 

「すみません......。どうしても必要だったので......。」

 

 そう申し訳なさそうに言う金剛に俺は訊いてみた。

 

「ちなみに、何が必要だったんだ?」

 

 そう訊くとまたもやとんでもないものが金剛の口から発せられた。

 

「監視カメラにケーブル、偽装用の植物や造花、麻袋、それにボイスレコーダーです。だいたいはあの部屋を隠すためのものですね。」

 

「そうか......。だがボイスレコーダーは何の為に?」

 

 興味本位で訊いてみるがこれまた衝撃的な言葉が金剛から発せられた。

 

「貴方たちが調査していたのは分かっていたんです。ですのでそれの進行状況を聞くために執務室に置いてありました。」

 

 そう言われて俺は思い出した。鮮明にビジョンが脳裏に映る。それは叢雲が俺にこれは何だと執務室の外で俺に見せたものだ(※第百五話参照)。

 

「やっぱりそうだったか。」

 

「はい......すみません。」

 

 そうしょんぼりする金剛を尻目に俺は町並みを見ながら歩く。

 

「まぁもう昔の事だから気にしても仕方がない。忘れろ。」

 

「そうします。」

 

 そうして俺たちは色々な店を回った。服屋、雑貨屋、、スーパーマーケット、百均、コンビニ......色々と見て回ったが、どうやら金剛は家電屋とホームセンターにしか行ってなかった様で、どれにも凄く興味を示していた。今回は酒保が大きくなっているのでそれなりに誤魔化しが効くだろうという事になり、金剛は小物やらを買って行く。大物は持って帰れないから諦めると言っていた。服も買ったりして結構楽しんでいた。

そしてそうやって歩いている最中、金剛はある話題を持ち掛けた。

 

「そう言えば赤城の事なんですが......。」

 

 艦娘の名前を出すが話し声は俺にしか聞こえない程度だったのでいいだろう。

 

「どうした?」

 

「赤城が宝物だと言ってずっと持ち歩いているものがあるんです。」

 

 俺は何だか嫌な予感がした。

 

「小さい懐中時計でいつも袖の中に入れて持ち歩いているんですよね。」

 

 予想的中。俺が赤城を景品として鎮守府の外に連れ出した時に買った物だ。

 

「貴方は何か知りませんか?」

 

 そう尋ねてくる金剛に真実を言う訳にもいかずに俺ははったりを言った。

 

「知らないぞ。俺も初めて聞いた。」

 

「そうですか。」

 

「あぁ。」

 

 どうやら深く訊いてこない様だ。まぁそこまで訊いてこないなら本当に話題として出しただけだろうと思い、俺もすぐにこの話をした事を忘れたのだが、次に入ったアクセサリーショップで金剛にねだられた。

 

「何かプレゼントして下さーい!」

 

 カタコトではなかったが、いつものようにそう言ってくる。

言っている金剛は目を輝かせていたのでまた断るわけにもいかずに俺は結局、金剛に似合いそうな髪飾りをプレゼントする事になった。

その後もゲームセンターに入ってシューティングをやって騒いだり、本屋で金剛が探していた本の題名を訊いて俺と一緒に探してくれた店員にドン引きしたりして過ごした。ちなみに金剛が探していた本はME○RO2033というロシアの若手作家が書いたSFファンタジーだ。核で荒廃した地上を棄てた人間がロシアの地下鉄でそれぞれの駅が独立国家を営む世界でモンスターの襲撃や汚染に怯えながら暮らす人間が暗くて長い地下鉄のトンネルを旅する話だ。暗い内容ので読んでて辛いものだ。俺も知っているので、余計に引いたのだ。

店員は『こんな可愛い子がそんな本を読むなんて......。』とかショックを受けながら本を探してくれた。運が良く、その本は見つかり金剛は上機嫌で買ったのだ。そしてそれの会計をしていた店員は一緒に探してくれた店員で、上機嫌の金剛を見てさらにショックを受けていた。そんなショックを受けるものなのか。

 そうして俺と金剛は鎮守府に帰った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 夜。執務室で本を読んでいると鈴谷が入ってきた。休みという事もあって鈴谷は結構ラフな格好で現れた。

 

「提督ぅー。今日、どこ行ってたのさー。」

 

 どうやらこれを聞くために来たみたいだ。

 

「今日は警備棟でで門兵と世間話してたけど?」

 

「えぇー!鈴谷が行った時、いなかったよ?!」

 

 どうやら探して回っていたみたいだ。

 

「入れ違いだったんじゃないか?」

 

「そうかなー?」

 

 そう何とか鈴谷を誤魔化して俺は少し鈴谷と話すと床に就いた。

こうやってダラダラとするのもいいものだなと思いながら。

 




 
 今日は買い物の話にしました。プロットにはもうひとつネタがあったんですが、かなり強引になってしまうのでこちらに......。もうひとつの方はまたそのうち投稿させていただきます。
 まぁ、今回のには昔の話が多く出て来ますね。忘れている頃の話もあるので※で書いてあるのを見返す事もおすすめします。忘れていたならですが(汗)

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百五十二話  夕張はやはり夕張

 

 今日は働くにあたって、結構気を落ち着かせれるだろうと考えていた。落ち着いている艦娘が秘書艦をやろうとも結構ハラハラすることがあるのだが、今日はまぁ落ち着いていてそこまで騒がしくない艦娘が秘書艦をするのだ。

 

「おはようございまーす。」

 

 そう軽やかに執務室に入ってきたのは夕張だ。

俺が着任の挨拶をして以来、ときたま話したりしていたが夕張は相手をしていて疲れない。何故かは分からないが、直感でそう感じているのだ。

 

「おはよう。」

 

「はいっ!初めての秘書艦なので緊張しますが、頑張りますっ!」

 

「頑張ってくれ。それじゃあ、食堂に行くか。」

 

 そう言って俺は席から立ち上がり、食堂に向かう。

夕張は早くに来るタイプじゃないみたいだ。どうやら余裕を持って着き、少ししてから朝食に行けるように動いているみたいだ。

俺はそんな夕張と話をしながら食堂に向かう。話す内容は色々だ。俺が普段何をしているかなんて、結構知られているみたいで俺のプライバシーも無いもの同然だったが、それは執務室で何をしているかだけだったみたいだ。夕張は執務が終わって、就寝時間まで何をしているのかなどを訊いてくる。訊かれて困る事なんてしてないので俺は自分が恥ずかしくない程度の内容を話すのだ。

 

「例えばそうだなぁ......テレビを見たり」

 

「提督の私室にはテレビがあるんですかっ?!」

 

 夕張は軽巡の中でもテレビに結構興味を持っている方の艦娘なので面白い反応をしてくれた。

 

「本を読んだりもしている。」

 

「本は執務室でも読んでるんじゃ......。」

 

「勿論。だけど私室では漫画が多いな。」

 

「漫画ですか......。漫画って言うとサ○エさんとかド○え○んとかですか?」

 

 今更ながら思い出したが、資料室に置いてある漫画は小中学校の図書室や県営や市営の図書館に置いてある様なものしか選んでいない。どうやら夕張はそっちのイメージが強いみたいだった。

 

「違う。酒保で売ってる様なものだ。」

 

「そうなんですか?」

 

 誤魔化しはしたが、酒保でも漫画の類は有名になったもの程度しか置いていない。比叡がまとめ買いをした進○の○人が良い例だ。他は少女漫画が多かったりする。ちなみに提督も少女漫画は読むが○に届けや○○館戦争くらいしか読まない。

俺が何をしているかという話が尽きると今後は夕張が教えてくれた。普段何をしているかについて。

夕張は資料室で勉強をしたり、酒保で買い物をしているそうだ。買い物と言ってもたまにしかいかないらしい。

 

「最近は魚雷の特性だとかの勉強は終わったので、水雷戦隊の旗艦としてのノウハウを学んでいるところです!たまーに川内ちゃんや神通ちゃんが来ますからね。」

 

「そうなのか。」

 

 夕張の話を訊いていると夕張以外の事も分かってくる。資料室で勉強をしているのは大体は軽巡や駆逐艦らしい。それも皆、水雷戦隊としてだったり雷撃戦について、艦隊護衛、対空防御に関する事に偏っていた。

そして勉強するのも同じような事を勉強している艦娘同士で固まっているようだ。相互に教え教えられているみたいだ。理想的な勉強環境が自然に作られているみたいだった。

 

「偶に机に駒を置いて机上演習とかもするんですよ。そう言う時は大体川内ちゃんとか神通ちゃんがいますけどね。」

 

 そう言って教えてくれる夕張だが一方で俺はある事を思い出した。重巡や大井などのレベリングに並行して軽巡や駆逐艦のレベリングを想定している海域があるのだ。

 

「そう言えば別方面のレベリングを予定しているんだが、事前に行ってもらう艦娘を探していたんだ。」

 

「レベリングですか?それってキス島の?」

 

「違う。軽巡、駆逐艦専用の場所だ。」

 

「そんなところがあるんですか。」

 

「それでだ。そこにさっきも言ったが事前に行ってもらう艦娘を探していた。夕張、行ってきてくれ。そのうち正式に編成表やらを作るから考えておいてくれ。」

 

 そう言った途端、夕張の表情は険しくなった。

 

「キス島じゃないなら何ですか?」

 

「鎮守府正面海域、潜水艦頻出海域だ。」

 

「潜水艦?」

 

 そう夕張が訊き返してくるので俺は夕張に問題を出した。

 

「夕張に問題だ。水雷戦隊が負う任務の中で水雷戦隊で無ければやれない任務を上げてみろ。」

 

 そう言うと夕張は考え出す。これまで勉強してきた知識が生きる場面だ。

数十秒考えると夕張は答えを出す。

 

「輸送任務?」

 

「その心は?」

 

「大型艦が輸送任務をすると輸送する資材に比べて消費する資材比が大きいからです。」

 

「一応正解だが俺の求めていた正解じゃない。」

 

 そう言うと夕張はまた考え始める。

だが分からない様だ。考えるのを止めた夕張は俺に答えを訊いてきた。

 

「......分からないです。答えは?」

 

「答えは対潜任務だ。ソナー、爆雷共に軽巡と駆逐艦にしか装備できないものだ。水上機母艦や重雷装巡洋艦にも装備は出来るが、軽巡洋艦や駆逐艦に装備させるのが望ましい。それぞれにそれぞれしか出来ない事があるからな。」

 

 そう説明すると夕張は納得した様だった。

そのこうしていると食堂に着き、朝食を食べ始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務室に戻ると夕張は執務の書類を取りに行くと言って事務棟に向かい、それと入れ替わりで大井が来た。

 

「おはようございます。あら、夕張さんは?」

 

「事務棟だ。書類を取りに行っている。」

 

「そうですか。なら戻って来次第、執務を始めますよね?」

 

「勿論。」

 

 そう言って少しばかり待つと夕張は戻ってきて、執務が始まった。俺はいつも通り、黙々と書類をこなし、夕張は大井に教わりながら執務を進める。

大井を起用したのはたまたま昨日、近くを通りかかったからだ。大井本人からしてみるととんだ面倒事かもしれないが、運が悪かったと思えばいい。

少しすると俺も夕張も執務が終わり、それと同時に大井は戻って行った。どうやら大井はこれから勉強だと言う。夕張の言っていた事だろう。

 大井を見届けると夕張は懐から不意に紙を出すと話を持ち掛けてきた。

 

「最近、軽巡の艦娘の中で話題になっている新戦術があるんですけど訊いていただけますか?」

 

「新戦術?」

 

 俺が何か教えた訳でもないが、何かが流行っている様だ。これから暇だから聞くことにした。

 

「新戦術とは軽巡が主軸の雷撃特化の艦隊運用です。」

 

「雷撃特化だと?」

 

「はい。雷撃は魚雷一本で深海棲艦を沈める事の出来る装備ですよね?それをなるべく使う戦法が話題になったんです。」

 

「詳しく訊こう。」

 

「編成は重巡1、軽巡3、空母2の機動部隊編成です。ですが空母は速力が速い艦だけに絞り、更に小型なものと限定します。重巡は砲撃と対空防御を行う為、それに特化した艦娘を配置する事を想定しました。軽巡は酸素魚雷を積み、砲撃戦では機動力を生かして退き、雷撃時に全艦一斉射で雷撃に隙間を生まないように雷撃をします。空母はサポートと撃ち漏らしの処理ですね。」

 

 そう言った夕張は想定している艦娘を挙げていった。重巡には摩耶、軽巡は夕張、球磨、多摩、空母は祥鳳、瑞鳳を考えられているみたいだ。

編成に関して、夕張が主張したものは机上では理に適っているのは明白だったが、問題点がある。それは運用できる場所が無い。それだけだった。

 

「良い話だな。」

 

「でしょう?!それにこの魚雷斉射はいつかの提督が言ってた『飽和砲撃』を文字って『飽和雷撃』って皆言ってる。雷撃されたら最期、どの回避運動を取っても魚雷は命中するってね。」

 

 少し興奮気味にそう熱弁する夕張だが気付いてないみたいだ。俺は正直に話した。

 

「だが使えない。」

 

「どうしてっ?!」

 

 得意気に話していたから分かっていたが、これは通用するのだと思っていたのだろう。そうでなければ俺に話さないだろうからだ。

 

「先ず最初に、『飽和雷撃』をしたとしてそれは『飽和砲撃』とは違い、殆どの魚雷を無駄弾として発射する訳だろう?万年資材不足のウチには苦しい。」

 

「うぐっ?!」

 

「次に砲撃戦の最中、雷撃をする肝心の軽巡の魚雷発射管が損傷した場合、どうするんだ?」

 

「うぐぐっ?!」

 

「最後に、それをそれでも運用するとして運用できる場所が無い。」

 

「......。」

 

 最後のはクリティカルした様だ。

 

「......よくよく考えたらそうね。資材の無駄遣い、課程で軽巡の損傷は絶対に避けなければならない、そもそも運用できる海域がないなんて考えたらすぐに分かる事よね。ごめんなさい、忘れて。」

 

 そう言ってしょんぼりしてしまった夕張に俺はフォローを入れた。たった今、閃いたのだ。

 

「だが、支援艦隊を含んだ攻略作戦での運用は考えられる。」

 

「本当にっ?!」

 

「あぁ。そもそも支援艦隊ってのは我武者羅に砲雷撃を加える目的がある。それなら雷撃に絞って攻撃をするのなら、本隊に気を取られた深海棲艦を一掃できるかもしれないな。それに夕張がさっき想定して言った編成、その支援艦隊に丸々使えるかもしれない。」

 

「そうなのっ?!でも、かもしれないでしょ?」

 

「あぁ。」

 

 そう言って夕張はしょんぼりしていた顔から少し元気が出た様だ。

 

「少し提督に言われた事を踏まえて考えてみようかしら......。」

 

 夕張はブツブツと何かを言いながら考え始めてしまった。

終いには紙を用意してメモも始める始末だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 午後になり、昼食を済ませて執務室に帰ると五月雨と由良が遊びに来た。どうやら夕張も居るからだと言う。

 

「五月雨はよく私と資料室で色々考え事してるんですよ。」

 

 そう言って夕張は五月雨を抱き寄せた。

 

「夕張さんっ?!それはまだ詰めてからって......。」

 

 慌て始める五月雨を置いておいて夕張は話し始めた。

 

「最近五月雨と私は戦艦と重巡が撃つ砲弾の事を考えてるんですよ。九一式徹甲弾、一式徹甲弾、三式弾......これらを種類で分けると九一式徹甲弾、一式徹甲弾は徹甲弾で三式弾は榴散弾。私たちは更に弾種を増やせるのではないかって考えてるんですよっ!今のところ開発されてない砲弾は、零式通常弾くらいですかね。あれは時限式榴弾なので、用途としては対空母用、対地用だと考えてます。」

 

「零式通常弾か......。」

 

 俺はそう思い、考えを巡らせる。

砲弾と言ってもかなり種類がある。徹甲弾や榴弾は王道だろう。さっき夕張は三式弾を榴散弾と言ったがキャニスター弾が元になっているものだ。そう考えれば砲弾の種類が少ない。よく出撃から帰還した艦娘が言う『弾かれた』という単語。それは砲弾が有効弾ではなかったという意味。それ則、弾頭が装甲板を突き破らなかったという事だ。

なので俺は貫通する弾頭は無いのかと考える。名前はあるが、多分ないだろう。硬芯徹甲弾なんていう代物が大口径砲に用意されているはずがないのだ。

 

「零式通常弾の運用を検討していただけますか?」

 

 そう考える俺に夕張は言った。それには俺は即答した。

 

「良いだろう。用途は限られるが、榴弾なら貫通せずとも被害を出す事は可能だ。」

 

 俺は夕張に応えて書類を書き始めた。それは工廠に出すものだ。零式通常弾の開発を頼むものだ。

そしてそれを夕張に渡すと今すぐ出してくると言って五月雨と工廠に行ってしまった。残されたのは俺と由良。五月雨と来てからまだ喋ってないが、遊びに来たと言ったのだ。何かあるだろう。

 

「提督さんって結構知識ありますよね?一般人だったのにどうしてですか?」

 

 由良は単純な質問をしてきた。

俺がペラペラ話す知識はどこから来ているのか、そういう質問だろう。

 

「航空機、機銃の弾薬ベルト、砲弾、戦術......訊いただけでこれだけあります。航空機や戦術なら好きな人が多いと聞きますが、弾薬ベルトや砲弾をそこまで知っている提督さんはどうやってその知識を?」

 

「弾薬ベルトは航空機の兵装に使われるものから興味を惹かれた。それぞれ特徴があって、用途が違うだろう?対空機銃に装填される弾は大体は曳光弾、徹甲弾、榴弾だ。砲弾も同じ理由。機銃の弾薬がそのまま大きくなったものだからな。」

 

「そうなんですか......。というかさっきの対空機銃の弾薬、合ってます。驚きですよ。」

 

 そうニコッと由良は笑った。

 

「そうか。まぁ、艦艇から考えてそれが妥当だろうなと思っただけだ。精々良くて焼夷弾が使われているだろうと。」

 

「焼夷弾?」

 

 由良は焼夷弾で引っかかった。どうやら訊いた事がないらしい。

 

「焼夷弾っていうのは炸薬の爆発した運動エネルギーで撃ちだされた弾頭に可燃性燃料が入っていて、物体に当たるとそれが弾頭から弾け出して着火する。」

 

「成る程、それで焼夷なんですね。」

 

 どうやら今の説明だけで分かった様だ。だが由良はさらに訊いてくる。

 

「ではなぜ、焼夷弾が対空機銃に?燃やすって、航空機を燃やしても何にも装甲板がありますよね?」

 

 由良は多分これを素で言っているみたいだ。

 

「ここで弾薬ベルトの登場。弾薬ベルトはベルト給弾する機銃でこうやって言うが、箱型弾倉を使ってても同じ様に給弾できるから割愛するけどいいか?」

 

「はい。」

 

「弾薬ベルトに例えば曳光弾、徹甲弾、焼夷弾の順番で撃ちだされるとしたらそれぞれ、どんな役割をすると思う?」

 

 由良は考え始める。だがすぐに答えた。

 

「曳光弾で機銃が撃ちだす弾丸の弾道を見て、徹甲弾で航空機に穴を開ける。そして焼夷弾で着火する......?」

 

 そう言ったはいいものの、腑に落ちない様だ。少し由良を見守る事にした。

由良はあれこれと考えた後、俺に結果を言った。

 

「徹甲弾で燃料タンクを狙ってそこに焼夷弾で着火する、ですか?」

 

「理想の回答だ。」

 

 日本の零戦なんかではよくある事だが、徹甲弾で燃料タンクを撃ち抜かれ、そこに焼夷弾が着弾すると火を噴き落ちていくという光景だ。それを狙っているのだ。

 

「そうなんですね......。勉強になります。......ちなみにそれって妖精さんに頼めば弾薬ベルトを変えてもらう事は出来ますか?」

 

「可能だ。」

 

 そう言うと由良はメモを取った。

由良はどうやらポケットにメモとペンを入れて持ち歩いているみたいだ。

 

「うん......よしっ!そう言えば提督さん。」

 

 メモを書き留め終ると由良はポケットに仕舞いながら話した。

 

「最近対潜装備の事を勉強しているんですけど、近いうちに何かありますか?」

 

 まるで狙って来たかのようにその話を持ち出した。

俺はキス島以外でのレベリングを予定している。そこは対潜装備でレベリングを行う場所だ。ついさっき夕張に話したところだというのに。

 

「あるな......。」

 

「本当ですかっ?!」

 

 この由良の反応を見ていると素の様に思えてならない。たぶん、たまたま勉強しているのが対潜装備で中々使う機会がないのを知っていたから聞いたんだろう。そうに違いない。

 

「一度夕張で試験をしてからレベリングに入るつもりなんだが......なら最初は由良だな。」

 

「ありがとうございますっ!」

 

 由良は長いポニーテールをゆっさゆさ動かしながら喜ぶ。それを俺は見ていて特段悪い気分にはならなかった。

そもそも俺は軽巡のレベリングをしなくてはと思っていたところだからだ。そうして対潜に関する事を由良と話していると工廠から夕張と五月雨が帰ってきたが、何やら様子がおかしい。

 

「提督、建造で出てきた娘ってすぐに執務室に来るんですよね?」

 

「あぁ。そうだが。」

 

 何やら訳の分からない事を訊いてくる夕張は俺のその確認を取るとすぐに扉に戻り、扉を開いた。

そこには見慣れない服を着たどうみても艦娘ともう一人、いつぞや見た艦娘がいる。

 

「ここ、提督がいらした鎮守府だったんですか。」

 

 おっとりした雰囲気にメガネをかけている艦娘は挨拶をした。

 

「私は香取型練習巡洋艦一番艦 香取です。宜しくお願いいたします。」

 

 そしておっとりした雰囲気にメガネをかけている(※2回目)が見たことのある艦娘は挨拶をした。

 

「軽巡洋艦 大淀です。私の艤装が発見されたのでこちらに移ることになりました。よろしくお願いします。」

 

 俺はその2人を見るなり夕張に言った。

 

「今すぐ赤城を連れてこいっ!!!」

 

 またやったなと俺は思い、赤城を呼びつける。ちなみにまだ赤城に"特務"を任せていた。今回も鎮守府の案内をしなかったのだ。

懲りずに赤城はもう3、4回はやっている。その度に反省してもうしないと言っていると言うのに......。そう考えながら待っていると夕張はぜえはあ言いながら戻ってきた。その間、9分。どうやら夕張が赤城に状況を聞いたらしく、執務室に入ってきた赤城は蒼い顔をしていた。

 

「赤城。」

 

「......はい。」

 

 消え入りそうな声で赤城は返事をする。

 

「言いたい事、分かるよな?」

 

「......はいぃぃ。」

 

「だったら言う事あるだろう?」

 

「ごめんなさいっ!」

 

「だから俺じゃねぇって!!」

 

 このやり取りも久しい。そう感じながら呆気にとられている2人の方を俺は見た。

 

「すまない。赤城の任務怠慢が......どれくらい待ったんだ?」

 

 そう訊くとそれぞれ答えた。

 

「1ヵ月です。」

 

 香取はそう答える。続いて大淀も答えた。

 

「私は二週間です。」

 

 俺はそれを訊き赤城に訊く。ここ最近の建造は全て赤城に任せていたのだ。

 

「間違いないか?」

 

「はいっ。ですが提督、大淀さんはっ......。」

 

「大淀がどうかしたのか?」

 

 そう言うと赤城から別の事が伝えられた。

 

「大淀さんは大規模作戦の間に突発的に行った南西諸島で艤装を発見したんですよ?」

 

「はぁ?」

 

 大規模作戦の間。それは記憶にはまだ新しいoperation"AL magic"とoperation"typhoon"の間に大本営から哨戒に出て欲しいと頼まれていた海域だ。そこで小規模で散発的な戦闘をしたとの報告を俺は受けている。

 

「私はだから......その......。」

 

 そういってモジモジする赤城だが俺はある事を思い出した。

北方海域から作戦艦隊が帰って来る日に鎮守府残存艦娘で構成した艦隊が南西諸島に出ていたのだ。その時にどうやら大淀の艤装を拾って来たみたいだ。

だが大雑把に言ってしまえば艦娘の人事は赤城がやっていると言っても過言ではない。なので赤城に責任があると俺は考えた(※暴論です)。

 

「そうだとしても、ほれ赤城。案内に行ってこい。」

 

「はいっ......。」

 

 そうして赤城はイマイチ状況の掴めていない香取と終始苦笑いしていた大淀を連れて案内に繰り出して行った。

一方で俺が赤城を叱るのを見ていた夕張、五月雨、由良は赤城のあんな姿に少し驚いていたという。

 





 今回は突貫でしたので少し乱雑です。すみません。
題名は夕張ですがオチは全て赤城が持っていきました。すみません。それとここに強引に香取と大淀をねじ込んでしまいまいた......。
 香取は建造で、大淀は先日のイベントで手に入れました。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百五十三話  身分証明書①

 俺は執務室でぼーっとしながら思う事があった。

忘れていたが俺の歳は18歳。色々な枷が外れてまた一歩、大人に近づいた。だがそんな実感はない。俺自身、何か変わったという訳では無い。強いて言うなら18歳になったのと同時に艦これを始めた事くらいだ。それ以外は親に扶養されてた身、自立も何もない親に面倒を見て貰っていた歳だ。今も正直に言えば変わらないと思っている。

艦娘を指揮し、深海棲艦を駆逐する。そんなものを背負っているが、鎮守府の権力者としての自覚もある。軍人や外交官と話をしてそれをさらに実感しているところだ。だがそれは扶養されていた自分でもあり得る事だ。

それに鎮守府には俺よりも歳のいった人間はごまんといる。親に代わって面倒を看て貰ってると考えれなくもない。

 そんな事は今に始まった事じゃないのでいい。それよりも問題があるのだ。

用があり新瑞に電話した時の事だ。俺の用事を済ませると新瑞からある事が伝えられた。俺はこの世界では身分を証明するものが何一つないらしい。軍人としての籍すらない。これまでどうやって俺は身を置いてきたのか分からないくらいだった。

そこで新瑞は俺に言った。

 

『戸籍を用意する事になった。だがそれだけでは身分の証明にはならない。戸籍から軍人の個人認識票は作るが、そんなモノを身分証として使う事は無理だ。出した途端、問題が起こる。なので提督には何かしらの身分証明の出来るものを用意してもらいたい。』

 

 そう言われたのだ。事務処理だけで作れる国民保険なんかなら簡単なのだが、鎮守府には専用の医療機関がある。新瑞に却下されたのだ。

なら何がいいのだという事になり、身分証明書で一番一般的な運転免許証を作る事になった。

運転免許を取るには座学を受けて運転教習をこなす。それ専門の学校に通わなければならない。新瑞は鎮守府から一番近い自動車学校への入校を俺に勧め、それを飲んだ。

という事は、俺はこれから自動車学校に通い、運転技術を身につける事になる。

 

『ちなみに今すぐに手続きをする。明日から行ってくれ。費用はこっちが負担する。』

 

 と新瑞に言われて電話を切られてしまった。俺に意見させる気が無い様だ。

俺もそれで諦めた。

 少し待つと再び新瑞から連絡が入り、手続きをした自動車学校の名前と位置を訊き、俺は其処に通う事となった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は自動車学校に通う事になったのを武下に話した。そうすると新瑞の言った事を納得し、行き帰りの送迎をして貰えることとなった。だが武下自身がやるわけにはいかないので、西川が専属でやってくれることとなった。理由は簡単だ。俺とよく話をする門兵だからだ。

 そして当日。俺は西川に送られ、自動車学校の扉をくぐる。

中はそれなりに年期が入っていて良く言って味がある。悪く言ってボロい建物だ。そこで事務員に話しかける。この時、俺は誰かに面と向かって自分の名前を言ったのは初めてだ。

 

「昨日手続きがある程度されていますので、残りをお願いします。」

 

 事務員の人はそう言って俺に書類を渡してくる。それは名前、生年月日、住所、職業、車種の希望だ。どうやら新瑞がした手続きとはお金と個人を証明するものの提示だけだろう。

俺は今日来るにあたって新瑞に言われている事がある。住所は偽装、職業は学生という事になっていた。経歴は横須賀鎮守府周辺にある軍と提携している高等学校出身者という事になっていた。

書き終え、提出すると事務員は俺に説明をすると建物にある教室で入校式があるから今から出るようにと言われた。

 

「ありがとうございました。」

 

 俺は礼を言うと、その会場に向かった。

会場には俺と同い年くらいの男女が緊張した面持ちで待っている。俺も指定された席に着くと、持って来ていたカバンから筆記用具を出して待つ。

そうするとすぐに指導員らしき人間が教室に入ってきて、話をはじめた。軽く何をしていくのかという説明、配布物の配布と確認を済ませると性格の検査を行い、学科を1つそのまま受ける事になった。

 

「ではこのまま学科を受けてもらいます。配布物の中から学科の教科書を出して下さい。」

 

 そう指示があり、俺は配布物の中から教科書を引っ張り出すと中を開いて授業に入る。

授業を聞きながら教科書に印をつけていく。何とも単純な作業だ。内容も簡単で頭にスーッと入ってくる。少し気を抜くと寝てしまいそうな程簡単だった。

 授業を50分受けるとこの後は自由で帰って良しとなっている。だがやれる人はもう教習車に乗る事も出来るみたいだ。

別に急ぎでもないし、誰一人として艦娘に知らせずに鎮守府を開けておくのは忍びないので帰る事にした。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 自動車学校に通い始めて一週間が経ったある日、俺はいつものように西川に送って貰って自動車学校に通っていた。

だがその一方、俺が毎日午後になると姿を消す事に気付いた艦娘がいる。

 

「午後、執務室に行ってもいつもいないデース。」

 

「どこ行っちゃったんだろうねぇ。」

 

 そう。金剛と鈴谷だ。

彼女たちは『提督への執着』が強いお蔭で俺がいるいないまで判別できるのだ。そんな2人はもう既に俺が居なくなっている事に感づいていた。ちなみにそれまでの秘書艦は俺に『午後は1人でやる事があるから。』と言って秘書艦の任をわざわざ解いていた。なので一週間秘書艦だった艦娘は俺が何をしているのかきになっているだけだ。

 

「提督をつけて見マショウ。」

 

「それで分かるだろうね。」

 

 そう言って金剛と鈴谷は俺の後をつけると俺がどこかに私服で出かけているのを目撃した。

不審がった金剛と鈴谷は俺が帰ってきたのを確認すると、俺に問い詰める。

 

「提督ぅ?一体午後からどこに行ってるデース?」

 

「鈴谷に教えてよー。」

 

 そう言われると俺は少し渋ったが白状した。

 

「自動車学校に通ってる。」

 

「自動車学校?」

 

「って何?」

 

 金剛と鈴谷は息を合わせたかのような質問をしてきた。

 

「自動車学校ってのは自動車を運転するのに必要な能力をつける学校だ。授業受けて自動車運転してる。」

 

 そう言うと金剛と鈴谷は予想通りの反応をした。

 

「そこって危ないところデスカ?護衛はいマスカ?」

 

「無礼な人とかいなかったの?」

 

 予想通り過ぎて笑えるがそれは置いておいて、俺は答える。

 

「危なくないぞ。護衛は西川がいるけど敷地内には入ってこないが。」

 

「なら敷地内に入る護衛は必要だよねぇ~。」

 

「そうデスネ。」

 

 そう言って金剛と鈴谷はまた来ると言ってどっかへ行ってしまった。

俺は疑問に思いながらそのまま過ごす。

 程なくして金剛と鈴谷が赤城と足柄、羽黒を連れて戻ってきた。

どうやら護衛に関する事を話した様だ。

 

「提督。鎮守府の外に毎日出てるって本当ですか?」

 

 そう赤城は訊いてくる。

 

「あぁ。行かなきゃだめだからな。」

 

 俺が答えると赤城は『そうですか。』とだけ言った。

赤城が話し終えると金剛が今度は話してくる。

 

「護衛を付ける事にシマシタ。髪色に違和感のない、顔が割れてないこの2人に行ってもらいマス。」

 

「そういう事でよろしく。提督。」

 

「よっ、よろしくお願いしますっ......。」

 

 そう足柄と羽黒は言った。

確かにこの2人は顔割れしてない上に髪色も黒や茶に近い色をしている。染めたかな程度にしか思われないだろう。

 

「本当は私たちが行くべきなんデスガ、顔が割れていマス。」

 

「鈴谷に至っては髪色でアウトだね。」

 

 そう残念そうに言った金剛と鈴谷は俺にあるものを渡してきた。

 

「それと今日、届いていたみたいデス。個人認識票デスネ。」

 

金剛は封筒を俺に手渡してきた。何故だろうか。封筒の中身は分からないというのに、どうして個人認識票だという事が分かったのだろうか。

手に持ってみても多少重いくらいではあるが、分厚いわけではない。精々ノートくらいの厚みしかない。

 

「ありがとう。」

 

 そのまま俺はここで開けようとするが、金剛と鈴谷、他の足柄や羽黒、赤城も俺の手元を凝視している。

 

「ん?」

 

「事務棟の人から中身は訊いていたんだけど、どんなのか知りたくてね......。」

 

 鈴谷は目を逸らさずにそう答えた。どうやら他もそういう理由で俺の手元を見ているみたいだ。別に見られていけないものでもないので俺はそのまま開けてみる。

中から出てきたのは皮で出来た紫色の手帳というか、人工革で出来たものだ。開いてみると俺の名前と写真、階級と所属が掛かれている。

 

「ふーん。特段凄いモノって訳でもないみたいだな。」

 

 そう言って俺はポケットに入れると周りに解散を伝える。

 

「足柄と羽黒は明日の14時、警備棟に来い。その際、私服は持参し出る前に着替えてもらう。」

 

「分かったわ。」

 

「分かりました。」

 

「夕方だ。そろそろ食堂に行こうか。」

 

 俺はそう伝え、秘書艦を呼びに執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 次の日。俺は警備棟で待っていた。これから自動車学校に通うのだ。それに今日から西川だけでなく2人増えるのだ。

 

「西川さん。たぶん訊いてるとは思いますが......。」

 

「はい。足柄さんと羽黒さんが護衛に来るんですよね?遂にバレてしまいましたか。」

 

「はい。」

 

 苦笑いをしてそう言う西川に俺は溜息を吐きながら答える。

自動車に乗り込むのを見られただけでこうなるとは誰も思わないだろう。そうこうしていると足柄と羽黒がやってきた。いつもの格好だが、片手には手提げかばん程度のモノを持っていた。

 

「今から着替えてくるからちょっと待ってて。」

 

 そう言って足柄は警備棟の女子トイレに入っていった。

ちなみに警備棟、門兵は男ばかりではない。門外を私服で監視する私服門兵もいるのだ。その場合、男性よりも女性の方が違和感がないので女性もいる。但し、殆どを外で過ごすので警備棟にはあまり戻ってこないとか。

 すぐに足柄と羽黒は戻ってきた。これまで赤城や金剛の私服姿を見てきたからか、あまり驚かない。やはり総じて艦娘は皆、美少女、美人なのだ。

そんな足柄と羽黒はちょっと待ってとか言い出し、突然身体が光で包まれた。光が晴れるとそこに居たのは、艤装を身に纏っている足柄だった。ちなみに恰好はいつもの格好。

 

「うん。問題ないみたいね。」

 

「どういうことだ?」

 

 俺が訊くと足柄は答えた。

 

「私服を着た状態でも艤装を身に纏えるかっていう実験。いま思い出したからやったの。」

 

 そう言うとまた足柄は光だし、すぐに光が晴れる。そうすると足柄は私服姿に戻っていた。

 

「どうやらそのままって訳でもなさそうね。じゃあ行きましょうか。」

 

 何やら勝手に解決したがそのまま自動車に乗り込み、自動車学校に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 自動車学校に着き、俺たちは自動車から降りると俺は何時もの様に出席手続きをして教習生名簿を受け取った。俺が足柄や羽黒を連れて来たというのに別に何の反応もしない。どうしてだろうか。少し訊いてみると受付の事務員の人は『お身体が弱いので補佐が必要だと連絡がありまして、その補佐の方々ですよね?』と返された。いつの間に連絡を取ったのだろうか。

そんな俺を尻目に足柄や羽黒は驚き、キョロキョロしている訳でもないみたいだ。かなり落ち着いている。

 

「あんまり驚かないんだな。それにいつの間に連絡を入れたんだ。」

 

「そりゃ驚いてるわよ。でもそんな事、分かり切った事だからね。いちいち反応してたら疲れちゃうわ。連絡は赤城さんが新瑞さんにしちゃったみたいね。」

 

「帰ったら呼び出しだな......。」

 

 俺の頭の片隅に赤城への言及を残し、俺は建物の中を歩き、ある部屋に入った。そこでは学科が受けられるのだ。そこに入ったはいいものの、俺の両隣に足柄と羽黒が座るものだから目立つ。良い意味じゃない、悪い意味でだ。

そんな事も露知らずに座っている羽黒に俺は話しかけた。

 

「ここに2人も要らないから、廊下で教室外の監視を頼めるか?」

 

「はい。分かりました。」

 

 そう俺が羽黒に伝えるとそのまま室外へ出て行く。そしてそれと入れ替わりに学科の授業をする指導員が入ってきた。開始の合図だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 次は教習車に乗り込み、教習を受ける。こればかりは教習車に乗せる訳にはいかないので、これから俺が乗る教習車の屋根に乗っている番号を教えて自分だけで教習車に乗り込んだ。

 

「よろしくねー。」

 

 先ず助手席で案内をするからと言われ、指導員がそう言いながら運転席に座る。

 

「宜しくお願いします。」

 

「じゃあ今日はコースを走って貰うよ。前やった道、覚えてる?」

 

「はい。」

 

「じゃあ俺、こっちじゃないな。入れ替わろうか。」

 

 指導員の指示で俺は運転席に乗り換えてエンジンをかける。エンジンをかけ、ハンドブレーキを下ろし、ローギアに入れる。そして走り出した。

 

「何かあったら注意するから走ってみて。」

 

 今回の指導員はどうやら実践あるのみ的な指導をするタイプみたいだ。俺としては好都合。やらなければ分からないままだし、下手なままだからだ。

俺はコースを走る。右左折なんかもやるし、加速もする停車や駐車もコースに含まれているのだ。その都度、指導員から指示が出るのを的確にこなしていくだけ。そのうち、指導員も指示をくれなくなる。自分で判断しながら運転するのだ。

 走り始めて10分くらい経った時だった。指導員が突然、雑談を交えてきたのだ。

 

「どこの大学行くの?」

 

 それは至ってシンプルな質問だろう。というか時期が時期だ。受験を終えた18歳が沢山自動車学校に来るのだ。雑談のネタとして申し分ないのだろう。

だが俺は回答に困った。大学には行かない。それにこの世界に大学があったとして、俺の知っている通りに大学があるのだろうか。

適当に言ってもいいだろうが、分からない。だから俺は迷った挙句、答えた。

 

「大学には行きません。......軍人になります。海軍に入隊したんです。」

 

 そう言うと指導員は驚いた。理由は明白、海軍は実質無いようなものだからだ。

 

「海軍か?!......最近、横須賀鎮守府の提督さんが快進撃してくれたお蔭で平和になりつつあるって聞くけど正直実感ないんだ。」

 

「どうしてですか?」

 

 俺がそう訊くと指導員は返答する。

 

「提督さんが快進撃をする前とあんまり変わらないんだ。それこそ海軍がまだ息があった頃は打倒深海棲艦みたいな空気になっていて、毎日横須賀から海軍やアメリカ海軍のでっかい空母が出撃していたんだがな......。全部帰ってこなくなってからはこんな風だ。」

 

 俺は正面を見ているが指導員がどういう顔をしているか分かる。悲しいわけでもなく、嬉しいわけでもないそんな表情をしているに違いない。

 

「艦娘様様だな。それに提督さんも。そのお蔭で俺は怖い上司に敬礼せずに済むってもんだ。」

 

 指導員はそう笑って言った。

 

「戦争をしているんだって思った事、無いですか?」

 

 俺は運転しながら指導員に訊く。

 

「一度だけある。横須賀鎮守府が深海棲艦に爆撃された時だ。あの時は爆弾の降る音とか爆音とか聞いたけどすぐに横須賀鎮守府の提督さんが近隣住民の避難の為に艦娘を派遣しただろう?空母に乗って窓から横須賀鎮守府を見た時、戦争をしてるんだって思った。」

 

 俺は黙って聞いている。

 

「だけど、それはどこか外の世界なんじゃないかって思った。俺が今見ている鎮守府が焼ける光景はきっと夢で、目を醒ましたらあのでっかい塀が続いていて、静かな鎮守府があるんじゃないかって。」

 

「そうですか......。」

 

「そう言えば海軍への入隊ってお前も肝座ってるんだな。今海軍が建造している戦闘艦に十中八九乗る事になるらしいけど。そうすると死んじまうぞ?これまで深海棲艦に立ち向かった戦闘艦は皆帰ってこなかったからな。」

 

「そうみたいですね。」

 

「なら何で海軍に入ろうと思ったんだ?」

 

「それは......。」

 

 指導員がとんでもない事を訊いてきた。

俺がどうして海軍に入ろうと思ったか、そんな理由あるのだろうか。俺が呼び出されて残ると決めた時の事はとてもじゃないが言えない。だったら他に何のためか?考えた結果、ある答えが出た。

 

「家族、友人のためですかね。」

 

「ベタだなぁ......。だけどお前、身体弱いんだろう?何でも補佐がいるだとか。」

 

「はい。たぶん入り口のところに居ますよ。ウェーブのかかった焦げ茶の髪のとその横に黒髪ボブヘアーの。」

 

「えぇっと......ほぉー、2人とも美人だな。」

 

 指導員は俺の想像通りのリアクションをしてくれた。

 

「どっちか彼女か?」

 

「そんな訳、いつも心配してくれるだけです。まぁ海軍に入隊したんで、訓練に入れば会えませんが。」

 

 そう適当に言い繕う。これなら信じてくれるだろう。

 

「そうか。時間だしそこで止まってくれ。」

 

 気付けばもう終了の時間になっていた。俺は指示に従い、コースの途中で駐車した。

 

「お疲れ様。次も頑張って。」

 

 そう言って指導員は俺がエンジンを止めて鍵を置いたのを確認すると帰ってしまった。

俺も荷物を持つと教習車から離れる。もう今日はやれないのでこのまま帰るのだ。事務員に教習生名簿を渡すとそのまま足柄と羽黒を連れて鎮守府に帰った。

 帰る最中、どうしても指導員との会話が頭から離れなかった。町を見て思った通りだった。戦争をしているという実感が無い。良い事なのか悪い事なのか分からないが、確実に言える事は指導員があれだから他の人間も皆、深海棲艦との戦争は指導員が言った通り、どこか外の世界の出来事と思っているのだろう。そんな事を考えながら俺は西川が運転する自動車に揺られる。

 

 




 いきなりぶっ飛んだ内容で申し訳ないです。時期的にもありだと思ったのでネタにしました。色々突っ込まれそうな内容ですがその時はその時、対応しようと思います。それと提督はMTですので。
 それと提督がサイコパスなんじゃないかって言われました。そんな犯罪係数高く見えますかね?

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第百五十四話  身分証明書②

 足柄と羽黒が俺の護衛を始めて1ヵ月が経った。まだ大本営の鎮守府はレベリングを行っているみたいで、こちらには任務があまり回ってこない。最近の新瑞の話だとやっと大型艦の半数の練度が30に達したとの事。一度その辺りまで上げてから再び上げるらしい。

つまり、まだ時間が掛かるとの事だった。

という事なので、横須賀鎮守府艦隊司令部は未だに休暇同然になっている。こっそりレベリングに出てはいるが。勿論、俺も自動車学校に通っている。

 

「あ"ー、やっと受かった。」

 

 俺はやっと仮免許に合格した。といってもついこの間、技能学科共に終わったばかりだが。一発で合格したのでかなりの達成感はある。それに最近は名目上俺の補佐で来ている足柄や羽黒も友だちが出来たのだろうか。俺からは目を離さないが、時より話をしているのを技能教習中にチラッと見る。見たせいで集中が途切れてエンストを起こしたりもしたが、まぁ、何回かこんな事をしたお蔭でエンストへの対応も慌てずに行えるようになっていた。S字やクランクでの操作も初めてやった時から脱輪は1回も無し。仮免許を受けれるだけの能力が付いたかの指導員の審査も一発合格だったわけだ。

 

「だが今日から路上教習......。」

 

 受かったはいいが、それは昨日の話。今日から技能は入れている。もう初っ端から路上に出るのだ。

それを訊いた足柄と羽黒は付いて行くと言い張り、今、俺の目の前で指導員と交渉をしていた。

 

「彼は身体が弱いんですっ!不測の事態に指導員の貴方は対応できるんですかっ?!」

 

「しかし、教習生と指導員以外を乗せる訳にはっ......。」

 

 と強く足柄は指導員に言う。

 

「せめて入隊までは健康のままで......そのためにはちゃんと不測の事態が起きたらすぐに対応できる人が必要なんです。」

 

 それに羽黒も加勢する。それを俺は遠い目で見ていた。

何というか......言葉で表現できない。それを訊いていた指導員も遂に折れた。どうやら上司に話をつけてくるみたいだ。ちなみに俺の通っている自動車学校は教習生につき1人、技能の指導員が付く。入校前に決めていた事だった。多めに料金を払うと教習生に個人指導をしてくれるのだ。どうやらこれは新瑞の配慮だろう。住所や経歴などを詐称しているからだ。もし不特定多数の人間に接触してしまえばそれがバレる確率が上がる。それを押さえるためだ。

 上司に話をしてきたみたいで、数分で戻ってきた。

 

「特例で許可が出た。だがどちらかが乗りな。1人はここに残って。」

 

 そう言った指導員に足柄と羽黒は納得したのか、すぐに誰が付いて行くか決めた。今回はどうやら足柄が付いてくるみたいだ。

 

「では行くか。先ず俺が路上のコースを走るから助手席に座ってくれ。」

 

 指示を出した指導員に従い、俺は助手席に座る。ちなみに足柄は後部座席左側だ。

俺と足柄がシートベルトをしたのを確認した指導員はエンジンをかけ、サイドブレーキを下ろし、ローギアに入れると走り出した。

路上と言っても俺はその景色を見たことが無い。滅多に鎮守府から出ないので分かる訳もない。だが俺の眼下を流れゆく景色は俺が居た世界と何ら変わりない。左側通行だし、信号機も同じだ。標識も俺が覚えている範囲で全部同じ。そんな景色を尻目に俺は指導員の運転技術を見て学ぶ。素早いシフトチェンジや迅速な停止、発進、視線、姿勢。見て学べるものは全て吸収していく。そんな俺に指導員は運転しながら声を掛けた。

 

「お前はよく見るんだな。」

 

「何をですか?」

 

「俺の運転をだ。」

 

「早く上達するならこうして技術を見て盗まないといけませんからね。」

 

 そう言うと指導員は笑った。

 

「そういえば所内(自動車学校の敷地内)でもいつもそうだったな。それで仮免許も一発で?」

 

「それは分かりませんね。」

 

 そう言いつつ俺は指導員が走りゆくのを見る。俺も指導員の操作を見てばかりいる訳では無い。ちゃんとどういう道を走っているのかも見ている。多分、路上に出ても何処で左折するか右折するか、駐車するかなんて言ってくれるだろう。だが覚えていなければならない。自分で判断しなければならないからだ。

 

「よし、1週したな。交代だ。」

 

 俺はそう言われ自動車学校の近くで駐車してから乗り換える。運転席に座りシートを一杯まで下げてシートの高さも下げる。ハンドルも少し変えてからキーを差し込み、クラッチペダルとブレーキを踏み、ハンドブレーキが上がっているのを確認、ニュートラルに入っているのを確認してからキーを回す。そしてローギアに入れ、ハンドブレーキを下した。アクセルペダルを踏みながら半クラッチの状態にして離してからすぐにクラッチペダルを踏み込み、セカンドにギアを入れる。今日乗っている教習車は癖があり、クラッチを上げ下げする時に音が出るのだ。どうやら入れにくい個体らしい。

 そんな俺を後部座席から見ていた足柄はずっとこっちを見ていた。何故見ているのか聞きたいところだが今は教習中だ。訊きたいのを我慢し、運転に集中する。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 路上教習は2時間に渡り、同じコースをグルグルと回っていた。度々教官と入れ替わり、助手席でどうするなどと色々と話された。

だが結局、俺の方が運転席に座っていた時間が長かった。

自動車学校に帰ってきた俺と足柄は羽黒と合流して鎮守府に帰る。

 

「今日、路上教習だったみたいですね。」

 

「そうなんですよ。ヒヤヒヤしました......。」

 

「自分も最初はそうでしたよ。」

 

 さりげなく西川がフォローしてくれる。ちなみに最近聞いたのだが、西川も俺と同じ車種を選んでいるみたいだ。

 

「MTは慣れれば簡単ですからね。」

 

「まぁ、その言葉最近は少しは言えるようになりましたよ。流石にエンストはしませんよ、もう。」

 

 俺はMTを選択していた。一応、乗る事になった時にMTであってもいいようにという事だ。

 

「そりゃそうですよ。もう十何時間と乗ってますよね?」

 

 俺はそんな話をしながら鎮守府に帰った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 司令官さんの知らぬところで報告会が行われています。私は護衛として足柄姉さんと共に司令官さんに付いて行ってますが、それで何があったかなどの報告を金剛さんや鈴谷さん、赤城さんにしているところです。

 

「今日から路上教習って言って、私を乗せて実際に提督が路上で運転してたんだけど......はぁ~♪」

 

 足柄姉さんは開口一番にそう言いました。ちなみに私は帰り道に何も聞いてません。

 

「なんかあったの?」

 

 興味津々に聞く鈴谷さんに足柄姉さんは答えました。

 

「MT、マニュアルっていう種類のを提督が取ってるって前に言ったじゃない?」

 

「そうだねぇ。鈴谷たちも気になって酒保で見てきたもん。ありゃ難しいわ。走りながらあちこち操作するんでしょ?絶対、鈴谷には無理。」

 

 そう鈴谷さんは言います。ちなみにこれまでこの報告会で提督がどの程度進行しているかなんて報告はしたことありません。それよりも皆さんは提督が何をして提督に何もなかったという報告が効きたいだけでしたからね。

 

「これまで提督がどんな様子でやってるかなんて私たちが見たことも無いから言えなかったけど、今日は見れたから報告しておくわ!」

 

 足柄姉さんはそう言ってフンスと鼻息を噴き出して言い放ちました。

 

「私も提督と一緒に学科を訊いたりしてから分かるんだけど、マニュアルってのは操作に失敗するとエンストって言ってエンジンが止まるんだって。ガタガタと揺れて止まるって言ってたら少し覚悟してたけど提督ってばエンストしなかったのよ!しかも操作してる姿がもう何とも言えなくって......。」

 

「何とも言えないってどういうことですか?」

 

 足柄姉さんの話に赤城さんが食いついてしまいました。もう歯止めは訊かないでしょうね......。

 

「なんだかグッと来たのっ!乗せて貰えば分かるわっ!!」

 

 その話で盛り上がる足柄姉さんたちから少し私は離れた。別に今回、私から報告する事なんてないですから遠目から見てることにしました。

 

「もう一度見たいわぁ~。」

 

「私も見てみたいデースッ!」

 

「鈴谷も行きたいっ!!......でも、かつらで誤魔化せるかなぁ?」

 

 そう金剛さんと鈴谷さんが言ってますが、赤城さんは何も言いません。

ですが直ぐに赤城さんも言いました。

 

「私も......見てみたいですね......。」

 

 照れくさそうに笑う赤城さんは何だか可愛らしかったです。実を言うと私も明日、楽しみにしているんですよね。何故なら明日は私が護衛として教習車に乗りますから。

考えていたら何だか明日が待ち遠しくなりました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 金剛たちの報告会を露知らず、俺は執務室で本を読んでいた。本来ならば自動車学校の学科で使う教科書で自習でもしてればいいものの、伝えてあるのは俺が出かけている事に気付いた金剛と鈴谷、赤城だけだ。護衛としてついて来ている足柄と羽黒は別だな。その誰かが俺の秘書艦だったならこういう時にでも気兼ねなく勉強が出来るってものだ。

ちなみに今日の秘書艦は潮だ。

 

「あのっ、提督。」

 

「ん?」

 

 俺は本に栞を挟んで潮の方を見た。ちなみに潮は今日が初秘書艦だったので補佐に時雨を付けた。毎回初秘書艦の時は何か問題が起こる事なんて1回しかなかったが、潮は夕立や島風を連想させる様な働きだ。時雨なんて始めて5分で『僕はいらないみたいだね。終わるまでそこにいるよ。』と言ってソファーでくつろいでいたくらいだ。

そんな潮が俺に声を掛けた。

 

「2時くらいから、どこに行ってたんですか?」

 

 唯の好奇心かなんかだろう。潮はその事を訊いていた。

そんなこともあろうかと俺はその質問の返しを作ってあった。

 

「警備棟に用があったんだ。それと地下牢に大量にある資材の確認。」

 

「それだったら私も手伝ったのに......。」

 

 そう言ってしょんぼりする潮に『また今度な。』とだけ言って俺は時計に目をやる。時間にして5時過ぎだ。まだまだ食堂に行くには早い。なので何か暇つぶしでもしようかと本から何か別のモノに意識を変える。

と言っても、特段何かがあるわけでもない。執務室には一応トランプやらちょっとした遊び道具は置いてあるが、2人ではつまらないだろう。じゃあ、何をするか。

 

「提督、訊いてもいいですか?」

 

「何をだ?」

 

 俺が悩んでいると潮から声を掛けてくれた。

 

「どうして提督から鉄と油、硝煙でもないにおいがするんですか?なんか......そう、革みたいな......。」

 

 俺は思い当たる節があった。自動車学校の教習車だ。アレ以外で革なんて殆ど触らない。

それを嗅ぎ分けた潮は何なんだろうか。

 

「気のせいじゃないか?それに革って言ったら俺がしてるベルト、コレは合成だけど革だぞ?」

 

 俺はそう言って苦し紛れな言い訳をした。それで納得してくれればいいが、少し黙ってしまった潮はすぐに返事を返してくれた。

 

「ベルトですか。普段匂わないものですから、敏感に反応しちゃって......すみません。」

 

 どうやら何かを疑っていた訳では無いらしい。

少し心臓が飛び出るような思いをした。

 




 
 久々にこんなけの投稿でした。最近は5000字は超えたましたからね......。
最後の強引にねじ込んだ潮ネタはあまり深い意味はありませんのでお気になさらず。

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第百五十五話  身分証明書③

 

 今日もいつもよろしく自動車学校に通っている。何時もの様に俺は学科を受けてから教習車に乗り込み、路上教習をやるのだが、今日は昨日の足柄に代わって羽黒が同乗していた。

もう指導員も昨日の事で有無も言わずにそうしている。だが今日は教習者は所内のコースに停められているものを交代で乗るのだが、何故か今日はコースから外れたところにポツンと停まっている1台に乗れとの指示を受けていた。

 

「じゃあ今日も行ってみよう。早速運転席に座って。」

 

「はい。」

 

 2回目となるとだいたいこうだ。それを見ていた羽黒も少し戸惑いながら後部座席のドアを開いて乗り込んだ。

 

「じゃあエンジンかけて、路上に。」

 

「分かりました。」

 

 いつものようにエンジンをかけて動き出す準備を整える。そして俺は路上に出る教習車の列に並び、路上に出て行った。

前回と同じコースなのである程度俺も覚えていた。教えられ、見た通りの動きをして走る。面白いのは手と足だけで、目に映る景色は何の面白みもない。強いていうのなら、路上にこれ程軍用車両が走っている光景だろう。10分走ると必ず1台は走っている。それもそのはずだ。この辺を軍用車両が走るという事は、この辺に軍事基地があるという事。この辺にある軍事基地と言えば横須賀鎮守府だ。酒保の拡大や艦娘と門兵の増員によってこれまで毎日1回だったのもかなりの頻度で運び込まれている。それに補給物資だってある訳だ。公道に軍用車両が長い列を成して走るのは良くない。だからバラバラに動いている、と間宮から訊いていた。

 

「そう言えば。」

 

 突然指導員が俺に声を掛ける。

 

「お前って海軍に入隊だとか言ってたけど、配属とかってもう決まった?」

 

 指導員は多分興味で訊いているんだろう。だが俺は回答に困った。ここで何か適当に言えばいいのか。それとも機密だと言われているのでとか言って誤魔化すべきなのか。

と言うか指導員が気になっている理由は多分俺が身体が弱いから補佐をつけてるとか言って護衛を付けているのにも関わらず、身体が仕事道具の軍隊に入るのならどんな所属なのか、そう言う事を訊いているんだろう。

 

「えっと......。」

 

 俺はすぐに答えれなかった。どうすれば正解なのか分からない。だがあまり回答が遅れると不審がられてしまう。俺はどうにでもなれと適当に答えた。

 

「水兵では無い事は確かですね。」

 

「ほぉー。」

 

 この回答、真実だ。俺は提督だ。船には乗ってないからな。

 

「まぁ、精々頑張れよ。もうちょっとで技能も学科も終わるんだろ?」

 

「はい。」

 

 そう言ってこれ以降は普通の路上教習になった。

ウィンカーを出すのを遅れて怒られたり、車線変更でトロトロやって注意されたりもしたが、さして問題ではないだろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は何時もの様に時間になって西川の運転する自動車で自動車学校に行こうとした時、後部座席に乗ってくるいつもの2人じゃないのが乗っていた。

 

「今日は私ネー。」

 

「そういう訳だから、提督。」

 

 金剛がカチューシャを外し、髪を下ろして帽子を被っていつぞやの様な姿で乗ってきた。

それを見た西川は慌てる。金剛は顔が結構知られている。もし、自動車学校に居たとなると大騒ぎになるからだ。

 

「金剛さん、困りますっ!」

 

「問題ないと思うネー。私の髪型は特徴的デスカラ、それを崩してしまえば問題ないデース。」

 

 そう西川が言っても金剛は訊かないので俺に助けを求めてきた。

 

「提督、ダメですよね?」

 

 訊いてくる西川を俺は一刀両断した。

 

「いいんじゃない?確かにあれならバレなさそうだ。それに、金剛ならより危険があれば察知できる。これとないセンサーだな。」

 

「すまし顔でいう事じゃないわね......。」

 

 俺はそう言うが実際その通りなのだ。それに金剛は何度もその恰好で外に出ている。これまでの実績があるのだ。

 

「ならいいですけど......知りませんよ?」

 

「あぁ。」

 

 そう言って西川は腑に落ちてないと言わんばかりの表情で自動車を走らせた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「おや、今日はいつもと違う人なんだな。」

 

 指導員は金剛を見るなりそう言った。それも無理はない。これまで毎日居たのは足柄と羽黒だからだ。それが足柄と金剛になっていたら驚くのも無理はない。

 

「だがどうして入れ替わったんだ?」

 

 そう訊くのも無理はない。不審だろう。どう考えても。だがこんな時の為に俺は理由を考えてあった。

 

「彼女、看護師ですよ?本当なら毎日付き合ってられないですからね。」

 

「なら最初の2人もか?」

 

「いえ、1人はいますがなんて言いましょう......。看護師ではないです。」

 

 そう俺が言うと指導員は疑うことなくスルーしてくれた有難い。

それを気にせず指導員は俺に発車の指示を出した。路上に出て違うコースを走る事になっているが、どうやらぶっつけで知らない道を走れるかという訓練らしい。指導員が指示を出し、俺はその通りに運転していく。1週し、指導員交代することになりふと後ろを振り返ってみると金剛が俺をガン見していた。この前の足柄よりも凄い目力だ。

 

「どうした?」

 

「いえ......何でもないです。」

 

 そう金剛はカタコトを矯正した話しでそう言ったが、指導員がそんな金剛に言った。

 

「そんなに心配か?」

 

 そう言うと金剛はすぐに頷いた。

それを見た指導員は俺に言う。

 

「本当は海軍ではなく大学とかにしておいた方が良かったんじゃないか?」

 

 そんな素朴な質問に俺は乾いた笑い声で返す。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 昨日宜しく俺はまた西川の自動車に乗り込み、自動車学校に行こうとしていた。だがまたそれは起きた。

今度は羽黒が乗っているが、足柄が居ない。今日は赤城が居る。

 

「今日は私です。」

 

 そう言う赤城に西川は何も言わずに俺の方を見た。

 

「まぁ、赤城なら多分大丈夫だろう。心配するな。」

 

「だといいんですけど......。」

 

 またもや西川は腑に落ちてない様子で自動車を発進させる。

そして自動車学校に着き、今日は学科が無いのですぐに実技教習になった。昨日みたいにまた外れたところに停めてあった教習車で、俺はそれに乗り込む。

そうすると指導員も乗り込み、赤城が後部座席に乗った。

 

「昨日みたいにまた違う人だな。」

 

「はい、すみません。」

 

「いいさ。昨日の人は?」

 

「今日は勤務ですよ。代わりの人ですね。」

 

「成る程......。」

 

 そう言って指導員はバックミラー越しに赤城を見た。

 

「昨日は茶髪のロングヘア―。今日は黒髪のロングストレート......。しかも美人ばかり......。こうも美人ばかりな病院ならぜひとも入院したいね。」

 

 そう冗談を言う指導員は笑った。

 

「身体壊すのはおすすめしませんよ。仕事が仕事ですからね。」

 

「全くだ。」

 

 そう軽く何かを話すと指導員は昨日と同じコースだからと言って俺に発車しろと言う。

俺はそれに従い、エンジンをかけて路上に出て行く教習車の列に混じった。

 路上を注意を払いながら走る自動車だが、慣れてくると気を抜きがちが。俺も今、少し気を抜いている。だが今は左折中だ。左折は減速して徐行速度まで落としてからクラッチペダルを踏み込み、惰力で進みながら歩行者を注意して発進しようとするがいきなりクラッチペダルを離してしまった。ガタガタと大きく車体を揺らしてエンジンが止まってしまう。俺は冷静にキーを回して発車するが、その際、バックミラーで後続車を確認した。そんな時、後ろで悶えている赤城が目に入る。

 

「痛ったぁ......。」

 

 そう言いながら赤城は頭を擦っていた。そんな赤城の姿に指導員が声を掛けた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「はい......。さっきの揺れでガラスに頭をっ......。」

 

 運転しながら耳で聞いているがどうやらエンストの時にガラスに頭をぶつけたみたいだ。

何というドジ。俺もだが赤城もだ。

 そんなアクシデントはあったものの、時間通りに自動車学校に帰ってきて俺は指導員から注意点などを指摘された後、教習車から降りて羽黒のもとへ行く途中、赤城は俺に言った。

 

「面白そうですね。運転。」

 

「あぁ。慣れると楽しいらしい。」

 

「そうなんですか。私も運転してみたいですね。」

 

 赤城は打ったところを擦りながらそう笑って言った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 もう西川は何も言わなかった。今日は足柄ともう1人は鈴谷が乗っている。しかもズラを被っていた。

 

「ふふーん。これならバレないっしょ!」

 

 そういう鈴谷に車内に居た鈴谷以外の全員が首を横に振った。

 

「何でー?!」

 

「だって結構辛いぞそれ。髪盛り過ぎだ。」

 

「仕方ないじゃん!」

 

 そういうが西川が俺のいう事を分かっているかのように自動車を発進させる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「今度も違う......。」

 

 指導員は鈴谷を見てそう言った。まぁ無理もないだろう。3日立て続けに入れ替わったのだ。

 

「昨日の人は?」

 

「今日は勤務です。」

 

「やっぱり?」

 

「はい。」

 

 指導員は分かっていた様にそう言う一方で鈴谷は楽しそうだ。

 

「さぁしゅっぱーつ!」

 

「運転中は静かにしててくださいよ?」

 

 指導員もたじたじだった。鈴谷のノリに着いていけないみたいだ。ちなみに俺も。

 昨日、エンストを起こした左折も成功し、今日は何の問題も無く終わった。結局、終始鈴谷は何かしら言っていたが俺と指導員は無視をして教習に集中していた。

指導員は仕事だし、俺は通っている訳だからそうなるのも無理はない。最後の方は鈴谷も黙ってしまっていたが、それが正しい。

 

「じゃあお疲れさま。」

 

「ありがとうございました。」

 

 そう言って教習車から降り、足柄のもとへ戻り、鎮守府に帰った。

そんな道中、鈴谷が話にある事を挟み込んできた。

 

「そう言えば昨日、赤城さんが頭を擦ってたけどなんかあったの?」

 

 俺はその鈴谷の質問を訊いて、思い出した。

赤城は俺のエンストでガラスに頭をぶつけているのだ。しかも何か音を立てたのなら良かったが、エンストの独特な揺れと音でその音はかき消され、気付いたときに頭を打っていた。つまり面白い要素が無い。

 

「あぁ......エンストした時にたまたま頭をぶつけたみたいでな。」

 

「成る程......エンストしたら頭ぶつのか。」

 

「ぶたないからな。」

 

 鈴谷がなんかエンスト=頭ぶつみたいなイメージをつけていたがすぐに話を違うものに変えた。それは今日の路上教習だ。今日は特別で高速教習と言って、高速道路での教習だった。

 

「なんか訊いてたのと違ったんだけど。」

 

「そりゃそうだ。」

 

 そう。高速教習はAT車でやるのだ。どうやら鈴谷はMT車を楽しみにしていたみたいだ。見ていて何が楽しいのだろうか。特に女の子ならなおさらだ。

 

「鈴谷もMT車を運転する提督が見たーい!!」

 

「騒ぐなっ!!」

 

 そんな風にしながら俺たちは鎮守府に帰っていった。

 





 遂に乗りたいと言い出した知っている組は交代で乗るようになりました。
ですけどやっぱり鈴谷は無理があるだろうな......。
 
 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百五十六話  身分証明書④

 今日で自動車学校に通うのも最期だった。卒業検定という路上での実際に走る検定を合格した俺は筆記も合格し、めでたく運転免許証を取得する事が出来たのだ。ちなみに通う事約2ヵ月かかった。

そして俺は今、自動車学校の技能教習で世話になった指導員に挨拶に来ていた。

 

「お世話になりました。」

 

「あぁ。」

 

 笑ってそう言ってくれる指導員は俺の肩をポンと叩く。

 

「軍人になっても頑張れよ。」

 

「はい。」

 

「あとひとつ訊いていいか?」

 

「どうぞ。」

 

「お前の後ろ、これまで路上教習で後部座席に来てた人たちが全員揃ってるけど、なんだ?」

 

 俺は後ろを振り返った。そこには足柄、羽黒、金剛、赤城、鈴谷がいる。足柄と羽黒はともかくとして何故他の艦娘が来ているかというと、特に意味はない。俺が今日、卒業検定を終わらせ、筆記をすると聞いて全員ついて来てしまったのだ。ちなみに外で待ってる西川は頭を抱えて『面倒な事にならなければいいですけど......』と言っていた。

 

「あはは......気にしないで下さい。いつもの2人でいいって言ったんですけど訊いてもらえなくって。」

 

「そうだったのか。それにしても俺はこんな事、初めてだったぞ。指導員を10年近くやってきたけど、身体弱くて面倒を看る人が教習車に乗り込むだなんて。それに指導員も指定だったしな。」

 

「そうなんですか。」

 

 指導員は俺がどれだけ変な教習生だったかを話し始める。自覚はあったので気にはしない。

 

「しかもストレートと来たものだ。最短でやったのに2ヵ月もかかったのはやっぱり体調崩したりしてたのか?」

 

 平日はなるべく行くようにしていたのだが、時々行けない日もあったのだ。特に金剛たちにバレるまでは。西川の待つところまでたどり着けなかったりもしたからだ。

 

「まぁ、そんなところです。」

 

「ここまでずっと面倒を見た教習生は初めてだったよ。良い思い出になった。特に路上の時に後部座席に座ってた人たちが何かしらのアクションをするのがな。黒髪の長いお姉さんが額を打って悶えていたのはまだ思い出しても笑えるよ。」

 

 そう言って懐かしそうに語るが2週間ほど前の話だ。

そんな指導員に俺は再び礼を言いかけた時、西川が走ってきた。これまで待っていた西川が来るだなんて何事か。

 

「......っと、少しいいですか?」

 

 そう西川は指導員に言うと俺を少し離れたところに連れ出した。

 

「何ですか?」

 

「深海棲艦です。哨戒任務中の艦載機が機影を捉え、提督に指示を貰おうと加賀さんが探し回って騒ぎになっている様です。」

 

「侵攻ですか。何故また......。」

 

「分かりません。」

 

 俺は携帯電話を取り出すが西川に携帯電話を押さえられてしまった。

 

「軍事行動を一般電話回線で指示なんて出せません。軍用無線を持って来てますのでこちらで警備棟を経由し、指示を出します。」

 

「分かりました。」

 

 そう言われ俺は西川から軍用無線を受け取り、周波数を合わせてあるという事だったので耳にあてた。

そうすると声が聞こえてくる。聞こえてくる声は武下だった。

 

『提督。ここに長門さんが来てますので口頭で指示を伝えます。』

 

 武下は落ち着いた声色でそう言った。

 

「侵攻艦隊の出現位置と艦種、数、侵攻方向をお願いします。」

 

『発見されたのは八丈島南南東120km。艦種。空母2、戦艦1、重巡1、駆逐2。侵攻方向は八丈島に向けて侵攻中、目標は横須賀鎮守府だと思われます。』

 

 俺は西川が地図を持っていたので開き、許可をもらってボールペンで印をつけていく。

 

「迎撃戦闘用意。大本営に緊急連絡を入れて下さい。迎撃艦隊編成を伝えます。」

 

『はい。』

 

「迎撃艦隊旗艦:長門、陸奥、北上、大井、加賀、瑞鶴。」

 

『復唱。迎撃艦隊旗艦:長門、陸奥、北上、大井、加賀、瑞鶴。』

 

 武下の背後で長門の声で『聴いたかっ!出撃準備を整え、埠頭に集合っ!』と聞こえた。どうやらほぼ全員の艦娘が集まっているみたいだ。

 

「支援艦隊旗艦:霧島、比叡、榛名、蒼龍、飛龍、鳳翔。」

 

『復唱。支援艦隊旗艦:霧島、比叡、榛名、蒼龍、飛龍、鳳翔。』

 

 また武下の背後で霧島が『呼ばれた艦娘が直ちに埠頭へ集合して下さい!』と叫んでいた。

 

「その場に長門と霧島はいますか?」 

 

『はい。』

 

「作戦を伝えますので長門と霧島に聞こえるようにしてください。その前に八丈島に到着するのにどれくらい時間が掛かりますか?」

 

『了解しました。哨戒機によると6時間ほどかかるみたいです。』

 

「あと三宅島と御蔵島に人は?」

 

