オーバーロード ~王と共に最後まで~ 〈凍結〉 (能都)
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プロローグ

とある方の作品を読んでいて、オバロ×ダクソそういうのもあるのかと思い立った妄想です

温かい目で見て貰えると嬉しいです。


追記:後半の話とちょっと食い違った部分を修正しました。


目を覚ますとそこは見慣れた自室では無く、自らを映し出す程綺麗に磨き抜かれた大理石の床と石レンガの壁で包まれた広いだけで何もない部屋だった。窓の外は夕焼けの様に赤くそまり、そこが暗い地下深くだと思わせない景色だった。そこに自分は胡坐をかいて座っていた。

 

「1年振りか、ここに来るのも…」

 

そう呟きながら自分の姿を確認する。オリエンタルな雰囲気な鎧を身に纏い、兜の後ろには伸びた辮髪状の飾りが膝の辺りにまで伸びている。そしてもっとも特徴的なのが右手に握る抜き身の長巻だ。長さ120cm程の刃には人を魅するような波紋が浮かんでいる。

 

「inしたのはいいけど、なんて顔して会えばいいの…」

 

1年前自分は裏切ってしまった。自分は最後までここに残ると友と約束しておきながら、自分でその約束を破ったのだ。メールが来た時はすごく驚いた。まさかこんな自分をまだここの一員だと思ってくれている彼に。そしてこの、皆で作り上げたアインズ・ウール・ゴウンが今日で無くなってしまう事に。

 

「23時21分か。後30分もすればここは…あ~もうこんな所で悩んでても仕方ないんだからさっさとモモさんに謝ってただいまして笑ってバイバイすればいいのっ!許してくれなかったら土下座するっ!」

 

即座に立ちあがり駆け出す。石造りの扉を蹴り開けた先は9階層《ロイヤルスイート》そこは白亜の城を彷彿とさせる、荘厳さと絢爛さを兼ね備えた世界。そこを東洋らしい鎧に身を固めた侍が大股で走り去って行った。

 

 

 

 

 

「こちらもお会いできて嬉しかったです。お疲れさまでした。またどこかで会いましょう」

 

そう言って黒いスライムの姿が掻き消えた。そうして部屋には豪華なガウンを纏った骸骨のみとなった。彼がここナザリック地下大墳墓の主でありアインズ・ウール・ゴウンを率いる死の支配者、モモンガである。

 

「今日がユグドラシルのサービス終了日ですし、せっかくですから最後まで残っていかれ……ませんか……」

 

言おうとしたが言えなかった言葉をポツリとこぼす。返ってくる言葉などなく、今まで人がいたとは思えないような静けさが部屋に戻ってくる。

 

「はぁ」

 

言える筈も無かった。自分のメールに応えてここに来てくれた事だけでも感謝しなければならないのだ。

円卓を囲う様に置かれた40の席を順に見渡して行く。

 

「どこかで会いましょう…か」

 

いつかまた会いましょう またね 

何度も聞いた言葉だが、それが実際に起こる事はほとんど無かった。

 

「ふざけるな!」

 

怒号と共に両手を叩きつけると、手を叩きつけた辺りに0の数字が浮かび上がる。

 

「ここは皆で作り上げたナザリック地下大墳墓だろ!なんで皆そんなに簡単に棄てることが出来る!」

 

激しい怒りにまかせて声を荒げるが、すぐに寂寥感がこみ上げてきた。

 

その時

 

「ごめんなさい!モモさん許して下さい!」

 

聞こえてきたのは懐かしい仲間の声だった。

 

 

 

 

 

 

 




主人公が誰のコスプレをしてるのかは大体の方が分かったと思います
かっこいいですよね

主人公に関しては次回詳しく書こうと思ってます


ふと思ったんですがニトとモモンガ様どっちが強いんですかね…モモンガ様か…


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第1話



お気に入り登録に感想有難うございます。今後も頑張ります。

無印は暗月技量信仰、2はハベルにグレソ2刀流がメインでした。


追記:私の頭の中にはPC版なんてものはありませんでした。申し訳ありません。


 その頃今までやっていたオンラインゲームに飽き、なにか新しいゲームはないかと思っていた矢先に目に留まったが当時絶大な人気を誇っていた《YGGDRASIL》

広大なマップ、膨大な職業、自分でいくらでも弄れそうなビジュアル。まだ社会人になりたてだった私のゲーマー魂を刺激するには充分だった。

 だが、自由度が高いというのはそのまま選択肢の多さに繋がる。基本優柔不断な私は初期のキャラメイクをこれじゃないこうじゃないと作ってはやり直しを繰り返し、初期で選べる種族や職業を網羅した辺りで容姿を自在に変えられる《ドッペルゲンガー》職業は《ファイター》にする事になった。

 

 そうして始めたはいいものの今度はプレイスタイルで悩む事になった。オンラインゲームをやる際は必ずロールプレイを心がけていた。始めてやったオンラインゲームで仲良くなったギルメンに女性だとバレてinする度にオフ会に誘われたのはあまり思い出したくない思い出である。

 

 何かモデルになるものを探してネットの海を彷徨っていると、とあるゲームタイトルが目に止まった。それが《ダークソウル》だった。

100年近く前に発売されたゲームで、独特の世界感やギミック、キャラクターなどで人気だったゲームらしい。いまだに残るwikiのページを読みプレイしたい衝動に駆られたが、PS3やPS4などもはやアーティファクトとかレリックなんて言われる存在だ。プレイ出来る筈も無く泣く泣く動画投稿サイトに残っていたプレイ動画を見まくる事にした。

 

 動画を見て行くにつれてどんどんプレイしたい気持ちが増していった。上級騎士、リロイ、ソラール、ミルドレッド、アルトリウス達の装備を身につけロードランを旅したい気持ちで溢れていた。気づけばユグドラシルのプレイを忘れ、1,2,3とシリーズすべてのプレイ動画を見る事に没頭していた。

 

 当初の目的を思い出し、自分がロールプレイするためのモデルを選ぶ事にした。四騎士、トゲの騎士カーク、クラーナ師匠、王盾ヴェルスタット、煙の騎士レイム、鋼のエリーなどやりたいものはたくさんいたが、私が選んだのは騎士アーロンだった。

 

 見た目がかっこいいとか元々侍っぽいのが好きとか妖刀かっこいいとか色々あったが、何をおいてもノーダメージ勝利時の腹切りが衝撃的だった。一撃も与えずに貴様に殺されるぐらいならと思い自害したのか、一撃も与えられない自らを罰する為に自害したのかといまだに考える事がある。

 

そうしていつか自分の腹を切る為、私の騎士アーロンを目指すユグドラシルの旅は始まった。

 

 

 

 

 

 

 私はナザリック地下大墳墓第9階層の円卓《ラウンドテーブル》の前で立ち竦んでいた。恐らく、いや確実にこの扉の向こうにはモモさんがいるだろう。私はアーロン装備以外のアイテムと共に《リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン》をモモさんに渡してしまった為自室に出現したが、指輪を持つものは自動的に円卓に出現する様になっていた筈だった。

 

「はぁ…許して貰えなかったらどうしよう。怒ってるよね、多分…」

 

 意を決して部屋を出てきた筈だが、いざ部屋の前まで来ると決意が鈍る。

そして扉に手を掛けようかと迷っていた時。

 

「ふざけるな!」

 

「…っ!」

 

 懐かしい声。だがそれは私の知っている優しい声ではなく、あきらかに憤怒の声であった。

伸ばした手を戻そうとしてしまうのを必死に堪え、妖刀の柄をきつく握り締めながら扉に手を掛ける。

 

「ここは皆で作り上げたナザリック地下大墳墓だろ!なんで皆そんなに簡単に棄てることが出来る!」

 

 そうここは皆で作り上げたナザリック地下大墳墓。それをモモさんは今の今までたった一人で守って来たのだ。自分も一緒にいると約束したはずなのに。

自分がナザリックを、アインズ・ウール・ゴウンを捨てたのは事実。そしてその事に怒りを覚えるモモさんにするべき事は一つだった。

 

「ごめんなさい!モモさん許して下さい!」

 

 謝罪の言葉と共に勢いよく扉を開け放ち部屋に入り即座に頭を地面に叩きつけた。その瞬間0という表示が出るがそんな事を気にしてる場合じゃなかった。

 

「そうだよねふざけんな!って思うよね、いまさらどの面下げて帰って来たんだよって話だよね。でも本当に悪かったって思ってるんだよ?けどこんなんじゃ許してくれないよね。でももうアイテムも金貨も全部モモさんにあげたしもう渡せるものなんてこのアーロン一式ぐらいだけどこれだけは…」

 

 思いのたけを打ち明けながらどうすれば許してくれるか考えていたが、モモさんから何も言ってこない。顔をあげてみるとそこには微動だにしないモモさんの姿があった。

だが次の瞬間椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がった。

 

「えっ!?え~!アーロンさん!まさか来てくれるなんて!前にinされたの1年も前でしたよね、お久しぶりですっ!」

 

 モモさんはすぐに私の所にまで来ると、手を握ってきた。正直怒っているものだと思っていた。いや実際さっきまで怒っていただろう。なのに私にかけた声は優しいものだった。

 

「…怒って…ないの?」

 

「怒るも何もこうしてアーロンさんは来てくれたじゃないですか!それだけで十分嬉しいですよ。さぁ立って下さいよ。」

 

 モモさんは私の手を引っ張るようにして私を立たせた。

 

「でも私はモモさんを一人にしちゃったんだよ?最後まで一緒にいるって言ったのに…」

 

「それはもういいってあの時何度も何度も言ったじゃないですか。お父さんが亡くなられて、お母さんまで倒れて、介護に下の弟達の面倒。仕方ないですよ。」

 

 私がユグドラシルを引退した理由。それは父の死と母の介護だった。ある日突然父が交通事故で死んでしまった。

そして、そのショックで母が倒れてしまった。母は病院で寝た切りになってしまい、その時25才だった私がまだ学生の三人の弟の面倒をみる事になってしまった。母の治療費に弟達の学費、今まで以上に仕事をする必要が出てきて、母の面倒も見なくてはいけなかった。

 

 彼と最後まで居ようと約束した3日後の出来ごとだった。皆が引退していく中最後まで残った私。だがそんな自分もモモさんを置いてここを去ってしまったんだ。

 

「そういえばもう家の方は大丈夫なんですか?あれからもう1年も経ちますけど。」

 

「あ、うん。母も喋れるぐらいには元気になったよ。二人目の弟も来年高校卒業だからね、上二人はバイトして結構助けてくれてるからあの時ほど厳しくはないよ。」

 

「そうですか。よかったですねアーロンさん。」

 

 モモさんは安堵のエモーションを使ってくる。

 

「モモさん…でもやっぱりなにかしないと気が済まないよ。あ、そうだwebマネーが最近使ってないから5万ぐらい残金あるからそれをっ!」

 

「いやいやいやいりませんよ!というか貰う必要がありませんって!怒ってませんから!さっきのはちょっと激情に駆られたってだけで皆苦渋の決断だって分かってますから!」

 

「でも…」

 

 それでも私の中の罪の意識は消える事はない。理由はどうあれ約束を破ってしまったのだから。

 

「はぁ…分かりましたよ。じゃあアーロンさんには罰として私とこのままサービス終了まで…ユグドラシルに最後まで残って貰います。いいですね?」

 

 最後まで残る。そうそれはあの時約束した事。

 

「…任せて!今度こそ絶対必ず最後まで一緒にいるから!」

 

 




個人的には1のもっさり感の方が好きです

好きなキャラはアーロン、アルトリウス、上級騎士ですかね。ほぼ横並びでアルトリがちょっと上な感じ


とある部隊に入隊してアルトリウス倒したのはいい思い出です


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第2話

ドラゴンズドグマオンライン始まりましたね


ワールド移動しようとしたら出来なくてinも出来なくなりました…


追記:指摘のあった箇所と誤字を修正しました。


「そういえば素のアーロンさんとこんなに話したのは始めてかもしれませんね。いつも騎士風の話し方でしたし。」

 

「…あ、え~と…ごほん…忘れて貰えると助かる。」

 

 女性だという事を隠すために始めたロールプレイだったが、動揺したり感情が昂ったりするとどうにも素が出てしまう事が、現役時代も何度かあった。だが、普段の騎士のイメージからかモモさんを含めて殆どのギルメンにはバレる事は無かったが、餡ころもっちもちさん、ぶくぶく茶釜さん、やまいこさんの女性メンバーには何故かバレていた。3人曰く、「女ならすぐにわかる。」らしい。なんでだろう。

 

「ふふっ、今日ぐらいはいいじゃないですか。私しかいませんし。」

 

「いや、今日は騎士アーロンにとっても最後の日。だからこそ最後までアーロンを演じるとしよう。」

 

 片膝を着き右の拳を左手で包み頭を下げる。

 

「さぁ王よ、命令を。」

 

「そうですね…付き従え、我が騎士よ。」

 

「はっ!」

 

 そうして扉の方へ向かうモモさんに、私は壁に飾られていた一本の杖を指差す。

 

「王よ。お忘れ物だぞ。」

 

「…スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン…でもいいんでしょうか、勝手に持ち出して。これは皆で作った…」

 

  そうこれはアインズ・ウール・ゴウンの輝かしい時代の結晶とも言えるギルド武器。モモさんが迷うのも当然だ。でも…

 

「だが…持ってみたいだろ?」

 

「そりゃ、まぁ…ギルマスって言っても実質連絡係でしたし。最後ぐらいギルマスという権力を使ってみたいとは思いますけど。」

 

「なら問題ないな。今ここに居るのは私だけ、賛成二人で満場一致だ。心おきなく持てるな。」

 

 ユグドラシルに表情を反映する機能があるなら多分モモさんは苦笑してるだろう。

 

「いつもの多数決ですか?二人でやる多数決って…でも、そうですね。今日くらいいいですよね。」

 

 それから手を伸ばし、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを掴み取る。スタッフから立ちあがるドス黒いオーラ。時折それは人の苦悶の表情を象っていた。

 

「行こうか、ギルドの証よ。いや…我がギルドの証よ。」

 

 

 

 

 円卓を出た二人は玉座の間に移動してた。二人の後ろには執事のセバスと六人の戦闘メイド、プレアデスが列を成して続いていた。

 

「その刀、いつ見ても凄いですよね。確か「アーロンの妖刀」でしたっけ?確かあのワールドアイテム使って作ったんでしたよね。」

 

「正確には普通に作った後にワールドアイテムで強化したんだがな。けどまぁあの一件のお陰でここに入れた様なものだし。どちらにしても後悔はしてないぞ。」

 

 今から2年前、レベルも100になりアーロンの防具と妖刀を作った私だったが、全然満足出来ては居なかった。なぜならそう、腹切りが出来ないのだ。正確には出来る。ただ自分の腹に妖刀を突き立てればいいだけなのだから。だが自分の攻撃で自分を傷つける事は出来ないし、ダクソの様にエンチャントも付かない。これじゃあ駄目だと思った私は、とあるアイテムを探しに出た。

 

永劫の蛇の指輪《ウロボロス》

 

端的に言ってしまえばユグドラシルの製作会社&運営に依頼してお願いを聞いてもらう物である。そのお願いには殆ど制限が無いのがこのアイテムのぶっ飛んでいる所である。

だがそれは以外にもすぐに手に入った。

 

 サービス開始から何度か使われていたウロボロスだったが、誰も入手方を公開していなくて、まさに雲を掴む様な話だった。とりあえず名前から蛇か竜に関係するモンスターかクエストだろうと踏んで、ワールド内を彷徨っていたが、それはすぐに手に入った。ある日森の中を探索していると、足元に自分の尻尾を噛んで輪になっている蛇のモンスターが現れた。名前は設定されていないのか空欄で、レベルも0だった。まさかとは思いそのモンスターを妖刀で小突くと、HPバーは0になり、名前の無い指輪がドロップした。

 

 町に戻った私は知り合いのマジックキャスターに鑑定を依頼した。すると鑑定されて現れたのはウロボロスだった。

 

どうやって手に入れた!? いくら払えばいい!?

 

怒涛のごとく詰め寄ってくる知り合いを押しのけセーフエリアの宿屋に入り、アイテムを使用。簡単な説明文の後に、要望を書く欄が現れそこに。

 

「アーロンの妖刀に腹切りのスキルを付けて欲しい」

 

とかなり大雑把に書きなぐり送信した。しばらくして具体的な回答を要求されたのでモーションに攻撃力アップのエンチャ、腹切り後の妖刀のエフェクトなど細かい部分の要望を書きそれから1週間後。運営からの完了のメールと共にアーロンの妖刀が完成した。

エンチャントの効果は武器の攻撃力が若干上がるぐらいかなと思っていたが、運営はから届いたメールは、

 

「ワールドアイテム使って武器を強化するのであれば誰もが欲しがるぐらいの強武器じゃなければならない」

 

というもので、エンチャントの効果は武器の攻撃力を1.5倍にし使用者の物理攻撃力・素早さを3割上昇させるというものだった。しかも腹切りを使った際に消費するHPは2割。さらに効果は重複するというまさにバランスブレイクな代物に変わっていた。

 

 嬉しい誤算もあったが、自身の運の良さで念願の腹切りを手に入れ、inしては腹を切るというシュールなユグドラシル生活を送っていた。

 

 だが、すぐに問題が発生した。アーロンの妖刀を作り上げてからというものPK集団に襲われるようになったのだ。だが、考えれば当たり前であった。ワールドアイテムの中でも上位のウロボロスを持っているかもしれない。それを使って莫大な金貨、あるいは超レアなアイテムを得たかもしれない。異業種というのも相まって、PK集団に目をつけられてしまったのだ。

 

 執拗に追い回される毎日。恐らく情報を漏らしたであろう知り合いには連絡が取れず、それこそゲーム引退まで考えた。

 

 そんな時にアインズ・ウール・ゴウンに誘ってくれたのがモモさんだった。

 

「加入した後にやった弐式炎雷さんとの模擬戦の時は驚きましたよ。いきなり自分の腹に刀突き立てるんですもの。」

 

「ははっ。そんな事もあったな。」

 

 そんな昔話をしてるうちに玉座の間に到着した。

 

「「おおぉ……」」

 

 二人してそんな言葉を呟いていた。ナザリックの最重要箇所であるここは他の部屋に比べても圧倒的な存在感を放っていた。

 

「久しぶりに来たが…いつ見ても凄いな…」

 

「私も入るのは久しぶりですが、何度来ても感動しますね。」

 

 そうして、前を歩くモモさんの右の少し後ろを着いて行き玉座まで行く。そこでセバスとプレアデスを待機させる。そしてその玉座のそばに控える様に立っている一人の美女がこちらを向く。

 

「アルベドか…いつ見てもキレイだな~。はぁ…私もこういうものを作る才能があったらな~…ゴホン あればいいなといつも思うんだが。」

 

「いや、そんな事無いですよ。アーロンの作ったNPCもかっこいんじゃないですか。」

 

「あれは前にも言ったがとあるゲームのNPCをそのまま使っているだけだぞ。見た目も設定も。」

 

「そうですけど。そんな事言ったら私のNPCなんて…いえ何でもないです。」

 

 そう言ったモモさんは目に見えて落ち込んでいる。なんだろう、何か気に障る事をいってしまったんだろうか。

 

「そ、そういえばアルベドってどんな設定だったんだか覚えてないな。」

 

「そうですね。まだ時間もありますし見てみますか。」

 

 コンソールを操作して、アルベドの設定を開くとそこには膨大な量の文字が綴られていた。

 

「…タブラさん設定魔でしたね。」

 

「流石にここまでってなると少し引くな。…ってこれ最後の文章。」

 

「えっと『ちなみにビッチである』…確かギャップ萌えでもありましたね。」

 

 流石にこれは二人ともドン引きであった。

 

「うーむ…」

 

 悩む素振りを見せるモモさん。多分このビッチの部分を変えるかどうかを悩んでいるんだろう。アルベドは一応ナザリック全NPCの統括。つまりNPCの頂点である。それがビッチというのに抵抗を覚えるのだろう。

 

「王の好きにすればいい。何をしても咎める者は居ないさ。」

 

 そうして、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使ってビッチ設定を消したが。

 

「なにか別の設定でも書き込んでおきますか…『モモンガを愛している』、とか?」

 

「うわぁ…」

 

「…やめます。」

 

「いや、王がそう書きたいなら「やめますっ!」…」

 

「そんな目で見ないで下さいよ。じゃあこうしましょう!『アーロンを愛している』っと「ちょ、まってっ!」はい設定完了です。」

 

 してやったりといった感じでこちらを見てくるモモさん。

 

「別にいいじゃないですか。こんな美人に好かれるなんて男として自慢できますよ?」

 

「いや、私は男じゃ…男として好かれると言うが、意図的にそうなるようにしておいて自慢していたらただの最低な男だろ…そんな奴は騎士ではない!」

 

「ふふっ。それもそうですね。」

 

 そんな事を話しているうちに時刻は23時55分。後5分でこの世界は終わってしまう。

 

「もうそろそろですね…」

 

「そう…だな…」

 

「アーロンさん最後まで残って貰って本当に有難うございました。最後に話せて、本当に楽しかったです。」

 

「何を言うか、王に付き従うのは騎士の定め。自分は当たり前の事をしたまで。それにこちらも楽しかった。」

 

 そして、皆のサインの書かれた旗を順に見ていく。

 

「俺、たっちみー、死獣天朱雀、餡ころもっちもち、ヘロヘロ、ペロロンチーノ……

そしてアーロンさん。」

 

 40人の仲間全員の名前を上げ終わる。

 

「楽し、かったなぁ…」

 

 モモさんのその呟きは、心に突き刺さった。そうだ、楽しかったんだ。給料の半分を課金した事も多々あった。毎日inしては皆顔を合わせて、ダンジョンに潜ったり、PKKの計画を立てたり、毎日が輝いていた。

 

 だがそれが終わってしまう。自分の悲しみなんてモモさんに比べれば些細なものだろう。彼は皆が戻ると信じ続け、今日までここに残ったのだから。モモさんのスタッフを握りしめる力が強くなる。

 

 仕方がないのだ。この世界では最強に近い二人も現実ではただの社会人。終わりを止める事なんて出来はしない。だから幻想を捨てて現実を受け入れるしかないのだ。

 

 若干の沈黙の後、モモさんは溜め息をつく。

 

「明日は四時起きなんですよ。落ちたらすぐに寝ないと。」

 

 悲壮感が漂う中、そんな事を言ってくるモモさん。いつまでもここには居られない。だからこそ現実を見ようとしてるんだろう。

 

「大変だな。うちはホワイトだからな、毎日7時までぐっすりだよ。」

 

「羨ましすぎですよ。」

 

 なんてことはない、普通の会話だ。だがこんな事を話せる日はもう来ない。

 

23:59:45、46、47

 

「それじゃあ、アーロンさん。またいつか、どこかで。」

 

「あぁ。またいつか、必ずどこかで…じゃあねモモさん。」

 

23:59:55、56、57

 

 目を閉じて最後の時を待つ…

 

 

 

 

だがいつまで待っても最後は訪れなかった。

 

 

 

 

「…ん?」

 

「…あれ?」

 

 目を開けてみるとそこは今だ玉座の間だった。すぐに横に顔を向けるとこちらを凝視するモモさんが居る。

 

「…どういう事だ?」

 

「サーバーダウンが延期になったとかかな?」

 

 思わず素で話してしまったが、気にしてる場合ではない。ともかく現状を確認しようとコンソールを使おうとするが。

 

「コンソールが…出ないない…えっ?どういう事?」

 

 モモさんの方も確認して見るが同様にコンソールが浮かび上がる事は無かった。

 

「何が、起こってるの?」

 

「……どういう事だっ!」

 

 玉座から立ちあがりながら大きく口を開け声を発するモモさん。うん?…大きく口を開け?

 

「モモさん、口が動いてる「あぁっ!私の愛しきお方アーロン様っ!よくぞご帰還してくださいましたっ!」るよぉぉ…お?」

 

 始めて聞く女性の声。声の発した方を見ると今にも泣きついてきそうな顔をした、絶世の美女、NPCのアルベドの姿だった。

 




DLC攻略後のシフムービー見ると泣きそうになります

何でシフ生存ルートないんだ(号泣)



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第3話

ダクソ3でアス直でないかな~と思う今日この頃です。

強力な祝福が施された上質の武器ぇ…


オバロ内では1位アルベド、2位にイビルアイ、3位にパンドラズ・アクターが好きです。
アルベドとイビルアイは殆ど差がないです。二人とも可愛いですよね。


「あぁ!まさかもう一度その御姿を目にする事が出来るとは!このアルベド、アーロン様のご帰還を心よりお待ちしておりました!」

 

 アルベドの目じりにはうっすらと涙が浮かんでおり、今にも飛びついてきそうだった。

 

「ぉおう…アル…ベド?」

 

「はいっ!何でございましょう!アーロン様のお役に立てるのであればどんな事でもいたしましょう!」

 

 アルベドが熱い視線を送ってくるが、私はそれに上手く応えるすべを持っていなかった。不可解な事態の連続に頭がついてこない。どうすればいいのかも分からずモモさんの方を向く。

 

「モモさん、アルベド喋った…それにモモさん口が動いてるよ。」

 

「え、ええ…喋ってますね…ってえ?口が動いてる?…アーロンさんひとまず情報を集めましょう。現状不確定な事が多すぎて、判断がつきません。」

 

「そう…だね。その辺はモモさんに任せるよ。私には何が何だか…」

 

 それから、モモさんは時々考え込みながらセバスやメイド達に命令を出していく。セバスは大墳墓の外の偵察。メイド達は九階層の警戒にあたるようだ。

 

「直ちに行動を開始せよ!」

 

「承知いたしました、我らが主よ。しかしながらモモンガ様、一つだけ申し上げたき事がございます。」

 

 その場が張り詰める。その場の怒りという感情の全てがセバスに向いているかの様だった。モモさんも感じ取ったのか、それを手で制する。

 

「構わん。言ってみるが良い。」

 

「はっ!」

 

 そういうとセバスはモモさんから私へと向き直し、頭を下げる。

 

「アーロン様、よくぞご帰還して下さいました。この場に居る者、いえ、ナザリック内すべてのシモベが貴方様のご帰還を心より待ち望んでいました。ここに居ない者達を代表して、お祝い申し上げます。」

 

『お祝い申し上げます。』

 

 セバスに続き、メイド達も声を合わせ跪礼する。

 

「…そう、か。皆待っててくれたんだ…ありがとう、セバスにプレアデス、それにアルベドも。長い事待たせちゃってごめんね。」

 

「「『もったいなきお言葉!』」」

 

 もし、ここが本当に私の知っているナザリックだとするならばこれ程嬉しい事は無い。自分がここを思い続けていたように、ここに居る皆も私を思い続けていたのだから。思わず涙が出そうになる。

 

「モモンガ様、申し訳ありません。即座に行動せよとのご命令を受けていながら…処罰は如何様にでも。」

 

「良い、セバス。気にするな。お前の気持ちは充分に理解している。たとえ私がお前の立場であっても同じ事をしただろう。今回の事は不問とする。」

 

「慈悲深き配慮、感謝いたします。それではただちに偵察を開始致します。」

 

 最後にもう一度跪礼をし、メイド達を連れてセバスは玉座の間から出て行った。そうして、静まり返った玉座の間にアルベドの声が響く。

 

「それではモモンガ様、アーロン様、私はいかがいたしましょうか?」

 

「あ、そうだ。モモさんちょっといいかな?」

 

「あぁ、じゃなくて。えぇ、構いませんよ。」

 

 言葉使いを先程までの威厳のある感じかいつもの感じに戻したモモさん。う~んあれはあれでハマっていた気がするけど…

 

「アルベド、私の所にまで来てくれる?」

 

「はい!」

 

 心の底から嬉しそうに返事をして、私の元まで上がってくるアルベド。えっとまずは…

 

「ちょっとお手を拝借。」

 

「あっ。」

 

 左手でアルベドの手を握り、右手で脈を測ろうとする。これで脈があれば、NPC達は生きているという事になるのだが…

 

「脈が…ない!」

 

「アーロンさ~ん、小手小手。」

 

「あ。」

 

 小手を付けたまま測ったのでは分かる筈がない。小手を外すと白いしゃくとり虫の様な細長い三本の指が現れる。

 

「それじゃあ、改めて。…うん脈あるね。」

 

「そうですか…」

 

 脈がある。アルベドだけがそうである可能性もあるが、彼女達は紛れも無く生きているという事が分かった。もうひとつ確認しなくてはならない事があるが、一体どうすれば確認出来るか…そうか。

 

「アルベド、抱いていい?」

 

「「えっ?」」

 

 私の発言を聞いてモモさんとアルベドが黙り込む。なんでだろう、なにかおかしな事でも言っただろうか?

 

「…もちろん構いません!愛しき方に誘われて断る者などおりません!服はどういたしましょうか!?自分で脱いだ方が!?それともアーロン様が!?あぁ!ですがモモンガ様の前でその様なはしたない事…いえ、アーロン様がど!う!し!て!も!とおっしゃるのであれば私はすべてを受け入れる覚悟でございます!」

 

 あれれ~おかしいぞ。なんだか話がかみ合って無い気がするし、それになんだか滅茶苦茶アルベドの息が荒くなっている。まぁとりあえず了承は得たし。

 

「それじゃあ、ちょっと失礼して。」

 

 目の前に跪いていたアルベドを強く抱きしめる。自分にアルベドの胸が当たるぐらいに。

 

「はあぁぁぁ。」

 

 何故かは分からないが恍惚の笑みを浮かべるアルベド。それを余所にしばらくの間抱きしめていたが、警告や私の動きを止める為の外部からの力は感じられない。

 

「うん、これで少しはっきりしてきたかも。アルベド、ありがと。」

 

 そう言ってアルベドを離すも、変わらず恍惚の笑みを浮かべている。理由は分からないが今はそれどころではない。ハラスメント行為が禁止されているユグドラシルでは先程の行為は完全にアウトの領域。それなのに、何も起きない。そして、生きているNPC。これらを踏まえて、今の異変に理由を着けるとするならば。

 

「モモさん…これユグドラシルが現じt「私はここで始めてを迎えるのですね!」うに~…なったんじゃ?」

 

「………」

 

 黙り込んでしまうモモさん。うん?迎える?ちょっと待ってさっきアルベドはなんて言ってたっけ?

