Jumper -世界のゲートを開く者- (明石明)
しおりを挟む

クロノトリガー編 第1章
第1話「目覚めれば時の最果て」


はじめましての方はこんにちわ。
おなじみの方もこんにちわ、明石明です。

活動報告、ならびにJumper -IN CHRONO TRIGGER-のお知らせで上げたように、本作はJumper -IN CHRONO TRIGGER-のリメイクとなっておりますが文章の大まかな流れはJumper -IN CHRONO TRIGGER-と大きな差はありません。
ですが当時発生した没シーンなどはこちらに掲載予定はなく、設定に関しては大きく修正が掛けられていますのでご注意ください。

では前書きはこのくらいにして、早速リメイク版Jumper、どうぞご覧ください。


 拝啓、父さん母さんそして世話のかかる姉とどこに出しても恥ずかしくない自慢の妹よ。

 現在あなた方の長男、月崎 尊は前代未聞の状況に陥っています。

 今立っているここは一人暮らしをしている自宅マンションの一室などではなく、昔プレイした名作RPG――クロノトリガーの『時の最果て』なのです。場所的には各時代に行ける光の柱がたくさんある部屋の隅っこ。

 まだ3つしかないけど、間違いないと断言できます。学生時代にPS版のマルチエンディング完全制覇やTAS動画で散々見たのだから。

 

 

「……と言うか、マジでゲームの中だっていうのか? 正直、夢であってほしいんだが」

 

 

 ここにいても埒が明かないので、とりあえず通路の先にいるであろう老人に会いに行ってみることに。

 扉をくぐった先は――視点こそ異なるが――幾度となく見てきたあの広場だ。ただ気になるのは入ってすぐ左に見たことのない光の柱があることだが、こんなのあったか?

 しかしそれよりも今は目の前で鼻提灯を吹かしている老人だ。

 

 

「あのー、すみません」

 

「むお?」

 

 

 話しかけると同時に提灯が破裂し、老人――時の賢者ハッシュが目を覚ます。

 

 

「ほっほっほ、これは珍しい。こんなところにお客さんか」

 

「お休みのところすみません。いくつか質問したいのですが、ここはどこですか?」

 

「ここは時間の終点……時の最果てとも呼ばれる場所だよ。おまえさん、どこから来なさった?」

 

 

 一瞬、本当のことを言っていいものか悩んだが、下手に隠すと話が進まないと判断してこの世界がゲームの中だということだけを伏せ自分のことを話し出す。

 自分がこの世界の人間ではなく、気が付いたらこの場所にいたということだけを告げるとハッシュは頷くように数回頭を揺らして帽子の位置を整える。

 

 

「――別の世界から来た、か。それは災難だったな」

 

「どうしてここにいるのか知りたいのですが、わかりませんか?」

 

「さて、な。最近妙に時間の境界線が不安定になっているみたいでの。その余波を受けたのかもしれんな」

 

 

 境界線の不安定化――おそらくラヴォスが絡んでいるのだろう。ということは、あれを倒せば元の世界に戻ることが可能だというのか?

 ………うん、無理だな。

 シミュレートして2秒、一発目の天から降り注ぐ攻撃で即死する未来しか見えなかった。

 ――いや、しかしクロノたちも即死する状況からレベルを上げたり防具を取りそろえたりして勝利をつかんだんだ。ならば俺にだって出来ない道理はない……はずでは?

 まああれを倒す以外で元の世界に戻る方法があるのなら、それに頼るのが一番いい。痛いことはできるだけ避けるべきだ。

 

 

「それで、おまえさんはこれからどうするのかね?」

 

「……とりあえず、どうにかして元の世界に戻る算段を探しますよ。両親や手のかかる姉と可愛い妹がいますからね」

 

「ほっほっほ、家族思いだの。ふむ……それなら、そこの扉に行ってみなされ」

 

 

――あそこは確か珍獣、もとい、自称戦の神スペッキオがいたはず。と言うことは……

 

 示された扉を一瞥し、もしやと期待を膨らませてそれをくぐる。

 

 

「んあ? なんだおめーは」

 

 

 ――最弱(カエル)形態の(スペッキオ)がいた。

 

 

 

 

 

 

「――なるほど、表のじーさんがな」

 

 

 事情を説明したら納得してくれたスペッキオ。しかしカエルが二本足で立って腕組んでいる姿はシュール以外の何物でもないな。

 あ、でもここにいたら世界一かっこいい両生類と遭遇する可能性もあるのか?

 ふとそんなことを考えていると何かに気付いたスペッキオがこちらを見つめていた。

 

 

「おめーからなんだか不思議な力を感じるな。心の力もそうだが、それ以外の力も感じられる……」

 

「不思議な力? なんだそれ?」

 

「さあな。ケドおめーには遥か昔に潰えた魔法の力を使う素質があるみてーだ」

 

「マジか!?」

 

「おれ戦の神、嘘つかない。魔法を使いたーいと念じながら壁に沿って部屋を三周してみな!」

 

「了解した!」

 

 

 言われるままにドアを起点に部屋を3周する。これキッチリ回れなかったらズルダメズルダメって言うんだよな。少し見てみたい気もするが、下手に怒らせて機嫌を損ねたら魔法を使えるようにしてもらえなくなるかもしれないから大人しくしよう。

 念には念を入れてさらに一周してOKサインがでた。

 例の妙な動きと呪文が唱えられると、心の奥から熱いものが込み上げてくる!

 

 

「お、おおおおお!?」

 

 

 右手に雷が現れ、左手に氷が現れた!

 ……雷と氷?

 

 

「こりゃおったまげた! おめー天と水の二つの属性を持ってんだな!」

 

「属性が二つ? それって珍しいのか?」

 

 

 ゲームでは確かに一つの属性が基本だったが、魔王が冥属性でありながら天と水と火を使ってたしネタ要員――もとい、ダルトンも複数属性を使えるから普通だと思っていたんだが。

 

 

「普通はありえねーんだが、どうやらおめーはかなりの変わりモンみてーだな。――で、さっそく新しい力を試してみるか?」

 

「当たり前だ!」

 

 

 昔から唱えてみたいと思っていたゲームの魔法、試したくないわけがない!

 

 

「勢いあっていいな。魔法は対象に向けて腕を突き出して唱えたら発動するからな」

 

 

 魔法の使い方を簡単にレクチャーしてもらい、さっそくとばかりにスペッキオから距離をとって左手を前に突き出す。

 

 

「いけ、サンダー!」

 

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 

 しかし、何も起こらなかった。

 

 

「……あれ?」

 

「『サンダー』」

 

 

 ズガァン!

 

 

「ギャース!?」

 

 

 呆然としたところへスペッキオの容赦ない魔法が炸裂し、俺はそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 意識を取り戻すと、視界に――カエルなのに――呆れたような表情をしたスペッキオが映った。

 

 

「大丈夫かおめー? 死にそうな表情してたぞ」

 

「……こ、こんなところで死んでたまるか」

 

 

 どうにか起き上がって数回頭を振り、俺はクロノたち――いや、全RPGの戦士たちを尊敬することにした。

 あんな魔法を喰らっても全快時と変わらずに剣や魔法を振るい戦っていたのだから。

 ついでに雷つながりで某電気ねずみを連れた少年のことも尊敬しよう。彼もまた電撃を喰らい続けて普通に生きていたのだからな。

 

 

「けど、何で魔法が出なかったんだ?」

 

「それなんだけどよ、おめーステータスチェックしてMPの残量確認したか?」

 

「……ステータス、チェック?」

 

 

 それってアレか? ゲームでメニュー画面開いたりすると出てくるあれのことか?

 

 

「なんだ知らねーのか? 心の中でステータスって念じれば誰だって開くことが出来るものだ。試しにやってみな」

 

 

 言われるまま一度呼吸を落ち着かせ、心の中でステータスと唱える。

 すると頭の中にゲームで見たようなウインドウが現れ、俺の名前が表示された。

 

 

「……は?」

 

 

 思わず間抜けな声が上がったが、たぶんそれは悪くないだろう。

 まず俺のレベルは最弱の1。これはまあ順当だな。HPは初期のクロノより下の30でMPに至っては1。まあこれも現代人とこの世界の人間とで比べたら仕方ないのだろう。

 だがこの特殊スキルにあるUG細胞改ってなんだ? 他にも亜空間倉庫とか精神コマンドとか、装備品には武器として召喚型多段変形武装サテライトエッジとかあるんだがこれは一体なんだってんだ。

 

 

「さっきから固まってっけど、どーした?」

 

「……なんでもない。とにかく、今の俺はMPが最大で1だからこのままでは魔法がつかえないことがわかった」

 

「なんだ、宝の持ち腐れじゃねーか。せっかく珍しい奴なのに勿体ねーな」

 

 

 確かに、このままじゃ魔法を撃ちたくても撃てない。

 世の中そこまで都合がいいことはないという神の教えか? この場においてはあまりありがたくないな……。

 必要MPはあとたったの1。RPGのお決まりだったら――なんだ、簡単じゃないか。

 

 

「――なあ、スペッキオ。俺を鍛えてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

「くそ! いったいどこへ飛ばされたというのだ!」

 

 一人の女性が悔しそうに机を叩き、己の不甲斐なさを呪う。

 ここは天上の神々の職場の一つである天界東京支部。仕事の内容は死んだばかりの人間にそのまま昇天するか別世界での転生を提示し、可能な限り願いを叶えることを主としている。

 しかし今回は少し事情が違い、別に死んでもいない普通の人間が別の世界へと飛ばされてしまったのだ。

 

――神の戯れなどと言う理由で生者の人生が狂わされるなど、決してあってはならないことだと言うのに。

 

 と言うのも、先日までこの支部に30年以上勤めていた神が「マブラヴ世界に人を送って以来面白い転生を望む奴がいないし、定年近いからちょっと遊んでも問題ないよね?」と、余りにも自分勝手な発想で死んでもいない一般人を別の世界へ飛ばそうとしていたのだ。

 問題の神は捕縛されたが、肝心の保護対象が暴走したエネルギーと次元に干渉してきた謎の力に呑まれて行方知らずとなってしまった。

 なおその神は即刻解雇を命じられ最後に退職金をもらおうとしたが、ピンクの髪をした天上一応おっかない女神からこう言われたそうな。

 

 

「こんなことをしでかしておいてそんなものが出ると思うのか!? 恥を知れ、俗物!!」

 

 

 退職金は出なかったが男の表情は非常に恍惚としており、吐き気を催すほどキモかったとその場に居合わせた神たちは語った。

 ただ一部例外として、その女神の姿を目の当たりにし、胸に薔薇を刺した一人の神が「ばんざあああぁぁぁい!!」と幸せそうな顔で鼻血をブチまけながら叫んだそうな。

 それはさておき。肝心の青年はなんらかの一応特典をつけられてから飛ばされてしまったらしいが、厄介なことにその行き先が皆目見当つかないでいた。

 

――どうにか接触して、最低でも常に位置が判明する物を持たせなければ。

 

 歯痒い思いをしながら女性は部下たちに指示を出して再びとばっちりを受けた青年――月崎 尊の行方を追い始めた。

 

 

 

 一方、とばっちりを受けた件の男はと言うと――――――

 

 

 

「『ファイア』」

 

「あぢッ!? あぢぢぢぢぢぢぢッ!?」

 

 

 修行の一環で放たれた戦の神を名乗るカエルの火炎を避け損ねて絶叫を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 時の最果てに飛ばされてから早3日。

 スペッキオに修行を協力してもらったおかげでレベル上げによるMPの上昇は目論見通りとなり、今や普通に魔法を放てるようになった。サンダーを放った時の感動は一生忘れないだろう。

 さらにこの数日で、自分の現状についていくらかわかったことがある。

 まず特殊スキルとして表示されていたUG細胞改は本来の三大原則である自己再生、自己増殖、自己進化に加えて自己エネルギー生成、オートリジェネを備えていた。

 自己進化はイマイチどうなるのかわからないが、自己再生は骨折が僅か10秒ほどで完治し、自己増殖はどうやら正常な細胞が増殖することでダメになった組織の再生を図り、足りなくなった血液を増産させているようだ。これはファイアで火傷したり、アイスで切れた時に結構血を流したにもかかわらず貧血を起こさなかったことから俺はそう結論付けた。

 また自己エネルギー生成はMPが自動で回復し、オートリジェネはちょっとした怪我ならすぐに回復するくらいの力を持っていた。ただしMPの回復は30分で1回復するという、スマホゲームの回復ばりに遅かった。

 自己再生と自己増殖、オートリジェネの役割がダブっている気もするが、とにかくこの三つが俺の体を常に健全な状態へと保とうと働きかけていることは分かった。

 特殊スキルの中には魔法やステータスを上昇させるブーストアップという力があったが、これは効力が15秒ほどしかなく使用後にすさまじく疲労が溜まり、20秒ほど体がまともに動かなくなると言う欠点がスペッキオとの修行で実証された。使いどころを間違えなければ強力な一手になりうるだろうが、状態異常の時間の方が長いので本当に使いどころが難しい。

 他にもあった精神コマンドは聞いた人なら察していると思うが、まさしくスパロボのあれである。俺が最初に所持していたコマンドは『努力』だけで、これはSPではなく魔法で消費するMPを兼用して使うことができることが分かった。扱いとしては技と同列らしいが、これのおかげで思ったより早くレベルが上げることができた。

 亜空間倉庫はどうもこの世界の連中なら誰でも持っている力の一つらしく、どんな大きさのアイテムもいくらでも保管することができるらしい。これを知ったとき、だからRPGの主人公たちはいくらでも物が持てるんだと勝手に納得した。

 そして最後に装備品としてあった召喚型多段変形武装というサテライトエッジは念じるだけでその姿を現し、ザンバー、ツインソード、ハルバード、シールド、ブラスター、ボウの6形態に変形する代物だった。

 ザンバーは少し長めの柄とクリアブルーの両刃を備えた大きな剣のモード。(割りと重い)

 ツインソードはザンバーの両刃が分離して片手で扱える双剣のモード。(それなりに軽い)

 ハルバードは長い柄の先にザンバーの片刃と先端に刺突用の刃が付いた槍の形態。(ツインソードよりちょっと重い)

 シールドはザンバーの柄を展開せず腕に装備する防御用の形態。(片腕に負荷がかかるから割りと重い)

 ブラスターは近距離から中距離程度の射程を持つ大きな銃。(ハルバード以上、ザンバー以下の重さ)

 ボウは長距離を狙い撃つのに適した大きな弓の形態だった。(シールドと同じくらいの重さ)

 修行中はどの形態にも振り回される体たらくだったが、レベルが上がるにつれて徐々に扱いにも慣れた。今のところリーチのあるハルバードが扱いやすかったので、基本形態はこれで固定。あとは臨機応変でやっていくことになるだろう。

 さて、長々と説明してきたが努力のコマンドのおかげで思ったより早くレベルが上がり――その割には同じレベルのクロノたちと比べてステータスが非常に低いが――スペッキオもいつの間にかカエルからよく見慣れたマモの姿になった。

 

 

「だいぶレベルも上がってきたし、別の時代に行って修行してみるか?」

 

 

 スペッキオから突然切り出されたその言葉に、俺は内心で歓喜した。

 ようやくクロノトリガーの世界に足を踏み入れることができるのだという喜びと、この何もなさすぎる空間から抜け出せることへの喜びだ。

 正直言ってこの歓喜、後者の方が圧倒的に強いのはお察しいただけるだろう。

 餞別として3000Gが入った財布と雑魚モンスターの残りHPがわかるサーチスコープをもらい、早速向かう時代を選定することに。

 まず柱の部屋に入って中央の光。これは未来のプロメテドームにつながっているゲートで、クロノたちがここに初めて訪れたときの場所に出る。しかし未だクロノたちはここには訪れておらず、未来に行ったとしても扉の電源が死んでいるので外に出れない。故にここはスルー。

 左の光は原始につながっており、グランドリオン修復に必要なドリストーンを取りに行くのに向かったゲートだ。ただしゲートの出口は足場がない崖の中腹で、抜けた瞬間に地面へ向かって真っ逆さまだ。しかも恐竜人がいないという保証もないのでうまく着地できても大量の恐竜人に囲まれたら終わりだ。なのでこれもスルー。

 残った右の柱は現代の魔族で構成されたメディーナ村につながっており、人間に対して穏健派の民家に出るがその時点では特に危険はない。無論、グッズマーケットなどに行けば人間を憎む魔族に囲まれて袋叩きは避けられないだろう。だが西には命の賢者ボッシュがおり、その北にあるヘケランの洞窟を抜ければもう安全圏と言っていいだろう。

 

 

「と言うわけで、俺は現代に行く」

 

「何がと言うわけでなのかは知らねーが、まあ気をつけてな」

 

 

 スペッキオに見送られ現代につながるゲートに飛び込むと、不思議な浮遊感が俺を包みこんだ。

 おお、これがゲートをくぐる感覚なのか…………あれ、そういえば俺ゲートホルダー持ってないけどこれ大丈夫なのか?

 飛び込んだ後になって、俺はこのゲートを使用するにあたっておそらく必須であろうものの存在を思い出したのだった。




リメイク版第1話、いかがでしたでしょうか?
今回は3話まで連投しますが、次回から内容の加筆がより顕著になっていく予定です。
また、前作ではあとがきに尊のステータスを表示していましたが、今回も載せていくかは現在検討中です。
今回はUG細胞改とブーストアップについての設定だけ残していきます。時間があれば前作との変更点を比べてみてください。

それでは、今回はこの辺りで。
また次回の投稿でお会いしましょう。

------------------------

UG細胞改
 自己再生
  欠損した体の一部を再生させる力を司る。骨折なら約10秒、腕一本なら30秒ほどで元に戻る
  生きていれば時間をかけさえすれば完治できるが、即死の場合は機能しない

 自己増殖
  足りなくなった細胞や血液、骨などを増産させる力を持つ。その気になれば夜の情事においてとてつもない力を発揮する

 自己進化
  特定条件を満たすことで新たな力を身につけることができる

 自己エネルギー生成
  MPが自動で回復する。食事や睡眠などを摂ることで回復速度が向上する

 オートリジェネ
  切り傷や打撲などの傷が勝手に治癒される。それなりの速さで治癒が進むが、過信すると痛い目を見る。食事や睡眠などを摂ることで回復速度が向上する


ブーストアップ
 魔力を放出して身体能力を底上げする
 ただし持続時間は長くて15秒ほどで、使用後は20秒ほど身体機能に異常が出る
 特定スキルとの重ね掛けができない


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話「ここでヘケラン潰したらマズイよな」

連続投稿2本目です。
前作との大きな変更点として、タバンとのやり取りと尊がこの世界でどう立ち回るつもりなのかの描写が追加されています。


 ゲートホルダーなしで大丈夫なのかという心配も杞憂に終わり、無事に目的地のメディーナ村に到着できた俺は家主の魔物からこの村についての注意事項を受け、厄介ごとに巻き込まれないようそそくさと村を去りボッシュの小屋へと向かった。

 直接ヘケランの洞窟へ向かっても良いのだが、ボッシュの元へ向かうのは洞窟を抜ける以外にトルース町へいける手段がないかを確認するためだ。ゲームの最初にリーネ広場で武器を売ってたから船かなんかでやってきたと思うんだが、あちらでは港がトルース町かパレポリ町の二つにしかなかった。

 本当に洞窟を抜けてきたという線も捨てられないが、俺は船でやってきたと言う説を信じたい。

 そんなことを考察しているうちに、俺はボッシュの小屋と思われる家に到着した。

 

 

「ごめんください」

 

 

 扉につけられたカウベルを鳴らしながら足を踏み入れると、耳のような帽子をかぶり丸いサングラスをかけた老人が一人剣を磨いていた。

 かつてPS版のエンディングムービーで見たあのボッシュそのものだった。

 

 

「おや、人が来るとは珍しい。ようこそ、ワシの工房へ」

 

「あなたがボッシュさんですか?」

 

「いかにも」

 

 

 どうやら俺の知っているボッシュと同一人物で間違いないようだ。

 そのことに少し安堵し、本題を切り出す。

 

 

「少し訪ねたいのですが、ここからトルース町へ行くにはどうしたらいいのでしょうか?」

 

「千年祭へいくのかね?」

 

「まあ、そんなところです」

 

「ふむ。普通ならば西にある港で船を使ってトルースへ向かうのじゃが、残念ながら次の定期船は明日じゃ」

 

「あ、明日!?」

 

 

 おいおい、まだ時間的には午前中だぞ。いくらなんでも少なすぎるじゃないか? ……いや、そもそもこの大陸にはボッシュを除けばあとは魔族の村しかない。そう考えれば人間を運ぶ定期船がこの大陸に訪れるのは奇跡に近いのでは?

 

 

「あとは少し危険だが、北の洞窟からトルースへ抜ける方法がある。ま、ワシは明日まで待ったほうが安全だと思うがね」

 

 

 これは原作と同じ流れだ。となると、修行を兼ねて洞窟を抜けたほうがまだ早いか。

 話を聞いた情報料代わりにチタンベストとミドルポーションを5個購入し、俺はヘケランの洞窟へと向かった。

 ちなみに余談だが、ポーションのラベルに書かれた文字が日本語だったのは個人的に安心した。なぜ日本語なのかは知らんが。

 

 

 

 

 

 

「魔族の敵に死を!」

 

「人間は一人残らず滅ぼせ!」

 

「お前らそれしか言わないのか!? 死ねだの滅べだのうるせえ!」

 

 

 洞窟に突入してどれほど経っただろうか、行く先々で現れる魔王のしもべたちが俺を見つけるなりやれ殺せだのやれ人間死すべしなど物騒なことをのたまっている。

 それでも現れる数が常に2体以下なのは不幸中の幸いだろうか、どうにかMPを温存してサテライトエッジで対処できている。というかスペッキオの修行で受けた魔法の弾幕に比べたら圧倒的に楽だな……あれ、何だろう、悲しくないのに目から汁が垂れてきた。

 それはさておき、今襲ってきた敵をどうにか蹴散らして3本目のミドルポーションを嚥下する(なお、味は昔コンビニで売っていたポーションに近いとだけ言っておこう)。

 一応UG細胞改のオートリジェネである程度時間が経てば傷は完全に塞がるのだが、心理的にそれを待つ余裕がない。

 しかし可能な限り見つからないようなんとかやり過ごしたりしてきたとはいえ、流石にこれ以上の消費はまずい。だが記憶にあるマップと同じ構造なら現在地からして出口はもう目と鼻の先だ。問題は門番をしているであろうヘケランをどうやってやり過ごすかだが、レベルアップで新たに得た力を使えば突破できないわけでもない。

 ただ失敗すれば元の世界に戻る前にこの世とお別れをしなければならないだろうし、何よりクロノたちがこのヘケランから魔王とラヴォスについての情報を得るのだから倒してしまっては情報が伝わらない。

 それに引き返すにしてもゲームと違って倒した魔物とは別の魔物がうろついている可能性もある。相当奥に入ってきた今、戻るのも厳しいだろう。

 進めば博打。引けば博打。しかし同じ博打でも前者のほうがまだ勝算は高い。

 

 

「……ここまで来たんだ。腹をくくって行くか」

 

 

 某蛇のように物音を立てぬよう道の先を覗くと、今までの魔物とは明らかに違う青い巨体のヤツ――大事な情報を持つヘケランがいた。しかも幸いなことに、俺に背中を向けている。

 チャンスは今しかないと判断すると俺は一気に駆け出し、走りながら第一の策を実行する。

 

 

「『加速』!」

 

 

 レベルアップによって得られた新たな精神コマンドの『加速』。これによりいつもより圧倒的に速い速度で洞窟内を駆け抜ける。

 

 

「んあ?」

 

 

 俺の声が耳に入ったのか、振り向こうとしたヘケランを見てさらに幸いとばかりにヤツの真後ろへ回り込み、第二の策を実行する。

 

 

――ブーストアップ、起動!

 

 身体能力を向上させるブーストアップを使用し、赤い彗星の如く通常の三倍速(自己推測)でヘケランを置き去りにする!

 

 

「へ? ――あっ、人間!?」

 

「遅い!」

 

 

 気付かれはしたが、この身は既に安全圏だ。そのまま勢いを殺すことなく目的の水場へと飛び込むと体が何かに吸い寄せられるように進み、洗濯機に放り込まれたかのように視界がぐるぐる回転する。ヤベ、気持ち悪過ぎて吐きそう……。

 少しの間そんな状況と戦っていると、不意に体がどこかへ飛びだし地面にドシャッと叩きつけられる。

 しかしブーストアップの副作用と最後のスクリューが効きすぎたのか、俺の意識はそのまま闇の底へと沈んだ。

 

 

 

 

 

 

「……知らない天井だ」

 

 

 意識を取り戻した俺は見知らぬ部屋のソファーで横になっていた。とりあえずこういう時のお約束であろうセリフを呟く。

 部屋の様子から病院といった医療施設ではなく誰かの家の中のようで、辺りには消毒アルコールではなくオイルの臭いが充満していた。窓が開いているのにこの臭い、絶対普通の家じゃないよな。

 体を起こして辺りを見回すと、物陰で見えなかった先で帽子をかぶったガタイの良いおっさんが、見るからに怪しげな機械をいじくっているのが見えた。

 

 

「――ん? おぉ、気が付いたか」

 

 

 おっさんは俺の様子に気づくと作業をしていた手を止めて首にかけていたタオルで汗を拭く。

 ……あれ? このおっさんどこかで見たような。

 

 

「具合はどうだ?」

 

「悪くはないです。えっと、俺はどうしてここに?」

 

「覚えてないのか? あんちゃん、うちの近くの岸でぶっ倒れてたんだぞ。しかも全身ずぶ濡れで、まるで打ち上げられた魚みてえにな」

 

 

 全身ずぶ濡れ……ああ、そういえばヘケランの洞窟から脱出して地面に叩き付けられたんだった。

 そこから先の記憶が飛んでいるが、まあこれは大した問題じゃないだろう。

 

 

「助けていただきありがとうございます。俺は尊といいます」

 

「タバンだ。こっちとしても無事で何よりだ」

 

 

 おっさんの名前を聞き、思わず反応する。この世界において、タバンという名を俺は一つしか知らない。

 

 ――タバンって言ったらルッカの父親じゃないか。ということは、ここはルッカの家だったか。

 

 初めて訪れた原作キャラの実家がまさか彼女の家になるとは……。まあ、だからどうしたという話なんだが。

 ともあれ、体は何ともないのであまり長居するわけにもいかない。早々に立ち去るとしよう。

 

 

「お? もう行くのか?」

 

「はい。先を急ぎますので」

 

 

 立ち上がった俺を見てタバンが尋ね、体を動かして体調が万全なのをアピールする。

 大丈夫そうな様子に「そうか」と答えると、タバンは何かを思いついたように声を上げる。

 

 

「すまん、急ごうとしているところ悪いんだが、一つ協力してもらえないか?」

 

「協力……ですか?」

 

 

 意外な言葉に確認するように問い返すと、タバンは先ほどまでいじっていた何かを持ってくる。一見ただの布のようだが、なんだこれは?

 

 

「こいつは俺が娘のために作っている防具の素材のひとつでな、特殊な耐火繊維の生地でできていて炎に対するダメージを軽減させる能力があるんだ」

 

「へぇ、すごいですね」

 

 

 ということは、これがタバンベストやタバンスーツの元になるということか。ちょっと欲しい気もするが、助けてもらった上にこれをくれなど虫が良すぎるな。

 

 

「そこでだ、この生地を体に巻いて10秒ほど火炎放射に当たってみてくれ。どれくらい熱さを軽減できたかの感想が欲しい」

 

「……は?」

 

 

 思わず呆けたような声が出てしまったが、それはきっと悪くないだろう。

 まさかいきなり「これ体に巻いて火炎放射に焼かれてくれ」なんて注文をされるなど予想できるはずがなく、即答もできるわけがない。

 改めてタバンが持つ生地に目をやり、それを体に巻いて火炎放射に晒される自分を想像する。

 ……まるで世紀末世界でヒャッハー!と汚物を消毒するかのように焼かれる姿が脳裏をよぎった。

 しかもUG細胞改の効力でダメージが自動回復していくから焼かれながら再生するというまるで火口に落ちたカーズ様のような状態になりそうだ。

 結局しばらく悩んだものの、助けてもらった手前断わりきることもできず、その生地を体に巻いて火炎放射の前に逝った。スペッキオのファイアを直に喰らったときに比べれば確かにダメージは低かったが、しばらく火がトラウマ物になるのは確定的だろう。

 ところで肝心のテストはというと、タバンはその結果に満足したのか、先ほどまで炎に晒されていた生地を手に笑顔を浮かべていた。

 

 

「ありがとよ、あんちゃん! これで胸張って、娘に防具を作ってやれるってもんだ!」

 

「さ、さいですか……。じゃ、俺はこれで……」

 

 

 俺は疲れた笑みのまま初めて訪れた原作キャラの家を後にし、街道に沿ってトルース町へと足を向ける。

 のどかな道をのんびりと進みながら頭を切り替え、これからどう行動かを考察する。

 まずこの旅における究極の目的は元の世界に戻ることだが、ゲーム的な発想から考えれば、おそらくラスボスを倒さなければどうにもできない可能性が高い。

 クロノトリガーのラスボス――ラヴォスを倒すためのルートは全て頭に入っている。挑むだけなら今すぐにでも行けるが、その結末はどう足掻いても即死だ。レベル、ステータス、装備、どれをとってもラスボスに挑むのには致命的なまでに足りていないからな。

 ならば原作チームに合流して進めれば?という考えもあるのだが、せっかく一人で活動できるのならいろいろやってみたいことがある。

 特に古代で行方不明となるサラの救出は、かつてゲームを改造してでもやってみたいと思ったことがあるほどだ。

 いつも画面越しの彼女が報われないなと思いながら先を進んでいたが、今の俺はうまく事を運べれば彼女を救うことができるかもしれない。

 無論、最優先事項は元の世界に戻ることだが、その過程で助けられるタイミングがあるなら是非実行したい。

 

 

「……ただ、クロノたちより早く古代に行くのは難しいだろうな」

 

 

 何せ原作で初めて古代へ向かうのが原始で恐竜人との決着をつけてからだ。もしクロノたちと合流して行こうとすればレベルや装備などの問題は解決されるだろうが、単独行動ができなくなり結局サラの結末が原作と変わらなくなる可能性が高い。

 そう考えると、古代に行けるタイミングはティラン城が消滅しゲートに結界が張られるまでの間に限られる。おそらくそれを逃せば、もう助けられない。

 

 

「――ま、現状では行けるかすらわからないんだ。これについてはまた次の機会に考えよう」

 

 

 とりあえずトルース町についたらヘケランの洞窟で魔物とやり合ったおかげで資金に余裕が出来たから、アイテムを買い溜めするとしよう。

 そして歩くこと約10分。それなりに長い道のりだったと感じながらトルースの町に到着する。

 予定通りグッズマーケットでポーションと万能薬、シェルターを5個ずつ購入し、続いて人の流れに乗って向かったのは千年祭の会場であるリーネ広場だ。

 本当は少し祭りを楽しんでいきたいところだが、資金は大切にしなければ。中世に移動したら魔物を倒すなりなんなりして経験値と一緒に稼いでいこう。

 出店を総スルーして一直線に向かったのは、原作で初めて使用することになるテレポッド広場のゲートだ。強くてニューゲームでは右側のポッドにカプセルがあると思って調べたら、いきなりラヴォス戦になると言う誰もが一度は通る驚きの事態が隠されているが、ここではそういうものは確認できずテレポッドの間にゲートが存在しているだけだった。しかし今まで特に気にしなかったがこのゲート、なんで途中から時の最果てを経由するようになったんだろうな。

 それはさておき。時の最果てからこの時代に来るとき俺はゲートホルダーを使うことなく移動できたわけだが、その原因がまだ解明されていない。ステータスやアイテムを確認してもゲートが絡むようなものは見当たらない。一応仮説が三つほど浮かんだが、正直どれもあり得ると言いきれない。

 考察その1.『ゲートホルダーなんていらなかった説』――物語の破綻につながるのでなし。

 考察その2.『本当はゲートホルダーがいるけど偶然目的地にたどり着けた説』――あり得るかもしれないがゲートホルダーの存在意義に発展しそうなのでなし。

 考察その3.『俺が異世界からの流れ者だから説』――都合がよすぎる。

 しばらく考えてはみたものの、最終的に『わからないものはわからないが、使ってて問題がなければそれでいいか』という結論に至った(思考放棄ともいう)。

 方針が決まったところで早速ゲートをくぐると問題なく時の最果てにたどり着き、とりあえずHPとMPを回復させるべく広場の方へと移動する。

 

 

「あれ? あなた、誰?」

 

 

 広場に出たところで金髪ポニーテイルの少女に声をかけられ思考が一瞬フリーズする。

 

――どうしてマールがここにいる。

 

 いや、おおよその見当はつく。おそらくクロノたちが原作通り未来のプロメテドームから時の最果てにたどり着き、ゲートを安定した状態で運用すべく3人パーティーを組んで移動するために残ったのだろう。

 一方マールは自分たち以外にここに来る人間がいることに興味がわいたのか、じっと俺からの返答を待っている。

 

 

「相手に尋ねる前に、まず自分から名乗るべきじゃないかな? お嬢さん」

 

 

 表面上はなんでもない風にそう返すが、お嬢さんなんて普段使わない言葉まで出てきたあたりまだ動揺しているみたいだ。

 

 

「あ、それもそっか。 私はマール。王国歴1000年からクロノたちと一緒に来たの。あ、クロノって言うのはここにはいない私の友達なんだけど――」

 

 

 クロノとの出会いからここまでの経緯を聞いてみる――向こうが勝手にしゃべっているだけだが――と予想通り、原作通りの道筋を経て俺がここを発ってから少ししてやってきたらしい。

 現在クロノたちは光の柱を通じて現代に戻っているとのことだが、ルッカの家を出たときには特になにもなかったのでおそらくまだヘケランの洞窟あたりだろうと予測してみる。

 

 

「――それで、あなたの名前は?」

 

 

 ひとしきり喋り終わったマールが改めて尋ねてくる。

 ここで答えなければ後が面倒になりそうなので、この世界で今の自分を現すのに一番通用しやすそうな答え方をすることにした。

 

 

「俺は尊。ただの迷子だよ」

 

「迷子? ゲートを通ってきたみたいだけど、どこの時代からきたの? もし私たちが知っている時代なら送ってあげられるけど」

 

 

 迷子と言う言葉に反応して矢継ぎ早に言葉を発するだが、これは普通に答えていたら漏れてはいけない情報まで答えてしまいそうだ。

 俺はマールを適当にあしらいつつ体力の回復を諦め、柱の間へUターンすると中世のトルースの裏山に通じるゲートを選択する。

 直前までマールが何か言っていたようだが、聞こえないふりをして俺はすぐに移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 

 マールは言葉を失った。

 新たにこの時の最果てに現れた黒髪の男――尊から話を聞こうとしたのだがまともに取り合ってくれないまま、また別の世界へと移動してしまった。

 移動するだけなら自分たちもやっているので特に驚かないが、彼はゲートホルダーなどを使うことなくそのまま移動していった。

 自分たちはいつもゲートホルダーでゲートが安定しているのを確認してから移動するのだが、彼はそのそぶりもなく流れるように移動したのだ。

 

 

「――ふう、戻ってこれた……って、どうしたのマール?」

 

「……あっ! みんな、ちょっと聞いて!」

 

 

 しばし呆然としていると別の柱から現代より帰還したクロノたちが現れ、ルッカに声をかけられたマールは駆け寄るなり今目の前で起こった出来事を説明した。

 その説明を受けてクロノ、ルッカ、ロボの三人はそろって「あっ」と声を上げた。

 

 

「ねえ、マール。もしかしてその人、チタンベストを装備してなかった?」

 

「えっと、装備してたと思うけど……どうしたの、ルッカ?」

 

「実はヘケランとイウ魔物が黒髪の人間にハ出しぬかれたが今度は油断せんぞと言ってマシテ」

 

「あとルッカの親父さんが黒髪のあんちゃんには本当に感謝しないとなって言っててさ」

 

「なるほど……。ねえ、広場のお爺さんに聞いてみない? もしかしたら何かわかるかも」

 

「そういえば、少し前にお客さんが旅立ったと言ってマシタネ」

 

「スペッキオも珍しい兄ちゃんがいたって言ってたわね」

 

「こうしてみると、関連性があるのは間違いなさそうだな。よし、話を聞いてみよう」

 

 

 クロノたちが魔王とラヴォスの情報に加え尊の情報も集めることを決定したその頃、肝心の尊はと言うと――――

 

 

 

「あ゛ー、気持ち悪ぃ……」

 

 

 トルース村の酒場で行われていた飲み比べ大会(賞金5000G)に参加して優勝したものの、飲み過ぎが祟って宿屋のトイレとお友達になっていた。




もう一話連投します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話「ゼナンの橋での共同戦線」

「いやー、まさか万能薬が二日酔いにも効果があったとは……。教えてくれてありがとな、トマ」

 

「いいってことよ。あんたは万能薬の新しい使い方を知って、俺様はその礼に酒が呑める。ギブアンドテイクってやつだ」

 

 

 時の最果てで体力やMPを完璧な状態にできなかったのと精神的疲労を癒すためにトルース村の宿屋に泊まろうとしたところ、偶然にも酒場で飲み比べ大会が開催されており、優勝賞金5000Gに目がくらんだ俺は後先考えず参加費200Gを支払ってジョッキをあおりまくった。

 結果、優勝は出来たものの凄まじい吐き気と酔いに苛まれてトイレと仲良しになってしまったが。

 と、そこへ声をかけてくれたのが自称世界一の探検家を名乗る男、トマだった。原作だと虹色の貝殻の場所を教えてくれる大事なキーパーソンだが、この時期だとトルースではなくサンドリノにいたような。

 トマは気持ち悪がっている俺を見かねたのか、万能薬を持っているならそれを飲めと助言してくれた。

 ゲームだと混乱とか混乱とかの状態異常にしか使う用途がなかったが、まさか日常生活のこんなところにも役立つとは……あれ、だったら何でガルディア21世は床に伏せったんだ? 万能薬で治せる病気じゃなくて過労か心労だったのか?

 そんなことを考察しながら、万能薬の新たな可能性を教えてもらった俺はそのお礼としてトマに酒を奢ることにした。

 

 

「ところで、ミコトはこれからどうするんだ? パレポリ方面にいくなら早く行ったほうがいいぜ。近々、魔王軍の侵攻でゼナンの橋が戦場になるって噂だ」

 

「魔王軍が?」

 

「ああ。しかも魔王の片腕とされるビネガー将軍が直々に指揮を取るって話だ」

 

 

 ゼナンの橋での戦闘とビネガーということは、直前に騎士団長へハイパー干し肉を届けるイベントがあるあれか。

 あそこでの戦闘、ゲームではガルディア軍が終始押されっぱなしだったがクロノたちの加入を得て一気に巻き返すことが出来たんだよな。こちらでもおそらく数日以内にクロノたちがゼナンの橋に到着するだろうが、そうか。『あの』ビネガーを一目見るチャンスでもあるのか。

 

 

「なるほどな。まあ、大丈夫だろう。俺が得た噂によれば、ガルディア軍は優秀な戦士たちを呼び寄せたって話だ。まだ到着にはいたってないらしいが、ほぼ確定情報らしい」

 

「へぇ、それが本当ならガルディア王国も安心だな。 なら、俺は一足先に行かせてもらうぜ」

 

「そうか。それじゃ、次にあったらまた酒でも飲み明かそうぜ」

 

「おう。今度は割り勘でな」

 

 

 ニッと笑みを浮かべたトマは後ろ手に手を振って店を後にした。

 俺の予定としては適当に経験値稼ぎか情報収集なんかで時間を潰して、頃合を見て橋に向かうとするか。

 クロノたちが攻略していたらそれでよし。交戦中なら恩を売ってよし。まだ来てなかったら……もう少し時間を潰すとしよう。確かに力はそれなりについてきたが、正直まだまだ心許ない。

 そうと決まったら、今日はもう寝るか。宿代は先払いで済ませたから……あとはトマの酒代だけだな。

 

 

「えーっと、お代の方は…………え゛?」

 

 

 伝票に記された額を見て、俺は石像のように固まった。

 伝票には酒の銘柄とつまみの値段がつらつらと並んでおり、その下には非常に読みやすい字体で総計4980Gと記されていた。

 ふと前方から気配を感じてブリキの玩具のようにぎぎぎと顔を上げれば、カウンターのお姉さんがニコニコと営業スマイルと共に手を差し出している。

 高い、教えてもらった内容に対して本当に高い授業料を取られたと思いながら俺はトマを一発殴ることを誓いつつ涙を飲んで手に入れたばかりの賞金をお姉さんの手に乗せた。

 さらば、俺の賞金。

 

 

 

 

 

 

 高い授業料に涙で枕を濡らした翌日、俺は既にクロノたちが攻略したマノリア修道院を訪れていた。

 理由は二つ。まずクロノたちが取り損ねた宝箱がないかのチェック。あるならあるで遠慮なくいただき、今後活動していくための糧とさせてもらおう。

 もう一つは単純にレベル上げと資金稼ぎである。ただ、このマノリア修道院はゲームだとクリアした後はシスターが一人お祈りをしているだけで魔物はいなかったはずだが、いたら儲けものと割り切るか。

 仮にいたとしても序盤のダンジョンなので敵から得られる経験値は低いが、俺には精神コマンド『努力』がある。

 これの効果で経験値が2倍となり、比較的に早いペースでレベルを上げることができる。実際、ヘケランの洞窟でもこれのおかげで一気にレベルを上げることができたからな。

 などと思いながら修道院に足を踏み入れると、ゲーム通りシスターが一人ステンドグラスに向かってお祈りを捧げていた。となると、魔物はもういないのだろう。隠し扉も出しっぱなしだし。

 そう判断した俺はシスターに一言断りお宝求めて奥へと進んだ。

 

~~~ミコト探索中・・・しばらくおまちください・・・~~~

 

 用済みとなった修道院から出てきた俺は戦利品に頬をほころばせていた。

 ダンジョン部分に入ってすぐにキングクリムゾンが起こった気がするが、何故か触れてはいけない気がするのでスルーだ。

 予想通り、魔王の像が置いてある部屋の宝箱が手付かずになっていた。おかげでプロテクターとスピードベルトを入手できたので、さっそくスピードベルトを装備する。

 ゲームと違ってアクセサリは干渉さえしなければ複数装備できるみたいなので、リング系やイヤリング系は進んで装備するようにしよう。

 しかし予想以上に早く終わってしまったな。ゼナンの橋の攻防までまだ時間があるはずだからどこかで時間をつぶした方がいいのだろうが、この当たりでレベル上げできる場所と言えば……。

 

 

「ガルディアの森しか残ってないな」

 

 

 仕方ない、小遣い稼ぎついでに訓練といこうか。サテライトエッジの武装もハルバードやツインソードの近接武装ばかりでなくブラスターやボウの遠距離武装も使わないと。

 そんな訳で、ガルディアの森にいるまるまじライダーには尊い犠牲になっていただこう。

 

~~~ミコト訓練中・・・しばらくおまちください・・・~~~

 

 ある程度狩り終えたところでステータスを確認する。

 なんかまたキンクリが発生した気がするが、今回もスルーだ。宇宙の法則が乱れそうだし。

 さて、今回の訓練で技ポイントがそこそこ溜まり、それなりの回復力を持つ魔法『ケアル』を習得した。これでポーションの節約が出来るな。

 資金に関しても塵が積もって大金になったおかげで一先ず昨日の酒代の半分くらいは取り返せた。ただレベルに関してはやはりもらえる経験値が少ないのがネックになっているのだろう、18のまま止まっている。

 しかしゼナンの橋に現れるボス、ジャンクドラガーを『努力』付きで倒せば間違いなくレベルは上がる。うまくいけば20にもいけそうな気がするが、流石にこれは運だな。

 さて、流石にゼナンの橋の攻防はまだのはずだから一度トルース村の宿に戻って休むとするか。

 そう決め込んで森を抜け、何気なく橋の方角へ眼をやる。

 

 ――――――橋の上のそこかしこから、黒い煙が立ち込めていた。

 

 

「……ちょっとまて!? まさかもうイベントが始まってるのか!?」

 

 

 しかも黒煙は橋の半分以上から上がっているではないか。

 どうする、当初の予定通りクロノたちの有無で行動すべきか? いや、元々そのつもりだったから何ら不都合はないはずだ。ちらっと戦況見てから行動を……。

 などと考えていると、またひとつ橋から新たな黒煙が立ち上った。

 

 

「――ッ、ああもう! 見捨てたら寝覚めが悪くなっちまうじゃねえか!」

 

 

 なまじ力があるのも考えものだと思いながら俺は最初の予定をすべて破棄し、橋の方へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 ゼナンの橋はガルディア軍と魔王軍の攻防で地獄の体を表していた。

 兵の質自体はガルディア軍が圧倒していたものの、それを上回るほどの兵力が魔王軍にはあった。

 いかに歴戦の戦士と呼ばれるガルディア軍も倒してもきりがない軍団に疲弊して各個撃破され、ついには最終防衛線まで押しこまれる事態となった。

 しかしそこへ現れたのがかつてリーネ王妃を救いガルディアの窮地を救ったクロノ一行だ。

 彼らは人間から失われたとされる魔法を駆使し、その圧倒的な力で魔王軍をぐいぐいと押し返していた。

 

 

「くぅ! 人間のくせに魔法を使うとは!」

 

 

 これに動揺したのが魔王軍前線指揮官のビネガーだ。

 数で押し込もうとしたりガルディア兵の死体を魔物に変えたりと策を巡らすが、あの一行はそれをものともせず自分へと向かって来ていた。

 

 

「もう後はないぞ!」

 

「抵抗なんて無駄なんだから!」

 

「大人しく観念なさい!」

 

「ちぃ! 生意気なことを! ワシがこのまま引き下がると思うか!?」

 

 

 ついに反対側まで押し切られたビネガーはクロノたちの勧告にそう返すと魔法を使い今まで倒された骸たちを集め、自分の前に押しやった。

 すると骸たちは混ざり合い、やがて一つの巨大な姿を成し始める。

 

 

「くひひ! ワシを追いたければこいつを倒すんだな! いでよ! ジャンクドラ――ぐはぁ!?」

 

 

 突如、クロノたちの後方から光の光弾が飛来しビネガーに直撃する。

 痛みにのたうちまわるビネガーを無視して何事かと思い振り向いた先には、チタンベストを纏った黒髪の男がクリアブルーの刃がついたハルバードを携えて現れた。

 

 

「――不意打ちで失礼するが、初めましてだな。ビネガー将軍?」

 

 

 

 

 

 

「み、ミコトさん!?」

 

「よお、マールちゃん。その二人はお仲間か?」

 

 

 緊張と震えを押し殺し、俺はマールに軽く返しながら3人の前で足を止める。

 しかし、まさか既に戦線に加わっていた上にもうここの終盤とは……予想以上の早さだ。

 ちなみにさっきビネガーに打ち込んだのはサテライトエッジのボウモードだ。威嚇のつもりだったんだが、まさか直撃するとは。

 背中を冷や汗が伝うのを感じるが、同時に気持も高揚してくるのを感じる。

 

 

「あれを倒すんだろ? 共同戦線といかないか?」

 

「それは嬉しい限りですけど、さっきの攻撃は……」

 

「悪いが、それは秘密だ」

 

 

 ルッカの問いかけにニッと笑って答えると、今度はクロノの方を向きあくまで初対面として振る舞う。

 

 

「少年、俺と君で前衛を担当するぞ。ふたりは後ろから援護を頼む」

 

「あ、はい」

 

 

 並んでビネガーへ向き直すと、ちょうどビネガーも体勢を立て直したところだった。

 

 

「よ、よくもワシの見せ場を邪魔しおって……! 絶対に許さんぞ若造!」

 

「悪いな、今回ばかりはちょっと余裕がなくてな。出来ればここで倒されてくれ」

 

「馬鹿にしおって! 改めて出でよ! ジャンクドラガー!!」

 

 

 ビネガーの言葉と共に骸たちが融合し、巨大な骨の魔物ジャンクドラガーが姿を現した。

 ジャンクドラガーを呼び出したビネガーはさっさと後退し、今から追っても到底追いつける物でもなさそうだった。アニメとかの悪党にも言えることだが、なんであの逃げ足を初めから発揮しなかったんだろうな。

 

 

「さて、ジャンクドラガーか……。確かこいつは物理はなんでも効くが、魔法を使う際に注意しろ。俺が仕入れた情報によれば、上半身は天と火の属性を、下半身は冥と水属性を吸収するらしい」

 

「と言うことは、それ以外の属性なら効くってことだね?」

 

 

 その問いに頷いて返すと、ルッカとマールは頷きあって魔法を唱えた。

 

 

「上半身に『アイス』!」

 

「下半身に『ファイア』!」

 

 

 それぞれの魔法が標的に着弾し、ジャンクドラガーは痛みでその身をよじった。

 

 

「おおおおおおッ! 『回転切り』!』

 

 

 クロノが懐に飛び込んで凄まじい勢いで回転ぎりを放つ。うーん、初めて目の当たりにするが、この早さは人間業じゃないな。

 感心しながら俺も後れを取るまいと上半身に攻撃を仕掛ける。先に上半身を倒しておかないと外道ビーム喰らうからな。MPバスター? 警戒するに値しないな。MP吸収しすぎてヤコン死してしまえ。

 そしてビネガーがいれば目を覆いたくなるであろうほどのフルボッコがジャンクドラガーを襲う。弱点から対策まですべて網羅している俺の指示は呆れるほど有効的な効果を発揮し、ジャンクドラガーはわずかな抵抗しかできず崩壊した。無論、『努力』の使用は忘れていない。

 もう少し梃子摺るかと思ったが、存外あっけなかったな。と言うか、今さらながらこのサテライトエッジ強すぎないか?

 ヘケランの洞窟ではダメージを受けたときの心配ばかりしていたせいであまり深く考えていなかったが、よくよく思い出せば魔王のしもべも1発か2発くらいで倒せていた気がする。

 ガルディアの森では……まあ、序盤の雑魚ばかりだから一撃は全然おかしくないし。この橋の戦いだって俺が突入したころにはすでにランサーは全滅してビネガーとジャンクドラガーのみだったからな。

 ともかく、俺はサテライトエッジを亜空間倉庫に戻すとクロノたちへ向き直った。

 

 

「みんな、無事か?」

 

「はい。弱点や対策を教えてもらったおかげで、全然平気です」

 

「そうか。それじゃ、俺は行かせてもらう。少し先を急いでいるんでな」

 

「あ、ちょっとま――――!」

 

 

 ルッカの制止を振り切り俺は『加速』を使ってその場から離脱、一気にサンドリノへ向かうことにした。

 何故振り切ったかって? 嫌な予感がプンプンしやがるんだよ、それも非常にめんどくさい方向に。

 

 

 

 

 

 

 突然の加速に呆気にとられたクロノたちは、尊が走り去った方角を呆然と見つめていた。

 

 

「な、なんなの、あの早さ……」

 

「加速の魔法か何かかしら? そういうのがあれば戦闘でも役立ちそうだけど」

 

「確かに。 それにしても、話を聞きそびれたのは結構痛いな。加えてあの強さ。仲間になってくれたら心強いんだけど……」

 

「それはもう次に会ったときに聞きましょ。今度は逃がさないように……マール、お願いできる?」

 

「うん。やってみる」

 

「よし。じゃあミコトさんについてはそれでいいとして、まずは国王様に勝利の報告をしに行こう」

 

 

 今後の方針を固めたクロノたちはゼナンの橋防衛成功の旨を報告すべく、尊が向かった方向とは逆の道へと引き換えした。

 一方、サンドリノ村に到着し宿屋兼酒場に突入した尊はと言うと――――――

 

 

「みぃつけたぞトマぁ!」

 

「げぇ!? ミコト!?」

 

 

ジャーン! ジャーン! ジャーン!

 

 

「テメェ、奢りだからってよくもあんな高い酒ばっか好き勝手に呑みやがったな!?」

 

「お前が知らなかった万能薬の新しい可能性を教えてやったんだ! あれくらい別にいいだろ!?」

 

「内容と額が釣り合ってないっての! あれだけで賞金が消えたも同然になるとかどんなぼったくりだ! 返せ! 奢ると言った手前全額とは言わないが半額でもいいから返せ! 今ならそれで手打ちにしてやる!」

 

「もう酒に消えちまったよーだ!」

 

「――よろしい、ならばガチンコだ!」

 

 

 その日、サンドリノの宿屋は大いに荒れたそうな……。

 

 




予定を変更してもう一話連投します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話「新たな仲間!? デナドロ三人集」

前作でも好評だったあの三人です。


 サンドリノの宿・酒場の大決戦(仮)から一夜。『加速』に加えて無駄にブーストアップの補正までかけたオラオララッシュもどきでトマに勝利したものの、激しいラッシュの衝撃で店の中がえらいことになってしまい修理代で財布が無一文寸前になってしまった。

 俺はこの資金難を打開すべく、宿屋を去ってすぐにデナドロ山へと向かうことにした。というのも、現状で最も経験値と資金を手に入れられる場所がここしかないためだ。

 ちなみに勝利したときは確かにいたのだが、修理代の話になった瞬間にトマは行方をくらましていた。ただ1000Gほどの金が入った財布が置いてあったので、おそらくこれがあいつの今払える精いっぱいの額だったのだろう。

 さて、今向かっているデナドロ山にはオウガンという魔物がいるのだが、木槌を持ったヤツは武器で攻撃を受け止めているのか、防御力が大きく向上し少々面倒くさい仕様になっている。

 火炎放射やファイアなどの火炎系の攻撃があれば木槌を燃やして他のオウガンと同じスペックにまで落とせるのだが、現時点で俺が扱える魔法は雷と氷だ。

 ゲームではサンダーを撃ち込んでも木槌は燃えなかったはずだが、正直な話、雷が落ちればただの木槌なんて消し炭になるよな? 今回はその検証もついでにやってしまおうと思っている。

 あと警戒すべき魔物と言えば忍者みたいな格好をしたフリーランサーという魔物だが、こいつは攻撃すると反撃してくるちょっと鬱陶しいヤツだ。

 だがこれもサテライトエッジがゼナンの橋で思った通り攻撃力の高い武装なら、おそらく一撃で倒せるだろう。

 そんな考察をしつつサンドリノから離れて数時間、フィオナの小屋を素通りして砂漠を越え、途中で見つけた川を上流に沿って進んでいくと目的地であるデナドロ山に到着する。

 原作では回想を含むイベントシーンが多く存在しており、作中でも間違いなく高い人気を誇るであろう魔王の初登場も――カエルの回想内だが――この山だ。

 あと忘れてはいけないのが折れたグランドリオンの回収と直前であるグランとリオンの存在だ。あいつら古代には既にいたから……実質12600年以上生きてる計算になるんだよな。

 しかし、今回俺はあいつらに接触する気は毛頭ない。だって竜巻エネルギーを溜めて繰り出される強力な技の『真空波』はクロノが使う『かまいたち』の技がないと掻き消せないからな。無論、俺はゲームで一度も使わせたことのない技だが相当エグい技だと言うのは容易に想像できる。それにあいつらだってグランドリオンに用がなければ特に何もしてこないだろう。 

 さて、クロノたちには悪いが先に欲しい宝箱の回収をさせてもらおうか。なに、貰っていくのは消費MPを半分にするシルバーピアスと金の入った宝箱だけだ。カプセルやポーション系は残しておくさ。

 ……金の入った宝箱しか開けないとか、ただ金に汚いやつにしか見えないな。

 自分で決めておきながらそう感じてしまったことに自己嫌悪しながらサテライトエッジを展開し、頭を切り替えてデナドロ山へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

「――『サンダー』!」

 

 

 木槌を持ったオウガンに向けて腕を振るい、雷を落とす。

 入山する前の予想通り、木槌は雷を受けて発火して燃え尽きた。まあ、普通なら驚くことのない当然の結果なんだがな。

 木槌を失い防御力が弱体化したオウガンにいつものハルバードモードのサテライトエッジを構え、踏み込むと同時に一気に切り捨てる。

 切り裂かれたオウガンは断末魔の叫びを残し、霧となって消滅した。今までもそうだが、魔物を倒したときに死体が残らないというのは本当にありがたい。今みたいに切り捨てたら間違いなく精神的ストレスがたまりまくって元の世界に戻るどころじゃなくなっていただろう。

 そそくさとGをかき集めサテライトエッジと共に亜空間倉庫に保管しステータスを確認する。前回のジャンクドラガー戦に使用した『努力』のおかげで山に入ってから数回の戦闘でレベルが20に達し、新たに精神コマンド『熱血』を獲得できた。

 この『熱血』はサテライトエッジによる攻撃や攻撃魔法と組み合わせて使用するもので、これを使用した際に与えるダメージが2倍となるそうだ。ただ消費MPが6と現状では少し高く、魔法の場合はさらに消費MPが追加されるので使用の際には注意が必要となる。

 こうなればますますシルバーピアスが欲しくなるが、肝心の物が入った宝箱はまだまだ先だ。その間にあと何体の魔物と遭遇することやら。

 

 

「まあ、ゆっくりいくか。どうせクロノたちはサンドリノやパレポリで情報収集をするだろうし、カエルに会って話もするだろうからここに来るのはまだまだ先になるはずだ」

 

 

 帰りにバッタリ遭遇しなければ問題ないだろうし、ここのイベントを終えたら原始と現代を行ったり来たりになるから中世に戻ってくるのはかなり後のはずだ。その間に俺はレベルを上げつつゲームでは行けなかったチョラス村に向かってみるか、隙を見て原始に跳んで火属性のダメージを半減させるルビーベストを入手してもいいだろう。

 ただ原始に行くなら恐竜人にも注意しないといけないのだが、個人的にはゲート抜けてすぐ崖から真っ逆さまの方が怖すぎる。予備知識でそうなることを知っていながらもヒモ無しバンジーを敢行しなければならないのだから、あまり進んでいこうという気にはならないな。

 ともかく、まずはここで経験値と金を巻き上げながら目的の物を取りに行くとしますか。

 

 

 

 

 

 

「…………どうしてこうなった」

 

 

 その呆然としたつぶやきに答えてくれる人はいない。しかし、それでも俺は呟きたかった。だからもう一度あえて言おう。

 

 

「どうしてこうなった」

 

「さっきからどうされたのですか、御館様!」

 

「何故呆然とつぶやかれておられるのかはわかりませぬが、心配事などなにもありませぬ!」

 

「いかにも! 我らデナドロ三人集のガイナー、マシュー、オルティー。この命に代えましても御館様のお命をお守り致しますぞ!」

 

 

 目の前で片膝をつき俺を『御館様』と呼ぶ3人(?)の魔物は入山前に警戒が必要だろうと思っていたフリーランサーたちだ。

 しかし先ほどの様子から察してもらえると思うが敵対しているわけではなく、むしろ主として敬われているという状況だ。

 そもそもこいつらと遭遇したのはついさっきで、その時は間違いなく敵対していたと言えるだろう。

 ではどうしてこいつらが俺を御館様などと仰ぐようになったのか、一から説明するのも疲れるので三行にまとめてみよう。

 

 ・奇声を上げながらチャンバラをしていたこいつらと遭遇。

 ・俺、サテライトエッジのザンバーとブラスターで撃破する。

 ・俺の強さに感銘を受けたといい仕えると言い出す。←イマココ

 

 ……うん、まとめてみてたが自分でもまだ信じられない超展開だな。

 正直あまり関わりたくなかったからザンバーでまとめて切ったのだが、それで倒しきれなかったからブラスターを撃ち込んだというのにこいつらはそれにも耐え切ったのだ。

 ちなみにガルディアの森でまるまじライダーを犠牲にしてわかったのだが、ボウが単発で連射可能なのに対してブラスターは連射できないが強力な照射ビームをぶっ放す。難点なのはチャージに時間がかかりすぎるくらいだが、敵が大群であったりボスクラスでない限りはホイホイ使うことはないだろう。

 さて、そんな面倒なフリーランサーたちは得物を前に差し出し微動だにせず俺に跪いているのだが、連れて行く気はもちろん御館様と呼ばれることも是とするつもりはない。

 ならば倒してしまえばいいのではと思うのだが、どうにも毒気を抜かれてそんな気にもなれない。

 どうしたものかと腕を組んで空を仰いでいると、ふとあることを思いついた。

 

 

「お前たち。海を渡る術を持っているか?」

 

「海を、でありますか?」

 

「ああ。船でも魔法のゲートでもいい。別の大陸――特に東のチョラスへ渡る手段を持ち合わせていないか?」

 

「申し訳ございませぬ。流石にそのようなものは……」

 

「しかし御館様。何故そのようなものを所望されるのですか?」

 

 

 オルティーと名乗ったフリーランサーの質問に、俺はチョラス村へ渡ろうとしていることを伝えた。

 あの村の北には勇者サイラスの墓があるのだが、今はただの廃墟で魔物まで住み着いてしまっている。原作では終盤シルバードに飛行機能が付いてからでないと行くことが出来ないので、ここで無視してもまったく問題ない。

 俺の目的はどうにかして海を越え――今のレベルで通用するかわからないが――クロノたちが来るより先に廃墟の魔物を一掃し、自分の経験値にしてしまおうというものだ。あそこの敵はここの奴らより高い経験値をくれるからな。

 だがこの様子では、やはり計画を頓挫させるほかないか?