『いません。変わります。』

 

 俺は地図を見て大雑把に侵攻方向の線を入れ、艦隊の移動を考える。俺にある作戦なんてものの数は少ない。

常套手段で行くほかなかったので俺は印をつけていく。

 

「長門と霧島聞こえるか?」

 

『『はい。』』

 

「作戦を伝える。」

 

 大雑把に書いた地図を広げて伝える。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「迎撃艦隊は出撃。直進しているなら御蔵島東側を通過する。そこで交戦だ。」

 

『了解。』

 

「支援艦隊は三宅島西側で待機、迎撃艦隊が交戦を始める前に支援砲撃。支援砲撃後は蒼龍、飛龍の航空隊で加勢。鳳翔は待機。」

 

『了解。』

 

「準備出来次第出撃してくれ。」

 

 俺はそう言って地図を畳んで無線を西川に渡した。そして振り返ると俺はある事を思い出した。

指導員と話している最中だったのだ。

 

「お前......。」

 

「あっ......いやーその、そういう遊びが流行ってましてね......。」

 

 俺は誤魔化すがここに居るメンツがダメだった。

 

「提督っ!今のってっ?!」

 

「どうなってるデスカー!?」

 

 そう。金剛と鈴谷がいて......。

 

「今すぐ鎮守府に戻りましょうっ!」

 

 赤城が居るのだから。

それを訊いた指導員は顔を真っ青に変えている。

 

「"提督"って、あのっ?!横須賀鎮守府の?!」

 

 もうここまで来てしまえばバレてるようなものだった。俺は急いで指導員に声をかける。

 

「すみませんでした。騙してて......。ですが深海棲艦の目標は横須賀鎮守府ですから今すぐシェルターに避難して下さい。」

 

 そう言って俺は走り出した。西川の運転する自動車に飛び乗り、布を縫う針の様に道を通り抜け、鎮守府に入った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は地下司令部に来ていた。正面の画面に映る情報を見て、妖精たちが状況を知らせてくれる。今はまだ距離があるため、そこまで声は飛び交わないが、ちょこちょこ情報が入ってきていた。

 

「提督。大本営から避難命令が出され、シェルターへの民間人の収容が始まりました。」

 

「時間はある。確実に迅速に。」

 

「了解。」

 

 俺は鎮守府周辺に点在するシェルターの状況の出されているところを確認した。

横須賀鎮守府周辺にはシェルターが10箇所点在しているが、そのうちの7つは鎮守府が勝手に作ったものだ。横須賀に住んでいる民間人全員が収容できる容量はある。それに備蓄食料やらなんやらも一応用意してある。そんなところの入り口の映像が流れる。

その1つのシェルターの入り口に目をやった。それは俺が通っていた自動車学校の近くにあるシェルターだ。ここのシェルターは大本営からの避難命令が出る前から人が集まっていた。俺の専属指導員をしてくれていた指導員が上手く状況を周りに広めれたお蔭だろう。収容はどこよりも早く進んでいて、もう終わりかけていた。

 

「支援艦隊が出撃します。」

 

 俺は目線を切り替え、埠頭の映像を見た。埠頭から霧島を先頭に支援艦隊が離れていった。

そしてその後を追うかのように数分後、迎撃艦隊が出て行く。

これからは何事も無ければ通信も無いので俺は一息ついた。そんな時、赤城が俺に声を掛ける。

 

「提督。」

 

「何だ?」

 

「今回の侵攻。『イレギュラー』ですよね?」

 

「間違いないだろう。」

 

 前回の空襲も俺が富嶽による新戦術のせいだという事は明確になっていた。それは本来ならばシステムにない行動だったので、そう言う現象が起きたと俺たちは考えている。そう考えると今回の侵攻は何かイレギュラーがあったとみて間違いは無かった。

だがイレギュラーだと分かっていても原因が掴めずにいた。これまで俺たちは実質、休みで出撃を殆どしていない状況だった。レベリングはしていたがそれはシステム範囲内での事。ならば何があったと考えるべきか。

 

「大本営の鎮守府......。」

 

 あり得るとしたらそこだけだ。横須賀鎮守府がやらなければここしかやるところが無い。

俺は電話を手繰り寄せ、大本営に電話をかけた。

 

『提督か。』

 

「はい。急ですみませんが、大本営の今レベリング中の鎮守府で何か目新しい事、ありませんでしたか?」

 

 そう訊くと新瑞はすぐに答えてくれた。

 

『小型艦でも大型艦に太刀打ちできるようにと、新型砲弾が開発されたみたいだな。』

 

「そうですか、ありがとうございます。」

 

『何か深海棲艦の侵攻以外にあったのか?』

 

 そう訊いてくる新瑞に一言だけ俺は言った。

 

「その新型砲弾の使用を禁止して下さい。イレギュラーです。」

 

『......分かった。』

 

「では、失礼します。」

 

 俺は受話器を置くとモニタを睨む。

今回の侵攻は以前のよりも軽いものだと信じたかった。だが引っかかる事がある。

以前の侵攻は俺が投入した新兵器や空襲などをそのままそっくり返されたのだ。なら今度のは新型砲弾で攻撃されるという事だろう。脳裏に嫌な予感が過る。

 




 
 今回は初の試み、前からやって見たかった挿絵をいれてみました。と言っても地図を加工しただけですけど。
これでより明確に伝わると思います。たぶん。

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特別編  White Day

 

 俺は夕食が終わると早めに秘書艦を帰し、そそくさと俺は外に来ていた。

理由はひとつしかない。明日、バレンタインデーのお返しを用意する為の買い物に出かけるのだ。と言ってもものを取りに行くだけ。それも酒保にだ。

事前に俺は酒保の食品関連の責任者に別枠で注文しておいたのだ。それに箱や包装も酒保ではあるが別の部門で頼んできてある。それを今から受け取り、私室に運び込むのだ。

 当初は外で買ってくる事も考えていたが、門兵のお世話になる上、そんなに注文するのも嫌だったのだ。

携帯電話で有名洋菓子屋のGO○IV○や、RO○YCE`などのリサーチをしていたんだが、やはり店に出向き、俺が注文する事でバレンタインデーのお返しだという事は察してはくれるだろうが、そんな100に近い数を注文すれば引かれる。というか売って貰えないだろう。

だからこの手を使うのだ。

 用意して貰ったのはアーモンドパウダーに粉砂糖、細かい粒のグラニュー糖、薄力粉、バター。昨日の夜にもものを取りに行き、準備をしていた。

 

「頑張ってくださいね。」

 

「はい。」

 

 俺は遠い目をしながら受け渡してくれた従業員の人に礼を言ってそそくさと執務室に帰った。

 執務室に帰ると俺は冷凍庫からあるものを取り出す。凍った卵白だ。それに冷蔵庫にはボウルに何個にも分けられた卵黄も入っている。

これから何を作るのかというと、マカロンだ。正直、スコーンでもいいかと考えてはいたが、最近どこかで作って出した記憶があったので避けた。

俺は手をよく洗い、気合を入れる。

 

「うっしっ!!やるかっ!!!」

 

 時計をチラッと確認すると9時過ぎ。何時間かかるか分からないが俺はマカロンを作り始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は私室に積み上げられたラッピングされた箱の中で起きた。

まだ眠いがもう秘書艦が来るので着替えなければならない。だがよく見ると俺は昨日と同じ格好をしているどころかエプロンをしたまま寝ていた。

 どうやらラッピングが終わったのと同時に寝てしまった様だ。

 

(やっちまった......。)

 

そう思い、洗面所に行って歯を磨くなど短時間でできる事は全て終わらせて執務室に行く。

 

「おはようございます。」

 

 そう言って俺が執務室に入って座っていると赤城が入ってきた。今日の秘書艦は赤城だった。

 

「おはよう。さて、食堂に行くか。」

 

 そう言って俺は立ち上がり、赤城を連れて食堂に向かった。

 食堂ではいつもと変わらぬ雰囲気が流れている。皆、ワイワイと話をしながら食事を摂っている。最近というかここ2ヵ月くらいは出撃もレベリングのみで遠征も滅多に行かないので遠征組もかなり羽根を伸ばしていた。

 

「今日も皆元気そうだな。」

 

「そうですね。」

 

 赤城とカウンターで注文を済ませ、席で待っていると俺の右隣に加賀が座ってきた。赤城は姉妹艦はいないが、一航戦として加賀とは特別仲が良い。寮も相部屋なのだ。だからだろう。赤城は加賀が反対側に座っても何も言わなかった。

 

「おはようございます、提督。」

 

「おはよう。」

 

 そう言って俺は何の気なしに箸を伸ばしていると正面の席もすぐに埋まった。今度は瑞鶴と蒼龍、飛龍だ。

 

「おはよう、提督さんっ!」

 

「提督。おはようございますー。」

 

「提督、おはようございまーす。」

 

 気の抜けた挨拶をして3人は正面に座るが、ぼーっとしながら食べている俺に瑞鶴が話しかけてきた。

 

「ねぇ、提督さん。」

 

「ん?」

 

「今日、何の日か知ってる?」

 

 そう言う瑞鶴に俺は遠くから聞こえてくるテレビの音を聞いていた。丁度、ニュースがやっていてそこでニュースキャスターが『今日はホワイトデーですね。視聴者の男性は皆さん、お返しを用意してますか?奥さんや会社の女性社員の喜びそうなものを用意していきましょうね!』と言っていた。

それは聞こえているが俺はあえて言う。

 

「子日。」

 

「違うしっ!?」

 

 そう俺が言ったのを聞いてリアクションをしてくれる瑞鶴の横で蒼龍と飛龍は笑った。

それを瑞鶴は恥ずかしく思ったのか少しむくれるので俺は正しい答えを言う。

 

「ホワイトデーだろ?」

 

「そうっ!提督さん、覚えてた?」

 

 瑞鶴は本当に弄り甲斐がある。

 

「うーん......。」

 

 俺はそう言って目を逸らす。と瑞鶴は『ホント?』と言ってくるので、俺は食べ終わった食器の乗ったトレーを持って立ち上がると『楽しみにしててくれ』とだけ言って執務室に帰った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は執務室に帰るなり、私室に入ってひとつ箱を持って出てくる。執務室には赤城しかいない。この箱は赤城へのお返しだ。

 

「はい、赤城。お返しだ。」

 

「これを、私に?......ありがとうございますっ!」

 

 ちなみに1つの箱にマカロンは5つ入っている。となると単純計算で500個作った事になる。昨日の夜中4時までかかったからそうだろう。

 

「あぁ。本当なら貰ったモノよりも2、3倍のお返しをするのが良いんだがな。店で断られるのが目に見えていたから作る事にしたんだ。」

 

「そうなんですか。」

 

 そう言って赤城は秘書艦の机にその箱を置くと俺の部屋を見せてくれと突然言い出した。理由を聴くと、『私室から持ってきたという事は他にもたくさんあるんですよね?』と言った。単純に山積みのお菓子が見たいだけなのかもしれないが、俺は私室を見せた。

 赤城の想像通りだろうが、勿論、箱で山積みになっていて凄い事になっている。

 

「ほー!やっぱりこうなってましたか。」

 

「勿論だ。」

 

 そう言うと赤城はもういいですと言って秘書艦の席に座ると俺の方を見て言った。

 

「それにしても皆同じなんですね。」

 

「どういう意味だ?」

 

「何でもないです。」

 

 少し眉を吊り上げて言うので不機嫌になってしまったのは分かるが、どうして怒ったのだろうか。

 

「それぞれ大小あったら不平等だろう?当たり前だ。」

 

 俺はそう言うがイマイチな様だ。それを置いておいて、執務を始めようとした時、執務室の扉が開けられた。

 

「提督さんっ!」

 

「「提督ぅー!」」

 

 入ってきたのは瑞鶴に金剛、鈴谷だった。

そして秘書艦席に座る赤城の手元を見ると3人揃って俺の方に詰め寄ってくる。

 

「やっぱりっ!!私にはっ?!」

 

「私も欲しいデースっ!!」

 

「鈴谷も―!!」

 

 そう言ってくるが俺は1筆入れてしまった物を書きながら応える。

 

「少し待って。今執務中だ。」

 

 と言いつつ書き終わると俺は立ち上がり、私室に入って箱を3つ持って出てくる。

そしてその箱を3人に渡した。

 

「ほい、お返しだ。」

 

 渡して俺は席に着くが3人とも赤城と同じ反応をした。どういうことなのだろうかと考えるが俺は赤城に指示を出す。

 

「赤城、任務だ。」

 

「はい。」

 

「開発を最低値で4回。建造を空母レシピで1回だ。高速建造材も使え。」

 

「了解しました。」

 

 赤城と同じ反応をした3人を尻目に赤城は足早に執務室を出て行くが、3人は何気に嬉しそうにしていた。

そんな3人の中の金剛はラッピングされた箱の匂いを嗅ぐと中身を答える。

 

「焼き菓子デスネー。何でしょうカ......ふむ......スンスン......。」

 

 そんな金剛の真似をして瑞鶴と鈴谷も匂いを嗅ぎ始める。

 

「スンスン......分かんない。」

 

「スンスン......鈴谷も。」

 

 そう答える2人を無視して金剛は首を傾げていた。まだ考えている様だ。

そんな金剛に俺は声を掛ける。

 

「この後戻ったら他の艦娘全員に執務室に来るように言っておいてくれ。」

 

「分かったネー。」

 

 それを訊いていた鈴谷は『私も声かけておくよー。提督がお返しを用意してるって。ニシシッ。』といって箱を持って執務室から出て行ってしまった。

 金剛は考えるのを辞めたみたいで俺にこの場で開けていいか聞いてきた。俺は勿論と答えるが、瑞鶴は『答えは言わないでね』と言た。金剛もそれを気遣ってか、少し離れたところに行くとラッピングを外して箱の中を見た。

 

「オーウ......そう来ましたカ。」

 

 そう言った金剛は箱の蓋を閉めると戻ってきて俺に言った。

 

「難しくなかったデスカ?」

 

「何が?」

 

「これデスヨ。私も何度か挑戦してるのデスガ、上手く焼けないんデース。」

 

「別に?」

 

 そう言うと金剛は『提督にやっぱり勝てないデース。』とか言って執務室から出て行ってしまった。どうやら皆に声をかけに向かった様だ。そんな中、瑞鶴だけは執務室に残っていた。

 

「どうしたんだ、瑞鶴?」

 

「ううん。ちょっとね。」

 

 そう言うと瑞鶴はソファーのところにある机に箱を置くとこっちに来た。

 

「あのね、提督さん。私思ったんだけど......」

 

 瑞鶴が言いかけた瞬間、執務室の扉が開かれた。鈴谷や金剛から聞きつけた艦娘かと思ったが違う。赤城だ。珍しく慌てている。どうしたのかと尋ねると赤城の背中から1人の見慣れぬ艦娘が現れた。

 

「あの、赤城さん?工廠を出るなり急いでここに......。」

 

 そう言ってひょっこりと出てきた艦娘は俺の顔を見るなり、ぽかーんとしてしまった。それに対して瑞鶴はというと......

 

「えっ......翔鶴姉?......本当に、翔鶴姉?」

 

 その艦娘に歩み寄って行き、抱き着いた。

その脇で赤城は俺に報告した。

 

「翔鶴さんが進水です。やりました。」

 

 俺も頭が追い付いていない。瑞鶴の願いを聞いてから4ヵ月くらい経っている。それまで一時期やってなかった事もあったがそれまではずっと空母レシピで建造をしていた。それが4ヵ月続いた今日、遂に出てくれたのだ。

 

「よしっ!!よくやった赤城っ!!」

 

「はいっ!!」

 

 そう一言赤城に声を掛けて俺は翔鶴に抱き着く瑞鶴の頭を撫でながらオロオロする翔鶴に話しかけた。

 

「いきなりで驚き、更にまた驚いただろうが自己紹介だ。俺はここの提督だ。よろしくな、翔鶴。」

 

「えっ、提督って......本当ですか?鎮守府には提督が居ないって......。」

 

 翔鶴はテンプレの反応をしてくれた。

それには瑞鶴が答える。

 

「違うよ翔鶴姉っ!ここは提督がちゃんといる鎮守府なのっ!に提督さんがいる鎮守府に着任できたんだよっ!不幸なんかじゃないからねっ!!」

 

「うん、そうね瑞鶴。提督、これからよろしくお願いします。」

 

「あぁ。」

 

 そんなこんなでこんな日に翔鶴の建造に成功してしまった。

俺がそう言って離れると瑞鶴はその場で色々な話をする。この鎮守府の事を話し、俺の事を話す。そんな瑞鶴に赤城は加勢した。

 

「私は赤城です。さっきも自己紹介しましたが、改めてよろしくお願いします。」

 

「はい。こちらこそ宜しくお願いします。」

 

「それでですね、恒例のアレを......。」

 

 そう言って赤城は懐からある紙を出した。

 

「翔鶴さんは瑞鶴さんの願いを聞くという約束で提督が建造をし続けた結果、今日、進水する事が出来ました。」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。ですが......。」

 

 そう言って俺がチラッとみたらいたずらっ子みたいに笑う赤城が見えたので嫌な予感がした刹那、翔鶴の顔が青ざめていく。

 

「各資材、60000程吹き飛びました。それにここ5ヵ月間、違う建造は入っていたモノの殆どは空母レシピで建造していました。」

 

 そんな赤城に俺はチョップをかます。

 

「あたっ!?」

 

「珍しく連れて来たかと思えば何言ってるんだっ!!翔鶴、今言った事は忘れてくれ。」

 

「はい......。」

 

「ったく......いつの間にこんなものを用意したんだ。」

 

 そう言って俺は赤城の手からその紙を奪うと折って懐に仕舞い、思い出したかのように私室に戻った。

そして俺は持ってきたものを翔鶴に渡す。

 

「これは?」

 

「本来はあるイベントのお返しとして用意していたものだ。全艦娘に渡しているものだから、翔鶴だけ貰ってないと不公平だ。それでそれを渡す。」

 

「そうなんですか?ありがとうございます。」

 

「あぁ。」

 

 そう俺が言うが翔鶴は首を傾げていた。

 

「どうした?」

 

「鎮守府というものは私たちが帰ってくる場所ですが、訊いていたのと違いますね。なんかもっとこう......質素で暗くて、鉄と油の臭いばかりで執務室は埃っぽいって。でも違いますね。執務室は暖かくていい匂いがして......。」

 

 そう言う翔鶴に瑞鶴は言った。

 

「ここも最初はそうだったらしいよ。だけど提督さんが着任してから変わったんだって!娯楽もいっぱいあるし、買い物ものびのび出来るし、門兵さんは優しいし、なにより提督は私たちを兵器や深海棲艦と同じだって思ってないの!」

 

「そうなの?」

 

「そうですよ。提督のお蔭で私たちは見違える程、良い暮らしをさせて貰ってます。それでも出撃とかはありますが、提督の裁量とかで大破なんてほとんどしませんし......。」

 

 今度は赤城が答えた。2人のいう事は本当だ。恥ずかしいが。

 

「そうなんですか......。楽しみです。」

 

 そう言った翔鶴から瑞鶴は離れ、翔鶴の手を取った。

 

「今から案内してあげる!いってきまーすっ!!」

 

 そう言って瑞鶴と翔鶴は執務室から出て行ってしまった。

 それを見送った俺は秘書艦席に座った赤城の方を見て一言。

 

「いたずらはほどほどに。」

 

「はいっ......。」

 

 いつになったらこの赤城の癖は直るのだろうかと頭を抱える俺であった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 翔鶴が瑞鶴と出て行ったのと同時に艦娘の執務室波状攻撃は始まった。俺からお返しを受け取らんばかりに列を作り、貰っていくと少し居座ってから出て行く。

執務なんてしてる暇がなかった。

皆、結構長い間居座ってから出て行くものだから、昼までかかり、気が遠くなる思いをした。結局全員終わったのが午後2時くらい。昼の後にも1時間ほどかかった。その後は俺は赤城と急いで執務を終わらせてから、酒保の従業員で俺にバレンタインの贈り物をしてくれた人にお返しをして、余ったマカロンは半分は酒保の従業員スペースに置いていき、もう半分は妖精にあげた。妖精もたいそう喜んでいたので、俺は満足して執務室に帰ると赤城に指示を出す。

 

「これから翔鶴の歓迎会の準備だ。たぶん間宮は案内で翔鶴が通ったのを見ているはずだから今日やるって言ってきてくれ。」

 

「分かりました!」

 

 夕方には翔鶴の歓迎会が始まり、かなり盛り上がった。遠征組は何故か涙を流し、赤城と瑞鶴を除いた正規空母は喜び舞い上がり、駆逐艦の質問責めに翔鶴は戸惑っていた。

今回もいつから恒例になったか分からないが、舞台があり、那珂たちが色々なイベントをしてくれた。

そして最後に無茶振りで加賀が舞台に立ち、一言。

 

『一航戦 加賀。歌います。』

 

 加賀が歌ったのだ。演歌風の曲で、歌詞からしてみると加賀の曲というのが分かる。皆手を振ってノリ、盛り上がりを見せた。

多分一番歓迎会で盛り上がったのだろう。大晦日みたいな規模の歓迎会になってしまったのだ。

 そんな中、金剛が俺のところに来て言った事がある。

 

『マカロンの作り方、見てくれますカ?』

 

 断る理由もないので俺は承諾したので、多分どっかの午後に金剛と作る事になる。

 





今日はホワイトデーという事で特別編です。序に翔鶴の建造報告も兼ねてますが......。
皆さんはホワイトデーのお返し、しましたか?自分は身内じゃない方は作中にありました店で買って、身内は手作りです。資金が尽きたんですよ......。
 それと翔鶴はやっと建造できました。本当に時間が掛かりましたよ。かれこれ5ヵ月やってました。これで通常建造で出る艦娘は一通り出たと思いますので、大型艦建造に手をだそうかなぁと思っている次第です。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百五十七話  新型砲弾

 

 

 地下司令部には切迫とした空気が流れていた。

先の侵攻艦隊の迎撃に備えた艦隊行動、作戦が進行中でその火蓋が切り落とされようとしている。支援艦隊は砲撃支援位置に到着し、何時でも砲撃できる状態になっている。そして迎撃艦隊も交戦予定海域の手前に来ていた。

 

「支援艦隊から入電。哨戒機が侵攻艦隊が三宅島に接近中。」

 

 通信妖精のその一言が入った。この時こそ、迎撃戦が始まる時だ。俺は指示を出していく。

 

「支援艦隊はそのまま哨戒機による弾着観測射撃体勢に移行。交戦予定海域に向け、飽和砲撃開始用意。」

 

「横須賀鎮守府より支援艦隊。支援艦隊はそのまま哨戒機による弾着観測射撃体勢に移行。交戦予定海域に向け、飽和砲撃開始用意。」

 

 通信妖精が復唱する。

 

「迎撃艦隊は第一次攻撃隊発艦開始。続いて支援艦隊より支援隊発艦開始。」

 

「横須賀鎮守府より迎撃艦隊。迎撃艦隊は第一次攻撃隊発艦開始。」

 

「横須賀鎮守府より支援艦隊。支援艦隊より支援隊発艦開始。」

 

 3人の通信妖精がそれぞれの艦隊に指示を出す。

 

「迎撃艦隊は飽和砲撃確認後に海域突入。以降は現場の判断に任せる。」

 

「了解しました。」

 

 ここでひとまず俺の仕事は終わった。

今の一連のモノは以前の空襲後から決めてきたことだ。もし鎮守府が襲われ、迎撃に出る場合は俺が指揮を執ると決めていたのだ。だが俺は艦娘の艤装に乗り込んでいる訳では無いので、大まかな指示しか出さない。それは最もだろう。一番良い判断が出来るのは現場だけだ。

 

「迎撃艦隊が交戦予定海域に突入。交戦を開始します。」

 

 通信妖精のその一言で俺たちは唾を飲み込んだ。

これは普段の戦闘ではない。艦隊が破れるようであれば侵攻を許してしまい、以前の空襲の様な被害が出てしまうかもしれないからだ。

もしそうなってしまえば、またもや再建の日々だ。時間は掛からなかったとはいえ、心労は大きいモノだったのだ。自治体の抗議やらが空襲を境に増えたからだ。

ここで何としても防ぎたいという気持ちが俺の中に唯一つだけあるのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 結果から言おう。支援艦隊の飽和砲撃によって侵攻艦隊の半数を中破させ。その後の航空戦にて制空権を奪った。その後は艦攻・艦爆隊による攻撃、砲雷撃戦の末、侵攻艦隊は交戦予定海域内で殲滅する事が出来た。

支援艦隊は飽和砲撃後には支援隊のみだったので一足先に鎮守府に帰ってきていたが、その後に帰ってきた迎撃艦隊の有様に俺や待っていた艦娘は目を丸くした。

艤装には小さいが穴が空き、それは無数にあるのだ。そして迎撃艦隊旗艦として出ていた長門によると、侵攻艦隊の兵装は小型艦に限り、異様な貫通力を有していて艦橋に着弾したモノは内部で残端が四散し、機器に被害を出していた。そして側面に着弾したモノは当たり所が悪ければ装甲板を貫き、浸水してしまったという事だった。それに高角砲、対空機銃などの小口非装甲銃座や軽装甲部への着弾では銃身や砲身が吹き飛んだり、弾薬が吹き飛んだりしたとの事だった。こういった小さな被害が重なり、迎撃艦隊は全員が小破以上を被ってしまっていた。装甲の薄い北上や大井を庇っていた長門や瑞鶴に至っては大破に近い中破だった。

 そういった報告を聞いた俺は迎撃艦隊として出ていた艦娘の艤装を見に来ていた。その際、武下も同行した。どうやら地下司令部から出た後は誘導やなんかは全て部下がやってしまう為、暇だった様だ。それに俺の近くに居ればすぐに情報が入ってくるからという理由も付け加えていた。

 

「これが艦橋に被弾した砲弾の痕だ。」

 

 一緒に見に来ていた長門がそう自分の艤装で説明をしてくれる。今は空母が優先という事で加賀と瑞鶴の艤装が入渠中なので待機してなければならないからだ。

俺は長門に指された砲撃痕をなぞる。それは砲撃にしては小さいもので、ピンポン玉やテニスボールくらいの大きさの穴がポッカリと綺麗に空いているのだ。

 

「小型艦による砲撃だったな。」

 

「そうだ。これによって一部機器が使用不能になったのだ。これによって私の損傷具合も的確に把握できなかったところがある。」

 

 長門は報告の中に『戦闘終了まで自分が大破よりの中破をしている事に気付かなかった。』としていた。その理由がこれだというのだ。 

 俺がその痕をまじまじと見ていると横で武下がぼそぼそと何かを言い始めた。

 

「侵攻艦隊の編成に駆逐艦がありましたね......。それの砲撃で間違いないでしょう。深海棲艦の駆逐艦の主兵装は5inch単装砲か連装砲。5inchという事は約127mm......。」

 

「どうしたんです?」

 

 俺がそう武下に訊くとある言葉が出てきた。

 

「硬芯徹甲弾......。若しくは装弾筒付翼安定徹甲弾。」

 

「何ですか、それ?」

 

「APCR、APFSDS弾って言えば分かりますか?貫通力を求めた砲弾ですよ。」

 

「成る程......。」

 

 俺は納得した。確かにその砲弾だったとしたら、こうなってしまうのも頷けるのだ。

装甲に穴を開けるための砲弾だ。それなら穴が空いてしまう。

 

「では銃座や軽装後部へのやつはそう考えると......」

 

「HEAT。この場合は戦車じゃないのでHEASになりますね。」

 

 HEAT。High-Explosive Anti-Tankの略。和名成形炸薬弾。別名対戦車榴弾と言われているものだ。

 

「大本営の鎮守府がこれを使ったという事ですね。」

 

「そうみたいですね。ですけどもう大本営から使用停止が掛かっています。」

 

 そう言うと俺と武下は額から湧き出る嫌な汗を拭った。

だが、それがどういう意味なのか分かっていない長門に俺は説明する。

 

「艦娘が使う九一式徹甲弾、零式通常弾、一式徹甲弾、三式弾の様な砲弾の他にも色々な砲弾があるんだ。」

 

「それ以外にもあるのか。」

 

「硬芯徹甲弾というのは徹甲弾内部に硬い芯が入っていて、着弾するとその硬い芯も着弾部に押し出される。だがそれは周りを覆っていたものよりも遥かに硬いので撃ちだしたエネルギー、着弾したエネルギーを受けて着弾した装甲板にダメージを与え、向こう側に衝撃や破片を飛び散らかすんだ。装弾筒付翼安定徹甲弾というのはさっき言った硬芯徹甲弾の硬い芯が撃ちだした砲門から周りに芯以外のモノを落として、芯単体が飛行機の様な小さい翼で体勢を安定させながら飛ぶ砲弾だ。こっちは硬芯徹甲弾みたいな被害を出す。」

 

 俺は適当に説明をしていく。

 

「成形炸薬弾というのは構造は分からないが一言で言えば『装甲板を一瞬、液体に変える砲弾』だ。」

 

「装甲板を液体にっ?!」

 

「あぁ。金属はただならぬ圧力を与えられるとどれだけ硬かろうが圧力のかかった部分はドロドロになるんだ。」

 

「そんなものがっ!?」

 

 長門は驚きを隠せない様だ。俺も最初訊いたとき、目と耳を疑ったからだ。確かに着弾したところは他の砲弾が当たった様子よりもおかしかったし、威力があるというのも一目瞭然だった。

 

「成形炸薬弾は着弾すると着弾したある一部にただならぬ圧力をかけ、金属を溶かしてそれを飛び散らかす。つまり中では金属片が四散。分かりやすい表現で言えば成形炸薬弾が当たった場所は精肉機みたいになるって事だ。」

 

「そんな恐ろしいものをっ......!!」

 

「あぁ。だから艦橋に当たらなくて本当に良かった。」

 

 俺はそう言ってどんな砲弾が使われていたのか分かったので長門の艤装から降りた。

もうすぐ加賀の艤装の入渠が終わり、長門に交代するからだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 全艦の収容が終わり、報告、点呼が終わると俺は大本営に連絡を取った。

侵攻艦隊の迎撃と、新型砲弾について。やはり硬芯徹甲弾と装弾筒付翼安定徹甲弾、成形炸薬弾で間違いなかった。どうやら、大本営の鎮守府は戦車砲弾としてあったモノを見てからインスピレーションが働き、勢いで作った様だった。だから砲弾自体は大型せずに現行戦車の滑腔砲用からライフリングの掘られたライフル砲用に作り替えたみたいだった。

 

『とんでもないものを作ったよ。こっちの鎮守府は。まさかそんなものを作るとはね......。』

 

「全くです。こっちでも砲弾着弾場所と被害から砲弾の特定をしましたが、砲弾の特性や性能を訊いた迎撃艦隊の艦娘は全員顔を青くしてましたからね。」

 

『悪い事をしたな。あっちにはイレギュラーについて伝えてあったところが少なかったんだ。今回の事で厳重注意をしたので心配はない。』

 

「了解しました。では。」

 

 俺は受話器を置き、立ち上がると執務室を出て行く。

行先は地下司令部にシェルターの解放を伝えるのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 シェルターの解放が済み、状況説明の為に武下は近隣住民数人に話をしていた。と言っても俺は監視塔から見てるのだが。

 

「......という事で、今回の侵攻は口減らしみたいなものです。」

 

 説明にはイレギュラーの話をする訳にはいかなかったので、偵察情報や色々な偽情報を交えて深海棲艦の何等かによる泊地圧迫の為にワザと侵攻させたという事にした。

偵察に艦娘が出て行くことも知っているというか、鎮守府の敷地外からなら湾を航行する艤装を見る事が出来るからだ。

 

「そういうことだったんですね。」

 

「早期発見と迅速な対応、感謝が絶えませんよ。」

 

 この辺の町内会の人たちはそう武下に言っている。

 

「いえいえとんでもないです。大本営から詳細は発表されますが、混乱を考えてのこちらからの情報提供ですので回覧板や掲示板、連絡網などで頼みますよ。」

 

「分かってます。......あと、提督にお会いしたいって言ってる人がいるんですけど......。」

 

 町内会の人がそう言うと、俺も良く知る人物が出てきた。

 

「貴方は?」

 

「私は自動車学校で指導員をしている者です。」

 

 そう言うと武下は何かを察したのか少し待っていて下さいと言うと、監視塔に上がってきた。

 

「提督。いかがしますか?」

 

「そうですね......。と言うか武下さん、俺が自動車学校に通ってる事、知ってたんですか?」

 

「勿論ですよ。でなければ自動車も出しませんし、西川の配置に細工をしたりしませんよ。」

 

 そう武下は笑いながら言う。やっぱり武下には警備部の長として大本営からある程度の話は聞かされているんだなと実感した。

 

「分かりました。俺も爆弾投下して帰ってきたので話をしてきますよ。」

 

「そうですか。では門兵を付けますね。」

 

 そう言われ俺は返事をせずに監視塔から降りていく。

監視塔から出て、俺は近くの門兵に軽く身体検査をしたら入って貰うように伝え、待つ事5分。指導員はこっちに来た。

 

「先ほどぶりです。提督。」

 

 そう切り出した指導員に俺は違和感を覚える。指導員はずっとタメ口だったのだ。そんな事勿論だが、俺は別に気にしていない。寧ろそれが正しいのではないかと思う程だった。

 

「よしてください。今まで通りで大丈夫ですよ。」

 

「そうですか......。」

 

 俺は監視塔の横のベンチに腰を掛けて貰い、俺もそこの横に座った。

 

「それで、どうしたんですか?」

 

「そのだな......驚きが大きくて確認に来たんだ。やっぱり提督だったんだな。」

 

「そうですよ。最初は1人で来てましたけど、途中から連れて来てましたからバレてるかとヒヤヒヤしてましたよ。」

 

「じゃあやっぱりあの娘たちは、艦娘だったんだ。」

 

「その通りです。」

 

 そう言うと指導員は少し考えると口を開いた。

 

「ちなみに誰だったんだ?」

 

「長いこと居たウェーブのは足柄、黒髪ボブは羽黒。入れ替わりで最初に来たのは金剛で、その後が赤城、そして鈴谷ですね。」

 

「有名な艦娘ばかりだったんだな。だけど全然気づかなかったぞ?金剛なんてカタコトの日本語と特徴的な髪型で町中に居てもすぐ分かると思っていたんだが。」

 

「それはカタコトを無理やり直させて髪型も崩して来てましたからね。」

 

「そう言う事だったのか......。」

 

 俺は遠くを眺める。そうすると俺を探している様子の艦娘が通りかかる。金剛だ。

 

「オゥ、提督発見ネー。って指導員さんデスカ?」

 

 書類を抱えた何時もの金剛が現れた。様子を見る限り、警戒はしていない様子。

 

「さっきぶり、看護師さん。」

 

「そう言えばそんな設定になってたネー。さっき振りデース。」

 

 金剛は呑気にそう言って書類を持ったまま俺の横に来た。

 

「......そろそろ帰るよ。」

 

 そう言って指導員は立ち上がった。

 

「じゃあ、元気で。」

 

 そう言って立ち去ろうとする指導員に俺は声をかける。

 

「指導員さんもお元気で。ビシビシ他の教習生を指導してあげて下さい。」

 

「勿論だ。それに俺には"横須賀鎮守府の提督を指導した"っていう誇りが出来たからな。」

 

「そうですか。」

 

 指導員はそう言って帰っていった。

そんな後姿を俺と金剛は見送った。

 

 




 
 続きです。昨日はホワイトデーネタを挟んだので、本編ですよ。
新型砲弾に関しては作者の独断と偏見で選ばせていただきました。
 ひとつお伝えしなければならない事があります。まだはっちゃんいますね。すみません。
 それと今どれだけの艦娘がいるのか分からないという報告がありましたのでそのうち、お知らせしようと思います。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百五十八話  新たな提督の情報と雷撃機

 

 俺はいつも通り朝起きて、執務室に居ると秘書艦が入ってきた。

 

「Guten Morgen! アトミラール。」

 

 入ってきたのは番犬艦隊くらいでしか見かけない艦娘(※そんなことないです)、フェルトだ。

 

「おはよう。という事で、早速食堂に行くから。」

 

「分かった。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は朝食を食べながら考えていたことがあった。先日の深海棲艦の侵攻の時の原因となった新型砲弾についてだ。俺は砲弾と言われてHEATの他にも、ある砲弾の特徴を思い出していた。

そんな事を考えているとフェルトが俺に話しかけてくる。

 

「アトミラール。何か考え事か?」

 

「あぁ。」

 

 俺はそう答えてフェルトに振る話でもないのだが、話した。

 

「先日の深海棲艦の侵攻で原因が特殊砲弾の使用だっただろう?」

 

「そうだな。何だったか。確か......硬芯徹甲弾に装弾筒付翼安定徹甲弾......HEATと言っていたな。2つ目は知らなかったが、他は知っていたぞ。とても恐ろしいものだ。」

 

 険しい表情でフェルトは答える。

 

「確かに恐ろしい。だがその事を考えていると俺は心底、使われてなくて良かったと思うものがあるんだ。」

 

「何だ?」

 

 フェルトは聞いてくれるみたいなので俺は続ける。

 

「フレシェット弾と言う砲弾だ。」

 

「フレシェット......小さい矢か?と言うと、装弾筒付翼安定徹甲弾の一種か?」

 

「そうなる。だが、フレシェット弾は炸裂すると無数の小さい矢を放つ散弾型と呼ばれる砲弾だ。」

 

「成る程......。では装弾筒付翼安定徹甲弾の貫通する弾頭の複数版か。それは恐ろしいな......。」

 

 普通に考えればそう言うのも妥当だ。だが違う。

 

「いや、対物目標に使うモノじゃない。さっき散弾って言っただろう?」

 

「ショットガン......つまり小さい矢が放射状にばら撒かられるという事か。」

 

「そうだ。だがそのフレシェット弾は、よく聞くのは時限式の120mm砲弾だ。用途は遠距離射撃によって撃ちだし、攻撃目標上空で炸裂させる。」

 

 そう言うとフェルトは顔をどんどんと青くしていった。元から色が白いいうのに、そこまで青くなるのと見ると心配になる。

 

「それはつまり......小さい矢が無数に降り注ぐという事か?」

 

「うむ。言うなれば鉄の雨だな。」

 

 俺はそう言って手を使って表現して見せた。

拳を作って砲弾だと言い、上空で弧を描かせる。そして攻撃目標を味噌汁のお椀だとたとえて『炸裂』といい、それを表現する。拳を開いてお椀を掴むように上からお椀に手を被せた。

そんな動作を見るフェルトは口を開いた。

 

「そんな距離から炸裂して降り注ぐのなら確かに散弾だな。そしてそれだけ離れているのなら装甲板を貫くためのモノではないな。となると......」

 

「対人兵器だ。さっき言っただろう?鉄の雨って。」

 

 そう言うとフェルトは俺の目を捉えて力強く言った。

 

「そんなものが降られたらその一帯は惨いことになるぞ?!」

 

「勿論だ。だから俺は本当に使われなくてよかったと言っているんだ。」

 

「......全くだ。もし使うような事があれば上部装甲板が薄い兵装は全て使えなくなる上に、空母の甲板も発着艦が出来なくなる......。」

 

「それだけではない。もし艦橋部がその放射状の範囲内に入っていたなら上の階層があまりなく、薄いブリッジも穴だらけだ。」

 

 俺はそう言いながら箸を進めるが、さっきから箸が全く進んでいないフェルトは俺を不思議そうに見た。

 

「モグモグ......ングック......どうした?」

 

「いやっ......アトミラール。よくあんな話した後でも食べれるんだな。私は想像してしまってから喉を通らないぞ......。」

 

 そう言うフェルトに俺は素直に謝る。自分基準で話をしていたからだ。

 

「それは......ごめん。結構大丈夫なんだよ......こういう話をしながら食べるのも。」

 

 そう言いながら俺は味噌汁を啜る。そんな俺を見てフェルトもあまり残っていなかったので、それを一気に掻き込んだ。

 

「モグモグモグモグ......ンッ......どうして大丈夫なんだ?」

 

 そうフェルトに訊かれて俺は辺りを見渡した。時間的にはもう皆、食べ終わっていてテレビの前に集まる者や、俺の話を訊きに来ていた艦娘を見て食事中の艦娘がいない事を確認すると答える。

 

「何ていうんだろう......。耐性みたいなものが付いたんだ。」

 

「耐性?一体なんの耐性だ?」

 

 そう訊くフェルトにそれを訊こうと耳を澄ませている艦娘に構わず俺は答える。

 

「例えばフェルトは外科手術を見たことはあるか?」

 

「あぁ。いつぞやの番犬艦隊の任務中に提督の私室のテレビで見たな。あれば凄かった。」

 

「何だっけ、脳腫瘍の摘出手術だったか?」

 

「うむ。」

 

「俺はその番組を見ながら食事ができる。」

 

 そう言うとフェルトや周りで耳を澄ませていた艦娘があからさまに驚いた。と言うか一部は引いていた。

 

「......あ......その......手術の映像を見ながらか?」

 

「そうだけど?」

 

「食欲がどう考えても失せるじゃないか......。患者さんや一生懸命治療にあたっている医者には悪いがとても見れたものじゃない......あの時は夕食後で、お腹も落ち着いていたから見れたが......。」

 

「まぁフェルトみたいに食べてから時間が経ってたり、モザイクなどで修正されてたら見れるって言う人が普通なんだ。」

 

「じゃあ何故アトミラールは?」

 

「母親が医療従事者でな医療番組とかが好きで、それに影響された姉も医療の道に進むと言ってそう言う番組を見るようになったんだ。俺もまぁ、いる訳だから食事中だろうが朝起きたばかりだろうがテレビでそれがやっていたら見ていたんだ。そうしたらこうなってしまったんだ。」

 

 そう言って俺はまたチラッとフェルトと辺りを見る。数人は今の説明で納得したのか、引いた表情から直っていたがまだ居る。なので俺は付け加えた。

 

「そう。俺に耐性が付いたのは母親と姉のせいだっ!!俺は悪くないっ!!」

 

 と言って俺はフェルトを連れて食堂を出て行った。

最後の俺の一言で最後まで引いていた艦娘も普通に納得した様だった。俺が異常な人に思われたみたいだったので最後の一言を言って良かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務を済ませると俺は例外に無く、炬燵に収まっていた。時期的にはもう片付けてもいい時期なのだが、俺はそんな事も気にせずに"まだ寒いから"という理由で炬燵を出したままにしていた。今日はフェルトが秘書艦なのだが、番犬艦隊ではないので炬燵に収まろうとしていた。

 

「炬燵は人をダメにするって言われてるって知ってるか?」

 

「勿論だ。というか番犬艦隊としてアトミラールの傍に居た時も炬燵に入っていた者は皆、ダラダラとしていたな。」

 

 そうフェルトは炬燵の前で手袋とケープを取っていた。

 

「フェルトは炬燵に入るのは初めてか?」

 

「勿論だ。」

 

「始めて入る時は覚悟をして置いた方がいいぞ?何故なら......」

 

 そう言いかけて俺がフェルトの方を向くと時既に遅し。フェルトは炬燵に入っていた。炬燵に入ったフェルトは畳んだケープを枕にしてその下に手を置き、頭を乗せていた。

 

「温かいなぁ......。」

 

「......。」

 

 これまでに見たことないくらいの柔らかな表情をしていたフェルトに俺は話しかける。

 

「そのまま寝るなよ?風邪引くから。」

 

「分かった。だが......人をダメにすると言われているのも納得が行くものだ。」

 

 そう言ってモゾモゾとフェルトは奥に入っていく。

そんなフェルトを引き戻すために俺はある話を持ち掛けた。勿論、フレシェット弾の話ではない。

 

「そう言えばフェルト。」

 

「何だ?」

 

「雷撃機は無いのか?」

 

 そう訊くとフェルトは答える。

俺が何故それを訊いたか。それはフェルト、グラーフ・ツェッペリンは改造しても雷撃機が出ないのだ。ただそれだけの理由。

 

「それはだな......一応はあるんだ。」

 

 そう答えたフェルトは俺にある名前を言った。

 

「Fi167という雷撃機は史実では搭載される予定だったんだ。」

 

「それは訊いた事無いな。」

 

「そうか......。」

 

 困った様子のフェルトは少し考えると違う言葉で言ってくれた。

 

「Ar196と前世代型水上機からフロートを取り外して航空魚雷投下用アームをつけただけのものだ。」

 

 そうフェルトに説明された俺はなんとなく分かった。鎮守府に移籍してきたビスマルク達が持ってきた水上偵察機にAr196改があったのだ。姿は覚えている。そして法則的に前世代という事はあまり見た目は変わっていない筈なのだ。容易に想像ができたのだが、それを一瞬にしてフェルトは打ち砕いた。

 

「だがFi167は複葉機だ。Ar196の前世代型はAr96と言われていてこれが元になっている。」

 

「そうなのか......。」

 

 俺は無理やり頭の中に出来上がっていたFi167の単葉機を複葉機に切り替えた。

 

「特徴は場合によって切り離しが可能な固定脚に好条件下なら短距離離着陸ができるらしいんだ。」

 

「そうなのか......。」

 

 短距離離着陸。それはオスプレイみたいな航空機の事を指しているんだろう。そんな代物が70年も昔にあったらしい。

 

「遠回りになったが、結果的には雷撃機は無い。そちらの純日本製の雷撃機を使うしかないのだ。」

 

「そうだったんだな。」

 

 そう言われて俺は納得した。といっても何をどう納得したかは自分でも判らない。

取りあえず、色々な理由があってフェルトにはドイツ製の雷撃機が無いという事だった。

 

 

 





 今日は少し少ないです。まぁ、そういう日もあってもいいですよね。
今日は昨日の特殊砲弾繋がりでフレシェット弾について書きました。そんな話をする提督の謎の耐性は医療従事者なら結構あるみたいです。
 そして雷撃機についてですが、これは少し間違った情報を交えてる可能性もあるので『ふーん』と思う程度に考えて下さい。

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第百五十九話  異動と荷運び

 俺は大本営から届いた書類に目を通していた。今日の執務はいつも通り。相変わらず大本営の鎮守府がレベリングをしているので出撃する事が出来ずにいた。そこそことレベリングしていたのも見つかり、本格的にやる事が遠征以外無くなったウチでは机上演習が流行っていた。

 それはともかくとして、俺はある書類に目をつけていた。

北海道に本隊を置いている艦娘以外で唯一戦っていると言われていた部隊、航空教導団が北方海域制圧の任が解かれ、異動するとの事。本隊も引っ越しだと書いてある。それは理解できた。だがそれ以降の文に問題がある。

 

(異動先は旧羽田空港か......旧って事は一回閉鎖されたんだな。)

 

 旧羽田空港。嘗て国際便が多く行き来していた巨大な空の港だ。そんなところに異動するとはどういうことなのだろうか。

詳しい文がその下に書かれていた。

 

『日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部への深海棲艦の侵攻への初期迎撃の際、戦列に加わる。』

 

 意訳すれば、ウチの艦娘が戦域に到達するよりも前にあらかじめ攻撃をするとの事だった。

無茶苦茶ではないが、かなり無理のある。確かに航空教導団は人類で唯一深海棲艦に抗う事が出来るが、そんな部隊をこっちに寄越すのはいい。だがその主任務を横須賀鎮守府防衛の任となると問題が起きるのではないかと俺は考えた。問題として挙げられるのは『その指揮権がどこに置かれるのか』、『主任務である鎮守府防衛の任以外にも接近する深海棲艦の迎撃にこれまで通りに出てくれるのか』という事だった。それに北海道は調べて分かったのだが、人は変わらずに住んでいるみたいだ。流石に海岸線60km範囲からは退去しているらしいが、それでもそれまで幾度となく接近してくる深海棲艦を迎撃していた部隊が離れるとなると現地民もどう思うだろうか。

 

(確実に抗議があるだろうな......。)

 

 それ以外考えられない。だが書類の続きにはそれについての記述があった。

 

『航空教導団が空けたところは別部隊が駐留することとなる。』

 

 それだけだ。どの部隊がどれだけ駐留するかなど書いていない。

 これは内部での情報共有だが、外への情報はどうなっているか分からない。だが確実にやると思われる事は空けた場所には航空部隊が入る事。それだけだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は今日、鎮守府警備棟にてある会談をしていた。

 

「お初にお目にかかります。航空教導団 団長 水谷(みなたに)です。あ、そちらの自己紹介は結構です。有名ですので。」

 

「そうですか。」

 

 旧羽田空港に異動してきた航空教導団の団長だ。

 

「こちらへの異動の目的と任を確認させていただきます。」

 

 水谷はそう言って確認を始めた。

 

「目的は海軍横須賀鎮守府艦隊司令部防衛の任を全うする事。その際、千歳から遠い事を理由に使われていない羽田空港を基地とする。任は先ほども申しましたが、海軍横須賀鎮守府艦隊司令部防衛で間違いないですね?」

 

「はい。間違いないです。」

 

 そう言うと水谷は副官に指示を出し、副官は説明を始めた。航空教導団についてだ。

 

「提督へ航空教導団の大まかな説明をすると言う指示が出ておりますので、させていただきます。航空教導団は千歳に基地を持っていた元仮想敵機部隊で今では対深海棲艦専門の迎撃部隊です。装備はF-15J改とF-2、整備用大型機械などです。航空教導団にはそれぞれF-15J改が48機に予備機が3機、F-2が36機に予備機が5機あります。」

 

 副官はそう言って説明をした。といってもこれだけだ。俺に教えてくれたのは世間的には知られているところばかりだった。配備数などは公開されていないらしいが。

 

「ありがとうございます。」

 

 礼を言って立ち上がると水谷は俺に座って欲しいと言った。

 

「まだあるんです。......折り入って頼みがあるのですが。」

 

 そう言った水谷は俺に頼んできた。

 

「そちらの航空隊を見せていただきたいんです。もし、初期迎撃の際にそちらの艦載機が航空戦をしていたのなら、現状の情報が無いままだと巻き添えをしてしまう可能性があるからです。それに航空教導団にはそちらの艦載機と深海棲艦の艦載機の見分けがつかない者も居ます。その者の為にも......。」

 

「いいでしょう。こちらが保有する艦載機を全て見せます。詳細や用途などは後日、纏めた書類を送らせていただきますよ。」

 

「ありがとうございます。これで大本営からの任が遂行できます。」

 

 そう言って水谷は笑った。

この後は特に話す事も無かったので、工廠で生産されて屋外に出されていた艦載機を見た後に水谷は旧羽田空港、現羽田基地に戻って行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は水谷が来たことで、執務を午後から始めていた。秘書艦も無理を言って午後からにして貰った。と言うのも、事情を理解してくれる艦娘だったからだ。

 

「お疲れ様です、提督。」

 

「あぁ。だけど執務が増えた。こっちが運用している艦載機の詳細などを纏めたものを作成しなければならなくなった。」

 

「例の羽田の人たちですか?鎮守府防衛の部隊だと提督は仰ってましたよね?」

 

 ペンを走らせながらそう訊いてくるのは秘書艦の榛名だ。

 

「そうだ。しかもこっちには何の話もせずに勝手に決められたみたいだな。まぁ、鎮守府内に基地を置くわけじゃないからいいが。」

 

「それもそうですね。」

 

 俺はそんな事を言いながら書類を進めていく。

そんな時、榛名がまた話かけてきた。

 

「そういえば艦娘寮に調理室がある事をご存知ですか?」

 

 不意にそんな話を振ってきた。たぶん手だけ動かしてても暇なんだろう。

 

「知ってるぞ。でも見たことない。」

 

「そうですよね......。艦娘寮の調理室、色々なモノが少ないんですよ。」

 

「と言うと?」

 

「コンロからシンク、オーブン、道具、ありとあらゆるモノが少ないんです。」

 

 そう榛名は言うが、何故今頃そんな事を言い出したのか。俺が積極的に鎮守府の設備改善をしている時にでも頼めば良かったんじゃないだろうか。

 

「どうしてそんな事が今更......。」

 

「提督が料理するからですよ?決め手はホワイトデーでしたけどね。」

 

「そうなのか。」

 

 その先は榛名は言わなかった。どうしてだろうか。

 

「だからですね、拡張して欲しいんです。」

 

「分かった。妖精にでも頼めばすぐにやってくれるだろう。」

 

「ありがとうございます!」

 

 俺が二の返事をすると榛名は嬉しそうに笑うと書類を今までの速度の何倍で書き終え、俺にある紙を渡してきた。それは妖精への命令書だ。使うのは大体設備修理、拡張の時だけ。殆ど使わないモノだ。多分、書いてほしいんだろう。

 

「......はい。工廠で頼めばいいからな。」

 

 と俺が行った瞬間、榛名は『行ってきますっ!』と言って走って工廠に行ってしまった。

相当拡張して欲しかったんだろうなと俺は内心思いつつ、書類をすぐに終わらせ、艦載機の詳細と用途についての書類作成を始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 榛名が妖精に提出したんだろう。榛名が出て行ってから6分後に外が騒がしくなった。どうやら艦娘寮の工事が始まったみたいだ。

それと同時に榛名が執務室に帰ってきた。

 

「ただいま戻りました。」

 

「おかえり。」

 

「はい。提出したらすぐに始めてくれました。3時間で終わるそうです。」

 

「早いな......。」

 

 俺はそう言って最後に書いていた書類を大きな封筒に入れて封をすると榛名に言う。

 

「書類も終わった。艦載機の詳細についてもだ。事務棟に出してくれ。」

 

「分かりました。ですけど帰りは遅れるかもしれません。」

 

「構わないが、酒保か?」

 

「そうです。私室に机が欲しくて......。」

 

 そう言われて俺は訊いた。

 

「それって地べたに置くものか?」

 

「いいえ、椅子に座って使うやつですね。......それなら椅子も買わないと......。」

 

 そう榛名が言うので欠伸をすると俺は立ち上がった。

 

「机も椅子も重いだろう?俺が運ぶ。」

 

「えっ?!悪いですよっ!それに提督は午前の会談でお疲れじゃ?」

 

「大丈夫だ。女の子は気にせず野郎に重いものは運んでもらっとけ。」

 

「......はい。では、お願いしますっ。」

 

 そんなこんなで俺は榛名と書類を持って酒保に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 先に事務棟に寄った後、榛名と酒保に来た。そして中に入ると家具のブースに入って机と椅子を見始める。

熱心に机と椅子を選ぶ榛名を俺は遠目から何も言わずに眺めていた。何か訊かれたら答えるつもりだが、そんな様子はない。ずっと自分の世界に入り込んで、アレを見たりコレを見たりして榛名は考え、『コレにします。』と言って指差したのは平机だった。次に榛名は椅子を見に別のブースに足を運び、また悩み始める。 

 さっきからうろちょろしているところはデスクチェアのところだ。しかも商品の紹介には『疲れにくいっ!事務作業におすすめッ!!』と書いてある。榛名は一体私室で何をするつもりなのやら。

そんな事をしていると榛名は思い切って選んでいた椅子に座りだした。座っては立ち上がり、別の椅子に座ったかと思うとまた座る。背もたれにもたれてみたり、高さを変えてみたりして10分。ようやく選び終わったみたいだった。

 キープしていたモノを従業員がカートで押して運び、会計を榛名が済ませると俺は脇に椅子、肩に机を乗せた。

 

「ういしょっと......。」

 

 そんな俺に榛名は声を掛ける。

 

「すみません......。持ってもらって......。」

 

「大丈夫だ。さっきも言っただろう?」

 

「はい。では、このまま艦娘寮までお願いします。」

 

 そう言われて俺は脇に椅子、肩に机の組み立て前の箱を持ったまま歩く。そんな事をしていると通る艦娘が俺に何をしているのかと聞いてくる。最初に訊いてきたのはほぼ同時に酒保から出てきた瑞鳳だった。『それは執務室に?』と聞いてくるので俺は素直に『榛名のだ。』と答えるが、特段興味を示さないのか『そうなんですね。頑張ってくださいっ!』と言って先に行ってしまった。

その他も似たようなもので、労いを貰いながら艦娘寮に向かうが、俺、そんなに無理をしているように見えるのか?

 俺はそんな事を考えながら歩くが、身体はそんな事無いのだ。そうこうしていると艦娘寮に着いた。

 

「ありがとうございます。提督。」

 

「いい。」

 

 そう言って俺は入ろうとするが、榛名はそれを止めた。

 

「ここで大丈夫ですよ?」

 

「階を上がるならそこまで持っていくが?」

 

「そうですか?......ならお言葉に甘えて......私の部屋は3階です。」

 

 そう言われて俺は艦娘寮の中に入る。

俺は艦娘寮の中には出来るだけ入らないようにしている。俺のポリシーみたいなものだ。

そんなんだから俺は今回、初めて艦娘寮に入った気がする。中は特段変な訳でもない。普通だ。造りは本部棟と同じでただ違うのは、入り口だろう。鍵が付いている。念のためだろう。

そして艦娘寮の中を移動していると榛名が教えてくれたのだか、それぞれの私室は1人部屋、2人部屋、4人部屋、6人部屋、大部屋とあるらしく、榛名の部屋は4人部屋。金剛たちと一緒らしい。だが、その中でも大型艦という事もあり、それぞれ個人の部屋みたいなものがあるらしい。そこに榛名はこの机と椅子を置きたいとの事だった。更にそれぞれの部屋にはコンセントと空調、トイレが完備されているが、風呂とキッチンは無いとの事。キッチンは昼過ぎに言っていた調理室があるらしい。風呂は大浴場があるとの事。

 

「ここです。ありがとうございます、提督。」

 

「どういたしまして。」

 

 俺はそう言って榛名が言った部屋の前に机と椅子の箱を置いた。確かにこの部屋の入り口の横には"金剛型"と書かれていた。

 

「組み立てで困ったら言ってくれ。作りに来るから。」

 

「はい。では、ひとまず執務室に戻りましょうか。」

 

 そう榛名が言って方向転換したその時、部屋の扉が開いた。

 

「榛名ぁー。今日は秘書艦ダッテ......」

 

 扉を開いたのは金剛だった。普段見ないかなりラフな格好をしている。というかラフを通り過ぎている気もしなくもない。そして金剛は俺が居るのを見た瞬間、顔を赤くした。

 

「エッ?!何で提督がっ?!」

 

「わっ?!すまんっ!!」

 

 そう言って俺は振り返り、先に戻ると榛名に言って走って俺は執務室に帰った。

久々に走った気がする。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務室に戻ってきて、座っていると扉が開いた。どうやら榛名が帰ってきたみたいだ。だが、榛名は誰かを連れていた。

 

「ヘーイ、提督ぅ。」

 

 少し元気のない金剛だった。

 

「なっ、なんだ?」

 

 俺は戸惑いながら返答する。

 

「どっ、どうして艦娘寮に?」

 

「榛名が重い買い物をするって言うから荷物運びに来てたんだ。」

 

 そう言うと金剛は理解できたのか、『そうだったんデスネー。』と言ってソファーに座った。

そんな金剛は俺を目で捉えて言った。

 

「提督ぅー。」

 

「ん?」

 

「私の下着姿見た?」

 

「ンブフッ!!」

 

 金剛は笑いながらそう言った。俺が見た金剛の姿は確かにそうだったかもしれない。

 

「それは、すまない......。」

 

 そう言って俺は速攻、頭を下げる。

そんな俺を見て榛名もだが、金剛も驚いた。

 

「えっ?!そんな、頭を上げて下サイッ!!そもそも私があんな恰好で外に出たからデ......。」

 

「いやっ!?俺が悪いっ!!すまないっ!!」

 

 というよく分からないやりとりを俺と金剛は榛名を挟んで30分くらいやり続けた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「提督、榛名を忘れないで......。」

 

 そんな俺と金剛のやりとりを見ていた榛名はそう呟いた。

 




 今回は新たな人が増えました。と言っても登場回数はどれ程になるのやら......。
後半のは完璧深夜ノリですので気にしないでくださいお願いします(土下座)

それと投票というか調査みたいなものをしようと思います。
現在、番外編でサブストーリー的に展開されている『俺は金剛だ!』ですが、主人公を変えて本編化する事を検討しています。となるとこっちの金剛のは消されるんですけどね......。
という事で、どちらがいいか感想の序でやメッセージで集計しますのでよろしくお願いします。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百六十話  読書はほどほどに

 

 今日の秘書艦は昨日に引き続き、静かな艦娘だ。

俺的には適度に何か言ってくれるのがありがたいんだが、今日の秘書艦はその適度に話をしてくれる艦娘だ。

 

「良いあっ......降ってなかった......。」

 

「今日は快晴だぞ......。」

 

 そんな抜けた事を言ってるのは時雨だ。もう執務も終わり、時雨が出しに行ってしまったので暇をしている。

今日は何時もに比べて温かく、炬燵に入らなくてもいいと俺は考えていた。なので今日は炬燵ではなく、炬燵が置いてある畳の上で胡坐をかいて座っている。

俺の座っているところは丁度窓から陽が差し込み、じわじわと俺の座っている辺りを温めていた。ちなみに時雨は俺と同じく、畳の上で座っている。

 

「そういえば提督。」

 

「何だ?」

 

 時雨は突然俺に話しかけてきた。

 

「夕立がね、戦術指南書を読破しちゃったんだ。もう読むものが無いって嘆いてたんだけど......。」

 

「アレ、全部読んだのか?」

 

「うん。しかも全部理解して応用できるって言ってた。」

 

 時雨はそう言いながら自分も戦術指南書を開いている。今見ているのは『艦載機運用』の戦術指南書だ。

ちなみに戦術指南書は全て辞書みたいな厚さで結構大きいサイズの本だ。それが約30冊くらいある。読み切ると言ってもどれくらいの時間を使うのやら、俺には想像できない。

 

「今僕が読んでいるのは『艦載機運用』について。本来ならば空母の人が読むものだね。」

 

 そう言いながら時雨はページを捲る。

 

「だけどね、これは対空戦闘にも使えるんだ。」

 

 時雨は俺の方に戦術指南書を向けて、あるところを指差した。

 

「例えばコレ。弱点だ。」

 

「成る程......。」

 

 俺はそのページを見て理解した。艦載機の弱点についての記述があるのだ。

艦載機全てに言えることだが、艦戦も艦爆も艦攻も、ひいては偵察機や水上機までもが共通して持っている弱点があるのだ。翼を打ち抜くだとか言ってもどの部分を打ち抜くかだ。

 

「燃料タンクだな。」

 

「そうだよ。赤城たち空母の艦娘が運用する艦載機の共通弱点は翼の付け根なんだ。」

 

 そう言って時雨は艦載機の特性について書かれたページを付箋でマークしていたのか、そこを開いた。そこには一般的にウチの鎮守府が運用している艦載機の燃料タンクの位置が記載されていた。

 

「一方で深海棲艦の艦載機の弱点はここだ。」

 

 そう言って時雨は開いたページにある零戦52型のコクピット辺りを指差した。

 

「と言っても艦戦だけなんだけどね。他の深海棲艦の艦載機の弱点はこっちの艦載機と同じって言われてる。」

 

「言われてるって事は分かってないのか。」

 

「うん。」

 

 そう言って時雨は戦術指南書を閉じた。

 

「僕がここから何を学ぶかというと、効率の良い対空迎撃だよ。僕たち駆逐艦の標準装備は10cm連装高角砲と魚雷だよね?」

 

「そうだな。」

 

「10cm連装高角砲は対空兵器だ。そうなってくるとこの10cm連装高角砲で積極的に対空戦闘をしなくちゃならないでしょ?」

 

 そう言って時雨は言う。

 

「だから空中で砲弾が炸裂する高角砲を"何処で"炸裂させるかを学ばなくちゃいけないんだ。」

 

「そうか。」

 

 俺はそう言って時雨には何も言わなかった。時雨のしている事は全く、理に適っていた。10cm連装高角砲の砲弾が空中炸裂なのも、弱点を狙うべきだという事もだ。だが、そうは言うものの炸裂してない砲弾が命中すれば艦載機なんて木っ端微塵なのだ。

よくよく考えれば艦載機が迎撃に使う機銃は最低でも7.7mm、大きければ今使っているのなら20mmだ。それに比べて時雨たちが撃ち出す10cm連装高角砲は100mm。当たれば砕ける。

 そんな事を後で思い出しながらも俺は日向ぼっこに興じるのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 午前中は日向でボケーっと過ごした後、昼食を食べ終わり、俺と時雨は執務室に戻ってきていた。

執務室は暖房をつけていないのにも関わらず、太陽の光で温まり、自然な温かさに包まれていた。そんな部屋に居てなることがあるとするならひとつしかないだろう。

 

「やばっ......眠い。」

 

 そう、眠気に襲われるのだ。ここまで温かいとこうなってしまうのも仕方ない。

 

「眠いのかい?」

 

「あぁ。」

 

「なら私室にでも行く?」

 

 そう時雨は訊いてくれるが、俺は断った。私室で寝てしまえば来客があっても起こされないのだ。俺が私室で寝ているからという理由で持ち越しになったりもする。

それを避けるためだ。

 

「いい。ここでボケーっとしているよ。」

 

「そうかい?提督がそれでいいならいいけど......。」

 

 俺はそう言って時雨の返事を聞くと立ち上がり、机に本を取りに行った。だがそんな気分じゃないので俺は私室に入り、漫画を5冊ほど抱えて出てくる。

それを持ったまま、俺はさっきまで座っていたところに戻ってきて座った。

 

「よいしょっと。」

 

 そんな歳不相応の声を出して座って俺は漫画を開く。

俺が私室に戻ってから目で俺を追いかけていたのか、時雨は俺の方を見たままだった。夕立や時雨はときたま俺の私室に来ては本を読んでいる。漫画も然りだ。

だが夕立や時雨はなるべく活字を読むようにしているみたいで、漫画にはあまり触れていなかったのだ。

そんな時雨が俺の読んでいる漫画に興味を持ったみたいだ。

 

「時雨、良かったら読んでみるか?」

 

「えっ?いいの?」

 

「いいさ。時雨はずっと活字ばかりだろう?偶には漫画くらい読んだっていい。」

 

「それもそうだね。ちなみに提督、今読んでるのは何?」

 

 時雨は戦術指南書に栞を挟んで炬燵の天板の上に置くと俺の横まで来て座った。

 

「これはそうだな......連続怪奇事件、失踪事件がある軸を元に連作的に起きていくミステリーだ。この物語には特徴があって前編後編で分かれているんだが前編は書き方や表現、目線、物語の進行が主人公の視点で謎解きをしないんだ。だから主人公が被害者なら被害者の視点で加害者なら加害者の視点で書かれている。後編は謎が明らかになるんだ。第三者の視点やそれ以外の視点を含んで物語を客観的に見るんだ。そうするとその事件が何故起きたのか、どういう風に起きてしまったのかというのが分かるんだが被害者や加害者の心情があまり分からないんだ。」

 

「何だが変だね。前編が被害者や加害者の視点で物語が進んで、後編が事件の真相が分かるなんて。」

 

「そうだろう?だがこの作品は話題になったんだ。」

 

「何が?」

 

「事件はどれも猟奇的で不可解、人の精神や宗教なんかが関わっていたりするんだ。特に事件で起きた連続怪奇事件、失踪事件に関しては問題になったほどで"有害"だと世間で言われたほどだ。」

 

 そう言うと時雨はピクリとも表情を変えずに訊いてきた。

 

「そうなんだ。でもそんなミステリーなんて見たことないよ。」

 

「俺もだ。だから最初見た時、とても引き込まれたよ。謎の多さや何一つ分からないまま物語が進行していくんだ。」

 

「へぇー。という事は探偵かなんかになった気分で見てられるって事かい?」

 

「そうなるな。何だが物語の進行が警察の事件に関するレポート、調査書みたいなんだ。」

 

 そう俺は説明しながらもページを捲っていく。

今読んでいるのは前編で中盤だ。この頃から事件が起き始めるんだ。今見ているのは加害者視点の話だ。

 

「僕も読んでみたいな。」

 

 俺が読んでいると横で時雨はそう言った。

 

「分かった。なら最初の話から読んでいくか?」

 

「ううん。」

 

 俺がそう言って漫画を閉じて取りに行こうと立ち上がった時、そう時雨は答えた。最初から読まないのなら何処から読むと言うのだろうか。

 

「ならどうする?ここにあるのは俺が今読んでいるのが最初だし......。」

 

 そう言うと時雨はとんでもないことを言い出した。

 

「提督と一緒に読むよ。」

 

「は?」

 

 俺が時雨の発言に一瞬思考が停止した瞬間、時雨は俺が胡坐をかいた瞬間を狙って、その間に入ってきた。

そして俺の胸に背中を預けて時雨は俺に言った。

 

「こうすれば一緒に読めるよ?」

 

「こうするって言ってもなぁ......。」

 

 そう言いながら俺は背筋を伸ばした。時雨の身体にあまり触れないようにするためだ。だが時雨は俺の腕を掴んで前に引き出す。それにつられて俺の身体も前に倒れていった。

 

「こうしないと僕が見えないじゃないか。......これでいいよ。」

 

「おっ......おう。」

 

 俺はもう考える事を放棄して漫画を開いた。一応、時雨に合わせて最初から読む。序でにまだ脳味噌で補完出来てない部分の吸収もしよう、そう考えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺が時雨を膝に乗せながら漫画を読み始めて1時間と30分が経った頃、手元に置いていた漫画は全部読み終えた。

俺が持ってきた分は前編後編合わせたものだったので、これで一応終わった事になる。前編は後半に向かっていくに連れて、主人公である加害者の心情がおかしくなっていくのと、周りへの視線もおかしくなっていくのも読み取れた。そして最後には加害者の考えすぎかもしれないが、自分を殺そうとしている被害者を殺してしまったのだ。

後編ではその物語の視点があちこちに向いたり、被害者がどの場面で何を考えていたのかというのが徐々に分かっていった。結果、この物語で起きた事件は加害者の深い思い込みが原因だと分かったが、謎を残していった。被害者の深層心理だ。

 被害者の表面での発言の意味、行動は理解し、読み解くことが出来たが深層心理が分からない。どうしてそんな発現をしたのか、どうしてそんな行動をしたのか......。分からないまま終わってしまっていたのだ。

 

「ふぅ......結構ハードだったね。」

 

「そうだな。」

 

 俺は読み終えた漫画のタワーを見てそう言った。

 

「でも面白かったよ。色々考えながら読むものだから、普通に活字の本を読んでるのと変わらなかった。」

 

「そうだな。」

 

 俺は時雨に降りて貰って立ち上がろうとするが、立てない。

どうやら長時間、時雨を乗せていたせいなのか、痺れていた。無理に立ち上がろうとして俺はふらつき、膝を立てた。

 

「おおっと......あぶねぇ。」

 

「大丈夫かい?足が痺れちゃったんだね......。ごめんね、僕がずっと座ってたばっかりに。」

 

「気にしてない。どうせすぐ直るからな。」

 

「そうかい?」

 