 

 愛する人 抱く 服は脱ぐかどうか 始めて…あ、え、ちょ。

 

「ちょっと待ってアルベド違うからね!今のは確認したい事があって抱きしめただけであって、そういう気持ちでやった訳ではないから!」

 

「はぁ…二人とも仲が良いのは構わんがアルベド、お前に頼みたい事があるのだが。」

 

 そのモモさんの一言で恍惚の笑みは消え去り、真剣な顔つきになる。

 

「も、申し訳ございません!モモンガ様を差し置いて、自らの欲望を優先させてしまうなど。この命を持って謝罪を!」

 

「良い。今のは少しアーロンさんの言い方も悪かった事だしな。アルベド、お前の全てを許そう。それより、各階層守護者に連絡を取れ。六階層のアンフィテアトルムまで来るように伝えろ。時間は今から一時間後。アウラとマーレには私から伝えるので必要ない。」

 

「畏まりました。」

 

「よし行け。」

 

「はっ!」

 

 早足で出ていくアルベドの後ろ姿を眺める二人。そして、その姿が見えなくなると同時に深いため息を吐く。

 

「「はぁぁ…」」

 

 色々と分かった事はあるがそれ以上になんとうか、疲れた…それとなんだろう、このやってしまった感は。

 

「…えっとさっきの私の話、聞けてました?」

 

「えぇ。いきなり抱くとか言った時は何かと思いましたが…それに、現実になったかもしれないというのは自分も薄々感じていたので。それと、この骸骨の体に違和感も恐怖も抱かないんですよ。まるで今までもそうだったかのように…」

 

「あ、そう言われれば私も全然気にしてなかった…う~ん、違和感ないねこの指。」

 

 三本に減った指をマジマジと見てみるが、やはり普通だという感情しか湧かない。そして、ふと気になって甲冑を外してみる。

 

「ねぇモモさんこれどんな感じ?」

 

「え~とですね。なんか変な言い方ですけど…普通のドッペルゲンガーです。えっと、『下位道具創造』…どうぞ。」

 

 モモさんは恐らく魔法で作ったであろう手鏡を私に渡してくる。白い卵を髣髴とさせる頭部がつるりと輝いており、産毛の一本も生えていない。顔に当たるところは鼻等の隆起を完全に摩り下ろした、のっぺりとしたものだ。目に当たるところと、口に該当するところにぽっかりとした穴が開いている。眼球も唇も歯も舌も何も無い。子供がペンで塗りつぶしたような黒々とした穴のみだ。

 

「うん、普通のドッペルゲンガーだね。じゃあ…」

 

 自らで意識して顔を変えようとする。すると、ドロリと顔の輪郭が歪み今までなかった凹凸が生まれ、頭部からは髪が生えてくる。そうして出来た顔は、かなりイケメンな男性の顔だった。これはまだ駆け出しの頃異業種を隠すために作った、私の理想の男性の顔だ。だが実のところドッペルゲンガーの種族レベルは1なので、この姿にしかなれない。

 

「おぉ、ちゃんと変わった~。けど顔が変わる時結構くすぐったいな。」

 

「…それリアルの顔ですか?」

 

「まさか、もっと平凡な顔だよ。これは理想。」

 

「そうですか。いや、それよりも…すいませんアーロンさん…私が罰だなんて言って残って貰ったばっかり巻き込んでしまって…それに、アルベドもふざけて設定を変えてしまった所為で…タブラさんになんて謝れば…」

 

 そう言われるとそうかもしれないが、そんな事は思ってはいなかった。

 

「気にしないでよ、モモさん。私は最初から残るつもりだったし、アルベドは~まぁ、仕方ないよ。あの時はこんな事になるとは思ってなかったんだから。タブラさんも許してくれるよ…多分。」

 

 そう言って励ますが、モモさんは目に見えて落ち込んでいたが、すぐに普通の様子に戻った。

 

「…多分アンデットの保有する精神的な攻撃に対する完全耐性の所為だと思うんですけど、一定以上の感情の起伏が激しくなると平坦なものに変わるんですよ。」

 

「成程。お互い、身も心も化け物になっちゃったって事か。ユグドラシルが現実になったけど、ゲーム時代の設定を受け継いでえるところもある、って認識でいいのかな?」

 

「決めつけるにはまだ早いですが、多分そうだと思います。」

 

 人間やめちゃったのか私。でも特に嫌な感じもしないから不思議だ。

 

「まぁその辺は追々理解してくとして、これからどうする?」

 

「階層守護者達を集めたのは、内側に異変が起きてないか確認する為です。外はセバスに偵察させているので、各階層で異変がないか聞いておきたいと思いまして。それに、アルベドやセバス以外のNPCがどんな感じなのかも確認しておきたいですし。」

 

「そうだね。そういえばさっきの魔王みたいな喋り方は?」

 

「あ、いえ。あんな風に敬われると一応ここでは立場的には一番上なので尊厳のある振る舞いをしようと思ってたんですけど…変でした?」

 

「ううん。見た目と相まって本当に魔王様みたいだったよ。けどその方がいいかもしれないね。今は忠誠を誓ってくれてるかもしれないけど、頼り無いと判断して見限られるかもしれないし。なるべく出来る上司を演じた方がいいと思う。」

 

 正直な話、レベル100のオーバーロードであるモモさんと、同じくレベル100の侍の私のコンビに勝てるのは、多分そんなには居ないと思う。だが、恐らく守護者達反旗を翻しこちらに襲いかかってきたら絶対に負けるであろう。もちろんモモさんは絶対に死なせないが。

 

「そうですね。なるべくそうしましょうか。アーロンさんはどうします?」

 

「私?私は…王の騎士であるだけだ。約束した通り、例えここがどこであろうと王と共に。」

 

 そう、私はアーロン。かつて王に仕え、王の元を去った不義の騎士。だが、今一度王に仕える時が来た。ならばこの命尽きるまで、王と共にあるのが私の運命だろう。

 

「そうですk…いや、そうだな。ならば私は六階層に向かうが、アーロン、お前はどうする?」

 

「ここは王に付き従うのが、騎士の役目なのだろうが少し自室に戻りたい。私の作ったNPCの様子を見ておきたい。階層守護者じゃないあいつは呼ばれないのでな。」

 

 私の自室を守るために作った、一人のNPC。他にも何人かNPCがいるが、今すぐ会いに行ける場所では無いのでまたの機会にしよう。

 

「そうか、分かった。先に六階層に向かうが後でちゃんと来るんだぞ?一応お前の帰還を守護者達に教える意味合いもあるのだからな。」

 

「了解した。ではまた後で。」

 

 そう言って私はモモさんと別れて、自室に向かった。

 

 

 

 

 

 九階層の自室を目指し廊下を歩いていると、それは見えてきた。先程出てきた時は急いでいて気にしなかったが、私が作ったNPCはそこにいた。白い大きな翼を生やし、腕は四本。羽の様な服から出ている足は真っ白で、それらは地に着く事なく浮いていた。深めにかぶったフードの中には暗闇が広がっている。

 

「久しぶりだな、闇潜み。」

 

「アァロン様?」

 

「そうだ。私が留守の間よくぞここを守ってくれたな。礼を言うぞ。」

 

 彼の名は闇潜み。ダークソウル2に出てくるボスの一人だ。私が自室の警護のために作ったレベル100の守護者だ。

 

「貴方様ニモウ一度オ会イスル日ガ来ヨウトハ ヨクゾゴ帰還シテ下サイマシタ」

 

「ありがとう闇潜み…そしてすまない。お前を含めて皆が帰りを待っていたというのに。もっと早くに戻るべきだった。」

 

「アァロン様 気ヲ落トサナイデクダサイ スグニゴ帰還出来ナカッタノニハ深キ理由ガアルトオ察シイタシマス」

 

 二本の腕は変わらず腕を組みながらもう二本の腕で拳包礼をする闇潜み。種族は堕天使。分身する事によりそれぞれが独立して行動出来、魔法と魔法によって作った剣を使い戦う事が出来る遠近兼ね備えた守護者である。

 

「闇潜み、あいつはどうしてる?ここには居ない様だが?」

 

「アァロン様オ忘レデシタカ?アイツハ六階層ノアウラ様ノ所ニイマス」

 

「あぁそうだったな、忘れていた様だ。あいつは元気か?」

 

「毎日ノ様ニスケルトン達を踏ミツブシテ遊ンデオリマス デスガ時折天ニ向カッテ啼ク事ガゴザイマス 恐ラクハアァロン様ノ事ヲ思ッテイルノデショウ」

 

「はっはっはっ、相変わらずの様で何よりだ。そうか、あいつも私の帰りを待っていたか。丁度良い事にこの後六階層で集まりがある。その時にでも会いに行こう。その時はお前も同行せよ。」

 

「ハッ!」

 

 私が作ったNPC達は私を主と定めてくれているようだ。ダークソウルのではボスを飾っていた彼らにこうして主君として扱われるとなんとも良い気分である。

 

 そうだ、まだ時間もある事だし少し運動をしよう。

 

「闇潜み、中に入れ。すこし鍛錬の相手をしてくれないか?私は王を守る騎士でありながら長らく戦場を離れた。いざという時に力を発揮できないのでは困るからな。」

 

「私ナドデ相手ガ務マルカ分カリマセンガ 畏マリマシタ」

 

 

 

 

 

「流石に部屋が吹っ飛ぶのは困るから剣だけにしてくれ。こちらもこいつだけでいく。先手はやる、いつでも来い。」

 

 八双の構えを取りながら闇潜みに言い放つ。

 

「『ダークライトソード』 ソレデハ参リマス」

 

 そう言うと薄暗い光を放つ一本の剣が生まれる。そして、闇潜みは一度翼を大きく羽ばたくと一瞬の内に間合いを詰めてくる。勢いに乗ったまま上段から切りかかる。それを刀を横にし受け、そのまま剣を右に受け流し両肩を狙った二連撃。それを後方に飛ぶことで回避する闇潜み。間合いを取り様子見をしようとした所を狙い、

 

「ふんっ!」

 

 ファイターのクラスで覚える『ソニックブーム』は私の持つ数少ない遠距離技であるが、レベル1で習得するため威力は小さい。闇潜みは簡単に弾くが、

 

「ッ!!」

 

 ソニックブームを弾いた剣を引きもどし、私の高速の突きを防ぐ。ケンセイのクラスで覚える『すり足』 相手との距離を一足で詰めるスキルだ

 

「今のを止めるか。大抵のものはここで終わるのだが、流石だな。」

 

「イエ 今ノハカナリ危ナカッタデス」

 

「そう、かっ!」

 

 剣を弾き後ろへ大きく飛び、再び『すり足』を発動する。先程と全く同じモーション。だが私が放つのは、突きではなく切り上げ。

 

「ック!」

 

 闇潜みは弾く直前で軌道を変えた刀に対応しきれず、剣を手放し大きく後ろへ飛ぶ。

 

「私の勝ちだな。」

 

 大きく跳躍し、上段からの切りおろし。刀の切っ先は闇潜みの一寸先を通り、地面に叩きつけられた。

 

「オ見事デスアァロン様 ヤハリ私ナドデハ相手ニナリマセン コキュートス様デアレバアァロン様ガ全力ヲ出シテ戦ウ事ガ出来マショウ」

 

 闇潜みの手から離れた剣は消え、私も刀をしまい部屋の中央に胡坐をかく。

 

「私とあそこまで戦えたのだ。充分に誇っていいと思うぞ?お前は戦士職では無くあくまで魔術師だからな。」

 

「オ褒メニ与リ光栄デス ソレデアァロン様 六階層ヘハイツ行カレルノデ?集合ノ時間ニヨッテハモウ向ワナケレバナリマセンガ」

 

 モモさんと別れてから大体そろそろ1時間弱といったところか。ここには時計が無いので正確な時間は分からないがそれくらいだろう…1時間弱?

 

 

 

 

 

「…胡坐かいてる場合ではないっ!行くぞ闇潜み!」

 

「畏マリマシタ」

 

 先程と同じように走って自室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 




アークエンジェルフレイム→闇潜みって思ったのがアニメ見た時の感想でした。

というわけで一人のNPCは闇潜みさんです。初見の時は、こいつ(大体)四人の公王枠か!?っと焦りました。

NPCは後2~3人(人とは言ってない)登場する予定です。


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第4話

お気に入り登録が100件を超えてて驚きでした。
皆さんありがとうございます!

二人目?のNPCの登場です。


 モモンガがギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの試運転兼、自らの魔法使用に問題が無いかを確認していた6階層の円形闘技場には、各階層の守護者達が集まって来ていた。

 

第1~3階層「墳墓」の守護を任された、シャルティア・ブラッドフォールン。

 

第5階層「氷河」の守護を任された、コキュートス。

 

第6階層「ジャングル」の守護を任された、アウラ・ベラ・フィオーラとマーレ・ベロ・フィオーレ。

 

第7階層「溶岩」の守護を任された、デミウルゴス。

 

そして、守護者統括のアルベドだ。

 

「では皆、至高の御方に忠誠の儀を。」

 

 アルベドの言葉に一斉に守護者各員が頷き、またたく間に隊列を整えだす。統括であるアルベドを前に立て、他の者は少し下がった辺りで一列に並ぶ。守護者達の顔は真剣なもので、おどけた雰囲気は皆無だ。何をするかは分からないが、何かをしようとしているのを感じ取ったモモンガはそれを止めるべく声を上げる。

 

「待て、まだ一人来ていない。」

 

『…?』

 

 第4階層守護者ガルガンチュア。第8階層ヴィクティムを除き全員揃っているのに、今だ来ていない者とは誰か、とモモンガと一名を除いて守護者達が疑問に思っていると円形闘技場に馬の啼き声が響き渡る。

 

「あれ?これって…」

 

 声の正体をいち早く理解するアウラ。もう一度響き渡る啼き声と共に徐々に大きくなる蹄が地を叩く音。

 

 皆がモモンガの後ろ、至高の御方のみが座ることの出来るVIP席の入口に目をやる。

薄暗い闇の中に二つの白い煙の様なものが浮かび上がる。それは次第に大きくなり、声の正体が姿を現す。一言で言うなら、肉の無い全身白骨の双頭の馬である。人の3倍はあろう体はボロボロの布で覆われており、頭は二つ。4つの目は赤く、妖しい光を放っている。

 

 その名はチャリオット。6階層に棲んでいるレベル70のスケルトン・ホースである。

 

 チャリオットは大きく跳躍すると、VIP席を飛び越える。何故こんな所に、そんな守護者各員の疑問はその背に乗る人物を目にした瞬間消え去る事になる。

 

 大きな地響きを起こしながら着地し、たたらを踏みながら小さく啼く。その背に乗る人物はそのまま地に降り立つと、従者を引き連れこちらに向かってくる。

 

「全く、遅刻だぞ。」

 

「申し訳ない、王よ。お前達も待たせてしまい悪かったな。」

 

 

 

 

 

 

 私は走っていた。何故かと言えば簡単だ、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをモモさんに返してしまっているからだ。1時間後に6階層に集まるようにという、モモさんの言葉を完全に忘れて、闇潜みと手合わせしていたのだ。

 

「アァロン様!6層ヘノゲートデス!」

 

「見えている!急ぐぞ!」

 

 そのままゲートに飛びこむと、目の前はの風景は一気に変わりそこは夜の大森林だった。

 

「アンフィテアトルムって、どっちだ!?」

 

 今まではリングを使って転移していた為、あまり訪れたことの無い場所の所為もあって自分が今どこにいるのか分からなかった。あれこれ不味いんじゃ…

 

「申シ訳ゴザイマセン 私ハ9階層カラ出ル事ガ殆ド無イノデ」

 

「どうしたものか…うん?この音はなんだ…」

 

 大地を踏みならしながら一つの影がこちらに向かってきていた。その影は徐々に大きくなり、月明かりが双頭の馬の姿を映し出す。

 

「チャリオットかっ!?っておい!止まれ!」

 

 チャリオットはそのまま速度を緩める事無く、私に突っ込んできた。そういえばこいつ走る事に関しては騎手がいないとポンコツだったね、忘れてた。速度の乗った体当たりを食らい勢いよく吹っ飛ぶ。その反動でチャリオットの足は止まる。

 

「チャリオット止マルノダ! アァロン様ニナンテ事ヲ!」

 

 闇潜みがそう叱るも、チャリオットはどこ吹く風で私に歩み寄る。そうして、起き上がろうとする私を頭で小突いてくる。それはまるで、今までどこに行っていた。何故返ってこなかった、と問いかけている様だった。

 

「すまないなチャリオット。遅くなった。」

 

 それぞれの手で二つの頭を撫でてやると、嬉しそうに白い息を吐く。すると、チャリオットはアーロンに背を向ける様にして膝をつく。

 

「なんだ、乗せてってくれるのか?なら、アンフィテアトルムまで頼むぞ!」

 

 勢いよくチャリオットの背に跨りと、立ちあがり前足を大きく上げながら声を上げる。走り出したチャリオットは木々をかき分け一気に加速していく。

 

 そうして瞬く間に円形闘技場に到着した私の前にはスタッフを持ったモモさんと、アルベドを前にし整列する階層守護者たちだった。

 

「全く、遅刻だぞ。」

 

「申し訳ない、王よ。お前達も待たせてしまい悪かったな。」

 

「「「「「アーロン様!」」」」」

 

 この場に遅れて来てしまった事。そして、このナザリックに帰るのが遅くなった事。両方の意味で謝罪する。すると守護者達は感極まるといった表情で私の名を呼ぶ。

 

「謝罪などおやめ下さい。至高の御方の帰還を待つのは至極当然の事にございます。」

 

 アルベドがそういうと、守護者達も同様だと首を縦にする。

 

「さて、これで全員だな。」

 

 モモさんがそう言うと、皆の顔は真剣な物に一瞬で変わり私の後ろに控えていた闇潜みとチャリオットも列に加わる。

 

「それでは皆、至高の至高の御方々に忠誠の義を。」

 

 一番端に立っていたシャルティアが一歩前に出る。

 

「第1、第2、第3階層守護者、シャルティアブラッドフォールン。御身の前に。」

 

 見た目は美しい美少女だが、真祖としての「吸血鬼」であり、冷然とした超越者としての雰囲気を纏う少女は、その場に跪く。

 

「第5階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ。」

 

2.5メートルほどの巨大な二足歩行の昆虫を思わせるその身体はライトブルーで、武人然とした態度で跪く。

 

「第6階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に。」

 

「お、同じく、第6階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。お、御身の前に。」

 

 薄黒い肌と長く尖った耳を持つダークエルフの双子は、姉は元気に、弟は気弱に一歩前に出る。だが、姉は男子の格好、弟は女子の格好をしている。

 

「第7階層守護者、デミウルゴス、御身の前に。」

 

 スーツにネクタイ、さらには丸メガネとインテリめいた格好をしているが、人間を陥れ破滅に追いやることを悦びとする悪魔である。その頭脳はナザリック内でも最高峰である。

 

「第9階層領域守護者 闇潜ミ チャリオット 御身ノ前ニ」

 

 闇潜みも他の皆にならって一歩前に出て跪く。チャリオットも膝をつき頭を下げる。

 

「守護者統括、アルベド、御身の前に。」

 

 …なんだろう今一瞬こっちに向かってほほ笑んだような気がしたんだけど気の所為だよね?流石にこんな真剣な所で…大丈夫だよね?

 

「第4階守護者ガルガンチュア及び第8階層ヴィクティムを除き、各階層守護者、御方々の前に平伏し奉る。…ご命令を、至高の御方々よ。我らの忠義全てを捧げます。」

 

 アルベドの微笑はともかく、私は心の底から感動していた。アインズ・ウール・ゴウンの皆が作り残して行ったNPC達に命が宿った今、これ程まで素晴らしい者達に変わるなんて。それぞれがそれぞれの創造者の意思を継いでいるかの様だ。となりをそっと窺うと、それはモモさんも同じだった様だ。

 

「素晴らしいぞ、守護者達よ!お前達の忠義、しかと受け止めた。これよりはお前達の力を必要とする事が幾度も訪れるやもしれん。だが、お前達であれば必ずや成し遂げるであろうと確信した!」

 

 モモさんは大きくを手を広げながら、言葉を紡いでいく。何故か発動している絶望のオーラの所為もあり、それはまさに魔王そのものだった。うんうんかっこいいね!仕えがいがあるってもんだよ。

 

「さて、皆面を上げよ。お前たちを呼んだ理由を説明する前に、やはりしっかりと報告しておくべきだな…アーロン。」

 

 こちらを向きながらそう言い放つモモさん。え、何?何しゃべればいいの?ひとまず守護者達の目線はこちらに集まっており、何もしない訳にもいかず前に歩み出る。う~ん取り敢えず。

 

「皆の者、まずはただいまと言っておこう。そして、私が居ない間ここを守っていてくれた事を感謝しよう。そして、長い間ここを留守にしてしまった事を詫びよう。」

 

 頭は下げないが、しっかりと誠意を込め言葉にしていく。すると、デミウルゴスが声を上げる。

 

「感謝など勿体無き御言葉。ですがその御言葉一つで報われます。」

 

「さて、皆私が何をしていたのか気になるだろう。だから、お前たちを信用して全てを話そう。この度私がここを離れてのは…私の創造主たる方の一人が亡くなられてしまったのだ。」

 

 その瞬間守護者達の顔が一気に厳しいものに変わる。あれ、なんかおかしい事言ったかな?人間って事は言えないからこの世界っぽく言ったんだけど。

 

「そ、それでだな、残されたもう一人の方もかなり不安定な状態にあり私が助けにいかねば不味い状態であったのだ。だがこれからは居なくなる事はない。この身果てるまで王と共にある事をここで誓おう!」

 

 妖刀を掲げ、声高らかに宣言する。守護者達の様子が気になって視線だけ動かすと、そこには神々しいものを見る目をした守護者達の姿があった。あれ?そんなに凄いかな?掲げた刀を戻し、もとの場所に戻る。正直ちょっと恥ずかしいんだけど…

 

「さて、アーロンがここ出ていった理由、ここに戻る事について異論のある者は居るか?」

 

 モモンガの言う事に異を唱える者は居るはずも無かった。

 

「宜しい。では本題に入ろう。」

 

 それからモモさんは現在ナザリックが不測の事態に巻き込まれている事。ナザリック地下大墳墓がかつての沼地から見知らぬ草原へと転移している事。この異常事態の前兆などが無かったか、それ以外にも各階層に異常は発生していないか守護者達に問いかけていく。

 

 全員に聞き終えた辺りで、セバスが小走りでこちらに向かって来た。

 

「モモンガ様、遅くなり申し訳ありません。」

 

「いや、構わん。それより周辺の状況を聞かせてくれないか?」

 

 そうして、セバスから得た情報からすれば恐らくここがユグドラシルで無い事が分かった。見知らぬ地でどんな力を持つ者がいるのか分からない以上、警戒するに越した事は無い。そう判断したであろうモモさんはナザリックの警戒レベルの引き上げ。ナザリックの視覚的な隠ぺいなどを的確に指示する。この辺りは流石モモさんだな~と思う。自分ではただの連絡係なんて言っていたけど、ギルマスとしての能力は決して低くないと思うのだが。

 

 一通り指示した後、こちらに目配せを送ってくる。多分抜けた所がないのか心配なのだろう。だが、モモさんに思いつかない事を私が思いつく筈も無く、問題無いという意味を込めて小さくうなずく。

 

「最後に、各階層守護者に聞きたい事がある。まずはシャルティア…お前にとって私とアーロンとは一体どの様な人物だ?」

 

「モモンガ様は美の結晶。まさに世界で最も美しい御方でありんす。その白き御身体と比べては世にある全ての宝石も色褪せて見える事でしょう。アーロン様はまさにモモンガ様をお守りする麗しの騎士。その雄姿の前では例えどんな華でも恥じらう事でしょう。」

 

 あぁ…成程、これからどういうモモンガ、アーロンを演じれば良いのか折角だから聞こうって魂胆か。流石モモさん!けど麗しの騎士ってなんだか照れるね…

 

「コキュートス。」

 

「モモンガ様ハ守護者各員ヨリモ強者デアリ、コノナザリック地下大墳墓ノ支配者ニ相応シキ御方。アーロン様ハ正ニモモンガ様ノ矛デアリ盾。同ジ武人トシテ目指スベキ高ミデ御座イマス。」

 

「アウラ。」

 

「モモンガ様は慈悲深く、深い配慮に優れたお方です。アーロン様はあのチャリオットすらも懐いてしまう程強く、そしてお優しい方です。」

 

「マーレ。」

 

「モモンガ様は、す、凄く優しい方だと思います。アーロン様はとてもかっこいい方だと思います。」

 

「デミウルゴス。」

 

「モモンガ様は賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力も有されたお方。まさに端倪すべからざる、という言葉が相応しいお方です。アーロン様はその絶対無比の強さで数多の敵を切り捨て、モモンガ様をお守りする存在。まさに天下無双とはアーロン様の為の言葉でしょう。」

 

「セバス。」

 

「モモンガ様は至高の方々の総括であられ、最後まで我々を見放さず残っていただけた慈悲深き方です。アーロン様はどんな時でも我々の様な者にまでお声を掛けてくださり、そしてここに戻って来て下さった慈悲深きお方です。」

 

 あ~確かにinする度にセバスやメイドに話しかけてたね私。メイドとか執事っていうキャラが好きなものだからついつい気になっちゃって。

 

「闇潜み。」

 

「モモンガ様ハ至高ノ方々ノ頂点ニ君臨シ アァロン様ノ仕エル絶対ノ王デアラレマス アァロン様ハ私ヲ生ミ出シテ下サッタオ方デ 私ガオ仕エスル絶対の主デス」

 

「最後になったが、アルベド。」

 

「モモンガ様は至高の方々の最高責任者であり、私どもの最高の主人で御座います。アーロン様はその剣術と折れぬ心で至高の方々の中でも随一の強者であり、守護者としての憧れであります。そして私の愛しいお方です。」

 

「……各員の考えは充分に理解した。今後とも忠義に励め。アーロン、一度レメゲントンに向かう。お前も来るのだ。」

 

「……了解した王よ。なら指輪を返してはくれないか?ここを離れる時に王に預けたままだったのをすっかり忘れていた。」

 

 そう言われたモモさんは、空中に手を突っ込むとリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを取りだし渡してくる。今のどうやったんだろう…後で聞いてみよう。そうして指輪を使い二人でレメゲトンに転移する。

 

「「疲れた…」」

 

 肉体的な疲労は大したことは無いが、精神的な疲労が肩にのしかかった。

 

「…あいつら…え、何あの高評価…」

 

「玉座の間でのアルベドやセバスの反応からして予想はしていたけど、予想以上だったね…私天下無双だって。」

 

「あいつら…マジだ…」

 

 あの場での発言はすべて本気だろう。理由は?と聞かれればちゃんとしたものはないが、本気と思わせるだけの雰囲気があった。

 

「ま、まぁこれでいきなり敵対とかはなくなった訳ですし。」

 

「でも私達、あれを演じないといけないんだよ?」

 

「「……」」

 

 モモさんは絶対の支配者。私は王を守る天下無双の騎士。どちらもやれと言われてすぐに出来るようなものではない。

 

「「はぁ…」」

 

 身の安全は訪れたが、心の安寧はまだ訪れなさそうだ…

 

 

 

 

 

 

 頭を地に着けんとする重圧が消える。それからしばらくしてアルベドが立ちあがる。それに続くように他の守護者達も立ち上がる。

 

「す、凄く怖かったね、お姉ちゃん。」

 

「ほんと。あたし押しつぶされちゃうかと思った。」

 

「流石はモモンガ様。私達守護者にすらそのお力が効果を発揮するなんて…」

 

「至高ノ御方デアル以上、我々ヨリ強イ事は知ッテイタガ、コレホドトハ…」

 

 口ぐちにモモンガの印象を言いあう守護者達。だが、それはすぐに帰って来たもう一人の主の話題に切り替わる。

 

「それにしても、アーロン様をお創りになられた方を倒すなんて…一体何者なの?」

 

 アウラが疑問を口にする。

 

「アーロン様は至高の方々の中でも最強と言っても過言ではない。なんと言ってもあのたっち・みー様に勝った唯一の御方なのだから。」

 

「ソノアァロン様ヲオ創リにナラレタ御方ハサラニ強イ筈 マサカソンナ強者トノ戦イニ挑ンデイヨウトハ 配下トシテツイテ行ケナカッタ事ガ悔ヤマレマス 」

 

 守護者一同は口を閉ざす。その戦いにシモベとして付いて行く事が出来なかった事。そんな戦いに赴いていたアーロンを、私達を見捨てたなんて思ってしまっていた事に深い罪悪感を感じていた。

 

「…悔やんでも仕方がありません。アーロン様でも打ち果たすのに長い年月が掛かった相手。我々程度の助力では足手まといになっただけでしょう。ならば、これからの働きでアーロン様のお力になるのが、我々の使命でしょう。」

 

 デミウルゴスの言葉に皆が頷く中、今だ一人だけ跪いている者がいた。

 

「ドウシタ、シャルティア…何カアッタノカ?」

 

「あ、あの凄い気配を受けて、ゾクゾクしてしまて…少うし下着がまずいことになってありんすの。」

 

 真剣な雰囲気だったのが一気に壊れる。皆が何を言うべきか迷い。彼女が死体愛好癖である事を思い出し、結局は口を閉じたのだが、一人それでは終わらない者がいた。

アルベドだ。

 

「このビッチ。」

 

「はぁ?至高の方々のお一人であるモモンガ様からあれほどの力の波動、ご褒美を頂けたのよ。それで濡れん方が頭がおかしいわ清純に作られたのではなく、単に不干渉なんではないの?ねぇ大口ゴリラ。」

 

 誰もが喧嘩の勃発を思い浮かんだが、アルベドの対応は予想とは違った。

 

「勘違いしている様だから言っておくけど、私の愛はアーロン様ただ一人に向いているのよ。確かにモモンガ様は最高の主人…けど主従と愛は全くの別物よ。」

 

 その言葉が何か引っかかるデミウルゴス。それを明らかにするためアルベドに質問をする。

 

「ならばアルベド。これはあくまで仮定の話だが、アーロン様がモモンガ様を見限りここを離れて行った場合…君はどうするのだい?」

 

「無論、アーロン様に付いて行くわ。」

 

 刹那の瞬間、その場に殺気が立ち込める。それも当然だ。守護者統括の立場にあるアルベドが、アーロンが裏切り行為を行った場合自分もそれに着いて行くと言っているのだ。

 

「アルベド…その発言の意味を理解しているのかい?返答次第ではいくら君とて…」

 

「分かっているわデミウルゴス。でも、私の中ではそう決まっているわ。例えナザリックと敵対する事になっても私は…アーロン様に付いて行くわ。」

 

 でも…、一触即発の空気の中呟かれた一言。

 

「私の愛するアーロン様が、モモンガ様を裏切るなんて事は絶対にあり得ないわ。」

 

 その瞳は確信に満ちており、その場の殺気は少しずつ小さくなっていく。

 

「デミウルゴス、貴方が言った事よ。仮定の話だと。そもそもアーロン様がモモンガ様を裏切る事が無い以上私がモモンガ様を裏切る事は決してない。そうでしょう?」

 

「いや、失礼。少し冷静さを欠いていたようだ。君の言う通りだ、申し訳ない。」

 

「いいのよ。それでは、これからの計画を。」

 

 

 

 

 




というわけで第4話如何でしたでしょうか?