 

 

「――なるほど。自らを高みへ押しやるために必要だと言うことですな」

 

「そうだ。用意するのが無理ならそれで良いんだが――ガイナーといったな? この地方で強いやつがいる場所はあるか?」

 

「猛者をお求めになられますか。ならば、この先に我らでも歯が立たないような猛者がおります。その者に挑んではいかがでしょう?」

 

「……この先にいる猛者?」

 

 

 なんだ? ものすっごく嫌な予感がするんだが……。

 

 

「ちなみに聞くが、その猛者とやらの名前は?」

 

「ハッ、双子の兄弟でグランとリオンと申します。普段は人の子の姿をしておりますが、それは仮の姿。そしてその強さは間違いなくこのデナドロ山一にございます」

 

「……oh」

 

 

 なんてこった……。ドンピシャじゃないか。

 

 

「すまないが、そいつらは無しだ。理由はいくらかあるが、俺はそいつらと戦う理由がない」

 

「左様にございますか。となれば……残念ながらこの大陸には他に猛者が住まう場所は――――」

 

「待て、ガイナー。 御館様。海を越えさえすればよろしいのでしょうか?」

 

「ん? まあぶっちゃければその通りなんだが」

 

「……マシューよ、まさかとは思うがお主」

 

 

 オルティーの問いにマシューはフッと口元を緩め、それを口にする。

 

 

「船がなければ、作ればよいのです」

 

 

 

 

 

 

「まさかとは思ったが、本当に一から作ろうとするとは……」

 

 

 いや、手段としては確かに有りだとは思うが……本当に大丈夫なのか?

 マシューの提案は自分たちが船を作り漕いでいくので、俺は何もせずにいれば良いとのことなのだが、彼らは船作りの経験はゼロといっていた。

 もしかしたら少し大きなイカダを作る気なのかもしれないが、どちらにせよ不安はぬぐえない。

 

 

「というか、パレポリなら船が出てる可能性があったか?」

 

 

 無論ゲームにはそんなものなかったが、現代ではボッシュが自分の小屋から西の港でトルースを結ぶ定期便が出ているといったのだ。ならこの世界でもパレポリとチョラスを結ぶ船があってもおかしくはないはずだ。

 あくまで推論にしか過ぎないが、かといって無視できるものでもない。

 

 

「……とりあえず、回収するもの回収してから確認しに行くか。あいつらに頼るのは……最後の手段にしよう」

 

 

 出来れば頼りなくないなと思いつつ俺は再び山の奥地へと足を進め、ようやく目的の滝壺にて目当てのアクセサリを発見する。

 シルバーピアス。

 技や魔法の消費MPを半分にしてくれる優秀な装飾品だ。これの上位互換でゴールドピアスというものがあり、そちらは消費MPを25%にまで減らしてくれる非常に優秀なアクセサリなのだが、そっちは残念ながら未来の封印された扉の奥にあるので現在の俺では入手できない代物だ。

 

 

「封印といえば、昔はよくシルバードを回収する前に現代の北の森の遺跡にある『燕』を回収しに行ったな。……このことをそれとなくクロノたちに教えて、海底神殿に行く前に回収させるか? 間違いなく戦力増強の一手にはなるし」

 

 

 あれはすごくいい武器だった。少なくとも海底神殿終了までは主力で使えるし、最強の武器である『虹』を入手するまで使い続けることも出来るんだからな。

 古代の海底神殿で入手できる天王剣より強い上にすばやさが+3という破格性能のおかげで楽に進められたのはいい思い出だ。

 そんな思い出を省みながら下山した俺は再び砂漠を越え、また数時間かけてパレポリ村に到着すると早速チョラスへ向かう船がないかを確認する。

 行動して十数分、それほど労せず船の存在やチョラス村への定期便が出ていたことを確認できた。

 出ていた、というのは現在魔王軍の動向を気にして定期便や漁船が出ないそうだ。

 思わず「ちくしょうめぇ!」と某総統閣下の空耳のような発言が出てしまったが、とりあえず気を取り直して船を出してくれないか各船長に交渉を持ちかける。

 しかしみんな魔物を恐れて船を出そうとせず、結局残された手段はあのフリーランサーたちが作っている船を頼ることだけになってしまった。

 せめてまともな船が出来ることを祈りつつ、今日の疲れを癒すために俺は宿の確保に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 …………一方、尊が下山した後のデナドロ山では。

 

 

「……ねえ、あれどうしようか」

 

「……ドウいたしまショウカ」

 

「いや、まあ……。こっちに何もしてこないなら、無視で良いんじゃないかな」

 

 

 尊の予想より早くにパレポリ村を訪れ、お化け蛙の森で戦友のカエルと再会し、尊と入れ違いでデナドロ山に入山したクロノたち。

 伝説の剣がこの山にあると聞きやってきたのだが、そんな彼らの視線の先には――――

 

 

「キエェェェェェェッ!!」

 

「ホワァァァァァァッ!!」

 

「ヘヤァァァァァァッ!!」

 

 

 ――――山の木を切り倒し、この世のものとは思えない奇声を上げながら一心不乱に大きなイカダを作っている三体のフリーランサーがいた。

 

 

「御館様のためならぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「「全力全開なりぃぃぃぃぃぃぃ!!」」

 

「……うん、無視しよっか」

 

「ソウしまショウ」

 

「急ごう。もうすぐ山の最深部のはずだ」

 

 

 反対する意見がなかったので、クロノたちは謎のフリーランサーたちを無視して再び山の奥へと進んでいった。

 




3話まで連投する予定が結局4話まで連投という形になりましたが、いかがでしたでしょうか?
現在第10話までストックがたまっていますので、ストックがあるうちは一日一話のペースで投稿して行こうと思います。

前作以上に皆さんに楽しんでいただけるよう努力しますので、これからも宜しくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話「尊のレベル上げ 北の廃墟編」

前作ではナイトゴーストに物理攻撃が通っている描写がありましたが、間違いであったため修正しました。


「……がんばったな、お前ら」

 

「お褒めに預かり恐悦至極にございます、御館様」

 

「欲を言えば人間たちが乗るような立派な船をご用意したかったのですが、残念ながら我らにそこまでの技量がありませんでした」

 

「しかし海を渡るくらいならば、この船は何の問題もなく使用できますぞ」

 

 

 パレポリの宿で一夜を明かし、船の具合を確認するためデナドロ山に戻ってきてみたら――なんということでしょう、そこには十分な広さを備えた立派なイカダが川に係留されているではありませんか。

 さらにちゃんと帆があるだけでなく、手漕ぎ用のオールまで備えることで緊急時の対策にも万全を期しているこのイカダには、一晩職人のジェバンニ氏も称賛を惜しみなく送ることでしょう。

 ……さて、悪ふざけはこの辺にして。

 

 

「この短時間でここまでのものを作ってくれて感謝する。ところで、どうやって海まで運ぶんだ? もしかしてこの川が海に繋がっているとか?」

 

「さすが御館様。まさしくその通り、この川の終着点は海となります。そこより魔岩窟の岬を通り過ぎ、西の大陸へ向かいことができます」

 

「日数的にはどれくらいだと思う?」

 

「今すぐの出立で最速明日の早朝、遅くとも明日の夕刻には西の大陸へ降り立つことができるかと」

 

 

 時間的に今は昼過ぎ。それで明日の早朝なら……だいたい16時間と言ったところか。フェリー並みの長旅だな。

 

 

「海に魔物は出るか?」

 

「出ません。ただし、魔王軍の偵察こうもりに発見される可能性は有ります」

 

「その程度なら問題ないな。 よし。すぐに出そうと思うんだが……まさかついて来るなんて言わないよな?」

 

「はっはっは。愚問ですな、御館様」

 

 

 よかった、そこは流石に空気読んでくれたみたいだ。

 ついて来るとなったら明日の昼まで御館様御館様って呼ばれる羽目になりそうだからな。

 

 

「我らに共に行かぬという選択肢ははじめから存在いたしませぬ」

 

「いかにも。御館様の楯となり矛となるのが我らの誇りであり、至高の喜びにございます」

 

「共に参りましょうぞ、修行の旅路を!」

 

 

 ――ああ、あの愚問って言葉を自分なりに解釈したのはフラグだったのだろうか。

 結局、イカダを作ってもらった手前断りきれることができずガイナー、マシュー、オルティーの三人がチョラス行きのイカダに同行することとなった。

 

 

 

 

 

 

 デナドロ山の川から出発した翌日、俺はお供の魔物たちを連れてついに――原作の流れを無視して――チョラス村付近にたどり着いた。

 原作知ってるやつらからすればどんなバグ技だと指摘されそうだが、残念ながらこれはゲームではない。だから普通に進まず斜め上の方向に進めることができる。

 さて、まずは村で北の廃墟に関する情報を集めるとするか。俺の知っている内容と差異があっては困るからな。

 

 

「俺は村へ情報収集をしに行くから、お前たちは北の入り口近くの森で待機しててくれ」

 

「承知しました」

 

「何かございましたら大声をお上げください。我らがすぐに参りましょうぞ」

 

「……まあ、了解した。後で一度合流するからな」

 

「「「御意」」」

 

 

 ようやく堅苦しい空気から開放され、俺はまず温かい飯で腹を満たすべく酒場へと足を向けた。

 村はそこまで魔王の脅威にさらされていないのか、パレポリと比べ比較的平穏な空気が流れている。

 ここでのイベントは酒場の大工に現代で借りた大工道具を渡して北の廃墟を修理してもらったり、同じく酒場でトマから酒をもらい現代のトマの墓に酒をぶっかけることで虹色の貝殻がある巨人の爪に関しての情報を手に入れられるくらいだな。ただ巨人の爪って場所さえ知っていれば、トマのイベントこなさなくてもいけるんだよな。

 先に虹色の貝殻をかけらでいいから回収したいところだが、守護するように存在するルストティラノを突破する必要がある。

 無論、俺一人でそんな化け物相手に戦えるわけがないので今は虹色の貝殻をあきらめるしかない。

 大工道具に関しては……どんな道具がいるかわからないから調べてから集めて渡すとしよう。渡す機会があればの話だが。

 そんな打算的なことを考えながら徘徊すること十数分、ようやく酒場にたどり着くことができた。

 店内に足を踏み入れると早朝にもかかわらず食事をとる人で溢れており、パッと見ただけでも空いている席は数えるほどしかない。

 椅子取りゲームの如く席を確保するべく、一つだけ空いていたカウンター席に腰を落ち着けメニューを手に取る。

 

 

「さて、何食おうか――「げぇ!?」――っと、お?」

 

 

 メニューを開いた瞬間、隣から聞き覚えのある声が耳に届く。つられるように顔を向けると、見覚えのある顔がジョッキを片手にそこにいた。

 

 

「……つくづく酒場での出会いに縁があるようだな、トマ」

 

「お、おま、どうやってここまで来た? 定期船は俺が乗った便を最後に休業して、パレポリからここに渡る術はないってのに」

 

「あー、船をもらった」

 

「もらった!?」

 

「イカダだけどな――あ、お姉さん。とりあえず店のお勧め頂戴」

 

 

 流石に勝手に家臣になった魔物に作ってもらったとはいえないので適当にごまかし、ついでに水を出してくれた店の人に飯を注文する。

 

 

「で、お前はどうしてこの村に? 俺は北の廃墟に強い魔物が出るらしいから修業しに来たんだけど」

 

「あ、ああ。俺はサンドリノの村長から虹色の貝殻ってのを探してきて欲しいって頼まれてな。ただ俺も噂でしか聞いたことのないお宝だから、正直なところ見つけられるか怪しいけどな」

 

「なるほど。さしずめここには情報収集ってところか」

 

「まあ、な。まだ有力な情報は得られてないけど、ここらで何か進展があると俺の感が告げてる」

 

「そうか。別に横取りする気はないけど、見つかったならまた教えてくれよ。その虹色の貝殻ってのは見てみたい」

 

「実在してたら、な」

 

 

 実在するけどヤバイのが一緒だけどなと心の中で呟き、しばらく情報交換しながら運ばれてくる料理に舌鼓みを打った。

 

 

「――で、いつまで警戒するつもりだ?」

 

「いや、サンドリノでのこと以来お前にちょっと苦手意識をな……」

 

 

 どうやら俺式オラオララッシュがトラウマになってしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 再び旅に出たトマと別れ、事前に打ち合わせした通りガイナーたちと合流した俺は当初の目的地である北の廃墟にやってきた。

 素人目の俺から見ても作りはしっかりしているようだが、やはり所々が崩れ廃墟と呼ばれても仕方がない状態になっていた。

 本当に出来ればクロノたちより先に修復したいところだが、やはり大工道具の存在がネックとなる。しかもさっき去り際に酒場を見渡してみたが、誰が大工のおっさんなのかわからないから仮に大工道具を手に入れても誰に渡せばいいのか見当がつかない。

 最悪、自力でどうにかできそうならこっちで簡単に直してしまおう。あとはクロノたちより先に倒せる魔物は倒してこちらの力にしていけばいいが、レベルや装備、ステータス的に見ると少し厳しいかもしれないな。

 無茶をしなければ一体二体は問題なく倒せるはずだが、一度の戦闘で大挙して攻めて来たらもう全力で逃げるしかない。

 ここはゲームと違うんだし、命あっての物種だ。少しでも不安に感じたら即座に後退すべきだろう。

 

 

「――よし、いくか」

 

 

 デナドロ三人集を引き連れ廃墟に足を踏み入れる。記憶を頼りに入口から向かって左の階段を選択して下の階へ――いた、おんねんとMPバスター、物理攻撃無効が印象的だったナイトゴーストだ。

 ゲームと同様でここには二体しかおらず、しかもこちらには気づいていない。ただでさえ低レベル(?)な状態でここまで来たんだし、なにより真っ向から戦ってやる必要もない。

 

 

「まずは確実に一体を……『熱血』」

 

 

 サテライトエッジをボウ形態で召喚し、攻撃力が2倍になる精神コマンド『熱血』をかける。先述したように、こいつらに物理攻撃は効果がない。だが、エネルギー攻撃であるボウやブラスターならばどうだ!?

 引き絞った弦が解放され、光の矢がナイトゴーストに直撃する。ゴシャアッ!! とえげつない音を立てて攻撃されたナイトゴーストが吹っ飛びながら消滅し、こちらの攻撃に気付いたもう一体が剣を構えて俺に襲いかかる。

 

 

「やらせはせんぞ!」

 

 

 ガイナーがゲームでは使っていなかった鎖付きの分銅を放ち剣を持った腕を絡めとり。

 

 

「我らの守りがある限り!」

 

 

 盾を持った腕をマシューが同じように分銅で絡め取り、

 

 

「御館様には傷一つ負わせはせん!」

 

 

 最後にオルティーがほんの少し空いた鎧の隙間に刀を差しこみ蹴り飛ばしながら引き抜く!

 スゲェ、これは純粋にスゲェ。まさかここにきてから初めて見る連携技がこいつらとは思わなかったが、普通にかっこいいと思う。

 しかしやはりというか、攻撃が物理攻撃だったためナイトゴーストは何事もなかったかのようにガチャガチャ音を立てながらあっさりと立ち上がった。だが――――

 

 

胴体(ボディ)が、ガラ空きだぜ」

 

 

 サテライトエッジをブラスターモードに変形させ、チャージしたエネルギーを解放する。

 光の奔流が迸りナイトゴーストに直撃するが、撃破には至らずまだ立ち上がろうとその身をよじっている。

 今度こそとどめを刺すべく、経験値が2倍になる『努力』を使い再びボウで撃ち貫く。

 その一撃が致命傷となり、ナイトゴーストはそのまま消滅の一途を辿った。

 

 

「御館様、ご無事ですか?」

 

「大丈夫だ。それにしてもお前らすごいな。分銅で動きを止めるとは思わなかったぞ」

 

「お褒めに預かり恐悦至極にございます」

 

「しかし、ここの魔物は手ごわいですな。刀を突き立てたと言うのに、手ごたえがまるでありませんでした」

 

 

 鎧の中へダイレクトに攻撃を仕掛けたオルティーがそんな感想を漏らす。まあ、物理の効かない敵だからな。仕方ないだろう。

 今の戦闘でわかったことはやはり物理攻撃が通用しないと言うのと、『熱血』が付与されたボウなら一撃でブラスターで仕留めるにはあと一手が足りないと言うことだ。

 ブラスターは一発撃ったら間を置かないと使えないから、実質ボウを中心に使用して行くしかないと言うことか。

 ところで努力を使った上での経験値の変動は……おお! レベル上がってる! ナイトゴーストだけでジャンクドラガーより経験値高いから当たり前っちゃ当たり前だが、これは捗る!

 

 

「お前ら! 次いくぞ、次!」

 

「おお! 御館様が滾っておられる!」

 

「敵が強ければ強いほど燃えると言うことか! 流石御館様!」

 

「これは我らも負けてはいられんな!」

 

 

 なんか妙な解釈をされた気がするが、そんなのはこの経験値の上げ幅の前では特に気にする必要もない!

 俺は妙なテンションのままサテライトエッジを掲げ、廃墟の奥へと突き進んだ。

 

 

 

 

 

 

 北の廃墟攻略に乗り出して一週間。俺たちは可能な範囲で住み着いた魔物を駆逐し続け(崩れた足場は村でもらった木材で作った即席の梯子でクリア)、先ほど全ての魔物の殲滅に成功した。

 ボーンナムやアナトミーに梃子摺り、ボーンナムとイドが合体したボーンナム+イドが相手になったときはさすがに撤退を余儀なくされたりもしたが、ブーストアップと『熱血』の重ね掛けでどうにか討伐できた。

 しかも苦労しただけあってこの一週間でレベルは一気に30に上昇し、新しく『レイズ』の魔法と精神コマンド『勇気』を獲得できた。

 『レイズ』はFFシリーズでおなじみの戦闘不能を回復させる魔法だ。ただこの世界で言う戦闘不能がどういう状態を指すのかがイマイチわからないが、そこはまあ今度スペッキオや古代でエンハーサとかに行く機会があったときに聞いてみたらいいだろう。

 もうひとつの『勇気』はスパロボシリーズでボス攻略に重宝される精神コマンドで、これ一つで『熱血』『必中』『不屈』『加速』『直撃』『気合』の精神コマンドが付与される。

 『熱血』と『加速』はもう持っているので説明は不要だろう。『必中』は攻撃が当たりにくい敵へ100%攻撃を与えることができ、『直撃』は文字通り相手がバリアを張ろうが魔法で防御力を上げようが関係なく突き抜けてダメージを与えるものだ。

 さらに『不屈』は受けるダメージを一度だけ10%に留め、『気合』はスパロボと違ってダメージを1.5倍させるようだ。『熱血』の効果でただでさえ倍加された攻撃がこの『気合』でさらに上昇し最終ダメージが3倍と言うなんとも鬼畜な仕様だが、それに見合うほどのMP消費量だと思えばいいのか『勇気』一回でMPが20も持っていかれる上にブーストアップとの併用ができないらしい。

 他には同じ魔物を狩っていたデナドロ三人集も雑魚の魔物とは一線を画した強さを獲得したり、討伐して得られた資金が今までの比ではなかったため財布の中身が非常に暖かかったりだ。いままで金運があまり良くなかっただけにこの収入は十分ありがたいが、古代で防具を買い揃えたらすぐに尽きるくらいの量なのでそこまで贅沢はできない。

 

 

「ともあれ、こっちでやるべきことはもう済んだ。そろそろパレポリに戻ろうかと思う」

 

 

 朝日が昇ったばかりの海岸でデナドロ三人集にそう告げると、三人はいつものように「御意」と返した。

 突然いなくなるかもしれないがそれでもいいのかと訪ねても、彼らは君主を待つのも家臣の務めと断じた。こいつら清々しいまでに忠義の塊だな。

 パレポリでアイテムを揃え、トルースの裏山から原始に跳んでみるか。北の廃墟の戦闘で何度か死にかけたこともあり、今ならヒモ無しバンジーも怖くないと言い切れるだろう。

 あと気になるのは、やはりクロノたちの動きか。

 一週間もこの大陸にいたのでクロノたちが既に先に進んでいるのではという可能性もあるだろうが、魔王城が健在で魔岩窟が開かれた兆候はないので先に進んだということはないと考えられる。

 仮に魔王がやられたのならラヴォスの影響で魔王城は消滅しているだろうし、なによりグランドリオンのイベントで空に向かって青い光が伸びるのだがそんな光も確認できていない。

 見えていないだけという可能性も捨てきれないわけではないが、あの光は雲を突き抜けるほど伸びたんだ。イカダで一日もかからない距離にあるチョラスでそんな光を確認できないわけがない。

 そしてクロノたちが魔王城に乗り込むのはカエルの家で一泊してからになり、俺の体感ではパレポリから魔岩窟まで結構な時間がかかった。なのでパレポリより若干遠い位置にあるカエルの森から早朝に出立しても昼前か、正午ぐらいになるだろう。グランドリオンのイベントもそれぐらいになる。

 そうした分析に基づいてクロノたちはまだ魔岩窟を開いてないと判断し、俺は鉢合わせにだけ注意してデナドロ三人集と共にチョラス村の大陸から出発した。

 

 

 

 

 

 

 運よく進行方向に強い風が吹いた上それなりの流れがある海流に乗れたらしく、予想より早くパレポリの町並みが見え始めたのはまさに昼飯時だった。

 

 

「御館様。パレポリを肉眼で確認しました」

 

「ああ。見えている」

 

 

 うん、曇ってきてはいるが風も流れもこっちに吹いている。原作をやっていた一人としては魔王攻略の前に北の廃墟攻略なんてどんなバグだと言いたいが、行けたんだから仕方ないね。

 原作と言えば、クロノたちは魔王を倒せばようやく折り返し地点といったところか。

 ラヴォスを倒すなら当然クロノたちと合流しなければいけないんだろうが、問題はどのタイミングでいくかなんだよな。

 古代ではサラの救出を優先するため合流は無理だし、あそこで戦うラヴォスは強くてニューゲームでもしないと無理だ。それ以降だと普通はクロノを生き返らせてからか、黒鳥号のイベントが終わった後になるので相当あとになってしまう。

 話の辻褄を合わせやすくするなら圧倒的に後者がいいだろうが……まあ、まだ時間はあるから今決めなくてもいいか。

 方針を決めたら腹が減ったので少し早い昼飯にしようと亜空間倉庫からあのハイパーほしにくを取り出す。グッズマーケットで一つだけあったのを衝動買いしてしまったのだが、これが食えるのなら大した問題ではない。

 

 

「ッ、御館様! あれを!」

 

「んあ? どうし……た……」

 

 

 ガイナーに呼ばれて目を向け――思わず硬直しハイパーほしにくを海に落とす。しかし、それすらも気にならない光景がそこにあった。

 

 

「あれは、まさか……グランドリオンの光?」

 

 

 パレポリより少し東の場所から青い光が天を貫いていた。その神々しさに思わず呟き、唐突に今朝自分が分析した内容を思い出す。

 グランドリオンが魔岩窟の入り口を切り開くイベント。それが偶然にも今まさに行われようとしているところだった。

 と言うことは、ついに魔王城の決戦と言うわけか。

 この戦いの末にラヴォスが開いたゲートでクロノたちは原始へ、魔王はかつての故郷のある古代へと飛ばされることとなる。

 …………待て、ゲートで故郷だと?

 瞬間、頭の中である仮説が閃いた。

 

 ――――このゲートに飛び込めば、元の世界に戻れる可能性があるのでは?

 

 あり得ないとは言い切れない。もし俺がラヴォスの影響でこっちの世界に来たというのなら、同じラヴォスの影響で元の世界に帰ることも可能性としてあり得てもおかしくはない。

 可能性としてはあり得ない方が大きいだろうが、帰れるかもしれない可能性があるなら行かない理由がない。

 サラの救出がお流れになるかもしれないが、やはり自分が帰れる可能性を見過ごすなどそれこそ本末転倒だ。

 

 

「……お前ら、進路を変更するぞ」

 

「は、どちらへ?」

 

 

 光が収まった方角へ指を向け、迷うことなく言い放つ。

 

 

「魔岩窟を抜け、魔王城へ突入する」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話「突入!魔王城!!」

前作との変更点。

三人集、強化


 進路をパレポリから魔岩窟に程近い海岸に変更した俺は、その道中にガイナーたち3人にあることを確認していた。

 

 

「さっきも言ったように、俺は魔王城の攻略に向かう。ただこれはあくまで俺の目的のために行くものだから、お前たちは気が進まなければ来なくても全然かまわない」

 

 

 なにしろ自分たちを束ねていた相手に殴りこみにいくのだ。いくら俺に鞍替えしたとしても、抵抗があってもおかしくはない。

 

 

「フッ、愚問ですな」

 

「我らは既に御館様に全てを捧げました」

 

「故に、御館様が敵と断じた者には躊躇いなく刃を向けましょうぞ」

 

「……本気で言ってるのか?」

 

「「「いかにも」」」

 

 

 ――どうやら俺は、こいつらの忠義っぷりを見誤っていたようだ。

 ならばもう語ることはないと決め、俺たちは陸に着くなり迷うことなく文字通り切り開かれた魔岩窟へ突入する。

 洞窟内には魔物はおらず、戦闘があったと思しき跡が残されていた。その光景を目じりに洞窟を抜けるが、その途中で既に日は落ちたらしい。

 月明かりを頼りに一つだけ踏み均された森の道を進み――――そこにたどり着く。

 開かれた鉄の門の先にはガルディア城に勝るとも劣らない石造りの城。その一番高い屋根には石で作られたドラゴンの彫刻。

 

 

「ここが……魔王城」

 

 

 ゲームで幾度となく攻め込み、攻略する度に消滅していった魔王軍の本拠地。

 携帯があったら写メの一つでも撮りたいところだが、無い物強請りをしても意味がないな。

 サテライトエッジを召喚し、すぐさま開かれたままの扉から侵入する。

 メインホールから2階へ続く階段を駆け上がり、いきなりゲームで使うセーブポイントのようなキラキラした床を発見する。確かここにこれが出るのは最初に両サイドに延びる通路を奥まで調べつくしたあとと、ソイソーとマヨネーを撃破した後だ。

 しかし俺たちはその両方をこなしていないのにも関わらず床にはキラキラしたものがある。つまりこれは、既にクロノたちが二人を倒して先に進んでいるという事実に他ならない。

 厄介な敵が既にいないことを喜ぶべきか、思ったより出遅れたことを悔やむべきか……いや、この際それはどうでもいい。

 いないならいないで、ただ突き進むのみ。

 キラキラした床に立つとなんともいえない浮遊感が体に浸透し、目の前が暗転する。

 気付けば両端に石像が並ぶ大廊下に立っており、進行方向には開かれた扉があった。

 既にクロノたちが通った後だからしばらく魔物は出ない、と考えるのは流石に危険か? ビネガー曰くこの魔王城には合計で100体の魔物がいるらしいが正直そんなにいたかなんて覚えてないし、なにより本当に100体だけかという疑惑もある。

 

 

「魔族の敵に死を!!」

 

「人間に絶望を!!」

 

 

 警戒を緩めず進むと、唐突に石像から複数の魔物がヘケランの洞窟にいた奴らと同じようなことを叫びながら現れた。

 魔王のしもべにスカッシャー、それにアウトロウとソーサラーか。

 

 

「やっぱそう簡単には行かせてくれないか――けど構ってる暇もない! お前たち、強行突破するぞ!」

 

「「「ハッ!!」」」

 

 

 ガイナーたちの返事を聞きながらまず道を塞ぐように現れた魔王のしもべたちに向けてサテライトエッジのブラスターをお見舞いし、一瞬で消滅した隙を突き一気に駆け抜ける。

 後ろからわらわらとソーサラーやスカッシャーも現れるが、追ってこられないように移動中にチャージしたブラスターで天井を打ち抜き崩落させる。単純な足止めではあるが、時間を稼ぐには十分すぎる。

 

 

「お見事でございます、御館様」

 

「本来なら全滅させてレベルを上げたいところだが、時間がないからな。急ぐぞ」

 

 

 賛辞の言葉もそこそこに奥へと突き進む。

 ビネガーの手動で稼動するギロチンベルトコンベアー。

 ビネガーの手動で稼動する落とし穴通路。

 ビネガーの手動で稼動する魔物出現リフト。

 実物を見るたびに笑いがこみ上げてきてしまったが、その全てが既に突破された後だった。

 全てが順調のように思われたが、やはり物事は早々うまくいかないらしく最後の一本道で20は越えるであろう魔物の群れと遭遇してしまった。

 ここもブラスターで突破しようかと思ったが、サテライトエッジを呼び出したところでさらに背後から10を超える魔物が俺たちを挟撃――いや、この動きは包囲する気か!

 

 

「クソ! 一箇所に固まっていれば一網打尽にできたと言うのに!」

 

 

 周囲360度はすべて敵。ブラスターで正面を抜けても倒せるのはせいぜい10体未満。しかもその後間違いなく連中が追撃に入るだろう。

 

 

「御館様! ここは我らにお任せを!」

 

「我らが殿を勤めます! 御館様は先へお進みください!」

 

 

 急速で策をめぐらしていた最中、ガイナーとオルティーがスカッシャーを切り捨てながら叫ぶ。

 現実的な考えではあるかもしれないが、現状の戦力比はざっと1:8。増援の可能性を考慮すれば不安が残る数値ではあるが、こいつらの実力ならば――――

 

 

「――――お前ら、死ぬなよ!」

 

 

 せめて少しでも数を減らしてやろうとブラスターを真正面ではなく前方で一番密集している敵へ構え、なぎ払う。

 開いた道を一気に進み、その後ろを三人集が続く。そのまま俺は狭い扉へ飛び込み、振り返ることなく先へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

「フッ、聞いたか、おまえたち」

 

「うむ。御館様のご命令だ。間違っても反故には出来んな」

 

「然り。それにこの程度の連中、北の廃墟の猛者に比べれば――――」

 

「「「羽虫も同然!!」」」

 

 

 マシューとオルティーが連携して正面の魔王のしもべをエックス状に切り抜け、そのまま背後からやってくるアウトロウへと肉薄する。

 

 

「フリーランサーごときが我らに歯向かう気か!?」

 

「ただのフリーランサーと侮られては困るな!」

 

 

 一瞬だけ剣のぶつかる音が鳴り、次の瞬間にはアウトロウの体が上下に分かれた。

 

 

「言ったはずだ。お主らなぞ今の我等にとっては、羽虫も同然であると」

 

 

 扉の前で刀を振り抜いた状態のガイナーはそうつぶやくと再び刃を鞘に戻し、目にも止まらぬ速さで一気に振り抜く!

 

斬ッ!!

 

 居合抜きの要領で放たれた斬撃が一筋のかまいたちとなり、魔王軍の兵を次々と真っ二つに捌く。

 

 

「おお! ガイナーよ、ついに体得したか!」

 

「うむ、御館様より可能性を提示していただき先ほどモノにした。その名も、『一文字かまいたち』!」

 

 

 それは北の廃墟を攻略中の時のこと。

 刀を振るう彼らを見て、尊が思いついたように話をしたのがきっかけだった。

 

 

「お前たちさ、刀を振るってかまいたちを発生させることは出来るか?」

 

「かまいたちを、ですか?」

 

「ああ。確か魔王軍の外法剣士ソイソーがそういう技を使うんだが、お前たちもそれを使えるようになれば直線上の敵にダメージを与えられるようになるはずだ」

 

「それは素晴らしい技ですな。しかし、我らにできるでしょうか?」

 

「それはわからないが、訓練すればきっとできるんじゃないか? 少なくとも俺はもうひとり、刀でかまいたちを放つ剣士を知っているし」

 

 

 それを聞いた三人はその日から居合を利用したかまいたちの訓練を始め、日に日に抜刀速度が上がっていくのを実感していた。

 そしてガイナーは先ほどその訓練が実り、かまいたちを完全に自分のものとした。しかしこのかまいたち、尊が想像していたものと少々異なり線ではなく弧を描いて飛ぶため射程範囲が横にも広がり、クロノやソイソーが使うかまいたちより圧倒的に優れていた。

 尊が聞いたら「それなんてバグ?」と返ってくること請け合いな技が納刀から数秒後に三発目が放たれ、射程内の敵をズパズパとかっさばいていく。

 そのフリーランサーとしてはあり得ない戦闘力に、ついに魔王軍が恐怖を抱き始めた。

 

 

「つ、強すぎる!」

 

「こいつら、本当にフリーランサーなのか!?」

 

「アイエエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

 

「さあ、遠慮なくかかってくるがいい! 御館様の後を追う者は、容赦なく我らの太刀の錆にしてくれるぞ!」

 

 

 魔王軍にトラウマを植え付けるかの如く攻め手を苛烈させたガイナーたちは、その数十分の後に敵の軍勢を壊滅させるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……まさか既に魔王と戦闘中って状況じゃないだろうな」

 

 

 あの三人と別れてからも一向に出会わないクロノたちのことを思いながら、ふとそんな可能性が頭をよぎった。ここまで来てまだ背中も見えないことから十分ありえることだが、まだビネガーというネタ要員……もとい、最後の将軍と戦っている可能性だって十分あるんだ。

 笑いどころが多くて忘れがちだが、バリアを張ったあいつは完全に無敵状態だ。予備知識がなかったりクレーンに気づかなければ敗北という可能性だってある。

 まあ洞察力の高いカエルや、メンバーによってはルッカやロボがいるんだ。もしかしたら今まさにクレーンを破壊しつくしてビネガーを落とし穴に――――

 

 

「…………――――――――ぉぉぉおおお!?」

 

「へ?」

 

 

ドギャァアン!!

 

 

 ――突如、俺の前に緑色の何かが降ってきた。

 でっぷりとした胴体。尖がった耳。白を基調とした魔法使いのような服装。

 目を回しているがそれは紛うことなく、魔王三大将軍の一人ビネガーだった。

 

 

「……えーっと、つまりクロノたちはもう魔王を残すだけ、ということか」

 

 

 あまりの展開に思考が一瞬フリーズしたので、ひとまず状況を整理する。

 このままビネガーを仕留めても良いかもしれないが、そうすると魔王を仲間にしたときにあいつの最強装備を回収できなくなる可能性がある。

 かといってこのまま放置しておけば、今度はラヴォスのゲートに巻き込まれて装備もろとも別の時代に飛ばされてしまうだろう。

 

 

「……まあ、原作でも生き残ってたんだ。たぶん大丈夫だろう」

 

 

 ギャグ属性の高いキャラは大抵最後まで生き延びるからな。

 そう判断して気絶しているビネガーを素通りして先に進む。

 巻き込まれる可能性といえばあの三人集も該当するのだが、あいつらだって普通のフリーランサーではない。引き際の見極めもあの廃墟の戦いで十分養われているはずだ。

 こちらは当初の予定通り、クロノたちと魔王を倒して発生したゲートに飛び込む。

 可能性……いや、仮説を引き当てたら元の世界へ。間違えたら別の時代、最悪の場合はさらに別の世界へ移動する可能性もある。

 けど少しでもチャンスがあるなら、いけるうちにチャレンジしないと後悔が残ってしまう。

 

 

「未練は残したくないからな――――さて、いくか」

 

 

 誰もいない大きな広間にたどり着いた俺は、気を引き締めてこの城ではじめに見たものと同じキラキラした床の上に立った。

 

 

 

 

 

 魔王城の最深部。ラヴォスが召喚されようとする祭壇の前に向かい合う4つの影があった。

 ツンツン頭の少年に機械仕掛けのロボット。カエルとその三人に対峙するマントの男。

 クロノにロボ、そしてカエルとこの城の主にして魔族を統べる魔王だ。

 

 

「いつかのカエルか……。どうだ、その後の人生は?」

 

「感謝しているぜ。こんな姿だからこそ――手に入れた物もある!」

 

 

 輝く聖剣、グランドリオンを抜き放ち魔王へ突きつける。

 同じくクロノやロボも武器を取り出し、魔王へと構える。

 

 

「フッ、カエル風情が。一度折れた伝説の剣と雑魚を二人連れてきたところで俺は止められん」

 

 

 余裕を崩さないままのことを口にして挑発するが、そこへさらに新しい声が乱入する。

 

 

「違うな。彼らは雑魚ではなく、お前にとって最大の障害だ」

 

 

 唐突にクロノたちの後ろから声が上がり、全員がそちらに注目する。

 現れたのはクロノにとってゼナンの橋以来となる謎の男――月崎 尊だった。

 

 

「ミコトさん!? どうしてここに!?」

 

「ゼナンの橋以来だな、少年。 どうしてもなにも、俺も魔王に用があるんでな」

 

 

 クロノにそう答えた尊はサテライトエッジを召喚し、いつものハルバードモードで魔王の前に立ちはだかった。

 

 

「その武器……なるほど。お前がビネガーの言っていた妙な奴か」

 

「へぇ、もう知っていたか。まあそれはいい――魔王、一つ確認したい。ラヴォスを召喚してどうするつもりだ?」

 

「フッ、それはお前の知るところではない。無論、そこのカエルどもも同様だがな」

 

「そうか。ではラヴォスを召喚して魔族の国を作ろうとしたり――――」

 

 

 もったいぶったように溜めて、尊はそれを口にする。

 

 

「――――アレにかつての復讐を果たそうとするのも俺の勝手な想像ということで片付けてもいいわけだ」

 

「――ッ!?」

 

 

 驚愕。

 クロノたちも驚くほどに、魔王の顔が驚きに歪んだ。

 

 

「復讐? お前、何か知っているのか?」

 

「魔族の国を作るとイウのは建前だったト言うことデスカ?」

 

「ミコトさん。あなたは、一体……」

 

 

 クロノの呟きを聞き流し、尊は魔王の反応をうかがっている。

 

 

「貴様、何を知っている」

 

「さあ? 知っていることしか知らないな。アレの力を狂信し、永遠の命を得ようと実の娘も使い潰そうとした愚かな女王とかな」

 

「……そうか」

 

 

 マントで体を覆いながら、魔王は僅かに深呼吸をする。

 

 

「……黒い風が、また泣き始めた」

 

 

ガギィン!!

 

 

 呟きが終わった瞬間、尊のハルバードと魔王の鎌が交錯していた。

 

 

「カエルの雑魚どもなどどうでもいい。話してもらうぞ……! 貴様の知る全てを!!」

 

「上等だ、ねじ伏せてやる!!」

 

 

 中世最大の決戦が、幕を開ける。




普通に修正加筆を行っているつもりでした。
しかし気がついたら、三人集がまた強くなってしまったんです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話「決着!そして……」

「『ヘルガイザー』! 『アイスガ』!」

 

 

 開戦と同時に魔王は相手の体力を減らす『ヘルガイザー』を使用し、続いて全体魔法である『アイスガ』を唱えた。

 得体の知れない倦怠感と巨大な氷の塊が尊たちを襲い、確かなダメージを与える。

 

 

「チッ! 流石上級のガ系魔法。使用者が魔王と言うのもあって強力だな! 『ケアル』からの『アイス』!」

 

 

 尊は『ケアル』でダメージを回復しつつ現在のマジックバリアを突破することが出来る『アイス』を唱え魔王の腕に直撃させる。

 

 

「なに?」

 

 

 まさか初見でバリアを突破してくるとは思わなかったのだろう、怪訝そうに『アイス』が当たった場所を一瞥し、今度は火属性の『ファイガ』を放つ。

 最近縁がなかったと思った火の攻撃にしかめっ面をし、尊はサテライトエッジをシールドモードに変えて迫る爆炎をやり過ごそうとする。しかし大した効果は得られず、かなりの体力を削り取られる結果となった。

 

 

「くそぉ! 『サンダー』!」

 

 

 ファイガを喰らってすぐカエルの『ヒール』で回復したクロノが反撃のように『サンダー』を唱えるが、撃ち込まれた雷は魔王のバリアに吸収されエネルギーへと変換される。

 

 

「天属性の魔法とは、こういうものだ! 『サンダガ』!」

 

 

ズガガガガガガガガッ!!

 

 お手本とでも言うように魔王の手から尊やクロノの魔法が可愛く見えるほどの電撃が放たれる。

 幸い4人とも立ち上がって見せるが、受けたダメージは決して無視できるものではない。

 

 

「くっ、ロボ! ラピスを頼む!」

 

「カエルの剣士は魔王に攻撃を! 聖剣グランドリオンならあのバリアを突破できるはずだ!」

 

「わかりマシタ!」

 

「命令される理由はないが、了解した!」

 

 

 クロノの指示に応えたロボが全員の傷を癒すアイテムを使用し、尊の指示を受けたカエルがグランドリオンを構えて魔王の懐に飛び込む!

 

 

「せぇや!!」

 

「ッ! ちぃ!」

 

 

 物理にも発動するはずのバリアが発動しなかったことを察し一瞬遅れて縦に振られたグランドリオンを鎌で受け流そうとするが、勢いを完全に殺しきれず切っ先が魔王の左腕を掠める。

 

 

「クロノ!」

 

「ああ!」

 

 

 後ろへ飛びながら名を呼ぶカエル。それに応えるように現れたクロノがソイソー刀を構えて切りかかる。

 しかし魔王のバリアがその勢いを殺し、的確なダメージを与えるには至らなかった。

 

 

「消えろ! 『ダークボム』!」

 

 

ドドドドォン!!

 

 

「ぐぅ!」

 

 

 闇の爆炎が弾け近くにいたクロノを吹き飛ばす。直撃を受けたクロノはすぐさまロボの『ケアルビーム』で治療を受け立ち上がるが、魔王の名に恥じないその戦闘能力に押され戦況はどうにも芳しかった。

 

 

「どうした? まさか本当にこの程度だとは言わせんぞ。俺はまだ全力の半分も出して――むっ!?」

 

 

 余裕に満ちた声でクロノたちを挑発しようとした魔王を一条の光が襲う。

 バリアに阻まれそこまで強いダメージを与えたわけではないが、予想外の攻撃に自然と発生元へ視線が集まる。

 

 

「余裕でいられるのも今のうちだ。俺がこっちについた時点で、お前の勝利する可能性は大きく減っているんだからな。『集中』、『加速』!」

 

 

 一定時間命中と回避を上昇させる『集中』と一度だけ素早く移動が出来る『加速』を使用しながらサテライトエッジのブラスターを変形させ、ハルバードを構えた尊が魔王へと切りかかる。対する魔王もバリアを展開し、直撃を防ぐ。

 

 

「貴様、やはり最初の攻撃は……どこまで気づいている?」

 

「質問するのは全然かまわないが――後ろががら空きだぜ?」

 

 

 ニヤリとした笑みとともに投げかけられた言葉にはっとなり、魔王はとっさに右へと飛ぶ。

 先ほどまで自分がいた位置をグランドリオンが通り抜け、さらに追撃するようにロボのレーザーが飛んでくる。冥属性のレーザーがバリアを突破し魔王の体にダメージを与える。

 そして動きが止まったところへ放たれる――――クロノの全力切り。

 

 

「はあぁぁぁぁあああ!!」

 

「なめるなぁ!」

 

 

 刃が触れる直前にバリアが展開され直撃をかわされる。しかし直接的なダメージはなくとも勢いによる衝撃は伝わり魔王の表情が一瞬だけ歪む。

 

 

「この程度で俺が――ッ!? 『サンダガ』!」

 

 

 グランドリオンを構えたカエルとサテライトエッジのザンバーを構えた尊の姿を視界に入れた瞬間、魔王は魔法で攻撃が届く前に弾き飛ばす。 

 しかしダメージを受けた尊の顔に浮かんだのは、確かな笑みだった。

 

 

「それを待っていた! 『サンダー』!」

 

「! 『サンダー』!」

 

 

ズガガァン!!

 

 

「ぐぅぅ!!」

 

 

 尊の言葉を聴いてとっさにクロノも『サンダー』を放つ。

 魔王のマジックバリアの特性を知り尽くしていた尊からすればこのクロノの『サンダー』はうれしい誤算だった。

 魔王のマジックバリアはどれか1つの属性以外はすべて吸収する特性があり、それを見極めるのが彼の使用する魔法にあった。

 火の属性を使用してくれば火以外を。水の属性を使用してくれば水以外を。そのパターンに従えば天の属性である『サンダガ』を使用した後は天の属性以外を吸収するということになる。

 これをゲームで散々戦ってきた尊は細胞レベルで把握しており、天か水の属性を使ってくることを今か今かと待ち構えていた。

 そしてお待ちかねの展開にすかさず通用する魔法を選択し使用、さらに運がいいことに同じ属性を扱うクロノも同調してほぼ同時に同じ魔法を使用した。

 結果、マジックバリアは発動せず魔王は二つのサンダーに堪らず呻き声を上げる。

 

 

「もらったぞ! 魔王!!」

 

「カエル風情が粋がるな! 『ファイガ』!」

 

 

 サンダーの直撃をもらった後だが魔王の動きを止めるには力不足だったらしく、素早く鎌で受け止めカエルを蹴り飛ばとさらに追撃とばかりにファイガを放つ。

 先ほどサンダガを受けたばかりにも関わらずさらにファイガをもらったことで尊は一瞬死んだと思ったが、辛うじて体が動くことを認識するとまだ生きていると実感する。

 

 

「くそ! 直撃させただけじゃダメか!」

 

「嘗めるなよ雑魚ども! 魔法で俺を跪かせたければその10倍はもってこい!」

 

「……10倍か。流石にそれはちょっとキツイな」

 

 

 『ケアル』で自分を含めたクロノたち4人の傷を癒しつつ、立ち上がって魔王の言葉を確認する尊。確かに今の自分たちではさっきの10倍の威力を持つ魔法は習得していない。

 しかしと彼は心の中でつぶやき、口角を吊り上げる。

 

 

「10倍は無理だが、3倍くらいなら『勇気』で補える!!」

 

 

 そう宣言し、サテライトエッジをボウモードにして素早く射ち放つ。

 

 

「そんなもので俺のバリアは――!」

 

 

 余裕そうにバリアを展開する魔王。しかし――――

 

 

バギィン!!

 

 

「なっ!? ――ぐあああっ!?」

 

 

 光の矢はバリアを容易く突破し魔王のわき腹を掠める。

 だが掠めただけだというのに、魔王はまるで腹部に直撃したかのような激痛を感じた。

 

 

「抜けた!?」

 

「魔王のバリアが弱ってマス! 今なら――――!」

 

「ぐっ、やらせると思うか!? 『ファイガ』!」

 

 

 激痛に耐えながらも魔王は再び魔法を唱える。

 灼熱の炎が爆裂し、迫っていたクロノたちが吹き飛ばされる。だがその威力に誰もが膝を着きそうになる中、一人だけすぐ起き上がった者がいた。

 

 

「……貴様、化け物か?」

 

「違うといいたいところだが、この瞬間だけはそうと言えるかも知れないな」

 

 

 そう言いながらも内心で冷や汗をかいているのは、流れを一気に変えた尊だった。

 北の廃墟での修行で得られた新しい力――精神コマンド『勇気』。

 その中に含まれる『直撃』が魔王のバリアを無視し、『必中』が――掠ったとはいえ――攻撃を命中させ、『不屈』の一度だけダメージを10%に抑える効果が『ファイガ』から身を守った。

 さらに宣言した通り、10倍のダメージは無理だったが『熱血』と『気合』の相乗効果がダメージを押し上げ、確かに3倍のダメージを与えることが出来た。

 

 

「……よかろう。貴様が化け物だというのなら、最早力を抑えることはせん。俺の魔力全てを使い、一思いに葬ってやろう!」

 

 

 その言葉と共に魔王の足元から紫色の光と、巨大な魔法陣が出現した。

 何事かと全員が構えると、ロボのセンサーがその現象をとらえる。

 

 

「キョ、強大な魔力反応を感知! まだ増大してイマス!」

 

「まさか……不味い!?」

 

 

 ある可能性に思い至った尊はそれが繰り出される前に攻め立てようと考えた。

 しかしクロノたちのダメージが回復しておらず、中途半端な体力でそれを喰らえばただではすまないことを――直感ではあるが――感じ取っていた。

 

 

「でかいのが来るぞ! 回復して衝撃に備えろ!!」

 

 

 とっさにそう指示しながら回復できる手段全てを用いてクロノたちを過剰とも取れる勢いで回復させる。

 

 

「ダグ・ダラズ・ラーダイル、光を呑み込む深き闇よ、冥府の扉を解き放ち、暗黒の魔光をもって全てを滅せよ!」

 

 

 聴いたことのない言葉。しかし尊はそれが何の前兆であるかを明確に理解した。

 

 

「――総員、防御体勢!」

 

 

 回復は完了したが追撃が間に合わないと悟るや否や――意味があるかわからないが――防御の指示を出し、自分もサテライトエッジをシールドモードに変形させソレに備える。

 

 

「さあ、冥府の果てへと消し飛ぶがいい!」

 

 

 完成した魔王の持つ最強の魔法が、放たれる。

 

 

 

「『ダークマター』!!」

 

 

 

ゴォォォォォォオオオ!!!!

 

 宙を舞う二つの三角形が交錯する度に闇のように黒い光が迸り、尊やクロノたちに降り注ぐ。

 その一撃一撃が凄まじい衝撃を持っており、一瞬でも気を抜けばすぐさま意識どころか魂まで刈り取られそうだった。

 

カッ!!

 

 

「ぐぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 

 一際強い衝撃が全身を襲い、直後に尊は床に膝を、手を突いて荒い呼吸を繰り返す。

 

 ――わ、わかってはいたが、まさかこんなに強いとは……。

 

 魔法防御の高さはレベル30にしては結構低いほうだが、今のクロノたちからすれば十分に高いものだ。しかしそれに対し、レベル30にしてはHPが異常なまでに低かった。

 同レベルなら一番低いマールでも450以上あるのに対し、現時点の尊は400にも届いていない。むしろこの場にいるクロノたちと同じくらいか、それ以下しかないのだ。

 そんな状態で魔王の最強魔法である『ダークマター』を喰らい、自分でもまだ動けそうなのが不思議なくらいだった。

 

 

「ちっ、思った以上に魔力が練れなかったか。ならばもう一度――」

 

「やらせると……思うか!」

 

 

 ロボの『ケアルビーム』を受けていち早く復帰したカエルがグランドリオンを手に飛び掛り、魔王へ息をつく暇もない連撃を繰り出す。

 この隙を逃すまいと尊もまず自分に『ケアル』を使用し、続いてクロノとロボへ同じ魔法を使う。

 

 

「ありがとうございマス」

 

「礼なら後だ。 さっきの魔法のために魔王はバリアを解除しているはずだ、防御力が落ちている今のうちに畳み掛ける! いくぞ、少年!」

 

「はい!」

 

 

 クロノに声をかけ、魔王を攻め立てているカエルへと加勢する。

 

 

「ええい、鬱陶しい! 『ファイガ』!」

 

 

 大きく後退した魔王が再び『ファイガ』を唱え攻めようとした3人を吹き飛ばす。少なくないダメージが全身に伝わるが、それを無視して尊は残りのMPを確認し回復よりも攻撃を優先させることにした。

 ボロボロなのに体の底から沸き上がるようなこの力、よくわからないがこれを利用しなければおそらく勝利は見えない!

 

 

「まだまだまだぁ! 『加速』! 『集中』! 『熱血』!!」

 

 

 ツインソードの形態で精神コマンドを付与し、一気に接近すると同時に振り下ろされた魔王の刃を半分に切り飛ばす!

 切り飛ばしたことで『熱血』の効果は消滅してしまったが、もう片方の手にある剣でさらに一度大きなダメージを与えたわき腹へさらに切りつける。

 手に伝わる肉を切る感触に少なからず嫌悪感を抱くが、生に対する執着がそれを押さえ込む。

 

 

「ぐぅぅっ! 何故だ! 何故仕留められん!? 何故まだ立ち上がる!?」

 

「さあな! 気合とか根性とか『勇気』とかいろいろ甘く見てんじゃないのか!? あとついでに言わせてもらうなら――――!」

 

 

 ツインソードをザンバーに変形させさりげなく『勇気』を使用して使い物にならなくなった魔王の鎌を弾き飛ばし、がら空きになった懐へ飛び込み腕を掴んで一気に引き寄せ担ぎ上げる!

 

 

「人間の底力を、なめんじゃねえぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 放たれたそれは知る人が見れば一本背負いに見えただろう。しかし尊は担ぎ上げてから叩きつけるのではなく、そのまま後方へと投げ飛ばした。そしてその先には――――

 

 

「な!? き、貴様らぁ!?」

 

「おおおおおおおおッ!!」

 

「はあああああああッ!!」

 

「ゴオオオオオオオッ!!」

 

 

 クロノとカエルによるエックス切り、そしてロボのタックルによって構成される三人技『トリプルアタック』が待ち構えていた。

 

ザシュッ! ドゴォォォン!!

 

 

「がはあ゛っ!?」

 

 

 身動きの取れない状態で聖剣と刀によるエックス切りを受け、トドメに超重量のロボによる体当たり。

 全てをまともに喰らった魔王はそのまま祭壇へと叩き付けられ、やがてその場に倒れ込んだ。

 

 

「や、やったか!?」

 

「カエル、それはフラグだ。ヘタに呟かない方がいい」

 

「フラグ? なんデスかそれは」

 

 

 思わずカエルから出た言葉に突っ込みを入れる尊。それが引き金になったのか、倒したと思われた魔王が起き上がろうとしていた。

 

 

「ぐっ……貴様、グランドリオンの力をここまで高めていたとは……」

 

「……終わりだ、魔王。サイラスの仇、今ここで――ッ!?」

 

 

 グランドリオンを構えなおそうとしたカエルだが、祭壇から沸き出る異様な気配にその動作を遮られた。

 

 

「センサーに強大なエネルギー反応デス!」

 

「まさか、ラヴォス!?」

 

「まずい! 今、眠りから覚められては……!」

 

 

 ロボの言葉を聞いてまさかと口にするクロノだが、直後に告げられた魔王の言葉が彼らに疑問を植え付けた。

 

 

「眠り? 記録によれば、ちょうどこの時ラヴォスは誕生したとありますが……」

 

「違うな。魔王はラヴォスを呼び出したに過ぎない。 あれは……ラヴォスは遥か昔から地中の奥深くに存在し、この大地の力を吸収しながらゆっくりと成長を続けているんだ。1999年に目覚め、星を滅ぼすために」

 

「な、なんだって!?」

 

 

 尊からもたらされた情報にクロノたちだけでなく、魔王まで度肝を抜かれた。

 

 

「貴様は……! 本当にどこまで知っているのだ……!」

 

「言ったはずだ、知っていることしか知らないと。それよりも……」

 

 

 尊の言葉を待っていたかのように、ロボのセンサーが新たな反応をキャッチする。

 

 

「これは……ありえマセン! あり得ないサイズのゲートの反応デス!」

 

「おのれ、貴様たちさえ現れなければ……俺は、奴を……!」

 

 

 その言葉を皮切りに、巨大なゲートがその姿を現し始めた。

 

 

「の、飲まれる……!」

 

「うおおーッ!!」

 

「クロノ! カエル! ワタシの手を!」

 

 

 ロボから伸びた腕がクロノたちを捕まえ、はぐれないように確保する。

 そして――――

 

 

「さあ、帰れるなら俺を帰してくれ! あの世界へ……俺の元いた場所へ……!!」

 

 

 極小の可能性に賭けた一人の男が、そのゲートを受け入れるように手を広げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはどこだ?

