私のまちがってしまった青春ラブコメはもう取り戻せないのだろうか (ぶーちゃん☆)
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ぼっちになった少女

はじめまして、ねっころがしと申します。
こちらはほぼオリキャラが主人公の物語となります。
よろしくお願いいたします。




 

私、二宮美耶は、現在海浜総合高校に通う高校二年生である。

 

容姿はまぁそこそこ端麗。

我ながら突出した美少女という程でもないけど、今まで男子から何度か告白された事もあるから、その認識でまぁいいだろう。

 

成績も、県内有数ってわけじゃないけど中々の進学校でもある海浜総合で常にベスト50位以内には入ってるし、運動神経も結構いい方だから、文武もまぁそこそこ両道ってところかな。

 

そんななかなか高スペックで、高カーストグループで青春を謳歌してそうな私は、現在絶賛ぼっち人生真っ盛りなのである。

 

※※※※※

 

私は、中学の頃までは元々人気者だった。

明るく可愛く優しいわたしというキャラで生きてきた私は、中二の時のとある事件で人生が一変してしまった。

そう。あれは忘れもしない……いや、ホントはもう顔も名前も忘れちゃったけど、アイツに告白擬いの事をされちゃったのがケチの付き始めなのだ。

 

私は中学二年に上がると、誰もやりたがらない学級委員に立候補した。

理由は、くじ引きで委員長に決められた男子(アイツ)が女子の委員を決めなければならなくて困っていたから。

ここで明るく元気に、困ってモジモジしている暗そうな男子を助ければ、クラス内のウケが良くなると考えたから。

 

『これから一年間よろしくね』

 

と笑顔で挨拶してあげたらあの男子喜んでたっけ。

 

正直その男子の事は暗くてキモくてどうでもいい存在だと感じていたのだが、一緒に委員の仕事をしていく内、まぁクラスの他の娘達が言うほど悪いヤツでも無いかな、と。むしろ結構良いヤツかも、と思えるくらいの認識へと変化していき、言うほど嫌いでは無かったので、可愛いわたしを演じつつフレンドリーに対応していた。

優しい美耶ちゃんを見つめる周りの目だってあるしね。

でもやっぱりそこがいけなかったんだよね。私的には全く嬉しくない勘違いをさせてしまった……

あれはアイツと学級委員を一週間ちょっとやったある日の放課後、担任に命じられたプリント回収を二人でやってる時の事だった。

 

 

アイツは急に何言ってんのコイツ?と思うくらいの唐突さで質問を投げ掛けてきた。

 

『あ、あのさ、好きな奴とか居るの?』

『えー、居ないよー』

『いやその答え方は絶対居るって!誰?』

『……誰だと思う?』

『わっかんねーって。ヒントっ!ヒントちょうだい!』

『ヒントと言われてもなぁ』

『あ、じゃあイニシャル、イニシャル教えて。苗字でも名前でもいいから、頼むっ』

『うーん、それならいっかなぁ』

『マジで!?やたっ!で、イニシャルは?』

『……H』

『え……それって……俺?』

『え、何言ってんのそんなわけないじゃん、何、え、マジキモい。ちょっとやめてくんない』

『あ、はは。だ、だよなー。ちょっとボケてみた』

『いや、今のないと思う……もう終わったし、私帰るね』

 

正直マジで引いた。

ん?てか名前も忘れてるようなヤツなのに、イニシャルはHなのか。

とにかく今までは、どうでもいいんだけどまぁ結構良いヤツって存在だったのが、一気にキモいヤツって認識に変わった瞬間だった。

ま、私が勘違いさせるような態度取ってたのがいけないんだけど……

 

でも本当にいけなかったのはそこからだった。

この告白モドキ事件は、ここで終わらせておけば良かったんだ。

 

※※※※※

 

『でさー、今日の放課後―――に好きな奴とか居るの?とかって聞かれてさー』

 

そう。私は帰宅してから、当時仲の良かったしーちゃんに、その事件の事を笑い事のように根掘り葉掘り話してしまったのだ。まさかその翌日、その笑い話がクラス中に広がってしまうなんて思いもせずに。

最初はまだ良かった。単なるあの男子の笑い話だったから。元々クラスで浮いてた奴の弄られる要素が一つ増えただけ。

それだけだったはずなのに、いつの頃からかあの男子が弄られた際に咄嗟に出す苦笑いを見るのが辛くなっていた。

……それはたぶん罪悪感なんだと思う。

こんな大事になるとは思わなかったから。暗いけど、キモいけど、実は結構良いヤツだと知ってたから。

 

人の噂も七十五日。

実際には七十五日も掛からず速攻で飽きられたのだが、まぁとにかくその話が飽きられた頃には本当に助かったと安心してた。

ようやくこの罪悪感から解放されるんだ!って。ようやくあの件で弄られて苦笑いをするアイツの辛そうな顔を見なくても済むようになるんだ!って。

でも……それなのにアイツは次から次へとおかしな話題をクラス中に学年中に提供しまくったのだ。

アニソンのラブソングを告白代わりに女子に渡して、それを校内放送で流されたり、三年に上がってクラスが分かれてからも、今度は私よりも人気があってトップカーストの女子に告ってクラス中、学年中に噂を広められたり……!

 

なにが辛いって、アイツがそういう噂を自ら立てる事で、その度に私のあの時の噂までが常に引き合いに出されることだった。

 

『そういえば二年の時、美耶もアイツに告られたよねー!』

『あー!あったあったぁ!あの時も超笑えたよねー!』

『美耶可哀想だったぁ!だってアイツ超キモかったもーん』

 

『あ、あはははは……

うん……そ、そうだよねー……』

 

アイツが弄られという名の笑い者にされる度に、常に私が引き合いに出される毎日に、いつの間にか私は人間関係って恐い、人間関係って面倒臭いって感じるようになってしまった。

最初はキモいと思ったから単なる出来心で他人に話し、それが次第に罪悪感へと変わり、そしてそれが周りの人間への嫌悪感に変貌した頃には、一人の立派なぼっちの出来上がりでございます。

そう。私はぼっちとは言っても、ただ他人と関わるのが面倒臭くなっちゃったから、自らぼっち道を歩く自立型ぼっちなのだ。

 

ぶっちゃけ、アイツのせいでこんなになっちゃったとかってムカつく気持ちはちょっとだけある。

でもそれは自業自得だもんね。ちょっとだけムカつくけど、決して恨んでるわけじゃ無い。

ま、アイツのおかげで上辺ばっかりだったしょーもない人間関係をリセット出来たんだと思えば、むしろ有難いまであるの、かな?

 

※※※※※

 

私は今、学校帰りに千葉駅のパルコに寄っている。

ぼっちというのは、行き着く先は一人でどれほど時間が潰せるか?一人でどれほど楽しめるか?にあるので、必然的に自分なりの趣味を見付ける事こそが極意となるわけだけど、私はその一人遊びの対象が漫画やラノベやアニメやゲーム。つまりサブカルチャーに向いた。

まぁそこまで大した趣味でも無く、人並みに嗜んでいるって程度なんだけどね。

 

今日はそんな趣味の買い出しの為に書店に訪れたんだけど、目的のブツを手に入れた後は久しぶりに服なんかを見ていた。

まぁぼっちでサブカル好きな寂しい女子高生ではありますが、そこはやっぱり女の子。ちゃんとお洒落は楽しみたい訳なのですよ。

 

「あっ、スミマセンっ」

 

ちょうどそんな時、とても見覚えのある制服に身を包んだとても可愛い女子高生と肩がぶつかった。

 

「あ、いえいえこちらこそ」

 

ペコリと頭を下げるその可愛い女子高生に、私も頭を下げて謝った。いくらぼっちとは言え、マナーとかはちゃんとしてなきゃダメですよね。

それにしても……総武高かぁ。

ここら辺の高校生で総武高校の制服を知らない奴は居ない。我が海浜では無く、あっちこそが県内有数の進学校なのである。

 

かくいう私も、人間関係をリセットしたくておな中からは誰も行かなそうな総武高校を第一志望に挙げて頑張ってはいたんだけど、力及ばず落ちちゃったんだよねー。

だからこの制服に若干のコンプレックスを持ってたりするのです。

くっそう!こんなに可愛くて頭緩そうなビッチが総武に受かるだなんてっ!しかも同じ総武生の彼氏付きかよ!と軽く憎々しげにその可愛い総武生を見ていると、その総武生はその彼氏の腕をグイグイと引っ張っていく。

 

「ちょっとせんぱーい!早く行きますよー」

「……だから引っ張んなっつってんだろが……」

 

ちっ、イチャイチャしやがってバカップルめが。

そう思っていたら後ろから乳のデカイ美少女が慌てて走ってきた。

 

「ちょっとヒッキー待ってよー……ってかいろはちゃんヒッキーにくっつき過ぎー!ヒッキーマジキモいっ!」

「なんで俺が罵られるんだよ……」

「今日はわたしの買い物に付き合って貰ってるんですから結衣先輩は邪魔しないでくださいよー!」

「ぐぬぬっ」

 

お、オイオイ総武生……カップルかと思ったら三角関係かよっ!このリア充共め爆ぜろっ!

 

「ちょっと貴方達、いい加減にしなさい……そして一色さん?」

「はっ、はぃぃっ……」

「バイ菌が移るから、今すぐその男から離れななさい。今すぐによ」

 

まさかの四角関係でした。

ちょっと総武高校どうなってんの!?ただれまくってんじゃない……!しかもこの娘たち、みんな超可愛いんですけども!?

 

こんな美少女を三人も引き連れてる爆ぜてしまえばいいようなリア王ってのは一体どんなもんなのか。

俄然興味を持った私は、そのリア王たる総武高校男子生徒に目を向けるのだった。

 

 

つづく

 




ありがとうございました。
原作を読んだ方、アニメ第一期を見た方は知っていると思いますが、こちらは原作1巻に回想としてチョイ役で出てきて、比企谷八幡に大きなトラウマを与えた少女の物語となります。
どれほどの物語となるかは未定ですが、もしよろしければ次回も読んで頂けたら幸いです。


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ぼっちとぼっちは引き寄せ逢う

 

ある日の放課後に千葉のパルコで出会った四人の総武高校生徒。

その中の一人でもあり、すっごい可愛い娘三人を侍らせている憎むべきリア充のそのまたさらに上におわすリア王たる男子生徒。

私は、一体どんな奴なんだよ、その青春謳歌君は……と、視線をそいつに向けて軽く驚愕した。

 

……は?コレがリア王?

 

いや、確かに良く良く見れば顔の造形は中々に整ってはいる。それでも特に突出したイケメンて風貌では全然ない。

むしろ程よく?曲がった猫背やボサっとしたヘアースタイル。そして何よりこの目!この、まるで世の中の全てを舐めてんのかよ?と思わせるくらいの腐った目が、せっかくの中々に整った顔立ちを台無しにしていて、とてもじゃないけどモテ男がオラオラと放ちまくってるオーラとは真逆の印象しかない。

 

「もーっ!だから雪ノ下先輩達に今日のお買い物バレたく無かったんですよぉ……」

「ちょっといろはちゃん!?今日のお買い物はお仕事のなんじゃないの!?」

「ひっ!そ、そうなんですけどぉ……」

「だったらそもそも私達に内緒でそこの男だけを連れ出すこと自体が論理的におかしいと思うのだけれど……?」

「……はぃぃっ」

「大体お仕事のお買い物なのに洋服見に来るとか意味わかんないしっ!」

「……むぅっ、だから嫌だったんですよ……」

「一色さん何か言ったかしら?」

「いろはちゃんなにブツブツ言ってんのかな……?」

「ひぃぃっ!な、なんでも無いですー!」

「……どうでもいいけど早くしてくんね?」

「「「……は?」」」

「……」

 

なにこのハーレム修羅場……

でもやっぱりどう見てもリア王どころかリア充にも一切見えない目の腐った男子を、この美少女三人組が取り合いしているのは間違いないみたいだ。

最近はああいうのがモテるの?今度のはマスメディアさん達は[なに系男子(笑)]とかって造語を作って痛々しいくらいに必死で流行らせようとするんですかね。草ボーボーになるんでマジやめてください。

 

でも…………なんだろう?

私はあのリア王(仮)を知ってる気がする。どっかで会ったことある気がする。

でも生憎私には目の腐った友達もリア王な友達も居ないはずだ。あ、そもそも私友達が居ませんでしたっ!

 

おな中の男子かな……

でも残念ながら、私は中学卒業と同時に中学の同級生の顔の記憶なんかどっか飛んでっちゃったんだよね。いや、意識的に消そうとしたまである。今ではあれだけ仲の良かったはずのしーちゃんの顔でさえ思い出せないし、街で偶然声掛けられても「誰だっけ?」って本気で言える自信さえある。

人の脳ってすごいわ。興味の無い事は勝手に消えていってくれるんだから。

 

※※※※※

 

あのリア充四人組と離れた私はその後もう一度書店に戻り、今まであんまり手を出さなかったジャンルのラノベを購入した。

女の子に惚れられまくった主人公が修羅場りまくって地獄を見るハーレム物。

ふふふっ……これを読んでさっきの総武生達で脳内変換してやるっ。

 

さて、満足な買い物も終えたしそろそろ帰りますかね、と書店から足を踏み出したらもう寒い寒い。

 

「寒っむっ!」

 

ラノベを吟味してたらいつの間にか結構な時間が経ってたみたいだ。すっかり陽も落ち、あたりは夜の気配に支配されていた。

やべっ!家に連絡も入れずに千葉に長居しすぎちゃったよ。お母さん怒ってるかなぁ……夕ご飯抜きとか言われたらキツいなっ!

 

それにしてもさすがに二月の夜は寒過ぎる。

私はマフラーをしっかりと巻き直しつつ駅へと向かうのだった。

 

※※※※※

 

普段なら乗ることのない時間帯で乗り込んだ満員電車で待っていたのは……………チカンだった……

うっわ、最悪。だから満員電車とか嫌なのよ。とっとと声出して撃退してやりましょうかね。

 

「やめてください。この人チカンです」

 

そう声を発したつもりだったのに、意外なことになんにも声が出なかった。

嘘マジで!?私って自分で言うのもなんだけど結構強気だし、良く聞くこういう場面だって全然余裕で撃退出来る自信を持ってた。

なんなら「いざチカンにあったら怖くて声が出せませんでした」とか言ってる女性達をあらあら可愛いわね〜とかって馬鹿にしてたまである。

まさか、ホントに声が出せなくなっちゃうなんて……

 

やばいどうしよう……なんだこれ怖いっ……次の駅に到着しても開くドアは反対側だし……やばいやばいやばいやばいっ……

そうこうしてるうちにチカンの手はお尻からスカートの裾の方へと移動してくる。

ウソっ……どうしようっ……これ、スカートたくしあげられちゃったらっ……

 

そんな大ピンチなまさにその時、涙目の私は電車のシートの端っこに座る腐った目の男子学生と目が合ったのだった。

 

※※※※※

 

まさに少女マンガなんかで良くある古典的なシチュエーションだった。まさか私がこんなフィクションのような場面の登場人物になれるなんて。

あんな腐った目をしてるけどどうやらリア王(仮)らしいし、ここであのリア王(仮)に助けられて私も恋しちゃったりするのかな……?

 

 

なんて思ってた時期が私にもありました。次の瞬間リア王(仮)がスッと目を逸らすまでは。その間ほんのコンマ数秒の夢の如し。

 

「……」

 

え?なに?気付かなかったの?気付いたけど怖いから逃げたの?

…………………ふっ、他人に期待した私が馬鹿だったね。普段は他人なんか一切興味も無いし信用なんかしないのに、こういう時だけ期待しちゃった自分が情けない。

 

だったら自分でなんとかしてやろうじゃないのよ!

とにかくスカート捲られて直接触られる前までにはなんとかしてやるわよっ!

 

しかし無情にもやっぱり声を発する事が出来ずにいるとスカートが徐々に捲られていき、たぶんチカンの手がそろそろ下着に触れるんじゃないかと諦め掛けたその矢先、それは電車が次の駅に到着する為に停まりかけたその瞬間だった。

 

「うっわ!あのドアんとこに居んのチカンじゃね!?」

 

なんとリア王(仮)が突然叫んだ。それと同時に満員の乗客の目が一斉に各ドアへと向かう。

その瞬間弾かれたように、チカンは今まさに開いたドアへと駆け出し逃げて行き、人ごみの中へと消えていった。

 

た、助かった……の?

しかも乗客達の目がダッシュで逃げ出したチカンに向いているから、私はチカン被害者だと好奇の目に晒されずに済んだ。

これであのチカンが現行犯で捕まってたら、私にもすごい視線が集中したり取り調べとかにも同行させられていたんだろう。

 

なんか色んな意味で助かった。そしてまだ乗客達の目が逃げたチカンに集中してる間に、私はコッソリ場所を移動する。この後視線を向けられたら恥ずかしいからね。

と思っていそいそと移動していると、私より先にリア王がとっとと隣の車両に移動していた。

 

……ア、アイツまさか大声あげた自分に視線が集まらないように、チカンが逃げ出せる猶予を与える為に駅に到着するまで待ってたんじゃ…………さ、最悪だアイツ……パ、パンツの中とかにまで手を入れられて、手遅れになってたらどうしてくれんのよっ。

……とはいえ、アイツが助けてくれなかったら私はどこまでされていたんだろうか。想像しただけで身震いしてしまった。

 

※※※※※

 

チカン騒ぎがあったものの、逃げちゃったからか何事も無かったかのように電車は発車した。でも私は隣の車両に移動したアイツからは目を離さない。

いくら最悪な手段とは言え、助けられことには間違いない。ちゃんとお礼はしなくちゃね。でもチカン騒ぎで未だザワついている中でお礼とかちょっと無理。

だからアイツが電車を降りたら私もいつでも降りられる準備をしていた。

 

何駅か揺られながら、ようやくリア王が降りたその駅は、意外にも私と一緒の駅だった。

私はリア王をこっそりと追い掛け、改札を出て人目に付かなくなったあたりで声をかけた。

 

「あっ、あの……」

 

…………まさかの無視である。

あ、あれ?おかしいな。ちゃんと視界に入ってたよね?

 

「ちょっ、ちょっと!?」

 

仕方ないので私は彼の腕をむんずと掴む。

なにこれ?なんかまるでこの人がチカンみたいじゃん。

 

「なんで無視するんですかっ!」

 

お礼を言う為に呼び止めたのに、なんで私が怒ってるの?

 

「……や、別の人かと思ったんで」

 

いやいやいや、私アナタの目を見て話し掛けましたよね!?

なんなのこの人……と視線を向けた時、彼は私を見て驚いた表情を浮かべた。

 

「! ……に、にのっ……」

「二ニノッ?」

 

私が怪訝な表情で首をコテンっと傾げると、彼は一瞬苦笑いを浮かべて一言。

 

「……あ、や、なんでもないです。

で、なんの用ですか」

「なんの用って……さっきは……その……チカンから助けてくれてありがとうございましたっ」

昔取ったきねづかってヤツだ。

最近はめっきり出さなくなった可愛いわたしを全開にしてペコリっと頭を下げる。

いくらあんな可愛い娘たちを侍らせてるって言ったって、私だって結構可愛いのだっ。そんな可愛いわたしから恥じらった様子で可愛くお礼を言われたら男の子なら嬉しいはずだ。

お礼なんだから喜ばせなくちゃね!連絡先とか聞かれたらどうしようかな……

 

「え?……あ、ああさっきの被害者なのか。別にお礼とかいいんで。じゃ」

 

…………まさかのスルーである。

いや嘘でしょ……?そりゃあの娘達に比べればランク落ちは否めないけど、私ってそんなに魅力ないの?

なんか最近はぼっち道に邁進しすぎてて自分の女としての魅力とかに関心薄れてたけど、さすがにここまでの総スルーだとちょっぴり傷つくわ。

だってぼっちになった今でさえ、たまに告られんのよ私!

 

「いやいやいやっ、助けて貰ったのになんのお礼もしないわけには……」

「や、別に礼をされたくてやったわけじゃねぇから。」

「で、でも」

「もし下手にチカン騒ぎで電車が遅れたら帰りが遅くなっちまうからな。

チカンもやめさせられるしチカン騒ぎで電車も遅れない。一番効率が良かったってだけだから、にし……アンタに礼をされるいわれは無いんで。じゃ」

 

あんぐりと口を開けて呆然と立ちつくす私をよそに、彼はとっとと行ってしまった。

マジか……なんなのあの人……てか「チカンもやめさせられるし」って、やっぱり普通に助けてくれたんじゃん。

すると少しだけ先に行った彼が振り返り、少しだけ赤らめた頬をポリポリ掻きながら最後に一言だけ加えて、そして去っていった。

 

「ああ、そういや前になんかで見たんだが、電車の隅とかドア付近はチカンに狙われやすいんだと。

今度からは中央寄りに乗った方がいいぞ」

 

……………さんざん無視されてスルーされた挙げ句、まさかの今後の心配をされてしまいました。

 

いやマジでなんなの?あの腐った目のリア王。

普通こんな可愛い娘を助けてお礼したいって言われたら、なにかしらのリターンを期待するもんなんじゃないの?意味分かんないしワケ分かんないしムカつくし!

そして私は数年ぶりに自分の頬が熱くなっているのを感じるのだった。

 

 

 

くっそ……………ちょっと格好良いじゃねぇかっ……

 

つづく

 




第2話でした。ありがとうございました。
再会しても八幡を思い出さないのはご都合主義な気もしますが、元々印象の薄かったクラスメイトに数年ぶりに街で偶然会っても「誰だっけ?」になるのは良くある事?なのでいいかな、と。あの事件以来、意識的に八幡を見ないようにしてましたし。
それでも違和感あったらすみません。



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遠い記憶を夢見るぼっち

 

寒過ぎる冬空の下を、なぜか熱で火照っている頬と心臓で温まりながら自転車を漕いでいく。

あーあ、名前くらい聞いとけば良かったなぁ……

 

家へと到着した頃はすでに9時過ぎ。もちろんしこたま怒られました。でもなんとか夕飯はゲットだぜ!

 

部屋へと戻り、ベッドに寝そべり買ってきたラノベを読みながらも、どうしてもさっきの彼が頭から離れてくれない。まぁそりゃこのハーレム物ラノベを読みながらじゃ致し方ないけどさ。

人生初のチカンにあってメチャクチャ怖い思いをしたはずなのに、もうそんな事は自動的に頭の片隅に追いやられてしまってる。

 

……なんなんだろ。不覚にも確かにちょっとだけ格好良いとか血迷っちゃったけど、どうしてあの美少女三人組が、取り合いしてまであんな奴にご執心なのかをちょっとだけ理解しちゃったけど、それでもここまで頭の中が一杯になる程なの……?

なにかが、なにかが引っ掛かるんだよなぁ。

 

「そういえば……」

 

あの人、私の顔を見た時かなり驚いた表情で「ニニノ」とか言ってたっけ。

あれってもしかして、「に、二宮?」って言おうとしたのかな……じゃあやっぱり知り合い?でもだったらなんで知らないフリすんのよ……

あー、分からんっ!モヤモヤしまくり!こういう時は、一旦お風呂にでも入ってサッパリしましょうかね。

 

※※※※※

 

『これから一年間よろしくね!えっと……―企―君っ』

『……あ、えっと、よろしく二宮さん』

 

〜〜〜〜〜

 

『ねぇ美耶〜!――谷なんかと良く一緒に委員やってられるよねー』『えー?―企―君て結構いい人だよぉ?』

『まったくホント美耶ちゃんてお人好しなんだから〜』

 

〜〜〜〜〜

 

『あ、あのさ二宮、それ俺が持つよっ』

『えっ?比――君ありがとぉ!比――君て優しいよねー』

『え、や、そ、そんなことねぇけどっ』

 

〜〜〜〜〜

 

『美耶美耶〜!さっき比企―の奴、美耶の手伝いしてた時、超鼻の下伸ばしてなかったぁ?』

『えぇ!?そんなこと無いよぉ』

『美耶モテんだから気ぃつけなよー。あんなんに告られたらマジキモいってぇ』

『えー?やだぁっ!そんなこと無いってぇ』

 

〜〜〜〜〜

 

『あ、あのさ、好きな奴とか、いるの?』『えー、いないよー』

 

〜〜〜〜〜

 

『え……それって……俺?』

『何、え、マジキモい。ちょっとやめてくんない』

 

〜〜〜〜〜

 

『ねぇねぇしーちゃぁん……今日の放課後さぁ……―企谷君にキモい事言われちゃってさぁ……』

『だからあんなキモい奴に優しくすんのなんかやめなって言ったじゃぁん!で?で?なんて言われたのっ?』

『誰にも言わないでよぉ?あ、あのさぁ……』

 

〜〜〜〜〜

 

『おっはよー!……え?なになに……?』

『ねぇねぇ美耶ちゃん!昨日比企谷に告られたって本当!マジキモくない?』

『え……う、うん……』

『うわ〜!みんな〜!やっぱマジらしいよ〜!』

『うっわマジでぇ』

『だから言わんこっちゃないよー』

『てかその告り方はねぇだろ(笑)もうアイツ今日からナルが谷でいいだろ』

『ナルが谷マジぱないわ〜』

『……』

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

『今日から一年間よろしくね!えっと……比――君』

『今日から一年間よろしくね!えっと……比企―君』

『今日から一年間よろしくね!えっと……比企谷君』

『よろしくね!比企谷君』

 

「比企谷……君……?……………!?ごぼぁっ!?」

 

と、そこで私は目を覚ました。あっぶね……危うく自宅のお風呂で溺死だったよ……

 

「思い……出した……」

 

なんてネタを挟んでる場合じゃなくてホントに思い出した……!

なんで今まで忘れてたんだろ?てかなんで思い出すのが今なの?

そう。私がこうなったきっかけの男の子の名前は比企谷君。名前だけじゃない。今までずっと霞んでハッキリ思い出せなかったあの辛そうな苦笑いをしてる時の顔も全部思い出した。

なんか根暗そうで、たまにラノベ読んで一人でニヤニヤしてたりして、キモがられてクラスで浮いてた男の子。

そして……

 

「まさかあのリア王が……」

 

でも本当に?本当にそうなの?だって、私の思い出の中の比企谷君と今日のアイツとじゃ、決定的に違う所があるじゃん……

さっき見た夢の中の比企谷君は、あんな風に目が腐って無かった……そこばっかりが余りにも印象的過ぎて、あんなに近くで喋ったのに気が付かなかったまである。

 

「そうだっ!なんでこんなこと気付かなかったよ私っ」

 

私はとっととお風呂から上がり、パジャマに着替えると髪も乾かさずに部屋へと掛け戻る。

まるで強盗にでも入られたかのように部屋中に荷物を撒き散らせながら、押し入れの一番奥から一冊の本を取り出した。

これを目にしたのなんて中学卒業以来だ。本当は棄てるつもりだったけど、余りにも目立つこんな物を棄てたのが親にバレたら余計な心配させちゃうから棄てるに棄てられなかった一冊の卒業アルバム。

 

アイツが三年になってから何組に入ったかなんて知らないから、一クラス一クラス丁寧に見ていく。

ページを捲れば捲るほど、勝手に消えてくれていたくだらない思い出や人間関係がよみがえっていくのを苦痛に感じながら……

 

「あった……やっぱりさっきの、比企谷君だったんだ……でも」

 

ようやく発見したそいつの目は、さっき見たアイツの目よりもさらに腐っていた。

 

※※※※※

 

私はいつも教室に居る時は、授業中以外は大抵イヤホンを耳に差し込んで、音楽を聞きながら漫画やラノベを読んだりゲームをしたりと、外界からの音をシャットアウトしている。

まぁぼっちの中にはイヤホン差し込んで音楽を聞いてるフリをしながらこっそりと人間観察を楽しむ輩も居るらしいが、別にクラスの人間に一切興味の無い私は前者タイプのぼっちなのである。

単純に興味が無く、クラスメイトの騒音が煩わしいから……ってだけの理由でも無いんだけどね。

 

私は中学の時の人間関係を断ち切りたくて、お世辞にも勉強が得意そうじゃ無かった元友人達が来られないような学校として高いレベルの進学校を選んだ。

残念ながら総武高校には落ちちゃったけど、滑り止めの進学校である海浜総合には合格したからまぁ御の字だと思っていた。

……よりにもよって、同じ学校になんて進学したく無いベスト3の一角でもある彼女が海浜に通うのだという事を知るまでは。

そしてさらによりにもよって、二年になったその日から、その彼女とはクラスメイトになってしまったというオマケ付き。

 

まぁ中学時代は同じクラスになったことも無く、同じトップカースト繋がりでほんの少し交流があった程度の仲ではあったのだが、私が嫌だったのは彼女本人と言うよりは彼女が一緒に運んできてしまうトラウマが嫌だった。

 

まぁそんなワケで同じクラスになっちゃった以上、どうしたって彼女の声は嫌でも耳に入ってくる。しかもその娘はこれまた声が無駄にデカイ。

我がクラスの中心人物たる彼女の、青春を謳歌してますって明るく楽しげでデカイ声を聞きたくなくて、常にイヤホンで私と外界とを遮断してるフシさえあるね。

しかしなんてこった……昨夜の出来事が衝撃的すぎて、充電忘れのスマホは電池切れ。携帯ゲーム機は主が外出中の我が城を警護中。(厨二的な表現を抜かすと、つまり部屋に忘れちゃった♪)

致し方なく、本日は誠に遺憾ながらクラスメイト達が騒がしく喚く声をBGMにラノベを読まざるをえなかったのでした……

しかしいかんせんいくら読んでも全く頭に入ってこない。

頭にあるのは比企谷君の事ばかり……なにこれ恋でもしちゃってんの?

 

……昨夜見た卒業アルバム。クラスの全体写真に写る比企谷君は、昨日会った腐り目のリア王どころじゃないくらいに目が腐ってた。

でも、ページを捲っていくと、偶然写りこんでいた一年生の頃の林間学校の彼はまだ目が澄んでいたのだ。

そして二年生の修学旅行。その写真には目が腐り始めた比企谷君が写りこんでいた。

三年生の時に写りこんでいた体育祭の写真では完全に目が腐ってた。昨日会った彼の目が澄んで見えるくらいに。

だから私は昨日まったく気付けなかったんだ。私が彼の顔をしっかり見た記憶があるのは、あの告白モドキ事件までなんだから。あの頃の彼は、まだギリギリ目が澄んでたんだね。

それから私が意識的に彼に目を向けなくなっていった間に、徐々に腐っていったんだろう。中学生活に悲観して。そしてその一因の大きな所を私も占めてるんだろう。

 

でも、だとしたら昨日会った比企谷君は、中学卒業の際の腐り切ってしまった心から少しずつ解放されてきてるんだろう。

それはあの三人の美少女に寄るものなのかなぁ……だとしたら、良かったね!って思う気持ちと同時に、少しだけ胸がぎゅっとなる。

 

…………ハッ!?って私なに比企谷君の事ばっか考えてんの!?本に集中しようぜっ!

これはきっと普段なら聞こえないクラスの連中の喧騒のせいだ。だから嫌なのよっ……

 

「マジウケんだけどー」

 

ほらアイツだよアイツ!彼女の明るく楽しげでデカイ声のおかげで本に集中出来ないで、比企谷君の事ばっか考えちゃうんだ。あの声聞いてたら、私のトラウマ抉りまくりだっつうの!

 

しかしそんな時だった。

その私のトラウマを抉りまくる聞きたくない声から信じられない一言を聞いたのは。

 

「ホントにマジウケんだよねー比企谷って!あいつマジで面白いんだってっ」

「かおりー……もうその話何回すれば気が済むのー……?」

 

なんで?なんで折本さんが今さら比企谷君の話なんてしてんの……?

 

 

つづく

 




多くの読者さまにご覧頂きとても有り難いです。
四話以降は不定期になるかとは思いますが、今後もがんばります。


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ぼっちインザストーキング

 

「ホントにマジウケんだよねー比企谷って!あいつマジで面白いんだってっ」

「かおりー……もうその話何回すれば気が済むのー……?」

 

私は思わず彼女らトップカーストの会話に耳を傾ける。それはもうすごい勢いですんごい集中力で。

 

「えー、んな事ないって。まだバレンタインの時の話とか全然してなくない?」

「いや……バレンタインの話だけで三回目だから。クリスマスの話まで入れたら通算〜……うん。分かんないくらい話してっから。アンタどんだけ比企谷君大好きなのよ」

「なにそれマジウケるっ!あたしが面白がってんのは友達としてだからっ!いやまぁまだ友達にはなってないかな?」

「友達ねー。どうだか〜。なんにせよクリスマスもバレンタインも、もうその話飽きたから次に新しい話仕入れてくるまでは比企谷トーク禁止ね」

「えー、だったら千佳も今度比企谷と一緒に遊ぼうよー。アイツ超ウケるからさー」

「私はアンタみたいに図太くないの!あんな事があった後にアンタみたいにヘラヘラ会えるワケ無いっての。それよりも比企谷トーク禁止ー」

「……千佳ぜんぜんウケない」

「はいはいウケなくて結構」

 

と、そこで比企谷トークとやらは終了した。ちょっと仲町さん余計な事しないでよ……

それにしても一体どうなってんの?だって折本さんがなんで今さら比企谷君とそんなに仲良くしてんの?

クリスマスとかバレンタインとか、青春さん達にとっての超二大イベントに、折本さんと比企谷君は会ってたって事なんでしょ……?

だって……あの折本かおりだよ?

 

もしかしたら比企谷違いなのかな。その可能性が高いよね?だって、折本さんと比企谷君って組み合わせは一番有り得ないはずだもん。

 

でも……ぐっ……き、気になるっ……

 

これは明日からイヤホン付けて音楽聞いてるフリして人間観察を楽しむタイプのぼっちにジョブチェンジ必至ですね。

ついさっきまでそっちのタイプのぼっちを軽く舐めてたばっかりなのに意志弱えーな……私。

 

※※※※※

 

自分の意志を曲げてまでも人間観察(折本観察)に勤しんだここ数日の結果、収穫はゼロでしたっ!

マジ仲町ばかやろうこのやろう。

 

それにしても我がクラスのトップカーストの女子二人が男の話、それどころかその男とのクリスマスやらバレンタインやらの話で盛り上がってたってのに、他のクラスメイト達がさして気にした様子も無かったんだよなぁ。特に男子共。

……これって、私が知らなかったってだけで、仲町さんと一緒でクラス中が聞き飽きてるくらいに折本さんが随分と比企谷トークを今まで散々してきたって事だよね……?

 

マジで私ばかやろうこのやろう。

なに「え?ああ私人間関係とか別に興味ないですから」みたいな顔して孤高のぼっちとか気取っちゃってるかなぁ。

くっそぉ!超聞きたかったぁっ!

 

……こうなったら直接折本さんに聞きに行って………………みられるワケがないっ!

いやいやクラスのトップカーストに底辺ぼっちが男の話聞きに行くとかどんな拷問なのよ!?罰ゲームなの?

あ、罰ゲームをし合える友達居ませんでしたっ☆

 

 

でも……そんな拷問を受けてでも、私は折本さんに聞いてみたいと思っていた。なんであなたが比企谷君と仲良くなんてしていられるのかを。

 

折本かおり。

ある意味私のトラウマにトドメを差してくれたと言っても過言ではない女。

もちろん比企谷君が所構わず色んなトコで悪い噂を立てた事が原因ではあるけれど、三年になってからこの折本かおりに告白して振られ、それを言い触らされた事による比企谷君への嘲笑、それによる私へのとばっちりは最高潮になった。

 

『ねぇねぇ美耶〜!聞いたぁ?ナルが谷?オタ谷?……まぁなんでもいいや。アイツ今度は折本かおりに告白したらしいよー!』

『……え?そ、そうなんだ……』

『えー!マジで〜?さすがに身の程を知れって感じだよねーっ』

『だよねーっ!ホント可愛いきゃ誰でもいいのかよっ!って感じだよねぇ』

『ねっ!だから美耶も去年被害に合ったんだもんねー。美耶も可愛いからさー』

『……そ、そんな事ないよぉ』

『ぶっちゃけ可愛いとか超得だよねーとか思ってたけど、こういう被害者になんなら得とは言えないかもー。良かったぁ、私美耶達ほど顔面良くなくてー』

『ギャハハハっ!マジ言えてるー!』

『まぁ美耶も折本かおりもたまには痛い目みなよー!』

『それあるー』

 

 

それあるー、じゃねぇよ……

思い出しただけでも吐き気がする。なんだよ痛い目って。なんで比企谷君に告白されるのが痛い目だったり被害者だったりすんのよ。単なるあんたらの嫉妬の捌け口じゃない。

しかもしっかりと『美耶達ほど』とか言って、自分たちの可愛さもアピールしようと必死だしさ……

はぁ……思い出さなきゃ良かった。

 

おっと、今はそんなどす黒い感情に支配されてる場合では無かったね。

とにかく折本かおりはアイツら嫉妬組とは違えど、比企谷君からの告白を言い触らして笑い者にした張本人であるはずなのに、なんで今さら仲良くなってんの?なんで仲良くなれてんの?

 

トラウマとしてずっと避けてきたけど、かかわり合いなんか持ちたくないけど、でもこの聞きたい気持ちはもう押さえられそうもない。

そして私は立ち上がり、折本かおりの席へと向かうように見せ掛けてトイレに直行したのだった。

 

……だって無理ぃぃーーー!

 

※※※※※

 

それからさらに一週間ほど過ぎ、私はずっと話掛けられる隙を窺っていた。もうストーカー一歩手前だよっ!

それでもなかなか話し掛ける隙がない。さすがトップカースト、全然単独行動しやしない!

でも数日間窺って気付いた事がある。彼女もチャリ通なのだという事に。

 

まぁそりゃ中学一緒って事は学区が同じワケであって、私がなんの苦もなくチャリ通してる以上は折本さんだってチャリ通の可能性が高いって事くらいすぐ分かるはずなんだけどね。

 

でも比企谷君の事で頭が一杯で…………って違う違う!べ、別にそういうワケじゃなくって、気になる事があるからってだけの話なんだからねっ!?

と、とにかくそういった理由でそんな簡単な事にも頭が回らずに、数日間付け回す結果となったワケで……

 

つまり!放課後に駐輪場で待ち伏せしてれば、話し掛けやすい一人っきりの時を狙って強襲出来るって寸法なのですよ!

そして意気揚々と駐輪場で彼女を張ること今日で三日目。(完全に犯罪者の目)

ついに!ようやく折本さんが一人で帰る所に立ち合えた。

なんなの?リア充ってのはそんなに一人でおうちに帰んの嫌なのん?いやまぁ私もリア充時代はそうでしたっけねっ!

 

とにかくこれでようやく話し掛けられる。私は自転車の鍵を用意している折本かおりに向かって力強く歩を進めた。

この学校に入学してから、まともに人と会話するのなんていつぶりくらいなんだろう。てかまともに会話したことあったっけ?

 

ドキがムネムネしてるけど、でも大丈夫!

私は元々はトップカーストでリア充だったのだ。折本さんとだって、中学の時は何度か話した事だってあるし、ぜ、全然緊張らんてしてらいよ〜……?

 

だってこないだ久しぶりの家族以外との会話だってのに、昔の可愛いわたしを比企谷君に発揮できたもんっ。

まぁ比企谷君て知らなかったし全然効果も無かったですけどもっ!

 

そして全然一切何一つ緊張なんてしてない私は、折本かおりに対して冷静かつ慎重に声を掛けるのであった。

 

「あああのぉ〜!……お、折本しゃんっ……!」

 

壮絶に噛みました。もう死にたい。

 

 

つづく

 




この度もありがとうございました。


すみません。二件ほど感想よりご質問頂いたので、時期設定のご説明をさせて頂きます。

時期的には原作バレンタインイベントまでは済んでいる時期として書いてるんですけど、主人公が奉仕部と関われない立場なのに奉仕部がシリアス状態になっている設定までは拾いきれないので、陽乃さん絡みのシリアスイベントは無かったものとして……つまり奉仕部はバレンタイン後も何事も無く平和な状態のままという世界で読んで頂けると助かります。

紛らわしいのになんの説明もせずに申し訳ありませんでした!



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ぼっちもリア充も県民御用達オアシスがお好き

 

我がクラスのトップカーストである彼女に声を掛ける際、全く緊張などせずに普通に声を掛けようとして嘘ですごめんなさい。

極度に緊張したぼっちな私が壮絶に噛んだことにより、恥ずかしさのあまりに『よし!どうやって死のうか?』と思考を巡らせていたのだが、そんな私に滅茶苦茶ビックリした顔で彼女が答えてくれた。

 

「お、おおっ、二宮ちゃんじゃんっ……ど、どしたの?超珍しくない……!?」

 

そりゃ驚くに決まってますよねー。だって、私は海浜に入ってこのかた、折本さんと会話らしい会話をした事がないんだもん。

おな中のトップカースト同士だったということで、入学当初は折本さんの方からちょこちょこ話し掛けてきた事もあるんだけど、全くの無表情で「ああ」とか「うん」しか返して無かったら流石に離れていった。

他者との壁をとっぱらう事に定評のある彼女からしたらあんまり無い経験だろうし、敢えて避けられてるって事をすぐに理解したんだろう。

だから二年で同じクラスになっちゃってからも、彼女の方から近付いてくるって事はなかった。

そんな私が急に話し掛けたってのに、こうしてちゃんと応対してくれようとしてること自体がむしろ不思議まである。

 

「あ、や、そのっ……お、折本さんに、ちょっとお聞きしたい事などありまして……」

 

安定の敬語でしたお疲れ様でした。

すると当初は驚いていた折本さんが、なぜか敬語の私にドハマりしたらしい。

 

「……ぶっ……あはははははっ!なっ、なんで敬語なの!?マジウケる!