NPC二人目?はチャリオットです。騎士と言えば馬だろうという安直な考えです。

オーバーロードは面白いキャラが多いのは良いのですが、その分一人一人の出番が少ないのでちょっと残念という感じです。


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第5話

アーロンさんのギルド内の実力は自分の中では

たっち・みー≧アーロン>武人建御雷ぐらいだと思ってます。


たっちさんの強さって、ワールドチャンピオンってのもありますけど普通の神器級アイテムじゃ傷一つ付けられない鎧の方がチートだと思うんです。



 

 

 

「すまんなたっちさん。態々決闘場まで来てもらって。」

 

「構いませんよ。ギルメン同士の戦闘はここでしか出来ませんし。それで、本気でいいんですね?」

 

「勿論だ。やはり、戦士職最強の本気を一度は味わってみたいのでな。」

 

「負ける気はありませんよ。これでもワールドチャンピオンなものですから。」

 

「安心してくれ。これは公式試合じゃない。負けても泥はつかんよ。」

 

「ふっ…それじゃあ、行きます!」

 

「推して参る!」

 

 

 

 

 

「うん……あれ、ここは……?」

 

「アァロン様 ドウカサレマシタカ」

 

 そこはいつも変わらぬ夕日が差し込む私の自室。床を見ればアーロンである私の姿が目に入る。どうやら自室で胡坐をかいて寝ていた様だ。目の前には心配そうにこちら覗き込む闇潜みがいた。

 

「…あぁ、どうやら昔の事を夢に見ていた様だな。たっちさんと始めて戦った時の事だな。」

 

「至高ノ方々デ唯一 アノタッチ・ミー様ニ勝利ナサレタ時ノ事デスカ?」

 

「正直、この妖刀の力に頼りきった戦いだったがな。開幕腹切り2重エンチャントしてこちらの体力がつきる前に向こうを削りきるゴリ押し作戦だった。こいつのエンチャント時の特殊バッドステータス、『出血』が無かったら多分押し負けていたな。」

 

 運営様々だよ、と口にはしないが心の中で呟く。

 

 この『出血』のバッドステータスは無数にあるユグドラシルの武器の中でも、与えられるのがこの武器だけなのだ。効果は鎧、盾など、実際に肉体に攻撃を当てなくても一定量このバッドステータスが蓄積すると、蓄積した量に応じて相手にダメージを与えるというもの。モモさんの様に肉が無いスケルトン系や、霊体系の種族には効果が無いが、それでも充分に強い。ウロボロスを使った時に、運営に駄目元で頼んだ所、この様な仕様になって返ってきた。どう考えてもチートです本当にありがとう運営さん。お陰で三日天下が味わえたよ。

 

 ちなみにこのバッドステータスの存在を模擬戦をした弐式炎雷さんは知っていたのだが、誰にも話さないで欲しいと頼んでいたのだ。

 

 はっきり言ってあの戦闘は、たっちさんに不利過ぎた。腹切りのエンチャントによって、ほぼ無敵といって良かった純白の鎧の防御力を上回る事が出来たし、攻撃を受ければ見た事もないバッドステータスが溜って行けば、防御主体ではなく回避主体になる。

一言で言えばたっちさんはいつもの戦いが出来なかったのだ。

 

 けどそんな事は知ったこっちゃない。勝ちは勝ち。決闘場からすっとんで帰りギルメンに自慢しまくった。最初は皆マジ?って感じではあったが、たっちさんの、

 

「不覚をとった。」

 

 この一言で信じてくれた。いや~滅茶苦茶気分よかったよ。だってあのたっちさんに勝ったんだよ?もうワールドクエスト達成ぐらい嬉しかった。

 

 が、そんな日常はすぐに過ぎ去った。

 

「アーロンさん。もう一度私と戦ってくれないか?」

 

 たっちさんからの再戦の依頼。もちろん受けたよ。勝てる自信もあったよ。

 

 結果は惨敗。たっちさんは戦闘開始の瞬間から一気に間合いを詰めて来て腹切りを使わせてくれなかった。結果、たっちさんのHPの半分も削れず敗北。ギルド内最強の名はたった三日で返す事になった。

 

「ソレデモ勝利サレタ事実は無クナリマセン 流石ハアァロン様」

 

「そうだな、そう言ってくれると自信が持てるな。さてと、私は王の元に行く。留守は任せるぞ。」

 

「畏マリマシタ」

 

 

 

 

 礼をする闇潜みを部屋に残し、モモさんを探しに向かう。とりあえずモモさんの自室に行くと、そこにモモさんの姿はなく、代わりに一人のメイドの姿があった。

 

「ナーベラルか。」

 

「これはアーロン様。いかがなされましたか?」

 

 私と同じドッペルゲンガーのナーベラル・ガンマ。プレアデスの一人だ。黒髪ポニーテルの大和撫子風のメイドで、同種族という事もあって一番のお気に入りの娘だ。

 

「王を探しているのだが、どこにいるか知らないか?」

 

「モモンガ様は先程お一人で外出されました。ですが、行き先までは把握しておりません。なんでも極秘に行いたい事があるとおっしゃっていましたので。」

 

 極秘にやりたい事?なんだろう。けど困ったな。どこにいるか分からないのか…あ、そうだ『伝言』使えばいいだけの事か。

 

《モモさん、モモさん聞こえます?》

 

 頭の中で念じるとすぐに返答が返って来た。

 

《はい、聞こえますよ。どうかしましたか?》

 

 ユグドラシル時代と同様に使える事が分かった。『伝言』守護者達にも問題無く使う事が出来ると分かった。そして、私とモモさん以外のギルメンに送ってみたものの、返信が来る事は無かった。

 

《今どこに居るのかな~って思ったんだけど、極秘で動いてるなら無理に言わなくても良いんだけど。》

 

《あぁ、ナーベラルに聞きましたか。別にそんなんじゃないですよ。ただちょっと仰々しい態度に疲れたので一人になって休もうと思って。ナーベラルが近衛を付けるって聞かないものでしたから咄嗟にそう言ったんですよ。》

 

 私は普段からロールプレイを楽しんでいたから守護者達のあの態度はあまり困らないし、まぁ天下無双は置いておいて王を守る騎士というのもいつも通りだけど、モモさんは一介のサラリーマンがいきなり魔王をやるようなものだから疲れるのも当然か。

 

《あ~成程。じゃあ行かない方が良いかな?》

 

《いえ、ぜひとも来て下さい。いましがたデミウルゴスに捕まっちゃって…中央霊廟の入口にいるので…》

 

《了解、すぐに行くよ。》

 

 さてと、じゃあ行きますか。

 

「王の居場所が分かった。私もこれから向かうとしよう。

 

「近衛はいかがいたしましょう?」

 

 う~ん、ここで断ったらなんかナーベちゃんかわいそうだし、連れて行ってあげるか。

 

「ならばナーベラル。私の護衛として付いて来るのだ。」

 

「畏まりました。」

 

 私はモモさんから教えてもらったアイテムボックスに手を突っ込み、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを取りだす。これはモモさんから貰った58個の予備の指輪の内の2つだ。闇潜みともう一人に与えようと貰ったんだけど、後でまた貰おう。一緒に行動するなら必要だしね。

 

「さぁ、ナーベラルよ受け取れ。」

 

「そ、それは至高の方々のみ着ける事を許された至高の指輪!私の様な者が受け取れるはずがありません!」

 

 やっぱりそういう認識なのか。個人的にはエリア移動が楽になる指輪ってだけなんだけど。ここはちょっと凝った言い回しをしてみますか。

 

「ナーベラルよ。これはお前の日々の働きの褒美でもあると同時に、今後のお前の働きへの期待の証でもあるのだ。」

 

「今後への期待、ですか。」

 

 お、いいね食いついた。基本NPC達は期待されたり頼られるって事が嬉しいようだ。

 

「そうだ。現状私は指輪を使い瞬時に転移出来るが、お前はそうではない。それでは護衛として充分に役目を果たす事が出来まい。それに、この指輪をお前が持つ事で私や王がもしナザリック内で危険な目に会った時、お前なら一番に駆けつけてくれると信じているぞ。」

 

 一瞬考える様な素振りを見せるナーベラル。だが、意を決した様子で私の手から指輪を受け取る。

 

「私にこれほどまでの褒美を与えていただき、ありがとうございます。今後一層の働きをお約束いたします。この命尽きようとも、至高の方々をお守りいたします。」

 

「簡単に命を掛けるな。真に忠義を貫くのであれば、いついかなる時でも共にある気構えでいろ。まぁ、一度ここを去ってしまった私が言っても説得力がないがな…」

 

「そ、そんな事ございません!お言葉、しかと胸に刻み込みました。いついかなる時でもお二人と共にあり、お守り致しましょう。」

 

 私が頷くのを確認してナーベラルが指輪を着けるのだが、なぜか着けたのは左の薬指だった。う~んこれ意味を理解してやってるのかな?

 

「さてと、あまり王を待たせるのは失礼だな。行くぞ。」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 そうして二人で中央霊廟の入口に来ると、そこで待っていたのはデミウルゴス配下のイビルロード達であった。

 

「これはアーロン様。」

 

 その場にいた12体の魔将達が一斉に跪く。その礼は悪魔とは思えない程綺麗で、流石はデミウルゴスの親衛隊だと感心させられる。

 

「楽にして良い。ここに王が来たと思うのだが、今どこに?」

 

「…いえ、ここにモモンガ様は来ておられません。」

 

 あれ、おかしいなさっきここにいるって言ってたのに。けどここに居る魔将達は来てないって言ってる。なんで?

 

「ふむ…ならデミウルゴスはどうした?」

 

「デミウルゴス様は先程、ダークウォーリア―様なる方に付き従って行かれました。」

 

 あ~なんとなく分かったぞ。多分モモンガって事がバレると結局いつもの感じになっちゃうから見た目と名前を変えて出てきたはいいものの、すぐにデミウルゴスに正体がバレてしまったってところかな。けど引くに引けずになんかしら理由をつけて押し通したんだろう。つまり魔将達は口止めされてるって事だね。

 

「分かった、苦労を掛けるな。」

 

「滅相も御座いません…ダークウォーリア―様はフライを使って飛んで行かれましたが、恐らく遠くへは行ってないかと。」

 

「そうか、助かる。ナーベラル行くぞ。」

 

 そう言って歩き出そうとすると、後ろから声をられる。

 

「アーロン様!」

 

 振り返ると、こちらに小走りで向かってくるアルベドの姿があった。

 

「アルベドか。お前は何故ここに?」

 

「はい、少しばかりデミウルゴスに用がありまして…はっ!こんな汚れた格好でアーロン様にお会いしてしまうなんて!すみませんアーロン様少しばかり湯浴みをしてきますので…」

 

 汚れた格好っていうけど、ちょっと服の裾が埃で汚れてる程度だよ?けど綺麗な女の子が一生懸命に働いた結果がこれならフォローするのが騎士ってものだろう。

 

「気にする必要は無いぞアルベド。アルベドの美しさはその程度の汚れで損なわれたりはしない。それに、その汚れはナザリックの為、ひいては私や王の為駆け回ってくれた証拠だ。自らを厭わず働くお前の様な家臣を持て、私は幸せだよ。」

 

「く、くふー!う、美しいなんてそんな。も、勿体にゃき御言葉!」

 

 噛んだ、可愛い。だが、その嬉しそうな顔はナーベラルの手の辺りに目が行った瞬間、無表情に変わった。え、なにそれ怖い…

 

「…アーロン様。お聞きしたい事が御座います。」

 

「な、なんだアルベドよ。」

 

「なぜ、ナーベラル・ガンマが、その指輪を、そこに、着けているのでしょうか?」

 

 怪しげな微笑を浮かべながら質問してくるアルベドからは殺気に似た何かが漂っている。正直めっちゃ怖い。え、私悪いことした?周りを見ると、魔将達も先程まで跪いていた所から2、3歩下がった所に移動している。当のナーベラルは…あ、駄目だ固まっている。

 

「それはだな。少し外に出る用事があったのでナーベラルに護衛を頼んだのだが、護衛が転移出来なく私のそばを離れるなど本末転倒。なのでこれまでの働きと、これからの働きを期待しこの指輪を授けたのだ。」

 

 アルベドはほんの一瞬、聞きたいのはそこじゃない、といった顔をするがすぐに微笑を浮かべる。この状況どうしよう、やっぱりアルベドも欲しいのかな。まぁ他の者が褒美を貰っていて自分は貰って無いという状況はやはり面白くはないだろう。

 

「そうだな。この指輪は守護者統括であるお前にも必要な物だろう。」

 

 そう言って、もうひとつの指輪をアルベドに渡す。

 

「……感謝致します。」

 

 ナーベラルと違ってすぐに受け取った事に若干の違和感を覚えたが、先程までの重い空気は霧散する。

 

「さてと、それでは行くかナーベラルよ。アルベドはどうする?」

 

「私は少し魔将達と話す事がありますので残らせて頂きます。」

 

「そうか、ではまたな。」

 

 そう言っているアルベドは顔が崩れそうになるのを必死に堪えており、翼は小刻みに痙攣している。うん、嬉しいんだね。ここまで露骨に表れるのもどうかと思うんだけど。

 

 

 

 

そのままアルベドを置いて霊廟を出ると、後ろの方から「よっしゃ!」と逞しい声が聞こえたが聞こえなかった事にした。

 

 

 

 

 確かモモさんは飛んでったんだっけ?アイテムボックスから飛行のネックレスを取りだす。

 

「フライ!」

 

 重力から解放された私は、ふわりと宙に浮かびあがる。ひとまずは上から見下ろしてみますか。一気に加速しながらドンドン上昇していく。ナーベラルも『飛行』の魔法を使い追従してくる。

 

 かなり上がった所でふたりの姿を発見した。モモさんは漆黒のフリューテッドアーマーに身を包んでおり、その後ろには半悪魔化したデミウルゴスが控えている。

 

 近づくと二人は何か話しているようだった。

 

「この世界にどのような存在がいるかも不明な段階でか?ただ……そうだな。世界征服なんて面白いかもしれんな。」

 

 あ、駄目だこの人。星空にあてられて頭が…

 

「それはあまりオススメしないがな、王よ。」

 

 二人の間に割って入る様に止まる。ナーベラルはデミウルゴスの後ろに控えてる様だ。

 

「アーロンか。」

 

「遅くなって申し訳ない。だが、王よ。さっきのあれは本気か?」

 

「まさか。そんな事を本気で言うほど馬鹿ではないつもりだが。」

 

 ですよねー流石にそうだよね。本気だったらちょっと引いてたかも。

 

「それにしても…美しいな。」

 

「あぁ、他の皆にも見せてやりたい。特にブルー・プラネットさんにはな。」

 

「多分あの人なら泣く程喜ぶだろうな。」

 

 目の前に広がる星空を二人で眺めながら、仲間達を思い浮かべる。もしかしたら他の皆もこっちに来てるのではないか。今のこの状況がそもそも異常なのだから、未知の現象が起き誰かがこちらの世界に来ていてもおかしくはない。

 

「しかしこの世界に居るのは本当に…私達だけなのか?他のギルドメンバーも来ているのではないか?」

 

 どうやらモモさんも同じことを考えていた様だ。

 

「ならば探しに行けばいい。見つからないなら向こうから来て貰おうじゃないか。」

 

 そう、別にやらなきゃいけない事ががある訳じゃない。確かにこの世界の戦闘レベルの水準が分からない以上迂闊には動けないが、探しに行ったって良いんだ。もしも見つからなければ、向こうに見つけてもらえば良い。

 

「アインズ・ウール・ゴウン。そして、その支配者モモンガの名をこの世のすべての者が知れば、向こうから勝手に出て来てくれるさ。」

 

「なら、それこそ世界征服の方がいいのではないか?世界の長ともなれば、知らぬ者などいまい。」

 

「そんな面倒な事、私は御免だ。一体幾つの国を滅ぼすつもりだ?その後の管理運営を王一人でやるなら止めはせん。…そうだな…英雄になればいい。誰もが憧れる伝説の英雄にな。」

 

「英雄か。確かに、たっちさん辺りが来ていたとして、世界征服を目論む魔王なんてやっていたら怒られてしまうな。なら、英雄の方が聞こえはいいな。」

 

 そんな事を話していると、地表の土がいきなり海原の様に動き出した。それらは徐々に大きくなり、ちょっとした小山程に成長しナザリックに押し寄せた。恐らくマーレに頼んでいたナザリック隠ぺいの為の作業だろう。ナザリックの外壁に土を被せていき、そこから草や木を生やして見た感じ自然の丘の様に見せるんだったっけ。

 

「『大地の大波』。それもスキルで範囲拡大してクラススキルまで使っているな。」

 

「流石はマーレといったところか。王の判断は間違っていなかった様だな。」

 

「モ、ダークウォーリア―様「モモンガで構わん。」モモンガ様、これからのご予定をお聞きしても?」

 

「マーレの陣中見舞いに行く。何が褒美として良いだろうか?」

 

「モモンガ様がお声を掛けるだけで、十分かと。」

 

 その後4人でマーレの陣中見舞いに行き、私と同じ考えでマーレにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを渡そうとするモモさんだったが、ナーベラル以上に遠慮していたが、最終的に命令に命令という形で受け取った。

 

「デミウルゴスは…また後日としよう。」

 

「畏まりました。かの偉大なる指輪を頂けるよう努力してまいります。」

 

「そうか。ではすべき事も済んだ。私は叱られないうちに9階層に戻るとしよう。」

 

 やっぱりナーベラルとアルベドに指輪渡したって事言っておいた方がいいだろうか。さっきマーレにお前が最初だって言っちゃってたしなぁ…

 

《モモさん。》

 

《どうしましたアーロンさん?こんな近くで…何か不味い事でも?》

 

《え~とね、さっき闇潜みと師匠に渡すつもりだった指輪を色々あってナーベラルとアルベドに渡しちゃったんだけど…大丈夫かな?》

 

《ええ。問題は無いと思いますよ。私もアルベドには渡すつもりでしたし。ナーベラルはまぁ…プレアデス達にも渡しておきましょうか。ガルガンチュアとヴィクティムを除いた守護者達と、セバス、プレアデスぐらいでいいですかね。》

 

《多分それで問題ないと思うよ。ごめんね、面倒掛けて。》

 

《いえ、気にしないで下さい。…それにしても英雄ですか。》

 

《似合ってると思うよ?》

 

《それこそ冗談ですよ。それじゃあまた。》

 

《うん、またね。》

 

 『伝言』を切るとすぐさま転移していったモモさん。その場に残ったのはナーベラルとデミウルゴスだけだ。マーレはすでに作業に戻っている。

 

「それではアーロン様、私は少しアルベドと話す事がありますのでここで失礼いたします。」

 

「あぁ、分かった。デミウルゴス、王の護衛ご苦労であった。」

 

「労いの言葉など。配下として当然の事をしたまでです。それでは失礼いたします。」

 

 そうしてまた、半悪魔化して霊廟の方へと飛んでいった。

 

「ナーベラル、お前もご苦労であった。下がって良いぞ。この後少し会いに行きたい者がいるのでな。」

 

「分かりました。それではアーロン様、失礼いたします。」

 

 そう言って深く一礼をした後、ナーベラルも転移していった。

 

「さてと、それじゃあ行くとしますか。帰ってから三日も何してたんだとか言われそうだなぁ。」

 

 私は、私が作った最後のNPCに会いに行く為に7階層に向かった。

 

 

 

 

 

 




残光ブンブンは許さない。絶対にだ。


次回はカルネ村になるのかな?多分なります。

そろそろアーロンっぽさを出さなきゃ不味いと思い始めた今日この頃です(主に腹切りとか)


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第6話

 第7階層の端にある溶岩溜りの中に建つ、古い石造りの建物。そこに掛かる橋の上を歩きながら溜め息をつく。

 

「はぁ…」

 

 もうかれこれ三日連続でここに通っている。仕方がない、する事がないのだ。普通の社会人としての能力は持ち合わせているつもりだし、この体になったお陰で戦闘能力が格段にあがり、余程化け物じみた相手じゃなければ負ける事は無いだろう。だが、私に今求められているのは、このナザリックの支配者としてここを運営していく能力だった。はっきりいってそんな能力は持っていなかった。

 

「そんなの普通のOLだった私に求められてもなぁ…」

 

 そんな私に対して、モモさんの統率能力は滅茶苦茶高かった。ナザリック内部の現状と指揮系統の把握。周辺地理の調査に防衛網の製作。魔法やスクロールの使用に問題無いかの調査など、様々な事を行っている。自分では大した事はないと言っているモモさんだが、絶対にそんな事はない。アインズ・ウール・ゴウンでは基本多数決で様々な事を決めていたので、今まで能力が発揮されなかった様だ。

 

 私が出来ないのとモモさんが出来すぎるのが合わさった結果、私のする事がないという状況に陥ってしまった。正確には私が思いつく頃にはモモさんが済ませているという感じだ。そして建物に着くと私は膝から崩れ落ちてしまう。

 

「ししょぉ~…」

 

「ああ、またお前か。情けない声を出すな、馬鹿弟子が。」

 

  そこに居たのは全身をボロい黒色の布で包んだ女性だ。ローブやスカートで肌は殆ど見えず、目深にかぶったフードからは口元しか見えない。彼女が私が創った最後のNPCのイザリスのクラーナだ。闇潜みとチャリオットとは違い彼女は一作品前のダークソウルに登場するキャラで、主人公に呪術を教えてくれるNPCである。クールで素っ気ない態度で主人公の事を馬鹿弟子と呼ぶが、何かと主人公の事を心配してくれる良いキャラである。一部のプレイヤーからは師匠と呼ばれている。

 

 ここにいるクラーナは、レベル60の『呪術師(ソーマタージ)』で設定上私の呪術の師匠という事になっている。なので素の方の私で接しても問題無い数少ない相手だ。

 

 始めてここに来た時疑問に思ったのでモモさんに倣ってこんな事を聞いてみた。

 

「私はどんな存在?」

 

 すると、

 

「私を創った、才能の無い馬鹿弟子だ。」

 

 と答えが返って来た。つまり私の事を創造者と理解してはいるが、設定に従って師匠という立場にいる様だ。だから、ここ限定ではあるが上下関係は師匠の方が上である。ちなみに才能がないというのは純粋に私がソーサラー系のクラスを取って無いからそう言われている様だ。

 

「全く。こんな所に来ている暇があったら、少しはモモンガ様のお役にたってきたらどうだ?」

 

「…そのモモンガ様にやる事がないって言われたんですよぉ…」

 

 流石に何もしないというのも居心地が悪いので、先程モモさんに仕事は無いかと聞きに行ったのだが、

 

「ああ、大丈夫ですよ。今やらなきゃいけない事は殆ど終わっているので。あ、そうだアーロンさん。この『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)』の使い方分かりますか?……そんなに気を落とさないで下さい。大丈夫ですよ。今すぐ必要な訳じゃないですし。時間を掛けてじっくり調べてみます。」

 

 泣きそうになった。頼られているのにそれに応えられないというのはかなり辛いものがある。モモさんが必死に使い方を模索しているのに何もしないというのは居心地が悪かったので、そこはセバスに任せてここに来てしまった。

 

「ふむ…まぁお前は聡明なモモンガ様のように、頭を使った事に向いていないのは確かだな。まぁそう気にするな。お前が必要だったら、御呼びが掛かるさ。」

 

「そうですかね…」 

 

「…暇なのだろう。だったら私の話し相手でもしていろ。こんな馬鹿弟子以外ここに来る者は居ないからな。外の情報に疎いんだ。」

 

「…そうします。」

 

 気を使ってくれているのだろう。師匠の優しさに泣きそうになるが、なんとか堪えてここ最近の出来事を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

「それでですね、師匠《アーロンさん》…ん、モモさん?」

 

 十分程話した辺りでモモさんから『伝言(メッセージ)』が飛んできた。

 

《どうかした、モモさん?》

 

《えっとですね、こういうのは話し合って決めるべきだと思うんですけど、今から南西10km程にある村が武装した集団に襲われているので、私の戦闘能力を調べるついでに助けに行ってきます。アルベドを連れていくので…不味いな…すいませんもう切りますね!》

 

「え、ちょっと待ってっ!……置いてかれた!?」

 

「なんだ、モモンガ様からか?何と仰っていたんだ?」

 

「なんか、村を助けに行くって…」

 

「なら、こんな所に居ないでさっさと行け。モモンガ様を守るのがお前の役目だろう。」

 

 …そうだよね、多分置いてかれたんじゃなくて急を要するから先に行っただけ。そうだ、そうに違いない、きっと…ポジティブでいよう。私はいらない子じゃない!多分!

 

「それじゃあ師匠、行ってきます。」

 

「行って来い。怪我なんかするんじゃないぞ、馬鹿弟子が。」

 

 

 

 

 

 

 指輪を使って執務室まで転移するとそこにはセバスとアルベドの姿があった。

 

「間に合ったぁ、じゃなくて…間に合ったか。」

 

「アーロン様、どうしてこちらに?」

 

 そう尋ねるアルベドは、棘の生えた漆黒の鎧に完全に身を包み、漆黒のカイトシールドと緑色の微光を宿したバルディッシュを装備していた。

 

「なに、王の御出陣と聞いたのでな。供をするのが騎士の務めだろう。それにしても、いつものアルベドは綺麗だが、戦装束に身を包むと凛々しく見えるな。」

 

「ききき綺麗だなんて!く、くふー!そ、それに凛々しいという言葉はまさにアーロン様にこそふさわしい言葉です!」

 

「あ、ありがとうアルベド。それでは行くとするか。セバス、後は任せたぞ。」

 

 確信がある訳ではないが、私に対するアルベドの態度はモモさんに対するのとは違う。創造者という事に関しては一緒なのだが、やはりあの設定の所為だろう。なんか凄い悪い気がする…モモさんが悪いんだけど…

 

「畏まりました。アーロン様、アルベド様、お気をつけて。」

 

 深く礼をするセバス。それを横目で見ながら、アルベドを連れ『転移門(ゲート)』をくぐる。執務室から森林へ一瞬で景色が変わりそこには、モモさんと二人の少女。そして物言わぬ死体となった騎士だけだった。

 

「遅くなったな、王よ。」

 

「準備に時間が掛かり、申し訳ありませんでした。」

 

「いや、そうでもない。実に良いタイミングだ。アーロンもよく来てくれた。」

 

 そう言ったモモさんの目線は二人の少女に移る。私も二人の方を見るが、その前に騎士の死体へと目が行く。人が死んでいる。感じるのはそれだけだった。どうしてだろうと一瞬考えるも、そういえば今は身も心もドッペルゲンガー、つまりは化け物という事だ。今の私に取って人が死ぬという事は、蟻や蚊を潰すのに何も感じないのと同じなのだ。

 

 この現場を見る限り、あの二人の少女をこの騎士が追い回していたのだろう。一人は背中を大きく切られている。モモさんが急いでいたのはこの所為だろう。自分より弱い、しかも女の子を追い回し、挙句切りかかる様な下種に同情や憐れみといった感情は湧いてこなかった。

 

「それで…その生きている下等生物の処理はどうなさいますか?お手が汚れるというのであれば、私が。」

 

「この村を助けにきたのに村人を殺してどうするんだ。セバスから何と聞いてきたのだ?」

 

「……」

 

 聞いてないんだ。多分滅茶苦茶急いできたんだろう。私のように常時鎧を来てる訳じゃないアルベドは準備にそれなりの時間がかかる。魔法職の人間であれば、一瞬で着替える事も可能なのだが。

 

「取り敢えずの敵はそこに転がっている鎧を着た者達だ。アーロンも良いな。」

 

「了解だ。だが、まずはこの娘達をなんとかしなければな。」

 

 少なくとも私の騎士として振舞って来た部分が彼女たちを助けるべきだと訴えている。ドッペルゲンガーであっても私はあくまで騎士アーロン。目の前で死にそうな少女を助けないなんて事はありえない。

 

 私と同じ考えなのかは分からないが、モモさんがポーションを手に二人へ近づく。が、二人が座り込んでいるあたりが湿っていく。どうやらお漏らししてしまったらしい。

 

「……怪我をしている様だな。」

 

 モモさんのスルースキルはかなり鍛えられている様で、見なかった振りをしてポーションを差し出す。

 

 だが、改めてその光景を見てみよう。恐らく妹と思われる幼い少女、その妹を守る為怪我を負った姉。そして、いきなり現れた骸骨。そして怪しげな戦士二人。

 

 どう考えても悪役だ…そりゃ怖いよね…

 

「王よ、ポーションを貸してくれ。」

 

「ん、どうした?別に渡す程度「顔、顔。」顔?ああ…」

 

 私の言わんとする事を理解してくれたみたいで、私にポーションを渡してくれる。姉妹に近づきながら、兜の中で顔を変える。イケメンの顔になったと同時に兜を取り、姉妹と同じ目線になるように座り込む。

 

「驚かせてすまない、私達はこの村を助けに来た者だ。これは治癒の薬だ。早く飲むのだ。」

 

 一応人間の顔に安心してくれたのか、渡したポーションを恐る恐るといった様子で飲み干す。

 

「うそ……」

 

 自らの背中を触る。信じられないのか、何度か体を捻ったり背中を触ったりしている。

 

「痛みは無いか?」

 

「は、はい。」

 

「ふむ、この程度の傷なら下級ポーションで充分という事か。」

 

 少女の反応を確認すると、モモさんは成程といった様子で呟いた。すごいこの人、助けるついでにポーションの実験も兼ねてたなんて…

 

「お前たちは魔法というものを知っているか?」

 

 重要な現地人からの情報を得る為に質問するモモさん。それに恐る恐ると答える姉。

 

「は、はい。村に時々来られる薬師の…私の友人が魔法を使えます。」

 

「…そうか、なら話が早いな。私はマジックキャスターだ。」

 

 これで、この世界に魔法がある事が分かった。どんな物があるのかはいまだ不明ではあるが…

 

「して、王よ。戦況はどうなっている?」

 

「現在、私の召喚したデス・ナイトが村へ騎士共の掃討に向かっている。騎士事態は第5位階の魔法で容易く死ぬレベルだ。まぁ先程の騎士が特別弱かった可能性も無くは無いが、今だデス・ナイトは戦闘中だ。ならば、我々が本気で戦う様な相手では無いのは確かだ。」

 

 成程。防御よりなステータスなデス・ナイトのトータルレベルは35。それを倒せないのであれば、レベル100の私達の相手では無い。だがこの娘達はそうではない。もう一度騎士に襲われれば無事ではすまないだろう。一応護衛を残すべきだろう。

 

《闇潜み、今すぐこちらに来れるか?》

 

《畏マリマシタ アァロン様》

 

 先程まで『転移門(ゲート)』があった位置に、同じものが出来る。その中から、フードを被った堕天使が現れた。

 

「闇潜み、この二人を守れ。騎士の格好をした者が現れたら容赦はいらん。それ以外は敵対の意思があれば撃退しろ。」

 

「畏マリマシタ」

 

「ふむ、念のためだ。これをくれてやる。」

 

 そう言ってモモさんが放り投げたのは、『ゴブリン将軍の角笛』だ。確か多少強いゴブリンを10匹程度召喚するかなり名前負けしたアイテムだった筈だ。多分いらないアイテムの処理ぐらいにしか考えて無いのだろう。

 

 モモさんは村の方へ歩き出し、アルベドもそれに続く。

 

「こいつは私のシモベだ。お前たちを必ず守ってくれるだろう。だから安心してくれ。」

 

 二人に声を掛け、モモさんに続くべく歩き出すと数歩も行かないうちに声を掛けられた。

 

「あ、あの!助けて下さって、ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます!」

 

 目じりに涙を浮かべながら感謝の言葉を紡ぐ二人の少女にモモさんは振り返って短く答える。

 

「……気にするな。」

 

「あ、あの!お名前はなんとおっしゃるんですか!?」

 

 一瞬なんて答えるか迷った様に見えたが、すぐに問いに答えるモモさん。

 

「私の名はモモンガ、覚えておくといい。」

 

 

 

 

 

「王よ、これからどうする?村に向かうのか?」

 

「いや、私はこのまま村の周囲に展開している騎士共を殲滅してくる。逃げられては困るのでな。」

 

 どうやら、敵の配置などはすでに把握済みらしい。やっぱりこの人凄いよ。もしかしてマジックキャスターとしての知力補正とか掛かってるのかな?