 あたり一面が白い世界。なにもない空間を俺は漂っていた。

 立っているのか、宙に浮いているのか、それすらもあいまいな空間に体を委ねていた。

 魔王と戦い、ラヴォスのゲートに飲み込まれたところまでは覚えているが、そこから先がどうも思い出せない。

 まさか、次元の間かあの世なんてオチはないだろうな。

 だが可能性としてはなくはないだろう。さまざまな時代に干渉する時の最果てなんて場所があるんだ、さまざまな次元に干渉する場所があっても不思議じゃない。

 まあ、仮に次元の間だとしたところでこれからどうしたものか――――

 

 

「やっと、見つけた」

 

 

 その声を耳にして、体を振り向かせる。

 そこには少し気が強そうな美人の女性が俺と同じように立っていた。

 

 

「あなたは?」

 

「私は君が元々いた世界を管理していた神の一人……。今回の事故の責任を取るべく、君を探し続けていた」

 

「俺が元々いた世界の、神様?」

 

「そうだ。簡潔に説明させてもらうと、君はこちらの怠慢によって別の世界へ飛ばされてしまったんだ」

 

 

 話を聞くと、俺はこの神様の元部下のせいでサテライトエッジやUG細胞改、精神コマンドやピンチになると強くなる底力なんてものを入手したらしい。魔王との戦いの時、ボロボロの時の方が強く感じられたのはこの底力のおかげか。

 本当ならギリギリのところで別の世界への移動を止められたはずだったが、世界を移動するためのエネルギーが暴走したり別の次元から干渉してきた強大な力に巻き込まれて別の世界へ飛ばされてしまったとのことだ。

 それ以降、俺の足取りをつかむためさまざまな反応の調査をしてきたらしいが、どういうわけかなかなか察知できなかったようだ。

 

 

「じゃあ俺が発見されたのは……」

 

「この空間――次元の間とも言うべき場所が発生したおかげだな。しかし、今の君を連れて帰ることはできないようだ」

 

「どういうことで――ん?」

 

 

 質問しようと足を踏み出すと、伸ばした腕がコツンと見えない壁にぶつかった。

 

 

「連れて帰れない理由がそれだ。見つけることは出来たが、強力な壁が邪魔をして手出しができなくなっている。それを取り除けば連れ帰るのも可能だと思うのだが、力の出所がまだ分かっていないのだ」

 

 

 つまり、異常な力を持った何かを取り除けば帰れるというわけか。こんなことをできそうな存在と言えば今のところ一つしかないわけで――――

 

 

「……今、俺がいる世界にラヴォスと言う化け物がいます。そいつは時間に干渉するほど強力な力を持っているので、もしかしたらそいつのせいかもしれません」

 

「……なるほど。ではその化け物を退治することができれば……」

 

「可能性はあります」

 

「了解した。君には済まないと思うが、そのラヴォスと言うものの相手を任せてもいいだろうか?」

 

「帰るために必要なら、やりますよ」

 

 

 こうなったら本格的にクロノたちと合流することを考えた方がいいな。ただ魔王城でいろいろ情報を漏らしてしまったから、せめて死の山が攻略された後に合流したいな。 

 ……合流と言えば、ガイナーたちはどうしただろうか? ラヴォスのゲートに巻き込まれて別の時代に飛ばされてなければいいが。

 

 

「感謝する。あともうひとつ、君に説明しなければならないことがある」

 

「なんですか?」

 

「君が持たされたサテライトエッジを使用することで発動する、君のもう一つの力だ」

 

「サテライトエッジを使うことで発動する力?」

 

 

 俺の問いに女神様はそうだと答え、説明する。

 

 

「私が聞きだした話によれば、サテライトエッジは月の光を浴びせ続けることで力を蓄え、その力が最大まで溜まると別の世界へ移動するためのゲートが生成されるとのことだ。ただこれは一度訪れたことのある場所なら自分の意思一つで確実に移動できるが、知識だけであったり行ったことのない場所への移動は保証できない力だそうだ」

 

「ということは、ラヴォスを倒した後にそのゲートの力を使えば……」

 

「確実に元の世界に帰れるということだ。ただ、人間には過ぎた力だから元の世界に戻り次第、その力は取り除かせてもらう」

 

 

 この処置は十分に納得できるな。下手をすれば別世界の問題を自分の世界に持ち込むこともできるんだ、それだけでも異常な問題に発展しかねないことは容易に想像できる。

 

 

「他に聞いたのはゲート精製能力の効果で君はこの世界で使われているゲートを使えると言うのと、蓄えた月の光は攻撃のエネルギーに転用もできるということだ」

 

 

 なるほど。今までゲートが使えたのはその力のおかげということか。それにサテライトエッジに溜めたエネルギーはいざという時の切り札に使えということか。

 

 

「だいたいはわかりました。とりあえず今後の目的は、ラヴォスを倒して干渉している力を取り除くことでいいですね?」

 

「ああ。神だと言うのに神らしいことが出来なくて済まないが、頼む」

 

「了解です――っと、そろそろ時間切れか?」

 

 

 なんだか体が後ろの方へ引っ張られる感覚がある。なんとなくだが、これはこの空間から引きずり出そうとしているようだ。

 

 

「なにも出来なくて本当にすまないが、せめて君の無事を祈らせてもらうよ」

 

「ありがとうございます。――では、また」

 

 

 その言葉を最後に、俺の意識は急激に薄れていった。

 

 

 

 

 

 

「……ん、ここは……」

 

 

 瞼に差し込む光で目を覚まし、体を動かそうとする――が、

 

びきぃ!

 

 

「あが!? か、体中がいてぇ!?」

 

 

 よくよく考えれば、魔王の『ファイガ』を喰らってから一度も回復していなかったな……。

 一先ず体の傷を癒すべく『ケアル』を唱えようとする。そこで俺は、今自分がどこにいるのか気付いた。

 

 

「……陸が、宙に浮いてる」

 

 

 すごいぞ、ラ○ュタは本当にあった……じゃなくて、あの陸についているでかい飛行機は、確か黒鳥号じゃないのか? と言うことは――――

 

 

「あら? 誰かそこにいるの?」

 

 

 不意に聞こえた声に振り向くと、茂みの奥からローブを纏った青い髪の女性が現れた。

 おいおい、この人ってまさか……。

 

 

「……サラ、王女ですか?」

 

「ええ、そうですけど――まあ、あなた傷だらけじゃありませんか」

 

 

 ――古代のキーパーソン、魔王の実の姉サラであるとわかると同時に俺は自分が古代のジール王国にいることに気付いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話「ここから始める原作乖離」

 予想外というのはいつも不意打ちみたいに唐突だ。

 元の世界に帰れる一歩手前の空間までいけたと思ったら目が覚めると古代のジール王国にいて、いきなり最重要人物の一人である王女サラにエンカウントしたのだからな。

 さて、予想以上に早く遭遇できた彼女といえばちょうど今『ケアルガ』で俺の傷を癒してくれたところだ。一国の王女に治療してもらったとこの国の連中が知ったら顔を真っ赤にして怒ってきそうだ。

 

 

「――はい。これでもう大丈夫ですよ」

 

「感謝します、サラ様」

 

「別にかまいません。ですが、どうしてこんな傷を?」

 

 

 ……どう返したら良いだろうか。まさか「12600年後の未来で成長したあなたの弟とガチ死闘を繰り広げていました」とか言ってもあまりに荒唐無稽すぎる。

 

 

「――実は私は武者修行の旅に出ている者でして。魔物たちを相手に己を鍛えていたのですが、ある場所で強力な魔物と遭遇して命からがらここまで逃げてきたのです」

 

「まあ、そうでしたか。 強くなることを否定しませんけど、あまり無理をしてはダメですよ」

 

 

 子供を叱るような優しい口調で俺に注意するサラは優雅に立ち上がると小さくお辞儀をしてその場を後にした。

 ……うん、可憐というかなんというか、とりあえずわかったことは彼女を絶対に救わないと一生後悔するということと、彼女は間違いなく天然のシスコン製造機の素質があるということだ。

 あんな優しく諭されたらどんな悪ガキでも間違いなく言うこと聞くだろうし、嫌われることを恐れていい子になろうとするだろう。今なら幼少の魔王――ジャキがかなりのシスコンだったことが理解できそうな気がする。

 ともかく、第2優先順位である彼女の救出を行うならまずは原作知識を武器にジール宮殿に乗り込んで、女王からそれなりの地位をもらう必要があるな。これでかなりの自由が利くはずだし、魔法が未熟な俺にとっては自分の魔法を高めるいい機会になるはずだ。

 めんどくさい存在といえばやはり予言者として現れる魔王と、ジールの側にいることが多いダルトンぐらいだ。

 魔王のほうはともかく、ダルトンはなんとなくアホっぽいのでうまく取り入ればこちらにとって都合よく動いてくれるだろう。そうだな……酔いつぶれて眠そうなところへ刷り込み洗脳でもしてみるか。「王」って単語を混ぜとけば簡単にかかりそうだ。

 あと必要なものは……追々考えるとするか。

 

 

「とりあえず、服とか装備とか揃えるとするか」

 

 

 魔王戦のダメージは当然ながら肉体だけにとどまらず、一張羅の現代服や装備していたチタンベストにまで深刻なダメージを与えていた。しかし『ファイガ』や『サンダガ』を喰らったにもかかわらず燃え尽きなかったのは、おそらく運がよかったのだろう。

 

 

「……全裸で魔王と決戦……嫌過ぎる絵だ」

 

 

 思わず想像した光景に我ながら吐き気を催してしまった。

 

 

 

 

 

 

 サラと出会った場所から一番近くにあった宮殿(?)カジャールに着いた俺は好奇の目に晒されながら手持ちの資金でまずはこの国で一般的な服を数着購入。試着室で着替えさせてもらい、現代服だけ亜空間倉庫に収納しチタンベストは引き取ってもらった。プラチナベストはジールの許可がないと無理と言われたので、これは後で買いに来よう。

 正直チタンベストの損傷がここまで酷いなら現代服も捨ててもよかったかもしれないが、愛着があるのでどうにも手放す気に離れなかった。ジーンズもまだ使えそうだったし。

 

 

「さて。とりあえず必要なものは揃えたから、後はアイテムでも――――」

 

 

 何気なく頭部装備のコーナーを眺めながらそう呟いたところで、それを発見する。

 顔の半分近くを覆い隠す銀色のマスク。目の部分はサングラスの役割を果たしているのか黄色いレンズがはめ込まれており、見方によってはファッションのようにも見えなくはなかった。

 しかし、俺はこのマスクを知っている。レンズの色こそ違うが、このマスクは――――。

 

 

「……どう見てもフル・フロンタル(全裸の人)のマスクじゃないか」

 

 

 何故こんなものがここにというのはさておいて、直感的にこのマスクには使い道があると俺は確信した。

 いずれここに来るクロノたち。彼らの目を欺けるにはこのマスクは非常に有効だろう。

 ただでさえ服装を変えてわかりにくくした上にこんなマスクを装備するんだ。元ネタを知る友達連中がいるならいざ知らず、そんなことをまったく知らない彼らからすれば一目では俺と気付きはしないはずだ。

 ついでに魔王と接触しても一時的にだが目を欺くことが出来るだろうし、ジールにも変わったやつだと覚えてもらいやすくなるだろう。

 そこからは、即決だった。

 

 

「……まいど」

 

 

 謎の生命体X……もとい、店長のヌゥからアイテム数個と一緒にこれを購入しさっそく装着してみる。

 ――意外と、イイ。

 レンズには何かしらの魔法がかかっているのか、視界は普通にクリアに捉えられるし狭く感じることもない。

 後はマントでもあれば、違和感はほとんど消えうせるだろう。

 ふむ、せっかく別人に変装したんだ。名前も偽名を考えるとしよう。ヤバイ、なんか楽しくなってきたぞ!

 クツクツと笑いながらカジャールを後にする俺。その姿を見ていた人たちが怪しい人を見るようにひそひそと指差していたが……うん、見なかったことにしておこう……。

 

 

 

 

 

 

 クロノ世界における古代で最も栄えている魔法の国ジール。この国は現在海底神殿と呼ばれる巨大な建造物と魔神器と言う装置を用いて地中深くに眠るラヴォスから強大なエネルギーを得る計画を推し進めていた。

 その中心となる人物、女王ジールは玉座の間である男と面会していた。

 

 

「ほう。ラヴォス様に危害を加えようとする輩がやってくる、か。それは真か? 預言者よ」

 

「間違いございません。その者たちはやがて女王様の最大の障害と成って立ちはだかり、ラヴォス様の目覚めを邪魔することでしょう」

 

「ふむ……よかろう。お主の預言、当てにさせてもらおう」

 

「ははっ」

 

 

 ジールに小さく頭を下げ、予言者――魔王は自分の思惑が良い方へ動いたことを確信した。

 

 ――ラヴォスを餌に女王に取り入ることば出来た。後は海底神殿で出現するラヴォスを仕留められれば……。

 

 自分の計画を目的を再認識し玉座の間を後にしようとすると、一人の神官が現れた。

 

 

「失礼します。ジール様にお目通りを叶えたいと申す者がおります」

 

「わらわは忙しい。そのような者、早々に突っぱねるがいい」

 

「いえ、しかし、ジール様にとっても重大なことと申しておりまして」

 

「くどいぞ! 早々に引き取って――」

 

「それは困ります、ジール様」

 

 

 神官の後ろから声が上がり、全員の視線が一世にそちらへ集中する。

 現れたのはあまり見かけない黒髪をした20代くらいの男だ。しかしその顔には銀色のマスクが鈍く輝き素顔を隠していた。

 

 

「突然の訪問に加え素顔を晒せないご無礼、どうかお許しを。私はシドと言うもので、どうしてもジール様にお伝えせねばならぬことがあり馳せ参じました」

 

「……ふん、ここまで来たのなら仕方あるまい。用件を述べよ。ただし、どうでもよいことなら即刻海底神殿建設の奴隷にしてくれるぞ」

 

「――――お告げを」

 

「む?」

 

「ラヴォス様よりお告げを受けました」

 

「ラヴォス様のお告げだと?」

 

 

 強気でいたジールも自身が信仰するラヴォスのお告げを聞いたという発言に少し興味を持った。

 

 

「はい――ジール様はラヴォス様のお力を得てこの星を支配する神殿で永遠の時を生きられる方となる。自分はラヴォス様の覚醒を促し、ジール様に永遠の命を授ける手助けをせよとのお言葉を受けました。永遠の時を得られる方を見届ける。これほど名誉な機会を与えてくださったラヴォス様に報いるべく、私はジール様にお仕えしたいと思い参りました」

 

「なんと……。ラヴォス様がわらわに永遠の命を……!?」

 

「左様に御座います。ですからジール様、この〝シド〟にあなた様のお手伝いをさせてください」

 

「――ちょっと待ちな。お前、それが本当にラヴォス様のお告げだと証明できんのか?」

 

 

 ジールの側に控えていたダルトンがシドと名乗る男に待ったをかける。シドは口元を緩める。

 

 

「ラヴォス様はこうおっしゃいました。『自身の目覚めを妨げる者たちの気配を感じる、奴らが現れる前に行動せよ』と」

 

 

 その場にいた全員が驚いた。それはたった今、ジールにもたらされた予言者の言葉とそっくりだったのだから。

 ジールが予言者に顔を向けると、彼は首を左右に振る。この話は漏れてはいないそうだが、偶然と片付けるには少し無理があった。

 それを信用するに足ると見たのか、ジールは深い笑みを浮かべる。

 

「よかろう。シドと申したな? ラヴォス様に忠誠を誓い、わらわに永遠の時を与えてみせよ!」

 

「ははっ、ありがたき幸せ!」

 

 

 ――チョロイ! チョロすぎるぜジールさんよぉ!

 忠誠の証として頭を垂れていたシドこと尊は見えないところでニヤリとした笑みを浮かべていた。

 機嫌がよくなったジールは神官へシドと予言者に部屋と海底神殿に立ち入る許可を与えるようにと命じると高笑いをして魔神器の部屋へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 部屋を与えられた俺は一度マスクを外し一息つく。

 ジールをおだてて自分に有利な展開に持ち込む作戦は思わず笑いが出そうなほどに成功した。

 ラヴォスを狂信しているジールなら「ラヴォスの言葉」として絡めればかなりの確率で信じてくれるだろうと踏んで直接向かったらこれが予想以上にハマった。

 無論、ダルトンのような質問があった場合の対策もあの場に魔王が予言者としていたため非常に大きな効果をもたらしてくれた。

 何より建設段階の海底神殿に入れる許可を得られたのは予想以上の成果だ。

 後は魔神器が設置される場所に緊急脱出用の装置なり転送魔法陣なりを設置すれば魔王たちを地上へ戻した後に残ったサラを連れ出すことが出来る。もちろんリスクはあるだろうが、それを承知の上で行動しなければあの状況のサラを助けることはできないだろう。

 そうと決まればさっそく海底神殿を設計したという三賢者の一人ガッシュに会ってその辺の話をつけに――

 

 

「――シド殿、少しよろしいか?」

 

「ッ! ど、どうぞ」

 

 唐突にノックが響きどこかで聴いたことのある男の声が聞こえた。

 慌てて手にしていたマスクをかぶりなおし入室を促す……が、訪問者の姿を見た瞬間に俺の心拍数がアッパー気味に上昇し血の気が紐なしバンジーのように急降下した。

 

 

「休んでいたところすまないが、どうしても話がしたかったのでな」

 

「い、いえ。それで、なんの御用ですかな、予言者殿?」

 

 

 訪ねてきたのは数時間前まで殺し合いをしていた相手、予言者こと魔王だった。

 内心でだらだらと滝汗をかきながら招き入れるが、一歩一歩近づいてくるたびに思わず後ずさりそうだ。

 

 

「なに、大したようではないのだがな――――」

 

 

 そう告げられた瞬間――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――見覚えのある鎌が俺の目の前に突き出された。

 

 

「――カエルの仲間であるお前がなぜここにいる」

 

 

 ……ば、バレてるうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話「下準備を始めよう」

 前回のあらすじ。

 

 ・尊、古代に来て早々サラとエンカウント。

 ・尊、全裸マスクを装備してシドと名乗りジールに取り入る。

 ・尊、一瞬にして予言者(魔王)に正体がバレて絶体絶命の大ピンチ←イマココ

 

 ――なんて冷静に状況を振り返ってる場合じゃねぇ!!

 

 現在進行形で魔王に鎌を突きつけられている尊はかろうじて動揺を押し殺し、バレてるなら仕方がないと一思いに開き直ることに。

 同時に脳みそをフル回転させ、予測される質問に対するウソと真実を混ぜた回答をスタンバイさせる。

 

「――まさか初見で正体がバレるとは思わなかったぜ、魔王」

 

「俺に衝撃を与え続けたその声だけは忘れまいと決めていたのでな……。改めて聞くぞ、何故ここにいる?」

 

「お前と同じだ。魔王城で発生したラヴォスのゲートに飲まれ、紆余曲折の末ここにたどり着いた」

 

「……あの時、貴様は自分を元の世界へ戻せといっていたな。どういうことだ?」

 

「そのままの意味だ。俺は元々この世界の住人ではない。ラヴォスのゲートの影響を受け、この世界とは異なる世界の未来から流れてきた人間だ」

 

「パラレルワールドの人間だと言うことか?」

 

「YESだ。ラヴォスのゲートの影響を受けてこちらに来たのなら、逆もまたありえるのではと思い至り元の世界へ帰る可能性を賭けて魔王城へ乗り込んだ」

 

 

 なるほど、と一つ目の疑問が解決した魔王は他の質問へと移行する。

 

 

「俺やラヴォスのことをよく知っているようだが、どこで知った?」

 

「言ったはずだ。この世界とは異なる世界の未来から来たと」

 

 

 口元を緩め、尊は続ける。

 

 

「俺の世界と相違がなければ遠からずこの国はラヴォスによって崩壊しサラ様は行方不明に、地上は空から降ってくるジール王国によって未曾有の大災害に呑まれ地の民も光の民も関係のない世界となる」

 

「……未来からきたからいろいろ知っているとでも言うつもりか?」

 

「未来で知ったからこそ、とも言えるがな。未来でもこの手の話は興味を持たないと知らないことだしな」

 

「……まあいい。貴様の目的はなんだ?」

 

「その前に一つ確認したい。 ――魔王、お前の目的はラヴォスを倒すこと、それに間違いないな?」

 

 

 質問に「そうだ」と答える魔王。それを聞いて尊はよし、と頷く。

 

 

「こちらの優先事項はサラ様を確実にお助けすることと元の世界に帰る方法を確立させること。その過程で可能ならラヴォスを撃破することだ。前半はともかく、後半については目的が一致している。そこでだ、一つ協力関係を結ばないか?」

 

「協力関係だと?」

 

 

 怪訝そうな返答に尊は「ああ」と返し、続ける。

 

 

「さっきも言ったが、ラヴォスをどうにかするという点については共通している。しかも俺たちはジールのおかげで海底神殿への立ち入りが許可されている。魔神器が設置されるであろう場所に罠か兵装を用意しておけば……」

 

「奴を滅ぼすことができる、というのか?」

 

「『かもしれない』、という言葉がつくがな。だが、何も用意しないよりは遥かにマシだ。それにラヴォスを倒すという点においてはあの少年たちも同じだ。うまく引き込めば、それだけで戦力になる」

 

「フム。奴らと共闘という形になるのは癪だが、いいだろう。だが俺の邪魔だけは許さんぞ」

 

「敵の敵は味方……割り切ってもらうさ。優先して倒すべきがどちらなのかは明白なんだからな」

 

「だがいいのか? 貴様は元の世界に戻る手段をなくすかもしれないんだぞ?」

 

「あの時点で可能性の一番高い方法がラヴォスゲートだったというだけだ。他に方法があるならそれを利用するし、可能性が低いのならそれを底上げする方法なりもっと可能性が高い手段を探すさ」

 

「なるほど。……最後に聞かせてもらうが、お前と奴らの関係はなんだ?」

 

 

 その質問に、尊は自身の目的を再確認するようにクロノたちとの関係を明確にする。

 

 

「出会ったら協力してはいるが、仲間になった覚えはないな。俺自身、彼らを利用している節があるし」

 

 

 原作シナリオの大部分を彼らに丸投げし、自分は好きなように動いて利害が一致したら協力しているだけだ。

 当初の最優先が自分の世界に戻ることだったが、現在はそれに加えてサラを助けることが追加された。

 

 ――こう考えると、俺も大概自分勝手だな。だがせっかく巡ってきたサラの生存確立のチャンスだ、クロノには悪いが、シナリオ通りにやられてもらおう。原作との差異を最小限にしてかつ確実に助けられるタイミングがあそこ以外に見当たらないからな。

 

 

「……そうか。話はわかった。せいぜい働いてもらうぞ、シド殿?」

 

「おっ、こちらこそよろしく頼みますよ、予言者殿?」

 

 

 鎌を仕舞うなりあえて偽名のほうで名を呼ぶと、尊もそれに合わせて返す。

 フン、と嘆息を残た魔王が退室してしばらくすると、尊から一気に汗が噴出し同時に盛大なため息が吐き出された。 

 

 

「……なんとか言いくるめれたが、心臓に悪すぎる……」

 

 

 ――話もかなり無茶苦茶なところがあった気がするが、凌げたから問題ない……か?

 

 罠でラヴォスを倒せる? それで終われば苦労はしないと自嘲しベッドにボスンと仰向けに倒れこむ。

 

 

「ガッシュに会おうかと思ったけど、もうそんな気も起きないし、なによりねむい……けど、寝る前にアレだけ試してみるか……」

 

 

 魔王城に突入してから休みなく動いていた代償がここに来て津波のように押し寄せ、尊は意識が落ちるような感覚に身を委ねながらサテライトエッジを窓際に設置してから眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました俺はとりあえずサテライトエッジを回収し部屋に備え付けられた浴室へ足を運び、身なりを整えて部屋を出た。

 既に陽が昇りきっており、結構寝ていたことが窺えた。

 さて、今日こそはガッシュのところに足を運びたいところだが、さてどこにいることやら。

 適当に宮殿内を散策してみるがそれらしい人物は見当たらず、手近な人に尋ねるもわからないと答える人が大勢だ。

 

 

「……こうなったらあまり使いたくないが、一番知っていそうな彼女に尋ねるとするか」

 

 

 目的の人物を変更して再び手近な人に尋ねると、今度はあっさりと場所が割れた。

 情報を元に限られた人しか入ることができないとされる魔神器の間に訪れると、そこに彼女はいた。

 

 

「失礼します、サラ様」

 

「――あら? あなたは……」

 

 

 巨大な黄色い物体の魔神器。それを眺めていたサラに声をかけると、彼女は驚いたような声を上げた。

 

 

「お初にお目にかかります。私はシドと言うもので、この度ジール様にお仕えすることとなりました」

 

「母の? ……いえ、それよりあなたは昨日の方、ですね?」

 

「……やはりわかりますか?」

 

 

 マスクをしているから大丈夫かと思ったんだが、まさか二日続けて正体が看破されるとは……。このマスクはそこまで役に立っていないのだろうか?

 

 

「声の感じと、あとは……なんとなくですね」

 

「そうですか……。この変装には少し自信があったんですけどね」

 

 

 周りに人の目がないことを確認し、マスクを取り外す。

 

 

「改めまして、自分は尊と言います」

 

「ミコトさん、ですね。 単刀直入に尋ねます、旅人であるあなたが母に仕えてどうするつもりですか?」

 

「少し嫌な噂を聞きましてね。あの人……ジールの邪魔をするためですよ」

 

 

 マスクをつけ直しながら昨日の魔王との計画の一部を暴露する。ただし俺一人が発案したかのように調整し、内容も主にラヴォスをどうするかについてだ。しかし話を聞いているサラの表情は険しいもので、説明が終わるとゆっくりと口を開いた。

 

 

「ミコトさん……。あなたは大きな勘違いをしています」

 

「その程度であれは倒せない、と言うことですか? それだったらもう百どころか億も承知ですよ。それで倒せたら苦労はしません」

 

「では何故わかっていてそれをしようとするのですか? 召喚させないだけであれば他に方法はあるでしょうけど、倒すなんて……」

 

「申し訳ありません、これ以上お話しするのは……。ですが、やれることはやらせていただきますよ」

 

 

 まさかラヴォスを倒せるタイミングはいくらでもあるし、ジールに取り込んだのはあなたを救うためのものでしかないとは言えず、俺はそうやって話を濁すしかできなかった。

 

 

「ところでお尋ねしたいのですが、ガッシュ殿がどちらにおられるかご存知ですか?」

 

 

 スイッチを尊からシドに切り替え、本来の目的について尋ねる。

 

 

「ガッシュですか? 今は確か、海底神殿の方へ出向いているはずですが」

 

「海底神殿ですか……。ありがとうございます、早速向かってみます」

 

「いえ。――それよりも、ミコトさん」

 

「おっと、今の私はジール様に仕える男シドです。尊なんてやつじゃありませんよ」

 

「……失礼しました。 シドさん。嘆きの山の賢者様のことはご存知ですか?」

 

 

 嘆きの山の賢者。それを聞いてすぐに頭に浮かんだのは耳みたいな帽子を着けたサングラスの老人だった。確か彼は計画に反対してジールの反感を買ってしまい巨大な魔物ギガガイアの元に封印されたんだよな。

 

 

「把握していますが、残念ながら私では彼を助けることはできません。修行で入ったところで山の魔物に私は大敗してしまったので」

 

 

 もちろんこれもウソではあるが、俺のレベルではそれなりに雑魚を相手に出来ても最深部のギガガイアを相手にするのは不可能だ。なのでこっちは一番やりあえるはずのクロノたちに任せるとしよう。

 謝罪と共に小さくお辞儀をしてその場を後にし、俺はジールに指定された場所の転送装置を使い海底神殿へと向かう。うん、こういう装置が魔神器の裏に設置出来たらいいんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 海底神殿に降り立ち奥へ進むが、途中この神殿の建設に奴隷として集められた地の民の人々が目にとまり非常に不快な気持になってしまった。

 見張りをしている魔物や兵たちが膝をついた人を見つけては痛めつけて無理やり働かせ、中には運悪く殺されてしまう人までいた。

 魔法が使えるか使えないかだけで区別され、魔法が使えなければ奴隷のように扱われる……。胸糞の悪い話だ。

 今すぐにでも神殿の各部を破壊したい衝動に駆られるが、ここで暴れてしまっては全てが無意味となってしまう。

 ……なんとも、ままならないものだな。

 嫌な気分のまま手近な指揮官にガッシュの居所を教えてもらい、作業用エレベーターで一気に最下層まで移動する。エレベーターを出てすぐのところに、彼はいた。

 

 

「ガッシュ殿、少しよろしいですか?」

 

「うん? 誰じゃ?」

 

 

 ヌゥと一緒に作業をしていたボッシュと同じような帽子をかぶった老人、理の賢者ガッシュが俺に気づく。

 原作ではこの姿の時に話しかけると既に精神が病んでいて会話が成り立ってなかったが、やはり未来の世界が原因だったのだろう。このガッシュはしっかりと返事をしてくれた。

 

 

「この度、ジール様に仕えることとなりましたシドと申します。海底神殿の立ち入り許可を得ましたので、責任者であるガッシュ殿にご挨拶に参った次第です」

 

「ほっほっほ。律儀じゃの。ダルトンにも見習わせたいもんじゃ。……で、ジールに仕えるほどの男がそれだけのためにここへ来たわけじゃないんじゃろ?」

 

 

 ひとしきり笑った後、ガッシュがニヤリとした笑みを俺に向けてくる。なんというか、この時代の連中はみんな直感力が高いのか? いや、ジールはチョロかったしダルトンはアホっぽかったし……待てよ、ダルトンに限ってはまだマシだったか?

 変な考察の海に沈みかけたところでガッシュの視線に気づき、目的の内容を伝える。

 

 

「ひとつ提案がありましてね。この神殿のあちこちに非常脱出用の転移装置を設置したいのです」

 

「非常用の脱出装置じゃと? 馬鹿を言うな、ワシの作った神殿は完璧じゃ。そう簡単に壊れるような代物じゃないわい」

 

「もちろんガッシュ殿の神殿を疑っているわけではありません。しかしそれは通常の場合であって、ラヴォス様を呼び出した後はどうなるかわかりません。その時に何かあっては遅いので、今のうちに手を打っておこうと考えたのです」

 

 

 ラヴォスを呼び出した後と聞いて目を丸くしたガッシュがどこか納得したように口髭に手を当てた。

 

 

「ラヴォスが呼び出された後の話か。確かにワシは相当な強度を計算してこの神殿を建設させたが……なるほど。それは確かに先が読めんな」

 

「私も耳にはさんだ仮説なのですが、ラヴォス様が本格的に目覚めて力を振るえばこのジール……いや、この世界すべてが死にいたる程の被害が及ぶとか」

 

「ふむ……。にわかには信じられんが、お主の言うようなことがあればマズイの」

 

「では先ほどの件は……」

 

「よかろう。脱出装置についてはまた話し合おう。お主は黒鳥号のダルトンに一度会ってくるといい。こんな話を信じるような奴ではないと思うが、教えないよりははるかにマシじゃ」

 

「了解しました。では、また」

 

 

 再び来た道を戻りジールへと戻る。戻る途中でまた殺された人を見つけてしまい、胃の奥から吐き気が込み上げてくる。

 ……一度、部屋に戻るか。

 俺は早足で部屋に向かい、すぐさま胃の中を空にしようとするのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話「理解され難いマスクのロマン」

「……近くで見ると相当でかいな、これ」

 

 

 自室で胃の中を空にした後に訪れた黒鳥号を目の当たりにした俺の感想がそれだった。

 俺が知る限りこれほど大きな飛行機は自分の世界には存在せず、対抗できるとすれば昔読んだSF小説にでてきた原子力空中空母くらいだろう。

 さて、と呟き入口に向かうと丁度進行方向から目的の人物が姿を現していた。

 

 

「んあ? なんだ仮面野郎じゃねーか。こんなところにどうした?」

 

「ダルトン様にご挨拶をと思いましてね。それにしても、素晴らしいですね。黒鳥号は」

 

「はっはっは! そうだろそうだろ! なんてったってこのダルトン様が現場指揮を任されているんだからな! みみっちい物になるわけねーだろ!」

 

 

 自分が担当してる物を褒められたことがよほど嬉しいのか、ダルトンは腰に手を当てて人目も憚らず大笑いする。

 

 

「しっかし、俺様に挨拶しに来るとは……。おめー、予言者の野郎よりよっぽど殊勝だな。いや、けっこうけっこう!」

 

 

 ちょっとおだてたらこれか。やっぱりこいつもチョロイな。これならあれをやってもうまくいきそうな気がするな。

 簡単に乗せられたダルトンを見ながら内心でニヤリとする。

 

 

「ありがとうございます。――そうだ、この後お時間ありますか? よろしければ夕食にでも」

 

「うん? 男に誘われて喜びはしないが……まあいいだろう。今の俺様は気分がいいからな」

 

 

 良い店を紹介してやると率先して宮殿へ足を向けるダルトンについて行くと、たどり着いたのはカジャールの中にあった静かなバーだ。

 流石にこの時間から利用する者はいないのか、利用者は皆無といってよかった。

 店員に連れられ奥の個室を陣取り、適当な酒を注文する。

 

 

「しっかし、お前そのマスクは何のためにつけてんだ? 趣味か?」

 

「まあ、そんなところです。良いでしょう?」

 

「……俺には分からんね」

 

 

 運ばれてきたグラスを受け取りぐっと中身を煽るダルトン。つられて俺も一口飲みこむと、じんわりとした熱さが喉を焼いた。

 

 

「……おいしいですけど、あまり強い酒ではありませんね」

 

「そうか? これでもジールでは強めに入る酒だぞ?」

 

「え、これでですか?」

 

 

 トマの酒に付き合っていたせいでアルコールの耐性がついたのか、強めでないと物足りない身体になっていたようだ。

 

 

「すいません、もっと強いのもらえますか?」

 

「お前、チャレンジャーだな。俺様ならまず頼まんぞ」

 

「いやいや、強い酒も慣れれば癖になりますよ。嫌なことを忘れるのには特にうってつけです」

 

「……嫌なことを忘れるのにねぇ」

 

 

 わずかに逡巡し、ダルトンは小さく頷いて俺と同じものを要求した。

 しばらくして出されたのはウィスキーもどきのロック割といった感じの酒だった。もどき、というのも臭いはウィスキーだが色が琥珀色ではなく不気味なまでの青色だったからだ。無論、こんな酒は元の世界でもこの世界に来てからも見たことがない。

 まずダルトンが一気に口に含んだのを見てから俺も自分のグラスに口をつける。色が本当にアレだが、味も香りも紛うことなきウィスキーだった。

 

 

「かーッ! お前良くこんなキツイの飲めるな!」

 

「いやいや、この酒はちびちびと味わいながら飲んでいくものですよ。そんな一気に煽るものではありませんし」

 

「ぐっ……。そ、そうだったのか……」

 

 

 もう酒が回ってきたのか、顔が赤らんできたダルトンはまた同じものを注文し、今度は味わうようにちょっとずつ飲み始める。

 

 

「……なるほど。キツイが、確かに悪くないな……」

 

 

 度数の高い酒に味をしめたのか、そこから何杯かウィスキー系の酒をストレートを織り交ぜつつ飲んでいくダルトン。

 無論、普段強い酒を飲まない人がそんなに口にしようものなら酔いが回って泥酔状態になるか――――

 

 

「ぐが~~~~っ。ぐお~~~~っ」

 

「――ま、こうなるよな」

 

 

 酔いつぶれて机に突っ伏しいびきをあげて眠っているダルトンを眺めながら俺は軽い酔い覚ましに水を注文し、万能薬を摂取して体調を整える。

 さて、せっかく酔いつぶれてくれたんならジールではなくサラについてもらうように細工をしようか。

 寝ている状態でやれる細工と言えば、古今東西これが一番効力を発揮するであろう。

 

 

「――俺はサラ王女の手助けをしてこの国を平和で豊な国にするんだ。俺はサラ王女の手助けをしてこの国を平和で豊な国にするんだ。俺はサラ王女の手助けをしてこの国を平和で豊な国にするんだ。俺はサラ王女の手助けをしてはこの国を平和で豊な国にするんだ。俺は……………………」

 

 

 耳元で呪詛のように囁き続け、魂レベルでサラに協力するように刷り込み洗脳を施す。効き目が薄ければ毎日のように刷り込み続けてやるつもりだ。

 さて、反応が楽しみだな。

 

 

…………。

 

……………………。

 

 翌日。

 

 

「――なあ、シド」

 

「おや? どうかしましたか、ダルトン様」

 

 

 魔神器の間から出てすぐの廊下で遭遇したダルトンが何やら小難しい表情で尋ねる。

 

 

「実はな、俺様はこの国をもっと平和で豊な国にしたいと思ってんだが、どうすればいいと思う?」

 

「……そうですね。私なりの解釈になりますが、まず地の民の扱いを光の民と同等にする必要がありますね」

 

「あん? 何故そんなことしなけりゃいかないんだ?」

 

「光の民も地の民も元は同じ人間。才能の優劣だけで人を差別すればそれは人々の関係に軋轢を生み、衝突を招く要因となります」

 

「……ふむ」

 

「それを防止するに当たってまずすべきことは、ご自身が率先してその関係の改善に取り組み双方の信頼を得ることです」

 

「俺様が率先して改善だと?」

 

「そうです。信頼を勝ち得れば人は自ずとその人についていきます。身近な人で例に挙げるならば、サラ様は間違いなく地の民光の民の信頼を得ているお方です」

 

「なるほどな。――ちなみに俺様は?」

 

「申し上げにくいのですが、ダルトン様は今までの行いが原因で民たちだけでなく部隊の者たちからもあまりよく思われておりません。しかしそれを反省し、周りの見る目を変えればまだチャンスはあります。特に兵に対する接し方を変えていくのは民の見る目を変える一役を買うことでしょう」

 

「…………そうか」

 

 

 難しそうな顔をして去っていくダルトンを眺め、俺は踵を返すと同時に某新世界の神の如く口元を歪めた。

 

 

 ――――――計画通り!

 

 

 どうやら刷り込みはうまく作用してくれたようだ。

 ダルトンに関してはこれで良しとして、次は魔神器にどうにか細工ができないか考えながら歩みを再開させる。黒の夢でボロボロになるのは確定だとしても、ジールからの連戦の際に魔神器だけすっ飛ばせれば少しは楽になるだろう。そのためにも海底神殿崩壊の時に原形を留めないくらいバラバラにしたいところだ。

 と、不意に目の前を小さな影がよぎった。

 

 

「……何だ、おまえか」

 

 

 こちらを見るなりそうつぶやいたのはネコを引き連れた小さな子供――幼少時代の魔王ジャキだった。

 

 

「お出かけですか? ジャキ様」

 

「…………」

 

 

 なにも言わずにジャキはネコのアルファドを引き連れて走り出すと、通路の角で一度だけこちらを向く。しかしその目つきは家族の仇でも見るかのようにきついものだった。

 

 

「……予言者にも言ったけど、お前も姉上に変なことするなよ」

 

 

 それだけ言い残し、ジャキは今度こそ走り去ってしまった。

 

 

「……サラ様に手を出すなってことか。 ――あのシスコンぶり、お前はどう思う?」

 

「姉を思うことは人として当然のことに決まっているだろう」

 

 

 正面から歩いてきた予言者こと魔王にそう尋ねるとそんな答えが即答される。うん、やはり同一人物だな。こいつも「サラに手を出したら殺すぞ」と目で訴えてやがる。

 

 

「……ところで、さっきまで魔神器を眺めていたようだが、何を考えていた?」

 

「何、魔神器をどうにか破壊できないかと考えていたんだが、厄介なことに魔法は吸収して並の物理攻撃にもめっぽう強いらしいことがわかった」

 

 

 原作では魔神器を作る材料となった赤い石なら壊せると聞いていたがそれ以外については触れられていなかった。なので他にも方法があるのではと思い調べていたのだが、本当に厄介なことにマジで赤い石で造られた武器でないと容易に破壊できないことが分かった。

 精神コマンドの『勇気』に含まれている『直撃』なら効率よく破壊できるかもしれないが、試しで壊そうものならここでの立場が危うくなるうえに今後の展開が全く読めなくなってしまう。確実にサラを助けるのならば海底神殿でのイベントが必須なんだからな。

 

 

「あれを作り出した命の賢者様に話を聞ければいいんだが、肝心の賢者様は嘆きの山に幽閉されてるし」

 

「ならこちらから出向けばいいだけだ」

 

「と思うだろ? こっちも面倒なことにかなり強力な魔物が門番をやってるらしい。しかも俺たちはジールたちの客人だ。不用意に幽閉された人物に会いに行けば怪しまれる可能性がある」

 

「そうなったら潜入した意味がなくなると言うことか……。確かに面倒な話だ」

 

 

 クロノたちがいれば丸投げして原作通りの救出を頼めるんだが、レベル的にまだ厳しいかもしれないな。それに装備の問題もあるだろうし……。ここで遭遇したらそれとなくアイテムに封印の箱のメモを混ぜて回収しに行くよう指示を出すか? 特に現代で回収できる燕は強力だからぜひこの機会に回収しておいてもらいたいところだ。

 

 

「ま、もう少し調べてみるさ。お前は……いつものアレか」

 

「フン。お前が気にすることでもあるまい」

 

「いや、そうなんだけど――――って、行っちまったか」

 

 

 最後まで言わせないまま魔王はさっきジャキが出てきた通路へと足を進めていた。

 ちなみに俺が言った魔王のいつものアレ――それは影ながら行うサラの身辺警護だった。

 

 

 

 

 

 

 ジールを出発して一日ぶりにカジャールを訪れた俺はまずジールの許可を得て購入できるようになったプラチナベストを入手し、魔法についての調べ物をするために吹雪が荒れ狂う地の道を移動してエンハーサへと向かっていた。一応ジールやカジャールでもできるんだが、あそこの連中って魔力の質だけでこっちを見下すから嫌いだし、エンハーサにはまだ行ったことがなかったからという理由がほとんどである。

 ただ一つ、問題があるとすれば――

 

 

「ちちチクショウッ!! たた、タバンの火炎放射とか、スペッキオのファイアがここ恋しく感じるとはッ!」

 

 

 UG細胞改のおかげで凍死や凍傷になることはないが、寒さを無効化にはできないというこの事実、喜んでいいのか悲しんでいいのかわからん! モンハン印のホットドリンクが欲しいぞ!

 サテライトエッジをシールド形態にしながら吹雪を凌ぎ、ざくざくと雪をかきわけて突き進む。こんな極寒の世界をクロノたちはよくあんな薄着で踏破できたものだ。――いや、確か鳥山明の書き下ろしで厚着をしている姿があったからちゃんと防寒対策はしていたのか?

 あとゲームでも思っていたのだが、ジャキはあの猛吹雪を移動してジールやエンハーサを行き来していたのだろうか? 間違いなく天の民専用の移動手段を持っているはずなんだろうが、その可能性に気づいたのは間抜けにもこの吹雪の中を移動している最中だった。

 結局気合と根性で暴風雪を渡り切り、エンハーサがある大陸と繋がる建物が見えた瞬間『加速』で一気に駆け抜けそのまま天の道で浮遊大陸に上がる。

 そして日の下に出た瞬間、大した気温ではないはずなのに体が一気に温まるような感覚に包まれた。

 

 

「あー、まさに天国だ。しばらく動きたくない……」

 

 

 雪を払って近くの芝生で後ろ手に手を組んで仰向けになり、冷えた体を温めるという口実をもって日向ぼっこに興じるとする。

 わざわざあの悪天候を進んでいこうとするやつはこの大陸にいないはずだ、人目を気にすることなくひと眠りすることもできる。

 というか、マジで眠くなってきたな……ちょっと寝るか。

 下がる瞼に身を任せると、ほんのわずかな時間で俺の意識はまどろみの中へと落ちていった。

 

 

…………。

 

……………………。

 

………………………………。

 

 

「――ぅん?」

 

 

 どれくらい眠っていただろうか、不意に流れた風に顔を撫でられ目を覚ます。

 ……まて、仮面をつけているはずなのに顔に風?

 目を開けてまず視界に飛び込んだのが高く上った太陽と、視界の端で揺れる青い髪だった。

 

 

「目が覚めましたか?」

 

 

 隣から上がった声へ顔を向けると、芝生に腰を下ろしたサラが見覚えのあるマスクを弄んでいた。

 というか、俺がつけているはずのマスクだった。

 

 

「サラ様。いったいいつから?」

 

「少し前からですよ。 ――やっぱりシドさん、これがない方が素敵ですね」

 

 

 その手にしたマスクを見せながら微笑むサラの言葉に、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 やはりそのマスクをつけて許されるのは金髪でかつ圧倒的カリスマオーラを放つ人物だけなのだろうか? あと女性に真正面から容姿について褒められることがあまりなかったから、なんか気恥ずかしいな。

 

 

「そんなに似合いませんかね、マスク自体は好きなんですけど。 返していただけますか?」

 

「あ、すみません」

 

 

 返してもらったマスクをさっそく装着し、付け心地を確かめる。フィット感は悪くないんだがな……。

 

 

「それで、自分に何か御用ですか?」

 

「いえ。特に何かあるというわけではないんですが、近くを通ったらシドさんが横になっていたので何かあったのかと思ったので」

 

 

 なるほど。要らぬ心配をかけしてしまったようだ。

 

 

「日差しが心地よかったので、ひと眠りしていただけですよ。ご配慮、痛み入ります。 ところで、サラ様は何故こちらに?」

 

「ちょっとジャキ――弟を探していまして。見かけませんでしたか?」

 

「こちらに来る前にジールでお会いしましたが、そこから先はわかりませんね。急ぎの御用ですか?」

 

「いえ、大丈夫です。私的なことですので」

 

 

 ふむ、なら気にする必要はないか。――あ、そうだ。

 

 

「サラ様。少しお尋ねしたいのですが、レイズという魔法について何かご存知ですか?」

 

「レイズですか? はい。知っていますよ」

 

「それは都合がいい。実は自分も先日それが扱えるようになったみたいなのですが、効果が少しわからなくて困っていまして。よろしければ、ご教授願えますか? 無論、急ぎでしたら別にかまいませんが」

 

「ええ、いいですよ」

 

 

 では、という前置きとともに、サラが解説を始める。

 

 

「レイズの効果は気絶した人、意識を失った人を呼び覚ます魔法です。この時に若干ではありますが体力が回復し、そのまま戦闘に参加するくらいは可能になります。この魔法の上位互換としてアレイズという魔法がありますが、こちらは体力の回復がレイズより効果が高く、万全の状態まで回復することが可能になります」

 

「ということは、グッズマーケットで販売されているアテナの水も?」

 

「はい。同じ効果を持っていますよ。ただあちらは魔法と比べて体力の回復量が非常に低いので、私たちの認識としては応急処置のようなものになっていますが」

 

 

 なるほど、ほぼ予想通りというわけか。確かにゲームでも戦闘不能というだけで死亡扱いではないし、魔力によって回復量が左右されるのと違ってアイテム復活の方が効力が低いのは妥当なところか。

 しかしそう考えるとドラクエの世界ってやっぱりヤバいな。戦闘不能が明確に『死』となってるからな。

 

 

「ちなみにお聞きしますが、死んで間もない者を生き返らせたりすることは?」

 

「……言いたいことは分かりますが、それはできません。死んでしまった人は、どれほど願ってももう会えないのですから。それこそ、あらゆる時間を意のままに操って運命を曲げない限りは」

 

 

 急に憂を帯びた表情をしたサラをみて、今の質問が地雷だったことに気づく。

 おそらく、亡くなってもう会えない人がいるのだろう。こんな悲しそうな表情(かお)をするほど、大切だった人が。

 ――羨ましいな、その人が。この世界で俺のことを大切に思ってくれる人はいないし、何より彼女に慕われているというのが。

 

 

「――私、もう行きますね」

 

「あ、すいません。時間をとらせてしまって」

 

「いえ、楽しかったですよ。またお話ししましょう、シドさん」

 

 

 立ち上がったサラは小さくお辞儀をするとエンハーサへと向かい、俺はしばらくその後姿を見送った。

 しかし、サラに慕われる人物か。原作の人物であり得そうな対象は三賢者ぐらいだが、ここで死んだ人物はいない。ということは、それ以外ということになる。

 ……もしかして、彼女の婚約者的な人物とか?

 もしそうだとしても、あり得なくはない話だ。女王の娘にして母親をも凌ぐ力の持ち主なんだから、国家の地盤を固めるのにそれこそ名家の人物と許嫁などになっていてもおかしくはない。

 

 

「嫁さんにサラか……。普通にアリだな」

 

「サラが誰の嫁だと?」

 

 

 突如、首元に鈍色の鎌があてがわれ地獄の底から響くような低い声が聞こえた。

 滝のように冷や汗が流れる中、ゆっくりと後ろを向いた先に奴がいた。

 

 

「……ま、魔王」

 

「答えろ、サラが、誰の、嫁になるといった」

 

 

 一言ごとに威圧を込めて問う魔王。ヤバい、ヤンデレの如くこいつの目からハイライトが消えてる……。

 

 

「た、例え話だ。サラ様がお嫁さんの男は、さぞ幸せ者だろうなと思っただけで、別に俺がどうこうしようとしたわけでは――」

 

「その割にはさっき呼び捨てにしていたな。つまり、そういう気があるということではないのか?」

 

「……もしそうだとしたら?」

 

「決まっている」

 

 

 目つきがさらにヤバくなり、鎌を振り上げる魔王から何やら怪しげなオーラが噴出する。

 瞬間、ぞくりと悪寒が背中を走り、俺はその場から飛び退く。

 ほぼ同時に、魔王の鎌が先ほどまで俺の頭があった位置を通過した。

 

 

「サラに近寄る害虫は……速やかに排除する!」

 

「例え話をしただけで殺されてたまるかぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 結局この後はエンハーサに向かうことはなく、暴走したシスコンと極寒の雪原で鬼ごっこをする羽目になってしまうのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話「ダルトン部隊隊員Aの日記」

ふと思いついたので書き上げたネタなので死ぬほど短いです。
飛ばして読んでも全然問題ありません。


 @月GC日

 

 待ちに待った給料日。仕事も非番だからゆっくりできると思ったのにダルトン様から突然の招集。

 海底神殿建設に必要な奴隷が足りないから地上から連れて来いと命令を受けた。

 ヤダよ行きたくないよ、俺今日非番だよ?

 そんな俺にダルトン様はただ一言おっしゃった。

 「関係ない、行け」

 ちくしょーめぇ! ザッケンナコラー!

 

 

 

 @月AA日

 

 ジール様が自分に歯向かったからとボッシュ様を嘆きの山に幽閉したとの通達が流れた。

 しかも監視にギガガイアなんて凶悪な奴までつけているらしい。そこまでするか、ジール様。

 俺たちも上官に歯向かわないようにだけ気を付けるとしよう。くわばらくわばら。

 

 

 

 @月?日

 

 今日、ジール様が新しい人材を雇ったらしい。

 なんでもへんてこな仮面をつけたシドという男らしいが、一目見て確かにあれはへんてこな仮面だと納得した。

 変人はダルトン様だけでいいのに、しかもローブを纏って怪しさ全開の予言者なんて奴までも加わった。あと何人の変人が増えるんだ?

 あと給料上げてくれないかなぁ。

 

 

 

 @月!日

 

 昨日ジール様が迎えたシドという男が黒鳥号の建造現場にやってきた。

 黒鳥号のことをほめているのか、ダルトン様が汚い笑い声をあげていた。うぜぇ。

 早く仕事を終わらせて、酒でも飲みに行きたい。

 

 

 @月$日

 

 ダルトン様の様子がおかしい。

 いつもなら挨拶をしても何も言ってこなかったのに、今日はご苦労さんと労いの言葉までかけてきた。

 隣にいた同僚もヒソヒソと偽物じゃないのかと聞いてきた。正直、俺もそう思う。

 明日は地上の吹雪がジールにも吹き荒れるかもしれないな……。

 

 

 

 @月JPP日

 

 あ、ありのままに、今、起こったこと記すぜ。

 昼飯を食って会計を済ませようと思ったら、いつの間にか代金の支払いが済んでいた。

 な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺もなんでそうなっていたのかわからなかった。

 詳しく聞いたところ、ダルトン様が俺が払うといって去っていったらしい。

 そういえばダルトン様が「仕事はどうだ」と声をかけてきたが、まさかあのときか?

 ケチでせこいダルトン様がおごってくれるなんて、いったいこのジールで何が起こってるんだ……。

 

 

 

 @月Σ(゜д゜lll)日

 

 衝撃の事実を知ったかもしれない。

 館内を警備していた時にシド様とすれ違ったら「刷り込み洗脳すごいな」とつぶやいていた。

 微かにしか聞き取れない声だったが、間違いない。洗脳っていえば誰かを操って意のままにすることだよな?

 もしかしてダルトン様が変わった原因って…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        いいぞ、もっとやれ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話「流れは再び交わりて」

心の力に関してオリジナル設定及び自己解釈があります。
申し訳ありませんが、原作と違うというコメントはお控えください。


 魔王との命を賭けた鬼ごっこを生き延びた翌日。改めてエンハーサを訪れた俺はまず自分の属性の特異性について調べるべく、宮殿内の書物を手あたり次第引っ張り出していた。ちなみに昨日予想した通り、エンハーサへ向かうための移動ポートがジールの中に存在していたので今回はこれを使ってやってきた。これでもう吹雪に晒される心配もないというわけだ。

 さて、調べたことをまとめると、書物には原作で知ることのなかった属性を持つ者の特徴についてこんなことが記されていた。

 天の属性を持つ者は結束の心の力が最も高い。

 水の属性を持つ者は癒しの心の力が最も高い。

 火の属性を持つ者は助力の心の力が最も高い。

 冥の属性を持つ者は生死の心の力が最も高い。

 こうしてみればなるほど、自分はともかく他のメンバーに思い当たるものが存在しているな。

 パーティー全体の(かなめ)として仲間の絆を束ねるクロノ。

 回復の力に秀でて仲間たちの傷を癒すマールとカエル。

 仲間たちの足りないあと一手を助言などで手助けするルッカ。

 そして命の終わりを告げる黒い風の泣く声を感じ取る魔王。

 これに従えば二つの属性を持つ俺は結束と癒しの心の力が高いということになる。癒しの力はケアルやレイズがあることからまだ納得できるが、俺に仲間を結束させる力なんてあるのだろうか? ソロで活動している以上、こればかりはわからないな。

 他にわかったことは俺のように属性が重複している人間は稀に現れることがあり、属性が重複=魔力値が高いと言うわけではないと言うことだ。

 魔力値が高いものならば属性が一つであろうと複数の属性魔法を扱うことができ、冥の属性の持ち主はこの傾向が非常に強いともある。また相性がよければ他の属性魔法を習得できる可能性もあり、それには相応の修行が必要とも記されていた。

 つまり俺も頑張ればファイア系の魔法を習得できる可能性があると言うことだが、まあこれは今気にすることではないな、サンダガやアイスガを覚えられた後に考えてみよう。

 区切りをつけて広げた書物を元の棚に戻し、テラスの喫茶店で一服すべく移動する。

 ――と、不意に一陣の風が吹き抜ける。

 

 

「「やあ、君が新しくジールに来たって人かい?」」

 

 

 後ろから声をかけられて振り向くと、人間とは少し違う姿をした二人の子供がステップを踏みながらそこにいた。

 見たことのあるその姿にもしやと思いつつ、問いかける。

 

 

「君たちは?」

 

「僕はグラン」「僕はリオン」

 

「「サラ様が君の話をしていたから、気になって会いに来たんだ」」

 

 

 名乗った二人が予想通り――後の聖剣グランドリオンに宿る精霊のグランとリオンだった。

 会いに来た理由がサラの会話からということで彼女が俺のことをなんといっていたのか気になるが、余計な詮索はしない方がいいだろう。特に昨日みたいな目に遭う可能性がある以上はな。

 

 

「そうか。まあ、これからよろしく」

 

「うん。マスクのセンスはあれだけど、心の力はとても澄んでいるね」

 

「だね。マスクもまともだったらもう少し評価は上げれたよ」

 

「……そうか」

 

 

 なんだ、このマスクはそこまで叩かれなければならない代物なのか? 本家の大佐が聞いたら泣くかもしれないぞ。

 しかしこれを外して過ごすわけにはいかない。外して過ごせるのは古代編が終わった後だ。

 

 

「ところで、今日は何しにこっちへ来たんだい?」

 

「ちょっと調べ物をな。君たちは?」

 

「僕たちは気ままにジールを回っているだけさ」

 

「そう、風みたいにね!」

 

 

 それだけ言い残し、二人は風を残して姿を消した。

 ジールを回っているというは本当だろうが、本当の目的はおそらく俺という人間を見定めに来たのだろう。

 どこから湧いたかもわからない男の話がサラの口から語られる。警戒するには十分すぎる理由だしな。この話が魔王の耳に入ったら……

 

 

「……昨日の二の舞どころじゃないな。寝首を掻かれないように気を付けよう」

 

 

 部屋のロックを厳重にしようと心に誓いながら、俺は当初の目的を果たすべく移動を再開した。

 

 

 

 

 

 

 数日後、魔神器の資料が納められた書斎に閉じこもっているとなにやら廊下の方が騒がしくなっていた。

 外していたマスクを装着し、マントを身につけて表に出る。すると武装したダルトン部隊がぞろぞろと歩いていた。何事かと思い、移動していた一人に声をかける。

 

 

「すまん、これは何の騒ぎだ?」

 

「あ、シド殿。先ほど侵入者が現れましてね。ダルトン様のゴーレムに敗れたところを捕らえて移送したところです」

 

「侵入者だと?」

 

 

 しかもダルトンのゴーレムに敗れた……。と言うことはクロノたちか?