くくくっ……いひひひひっ……ひー、ひー……ふーっ」

 

どうやらラマーズ法で落ち着いてくれたみたいだね。ラマーズさんってやっぱりスゴい!マジパないっす!

 

「はぁ〜……………って、ご、ゴメン!笑いすぎだよねっ!?

あたしホントこういうとこダメなんだよねー……去年怒られて反省したはずだったんだけどなぁ……」

「あ、いや……きゅ、急に話し掛けた私が悪いんだし」

「いやいや、ホント自分でもこういうとこ治さなきゃって分かってるんだっ……

だからゴメンね」

「うん。だ、大丈夫……です」

 

本当に大丈夫。ずっと悪意の中に居て人間関係疲れちゃった私からしたら、なんだか全然悪意を感じなかった折本さんの笑いは、ホントなんでも無かった。

 

「ありがとっ!

で、聞きたいことってなに?どうしたの?二宮ちゃん」

 

くっそ……やっぱスゲーな、トップカースト折本……

私から避けてるって知ってるくせに、そんな私から話し掛けられてもこんなに笑顔で対応出来るって。嫌われてて当然なんだけどなぁ。

 

「あ、っと……その……」

 

それに対してこのぼっちの切なさよ……

話し掛けといて、なんで未だにどもってんでしょうね?私。

 

「……二宮ちゃんこのあと暇?ここじゃなんだったら、どっか移動しよっか?」

「あ、う、うん」

 

「おっし!んじゃどこ行こっか?どっかいいとこある?」

 

どっかいいとこって、ぼっちな私にはハードル高すぎますよアナタ。

 

「……サ、サイゼとか?」

「…………サイゼとか?って……ぷ、ぷくくくくっ……サ、サイゼとかって……

ぶっ!あはははははっ!ウケる!」

 

いやいやサイゼ馬鹿にしてんの!?ていうか全然反省とやらをしてないじゃん。この女……

 

結局またしこたま笑われて謝られてから、私達は千葉県民のオアシスへと移動する事となった。べ、別にサイゼが嫌ならサイゼじゃなくたっていいんですけどっ?

 

※※※※※

 

「あたしプチフォッカとティラミスアイスでー。あ、あとドリンクバーも」

 

な、なん……だと?

入店早々、メニューも見ずに玄人のような注文をする折本さんに、私は驚愕の色を隠せない。

さっきあんだけサイゼ馬鹿にしてた癖に、メニューも見ずに私が頼もうとしてた品を注文するなんてっ……

 

「わ、私もそれで……」

 

注文しながらも訝しげな表情で見つめる私を疑問に思ったのか、折本さんが「ん?」と首をかしげた。

 

「いや……さっきサイゼって言った時に爆笑してたから、てっきりサイゼが笑える存在なのかと……」

「笑える存在っ!なにそれウケるー!

んーん?あたしサイゼ結構好きだよ?たださ、どこがいい?って聞いて『サイゼとか?』って返ってきたから、あるヤツのこと思い出しちゃっただけっ」

 

なんだ、そういう事かー。てっきり千葉県民の敵なのかと思っちゃったよ。

いやー安心安心。そうですよねー。千葉県民がサイゼを嫌いな訳ないですよねー。

 

そして二人でドリンクを取ってくると(もちろん無言だよ☆)、ついに折本さんが本題に入った。いや、本来本題に入るのは私の役目なんですけどね?

 

「で?どしたの二宮ちゃん。あたしがこう言うのもアレだけど、二宮ちゃんがあたしに話し掛けてくるなんて超レアだよね」

「……うん。急にゴメン…………えっと、どうしても折本さんに聞きたい事あって……」

「うん」

 

しばらくの沈黙。どうやら折本さんは私を急かす事なく、私が話し始めるのを待ってくれるみたいだ。

有難い……折本さんて意外といい人なのかな。

 

そして私はゴクリとノドを鳴らし、ついに話し始めるのだった。

 

※※※※※

 

「……あの、ひ、比企谷君の事……なんだけど……」

「…………へ?

な、なにかと思ったら比企谷のことなのっ?」

 

比企谷君の名前を出した途端に、私は真っ赤になって鼓動が激しく鳴り始めたってのに、折本さんは対称的に一気に緊張を緩めたみたい。

 

「なーんだ!二宮ちゃんが急に話し掛けてくるから何事っ!?って緊張してたのに、比企谷の話かー!」

「う……ん」

「なになに!?どうして比企谷の話聞きたいの!?あたしが知ってる事ならなんだって話すよー?」

「……えっと、実は……」

 

そして私はあの日比企谷君に偶然会ってチカンから助けられたこと。でも比企谷君とは気付かずに、お礼をしようとしたけど断られたこと。家に帰ってからあれが比企谷君だったと気付いたこと。それから比企谷君のことで悶々としてる時に、教室で比企谷君の名前を聞いたこと。それらを全て折本さんに話した。

 

「へぇ〜!そっかそっか!比企谷がチカンから助けてくれたとかウケる!しかも助け方が超比企谷!」

 

超比企谷。なにそれ超凄そう。

 

「で、それ以来二宮ちゃんは比企谷の事が気になっちゃってる訳だ〜」

「あ、や、べっ、別に気になるとかじゃっ……

ただ、やっぱりちゃんとお礼くらいはしたかったなぁ……と……」

「したかった?だったら今からだって遅くなくない?

総武だって知ってるんだから、校門前とかで待ち伏せしてれば良くない?」

「や、やー……さすがにそれはちょっと難易度が……」

 

その難易度を攻略するには、もうハードモードくらいならノーダメで突破できるレベル。

 

「あははっ!そりゃそうだよねー!

実はあたしも比企谷と遊ぼうと思って何回かそれやりかけたんだけど、ちょっと恥ずかしくてやめちゃったんだ。

だって逆の立場で考えたらうちの学校の校門で総武生が待ってたとしたら超目立っちゃうじゃん?まぁウケるけど」

 

ちょっとぉ……折本さんが無理なもんを、私が出来る訳ないじゃんよぉ……

 

「で比企谷と仲良くしてるっぽいあたしに連絡先とかでも聞こうと思ったってワケ?

でもそれならゴメン。あたし比企谷の連絡先知らないよ?」

「あ、別に連絡先を聞こうとしたワケでは……で、でも」

 

凄く意外なんですけど。だって……

 

「お、折本さんて、比企谷君と仲が良いんじゃないの……?

だって……クリスマスとかバレンタインとか一緒に過ごしたんじゃないの……?

それでも連絡先も知らない、の?」

「クリスマスとかバレンタイン?

あぁ、違う違う。それは生徒会の手伝いで行ったイベント先で偶然会ったってだけっ」

「せ、生徒会のイベント?ひ、比企谷君て生徒会なのっ!?」

 

うっそ!あの比企谷君が生徒会なんかやってんの!?罰ゲーム!?

あ、でもすっかり忘れてた……そういえば最近の比企谷君てリア王なんだっけ。

 

「んー、正しくは生徒会じゃなくて部活の一環で生徒会の助っ人してるみたいなんだよねー。

でっさー!確かに助っ人ではあんだけどー、比企谷超ウケんだよねーっ!だってさぁ……」

 

そしてそれからは永遠とも思える折本さんの比企谷トークが始まった……

ドーナツ屋での偶然の出会いから葉山君?とやらとのダブルデート―――どうやらその葉山君とやらはここらの女子高生の間ではイケメンとしてかなりの有名人らしい(いや私はここらの女子高生じゃないのかよっ)―――から、そのデートでやらかしちゃってその葉山君に怒られて反省したこと。

あ、ちなみにそのデートの時に比企谷君が「サイゼとか?」って発言した事により、さっきの私のサイゼ発言を思い出しちゃってウケちゃったらしいです。

「二宮ちゃん比企谷かよっ!って思っちゃってさぁ」との折本発言で、私がちょっとだけ嬉しくなってニヤっとしちゃったのは内緒。

 

それから総武高校との合同で行われたクリスマスイベントでの再会を経て、比企谷君が女の子連れで(しかも二人!くそがっ!リア王爆ぜろっ!)偶然バイト先のカフェに訪れて、そのあと二人で一緒に比企谷君ちの前まで帰って妹さんとも会った事、そしてまた生徒会の手伝いで行ったバレンタインイベントまでの事を、それはもう笑いすぎて涙を滲ませながら楽しそうに楽しそうに。

 

い、いやー……アンタどんだけ比企谷君大好きなのよ……長げーよ。

しかも話の途中で料理運んできてくれたウェイトレスさんとかドン引きですからっ……

こんな話を何回もしてれば、そりゃ仲町さんから禁止令出されるわ……

 

 

ふむふむ。長すぎて意識失い掛けたけど、どういった事情で比企谷君と折本さんが再会を果たして、どうしてこういう関係性になったのかは理解しました。

でも…………だからこそ、私はどうしても疑問に思うことがあるのだ。

 

だって……なんであなたは……比企谷君の話をそんなに楽しそうに話せるの?なんで比企谷君の事、そんなに大好きみたいな顔してられるの?なんで……比企谷君と仲良くなんて出来るの……?

 

だって……

 

「……なんで?折本さん……

折本さんは、比企谷君のこと嫌いだったんじゃないの?比企谷君の敵だったんじゃないの……?」

 

そう。私とおんなじように……

 

 

つづく

 




この度もありがとうございました。
折本との邂逅は1話で済む予定だったのですが、2話になってしまいました。
ちなみに折本が語ってたバイト先うんぬんの話はアニメ特典小説の中での話です。

また次回もよろしくお願いいたします!


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ぼっちなのに友達(未満)が出来ました

 

千葉県民御用達オアシスには似付かわしくない空気を漂わせ、私は折本さんに質問を投げ掛けた。だって、私にはどうしても理解出来なかったから。

面白がって言い触らして馬鹿にしていた比企谷君となんでそんな風に仲良く出来るの……?

 

 

「……て、敵?あたしが?比企谷の?」

 

折本さんは驚いた顔で私を見る。え……?自覚とか無いの?この女……

 

「……だって、三年の時……折本さんは……比企谷君に告られたのを言い触らして笑ってたんじゃないの?

だったら嫌いなはずじゃん……だったら敵じゃん……

なのに、なんでそんな風に楽しそうに話せんの……?」

 

私も……最悪だよね。自分のこと棚に上げちゃってさ。

私だって他人に話して比企谷君をクラス中の笑い者にさせときながら、今さら気になっちゃって情報集めようなんてしてるクセにっ……

すると折本さんは、とても困ったような顔をした。困ったというか……苦しそうな……?

 

「……そっかぁ、そうだよねー……やっぱそう思われてるよねぇ……」

「思われてる?……って、なに?」

 

つい聞き返す言葉が低く刺々しくなってしまった。

なんで他人事みたいに言ってんの?

 

「実はさぁ……あたし比企谷に告られたって事、あのとき誰にも話してないんだよね」

 

…………はっ?

 

※※※※※

 

「え?ちょっと待って?誰にも話してないの!?ど、どゆこと!?」

 

思いもしなかった言葉に、リア充相手に緊張してた事なんてすっかり忘れて、身を乗り出してすっごい勢いでまくし立ててしまった。

やだちょっと恥ずかしい。

 

「うわっ!び、ビックリしたぁ」

 

いやホントすみません。わたしもビックリしましたよ。

 

「ごごごごめんにゃさいっ……です」

「やー、全然いいんだけどさー、二宮ちゃんがそんな風に詰め寄ってくるなんて意外すぎたからさっ!

あたし超ビビっちゃってんの!ウケるっ」

 

もうウケとか求めてないんで早急に説明を求めます。

そんな視線を向けていると折本さんが苦笑いしながらポリポリと頬を掻く。

 

「普段たいして物事深く考えないあたしだけどさ、さすがにあの比企谷から告られたなんて誰かに話したらマズいかも……って事くらいは考えたよ」

「だったらなんで?」

「……実はあんときさ、何人かの男子に言い寄られてたんだよね。あ、比企谷以外のね。

いつも誰かしら一緒に帰ろうとしてあたしを下駄箱とかで待ってたからさ、たぶんそん中の誰かが中々来なかったあたしを教室まで見に来て廊下で聞いちゃって、翌日に言い触らしたんだと思う。

学校来てビックリしたよ。誰にも話してないのに黒板に書いてあんだもん」

 

そう……なんだ……朝来て黒板に書かれててビックリしたなんて、私と一緒じゃん……

いや、一緒では無いか。私は他人に話したんだから。

 

「ビックリはしたんだけど、誰が書いたの?とかは思ったんだけどさ、でも書いてあった事に間違いは無かったんだよね。

マズいなぁ……とは思ったけど、でも、比企谷があたしに告って、それをあたしが振った。

どこにも間違いがない事だから、あたしには訂正のしようも無いじゃん……?」

「そう……だね」

 

確かにそりゃそうだ。

間違ってない内容の噂を、当事者がどう訂正すればいいの?って話だもんね。

 

「たぶんさ、それでもあのとき比企谷が友達だったとしたら、あたしもあんなつまんない空気をなんとかしようと頑張ったと思うんだよね。例え噂に間違いがなかったとしたってさ。

でもあのとき比企谷は別に友達じゃ無かったから、正直つまんないヤツくらいにしか見てなかったから、あたしはあの空気を放置しちゃった……

そういった意味では笑い者にしてた子たちと同罪なんだけどね、あたしも……」

 

でもさ、それは誰にも責められはしないよね。勝手に噂流されたんなら、折本さんだって被害者な訳だもん。

そんな被害者の折本さんが比企谷君を必死で庇ったりしたら、余計に噂がおかしな方向に向かっちゃうのは必然だもんね。

いくらトップカーストで人気がある折本さんでも、やっぱり妬みで嫌ってる娘たちだって少なからず居た。そういう噂は必ずその娘たちがいいように利用して、あらぬ方向へと進ませるのだ。

 

友達でもなんでも無い比企谷の為に、そんな危険な橋を渡れる人なんてそうそう居ないだろう。そもそも告白されて振ったのは事実なんだから。

 

「と、まぁそんな訳なんだー。正直偶然見掛けた時はちょっと負い目もあったんだけどさ、なんかすっごい美人なお姉さんとデートしてたし、もうあの頃の比企谷とは違うのかもって、思わず声掛けちゃったんだよね」

 

いやまた女かよ。比企谷君どんだけデートばっかしてんのよ……爆ぜろっ!

 

「そしたら昔と変わらず話してくれたしさー……

いや、あたし鈍感だし深く考えないタイプだからホントに変わらずかどうかは分かんないけど……でも普通に話してくれたから、なんか嬉しくてついあたしも調子に乗っちゃったってわけ!」

 

私だったら無理ですけどねー。

でもこの女ならそうなっちゃうんだろうな。

 

「で、その勢いのままダブルデートで比企谷をからかってたら、まんまと怒られちゃいましたっ。

……あたしマジで悪気とか全然無かったんだけど、でもあの葉山くんがあそこまでしたって事はよっぽどだったんだろうなって反省したんだ。

やっぱ楽しいってだけで、相手のこと考えないで行動しちゃうのってダメだよねー」

 

いえいえ、その割にはまだまだ考えなしの行動が絶賛続いてますけどもね?

でも……だから自分を見つめ直してあんなに謝ってくれたのか。今は折本さんなりに変わろうと努力してる最中なんだろう。

 

「あ、飲み物無くなっちゃった。あたし取ってくるねー」

「あ、うん」

 

席を立った折本さんの背中を見つめながら、氷の溶けて薄まってしまった不味いジンジャーエールを一気に飲み干した。

 

……折本さんは自分を見つめ直して反省して変わろうとしている。成果は一向に見られないですけども。

それに比べて、私は努力なんてなんもしてないな。

ただ、変わろうともせずに人を避けて見下して、逃げてるだけなんだろう。

 

私も……折本さんみたいに比企谷君とちゃんと話して自分を見つめてみたら、間違っちゃった青春を取り戻せるのだろうか…………?

 

※※※※※

 

ドリンクバーから帰ってきた折本さんは、熱湯にダージリンのティーパックを浮かべてゆらゆらさせながら私に訊ねてくる。

 

「でさー、二宮ちゃん」

「……え、なに?」

「二宮ちゃんは、どうしたいの?」

「……ど、どうしたいって?」

「比企谷の事に決まってんじゃん。

普段ぼっ……一人で居る二宮ちゃんが、わざわざあたしに聞いてきたって事は、なんかしたいんでしょ?」

 

いや、言い直さなくてもいいんで。

 

「あ、うん……別にどうしたいって訳では……

ただちょっと気になったから……」

「……えーっと、二宮ちゃんてさ、いや、二宮ちゃんも中学んとき、比企谷となんかあったの……?」

「……!」

 

そっか。折本さんは知らないのか。まぁあれはクラス内で騒がれたくらいの事だし、そもそも二年の時だから比企谷君の存在も知らないし、興味の無い事なんか知ったこっちゃない自由人の折本さんが知るわけもないか。

 

「えっと……その、実は私も二年のころ……」

 

そして私は二年の時のトラウマ事件を、そしてそのトラウマを受けて私が一人で居るのを好むようになった事を、たどたどしいながらもなんとか話しきった。

自分でも正直驚いた。まさかこんな事まで話しちゃうことになるだなんて。

 

「……そうなんだ……だから二宮ちゃん、中学のころ少しずつ変わってって、高校では完全にぼっ……一人で居るようになったんだ……」

 

いやだから言い直さなくてもいいですからぁ!

 

「だからあたしが話し掛けても無視してたんだ。

そりゃ二宮ちゃんにとったら、あたしなんて仇みたいなもんだもんね」

「か、仇って訳ではっ……」

「いいよいいよ。おかげでようやくスッキリしたし!」

「……でも、さっきの折本さんの話聞いたら、私の単なる独り相撲に過ぎなかったっていうか……その、無視とかしてごめんなさい……」

「だからもういいってばー!

友達じゃないからって、笑い者になってた比企谷を見捨てたことに間違いはないんだしさぁ……」

 

一瞬だけ苦しげな表情を浮かべた折本さんだったけど、次の瞬間にはニヤリとした。

 

「だからさ!あたし今、結構本気で比企谷と友達になりたいと思ってんだよねー」

「はい?」

「あのとき見捨てちゃったこと、今は謝りたいって思ってんの。

でも友達じゃないからって見捨てたあたしが、どのツラ下げて謝んの?って話じゃない?

だから友達になんの!こんなあたしでも友達でいいって認めてくれて、初めてあたしに謝る権利が発生するんじゃないかと思ってさ。

なんか謝ってから友達になって下さいだなんて卑怯な気がすんのよね。そんなのあっちだって断り辛いじゃん?」

 

なんだその理論?

あはは!でも、なんかこの人らしいかも!

 

「ま、最近は友達じゃなくて、ちょっと彼女もアリかも!とか思ってんだけどさー!やばいちょっと恥ずかしいんだけど!ウケるっ」

 

おいっ!

 

「……二宮ちゃんはその時のこと、比企谷に謝りたいとか思ってんの?」

「……私は、よく分からない。ただ、なぜだか比企谷君が気になっちゃったってだけで……」

「それはLOVE的な?」

「ちちち違うもんっ!断じて違うもんっ!」

「……ぷっ!くくくっ……あははははっ!

ちちち違うもん!だってー!超どもっちゃってんの二宮ちゃん!

ぷくくっ……まじウケる〜!……もんっ!とか超可愛いんですけどー!ウケる〜」

 

ぐぅっっっ……だから反省したんじゃないのかよっ……!顔熱いよぅ……

 

「ひーっ……ひー……ふ〜ぅ……

……だったらさ、やっぱ二宮ちゃん比企谷に会うべきだよ。どうしたいのか分かんないんだったら、一度会って話した方が絶対いいって!

モヤモヤしてんならまず行動!」

「!! でもっ……会うって言ったって……」

「あたしさ、さっき総武高校の前で待ってるのはさすがに恥ずかしいからやんないけどさって言ったじゃん?

でも、どうしても必要性を感じたなら迷わずやるよ?あたしは比企谷の家も知ってるし会おうと思えば家に押し掛けちゃうけど、二宮ちゃんは知らないじゃない?

さすがに住所教えるのはマズいし」

 

そもそも急に家になんか押し掛けられませんて……

 

「だからさ、一回だけ頑張って校門前で話し掛けてみたら?

そしたらなんか見つかるかもよ?」

 

比企谷君に、自分から会いに行く……そんなこと、ぼっちな私に出来んのかよ……

軽くパニくって目がぐるんぐるんしている私に、折本さんは「それあるー!」と親指を立ててウインクしていた。

リア充ウゼェ……

 

※※※※※

 

ぼっちとリア充の邂逅がようやく終わりを告げようとしていた。

結局先程のそれある案は保留という事にしといたけど、実は結構心が揺れていたりする。

 

「んじゃねっ!二宮ちゃん!」

「……うん。今日はありがと」

 

はぁ……疲れた。なんかこの二年分の会話量より多かった気がすんな。でも……

 

「あっ、二宮ちゃん!」

「……え?」

「あたし達さぁ、友達になんない!?」

「……えー……」「うっわ!超嫌そう!まじウケる」

「や、あ、その……きゅ、急に友達とか……教室で話し掛けられても困るし……」

「? そっかー。良く分かんないけど、ま、いっか!

んじゃさ、教室で話し掛けないように気を付けるからさ。んー、とりあえず友達未満ってとこでどう!?」

「……そ、それならまぁ……」

「よっし!んじゃあ決まりーっ!明日からよろしくね!にの……美耶っ」

「よっ……よろしく、です……」

 

 

ホント疲れた……

マジでホントどれくらいぶりだよ、こんなに他人と話したの……でもっ……

 

 

手をぶんぶんしながらフラフラと自転車で去っていく折本さんの背中を見ながら、こういうのも意外と悪くないもんなのかも……なーんて、らしくない事を考えちゃってるぼっちの風上にも置けないぼっちなのでした。

 

 

つづく

 




この度もありがとうございました。
折本かおりは好き嫌いが結構あると思うので、勝手な想像と解釈でこういう良い奴な扱いにしてしまう事に抵抗がある読者様もいらっしゃるとは思いますが、その点をご容赦して頂けたら助かります。



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ぼっち、決意を固める

 

ぼっちの朝は常人よりよっぽど遅い。

なぜなら部活動など当然やってるワケがないし、教室に早く到着しても話し相手も居ないから、ただただ気まずいだけなのだ。

つまりぼっちに取っては朝のSHRが始まるギリギリに教室に入る事こそが絶対的正義と言える。

 

ここ最近はある情報を聞き出す為に、私にしては珍しく早めの登校を心掛けていたのだが、昨日その情報を本人から放課後のファミレスにて直接聞き出すという、ぼっちにあるまじき暴挙にて情報入手という目的を達成してしまったことにより、晴れて無駄に早い通学から解放されたのだ。

 

 

とまぁそんなワケで、私二宮美耶は本日より無事に平和なぼっち道を邁進する事に相成ったのであーる!

 

なのにどうしてこうなった……

 

「ねぇねぇ美耶ー。なに一人でブツブツ言ってんの?超ウケるんですけど!あ、それウマそー!いただきーっ!」

 

「ちょっとかおりー!それ私が目ぇ付けてたのにー。んじゃあ二宮さん!私の玉子焼きとそのハンバーグ交換しようぜー」

 

……ねぇ?なんでなの……?

 

※※※※※

 

只今一限目の休み時間中。

昨日までは情報収集の為に音楽を聴いてるフリしてある人物をストーキン…………げふんげふん。

ある人物の会話に聞き耳を立ててたんだけど、今日からは今まで通りアニソンをガンガンに聴きながらラノベを読み耽っている。

 

はぁ、やっぱ教室ではこのスタイルこそ至高よね♪

外界から響いてくる、頭が痛くなるようなバカ騒ぎを完全に遮断して大好きなラノベの世界へと意識を旅立たせる。

この至高の時間はなんぴとたりとも邪魔させねーぜ!

あ、邪魔してくる知り合いなんて居ないんですけどもー!

 

「っうひぃ〜!」

 

へ!?なに!?なんか思いっきりイヤホン引っ込抜かれて、この先生きのこるのが恥ずかしいくらいの声を出しちゃったんですけど!?――(注)ちなみに《この先、生きのこる》であって、決して《この先生、きのこる》では無い――

 

「っうひぃ〜!だって!マジウケる!」

 

はっ!?

 

「ちょ?お、折本さん!?な、なに!?」

「え?なにって朝の挨拶に来ただけだけど?

だって美耶って朝来るの遅いからおはよーって言えないんだもん」

「ちょ、ちょっとアナタ、な、なに言ってるんですか……?」

「だからなんで敬語なの!?ウケるっ」

 

いやアンタ朝からウケ過ぎでしょ。なんかもう箸が転げるどころか微動だにしなくてもウケまくるレベル。

 

ちなみにここからの会話は、私二宮はヒソヒソで、折本さんは大音量にてお楽しみください。

 

「折本さん!?なんで普通に話し掛けてくんのよ!?」

「へ?だって昨日友達になったじゃん」

「と、友達未満でしょ!?折本さんがそう言ったんじゃない!」

「そだっけ?でも似たようなもんだし気にしなくていいんじゃん?」

「私が気にすんのよ!!

大体昨日教室で話し掛けないように注意するって言ってたよね!?」

「……あ、そーいえば言ったような。

でももう声掛けちゃったし別にいいよねっ」

「いいわけあるか!てか声デカイからぁ!」

「ヒソヒソ声で叫ぶとかウケるっ」

「いやウケねーよ!」

 

……………………………………………ってヤベェェェー!!あまりの突っ込みドコロ満載感に、思わず普通に大声で突っ込んじゃったよっ!?

ひぃやぁぁぁ……視線がぁ!クラス中の好奇の視線が私に降り注ぐよぉ……!

 

「ぶっ!やっぱ美耶面白いわ!

んじゃまた後でねー」

 

二限の予鈴と共にその女は去っていった……クラス中の突き刺さる視線を残して。

もうやだ。もう恥ずかしくて死んじゃうかもしんない。

 

※※※※※

 

三限の休み時間にはヤツは来なかったのだが、あからさまに周りからヒソヒソされてる私が居る。

 

折本かおり……ヤツを甘く見すぎていたようだ。ヤツの他者との距離の縮めっぷりは並みじゃなかった。

あの良く言えば空気を読まない、悪く言えば考え無しのバカっぷりで、トップカースト特有の交友関係を広げてきたのだ……あいつは……

あれ?良くも悪くも悪口しか言ってないや!

 

 

そして運命の昼休み。

私は普段、お昼は何食わぬ顔して教室で一人で食べている。

ぼっちの中には、一人で教室で食べている自分がいたたまれず、自分なりのベストプレイスを見つけたり、最悪『便所メシ』なるものを実行してまでも自らのアイデンティティーを守るらしいが、私のような自ら望んでぼっち道を邁進する自立型ぼっちには、教室で一人で食事を摂る気まずさなど児戯に等しいのである。まさに笑止!

 

しかしこの日ほど自らのこの鋼メンタルを恨んだ事は無い……

 

「美耶ー。一緒に弁当食べようよー」

「え、えっと二宮さん急にゴメンね……?かおりが強引でさぁ……」

 

逃がさんとばかりに私をがっちりガードするトップカースト女子二人。

そしてそんな二人と私を含めた三人に、それはもうスンゴイ好奇の視線を向けてくるクラスメイト達。

 

なんなの!?アンタたち私を殺す気なの!?

鋼メンタル?ごめんなさい嘘ですどうせ豆腐メンタルですしかも絹豆腐なんです。

意識を失いかけている私に、仲町さんが声を掛けて来た。

 

「えっと……もう一年近くクラスメイトなのに、接触ってなにげに初めてだよね?

ごめんね急に。かおりが聞かなくってさぁ……」

「あ……いや……はい」

 

卑屈卑屈卑屈ゥゥゥ!私カッコ悪いよぅ!

 

「ホントかおりって考え無しだからさぁ、言い出したら全然聞かないんだよねぇ……

二宮さんの事はあんまり詳しくは聞いてないんだけどさ、かおりが良い娘だからって」

「良い娘とか……そんなんじゃ、無い……ですから」

「あ、あはははは……で、でも、もし良かったらヨロシクねっ」

「あ、はい……」

 

仲町千佳、か。折本さんと双璧を成す我がクラスのトップカースト女子だけど、あのバ……お調子者と違ってちゃんとしてそうだし、もしかしたら意外と仲良くなれるのかも……?

 

 

 

なーんて、そんな風に考えてた時期が私にもありました。

そして冒頭へ……

 

ドラクエ3かよ。

 

※※※※※

 

「へぇ!二宮さんも比企谷君の知り合いなんだー」

「あ、うん……まぁ知り合いと言っても、つい最近まで顔も名前も忘れてたんだけど……」

「ねー!比企谷って意識しないとマジで影薄いからねー」

「ちょっとかおり!もうそういうのはやめたんじゃ無いの!?」

「あ……やばいやばい!ハァ〜……ホント悪気とか全然無いのになぁ」

「悪気無いのに影薄いってケラケラ笑えるあんたが凄いよ……

あんたのおかげで私だってあの日やらかしちゃったんだからねっ」

「ホントごめんって!」

「ま、まぁ私が調子乗っちゃったのが悪いんだけどね」

「だよねー!ホントそれあるっ!」

「……は?……」

「あ……すいません」

 

あの……もうわたくしめを解放しては頂けないでしょうか……?マジでトップカーストの距離の縮め方は、ぼっちには毒なんですよ……

でももう、一度こんな目に合ったら、クラス中の視線が痛すぎて明日からは教室で食べられませんけどね。どうしてくれんのよ……

 

「あ、で美耶ー、今日の放課後辺り、総武高校行ってくんのー?」

「……ひゃい?」

 

てか急に話振ってこないでよ!変な汗かいちゃうじゃない!

 

「ひゃいだって!ウケるー」

「……かおり」

「うひゃっ!ゴメンっ!

あー、あたしもうダメだぁ……」

 

もういいから机に突っ伏して頭抱えてないで早く話進めてよ……

そんな目で見てるとガバッと起き上がる折本さん。

 

「んで?比企谷に会いに行くんでしょ!?」

 

ねぇねぇ、なんでそんなに楽しそうなの?この人……

 

「いや……だから昨日も言ったように……その件は保留中だから……」

「もー!んなこと言ってたら永遠に行動に移せないよー?」

「……だから、私は……折本さんみたいに……積極的には行動出来ないから……」

「ねぇねぇ?二人してなんの話してんのー?」

「あ、えーっと……

昨日の話って、千佳に話しちゃって大丈夫?

千佳は信用出来る子だよ」

「別に……いいけど」

 

ま、まぁ仮にそんな話が広められたとしても、誰も私の噂なんかしないだろうし、相手もうちの学校じゃないしね。それになんとなく仲町さんは信用出来そうな気もするし。折本さんの親友やってるくらいだしね。

 

そして私達は場所を移動した。

だって……折本さん、声デカ過ぎて駄々洩れなんだもん。

 

 

「……へぇ、そっかぁ。そんな事があったんだぁ……」

「……うん」

「えっと……そんな話を聞かせてくれてありがとね、二宮さん」

「あ、うん……」

「だからさー!そうやって悩んでんなら、早め早めに行動した方がいいって!」

「かおりはうっさい。誰もかれもがあんたみたいに考え無しの行動取れるほど、心臓に毛ぇ生えてないから」

「心臓に毛っ!ヤバいウケ「うっさい!」る……」

 

なんだよー……この二人漫才でもしてんのかよー……

 

「んー……かおりの意見はどうでもいいとしても、確かに私も会った方がいいと思うなー」

「……え?」

「私が偉そうなこと言えた立場じゃないけどさ、私も出来ることなら比企谷君に謝りたいなぁって思ってるんだ」

「そう……なんだ」

「うん。

……でもさ、私は比企谷君には全くの無関係の人間だから、今更私が謝っても「は?お前だれだっけ?」って感じになっちゃうと思うんだ。すぐに謝っとけば良かったのにさ。

こういうのって、後から後悔してももう遅いんだよね」

「……そう、だね」

「でも二宮さんは、すっごい偶然の出会いとかおりの話で、今がようやく出来たチャンスなワケじゃない?

だったらこのチャンスは生かしといた方が、後々モヤモヤしないで済むと思うんだ」

 

後から後悔してももう遅い、か……それは自分が痛いくらいに一番理解してる。

確かに……今ならチカンから助けて貰ったって大義名分もあるし、比企谷君に会いに行くっていう最大のチャンスなんだよね。

 

「まぁ私の場合は、このずっとモヤモヤした気持ちも調子に乗っちゃった罰なんだって受け入れてるけどさ、二宮さんには話が出来るってチャンスが与えられてるんだから、どうしたらいいか分からないんなら、やっぱ一度会っとくべきじゃないかな?」

「…………うん。だよね」

……仲町さんと話せて良かった。ちょっと……覚悟が出来たかも……!

 

「私……会いに行ってみようかな」

「おー!二宮さん男前ー!

私は全面的に応援するよ」

「……ありがとう、仲町さん」

 

 

 

「あ、あのぉ……あたし蚊帳の外過ぎてウケるんですけどー……」

 

どうやら真剣な話は折本さんが居ないとスムーズに進行するようですね!

 

 

話も終わり、私達は教室へと帰ってきた。うぐっ……やはり視線がツライ!

トップと最底辺が交わるのはここまで注目を集めるというのか……っ!

 

で、でも……ようやくこの地獄のお昼休みも終わりを告げようとしている。もうこんな事は金輪際起きないのだ!明日からは平和なぼっち生活がっ!

 

「んじゃねー、美耶ー。

明日からも一緒に弁当食べるからヨロシクー」

「よろしくねー、二宮さんっ」

 

…………どうやら平和なぼっち昼休みはもう過ごせないらしいです……

 

※※※※※

 

寒風吹き荒ぶ三月の夕方。

私は今、総武高校の校門前に立っています。

 

いやいや私行動早すぎじゃね?まさかの即日行動だよっ!

だって……気持ちが固まった今まさに行動に移らないと、もう無理そうなんですもの……

 

先ほどから帰宅中の総武生の目が痛いよママン……私、無駄にお顔立ちがそこそこ整ってるから、こういう時って無駄に目立っちゃうんですよ……後から後悔しても遅いですって?すでに後悔しっぱなしだよ!

 

 

たぶん私はかなりキョドっていたのだろう。そんな私に、心配するかのようについにお声が掛かかるのだった。

 

「やぁ、うちの学校になにか用かい?」

 

なんか金髪のえらいイケメンさんに声を掛けられました。

 

つづく

 





ありがとうございました。
更新が開いてしまって申し訳ありません。

次はここまでは開かないように頑張りますので宜しくお願いします。


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リア充に囲まれるぼっち

 

前回までのあらすじっ!

私、二宮美耶が今とても気になっている人、比企谷八幡君に会うために総武高校にやってきたらイケメンさんに声を掛けられちゃったの☆

 

 

おっといけない。急にイケメンさんに声なんて掛けられたものだから、頭の中にあらすじが広がっちゃったじゃない。しかも雑すぎでしょこのあらすじ。

う、うーん……それにしてもホントどうしよう。いきなりこんな爽やかイケメンさんに話し掛けられちゃったら、私に気があんのかと思って告白して振られちゃうじゃない!

 

「あんれー?隼人君どしたん?

ん?この子ウチの学校じゃないじゃん。お!もしかして別の学校から隼人君の出待ちに来たん!?

やっぱ隼人君まじぱないわー」

「ははは、戸部。なにバカなこと言ってるんだよ。ただこの子が校門前でキョロキョロしてたから、声を掛けただけさ」

「いやだから隼人君出待ちしてたんじゃね?

かー!やっぱ隼人君だわー」

「で、どうしたんだい?何か用かな?なにか困り事とかなら話聞くよ?」

 

やっばい。なにこの爽やか王子。これこそまさにリア王じゃない!お付きの家来はホントうざいけど。

こんな超イケメンにこんなに爽やかに接しられたら、私みたいな恋に恋する乙女は一発でメロメロになっちゃう!

そして私はこの王子様にこう答えた。

 

「あ、別にそういうのいいんで」

 

スミマセン嘘ついてました。

こんなリア王な爽やかイケメンには、寧ろ警戒心しか働かなかったです。

うわー、なにこの爽やか全開の微笑み!恐っ!その薄そうなマスク取ってから喋ってよ。

 

「別にただ人を待ってるだけなんでお気になさらずに」

「いや、でも他校の女子が校門前に立ってると目立っちゃって大変だろうから、よければ俺が呼んできてあげようか?」

「お構い無く」

 

なんなの?しつこいわね。

イケメン様の優しい行為に乗らなかったから気に食わないのかしら。

正直初見からかなりの嫌悪感。なにが無理って、あのお付きのウザイのが、私がイケメンの出待ちなんじゃ?って発言した時に、はははって笑った後に特にその件について否定も何もしなかった辺り。

ま、そういうのに慣れてるんでしょうね。はいはい俺カッケーカッケー。

 

 

しかしこのやり取りで分かった事がある。

昨日今日の折本さん達に対する態度を思い出してみると、このイケメンに対してや、まだ誰だか思い出して無かったリア王に進化したとおぼしき比企谷君に対しての態度を鑑みるに、どうやら私って、自分に関わりの無い人間に対しては、どんなにイケメンだろうとどんなにリア充だろうと全然普通に素で接しられるみたい。

 

逆説的に言えば、あれだけクラスの人間になんて興味が無い・関係無いと思ってたのに、折本さん達クラスメイトの事はしっかりと意識しちゃってたらしいよ私って!って事になる。

なんだよちょっとカッコ悪いじゃない、自称自立型ぼっちさん。

 

ま、まぁこの件についてはあんまり深く考えると、ぼっちとしてのアイデンティティークライシスを引き起こしちゃうから、ウチに帰ってからベッドで悶えながらゆっくりと考えることにしよう。

 

 

そんな思考は一旦凍結し、ふとイケメンに視線をやると「はは……」と困ったように苦笑を浮かべてる。

たぶん女子からこんな風にぞんざいに扱われる事に慣れてないんだろうな。

ゴメンね?イケメンさん。私、あなたに興味無いので。

 

でもまぁ単純にこの人はいい人なのだろう。自分がモテる事を理解していて、それに見合うような行動を取るように心掛けている事とは別にして。

普通に他校の私が自分の学校の前でオドオドしてたから、心配して声を掛けてくれただけなんだろうね。

 

初めはぼっち特有のリア充に対しての嫌悪感からぞんざいに扱っちゃったけど、そう考えるとちょっと申し訳ない気持ちになってしまい、昔とったきねづかの猫被りをしてやんわりとお断わりする事にした。

 

「あ……あの、ごめんなさい。やっぱり他校の前で人を待ってるとかって、思ってたよりも緊張しちゃって……!

で、でも大丈夫なんで、お気になさらずにっ」

 

うひゃっ!昔の私って誰に対してもこんなんだったのかと思うと寒気がしちゃうわ!

すると苦笑していたイケメンは、ようやく爽やかな笑顔に戻った。

うん。さっきまでの苦笑のままの方が、あなたは魅力的よ?なんか本心が出てる感じで。

 

つまり今の私とイケメンさんは、さながら仮面舞踏会で舞い踊る主役とヒロインみたいなものよね。

ふぅ……やっぱ早く厨二は卒業しなきゃ……

 

 

「そっか。でも緊張してるんなら俺に気を遣わなくてもいいよ。

知ってる人なら呼んでくるから遠慮しないで」

 

オウ……思ってたよりもお節介焼きなようで。

でもなぁ……男に男を呼んできてもらう為に名前を教えるとか、ちょっと恥ずかしいんだよなぁ……こ、心の準備だって出来てないしっ……

でもこのイケメンは、もう意地にでもなってるのか引き下がってくれそうも無いし、お言葉に甘えちゃおうかなぁ。

 

「そうですか……?じゃ、じゃあ、その……ひ、比企」

「あっ!葉山先輩お疲れさまでーす!アレ?どうかしたんですかー?」

 

せっかく覚悟を決めたのに邪魔が入ってしまいました。

突然の乱入者は、どこか聞き覚えのある甘ったるい声を出しつつ、私とイケメンの方へと駆け寄ってきた。

 

※※※※※

 

「やあいろは。今日はもう帰りかい?」

「あ、は、はい……その、今日は生徒会が早く終わりまして……」

「おんやー?やっべー!いろはすやっぱ生徒会理由にマネージャーさぼってんじゃね!?ぱないわー」

「……戸部先輩うっさいです」

「い、いろはすマジ恐いわー……」

「はは、いいじゃないか戸部。

こっちだって今日はグラウンド調節で早く上がったわけだし、いろはにだって負けたくない事とか色々とあるんだよ。なっ、いろは」

「あ、あははは〜……」

 

私おいてけぼりで何やら盛り上がってますが、えっと、この子って……………どっかで……

 

『ちょっとせんぱーい!早く行きますよー』

 

あっ!!こ、この子って、あの日千葉パルコで比企谷君と一緒に居た、比企谷ハーレムの一人の女の子じゃんっ!