 俺はそう言いながら痺れたところを手でぐりぐりと回してからゆっくりと立ち上がった。

そうすると立つことが出来て、畳に置いてある漫画の山も持ち上げて、私室に戻しに行った。

そんな俺を心配そうに見つめる時雨は半分持つと言って、結局私室について来てしまった。そしてそのまま次に読むものを選び始める。

 どうやら時雨は今日読むものはもう漫画と決めたみたいだ。漫画を並べているところを一生懸命眺めてた。

そして興味を惹かれた本を引き抜いて俺に見せてくる。

 

「これ呼んでいい?15巻くらいまであるから夜ごはんまでには終わると思うんだけど。」

 

 時雨が見せてきたのは、あの物量作戦で戦法が突撃しかない宇宙人と人類がロボットで戦う話を持ってきた。

時雨が持っているものはさっきのよりも更にハードな内容だ。

そんな時雨に俺はやんわりと答えた。

 

「いいぞ。だけど、途中で止めちゃってもいいからな。」

 

「それはどういう意味だい?」

 

 そう時雨は訊いてくるので俺は遠い目をして『その時分かる』とだけ答えて、さっき時雨と読んでいた漫画の別の話を持って執務室に戻った。

 俺と時雨はそうやって夕食まで過ごし、最後の方では片づけるのも面倒だと畳の上にタワーを建設し続けた結果、どこかの摩天楼みたいになった。当たり前だ。

夕食に行く前に時雨と、時雨を呼びに来た夕立と一緒にそれを片づけて食堂に向かった。

 





 今日は読書ネタに。といっても後半は漫画でしたけどね。
ちなみに自分もミステリー系は好きです。唯の推理モノじゃない奴が好きですね。

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第百六十一話  輜重と補給

 

 俺はいつも通りに起き、いつも通り執務室で秘書艦を待っている。

今日の秘書艦はというと、未だに続いている艦隊司令部休業中のイベントの時に進水した艦娘が務める事になっている。

昨日の夜、そのクジがあったのだがその艦娘と妹艦は大騒ぎしていた。

 

『秘書艦をクジで決めるんですか......。』

 

『そうだよ、○○姉っ!でも当たりは1つしかないからね!』

 

『分かったわ......えいっ!!......はっ?!』

 

『はっ?!』

 

『いきなり当たり引いちゃったわっ!!』

 

『だから○○姉は不幸なんかじゃないって言ったじゃんっ!!』

 

 という具合に騒いでいたので、とても記憶に残っている。

それもそうだろう。その後、秘書艦の妹に『私が補佐しちゃ駄目なの?』と言われてこっぴどく加賀に叱らわれていた(※加賀も人のこと言えない)が、結局その妹が補佐をすることになったのだ。

 

「しっ、失礼します。」

 

 時刻にして6時10分過ぎ。どうやら今日の秘書艦も早めに来るタイプらしい。

 

「おはようございます、提督。」

 

「提督さん、おはよう!」

 

「あぁ、おはよう。翔鶴たち。」

 

 今日の秘書艦は翔鶴なのだ。

 

「何だか私がさもついでの様に......。」

 

「瑞鶴は補佐だろう?ついでもなにも......。」

 

 そう言いながら俺は立ち上がる。そんな俺に瑞鶴は言った。

 

「まだ食堂に行くのは早いんじゃないの?」

 

「いんや。今日はちょっと寄り道してからな。」

 

 そう言って俺は翔鶴と瑞鶴を連れて執務室を出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 立春もとうの昔に過ぎ、梅の花の香りにも慣れたこの時期の朝というのはまだ少し肌寒かった。

そんな寒さを俺たちは気にせずに外を歩く。俺が用事があると言って向かっているのは食堂の厨房の裏から少し離れたところにある物資搬入用の門から入ってきて、裏に止まるトラックのところに来ていた。

 

「ここって厨房の裏ですか?」

 

「そうだけど、よく知ってるな。」

 

「そこの窓から間宮さんが見えますからね。」

 

 そう言って翔鶴は窓の方を見ていた。俺もそっちの方向を向くと、確かに間宮がいる。そして煙も上がっていて換気扇の音がここからでも聞こえていた。

 

「それでどうしてここに用があるの?」

 

 黙ってついてきた瑞鶴がそう訊いてきた。

 

「今日は毎日の物資の他に俺が受け取るものがあるんだよ。」

 

「へぇー。事務棟からじゃないって事は手紙ではないんだね?」

 

 そう訊かれて俺は答える。

 

「勿論。小包だ。」

 

「どっから?」

 

「大本営。」

 

 そう言うと瑞鶴は翔鶴の横に居たが俺の目の前に立った。息も当たりそうな距離で瑞鶴は凄んだ。

 

「銃は駄目だよ?軍刀は持ち歩いてないからいいけど。」

 

 瑞鶴のそれを訊いた翔鶴は驚きつつも俺の腰の周りを見た。

そして驚き俺に訊いてくる。

 

「提督は拳銃を持ち歩いていないんですね。どうしてですか?」

 

「それは提督さんには要らないからだよ。拳銃なんて抜かなくても私たちが居るからね。」

 

 そう言った瑞鶴は表情は笑っているが、目が違う状態で俺を捉えたまま続けた。

 

「翔鶴姉はあると思うよ?『提督への執着』が。でも違う。私たちとは違う、別のモノみたい。」

 

 俺はそう言った瑞鶴に考えを巡らせながら言った。

 

「別のモノ?どういう事だ?」

 

「金剛みたいに過剰でもないし、大井みたいに無いに等しい訳でもない。新しいタイプだね。」

 

 そう言うと瑞鶴はいつもの瑞鶴に戻って俺から離れた。

 

「まぁいいけどね。それで、輜重?部隊から何を受け取るの?」

 

「だから小包だって......。」

 

 俺はそう言いながら待つが、さっきの瑞鶴の発言もそうだが今のも気になった。

 輜重部隊。いわゆる補給部隊の事だが、そう呼んでいたのは旧大日本帝国時代の陸軍で歩兵になるにふさわしくないとされていた兵が配属される部隊だったらしい。知っている人間が聞けば分かるが一種の差別用語みたいなものだ。明らかに見下し、それどころか要らないもの扱いされていた部隊への呼び方だ。

 

「もう荷物は下ろし終わってるよね?待たせないで欲しいな。」

 

 そう瑞鶴は言うが、俺は気になっていた。どうして輜重部隊なんて呼ぶのか。

 

「というか補給部隊って呼ばれてるのに、何で輜重部隊って呼んでるんだ?」

 

「補給物資を運んでるんでしょ?なら輜重部隊じゃない。」

 

「その輜重部隊って呼び方、気に入らないな。」

 

 そう言って俺はトラックの中を覗いた。中には誰も居なかった。どうやらまだ運んでいる様で、俺は荷台に回って荷台を覗く。そこにはまだ段ボールが積み上がっていた。どうやらまだ下ろしている最中みたいだ。俺が荷台を覗いていると横から話しかけられた。

 

「こっ、これは提督っ??!!提督がこんな朝早くにこんな所でどうしたんですかっ??!というか、足蹴も無く通っていて今日、お初にお目にかかりますっ!!」

 

 凄いリアクションでそう言ったのはどうやらこのトラックの運ちゃんらしい。つまり補給部隊。

 

「初めまして。いつも補給でここまで来ていただいてありがとうございます。」

 

「そう言えば今回の物資の中に提督宛てのモノがありましたね?今すぐお持ちしますっ!!」

 

「あぁ、いま荷下ろししているのが終わってからでいいですよ。」

 

「そんなっ!提督は唯一の皇国の矛であり盾である御身、執務などが忙しいと伺ってます!そんな提督の大切なお時間を補給作業で裂いていただくわけには......。」

 

 そんな低姿勢のトラックの運ちゃんに俺は困りながらも『荷下ろし終わってからでいいですよ。』と言って、何とか聞いてもらった。

そのやり取りを聞いていて瑞鶴が少し不満気に俺の横に来た。

 

「提督さん、どうして輜重部隊なんかにあんな風に話さなくてもいいのに......。」

 

 そう言う瑞鶴に俺は答えた。

 

「どうしてそう思うんだ?」

 

「だって輜重部隊だよ?補給物資を運んでるだけじゃん。迅速に且つ適格、そして前線への配慮はしっかりとでしょ?」

 

「そりゃそうだが、あっちだって仕事だ。ついでに運んでもらってる立場だから待って当然。」

 

「それは無いね。提督さんへの荷物なら一刻も早く渡さなくちゃ。それにまだ荷下ろししてるなんて考えらんないよ。」

 

 そう否定的な言葉をところどころに入れてくる瑞鶴に、怒りと同時に疑問を抱いた。何故そこまで無碍にするのか、と。

 

「輜重部隊なのに......。」

 

 そう言った瑞鶴に俺は遂に怒った。

 

「補給部隊を輜重部隊と言うな。それはいつも食料や物資を運んでくれる補給部隊に失礼極まりない。そもそもなぜそこまで軽視するんだ?補給は戦の生命線。補給部隊は戦場では母の様な存在だ。」

 

「確かに補給は戦うのに必要ですが、そこまで重要視するものでしょうか?」

 

 ついに翔鶴までもがそう言いだした。俺は瑞鶴だけが思っている事だとばかり思っていたが、どうやら他にも思っている者がいるみたいだ。

 

「何故だ?」

 

 だから俺はあえて聞いた。何故そこまで補給を重要視しないのか。

 

「戦場で戦うのは私たち艦娘。それの支援をするのは当然だし、艦娘を指揮している提督さんにはそんな迷惑をかけられない筈だよ?」

 

「確かに支援の件は元から決められているから当然だろうな。だが戦場に出る事だけが全てじゃない。」

 

「いいや違うよ、提督さん。私たちじゃなければ深海棲艦は倒せないんだよ?しかも本来は人類と深海棲艦の戦争を私たち艦娘が人類の肩代わりをしているの。さらに提督さんは異世界から来た存在。歳も未成年だし。そんな提督さんにまで戦争と責任を押し付けてるのにも関わらず、これは無いわ。」

 

 そう瑞鶴ははなっから決めつけていた。だが一方で瑞鶴のいう事は正しい。だが違う。戦争を肩代わりしているかもしれないが、補給部隊への態度は駄目だ。わざわざ運んできてもらっているのにも拘らず、その上から見下した様な態度に俺は腹が立った。しかも補給部隊をそう呼ぶのなら給糧艦である間宮も元を辿れば補給艦。間宮の艦種が輜重艦という事になってしまう。

 

「......瑞鶴。」

 

「何、提督さん?」

 

「他の艦娘もこうなのか?」

 

 そう訊くと瑞鶴は少し考えて、遠くにたまたま通りかかった重巡の集団に走って聞きに行った。

少しすると帰ってきて、俺に答えたのだ。

 

「そうだね。皆、私と同じことを言ったよ。」

 

「そうか。」

 

 俺はそう言って瑞鶴が走っていった時くらいから荷物を持って待っているトラックの運ちゃんから荷物を受け取った。

 

「お待たせしました。大本営から提督宛てです。」

 

「ありがとうございます。お疲れ様です。」

 

「はいっ!では、私たちはこの辺で。」

 

 そう言って運ちゃんはトラックに乗り込み、エンジンをかけると門から出て行った。

それを見送ると俺は小包を持ったまま、道を引き返す。本当はこのまま食堂に行くつもりだったが、気分が変わった。執務室に帰るのだ。

そんな俺の後を付いてくる翔鶴と瑞鶴は不思議そうな顔をしている。それは無理もないだろう。

 

「提督?引き返すんですか?このまま食堂に行くと......。」

 

 そう訊いてくる翔鶴に俺は答えた。

 

「少し用事がある。全館放送でな」

 

 俺はそう言って足早に執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は執務室に戻ると小包を置き、執務室に備え付けられているそれぞれの棟へ放送する為の機材を動かした。

これから放送するのは本部棟、艦娘寮、食堂だ。ちなみに食堂は本部棟と艦娘寮に隣接している。

 

『全艦娘へ連絡。今すぐ艦娘寮へ戻り待機。繰り返す。艦娘寮へ戻り待機。』

 

『それぞれの艦種の長は執務室へ出頭。食堂で配膳準備中の間宮らは火を落とし、待機。繰り返す。それぞれの艦種の長は執務室へ出頭。食堂で配膳準備中の間宮らは火を落とし、待機。』

 

 俺はそう言って機材の電源を落とした。

 艦娘は指示に従うだろう。これまで守ってこなかった試しが無いのだ。そうしていると廊下が騒がしくなり、執務室の扉が開かれた。

入ってきたのは長門、高雄、五十鈴、吹雪、赤城だ。どうやら潜水艦は駆逐艦に、ドイツ艦勢はそれぞれの艦種に属している扱いみたいだ。

 

「出頭した。朝食の時間を割いてどうしたのだ、提督?」

 

 そう訊いてきた長門に俺は質問をした。

 

「長門。」

 

「何だ?」

 

「いつもひっきりなしに物資を運び入れているトラックの事をなんと呼んでいる?」

 

「輜重部隊だが?」

 

 そう答えた。さっき瑞鶴が聞きに行ったのが一部の意見ではない可能性が出てきた。

 

「他もか?」

 

 俺がそう他の艦種の長にも目線をやるが、全員が頷いた。これで瑞鶴の言っていた全員が同じ意見だということが証明された。

 

「輜重部隊と呼ぶの意味、分かって言ってるのか?」

 

「勿論だ。我々の支援をするのは当然だろう?」

 

 長門の回答に他の艦娘も頷いた。

呆れた。俺の中にはそれしかない。

 

「はぁ......分かった。連絡だ。」

 

 そう言って俺は睨みつけた。

 

「朝食は抜きだ。何故抜きになったか分かった者は俺のところに来い。答えが出た時点でご飯は食べれる。」

 

 そう言うと皆、分かっていない様な反応をした。

 

「いいか?朝食は抜き、俺から許可が出るまで食堂へ行くことを禁ずる。何故そうなったか分かる者は俺のところに来い。」

 

「それはどういう......」

 

 高雄がそう言いかけたのを俺は防いで畳みかける。

 

「俺の言った言葉の意味が判らないのか?」

 

「いえ......。ですが、輜重部隊と朝食が抜きにどんな関連が......。」

 

 そう言うが俺は突っぱねる。

 

「行け。今すぐにそれぞれの艦種全員に報告だ。」

 

 俺が凄んで言うと艦種代表は執務室を出て行った。

 その光景を見ていた翔鶴と瑞鶴もどうやら分かっていない様で、困った顔をしている。

 

「どういうことでしょうか、提督。」

 

「そうだよ、提督さん。お腹減ったよー。」

 

 そんな2人を無視して俺は席に座る。

そして翔鶴に言った。

 

「執務を始めるから瑞鶴は翔鶴を補佐してやれ。」

 

「えっ......?」

 

「えっ、じゃない。今すぐに始めろ。」

 

 そう言って俺は自分の鳴る腹を我慢しながら執務を始めた。

どうしたこんな今どきの幼児や児童相手にはやらないが、一昔前ならやるような事をしなければならないのか。自分で言い出した事だが、これまで気付かなかった俺にも責任がある。そう感じた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務が終わると俺は翔鶴と瑞鶴に私室に戻って考えるように言った。

 執務室にはちらほらと艦娘が訪れ、俺に話しに来るが誰一人として分かっている者はいなかった。

そんな事をしていると、執務室にある艦娘が来た。間宮だ。

 

「失礼します。」

 

 そう言って入ってきた間宮は初めて入ったんだろう執務室を見渡して俺の前に来た。

 

「どうした?」

 

「今朝の件です。高雄さんに聞きました。」

 

 そう言ったので俺は立ち上がり、執務室の端に間宮と行き、訊いた。

 

「補給部隊が輜重部隊と呼ばれていたのは昔、軍が補給部隊を卑下に言っていた蔑称からですよね?それに私たちが補給部隊相手に態度が悪く、見下しているからですか?」

 

「うむ、そうだ。というか間宮。」

 

「はい?」

 

「間宮は輜重部隊と呼ばないんだな。」

 

 そう言うと間宮は答えた。

 

「はい。輜重部隊という呼び方は陸軍が言っていたものですし、そもそも私は海軍でいうところの輜重艦ということになりますからね。」

 

「知ってたぞ。だから間宮が来て理由が分かっていたとしても許可を出す訳にはいかない。」

 

「そうですか......。」

 

 そう俺が言うと間宮はしょんぼりしてしまった。どうやら間宮自身、最初から分かっていたみたいで待っていたが、我慢できなくなって来てしまったみたいだ。

 

「すまないな、間宮。」

 

「どうしたんですか?急に。」

 

「せっかくの間宮の朝食が冷めてしまっただろう?」

 

「いえ、ぽつぽつと私も聞いてましたし、何れ提督が知る事になるんだろうなって思ってましたから。」

 

「そうか。じゃあ分かった艦娘が来るまでここで休んでいると良い。お茶を出そう。」

 

 そう言って俺は間宮にソファーに座って貰い、お茶を出した。

 そんなことをしているも、全く分かる艦娘が現れず、遂に昼の時間になりかけた頃、長門と赤城が来た。2人組で来るのは初めてだ。

 

「提督。」

 

「あぁ。」

 

 俺は立ち上がり、執務室の角に長門と赤城で寄って話を訊いた。

どうやら遂に個々で考えるのを止めて、艦種で集まって話し合いにまで発展した様だ。そうなったのは戦艦と空母だけ。だがそうなっても分からずに、艦種合同会議ににまでなったみたいだ。今回はそれで得た回答を俺に言いに来た様だった。

 

「途中で寮に戻ってきた翔鶴と瑞鶴にどうしてこうなったのか聞いたら分かった。」

 

「何だ?」

 

「最初に輜重部隊という呼び方だが、それは蔑称の意味がある。これは最初から分かっていた事だ。そして補給部隊が補給物資を運ぶのは当然だが、補給物資が無ければ私たちは戦う事が出来ない。つまり、だ。私たちが補給部隊を蔑称で呼び、見下していたからか?」

 

 そう長門は恐る恐る言った。それもそのはず。今回が来たので5回目だ。『3度目の正直だ。』と言って来た時もあっさり俺に帰れと言われて4回目からこんな風だ。

 だが長門の言った言葉は合っている。何故こうなったかが理解できたみたいだ。だが、まだだ。

俺の後ろのソファーでお茶を飲んでいる間宮だ。

 

「どうだ......?」

 

「まだだ。あとひとつ。」

 

 そう言って俺は黙った。

俺があとひとつと言うとその場で考え始めた長門と赤城はあれこれと意見を交わす。そしてふと赤城が俺の背後のソファーに座る間宮に気が付いたのだ。それを見た瞬間、インスピレーションが働いたのか、長門が答えた。

 

「間宮か?」

 

「その心は?」

 

「間宮は給糧艦という艦種だが、元を辿れば補給艦。つまり、私たちは輜重部隊と呼ぶことで間宮の艦種も輜重艦だと言っていた事になるからか?」

 

 そう言った瞬間、聞こえていたのか間宮は立ち上がった。

 

「正解です。」

 

 それに続いて俺は機材に手をつけ、放送をする。

 

『それぞれの艦種の長は至急、執務室へ集合せよ。繰り返す。それぞれの艦種の長は至急、執務室へ集合せよ。』

 

 走って執務室に来たそれぞれの艦種の長に長門の口から伝えられた。

長門の説明に皆が納得し、最後に長門が間宮の事も言うと皆が一糸乱れぬ動きで頭を下げた。

 

「「「すみませんでしたっ!!」」」

 

「いえっ......。考えは変わりましたか?提督の分かってほしかった事、自分の考えていた事と。」

 

 そう言うと全員が頷いた。

そして俺はそんな間宮に指示を出す。

 

「間宮。今すぐに食堂に戻って準備だ。すまなかった。」

 

「いえ。今すぐ行きますね。」

 

 そう言って出て行く間宮を見送ると俺はそれぞれの艦種の長を見回して言った。

 

「今回ので分かったか?補給は生命線で補給部隊は戦場では母の様な存在。補給部隊無しで戦闘部隊は何もできないんだぞ?幾ら艦娘が人類の戦争を肩代わりしているとはいえ、補給物資を運んでもらっている補給部隊に対して輜重部隊呼びで見下す等、失礼極まりない。もうそんな風には呼ばないだろうが、これからはどの人間の部隊だろうが敬意を払え。門兵には日頃の警備の感謝を、事務棟には円滑な鎮守府運営の感謝を、酒保の従業員にはいつもの気配りへの感謝を、補給部隊には物資を運び入れてくれる感謝を。分かったのなら解散し、それぞれの艦種の艦娘全員にこの事を報告し、理解して貰う事。そして疑問があれば俺のところに来いと伝えろ。皆が理解出来たら食堂に行ってくれ。腹を空かせたままにして悪かったな。んじゃ、解散っ!!」

 

 そう言って俺は指示を出した。

結局俺のところには誰も来ず、皆理解できたみたいだ。そして秘書艦でありながら俺の指示で艦娘寮に戻っていた翔鶴が俺のところに来た。

 

「提督。すみませんでした。」

 

「ん?」

 

「補給部隊の事です。私もあの時は皆さんと同じように考えてましたから......。瑞鶴も提督の仰った事、補給部隊が居なければ私たちは戦う事が出来ない理解できたみたいですし、今回の朝食抜きの意味も分かりました。」

 

 そう言うと翔鶴は言った。

 

「私たちが蔑称し、見下していた補給部隊が運んだ食料、補給部隊の事を考え改めないと食べさせないという事でしたんでしょう?」

 

「勿論だ。」

 

「長門さんと赤城さんが他の艦種の長にも伝えて、皆さんが理解できたみたいです。」

 

「そうか。」

 

 そう言って俺は立ち上がった。

 

「食堂に行こうか。腹が減って死にそうだ......。」

 

「そういえば提督も食べてませんでしたね。すみません。」

 

「いい。皆が分かってくれたのならこれくらい......(ギュルギュル)......あはは。」

 

 そんな話をした後は、進水後にあった事を翔鶴は話してくれた。楽しかった事しかないみたいだが、酒保も気に入り、外で遊んだりもしたらしい。

 





 今回のネタは結構前から練ってましたw
補給部隊軽視は今でこそないですけど、昔はあったんですよね。考えられないです。
 瑞鶴が前半で翔鶴の事を変だと言ってましたが、そのうち分かりますので忘れないで下さいね。

 先日後書きでお知らせしました『俺は金剛だ!』の新規本編化が決定しました!それとこっちの金剛は消さずに行こうと思います。こうご期待っ!!

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百六十二話  『FF』作戦①

 俺は大本営に呼び出されていた。呼び出される事自体、余りないので緊張して行くのだが、今日は特別緊張している。

何故なら今日呼び出された理由は"日米合同作戦"が展開されるからだ。前々からなんとなくあるだろうとは考えていたのだが、まさかこんな早くにあるとは思わなかった。ちなみに大本営から活動休止が言い渡されて4ヵ月が経った頃だ。

 

「今回初の試みとなる日米合同作戦の概要について説明する。」

 

 新瑞はそう言って俺に渡した資料に沿った説明を始めた。

 

「作戦名『FF』。本作戦の目標は中部海域攻略に先駆け、アメリカ西海岸の掃討作戦である。」

 

 アメリカの状態はというと、西海岸を掃討しなければならない程になっているのだ。ちなみに日本まで来た外交官、米艦隊はと言うとアルフォンシーノ群島に基地を設営し要塞化、そこから出ていたみたいだった。という事は北から降りてきたという事になる。

 

「第一段階。横須賀鎮守府派遣艦隊並びに端島鎮守府(大本営の鎮守府)派遣艦隊は北方海域アルフォンシーノ群島に集結。米海軍機動部隊と合流。」

 

 俺は渡された資料に目を通した。こちらから艦隊編成指定はされていないが、米海軍の編成は分かっている様だ。旗艦は米海軍唯一残っていた原子力空母、ジェラルド・R・フォード級原子力空母 二番艦 ジョン・F・ケネディが担い、傘下巡洋艦5隻、駆逐艦6隻、揚陸艦2隻がこの作戦に参加する。

それと補足によればジョン・F・ケネディはどうやら倉庫で眠っていた物を稼働させたらしい。その他巡洋艦、駆逐艦、揚陸艦は日本皇国との国交回復から急建造し揃えたものだという。この中の数隻は日本への航海もしたとのことだった。つまり、アイオワの艦隊に居たという事になる。

 

「第二段階。アルフォンシーノ群島出発後、日本皇国海軍艦隊が米海軍機動部隊前衛に特殊陣形を展開。全方位索敵を開始。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 特殊陣形は資料に書かれていた。どうやら深海棲艦に対する戦闘力が乏しい米海軍機動部隊を内側に、横須賀と端島の艦隊が前衛と側面に展開した巨大傘陣の事みたいだ。

 

「第三段階。日米艦隊はクイーン・シャーロット諸島へ到達後、回頭。アメリカ西海岸沖約30kmを南下し、接触する深海棲艦を撃破する。」

 

 予定航路が掛かれた地図が乗っていた。とても短絡的なものだ。

 

「第四段階。チャネル諸島周辺に到達したならば、そのまま南下。カリフォルニア半島から回頭、アルフォンシーノ群島に向けて北進。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「第五段階。アルフォンシーノ群島に帰還後、日本へ帰投だ。」

 

 それで今回の日米合同作戦は終了らしい。何でも米海軍が深海棲艦との戦争を中断してから初の大規模作戦(※こちらから見ると普通の哨戒任務)との事。この作戦の目的は最初に説明が始まった時に言った通り、アメリカ西海岸に現れる深海棲艦の掃討だ。こういうと哨戒任務と比喩するのも間違っている気がする。

 だが何故日本皇国の艦隊が派遣されるのか......。

それは西海岸には深海棲艦の水上打撃部隊、空母機動部隊が現れるらしく、現行艦では太刀打ちできないとの事。ならば、これまでそういった深海棲艦の数多と戦ってきた日本皇国海軍に合同作戦要請をしたとの事だった。

 

「本作戦の概要は以上だ。」

 

 そう言うがこれだけではない。こちらの派遣艦隊の編成に指定があったのだ。空母機動部隊と水上打撃部隊だ。

それに気になる事があった。この作戦、イレギュラーに引っかかるのではないかという事だ。俺はその場に居合わせた新瑞に声を掛ける。ちなみに作戦概要説明は新瑞からあった。

 

「新瑞さん。」

 

 俺がそう声を掛けるとこの場、会議室に居た大本営の人間や端島鎮守府の提督がこちらに振り向いた。

 

「何だ、提督。」

 

「この作戦はイレギュラーになる可能性があります。」

 

「何だと?」

 

 そう新瑞は反応した。"イレギュラー"という単語には大本営や端島の提督も敏感になった様だ。先日の特殊砲弾の使用と侵攻事件からだ。

 

「説明を頼めるか?」

 

 そう言われ俺は会議室の黒板の前に立ち、こちらの編成を書きだした。

 

「"イレギュラー"と判断した理由、それはこちらの日米合同艦隊の編成にあります。こちらの編成は横須賀鎮守府艦隊司令部、端島鎮守府艦隊司令部傘下水上打撃部隊及び空母機動部隊の艦娘総勢24名、24隻の艦隊編成となります。私は米海軍機動部隊を"イレギュラー"の対象とは判断しませんが、こちらの24隻という数字は明らかに編成オーバーです。12隻の連合艦隊というのであれば"イレギュラー"にはならないと考えられます。」

 

「ふむ......。」

 

 俺が説明すると新瑞は明らかに困った表情をした。

 

「ならそうしようと言いたいところだが、この作戦立案は米海軍からのモノだ。作戦変更を伝えねばならないが、"イレギュラー"という単語を使う訳にはいかない。」

 

「それなら今回の作戦にそこまでの艦隊派遣は出来ないとでも先方に言えばいいのでは?」

 

 端島の提督がそう言った。なんだかんだ言って今初めて端島の提督が話した様な気がする。

 

「......うむ、それで試してみよう。」

 

 そう言うと新瑞は新たに言い変えた。

 

「こちらから派遣する艦隊は横須賀鎮守府艦隊司令部と端島鎮守府艦隊司令部から合わせて12隻までとする。双方は空母機動部隊で宜しく頼む。」

 

「「了解。」」

 

 そう俺と端島の提督が答えると新瑞は更に付け加えた。

 

「それと本作戦にはそれぞれの派遣艦隊に提督も同行して貰いたい。」

 

「っ?!」

 

 派遣艦隊に同行。それはつまり旗艦に乗り込めという事みたいだ。

 

「以上だ。今後の本作戦の日程は口頭ではなく郵送物で伝える。」

 

 会議が終わってしまったので俺はそのまま鎮守府に帰る事になった。

ちなみに今回の会議には艦娘の同伴は会議室前までという事になっていた。だが横須賀鎮守府艦隊司令部から護衛として付いてきた艦娘にのみ、会議風景を音声無しのリアルタイムで監視する事を許可されていた。護衛として付いてきたのは番犬艦隊、アイオワを除いたドイツ艦勢だった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「大本営発表日米合同作戦派遣艦隊には俺も同行する事になった。」

 

 俺は帰るなり長門と赤城にそれを伝えた。

こういった事を話すならこの2人なのだ。

 

「それは......強制なのか?」

 

「あぁ。どうやらそうみたいだ。そうなった理由としては端島鎮守府の提督が度々同行していたという報告があったからだ。こちらよりも報告義務が重いみたいで、話を訊くと毎日の報告書やらの執務はウチみたいに1時間ばかでは終わらないらしい。」

 

 そう俺は言うがこれは本当の話だ。会議の後、少し端島鎮守府の提督と話す機会があったのだが、その時に『執務に追われて軍人であるのにも関わらずデスクワークばかりで大変ですよね?』と相槌を求められたのだ。

 

「成る程。ですけどそれは提督の同行に何の関係が?」

 

「確かに関係ないな。......だが大本営から言われてしまったのなら仕方がない。今回の作戦には古参組のみで編成した空母機動部隊で出る。編成は今から考える。」

 

 そう言って俺は編成表を出すとパパッと書いて長門と赤城の前に出した。

旗艦:赤城、加賀、長門、高雄、雪風、島風。そう書き出した。

 

「ふむ......空母機動部隊。航空戦は赤城と加賀の航空隊、合わせて180機。水上打撃戦力として私と高雄。水雷戦闘には駆逐艦中運が最も高い雪風に、うなぎ登りの島風か......。」

 

「普段でしたら私たち一航戦と金剛型四姉妹か長門型、北上大井ペアですけど......防空の事も念に置いてますね。」

 

 2人の見解はそうだったみたいだ。俺の編成趣旨が伝わってよかった。

 

「俺は旗艦に乗り込む。それと今回はある決め事をしようと思う。」

 

 そう言って俺は先に長門と赤城に伝えた。

 

「もし艤装に俺以外の人間が無断で乗り込むようならば殺害する事を許可する。」

 

「「っ?!」」

 

 俺のその発言には長門も赤城も驚いた。それもそのはずだろう。普段の俺なら絶対こんな事は言わないからだ。

 

「いいか?艤装の上も領土だ。入られたのならばそれは立派な侵犯だ。俺への許可は要らない。必要ならば殺せ。その後に報告を聞く。」

 

「「了解。」」

 

 長門と赤城には今の意味が理解できたみたいだ。どういう意味で俺がそんなことを言ったのか。

 

「俺が空ける間、鎮守府運営は陸奥と夕立、時雨に頼むことにした。それと武下さんにも協力を仰ぐ。何かあったのなら対処して欲しいと。」

 

 そう言って俺は立ち上がった。

 

「この後、派遣艦隊に招集をかけ、作戦概要を説明する。それまでに昼飯だ。」

 

 俺は長門と赤城を連れて食堂へ向かったのだ。

 これから開始される作戦に少し違和感を覚えつつも、今後の動きを考えながら向かう。西海岸の制圧は確かに重要な課題だ。それを日本皇国に協力を仰ぐのも分かる。

だが、米海軍の艦隊の数と配置、陣形を訊いて何故だかその違和感を拭い去る事が出来なかった。

 




 今回から日米合同作戦です。詳細は言いませんよー。ここで言ってしまえば色々ネタバッ((殴
 それと提督の同行に反対しなかった理由も後日、本編にて書かせていただきます。

 近日公開と宣伝しました、『俺は金剛だ!』の本編化ですが、少々遅れております。
3/28までには投稿する予定ですので、こうご期待っ!!

 ご意見ご感想お待ちしてます。

 ※挿絵が間違ってましたので変更しました。


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第百六十三話  『FF』作戦②

 

 早朝。俺は赤城と共に艤装に乗り込んでいた。

理由は明白。『FF』作戦参加の為、そして命令でもある同行に従ってだ。俺の戦地への同行には連絡をした時からさっきまでの間、約3日間もの間艦娘に行くなと止められ、泣かれて収集がつかない3日間になってしまった。そんな時、作戦には参加しないがこういう時こそ、俺を必死に止めるだろうと思っていた金剛はそれをしなかった。

 

『提督が決めたのデース。それを私たちがとやかく言えないデス。それに赤城に乗るんですから、問題ないデス。皆、赤城を信用してないデスカ?』

 

 と言って回っていたみたいだ。その金剛の説得に言ってた赤城の信用云々に関しては俺は少し思うところもあるが、まぁ、皆が赤城を信用している事には変わりはない。

最終的にはさっきまで全員の説得にかかり、やっと出発できるのだ。

 

「提督。」

 

「何だ?」

 

 俺は赤城の艤装に乗り込み、格納庫を通りながら赤城と話した。

 

「この作戦の提督随伴には従わなかったほうが良かったのでは?」

 

「そうだな......だが、大本営の決定でもあるし、あちらではそれが普通なんだ。あちらに合わせる方が自然に見えるだろう?」

 

 そう言って心配そうな表情をしている赤城に言う。

今回の作戦は当初とは大幅に変更されている。まず、こちらの派遣艦隊だが横須賀鎮守府艦隊司令部、端島艦隊鎮守府艦隊司令部合わせて12隻。イレギュラー発現防止の編成の為に半減させたのだ。更に特殊陣形。あの後、作戦の見直しをしていたアメリカから連絡が入り、新たな陣形が伝えられたのだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そして中継地が作られた。どうやらアルフォンシーノ群島の基地を建設中に、その航路上にあったクイーン・シャーロット諸島を集積地にしていたらしく、そこで補給をするとの事だった。

 

「そうですよね......。分かりました。この赤城、提督がお乗りになるからには、損傷する訳にはいきません。無傷で帰還しましょう!」

 

「そう張り切るのもいいが、こっちの艦隊は殿だ。追撃されようものなら盾にならねばならん。」

 

「そうでした......。」

 

 そんな話をしながら俺は赤城の艦橋に入った。

ちなみに何日も海の上なので、着替えを持ち込んでいる。食料は常備されているらしい。というか、鎮守府近海以外に出撃するなら確実に必要だからという理由で、艤装内の食堂が稼働するらしい。出撃中はそこでご飯だと赤城は言っていた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

「艦隊に通達して下さい。抜錨。繰り返す、抜錨。これより機動部隊はアルフォンシーノに向かいます。」

 

 赤城がそう通信妖精に言うと、艦内でベルが鳴り、金属の擦る音がし始める。

巻き終わったのを確認すると次の指示を出した。

 

「全艦、前進最微速。」

 

『全艦、前進最微速っー!』

 

 妖精が赤城の指示を復唱し、機関室に指示を送る。そして動き出した。

外に目をやると、埠頭には全艦娘、非番の門兵、酒保の従業員が並び、手を振っていた。少し耳を澄ませば、叫び声が聞こえる。

 

『いってらっしゃーい!!』

 

『御無事でー!!』

 

『提督ぅ――!!』

 

『行かないでー!!』

 

 十人十色の叫び声が聞こえるが、御無事ではフラグだ。そんなフラグ、回収したくない。そしてまた門兵と酒保の従業員が居る。知らせた艦娘を探しだして折檻だな。そう心に決めた。

 ふと並んでいる艦娘に目をやると、数人と言わずに大半が涙を流している。

 

「出征する息子じゃねぇし......。」

 

 そうひとりで呟いた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 船の中に居るのも最初は落ち着かなかった。忙しないという程でもないが、妖精が走り回っている。艦橋では観測員からの報告や機関室の調子、格納庫で整備中の艦載機の状況、各所の防衛火器の調子などが逐一報告されている。それを全て赤城は訊き、指示を出していた。

だがそんな情景を眺めていても落ち着いてくる。大型艦という事もあり、余り揺れない船内で俺は座りながら船を漕いでいた。船の中で船を漕ぐってのも変な状況だが、寝てしまうのは良くない。そう思い、気合を入れて目を見開く。そして衣類と一緒に持ち込んだ、ミントのタブレットを口に放り込み噛み砕くと鼻から一気に空気を吸い込んだ。

最近見つけた眠気解消法だ。簡単に言えば鼻から空気を吸い込むことで一気に冷たい空気を食道、気管、肺に入り、身体がそれに驚くのだ。何だか身体に悪そうだが、そんな事、こうもミントタブレットを食べていると考えなくなるものだ。

そんな俺に赤城は声を掛けてきた。

 

「提督。」

 

「ん?」

 

「艦橋に居てもあれですから、外で潮風にでもあたってみてはどうですか?埠頭に居る時とはまた別に感じますよ。」

 

「そうか......なら行ってこようかな。」

 

 赤城はどうやら俺の方にも意識を飛ばしてくれていたみたいだ。立ち上がると、俺は艦橋から出て、飛行甲板艦橋横に出た。

そこには何故か黒板があり、艦載機妖精たちが集まっていた。

 

「提督。潮風にでも当たりに?」

 

 最初に俺に話しかけてきたのは赤城零戦隊1番機の妖精だ。いつぞや、話をした妖精だ。その妖精が話しかけてくるとわらわらと妖精たちが俺の周りに集まってきた。

 

「あぁ。初めてだからな、同乗して出撃だなんて。」

 

 そう俺が妖精と目線を合わせる為に座り込むと妖精たちも座った。

 

「私たちも提督の同乗には反対だったんですけどね......。空母は艦隊で重要な役割を持ってますから、一番狙われるんです。もし艦橋に被弾しようものなら私たち、帰還したとしてもその場で零戦を降りますよ。」

 

「そんな事、分かっている。だがあちらの要請は空母機動部隊での参加だ。長門に乗ればよかったとでも?」

 

「そうは言ってませんよ。私たちなら赤城に艦載機を近づけさせませんし......」

 

「攻撃隊が砲撃させる間もなく、戦艦や重巡は沈めますっ!」

 

 胡坐をかきながらそんな事を話す。俺は思い出した。赤城の航空隊はとても練度が高い。制空戦闘もこちらは零戦52型でも加賀の烈風隊に優勢を取る。そして、攻撃隊も敏腕だ。

流星隊の魚雷は命中率が横須賀鎮守府随一で、彗星隊の急降下爆撃もフェルトのスツーカを抜けば降下角度は一番急だ。しかもエアブレーキは使わないらしい。何でも『速度調整をして空中分解を防ぐためのエアブレーキを使ってわざわざ速度を落とすわけにはいかない。限界速度ギリギリまで出してから縦ロールで失速させる。』とか無茶を言っていた。

 確かに限界速度を出さなければ空中分解はしないが、機体が耐えられる以上にGは掛かるはずなのだ。一体、どうしているのだろう。

 

「色々逸脱しているからな......赤城航空隊は......。」

 

「「「そりゃ、勿論!」」」

 

 艦載機妖精たちは声を合わせて言う。本当に色々とおかしいのがウチの赤城航空隊なのだ。

 

「そういえば提督。何故今回の出撃に零戦52型と烈風を起用したんですか?私たち戦闘機隊は艦戦なら全て乗りこなせますが......。」

 

 言われるだろうなとは思っていた質問だった。

 

「今回の作戦には端島鎮守府からも来ている。こっちが雷電改やらを使えばあっちが欲しがるに決まっている。」

 

「ですが......。」

 

 そう食い下がってくるのも無理はないだろう。赤城航空隊の特徴は逸脱した腕ともうひとつ、特徴があるのだ。それは、赤城航空隊は発艦後は上昇して一度、雲の上に行くのだ。つまり、高高度からの奇襲をするという事。低空戦闘に向いた零戦でもその戦法を取る航空隊だ。

 

「俺は端島鎮守府にこっちの航空隊の練度を見てもらうつもりでもある。端島鎮守府は俺たちの歩いた道を歩いているだけだ。それがもし、『へっへ~、俺たちだってやれるんだぜぇ~。そっちの艦隊よりも強いらぁ~!』とか言われたら腹が立つだろう?だから見せつけてやるんだ。赤城航空隊の胴の赤帯は有名だからな。」

 

 そう俺が言うと、集まっていた艦載機妖精たちは目をギラリと輝かせた。

 

「私たちは零戦が一番長いですから、格闘戦には自信があります。見せつけるならアクロバティックなのがいいですよね?」

 

「今回もエアブレーキ無しで急降下爆撃ですね!」

 

「魚雷投下したら格闘戦に入りますか.......。」

 

 妖精たちはそう宣言した。最後の、流星隊。確かに格闘戦は出来るが、流星は翼面積が広い上に大型機だ。被弾すれば着火するのも確実だ。無理をしないで欲しい。

 

「無理をしない程度に。撃墜、撃破数は赤城航空隊で取ってくれ。」

 

「「「了解っ!」」」

 

「さて、俺はそろそろ艦橋に戻る。そういえばどうして妖精たちはここに居たんだ?」

 

 俺は立ち上がるとそう妖精に尋ねた。そうすると声を合わせて答える。

 

「「「お腹が減ったので今日のお昼の予想を。」」」

 

 俺は少し滑りかけたが、持ち直しポケットに手を入れた。丁度持ってきていたものがあったのだ。

 

「腹が減ってるならこれを食べると良い。金平糖だ。」

 

 そう言って俺は袋を1つ妖精に渡した。と言ってもその袋、妖精4人分くらいある。渡そうと下ろした時、周りの妖精たちもそれを囲んで、受け取ってくれた。

 

「ありがとうございます。甘いものは好きなんですよ!」

 

「そりゃ良かった。ほどほどにしておけよ。」

 

 そう言って俺は艦橋に戻った。

ちなみにこの後、お昼の時に妖精たちはどうやらいつもより食べれなかったみたいだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 夜も深まり、艦橋から見える景色は黒一色になってしまった。

先頭を長門、中央に赤城と加賀、後方に高雄。そして両脇、長門と赤城、加賀の間付近の外側に島風と雪風が並んで航行している。ここからは長門の第二艦橋の光が少し見えるだけで後は月明りと星しか見えなかった。

 そんな真っ暗な水面を眺めながら俺はぼーっとしている。何故ならこの時刻、午前0時前後は俺が寝る時間だ。だが今は出撃をしていて、寝る訳にもいかない。航行しているのは安全の確保された日本近海と北方海域の辺り。数時間前は少し暖かかったのに、すごく冷え込み、今は上着を羽織っている。

 俺がそうやって目を開いていると赤城が俺に声を掛けた。

 

「提督、寝た方がよろしいのでは?」

 

「いいや、寝る訳にはいかない。幾ら安全海域とはいえ、危険だ。」

 

「そうは言いますが、今はもう当直しか起きてませんし......なにより提督のお体に障りますよ?」

 

 そういう押し問答をすること5分。結局俺は折れた。決め手は赤城の艤装には1600人ほどの妖精がいるらしいが、今寝ているのはその3/5。艤装の維持に必要な最低人数しか起きてないらしく、赤城航空隊は全員寝ているらしい。

それを訊いて俺は折れたのだ。

 

「これから艦長室に案内します。そこでお休みになって下さい。私も寝ますから。」

 

「分かった。」

 

 そう言われて俺は赤城に付いて行くこと数分。どうやら艦長室に到着したみたいだ。ここはどのブロックか分からないが、気にしても仕方ない。そのうち覚えるだろうと、考えつつ赤城が扉を開いたので付いて入ろうするが突然廊下に押し出されてしまった。

 

「どうしたんだ、赤城?」

 

「いっ、いえっ!何でもないですよっ?!」

 

 明らかに赤城が慌てている。どういう訳だろうか。

そう思い、入ろうと試みるが赤城に通せんぼされてしまい、ドアノブに手が届かないでいた。

 

「ちょっと......寝るんじゃ、なかったのかっ?.......どうしてっ......通せんぼなんかっ!」

 

「忘れてましたっ!......ここに提督を入れる訳にはいきませんっ!!」

 

 そうやり続ける事数分。赤城が疲れを見せ始め、俺は隙を突いて扉を開いた。

そこは別に普通の部屋。艦長室というものだから机があると思ったが、机は無い。畳が敷かれ、布団が畳まれているだけだった。そしてその畳の上に何だか見覚えのあるモノが置かれている。

 

「あれって、俺の荷物?それにもうひとつのは......。」

 

 そうボソッと言うと赤城が顔を赤くして答えた。

 

「私の、です......。」

 

「は?」

 

「提督が乗艦する事は前から分かっていたのに、忘れてましたっ!!ここで提督に寝てもらうつもしでしたけど、よく考えたら私はいつもここに寝てたんですよっ!!」

 

 そう言い始めて赤城は顔を赤くして早口で色々と言い始める。

そんな光景を俺は無視して中に入った。中を見渡すと畳が敷かれてないところにはソファーも置かれていて、他にもちょこちょこモノが置いてあった。

 

「ここで2人とも寝ればいいんじゃないか?俺はソファーで寝るけど?」

 

「ダメですっ!寝違えてしまいますし、身体に悪いです!私がソファーで寝ますっ!」

 

「いんや、俺が寝る。俺だって結局、乗ってきたけどオマケみたいなものだし。赤城の艤装だから赤城の言う事を聞くし、それに女の子がソファーで寝るなんてはしたないだろう?」

 

 そう言うと赤城はモジモジしながら言った。この刹那、俺は嫌な予感がした。

 

「私の言う事を聞いてくれるんですか?......なら、私と......」

 

「ちょっと......」

 

 遮ろうとしたが時すでに遅し。

 

「私と布団で寝ましょうっ!あぁ、言っちゃいました......。」

 

 こうして俺と赤城は一緒に布団に入ったが、狭い。身体の大きい俺に女性成人サイズである赤城には布団は狭い。それに何だか入った布団の甘い匂いに頭がやられそうだった。くらくらとする。俺は背中を向けているが赤城はどうしてだろか、こっちを向いていた。普通、反対側を向くものだろうと内心思っているが赤城には分かるはずも無く、俺は背中に伝わる感覚を無視する努力をした。

そして赤城が寝てしまったら布団から出て畳の上で寝よう、そう心に決めたのだ。

だが上手くいく訳も無く、俺は赤城に捕まっている。

 

「赤城?赤城?」

 

「......(寝てます)」

 

「手を放して貰えないか?」

 

「......(寝てます)」

 

「おーい、赤城?赤城さーん?」

 

「......(寝てます)」

 

 結局赤城にホールドされたまま朝を迎えることになり、朝起きた赤城に『どうしたんですか?目の下にクマが出来てますけど?』と言われて何も言えなかった。

 




 
 立て続けに作戦の事をたらたらとやるつもりはないので、この作戦終了までの後半が大体が赤城の土壇場になります。今回のはまぁ......気にしないでください(白目)

 お知らせです!遂に、特別編『俺は金剛だ!』の新規独立作品が今日、公開されました!要チェックですよ!!

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百六十四話  『FF』作戦③

 

 鎮守府沖まで出てから少し北上したところで端島鎮守府派遣艦隊を待ち、"連合艦隊"として移動を初めてから一週間、二週間が経ったくらいでやっとアルフォンシーノ群島、要塞に着いた。

道中は全く接敵することなく平和な航海であると言えば、定期的な哨戒機の発着艦だけだ。それもウチの艦隊と端島の艦隊、それぞれで方向を分担してしていて、赤城曰く『普段の負担が半減です。』だそうだ。

 要塞は普通に要塞だと言われて想像出来るものではなかった。普通ならば煉瓦造りかコンクリート造りを想像するだろう。だが俺の目の前にある要塞は違う。

湾をそのまま要塞化したのは目に見えるが、海岸線に沿って土台はコンクリートで海面から5m上は全て迷彩柄の入った鋼鉄。所々穴が空いていて、砲門がせり出していた。高くなる程に傾斜が急になり、最終的には海面に水平になっていた。

つまり、ドーム型のようにも見える。

 俺は目を凝らしてその要塞を観察した。先ず目に入るのは迷彩柄。経験則からして、迷彩に意味を持たないが取りあえずやってみたみたいなノリだろう。その次にはせり出す砲門。

赤城の艦橋から見ているが、比べるものが無い為、大きさは分からないが、門数は分かる。俺が見える範囲で40門以上あった。

 

「要塞から通信は?」

 

「入ってます。『姿を確認した。現在地から迂回し、ドックに入って貰う。』だそうです。和訳されていたので読めましたが、どうしてでしょうか?」

 

 赤城は通信妖精から受け取ったメモを読み上げてそう言った。

赤城らには伝えてないが、今回の作戦の為にアメリカに派遣されていた外交官が通訳をしてくれることになっていた。たぶん先に到着していたのだろう。

 

「言ってなかったが、日本皇国政府の外交官が通訳をしてくれているんだ。たぶんもう要塞に居る。」

 

「そういう事でしたか。ですが、私はあの要塞のドックに入るのは反対です。」

 

 赤城はそう言って、艦内に指示を出した。

 

「両舷停止。」

 

『両舷停止ー!』

 

 艤装が揺れ、次第に速度が落ちて、遂に止まってしまった。周りの横須賀鎮守府派遣艦隊も同じく止まった。それにつられてか、端島鎮守府派遣艦隊もこっちが止まったところから少し離れたところに止まった。

 

「訳は分かるが......。」

 

「絶対に嫌ですよ。鎮守府に工作員を放つような国のドックなんて......。」

 

 そう言って赤城はそっぽ向いてしまった。俺は通信妖精に言って、他の艦娘にも尋ねてみたが結果は同じ。赤城と同じ回答をした。

何故、そこまで嫌がるかは俺は痛いほど分かる。突然押しかけて来て、勝手に上陸し、工作員を放った。そして鎮守府敷地内で銃撃戦を繰り広げたのだ。無理もないどころか俺も内心とても嫌だった。もし、また工作員を使うというのなら、今回こそ、艤装に入られてしまうからだ。門兵だって連れてきてない。妖精は多分艦内に入られたら手も足も出せないだろう。

 

「端島鎮守府派遣艦隊から入電。『要塞からドックへ入る指示が出ている。両舷前進微速で前進されたし。』」

 

 通信妖精がそう俺と赤城に伝えてきた。どうやら彼方は抵抗が無いらしい。

 

「ドックには入りませんからね。」

 

 そう言い張りへそを曲げた赤城に俺は妥協案を出した。

 

「ならドック手前、多分あの様子だとドック侵入には開閉扉があるはずだ。その脇に停泊するのはどうだろうか。」

 

「うーん......分かりました。ですが、岸から艦は200m離しますよ?」

 

「それでいい。」

 

 俺はそう言って通信妖精に返事を送るように伝えた。

 

「端島鎮守府派遣艦隊提督宛てに『ドックへ入らない。開閉扉手前、岸から200mで投錨する。先方へは哨戒機を飛ばすためと伝える。』だ。」

 

「了解しました。」

 

 通信妖精はそう言って通信を入れに行った。

赤城もそうだが、やはりあの工作員の事件は記憶に新しい。妖精たちの表情を見ていてもそれは分かるのだ。妖精たちもドックに入るのは嫌だったみたいだ。

 

「端島鎮守府派遣艦隊から入電。『了解した。我が艦隊は貴艦隊の反対方向に停泊する。』要塞より入電。『了解した。』」

 

「ありがとう。」

 

 どうやら端島鎮守府派遣艦隊も付き合ってくれるみたいだった。それに要塞も中々話の分かる人が司令官みたいだ。

これでドックに入れと強制されたら、何があるか分かったモンじゃない。

 通信を訊いた赤城は艦内に指示を出す。

 

「両舷前進微速。要塞の脇、開閉扉付近に停泊します。」

 

『両舷前進びそーく!』

 

 再び赤城の艤装は動き出し、艦隊全体が動き出した。要塞の脇に艦首を向け、じわじわと接近していく。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は要塞から入電があるまで艦内待機を命じていた。更にここに投錨する前に艦隊を単縦陣に変え、右舷の対空砲や機関銃座に警戒態勢を取らせている。勿論、左舷もだが右舷程警戒はさせていない。これはもし、誰かが無断で乗り込んできた時、威嚇射撃、攻撃を行うための準備だ。

 

「これから共闘するというのに何だか不思議な感じですね。」

 

「仕方ないだろう。工作員を放った前科がある。」

 

 赤城は要塞を見上げながらそう言った。

彼らの前科。話によればウェールズの独断だという事になっているが、真意は分からない。大統領が嘘を言った可能性だって否定出来ないのだ。更にあれから大本営を通してこっちにある報告書のコピーを受け取っていた。それはアメリカとのファーストコンタクト。つまり端島鎮守府の護衛艦隊と共に海を渡った外交官 天見とアメリカ大統領の初接触だ。

要約すると、日本皇国とアメリカの相互の存在確認を取った後、どうやらアメリカは工作員を端島鎮守府の艦隊に放っていたらしい。結果として上がられる前に制圧(察知され、即刻退艦を要求された)されたとの事。

 

「あちらの提示した合同作戦に私たちが手を貸すのも少々癪ですが、提督の決めたことです。前回は門兵さんが全てやって下さったみたいですが、今回は私たちがやらなければなりませんね。」

 

「あぁ。俺もなるべくならやり合いたくはないが、大統領が理解のある人ならいいんだがな。」

 

 そんな話をしていると通信妖精が話しかけてきた。

 

「要塞から入電!『哨戒感謝する。当方の米機動部隊は今夜到着する。作戦決行は翌日。』」

 

 どうやら聞き分けの良いというか、こちらが警戒しているのは丸わかりなんだろう。無理もない。あの事件の後、外交官がわざわざ日本に来たくらいだ。民間人にはまだしも、国防総省内部では騒ぎになっただろう。

 要塞からの入電には赤城が回答を出した。

 

「『了解。』と返事を出しておいてください。」

 

「了解しました。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は艦橋から出て、艦尾の内火艇脇に座り込んで要塞を見上げていると、赤城が来た。

赤城は俺の横に座り、話しかけてくる。

 

「大きいですね。」

 

「そうだな。流石はアメリカと言ったところだろう。」

 

 顔も見ずにそう俺は答える。

 

「深海棲艦との戦争で損耗しないんでしょうか?日本皇国も艦娘発現直前はとてつもない程衰退していたと言いますが。」

 

「アメリカは自給自足が出来る国って言われてるからな。五大湖付近とサンベルト周辺、アラスカ......資源が大量に出る。それに食料も適地適作をしているから国土が減っていなければちゃんと機能しているはずだ。」

 

「そうなんですね。日本は資源は今のところ対外的なものばかりですからね。採れると言っても銀、銅、すず、石炭、質の悪い石油だけですからね。」

 

「あぁ。」

 

 赤城と話しながらだが、俺はこの要塞のある事に気付いた。

要塞と言うなれば、ただの分厚い壁だけでは仕方がない。そのためにこの要塞の外壁には砲がせり出している。その砲の事で気付いた事があるのだ。

 

「ありゃ駄目だな。」

 

「急にどうしたんですか?」

 

「赤城は外壁にポツポツとある砲が見えるか?」

 

「......はい。」

 

 俺は目を凝らして観察する。さっき見て駄目だと思ったが本当は違うかもしれない、そんな期待も込めてもう一度見るがやはり駄目だ。

 

「あれは日本皇国にもある203mm榴弾砲だな。」

 

「榴弾砲......深海棲艦には駆逐艦級以外効果はありませんね。」

 

「全くだ。」

 

 そう言いつつ俺は内心で要塞上部にミサイル発射基地やらサイロやらがあるんだろうなと考えた。

だがミサイルなんてよほどじゃない限り通用しない。それはこれまで戦ってきて証明してきただろう。だから多分、何もせずにただ攻撃を受けるより意味が無くても攻撃をしなければならないという事だと考えた。

 

「亀みたいですね。」

 

「どういう意味だ?」

 

 赤城は突然、そんな事を言い出した。

 

「攻撃ができる訳では無く、ただ攻撃を凌ぐだけの要塞。そんなの亀以外の何物でもないですね。」

 

「そうかもしれないな。」

 

 そう話していると突然、妖精に話しかけられた。

 

「お2人のお身体に触ってはいけませんので、ここに居るのならせめてこれを。」

 

 妖精が5人で来て、4人がお盆を持っている。お盆の上には味噌汁だろう。2つ置かれていて、箸も2膳あった。

つまり身体を冷やさない様に温かいものを気を利かせて持ってきてくれたという事みたいだ。

 

「これは内火艇妖精さん、ありがとうございます。」

 

「いいえ、当然のことをしたまでですよ。では、私たちはこれで。」

 

 そう言って妖精たちは中に戻ってしまった。

 妖精たちが持ってきた味噌汁は白味噌。甘めの味噌汁だろう。中には多分だが、里芋とごぼう、ニンジンが入っている。

 

「温かいですね......。」

 

「そうだな......。」

 

 味噌汁を飲みながら俺と赤城は要塞の話や、作戦の話を止めて違う話をした。

赤城は割と俺の話を知っているところが多いので、普段しない様な話をする。赤城が興味を示したのは何故か俺の両親。何故両親なのだろうか。

それ以外には学校の話、俺がどうして艦載機等の話ができるのか、番犬艦隊の話。番犬艦隊の話は赤城が指示を出しているので、結構真剣に聞いていた。といっても特段何がある訳という訳でもないのでただの何をしていたかという話だけだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 少しすると妖精から呼び出され、要塞から入電があったという事を聞いた。

 

『日本皇国海軍横須賀鎮守府派遣艦隊並びに端島鎮守府派遣艦隊へ。私はこの要塞の指揮をしているアンガス・ホーキンズだ。貴艦隊の来航を心より歓迎する。当方の機動部隊は今日深夜の予定だ。出撃は当方軍司令部より明日明朝を予定している。それまで、羽根を休めていると良い。』

 

 日本語での入電だったが、どうやら日本語を話せる人間がいるみたいだ。

 

「返信。『心遣い感謝する。』で送ってくれ。」

 

「了解。」

 

 艦橋でそう指示を出すと俺は時計を見た。

時間にして午後1時前。そろそろ昼の時間だろう。そう思い、俺は立ち上がった。

 

「さぁーて、飯だ。何処で食う?」

 

 そう俺が訊くと艦橋にいる妖精たちは答える。

 

「「「士官食堂!」」」

 

「だよなー。」

 

 こうして俺と赤城、艦橋に最低人数の妖精を残して士官食堂に向かった。

何でも赤城曰く『妖精さんは小さいですから士官食堂で間に合うんですよね。人間サイズの私と提督で2席使いますけどまだまだ席はありますから。』という事だ。初日に士官食堂に入ってそれは理解できた。確かに俺たちが座ってても妖精たちが入るには十分だったのだ。だから赤城もそうだが他の艤装でも皆、こうしているらしい。

 





 今回の分を削除してしまう失態......。急遽、今日に回しました(汗)
削除してしまったものと投稿したものとでは内容がかなり違いますが、物語の進行上、どうでもいいのでそのまま投稿します。
 『FF』作戦が続く限り、提督との絡みのほとんどは赤城になると思います。というかそれ以外ないです。
その他の艦娘の視点をちょくちょく入れるつもりですが、気分で入れますので主要メンバーしか出ないです。ご了承ください。

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第百六十五話  『FF』作戦④

 

 早朝。まだ日も出ていない時間に、艦内は静けさと共に緊張感に包まれていた。

うっすらと目を凝らせば見えるところに大きな影があり、音も立てずに浮いている。

 

「......入電あるまで待機。」

 

 俺はそう言って通信妖精に待機を命じ、目の前に浮かぶ影に目を凝らした。

 

「入電。『こちらジョン・F・ケネディ。応答されたし。繰り返す。こちらジョン・F・ケネディ。応答されたし。』」

 

「応答。こちら日本皇国海軍横須賀鎮守府派遣艦隊旗艦 赤城。特殊陣形最後尾にて殿を務める。」

 

「了解。」

 

 どうやら目の前の影はやはり米機動部隊だったみたいだ。

通信妖精が返答をする間、赤城は指示を出していた。

 

「抜錨。」

 

『抜錨ー!抜錨―!』

 

 伝声管だったものから声が聞こえてくる。今はスピーカーが入っていて、すぐ横に受話器が掛かっている。

艤装から鉄を擦る様な音と共に、何かを巻く音が響く。錨を巻き上げているんだろう。

 米機動部隊との連携は日の出と共に開始という事になっている。つまり、陽が上がる前に端島鎮守府派遣艦隊は艦隊先頭に出て来て、その後ろに米機動部隊が付く。そして最後尾に俺たち横須賀鎮守府派遣艦隊が付くのだ。

 

「輪形陣で背後に付く。艦隊に連絡。」

 

「了解。」

 

 通信妖精は慌ただしく艦隊に連絡を入れた。この編成で輪形陣の場合、中心に空母2でその先頭と最後尾に駆逐艦、空母の両脇に戦艦や巡洋艦が並ぶ。今回は典型的な艦隊編成なので、そのままになるだろう。

 陽が上り、明るくなった頃に俺たちの視界に飛び込んできたのは巨大な空母に護衛が何隻も付いた米機動部隊だった。

だがあの艦隊で倒せる深海棲艦はせいぜい駆逐艦級が1隻のみ。そう考えるとただ図体のデカいだけで動けない石像のように思えた。

 

「全艦前進微速。」

 

『全艦前進びそーく!』

 

 赤城が頃合いを見図り、指示を出す。

遂に日米合同『FF』作戦が始まったのだ。だが主に戦うのは日本皇国海軍派遣艦隊なのだがな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 アラスカまでの道のりは端島鎮守府が制圧していたので接敵する事は無かった。ここまで徹底した制圧をしたのかと思うと感心するが、逆にどうして制圧できたのかと疑問が浮上してくる。

艦これにおいて制圧の2文字は無いのだ。

 

「提督。クイーン・シャーロット群島を通過しました。」

 

「そうみたいだな。」

 

 艦隊が面舵を切る指示を出していたのでそれは分かっていた。要塞からクイーン・シャーロット群島までは一直線なので、舵を切る事は無かったからだ。それは海図(※提督は何となくて読んでます)を見て一目瞭然だった。

 

「戦闘用意。全艦に通達して下さい。」

 

『全艦、戦闘よーい!』

 

 突然、赤城はそう指示を出した。どういう意図というのは何となく分かる。端島鎮守府が制圧していたのはアラスカまでの道のりだけだ。だからアメリカはアルフォンシーノ群島に要塞を築けた。だからクイーン・シャーロット群島から面舵を切ったところからは戦闘用意なのだろう。深海棲艦が出てくる予想があるからだ。

 

「提督、私たち艦娘の戦い。見てて下さいね。」

 

「あぁ。」

 

 そう言った赤城はとても凛々しく見えた。普段の鎮守府での赤城はどこに行ったのか分からない。多分皆から信頼されてるのはこういう面があるからだろう。しっかりする場面ではしっかりとし、抜くべきところではしっかりと抜く。そういう状況に合わせた行動ができるからだろう。だがそれだけではあそこまで信頼されるとは思わない。俺が知らないだけで赤城には他にも他人に信頼されるような何かがあるんだろうなと感じた。

 赤城が戦闘用意の指示を出してから派遣艦隊でもどうやら戦闘用意が掛かったみたいだ。加賀の飛行甲板を見ると、後部エレベーターから流星隊が出てきている。中央エレベーターからも続々と烈風隊が出てきているのだ。

加賀の飛行甲板を見てから赤城の飛行甲板を見ると、赤城も同じように甲板に艦載機が上がってきていた。発動機を温めるためなのは自明の理だが、他にも温まった艦載機は偵察に出すのだろう。赤城への観測妖精の報告ではどうやら端島鎮守府派遣艦隊からはもう既に偵察が出ているみたいだった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 長門も赤城も居ない鎮守府は代理が立てられています。提督が出撃前に残していったやることリストを消化する為に艦娘たちは動き出しました。

 

「という訳で食堂にお集まりの皆さん。代表指揮は霧島と熊野さん、吹雪さんで執ります。提督が帰ってくるまでにこのリストを消化しましょう!!!」

 

「「「おぉーー!!!」」」

 

 艦娘たちの気合も十分です。指揮はさっき私が言った通りですが、総指揮は私、霧島が担当する事になってます。これも信頼なんでしょうか?やることリストには提督の指揮の指名があったので。

 

「先ずひとつ目!」

 

「「「おぉ?!」」」

 

 皆さんのテンションも高いです。多分ですが、提督の直接の指揮で何かをする事しかしたことが無いからですね。今回は私たち、艦娘が独自に判断して提督が置いて行ったやることリストを消化する訳ですから、気合の入り方も違うでしょう。

 

「えぇーと......『以下の編成で演習を繰り返す事。旗艦:金剛お姉様、比叡お姉様、榛名、私、蒼龍さん、飛龍さん。』です!これは毎日10回行う演習の事ですね。ちなみに空母のお2人は揃って艦載機は零戦52型、彗星一二型甲、流星改を運用するようにとの事です。今から出来る事を全て伝えた後、以下の艦娘はすぐに演習に行きましょう!」

 

 見たところ提督は金剛お姉様のレベリングを始めるみたいですね。先日、大井さんの第二次改装が終わりましたからでしょう。ですが私個人の意見では巡洋艦の育成をさらに進めないといけない気がするんですけどね。

 

「次は......。」

 

 私は受け取っていたリストを見ますが、それ以降がありません。どういう事でしょうか?ですがここで嘘を言っても仕方ないので皆に伝えます。

 

「無いですね。」

 

 そう私が言うと、皆さん見事に滑りました。これも恒例ですよね。提督がここぞという時に言いますけど、多分場を和ませるためでしょうね。大体使っていた場面が真面目な話をしていた時や、暗くなる様な話をしていた時の後でしたからね。

 

「無いんデスカっ?!霧島ぁっ!!」

 

「はい。ありませんよ。」

 

 どうやら皆さん、面を喰らったというか物足りないと言いたそうにしてますね。

無論、私も物足りないです。

 

「霧島さん。ひとつよろしくて?」

 

「はい。」

 

「提督がご帰還なさる予定は何時頃ですかしら?」

 

「分かりません。」

 

 そう言うと熊野さんは少し考えた後、私に耳打ちをしました。

 

「ならその期間中は私たちで自主的に出来る事をしましょう。例えば......。」

 

「「「「「「例えば?」」」」」」

 

 皆、熊野の発言に耳を傾けました。

 

「思いつかないですわ。」

 

 本日2回目です。皆さん滑りました。

 

「取りあえずは金剛お姉様旗艦で演習をしてきましょうか。では、一度解散しましょう。」

 

 私はそう皆さんに指示を出しました。

素直に聞いてくれるのはいいことですね。これも古参のネームバリューでしょうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 金剛お姉様の練度は今、71です。姉妹の中では最後発ですが今は一番練度が高いです。理由はいくつか噂されていますが、私が提督から訊いたものは『金剛が何かしている時期に積極的に金剛を出撃させていた。』からです。これが一番正しいですね。

それによって一番練度が高くなったという事です。ちなみに私は練度69。姉妹の中では一番小さいです。理由は金剛お姉様の理由の逆です。私は提督に言われて内偵やらをしていたという理由ですね。

 

『全艦一斉射っ!ファイヤー!!』

 

 金剛お姉様はこういう指揮の執り方をします。常に無線はつけたまま、リアルタイムで指示を出してくださいます。この指示方法はかなり確実で、指示の修正や連携がとても素早くスムーズに行う事が出来る利点がありますね。ですので、金剛お姉様が旗艦の時は、随伴は全員耳に受話器を当てながら戦闘をしてます。

 

『陣形変換っ!複縦陣に。そして蒼龍たちは攻撃隊発艦ネー!』

 

『『了解っ!』』

 

 ですので進路変更や指示が絶対途切れる事は無いんです。

 

『榛名ーっ!前方の重巡に弾着観測射撃いけマスカ?』

 

『はいっ!偵察機は健在ですのでいけますっ!』

 

『比叡っ!!陣形を保って下サーイ!』

 

『分かりましたっ!!』 

 

 金剛お姉様の勇ましい指揮には皆さん、信頼しています。金剛型は勿論、正規空母の皆さんや雪風さんや島風さんもです。古参組もかなり信頼してますね。

これまであった金剛お姉様の事が無かったかの様に、皆さん金剛お姉様を慕います。それはきっと、提督が私たちのあの行動を止めて下さったからでしょうね。それまでは金剛お姉様は怖がられてましたから、それが抜けた今では皆さんのお姉さんみたいな存在なんでしょう。そんな存在、長門さんや赤城さん、扶桑姉妹もそうなのでもうよく分からない事になってますけどね。

 

「残り、空母だけです!」

 

『トドメは霧島、お願いネー!』

 

「任せて下さいっ!」

 

 妖精さんに指示を出します。主砲に徹甲弾を装填し、弾着観測射撃で確実に直撃させます。

 

「てぇー!!」

 

 爆音に衝撃が身体を揺らし、弾着を知らせる連絡を待ちます。

 

『観測妖精より艦橋。空母脇腹、艦橋に直撃!』

 

 どうやらトドメは刺せたみたいです。

弾着観測射撃様様ですね。

 

『ハーイ!皆サーン!帰投するネー!』

 

『『『『『「はい!」』』』』』

 

 こういう演習をもう何回もやりました。今日の演習はこれにて終わりです。

ちなみに全てA勝利以上です。流石ですね。潜水艦の艦娘が出てきた時は潜水艦以外は全滅させますし、それ以外でも絶対に全艦行動不能にさせますから、私たちに敵なしです。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 演習が終わり、艤装を補給させてから戻ってみると皆さんはまだ食堂にいらっしゃいました。

どうやら私たちが演習に出かけてからもずっとここにいたみたいです。

 

「おかえりなさい。どうでした?」

 

 熊野さんはそう私に尋ねてきました。言わなくても結果は分かっているでしょうに。

 

「全て勝利です。当たり前ですよ。」

 

「ですわね。」

 

 そう言った熊野さんは私にメモを渡してきました。

 

「霧島さんたちが演習に行っている間、意見を出し合って決めましたわ。これだけやれることがあります。」

 

 私はメモに目を落とします。

鎮守府内の掃除、戦術勉強会、体力作り......。

 

「成る程......。確かにやれそうですね。特に戦術勉強会は自主的に勉強している艦娘もいますからその艦娘主導に艦種ごとに集まって戦術指南書を使って勉強会ですね。そして体力作りは?」

 

「体力作りはですね......私たちは艤装が無ければひ弱ですよね?」

 

「確かに......。」

 

「ですから体力を作って艤装無しでも最低限、戦えるようにするんですわ。」

 