 まあクロノたちだとしても、初めて戦うダルトンゴーレムに負けるのも不思議ではない。特にあのまねっこ能力によるエネルギーボールは初見殺しに近いし。

 

 

「……わかった。ありがとう、仕事に戻ってくれ」

 

「ハッ!」

 

 

 列に戻っていく兵を眺めていると、不意に一つの会話が耳に届いた。

 

 

「しっかし、シド様っていい人だよな。俺らなんかでも気さくに声掛けてくれるし」

 

「そうそう。ダルトン様とは大違いだな」

 

「いや、そうでもないぞ。最近のダルトン様は俺らのことにも気をかけてくれるし」

 

「ああ、あれは最初すごく気持ち悪かったが……まあ俺らに対する扱いが良くなるならまだいいかな」

 

「この調子で給料も上げてくれたらいいんだけどなー」

 

「まったくだ」

 

 

 ……予想以上にダルトンの変化が大きいようだ。

 ともかく、思ったより遅かったがついにクロノたちが来たか。負けたのも仕方ないと言えば仕方ないが、やはり一度封印の箱を回収してもらう旅に出てもらうとしよう。

 一旦書斎に戻って適当な紙にシド名義でメモを書き、手近な袋へ餞別の金と一緒に入れて口を縛る。

 あとは魔王と合流して捕らえられた場所に向かうとするか。

 方針を決めて行動すること数分、向こうも俺に用があったのか、割りとあっさり魔王と合流することに成功する。

 

 

「カエルの仲間どもが乗り込んできたぞ」

 

「ダルトン部隊の連中から聞いた。しかし、ゴーレムごときにやられるようなら戦力には数えられないな」

 

「何だと? ではどうするつもりだ」

 

「まあ焦るな……ちょうどいい。俺の知っている中でも真理を突いた名言を教えてやる」

 

「真理を突いた名言だと?」

 

「『レベルを上げて物理で殴ればいい』。力が足りないならレベルを上げまくったらいいという至極単純明快な言葉だ」

 

 

 もっともこの世界では魔法でないとダメージを与えられない敵もいるが、事実レベルを上げまくったらまず負けることはなかったからな。

 強くてニューゲームを使って武器縛り(全員最弱武器)でクリアした実績がそれを物語っている。あの時ラヴォスをモップでボコボコにしたのはいい思い出だ。

 

 

「……つまり、連中を強くさせるということか?」

 

「そういうことだ。確実に奴を仕留めるためにも、強くなってもらうことに越したことはない」

 

「フン、矛先がこちらに向かなければいいがな」

 

「その辺の保証はできないが、まあ勝算を上げるためと割り切ってくれ」

 

 

 そうなだめながら俺たちはサラも向っているであろうクロノたちが捕らえられている場所へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 クロノたちはダルトンのゴーレムに負けた後ジール宮殿内のとある場所に捕らえれていたが、それを是としないサラが三人を解放してある助力を求めていた。

 

 

「――さあ、急いで宮殿から逃げてください。そして出来ることなら、命の賢者様を助けていただきたいのです」

 

「命の賢者様?」

 

「命の賢者様は計画に反対したため嘆きの山に幽閉されてしまい、身動きが取れない状態になってしまっているのです」

 

 

 その言葉にクロノたちは納得した。あの女王が主導のもとに行われているラヴォスを呼び出す計画だ。たとえ位の高い人物でも、邪魔になるなら排除なり何なりするのも不思議ではない。

 

 

「それよりお前、エイラたち助ける。大丈夫か?」

 

「心配ありません。それよりお願いです、どうか賢者様を……」

 

「そこまでだ、サラ」

 

 

 突然響いた新しい声。

 その発信源はローブをまとった予言者と、銀色の仮面をつけたシドだった。

 

 

「サラ様、彼らは計画の邪魔を企てた者たちです。再び邪魔をする恐れがあるならば、我々は彼らを排除しなければなりません」

 

「シドさん! あなたまでそんなことを言うのですか!?」

 

「おっと、落ち着いてください。なにも殺すと言っているのではありません。予言者が言うには、彼らは普通の手段でここに来た者ではないそうなのです」

 

「その通りだ。本来なら消えてもらいたいところだが、シドに免じて命だけは助けてやる……ただしサラ、あなたには力を貸してもらうぞ」

 

 

 シドがサラをなだめる中、予言者がそう付け加えてクロノたちの前に立つ。

 

 

「さあ、お前たちがどうやってこの時代へ来られたのか教えてもらおうか……」

 

 

 既視感を感じる二つの声。それに不信感を覚えながらもクロノたちは悔しさを押し殺し、自分たちがこの時代に来るきっかけとなった洞窟のゲートへと案内することに。

 

 

「ほう、こんな所から……」

 

「転移ゲートの一種のようですね。自然にこのようなものが発生するとは考えにくいですが……」

 

 

 予言者とシドが考察するように呟く中、遅れてサラも洞窟に足を踏み入れる。

 

 

「さあ、サラ。こいつらをこのゲートに放り込んだらそこに結界を張るのだ」

 

「そ、そんな! 嫌です!」

 

「サラ様。そうしなければ我々は本当に彼らをこの手にかけなければならないのです。 仮に私が見逃したとしても、予言者は本気ですよ」

 

 

 シドは頑なに拒もうとするサラにそう告げると、彼女に小さく耳打ちする。

 

 

「……安心してください、サラ様。彼らは必ずここに戻ってきますから」

 

「……え?」

 

 

 呆気にとられたように顔を向けると、シドの口元が小さく笑っていた。

 

 

「さて、私からせめてもの餞別だ。これを受け取ったらゲートに入ってもらう」

 

 

 シドはマントの下からジャラジャラ音が鳴る袋を取り出し、クロノへ放り投げる。

 それを受け取ったクロノたちは不審そうにしながらもそのままゲートホルダーをかざしてゲートへと足を踏み入れた。

 それを見届けたサラはゲートが収まったのを見計らい、ゲートにピラミッド型の封印を施すのだった。

 

 

 

 

 

 

 原始のティラン城跡地。そこに発生したゲートから出てきたクロノたちは予言者と仮面の男について頭をひねらせていた。

 

 

「あのシドって呼ばれてた人……誰かに似てる気がするんだけど」

 

「マールもそう思うか? 俺も会ったときからずっと引っかかってるんだ」

 

「それよりクロ。最後なにもらった?」

 

 

 エイラに促されて最後に渡された袋を開いてみると、中から1500Gほどのお金と一枚のメモが入れられていた。

 

 

「なにこれ?」

 

 

 メモを取り出したマールが広げてみると、そこにはあまりに予想外のことが記されていた。

 

 

 

『宮殿に乗り込んだ少年たちよ。

 シンボルに封じ込められた理の賢者の発明を求めるならば力を求めよ。

 その力があれば君たちはより先へと進みやすくなるだろう。

 力を得て戻ってくるといい。全てはこの星のために。

                               SID』

 

 

 

「く、クロノ! これって……!」

 

「ああ。あのシドって人は俺たちに協力しようとしてるみたいだ」

 

「シンボルってなんだ?」

 

「そこまではわからないけど、あそこにあった扉と同じものが未来にもあったよね?」

 

「そういえば……。もしかしたら旅の途中で見つけた不思議な箱もこのペンダントで……」

 

「エイラ、クロたちの話、よくわからない。けど、アテあるなら行く!」

 

 

 エイラの言葉にクロノたちは頷き、まずは未来の扉を開けるべく不思議山のゲートへと向かった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話「崩壊の足音」

 クロノたちを見送ってから数日、俺はガッシュに依頼していた非常用転移装置の進捗具合を確認しに海底神殿を訪れていた。

 彼らの戦闘が関係しているのか、地の民の労働者が以前より増えているようで建設が急ピッチで推し進められていた。無論、労働環境に変化などなくいたるところで暴力を振るわれている人たちが目に入った。

 

 

「……おい、そこの指揮官」

 

「あ? ――ッこ、これはシド様! 何のご用でしょうか!?」

 

「あまり彼らを叩くんじゃない。かえって効率が落ちる」

 

「は? し、しかしそれでは他の奴隷どもに示しが……」

 

「二度も言わせるな。効率よく回すなら余計なダメージを与えるんじゃない。他の部署にもそう伝えろ」

 

 

 有無を言わさずにそう通達しその場から立ち去る。

 自己満足な処置かもしれないが、少なくとも以前よりはマシな扱いになるだろう。それにしても、どれほどの犠牲の上で成り立っているんだ、この神殿は。

 ドラクエ5の主人公たちが働かされていた神殿と同じ……いや、年数的に見たらこっちの方が少ないんだろうが、それでも多くの人が奴隷として死んでいるのに変わりない。

 かといって下手に地の民を優遇させると今度はこっちの立場が危うくなる……ままならないな、なんとも。

 静かにため息をこぼしどうにかできないかと耽っていると、いつの間にか目的のエレベーターの前まで来ていた。

 いつものように装置を動かそうと操作盤に手をかざしたところで、何処かともなく風が吹く。

 

 

「やあシド。元気ないね」

 

「……グランとリオンか。珍しいな、二人揃ってここに来るなんて」

 

 

 いつかと同じように風とともに現れた二人だが、こんなところで会うとは正直予想外だ。

 確かに原作でも海底神殿でクロノたちに状況を知らせたり赤きナイフを魔神器に突き刺す役目を持っていたりと重要なポジションにいたが、建設中のここに来る理由がわからない。

 

 

「二人ともガッシュ様に用があるのか?」

 

「違うよ。僕たちは君に用があってきたんだ」

 

「俺に?」

 

「ドリーン姉ちゃんがボッシュの作品をシドに届けてほしいっていうからね。と言うわけで――はい」

 

 

 そう言ってリオンが取り出したのはなにやら赤い鉢巻のようなものだった。だが受け取ってみたところ何か魔法が掛けられているらしく、不思議な力が体にまとわりつこうとしていた。

 

 

「これは?」

 

「動きを速くするヘイストの魔法が込められた鉢巻だ」

 

「魔法の力を防具に封じ込める実験で出来たものなんだけど、防御力が皆無だったから一回作って終わりになっちゃったものなんだよね」

 

「魔法が封じ込められた防具か……すごいな。だが俺が受け取ってしまってもいいのか?」

 

 

 欲しい欲しくないでいえばものすごく欲しい。分類はアクセサリーになるが、おそらく効果はヘイストメットと同じで、常時ヘイストがかけられるものなのだろう。それを加味すればいくら防御力が低かろうと、これは間違いなく価値がある代物だ。

 ただ謎なのが、彼らの姉であるドリーンがなぜボッシュの作品を俺に託そうとしたのかだ。

 正直、ドリーンとは一度も会ったことがないし、サラや弟たちから俺の話を聞いていたとしてもこんなレアな物をもらう理由にはなりえない。それに俺はこの時代のボッシュに会ったこともなければ、なにか繋がりがあるわけでもないのだ。

 

 

「良いから持ってきたんだよ」

 

「けどその代わり、僕らのお願いを聞いてほしいな」

 

「お願い? まあ叶えられる範囲でいいなら構わないが」

 

「「――サラ様を守ってほしいんだ」」

 

 

 二つの口から同時に発せられた言葉に、俺は思わず目を見開いた。仮面をしているので二人にそれを悟られることはないだろうが、それほどその願いが俺には予想外だった。

 

 

「この神殿が完成に近づくにつれて、嫌な気配がどんどん強くなっているんだ」

 

「同時にサラ様がどこか遠くに言っちゃうんじゃないかって思うようになってね……。シドならサラ様とも仲いいし、信頼できるからね」

 

「そういうことか。だけど俺はここに来てまだ一月もたっていないんだぞ? そんな簡単に信用していいのか?」

 

「いいもなにも、サラ様が大丈夫だって言った人だからね」

 

「サラ様が信じた人なら、僕たちも信じるよ。ただし、裏切るような真似をすれば相応の対応をさせてもらうけどね」

 

「……それは怖いな。精々報復を受けないよう努力するよ」

 

 

 俺の答えに満足したのか、二人はニッと笑って風とともに姿を消した。

 それにしても、サラが信じたから信じるか……。どうやら知らぬ間に彼女から信頼を勝ち得ていたらしいが、プレッシャーが重いな。

 

 

「一応あれも使えるようになったから手段の一つに加えられないこともないが……。正直、使いたくないな」

 

 

 ここにきてから出来るだけ月光を当てていたものの存在を思い浮かべ、ステータスを開いて状況を確認する。

 チャージ率は昨晩でようやく100%に達したところだが、ラヴォスがまだ存在している現状これを使用したらどういった結果をもたらすのか全く読めないので、願わくば使うような事態にならないことを祈りたいものだ。

 そんなことを思いながらエレベーターを起動させ、最下層にいるであろうガッシュの元へ移動する。

 ここは最重要区画と言うこともあり、優先度はほかの区画と比べて群を抜いている。

 優先度が上ということはそれだけ人員を割く必要があるということもあり、急がせて建造させているのも重なって状況は上よりひどい。

 慣れたくないものだ、死体を見て吐き気を催さなくなるというのは。

 

 

「ガッシュ殿」

 

 

 目的の人物の後姿を認めて声をかけると、ガッシュはこちらに気づいて歩み寄ってくる。

 

 

「待っとったぞ。例の装置については宮殿からここに来るまでのものを流用したから動作に問題はなく、どこにでも設置できる。あとは出口を選択するだけじゃ」

 

「出口となる場所に対となる装置を設置する必要はありますか?」

 

「まあ必要じゃが、どこに設置するか決めとるのか?」

 

 

 俺は脳裏にこの時代の地図を思い浮かべ、崩壊後にも地形を変えずに残っている場所をリスト化する。その中でも一番扱いやすい場所はと言えば…………クロノたちが通ってきたゲートだな。

 

 

「場所は決めてありますので私が直接持っていきましょうか?」

 

「かまわんよ。ただしこいつは一方通行だからの。設置した先からここに来ることはできんぞ」

 

「当然ですね。簡単に最重要区画に入られたら最重要と言う意味がないですからね」

 

 

 こっちとしては全然かまわないんだが、まあ無理だろうな。

 さて、転移装置と言うことでそれなりに大きなものかと思っていたが手渡されたのは野球ボールほどの大きさの水晶玉がのった台座だった。

 これを置きスイッチをいれるだけでここに設置されるゲートと接続され転移が可能となるそうだ。ここの脱出口は……魔神器が設置される台の裏にしておけばまず大丈夫だろう。設置する時もジール自ら降ろすわけでもないだろうし、万が一見つかったとしても誤魔化すことができるはずだ。

 あと崩壊の時に備えておくとすれば、黒鳥号に物資を溜め込むことくらいか。これはダルトンに説明すれば解決だな。

 受け取った台座を亜空間倉庫に収納するとガッシュに装置の設置場所と脱出口の設置場所について説明をし、ここでの用が済んだのを確認して俺は地上へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 ゲートの洞窟に装置を設置しダルトンへ物資の積み込みを具申しようと黒鳥号へやってくると、今まで見たことのない光景がそこに広がっていた。

 

 

「……ダルトンが、地の民をかばってる」

 

 

 原作だと虫けら同然のように扱っていたあのダルトンが、建造部隊の連中に奴隷扱いされていたであろう地の民たちをかばって説教をしていた。

 と言うか、これ本当にどういう状況なんだ?

 

 

「――む? おお! シドじゃねえか!」

 

 

 こちらに気づいたダルトンが声をかける。状況が気になるので俺もそれに応じて近くへと進む。

 

 

「ダルトン様。何をされていたのですか?」

 

「なに、こいつらが自分でもできることを地の民の連中にさせようとしていてな。忙しいのに余計な手間をかけさせるなと叱ってたところだ」

 

「それはそれは……お疲れ様です」

 

 

 ヤバイ、予想以上にダルトンが綺麗になってる……。これはもしかして民衆の支持を得てダルトン王国が建国されるフラグになるのか?

 

 

「そうだ、シド。ちょうどいい。俺様は少し現場を離れなきゃならなくなったから、黒鳥号の指揮をお前に任せる」

 

「おや? よろしいのですか、私が指揮権を預かっても」

 

「お前なら無駄なことはしないだろ。最後に報告をしてくれりゃそれでいい」

 

「了解しました。御戻りはいつごろに?」

 

「さあな。ま、戻りしだい顔出すつもりだから、それまで頼むわ」

 

 

 それだけ言い残してダルトンは後ろ手に手を振って立ち去った。

 その間、地の民の人たちはしきりにありがとうございますと頭を下げていたとだけ加えておこう。

 

 

「……さて、あなたたちは現場に戻ってください。で、お前たちは進捗具合の報告書を俺のところへ持ってこい」

 

「は、ハッ!」

 

 

 さっきまでお叱りを受けていた部隊の連中は敬礼と共に、地の民の人は礼を言いながら黒鳥号の中へと戻って行った。

 いきなりこんなでかい飛行機の現場指揮を任せられるとは思わなかったが、これはちょうどいい。予定していた物資の積み込みをこっちで勝手にやってしまおう

 それから修繕資材を余分に積みこませてシルバードの改造を確実にさせるようにして、あとは崩壊に備えて避難民の収容スペースを用意させよう。

 光の民の割合が多くなって問題が発生するかもしれないが、流石に世界が壊れた後でも今と同じということはないだろう。

 それに今のままダルトンが生き残れば間違いなくそういった確執を取り除こうとするだろうし、部隊の連中もダルトンを支持し始めているから地の民を庇うようになるはずだ。

 原作を思いっきりブレイクする流れだが、この流れならまあいいか。海底神殿もまだ少しかかるだろうし。

 そんなことを思いながら俺は黒鳥号の中へと足を進めた。

 

 ――この時、俺はあとで自分の見通しの甘さを呪うことになろうとは露にも思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 尊が黒鳥号の引き継ぎをして艦内部に籠っている頃、A.D2300年の未来でガッシュが発明した時を渡る翼『シルバード』を手に入れたクロノたちはその力を借りて再び古代に戻ってきていた。

 途中、尊が残したメモを頼りにメディーナ村の北にある遺跡から同じくガッシュの発明である刀の武器『燕』や未来の封印の扉を開いてゴールドピアスや金のイヤリングといった貴重な装備も回収したこともあり、彼らは嘆きの山に幽閉されていた命の賢者ボッシュの見張りをしていた巨大な魔物、ギガガイアの討伐に辛くも成功した。

 そして嘆きの山から脱出した彼らは地の民の村で今後の対策を練っているところであった。

 

 

「――ラヴォスは海底よりはるか深いところでこの星を食べながら眠っておるのじゃ。魔神器を海底神殿に下ろしてしまえばラヴォスそのものを呼び覚ましてしまうかもしれん」

 

「だったら魔神器を下ろさせなければいいわけだな」

 

「確実なのは破壊することじゃ。手遅れにならぬうちになんとかせねば大変なことになるぞ……」

 

「壊す方法はあるのデスカ?」

 

「ああ。それはこの――」

 

「――さ、サラ様がおいでになりました!」

 

「なに、サラが?」

 

 

 ボッシュの声を遮るように入ってきた地の民の言葉から間もなく、サラがジャキと共に姿を現した。

 

 

「さ、サラ様……。このようなところへ、何故……」

 

「やめてください。我ら光の民も元はあなたたちと同じ……。私たちはラヴォスの力に踊らされているにすぎないのですから」

 

 

 未だ驚きから抜け出せない地の民の長老にそう答え、ボッシュの元へと歩みよる。

 

 

「……汚いところ」

 

「ジャキ?」

 

「……ごめんなさい」

 

 

 ついてきたジャキが部屋の様子を見てそうつぶやくが、少し怒ったようなサラの言葉で――しぶしぶと言った風に――謝罪した。

 

 

「ボッシュ。嘆きの山が落ちたのでここに来ればあなたに会えると思ったのです」

 

「彼らのおかげだ。でなければ、ワシは未だに封印されたままだったろうて」

 

 

 同席していたクロノたちを紹介すると、今度はサラが驚いた顔をした。

 

 

「シドさんが言ったとおりですね……。無事で何よりです、みなさん」

 

「ありがとうございます。それよりサラさん。あのシドと言う人は何者なんですか? あの人から俺たちの味方になるようなメモが渡されたんですけど」

 

「そうですね……。私からは信頼できる数少ない人、としか言いようがないですね」

 

 

 少し困ったような口調でそう答えるサラだが、次のボッシュの質問で表情が一変した。

 

 

「それよりもサラ。宮殿を出たりして大丈夫なのか?」

 

「……それどころではありません、海底神殿が完成してしまったのです」

 

「なんと! 間に合わなかったか!」

 

「ですが私がいなければ魔神器は動きません。私はもうこれ以上、魔神器を……」

 

 

 覚悟を決めたような表情でそう語るサラはクロノたちへと向き直る。

 

 

「天への道を開いておきました。お願いします、女王を……母を止めてください!」

 

 

 葛藤が込められた懇願。手遅れなまでにラヴォスに心を食われた母をどうにかしてほしいという心からの願いであった。

 

 

「申し訳ありませんが、そこまでにしていただきましょうか」

 

 

 ――しかし運命と言うのは非情さを好んだ。

 新しい声に反応して入口を見ると、最近ここによく訪れる男が姿を現した。地の民からしたらまた来たという反応だったが、このタイミングでの出現はサラにとって一つしか考えられなかった。

 

 

「ダ、ダルトン!?」

 

「最近こういうことがあまり気に入らないんですが……女王様がお呼びです。一緒に来ていただきますよ、サラ様」

 

 

 言うや否や、ダルトンは一気に間合いを詰めサラの首筋に当て身を放つ。

 意識を失ったサラはダルトンに抱えられる格好となり、その光景を見たジャキが激昂する。

 

 

「姉上を離せ!」

 

「ジャキ様も、少し眠っていただきますよ」

 

 

 殴りかかろうとしたジャキにも同じことをして意識を刈り取り、そのまま担ぎあげる。

 

 

「ダルトン! お主の好きにはさせんぞ!」

 

「おいおい、俺だって好きでこんなことしてるんじゃねえぞ? 抗えない命令ってのがこの世にはあるんだよ」

 

「なに? ……お主、本当にダルトンか?」

 

「ハッ、俺様がもう一人いるのなら会ってみたいね。――無駄話はここまでだ。こんな下らねえ仕事、さっさと終わらせてもらう」

 

 

 そう宣言するとダルトンは懐から一つの弾を取り出し、それを思いっきり足元へ叩きつける。瞬間、目を焼くような光が部屋を満たした。

 そして光が収まった後に、ダルトン、サラ、ジャキの姿はなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話「開かれるゲート」

「うーむ、思ったりやることがなかったな」

 

 

 桟橋で黒鳥号を眺めながら尊は引き受けた後の作業内容を思い返す。

 黒鳥号自体は既に完成しており、彼が面倒を見たのは資材の積み込みと各機関のエラーチェックだけだった。

 指示があれば黒鳥号はすぐにでも飛行することができ、広ささえ確保できたら陸にも海にも降りることができる。

 一応軍艦扱いだが、元の世界でも飛行機に乗る機会が少なかった尊は個人的に遊覧目的で乗りたいなどと考えていた。

 

 

「……それにしても、いつもながら手すりがあるとはいえ万が一落ちたらと思うとゾッとするな」

 

 

 この桟橋の手すりの先は虚空の空になっており、空を飛ぶ魔法があるのなら別に恐れることはないのだがそんな魔法を持っていない尊は万が一を思うと背中が震える。もし落ちてしまえばもれなくこの星と熱烈なキスをすることとなるだろう。

 それはさておき、あとはダルトンさえ来ればここに用はないのだが、あれからだいぶ時間がたっているにも関わらず一向にダルトンが姿を見せる様子はない。

 

 

「――済まない、ダルトン様を見なかったか?」

 

「ダルトン様ですか? 先ほど地上から戻られてそのままジール宮殿へ向かうのを見かけましたけど」

 

「宮殿に?」

 

 

 宮殿方面からやってきた技術者の答えに思わず訊き返す。地上に向かうこと自体はここ最近多かったので特に不思議には思わないのだが、それは全てプライベートの時だ。

 ――黒鳥号の作業を俺に任せてまで地上に向かう理由があったのだろうか? 原作だったらサラを連れ戻すために降りてきたのが印象的だったのでそれが考えられたんだが、洗脳したら性格変わりすぎたから全く読めない。

 

 

「そうだ、シド様! お聞きになりましたか!? ついに海底神殿が完成したらしいんですよ!」

 

「…………は?」

 

 

 考え事をしていたところへ放たれた内容が、一瞬理解できなかった。

 

 

「先ほど魔神器も海底神殿に下ろされましてね。これでさらにラヴォス様の恩恵を受けられるようになると思う――――どっ!?」

 

「――どれくらい経った?」

 

「は……あっ……!?」

 

「魔神器が下ろされてどれくらい経ったと聞いている!?」

 

 

 饒舌に話し始めた技術者の襟首を掴み上げ問う。

 突然の出来事に戸惑う技術者だが、二度目の質問を聞いて尊の意図を理解する。

 

 

「ほ…………ほんのいちじ、かん…ほど……!」

 

 

 それだけを聞いて尊は掴んでいた手を離し技術者を楽にし、一目散にジール宮殿へ向けて駆け出す。

 ――早い、早すぎる! 今日ガッシュの場所を尋ねたときはまだ地の民を使って作業をしていた。その様子からまだ掛かると踏んでいたのにもう完成だと!? しかも魔神器を下ろして一時間もたっているとなるとサラが連れていかれている可能性が――――

 

 

「! そうか、それでか!」

 

 

 ダルトンが地上に向かっていた理由。それがパズルのように一気に組みあがり事態が自分の予想を遥かに上回っていることを思い知らされる。

 事態が急に進んだのが自分の存在が原因かと考察しながら一秒でも早く移動すべく、グランとリオンからもらったヘイストがかかった鉢巻を取り出し頭に結ぶ。不思議な力が体中を駆け廻り、自分の身体とは思えないほど体が軽くなるのを感じる。

 

 

「さあ、運命を捻じ曲げに行きますか!」

 

 

 尊は風となり、この時代最大の目的を果たすべく厄災が待つ神殿へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 女王の間に駆け込むなり目に飛び込んできた人物を見て俺は驚いた。

 

 

「ダルトン様!?」

 

「よぉ。来ると思ったぜ、シド」

 

 

 てっきり神殿へ向かったと思っていたダルトンがニヤッと笑みを浮かべて俺の前まで歩み寄る。

 

 

「黒鳥号はどうだ?」

 

「いつでも発進可能です。あと個人的な意見ですが、すぐに人を乗せて発進した方がいいでしょう」

 

「だろうな。魔神器が下ろされてから嫌な予感がビンビンしやがる。 俺は避難誘導やらをしに行くが、お前はどうするんだ?」

 

「……海底神殿へ向かい、可能であれば魔神器を破壊します。あれは、世界に厄災を呼ぶ一因です」

 

 

 その答えにダルトンは少し目を伏せ、やがて口元を緩める。

 

 

「そうか。さっき通してやったツンツン頭の連中にも言ったが、お前は特に気をつけろよ。お前がいなくなったら俺様の飲み仲間とコキ使える人手が減るんだからな」

 

「肝に銘じておきましょう。 では」

 

「おう、行って来い!」

 

 

 激励を受けて海底神殿へのゲートへと足を踏み入れる。

 それにしてもダルトンの変わりようが本当に凄まじい。しかもさっきの発言からクロノたちとは争うことなくそのまま通したみたいだし、ラヴォスの危険性を十分に感じ取っているようだ。

 まあ原作でも永遠の命欲しさにジールについて行ってたけど途中でラヴォスエネルギーの危険性を感じて撤退したから、その辺はあまり驚くようなことではないか。

 そんな考察をしている間にゲートでの移動が終了し、いつもの広場に降り立つ。原作なら目の前の扉にリオンがいたが、今は誰もいない。既にクロノたちが先へ進んだ後のようだな。

 

 

「こういう時、顔パスは本当に便利だ」

 

 

 普段から海底神殿にきていたおかげか、進んだ先で警備をしていたスカウターなどの魔物は特にこちらを気にせずアークメイジなんかは挨拶までしてきた。

 原作でもかなりうっとおしかった長い階段での連戦もない上に鉢巻の効果もあり、いつもの倍以上の速さで移動し大型エレベータに乗り込む。

 

 

「よし、ここを降りればもう最深部は目と鼻の―――!?」

 

 

 エレベーターを起動させた瞬間、下から流れてくる力で背筋に悪寒が走る。

 思わずサテライトエッジを呼び出して辺りを警戒するが、特になにも起こってはいない。

 だが直感で理解した。これがラヴォスエネルギーの一端なのだと。

 

 

「これは……マズイな。クロノたちは既に魔神器のところに到着している可能性がある」

 

 

 おそらく自分が魔神器の元に乗り込んだ頃には事態が大きく動いてしまっているだろう。

 ラヴォスの出現、クロノの死、ジールの崩壊。正直どれが来てもおかしくない状況だ。

 俺の目的がサラの救出とはいえ、肝心の保護対象が無事でなければここまで来た意味がない。

 

 

「急げ……急げ……急げ……!」

 

 

 呪詛のようにエレベーターに急げと繰り返し、最下層に到着と同時に久しぶりに『加速』を使い一気に直進する。

 何者にも阻まれることなく最深部である魔神器の祭壇の間に足を踏み入れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――自分の死を幻視()た。

 

 

「――ッ!?」

 

 

 部屋に入った瞬間、体が氷漬けになったかのように動かなくなる。

 魔神器周辺の空間が歪んで別の場所と繋がっているらしく、その先には無数の刺を生やしたヤツがいた。

 

 ラヴォス。

 

 この世界――クロノトリガーのラスボスにして原始の時代からこの星の進化を吸収して成長し、用が済めば全てを滅ぼし別の星を求める化け物。

 その姿を見ただけで俺は自分が死んだと錯覚すると同時に、本能的に察した。

 次元が違いすぎる。

 生身一つでティラノサウルスの捕食距離に放り出されたかのような絶望感が体を支配する。

 そんな状態の俺の視線の先――空間の向こう側では満身創痍のクロノが立ち上がろうとしていた。

 

 

 ――よせ、

 

 

 原作を知っていて、幾度となくこのシーンを見てきた。

 

 

 ――やめろ。

 

 

 原作と同じ流れなのに、現実となって突きつけられるとそれを拒絶したくなった。

 

 

 ――そいつに構うな!

 

 

 自分が知っている流れからズレることなく、彼は最後の力を振り絞り怪物へと刃を向ける。

 

 

「行くなクロノぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 飛び出した言葉は届くことなく、

 

 破滅の閃光は一片の慈悲もなく打ち出され、

 

 クロノ()は――――小さな光を残して消滅した。

 

 

 

 

 

 

 気がつけば魔神器の周りは普通の空間となっており、祭壇の前では膝をついているサラの姿と光を放つペンダントだけが残されていた。どうやら魔王たちは既に地上へ戻されたあとらしい。

 

 

「……あれが、ラヴォス……。俺が元の世界に帰るために、倒さなければならない敵……」

 

 

 実際に目の当たりにしてあれがいかに危険なものかを理解させられた。

 同時に、決して生かしてはいけない存在だと言うのも理解した。

 だがやれるのか? あんな怪物を?

 

 

「……考えるのは後だ。今こそ、ここにきた本懐を遂げよう」

 

 

 震える体に渇を入れ鉢巻と仮面を外して倉庫に戻し、サラの元へ駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか、サラ様」

 

「え……ミコト、さん? 何故ここに……」

 

「あなたを助けに来ました。――立てますか?」

 

 

 俺がここにいるのが理解しきれていないサラへそう尋ねるが、彼女は疲労が祟っているのかうまく立てそうになかった。

 となれば……これしかないか。

 

 

「失礼」

 

「えっ――キャッ!」

 

 

 サラの膝の裏と背中に手を回し一気に持ち上げる。そう、いわゆるお姫様だっこだ。抱き上げてるのは本物のお姫様だがな。

 魔王に見られたら殺されかねない光景だが、非常事態なので仕方ない。

 

 

「さ、脱出しますよ」

 

「で、ですがどうやって? 既に神殿も一部崩落が始まっています。私を連れて脱出など……」

 

「建設の段階で手は打っています」

 

 

 長々と説明している暇はないのでそれだけ告げて祭壇の裏へと回る。

 そこには狙い通り、ガッシュに頼んで設置してもらった非常用転移装置が稼働状態にあった。どうやら乗るだけで稼働するものらしく、両手がふさがっている現状ではとてもありがたいものだ。

 

 

「ガッシュ殿に頼んで設置してもらった転移装置です。これでクロノたちが通ってきたゲートのある洞窟へ移動します」

 

「いつの間にこんな物を……」

 

「説明はのちほどで。――急ぎます」

 

 

 それだけ告げて装置の上に立つ。

 光の柱が俺たちを包むように形成され、体が浮遊感で満たされる。

 ひと際強い光が発せられたかと思うと、俺たちは海底神殿ではなく小さな洞窟の中に立っていた。

 

 

「よし! うまくい――」

 

 

 

ボゴォッ!!

 

 

 

「――なっ!?」

 

 

 うまくいったと思った瞬間、洞窟のすぐ傍で大きな爆発が起こり足元が揺れる。

 どうにか踏ん張って揺れに耐え、収まると同時に俺はサラを抱えたまま目の前の入り口から表へと出て――――

 

 

「……ウソ、だろ」

 

「そ、そんな……」

 

 

 ――――自分の見通しの甘さと運命を呪った。

 距離にして2、3キロだろうか。俺に死の恐怖を植え付け、この世界を破壊し尽くそうと破滅の光をまき散らすラヴォスがそこにいた。

 流石に予想外すぎた。一度地上に出てきてジールを落としたのは覚えているが、こんな近くに現れるとは思いもしなかった。

 それよりこんな所にいたら間違いなくヤバイ!

 何か手はないかと頭を巡らせ、洞窟のゲートを思い出す。

 

 

「――サラ様! あなたが施したゲートの結界を解くことはできますか!?」

 

「……すみません。魔力を使い果たしてしまったので、今は……」

 

 

 申し訳なさそうに語るサラの返答を受け、ならばと他の手段で結界を破れないかを考える。

 物理で抜く? いや、そんな生温いものでは多分抜けないだろう。

 魔法で破壊? ガ系も使えない俺の魔法じゃたかが知れてる。

 『勇気』に含まれた『直撃』で破壊――――いけるか!? ゲートの先は原始か最果てになるが、ここよりは数億倍マシだ!

 プランを立ててすぐさま洞窟に戻ると、今まで見たことも聞いたこともない現象が起こっていた。

 

 

「……ゲートに、ノイズが走っているだと」

 

「ここまで、なのでしょうか……」

 

 

 ラヴォスが出現してしまった影響かどうかは不明だが、結界は消滅したもののゲートにノイズが走ってあからさまに危ない状態となっていた。

 この時代のゲートはここだけ。荒ぶるラヴォスの攻撃で今頃ジールは壊滅して落下中。このままだと津波が発生するがここが無事だと言う保証はない。

 万事休すか、と思った瞬間。残された最後の手段を思い出す。

 

 

「サラ様、一度降ろしますが俺から離れないでください」

 

「え?」

 

「早く!」

 

 

 要領を得ないといった声を大声で制し、サラさんの腰に手を回して支える。

 空いた手でサテライトエッジをいつものハルバードモードで取り出し、数回深呼吸をする。

 今から行うのは説明を聞いてから初めてのモノ。ラヴォスの影響がどこまであるかはわからないが、もうこれしかない!

 サテライトエッジをひと際強く握りしめ、大きく振り上げる!

 

 

「――開け! サテライトゲートォ!」

 

 

 サテライトエッジを地面にたたきつけるとサテライトエッジは光の粒子となり、俺を中心に足元へ広がると六角形の扉へと変化した。

 

 

「こ、これは!?」

 

「さあ、どこでもいい! 俺が間違いなくここより安全だと言える場所へと繋げてくれ!!」

 

 

 扉が開いて青白い光が洞窟を満たすと、俺たちの体は扉の中へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (いくさ)渦巻く大陸、フロニャルド。

 戦というと普通は物騒なイメージが強いが、この世界においてそれはかなり異なった印象がもたれていた。

 何を隠そう、この世界での戦というのは――

 

 

『さあ! ビスコッティ対ガレットの戦興業も中盤へと差し掛かりました! 現在、ガレット軍が大きくポイントを稼いでビスコッティ軍を突き放しております!』

 

『ビスコッティ側がこの劣勢を挽回するには、あと一人くらい一騎当千の戦士がほしいところですね。もしくは、総大将撃破ボーナスを視野に入れての作戦を展開する必要があります』

 

『前者はともかく、後者の案は難しいでしょうねぇ。ガレットの総大将ということは、レオ様を倒すということでもありますから』

 

『おぉーっと! ここでビスコッティの騎士エクレールの紋章剣が炸裂ぅー! かなりのガレット兵が"けものだま"となって吹っ飛ばされたぁ――――!』

 

 

 実況席から響く実況に戦場のあちこちから歓声が上がり、空中に表示されたスコアボードが更新される。

 そう、このフロニャルドという世界において戦というのは要約すれば国が主催する大規模なスポーツイベントであり、国民が楽しく思いっきり競い合うことが出来る娯楽の一つなのだ。

 さらに特徴的なのはこの世界の住人の容姿にあり、その体にはケモノ耳と尻尾が備わっている。

 そんな変わった世界に、また一つ新たなイベントが発生した。

 

 

『ビスコッティの皆さん、ガレット獅子団領の皆さん、おまたせしました! こちらビスコッティ共和国、領主のミルヒオーレ・フィリアンノ・ビスコッティです!』

 

 

 戦場に声を響かせるのは犬のような耳としっぽをした桃色の髪をした少女。ビスコッティの姫君、ミルヒオーレだ。

 突然の放送に参加している兵たちはその手を止めて、彼女の言葉を聞いていた。

 

 

『敗戦続きの我が国でしたが、そんな残念な展開も今日でおしまいです! ビスコッティに希望と勝利をもたらしてくれる、素敵な勇者様が来てくださいましたから!』

 

 

 ガレットに対して連戦連敗を重ねていたビスコッティ陣営の最後の策。

 フロニャルドでは宝剣を持つ国や領主にのみ、特別な儀式によって異世界の人間を勇者として召喚することが認められていた。

 しかし召喚されるのは非常に稀なことであり、一生に一度お目にかかれるかどうかとさえ言われているほどだ。

 そんな稀少な勇者がこの戦場に現れる。この知らせが会場のボルテージを一気に上昇させた。

 

 

『華麗に鮮烈に、戦場にご登場いただきましょう!』

 

 

 宣言と同時にディスプレイの映像が切り替わり、金髪の少年が映し出される。

 櫓の淵の上で微動だにせず身の丈ほどの棒を持ち白いマントと鉢巻をなびかせるその姿は、只者ではない空気を存分に醸し出していた。

 パフォーマンスの花火が上がると同時に少年は手にした棒を放り上げ、勢いよくゲートの前に飛び降りると落下してくる棒を難なくキャッチ。

 そのまま淀みなく、見惚れるような動きで手にした棒を振り回し、堂々と宣言する。

 

 

「姫様の召喚に応じ、勇者シンク、ただいま見参!」

 

 

 少年、シンク・イズミの宣言で歓声が爆発し、ある者は羨望の眼差しを向け、ある者はどこか面白くなさそうにし、ある者は興味深そうに観察した。

 

 

 

 

 ――だがこの後、更なるイレギュラーが発生するなど誰も予想できなかっただろう。




今回でひとまずクロノトリガー編から外れ、次回からDOG DAYS編が始まります。
1期が終了したらまたクロノトリガーに戻ってくる予定ですので、クロノ編を楽しみにしている方はしばらくお待ちください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話「流れ着いて異世界へ」

前半までクロノ編で、後半からDOG DAYS編となります。
また、この投稿でストックが切れましたので投稿ペースが落ちます。ご了承ください。


 魔法の王国ジールが崩壊して数日。

 小さな大陸で生き残った人たちが作った村で目を覚ましたマールとルッカは地の民の村長から崩壊後の話を聞くと時の最果てからカエルを呼び出し、現状把握のため外に出た。

 

 

「マール、本当に大丈夫なの?」

 

「うん。きっとクロノはどこかにいる。だから、私はクロノを探しにいく」

 

 

 クロノが生きていると信じて行動を始めたマールに若干の不安を抱くが、落ち込んでいるよりは遥かにいいと判断しルッカたちもそれに頷く。

 

 

「さて、シルバードは」

 

 

 村長の話では無事だったということだが、肝心の機体がどこにあるのかを聞き忘れていた。

 カエルがどこだろうと辺りを見回すと、シルバードとは違う大きな飛行機が海岸に停泊しているのが見えた。

 

 

「あれって……黒鳥号?」

 

「む? 見ろ、シルバードだ」

 

 

 カエルが指さした先では、黒鳥号の搬入口付近でダルトンの部隊がシルバードを囲って何かをしているようだった。

 

 

「あいつらなにを……。ま、まさかシルバードに何かする気じゃないでしょうね!?」

 

「行ってみよ!」

 

 

 そろって駆け出して黒鳥号の近くに来てみると、シルバードに何かがとりつけられようとしていた。

 

 

「あんたたち! 私たちのシルバードに何してるのよ!?」

 

「ん? おお、目が覚めたか」

 

 

 ルッカが威嚇するように武器を取り出して叫ぶと、それに気づいた男が声をかける。その人物と姿を見て、三人は呆気にとられた。

 

 

「……ダルトン、だよね? そ、その格好は?」

 

「あん? 改造作業してるんだから作業服にきまってるじゃねえか。嬢ちゃんは油まみれになる作業をするとき一張羅で作業をしたりするのか?」

 

 

 かつて敵対関係にあったが海底神殿侵入に手を貸してくれたダルトンが自分の部隊の兵たちと同じ服を着て油まみれになっていた。

 

 

「いや、そんなことしないけど……」

 

「それよりお前、いま改造と言わなかったか?」

 

「ああ。この機体、以前ガッシュが設計したものとそっくりだったんでな。誰かさんが大量に資材を積み込んで余裕があったから、ちょいと強化させてるところだ」

 

「人に断りなく何やってるのよ! ……ところで、どんな改造しようとしてるの?」

 

 

 無断改造に怒りを露わにするルッカだが、発明家としての血が騒ぐのか改造内容が気になり怒りを鎮めてそう尋ねる。

 その質問にダルトンはよくぞ聞いてくれたとばかりにふふんと胸を張り、腕を広げる。

 

 

「聞いて驚きそして喜べ! この機体は俺様の指揮の元、飛行機能が追加されるのだ!」

 

「飛行、機能……それってまさか!」

 

「こいつが、シルバードが空を飛ぶってのか!?」

 

 

 流石に空を飛ぶようになるとは予想外だった三人は純粋に驚く。

 それが本当なら願ってもいないことだが、無断で改造に踏み出されたことを考えるとどうも素直に感謝できなかった。

 

 

「完成はまだ掛かるが、楽しみにしてな。 ところで、あのツンツン頭の坊主はどうした?」

 

 

 その質問が出た瞬間、また少し重い空気が流れだした。

 

 

「……なにかあったみたいだな。ま、あれだけのことがあったんだ。行方不明になっても不思議じゃない。俺の知り合いも、居なくなっちまったしな」

 

 

 どこか遠くを見るように天を仰ぎ「だが……」と続けるダルトン。

 

 

「あいつがあれくらいでくたばる奴じゃないだろうから、俺はどこかで生きてるって信じてるんだがな。お前らも、いなくなった奴がどんな人間だったか思い返してみるといい。本当にアレで死ぬような奴なのかをな」

 

「……クロノは」

 

 

 出会ってから今日までのクロノとのやり取りを思い返す。魔王や恐竜人との決戦。嘆きの山でのギガガイアとの戦闘。いずれも死んでもおかしくない戦いではあったが、誰も欠けることなく生き抜いてきた。

 その筆頭であるクロノが、そう簡単に死んでしまうだろうか?

 

 

「……クロノは、簡単にはいなくならないよ」

 

 

 マールの自信に満ちた声が響く。その内容に満足したのか、ダルトンはニッと笑い頷いた。

 

 

「それでいい。さて、俺はこのまま改造を続ける。お前らは向こうの広場で情報を集めてきな」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 ポニーテイルを翻し、マールはルッカたちを連れてダルトンが示した広場へと向かった。

 

 

「……さて。お前ら! さっさと完成させてあいつらに返してやるぞ!」

 

『ハッ!』

 

 

 正史ではありえない信頼を勝ち得たこのダルトンは腕をまくると作業の続きに戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 広場である情報を得たマールたちは残された村の北にある岬へ足を運んでいた。

 誰かが岬に向かうのを見た。

 それだけの情報だが、これがクロノではないとは言いきれない。

 とりあえず得られた情報は片っ端から確認して行こうと言うことになり、やがて彼女たちはは目的の場所へとたどり着いた。

 しかしそこには人っ子一人おらず、岬の先には穏やかな海が広がるだけだった。

 

 

「……そんな簡単に吉報が入るわけもない、か」

 

 

 カエルがそうつぶやいて海を眺めると、不意に後ろから何者かの気配を感じる。

 三人そろってもしやと思い後ろを向くがそこには誰もおらず、再び後ろから気配を感じた。

 

 

「お前たちか……」

 

 

 瞬間、三人は反射的に気配から飛び退いて振り返る。

 

 

「なっ、貴様は!?」

 

「ま、魔王……」

 

 

 ジール宮殿に予言者として潜入し、ラヴォスに敗れた魔王がそこにいた。

 マールのつぶやきに何の反応も見せず、彼は岬の先に広がる海へと目をやる。

 

 

「見るがいい。全ては海の底だ……。永遠なる夢の王国ジール……。そして――かつて私はそこにいた。もうひとりの自分としてな……」

 

 

 その一言でマールたちの中で引っかかっていたピースがかちりとはまり、一つの結論が浮かび上がる。

 

 

「あなた、もしかして……ジャキ?」

 

 

 サラの弟にして自分たちに誰かが死ぬと宣告した子供。その成長した姿こそ、目の前にいる魔王そのものだった。

 

 

「私はヤツを倒すことだけ考え生きてきた。ヤツが作り出した渦に飲み込まれ中世に落ちて以来な……。我が城でラヴォスを呼び出す事をお前達にジャマされ……再び次元の渦に飲み込まれ、辿りついた先がこの時代とはな……皮肉なものだ」

 

 

 自嘲するように呟き、魔王は続ける。

 

 

「歴史を知る私は予言者として女王に近づきラヴォスとの対決を待った……。しかし結果は……。――――ラヴォスの力は強大だ。ヤツの前では、全ての者に黒き死の風が吹き荒ぶ。このままではお前達も同じ運命だぞ――あのクロノというヤツとな!」

 

 

 クロノの名前が出た瞬間、マールたちの頭に一気に血が上る。

 

 

「クロノは! クロノは、あなたのせいで……!」

 

「貴様、あいつを侮辱する気か!?」

 

「ヤツは死んだ! 弱き者は虫ケラのように死ぬ。ただそれだけだ……」

 

 

 激昂するマールたちへ振り向きながら叫び、クロノを虫ケラと吐き捨てる。

 その一言が、二人の逆鱗に触れた。

 

 

「ッ! 許せない……!」

 

「魔王ッ!!」

 

 怒りにまかせボウガンを取り出し、魔王の眉間に照準を合わせるマール。

 カエルもまたグランドリオンを抜き、剣を正眼に構える。

 

 

「今ここでやるか……?」

 

 

 挑発するような物言いに釣られ二人の得物に力が込められるが、それは間に入った人物によって収めることとなる。

 

 

「! ルッカ」

 

「やめましょう。あなたを倒したところで、クロノは喜ばないわ……」

 

 

 ずっと沈黙を保っていたルッカが悲しげな表情で告げると、はっとしたようにマールたちも武器を下ろす。

 魔王も思うところがあるのか、それ以上何かをするわけでもなく、再び海の方角へと体を向ける。

 もはやこれ以上語ることはないとし、三人は岬から去ろうと踵を返した。

 

 

「待て」

 

 

 突如響く制止の声。振り返ると、魔王がマールたちへ歩を進める。

 

 

「私も行ってやる」

 

「え!?」

 

 

 あまりにも突然な発言に言葉を失う一同だが、彼は何食わぬ顔でさらに衝撃的な発言を繰り出す。

 

 

「ヤツを……クロノを生き返らせる手が無いわけではない」

 

「ホ、ホント!?」

 

「時の賢者ハッシュなら失った時を取り戻す方法を知っている筈だ。それに、あの男の行方も気になるのでな……」

 

「あの男?」

 

「宮殿ではシドと名乗っていた男だが、正体は魔王城でお前たちと共闘し俺に傷を与えた男だ」

 

「! ミコトさんが!?」

 

 

 ここにきて明かされる衝撃的事実。マールの中ではシドに対して引っかかっていた感覚が一気にほぐれていった。

 シドが尊だというのなら、自分たちに協力するようなメモを残したことについても辻妻が合う。

 

 

「奴は自らこの世界とは異なる世界の未来から来たと明かした。そして奴の言う通りジールはラヴォスによって崩壊し、サラも行方不明となった。もしかしたら、この先のことも知っている可能性がある」

 

「異なる世界の未来から……。それでか、あいつが魔王城でやたらと貴様やラヴォスに詳しかったのは」

 

 

 カエルも合点がいったようで、マールたちは希望が出てきたことを強く実感するのだった。

 

 

 

 一方、マールたちの中で重要なキーマンとなった男はと言うと…………。

 

 

 

「……どうしましょう、サラ様」

 

「……どうしましょうか」

 

 

 ラヴォスが猛威を振るう時代から脱出できたのは間違いないが、猫のような耳をつけた兵たちに囲まれ尊とサラはなおも自分たちの身に危険があるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 サテライトゲートのおかげでどうにか古代を脱出することに成功したが、今度は同じような顔をして似たような武器を持ったネコ耳ネコしっぽの人たちに包囲されてしまった。まあ、何もない空間から突然人間が現れたらこの対応も無理ないか。

 

 

「おまえ、ビスコッティの兵か!? どうやってここにきた!?」

 

 

 一人の兵が短剣を突き出して問い詰めるが、正直言って全く怖くない。あの吹雪の中で魔王に追い回された時の方が圧倒的に怖い。それに今、ビスコッティの兵といったか? 全く心当たりのない言葉だ。

 

 

「いや、俺たちは迷い込んだだけで……。ちなみにここは何処――」

 

「白々しい! 覚悟ぉ!」

 

「おっと、流石にそれは見過ごせないな」

 

 

 一人の兵が剣を掲げて襲い掛かったのを見て、これは容認できないとサテライトエッジを召喚。ハルバードで剣を弾き柄の部分で相手を突き飛ばす。瞬間――

 

 

ポゥン!

 

 

 コミカルな音とともに倒した兵から煙が上がり、煙が張れるとそこにはボールみたいなネコが目を回して気絶していた。

 

 

「……はぁ!?」

 

「まあ!」

 

 

 あまりの変貌ぶりに俺は動揺し、サラは口に手を当てて驚いた。

 いや、どうして人間がこんな姿になるんだ!? 本当にここはいったい何処なんだ!?

 

 

「おのれぇ! よくもやったな!」

 

「一斉にかかれぇ!」

 

 

 仲間がやられたことで怒りが増長したのか、今度は三方向から同時に剣を掲げて迫ってきた。

 

 

「サラ様、失礼します! ――『加速』!」

 

 

 海底神殿でしたようにサラをお姫様抱っこし、『加速』を使って正面の相手に膝蹴りをかます。

 速さの乗った攻撃が相手の顔面に突き刺さり、さっきの奴同様にそいつもネコボールになって目を回した。

 正面が開けたので『加速』の速さを維持し、そのまま隙間を縫って群衆から脱出すると、目の前に広がる光景に思わず足が止まる。

 巨大なアスレチック施設がいくつも存在し、そこでさっきのネコみたいな人のほかに犬みたいな耳をした人たちが剣戟を繰り広げ戦っていた。

 

 

「ミコトさん……ここはいったい……」

 

「……俺にもわかりません。ですが、少なくともジールではないことは確定です」

 

 

 確かに俺が望んだラヴォスがいなくてジール崩壊の大災害に見舞われるような危険な場所ではないが、心当たりが全くない場所というのはそれはそれで不安になる。

 

 

「とりあえず今やるべきことは……あいつ等を撒いて情報収集ですね」

 

 

 後ろから迫る一団が見え、あからさまに増えたその数に俺は若干鬱になるのを実感しながら再びその場から駆け出した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

DOG DAYS編
第15話「戦争? いいえ、お祭りです」


どうもこんばんわ、執筆する暇がないほど仕事に忙殺されている作者です。

さて、今回から本格的にDOG DAYS編となります。
別枠で連載しているJumper -IN DOG DAYS-とは違った展開で進めていきますので、興味のある方、もしくは気になる方はそちらも併せて閲覧してみてください。

それでは、本編第15話、どうぞご覧ください。


 お姫様抱っこ。

 それは女性ならば一度は理想の相手にしてもらいたいと夢見る抱え方で、状況次第では天にも昇る幸せを感じられるだろう。

 しかし現実的な話、このお姫様抱っこというのはする方もされる方もなかなかに体力を要するものだ。フィクションなどでは物語の都合上割りと簡単に行われ、なおかつ長距離をたやすく移動しているように見えるがそれは物語だからまだいいだろう。

 では実際に女性一人を抱えてそれなりの距離を走った俺の体験談を報告させてもらうと――ぶっちゃけものすごく疲れた上に走りにく、数百メートルほど走ったところで体力の限界を感じた。別にサラが重すぎるというわけではないのだが、体勢的に本当に走りづらい。

 俺にMSは拘束具ですという人やゴキブリ並みの生命力を持った角刈り警官ぐらいの体力があればもう少し粘れたかもしれないが、現実は非情である。

 そんな現実にあっけなく敗北した現在の俺はというと――

 

 

「――そのチョコボもらったぁ!」

 

「ウボァー!?」

 

 

 ――背中にサラを背負ったまま『加速』とブーストアップを行使し、整った装備のネコ耳騎士を蹴り飛ばして見るからにチョコボな生物を強奪していた。騎士は『加速』+ブーストアップによって勢いがついた蹴りの衝撃で他の兵同様、コミカルな音を立てて丸くてモフモフな生命体へと変貌したが、それに触れることなくチョコボに跨る。

 幸いというべきかこのチョコボは乗り手が変わってもおとなしく、手綱を握ればこちらに従順だった。

 あと完全な余談だが、背中に感じたサラの感触はかなりの物だったと報告しよう。

 

 ……魔王の耳に入ったら殺されるかもしれんな。

 

 

「サラ様、腰に手を回してしっかり捕まってください!」

 

「は、はい!」

 

 

 サラの腕が腰に巻き付いたのを確認し、チョコボをまっすぐに走らせる。同時にブーストアップの効果が切れ、副作用の強い疲労と眩暈が俺を襲う。20秒もすれば収まるものとはいえ、これはなかなかに厳しい。

 

 

「セルクルを奪ったぞ!」

 

「逃がすな! 追え! 追うんだっ!」

 

 

 一方、後ろから追撃をしていたネコ耳兵たちは上の位の兵がやられても動揺するそぶりを見せず、俺たちをどうにかしようと躍起になっていた。

 

 

「待てー! セルクルを返せー!」

 

「待てと言われて待つバカはいない! アディオス、ネコ耳騎士団の諸君!」

 

 

 最悪のコンディションの中、何事もないように声を張り上げて更に距離を稼ぐ。しかしこいつ、セルクルっていうのか。

 一先ず進路を固定して突き進ませているが、正面の先にはアリ地獄を彷彿させるすり鉢の広場があり、さらにその先の方にはガルディア城や夢の国の城に勝るとも劣らない立派な石造りの城が見える。

 とりあえずあそこまでいけば、何かわかるか?