 

「ふむ、そうか。なら護衛はアルベドに任せて私は一足先に村に向かおう。デス・ナイトで充分だと思うが、一応村人の安否も気になる。」

 

「分かった。何かあったら『伝言(メッセージ)』を使う。では、後でな。」

 

 そこでモモさんと別れると、私は走って村に向かった。大して時間も掛からず村に着くと、そこではデス・ナイトの蹂躙が行われていた。

 

「オオオオオオオァァァアアアア!」

 

 一人の騎士が腹にフランべルジェを突き立てられ絶命した。周囲に居る騎士達の士気は無いに等しく、各々現実から目をそらし、神に縋っている者もいる。

 

「ふん、非武装の村人を虐殺しておきながら自分が死にそうになれば神頼みか。反吐が出るな。…デス・ナイト、下がれ。」

 

 怒り。久しく思えるその感情は私の中で大きくなっていった。別に人を殺す事をどうこう言うつもりは無い。この世界ではそれが普通なのかもしれない。だが、少なくとも私の中では、少女を切りつけ村を焼く事は正しい事では無い。そして、それを許すのは私の騎士道が許さない。

 

「この世界のルールなど知らん。だったら、自分のルールに従い、事を成すまでだ。」

 

 デス・ナイトが私の命令に従い下がるのを確認して、『アーロンの妖刀』を取りだす。腹切りは必要ないが、全力だ。

 

「撤退だ!合図を出して馬と弓騎兵を呼べ!残りの人間は時間を稼ぐ!行動か・・・」

 

 距離にして20m程だろう。その距離を一瞬で詰め、おそらくこの集団の指揮官と思われる騎士の首を刎ねる。

 

 ユグドラシルで侍というビルドは二つのタイプを示す。一方は移動系のスキルをあまり取らずに、一足一刀の間合いを維持して戦うインファイタータイプ。そしてもう一方が、移動系のスキルを多数習得しどんな間合いでも戦闘が可能なオールレンジタイプだ。私は後者のビルドを選択しており、習得しているスキルの2割を移動系で占めている。基本的に私の戦闘スタイルはヒットアンドアウェイ。集団戦では、前衛を抜いて一気に魔法職に攻撃できるのでかなり嫌われた。

 

「ロンデスがやられた!」「もう駄目だ…」「神よ!」

 

 恐らくこの騎士はそれなりに腕の立つ方だったのだろう。ますます騎士達の絶望の色が濃くなっていく。

 

「安心しろ。私はデス・ナイトと違って優しいからな。一撃で神の元まで送ってやる。」

 

「う、うわぁあぁああぁぁ!」

 

 半狂乱といった様子で斬り掛かってくる騎士。それをあえて私は避けずに兜で受ける。

 

 キンッと乾いた音と共に、一気に振り下ろされた剣の柄。刃の部分は兜に当たった瞬間折れてどこかへ飛んで行ってしまった。成程成程。この程度の剣ではこのアーロンの防具を傷つける事は出来ない。なら全力と言ったが…少しばかり遊んでしまおう。

 

「良い武器を持っているじゃないか、少しばかり借りるぞ。」

 

 妖刀をアイテムボックスにしまい、目の前の騎士が持っている殆ど刃の無い剣を奪い取る。そして、棒立ちだった騎士の腹に力の限り突き立てる。

 

「ふんっ!」

 

 折れてしまった直剣を突き立てられた騎士は、くの字に折れ曲がり自らの背中から血と臓物を噴き出した。

 

「さながら致命の一撃だな。折れた直剣でこのダメージとは、初期ステータスの騎士より弱いんじゃないか?…さぁ、今度は後ろからだな。」

 

 土埃を巻き上げながら再度の高速移動。穴だらけの包囲陣の一番後ろにいる騎士の元まで移動する。

 

「ひ、ひいぃぃいぃい!」

 

 いきなり目の前に現れた私に驚き、振り返って逃げようとする騎士の頭を掴む。

 

「おいおい、後ろを向けて逃げる時はちゃんと距離を取るのが基本だろう?」

 

 先程の騎士と同じように背中に剣を突き立てる。鎧を穿ち背骨を砕いて折れた直剣は騎士の体を貫き、血と肉とそれらが混ざった物を勢い良く飛び散らせた。

 

「脆いな。王は第5位階で簡単に死んだと言っていたが、これなら第3位階でも余裕だろうな。」

 

「アーロンよ、そこまでにしておけ。」

 

 声のする方を見上げれば、そこにはモモさんとアルベドの姿。大して時間も掛からなかったという事は、向こうの敵もここの連中と同レベルだったのだろう。

 

 ゆっくりと降下して足を地に着ける二人。私は掴んでいた騎士の死体を放り投げモモさんの後ろに控える。

 

「はじめまして、諸君。私の名はモモンガという。」

 

 それに返事を返す者は居ない。

 

「投降するなら命は保証しよう。だが、まだ戦いたい者は、」

 

 モモさんが言いきる前に騎士達は一人、また一人と剣を捨てていく。生き残った幸運な4人の騎士は何も言わず、ただ怯えていた。

 

「…貴様ら、我が主の御前だぞ。少々頭が高いのではないか?」

 

 私の発言を聞いた騎士たちは、我先にと跪き額を地に着ける。その姿はまるで断頭台の死刑囚の様だ。

 

「…諸君には生きて帰ってもらう。そして諸君の上s、飼い主に伝えろ。この辺りで騒ぎを起こすな。もし起こすようであれば、今度は貴様らの国まで死を告げに行く、とな。」

 

 騎士たちは震える体で何度も首を縦に振る。

 

「行け。そして確実に伝えろ。」

 

 顎でしゃくると騎士たちは前のめりに転がりそうな勢いで一目散に走り去って行った。

 

「…演技も疲れるな。」

 

「頑張れモモさん。」

 

 小声で話しながら今度は村人たちに向き直る。ここからは頭を使った交渉になるだろう。下手な事を言ってモモさんの邪魔をしても悪いし、ここは任せよう。

 

「…アーロンよ、闇潜みは記憶操作の魔法を使えるか?」

 

「ん、あぁ問題無い筈だ。何か消す事が?」

 

「あの姉妹には顔を見られている。口止めだけでもいいのだが、一応な。」

 

 成程。今のモモさんは顔を変な仮面で隠している。通称嫉妬マスク。泣いているような怒っているような表情が派手に彫り込まれた南国風のマスク。クリスマスイヴの19時〜22時の間に2時間以上ユグドラシルに滞在していると強制的に所有させられる、ある意味呪われた装備品だ。

 

 やはり、異業種というのはどこでも受け入れられない者なのだろう。モモさんの正体を隠すなら記憶操作が一番確実だろう。

 

「分かった。闇潜みに指示しておく。」

 

「頼んだぞ。」

 

 それからモモさんは、私達を僻地のマジックキャスターとそのお供という事にして、村を救った対価として村長夫妻からここ近隣の情報や、貨幣価値などの情報を入手していった。

 

 それをただ待つのもアレなので、モモさんの事はアルベドに任せて闇潜みと共に焼き払われた家屋の撤去作業を手伝っていた。始めは闇潜みの姿を見てぎょっとしていた村人だったが、後から来た村長の婦人が、

 

「モモンガ様は高名なマジックキャスターである。」

 

 と、皆に教えてまわった為、デス・ナイトと同様にモモさんが召喚した物だと思った様で今では遠巻きに見ている様だ。デス・ナイトの方は流石に怯えてしまうので、村長の家のアルベドの横で待機している。私も先程遊びすぎた所為か、始めは怯えられていたが兜をとりイケメンの方の顔を出すとかなり好感触で、現在は問題無く村人と接している。

 

 撤去作業を手伝っていると、一部の村人が移動を始めた。気になって着いて行くと、そこは共同墓地だった。遅れてきた村長の後ろには、モモさんの姿が。

 

「もう話は終わったのか?」

 

「粗方、と言った所か。周辺国家やユグドラシルの貨幣の価値、様々な事が聞けた。かなり有益な情報だが、同時にもっと知るべき事が増えたな。」

 

「そうか…」

 

 話を区切り葬儀の方へ目をやると助けた姉妹、エンリ・エモットとネム・エモットの姿があった。

 

「お父さん…お母さん…」

 

 二人の両親は先程の襲撃の際、二人を逃がす為に騎士に飛びかかり殺されてしまったらしい。泣き続ける妹を抱きしめ、姉のエンリも涙を流していた。

 

「…」

 

「助けたいと思うか?」

 

 そう聞いてきたモモさんの手はローブの中に隠しているが、僅かに見えたそれは、蘇生アイテム『蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)』だ。確かにモモさんならこの村の住民全て生き返らせたとしても、まだ有り余るほど所持しているだろう。

 

「いや、そこまでしてやる理由も無ければ義理も無い。確かに可哀想だとは思うが、仕方の無い事だ。」

 

 この先どのような事が分かるか分からない。貴重なアイテムは自分や、それに近い者達の為に取っておくべきだろう。

 

「そうか。なら、いい。使う気は無かったがお前に頼まれたら使ってしまう自信があるぞ。」

 

「そうなのか?それは光栄だな。」

 

 そんな事を話していると、撤去作業をしていた闇潜みが近づいてきた。

 

「モモンガ様 アァロン様 後詰ノ者達ガ来タノデスガ ドウヤラ通達ニ不手際ガアッタラシク目的ガ村ノ襲撃ニナッテイル様デス」

 

「「は?」」

 

 指示を出したのはセバスだろう。村を助けに行くというのが何故村を襲撃するに変わるのか疑問だが、一先ず分かったのはセバスに伝令の才は無い様だ。

 

「…襲撃の必要は無い。すでに問題は解決した。それで、後詰の指揮官は?」

 

「ハッ アウラ様トマーレ様デス 構成ハ 主力ノ『八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)』ガ15 以下シモベ達ガ400デス」

 

「なら、アウラとマーレ、それと八肢刀の暗殺蟲を除いて他は撤収させろ。」

 

「畏マリマシタ」

 

 

 

 

 そして葬儀の後もモモさんの情報収集は続き、私と闇潜みの復興の手伝いも続いた。

結局モモさんの用が済んだ頃には夕日がはっきりと空に浮かんでいた。

 

「ふぅ。存外に時間を取られたが、それに見合うだけの情報が得られた。ここですべき事は終わった。アーロン、アルベド、撤収するぞ。」

 

「承知致しました。」

 

 作業を止めすぐさまモモさんの後ろにつく。闇潜みもそれに続き、すれ違う村人達から声を掛けられながら、村の中を歩く。

 

 そんな中、一人ピリピリとした空気を発しているアルベド。その理由を察したモモさんが問いかける。

 

「…人間は嫌いか?」

 

「好きではありません。脆弱な生き物、下等生物です。」

 

 まぁこれに関しては仕方がない事ではある。キャラの善悪を決めるカルマ値。アルベドはこれが-500と、極悪だ。だが、これから先人間と繋がりを持つ事もあるだろう。一応注意だけしておこう。

 

「アルベド、お前の考え方を変えろとは言うつもりは無い。だが、なるべく表に出ないよう努力するのだ。」 

 

アルベドは深く頭を下げる。

 

「……この村では冷静に、優しく振る舞え。アーロンの言う通り、演技というのも重要だぞ」

 

 モモさんが一言付け加える事でこの話は終わった。そしてナザリックに帰還するために村長に挨拶をしようとした所、その顔は険しくどうにも普通では無い。

 

「また、厄介事か。」

 

「王よ、仕方がないだろう。ここで投げ出す訳にも行くまい。」

 

 4人で村長の元まで近づく。

 

「…どうかされましたか、村長殿。」

 

「おお、モモンガ様。実はこの村に馬に乗った戦士風の者達が近づいてきてる様で…」

 

 村長を含め、村人達の縋る様な目線が私達に集まる。

 

「任せて下さい。村長殿の家に生き残りの村人を集めて下さい。村長殿は私と共に。闇潜み、デス・ナイトと共に念のため村長の家の近くへ。ご安心ください。今回だけ特別にただで御助けしますよ。」

 

「おぉ、ありがとうございます!」

 

 そうして、住民の避難が完了した頃馬に乗った騎士らしき者たちがすぐ傍までやってくる。その中から馬に乗ったまま、一人の男が前に出てきた。一行のリーダーらしく、極めて屈強な体つきをした偉丈夫だ。

 

「私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・スロトノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士たちを討伐するために王のご命令を受け、村々を回っているものである」

 

「王国戦士長……もしや、あの……?」

 

「村長殿、あの方はどういった方なのですか?」

 

 モモさんが聞いた情報にはこの人物の事は入って無かったのであろう。村長に尋ねてみる。

 

「商人たちの話では、かつて王国の御前試合で優勝を果たした人物で、王直属の精鋭兵士たちを指揮する方だとか……すみません。本物かどうかまでは…」

 

 モモさんと村長が話していると、ガゼフという男が馬上から話しかけてくる。

 

「この村の村長だな。そこの者達が何者か教えて貰いたい。」

 

「それには及びません。王国戦士長殿。はじめまして。私はアインズ・ウール・ゴウンのモモンガ。後ろに控えているのが部下のアーロンとアルベドです。この村が騎士に襲われておりましたので助けに来たマジックキャスターです。」

 

 モモさんは軽く一礼し自己紹介をする。それに対しガゼフは馬から飛び降りた。そして重々しく頭を下げた。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉も無い。」

 

「ほぅ。」

 

 ガゼフには聞こえなかったと思うが、思わず声が出てしまった。先程まで、この世界の騎士というのにあまり好感を持っていなかったが、このガゼフという男は違うようだ。王国の戦士長というかなり上の立場である者が、身分も明らかでないモモさんに馬から降り頭を下げた。これだけでもガゼフの人柄を語っている。

 

「いえいえ、私達も報酬目当てですから。おきになさらず。」

 

「報酬目当て…という事は冒険者なのかな?」

 

「それに近いものです。」

 

「成程。それにしても後ろのお二人もかなり腕が立つと御見受けするが、モモンガ、アーロン、アルベド、この名は今まで聞いた事がありませんな。」

 

「こちらは旅の途中でしてね。今は昔チームを組んでいた者達を探していまして。アインズ・ウール・ゴウンというのはチームの名前の様なものでしてね。ガゼフ殿、この名に覚えは?」

 

「いや、申し訳ない。その様なチームは聞いたことがない。もしも耳にする事があれば、必ずやお伝えしよう。」

 

 こういう時に無理に会話に入ろうとすると、矛盾が生まれるものなので私は黙って話を聞いている。とりあえず私が気をつけるのはモモさんの事を王と呼ばない事だけでよさそうだ。流石に王国戦士長の前で王なんて呼んで変な誤解を生んでも仕方ないからね。

 

「この村を襲った者達について色々と聞きたい事があるのだが「報告いたします!」何事だ!?」

 

 ガゼフが本題に入ろうとした時、一人の騎兵が広場に駆け込んできた。騎兵は大声で事態を告げる。

 

 

 

 

「戦士長!周囲に複数の人影。村を囲むようにして接近中!」

 

 

 

 




この辺でアーロンさんの大体のステータスを書いておこうかなと。

アーロン

役職:至高の41人
   モモンガの近衛
   

住居:ナザリック地下大墳墓
   第9回層にある自室。

属性:極善 [カルマ値:300]

種族レベル:『二重の影(ドッペルゲンガー)』……1Lv

職業レベル:刀使い       15Lv
      ソードマスター   10Lv 
      ケンセイ      10Lv
      など


こんな感じだと思ってます。




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第7話

「成程…確かに居るな。」

 

 ガゼフの隊からもたらされた一報を聞き、一度全員村長の家まで移動し様子を見ていた。見える範囲では3人。各員が等間隔を保ちながらゆっくりと村に近づいてくる。彼らは鎧や剣と言ったものを装備していない。そして横に並ぶように浮かぶ輝く翼をもった者、『天使』だ。これらが、彼らをマジックキャスターと教えていた。

 

「一体彼らは何者で、狙いはどこにあるのでしょう?この村にそんな価値が?」

 

「モモンガ殿に心当たりが無い…ならば、答えは一つでしょう。」

 

 苦笑いを浮かべながらそう答えるガゼフ。

 

「成程。やはり王直属ともなると、色々とあるのだな。苦労するな、戦士長殿も。」

 

「この地位に就いてる以上は仕方のないことだが…本当に困ったものだな。さて、天使を召喚出来るマジックキャスターをこれだけの数揃えられるとなると、相手はスレイン法国…噂に聞く特殊部隊、六色聖典の者だろう。全く、貴族達も面倒な事をしてくれる…」

 

 厄介だと言わんばかりにガゼフは肩を竦める。彼はどうやら貴族達に快く思われてはいない様だ。そんなガゼフから天使へと目を向ける。

 

(あれって確か『炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)』だっけ?世界は違うのに同じ魔法があるのか…モモさん、はもうとっくに気がついてるか。)

 

「…あれは『炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)』?外見は非常に似ているが…何故同じモンスターが?魔法による召喚が同じ?だとしたら…?」

 

 ぶつぶつと呟いているモモさんは恐らく考えを巡らせているのだろう。そんなモモさんにガゼフが話しかける。

 

「モモンガ殿。良ければ雇われないか?」

 

 モモさんの返事は無い。ガゼフを凝視しながらただ黙っていた。

 

「報酬は望まれる額を約束しよう。」

 

「…少し時間を貰えますかな?アーロン達と話して決めようと思うのですが、大して時間はかけませんので。」

 

 黙って頷くガゼフを尻目に部屋の隅へ移動する私達。

 

「さて、私個人の意見としては断ろうと思っている。相手の戦力が不明な以上余計なリスクは避けたい。だが一応意見を聞いておこうと思う。二人とも…どう思う?」

 

「私は、異論は御座いません。」

 

 アルベドは賛成の意を示した。私は一瞬ガゼフの方を見る。そして答える。

 

「…私は、あの者を助けたいと思う。」

 

「…理由は何かあるのか?」

 

「私は王の様に頭が良くないからな、助けるメリットなんて恩を売るぐらいしか思いつかん。ただ単純に彼を助けたいと思った、それだけだ。」

 

 そんな事を言ったがそれだけではない。私は、彼が羨ましかった。迷い無く王に仕え、そしてそんな彼を王は信頼しているだろう。そんな、私の目指す王に仕える騎士を体現している彼を死なせたくないと思った。

 

 そして、恐らく先の襲撃はこの村にガゼフを誘き寄せる為の策の一環なのだろう。彼の行く先々で村を焼き死傷者を出す。彼の事だ、負傷者を放っておく訳にもいかずそれなりの数の兵を置いて来てる筈だ。そして、遂にこの村で仕留めに来たのだろう。こんな事を平気で行う奴を、許しておけないのも本心である。

 

「はっきり言ってしまえばこれは私の我が儘だ。だから気にしなくていい。」

 

 だが、王に仕える騎士ならば私はモモさんの判断に従わなくてはならない。しかもそれが理に適っているなら、異を唱える必要すらない。後はモモさんに従うだけだ。

 

「…ならば決まりだ。戦士長殿を助けるとしようじゃないか。」

 

「…王よ。話を聞いていたのか?これは私の我が儘だぞ。」

 

「配下の我が儘一つ聞けない様な狭い器の持ち王にお前は仕えるのか?まぁ、さっきはああ言ったが、相手の戦力さえ確認できれば助けに入るつもりだったしな。こちらの世界の硬貨の入手。王国戦士長との繋がり。悪くは無いだろう。」

 

 そう言ったモモさんは私の方に向き直ると、『伝言(メッセージ)』を飛ばしてきた。

 

《アーロンさん。思った事があったらもっと言ってくれて良いんですよ?あんまり遠慮されるとこっちが困りますよ。》

 

《いやだってモモさん優秀だし、私が変な事言って邪魔しちゃ悪いと思って。》

 

《やっぱり…そんな事ないですよ。私としてはアーロンさんには同じ立場で色んな意見を出して欲しいんですよ。なんというか私の考える事って基本ナザリック以外どうでもいい感じの事ばかりなので…多分カルマ値が原因だと思うんですけど。》

 

《モモさんのカルマ値って確か、極悪の-500だっけ?まぁ仕方ないと思うけど。》

 

《アーロンさんは極善ですから、なにか思った事とかあったらいつでも言って下さい。それがナザリックの為になるかもしれませんし、そもそも私が間違っているかもしれませんし。いいですね?》

 

《う、うん。了解。》

 

 最後の方若干脅すような感じだったのは気のせいだろうか。

 

「さて、戦士長殿。話はつきました。微力ながら、お手伝いいたしましょう。」

 

「おぉ!モモンガ殿達が共に戦ってくれるならば千人力だ。御助力感謝致しますぞ。」

 

 心底安心したといった風で返事をしてくるガゼフ。モモさんが出した右手に対し、ガゼフは両手でそれを握り返している。

 

「報酬などの話は彼らを倒した後にするとして、まずはどうやって戦うかですが…アーロン、意見はあるか?」

 

 こちらを向きながら問いかけるモモさん。早速意見を言えという事らしい。

 

「そうだな…私が一先ず相手をし問題無いならそのまま撃退、主は後方支援を頼みたい。だが私一人で対処が難しい場合は主とアルベドも前線へ。戦士長殿達には村人の護衛、といった所か。」

 

「お待ちくださいアーロン殿。此度の戦い、原因は我々にあります。それなのにただ見ていろというのは。」

 

(まぁそうなるよね。けど、万が一本気で戦うとなると、人間じゃないのがバレる可能性もあるからなるべく傍に居て欲しくないんだけど…どうやって説得したものか。)

 

「…今回のこの戦、負けの条件は戦士長殿の死、そしてこの村の壊滅だ。向こうはいくつもの村を襲撃してまで戦士長殿をこの村に誘い込んだ。つまりはここで片を付ける用意があるという事だ。ここで戦士長殿が出て行くのは愚策中の愚策だよ。」

 

「…確かにそうだが。しかし…」

 

「ただ見ていろというわけではない。現状確認出来る者以外にも敵が居るかもしれない。それの相手をして欲しい。私と主だけでは村人全員を確実に守れるとは限らない。だが貴殿の部隊なら容易だろう。思う所はあるだろうがここは頼まれてくれないか?」

 

「……了解した。ここは貴殿達に任せるとしよう。」

 

「ありがとう、戦士長殿。主もそれでいいか?」

 

 一瞬考えるモモさんだったが、すぐに返事は返って来た。

 

「概ね異論は無いが、お前一人というのは少しな…アルベドは外せない以上…」

 

「なら闇潜みがいる、あれを貸してくれればいい。あれは主が召喚した者だからな。」

 

「ん?……あぁそうだったな、あれは私が召喚した天使だったな。それなら問題無いな。」

 

 どうやらこちらの意図を察してくれた様だ。一応村人達の間では闇潜みはマジックキャスターであるモモさんが召喚した天使という事になっている。本人には伝えてなかったが、伝わった様だ。

 

「では、私は先に出る。また後で会おう。」

 

 村長の家の扉に手をかけると、後ろから声を掛けられる。

 

「…アーロン殿。」

 

「戦士長、どうかしたか?」

 

「…モモンガ殿、アーロン殿。この村を救って頂き本当に、本当に感謝している。そして、もう一度だけこの村を救って欲しい。戦士長という立場にありながらこの様に頼む事しか出来ない無力な自分が、憎い…」

 

 そう言っているガゼフの手は、血が出そうな程に固く握り締められている。やはりこの人は私の目指すべき騎士なのだろう。そんな彼に抱く感情は、純粋な憧れだった。

 

「今差し出せる物はないが、報酬は御望みの物をお渡しすると約束しよう。このガゼフ・ストロノーフの名にかけて。」

 

 そこまで言って跪こうとするガゼフをモモさんが止める。

 

「元より、この村を救うつもりでしたからそこまでされる必要はありません。この村は必ずお守り致しましょう。このアインズ・ウール・ゴウンのモモンガと。」

 

「騎士アーロンの名に賭けて、な。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 村を出て少し歩けば敵の姿は見えてきた。人数は全部で45人。他にもいるかもしれないが、視界に入るのはそれだけ。だが、その殆どが天使を召喚している。そして、一番奥に居るデカイ天使『監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)』を含めるなら、総数は90近くになる。

 

「あのデカイのは確か視認するPTメンバーの防御力を若干上げるんだったか?よく覚えて無いな…闇潜み、お前は覚えているか?」

 

「アァロン様ノ仰ッタ通リデ間違イナイカト」

 

 大してこちらは私と闇潜みのみ。普通に考えれば戦力差は圧倒的だ。

 

「さてと、そろそろ向こうの指揮官殿に御挨拶といこうじゃないか。」

 

 そのまま歩みを進めるが、敵からの攻撃の意思は無い。ガゼフが出てくると思っていた所に正体不明の人物が現れて、様子を見ているといったところか。

 

「こんにちは、スレイン法国の皆さん。」

 

「……貴様、何者だ。ストロノーフはどうした。それに、そんな天使は見た事がないが。」

 

 敵の指揮官と思われる人物が疑問を投げかけてくる。

 

「私はアインズ・ウール・ゴウンのアーロンという者だ。我が主たる方と共にあの村を守りに来た。戦士長殿は村人を守って貰っている。それとこいつは闇潜み、私の部下だ。…さて、こちらは質問に答えたのだしこちらの質問にも答えて貰いたいのだが…」

 

「天使を部下だと?貴様ふざけているのか!?その様な不敬が許されるとでも…まぁいいどうせ死に逝く異教徒の戯言だ。」

 

 私の声を遮りながら一瞬声を荒げるが、すぐに平静を取り戻す。異教徒という言葉が出たが、スレイン法国では天使を崇拝する宗教でもあるようだ。

 

「あの村を守りに来たを言ったな。貴様とその偽りの天使だけで我々をどうにか出来るとでも思っているのか?無駄な足掻きだ。貴様を殺し、ストロノーフも殺す。そして最後はあの村だ。作戦に関係した者は全て抹殺する。」

 

「…なら、やってみるがいいさ。」

 

「っ!天使達を突撃させよ!」

 

 『炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)』ユグドラシルにも存在した召喚モンスター。第3位階の魔法で召喚されるその性能は、一言で言えば強くもなければ弱くもない。だからハッキリ言ってレベル100の私の相手では、

 

「無いのだよ。」

 

 アーロンの妖刀を横に一閃。それだけで十分だった。天使達が空中に溶ける様に消えていく。

 

「なんだと?っち、再度天使を突撃させよ!急げ!」

 

 動揺の色を隠せない指揮官。それはそうだろう。あれだけ自信満々に語っていたのだ。今の2体の天使で終わらせるつもりだったのだろう。

 

 さらに迫りくる6体の天使。何度やっても無意味だというのに。だが、まぁ付きあってやるか。

 

 突出してくる3体の天使。正面と左右から同時に紅蓮の剣を突き出してくる。その場でハイジャンプし剣をかわすと正面の天使へ大上段からの唐竹割。天使は両断されそのまま霧散する。続けて狙ってくる突きを大きくバックステップし回避し、スキルを使用し一瞬で間合いを詰める。その勢いのまま天使の頭を貫き2体目。天使の頭を貫いたままの妖刀で横薙ぎにし、そのまま隣の天使の首を落とす。

 

 遅れてやってくる天使達。消えていく天使を尻目に、居合の型を取る。

 

「『祖之太刀・不動』」

 

 妖刀のリーチを生かした不可視の一閃。それらは洩れなく天使達を両断し、一瞬空間すらも切裂く。血を払う様に刀を返すと、歩みを進める。私の後ろで遅れた時間が動き出す様に天使達が消えていく。

 

「全く、空間を切り裂き相手に大ダメージ、さらに斬った相手の動きを止める。これだけでもかなり強いのに、ワールドチャンピオンのスキルの劣化版というのだから困ってしまうな。」

 

 一瞬で6体の天使を屠った光景を今だ信じられんと言った表情で見ているマジックキャスター達。

 

「ニ、ニグン隊長。ど、どういたしましょう!?」

 

「て、天使を失った神官は再度召喚せよ!村に向かわせた班を呼び戻せ!召喚の終わった者は魔法を奴に集中して叩き込め。数はこちらの方が上なのだ!臆する必要は無い!」

 

 ニグンと呼ばれた隊長は自身に言い聞かせるように指示を飛ばす。そこからは流石は特殊部隊といった様ですぐさま行動に移す。

 

(やっぱり村にも向かわせてたか。まぁこれで後ろの心配はいらなそう。)

 

『人間魅了(チャームパーソン)』 『束縛(ホールド)』 『衝撃波(ショクウェーブ)』

 

 ニグンの指示通り魔法による掃射が始まるが、どれもユグドラシルで聞いた事のある低位魔法で、私の所有する特殊能力とアーロンの防具の魔法耐性や精神作用耐性を凌駕するものでは無かった。私はそのまま何も無い様に歩みを進める。

 

「何故だ!何故魔法が利かん!貴様はマジックキャスターではない!対抗魔法を使えなければ武技も使っていない!ならば何故平然としていられる!」

 

「ん?今聞きなれない単語があったな。武技、と言ったか。個人的にはそれについて詳しく聞きたい所だが…まぁそれは生け捕りにしてからでも遅くは無いか。」

 

 生け捕り。平然とそう言ってみせた私にニグンが見せるのは怒りと焦り。生け捕りという事は殺さずに無力化するという事。そして私とニグン達の間にはそれだけの実力差があるという事を意味する。馬鹿にされた事に対する怒り、そして本当にそれだけ力の差があるのではないかという焦り。それらを振り払うかのように指示を下す。

 

「全ての天使で攻撃を仕掛けろ!」

 

 総数にして40近い天使がこちらに向かってくる様は中々に絶景だが、これを一々切り捨てるのは流石に面倒だった。

 

「闇潜み、格の違いを見せてやれ。」

 

「畏マリマシタ」

 

 翼を動かす事無くゆっくりと私の前に出てくる闇潜み。4本ある腕を高く上げ交差させる。目前に迫りくる天使達を気にすることなく、掲げた腕を振り下ろしながら、無機質な声で魔法を発動させる。

 

「『闇の爆風』(ダーク・ブラスト)』

 

 ズンと大気が震える。光を覆い尽くす赤黒い炎が闇潜みの前に広がる。炎が広がった時間は一瞬だったが、その結果は一目瞭然だった。

 

「…あり、ありえない……」

 

 ニグンの呟きが風に乗って聞こえてくる。それだけ信じられなかったのだろう。総数40を超える天使。それらが全て闇の爆風によって掻き消されていた。

 