これはマズい。女が会いに来ている事がハーレム要員にバレると面倒だぞ?

 

「んん!……で、どうしたんですか?葉山先輩、こんなところで……

って、あ、お客さんですか?もしかして、葉山先輩のファンの人?」

 

いや、この人アイドルかなんかなのん?それにしても葉山……?葉山葉山。

あっ!折本さんが話してた、ここらの女子高生のアイドル葉山君ってこの人の事なのか。

……え?てことはこの人も思いっきり比企谷君の知り合いって事じゃん……なにこのめんどくさい展開は……

するとこのハーレム要員美少女が、私を凝視したかと思うと途端に嫌っそうな顔をした。なんで!?

 

「あ、あれ……?海浜の生徒さんですよね……

ま、まさか生徒会のお仕事関係で来たわけじゃ……」

 

と、辺りをキョロキョロ見渡す。

 

「あ、別に私は生徒会とはなんの関係もないけど」

「ほっ……そうですか、良かったー。

またろくろ回し会長の相手しなきゃいけないのかとゲンナリしちゃいましたよー」

 

あ、ああ……うちの玉縄とかいう意識高い系のアイツか。アイツ……他校生徒にまでアレやってんのかよ。

ホントご迷惑お掛け致します。それにしても、見かけに寄らず、このビッチそうな女の子が生徒会役員なのかぁ。さっきから生徒会生徒会言ってるし。

 

「えっと……じゃあやっぱり葉山先輩のファン?」

「あー、違うんだいろは。どうやらウチの生徒に用があるらしくて校門で待ってただけらしいんだ」

「あっ、そうなんですねー。んー、でも他校の生徒さんがここでつっ立ってると目立っちゃってアレなんで、その人呼んできますよ。戸部先輩が」

「いろはすまじ無いわー……」

「戸部先輩はうっさいです♪ではではあなたのお名前とお相手のお名前をどーぞっ」

 

ん……んー。まじぱないわー。この人達に名前言わなきゃダメ……?

 

「あ、いや、別に私待ってるんで、気にしないでいいよ?」

「いえいえ、そういう訳にはいかないですよー。

風紀的に、生徒会長がこのまま見過ごす訳には行かないじゃないですかー?

どうせ呼びに行くのは戸部先輩ですし」

 

 

 

……………………はっ!?

せ、生徒会長!?この子がっ!?こ、こんな頭軽そうで明らかに一年生のビッチが!?

え?大丈夫なの?総武高校。

 

いやでも待てよ?そういえば折本さんが言ってた……確か総武の生徒会長は比企谷君にもんのすごく頼りまくってるみたいだったって。

 

うっわー……こんなビッチ美少女生徒会長がハーレム要員とか、マジで比企谷君てどんだけリア王なのよ……

 

「ホラホラ、私早く帰りたいんで、早く名前教えて下さいよー。

戸部先輩が呼びに走った所を確認したら帰りますんで」

 

ずずいと間を詰めてくるビッチ会長。てか戸部って人の扱い酷すぎませんかね会長。

 

「で?」

 

やはりリア充感丸出しのビッチ会長。ただの頭が軽そうなだけのバカ女では有り得ないような圧を感じる。

なんでそんなに可愛らしい笑顔なのに、そんなに声が冷たいの?

 

ダメだ。言いたくない。言いたくないけど、これ以上ゴネてると、この生徒会長は私を不審者扱いして教師とか呼んでくるかも知んないっ……いや、呼びに行くのは戸部だけど。

 

えーいっ!ままよっ!

 

「くっ……え、えっと……に、二年生の……ひ、比企谷八幡君をお願いします……」

「………………………………………は?」

 

 

その時、この空間は私の想像を遥かに超えて凍り付きました。

 

 

つづく



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しつこい追及にうんざりぼっち

 

『は』

そのたった一文字で凍り付くこの場。

えーっと……いくらなんでも比企谷君の名前を出しただけでそれって、さすがに過剰反応ではないでしょうかねいろはすさんとやら。

てか良く見たら葉山君とやらからも笑顔が消えて、一気に私を観察するような視線を向けてきた。

え?なに?まさかあなたも比企谷ハーレム要員なのん?

 

唯一、酷い扱いに定評のある戸部君とやらが「っべー!まさかヒキタニ君の彼女なん?他校に彼女とかやっぱヒキタニ君ぱないわー」とかなんとか騒いでるけど、まぁウザイから割愛の方向で。

なんかヒキタニ君の彼女という単語が出てきた時に、いろはすがギンッ!と睨んでおとなしくなったしまぁいっか。

そして尊敬すべき先輩を視線で瞬殺したいろはすが、ニコニコ笑顔で私に訊ねてきた。

嘘でしょ!?私の知ってる笑顔と違うよソレっ!?

 

「えっとぉ、先輩にどのようなご用件でしょうかー(先輩になんの用だこの女)」

「え?要件まで教えなきゃダメなの……?」

「まぁ一応生徒会長なんでー(あたりまえだろこの女。理由次第では会わせる訳ないっつーの)」

「あ、でもあなたには関係無いし……」

「いえいえだからわたし生徒会長なんで、ちゃんと理由を教えて頂かないとウチの大事な生徒を呼んでくるわけにはいかなくなりますしー(理由も言わないこんな怪しい女に先輩会わせるわけねーだろ)」

「いやだからー、私はただここで待ってるだけでいいし、別に呼んでもらう必要性ないから……」

「えー?いいじゃないですかー?やましい理由があるんなら、お帰りいただく事にもなりますしー(早く言えよ。強制撤去すんぞコラ)」

 

あっれー?本音と建前って、こんなに分かりやすいものだったっけ?

なんで終始可愛らしいニコニコ笑顔のままなのに、本音がこんなにはっきり聞こえるのぉ……?

 

あー、めんどくせー……だからハーレム要員にバレたく無かったのよ。

すると、横からそんないろはすちゃんを諫める声が割って入った。

 

「まぁまぁいろは。ここは俺が事情を聞くから落ち着け」

「えー?わたし全然落ち着いてますけどー」

 

どこがっ!?

 

どうやら私と同じくいろはすの本音の方が聞こえていたらしき葉山君が私に訊ねてきた。

 

「すまないね。実はいろはと比企谷は仲が良くてね。見ず知らずの他校生が急に訪ねてきた事にちょっと驚いたみたいなんだ」

「はぁ……」

「もし良かったらなんだけど、いろはが安心出来るように事情を教えてくれると助かるな」

 

はあ?そこのいろはすちゃんが比企谷君と仲良しなのと、私の事情ってなんの関係も無いじゃん。なんで私に一切関係も無きゃメリットもない、むしろデメリットしかないのに、プライベートな話を他人の為に要求されてんの?

ったく……これだからリア充は……常に自分たちが世界の中心だとか思ってやがる。

 

「それに」

 

そして葉山君の視線が若干鋭く光った気がした。

 

「俺もちょっと興味あるんだよね。比企谷を訪ねてくる女性って」

 

あ、葉山君のその発言で折本さんとの会話を思い出した。そういえば折本さんと仲町さんて、比企谷君に対して失礼な態度を取った事によって、他でもないこの葉山君によって痛い目に合わされたんだっけな。

てことは、いろはすちゃんとは関係無く、この葉山君自身が比企谷ガードをしてるって事なのか。

なにそれやっぱ比企谷ハーレム要員なの?LOVEなの?キキキキマシタワァァァー!

これ腐女子が近くに居たらヤバいヤツや!

 

 

とまぁ冗談はさておき(冗談だよね!?ホントに冗談だよね!?)、この人も普通に比企谷君のこと心配してんのかな?

……すっごい美少女に囲まれてたり、こんな超イケメンリア王に心配されたり、ウザリア充にぱないわーぱないわー言われたり、ホーント比企谷君の周りってあの頃とはえらい違いなのね。まぁ最後の(戸部)は要らなかったですけど。

もう、私なんかじゃ住む世界が違うのかもね……

面倒くさいし違う世界感じちゃったし……もう帰ろっかなぁ…………

 

 

と、言うわけにもイカンのですよ!

今日でさえ勢いに任せてなんとか無理やりここまで来たのに、たぶん今日を逃したら二度とここには来れない、比企谷君に会えない気がする。

 

『あとから後悔しても、もう遅いんだよね』

 

仲町さんの言う通りだもん。モヤモヤを払うチャンスは今しか無いんだもん。

 

ふぅ……仕方ないなぁ。

仕方ないけど、この人たちに話すか。なんで比企谷君に会いに来たのかを。

 

※※※※※

 

「仕方ないなぁ……じゃあ言うわよ。言えばいいんでしょ……」

 

もう完全に素になっちゃってますね私。緊張でカミカミでもなければ昔取った杵柄な猫っかぶりでもない、完全にやさぐれた私。

 

「えっとですね、私、比企谷君とは中学の同級生なんですよ」

 

中学の同級生と聞いた途端に葉山君の視線が突き刺さる。ふむふむ。やっぱ折本さん効果なのか警戒心剥き出しだなぁ。

いろはすちゃんは……うん。ブスーっとしてますね。

 

「で、そんな同級生の比企谷君にですね……?その……先日……あの……

ち、チカンから助けて貰ったんですよ……」

 

はぁ……なにが悲しくて初対面のイケメンにチカン被害報告しなきゃなんないのよ……普通男の子に「私チカンされちゃいました」なんてカミングアウトすんのなんて嫌なものなのに、よりによって初対面のイケメンに報告するとか……だから嫌だったんだっつの。

 

「ち、チカン……!?……先輩に助けられた……?

なにそのベタな展開……超マズいヤツじゃん……」

 

すっごいボソボソ独り言言ってるけど、もう丸聞こえよ?いろはすちゃん。そしてそのベタさとマズさは私も良く分かってるよ。

少女漫画とかなら完全に惚れちゃって告白しちゃうコースだもんね。

 

「でも……助けて貰ったのに、残念ながらその時は比企谷君だって分からなくて……

ていうか比企谷君のこと忘れてて、ろくなお礼も出来なかったんですよ……」

 

いろはすちゃんの敵を見るかのような警戒心剥き出しの表情とは真逆に、葉山君の表情は段々と警戒心が取れて行くのを感じる。

 

「でも……帰ってから……アレは比企谷君だったんだぁ、って思い出して、

そ、その……あの……会いたくなっちゃ…………いやいやいや違くて違くて!

ちゃ、ちゃんとお礼したいなっ……て、思っちゃって、ですね……?」

 

あれ?おっかしいな……緊張も猫っかぶりも無い、単なるやさぐれた私で説明してたハズなのに、な、なんかこれじゃまるで……一目惚れしちゃった王子様を訪ねに来た乙女みたいじゃん……!

くっそ……顔が熱いじゃないのよ……!

 

でも、そんな私の態度が功を奏したのか、完全に葉山君は私に対する警戒を解いてくれたみたいだ。

どうやら私の比企谷君に会いに来た事情は、葉山君のお眼鏡に適ったみたいだねっ。

てかお眼鏡に適うってなんだよ。あんたどんだけ比企谷君大好きなんだよ。やはりこいつ、ハーレム要員か…………キキキキマシタワーァァァ!!

…………いや私サブカル女子ですけどそっち方面には疎いんで。ホントだよ?

 

しかしそんなおホモ達な腐山君をよそに、いろはすちゃんは完全戦闘モード。

たぶんこの娘は、普段は昔の私に似たようなキャラ設定をしてるんだろうけど、今はもう猫の皮を剥いだ単なる一人の女と化していた。

頭の中では私をどう追い払ったもんか、そのキャラ設定を己に課している以上は絶対に必須な能力『THE計算高さ☆』を駆使して策を練っていることだろう。

 

そしていろはすちゃんは私の前に仁王立ちすると、その計算高さを目一杯駆使した答えを投げ掛けた。

 

「せせせ先輩ならとっくの昔に帰宅しちゃいましたよ?そして、あ、明日から自分探しの旅に出るといきまいてたので明日以降に会いに来たって無駄なんでしゅからね……!?」

 

それだけ言い切ると、バッチリ目を逸らしてピーピーと口笛を吹いていた。

 

「………………」

 

け、計算高くねえぇぇ…………この娘、どうやら全然計算高く無かったみたいです。てか突然の新たな女の出現に頭の中の電卓が壊れちゃった感じ?

 

「あんれー?ヒキタニ君ならさっき特別棟の便所で会ったばっか「だまれ戸部先輩……」だけどぉ……」

 

ヤバいよ戸部君泣いちゃいそうだよ。

 

「と!とにかく他校の生徒にいつまでも校門前につっ立ってられると迷惑なので早く帰っ……ってちょっと葉山先輩!?」

「すまないね。ちょっと俺達は用事が出来たから比企谷を呼びに行けなくなったよ。

ここに居づらいところ申し訳ないんだけど、もう少し待ってて貰えるかな?」

 

私を追い払おうとするいろはすちゃんを、葉山君がそう言いながら腕を引っ張って無理やり連れて行ってくれた。

 

「ちょっと葉山先輩!?わ、わたしまだこの女……この人に用事がっ」

「まぁまぁたまにはいいじゃないか。ああいう子が比企谷に会いに来る分にはいいことじゃないか」

「で、でもぉぉぉ……っ」

 

……ありがとうイケメンさん!どうやら最後の最後で私の味方になってくれたんだね。私のというよりは、やっぱり比企谷君の味方なんだろう。でも……

 

「ちょちょちょ隼人くーん!行っちゃうん!?

あのさ、やっぱ俺がヒキタニ君迎えに行った方がいいん!?」

「…………あ、お、お構い無く」

 

お付きのウザイのも一緒に連れてってくれたら完璧だったんだけどねっ。

 

※※※※※

 

そんなわけでようやくなんかよく分からん嵐が過ぎ去り、この場に残されたのはぼっちが一人と、そんな嵐を奇異の目で眺めていた総武生達の視線だけ。

いやいや見世物じゃないですから。お前らも早くお家にお帰りよ。

ホントあいつらのお陰様で、ここで一人待つ気まずさが八割増しになっちゃったんですけどどうしてくれるんですかね。

 

ヤバいよこの視線の中で、ぼっち女が緊張でリバースしちゃったら伝説作っちゃうよ。

そして伝説へ…………ドラクエ3かよ。

 

 

などと軽く現実を逃避しつつ待ち人を待つこと数分?数十分?

現実を逃避しすぎて意識を保つことさえも逃避してた故に、もう時間の感覚がマヒしかけていたそんな時、ついに!ついに待ち人来たる!

 

 

私の待ち焦がれた待ち人は、あの日と変わらず腐ったその目をさらにどんよりと曇らせ、全てが面倒くさそうな物腰はその背筋をだらしなく曲げ、しかしその足腰だけは待ちわびた帰宅に希望を乗せて軽やかに、チャリで颯爽と私の前を通り過ぎて去って行ったのでした。

 

うっそーん……

 

 

つづく

 




この度もありがとうございました。
俺ガイルSSなのになかなか八幡が出てこないですみません。
次回でようやく八幡回になりますので、またよろしくお願いいたします。


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そしてぼっちとぼっちの邂逅はここに果たされた


今回で10話になりました。
元々10話くらいで終ると思ってたので、意外と長くなってしまいました。


 

あまりの事態に頭が真っ白に。

私、あなたが学校から出てくるのを、珍獣を見るような視線とか、予定外の変テコな嵐に巻き込まれながらも、なんとか耐えぬいて待ってたんだよ!?

そんな哀れに頑張った私の前をスィ〜ッと通りすぎちゃうの!?この人でなしっ!

私は……力なくその場に崩れ落ち……

 

 

 

てる場合ではなーいっ!

もうここまで恥を晒して来たんなら、今更あと一つ二つ恥が増えた所でどうということはないっ!

まだ帰宅中の総武生が周りにたくさん居る事など一切構わずに、私はヤツの背中に大声を投げつけるッ。

 

「ちょっ!ちょっと待ってぇぇ〜?」

 

すると、私からは比企谷君の後ろ姿しか見えないけど、確かにピクリとその声に反応したのが伺えた。よーしっ!と思った…………がっ!!

なんとヤツはそのまま振り向きもせずに行ってしまいやがった。

 

いやいやいやっ……今あんた反応したよね!?一応振り向くだけ振り向けよ!?

やだなにこの公衆の面前での恥曝しっぷり。

急に大声で叫んだ上に、誰も止まってくれずに一人ポツンと佇む女がそこに居た。もう死にたい。

 

しかし今日ばかりはこのまま死を覚悟している場合ではないのだ。だってこれだけ注目されてこれだけ恥かいて、もうここに来るなんて無理だもん、絶対。

 

 

ふふふ……逃がしはしないぜ比企谷君。なぜなら私もチャリなのだからっ!

私は横に停めておいた愛機に通常の三倍早い速度で跨り、ヤツの背をロックオンする。

三倍のスピード出すんじゃなくて、三倍のスピードで跨んのかよ。

 

「美耶、行っきまーす」

 

誰にも聞こえないくらいの小声でボソリと呟き、なんか一人ニヤニヤしてる私ってちょっとヤバい人ですよね!

 

そして……ここから私と比企谷君の長い長い追跡劇が始まるのだった…………

のかと思ったら、比企谷君は学校から一つ目の信号に捕まって停車してました。

 

赤い彗星の情熱を返して!連邦の白いヤツも混ざってたけどねっ。

 

※※※※※

 

さてと、予想に反してあっさり捕まえられたけど、いざこうやって話し掛けるとなると超緊張してきた。てか、私は大丈夫なんだろうか……?

先ほど判明したばっかの真実だけど、私は自分には関わりの無いリア充にはかなり強いらしい。例え相手が近所のアイドル(腐)であろうとビッチ生徒会長であろうと。

それはつい先日、リア王と思われた比企谷君相手でも普通に猫っかぶりが出来た事からも判明している。

 

でも…………今はどうなんだろう。私はあの時と違ってあのリア王を比企谷君と認識してしまっている。

しかも……曲がりなりにも私はそんな比企谷君の事を……その……か、格好良いとか会ってみたいとかって思ってしまった事がほんの一瞬とはいえあるのだ。そう、ほんの一瞬だけ。ええ、一瞬ですよ一瞬。

 

そんな私が、比企谷君に対して普通に話し掛けられるんでしょうかね。

つい先日、折本さんに話し掛けた際の噛みっぷりと、折本&仲町リア充ガールズへの卑屈な対応を思い出してみた。ゼロタイムで死にたくなりました。

 

どどどどうしましょ!私、すっかり油断してました。こないだ比企谷君と普通に話せたから。

よくよく考えたら全っ然状況がちっがうじゃないのよぉうっ!

 

いやいやいや無理無理無理ぃっ!

あんな醜態、リア充時代を知ってる人に、しかも比企谷君になんか見せられるワケ無いじゃないですかぁ!

ここにきてのまさかの失速っぷりが酷い。でも、早くしないと信号変わっちゃう。

くっ……ここでこのチャンスを逃してしまえば一生モヤモヤしっぱなしなんだよ?美耶!

 

女は度胸だ女は愛嬌だ!えーい、ままよ!

私はいつでも自害出来るように、清水の舞台上で喉元に懐刀を当てる程の覚悟で、ついについに比企谷君に声を掛けてみた。それにしてもちょっと覚悟が重すぎではないでしょうかね。

 

「あっ!あのぉ〜〜〜っ……!」

 

綺麗に裏返った声は、冬の澄み渡った空気に静かに溶け込んでいった。

 

 

 

なんなら私も空気に溶け込んで無くなってしまいたかったです。

 

※※※※※

 

突然後ろからひっくり返った声を掛けられた比企谷君は、あからさまにビクゥッとしてキョドりながら振り向くと、私の顔を確認してそれはもう嫌そうな顔をした。

えっと……さすがの私でも傷ついちゃう事もあるのよ?

 

「……なんか用?」

 

うおぉ……なんて拒絶的な返事だよ。いやまぁ比企谷君からしたら私なんてこういう態度とられて当然っちゃ当然なんだけども、第一声がソレってあまりにも酷くないですかね。ちょっとカチンと来てしまいましたよ?

 

「てゆーか、さっき大声で引き止めた時、明らかに聞こえてましたよね?

なんで振り向きもせずに無視して行っちゃうかな〜……」

「あ、別の人かと思ったんで……」

 

なにこれデジャヴ?

そういやチカン騒ぎの時もこんなんだったわこの人。

初めっからチャリの進行方向を塞いで轢かれるくらいの覚悟で臨まなきゃダメだったな。いや轢かれちゃうのかよ。

 

「ま、まぁそれは良しとしておきましょう……

そんな事より、今日は用事があって会いに来ました」

「……はぁ」

「……や、やっぱり、あんな風に助けて貰っといて、なんのお礼もしないなんて私の沽券に関わるワケなんですよ、ええ」

 

不満げに目を瞑り、右手の人差し指をピンと張って左手を腰に充てて、恩着せがまし説明会を執り行う。恩があるのは私の方なんですけどね?

でも、なんだろう?思ってたのとちょっと違う気がするぞ?なんか、結構普通に話せてる気がするな。出だしでカチンと来たのが功を奏したのかな。

 

「は?あの時ちゃんとありがとうございましたって言われたよね?」

「あ、あんなのはお礼とは言えません!お礼とは、もっとこう誠心誠意を込めて贈るものです」

「……いや、だから前にも言ったよね。別にお前の為にしたワケでもなんでもないから。

単に早く帰りたかったから、大事になる前にやっただけだって。だからお前に誠心誠意お礼をされるいわれはねぇんだよ。

まぁそういうこったから、俺はもう行くわ」

 

押し問答の末、比企谷君はそのまま自転車を漕ぎだそうとする。せっかく普通に話せたのに、これで終わりなんて嫌だ。

だから、そんな彼を止める手段はもうこの方法しかないだろう。

 

「待ってよ……話、聞いてよ…………比企谷君……」

 

すると漕ぎだそうとする足を止めてもう一度私に振り返る。

 

「……んだよ……俺のこと覚えてたのかよ、二宮」

 

振り返り私を見つめたその目は、卒業アルバムに載っていたソレと同じように……ゆっくりと深く仄暗く淀んでいった……

 

※※※※※

 

私達は、地元のカフェでお茶をしている。せめてお茶くらい奢らせてよと懇願したところ、黙ってついてきてくれたのだ。

ここまで辿り着く道すがら、どちらもお互いに黙って、自転車にも乗らずただ押しながらゆっくりとゆっくりと歩いてきた。

 

先ほどまでの変なテンションなどどこへやら、今は重く息苦しい空気の中、緊張でまったく味の感じないコーヒーをただ啜っている。

そんな重苦しさに耐えかねた私は、とりあえずちゃんとお礼だけは言わなきゃと、言葉が詰まらないようにゆっくりと話始める。

 

「今日はいきなり押し掛けちゃってゴメン……やっぱり、どうしてもちゃんとお礼言いたかったからさ……

比企谷君はお礼を言われる筋合いなんか無いって言うけど、あの時助けて貰えなかったら、私、あのままどうなっちゃってたか分からないからさ、だから……本当にありがとう……」

「…………おう」

 

返事はたったの二文字だったけど、今度こそはチカンの件に対してだけはきちんとお礼を受け取って貰えたみたいだ。

すると比企谷君は、遠慮がちに私に問い掛けてきた。

 

「……なに?今日の用件はそれだけなのか?……つうか二宮は、あの時、俺だって気付いてたのか?」

「……ごめん。あの時は気付かなかったんだ。てか比企谷君の事……忘れてた」

「だよな。まぁ忘れられてる事なんて慣れてるから気にすんな。

むしろよく思い出したなと感心するくらいだ」

「……まぁ、うちらには忘れたくても忘れられない出来事もあったワケじゃん?」

「……それ言っちゃうの?……まぁ、その、なんだ……

キモくて記憶から消したいくらいの事だもんな」

「あ……そ、そういうんじゃ無いんだ。別に比企谷君だから忘れてたって事じゃないんだよ……

実はつい最近まで……いや、ぶっちゃけちゃうと、比企谷君のこと思い出すまで、中学の思い出自体を忘れてたんだよね。いや、消してた……?っていうのかな」

「……は?なんか……あったのか?」

「……実は私さ……今、ぼっちなんだよね」

 

私の突然のカミングアウトに、比企谷君は驚いた表情で見つめてきた。そりゃ驚くよね。私だって驚いてんだから。

私自身、なんのためにここまでして比企谷君に会いに来たのかイマイチ良く分かってないけど、まさか自分でも急にこんな話をしちゃうとか思わなかったから。

 

むしろこんな話はしたくないハズなんだけどなぁ……リア充だった頃を知ってる人に、現在ぼっちだよってカミングアウトをするのって、普通よりもずっと惨めで恥ずかしいし、しかもそれがちょっといいな……とか思ってる人なら尚更に決まってる。

でも、それでも敢えてこんなにも早くコレを口にしちゃったのは、やっぱり私は心の奥底で、比企谷君にちゃんとアレを打ち明けたかったからここまで来ちゃったんだろうなって思う。

 

「は?あの二宮が?なんで?……だってお前ってリア充代表みたいなヤツだったじゃねぇかよ」

「えっとね……それよりも、まずはどうしても言わなきゃなんない事があるんだ……」

 

やっぱ、まずはコレ言わなきゃ何にも始まんないよね。だから私はおもむろに頭を下げた。

 

「比企谷君、今更だけど、中学の時は本当にごめんなさい」

「…………は?なんでいきなり謝られなきゃなんねぇの?」

「……比企谷君からの告白擬い事件の事、私、人に喋っちゃったから……」

 

突然のぼっちカミングアウトからのさらに突然の謝罪に、比企谷君はワケ分からんとあたふたしてるけど、私は気にせずにあの日あった事を、そして翌日から起こった思いもしなかった事態を説明した。

 

「謝ってんのに、こんな風に言い訳がましくてゴメンね……?

確かにクラス中に言い触らしたのは私じゃないんだけど、でも、まずは私がネタ的に人に話しちゃったのが全ての原因だから……

そしてクラス中から比企谷君が笑われてるのを見ても、それを止めなかったのも、やっぱり私の責任だから……」

 

すると比企谷君は頭をがしがしと掻きながらも私に言葉を掛けてくれた。

 

「マジで今更だな。別にもうそんなこと気にしてねぇから気にすんな。

それに、そんなん普通じゃね?ああいう事あったら、周りの人間に話しちまうのなんて当たり前だろ。

それで俺が笑い者になったって、それは俺があのクラスでそういうポジションだったってだけの話だ。だったら笑い者になった原因は俺にあるだろ?

てかあのリア充な二宮がそんな事を気に病んでたって事の方がよっぽどビックリだわ」

 

うー……なんだよー……この大人な比企谷君はさー……ずっと思い悩んでた事をようやく謝れたのに、こんなにもあっさり返されちゃうなんてさぁ……

なーんか謝るんじゃなかったなぁ……なんて、下げてた頭を上げてみると、そこにあった比企谷君の目は随分と腐りが取れていた。

さっき私が声を掛けた時は卒業アルバムに写っていた時と同じ腐りきった目を向けてきたけど、いま私に向けられている目は元の目に戻っていた。どっちにしてもまだまだ腐ってはいるんだけどね。でも、腐った中にも、なんていうか暖かさが感じられるような、そんな目をしていた。

そんな目を私に向けてくれたから、私は心から思った。

 

「いやいや、その最後の一言は余計じゃない?

私のこと、どんだけデリカシーの無い女だと思ってたのよっ」

「へっ。リア充様ってのはそういう生き物だろ?」

 

なーにが!自分が一番リア充なくせしてさっ!

 

 

 

…………うん。ちゃんと謝る事が出来て、本当に良かったなっ……

 

※※※※※

 

軽口を言い合えるようになって、ようやくこの場に穏やかな空気が流れだした。

緊張で喉が渇いてたようで、もう冷めてしまったコーヒーに口を付けると、さっきまで味なんか全然感じなかったこのコーヒーがこんなにも美味しかったのかという事に驚いた。

 

チラリと視線を向けると、比企谷君も口を付けたコーヒーの味に驚いていたみたい。

ふふっ、私と一緒で比企谷君も緊張が取れたんだーって思うと、自然と笑みがこぼれてしまう。

 

 

んー。それにしても……今更ながらなーんでこんなにも普通に喋れるんだろ?

私にとってみたら、折本さん達よりもさらに難易度が高いはずの相手なのに、なんだかとっても話しやすい。

どれくらいぶりだろ?家族以外か完全無関係な人間以外と、こんなに自然な自分で話せるなんて。

もちろん今だに緊張もしてるしドキドキもするんだけど、なんか嫌な緊張じゃないんだよね。どっちかというと心地いいまである。

 

しばらくそんな心地よさの中で二人して無言でコーヒーを啜っていると、「あっ……」っと不意に比企谷君が口を開いた。

 

「そういや、いきなりの謝罪に驚いてすっかり忘れてたが、なんかお前、ぼっち発言してなかったっけ」

「あ」

 

一大イベントを無事クリア出来て、私もそんな事すっかり忘れてたよ。

 

「なんつうか、やっぱあの二宮がぼっちとか全然想像できないんだが。

そういや昔と全然キャラも違っちまってるし、それも関係あったりすんの?」

「え……?キ、キャラ……?」

「昔はもっと、みんなに愛される私ー!ってキャラ作ってたろ?

まぁもっともこないだ会った時はそのキャラのままだったが」

「……え?なに?……アレがキャラ設定だって気付いてたの……?」

「気付いてたっつうか、アレのおかげで勉強になったみたいな?

おかげで毎日のあざとい攻撃に騙されずに済んでるな」

「あ、あはははは……お役に立てているようでなによりですー……」

 

心当たりがありすぎて思わず棒読みで返してしまった。あざとい攻撃……いろはすちゃんの事ね……

 

てか可愛い私キャラを言い当てられてディスられるとか、それなんて拷問?

 

「それにそのぼっち発言と、さっきの突然の謝罪も全然繋がんねぇし」

 

うん。まぁここまで話したんならもういっか。

そもそもいきなり謝罪したのは、この話に繋げるためのものだったワケだしね。

 

「んー。それはね?私がぼっちになったのは、さっき話したあの事件と関わりがあるからなんだよね」

「…………」

「私さ、あれ以来、ちょっと人間不信気味になっちゃったんだよね」

「……は?いやいや、俺に告……その、なんだ、あんなこと言われたのが、人間不信になるほどキモかったって事なんですかね……?」

 

愕然となった比企谷君の目がまたドヨっとし始めたから慌てて否定した。

 

「ち、違う違うっ!そっちじゃなくってぇ……

んー……勝手に言い触らされていつまでもネタにされたってトコ……私のことも……比企谷君のことも……」

「…………」

「ああ……人って一度面白いと思ったら、それによって傷つく相手の気持ちなんてどうでもいいんだなぁ……ってさ」

「…………そうか」

 

まぁこうやって比企谷君と話してみたり折本さん達と話してみたり、比企谷ハーレムの娘やイケメン(腐)と話してみたら、みんながみんなそういうのばっかじゃ無いんだなぁって、最近になってようやく分かってきたけどね。

だから、この気持ちも正直に言おうと思う。

 

「でもさ……」

「あれー!もしかして美耶ちゃん!?うわー!ウケる!やっぱ美耶ちゃんじゃーん!」

「えー?マジでー!?」

「うわヤバいホントだー!超懐かしくねー?」

 

突然飛び込んできたその不快な声に、私は全身が総毛立った。

 

たぶんほんの数週間前だったら、こんな声は記憶になかったんだろう。

でも今の私は、無理やり消していた古い記憶を引っ張りだしてしまっていたのだ。比企谷君の事を思い出す為に、封印していた卒業アルバムを引っ張りだしてしまったのだ。

 

嫌なオーラをビシバシ感じるそちらに視線を向けると、そこには、もう本名なんかは覚えてないけど、間違いなく私が中学時代に仲良くしていたクラスメイトのしーちゃん達が、私と比企谷君を交互に見ながら下卑た笑いを浮かべていた。

 

つづく

 





ありがとうございました。
多くのご閲覧やお気に入り、感想を頂き本当にありがとうございます!
とても力になります。



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震えるぼっち。いろんな意味で


お待たせしました。
今回もよろしくお願いします。




 

油断してた……比企谷君との邂逅に集中するあまり、ココが私達の地元のカフェだって事を忘れてた……

普段なら絶対に立ち寄る事なんかない地元の店に、比企谷君とだから、って理由で深く考えずに入ってしまっていたのだ。

 

しーちゃん……

本名はなんてったっけかな……?まぁどうでもいいけど。

もちろん原因は私。悪いのは私だって分かってはいるけども、どうしたってコイツに対してはもう好感なんか持てるわけ無い。

あの事件をクラス中に言い触らして、比企谷君を笑い者にする中心に居たのがコイツなんだから。たぶんそこには当時クラスでは一番人気だった私へのやっかみも多分に含まれてたんだろう。

コイツの後ろにも当時上辺の私が仲良くしてた娘達がニヤニヤと下卑た顔を浮かべてるけど、私の意識はその中でも特に酷い笑顔を浮かべるしーちゃんに向いていた。

 

身体が震え始める。心も震え始める。なんかもう恐いよ……人の悪意って……

堪らずに逸らした視線の先では、比企谷君も脂汗を浮かべて表情を歪ませていた。

 

※※※※※

 

「えー?美耶ちゃんさぁ、うちらと連絡途絶えたと思ってたら、こういう事だったのぉ?」

「いやー!キンモー☆まさかまさかのカップルはっけーんっ!」

「あはははは〜!そりゃあたしらからの連絡無視するはずだよねー!」

 

うぷっ……気持ち悪い……吐き気がする……今の私には、コイツ等のこの笑顔がグロいモンスターにしか見えない。

頭ん中はぐらんぐらん揺れてるし、涙が溢れそうになってきた。

 

「ち、ちがっ……わ、わたし……べ、別に比企谷君とカップルなわけじゃっ……」

 

せめて、せめてこの醜いモンスター達から比企谷君だけでも守らなくちゃいけない。今のコイツ等の標的は昔と違って明らかに私なんだから。

 

「はぁ〜?なに言ってっか全然聞こえないんだけどぉ?

ぷっ、なんかコミュ障なキモいヤツと話してるみたーい」

「ウケる!美耶ちゃんてそんなんだったっけー!」

「てかなんで涙ぐんじゃってんのぉ?なーんかうちらが虐めちゃってるみたいなんですけどー!つか美耶ちゃん震えてね?ギャハハハ」

「だっ……だから私と比企─」

「聞こえねぇっつってんだろぉ、みーやーちゃーん♪どーしちゃったんでちゅかー?」

 

───なんで?なんで私は人に興味なんかないはずなのに、人なんかどうでもいいはずなのに、こんなにもムカついてるのにこんなヤツ等相手に声が出ないの?

……本当は気付いてしまっている。それはただの方便なのだと。

 

それに気付いてしまったのはついさっき。葉山君達と話していた時。

私はあの時、なんで折本さん達と喋るのはあんなに緊張するのに、なんでさらにカースト上位な王子様率いるこの人達とは普通に喋られるんだろうって疑問に思っていた。

 

私は……人に興味が無いだなんてただの嘘。人がどうでもいいだなんてただの嘘っぱち。

自立型ぼっちだなんだと自分を誤魔化してきたけれど、本当はこんな風になってしまった事を後悔してるんだ。本当は人と仲良くしたいのにとか思っちゃってるんだ。

 

だからこそ、自分と関わりのある人間と話すのは緊張しちゃうけど、関わりのない人とは平気で居られるんだ。

なんてことはない。こんなになっちゃった今でも……他人なんかどうでもいいとか言って誤魔化して格好付けてても……

 

[私は周りからの目を人一倍気にしている]

 

みっともないけど、これが答えなんだろう。

 

 

だから…………コイツ等が、こんなヤツ等が恐くて恐くて仕方ないんだ。昔の私を知ってるから。華やかだった頃の私を見てたから。

だから今の惨めな私を見られる事がたまらなく恥ずかしい。今のみっともない私を笑い者にされてると思うと震えが止まらない。

 

くそっ……せっかく、せっかくもう一度素直に人が好きだと認められそうだったのに、なんでだよっ!……なんでお前等なんかが出て来ちゃうんだよっ……!

 

 

「マジでどしたのー?美耶ちゃぁん。なんかキモいんだけどー?」

「あ!私知ってんだけどぉ!海浜に行ってる友達から聞いたんだけどさー、なんか美耶ちゃんてぇ、今さぁ」

 

やだ!やめてよっ……

私は拳を握り締めて俯く。

 

「ぼっちらしいよー?」

 

※※※※※

 

「うっそー!マジでー?『あの』美耶ちゃんがー?」

「マジマジー!なんか一人も友達居ないんだってよ!?休み時間も昼休みも、一人ぼっちなんだってぇ」

「うっわ、悲惨!『あの』美耶ちゃんがねー」

「しかも二年になってから、なんとあの折本かおりと同じクラスになっちゃったらしくってー、ホラ中学んトキは美耶ちゃんか折本かおりかって空気あったじゃん?

そんな二人が同じ教室で月とスッポンになっちゃってるから、すっごい悲壮感漂ってんだってさぁ!」

「ウケる超ヒサ〜ンっ!」

 

ああ……なんかもう嫌だ……もうどうでもいいや。

そして、それからは永遠とも言える、ぼっちへと墜ちた私への嘲笑が続く…………………………………のかと思われたのだが、彼が、比企谷君がそれを許さなかった。

 

「はぁ〜……マジでうっせえわ……なんなの?ジャングルなの?」

 

ずっと黙っていた比企谷君が急に口を開いた事により、モンスター達の目は比企谷君へと向いた。

 

「は?」

「ぷっ、なにこいつ喋れんの?」

「ナル谷は黙ってろよキメェから。お呼びじゃねーっつのぉ、あはは〜」

 

俯いてしまった顔を比企谷君に向けると、その目は腐ってる……というよりは仄暗い光をたたえてるようにも思えた。

 

「まず勘違いをどうにかしろ。俺と二宮はさっきそこで数年ぶりに偶然会ったばかりだ。

あまりにも懐かしかったし、俺にもまぁ未練とか?そういうのもあったから、どうしてもって頭下げて、お茶だけ付き合って貰ってたってだけだ」

 

……はへ?なにそれ初耳なんですけども。

……私の様子を見て庇ってくれようとしてるのかな。比企谷君……

やばいっ……つい一瞬前まで心が冷えきってたのに、比企谷君の声を聞いただけで、なんだかポカポカしてきちゃったよ……なぜだか、すっごく安心する。

 

しかしそんな安心してポカポカになった心を、比企谷君自身が冷え冷えさせてくれたのだった。

 

「つうかさ、さっきから馴れ馴れしいんだが、お前らって誰?もしかして知り合いだっけ?二宮。

なんかあまりにも頭の悪いその他大勢にしか見えなくて、全然思い出せないわ」

 

比企谷君!?さっきコイツ等の顔見て引きつってたよね!?絶対覚えてるよね!?

 

「は、はぁ?あんたなに言ってんのぉ?キモオタのモブオのクセによぉ!」

「その他大勢にも入れない最底辺カーストの癖に、なに調子乗っちゃってんのぉ!?」

「マジでムカつくわオタ谷!高校デビューでもしちゃって勘違いしてんじゃね!?モブの癖にさぁ」

 

キレだした三人をよそに、涼しい顔をして挑発を続ける比企谷君。ちょ、ちょっと!?

 

「いや、スマン。マジで思い出せないわ。てかお前らは俺のこと覚えてんのな。俺は知らんのに。

モブ勝負で言えばお前らの圧勝じゃね?おめでとさん」

 

私のさっきまでの怯えはどこえやら、比企谷君のあまりの煽りっぷりに心配になる。やばいって!コイツら顔真っ赤にして爆発寸前だよ!?

 

「てかお前らってどこの高校通ってんの?なんか見たこと無い制服着てんな。ああ、底辺過ぎて知んないだけか。

なんかアレじゃね?将来の為にもこんなトコで油売ってないで、早く帰って勉強でもした方がいいんじゃね?」

 

カースト順列付けの煽りに対して、ま、まさかの学校カースト返しっ!そりゃコイツ等の学校じゃ総武高校の制服着たヤツに学校カースト制度で相手になるワケがないよっ!

その時コイツらは初めて比企谷君が着ている制服に気付いて、これでもかってくらいに引きつった。

 

たぶん比企谷君は普段なら学校の優劣で人を馬鹿にしたりはしないんだろう。人そのものの質では大いに馬鹿にしてそうだけど。

これは……比企谷君が相当怒ってるって事なんだろうか?それとも……わざと挑発してんの……?

 

「ざっけんなよ比企谷ぁ!ちょっといい学校行ってっからって調子に乗りやがってよぉ!」

「比企谷ごときが私らより上になったつもりなの!?マジでキモいわ!」

 

これは……もう勝負有りだわ。

完全に涙目になって逆上してヒスってる女三人に対して、終始冷静に煽ってる比企谷君。ちょっと煽りすぎな気がしないでもないけど。

 

これはもう尻尾巻いて惨めに逃げ出すか、口じゃ相手になんないから暴力に訴えるかくらいしかコイツ等に選択肢がないもん。やっぱり、比企谷君はスゴいんだ……もう、あの頃の比企谷君じゃないんだね……

 

 

 

 

 

───ん?暴力に訴える?

え?ま、まさか!?