 淡い期待を抱きつつ、取り合えず目の前のすり鉢を迂回しようと進路を整える。

 

 

「『獅子王炎陣――』!!」

 

 

 突如、すり鉢の中から力強い女性の声とともに巨大な火柱がいくつも上がり、打ち上げられた岩が天から降り注ぐ光の如くこちらに向かって飛来した。

 

 

 

 

 

 

 ビスコッティが誇る難関のひとつであるすり鉢エリアでは勇者として召喚された地球の少年、シンク・イズミとビスコッティ騎士団親衛隊長エクレール・マルティノッジがガレットの総大将、レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワを相手に戦っていた。

 しかし、二人の実力では『百獣王の騎士』にして『天下無双』の異名を持つ彼女へまともにダメージを与えることができず、体よくあしらわれる有様であった。

 今し方も空中で挟撃を仕掛けようとしたものの、某配管工のように自分のセルクルであるドーマを足場にしてシンクたちの攻撃を回避したレオはそのままこの世界特有のエネルギー『輝力』を放って二人を地面に沈めたところである。

 

 

「いっつつ……勇者! おまえは何をしているんだ! 戦いの邪魔をしに来たのか!?」

 

「いや、そっちこそ! 僕のエリアルの邪魔をして!」

 

 

 どっちもどっちな子供の責任転嫁。見てる分には少し微笑ましく思えるかもしれないが、忘れてはならない。ここが戦場で、三国志で例えるなら呂布のような戦闘力を持った人物が目の前にいるということを。

 ゴゥッと何かが燃える音が響き二人が目を向けてみると、手にしたバトルアックスに輝力を溜め込み、地面に叩き付けて紋章砲という大技を放とうとしているレオがそこにいた。

 

 

「『獅子王炎陣――』!!」

 

 

 彼女を中心に火柱がいくつも上がり、打ち上げられた岩が隕石の如く火柱とともに周りの一般兵を敵味方問わず飲み込んでいく。その余波はすり鉢の中だけでなく、縁にいる人間たちにも及んだ。

 

 

「ちょ、紋章術ってこんなことまでできるの!?」

 

「レオ姫の物は別格だ! さっさと逃げるぞ、死にたくなければな!」

 

 

 その言葉に全面的に同意したシンクはすぐさまエクレールとともにレオから離れようとするが、彼女は口角を吊り上げてそれを完成させる。

 

 

「『――大爆破ぁ』!!」

 

 

 さらに巨大な火柱がレオを包み、一気に収束を始める。瞬間――

 

 

ドオオォォォォォォォォン!!

 

 

 レオのいた場所を起点に辺り一面で巨大な爆発が轟音とともに炸裂し、そのすさまじい衝撃はフィリアンノ城にまで届いた。

 圧倒的な力に飲み込まれた兵たちはそのほとんどが"けものだま"となって戦闘不能となり、かろうじて"けものだま"を回避した者は衝撃に当てられて目を回した。

 

 

『決まったぁぁぁぁぁぁぁぁ! レオンミシェリ閣下必殺の紋章砲、『獅子王炎陣大爆破』がすり鉢エリアの兵たちを一掃! 味方も巻き込んでしまうのが難点ですが、これを受けて立っていられる者は――おや?』

 

 

 熱い実況をするガレット国営放送の視聴率男、フランボワーズ・シャルレーが解説の最中それに気づく。

 すり鉢の縁で動く二つの影。そのうちの一つがすり鉢の中に飛び込むと、一直線にレオの元へと駆けこんでいくのが見えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 突然の噴火(?)で降り注いだ岩をシールドでどうにかやり過ごしたと思ったら、今度はすり鉢の中で起こった大爆発の衝撃でセルクルごと吹っ飛ばされる事態に見舞われた。

 体が宙を舞った時点でブーストアップを使い体勢を整えながらサラを抱きかかえ、限りなく衝撃を和らげるため『集中』を追加してようやくすべてをやり過ごす。しかしブーストアップの副作用で再び調子が悪くなる。さっき使ってからの間隔が短いせいか、いつもより2割増しで気持ち悪い気がした。

 

 

「ッ、サラ様。ご無事ですか?」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

 

 とりあえずサラが無事であることが分かりホッとするが、さっきの一撃は本当にシャレで済まない。ケモノ耳付きの人たちはどういうわけか死にそうな攻撃を受けてもその辺に転がっている毛玉になって生き延びているが、普通の人間なら間違いなく重傷レベルだろう。そんな危険極まりない技を放った人物には一言言わないと腹の虫が収まりそうにない。

 すり鉢の中をのぞいてみると、それらしい人物はすぐに見つかった。何せその部分だけ足場は無事であり、まるでドラゴンボールで気を解放した時のようなドーナツ型のクレーターが形成されているのだから。

 

 

「サラ様、少しここにいてください。俺は今の爆発についてちょっと抗議してきます」

 

「えっと……穏便にしてくださいね?」

 

「元よりそのつもりですが、承知しました」

 

 

 すり鉢の中に飛び込み、目を回している毛玉の人たちを踏まないようにしつつ迅速に中心部へと向かう。

 あちらも俺の存在に気づいたのか、最初はどこかキョトンとした表情だったものがすぐに警戒するライオンのように睨みつけてきた。

 

 

「なんだ、貴様」

 

「通りすがりの迷い人さ。さっき君が起こした大爆発で危険な目にあったんで、その抗議にやってきた」

 

「ここは戦場じゃ。危険なのは当たり前であろう。そもそも、貴様はどこの者だ? 見たところビスコッティの勇者と同じ出身のようだが、あやつ以外に誰かが参戦したという話は――むっ!?」

 

 

 突然空を見上げたかと思うと、上空から垂れた犬耳の少女と金髪の少年が飛来していた。というか、なんで空から?

 

 

『な、なんと勇者と親衛隊長! レオ様の攻撃を空に逃げることで回避していたぁ! だがこれでは、地上から狙い撃ちされるぞぉ!?』

 

 

 どこからともなく大音量の実況があたりに響き、同時に歓声が上がる。

 攻撃って、さっきの爆発のことだよな? それを空に回避だと? 一体どうやって……。

 

 

「貴様との話はあとじゃ! 巻き込まれたくなければ下がっておれ!」

 

「……そうさせてもらおう」

 

 

 巻き込まれるのはこちらとしても本意ではない。いろいろ知りたいこともあるが、ここはおとなしくしておくとしよう。

 下がりながら勇者と呼ばれた少年を観察してみると、ちょうど上空からレオンミシェリと呼ばれていた少女に強襲を仕掛けているところだった。見たところ年はおそらく中学生ほどだが、その身体能力は俺の知る中学生レベルから大きく並外れており、もう片方の親衛隊長とやらも同じくらいの年齢と推察でき、その動きからこちらも普通ではないことが察せられた。

 真下にいるレオンミシェリに向かって勇者が手にした棒を振り下ろす。無論これを黙って受け入れるレオンミシェリでもなく、手にした戦斧で迎撃し勇者を押し返す。

 この隙に親衛隊長が背後をとり、勇者とともに挟撃をかける。その攻撃を同時に受け止めて見せるが、彼女が防げたのはそこまでだった。

 思うように踏ん張りが効かなかったのか、武器と盾が衝撃を殺しきれず砕けそこへ二人が同時に駆け出し、追撃を仕掛ける。

 

 

「でえやああああああ!!」

 

「うおおおおおおおお!!」

 

「くっ!!」

 

 

 何とか躱そうとするレオンミシェリだが間に合わず――

 

ガキャァン!!

 

 ――二人の武器が彼女を起点に交錯し防具ごと上着を破壊する。

 手ごたえを感じてやったと思い勇者が振り返ると、少々露出が多くなったレオンミシェリを見て思わず顔を赤くした。うん、この辺は年相応だな。

 一方、防具を破壊されたレオンミシェリは露出が増えたことに動じることなく現状の確認を始めた。

 

 

「ふむ……チビとタレ耳と思い少々侮ったか。別にこのまま続けても構わんが、それではちと両国へのサービスが過ぎてしまうな」

 

 

 わざわざモデルのようにポーズをとりながらそう呟くレオンミシェリを見て、親衛隊長がまさかと問う。

 

 

「レオ閣下、それでは……」

 

「うむ――ワシはここで、降参じゃ」

 

 

 

『『『――うおおおおおお!!』』』

 

 

 

 どこからともなく出された小さな白旗が合図となり、辺りから無数の花火が打ち上げられ兵たちから歓声が沸いた。

 

 

『まさか、まさかのレオ閣下敗北!! 総大将撃破ボーナス350ポイントがビスコッティ軍に加算されます!! しかし今回は拠点制圧が勝利条件となるので現時点で戦終了とはなりませんが、この点差はあまりにも致命的!』

 

 

 実況の興奮した声が響く中、これまで見てきたアスレチックと撃破ボーナスや勝利条件といった言葉から一つだけわかったことがある。

 

 

「これ、祭りだったんだな……」

 

 

 ひとまずこれ以上の危険性はないと判断し、サラを迎えに行くべく降りてきたすり鉢を登ろうと手をかける。

 と、不意に後ろから声をかけられた。

 

 

「少し良いか?」

 

「ん?」

 

 

 振り返ってみれば、カメラマンを引き連れたレオンミシェリが笑みを浮かべて立っていた。

 

 

「お主、何もないところからいきなり現れたそうじゃな? ――詳しい話が聞きたい。迎えをよこす故、後で天幕まで来てくれ」

 

「……了解。こっちもいろいろ聞きたいんでな」

 

 

 それだけ約束を交わし、今度こそすり鉢を登り始める。

 なお、登り切った後ですり鉢の中から親衛隊長の絶叫と実況の服破壊という言葉を聞いて、何が起こったのか容易に想像できた俺は心の中でタレ耳の少女に合掌した。




本編第15話、いかがでしたでしょうか?

Jumper -IN DOG DAYS-がビスコッティルートだったのに対し、こちらはガレットルートで進めていくことになりました。
無論、ストーリーの都合上ビスコッティ組との絡みが頻繁に発生するかと思いますが。
このDOG DAYS編にもオリジナル設定、オリジナル展開を用意していますので、最後まで楽しんでいただければ幸いです。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話「芽生えた違和感」

どうもこんばんわ、職場で勝手すぎるアルバイトに胃のストレスがマッハな作者です。

さて、今回はシンクと出会ったことでサラに尊の秘密が少し明らかになります。
内容的にはJumper -IN CHRONO TRIGGER-の第17話とJumper -IN DOG DAYS-の第10話を足して割った感じです。
あと図解も差し込んでみたので、話の参考に開いてみてください。

それでは本編第16話、どうぞご覧ください。


 サラを迎えに行った尊はその後、レオの使いとしてやってきたゴドウィン・ドリュールに連れられてガレット獅子団領軍の天幕へと移動する。

 天幕の中では既に新しい服に着替えたレオが、従者のビオレ・アマレットを控えさせて待っていた。

 

 

「ご苦労であった、ゴドウィン。 さて、まずは自己紹介じゃ。ワシはレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ。ガレット獅子団領の領主をしておる」

 

 

 領主という言葉に僅かに驚いた尊とサラだが、先にこちらの身を明かすべく口を開く。

 

 

「俺は流浪人の月崎 尊。こちらは魔法王国ジールの第一王女、サラ姫様です」

 

「初めまして、レオンミシェリ殿」

 

「ほう、一国の姫君であらせられたか。しかし、魔法王国ジールとは聞いたことがない。どこにあるのだ?」

 

 

 その問いにどうすべきか悩んだサラが尊に視線を送ると、それを受けた尊が一歩前に出て説明を始める。

 

 

「端的に申しますと、我々は異世界から流れ着いた迷い人です。ですから、この世界にジールという国は存在しません」

 

「……ふむ、異世界からのぅ。――それを証明する手立てはあるか?」

 

 

 その言葉を受け尊は僅かに逡巡し、近くの燭台に向かって右腕を向ける。

 

 

「『アイス』」

 

 

 尊の右腕から冷気が走り、燭台を一瞬にして氷漬けにする。

 突然凍った燭台に辺りからどよめきが上がり、レオも「ほう」と感嘆の声を上げた。

 

 

「これが魔法王国ジールと呼ばれる所以の技術、魔法です。そしてジールは魔法によって栄華を極め、巨大な大陸を天に浮かべて存在しました。そのような国や技術は、この世界にありますか?」

 

「……いや、ワシは知らんな。じゃが、証明する手段としては十分じゃ。しかしお主らが異世界から来たとして、この世界――フロニャルドへはどのような理由でやってきたのだ?」

 

「私たちは逃げてきたのです。あの世界から」

 

「逃げた? ……逃避行か?」

 

 

 流浪人と姫がそろって国から逃げてきたという内容からそういう話が理由かと訪ねるレオだが、尊がそれを否定する。

 

 

「我々がいた世界は、未曽有の大災害に見舞われました。あらゆるものを滅亡させる光がジールを滅ぼし、砕かれた天の大陸は地上へと降り注いで大津波を起こし、地上の陸を飲み込んでいきました。そんな災害の最中、ある秘術を使い俺たちはその世界より脱出し、偶然この世界に流れ着いたのです」

 

「……なるほど。兵たちから青白い光とともに現れたという報告は聞いていたが、そういうことか」

 

「こちらに流れ着いた際に兵たちに敵と判断されて攻撃を受けたため、やむを得ず反撃という手段をとらせていただきました。どうか、ご容赦を」

 

「かまわぬ。むしろ自軍の兵が敵意のない相手に武器を向けたとあれば、ワシの方こそ頭を下げねばならん。故に、そのことについては不問とする」

 

「ありがとうございます。では今度はこちらから質問させていただきたいのですが、先ほどの戦いは祭りか何かだったのですか?」

 

「うむ。このフロニャルドにおいて高い人気を誇る戦興業というものだ。今回の相手は我がガレットとも親交が深い隣国、ビスコッティ共和国との戦じゃ」

 

 

 尊の質問にレオが端的に戦興業について説明をする。

 この戦興業は国が主催し『大陸協定』というもので定められたルールの元に行われ、国民が楽しく思いっきり競い合うことが出来る大規模イベントだという。

 さらにこの戦興業は活躍に応じて懸賞金が支払われ、うまく勝利に貢献すれば一攫千金も狙えるという魅力もあった。

 

 

「おそらくこのままいけば今回の戦はビスコッティの勝利となり、最も勝利に貢献したビスコッティの勇者に一番の報酬が支払われるだろう」

 

 

 今回の戦を例に挙げて話すレオの言葉に、サラがそう言えばと尋ねる。

 

 

「レオンミシェリ殿。戦いのときも勇者という言葉をよく耳にしましたが、勇者というのは何なのでしょうか?」

 

「勇者というのはこのフロニャルドにおいて、宝剣を持つ国や領主にのみ認められた儀式によって別の世界から召喚される切り札のことだ」

 

「別の世界から召喚ですと?」

 

「なんじゃ、気になるのか?」

 

 

 強く反応した尊をレオはじっと見つめ、サラにも視線を向けて僅かに思考する。

 

 ――やはり勇者と姿が似ておるな。

 

 二人と勇者の姿に共通するものを見つけ、レオはそう判断する。

 というのも、レオの知る限りこの大陸の人間は皆動物のような耳としっぽがあり、それがない種族を見たことがなかった。

 

 ――かつてパスティヤージュに召喚された英雄王もこのような姿だったと伝来されているが、そうだとすれば面白い。

 

 

「ゴドウィン。戦が終わり次第、ミコト殿とサラ殿を勇者の元へお連れしろ。お二人が勇者と同郷の可能性がある」

 

「ハッ!」

 

 

 下された命令にゴドウィンがしっかりと応え、尊は思わぬ計らいに食いつく。

 

 

「よろしいのですか?」

 

「うむ。ただ、またこちらに戻ってきてもらいたい。ワシはもっとお主たちの話を聞きたいのでな」

 

「わかりました」

 

 

 それから間もなく戦の終了を告げる花火が上がり、ビスコッティ陣営からひときわ大きな歓声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 ゴドウィン将軍に案内されてビスコッティ陣営へと足を運んだものの、周りから向けられる好奇の視線がなんとも煩わしい。俺たちのような人間が珍しいのか、それともガレットの将軍に連れられてここにいるのが気になるのか……どちらにしても、見世物のようでいい気はしない。

 やがて人だかりを見つけ足を運ぶと、白い鎧を身に着けた男性がインタビューを受けていた。ちょうど会見が終わったのか散り散りになる記者たちをかき分け、将軍はその人物へと声をかける。

 

 

「ロラン団長。少しよろしいか?」

 

「おや、ゴドウィン将軍。――そちらのお二人は?」

 

「ビスコッティの勇者殿と同郷の人間かもしれぬ者たちでな。レオ閣下の命によりお二人を勇者殿に合わせたい。どちらにおられるか?」

 

「えー、勇者殿でしたら、その……」

 

 

 歯切れが悪そうにロランと呼ばれた騎士が視線をずらすと――件の勇者が体育座りのまま頭にキノコをはやして落ち込んでいた。

 

 

「……なにがあったんですか?」

 

「実は召喚された勇者が元の世界に帰ることも連絡を取ることもできないと知らなかったらしく、それで……」

 

「……なるほど」

 

 

 確かにそれは落ち込むのに十分な理由だな。しかしこのまま放置するわけにもいかないので、俺はサラたちから一歩前に出て声をかける。

 

 

「少年、少しいいか?」

 

「――ふぇ?」

 

 

 虚を突かれたように勇者が顔を上げると、僅かに間をおいて首を傾げた。

 

 

「えっと……どちら様ですか?」

 

「俺は月崎 尊。別の世界からこの世界にやってきた人間だ」

 

「……えっ!? 日本人!?」

 

 

 さっきまでの落ち込みが嘘のように反応し、信じられないといった風に声を上げる。

 

 

「状況は聞かせてもらった。元の世界に帰れないらしいな」

 

「は、はい。 えっと、月崎さんはどうしてこの世界に?」

 

「いろいろあってな。 ところで俺が日本人とわかるということは、君も地球からやってきたのか?」

 

「はい。日本の紀乃川市って町から、姫様に召喚されてこの世界に来ました――あ、僕はシンク・イズミって言います」

 

 

 やはり地球人か。紀乃川市という町は聞いたことがないが、全国の市町村を知っているわけではないからどこかにそういう名前の町があるんだろう。

 ただここには、レオンミシェリ殿が俺とサラが彼の同郷の可能性があるということでやってきた。確かに俺とイズミ君は同郷になるだろうが、サラはそういうわけにはいかない。そうなると、必然的にこの問題にぶち当たる。

 

 

「あの、ミコトさん。日本とはどこにある国ですか?」

 

「む? ミコト殿とサラ殿はジールという国の人間ではなかったのですか?」

 

「え? ジール? 地球にそんな国ありましたっけ?」

 

 

 サラの質問を発端に将軍、イズミ君と連鎖的に疑問が上がる。

 流石にこうなっては、もう誤魔化せないな。

 腹を括り、俺はこちらを見ているサラに秘密のひとつを打ち明ける。

 

 

「サラ様にもお話ししていませんでしたが、実は俺も彼と同じ地球の出身です」

 

 

 

 

 

 

 将軍にサラとイズミ君だけで話をしたいと告げ、ロラン団長より天幕のひとつを借りて俺はここまでの経緯を明かすことにした。

 

 

「――先ほども言いましたが、俺は元々イズミ君と同じ地球にある日本という国にいました。ですがある日、目を覚ますと自分の部屋ではなく全く別の場所にいたのです」

 

「それがジールだったということですか?」

 

「いえ、ジールではなく時の最果てと呼ばれる時間の流れから外れた場所にいました」

 

「時間の流れから外れたって、どういうことですか?」

 

 

 イズミ君の問いに俺は近くにあった棒でまず四つの円を描き、そのうちの一つを少し大きくして時の最果てと書き入れる。

 

 

「俺が最初に目を覚ましたこの時の最果てというのは、簡単に言えば別の時代とつながる中継ステーションのような場所でした。確認しただけで三つの時代へ移動でき、それぞれB.C.65000000年、A.D.1000年、A.D.2300年に繋がっていました」

 

「つまり一つの場所で複数の時代へ行けるということから、時の最果てが時間の流れから外れた場所にあるということですか?」

 

「サラ様の解釈で間違いないと俺は思います。目覚めた時の最果てから元の世界に戻る方法を探るべく最初にA.D.1000年という時代へ移動し、新たに見つけたゲートを利用して再び時の最果てへと戻りました」

 

「……もしかしてミコトさんは」

 

「申し訳ありません、その話は後程」

 

 

 古代でゲートを封印した時のやり取りのことで何かに気づいたのであろうサラの言葉を封殺し、二つの円にそれぞれA.D.1000年、A.D.600年と書き込み、少し離れた場所に新たに円を描きながら話を続ける。

 

 

「時の最果てに戻ると新たに出現したゲートを使い、今度はA.D.600年という先ほど訪れた場所から400年前の時代に辿り着きました。ここで旅をしているときに新たに発生したゲートに呑まれ、今度は全く別の次元の狭間と呼称した空間へと辿り着きました。そこで俺は元の世界にいるという女神様に出会い、不可抗力で時の最果てに流れ着いたことを知りました」

 

「め、女神様ですか?」

 

「ああ。そこであるモノの干渉を受けて元の世界に戻れないと知り、それを倒すという目標を定めたところで――ジールに辿り着き、サラ様に出会いました」

 

 

 新たに作った円に次元の狭間と入れ、最後の円にジールと入れる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 追加されたその文字をサラがどこか哀しそうに見つめる中、合点がいったようにイズミ君が口を開く。

 

 

「つまり月崎さんとサラさんはこのジールって場所から、そのゲートっていうのを使って一緒にここに来たってことですか?」

 

「ああ、端折って言ってしまえばそういうことだ。イズミ君は、日本から直でここにだったか?」

 

「はい。学校から帰るときに踊り場から降りようとしたら、着地点でワンコが落とし穴を作ってそのまま……」

 

「……君も災難だな」

 

 

 なんで踊り場からというのは置いとくとして、飛んでる最中にそんなものを設置されたら逃げるに逃げられない。

 しかもそれをやってのけたのが犬というのがまた……。

 

 

「まあ、何とかなるさ。もしかしたら俺みたいに帰るための手掛かりが見つかるかもしれないだろ? 諦めたらそこで試合終了だぞ」

 

「……そうですね。もう少し頑張ってみます!」

 

 

 そう意気込んだところで外からイズミ君を呼ぶ声が聞こえ、彼はそのまま出て行った。ちなみに、出ていく直前に呼び捨てで構わないといわれたので俺も下の名前で呼んでいいとだけ伝えておいた。

 

 

「さて……お待たせしました。俺が答えられる範囲であれば、お答えします」

 

 

 改めて向き直ると、サラがジールの部分を指出しながら問う。

 

 

「ミコトさんは、クロノたちが同じ方法でジールに来たことを知っていましたね?」

 

「はい。A.D.1000年から最果てに戻った際、そこで出会ったマールがどのように移動しているかを教えてくれました」

 

「ではあの時必ず戻ってくると断言できたのは、別の時代でそうなったと知っていたからですか? 海底神殿でガッシュに転移装置を用意させたのも、海底神殿が崩壊すると知っていたからですか?」

 

 

 ――さて、どう答えるべきか。

 ここでサラのいた世界が俺の世界ではゲームの話だったからと返すのは簡単だ。

 しかも当初の目的であったサラの生存もあの世界では原作通り行方不明になっているが、こうして別の世界でしっかりと生存している。

 このままあの世界に戻っても原作から大きく外れた流れになることはないだろうし、ヘマをしなければ誰もが夢見たであろうサラの生存エンドも迎えることができる。

 ――この際、これも話していいかもしれないな。

 十分に確認し、それを伝えてもおそらく大丈夫だろうと思い真実を伝えようとする。が――

 

 

 

「――その通りです」

 

 

 

 出てきたのは、サラの予想を肯定する言葉だった。

 一瞬ハッとなるが、サラはやはりと言って微笑む。

 

 

「では、私はミコトさんに感謝しなければなりませんね。ミコトさんのおかげで、こうして助かることができたのですから」

 

「……いえ、大したことでは」

 

 

 サラを助けることができた。確かに感謝されることだ。

 だが……何だ、この言いようのない罪悪感は。

 別の時代でそうなることを知っていた? 確かに元の世界で、ゲームを通じてそうなることを知っていた。

 海底神殿が崩壊すると知っていた? これもゲームで知っていたし、魔王に問い詰められた時も似たような話で誤魔化したからそこまで大きな矛盾はない。

 そう、矛盾はないのだ。

 だというのに、この気持ちの悪さは何だ?

 説明に使用した図解を見下ろしながら、俺は自身に現れた大きな(しこり)に嫌悪感を隠せなかった。




第16話、いかがでしたでしょうか?

プロットを組んでいたらオリジナル設定が猛威を振るってキリサキゴホウ戦がえらいことになりそうです。
また前回、尊がガレット側についたことでビスコッティがヤバいという感想をいただきましたが、彼のスペックはJumper -IN CHRONO TRIGGER-の第12話と同じなのでそこまで脅威になりません。
作者の中では素の能力ではシンクよりやや低く、精神コマンドなどを解放しても閣下には負けそうなレベルです。
無論、クロノ編が終われば立場は逆転しますが(笑

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話「希望の糸と発覚した事実」

どうもこんばんわ、久方ぶりの休みにゆっくりできると思いながら就寝したら一日の半分以上を睡眠で過ごしてしまった作者です。


さて、今回はJumper -IN DOG DAYS-の第5話をほぼ丸ごと流用して仕上げました。
なので展開的にはほとんどあちらと変わらない内容となっていますが、どうかご容赦ください。


それでは本編第17話、どうぞご覧ください。



 呼び出されたイズミ君――いや、シンクのあとを追って天幕を出てみると、ゴドウィン将軍とロラン団長のほかに親衛隊長と呼ばれていた女の子が外で待っていた。

 

 

「あ、尊さん。これからお城の学者の人たちに元の世界に帰る手がかりを見つけてもらえないか相談しに行くんですけど、一緒に行きませんか?」

 

「いいのか? シンクと違って、俺たちは完全に招かれざる人間なんだが」

 

「構わないさ。それに勇者殿に話を聞かせてもらったが、君も元の世界に帰るために行動しているそうじゃないか。ならば勇者殿の送還が見つかった際に、それを利用できるかもしれないじゃないか」

 

「なるほど……」

 

 

 確かに、ロラン団長の言葉にも一理ある。

 あちらではラヴォスを倒さないと元の世界に帰ることができないのが確定しているが、ここはクロノトリガーとは完全に別の世界だ。うまくいけば、シンクの送還に便乗して地球へ帰還することもできるかもしれない。

 チラッとサラに視線を送ると、彼女はこちらを見て小さく頷いた。俺の指示に従う、ということなのだろう。

 

 

「俺としては構わないんだけど、一応レオンミシェリ殿に話をつけておきたい」

 

「ならば俺のほうから閣下にお伝えしておこう。二人はこのまま、フィリアンノ城へ向かうといい」

 

「ありがとうございます、ゴドウィン将軍」

 

 

 俺の代わりにサラが感謝の言葉を述べると、将軍はどこか機嫌が良さそうにガレット陣営へと戻っていった。

 ロラン団長は事後処理があるとかで別行動をし、俺たちは団長の妹という親衛隊長のエクレールの案内で戦場で目指そうとした城、フィリアンノ城へと向かう。

 その道中、シンクがダメ元で携帯を開いてみるが、アンテナが表示されるであろう場所には無情にも『圏外』の二文字が表示されていた。

 

 

「――やっぱダメかぁ……異世界だもんなぁ」

 

「地球から別の星に飛ばされたようなものだからな。それこそ諦めるしかないだろ」

 

 

 もっと乱暴な言い方をすれば、糸電話でネット電話に繋げようとするくらい無理な話だ。そんな結果に項垂れるシンクを余所にサラは初めて見るそれを興味深そうに眺めており、その反対側を歩いていたエクレールがどこか呆れた風に切り出す。

 

 

「覚悟もないのに召喚に応じた貴様が悪い。自業自得だ」

 

「覚悟!? 覚悟も何もこのワンコが踊り場から降りようとしたところで落とし穴を仕掛けるから!」

 

「……落とし穴? タツマキがか?」

 

 

 いつの間にかシンクの足元にいた犬――タツマキと呼ばれた犬が少し前に出て小さな魔法陣のようなものを展開した。何やら縁の方に文字らしきものが書かれているが、全く読めない。

 

 

「えっと、なになに? 『――ようこそフロニャルド、おいでませビスコッティへ』」

 

 

 エクレールがそれを読み上げるとタツマキが前足で一部をチョイチョイと示し、視線が集中する。

 

 

「『注意 これは勇者召喚です。召喚されると帰れません。拒否する場合はこの紋章を踏まないでください』」

 

「え゛!?」

 

 

 シンクの顔が絶望に染まり、タツマキは「そういうことだ」とでも言いたそうにうなずく。

 いや……これはないな、いろいろと。

 そして案の定、涙目でシンクが切れた。

 

 

「……こ、こんなんわかるかぁぁぁぁ!」

 

「知るか! 私に言うな!」

 

「エクレールさんの言うことも尤もですけど、これはちょっと……」

 

「はっきり言ってしまえば、拉致と何ら変わりないな」

 

 

 しかもシンクは身動きできない空中で落下点に召喚の陣を設置されたらしいからな。そりゃもうコーラを飲んだらゲップが出るくらい確実にホールインワンだ。

 おまけに文字も暗号みたいで全然わからん。俺はクロノ世界で使われている文字が何故か日本語だったからどうにかなったが。

 

 

「まあ、貴様を帰す方法は学術研究院の連中が調査中だ。時機にいい方法が見つかるはずだ」

 

「そりゃあ……そうなってくれたらうれしいけど……」

 

 

 意気消沈するシンクがどこか縋るようにこちらを見る。まあ、あんな身体能力の持ち主でもまだ中学生なんだ。こうなるのが普通だよな。

 

 

「心配するな。最悪この世界に骨を埋める覚悟がいるかもしれないが、いざとなったら俺がなんとかしてみよう」

 

「なんとかなるんですか?」

 

「断言するには、まだ材料が足りてないけどな」

 

 

 ここに来た時と同じようにサテライトゲートが使えて、なおかつラヴォスの干渉を受けなければそれでいい。

 ただ、ゲートを開いてもやはりラヴォスを倒さなければならないと分かれば、潰した上で問題がないことが確認できるまでシンクにはここに滞在してもらうことになるだろう。

 原作でいえば流れは既に終盤の頭。サブイベをこなすことを考慮すれば多少時間がかかるが、ひと月かかることはないはずだ。あとはそれまでの辛抱と割り切ってもらうしかないな。

 

 

「……ありがとうございます」

 

 

 俺の回答に多少は楽になったのか、先ほどよりはマシな顔での礼が返ってくる。

 そこへ区切りがついたと察したのか、エクレールが腰に下げていた袋を取り出してシンクの前に差し出す。

 

 

「とりあえず、勇者には姫様から賓客として扱うよう話が来ている。それだけでここでの暮らしに不自由はないが、まずはこれを受け取れ。今回の戦の活躍報奨金だ」

 

「報奨金って、お金? あの、お金はさすがに受け取れないよ」

 

「戦場の活躍における正当な報酬だ。受け取りを拒否すれば、財務の担当者が青ざめる」

 

「もらっておけ、シンク。何をするにしても金は必要になるし、何より持っていて困ることはない。それに大人の世界じゃ、もらってもらわないと困る事情もあるんだからな」

 

 

 金がらみの問題は、俺も向こうの世界で嫌というほど味わったからな。トルース村でトマに酒を奢って予想以上の出費をしたり、サンドリノの村でトマと殴り合った時に発生した酒場と宿の修理代で金が消し飛んだり――あれ? トマと酒が絡んだ時しか問題になってないな……。

 そういえばあいつとはチョラスで別れたのが最後だな。そろそろ虹色の貝殻を見つけたころだろうか? まあ見つけたところで、番人をしているあれに勝てるとは思えないが。

 ところで俺の言葉もあってか流されるままエクレールから報奨金を受け取るシンクだが、その表情はどこか納得していないようだ。まあ、この辺も大人になればわかるだろう。

 

 

「兵たちは楽しいから戦に参加していうものもいるが、報奨金は自分がどれだけ戦で貢献できたかを測る目安となる。少なくとも、参加費分は取り戻したいというのがほとんどだろうな」

 

「えっ、参加費!?」

 

「妥当なところですね。こんな大掛かりな賞金付きイベントで、しかも一般人の方まで参加するなら動くお金も相当なものでしょう。どこかで緩和させないと、国の財政そのものが危うくなってしまいますし」

 

「参加者としても参加費分は回収しておきたいのは当然だろうし、あわよくば報奨金でさらに儲けたいってとこだろうな。少なくとも、俺ならそうする」

 

「そういうことです。 しかし、この二人に比べて勇者はあまり頭が回らないようだな」

 

「むぅ……」

 

 

 どこか棘のある言い方に大げさに頭を抱えて見せるエクレールにシンクが不満そうな表情をする。

 確かシンクの攻撃が誤って彼女の服を破壊したんだっけ? 確かにそんな目に遭わせられたのなら、この態度も納得せざるを得ないな。

 ……まあ、簡単なフォローくらいはしておくか。

 

 

「この辺は人生経験の差だな。特別な勉強とかしてない限りシンクぐらいの歳で政治と金について考えることはほぼないだろうし、それ以前にまったく知らない世界のルールなんて知らなくて当然なんだからな。エクレールだって、地球のイベントのルールなんてわからないだろ?」

 

「それは、そうですが……」

 

「もう少し相手の状況を理解した上で話してやるのも大切なことだ。元々違う世界の人間なんだから認識の相違が強いってのもあるんだし」

 

「……留めておきます」

 

 

 どこか釈然としないまま頷いたエクレールが大通りに足を向けたのをきっかけに、俺たちも雑多の中へ移動を開始する。

 道に広がる屋台を利用して硬貨の説明を受けたり、戦興業の仕組みや国が得た報奨金の使用例などを教えてもらってると、シンクが何か思い出したように尋ねる。

 

 

「そういえば姫様から戦が安全なものだって教えてもらったけど、大陸協定っていうのを守らなくて……人が死んじゃったりすることは、あるの?」

 

 

 少し言いにくそうな声にエクレールは一度目を伏せ、答える。

 

 

「歴史を紐解けば、そういった争いがなかったわけでもない。特に、魔物を相手にした時などはな」

 

「魔物、ですか?」

 

 

 予想だにしない言葉にサラが聞き返し、俺も耳を傾ける。

 

 

「我々が怪我をしないでいられるのも、戦場指定地に眠る戦災守護のフロニャ力のおかげです。元々守護力の強い場所に国や町などが作られ、それ以外の場所では怪我もしますし、運が悪ければ命を落とすこともあります」

 

「じゃあ魔物っていうのは……」

 

「守護力が弱い街道や山野では大型野生動物が出現する危険があり、それらが何らかの原因によって変異、凶暴化したものが魔物になると言われている。尤も、魔物の目撃情報自体が少ないためハッキリとはしていないがな。付け加えて言うなら、そういった危険な場所を通るときに戦興業の隊列に加われば、安全な移動が可能になる」

 

 

 ……なるほどな。安全なお気楽世界かと思えば、そういった裏事情もあるということか。

 案外、戦興業もそういった脅威から身を守るための訓練を兼ねているのかもしれないな。

 それにしても、フロニャ力か……。聞いたことのないものだが、魔力があっちの世界のものであるようにおそらくこの世界特有の力なのだろう。

 もしかしたら魔法で魔力を使うように、レオンミシェリ殿が使用したあの爆発もそれが関係しているのか?

 一人そんなうちに城の入り口の一つにたどり着き、エクレールに案内されたのはかなり広い図書館のような場所だった。

 あちこちでトレンチャーキャップに白衣を纏った人が本を引っ張り出しては羽ペンを使ってノートらしきものをとっている。

 その中で一人、一際大きな机に座っていた女の子がこちらに気付くと同時にパタパタと駆け寄る。

 

 

「勇者様とガレットからお越しの方たちでありますね? 自分はビスコッティ学術研究院の首席研究士、リコッタ・エルマールであります」

 

「……首席!? 君がか!?」

 

 

 思わず声を大にして驚いた俺は悪くないだろう。見た目小学生後半の女の子がこの学院におけるトップというのだ。

 サラもシンクも同じ心境なのか、二人とも驚いた表情で固まっている。

 

 

「まあ、ミコト殿の言いたいこともわかりますが……。それでリコ、成果の方はどうだ?」

 

「……申し訳ないであります。現在、学院の総力を挙げて勇者様の帰還方法を模索中でありますが、力及ばず、未だに、全く、どうにもこうにも……」

 

 

 言葉が続くにつれて言葉の中から申し訳なさが伝わり、後半に至っては一区切りごとに頭を下げだす始末。

 なんというか、こんな女の子に頭下げさせるのは大人として悪いイメージしか沸いてこない。

 

 

「謝ることじゃない。私も勇者も、そう簡単に方法が見つかるとは思ってないんだからな」

 

「――あ、うん。そうだよ、だから頭上げて」

 

 

 エクレールの目配せを察してシンクが声をかける。確かにこんな短時間で見つかるなら、今リコッタちゃんはこんなに申し訳なさそうにしていないはずだ。

 

 

「本当でありますか?」

 

「うん、ただ春休み終了の三日前の前日には家にいないといけないから……最大で16日がタイムリミットかな」

 

 

 ――春休み?

 

 

「16日でありますか! それなら希望が見えてきたであります!」

 

「本当!?」

 

「おまかせください、であります!」

 

 

 先ほどの意気消沈とした空気から一転、リコッタちゃんが嬉しそうに頷いて見せる。

 ――しかし、俺はシンクの言葉にどうにも嫌な予感を感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 エクレールとリコッタの案内の元、シンクが召喚されたビスコッティの召喚台に尊たちは訪れていた。

 事の発端はフィリアンノ城で、シンクがリコッタに召喚台に行けば圏外となっている携帯電話の電波が入らないかと尋ねたことからだ。

 エクレールが召喚に使用された剣に輝力を通すことで召喚の陣を展開するが、やはり一方通行なためかシンクが力任せに腕を押し込んでも逆に戻される力が働いて肘にも届かず失敗する。

 

 

「いい加減諦めたらどうだ? 無理なのはわかっただろ?」

 

「いや、人生何事もチャレンジ! ネバーギブアップだよ!」

 

「そのポジティブさ、まるで松○修○だな」

 

「まつ……どなたですか?」

 

 

 隣のサラからネットで地球温暖化の原因とも噂されている有名人について質問されるが「気にするな」と打ち切り、尊も試しに腕を突っ込んでみる。結果は腕が入ったシンクにも劣り、手のひらが陣に触れただけで終わってしまう。

 正規手段でここに来たシンクとは違うから無理なのかと考察していると、不意に後ろからガチャガチャとやかましい音が近づいてくる。

 

 

「勇者様ー! おまたせしました!」

 

「えっと……リコッタ、それなに?」

 

 

 大掛かりな装置を牽引したセルクルと共に現れたリコッタをみて、シンクが質問する。一方、尊は浮遊した足場をどうやって車輪付きの装置で運んできたのか気にしていた。

 

 

「放送で使うフロニャ周波を強化増幅する機械であります。自分が5歳の時に発明した品でありますが、今は大陸中で使用されているであります」

 

「……はぁ!?」「……えぇ!?」

 

 

 前半の話だけを聞けば尊もシンクもそこまで驚かなかったであろう。

 しかし、5歳の時の発明と聞いては目の前の少女が改めて普通ではないと実感させられたような気がした。

 

 

「……この子もルッカと同じか?」

 

 

 尊が思わず未来の技術もすぐさま自分のモノにしたメカチート転生疑惑の少女のことをぽつりとつぶやくと、どこかの世界でメガネの少女がくしゃみをしたそうな。

 それはさておき、手慣れた動きでリコッタが操作すると、装置が低い音を上げて作動した。

 

 

「さ、勇者様」

 

「あ、うん」

 

 

 促されて携帯電話を開くと圏外の文字が消滅し、代わりに三本のアンテナが出現した。

 

 

「おお! 立った! リコッタすごい!」

 

「……何でもありだな、フロニャ力」

 

 

 高すぎる汎用性に舌を巻き、尊も繋がるのか試そうとする――が、そもそも現在、自分の携帯電話を持っていないことに気付き軽く項垂れる。

 早速とばかりに連絡を取り始めたシンクが友達と連絡でき一安心したのを確認し、通話が終わると同時に声をかける。

 

 

「シンク、悪いが俺にも電話を貸してくれないか? 自分の携帯、今持ってないんだ」

 

「はい、どうぞ」

 

 

 電話を受け取り、早速自分が覚えている数少ない電話番号を間違いなく入力したのを確認し、嫌な予感が的中しないことを祈りながら通話ボタンを押す。

 数回のコールが鳴り、電話の相手が出る。

 

 

『もしもし?』

 

「もしもし? 月崎さんのお宅でしょうか?」

 

『――いえ、違いますが』

 

 

 ――嫌な予感が、的中した。

 




本編第17話、いかがでしたでしょうか?

次回はガレット陣営に戻り、閣下から紋章術のレクチャーを受けてもらう予定です。
おそらく要人誘拐奪還戦の頭ぐらいまで進ませると思いますが、ガレット陣営にいるので戦の内容はあちらと大きく異なる可能性があります。
クロノトリガー編に戻るのは試算であと11話ほどの予定となりますが、それまでどうかお付き合いください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話「要人誘拐奪還戦」

どうもこんばんわ、最近アケコンの新調を検討している作者です。

さて、今回はミオン砦にカチ込む前の所謂インターミッションです。
前回の終わりに紋章術を尊に叩き込むといいましたが、展開の都合で次回に持ち込みます。
5千文字を目途にしていたのに7千オーバーってどういうことなの……。

それはさておき、本編第18話、どうぞご覧ください。


 電話をかけてから様子がおかしい尊を4人が不審に思っていると、当の本人はバツの悪そうな顔で溜息を一つ。シンクに電話を返しながら言いにくそうに打ち明ける。

 

 

「シンク、どうやら俺とおまえは同じ地球でも違う世界の地球出身らしい」

 

「同じ地球でも違う世界……ですか?」

 

 

 話を聞いていたエクレールが要領を得ないといった風に尋ねると、そうだと返して尊は続ける。

 

 

「フィリアンノ城で期限について聞いていた時点でまさかとは思っていたんだ。春休み云々と言っていたことからシンクの中では今日の日付が3月半ばだろうと思うが、俺が最後に確認した暦は9月……秋に差し掛かろうって時期だ。時系列の問題だけかとも思ったが、さっき電話をしたのは俺の実家の番号だったのに、結果は全く知らない家につながった。これらを統合すると出てくる答えはさっき答えた通り、同じ地球でも違う世界の出身にたどり着いたという訳だ」

 

「じゃ、じゃあ自力で帰れるかもしれない方法っていうのは……」

 

「俺の世界はともかく、シンクの世界に行くのは確実と言えなくなる。如何せん俺も、この手段は一回しか使ったことがないからな……すまない、期待させておいてこんな結果になってしまって」

 

「あ、頭を上げてくださいよ! それにこんなことになるなんて、誰もわからなかったんですし」

 

「そうであります! それにまだ帰還方法の捜査は始まったばかりであります! 諦めたらそこで終わりなのでありますよ!」

 

 

 頭を下げる尊にシンクは慌て、リコッタは自分が何とかしてシンクを元の世界に戻る方法を見つけなければと強く決意した。

 その様子を見ていたエクレールも装置に備えられた通信機を手に取り、フィリアンノ城にいる兄へ向けて経過報告の連絡を取る。

 

 

『――そうか、勇者殿と尊殿は同じ世界の出身ではなかったのか』

 

「ですが、勇者が元の世界と連絡を取ることに成功しているので、まだ希望はあるかと」

 

『うむ。では引き続き、エクレールは勇者殿たちと行動を共にしてくれ――ああそれと、先ほど連絡があって、ダルキアン卿と隠密筆頭がもう間もなく戻られるそうだ』

 

「本当ですか!? それは心強い!」

 

『そのあたりの説明をしながら城へ戻ってきてくれ。今からなら、姫様のコンサートにも余裕で間に合うだろう。ああ、別に尊殿たちにダルキアン卿たちのことは話しても構わない。遅かれ早かれ、レオンミシェリ閣下が情報を伝えるだろうからな』

 

「わかりました。では」

 

 

 受話器を戻すと四つの視線がエクレールに集中していた。その中で一番彼女と親交があるリコッタが代表して問いかける。

 

 

「エクレ、何か朗報でありますか?」

 

「ああ、ダルキアン卿がユキカゼと共に戻ってこられるそうだ」

 

「本当でありますか!?」

 

 

 心底嬉しそうな声を上げるリコッタに対し、その二人を知らない尊たちは頭にハテナを浮かべ尋ねる。

 

 

「えっと、どなたですか?」

 

「ダルキアン卿はビスコッティが誇る最強の騎士で、ユキカゼは私やリコの大切な友人です」

 

「お二人とも、ものすっごく強いのであります」

 

「へぇ、どれくらい?」

 

 

 シンクの質問に二人は顎に手を当てて思案し、それぞれが特徴を上げる。

 

 

「ダルキアン卿の本気は見たことがないが、レオ閣下と同等かそれ以上というのを聞いたことがある」

 

「ユッキー……っとと、ユキカゼもビスコッティ騎士団の中でも上から数えた方が早いのであります」

 

 

 自分とエクレールをあしらったレオと同等かそれ以上と聞いてシンクは純粋に驚き、レオの力の一端を垣間見た尊は魔王城での死闘を潜り抜けたという自信を無くしそうになった。

 無論、尊も精神コマンドや魔法をフル活用すれば一矢報いることは可能かもしれないのだが、基礎能力の時点で大きく負けているのがわかっているためどうにも前向きになれない。

 

 ――こんなんじゃ、ラヴォスを倒すなんて夢のまた夢だな。

 

 自嘲する尊を余所に、エクレールは話を進める。

 

 

「二人の話は移動しながらまた教えるとして、我々も送還の調査と姫様のコンサートに備えて一度城に戻るぞ」

 

「姫様のコンサート?」

 

 

 聞きなれない言葉にサラが尋ねると、リコッタが誇らしそうに語りだす。

 

 

「今回の戦でビスコッティが勝利しましたので、戦勝イベントとしてフィリアンノ音楽ホールにて姫様が自らステージで歌われるのでありますよ!」

 

「我らの主、ミルヒオーレ姫はこのフロニャルドにおいて世界的に有名な歌い手なのです。ここしばらくは戦興行の関係でなかなか機会に恵まれませんでしたが、今日は久しぶりに拝聴できるということもあり皆楽しみにしています」

 

「なるほど。で、リコッタはそのコンサートが始まるまで調査を進めるということか」

 

「そういうことであります」

 

「お二人はどうされますか? コンサートは国中に中継されますが、ホールでお聞きになるというのでしたら早めに席を確保する必要がありますが」

 

「そうだな……」

 

 

 まだ彼女たちの姫様とやらがどんな人物かわからないが、エクレールにここまで言わせるのだから相当高い歌唱力を持っているのだろうと尊は推測する。

 生で聞いてみたいという気持ちがないわけでもないが、それよりも優先するべきものがあるとその考えを振り払う。

 

 

「俺はちょっとレオンミシェリ殿に話をつけたいことがあるから、遠慮させてもらおうかな。 サラ様はどうされますか?」

 

「私もミコトさんと同じで構いません。中継されるのでしたら、そちらで拝聴させていただきますし」

 

「わかりました。ではこのままレオ閣下の元に戻られますか?」

 

「ああ。あとできればガレットの陣営まで案内を頼みたいんだが、いいか?」

 

「分かりました。では、早速移動しましょう」

 

 

 エクレールの合図で各々が撤収の準備を始め、片が付くと同時にやってきた道を引き返した。

 

 

 

 

 

 

 尊とサラがエクレールにガレットの陣営まで連れて行ってもらった頃、見晴らしのいい場所からフィリアンノ城を眺める四つの影があった。

 

 

「姉上を倒したってことは、やっぱその勇者っヤツはつええのか?」

 

「そのようです。戦闘スタイルは軽装戦士型、ガウ様と同じタイプのようです」

 

「エクレちゃんと協力したとはいえ、レオ様を撃破した実力は確かなものだと思いますよ」

 

「せやな。しかもあれ、ガウ様ほどじゃない思うけど間違いなくもっと伸びんで」

 

 

 マントをなびかせる銀髪の少年に答える三人の少女。

 黒、緑、黄色と何ともカラフルな三人の答えに満足したのか、少年はニッと笑う。

 

 

「面白れぇ。姉上の敵ってわけじゃねえが、いっちょ遊んでやるとすっか」

 

 

 楽しそうに準備を始めようとする少年――ガレット現領主の弟、ガウル・ガレット・デ・ロワは親衛隊ジェノワーズであるノワール・ヴィノカカオ、ジョーヌ・クラフティ、ベール・ファーブルトンの三人を引き連れてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 シンクたちと別れた後、俺たちは兵たちに尋ねながらどうにかレオンミシェリ殿の天幕まで戻ってくることに成功した。

 中に入るなり目に飛び込んだのはどこか不満げな表情でワインを傾ける彼女の姿だったが、あちらも俺たちの存在に気づくと手にしたワインを側にいた女性に預け、笑みを浮かべて迎え入れる。

 

 

「よく戻った。 どうじゃ、何か進展はあったか?」

 

「ええ、良くも悪くも実りのある話ができました。それで、レオンミシェリ殿にお願いがありまして……なんでしょう?」

 

 

 お願いといったあたりからレオンミシェリ殿の表情がどこか不満そうなものへと変わり始めた。なんだ、言葉遣いにまずい表現でもあったか?

 粗相をしたのではないかと内心ドキドキしていると、彼女がおもむろに口を開く。

 

 

「堅苦しいのぉ……。ワシのことは殿と呼ばず、閣下と呼んで構わぬのだぞ? 名も略称で構わん」

 

 

 どうやら呼び方がお気に召さなかったようだ。確かにそっちの方がこちらとしても呼びやすいが、出会って間もないのにそれでいいのだろうか?

 そんな俺の思いを代弁するように、サラが今俺が思ったことをそのままに尋ねる。

 

 

「よろしいのですか? こう言っては何ですが、私たちはまだお互いをよく知らないのですけど」

 

「なに、既にお主たちとは知らぬ間柄ではないからな。それに名を許すくらいであれば、ワシとしても特に問題ない。ただサラ殿はともかく、ミコト殿は呼び捨てになるがな」

 

「……わかりました。では改めまして――レオ閣下にお願いがあります」

 

「うむ。なんじゃ?」

 

 

 訂正された内容に満足したのか、今度は笑みを浮かべて閣下が頷く。

 

 

「現在、ビスコッティでは勇者を送還させる方法を学術研究院が総力を挙げて探してまして、個人的にその手助けをガレットで出来ないかと考えているのですが」

 

「送還じゃと? 確か勇者召喚の前提では召喚された者は、どう足掻いても元の世界に戻ることは叶わんはずじゃが」

 

「つい先ほどのことですが、学院首席のリコッタ・エルマールの装置が功を奏して、元の世界と通信を取ることに成功しています。通信という手段が成功した以上、その先の成果も見込めるかと」

 

「なるほど。 確かに我がガレットもこれから先、戦況次第で勇者を召喚せんとも限らん。その時になって同じ問題が発生するくらいならば、今のうちに解決策が見つかってくれた方がありがたい」

 

「ということは――」

 

「うむ。本国に戻り次第、書籍の開放を許そう。発明王の助言が必要とあらば、書籍の持ち出しも許可する」

 

 

 なんという大盤振る舞い。

 確かに今ビスコッティが四苦八苦している状況が自分たちのときに発生するよりはいいのだろうが、まさか国外への持ち出しも許可されるとは。

 あとは言語の壁さえ乗り切ればどうにかといったところか。そこは城の人たちに協力してもらうとしよう。

 

 

「では早速――」

 

 

 お願いしますと口にしようとしたところへ、突然辺りから陽気なトランペットの音が鳴り響く。

 それに連動するように近くにあった映像盤が起動し、四つの影が映し出された。

 見たことのない三人が誰かを見下ろしており、真ん中にいる黒い少女の腕には――

 

 

「――なっ、ミルヒ!?」

 

 

 レオ閣下の口から驚愕とともにビスコッティの姫の愛称と思われるその名が発せられ、複数のライトが三人を照らし出す。

 

 

『我ら! ガレット獅子団領!』

 

『ガウ様直属! 秘密諜報部隊!』

 

『ジェノワーズ!!』

 

 

\デデーン!/

 

 

 コミカルなBGMとライトアップに合わせて両側のふたりがポーズをとり、三人が同時に名乗ると戦隊物の登場シーンの如く背後で爆発とともにイメージカラーに合わせた煙が噴出する。

 …………他国の人間が一国の姫の口を封じていたり、秘密諜報部隊なのに堂々と名乗ったり派手な登場をしていたりとツッコミどころが多すぎてどこから突っ込んでいいのかわからんが、そんな俺たちを置いてけぼりにして三人は画面外に隠れていたもう一人――ビスコッティの勇者シンクに向けて告げる。

 

 

『ビスコッティの勇者。あなたの姫様は私たちが攫わせていただきます』

 

『うちらはミオン砦で待っとるからな。助けるんやったら、そこまっで追ってきや』

 

『姫様のコンサートまで約一刻半。それまでに間に合うかしら?』

 

 

 一刻半って確か現代時間で換算すると45分くらいだよな?

 え、それを承知でこんなことしてるのか?

 

 

『つまり、大陸協定に基づき、要人誘拐奪還戦を開催させていただきたいと思います。ちなみにこちらの兵力は、ガウ様直轄の精鋭部隊200人』

 

『ガウル様は勇者様との一騎打ちをご所望されているわ』

 

『この申し出を断ったら、姫様があーんなことやこーんなことされてまうかも知れんで?』

 

 

 あんなこと云々をやけに強調しているが、閣下はそれを了承しているのか? さっきの反応を見る限り絶対あり得ないと思うんだが……。

 

 

『さあ、返答はいかに?』

 

『――受けて立つにきまってる! 僕は姫様に呼んでもらった、ビスコッティの勇者シンクだ! どこの誰とだって、戦ってやる!』

 

 

 力強い啖呵と共にシンクが堂々と答える。

 そして町の住人はただのイベントだと思っているのか、離れているにも関わらず非常に大きな歓声がこの天幕にまで届いた。

 

 

『了解。これで戦成立とさせていただきます』

 

『では予告通り、私たちはミオン砦でお待ちしてますね』

 

『好きなだけ戦力連れてきたらええからな。んじゃ、楽しみにしとるで!』

 

 

 それだけ言い残しジェノワーズと名乗った三人は姫様を抱えてあっという間に離脱し、中継も終了する。

 

 

「レオ閣下。これはいった……い…………」

 

 

 訪ねようとしたサラの声が途中から小さくなり、不審に思って視線を閣下に向け――

 

 

「――あんの……馬鹿どもがぁ!」

 

 

 ブワッと、恐怖と共に冷や汗が全身に噴き出した。サラも閣下の怒りに中てられ小さな悲鳴と共にビクリと肩を震わせ俺に抱き着く。

 泣く子も黙りそうなほどの怒気をまるで隠さず、ぎりぎりと拳を握り締めて閣下はそばにいた女性に向けて口を開いた。

 

 

「ビオレ! ゴドウィンは!?」

 

「申し上げにくいのですが、将軍は先刻ガウル殿下の召集を受け、現在ここにはおりません」

 

「チッ! よりにもよってこのタイミングでなんてことをしでかしてくれたのじゃ、あの愚弟は!」

 

 

 忌々しそうに舌打ちする姿を見て、これが彼女にとっても知らない状況となっていることが容易に理解できた。

 しかし愚弟? ということは、ガウル殿下とやらが閣下の弟になるわけか。あの三人娘もガウ様直属とか言っていたし、今回の騒動はその弟が発端ということになるのか。

 だが今重要視するのはそこではない。コンサートまで一時間を切っているため悠長にしている時間もなく、最悪コンサートが中止になる可能性があるということだ。

 負けた国が戦勝国の催しを妨げたとあれば、国の信用失墜は免れない。さっきの大盤振る舞いな件もあるし、少し働かせてもらうとするか。

 

 

「閣下。よろしければ俺がそのミオン砦とやらに先行して即刻中断を伝えてきましょうか? ゴドウィン将軍がいるなら、少しは話が通るかと思いますが」

 

「いや、これはビスコッティとガレットの問題じゃ。お主らが首を突っ込むことではない。それに勇者が宣戦布告を受けた以上、これは大陸協定に基づいて公式の戦と認定された。ワシはともかく、わざわざ負けることに兵たちが納得するはずがない」

 

「ですが早急にこれを解決しなければ、ビスコッティのみならずガレットにも損失を与えることになります。一回の敗北と今後を考えた場合の問題を天秤にかけた場合、どちらが重要となるかは明白では?」

 

「…………」

 

 

 俺の言葉が意外だったのか、閣下は目を丸くする。

 

 

「……お主、意外と頭が回るのだな」

 

「失敬な。戦うことしかできない男だと思っていたんですか?」

 

「冗談だ、そう怒るでない」

 

 

 そういって閣下は小さく笑い、あごに手を当てて考え込む。

 すぐに算段が付いたのか、10秒もしないで顔を上げるとビオレさんに指示を出す。

 

 

「ビオレ、ミコトにセルクルを貸し与えよ。それと、ここからミオン砦までを記した地図もだ」

 

「かしこまりました」

 

 

 すぐさまビオレさんが退室し、閣下の視線が再び俺に定まる。

 

 

「そういうわけじゃ。ワシもビスコッティ側に話をつけてからすぐ行くが、くれぐれも無茶をしてくれるな。ワシらと違って、異世界人は怪我をしても"けものだま"になれぬのだからな」

 

 

 "けものだま"というのはおそらく、戦場で撃破した兵たちが姿を変えたような現象のことなのだろう。

 まあUG細胞改のおかげでそう簡単にやられることはないだろうから、多少ゴリ押ししても問題ないな。

 あとは同中に加速を使えば時間短縮にも……いや、まてよ。俺自身に加速がかかるわけであって、騎乗するセルクルにそれが適用されるとは考えにくい。

 ならグランとリオンからもらったヘイストの鉢巻きをセルクルに巻き付けるか? だが戦いの最中にはぐれて回収できなくなったら非常に困る。この鉢巻きは原作でも存在しなかった試作アイテムだが、その効力を失うのは余りにも惜しい。

 

 

「あの、レオ閣下」

 

 

 不意に隣から声が上がり、俺と閣下の視線が集中する。

 小さく手を挙げたサラが、何かを決めた目で口を開く。

 

 

「私もミコトさんについていきたいのですが、構いませんか?」

 

「……なんですって?」「なんじゃと?」

 

 

 予想外の言葉に閣下と揃って声を上げる。何せこれから向かう場所は戦場の最前線であり、とてもじゃないがサラのような人が加わる場所ではない。

 閣下もそれをわかっているのか、鋭い視線でそれを指摘する。

 

 

「サラ殿。ミコトがこれから向かう場所がどういう場所か、そなたは身をもってわかっておられるはずだ」

 

「ええ、十分に」

 

「では何故、自ら進んで同じ場所に向かおうとされるのか?」

 

「深い理由はありません。ただ皆さんが動いている中、じっとしているのが嫌なんです。それに私の魔法なら、ミコトさんをサポートすることも十分に可能です」

 

 

 俺たちにしか使えない魔法という概念を思い出したのか、閣下は一瞬言葉に詰まる。おそらく、魔法の有用性がどれほどのものか測りかねているのだろう。

 しかし、サラが使う魔法か。

 

 

「ちなみにお伺いしますが、サラ様の使用される魔法はどんなものがありますか?」

 

「ケアルガ、マジックバリア、ヘイスト、プロテクト、サンダガ、アイスガ、ファイガ、そして未完成ですが、コキュートスという魔法があります」

 

「コキュートス?」

 

「私が作った最大級の氷魔法です。ですが、まだ試射も済んでいないものなので効果は未知数です」

 

 

 なるほど。攻撃魔法が兵たちを"けものだま"にすることができるのかわからないが、それを封印しても補助魔法のレパートリーは文句の付けどころがない。しかもヘイストまで使えるとなれば、先ほどセルクルにつけようか悩んだ問題も解決する。

 身の安全に関しては……俺が頑張ればいいか。

 

 

「閣下。俺の知る限りサラ様の魔法はすべて戦闘で役立つものです。しかも今の自分たちに必要な速さを底上げする魔法があるのは、特に大きいです」

 

「サポートには事欠かんということか。じゃが、お主はそれでいいのか? 仮にも姫を戦場へ引きずり出すのじゃぞ?」

 

「俺はサラ様の思いを尊重したいと思います。それに、身の安全は俺が全力をもって守り抜きますよ」

 

「……そうか」

 

 

 嘆息し、閣下は俺に何か言おうとしたが、かぶりを振って最早何も言うまいと小さくこぼす。

 

 

「ならばガレット獅子団領領主として依頼する。ミオン砦に先行し、可能な限り事態の収束を行ってもらいたい。こちらも話がつき次第、早急に砦へ向かう」

 

「了解」「わかりました」

 




本編第18話、いかがでしたでしょうか?