「…さて、お遊びは終わりか?」

 

「っ!!『監視の権天使』!かかれ!」

 

 今までの天使では歯が立たないと理解したのか、後方で待機させていた上位天使を差し向けてきた。片手にメイス、もう片方の手に盾を持ち長いスカートの様なものをなびかせ近づいてくる。

 

「闇潜み、下がれ。」

 

 命令を受けた上位天使は一気にアーロンの元までたどり着き、そのままの勢いで光の輝きを宿すメイスを振り下ろす。私はそれを受け止める事もなく、かわす事もなく、ただその肩で受けた。

 

 金属の割れる甲高い音が鳴り響きながら、天使の持っていたメイスが中心から粉々に割れていく。

 

「あぁ、すまんな。壊れてしまった。だが、もう必要ないだろう?」

 

 メイスを振り下ろした状態で止まっていた上位天使の首を横一文字に斬り付け、更に真向より斬り下ろし両断する。メイスの破片が僅かに残った夕日に照り返し、そして光となって消えていく天使。なんとも幻想的で魅入ってしまいそうだが、ニグンの声でそんな気分は掻き消えた。

 

「あ、あ、ありえるかぁあああああ!」

 

 ニグンの絶叫は荒野に響き渡る。恐らくは切り札だったのだろう。それが破られた以上はそろそろ潮時だろう。

 

「隊長!我々はどうすれば!?」

 

 部下達も完全に動揺している。だが、ニグンは不敵に笑うと懐から一つのクリスタルを取りだす。

 

「最高位天使を召喚する!」

 

 先程まで絶望で染まっていた彼らの目に光が戻る。ニグンが手にしているそれは『魔法封じの水晶』輝きからすれば超位魔法以外を封じ込める事の出来るものだ。

 

《アーロンさん。》

 

 こちらの戦闘は魔法で見ていたのだろう。向こうから『伝言』を飛ばしてくる。

 

《モモさん、ちょっと不味いかもしれませんね。ユグドラシルのアイテムがあるのが分かったのはいいんですけど、問題は中身ですね。》

 

《流石に恒星天以上は出ないと思いますけど…至高天が来たらアーロンさんだけでは厳しいかと思いますので、その時は私とアルベドも向かいます。》

 

《了解。それじゃあよろしくです。》

 

 私が『伝言』を使っている間に、ニグンの手の中でクリスタルが破壊され光輝く。まるで太陽がまた昇ったかの様に草原が白く染め上げられる。

 

 ニグンが歓喜の声を上げる。

 

「見よ!最高位天使の姿を!『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』!」

 

 それを一言で表すなら光輝く翼の集合体。翼の塊から笏を持つ手が生えているが、それ以外の足や頭というものは一切ない。異様な外見だが、正しく聖なるものであるのは誰もが感じる。

 

「最高位天使を召喚させたお前には正直、敬意すら感じる。誇れ!お前は凄まじい力を

持った騎士だ!」

 

 ニグンは勝利を確信した様子で、私に賞賛を送ってくる。だが、私はいまだに状況を理解できていなかった。

 

「……それで?」

 

「何?」

 

 ニグンは何を言われたか分からないといった表情だった。

 

「まさか…それを最高位だと思っているのか?『熾天使級(セラフクラス)』の存在を知らないのか?」

 

「な、何を言っている。この『威光の主天使』こそ、かの魔神すらも屠った最強の天使!都市規模の破壊も可能とする最高位天使だぞ!」

 

 どうやらあの様子だと、本当に知らない様だな。召喚魔法として天使達を理解しておきながら、その最高位をちゃんと理解していないのはよく分からないが。

 

《モモさん、援軍の必要はないです。お騒がせしてすいません。》

 

《いえ、私もまさか『魔法封じの水晶』を使ってまで召喚したかったのが主天使とは思ってもいなかったですし。》

 

《じゃあこのまま殲滅して何人か生け捕りにします。後はガゼフさんと報酬の話でもしてて下さい。それでは。》

 

「最高位天使を前に、何故そんな態度が出来る!」

 

ニグンの顔には先程までの歓喜の気配は掻き消え、代わりに不安と恐怖が戻ってきている。

 

「仕方がないだろう、最高位天使ではないのだからな。いや、流石に最高位天使が来たら私も余裕ではいられないぞ。」

 

「まさか…いや、ありえん!人類では勝てない存在を前に、ハッタリだ!」

 

 もはやニグンには私の言葉など届いていなかった。半狂乱といった様子で声を荒げながら主天使に命令を下す。

 

「『善なる極撃(ホーリースマイト)』を放て!!」

 

 主天使の持っていた笏が砕け散る。その破片は主天使の周囲を旋回し始める。

 

「人が決して到達する事の出来ない第7位階魔法。魔神すらも消滅させた神の御技を喰らうがいい!」

 

 轟音を響かせながら、聖なる一撃が放たれる。確かにゲーム時代に見たものとは迫力が違う。不浄なるものを浄化する聖なる光。大抵の者ではその一撃に耐える事は出来ないだろう。

 

 だが、私はその一撃を尻目に主天使の腹部辺りまで跳躍する。

 

『二之太刀・道辻』

 

 大きく縦に一閃、返す刀で横に両断する。切り裂いた傷は十字を象る。

 

 ニグンとその兵の勝ち誇った表情。それを見下ろしながら地面に着地する。

 

「な、なに…」

 

 ニグンの目には、主天使の一撃で死んだはずの私がいきなり目の前に現れた様に見えたのだろう。不安と勝利の喜びが入り混じった表情は一転して驚愕のものに変わる。

 

「何度も表情が変わって忙しい奴だな。もう少し落ち着いたらどうだ?」

 

「き、貴様、なぜ生きている…確かに『善なる極撃』を喰らった筈じゃ…」

 

「あれか?喰らったら痛そうなのでな、かわした。」

 

 『善なる極撃』は必中の魔法では無い。確かにMPを消費すればそうする事も出来るが、使用者の命令が無ければ発動しない。後は主天使の認識速度を超えて移動すれば、かわす事は大して難しい事ではないのだ。

 

「か、かわしただと…は、はったりだ。もう一度…『善なる極撃』を。」

 

 後ずさりしながら主天使を見上げたニグンの目に入ってきたのは、十字に切り裂かれ倒れながら消えていく主天使の姿であった。

 

「……な、なぜ…魔神すらも消滅させる最高位天使が…お、お前は一体…」

 

 ニグンはありえない者を見る様な目で訪ねてくる。

 

「始めに言っただろう。私はアインズ・ウール・ゴウンのアーロンだよ。」

 

 妖刀を構えながら歩みを始める。すると、陶器の壺の様に大きく空間が割れる。だが、それは瞬く間に元に戻る。

 

「ふむ、監視の為の魔法が無効化されたか。流石は王、抜かりはは無いな。さてと、遊びは終わりだな。」

 

「…ま、ま、待って下さい!アーロン殿、いや、様。私達の、いえ、私の命を助けて下さるなら望む物をお渡しいたします!ですから!」

 

(私の命、か…救いようの無い輩の事を考えても仕方がないか…)

 

「…関係無いな。お前は私の怒りを買った。無辜の民を殺し、王が手間を掛けて救ったあの村の住民を抹殺すると言った。それだけで、お前が死ぬ理由としては十分だ。」

 

 人間に可哀想という感情は湧いてこない。だが種族に関係無く、懸命に生きている者を蹂躙する輩を許すのは、私の目指す騎士道ではない。

 

「だが安心するがいい、命は取らない。代わりにお前達の全ての安寧を頂くとしよう。喜べ!お前達にはナザリックでの、苦痛と恐怖に満ちた毎日が待っているぞ!」

 

 私は両手を広げながら宣言する。絶望と恐怖に満ちた顔で見つめてくるニグンは、背後に迫る異形の存在達を感じ取り、恐る恐る振り返る。

 

 

 

 

 

「ようこそ、ナザリック地下大墳墓へ。歓迎しようじゃないか、ニグン隊長。」

 

 

 

 

 

 




アニメ11話のパンドラさんの声がハマり過ぎてて感動しました。

シャルティ…ゴホン ホニョペニョコ戦楽しみですね。


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第8話

追記:私の勘違いでブレインが御前試合で刀を使っている事になっています。
   大変申し訳ございません。


「主よ、今戻った。」

 

「ご苦労だったな、アーロン。」

 

 ニグン達をアウラとマーレに引き渡した後、村にも戻って来た。私の後ろには、闇潜みとニグンの部下数名を引き連れている。

 

「アーロン殿、ご無事で何よりです。」

 

 若干の警戒の色を浮かべてガゼフが労いの言葉を掛けてくる。

 

(まぁ、あれだけの敵を相手にして五体満足で帰って来たら警戒もするか。)

 

「ありがとう戦士長殿。いやしかし、流石は法国の特殊部隊。中々に手強かったな。」

 

「ご謙遜を。あの巨大な天使を一撃で屠る姿、しかとこの目で見ましたぞ。」

 

 確かに、あの大きさと光では村からでも見えるだろう。

 

「はははっ。流石にあれ以上の天使が来ていたら、こちらもただでは済まなかったよ。」

 

 これに関しては事実なのだが、ガゼフの表情を見る限りあまり信じてなさそうだ。

 

「…それで、敵の捕縛者はその者達だけなので?」

 

「あぁ、こちらも本気を出す必要があったのでな。半数近く切り捨てた時点で撤退していったよ。死んでない者に治療薬を使って捕縛して連れて来た。そちらに引き渡した方がいいと思ってな。」

 

「それは助かります。色々と、聞きたい事がありますので。」

 

 闇潜みに指示を出し、ガゼフの部下達に引き渡す。捕縛した者達には闇潜みの魔法で記憶操作がしてある。あいつ等から私達の情報が漏れる事はないだろう。

 

「さてと、報酬の件は先程の話した通りで宜しいですかな?」

 

「ええ、こちらが払える金額をお支払いするのでしたな。」

 

「金額に関してこちらから何か言う事はありません。戦士長殿を信じておりますので。」

 

「…信頼に応えられるよう、必ずや貴殿達に見合った金額をお支払いいたしましょう。」

 

 この辺りはモモさんに任せよう。武は任せて貰ってもいいが、文は正直自信が無い。それこそアルベドやデミウルゴスの方が役に立つだろう。

 

「この村に私の部下を置いておきますので、その者に渡してもらえれば結構です。私は旅の身ですが、私が魔法の研究をしている拠点には定期的に帰るのでね。」

 

「成程。それで、モモンガ殿達はどうされるのかな?私達はこの村で一晩休ませて貰うつもりなのだが。」

 

 モモさんからすればここに居る必要はもう無いので恐らくナザリックに帰還するのだろうが、私としてはガゼフにいくつか聞きたい事がある。

 

《モモさん、私は少しこの村に残りたいんだけど…いいかな?》

 

《ええ、構いませんけど…何か問題でもありました?》

 

《ニグンが言ってたんだけど、この世界には武技っていう特殊な能力みたいなのがあるみたいなんだ。魔法やアイテムが同じものがあるのは分かったんだけど、一応戦士職としてはこっちも確認しておきたいんだ。ガゼフなら知ってると思うし、出来るならこの目で見ておきたい。》

 

《あの時の会話は魔法で聞いてましたけど、確かに言ってましたね。情報だけならニグン達から得られますけど、実際見た方が色々と分かると思いますし…分かりました。何かあったら『伝言(メッセージ)』で。》

 

《了解。明日ガゼフを送ったら闇潜みの『転移門(ゲート)』で帰るよ。それじゃあ》

 

「主よ。私は一応今晩だけ残ろうと思うのだが構わないだろうか?まだ敵の残党がいるかもしれない。それに、同じ騎士として戦士長殿とは少し話してみたいのだが。」

 

「あぁ、構わないぞ。では私は先に帰っているぞ。」

 

 『伝言』での打ち合わせ通りに話を進める。モモさんは戦士長に向き直り別れの挨拶を告げる。

 

「それでは戦士長殿、私は魔法研究の拠点に一旦帰ろうと思います。少し調べなくてはならない事が出来たのでね。アーロンが貴方と話したいとの事なので、少しばかり付き合って貰えると助かるのですが。」

 

「それはこちらからもお願いしたい。アーロン殿の強さの秘訣、少しでもお聞き出来ればと思っておりましたので。」

 

 ありがたい話だけど、私としては話して良い事と悪い事の区別があまりつかないから質問されるのは困るのだが、そこは仕方が無いか。

 

「しかし、モモンガ殿。帰ると申されたが、こんな夜分からでは…」

 

 ガゼフの言葉を手で遮るモモさん。

 

「心配には及びませんよ、私には魔法がありますので。『転移門(ゲート)』」

 

 モモさんが言葉を発すると、目の前に『転移門』が現れる。それを見たガゼフの顔が驚愕のものに変わる。この世界では『転移門』がどの程度の魔法なのかは分からないが、この様子だとかなり高度な部類に入るようだ。

 

「では、またお会いしましょう。」

 

「モモンガ殿、この村を救って頂き本当に感謝しています。王都へ立ち寄った際はぜひ我が屋敷へお立ち寄りください。歓迎致しますぞ。」

 

「その時はよろしくお願いします。アルベド、行くぞ。」

 

「…畏まりました。」

 

 アルベドが一瞬こっちを見た気がしたが気の所為だろう。そのままモモさんとアルベドは『転移門』の中に消えていった。

 

「…さてと、闇潜み。お前は村の周囲の警戒にあたれ。何かあったら知らせろ。」

 

「畏マリマシタ」

 

 闇潜みに指示を出し、ガゼフに向き直る。

 

「すまないな、騎士としてこの国最強の戦士の貴殿と話してみたくてな。我が儘を言ってしまった。」

 

「そんな事はありません。先程も言った様にこちらもアーロン殿と言葉を交わしたいと思っていましたので。野営の準備が出来ています、大した物は出せませんが夕食を共にしませんか?」

 

 向こうから誘ってくれるのはありがたい。それに食事の席ならあまり気を使わずに話せそうだ。私はモモさんと違って普通に食事も出来るし問題無いだろう。

 

「それはありがたい。今思えば飯をどうするか全く考えていなかったな。お邪魔させてもらうとしよう。そういえば、兜をかぶったままというのも失礼だったな。」

 

 顔が変化するのを確認して、兜を取る。すると、ガゼフの顔が驚きで満ちる。

 

「なんと、アーロン殿は南方の出身でしたか。私もご覧の黒髪黒目。出身は違うのですが南方の血が流れていましてな。」

 

 私の外見的容姿は普通に日本人だ。個人的に外国のダンディな男性に憧れなかったのでこうなったのだが、この世界の南の方の地域ではこれが普通なのか。

 

「そ、そうなのだよ。この辺りでは珍しいらしくあまり顔を晒さなかったのだが、戦士長殿なら問題無いだろうと思ってな。」

 

「確かに、異邦の民というだけで厄介事に巻き込まれる事もありますからな。さて、そろそろ行きましょう。部下たちが飯の準備を済ませている頃です。」

 

 少し話しただけだが、少なくとも村に戻って来た時の様な警戒した様子はもう無い。この調子で良い関係を築ければいいのだが。

 

 

 

 

 

 

 食事を済ませた後、ガゼフと二人きりで話しをしていた。若干興奮気味で質問攻めをしてきた兵達から逃げて来たのだ。やはり、強者には興味があるのだろう。気さくな性格の者達ばかりで、皆ガゼフを信頼している様だ。

 

「申し訳ない。失礼の無い様にと言った筈なのだが。」

 

「いや、気にしないでくれ。変に気を使われるより全然良い。それにしてもいい奴らだな。確かあの者達は騎士ではなく戦士というのか?」

 

「あぁ。私は平民出身なのだが、平民に騎士を名乗らせたくない貴族達の為に王が創って下さったのが、私の『戦士長』という立場でな。なので、私の部下達は皆騎士ではなく戦士と呼ばれている。」

 

 どんな所でも貴族階級というのは面倒なものだ。立場的には、軍内トップに近いが政治的立場は殆ど無いに等しいらしい。

 

「王が貴族位を与えて下さると言った事があったのだがな。あまり政治闘争に関わりたくないので断らせて頂いたのだ。私はあくまで王の剣、重要なのはこれだけだ。」

 

「その思い、尊敬する。まさに戦士長殿は私の目指す騎士そのものだな。」

 

「何を言われるか。それほどの力を持って、私を目指すなど。」

 

「確かに私の方が戦士長殿より強いかもしれないが、そういう話では無いのだよ。純粋にその王に捧げる思いを、私も見習いたいのだ。」

 

 共にいると約束を交わし、それを破った。モモさんは気にする必要は無いというが、どうしても心のどこかで引きずっている。そんな私には、ガゼフが眩しく見える。

 

「…ならば、私は貴殿の強さを見習わせて貰おう。さぞかし、鍛錬を積まれたのだろう。詳しく聞かせて下さると助かるのですが。」

 

 そのガゼフの目は真剣そのものだった。国最強という立場に驕る事無い精神。これも見習う必要がありそうだ。

 

「色々あって何から話したらいいのか分からんな。来る日も来る日もモンスター退治に明け暮れていたら気づいたらこうだった、というのが一番しっくりくる言い方だな。」

 

「成程、やはり実戦あるのみという事ですな。しかし…貴殿のその刀を見ているとあいつを思い出します。」

 

「あいつ?私と同じように刀を使う者が知り合いにいるのか?」

 

 ユグドラシルのアイテムがあるのだから刀を使う人間がいてもおかしくは無いのだが、やはり気になってしまうのは仕方がない事だろう。

 

「ブレイン・アングラウス。かつて王都の御前試合の決勝で戦った相手です。勝敗は私の勝利でしたが、かなり厳しい戦いでした。奴とはそれっきりなのですが、私はライバルだと思っています。」

 

「戦士長殿と互角の力を持った刀使いですか。興味がありますね。詳しく聞かせて貰えないか?」

 

 ガゼフは快く承諾してくれ、御前試合の事を話してくれた。両者共決勝までは向かう所敵無しで、ほぼ一撃で勝敗が決していた。だが、その決勝では今なお語り継がれるほどの激戦が繰り広げられたらしい。そして、最後はガゼフの『四光連斬』によって勝負はついたらしい。

 

「…ガゼフ殿。その『四光連斬』とは一体?」

 

「当時の私が使えた武技の一つです。一太刀で4つの攻撃を放つ武技で、今では鍛錬を積み『六光連斬』まで使えるようになりました。」

 

 良い感じに話が運んだ。『武技』ユグドラシルには無かった能力。戦士職についてはかなり理解している方だと思っているが、今ガゼフが言った二つとも、聞き覚えがない。

 

「私の居た所には武技というものは無かったのだが、それについても詳しく教えて貰えないだろうか?」

 

「武技を知らない?ではアーロン殿は武技を使わずにあの者達を撃退したという事ですか!?」

 

「あ、あぁまぁそうなるのか?」

 

(一応スキルは使ってたんだけど…う~んスキルが武技に当たるのかな?)

 

「なんと…やはり私などとは格が違いますな。」

 

 何やら勘違いした様子でうんうん頷くガゼフ。誤解を解く必要もないので特になにも言わないが。

 

「それで、武技に関してでしたな。一言で言うなら戦士達が使う事の出来る魔法の様なものです。魔法とは違い精神力次第で複数同時に発動でき、魔力も消費しない。その代わり、肉体への負担は掛かりますが。」

 

 この話を聞く限りではスキルと武技は完全に別物の様だ。

 

「して、その武技にはどのようなものがあるのだ?」

 

「私が使える物は先程言った二つに、武器に魔法属性を付与する『戦気梱封』 攻撃の隙を失くし次の攻撃に移れる『即応反射』 神経と肉体の速度を上げる『流水加速』などがあります。」

 

(……え、なにそれ強くない?魔法職取って無いのにエンチャ出来たり、スキル使用後の硬直時間を無くしたり出来るって事?)

 

「…他には?」

 

「有名なものですと、攻撃を無力化出来る『不落要塞』などがあります。後は純粋に肉体強化や、精神強化の武技ですな。才ある者なら自分オリジナルの武技を編み出す事も可能ですから相手がどのような武技を使えるかは、戦ってみないと分かりませんな。」

 

「『不落要塞』とだったか?無力化というが具体的には?」

 

「『不落要塞』は肉体にではなく剣や盾、鎧に発動するもので、例えばレイピアなどでもグレートソードの様な質量の重い武器を受け止める事を可能にします。」

 

 どうやら武技というのはかなり厄介なものの様だ。常時発動し続けるのは確かに無理だろうが、打ち合う瞬間に『不落要塞』を使えばこちらの攻撃を弾くのは簡単だろうし、『流水加速』があれば回避も容易だろう。先程の戦いはマジックキャスターばかりだったので良かったが、これが練度の高い戦士軍団とかだったら結果は変わっていたかもしれない。やはり一度体感してみる必要がある。

 

「戦士長殿。一つ頼みがあるのだが。」

 

「何でしょう?貴殿の頼みとあらば出来る限り叶えよう。」

 

「私と、本気で戦ってくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 朝日が昇る頃に、私とガゼフは昨夜ニグン達と戦った草原に来ていた。

 

「すまないな、こんな頼みごとをしてしまって。」

 

「いえ、アーロン殿程の方と手合わせ出来る機会はそうそうありませんから。こちらとしてもありがたい。」

 

 ある程度距離を取り向かいあう。

 

「昨夜言った通り全力で来て欲しい。遠慮はいらない。」

 

「承知した。」

 

 短く返事をすると、腰から下げた剣を抜き放ち構える。ガゼフはこの国で一番の戦士。だが、彼に勝つ自信はある。目の前のガゼフを殺すべくやってきたニグン達を圧倒出来た私なら恐らく殆どダメージを負う事もなく勝利できるだろう。しかし、武技の存在がその自信を揺さぶってくる。今後の為にも確かめる必要がある。

 

「では…行きますぞ!」

 

 私に向かって一気に距離を詰めてくる。そのまま両手で持ったバスタードソードを振り下ろして来るが、それを妖刀で受け止める。

 

「うぉおおおおおお!」

 

 鍔競り合いに入るかと思い力入れた瞬間ガゼフは手に力を入れるのをやめる。その所為で私の重心が若干前に倒れる。その隙を狙いガゼフは膝蹴りを放つ。それを妖刀の長い柄を利用し受けると、後ろに吹き飛ばされる。

 

「っ!!」

 

 土埃を巻き上げながら後ろに飛ばされながら、地面に手をつき速度を落としつつ体制を整える。だが、そこを狙わない訳がない。先程同様間合いを詰め上段から斬りかかる。が、それは先ほどよりも距離がある。直感でまずいと感じ、無理やり横へ大きく飛ぶ。

 

「『四光連斬』!」

 

 常人には一度振り下ろした様にしか見えないだろう。だが、その一撃は神速と言っていい速度で4回放たれた。

 

「『即応反射』!」

 

 大技を放った後だというのにすぐさまこちらに向かって斬りかかるガゼフ。こちらも妖刀で迎え撃つ。バスタードソードから放たれる攻撃はまさに剛撃。それを妖刀を上手く使いながらいなしていく。

 

「流石はアーロン殿!武技も使わずにこの強さ、ますます尊敬しますぞ!」

 

 打ちあいながらガゼフから放たれる言葉は心底嬉しそうだった。

 

「それは光栄だな!」

 

 ガゼフの剣を弾くと後ろに大きく跳躍し、距離を取る。ガゼフも一旦剣を構えなおしこちらを見据える。

 

「あまりその間合いは得意ではないのだ。では、行くぞ?」

 

 言うや否や、スキルを使い20m程あった距離を一瞬で0にする。斬り上げから横に一閃。ガゼフはそれを体を捻りかわす。

 

「っ!『流水加速』!」

 

 崩れた体制を一瞬で整え、反撃してくる。その一撃が繰り出される前にスキルを使ってガゼフの間合いから離脱する。着いては離れのヒットアンドアウェイを繰り返す。だが、流石に合わせてくるまでそう時間は掛からなかった。

 

「おぉおおおおおおおお!『四光連斬』!!」

 

 間合いを詰める瞬間を的確に捉えての一撃。だが、私はそれをある程度読んでいた。ケンセイのクラスで習得できるスキル『幻狼』一瞬だけ自分を霊体化させ、相手の背後にまわるスキル。霊体化中は完全物理無効である。

 

(取った)

 

「『流水加速』!」

 

 だが、私の確信は武技によって阻まれる。私の一閃を防ぐ様に肘を蹴りその衝撃で後ろに飛び間合いをとるガゼフ。

 

「…流石だな、今のは勝ったと思ったのだが。」

 

「はぁはぁ…今のは危なかったな…」

 

 若干息が上がった様子で話すガゼフ。だが、一度大きく息を吐くと剣を構えなおす。

 

「貴殿との力の差は歴然…ならば、こちらの持てる全力の一撃にてこの勝負に幕を下ろすとしよう。」

 

「そうか、ならば来い。」

 

 力の差を理解しているが、負けるつもりはないようだ。

 

「『戦気梱封』」

 

 ガゼフの持つバスタードソードが淡く光り輝く。ガゼフの双眸はまっすぐにこちらを見据えている。

 

「「いざ!」」

 

 同時に地面を蹴り互いに距離を詰める。

 

 

 

「『六光連斬』!!」

 

 

 

 ガゼフの神速の六連撃が襲いかかる。

 

 

 

 そして、それを全て受けきる。

 

 

 

「…お見事。」

 

 

 

「『一之太刀・虚刀』」

 

 

 

 狙い澄ました一撃は、ガゼフのバスタードソードの腹を的確に切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

「やはり、私ではアーロン殿には敵いませんな。」

 

「そんな事は無い、何度か危ない所もあった。ありがとう戦士長殿、この一戦で多くを学べた。」

 

「こちらこそ、アーロン殿と戦えてまだまだ強くなれる事を実感させて貰った。感謝している。」

 

 二人で固く握手を交わす。そういえば、一応傷つけない為に武器破壊のスキルを使ってしまったが、大丈夫だったのだろうか…

 

「剣、すまなかったな。もしかして大事な剣だったか?」

 

「いえ、これは普通の剣ですので気になさらないで下さい。」

 

「ならいいのだが。何か代わりの剣でもあげられたら良いのだが…」

 

 基本刀使いなので、ガゼフが使う様な直剣や大剣を持っていないのがこんな所で響くとは。

 

「本当に気になさらないで下さい。剣一本で貴殿と戦う事が出来たと思えば安いものです。」

 

 これに関しては平行線になりそうなので大人しく引いておく。

 

「さて、武技についてかなり理解する事も出来た事だ、そろそろ主の元に戻るとしよう。」

 

「行かれるのか。モモンガ殿同様、王都へ寄られた際はぜひ我が館に来てほしい。歓迎しよう。」

 

「いつになるかは分からないが、必ず行くと約束しよう。闇潜み。」

 

「ハッ」

 

 後ろで控えていた闇潜みに指示を出し、『転移門』を出す。

 

「それでは戦士長殿、また会いましょう。」

 

「えぇ。それまでに、少しでも貴殿に近づける様鍛錬を積んでおきましょう。」

 

 ガゼフに背を向けて『転移門』に入ると、最後にガゼフから声を掛けられる。

 

「最後にもう一度言わせて欲しい。この村を救って頂き、本当に感謝している。」

 

 その言葉に手を振って応えると、そのまま『転移門』は閉じ見慣れた自室の風景に変わった。

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさいませ、アーロン様。」

 

 美人の奥さんがいたたっちさんはこんな気分を毎日味わっていたのだろうか。そこにはアルベドが待っていた。

 

「あぁ、今帰った。…態々待っていてくれたのか?ご苦労だったな。」

 

「そんな!愛する方の帰りを待つのは女の使命!苦労など感じる事はございません!」

 

「そ、そうか?…アルベド。」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 アルベドの私を愛しているという設定。それはモモさんが半分ふざけてやってしまったもの。その事を伝えるべきなのか正直迷っていた。だが、彼女には知る権利がある。コンソールが出てこない以上、彼女の設定を変える事は出来ないがやはり教えるべきだろう。

 

「闇潜み、少し席を外せ。」

 

「畏マリマシタ」

 

 部屋から出て行くのを確認する。そして意を決して話し始める。

 

「アルベド、お前の私を愛するという感情は私と王が歪めてしまったものなのだ。だから、その…」

 

(だから、なんて言えばいいの…例え歪めた設定だとしても、今のアルベドの気持ちには違いないんだから…)

 

「…お二人が変えられる前は、どのような私だったのですか?」

 

 ビッチ。なんて言える筈が無い。

 

「…これは私の個人的考えだが、守護者統括としてあまり好ましいものでは無かった。」

 

「ならば、私はお二人に感謝しなくてはなりません。守護者統括として相応しい私、そしてアーロン様を愛する事が出来る今をお創りになって下さったのですから。」

 

「…え~」

 

 若干勘違いしている様な気がしなくもないが、こう言われてしまうと反論しづらい。

 

「タブラさんが作った設定を変えてしまったのだぞ?」

 

「タブラ・スマラグディナ様なら、娘が嫁に行く気分でお許して下さると思います。」

 

 どうだろう、確かにタブラさんとは仲が良かった。私の話すダークソウルのギミックや設定に一番興味を持ってくれた人だ。

 

「そ、そうか?」

 

「重要な事は一つだと思います。」

 

 アルベドは寂しげに言葉を紡いだ。

 

「ご迷惑でしょうか?」

 

「い、いや迷惑では無い。…お前の様な美しい者に愛される事は嬉しい。だが、私の中でお前を歪めてしまったという事実があって、素直に喜べないのが正直なところなのだよ。すまないな、こんな不甲斐無い主で。」

 

 設定を変える事無く、アルベドに愛されたのだとしたら素直に受け止める事が出来ただろう。だが、今の私の気持ちでは彼女を受け入れる事は出来そうにない。

 

「アーロン様が不甲斐無いなどありません!私の事を気遣ってくださっているのにそれを不甲斐無いなど誰が言えましょうか!アーロン様が御心を痛める必要は御座いません!」

 

 アルベドのその眼差しは真剣そのものだった。

 

「アルベド…」

 

「アーロン様…」

 

 どんどん近くなるアルベドの顔。瞳は潤んでおり、妖しい美しさを醸し出している。が、私は動いてるつもりは無い。という事はアルベドの方から近づいて来てるという事。このまま雰囲気に呑まれそうになったその時

 

《アーロンさん、戻ってきてます?》

 

「……ちょ、ちょっと待てアルベド!王からの『伝言』だ!」

 

「っち!」

 

 一瞬凄い顔で舌打ちしていた気がするが、いつも通り気のせいだろう…多分。

 

《は、はい戻りました。今少しアルベドと話してまして。何かありました?》

 

《ナザリックの今後について話したいと思いまして。それに、武技についても聞きたいのでこれから執務室に来て貰えますか?アルベドにも意見を聞きたいのでそのまま連れて来て貰えると助かります。》

 

《了解。それじゃあすぐに行くよ。》

 

 アルベドの方を見るといつも通り微笑を浮かべている。やはり先程の舌打ちは気のせいだったのだろう。こんな綺麗な顔をしてるアルベドが舌打ちなんてする筈は無い…多分。

 