 

なんか必要以上にすっごい煽ってるかと思ったら、もしかしたら比企谷君はコイツ等に暴力を振るわそうとしてるんじゃっ……

 

た、確かにこんな公共の場所で口論の末に手なんか出しちゃったら、学校的に問題行動になってしまう。

目撃者もたくさん居るし、その件で脅しを掛ければコイツ等はもう二度と比企谷君にも私にも近付かなくなる。

だから!?だからそんなに煽ってたの!?

 

 

ダメだよ比企谷君っ!そんな事の為に、こんな奴らに比企谷君が殴られる事なんてない!

止めなきゃ!……と思った時にはもう遅かった……

怒りで真っ赤に染まったしーちゃんが、酷い暴言を吐きながら比企谷君に向かっていった。

 

「比企谷ぁ!あんたみたいな生きてる価値も無いような気持ち悪いぼっち野郎の分際で、上位カーストの私らに生意気言ってんじゃねぇよ!」

 

「ひ、比企谷君っ!!」

 

 

バァンッ!!!と、それはもうものっ凄い音が4つくらい店内に響いた。

え?4つ?前方で3つ、後方で1つのもの凄い音が聞こえたんだけど……?

 

私は引っ張たかれそうになった比企谷君を庇おうと抱き付いたんだけど、どうやら比企谷君はまだ叩かれてはいないみたい。

叩こうとしてたしーちゃんも、叩かれようとしてた比企谷君も、そのものっ凄い音に驚いて固まっていたから。

しかし次の瞬間、比企谷君の顔がみるみる青くなっていった。前方から発せられたその声を聞いてしまったから。

てか気温が5℃くらい下がりましたけど……

 

 

「あら、あまりにも騒がしくてここは動物園かなにかなのかと思ったら、動物園ではなくて細菌のラボだったようね。

この騒ぎはついにパンデミックでも引き起こしてしまったのかしら?比企谷菌」

「ヒッキーマジうるさいしっ!」

「ちょっと先輩!せっかくの女子会をバカ騒ぎで邪魔しないでもらえませんかねー」

「……え?なんで……?」

 

そして後方から聞こえてきた声に、今度は私が引きつる番だったんですのよ?

 

「あれー!?なんかうるさいわあたしの名前が出るわで何事!?とか思ってたら比企谷と美耶ちゃんじゃーん!ウケるっ」

 

 

いやいやなんで居んのよアンタ!?笑顔なのにすげー青筋浮かんでんだけど!?なんかヤツの後ろでは、この中で唯一の常識人ぽい仲町さんが、申し訳なさそうに苦笑いしてペコペコ謝ってるしっ!

これ完全に折本さん主導で尾行してきたでしょ!?

 

前門の虎、後門の狼は、徐々にその差を詰めてくる。

やばいっしょ!どちらのグループも青筋浮かびまくりんぐっしょ!

 

 

ひぃぃっ!恐い〜!私、今比企谷君に抱き付いちゃってますけどもぉぉ!?

でもそんな2つのグループの視線は、話し掛けてきた比企谷君と私では無く、しーちゃん達に向けられていた。

 

あ、やっべー……これ完全にオーバーキルでしょ……

 

そして私は彼女達の視線が他に向いている隙に、そっと比企谷君から離れるのであった……

あ、あれ?なんかその瞬間だけ黒髪ロングの美少女の視線がギランッと私を射ぬいた気がしたんですけど、私、大丈夫でしょうかね……?

 

つづく

 





今回もありがとうございました!
今回は本当はこの恐怖の軍団が去るまでを書くつもりだったのですが、思ったよりも長くなってしまいました。

それでは次回もよろしくお願いします。


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戦慄する二人のぼっちと三人のリア充(笑)


予想通り、ほぼ雪ノ下様の独壇場になってしまいました。
そして八幡が居なくなっちゃいました。




 

突如現れたお怒りオーラを放ちまくっている四人の少女+ご迷惑お掛けしますとペコペコしている一人の少女の登場に、場の空気がピリッと刺激的になった。主に比企谷君が。

 

ま、まぁ確かに比企谷君が一番引きつった顔はしてるけど──実際は私もえらい顔してるんだろうけど──もちろんしーちゃん達だって物凄い困惑気味。

そりゃそうだろう。総武の制服着た明らかに自分達より遥かに高カーストそうな美少女三人に加え、今まさに話題にしていた中学時代のカーストトップの折本かおりが、自分達に敵意を向けてきてるんだから。

「え……?なに……?」と、迫って来る四人に縮こまっていた。

 

このまま一方的な蹂躙が行われちゃうのかと緊張して見ていると、事態は思わぬ方向へ。

 

「ん?あれー?えっと確か……雪ノ下さんと……由比ヶ浜さん、だよね。お!一色ちゃんもいんじゃん」

「あらこんにちは。確か折本さん……と言ったかしらね」

「や、やっはろー、バレンタインぶりだねぇ……」

「あ、あれ?……なんで折本先輩まで……?」

 

おっとまさかの世間話が始まってしまいました。

比企谷君も私もしーちゃん達も緊張感のなか「待て!」された状態で取り残されちゃってますね、コレ。

 

※※※※※

 

「久しぶりー。え?なに?どしたの?」

「折本先輩こそ、なんでここに居るんですか?」

「へ?なんでっていうか……」

 

するとチラッと気まずそうにこちらに視線を向け、私と目が合うとあからさまに視線を逸らした。おいっ……

 

「いやー、なんでも何も、ココあたしの地元のカフェだしさー、学校帰りにたまたま寄っただけだよ?ねー、千佳」

「そ、そうだねー……」

 

ヤツラは嘘を吐いている……

 

「そ、そういう一色ちゃん達はなにしてんの?地元違うよね。総武の学校帰りに寄る店でもなくない?

雪ノ下さんて確かあたしがバイトしてるカフェの近くに住んでるとかって聞いたし、クリスマスに聞いた限りじゃ一色ちゃんも全然違うよね?

もしかして由比ヶ浜さんが地元近いとか?」

「や、やー……あ、あたしはここから二駅くらい先の駅かなー……?」

 

困ったように笑いながら目を逸らすお団子美少女(由比ヶ浜さん?)を見てから、同じくスッと目を逸らす黒髪美少女(雪ノ下さん?)といろはすちゃんを一瞥してから、ヤツはニヤリと笑った。

 

「あー、やっぱ一色ちゃん達も面白そうだから比企谷を尾けて来たクチでしょー。ヤバいウケる!痛っ!?」

 

『も』!?あんた今『も』って言ったからね!?

折本さんはすぐさま仲町さんに頭をはたかれました。

 

「貴女はなにを言っているのかしら私達が比企谷君ごときを尾行するはずが無いでしょうおかしな言い掛かりをするのであれば名誉棄損で訴えることも辞さないけれどよろしいかしら」

「そそそそんなワケ無いし!ヒッキー尾けるとかキモいし!」

「わ、わたしたち、先輩なんかを尾けるとかそんな暇人じゃないですけどっ!?」

 

…………尾けて来たんですね分かります。

私が驚愕の視線を向けていると、いろはすちゃんがそっとおっきい乳の後ろに隠れた。

やはりアイツか……

 

あの娘……葉山君に連行されながらも、こっそりハーレム仲間に連絡着けて尾行させやがったな……

 

「「「あ、あはははは……」」」

 

顔を真っ赤にさせて俯く黒髪美少女と、乾いた笑いでその場を乗り切ろうとする三人のトップカースト。

そんな中、登場から引きつった笑顔のまま終始ペコペコしてる仲町さんだけが、やけに私の心を和ませてくれました……

 

こうして誰一人得をしないまま、強襲してきたメンバーの自己紹介?が終わった頃に、ようやく我に返って息を吹き返した集団が居た。

もちろん私達じゃないよ?だって私も比企谷君も聞きたくもなかった真実にグッタリしてるもの。

だってこの人達、ずっと尾けて来たって事は、私達の話、始めっから全部聞いてたんでしょ……?うん。もういつでも死ねる。

 

「ね、ねぇ!なんなの!?」

「意味分かんねぇんだけど!」

「いきなり入ってきて勝手に話進めないでくんない?」

 

ああ……やめときゃいいのに……あんたら空気読めないの?この人達と自分達の格の違いが分かんないの?なんでわざわざ死地に赴くのかねー……

 

すると、黒髪美少女の雪ノ下さんが、あまりにも美麗な動作でしーちゃん達の方へと振り返り、そしてあまりにも美麗な微笑で優しく語り掛けた。

その絶対零度の一言にて虐殺ショーの始まりがここに高らかに宣言されたのであった。

 

※※※※※

 

「あら、まだ居たのね。あまりの存在感の無さに気が付かなかったわ、ごめんなさい。

そういえば先ほどモブがどうこうと言っていたけれど、mob……集団や群れと言った意味ね。

つまり十把一絡げのその他大勢のキャラクターに対して、よくアニメーションやインターネットなどで用いられる用語、及びその意味合いから陰の薄い個人に対して使われる蔑称ね。

ふふっ、成る程、存在感の無さに気が付かない程度の存在。言い得て妙ね」

 

女の私でさえ惚れ惚れするような美しい微笑みで恐ろしい言葉をしーちゃん達へと放つ。

あんな綺麗な笑顔なのに見てるだけでちびっちゃいそうなんですけど。

私があのグループの一員だったら心臓発作を起こしちゃう自信があります。

 

「ところで確かカースト制度とは古くはヒンドゥー教における上級身分から奴隷などまでを分類する身分制度の事よね。

その意味合いを使って、最近では学生社会などで一つのコミュニティー内における人間関係を、容姿や人望で区分して上下関係を表す際に持ちいる言葉だと記憶しているわ。

見たところ、お世辞にも飛び抜けて容姿が優れているという訳でも無さそうなのだけれど、それで貴女達はカースト制度の上位に位置するのかしら?」

 

オ、オウ……

私、すでに白目を剥きそうなんですけど、同じように白目を剥きそうなしーちゃん達を、今度はいろはすちゃんが上から下へと舐め回すように観察してからとってもいい笑顔をした。

 

「ぷっ!上位カーストっ」

 

嘘……でしょ……?雪ノ下さんといい、いろはすちゃんといい、そんな素敵な笑顔でなんでこんなに恐いの!?

 

「カースト?車で音楽聴ける機械?」

「結衣先輩は喋らない方がいいです」

「ウケるっ」

 

今の会話の流れでカーステは無いだろ。あの娘、総武高校にどうやって受かったの?てか私、あの娘が受かった同じ年に落ちちゃったんですけど。

 

「もしくはとても素晴らしい人望を持ち合わせているのかしら。

それにしてはこのような公共の場所でヒステリックに獣のように喚き散らしたり暴力を振るおうとしているその獣のような人格を見る限り、とてもそうは見えないのだけれど。

もしくは学業が飛び抜けていい………………ごめんなさい。それは無いわね」

 

ひ、酷いっ……しーちゃん達の制服をわざと一瞥してから、少し申し訳なさそうな憐れむような顔で首を振り即座にその意見に否を付けた。

 

「容姿は、まぁ良くて並、人格は獣並、学業は……。申し訳ないのだけれど、私には貴女達がカーストの上位に位置していられるという理由がどこにも見受けられないわ?

もしよければ、どういった理由で、どのようにして、身分制度の上位に居られるのかを後学の為にもご教授頂けないかしら?

私は残念ながらそのカースト制度という物から外れてしまっている存在みたいだから、貴女達の貴重な意見がとても興味深いのだけれど」

 

心底キョトンと首をかしげ、とても素敵な氷の微笑を向ける。

たぶん同じような事を他の誰かに言われたのだとしたら、コイツ等はまた激昂して喚き散らしたんだろうけど、総武高校の制服を着ているわ、とんでもない美女だわ、そして尋常では無く冷たい視線に晒されているわのこの状況では、この程度の女達ではガクガクと震える身体と涙を堪えて口を噤ぐ以外にはどうする事も出来ないんだろう。

もちろん私だったらすでに昇天してるまでありますっ!

 

すると雪ノ下さんは、さらに冷たい眼差しになった。

うっそん!?そこからさらに冷たくなれる物なの?

 

「……そこにいる男は、貴女達よりはよっぽどその他大勢と言えないわね。

寧ろその他大勢よりも遥かに劣る程に目も心も腐っているわ」

 

ここへ来てまさかの比企谷君ヘイトに回る……だと……?

 

「でもね、少なくともこの男は、どうでもいい十把一絡げの存在の貴女方と違って、他に替えが無い存在なのよ。

貴女達なんかよりも、よっぽど存在価値のある人間だわ。

…………貴女達ごときが、比企谷君に存在価値が無い人間だなんて言わないで貰えるかしら」

 

……凄い。コレが言いたかったんだ、この人は……

コレの為にここまでの物凄い罵倒……あなたどんだけ怒ってたのよ……それに、どんだけ愛されてんのよ、比企谷君。

ふと見ると、由比ヶ浜さんもいろはすちゃんも、優しい笑顔で雪ノ下さんと比企谷君を見つめている。

 

こんなの、私なんかが入る余地なくない……?なんか、私だけ場違いな気がしてきた。

この場で一番のその他大勢って、私じゃん……私だけじゃん……

 

「あのさー」

 

その時、雪ノ下さんの言葉を黙って聞いていた折本さんが口を開いた。

 

「さっきあんたら、あたしの名前出してたけどさ、えーっと……どこの誰子ちゃん達だっけ?

比企谷と同じで、あたしもあんたらの事なんて全っ然記憶に無いんだけどさー」

 

すると折本さんは私の肩をいきなり抱き寄せた。

え!?な、なに!?

 

「なんか上位カーストがどうとかワケ分かんないこと言ってたけどさ、少なくともあたしはあんたらの事なんか知んないし興味も無い。

でも言っとくけど美耶はあたしの友達だから。雪ノ下さんじゃ無いけど、あんたらが名前出してたあたしには、あんたらより美耶の方が遥かに価値があんだよね。

あんたらがどんだけ自分の世界で価値があるか知んないけど、あたしからしたらあんたらはその他大勢なんだよ。

だからその他大勢のあんたらがさ、あたしの友達の美耶に友達居ないとかぼっちとかって勝手に馬鹿にしないでくんない?」

 

────やばい……ちょっと泣きそう……てかちょっと泣いちゃってんだけど私。

 

ありがとう折本さんっ……

でもこれだけは言っとかなきゃね。

 

「……ぐすっ……まだ友達未満だからっ……!」

「美耶手厳しいっ、ウケる!へっへー、でも『まだ』って聞いちゃったー」

 

うぅ……うっさい……!

 

※※※※※

 

あまりにも美しい氷の女王に蔑まれ、自分達の中でも上位カーストとして知られている折本さんにも罵倒されたしーちゃん達は、もはや一言も発する事も出来ずにただ震えて泣きながら逃げ去るのみ。

だからやめとけって言ったのに……

 

でも雪ノ下さんはまだ言い足りなかったみたい。あれだけ言っといてまだ!?

そして黙って逃げ去ろうとしたコイツらにトドメを刺した。

 

「あら、モブだって言葉くらいは発する物だと思うのだけれど。

言葉も発さない集団や群れは、そのうちmobどころか 『a back ground』、背景になってしまうかも知れないから、十分に気を付けなさい」

 

やめてっ!もう死んじゃう!

そしてアイツ等が去った後の事を考えると私が死んじゃう!

 

「さて」

 

雪ノ下さんのその一言と共に、比企谷ハーレムの皆さんは一斉にこちらを向いた。そして私は白目を剥いた。

 

もうダメポ……なんか折本さんのおかげでこれから優しく生きて行けるかと思ったのに、どうやら私の寿命はすぐに来ちゃったみたいです。

 

 

しかし、雪ノ下さんは私を一瞥するとあまりにも意外な言葉を放ったのだった。

 

 

「由比ヶ浜さん、一色さん。あの騒がしい人達のお陰で興も削がれた事だし、私達もそろそろ帰りましょうか」

 

あ……れ?

 

 

つづく

 





ありがとうございました!
前回はなんだかたくさんのご感想を頂きありがとうございました。とても有り難かったです。

物語は終盤となりますが、次回もよろしくお願いいたします。



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リア充(笑)よりも震え上がるぼっち

 

おかしいな……

私てっきりこの氷の女王様こそが先頭に立って、私をしーちゃん達路傍の石ころの如く、蹴り飛ばし踏みつけてゴミのようにそこら辺のドブにでも蹴り捨てられるのものかとばかり思ってたのに、まさかその雪ノ下さんから撤収の提案がなされるとは。

しかし想像してた末路が酷いなっ。

でもその提案に意外だったのは私だけでは無いようで……

 

「そうですねー、帰りますかー…………って雪ノ下先輩!?か、帰っちゃうんですか!?

だ、だってだって、先輩とこの泥棒猫を置いてっちゃうんですか!?」

 

誰が泥棒猫だよ……私こう見えてあなたより先輩なんで、せめて本人が居ない所で言ってもらえませんかね。

 

「一色さん……?」

「は、はぃぃっ……」

 

すると雪ノ下さんはそんないろはすちゃんに今にも襲い掛からんばかりの厳しい目を向けてお説教を始める。

おお……さすが先輩。雪ノ下さん!きっちりと言ってやって!

 

「猫を泥棒の代名詞のように言うのはやめなさい。私、猫に対して偏見に満ちたその言葉を使う人間がどうしようもなく許せないの」

 

そっちかっ!マジギレして猫の擁護をする前に少しでも私に優しさをください。。

 

「まぁまぁゆきのん!いろはちゃんも悪気があったわけじゃ無いんだしさー」

 

私に対する悪気とかは気にしないんですね分かります。

 

「泥棒猫って……あのなぁお前ら」

「黙りなさい」

「ヒッキーは黙ってて」

「先輩うっさいです」

「……はいすみません」

「ウケる!」

 

なんなのこのカオス!

とりあえず恐いので、比企谷君は黙っている事にしたみたいです。もちろん私は始めから口を開く気なんかありません。

 

「こほん!と、とにかくですね?先輩とその人を残して帰っちゃうんですか……?

じゃあなんのために尾け……偶然会ったのか分かんなくないですかね」

 

……もう言い直さなくてもいいよ、ソレ……「なんのために偶然会ったのか」って意味の方が分からないよお姉さんは……

するとお団子乳の由比ヶ浜さんがいろはすちゃんに優しく語りかけた。

 

「いいじゃんいろはちゃん!あたしはゆきのんの提案いいと思うよ?

たぶん……ヒッキーとこの娘が会って話すのって大事なことなんだと思う」

「結衣先輩……」

「この娘はさ、さっきまでの人たちとは全然違うじゃん。ちゃんとヒッキーのこと分かってるし。

その上でヒッキーに大事な話があって会いに来たんだから、それはもうあたし達が邪魔しちゃダメなんだよ。ねっ」

「ふふっ、由比ヶ浜さんの言う通りね。先ほどの騒がしい人たちとは全然違うもの。

見つかってしまった以上は、もう私たちは帰るべきなのよ?一色さん」

 

それ逆説的に言うと見つからなかったら尾行も盗み聞きもOKて事ですよ!?雪ノ下さん!

───でも、頭はちょっと悪そ……ぽわっとしてそうだけど、やっぱりお姉さんなんだなぁ、由比ヶ浜さんて人も。可愛い後輩をちゃんと宥めてる。それに……

 

「むー……先輩のこと分かってるからこそじゃないですかー……」

 

いろはすちゃんは口を尖らせながらも渋々納得してくれたみたいだ。

 

「さぁ、ではそろそろ帰りましょうか」

 

そして雪ノ下さんはお供の二人を引きつれて私たちに背を向けた。

……この人たち──約一名の後輩ちゃんを除く──は、私を少しだけ認めてくれたんだろうか?

こんなにも目立つ美少女達が、こそこそと尾行してまでも比企谷君の事が心配で着いてきたくせに、こんな見ず知らずの女と大切な比企谷君が二人で居るのを置いて帰ろうっていうんだもん。しーちゃん達が来る前までの盗み聞きで、私なら大丈夫って、認めてくれたってことだよね……?

いやそれはそれで死ぬほど恥ずかしいんだけども。

 

さっきの葉山君と同じで、やっぱ本物のリア充ってのはすごいな。しーちゃん達みたいな充実してるつもりになってバカみたいに騒いでるだけの偽物とは全然違うんだな。

そして私のリア充時代なんて、まさにそんな程度のモノだったんだろうね。

はぁ〜……あんなモノに満足してただなんてなぁ……

 

 

そして比企谷君は、正にそっち側の本物のリア充なんだろう。

こんな素敵な人たちが比企谷君を変えてくれたのかな?

それともこんなに素敵な比企谷君が、この人たちを引き寄せたのかな?

 

そんな彼が、そんな関係が羨ましいような嫉ましいような、でも少なくとも悪い気分ではない。

私だって今こうしてこんなにも素敵な人たちに少しでも認められたってことは、今までの挫折だって苦悩だって、決して無駄ではなかったんだろう。

 

私は…………そんな羨ましいような嫉ましいような、でもなんだかポカポカする不思議な気持ちで、この素敵な人たちが去っていく背中を、自然と微笑んでしまっているだらしのない顔で優しく見つめていた。

しかし……世界は私にそんなには優しく無かった……

 

「ああ、それはそうと比企谷くん」

「……へ?」

 

黙ってろと言われて小さくなっていた所に急に声を掛けられたものだから、比企谷君はとっても間抜けな声で返事をした。

なんだろうか私にまで襲い掛かってくるこの悪寒は。

 

すると雪ノ下さんはくるりと振り返り、とてもいい笑顔でニッコリと微笑む。

 

「明日は聞きたい事が山のようにありそうだから、授業が終わったらダッシュで部室に来るように。部長命令よ」

「き、聞きたいこと?」

「ええ、私達が居なくなったこの後の事が最重要事項になってくるとは思うのだけれど、あとは主に先ほどあの騒がしい人たちに啖呵を切っていた際に口走っていた未練がどうとかいう辺りの話も重点的に聞くことにはなりそうね」

「…………」

「あ、それあたしもすっごい気になったし!それに頭下げてどうしてもお茶だけでも!とかも言ってたよね」

「あー、わたしも聞きたいのでダッシュで奉仕部いきますねー」

 

微笑ましかった空気が一瞬でブチ壊れた瞬間でした。

その美しく笑う少女達の瞳には光が宿ってはいなかったのです。

 

ごめんね?比企谷君!私を助ける為にあなたの寿命を短くしてしまったわっ……

でも、比企谷君だけを犠牲にしたわけじゃなかったんですね。すぐに私の番が回って来たんですもの。

 

「あと……確か美耶さん……と言ったかしら?」

「は、はひ……!?」

「もし良かったら、明日貴女も学校が終わってからいかがかしら?

貴女にもお話したい事があるから歓迎するわ」

「わ、わたくしめに話でございまひゅか……?」

 

なんで私へりくだってんだよ。しかも噛んでるし。

だって、人生で初めての恐怖なんですもの。

 

「ええ。貴女には……そうね。主に先ほどそこの男に抱きついていた件かしらね。」

 

 

 

……………………やっぱ気にしてたかぁぁぁ!

あ、これはヤバイな……とは常々思ってたんですよね。

 

「貴女は分かってはいない事かも知れないけれど、その男はとても危険な菌まみれなの。

その危険性と今後の除菌計画などについてもお話したい事が山ほどあるのよ。

無理にとは言わないけれど、必ず来なさい?」

 

『無理にとは』と『必ず』という相反する言葉が私の首を優しく締めあげております。

これたぶん、除菌されちゃう菌は私の方なんですよね?

 

「……あ、やー、で、でもですね?……学外の生徒に入校許可をおろすのって、中々大変なんじゃないんですかねー……?

なんだかちょっと申し訳ないんで、ざ、残念ですけど今回はー……」

「あー、わたし生徒会長なんで大丈夫ですよー?そんな許可バンバン出しちゃいますよバンバン。

心配しないで安心して来てくださいねー」

 

安心できねーよ。心配しかねーよ。

ていうかそんなにバンバンバンバン入校許可ばっかりいらねーよ。

 

「それでは。比企谷くん、また明日」

「じゃーねー、ヒッキー」

「ではではさよならでーす」

 

こうして、とてつもない嵐はようやく過ぎ去っていった…………明日、その嵐に自ら突っ込まないといけないという素敵なプレゼントを残して。

そうだ。帰宅したら遺書を残しておきましょう。お母さん。先に旅立つ不幸をお許しください。

 

「いやー……すっごいねー……ウケ……るよりは軽く引くくらい恐すぎなんだけどー」

 

あ、まだいらっしゃったんですね折本さん。

箸が転げなくても笑える年頃の折本さんがウケないとか、よっぽどの事態じゃないですかやだー。

そんな恨みがましい涙目でチロリと折本さんを見ると…………超ぷるぷるして笑いを堪えていた。

んだよウケてんじゃんかよ。ちょっと安心しちゃったよ。安心しちゃうのかよ。

仲町さんは顔面蒼白でブルブル震えてますけどね。

 

「んじゃねー、美耶、比企谷ー。あたしらも帰るわー」

「じゃ、じゃあね、二宮さん……あと……比企谷君」

「あ……お、おう」

「う、うん」

 

立ち去っていく折本さん達を呆然と見送っていると、「あ!」っとニヤニヤしながら小走りで引き返してきて、私に耳打ちした。

 

「美耶美耶ー、明日昼休みにこのあとの事たっぷり聞かせてよねー!

ヤバい今からすでに腹がよじれそうっ」

 

もう好きにしてください……

 

「はいはい……」

「へへっ!じゃーねー!

あ!比企谷ー、今度どっか遊びに行こうよー」

「なんでだよ行かねぇよ」

「いいじゃん、ケチー!んじゃ約束ね!

あ、とりあえず明日生き残れたらだけどねー、ウケる」

「いやウケねぇから……そして勝手に約束取り付けんな」

 

ひひっ!と笑いながら手をヒラヒラさせて去っていく折本さんを見送りその場に残された私達は、店内の他のお客さんや店員さんにとんでもない好奇の眼差しを向けられていた事に今気付いた……なにこれ動物園のパンダよりも注目集めてんだけど。

むしろここまで騒ぎ起こしてたんだから、その前に止めに来いよ店員!!

 

「ひ、比企谷……君…………ここ、出ようかっ……」

「……だな」

 

 

そして私達は二度と入店しないであろう、もとい二度と入店出来ないであろうカフェをあとにし、自転車をカラカラと押しながら並んで夜の街を歩く。

現在18:30ちょいか。ここからなら近いし、あそこ……行ってみようかな。

────あ、なんか私が今日どうしてもしたかった事が分かっちゃったかも。

 

 

「比企谷君。私、ちょっと行きたいトコがあるんだ。いいかな……」

「ああ……まぁ別にかまわんぞ」

 

 

そして私は、間違ってしまった青春ラブコメに決着をつけに行くのだ。今までの私にも。

……そしてこれからの私の為にも。

 

 

つづく

 

 

 




この度もありがとうございました!
終盤が残念とのご感想をいくつか頂き本当に有難かったです。
一応自分としては、書きたかった所までが書ければ満足なんですけど、また続きが思い浮かびそうなら書いてみようかな?という気持ちになりました!
という訳で、たぶんですけど次回で最終回まで行けるかな?という感じですかね。

こんないつエタるかも知れないどこの馬の骨とも分からない匿名作者の、こんな回想モブキャラがヒロインの怪しいSSを多くの方に最後まで読んで頂けて嬉しい限りでございます。

本当にどうでもいい諸事情で匿名で投稿しておりましたが、匿名でもちゃんと最後まで書き切れそうなので、最後くらいは堂々と匿名を外そうかな、とかも考えておりますので、次回急に名前が変わっているかも知れませんがよろしくお願いいたします。



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私、ぼっちを卒業して普通の女の子に戻ります



思ってたよりも長くなってしまいました。二話に分けても良かったかもしれませんが、これにて一応の最終回とさせて頂きます。




あ、あと申し遅れました!
ねっころがし改めぶーちゃん☆と申します!
最終回なのに、初めましての方は初めまして!

ではではどうぞ!





 

カフェを出て、並んで目的地へと向かう道すがら、私はずっと言いたかった事を比企谷君に聞いてみた。あの日偶然遭遇してからずっと気になっていた事を。

 

「それにしても中学の頃と比べて、ホント比企谷君て変わったよねー」

「は?俺が?どこが」

「いやいやどこがって……全部が全部変わったじゃん。

いや、まぁ私も変わっちゃったけどさ」

「まぁ、確かに二宮は随分と変わったよな。まさかあのリア充がぼっちになっちまうとはな」

「あはは、ホントだよね〜。でもそれを言うなら比企谷君の方がよっぽどまさかの変化じゃん!

ふふっ、まさかあのぼっちだった比企谷君が、こんなにリア充になっちゃうだなんてねー」

 

クスクスと笑いながら比企谷君に視線を向けると、なんだか馬鹿を見るような視線を向けてきた。

 

「は?なに言ってんの?俺がリア充とか意味が分からんのだが。

俺みたいなぼっちのプロを舐めんなよ?」

 

え……?なに言ってんの?この人。

超真顔でそんなこと言われましてもですねぇ……

 

「いやいやなに言ってんのはこっちのセリフだから。

あんな素敵で可愛い娘たちを侍らせといて、リア充の意味が分からんとか自分はぼっちだとか、あなたちょっと世のぼっち達を敵に回すわよ?

てかすでに世のぼっち達の敵だけどね」

「侍らせてるってお前な……

あいつらはそんなんじゃねぇよ。単なる部活仲間ってだけの話で、友達でさえないから」

 

嘘……でしょ……?この人本気で言ってんの!?

 

「は……はぁ?んなワケ無いじゃん!マジで言ってんの!?

じ、じゃあいろはすちゃんはどうなの!?あの娘は生徒会長だしサッカー部のマネージャーって話じゃん!

全然比企谷君と関わりないじゃないっ」

「いろはすちゃんて……てかなんでそんなに色々と知ってんだよお前。

総武高校事情に詳しすぎじゃね?」

「ま、まぁ今日は色々とあったのよ……」

 

うん……ホント色々あったなぁ……すでに走馬灯が頭に浮かび過ぎて意識失いそうなレベル。

 

「ほーん。まぁ一色に生徒会長を押し付けたのは俺だからな。

その責任を取らされて、いいように利用されてるってだけだ」

「…………」

 

うっわぁ……この人、本気で気付いてないの?自分がいかにリア充なのかって。

 

んー。でも……ちょっとわからなくも無いかも。

たぶん比企谷君は、気付かないんじゃ無くて無意識に気付かないようにしてるんだろう。

 

ぼっちにとって、儚い希望ってヤツは虚しさを増幅させるだけの甘い毒みたいなもの。

下手に期待して希望して夢見ちゃって、そしてその上で裏切られたら、元々あった傷が余計に深く痛くなるだけ。

だから比企谷君は、自分がもうリア充どころかリア王になっている事にも気が付かないんだろう。

 

「……あ、だからかー!」

「へ?な、なにが?」

「あ、ごめんごめん!こっちの話ーっ」

「?」

 

そっかそっか!そういうことかー。だから私は比企谷君と普通に話が出来てたんだ。

自分と関わりのあるリア充ってだけで、今の私には緊張の対象のハズの比企谷君なのに、なんで普通に話せるのか今まで全然分からなかった。

 

なんの事はない。それは比企谷君が私と同じぼっちだったからなんだ。

例え実際はどんなにリア充だろうと、比企谷君自身が自分をぼっちだと信じて疑わない以上は、やっぱり比企谷君はぼっちなんだろう。

 

ぼっちとぼっちは通じ合う。それはもうニュータイプばりに。

だから頭ではこの人はリア充なんだと考えながらも、心ではこの人は仲間なんだと感じとってたんだろうね。だから緊張しないで話が出来たんだろう。

 

ま!今となっては別の意味でちょっと緊張しちゃってるんですけどねーっ……

 

 

そんなこんなでしばらくテケテケと歩き、もう目的地に到着しようかとする頃、私が目指している場所に比企谷君がようやく気付いた。

 

「なぁ、二宮……お前が向かってるのって……」

「……そっ」

「マジかよ……」

 

 

そして到着した目的地。

そこは、私と比企谷君が以前通っていた学校。

そう。私が間違えてしまったこの中学校こそが、私の目的の場所。

 

 

「わー……懐かしいなぁ……」

「……だな」

 

校門の外から覗き込む中学校は、時が止まっているかのように、あの頃となんにも変わっていなかった。

胸がムカムカする。卒業してからは意図して近づこうとはしなかった場所だから。

 

ゴメンね比企谷君。ホントはあなただってこんな所に来たくないよね。

 

「私ちょっと職員室行って、知ってる先生がいないか見てくるね。

で、許可貰って校内に入ってみたいんだよねー!」

「は?入んの!?いやいや無理だろ……最近は卒業生っつっても早々入っちゃいけないようになってんじゃねーの?

大体さっきお前が雪ノ下に言ってたんじゃねーかよ」

 

いやまぁそりゃあの時は必死にもなるでしょ。命懸かってましたから?

ふふふ、でもね?比企谷君は忘れてるかも知んないけどっ……

 

「だーいじょーぶ!だって私は今はこんなになっちゃったけど、ココに通ってた頃は優等生で人気者の二宮美耶ちゃんだったんだよっ?

そんな私が久しぶりに訪ねてきて、『懐かしいからちょっと中を周りたいんですけどぉ』って甘えれば一発だって」

 

そう本性丸出しの台詞を放ってニヤリとしてみせると……

 

「……お前って、なかなかいい性格してんのな」

 

同じような悪顔でニヤリと返してくれた。

 

「お褒めのお言葉ありがとっ」

 

パチリとウインクをかまして、私は一人校内へと足を踏み入れたのだった。

 

※※※※※

 

昔お世話になった担任が居たから調子よく会話をし、もちろん余裕でOKが出たので比企谷君を呼びに行ってから私達は二人で校内へと入って行く。

もう完全下校時刻を過ぎた校内はとても静まり返っていて、借りた来客用スリッパが廊下をペタペタと鳴らす以外の音は一切しない。

 

なんだか無言になってしまう。

しんと静まり返っていて声を出し辛いというのもあるんだろうけど、たぶんそれ以上に二人の胸が苦しいから。この景色とこの匂い。嫌でもあの頃の記憶が呼び起こされる。

そして向かった先は、もちろんあの教室。私と比企谷君が二年生の時に一年間過ごした場所。

 

 

電気を点けて広がった光景に息をのむ。

その光景を見た瞬間に、あれだけ記憶から抹消していたここでの毎日が、まるで昨日の出来事みたいに脳裏を駆け巡ったから。

比企谷君も……とても歪んだ顔をしてた。私なんかよりも、よっぽどここには来たくなんてなかったよね……

 

「比企谷君……ホントにゴメンね。来て貰っちゃって……」

「まぁ気にすんな。もう昔の事だし大して気にしてねぇよ。さっき言ったろ」

 

 

 

『比企谷君……わざわざ着いてきて貰っといて今更だけどさ、やっぱやめとく?比企谷君は入りたくなんかないよね』

『まぁそりゃ好き好んで入りたいとは思わんけどな。

でもそれほど嫌ってワケでもない。そもそもそんなに嫌なら、二宮が一人で職員室行ってる間にこっそり帰っちゃってるしな』

 

入校の許可を貰って職員室から帰ってきた時、比企谷君にはきちんとお断わりはしておいた。

さっきは笑ってあんな風に言って着いてきてくれたけど、やっぱりいざこんな表情を見てしまうと、どうしようもない罪悪感に駆られてしまう。

本当は来たくなんかないはずなのに、私の近況や、さっきしーちゃん達に取った私の情けない態度を気にしてくれてるんだろうな。

でも……ここに来るのには比企谷君が居なければ意味はないんだ。だから、着いて来てくれた比企谷君に贈る言葉はゴメンじゃなくって……

 

「うん。ありがと」

「おう」

 

※※※※※

 

心を落ち着ける為に教室内を色々と見て回ってみた。

あの頃に付けた机の落書きとか傷とか残ってないかな?なんて探してみたんだけど、さすがにそんなのあるわけないよね。

 

私達が使ってた頃よりも幾分新しくなってるっぽい机や椅子に優しく触れながら、話し始めるのをただ待ってくれている比企谷君に私は語り始めた。

 

「さっきさ、しーちゃん達が乱入してくる前に言い掛けた事あったじゃん?」

「ん?ああ」

「……私さ、ホント毎日がつまんなかったんだぁ。

学校行っても一言も喋んないし、周りのリア充共が騒がしいから音楽かゲームの音で遮断して、いつも一人の世界に浸っててさ。

毎日の楽しみって行ったら、アニメ見て漫画見てラノベ読んでゲームする事くらい」

「……は?マジで?

……はぁ〜、あの二宮がオタクになるとはなぁ……」

「……せめてサブカル女子とか言ってくんない……?」

 

いや、実際サブカル女子って結構蔑称なトコもあるから是非にとオススメはしないけど。

でもなんか面と向かってオタクって言われちゃうのもちょっとねぇ……

 

「んだよ、そのなんでもかんでも男子とか女子とか付けとけばいいって風潮……

そんなのに騒いでんのはマスコミだけだろ……」

 

ぷっ!やっぱ考えることは一緒かぁ。

 

「ま、まぁそれはともかくとしてよ、私はそんな毎日を面白可笑しく過ごしてきたワケなのでありますよ」

「はぁ」

「でもさ、」

 

そして私は比企谷君を真っ直ぐに見つめる。

ちゃんと目を見て、ちゃんと私を見て貰って話したかったから。

 

「あの日、偶然比企谷君を見かけてから、ぜーんぶ変わっちゃったんだぁ」

 

そう言いながらニコリと微笑んだら、比企谷君は少しだけ赤くなった。

ん?そんなに魅力的な笑顔だったのかしらっ?

 

「あの日、超が付くくらいのリア充に進化しちゃった比企谷君を発見して、その帰り道に人生で初めての痴漢に遭遇して、そして助けて貰った……」

「だからリア充じゃねぇって言ってんだろ…………。え?痴漢に合う前に俺のこと見たのか?」

「へへっ、そーだよぉ?美女三人に囲まれてデレデレしてるムカつく男を発見して、なにこのリア充、爆ぜちまえばいいのに!って思ったんだよ?」

「デレデレしてねぇし……」

 

「でさ、家帰ってからアレは比企谷君だったんだ!って気付いてね、次の日悶々としたまま学校行ったら、なんと教室で折本さんが超楽しそうに比企谷君の話をしてたわけよ」

「は?アイツ教室で俺の話なんてしてんの!?」

「そうだよ〜?比企谷って超面白いんだよねー!っておっきな声でねっ。

あ、でも決して馬鹿にしてるとかそういうんじゃなくて、褒めてるって意味でね?」

「なにしてんだよ……あの馬鹿……」

 

あはは、超嫌そう!ちょっと赤くなってるし。

……友達になりたがってるとか、あわよくば彼女に……なーんて事は言ってやんないけどねっ。

 

「だから私さ、どうしても比企谷情報が気になっちゃってね、そっからは毎日ストーカーの如く折本さんを付け回したりしちゃってねっ!ふふっ」

「ふふっじゃねぇよ。そしてなんで俺情報なんて気になんだよ……」

「……そ、そりゃ気になるに決まってんじゃん……助けてくれたのが……あの比企谷君なんだからさ……

……っ!そ、そんな事よりっ!」

 

くぅっ……顔が熱いっ!

誰も居ない冬の夜の教室なんてメチャクチャ寒くて凍えてんのに、なんだか身体の奧からカッカしてきちゃったじゃないっ……!

 

「と、とにかくねっ?……まぁそんなこんなで、ずっと学校でぼっち道を邁進してきたこの私がですよ?

なんと折本さんに話しかけちゃったワケなんですよ!」

「……で、あんなに仲良くなったと」

「いやいや、別に仲良くなんて無いしっ!

折本さんは単なる友達未満なんだからっ……」

 

……なんか私って、ここら辺が比企谷君が自分はリア充じゃないって言ってるのと同じような匂いがしますね……

 

「で、まぁ今まで散々小馬鹿にしてたリア充ってヤツとちゃんと真正面から話してみて、色々と思う所があって、そして今日こうして比企谷君に会いに来たワケなんだっ……」

「…………よく分からんが、そうか……」

「うんっ……」

 

 

そっと瞳を閉じる。今日の出来事を思い浮かべるように。

 

「ふふっ、会いに来たら来たで、これまた色んな事があったなぁ。

校門ではハイパーリア充軍団に絡まれてウザイわ比企谷君に無視されるわ、ようやく比企谷君とお話出来たかと思ったら、最悪な連中に絡まれて泣きそうになって…………んで、比企谷君にまた助けられてっ……

ったくぅ、結構きゅんっ!ときちゃったんだからね!?……乙女心なんて無くしたものかとばかり思ってたのに、まさか数年ぶりのトキメキがあの比企谷君にだなんて、一生の不覚だわっ?」

「…………へ?」

 

あわわっ……つ、つい余計な事までペラペラとぉっ!

ま、まだそこまで言うのは早いんだっての!

 

「や、やー!そそそそれはともかくとしましてねっ!?」

「お、おおおうっ……」

 

ぐぅっ……し、しくじった……

とにかく落ち着くように、私はすーはーすーはーと深呼吸をした。

そしたら比企谷君も顔を赤くして深く息を吐いていたのを見てちょっとだけ微笑んでしまった。

 

「そ、そういう事がありましてですね?