 そう言うと熊野さんは小さい声で言いました。

 

「これも全て提督の為ですわ。」

 

 私は黙って頷きました。否定する理由なんてありませんから。

これで決まった私たちの提督が帰ってくるまでやる事は決まりました。金剛お姉様のレベリングに鎮守府内の掃除、戦術勉強会、体力作り。どれも楽しみです。

今までやってこなかった事ですからね。

 





 今回から提督の不在の鎮守府の様子も出して行こうと思います。
と言っても、今回ので何やるかは大体分かったでしょうけど。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百六十六話  『FF』作戦⑤

「端島鎮守府派遣艦隊より入電。『端島鎮守府派遣艦隊旗艦 翔鶴より全艦隊へ。深海棲艦の機動部隊発見。繰り返します。深海棲艦の機動部隊発見。』」

 

 その刹那、緊張感が極限まで上がった。

クイーン・シャーロット群島から面舵を切ってから初の戦闘だ。現在地はバンクーバー島沖。事前の情報でバンクーバー島には現在、人はいないらしい。全員内地に疎開しているとの事。もし島に砲撃が行ってもさして問題ないとの事だった。

 赤城艦内は慌ただしくも、落ち着いて妖精たちが伝令や指示を飛ばしているが一度外に目をやると呆れを通り越して笑える状況になっていた。遠目に見える米機動部隊。ここから見えるのは揚陸艦だが、その揚陸艦では甲板を完璧に焦っている水兵や、異常に大きなサイレンが鳴り響いていた。深海棲艦との交戦はそちらが提示してきたものだと言うのに、その慌て様は何なのだろうか。

 

「第一次攻撃隊、発艦して下さいっ!」

 

『第一攻撃隊、発艦。繰り返す。第一次攻撃隊、発艦。』

 

 赤城は伝令によって甲板上の攻撃隊の準備が整ったのを聞いたのか、そう指示を出した。そしてその指示は艦橋から出ていた妖精によって飛行甲板に伝えられる。その後は30秒後には1機目がもう飛び立っている。それに続々と攻撃隊が続き、最後の攻撃隊が出て行く頃には最初に飛び立った攻撃隊はもう見えなくなっていた。

 端島鎮守府派遣艦隊旗艦の翔鶴から続々と補足位置などの続報が入る中、米機動部隊旗艦のジョン・F・ケネディからの入電も入っていた。

 

「米機動部隊より入電。『こちらジョン・F・ケネディ。深海棲艦の編成。空母2、重巡1、軽巡2、駆逐1。繰り返す。空母2、重巡1、軽巡2、駆逐1。』」

 

 前衛からの続報には無かった艦隊編成が伝えられた。先ほどジョン・F・ケネディから艦載機が発艦していったのが見えたので多分、その艦載機による偵察情報だろう。

 

「続いて米機動部隊より入電。『当方は貴艦隊の攻撃隊離脱を確認後、巡洋艦並びに駆逐艦によるトマホーク一斉射を行う。攻撃隊の攻撃後即時上空退避を進言する。』」

 

「提督っ?!」

 

「返信。『横須賀鎮守府派遣艦隊、了解。攻撃後に攻撃隊は即時上空へ退避。』」

 

 その指示を聞いていた通信妖精が加賀と飛び立っていた攻撃隊へ連絡を入れる。

続々と入る通信に通信妖精は赤城や俺に報告を繰り返しているが、どうやら焦ってはいない様だ。いつもこのようにしているのだろう。

 

「攻撃隊より入電。『我攻撃に成功せり。空母1は大破。重巡1、軽巡1は撃沈。上空へ退避する。』」

 

「赤城より米機動部隊へ。『攻撃隊の退避完了。』」

 

 赤城は通信妖精にそう指示をした数十秒後、前方を航行する米機動部隊両翼の巡洋艦、駆逐艦群から一斉に煙が上がり、ミサイルが射出された。トマホーク対艦ミサイルだろう。

トマホークは煙を上げて飛び上がり、刹那、消えてしまう。あまりにも速い速度で飛翔しているからだろう。

 

「砲戦距離に入ります。全艦へ砲撃戦用意。」

 

『砲撃戦よーい!砲撃戦よーい!敵機来襲に備えー!!』

 

 艦橋の緊張感が最高潮になり、遂に砲撃戦可能範囲に入った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 最初の砲撃戦では反航戦だった。すれ違う様に撃ち合い、離れた時点で砲撃戦を止める。途中、通信で損害報告が入っていた。

だがその報告は端島鎮守府のものは其処までだったのだが、米機動部隊の報告は一々重いのだ。

 

「米機動部隊より入電。『当方の右翼被害甚大。巡洋艦1隻大破炎上中。駆逐艦1隻轟沈。』」

 

 やはり現代艦は損傷を受けない前提だからだろう。確かに前方には火柱が見える。

 

「やはりか。」

 

「そうですね。現代艦には装甲が皆無ですから。」

 

 そんな事を呟くが、轟沈が出ているのだ。救助はしなくてもいいのだろうか。

 

「救助はどうするんだ?」

 

「救助は意味ありませんよ。炎上している巡洋艦も大破してますから生きてる人が居れば奇跡ですし、駆逐艦は轟沈報告ですが多分爆沈ですから。」

 

 赤城の言う通りだ。炎上している巡洋艦はその前に大破した筈なのだ。深海棲艦も多分ではあるが、赤城たちと同年代の設計に思えて仕方がない。こちらの艦隊が撃ち合いをして争うのだ。

それ相応の装甲を持っていると考えるのが自然なのだ。そして軍艦の建造ではその軍艦が積む砲に耐えれるくらいの装甲を使う。つまり、こちらの砲も耐えれる程度には作られているのだ。だから凌ぎ合いをする。そういう事なのだ。

 

「クソッ......。」

 

「この作戦、こうなる事は分かっていたんです。だから最初、彼方は米機動部隊を取り囲むような陣形を提案していたんです。」

 

 赤城はそう答える。

 

「ですが『イレギュラー』があったのでこちらの艦隊は半減し、米機動部隊は脇腹を見せる事になりました。」

 

 赤城の言う通りなのだ。『イレギュラー』が無ければ米機動部隊の脇腹は見せなくて済んだ筈だ。

赤城はそう淡々と答えるが、やはり赤城にとっては結局、救助をする意味がないという事だろう。それもそのはずだ。妖精は多分、要救助者の前に姿を見せない。そして人間は俺だけで艦娘である赤城。艦を指揮するのは赤城だから自ずと俺が手当をしなければならない。だが赤城は俺にやらせたくないんだろう。

 

「分かった。そもそも妖精は多分姿を見せないだろうから、俺がやることになるだろうから。」

 

「はい。ですから救助する気がないんです。」

 

 そう言って俺は水面を眺める。

凍りついていないが、多分浸かっていれば時期的に凍え死ぬだろう。寒い時期の出撃だから仕方のない事なのだろうか。

 

「戦闘に集中しましょう。幸い海岸線が近いですから、救助でも来ると思いますよ?」

 

 赤城はそう言って指揮に集中した。

 

ーーーーー

 

ーー

 

 

 そこからというもの、接敵した深海棲艦の機動部隊との戦闘は赤城と加賀による第二次攻撃隊によって殲滅されたので、再び警戒態勢に入った。

 交戦しながら南下していたので、どうやら結構進んでいたらしい。艦橋の中も寒くはあるが、我慢できる程度にまで温度は上がっていた。 

 落ち着いたからか、艦隊の詳細な被害報告が赤城に寄せられている。横須賀鎮守府派遣艦隊の被害は軽微。航空隊が損傷機ありというくらいだ。他の艦は無し。端島鎮守府派遣艦隊は右舷の駆逐艦が損傷を受けるも軽微ということらしい。一方で米機動部隊は航行不能が2、撃沈が3。米機動部隊の司令官曰く『これでも被害は抑えられた方だ。』との事だった。

 

「もうそろそろ夜になりますね。」

 

「そうだな。水面が夕焼けで綺麗だ。」

 

 そんな事を言いながら艦橋から外を眺めていた。

 

「米軍側の予想交戦回数って何回でしたか?」

 

「さっきので1回。回頭するまでにあと1回だ。それからは接敵しない予想。」

 

「分かりました。」

 

 そう言うと赤城は妖精たちに指示を出した。

 

「御夕飯にしましょう!最低人員を残して士官食堂に。」

 

 これももう恒例で、いつもの事のになっていた。士官食堂で妖精たちが集まって食事というのも中々面白いものだ。

いろんな話が訊ける。他の艦娘の艤装所属の妖精から訊いた話だとかかなり面白い。

出撃中に伝令が間違えて伝えて、反対方向に砲撃していたりだとか、甲板でご飯食べると言い出して皆で甲板で食べていたら深海棲艦と交戦になるとか。よく分からない面白い事を聞くことができるのだ。どうやらそういう事が赤城でもあったらしく、格納庫で妖精たちが寝ていたら急に取舵で皆が床を転がり、壁に激突する事があったと言っていた。

 士官食堂で食事を終えたら、最低人員を食事に向かわせてから当直が起きて、他は眠る。

 例外なく、俺と赤城は一緒に寝ているのだが、俺が布団から抜け出す事がバレたみたいでもうホールドされて眠っている。

もうここずっとそうなっていて、俺も慣れた。極力触れないようにしているので、俺の中では問題なしって事になっていた。

 ちなみに俺は赤城の艦内地図はだいぶ覚えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 鎮守府では残っている艦娘たちで提督が戻ってくるまでの決め事として、規律正しく生活することにしました。

先ずは朝起きて朝食を食べた後、鎮守府内の掃除をします。

これは班に分かれて、それぞれの箇所を掃除しますが、大掃除の時ほどでは無く、見える範囲でと決めています。ですので、廊下や部屋などの掃き掃除に窓の拭き掃除くらいです。

 

「掃除終わりました?」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 私たち霧島、熊野さん、吹雪さんは提督がお帰りになる時まで横須賀鎮守府の艦娘たちを仕切って何かを自主的にする事にしたんです。 

 この後は体力作りですね。幸い、提督が鎮守府内にグラウンドを作って下さったのでそのトラックを順番に走っています。勿論、恰好は普段着ている物ではなく、運動着です。以前、運動会が行われた際に配られたものですね。それ以降に進水した艦娘たちのも酒保で注文できますので皆さん持ってます。

体力作りは走るだけではなく、腹筋や腕立てスクワットもやり、最後には鬼ごっこやドロケイ、だるまさんが転んだなどをやってます。この自主的な行動を始めて4日くらい経ちましたが、ドロケイはかなり人気がありますね。私自身、結構楽しんでます。

 その後は休憩と昼食です。

 

「いただきますっ!!」

 

 運動した後のご飯はとても美味しいです。皆さんもそうみたいで、間宮さんも私たちに合わせて下さったみたいで結構濃い味のモノが出ます。

そしてご飯を食べた後は戦術勉強会です。資料室から戦術指南書を持ってきて会議室に集まり、それぞれの艦種や戦闘方法に合わせた戦術構想、議論、机上演習をします。ちなみに私は水上打撃部隊としての任務が多いですから、そういう類のところで勉強してますね。

ときより顔を見せてくれる夕立さんに話を訊いたりして皆さんの戦い方などを見直す時間になりました。

偶に寝てしまう艦娘もいますが、そういう艦娘はあまりに寝るようなら端で寝て貰ったりしますね。追い出すのも気が引けますから。

 戦術勉強会は3時間やりますが、休憩を挟みながらです。戦術勉強会は3時までやりますがその後は皆さん、自由に過ごしてます。私はというと、酒保に買い物に行ったり本を読んでます。まぁ、大体がそうなんですが。

 夕食後は早めにお風呂に入って、自由時間の続きですね。本を読んで過ごしたり、どこかに集まってお話してます。戦術勉強会の時間外でも勉強している艦娘も居ますので本部棟と艦娘寮は煌々と電気を付けてます。消灯時間までは電気をつけてますが、それまでに寝てしまう艦娘が多いので結構早いですね。私も例外に無く、早くに眠くなってしまいます。ちなみに演習は合間を縫ってやってます。

 こんな生活を今はしていますが、提督がお帰りになったら元に戻しますよ。

 




 今回も引き続き作戦視点と鎮守府視点を同時に投稿しました。よくよく考えてみると、いつ演習しているんだろうか?と思った方も多いと思いますが、合間にやっていると補完して下さい。無理やり最後の文に繋げましたが......。

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第百六十七話  『FF』作戦⑥

 バンクーバー島沖での戦闘で被害の出た米機動部隊は艦隊再編成を行っていた。大破艦で航行可能な戦闘艦は独自で艦隊を編成、離脱。損傷艦は航行不可能艦を曳航して数隻が艦隊離脱。1回の戦闘で米機動部隊は艦隊の半数を戦線離脱させたのだ。

それは当たり前のことだろう。現行艦は損傷を受けない前提の設計。少しの被弾は致命傷なのだ。

 

「一気に前が開けましたね。」

 

 赤城は離脱していった艦隊を見てそう言った。

多分、殿である俺たち横須賀鎮守府派遣艦隊の皆は同じことを思っているに違いない。こちらの派遣した艦隊よりも数隻か多く用意していたにも関わらず、今ではこちらよりも少数なのだ。

 

「そうだな。」

 

 俺は赤城の発言にそれだけしか答えれなかった。その理由はある。

損傷艦離脱の際、米機動部隊の司令官からの通信で酷く、頭にこびりついているのだ。

 

『我々は1回の戦闘で多くの艦と将兵を失いながら戦っている。だが貴国の艦隊は損傷軽微で報告では戦死者無しで我々が手こずる深海棲艦共をいとも簡単に全滅せしめた。我々が戦う理由、意味が見えなくなる。』

 

 と言っていた。ちなみに和訳されていたが、多分簡単にだろう。

 

「先程のことが気になりますか?」

 

 そんな俺に赤城は話しかけてきた。

 

「あぁ。」

 

 そう答えるが、俺は煙を上げながら離脱していく艦隊を見ながら内心、心を痛めている。

戦闘直後、米機動部隊の駆逐艦が損傷甚大で燃料に引火したのか爆沈したのだ。丁度その駆逐艦は乗組員が退艦している最中で、デッキにも乗組員が居て、赤くなった包帯を巻いている人や片腕が無い人は勿論、担架に積まれた人だって居た。

そんな人たちは懸命に退艦しているが、デッキには力尽きてその場で絶命している乗組員だって居た。

その刹那、駆逐艦は爆発。乗組員共にその言葉通り、消え去ったのだ。少し現行艦について興味を持った時に調べたことがあった。大体300人近くが乗っているらしい。それが爆発で一瞬で消えてしまったのだ。それも3隻。さっきの戦闘で約1000人は確実に戦死したのだ。さらに損傷艦からも戦死者が出ているはずだからもっと戦死している筈なのだ。

 現実というのは突きつけられた時、そのあまりの残酷さに苦しくなる。否、何も知らずに生きていた自分が恥ずかしくてたまらないのかもしれない。

日本皇国が確認していた中でアメリカが一番長いこと深海棲艦と戦争をしていたのだ。どれだけの期間戦争をしていたのかは知らないが、あの世界の警察と呼ばれていたアメリカの保有する軍艦が少ししか残らずに今回の作戦で参加した眠っていた軍艦がジョン・F・ケネディだけだと聞くと数字を考えるのも嫌になる。

それは日本も同じだろう。アメリカほどでは無いにしろ、あった護衛艦が全て轟沈しているのだ。一体、何人の自衛官と軍人が死んだのだろうか。

言葉にできない気持ちが俺の中を埋め尽くし、蝕んだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 特殊陣形の組み換えを終わらせてから俺は飛行甲板に居た。先の戦闘で敵機来襲は無かったので、戦闘で被弾したのは大体が砲撃戦だったのだ。

なぜ、敵機来襲が無かったのか。

それは、米機動部隊による対空迎撃によるものだった。

彼らはSPYレーダーを駆使して主砲を使い、確実に深海棲艦の艦載機を落としていたのだ。この日米艦隊を深海棲艦の艦載機が射程に入れる前にだ。その対空迎撃能力には皆、目を見張っていた。勿論、赤城もだ。

その御蔭で"ハエ"に集られることは無かったのだ。実は現代艦にはそういう特性があったと思わる。つまり、現行艦が轟沈する理由は深海棲艦による『砲撃』、『雷撃』が考えられる。さらに仮説として上げるならば『艦載機の飽和状態』だ。

今回はこちらの艦載機が制空戦を繰り広げたあとに抜かれてしまった艦載機の迎撃をしたので、全機撃墜が成し得たと考えている。もし、それが飽和状態だったならと考えれば『艦載機の飽和状態』も対空迎撃が効く現行艦の轟沈理由になり得るのだ。

 

「提督。どうされたんですか?」

 

 そんな考え事をしていた俺に話しかけてきたのは、高角砲の妖精だった。

 

「ちょっとな......。考えることがあって。」

 

「そうですか。」

 

 妖精はそう言って俺の肩によじ登って言った。

 

「よいしょっと......さっきの戦闘の事ですね?」

 

「あぁ......。」

 

「味方が助けられなかったとか?」

 

「それもある。」

 

 そう言うと妖精は話しだした。

 

「私達も助けたかったですよ。今はそうでもありませんでしたが、交戦海域はとても寒かったですから。海に落ちようものなら凍死しますから。」

 

 何も答えない俺に妖精は続けた。

 

「でも、赤城さんは指示を出しませんでした。そうですね?」

 

「あぁ。理由はわかってる。妖精たちは介抱のために姿を表さないだろうし、俺にやらせるつもりもないということだ。」

 

「はい。だから見過ごした。助けられる命も見過ごしたんです。」

 

 妖精は俺の肩で揺れながら続けた。

 

「日米合同作戦......こうなる事はみなさん分かっていました。ですがそれは頭の片隅だけ。本心は提督のことしか考えてません。『提督は無事に帰ってこれるのか。』、『米兵を乗せれば鎮守府で門兵さんと撃ちあったように、ここでも提督を撃つに決まってる。』、『わざわざ米軍と共闘する必要なんて無い。提督がわざわざ手を煩わせる理由は無い。』そんなことを考えてます。」

 

「......。」

 

「提督が強引に助けたいと仰るなら私たちはその指示にしたがって助けるように動きます。ですが、手は出しませんよ?私たちは米兵、アメリカに姿を見せる気は微塵も無いですからね。」

 

「......。」

 

 そう言って妖精は少し呼吸を整えると聞いてきた。

 

「それで、提督は何を考えていたんですか?」

 

「あぁ。米機動部隊の対空迎撃能力に関してだ。」

 

「そうですか。あれは私たちにはありませんからね。確実で、絶対。凄いです。」

 

「あぁ。だけど、現行艦は深海棲艦相手に何も通用しないと思っていたからな。少し面食らった。」

 

「確かにそうですね。」

 

「だからある仮説を立てた。」

 

「ぜひお聞かせください。」

 

「『現行艦が深海棲艦に対して攻撃力が無いわけでは無い。』という事だ。」

 

 俺はそう言って近くで作業していた妖精から薬莢を借りた。ちなみに出撃した攻撃隊の後部銃座の薬莢らしい。

それを俺は6つ甲板に置いて説明を始めた。

 

「薬莢を現行艦とする。」

 

「はい。」

 

「基本的に海の上だけでは無いが、戦闘というのは集団戦だ。そうすると、必ず陣形を組み、集団で行動することになる。」

 

 俺はそう言って薬莢を動かした。勿論、置き方は変えずに。

 

「集団行動というものは周りに歩調を合わせ、行動を合わせる。だから個々は身勝手なことは出来無いんだ。」

 

 同じように薬莢を動かして、その正面にまた6つの薬莢を置いた。

 

「そして深海棲艦と接敵する。そうなれば、艦隊を組んでいる訳だから連携して攻撃をする。ある艦は索敵、ある艦は砲撃、ある艦は対空迎撃をする。」

 

 俺はそう言うと妖精に訊いた。

 

「この後の結果はわかるか?」

 

「はい。現代艦は敗北、ですね?そりゃ装甲がないに同然ですから。」

 

「正解だ。連携をして攻撃していたのにも関わらず、この時は全艦撃沈したとする。」

 

 そう言って俺は現代艦として置いていた薬莢を拾った。

 

「敗因はこちらの装甲不足。砲の威力の弱さ。色々あるだろうな。これは日本皇国でも経験している事だ。だが、決定的に気づいてないことがある。分かるか?」

 

 俺はそう妖精に訊いた。

 

「分かりませんね......。装甲不足、砲の威力不足はわかりますが、他には無いような......。」

 

「答えはこうだ。」

 

 そう言って甲板に薬莢を置いた。ただし1つ。

 

「えっ?......単艦?」

 

「つまり『現代艦と考えない』という事だ。噛み砕けば『現代艦であるが現代艦と考えちゃダメなんだ。』」

 

「それは......ですが何故、単艦であるんですか?」

 

「史実は分かるか?」

 

「はい。なんとなくですが。」

 

「夕立、綾波と同じだ。」

 

 どうやら分からなかったようだ。

 

「夕立と綾波の共通点はなんだと思う?」

 

「......夜戦奇襲、ですね。」

 

「そうだ。どういう状況での夜戦奇襲だった?」

 

 そう聞くとようやく分かったようだ。

 

「単艦だと艦隊を組んでいないから、誰かに合わせることなく自由に動けるということですね!」

 

「あぁ。それに装甲厚は夕立や綾波より薄いだろうが、近い。だから艦隊戦を行うよりも現行艦は単艦でいた方が戦果は挙げられると仮説立てた。」

 

「なるほど......。」

 

「現行艦が損傷多く、すぐ撤退するのは例えば水雷戦隊で攻撃するのと同じだ。貧弱な砲、装甲。そんな中、連携して攻撃するとなれば損傷は甚大だ。」

 

 そう言って俺は薬莢を全て拾った。

 

「さて、戻るよ。付き合ってくれてありがとう。」

 

「いえ、こちらこそ。ありがとうございました。」

 

 そう言って俺は妖精を下ろすと、格納庫に寄ってから艦橋に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 艦橋では観測妖精からの報告や、通信妖精からの連絡があるが、戦闘時程では無いので忙し様子はなかった。勿論、赤城もだ。

 どうやら損傷した艦載機の報告を訊いているみたいだ。

 

「艦戦、零戦隊が全機帰還はいつもの事ですが、今回は少し被弾機が多いですね。」

 

「はい。今回は空母2杯。普段良く見る深海棲艦の機動部隊ですが、例に比べて多いですね。それに中には下手をすれば未帰還になっていた機も......。」

 

「えぇ。エレベーターがやられてましたから......。練度がものを言いますね。低練度であれば不時着でした。」

 

 そんな話を多分だが整備妖精と話している。

 

「攻撃隊はいつも通り、全機帰還。損傷は被弾ありですが零戦隊ほどではありません。飛行にも問題なしです。」

 

「えぇ。」

 

「今回の航空戦並びに攻撃には総勢368機の航空機投入ですが、損傷が普段の第一航空戦隊飛行隊200機よりも酷い上に戦果もほぼ同じです。」

 

「損傷はどうやら端島鎮守府派遣艦隊の五航戦の娘たちが大半を占めているみたいですね。」

 

「はい。こちらは流星改に彗星一二型甲、烈風が配備されていますがあちらは良くて天山です。」

 

「装備の更新が滞っているのでしょうか?」

 

「そう見て間違いないです。それに零戦隊、攻撃隊の報告によれば端島鎮守府派遣艦隊の戦闘機隊並びに攻撃隊の練度はいいという訳ではないみたいです。」

 

 そう真剣に赤城と整備妖精が話しているのを俺は黙って訊いている。

 

「こちらは彗星と流星があまりに余っているというのに......。」

 

「全くです。」

 

 頃合いだったのか、話を切り上げた整備妖精は報告で書いたのであろう紙を赤城に渡すと戻って行った。それと同時に赤城はこちらに気づく。

 

「提督。飛行甲板から戻ってらしたんですか?」

 

「あぁ。戻ってきたらさっきの会話が聞こえてな。聞いてしまった。」

 

「いえ、これは提督の耳にも入りますから問題無いですよ。」

 

 そう言って赤城はさっき整備妖精から受け取った紙を俺に見せてきた。

 

「航空戦の被害です。」

 

「あぁ。さっき聞いていた。端島鎮守府の空母がどうのだろう?」

 

「えぇ。報告を見て聞く限り、練度が足りないです。被撃墜数も多いですし、ここまで航空戦力が削られた状態で次の戦闘には端島鎮守府派遣艦隊は自艦隊の制空権確保で精一杯だと思います。」

 

「零戦隊が酷いな。しかも運用してるのは21型か。練度関係無しで被害を考えると運動性能か?」

 

「はい。52型よりも幾分か運動性能は悪いですね。それに機関砲も52型のほうがいいものを使ってます。」

 

 そう言って赤城は紙を仕舞った。どうやらさっきの会話中に全部読んでいたようだ。

 

「次の戦闘では私たち、横須賀鎮守府派遣艦隊が航空戦を支える事になります。もしかしたら未帰還機が出るかもしれませんね。」

 

 赤城はそう云うが、未帰還機というのはその言葉通りなのだろう。出撃したまま帰ってこない、という事だ。

 

「そういえば撃墜された艦載機ってどうなるんだ?」

 

「提督。提督は詳しいんじゃなかったんですか?」

 

 そう言うと赤城は答えた。

 

「撃墜されれば墜落、落ちてる最中に爆発が普通です。勿論、未帰還で処理されます。」

 

「だったら、搭乗妖精は......。」

 

 と聞いてみる。回答なんてあってないようなものだ。そう俺は思っていた。

 

「帰ってきますよ?」

 

 俺はそれを聞くと俺だけが艦橋で滑った。どうやら妖精たちは周知だったらしい。

 

「なんだそれ!」

 

「機体は投棄ですね。ですが妖精さんたちは戻ってきます。当たり前じゃないですか。」

 

 そう赤城はさも当然だと言いた気に言った。

 

「そうか。よくよく考えて見れば撃墜されたら練度はなくなるからな。」

 

「はい。だから補充はボーキサイトで済むんですよ。」

 

 心配していたが、どうやら思い違いだったようだ。心底安心したのだ。

 この後も赤城と色々と話をしたが、結局次の戦闘があるようなら攻撃隊はこちらが主力となって攻撃する。直掩もこちらだけが出す事になった。端島鎮守府派遣艦隊の戦闘機隊は艦隊上空に展開する事となった。

 




 今回は提督と赤城の方だけです。作戦は続行ですよ。
 それと端島鎮守府派遣艦隊の実情やらを少し話しました。そりゃ設立も横須賀より遅かったですし、レベリングをしてる鎮守府ですからね。そう考えると仕方のないことなのかもって考えられます。

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第百六十八話  『FF』作戦⑦

 

最初の接敵以来、哨戒機や米機動部隊の索敵には深海棲艦は掛からなかった。

現在はサンフランシスコ、ロサンゼルスを通過して順調に海岸線に沿って航行中。それまでの間に一度、サンフランシスコで凍結されていた軍港で補給があった。

その際、こちらの艦隊は先に補給させてもらったが、皆ピリピリとした雰囲気の中での補給作業だった。それは端島鎮守府派遣艦隊も同じだっただろう。彼らには前科があるからだ。

赤城も例外なく警戒態勢だった。高角砲や銃座は俯角ギリギリまで下げられていた。妖精はいるものの、補給しているあちらからは見えない。だが、銃口は見えるのだ。補給作業にあたっていた兵士たちも分かっていただろう。同胞がしでかした事によってこんな目に遭っている事は。いつ機銃掃射されてもおかしくないと知っている筈だった。

 補給は燃料だけでは無い。贅沢品、嗜好品も少しばかり積み込まれた。と言うよりこちらが許可した非武装の輸送機が空中投下したのだ。

中身はお菓子や酒、タバコ、雑誌。ちなみに雑誌は英語ができる者が居ないため、箱に戻され、酒は赤城が土産にすると言って食料庫に入れていた。タバコは誰も吸えないので雑誌と同じく箱に戻された。

何故そんなものが投下されたか。推測だが、ねぎらいみたいなものだろう。

 ちなみにいえば戦列を外れた損傷艦の補充は無かった。どうやらあれだけがアメリカが出せるだけの精一杯の戦力だったみたいだ。だが、どこかに軍艦は残しているだろう。全部出す程頭が弱いわけでは無いはずだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 哨戒には横須賀鎮守府派遣艦隊や端島鎮守府派遣艦隊だけでなく、米機動部隊も艦載機を出している。

こちらは偵察機は長門と高雄の水上偵察機しか無いため、赤城が零戦隊を出していた。端島もそうみたいで、時より白いボディの零戦が飛んでいるのを見かける。

米機動部隊の哨戒機はどうやらF/A-18E/F スーパーホーネットを使っているみたいだ。様子を見ていると、どうやら積んでいるのはスーパーホーネット以外にはSH-60、ヘリだけみたいだ。この場合、ヘリは哨戒には向かないだろう。足が遅いからだ。深海棲艦の艦載機ともし、接敵し、派遣された場合、追いかけられるのは自明だ。そんな深海棲艦の艦載機の速度は零戦や烈風を戦う程度、直線で巡航しているなら300km/hは優に出るだろう。戦闘速度となれば空気抵抗を無視すれば400km/hは出る筈なのだ。そんな速度で追いかけてくる深海棲艦の艦載機をヘリが逃げきれる事はまずあり得ない。

 甲高い音を立てて飛び立つ米機動部隊の艦載機を赤城は眺めていた。

何を考えながら見ているか分からない。『哨戒は自分たちがやっているからわざわざやらなくてもいいのに』とか、『うるさいなぁ』とかだとは思うが、後者はないだろう。一時期ではあるが、横須賀鎮守府にもジェット推進の戦闘機はあったからだ。その時期は哨戒はそれが出ていたし、改造をしていたからテスト飛行もしょっちゅうしていた。だから慣れているはずだ。

となると前者だろう。『哨戒は自分たちがやっている』と言えど、米機動部隊はその哨戒情報をこちらに逐一送ってきていた。それが正しいか分からないが、確実に言えることはこちらの哨戒機の情報と同じなのだ。

だが、米機動部隊から情報を得ることで利点はある。情報速度だ。こちらの哨戒機、零戦が30度ずつに散開して哨戒活動を行っていたとする。そうなるとそれぞれの哨戒機は巡航速度で飛行し、情報収集にあたっているのだ。だが米機動部隊ならどうだろう。巡航速度は1280km/hでこちらの約4倍だ。零戦が哨戒して戻ってくるまでに米機動部隊は2回も哨戒出来るのだ。だから米機動部隊の哨戒情報は早いのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 今度の緊急に入電は米機動部隊からだった。

 

「米機動部隊より入電。『南南東の方角に深海棲艦の艦隊を発見。編成は戦艦2、重巡1、駆逐2......。』」

 

 なんだかおかしな話だ。5隻編成の艦隊なんて日本近海や北方海域でたまに見かけるかという程度だったのだが。

 

「どうした。続きは?」

 

「えっ、あっ、はい!『おかしな深海棲艦が1杯......。こちらにデータなし、判別不可。』」

 

 俺は背中に嫌な汗が伝うのが分かった。

おかしな深海棲艦。そういう比喩を使った言葉をこの世界に来て一度だけ聞いている。長門が装甲空母鬼、装甲空母姫を見た時の言葉だ。

米機動部隊が見たことのない深海棲艦だったとして、それが本当に鬼級や姫級である保証は無い。深海棲艦の駆逐艦級でも種類がある。もしかしたら普通の級で米機動部隊が見たことのないだけという可能性も拭い切れない。

 どっちなのだろうか。俺はそんな考えが脳内を走り回らせている。

もし駆逐艦で姫級なら十中八九、駆逐棲姫だ。俺たちはまだ戦ったことはおろか見たこともない。俺も正直、駆逐棲姫に関して詳しいわけではない。知っているという程度だ。

 

「......戦闘よーい!戦闘よーい!おかしな深海棲艦がいようが関係ありません!!」

 

 赤城は凍りついた空気を打ち壊し、そう指示した。それを聞いてた、固まっていた妖精たちも動き出す。俺も赤城に話しかけた。

 

「相手がおかしな深海棲艦なら十中八九、装甲空母姫のような個体だ。」

 

「それじゃあ......。」

 

「あぁ。『FF』作戦は失敗になる。もし撃破したとしても装甲空母姫のようにまた現れるだろう。」

 

「そんなっ......。」

 

「だからここは一度、こちらの指示に従ってもらおう。通信妖精っ!!」

 

 俺は通信妖精を呼びつけ、指示を出した。

 

「特殊陣形の解除を米機動部隊に進言するのと同時に端島鎮守府派遣艦隊に陣地交代を知らせろ!訳は聞かない!」

 

「了解です!」

 

 通信妖精は慌てて通信を始める。そして俺は指示を出した。

 

「艦隊に通達。これより艦隊は特殊陣形前衛に就く。米機動部隊と端島鎮守府派遣艦隊を追い抜き、戦闘に備える。」

 

「了解!!」

 

 俺はそう伝えると赤城に話しかけた。

 

「今回はノウハウが無い。戦況に合わせて陣形離脱を視野に入れておけ。」

 

「分かりました。」

 

 俺はそう言って思考を巡らせる。どちらかと言うと、思い出そうと努力する。

だがどういう特性があり、どういう戦闘を取り、どう倒すべきなのかが全く分からない。

こうやっていても刻一刻と、深海棲艦の艦隊が迫ってきている。焦らずに、だが的確に思い出さねばならない。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 結局俺は思い出す事ができずに、アウトレンジに入った。米機動部隊から逐一報告があるが今は進路上前方およそ50kmらしい。

 

「第一次攻撃隊、発艦してください。砲撃戦可能範囲内に入るまでに減らします!」

 

『第一次攻撃隊、発艦。繰り返す。第一次攻撃隊、発艦。』

 

 赤城の飛行甲板に並んでいた艦載機たちは次々と飛び立つ。

最初は零戦隊、次に攻撃隊の順に飛び立ち、最後に流星改が飛んで行く。

 

「セオリー通り行きます。」

 

 赤城はそう宣言し、一呼吸置く。つかの間の息継ぎだ。

 

「砲雷撃戦用意。」

 

『砲雷撃戦よーい!砲雷撃戦よーい!』

 

 そう続けて指示を出す。

 

「長門さん、高雄さんへ。射程に入り次第弾着観測射撃開始。」

 

「了解。」

 

 赤城はそうやっていくつも指示を出していくが、俺はそんな時、後ろを見ていた。

艦隊の真後ろには米機動部隊が居て、その後ろに端島鎮守府派遣艦隊がいる。端島鎮守府派遣艦隊からはどうやら艦載機の発艦が終わったらしく、こちらと同じ態勢に入っていた。そして米機動部隊はというと、ジョン・F・ケネディから艦載機が発艦中だった。その時、通信が入る。米機動部隊からだ。

 

「米機動部隊より入電。『巡洋艦、駆逐艦によるハープーン一斉射を行う。攻撃隊の退避願う。』」

 

「返答。攻撃隊の退避了解しました。ただし、攻撃目標は未確認深海棲艦ではなく、重巡と駆逐に限定してください。」

 

 赤城はそう返答した。赤城の判断は正しいだろう。

未確認の深海棲艦相手にハープーンがどこまで通用するかわからないからだ。

 

「米機動部隊より入電。『了解。攻撃目標を重巡、駆逐艦に限定。』」

 

 その刹那、艦隊後方でハープーン斉射が始まった。飛び上がるハープーンの数はおよそ10あるかないかだ。だがあれでは目に見えている。明らかに攻撃力が足りない。

 

「攻撃隊より入電。『我、攻撃に成功。戦艦1中破、1大破。未確認深海棲艦への被害は軽微。』」

 

「攻撃隊へ。全機退避。米機動部隊から噴進弾が来ます。」

 

「了解。連絡します。」

 

「端島鎮守府派遣艦隊旗艦 翔鶴より入電。『制空権確保を確認したため、攻撃隊急行中。』」

 

「何を勝手にっ!......零戦隊に通達。端島鎮守府派遣艦隊所属攻撃隊の直掩に回ってっ!!」

 

 どうやらさっき端島鎮守府派遣艦隊から飛び立ったのは攻撃隊だったらしい。確かに、固定脚の艦載機が飛んでいったからそうだろうとは思ったが、本当にそうだとは思わなかった。

戦況は芳しくないというか、初撃で失敗した様だ。そして端島鎮守府派遣艦隊が無駄な攻撃隊を出したと考えていいのか?

ハープーンとこっちの攻撃隊で削りきれなかった深海棲艦に少しでも傷を負わせる事ができると俺は思った。だが、赤城の反応を見る限り、そうでもないらしい。

前回の戦闘で端島鎮守府派遣艦隊の艦載機隊は損害が出ているのだ。正直、完全でない編隊が飛ぶのには信頼性が欠ける。連携に関しては言うことがない。勿論、いい意味ではない。

 

「赤城。零戦隊をこちらの攻撃隊の直掩に戻せ。」

 

「えっ?ですが、こちらの零戦隊を外してしまうと丸裸になってしまいます。」

 

「こちらの攻撃隊を丸裸で帰還させる気か?深海棲艦の艦載機を引き連れて来るんだぞ?」

 

「うぐっ......そうですね。妖精さん。零戦隊に元の直掩に戻るように言ってください。」

 

「了解しました。」

 

 案外早く引き下がった。だが俺はどちらが正しい選択か分からない。

どのみち、損傷をして戻ってくるのは確実なのだ。それが俺たちの艦隊の艦載機か、端島鎮守府派遣艦隊の艦載機かという違いにすぎないのだ。

ならば、練度を高いこちらは逃げまわる自信があるから直掩無しでもいいのかというのはそうではない。練度が高いからこそ、帰還させ無くてはならない。それなら練度が足りない攻撃隊はどうでもいいのかとも言えない。練度が足りないからこそ、実戦で経験するものだ。

なら、どうすればよかったのか?それは端島鎮守府派遣艦隊は攻撃隊を発艦させてはいけなかったのだ。もしこちらの直掩が戻ってしまったのなら、少なからず制空に充てていた零戦隊を直掩に回すだろう。そうすれば制空は緩くなる。今対峙している艦隊が幸い、空母が居なかったのでよかったがいたらどうなっていたか。

こちらの艦隊は深海棲艦の艦載機の攻撃に遭っていた筈だ。しかも、今度は米機動艦隊の防空能力は低下した状況だ。

 その一方で、砲雷撃戦に移行する前に殲滅しなくても良かったのかというのもある。

その理由として一番大きいのは米機動部隊だ。砲雷撃戦の命中率こそ低いが、一撃が重いのだ。しかも回避できない状況にある。

 

(どっちも正しくて正しくない......。結果が分からない。)

 

 選択を間違えば必ず被害は出る。否、どちらを選んでも被害は出る。

今回俺が選んだのは端島鎮守府派遣艦隊の攻撃隊全滅だった。

 

「くっ......。」

 

 下唇を噛んでいると、どうやら戦況が動いた様だ。

 

「長門さん、高雄さんが弾着観測射撃を開始。中破している深海棲艦からも弾着来ます!」

 

 俺はすぐに目線を外にやった。

砲弾が降り注ぐ水面に水柱が上がるが、嫌な音が一つ聞こえた。

 

「加賀さんが左舷に被弾したっ?!」

 

 俺は慌てて後ろを航行している加賀の艤装に目を凝らした。

本当に当たった様だ。左舷というと艦橋がある方だ。どこに被弾したか目を凝らす。

 

「煙突か......。」

 

 煙突に被弾していた。被害は小破に届かないくらいだろう。

加賀は元は戦艦として設計されている。搭載する予定だった41cm連装砲に耐えれる設計がなされているはずだから、深海棲艦の砲撃にはある程度耐えれる様になっている。

むしろ、耐えれないハズがないのだ。

 

「艦橋に被弾しなくて良かったです。艦橋なら一撃で大破、もしくは轟沈ですからね。」

 

「そうなのか?」

 

「えぇ。」

 

 加賀の具合を見ていた俺に赤城はそう言った。

 

「艦橋には艦娘が居ますからね。もし艦橋に被弾するなら艦娘は怪我を負います。ですけど被弾するなら砲弾ですから怪我どころではないですね。率直に言えば死んでしまいます。死体も残らないでしょう。」

 

「そうなのか......。」

 

「はい。ですから一撃大破というのは艦橋に直撃した時のみなんですよ。まぁ、致命傷を船体に食らっていても大破することはありますけどね。」

 

 そう言って赤城は指揮に戻ってしまった。

俺も気を戦闘に集中させ、深海棲艦との交戦中に入る通信に耳を傾ける。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 結局戦闘はジリ貧になり、未確認深海棲艦を大破まで追い込んで、回頭。撤退することになった。

アルフォンシーノ群島に戻る最中、米機動部隊から連絡があり、作戦失敗が伝えられた。沿岸部の掃討が完了しなかったからだ。

それに未確認深海棲艦との戦闘中、米機動部隊の揚陸艦が1隻、爆沈。巡洋艦2隻が大破。駆逐艦1隻が損傷し2隻が爆沈した。今回の戦闘でも接近した砲雷撃戦が行われたからだ。

なら何故、前回よりも被害が大きかといえば勿論、未確認深海棲艦の仕業だ。これは装甲空母鬼と装甲空母姫と戦った際にもあった。通常海域で通常の深海棲艦を相手にするよりも損傷が激しくなるのだ。

 それに案の定、端島鎮守府派遣艦隊の艦載機、攻撃隊は未確認深海棲艦に迎撃され、戻ってこれた攻撃隊は出撃した攻撃隊の約半分だったと訊いた。だがこちらの直掩をしっかりしたからだろう、第二次攻撃でも未確認深海棲艦に中破に追いやったのだ。そして全機帰還。未確認深海棲艦の迎撃を零戦隊が撹乱しているうちに攻撃隊が引き返してきたとの事だった。

 

「負けたのか。」

 

「はい。」

 

 俺は甲板で座りながらそんなことを呟いた。

正直、未確認深海棲艦が相手だと分かった時点で薄々気づいていたのだ。今回の出撃は失敗だと。

その要因は大きく2つある。1つは米機動部隊だ。言うなれば完全なお荷物だった。艦隊も大きくなり、鈍重になった。もう1つは端島鎮守府派遣艦隊の練度の低さだ。これは今回の2回に渡る戦闘で顕になっていた。何故5ヶ月間も俺たちが使っていたレベリング海域を占領していた割に練度が低いのかと疑ってしまうほどだった。

更に言ってしまえば、特殊陣形を無理やり転換した際に分かったことだが、端島鎮守府派遣艦隊は大和型戦艦を連れていた。そんな火力がずば抜けている艦がいながらもこちらの戦果の約半分しか挙がっていない。むしろ半分もないだろう。なぜならその大和型戦艦はこちらの雪風や島風よりも戦果が無いのだ。

 

「再度出撃要請、あると思うか?」

 

 俺は横に座る赤城にそう尋ねた。

 

「あって欲しくないです。私たちは私たちで攻略していってますから、それに合わせて海域を奪還したいですね。」

 

「そうだな。」

 

 そう呟いた刹那、爆音が辺りに轟いた。何かと見回してみると、艦隊後方の米機動部隊の方から水柱が上がっている。

艦橋の観測妖精が状況を俺たちに知らせてくれた。

 

「米機動部隊に魚雷攻撃!揚陸艦、巡洋艦、駆逐艦が大破!......ジョン・F・ケネディの船体が真っ二つに割れていますっ!!」

 

 俺は頭を掻きむしった。どういう事だと考えを巡らせる。

考え事が増え、常に何かを考えていたらパンクしそうだった。だが俺はそれを無理に使い、考える。

そうすると1つの答えが導き出された。

 

「『イレギュラー』かっ?!観測妖精っ!」

 

「はいっ!」

 

「通信妖精に雪風、島風に連絡を取らせろ!潜水艦を探せっ!!」

 

 俺はそう言って米機動部隊の方を見る。

炎上する被弾した艦の中で、真っ二つになったジョン・F・ケネディが見えた。もう半分以上沈んでいる。

どうやら最悪な当たりどころだったらしい。確かジョン・F・ケネディは系列艦を調べると原子力空母だ。様子を見る限り、心臓部には被弾しなかったみたいだ。船体を維持するものに命中したのだろう。

 

「いきなりだ......。しかもこんなあっさりと......。」

 

 そう言って俺は見ていることしかできなかった。

 




 
 ずっと戦闘続きですが、まぁ主人公が戦場にいるからでしょうね。
ちなみに鎮守府は変わりない模様。

 今回の作戦で気づくことが多かったですね。更に設定が追加されましたよ(血涙)
さぁ皆さん!今までの設定に更に付け加えてくださいね!!(血涙)
 予定してた設定ですから仕方ないです。はい。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百六十九話  『FF』作戦⑧

 

 回頭してからアルフォンシーノ群島に引き上げるまでに接敵することは無かった。途中、米機動部隊の生き残りがそのままロサンゼルスの軍港に入るというのでついでに送り届けると、見に来ていた兵士たちは唖然としていた。無理も無いだろう。

ジョン・F・ケネディがいなくなっているからだ。生き残っていたのは巡洋艦2隻と駆逐艦3隻。巡洋艦の臨時旗艦の将校が言うには『これでも生き残ったほうなのではないか。我々は運がいい。』と言っていた。だがそんな事はお構いなしに末端の兵である、兵士たちは不安を募らせていること間違いなしだった。

 勿論、送り届けるということで送り届けたのだが、その際にこちらの艦隊も見られていた。

こちらの日本皇国派遣艦隊は傷は負っているものの、轟沈は無し。違和感と同時に疑問に思うことがあっただろう。明らかにこちらに向けている視線が好奇心ではなかったのだ。

俺たちは補給の必要が無かったので沖から見ていたが、心の何処かで嫌だと感じていたに違いない。

 そんな中、俺は2回目に接敵した未確認深海棲艦のことを考えていた。

最後まで未確認深海棲艦は駆逐艦ほどのサイズってのは米機動部隊の方から偵察情報として入っていたから間違いないと思われる。

 

「悔しいですね......。」

 

 赤城はそんなことを言いながら灰色の空を眺めていた。

 

「2回目の戦闘か?」

 

「えぇ。こちらは未確認深海棲艦との交戦経験がありますからね。一度遭った時、その場で撃破したいものです。」

 

「そうだな。しかも今回のは、多分だがアレを倒しきれたら良かったのかもしれない。」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。」

 

 そう言うものの、やはりイレギュラーが気になる。

どうして戦闘中ではないのに米機動部隊は潜水艦による攻撃を受けたのだろうか。イレギュラーである以上、なにか理由があるはずなのだ。

俺は頭を回して考える。そんな中、出てきた仮説は『同一鎮守府ではない艦隊による連合艦隊を編成していた』ことだ。

だが正直に言えばどの鎮守府所属かなんて見ただけで分かる訳ではない。所属鎮守府が艤装に書かれていない、艤装にIFFがある訳でもない。ならこの仮説はどうなのだろうか。

同一ではない艦隊による連合艦隊編成ではないとすれば、問題は米機動部隊にあるだろう。

こちらの横須賀派遣艦隊にはイレギュラーになりえる要因が無いと見てもいい。なら、米軍だ。一番最初に挙げれるのはハープーンだろうか。だが、現代艦による攻撃で、妖精との関わりが無いことを鑑みると、それはまずない。

なら何なのだろうか。

 盲点など自分で分かるはずもない。アルフォンシーノ群島に到着してからも答えは分からない。ずっと連合艦隊編成と米軍を疑っていたが一体何が原因でイレギュラーを起こしてしまったのだろうか。

 考えている間、赤城がこんなことを言っていた。

 

『今回の作戦で私たちが戦った深海棲艦はどこの海域のでしょうか?』

 

 言葉そのものの意味で捉える事は出来る。だが『どこの海域』という言葉に引っかかっていた。

『どこの海域』。考えてみれば確かにそうだ。西海岸ギリギリまで海を奪っていた深海棲艦は『どこの海域』の深海棲艦なのだろうか。俺もそんなに詳しく覚えている訳では無い上に、調べていたとしてもせいぜい北方海域までだった。それに、調べていたのもこちらの世界に来る前だから8~9ヶ月かそれよりもっとだ。今、日本皇国の季節は梅雨前くらいだそうだ。俺が来たのはお盆を過ぎ、まだ蒸し暑い頃。だったら多分合っているだろう。8~9ヶ月も昔の記憶なんて覚えてない。インパクトがあったものは勿論覚えているが、些細な事なんて覚えていなかった。

 

(未確認深海棲艦は何なんだ?駆逐棲姫じゃないのか?)

 

 海域のことは頭になくても特殊な深海棲艦の出没地なら覚えているのだ。それに特徴だ。

今回、俺に未確認深海棲艦が駆逐棲姫だと断定させるようなのは後者だった。特徴。艦これでは下半身が無い描写だったが、こちらではそれは関係ない。艤装が船の形で海に浮くからだ。もし、その名の通り、駆逐艦だというのならば『駆逐艦のような』と言う筈だ。というか、言ってはいたが、信憑性がない。これまでの話は全て推測だ。それは前者からだ。出没地から割り出した。この辺りがどの海域に属していようが2つに絞れる。中部海域と南方海域だ。だとしたら未確認深海棲艦で現れるとしたら離島棲姫、駆逐棲姫、南方棲戦鬼だ。一応装甲空母姫が現れるとの事だったが、この場合は無視する。

 最初に離島棲姫は除外だ。離島棲姫は陸上型だからだ。移動できるわけがない。そうしたら駆逐棲姫か南方棲戦鬼だけとなる。ここから特定しようと思うと案外簡単かもしれない。

もし南方棲戦鬼だったら苦戦することなく撃破出来た筈だからだ。南方棲戦鬼は比較的倒しやすいと言われていた記憶がある。というかそもそも南方棲戦鬼がどれほどのサイズでどの艦種かも分からない。判別できないのだ。だとするとやはり駆逐棲姫だ。

 

(駆逐棲姫で間違いないだろうな......。)

 

 俺はその場で持っていた紙に走り書きで書き留め、天を仰ぐ。

久しぶりに顔を上げた気がするが、気づいたら温度もそこまで低いわけでは無いようだ。むしろ、なんだか温かい。

 

「あったかいな。」

 

 そう呟くと立ち上がり、艦橋に入った。ちなみに艦橋に入ったのも久しぶりな気がする。

俺が艦橋に入ると、赤城が話しかけてきた。

 

「あら。どうされたんですか?」

 

「いや、なんだ。気付いたらかなり時間が経っていたな。」

 

「そうですよ。提督がああなってから4日位経ちましたからね。」

 

「そんなにか?!」

 

 どうやら俺は今回の作戦のことを考え始めてから4日間、ずっとああだったみたいだ。下を向いて考え事をする。癖みたいだ。

 

「それで、終わったんですよね?」

 

「あぁ。色々とな。」

 

「そうですか。」

 

 俺はそう言って赤城の横に立った。

 

「今後はアメリカ主導の作戦には参加しない方がいいだろうな。ろくなことが無い。」

 

「えぇ。潜水艦の奇襲攻撃ですね。アレはイレギュラーでした。」

 

「あぁ。おかげで作戦前に出ていた米機動部隊が壊滅したな。」

 

 そう言ってると目の前から大きな飛行機が飛んで来るのが見えた。慌てて俺は赤城に現在地を聞くと、どうやら日本近海らしい。

制海権を奪還したとはいえ、空の港は使っていない筈なのだ。俺たちが出て行って戻ってくる間にそんな整備を出来るとも思えない。なら深海棲艦だとしか考えられなかった。

 

「対空戦闘用意っ!」

 

 そう言うと赤城や妖精たちは俺に何言っているんだと言わんばかりの視線を浴びせてきた。

 

「えっ?未確認機だろう?」

 

 そう俺がいうと赤城は首を横に振った。

 

「違いますよ。アレは二式大艇。秋津洲さんの搭載艇です。」

 

 俺はそう言われて思い出した。ウチには秋津洲がいた事に。

 

「だが何故、二式大艇が?」

 

「それは迎えですよ。こうやって出撃から帰ってくる頃になると秋津洲さんはこうして二式大艇を飛ばしてくれます。」

 

「そうなのか。知らなかった......。」

 

「そりゃそうですよ。秋津洲さん、埠頭から出てきて飛ばしてますから。」

 

 そういう赤城は笑った。

どうやら俺も知っていると思っていたみたいだ。

 

「赤城さん。秋津洲さんからです。」

 

「ありがとうございます。」

 

 突然、通信妖精が受話器を赤城に渡した。どうやら秋津洲かららしい。

 

『おかえりなさいー!お疲れ様かもー!』

 

「お出迎えいつもありがとうございます。」

 

『どういたしまして!じゃあいつものように大艇ちゃんの飛んでいった方角が鎮守府だから追って帰ってきてね!』

 

「分かりました。」

 

 そう言うと赤城は通信妖精に受話器を返した。

 

「と、言うことです。」

 

「あぁ。」

 

 秋津洲はどうやら俺がいつぞや頼んだ哨戒任務をやってくれているようだ。そしてそのついでに出撃していた艦隊の出迎えもしてくれている。

そんなことをしていたのかと感心した反面、なんだか申し訳なく思えた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 鎮守府の埠頭に接岸し、投錨するとすでに艦娘たちが集まっていた。

 

「おかえりー!提督ぅ~!」

 

 声がよく響いているのは金剛だ。俺は笑って手を振るが、なんだか違和感がある。

金剛の格好だ。

 

「どうした、そのカチューシャ。」

 

「んへへ~。気づいちゃいマシタ?」

 

 そう言うと金剛の脇に居た比叡が言った。

 

「金剛お姉様、先日改二に大規模改装が出来る練度になったので改装したんですよ!」

 

「おぉ!おめでとう!」

 

「ありがとデース!これでバリバリ戦えます!」

 

 そう言うが一方の霧島は俺に訊いてきた。

 

「作戦はどうなりましたか?」

 

「あぁ。失敗したよ。」

 

「失敗っ?!」

 

「詳しい話は後で。とりあえず散れっ!息がし辛い!」

 

 金剛や霧島と話すために降りてくるとすぐに艦娘に囲まれてしまったからだ。動けない、暑い、息し辛いの三コンボだ。

 

「赤城!」

 

「はい。」

 

「損傷が重い艦から入渠。それと報告書は無しだ。俺が居たからな。」

 

「了解しました。」

 

 そう指示を飛ばし、派遣艦隊の移動が始まったのを見て俺は艦娘にどいて貰いながら本部棟に帰った。

ちなみに両手にかばんを持っている。ひとつは俺のでもうひとつは赤城の。着替えやらだ。赤城のは後で執務室に来るからと言っていたので運んでおくのだ。

結構重いからここから寮までは大変だろうと思っての事だ。それに後で入渠場に行かなければならない。アメリカが空中投下した物資の運び出しだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は一度、執務室に帰った。私室に自分の荷物を放り込み、赤城の荷物を執務室の入ってくる艦娘の死角になるところに置いた。

じきに赤城が執務室を訪れたので荷物を渡すと俺は入渠場に向かい、アメリカの空中投下した物資の運び出しをして貰い、雑誌と赤城が持って行かなかった酒を私室に運んでもらってから俺は秋津洲を探しに出た。

理由は今日の帰りのやつだ。これまで秋津洲は俺の指示無しで黙々と任務をこなしてくれていたのだ。俺はたまたま通りかかった電に秋津洲が何処に居るのか聞き、そこに向かった。

電に言われた通りの場所に着くと、秋津洲は居た。何処に居たかというと鎮守府の棟外、艦娘寮から300mくらい離れたところにあるツタが骨組みに這い、ツタの葉が屋根になっているようなところだ。

 

「よぉ、秋津洲。」

 

「提督っ?!」

 

 俺の顔を見るなり秋津洲は飛び上がった。驚いたのだろう。電曰く、この場所には艦娘は来ないらしい。皆私室や本部棟、酒保に行ってしまうからそこでくつろぐ事はないということだった。

 

「どうしたかも?」

 

「ちょっと用事があってな。」

 

「それにしてもここがよく分かったね。ここ、艦娘来ないからってあたしのお気に入りの場所なんだよねー。」

 

「酒保が出来るまではここは艦娘がよく来てたらしいぞ。」

 

 そう俺が言うと秋津洲は立ち上がった。

 

「それで、用事はなにかも?」

 

「あぁ。秋津洲がここに来たのはどれくらいだったかなってな。」

 

「うーんと......かれこれ4ヶ月経ったよ?」

 

「そうか......。これまでどうやらこちらに来てすぐに出した哨戒任務をずっとやっていたと聞いてな。」

 

 秋津洲は自分の頭を描きながら『えへへ』とか言っていたがすぐに持ち直した。

 

「はっ?!提督の言い方だとあたし、忘れられてたかもっ?!」

 

「そうなんだ。すまなかった......。俺が忘れてたのにずっと哨戒任務をやっていてくれて。」

 

 そう俺が誤ると秋津洲は首を振った。

 

「いいよ。思い出してくれたから。」

 

「ありがとう。これからも哨戒任務は秋津洲に任せる。」

 

 と言った瞬間、腹が鳴った。それもその筈だ。今の時刻は午後1時すぎ。この時間はもう食堂は開いていない。

 

「......すまん。」

 

「大丈夫かも。赤城さんの艤装で食べてこなかったの?」

 

「あぁ。時間が時間だったし、やることやって秋津洲に会ってからって思ってたからな。」

 

「......じゃあどうするかも?」

 

「自分で飯作って食べる。じゃあ、秋津洲。俺は戻る。」

 

 と言って歩き出したら秋津洲に止められた。

 

「ちょっと待つかも。あたしの昼の残りで良ければあるから食べるかも?」

 

「残りか......。というか残り?食堂で食べてないのか?」

 

「朝は食堂だけど昼と夕は提督の号令で歓迎会とかがなければ自分で作ってるの。」

 

 そう秋津洲は言った。だが変だ。艦娘寮は先日改装されて調理室が拡大したとはいえ、毎日食事を作る余裕は無いはずだ。

 

「艦娘寮で作ってるのか?」

 

「ううん。自分の艤装。あたしは糧食庫のお陰で給糧艦としても動けるから、他の艦より台所は大きいし色々揃ってるかも。」

 

「そうなのかー。じゃあ昼夕もそこで?」

 

「はい。自分で作るのは楽しいからね。」

 

 そう言われながら俺はどんどん文字通り、引き摺られていった。行き先は勿論、秋津洲の艤装だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 秋津洲の艤装に上がり、食堂で俺は秋津洲の昼の残りをもらった。と言っても残りには程遠い、ちゃんとした食事だった。

ご飯と味噌汁、ロールキャベツ、蒸かしたじゃがいもと人参、漬物だ。

 

「いただきます。」

 

 俺はそれを食べるが、予想に反してと言うかなんというかとりあえず美味しかった。食堂の間宮とはまた違う美味しさだ。

 

「おぉ、美味しいな!」

 

「ありがとう!残りって言ったけどまだあるから、おかわりいいかも?」

 

 そういう秋津洲の言葉を聞き流し、口に放り込む。味噌汁も美味しいかった。ガツガツと掻き込み茶碗を秋津洲に渡す。

 

「おかわり、もらえるか?」

 

「もちろん!」

 

 結局秋津洲のところでご飯3杯おかわりしてしまった。秋津洲の料理は美味しかった。さすが、毎日作っているだけある。

食べ終わり、初期の片付けをやろうと思ったが秋津洲に止められてしまい、食堂(※秋津洲の艤装の)で腰掛けていると秋津洲が話しかけてきた。

 

「満足したかも?」

 

「あぁ。ごちそうさま。」

 

「お粗末さま!」

 

 そう言って一瞬間が開くと秋津洲は再び口を開いた。

 

「それで、今日の夕ご飯のことなんだけど......。」

 

「ん?食堂に来るのか?」

 

「ううん。」

 

 なんとなく嫌な予感が頭を過ぎった。

 

「噂の提督の作るご飯が食べたいかも。お願い出来るかも?」

 

「だぁー......だと思った。いいぞ。何がいい?」

 

 まぁ、一食ごちそうになったからいいだろうと俺は言った。

 

「まだどの艦娘にも食べさせてない提督の好きな料理がいい!」

 

 そう言われて俺は火が付いた。

 

「おしっ!わかった!今日は俺が作ってやる!んじゃ、今日は秘書艦もいないことだし、哨戒任務以外では執務室に居るといい。」

 

「了解かもー。......初めて執務室に入るから緊張してきた。」

 

「おい、まだ立ち上がってすら居ないぞ?」

 

 そんな話をしながら俺は秋津洲に執務室に来てもらった。

 哨戒任務は秋津洲が勝手に決めた時間にしているようだ。いつも朝食後と夕食前に2回やっているみたいだ。出撃がある日はその期間予定時間にも出るとのこと。

そんな仕事の話もしたが、他の話も秋津洲から聞いた。事務棟に行けば酒保で売ってないものが買える事や、外で遊んでいる艦娘たちが何をしているだとか。俺の知らないところの話がたくさん聞けたし、多分秋津洲にしかわからないことも聞けた。有意義だった。

そんな風に話をしていると秋津洲の哨戒の時間になり、出て行ってしまったので俺は私室に戻って材料を確認する。ちなみに秋津洲には何を作るか言っていない。

 

(あー。食材、足りないな。ネギとかネギとか......。)

 

 俺は酒保に買いに走り、準備を終わらせて秋津洲の帰りを待った。

俺が丁度作り終え、皿に盛った頃、秋津洲が執務室に戻ってきた。

 

「ただいま戻ったかもー!んふふー、提督は何を作ってるのかな?」

 

 そう言って秋津洲は私室を覗き込んできた。

俺もそれには気付いていたので、秋津洲に入ってくる様に言う。

 

「丁度できたから食べよう。こっち来て。」

 

「は~い。」

 

 そう言って秋津洲は席に座った。

 

「ふむふむ......提督はチャーハンが好きなの?」

 

「あぁ。簡単そうに見えて奥が深いんだが、今日は俺の好きなチャーハンを作らせてもらった。普通のでも良かったんだがな。」

 

 そう俺が言うと秋津洲は『いただきます!』といってレンゲを取り、チャーハンを口に運んだ刹那、秋津洲はお茶をがぶ飲みした。

 

「ひいぃぃぃぃぃぃ!!辛いぃぃぃぃ!!!かもじゃないくらいヤバイかもー!!」

 

「あちゃー。ダメだったか。」

 

 そう。俺が好きなチャーハンとは、キムチチャーハン。しかも普通のキムチチャーハンとは一味違う。豆板醤が親指分くらい入っているのだ(※これだけ入れるとほんとうに辛いです)。辛いのが苦手な人は食べれないチャーハンなのだ。

 

「こ"んな"がらいのずぎがも"(こんな辛いの好きかも)?!」

 

「あぁ。」

 

「がらずぎる"ー!ゲッホゲッホ!」

 

 そうヒイヒイ言って咳き込みながらではいるが、秋津洲は食べていた。そんな秋津洲の目の前にもうひとつ皿を置く。

 

「辛いのもあるが、普通のもあるんだな。これが。」

 

「ぞればざぎにい"っでほじいがもー(それは先に言って欲しいかもー)!」

 

「あはは、悪い。食べれないなら俺が食べるぞ?」

 

 まぁ、秋津洲の前に置いたキムチチャーハンはあまり乗ってなかったから3口くらいで秋津洲は食べきり、普通のを食べ始めた。

なぜそれだけしか乗ってなかったかと言うと、少し食べてもらって食べれるならあとから出そうと思っていたからだ。

 

「じゃあ改めまして......いただきます!」

 

 そう言って秋津洲は普通のチャーハンを口に運んだ。

その瞬間、『フン!?』と言って飲み込むと秋津洲はレンゲを置いて飲み込むと訊いてきた。

 

「これ、どうやって作ってるの?!」

 

「え?不味かった?」

 

「逆かも!!美味しいっ!!」

 

「そうか。」

 

「教えてほしいかもー!あたしのレパートリーが増えるかも!」

 

「はいはい。後で材料書いてやるからまずは食え。」

 

 そう食べるのを催促すると秋津洲はブツブツと何が入ってるか考えながら食べ進めた。

結局、秋津洲はあとから出した普通のチャーハンは食べ切り、早めに食べ終わっていた俺が書いた材料と入れるタイミングを書いた紙を渡した。

 

「ごちそうさま!それとありがとう!」

 

「あぁ。お粗末様。」

 

「じゃああたし、寮に帰るかも!」

 

 そう言って秋津洲は執務室を出て行った。

それと入れ替わりで赤城と加賀が入ってきた。どうやら資料探しみたいだ。そんな2人は執務室にまで漏れだしていた、匂いに気がついた。

 

「スンスン......。何か作ったんですか?」

 

「スンスン......。本当ですね。」

 

 そう訊いてきた2人に俺は隠さずに作ったと応える。

 

「あぁ。今日はな。」

 

「そうですか。ちなみに何を?」

 

 なんだか加賀の食いつきがいいのが気になるところだが、俺は言った。

 

「キムチチャーハンだ。」

 

「キムチ......韓国の漬物ですね。美味しいのですか?」

 

「俺は好きだ。少し残ってるから食べるか?」

 

 そう言うと2人共頷いたので俺は私室から2つの茶碗に1杯分くらいチャーハンを盛って箸と一緒に赤城と加賀に渡した。

 

「「いただきます。」」

 

「どうぞ。」

 

 そう言って箸でキムチチャーハンを口に運んだ2人は両極端な反応を見せた。

 

「美味しいっ!美味しいです!提督っ!!」

 

 赤城はどうやら辛いのには強いみたいだが一方で加賀はというと。口を抑えている。

 

「どうした?」

 

「いえ、辛い......ですね。」

 

「あぁ。豆板醤マシマシだ。」

 

 そう俺が言うと加賀はチャーハンを掻き込み、俺が持っていたお盆に置いて言った。

 

「やっ、やりましたっ......。」

 

 そう言った加賀は少し唇を赤くしていた。辛すぎてだろうな。

一方の赤城はというと、もう食べ終わって資料探しをしていた。

そんな加賀に濡れた清潔な手拭きを渡して赤城に待ってもらったのは言うまでもない。ちなみに鎮守府でキムチチャーハンは噂になり、次の日の朝に残りを求めて艦娘が殺到したが、皆加賀のような反応だった。どうやら俺と赤城だけが変みたいだ。腑に落ちないが。

 





 今回で『FF』作戦は終わりです。
オチに関してはすっかり作者から忘れられていた秋津洲と、異常に辛いキムチチャーハンの話にさせていただきました。ちなみにキムチチャーハンのレシピはありますが、読者様が作って次の日に体調崩したなんてなったら笑えないのであえて書きませんでした。すみません。普通のチャーハンはどこかでまた出てきますのでその時に書かせていただきます。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百七十話  地下牢

 

 日本皇国国内のメディアが湧いた。何で湧いたかというと、先日実行された日米合同作戦『FF』作戦の概要、結果についてだった。

日本皇国が深海棲艦との戦争を始めてから今まで連絡の取れていなかったアメリカとの戦中ファーストコンタクトは既に国民には知られていた。だが、その先は何も知らされていなかったのだ。そこからの日米合同作戦に国民は注目した。

理由は明白だ。強大な軍事力を有するアメリカに日本皇国を窮地から救った横須賀鎮守府、新たに発足された端島鎮守府による大規模攻略艦隊によってアメリカ西海岸の制海権奪還作戦が実行されたからだ。国民は元から戦争意識が無かったが、これまで『何故か』連絡の途絶えていた国外との話だから興味を大いに持った。

 日米合同作戦の模様は端島鎮守府から全国に伝播していた。作戦に参加する艦、おおまかな概要については国民は周知していたのだ。

そしてその結果がどう伝えられたのかというと、『我が日本皇国海軍は先日の日米合同作戦に於いて、深海棲艦の艦隊を撃破及び壊滅に成功。"味方"は損害軽微。』と報道されたのだ。"味方"とここまで強調されてはなかったが、そう見て取れた。これは俺からしたら事実の歪曲だ。だが一方で、本当のことを言っているとも捉えられる。

 このニュースは俺は私室で見たのだが、食堂では見ないほうがいいだろう。そう感じた。俺は作戦から戻ってからある程度の艦娘には話をしてあり、作戦に参加した艦娘たちも他の艦娘から聞かれて嘘を言わずに答えているだろう。

日本皇国側は損害軽微だったが、アメリカ側は甚大だったのだ。

 

「提督っ!執務終わりました!」

 

「あぁ。こっちも終わった。事務棟への提出を頼めるか?」

 

「はい。」

 

 今日の秘書艦はオイゲンだ。今更だが俺の記憶が正しければオイゲンは提督のことを『アトミラールさん』と呼ぶはずなのだが、個体差なのだろうか?それともただビスマルクの真似をしているだけなのだろうか。正直、考えだしたらきりがないので考えないようにする。

 昨日、作戦が終了し、帰投した次の日ということで、夜に宴会が行われた。そも理由というのは俺の初陣と生還だった。

それに関して祝ってくれるのはありがたいが、普通初陣は生還するものだろうと思いつつありがたく楽しんだ。だが、規模がおかしかった。

普段の宴会は食堂で艦娘たちで行ってきて、俺が特別指示を出さなければ門兵や事務棟の人は出てこないのだが、当然話を知っている門兵ら警備部とそこに事務棟の人も加わり更に酒保の従業員も参加、結果、グラウンドで400~500人を超えるバーベキューになってしまった。その光景はとても口では表現できない。そしてそんな大人数でバーベキューはするものではないと実感した瞬間だった。

グリルは20台以上に以前、ミサイルやらを入れた際についでのように置いてかれた仮設調理車やら冷蔵車やらが並んでいたのだ。そしてついでのように赤城がアメリカで空中投下された酒を出してきて振る舞い、どんちゃん騒ぎになった。その騒ぎは11時過ぎまで続き、片付けに更に3時までかかった。

 

「あ"ー。眠い......。」

 

 そう。俺はその御蔭で寝不足なのだ。ちなみに他にも寝不足な艦娘は居る。

 そんな昨日あったことを思い出しつつ、俺はボーッと外を眺めた。こんなことをしていると、考えてしまう。『FF』作戦の被害や、『イレギュラー』に関して。正直、考えたくないのだ。というより、考えても仕方がない。終わりが無いのだ。

作戦で被った被害はもう取り返しのしようがない上、帰還の最中に考え事をしていたおかげで戦闘に関する記憶は何を指示していたかなどしか覚えていないのだ。俺の記憶力に感謝したことはこれほど無いだろう。数時間前のことでも忘れる俺だからだ。

 

「ただいま戻りましたー!」

 

「おかえり。今日の執務は終わりだ。」

 

「はい!これから何します?」

 

 そうオイゲンは聞いてくる。執務が終わってから何をするかなんて訊いてきた艦娘、初めてだ。

 

「そうだな......。」

 