「王が御呼びだ。行くぞ。」

 

「畏まりました。」

 

 同じ9階層の執務室に移動する時後ろの方で、邪魔が入らなければ、惜しかった、落とせる、滾る、など聞こえてきたがもう気にしない事にした。その方が精神衛生上いいだろう。

 

 

 

 

 

 

 玉座の間には、かなりの数のシモベ達が誰一人として言葉を発さず、呼吸音すらも聞こえない程の静寂の中跪いていた。その中をモモさんの後ろに付き従う様に歩みを進める。そのまま玉座に座るモモさん、そして私はその右前方に立つ。

 

 玉座に座したモモさんは、黙って階段下に広がる光景を眺めていた。そこにはほぼ全てのNPCが揃っていた。私も圧倒されていた。その光景はまさに百鬼夜行というのが相応しく、多種多様な種族達がこの玉座の間に集まっていた。

 

「まずは、私とアーロンが勝手に動いた事を詫びよう。何があったかはアルベドから聞く様に。ではまず、重要な連絡から始めよう。アルベド、デミウルゴス。アーロンの横まで。」

 

「はっ!」

 

 階段下の私達に一番近い位置で跪いていたアルベドとデミウルゴスは、私の反対側へと移動する。

 

「今現在、ナザリックが別な世界へ転移した事は皆も承知していると思う。よってこの事態に対応するために指揮系統を明確にしようと思う。」

 

 一呼吸おいて、モモさんはこちらを向く。

 

「まず、私の補佐としてアーロン、アルベドの両名を任命する。これは戦闘能力や指揮能力などを考慮した結果だ。そして、勘違いしないで欲しいのがアーロンは私の友である事だ。確かに友であると共に私に仕える騎士ではあるが、立場に違いは無い。あくまで指揮系統を明確にする為のものだ。異論ある者は立ってそれを示せ。」

 

 モモさんの言葉に対し何かを言う者はいない。

 

「よろしい。さらに参謀の任にデミウルゴスを任命する。お前の智謀、期待しているぞ。」

 

「ご尊命、承りました。今まで以上にこのナザリックの為、そしてモモンガ様のお役に立てますよう、努力いたします。」

 

「お前たちのさらなる働きを期待している。」

 

「「「はっ!」」」

 

 あくまでは私は王に仕える騎士。これはモモさん相手でも譲れなかった。だからこそあの発言なのだろう。そこまでして友と思ってくれるのは素直に嬉しいものだ。

 

「ではこれから、お前たちの指標となる方針を厳命する。」

 

 モモさんは黙り、少し時間を置く。そして立ちあがり、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを床へ突き立てる。

 

「アインズ・ウール・ゴウンを、不変の伝説とせよ!」

 

 モモさんの覇気に満ちた声が、玉座の間に広がる。

 

「地上に、天空に、海に、この世界のすべて、知性のある者すべてが知るように、知らない者が誰一人としていないほどの領域にまで。アインズ・ウール・ゴウンの名を伝知らしめるのだ!そして、この世界に来ているかもしれない我が盟友達に知らしめるのだ!我らは、ここに居ると!」

 

 モモさんは両手を広げて声高らかに宣言する。そして私も一歩前に出て、声を上げる。

 

「我らは義の英雄となる!我々こそが正義であり、それに仇なす者には容赦はいらん!だが、例え人間であろうと、無辜の者に対する無用な殺生はこのアーロンが許さん。正なる者には施しを!不義なる者には鉄槌を!」

 

「「「「「正なる者には施しを!不義なる者には鉄槌を!」」」」」

 

 私の言葉を守護者達、そしてシモベ達が唱和する。

 

「今はまだ準備段階に過ぎないが、将来来るべき時の為に働くのだ!そして、アインズ・ウール・ゴウンこそが、もっとも偉大で正しきものであるという事を知らしめるのだ!」

 

 音を立てて一斉に玉座の間に集まった者達が跪く。興奮による熱気が渦巻く中、私はその神話的な光景に目を奪われていた。

 

 

 

 

 

 今こそもう一度誓おう。必ず、最後まで王と共に。

 





という訳で一巻分の話を書き終える事が出来ました。

初投稿という事でかなり拙い文だったかと思いますが、今後も頑張っていきますのでよろしくお願いします。



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第9話

 リ・エスティーゼ王国の都市、エ・ランテル。その町のとある広場を颯爽と歩く三人の駆け出しの冒険者達。

 

漆黒に輝き金と紫の紋様が入った絢爛華麗なフルプレートに身を包み、真紅のマントを割って2本のグレートソードの柄を覗かせている人物、モモン。

 

全身を黒い布で包み、真っ赤な髪の所々に黒くメッシュが入っており、長い髪をポニーテイルの様に後ろで纏めて、長い前髪はそのまま胸元までおろしている。きめ細かい色白の肌は日差しを浴びて真珠の様な艶と輝きを放ち、道行く男達の心を鷲掴みにしている美女、クラナ。

 

そして、過去に王の双腕と名を馳せながら戦友と反目し、争い、敗北。反逆者として追放されながらも力を求め、闇と共に生きる道を選んだ騎士、レイムの装備を着用し身の丈程ある黒く無骨で板の様な特大剣を背に差した、アロン。

 

「なんて、一人で解説してみたが、凄い注目のされようだなモモン。」

 

「ん?いきなりなんだ。まぁ注目されるのは仕方が無いだろう。目立つのも目的の一つだぞ、アロン。」

 

 今現在私達はエ・ランテルに来ている。目的はこの世界の人間の冒険者としての地位を確立し、冒険者達、つまりこちらの世界の強者の情報を集めると共に、こちらの世界のお金を稼ぐ事だ。

 

 今回同行人に選んだのが師匠だ。モモさんは最初、ナーベラル・ガンマを連れていくつもりだったのだが、私はこちらの世界に来て暇な時間を利用して守護者達やプレアデスと触れ合ってきたから分かるが、あれは不味い。大の人間嫌いなのだ。

 

試しにカルネ村へのお使いをナーベラルに頼み、その様子を見ているともう見た感じ人間を嫌悪している雰囲気が出まくっていた。話しかけられれば虫けら呼ばわりで、流石にこれを連れていく訳にはいかなかった。

 

 そこで白羽の矢がたったのが師匠だ。基本師匠は7階層にいるが、別にデミウルゴスの指揮下にある訳でもなく防衛時も特に役割を与えられていない。まぁ言い方が悪いが居なくなっても問題無いのだ。しかも私が彼女に設定したカルマ値は極善の200。人間相手にも特に問題無く接することが出来るので今回の同行人に選ばれたのだ。

 

「それにしてもアロン、本当に私で良かったのか?護衛というならやはりアルベド様の方がいいのでは?」

 

「アルベドは…私とモモさんがもっとも信頼できるからこそ、留守を任せるのだ。」

 

「成程な、そう言う事か。」

 

 師匠はいつもと違いフードを取っている。一応怪しまれない為の処置だが、ダークソウル内では素顔を見せる事が無かったので、私が彼女の姉妹の顔を参考に作ったのだがこうして見るとやはり美人だ。一応冒険者仲間と言う事で、私達との会話は砕けた感じでする様に命令している。ちなみにナーベラルにもやらせてみたが無理だった。

 

「それで、これからどうするのだ。」

 

「これから組合で紹介された宿に向かう。その後の事は宿で決めよう。」

 

「了解した。」

 

 そして私は今騎士アーロンではなく、煙の騎士レイムになりきっている。モモさんから別な装備を着けて行ってくれと言われたので、数少ない一式装備の中からこれを選んだ。

 

「さてと、確か目的の宿はあそこだな。」

 

 モモさんが探していた絵を提げた店を発見した。私達はこの世界の文字が読めないので絵を頼りにして探していたのだ。

 

 ウエスタンドアを両手で開けると、薄暗い店内が広がっていた。店内はかなり広く、1階は酒場になっている様だ。奥にカウンターがあり、その横には棚が据え付けられ酒瓶がならんでいる。部屋の隅には階段があるので、上の階が宿屋なのだろう。

 

 何卓もある丸テーブルには客の姿がちらほらと見え、それは殆どが男だ。堅気ではない者に相応しい空気に包まれていた。そしてその者達の視線は私達に向けられている。それは値踏みする様なあまり好ましくないものばかりだった。

 

(それにしても汚いな…ユグドラシルの酒場もここまで酷くはなかったんだけど…)

 

 横を見ると、モモさんも同様の感想なようで少し溜め息をついている。そして店の奥に目をやるとそこには体のいたるところに傷跡をいくつも浮かび上がっているスキンヘッドの男がモップを片手に私達を堂々と観察していた。

 

「宿だな。何泊だ?」

 

「一泊でお願いしたい。」

 

 店主は私達の胸元を確認すると割れ鐘を彷彿とさせる濁声で言い放つ。

 

「銅プレートか…相部屋で一泊5銅貨だ。飯も出すが肉が欲しけりゃ追加で1銅貨だ。」

 

「出来れば3人部屋を希望したいのだが。」

 

 僅かに鼻で笑った声が聞こえる。

 

「…冒険者御用達の宿屋でここは一番下だ。お前は組合の人間にここを紹介されたんだろう、どうしてだが分かるか?」

 

「…駆け出しの冒険者同士で寝食を共にし、危険に立ち向かう為の仲間を作れと言う事か。」

 

 まぁ理にかなった話ではある。だが今回に限っては無用なお節介だ。

 

「後ろのごついのは分かってるじゃねぇか。それで、どうする。」

 

「3人部屋だ。」

 

「ちっ!人の親切が理解できない奴だ。それともその装備は飾りじゃねぇって言いたいのか?まぁいい。1日8銅貨、前払いだ。」

 

 宿屋の店主が手を差し出した。値踏みする様な視線の中、私と師匠を従えて歩き出すがふと止まる。足元を見てみるとモモさんの邪魔をするように足が出されていた。

 

足を出してきた男を見てみると、嫌らしい薄笑いを浮かべている。同じテーブルを囲む者達も同じような笑みを浮かべているか、もしくは私達をじっと観察している。

 

(うわぁベタな事するなぁ…)

 

 内心呆れかえっていると、モモさんも溜め息をついている。こういう輩は無視に限る。モモさんの横から男の足を跨いで店主の元に行く。モモさんもそれに倣って男の足を跨いでいく。だが、最後を歩いていた師匠が倒れ込む。すばやく振り返ったモモさんがそれを支えた。

 

「っと。大丈夫か、クラナ。」

 

「すまん、モモン。」

 

 男をみると、ただ出していただけの足が上げられている。…そういう事か。

 

「おいおい嬢ちゃん、痛いじゃねぇか。」

 

 男はドスの利いた声で威圧しながらこちらににじり寄る。立ちあがったときに取ったであろうガントレットを装備し拳を作っている。おそらく適当な事を言って難癖付けてくるつもりだろう。だが、それに付き合うつもりは無い。師匠に恥をかかせた罪は重いぞ。

 

 私の前に立ち睨みつけてきた男の頭を鷲掴みにして持ち上げる。

 

「ぎゃぁあああああああ痛い痛い痛い!」

 

 男の言う通りかなり痛いだろう。だが、そんな事は知らない。

 

「私の師匠に恥をかかせたのだ。死ぬ覚悟は出来ているのだろうな。」

 

 そのまま握る力を強くしていく。メキメキと頭蓋骨が軋む事が聞こえてくる。だが、それは後ろからかけられた声によって止められる。

 

「そこまでだ、この馬鹿弟子が。私は気にしていない、放してやれ。」

 

「師匠…ふんっ。」

 

 持っていた男を軽く投げ飛ばすと男の体は驚くような勢いで天井まで上昇し、テーブルの上に勢いよく落ちる。

 

「おっきゃぁああああ!」

 

 壊れたテーブルに座っていた女から魂の絶叫が店内に響く。ありえない、といった表情でこちら見ている男達を一瞥し、モモさんと共に店主の元まで行く。

 

「すまないな、テーブルは弁償しよう。釣りは結構だ。」

 

 モモさんは店主に銀貨1枚を手渡す。すると店主はニヤリと笑う。

 

「へぇ。なかなか気前がいいじゃねぇか。それに、腕っぷしも悪くねぇ。二階の一番奥だ、冒険の道具の準備はどうする?」

 

「あぁ、よろしく頼む。」

 

 金はその時でいいと言って掃除に戻った店主に頭を下げ、移動しようとすると。

 

「ちょっとちょっとちょっと!」

 

 先程奇怪な声を上げていた女がズカズカと私に迫って来た。年齢は20前後、赤毛の髪を動きやすい長さに乱雑に切っている女性だ。腕の筋肉は隆起しており、普通の女性では無い事を語っている。女性は胸元の鉄のプレートを揺らしながらこちらに向かってくる。

 

「あんたなにすんのよ!」

 

「何とは?」

 

「はぁ!?あんたがあの男を投げ飛ばした所為で私のポーションが、私の大切なポーションが壊れちゃったじゃない!」

 

 たかがポーションで、とも思ったがこの女性の剣幕からするとこの世界ではポーションとは貴重なものなのかもしれない。元はと言えばあの男の所為だが、投げ飛ばしたのは私だ。ここは素直に謝っておくべきだろう。

 

「すまない。ポーションなら私も持っている、それで許して貰えないか?」

 

「…まぁ、いいけど。」

 

 モモさんに目配せをし、首を縦に振ったのを確認し女に腰から下げた袋から下級ポーションを取り出し、女に手渡す。

 

「これで問題ないか?」

 

「…ええ、ひとまずは。」

 

 若干気になる言い方だったが、気にする必要もないだろう。そのままモモさんと師匠について行くように二階へ上がった。

 

 

 

 

 

 

「あの男の力、並の力じゃねぇな。片手で持ち上げた事もそうだが、すぐ横に居たから分かるがあいつの頭蓋骨軋んでたぜ。」

 

「後ろに担いでたデカイ剣は飾りじゃねぇってことだ。しかも鎧もありゃ相当レアなやつだろう。」

 

「となるとリーダーらしきフルプレートの男も同格と考えるべきだろ。一気に追い越されそうだな。」

 

「ならあの別嬪さんはマジックキャスターか。あの二人が前衛を務めるんだったらさぞ頼もしいだろうな。」

 

「いや、待てよ。どこかの貴族のボンボンって可能性も…」

 

「おい、ブリタ。なんだそのポーションは?」

 

「あぁおやっさん。さぁ…なんだろう? おやっさんもこんな色のポーション見たことない?」

 

「ああ、無いな。気になるなら、俺が鑑定士を紹介してやるよ。金も出す。だから効果を教えてくれよ。あの三人、ちょっと気になってきちまった。」

 

「そういう取引ね。」

 

「どうせだから、最高のポーション職人を紹介してやるよ。かのリイジー・バレアレだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 粗悪な扉をしめ、一応鍵を掛けると寝台に腰を掛けていたモモさんの方を向く。

 

「さっきはごめん。つい頭に来ちゃって…」

 

「いえ、問題ないですよ。私でもあんな風にする自信ありますし、悪いのは向こうですから。」

 

「そう言ってもらえると助かるよ。師匠は大丈夫だった?怪我とかは…」

 

「はぁ、あの程度の事で怪我なんてする訳ないだろう。」

 

 呆れた表情でそう言う師匠、確かにそうだが心配なものは心配なのだ。

 

「だがまぁ、私の事を思って怒ってくれた事には感謝しておこう。」

 

 殆ど見る事のない師匠の美人な顔、その少し笑った顔に心臓が跳ねる。やばい予想以上の破壊力だ。

 

「…いいなぁアーロンさん。私もそういう設定のNPC作っておけば良かったです。」

 

 羨ましそうな声を上げるモモさん。

 

「そう?私はモモさんの作ったNPC好きだよ。」

 

「あいつに会いに行ったんですか!?」

 

「うん。ナザリックに居る間は基本暇してるから、領域守護者に会いに行ったりプレアデス達と話したりしてるから。」

 

 ヘルムを取ったモモさんはその頭蓋骨の顔面を両手で覆う。

 

「はぁ、勘弁して下さいよ。あれは正直黒歴史なんですよ。」

 

 恥しがっているのは一瞬で、すぐに精神が安定化させられるモモさん。冷静な様子で質問してくる

 

「あいつは元気ですか?」

 

「元気だよ、モモンガ様にお会い出来る日をいつまでもお待ちしておりますって。暇な時に顔出してあげたら?」

 

「……あれと向き合う覚悟が出来たらいきます。」

 

(そんなに酷いかな?ロールプレイを重視する私からすればああいうのは結構好みなんだけど。)

 

「それにしても、夢の無い職業だね、冒険者。」

 

「ですね、一言で言うならモンスター専用の傭兵ですから。どちらかというと私達の考えていた冒険者はトレジャーハンターにあたるみたいですね。」

 

 受付嬢の人から受けた説明から受けた感想は先程の一言に尽きる。確かに遺跡や秘境の探索を行う事もあるそうだが、基本そういった仕事はランクの低い冒険者にはやらせずに、一部の高ランクの冒険者にしかやらせない様だ。立場事態もあまり高くなく、国家レベルで管理している訳でもない。何とも夢の無い話だ。

 

「まぁ憧れた職についたら、思っていたのと違うなんてよくある話ですしね。それにしても、アーロンさんのいつもの鎧もカッコいいですけど今着けてるのもカッコいいですね。」

 

「そうでしょ、煙の騎士レイムっていうボスの装備なんだよ。モモさんが黒い鎧にするって聞いたからこれにしたんだ。」

 

 騎士アーロンも好きだがレイムも同様に好きだ。あのアンバランスな2刀流も好きだが、本気モードの特大剣一本で叩きつぶしにくる感じがたまらない。こちらの装備にはあまりお金を掛けていないので、アーロン装備には劣るがこの世界なら問題ないだろう。

 

「装備自慢も良いが、これからどうするのだ?いつまでもここでゆっくりしていても仕方ないだろう。」

 

「……」

 

 何故だか分からないが師匠の発言に、モモさんが唐突に黙り込んでしまった。

 

「どうかしたモモさん?」

 

「いえ、最近は敬われる事ばかりだったのでクラーナの態度がなんか新鮮で。」

 

「…流石に不敬でしょうか…やはり今からでも!」

 

 跪こうとする師匠を慌てて止めるモモさん。

 

「あぁいいから!この3人の時はそのままでいてくれないか?その方が助かるから。」

 

「モモンガ様の助けになるのであれば、分かりました…いや、分かった。」

 

 師匠は常日頃から私の師匠を演じている所為か、モモさんの砕けた感じで話せという命令にも割と抵抗なく従っていた。それが以外とモモさんには高評価の様だ。

 

「ふぅ。アーロンさんがクラーナを選んでくれて助かりました。堅苦しい態度じゃないだけでも、少しは息抜きが出来そうです。」

 

「そう?それなら良かったよ。」

 

「さてと、それじゃあ市場にでも行きましょうか。仕事は明日からにでもしましょう。」

 

 

 

 

 

 

 明朝、再び三人で組合に向かった。入ると奥にカウンターがあり、そこでは組合の受付嬢が三人、冒険者達の相手をしていた。フルプレートを着用する戦士に、弓矢を持つ軽装の身軽そうな者、マジックキャスターの姿もある。

 

 左手側には大きな扉があり、左手側には羊皮紙を張り出した大きめのボードがある。これがなんだかは、ゲームをやった事がある人間なら大体予想がつくだろう。

 

(あちゃー、クエストボードか。文字読めないけどどうしよう…)

 

 ボードに張られている羊皮紙には恐らく仕事の内容や、条件などが記されているのだろう。この世界の文字が読めない私達にはかなり嬉しくないシステムだ。とりあえずボードの前まで来てみるが。

 

「「うん、読めない。」」

 

「…だな。」

 

 悲しい事にユグドラシルにも古代文字などを読み解く為の、文字解読魔法などは普通にあるのだがモモさんは取っておらず、同じ効果をもつアイテムはセバスに渡してしまった。つまり現状どうしようもない。

 

「どうする、モモン?」

 

 こういう時はとりあえずモモさんに任せればいいって前に誰かが言ってた気がする。

 

「そうだな…クラナ、何か良い考えは「良い女じゃねぇか、カッパーか。何なら俺達の仲間に入れてやるよ。」…ん?」

 

「うん?」

 

 後ろを振り向くと、師匠が3人の男たちに囲まれていた。三人とも戦士風の屈強な男で、プレートメイルを着用しそれぞれバトルアクスにハルバード、剣と盾などを背中に装備している。どうやら変なのに絡まれてしまったようだ。

 

「お前達の仲間になるつもりは無い、すまないな。」

 

「おいおい、俺たちはゴールドの冒険者だぜ。その誘いを断ろうってのか?」

 

「あぁ。」

 

 男の言葉通りに三人の胸元では金のプレートが光っている。成程、性格はともかく腕はそこそこという訳だ。だが、流石にこのまま見ている訳にも行かない。モモさんに目配せをし、男達に近寄っていく。

 

「申し訳ないがクラナは我々の仲間なのでな。放してもらえると助かるのだが。」

 

 モモさんの言葉を聞いた男達がこちらを向くと、鼻で笑ってきた。

 

「はんっ。カッパーのくせに立派なもんつけてるじゃねぇか。大方貴族のボンボンが道楽気分で来たんだろ。ねぇちゃん、こんな奴ら捨てて俺らの所に来いよ。丁度マジックキャスターを探してた所なんだよ。仲間になんだから夜も一緒に寝てやるぜ!」

 

 ぎゃははっ!大声で笑い出す男達。周りの連中は遠巻きに見るだけで特に何もする様子は無い。確かに冒険者としては先輩にあたるが、昨日の男といい流石にこちら見下し過ぎではないのかと疑問に思うが、あまり言われっぱなしというのも気分が良くないな。

 

「これから仕事を探す所なのでな、女漁りなら余所でやってくれないか。」

 

「なんだとテメェ…喧嘩を売るのは構わねぇが実力の差ってのをちゃんと理解した方が身の為だぞ。」

 

 明らかな敵意を向けてくる三人。モモさんもやれやれといった様子で一歩前に出る。

 

「実力の差なら理解しているさ。怪我をしたくないならさっさとそこを退くんだな。」

 

 これが決まりだった。

 

「上等じゃねぇか!表に出やがれ!」

 

 

 

 

 

 

「組合の中で殴りかかってこない程度の常識は持ち合わせているのか。」

 

「すまない二人とも。一度ならず二度までも面倒事を引きこんでしまった。」

 

「気にするなクラナ、これはある意味好都合だ。これだけの観衆の中で、強さを見せつける事が出来る。」

 

 組合の前は広場になっていて、この区画の中ではもっとも広い場所だ。外周に沿う様に露店が立ち並んでおり、その中央に人だかりが出来ている。その多くは冒険者で、先程の一件を見ていた連中だろう。よく見れば昨日の酒場にいた男もちらほらと見える。

 

「さっさと出て来いよ、びびっちまったのかぁ!?」

 

 男達のリーダーらしき、バトルアクスを持った男が挑発してくる。残りの二人は後ろに下がってうすら笑いを浮かべている。一対一を御所望のようだ。

 

「さて、誰が行く?」

 

「私が行こう、二人は下がっていてくれ。」

 

 真っ先に名乗りを上げたのは意外な事に師匠だった。

 

「原因はあの馬鹿共だとしても引きよせてしまったのは私の責任だ。二人の手を煩わせる気は無い。」

 

 今はフードを目深にかぶっている為表情は分からないが、声に込められた怒りは理解できた。

 

「そうだな…ならばクラナ、任せるぞ。実力の差を分からせてやれ。あぁだが、一応第三位階相当以上の呪術は使うな。まぁ使う必要も無いとは思うがな。」

 

「師匠、死なない程度にボコボコにしていいからね。剣も使っていいから。」

 

「ありがとう、二人とも。」

 

 そう言って前に出る師匠。

 

「あん?おいおいねぇちゃんがやるのか?テメェじゃ相手になんねぇよ、後ろの二人と交代しな。」

 

「安心しろ、お前程度では私の相手にもならん。後ろの二人も呼んだらどうだ?」

 

「て、テメェ…舐めた口聞いてんじゃねぇぞぉおおおおおお!」

 

 師匠の言葉が余程頭に来たのだろう、男は顔を真っ赤にしてバトルアクスを抜き放ち師匠に襲いかかる。

 

 ガンッ!と甲高い音が響き、振り下ろされた斧は師匠がいつの間にか手にしていた硬い甲殻と棘を持った異様な魔剣によって受け止められる。

 

「な、なんだそれは!?」

 

 攻撃が受け止められたと理解するや後ろに下がり距離を取る男。

 

「これか?そうだな…これは私の妹の魂で出来た魔剣だよ。私の為に、馬鹿な弟子が態々作ってくれたのだ。さて、今度はこちらから行くぞ。」

 

 魔剣という言葉に一瞬怯んだ男目掛けて斬りかかる師匠。男は慌てて斧で受け止めるが、師匠の振った魔剣の刀身は炎に包まれ男に襲いかかった。

 

「あちぃ!くそっ!なんだってんだ!」

 

 炎を帯びた刀身を受け止める事は出来ない。一方的に斬りつけられかわすのに精一杯になる男。そして、ついに業を煮やし声をあげる。

 

「お、お前らも見てないで手伝え!」

 

「お、おう!」 

 

 男の切羽詰まった声によって観戦していた仲間の二人も加わる。盾を持った男が前に出てきて魔剣を受け止める。その隙を突いて斧を持った男が斬りかかり、かわした所にハルバードで追撃をしかける。

 

「ほぅ、ただの脳筋集団かと思っていたが、存外に良い連携じゃないか。クラナでは少し厳しいか?」

 

「いや、問題無いだろう。そもそも師匠は呪術師、曲剣を使って戦う剣士じゃない。」

 

 ハルバードを剣で弾き大きく後ろに後退する師匠。そして、その左手が赤く光り出す。その光はどんどんと大きくなり、しだいにそれは揺らめき始める。

 

「炎を畏れろ。それがお前達の、すべてを失わない道だ。」

 

 握りしめていた左手を浅く開くとそこには揺らめく小さな炎の塊。それを男達目掛けて投げつける。連携のとれた動きで盾を持った男が二人の前に躍り出てその小さな炎の塊を盾で受け止める。だが、受け止めた瞬間炎の玉は爆発する。爆発の衝撃で男は後ろに飛ばされる。受け止めた盾の表面は丸く焼け焦げている。

 

「なんっ!おいテメェ、詠唱も無しに何故魔法が使える!?」

 

「簡単な話だ、これは魔法では無く呪術。呪術とは炎の業、炎を熾し、それを御する業だ。」

 

 師匠のクラスは『呪術師(ソーマタージ)』このクラスは、一属性に限り最大第7位階魔法相当の呪術を使用回数制限はあるが、MP消費無し、詠唱無しで使う事の出来るクラスだ。これだけ聞くとかなり強く感じるが、実戦で通用する相手は精々60~70レベルまで、それ以上となると普通に魔術師の方が強くなる。なので、呪術のみを使って師匠がナーベラルと戦った場合、レベルではそう大差ないが確実に負けるだろう。

 

 再び師匠の左手に光が宿る。だがそれは先程の光よりもより大きく、作りだされた炎は大きく、さらに紅蓮に染まり混沌と渦巻いている。それを使う事無く男たちに少しずつ近づいて行く。

 

「く、来るんじゃねぇ!」

 

 いくつもの死線をくぐってきた男達は、その炎がただならぬ気配を発している事に感づいた。だが、師匠は止まる事無く男たちに歩み寄る。

 

「私は何と言った馬鹿共。思い出せ、まだ間に合うぞ。」

 

 そう言ってまた一歩、また一歩と近づく。男達はもはや先程までの威勢はどこかに行ってしまい、完全に意気消沈して膝をついている。だが、それでも師匠は止まらなかった。

 

「私は言った筈だ、炎を畏れろ、それがお前達が全てを失わない道だ、とな。…さぁどうする?」

 

 目の前に立った師匠は最後の警告を下す。揺らめく炎は男達の怯えきった顔を照らしだし、その熱は男達のプライドを溶かしつくした。

 

「ま、負けだ。俺達の…負けだよ…」

 

「…ふむ、いい答えだ。喧嘩を売る相手はちゃんと選ぶんだぞ。かけた時間が無駄になる。」

 

「「「「「「うぉおおおおおおおお!!!」」」」」 

 

 左手に宿した炎を振り向きながら握り消すと、周囲から歓声が上がる。いつの間にやら気づけば凄い数の人だかりになっていた。店を放って見に来ている者もいるようだ。いや、考えてみれば当然か。師匠のランクは最低のカッパーで相手は格上のゴールド、しかも三人だ。それを圧倒してしまったのだ、見世物としてはこれほど面白いものは無いだろう。

 

 勝利を誇りもせず淡々と歩きながらこちらに戻ってくる師匠に、人だかりの中から賞賛の声がかけられる。

 

「見事だクラナ。これで、我々の事が少しはこの町に広まるだろう。」

 

「やっぱり師匠は優しいですね。」

 

「優しい?何を言ってるんだこの馬鹿弟子は。実力の差を見せつけてやっただけだ。」

 

 そうして、ひとしきり賞賛の声がかけられた後皆それぞれの仕事に戻っていく。私達も当初の目的の為に組合に戻ると、そこには受付嬢が立っており私達を見つけるなり駆け寄って来た。

 

「モモンさん。」

 

「うん?」

 

「ご指名の依頼が入っています。」

 

「一体どなたが?」

 

 受付嬢は自らの左手を出し、その人物を示す。

 

「ンフィーレア・バレアレさんです。」

 

 示された先にいたのは長い金髪で顔を半分ほど隠し、所々に緑色の染みを作った作業着に身を包んだ若い男だった。




今回は完全に師匠の為の回です。

これから少しオリジナル展開になるのでおかしな点などありましたら御指摘お願いします。



師匠の顔、クラスは捏造です。けど師匠はクラーグさん同様ポニーテイルの美人だって確信してます!