……そしたら今度は尾行してきた美少女達にしーちゃん達が始末されるわ私も始末されかけるわ、さらに折本さんに落ち掛けた気持ちを掬い上げてもらうわと色々あってさ……

そんなこんなで私は思ったワケなのですよ」

 

今から大事な事を言いますよ?と、コホンと咳払い。

 

「人間不信とかなんとか言って、一人で孤高のぼっちを気取ってきたけどさ、結局悪いのは自分なんじゃん!ってさ。

私を人間不信にしてくれた人達は、単に上っ面で皆に笑顔を振りまいてた私に寄ってきただけの偽物だったんだなって。

不信もなにも、最初から信用なんて一つもしてないし信用されてもいない薄っぺらい間柄で、不信もなにもあったもんじゃないよね。

人と関わる事を拒否してきた私が、比企谷君に偶然再会してからのたった一週間やそこらで関わった人達は、私が勝手に裏切られたと思ってた人達とはなにもかもが違ってた。

折本さんも仲町さんも、葉山君もいろはすちゃんも、雪ノ下さんも由比ヶ浜さんも…………そして、比企谷君もっ……」

「………………」

「だからさ、もう一度、私は人と関わってみようかな?って思ったの。思えたの。

全部、比企谷君のおかげっ」

 

にひっと笑顔を見せると、比企谷君は予想通りのことを言う。

 

「なに言ってんだ。俺はなんもしてねぇよ」

「言うと思ったー。でもいいのっ!

比企谷君はなんもしてなくたって、私が勝手にそう思って、勝手に感謝して勝手に満足してんだからっ」

「……へっ、そうかよ」

「うん!そうだよ」

 

照れくさそうに頭をガシガシと掻いている比企谷君のお腹に、とりゃっとパンチを入れてやった。

素直じゃない比企谷君に対してのお仕置きね。

 

痛くもないくせに「痛てーなぁ」とお腹をさする比企谷君に、もう一度しっかりと向き直る。

 

「で、でね?もう一度やり直してみようと思ったから……ここに来たのっ……

ここは私が間違えちゃったスタートの場所だから……ここから新しくスタートしたかったの。だから……

────比企谷君……今から言うこと、聞いて欲しい……」

 

心臓が破裂しそうな程の激しい鼓動。

真っ赤に燃え上がってるであろう、熱い熱い顔。

息が苦しくて苦しくて、今にも過呼吸になっちゃいそう。

 

でも…………たぶん私はこれがしたかったからここまで来たんだ。

なんでここまでして比企谷君に会いたかったのか分からなかったけど、たぶん今の為に私らしく無い事までして比企谷君に会いにきたんだろう。だから……あともうちょっとだけ頑張れ私!

 

※※※※※

 

今から言うこと、聞いて欲しい────そう宣言したくせに、私は極度の緊張で何も言いだせないままでいた。

 

思えば、私って今まで告白とかしたことあったっけ……?

現実逃避をするように過去の記憶を手繰りよせたけど、やっぱりそんな記憶はどこにも無かった。

 

うひ〜……こ、こんなに緊張するもんなんだなぁ……今からする告白は普通の告白とは違うから、まだ気持ち的には楽なハズなのにね。

今まで告白してきてくれた男子の皆様、軽くあしらっちゃってごめんなさい。

 

 

聞いて欲しいと宣言してからどんくらい経ったのかな。なんかもう極度の緊張で時間感覚が麻痺しちゃってるから、イマイチよく分からない。情けなさすぎるから、実はあんまり時間経ってないといいんだけど……

よし!覚悟を決めるぞ!私!比企谷君は私の言葉を待ってくれてるんだ。

 

私は居住まいを正し、ずっと俯いていた顔を比企谷君に向けた。

うう……格好悪いな……絶対に真っ赤だよぉ……涙がたまってんのもバレバレだよね……?

でもっ……スカートをギュゥッと握り締め、そんな情けない目を、情けない顔を比企谷君から逸らさないように踏ん張って深く深く息を吐き、そして私はついに言葉を絞りだした。

 

※※※※※

 

「あ、あのさ、比企谷君って、好きな人とか居るの?」

「………………は?」

 

心底唖然とした様子で聞き返してくる比企谷君……いや、そうなるのは分かってましたけども……

一発目から心が折れそうになっちゃったけど、でも負けるか!

 

 

「ん!んん!……あ、あのさ、比企谷君って、好きな人とか居るの?」

「…………いやだからなんでだよ」

「あのさ、比企谷君って、好きな人とか居るの?」

「え?なに?壊れちゃったの?」

「……あのさ」

「わぁったよ!……べ、別にそんなん居ねぇけど」

 

ようやく進めたぁ……何回恥ずかしいこと聞かせんのよっ……

 

「いやその答え方は絶対居るって!誰?」

「……は?いや、どこら辺にそんな要素あったの?」

「いやその答え方は絶対居るって!誰?」

「なんなの?ローラ姫なの……?居るって言わないと先に進めないの?」

「…………いやその答え…」

「くっ……い、居ないけど……居る」

「じゃ、じゃあ誰か教えてよ……!ヒントだけでもいいからっ……じゃあイニシャル、イニシャル教えて。苗字でも名前でもいいから、お願いっ……」

 

──そこまで言うと比企谷君はハッとした。

 

「二宮……これって……」

ふぅ……ようやく気付いてくれたかぁ……

 

そう。これは……あの日のやり直し……

私が間違ったやり方で比企谷君を勘違いさせてしまい、恥ずかしい思いをさせてまで告白擬いみたいな事をさせてしまい、そして私が間違ったやり方で振ってしまったあの日のやり直し。

私のせいで間違えてしまった私の青春ラブコメを取り戻すのならば、ここをキチンと精算しなければなんにも始まらないんだ。

 

だから……今度は私が今この場所で、今度は私が好きになっちゃった比企谷君にバッサリと振られる番なんだよ。

 

「イ、イニシャルでもいいからっ……」

「……そうか。分かった。………………ふぅ〜。

うーん、それならいいか」

「マジで!?やたっ!で、イニシャルは?」

「……くっ……!わ、YかI……?」

「………………えぇー……?

いやいやちょっと比企谷君!?な、流れからしてそこはMとかじゃ無いの!?」

「え、いや、だってMじゃ無いし」

「信っじらんない!そこでMって言ってくんなきゃ次に進めらんないじゃんっ!

もー!最初っからやり直しー!」

「マジかよ……」

 

それになにちゃっかりと好きな人の候補を複数にしちゃってるんですかねこの人は……

ったく……!明らかにYは雪ノ下か由比ヶ浜、そしてIはいろはすじゃないのよっ……

 

そ、そりゃその好きな人ってのが私の可能性なんて元々ゼロだけどさっ!?

だだだだからって、先に違うイニシャル聞いちゃってから、もう一回今のをやり直しって、それなんて拷問?

 

ちくしょー!こうなりゃヤケよヤケ!見事に散ってやるわよっ!

 

「はぁぁぁぁぁ〜…………あ、あのさ、好きな人とか居るの?」

「そんな深い溜め息吐かれても……居ないけど」

「いやその答え方は絶対居るって!誰?」

「……誰だと思うんだ?」

「わかんないよー。ヒントっ!ヒントちょうだい!」

「ヒントと言われてもな……」

「あ、じゃあイニシャル、イニシャル教えて。苗字でも名前でもいいから、お願いっ」

「うーん、それならいいか」

「マジで!?やたっ!で、イニシャルは?」

「……はぁ……え、M……?」

「え……それって……私?」

「え、何言ってんだそんなわけねぇだろ、何、え、マジキモいわ。ちょっとやめてくんね?」

「……………………ちょ、ちょっと比企谷君!?い、いくらなんでもそこまで再現するとか酷くない!?

さすがに乙女に対してキモいは言い過ぎでしょぉ!?」

「……お前がやれっつったんだろ……」

「…………」

「…………」

「「……ぷっ……くくくくく!あははははは!」」

 

アホな茶番劇をやり終えて、言い合いながらお互いに顔を見合わせてたら、なんだか二人して笑いが込み上げてきちゃって、それからはしばらく机叩いたり床叩いたりして笑い転げてしまった。

 

「……ひぃぃ〜っ……ぷくくっ……わ、私達なにしてんの……っ?」

「くくっ……お、俺が聞きてぇわっ……」

 

散々笑い倒してようやく落ち着いてきた。

私は笑いすぎて流れてきてしまった涙を指で拭いながら溜め息を吐いた。

 

「あ〜あ!人生初めての告白だったのに振られちゃったぁ!」

「……へ?今のってただの芝居なんじゃねぇの?」

「……はぁ?んなワケ無いじゃん!本気に決まってんでしょっ!

あの日を精算したくてこんな恥ずかしいマネしたのに、ただの芝居なんかじゃ意味ないじゃない!」

「……あのな、良く分からんけど、そんなのただの勘ち…」

「ちょっと比企谷君!?二年もぼっちしてきた私をナメないでよね。

なんでもかんでも勘違いで誤魔化そうとするのは期待したくないぼっちの悪い癖って分かってんだからね?

それを踏まえた上での私の告白を、勘違いだなんて言わせてやんないよ?」

「そ、そうか……いや、その、なんだ……了解した」

 

ちょっとぉ!……せっかくバッサリ振られてスッキリしてたからこそ、恥ずかしい台詞をガンガン言ってられたってのに、そんな風に照れられたら……わ、私だってまた恥ずかしくなってきちゃうじゃんかよぉっ……

 

「こほんっ……!じ、じゃあ晴れて私もキチンと振られたってことで、比企谷君に改めてお願いがありますっ」

「……は?まだなんかあんの……?」

 

んー、まだあるというよりは、100パー振られるって分かってた事だからこそ、寧ろこっちが本命かもね。

私はまた顔を真っ赤に染め上げスカートをギュッと握りながら、比企谷君にペコリと頭を下げると右手を差し出す。

 

「比企谷君っ!せめて、まずは友達になってくださいっ!」

 

うひゃ!せめて、まずはとかつい本音が出ちゃった!

 

「え、嫌だけど」

 

えぇぇぇ……

 

「えぇぇぇ……な、なんで!?」

「いやだってほら、俺、友達とか居ねぇし」

「だ、だから私ととりあえず友達になろうよっ!」

「とりあえずなるもんでもねぇだろ……てか友達付き合いとか面倒臭ぇし」

 

 

そんなに面倒くさがらなくたって良くない!?

くっそうっ!私、今ヘタしたらさっきの茶番告白の時よりも恥ずかしいっていうのにぃ!

こ、こうなったら最後の手段っ!

 

「比企谷君っ!お願い〜……二宮美耶復帰第一号の友達は絶対比企谷君に!って決めてたんだよーっ……」

 

瞳を潤ませて上目遣いでのお願いっ。

 

「……おい……あざといキャラに戻ってんぞ」

「……はっ!」

「はっ!……じゃねぇよ。

ったく、大体お前あれじゃねぇの?折本とかなんとか町さんとかと友達なんじゃねぇのかよ」

「違うってば!折本さん達はまだ未満だから未満!

てかなんとか町さんって酷くない!?」

 

するとチッと舌打ちしながら面倒くさそうに頭をガシガシと掻く。でもちょっと恥ずかしそうに頬を染めながらそっぽを向くと、とってもとっても遠慮がちに、恐る恐る私の右手を握って握手をしてくれた。

 

「しゃあねぇな……言っとくけど友達なんて他に居ねぇから、友達付き合いとか良く分からんからな」

 

そんな超熱くなっちゃってる遠慮がちな右手を見て、私はなんだか嬉しくてふっと笑顔がこぼれてしまった。

だから私は遠慮がちなその右手をギュッと握り返して、嘘偽りの無い今の想いを比企谷君に告げたのだった

 

「えへへ、やったぁ!

えっと、今後ともよろしくお願いしますっ!」

 

 

 

こうして私、二宮美耶は、晴れてぼっちを卒業したのでした!

比企谷君も、もう自分をぼっちだなんて思ってないといいなっ。

 

 

 

 

 

 

────本当は分かってる。こんなの、私の単なる独り善がりに過ぎない行動なんだって。

 

 

私は比企谷君が好き?

うん。それは間違いない。

ずっとずっと心の奥底でモヤモヤしてた、あの辛そうな苦笑いをする比企谷君の、実は結構格好良いとことか、実は優しいとことか、実は笑顔が意外と素敵なとことか一杯見せられたり、心が本当にヤバい所を二度も助けてもらっちゃってたら、いつの間にか好きになっちゃってた。

でも、それはまだ大好きとか愛とかって呼べる程のモノでは無くって、惹かれ始めてるってレベルの物だろう。

 

 

あの日を精算?

まだまだ惹かれ始めてるってレベルの状況なのに、あんな予定調和で振られただけって程度で精算なんて出来てるはず無いじゃない。

アレで精算出来るっていうんなら、私のこの黒歴史な四年間はなんだったの?ってお話だよね。

そして私なんかよりも遥かに苦しんだ比企谷君に失礼だ。

 

 

 

でも…………だからと言って悔やんだまま足踏みしてたって仕方ないじゃん!

だったら、まだまだ私の独り善がりな欺瞞でしかない行動かも知れないけど、それでも私はゆっくりでもいいからここから始めて行きたい。

もちろん比企谷君だけの話ってだけじゃ無くて、明日からの学校生活にも、折本さん達との関係ともちゃんと向き合って行こうって思ってる。

 

今はまだ私のワガママによる嫌々な友達関係かも知れないけど、それが嫌々じゃ無くなって本当の友達になれた時は、独り善がりでも欺瞞でも無くなるんだから結果オーライだよね。

まぁホントは友達以上の関係になれたりなんかしちゃったら、より結果オーライなんですけどもっ。

 

 

でもまぁそれはまた別のお話!

そんな先の未来の話じゃなくって、今思う事はもっと単純な事。

目の前で握手している照れくさそうな顔してる男の子を、同じく照れくさそうな笑顔で見つめながら、私、二宮美耶は思うのです!

 

 

まちがってしまった青春ラブコメを取り戻すのに手遅れなんて事は無い!

寧ろここからバンバン取り戻しちゃうまであるんだぞ!って、ねっ。

 

 

終わり

 






このような回想モブキャラ主人公の胡散臭くて怪しげなSSを最後までお読みくださり誠にありがとうございました!
なんか前回の後書きでも同じこと言ったような気がしますが(汗)


今回の作品は、BOOK○FFで久しぶりにコミカライズ版の俺ガイルを読んだ際に、

「あー、そういやこんなモブキャラ居たなぁ……ちょっと書いてみたいなぁ……」

と思ったのがきっかけでした。
で、試しに1話書いてみた所、自分が他で書いてるオリキャラと被っちゃって、読者さんに「○○にしか見えないんだけどー」とかって言われちゃったら、ラストまでモチベーションを維持出来なそうだなと判断しまして、「じゃあ終わるまでは匿名で投稿すればいいか」という安易で適当な結論に至った次第であります(笑)

ま、まぁ文章が似過ぎてる上に(頑張って極力変えようとする努力“だけ”はしましたがw)題材が変化球なもので、バレてる上で「バレてないつもりなの?」と嘲笑らわれてたフシもありますけどね(苦笑)
読者さんも被ってたしw


とまぁそんな浅い理由ではありましたが、本当に最後までありがとうございました!

二宮美耶の戦いはこれから(奉仕部連行的な意味も含む)なので、もしかしたら後日談なりオマケなりを書く日がくるかも知れませんが、それは話が思いついたらって事でよろしくお願いします☆




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【後日談①】心はまだまだぼっちを卒業できないようです


どうも。大変ご無沙汰しております、ねっころがしです(自虐)



という訳で、お久しぶりの二宮美耶の珍道中となります!
そんなの有り得ないと思ってたんですが、なんと完結してからもスローペースでお気に入りが100ほど増えて、気が付いたら1000を超えていたようです!まっこと有難いことでございます!

二宮美耶?だれだっけ?
な感じで、もう忘れちゃったかも知れませんが、もしよろしければご覧くださいませ(^人^)





 

ぼっちの朝は常人よりよっぽど遅い。

なぜなら部活動など当然やってるワケがないし、教室に早く到着しても話し相手も居ないから、ただただ気まずいだけなのだ。

つまりぼっちにとっては朝のSHRが始まるギリギリに教室に入る事こそが絶対的正義と言える。

 

 

 

……などと冒頭から捻ねた態度を取ってる時期が私にもありました。

私カコイイ!とでも思ってたのかしらね、あの頃の私。

あ、時間軸的に言えば昨日でしたソレ。嘘でしょ昨日なの!?

 

たったの1日──なんか数ヶ月前の出来事みたいな気もするけどそれは間違いなく気のせいのはず☆──で、昨日の自分を過去の黒歴史とバッサリ切り捨てられるのはなぜかって?

それは…………、ふっ、私がついに昨日ぼっちを卒業したからに他ならない!

 

さよならぼっちな美耶ちゃん。こんにちはリア充美耶ちゃん。

そう!私はこれからの青春を、友達の比企谷君と一緒に、手と手を取り合って素敵なリア充生活を送っていくことをここに宣言するのである!

 

※※※※※

 

そんなリア充な私は、なんと今日、この二年近く通ってきた我が高校の、これまた一年近く通ってきた我が教室に、いつもよりも30分も早く到着しちゃったのだ。

やっぱリア充っつったら、朝のSHRまでの貴重な時間を友達とうぇいうぇい面白可笑しく過ごすってのがデフォじゃない?

私知ってるよ?だって昔経験済みだもの!経験済みとかちょっぴり卑猥っ。

 

そして私は扉を開く。教室の……そしてリア充な未来の扉をっ!

おはようみんな!リア充美耶ちゃんの到着だよっ?

 

扉を開けた私に、何人かのクラスメイト達からの視線が集中する。

ふふっ、普段こんな時間に居るはずの無い私の登場にみんな驚いているのね分かります。

 

 

 

…………えっと……その……べ、別にそこまで注目しなくたっていいのよ?みんな。

た、たかだか私ごときがちょっと早めに登校してきただけじゃない……!

 

 

 

 

 

…………やめてっ!見ないでっ!?ぼっちにとって大勢からの視線の集中ってのは何よりの拷問なのよ!ああ……顔が火照っていく……なにこれもう帰りたいっ!

ぼっち卒業したんじゃないのかよ。さっきまでの無駄なリア充自慢の尺返せよ。

 

いやいやそりゃ無理ってもんですよ。だって卒業したって言ったって、つい昨日卒業したばかりのぺーぺーなんですもの。若葉マークだよ、仮免だよ。

仮免じゃまだ卒業してないね。てへっ。

 

 

そもそもなんで私ってばリア充気取って早く登校とかしちゃってんの?よくよく考えたら、私って友達比企谷君だけじゃん。

しかも比企谷君はうちの生徒じゃないんだし、…………あ、あれ?結果的に私ってぼっちのままじゃね?

 

やべーわ……昨日の比企谷君とのやりとりで浮かれすぎて自分を見失ってたわ。

なんか無駄に張り切って早く来ちゃったけど、私ここではぼっちなままだったわ(白目)

 

大体浮かれすぎてって言っても、昨日のアレ(恥ずかしすぎる告白→即玉砕→泣き落としでギリギリ友達おっけー)で浮かれてる私もどうなのよ……

ああ……なんかもう昨夜みたいにベッドに飛び込んで悶えたくなってきちゃった。やっぱり昨夜は悶えちゃってたのね。

 

 

クラスメイトからの視線に我に返った私は、その好奇の視線から逃れる為にすぐさま机に突っ伏すのでした。

やめてもう見ちゃいやん!

 

 

 

おっと!

あまりの無慈悲なクラスメイトからの視線に動揺して、この場所にも友達(未満)が二名ほど居たことをすっかり失念しちゃってましたよ。

まぁその友達(未満)な二名は、きのう面白半分悪ふざけ半分でコッソリ私をストーキングしてきた困ったちゃん達ではありますが。

面白さと悪ふざけが半分ずつって、それもう百パー遊びじゃないですか。なんなの?実は私っていじめられてるのん?

 

まぁあの人達……というには常識人の方に失礼か。

あえて名前は出さないから誰のことか分からないかもしれないけど、あっちのウケる人の方はいじめとかに無縁の自由人。それあるっ!

だから、ウケまくりそれある娘にとっての私は、わざわざストーキング行為を行ってまでも気になる存在と言っても過言ではないはず。

 

よし!せっかくこれから青春を取り戻そうと張り切っている私は、こんな風に人の目を気にしてうずくまっている暇などないのでありますよ!

であるならば私は今日…………!友達未満も卒業してさらなる友達作っちゃおう!

世に言う友達ツクールである。世に言わないね。ツクールのはRPGくらいのほうがいいね。

 

 

そして私は立ち上がる。美耶、大地に立つ!

あ、ここ二階なんで厳密に言うと大地では無いんですけども。まぁガンダムが初めて立っちしたのもコロニー内だし、そこら辺はノーカンてことでオナシャス。

 

……っておい!クラスメイトの方々、すでに私なんて見てねーじゃん。飽きるの早すぎィィ!

でもこれからの私の行為で、また確実に注目集めちゃうんだろうなぁ……

でもまぁしゃーない!青春を取り戻す為ならば、いくらでも恥くらいかいてやんよ!

私は、もう誰一人として私を見てないのをいい事に、コッソリとてとて友達(未満)へと歩み寄る。

思えば、この学校に通い始めて、私から挨拶に赴くのなんて初めてのことでは無いだろうか?

 

い、いや、べべべ別にさ?きっ、緊張なんてしてないのよ?そっ、それはもう全っ然!超冷静、超クール。

そして私は大人で優雅なレディの如く、余裕すら感じさせる程の落ち着き払った所作で、海浜総合人生初の朝のご挨拶を敢行するのであった。

 

 

「…………おおお折本さん仲町しゃんおはようごぜーましゅっ……」

 

……さぁ、どうやって死のうか……

 

※※※※※

 

「…………くくくくくっ…………ぶっ!…………ふ、ふひひっ……!」

「ちょっとかおり!あんたいい加減許してあげなよー……」

「……だ、だってっ……ぶひゅっ……ご、ごぜーましゅって……!ぐっ……ぐふっ……!」

 

私は今、即座に引き返したマイテリトリーにて、制服の裾を涙に濡らしながらぷるぷると突っ伏している。

もうやだもうやだもうやだよぅ……!

 

そんないつ命を絶ってもおかしくない私の横で、折本さんは噴き出すのを堪えて悶え苦しみながら私の背中をバンバン叩いてる。痛い痛い。

もう5分近く爆笑してからのこれだよ?

 

「ご……ごめん……ね?美耶っ……も、もうちょいで……な、なんとか……ぶっ!……た、立ち直るっ、からっ」

 

あんたが立ち直る頃には私はもう二度と立ち上がれないわよ。

もう立ち直らなくてもいいから、いっそ私を楽にしてください。

 

それからしばらくののち、ひーひーふーっ、と呼吸を整え始めた折本さん。相変わらずラマーズ法最強説である。

 

お産の激痛=折本さんのウケ

 

と考えると、やっぱ折本さんのウケってすごいわ。世界中が折本さんで出来ていたなら、ホント世界は平和そうよね。

…………あー、でも……うん。ちょっとウザくて五月蝿くて、私には生きづらい世の中かもね。

 

「ふー……おはよ!美耶」

 

あんたに挨拶してからもう10分くらい経つんですけど、今更おはようなのん?

今日び宇宙空間と地上の交信だって時差はほんの僅かなのよ?ソースはいっこく堂。

あんたと私の心の距離はどんだけ離れてんのよ。

ちなみに仲町さんは私の席に来てくれたと同時に挨拶してくれました。ウケる人の爆笑に掻き消されてましたけどね。

 

「へへ〜っ」

 

なによ……まだ笑うの……?

 

「美耶から朝の挨拶してきてくれたなんて初めてだよねー!

あたし嬉しくって超ウケちゃった」

 

あんたがウケてたのは違うとこだろ。

で、でもまぁ?ちょっと声掛けたくらいで嬉しいとか言われちゃうのは、私だってまんざらじゃなくってよ?悔しいから突っ伏したまま動いてやりませんけどね。

 

「あっ、見て見てかおり!二宮さんの耳がまた赤くなったよー」

「なによ美耶ー。うずくまったままの癖して、ちょっと喜んじゃってんじゃーん!ウケる!」

 

ぐぬぅ……!ちょっと仲町さん余計なこと言わないでよ!なんなの?二宮検定でも狙ってんの?

私、そんなに簡単な女じゃないわよ!?……やべー、我ながら超チョロそう……

 

「う、うっさいなー……もうほっといてよぉ」

 

このままじゃ埒が開かないと悟った私はのそりと起き上がって、涙目で恨みがましく二人を睨めあげる。

 

「あ、やっとこっち見た。へへ〜、美耶おはよう」

「おはよっ!二宮さんっ。ホントばかおりが朝からごめんねー」

「ばかおり!なにそれウケるんですけど!」

「いやマジでうっさいからあんた」

「千佳手厳しー」

 

くぅ……やっぱ朝から挨拶なんて慣れないことするもんじゃないわね。

朝イチのリア充とのやりとりのライフの削られ具合はホント半端ないわ……

 

で、でもまぁ、さっきの挨拶は緊張で近年稀に見るほどのグダグタになっちゃったし、もっかい挨拶してあげようかな……?

 

「……お、おはよ」

「っ!?……きゃー二宮さん、口尖らせて真っ赤な顔して「お、おはよ」だなんて超可愛い!」

「美耶ってば可愛いじゃーん」

 

ふぇぇ……もう恥ずか死くってライフが持たねーよぅ……

 

──とても優しいニコニコ笑顔で照れ具合を覗き込んでくる二人に辱められながら、私はまたばったんと机に突っ伏すのでした。

 

※※※※※

 

そして時は流れてお昼時。

四時限目終了のチャイムと共に私は二人に取り囲まれた。

私の席は廊下側だから、横にマークが着いてしまったら逃げ道などないのだ。

やだなー……こいつら超ニヤニヤしてるし、絶対目的は昨日の話だよー……

 

「おっし、お腹減ったし昼ごはん食べようぜー」

「かおりー……だから男子も居るんだし、お腹“空いた”にしときなってばー」

「なんでー?女同士で居る時は減ったって言うのに、男の前だけ空いたとか言う方がよっぽどダメくない?」

「いやまぁそれはそうだけどさー……

前に葉山君達と遊び行った時だって、あんたの減った発言で葉山君苦笑いしてたじゃんよ」

「そうだっけ?でもそれは葉山君に器量が無いってもんだって。

男の前だけでも上品な言葉遣いを求めるなんて、それ完全なる男のエゴじゃん。

またまだ女ってもんを分かってないよねー。

むしろわざとらしく女を飾らないあたしを見ろよって感じ」

 

お?なんか話逸れまくっていい感じじゃない?このまま逸れててくれれば、昨日のことに触れられずに済むかも?

……にしても。やっぱり折本さんてこういうトコ好感持てるかも。あのリア充王子の前でもこんな砕けた態度がとれる女子って、なかなか居ないんじゃない?

私も、まだ友達(偽)に囲まれて“可愛い私”を演じてた時代は、あたりまえのように可愛らしい言葉遣いを選んでたけど、今となってはそういうのって薄ら寒く思えるもん。

男の前でだけクスクス笑って、女同士だとギャハハと笑う女を散々見てきたもんな。

……あれ?意外と私って折本さんのこと好きじゃね?

 

「あ……私は結構その気持ち分かるかも……」

「お!まさかの美耶が参戦!」

「意外〜!二宮さんて、どっちかって言うとかおりの逆タイプかと思ってたぁ」

「……う、うっさいなぁ……いや、ホラ、私も昔はそうやって自分を飾ってた頃があったからさ……

なんか、男子の前だからって飾らない女の子の方が、ずっと信頼できるかも」

「だよねー!やばい、美耶に肯定されちゃったよあたし!マジウケんだけどー!」

「いや……でもさすがに折本さんは砕けすぎでしょ……」

 

最早砕け散っちゃってるレベル。あんたの場合はもうちょっとだけ飾ろうよ……

 

「だよねー」

「ヤバイいきなり裏切られた!ウケるっ」

 

ホント五月蝿くてかなわんな〜、この人たち。

でもまっ、なーんかこういう飾らないガールズトークもたまにはいっか。

ふふっ、なんかいいな、こういうのって!リア充生活ってのも悪くないかもっ!

──そんな気持ちが、私を油断させてたのかも知れません……

 

 

 

 

 

「……あ、あれだよね。確かにあのなんかキラキラした人なら女子にそういうの求めそうだけど、比企谷君なら飾らない女の子を求めそうだよね。

でも実は「こういうところで恥じらいを見せる女の子ってのもおじさん的に好みだけどなっ」とかニヤニヤしながら思ってそう」

「ウケる!ホントそれっ」

「あ、わたしもちょっと分かるかもー」

 

……お、おおっ……!なんか私ってばリア充のガールズトークに馴染めちゃってる上に、なんか話題を提供しちゃう大活躍を見せちゃったよ!

でも……あれ?なんか失策があったような……

 

「ひひっ、にしても……なぁに?美耶ー。美耶の頭ん中には比企谷のことしか無いのー?

まさかこの会話の流れからわざわざ比企谷出してくるとは思わなかったよ」

 

……あ、し、しまったぁ!!

せっかく話が逸れてたのに、気付かないうちにわざわざ比企谷トークをセルフプロデュースしちゃってた……!

 

「ち、違くて……だって!……その葉山君と遊びに行った時ってのは、ひ、比企谷君も一緒だったって聞いたから…」

「まぁまぁかおりー、そうやって二宮さんをからかわないのっ!

ホントは二宮さん、あれからの話したくって堪らなかったんだよねー?」

「それあるー!」

 

ねーよ。

ぐぎぎ……二人して超ニヤニヤ見てくるんですけどっ……

 

 

「じゃあ仕方ないなー。わたし達がちゃんと聞いてあげるからぁ……」

「あのあとのこと洗いざらい話しちゃいなよー、美耶ー」

「「ほれほれ〜」」

「……う、うー……」

 

そんなこと無いのにっ!恥ずかしいから話したくなんか無いのにっ!

…………でも、ホントはちょっと誰かに話したかったのかもしれないな。自慢にもならないようなあんな情けないお話を誰かに自慢したくって。

 

も、もちろん告っちゃったことは、こいつらなんかに絶対言えませんけどね!?

 

つづく

 






本当にご無沙汰でした!
実は去年の年末辺りから書きたかったんですけど、他に書きたいものやら書かねばならぬものが色々ありまして、気が付いたらこんなんなっちゃってました(^皿^;)


いやいやそれにしてもホント驚きました。
なにが驚いたって、全然話が進まなかったこと(苦笑)
①ではもう比企谷トーク終了まで行くつもりだったんですけど、想像以上に美耶の脳内トークが長くなっちゃって(白目)
美耶はもしかしたら香織よりもめんどくさいヤツかもですね(苦笑)マジで尺返せよ。



というわけで、たぶん三話程度の中身の無い後日談にはなると思いますが、その②でまたお会いしましょう!



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【後日談②】元ぼっちは卑猥な目に合わされる

「と、と……ちに……た」

「……へ?」

「だから……もだち……なったのっ……」

「二宮さん?全っ然聞こえないよ!?」

「ちょっと美耶?もうちょいボリューム上げてくんない?」

「……だーかーらー!と、友達になったんだってばっ!」

「「……はい?」」

「友達になったの!私と比企谷君!」

 

たぶんこれから二人の激しい追求があるであろうことを見越した私は、によによする二人に開口一番メインディッシュを食らわせてやったのだ。

いや、それは本当のメインディッシュを隠すための大盛りオードブル。おいおい、こんなに前菜ばっか持ってこられちゃメインまでお腹が持ちませんよシェフ。ってな具合の為の撒き餌。

だってさ、いくらなんでも告っちゃったことなんて言えるわけないですもの。無理ゲー無理ゲー。

 

「ホントにー!?良かったじゃん二宮さーん!」

 

上手い具合に食い付いてくれた仲町さんは、私の発言に手放しで喜んでくれた、のだが……

 

「……うっそマジで……?

ちょ、ちょーウケる……」

 

と、折本さんはウケるって台詞とは裏腹に全然ウケてはいらっしゃらないご様子。

あれ?絶対に、ウケるそれあるウケるそれある祭りになるかと思ってたんだけどな。

 

「あ……れ?かおり?あんた珍しくウケないの?」

「……え?……は?

い、いやいやいやいや、ちょ、超ウケてますけども?」

 

どのへんがだよ。なんか笑顔が引きつってますけど?あなた。

 

「…………くっ…………」

 

くっ?

折本さんはその引きつった笑顔を俯かせぷるぷると震えだしたかと思ったら、次の瞬間には急にガバァッっと凄い勢いで詰め寄ってきた。

ホント忙しい人だなぁ。

 

「嘘嘘嘘!全っ然ウケない!

くっそぉ!美耶に先越されたぁ!」

 

ああ、悔しかったんですね……ふふふ。

 

※※※※※

 

うがーっ!と全身全霊で悔しがる折本さん。あらあら、そんなに悔しいのん?

 

「ちょっとかおりー……。せっかく二宮さんが大好きな比企谷君と友達になれたって喜んでんだからさー」

 

ちょっと待って?大好きなとか余計な一文入れなくたってよくない?

 

「ぐぬぬっ……そ、その点に関しては嬉しいんだよ?嬉しいし良かったじゃんて言ってあげたいんだけどー……

ぐぅ……でもまさかたった1日で先越されちゃうとは思わなかったぁ!」

 

……てかさ?あんた悔しがったり友達になられちゃうとは……とか言ってっけどさ?

あんたが私を比企谷君の元に行かせたんすよね?私、あんたに言われなかったら行ってないかんね?

 

「……あ、あのさ折本さん……?目ぇキラキラさせて行ってこい行ってこいと自分で言っといて、友達になれると思ってなかったってヒドくない……?」

 

 

マジ最悪だなこんにゃろめ……と、半目になって睨んでやると、こいつはあっけらかんとこう宣う。

 

「だってさ、比企谷だよ?比企谷。

あたしてっきりさー、もし美耶が「仲良くして欲しい」みたいなこと言っても「いやなんでだよ。やだよ面倒くせぇ」とか言って断るもんかと思ってたからさー」

 

ひ、ひでぇ……あれだけ押せ押せムードで私をけしかけといて、断られる前提だったのかよ。

 

「でもそれは比企谷のことだからどうせ単なる捻くれじゃない?

ホントは自分だって仲良くしたい癖に意固地になっちゃうってヤツ?

だからそこを利用して、ホントは仲良くしたいとか思ってる比企谷を美耶で釣って遊びに連れてったりして、そのままあたしも一緒に友達になっちゃえばいいんじゃん?とかって思ってたのにさー」

 

こ、このアマ……!私を捨て駒にしてから、尚且つ餌にする気だったのかよこんちくしょうっ!

……ま、そうでもしないとあの捻くれ者の比企谷君は、自分どころか私とも仲良くなんてしてくれないって思ったんだろうけどね。

 

それからも腕を組んでんーんー唸ってた折本さんだったんだけど、なぜかふっと笑ったかと思うと急にニカッと私を見てきた。

 

「んー、ま、いっかー!めでたいことはめでたいもんねー。やっぱちょっと悔しいけどさっ。

ひひっ、美耶おめでとさん!」

 

ったくこの女はマジ自由人だな。

ふふっ。ま、こんなんだから私を受け入れてくれたんだろうけどさっ。

 

でもね?あなたはひとつ大きな勘違いをしてますよ。

だから私はその勘違いを訂正すべく、まるで鼻で笑うかのようなとても冷めた態度でこう言ってやるのだった。

 

「……べっ……別に大しておめでたいことなんてないしっ……」

「真っ赤な顔でニヤニヤしてなに言ってんの?やばいこれがツンデレってやつ!?ウケる」

 

うるせーよっ。

 

※※※※※

 

「でさでさ!」

 

なんだよ……折本さんの楽しそうな表情って、不安感しか生まないから凄い。

 

「あの比企谷をどうやって口説き落としたの?」

「……口説っ!?」

 

ちょっとまるで私が交際を申し込んでOK貰ったみたいな言い方やめてもらえませんかね。

交際申し込んで振られてますんで私(白目)

 

「だってさー、あいつ確かに中学の時より超ウケる奴になってていい感じだけどさ、それ以上にめんどくさい奴になっちゃってんじゃん?

どうすればあいつと友達になれたのか後学の為に教えてよー」

 

い、いやー……あれは参考にならないっすよマジで。

 

「絶対に並大抵じゃ折れないだろうと思ってたから、美耶が断られんの織り込み済みの上で、二人がかりで落としてやろうと昨日遊ぶ約束取り付けたのになぁ」

 

……ん?約束なんか取り付けてたっけこの人?

と思ったんだけど、そういや昨日……

 

『じゃーねー!

あ!比企谷ー、今度どっか遊びに行こうよー』

『なんでだよ行かねぇよ』

『いいじゃん、ケチー!んじゃ約束ね!』

『勝手に約束取り付けんな』

 

…………いやいや、どう解釈しても有無を言わさず断られてたでしょ。

うっそ?リア充の中ではアレで約束のOKサインと取られちゃうの?

やっぱリア充ってすげーわ。

 

「……かおり、あんた超嫌がられて断られてたじゃん……」

「え?あれって断られてたの!?ウケる」

 

すげーのはリア充じゃなくて折本さんだけでした。

 

「あははー、どんまいどんまーい!」

 

どこにも Don’t Mind の要素がねーよ。あんた少しは気にしろよ。

 

「ま、それはそれとしてさー、どうやったの!?」

「……え、い、言わなきゃダメなの?」

「まぁもちろん強制はしないけど、ここまで来たら言っちゃいなって!

言わないんなら言わないで、今度本人に直接聞いてみるけどさー」

「やめてっ!!?」

 

あんたそれを強制って言うのよ?知らなかった?

アレ(告白)を抜いたとしても、とてもじゃないけど本人に問いただされるとかあり得ない。それなんて拷問?

ぐっ……ならば言うほか無いというのか……まぁ比企谷君も答えないとは思うけどもっ……

 

「な……」

「「な?」」

「……な、泣き落とし……的な……カ、カンジ?」

「「……は?」」

「だ、だから……泣き落とし……たのよ。

……もちろん最初は「なんでだよやだよ」ってバッサリ断わられたけど……

そのぉ……な、涙目になって上目遣いで……、「お願い、二宮美耶復帰第一号の友達は比企谷君がいいの」……って……」

 

ぐぉぉ……こ、これは想像を遥かに超える恥辱っ……!

比企谷君本人に問いただされたら嫌だなって思ったから仕方なく答えたけど、どっちにしろ地獄でした。これはマジやばいぃ!

私は顔の……全身の熱さに耐えきれなくなって、再度ばったんと大好きな机ちゃんへとダイブする。もう私の味方はお前だけだよ机〜!ご主人様を慰めておくれよぅ!

 

 

そして、昼休みが終わるまでの間は決して顔を上げるまいと心に決めていた私の頭上で、ガッカリとした折本さんが仲町さんと言葉を交わす声が聞こえたのだった。

 

「……あたしがソレやっても無理だよねー……どう考えても」

「かおりがソレやったら最早ギャグにしかなんないもんね」

「それある!」

「……あんたちょっとは心折れなよ……」

 

すいませんね、最早ギャグにしかならないような事を全力でやった上に心がバキバキに折れちゃってて。

あー……早く昼休み終わんないかなー……制服の袖が水分過多になっちゃうよ。

 

※※※※※

 

その日の放課後。私はまたもや取り囲まれていた。

てかさ?なんでHR終わった瞬間にはすでにがっちりガードされてるのん?

あなたたち、HRの最中からほふく前進とかで誰にも気付かれないように私との距離を縮めてきてるのん?

スネークだって気付かれる程の高難度ミッションよ?あなたたちはきえさり草も無しにエジンベア城に潜入出来ちゃうくらいの潜入者なの?

 

「ねぇねぇ美耶ー」

「……な、なんでしょうか」

「今日ってさ、これからどーすんの?」

「こ、これから……?」

 

な、なんのことでしょうかね。

 

「トボけないトボけないっ。だって美耶さ……」

 

やだやめてっ!

 

「今日、雪ノ下さん達から呼び出し食らってんじゃーん」

 

「」

 

折本さんの口から放たれた、良く聞き取れなかった謎の言語を聞いた私は、そっと視線を逸らす。

 

「あ、超目ぇ逸らした、ウケる!美耶ー、現実見たほうがいいよー」

 

やめて現実を直視させないで!ずっと現実を見ないようにしてたんだから!

 

「……や、やっぱり行かなきゃダメかな……」

 

そもそも行く義務とか一切無いんですよね、この案件。

べっつに雪ノ下さん達とか、私と一切関係ないしー?

ピーと口笛でも吹き出しそうなくらい現実から逃避していると、折本さんが核心を突いてきやがりました。

 

「まぁ実際行く行かないは美耶の自由だけど、行けば今日も友達の比企谷に会えるんだよ? 友達の」

 

そう友達を強調する折本さんは、やっぱりまだ悔しいんですね。悔しいのう悔しいのう!

 

にしても……実際そうなのよね。

今日の半強制呼び出しには応じたくない私なんだけど、その一方で今日も比企谷君に会えるのかと思うとワクテカになっちゃってる私も居るのだ。

てかもうコレはぶっちゃけ友な情じゃなくてLOVE入っちゃってますよね私。振られましたけど、テヘッ。

 

これで今日もし私バックレたら、比企谷君が一人で針のムシロになるわけじゃない?