 俺は考える。いつもなら炬燵に入ってはいるが、もう仕舞ったのだ。気温が気温、もう温かい。厚着をしなくても外を歩ける程だ。むしろ暑いくらいと言ってもいい。

 だが、やるといっても何をすればいいのだろうか。ここに来て最初の1ヶ月は私室と執務室を行き来していただけだった。その後も色々やることがあって、執務を終わらせても何かをしていた。手が空くようになってからはもう冷えていたから炬燵で温まっていただけだ。そう考えると、俺は何をやっていたのだろうかと思ってしまう。

 

「オイゲンは何がしたい?」

 

 結局、俺はオイゲンに答えを出させることにした。本当なら、俺が何か提案してやらねばいけないんだろう。だが何も思いつかないのだ。仕方ないと言ってしまえばそれまでだが、今回ばかりは仕方ない。

 

「そうですねぇ......。あっ!そういえば本部棟でこの前見つかったって言ってたアレ!使いましょう!」

 

「アレ?アレって言うと、アレか?」

 

 オイゲンの言うアレというのは鈴谷が大本営から俺への官給品として鎮守府に持ち込んでいたコンピュータの事だ。ちなみに執務室にも2台あるが、完璧に執務用。しかも余分な昨日は全て無いものだ。鈴谷が持ち込んでいたコンピュータはそういった細工はされていない。それを使えば何か出来るのではないか、ということだった。

ちなみにコンピュータがある理由については『大本営からの物資に入っていた。』ということにしてある。そして使用は禁止、置いてある部屋も入室禁止にしてある。念の為というか、俺もだが知識が無いものがそういった物の使い方を間違えば問題になるからだ。

 

「だがアレは使わないと言ってあるはずだが?」

 

 使用禁止、部屋への入室禁止についてはその対象に俺も含まれている。ちなみにこの命令を出したのは俺だ。

理由は簡単。誰も使ってないなら興味を示さない。俺だけが使っているのなら、何をしているのか気になるだろうからだ。

 

「えー、でもあるなら使わないと......。」

 

「アレを使うわけにはいかない。それにアレはパスコードロックが掛かってる。パスコードは武下さんしか知らないんだ。」

 

「そうなんですか......。残念です。」

 

 俺が使わないようにとわざわざリカバリーした後に武下に設定し直してもらってある。ちなみに俺にパスコード解析は出来ない。

必然的に使えない状況を作り出したのだ。

 

「でも、そうなるとー......。やること思いつかないですね。」

 

「あぁ。精々やるなら地下牢を利用した備蓄倉庫の見回りと確認と、じっとしてられないなら散歩だな。」

 

 そう言うとオイゲンは立ち上がった。

 

「ならそれしましょう!地下牢は確か4つあって、しかも広いんですよね?」

 

「そうだが?」

 

「いいじゃないですか!行きましょう!」

 

「分かった。」

 

 こうして俺とオイゲンは鎮守府にある地下牢の見回りに行くことになった。ちなみに前回行った時から数ヶ月経過している。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 地下牢はジメジメしていてカビ臭い。長い間使われてなかったからだ。使われてなかったとはいえ、今は資源の備蓄に使っている。

 俺とオイゲンは電気を点けて、牢を見て回っている。特段変化は無いようで、改善する点も見つからない。

 

「はぇー。こんな風なんですね。」

 

「あぁ。ここは最近まで知られてなかった備蓄資源があったんだ。」

 

「そうなんですか。」

 

 今見て回っているのは鈴谷がイムヤと協力して収集していた資源が備蓄してある地下牢なのだ。

今はその管理がこちらに回ってきている。鈴谷がここを教えた理由は『隠しておいても良かったんだけど、そのうち見つかるだろうからね。』ということらしい。長い間隠し通す自信は無かったようだ。ある程度溜めたなら大本営と連絡をとって俺の目を盗んで民間に売却することになっていたと言っていた。そしてそれを俺に譲渡したという事だ。

俺は受け取ったはいいものの、この事を知っているのは管理していた鈴谷と収集にあたっていたイムヤ、俺とあのメンバーだけだ。書類上、管理する資材の量は的確に把握しなければならないので、執務で処理されるのだが、その書類は秘書艦が見る。

経験のない秘書艦ならいいのだが、経験がある秘書艦なら以前の経験と今回の資材の量では雲泥の差がある。違和感を持ち、何かに感づくやもしれないということになり、『鎮守府として機能させる前からあったものをイムヤと鈴谷が見つけた。』ということにして管理しているのだ。これは彼女らがしていたことを隠すため。そして他の艦娘が自主的に"気づく"為だと念押しされて決めたことだった。

 

「でもこれだけあれば大型艦建造も出来ますね。」

 

「あぁ。デイリー任務を全て大型艦建造にしてもいい程だ。」

 

 それくらいの規模の資材がここにあるということだ。だが、ここの資材には手を出さないように運営している。ここの資材を使うときは、ピンチになった時だけだ。抽象的だがそう決めたのだ。

 

「でもやってないですよね?」

 

「やってないな。」

 

「変なのー。」

 

 オイゲンは深くまで言及してこなかった。多分、その程度だと思っているのだろう。

 

「......終わりましたね。では次、行って見ましょー!」

 

 気付いたらもう戻ってきていた。

俺とオイゲンは階段を上がって、入り口に鍵をかけると次の地下牢に向かった。ちなみに他の地下牢には資材が備蓄されていない。ただの地下牢だ。1つは警備部が使っているので、あと2つだ。

 残りを回ったが面白みは全く無かった。だがオイゲンがただ見回っているだけじゃ面白くないとのことで、最後に見回る地下牢は牢の中や部屋を見てみようということになった。

カビ臭い階段を降りて、廊下に出て電気を点ける。まばゆい光に照らされるのはさっきから繰り返し見ている景色だ。長い廊下に牢。

だが今回はただ見るだけじゃない。中を見たりもする。

 

「おぉー!こんな風になってるんですね!」

 

 そう言いながらオイゲンは牢の入り口を開けて中に入る。中をぐるりと見渡すと、部屋の隅を見たりして満足したら出てきた。俺も中を覗いたが、そんなじっくり見るものじゃない。すぐに廊下に出る。

 部屋を一つひとつ見ていくが、途中、鉄柵の牢のところがあり、例外なくオイゲンは入ってみた。

 

「ほおほお。なかなかイメージ通りですね。牢屋って言うとこんな感じを想像します。」

 

「俺もだ。」

 

 そう言うとオイゲンはその牢に入ったまま、何故かニーハイソックスを少し下げ、服を着崩し、髪を乱した。そして床に手を付き、俺に向かって言ったのだ。

 

「くっ......殺せっ!」

 

 どうやら俺の記憶にある何かをしている。すぐにツッコミを入れた。

 

「オイゲンはいつから女騎士になったんだ?」

 

「んふふ~。提督ぅー。」

 

「なっ、何だよ。」

 

 少しニヤニヤしながら着崩した格好を元に戻して、髪を整えると俺の横に立って言った。

 

「なんでもないですー!」

 

「何だそれ。」

 

 この後も見て回ったが、ずっとニヤニヤしたままだった。

そしてその最中、俺とオイゲンはある部屋に入った。そこはどうやら看守の休憩所か詰め所みたなところみたいだった。

俺とオイゲンはそこを見渡すとあるものを見つけた。

 

「これって......門兵さんが持ってる。」

 

「小銃だな。しかもかなりここに放置されてたみたいだな。」

 

 机の上に置かれていたのは小銃だった。見たことのあるようなもので、門兵が持ち歩いている小銃にそっくりだ。だがなにか違う。

じっくりと観察してみるとその違和感に気付いた。この小銃は門兵たちが使っている小銃の前に使われていた小銃だ。

部品点数が多く、故障も多いと言われていた小銃だ。

 

「ほぉ......。」

 

 俺はそう言いながら持ち、オイゲンに銃口を向けないように地面に向けてグリップを保持した。

少々、ガタツキがあるが具合が分からない。俺は小銃からは弾倉が抜けているのを確認したので、下を向けたまま安全装置をかけてスライドレバーを下げる。中から薬莢も弾薬も出てこないのでどうやら安全みたいだった。撃鉄を落とすと俺はそれを持ったままオイゲンに声をかける。

 

「これをここに放置しておくわけにはいかない。警備棟で処理してもらおう。」

 

「そうですね。」

 

 こうして俺とオイゲンの地下牢巡りは終わった。これで3時間も潰せたのは良かった。

この後はすぐに警備棟に小銃を持ち込んで処理を依頼。その後は食堂で昼食を摂って、昼からはゆったりと過ごした。

 





 先日は完成したのが午前2時過ぎでしたので、予約投稿できませんでした。ちなみに起きたすぐに投稿すれば良かったんですが、出来ませんでした(汗) すみません。
ですので、一日遅れの投稿になります。

 今回は第一章のその後、どうなったかを少し書かせていただきました。
提督との協議の結果、ああいう風に処理されたということです。

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第百七十一話  駆逐艦の砲撃

 アドレーは頭を抱えていた。理由は先日、決行された『FF』作戦だ。

あの作戦は元はというと戦力が十分に備わり、日本皇国との関係が改善された時に発動する予定だったのだ。だが国防総省に保管されていた作戦指令書を誰かが使ったのだろう。作戦指令書にはまだ参加させる艦の指名をしていなかったからこんな風に軍を動かせたのだ。一体、国防総省の誰がこんなことをしたのだ。

お陰で不完全な艦隊で出撃して多大な犠牲を払った。停戦前の唯一の原子力空母も失ってしまった。報告書によれば撤退中、追撃してきた深海棲艦の潜水艦に雷撃され、船体が真っ二つになったとの事だった。これで我がアメリカ海軍に残された戦力はいよいよズタボロになって帰ってきた巡洋艦と駆逐艦しか無い。それも心もとない数だ。今、建造中の船も数隻進水出来るがそれでも作戦が強行されるよりも前の戦力より劣っている。

 建造されているのは戦時建造している駆逐艦だ。ブロック工法で建造しているが、急造なので性能は心もとないらしい。それに装備も貧弱で海軍が保有する停戦前の駆逐艦の約1/4という見積もりだ。

そんな軍艦を生還率の低い対深海棲艦の戦闘に投入するわけには行かない。

 

「クソっ......。」

 

 停戦の間にどうやら国防総省内や軍将官は腐ったみたいだ。勝手な越境、銃撃、拉致未遂、命令違反......数えるだけで頭が痛くなる。陸軍はまともに機能しているのが幸いだ。陸軍は今や国民には警察系鎮圧部隊みたいに捉えられている。将官も有能で汚職に手を染めていない。治安維持に懸命だからだろう。それは空軍も同じだ。空軍の深海棲艦への攻撃はある程度効き目がある。それに深海棲艦の艦載機への攻撃は通用するのだ。こちらもちゃんと統率は取れているのだ。

 

「今は日本に縋るしか無いというのに......。」

 

 そう。今は日本皇国の海軍に縋るしか生き抜く道は無いのだ。アメリカは地続きの国とは連絡が取れていることから共に生き抜いてきた。だがもうそれも限界だった。海を失ったことで一部の国を除いた南アメリカは情勢悪化。テロなどが頻繁に起こるようになってしまったのだ。そんな国々への援助をしたくても内政だけで精一杯だったアメリカは南アメリカから手を引き、アメリカ、カナダ、メキシコの三ヶ国のみで生き抜く選択をしたのだ。それでももうギリギリなのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 相変わらず、横須賀鎮守府は仕事をしていない。理由は端島鎮守府にある。

先日の『FF』作戦に於いて、艦隊や艦載機の練度の低さ、艦載機の更新をしていないことをこちらが大本営に報告したところどうやら新瑞が激怒。早急にレベリングと艦載機の更新を命じたのだ。そのせいで現在、開放している海域の全てに端島鎮守府の艦隊が出撃中。鎮守府でもどうやら艦載機の開発が進んでいるようで絶賛、横須賀は連続休暇更新中ということになっている。もう5ヶ月とかではない。半年を越しそうだ。

 

「司令官、執務始めるわよ。」

 

「あぁ。」

 

 今日の秘書艦は満潮だ。提督に辛辣な艦娘ランキングトップ3に入る艦娘だが、どうだろう。朝潮の話だと(※前日にオイゲンに断って俺に話しに来た)素直になれないだけらしい。よくわからないが。まぁ、朝潮と同じことを言っていた艦娘は居るが。漣と潮だ。2人は曙のことを前日に俺に言いに来てたからな。

 

「満潮。私が補佐するからには、きっちりやってもらいますからね。」

 

 そう言って満潮に言うのは朝潮だ。番犬艦隊として俺のそばにいる時、フェルトが来るまでは朝潮が秘書艦の代わりをしていたからだ。

それなりにノウハウがあるとのこと。

 

「分かってるわよ。でも私にちゃんとやらせて。しっかりやりたいから。」

 

「分かってます。」

 

 そう2人は言うと分担した書類を満潮は秘書艦席に持って行き、満潮は座り、朝潮は立ったまま満潮に教え始めた。なんだが、勉強の分からない同級生に教える図みたいだ。微笑ましい。だがやってることは資材計算やらなんだけどな。満潮や朝潮の見た目で弾薬の計算をする女の子は居るわけが無い。

俺はそんな2人は眺めてから執務に入った。

 執務は順調。いつも通りに進み、始めてから大体1時間で終わった。平均だ。

俺は満潮に書類を渡すとすぐに『提出してくるわ』と言って事務棟に行ってしまった。仕事に真面目なのはいいことだ。

そんな中、執務室に残った朝潮が俺に話しかけてくる。

 

「司令官。」

 

「何だ?」

 

「今、演習レベリングをしてないですよね?」

 

「そうだな。」

 

「次のレベリング、駆逐艦を優先していただけませんか?」

 

 朝潮は真剣な眼差しでそう俺に言ってきた。意図は多分、駆逐艦の前線出撃可能な数が少ないことだろう。改造を施してない駆逐艦は攻略などには出してないのを朝潮は知っているみたいだ。

 

「......分かった。だが相当時間がかかるぞ?」

 

「皆、覚悟の上です。艦隊護衛、防空、近接戦闘......私たち駆逐艦に求められる事は多いです。その時々に応じた艦娘を投入する事は、作戦遂行確率を上げる事に繋がります。」

 

「その通りだ。」

 

 朝潮は鎮守府全体の事を考えているみたいだ。その傾向は以前から伺えていたが、ここまでとは思いもしなかった。真面目で厳格な正確だとは思っていたがな。

 

「駆逐艦レベリングだな。」

 

「はい。」

 

「実は水面下で進んでいた事は知らないのか?」

 

 朝潮の目が捉えられなかった。レベリングが行われていたのだ。

 

「えっ?そんな話は聞いてませんが。」

 

「言ってないからな。最近進水した大淀と共に対潜哨戒任務で日本近海の潜水艦出没海域に出ている駆逐艦の艦娘がいるぞ。」

 

「そうなんですか......。」

 

 俺はそう言って編成表を見せた。

さっきは朝潮に言った言い方だと、艦隊を組んでの出撃だが、出ているのは単艦だ。

 

「艦隊じゃないんですね。」

 

「MVPを集中させたいからな。」

 

「これでは、もしもの時......。」

 

 朝潮の言いたいことが分かる。単艦だとロストしやすいのだ。俺が返答しようとした時、満潮が事務棟から帰ってきた。

 

「今戻ったわ。」

 

「おかえり。」

 

「おかえりなさい。」

 

 一旦、朝潮との話は中断だ。満潮がどの程度知っているかにもよるからだ。それに多分だが、朝潮が言っていた皆に満潮も入っているんだろう。

 

「んで、こっから何するの?」

 

 そう満潮が言ってくるので俺は答えた。

 

「何にも。もうやることはないぞ?」

 

「本当に?」

 

「あぁ。」

 

 俺はそう言って椅子にもたれる。ここで嘘言っても仕方ないからだ。

 

「ふーん。」

 

 そう満潮が答えてから10分程、静寂に包まれた。俺から話題を振ることもない。朝潮は多分、さっきの話の続きがしたいんだろう。それ以外のことは頭に無いみたいだ。

満潮はたまに執務室を訪れていたが、特段話すことは無かった。資料を借りに来ていただけだからな。

そんな時、満潮が話しかけてきた。

 

「......こうしてると、司令官と話すのも初めてな気もするわ。」

 

「そうだな。」

 

「こういう時って本当に何もしてないの?」

 

「いいや、何かはしてる。」

 

 満潮が話を振った。静寂は嫌なのだろう。

 

「何って?」

 

「読書とか、外を歩きに出たり、ぐーたらしてる。大体3番目だが。」

 

「しっかりしなさいよ。」

 

 そう満潮は呆れ顔で言ってきた。だがほんの少し嬉しそうにしている。

 

「そういえば改組が言ってたんだけど、強化型艦本式缶があるらしいじゃない。」

 

「あぁ。開発で手に入れた。」

 

「それ、そうとうヤバイらしいわよ。」

 

「どうヤバイんだ?」

 

 そう聞くと肘を突きながら満潮は答えた。ちなみに改組というのは駆逐艦で改になった艦娘の事を指している言葉だ。

 

「速力が40ノット近く出るらしいの。島風が使った時はあまり変わらなかったみたいだけどね。」

 

「そうなのか。」

 

「えぇ。島風は元からタービンが載ってるからね。」

 

 どうやら缶は速力が上がるものらしい。艦これでは回避率の上昇が見込めるものだとか言われてたがそういうことなのかと思った。

 

「それとこの前、工廠の近くを通った時に妖精さんがたむろってたんだけど、理由聞いたら『最近、艦載機の運用方針が変わって、色々な艦載機に乗ってる。』って言ってたんだけどどういうことなの?」

 

「それは艦載機妖精に色々な艦載機に対応してもらうためにやっているんだ。」

 

 どうやら満潮が聞いたのは艦載機妖精に話だったみたいだ。

最近は機種を変えて乗ってもらうことが多くなった。これまで天山に乗っていた妖精が彗星や彗星一二型甲に乗ることが増えたのだ。

経験を増やしてほしいという意図がある。

 

「お陰で天山がほこりかぶってるそうじゃない。使い込んだ機体が工廠の倉庫でそうなってるともぼやいてたけど。」

 

「まぁ仕方ない。他の性能の良い艦載機の方が攻略も被撃墜率も落ちるんだよ。」

 

「それもそうね。だけど流星ってのはデカイ的らしいじゃない。」

 

「あぁ。大型機だからな。小型機主流の艦載機の中ではデカいから仕方ない。」

 

 なんだか駆逐艦の艦娘相手に艦載機の話をし始めてしまった。

 

「それと皆で赤城さんの艦戦隊とか攻撃隊とか見てたんだけど、何アレ。」

 

「どういう?」

 

「あんな機動、攻撃方法は戦術指南書に無かったから。」

 

「まぁ、赤城には"特務"で別で航空隊の練度上げや戦術考案をしてもらっていたからな。艦載機に関する知識も相当詰め込んだみたいだし。」

 

「他の空母の艦娘が愚痴ってたわよ。『赤城さんだけ提督に艦載機の特性とそれに見合った戦法を教えてもらってる。』って。」

 

 話を聞いていて思ったんだが、満潮も結構勉強をしているようだ。夕立や時雨のイメージが強すぎて霞んでいただけだろう。

資料室を訪れるのは夕立や時雨だけじゃないんだ。

 

「そんなつもりは無いんだが......。もし次聞いた時には『提督はそんな事教えた記憶はないって言ってた。』って言ってくれ。」

 

「分かったわ。......でも条件があるわ。」

 

「なんだ?」

 

 満潮がそう言って足元から出したのは戦術指南書だ。内容は『砲撃戦。砲の特性。』と書かれている戦術指南書だ。

 

「私に雷撃以外で深海棲艦に致命傷を与える方法を教えてほしいの。貧弱な砲でも効く攻撃を。」

 

 そう言いながら満潮からその戦術指南書を受け取った。

 

「私も知りたいです。」

 

 朝潮も食いついた。

 

「分かった。」

 

 そう俺は答えて少し戦術指南書を見る。

内容は砲撃で仕留める方法が書いてあるが、詳しく見れば分かるのだがこの戦術指南書は大型艦用のものだ。大口径砲のことしか書いてない。正直、これを駆逐艦の艦娘が勉強しても意味が無い。

 

「うーん。......満潮はこれで勉強してたのか?」

 

「まぁね。だけど見ればわかると思うけど、それは大型艦用よ。そう思って小型艦用のを探したんだけど、なくって仕方なくそれで。」

 

「そうか。」

 

 そう言って俺は満潮に聞いてみた。

 

「砲で深海棲艦を仕留めたいって、やっぱり自分よりも大きいのか?」

 

「えぇ。そうね。」

 

「具体的には?」

 

「軽巡かしら。現実的なのは。」

 

 そう満潮が言ったので、コピーで持っていた川内型軽巡の絵が書かれているものを取り出した。

 

「先に言っておくけど、俺は船の構造に詳しくない。それは念頭においてくれ。」

 

「分かったわ。」

 

 そしてその絵に俺は丸で囲んだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ふーん。」

 

「川内型で悪いが、これで説明させてもらう。例えば川内だとこの赤丸が弱点だと俺は思う。」

 

「艦橋のは分かるわ。ここだったら一撃よね。でも船体のは?」

 

「これは弾薬庫の位置だ。ここに直撃して上手く作用すれば一斉に弾薬がドカーンだ。」

 

「成る程......。」

 

 そう言って俺は丸を書いた絵を片付けた。

 

「でもこれが通用するのは軽巡と駆逐だけと思うんだ。それ以上になると駆逐艦の砲では貫徹出来ないからな。魚雷で仕留めろ。」

 

「そうよね。」

 

「でもな、駆逐艦で戦艦を仕留める事があるだろう?」

 

 そう言って俺は大和型の絵に丸を書いた。

 

「そういう時は多分だが、艦橋に被弾している。」

 

 俺はすぐにその絵を仕舞った。

 

「そうなのね。」

 

「あぁ。ということで、おしまい。考えてみれば単純だっただろう?艦橋か弾薬庫があるだろう場所。」

 

「そうね。でもこんなところを狙って撃てないわよ?」

 

「そうだな。」

 

 そう言って俺は椅子に持たれた。

 

「数km離れたところからそんなところを撃ち抜く確率なんて1もない。結局は運だ。運をどれだけ味方につけるか。もしくは、被弾覚悟で接近して撃つか。」

 

「そうよね。」

 

「まぁ。駆逐艦の強みは雷撃だから、あんまり砲撃に拘るなよ?」

 

「分かってるわよ。」

 

 そういった満潮は俺が戦術指南書を差し出したので、受け取るとそれを仕舞った。

というかよくよく考えて見れば、満潮が朝、執務室に来た時に袋をを持っていた。そう考えると満潮は戦術指南書を借りて持ち歩くみたいだ。なんだか夕立や時雨、由良たちを連想させられる。

 

「まぁ、頑張れ。」

 

「言われなくても頑張るわ。」

 

 そう言って満潮は違う戦術指南書を開いた。勉強する気満々だったみたいだ。

 結局、満潮は執務室でずっと戦術指南書と格闘していた。夕方に聞いてみたところ『別のところだと姉妹がいたりして集中できないから。』と言っていた。どうやら執務室は自習室になったらしい。

 




 
 MONSTERの力は恐ろしい(←夜に飲んでしまった)

 今回は少しだけアドレーの話をしてから駆逐艦についてやりました。
軽巡の弱点ですが、本当に素人思考であそこなんですよね。指摘は受け付けます。

 それと満潮はそこまでツンケンしてる訳ではないという話でした。SSであるようなキャラではないと思ってます。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百七十二話  熊野と鈴谷のカレー

 

 今日の秘書艦は熊野だ。特段何がある訳ではない。強いて言うなら鈴谷が拗ねただけ。

 

「おはようございます。」

 

「おはよう。」

 

 今日は温かいということだったが、やはり朝が早い。部屋が冷えていた。

 

「時間が時間だし、食堂に行くか。」

 

「えぇ。」

 

 そんな感じで俺と熊野は食堂に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 熊野は見せた覚えのない書類の内容を知っていることが多い。なんでだろうかといつも思うのだが、ついにその答えを教えてくれた。

 

「執務室の棚に大本営から届く書類は纏めてるじゃないですの。時たま訪れた時にそれを見てますわ。」

 

 ということらしい。確かに秘書艦が大本営からの書類(※新瑞が黙って入れてるホントは大本営以外にまで出るはずではない書類を入れてる)をファイリングをしているが、中が見えない様に冊子になって入ってるはずなのだ。それに見ることを俺は禁止までとは言わないが、あまり見るなと言ってあるのだ。

 

「はぁ......見てるのか。」

 

「えぇ。」

 

 そんな爆弾発言をしているのは食堂。朝食を食べながらの話だった。勿論、近くには他の艦娘も居る。

 

「見てれば見えてくることもあるんですのよ?その書類が提督の視点から見たものと艦娘が見たものとでは違って見える事だってありますわ。」

 

「そうかもしれないが、俺はあまり見るなと言っていたよな?」

 

「知ってますわ。」

 

 そう応える熊野は澄まし顔で朝食を食べている。

 

「まぁいい......。」

 

 そう俺も朝食を食べていく。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺は今日の執務で使う、事務棟から熊野が持ってきた書類を見て読むと熊野に見せた。それは俺が見るなと言っていた書類だ。

 

「なんですの?」

 

「いいから見てみろ。知ってる話ではあるだろう?」

 

 俺が熊野に見せた書類の内容は大本営が大きく動くということだった。何をどうするかなんて書いてはないが、面倒事になるのを示唆した文だ。

 

「成る程。大本営が何かをするということですわね。」

 

「あぁ。だが、何をするとは書かれてない。」

 

「気になりますわ。」

 

「俺もだ。」

 

 俺はそう言いつつも執務に手をつける。その書類を幾ら読んでいたって分かる訳が無いのだ。具体的な表現が結構無い文章だからだろう。全て抽象的で分かり辛い。

多分、熊野も同じ感想を持っただろう。なんのことだかわからないが、何かをしようとしていてそれが面倒事になるということだけがわかるのだ。

 

「この数ページに渡る書類なのに分かる情報が少なすぎますわ。」

 

「同感だ。」

 

「ここまでぼかす必要があったのではなくて?」

 

 そう熊野は考えながらそれを机に置くと、自分の秘書艦としての執務を始めた。俺も熊野も気になるところだが、執務優先だ。幾ら1時間ばかしで終わるとはいえ、最優先だからな。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務の後、大本営から送られてくる書類を纏めてあるファイルを手当たり次第探してみたが、結局わからなかった。

情報が少なすぎる。ただそれだけだった。

そこまでして考えても仕方が無いので、俺と熊野は別のことをすることにした。それは色々あったこれまででも、忘れることのない事だ。俺のために動き、やってはいけないことにも手を出してまでしていたあの事だ。

 

「昼まで時間があるのであの話をしましょう。」

 

「いいぞ。」

 

 こうやって始まったのだが、熊野から話がポコポコと生まれてくる。

 

「最初に、この前の作戦のことですわ。何なんですの、あの『提督も乗艦させろー』とか、訳が分かりませんわ。」

 

「それは何度も説明しただろう?」

 

「納得いきませんの。大体、合同作戦と謳ってましたがこちらが攻撃して盾になる事を想定したものでしたわよね?」

 

「そうだな。楔型陣形で米艦隊は楔型中央部だったな。」

 

「それですわ。自国の海岸線の開放のための作戦ですのに、自分の国の艦隊が出ないなんて......あろうことかその時の陣形の先頭は横須賀鎮守府だったそうですわね。」

 

「そう聞いたな。」

 

 熊野はソファーに座ってそう話すが、腕を組みながら怒っている。

 

「あちらの要求をそのまま飲んだ政府と大本営は分かってないのですわ。知っているはずですわよね?提督のことは。」

 

「勿論だ。」

 

「なら尚更、納得が行きませんわ!」

 

 そう言いながら熊野は紅茶を飲んだ。落ち着くためだろう。

ティーカップを置いた熊野は落ち着いたのか、話題を変えた。

 

「まぁ、事は済んだ事です。もう何を言っても変わりませんわ。」

 

「あぁ。」

 

「それと、最近になって戦争終結も現実味を帯びてきましたけど、本当にどうするんですの?」

 

 そう熊野は訊いてきた。今後の事なんて正直考えてすら無い。

目の前のことで精一杯という訳ではないが、熊野の言うほど現実味は出ていない。まだ中部・南方海域があるのだ。それも手がついてない。この前の『FF』作戦でもしかしたら中部海域の艦隊に手を出していたのかもしれないが、分かるわけがない。もう撤退してしまったし、海域の情報なんて知らないからだ。

 

「何にも考えてない。まだ海域が残ってるだろう?」

 

「それはそうですけど......。」

 

 熊野が食い下がってきた。

 

「その時はその時だ。最善の判断ができればの話だけどな。」

 

 そう言って俺は紅茶を啜る。

 

「ううぅぅ......もうっ!提督はどうしてそこまで自分のことを考えないの?」

 

「考えてるさ。海域を攻略して、終戦させる。そのことを。」

 

 そうは熊野に言ってはいるけど、本当は考えている。と言っても起きることといえばひとつしかない。

一番ありえるのは俺たちを排斥することだ。これまでは黙っていたが、終戦すれば艦娘は脅威でしか無いからだ。それ以外に何があるのかと聞かれても、答えられない。ぶっちゃけ、それ以外無い。

 

「当面はそうですわね。」

 

「そうだ。だからまだ考えなくていい。中部海域でも攻略した後くらいに考えればいいさ。今から出来ることなんてそんなないからな。」

 

 そう言って俺はティーカップを持って立ち上がる。片付けるのだ。

 時計を見ると、もうそろそろ正午。これから昼食になる。食堂に移動しなければならない。

 

「さーて、行くぞー。もうこの話はおしまいだ。」

 

「はいはい。すぐ行きますわ。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 食堂に入って、席に座っているとすぐに俺の片方の席が埋まる。

誰が入るのかというと、勿論、鈴谷だ。

 

「ちぃーす!」

 

 そう言って横に座ってくる。

 

「鈴谷。」

 

「ん?なーに?」

 

 俺はニコニコして座っている鈴谷に話しかけてあることを言った。

 

「今日は何カレー?」

 

「カレー!」

 

「答えになってないんだけど。」

 

「カレーはカレーだよ?」

 

「具は何か乗せるのか?」

 

 そう聞くと鈴谷は考えて答える。

 

「うーん......。何も乗せないよ?」

 

「マジ?」

 

「マジ。」

 

 俺はそれを聞いてなんだかカレー好きな鈴谷が可哀想に思えてきた。

 

「カレーばかり食べてて正直、飽きるときあるだろう?」

 

「そうだねー......あるといえばあるかな。でもカレーだからねぇ。」

 

「そういう時はトッピングだよ。」

 

「トッピング?」

 

「例えば、カレーに目玉焼きを乗せたりするんだ。」

 

「ほぉー!!」

 

 俺は色々とトッピングを上げていく。カツやチーズみたいに有名ドコロからネギなんかのあまり聞かないものまで俺は鈴谷に教えた。

 

「美味しそうじゃん!」

 

「美味しぞ。俺はオムレツ乗せてオムカレーとかやってたり......した......。」

 

 そう言いかけた瞬間、俺はなんだか不味いと思った。それもその筈。鈴谷が眼の色を変えたのだ。

 

「オムレツっ!?オムカレー美味しそうっ!!」

 

「あーそのー。」

 

「提督!」

 

「何だ?」

 

「作ってっ!!」

 

「嫌だ。」

 

 俺はそう言って自分の食べ進める。そんな俺に作れコールをする鈴谷を無視しながら俺は昼食を終わらせた。

 ちなみにこの俺と鈴谷のやりとりを聞いていた艦娘たちも眼の色を変えていたことを執務室に帰った時に熊野から聞いたのだが、どういう意味で変えていたのかさっぱりだった。

 





 今日のは色々立て込んでてスッカスカな内容です。疲れていたというのもあるんですけどね。
 カレーのトッピングの話は書き出したらきりが無いので適当なところで切らせてもらってます。以外と皆さんの知らないトッピングもあるんですよね。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百七十三話  正門の大井①

 時期外れの涼しさに俺は目を覚ました。もう5月だと言うのに肌寒いのだ。多分高気圧でも来てるんだろう。ちなみに気象に関しては分からない。

 今日の秘書艦は大井だ。なんだか大井が秘書艦やってるのが多い気もするが、くじで決めていると言っていたので運なのだろう。

秘書艦が大井ということは、早くに来るということ。俺はすぐに着替えて執務室に入った。

執務室も私室同様、時期から外れた温度をしている。肌寒い。空気の入れ替えをしようと思い、窓を開けるが余計に寒くなる。食堂に行くまでは開けておこうと思い、そのまま席に座ると大井が入ってきた。

 

「おはようございます。」

 

「おはよう。」

 

 そう言って大井は平気そうな顔をして、席に座った。

 

「大井、寒くないのか?」

 

「うーん......確かに寒いですね。でも耐えられない程ではないです。」

 

「そうか。」

 

 そう言う大井だが、ガッツリカーディガンを着ている。

 こうして見てみると、ここに来る艦娘がいつもの服に羽織って何かを着てくる姿なんて初めて見た気もする。別に俺はそういう事を禁止している覚えもないので、さして問題は無いんだが。

 

「最近どうだ?」

 

 俺はさながら思春期の子どもに話題を振る父のようなセリフを言った。

 何を聞きたいのかというと、『提督への執着』がないと言われている大井の調子だ。他の艦娘との違いに戸惑ったりしていないか心配なのだ。

 

「そうですねぇ......皆さん、良くして下さいますし、楽しいですよ。」

 

「『提督への執着』に関することで困ったことは?」

 

「それも無いですね。何かあれば他の娘に合わせれば問題無いですから。」

 

「それもそうか。」

 

 大井は淡々と答える。様子を見ても、そんな心配することもなさそうだった。

至って普通に過ごしているようにしか見えない。

 

「安心したよ。」

 

「何がです?」

 

「他の艦娘と決定的に違うところがあるからな。大井は。誰かに邪険にされてたり、意地悪されて無いんだな?」

 

「えぇ。そもそも、そんなことがアレば提督の耳に入るんじゃないんです?」

 

 そう大井は言いながら俺に今日の執務の書類を渡してきた。いつも通りの量だ。

 

「もう行くか?食堂。」

 

「そうですね。時間も時間ですし。」

 

 今の時間はだいたい6時20分くらい。もう食堂に行ってもいい時間だ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 朝食を食べ終わり、俺と大井は執務室に戻ってきていた。帰るなり執務を始めて小1時間、もうそろそろ終わるだろうという頃に外が騒がしくなってきた。

グラウンドで駆逐艦の艦娘が遊んでいる騒がしさや、それこそ主婦のようにその辺で立ち尽くして井戸端会議をしているような声ではない。その声を聞くと面倒事が起こるというものだ。

 

「提督、あれって。」

 

「あぁ。面倒事だ。今すぐに行くぞ。」

 

「はい。」

 

 俺と大井は途中までやっていた書類をキリの良い所で終わらせ、執務室を飛び出した。向かった先は正門。

 正門にはやはり人が集まっていた。そしてそれを防ごうと、盾を持った門兵が並び、バリケードを作っている。その後ろでメガホンで即時退去を呼びかけている様子だ。

 正門に集まっている集団を見て俺は頭痛がしたような気がした。これはどう見ても抗議活動だ。

 

「即刻、横須賀鎮守府は退去せよっ!」

 

「戦争の火種を我々の近くに置くなー!」

 

「戦争はよそでやれー!」

 

 最近沈静化していた奴らだった。艦娘を見せろという奴らでは無い、どこかの自治体や議会の人間たちによるものだ。

 

「今すぐ退去して下さい!!横須賀鎮守府周辺でのデモ活動は禁止されています!!」

 

 門兵も負けじと叫ぶがやはり多勢には通用しない。ここから見ただけでも、正門前の車道にはみ出る勢いで人が集まっていて、正門じゃないとこからもその声は聞こえていた。

 

「年端もいかない少女を戦争に出す横須賀鎮守府司令官は犯罪者だー!!」

 

「国民を脅かすなー!!」

 

 どうやらこれまで訊いてきた言葉以外も出てきたみたいだ。それに、艦娘のことも出てきた。『年端もいかない少女』とはそれは外見だ。艦娘の実態は船だ。といっても俺自身も良く分かってないんだがな。

艦娘は艤装に乗り込むときは艦長のように指示を出していく。艤装を身に纏うときは艤装を体の一部のように操作する。よくわからないのだ。

 

「これは......以前にもあったというデモですね。」

 

「あぁ。だが今回のは規模が大きい。ここまで大きいのは初めてだ。」

 

「これを見て他の娘は『提督への執着』を?」

 

「そうだ。今にも現れるぞ。艤装を身に纏った金剛と鈴谷が。それに上空を艦載機が飛び始める。」

 

 そう俺と大井が空を仰ぐともう飛んでいた。烈風と彗星一二型甲だ。

 

「あーあー、出てきてるな。」

 

「そうみたいですね。」

 

 そう言って俺が後ろを振り返るとそこには金剛と鈴谷が居た。流石だ。

 

「ヘーイ、提督ぅー。」

 

「ちぃーっす。」

 

「もう来たか。」

 

 そう俺が聞くと金剛と鈴谷は頷いた。

 

「この騒ぎ、デモだね。」

 

「あぁ。」

 

 そう言うと金剛と鈴谷の後ろから赤城と加賀も現れた。

そして続々と艦娘が出てくる。

 

「結局、全員集まってしまうんだな。」

 

「そうデス。しかも今回のは特別、黙ってられマセン。」

 

 金剛の黙ってられないというのは、多分あの言葉だろう。

何も知らないのなら仕方ないとしか言えない。説明しても分かってもらえないだろうし、そもそもするつもりもない。与太話、苦し紛れの話だと思われるだけだ。

 

「戦争はよそでやれー!」

 

 俺と金剛が話している最中も、抗議のような叫び声が聞こえてくる。そんな時、俺のところに門兵の1人が来た。

 

「提督が来られてましたか。現在、横須賀鎮守府正門の左右200m塀に沿ってデモ隊が集結してます。それに続々とその人数は膨らんでおり、車道にはみ出して交通妨害も起きています。警察も出動していますが、手に負えない状況です。」

 

 そう門兵は言う。門兵は小銃を携えているが弾倉は抜いているみたいだ。

 

「状況は分かりました。門を突破しようしているデモ隊は?」

 

「いません。ですが、塀と門外から物が投げつけられています。生卵、ペットボトルなどです。」

 

 そう門兵がいうので俺は門のバリケードの方を見た。確かにペットボトルが散乱しており、生卵やペットボトルが飛んでいるのが目につく。

 

「そうですか。......気が済むまでバリケードの維持をお願いします。それと武下大尉は?」

 

「大尉ならすぐそこです。お呼びします。」

 

 そう言うと門兵は武下を呼びに行き、武下は俺のところに来た。

 

「お呼びですか?」

 

「はい。応援要請はされました?」

 

「大本営に。ですが寄越したのは警察の機動隊です。現在、正門に向かって来てるそうですが、デモ隊の妨害を受けているそうです。」

 

 そう武下が言う。現場の判断でやってくれた様だ。ありがたい話だが、今更ながら考えることがある。

どうして彼らは軍事施設だと分かっていながら、こういった活動をするのか。言っている事は分かる。だが、こうやって現地でやることになんの意味があるというのだろうか。

大本営に訴えたり、署名活動をしたりするなり方法がある筈だ。なのにそんな中で何故デモを起こすのだろうか。一番聞いてもらえない可能性のある手だというのに。

 

「そうですか。即時退去の呼びかけを強めて下さい。こちらが何かアクションを起こしてしまうと、悪い方向に持って行かれます。」

 

「わかりました。非番の者にも呼びかけます。」

 

 そう言って武下は行ってしまった。それと同時に俺は艦娘たちに言った。

 

「現時刻より艦娘は艤装を身に纏うことを禁ずる。これは命令だ。」

 

 そう俺は言って、歩き、再び立っていた位置に戻るときには皆、艤装を身に纏っていなかった。

俺がそれを確認すると、何処から来たのか巡田がやってきた。

 

「提督。ご報告です。」

 

「何ですか?」

 

「こちらにデモ隊、300人が向かっているみたいです。正門に集まっているデモ隊は1000人。今後、これ以上増えることが予想されます。」

 

「そうですか。」

 

「はい。どうやらネットで深海棲艦との戦争を非難する人間が呼びかけて集めたみたいです。それと、戦争を好まない人たちもです。更に、以前抗議デモをしていたカメラを持っていた団体も来ているみたいで、人数が膨れ上がっています。」

 

 そう言って巡田はどこかへ行ってしまった。多分だが、周りの状況を見に行くんだろう。

それにさっきから気になっているが、ヘリが飛んでいるみたいだ。4機ほど見えるが、全て報道機関だろう。

 

「秘書艦以外、自室待機だ。今すぐ戻れ!」

 

 俺は思いついたかのようにそう言う。なんだか嫌な予感がするのだ。直感的にそう感じたのだ。艦娘たちは少し不満そうだったが、素直に帰ってくれた。この場に残ったのは俺と大井だけ。

 

「戻してよかったんですか?」

 

「あぁ。どうせ金剛と鈴谷はまた何かあればすぐに現れるし、他は出てこないだろう。」

 

「そうですか。」

 

 俺と大井は今いるところから正門を眺める。わりと離れているが、そこまでだ。見えにくいという程でもない。

 

「これ、どうやって鎮めるんです?様子を見ている限り、現状維持でしたら暴徒と化す可能性もあります。」

 

「俺もそう思う。だが戦争を止めろと訴えている集団が暴徒となったその瞬間、自分らが俺に訴えていたことが矛盾する。それに既に矛盾点はあるんだ。」

 

「矛盾ですか。」

 

「あぁ。自分たちが何故、戦争が嫌なのか、止めてほしいのかを俺は知らない。一方的に言われているだけだからな。そういう考え方をすることは間違ってない。だが、それを訴えるというのなら自分たちがどういう立場にあり、状況にあるのかを明確に分かってなければならない。」

 

「......。」

 

 大井は黙って聞いている。

 

「子どもがお菓子やおもちゃをねだって愚図るのは矛盾していない。言葉をうまく使えないからだ。」

 

「そうですね。」

 

 俺はそう行って正門を見て耳をすました。

 

「大井。ラッパみたいな音が聞こえるか?」

 

「えっ?......えぇ。プップーって鳴ってますね。デモ隊の声より少し小さいくらいですが。」

 

「その音は警笛音と言って、自動車に取り付けられている車外に異変を知らせるものだ。」

 

「その警笛音が何か?」

 

「自動車がそれを何回も鳴らしているということは、何かが起きているんだ。この場合、状況を考えると......道路を封鎖されている。それも、法の下でではない別の要因で。」

 

「成る程......デモ隊が道に出ていると?」

 

「そういうことだ。それと既に起きている矛盾というのは、奴らが俺に訴える『犯罪者』という言葉。その言葉は今、そっくりそのまま自分たちに帰ってきているということだ。」

 

 そう言うと大井は正門を眺めた。

 

「そうなんですか。でも、何故ここまで訴えるんでしょう。」

 

「そうだな......。大井は勿論だが鎮守府の外には出たことがないだろう?」

 

「はい。」

 

 大井は頷く。

 

「鎮守府の外ってのは中と違って深海棲艦だのとはほとんど言っていないんだ。外に出てしまえば平和そのもの。本当に海で深海棲艦と戦争をしているのかと疑うくらいにだ。」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。俺は出れる権限があるから何度か出ているが、本当に平和だ。戦争をやっていないと錯覚するほどに。」

 

 そう言って俺は腰に手を当てた。

 

「そんな鎮守府の外の世界の人間が、深海棲艦だ戦争だと言われ、鎮守府が空襲されたのを見て思ったんだ。『この戦争は私たちに関係のないものだ。』とね。」

 

 俺がそう言うと大井は衝撃を受けたようだ。強調して言ったところだろう。

 

「そんなっ......私たちが深海棲艦と戦っているから平和だと言うのに?!」

 

「そうだ。」

 

「肩代わりして死と隣合わせの戦闘をしている間、人間たちはっ......。」

 

「平和を謳歌しているだろうな。鎮守府の外は違うところも多々あるが、俺のいた世界と同じだ。平和な日本に見える。」

 

 そう俺が言うと、大井は拳を握りしめた。

 

「......悔しいわ。協力するんじゃなかったの?」

 

「艦娘の発現当初はそうだったみたいだな。協力して深海棲艦を一掃すると。まぁ、その時には既に人間たちに戦闘力は残ってなかったがな。」

 

 なんだか大井の様子がおかしい。見るからにオーラが変わってきているのだ。

 

「それで人間は支援をしていたけど、そのうち私たち艦娘を閉じ込めて深海棲艦と戦わせたのね。自分たちは平和に暮らして。」

 

「そうだったと聞いた。」

 

「挙句の果てに関係ない世界の提督も戦わせてるのね......。」

 

 俺の背中に汗が伝った。この大井の様子、他の見たことがあるのだ。そして俺の脳内で警報が鳴り響いている。この大井は危険だと。

 

「ふふっ......ふふふっ......。」

 

「っ?! 大井っ?!」

 

「ふふふふふっ......そうねぇ......。」

 

 大井が気持ち悪い笑い方をしている。これは一体なんだと言うのだろうか。

 

「大井っ!落ち着けっ!!」

 

「あら、提督。私は落ち着いてますよ?......ふふふっ......これが『提督への執着』なのね......。」

 

 大井はそう言った刹那、艤装を身に纏った。

 

「止めろっ?!大井っ!!!」

 

「分かってますよ。出てきちゃったんです。」

 

 そう言って大井は手に持っている砲を地面に置いた。

 

「憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて仕方ないわっ......。」

 

 大井はこっちを向いてそう言ったが、大井の目には光が無い。金剛や鈴谷がする目と同じ目をしている。

これは本当に『提督への執着』だ。今の話が原因でないと言われてた大井に発現してしまったのだろうか。

 




 今回から少しシリーズです。
『提督への執着』がないといわれていた大井に発現してしまいました。
今後の展開をお楽しみに。ちなみに大井が変わってしまいました。

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第百七十四話  正門の大井②

 

 大井は目から光は消えたが、動こうとはしない。多分、理性が働いているんだろう。

ここで本能の赴くままに攻撃してしまうのは良くないとわかっているのだ。

 

「提督、私、理性が働いてます。」

 

「あぁ、そうみたいだな。」

 

「......でも、殺してやりたいと、脳裏で誰かが言ってるんです。これが『提督への執着』......。」

 

 そう言う大井の前に立つが、後ろの騒ぎは落ち着くどころかヒートアップしていた。

生卵が無くなったのか、別のものも飛んできている。色んなものだ。ひとくくりに纏めてしまえばゴミだ。

 

「深海棲艦との戦争をここでやるなー!」

 

「国民を脅かすなー!!」

 

 言っていることの種類は少ない。さっきから同じことを言っているが、声の調子は変わっていた。

脳内麻薬でも出ているのか、声量や声の調子も違う。怒鳴りに変わっているように聞こえたのだ。

 

「退去して下さいっ!!抗議は大本営や政府に掛け合い、相応の手順をおって対応しますっ!!」

 

 門兵も負けじとゴミを被りながらそう叫んでいた。どこか怒りも混じっているように聞こえるが、それもそうだろう。

生卵やゴミが投げつけられているからだ。

 

「そんな事、関係ねぇ!!お前らがここにいると深海棲艦が寄ってくるんだっ!!」

 

「勝手にやってる戦争に巻き添えはゴメンだっ!!」

 

 門兵に対抗する声が上がる。彼らの言った言葉は、完全に今の日本に起きていることを理解できていない証拠だ。

何かに扇動されている事は確かだ。だがそれを疑おうともせずに、鵜呑みにしているんだろう。

 

「抗議は政府か大本営にお願いしますっ!!横須賀鎮守府への抗議は対応できませんっ!!」

 

 俺と大井はその光景を遠目から見ているだけだ。

俺たちが出て行っても出来ることなんてない。むしろ、もっと激しくなるのは確実だ。ただでさえ、騒ぎが大きいというのにこれ以上大きくは出来ない。

そんなことを考えながら居ると、武下が来た。

 

「提督。これ以上耐えれなさそうです。正門は閉まってますが、外の壁を突破しそうです。増員もこれ以上は出来ません。」

 

「限界なんですか?」

 

「はい。特に精神面では。......罵倒などが門兵たちを怒らせているようです。なんとか平静としていられているみたいですが、これ以上は......。」

 

 そう言った武下は俺に携帯を見せてきた。

俺は画面を覗き込み、見てみると、写っているのはどうやら動画みたいだ。

 

『現在、日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部正門前にて大規模なデモ隊が抗議に押し寄せています。抗議内容は鎮守府の退去、国民の安全、深海棲艦との戦争、提督による未成年の徴兵です。この事に関しては以前から大本営や政府の発表がありますが、深海棲艦との戦争は国力の維持に必要でもし戦争を停止してしまえばあらゆる資源の供給が止まってしまうことを示唆しています。更に深海棲艦による本土攻撃もあるのではないかと発表しております。更に艦娘に関してはこれもまた、特殊能力を有するヒトだとしておりますがその一方、彼女らを日本皇国国民でないとしております。そして提督による徴兵ですが、事実無根であり大本営と政府はそんな事実は無いとしています。』

 

 ニュースの映像だった。それを見せた武下は困り顔で言った。

 

「公になっている情報を歪曲して理解しているとしか思えません。それにデモ隊外縁部と機動隊の衝突が起きているみたいです。」

 

 武下の言ったことは想定済みだ。この様子なら確実に衝突するだろうと思っていた。

更に大井に言った、彼らの掲げる言葉に矛盾が生じたことも確認した。これで彼らから見た俺と彼らは同レベルの存在となった。

その刹那、携帯を仕舞おうとした武下の携帯が着信した。

 

「すみません。電源を切っていなくて......っ?!」

 

 携帯を出して電源を切ろうとした武下は驚いた表情をして携帯を見ている。

どうしたのだろうかと俺が思うと、武下はまた俺に画面を見せてきた。

 

『大本営が横須賀鎮守府と艦娘に関する情報を再提示しました。内容は以前と変わりません。更に天皇陛下がデモ隊に対して即時退散を呼びかけました。』

 

 天皇陛下。俺はこの文字を見たのはいつぶりだろうか。

そして天皇陛下という言葉がどういう意味をもたらすのか。この国は今は天皇制を執っている。その国家元首が直に呼びかけをしたという速報だ。

 

『国営放送が先ほど緊急速報として放送した映像を御覧ください。』

 

 そう映像が切り替わった。そしてその瞬間、礼服を着た壮年の男性が映る。

 

『国営放送にお邪魔し、全ての放送を中断させていただきました。本日、私がこのような事を命じたのは一部の国民が日本皇国内の国内情勢を理解できていない事を伝えるためです。』

 

 壮年の男性の身から出るオーラは画面越しでも強く感じる。

 

『今、日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部に一分の国民が集まり、自らの考えを訴えていらっしゃいます。それはとても素晴らしい事です。』

 

『その訴えを私は耳にしました。私はその訴えを聞き、心が痛くてたまりません。』

 

『皆さんが忘れていたとしても私は忘れてなどいません。艦娘は国が窮地に立ち、滅びが見えた時、私たちに手を差し伸べていただいた存在。どこからともなく現れ、深海棲艦を撃退し、私たちから奪っていったものを代わりに取り返すために尽力を尽くしていただいています。』

 

『ですが国内は私たちが本来やるべきことを肩代わりしていただいているにも関わらず、まるで深海棲艦が現れる前と同じ状態に戻ってしまいました。』

 

『私は心が痛くて堪りません。何故、外の世界のことだと考えてしまっているのだろうかと。』

 

『私たちは代わりに戦争をしていただいているんです。そのことを理解していただきたいです。』

 

 呼吸を整えた壮年の男性は再び話し始めた。

 

『私は国民の訴えを聞き、一番心が痛かった言葉があります。それは、〈提督は犯罪者〉という言葉です。』

 

『彼は18という歳でありながら艦娘を纏め上げ、深海棲艦と戦っています。その提督は言わば唯一艦娘と共に戦っている国民です。その提督を侮辱し、蔑み、犯罪者と騒ぎ立てる事がどういう事か理解しているのでしょうか。』

 

 壮年の男性は感情を込めた。

 

『私たちは艦娘と協力関係にあります。その艦娘が今後一切、深海棲艦の火の粉から国と私たちを守っていただけなくなるということです。』

 

『そうすれば艦娘によるヨーロッパとの貿易や石油や鉄などの資源の供給は寸断され、私たちの目と鼻の先にまで深海棲艦が攻撃をしにやってくるのです。そして......』

 

『そして、艦娘たちはこう仰ってました。〈私たちは日本皇国全土を攻撃する〉と。日本皇国は自らの首を絞め、延命している状態だということをここに私が断言いたします。』

 

『横須賀鎮守府に集まり、デモ活動をしている国民に命じます。即刻横須賀鎮守府から退去して下さい。そして横須賀鎮守府艦隊司令部司令官、提督に命じます。もし、デモ活動をしている国民が自主退去しない場合は鎮圧して下さい。彼らが私の声を聞かないのならそれ即ち、その他の国民を危険に晒すテロリストなのです。』

 

『そして私は大本営へ命じます。私がこの場で伝え切れなかった事を、伝えて欲しいのです。』

 

 こうして映像は戻った。

俺は衝撃を受けている。画面の向こうの壮年の男性は天皇陛下だと言うのだ。その天皇陛下がこの状況を良くないと直接伝え、真実を伝えたのだ。

俺はすぐに武下に言った。

 

「......鎮圧用の火器は?」

 

「催涙手榴弾とショットガン、放水砲があります。」

 

「今すぐ用意。30分以内に退去しなければに制圧を開始して下さい。」

 

「了解しました。」

 

「更に警察に連絡。連携して鎮圧して下さい。」

 

 武下は携帯を持ったまま走って行ってしまった。

鎮圧するための準備に向かったのだ。その一方で大井はと言うと、艤装を身に纏っていないが、何か言っている。

 

「提督は艤装を身に纏う事を禁止したの......これならいいわ......。」

 

 そう言うと大井は歩き出した。そして門のすぐ近く、投げられたゴミが散乱している周辺に立った。

 

「お嬢ちゃん艦娘かいっ?!無理やり戦争させられているんだろう?!」

 

 そうデモをしている人の1人が言うと大井の身体が光だし、それとともに大きな音と衝撃で身体が揺さぶられた。

そしてその光源にあるのは艤装。魚雷発射管がいくつも並んでいるその特徴的なシルエットの艤装は大井だ。そしてその瞬間、艤装の機銃(※多分換装したもの)が動き、デモ隊を捉えた。

デモ隊は面を食らい、静かになる。ゴミを投げるのも止まった。彼らは大井を見上げているのだ。

 

「嬢ちゃん?!どうしたんだい?」

 

「うっさいです......。」

 

 艤装にあるスピーカーを使っているんだろう。大井の声が流れた。

 

「私は横須賀鎮守府艦隊司令部所属 重雷装巡洋艦 大井です。正門前及び鎮守府周辺に集まるデモ隊に警告します。」

 

 大井の艤装の14cm単装砲が旋回。デモ隊を捉える。

 

「横須賀鎮守府正門及び周辺から即刻退散して下さい。先ほど天皇陛下より横須賀鎮守府は勅命を賜りました。」

 

 その大井の言葉にデモ隊は動揺する。いきなり天皇が話に上がってきたのだ。そしてちょくちょくとデモ隊から『天皇陛下がお話になられて退去を呼びかけてるぞ』という声が上がるが、その一方で奮い立たせようとする声も上がる。

 

「いいや!やっぱり戦争は良くないっ!!」

 

「横須賀鎮守府が退去すべきだっ!」

 

 そう叫び、動揺していたデモ隊も持ち直してきた時、大井の14cm単装砲が仰角一杯まで上げて一発、空に放った。方角は滑走路があった方向だ。

 

「警告です。立ち退かない場合、制圧させていただきます。」

 

 大井の艤装から退去を促す言葉が出ている中、門兵は着々と制圧の準備を整えていた。動揺してバリケードを押さなくなった門兵に暴徒鎮圧用ラバー弾のショットガンと催涙手榴弾、ガスマスクが配られ、大井の艤装と正門の間に放水砲が4門並んでいた。門の上の監視塔にもどうやら放水砲が出されたみたいで、シールド無しの放水砲が置かれて2人の門兵がそれを支えている。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 30分経った頃、まだデモ隊は正門前に居た。天皇陛下の緊急放送と大井の警告を聞いて退去したデモ隊は100人程度。まだ門の前には1300人近くがいるらしい。

 

「そろそろ時間です。」

 

 俺の横で腕時計を見ていた武下がそう言った。

 

「......最終通告後、退去の意思が感じられなければ制圧開始です。」

 

「了解。」

 

 武下は近くの門兵に声をかけ、バリケードや放水砲、門の監視塔に伝令が走り、大井にも伝えられた。だが大井への指示は威嚇砲撃。信管を10秒にセットした榴弾を仰角最大でヘリを避けて撃てと伝えてもらった。

 

「最終通告です!!今すぐ横須賀鎮守府より退去して下さいっ!!」

 

「戦争を持ち込むなー!!」

 

 退去の意思無しだ。

 

「提督。制圧開始します。」

 

「はい。お願いします。」

 

 武下は下唇を噛みながら走って行き、放水砲の横で叫んだ。

 

「制圧開始っ!!!」

 

 その瞬間、バリケード後ろから門兵が催涙手榴弾を投擲。既にこちらは皆ガスマスクを着用している状態だ。

手榴弾が炸裂するとその辺りは煙が立ち上り、咳き込む声が聞こえる。

そして次に放水砲による放水が開始された。勢い良く噴き出す水にデモ隊はなぎ倒されていく。そしてある程度放水してもなお、立ち向かってくるのなら門兵たちはショットガンを構えた。そして撃鉄を落とす。

ラバー弾が飛翔し、近くのデモ隊に直撃していく。悲鳴や叫び声が木霊し、次々となぎ倒されていくデモ隊はなすすべなく制圧されていった。

この間、大井はずっと空に榴弾を撃ち、威嚇するも効果はなかった。

 制圧には30分かかり、正門外は死屍累々としている。気を失って伸びたデモ隊がびしょ濡れで転がっている。看板や横断幕、旗は穴だらけで折れ、無残に転がっていた。

機動隊の妨害をしていたデモ隊も機動隊による催涙手榴弾の投擲と盾による押し込みにより制圧。このデモで負傷者多数、検挙者が800人に上った。

 





 ここでまさかの天皇陛下登場です。日本皇国にした以上、登場させなければならないですからね。
それと初めてデモが制圧されました。これまで以上の人数が相手ですが。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百七十五話  正門の大井③

 

 鎮守府正門前から伸びたり負傷したデモ隊が救急車や護送車に運ばれて行った後、俺は大井に艤装を仕舞うように言った。

大井は反抗することなく、艤装を消し、俺の前に立った。

 

「提督っ......。何故彼らを撃ってはいけなかったのですか?」

 

「こちらが殺傷兵器で攻撃すればそれは虐殺だ。分かってくれ。」

 

「はい......。」

 

 そう答える大井の目にはもう光は戻っている。どうやら元に戻ったようだ。

 武下が俺のところに報告に来た。

 

「警察の機動隊が引き上げていきました。完了です。」

 

「ありがとうございます。それでは路上の催涙手榴弾の破片やゴミなどの片付けでもしましょうか。」

 

「えっ?」

 

 武下は驚いた。何故驚いたのか俺にはわからなかったが。

 

「いや、片付けですよ。あれじゃあ交通に障害が出ます。交通整理に門兵を配置して残りで片付けです。」

 

「はい。伝えます。」

 

 俺はそう言って上着を脱いで近くのベンチにかけると、袖を捲り上げた。

 

「よっしゃ!大井っ!!」

 

「はっ、はいっ?!」

 

 ビクッと驚いた大井の後ろに人影が居た。

 

「終わりマシタ?」

 

「終わったー?」

 

 金剛と鈴谷だ。

 

「お、丁度いいところに。金剛と鈴谷、頼まれてくれない?」

 

「何をデスカ?」

 

「酒保に行ってゴミ袋を貰ってきてくれ。」

 

「「了解(デース)!」」

 

 金剛と鈴谷は走って行ってしまった。何も聞かずに行ってしまうということは、何をするのか多分分かっているんだろう。

 

「ほれ、大井。行くぞ。まずは大きい物を一箇所に集めよう。」

 

「えっ、えぇ。」

 

 俺は正門を潜って交通整理の始まったデモ隊の居た場所に散乱する生卵のパックやビニル袋、看板の残骸、のぼり、横断幕を拾い始めた。

どれもこれも、びしょ濡れだがなんだか重みを感じた。俺にはなんの重みか分からない。

 

「どっこいしょっと......。」

 

 そんなおっさん臭い掛け声で集めた看板の破片なんかを持ち上げて、正門前の邪魔にならないところに集めていく。すぐに戻ってきた金剛や鈴谷には卵のパックやらゴミを集めてもらい、気付いたら門兵たちも片付けなどで片手間になった者も掃除をしていた。

皆、嫌な顔はしていない。

黙々と片付けをすると正門の向かい側の歩道から警官が出てきた。そして荷物を運ぶ俺に言ったのだ。

 

「自分も、手伝います。」

 

「ありがとうございます。袋は金剛から受け取って下さい。」

 

「はい!」

 

 どうやらその警官は近くの交番から来ていた人みたいで、交通整理を門兵がやっていて暇をしていた様だ。

自主的に俺に声をかけ、手伝いを買って出てくれたのはとてもありがたいと俺は思った。

次第にそれに釣られてか、周辺で見ていた人たちも片付けを始めて、結局1時間で片付き、俺は武下に指示して放水砲を用意。最小出力で放水して道路全体に水を流してもらった。

 

「皆さん、ありがとうございました。」

 

 俺は手伝ってくれた警官や近隣の人たちに頭を下げ、門の中へと戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 私室で俺と大井はテレビを見ていた。きっと今の話題はデモのことが中心になっているだろうからだ。

テレビを点けると俺の予想は的中。報道番組ではデモの話を取り上げており、何かの評論家、教授が話をしている。そんな中、やはり着眼していたのは天皇陛下による勅令、大本営による更なる情報開示だった。

どんな内容なのか、いつ開示されるのかということが話題になっていた。特に内容だった。

招かれていた評論家や教授は様々な憶測を出している。

 

『情報開示では私は半年前から急に日本近海、南西諸島、北方海域、西方海域の奪還が進んだ理由だと考えておる。』

 

『教授。それはどういったところを見たのですか?』

 

『うむ。艦娘との共闘が始まったのは10年以上前の事だ。それからすぐに艦娘は今はない海軍本部によって鎮守府に閉じ込められ、戦争を強いられていた。』

 

『えっ?!』

 

 アナウンサーが間抜けな声を出した。

 

『何、知らぬのか?......艦娘との共闘が始まってからは共に戦い、海を駆けた同志であったが海軍本部の心ない言葉が蔓延、艦娘を閉じ込めてきたのだ。』

 

『心ない言葉とは?』

 

『艦娘も深海棲艦なのではないか、とな。閉じ込められてからは簡単だった。指令書(※誰からとは言ってない)に従い、蛋白に代理戦争をしていたのだよ。艦娘は。』

 

 番組を収録しているスタジオが騒然とする。

 

『そしてそのことは情報統制でタブーとされたのだ。これがデモ隊の言っていた平和の真実だ。私たちは知らずのうちに艦娘の手によって作られた平和の中でのほほんと生きていたのだよ。』

 

 アナウンサーが顔を真っ青にしている。その時、スタッフがアナウンサーの後ろを通り、ある紙を手渡した。

 

『すみません。教授、続けていただけますか?』

 

『うむ。そんな情報統制下で海軍本部は少しの良心でも働いたのだろう。代理戦争をしている艦娘に対して褒美は要らぬのか、とな。』

 

 こう言った教授は黙ってしまった。それにはアナウンサーも戸惑い、聞いた。

 

『それで、それでどうなったのですか?』

 

『ここから先は私の口からは言えぬ。』

 

『何故ですか?』

 

『理由もだ。』

 

 そう教授は言って、続けた。

 

『ここまでの話は真実だ。紛れも無く。それを私たちは忘れていたのだよ。艦娘によってもたらされている平和に。』

 

『あっ......ありがとうございます。先ほどの続きは大本営の情報開示によって分かるのでしょうか?』

 

『うむ。』

 

 俺は画面から視線を外した。大井の方を見た。

大井は特段、何かに反応しているわけでもなく、ただテレビの中で言っていた言葉を聞いていただけだ。

 

「提督。」

 

「何だ?」

 

「このテレビの中の教授はあのデモ隊よりも遥かにものを知ってますね。」

 

「そうみたいだな。」

 

 そう言って俺はテレビの電源を落とした。もう内容が切り替わっていたのだ。

 

「情報開示の内容は確実に提督のことでしょうね。」

 

「それは俺も同感だ。ちなみに嘘偽りなく伝えられる可能性が大きい。」

 

「同感です。」

 

 俺は立ち上がり、私室から出ると執務室の椅子に腰掛けた。

外でデモ隊が騒ぐ前には執務は終わっていたので、今は妖精に出す修繕指令書。場所は正門内側だ。大井の艤装が突き刺さっていたところがえぐれたからだ。

 

「あはは......余計な執務を増やしてしまいましたね。」

 

「いいさ。アレでも効果があったはずだ。デモ隊への艦娘が戦争を強要されているという話が嘘ハッタリだと分かったからな。俺の姿が見えないところで艦娘が出てきてああ言ったのだからな。」

 

「そうですね。......それにしても『提督への執着』というのは凄いですね。」

 

「ん?」

 

 大井は俺の目を捉えていた。そして段々と近づいてくる。

吐息が当たるのではというところまで近づいてきて視界一杯に大井の顔が映る。

 

「これまでにない殺意が込み上げてきました。それと同時に頭の中は提督のことで一杯......。」

 

「おっ、おいっ。」

 

 俺が離れようとしても大井は追いかけてくる。

 

「ふふふっ......でも『提督の執着』がないときはとても幸せです。心が温かい気持ちになりますよ。」

 

「そうか......つか離れろ。」

 

「嫌です。」

 

 幾ら首を振って逃げても大井は追いかけてくるのだ。ついに俺は立ち上がり、逃げようとするが捕まってしまう。

 

「次に来た時は問答無用で殺しますよ。何を言おうと......。でも、提督が止めてくれるのなら、私はやめます。」

 

 大井はぴったりと俺にくっついた。引き剥がそうにも無理があるのだ。俺の背中は壁にあたっていて、正面は大井だ。

 

「大井っ。」

 

「ふふっ、失礼しました。では、提出してきますね!」

 

 すっと離れた大井は机にあった書類をひょいっと持つと執務室から出て行ってしまった。

それを俺は黙って見送る。なんだか『提督への執着』が発現してからというもの、大井が変だ。否、変すぎる。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 大井が出て行っている間に、執務室に金剛と鈴谷が訪れた。

 

「へイ、提督ぅ~!」

 

「ちぃーっす。」

 

 彼女らは外の掃除を手伝ってくれた。ちなみに他の艦娘は俺の命令を守って私室待機していたそうだ。

 

「提督、1つ聞きてもいいデスカー?」

 

「いいぞ。」

 

「大井のことデース。あれって『提督への執着』が発現したって事デスカ?」

 

「あぁ。」

 

 どうやら金剛もそれに気付いていた様だ。あの様子を見れば知っていれば誰でも気付くだろうが。

 

「大井には無いってなってたデース。どういう事デスカ?」

 

「デモ隊のこととかを話していたらああなってしまった。突然だ。」

 

「そうなんデスカ。」

 

 俺は席を立ち、お茶を淹れに向かってすぐに戻ってきた。カップは3つ。俺と金剛と鈴谷だ。

2人はソファーに座っていたので、カップを机に置き、俺もソファーに座る。

 

「ちなみに傾向は赤城だ。こみ上げる殺意を理性で抑えれるタイプ。」

 

「なるほどねぇ。こっち側じゃないだけ有難たいわ。」

 

「その通り。」

 

 俺たちはカップに手をかけて傾けると話を続けた。

 

「だが目から光が消える。そう考えると大井は赤城と金剛のハイブリットだな。」

 

「ハイブリット......私と赤城の雑種デスネ。」

 

「あぁ。だが有り難いよ。目から光が消えるのは見分けがつきやすいからな。」

 

 そう言って俺はソファーにもたれ掛かった。

少し疲れているのだ。清掃でかなり体力を使ったのだ。外のが終わった後に門内のゴミと生卵とペットボトルの片付けもやっていたからだ。流石にこちらを近隣の人や警官に手伝ってもらう訳にはいかなかったので、俺たちと門兵だけでやったのだ。かなり時間が掛かった。

 その後も金剛たちと今回の件を話していると大井が帰ってきた。

 

「ただいま戻りました。」

 

「おかえり。」

 

「おかえりなさいデス。」

 

「おつかれぇ~。」

 

 ソファーで寛ぐ俺と金剛たちを見て、大井も座った。

だが場所がおかしい。

 

「なぁ、大井。」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「狭い。」

 

 俺の真横に座ったのだ。ちなみに言っておくと、ソファー1脚で2人掛け。俺の方には座るときに金剛と話していたので鈴谷の横に座ったのだが、大井は金剛の横に座るわけではなく、俺の横に座ったのだ。

 

「アーキコエナイキコエナイ。」

 

「絶対聞こえてるだろう......。」

 

 俺はそんな大井を放おって置いて金剛と話を進めるが、何かあるたびに大井がアクションするのでその時々、話が止まってしまう。

それが3回続くと、金剛も何かの対抗心を燃やしたのか話が逸れていった。そして鈴谷も何故かこちらににじり寄ってくるのだ。

この状況が昼まで続き、開放されたのが昼食が終わる30分前だった。開放してくれたのは北上で、理由はというと、なかなか現れない俺と大井を呼びに来たからだ。

北上の『何やってるのさ。』で皆、ババっと離れて俺はめでたく開放されたのであった。

 





 今回で正門の大井は終わりです。次回は次に移ります。
激動が予想されますので、頭のフル回転でショートしないようにします。
 作者が現実逃避でハーメルンの艦これ二次創作を読んで回ってますので感想を書くかもしれません。その時はよろしくお願いします。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百七十六話  真実の兆し

 天皇陛下の勅令によって大本営発表がテレビで中継されている。俺はというと、例外なく大本営に居るがテレビの前には出ない。

連れてきた護衛が殺気立っているのだ。誰が護衛かというとこれまた例外なく金剛、赤城、鈴谷、番犬艦隊(ビスマルク、フェルト、オイゲン、レーベ、マックス、ユー)と最近番犬艦隊に入ったアイオワだ。ちなみにアイオワだけは呑気にしている。一応彼女とビスマルク曰く『提督への執着』はあるみたいだが、軽度のようだ。

大本営発表が行われる舞台を見下ろせるところに俺たちは居る。

 そうしていると始まった。大本営発表だ。俺たちは部屋でテレビの中継を通して見ている。

 

『これより、大本営発表を行います。』

 

 アナウンスが入り、新瑞が壇上に上がった。

 

『私は大本営海軍部長官、新瑞である。今回の発表は陛下からの命を賜ったものである事を先に宣言しておく。そして今から発表する事は、突飛でとても信じ難い事だと思うだろう。だが、信じて欲しい。嘘偽りなく発表をする。』

 

 新瑞は少し呼吸を整えた。緊張しているのが分かる。アレほど平常でない新瑞は初めて見た。

 

『今回の発表は情報開示だ。』

 

 変わらない口調で新瑞は淡々と話し始めた。

 

『深海棲艦に奪われた海域を次々と奪還し、アメリカとの連絡手段までも手に入れた日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部についてだ。』

 

 会場の様子は変わらない。

 

『率直に言おう。日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部は日本皇国海軍の軍事施設でありながら、門を潜った先は日本皇国憲法や軍法が発生しない治外法権区域である。』

 

 一気に会場が騒がしくなった。と言っても知っている人間がほとんどだろう。

 

『昨年、メディアの撮影許可を出した軍法会議によって裁かれた『海軍本部』の事は覚えているだろう。彼らがしてきた事の全てを明るみにした軍法会議だ。艦娘を不当な扱いをしていた組織だが、他にも極悪な事をしていたのだ。』

 

 騒がしかった会場が一瞬で静かになる。

 

『日本皇国海軍横須賀鎮守府艦隊司令部司令官、皆が提督と呼ぶその彼。歳は18だ。そして......』

 

 一瞬にして会場の物音ひとつまでもが消えた。

 

『提督は『海軍本部』の極悪非道な行為によって異世界から連れて来られた一般人だ。』

 

 会場はその言葉で一気に騒ぎが起きる。それまでの騒ぎとは比べ物にならないほどだ。

 

『提督によると、深海棲艦の居ない平和な日本から来たとのこと。しかもまだ学生だ。そんな提督は『海軍本部』による艦娘統制システムによってこちらの日本に連れてこられたのだ。艦娘統制システムというのは、遡ること十数年前。『海軍本部』によって艦娘が不当な扱いを受け始めた時、取り入れたものだ。異世界への何らかの接触によって異世界から艦娘たちの戦闘指揮をすることだ。鎮守府各所に設置された印刷機によって戦闘指揮詳細の書かれた指令書に沿った作戦行動を艦娘独自で実施していたのだ。』

 

 会場の空気はもう変な方向に走っている。

 

『それによって艦娘を閉じ込め、戦争を肩代わりさせていた事に良心が働いた『海軍本部』は艦娘に言った、〈何か欲しいものはあるのか〉と。それに艦娘全員がひとつだけ答えた〈私たちを直接指揮してくれる指揮官、提督が欲しい〉と。』

 

 空気に構わず新瑞は続ける。

 

『その艦娘の回答に『海軍本部』はこうしたのだ。〈戦果を挙げろ。戦果を挙げればその印刷機の向こう側にいる人間を呼び出そう〉と艦娘に伝えたのだ。それによって艦娘は数年間奮闘をし、横須賀鎮守府の艦娘は司令官を得ることが出来たのだ。それが提督だ。この深海棲艦との戦争には全く関係のない人間だがな。』

 

 ハハッと新瑞は笑うが、笑えない。

 

『横須賀鎮守府艦隊司令部の艦娘が提督を得たのは去年の9月からだ。そこからは皆も知っての通りだ。彼は全く関係のない日本皇国のために最善を尽くして私たちの代わりに戦争をしている。そして軍法会議の内容だ。『海軍本部』によって暗殺されかけたのだ。』

 

 俺の頭に走馬灯かのように着任の時からあったことが脳内を流れていく。

 

『ひとつめは今言った提督の事だ。次は横須賀鎮守府艦隊司令部がどうして治外法権区域なのか、だ。』

 

 少し呼吸を整えた新瑞は再開した。

 

『先程言ったように提督を得た艦娘たちは提督を失うわけには行かないとして過剰反応し、『提督への執着』と言われている提督への過剰な保護欲をみせる。記憶があるのではないだろうか?メディアは。』

 

『メディアはその仕事柄で鎮守府を訪れ、取材をする事がある。その際、艦娘に砲を向けられたそうだ。何者かもわからない信用出来ない人間を提督に近づかせまいとして。』

 

『その際、多くの艦娘は性格が豹変する。例えば有名な艦娘だと金剛だろうか。彼女を例に挙げよう。彼女は元気で笑顔がとても可愛らしい艦娘だ。それは皆も周知だろう。だがメディアが鎮守府を訪れた際は違っていた。表情から笑顔がなくなり、目の色が変わった。提督に近づいたレポーターは掴まれ、平たく言えば殺されそうになったのだ。』

 

 会場にいる取材陣は全員今言った事を知っているのでリアクションはしない。

 

『彼女ら艦娘曰く、『提督に近づく信用出来ない人間は殺す』そうだ。私たち人間の誰が提督に手を下すかわからないからだ。』

 

『だがそんな艦娘を止める事が出来るのが他でもない艦娘の過剰な保護対象である提督だ。つまり横須賀鎮守府が治外法権区域であるのは『提督への執着』が出る艦娘を我々が止めれず、それを唯一止めれるのが提督がいるからであるのと、鎮守府内を我々が艦娘のテリトリーとしているからだ。』

 

『補足をしておくが、艦娘は提督が不快に思ったり、提督の悪口を言おうものなら同じく殺そうとする。覚えておいて欲しい。更に艦娘が戦う理由だが、提督の為だそうだ。つまり我々、日本皇国のためではない。提督が日本皇国にいるから日本皇国を守っているに過ぎないのだ。』

 

『ふたつめは今の艦娘の事だ。次は日本皇国についてだ。』

 

 新瑞は息を整えると話しだした。

 

『深海棲艦によって海上航路を封鎖され、一度食糧危機や資源不足に陥った日本皇国は現在、安定した食料供給と資源を手に入れている。』

 

『経済が崩壊しかけ、一時は配給制にまでなったが今では自由に食料や工業製品を購入することが可能だ。』

 

『その一次産業を支えているのは紛れも無く艦娘である。』

 

『資源は艦娘による資源輸送任務によって国内の産業を支え、艦娘によって作られた食料プラントによって安定した食料供給をしている。野菜や穀類、肉の供給の殆どは食料プラントで支えられているのだ。』

 

 流石にこれはメディアも知らなかったのだろう、騒がしくなった。

 

『この事実を国民は理解しなければならない。提督によって生かされ、艦娘に養われている事実を。』

 

 そう言い切った新瑞は水を飲んだ。つまりこれで一応、終わりということだ。

だが、まだ終わっていない。今回はメディアからの質問に答えるのだ。

 

『国営放送です!提督によって生かされているとはどういう意味ですか?』

 

『答えよう。......提督の命令で艦娘は動く。命令次第では日本皇国全土を火の海に出来るということだ。だが有り難いことに、提督は寛容だ。艦娘による過剰保護反応を全て止め、これまで横須賀鎮守府に関わった人間は誰ひとりとして死んでない。そして今後も誰かを命令によって殺すこともしないと言っていた。』

 

 張り詰めた緊張が一瞬で解けたのか、取材陣の安堵の声がマイクが拾っていた。

 

『これで以上だ。今日、私が話した事は全て事実である事をここにもう一度言っておく。』

 

 これで大本営発表が終わった。ついでに帰れる訳だが、どう帰ろうか悩むところだ。

ここに提督が居るか否かは分からないところだが、ここにいる情報が掴まれている可能性もある。どういうタイミングで出て行くのが正しいのやら......。

そんなことを考えていると、俺たちがいる部屋に新瑞が入ってきた。

 

「帰るか?」

 

「はい。お疲れ様でした。」

 

「あぁ。大本営発表はいつやっても慣れない。それと、これから帰るのなら丁度横須賀鎮守府に行く輸送トラックが居る。それに便乗してトラックで帰るといい。」

 

「ありがとうございます。」

 

 俺は新瑞に案内されてトラックに乗り込み、鎮守府に帰った。ちなみにトラックは俺が乗るものは大本営にあるトラックを偽装したものだ。

 今更だが、新瑞はアイオワを見ても何も反応しなかった。どうしたのだろうか。見たことのない艦娘なら名前くらい訊くだろうに。多分、海外艦が多くて気づかなかったのだろう。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 大本営発表は昼から夕方にかけて行われたので、帰るなり夕食、就寝だった。執務は赤城に頼んで、早めに終わらせていたので問題ない。

少し、気疲れしていたのか早くに寝てしまった俺はいつもよりも早く起きてしまった。時刻にして午前4時過ぎ。まだ外は暗く、日中は温かいのだが夜は冷え込んでいて、布団から出ようものなら寒いくらいだった。例外なく、今も寒いわけで、目が覚めたが俺はまだ布団の中に居た。

 

(早く起きすぎたな......。)

 

 そんな事を考えながら、ベッドから見える外の景色をボーッと眺めた。

ただ暗いだけの景色は変わることは無いが、俺の心を落ち着かせてくれた。

そんな時、執務室から物音が聞こえた。誰かの歩く音というより、ものに当たった音だ。

 

(誰かがいるのか?侵入者ではないだろうし......。)

 

 侵入者が鎮守府に入る事は十中八九無理だ。慢心ではないかとも思われるが、その自信が何処から来てるのかなんて皆、承知だろう。

金剛と鈴谷だ。あの2人がここに現れたならあの物音を立てた正体が侵入者だということになる。だが実際は現れない。ということは、侵入者ではないということだ。

 耳を澄ませて執務室の方を集中した。ひたひたと歩くような音が聞こえる。人数は1人。

 

(誰だろう。)

 

 俺はそう思いつつ、耳を再び澄ませた刹那、声が聞こえた。

 

「ふふふっ......。」

 

 その声に聞き覚えがある。大井だ。

 

(笑ってるのか?しかもこんな時間に大井はなんの用だろう?)