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第10話

 

 

 組合にある会議室の様な一室に招かれていた。木のテーブルを囲む様にして椅子が置かれており、まるで面接の様に座っていた。

 

「僕はンフィーレア・バレアレ、この町で薬師をしています。」

 

 金プレートの冒険者達を返り討ちにして、いざ読めない文字という現実を見ようと思っていたらいきなり渡りに船、仕事が転がり込んできた。

 

「知っての通りですが、私はモモンです。よろしくお願いします。」

 

「アロンだ、こっちは私の師匠のクラナだ。それで、今回はどんな依頼を?」

 

 軽く会釈をしながら自己紹介を済ませ、本題に入る。

 

「はい、僕はこれから近場の森まで行く予定なんですが、御存じのように森は危険な場所です。それで、僕の警護及び出来ればその森での薬草採集に協力してほしいんです。」

 

「警護、ですか…」

 

 警護任務というと少し厄介ではある。モンスターを狩るだけなら特に問題無いだろう。だが、これが誰かを守りながらと話は変わってくる。モモさんと師匠もそうだが、私はタンク系のスキルを保有していない。

 

 だが、不安もあるが下手に断って警護任務も出来ないと振れ回られたりしたら今後の私達の評判にも関わる。断るという選択肢は残っていなかった。

 

「いいんじゃないか、断る理由も無いだろう。」

 

「…そうだな。ではバレアレさん、その依頼お受けしましょう。」

 

「ありがとうございます。それと、僕の事はンフィーレアと呼んでいただいて結構ですから。報酬は規定の金額をお支払いします。」

 

「えぇ、それで構いません。」

 

 仕事を受ける事は決まった。だが、気になる点が一つ残っていた。

 

「ンフィーレア殿、一つ聞きたい事がある。何故私達なのだ?私達は昨日この町に来た。知り合いも居なければ友人もいない。言ってしまえば無名な私達を何故?」

 

 はっきり言っておかしい。私達がこの町に来たのは昨日だ。しかも昨日は宿屋に入った後市場を三人で散策しただけで名を売る様な事はしてない。それなのに彼は無数にいる冒険者の中から私達を名指しで指名してきた。無名で、駆け出しである私達を。

 

「実は、宿屋の一件を聞いたんですよ。」

 

「宿屋の一件?」

 

「えぇ、昨日お店に来た人から上のランクの冒険者をふっとばしたって聞いたんですよ。それに、先程のクラナさんの戦いを見ていましたのでとてもお強いなと思ったんです。今まで雇っていた方はエ・ランテルを出てしまわれたので、新しい方を探していたんですよ。」

 

「なるほど…」

 

 名をあげるという事に関してだけは、あの馬鹿共が早速役に立ってくれたという事か。

 

「それに、銅プレートの方ならお安いと思って。」

 

 確かに、実力は確かで雇う金が安いなら誰だってそっちを選ぶ。

 

「それで、今後の予定はどうするのですか?」

 

「えっと、まずはカルネ村まで赴き、そこに滞在拠点を設け、森に向かうといういつものパターンになります。採集出来た薬草の量によりますが、最長で三日です。」

 

「分かりました。こちらは特に問題無いです。今後も御贔屓にしてもらえるよう、全力を尽くしましょう。」

 

「よろしくお願いします。では準備を整えて出発しましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルより東北に位置するカルネ村へその日の昼ごろ出立した。カルネ村へ向かう為のルートは二つあるのだが、今回はモンスターとの遭遇率が高い方のルートを選択した。

 

 ンフィーレアの話では、この辺りに出るモンスターはゴブリンやオーガなどが主体で、森の中に入らない限りはそこまで強いモンスターは出てこないらしい。ゴブリンやオーガは最大で50レベル程のもユグドラシルには存在したが、はっきり言ってこの世界の強さの基準で考えればそれ程のレベルのモンスターが普通に徘徊していたら今頃人類は滅亡しているだろう。

 

 話し合った結果、モモさんの実戦経験を積む為にもこちらのルートを選ぶ事になった。万が一の時は師匠にゴブリン達全部焼き尽くしてもらえば何とかなるだろう。

 

「ンフィーレアさんは魔法が使えるんですか?」

 

「はい、僕は第二位階魔法まで使えますよ。けど、僕のおばあちゃんは第三位階まで使えるんですよ。」

 

「ほぅ、それは凄いですね。もう少し詳しく聞かせて貰えますか?」

 

 先頭に私と師匠、馬車にはンフィーレア、その右側にモモさんという隊列も何もない状態で街道をすすんでいた。まぁ正直この辺一帯は平原で見晴らしもいいので、モンスターが現れればすぐに分かるので問題はないだろう。

 

 後ろではモモさんがンフィーレア相手に情報収集に勤しんでいる。この辺りはいつも通り丸投げになってしまうのだが仕方が無い。適材適所と諦めて一応周囲の警戒にあたる。

 

「なるほど、『電撃(ライトニング)』まで使用できるのですか。おばあさんは何かタレントを持っていらっしゃるのですか?」

 

「いえ、おばあちゃんは持っていませんよ。」

 

「ん?その言い方だとンフィーレアさんは何かタレントをお持ちなんですか?」

 

 『生まれながらの異能(タレント)』こちらの世界の人間が稀に生まれながらに持っている特殊な力の事だ。おおよそ200人に1人の割合で持っており、存在自体は珍しくないのだが、その力は強力な物から弱いものまで様々にあるらしい。

 

 陽光聖典のニグンから得た情報では、彼自身タレント持ちで『自身が召喚したモンスターを強化する』というものらしい。ただし、例えば「魔法の威力が増す」というタレントを持っていても魔法を使いこなす才能が無ければ意味が無いように、素質や能力とタレントが常にかみ合うとは限らない様だ。そういう意味では彼はかなり恵まれた存在だったのだろう。

 

「あ、えぇ。僕のタレントは『あらゆるマジックアイテムを使用可能』というものです。スクロールの使用制限がなかったり、人間以外の種族でしか使えない道具とかも使えるので結構便利なんですよ。」

 

「…そうですか。」

 

「なぁ、アロン。」

 

「分かってます師匠。これはちょっと注意が必要ですね。」

 

 小声で話し掛けてくる師匠に同意を示す。彼の話が本当ならそのタレントはかなりチート臭い。言ってしまえば彼ならばギルド武器やワールドアイテムなどの使用に特殊な条件があるものでも使えてしまうと言う事だ。

 

(そんなタレントもあるのか。武技といいこっちの世界は色々と注意する事が多そうだ。)

 

 その後もモモさんの情報収集は続き、町にいる有名な人間やタレント持ち、魔法や武技、周辺国家の情報などを集め、私と師匠はする事がなく一先ず周囲を警戒するという名目で景色を眺めながら歩みを進めた。

 

 だが、そんな平和な光景は4人の闖入者によって緊迫したものに変わった。

 

「おい、前方。誰か来るぞ。」

 

 師匠の一言で4人に緊張が走る。馬車が止まりンフィーレアと話していたモモさんも前にやってくる。確かに前方の方から武装した4人の男達がこちらに走ってくる。かなり焦っている様子で時折後ろを気にしながら全速力で向かってくる。彼らの後ろに目をやると、そこには。

 

「ゴブリン。それにオーガか。」

 

 小さな子供ぐらいの身長をした潰れた顔に平べったい鼻をつけ、大きく裂けた口が特徴的なゴブリン。粗い皮を鎧代わりに着用し、片手に木で作った棍棒を持ち、もう片方の手にスモールシールドを所持している。数にして20匹。

 

 そして、数が少ない巨大な生き物。身長は二メートルから三メートル程あり、顎を大きく突き出した顔をしており、巨木を思わせる長い腕は地面につきそうなくらい長く、木をそのまま使った様なクラブを持っているオーガ。こちらの数は10匹。

 

 向こうから走ってくる4人もこちらを確認した様で、手を振りながら大声を上げる。

 

「逃げて下さい!」

 

 服装からして冒険者だろう、彼らの胸元に光るプレートは銀。声をあげたバンデッド・アーマーを着用した金髪碧眼の戦士風の男が息を荒くしながらこちらに駆け寄って来た。

 

「申し訳ありません、我々では手に負えなくて。ここは引きましょう。」

 

 彼がこちらに提案をしてくる。が、ここから逃げるとなると荷物になる馬車は捨てる事になる。馬車がなければ今回の目的は果たせなくなり、結果今回の依頼は失敗となってしまう。

 

「おい逃げるんなら急ごうぜ!もうそこまで来てる!」

 

「くそっ!私が『要塞』を使ってオーガを抑えます。ルクルットはオーガをブロック!ダインとニニャはゴブリンを!皆さんはその隙に逃げて下さい!」

 

 今から逃げたのでは間に合わないと判断したリーダーらしき男が剣と盾を抜き放ち指示を飛ばす。彼らは命がけで私達を逃がすつもりの様だ。

 

 モモさんに目配せをしながら頷き返す。考えは同じなようだ。

 

「その必要は無い。行くぞ、アロン。クラナはンフィーレアさんを守れ。」

 

「了解。」

 

「分かった、任せておけ。」

 

 彼らを追い越す様にゆっくりと歩いていく。だがその背に声がかけられる。

 

「たった二人であの数は無理です!我々も戦います!」

 

 そう言ってくる男の目は真剣そのものだ。先程の言動といい、こちらを真剣に心配しているのだろう。まぁ考えてみれば彼らはシルバー。カッパーである私達を守ろうとするのは当然ではある。

 

「分かった。ならオーガは受け持つ。ゴブリンは任せよう。」

 

 返答を待つ事無くモモさんと共に剣を抜き放つ。大きく大きく弧を描くようにゆっくりと三本の剣がその姿を現す。

 

 モモさんが握りしめた150センチを超える剣は、戦闘の道具というよりは芸術品としての価値の方が高そうな武器だった。刀身に掘られた溝には二匹の蛇の様な紋様が彫り込まれている。

 

英雄の持つ武器

 

 そんな言葉が似合うだろうその剣をモモさんは両手にそれぞれ握りしめる。

 

 それに対して私の煙の特大剣は、大きな黒い板を思わせる形状をしておりその刀身には微かに紋様が描かれているが、煙が付着した様な凹凸のある刀身をしている所為で殆どなんの紋様なのかは分からない。そんな煙の特大剣を両手で握りしめる。

 

 モモさんは感触を確かめるように楽々と振り回して構える。その姿は戦士職の私から見ても堂々としていた。私はそのまま両手で持った剣を肩に担ぐ。

 

「貴方達は…何という…」

 

 リーダーらしき男の呟きが聞こえてくる。それは憧れや、畏れが入り混じっていた。私達の姿をみたゴブリン達は、その姿に恐れをなしたのであろう。動かしていた足を鈍らせ、私達をさける様にして私達の後ろを目指す。

 

「っ!オーガはあの二人に任せる。私が前に出て戦うのでニニャは防御魔法を私に。その後はダインとルクルットと殲滅優先で戦ってくれ。あの二人の背中は俺達が守るぞ!」

 

「「「おうっ!」」」

 

「良い連携だ。まぁ、昔の我々程では無いがな。」

 

「比べる対象が少し悪くないか?まぁあれなら任せても問題なさそうだな。」

 

 モモさんの賞賛には同意するが、比べる相手が私たちじゃ少し可哀想だ。そんな事を考えているとオーガとの距離が迫り、その手に持ったクラブを振り上げる。

 

 私とモモさんが同時に踏み込む。その動きは疾風だった。特大剣を使っているとはいえこちらは戦士職。流石に速度で負ける事はないがそれに迫ってくる速度でモモさんは剣を振る。

 

 白銀と漆黒の輝きを残し、空間を絶つが如く放たれた一撃はそれぞれの目の前に迫ったオーガに吸い込まれる。地響きを起こしながら地面に叩きつけられた私の剣。それはオーガだったものの血と肉を滴らせながら振り上げられる。目の前にいたオーガは縦に真ん中の部分が綺麗に無くなり、そのまま左右に倒れていく。横を見ればモモさんはすでに次のオーガへ向かっていた。そして、棒立ちになっていたオーガの上半身がズルリと動き、血を噴き出す半身を残して地面に落ちる。

 

 戦闘はすでに始まっているというのに、敵も味方も動きを止める。

 

「…すげぇ。」

 

 誰かが漏らした小さな言葉。それが耳に入る程戦場は静まり返っていた。

 

「…信じられない。ミスリルどころかオリハルコン…いや、まさかアダマンタイト!?」

 

 絶句するような光景にオーガ達が怯えた表情で後ろに下がる。その距離を詰めるようにモモさんが一歩前にでる。

 

「どうした?かかってこないのか?」

 

 静かな声が戦場に広がる。カルネ村の時も思ったが、こういう演技をする時のモモさんは本当にハマっている。能力や風貌も相まって滅茶苦茶カッコいい。相手からしてみれば恐怖でしかないだろうが。

 

「そういってやるな、怖くてこちらにこれないのだろう。なら、こちらから行ってやらないとな。」

 

 お互いに重装とは思えない速度でオーガ達に迫る。

 

「ウォオオオ!」

 

 それぞれのオーガが悲鳴とも雄たけびともとれる声をあげ、迫りくる私達に対して手に持つクラブを構える。私の剣を受け止めるべく構えられたクラブをそのまま圧し折りそのままオーガの腹に突き刺さる。重量を乗せた渾身の突き出しはオーガの巨体を容易く吹き飛ばす。後ろにいたオーガにぶつかりそのまま二匹とももつれるように倒れた。そこまで歩み寄り、そのまま大きく剣を振り上げる。

 

「ォオオ!」

 

 命乞いともとれるオーガの声を掻き消す様に剣を振り下ろす。剣は二匹のオーガの体を引き裂きながら進み地面に突き刺さる。

 

 そうしている間にもモモさんはオーガを横一文字に一刀両断していた。

 

 半数の仲間が一瞬で殺されたオーガ達は、完全に意気消沈していた。逃げる事も出来る筈だ。だが、あいつらは理解しているのだろう。背を向けた瞬間切り捨てられる、と。

 

「まぁどうしようと結果は変わらないんだがな。」

 

 一体のオーガに肉薄し、そのまま横に剣を振るう。それは肉と骨を粉々に砕き、まるでダルマ落としの様にそこの肉だけ横に吹き飛んでいく。そのまま次のオーガに移り、上段から振り下ろした剣は始めに殺したオーガ同様に体を左右に体を裂く。

 

 最後に残ったオーガには、もはや考える事は出来なかった。クラブを投げ捨て今だ戦っているゴブリンを置いて逃げ出す。それを切り捨てようと踏み込むが、後ろから飛んできたグレードソードによってオーガの頭は貫かれ絶命していった。

 

「5匹目だ、どうやら引き分けの様だな。」

 

 後ろを振り向けばグレートソードを地面に突き立てた若干誇った様な感じのモモさんがいた。

 

「この程度の敵なら力任せに振るだけでも勝てるさ。上手い相手じゃそれじゃあ勝てないぞ。それこそ、両手に持った武器を上手く使わないとな。」

 

「そうだな、勉強になる。さて、後は向こうか。」

 

 若干馬車と離れてしまったが、ゴブリンの方も粗方片付いていた。4人の連携はかなり経験を積んだもので、数に劣っている事を上手く補っている。それに加えて師匠の呪術による支援がある。20匹いたゴブリンもすでに10匹以上死んでいる。

 

「ニゲル!ニゲルゾ!」

 

 オーガが全員やられたのが分かるとすぐにゴブリン達は撤退し始めた。4人はそれを防ごうと動くが、間に合わない。

 

「師匠。」

 

 声を掛けると師匠は大きく跳躍し、逃げようとするゴブリン達の前に立ちふさがる。炎を宿した手を振り上げて、そのまま地面を叩く。すると辺りから一斉に火柱が噴きあがりゴブリン達を焼きつくす。火柱が納まる頃には、すべてのゴブリンが動かなくなっていた。

 

「本当に申し訳ありません!」

 

 ゴブリン達の襲撃を殲滅した後、四人は傷の手当てもせずにこちらに謝罪してきた。

 

「お気になさらず、あの数では撤退するのは当然でしょう。逆にお礼を言わせてもらいたい。皆さんのお陰でンフィーレアさんを守り切る事が出来ました。ありがとうございます。」

 

 謝罪に対して感謝の意を述べるモモさん。確かに私達だけでも守り切れたかもしれないが、彼らが協力してくれて守り切ったのは事実だ。

 

 モモさんが感謝の言葉に対して驚愕の表情に変わる四人。互いに顔を合わせ何かを確認する四人。だが、全員が首を振ると疑問を投げかけてくる。

 

「貴方の様な冒険者を聞いたことがありません。お名前をお聞きしても?」

 

「私の名はモモン。そしてこっちが仲間のアロン、そしてクラナです。」

 

 モモさんの紹介に私は手を軽く上げ、師匠は頭をすこし下げて応える。

 

「私はぺテル。ぺテル・モークです。この『漆黒の剣』のリーダーをやっています。こっちがレンジャーのルクルット。そしてマジックキャスターのニニャ。そしてドルイドのダインです。」

 

 タンクをやっていた金髪碧眼の男、ぺテルが自己紹介を始める。

 

「さて、積もる話はあるが色々とやる事があるだろう。まずはぺテル殿とルクルット殿の手当てだな。」

 

 その後彼らが護衛対象のンフィーレアに驚いたり、倒したゴブリン達をそのままにして移動しようとして慌てて止められ、倒したモンスターの一部を切り取り組合に提出するとそれに見合った報酬が得られる事を知り、手分けしてゴブリン達の耳を切り取ったりしているうちに結構時間が経ってしまい、漆黒の剣の四人と共に野営の準備に入った。

 

 

 

 

 

 

「モモンさん達、もしかして嫌いな物でも入っていましたか?」

 

「いえ、気になさらないで下さい。ちょっと私達の宗教上の理由でしてね。命を奪った日の食事は4人以上では取ってはいけないというのがありまして。」

 

「変わった教えを信じられているのだな、モモン氏達は。とはいえ世界は広い、そういった教えもあろう。」

 

 焚火を囲みながら皆で食事を取っていたのだが、モモさんはご飯を食べれないので少し苦しいがこんな理由を通した。モモさんが食べれないのにこの場で私が食べるのはちょっと気まずいし、師匠も自分の主が食べないのに配下が食べれる訳無いのでこうなった。

 

「まぁそういう事だ。私達は後で食べるので気にせず食べてくれ。」

 

 案外すんなり受け入れられて少し拍子抜けな気はしなくもないが結果オーライだろう。

 

「そういえば、先程から気になっていたんですけどクラナさん。確か今朝組合の前でゴールドのチームを相手に圧勝してましたよね。」

 

「あぁ、そうだ。あいつらが難癖をつけて来たからな。」

 

 ぺテルはどうやら朝の一件を見ていた様だ。

 

「やっぱりそうでしたか。服装が似ていたのでそうじゃないかと思ってたんです。」

 

「なぁなぁクラナちゃん一回でいいから顔見せてくれよ。」

 

 師匠の隣に座っていたルクルットが少しずつ近づいてくる。困った様な顔でこっちを見てくる師匠。するとモモさんが。

 

「まぁ、一度顔をお見せしておきましょうか。今後も何かと付き合いがあるかもしれませんし。」

 

「そうか、分かった。」

 

 モモさんの一言で、師匠はフードを外す。焚火に照らされた師匠の顔は妖しい美しさだった。それに続くように私とモモさんも兜を外す。若干の驚きの声が聞こえてくる。

 

「クラナさんは違うみたいですが、お二人は黒髪黒目。確か南方の方にお二人の顔立ちが一般的な国があると聞いたことがあります。」

 

「ええ。かなり遠方から来たんですよ。」

 

 モモさんが魔法で作った外見もかなり整った顔立ちをしている。始めはリアルの顔を作ったそうだが、

 

「アーロンさんがイケメンフェイスなのに私だけリアルの冴えない顔って不公平じゃないですか。」

 

 と考え直したらしい。

 

「私達二人とも異邦人なのであまり顔を出さないんですよ。厄介事に巻き込まれるかもしれないですから。まぁ今のところクラナの美しさに目が眩んだ連中の方が多い「一目惚れです!付き合って下さい!」…」

 

「「「「…」」」」

 

(…あぁ、ここにも馬鹿が居た)

 

 座っている師匠に対して片膝を付き左手を胸に当て右手を差し出しながら告白するルクルット。その真っ直ぐな所は評価しよう、だが師匠は私のだ。

 

「すまないな。今はそういう事は考えてないのだ。」

 

 すぐさま断る師匠。だがルクルットは落ち込む事なくすぐさま次に移る。

 

「では、お友達から始めて下さい。」

 

「まぁ、それくらいなら構わないさ。」

 

「ありがとうございます!」

 

 歓喜の声をあげるルクルット。まぁ悪い奴ではないのだろう、モモさんと漆黒の剣の面々が苦笑いをしている。

 

「うちの仲間がご迷惑を。」

 

「いえいえ。賑やかな方の様ですね。」

 

「レンジャーとしては優秀なんですが…」

 

 困ったものですと肩をすくめるぺテル。まぁ仕事をちゃんとこなすのであればそこまで問題でもないだろう。

 

「あぁそういえばぺテルさん、報酬のお話なんですが。」

 

「え?報酬ですか?」

 

「はい、私としては先程討伐したゴブリンとオーガ、これを半分づつに分けようと考えているのですが如何でしょう?」

 

「ちょっと待って下さい!確かに私達もゴブリンを倒しました。ですがオーガを倒したのは全てモモンさん達です。私達は倒したゴブリン達の分で充分ですから。」

 

 驚いた表情で反対してくるぺテル。モモさんは一瞬考えると言葉を発する。

 

「…では、こうしましょう。私達は皆さんも知っての通りこの辺りの常識についてかなり疎いです。なので、皆さんは我々に色々な事を教えてもらえませんか?この辺りの事や、魔法の事、有名なタレント持ちの方の情報などなんでもいいんです。オーガの分はその代金という事で。」

 

「…なるほど、分かりました。私達でお答えできる事なら何でも話しましょう。」

 

「私としては今後も皆さんとは長い付き合っていきたいと思ってます。これから宜しくお願いします。」

 

「こちらこそよろしくお願いします!」

 

 座ったままだがお互いに深く礼をする。そうして、その後は漆黒の剣の名前の由来を聞いたり、ニニャが町では有名なタレント持ちだという事を知ったりと、色々と話しているうちに料理が冷めてしまった。

 



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第11話

「それではンフィーレアさん、それにモモンさん達もお気をつけて!」

 

「ぺテルさん達も帰り道お気をつけて。ニニャさん、色々と教えて頂いてありがとうございました。」

 

「気にしないで下さい。私もモモンさんと話せて良かったです。」

 

「クラナちゃん、護衛が終わったらさぁ俺とどっかに遊びに行かない?こう見えても結構稼いでるから懐には余裕があるんだぜ。」

 

「まぁそうだな…考えておいてやる。それよりも、帰り道気をつけろよ。お前はチームの目だろう、浮ついた気持ちでいるな。」

 

 護衛の途中で出会った漆黒の剣の面々と一夜を共にし、かなり親交が深まったとは思う。若干ルクルットの動向には目を光らせる必要はありそうだが、今後も良い関係を築いていきたいものだ。

 

 モモさんはモモさんでニニャ相手に魔法に関する事など色々と聞いていた様だ。師匠は師匠でルクルットの話し相手をしていた。

 

 そんな中私はぺテルとダインと共闘し、ンフィーレアに恋人の事を聞き出していた。何でもカルネ村に思い人がいるらしい。詳しくは教えてくれなかったが、まぁこれから行くのだからすぐに分かるだろう。

 

「それじゃあ行きましょうか。」

 

 漆黒の剣の面々とはここでお別れだ。この仕事が終わった後一緒にエ・ランテル南の街道沿いのモンスター狩りをする約束をしたので近いうちにまた会えるだろう。そうして、ンフィーレアの声に従って歩き始める。

 

 歩き始めれば昨日と同様モモさんはンフィーレアと会話しながら情報収集を行っている。時折ンフィーレアの方からも質問しているようだ。そんな感じの二人の気配を後ろに感じながら、私は師匠にルクルットと話した事を聞き出していた。

 

(そうこれは確認。変な事を口走って言い無いかの確認。ルクルットなんかに師匠はやれないなんて思ってないし私より弱い男に師匠はやらんなんて思って無い思って無い…)

 

 だがまぁやっぱり師匠は優秀で基本ルクルットが仲良くなろうと色々話し掛けてきたが、いい感じに答えていたようだ。そして、あのふざけた態度を改める様にお説教の様な事をしたら喜んでしまったので反応に困ったらしい。

 

 そんな事を話しているうちにカルネ村についた。ここに入る際に以前モモさんがこの村の少女、エンリに渡した『小鬼将軍の角笛』で召喚されたゴブリンに襲われそうになったが、召喚したエンリがその場に来て誤解を解いた事で問題は解決した。

 

 

 

 

 

 

 

「デミウルゴスです。入室いたします。」

 

「あら、デミウルゴス。どうかしたのかしら?」

 

「貴女を探していたのですよ。それで、アーロン様のお部屋で何をしているのかね?」

 

「アーロン様が御戻りになったときに私の香りで包んで差し上げようかと思ったのだけれども、アーロン様は寝具をお使いにならないのよ。ならせめて、アーロン様が居ない間は私がこの部屋の掃除をしようと思って。」

 

「それで少し汚れていたのですか。ですが少し意外ですね、貴方はそういう事はしない方かと思っていましたが。」

 

「これでも私は、掃除洗濯裁縫、どれをとってもプロ級の腕をもっているのよ。将来生まれて来るであろう私の子どもの為にもう五歳までの分の服は作ったわ。くふふふ。」

 

「…誰との、なんて質問は無駄でしょうね。ですが、この部屋は素晴らしいですね。アーロン様にこそふさわしいお部屋です。」

 

「なんでもダークソウルという世界のとある部屋を参考にしたと、アーロン様とタブラ・スマラグディナ様が話していたのを聞いたことがあるわ。」

 

「そうだったのですか、貴重なお話をありがとうございます。アーロン様とタブラ様は仲が良かったと記憶しております。なんでも貴方の姉の部屋の仕掛けに、アーロン様が知恵をお貸しになられたとか。」

 

「えぇ、そうよ…羨ましいわ…例え部屋の仕掛けとはいえ、アーロン様に創造の一手を担って貰えるなんて…本当に、羨ましいわ…」

 

「…あ~アルベド。私はそろそろモモンガ様のご命令に従いナザリックを出立します。後の事は任せましたよ。」

 

「…えぇ、任せて。はぁ…早く御戻りになられないかしら。」

 

 

 

 

 

 ンフィーレアが恐らく恋心を抱いているであろうエンリと話をしている間、村から少し離れた場所でモモさんと師匠と村の様子を眺めていた。そこでは村の住人達がゴブリン指導の元、若い男から年配の女性まで弓の練習を行っていた。そんな光景を眺めながら今後について話した。

 

「漆黒の剣に関しては、今後も良好な関係を築いていく方向でいいんだよねモモさん。」

 

「えぇ。正直情報収集不足とはいえ、色々と知らない事が多いですから。親しい仲ならそれだけ多くの情報も得られますし、それに彼らを通して私達の名声を高めてもらう事も出来ますしね。」

 

「では何かあった際はあいつらの命は守った方がいいのだな?」

 

「そうだね、死んでもらっちゃ困るし。」

 

「了解した。」

 

 それにしても、まさかあのエンリって子とンフィーレアが友達だったとは思わなかった。今にして思えば、確かエンリが友達の薬師が魔法を使える、とか言っていたのはンフィーレアの事だった様だ。世界は広い様で狭い。

 

「さてと、ンフィーレアの愛しい人との久しぶりの再会が終われば森で薬草採集か。このまま何事もなければいいんだけどね。」

 

「確かこの辺り一帯は森の賢王という魔獣が縄張りにしている、と以前村長から話を聞いたことがありますね。そのお陰でこの村もモンスターに襲われないそうですよ。気をつけるとしたらその森の賢王ぐらいでしょうか。私の考えでは鵺じゃないかと思ってるんですけど。」

 

「鵺って確か猿の顔、狸の胴体、虎の手足に蛇のしっぽのアレ?全然賢王っぽくはないんだけど、モモさんがそういうならそうなのかもね。」

 

「まぁ正体はともかく、私としては捕まえて色々と調べてみたいですね。ナザリックの強化につながるかもしれませんし。」

 

 そんな事を話していると、村の方からンフィーレアが息を切らして走ってきた。表情は前髪で窺い知る事は出来ないが、様子からしてかなり焦っている様だ。

 

「お二人はこの村を救って下さったモモンガさんとアーロンさんなのでしょうか!?」

 

 まぁはっきり言ってこの偽名は本名を知っている人間なら誰にでも分かるだろう。恐らくエンリから村に起った事を聞き、その際に私達の名前を聞いたのだろう。

 

 別にバレてしまったならそれでいい、というのが私達の考えだった。別に伝説級の英雄になるのはモモンガでもアーロンでもいいのだ。問題なのは、私達からどうにかしてナザリック地下大墳墓に辿りつく事だ。これはナザリックの安全を考えれば当然である。だから基本私達は、旅をしていた、という設定を貫いている。

 

 口を大にして正体を明かす気もなければ必死になって隠すつもりもなかった。私達の種族は別にして。だから、ンフィーレアが謝って来た事には少し驚いた。

 

 私が宿屋の女に渡したポーションは、この世界ではとてもどころじゃないぐらい貴重らしい。それこそ、世界中の薬師が目指す完成されたポーションの様だ。彼はそれの入手方、或いは作り方を知りたくて今回私達に仕事を依頼したらしい。その事について謝ってきた様だ。

 

「ンフィーレア殿、謝る様な事ではない。」

 

「え?」

 

「今回の依頼はコネクション作りの一環という事だろう。何が問題なんだ?」

 

 モモさんは心底不思議そうに尋ねる。別に奪い取ろうとする訳でもなく、ただこちらに接点をもってあわよくば製法、或いは実物を見てみたいと思う程度咎められはしないだろう。この辺りは良い意味で彼は純真なのだろう。

 

「心が広いんですね、お二人は…やっぱり…が憧れるだけの…」

 

 ぼそぼそと呟く少年は憧憬の眼差しでこちらを見ていた。

 

「今後も君とは良い関係でいたいと思っている。その為にポーションを譲る事も考えておこう。ところで、私達の正体を知っているのは君だけかね?」

 

「あ、は、はい!誰にも伝えていません。エンリにも。」

 

「そうか。なら今の私達は一介の冒険者の、モモンとアロンだ。それを忘れないで欲しい。」

 

「はい、分かりました。それと、この村を、そしてエンリを救って下さって本当にありがとうございました。それを伝えたくて。」

 

 ンフィーレアは真剣な眼差しで私達に心の籠もった感謝の言葉を伝えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一時間後、村を出発した私達は目的の森の前でンフィーレアから最終確認を受けていた。

 

「これから森に入りますので、警護をよろしくお願いします。」

 

「分かった。採集の方も手伝えるが私もそうだがアロンやクラナもあまり詳しくは無い。どんなものを取るかだけ教えて貰えないか?」

 

「あ、そうですね。えっと、こんな形の草を取ってもらいたいんです。ングナクの草って言うんですけど。」

 

 そう言ってしなびた草を取り出して、色々と説明を始めたンフィーレア。それを聞いているとモモさんから『伝言(メッセージ)』が。

 

《アーロンさん、アウラから報告です。指示した通りに森の賢王を動かした様です。このまま手筈通りにこちらに誘導するとの事です。》

 

《了解。それじゃあンフィーレアは師匠に任せる感じで行こうか。森だと本気で戦えないけど師匠ならその辺のモンスター程度なら問題ないし。》

 

《ゲームの時は周囲を気にせず魔法とか使えたんですけどね。炎主体のクラナがこんな所で戦ったら山火事待ったなしですから。それじゃあ打ち合わせ通りによろしくお願いします。》

 

 今回私達は噂の森の賢王を捕獲することにした。噂通りの強さならナザリックの強化につながるし、それを倒したという事がンフィーレアから広がれば名声に繋がる。そして賢王というのだから私達や人間の知らない知識を持っているかもしれない。それを引き出す事も目的の一つだ。

 

 私達のやりとりが終わると、ンフィーレアの説明も終わっていた。

 