だったら二人でくんずほぐれつムシロになった方が、もしかしたら比企谷君も私に対して友な情とは違う情が生まれちゃうかも。テヘッ。

 

「ちょ、ちょっと二宮さん……?悲壮な顔とニヤニヤ顔が交互に出てきてちょっと気持ち悪いよ……?」

「ぷっ!やっぱこういうトコなんか似てるよね、比企谷と美耶って。ウケる!」

 

比企谷君と似てるって言われるのは万更じゃないけど、顔見てウケるとか気持ち悪いとか言われるのは花の女子高生としてどうなんですかね。

 

「し、仕方ないなぁ……ホント行きたくないけど……い、行ってこようかな……」

「おー、美耶やる気じゃーん」

「やっぱ二宮さんて比企谷君大好きだよね」

「だっ、大好きとかそういうんじゃ無いしっ……!」

「「はいはいツンデレツンデレ」」

 

うぐっ……ちょっともうなんなんですかねこの人たち。

 

 

「てかさー、美耶が比企谷が大好きなのは分かったけどさ」

 

だからそうじゃないのよ?と何度言えば……

 

「そんなにLOVEなのに友達でいいの?」

「……へ?」

「だって、これから更に比企谷大好きっ娘たちが居る巣窟にお呼ばれなわけじゃない?

それ以上の関係になんないと心配じゃん」

「い、いや……だからね」

「なんか今の美耶見てると、雪ノ下さん達にあてられて、今日あたり勢いで告っちゃいそうに見えるんだよね」

「あー、それなんか分かるかも!二宮さんてシャイに見えて、結構行動的だったりするもんね」

「だよねー」

 

なに勝手に話進めてんのよ。告るわけ無いじゃない。だってすでに玉砕済みなんだから。やだ目にゴミが。

 

「それはそれで由々しき事態なんだよね、あたしとしては。

ただでさえ友達として先越されてるのに、まさかの彼氏にでもなられたら超悔しいし!だったらあたしが先に告ってみたいなー、みたいな?

ヤッバい超恥ずかしくて超熱くなってきちゃってるんですけど!ウケる」

 

そう言って、頬を染めてニシシと照れ笑いをする折本さん。あらやだちょっと可愛らしいじゃない。

でもね?折本さん。それ今まさにクラスメイト達に聞かれてますからね?

あなたが一人で自爆するのは構わないけど、思いっきり私も巻き込まれてるんですのよ?

 

「べべべ別に私比企谷君の事なんてなんとも思ってないし!?

告白なんかするわけ無いじゃん!ただの友達だもんただの!」

「昨日カフェで比企谷に抱き付いてたくせに」

 

やめてぇぇぇ!?

 

「ちょっと折本さん!?あれは引っ張たかれそうになった比企谷君を庇おうとしただけでしょ!?」

「そのわりには比企谷に抱き付いたままなかなか離れなくなかったー?ウケる」

 

なんかによによと挑発してくる折本さん。

こいつマジ許すまじ。

 

「あ、あれは足が竦んじゃっただけでしょお!?もうホントやだこの人!

と、とにかく今日なんて比企谷君に告白なんてするわけ無いっての!」

「どうだかねー」

「絶対しないもん!するわけないもん!」

「絶対とかそんなの分かんないじゃーん。なんでそんなに言い切れんのー?」

 

なんだよ小学生かよこの女、しつっこいな。

そんなん絶対って言い切れるに決まってんじゃない。

 

「だって私、昨日バッサリ振られたばっかだもん!」

 

 

……ふっ、どうよ。異議さえも認めない程のこの見事な論客っぷり。弾丸で論破しちゃったよ。これ以上のQ.E.D証明終了とか無くない?………って、

 

「………………あ゛」

 

Oh……やっちまったぁぁ……

恐る恐る折本さんを見ると、なんかすげぇしてやったり顔してますけど。

 

「やっぱりねー。なーんか隠してると思ったんだよねー。

てか美耶アクティブ過ぎウケる!」

「ウケねーよ!」

 

もうやだこいつー!!なに私ってば無理やりハメられたの?

無理やりハメられたとかちょっぴり卑猥☆ってそんな場合じゃねーよ。

 

目の前では、お腹を抱えて笑い転げてる折本さんの頭をスッパーンとはたいてる仲町さんといういつも通りの平和な光景。

 

「ちょ!?あんたやりすぎだよ!このばかおり!」

「痛った!?千佳それちょっと容赦無さすぎだから!」

 

うぅ……もうお嫁に行けないよぅ……

またしてもプルプルと顔を真っ赤にしている私に、はたかれた頭をさすりながらも折本さんはビシィッと指を差す。

 

「へへ〜!ま、フラれちゃったとは言えやるじゃん美耶!さすがあたしの友達、超ウケる!

うっし。あの美耶がここまで頑張ってんなら負けてらんないよねー。

あたしもいつまでもウダウダやってないでとっとと比企谷に友達申請して、試しに告ってみよっかな!?

ま、今日の呼び出しが無事に済んだらだけどねっ」

 

そう言ってパチリとウインクする折本さんに、たぶん茹でダコみたいになっているであろう私は、涙目を恨めしげに向けてこう言ってやったのでした。

 

「……あんたなんか友達じゃないやい……!」

 

 

つづく

 





ありがとうございました!

てかホント進まない……前回は美耶の脳内で無駄に長くなっちゃって、今回は折本のフリーダムっぷりで長くなっちゃいました(汗)


それではまた次回お会いいたしましょう!
はたして次回こそブラッディーフェスティバル開催会場まで辿り着けるのか!?


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【後日談③】かしこまられる元ぼっち

 

「ねぇねぇかおりー、今度駅前に出来たばっかのクレープ屋さん行こうよー」

「それあるー!あたしもちょ〜っとだけ気になってたんだよねー」

「だよねー」

 

……………。

 

「あ、そうそう!駅前と言えばこないだ由香がさぁ……」

「えー!?なにそれマジウケるんだけどー」

「でっしょぉ?」

 

…………。

 

「ってかさー、なんで美耶ってばさっきからずっと黙ってんの?ウケる」

「そうだよミヤミヤ〜!ミヤミヤも交ざってきなよー」

 

 

なんだよミヤミヤって。あんたついさっきまで二宮さんて言ってたじゃねーかよ、なんとか町さん。

 

…………いやいやそうじゃなくってさぁ。あっれー?なんかおかしくなーい?私ついさっき絶縁宣言しませんでしたっけ?なんで普通に3人仲良く帰ってるんですかね。

 

「? ……てか美耶さっきからなんでぶすっとしてんの?」

「そこから!?」

 

ちっきしょ!無視してたのに私のツッコミスキルがオートで発動しちゃったじゃないか!

 

「やっと喋った。ウケる」

「ウケねーよっ!

……あ、あのさ、私つい今しがたあなたに絶縁宣言しませんでしたっけ……?」

「絶縁宣言とかおっも!美耶面白すぎ!」

 

いやいや絶縁宣言に対して満面の笑顔でウインクにサムズアップっておかしいでしょ。

 

「ミヤミヤって唐突に意味分かんないこと言って赤面するとことか可愛いよねー」

「あなたも大概おかしいからね!?なんで二宮さんからいきなりミヤミヤになっちゃってんの!?

距離の詰め方おかしくない!?」

「ツッコミ冴え渡りすぎててちょおウケる」

「いやウケねーから!」

 

なんなの?私をツッコミマスターにでも育て上げたいの?世界を獲らせたいの?

現時点でもあなた達相手ならすでに結構イイ線行っちゃいそうなんですけど。

 

「あ、そっかぁ!さっき比企谷に告って振られたのが発覚しちゃったのが恥ずかしいのかー。

もー、美耶ってば可愛いんだからー」

「発覚した事実じゃなくって、無理やり発覚させられた事実を問題視してんのよ!」

 

もうやだリア充っ……!

私のライフは対リア充耐性が無いから、ごりごりと削れるほど無いんですよ。こちとらリア充の弱パンチがかすっただけでKOなんすよ。You Lose! OK?

 

「ま、まぁまぁ、いーじゃんいーじゃーん。抜け駆けして友達にはなれたんだからさぁ!」

 

てへっ、じゃねーよ。てかあんたやっぱ根に持ってんでしょ。私を捨て駒に使ったくせに。

 

「だ、大体さぁ……なんで着いてくんのよ。さっき教室で決別の挨拶したじゃん……」

「決別とか重っ!ウケる」

 

ふぇぇ……もうやだよぅ……!

 

「まぁまぁ、いいじゃんミヤミヤー、友達なんだし。ちょっと駐輪場まで一緒に行くだけじゃん」

「だからミヤミヤやめて!?……そ、それに別に私、あなた達と友達になった覚えなんて無いって…」

 

そこまで言うと、仲町さんは私の言葉を遮ってきた。ぐいぐい来るわね。

 

「だってさっきミヤミヤさ、「二宮美耶復帰第一号の友達は比企谷君がいいの」って言ってたでしょ?

だったらもう第一号が比企谷君で決定したんだから、友達未満?とかのわたし達が二号三号だっていいじゃーん」

「ヤバい二号三号とか、あたしら美耶の愛人臭が漂っててウケる!」

 

うっせーわ。

 

「わたしさ、ミヤミヤの友達になりたいな……。ダメ、かな……?」

 

ちょっと仲町さん?潤々お目々で上目遣いとか、なんかあなたちょっとあざといんですけど。それズルくない?

 

「〜〜〜っ! ……ま、まぁ、し、仕方ないから……と、友達になってあげなくもなくもなくもない……わよ……?」

 

血を吸うわよ?

 

「きゃー! 真っ赤になっちゃって超可愛いー!」

 

……ちょ、ちょっと抱きつかないでくれるかしら。柔らかい肉まんが二つ当たってますんで。うん。Bの79。…………よしっ、ギリギリ勝った……!

…………これが、私 二宮美耶もかなりの小ぶりサイズという事実が発覚した瞬間である。全米が泣いた。

 

「結局どっちなのか良く分かんない上に超上から目線!ウケるっ」

 

ホントうっせーわ。健康的でハリのありそうな大きめの美乳は黙ってて頂けませんかね。そしてあんたにゃ言ってねーよ。

 

「へへ〜。よっし!じゃあ今度こそあたし達と美耶は友達ってことで!」

 

だからあんたには……

 

「ふふっ、よろしくね!ミヤミヤっ」

「……だ、だからミヤミヤじゃないってばよ……」

 

べ、別に嬉しくなんかは全然無いんだけど、なんだか顔が熱くなってきちゃって、俯いてセリフがゴニョゴニョしちゃった私の両脇を、ニヤニヤしながら肘でぐりぐりしてくる私の新しいお友達のお二方なのでした……。ええいっ!やめい!

 

※※※※※

 

「じゃーねー美耶ー!滅菌されちゃわないようにねー」

「……ひどっ!?」

「へへっ、比企谷によろしくね!

あ!あとさ、比企谷にいつ遊びに行けるのかちゃんと聞いといてねー。

出来れば二人がいいけど、比企谷が照れくさいって言うんなら美耶も一緒でいいからって言っといてー」

 

なんなの?私はオマケなの?絶対言ってやんない。

てか滅菌ってホント酷すぎないかしら……。そ、そりゃ確かに比企谷ハーレムのあの子達にとっての私は間違いなくしつこいヨゴレなんですけどもね?

 

 

駐輪場にて解散かと思われた私達の軽快なガールズトーク(美耶は含まれず)なのだが、駐輪場で別れたのは仲町さんだけで、結局そのあとは一番うるさいのと二人で総武高校の近くまでの軽快なガールズトーク(美耶は含まれず)となりました。

すごいよね、自転車漕ぎながらずっと一人で喋ってましたよこの人。

 

元気に手をぶんぶん振りながらよろよろと去っていく折本さんを見送る私。……あー、ホントウザい。付き合いきれないわよ、まったく。

……とかなんとか言いながらも、あの子の背中を見送る目元と口元がついつい緩んじゃってる私って、もしかしてツンデレってやつなんですかね。言わせんな恥ずかしい。

 

 

そして私は一人キコキコ自転車漕いで、ついに魔王城の目前まで辿り着いたのです。

どうしよう。私まだ虹のしずく入手してないし、一旦聖なるほこら(愛しの我が家)に帰ってもいいですかね。私ドラクエ3好きすぎだろ。

 

 

「っはぁ〜〜〜……」

 

眼前にそびえる総武の校舎を見上げて深々と溜め息を吐く私。っべー……夢じゃなければ確か昨日も来たわよね、ここ……

しかもイケメンとか天然水に絡まれたり、比企谷君を大声で呼び止めて無視されたりと、総武生皆々様の痛々しい視線受けまくって大恥かきまくって、「二度と来るかぁ!」と叫びかけたその翌日にまた来ちゃうとか、私ってどんだけドMなのん?実はお仕置きにハァハァと興奮しちゃうタイプなのん?

 

そしてそんな私の現状の表情は、二日連続でここに来てしまった後悔からくる引きつった表情と、今日も大好……友達の比企谷君に会える嬉しさからくる緩みきった表情、そしてこれからハーレム女子に囲まれるであろう絶望からくる愕然とした表情がぐるぐるとローテーションを繰り返している。どうしよう、下校中の生徒さん達から見たら完全に変態さんじゃないですかやだー。

これ比企谷君だったら確実に通報されちゃってるところだよ。私可愛い女の子で良かった!うふ。

 

 

さ、茶番はこれくらいにしといて、改めて校門の外から校内を見渡してみる。

──えと……こ、これどうすればいいの……?どこ行けばいいの……?来なさいとか言われたから仕方なく来たはいいものの、勝手に入っちゃってもいいのかな……?

 

──ちょっと!?入校許可をバンバン出すとか言ってた生徒会長さん!?まずあんたがココに居てくんなきゃ、出すもんも出せないじゃん!私、お恥ずかしながら比企谷君とまだ連絡先も交換してないんだよ?

……あ、比企谷君の連絡先超欲しい。じゃなくって!どうすりゃいいのよ。昨日に引き続き、さっきから超ジロジロ見られてますし私。

……これはあれだ。よし帰ろう。即断即決が大事よね。あーあ……比企谷君に会いたかったなぁ……

 

「あの〜、海浜の生徒さんですよね?ウチになにか御用ですか?」

 

そんな時、比企谷君に後ろ髪を引かれながらも踵を返そうとした私に、とある一人の総武生からお声がかかったのでした。

 

 

ん?なんだかこの娘、ちょっと折本さんに似てるわね……

 

※※※※※

 

「あ、え、えっとー……」

 

突如声を掛けられてプチパニックな私。ぼっちはアドリブに弱いんです。

 

しっかし……総武ってレベル高くね……?

たまたま声を掛けてきただけのモブちゃんが折本さんクラスのリア充美人とか、一体どうなってんのよこの学校。こんなに物語に都合のいい学校なんかあるかよ。フィクションかよ。

 

……ふむ。しかしせっかく声を掛けてきてくれたわけだし、仕方ないからこのリア充オーラ溢れるモブちゃんに聞いてみますかね。ホントは帰りたかったのにちくちょう。

基本リア充なんかには関わりたくない私だけど、……うーん……なんでだろ。なんだかこの娘ならイケそうな気がするんだよね。どことなく折本さんに似てるから、かな?

 

「あの、ですねー。ちょっと生徒会長さんに呼ばれて来たんですけど、勝手に校内に入っちゃっていいものかどうか分かんないんですよー」

 

実際は生徒会長にじゃなくて雪女に呼ばれたんですが。まぁ、いろはすちゃんにも来いやコラと言われたし間違ってはいないよね。こう言った方が早いし。

 

「呼ばれ?……あ、じゃあやっぱ生徒会関係のお仕事かなんかで呼ばれて来たんですかねっ。ちょっと待っててくださいねー」

 

にひっとそう言うと、モブちゃんはブレザーのポケットからスマホを取り出して、どこぞに電話を掛け始めた。

あ、確かに折本さんにも似てるけど、私の趣味的な見方でいくと、崖登りしたり吊橋渡ったりと熱いアイドル活動をしてる「おつかー!」でお馴染みのひなきちゃんに似てるかも。このにひっとした元気な笑顔とか。(注・崖登りも吊橋渡りもアイドル活動にはなんら必要のないスキルです)

 

「……あ、いろはー?……あのさぁ、海浜の生徒さんが校門まで来てるんだよねー。どうすればいいー?」

 

……ん?いろは……?

あ、ありゃ?まさか私たまたまいろはすちゃんの友達にゲットされちゃったの?

 

「……んー、そうそう……ポニテの可愛い…………ん?はいはい……裏口の?……教員用の通用口…………あー、はいはいあそこねー……っとぉ、そこまで連れてけばいい?」

 

なんか可愛いとか言われちゃってますけど私っ!でもいろはすちゃんの友達なら私の方が先輩になるんだから、遠慮しないで美人のお姉さんとか綺麗なお姉さんとか言ってもいいのよ?

胸部は私の方が後輩みたいですけど。全米が泣いた。

 

「ほいほーい!……かしこまっ☆」

 

「!?」

 

「……はっ!?」

 

「」

 

「」

 

……ちょっとこの娘かしこまっ☆とか言いましたよ?そして引きつった顔して明らかに私から目を逸らしましたよ?

ああ……(察し)

 

「……そそそそれじゃ私に着いて来てくださいねっ……!な、なんか教員用通用口の前で待っててもらってとか言われたんでっ……」

 

「……あ、うん」

 

『ぼっちとぼっちは引かれ合う。それはもうニュータイプばりに』などと過去の偉人(昨日の私)が言ってたこともあったけど、この世にはそれと同様に、深層心理の奥深くで引かれ合うものが他にもあるのだ。

……この娘、こんなにリア充な見た目なのに残念なオタなのね……。だからか、私が初見からこの娘ならイケそうって感じたのは。

 

そして私は『べ、別に私オタとかじゃないんですけどもっ!?』と、白々しく背中で語る残念リア充かしこまっ娘ちゃんに連れられて、ついに総武高校の門をくぐるのでした。

……こいつオタはオタでも隠れるタイプか……。隠れてるつもりで全然隠れられてない辺りが、漂う残念さの所以か。

 

※※※※※

 

「あの〜……」

 

駐輪場を借りて愛機を停めさせてもらい、教員用通用口とやらに向かう道すがら、引きつった顔に無理やり笑顔を貼り付けたかしこまっ娘ちゃんが、気まずさに耐えきれなくなったのかなんか話し掛けてきた。

かしこま☆に反応した私もあなたと同類なのは分かってんだろうし、無理に潜まなくてもいいのに。

 

「はい?」

「そういえば今日はどのようなご用件でウチにいらっしゃったのかなー?なんて」

「……へ?ん、ん〜と……」

 

どのようなご用件でと仰られましても、ハーレムの男に手を出したら女共に呼び出されちゃって〜、てへっ。なんて答えられるわけないしなぁ……

てかこの娘いろはすちゃんの友達ならハーレム事情くらい知ってんのかな。

 

「……や、やー……なんて言ったらいいのか……。あ、あれ!あれだ!ちゅ、中学の時の友達に会いに来た、みたいな?」

 

愛に来た、なんつって。

 

「中学の、友達……?それでなんでいろはに呼ばれたんだろ……?

確か今日はHR終わったら猛ダッシュで奉仕部行ってたような……」

「奉仕部!?」

 

あ、やっぱこの娘奉仕部事情とか知ってんのね。

 

「あ、れ?……その中学のお友達というのは奉仕部の人なんですか……?」

 

あれ?なーんか空気が変わったぞ?

 

「……えと、その奉仕部というのはイマイチよく分からないんだけど、まぁその関係者……かな」

「そ、そうなんですかー。……ゆ、雪ノ下先輩か、もしくは由比ヶ浜先輩、かなー……?」

「……あ、や……ひ、比企谷君……っていう男の子なんだけどー……」

「ひ、ひきっ!?」

 

はい。完全に事情通ですね。なんなら事情関係者だったりして。せめて情事関係者じゃないことを祈るばかり。

するとかしこまっ娘ちゃんは「……マ、マジかよあのスケコマシ……まだこんな隠し球があんのかよっ……」などと、愕然とした様子でブツブツと呟いている模様です。

あのね?私難聴系じゃないから、そのセリフ全部聞こえちゃってるからね?

 

 

程なくして目的地へと到着した私達。

かしこまっ娘ちゃんは、警戒心からか口元をヒクヒクさせながらもなんとか笑顔で声を掛けてくれた。

 

「あ、あの、ここで待ってればいろは来ると思うんで……。じゃ、じゃあこれで失礼しま〜すっ……」

「あ、えと……わざわざありがと……」

「いえいえー……」

 

なにか思うところがあるのか、フラフラとした足取りで去っていくかしこまっ娘ちゃんの背中を見つめながら私は思う。

 

 

 

 

 

────マ、マジかよっっっ…………!!なんなのこの学校!?

たまたま声を掛けてくれた女の子までもが比企谷ハーレムの一員なのっ!?やだなにそれ怖い!やっばい!ちょっとこれ私の想像の範疇超えてんだけど!?

 

だって雪女(ツンデレ枠)でしょ?メロン団子(おっぱい枠)でしょ?暗黒天然水(あざと後輩枠)でしょ?……あとイケメン(やらないか枠)もか。

なんかそう考えると、この学校のどいつもこいつもがみんなハーレム要員に見えてきちゃったよ。

かしこまっ娘ちゃんだけじゃなくて、さっきすれ違った時にガン付けられた長髪ポニーテールの美女ヤンキーとか、すぐそこに舞い降りてる真っ最中のテニス部の美少女天使とか、みんなみんなハーレム要員に見えてきて困るんですけど。

さ、さすがにそんなわけ無い……よね?

 

そんな、困惑を隠せずにただ立ちすくむ事しか出来ずにいた私の肩がぽんっと優しく叩かれたのだった。

 

 

「お待たせしましたー!さ、もう尋問始まってるんでちゃちゃっと行っちゃいましょうかー」

 

尋問、もう始まってるってよ。

 

 

つづく

 





スミマセン><
今回出てきたかしこまっ娘ちゃんは単なるモブキャラですので、知らない方は流してくださいませ(汗)


さて、もしかしたらサブタイで分かった読者さんもいらっしゃるかとは思いますが、ついにアレを出しちゃいました。
まさか自己満なオリキャラクロスをやってしまう日が来ようとは……お恥ずかしいかぎりでございます(´Д`;)
前々から一緒に居るシーンが見たいというお声をたくさん頂いていたもので……
ちなみにどの世界線のアレなのかは、読者さまの好みのご想像にお任せします。


と、いうわけで、アレの出演はさておき、ようやく美耶ちゃんが総武高に辿り着きました。
作者 折本大好き過ぎだろ。


そして、私にしては珍しく、奉仕部内での様子もラストシーンもまだ考えてない(思いつかない汗)状態なので、たぶん最終回であろう次回の更新はちょっと遅れちゃう……かも?


ではではまたお会いいたしましょう(^^)/


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【番外編3.5】元ぼっちにかしこまり【オマケ】




今回は完全なるオマケです!

本編とは一切関係の無いアイツ視点のお話なので、こういうのが苦手な人はご遠慮願います><


あくまでもオマケとしてお楽しみくださいませ(汗)




 

 

 

「じゃねー、また明日ー」

 

「じゃねー」「行ってらー」「ばいばーい」「また明日ねぇ」

 

3月のとある日の放課後、今日も今日とて私の友達 一色いろはが颯爽と教室を飛び出していった。

いつもと変わらないような光景に見えるが、ヤツの様子はいつもと若干の違いを感じないこともない。てか違う。違いすぎるっ!十万石まんじゅう!

おっと、埼玉に魂を売っちゃイカンよ。

 

「なんかいろはちゃんさぁ、いつもと様子違く無かったぁ?」

 

「ねー。比企谷先輩んトコ行くにしたって、楽しそうというよりは……なんか若干ご機嫌斜め?」

 

「そーいや朝からなんかちょっとイライラしてたね。なんかあったんかな、アイツ」

 

やっぱ違うと感じてたのは私だけではないようで。

……ケッ、なにがあったか知んないけどさ、全速全力で比企谷先輩んとこに行けるだけで十分幸せじゃねーかよ。ケッ。

 

「やべー、香織の顔が比企谷先輩の目みたいに腐ってんだけど」

 

うるさいよ!なんだよ目どころか顔腐っちゃったの!?私!

 

「まぁ仕方ないんじゃない?ジェラジェラしちゃうよねー、香織ー? とっとと諦めて、とも君みたいな素敵な彼氏早く作っちゃえばいーのにー。あ!とも君みたいな素敵なのはなかなか居ませんけどもぉ」

 

腹っ立つわー、そのツラ。早く別れちゃえばいいのに。

あ、でも別れたら別れたでアホみたいにめんどくさくなりそうだから、やっぱあんた達はそのまま永遠に結ばれちゃえばいいよ。

いやん香織ってばツンデレ可愛い☆

 

「でもその荒んだ表情は残念さが際立っちゃうから気を付けた方がいたいぃぃぃ!」

 

流れに乗ってお前まで調子のんなよ?いやマジでなんであんたに残念呼ばわりされなきゃなんないの?

お前よりは残念さが若干弱いってプライドがあるのよ私ゃ。

なにその可哀想なプライド!こういうのって目糞鼻糞っていうのよねっ。やだ目にゴミが。

 

そして私は襟沢の顔をガッチリキャッチでギリギリと締め上げながらスクッと立ち上がる!

この際だからあんたらにはっきり言ってやんよ!この熱い思いってヤツをさぁ!

 

「べ、別に私 比企谷先輩のことなんて好きでもなんでもないんだからねっ!?」

 

「はいはいツンデレツンデレ」「そーだねー、香織ー」「て、手をっ……手を離してっ……」

 

「」

 

……ちょ、ちょっとそこの暖房さん!?今日はちょっとばかり効き過ぎじゃないかしら!?

……熱いよぅ……誰かそこの暖房を消してよぅ……!

 

 

──そしてとても大切で大好きな友人達との素敵なガールズトークを終えた私は、人知れず涙を拭きながら部室へと歩を進める。

……なんだよちくしょう……!みんなして私の可憐な乙女心を弄びやがってよぅ……!

 

いまに見てろよ!?絶対幸せになってやるんだからぁ!

と、仄かな平塚フラグを立てながら部室の扉に手を掛けたのだが……あ、なんだよ今日部活休みかよ……

 

あっれー?そんな話あったっけぇ?ちゃんと連絡してくださいよ部長ー。

そして一応確認の為に取り出したスマホをチェックした私は、危うくスマホを床に叩きつける寸前になりました。

 

[部長

 

ごっめーん!今日デートの約束があるんだったー!

てなわけで今日の部活動は休止としまーす☆

 

なんだよー、お前ら突然の休暇とか超ラッキーじゃーん!]

 

 

こんの糞アマ……

 

 

× × ×

 

 

てなわけでホントに予定外の時間が出来てしまいました。

ふむ、とても大切で大好きな友人達(笑)はもう帰っちゃっただろうしなぁ。

 

んー……よっしゃ!んじゃ千葉にでも遠征してラノベかマンガの新刊漁りにでも行っちゃいますかねー。

んで楽しいの発見できたら、今度比企谷先輩と交換っこしっちゃおーっと♪ふひっ!

 

そんな淡い期待に胸躍らせて校門まで歩いて来たんだけど、そこで私はいつもと違う風景を目撃したのでした。

 

「……ん?」

 

おやおや?なんか校門の前で他校の生徒が校内を覗きこんでるぞ?

 

その子は、ちょっと小柄で──ちょうどウチのいろはくらいかな?──なかなかに可愛い顔立ちをした、海浜総合高校の制服を身にまとったポニーテールの女の子だった。

ウチの男子とデートの待ち合わせとかかな?

 

 

 

……チッ、美少女が制服で他校の校門前で男待ってるとかどんな当て付けだよ爆発すればいいのに。

と、また若干顔が腐りかけた私なのだが、……いやいやだから顔が腐るってなんだよ。私って結構可愛いのよん?

 

……おや?女の子の様子が……

 

別にキングスライムに合体する前のスライム達ほど様子がおかしいわけじゃないんだけど、どうやら誰かを待ってるって感じでも無いみたい。

待ってるというよりは、どちらかというと校内に侵入したそうな?でも帰りたそうな?どっちだよ。

 

……うーん。海浜さんといえば、クリスマスやらバレンタインで、いろはが利用したり利用されたりとWINーWINなパートナーシップを築いて最大限のグループシナジー効果を生んだあの海浜さんよね。

もしかしてまたいろはにネゴシエーションしに来たのかな?ちゃんとアポイントは取ってあるのかしら?

 

 

……危うく意識を失いかけた私だけど、なんか困ってそうだし、それになんかよく分かんないけど私に似たモノを感じる気がするし(可愛い子だし、可憐な恋する乙女なトコとかが似ちゃったのかなっ♪きゃっ☆)、ちょっと声掛けてあげよっかな。

ふふ……たまたま生徒会長様のご友人様が通りかかったことを神に感謝なさい?

 

「あの〜、海浜の生徒さんですよね?ウチになにか御用ですか?」

 

「あ、え、えっとー……」

するとその子は小動物みたいにビクッと震えると、不安げな眼差しを私に向けてきたのだった。

 

 

× × ×

 

 

借りてきた猫のように、怯えるような瞳でおどおどと私を見つめるポニテ少女。

……ふ、ふへへ。ど、どうしたんやぁ?おいちゃんに話してみぃやぁ?

……完全に変態である。(キートン感)

 

「あの、ですねー。ちょっと生徒会長さんに呼ばれて来たんですけど、勝手に校内に入っちゃっていいものかどうか分かんないんですよー」

 

「呼ばれ?……あ、じゃあやっぱ生徒会関係のお仕事かなんかで呼ばれて来たんですかねっ。ちょっと待っててくださいねー」

 

ふむふむ。やっぱ生徒会関係者さんなのかな。ほいじゃおいちゃんがなんとかしてあげますかね。

そして私はまたもポケットからスマホを取り出すと、今ごろ比企谷先輩とキャッキャウフフしているであろうあの女に電話を掛けた(血涙)

 

『もしもし香織ー?どうしたのー?』

 

「あ、いろはー?あのさぁ、海浜の生徒さんが校門まで来てるんだよねー。どうすればいいー?」

 

『……え!?マジで!?来たの!? それって結構可愛い感じの女の人?……海浜って、まさかろくろ回してる人じゃないよね!?』

 

なんで校門前でろくろ回してんのよ。そんなのがもし居ても、私声かけねーよ。

 

「んー、そうそう。ポニテの可愛い子」

 

『可愛い子って……その人二年生だかんね?』

 

「……え?二年生なの!?や、やっべ、先輩じゃん……」

 

『まぁそんなのはどうでもいいけど……』

 

……そんなのって。なんかいつにも増して辛辣だなこいつ。

 

「で?どうしよっか?生徒会室に連れてけばい?」

 

『あ、じゃあわたし迎えに行くからさ、裏口の方にある教員用の通用口の入り口って分かるー?』

 

「ん?裏口の?……教員用の通用口…………あー、はいはいあそこねー……っとぉ、そこまで連れてけばいい?」

 

『うん。そこで入校許可証出さなきゃだからさー』

 

「ほいほーい!」

 

『んじゃ悪いけどよろしくねー』

 

「かしこまっ☆」

 

よし。今日も1日1かしこま無事に消費完了っと!

そう私がスマホに向けて横ピースをしていると、なんだかとっても痛い痛い視線を感じるよ?

 

「!?」

 

恐る恐る痛々しい視線の方へと目線を向けると、ポニテ先輩が驚愕の表情を私に向けていた。

 

「……はっ!?」

 

──し、しまったぁぁぁっ!素人さんの前でかしこまっちまったぁぁぁっ!

しかも私ってば横ピースしたままでやんの(白目)

 

「」

 

「」

 

ふ、ふぇぇぇぇ……視線が痛いよぅ……!

その瞳からは「こいつオタクじゃね?」って意志をビンビンに感じるよぅ……!

わ、私オタクとかじゃないんですけどっ!?

 

「……そそそそれじゃ私に着いて来てくださいねっ……!な、なんか教員用通用口の前で待っててもらってとか言われたんでっ……」

 

「……あ、うん」

 

油断ダメ!絶対!

一般人にオタクって事がバレたら絶対ダメなんだからぁ!

オタクって自己申告しちゃってんよ。

 

 

× × ×

 

 

……いやいや待てよ?そもそも一般人の素人さんが、はたしてかしこま☆に反応するのだろうか……?

女子高生の単なる仲間内の可愛い挨拶みたいなもんって思わない?普通……

なのにあそこまで過剰に反応するってことは……まさかこいつもオタク……なのか?

いやいや“こいつも”って、私は違いますよ?

 

「あの〜……」

 

そんな心の葛藤と無言の気まずさに思わず声掛けちゃったけど、私なにを語り掛けるつもりなのん?

「もしかしてあなたも玄人の方ですか……?」とでも語り掛けるつもりなのん?

なにそれ怪しさ満点!

 

「はい?」

 

こ、これでもしもこの人がオタクじゃなかったとしたら、私の社会的地位が終了しちゃいそうよね……

嗚呼っ……ここまで築き上げてきた清楚系美少女の地位がっ……

誰が清楚系美少女だよぷっぷー(笑)とかって天の声が聞こえるような気がするけど気にしなーい!

 

と、とりあえず当たり障りの無い質問でお茶を濁してみますかね。

 

「そういえば今日はどのようなご用件でウチにいらっしゃったのかなー?なんて」

 

「……へ?ん、ん〜と……」

 

するとこの推定オタク少女は、予想外にも答えに詰まる。

あれ?私てっきり「生徒会のお仕事なんですよー」とかって迷い無く答えるもんかと思ってたよ。

 

ああ、あれか?その普通の答えを、脳内で意識高い系ワードに変換しなきゃいけないのかな?

すげーキツい縛りだな。恐るべし!海浜総合生徒会役員共!

 

「……や、やー……なんて言ったらいいのか……。あ、あれ!あれだ!ちゅ、中学の時の友達に会いに来た、みたいな?」

 

……っへ?なにそれ予想外!脳内変換に手間取ってたわけじゃないのね。

 

「中学の、友達……?それでなんでいろはに呼ばれたんだろ……? 確か今日はHR終わったら猛ダッシュで奉仕部行ってたような……」

 

そうなのだ。よくよく考えたらいろはのヤツ、今日は(今日も)生徒会じゃなくって奉仕部に入り浸っているはずなのだ。

そんないろはに呼び出されたってウチに来た以上、どう考えても生徒会関係の仕事話なわけ無いのよね。

 

「奉仕部!?」

 

すると、この推定オタク少女はあろうことか奉仕部という名に食い付いた。超食い付いた。

 

「あ、れ?……その中学のお友達というのは奉仕部の人なんですか……?」

 

なにそれもう嫌な予感しかしない。

 

「……えと、その奉仕部というのはイマイチよく分からないんだけど、まぁその関係者……かな」

 

「そ、そうなんですかー。……ゆ、雪ノ下先輩か、もしくは由比ヶ浜先輩、かなー……?」

 

……などとなんとか誤魔化そうと必死にそちらへ誘導しようと藻掻く私なのだが、なんかもうそんなの絶対に有り得ない……

だって、由比ヶ浜先輩の中学時代の友達にいろはがなんら興味なんかあるわきゃないし、雪ノ下先輩に中学の友達なんて居るはず無いし……って私ヒドくね?

 

そんな私の当たってほしくない予想通り、この推定オタク少女は、その瞬間リンゴのように真っ赤に頬を染め上げ、もじもじしつつ上目遣いでこう答えるのでした……

 

「……あ、や……ひ、比企谷君……っていう男の子なんだけどー……」

 

「……ひ、ひきっ!?」

 

ぐへぇっ!香織は白目を剥いた!

 

 

× × ×

 

 

……マ、マジかよあのスケコマシ……まだこんな隠し球があんのかよっ……」

マジでYOU爆発しちゃいなYO!

てか、無意識にボソボソ呟いちゃってた気がするんだけど、き、聞かれてないわよね……!?

 

ぐふっ……ちょ、ちょっとだけクラクラするわ?

マジなんなのよあんのスケコマ八幡がぁ!どこまで手ぇ出しゃ気が済むのよっ!?

このもじもじ具合からして、完全に惚れられてんじゃん!あんにゃろう!

 

……愕然と放心しちゃった私は、結局そのまま一切の言葉も発することも出来ずに、お通夜状態でお客人を目的地まで送り届けるのがやっとこさでした……

 

「あ、あの……」

 

お客人を通用口の前までお連れした私は、明らかに私に対して警戒心をあらわにしている彼女に対して、なんとか笑顔を貼りつけて最後のお持て成しをする。

こ、この人もしや……

 

「ここで待ってればいろは来ると思うんで……。じゃ、じゃあこれで失礼しま〜すっ……」

 

「あ、えと……わざわざありがと……」

 

や、やっぱこいつ……もしかして私の秘かな突撃でラブ的なハートに感付いてんじゃなかろうな……

 

「いえいえー……」

 

 

 

──一仕事終えた私は、ふらふらとその場を去る……

千葉に遠征して、ラノベ漁りウキウキひゃっほい♪比企谷先輩とイチャラブ貸し借りうっひょー!とか、そんなこと考えていた時期が私にもありました。

 

 

比企谷先輩のことを中学の友達だと宣いながらも、頬を染めてもじもじしていた少女の表情を思い私は思う。

 

 

──ねぇ……私って何番目の女なのん……?

 

 

 

終わり☆

 







番外編③の、まさかの香織視点バージョンでした!
次回最終回とか大嘘でしたね!てへっ☆


ホントは③の後書きにオマケとして掲載するつもりだったんですけど、後書きにオマケとして載せるには無駄に長くなりすきちゃったんで、番外編オマケとして別掲載することにしました(汗)

あざとくない件や恋物語集を読んで香織を好きになって下さっている多くの読者さま方の中でも、この作品を読んでない方もたくさんいらっしゃると思いますので、これを読んでる読者さま限定の香織、この香織を読めるのはこの作品だけ!と、誠にレアな香織となっております(笑)


ではでは次回こそ最終回の予定なのでよろしくです♪




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【後日談④】元ぼっちは残念吸引達人の称号を手に入れた


私、今回最終回とか言ってませんよね?
え?言った?たぶんソレ錯覚です。





3月の冷え冷えする校舎内。そんな冷たい空気よりもさらに冷たく凍えそうな心には、借り物の上履きがリノリウムの床と触れ合った時に鳴らすキュッキュッという雑音が、さらに酷く心の冷え込みを感じさせる。

 

 

 

てかあれよね。なんか文学的にスタートさせてみたはいいものの、今私の現状ってそんな格好良いもんじゃないからね。

ハーレム王に手を出しちゃって、そのハーレムメンバーの女共に呼び出し食らって連行中とか、それもう格好良いどころか最高に格好悪かったですありがとうございました。

 

そもそもリノリウムの床ってなんだよ。廊下でいいじゃん廊下で。とりあえずリノリウムっつっとけばOKなんじゃね?って風潮はいかがなものなのかしらん。

 

と、各所に要らん誤解を招いてしまいそうな思考についつい浸ってしまうくらいに、これから訪れるであろう災厄に、私の魂は漆黒の闇に包まれようとしている。

文学風の次は中二満開でした。あらやだお忙しい。

 

 

……だってさぁ、あんなに笑顔(お面)で迎え入れてくれたいろはすちゃんが、まったく笑ってない目のまま鼻歌まじりにずんずん進んでくんだもん恐いよ。

 

──ひ、比企谷君てば、昨日私が告っちゃったこと吐いてないよね……?

いやいやそれはない!だって昨日きっちり口止めしたハズだもん!そもそもあの比企谷君があんな恥ずかしい大事件、口割るワケないし。

 

「あ、あの、いろはすちゃん…」

「は?なんですかいろはすちゃんて。わたし天然水じゃないんですけど」

 

たまらず話し掛けてみたら、とっても素敵な笑顔(お面)で即座に切り捨て御免。やだお侍様に無礼討ちにでもされちゃった気分!切り捨てるならまずは戸部君とやらじゃないの?私ってば彼のせいでいろはすちゃんて覚えちゃったのよ?

 

 

「先にお伝えしときますね。なんかー、雪ノ下先輩達は二宮先輩のことそれなりに認めてるみたいですけどー、言っときますけど、わたしは別に全然認めてないんで。

なんか昨日の盗み聞きによると、中学の時に先輩に酷いことしたみたいですしー?」

「うぐっ!」

 

それ言われちゃうとお姉さん何も言えないですー。だからずっと不機嫌なのねこの子……。でも笑顔は絶やさないんですのよ?

まぁいろはすちゃんも色んな勇者たちをそれ以上の酷い目に合わせてそうですけどね。恐いからいいませんけどっ。ウフフ。

 

しかしここで朗報がひとつ!

なんと今回の主犯格で在らせられる雪ノ下さんは、どうやら私の事をそれなりに認めてくれてるみたいなのー!

乳ヶ浜さんは見るからに温厚そうだし、これは虐殺回避に夢見ちゃってもいいのかも!乳ヶ浜さんて誰?