 

 そう思って起き上がろうとした時、私室の扉が開かれた。

俺はこの時、起きればよかったのに寝たふりをしてしまったのだ。

 

(しまった......。これじゃあ声が掛けれない。)

 

「提督?寝てますよね?うん......寝てますね。」

 

(起きてますっ!!)

 

 目は閉じているが、オーラで分かる。いつもの大井でもなければ『提督への執着』が出ている訳でもない。

変な雰囲気だ。

 

「来ちゃいました。私......。」

 

 そう言って大井は俺の顔を覗き込んだのか、スッと空気が流れ、足音は離れていく。

私室の中を歩き回っているのか、ひたひたと歩く音があちこち彷徨い、俺の横に戻ってきた。

 

(一体何なんだよ。)

 

「やっぱり広いですね。提督の私室は......。」

 

 そう言って大井は横に座ったのか、ベットが少し沈んだ。

 

「昨日、私に『提督への執着』が発現してから色々な事が分かったんです。......この鎮守府で一番短い期間居る私ですが、気付いちゃいました。」

 

 大井が気付いたのは九割方アレだろう。

 

「赤城さんも金剛さんも驚いてましたよ。」

 

(当たりかよ、コンチクショー。)

 

 九割だと自分で考えておいて当たったらこんな風に捉えてしまう。

出来れば気付いて欲しくなかった。それには理由はある。今の大井は『提督への執着』が発現した状態で、しかも赤城のようなタイプだ。勝手に色々な事を始める可能性がある。

 

「それに今の気付いたことに対する状況の取り方も......。ふふふっ......きっと私がっ......。」

 

 そう言って大井はベッドから立ち上がったみたいだ。少しベッドが浮いた。

 

「提督は寝たフリが上手なんですね。」

 

 そう言って大井は急に俺のデコをデコピンした。

 

「ははっ、気付いてたか。」

 

 そう言って俺はやっと目を開き、大井の顔を見た。

目から光は消えてない。正常のようだ。

 

「今は正常ですよ?......途中から変な感じがしましたからね。きっと最初から起きてたんでしょう?」

 

「あぁ。」

 

 俺はそう答えて起き上がった。そして大井はベッドに再び腰を掛ける。

 

「私も赤城さんと共に提督のために手を尽くすことにしたんです。」

 

「話の筋からしてそうだろうな。でも今は何も出来ない事になってるぞ?」

 

「知ってますよ。」

 

 大井はそう言って手を伸ばしてきた。

 

「あの3人は失敗しましたからね。」

 

 突然そんな事を大井は言った。何を失敗したのだろうか、俺にはさっぱりわからない。作戦のことでもないだろうし。

 

「私はしませんよ。そんなこと......。」

 

 そう言って大井は俺の両手で抑えた。

 

「何をっ。」

 

「ふふふっ......寂しいなら言ってくださればいいのに。」

 

「おいっ!!」

 

 そのまま大井は手で頭を引き寄せてきた。逃げたいが、何分どこからそんな力を出しているのか、逃げれない。

 

「止めろ大井っ!」

 

「嫌です。」

 

「止めないと面倒なことがっ......。」

 

 そう俺が言った刹那、私室の扉がまた開かれた。

そこに立っていたのは金剛だ。鈴谷はどうやら居ないみたい。

 

「何してるデスカ、大井。」

 

「何って、金剛さんが出来なかった事をしようと......。」

 

「それは出来なかったのではなくて、してないだけデス。受け身に行動する事が暗黙の了解デス。」

 

「それでは今まで通りですよ?」

 

「ぐっ!!?」

 

 一体何の話をしているのかわからないが、とりあえず大井が手を離してくれない。

 

「一体何の話をしてるんだ?」

 

 そう俺が聞くと大井が答えた。

 

「チキンかチキンじゃないかって話です。知った艦娘の長の1人である金剛さんがこうでは本末転倒。新参者の私が代わりにと......。」

 

 そういった大井に金剛は冷たい声で言った。何度か聞いた事のある金剛の冷たい声は確実に多いに対しての言葉だった。

 

「代わり?そんなの、ある訳ないデス。大井でも、赤城でも、鈴谷でも、私でもないデス。」

 

 そう言って金剛はこっちに来て、大井の肩を掴んで出て行った。

抵抗する大井を無視して金剛は私室の入り口まで行くと、『二度寝するといいデース。二度寝は史上の幸せって言いますカラネ!』と言って出て行ってしまった。

何処へ行ったのか分からないが、翌朝起きて秘書艦と食堂に行くと、椅子に縛り付けられた大井が居た。その大井の首に看板が下がっていたのだ。

『私は卑怯者です。』と書かれていて、口枷をされていたので『ん"ー!ん"ー!』としか聞こえなかったが、多分『助けてっ!』って言っていたんだろう。俺がそんな大井の口枷を取ろうとしたら金剛に『これは提督の手料理を1人だけ食べた罪と同等デス。御飯の後に開放しますカラ、気にしないで下サイ。』と言われ、何を気にしなくていいかわからないがとりあえず朝食を食べた。そして朝食後に大井はちゃんと開放されたみたいだった。

 




 今日のは少しいつもと違います。それと大本営発表の内容はこれまでのまとめみたいですから、ちゃんと読むことを推奨します。間違いがある可能性があるので、修正することが多々あると思いますが、よろしくお願いします。
 金剛がどんどんキャラが......。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百七十七話  アルバム

 大井が口枷を付けられていたのを外そうとしていた時、横には今日の秘書艦が居た。

金剛に止められた後、俺とその秘書艦である青葉は朝食を食べながら話をした。

 

「大井さん、何かあったんですか?」

 

「うーん......まぁ、あったな。」

 

 俺はそんな事を答えながら朝食を摂る。今日は変なタイミングで二度寝を起きてしまったのでお腹が減ってない。シンプルにトーストとサラダ、ベーコンエッグの洋食を選んでいた。ちなみに青葉も同じ。

 

「お聞きしても?」

 

「あぁ。俺が早く起きてしまって、起き上がろうとした時に執務室で物音がしたんだ。」

 

「そういえば司令官の私室って執務室の横ですもんね。」

 

「そうなんだ。それで、何だと思って耳を澄ませてたら大井で俺がそこで声をかければよかったんだが、寝たふりをしてしまったんだ。」

 

 そう話しながら俺と青葉は朝食を食べる。

 

「そしたら大井が入ってきて、部屋の中を歩き回りながブツブツいっていたかと思ったらベッドに腰掛けて来て、俺が起きてる事に気づいたみたいでデコピンされた。」

 

「デコピンですか?」

 

「ん。そしたら大井に抑えられて少しもがいてたら金剛が大井を引き摺って今に至る。」

 

 俺はそんなことをいいながらだが、もう食べ終わった。食べ始めたら案外入るもので、いつもの調子で食べ進めれたのだ。

青葉はというと、まだ半分と言ったところだろう。

 

「そうなんですかー、あっ、待ってください。」

 

「分かってる。」

 

 俺はトレーを横に避けて机に肘を突いた。

 

「昨日の時点で話題にはなってましたからね。大井さんの『提督への執着』発現に関しては。」

 

「やっぱりそうなのか?」

 

「はい。あの時、司令官の命令で寮に戻ってましたが、どうしても気になって執務室前の廊下からなら見えるからと集まって見てたんです。そしたら大井さんの艤装が正門の内側に出てきましたからね。」

 

「へー。」

 

 いい具合に解釈されていたみたいだ。一応、外には出てないから問題ないんだがな。

 

「まぁよかったと私は思いますよ。発現前は皆に合わせている様子でしたし。」

 

「そうみたいだな。何を合わせていたのか知らないが。」

 

「何をってそれは司令官の事ですよ。」

 

「ん?」

 

 青葉は食べ終わったのか、最後に牛乳をゴクリと飲み込むと言った。

 

「私たち艦娘同士で話すときの話題は大きく4つあります。1つ目は戦いのこと、2つ目は酒保のこと、3つ目は他の艦娘と何をしていたとか門兵さんや酒保の人と何を話したか、4つ目は司令官のことです。大半は3つ目と4つ目ですけどね。」

 

「そうなのか。」

 

 ここに来て突然、俺の知らないところの艦娘を知ることになる。

 

「具体的には3つ目は門兵さんと何を話したか、何して遊んだか。後者はだいたい駆逐艦の娘が話しますね。4つ目は司令官のことなら何でも話してます。」

 

「はぁ?」

 

「話の中心になるのはだいたい前日に秘書艦をやった艦娘ですね。秘書艦をやった艦娘は次の日は歩いていればどこでも他の艦娘に捕まって司令官の様子だったり色々聞かれますからね。」

 

「なにそれ怖い。」

 

 俺はそんな事を青葉から聞きながら大井の方を見た。

俺が見たのに気付いたのか、こっちを見てまた『ん"ー!』とか言ってるけどその姿はもういたたまれない。口枷から唾液がダラダラと出ていて襟をビシャビシャにしている。そして『ん"ー!』と言っている時以外は『フーッフーッ』ってエア漏れみたいな音を出している。そして顔は火照っている。

なんだか見るに耐えない。今すぐ助けてやりたいが、金剛曰く朝食の時だけだとのことなのでもうすぐ終わるから放置。

 そして青葉の話だが、俺の話を知らないところで話されていると聞くと少し不安になる。実は悪口を言ってるのではないかと考えてしまう。もし本当ならどうしようか。

 

「話の内容はー......いつまた司令官の料理を食べれるのだろうかとか、司令官が読んでる本は何かとか、艦娘主観の司令官お気に入り艦娘ランキングだったり」

 

「はぁ、悪口かと心配してた。」

 

「そんな事絶対ありえませんよ。全員が『提督への執着』がありますからね。」

 

「そうか。それより最後のなんだよ。俺のお気に入り艦娘ランキングを艦娘が作ってどうする。」

 

「それはですねー、誰が一番司令官に頼りにされているかって雷ちゃん発案で週一で発表されるんですよね。ランキング基準は司令官とどれだけ長く話していたか、です!」

 

 すっごいしょうもないランキングだった。ランキングの付け方もなかなか変だ。

そもそもランキングをつけてどうするんだって話になる。

 

「なんだか変なものだな。」

 

「そうですか?結構皆さんそれを指標に色々な話をしてますよ?例えばですねー。」

 

 そう言って青葉はポケットから紙を出して開いた。それを覗き込むと上の方に『週刊 お気に入りランキング』と書かれていて、上から1位から5位まで書かれていた。ちなみに1位は赤城でコメントに『揺るがぬ女王。"特務"を提督から任されているのは未だに彼女だけ!』と書かれていた。その下は順に長門、熊野、フェルト、金剛だ。それぞれちゃんとコメントが書かれている。

 

「司令官も見ます?」

 

「いい。そのランキングは俺とどれだけ長く話しているか、だったよな?」

 

「はい、そうです。」

 

「完璧に正しいな。ぴっくりだ。」

 

 そう言うと俺の背後から声がした。口調からして思い当たる艦娘は1人しか居ない。

 

「そりゃ鈴谷が作ってるもんねー。」

 

「鈴谷が?」

 

 このランキングを作ってるのは鈴谷らしい。どうやっているのだろうか。

 

「うん。まぁ実際に調べているのはイムヤもだけど......。いつもふらふらしてるけど提督は目につくからねぇ。その時々で誰と話しているかメモってるの。」

 

「そうなのか。......なんか監視されてるみたいだな。」

 

「そんなつもりは無いんだけどなぁ......でもこれを使って皆で話したりするから楽しいんだよ?」

 

 そう言って鈴谷は懐から『㋪鈴谷の提督ノート』とかいうすっごい目を逸らしたくなる題名の手帳を出した。そして開く。

 

「このランキングの用途はさっき言ったみたいに艦娘同士のコミュニケーション方法の1つで一番活発なの。まぁ会話内容はだいたい提督の事になっちゃうんだけどね。んで、これでどうしてコミュニケーションが活発になるのかっていうと提督とはあまり話せないってのがあるから、話すときはどれだけ提督の興味を引けるかってのを考えるってのが今のトレンドかな。」

 

 なんだか流行りのファッションみたいな言われようだ。

 

「これを使って異種艦同士でも情報共有が活発になって来てるから、より一層艦娘同士の絆が強まったんだー。んで、異種艦同士での情報共有の最近あった凄く良い例ってのがあってね。」

 

 なんだが鈴谷が饒舌だがいいのだろうか?さっきから青葉もそうだが俺を挟んで青葉の反対側の衣笠や正面に座っている古鷹たちの様子がおかしい。

 

「満潮が赤城さんから"特務"内容を聞いて今まで提督が興味を特に持った話なんかを聞き出せたって事かな。私も内容知りたいんだけど満潮ってば誰にも教えてくれなくってね。」

 

 その刹那、鈴谷の背後からなんだか凄いオーラを感じた。

鈴谷もそれに気付いたのか、後ろを振り返るとそこには満潮が立っていた。

 

「鈴谷ぁー?!あんたねぇ!!」

 

「おぉーっと!怒らせちゃった!!じゃあ私はこれで!」

 

 そう言って鈴谷は走って行ってしまった。それを追いかける満潮。満潮はなんだか顔を赤くしていたが、なんでだろうか。

 

「あーん、残念。」

 

 そんな事を俺が考えている一方で青葉たちは残念がっていた。

 

「ん、何が残念なんだ?」

 

「鈴谷さんから情報が溢れることもあるんですよー!」

 

 そんな風に青葉は残念がっていたが、それを知ったところでどうするのだろうか。

俺は時間を見て立ち上がると、青葉と執務室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務は早々に終わり、昼間でかなり時間があるということで俺と青葉はあるものを見ていた。

それは俺が青葉にカメラを渡してからずっと青葉は写真を撮り続け、アルバムを作っていたのだ。それを見せてもらっている。写ってる写真は全て皆、平等に映っていて微笑ましいものばかりだ。例えばグラウンドで朝潮、荒潮、満潮、大潮、霰、霞、漣、曙、朧、潮、暁、響、雷、電らが鬼ごっこをしている様子。皆笑っている。そして資料室で熱心に勉強をしている由良や名取。歓迎会やら、楽しいことの写真。

 

「いいな......。」

 

「はい。とても皆さんいい笑顔です。」

 

「大所帯になってきて写真もそれを追って変わってきてるんだな。」

 

「はい。」

 

 ページを捲っていると必死にレーベとマックスから日本語の読み書きを教わっているビスマルク。とそれを見ながらコーヒーを飲んでいるフェルトにその傍らでウトウトしているユー。オイゲンはと言うとどうやらこの写真を撮った時、秘書艦だったようだ。ということは最近の写真だということになる。

 

「心が暖かくなるな。」

 

「はいっ!皆さん、協力的ですからいい写真が撮りやすいんですよね。」

 

「そうなのか。」

 

 俺はそのアルバムと閉じて青葉に返した。

アルバムを受け取ると青葉は言った。

 

「このアルバム、皆さんよく見に来るんですよ。そして提督と同じことを言ってくれます。こういう写真が撮れるってのは楽しいです。」

 

「そうか。」

 

 そう言うと今度は懐から青葉は写真の束を出してきた。

 

「こっちのは門兵さんたちも写ってるやつです。これなんて面白いですよ。」

 

 そう言って青葉が見せてくれたのはある門兵が川内とバトミントンをしている写真だ。川内の打ったシャトルが顔面に当たった瞬間の写真だ。

 

「あいつ、俺の技を完璧に盗んだな......。」

 

「司令官の技ですか?」

 

「あぁ。フェイントだ。騙し打ち。」

 

「司令官って運動もするんですか?」

 

「するさ。球技はバトミントンとバスケットボール。その他だと......特に無いな。」

 

「バスケットボールですか。」

 

「あぁ。楽しいぞ。」

 

 そんな事を話していると青葉が俺に訊いてきた。

 

「写真、撮らせて貰ってもいいですか?」

 

「ん、いいぞ。」

 

「じゃあ遠慮無く......。ですけど自然な風にお願いします。」

 

「分かった。」

 

 青葉はカメラを取り出してソファーの辺りに立ってカメラを構えたので俺は姿勢を正してカメラを見た。

 

「撮りますよー。」

 

「あぁ。」

 

「はい、チーズっ!」

 

 そう青葉が掛け声を出した時、俺は笑った。いつも笑わないからこういう時くらいいいだろうと思って。

 青葉は写真を確認すると、こっちに戻ってきた。

 

「はい。ありがとうございます。」

 

「いい。」

 

「時たま勝手に撮りますがいいですか?」

 

「構わないぞ。」

 

 そう俺が言った瞬間、執務室の扉が開かれた。

 

「失礼するかもっ!」

 

「秋津洲か。」

 

 執務室に入ってきたのは秋津洲だった。

最近というか、いつぞや秋津洲からご飯を貰ってからは毎日執務室に秋津洲が来るようになったのだ。

何しに来ているのかというと、おやつを置きに来るのだ。哨戒任務後に艤装でお菓子を作っているみたいで、『お腹が減ったらこれ食べて欲しいの。』と『かも』を語尾に付けずに言ってそれから毎日11時前に置きに来るのだ。

 

「はいっ!!今日の分。今日は紅茶のクッキーにしてみたかも。」

 

「おぉー!いい香りがしてるな。後で貰うよ。」

 

「んふふ~。じゃああたしはこれで失礼するかも。」

 

「ありがとな。」

 

 そういういつもやっているやり取りをして俺は机に置かれた籠を開けてクッキーを食べる。

 

「ムグムグ......ん、今日も美味しいな。」

 

「今日もっ?!」

 

「何?」

 

 そう俺が言うと青葉が驚いた。

 

「何ですか今の?!哨戒任務をしてる秋津洲さんですよね?なんで彼女が提督におっ、お菓子なんて?!」

 

「いや、だから......昼前になると腹が減るって言ったら作って持ってきてくれるようになったんだよ(※作中では言ってません)。」

 

「提督にお菓子をあげるなんてっ......ぐぬぬっ!!っと、写真いいですか?」

 

「クッキーか?構わない。」

 

 俺は籠からクッキーを出しては食べている。そしてそのクッキーを青葉は写真に収めた。

特段変なものでもないし、普通の紅茶のクッキーだと思うんだが、何がどうしたのだろう。

 

「いい匂いですし、美味しそう......。」

 

「青葉も食べるか?」

 

「いいんですか?なら遠慮無く。......ムグムグ......おっ、美味しいですね。紅茶の香りが良いです。」

 

「なー。明日はなんだろう。」

 

 俺はそんなことを呟きながらクッキーを食べる。最近の楽しみのひとつに秋津洲が持ってきてくれるお菓子というのがあるのだ。

その一方で青葉はまた『ぐぬぬっ!』とか言ってるが何なんだろうか。

 

「まぁいいです......。それじゃあ、また写真を撮りますね。そのまま食べてて下さい。」

 

「あぁ。」

 

 そんな感じで昼まで過ごし、昼食の時間も至って普通に食べて午後に入ると青葉の誘いで鎮守府の中を散歩に行くことになった。

目的はアルバムの写真を撮る。今回は俺も付いて行ったので、色々やった。お茶会に飛び入り参加したり、グラウンドで走り回ったり、木陰で寝転んだり......。

なんだか懐かしい気分になったのだ。そんな俺や艦娘たちを青葉が黙々と撮っていたので、俺は青葉からカメラを借りて青葉も写す事になり、青葉もとても楽しんだようだった。

夕方に執務室に帰る頃には俺も青葉もヘトヘトで夕食の時に動けなかったのでフラフラして行くと皆に体調を崩したのかととても心配されてしまった。

 




 大井が縛られている描写に関して、彼女はただ縛られているだけですのでご注意を。
 青葉のカメラは作中のように働いてます。よくあるようなパパラッチというわけではなく、単純にカメラを携えて自分が求める写真を許可を貰って撮ってるという感じですね。これも本作独自の青葉設定ですのでご理解ください。
 鈴谷の作っているランキングに深い意味はありませんよ(真顔)

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第百七十八話  夜

 

 大井が『提督への執着』を発現してからというもの、ガラリと性格が変わってしまったのではないかと感じていた。今日の朝の件もそうだ。何故早朝に大井が私室を訪れたのか。理由が分からないままだったのだ。

 夕食後、青葉に自由にするように言うと、『じゃあ今日の写真を現像してきますね!』と言って帰たので今、執務室には俺1人だ。

そんな時、執務室の扉が開かれた。

 

「失礼します。」

 

「あぁ、大井か。」

 

 入ってきたのは大井だ。今朝の事もあり、聞きたい事があるのだ。

 

「何のようだ?」

 

 まずは大井の用を訊く。その後に俺が聞きたいことを聞けばいいだろう、そう考えた。

 

「いえ。北上さんもお風呂入ってしまって髪も乾かし終わったものですから。」

 

「大井が北上の髪を乾かしてるのか?」

 

「えぇ。やはり長いですからね。自分でやるよりも良いって事です。勿論、私もやってもらってますよ?」

 

「それで?」

 

 俺は立ち上がって給湯室でお茶を汲んだ。

多分、長居するんだろう。

 

「ほい。」

 

「ありがとうございます。」

 

 俺は湯のみを渡してソファーに座る。ちなみに大井はもう座っている。

 

「んで、ここに来たのは理由があるんだろう?」

 

「はい。確認したいことと聞きたいことがありまして......。」

 

「俺が答えられる範囲なら答える。」

 

「ありがとうございます。」

 

 俺はお茶を飲みながらソファーにだらりとする。

 

「私が『親衛艦隊』なのはご存知ですか?」

 

「知ってる。」

 

 『親衛艦隊』なんて単語、すごく久々に聞いた気がする。

 

「加盟するにあたって幹部の方から話を聞いた時は特段、なにか思うって事は無かったんですけども『提督への執着』が発現してから疑問に思う事があってですね、私なりにその疑問を推理したんですよ。」

 

「疑問?」

 

「はい。何を疑問に思ったかというと、提督の事です。」

 

「俺か?」

 

 大井の今の話から想像すると一番あり得るのは、赤城、金剛、鈴谷を中心としたあの騒ぎ(※第一章のシリアスな内容のところです)の原因となった話だろう。

 

「提督は異世界の平和な日本から呼び出されたって事ですけど、それって突然ですか?」

 

「そうだ。」

 

「状況を教えては頂けませんか?」

 

 俺は話した。別に秘密にしている訳でもないし、誰かにその話をしたこともあるからだ。

普通に艦これをやっていて、突然パソコンの画面が光り出して気付いたら横須賀鎮守府の門の外、塀の側に居たっていう話をした。

 

「では、戻るという選択肢があったと言われてますけどどうして提督はご自身の世界に戻らなかったのですか?」

 

「......う~ん。その事は誰にも聞かれたことが無いなぁ......。」

 

 そう呟いて俺は考えた。

どうしてこの世界に残ることにしたのか。思い出しながら考えていると、俺は聞かれた事は無くとも自分から言ったことならある。それは鎮守府が空襲された後、焼け野原で話した時だ。

 

 

「その時残ると決めた理由は今考えてみるととても......なんて言えば良いんだろうな。......目の前に起きている事と突きつけられた現実に頭が追いつかなくて、しかもそれでいて全く別のことを考えていたんだ。」

 

「どんなことを?」

 

「提督の着任していない鎮守府ってのは印刷機から俺の居た世界で艦これをやっている提督からの指示を指令書として印刷してそれを実行する事で機能しているだろう?」

 

「そうですね。」

 

「その機能ってのはよく考えてみればとんでもない機能なんだ。」

 

 そう。この艦娘統制システムはとんでもないものなのだ。

 

「異世界からの命令を何らかの手を使って拾い、媒介して紙に印刷する......この機能がとても恐ろしかったんだ。異世界に干渉が出来る機能がな。」

 

「ふむ......提督はそれを恐れて、残ったってことですか?」

 

「大体合ってるが厳密に言えば『そのシステムを監視する』ってのが戻らなかった訳だ。皆が知らない脅威になりかねないものを唯一知ってしまった俺が残って監視をする......英雄を気取ってたんだろうな。」

 

「じゃあ、艦娘の置かれた状況に同情とかは?」

 

「感情がないわけじゃない。勿論したさ。」

 

 そう言って俺は湯のみを傾ける。

 

「今の話はお終いです。次はですね、提督のご家族とかは?」

 

「居るよ。両親と姉が。」

 

「こっちに来るときには何か......。」

 

「ある訳無いだろう。突然だったんだからな。」

 

 俺はなんだかデジャヴを感じるが、気のせいでは無いだろう。別の艦娘と同じやりとりをした記憶があるのだ。

 

「勿論こっちには?」

 

「居る訳ないだろう。」

 

 そう言うと大井は下唇を噛んで、違う質問をしてきた。

 

「この世界と提督のいらした世界って深海世界が居ない事以外に違いはありますか?」

 

「天皇制ではないって事と、軍が無い事以外はほぼ全部同じだ。」

 

「そうなんですか......。提督って歳は18でしたよね?」

 

「あぁ。今年の誕生日で19だ。」

 

「なら学校には?」

 

「勿論通ってたぞ。こっちに来た時も高校に通っていた。」

 

 俺がそう答えるとまた大井は下唇を噛んだ。

 

「やっぱり......。」

 

 そう呟いた大井は湯のみを握り締めた。

この光景もデジャヴだ。多分大井は赤城たちが言っていた他の艦娘に"気付いて欲しい"ことに"気付いた"んだろう。

 

「私の聞きたかった事はこれで終わりです。それでですけど、ここからは少し聞いて頂いて提督に伝えようかと思うのですが。」

 

「何をだ?」

 

「――――――『提督への執着』の仮説です。」

 

「は?」

 

 そう大井は言った。『提督への執着』の仮説っていうのはどういう意味だろう。

一応、解明されてるとは言いがたいが、物の原理などは分かっているのだ。そこから更に大井は何かを発展させたというのだろうか。

 

「先ず、私たち艦娘が提督に対して異常に執着する理由ですが、私は今まで言われていた通りの『これまで欲しかった提督が着任した事でこれから失うものかと過剰に提督に振りかかる危険を取り払おうとする為』で正しいと考えてます。」

 

 『提督への執着』はそんな事だと言われていたのかと俺は改めて思った。

 

「次にどういう感情を持って艦娘が『提督への執着』によって行動するか......。ここから先は誰も考えたことが無いものでしょうね。......どういう感情かですが、私は『提督をヒトではなく、モノとして認識していて、深層心理では〈モノを失うわけにはいかない〉という感情に支配されての行動ではないか』と考えました。」

 

 大井はとんでもない仮説を言った。

俺がモノとして認識されていると言ったのだ。

 

「これを考え至ったのには理由があります。......指令書です。印刷機から吐き出される指令書を元に艦娘は作戦行動を起こすのが普通ですが、艦娘は提督という存在を欲しながらも一方でその指令書、紙切れが提督として感じているとすれば指令書と提督がイコールになります。つまり艦娘の中では提督は紙切れということになりますね。」

 

「っ?!」

 

 俺の存在が全否定された気がした。艦娘には俺が指令書、紙切れ同等にしか見えてないと大井は言うのだ。

 

「そこで『近衛艦隊』が出てきます。『近衛艦隊』は『提督への執着』が強い艦娘によって構成されていたと、されていますね。」

 

「あぁ。」

 

「この『近衛艦隊』と『親衛艦隊』には大きく違いがあるとされていました。『提督への執着』の強さ、その違いで区別してましたが実際は違ったのではないか、と。」

 

「どういう意味だ?」

 

「考えてみてください。『近衛艦隊』が提督の危険を一番早く察知できる理由です。」

 

「うーん......どうだろう。さっき大井の言った『モノ』ってのかショックすぎて考えられない。」

 

 これは本当のことだ。身体に衝撃が走ったからだ。

 

「そうですか。......その理由はですね、『提督をヒトとして認識している』からだと思うんです。」

 

「は?さっき大井は艦娘は俺を紙切れだと......。」

 

「はい。ここが『近衛艦娘』と『親衛艦隊』の違いです。」

 

「じゃあ、『近衛艦隊』が異常なまでのあの反応ってのは......。」

 

「はい。彼女たちは提督の危険を、提督が怖がった、提督が怒った、提督が苦しんだ、提督が悲しんだ、などといって察知してます。その言葉は提督の感情を表してますね。つまり、『提督をヒトとして認識している』ってことです。」

 

「そうか......。」

 

 それが『近衛艦隊』の真の実態だったのだ。ただ『提督への執着』が強いという訳ではないのだ。

 

「つまり『近衛艦隊』という組織は艦娘の中での特異種、提督をヒトとして認識できる集団だったという訳です。」

 

「......あぁ。」

 

「ですので『近衛艦隊』は提督というヒトを失わないためにと考え行動し、『親衛艦隊』は提督というモノを失わないためにと考え行動していると考えられます。つまり、『提督への執着』には2種類あると考えました。」

 

「ちょっといいか?」

 

「はい。」

 

 俺は話を聞いていて疑問に思ったことを大井に聞いた。

 

「俺がモノとして認識されているのとされていないのとではどう違うんだ?」

 

「そうですねぇ......接し方ですね。会話、仕草なんてものがそうです。」

 

「成る程なぁ......。」

 

「ですから......よっと......。」

 

 そう言って大井は立ち上がり、俺の横に来た。

 

「こうやって近づいたり、擦り寄ったりする事が最大の違いですね。それに艦娘と提督との間の会話でも違いはありますよ?こうやって仕事、戦闘以外の話を掘り下げてする艦娘って少ないと思いません?」

 

「言われてみれば......確かにそうだが......。」

 

「まぁ、そんな中にも特異な艦娘も居ますけどね。」

 

 大井は立ち上がってさっき座っていたところにもう一度座った。

 

「ちなみにここで教えておきますよ。提督のことをヒトと認識している艦娘。」

 

「頼む。」

 

「金剛さん、赤城さん、鈴谷さん、加賀さん、長門さん、霧島さん、熊野さん、時雨、夕立、イムヤ、吹雪、叢雲......更に私の計13人と番犬艦隊で執行役と呼ばれていた艦娘と番犬艦隊です。最初に個人名を挙げた艦娘の共通点は分かりますよね?」

 

「勿論だ。だが何故それを大井が知っているのだ?」

 

「調べましたから。それとついでですが番犬艦隊が提督をヒトと認識している理由ですが、そもそもここの鎮守府の艦娘じゃないからですね。提督を見て提督だと言ったそうですから。」

 

 大井はドヤ顔で言う。

 

「まぁいいです。私を含む、彼女たちは自分なりに動いて何か行動しますからね。」

 

「分かった。」

 

 そう言って大井は話は終わりだと言った。

俺も聞きたいことがあったが、さっきの話の中に答えがあったので聞かないことにした。

 

「じゃあ夜も遅いから寮に戻れ。」

 

 そう言って俺は大井を追い立てる。ふとさっき時計を見たら10時前だ。消灯の時間も近い。

 

「帰りませんよ?」

 

「さも当たり前だと言わんばかりに言うんじゃない。」

 

 俺は大井に帰るように催促したが、ダメだった。何故帰るのを拒むのだろうか。

 

「提督。私は"気付いてる"んですよ?さっき挙げた集団の中でも特に提督をちゃんと認識してるんですから。それに、夜に提督を1人に出来るわけないじゃないですか。」

 

「何を言って......。」

 

 俺がそう言いかけた時、大井は俺の私室の扉を開けていた。

 

「つべこべ言わずにほらっ!」

 

「だぁー!引っ張るなっ!!」

 

 俺はそうして大井に引き摺られて私室に戻った。執務室の電気は引き摺り込まれた時に大井がついでに消したようだ。

 

「ほら、お風呂入ってきて下さいっ!」

 

「分かったから......。大井は後で帰るんだぞ?」

 

「だから帰りませんって。」

 

「埒が明かないから入ってくる。」

 

「はい。いってらっしゃい。」

 

 俺は諦めて風呂に入った。なんだか変な気分だが、いつも通り入って俺が出てくると、大井はカーディガンを脱いで座っていた。

 

「いつも提督はここで寝てるんですね。」

 

「今朝来てただろうが。しかも時よりここでテレビ見てたし......。」

 

「改めて見てってことですよ。それにここに居る時はだいたい夜で電気も点けてませんでしたから。」

 

「そうだったか?」

 

 俺はタオルを掛ける冷蔵庫からコーラを出した。蓋をひねり、封を開けて飲む。

炭酸が喉を刺激するが、それが好きだ。

 

「コーラですか。」

 

「あぁ。コーラが好きでな。」

 

「そうなんですね。」

 

 俺はそう言って椅子に腰を掛けてぼーっとする。さっきまで考え事をしていたがもう考えるのも馬鹿らしくなっていたのだ。

大井が言った『提督への執着』の仮説のことでパンクしかけていた上に、それ以外の事も考えていたからだろう。大井の仮説はそのまま飲み込んだ方が良い気がしてきたのだ。そしたらそのうちにまたもう一度考え直せばいいからだ。

 少しぼーっとすると俺はあることを思い出した。

 

「大井。風呂は?」

 

「来る前に入ってきました。」

 

「んじゃいい。さぁ、送ってくから寮に......」

 

「帰りません。」

 

 大井は頑なに帰ろうとしない。どうしてだろうか。さっきから時たま言っていた"気付いた"ってのと関係があるんだろう。

俺の中にある意味ありげな"気付いた"は大井にはもうそれがあるとしか思えない。だが大井の言う"気付いた"というのはなんか違う気がするのだ。

 

「ならどうするんだよ。」

 

「ここに泊まってきます。元からそのつもりでしたし。」

 

「はぁ?」

 

 そう言って大井は立ち上がってベッドに腰掛けた。

 

「"気付いた"ってのはそういうことですよ?」

 

「分からないって......。俺の知っている"気付いた"でないってことは分かるが。」

 

「それで合ってますよ?でもその先の事です。金剛さんも赤城さんも鈴谷さんもできてないことです。」

 

 そう言って大井はベッドの布団をバサッと持ち上げると、身体をスライドさせて布団に入った。そして顔を出して言うのだ。

 

「さぁ。入ってきてくださいよ。陽が上がっているときは肩肘張っているんですから、陽が落ちた夜くらい落としてもいいんですよ?」

 

「はぁ......。」

 

「ほらっ!」

 

 どうやら"気付いた"からこその行動らしいが、それはまた別なんじゃないかって思う。

 

「俺、家族や友人は居てもそういう関係の奴は居なかったぞ?」

 

「それをここでカミングアウトされても困ります。」

 

 俺が呆れて言ったら真面目に回答されてしまった。ちなみに、大井の格好は真面目じゃない。

 

「コホン......分からないんですか?」

 

「分からないな。」

 

「いいから入ってきて下さいっ!!」

 

 そう言って布団から這い出てきた大井は俺の腕を掴んでベッドに引き入れた。

 

「ここまで"独り"で戦ってきたんです。こういうことがあっても良いんじゃないですか?」

 

 俺はやっと大井が言いたい意味が分かった。

つまり、"独り"じゃないって言いたいんだろう。

 

「こういう事があっても良いんです。自ら捨てたとはいえ一生戻ってきませんからね。家族も友人もこれまでやってきた事も......。それに責任だってありますし、理不尽ですよね。」

 

「......。」

 

 "気付いていた"のだ。赤城たちがそれを旗印に動いた事の全てをも。

 

「でもそれを背負って提督は"独り"で頑張ってきたんです。執務はまぁ......少ないですけど。」

 

「ははっ......。」

 

 乾いた笑い声が出た。

 部屋を暗くしてそろそろ慣れてきたという時、大井はあることを言った。

 

「それと更に私は"気付いた"んです。」

 

「ん?」

 

「それは――――――――。」

 

 大井が何か言ったんだが、なんて言ったか聞き取れなかった。

それはとても重要なものだと直感的に分かったのに、聞こえなかったのだ。

 結局俺はそのまま寝てしまった。ちなみに大井もそのまま寝てしまったようだった。

大井が最後に言った言葉が気になるが、聞いたところでどうとなるかなんて分からないから結局俺は聞かなかった。

 

 





 今回から話は加速します。第二章の終結に向けて動き出しますよ。
目標は第二百十話で第二章を完結させることですかね。
今回の情報は要注目ですよ。
 それと明日の更新はありません。ご注意下さい。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百七十九話  提督と艦娘①

 

 今朝起きるともう大井はおらず、部屋に置き手紙があった。『早めに起きて帰ります。夜は独りで過ごしちゃダメですよ。』とあった。昨日の夜のことだというのは分かるが、何故俺が独りでいちゃいけないのだろうか。さっぱり分からない。

 

(時間だし着替えるか。)

 

 俺は布団から起き上がり、着替えて執務室で待つ。

 今日の秘書艦は大淀だ。いつぞや艤装が見つかってからこっちに居るのだ。

 

「提督、おはようございます。」

 

「おはよう。」

 

 時間通りという訳ではないが、他の艦娘が秘書艦の時の平均くらいだ。

 

「執務で使う書類は持ってきましたので、朝食にいたしましょう。」

 

「分かった。じゃあ、食堂に行こうか。」

 

 俺はそう言って立ち上がり、執務室を出て行く。

歩きながらだが、考え事をする。昨日の大井との話だ。日を跨いでもやっぱりあのままだ。理解は出来たが、どこか信じたくないところがある。やはり、大多数の艦娘が俺のことをモノとして認識している事だ。あくまで一説として捉えるが、それでもその説以外は聞いたことも無いし、俺も考えてみたこともない。

 提督が艦娘を"兵器"として見るというのは俺の居た世界でもよくあった事だ。捨て艦、デコイ、牧場、負傷改造、米帝プレイ、無休出撃......ゲームの中では正当なプレイであるかもしれないが、不当な扱いだとされている。提督から艦娘への行為だけだと俺は思っていたがそれは違っていた。ゲームの中では命令には有無を言わずに遂行しているが、こうやって俺が目の前に現れたとしても普通の艦娘の中では命令を出す司令塔に過ぎないのだ。

 なら何故、艦娘がそれを性格が一変してしまう程過剰に保護をするのか......。理由は簡単、司令塔を無くさない為だ。

自らは『指揮を直接してくれる指揮官が欲しい』と言っていたが、それは『直接指揮して欲しい』だったのだ。言葉に出る時には変換されていたということになる。

 

「初めての秘書艦ですから、緊張します。」

 

「そうか。......だが、補佐は無しってことになっているぞ?」

 

「はい。提督のお手を煩わせてしまいますが、少しずつやろうと思います。幸い、少ないですからね。」

 

 俺は大淀に返事を返す。

 大井の仮説では今、俺の横にいる大淀も俺をモノとして見ている1人だ。

特別何かがある訳でもない。一般的な艦娘。

 大井の発言で気になるところはまだある。俺が聞こえなかったところだ。あの後、聞き返しても教えてくれなかった言葉。とても重要だったかもしれない。

 

「着きましたね。」

 

「そうだな。」

 

 俺と大淀は食堂に入って、いつもの様に朝食を頼んで食べ始める。食堂で見る光景もいつも通りだった。

だがその光景をどこか俺は疑ってみていた。昨日の大井の話が気になって仕方がない。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 俺が大淀に教えながら執務を初めて2時間程で執務は終わった。いつもよりも倍かかったが、出来はいつもと同じくらい。大淀はどうやら執務が出来る艦娘みたいだ。1回覚えれば動くタイプの。

 

「お疲れ様でした。」

 

「お疲れ。じゃあ事務棟に出してきて終わりだ。」

 

「はい。行って参ります。」

 

 大淀を見送ると俺はまた考え事を始める。

だが結局、永遠と無限ループしているだけで、結局分からず仕舞いだった。大井の遠回しな言い方と聞こえなかった部分。気になるが、やっぱり分からないので俺は考えるのを止めた。ついでに言えば俺自身から見た艦娘の『提督への執着』の違いについて考えるのも止めた。俺の中ではやはり『提督への異常な保護欲』以外思い浮かばなかったからだ。ヒトやモノっいう観点からは考えられなかったのだ。

 だったら何を考えるか。大井がここまで俺に近づく理由だ。

大井は『提督が"独り"で居ないように』と言っていたが、"独り"が気になる。そう言って大井の取った行動が、俺に擦り寄る事だった。自分で言って悲しいが、この人生で彼女が居たってことは無い。だから無いだろうけど、それの代わりだとか言われてもそれは無いとしか言えない。

そうしたら、何なのだろうか。俺に擦り寄る理由。

話の前後を考えると、話を始める前に大井が振った話は俺の居た世界の話だった。両親、友人、そういった関係を訊いてきた。十中八九これに関係しているに違いない。だが、それが関係していたとしても何が擦り寄る事に繋がるのだろうか。

 

(さっぱり分からない。)

 

 さっぱり分からないのだ。本当に。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 大淀が書類の提出に行って帰ってきた時には11時過ぎだったので特に何かしたということはなく、少ししてから食堂に向かって先にテレビを見ていた。それから艦娘がちらほらやってきてテレビを見たり昼食を食べたりして時間を使い、結局俺と大淀は何か深く話す事なく、午後の暇な時間になってしまった。

 

「暇ですね......。」

 

「そうだな。」

 

 そんなやり取りを20分に1回のペースでやっている。そんなやり取りを既に5回はやっていた。時刻にして3時前。

 やり取りの間に結局諦めたつもりで居た大井の行動も考え始めてしまっていた。

大井の言った言葉を断片的に思い出していくと、あることを思い出した。『大井は"気付いた"艦娘の一員』だと名乗ったのだ。ということは"気付いて"いるのだ。俺への感情を。

 

(大井は俺の責任や独りになってしまった、戦争を強いられ、将来も無くなった事を知っているのだ。そこから何が考えられるというのか?)

 

 そう考えると大井も『提督への執着』が発現したにしては早過ぎる。ずっと持っている艦娘でも"気づいていない"くらいなのに。

 

(まぁでも、"独り"にならないでって言うのは有り難い。)

 

 そんな事を考えて俺は時間を過ごした。そこからはもう別のことを考えていた。次の作戦についてだ。

だがそれまでにかなりの準備が必要だということに気付いて少し落ち込んだのは別の話。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 夕食の後、大淀を部屋に返して俺は私室で1人、本を読んでいた。もしからしたら誰かが来るかもしれないからだ。

そんな事を考えながら本を読んでいると、案の定、執務室の扉が開かれた。

 

「お邪魔しマース。」

 

 入ってきたのは金剛だ。ちなみに1人で入ってきた。姉妹の誰を連れている訳でもないみたいだ。

 

「金剛か。......どうした?」

 

「ハイ......少しお話したくて。」

 

「いいぞ。」

 

 俺は手に持っていた本のキリの良いところに栞を挟んで置いた。

そんな事をしている間に金剛は給湯室でもう紅茶を淹れていた。つまり長居するということだ。

 

「どうゾ。」

 

「ありがとう。」

 

 俺は金剛と机を挟んだソファーに座って1口飲んだ。

紅茶は相変わらずで、普通に美味しい。こういう時、つくづく普通という言葉の万能さをつくづく実感できた。

表現出来ない美味しさなのだ。淹れる個人によって変わるだろうけど、同じ茶葉でも俺が淹れたのとでは全然違う。

 

「話ってのは、『FF』作戦の事ネー。」

 

「結構最近の話だな。」

 

「そうなんですケド、最近噂を聞きマシタ。『赤城が提督に添い寝してもらっている』と。その真意を確かめに来マシタ。」

 

 真剣な眼差しで俺にそう訊いてきた。

 赤城と俺が一緒に寝ていたのを誰から聞いたのだろうか。と言っても『FF』作戦中だけだ。今は寝ていない。

 

「それで、本当デスカ?」

 

「答えは否だ。」

 

 俺は即答した。ここで何か言っても仕方ないからだ。

 

「本当二?」

 

「本当に。」

 

 そう渋ってくる金剛。

 

「デモ、添い寝してたって赤城の艤装の妖精がっ......。」

 

「妖精がか......いつの話だ?」

 

「『FF』作戦中はずっとって言ってマシタ......。」

 

 どうやら赤城の艤装の妖精の中には相当口が緩いのが居るみたいだ。

そんな話を自分の艤装の持ち主でない艦娘に話すのかと思った。

 

「うーん。」

 

「間違いないって......どうなのデスカ?」

 

 金剛が捨てられた子犬のような目で俺を見てくる。

心に来るからやめて欲しい。それにそんな目を見ていると、嘘が言えなくなる。逆に真実を嘘偽りなく言ってもなんとかなるとも思った。この場合、嘘言ってこじらせるより本当のことを言った方が良いと俺は思った。

 

「......してたけど、色々あったから仕方なくって感じだ。」

 

「仕方なく?提督と寝ることがデスカ?」

 

 金剛がグレーな発言をしたが俺はスルーして答える。

 

「俺が艤装に乗り込むことになって準備はしてきたものの、寝る場所が無かったんだ。赤城のな。」

 

「無かった?」

 

「あぁ。赤城はすっかり忘れてたと言って、なら艦長室(艦娘が普段寝るところ)で寝ればいいって言ったはいいが布団が1組しかなくてな。」

 

「ほうほう。」

 

「俺はソファーで寝るからって言ったんだけど駄目だ、それなら私がソファーで寝るって聞かなくって色々あって結局、一緒に寝ることになったんだ。それが添い寝に見えるのも仕方なかっただろうな。」

 

「そうだったんデスネ......。」

 

「あぁ。」

 

 俺はカップに入っていた紅茶を飲み切った。

 

「フーン。」

 

 なん嫌な予感が脳裏を過ぎった。

 

「なら......。」

 

「なら?」

 

 俺の予想は的中する。

 

「私とも寝て下サーイ!」

 

 俺はその金剛の発言に抵抗するも虚しく、最後には『適当に尾ひれ付けて誰かに言う』と言われたものだから結局、金剛と寝ることになってしまった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ベッドの中に今、俺と金剛が入っている。

同室の姉妹には『提督に任務を頼まれたから今日はこっちで寝れないデース。』と言ってきたらしい。そんな事を言ったら後で任務内容を聞かれて面倒な事になってしまうと思う。霧島あたりに言及されそうで怖い。

 

「あったかいデスネ......。」

 

「そうだな。」

 

 俺は天井を見上げて金剛の言葉に相槌を打った。

 

「もっと寄ってきて下サイ。」

 

「いや、金剛は嫌だろう?」

 

「嫌ならあそこまでして一緒に寝よとはしマセンヨ。ほらっ。」

 

 そう言って金剛は俺の腕を掴んで引き寄せた。

距離にしてあと少しで触れてしまいそうな距離。金剛はそんな俺に抱きついた。

 

「んなっ?!金剛っ?!」

 

「しーっ!黙って私に抱きつかれてればいいんデース。」

 

 金剛は俺の頭を抱きかかえる様にしている。なんというか男から出てこないような匂いが鼻に充満する。

考えないように俺は必死に頭を動かした。

 

「温かいデスカ?」

 

「あぁ......。」

 

 俺はそう答える。

 

「やっぱり提督ってば甘えないデスネ。こうやって誰かに甘えて欲しいデス。誰かとは言わずに私に......。」

 

「そうだなぁ......。」

 

 俺は半目になりながら答える。

 

「そのうちな......金剛。」

 

「はいっ!」

 

 そしてそのまま俺はまどろみに落ちたのだ。

 




 
 眠気で凄いことになってましたが、堪忍して下さい(白目)
時間がなくて眠気との戦いでした。それはさておき、今回からまたシリーズに入ります。
題名通りですので、乞うご期待!
 
 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百八十話  提督と艦娘②

 

 今日の秘書艦は大井だ。

こんなタイミングでの秘書艦が大井だというのは何処か運命を感じる。どうしてあんな話をした記憶がまだ新しいのに、こんな早くに秘書艦になってしまったのだろうか。

 

「おはようございます。」

 

「おはよう。食堂に行こうか。」

 

「はい。」

 

 俺は必要以上に話さずに言葉を交わして食堂に向かう。

道中も何も話すことは無い。だがピッタリと横について離れない大井に俺は戸惑いながら食堂に入って朝食を摂った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務中も特に何も話すことはなく、事務的な会話をして大井が書類の提出に事務棟に行くまで俺は気を張っていた。

そして大井が帰ってきた後も少しの間は何も言わなかったが、大井から話を振ってきた。

 

「昨日、金剛さんが提督の部屋に入っていくのが見えたのですが、なんかあったんですか?」

 

 大井は小首を傾げてそんな事を聞いてくる。

大井なら別に話をしてもいいのでは無いかと直感的に思った。大井も金剛と目的は違うかもしれないが、俺の布団に入った1人だ

 

「あぁ。布団に入りに来たよ。大井と同じ理由だったけどな。」

 

「そうなんですか。」

 

 俺がそういうと何故だか大井は頬を膨らませた。

 

「ふーん、そうですか。提督は私よりも金剛さんみたいな"大きい"娘がいいんですか?」

 

「何だよその大きいを強調した言い方。」

 

「何でもないですー。全く......。」

 

 そう言ってそっぽ向いてしまった大井に俺は『どうしたんだろうか』と思いつつ、手元にあった本に目を落とした。

何かを大井に訊く気にもなれないので本を開き、読む。そんな俺を見たまたも大井は話しかけてきた。

 

「提督、提案があるんですけど。」

 

「ん?」

 

「秘書艦、くじ引き制を止めませんか?」

 

 そう大井は言ったのだ。

秘書艦を指定せずにいたのは以前、長門のところに秘書艦がやりたいと訴えが集中したからだ。何故秘書艦がやりたかったのか分からないが、それでも集中した為にくじにしたのだ。

だがそれを何故止めないかと大井は提案してきたのだろうか。

 

「どうしてだ?」

 

 俺がそう聞くと大井は考える間もなく答えた。

 

「秘書艦経験のない艦娘が秘書艦になった時の手間ですよ。幾ら執務が1時間で終わるからといって新たな秘書艦教育のために補佐をつけたり提督が教えるのは時間がもったいないです。」

 

「そうは言っても1時間伸びるか伸びないかっていう違いだぞ?」

 

「それでもです。それに今日持ってきた書類の中にあった大本営からのやつ、提督読んでないですよね?」

 

「そんなものあったか?」

 

 そう俺は言いながら大井が言っていた大本営からの書類を探すと、確かにあった。

封筒だったので開けて中身を見た。

命令書。内容は作戦決行を促すものだった。

 

「......やれというのか。」

 

「そうだと思いましたよ。多分、出撃先は中部海域です。」

 

「......そうみたいだ。」

 

 作戦草案をし、すぐに準備、決行をしろとのことだ。

期限付きではないがすぐに始めろと書いてある。

 

「中部海域の奪還と制圧。深海棲艦の掃討......。揚陸艦の護衛。」

 

「いつも通りですけど、中部海域はこれまでの深海棲艦よりも強いのでは?」

 

「勿論だ。ウチので太刀打ち出来るだろうが、大破が続出するだろうな。」

 

 俺は命令書を握り締めて机に叩きつけた。

 

「......いきなり大本営がこんなモノを送りつけて来るとはっ!」

 

 叩きつけた命令書を大井は拾って広げると俺にあるところを指差して言った。

 

「これ、出処は大本営ですけど責任者が違いますよ。ほら......。」

 

 俺はそう言われてマジマジと見てみる。大本営から送られてくる書類は大体は責任者の欄が総督になっていてたまに新瑞なのだが、今回のは全く知らない人間の名前になっていた。そしてその名前の横に役職が書いてあった。

 

「海軍部情報課?階級は......大佐か。」

 

「将官では無いようですけど......。」

 

「そうみたいだな。」

 

「今まで聞いたことのない部署ですね。」

 

 大井の言う通りだが、俺が大本営に努めている人間をほとんど知らないのにも原因があるように思える。

 

「それに印は総督のものですよ?」

 

「何だと?!」

 

 そう言われて俺は命令書をまたマジマジと見つめる。

確かに印のところの奴はいつも送られてくる書類にあるモノ、総督の印だ。

 

「命令書である以上、遂行しなければならないだろうな。」

 

「そんなっ!出処が分からない命令書通りに動いても......。」

 

「いい。すぐに草案と編成を考えよう。」

 

 俺はそう言って海域の情報を思い出そうと頭をひねり始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 『WC』作戦、『TC』作戦、『HC』作戦、『BC』作戦と名付けた中部海域攻略に向けた作戦は至ってシンプルだった。

『WC』作戦では本来ならば潜水艦3隻入れなければならないと言うが、今回はそれ通りに行くことになる。そのために先ずはイムヤとゴーヤの他に潜水艦を1人用意する必要があるので建造が始まる。

『TC』作戦は通常運用している艦娘の反復出撃によって殲滅。

『HC』作戦では千歳型水母(※初登場)を編成に加えた作戦をしなければならない上に軽巡以下でないと出撃すら出来ないらしいのでそれに見合った編成をすることになる。こちらも反復出撃をする。

『BC』作戦では俺が編成するような編成でも十分攻略可能ということのなのでそのままいつも通りに済ませる。

この一連の作戦を『NG』作戦と呼称することにした。そしてそれぞれを段階で表す。

 作戦内容は大本営に報告しない。理由は単純に俺たちが『何処に向かい』、『何処に攻撃する』かを隠すためだ。多分、返信用封筒に入れて送っても見るのは海軍部情報課に送られてしまうからだ。だが別の茶封筒を用意する。このやり口は赤城が新瑞に連絡を取った時のやり口だ。これなら怪しまれはするが連絡出来るだろう。

 

「提出してきます。」

 

「頼んだ。」

 

 大体の作戦の土台が出来た頃は既に昼も跨ぎ、夕食の時間が近づいていた頃だった。執務室に差し込む陽の光も紅色になっている。

 

(大井に朝、言われた事も考えないとな。)

 

 大井からされた提案、秘書艦のくじ引き制の廃止だ。大井の提案だが決定権は俺にある。

最終的に決めるのは俺だ。提案されたからには無碍に出来ないので、一応考えることにすることにした。

 





 今日は少し少なめです。そしてうっすいです。
ですけど、今後の展開に重要な内容ですので......。
 そういえば比叡も改二になったのと先行登録に当選しました。先行登録に当選したはいいもののアンドロイドじゃないんですよね......。

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第百八十一話  提督と艦娘③

 昨日、海軍部情報課からの命令(なのか怪しい)で急遽、中部海域攻略に乗り出した。

準備の方は完了しているが、一度遠征によって海域偵察を行った。だがなんだか引っかかる事があった。

中部海域への遠征はあったかどうかだ。だが、こちらには情報があまりないのでする必要があったのだ。

偵察に出て行ったのは球磨以下、強行偵察を専門的にやってもらっていた艦隊だ。

 遠征に出てから数日が経った頃、予定ではまだ帰ってこないとされていたが球磨たちが帰ってきたのだ。

その時、こう報告した。

 

『海域に侵入しようとしたら何かに阻まれたクマ。』

 

 ただそれだけだった。

どういう意味なのだろうかと考えると、思い当たる事が1つあった。

『番犬艦隊』だ。番犬艦隊は鎮守府から沖に出れない鎮守府が正当な方法で進水させていない艦娘の集合体だ。その彼女たちも沖に出れない時、『何かに阻まれた』みたいな事を言っていた。正確には『侵入する前に機関が停止して、引き返す事しか出来なかった』だ。

それを俺が球磨に言うとその通りだと返答があった。

つまり、俺が引っかかっていた謎が分かったのだ。中部海域への遠征は無いのだ。

 俺たちはここから進んでいかなければならないということになる。

だが1つ問題があった。潜水艦の建造に時間が掛かるのだ。デイリー建造を4回から1回に減らしていたが今日は4回にして潜水艦レシピをしてみたはいいものの、そう簡単に出てくる訳でもない。

 

(全く出てこないな。)

 

 今回の建造で出たのは球磨の艤装、長良の艤装、大井の艤装(軽巡)、イムヤの艤装だった。

これから当分は潜水艦の建造に力を入れなければならない。

 

「最初はこんなもんよ。」

 

 そう言って今日の秘書艦である夕立は椅子にもたれ掛かった。

 

「そうだろうな。」

 

「潜水艦は数が少ないから仕方ないわ。諦めずに建造を続けていたら出てくるけど、やっぱり伊8だけを狙うのは時間が掛かると思うわ。」

 

「全く同感だ。それに伊8はレア度が高い。」

 

「そうなると......翔鶴さんみたいに何ヶ月も掛かるっぽい?」

 

「そうなるっぽい。」

 

 俺は椅子にもたれながら夕立と話す。

一応、執務は終わっているのでやることがない。それに夕立が秘書艦ということもあり、執務もかなり早くに終わっていた。

 

「それより問題はこの作戦にあると思うわ。」

 

「ん?」

 

 夕立は突然、そんなことを言いだした。

 

「今回攻めるのは中部海域でしょ?」

 

「そうだな。」

 

「中部海域は南方海域の安全が確認されないとかなり危険だって戦術指南書に書いてあったの。それを鑑みれば今の状態でもし潜水艦が揃ったとしても中部海域の前哨戦は100%失敗すると思うわ。」

 

「......南方海域を先に落とす必要があるって事か?」

 

「うん。それと球磨さんの偵察遠征報告によればもしかしたらこのまま出撃したとしても海域に入れないと思うわ。」

 

 夕立は色々な書類を開いて見てはそんな事を言った。

秘書艦の机の上にはファイルが3つ。戦術指南書が1冊にノートが2つ開いている。どれだけ開いて調べたんだろうか。

 

「夕立の言い分だと、この作戦は発動前からおじゃんってことか?」

 

「うん。」

 

「弱ったなぁ......。」

 

 『NG』作戦が発動できないとなって最初に出た言葉がそれだった。

曲がりなりにも大本営からの命令だからだ。幾ら海軍部情報課からの命令であったとしても印は総督のもの。無碍に出来ない。

それにこの事は先ず、夕立に指摘される前に俺自信が気付くべきだったのだ。

 

「......悪い、夕立。」

 

「いいよ。......仕方ない事よ。それにその海軍部情報課からの命令なんて幾ら総督の印があっても確認しなきゃ。どう見たっておかしいじゃない。」

 

 俺はそう夕立に諭された。

全くもってその通りだ。最初に見た時に確認しておけば良かったのだ。だが幸いな事に被害を出す前でしかも準備段階で気付けた。

今から『NG』作戦延期を伝えて、大本営に確認を取れば問題ない。

 

「夕立。」

 

「はい。」

 

「『NG』作戦を知ってる艦娘はどれくらいいる。」

 

「昨日の秘書艦だった大井さんと私だけっぽい。でも、大井さんが誰かに言ってたら不特定多数の艦娘に知られているかもしれないわ。」

 

「そうか。」

 

 俺はすぐに夕立に命令した。

 

「大井を出頭させてくれ。」

 

「了解っ!」

 

 俺の命令を聞いた夕立はすぐさま立ち上がり、執務室を飛び出していった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 夕立はすぐに大井を連れてきた。そして俺は間髪入れずに『NG』作戦の無期延期と、作戦に関して口に出すことを禁じさせた。

無論、大井はそれに従う。何の疑問も持たずに。それもその筈だ。何故、このような事になったのかを大井についでの様に説明したからだ。それにちゃんと納得した上での口外禁止だ。

 

「了解しました。......昨日の命令書への疑惑、ですか?」

 

「あぁ。」

 

 退出するかと思ったが、大井がそんなことを聞いてきた。

無理も無いだろう。受け取って、読んで、作戦の概要を知っている大井なら訊きたくもなるだろう。

 

「そもそも疑惑に思っていたのは事実だろう?」

 

「そうですね。海軍部情報課......これまで送られてきた資料の中にそこから出ている書類はありませんでしたからね。」

 

 そう大井は腕を組んで答える。

 

「んで今日の出来事だ。中部海域に偵察に出ていた球磨からの情報で、海域に入る事が出来ないとのこと。」

 

「......番犬艦隊が沖に出れないのと同じ現象ですね。」

 

「あぁ。それに現状のまま潜水艦が建造できたとして出撃しても成功率は0%。」

 

「なら作戦の無期延期も仕方ないですね。......分かりました。では、失礼します。」

 

 大井はすんなりと執務室を出て行った。どうやら聞きたい事は以上だったみたいだ。

 見送った夕立は俺のところに戻ってきてあることを言った。さっき言えなかった。正しくは言えなかった事だろう。

 

「提督さん。大井さんって『提督への執着』が発現してからおかしいわ。」

 

「そうだな。」

 

 夕立も同じことを考えていたみたいだ。だが俺よりかは感じてない筈。

 

「大井っていう艦娘はあんな個体じゃない筈なのに......。」

 

 そう言った夕立を俺は小突いた。

 

「それを言うなら夕立もだろう。もっと夕立は子供っぽくておてんばなイメージが付いているんだぞ。」

 

「そうかもしれないわね。......うん。私もそれには気付いてるっぽい。」

 

「そうなのか?」

 

「うん。......演習で他の提督さんのいない鎮守府で戦う時に時々別の夕立と戦うことがあるの。他の夕立とも話した事あるけど皆口を揃えて『別の鎮守府の私は同じような性格してるけど、あなたは全然違うっぽい。』ってね。私、おかしいのかな?」