私情により次回の投稿は少し遅くなるかと思われますが、それでも一月以内に投稿できるよう努力しますのでどうかお待ちください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話「ミオン砦の攻防」

どうもこんばんわ、先日兄が結婚式を挙げた際、礼拝堂の素晴らしいステンドグラスを見た時にクロノトリガーの王国裁判が頭を過ぎった作者です。

さて、今回はJumper -IN DOG DAYS-の7話と8話を圧縮したような展開となっています。
あちらと違って尊がガレット側についているため、終了への展開が速くなりました。
また、前回と比べてユキカゼの出番がちょっとだけ増えました。本当にちょっとです、ユッキーファンの方々、申し訳ありません。

それでは、本編第19話、どうぞご覧ください。


 日もとっぷりと暮れた中、月に照らされた街道を駆け抜ける影が一つあった。

 一騎のセルクルに騎乗している二人は出発時に受け取った地図を頼りに、最短距離で目的の砦へと進んでいた。

 

 

「サラ様、あとどれくらいですか?」

 

「先ほど三つ目の分岐を過ぎたので、次の分岐を左に行けばもうすぐです」

 

 

 手綱を握る尊が自分の前で地図を広げるサラの言葉に頷き、自分に課せられた任務を思い返す。

 ミオン砦についたらまずゴドウィン将軍と合流し、レオの言伝を今回の発端であるガウルに取り次いでもらうよう依頼する。

 これで話が終わればそれでよし。しかし――怒れる姉の言葉を無視するとは思えないが――ガウルがそれを受け入れず戦を続行するのであれば、力でねじ伏せても構わないとのことだ。

 子供相手に全力を出すのも大人気ないが、レオからガウルもガレット国内では指折りの実力者だと伝えられている。

 下手に手加減しようものなら逆にやられると忠告を受けては、子供と見ないほうがいいだろうと尊は自分に言い聞かせた。

 

 ――出発前に紋章術を教えてもらったが、俺のはほとんど付け焼刃だ。余り頼ることはできない以上、できれば穏便に済んでもらいたいところだ。

 

 頭の中でそう呟きながら、少し前にレオから聞いたこの世界特有の技術である紋章術について思い返す。

 紋章術とはこのフロニャルドの大地に眠るフロニャ力というものを集め、自分の命の力と混ぜ合わせることで『輝力』というエネルギーに変換する技術を差し、レオがすり鉢エリアで起こした大爆発もこの紋章術の派生技である紋章砲というもので、紋章術は使い方次第で様々な応用が可能となるとのことだ。

 尊もサラもその場で簡単な輝力の発生を試したが、サラがすんなりと発動させたのに対し、なぜか尊は不安定な発動となった。

 これを見てレオはサラの結果は才能によるもので、尊の結果は修練不足と下した。その言葉に尊は少なからず気落ちし、この問題が終わったら調査の合間に訓練しようと秘かに決意したという。

 二人を乗せたセルクルはやがて四つ目の分岐に差し掛かり、尊は先ほどサラが言ったように進路を左へと切る。

 しばらく駆けると前方が明るくなり、熱気の籠った声が耳に届き始める。

 近い、と思った時点で二人の視界は既に篝火で照らされた砦を捉えていた。

 

 

「この騒ぎ……もしかしたら、もうシンク君たちが突入しているのかもしれませんね」

 

「レオ閣下もあいつらのほうが早いだろうと言っていましたし、そうだとしてもこれは想定の範囲内ですね」

 

 

 むしろ自国の姫が攫われたのだから真っ先に動いて然るべきなので、騒ぎの原因がシンクたちだとしても二人は特に気にしない。

 やがて逃げ出せないようにしたと思われる閉ざされた正門に辿り着き、そこを守る兵が尊たちに気づいて武器を構える。

 

 

「止まれぃ! お前たちは何者だ!?」 

 

 

 守備の指揮をしている騎士が声を張り上げ、尊はセルクルを停止させつつ声を張り上げる。

 

 

「こちらはガレット獅子団領領主、レオンミシェリ閣下の使いだ! 今回の戦について、閣下より言伝を預かっている! 至急ゴドウィン将軍に取り次ぎ願いたい!」

 

「閣下の使いだと? 証拠はあるのか!?」

 

「残念ながら急ぎで来たため証拠たり得るものを俺たちは持っていない! だが将軍に流浪人の尊とサラ姫が来たと伝えればそれで通ると言われている! 将軍に確認してくれ!」

 

「将軍は今、ビスコッティの戦士と戦っている最中だ! 邪魔をするわけにはいかん!」

 

 

 その返答に尊は一瞬呆気にとられ、信じられないといった風に問いただす。

 

 

「領主の使者より戦が大事だというのか!?」

 

「そういうわけではない! だがお前たちが閣下の使いだという証拠がない以上、そう簡単に話を通して将軍の戦いに水を差すわけにもいかん!」

 

 

 確かに証拠がないから取次ぎできないという騎士の言い分は通っている。

 しかし確認すれば済むことなのも確かであり、尊は時間が浪費されることに焦燥感を抱きながら再度自身の主張を述べる。

 

 

「これは水を差す云々の問題じゃない! 国の今後にかかわるから急いでいるんだ! いいから将軍に取り次いでくれ!」

 

「だから閣下の使いだというのなら、将軍の戦いの邪魔をしないで証明できるものを用意しろ! 武人の戦いを邪魔するなど、我らにはできん!」

 

「……どうしてもダメか!?」

 

「ダメだ!」

 

「ならば仕方ない!」

 

 

 このままでは平行線だと判断すると、尊は間髪入れずサテライトエッジを召喚。ブラスターに変形させ閉ざされた正門に銃口を向ける。

 明らかな攻撃態勢に兵たちは動揺し、騎士が慌てて剣を抜く。

 

 

「き、貴様! 何のつもりだ!? 閣下の使いというのなら我らの味方ではないのか!?」

 

「お前と話してダメだというのなら、ここを無理やりにでも突破して直接将軍に伝えるまでだ! 『熱血』!」

 

 

 精神コマンドで火力を押し上げ、躊躇いなくトリガーを引く。

 放たれた光の一撃は兵たちを飲み込み、凄まじい音と共に後ろにあった門を破壊する。攻撃が止んだ後に残ったのは"けものだま"となった無数の兵たちと、ぽっかりと開いた砦への入り口だけだった。

 

 

「……やりすぎましたかね?」

 

「そうかもしれませんが、あのままでは話が進みませんでしたし。私はこれでよかったと思いますよ?」

 

「そう言っていただけるとありがたいです」

 

 

 流石の尊も過剰攻撃かと焦ったがサラの言葉で少し気が楽になり、改めてセルクルを走らせ砦へと突入した。

 その姿を、草葉の陰から見ていた者がいた。

 

 

「うっひゃー。凄まじい威力でござるな」

 

「まさかミコト殿にこんな力があるなんて、予想外でありますよ」

 

「まあしかし、これで砦に侵入しやすくなったでござるな。それに先ほどの話を聞く限り、レオ姫はこの戦を止めようとしているみたいでござるな」

 

「あの方の思考から推測して、間違いなくここにやってくるでありますよ。どうするでありますか?」

 

「ふむ……。あの使者殿の言葉を受けた敵将次第、といったところでござるな。とりあえずは物陰から様子見、といくでござるよ。リコ」

 

「了解であります、ユッキー!」

 

 

 

 

 

 

 尊たちの突入から時は少し遡る。

 ミオン砦の内部ではガレット兵に囲まれたシンクとエクレールが奮戦してどうにか中庭まで入り込んだものの、やはり戦力差が響いてついには通路の柱にまで追い詰められてしまった。

 突入当初こそリコッタの砲撃支援による面制圧で有利に進んでいたが、その彼女も抑えられ支援も得られなくなり万事休すといったところで、ロランより遣わされた思わぬ援軍に救われた。

 ビスコッティ騎士団隠密部隊頭領、ブリオッシュ・ダルキアン。

 その名と実績を知るガレットの兵たちは、湧き上がる動揺と畏怖を抑えることができなかった。

 『大陸最強』と言う異名を持ち、かつて単騎で千を超える敵を薙ぎ払い、そのまま敵将の撃破にまで至ったという実力は『天下無双』と呼ばれているレオを超えるかもしれないと言われるほどだ。

 そんな大物を前にして動きが鈍ったガレット兵の隙を突き、シンクとエクレールは砦の内部へと進攻。ミルヒオーレの奪還を継続。

 一方二人を見逃す形になったゴドウィンは、動揺どころか笑みを浮かべてダルキアンに相対する。

 

 

「まさかこのような場所でビスコッティの最強戦力に相見(あいまみ)えるとは……。武人として、これほど名誉なことはないな」

 

「そう言われると照れるでござるよ。 では、貴殿が拙者の相手でよろしいか? 斧将軍殿」

 

 

 ダルキアンの指名にゴドウィンはこれから訪れるであろう戦いに心を躍らせ、快諾しようと口を開く。

 

 

ドォォォォォォン!!

 

 

 しかし、その意気込みは突如響いた轟音によってかき消され、その場にいた全員が何事かと音の方角へと首を向ける。

 正門の方角から粉塵が立ち込め、兵たちが「敵襲!」と叫びながら武器を手に突っ込む。

 しかし煙の向こうに進んだものは例外なく"けものだま"に変貌し、異常を感知して誰も進まなくなると一騎のセルクルが土埃を突っ切って現れた。その姿を見てゴドウィンとダルキアンの両名が反応し、片方が声を上げる。

 

 

「ミコト殿にサラ殿!? 何故ここへ!?」

 

 

 予想外といった風にゴドウィンが声をあげると、彼を発見した尊はサテライトエッジを収納しながらセルクルを寄せて地面に降り立つ。

 

 

「将軍。レオ閣下からガウル殿下へ言伝があります。取次ぎを願えますか?」

 

「閣下から言伝だと?」

 

 

 訝しむゴドウィンだが、尊から告げられた言葉で一変する。

 

 

「『さっさとバカ騒ぎを止めよ。ワシが到着するまでに終わらなければ、どうなるかわかっておるな?』とのことです」

 

「ぬぅッ!?」

 

 

 彼は一瞬で理解した。もしこのまま戦が続けば、主たるガウルは怒れる姉の制裁を免れることはできないと。

 そして傍らで話を聞いていたダルキアンもその未来が容易に目に浮かび、おやおやと苦笑いを浮かべた。

 

 

「閣下は現在ビスコッティ側に謝罪の報を入れており、そちらが片付き次第こちらへ来られるとのことです。時間としてもそう余裕はないと思われますので、双方のためにも可及的速やかに動いたほうがよろしいかと」

 

「むぅ……し、しかし……」

 

 

 領主の最もな命令を受諾するのは騎士として当然のこと。だが敬愛するガウルの命を簡単に覆す器量を持ち合わせていないゴドウィンは二つの命令の間で揺れ動く。

 周りの兵たちも領主から戦中止の命令が下ったと知らされ動揺が伝播し、どうなるのかと一同して将軍の言葉を待つ。

 しかしそんな時間も許されないとばかりに、城壁の上から声が響く。

 

 

「御館様ー! 敵の増援が参りまーす!」

 

 

 御館様という単語を聞いて思わずあの家臣たちが次元の壁すら超えてやって来たのかと思った尊だが、耳に届いたのが少女の声だったことから落ち着いて違うと判断する。

 声の出所を見てみると、忍者装束にキツネの耳と尻尾を生やした少女が手を振っていた。

 少女、ユキカゼ・パネトーネの呼びかけにダルキアンが声を上げる。

 

 

「戦力はどれほどか、ユキカゼ!」

 

「それが、レオ姫様が一騎駆けでいらしているのでありまーす!!」

 

 

 同じ場所にいるリコッタからの報告に尊とサラ、そしてゴドウィンはぎょっとした。

 レオのことだからビスコッティへの連絡にそれほど時間はかからないだろうとは思っていたが、ここにくるまでもう少し時間がかかると思っていたからだ。

 土埃が晴れ破壊された門の向こうを注視してみると、砂塵を巻き上げながら凄まじい速度で接近する黒いセルクル――レオの愛騎ドーマが確認できる。

 そしてその上にはリコッタの言う通り、武装したレオ一人が騎乗していた。

 

 

「……将軍、タイムリミットです」

 

「……そうだな。申し訳ありませぬ、殿下」

 

 

 ゴドウィンは何もできなかった己を振り返りながらもう一人の主に謝罪しつつ、ついに目の前までやってきたレオの足元に跪く。

 その姿をレオは一瞥し、今度は尊たちへと視線を移す。

 

 

「ミコト。この様子からしてガウルにまで話は進んでいないようだが、ここに着いたのはいつじゃ?」

 

「つい先ほどです。そこの門を守護していた兵と少々問答がありまして、最終的に実力行使で砦に入らせていただきました」

 

 

 尊の報告を聞いて「なるほど」と門が破壊されていたことに納得しつつ、次いでもう一人の人物に視線を向ける。

 

 

「久しいの、ダルキアン」

 

「ご無沙汰でござる、レオ姫」

 

「うむ。じゃが今のワシは領主じゃ。姫と呼ぶでない」

 

「これは失礼」

 

 

 レオは一つ頷いてドーマから飛び降りると、手にした武器を担いでダルキアンに歩み寄る。

 

 

「ダルキアン、そこをどけ。ワシはこの下らん戦を終わらせるためにガウルに話がある」

 

 

 明確に発せられた戦を終わらせるという言葉。

 一分一秒が惜しいこの状況、ビスコッティ側としては――耳を疑いたくなるが――ありがたい申し出である。

 

 ――とりあえず閣下が来たことだし、これで戦も……

 

 

「申し訳ありませんが、それはできませぬ」

 

 

 戦もスムーズに終わるだろうと尊が思ったところでダルキアンから否定的な声が上がり、一同は面食らう。

 続いてそんなことを言っている場合ではないと言うのにどうしてそんな言葉が出たのか、という疑問が頭に埋め尽くされた。

 

 

「どういうつもりじゃ、ダルキアン」

 

「ここが戦場であり、某とレオ様は敵対している以上、相まみえては刃を交えるのが当然というもの」

 

「なるほど、一理あるな。だが、本音はどうじゃ?」

 

「少々、お尋ねしたいことがございましてな。早急に知りたいことですのでここで話を聞かせていただきたい。しかし、レオ様がそれでも先に進みたいと言うのであれば――」

 

「……推して、通れということか」

 

 

 剣呑な空気が漂い、レオが紋章を顕現させてダルキアンと相対する。

 

 

「よかろう。だが、ワシを以前のワシと思うでないぞ。最早、貴様が相手でも引けを取らぬぞ!」

 

「承知いたしました。 では、尋常に――」

 

「「――参る!!」」

 

 

 『天下無双』と『大陸最強』の異名を持つ二人が激突し、辺りに衝撃波が走った。

 

 

 

 

 

 

「将軍! 今のうちにシンクとガウル殿下に戦終了のお知らせをしに行きましょう! 今二人を止めれば彼らに下される刑は(保証しないけど若干くらいは)軽くなるはずです!」

 

 

 激しく剣を打ち合わせるダルキアン卿とレオ閣下の戦いを横目に見つつ、心の中で一部付け足しながら俺は将軍に提言する。

 しかし返ってきたのは苦い表情のまま唸るように否定する将軍の言葉だった。

 

 

「無駄だ。閣下のお怒りに触れた時点で、ガウル殿下に制裁が回避されるという未来が存在せん。ならばせめて、閣下の怒りが落ちるその時まで殿下に勇者との戦いを提供するのが、俺たちにできる唯一のことだ。何より殿下と勇者が戦っている場所へは、あの通路を使わねばならんのだ」

 

 

 指さされた場所は少し離れた正面の通路だ。だがそこへ行くには――

 

 

「ぬんっ! せぇやッ! うおおおおおッ!!」

 

「ふんっ! そぉいッ! はあああああッ!!」

 

 

 キンッ! ガキィッ! ガガガガガガッ!!

 

 

 ――凄まじい攻防を繰り広げる二人の間、もしくは周りを通らなければならないのだ。

 しかしど真ん中は最も攻防が激しいので論外。さらに周りは周りで二人が縦横無尽に動き回っているため、巻き込まれる可能性が非常に高い。しかも動きが速く、紋章術で斬撃を飛ばしたりしているからとてもじゃないが無理をしても通ろうという気にもなれない。

 俺一人なら加速と集中、ブーストアップのゴリ押しで行けるかもしれないが、砦を知る将軍がいないと道に迷いそうだしサラを置いて行くなどもってのほかだ。

 となると、必然的に残されるのは「二人の戦いが終わるのを待つ」という選択肢だけだ。

 それかシンクが既にガウル殿下を撃破して姫様を救出し、現在進行形でビスコッティに全力帰還中という非常に低い可能性に賭けるしかない。

 だが断言しよう。この戦における総大将――ガウル殿下がやられたという宣言がない以上、二人の戦いはまだ終わっていないだろうと。

 現状、どうにもならないことを突き付けられた気分になりながら俺たちは閣下たちから気持ち離れて戦いの様子を眺める。

 数合の打ち合いを経て鍔迫り合いに持ち込まれると、二人の会話がこちらにまで聞こえてきた。

 度重なるガレットの侵攻はいつもの戦興行だというレオ閣下だが、それが原因でロランさんは頭を悩ませ、ミルヒオーレ姫のコンサートや一般のイベントが行われなくなっているとのことだ。

 戦興行をやるには問題ないかもしれないが、他国のイベントを潰しまくるのは正直どうなんだ? イベントスケジュールを調整して行えばそんなことも起きないと思うが。

 

 

「将軍。戦興行には他国のイベントを潰してまで開催しなければいけない理由とかあるのですか?」

 

「いや、特にそういう物はない。だが、国同士のイベントの方が規模の関係で優先されるケースがある」

 

「……なるほど、興行収入などを考慮してですね」

 

 

 サラのつぶやきに俺も「ああ」と納得する。確かに利益計算をした場合、大金が動く戦興行を選択する場合もあるだろう。

 だがそれを差し引いても話を聞いている限りガレット――いや、レオ閣下は戦興行をゴリ押ししている気がする。

 そもそもだ、戦よりもコンサートを見たがっている人だって大勢いるはずだ。その人たちの望みを押しのけてまで戦を行う理由があるだろうか。

 そんなことを考えていると戦況に変化があり、鍔迫り合いから弾けるように距離が取られ、両者が地面を滑る。

 

 

「――犬姫の、ビスコッティの提案する興行が楽しくないと言うわけではない――が、それだけでは若者の血気を癒すことができんのだ!」

 

「ふむ。確かにうちの領主さまは心優しい御方故、その辺りの機微には疎いかもしれませぬ。しかし、歳と経験を重ねればその点にも気を配れる立派な領主になれると、家臣一同信じております。それまで、どうかお待ちいただくことはできませぬか?」

 

 

 ミルヒオーレ姫の姿はジェノワーズが攫うときにちらっと見た程度だが、確かにあの若さで領主に就いたのなら経験不足はどうしても否めない。

 だが若いということは、それだけ将来に期待が持てるということでもある。周りが間違った教育をしなければ善政を行えるし、長期に渡って国民に慕われることもできるだろう。

 既に領主として国を動かしている閣下も、そこは分かる気がするんだがな。

 しかしそれとは別に、気になる言葉が耳に残った。

 

 犬姫。

 

 おそらくミルヒオーレ姫のことを差しているのだろうが、口調からして蔑みの言葉のようだった。

 だが天幕で彼女は心底心配した風に「ミルヒ」と愛称で呼んでいた。

 高々一時間足らずで人に対する考えが変わるとは思えない。となると、なぜ閣下はあんな言葉を使ったんだ?

 

 

「――――――か」

 

「ん?」

 

 

 不意に閣下が何かつぶやいたようだが、俺は最後まで聞き取れなかった。

 しかし、その表情はどこか焦燥感が感じられたような気もした。

 近くにいたダルキアン卿は僅かに眉を寄せていたが、閣下が再び臨戦態勢に入ったのを見て構え直す。

 

 

「今のワシは止まることが出来ぬ! 道を開けよ、ダルキアン!!」

 

 

 ガギィィインッ!!

 

 込めに込めた輝力の一撃が振り下ろされ、真っ向から受け止めたダルキアン卿はその力を殺しきれずそのまま弾き飛ばされた。

 

 

「……うむ、降参にござる」

 

 

 うつぶせに倒れたまま――それでも十分に余力を残しながら――小さな白旗を揚げ、ダルキアン卿は敗北宣言をした。

 

 

 

 




第19話、いかがでしたでしょうか?

次回でミオン砦編は終了し、出来ればガレットのヴァンネット城まで進めたいと思います。
なお、Jumper -IN DOG DAYS-と違ってこちらの二人は夫婦ではないのでイチャラブしません。(若干重要
イチャラブが見たいという方はJumper -IN DOG DAYS-へどうぞ。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。



おまけ

◇前書きで書いた礼拝堂でのやり取り◇

作者
「マールみたいにステンドグラスぶち破りたいな」


「クロノネタやめーやw」


「ここ裁判所ちゃうからそのネタ無理やで」

作者
「( ゚Д゚)あっ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話「その時のために」

どうもこんにちわ、SSDの性能に魅入られてHDDでのPC起動に戻れなくなってしまった作者です。

さて、今回は要人誘拐奪還戦の終了と尊がこれからどう動くのかを決定する話となっています。
前半の内容ほとんどがJumper -IN DOG DAYS-の流用ですが、ご容赦ください。

それでは、本編第20話、どうぞご覧ください。


 レオ閣下がゴドウィン将軍を引き連れて砦の奥へと進んでいくのを見届け、俺とサラは後を追う前に先ほど撃破されたダルキアン卿の元へと駆け寄る。

 外傷は皆無だが、何故か昼の戦場でダメージを受けたレオ閣下のように上着が破れ、下に着ていたインナーのみの姿となっていた。

 

 

「大丈夫ですか、ダルキアン卿」

 

「気遣いは無用にござる。拙者、体は少々頑丈なので問題はないでござるよ」

 

「……頑丈だからいい……のか?」

 

 

 サラの言葉にしれっと返すダルキアン卿だが、弾き飛ばされた際にぶつかったそれを目にして俺は疑問符を挙げずにはいられない。

 大きな石の柱へ背中からモロに突っ込んだことで柱の一部が大きく砕け、普通なら小さくはない怪我をしていたであろうにもかかわらずダルキアン卿は平然と立ち上がりどこからともなく取り出した荷物から替えの服に着替え始めていた。

 

 

「さて。レオ様が来られた以上、この戦も間もなく終わりでござろう。拙者は"けものだま"となった者たちの救護に向かうでござるが、お二人はいかがされるか?」

 

「俺たちは先へ進もうと思う。シンク――勇者やミルヒオーレ姫の安否も確認しないといけないし、レオ閣下に確認したいこともできた」

 

「承知したでござる」

 

 

 ダルキアン卿の言葉に頷いて返すと、それとほぼ同時に砦の奥からレオ閣下の怒声がビリビリと響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 奥へ向かう途中でガレットのメイドに遭遇した二人はミルヒがいる部屋までの案内を頼み、不自然に空いた壁の穴に首をかしげながら目的地へと導かれる。

 扉に手をかけた瞬間、先に到着していたレオが出てくるなり尊たちを一瞥すると何も言わずに立ち去った。

 声をかけるべきかと思った二人だが、彼女から感じられる妙な空気と中の様子が気になったこともありそのまま入室。そこには件のミルヒに先行したシンクとエクレール、ガレットの王子ガウル・ガレット・デ・ロワに同国メイド長のルージュ、そして<よりにもよってこのタイミングで>ミルヒを誘拐した親衛隊ジェノワーズが三人そろって頭にたんこぶを生やして気絶していた。

 

 

「あなたがミルヒオーレ姫ですね? 自分は流浪人の月崎 尊。そしてこちらが――」

 

「サラと申します」

 

「は、はい。勇者様からお話は伺っています。私は、ミルヒオーレ・フィリアンノ・ビスコッティです」

 

 

 お互いの自己紹介を済ませ、尊は続いてシンクの方に目をやる。あちこちで擦り傷が目立つが、それ以外は特に問題が見当たらなさそうであった。

 

 

「シンク、お疲れ様だ。あとはミルヒオーレ姫をコンサートに送り届ければ、全部解決だ」

 

「そのことなのですが、ミコト殿。今からではとても……」

 

 

 二の句を告げぬエクレールの表情はすぐれない。セルクルをもってしても、ここからコンサート会場まではどう考えても一時間はかかる。圧倒的なまでに、時間が足りない状況であった。

 しかしそんなエクレールの心配を余所に、シンクが思いついたように声を上げる。

 

 

「あの、姫様。僕が送りましょうか? 王子……えっと、名前なんだっけ?」

 

「ガウルだよ! 一発で覚えろよ!」

 

「そうそう! ガウルと戦ってたときに、輝力の使い方をだいぶ覚えたから大丈夫! 勇者超特急で一気に送れるよ!」

 

 

 自信満々に宣言してミルヒオーレを背負うシンクに誰もが呆然とし、尊は若干不安そうな顔をすると何かを決意したようにポケットからあるものを取り出す。

 

 

「正直不安だが、出来るというのならやり方は任せる――ただし、これをつけていけ」

 

 

 シンクの頭の鉢巻きを外し、代わりにポケットから出した――ように見せかけて亜空間倉庫から取り出した――ヘイストの効果が付与された鉢巻をつけてやる。

 

 

「尊さん、これは?」

 

「お守りだ。けど、事が終わったら返してくれよ。大事なものだからな」

 

「分かりました。 それじゃあ行こう、姫様!」

 

「は、はい!」

 

 

 ミルヒを背中に乗せたシンクは覚えたばかりの輝力操作で脚力を大幅に強化させる。

 紋章と共にオレンジの炎が両足に宿ると今度は尊とサラが驚き、ルージュは部屋の窓を開けて進路を確保。

 

 

「それじゃあ尊さん、サラさん、エクレール。いってきます!」

 

「お、おう」

 

「気を付けてくださいね」

 

 

 返事を受けたシンクはたった数歩の助走で大きく跳躍し、オレンジの弾丸となってあっという間に砦の向こうへと消えていった。

 初めて見る輝力の使い方に度肝を抜かれたが、これで自分たちの出番はないと判断した二人は新しい顔ぶれに対して自己紹介をすることにした。

 

 

「とりあえずはじめまして、ガウル殿下。俺は流浪人の月崎 尊です」

 

「私はサラ。よろしくお願いしますね」

 

「ガウル・ガレット・デ・ロワだ。ガウルでいいぜ。 こっちがメイドのルージュで、あそこでノビてんのが親衛隊のジェノワーズだ」

 

 

 側に控えていたメイド――ルージュがお辞儀をし、ガウルの指の先の三人を一瞥すると尊は早速事の顛末を尋ねることにした。

 

 

「とりあえず殿下、今回のことについて、話を聞かせていただけますか?」

 

「タメ口で構わないぜ。 まあ、事の発端といや、本当にオレの我がままなんだけどよ」

 

 

 改めて話を聞き要約したところ、今回の戦はどうにかしてシンクと戦いたくなったガウルがジェノワーズにセッティングを頼んだものの、彼女たちはガウルの命令を第一にしてビスコッティ側の事情などお構いなしにこの砦まで連れてきたとのことだ。

 コンサートがあるというのならばガウルも今回は見送るつもりだったが、それを知ったのがシンクと戦っている真っ最中で事態は既に手遅れの状態にあった。

 つまり、ミルヒのコンサートがあるという情報がちゃんと彼に伝わっていれば、本来ならば回避できたはずの戦だったということだ。

 

 

「今回はどうにか間に合いそうだから良かったですが、最悪の場合、ガレットに対してビスコッティ側が強い反感を覚えるきっかけになりかねませんでしたね」

 

「そういわれちゃ耳がイテェが、アンタの言う通りだ。それに状況を考えなかったジェノワーズもそうだが、元をたどれば同じように軽い気持ちで命令したオレの責任だ」

 

「自覚しているならそれでいい。次からはもう少し考えて行動するようにな」

 

「ああ。 エクレールもすまねぇな、迷惑かけちまって」

 

「いえ。ところで、ミコト殿とサラ殿はこれからどうするおつもりですか?」

 

 

 その問いに尊はレオとの間で取り決めたガレットでの送還探しを口にする。

 この答えにエクレールはなるほどと感心し、ガウルは腕が立ちそうな尊と戦う機会ができたことに喜んだ。

 

 

「ガレットで何かめぼしいものがあれば、すぐにリコッタに連絡を入れさせてもらう。 それとガウル、君の姉さんについて話を聞きたいんだが、いいか?」

 

「おう。オレが答えられる範囲ならな」

 

「ありがとう。――レオ閣下は、ビスコッティに対してなにがしたいんだ?」

 

 

 尊はこの砦に来てから浮き彫りになったレオに関する疑問を尋ねる。

 何故他国のイベントを取り消す事態にしてまで戦興行の開催を推し進めるのか。そしてダルキアンと戦っていた時や先ほどすれ違いざまに感じられた妙な空気が引っ掛かり、どうにも腑に落ちなかった。

 

 

「さあな、オレもそこまでは分からねえ。確かに最近ではかなりのペースでビスコッティと戦が開催されてはいるが、本人はいつもの戦興行だと言い張ってる。一応筋は通ってるし、一般兵も楽しんでるからオレとしてはそれ以上追及できねえ」

 

「……なるほど。 ルージュさんは?」

 

「申し訳ありません。私の方もわかりかねます」

 

「真意はレオ閣下にしかわからない、ということか」

 

 

 有力な情報が得られず少し残念そうにつぶやいた尊だが、側で聞いていたサラは暫し思案に耽っていた。

 

――言い方を変えれば、家臣や弟にも話せない事情があるという可能性もありますが……さすがに考え過ぎでしょうか?

 

 

「――おっ!」

 

 

 唐突にガウルが声を上げると、部屋に置かれていた映像盤が光を発しフィリアンノ音楽ホールの映像が中継で映し出された。

 ステージの上には衣装を纏ったミルヒがマイクを握っており、一同は無事に事が終わったことに大きく安堵した。

 

 

「間に合ったようですね」

 

「いやー、よかったぜ。 で、いつまで狸寝入り決め込んでんだ? おまえら」

 

 

 ガウルの呼びかけに気絶しているはずのジェノワーズの体がビクッと震え、ダラダラと不自然な汗を流し始めた。

 

 

「……ばれてた?」

 

「ばれてましたねー」

 

「ガウ様、いつから気づいてたん?」

 

「姉上が帰ったあたりからだな。 今回のことのケジメは帰ってからつけるとして、今はおまえらも見ろよ」

 

 

 頭頂部に大きなコブをこさえたまま、ジェノワーズはガウルに促されて視線を映像盤に移す。

 映像盤の先ではミルヒが挨拶を終え、持ち歌の「きっと恋をしている」を歌い始めていた。

 彼女の歌唱力と元の世界のライブと遜色ない――輝力が存在する分こちらの方が上かもしれない――演出に尊は感嘆した。

 

 

「世界的に有名な歌い手と聞いていたけど、まさかこれほどとはな」

 

「そうでしょう。姫様ほどの歌い手は、このフロニャルドにおいてそうは――サラ殿?」

 

 

 エクレールが目を見開いたまま動かないサラを不審に思い声をかけるが、彼女の視線はライブに釘付けとなっていた。

 

 

「……すごいですね」

 

 

 彼女がいたジールにも歌はあったが、慎ましやかなものがほとんどでこれほど派手に、そして心を揺さぶることはなかった。

 その反動があったためか、それ以外の言葉が見当たらなかったのだろう。その一言に、彼女が感じたことの全てが集約されていた。

 そんなサラが初々しく、尊はいつか自分の世界のさまざまなものを見せてあげたいと心から思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 コンサートがあった翌日。

 シンクからヘイストの鉢巻きを回収した俺とサラはレオ閣下とともにガレット本国へと移動し、今はヴァンネット城にあるレオ閣下の執務室でこの国における自分たちの処遇などについて話を受けていた。

 

 

「――まずお主たちの扱いだが、ワシの権限でガレット領内において賓客として扱うことにした。サラ殿は言わずもがな、ミコトはその護衛ということにしてある。これに問題はあるか?」

 

「とんでもありません。十分すぎるくらいですよ」

 

「俺も賓客扱いになるっていうのは、少し予想外でしたがね」

 

「昨夜の戦における働きなどを加味した結果じゃ。遠慮などするでないぞ?」

 

 

 フッと笑みを浮かべ側に控えていたビオレさんに目をやると、彼女は小さく頷いて二つの袋を俺たちに差し出す。

 受け取ってみると金属の擦れ合う音が耳に届き、ずっしりとした重みが手にかかった。

 

 

「それはワシからの餞別じゃ。この国――いや、この世界で何をするにしても資金は必要であろう?」

 

「ごもっとも。何分、着の身着のままあの世界からきましたから」

 

 

 あの世界とはもちろん俺たちがやってきたクロノトリガーの世界のことだ。

 いずれあの世界には戻る必要があるため、帰還に必要不可欠なサテライトエッジのチャージがこの世界ではどれほど溜まるのかこの一晩で検証してみた。

 結果、クロノ世界では一晩で2割弱のチャージ率だったのに対して、驚くことにこのフロニャルドではたった一晩で5割近くチャージが完了していた。

 なぜこうなったのかは明確にはわかっていないが、あの世界と違って月が二つあったりフロニャ力の存在することが絡んでいるのではないかと俺は思っている。

 だとしたらこの先、月が二つあったりその世界特有の力がある世界に流れついたら似たようなことが起こり得る可能性が非常に高い。まあ、これについては要検証だな。

 それはさておき。閣下は戦後処理などが残っているため数日はゆっくり話ができないということで、その間に俺たちは送還の調査や紋章術の訓練をしようという話に落ち着いた。

 この後にもルージュさんたちヴァンネット城のメイドたちが城内を案内してくれるそうだ。

 

 

「――ふむ、今決めることはこれくらいかの。 他に何か質問はあるか?」

 

「……そうですね」

 

 

 俺は一瞬、昨日のミルヒオーレ姫に対する心境についてと、他国の行事を潰してまで戦興業を開催する理由について問うべきか迷った。

 要人誘拐奪還戦成立のときはあちらの姫を心底心配した様子だったにも拘らず、ダルキアン卿との戦いでは一転して侮蔑するように犬姫と断じた。そしてゴドウィン将軍とガウル殿下の話を統合して浮き彫りになったビスコッティとの断続的な戦興業。

 不可解なことについて尋ねるチャンスなのではと思ったが、絶対に教えてはくれないだろうという確信めいた予感があった。

 ここはもう少し様子を見るべきと判断し、一先ず別の話題に切り替える。

 

 

「質問ではありませんが、俺から一つ報告を」

 

「ほう、なんじゃ?」

 

「俺たちはこの世界に来るため特別な方法を使用しました。これは昨日お話ししましたね? そして俺の考えに間違いがなければ、俺たちはおそらく明日にでも元の世界に戻ることができます」

 

「戻れるのですか!?」

 

 

 驚くサラに頷いて見せると、今度は閣下が質問する。

 

 

「じゃが、お主らは元の世界で大災害に見舞われたからここに来たのであろう? 元の世界に戻ったとして、そこは人がまともに住める世界だと言い切れるのか?」

 

「ご安心を。俺の考えに間違いがなければ、その問題もクリアできます。まあ、シンクの問題が解決するまで戻る予定はありませんが」

 

 

 女神様は「一度訪れたことのある場所なら自分の意思一つで確実に移動できる」と言っていた。ということはだ、ことクロノ世界においては未来、原始、世界崩壊を除けば何処でも行けるということに他ならない。

 ただし現状戻ったとして、最果てと現代、そして古代にはまだ向かう予定がない。理由としてはいくつかあるが、まず原作組が今どう動いているのかわからないことが挙げられる。

 何せ古代崩壊のあとは黒鳥号に移るはずだが、俺がダルトンを洗脳したおかげでそこに至る可能性がほぼゼロに近いと推測されるからだ。

 ということは、それをすっ飛ばして魔王との会合イベントを経てクロノ復活イベントへ推移すると考えられる。

 確かチャートとしては最果てから情報を得て未来にある監視者のドームに移動、そこでさらに情報を得て現代でドッペル人形を確保して再び未来で死の山攻略という流れになったはずだ。

 どこかのタイミングで合流を図ってもいいのだが、はっきり言って今の俺が彼らに合流しても足手まといになる可能性が高い。

 まず俺自身のレベルが魔王との決戦以降ロクに上がっていないのだ。それに対してクロノたちは恐竜人との決戦、嘆きの山攻略、海底神殿攻略とレベル上げには事欠かない戦闘をこなしてきている。

 これらを統合すればHPだけでも俺の倍は確実にあり、他の能力も彼らと比べれば軒並み下回っているだろう。

 もし本気で彼らに合流するのであれば俺がレベルを上げる機会はこのフロニャルドか、中世にある巨人のツメをクロノたちより先に攻略するかしかない。

 彼らのことだからレベルが低い俺でも受け入れてくれるかもしれないが、俺が足を引っ張ってバッドエンドを迎えるなんて展開は絶対に嫌だ。ならばせめて、戦列に加わるときは胸を張って力になれると言えるくらいにはなっておきたい。

 

 

「ふむ……そのあたりももう少し詳しく聞きたいものじゃが、それはまた落ち着いたときにでも聞かせてもらおう。 ではルージュ、後は頼むぞ」

 

「はい。おまかせください」

 

 

 ビオレさんの反対にいたルージュさんが一礼し、俺たちは彼女に連れられ執務室を後にする。

 

 

「それではまず、このヴァンネット城のご案内をさせていただきますね」

 

 

 退室するとともに切り出された内容に俺たちは特に口出しせず、近くの練兵所から案内をしてもらうこととなった。




本編第20話、いかがでしたでしょうか?

プロット通りに進めば次回で現時点でのJumper -IN DOG DAYS-の最新話(14話)に相当するかと思います。
感想でもあちらの更新を望む声がありましたが、ここで書こうと思っている内容に近いものとなるので書きあぐねているのが現状です。
もしそれでもかまわないというのであれば感想、またはメッセージでお知らせください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話「束の間の平穏」

どうもこんばんわ、ゲート編をどうしようか考えていたらホドリュー殺さないと炎龍編で伊丹が参戦できそうにない気がしてきた作者です。

さて、今回はガレットで過ごす日常パートを書いてみました。
これによってクロノ編に戻る話数が数話伸びてしまいましたが、お許しください。

それでは本編第21話、どうぞご覧ください。


「おらぁ!」

 

 

 振るわれた獅子王双牙が体のぎりぎりのところを掠める。

 体にダメージが通っていないことを感覚で確認し、手にしたハルバードで崩れた体制を狙い澄ます。

 しかしそれは軽々と回避され、さらにそこから再びオーラで出来た爪が迫る。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

 横っ飛びで回避をするが、追撃は止むどころか速さを増してさらに鋭くなる。

 獅子は兎を狩るのに全力を尽くすというが、俺は狩られるだけの兎で終わるつもりはない。

 

 

「『集中』!」

 

 

 精神コマンドを発動させ、少しでも攻撃に対応できるようにする。

 しかしこれも焼け石に水だ。精々勝率が3割から4割ほどになった程度に過ぎない。

 それでもどうにか手にした武器で攻撃を受け流し、隙を見つけて蹴りを放つ。

 

 

「おっと!」

 

 

 だがこれも寸でのところで防がれ、結局お互いの距離を開けるだけに留まった。

 俺が少し肩で息をし始めたのに対し、あちらはまだまだ余裕綽々と言った風に笑みを浮かべる。

 

 

「なかなかやるじゃねえか。流石は異界の戦士ってところか?」

 

「なに、俺なんかまだまだだよ。現に、もう息切れが始まっているからな」

 

 

 ガレットにやってきて二日目。今俺がいるのはヴァンネット城の練兵所で、当初は紋章術について手ほどきを受けようと思っていたのだが、その前にガウルが俺の実力を図りたいと言って攻撃魔法と『熱血』『勇気』なしの制約付きで戦っていたところだ。縛りを設定したのは、自分がそれなしでどこまで接近戦ができるのかを図るためである。

 一応、現代社会から来たころに比べてかなり体力は向上していることは実感できるが、今手合わせしているガウルはまだ汗すらかいていない。

 さらに予想していたとはいえ、俺は一人だと非力だという現実がここにきて改めて肯定されたようだ。この模擬戦にしても精神コマンドがなければ、とっくにやられていてもおかしくない内容だったし。

 シンクはガウルと互角だったという話だし、それを考えると俺は戦力的にシンクよりも下ということになる。だとすれば俺のスペックは深刻な力不足であるということになる。彼の送還が最優先だとしても、後のことを考えればここまで弱いとなるとそうも言ってられないな。

 そうなると今図書館で送還の資料探しをしてくれているサラにはそっちをメインでやってもらって、俺は日中は訓練に時間を割いて夜に送還の調査に取り組んだ方がいいのかもしれない。なんにせよ、やることは山積みだ。

 

 

「おっし、手合わせはこんなもんでいいだろ。あとは輝力の訓練だな。つっても、ミコトの場合は感覚がうまく掴めてないから不安定になってるだけみてぇだから、数をこなしゃあ大丈夫だろ」

 

「えらくアバウトだな」

 

「紋章術なんざそんなもんだ。繰り返して力の流れを体に叩き込んで、馴染んだ頃に反復練習で発動までの時間を短くする。ただ、勇者やサラさんは別だ。あの二人は完全に才能だけでものにしてるからな」

 

「ガウルも割と才能の面が大きいんじゃないのか?」

 

「アホか、オレはもっとガキの頃から輝力の訓練をやってんだぜ? 十年近く扱ってりゃ、もう自分の一部も同然よ」

 

 

 なるほど。そういう裏付けに基づいて今のガウルがある訳か。才能で片付けようとしたのは少し失礼だな。

 

 

「んじゃ、気を取り直して紋章の訓練始めるぜ。紋章の出し方はわかるか?」

 

「大丈夫だ、昨日閣下に教えてもらった」

 

 

 さて、確か紋章術はフロニャ力を集めて自分の命の力と混ぜ合わせることで『輝力』というエネルギーに変換する、だったな。そしてそれを利用してビームのような砲撃や身体強化、さっきのガウルのように爪のようなものを作り出すことができるなかなかになんでもありの技術だ。

 この工程のほとんどがイメージを要求されるためレクチャーを受けた当初は簡単だと思っていた。だが実際やってみるとイメージにプラスしてフロニャ力を感じ取る感性が要求された。

 それを踏まえたうえでの閣下に教わった簡単な手順だと――

 

 

「まず自分の紋章を発動させて……」

 

 

 サテライトエッジを召喚するように念じると右手に黄緑色の紋章が浮かび上がる。よかった、昨日はここで既に手間取ったからな。

 

 

「うまくいったな? 次はフロニャ力をかき集めて、自分の紋章に流し込む」

 

 

 ガウルの指示に従い、今度は大気中に漂うフロニャ力を感じ取る。温かな感覚が紋章に惹かれ、そして蓄積されていくのを感じる。

 すると先ほどよりも大きな紋章が自分の背後に出現し、辺りで見物をしていた騎士やガウルの親衛隊ジェノワーズから感嘆の声が上がる。

 

 

「やればできんじゃねえか。それじゃ、そのままもう一歩先にいってみっか」

 

 

 ここからさらにフロニャ力をチャージして、初めて行うもう一段階先へと紋章を昇華させる。

 すると背後の紋章から今までの比ではない存在感が現れ、目を向けてみると紋章がその姿を鮮やかに現し、力の奔流を放っていた。

 

 

「上出来だ! 後はそのままフロニャ力を輝力に変えて、武器に上乗せして空にぶっ飛ばせ!」

 

「武器に上乗せ……こう、か!?」

 

 

 溜まったフロニャ力を輝力に変換し、サテライトエッジのブラスターを撃つイメージでエネルギーを空に向けて収束させる。

 ――が、俺の予想に反して変換した輝力はすぐに霧散し、まるで音のならないクラッカーを使ったような何とも言えない空気があたりに流れた。

 それと同時に凄まじい疲労感が全身を襲い、俺は倒れまいとハルバードを杖にして耐える。

 

 

「な、なんでだ? 途中までいい感じに出来ていたのに……」

 

「どうやら輝力を収束させる段階でミスったみてぇだな。けどチャージは成功してんだから、あとは収束を反復して訓練すりゃなんとかなるだろ」

 

 

 収束の段階か……ブラスターみたいにしようとしたのがまずかったのか? だとしたら次は別のやり方を考える必要があるな。手本を見せてもらってそれを参考にするか。

 ひとまず輝力の変換によって疲労した体を休ませるべく、手近な木に寄りかかってそのまま座り込む。

 

 

「ミコ(にぃ)大丈夫なん? めっちゃフラフラしてんで」

 

 

 ジェノワーズの虎っぽい女の子、ジョーヌが俺の様子を見て声をかける。ちなみにジェノワーズに俺が呼びやすい言い方で呼んでいいと答えたところ、ジョーヌとノワールが俺を兄と呼びだした。元の世界に妹がいたから特に抵抗はないが、ジョーヌみたいな呼ばれ方は少し新鮮だ。

 

 

「輝力を使ったんだから、当たり前じゃないのか?」

 

「いや。確かに紋章砲を使えば疲れるのは当然だが、ここまで疲れるのはおかしい」

 

「そうなのか?」

 

 

 ガウルの回答に訪ね返すと、その隣にいたノワールも頷く。

 

 

「いくら模擬戦をした後でレベル3までチャージしたとしても、普通はまだまだ余力があるはず。けどお兄さんを見る限りでは、レベル3を数回は繰り返したような状態になってる」

 

「そうですね。まるで輝力武装を使い続けた後みたい」

 

 

 なるほど、ベールの例えは言い得て妙だ。

 確か要人誘拐奪還戦のときにシンクが輝力武装というものを使ってミルヒオーレ姫をコンサート会場まで送ったそうだが、無茶な使い方をしてしばらく動けなかったという話だ。

 輝力を使いすぎて動けなくなったというのなら、今の俺もまさしくその状態にあたるだろう。

 

 

「まあ、どの道もうしばらく動けねえだろうから、ゆっくりしとけよ。オレぁゴドウィンともう少しやりあってくら」

 

 

 そういってガウルは将軍に声をかけ、模擬戦を再開する。

 輝力を使っているわけではないが、ガウルは身軽なその体を生かしてアクロバティックに攻撃を回避、さらにそこから追撃を仕掛けていく。

 あの戦い方は俺にはマネできそうにないが、後学のためにゆっくり見物させてもらうか。

 

 

 

 

 

 

「サラ様。お茶をお持ちしましたので、少し休憩をされてはいかがですか?」

 

「ありがとうございます、ルージュさん」

 

 

 尊が練兵所で訓練を受けている頃、ヴァンネット城にある図書館の一角で勇者召喚に関する資料を探していたサラは作業の手を止め一息入れる準備を始めた。

 フロニャ文字は最初こそ戸惑ったものの、尊と共に制作した早見表を見比べ続けたおかげか今やそれなりのレベルではあるが読み書きができるレベルにまで成長した。

 呼んでいる本にしおりを挟み、メモが書かれた羊皮紙を一ヶ所にまとめたところへルージュがクッキーと紅茶を差し出す。

 

 

「サラ様。お茶には花蜜(かみつ)白糖(ブランシュ)、どちらを入れますか?」

 

「では、花蜜でお願いします」

 

「かしこまりました」

 

 

 このフロニャルドに来てから初めて出来たサラの好きなものが、この花蜜を入れた紅茶だ。

 ジールの紅茶も好きではあったが、フロニャルドの――特にビスコッティ産の――茶葉はそれ以上にサラの好みとマッチしていた。

 差し出されたカップを受け取り、早速香りを楽しむ。花蜜によって一層よくなった風味が鼻腔をくすぐり、一口飲むと甘みが口いっぱいに広がり自然と頬を緩ませる。

 

 

「やはり、こちらのお茶はおいしいですね」

 

「同じことをミコト様も仰ってくださいました。自分が飲んできたお茶の中でもこれは特においしいと」

 

「そうだったんですか」

 

 

 お茶の味に世界の壁はないのだなと思いながら、茶請けのクッキーに手を伸ばす。

 サクッとした触感と共にバターの味が顔を出し、ささやかながら幸せな気分を感じさせる。

 そんな様子にルージュも微笑みを浮かべながら、サラに話題を切り出す。

 

 

「調査の具合はいかがですか?」

 

「芳しい、としか言えませんね。調べる本のほとんどに共通しているのが勇者召喚自体行われることが稀有であり、異世界から召喚することができるが送り返すことができないということですね」

 

「一般的な情報しか見つかっていないということですか」

 

 

 少し困った声で「そうなんです」と返すが、表情にそこまで深刻さは感じられない。

 

 

「ですがまだ始まったばかりですし、期限もまだ一週間近くあります。焦って肝心なものを見逃したら、それこそ本末転倒ですから」

 

「そうですか。 作業の手が必要なときはなんなりとお申し付けください。レオ様からも手をお貸しするよう申し付けられておりますので」

 

「わかりました。必要なときは頼らせていただきますね」

 

 

 礼を述べてまた紅茶を一口。ふう、と吐息を漏らして召喚にまつわる資料を探しているときに見つけた一つの本を手に取る。

 タイトルには『英雄伝説』と書かれており、内容はかつてパスティヤージュ王国――現パスティヤージュ公国――に召喚された勇者が当時の王であるクラリフィエ・エインズ・パスティヤージュと共に魔物退治の旅の果てに、人々に平和をもたらしたというものだった。

 これだけなら童話や英雄譚で片づけられるのだが、その中に書かれた一文がサラの興味を引いた。

 

『姫と勇者には5人の仲間がいた。特殊な紋章術を操る魔王。退魔の兄妹剣士。癒しを司る聖女。聖女の守護戦士。

 彼らは旅路の末に人々を脅かす巨悪を打倒し、世界を平和に導いた。しかし聖女と戦士はこの戦いが終わると天へと消え、姫もその後一人で魔物の討伐に向かって不治の毒を受けることとなった。

 姫が亡くなったことでパスティヤージュは現在の公国制になり、勇者は彼女の遺志を継いで世界を見守りやがて魔王と共に長き眠りについた。

 その後、人々は世界に平和をもたらした姫を英雄姫と、勇者を英雄王と呼び現代まで語り継ぐこととなった』

 

 サラが注目したのは天に消えた二人のことで、何故消えたのか、どのような人物だったのかが気になったのだ。

 もしこの二人が勇者召喚によって呼び出されたのであれば、天に消えた理由が元の世界に戻ったという可能性にも届き、何らかの条件を満たせばシンクにも適用できるのではないかと思った。

 しかしこの本では英雄姫と英雄王をメインにしているためかそこまで深く語られることはなく、他の資料を探してみても同じ結果となった。

 

 ――そこまで重要な人物ではないのでしょうか? それとも資料がなさすぎるのかもしれませんね。

 

 現状ではこの線から得られるものはないであろうと判断し、本を閉じると再び紅茶を手に取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 翌日。尊とサラはリコッタたちの送還の調査がどれほど進んだのかを確認するべく、ビスコッティへと向かっていた。

 今回は他国へ赴くということもあり、立場的な理由もあって二人だけの移動である。

 しかしセルクルを一騎しか借りられなかったため、ミオン砦に向かう時のように二人乗りで森の街道を進むこととなった。

 

 ――ま、ヘイストで早く移動できることを考えたらこれはこれでよかったか。

 

 

「――ミコトさん、見てください」

 

 

 サラの声に反応して輝力を消し前方に目をやると、シンク、リコッタ、エクレールの三人がビスコッティに続く街道から現れて別の方向に進もうとしているのが見えた。

 

 

「ちょうどいいタイミングですね。 おーい!」

 

 

 尊の声に気付いた三人が二人に気付くと、嬉しそうだったり驚いたりと三者三様の反応を見せる。

 エクレールが荷物を持っていることに気付き、サラが訪ねる。

 

 

「みなさん、どこかへお出かけですか?」

 

「はい。ダルキアン卿とユキカゼがいる風月庵という場所へ向かうところです」

 

「なるほど。 そこに行くの、俺たちもついて行っていいか? リコッタにはちょっと話しておきたいこともあるし」

 

「大丈夫でありますよ」

 

 

 移動を再開してさっそくとばかりに送還に関する情報交換を行う。

 学術研究院ではガレットでも行っている送還に関する資料探しと並行して、召喚の仕組みから送還に必要な情報の割り出しと新しい送還技術の構築を研究しているとのことだった。

 後者二つは自分たちにできないなと思いつつ、それならもう少し希望が見えてくるかもしれないと尊たちはビスコッティの頭脳に期待を寄せた。

 

 

「ところで、みなさんはどうしてダルキアン卿の元へ?」

 

「差し入れを届けに行くところです。ユキカゼには新鮮な葡萄桃(ぶどうとう)の果汁とジャム、ダルキアン卿にはお好きな銘酒と食材をです」

 

「……ブドウ糖?」

 

「はい。葡萄桃です」

 

「……シンク、ブドウ糖って果物じゃないよな? なのに果汁ってどういうことだ?」

 

「僕も最初はそう勘違いしたんですけど、そっちじゃないです。葡萄みたいな実り方をする桃のことです。甘くておいしいですよ」

 

「ああ、なるほど。で、ダルキアン卿には酒か。あの人の雰囲気からして日本酒とかその類なんだろうな」

 

「日本酒? ミコトさん、それはどんなお酒ですか?」

 

「米と麹を発酵させて作る俺の国の酒です。おそらく、ジールにあったほとんどの酒よりも強いと思いますよ」

 

 

 酒の力を借りてダルトンを洗脳したのはいい思い出だと心の中でつぶやいていると、道が開けて川が見え出した。それとほぼ同時に川のほうから激しい水音が聞こえ一行が何事かと視線を向けと、そこには狐のような女の子が網を手にして川の中に入っていた。

 

 

「あっ、ユッキー!」

 

 

 その人物に気付いたリコッタが声をかけると、ユッキーことユキカゼ・パネトーネは顔を上げて笑顔を向ける。

 

 

「おやリコにエクレに勇者殿……っと、そちらはガレットのご客人でござるな。噂は聞いているでござるよ」

 

「ユッキーは魚獲りでありますか?」

 

「でござるー。さっき始めたばかりでござるよ。エクレたちは何用でござるか?」

 

「風月庵にお使いに向かうところだったんだ。ミコト殿とサラ殿とは、来る途中偶然にな」

 

「シンクの送還について情報交換のつもりでな。成果に関しては、まだまだといったところだけどな」

 

「そうでござるか。 そうだ、よかったらみんなもどうでござるか? 水が冷たくて気持ちいいでござるよ」

 

「魚獲り……」

 

「水遊び……」

 

 

 ユキカゼの誘いにシンクとリコッタが目を輝かせ、くるっとエクレールに向き直る。

 

 

「「エクレ!!」」

 

「皆まで言うな……少しだけだぞ」

 

 

 やれやれといった風に許可が出され、二人はハイテンションで川岸に直行した。

 それに続いてエクレールと尊たちも移動し、小休止ということでセルクルから一旦降りることにした。

 

 

「ミコト殿とサラ殿は水に入らないのですか?」

 

「俺は少し寝かせてもらうよ。ここに来るまでずっと輝力の訓練をしていたから、ちょっと眠い」

 

「私は本を読みながらフロニャ文字の勉強をさせてもらいます」

 

 

 サラが取り出した本を見て、エクレールが「へぇ」声を上げる。

 

 

「『英雄伝説』ですか。私もその本はよく読みました」

 

「私もこのお話が気に入りまして。少し気になるところもありますが、それも読み返しながら考えようかと」

 

「わかりました。何かありましたら、遠慮なく声をかけてください。では」

 

 

 そういってエクレールは裸足になり、既に水辺ではしゃいでいるシンクたちの後を追った。

 尊は水がかからずしっかりした岩場に移動すると、頭の後ろで手を組んで寝転がる。その隣にサラが移動し、足を崩して本を広げる。

 

 

「……平和だな」

 

 

 シンクたちの声と川のせせらぎを聞きながら小さく漏れた言葉にサラも小さく微笑み、束の間の平穏に身を委ねた。




第21話、いかがでしたでしょうか?