 

「まぁ? 二宮先輩の非道な行いによって今の捻くれてるけど意外と頼りになる先輩が出来上がったっていうんなら、間接的には感謝ではありますけどね」

 

ひ、非道な行い……

でも、その言い方から察するに、やっぱりいろはすちゃんも比企谷君の捻くれた優しさに救われて心を動かされたクチなのかな。

にしても“意外と”頼りになるなんて言っちゃってからにー!

 

「それにあの自称トップカースト女から、身を挺してバカな先輩を庇おうとしたのはポイント高いと言えば高いですし?」

「〜っ?」

 

……ふっふっふー、やっぱなんだかんだ言って実はいろはすちゃんも単なる捻デレだったりするの…

 

「まぁ、抱きつきすぎでその僅かな収支も株価が大幅な値下がりに転じて最終利益はトントンですけどねー」

 

「……」

 

全然デレてなかった。この子いったいなんの話をしているのん?

 

「おや?そちらは海浜総合の生徒かね?」

 

そんな、どうやら比企谷君だけじゃなくてマネーのお話も大好きそうないろはすちゃんのエセデイトレーダートークに苦笑いしていると、なんかこれまたすっごい美人さんに話し掛けられてしまいました。

マジこの学校どんだけ美男美女に溢れてんだよ。

 

※※※※※

 

「あ、平塚先生こんにちはです」

「ああ、こんにちは」

 

どうやら平塚というらしいこの美人教師。白衣を羽織ってるとこから見て理科系の教師なのかな?

乳ヶ浜さんをさらに上回る万乳引力の持ち主な上に、その立ち居振る舞いはまさにイケてるキャリアウーマンそのもの!

なんかもう美乳を見ちゃっただけでも爆ぜればいいのにって思っちゃう荒んだ残念バストの私からすると、このさぞやおモテになるであろう美人教師はまさに敵そのもの。ちなみにいろはすちゃんはナカーマ!

 

「……あ、どうもこんにちは。海浜総合の二宮と申します」

「やあ、こんにちは。一色と一緒にいるところを見ると、生徒会関係かなにかなのかね?」

「あ"っ……そ、その……えと……」

 

よくよく考えたら、ハーレム王を囲む会・会員に呼び出されて他校の生徒が来たとか、教師になんて説明すんのよ……?

ちょっとコレどーすんの!?って目でいろはすちゃんに助けを求めると、なんといろはすちゃんは事もなげにこう答えた。

 

「あ、こちらは生徒会関係じゃなくて奉仕部関係のお客さまなんですよー」

 

ほー、なんか奉仕部って謎の組織みたいなもんなのかと思ってたんだけど(なにせ高校の部活で奉仕部ってなんだよ?)、ちゃんと認知されてるんだ。

 

「奉仕部……?私はなにも聞いていないが、あいつらはいつから他校の相談まで受けるようになったのだ……まったく……勝手なことをしおって……」

 

そう言ってこめかみを押さえる美人教師。どうやら認知しているどころか内情も詳しいご様子。

 

「……あー、えとー、違くてですねー……ま、まぁ奉仕部の呼び出しではあるんですけど、どちらかというと先輩のお客さまみたいな……?」

「は?比企谷……?君は比企谷の関係者かなにかなのかね?」

「あっ、いえ!はい!……か、関係者っていうか……ちゅ、中学の同級生っていうか……」

 

いきなりLOVEな相手の関係者?なんて聞かれたもんだから、ドキリと心臓がはね上がって慌ててしまった。

やばいやばい。ちょっと顔赤くなってそうっ……

 

そんな赤面してもじもじしちゃった様子の私をシラ〜っとした目で見つめるいろはすちゃんと…………え?平塚先生も!?

 

「……ほう……比企谷の………………。ふっ、比企谷のヤツめ……。ま、まぁたまにはそういうのもよかろう……」

 

えっと……なんでこの人、急にしゅんとなっちゃったんですかね。

 

「……で、ではな。あんまり遅くなるんじゃないぞ」「は、はい」

「……ではでは失礼しまーす」

 

そう言ってフラフラと立ち去る女教師平塚。……えっと……な、なに……?

そして彼女がボソリと一言。

 

「……チッ、爆発しろ……」

 

……えー……

 

スミマセン平塚先生、どうやら私は誤解してたようです。

やばいわこの学校。美男美女が揃い過ぎてマジどうなってんの?とか思ってたけど、なんやかんやでプラスマイナスって取れてるもんなんですね。

 

超美人(残虐)巨乳(おバカ)可愛い後輩($)可愛い後輩2(かしこま)美人教師(やべぇ)爽やかイケメン(ホモオ)

 

 

…………世の中って良く出来てるもんだなぁ(遠い目)

 

「!?」

 

ちょ待てよ!……まさかあの残念女教師まで比企谷ハーレムメンバーなんじゃないでしょうね!?

あはは〜……さ、さすがにそれはない……ですよねー?

 

 

※※※※※

 

比企谷君に対する新たな疑惑に、白目を剥いて意識を失いかけたままでいた私は、ついに地獄の一丁目まで連行されたらしい。

辺りに人気の一切無い“そこ”は、どうやら総武高校の中でも特殊な環境にあるみたい。

一度受験に来た時に校舎内に入ったことはあるんだけど、確かその時はここと反対側の別の棟だったよね。教室とかもあっち側っぽいし、こっちはいわゆる部活棟ってところなのかな。

この人気の無さ。これなら多少の悲鳴や呻き声が辺りに響いても、助けが来る事もなく速やかに対象を始末出来そうですね(白目)

 

「お客様をお連れしましたよー」

 

……ってちょっと!?

私が心の準備をする暇もなく、いろはすちゃんがガラリと扉を開いて室内に入っていってしまった。あなたノックくらいしたらどうなのかしら。

 

「……一色さん。あなたノックくらいしたらどうなのかしら」

 

まさかのシンクロ率である。もしかして雪ノ下さんと私って気が合うんじゃないかしら?あの子も私と同じく孤高の存在っぽいし。

すみません孤高の存在(笑)の私ごときが調子に乗っちゃいました。

 

「次からは気を付けまーす」

 

絶対に次からも気を付けないであろう決意のお返事を聞きながらも、私は現在軽くパニくっている。だってまだ心の準備が!いきなりすぎなんだもん!

ラストダンジョンはもっとこう色々と趣向を凝らしてくんないとさっ……!私まだ主が不在の玉座の後ろとか調べてないのよ?玄関開けたら2分で魔王☆みたいなもんじゃないのよコレ。

 

どどどどーしよー!?この扉をくぐると、その先にはいったいなにが待ってるの!?

……入室した途端に目に飛び込んできたのは、土下座姿の比企谷君でした…………とかいうオチだったら速攻でルーラ唱えなきゃ。

みやは、てんじょうにあたまをぶつけた!

 

「なにしてるんですかー?早く入ってください」

 

おいおい美耶ちゃんそこはルーラじゃなくてリレミトだろっ(笑)と、呪文の選択ミスを一人ツッコんでると、一度入室したいろはすちゃんが、中からぴょこん♪と顔を覗かせた。うん、実にあざとい。

 

「……ふぅぅぅ〜」

 

そして私は、目蓋を閉じて胸に手をあて、深く深く息を吐く。

なんか色々あったけど、ここをくぐれば一日ぶりに比企谷君に会えるんだっ。

えへへ……なんだかんだ言っても、やっぱ嬉しいもんは嬉しいや。やー、ちょっぴり恥ずいですけどもぉ!

 

「し、失礼しま〜す」

 

先ほどまでの決意の覚悟はどこへやら、ちょこっと頬を染めちょこっとドキドキ、私はついに奉仕部さんとやらに突撃するのであった。

 

つづく

 





ありがとうございました!
今回で終わらせる気マンマンだったんですけど、気が付いたら前回投稿から三週間くらい経っちゃってたんで、キリのいいとこで先に更新しちゃいました!テヘ☆
(あっぶね……超油断してた……危うくひと月くらい開いちゃうトコだった汗)
散々お待たせしてしまった挙げ句、部室まで移動するだけの回……orz


次回こそ後日談最終回!次はこんなに開いちゃわないようにしたいれす(・ω・;)



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【後日談⑤】彼女(元ぼっち)が目指す先(椅子)は遥か彼方……



カッコ内の文字が無ければ、まるで最終回のタイトルのようなサブタイで始まりました今回は後日談⑤になります!



…………ど……どうぞ(汗)




 

「し、失礼しまーす……」

 

ついに謎の秘境へと足を踏み入れた二宮隊員。その地に潜む未知なる生物とは!?

 

【恐怖!未開の教室の奥に潜む伝説の人喰い乳無し雪女は実在した!】

 

藤岡弘、さんかなんかが出てきそうな探検隊かよ。こんなこと考えてること雪ノ下さんにバレたら昇天しちゃう!

だってそれほどに未知のプレイスなんですもん、ここ。なんだよ奉仕って。

 

さてと、いつまでも現実逃避してないで、そろそろ目の前の現実ってやつに目を向けてみましょうかねと、私はこの怪しげな室内を見渡してみることにした。

 

まず真っ先に目に飛び込んで来たのはもちろん比企谷君っ!

ヤツは友達以上恋人未満なこの可愛い可愛い美耶ちゃんに対して『うわ……こいつマジで来やがったよ……』って顔を前面に押し出してきやがってるけど、そ、そんなの気にしないもんっ……泣いたりなんかしないんだからね!

てかもうちょい感情隠せよ。並みの乙女ならホント傷ついちゃうよ?ホントだよ?

まぁ実際のところ友達以上恋人未満どころかまだまだ友達以下でしかなかったですよねすみません。

 

とりあえず目の前に広がった光景で胸を撫で下ろしたポイントと言えば、比企谷君が土下座させられてなかったコトですかね。ちゃんと普通に椅子に座っているようです。

ところで「おやおや、随分と撫で下ろしやすそうなお胸ですねw」とか思ったやつ、あとで体育館裏…………で私泣いちゃってると思うから、体育館裏には絶対に近づかないでね。

大丈夫よ私!雪ノ下さんよりはずっと育ってるんだから!

 

 

……さて、涙無しでは語れないバストな自虐はさておき、ふぅ……危ない危ない。マジで土下座スタイルだったなら、危うく囚われのプリンセス(比企谷君)を目の前に逃げ出しちゃうとこだったよ。

助け出しに来てくれた白馬の王子さまが目の前で即回れ右しちゃったら、お姫様もビックリしちゃう。百年の恋も一発で覚めちゃうわ。

 

やば!また恒例の脱線気味になっちゃった!まぁ常に脱線しすぎてるし、もう脱線などなんのその、いっそレールなんか無視してそのまま突っ走っちゃった方がいいのかしらん?とか考えちゃうお年頃。

私、誰かに引かれたレールの上なんて走りたくないの!

 

 

…………こほん。さてさていい加減に話を元に戻すとしようかな。胸を撫で下ろすとは言うものの……ねぇ。この席の配置がまたなんとも……

長机のど真ん中には乳無し雪女こと雪ノ下さんが堂々と鎮座し、その両脇をメロン団子と暗黒天然水がガッチリと固め、その三人の向かいに比企谷君がポツンと座っているという、いわゆる裁判スタイル。

あ、そっか!これがこの部活の日常的な席割りなのかな?んなわけないがな。常にこれだったらさすがに居たたまれないわ。

そしてもうひとつ問題と思われるのが、そのポツンと座る比企谷君の隣には空席がひとつ用意されているということ。

 

……やだ!私ってば比企谷君と隣の席になっちゃったわ☆

とかって喜べるような状況では決して無いですよねー。なんか胃がキリキリしてきました。この歳で胃潰瘍かしら?

 

「二宮さん、だったかしら。こんにちは。わざわざご足労頂いてどうもありがとう。

よく昨日の状況を目の当たりにした上でここまで来られたものね。感心するわ」

 

やったぁ!雪ノ下さんに感心してもらえちゃったっ!

って、んなわけあるか。あんたが来いっつーから嫌々ながら来たんでしょうが。私だって昨日の大虐殺劇目撃したあとでこんなトコ来たくないわよ。

あくまでも私の単なる良心で来たまでですよ。比企谷君一人を犠牲にするなんて、優しい優しい美耶ちゃんには到底容認出来なかったってだけの、そんなお話。

 

そう。これは私達二人で責めに責められ、その後傷付いた二人の間にはお互いを慈しむ謎の絆が芽生え、そしてまだ青く幼い蕾のような若い二人は仲良く手と手を取り合いぐへへへへ。

良心どころか超やましかったです。

 

だから私は言ってやったのさ。

来いっつーから来てやったのに、「よくもまぁ来れたものね」的なニュアンスを含む第一声を、あまりにも素敵な笑顔で宣った傍若無人な氷の美女に、この熱き思いの丈を!

 

「……え、えへへ……きょ、恐縮で〜す……」

 

セリフも表情も卑屈すぎワロタ。

 

※※※※※

 

「ではとりあえずそちらに掛けて頂けるかしら」

「アッハイ」

 

そう雪ノ下さんに促され、私は比企谷君の隣の席へと向かう。

 

「にのみんやっはろー」

 

席へと向かう長い長い道すがら、私は突然聞きなれない部族の謎の言語を浴びせられた。

え?なんだって?

んばば〜、とかそういう類いのヤツかな。やはりここは未開の地だったのか。奉仕部コワイ。

 

恐る恐るそちらに目を向けると、そこにはたぶん本日の唯一の良心であろう乳ヶ浜さんが、なんだかとっても苦笑気味に手を振ってくれていた。

昨日のエンカウント時も確か折本さんにやっはろーとか言ってたから、たぶんやっはろーとは乳族に伝わる現地の挨拶であることはまず間違いないのだろう。

 

 

やっはろー!!やっはろー!!やっはろーーー!!

 

 

よっしゃあ!これで私も今日から立派な乳族の一員だね!お願いだから早く膨らんでよぅ……!

ハッ!?てかそれで膨らむくらいなら、雪ノ下さんといろはすちゃんもとっくに実戦して実装してるハズよね。ちくしょう!騙された!純粋な乙女の切なる願いを弄びやがってぇ!このおっぱい魔神めが!

 

「……や、やっはろー……」

 

ほんのわずかな巨乳への夢が脆くも崩れ去る中、それでも由比ヶ浜さんはとってもいい人っぽいから、私の溢れ出る優しさで仕方なく挨拶を返してあげた。いや、別にほんのちょっぴりだけ期待して夢見ちゃったりなんかしてないのよ?

……で、でもこれ、思いのほか恥ずかしいわね……コミュ障気味の私にはちょっと難易度高めの挨拶かも。

 

……にしても、てことはどうやら“にのみん”ってのは私の事らしい。

なんなんだろう、この壊滅的なあだ名センスは。まぁこの子、比企谷君のことヒッキーとかって、いじめなの!?と思えるようなあだ名も満足気に命名してるようだし推して知るべしか。

 

今日はミヤミヤとか呼ばれたりにのみんとか呼ばれたりと、今までの私の人生で聞いたことない名前を呼ばれる日だなぁ。

あなたが変なあだ名を付けたから、今日は変なあだ名記念日♪

 

 

記念日も無事に制定出来たところで、柄にもなく優しさでやっはろーなどと恥ずかしい挨拶をしてみた私は、ほんのりと頬を染めながら空席へとひた進む。

入室時は霞むほど遥か彼方にあった席がようやく見えてくると、私の到着を今か今かと待ち構えてる比企谷君とばっちり目が合っちゃったっ!

一日ぶりの比企谷君との再会が嬉しくて、ついつい頬が緩んでしまった私は、そんな感情を隠そうともせずに、えへへ〜と全力ではにかんで胸の高さでちょこちょこと手を振ってみた。やだなんかデートの待ち合わせみたい。

そんな私の笑顔に照れまくりの比企谷君は、うわぁ……とうんざり顔を浮かべてぷいっとそっぽを向く。うふふ、そんなに照れなくってもよかろうもん!

あ、これ照れてるんじゃなくて完全に嫌がってました(白目)

 

ん?でもどうやらそっぽを向いてるが故に丸見えになってるお耳は真っ赤っかですね。なんだよぉ、やっぱ照れてるんじゃんよぉ。このこのぉ!

捻くれながらもそんな風に照れてる比企谷君の気まずそうな表情に胸がほわっと暖かくなった私は、次の瞬間、左半身に絶対零度の冷気を浴びせられた。

ひぃっ!とそちらをチラ見すると、美少女三人からの満面の笑顔を頂きましたありがとうございます。

 

「……ととと隣失礼しま〜しゅ……」

「お、おう、ど、どうじょ……」

 

すっかり忘れていた恐怖を再確認した私は、震える足を大地に打ち建て、甘噛みし合いながらもついに比企谷君の隣へとちょこんと座ったのでした。

 

 

 

…………遠いなっ!椅子まで遠すぎだよ!

座るだけでどんだけ尺使ってんのよ。一体この教室東京ドーム何個分なのん?

 

※※※※※

 

「改めましてようこそ奉仕部へ。私はここの部長を務める雪ノ下雪乃よ」

「やっはろー、あたしは由比ヶ浜結衣です!ゆきのんとヒッキーとあたしの三人でやってる部活なんだー」

「どもですー!ご存知かとは思いますが、わたしは総武高の生徒会長一色いろはです☆」

 

あざとさが中途半端。やり直し。

なんだったら、学園のアイドルぅ!いろはちゃんだよーっ!くらい突き抜けちゃった方が一部ではウケがいいわよ?

 

「……え、えと……わ、私は海浜総合の二宮美耶と申しますぅ……」

 

それに対してコミュ障女のこの切なさよ……昨日までは全く無関係で無関心だったことで、特に緊張なんかせず普通に話せてたってのに、関係があるリア充共だと意識しちゃった途端に心臓ばっくんばっくん!ワキ汗とか超心配になっちゃうレベル。

 

まぁ今さらそんなこと嘆いてたってしゃーないよね。

とりあえず自己紹介が済んだ私は、ずぅっと気になってたことを聞いてみることにした。ひそひそと隣の比企谷君に。

 

「……ね、ねぇ比企谷君」

「……あ?なんだよ」

 

耳元に手を当ててひそひそ話するもんだから、とにかく近い近い。私ったらドッキドキ!

その近さに比企谷君も動揺が隠しきれないようで耳を真っ赤にしててなんか可愛い。やばいカプッとしたい。煩悩退散変態退散!

 

「……前から気になってたんだけどさ…………そもそも奉仕部って……なに?」

 

そうなのだ。そもそも奉仕部ってなんだよ。

でも一番意味が分かんないのが……

 

「……なんで比企谷君がこんな怪しげな部活に入ってるの?

一応折本さんからはふわっとした話は聞いたんだけどさ、奉仕とかウケる!くらいしか情報入んなくて……」

 

それ実質情報ゼロです。

 

そーなんですよね。キングオブぼっちを自称するこのリア王が、わざわざ自らこんなハーレムに足を踏み入れること自体がおかしいのだ。

だから私はカプッと甘噛みしてみたい欲望を抑えて、この際だから聞いてみた。でも尋ねるフリしてほんのちょっとだけフッと息を吹き掛けてみたら、ふるふるビクゥッとしてとても可愛かったです(小並感)

ハッ!?殺気!?

 

「……ああ、奉仕部ってのはなんつーか……まぁ早い話が悩める生徒のお悩み相談室ってところだな。で、場合によっては最小限の手助けをするって感じか。あくまでも依頼者の自主性を促す程度にな」

 

ほうほう成る程成る程。そこまで聞いて理解できたことはひとつだけ。

いやいや高校の部活動にそんなもんねぇよ普通。それ生徒の仕事じゃないでしょ。生徒が生徒の自主性を促す為の手助けって……

 

でもまぁあの雪ノ下さんが部長を務めるって部活であればちょっとだけ納得。ノブレス・オブリージュ精神ってやつかな。なんなら彼女が立ち上げたのかも。

……だったらさらに不可解。自称ぼっちがノブレス・オブリージュって……

 

「……で、まぁ俺は……とある理由で残念女教師に強制的に入れられた」

 

残念女教師……?あっ(察し)

 

「……あなた達はなにをこそこそと話しているのかしら……

その……とても不快なのだけれど」

 

残念女教師で全てを察した私に、いきなり冷や水がぶっかけられた。

やっばい。ついつい比企谷君の真っ赤な耳に夢中になりすぎるあまりに(夢中になるポイントが違う件)、現状を忘れてました。

 

冷気を感じる方向へと目をやると、私は三人の美少女にゴミでも見るかのような視線を向けられていました。

やだ、沸き上がる欲望が顔に出ちゃってたのかしら。カプッとかフッじゃねーよ私。よくこんな状況で欲情できるわね。

 

「ご、ごめんなさい!ちょ、ちょっと奉仕部ってのが一体なんなのかなぁ?と気になっちゃいまして〜……え、えへへ……?」

 

相変わらずセリフと表情が卑屈である。

まさに貴族様と下民。私もノブレスにオブリージュされちゃおうかしら。

 

「「「…………」」」

 

どうやら私の言い訳は不発に終わったようだ。

そりゃね!だって内心ではただの欲情色魔でしたもの。

まったく……これだから長年ぼっちで恋愛に耐性の無い処じ………………どうしよう、実は私って意外とむっつりなのかしらん?

……お、女の子だって、男の子と同じようについついムラムラしちゃうことだってあるんだからね!?

 

 

自身の知られざる肉食系の血と性癖に軽い戦慄と興奮(?)を覚えていると、ついに雪ノ下さんの口が開き、この場を戦場……もとい首刈り場へと変貌させるこの言葉が発っせられたのだった。

 

「……まぁいいでしょう。…………それでは、尋問を再開しましょうか」

 

やったね!どうやら尋問に間に合ったみたいだよっ?(遠い目)

 

 

つづく

 

 






よし!今回は思ったよりも話が進んだぞっ♪


……あっぶね……危うくマジで椅子に座るまでで1話使っちゃうところだったよ。これは酷い。
てか最終回じゃないのかよ。


これは明らかに私が悪いんじゃなくて美耶が勝手に(脳内で)喋り倒すのがいけないんです私はなにひとつ悪くないんですごめんなさい。
……今の私の目標は、今月中に最終回を迎えることです☆

では次回こそマジにリアルに本当に最後となりますので、今月中には更新するであろう最終回でお会いいたしましょう(^^)/~~



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【後日談⑥】元ぼっち達の青春ラブコメはこれからだ!




お待たせしました!ようやく最終回です!

お待たせしちゃった割には、尋問・裁判としはかなり中途半端ですが、ではではどうぞ!





 

「…………それでは、尋問を再開しましょうか」

 

雪ノ下さんのその言葉と共に、ここ総武高奉仕部部室に試合開始のゴング(心音)が打ち鳴らされた。

 

さぁ!ついに始まりました、この世紀の一戦!実況と解説は奉仕部の王子様(ほうプリ)でお馴染みの比企谷君の唯一の……ゆ、い、い、つの友達であるわたくし二宮美耶がお送りさせて頂きます!

 

なにせ私はこの場でたった一人の無関係な存在、そう。フリーだからね。

もうなんで呼ばれちゃったのか分かんないくらい超フリー。スーパーフリー。

スーパーフリーはちょっとヤバいですね。ヤリサー、ノーセンキュー、ヤリサー、ドンタァッチミィィー。

 

 

そんなこんなでこの場に存在すること自体が不思議なくらいに無関係な私は、一切関わることなく、一切口を開くことなく、ただただ淡々と実況解説というお仕事に集中したいと思っている所存であることをここに宣誓いたします。

 

「さて、それでは二宮さん。まずあなたにお聞きしたいのだけれど」

 

……瞬殺で宣誓を断念せざるを得ない模様です。

 

※※※※※

 

「は、はひ」

 

はひってなんですかね。逆に噛みづらくないですかね。

そこはひゃいとかはいぃぃの方がGoodなチョイスだったんじゃないかしら。

 

「色々と聞きたいことはあるのだけれど、とりあえずまず聞かせて頂きたい事があるの。

あなたが来るまでにも散々この男を問いただしたのだけれど、あまりにも有り得ない寝言しか言わないで困っていたのよ」

 

……え、えと……有り得ない寝言とはいったいなんなのでしょうか……?

 

ハッ!?ま、まさか昨日私が告白しちゃったこと吐いちゃってないわよね比企谷君っ!?

振られたのにまだ未練たらたらなのバレてて、さらに先ほどの欲情っぷりを見られちゃってるとかマジヤバくなーい?

 

LOVE感情の有無が未確定ならいくらでも誤魔化しようはあったけど、それバレちゃってたらスマキにされて屋上から吊されちゃうじゃない。

でも比企谷君と二人でくんずほぐれつスマキにされるならそれはそれでアリかもじゅるる。

 

「あ、あのぉ……」

 

と、また危険な欲情に意識を支配されながらも、そこはリスクマネジメントをきっちりと行う私ですよ。

なにせ一昔前はそこのいろはすちゃんばりに計算高く生きてましたので。

確かに“有り得ない寝言”発言は気になったんだけど、その前の“色々と”と言う部分もバリバリ気になっちゃってます私。

 

多分そこをスルーしちゃったら、完全下校時刻とか一切関係なく骨の髄までしゃぶり尽くされて、しなっしなの干物みたいにされちゃいそうなんで、ここだけは事前に用意しといたセリフを言って予防線を張っておこう。

 

「そ、その……うち、親が厳しくってぇ……結構早い時間に門限とかあるんでぇ……あ、あんまり遅くまでは居られないかな〜……なんて……?え、えへ?」

 

だからなんでいちいち卑屈な笑いが出ちゃうのよ。どんだけ下民なんだよ。

 

一応私はお客さまの立場でここまで来てやったわけだしぃ?カスタマーサイドからのお客さま目線で物事を見て同意してもらえないかしら的な?アグリーしてもらえないかしら的な?

おっとやべぇ、ついクセでこないだの全校集会でのうちの会長のナンセンスな世迷事が。

 

「……あら、そうなの。それは非常に残念だわ。一応夜は自宅も時間も空けてあったのだけれど。

まぁこちらから一方的に招待してしまったんだものね。それでは残念だけれど質問は最小限にとどめておくとして、早めに済ませましょうか」

 

 

 

 

……………………あっぶな!…………いやいや超あっぶな……!

夜は自宅と時間を空けてあったんですね。いえいえお気遣いなく。

なにさらっと「自宅監禁する気まんまんだったのに残念ね」みたいな顔してんのこの人。危なすぎなんだけど。

やっぱ先を見越して早い段階からのホウレンソウ(報告連絡相談)ってカラダに大事!

 

「あれー?でも二宮先輩、昨日はまぁまぁ遅くまで先輩とお茶してた上に、そのあとさらに二人でしっぽりとどっかに消えて行きませんでしたっけー」

 

こっ、小娘ぇぇ!

あんたなに余計なこと言ってくれちゃってんのよ!?

せっかく逃げ道用意しといたのに!

 

「……あら、そういえばそうだったわね。私としたことがついうっかりしていたわ。

どういうことか説明して頂けると助かるのだけれど」

 

OH……すんごい冷たい目……

なんかもう常時の比企谷君に向けられてる眼差しと大差ないんじゃないかしら。

 

「……や、やー……昨日は朝から両親とも残業って聞いてたから……だ、だからちょうどいいから比企谷君に会いに来たってゆーかー……!

ね!ね!昨日比企谷君にもそう言ったよね!?」

 

唐突に話を振られた比企谷君は呆れた顔で私を一瞥する。

 

「あー、まぁなんだ……」

 

裁判長達から見えない角度でばちこんばちこんとウインクして助けを求める。

てかこれって比企谷君の為でもあるんだからね!?こんな危険な裁判、早く済んだ方がいいでしょお!?

 

「そういやそんなことも言ってたな……。てか確か中学の頃からそう言ってたよな、お前」

 

ぐっじょぶ。比企谷君グッドなジョブだよ。

私たちしか知らない頃の話を持ち出されたら、検事も証拠の提出は出来ないもんね。

……あれ?そういえばこの裁判、弁護士居ないわね。弁護士ー?仕事してー?

 

「そ、そうそう!もう困っちゃうよねー、過保護過ぎちゃってー(棒)」

「……だよなー(棒)」

 

弁護の無い私と比企谷君の、語尾の(棒)が可視化しちゃうくらいの見事な名演技により、裁判長と検事の目がさらに鋭さを増す。

やだこれじゃ八方塞がりじゃない。八幡だけに。

 

「あー、分かる!あたしんちは門限ないんだけど友達には何人か居たんだー。門限ある子って超大変そうだよね」

 

弁護士はあなただったのか!

さすがに懐が深いぜおっぱい弁護士、やっはろー!

 

「まぁその子たちもよく怒られるの覚悟で遊んでたけどね。

なんか遅れるって連絡する時、女の子の親が電話代われば結構許してくれたりねー」

 

でもこの弁護士は期待させといて後ろから刺すタイプの弁護士らしいです。

 

「でもゆきのん一人暮らしだから、親が代わるのは無理だよね」

 

お?ナイス弁護士?

自ら不利な状況を作り上げて、そこから大逆転で巻き返す敏腕さんなのかな?

 

「あ、でもだったらウチでも大丈夫だよ?ママ上手く電話してくれると思うし!」

「ならわたしの家でも余裕ですよー。よく友達泊めるんで」

 

ふぇぇ……アゲサゲ激しいよぅ……

一瞬だけ敏腕かと思われた弁護士とどす黒検事がまさかの結託である。刺すどころか前と後ろからロケランぶっぱなすレベル。

さぁ、弁護の一切存在しないこの懸案の判決はいかに?

 

「……はぁ〜、まぁいいでしょう。懸念事項は多々あるとはいえ、無理に引き止めるのも酷というものだものね。

このままでは話も進まないし、とりあえずは二宮さんの発言を認めましょう」

 

やれやれと頭痛を押さえるかのようにこめかみに手を当てながらそう発言する裁判長の雪ノ下さん。

 

単に雪ノ下さんがとっとと話を進めたいだけの話だとはいえ、なんとまさかの勝訴である!勝訴って書かれた半紙を掲げて走りだしたい気分。そしてそのままどこか知らない国にフライアウェイ。

 

「それではいい加減に話を進めましょうか」

 

……チッ、即国外逃亡は認められなかったか。

でもまぁとりあえず蜘蛛の糸は垂らされた。雪ノ下さんなら一度言ったことは曲げないだろうし、ヤバくなったら速攻逃げたるぜ。

ヤバくなったらもなにも、ヤバくない瞬間があるのかどうか疑問だけども。

 

とにかくこのプレッシャーの中で、質問は最小限で、帰宅は私の気持ち次第でという言質を取った策士の美耶ちゃんは、今後孔明を名乗ってもいいかも知んない。

ふふふ、この調子でのらりくらりと躱してタイムオーバーにしてやるわよ?

 

「それではまずお聞きします」

 

そしてついに雪ノ下さんからの尋問スタート!

かかってこいやぁ!

 

「あなた、比企谷くんのなんなのかしら」

 

策士、策に溺れて溺死しました。

 

 

Q.我が名は神龍。どんな願いもひとつだけ叶えてやろう。

 

A.願いごと無限にしておくれー!

 

 

……それはないぜウーロン……。せめてギャルのパンティーくらいにしておきなさいよ。

てかそれ、どこからどこまでなにからなにまで、なんて答えればいいの……!?洗いざらい!?

 

あまりの無慈悲な質問に魂が抜けかけていると、どうやらその質問の意図は私の想像とは違っていたようで、雪ノ下さんはその質問にこう付け足した。

 

「私たちがなにを聞いても「二宮はただの友達だ」などと寝言しか言わないのよ、この男は。

比企谷くんに友達なんて出来るわけもないのに、本当にこの男はいったい何を言っているのかしらね。

結局話はそこまでで止まってしまうので困っていたのよ。……で、あなたは比企谷くんのなんなのかしら?」

 

寝言ってそこ!?

友達百人どころか一人出来たよ発言でさえ寝言と言われちゃう比企谷君を守ってあげたいと思いました(小並感)

 

でも……へへ、ちゃんとこの人たちに……へへへ、二宮は俺の友達だ!って言ってくれてるのね……?えへへっ……

 

……やばい、ちょっと胸がぽかぽかするぞ?

昨日までは友達なんか一人も居なかった私だけど、そんな私を、私が居ないとこでも友達だって言ってくれてるって、なんて幸せなことなんだろう。友達以上だったらなお良しなんだけど、それはさすがに贅沢すぎだよね。

思わず隣の席に目頭が熱くなりかけちゃってる視線を向けると、そこには照れくさそうにそっぽを向く比企谷君。ふふっ、なんか嬉しいなっ。

 

だったら私は比企谷君のその想いに応える為に、声を大にして伝えてあげねばなるまいね。

この人たちに、そして比企谷君に。

あなたに届け!マイスウィートハート!

 

「寝言もなにも、私は比企谷君の友達だよ?

昨日、私たち友達になったんだよねっ?比企谷君!」

「……ま、まぁな」

 

ふふふ、隣で照れくさそうに悶えてる比企谷君にへへーって笑いかけた時の雪ノ下さん達の表情を世界中に見せつけてやりたい!

なかなか見られないよ?こんな美少女たちのあんな見事なぐぬぬ顔。

 

※※※※※

 

ざわざわと室内が騒めく。

まさかあの自らをキングオブぼっちなどと宣う比企谷君が、自分から女の子を友達だと認めたなんていう事実が上手く飲み込めないんだろう。

 

「……にわかには信じられないのだけれど……」

「……あのヒッキーが自分で友達とか認めるとか信じらんないし……!」

「……ぐぬぬ……だから昨日葬っとけば良かったんですよー……」

 

なにやらちょっぴり物騒な物言いも聞こえてきますが、なんか優越感。

いやいやちょっぴりじゃねーよ。葬られちゃうとこだったのん?

 

友達だと言われて勝ち誇る私と、友達だと言われて悔しがる美少女3人。

でもちょっと待ってね。実はこれ、全部勝ち誇れないんだけど。

 

『マジで!?やたっ!で、イニシャルは?』

『……くっ……!わ、YかI……?』

 

昨日のあの恥ずかしさ伝説級の告白劇。

あのとき比企谷君、好きな人のイニシャルをY=雪ノ下、由比ヶ浜。I=いろはすって答えたのよね。

 

 

……え?なにこれ冷静に考えたら酷い拷問じゃない?

比企谷君が好きと挙げた女の子たちの前で「こいつ友達だから」と宣言されて勝ち誇ってる振られた女の構図。

やだ!今更ながらにめっちゃ惨め!

 

そんな、実は初めから己の一人敗けだったことを今更ながらに思い知らせた私の心の慟哭など毛先ほども興味の無い雪ノ下さんが、突然私を死の淵に追いやる。

 

「……二宮さん。私にはどうしても理解出来ないのだけれど、あなたアレよね……?

昨日のカフェでの話から察するに、中学生の頃にこれに告白されて散々な振り方をしたのよね?」

「ぐふっ……」

 

……今の私にそこ抉ってくるの!?

死者が鞭打たれ過ぎて気持ち良くなってきちゃうレベル。

いや、私こう見えてMっ毛はないですわよ?

 

 

「確か以前に比企谷くんから聞いた話では、好きな子にアニメのラブソング集を渡して、それを校内放送で流されてオタ谷くんと呼ばれるようになったとか、」

 

ぶわっ……!

突然のとんでもない黒歴史に涙が溢れちゃう!

 

「自分では結構な仲になったつもりで何度もメールを送ったのに、返信はだいたい翌朝に『ごめん、寝てたー』しか返ってこない上に、ついには辛抱たまらず告白して振られ、翌朝にはクラス中に知れ渡っていたとか」

 

……あ、それたぶん折本さんです……

 

「あ、そーいえばクラス委員同士でプリント回収中にキモい告白して振られて、次の日からナルが谷って呼ばれるようになったとかも聞いたよね!」

 

やだそれ私私!

ひぃぃ〜……やーめーて〜!本人の前で言ーわーなーいーでぇ〜!

 

「ちょ、ちょっと先輩!わたし初めて聞きましたけど、今はこんなんなのに中学の時はどんだけお盛んだったんですか!」

 

……お盛んて……。でも確かにホントいま考えると、比企谷君ってお盛んだったわよね。

思春期の男子中学生時代に、へこたれずにそこまで何度も何度も玉砕出来たとか、どんだけ強心臓だったのよ。

 

てかこの人、なんで自分の黒歴史を全部語っちゃってんのよ。実はあなたがMっ毛たっぷりなの?

呆れと、私の黒歴史も発表されちゃった羞恥とで、少しだけ恨みがましく横を一瞥すると…………、大変!比企谷君がビクンビクンしちゃってるじゃないですか!

どうやらMっ毛はあんまり無かったみたいです。安心安心。

…………もうやめてあげてっ!

 

「……たぶんあなたは、比企谷くんのこれらの憐れでジメジメとした過去の陰鬱な経験のどれかに関わっているのよね?」

「……は、はひっ……」

 

大変!私もビクンビクンしてきました。

 

「……そんなあなたが、果たしてただお礼を言いたいということだけで、友達になりたいという程度の感情だけで、わざわざこの男に会いになど来るものなのかしら」

「……だよねー」

「……ですよねー」

「……あんなにきつく抱きついてまで庇おうとするものなのかしら」

「……ねー。そんな経験があるヒッキーに抱きつくなんて、普通だったらキモいもんねー」

「……ですです」

 

やっぱり抱きついちゃったこと怒ってらっしゃるぅ!

どちらかと言えば擁護派だった由比ヶ浜さんまで笑顔がヒクついていらっしゃるだと!?

そ、そしてやはり……!

 

「……もしかしたらあなた……友情ではない何かの感情があるのではないかしら……?」

「……」

「……」

 

ひぃっ!やっぱりそこを探ってるのね!?LOVEがはっきりしたら除菌滅菌するつもりなのね!?

 

「……そそ、そんなこと無いでしゅよ……!?わ、私、しばらく友達居なかったからっ……色々と助けてくれた比企谷君と友達になりたいなぁ……って……」

 

クッソ……!ホントは分かってるくせにこいつらぁ!!

こうやって真綿で首を締めるように徐々に追い詰めていって、言質が取れた瞬間に始末するつもりなのね!?

 

「……そう。まぁあなたがそのつもりがないのならそれで構わないのだけれど、一応私はこの男が所属する部の責任者。だからこの男を管轄する義務があるの。

だからこれ以上部外に菌が撒き散らされるのを容認するわけにはいかないのよ」

 

これ以上比企谷君のフェロモンにまとわりつく羽虫は増えると面倒だから、ぷちっと潰していきたいのだけれど、という翻訳かしら(白目)

ちなみに“これ以上”の中にいろはすちゃんも含まれますか?

 

てかマジで何様のつもりなんですかね。別に比企谷君はあなたたちの所有物とかじゃないのよ?

だから私は言ってやったのさ。ちょっと美人だからって、この傍若無人な振舞いをする雪女にハッキリとさぁ!

 

「え、えへへ……?た、ただの友達でーすっ……!」

 

オチが読めすぎワロタ。

 

※※※※※

 

……ホントは私の気持ちをちゃんと確認した上で、私も比企谷コミュニティに引き入れたいのかもしんない。

さっきいろはすちゃん言ってたもんね。雪ノ下さんと由比ヶ浜さんは私の事それなりに認めてるって。

 

まぁ有難いお気持ちではあるけれど、たぶんそれやられちゃうと私もこの子たちみたいに関係性に縛られて身動きが取れなくなっちゃいそうなのよね。

精神的なだけの問題じゃなくって、物理的にも盗聴器とか持たされそうで怖いし。

あははー、いくらなんでもそれはないよねー!……ない……よね……?

 

だから私は決して口を割ってはならない。この気持ちを……そして昨日告っちゃったことを……!そう、絶対に!

はいはい、フラグ立て乙フラグ立て乙。

 

「……まぁそうまで言うのならいいでしょう」

「ちょ!雪ノ下先輩!?そんなの嘘に決まってるじゃないですかー?絶対この泥棒ね…」

「一色さん……?」

「ど、泥棒ね、姉さん……?」

 

泥棒姉さんって誰だよ。

まぁ仕方ないよね。泥棒のあとに猫って付けると雪ノ下さんに目で殺されちゃうもんね。

 

「友達だからー、とか言って、絶対色んなとこに連れ回す気まんまんですよ?この姉さん!」

 

姉さん気に入っちゃったの?

てかバレバレじゃないですかやだー。たぶんいろはすちゃんも似たような口実でさんざん連れ回したクチね。

 

「……確かにそれはあるかもしれないわね」

「ですです!で、絶対に行動に移しちゃいますよこの人」

「そう……ね。いざそうなった時、体も心も軟弱なこの男が抗えるとは到底思えないわね……」

 

ちょっと!?私が比企谷君襲っちゃうみたいな言い方やめてくれない!?

……ハッ!さっき耳ふーふー見られてたんだったぁ!

ひぃっ!なんか顔も頭も熱くなってきちゃったよぅ!

 

「ぜぜぜ絶対そんなことしないもん!」

「それはどうかしらね」

「二宮先輩は絶対にそういうタイプです。わたしが保証します」

 

それ自分のことでしょ!?

私、可愛いわ、た、し!全盛期でもあなたほどじゃ無かったからね!?

 

「まぁまぁ二人ともー……にのみんだってああ言ってることだしさー」

「結衣先輩は甘々すぎです!絶対ですよ絶対」

「……そうかなー?でも確かにそうだったらやだかも!」

「間違いないです!野放しにすると超危険です!」

 

ねぇ、私ってそんなにメスの顔した肉食獣に見えるの?発情しちゃった性欲旺盛娘なの?