 

 そう夕立が言うと、髪の特徴的なところがペタリとしてしまった。

本当に、こう見ていると犬耳に見える。そんな夕立の頭の上に手を置いた。

 

「気にするな。夕立は夕立、他の鎮守府と違かろうが、似てなかろうが夕立は夕立だ。」

 

「本当?」

 

「本当だ。」

 

 俺はそう答える。夕立はというと、確かに変な個体だ。夕立自身が言う通りなのだ。

 

「......分かったわ。」

 

 そう言って夕立は頭の上に乗せた手からすり抜けていった。

そして秘書艦の席に座る。そんな夕立の表情からはさっきの髪がペタリと寝てしまった時の表情はなかった。何処か赤くなっていて、広げていたファイルやらを片付け始めた。

そんな夕立を眺めて俺は背を伸ばす。

 

「ん"ー!さて、何するか......。」

 

 そんな事を呟いたが俺は便箋とペンを寄せて書き始めるが、よく考えれば電話すればいいのではと思い立ち、電話を掛ける。

相手は大本営、新瑞だ。

 

『......もしもし。提督か?』

 

「はい。」

 

 一度、秘書に繋がった後に内線で新瑞に繋がる。

 

『どうした?』

 

「お聞きしたことがあります。お時間、よろしいですか?」

 

『構わない。それで、何だ?』

 

「はい。先日大本営海軍部情報課より総督の印が付いた命令書が届いたのですが、とても不自然でしたので確認を取りたく......。」

 

『情報課から命令書?情報課にはそんな権限は無いはずだが?』

 

「権限が無いのなら尚更怪しいですし、新瑞さんの反応を鑑みるとそちらには耳に入っていないのですね。」

 

『あぁ。今のが初耳だ。して、どのような内容の?』

 

「中部海域の奪還開放、制圧です。」

 

『海域開放の催促か。......そんな指示を出した覚えは無いし、総督からの指示を下に流した覚えもない。こちらで何かが起きているのかもしれない。』

 

 ほんの数回のやり取りで事態を新瑞は読み取ったみたいだ。そして、大本営で起きている可能性のある事も。

 

『分かった。こちらで総督に確認を取った後、処理を追って通達する。』

 

「よろしくお願いします。失礼します。」

 

 俺は返事を聞くと受話器を置いて、その命令書を角に置いた。

 

「夕立。」

 

「はい。」

 

「ありがとう。」

 

「どういたしまして!」

 

 俺は夕立に礼を言って電話の前で待ち続けた。

およそ20分後に返事があり、やはりそのような指示は無かったのと総督もそのような書類に印を押した記憶は無いとの事だった。

その連絡を聞いた俺はすぐにその命令書を破り捨てたが、付け足しで新瑞にあることを言われた。

 

『何か起きるかもしれない。鎮守府の警戒態勢を強めておけ。』

 

「了解しました。」

 

『では。』

 

「ありがとうございます。失礼します。」

 

 そう言われ、俺はすぐに行動を取る。

夕立に言って赤城を招集。空母たちに哨戒機を出すことを指示するのと、戦艦以下の艦娘に艤装装着を命じ、警備部にも警戒態勢を伝えた。鎮守府内はたちまち騒がしくなり、緊張感に包まれる。

 

「配置完了したわ。」

 

 夕立が艤装を身に纏った状態で執務室に入ってくると俺は次の指示を出す。

 

「何かあればすぐに報告することを徹底だ。止む終えない場合のみ、無力化する事を許可する。」

 

「了解っ!」

 

 夕立は返事をして無線でそのことを伝える。

 

「大本営で新瑞さんが情報課を抑えるまでだ。それまで何があってもいいようにすること。」

 

 そう俺は言う。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 昼を超えた辺りで夕立が執務室から離れると言って代わりに時雨を連れて来て置いていった。

時雨と仲がいいって事は知っているが、こんな事も頼むのかと俺は内心少し驚いている。そんな俺に時雨は話しかけてきた。

 

「こうやって話をするのも久し振りだね。」

 

「そうだな。」

 

 落ち着いた雰囲気ではあるが、艤装を身に纏っている時雨はそんな事を言う。

 

「最近ね、夕立がすることが無いって言って片手間に色々な事をするようになったんだ。僕も一緒にやってるんだけど、夕立にはかなわないよ。」

 

「何をしてるんだ?」

 

「平たく言えば家事かな?自分で出来る事は自分でやってるんだ。私室の掃除、ご飯の用意、洗濯物の片付け、裁縫......他にも酒保で外国語の本を買って勉強したりしてるんだ。」

 

「ほぉー。凄いな。」

 

 時雨は柔らかい表情で話してくれる。

 

「僕もやってるんだけどね。......あれは大変だね。提督は夜にあんなことをしてるんだ。」

 

「......まぁ、そうだな。やってる。」

 

 俺がいつそんな事をしているのかと言うと、夜に秘書艦を返した後だ。大体夜の10時辺りから始めている。食事は食堂で摂っているので料理はしないが、掃除と洗濯はちゃんとしている。裁縫も着ている制服のボタンが取れかけていたりしているのはその日のうちに直しているのだ。流石に制服の修理は出来ないがな。

 

「料理はいつも食堂で済ませてるからやってないだろうから、洗濯と掃除かな?」

 

「うむ。だがあんまり時間はかからないぞ。」

 

「そうなの?」

 

「あぁ。全部やって40分くらいか?夕食の後、私室でなにかやってるだろう?あの時に洗濯機を回して置くんだ。」

 

「そうだったんだ。」

 

 俺がそんな事を話していると執務室の扉が開いた。入ってきたのは夕立。そして出て行く時には持ってなかったモノを持って現れた。

 

「ここから離れられないだろうから、お弁当、持ってきたわ。」

 

 そう言って夕立は机に置く。

 

「ふふっ......夕立、赤いよ?」

 

「んー?!時雨、あげないよ?」

 

「あー待って、ごめんね。」

 

「許してあげる。はいっ。」

 

 夕立はそう言って時雨にも包を渡した。

俺の机に置かれた包よりも時雨と夕立が持っている包は小さい。

 

「あっ、ありがとう。」

 

「どういたしまして!さぁ、食べましょ!」

 

 俺は席を立ち、ソファーに座ると包を開く。

中にはそれなりの大きさの弁当箱があり、中を開けてみると彩りやバランスがちゃんと考えられた弁当だ。ご飯におかずは卵焼き、多分手捏ねの肉団子、プチトマト、アスパラベーコン、ブロッコリーだ。

 

「いただきます。」

 

「「いただきます。」」

 

 俺は箸を伸ばして口に肉団子を放り込む。

市販のやつや冷凍食品では味わえないような味がしている。やはり手捏ねの様だ。

そして白いご飯を口に運び、黙々と食べ進めていく。時雨と夕立は少し話をしながらだが、俺は黙って食べた。

7分もすれば全て綺麗に食べ切り、箸を置いて手を合わせる。

 

「ごちそうさま。」

 

「お粗末さま。」

 

 それに夕立は答えてくれた。

 

「どうだった?」

 

「うん。美味しかった。肉団子、手捏ねだっただろう?」

 

「そうよ。気付いたっぽい?」

 

「あぁ。」

 

 正直に言えば夕立の作ってきた弁当は俺の中でストライクだった。いいバランスで的確な量。腹の満足度もちょうど良かったのだ。

 

「今日、準備してたら時雨もやるって言ったんだけど、入れれなかっくってね。」

 

「あっ、ちょっと!」

 

 夕立がその話を始めると時雨は慌て始めた。どうしたんだろうか。

 

「焦がしちゃったの。生姜焼き。」

 

「生姜焼きっ?!」

 

「あー、夕立のバカ......。」

 

 生姜焼きで反応してしまったが、生姜焼きは焦がすものなのだろうか(←提督は料理で焦がした事がありません)。

 

「本当は生姜焼き弁当っぽくなる予定だったんだけどね、慌てて肉団子を入れたの。」

 

「もうっ......。」

 

「あははっ、そっか。」

 

 膨れる時雨とニコニコする夕立を見て俺は率直にそんな風に話した。

それを夕立は聞き逃さなかったみたいだ。

 

「今提督さん、口調変わってた?」

 

「あっ......あぁ。そうみたいだな。」

 

「んふー。そっちでもいいと思うよ?」

 

「そうか?」

 

 そう言って来る夕立から逃げるために俺は時雨に話しかけた。

 

「今度一緒に生姜焼き焼くか?」

 

「うん。」

 

「えー、私もー!」

 

 そんな楽しそうな雰囲気を出して話をするが、鎮守府には警戒態勢が敷かれているのだ。

多分、近くを通りかかった見回りの艦娘は変に思っただろう。

 




 昨日とは打って変わって絶好調でした。といっても休み休みでしたので、時間はかかりましたけどねw
 今回はサブタイらしからぬ内容ですが一応関連があるのでよろしくお願いします。
このシリーズがどういう意味をもたらすのか、気になるところですね。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百八十二話  提督と艦娘④

 

 起きてみると少し違う空気に違和感を感じた。清々しい朝の筈なのに何だか気分がどんよりとする。だが俺は身支度を整えて制服を着て、執務室に出た。

 今日はどうやら雨のようだ。

それのせいで気分がどんよりとしていたのかもしれない。首を回して背を伸ばして秘書艦を待つ。

 程なくして今日の秘書艦である加賀が入ってきた。加賀は表情は少ないが感情の起伏が激しいというかにじみ出る。そんな加賀からモヤモヤとした感じが見て取れた。多分、加賀も気分がどんよりとしているんだろう。

 

「おはようございます。」

 

「おはよう。」

 

 淡白な挨拶をすると加賀は俺の机に今日の執務の書類を置いた。

 

「今日の分です。それと大本営からです。」

 

 そう言って加賀が別にして机に置いたのは茶封筒だった。宛は書かれていないが、差出人は書かれている。『新瑞』とだけ書かれていてそれ以外は切手もない。

 俺は何も言わずに封筒を開けて中身を出す。便箋が3枚入ってるだけだった。

 

『中部海域への攻撃命令の出処と顛末が分かった。先ず、命令書の出処は海軍部情報課で間違い無い。そして海軍部情報課への言及で"ある程度"の事が判ったが、正直に言えば今ひとつのモノばかりだ。ひとつめは確かに海軍部情報課からの"要請"であった事。ふたつめは総督の印は偽造であった事。みっつめは課内で起きたことにも関わらず責任者が全員しらばっくれている事。よっつめは南方海域の攻略を優先する筈だったのを無理に変更させるつもりだった事。』

 

『話は変わるが、昨日俺が注意を促した理由だが、海軍本部の生き残りが何かをしているらしい。そして今回の騒ぎであった総督の印はその連中から受け取っていたことが判ったんだ。海軍本部がこれまでしてきた事を振り返って考えてみれば何を起こすかなんて簡単に想像できる。』

 

 俺は夢中になって読み進めた。

 

『あるとすればひとつだ。提督、再度提督暗殺計画が進んでいる可能性がある。』

 

 この文を見た瞬間、多分瞳孔が思いっきり開いた事だろう。そんな俺を加賀は見過ごさなかった。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、何でもない。」

 

 俺はそう取り繕って読み進めた。

 

『先日の鎮守府に警戒態勢を敷くことを伝えたのはこのためだ。だが俺は不安要素が拭えないでいる。門兵に明らかに諜報系に長けた特技兵がいないことと、人間の出入りが多い事だ。門兵がそういった事に疎いと侵入者を容易く侵入させてしまうだろう。人間の出入りが多いのは侵入者が紛れて入り込むには絶好だということだ。特に酒保と事務だ。』

 

『だから十中八九、侵入者は提督の前に姿を現すだろう。気を付けておけ。』

 

 それ移行は海軍本部残党の情報や、横須賀鎮守府の塀の外側から見た侵入経路予想が書かれていた。

俺はそれを封筒に仕舞うと立ち上がった。時計を見たらもう朝食の時間だったのだ。

 

「加賀、行こうか。」

 

「分かりました。」

 

 俺はそう言って加賀を引き連れて食堂に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 食堂から帰ってきて俺と加賀は執務を済ませるとそれぞれやりたい事をしていた。

俺は新瑞からの手紙を読み直し、加賀は棚にあるファイルを見ている。

 

(十中八九か......。)

 

 そのことが凄く気になっていた。まだ鎮守府の防衛網は貧弱だということだ。

それに幾ら警備が居ようが諜報員は相手が素人集団なら簡単に抜けていくのだろう。そんな諜報員が居た気がする。眼帯をしてる○○○ボ○とか呼ばれていた諜報員が。

 

(今更増員したところでどうにかなる訳でもないだろう。なら艦娘を頼るしかないな。)

 

 俺の今のところではここが精一杯だった。

艦娘の『提督への執着』に頼るしかない。だが、頼ると言っても限定する。金剛や鈴谷といった『提督への執着』が強い艦娘だ。

 

(思い立っだが吉日だな。だが話をするのは夜の方がいいだろう。)

 

 そう思い、俺は夜を待つことにした。それまでは加賀と違う話をしようと思ったからだ。

 

「加賀。」

 

「はい。」

 

 俺が呼ぶとすぐに加賀は見ていたファイルを片手にこっちに来た。

 

「何を調べているんだ?」

 

「今は赤城さんの航空隊の戦果ですね。......主に報告書からですけど。」

 

「そうなのか。」

 

 勉強熱心というか赤城を目標にすることはいいことなのかもしれない。だが返って無理だとも思う。赤城の航空隊は異常なのだ。

それを手本にしようとするのならそれだけ知識と経験を積まなければならない。

だが今の加賀ならそれも可能だと俺は思っていた。今、赤城に一番近い練度なのは加賀なのだ。差的に言えば7くらいだ。

数字は大きいが、経験してきたものは修羅場の数を数えなければ同じくらいだろう。それなら出来ない訳がないのだ。

 

「ふむ......加賀。」

 

「何でしょうか。」

 

「赤城の"特務"、加賀もやってみたいか?」

 

 そういった途端、加賀は信じられない速度で机の前に立ち、手を付いた。

 

「本当ですか?」

 

「あ、あぁ。だが覚えること、やることがかなり増えるぞ?」

 

「それは普段の赤城さんを見ていますので分かります。」

 

「本当にいいのか?」

 

「えぇ。」

 

 そう加賀は答えた。加賀の目には本気の二文字しか写ってない。

 

「分かった。今からやるか?」

 

「はい。」

 

「なら先ずは今すぐ資料室に向かい、航空母艦に関する戦術指南書を持って来て読むことだ。」

 

 そう俺が言うと加賀は持っていたファイルを片付けると執務室を出て行った。資料室に行って戦術指南書を取りに行くのは分かるが、ここまで持ってくる事が出来るのだろうか。

 程なくして加賀は戻ってきた。その手には戦術指南書があるが航空母艦に関するものだけだが1冊だけだ。

それを開いて席に座る。どうやら加賀は全部いっぺんに持ってくるタイプじゃないみたいだ。

いつぞやの赤城の時は『提督っ!重すぎて重すぎて.....ああぁぁ!!』とか言って執務室の前で戦術指南書の雪崩を起こしていたのだ。それを考えると加賀は結構慎重なタイプみたいだ。それにあんまり持ってきてもどうせ1冊も出来ないのだ。

 今、加賀が見ているのは航空母艦の基本運用に関するものだ。この他にも艦載機運用、艦載機の種類と用途、機動部隊旗艦としての心構えなどがある。加賀は航空母艦の戦術指南書で一番最初に読まなければならないモノを読んでいるだけみたいだ。

 ちなみに戦術指南書を読んだ後、実機での限界や妖精の練度を見たりして戦法を練る。この作業はかなり時間を使う。赤城もそうだったが、あまりにも時間がかかっていたので口出ししてしまったから今回も口出ししようと思う。

 

「......フム............。」

 

 加賀は真剣に戦術指南書を読む。本来ならば皆、読んでいる筈なのだがやはり蔑ろにしている艦娘は多い様だ。勿論それには加賀も含まれている。例外で蔑ろにしてないのは隼鷹と鳳翔だけだった。それでも結構理解できてなかったり、怪しいところが多い。

 

「提督。質問よろしいですか?」

 

「あぁ。」

 

 そんな風に俺と加賀は午前中の余った時間を使った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 昼食の後、午前中の続きで加賀は戦術指南書を見ている。俺はというと特にやることがないので外を見て回ろうかと思ったが生憎の雨がまだ降っている為に出れずにいた。

 なら何をすればいいのかと考えた時、新瑞からの手紙を思い出してあるものを準備しなければならないんだろうなと考えた。何を準備するのかというと護身用火器だ。万が一、艦娘が周りに居ない時に襲われたら自分の身は自分で守らなければならない。だがこちらは素人であちらはプロだ。悪足掻き的にそういった護身用火器は必要になるだろうと思ったのだ。

俺は加賀の目を盗んで机の引き出しを引き出した。皆には黙っていたが、金剛に捨てられた拳銃(※第七十八話参照)以外にも持っているのだ。官給品として支給されたもう1丁だが、捨てられたものよりもコンパクトだ。口径が小さく、装弾数もそこまで多くないものだ。なのでポケットに入るし、そこまで重くない。その拳銃を出して弾倉に弾を詰めて机の引き出しに入れた。もしもの時は威嚇くらいにはなるだろうとそう思ったのだ。

 その後は特に何かをする気にはなれなかったので、いつもの様に小説を読み始めていた。

そんあ時、加賀が声をかけてきた。

 

「提督。」

 

「ん?」

 

「昨日出された鎮守府全体の警戒宣言って一体何があったんですか?」

 

 昼を超えた時間ではあるが、そんなことを訊いてきた。

 

「あぁ。外からの情報でな......危険が差し迫っている。」

 

「そうなんですね。」

 

 加賀はそれだけしか言わなかった。それ以降は特に加賀から何も聞かれることなく、時間が過ぎていき夕食時になったので俺と加賀は夕食を食べに執務室から出て行った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 夕食後、少し時間が経つと加賀を私室に戻し、俺は予め呼んでいた。金剛と鈴谷、赤城だ。

 

「一体どうしたデース?」

 

 そう入室するなり金剛は俺に訊いてきた。それも無理は無いだろう。こんな時間に呼び出しなんてそうそう無いからだ。

 

「あぁ。金剛たちに頼りたくてな。」

 

「「「ん?!」」」

 

 俺の『頼りたい』という単語に過剰に反応した3人を差し置いて俺は話を進めた。

 

「どうやら水面下で海軍本部残党によるある計画が立てられているみたいなんだ。」

 

「どんな?」

 

 食い気味に鈴谷は訊いてきた。ここで率直に言ってもいいんだが、それはこの3人の暴走を誘発しかねないのである程度オブラートに包んで伝えることにした。

 

「ここへの偵察と情報収集だ。」

 

「成る程......ですが一体それをして何をすると?」

 

「まだ分からん。」

 

 俺はそう適当に言った。ここからが本題だ。この3人に情報を与えて警戒をより強固なものにするのだ。

 

「だから俺が3人に頼りたいのはより強固な監視網だ。赤城は艦娘を統制し、組織的な警戒をして欲しい。金剛と鈴谷は独立して行動。俺が警戒していることだから『艦娘の執着』にも過剰に反応するはずだ。」

 

「分かりました。」

 

「「了解(デース)!」」

 

 うまい具合に3人は乗ってくれた。これで未然に防ぐ力が強くなっただろう。

俺は少し掘り下げて話をした後、3人を寮に返して俺は私室に戻った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 今日、提督に呼ばれて話を聞きましたが初めて提督に頼られました!

これで私の株は急上昇間違い無しね!最近『提督への執着』が発現した大井の執着っぷりには流石の私も引きましたが、それはそれです。それ以上にアピール出来ればいいんですから。

今回ので分かった事は大井よりも私の方が提督の信頼度は上だと言うこと。しかも"特務"を任されている赤城と同レベルとなれば相当ですね!

ここからが勝負です。

 だけど今回、提督に頼られた話ですが、どうにも腑に落ちない点があります。

海軍本部残党による情報収集にそこまでする必要があるのかという事です。鎮守府周辺に出没するくらいならそこまでしなくてもいいでしょうけど、この騒ぎは本当はタダ事ではないんでしょうね。私も本気出さなくては......。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 初めて提督に頼られたよ!

いや~あ、気分は最高だね!ハイでアガりまくりなんですけど。

 しかも提督の信頼が一番厚いって評判の赤城さんと一緒に呼ばれて一緒の事をするとなると、これはいつの間にか鈴谷は提督の信頼を勝ち取っちゃってた的な?!

 提督から頼まれた事、鈴谷は完璧にこなすよ!

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 "特務"以外で提督に頼まれたのは初めてで少しうれしい気持ちがある反面、内容を聞いただけで頭に血が登りました。

提督は情報収集と仰ってましたが、あの警戒用はタダ事では無いって事はほぼ間違いなしなんです。それが何なのか提督は教えてくれませんでした。

ですが情報から察するに海軍本部残党による提督の暗殺でしょうかね。

 他の2人にも言ってもいいんですが、混乱を招きかねませんん。話を聞いてそのまま理解していたのなら違いに戸惑うでしょうから無しにしました。

多分提督が仰りたいのは護衛と共に番犬艦隊を付けて欲しいといういことですね。多分......。

 





 なんだかいつぞやの話を連想させるような書き方になってしまいました。ですが気にしないでくださいね。

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第百八十三話  提督と艦娘⑤

 

 昨日の夜に金剛、鈴谷、赤城を頼って色々と伏せた状態で話したところ、協力してくれる事になった。

出て行く時に金剛と鈴谷が妙にテンションが高かったのは特段気にはならなかったのだが、赤城の様子がどうもおかしかった。なんというか、腑に落ちないという雰囲気だったのだ。

 赤城がそんな風に感じていたのは説明がつく。俺が言った情報からそのばで勘ぐったのだろう。

 

(赤城は騙せ無いのか......。やはり優秀だな。)

 

 そんな事を考えながら俺は執務室に出た。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 今日の秘書艦は幸か不幸か赤城だった。

 

「おはようございます、提督。」

 

「おはよう。」

 

 挨拶を交わし、俺は立ち上がった。

 

「朝行くぞー。」

 

「はい。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 朝食を済ませ、俺と赤城は加賀相手に"特務"をしていた。と言っても加賀相手に講師をしているだけだ。そんな片手間に執務をしている。どちらかと言うと、優先順位は執務なのだがやればすぐに終わるということでメインが加賀の相手になっているのだ。

 

「赤城さん。」

 

「はいはい、何ですか?」

 

「ここなんですけど......。」

 

 そんなやり取りをしていた。赤城の執務は片手間でありながら執務開始数分で片付いていたので加賀は執務の終わった赤城を頼っているみたいだ。

 俺はというと未だに執務をしている。何故、加賀の相手が優先順位が高いのに俺が執務をしているのかというと予想以上に赤城の執務が早く終わったからだ。そんな赤城が俺に『提督は執務に集中して下さい。加賀さんの質問は私が引き受けますから。』と言われたので俺は執務に集中していたのだ。

 

「ここはですね、艦隊全体に無線指示です。それと同時に観測妖精に対空警戒を頼み、艤装の各所妖精さんに伝達します。」

 

「それは分かっています。その後にどうすれば......。」

 

「陣形変換です。旗艦を中心に考えて下さい。」

 

「はい。」

 

 今日は航空母艦の基本ではなく、機動部隊旗艦としての心構えをみていた。どうやら夜に戻った後も1人で勉強をしていたみたいだ。それに加賀の傍らには艦載機運用の戦術指南書も置かれていた。

 

「......ふぅ。」

 

「終わりましたか?」

 

「えぇ。次に入る前に休憩します。」

 

 加賀はソファーから立ち上がると背を伸ばして給湯室に入っていった。お茶でも淹れるのだろう。

 赤城は机に置かれた艦載機運用に関する戦術指南書を手に取ると俺に話しかけてきた。

 

「これ、正直に言えばやる必要ありませんよね?」

 

「内容が内容だからな。」

 

「そうですよね。......基本は多少なりにも理解出来ているはずですから。ですけどこれに載ってない艦載機を私たちは使いますよね?」

 

 赤城が言う乗ってない艦載機というのは雷電改と震電改、試製景雲(艦偵型)、試製景雲(艦戦型)、試製南山の事だ。

 

「使いはするがほとんど出てこない。烈風、流星改、彗星一二型甲、彩雲しか使わないだろう?教えるなら精々、震電改だな。」

 

 俺は最後の書類を書き終えるとそう赤城に言った。

 

「震電改ですか......。加賀さんは漠然と運用法を理解してますね。」

 

「漠然とでは駄目だ。ちゃんと基礎からやってもらわないと十分に能力を発揮できないだろう?」

 

「それもそうですね。......分かりました。何処まで教えればよろしいですか?」

 

「機体の基本構造から頼む。」

 

 俺はそんな事を言う。

赤城はそれを聞いてか準備を始めるが、震電改に関する資料なんて少ない。どう教えるのだろうか。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ソファーの辺りで艦載機に関する講習会みたいなものが始まった。赤城と加賀のマンツーマンだ。そんな講習会を見ている俺は何もしない。

 

「加賀さんは艦載機の基本運用は覚えてますね?」

 

「勿論です。それぞれの特性なんかも抑えてます。」

 

「ならいいでしょう。ですけど震電改に関してはまだでしょうから、私が教えますから一緒に勉強しましょう?」

 

 そう言って講習会が始まったのだ。

 その一方で俺はただ見て何もしていないだけではない。金剛と鈴谷が来ているのでその対応をしていた。執務室でやっているが、赤城たちからは離れて話している。内容が内容なので加賀に聞かれる訳にはいかないのだ。

 

「定時連絡デス。今のところ確認されマセン。」

 

「門外で立ち往生してると鈴谷は見たよ。」

 

「そうか、ありがとう。」

 

 そわそわとする2人を尻目に俺は考え事をする。

本当にこの2人は気付いてないのか、という事に。経験則から言えば金剛に関しては気付かない訳が無いのだ。だが今回の騒ぎでは金剛はそこまで反応していない様に見える。俺の気のせいならいいんだが、もし本当に気付いてないのなら変な話だ。

 赤城が気付いて金剛と鈴谷が気付かない違いでもあるのでは無いかと仮説立てるがそれでも分からず終いになってしまう。

何か決定的に違うという違いが金剛と鈴谷、赤城にはあるようで無いのだ。

 

「それはそうとサー、提督ぅ。」

 

「ん、何だ?」

 

「その海軍部情報課の連中が本当に鎮守府に情報収集しに来るノ?」

 

「そういう風に聞いたが?」

 

「それだったら大本営にあるんだから大本営とこっちの許可取ればいくらでも出来るんじゃないノ?」

 

 何も言わないと思っていた金剛が訊いてきた。

多分、無意識のうちに疑っているんだろう。

 

「それもそうだが......多分許可取ると俺たちが無意識で隠してしまうところがあるから、そういったところの調査みたいな事がしたいんじゃないかって思う。」

 

「そうなんデスカ......なら、この警備は何デスカ?普段通りしていればいいんじゃ?」

 

 金剛が何かを考えての質問ではなく、純粋な疑問で俺に訊いてきた。

 

「普段通りにしていてもしその情報収集している人間を艦娘たちが反応して捕まえる事になろう事なら面倒事じゃすまない可能性があるんだ。」

 

「それで私たちをあえて刺激して置かせるのデスネ。......でもそれでは本末転倒ダト......。」

 

「あぁ。だからもし捕まえたのなら、海軍部情報課の人員の練度が相当低いということになるな。」

 

 俺はその場で思いついたものをつらつらと言葉に出していくが、そのうち矛盾し始める。もしかしたらもう矛盾しているかもしれないと思った。ここで話を切り替えないと墓穴を掘ることになると思い、話題を切り替えた。

 

「警備態勢はどうなっているか聞いてるか?」

 

「うん。......艦娘と門兵合同の混成警備部隊を幾つか用意してシフト巡回中だったと思う。いつものやつだね。」

 

「なら逮捕権は凍結してないから有効だな。」

 

「そうなるねぇ。......今思ったんだけどさ、逮捕権の凍結って出して以来ずっとしてないよね?」

 

「そういえばそうだったな。」

 

 鈴谷が話の軌道を変えてくれたお陰でボロを出さずに済んだ。

 

「まぁ、艦娘への拘束的な意味では結構働いてるけどね。」

 

 そんな事を言いながら鈴谷は呑気にあくびをした。

 

「それに関しては私も同感デース。アレがなければ鎮守府の敷地内で汚い血が何度か流れてマシタ。」

 

 金剛も鈴谷の話には同感した様だ。俺はというと全く分からないが、それでも逮捕権を凍結せずに居ることが利益になるって事は分かった。今後も継続することにする。

 

「それにしても......"特務"デスカ?」

 

「あぁ。」

 

 会話が途切れたかと思うと金剛がそんな事を訊いてきた。赤城と加賀がしている事を見て言ったのだ。

 

「"特務"があるのは羨ましいデス。」

 

「それは鈴谷も同感。」

 

 2人が声を揃えて言うが、自分らも言うなれば"特務"を任されている事に気付かないのだろうか。

 

「赤城に関しては最初はずっと戦術指南書で勉強してたし、工廠に入って艦載機の構造とか見てたりして忙しそうだったんだが、それがやりたいと言うのなら俺は止めないぞ?」

 

「うへぇ......鈴谷ならまだしも金剛さんはむりっしょ。」

 

「確かにそうデース。艦載機なんて偵察と弾着観測に使う水上機しかないからネ。」

 

 そんな事を言う鈴谷だが、大規模改装をしているのでもう航空巡洋艦なのだ。扱う航空機は水上爆撃機なので、一応艦載機運用に関する勉強は出来るが、鈴谷の様子を見ると全くしてないみたいだ。

 

「やりたいのか、"特務"。」

 

 そう俺が鈴谷に聞くと首を横に振った。どうやら嫌みたいだ。

 

「いいや。そんな時間があるなら警戒態勢のまま巡回してた方がいいよ。じゃあ、鈴谷はそろそろ行くね。」

 

 そう言って鈴谷は執務室から出て行った。残ったのは金剛だけ。

そんな金剛が俺に話しかけてきた。

 

「海軍部情報課ってのは嘘デスネ。」

 

 唐突にそんな事を言い出したのだ。

 

「ん?何の話だ?」

 

「この警戒態勢デス。経験からしてみると一番可能性があるのが『海軍本部残党』デス。違いマスカ?」

 

 真剣な金剛の目に捉えられながら聞かれた。

 

「......あぁ。金剛の言う通りだ。」

 

「じゃあやっぱり......目的は暗殺デスカ?」

 

「今のところそう見てもいい。」

 

 そう言うと金剛の表情が一瞬で険しくなった。

 

「分かりマシタ。これまで以上に気を配って巡回シマス。では、行ってくるネ。」

 

 金剛はそう言って執務室を出て行った。

 一方俺はというと、金剛が違和感だけでまた正解を引き当てたのだ。

流石としか言いようが無い。

 





 第一章の後半みたいになってきましたね。今度は別の組織ですけど......。
 実は金剛も気付いてしまったということです。まぁ、わかりきってたことですけどね。

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第百八十四話  提督と艦娘⑥

 

 警戒態勢に入ってから3日目に入った。昨日の金剛と鈴谷の報告では鎮守府内部に入っている輩とかは居なかったとの事。

ひとまず安心したが、侵入者がいるとしたら夜中に入ってくる筈だ。それが暗殺目的なら尚更だろう。

そんな事もあり、俺は拳銃を枕元に置き、限界まで起きている事にした。

 

(静かだ......。)

 

 深夜巡回の混成警備部隊以外が寝静まったであろう午前1時前でも俺は起きていた。

 

(もし暗殺が目的なら実行しやすい深夜帯を狙ってくる筈。)

 

 天井をベッドから見上げながらそんなことを思った。

 

(もし今襲われたなら俺は真っ先に拳銃を手に取らなければならないのか......。)

 

 果たして俺にそんな事が出来るのだろうか。今回のことの根源は間違いなく『海軍本部残党』だが、今回も関係のない兵士がこちらに送られてくる事は確実だった。そんな兵士を俺が撃つ事が出来るのだろうか。

幾ら口径が小さくても拳銃だ。銃、それは即ち殺傷兵器。当たりどころが悪ければ最悪、撃たれた相手は絶命してしまうものだ。口径が小さいからって舐めてはいけない。そんな拳銃の銃口を俺はただの任務としてここに現れた人間に向けて引き金を引くのか。考えただけでおぞましかった。

 新瑞が言う『海軍部情報課』という組織はどうやら諜報員の集団だということらしい。そしてこんな事も聞いたのだ。『海軍部情報課は海軍本部諜報部崩れの強者諜報員が集まっている。』と言ったのだ。

それを聞いて俺はあることを思い出した。巡田を洗脳していた先輩も居る可能性があるのだ。そして、今回の一連の騒ぎの首謀者が『海軍部情報課』所属である可能性の裏付けにもなったのだ。

 

(巡田さんでさえもかなりの諜報能力だと思うんだが、アレ以上だと考えるとこの鎮守府はザルだな。)

 

 俺はそんな事を頭で考えていて至って冷静なつもりで居るが、身体は違うみたいだ。さっきから震えが止まらないのだ。

畏怖される俺の暗殺に怯えているだけなのかもしれない。いつかの巡田がやった時はそこまで怖く無かった。その時は鎮守府のそういった事に対処する能力が十分にあると思っていたからだ。だが今ではちゃんと鎮守府がどういうところに秀でていて、何に弱いのか理解している。

今の鎮守府なら確実に俺の暗殺が出来るだろう。頼んでおいて言って悪いがザルな警備だけだからだ。一応、巡田ら諜報班が目を光らせている。

 

「はははっ......。」

 

 乾いた嗤いが口から零れた。すぐに訪れる死への恐怖なのか、はたまた無念からの笑いなのか今の俺には分からない。

 そんな風に俺の脳内は『死』で蝕まれていた。特に夜はそうだ。

誰もいなくなり、誰とも話さなくなると途端にこうなってしまう。常に考える事は暗殺による『死』のみだ。

 

「やばっ......。」

 

 そんな事を呟いている。何か発して気持ちが紛れるかと思ってもそうは行かないのだ。

何か考えようにも頭から離れていかない恐怖に嫌になりつつ俺は時計に目線をやった。現在は午前1時を過ぎて10分くらい経った頃だった。それほど時間は経ってない。

 悪循環に陥りながらも俺の意識は遠のいていった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 気付けば朝になっていた。途中で寝てしまっていた様で、かなり変な体勢から起き上がると俺は背中を伸ばして大きく息を吸った。

梅雨前に近づきつつあるこの頃だが、なぜだか最近は気温が少し下がっているみたいで、朝方は涼しいというより寒かった。今日も例外なく、寒いので俺はすぐに制服に着替えて執務室に出て行く。

 執務室も変わらずに寒いが仕方ないので俺は冷たい椅子に腰を下ろした。ひんやりとした椅子の感触がズボン越しに身体に直接伝わってくる。

 少しすると今日の秘書艦が執務室に入ってきた。時間は丁度いいくらいだ。

 

「Good morning! アドミラルっ!ってどうしたの?」

 

 今日の秘書艦はどうやらアイオワらしい。

 

「あぁ、ちょっとな。」

 

「ミーに出来る事があれば何でも言ってね?」

 

「あぁ。」

 

 明るいアイオワに反して今日の俺は一段と暗いみたいだ。

それもその筈だろう。

 

「さぁー、Breakfastを食べて執務しましょう!」

 

 そんなノリでグイグイと来るアイオワに少し戸惑いながらも俺は付いて行った。

こんな気分の時こそ、アイオワみたいな艦娘と話をすると気が落ちつくみたいだ。アイオワの明るさに充てられて俺は少し元気になったのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 朝食を食べ終わり、金剛がアイオワの補佐をして執務を終わらせるとアイオワが書類提出のために執務室を出て行った。それを待っていたと言わんばかりに金剛がアイオワが出て行ったのを確認すると話しかけてきた。

 

「提督、無理してませんカ?」

 

「無理って......そもそも何を無理すればいいんだ?」

 

 抽象的な言葉で聞かれ、俺は思わずそう答えてしまった。多分、金剛が聞きたかったのは状況を鑑みて俺の精神状態だろう。

 

「......フム......。」

 

 そんな風に答えた俺を黙って金剛は見ると俺の手を掴んだ。金剛の小さい手が俺の手首に巻きつき、引き寄せられる。

 

「アイオワには言っておきマス。提督は休むと良いヨ?」

 

「......。」

 

 俺はそんな金剛に何も言い返せなかった。

実際、俺の精神状態は良くないに決まっている。最近は夜だけだったのに、日中にもたまにだが脳裏をよぎるのだ。

その度に表情に出ない棟にしているが金剛にはお見通しだったみたいだ。

 

「それと私も付いていますカラ......。」

 

 そんな風に金剛は言った。

 

「ありがとう、金剛。」

 

「いえっ......以前の暗殺は提督がこの世界に来てあまり時間が経ってない頃デシタ。あの頃はまだ色々と理解できてないところがありましたから今とは違いマス。今は色々な事を知ってマス。それだけ考えられるようになったんデース。そうなってしまえばこうなるのも仕方がないというものデスヨ?そもそも提督は本当は大人じゃないんデスカラ。」

 

「あぁ。俺はまだまだ子どもだ......。」

 

 そんな事を言われながら俺は私室に入り、ベッドに誘導されてベッドに入った。

 

「かく言う私も歳的には中途半端な子どもですけどネ。それでも培ってきたモノが違いますカラ、そういう差が出てきてるのデス。」

 

「そうかもしれない。......俺の居た世界の大人が同じ境遇に陥っても同じことになっているだろうな.....。」

 

 金剛の言葉に俺は返答をしていく。だが脳裏にはずっと暗殺のことばかりだ。

 

「それに提督は自分の弱いところを隠してマース。夜に吐き出してる事はなんとなくですけど分かってるのデス。」

 

「......。」

 

 俺は今の金剛の発言には返せなかった。図星だったのだ。記憶に新しいのは昨日の夜だ。

 

「こんな事に"気付ける"のは『近衛艦隊』と移籍組だけデース。最も、移籍組は違うニュアンスで捉えてるかもしれマセン。」

 

 ベッドに寝る俺の片手を両手で包み込んだままの状態で金剛は話す。

 

「提督の心身の事、私たちは本当に心配しているのデース。デスカラ一刻も早く、今降り掛かってくる危機を吹き飛ばさなければならないデス。」

 

「早く皆にも"気付いて"欲しいナー。気付いたところで提督の心配事は消えきりませんガ......私たちが深海棲艦と戦い続ける限りは、デスガ。」

 

 そんな金剛の話す声が子守唄のように聞こえてきて次第に俺のまぶたが重くなっていく。

そしてついに俺のまぶたは閉じられた。

 

 




 
 今日のは少し少ないですが勘弁して下さい。キリが良かったものですから......。
 
 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百八十五話  提督と艦娘⑦

 

 俺が目をさますと枕元には金剛が居た。起きていて、横に椅子を出して漫画を読んでいた。

俺の私物の漫画だが別に気にしない。

 

「オゥ、起きましたカー?」

 

「あぁ。」

 

「大体3時間くらい経ってマス。それとアイオワは少し寂しがってましたが私に任せてくれマシタ。」

 

「そうなのか?」

 

「ハイ。......その間はアイオワはどうやら酒保に行ったり資料室に行って本を借りたりしてたみたいデス。」

 

 そう金剛が言ったのと同時に私室の扉が開かれた。

開いたのはアイオワだった。

 

「再び、Good morning!アドミラル!よく眠れた?」

 

「あぁ。」

 

 そう俺が身体を起こしながら答えるとアイオワは俺に缶を差し出してきた。ちなみに缶と言ってもボイラーの事ではない。

 

「コーラか。俺に?」

 

「そうよ。」

 

「寝起きにコーラはないと思いマース......。」

 

 横でゲンナリとした表情をしている金剛を尻目に俺は何の迷いもなくコーラを受取る。

 

「ん、ありがとう。......冷えてるな。」

 

「勿論よ!給湯室の冷蔵庫に入れておいたからね。コーラはキンキンに冷えてるのをグイッといくのがサイコーなのよ!」

 

「分かる。」

 

 俺はアイオワに相槌をしながらプルタブを押し、缶の口を開けて飲んだ。

 

「プァハー!んま。」

 

 そんな事を最初の息継ぎの時に言って直ぐにコーラをまた飲む。

コーラをゴクゴクと飲む俺を見て金剛はポカーンとし、アイオワは俺と同じくしてグビグビとコーラを飲んでいた。

 

「カァーッ!!サイコーよ!」

 

「ピザ食いてぇ......。」

 

 そんな事を呟いて俺はベッドから出て椅子に座った。

椅子に座った俺を見た金剛は俺に訊いてきた。

 

「提督ってコーラ、好きなのデスカ?」

 

「あたぼう。でも近いところにコーラが売ってる自販機はないし、酒保に飲みたい時に買いに行ってたら面倒だからあまり買ってなかったんだ。」

 

「フーン。......コーラデスカ。」

 

「あぁ、コーラだ。」

 

 俺は金剛の言葉に返答しながらもコーラを飲み、ほんの数十秒で飲み切った。

 

「まさかアドミラルがコーラ好きだとは思わなかったわ。」

 

「生粋のコーラ好きなんだよ。今まで飲めてなかっただけだ。」

 

 そう言って俺はシンクで缶を洗って逆さにして置く。

 

「さぁ、今何時だ?」

 

「丁度昼デース。」

 

「んじゃあ、昼食だな。行こうか。」

 

 俺はアイオワと金剛を連れて食堂に向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 午後は金剛は戻るといって巡回に戻ってしまったので、執務室には俺とアイオワの2人だけだ。

だがいつもと様子が違う。ソファーの机の上にコーラの500ml缶が6本並んでいるのだ。しかも全て空いている。全て俺とアイオワが飲んだものだ。

 

「あ"ー、飲んだ。」

 

「飲んだわねー。」

 

 珍しく執務以外の時間に飲み物をこんなけ飲んだのは初めてだ。金剛と別れた後、俺とアイオワは酒保に行ってコーラの缶を6本買って来て直ぐに開けて飲んでいたのだ。

 

「んー。」

 

 アイオワが背中を伸ばす。

 

「ねぇアドミラル。」

 

「なんだ?」

 

 突然真面目な表情になったアイオワに戸惑いつつ、俺はアイオワの方を向いた。

 

「今鎮守府の中で起きてる事、本当のこと教えてくれない?」

 

「は?」

 

 アイオワは突然そんな事を言ってきた。

今、鎮守府の中で起きている事は1つしかない。『海軍部情報課』による俺の暗殺だ。

 

「不自然なのよ。門兵さんと混成の警備部隊は理解出来るわ。だけどね金剛と鈴谷と赤城が野放しなのがとても気になるの。彼女たちも混成警備部隊にいなくて良い訳?」

 

 どうやらアイオワはこの鎮守府に敷かれている令に違和感を持っていた様だ。

 

「......金剛と鈴谷が特別なのは知ってるか?」

 

「えーと、『提督への執着』が強いって事くらいかしら?」

 

「まぁ、間違ってはないが......そもそもアイオワは気付いてるか分からないがアイオワも......。」

 

 金剛たちと同じだぞと言いかけたところで飲み込んだ。アイオワに言ってしまうのは不味いと直感的に思ったからだ。

 

「ミーが何か?」

 

「なんでもない。......金剛たちが独立しているのは俺が別任務を頼んでいるからだよ。」

 

「赤城が"特務"をしているのは知ってるけど、金剛たちも?」

 

「あぁ。金剛たちには混成警備部隊のする巡回場所以外に行ってもらってる。」

 

「そうなの?」

 

「あぁ。」

 

 アイオワは案外聞き分けが良いというのか、素直に信じてくれた。

 

「そうなのね。分かったわ。」

 

「そうか。」

 

 アイオワはそう言って一旦話を切り上げたが、すぐに別の話題を振ってきた。

 

「オーイが言ってたんだけど、『提督をちゃんと見てあげてくださいね。』ってどういう意味だと思う?」

 

「オーイじゃなくて大井な。というかそれ、俺に言ってよかったものなのか?」

 

 どうやらアイオワ的にはこっちが本題だったようだ。

大井がアイオワに言った言葉は俺の別の悩みごとを刺激した。"気付いた"艦娘たちと移籍組は提督をヒトとして見ているが、他はモノとして見ているという話だ。

今まで暗殺の事で考えてられる余裕が無かったが、今一度頭で考えてしまう。

 

「いいわよ別に。アドミラルが関係してるから。それで、どう思う?」

 

 そうアイオワが聞いてくるが、正直この時の正しい回答は俺自身が言ってはいけない気がする。

 

「そのままの意味だと俺は思うが......アイオワがどう思うかで良いと思うぞ?」

 

「分かったわ。でも言い方が気になったのよ。」

 

 アイオワは肘を突きながらそんな事を言う。

確かにアイオワの言った大井の言い方は含みがあるのは普通に分かる。あからさまではあったが、それが逆に気になるのだ。

 

「『見てあげて』って......それってどういう意味なのかしら?皆口々にアドミラルのこと言ってるのに。」

 

 そう小首を傾げて考えるアイオワに俺は言わない。

それがどういう意味をなしているのか。

 

「さぁ......俺も分からないからなぁ。」

 

 そんな事を言って俺は知らない様に言う。本当は大井が何の事を言っていたのか知っているが言ったところでどうなると言うのだろうか。

 

「まぁいいわ。後でまた考えればいいことだしっ!んしょっと......これからどうするの?」

 

 アイオワはそれまで考えていた事を切り上げて別のことをしようと言い出した。

 

「そうだな......。特段することないんだけど......。」

 

「えー!なんかないの?ほらっ......うーん......ねぇ?」

 

「ねぇって言われてもなぁ......。」

 

 俺は缶を持って給湯室に行くと缶の中を洗って伏せた。

 

「午後はいつも本当にすることがないんだ。これまでの秘書艦は思い思いに過ごしてたぞ。」

 

 そう俺は言って席に座り、その正面にアイオワは立った。

 

「例えば?」

 

「そうだなぁ......読書したり勉強したりお茶会したり外で遊んだり、そんなものだ。」

 

 俺はそう答える。

 

「読書は好きじゃないし、勉強も好きじゃない。お茶会というか似たような事はさっきまでやってたから、外で何かする?」

 

「いや。警戒態勢中に外で遊べるか。」

 

「じゃあどうすればいいのよ。」

 

 俺はそう膨れっ面になるアイオワにある提案をした。

 

「昼寝はどうだ?」

 

「さっきしてたじゃない。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 結局何もすることが無かったので、俺とアイオワは色々な話をした。

といっても俺がアイオワの話を訊くだけだったが。どうやら移籍組は仲良くやっているようで、最近何故か移籍組総出でビスマルクのために勉強会をしているらしい。日本語の読み書きを教えているみたいだ。

他には艦娘寮の調理室が拡張された事でかなりの人数の艦娘がそこで空いてる時間に料理をしているらしい。だが、半分くらいの艦娘は包丁の扱いからみたいで心得のある艦娘が教えて回っているとの事。

アイオワから聞ける話は俺の知らない艦娘のことばかりだった。

 

「アドミラルの腕前がどれくらいか分からないって皆言ってたわ。」

 

「俺の腕前?料理か?」

 

「そう。......皆って言ってもある程度出来る艦娘だけだけどね。」

 

「そうだなぁ......普通に出来るってくらいだが?」

 

「普通がわからないのよ。」

 

 俺がそう答えると呆れ顔でアイオワは返事をしてくれた。

普通じゃダメだったらしい。

 

「うーん......普通に生活するのには十分に出来る、ならいいか?」

 

「それならokよ。それとねぇ、噂になってるんだけどね」

 

 そうアイオワが言いかけた刹那、執務室の扉が開かれた。

入ってきたのは秋津洲だ。多分お菓子を焼いてきてくれたんだろう。

 

「失礼するかも!今日は提督が昼前まで寝てたからおやつで持ってきたよ!」

 

 秋津洲はそう言って俺の目の前にドンといつもの籠を置いた。

 

「じゃああたしは哨戒任務に行ってくるかも!」

 

 そう言って秋津洲は足早に執務室を出て行ってしまった。

そんな秋津洲を目で追っていたアイオワは口を開いた。

 

「その噂ってのが秋津洲のお菓子のことなの。本当だったのね。」

 

「あぁ?......何が?」

 

「秋津洲が艦娘(給糧艦以外)で一番料理が出来るのって。」

 

「他の艦娘の腕前を見たことはないが、秋津洲は自分でご飯作れるぞ?」

 

「そうなのね......。」

 

 アイオワはそう言いながら籠に被せてあった布を捲ってみる。

 

「マドレーヌね。」

 

「今日はマドレーヌだったか。」

 

 俺はそう言いながら籠に手を突っ込んで1つ手に取ると口に放り込んだ。

その光景をアイオワは驚いた表情で見ている。

 

「ん?」

 

「随分と慣れているみたいね。」

 

「ムグムグ......ングッ......いつものことだからな。秋津洲がお菓子を作ってくれるのは。」

 

「そうなのっ?!」

 

 どうやらかなり驚いたみたいだ。どうしてだか俺には分からない。

 

「昼食とかも秋津洲の食堂で食べたいってのもあるんだが、普通に食堂で食べたいってこともあってな。正直、入れ替わりで行きたい。」

 

 そう俺が答えるとアイオワの目が死んだ。物理的ではなく、色がどんどん褪せていったのだ。

 

「秋津洲、なかなかやるわねっ。」

 

「何がやるんだ?」

 

「いいえ、なんでもないわ。」

 

 そう言ってまた別の話に切り替わり、そのまま夕飯まで過ごした。

 夕飯後にアイオワが少し時間をくれというので執務室で待っていたらあるものをアイオワは持ってきた。

 

「食べてくれる?」

 

 そう言って差し出してきたのはカップケーキだ。

とんでもなく食欲をそそらない色をしている。

 俺はそれを手に取ると躊躇してない様に見せながら口に運んだ。

口の中に甘ったるい味が広がり、占領する。そしてその味が残り、同時に後味にケミカルっぽいものを残していくのだ。

だが別に嫌ではない。普通に美味しいというか、食べれる。だが毎日は食べたくないものだった。

 

「どう?」

 

 そう不安そうに聞いてくるアイオワに俺は答えた。

 

「美味しいよ。見た目も楽しめて一石二鳥だ。」

 

 上手く言えたものだと内心思いつつ、俺はアイオワが持ってきたカップケーキ3つを食べた。

アイオワが全部食べていいといったからだ。これが男の意地というものだろう。お腹が一杯である。

 





 今日は前回と時間は少ししか変わってないところからのスタートです。結構長いことアイオワが出てくるので本作でのアイオワがどんな性格かってのを知ってほしいです。
 そして提督が食べていたカップケーキですが、食べたことがないので完璧に想像で書かせていただきました。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百八十六話  提督と艦娘⑧

 

 俺はいつも通りに目を覚ました。警戒態勢に入って今日で4日目だ。もう警戒態勢というか、警戒するのに慣れてしまったみたいだ。

本部棟に限り、日中もずっとカーテンを閉めてある状態にしている。それは侵入者から本部棟の状況などを外の遠いところから把握されるのを防ぐためだ。

 俺はカーテンを開けたい衝動を抑えつつ、制服に着替えて執務室に出た。

 

「おはようっ!提督。」

 

「おはよう。」

 

 今日の秘書艦は秋津洲だ。昨日の夜のことだが、くじ引きの制度はまだ続いていてそのくじで秋津洲は当たりを引いていたのだ。

その時に俺のところに来て、『哨戒任務もやるから、頑張る!』と宣言していた。

 それとよくよく考えたら昨日、アイオワと酒保に行っていたのだが、普通に本部棟から出ていた。

昨日は少し肌寒かったので格好も普段の制服の上から上着を着ていたので内心それで大丈夫だろう。

 

「朝ごはん食べに行くかも?」

 

「そうだな。」

 

 俺はそう言って立ち上がって秋津洲と執務室を出るのだが、俺と秋津洲は反対方向を向いて歩き出した。

 

「ん?秋津洲?」

 

「あー、今日はあたしの艤装でご飯にしようと思ってたかも。」

 

「おっ、分かった。その前にリモコン置いてきていいか?」

 

「勿論。」

 

 俺は何の疑問も持つことなく、食堂に寄って既に居た赤城にリモコンを任せると秋津洲の艤装に向かった。

 秋津洲の艤装ではもう結構出来上がっていたみたいで、もう持ってくるだけになっていた様だった。

 

「はーい、おまたせかも。」

 

 そう言って秋津洲は俺の前にご飯と味噌汁、里芋の煮っころがし、焼き魚、漬物を置いて自分のところにも同じものを置いた。

俺のお茶碗にご飯が余分に持ってあるのは男である事を考慮しての事だろう。実際、お腹は減っているのだ。

 

「「いただきます。」」

 

 そう言って手を合わせて朝食を食べ始めた。

秋津洲が甲板で食べたいとか言い出したので今は甲板、連装高角砲の後ろに机を出して食べている。

黙々と食べている訳ではなく、色々と話しながら食べているので結構時間が掛かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 秋津洲の艤装で朝食を食べた後、執務をしたのだが秋津洲が初回にしてはかなり執務が出来るみたいで、経験者がやった時とほぼ変わらない時間で終わってしまったのだ。

 昨日の夕食後に秋津洲が『補佐を頼める娘が丁度用事があって補佐なしでやることになるかも。迷惑じゃなければ教えて欲しいの。迷惑だったらまた探すから......。』と言われてしまって別に迷惑なんて思ってないので教えることになったのだが、かなり飲み込みが早く、途中から俺の補佐なしでも出来るくらいになっていた。

そんな執務は小1時間で終わったので俺と秋津洲は暇を持て余していた。

 

「執務が終わると暇かもー。」

 

「いつもこんなんだ。」

 

 俺は秋津洲の暇だコールを質素に返しつつ、腰をポキポキと鳴らした。ちなみに姿勢を良くしただけで鳴るので多分相当猫背で執務をしているのだろう。

 暇を持て余している秋津洲は秘書艦の机の引き出しを開けてみたりした後、相当暇になったのか立ち上がって俺のところに来た。

 

「提督。」

 

「ん?」

 

「提督の私室の台所、借りていいかも?」

 

「何故だ?」

 

「そろそろお腹空く頃かも。」

 

「あー、そうかもしれない。」

 

 俺はそんなことを答えながら時計を見た。現在の時刻は午前10時40分過ぎ。11時くらいにいつも秋津洲はお菓子を持ってきてくれるので腹時計がそうなってしまったのだ。

 

「使ってくれて構わないぞ。」

 

「分かったかも。」

 

 そう言って秋津洲は手提げを持って俺の私室に入っていった。扉は閉めずに開けたままで手提げには食材が入っていたみたいだ。

私室で物音がし始めた頃、俺は机の上にあった本を手にとって読み始める。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 午前11時を過ぎた頃に俺の私室から美味しそうな匂いが漂ってきて、俺の鼻孔を刺激した。甘く、香ばしい香りだ。

私室からトレーを持って出てきた秋津洲はそれを俺の目の前に置いた。

 

「今日は出来立てが美味しいモノを用意したかも。パンケーキだけどよかった?」

 

「いいぞ。むしろ丁度食べたかったんだ。」

 

 そう言って俺はフォークとナイフを使って切り分けて食べていく。その姿を秋津洲はただ眺めていただけだった。

どうやらいつも作ってはくれるみたいだが、自分では食べてない様だ。

俺はそんなことを気にしつつもほんの数分で食べ終わり、秋津洲に礼を言った。

 

「ごちそうさま。それとありがとう。」

 

「お粗末様!いえいえ、好きでやってるから。」

 

 そう言って秋津洲はトレーを持って俺の私室に引っ込んでしまった。その後、水が流れてくる音がし始めたので、どうやら洗い物を始めたみたいだった。俺は洗い物くらい手伝うと言ったのが、『いいかも。あたしがやりたいことだから。』といって断られてしまった。

何だか腑に落ちないが、俺は洗い物をする秋津洲を眺めて少しゆっくりした後に、食堂に遠回りで向かった。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 昼食を食べた後、俺がボケーっとしていると秋津洲が話しかけてきた。

 

「そういえば昨日、他の娘から凄く質問攻めにされたの。」

 

「何かあったのか?」

 

「何でも、提督にお菓子作って毎日持っていってる事がバレたかもっ......。」

 

「皆知らなかったのか?」

 

「そうみたい......。そしたらなぜだか寮の調理室でお菓子作り教室を開くことになっちゃった。」

 

 そう困った表情をして言う秋津洲は、少しため息を吐きながら頭を掻いて『どうしよう......。』と呟いて別の話を振ってきた。

 

「そういえば昔、金剛さんって凄く危険視されてたけど、今では赤城さんと同等の見方をされてるのはどうして?」

 

 この流れで来るとは思ってなかったので、俺は一瞬思考が停止してしまった。

さっきの話と全く関連性がないのに、一体どうしていきなりこんなことを訊いてきたのだろう。

 

「どうしてって......今でも監視下にあると思うんだが。」

 

「そうかな?それに調べて分かった事だけど、あそこまでしてたら監視が付くでしょ?」

 

「そうだな......実際、監視は付いていたぞ。」

 

「『いた』ね......過去形かも。」

 

 そう秋津洲は口癖である『かも』を言わずに聞いてくる。かなりの違和感を感じながらも俺はそれに答えていくが、どうしてそんな事を俺に聞こうと思ったのだろうか。

 

「赤城さんの信頼に値する何かが金剛さんにあるの?」

 

 その言葉の返答に俺は困ってしまった。

たった1文のために俺は頭をフル回転させた。ここで秋津洲にあの事を言ってしまえばどうなるか分からないが、ある程度想像が付く。

だがその一方で、秋津洲がどういう括りにされているか考えてみれば言ってしまってもいいのではないかとも思えてくる。

秋津洲は移籍組なのだ。

 

「言えない。」

 

 俺は結局、その回答を選んだ。

俺は口には出さずに俺への再確認を含めて答えていた。『大井による『提督への執着』の見解の影響』だと。

 

 秋津洲はそう俺が言って不思議がるが、何を聞いても俺は言うつもりは無かったので秋津洲はそのことを俺に訊くのを止めたみたいだった。だがなんとなくだが、秋津洲は俺がその質問に答えない事が分かっていたのかもしれない。

そして秋津洲はまた別の話を振ってきた。

 

「あたしね。」

 

 そう秋津洲は呟く。

 

「あたし......金剛さんと同じかも......。」

 

 それを聞いた瞬間、俺の脳内での情報処理がストップしてしまった。

 

 





 昨日は諸事情で投稿できませんでした。すみません。
まぁ、今回はあるのでご勘弁を。
 秋津洲の暴露で止まりましたが、ニヤケが止まりませんです。
今後も乞うご期待。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百八十七話  提督と艦娘⑨

「どうしてだ?」

 

 俺は少し間を置いてからそう秋津洲に訊いた。

 

「移籍した当初はあまり感じなかったけど、時間を置くごとに他の娘が言うような金剛さんの『特徴』に似てきてる事が分かったの。早々に提督の危険を察知出来るの、あたし。」

 

 そう言って秋津洲は眉を下げながら少し笑った。

 

「でも、動かないかも。行動しようとしてもそれは『破壊』だったりするからなんとか行かないようにしてるかも。」

 

 秋津洲が言った事はつまり、理性で抑えるタイプだ。しかも察知が早いときたらもう大井と同じタイプとしか言いようがない。

そう瞬時に俺は脳内で考えると、返事をした。

 

「そうか......。だが行動するタイプじゃなくてよかった。もし行動するタイプだったら昔の金剛と同じになってしまう。」

 

「それはあたしも思ったかも。本当に抑えれて良かった。」

 

 そう少し笑った秋津洲を見て、俺は直感的に心配はないと感じた。

理性で抑えられるならこれ以上のことはない。だが、その時の秋津洲はとてもじゃないが見てられないだろう。

俺は理性で殺意を必死に抑えている赤城を見たことがあるのだ。目が血走り、怖い顔をしている赤城を。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 話をした後も違う話をずっとしていた。

訊いたことが無いからといって俺が作れる料理を全て聞き出されたり、毎日持ってくるお菓子のリクエストを訊いてきたりとかなり長い時間話していた。

 その一方で考える事もあった。大井がどうして秋津洲の事を察知してなかったのか、だ。

この様子から察するに大井の言った説によれば秋津洲もヒトとして俺を見ていると考えられる。さっき話しながら見ていた書類から分かった事だが、秋津洲は書面上移籍となっているが、番犬艦隊にくくられていない。移籍組でありながら番犬艦隊に入れられてない特殊な事例なのだ。

 よくよく考えてみたら番犬艦隊も俺が知っているだけで、非公式艦隊だ。『近衛艦隊』、『親衛艦隊』、『番犬艦隊』と編成されているが、どれも認知はしているが、公に認めている訳ではないのだ。

 

「そういえば秋津洲。」

 

「何かも?」

 

「秋津洲は『親衛艦隊』に所属を?」

 

「あー。」

 

 そう俺が聞くと、秋津洲は何だか変な態度をした。

 

「どうしたんだ?」

 

「言いにくい訳では無いけど、実はあたし、『近衛艦隊』にも『親衛艦隊』にも所属してないかも。」

 

「は?」

 

 どういうことだろうか。赤城や他の艦娘の話を聞く限り、どちらかには所属することになっているらしいのだが、どちらにも所属していないとなると、『番犬艦隊』にもなってない様だ。一応、秋津洲は移籍組なのだが。

 

「アレは勧誘で入るものらしいの。あたしは移籍してきてから結構1人で居る事が多かったから、勧誘したくても見つけられなかったのかも。」

 

「1人で居るって言っても、あそこだろう?」

 

 俺が言ったあそことは、艦娘寮から少し行ったところにあるテラスのことだ。

 

「ううん。哨戒任務してお菓子作って、ご飯も艤装で食べちゃうから実際、あそこに居るのは1、2時間くらいかも。寝る以外の殆どは艤装にいるかも。」

 

 そうかも知れない。哨戒任務といっても沖ギリギリまで出て、二式大艇を飛ばし、帰還をそこで待った後、回収するから相当の時間が掛かるのだろう。しかも、食事は艤装で摂っている上、毎日俺のところに持ってくるお菓子も艤装で作る。そして寝ている訳だからどこかで張ってない限りあまり会うことも無いだろう。俺は毎日持ってくるので会っているが。

 

「そうか......。」

 

 俺は考えた。秋津洲には既に哨戒任務を任せていて時間を結構それで取ってしまっているが、他の艦娘との交流がおろそかになってしまっているのなら別の任務も与えてみようかと。

考え付く任務はそうない。護衛と警護は有事以外は金剛と鈴谷に任せればいいし、有事でも赤城が指揮する混成警備部隊でどうにかなることもある。それ以外では戦術考案のために赤城が"特務"をしている。それに新設といっても結構時間が経っているが、赤城、金剛、鈴谷の騒ぎの時に内偵や下仕事をしてもらっていた霧島、熊野、叢雲の内部情報部隊もある。

どこかに配置するのは一応、適正があるので可能だが、哨戒任務に圧迫されて何か出来るとは到底思えない。

 

「でも寮で部屋が近い娘に仲良くしてもらってるの!瑞鳳ちゃんとか。」

 

「そうなのか。」

 

 どうやら本当に1人ではないみたいだ。

 

「夜になるとたまに一緒に話しましょうって誘われてよく行くの。友達が居ないわけじゃないから!」

 

 そう少し頬を膨らませながら怒る秋津洲を少し笑っていると、突然執務室の扉が勢い良く開かれた。入ってきたのは遠征任務に出ていた天龍だ。

 

「報告書の提出だ。」

 

「あぁ、お疲れ。」

 

「まだまだ行けるぞ?だが、その前に提督に報告しておかなくちゃな。」

 

 額に汗を滲ませた天龍は汗をぬぐいつつ俺に言った。

 

「何だか妙な胸騒ぎがするんだ。」

 

「どういう意味だ?」

 

 俺がそう聞くと、天龍は説明をしてくれた。

同じような事を以前にも経験していることと、その時の状況をだ。それだけ聞けば俺も察する事が出来た。

天龍が言ったのは『今日のみたいに胸騒ぎを感じた』のとそれが『鎮守府への空襲』だったことだ。鎮守府への空襲では俺の居た地下司令部が爆弾で潰れている。

つまり、俺の命の危険が迫ってきているということを意味していた。それも近い時間に。

 

「こういう予感が的中するのは嫌だが、報告しておこうと思ってな。確かにしたぜ。」

 

「あぁ、ちゃんと聞いた。ありがとう、天龍。」

 

「あたぼうよ。......だが、様子を見る限り大丈夫そうだから俺はもう行くぜ。」

 

「分かった。」

 

 天龍はそう言って執務室を出て行った。今から多分だが、艤装の点検と風呂にでも入るんだろう。

 天龍が出て行ったのだが、それと入れ替わりで叢雲が入ってきた。

 

「不審人物というか、ほぼ100%侵入者を発見したわ。」

 

「本当か?」

 

「えぇ。巡田さんの班の人がそれらしき人物を発見したって言って今、追跡中。携帯電話で連絡しても良かったけど電源切ってるからってさ。」

 

「じゃあ何故、叢雲が報告に......。」

 

「巡田さんは班の人を追って行っちゃったからね。私が代わりに来たの。」

 

「分かった。秋津洲。」

 

「はいかも。」

 

「非常事態だ、警備に出ていない非番の混成警備艦隊も全て出せ。」

 

「分かった!」

 

 緊張、強張った面持ちで秋津洲は艤装を身に纏い、無線で連絡を取り始める。

やがて鎮守府内は騒がしくなった。次々と本部棟や艦娘寮、酒保から艦娘が門兵と合流して警備の指示を赤城からもらっているようだ。ここからでも赤城の指示を飛ばす声が聴こえるのだ。

 

「混成警備艦隊の総出撃を確認したかも!」

 

「うしっ......。ならそろそろだな。」

 

 俺がそう呟くと示し合わせたかの様に執務室に番犬艦隊が飛び込んできた。どうやら走ってきたようだ。

 

「到着、したわっ。......これから提督の護衛に入るわね。」

 

 肩を上下させながらビスマルクはそう言う。他の番犬艦隊もそんな感じだ。

 

「走ってきたのか......。息を早く整えて頼んだ。」

 

「分かってるわよ。......いつもの護衛じゃないけど、大鮒に乗った気でいなさいっ!」

 

 そうドヤ顔をして言うビスマルクに皆、苦笑いしていたがオイゲンだけ笑い転げている。

 

「ビスマルク......。それを言うなら大船だろう......。」

 

「べっ、別にいいじゃない!大鮒も大船も変わらないわよ!一応、水面に居ることができるしっ!」

 

「船は沈めないぞ......。」

 

 そうフェルトの冷静なツッコミを聞きながら俺は秋津洲に指示を出していた。

秋津洲にも艤装を身に纏い、番犬艦隊と同様に動くように伝えた。

 鎮守府の上空には既に赤城の指示の下、空母の艦娘たちが彩雲や烈風、零戦を出していて上空警戒及び捜索と追跡を始めていた。

 

「じゃあ私たちも、艤装を......。」

 

 ビスマルクたちも秋津洲を見て直ぐに艤装を身に纏った。

執務室に居る艦娘、8人が全員艤装を身に纏うとかなり場所を取ってしまっていて、俺が今居るところから見ていてもかなりの圧迫感が感じられた。

 その中で忙しなく秋津洲は無線を聞いたり応答したりしながらメモを取っていた。大体がこちらが聞く側だったみたいで『はい。』とか『うん。』とかしか言ってない。そして手先はずっと動いたままだった。約5分間、書き続けた頃にどうやら一段落付いたみたいで俺のところに報告に来た。

 

「先ず最初に霧島さんから。『侵入者と思わしき人物を追跡中。確保を検討中。』かも。」

 

 俺も手元にあった紙に乱雑にメモを取った。

 

「次、警備棟の武下さんから。『門を1つ無力化。意識不明の門兵6名を収容中。』かも。」

 

 先ほどと同じく、メモを取る。

 

「次、赤城さんから。『上空から侵入者を捜索中。』かも。」

 

 どうやらこれで終わりのようだった。

俺はペンを置くと、直ぐにそのメモを横にやって状況が動くのを待った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 秋津洲を介した情報を待って数十分くらい経った頃、執務室にある混成警備艦隊から連絡が飛び込んできた。

 

「入電っ!警備棟が無力化されたかもっ!」

 

 一瞬、番犬艦隊はざわついたが直ぐに静かになった。

 

「武下と連絡が取れる門兵に連絡を取るように言ってくれ!」

 

「了解したかも!」

 

 俺はそれと同時に携帯電話から武下に電話を掛ける。

コールが鳴るが、一向に電話には出ずにすぐに留守番電話に入ってしまった。その後も2回連続で掛けるがやはり繋がらない。

武下と連絡が途絶えてしまったのだ。

 

「秋津洲、霧島に打電っ!誰かを警備棟に向かわせろっ!」

 

「分かったかもっ!」

 

 俺は状況を頭で整理しつつ、指示を飛ばす。

そして霧島の返信である『熊野が調査に向かった』後の入電で熊野との交信途絶を最後にあちこちで連絡が取れなくなる混成警備艦隊が出てきたのだ。

状況は最悪だ。こんな短時間でここまでやられてしまうとは思いもしなかったからだ。

 




 今回から激動に入りました。
急に始まった侵入者による攻撃に押し込まれている鎮守府と提督の行く末はいかに。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百八十八話  提督と艦娘⑩

 

 次々と秋津洲が書くメモから次々と混成警備艦隊との連絡途絶が伝えられ、約30班あった混成警備艦隊のおよそ5/6が交信途絶。

辛うじて連絡の取れる艦隊も艦娘が消えた、門兵が消えたと報告をしていた。

状況が全く掴めない。今、鎮守府で何が起きているのかさっぱり検討もつかないのだ。

 

「なぁ、秋津洲......。」

 

「何かも?」

 

 俺はそんな中で、気になる事があった。連絡が取れないというのはどういう状況でなのか、だ。

侵入者がもし、混成警備艦隊の班を襲っているのだとしたら殺害か無力化、どちらかをしているということは明白なのだ。これまでの間に秋津洲から伝えられているのは連絡の途絶と無力化された後だということ。だが本位は分からない。

 

「連絡の途絶えた艦娘や門兵の状態は確認できているのか?」

 

「うーんと......気絶させられているみたい。でも気絶させられたら密室に閉じ込められたりしているみたいだから気が付いても連絡も取れないし、脱出出来ないって5分前になんとか出てこれた班から連絡あったけど......。」

 

「けど?」

 

「また連絡が途絶えたかも......。」

 

 どうやらまた侵入者に襲撃されたみたいだった。

 

「......。」

 