ラストのシーンはコミック版のワンシーンです。
あちらではこの後シンクのラッキースケベが発動しますが、(本作では)そこはないです。
これからもコミック版のシーンを入れたりしますので、アニメしか知らない方にはコミック版の一読を推奨します。
ちなみに葡萄桃はどんな果物なのか書かれていなかったため、作者がかってに設定しました。

さて、次回こそJumper -IN DOG DAYS-の最新話(14話)に追いつかせます。
あちらも並行して更新できたらいいのですが、ネタが…………!
更新をお待ちしてくださっている方、本当に申し訳ありません。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話「風雲急を告げる」

どうもこんにちわ、最近デレスタを始めた作者です。

さて、今回は急展開と小ネタ満載の22話となっています。
自分的にかなりの駄文なのでいずれ修正が加えられるかと思いますが、とりあえず今は話を進めることを優先します。というか早くグラナ砦攻防戦を書きたいです。

それはさておき本編第22話、どうぞご覧ください。


 川での魚獲りが大量に終わり、ユキカゼの案内で竹林の道を進んでいくとやがて古き良き日本家屋の建物が見えてきた。

 テレビで某アイドルが番組企画で作った母屋みたいだなどと思いながら敷地に入ると、着物を着た人たちが忙しそうに動き回っていた。

 そんな中、縁側でのんびりと湯呑を傾けているダルキアン卿を発見し挨拶に向かう。

 

 

「御館様ぁー。夕食のおかずを取ってまいりました」

 

「ご苦労でござる、ユキカゼ。 おお、大量でござるな」

 

「エクレや勇者殿が手伝ってくれたおかげにござる」

 

「そうでござったか。 ――二人とも、かたじけない」

 

「いえ、好きでやったことですから」

 

「それと、これは我々からの差し入れです。ダルキアン卿がお好きなアヤセのお酒もあります」

 

「おお! 『流刃若火』でござるな!」

 

 

 なんだ、その万象の一切を灰燼にしてしまいそうな名前の酒は。

 喜々として酒瓶を受け取るダルキアン卿を見ながら内心でそう突っ込んでみると、当の本人が酒を抱えたままこちらにやってきた。

 

 

「ミオン砦以来でござるな。改めて拙者はブリオッシュ・ダルキアン。ビスコッティ騎士団、隠密部隊頭領を任されているでござる」

 

「サラと言います。今はガレットでシンク君の送還の調査をさせてもらっています」

 

「月崎尊です。同じくガレットで送還の調査をしています」

 

「噂は聞き及んでござるよ。なんでもサラ殿は異世界の高貴な御仁で、ミコト殿は専属の護衛だとか?」

 

「まあ、その認識で間違いはないですね」

 

 

 実際サラは王女だから高貴な人間だし、俺はすべてを承知の上で彼女の運命を捻じ曲げて助けた以上、ラヴォスを倒すまでは守り通す責任がある。

 

 

「して、送還の調査はどのような具合でござるか?」

 

「ここに来る途中で情報を交換したのでありますが、今のところビスコッティの方が進んでいるでありますよ」

 

「ですがどちらも始まったばかりですので、送還の確立には至っていないのですが」

 

「仕方ないでござるよ。そもそも勇者召喚は一生に一度、お目にかかれるかどうかなもの……拙者も御館様と大陸中を渡り歩いていたでござるが、実際に見たのはこれが初めてにござる」

 

「そういえば、戦場でもそんなことが言われていましたね」

 

 

 なるほど。こうして聞けば聞くほど勇者という存在がいかに希少なのか理解させられると、長年にわたって送還についての資料が作られていないのかもわかる気がする。

 出来ればここで送還の手立てを確立させて、後世に伝えていけるようにしたいものだ。

 

 

「なに、いざとなれば永住すればいいでござるよ。あちらに戻ることはできなくとも、声を伝えることはできるらしいでござるし」

 

「うーん……だけど友達もいますから、やっぱり帰りたいですよ」

 

「まあ、帰るに越したことはないな。俺だって元の世界に家族はいるし、仕事だってあるからな」

 

「元の世界でのミコトさんのお仕事って、何ですか?」

 

「しがない警備員ですよ。娯楽施設や宿泊施設、あちこちに出向いて館内の見回りをする仕事です」

 

 

 ちなみに一番気に入っているのは結構クラスの高いホテルの警備だ。そこまでトラブルは起きないし、食堂の飯は安くてうまい。まあ、夜間のときは利用できないからカップ麺で済ましていたが。

 

 

「へぇ……あれ? でも今ここにいるってことは、尊さんそのお仕事にも出れていないんじゃ?」

 

 

 …………。

 

 ……………………。

 

 …………………………。ブワッ!

 

 

「わっ! ミコト殿から滝のような汗が出てきたあります!?」

 

「だ、大丈夫ですかミコトさん!?」

 

「だだ、だ、大丈夫でござる、まだ慌てる問題はないであります……」

 

「慌てすぎて口調が既に大問題ですよ!?」

 

 

 エクレールが何やら指摘しているが、そんなものは頭に入ってこない。

 それよりもやばい……。シンクが言った通り、クロノ世界に流れ着いたあの日から今日まで仕事になんか出れるわけがない。

 そう考えるとあの日から今日までだと…………。

 

 

「…………一ヶ月ちょいの無断欠勤」

 

 

 詰んだ、どう足掻いても詰んだ。もしかしたら行方不明者として実家に連絡が入って捜査届が出されているかもしれないが、職場復帰は絶望的だろう。

 

 

「け、けど尊さんは僕と違って元の世界に帰れる方法がはっきりしてるじゃないですか! 諦めるのはまだ早いですよ!」

 

「甘いな、シンク……。仮にまだ在籍扱いだとしても、元の世界に戻れるのがいつになるのか分からないというのは致命的だ。少なくとも今日明日に戻れることは絶対にあり得ないし、もしかしたら一年じゃすまない可能性もある」

 

 

 そもそもだ、よしんばクロノたちと合流してラヴォスに辿り着いたとしても確実に生きて帰れるかわからないのだ。

 UG細胞改のおかげで早々死ぬことはないだろうし、ゲームと同じパターンしか攻撃してこないのなら何とかなりそうだが、クロノみたいなやられ方をしたら終わりだろう。

 

 

「だ、だったら僕のことよりも自分を優先して――」

 

「いや、流石にそれは出来ない。ここまで来たら俺はもうどうにもならないが、シンクはまだ問題なく戻れるかもしれないんだ。絶望的な大人の事情で希望のある子どもの可能性を潰すのは俺としても嫌だから、協力は継続させてもらう」

 

「で、でも……」

 

 

 まだ何か言いたそうにするシンクだが、俺はこれ以上言わせないように言葉をかぶせる。

 

 

「どうしても心配してくれるんだったら、まずはお前が心配されなくても大丈夫な状態になってくれ。そうしたら俺もきっと元の世界に帰れるって気持ちになるからな」

 

「……わかりました。大したことはできないと思うけど、頑張ります!」

 

 

 まだ完全には納得していないのだろうが、そういってシンクは頷いてくれた。俺もこう言わせた以上出来ることは何でもしていかないとな。

 

 

「ところで、ミコト殿が元の世界に戻るためには何が必要なのですか? 一年近くかかるかもしれないということは、相当厄介な問題があるのですか?」

 

 

 こちらを見て一区切りついたのであろうと判断したエクレールが、先ほどの会話で気になったことを口にする。

 

 

「厄介な問題……というのに間違いはないな。俺の条件はサラ様の世界にいる特定の敵を倒さない限り、元の世界に戻ることができないんだ。その世界には向かおうと思えばすぐにでも行けるが、それはさっきも言ったようにシンクの問題を解決してからだ」

 

「特定の敵、というものに目星はついているのでござるか?」

 

「ああ。だがそれを倒すためにも、まずは力をつける必要がある。今のままじゃ、とてもじゃないが無理だからな」

 

「――なら、拙者が協力するでござるよ」

 

 

 今まで黙っていたダルキアン卿から声が上がったかと思うと、彼女は木刀を手に小さく笑みを浮かべていた。

 その様子を見て、サラとシンクを除いた三人が驚きの声を上げる。

 

 

「お、御館様自らご指導でございますか!?」

 

「う、羨ましい……!」

 

「すごいであります!」

 

 

 確かダルキアン卿はレオ閣下と同等かそれ以上の実力者なんだよな。

 そんな人物が直々に稽古をつけてくれる。そう考えるとエクレールのような騎士たちからすれば羨望の的なのだろう。

 しかしこれはチャンスだ。ガウル殿下にも一発入れることができない俺が彼女を倒すことなどできはしないだろうが、それでも得られるものがあるはずだ。

 ならばこの機会、存分に活用させていただこう。

 

 

「お手柔らかに頼みますよ、ダルキアン卿」

 

 

 

 

 

 

 日が暮れる前にヴァンネット城に戻った尊とサラは、リコッタから得られた送還の情報を報告すべく早々にレオの元へ向かった。

 

 

「――なるほど。やはり発明王がおるとおらんでは調査の具合は段違いだな」

 

「おそらくあちらの方が先に送還の手がかりを見つけられるかと思いますが、こちらにしかない情報があるかもしれませんので調査はこのまま進めるつもりです」

 

「うむ、また何か進展があれば報告していただきたい」

 

 

 サラの報告を受け満足げに頷き、レオは執務机にあった最後の書類を片付けると背伸びをして立ちあがる。

 

 

「さて、お主ら二人はこの後時間はあるか?」

 

「大丈夫です」

 

「俺も問題はありません」

 

「ならば丁度良い。夕食の時間までお主たちの話が聞きたい。先の戦からしばらくバタバタして時間が取れなかったからのぅ」

 

 

 その言葉で二人はこの世界に来た初日のことを思い出し、喜んでと場所をテラスに移した。

 メイドたちが用意したお茶とお菓子をつまみながら、まず尊がシンクに話したことと同じ内容を語った。一方サラは一部を伏せてジールの話をしたものの、レオは天の民と地の民の格差に怒りを露にした。

 しかし大災害があった以上、生き残ってさえいれば二つの民は協力して生活をすることを余儀なくされるだろうという尊の言葉に納得するといった面も見せた。

 そこからはこのフロニャルドに来てからの話になり、尊はガウルやダルキアンに教えてもらった紋章術について。サラはルージュとの会話で得たお茶の話題について語り、二人の様子からレオは二人が自分の国やこのフロニャルドを気に入ってくれて何よりだと笑みを浮かべた。

 

 

「――ところで、ミコトは今日ダルキアンからどのようなことを教えてもらったのだ?」

 

「そうですね……。簡単な手合わせと、紋章術の応用の輝力武装について教えてもらいましたね」

 

 

 輝力武装とは紋章術を応用した技術のひとつで、明確なイメージがあれば輝力の消費に応じて様々な形に具現化させることができるものだ。

 例を上げるとミオン砦の戦いにおいてガウルが輝力を解放し、獅子王爪牙という輝力を自身の腕や足に纏わせることでエネルギーで出来た鋭い爪を生み出してシンクと戦い、シンクはコンサート会場に向かう途中でトルネイダーというフライングボードを作り出した。

 しかし輝力武装を展開すると輝力が垂れ流し状態となり、大がかりなものを使い続ければすぐに体力を使い切ってしまうという面もある。

 これを聞いた尊は輝力と体力が続く限り大概のものが作れると解釈し、試しに自身が知る様々なものを再現しようとしたがそもそも輝力の生成自体がまだ不安定なためそこまでには至らなかった。

 一方、サラは海底神殿でマールが使用していたソニックアローを輝力で再現していたという。最も再現したのは形だけで、相手をスロウ状態にするという効果は持ち合せていなかったのだが。

 なお余談であるが、手合わせの際に完膚なきまでにあしらわれてガウルの時以上に疲労していたりする。

 

 

「ちなみに、ミコトはどのような輝力武装を作ろうとしたのじゃ?」

 

「んー、いろいろですね。伝説の剣(マスターソード)のレプリカや射撃もできる剣(GNソード)、大きなものでは88ミリ高射砲(アハトアハト)戦闘用バイク(フェンリル)といったところですか」

 

「後半はさっぱりわからんが、かなりふざけたものを作ろうとしたのは分かった」

 

「むしろわかったらこっちが驚きですね」

 

 

 何せ半分以上は元の世界の空想のものだ。もしシンクの地球に同じものがあれば彼も一部はわかるかもしれないが、それでもナチスの大砲の代名詞は知らないだろうと尊は断言できる。

 ちなみに先ほどレオに行ったもののほかに実は尊、調子に乗って1/1ネオ・ジオングも作ろうとも考えていたりする。

 それはさておき。

 そうこうしているうちに日が半分近く沈み始めており、城や町から人工的な明かりが灯り始めていた。

 

 

「む、もうこんな時間か。すまないが、続きはまた今度頼む」

 

「わかりました。それでは、私はもう少し送還について調べてきます」

 

「あ、俺も行きます」

 

「承知した。引き続き、調査を頼む」

 

 

 その一言でその場はお開きとなり、尊とサラはそろって図書館へと向かった。

 二人の姿が見えなくなったのを確認し、レオは椅子に座りながらふぅっと溜息を吐く。

 

 

「……あの二人をワシの問題に巻き込むわけにはいかん。なんとしても、気づかれぬうちに未来を回避せねば」

 

 

 誰にも聞かれないテラスで一人、レオは決意を秘めてそうつぶやくと控えていたメイドに後片付けを命じて自室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「……いったい何だって言うんだ、こいつは」

 

 

 図書館で送還について調べている最中にふと自分の現在のレベルなどが気になってステータスを開いてみると、何やら端の方に文字が浮かんでいた。

 

 ability update.

 

 意訳すれば能力を更新中ということなのだが、いったい何時から起動していて、何の能力が作用しているのか全く見当がつかない。

 ステータスを隅々まで確認してみたが、変動していないレベルのほかには変化が見られなかった。

 

 

「……まあ、いいか」

 

 

 現状で何が更新されているのかはわからないが、いつか終わるときが来るはずだ。どんな能力が更新されるかは、その時までのお楽しみにしておこう。

 ステータスから意識を外し、再び書架の本を指でなぞって勇者召喚に関連する書籍を探す。

 今更新されているって能力、あらゆる言語を日本語に変換する能力とかだったらいいのにな。そうしたらこうやって一文字ずつ確認して探すなんて手間をかけることもないし。

 

 

「すみません、ミコトさん。この本を上の棚に戻していただけますか?」

 

「あ、了解です」

 

 

 調査を終えた本を持ってきたサラの頼みを受け、数冊の本をもらうと空いているスペースに押し込む。

 

 

ガシャァァンッ!

 

 

「きゃあっ!」

 

「うおっ!? なんだ!?」

 

 

 突如、花瓶を落としたような破砕音が聞こえ背中がビクッと震える。

 なんだ、本棚の向こうに陶器でもあったのか? ――いや、これは普通の本棚で奥は壁しかない。

 そう考えると、割れた音は別のところということになる。

 

 

「……今の音、廊下から聞こえませんでしたか?」

 

「……みたいですね。ちょっと見に行ってきます」

 

「私も行きます。怪我をされていたら大変ですから」

 

 

 結局、二人で音の原因を突き止めるべく図書館を後にした。

 それにしても音がしたのは同じフロアのようだが、いったいどこだ?

 

 

 

 

 

 

 花が活けてあった陶器を床に叩き付けたレオは悔しそうに天井を仰いだ。

 

 

「何故じゃ……何故それほど強くないワシの星詠みで、このような未来がはっきり見える……」

 

 

 星詠み。このフロニャルドにおける紋章術の一種であり、遠く離れた場所の様子や探し物がどこにあるかなどを見ることができ、人によっては未来視まで行うことができるものである。最も、未来視に関しては少し先のわずかな瞬間しか見れないのだが。

 そしてミルヒがシンクを勇者として選んだのはこの星詠みで彼が出場したアイアンアスレチックの様子を眺め、その時のシンクの姿に心を打たれたのがきっかけとなっている。ただしシンク本人はその試合で負けているため複雑な心境に陥ったが、それはまた別の話。

 閑話休題。

 レオの前には複数の映像盤が設置されており、その映像すべてに彼女にとって最も受け入れがたい未来が映し出されていた

 

 

 

 聖剣『エクセリード』の主 ミルヒオーレ姫、神剣『パラディオン』の主 勇者シンク、30日以内に確実に死亡。

 この映像の未来はいかなることがあっても揺るがない。

 

 

 

「ミルヒだけでなく勇者まで死ぬ……。星の定めた未来かは知らぬが、かような出来事なにがなんでも起こしてたまるもの――「その話、もう少し聞かせてもらえますか?」――っ!」

 

 

 突然投げかけられた声に振り向くと、鋭い目つきをした尊と真剣な面持ちのサラがいた。

 

 

「……見られてしもうたか。じゃが、何故ここに来た?」

 

「原因はそれです」

 

 

 サラが指差したのは先ほどレオが叩き割った花瓶だ。その音を聞きつけたのだとレオは納得し、腹を括った。

 

 

「お主たち、星詠みというものを聞いたことは?」

 

「ありません。ですがそれを見る限りでは、占いの一種のようですね」

 

 

 レオの隣までやってきた尊はその映像盤の文字を読み、すべてを理解した。

 

 

「これが原因ですか? ミルヒオーレ姫のコンサートを潰してまでビスコッティにゴリ押しで戦を仕掛け続けたのは」

 

「ああ。それが未来を変えるきっかけになればと思ったのじゃが、結果はこのありさまじゃ」

 

 

 自嘲気味に話すレオを見て、尊とサラは少し意外そうな顔をする。

 彼女の性格からして、占いから得られる情報は関係ないと切り捨てると思っていたからだ。

 

 

「じゃが、以前と違ってはっきりとわかったことがある。この星詠みによれば、死ぬのはビスコッティの宝剣の持ち主であるということじゃ。ならばその宝剣を確保すれば、この未来も変わるはずじゃ」

 

「そこまでわかっているのでしたら、ミルヒオーレ姫に全てを話して宝剣を預かろうとは思わなかったのですか? 事情が分かれば、きっと彼女もわかって――」

 

「最初に見えた時からミルヒの身を案じてアメリタや騎士団長に助言や提案をしたが、すればするほど悪い未来がはっきりと映ったのじゃ! 今更そのようなことをすれば、どうなるかわかったものではないわ!」

 

 

 今まで溜め込んでいたものを吐き出すようにレオは叫ぶ。その言葉にレオがどれだけ彼女を大切に思い、そして救おうと必死になっているのか二人には十分すぎるほど伝わった。

 

 

「――だったらせめて、もう少し情報を集められませんか?」

 

「どういうことじゃ」

 

「この未来には何によって二人が死ぬかという直接的な原因が記されていません。この星詠みとやらでは結果しか出ていませんが、原因を突き止めてそれを元から排除できれば……」

 

 

 原因を知っていたからこそ、尊は行方不明になるはずだったサラを助けることができた。

 彼の言わんとすることをレオも理解したが、それでも彼女は首を振る。

 

 

「それがわかれば苦労はせん。何度やっても、肝心の原因は浮かんでこんのじゃ」

 

「ということは、四六時中二人を監視するかカギとなる宝剣をどうにかするしかないということですか」

 

「監視で済めばよいのじゃが、それが裏目に出てさらに悪い方へと動いては本末転倒。だからこそ、ワシは宝剣を抑えるべきだと判断した」

 

「……現状ではそれしか策がない、ということか」

 

「そういうことじゃ。そしてワシは次の戦に確実に勝利すべく、ガレットの切り札を使用する」

 

 

 忌々しそうに舌打ちをする尊にそう返しながら、レオは隣の部屋へと移動する。

 二人もつられて移動をすると、そこには一目で普通のものではないとわかるバトルアックスが鎮座していた。

 

 

「このガレットの宝剣。魔戦斧グランヴェールとワシがおれば、覆せぬものなどなにもない!」

 

 

 レオの言葉に応えるかのように、グランヴェールが力強いオーラを発する。

 そのオーラだけで確かにこれが宝剣たる力の一端であり、ここへ戦場で無類の強さを見せつけたレオの力があれば確かに強力だろうと尊は分析した。

 

――レオ閣下の行動を止めてシンクたちが命を落としては意味がない。遠回しに宝剣を預からせてほしいと言っても、渡してもらえることは決してないだろう。

 

 伊達に図書館で調べ物をしていない二人は宝剣が国の象徴であり、安易に貸し借りをできる代物でないことも知っていた。

 そうなれば使える手が限られてくるのは目に見えており、それを打破するためにも更なる協力者が必要だ。

 

 

「レオ閣下、これを知っているのはあなただけですか?」

 

「ワシしかおらん。下手に広まっては混乱を招き、これ以上に酷い未来が見えるかもしれんかったからな」

 

「だったらまずは、信頼できる人物を絞り込んでこのことを教えましょう」

 

「なんじゃと?」

 

 

 自分が言ったことを承知の上での発言であろうが、尊の提案にレオは思わず聞き返す。

 映像盤を一睨みし、尊は口を開く。

 

 

「こんなふざけた未来、認められないのは閣下だけではないですからね。策を練るためにも、事情を知る者を引き入れる必要があります」

 

「だから信頼できる人物を、ということか」

 

「三人寄れば文殊の知恵という言葉があります。一人であれこれ考えるよりも、信頼できる従者や腹心に協力を求めるのも必要かと。無論、俺も協力させていただきますよ」

 

「私もです。自分では考え付かないことでも、他の方がいればきっと糸口が見えるはずですから」

 

「……わかった。そこまで言うのであればバナードとビオレ、ルージュをここに呼ぼう。暫し待ってくれ」

 

 

 少し心が軽くなったのを感じながらレオは近くの通信機を手に取り、三人に連絡を取り始めた。

 

 

 

 そしてこのやり取りからおよそ12時間後、ガレット獅子団領よりビスコッティ共和国への宣戦布告が発令されることとなる。




本編第22話、いかがでしたでしょうか?

輝力武装にwktkだった尊君ですが、輝力が不安定だったため実現には至りませんでした。
ちなみに今回挙げたものが輝力武装で作られることは(ほぼ)ないです。
次回でDOG DAYS一期の大一番に入るかと思います。
急展開をご用意していますので、どうかお楽しみにしてください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話「希望の鍵」

どうもこんばんわ、明石明です。

ゴリ押しながらもどうにか最新話を仕上げることができました。
長々と書くこともないので早速ですが本編第23話をご覧ください。


「姉上! ありゃ一体どういうことだ!?」

 

 

 謁見の間の扉を乱暴に開け放ったガウルは、開口一番に姉であるレオに問いただす。

 

 

「どうもなにも、我らガレットとビスコッティの次の戦について、犬姫に宣戦布告しただけだが?」

 

「んなことわかってら! 俺が言いてぇのはそっちじゃねえ、宝剣についてだ!」

 

 

 今回、レオがビスコッティに宣戦布告を行うにあたって提示した条件の中には懸賞として国が保有する宝剣を賭けるという項目があった。

 国の象徴たる宝剣を賭けた戦。それはすなわち、敗北すれば国を差し出すと言うことに等しい内容だ。

 かつて宝剣を友好の証として一時的に預けたりすることもあったため、国民からすれば今回もそれと同じようなものだろうと判断した者がほとんどだった。しかしガウルは宝剣を賭けてまで戦を行おうとする姉の姿勢に疑問を抱かずにはいられず、こうして尋ねに来たのだ。

 

 

「こっちが宝剣を出すなら、向こうもそれに見合うものを出すために宝剣を賭けるしかねえ。けどよ、そうまでして行わなきゃならねえ戦なのか!?」

 

「これは領主の決定じゃ。それに報道陣を通じて両国国民に大々的に発表した以上、戦が避けられないものだというのはおまえも理解しているはずだ」

 

 

 その指摘にガウルは詰まる。

 レオの言う通り、国民や商工会の大半は既に大きな戦を利用して大儲けしようと考えていた。今更宣戦布告を取りやめるなど報道すれば、それは国の威厳や信頼に大きな影響を及ぼすこととなる。

 まだ領主として未熟なガウルでもそれぐらいのことは分かるが、それでも納得できないことの方が大きかった。

 

 

「ワシはこれから商工会の者たちと会合がある。おまえは好きに動いて構わんが、ワシの邪魔だけはするでないぞ」

 

「……そうかよ」

 

 

 苛立ちを隠そうともせずガウルは踵を返し、謁見の間から退室する。

 その様子を見ていたバナードは、こうなることがわかっていたように溜息を一つ漏らした。

 

 

「やはり、殿下はご納得されませんでしたね」

 

「当然じゃ。事情を知らねば、ワシもああなっていただろう」

 

 

 この戦の真意を知る者はこの場にいる二人のほかに、ビオレ、ルージュ、尊、サラの六名だけである。

 昨夜、突然レオから語られた星詠みの内容に驚きを隠せなかったビオレたちだが、最悪の未来を回避するためであらばと協力するようになった。

 宝剣を回収するのに具体的な口実をバナードが立案し、細かな策と編成を尊とサラも交えて決定した。

 あとはビスコッティ側がこの宣戦布告を了承すれば戦が成立し、決戦のときにシンクとミルヒオーレから宝剣を奪取、もしくは正々堂々と勝利して宝剣を獲得できれば未来が変わるはずである。

 しかし宝剣の入手に関しては前者も後者も問題があるのだ。

 まず前者に関してシンクの相手をするのは生半可な実力を持つ者では対応できず、戦力的に割り当てられるのが非常に限られてくる。特に実力の近しいガウルは今回の戦に否定的で、好きに動いて言いといった以上レオの指示に従うことはない。

 さらにシンクにはほぼ間違いなくエクレールも随伴するため、投入する戦力はガウルとジェノワーズに匹敵するほどの戦力が必要になる。レオとしてはゴドウィンに指揮を取らせたいところであるが、彼も今回の戦には納得がいっていないためガウルと行動することになるだろう。

 続いて宝剣の片割れを所持するミルヒオーレの方がどうかとなるが、こちらは難易度がさらに上昇する。何せ相手はほぼ間違いなく最後尾に本陣を構えるのだから、総大将としても非力な彼女がわざわざ出向くことなど普通に考えてあり得ない。

 ならば戦闘中での宝剣確保を諦め、後者の案である戦術的勝利による宝剣の確保だとどうなるか。

 少し前の戦ならば、こちらの案でも問題はなかった。しかし現在のビスコッティには、一人で一軍に匹敵する戦力を持った戦士がいる。

 ブリオッシュ・ダルキアン。

 彼女が少し本気を出せば軽くジェノワーズ4組分の戦力を誇り、さらに直々の部隊の筆頭戦力ユキカゼ・パネトーネの戦力も相成って、両国のパワーバランスは五分に持ち込まれてしまった。

 これらを踏まえた上で、レオは前者の案を実行しつつ勝利条件を満たすように部隊を展開させるという方向で戦略を固めた。

 しかしこれらの案もビスコッティ側が宣戦布告を断れば成立しないのだが、それをさせないためにレオは国民たちに向けて大々的にアピールをしたのだ。

 ガレットが宣戦布告を取り止めればそれはガレットに大きな不利益をもたらせるが、ビスコッティが宣戦布告を受けなければ今度はビスコッティに不利益が発生する。

 つまりビスコッティ側からすれば、レオが宣戦布告をした時点で戦を受けるしか道が残されていなかったのだ。

 

 

「ミコトの話によれば勇者の送還までおよそ十日ほど。ワシの読みが正しければ、早ければ明後日にでも戦が行われるだろう」

 

「兵や物資の準備は明日の早朝にも完了します。ご命令があれば、本日中にも先発隊を出発させることが可能です」

 

「うむ。 この戦、決して落とすわけにはいかぬ。そなたたちの働きに期待するぞ」

 

 

 バナードの言葉に頷いて見せると、レオは玉座から立ち上がり次のスケジュール先へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 レオ閣下の宣戦布告から数時間後。ビスコッティ国営放送がミルヒオーレ姫の発表を自国とガレットに向けて配信した。

 内容はガレットの宣戦布告を受諾し、二つの宝剣を賭けて勝負するというものだ。

 簡潔に述べればこれだけのことだが、放送越しからでも彼女の明確な勝利に対する意志の強さと、彼女に勝利をもたらそうとする騎士や国民の熱気がはっきりと伝わった。

 ともあれ、これで予定通りガレットとビスコッティの対戦カードが組まれたわけだ。正直ここまでは予定通りだが、問題は次の戦そのものといっても過言ではない。

 シンクとミルヒオーレ姫から宝剣を奪うか、真っ向から勝負して勝ち星をもぎ取るかがこの戦最大の焦点となるが、どちらをとっても難易度は非常に高い。

 昨日レオ閣下が決めた方針では宝剣を奪うように行動しつつポイントを稼いで勝利するということになったものの、ガウルやジェノワーズなどがこちらの指示通りに動いてくれそうにないことを加味するとかなり不安定な戦運びになるだろう。

 一般兵の数と質はガレットがまだ優勢なので、こっちの活躍にも一応期待しておくか。

 さて、そんな風に次の戦について考えていた俺だが、今日も今日とて練兵所で戦闘と輝力の訓練に明け暮れていた。

 戦いに関してはガレットの騎士たちより強くはなったが、将軍たちにはまだ及ばないくらいまで力をつけた。輝力に関しては初めて扱い始めたころに比べたらだいぶ思い通りに使いこなせるようになってきたと思うが、未だに輝力武装の顕現がうまくいかない。成功したと思っても、ものの数秒で霧散してしまうのだ。

 イメージの構築はばっちりなんだが、ゴドウィン将軍によれば輝力の練りがまだ甘いらしい。

 しかし使い始めてから数日でこれだけできるなら、それもすぐに解決するだろうとの言葉ももらったのでモチベーション的には余裕がある。

 だがやはりずっと訓練していて疲れたのもまた事実なわけで、本日何度目かの輝力武装の消滅で俺は体力の限界を迎えて近くの水場に移動する羽目になった。

 

 

「調子はどう、お兄さん?」

 

 

 手酌で水を喉に送っていると横からタオルが現れ、その先ではタオルを手にして腕を伸ばすノワールとベールがいた。

 「ありがとう」と礼を述べてノワールからタオルを受け取り、端を少し濡らしてから顔を拭きあげる。

 

 

「将軍からはまだまだだって言われてるけど、手ごたえは感じてるってところだな」

 

「じゃあ、送還の方はどうですか?」

 

「そっちに関しては俺よりサラ様の方が理解していると思うぞ。一応、夜に成果の確認はしているけど、最新の状態なら彼女の方がずっと詳しい」

 

 

 何せ今の俺はクロノ世界に戻った時の戦いも見据えて訓練しなければならないから、送還の調査に参加できるのはどうしても練兵所が暗くなって使えなくなる夕方以降になってしまう。

 まあ、おかげでここに来た当初よりマシな戦い方をできるようになったわけなんだが。

 

 

「ところで、今日はジョーヌは一緒じゃないのか?」

 

「ジョーヌはガウ様と一緒にビスコッティの勇者に会いに行っています」

 

「朝に出て行ったからもうすぐ帰ってくると思うけど、それがどうかした?」

 

「いや、いつも三人一緒のお前たちが別行動をしているのが珍しくてな」

 

 

 それにしても、ガウルがシンクにか。二人ともどこか似ているから、ライバルとして何か忠告とかをしに行ったのかもしれないな。

 別に止めるつもりはないし、閣下が宣戦布告した時点で向こうは警戒しまくっているはずだから戦に大きな影響もないだろう。

 むしろ警戒しすぎて疑心暗鬼になったり墓穴掘ってくれればこっちとしてはありがたい。

 

 

「ところでミコトさん、今回の戦についてレオ様から何か聞いてませんか?」

 

「いや、俺も今朝初めて知った。それに俺とサラ様の最優先事項は勇者を送還させるための情報収集だからな。戦絡みでレオ閣下に何か聞けるとも思っていない」

 

「うーん、お兄さんならレオ様から口止めされていても軽そうだからイケると思ったのに」

 

「おい、そりゃどういう意味だ」

 

 

 確かに情報は持ってるが、そこまで軽い口は持ち合わせていないぞ。

 

 

「それはそうとお兄さん。前から気になってたんだけど、お兄さんとサラ様ってどういう関係なの?」

 

「あ、それ私も気になります。レオ様からはミコトさんがサラ様の護衛だってことしか聞いてないけど、それ以外に何かあります?」

 

 

 俺とサラが別の世界の人間だというのはガレット、ビスコッティ両国の幹部クラスには既に周知の事実となっているが、どうやらこの娘っ子たちは恋バナ的な話題を求めているようだな。

 

 

「それ以外も何も、俺はサラ様の護衛だ。それ以上でも以下でもない」

 

「けどサラ様、ミコトさんの話をするとき楽しそうに話してくれますよ」

 

「これはつまり、王女と護衛騎士の禁断の恋の足掛かりに他ならない」

 

「どの辺が禁断の恋なんだかわからんし、足掛かりにもならないからな」

 

 

 そっけなく答えるが、内心で俺はベールの言葉に少しだけ嬉しいと感じることがあった。

 サラが楽しそうにしている。

 そのことが俺のやったことは間違いではないと認識させ、この先も彼女を守り通すためにもっと力をつけなければと改めて確認させられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ビスコッティが宣戦布告を受け、ガレットとの協議に基づいて開催日が決定すると各々準備や部隊の割り振りで時間はあっという間に流れていった。

 宣戦布告から二日後の早朝。遠征戦となった今回の戦は近年類を見ない参加人数が集まったため、朝早くから騎士団を先頭に戦場である国境付近へと軍を進めることとなった。

 戦の内容はビスコッティ側がスリーズ砦から、ガレットがグラナ砦から軍をすすめ、本陣を陥落させるか時間いっぱいまでポイントを稼いだ方が勝利するというルールだ。

 戦場の広さ、参加人数、そして報奨金のすべてが大規模な今回の戦に兵士たちのボルテージはすでに最高潮を迎えつつあった。

 そんな中、尊とサラは移動の招集がかかるぎりぎりまで図書館にこもって送還の調査を継続していた。

 

 

「ミコトさん、徹夜をしたみたいですけど大丈夫ですか?」

 

「ありがとうございます。けど元の世界では夜勤なんて当たり前でしたし、これくらいなら問題ありませんよ。それに仮眠もしましたし」

 

 

 積み上げられた本に囲まれながらそう返事をする尊だが、それでもサラは本当に大丈夫なのかと彼の身を気遣う。

 

 ――とは言っても、時間的にこれ以上は厳しいか。

 

 時計に目をやれば既に7時を回っており、レオから聞いた進軍開始までもう間もなくまで迫っていた。

 

 

「そろそろ行きますか。続きは全部終わってから――げっ」

 

 

 立ち上がった尊だが、その際に腕が本の塔にぶつかってしまい何冊かの本がバサバサと床に落下する。

 これを見てサラも慌てて拾いはじめ、尊もそれに加わる。

 

 

「やっぱり疲れてませんか?」

 

「……かもしれませんね。行軍のときにどこかの荷台でひと眠りでもさせてもらいます」

 

 

 苦笑いを浮かべながら本をまとめ、最後の一冊を手に取ると本の隙間から何かがひらりと零れ落ちる。

 それに気づいたサラが拾い上げると、そこにある蝋印と書かれた文字に目を見開く。

 

 

「ミコトさん、これを見てください」

 

 

 そこにはビスコッティの紋章が施された蝋印と、「王立研究院宛 勇者召喚について」と記されていた。

 




本編第23話、いかがでしたでしょうか?

次回から本格的に一期最後の戦となります。
予定では実に3話後にオリジナル設定の猛威によって原作乖離となりますが、楽しんでいただければ幸いです。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話「大決戦! ビスコッティVSガレット」

どうもこんばんわ、今世紀中には発売しないと言われるほど開発が延期になっていた「サクラノ詩」がいつの間にか発売されていたことを知り変な声が出た作者です。

さて、今回は原作8話から9話途中までの内容を詰め込んでみました。
原作見直してみてもシンクはすごかったです(小並感

それはともあれ、本編第24話、どうぞご覧ください。


 ガタゴトと地表に合わせて揺れる荷台の中、俺とサラはたった今解読を終えた封書の内容に笑みをこぼさずにはいられなかった。

 出発間際に見つかった封書――「勇者召喚について」と書かれたものには送還手段そのものの情報がなかったものの、勇者を送還させることが可能であることが示唆された内容に加え、再召喚についての方法が記されていた。

 まず送還とは勇者が召喚主やフロニャルドと正しい関わりを持つことを拒んだ場合にのみ行う方法であり、送還が行われた際に勇者はフロニャルドから記憶を含むあらゆるものを持ち帰ることができないとのことだ。ただし記憶は送還されてすぐに失われるわけではなく、送還後はいわば鍵をかけた状態――おそらく思い出しそうで思い出せないような、モヤモヤした感覚になることだろう――となっており、その記憶が完全に失われるまで半年程度の時間が必要となるらしい。

 この記憶を戻すためには何かしらのきっかけが必要だが、これはあとで考えてもいいだろう。

 そして送還した勇者を再召喚するためには、以下の条件を満たす必要がある。

 一、最初の帰還から再召喚までは91日以上の時間を空けること。

 二、召喚主を含まない三名以上に対して勇者自身が再びフロニャルドを訪れるという誓約を行い、勇者が身につけていた品を預けておくこと。品物の内容は問わないが、勇者が元の世界から持ち込んだ品物であることが望ましい。

 三、召喚主に対しては誓約の品と、約束の書を渡しておくこと。約束の書には必ず、帰還の約束と共に、勇者と召喚主の名がしるされていなければならない。

 上記すべての条件を満たせば勇者を再びフロニャルドへ召喚することが可能になるということだ。

 

 

「明確な送還手段でなかったのは残念ですが、これは大きな情報ですね」

 

「ええ。ただ、何故ビスコッティの蝋印が入った封筒がガレットの本に挟まっていたのかはわかりませんが」

 

 

 しかも宛先はビスコッティの王立研究院ときたものだ。もしかしたら誰も知らないほど昔にビスコッティの人間――国の蝋印を使うほどなので相当偉い人と推定――がガレットでこの情報を発見し、自国の研究院に送ろうとした可能性もあるが、今更こんな話をしたところで大した意味もない。

 本来ならこの情報をすぐにリコッタに届けるべきなのだろうが、生憎と今日は戦だ。ことが終わるまでそんな暇もないだろう。

 

 

「とりあえず、これは俺が預かっておきます。サラ様は砦に到着次第、閣下の傍で待機でしたね」

 

「はい。ミコトさんは……」

 

「ま、勝てるかどうかは別としてうまくやってみますよ」

 

 

 そういいながら俺も封書を亜空間倉庫に戻しながら装備一式を取り出し、いつでも装備できるように準備しておく。

 あとは戦場に到着するのを待つばかりだが、ぎりぎりまでひと眠りでも――

 

 

「――知ぃるかぁぁ! ぼぉけぇい!!」

 

「ッ!? なんだぁ?」

 

 

 突然外から聞こえたゴドウィン将軍の声に驚き荷車から顔をのぞかせると、拗ねたノワールや呆れたベール、面倒くさそうなジョーヌが将軍に怒られていた。

 彼女たちが怒られているのは割といつものことだが、各々の表情からとてもじゃないが状況が読めない。

 ふむ、眠る前にちょっと聞いてみるか。

 傍にいた俺用に支給された青白い毛並みのセルクルにまたがり、将軍たちの真横にやってくる。

 

 

「何の話をしてたんですか、将軍」

 

「む、ミコト殿。実はこやつらが今回の戦場で守護力の弱い地域があるから、そこでお化けが出るだの魔物が出るだの言いおってな。いるかもわからんものにビクビクと脅えるなど、あまりにもアホらしい」

 

「魔物ですか……。まあ、いたらいたで潰せばいいんじゃないですか?」

 

「あれ、ミコ兄は魔物信じるん?」

 

「信じるも何も、ここに来る前の世界では普通に出てきたし、大体真っ向から倒していたからな。一つの世界で戦ったことがあるから、ほかの世界で戦うことになっても特に驚かないぞ」

 

「しかしなぁ……何百年も前に封印されたと伝えられておるのだぞ? そう簡単に現れるわけがないのではなかろうか?」

 

「むしろ封印されたという奴が厄介ですよ。倒せる魔物であればその時に討伐されているでしょうけど、眠らされているということは倒しきれなかった、もしくは倒せないほど強力だったから封印して凌いだということでもありますから」

 

 

 目覚める目覚めないは別として、そういう奴ほど厄介極まりないからな。確か「ネギま」って漫画でも京都に封印されていた強力な鬼が出てきたし。

 ……よく考えたらこの例えもラヴォスに当てはまるな。奴も地中深くで眠っていたが、ジールの計画で目覚めて古代全体で猛威を振るったし。

 

 

「ではお兄さんが信じているから、魔物は今も存在するということで決定。わーっ」

 

 

 するとノワールが勝手に締めにかかり、どこか誇らしげにぱちぱちと拍手を上げる。

 将軍は完全に呆れ返ってほかの二人は少し青い顔で前を見ていた。何故だ?

 それにしても魔物か……。あの三人はいったいどうしてるんだろうな。

 さっきの会話で家臣となった三人の魔物を思い出しながら、俺は今度こそひと眠りすべくサラのいる荷台へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

「全軍進めぇ――――っ!!」

 

「戦士団、突撃ぃ――――っ!!」

 

 

 定刻通りにエビータ・サレスとジャン・カゾーニの音頭でビスコッティ対ガレットの戦が始まり、開幕と同時に両国騎士団長から下された命令にチャパル湖沼地帯で兵たちが激しく衝突。大量の"けものだま"が宙を舞った。

 さらに中央で激しくぶつかった兵たちとは別に、各々の役割を果たすべく行動した部隊も進軍を開始する。

 

 

「駆け抜けるぞ! 勇者!!」

 

「オーライ! 親衛隊長!!」

 

 

 そのひとつ、勇者シンクと親衛隊長エクレールも雑兵には目もくれず戦線の突破を図り、最速で最短の敵本陣ルートを目指す。

 開幕直後ということもあり、誰もが橋やフィールドの確保に躍起となって自分たちには目もくれないであろうと予測しての行動だ。

 しかし、その目論見はあっけなく外れることとなった。

 

 

「ヒャッハァ――――!!」

 

「いたぞぉ! 勇者いたぞぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「野郎ぶっ殺してやらぁぁぁぁ!!」

 

「え!? ええええええ!?」

 

「ど、どういうことだ!?」

 

 

 いきなり狙われたことに慌てるシンクとエクレール。

 ざっと見ただけでも十人以上の騎士たちが彼らの元に殺到し、その背後からはさらに十倍近い人数の弓兵が矢を放っていた。

 予想からかけ離れた事態に動揺したものの、すぐさま対応してエクレールは指示を飛ばす。

 

 

「くっ! 勇者、まずは上の攻撃を凌ぐぞ!」

 

「合点!」

 

 

 ミオン砦での経験を活かし、シンクは棒状のパラディオンを二本に分割させ先端を刃に変えると両手に構え紋章を発動。そこへ同じようにエクレールも武器を構え紋章を発動させる。

 

 

「「『裂空――ダブル十文字』!!」」

 

 

 二人の武器から十文字の輝力が放たれ、飛来する矢を迎撃する。一瞬にして百本以上の矢が粉々になり、残骸が進軍していた兵たちに降り注いだ。

 しかし今のは敵の攻撃を防いだだけで、敵そのものを撃破したわけではない。従って、隙ができたシンクたちを無傷な兵たちが黙ってみているわけがない。

 

 

「ぃよっしゃぁぁぁぁぁぁ!! 勇者みぃぃっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「宝剣おいてけ! なあ! 勇者だろう!? なあ勇者だろおまえぇ!」

 

「ぼ、僕ッスかぁぁぁぁ!?」

 

 

 迷いなく自分に向かってきたことに驚くシンクだが、紋章砲の反動で迎撃するには体勢が悪かった。しかし、彼とて一人ではない。

 

 

「――ユキカゼ式弓術! 『一の矢・花嵐』!」

 

 

 遠方から黄色の紋章を纏った一本の矢が超高速で飛来し、シンクに迫っていた兵たちを一人残らず上空へと弾き飛ばす。

 振り返ってみれば、弓を手にしたユキカゼがそこにいた。

 

 

「ありがとう、ユッキー!」

 

「油断禁物にござるよ」

 

 

 そう言い残してユキカゼは持ち場に戻るべくその場を後にし、シンクは相方エクレールの姿を探すとすぐにその姿を見つけた。

 数人の兵に囲まれてはいたが、すぐに紋章の衝撃で吹き飛ばすとそのまま手にした槍を敵の集団に向けて全力投擲する。

 限界まで強化された紋章によって放たれた槍は百に上る敵を薙ぎ払い、一人残らず"けものだま"へと変貌させた。

 

 

「エクレ! なんかみんな、パラディオンを狙ってるみたい!」

 

「そのようだ。レオ閣下が特別報酬を用意しているらしいし、振り回して戦えば敵のいい的だ。となると、しばらくパラディオンを武器化せない方がいい」

 

「だね。武器は適当に拾うとして、作戦はこのままかな?」

 

「ああ。後はなぎ倒しながら突破だ。行くぞ、勇者!」

 

 

 相棒の掛け声に「おう!」と返し、手近な槍を拾うとシンクたちは迫る敵軍へと突き進んだ。

 

 

 

 

 

 

 開幕から一刻半。実況席からはあちこちで活躍した人物の戦果や注目人物の動向が伝えられる。

 二年ぶりの戦場らしいダルキアン卿が馬鹿でかいセルクル――ムラクモというらしい――で戦場を駆け、随伴のユキカゼとともに数の差をものともせず進軍。

 シンク、エクレール、リコッタの部隊が湖沼地帯を抜けたかと思えば逆にガウル、ジェノワーズ、ゴドウィン将軍の部隊がスリーズ砦へのルートに出たという情報が届く。

 そして別ルートの情報では戦の道義に反するとされる敵本陣への奇襲部隊としてビオレさん率いる近衛戦士団が敵本陣へ突入したものの、詳細は不明ながら作戦失敗とともに脱落との報告もあった。

 ただ砦にミルヒオーレ姫はいなかったとのことから、彼女はもしかしたら誰かに紛れて戦場にいる可能性が非常に高い。一番可能性が高いのはシンクの部隊に紛れている可能性だが、シンクとエクレールの戦果から除外。リコッタがまだ何の動きも見せていないが、顔は晒しているし体格的にもサイズが合わない。

 しかしここはフロニャルドだ。俺の知らない技を使って、どうにか目を欺いている可能性も否定できない。

 

 

「レオ閣下。ミルヒオーレ姫はどこにいると思いますか?」

 

「……さあな」

 

 

 側にいるレオ閣下に尋ねるが、砦についてから彼女は明らかに口数が減っていた。

 サラやルージュさんも心配そうにしているが、この大一番を気にしていることが分かっているのかあまり声をかけようとしない。

 と、実況席から5100対4900のスコアでビスコッティが有利との情報とともに、現場の実況者からビスコッティの二番隊――シンクのいる部隊がグラナ浮遊砦ルートに入ったと知らされる。

 首を動かしてみると、戦場からここまで一本しかない道から砂塵が上がっていた。かなり速い速度を出しているが、なるほど。そこは速さがウリの軽装騎士隊ならでは、ということか。

 

 

「……ミコト。今のお主で、勇者とタレ耳を相手にして勝てるか?」

 

 

 ここまで自分から口を開かなかった閣下の問いに、俺はその状況をシミュレートする。

 

 

「……厳しいとしか言えませんね。狙いをシンク一本に絞っても、相打ちが関の山かと。せめて一対一の状況なら、勝算はまだあるのですが」

 

「そうか……」

 

 

 そう言って再び口を紡ぐと、閣下はひと眠りするといって離れのベンチへと下がる。お側役のルージュさんもそれに続き、俺とサラはそのまま眼下の戦場を見下ろす。

 

 

「……ミコトさん、やっぱり私も――」

 

「サラ様はここにいてください。ルージュさんがいるとはいえ、今のレオ閣下は非常に不安定です。気をかけられる人物は、一人でもいた方がいいです」

 

「ですが……」

 

「俺なら大丈夫ですよ、だから安心してください」

 

 

 そう言ったところで近くの映像版からビスコッティ本陣に続く橋の手前でガレット兵を迎え撃ち、大量の"けものだま"を生産しているダルキアン卿が映し出される。

 どう足掻いても勝てないと悟ったのか、ガレットの兵たちがその足の攻略を諦めて別の進攻ルートを探りに向かった。

 

 

「……少なくとも、あれよりはましだと思いますから」

 

「そ、そうですか……」

 

『おっと、戦況が動きます! ダルキアン卿率いるの三番隊がここで攻めに転じます!』

 

『これはレオ閣下の本陣狙いでしょうか? それとも先行した二番隊の援護に向かうのでしょうか!? しかしその前に立ちはだかるはガレット騎士団、騎士団長のバナード将軍です!』

 

『この様子はダルキアン卿との一騎打ちのようですね。おっと、あれは――!』

 

『その勝負待ったぁ!』

 

 

 実況席の二人とは別の声をどこかのマイクが拾い、戦場に響かせる。

 そして映像に現れたのは白銀の鎧に白いセルクルを駆るロラン団長だった。

 

 

『状況が二転三転と変化します! ここでなんとまさかの両軍騎士団長が直接対決です!』

 

『両者とも、生まれた時から騎士の家系! プライベートでは季節のお届け物を送りあう友人同士の関係でもあります! 騎乗するセルクルもいずれも劣らぬ名騎の血統! そして武器は奇しくも共に槍と盾! これは注目の一戦です!』

 

 

 え、何それ見たい、超見たい。放送こっちにも回してくれよ。

 

 

『こちらスリーズ砦! ガウル殿下の親衛隊の攻撃がすごいんです! 数の不利をものともせず、ビスコッティのゲートキーパーたちを木の葉のごとく宙に舞わせておりまぁぁぁぁす!』

 

 

 おっと、あっちも派手にやってるみたいだな。団長対決が手に汗握るガチンコバトルなら、ガウルたちの方は爽快な無双状態といったところか。

 うーむ……どっちも見てみたいが、のんびりしている時間もなさそうだな。

 

 

「サラ様、俺はそろそろ」

 

「わかりました。気を付けてくださいね」

 

 

 その言葉に頷いてみせ、俺は準備していた装備を纏って砦前へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 シンク、エクレール、そしてリコッタに扮したミルヒオーレがガレットのゲートキーパーに接触するところだった。

 そこでリポーターのパーシー・ガウディからゲートキーパーたちが特戦装備をしていると紹介し、シンクはどういうことだと頭にハテナを浮かべる。

 

 

「特戦装備ってなんだろ?」

 

「わからん。だが、警戒を強める必要がある。姫様は念のために中央へ」

 

「わかりました」

 

「大砲陣形! 散開前進! 姫を守れ!」

 

 

 ミルヒオーレが隊の中央へ移動したのを確認し、エクレールは随伴の騎士たちに彼女を守るための陣形を組ませ敵の第一射に備える。

 対してガレット陣営が用意したのは、迫撃砲台とマスケット銃で構成した砲撃部隊だった。

 

 

「ええ!? 銃!? 大砲!?」

 

 

 予想外の近代的装備に動揺したシンクだが、エクレールは舌打ちをして確認する。

 

 

「勇者! この間教えた紋章術、間違いなく出せるな!?」

 

「この前のって、槍のやつ!? 盾のやつ!?」

 

「盾だ! お前が防いでいる間に、私が切り込む!」

 

「わかった!」

 

 

 やるべきことが明確になり落ち着いたシンクは左腕を横に伸ばし、輝力を集中させる。

 

 

「てぇーっ!」

 

 

 ガレット側から砲撃の合図が下され、迫撃砲弾や弾丸が射出される。

 

 

「――ディフェンダー!」

 

 

 伸ばされたシンクの左腕に巨大な盾が形成され、飛来してきた弾丸をはじく。

 時節地面を巻き上げるほどの衝撃に顔をしかめながらも盾を構え、ミルヒオーレに当たらないよう立ち回る。

 その様子を隙と見たのか、一つの隊が砲台を水平にしてシンクに照準を合わせる。

 一瞬顔が見えた瞬間を狙い、すかさず射出。

 回転しながら撃ち出された砲弾はまっすぐにシンクへと向かい、誰の目にも直撃コースに見えた。

 しかしシンクはすかさず右手でパラディオンをいつもの棒状に変化させ、そのまま振りかぶる。

 

 

「でぇぇぇぇぇぇい!」

 

 

 気合とともに振り抜かれたパラディオンが弾頭の後ろの部分をとらえ、そのまま上空へと弾き飛ばす!

 

 

「うぇ!?」

 

「まぁ!」

 

「「「はあ!?」」」

 

『なぁにぃぃぃぃ!?』

 

 

 その光景にエクレールやミルヒオーレだけでなく、両軍の兵まで驚愕の声を上げた。むろん、実況も黙ってはいない。

 

 

『勇者シンク! なんと迫撃砲弾を弾き返したぁぁぁぁ!』

 

 

 弾き返された砲弾は空を舞い、そのまま戦場を彩る花火の一つとして爆発した。

 この一撃で動揺したガレット勢を見て一早く驚きから復帰したエクレールは好機と見るなりセルクルを跳躍させ、さらに自分も飛び上がって双剣に紋章を流し込む。

 

 

「『裂空――二重一文字』!」

 

 

 放たれた二本の裂空一文字がゲートキーパーたちを一掃し、大量の"けものだま"と砂塵を巻き上げる。

 その光景にビスコッティ側から歓声が上がり、エクレールは腕を掲げながら指示を飛ばす。

 

 

「騎士一同、残敵掃討!」

 

 

 

 

「ところがぎっちょん!」

 

 

 

 

 突如、砂塵の向こうから青白い光が飛び出し、エクレールの真横を突き抜けてビスコッティの隊列に直撃する。

 幸いシンクとミルヒオーレは無事だったが、半数近い兵が"けものだま"にされた。

 

 

「な、なんだと!?」

 

「エクレ! 今の声って!」

 

 

 何かに気づいたシンクの言葉を受け、エクレールもハッとなり攻撃があった方向へ鋭い視線を向ける。

 砂塵が晴れた先には白金(プラチナ)のベストを身に着け、黒いマントを纏って銀色の仮面をつけた一人の男がクリアブルーの刃がついたハルバードを手にして立っていた。

 

 

「馬鹿な!」

 

「ど、どうして!?」

 

 

 驚きを隠せない二人に、彼は笑みを浮かべて答える。

 

 

「よお。ちょっと遊ぼうぜ」

 

 

 月崎 尊、仮面の男シドとして参戦。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「なにやってるんですか! 尊さん(ミコト殿)!」」

 

 

 ――のつもりだったが、一発で正体を看破され静かに涙を流すのだった。




本編第24話、いかがでしたでしょうか?

妖怪首おいてけみたいなモブがいたかもしれませんが、ただのモブなので問題ありません。
ところでドリフターズのアニメっていつやるんでしょうね(脱線
いきなり正体がばれた尊君。でも獣耳ないから仕方ないね。せめて猫耳があれば……。
次回はシンク&エクレールVS尊となりますが、尊君は勝てません(断言
ですが負けもしませんので、どうなるかは次回までお待ちください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話「迫る未来」

どうもこんばんわ、この作品のどこかでシンフォギアをぶち込めないだろうかと検討している作者です。

さて、今回は尊VSシンク&エクレのつもりでしたが、尺の都合で実際戦っている時間は非常に短いです。
また、尊が数話前と比べてかなり輝力を使えるようになっているので新しい技など使わせてみました。気に入っていただければ幸いです。

それでは、本編第25話、どうぞご覧ください。


 せっかくシドとして参戦したというのに、思わず涙を流すほどあっさりシンクたちにバレた。

 何故だ、何故にこうもたやすく正体が割れるんだ。今のところバレずに済んだのはクロノたちの時だけだぞ。耳か? 今回はケモノ耳がないのが原因なのか?