「それじゃあ行きましょう。」

 

 そうして、森の中に入り足場の悪い中を歩いていき開けた場所に出て、そこから薬草採集が始まった。

 

 だが、しばらくして森がざわめいた。鳥達が慌しく飛び回りっている。索敵スキルを使用し目的の相手が居る方を確認する。

 

「来るな、それもかなりデカイ。」

 

「森の賢王か、どうかは分からないがここに残るのは危険だな。クラナ、ンフィーレアさんを連れて一旦馬車の所まで撤退しろ。我々はここに残って奴の足止めをする。」

 

「分かった。気をつけてな。」

 

 そうして師匠は、いくつかの薬草の入った袋を手にして撤収の準備をする。

 

「モモンさん、アロンさん、もし森の賢王だったら殺さずに逃がして貰えないでしょうか?」

 

「…あれが居なくなると村が危険になるか…分かった、殺しはしない。約束だ。」

 

 こちらの目的も殺害ではないので了承する。まぁ殺さなくても連れて行くつもりだからどちらにしても変わらないのだが。

 

「それじゃあ無理はしないで下さいね。」

 

 ンフィーレアからはキラキラと憧憬の宿る眼差しが向けられていた。若干だましている様で悪い気がするが、気にしても仕方がない。モモさんが早急な離脱を勧めてやっと師匠と共にこの場を離脱した。

 

 二人とも抜刀を済ませると、森の奥から鞭の様なものが飛んできてモモさんに襲い掛かった。それをモモさんはグレートソードで受ける。軋むような金属音が響き渡る。

 

 襲ってきた鞭の様なものをみるとそれは蛇の様な鱗に覆われた以上に長い尻尾だった。それは木々の後ろにゆっくりと戻っていく。

 

 実際に受けた訳ではないが見ただけで分かる一撃の重さ。そして射程。感知できる相手の位置は20メートルほど離れている。これだけでもかなり強力だ。まぁそれぐらいならどうという事はないのだが、これが漆黒の剣などでは太刀打ちできないだろう。そういう意味では魔獣というには相応しいのだろう。

 

 考えを巡らせていると、木々の向こうから深みのある静かな声が響いた。

 

「それがしの初撃を完全に防ぐとは見事でござる…それほどの相手は初めてでござるよ。」

 

「それがし…ござる…」

 

 口調に関しては色々と言いたい事はあるがここで言っても仕方がない。油断なく木々の向こうを見据える。

 

「さて、それがしの縄張りに土足で侵入してきた者よ。いま退くのであれば、先の見事な防御に免じ、それがしは追わないでおくが…どうするでござる?」

 

「お前に用があって態々ここまで来たのだ。一先ず姿を見せてもらえると助かるのだが、森の賢王殿?」

 

「言うではござらぬか、侵入者よ!ではそれがしの偉容に瞠目し畏怖するがよい!」

 

 ゆっくりと森の賢王が茂みをかき分け、その姿を私達の前に晒した。その姿に私は大きく目を見開いた。

 

「ふふふ。そのヘルムの下から驚愕と、恐れが伝わってくるでござるよ。」

 

 勝ち誇った様子でこちらを見てくる森の賢王。それを眺めながら、一応モモさんに確認を取る。

 

「ねぇモモさん、あれ、何に見える?」

 

「私達に超凄い幻影魔法を掛けているので無い限り、私には…あれに見えます。」

 

 どうやらモモさんにも私と同様のものが見えている様だ。安心すると気がつけば私は剣を納めていた。

 

「どうしたでござるか。やはりそれがしの姿に畏れを抱いて退く気になったでござるか?」

 

 そんな森の賢王の言葉を無視してスキルを使って一気に距離を詰める。驚いた森の賢王は咄嗟に逃げようとするが逃がさない。その胴体に両手を大きく広げ、私は抱きついた。

 

「モモさんこれ凄いモフモフだよ!鎧越しだからあんまり伝わってこないけど絶対これモフモフだよ!連れて帰ってペットにしようよ!」

 

 一応改めて説明しておくと私は女だ。普段は男のふりをしてるしモモさんも私の事を男だと思っているがリアルではちゃんと女の子だ。もうそんな年でもないが。だから基本的にこういった可愛い動物には目が無い。

 

 

 

でっかいジャンガリアンハムスターなんて夢の様じゃないか。

 

 

 

 森の賢王を一言で表すならでっかいジャンガリアンハムスターだ。尻尾が蛇みたいな事を除けば、銀というよりはスノーホワイトの毛並み、黒く円らな瞳、まん丸い大福の様なその姿。これが抱きつかずにいられるかというぐらいジャンガリアンハムスターだった。

 

「そういえばアーロンさん、重度のケモナーでしたっけ。はぁ、なんか緊張して損しましたよ。」

 

「何をするでござるか!放すでござるよ!」

 

 今すぐ鎧を脱ぎ棄てて全身でこのモフモフを味わいたいが必死に我慢する。だが、暴れる賢王にがっちり抱きつくがやはり鎧ごしではモフモフ感は感じられない。仕方がないので一度賢王を放し、モモさんの所まで下がる。

 

「あれペットにしても良いよねモモさん!?お願い!ちゃんと世話は自分でするから!餌もちゃんと自分であげるから!」

 

「私はアーロンさんのお母さんじゃないんですよ。はぁ、まぁ元々捕獲が目的でしたしもういっそ飼いならしますか。確か組合では服従させた魔獣を使役する事は許可してましたし。強さを示す看板には丁度良いでしょう。」

 

 若干呆れたといった感じでモモさんは言う。そうは言うけどナザリックの支配者はモモさん。一応の確認を取るのは当然だろう。だが許可は貰えた。後は捕まえるだけだ。

 

「それがしの前で平然と飼いならすとか言わないで欲しいでござるよ!そういう事はそれがしを倒してから言って欲しいでござるな!」

 

「…なら倒したら大人しく私のペットになってくれる?」

 

「倒せたなら、構わないでござるよ。」

 

 体に描かれている紋様を光らせながら自信満々に答える森の賢王。ドッペルゲンガーの能力で作った顔が破顔するのが分かる。本人の了承も得た、ならやる事は一つだ。

 

「さぁ!命の奪い合いをするでござるよ!」

 

「絶対飼う!」

 

 モモさんの生温かい視線を受けながら私と森の賢王の戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

「降参でござる!それがしの負けでござるよぉ。」

 

 一言で言えば森の賢王は強かった。尻尾による強力な遠距離攻撃、鋭い爪を利用した近距離攻撃、体全体を使った体当たりに、複数の魔法。そして何より下手な金属より硬い外皮。煙の特大剣は切断に向いていないとはいえ、まさか防がれるとは思わなかった。どうやら柔らかいのは先程抱きついたお腹部分だけで、他の部分の毛はかなり硬質な様だ。

 

 本気で戦って殺してしまっては本末転倒なので手を抜きながら戦ったとはいえそこそこ良い勝負が出来ていた。見た目で忘れていたが一応目の前の腹をさらけ出しているハムスターは伝説の魔獣だったようだ。

 

 戦闘能力の分析も出来たので、そこからは現状の装備で出せる本気で戦おうと思ったのだが、一度全力で特大剣を振りおろしたら地面にかなり大きいクレーターが出来てしまい、それを見た賢王は全身の毛を逆立て、凄まじい勢いでひっくり返し、敗北宣言をした。

 

「…あぁ…所詮は獣か。」

 

 後ろで見ていたモモさんの若干の憐みの声を聞きながら、ひっくり返っている森の賢王に近づく。

 

「私の勝ちだな。一応聞いておくが異論はあるか?」

 

「ないでござる。それがしでは遠く及ばない程の力の持ち主という事は痛いほど理解したでござるよ。」

 

「いや、お前も十分に強かったさ。偶々相手が悪かっただけだ。」

 

「殺しちゃうんですか?でしたら皮を剥ぎたいなって思うんです。」

 

 明るい声のする方を見ればいつのまにかアウラが立っていた。何気なく言ったその一言は、森の賢王にとっては本当の意味で死活問題な訳で、見下ろすと今にも泣きそうなぐらい瞳は濡れていた。

 

「お前に残された道は二つ。私のペットか、死体となって皮を剥がれるか、選んでいいぞ。」

 

「なるでござる!ペットにならせてもらうでござるよ!」

 

「そうか、なら私の名はアーロン。今は理由があってアロンと名乗っている。後ろはモモンガ、こっちも今はモモンと名乗っている。今この瞬間からお前の主人だ。安心しろ、ペットと言っても酷い扱いはしないさ。定期的にその腹モフらせろ。」

 

「あ、ありがとうでござるよ!この命を助けてくれたこの恩は絶対の忠誠でお返しするでござるよ!それがしの腹でよければいつでも差し出す所存でござる!」

 

 飛び起きながら忠誠を誓う森の賢王。こうして新しいペットが増えた。

 

 その後、森の外で待っていたンフィーレアと師匠と合流した。始めは警戒していた二人だが、私の支配下にあるという言葉と本人の忠誠を誓っているという言葉で警戒を解いてくれた。

 

「凄いですよモモンさんにアロンさん!こんな立派な魔獣を従わせるなんて!」

 

「「えっ?」」

 

 どうやらンフィーレアや師匠の目にはこの可愛いハムスターが精強な魔獣にしか見えないらしい。なぜだろう、私とモモさんの目がおかしいのか、それとも彼らにはそもそもハムスターという概念が無い為そうなのかは分からないがそれ以上考えるのはやめた。

 

 そして、森の賢王を連れていく事で村がモンスターに襲われるんじゃないかとンフィーレアは心配した。だが、賢王の話だと自分が縄張りにいても森の勢力のバランスは大きく崩れており、自分がいようといまいとカルネ村が危険である事に変わりはないのだと言う。

 

 それを聞いたンフィーレアは、突然私達のチームに入りたいと言ってきた。自分の力で、カルネ村を守りたい。だが、自分にはその力が無い。だからこそ、私達のチームに入り強くなりたいという事だった。

 

「ンフィーレア殿の気持ちは嬉しいし、尊敬に値する。だが、私達のチームに入る為には条件があってな。それを君は一つしかクリアしていないのだよ。すまないな。」

 

 純粋に嬉しかったし、眩しかった。己のしたい事の為にここまで真っ直ぐになれる彼の事が、そしてそんな相手に私達を選んでくれた事が。

 

「気持ちは十分に分かった。覚えておこう、このチームに入りたいと言った君の事は。それとカルネ村を守るという事だが、少しばかり力を貸すとしよう。ただ、もしかすると君の協力も…」

 

「はい!やらせていただきます!」

 

「そうか、そうか。」

 

 満足そうにうなずくモモさん。モモさんも嬉しいのだろう。彼の純粋な気持ちが。これによってナザリックからのカルネ村への物的、及び人的支援が始まった。

 

 そしてその後は、森の賢王を連れて普段は行けない様な森の深部まで入り、貴重な薬草な木の実などを採集した。ンフィーレアは大満足といった様子で、こちらも追加報酬が出ると言われれば悪い気はしなかった。

 

 そうして、一度カルネ村に戻り翌日の早朝に村を出立してエ・ランテルについたのは日が暮れる頃だった。

 

 

 

 

 

 

 




オバロアニメ終わってしまいましたね。
投稿したら見ようと思ってたのでこれから見ます。

ハムスケを抱えて飛んでいたナーベラルが可愛かったです。




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第12話

 カルネ村に向かう途中で一泊、薬草採集を終えてカルネ村で一泊の計二泊三日の任務は無地に終わりを告げようとしていた。エ・ランテルに到着する頃には、すでに日が暮れかかっており大通りでは『永続光』式街頭に明かりが灯り街の人々の雰囲気を変えていた。左右に並ぶ店を眺めていると酒場の中からは賑やかな声が聞こえてくる。

 

 そんな中大通りを歩いていると、私達を見るなり道行く人々は立ち止り、酒場で陽気に飲んでいた者達も手を止めて信じられない様な物を見る目でこちらを見始める。それは私を直視しており、近くの者とひそひそと話している。耳に聞こえてくるざわめき。笑われてる気もしなくはないが、その者達の目を見れば畏敬と賞賛、そして若干の恐怖を含んだ目をしていた。

 

「と、殿~…恥しいでござるよ。そろそろ降ろしては貰えないでござるか?」

 

「うん?あぁそうだな…名残惜しいが仕方ないか。」

 

 そう言って私は後ろに担いでいた森の賢王を降ろしてやった。全身でモフモフを味わえないならせめて頭だけでも、と思い兜を取って森の賢王の柔らかい腹に頭を埋めながら帰路についていた。どうやらそれが人目を集めてしまったらしい。

 

「人に注目されるのはいいでござるが、流石に恥しいでござるよ…」

 

「まぁ、今後は控えるとしよう。」

 

 改めてまわりを見るとやはり通行人の殆どがこちらを見ては驚いている。多分全員が全員森の賢王の事を恐ろしくも威厳ある魔獣という風に見ているのだろう。これが私とモモさんのセンスがおかしいのか、この世界のセンスがおかしいのかは分からないが出来れば後者であってほしい。

 

「街についた事だ、これで依頼は完了だな。」

 

「はい。おっしゃるとおり、これで依頼完了ですね。それで…既定の報酬はすでに用意してありますが、森でお約束した追加報酬をお渡ししたいのでこのままお店まで来てもらえますか?」

 

「あぁだが、こいつを組合で登録しないとなんだが…師匠、先に行っててくれないか?」

 

 一応街に魔獣を連れ込むには組合で森の賢王を登録しなければならない。一応これの飼い主は私なので私だけでもいいんだが、登録するとなると字を書く事になった時などに私一人じゃ多分対応出来ない。なのでモモさんの同行は確定事項だ。なのでついていくとしたら師匠しか居ない。

 

「分かった、荷物を降ろして待っているさ。」

 

 そう言って二人と別れて、森の賢王を連れて組合に向かう。

 

「んでモモさん。名前決まった?」

 

 帰り道の途中で名前を決めようと思ったのだが、あまり良い名前が思い浮かばなかったのでいつもの様にモモさんに丸投げしていた。あれから結構たったのだが。

 

「う~ん大福、とか?」

 

「却下。」

 

 代案を出す訳でもないがこれはない。流石に大福という食べ物はこの世界にはないだろうが色々と可哀想だ。

 

「え~…それじゃあ、ハムスケ、とかどうです?」

 

「…まぁハムスターの見た目に話し方が侍みたいだしそれでいいかな。今からお前はハムスケだ。モモさんがつけた名前に何か言いたい事はあるか?」

 

「ハムスケ!良い響きでござる!それがしにこの様な素晴らしき名前をつけて下さるとは、このハムスケ、モモ殿に深く感謝するでござるよ!」

 

 予想以上の喜び様に二人して若干驚いたが、本人が喜んでいるのならそれが一番だろう。

 

「あれ?モモンさんにアロンさんってなんだそいつ!」

 

 声の方を見るとそこには、紙袋を持ったルクルットの姿があった。恐る恐るといった感じでこちらに近づいてくる。

 

「おいおいあんたら一体何連れてきたんだ?」

 

「こいつは森の賢王で、今さっきハムスケと名付けた。森で薬草採集をしている時に襲ってきてな、返り討ちにして手懐けた。」

 

「それがしはハムスケ、以後よろしくでござるよ。」

 

「これがあの伝説の魔獣!?…ただもんじゃねぇと思ってたけどここまでとは恐れ入ったよ。流石はクラナちゃんを連れまわしてるだけの事はあるぜ。」

 

 やはりルクルットの目にもこれが精強な魔獣に見える様だ。やっぱりこの世界変だ。

 

「あれ、そういえばクラナちゃんは?」

 

「クラナは今、薬草を運ぶのを手伝うのにンフィーレアの店に行っている。私達は組合でハムスケの登録だ。」

 

「成程ねぇ。んじゃ、クラナちゃんのお手伝いに行くとするかねぇ。こういう所で好感度を上げてかないと。それじゃあお二人さん、また後でな。」

 

 ハムスケの事も驚きはしたが大して気にもしないとは、どんだけあいつ師匠の事好きなんだ。早々に別れを告げて、師匠の後を追って行くルクルットを眺めながらそんな事を考えながら、組合に向かった。

 

 

 

 

 

 

 大通りと違い静かな道を、クラナとンフィーレアは会話も無く進んでいると突然後ろから声が掛けられた。

 

「お~いクラナちゃん!」

 

「なんだ、ルクルットか。どうしたんだ、こんな所で?」

 

 クラナが尋ねると、横に並びながらルクルットが答える。

 

「ンフィーレアさんもどうも。いやさっきモモンさん達にばったり会ってさ。そしたらクラナちゃんが荷物運びするって聞いたから手伝おうと思ってね。」

 

 かっこいいだろ、と言わんばかりな顔でクラナを見つめるルクルット。

 

「まぁ、手伝うというんなら止めはしないさ。」

 

 苦笑しながらそう答えるクラナ。彼女はルクルットが自身に好意を抱いている事は知っているが、それに応えるつもりもなければそれを意識する事も無い。

 

「良いんですか、ルクルットさん。手伝って貰っても?」

 

「あぁ全然いいよ。どうせ暇だしさ。」

 

「ありがとうございます。量が多かったので二人じゃ大変だと思ってたんです。」

 

 そうして、賑やかな男を加えた三人はそのままンフィーレアの店に向かった。

 

 家の裏手にそのまま馬車を入れて、裏口の前で止める。魔法の明かりが灯ったランタンを手に馬車から降りると、ンフィーレアは扉の鍵を開けドアを開いた。手に持ったランタンを壁にかけて室内を明るくする。

 

 その中からは感想させた草の匂いが漂い、その部屋が薬草の保管庫であることを語っている。

 

「じゃあ申し訳ないですけど、薬草を運んで貰えますか。」

 

「分かった。」 

 

「了解っと。」

 

 クラナとルクルットの快い返事が聞こえ、二人は馬車から薬草の束を下ろし部屋の中に入れていく。

 

 やがて全ての薬草の束が、ンフィーレアの指示の元最適な場所に置かれる。わずかに息を切らしたルクルットに対して、クラナはそうでも無い様だ。

 

「お疲れ様です!果実水が母屋に冷やしてある筈ですから飲んでいってください。」

 

「そいつはいいねぇ。」

 

「私は…そうだな。二人が来てから貰うとしようか。」

 

「あ、そうですね。お二人の分も用意した方がいいですよね。」

 

 額に汗を滲ませたルクルットが嬉しそうに声を上げる。クラナの言葉にンフィーレアは頷き、母屋に案内しようとした時向こう側から扉が開かれた。

 

「はーい。お帰りなさい。」

 

 そこに立っていたのは、可愛さと同時に何故か不安を感じさせる女が立っていた。短めの金髪が動きに合わせて揺れ動く。艶めかしい体は必要最低限の部分しか鎧で覆われていなく、それ以外にはローブしか身に纏っていない。

 

「いやー心配しちゃったんだよ?いつ戻ってくるんだろうって、ずっと待ってたんだよ?」

 

「…あ、あの。どなたなんでしょうか?」

 

「おいおい、知り合いじゃねぇのかよ。」

 

 レンジャーとしての彼の勘が言っていた、ここにいるのは不味いと。護身用に腰に差していた短刀に手を掛ける。

 

「それで、他人の家に忍び込んで一体何の用だ。」

 

 殺気を込めた目で現れた女を睨みつけるクラナ。だが、それに怯む事も無く女は口を開く。アンデットを大量召喚する魔法、『不死の軍勢(アンデス・アーミー)』を使う為に、ンフィーレアを攫いに来た事。そして、召喚したアンデットを使ってこの街に死を振りまこうとしている事。

 

 全てを包み隠さず話す女。それは、ここから誰も逃がす気がない事を意味している。そして、それを示す様に背後から病的に白く細い体を持つ男が姿を見せた。それを理解したクラナは焦っていた。

 

(私だけなら問題無いが、この二人を守りながらは…いや、やるしかないな。)

 

 普段の彼女なら問題無かっただろうが、今この場は薬草の大量に置かれた保管庫。そして彼女が使う剣や呪術は殆どにおいて火を扱うものだ。どんなに上手く立ち回ってもまわりに引火してしまえば二人を巻き込んでしまう。

 

 そして、彼女は覚悟を決めて声を上げた。

 

「ルクルット!ンフィーレアを連れて走れ!」

 

 この状況で、どうして、どちらに、何て聞くほどにルクルットは馬鹿ではなかった。声を聞くなりンフィーレアを担ぎ、病弱そうな男の方へ走りだす。だが、それを許す二人では無かった。

 

「『酸の投げ槍(アシッド・ジャベリン)』!」

 

 緑色の槍状のものが、男からルクルットに向かって放たれる。それは相手に酸の飛沫によってダメージを与えるもので、軽装のルクルットが喰らえばひとたまりも無い。だが、それは超人の速度でルクルットの前に立ちふさがったクラナによって阻まれる。

 

 口の端をつり上げる男。だが、男が思い浮かんだ光景とは裏腹にクラナは酸の飛沫をもろともしていなかった。

 

「何だと!」

 

 そのまま男に殴りかかるクラナだったが、背後から感じる気配に振り向かざるを得なかった。壁によりかかって軽口を叩いていた女の手にはスティレットが握られ、こちらに向かって一気に距離を詰めていた。そのスティレットの刃先は正確にルクルットの背中を貫こうとしていた。

 

(この男に死なれる訳には!)

 

 彼女の主は言った。何かあった時漆黒の剣達の命は助けるようにと。目の前の男を蹴り飛ばし無理やりに向きを変え、女に飛びかかる。

 

「邪魔なんだよぉおおお!」

 

 先程までの飄々とした雰囲気から一変し、苛立ちを隠せない様子で目標をクラナに変える女。そして彼女のスティレットはクラナの肩を貫く。

 

「クラナちゃん!」

 

「この程度問題無い!いいから早く行け!」

 

 だが、ルクルットの立ち止った一瞬の隙を女は許さなかった。猫の様な動きでルクルットに飛びかかる。咄嗟の事で反応できなかったルクルットはそのまま顔面を殴られ倒れ込む。そして担いでいたンフィーレアも地面に倒れ込んだ。

 

「っち。面倒をかけおって。それにしても貴様、何故『酸の投げ槍』を喰らって平気でいられる。」

 

 蹴り飛ばされていた男が立ちあがる。質問に答える事無くクラナは考えを巡らせる。

 

(私はともかくンフィーレアを攫いに来たという事はあいつが一先ず死ぬ事は無い。だが、問題はルクルット。どうにかしてあいつをここから…)

 

 優先順位を全員の離脱からルクルットの身の安全に切り替える。そうして、彼女は左手に光を発し、それをルクルットに向けて放つ。

 

 揺らめく小さな火は燃える事無く、光を放ちルクルットを優しく包み込む。見た事もない術を目にした二人は一層の警戒をクラナに向ける。

 

「てめぇ、何をした…?」

 

「さぁ、何かな…」

 

 女はルクルットの隣で倒れていたンフィーレアを男に投げつける。そして腰から下げたメイスを手にしながらクラナに近づいてくる。そしてンフィーレアを受け取った男も杖をこちらに向けながら油断無くクラナを睨みつけている。

 

(よし、それでいい。)

 

 得体の知れない術。だがそれも術者を倒してしまえば効果はきれる。女の一撃で気を失ったルクルットよりクラナの排除を優先するのは当然だろう。

 

「まぁなんでもいいけど。んじゃあ、ちょっとムカついた事だし遊ばせてもらおうかなぁ。」

 

「ほぅ…どうやって、遊んでくれるんだ?」

 

 クラナがルクルットに放ったのは『ぬくもりの火』触れた自キャラや他プレイヤー、さらには敵の体力をゆっくり回復するというものだ。ルクルットが回復する時間を稼ぐために挑発する様な発言をするクラナ。

 

「こうするんだよっ!」

 

 メイスを大きく振りかぶった女はスティレットの刺さっていない方の肩に力一杯叩きつける。骨の軋む嫌な音が響く。レベル60の彼女のHPからすれば、大した一撃では無いが、それでも痛みは感じる。各種耐性を持っているクラナだったが、女の一撃はその値を超えて痛みを与えてきた。

 

 そうして、彼女の遊びは始まった。振り上げては叩きつけるを繰り返す。メイスが叩きつけられる度に小さくうめき声を上げるクラナ。そしてその度に表情が明るくなって行く女。

 

 そんな殴打の応酬の中で、彼女は見逃さなかった。ルクルットの意識が覚醒しているのを。目と目が合う。そして今にも女に跳びかかりそうなルクルットに、口だけを動かして言う。

 

 行け

 

 その意味を理解したルクルット。一瞬の迷い、だがすぐに意を決して起き上がり走り出す。

 

「っ!クレマンティーヌ!」

 

 男がいち早く気がつくが、その時にはもうすでにルクルットは窓を体当たりでぶち破り脱出していた。

 

「行ったか…」

 

 走り去る音に女は愉悦に満ちていた顔を歪ませ、男はギリギリと歯ぎしりをする。

 

「おのれ、あの火は回復のものだったのか…!クレマンティーヌ!遊んでいる暇はなくなった!さっさと引き上げるぞ!」

 

「っち…まぁこの女全然喚かないし遊んでても楽しく無いもんねぇ…さっさと殺してあげるよ。」

 

 そう言ってメイスを大きく振りかぶり、そのままクラナの頭に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 組合でのハムスケの登録は案外簡単に終わった。ハムスケの姿を記録する為に、写生か魔法を使って記録するか聞かれたが、写生ではかなり時間が掛かるという事だったのでガゼフから貰ったお金もあるのでせっかくだし魔法を選んだ。

 

 そうして組合の外に出ると、外で待っていたモモさんとハムスケが見た事のない老婆と話していた。

 

「あぁアロン。こちらはンフィーレアさんの祖母のリイジー・バレアレさんだ。」

 

「おぉお主がこの森の賢王を従えた冒険者か。わしの孫が世話になった様じゃの。お礼を言わせてもらうよ。」

 

「いや、あくまで依頼を完遂したまでだ。」

 

 お礼を言われる様な事はしていない。だが、ここで彼女にあえたのは幸運だ。

 

「これからンフィーレア殿の所に行くのだが、一緒にどうだ?」

 

「それは良い提案じゃな。お主らの冒険にもちと興味があるしの。」

 

 考えてみれば私達はンフィーレアの店の場所を知らない。このまま彼女に案内してもらおう。

 

 そう言って三人と一匹が歩き出した時、叫び声が響いた。

 

「モモンさん!アロンさん!」

 

 私とモモさんが正面から走ってくる声の主の方を見ると、それは師匠と一緒にンフィーレアの店に行った筈のルクルットだった。必死の形相でこちらに向かってくる様子からしてただ事ではない。そして、そこに師匠がいない事も気になる。

 

「どうしたんだ、一体何があった?」

 

「く、クラナちゃんが!…はぁ…クラナちゃんがやばいんだよ!」

 

 息を切らしながらルクルットが言った事は、一瞬で私とモモさんの警戒レベルを一気に引き上げた。

 

「落ち着けルクルット。一体何があった?」

 

 モモさんが詳しく話を聞こうとする。

 

「…はぁ…み、店に変な男と女が忍び込んでて。そいつらから俺を逃がす為にクラナちゃんが…」

 

 そこまで聞けば十分だった。その二人の目的などはこの際関係無い。ルクルットの様子からすれば師匠はかなり危険な状態という事だ。

 

「リイジー・バレアレ!今すぐお前の店に案内しろ!」

 

 

 

 

 

 

 裏口の扉を蹴りやぶり、そのまま中に突入する。そこで目に入ってきたのは至る所に傷を負った師匠の姿だった。

 

「師匠!」

 

「遅いぞ…馬鹿弟子が…」

 

 そう言った師匠はぬくもりの火に包まれており、近づくと優しい火の光は私をも癒し始める。近寄って見てみれば、頭からは血が流れており、メイスの様なもので全身を殴打されていてそれがゆっくりと癒されている。

 

 そうして、傷を癒している師匠から何があったのかを聞いていった。クレマンティーヌという女とマジックキャスター。ンフィーレアのタレントを狙って彼を攫いに来た事。そして、彼を使い何らかの方法を用いてアンデットの軍勢を召喚する事。そして、師匠がルクルットを生かす為にその身を犠牲にしていた事。

 

「ダメージ事態は大した事は無い。ルクルットがお前達を呼びに行った後は『鉄の体』を使ったからな。」

 

 『鉄の体』文字通り全身を鉄の様に硬くする呪術で、それを使えば確かに殆どダメージは受けないだろう。ならなぜ始めに使わなかったのかと言われれば、この呪術は移動速度がかなり下がる。それこそ全身が鉄の様に重くなる。下手に使ってルクルットに標的を変えられる事を危惧して、その女のお遊びに師匠は付き合ったのだろう。

 

「分かった。後は私達でなんとかする…師匠はゆっくり休んでいてくれ。」

 

「…すまない。少し二人きりにしてくれないか?」

 

 唐突な師匠の言葉に、モモさんはゆっくりと頷きリイジーを連れて母屋の方へ向かった。そして、扉がしまるのを確認した師匠は怯える様な様子でゆっくりと口を開いた。

 

「…お前がくれたあの剣を…奪われてしまったのだ…」

 

「えっ?」

 

「本当にすまない……本当に…申し訳ありません……」

 

 そこまで言われて私は気がついた。彼女達ナザリックの者達は私達を至高の御方と崇拝し、絶対の忠誠を誓っている。そんな私達からの贈り物は、それこそ神から授けられた物だ。それを他人に奪われる。私からしてみればキャラ作りの為にあげただけだ。だが師匠にしてみれば自分の命よりも大切なものだった筈だ。だからこそ、今師匠は涙を流しているのだ。

 

「…泣かないで師匠。大丈夫、怒ったりしないから。師匠は頑張ったよ…」

 

 前にデミウルゴスが言っていた。至高の41人に作られた者の一番の喜びは、私達至高の41人の役に立つ事だと。そして、最も恐れる事が私達至高の41人に失望され、見捨てられる事だと。だからこそ、師匠はここまで怯えているのだろう。失態を重ねてしまった上に、私から貰ったものを奪われてしまった。その事に呆れられ、失望され、見放されるので無いかと。

 

 だから私は師匠を抱き寄せる。彼女の心を癒すように、優しく。

 

「アーロン…様…」

 

「大丈夫…私はいなくなったりしないよ……だから待ってて、すぐに奪い返してくるよ。それまでに、いつもの師匠に戻っててね。」

 

 何度か師匠の頭を撫でながらそう言うと、すぐさま立ちあがる。このまま師匠を慰めていたい気持ちはある。だがそれ以上に、湧きあがる怒りを抑えきれなくなりそうだった。握りしめた拳は痛みを感じるほど強く握られている。それをどこかにぶつけたい衝動に駆られるが、こんな事に使うべきではない。これを振り下ろすべきは大罪を犯した愚か者だ。

 

「絶対に…許さん…」

 

 

 

 

 

 

 

 




2巻までの話までしか考えて無いので、一度そこで区切ろうと思っています。

ここまで構成など考えずその場の勢いだけで書いてきたので、
そこから続きを書くか新しいものを書くかはまだ決めていません。




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