 俺は黙ることしか出来なかった。性格には頭の中に何も考えていられなかったのだ。

さっきまで緊張と恐怖に慣れたとばかり思っていたが全然違っていた。混成警備艦隊が無力化される事も初めてな上、武下までもが連絡が取れなくなったことなんて今まで無かったのだ。

現状、無力化されずにいる班も怯えてしまって門兵の戦意が喪失しているらしい。実質、こういった警備や護衛に素人な艦娘のみが少数巡回しているだけなのだ。そういう俺も既に戦意はない。恐怖で支配されている。表情に出さないようにするので精一杯だった。

 

「提督っ......。」

 

 そんな俺に秋津洲が話しかけてきた。

 

「混成警備艦隊......全班との交信途絶、したかもっ......。」

 

「っ!?」

 

「総員輪形陣っ!!」

 

 秋津洲のその報告に俺は嘗て無い程、身体が震え始めていた。

ここまで震えたのは初めてだ。そして秋津洲のその報告を聞いたビスマルクは番犬艦隊に輪形陣を取るように命じ、俺の回りに皆が所狭しと並んだ。

俺の目の前に立っているのはフェルトだ。立っていた位置でそうなってしまったみたいだ。

 

「皆死んだ訳ではないんだ。それに私たちが付いている。」

 

「そうだな......。」

 

 そうフェルトは言うが、ストレスはかなり溜まってきていて、身体に変調をきたし始めていた。頭痛、めまい、吐き気......そんなものが俺に襲いかかる。考えすぎなのだろうが、脂汗が滲み出し、背中も妙に張り付く。呼吸も乱れてきているのが自分でも分かる。

 

「クッ......。」

 

 俺は悪態を吐き、執務室のドアを睨む。

一向にその扉が開かれる事は無いが、目を話さずに瞬きも惜しんで見た。そうすると、廊下から足音が聞こえてきて、執務室の扉の前で止まった。

刹那、執務室内に緊張が走る。ビスマルクたちは艤装の砲を扉の方に向け、目はそちらを完璧に捉えていた。

そして扉が開かれた。

 

「へーイ?......あれ、どうしてデス?」

 

「なんだ、金剛だったのね......。驚かせないでよっ!」

 

 執務室の前に来ていたのは金剛だったみたいだ。

少しだけだが、安堵が出た。

 

「おおっと、忘れてマシタ。提督に報告デス。」

 

 そういった金剛は袖から紙を出して読み上げ始めた。

 

「鈴谷と赤城ら空母数名がまだ無力化されずに残ってマス。鈴谷は大丈夫だと思いマス。でも、他が心配デス。赤城たちもなんとか逃げ回ってるってことですケド、正直状況は良くないようデス。それと私はイワズトモ知れてますノデ、省略しまシタ。」

 

 そう言うと金剛も艤装を身に纏った。

金剛はこっちを向いて一言言った。

 

「来マス。」

 

 その言葉の意味を俺は飲み込み、身構えた。護衛の番犬艦隊もそれぞれを睨みつける。集中力を極限まで高めつつ周りの状況を整理していっているみたいだ。

俺はと言うと何も出来ずに居た。身体が動かしたくても動けないのだ。

そしてその時は来たのだ。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 『提督への執着』。横須賀鎮守府艦隊司令部の艦娘が提督を欲し、『海軍本部』の提示していた条件を全て満たしたために提督が着任したのと同時に発現した横須賀鎮守府艦隊司令部の艦娘特有の病気みたいなもの。正体はまだ分かっていない。

 『提督への執着』によって起こる艦娘の精神変化は一種の二重人格とも見える。その例が金剛だ。

彼女は提督の身体的、精神的な危険などを察知すると人格が豹変する。

一般的に言われている金剛からガラリと変わり、汚らしい言葉遣いをする。

 『提督への執着』は感染することは無いが、かなり危険なモノとして腫れ物を触れるかのような扱いをされている。

 大井による『提督への執着』に関する仮説は正しいといえるだろう。

確かに何処か提督をヒトとして見ている艦娘とモノとして見ている艦娘とではかなり会話の内容などが違う。モノとして見ている艦娘との会話にはどこか不自然な点が多く見られた。反してヒトとして見ている艦娘は提督をヒトとして認識してないと出来ない行為が見られる。よって大井による仮説は正しいとされる。

 最大の謎であるこのシステムに関しては何一つ分かることが無かった。

 番犬艦隊が海に出て戦えない理由がある。まず艦隊司令部間での艦娘のトレードが行われていないこと。次に、建造されたところもしくはドロッップした艦隊の所属以外は動くことは出来るが、かなり動きが制限されているから。大きく纏めると『世界がそうできているから。』といえるだろう。

 

 俺は何をしに来たのだろうか。俺は今は大学生の筈だ。ずっと書類に向き合って、友達と話すこともなく、部下と過ごす。そんな生活の繰り返しだ。そして俺は大学に合格するために一生懸命勉強をしていたんじゃないのだろうか。それがもう見えなくなってしまっていた。

俺は一体、どうして艦隊の指揮をしているのだろうか。

どうして指示を出しているのだろうか。

俺は一体どうしてこんなことをしているのだろうか。

俺は一体何をしているのだろうか。

俺は一体いつからここにいるのだろうか。

俺は一体何故目の間に並んでいる艦娘の背中に居るのだろうか。

俺は一体誰なんだろうか。

 

 記憶が混濁を始め、俺自身も理解不能な状況に陥った。

俺は頭で考えているだけで実際には動けないだろうと思っていた。俺は......俺は......。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 気が付くと俺は起き上がり、周りを見渡した。俺の周りに立っていたはずの番犬艦隊も秋津洲も金剛までもいなくなった場所に俺は手錠を書けられている。

そしてその瞬間、俺の背中にひんやりと冷たい棒状のものが当たった。きっと銃口だろう。

俺は言っても無駄だということが分かっていたので、何も言わずに背中の方向を見る。

そこには人が居た。

 

「どうなっている。」

 

 そう俺が愚痴をこぼすかのように言った。

 

「さぁ、どうでしょうね。」

 

 そんな声で俺への返答があった。だが実際はまだ付いていないんだろう。

 

「あなたを殺しに来ましたよ。」

 

 俺の顔を覗き込んだそいつは俺の眉間に拳銃の銃口を当てた。

 





 今日は少し分量が少ないです。
今もかなりウトウトしながらあとがきを書いてますけど時間がかかります。そしてなって書いたか覚えてませんの絵。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百八十九話  提督と艦娘⑪

 

 状況が掴めていない。一体、どうなっているんだろうか。それに俺の眉間には銃口が突きつけられている。

きっとエアガンなんてものじゃない、本物だろう。

 

「提督。貴方はこの世界に残るべきでは無かったのです。」

 

「何を言って......。」

 

 俺は侵入者にそう答えながら顔を見上げた。

 

「っ......。」

 

 一体この侵入者は何者なのだ。まだ混濁が残っているのか、正常な判断が出来ていないみたいだ。

あるはずのない事が目の前で起きている。

 

「ここで死んでもらいますよ。バグ。」

 

 『バグ』侵入者はそう俺のことを形容したが、俺はそれどころではない。

目の間の状況が本当に理解できてないのだ。

 

「『バグ』か......。面と向かってそう言われたのは初めてだ。」

 

「そりゃそうでしょうね。貴方はこの世界、日本皇国では救国の英雄ですから。と言っても、現在進行形で深海棲艦と戦争をしてますけどね。」

 

 状況も掴めていない上に、混乱している筈なのになぜだかスラスラと言葉が言える。もう俺は考える事を放棄しかけていた。

目の間の状況も理解できていないまま。

 

「さぁ、死んでもらいますよ。世界の理に反する異世界人。」

 

「......。」

 

 俺は侵入者を睨みつけた。

 

「......何ですか、その目は。これから死に往く人間のする目ではないですよ?」

 

「そりゃそうだろうな。俺は死にたくない。それに俺を殺せばどうなるか分かっているのか?」

 

 俺は質問を質問で返した。

 

「日本皇国、この世界の不利益は異世界人が死んだところで出てくるのは深海棲艦との戦争が再び劣勢になることくらいです。」

 

「本当にそう思っているのか?」

 

「えぇ。」

 

「違うから教えてやろう。......俺の死は艦娘の安全装置の解除を意味する。死を知った艦娘はたちまち日本皇国全土を攻撃し始めるだろう。」

 

「それが一体どうやって?ここに来るまでに日本皇国に歯向かうだろう人間や艦娘は始末してます。始末してきた艦娘たちに何が出来るわけでもない。異世界人の居た部屋の9人の艦娘も始末してますし。」

 

「始末......殺して行ったって事か?」

 

「勿論。」

 

「それは残念だ。全員気絶していただけだった。時期に目を覚ますだろう。ハッタリは良くない。」

 

「......まぁいいです。ここで異世界人に死んでもらう事に変わりはないですから。さぁ、死んでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『異世界の俺』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはりそうだ。毎日鏡の前で見る顔が目の間にあったのだ。だから状況が掴めずに居た。

だがこれでハッキリした。やはり目の間に居た侵入者は俺だったのだ。

 

「嫌だ。」

 

「そうは言わせませんよ、『俺』。『俺』はこの世界の『バグ』なんですから。『バグ』はいずれ消されるんです。古いゲームソフトではないんですから、アップデートですよ。」

 

 『俺』が言ったアップデートの意味。それは多分、俺の居た世界で艦これのアップデートがあるのだろう。

よくよく考えて見れば変な話だが、俺は大型アップデートを2回以上は経験している。それなのにそこで消される訳でもなく、何故今だったのか。

 考えてみれば簡単な事だった。1回目のアップデートで巡田に暗殺されそうになり、2回目のアップデートは思いつくだけでかなりある。イレギュラーとしてきたが深海棲艦による横須賀鎮守府空襲と、米艦隊が来航した際のウェールズが放った侵入者のどちらかだ。

 

「まぁそれでも2回はその『バグ』も残ってしまったみたいですから、今回でこれも最期ですよ。」

 

「それで本当にいいのか?」

 

「何を言って......。」

 

「『バグ』を消してしまえば近い将来艦娘か深海棲艦のどちらかに確実に滅ぼされる。それでも......。」

 

「えぇ。いいですよ。『俺』を殺してから俺も死にますから。」

 

 そう言って『俺』は襟を直した。

 

「俺の所属していた機関は無いですからね。」

 

「海軍部情報課じゃないのか?」

 

「はい。私は『海軍本部』の人間ですよ。」

 

「っ?!」

 

 つまり扇動されていた人間ではないってことだ。

驚きを隠せない。

 

「私の同僚が最初の暗殺に投入されましたけど、彼とは面識がありませんでしたからね。」

 

「最初の暗殺......巡田さんか。」

 

 『俺』の同僚が巡田さんとは思いもしなかった。

 

「......もう時間がありませんね。ここで死んでもらいますよ、『俺』。」

 

「死んでたまるか。」

 

 『俺』が俺に銃口を突きつけたまま安全装置を外した。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 私が目を覚ますとそこは提督の私室でした。見渡せば番犬艦隊と秋津洲もいます。ですけど提督が居ません。

頭痛がする気がしますが、今はそんなことを言ってられません。提督が居ないんですから。

 

「皆サン、起きて下サイ!!」

 

 近くに居たビスマルクの肩を揺らして状況を整理します。

一番最初はいつの間にここに居たということだけ。何故ここで気絶していたのか分からないですが、いかんせん記憶が混乱してしまっていてどうなっているのか。

 

「......んっ?!いつつっ......頭がいたっ。」

 

「後頭部が痛いな......。」

 

 そんなことを呟きながら起き上がったのはビスマルクとフェルトでした。それに続いて続々の皆、起き始めて全員が起きたところで状況を確認します。

 

「気付いたらここに皆さん居マシタ。でも、提督が居マセン。」

 

「本当だわ......。」

 

 今いるところが提督の私室である事に間違い無いのですが、その肝心の提督が本当に見当たらないです。

 

「私たちは執務室に居た筈デス。」

 

「そうだな......。だが気付いたらここに......。」

 

 そう言いながらフェルトが執務室への扉のノブで手をかけて撚るがピクリとも動きません。

 

「あれっ......動かないぞ......。」

 

 そうフェルトがノブをガチャガチャと撚りますが、開く様子もありません。

その後にもビスマルクや私も試しましたがびくともしませんでしたので、叩いてみたりもしてみましたがそれでも開きませんでした。

 

「どうなってるの?提督だって居ないし......。」

 

 ビスマルクがそんな事を言います。多分皆口に出さないだけで同じことを思っているに違いありません。

 

「それデース。......よくよく状況を考えてみるとこれは侵入者にやられてしまったと考えて行動した方が良さそうデスネ。」

 

 私がそう言うとその場の空気が一気に変わりました。凍りついたというよりも光が無くなったみたいな雰囲気です。

 

「......嘘だ。」

 

 そんな空気の中、そうフェルトは呟きました。

 

「......こんな事、あってたまるかっ。私たち9人が輪形陣で囲んでいたというのに、全員が気絶させられてしかも提督だけ消えているなんて......。」

 

 多分思考している事を無意識に口に出しているのでしょう。

 

「......ここに居ないということはもうっ............。」

 

 そうフェルトが言いかけた時、今まで黙っていたアイオワが歩き出し、扉の前に立ちました。

 

「ふんっ!!」

 

 そう言って足を大きく振り上げて扉に蹴りを入れると扉はとんでもなく大きな音を立てて開きました。

蹴った場所には大きな凹みが出来てましたが、妖精さんに頼めば修理してもらえるので問題なしです。それに最初っからそうやってやれば良かったのかもしれません。

 

「さぁ行くわよ。」

 

 そう言ったアイオワの目はいつもの目ではなく、鋭く怖い目をしていました。

身震いしてしまうほどです。アイオワはそんな目をすることが出来るのかと思った反面、何処か親近感が湧きました。

 

「最後まで連絡の取れていた赤城と鈴谷にコールしつつアドミラルの捜索と平行して混成警備艦隊も探すわよ。」

 

 そうアイオワは言いますが誰一人として動こうとしません。

それは無理ない事です。さっきまで護衛していた提督が一瞬で自分たちの意識を刈り取られて気付いたらいなくなっていたのですから。普通ならもう殺されてしまったと考えた方が妥当かもしれません。

ですけどアイオワは諦めてないみたいです。探すと言いました。私も提督がもう殺されたなんて思ってません。提督が座っていた椅子の周辺には血痕が無かったからです。ということは少なくともこの場で殺されなかったということです。

 

「そうデスネ......。提督を探しマショウ......どこかに逃げて隠れているかもしれマセン。」

 

 そう言って私はアイオワの横に立ち、艤装を身に纏いました。こうでもしないと艤装の無線が使えないからです。

 

「金剛、無線でやりとりするわよ。交信は1分置きに、確実にね。」

 

「分かってるデース。侵入者っぽい人を見ても接近せずに応援を。」

 

「分かってるわ。じゃあ、散開。」

 

 そう言ってアイオワは執務室の扉を出て行ってしまった。私は散開と言われましたがその場に残っています。執務室で戦意喪失している番犬艦隊と秋津洲を叩き起こさなければならないからです。

 

「いつまでそうしているつもりデスカ?提督が殺されたとは限らないデス。こうやって貴女たちが棒立ちしている間にも提督が苦しんでいるかもしれないんデス。ならやることはひとつしかありマセン。」

 

 私がそう言っても変わりません。

 

「私とアイオワは諦めずに探しに行きマース。ビスマルクたちは提督を"見捨てる"のデス。私はまだ諦めたくないデスカラ......。」

 

 私はそう言って後ろを振り返らずに執務室を出て行った。

一瞬にして意識を狩る侵入者ですから相当の警戒が必要です。周りには相当な注意を払いましょう。

 





 今回分かった事もありますけど、また謎が深まりましたね。
一応、200話まではやるつもりなので、お付き合い下さい。

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第百九十話  提督と艦娘⑫

 

 俺は腕を縛られた状態で『俺』に銃を突きつけられたままなんとか時間を伸ばしていた。

 

「そもそも何故『海軍本部』だった『俺』がこうやって組織的な行動が出来るんだ。母体が無くなったのなら何も出来ないだろう?」

 

「そんな事は無いです。『海軍本部』が無くなったとしてもバックは常に付く様になってましたからね。」

 

「『海軍本部』は直接指揮していた現場指揮本部みたいなものです。」

 

 そう言いながら『俺』は銃を握り直した。

 

「現場指揮本部だと?」

 

「えぇ。所詮、『海軍本部』も上の指示に従っていただけです。その上ってのは大本営にも政府にも知られていませんけどね。」

 

「そんな組織があるのか?」

 

「ありますとも。」

 

 俺は必死に考えた。こんな事をする組織があるなんて考えたこともなかったからだ。

『海軍本部』の母体であり大本営ではない組織......そんな組織からの援助で変わらぬ動きが出来るというのはどういうことなのだろうか。

 

「これから死に征く『俺』が知ったところで何があるという訳ではありませんので、教える必要なんて無いんですよ。」

 

 『俺』が俺の額に拳銃の銃口を押し付け、撃鉄を起こした。カチャリと聞こえ、安全装置が外れるのも同時に聞こえた。

 

「時間を伸ばされましたが、本当にここまでですよ。さぁ、死んで下さい『俺』。」

 

 為す術なく、俺はもう撃ち殺されるのだ。

ここまで来て、この状況で俺の頭の中では走馬灯の様に生まれてからの記憶が蘇る。

小学校、中学校、高校、そしてこの世界に来てから......。辛いことばかりで投げ出すことが何度もあった。辛くても我慢してやり通したこともあった。だがやはりその走馬灯に映る思い出は楽しいことばかりだった。

今まで忘れていた事も、記憶から消え去っていた事も全てが脳裏に再生されていく。

それが懐かしく、愛おしかった。もう俺はこの目でそれを見ることが出来ないのか、もうこの目でこれからあるであろう楽しいこと、辛いことを見ることも出来ないのだろうか。そんな事を考えると、悲しくて悲しくて......。

 

「おや、今まで強がっていたんですね。泣いてしまうなんて......。情けないですよ。死に顔が泣き顔だなんて。」

 

 そう『俺』がいいながら拳銃を少し揺らした。

 

「18にもなって......ですけど、もう泣くことも出来なくなるのですから十分に泣いてくださいね。」

 

 そういった『俺』は額に押し付けていた拳銃の銃口を急にずらして俺の腿を撃ちぬいた。

激痛、熱を感じ、涙でぼやけている視線を自分の腿に落とすとそこには直径1cmくらいの穴が空き、黒い血と赤い鮮血が床に流れ出していた。

 

「グウゥゥゥッ!」

 

「いきなり『俺』を殺すのも面白く無いのでいたぶってから殺します。どこまで持つんでしょうね?」

 

 『俺』に何か訴えようとも痛みをこらえるのに精一杯で何も言えなかった。そんな俺に『俺』は一方的に話をする。

 

「思い出話にでも付き合ってもらいましょうか。」

 

 俺は痛みに悶えているので嫌とも言えなかった。

 

「もう会うこともないでしょうけど思い出話の前に自己紹介を......。私は......」

 

 俺と同じ名前を『俺』は言った。そこまで同じなのか。

 

「歳は26。『海軍本部』諜報課所属。妻子は無し。愛知にある尾張士官学校にて諜報員適性から『海軍本部』諜報課に入りました。」

 

 どうやら『俺』は愛知出身らしい。俺もだ。

 

「家族構成は父母に姉。俺は弟ですね。」

 

 家族構成も同じだ。

 

「中学で辛い思いをしてからというもの、情報収集やその使い方に興味を持ち、高校卒業後に軍に志願しました。」

 

「それからは艦娘に関する情報統制やもみ消しなどをやって来てました。」

 

 ここからは知らない事が多かったが、中学での辛い思いというのも多分同じ事を経験しているのだろう。

 

「『俺』から聞きたいところですが、喋れなさそうですね。」

 

 そう言って俺の腿を見ると今度は拳銃を下に向け、足の甲を撃ち抜いた。

激痛が走るが一瞬だけだ。脳内麻薬でも出ているのだろう。痛みを感じない。だが息は上がっていて話せないのだ。

 

「そろそろ失血しそうですね。どうですか?身体が冷えてきたでしょう?」

 

 『俺』の言うとおり、俺の身体は冷えてきていた。

血を流しすぎたのか、頭の回転もいつもより幾分も遅い上に視界もぼやけてきている。

 

「今度こそ終わりです。」

 

 そう言った刹那、発砲音がしてブラックアウトする俺の視界。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 私は提督を探して鎮守府の中を走り回っていました。その道中、あちこちで拘束されていた混成警備艦隊を開放して回ってました。

そんな中、あることを皆が口を揃えて言うのです。

 

『提督ってちゃんと執務室に居るの?』

 

 と。最初私も意味が分かりませんでした。この目で提督は気を失うまでは見ていましたからね。

ですけどおかしいのはそれだけではないんです。秋津洲が混成警備艦隊からの交信途絶がリアルタイムで伝えられていた時に交信途絶した混成警備艦隊も同じことを私に訊いてきました。

どうやら気絶する前に提督を見たとか。しかもいつもの格好ではなかったと。私にはさっぱり分かりませんが、それをほとんどの混成警備艦隊から聞かされたので疑って掛かることにしました。そもそも私の目の前に居た訳ですからそこから離れられるわけが無いんです。

 

「金剛さんっ!」

 

 そう言って私に話しかけてきたのは吹雪でした。

 

「オゥ。どうしたデース?」

 

「私たちの混成警備艦隊を襲ってきたのは司令官でした。」

 

「それは他でも報告を聞いてマス。それを確かめる術はまだないデス。」

 

 そう私は言って探しに戻ろうとしましたが、吹雪は私の腕を掴んで止めました。

 

「司令官の歳って18ですよね?」

 

「そうですケド......それがどうかしたデスカ?」

 

「襲ってきた司令官はタバコの香りがしたんです......司令官ってタバコ吸う人でしたっけ?」

 

「っ?!」

 

 吹雪が言った言葉で全てが一瞬にして分かりました。

これまで混成警備艦隊を襲っていた提督は提督ではありません。提督はタバコをすいませんし、吸う気もないと言ってました。第一、タバコを吸っていい歳でもないんです。

 

「それは提督じゃないデス!よく気付いたネー!!」

 

「そうだったんですか。顔も声も司令官そっくりでしたから司令官だと勘違いして......。」

 

「それがこうも艦隊に混成警備艦隊が全滅した原因だったんデスネ。」

 

「全滅っ?!」

 

「ハイ。全滅したデス。鈴谷と赤城は最後まで連絡は取れてましたけど、他は全員通信が切れたカラ......。」

 

 そう私が言うと吹雪は色々と察したのかさっきとは打って変わって眼の色を変えて私に訴えました。

 

「私も司令官を探しますっ!」

 

「じゃあ散開するデス。定期的に連絡を入れて下さいネ。」

 

「了解っ!」

 

 そう言って吹雪は艤装を身に纏って走り去りました。この後もこの事実に気付いた艦娘たちが続々と鎮守府に散り散りになって提督を血眼になって探しました。

ですが、1時間や2時間経っても提督を見つける事は出来ませんでした。

 陽が傾きかけ、地面が赤くなってきた時、アイオワや探しに散り散りになっていた艦娘が1箇所に集まりました。

それぞれの報告であちこちから混成警備艦隊が見つかったとありましたが、幾ら報告を聞いても提督のことは聞くことが出来ませんでした。全員の報告が終わると、全員が困惑し、焦りを見せました。状況を考えれば今が一番最悪なのは分かることです。

早く見つけないと手遅れになる事は分かってますからね。

 

「本当に全員提督を見つけられなかったのデスカ?」

 

 そう聞くと全員が頷きました。

 

「ミーもダメだったわ。金剛の方も色々とあたってみたの?」

 

「勿論デース。あちこち入っては探しましたけど全くダメデシタ......。」

 

 空気はいわゆるお通夜です。侵入者に警戒をして、提督が姿を消す。こんな事、今までありませんでしたから。

そんな時、あることを思い出しました。この侵入者に対する警戒、赤城だけ何か知っている様子だったんです。私は艤装の無線機から赤城にコンタクトを取りました。

 

「赤城?聞こえマスカ?」

 

『えぇ、聞こえてますよ。』

 

「赤城は今回の騒ぎ、何か知ってるデスカ?提督がいなくなってしまって......。」

 

 そう言うと赤城は渋ったのか少し時間を置いて話しました。その内容はと言うととんでもない話であり同時に私たちの焦りは本物となりました。

 

『今回の侵入者の侵入目的が、提督の暗殺なのでは無いかと私は思ってます。』

 

「は?」

 

『提督が怯えていたのに気付かなかったんですか?』

 

「いえっ......。」

 

 私の想像を180度超えていた回答が返ってきました。私はてっきりデモ関連だとばかり思っていたのですけど、まさか暗殺だとは思いもしませんでした。

 

『それで、どうしたんですか?なんとか私は侵入者から逃げ切って身を隠してますけど、みなさんは?』

 

 どうやら赤城の状況はそうなっていたらしい。最後に交信した時は逃げまわっていたから、そうなっていても不思議は無かった。

 

「大丈夫デス......皆、気絶させられて居たみたいデスガ......。」

 

 私は言い出せませんでした。提督が連れ去られてしまった事を。ですけどそんな事を知らない赤城は私に訊いてきます。

 

「提督はどうなってます?執務室に居ますか?」

 

「......居ない、デス。」

 

『侵入者でも逮捕されたんですか?』

 

「居ないん、デス......。」

 

『お腹でも空かしっ......』

 

「だから居ないんデスッ!!提督がどっかに連れ去られたんデスッ!!」

 

 私はそう言ってしまうと心の奥底にあった感情が溢れ出しました。

提督がいなくなってしまった事に焦りがありましたが、どうせ隠れているのだろうと思っていたんです。ですけど赤城からの話を聞いて確信しました。私たちが気絶させられた後、提督は侵入者によって連れてかれたんです。提督そっくりの人間に。

 

『連れ去られた、ですって?』

 

「ハイ。私たちが提督を中心に輪形陣を取っていたその直後に気絶させられて、気付いたら......。」

 

『その後は?』

 

「捜索中デス......。」

 

 通信機越しでも分かる赤城の殺気に私は怯みました。ここまで赤城が殺気を放てるとは思いもしなかったからです。普段は温厚でおっとりしている赤城がこんな殺気を出すとは誰一人として思い浮かべる事は無いでしょう。

 

『私も出て探しますから、金剛さんも引き続き捜索をお願いします。』

 

「分かりマシタ......。」

 

 殺気を含んだ指示に私は頷き、やれることを再び全体に指示を出します。

 

「再捜索しまショウ!今度は複数で組を作って散って下サイ。」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 私は赤城から聞かされた事を誰にも話さずに皆に指示を出しました。

赤城の言った言葉を皆に伝える事で、提督の捜索が劇的に早くなる事は分かっています。ですけどそれを提督が望んでいるのか......私はそんなことを考えながら行動するようになりました。

 

「絶対探しだして......提督ぅ......。」

 

 私はそう言って気合を入れ、提督を探しに鎮守府に出ました。

 





 まだまだ引きづりますが、もう後が見えてきてますね。
オチに関してはご想像していて下さい。どうなるかをお楽しみに。
ちなみに今週中は続く予定です。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百九十一話  提督と艦娘⑬

 

 非常事態宣言に驚きつつも鈴谷は提督に頼られた事を嬉しく思いながら任務を全うしていたんだけど、何だか変なんだよね。

提督の様子もそうだけど赤城が特に、鈴谷や金剛さんと同じ反応をしてもおかしくないのに何か思い詰めた様子だったから。

まぁでも分からなかったからそのままだったんですけど、ついに侵入者が侵入したっていう知らせを聞いてから全て分かったんだ。

 提督は怯えていた。その時に分かった事。これまで提督の喜怒哀楽を見てきたけど、こんなの見た事無い。必死に隠そうとしてたけど、状況から察すると侵入者に怯えていたと見てもいいかな。侵入者で怯えるとしたらもうアレしかないよね?

 

「さてさて、行きますか。」

 

 金剛さんが作ってた横須賀鎮守府全体の地図の縮尺を片手に鈴谷は鎮守府の中を単独行動中。提督の怯えが見えてからすぐに持ち歩くようにしたんだ。

 鈴谷に関しては見て回る事はしなくてもいいんだよね。鈴谷は執務室の隠し扉の裏にいるから。そこから番犬艦隊とは別で提督の護衛をしてるの。

 明らかに提督の様子がおかしいのに誰1人として気付いてないんだけど、気付かないのはおかしいかな。番犬艦隊だって『近衛艦隊』の括りに入ってるのに。

 

(あっ......輪形陣をとった。)

 

 今日の秘書艦である秋津洲さんと提督を中心に輪形陣をとった。秋津洲さんはそんな中で無線での情報統制をしているよ。そんな中、どうやら混成警備艦隊との連絡がだんだんと寸断されていってるみたいだね。鈴谷の方にもコールがあったけど、ここで出たら隠れてるのがバレちゃうから無視しちゃった。

 そんな事があって数分後、執務室で異変が起きたの。隙間から覗いていた鈴谷は気付けたんから良かったんだけど、執務室に突然何かが投げ込まれてその刹那、眩い光が辺りを包んだんだ。

最初何か分からなかったけど、それが照明弾の類のものだって事は直感的に分かった。でもその後に目が眩んでいる番犬艦隊や金剛さん、秋津洲さん、提督がいるところにまた何かが投げ込まれた。照明弾の時と同じもので、それが良くないものだってのも分かってた。そしたら案の定だったよ。それは煙を吐き出し始めてそれを吸った執務室の番犬艦隊や金剛さんたち、提督は気を失ったの。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 ガスが充満した部屋に入ってきたのは多分、ものを投げ込んだ張本人だと思う。侵入者がガスマスクをしているから顔がよく分からない。ちなみに鈴谷もこの隠し扉の裏にあったガスマスクをしてるんだ。でないと提督たちみたいになっちゃうからねぇ。

 シュコーって音を立てながらその侵入者は執務室で倒れているというより眠っている番犬艦隊の艦娘たちを提督の私室に放り込んでいって最後に提督の私室の扉に何かを塗ったら寝ている提督の腕を縛って連れて行こうとした。そんなんだから鈴谷の身体は提督を連れて行かせまいと動き出したんだけど、それが阻まれちゃった。

鈴谷の腕を誰かが掴んだんだ。

 

「ダメですよ、鈴谷さん。」

 

 鈴谷の腕を掴んでいたのは警備部の諜報班、あの侵入者のようにかつて鎮守府に侵入して提督を撃った巡田さんだ。

 

「なんでっ?!提督がッ!?」

 

「ダメです。今出て行ってもしも交戦になれば提督にっ......。」

 

 そう鈴谷に訴える巡田さんの目はとても真剣だった。

確かにここで出て行って頭に血が上っり切った状態で戦おうものなら提督に流れ弾が当たるかもしれないってのは分かってた。

 

「後をつけましょう。鈴谷さんは他の残ってる混成警備艦隊に連絡をっ」

 

「無理だよ。」

 

 そう言いかけた巡田さんの提案を途中で鈴谷は遮った。

 

「えっ?」

 

「1班残らず全滅したって......。」

 

 秋津洲さんが気を失う前に提督に報告していた情報だった。つい10分前くらい前の話。今はどうか分からないんだけどね。

 

「じゃあ鈴谷さんを1人にしておくわけにはいきませんね。もし何かあったら提督にしょっぴかれますから......。」

 

「その提督を追いかけるのはいいんだけど提督、寝てるんだよね......。」

 

「あははっ、じゃあ追いかけますよ?それとはいっ。」

 

 軽口で少し鈴谷を落ち着かせてくれた巡田さんは鈴谷にあるものを渡してきた。

 

「拳銃です。使い方は分かりますか?」

 

「うん。なんとなくだけど。でも鈴谷、撃ったことないよ?」

 

「構いません。持っているだけで脅威になりますからね。」

 

 そう言われて鈴谷は拳銃をスカートを腰に止めておくベルトに挿して隠し扉に手を掛けた。

 中にはまだガスが残っていて、吸ったらたちまち寝てしまうからそのまま執務室を出て提督を背負った侵入者を追いかけ始めた。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 追いかける途中でガスマスクをベンチの上に置いてきた。必要ない外に出たから。

外を見ると誰1人として歩いていない道で、静けさに包まれていた。そんな鎮守府を不気味に思いつつ、鈴谷と巡田さんとで侵入者を追いかけてるの。途中、侵入者もガスマスクを投棄してたけど結構遠いところから後をつけてるから顔は見えなかった。

 侵入者の後をつけ始めて30分くらい経った頃だったと思う。あるところにたどり付いたの。そこは普通の茂み。特段何かがあるという訳では無いんだけど、それは表向き。

ここは金剛さんが掘った外との連絡トンネルがあるところ。本当の用途は外の情報収集だったんだけど、上手く使えてたみたい。それが2、3ヶ月前の提督にバレた時を境に入り口を塞いだんだ。だけどここに何の用があるんだろう。そう思って遠目から見てたら侵入者がその塞いだ入り口を壊して中に提督を背負って入っていってしまったんだ。流石にこれには鈴谷もだけど巡田さんも焦ってた。このまま行ったら外に逃げられるからね。

 

「どうする?」

 

「後を追います。あっちだって目立つ格好をしているんです。そんな人通りの多い道は通らないでしょう。」

 

 侵入者の格好は黒のBDUにベストと言った特殊部隊みたいな装備。黒一色な上、ヘルメットをしていて白い制服を来た提督を背負っているのなら目立たないはずがないということみたい。鈴谷もそう思ってた。

 

「じゃあ追いかけますか。それならこっちも好都合。」

 

 そう言って鈴谷と巡田さんもその後を追った。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 結局行き着いた先は横須賀鎮守府の塀の外側すぐにあった廃工場。人も寄り付かないような場所らしい。そう巡田さんが言ってた。

そんなところに提督を背負った侵入者は入っていったの。

勿論、鈴谷と巡田さんもそれに続いてバレないように入って行ったよ。

 中には色々と準備がしてあったみたいで、提督が降ろされたところには工具やビニールシート、色々なモノが置いてあった。そんなところに足が縛られた状態の提督は椅子に座らされ、更に縄で拘束されたの。見てられなかったけど、まだタイミングではないって巡田さんに言われて殺意を噛み殺しながら提督を見ていた。

 提督には殴打なんていう暴行をしなかったけど、終始、侵入者は提督の額に銃口を突き付けていたの。そんな状態で提督と侵入者は話をしているんだけど、鈴谷たちがいる位置からはその会話の内容は聞こえなかったんだよね。巡田さんもその会話の内容には何か重要な事があるかもしれないといってたけど、これ以上近づけないということで断念になったの。

そんな時、会話が終わったかなぁって思った矢先、銃声が廃工場の中で轟いた。侵入者が発砲したみたい。ここから鈴谷は目をよく凝らして提督を見てみると、どうやら太ももを撃たれたみたいでかなり血が出てる。今すぐ止血して治療しないと......って思ってもやっぱり侵入者はそこから離れようとせずにまた提督に話しかけているの。どういう神経しているんだろうって疑っちゃったけど、その後また侵入者は銃を撃った。今度こそはよく見えないんだけど、足のどこかだと思う。

ここで鈴谷の我慢が限界になっていたんだ。

提督の痛みに悶える叫びが鈴谷の耳を劈いたけど、どうしても身体が動かない。提督が目の前で苦しんでいるというのに......。

今出て行ってしまえばあの侵入者が提督の頭を撃ち抜くのは必至だもん。そんな危険、鈴谷には決断出来ない。勿論、巡田さんも同じみたい。巡田さんが握っている拳銃がミシミシと音を立てているの。

 

「巡田さん。」

 

「何ですか?」

 

「巡田さんって提督のこと、どこまで知ってる?」

 

 鈴谷は気を紛らわす為、チャンスが来るその時までの時間繋ぎのために話しかけた。

 

「連れてこられたって事と、本当は学生だという事。殺しは絶対にしない事......。」

 

「鎮守府に勤めていたらやっぱりそれくらいだよね。」

 

「ん?まだあるんですか?」

 

 そう巡田さんが訊いてきた。

 

「うん。提督、ここに連れてこられた時に家族も友達も積み上げてきた事も将来も無くしたんだって。」

 

「え?」

 

 巡田さんはそう訊いてきたけど、目線は提督の方を捉えたままだった。

 

「結果的には提督自ら捨ててきたってことになってるけど、もう提督は家族にも会えないしこれまで作ってきた友達全員失ったし、将来も......。」

 

「そうなんですか......。」

 

「何もかも失ってここに留まるって決めてくれたんだってさ。でも理由が変でね、『俺の居た世界と干渉が出来るこの世界を知った俺が監視する。』だってさ。」

 

「システムはそうみたいですね。私もよく知らないんですけどね。」

 

「鈴谷もだよ。......でもやっぱり提督は寂しがってたんだ。家族や友達が周りにいなくなってただ1人で知らない世界に生きて、戦って、重い責任を負って、死に直面して......。」

 

「最後のは完璧に私ですね。」

 

「うん。だけど、今はその提督のために働いてくれてる。それだけで十分だよ。」

 

 鈴谷も提督の方を見てる。

 

「そんなんになっても鈴谷たちの前から消えずにずっと居てくれたその提督がさ......無抵抗で訳の分からない理由で撃たれて、あんなに血を流してさっ......。」

 

 視界がぼやけ始めちゃった。多分涙でも出てるんだろうなぁ。

 

「提督、死んじゃうのかなっ......。鈴谷が一番近くにいるのに助けに行けないんだよ?見える距離にいるのに、提督の苦しむ叫び声が聞こえるのにっ......。」

 

 鈴谷たちはガラス一枚向こうにいる提督を見ているだけなんだ。ここまでが入れる精一杯だったの。

 

「鈴谷さんっ!!」

 

 そんな時、巡田さんじゃない声で鈴谷を呼ぶ声が聞こえた。

現れたのは赤城さんだった。

 

「金剛さんのトンネルの入口が開いていたものですからっ......提督は?」

 

 そう訊いてきた鈴谷は提督のいる方向に指を指す。

それを目で追った赤城さんはそれを見るなり立ち上がった。

 

「血がっ!!撃たれたんですかッ?!」

 

「うん。さっきねっ......。」

 

「巡田さん、奪還は?!」

 

「無理です。近くに侵入者がいるので入った途端に提督の頭を撃たれてしまいますっ......。」

 

 下唇を血が滲むくらいに噛み締めた赤城さんは鈴谷たちと同じように座ってガラス越しに見始めた。

 

「提督っ......。」

 

 ここから入ったらもしかしたらって思ったけど、多分辿り着くまでに提督が撃たれちゃうから出来ないんだ。

でもこうしている間にも刻一刻とその提督が衰弱していってしまったらもう助ける助けないじゃない。

 

「どうすれば......。」

 

 そんな事を頭の中を駆け巡る。

本当にどうすればいいんだろう。

そんな時、また銃声が響き、鈴谷や巡田さん、赤城さんは提督の方を見た。

そしたら、提督が......。

 もう何も見えない。どうすればいいんだろうとかそんな事、考えられない。結局鈴谷は何も出来なかった。

ガラス越しに見える提督の姿は縛り付けられて、腿と足の甲から血を出していて、更に新しく風穴が開けられてた。

そんなこと、誰が望んだんだろう。少なくとも鈴谷やこの場にいる赤城さんだって望んでなんてない。

 





 あとがきに色々書いてしまいそうな作者です(オイ)
 どこかで200話までと言ってましたが、195話までに終わらせます。今はもうクライマックスですよ。
この後、どう物語が終焉するのか......。

 ご意見ご感想お待ちしてます。


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第百九十二話  艦娘たちに呼ばれた提督の話

 

 銃声と提督の状態を見たらもう、どうでも良くなってしまいました。

こうなってしまう事を最悪のケースだと考えていましたが、まさかその通りになるとは思っても見ませんでした。一番確率が低いと思ってましたからね。

 私の眼下に映る提督の様子が最悪でした。腿に1発、足の甲に1発。そして、胸に一発。

最初は提督の額に銃口を当てていた侵入者は何故か、撃つ場所を変えて撃ったんです。頭なら望みはありませんが、胸ならと思い、立ち上がったその刹那、また1発、発砲音が聞こえました。何かと思い、ガラスを覗き込むと提督の傍らにさっきまで立っていた侵入者がぐったりと横たわっていました。私はそれを見るなり走りだし、中に入ります。

 

「ハァハァ......ングッ......てい、とくっ!......提督っ!!」

 

 提督に走りより、近づいて改めて見る提督の周りに出来た血の海に少し戸惑いながらも提督の肩を揺らしました。

ですけど反応がありません。きっと気を失っているだけだと思ってそのまま提督を呼びながら肩を揺らしますが、提督は全く起きる気配がありません。

 

「提督っ!提督っ!」

 

 何度も何度も提督を呼び続けますが、全然起きる気配を感じません。

そんな事をしていると後ろの方からよろよろと歩いてくる鈴谷さんが近づいて提督を見るなり、その場に崩れ落ちました。

 

「提督っ......。」

 

 そんな鈴谷さんの肩を支える巡田さんも提督の安否が気になっている様で、鈴谷さんが自分で姿勢を保ってられるだろうというタイミングで手を離して提督の肩を揺らしました。

 

「提督っ?しっかりして下さいッ!!」

 

「提督ッ?!」

 

 そう呼び掛けますが、全然起きる様子はありません。

その提督の肩を揺らしていた巡田さんは肩から手を離すと、『失礼します』といって項垂れている提督の頭を支えて胸に耳を当てました。巡田さんの左耳辺りに提督の血がべっとりとつきましたが、そんなのお構いなしに耳を当ててますがそんな巡田さんの顔がどんどん青くなっていたのが分かります。

 

「......心臓が止まってるっ......提督を降ろしますっ!手伝って下さいっ!」

 

「はいっ!」

 

 流れ出る血が無くなったと思ったら心臓が止まってしまっていたみたいです。

心臓が止まる事は『死』に直結します。私は提督の腕を拘束していた縄を解いてその場に寝かせました。その提督の胸の銃創にハンカチを当てて巡田さんは心臓マッサージを始めました。

提督の胸は大きく陥没し、バコンバコンと数回音を立ててその後に提督の口から空気を送り込みます。

 

「赤城さんっ!脈は測れますかッ?!」

 

 脈というのは多分ですけど手首に手を当てるとドクンドクンと動くアレです。私はすぐに提督の手を取り、手首を出すと指を当てました。今は全然動いていません。きっと動くはずです。

 何度も何度も提督の胸からバコンバコンという音が鳴り、その都度、巡田さんが人工呼吸を施します。

ですけど全然脈はありません。ただ、提督の身体が揺れているだけです。

 

「起きて、下さいっ!」

 

 そう言いながら巡田さんは心臓マッサージをします。

 

「洗脳されて、いた、私を救って下さった、提督にっ......ずっと、返したかった、この、恩っ......ずっと、言えずに、いたん、ですっ!......だからっ......ッ!!」

 

 今まで聞いたことの無かった巡田さんの心の声に少し驚きつつも、同情があります。

額から汗を流しながら提督に心臓マッサージを施しますが、全く反応がありません。ただ提督の身体が跳ねるだけ。

 

「私が、マッサージを、始めてから、何分、経ちましたッ?!」

 

「3分です......。」

 

「クソォォォ!!戻って、戻ってッ!!戻って来て下さいっ!!!」

 

 酒保の本で読んだ事があります。人間が心肺停止に陥ってから3分が経つと50%の確率で死亡すると。そしてその場合、大量出血していたらその確率はかなり上がると。。

提督の状態は最悪でした。

そんな本の中に書かれていた事を思い出しました。除細動器です。心臓に電気ショックを与えて鼓動を復活させるという機械です。

 

「除細動器は使えませんか?!アレならッ!!」

 

「間に合いませんっ!鎮守府に戻っても往復で10分はかかりますっ!!」

 

 それでは間に合いませんね。確かに......。

何も出来ずに私はただ脈を測ってるだけで、すぐに巡田さんが呼んだのか、軍の衛生部隊が来ました。

私の目の前で担架に乗せられて運ばれていきます。勿論、侵入者もですけどね。腑に落ちませんが、侵入者はこめかみに穴が開いていたので助かる助からない以前の問題だと思います。

 運ばれていく提督を私は追いかけますが、どんどん引き離されていきます。走っても走っても提督を乗せた車はどんどん離れていって、ついに私の目では見えなくなるくらい離れてしまいました。

 

「待ってっ......提督ぅ......。」

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 その場に居た私と鈴谷、巡田さんとで話し、提督は怪我をして病院に連れて行かれたとすることにしました。

一応、鎮守府内の医務室でもある程度の手当は出来るのですが、それでは手に負えないほどの怪我だったとしておきます。

それなら提督は助かる前提ですけど、私たちが見た提督は心肺停止をしていました。助かるというより助からない方が確率的には上だったんです。それに病院に連れて行かれた事は事実ですからね。

ですけど、金剛さんにだけは私たちは伝えることにしました。

 

「どうしたノ?」

 

 そう少し心配そうな表情で私と鈴谷さんの方を見る金剛さんに私と鈴谷さんは口を開けずにいました。

 

「そのっ......提督の事なんですけど......。」

 

「あぁ、怪我してたって言うやつデスネ。骨折とかだったんデスカ?」

 

 そう金剛さんは言いますが、違います。

 

「ちっ......違います。」

 

「エッ?じゃあ、切り傷?」

 

「違います。」

 

 そう言う金剛さんに答えることしか出来ません。

本当のことを言えないんです。

 

「じゃあ、どうしたノ?」

 

 そう聞いてくる金剛さんに私は口が開きません。そんな時、鈴谷さんが言いました。

 

「3発......。」

 

「3発?」

 

「腿と足、それと胸にそれぞれ......。」

 

「それって......。」

 

「提督は拳銃で撃たれたんだよ。でも巡田さんの時みたいに右胸じゃない......左胸っ。それに腿を撃たれた時に鮮血が出てたし、量もっ......。」

 

 そう鈴谷さんが言った事で全てを察したんでしょう。金剛さんはその場にへたりと座り込んでしまいました。

金剛さんは勤勉です。今の話で提督の状態はすぐに分かるでしょう。

金剛さんは呆然として、口をぽかんと開けたまま瞬きしません。そのまま涙を流します。目の前で見ていた訳でもなく、銃声も聞いてない金剛さんだからでしょうか。

 皆に知らせた時に鎮守府の外で提督を見つけた事を話しました。ですけど金剛さんが作ったトンネルの存在は誰にも言わなかったんです。言わずとも金剛さんはそのトンネルが利用された事は知っていたみたいで、それだけでショックが大きかったでしょうけど、それに追い打ちを掛けるようなこの金剛さんに真実を伝えるのは酷でした。現に金剛さんの様子がおかしいんです。

 

「金剛さんは自分のせいだって思ってるかもしれないけど、それは違うよ。」

 

 そんな金剛さんに鈴谷さんは話しかけます。金剛さんはなんとか、鈴谷さんの方を見て、話を聞きますが様子は変わりません。

 

「提督が侵入者に連れてかれるのも、鎮守府の外に出ていったのも、提督が撃たれたのも......全部、全部、全部っ......鈴谷のせい。金剛さんから貰った地図、あれで知った執務室の隠し扉の裏にいたんだ、鈴谷は。そこから金剛さんたちが気絶させられたのも、ずっと見てきた。侵入者に運ばれたのも見てた、外に連れてかれたのも見てた、提督が撃たれたのも......何もかも。」

 

「鈴谷さん......。」

 

「でも、あんな状態になってしまっても鈴谷は何も出来なかったのっ!!!提督を助けるために、侵入者に立ちはだかる事もっ!」

 

「私もですっ......。侵入者が来ると分かっていたのに誰にも言いませんでした......。」

 

 鈴谷さんが言った後に私も金剛さんに言いました。

 

「分かっていたのに以前と変わらない警戒態勢を取らせてしまいました......せめて金剛さんと鈴谷さんには言っておくべきでした......。」

 

 そんな時、私の後ろから声が聞こえました。

巡田さんです。

 

「私もです......。提督に手を掛けた身でありますが、洗脳を解いて下さった事に感謝しています。命を助けていただいた事も......。」

 

 鎮守府のある一角、私たちは自らの力の無さや決断力を呪いました。

 結局、私たちは提督に何も返す事無く、深海棲艦との戦いの最中でなく身内によって提督を殺されてしまったのです。

私たちのために家族や友人と決別し、大きな責任や期待を背負い、戦争に身を投じた提督はもう......。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 日本皇国内にこれまでにない衝撃が走りました。深海棲艦との戦いよりも、更に大きくて深い......。

提督が国内の暗殺者に手を掛けられ、心肺停止状態から時間が経ってから緊急搬送された。と。その先の報道はありませんが、分かる人には分かるんですよ。心肺停止から時間が経った状態ならもう死んだも同然だと。

 それによって日本皇国は深海棲艦に抗う術を失ったんです。深海棲艦に唯一抗う存在を唯一指揮する提督、日本皇国の海を数ヶ月で取り戻した提督による指揮が無くなってしまったんです。

 その報道がなされてから数週間が経ちました。鎮守府の機能は最低限稼働しており、出撃はありません。唯一出ているのは秋津洲さんの哨戒任務だけ。他の艦娘たちは提督の無事を祈りながら毎日、毎日、鶴を折ってます。これをやろうと言い出したのは最初に提督の状態を私たちから正しく伝えられなかった艦娘たち、夕立です。

最初、提督に関する報道を聞いた艦娘たちは私たちを糾弾しましたが、それが不毛だと分かり糾弾を止めたんです。糾弾している自分たちが一番罪だったと言って。それ以来、横須賀鎮守府艦隊司令部の艦娘は皆、『提督への執着』が強まり、"気付いた"んです。と言ってももう既に遅いんですけどね。

 最初の3日間は鎮守府内はあちこちで泣き声や叫び声、誰かが命を絶とうとしているのを止める声が後を絶たず、門兵さんや色んな鎮守府で働いている人間たちに止められて過ごしてました。それからは平静ですけどね。

 報道の1週間後、鎮守府に大本営の高官と護衛が非武装の状態で私たちの目の間に現れました。『海軍本部』の不始末、力及ばなかった事を謝罪に来たんです。あの総督も帽を脱いで私たちに頭を下げたんです。

私たちは何事にもやる気が起きてない時でしたので、適当に話をして帰ってもらいました。総督が帰り際に『大本営を攻撃してもらっても構わない。それだけの事をしたのだ。』と言ってました。ですけど"気付いた"私たちはそんなことはしません。なぜなら提督なら、そんなことをやらないからです。

 皆、無心になって折り鶴を作ってますがもう少しでそれも終わるでしょう。

それぞれの艦種ごとに千羽鶴を折ってますので、ほんの1日、2日で終わるんです。

 私たちの心に空いた大きな穴。そして横須賀鎮守府艦隊司令部に空いた大きな穴、日本皇国に空いた大きな穴は埋まることはありません。

 そういえば忘れてましたが、提督を失ってから各海域に残っていた深海棲艦が前線を押し上げて、今はもう日本皇国の海は海岸線から50km程度しかありません。近海にまで深海棲艦に攻められてしまったんです。

迎撃に出る訳でもない、海を取り戻すという事を私たちは考えられなくなってました。

 

 心肺停止で運ばれた提督がどうなってるかは報道以降、私たちに知らされてません。死んだのかも、一命を取り留めたのかも分かりません。それにテレビでも提督の報道はずっと同じ内容ばかりでした。

これが私たちが提督を求めた結果だったんです。

私たち、艦娘たちに呼ばれた提督は、艦娘たちに大きなモノを遺していきました。

 

 

 

 

 





 先日までの流れ的に引っ張れませんでした。
多く謎を遺してしまいましたが、これにて『艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話』は終わりです。
 これまで付いてきてくださった皆様、ありがとうございました。
それと同時にアフターストーリーを用意することをお知らせします。
 約7ヶ月間ありがとうございました!


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After Story

 予告からかなり時間が経ってしまいましたが、『艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話』のアフターストーリーです。提督が大本営に搬送されてから3週間後の話です、一応。

 それと後書きまでしっかり読んでくださいね。では。


 提督を失った私たち、横須賀鎮守府艦隊司令部は保有していた資源、鈴谷さんが集めていた膨大な地下牢の資源を全て大本営を通して民間に売りました。これまでにない量の資源に質が高かったからか全額で年間国家予算以上になったみたいです。それを手にした私たちは全てを使うわけではありません。鎮守府のために使うんです。

 そういえば、その資源売却と同時に鎮守府に務めていた門兵さんを始め、酒保の従業員さんたちら総勢700人超が軍を止めました。それに伴ったそれぞれの代表、門兵代表の武下さんと酒保の代表が私たち艦娘に話があるといって来ました。

 

「皆さん、軍を止めたのでは?」

 

「えぇ。」

 

 私たち古参組が代表してその対応をしているんですけど、私たちに話があると現れた武下さんや酒保の代表の人は私服でした。いつもなら制服を着ているので違和感があります。

 

「ならどうして?」

 

「それはお願いがありまして来ました。」

 

 そう言った武下さんと酒保の代表の人は頭を下げました。

 

「私らを私兵として雇って頂けませんか?」

 

「はい?」

 

 私の耳はおかしくなったんでしょうか。私兵というと軍とは関係のない個人のための軍隊です。

 

「私も、酒保の運営を任せて頂けませんか?艦娘の娘たちも無ければ困りますよね?」

 

「そうですけどっ......。」

 

「そこを何とか、お願いしますッ!!」

 

 武下さんと酒保の代表の人は私たちに頭を下げました。

私としては全然問題ない上に、門兵さんたちが辞めると聞いてから艦娘でそれぞれの門を守るシフトみたいなものを考えていましたのでこちらとしては好都合です。

 

「分かりました。ぜひ、お願いします。酒保の方もお願いしますね。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ありがとうございますっ!」

 

 そう私が答えると武下さんも酒保の代表の人も喜びました。

ですけどその後にこう武下さんが言ったんです。

 

「ちなみにこれまで所属していた門兵が全員ここに務める事を希望してますので、よろしくお願いします。酒保の方もそうらしいので......。では本日正午より戻ります。」

 

 そう言って武下さんと酒保の代表の人は会議室を出て行きました。

鎮守府に務める人が辞めるといった時から、鎮守府にある施設の殆どの管理を私たち艦娘が引き継いでましたのであちこちに艦娘が管理に出ていて正直参っていたんですよね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 提督の生死に関しては現段階でも大本営から知らせは届きません。

あれ程の傷ですし、血もかなり失っていました。助かると考えても仕方ない程です。私たちはどこかでもう分かっていたんですよね。提督は帰ってこないと。

 『提督への執着』が全員に発現した今となっては既に遅いですが、もう、何もすることがありません。

提督に感謝を伝える事も、寂しく思われない様に傍に寄り添うことも......。時より大井さんや金剛さんが提督の私室に居たらしいですが、それでも提督は甘えなかったそうです。

頑なに身体を密着させないようにして、『嫌に思うだろう?』って言っていたそうです。アメリカとの合同作戦の時は私がホールドしていたので逃げれなかったそうですが、大井さんや金剛さんの時は逃げられたりしたらしいですね。

それでも艦娘ではありますが、提督が言ってくださった人の温もりはあるつもりです。それを感じていただけたのならと2人は仰ってました。

あれ以来どうやら大井さんは提督の私室を毎日掃除に来ているみたいです。それに金剛さんは執務室の掃除をしに来ていると。今、鎮守府運営の拠点は艦娘寮ですのでもう本部棟に行くことは資料を取りに執務室に入ることと資料室に行くことくらいだけです。皆、艦娘寮と食堂、酒保を行き来してたまにグラウンドにいるだけです。

 グラウンドはいつもなら駆逐艦の艦娘が元気に走り回ったり、門兵さんと遊んでいた姿を毎日見かけましたが今ではそんな光景は見られません。居たとしてもグラウンドの端にあるベンチに並んで座って空を見上げているだけです。

 調理室も予約制にする程艦娘が居たのに今ではほんの数人だけが居るだけです。

 鎮守府はすっかり衰退しました。精力もありません。皆さん、大きな穴が埋まらないんです。

 

 そういえば忘れてましたが、私たちは提督の名前を知らないんです。

こちらに来た時からずっと提督と皆さん呼んでいましたし、大本営の新瑞さんも提督と呼んでいました。大本営に提督をしている人がいなかったからか提督の固有名詞になってしまったみたいです。

 何故、こんな事を気になり始めたのかというと、大井さんがある日私に言った『提督への執着』の仮説です。提督にも同じ事を伝えたそうですけど、その時はかなりのショックを受けていたと言ってました。

確かに私たち以外の"気づいていない"艦娘が提督をモノとして見ているというのは理に適っていました。ですけどあまりに提督にそれを伝えるのは酷です。ただでさえ精神状態が安定していない頃でしたのでそれが提督の今まで見せてこなかった怯えに繋がったのではないかと思ってます。

その大井さんの言った仮説から私は新たな仮説を立てたんです。

提督という言葉は本来、固有名詞として使うものではないんです。○○提督といって使うものだったのに、私たちは提督を提督と呼んでいました。つまりそれ提督の存在、個人を否定していたんです。

だから私は調べたんです。提督の名を。

 天色 紅(あましき こう)というらしいです。天色は水色みたいな色のことで、提督の苗字です。紅は紅葉の紅とのことでした。新瑞さんに聞いたらすぐに教えてくださったんです。

 今考えると提督はモノとして見られ、しかも人として個人として認められていないところで戦っていたんだと思います。私たちは"気付いた"と言っておきながらそんな事も"気付けなかった"んです。最悪です。

 

 まだ忘れていた事があります。翔鶴さんのことです。

翔鶴さんは今でこそ皆と代わりのない『提督への執着』で"気付き"ましたが、以前はどうやら提督の事を眺めているだけで楽しくなるという変な『提督への執着』だったそうです。色んな表情を見てみたいと言っていたそうですが(※瑞鶴談)、今では皆と変わりません。

 

 新瑞さんから提督の名を聞いた時にあることをついでに聞かされたんです。侵入者のことです。

彼は搬送された先で死亡が確認されたそうです。それに彼の名も提督と同じ氏名でした。年齢は違いましたけどね。

そしてその侵入者の所属していた『海軍本部』の更に黒幕を調査しているという事です。あまりに分かりにくいのでかなり時間が掛かるとの事でしたが、私たちはその黒幕を知らなければならないんです。提督がどんな理由で殺されたのか、私たちは知りませんからね。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 私たち横須賀鎮守府艦隊司令部は提督以外全員がそのまま鎮守府に残っています。

 良い忘れてました、文化祭(仮)の時に提督の胸ぐらを掴んだ兵士は、牢での態度がとてつもなく良く、恩赦や一般牢だったからか保釈金が出て刑期が3~4ヶ月で終了したとの事でした。

その兵士は海軍に転属。下っ端の兵として働いているそうです。横須賀鎮守府に来たがっているみたいですけどね。

 揚陸艦の乗員が無許可上陸した時の青木さんとやらは、恩赦などで刑期が短くなったものの、態度が悪く、まだ牢の中だそうです。

 

 私たちが提督を失ってから、鎮守府にくるデモは激しくなりました。ですけど今は、近隣住民はそれに遂に堪忍袋の緒が切れたのか、排斥運動が始まってしまいました。今までは提督がいらっしゃったからからそれを抑える事が出来ていたみたいですが、その提督がいらっしゃらなくなってしまったので、ストッパーが外れた様に運動が起きたみたいです。

 デモが起きては近隣住民のは席運動で鎮守府を囲む塀の外ではにらみ合いが起きているみたいです。

 

 鎮守府は海軍籍ですので勿論毎日書類は送られてきます。それを私たちは分担して処理していますが、提督がいらっしゃった時にはみなかった書類があることが増えてきました。例えば『海軍広報誌に出てくれないか』、『夏にまた観艦式をしてくれないか』とかです。後者は時期的に綿密な予定を立てるのなら必要な事ですが、前者は突然来たものです。提督なら快く受けるだろうと思い、私たちは受けましたが、表情を明るくすることが出来ました。出来ても張り付いたような笑顔しか出来ずに満足行く写真は取れなかったそうです。

 

 巡田さんら諜報班は私兵として契約後に鎮守府外にて情報収集をしています。提督に関してと『海軍本部』の残党全員の名簿作成です。警戒するために必要ですからね。最も、提督を失った私たちには必要ないかもしれませんが。

 

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ーーー

 

 

 今日も私は提督の代わりに書類の処理を分担して処理しています。と言っても、私の担当は1枚だけなんですけどね。

私室で机に向かい、分担された書類に書き込むとほんの2分くらいで執務は終わります。

 

「出してきますね。」

 

「はい。」

 

 私は相部屋の加賀さんに声を掛けてから私室を出ていきます。

提督を失ってから加賀さんは皆の前ではなんともないように振る舞いますが、部屋ではずっと空を見ています。特に何がある訳でもないとの事でしたが、多分考え事をしながら見ているんでしょうね。

 書類を片手に私室を出て私は窓からいつものようにグラウンドを横目で見ながら歩きます。今日も快晴ですが、グラウンドには楽しそうな笑い声は聞こえてきません。今日はベンチに座ってぼけーっとしている叢雲さんが見えます。

 事務棟に着き、そこで執務を分担している艦娘から書類を受け取って一括で私が窓口に提出しています。窓口の人はこちらの事は察していただいているので、特に何か世間話をするという訳ではありません。ただ事務的に提出手続きを済ませて私は事務棟を出て行くだけです。

 鎮守府にはこれまでとは違った静けさなのは言うまでもありません。

今日は執務室にある資料が見たいので、少し執務室に行くことにしました。途中、鈴谷さんとすれ違いましたが、目を合わせるだけです。いつもの雰囲気でしたが、やっぱり元の調子には戻ってないみたいですね。夜になって消灯時間が過ぎると部屋から抜けだしては、提督が撃たれた廃工場の方を見ているそうです。何を言っても戻ってこようとしないみたいですが、朝には戻ってくるみたいですから、任務がない毎日ですので私も注意はしません。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 執務室は金剛さんが毎日綺麗に掃除をしているので、ほこりひとつありません。まるで提督が居たような雰囲気です。そこに微かに紅茶の香りがします。

多分、掃除を終えた金剛さんがここで紅茶を飲んでいったんでしょうね。

私は本棚にあるファイルを見始めました。自分が見たいファイルを探すと言っても、普段出し入れしない上にどれに入っているかも分からない書類ですからね。

幾ら秘書艦経験があったとしても、普段出さないものは把握している訳がありません。ですけど、長門さんはちゃんと把握しているみたいですけどね。

そんな時、執務室の扉が開かれました。

 

「こんにちわかもー。」

 

 入ってきたのは秋津洲さんです。手には籠があります。

 

「こんにちわ、秋津洲さん。」

 

「お邪魔するね。......提督、今日のお菓子っ......あははっ......そうだったっ。」

 

 そう言って籠を提督の机に置きながら秋津洲さんは言います。時刻的には午前11時くらいです。どうやら提督にお菓子を届ける癖が抜けないようで、毎日籠を持って執務室に来ては思い出して帰って艤装で妖精たちと食べているとこの前、おっしゃってました。

 

「あたし、なんでいっつも思い出さないんだろうっ......。」

 

 そんな事を秋津洲さんは独り言のように言います。

 

「赤城さん......。」

 

「何ですか?」

 

 目頭を赤くしながら秋津洲さんは私に話しかけてきました。

 

「大本営から連絡はないかも?」

 

「はいっ......。」

 

「そっかー。」

 

 秋津洲さんが聞きたいのは大本営からの提督に関する書類です。搬送されたまま音沙汰が無いですからね。

秋津洲さんは多分、信じてないんだと思います。提督が死んだということを。あの状況から生還するのは無理です。

動脈血も大量に流した提督ですし、左胸を撃たれてましたからね。素人目から見ても一目瞭然でした。

 

「じゃああたし、行くかも......。これ、良かったら食べて欲しいかも。じゃあ!」

 

 そう言って秋津洲さんは私に籠を渡して走って出て行ってしまいました。

籠の中身はきっと提督のために作っているお菓子です。

私はそれを持って私室に帰ります。秋津洲さんに返しても仕方ないです。食べて、感想を言って、ちゃんと返します。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 昼食後、私は艤装の艦載機を眺めていました。

甲板に出ているのは整備し終わった烈風と零式艦戦52型。提督が指示で良く航空隊が使っていた艦戦です。そんな艦載機は毎日整備を欠かせない妖精たちのお蔭で新品みたいになってしまいました。排煙で黒ずむ発動機周りは黒色が一切なく、風防も傷一つありません。多分コンパウンドか何かを使ってこれでもかと磨いたんでしょう。機関銃、機関砲も煤はなく新品の鉛色をしています。機体も塗装の剥げているところはないです。きっと塗り直したんでしょう。

 そんな風に私が烈風を眺めていると、下の方から声が聞こえました。

 

「乗ってもいいデスカー?!」

 

「かまいませんよー!」

 

 金剛さんみたいです。いつもの表情に見えますが、どうでしょうね。

 金剛さんはタラップを上って艦内に入ると数分で飛行甲板に上がってきました。

 

「相変わらず赤城の艦内は広いデスネー。迷いかけマシタ。」

 

「大丈夫でしたか?」

 

「妖精さんが案内してくれたから大丈夫だったネー。」

 

 そう言って金剛さんも烈風を見上げます。

 

「.....提督は...........。」

 

 そう金剛さんは切り出します。

 

「提督は、艦載機が好きだったみたいデスネ。」

 

「えぇ。よくお話してくださいました。」

 

「そうみたいデスネ。艦載機の話が出来るのは横須賀鎮守府でも赤城だけみたいデスカラ、提督にとっては話の会う赤城が居てくれてよかったデショウ。」

 

 金剛さんはそういって長い袖からあるモノを出しました。

 

「これ、見てくだサイ。昨日、いつもの様に執務室を掃除していたら見つけマシタ。」

 

 私はそれを受け取って見る。普通のノートに題で『航空戦術』と書かれています。

このノートは見たことないですね。提督はいつも話をするときはホワイトボードを使ってましたから。

私は何も言わずに中を開いてみます。

 

「航空戦術......。巴戦、爆撃、雷撃に関する提督独自の戦術デスネ。」

 

「はい......。」

 

 金剛さんの言葉に耳を傾けながら私はノートの中身を見ます。

このノートの内容には見覚えがあるものばかりです。多分、私と艦載機に関する話をする時にネタにしていたものを書き留めたものです。印象に残っているのは『艦戦による巴戦中はフラップを開くが、深海棲艦の艦載機によって機動性が違う。そこで相手の機動性が烈風や零戦を上回った時に使う旋回法。』と言って『フラップを着艦位置まで下げる』というのがありました。フラップを着艦位置まで下げると戦闘速度にある艦戦の速度は急激に減少して、追従する敵艦戦と接近するのと同時に機体をひねって後ろを取る』という戦法です。現実で使うとこちらの艦戦へのリスクが有るために、使えないとボツになったやつです。

その他にも様々な題で書かれていました。

私はページを捲りながらどんな話をしたか思い出していきます。

 

「提督はやっぱり艦載機が好きだったんデスネ。」

 

「はい。この話をする時の提督の目は輝いていましたから。」

 

「やっぱり?」

 

 そう軽口を言いながら私はノートを捲って行くと遂に最後のページになりました。

そしてその最後のページに書かれている文字を読みます。

 

「......航空戦術に関係のない内容が書かれてたデス。その最後のページだけに。」

 

 私はひとつひとつに目を通していきます。

そこには多分ですが、提督の思いが記されていました。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 『艦これ』の世界に来て、俺は艦娘を指揮する提督をしている。

今考えるとこの世界に来てもう6ヶ月も経っていた(※書いた当時)。徐々に艦娘も増え、楽しい鎮守府での生活に俺は満足している。これまでに体験したことのない事をたくさん経験することができた。人の上に立つ事は俺のこれまでの人生で初だったかもしれない。

だが、それと同時に大きな期待や責任も背負うことになった。これに関しては今まで目を逸らしてきたことだが、赤城や金剛、鈴谷によってそれにちゃんと正面から見ることが出来た。

幾ら異世界からの人間であろうと、この世界にとっての俺はどの異世界かもしれないがそれは戯れ言に過ぎない。等しく、同じ世界の人間でしかないんだ。

 色々な問題に直面してはそれを解決してきたが、俺はそれを追うごとに成長できたのではと思う。色々な人間に会って話した。それだけでもとても尊い貴重な経験だ。

 俺はこの世界に来れて良かったと思ってる。最初は勇者気取った中二病だった。だが、様々な経験を通して俺は成長できた。そして艦娘にも会えた。画面の向こうに居た存在、ただ従順に命令を聞いていただけの艦娘に。

これまでの人生、いいことなんてほとんど無かった。苦しい思い、辛い思いばかりしてきて正直、自ら命を絶とうとした事もある。あ......(消しゴムで消した跡)。そんな俺の人生だったから、誰かがこんな経験をさせてくれたんじゃないかって思える。この世界に来て暗殺されかけた事もあったが、今ではもう笑い話だ。巡田さんが新兵で急所を狙えなかっただけだからな。痛くて苦しかったがもういい。気にしてない。

俺はやっぱり良かったって思える。皆に会えて。皆と話せて。皆と遊んで。皆と団結して。

これからも俺は頑張って行こうと思う。深海棲艦を殲滅して、平和を取り戻して......多分退役させてもらえないだろうけど、楽しく皆と暮らして行きたいと思う。

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 金剛さんはこの最後のページに書かれていたモノをひとりで読んだそうですが、もう涙が出なかったそうです。

比叡さんから金剛さんが夜な夜な泣いているのは耳にしてましたからね。

私だってそうです。もう涙は流し尽くしたんじゃないかってくらい、涙を流しました。あれから1ヶ月も音沙汰ないのなら提督は亡くなってしまったんですよ。私たちの暴走を恐れて連絡を入れてないだけです。

といっても私たちのところに連絡が来ても私たちは何もしません。ただ、提督の亡骸に花を添えて、提督の葬儀をこれでもかと言うほど華やかにするだけです。

 この世界に来て戦った提督はもう私たちの目の前に姿を表さないでしょう。それが大本営が1ヶ月も連絡をしない証拠です。

 これから私たちはきっと朽ちるまでこのままの生活を続けるのでしょうね。




 これにて本当に『艦隊これくしょん 艦娘たちに呼ばれた提督の話』は完結です!
 
 本当に最後までお付き合い頂きありがとうございました!

 それと、お知らせがこれを読んでくださった皆さんにありますので、作者の活動報告を"必ず"ご覧下さい。

 では、またお会い出来る日を楽しみにしています。


※バグが発生していたみたいで、修正させていただきました。
 不快に思った皆様、気付かずに申し訳ありません。

【お知らせ】
続編、『艦隊これくしょん 提督を探しに来た姉の話』をどうぞ、ご観覧下さい。


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