 

……くっそー!ちょっと頭に血がのぼってきちゃったぞ?

 

「だからぁぁぁ!!私そんなことしないってばぁぁぁ!!てか出来るわけないっての!!…………だってっ」

 

……あ、美耶ちゃん落ち着いて?これあかんヤツや。

 

 

「わ、私!昨日告ってバッサリ振られちゃったばっかりなんだからぁぁ!!」

 

 

「「「………………」」」

「………………」

 

迅速丁寧なフラグ回収ありがとうございます。

美耶ちゃんたら煽り耐性無さすぎワロス。半年ROMりたい。

 

 

 

……凍り付く室内。これは非常にヤバい。

なにがヤバいって、振られた女が平気な顔して友達ヅラしてる辺りがマジヤバい。

比企谷君は気付いてないかもしんないけど、振られた直後に「友達でいいから!」とかって関係を持とうと粘るのって、それ、未練タラタラ隙あらばって言ってるようなもんですから。

 

 

 

よし、逃げよう。もう門限の時間だよ?

しかしこの凍り付いた空気をなるべく保たねば、私はすぐさま背後からガッチリホールドされて囚われの姫と化すことでしょう。

 

だから私はここでこの閉じられたマジックカードを発動しよう。オープン!サクリファイス八幡!

 

「……て、てゆーかぁ、別に私が比企谷君と友達だろうとなんだろうと、ましてや告白しちゃったことなんて、あなたたちにひとつも関係なくないですかぁ……?……あれあれ〜?も、もしかして雪ノ下さん達も比企谷君のこと好きなんじゃね……?」

 

今更かよ。

……そう。確かに今更なのだが、この今更な現実こそがこのデュエル最強のカードなのだ。

 

『あんな素敵で可愛い娘たちをはべらせといて、リア充の意味が分からんとか、あなたちょっと世のぼっち達を敵に回すわよ?』

『あいつらはそんなんじゃねぇよ。単なる部活仲間ってだけの話だ』

 

いくら比企谷君が他者からの好意に鈍感──鈍感という体で気付かないようにしてるだけ──とはいえ、あんなセリフを聞いてしまえば誰にだって分かる。

この子たちは、ここまで明らかな好意を示していながら、未だ比企谷君には直接好意を伝えていない。

 

それはつまりどういうことか。

うん。言うまでもなくこの子たちも大概なのよ。この恥ずかしがり屋さんどもめ。

 

私の勝利の方程式通り、三人はぷるぷると震えながら真っ赤な顔でサクリファイス(生け贄)を見て固まっている。

 

「……あ、いっけなーい……もう門限の時間だから、わ、私帰りまーす……」

 

その隙を突いて即座に魔境からの脱出を成功させた私 二宮隊員は、告訴だのキモいだの無理ですごめんなさいだのという阿鼻叫喚を背中に浴びながらも、聞こえないフリをして廊下を華麗にダッシュ。

 

……ごめんね?比企谷君。

結局あなたひとりを犠牲にしてしまった弱い私を許してね?だって恐いんだもんっ。

さらば魔境、さらば奉仕部。私は二度とここに訪れることは無いでしょう。

……ないよね?てかウチの校門前で待ち伏せからの拉致とかやめてね?

 

 

 

──さて、そんなこんなでついにこの物語のエンディングも近づいて参りました!

そして私 二宮美耶は、たぶんそのエンディングが盛大に執り行われるであろう場所へと颯爽と移動するのでありました。

 

※※※※※

 

……さっぶ……随分と陽が長くなったとはいえ、やっぱり3月の川沿いの夕方は寒いなぁ。

私は今、総武高校から私たちの地元方面へと続く川沿いのサイクリングロードで待ち人を待ちぼうけしている。

ま、その待ち人は桃色地獄を味わい尽くして息も絶え絶えかも知れないけどね。

 

途中で買ったミルクティーもすっかり温もりを無くした頃、ようやく待ちに待ったその待ち人が、死んだ魚みたいな目でママチャリをキコキコ漕いでくるのを視界に捉えることが出来た。

 

「おーい!」

 

色んな感情が交ざりあって、つい緩んでしまった自然な笑顔でブンブンと手を振ると、その男の子は腐らせた目をさらにどんよりさせて、心の底から嫌っそうな表情を浮かべながら私の前までやってきた。まったく、失礼しちゃうなー。

まぁそりゃそうでしょうけども。

 

「……おい、門限はどうした……この裏切り者」

「……え、えへへ〜」

「えへへじゃねーよ……とんでもない爆弾投げつけて一人で逃げやがって……」

「や、やー、ごめんごめん……!てか比企谷君が悪いんじゃん!いつまでも逃げてばっか居るんだからさー」

「……別に逃げてねぇっつうの」

「ふふっ、はいはい、それでいいですよー」

「……チッ」

 

ま、今は逃げてくれてるほうが助かっちゃうし、あれからあの部室内がどうなったか気にならないといえば嘘になるけども、今はまだそれでいっか。

 

「てかお前なにしてんの?こんなとこで」

「なにって、比企谷君待ってたんじゃん。せっかく会いに来たのに、あの部室だけじゃ全然話せないしさ」

「……逃げたくせに……つーかなんで俺がここ通るの知ってんだよ」

「そりゃね、あの学校からうちらの地元に帰るんなら、ここのサイクリングコース一択でしょお。へへ〜、一緒に帰ろっかな〜って思ってさ」

 

さすがにもう校門前とかで待てるほどHP残ってないし。

 

「……さいですか」

 

ふふふ、照れてる照れてる。

まぁ腐っても昔は惚れられてた女ですよ。ちょっと積極的になってやれば、照れさせちゃうくらいならワケはないのです。

あ、腐ってと言ってもキマシタ方面の腐りでは無いので悪しからず。

 

 

それはそうと、コミュ症ぼっちな私が、仮にも気がある男子とこんなに自然に会話出来るってのも不思議な話だよね。むしろ一番話しやすいまである。

確かにドキドキするし顔だってニヤケちゃうけど、なーんか一番上に来る感情が“安心”なんだよね。

ふふっ、やっぱこれはぼっち根性同士のニュータイプな引かれ合い方なのかな?

 

むむ……これって恋愛感情としてはどうなんだろ?やっぱ友達感情なのかなぁ。

まぁ恋愛なんてしたこともなければ、気の置けない友達が出来たことも無い私にはまだよく分かんないや。

 

でもひとつだけハッキリしてることは、告白して振られちゃった昨日よりも、今日はもっと比企谷君のことが好きになってきちゃってるってトコかな。

恋情愛情友情どれにしたって、やっぱり私は比企谷君と一緒に居たいんだな〜……って強く思う。

だから私はその欲望に忠実に生きて行こうではないかね。だって今の私は青春リピート中なんだもの。

 

二人してママチャリを押しながら歩くサイクリングコース。私は隣を歩く比企谷君に話し掛ける。

 

「ねぇねぇ比企谷君っ」

「……あん?」

「今度さっ、一緒にどっか遊びに行こうよ!

土日でもいいし、もうちょっとしたら春休みだから、そこでも遊べばいいし!」

「え?なんで?」

「いやいやちょっと、なんでもなにも私たち友達じゃん。友達だったら遊びに行くでしょ、普通」

「やだよ面倒くさい。友達って休みに遊びに行かなきゃいけない生き物なの?

休日って漢字分かるか?休む日って書くんだぞ?休むどころか疲れに行ったら休日さんに失礼だろ」

「うっわ……想像以上にめんどくさ〜……」

 

ま、ある程度予想はしてたけど、これは一筋縄じゃいかないわね。

 

……とはいえ!

私の比企谷君との嬉し恥ずかし友達ライフは、こんなことで揺らぐわけがないのである。

奇跡的ではあるけれど、あの魔境を無事逃げ出すことが出来たこの私様を舐めないで頂きたいわね。

 

「……ふーん、まっ、いいけどねー。……あ、そうそう、折本さんから比企谷君に伝言があるんだったー」

「いやいきなりだな……なんかあんまり聞きたくないんですけど」

「折本さんもさ、比企谷いつ遊びに行けるー?だってさー。

出来れば二人がいいけど、比企谷が照れくさいって言うんなら私と三人でもいいからってさ」

 

折本さんからの伝言に顔をしかめる比企谷君。

 

「……は?なにそれ、いつからそんな話になってんの?」

「昨日カフェで去りぎわに言ってたじゃん。『今度どっか遊びに行こうよ、んじゃ約束ね!』って」

「いやあれ断ったろ」

「ふふっ、残念ながら折本さんの中では約束取れちゃってるみたいよ〜?

だ、か、らっ……」

 

そこまで言うと含みをもたせるかのようにじっくりと蓄めて、ウシシと悪顔で比企谷君に迫る。

 

「……もしも比企谷君が私の誘いを断るようなら、折本さんに「比企谷君、家に来てくれってさー」って嘘ついて、二人で比企谷君ちに押し掛けちゃおっかな〜……?

たぶん超大変だと思うよ〜?折本さんに押し掛けられたら」

「…………お前さっきといい今といい、ホント最悪な……」

 

呆れ果てた顔で見られちゃったけど、そんなの気にしませんよ?

だって、あの子たちと比企谷君が足を踏み出し切れずにまごついてるうちに、その隙をついて私は比企谷君との確固たる友情(やらなんやら色んな情をね♪)を結ばなきゃなんないんだからっ。

 

「比企谷君が私の召集に大人しく応じてくれるんなら、折本さんには上手く言っといてあげるよー?」

 

とはいっても三人で遊ぶのもなかなか楽しそうだし、いずれは秘密裏に実現させちゃうかもだけどね。

 

「……くっそ……マジで面倒くせぇな……」

 

ホント強情だなぁ……こんな可愛い女の子と二人で遊べるのがそんなに嫌なのかい?ちょっと傷ついちゃうよ?

ふっふっふ、でもあと一押しかな。

 

「いいじゃん!私と二人だったら絶対楽しいってばー。……ほら、例えば大友な比企谷君じゃ一人では絶対に観に行けないプリキュアの映画だって、私と一緒だったら観に行きやすいよ?」

「!?」

「別にプリキュアじゃなくても、スーパーヒーロータイム劇場版でもプリパラ劇場版でもなんでも守備範囲だしさ」

 

まぁプリパラは他にも観に行きたい子が居そうだけど……

 

「ぐぬぬ……」

 

よし、かなりグラついてるご様子。これはもらった。

 

「それにほら、別に映画じゃなくてもさ、それこそ比企谷君ちでも私んちでもいいし!

友達とマリカーとかスマブラとか出来たら超楽しそうじゃん!友達と対戦ゲームした経験が無いぼっちゲーマーとしてはさー」

「それはいいや、なんか襲われそうだし」

「襲うかバカぁ!!」

 

 

 

 

──未だ二人のお出掛けを渋る比企谷君ではあるけれど、私たちの地元まではまだまだあるし、辿り着いちゃうまでには落としてみせようぞ!

 

 

 

二宮美耶17歳。

あんなライバルこんなライバル数多く、敗色濃厚ではございますが、ただいま絶賛まちがってしまった青春ラブコメを取り戻し中です!

 

 

 

終わり






というわけで長い間本当にありがとうございました!
それにしても後日談だけでこんなにも延びるとは……

いやー、やっぱ修羅場的なのは書くの苦手ですね(汗)
ホントはもっと責めさせたかったんですけど、さすがにほぼ初対面の美耶を辛辣に責めすぎるとゆきのん達の人格が最悪になっちゃいそうなんで、さじ加減が難しかったです(白目)




そんなこんなで、何となく始めたこの二宮美耶物語も、あれよあれよという間に気がつけばなんと21話になっちゃってましたが、これにてひとまずの終幕と相成りました!
回想モブキャラがオリヒロ主人公などというトンデモSSではありましたが、最後まで本当にありがとうございました!
皆さま!美耶を愛してくださってありがとうございました☆
ねっころがしでした!(自虐)




※お知らせ

たまに美耶を短編集で!と、とても有難いお言葉を頂くのですが、さすがにお気に入りが短編集の半分しかないこの作品のオリキャラをあちらで出演させるのは正直気が引けます><
なにせ向こうの読者さまの半分以上の方は知らない・興味の無いキャラなもので(汗)

ですので、もしまた私が美耶を書きたくなった時、八幡とのデートやif美耶√が書きたくなった時などは、短編集ではなくて【if】やら【番外編】と銘打ってコチラに載せようかな?とか思っております!

それではまた皆さまと美耶が再会出来る日が来ますようにっ(^^)



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【特別編】メリークリスマスwith元ぼっちーズ☆

メリークリスマスっ☆


なんと聖なる夜に一夜限りのまさかの更新!

美耶「恥ずかしながら帰って参りました」



ご無沙汰しております、ねっころがしと申します()



記念日SSにしては結構短いですが、まだ二宮美耶とこの作品を覚えてる方がおられましたら、どうぞお楽しみくださいませ!



あ、あと後書きにまさかの美耶のイメージイラスト(鉛筆手描きスマホ撮影という酷い地雷)載せときました(;´Д`)いまさらっ!?





 

 街に響くよジンゴーベッ。街を彩るイルミネイッション。街が煌めくサイレンナイッ。

 

 

 

 ──あの自爆告白から幾年月(九ヶ月ですがなにか)、ついにこんな元ぼっちな私にも、この聖なる夜なホーリナイッがやってきたのです。

 

 

『ねぇねぇ美耶ー』

『……な、なんでしょう』

『クリスマスってどするー?』

『……は? いやいや私たち受験生なんですけど……』

『なーに固いこと言ってっかなー。高校生活最後のクリスマスくらい、ぱぁ〜っとやろーぜー!』

『そーだよミヤミヤ〜! ぱぁ〜っとやろうよぱぁ〜っと!』

『だからミヤミヤ言うな。……い、いや、私ちょっと……』

『………………あ、まさか比企谷と約束あるとかぬかす気……?』

『っ……ナ、ナンノコトデショーカ?』

『はぁ? ちょっと信じらんなくない!? 美耶さっき私たち受験生なんですけどとか言ったよね!?』

『……』

『うっわ超うらぎりー! ミヤミヤのうーらーぎーりーもーのー』

『もうあったまきたー。……うん、あたしもそれ一緒に行くわ。あたしも久しぶりに比企谷と遊びたいし』

『……は? いやいやちょっとマジでやめてね!? 私がどんだけ苦労してクリスマス勝ち取ったと思ってんの!? やめてぇー! 私のサイレンナイを邪魔しないでぇ!』

『あ! 逃げた! 千佳捕まえろぉ!』

『いやなんでよ、あんたが行けよ』

 

 

 と、山あり谷ありな終業式を二日前に乗り越えて、私は今、とある場所で比企谷君を待っているのである。

 

 てかホントあぶなかったよ。おかしいな、あんなにすぐバレるなんて。ロイヤルストレートフラッシュ並みの私のポーカーフェイスはどこ行っちゃったんだよ。

 ……フッ、私もいつの間にか世間のぬるま湯に飼い馴らされたもんだぜ……(もともとすぐ顔に出やすい、嘘の吐けない素直な女の子でした、てへ)

 

 まぁそれはそうと、そう何度も折本さんに足引っ張られてたまるかよ。

 マジ私がどんな苦労してこの日をゲッツしたと思ってんのよ。もう半べそかきながら土下座する勢いで拝み倒したんだからね……? なんならリアルに膝まで付いて、必死で止められたまである。私必死すぎだろ。

 

 いやいやだってさ、こちとら中二の夏前くらいからは、友人関係ってヤツに対して軽く病み始めましたんで、友達と過ごすクリスマスなんて実に五年ぶりなんですよ。そりゃ必死にもなりますってば。

 

 え? じゃあ今までクリスマスはどう過ごしてたかって? ウフフ、そんなの愛しのカレと過ごしてたに決まってるじゃないですか。

 ちゃんと録画しといた当時の俺の婿を、ツリーのライトだけがキラキラ光る薄暗い部屋で一時停止させて、一人で話し掛けたり一人でケーキ食べたりと、二人っきりの素敵な夜を過ごしましたとも!

 

 

 ……しくしく……痛いよぅイタいよぅ……

 酷いよっ……! こんな日に思い出さないでよ私っ……!

 なんなの? 勇者なの? 自殺志願者なの? (白目)

 

 

 

 ──しかし彼と再会してから、そんな黒歴史……いやさ闇歴史など、とっくに追憶の彼方へと飛んでっちゃったのさ。……思えばこの九ヶ月、比企谷君とは本当に色々あったなー……

 奇跡の再会(痴漢被害)から始まり、今や思い出すだけでも血反吐を吐ける自爆告白。

 そして初めて二人で遊びに行った春休み(劇場版プリキュア)では酷い目に合い、比企谷君の誕生日では酷い目に合い、ついにあと一歩で比企谷君を押し倒せるんじゃね? ハァハァ。……と思えた初めてのマイルームお招き回では、突如折本さん達が部屋に乱入してきて酷い目に合い。

 こうして考えると酷い目にしか合ってなかった。

 

 

 

 そんな私が、ついについにこの良き日を迎えられたのである。勝ったなガハハ!

 今日だけは誰にも邪魔されたくない。なにせどっかの邪魔者どもに先を越される前に、九月にはこの日の予約入れといたからね。

 三ヶ月前に予約しないと無理とか、あんたどこの予約の取れないレストランだよ。美味しく頂いちゃっていいのかな? むしろ美耶ちゃんを美味しく召し上がれ☆ ハァハァ。

 

 

 そんな、モザイクがかかること必至な脳内妄想に今日も黙々と悶々と励んでいると……

 

「……おう、待たせちまったか。悪いな」

 

 おっと、ちょっと飛びすぎてたよ。いつの間にか待ち人のご到着である。ヨダレヨダレ。

 

「んーん? 私もいま来たトコだよっ」

 

 やだなにこの模範回答。よくできました。

 デートに小慣れしてるイケてる女感でまくっちゃったかしら? これはもうハナマル貰っちゃうしかないっしょ。ちなみに私にとってのハナマルは、比企谷君の頭なでなでだゾ!

 

「そうか。んじゃ行くか」

 

「お、おう……」

 

 とまぁこうして普通に頭なでなでなどして貰えるワケもなく、それどころか普段よりもずっとお洒落にキメている私に目もくれず、とっとと夢の国に向かって歩き始めるいけずな比企谷君まじクール。

 ちょっと? いつもはなんの変哲もないリボンで適当に結んでるポニテだって、今日はクリスマス仕様のモコモコなシュシュに変えたりしてんのよ? 美耶ちゃんちょっと可愛く仕上がってない?

 ね、ねぇホントにそのまま行っちゃうのん? ……うん、ですよねー。さてと、軽く涙を拭いてっと。

 

 

 ま、比企谷君が私の私服姿に触れてこないのなんていつもの事だし、実はこっそりと私をチラチラ盗み見して惚けてるのも知ってたりするから、この件は不問に処すとしよう。この照れ屋さんめ。

 それよりも、軽く流しちゃうトコだったけど、もう一度言おう。比企谷君は夢の国に向かいました。

 そう、私達が待ち合わせしていたのは舞浜駅改札前。そしてこれから向かうはリア充女子(笑)がクリスマスに彼氏と過ごしたい率No.1(当社比)のあの夢の国。そう、ディスティニーランドなのです!

 ホントはランドじゃなくて、もっと大人〜ないい雰囲気になれるアッチが良かったんだけど、なぜかそっちは私の担当じゃない気がしたのよね。担当ってなんだよ。

 

 

 

 そんなこんなでついに! 私 二宮美耶とそのお友達の比企谷八幡君との、ドキッ! 初めてのクリスマスデート♪ がスタートするのであった! ポロリもあるよ☆

 

※※※※※

 

「うっわぁ……私これ初めて見たよ……! すっごいね」

 

 十八年もの長い間、千葉で立派に育ってきたというのに、なんとクリスマスのディスティニーが初体験な私は、初めて見るディスティニーの巨大なクリスマスツリーに感動していた。

 十八年間立派に育ってきたわりに、胸部の辺りはあんまり育ってないのね、ってうるさいわ。

 

「だな」

 

 どうしよう。胸部問題を即答で肯定されちゃったわ?

 いやいや、今の「だな」は、ツリーがすごいという意見に対しての同意だからッ(涙目)

 

「えっと、比企谷君もディスティニークリスマスは初めて?」

 

「いや、クリスマス当日は初めてではあるが、当日じゃなければ去年来たな」

 

「……ふ、ふーん」

 

 誰よ!? どこの誰と来たのよぉ!?

 と、ホントは気が気でない私ではありますけれども、そこはほら、あんまり束縛が強いとウザがられちゃいますから? そもそもまだ恋人でもなんでもねーし。

 

 だから私は全然気になりませんけど? と、得意のポーカーフェイスを駆使してこの場をやりすごすのである。

 

「……どうかしたか二宮。なんかすげー面白い顔してっけど」

 

「なんでもにゃいから! ……てか面白い顔ってどんな!?」

 

 私どんだけ顔に出やすいんですかね。

 そしてつい出ちゃったナチュラルな顔がすげー面白い顔って……

 

 でもでも私は負けないのです。どうせアレでしょ? 去年の合同クリパ関係で雪女達と来たとかそんな感じなんでしょ?

 ウチの前生徒会長がさんざん迷惑かけたらしいって折本さんから聞いてるよ?

 だから私はそんなの気にせずに、むんずっと比企谷君の手を握って引っ張りはじめるのだ。

 

「てかいつまでもこんな無駄な時間過ごしてたら勿体ないってば! ほら早く行こ」

 

「ちょ、お、おい」

 

 

 

 ──ぶっちゃけ、私の比企谷ハーレム内カーストは最下層である。まぁそりゃそうよね。めちゃくちゃ出遅れてるくせに、学校違うから一緒に居られる時間も短いんだから。

 ちなみに華やかさでも連中に勝ち目の無いどうも二宮と申します。

 

 でもそんな私にも、あの方たちに唯一勝っているポイントがある。

 それはこれ。

 

「……なぁ、手ぇ離してくんない……? 恥ずかしいんだけど」

 

「えへへぇ、いーじゃん友達なんだもん! 友達ってのは手を繋いで歩くもんでしょ?」

 

「……それはガキの頃限定だろうが。あと女子同士。なんで女子同士って恥ずかしげもなく手を繋いで街を歩けんの? 男友達同士でアレやったら阿鼻叫喚だぞ」

 

「大丈夫だよ。一部には涙と鼻血流して喜ぶ層もいるから」

 

「全然大丈夫じゃなかった……」

 

 

 そう。友達という便利なワードを笠に着て、恥ずかしげもなく手とか繋げちゃうとこ。

 なにせ私、比企谷君に対して散々醜態晒しちゃってるんで、比企谷君相手だとこーゆー恥ずかしい事も、あんま照れずにガンガン攻めてけるのよね。

 友達友達言いながら、好き好きアピールも超しちゃってるし。

 

 これはあのいかがわしい奉仕部関係各所の、恥ずかしがり屋さんでツンデレな面倒くさい方々には無理な所業なのである。

 さらに私には、このまま仲良しのお友達で居られれば、もう少しで他のライバルに大幅に差を付けられるあの作戦が待っているのだふはははは。

 

 てなわけで、せっかくのクリスマスだし今日でキメちゃうぜ! なんて無理に焦らずに、今日も今日とて仲良く手を繋ぎつつ、少しずつ追い上げて追い越してみせようぞ。

 まぁさすがに照れが限界だったのか、しばらく歩いてたらぺしっと引き剥がされちゃったけどね。

 

 

 そして私達はキラキラなクリスマス色の夢の国へと、不思議の国のアリスのようにワクワクドキドキで迷い込んでいくのであった。

 

 よっしゃ、たっぷり楽しんじゃいましょー!

 

※※※※※

 

 ブロロロロ……

 

 各地を転々と遊び回ってきた私達。辺りはすっかりとクリスマスなイルミネーションでキラキラと輝いている。

 

 

 

 え!? もう!? もう夜なの!?

 え、ちょ、おかしくない? な、なんかさぁ、もっとこう、色んなアトラクション巡ったり、チュロスとか食べたりレストランで語り合ったりみたいな、アハハウフフでイチャイチャちゅっちゅな物語が繰り広げられるものなんじゃないの?

 

 ブロロロロ……

 

 だがしかし、そんなイチャイチャちゅっちゅなストーリーを語る事も許されず、現在私は比企谷君の運転するゴーカートに乗っている。

 

 ディスティニーでゴーカートって……しかも遅っ! 尋常じゃなく遅いわエンジン音うるさいわで、夢の国の面影皆無ですわコレ。数あるアトラクションの中で、唯一語られるチョイスがコレって、ちょっと渋すぎやしませんかね。

 

 一瞬で夜になっちゃってるとかアトラクションがゴーカートとか、二宮美耶の物語だからと言って、軽く手を抜いてません?

 これはクリスマスディスティニーデートの詳細なイチャイチャ内容を、大幅加筆修正希望待ったなしですわ。

 

「どうした、なにぶつぶつ言ってんの?」

 

「……お、お気になさらずに」

 

 どうやらメタ過ぎな脳内思考がダダ漏れだった模様です。

 

 

 ……でもね? ディスティニーでゴーカートだからといって馬鹿にしちゃいけないのよ?

 夢の国に存在するには現実的過ぎてシュール過ぎるこのゴーカート、なんと来年の一月にはついに閉鎖されちゃうみたいで、「だったら今のうちに!」と、ディスティニーファンの間で地味に盛り上がってるらしい、こう見えて今大人気のアトラクションなのである。

 

 ブロロロロ……

 

 

 と、とはいえホントムードのかけらも無いわね、このうっさい音……

 いや、まぁいいじゃないですか。比企谷君が運転する助手席に乗ってるなんて、なんか将来の予行演習みたいだし。

 それに、昼間に乗ると「あれ? 私どこに遊びに来たんだっけ?」と、思わずディスティニーに遊びに来た事を忘れさせてくれること請け合いな、場違い感溢れるこのゴーカートも、夜であればなかなかのムードなのよね。

 ディスティニーの光り輝く夜景を見ながらの素敵なドライブ。うん、なかなか女の子の夢が溢れてるじゃない。

 

 ブロロロロ……

 

「……」

 

「……」

 

 だ、だめだ……いくらポジティブに考えようとしても、どうしてもこの音とスピードが思考を現実に引き戻させやがる……なぜ乗ったし。

 

「……寒みーわ遅せーわうるせーわで、なんかつまんねぇな、これ」

 

「やめて!? 今回のディスティニー回での唯一の見せ場なんだからディスらないで!?」

 

「……?」

 

 とっても訝しげな視線をぶつけてくる比企谷君は全力でスルーして、せっかくのドライブデートなんだし、ここは楽しいトーキングタイムと洒落込む事にしよっかな?

 

「ねぇねぇ比企谷君っ」

 

「ん? どうした」

 

「勉強はどう? 順調に進んでる?」

 

「おう、まぁな」

 

「えへへ、そっか……! 楽しみだね、キャンパスライフ」

 

「……まぁ、その……なんだ。大して楽しみってワケでは無いが……悪くも、無いな……」

 

「ふふっ」

 

 

 ──悪くもない。

 自称ぼっちな比企谷君が、来たるキャンパスライフに向けての思いを、なぜ私にそう語るのか。

 

 それは! 私と比企谷君が、来年から同じ大学に通うからなのである!

 そう、これこそが並み居るライバル達を置き去りに出来る可能性を秘めた私の作戦なのだ!

 

「しかしな、楽しみもなにも、お前ギリギリであぶないレベルだろうが」

 

「ぐはッ」

 

 通うからなのである! じゃねーよ。単なる希望的観測だった。

 

「本気であそこ狙ってんなら、お前の学力じゃ貴重な一日をこんな風に遊び惚けてる場合じゃなくない?」

 

「うぅ〜……いいんだもん! 人生には程よい息抜きだって必要なんだもん!」

 

「……お、おう」

 

 あまりにも必死なサボり宣言に超引かれました。

 でもこれホント。あの日比企谷君とクリスマスデートに行けたから……あそこで心身ともにリフレッシュ出来たから、私志望校受かったんだよ? って、言える日が絶対来る気がする。たぶん。恐らく。来るといいな。

 

 とにかく勉強し過ぎて煮詰まっちゃってた頭には、たまにはこんな幸せな休息が大事なのです。

 おっと危ない危ない。受験生とした事が、煮詰まるを誤用ってたよ。ふふふ、ここテストに出るよっ?

 

 

 しかしそんな私の想いとは裏腹に、未だに引き気味の比企谷君はなんと意地悪なのだろうか。

 だから私はちょっぴり唇を尖らせて、拗ね気味にこう言ってやったのさ。

 

「……じゃあ、さ? ……比企谷君は……今日一日楽しくなかった……? 勉強疲れの頭と身体をリフレッシュ出来なかった……? 私は超楽しかったし、よーし! 明日からもっと頑張るぞー! っていう活力湧いて来たんだけどなー……」

 

 フッ、そしてそこからの、不安げな潤々上目遣いのコンボでトドメですよ。

 なんか最近、比企谷君がどのレベルだとあざといと感じるのか、もしくは照れるのかが分かってきたのよね。八幡検定一級ちょうだい。

 

「……や、別に……なんだ。……まぁそれなりに楽し……そんな感じっちゃそんな感じだし、いい息抜きには……なったな」

 

 ぷっ、チョロっ。チョロ過ぎるぜ比企谷君。私の計算どおり、真っ赤になってそっぽ向いてるじゃない。

 一応いま運転中ですよ?

 

「ふ、ふふ、ふーん……っ。……そそ、そっか」

 

 いやだわ、私も超チョロかったみたい。

 何だかんだ言って、私とのディスティニーデートが楽しかったと言って照れちゃってる比企谷君にデレデレになって、赤いほっぺを人差し指でかりこり掻いてるどうもチョロインです。

 

 

 そんなちょっぴり幸せ桃色空間になっちゃった車内だけれど、残念ながらそろそろゴーカートのゴールが目前のご様子。

 さんざんケチ付けたこのアトラクションではあったけど、比企谷君とのドライブデート、なかなか楽しんじゃいました!

 

「お、もう到着するみたいだし、比企谷君がデレたところでそろそろ次いきますかー!」

 

「……デレてねーよ」

 

 それはない。

 

「……? おかえりなさーい!」

 

 この寒いのに、なぜか手でぱたぱた顔を扇ぎながら帰ってきた比企谷君を見て、不思議そうな顔をしながらも笑顔でお出迎えしてくれる女性キャストさん(可愛い)に見守られて、このシュールなドライブデートも終了です。

 

 

 「よいしょっ」と先にゴーカートから降りた比企谷君に、私はそっと手を伸ばす。私の手を引いてゴーカートから引っ張り上げてね! という意思表示である。

 もちろん他意はない。ただこのゴーカートって乗り物、普通の車と違って車高が低すぎて乗り降りしづらいのだ。

 だからあくまでも立ち上がるのが大変だからなのであって、そうやってまた自然と手を繋いでやろうとか、そういう他意は一切ないのである。無いったら無いやい。

 

「……はぁ〜、ほれ」

 

 そして、やはり比企谷君はなかなかのジェントルマンであるから、こうやって面倒くさそうに溜め息を吐いても、恥ずかしそうに手を貸してくれる。萌えるぜ。

 

「えへへ、ありがと。んしょっと」

 

 そんな捻くれ王子様に手を引かれて白馬から降りるプリンセスな私。

 まぁいかんせん馬じゃなくてゴーカートだから絵面は相変わらずシュールではあるんだけど、私はいつだってLOVEフィルター越しで見られるから平気だゾ!

 

 

 

 が!

 

「……あ」

 

「……あ」

 

「……あ」

 

 ……もう一度言おう。このゴーカートという乗り物、乗り降りがしづらいのだ、と。

 

 慣れない位置から慣れない立ち上がり方をしたもんだから、その、なんつーの? 足がさ、ちょっと……てかだいぶ? 開いちゃったんですよ。これがまたパッカリと。

 私今日気合い入れてミニスカートなんて履いてきちゃったもんだから、私を引っ張り上げようとしてくれてる比企谷君からは、うん……開いた足と捲れ上がったミニから、ね。うん。丸見え? 的な?

 もうね、チラリズムとかそういうレベルを逸脱しちゃってました。私の勝負パンツ(桃色)が。

 

「……Oh」

 

 なにが恥ずかしいって、比企谷君から丸見えになっちゃった状態を女性キャストさん(可愛い)もバッチリ見ちゃって、もんのすごく気まずそうに苦笑いしてる辺りがマジ恥ずい。

 よし、ポジティブに考えよう。キャストさんが女性で良かったね♪

 

「……えっち」

 

「……すまん」

 

 えっちもなにも私からご開帳しちゃったんですけどね!

 でもこういう場合、例え女の子が加害者だとしても、容易に被害者になれるって超ラッキー。まぁ比企谷君もラッキースケベをじっくり堪能できたわけだし、これはまさにWinーWinな関係ってヤツですな。それアグリー!

 

 

 ──こうして、残り少ないクリスマスディスティニーは、加害者兼被害者の強い要望で、この後は問答無用で手を繋いだまま行動する事が決定したのです。それある!

 

 ただ、お互い真っ赤な顔して手を繋いでアトラクションを去っていく時の、女性キャストさん(可愛い)からの怨念めいた生ぬるい視線がかなり痛かったです。

 だったらクリスマスに仕事なんて入れなきゃいいのに。

 でも社会人はそういうわけには行かないんだよね。やはり嫁ぐのがジャスティス。誰かさんに養ってもらわねば。

 あ、でもどうしてもって言うなら、私が養ってあげるからね♪

 

※※※※※

 

「あ〜、やばーい! 超楽しかったぁ」

 

 あのラッキースケベのあと……違った、ゴーカートのあと、クリスマスバージョンなエレクトリックパレードも夜空を彩る花火も思いっきり堪能し、私は満面の笑みを浮かべて舞浜駅へと歩いている。

 もちろん手はずっと繋ぎっぱなしである。

 

 

 ……なーんかクリスマス記念にしては尺短くない? まぁ、超楽しかったからひとまず良しとしようか。求ム、大幅加筆修正。

 

「へっへ〜、すっごくいい息抜きになったよねー! これでお互い受験戦争に勝ったなガハハ!」

 

「まぁたぶん俺だけ受かってお前は落ちると思うけどな」

 

「ガハッ!?」

 

 美耶知ってるよ? そんなのただの照れ隠しだって事くらい。

 ……ね、ねぇ、単なる照れ隠しだよね……? (涙目)

 

「クッ……まったく、比企谷君は意地悪だなぁ……ホントは一緒の大学行きたいクセにー」

 

「別にそれはない」

 

 ぬぅ! なんたる強情な!

 あまりの素直じゃなさにギロリと睨めつけてやると……比企谷君はすでにそっぽを向いていた。

 

「……だが、まぁあれだ」

 

 そしてそっぽを向いたまま、比企谷君は照れくさそうに頭をがしがしと掻き始める。

 みなさん準備はいいですか? これ、捻デレが始まるサインですよ?

 

「……知り合いがいた方が、便利っちゃ便利かもな」

 

 はいっ、安定の捻デレいただきました!

 

「ふふっ、この捻デレー」

 

「デレてねぇよ……」

 

 どこがだよ。

 

「じゃあ仕方ありませんねー。そーんな捻デレ比企谷君の為にも、頑張って一緒に合格しちゃいますかー」

 

「……さいですか」

 

 

 ……ああ、幸せだなぁ。こんな幸せ、いつまでも続けばいいのになぁ。

 でも幸せってのは誰かに与えてもらうものじゃないのよね。だからその為にも、明日から超超がんばらんば!

 

「あ、ねぇ比企谷君っ」

 

 だから明日からの勉強漬けの毎日に備えて、比企谷成分をもうひと充電しとこっかな。

 

「ん」

 

「さっきさ、ゴーカートで比企谷君の助手席に乗ってるとき思ったんだよね、また乗りたいなって」

 

「……え、お前またアレに乗りたいの……?」

 

「アレにじゃないわよ!」

 

 だ、大丈夫……? 私達ちょっとあのゴーカートをディスり過ぎじゃないかしら……?

 ま、まぁもう少しで閉鎖しちゃうから大丈夫よね……?

 

「……そうじゃなくってさぁ、その……比企谷君の運転する車の助手席にって事」

 

「……〜っ」

 

 それを聞いて真っ赤になる比企谷君。

 

 ね! 私、実は結構恥ずかしいこと言ってね? あなたの助手席に乗りたいとか、なんかもうアレな感じじゃないですかやだー。

 ……よし、一旦話を逸らそうか。

 

「じゅ、受験終わったら、比企谷君免許とか取りに行ったりしないの……!?」

 

「……いや、まだ考えてないな。都会に居る分には車なんて無くたって困らねーし」

 

「……え、でも比企谷君ずっと千葉に居るつもりなんでしょ?」

 

「ばっか、だからそう言ってんだろ。千葉超都会だろうが!」

 

 なんかすっごくキレられちゃいました。どうやら見解に相違がある模様ですね。

 

「う、うん、まぁ千葉が都会かどうかは置いといてさ、免許ってあっても困んないじゃない?」

 

「……取っても車ねーし。買うつもりも今んとこねーしなぁ……」

 

「あ、じゃあウチの車使えばいーじゃん! ウチの両親に挨拶にきなよ〜」

 

「……おい、なんか別の意味に聞こえるんだが……」

 

「ハッ!?」

 

 あっぶね! 油断してたらプロポーズしてたよ私。

 

「たたた他意はないから! そういうんじゃ無いからね!?」

 

 まぁ心のどこかに他意はあったんだと思いますけれどもね!

 

「……なんか、ね、比企谷君とドライブとか行けたら、楽しいかな〜って……」

 

 ど? とでも言わんばかりに上目遣いでチラチラと熱視線を送ってみると……

 

「……ま、考えとくわ」

 

 と、耳まで赤くしてどうやらまんざらでもないご様子。勝ったなガハハ。しつこいですね、ハイ。

 

「えへへ〜」

 

 よっしゃ充電完了っと。これで勝つる!

 女の子はいつだって、好きな男の子の助手席を自分専用のベストプレイスにしたいものなのですよ。

 その上しばらく先の約束までしっかり取り付けちゃう狡猾さ! さすが元計算高いリア充な私。

 

 

 ん、そろそろ駅に到着しちゃう。これでこのクリスマスデートもお仕舞いかぁ……

 

「んじゃあさ! 免許取ったらまずは近場って事で、またディスティニー来ようよ!」

 

「……おい、考えとくって言っただけで、まだ取りに行くとは言ってねぇだろ……」

 

「またまたぁ、もう約束したからねっ」

 

「だから」

 

「パンツ、ガン見してたよね♪」

 

「……善処します」

 

「ふっふっふ」

 

 

 

 

 ──でもね……あれだけ楽しみにしていたクリスマスデートがもうそろそろ終わってしまうというのに、私の心は沈むどころかどこまでも跳ね回る。

 なぜなら、一度終わりかけた私の青春は、まだまだリスタートしたばかりなのだから。

 ……それにこのあと満員電車に揺られて、合法的に比企谷君に抱き付けるお楽しみも残ってるしね、じゅるる。

 

 だからこのクリスマスデートは、ギャルゲーで言えばまだほんのひとイベントを消化したに過ぎないのである。まぁすでに美耶ルートには突入しちゃってますけども!

 だからこれからも、こうしてゆっくりと、でも確実に……私の青春を取り戻して行こうと思う。出来れば、ずっと比企谷君の隣で……

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

 

 

 そうそう。私とした事がすっかり忘れてたよ。

 私、今日という良き日を迎えて、まだ比企谷君に大事なことを言ってないじゃん。

 

 

「ねぇ、比企谷君! すっかり忘れてたんだけどさっ……」

 

 

 だから言おう。ちょっとだけ遅くなっちゃったけど。

 今日一日の幸せをいっぱい込めた…………んーん? 再会してからの九ヶ月間の幸せをいっぱい込めた、最っ高の美耶スマイルで……

 

 

 

 

「めりー、くりすまーーーすっ♪」

 

 

 

 

終わり☆

 

 




ホントお久しぶりでございましたが、最後までお読みくださりありがとうございました!
いったい誰がここでコレの更新が来ると予想したでしょうか!
こんなもん予想できるかよ。

そしてディスティニーデート何回書けば気が済むのん?
はい、これでディスティニーは閉店します。お世話になりました。



もともとコレを書く気は一切無かったんですが、短編集のクリスマス記念SSを書き終えてから若干の余裕があったんで、時間がギリギリながらも無理矢理書いちゃいました☆
なので記念日SSなのにたったの1話、たったの1万字程度の短さになってしまいました(白目)


そんな突然のテロ更新にも関わらずここまで読んで下さった読者さまに感謝しつつ、メリークリスマス!





そしてちょっと前に、なにを血迷ったのかあざとくない件の香織のイラストを描いてみたら、作者のイメージしてる姿が分かった方が分かりやすくていい、と、ごくごく一部の方には好評だったので、調子に乗っての美耶イラストです。

こちらも時間なかったんですこぶるシンプルでつまらない絵ですが、イメージがぶっ壊れてしまっても構わないという勇者様のみ、怖いもの見たさでチラ見→そっ閉じしてくださいね☆(白目)



【挿絵表示】




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