 零れた涙を拭いながら仮面を外し、改めてシンクとエクレールに向き直る。二人ともどこか信じられないといった風に武器を構え、こちらを警戒していた。

 

 

「尊さん! どうしてここにいるんですか!?」

 

「どうしてもなにも、戦に参加したからに決まっているだろ。それに今のガレットは劣勢な状態だからな。お前たちを倒して、ポイントを稼ごうというわけだ」

 

「なるほど、確かに筋は通っている。 ですがそれなら何故、最初から戦列に加わっていなかったのですか?」

 

「切り札はここぞという時に切られるものだ。そしてレオ閣下の判断したここぞという時が、今この瞬間なだけだったということだ」

 

 

 エクレールの疑問に切り返しながら改めてハルバードを軽く振るい、穂先を二人に向ける。

 

 

「さあ、問答は終わりだ。この仮面の人物同様、ここから先は通さんと言っておこうか」

 

「なら、力づくで突破させてもらいます!」

 

「仕方ない! 覚悟してくださいよ、尊さん!」

 

 

 エクレールが双剣を構えたまま迫り、セルクルに乗ったままシンクも駆け出す。

 まずシンクの足を潰すべくハルバードを振りかぶり、最近やっと安定して放てるようになった紋章砲を放つ。

 

 

「『裂空――』!」

 

 

 掛け声とともに思いっきり振り抜くことで撃ち出されたのは、シンクたちの『裂空一文字』によく似た飛ぶ斬撃だ。それをシンクはセルクルを跳躍させることで回避したが、俺の攻撃はまだ続く。

 

 

「『――撃衝破』!」

 

 

 振り抜いた勢いを利用して体を回転させ、再び刃に輝力を溜めて地面を抉るように切り上げる!

 抉られた地面は散弾となって広範囲に広がり、ひときわ大きな破片が空中で身動きが取れなくなったシンクのセルクルに直撃した。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 セルクルがだま化したのを確認し、続いて振りかぶったエクレールの双剣を受け止めるべくハルバードをシールドに変化させてやり過ごす。

 

 

「なっ!? くそ!」

 

 

 いきなり武器が変化したことに驚いたであろうエクレールだが、すぐさま後ろに跳びつつ双剣に輝力を溜めて紋章砲を解放する。

 

 

「『裂空十文字』!」

 

 

 交差させることで放たれた輝力の斬撃が迫る中、『集中』を使い冷静に横の抜け道へと飛び込んで顔を上げると、今度はシンクがパラディオンをいつもの棒状にして振り上げていた。

 

 

「高槻流棒術! 『上段唐竹割り』!」

 

「甘い!」

 

 

 振り下ろされたパラディオンを今度はザンバーで受け止め、踏ん張りの利かないシンクを思いっきり押し返し、ボウ形態に移行しつつ狙いを定め光の矢を放つ。

 しかしシンクは巨大な盾を作り出すことでこれを防ぎ、その隙に下からエクレールが仕掛けてきた。

 サテライトエッジをリーチが生かせるハルバードに戻し、突きを繰り出すことでその出鼻を挫く。ガウルを相手に近接戦闘を中心にやっていてよかった、攻められたときに十分反応できている。

 

 

「くっ! リコから銃と槍に変化するとは聞いていましたが、その武器は何ですか!?」

 

「なんだ、ミオン砦でこれを見られていたのか。まあいい、これはサテライトエッジと言ってな、簡単に言えばシンクのパラディオンみたいなものだ。もっとも俺のは変化させられる形態が決まっているから、あちらと比べて汎用性に劣るがな」

 

「それでも十分脅威です……よ!」

 

 

 こちらの攻撃に合わせて懐に飛び込むエクレール。瞬間的にこれはマズいと判断すると、俺は離脱のために精神コマンドを使う。

 

 

「『加速』!」

 

 

 横薙ぎの短剣が直撃するすれすれのタイミングで爆発するように後方へと跳び退く。

 当たるはずだった攻撃が空を切ったことに驚きを隠せないのか、エクレールは硬直して大きな隙を晒す。ここぞとばかりにハルバードからボウへと切り替え、照準を定める。

 

 

「エクレ危ない!」

 

 

 矢を開放するのとほぼ同時にシンクが割って入り、盾を斜めに構えてこちらの攻撃を上空へと逸らす。あわよくば後ろの隊列を巻き込もうと思っていたんだが、簡単にはやらせてもらえないか。

 それにしても精神コマンドやサテライトエッジがあるとはいえ、予想以上に上手く渡り合えているな。シルバーピアスのおかげでMPもまだまだ余裕があるし、もしかしたら勝てるかもしれない。まあ、油断だけはしないように注意するか。

 盾の向こうで作戦を立てているであろう二人の姿を浮かべながら、今一度サテライトエッジを握りなおした。

 

 

 

 

 

 

 尊の攻撃をどうにかやり過ごしたシンクは、庇ったエクレールに声をかける。

 

 

「エクレ、大丈夫!?」

 

「あ、ああ、すまない勇者。それにしても……強い」

 

 

 風月庵で手合わせをしたダルキアンに自分はまだまだ弱いと言っていた尊だが、二人は目の前にいる人物が弱いとは到底思えなかった。最も尊はあの時の手合わせも含め、基本的に訓練の際には精神コマンドを使用しないことを自らに科していたため自分は弱いと判断していた。

 しかし縛りを解禁して実際に戦ってみればご覧の通りである。訓練の賜物か安定して放てるようになった紋章術に加え、――シンクたちは知らないが――精神コマンドによる一時的な身体能力の向上。そしてパラディオンのように変幻自在のサテライトエッジ。

 しかも尊は奥の手としてこの世界では自分とサラだけが使える魔法と、リスクがあるものの身体能力を強化するブーストアップも隠してある。基礎的な身体能力こそ総合的に勝っているが、彼の持つ能力を初めから知っていればシンクたちは風月庵の時に弱くないと判断し、今回のような対決になったときにある程度は対策を練ることもできた。

 だがそれも後の祭り。彼はここで倒さなければならない強敵であり、撃破に手間取れば背後でリコッタに変装したミルヒオーレに流れ弾が及ぶ可能性もある。

 一秒にも満たない時間で思考し、エクレールは決断する。

 

 

「勇者、挟み撃ちだ。お前は左から行け、私は右からだ」

 

「了解。タイミングは任せるよ」

 

「よし。 ――我々がミコト殿を足止めする! 本隊は構わずグラナ砦へ!」

 

 

「「「ハッ!!」」」

 

 

 残った騎士たちがミルヒオーレの姿を晒さないように移動をはじめたのを見て、シンクとエクレールは同時に飛び出し尊の注意を惹く。

 砦へ向かう部隊を止めることを諦め、目の前の二人に意識を集中する。

 

 ――リーチの長さを考えればイニチアシブを取りやすいのはエクレールだが、紋章術を使われたら距離は関係ないし、二人掛かりとなるとさすがに厳しいな。そうなると取るべき対応は……。

 

 

「――その宝剣、預からせてもらおうか! 『加速』!」

 

 

 ツインソードに変化させると同時に精神コマンドを使用し、シンクとの距離を一気に詰める。

 急加速した尊に目を張るが、パラディオンを分割させ冷静に距離を測って迎撃する。刃と刃がぶつかり合い、甲高い音が響く。

 

 

「総合的な身体能力では劣るだろうが、純粋な力比べなら大人と子供の戦いだ! この意味が分かるな!?」

 

「くっ!」

 

 

 成人男性と中学生の根本的な力と体格の差がシンクを押し込む。鍔迫り合いを隙と見たエクレールが背後に回り、紋章砲を放とうと武器に輝力を送る。しかしそれも予想していた尊はすぐさまシンクから距離を取り、左の切っ先をエクレールに向けて奥の手の一つを解禁する。

 

 

「『アイス』!」

 

「なっ!?」

 

 

 輝力とは別の力――魔力による氷の攻撃が放たれる。

 まったく予想だにしていなかった攻撃に驚愕の声を漏らしながらも、エクレールはすぐさま溜めた輝力を開放してこれを撃ち落とす。

 

 

「『サンダー』!」

 

「ぐああっ!」

 

 

 直後、頭上から落とされた雷に打たれ思わず膝をつく。戦場に満ちる守護力のおかげで大きなダメージはないが、衝撃そのものはなかなか強いものだった。怯んだエクレールから視線を外し、尊は再びシンクに突っ込む。

 

 ――さっきの打ち合いからして尊さんの攻撃を正面から受けたらこっちがやられる! だったら、僕が勝っている部分を伸ばして戦うしかない!

 

 

「輝力、解放!」

 

 

 全身に輝力を滾らせ、身体能力の底上げを図る。これを使いすぎればあとで倒れてしまうことはミオン砦からフィリアンノ城へ戻るときに実証済みなので注意が必要だが、目の前の男に勝つにはそれくらいのリスクが必要だった。

 

 

「うおおおおおお!!」

 

「! 『集中』!」

 

 

 急激に速度を増し繰り出される二つの短槍を『集中』を使い対応するが、先ほどまであった余裕がなくなり尊は徐々にだが後退を余儀なくされる。

 

 ――力自体はさほど変わっていないが、この手数は気を抜いたらすぐに大量の攻撃をもらうことになる!

 

 速度を強化し、手数を増やしてのごり押し。力で勝てないと悟ったシンクがとった速さによる怒涛の連撃は確かに尊の思考に焦りを生ませ、彼女に攻撃をさせる隙を作り出した。

 

 

「『裂空――』!」

 

「っ! マズい!」

 

「『――二連一文字』!」

 

 

 尊の背後からエクレールが連続して一文字の輝力を放つ。しかし回避しようにもシンクは依然攻撃を継続中。それを防ぐためにサテライトエッジをツインソードにして応戦しているため、シールドを張ることもままならない。

 

 ――だが、このままだとシンクも巻き添えに――

 

 

「今だ!」

 

 

 自分がエクレールにして見せたように、後方へ飛びのいたシンクはすぐさまディフェンダーを展開し正面に構える。

 

 

「後退!? ヤバッ――!」

 

 

 残された尊はそこで二人の意図に気づくが、もう遅かった。

 

 

「いけえええぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

ドドォォォォン!!

 

 

 エクレールの気迫とともに二つの一文字が尊に直撃し、大きな炸裂音を上げた。

 その余波がシンクにも届いたが、ディフェンダーでガードしている彼にはまったくダメージが及んでいない。

 

 

「や、やった!?」

 

「無防備な背後に直撃だ。いくらミコト殿でもこれなら……」

 

 

 流石に倒れるだろうと踏んでいたエクレールだが、煙が晴れた先に立っているその姿を見て苦虫を噛み潰したような表情を浮かべることとなった。

 

 

 

 

 

 

「や、やばかった……。装備した防具がチタンベストのままだったらやられていたかもしれないな……」

 

 

 マントはさっきの攻撃でほとんど消し飛んでしまったが、下に着込んでいたプラチナベストのおかげでダメージを大きく軽減させることができた。

 ダメージを10%に落とし込む『勇気』の発動が間に合わないと思った時はさすがにダメかと思ったが、流石市販で買える装備の中では最高クラスの防具。性能は伊達ではなかったか。

 マントの残骸を脱ぎ捨て、シンクたちに目をやる。エクレールは仕留められなかったことに対して顔をゆがめ、シンクは化け物でも見るような目でこちらを見ていた。

 

 

「仕留めたと思ったのですが、何かしましたか?」

 

「いや、俺自身は何もしていない。というか、俺もやられたと思ったくらいだ」

 

「ならば何故……」

 

 

 親指でプラチナベストをトントンと指さし、これのおかげだと主張する。

 

 

「こいつは俺が前にいた世界で入手した防具でな。市販で購入できるものとしては最高級の防御力を誇っている。ダメージが少なく済んだのは、(もっぱ)らこれのおかげだ」

 

「つまりその防具がなければ、僕たちにも勝機があったというわけですか」

 

「そういうわけだ。まあ、残念だったな」

 

 

 とはいっても、ノーダメというわけじゃない。やはりこの二人を相手にするにはもっとレベルを――ん?

 

 

「なんだ、いつの間にか雲が……」

 

 

 俺の様子を見て二人も気づいたのか、そろって空を見上げる。

 先ほどまで文句なしの快晴だったというのに、降って湧いたかのように暗い雲が発生していた。

 時節雷が迸り普通の事態でないことが容易に想像でき、肌にまとわりつく空気に怖気と嫌悪が込みあがる。

 

 ――この感じ……海底神殿の出来事を思い出させやがる。

 

 クロノの消滅。古代の崩壊。俺がいなければ起こったであろう――行方不明となるサラ。

 

 

「――二人とも、悪いがここまでだ! 嫌な予感がするから俺は退かせてもらう!」

 

「嫌な予感って、どういうことですか!?」

 

「悪いが言いたくない! 言ってしまえばそれが現実になって、俺がしてきたことの意味がまるでなくなってしまいそうだからな!」

 

 

 サテライトエッジを収納し、先行したビスコッティの部隊を追うように『加速』とヘイストの鉢巻きを使いグラナ砦に向かう。

 しかし到着してみれば正面入り口はすでに制圧されており、降りるときに使用したエレベーターは使えないことが容易に想像できる。

 仕方ない、遠回りになるが裏手から行くか。ついでにケアルでダメージを回復して、ミドルエーテルでMPも回復しておこう。

 道筋は図面で見たことしかないが、まあ何とかなるだろ。

 

 

 

 

 

 

 時は進み、グラナ砦では尊が遠回りで天空武闘台へ向かい、先行した本隊と合流したシンクとエクレールが砦の内部に突入してから間もなく昇降機のホールのたどり着いた。

 そこに現れたシンクたちに向けてリアルタイム映像を飛ばしたレオは、昇降機から現れるであろうシンクとエクレールの姿を思い浮かべながらその時を待つ。

 

 

「……嫌な風、ですね」

 

「うむ。国の行く末を決める大戦だというのに、まったくもって不愉快じゃ」

 

 

 側に控えていたサラの言葉に忌々しそうに同意する。

 空は不気味な暗さを伴い、天空では稲妻がひっきりなしに鳴り響く。

 

 ――この気味の悪さ、まるで海底神殿みたいだわ。

 

 尊が思ったことと同じく、サラも今の状況が海底神殿の時とダブって感じられていた。

 そんなことを思って間もなく、昇降機の方から音が上がり、誰かがこの天空武闘台に現れたことを知らせる。

 

 

「来たか。勇者とタレ耳」

 

 

 振り返って手にしたガレットの宝剣、魔戦斧グランヴェールを握りしめ、来訪者を迎える。

 いよいよ昇降機の扉が開かれ――

 

 

「お邪魔いたします。レオンミシェリ閣下」

 

 

 ――自身の半分ほどもある剣を手に現れたミルヒオーレにレオの表情が絶望に染まった。

 

 

「レオ様が国の宝剣をかけて戦われるのであれば、私も宝剣を手に戦わなければならぬと思い、失礼ながら……勝手に推参させていただきました」

 

 

 揺れる瞳が一歩一歩近づく彼女を捉え、脳裏によぎるのは夢にまで出てきた彼女が死ぬ瞬間。その舞台は、まさにこの天空武闘台。

 

 

「レオンミシェリ様……お聞かせください。宝剣をかけてまで行われた、この戦の本当の理由を……レオ様のお心の、真実の在り処を!」

 

 

 彼女の右手に嵌められた二つの指輪――ビスコッティの宝剣、聖剣エクセリードと神剣パラディオンが、彼女が死ぬ条件を整えたことを示していた。

 瞬間、比較的彼女の近くにいたルージュが駆け出し、ジャマダハルのような武器をミルヒオーレに突き出す。

 手にした剣でその一撃を受け止め、ミルヒオーレは声を張り上げる。

 

 

「ルージュ!? 私は今、レオ様と!」

 

「お叱りならばあとでいくらでも! ですが、今は説明をして差し上げる時間がございません!」

 

 

 ジャマダハルを滑り込ませ、剣を跳ね上げる。大きく体制を崩したミルヒオーレの指にある宝剣に意識を集中し、その手をつかむべく腕を伸ばす。

 

キュイン!

 

 しかし手に触れようとした瞬間、二つの宝剣が煌めき主を守るべくルージュの体を弾き飛ばした。

 そして守られた彼女の手には刀身の短い桜色の剣――エクセリードの武器化した姿があった。

 

 

「はぁ、はぁ……宝剣が必要なのでしたら、いくらでもお貸しします。なのに、なぜレオ様は私に何も教えてくださらないのですか? あの頃はいつも仲良くしてくださって、いつも優しくしてくださってたのに……」

 

 

 言葉の一つ一つがレオの心に突き刺さる。

 まだ星詠みの未来が見える前、姉妹のように過ごしてきたあの頃が頭をよぎる。今のように苦しむこともなく、屈託なく笑いあうことができた日々が。

 

 

「ここのところの戦にしてもそうです……! レオ様は……レオ様はそんなに、ミルヒのことがお嫌いになられたのですか!?」

 

 

 ボロボロとこぼれる涙とともに投げかけられた言葉。それには寂しさと悲しさ。そして好きだからこそ、嫌われたくないという心のままの感情が込められていた。

 

 

「……ワシは……ワシは――――!」

 

 

 ――直後、巨大な地鳴りとともに稲妻が荒れ狂い、何かに引っ張られるように天空武闘台が空に浮かびだした。




本編第25話、いかがでしたでしょうか?

予定では次回で新展開の予定でしたが、尺の都合でもう一話追加となりそうです。
次回はレオ様がキレたりご都合主義的展開が発生します。
比較的早く投稿できそうですが、いつになるかはまだ未定です。
どうか今しばらくお待ちください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話「new ability release.」

どうもこんにちわ、気合で24時間以内に最新話の投稿に成功した作者です。

さて、ついに魔物戦の開始となります。
今回と次回がキリサキゴホウ戦となり、その次でオリジナル展開となります。

それでは早速、本編第26話、どうぞご覧ください。


「ミルヒ!」

 

「レオ様!」

 

「こ、これはいったい!?」

 

 

 突然浮かび上がった足場にしゃがみ込みながら、レオは倒れこんだミルヒに向けて手を伸ばす。彼女のそばにいたサラも、不安定な足場の影響でしゃがみ込むことを余儀なくされていた。

 

 

「レオ様! ミルヒ姫様! サラ様!」

 

 

 下に残されたルージュが声を張り上げるが、武闘台はどんどん空へと昇って行く。

 そしてその頭上には、禍々しい色をした巨大な何かが降りてきていた。

 脅えるような目を向けるミルヒと睨みつけるレオ。そして強く警戒したサラが何かに気づいたように口を開く。

 

 

「もしかして……これが星詠みの根源?」

 

「……そうか、これがダルキアンの言っていた、かつて地の底に封じ込められたといわれる魔物か」

 

「ま、魔物……」

 

 

 

グオオオォォォォォッッ!!

 

 

 

 衝撃波を伴った咆哮が上がり、呼応するかのように大地から巨大な火柱が上がる。

 戦場にいた兵たちが尋常ではない事態に気づき、我先にと砦から離れるように駆けだす。

 火柱は見境なく噴き出し、一本が武闘台の端に直撃し、サラたちの足場を大きく揺らす。

 

 

「きゃあ!」

 

「ミルヒ!」「ミルヒオーレ姫!」

 

 

 衝撃で倒れたミルヒに二人が声をかけるが、魔物の動向から目を切らせずにいた。

 繭のような封印から逃れるように身をよじり、突き破ろうと腕を伸ばす。苦しんでいるような姿に、ミルヒが魔物の体に突き刺さっているあるものに気づく。

 

 ――あれは……刀?

 

 それだけではない。魔物から漏れる声はどこか悲しげであり、まるで泣いているようにも聞こえる。

 ついに二つの腕が繭を突き破り、それを欠如に封印がはじける。

 揺らめく六つの尻尾に巨大な牙をもつ口。まるで体の具合を確かめるように体を二、三度震わせ――

 

 

 

グォガアアアァァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

 

 

 一度目のものが可愛く感じられるほど凶悪な咆哮が轟く。封印されていたことに対する怒りか、それとも自由になったことへの歓喜か。

 魔物は狐の姿をした怨念のようなものを展開しながら目の前にいる三人を見据え、ミルヒの手にしたエクセリードをみて怨敵を見つけたかのように目を見開き、再び咆える。

 

ドドドォッ!

 

 足場から触手のようなものが出現し、先端を様々な形の刃にして一斉に矛先を向ける。

 

 

「ぉおおおお!」

 

 

 レオがグランヴェールを掲げ頭上にシールドを展開し、迫る攻撃をすべて防ぐ。そこへサラが右手に炎を溜め、天にかざす。

 

 

「『ファイガ』!」

 

 

 放たれた爆炎が触手を焼き払い、消し炭にする。

 突然の爆発に驚く二人だが、すぐに迫る追撃に備えレオが行動を起こす。

 前方から迫る刃を再びシールドで防ぎ、止められて動かなくなったところを一気に薙ぎ払う。サラも後方から迫る攻撃に対して魔法を放ち、自分たちへ近づけさせないようにする。

 

 

「ミルヒ、無事か!?」

 

「は、はい――っ! レオ様、危ない!」

 

 

 安否を気遣うレオの後ろから新たに二つの刃を向けるのが見え、ミルヒがとっさに前に出て短い剣を横に構える。

 

 

 

ガキィン!

 

 

 

 しかし、そんな彼女の行動を嘲笑うかのように二本の刃はエクセリードを破壊し、彼女の体を鎧越しに切り裂いた。

 

 

「――み、ミルヒィィィィィィィィィィ!!」

 

「ッ!」

 

 

 レオの悲鳴を聞いて振り返ったサラが負傷したミルヒを見るなり駆け出し、崩れ落ちる体を抱きとめる。

 

 

「姫様! 今治療を――あぐっ!?」

 

 

 声をかけた瞬間、サラとミルヒが横から突き刺さった刃に弾き飛ばされ、二人して狐の怨念に取り込まれ魔物の方へと連れ去られる。

 僅かなスキにミルヒだけでなくサラまでやられ連れていかれたという事実に一瞬我を忘れ、状況を飲み込んだ瞬間レオは心の奥底から激怒した。

 

 

「……き、キィィサァァマァァアアアアアアアアアア!!」

 

 

 グランヴェールを通じて莫大な輝力がレオの体から噴出し、常人ならばそれだけで気絶してしまいそうな力が一点に収束される。

 流石にこれはまずいと感じたのか、魔物の方も一瞬怯むような動作を見せると自身の尻尾をレオに向かって放つ。

 

 

「それがぁぁああああ! どおぉしたあああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

ドゴォォォォォォ!!

 

 

 一閃。

 全力で振り抜かれたグランヴェールが轟音とともに尻尾を破壊し、レオは二人を取り戻すべく追撃を開始する。

 幸いにして彼女であれば助走をつけた跳躍で魔物の頭部に飛び乗ることが可能な距離だ。グランヴェールを握りしめ、迫る触手さえも足場にして激走。

 一本道になったことで横に逃げれなくなったと思ったのだろう、魔物は頭部から針のようなものを無数に打ち出し、レオの進行を妨げる。

 しかし今のレオにそんな攻撃など豆鉄砲に等しく、グランヴェールで薙ぎ払いながら突き進み大きく跳躍。魔物の頭部の目の前に躍り出た。

 

 

「ぬぅらああぁぁぁぁ!!」

 

 

ズドォォォォン!!

 

 

 渾身の一撃を額に直撃させ、回転しながら爆炎を抜けて近くに浮いていた足場へと着地する。

 激情に任せて大規模な輝力技を連発したツケか、予想以上の疲労がレオにのしかかるが、それさえも今はどうでもいい。

 

 

 ――まだ間に合うはずじゃ! すぐに助け出せば、二人とも!

 

 

 しかし煙の向こうから無傷の魔物が姿を現し、再び尻尾を振るってレオに襲い掛かる。

 

 

「何度来ようと同じこと!」

 

 

 再び輝力を溜めてグランヴェールで迎撃。一瞬の拮抗からレオが全力で押し込もうと思いっきり踏ん張りを聞かせる。

 だがそれがまずかったのか、小さな足場がその力に耐えきれず崩壊し、レオの体が宙に投げ出された。

 

 

「しまっ――!」

 

 

 ここが両者の分かれ目となった。

 落下するレオに向かって魔物が容赦なく攻め立て、彼女をルージュがいる武闘台跡地へとたたきつけた。

 もはや障害はないと判断したのか、魔物はグラナ砦に背を向け移動を始める。

 進路の先には――ビスコッティ共和国があった。

 

 

 

 

 

 

「なんだなんだよなんなんですかぁー!? 窓がないから外の様子がまるで分らんぞ!」

 

 

 天空武闘台に通じる螺旋階段を駆け上りながら、尊は引っ切り無しに鳴り響く轟音と揺れる足場に愚痴を漏らす。

 道に迷ってしまったため武闘台に通じる階段を見つけるのに手間取ってしまい、ようやく発見したと思ったところで建物そのものが異常を起こした。

 ただ事じゃないというのは漠然とわかるので早急にレオたちと合流すべく階段を駆け上がっていたわけなのだが、何度か足を踏み外しそうになりその度に動きを止めざるを得なかった。

 そしてひときわ大きな衝撃があって以降まるで何事もなかったかのように砦の揺れが収まり、ようやく階段の終点へとたどり着く。

 

 

「サラ様! 閣下――っ!」

 

 

 顔を出した瞬間目に飛び込んできたのは、クレーターだけの変わり果てた武闘台の姿だった。

 さらにズシン、ズシンと聞こえる方角に顔を向けてみれば、巨大な何かがビスコッティに向かって進んでいるのが見えた。

 

 

「まさか……あれが魔物? いや、それよりも」

 

 

 辺りを見渡しても人影は見つからず、クレーターの中をのぞき込んでみれば血を流しているレオと介抱するルージュ、そしてそれを見下ろすシンクとエクレールが見え、尊があることに気づいた。

 

 ――サラがいない!?

 

 いつかのようにクレーターの中へ飛び込むと、こちらの音に気づいた三人が声を上げる。

 

 

「尊さん!」「ミコト殿!」「ミコト様!」

 

「みんな! これは一体どういうことだ!? サラ様は!?」

 

 

 その問いにシンクたちが言いづらそうになり、ルージュは涙ながらに語る。

 

 

「サラ様は……ミルヒ姫様とともに……魔物に取り込まれて……」

 

「なっ!?」

 

 

 何故ミルヒがここにいたのかと驚くよりサラが取り込まれたということに驚愕し、反射的に魔物がいた方角を忌々しそうに睨みつける。

 

 

「ふざけるなよ……あの野郎!」

 

 

 自分が怒っているのを自覚しながら、まずは相手と戦ったであろうレオから話を聞くべく彼女のそばに近づく。

 

 

「気絶しているのか……だったら」

 

 

 以前サラから聞いた話を思い返しながら右手をかざし、習得してから初めて使う魔法を唱える。

 

 

「『レイズ』……!」

 

 

 尊の手から淡い光が溢れ、レオを包み込む。

 大きな傷が徐々に塞がりはじめ、うめき声とともにレオが目を開けた。

 

 

「レオ様!」

 

「……ルー、ジュ。それに、ミコトに勇者たちか」

 

「レオ閣下。単刀直入にお尋ねします。サラ様があの魔物に取り込まれてどれくらいの時間が経過していますか?」

 

「くっ……まだ、五分と経っておらんはずだ。ワシの推測が正しければ二人は聖剣の守護によって守られているはずだが、それが続くのもミルヒの輝力次第じゃ。ワシらが助け出すより先にミルヒの輝力が尽きてしまえば……」

 

「姫様とサラ殿が魔物に消化され、命を落としてしまうということですか!?」

 

 

 エクレールの言葉にレオが怒りを募らせたまま頷く。その答えに、男二人が拳をギリッと握り締める。

 

 

「させるかよ……!」

 

「ああ、させてたまるかよ!」

 

 

 クレーターから出て魔物姿を捉えるが、巨大故に一歩一歩の移動距離が大きく、砦からどんどん遠ざかっていた。

 どうにか移動できないかとシンクは周りを見渡し、点々と存在する浮き岩に注目する。

 

 

「浮き岩を足場にしてトルネイダーで滑空すれば……いける!」

 

「待て勇者! 今は守護のフロニャ力が酷く弱まっている! 落ちれば死ぬぞ!」

 

「んなもん、落ちなきゃいい!」

 

 

 エクレールの警告にそう宣言して輝力武装を作り出すシンクを横目に、尊もどうにか追いつく方法がないか模索していた。

 

 ――俺も輝力武装を使えば同じように移動手段を得ることができるだろうが、問題はしっかりと形態を維持できるかだ。

 

 風月庵で試してから大分輝力の扱いができるようになったが、輝力武装に関してはあれ以降全く手をつけていない。

 

 ――どうする? 一か八かの輝力武装より、途中までシンクに乗せてもらって近づいたら加速とヘイストの鉢巻きで走るか? いや、既にエクレールが乗り気だから俺が加わると墜落しかねない。だったら気合で輝力武装を形成して移動手段を確保するか……ええい! 現実的な手段がないのが非常に腹立たしい!

 

 自分が輝力を十全に扱えないことにイライラしだす尊。その時――

 

 

「!? なんだ!?」

 

 

 突如、頭の中にステータス画面が展開され、中央に一つの文が点滅していた。

 

 

 

evolution completion.

new ability release.

 

 

 

「……新能力、解放?」

 

 

 ――そういえば画面の端に『ability update.』とかあったな。あれが終わったってことか――まて、上の文が進化完了ってことは!?

 

 頭の中で何かがカチリとはまり、反射的に特殊スキル欄を開いてみると、彼にしか見えないところで新しい項目が追加されていた。

 

 

 

紋章術者(New ability)

 ・輝力操作最適化

   ※フロニャルドにおいて、自在に紋章術が使用可能

   ※消費輝力が能力解放前の10%で使用可能

 ・フロニャルド以外での場合、MPを消費して紋章砲、輝力武装を使用可能

   ※・レベルに応じて消費MPが10ずつ加算

     (レベル1=10・レベル2=20・レベル3=30(MAX))

    ・消費MP50で輝力武装を展開

      自ら消滅させない限り顕現可能

      ただし攻撃を加えられると消滅。また、二つ以上の同時展開ができない

      複雑な物ほど消費MPが増加

      移動系武装は推進力に輝力を使用する(操作内容によって消費量が変動)

 ・シルバーピアスの効力適用能力

 

 

 

「……は、はは、なんて出来すぎなタイミングで発現するんだろうな」

 

 

 込みあがる笑みが抑えきれない。

 尊に備わったUG細胞改による『自己進化』がここにきて完了し、彼が現在欲してやまなかった能力がまるで狙っていたかのように解放された。

 

 

「この能力解説に書かれていることが正しいのなら、今すぐにでも俺が作りたい物ができるはずだ!」

 

 

 思い浮かべるは空を飛べる乗り物。しかしそれは元の世界にはないもので、空想の中でしか存在しえないもの。

 尊の足元に青白い光があふれだし、彼の明確なイメージによって一つの乗り物が形成される。

 その出来に尊は感心し、周りで見ていたシンクたちはそれが何なのか尋ねる。

 

 

「ミコト。それはなんじゃ?」

 

「ベースジャバーのユニコーンVer……といってもわかりませんよね。簡単に言えばこれで空を飛び、底面にある砲門から紋章砲を放ち敵を迎撃することができます」

 

 

 そう、尊が作り出したのは機動戦士ガンダムUCに出てきたベースジャバーを人間サイズに縮小したものだ。

 トルネイダーと違いある程度自由に空を飛ぶことができるが、推進力や迎撃用の砲門に輝力を使用するため調子に乗って使いすぎると輝力を使い切り墜落する可能性もある。

 だがそれを差し引いても破格の性能を有しており、こと今の状況では実に頼もしい武装だ。

 

 

「シンク! 俺は空からこいつで攻める! お前たちは下から来てくれ!」

 

「わかりました!」

 

「待て! ワシも行くぞ!」

 

「いけませんレオ様! 傷は塞がっていますが、輝力を使いすぎてフラフラではありませんか!」

 

 

 確かに傷こそ尊のレイズで回復したが、その前に魔物との戦闘で輝力を使い果たし体力が大幅に低下していた。現に今もルージュに支えられることで立っているのがやっとなのだ。

 回復に必要な時間がまだ足りておらず、無理についていけば足手まといになりかねない自分にレオは悔しそうに顔をゆがませる。

 

 

「……ならばミコト、それに勇者と親衛隊長。頼みがある」

 

 

 一度目を伏せ、託すように声を絞り出す。

 

 

「この世界を……ミルヒを頼む!」

 

「「「……はい!」」」

 

 

 力強く答え、シンクはエクレールを乗せて発進し、尊もグリップを掴んでベースジャバーを飛翔させる。

 

 

「今行くぞ……サラ!」

 




第26話、いかがでしたでしょうか?

尊が新しく体得したスキルについて簡単に補足しますと、今まで彼が上手く輝力を扱えなかったのは『自己進化』の力が進化のために尊が使用する輝力を余分に食ったため発動が不安定になっていたという設定があります。
進化に必要な輝力を確保した後は安定して紋章術が使えるようになり、『自己進化』が輝力の消費量を最適化するようになりました。
この山場が終わり次第尊のステータスや能力を改めてまとめますので、詳しくはそちらで確認ください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話「厄災の種」

どうもこんにちわ、この作品にシンフォギアをぶち込もうか悩んだ挙句、これ以上は尊君がエグイことになりそうだと判断して導入を見送ることにした作者です。

さて、ここから原作のDOG DAYSから大きく離れた展開となります。いわゆる原作崩壊です。
「のほほんまったりな犬日々になんてものをぶち込みやがったこの作者!」と思われてもおかしくありませんが、作者の頭に沸いた妄想は常に原作を破壊し回っております。ご了承ください。

それでは本編第27話、どうぞご覧ください。


「……ん、ぅん」

 

 

 ミルヒが岩の上で目を覚ますと、視界に赤い雷が荒れ狂う暗い空と焼け焦げた大地が広がっていた。

 緑は僅かにしかなく、焼けた木が点々とあるだけで、まるで強大な何かによって滅んでしまったかのような世界だった。

 

 

「こ、ここは……」

 

『姫君』

 

 

 不意に後ろから声が上がり、振り返ってみれば八つの尾を持つ白い狐が現れた。

 黄色の文様と羽衣のようなものが高潔な印象を与え、ただの狐ではないことを雄弁に語っていた。

 

 

『聖剣の姫君』

 

「は、はいっ!」

 

 

 今までにない呼ばれ方に思わず緊張して返事をすると、狐は(こうべ)を垂れて謝罪する。

 

 

『申し訳ありません。我が子があなた方に、酷いことをしてしまいました……』

 

 

 

 

 

 

「邪魔だ!」

 

 

 目の前に機雷の如く浮遊する無数の岩をベースジャバーの砲門で薙ぎ払う。原作同様、射角が左右にしか存在しないので基本的に正面の物に対してしか効力を発揮しない。

 上昇や下降、旋回などで回避するという手もあるが、今は一秒でも時間が惜しいので、消し飛ばせるものはどんどん排除していく。

 シンクとエクレールは俺にやや遅れ気味だがしっかりとついてきており、この調子なら問題なく追いつくだろう。

 ……いや、下手をすれば先に行かれるかもしれないな。

 

 

「空を飛んで迫る俺が、最も脅威に見えるんだろうな」

 

 

 目の前から迫るのは魔物の周りに漂う狐の怨念のようなもの。

 それが群れを成して迫り、俺の行く手を阻もうとする。

 岩を排除したように砲門から攻撃を仕掛けるが、こちらの射角を把握しているのか上下に分かれて回避し、群れの被害を最小限にして突っ込んでくる。

 

 

「なら、こいつはどうだ!」

 

 

 グリップに足を引っかけサテライトエッジをボウにして召喚し、紋章を発動させながら矢を引き絞り一気に解放。

 飛翔した矢は途中で細かく分裂し、散弾の如く広がると怨念の逃げ場を塞いで次々と撃墜した。

 碌に輝力を溜めていないから一発一発の威力はそれほど強くないが、怨念を撃破するには十分だったようだ。しっかりチャージして解放すれば、戦でも十二分に効果を発揮するだろう。

 ただ紋章術である以上、クロノ世界で使用してもモンスターを撃破することはできないはずだからフロニャルド限定の技になりそうだ。

 

 

「とりあえず、『ブレイクショット』とでも名付けるか。 さあ、片っ端から撃ち落としてやるぞ!」

 

 

 再び輝力を込めながら矢を番え、密集している怨念に向けて放つ。

 道が開いたところで一気に加速し、怨念の群れを抜ける。すると第二陣が多方向から殺到し、さっきのようにまとめて撃ち落としにくい攻め方をしてきた。

 学習しているのか? だとしたら長期戦になると物量に押されて不利になるな。

 

 

「一気に駆け抜けるか! 『加速』!」

 

 

 精神コマンドを使用した瞬間、爆発的な加速でベースジャバーが包囲網を突破。追撃されるのも面倒なので無理やりベースジャバーを旋回させ、俺という標的を失い密集する形になった怨念へ再度『ブレイクショット』を叩き込む。

 怨念が根こそぎ撃破されたのを見届け、進路を修正して魔物に向ける。

 すぐに取り付ける距離にまで迫り、行き掛けの駄賃に底面の砲門で怨念を倒し着地点を確保。ベースジャバーを消滅させ、滑りながらその図体にたどり着く。

 すると真後ろからガガガッと何かを擦るような音が上がり、頭から血を流したシンクがトルネイダーから降り立った。

 

 

「シンク! エクレールはどうした!?」

 

「僕をここに届かせるために、途中で飛び降りました! さっさと行けって、送り出してくれた!」

 

「……了解だ! 行くぞ! 二人はもう目の前だ!」

 

 

 『ケアル』でシンクの傷を癒し、ハルバードを構えて突撃する。

 目標点は、ひときわ厚い怨念の壁の向こうにある球体。

 

 

「「道を……開けろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

 

 

 

 

 

 

 全てが闇に染まった世界の中、サラは浮いているのか立っているのかもわからない感覚を感じながらそこにいた。

 なにもない無の空間。光もなく、体の芯から凍えるような寒気が全身に纏わりつき、思わず体を抱きすくめる。

 

 

「ここは、いったい……」

 

『ソノ気配……我ガ本体ノ……』

 

 

 サラの目の前で、巨大な目がギョロッと見開かれた。

 

 

 

 

 

 

「殺到するなら女の子の方がいいんだがなぁ! 畜生! 同じ怨念でもナイトゴーストのおんねんはここまで鬱陶しくはなかったぞ!」

 

 

 苛立ちからついつい余計なことを口走ってしまう尊。

 順調かと思えた最後の突撃だが、よほど彼らを先に進ませたくないのか、辺りにいた怨念すべてが神風特攻隊の如く殺到してきたのだ。

 さらに危険度としては尊の方が上らしく、怨念が集中してきたためシンクに二人の救出を頼み彼はベースジャバーで囮となって大量の怨念を引き連れて空を舞っていた。心境としてはタタリ神の触手から逃げるアシタカのようだ。あちらと違って呪いを受けることはないだろうが、一発でも貰った瞬間ベースジャバーの動きが鈍くなり集中攻撃を受けるため、弾幕ゲームさながらの軌道を要求されていた。

 シンクの様子を確認してみると、どうやらうまく目標地点にたどり着いたらしく、球体を破ろうと必死に殴りつけていた。

 

 ――二人を救出したら今度はこの魔物をどうにかしないといけない訳なんだが、何せこの巨体だ。ゲート用に溜めたエネルギーを使う必要があるかもしれない。いずれにせよ、二人の心配がなくならない限りどうにもならない。シンク、早く頼むぞ。

 

 

「っと! ここで合体してファンネルさながらの全方位攻撃(オールレンジ)か! うぜぇ!」

 

 

 怨念が集まり巨大な剣となって尊に迫る。ぼやきながらベースジャバーの紋章砲で正面の剣を撃破し、間髪入れず突撃。

 完全に回避できたことを確認してすぐさま亜空間倉庫からミドルエーテルを取り出し、嚥下する。

 予備のエーテルはあと二つ。尊は残りのMPを留意しつつ『集中』を使用するのだった。

 一方、尊が囮になった甲斐あってシンクはミルヒが捕らわれている球体にたどり着くことができた。

 しかし球体の中にいるのはミルヒだけで、一緒に取り込まれたはずのサラはそこにはいなかった。

 

 

「姫様! 姫様!」

 

 

 殴りつけた個所からは波紋が広がるだけで、とてもではないが球体を破壊できそうな様子はなかった。

 焦りが思考を焦らし始めたが、そこでシンクは砕けたエクセリードと、ミルヒの指にある二つの宝剣が光を発していることに気づく。

 すると球体が揺れるとともに、全体に亀裂を走らせる。亀裂は一気に全体へと広がり、ガラスのように砕けると中に満ちていた水とともに一糸纏わぬ姿となったミルヒを解放した。

 

 

「姫様! 大丈夫ですか!?」

 

 

 解放されたミルヒを支え声をかける。

 小さなうめき声とともにゆっくりと瞼が開かれ、その視線がシンクを捉える。

 

 

「シン……ク……?」

 

「はい! よか――って、ぁ!?」

 

 

 安堵したのも束の間。シンクは彼女の姿を見て言葉を失い、顔を赤くした。

 ミルヒは服を消化されてしまったのか、身を隠すものがない生まれたままの姿としてシンクに支えられていた。

 

 

「? ……はわぁ!?」

 

「すいません! すいません!」

 

 

 ぼんやりとした意識の中、それを把握するとミルヒも急激に顔を赤くし、湧き上がる恥ずかしさから腕で前を隠す。シンクもシンクで羞恥心から彼女から目を背け、謝罪をしながら顔を手で覆う。

 しかしそんなやり取りも長くは続かず、ミルヒは何かを思い出したかのように己の身も顧みずシンクに顔を向ける。

 

 

「そ、それよりもシンク! 私、この魔物を助けてあげたいんです!」

 

「え、助ける?」

 

 

 ミルヒの話によれば、この魔物は元々普通の土地神の子供だったのだが、数百年前に落雷とともに落ちてきた妖刀によって魔物の姿へと変わってしまったというのだ。

 その際に母親の土地神が取り込まれ、魔物となった子供は山の森に棲む動物たちを食らい、全てを滅ぼす破壊の化身となった。

 200年ほど前に聖剣の主の手によって封印されたのだが、何かがきっかけで封印が解かれ、現世に甦ってしまったという。

 何故それを知っているのかという疑問もあったが、彼女曰く取り込まれた際にその土地神の母親に会いすべてを教えてもらったとのことだ。

 

 

「だから私は、このフロニャルドに生きる者として、こんな悲しい終わり方を否定するために、この土地神の子供を助けてあげたいんです!」

 

「……わかりました。それと姫様、サラさんはどこかわかりませんか?」

 

「……すみません。取り込まれる直前に声をかけていただいたのは覚えているのですが、そこから先はわかりません。もしかしたら、別の場所に捕らわれているのかも」

 

 

 どうやら魔物はサラを特別視したらしく、ミルヒとは別の場所に確保しているようだ。

 

 ――あれか!

 

 辺りを見渡し、シンクはここからさらに離れた場所に刺さった禍々しい刀と、ミルヒを捕らえていたものよりも黒い球体に捕らわれたサラを見つけた。

 

 

「尊さん! 魔物の頭のところにサラさんが!」

 

「っ!」

 

 

 シンクの声が耳に届き、剣の怨念を引き連れたままベースジャバーの進路を魔物の頭上へと向ける。

 確かにそこには赤い妖刀と、黒い球体に閉じ込められたサラがいた。そして接近するのを拒むように、無数の怨念が尊に向かって特攻を始めた。

 

 

「邪魔すんなっつってんだろ!!」

 

 

 ブラスターを召喚し、ベースジャバーの紋章砲とともに一斉射。正面が完全に開いたことを認識すると同時に、躊躇いなくベースジャバーから跳躍。同時にベースジャバーを自爆させ、後ろに迫っていた剣をすべて破壊した。

 

 

「『勇気』!」

 

 

 落下しながらブラスターをハルバードに変形させ、あらゆる防壁を突破する効果を持つ『勇気』の精神コマンドを発動。

 目いっぱいハルバードを突き出し、サラを傷つけないように球体を砕かんと狙いを定める。

 しかし魔物の体から刃を持った触手がいくつも生え、攻撃を逸らそうと尊に攻撃を仕掛ける。

 本来の彼ならこれくらいの攻撃は紋章術でどうとでもなるのだが、今自分にかかっている『勇気』の効果のひとつ――『直撃』は何かに攻撃をすると効果が消えてしまう。

 手にしたハルバードが先に触手に当たればこちらの狙いに関係なく『直撃』が発動し、サラの球体を破壊できないと悟ると尊はハルバードを収納し両腕を交差させ攻撃を凌ぐ。

 『勇気』に含まれた『不屈』の効果で初撃のダメージは軽く済んだが、後続の攻撃は容赦なく彼の体を襲った。

 腕からは鮮血が舞い、攻撃の一部が肩を骨ごと切り裂き確実にダメージを与える。

 

 

「それが……どうしたぁ!」

 

 

 アドレナリンが全開となり痛みを封殺。ただ一点を睨み付け、拳を強く握り締める。

 触手を払いのけ続けて防御を突破し、ついにクロスレンジに届く。

 

 

「サラァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 彼女に届けとその名を叫び、尊は渾身の力を込めて球体を殴りつけた。

 

 

 

 

 

 

「ひっ……!」

 

 

 突如現れた目に悲鳴が漏れ、サラは身を仰け反らす。

 しかしその行為に意味はなく、目はその数を増してあらゆる角度からサラを見つめる。

 

 

『汝ノ魔力ヨリ感ジル我ガ本体ノ気配……。汝ハ何者ナルヤ?』

 

「わ、私は……」

 

『否、重要ナノハソノ点ニアラズ……。汝ノ魔力……ソレサエアレバ、我ハ本体ノ子トナリソノ身ヲ顕現デキル……!』

 

 

 四方八方より黒い触手がサラを捕らえ、数本の針が腕に突き刺さる。

 針のところから魔力が抜けるのを感じ、嫌悪とともにサラの心を恐怖が支配した。

 

 

「ゃ……嫌! 嫌ぁ!!」

 

『素晴ラシイ……実ニ素晴ラシイ! 僅カシカ吸収シテオラヌノニ、コレダケデ顕現デキソウデハナイカ!』

 

 

 正面の目のやや下の空間が裂け、巨大な口が出現する。

 それだけでこれから何をされるのかがわかり、サラの眼に涙が溢れた。

 

 

「助けて! 誰か……!」

 

『完全ニ顕現サセルタメニモ、汝ノ身体……イタダクゾ!』

 

 

 出現した口が大きく開かれ、サラを丸呑みにしようと迫る。

 

 

「助けて……ミコトさぁぁぁぁん!!」

 

 

 

 

「サラァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 思わず叫んだ名前に応えるかのように自分が求めた人物の声が響き、世界が光に満ちた。

 

 

 

 

 

 

 球体が砕けるとともに中から何も纏っていないサラが現れ、とっさに予備のマントを亜空間倉庫から取り出し、受け止めると同時にその身を包む。

 

 

「サラ様! しっかりしてください! サラ様!」

 

 

 何度目かの呼びかけて薄っすらと瞼が開き、何かに怯えた瞳が尊に定まる。

 

 

「ミコト……さん……」

 

「大丈夫ですか、サラさ――ま!?」

 

 

 言い切る前に、サラが思いっきり抱き着いた。

 何事かと思う前に彼女の肩が震えているのに気づき、尊は落ち着かせるべく優しく抱きしめる。

 

 

「ミコト、さん……。ミコトさん……」

 

「もう大丈夫ですよ。ですが、遅くなってすみません」

 

 

 涙声で確認するように何度も彼の名を呼びながら、尊も安心させようと頭を撫でる。

 自分の血が付着することに少々気が引けたが、それ以上に自分を求めるサラに応えながら目の前の妖刀を睨む。

 

 

「これが、すべての元凶か」

 

「尊さん! サラさん!」

 

「お二人とも、大丈夫ですか!?」

 

 

 エクセリードとパラディオンのおかげで傷の治癒と装備を整えられたシンクたちが二人に追いつき、安否を気遣う。

 血まみれの上に一部骨まで露出した尊を見て顔色を悪くした二人だが、視線に気づいた尊が自身に『ケアル』を唱えることで傷を塞ぎ見た目的に若干だがマシになった。

 

 

「すまん、エグイところを見せてしまったな」

 

「い、いえ……それよりも尊さん。実はこの魔物、元は土地神の子供らしいんです」

 

 

 シンクは先ほどミルヒから聞いた内容を伝え、妖刀を抜けば丸く収まることを告げた。

 

 

「なら、妖刀を抜くのを任せてもいいか? 俺は今、見ての通りだからな」

 

 

 落ち着いたとはいえまだ少し体を震わすサラを見て二人は頷き、鎖で固定された妖刀を引き抜きにかかる。

 だが土地神を支配している妖刀がそれをさせまいとするのか、魔物は苦しそうな声をあげながら暴れまわり、体を揺らすことで引き抜かれるのを阻止しようとした。

 

 

「うお……っとぉ!?」

 

「きゃあ!」

 

 

 体勢的にも不安定なのが影響したのか、大きく揺れる足場に踏ん張りが効かず尊とサラは魔物の体から滑り落ちた。

 しかしそれからすぐに尊がベースジャバーを展開し落下を防ぎ、上空へと退避させる。

 状況を確認しようとシンクたちに目をやると、いつの間にか全ての鎖が外れた妖刀をシンクが全力で引き抜こうとしているところだった。

 あと少しだと尊が思ったその時、妖刀が抜かれ勢い余ってシンクが後ろへ飛び、妖刀の先端に刺さっていた岩が抜けると岩は傷を負った小さな狐――土地神の子供へと姿を変える。

 土地神に変わったのを見た瞬間ミルヒは全力で駆け出し、落下させまいと空中でキャッチする。

 

 

「よし! ――って!?」

 

 

 ミルヒのダイビングキャッチを見て思わずガッツポーズをした尊だが、魔物だったものが土となって崩れ出したのとシンクの手にある妖刀が蠢きだしたのを見て驚愕した。

 

 

「マズい! シンク! 今そっちに――」

 

「ミコトさん! あれを!」

 

 

 助けに行く必要があるとみてベースジャバーを向かわせようとした尊だが、サラがグラナ砦から飛来するそれに気づいて指をさす。

 緑色の輝力を纏った強力な矢が寸分の狂いもなく妖刀の柄を破壊し、シンクに取り付こうとした妖刀を遠くの森へと弾き飛ばした。

 あの砦にいてこんな芸当ができる人物を、ここにいる四人は同時に思い浮かべた。

 

 

「今の攻撃は、もしかしなくとも……」

 

「……レオ閣下でしょうね。どうやったらあんな距離からピンポイントで妖刀を弾かせられるんだか……」

 

 

 自分のように確実に命中させる特殊能力があるわけでもないのにと尊は苦笑いを浮かべ、改めてシンクたちの元へと近寄る。

 

 

「二人とも、大丈夫か?」

 

「はい! 早くここから逃げましょう!」

 

 

 既に崩壊は始まっており、端の方から魔物の体はどんどん崩れていた。

 ここは高さもかなりある上に今は守護のフロニャ力も弱まっているため、落ちればただでは済みそうにないのが容易に想像できた。

 

 

「少し狭くなるが、二人ともベースジャバーに――――」

 

 

 

 

 

『逃サンゾ……』

 

 

 

 

 

 怖気を持った声にゾクッと尊とサラの背筋が凍りつき、二人は同時に振り返る。

 

 

 

『万全ニハ程遠イガ、子ノ姿を顕現サセル程度ノ魔力ハ得ラレタ』

 

 

 

 声の発信源は先ほど妖刀が消えた場所。

 その声にサラは先ほどまで自分がいた空間を思い出し、体を震わせる。

 彼女を安心させようと抱き寄せる尊だが、声に感じた気配に近いものを思い出し同じく肩を震わせる。

 

 

 

『見ルガイイ……。コレコソ、イズレ我ガ本体ト同ジ姿ニナル子ノ姿ダ……!』

 

 

 

 バキバキと森の木々がなぎ倒され、先ほどの魔物程ではないにしろかなりの大きさを持ったそれが姿を見せる。

 針山のような殻を背負い、先端の頭部は三つに割れその頭を露出させる。

 

 

「嘘……だろ……」

 

「そ、んな……」

 

 

 事情を知らないシンクとミルヒは警戒をするだけだったが、それが何なのかを知る二人の頭には疑問と絶望が埋め尽くされていた。

 それは本来ここにはいない――否、ここに存在してはならないもの。

 

 

「なんで……なんであれがここにいる!?」

 

 

 尊の問いに答える者は誰もいない。しかし、絶望の種は芽吹いた。

 

 ラヴォスという厄災の子(プチラヴォス)が、ここフロニャルドに目覚めた。

 




本編第27話、いかがでしたでしょうか?

サラの尊に対する好感度がグーンと上がりました。
ついでに禍太刀があろうことかプチラヴォスへと変化しました。(ついでで済まされない)

というわけで次回はプチラヴォス(フロニャルド版)戦となります。
とはいっても所詮はプチラヴォスなので結果はお察しください。
なんでこいつがここに、などの疑問は申し訳ありませんが2期編のある部分まで伏せさせていただきますので、ご了承ください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話「貴方は……何者なのですか?」

どうもこんにちわ、尊とクロノたちに脳内CVをつけようとして女性陣がほとんど思い浮かばなかった作者です。
ちなみに現在こんな感じです

月崎尊:岡本信彦
サ ラ:早見沙織
クロノ:中村悠一
マール:
ルッカ:
エイラ:
ロ ボ:杉田智和
カエル:緑川光
魔 王:子安武人
ダルトン:大塚芳忠

それはさておき、プチラヴォス戦は今回で終わり、後半にシリアスがあります。
後半は自分でもどうしてこうなったかわかりませんが、プロットにかなり影響しそうです。(震え声

どうにかやってみようと努力しますが、一先ず今は本編第28話をご覧ください。

なお、プチラヴォス戦にBGM『ボス・バトル1』を推奨します。
ヤクラなどの通常ボスの時に流れるあれです。


 ……そうか、そういうことか。

 どうして雲が出てきたときの空気が海底神殿を彷彿させ、奴の気配に恐怖したのか、ようやく理解できた。

 あの日――サラの運命を変えた日に初めて遭遇した、俺が元の世界に帰るために倒さなければならない存在。

 

 ラヴォス。

 

 星を喰らい、自らの糧として成長する超生命体。

 

 

「あれがその一部だというのなら、これまでの嫌な感じや怖気も納得できる」

 

 

 何せ海底神殿で俺は奴を一目見た瞬間に、自分が死ぬ姿を幻視したくらいだ。

 あの本体と比べたらその子供であるプチラヴォスなどまさに赤子同然の差があるが、体に刻み付けられた恐怖は奴の影をちらつかせる。

 

 

「尊さん、サラさん。あれを知ってるんですか?」

 

「ああ……あれこそサラ様の国を、世界を破壊しつくした化身の幼生体だ」

 

 

 子供とはいえ、そこにいるのは世界一つを破壊しつくした化け物。その力がフロニャルドに向けて放たれればサラの世界の二の舞になるのではと危惧し、シンクたちは息を呑んだ。

 

 

『アァ……足リヌ……。我ガ体ヲ維持スルニハ魔力ガ足リヌ……。 ――ソノ娘ヲヨコセ。ソレサエ取リ込メバ、我ハ確実ニ本体ト同ジ姿ヲ得ルニ至レルノダ!』

 

 

 プチラヴォスから魔物と同じ刃を持った触手が現れ、サラを捕らえようとこちらに差し向ける。

 この状況でサラが狙われているのなら、俺がやるべきことは一つだ。

 

 

「シンク、姫様、乗れ! 全速でこの場から離脱する!」

 

 

 当初の予定通り、一先ず二人を乗せて砦まで撤退だ。触手がどこまで伸びるかわからないし、手あたり次第攻撃をされて避難した人たちにまで攻撃が及べばもちろんマズい。だが奴の言葉が確かで、サラを取り込まれて第2のラヴォスにでもなられたら、周りの被害云々より前にこの世界の終わりだ。比喩でもなんでもなく、文字通り星が死ぬ。

 二人でも狭く感じていたベースジャバーはさらに倍の人数が乗ったことで十分過剰と言えるほどの重量がかかっているが、ありったけの輝力を推力に回して無理やり万全の時と同じ状態に持ち込もうとする。

 しかしいくら推力を上げようと重量による加速の低下はやはり無視できるものではなく、後ろから迫る触手は徐々にその距離を縮めていた。

 

 

「このぉ!」

 

 

 シンクが剣となったパラディオンを振るい斬撃を飛ばす。

 いくつかの触手はそれで破壊されたが、あとからあとから際限なく湧いてくる。

 

 

「くそ! 砲門が後ろに向けられれば!」

 

 

 原作通りに再現できるのはいいが、次から改良の余地ありだな!

 

 

『墜チヨ!』

 

 

 プチラヴォスから黒い紋章砲が放たれ、まっすぐにベースジャバーに向かってくる。

 フロニャルドで育った個体だから紋章術も使えるってか! ふざけやがって!

 

 

「ディフェンダー!」

 

 

 巨大な盾が展開され、シンクが防御を試みる。

 直撃コースの紋章砲はうまく防げたようだが、受け止めたシンクから苦悶の声が上がり盾もヒビが入っているのかビシビシと亀裂が走る音が聞こえる。くそったれのバ火力め!

 

 

「一気に加速させる! うまく受け流してくれ!」

 

「わ、わかりました……!」

 

「『加速』!」

 

 

 精神コマンドで一気に加速しながら徐々に敵の火線上から逃れるように機体を動かす。それに合わせてシンクも盾を傾けることで砲撃を反らし、ベースジャバーはついに離脱に成功した。

 しかも『加速』をかけたことで触手からも距離を取ることに成功し、気持ち的に少し余裕が出てきた。

 このまま『加速』を連発して砦まで後退してもいいのだが、奴を倒しに行くときにMPがなかったり輝力の使い過ぎで体力が切れたりでもしていたら、いくらUG細胞改の恩恵があってもまずい。

 せめて三人を安全な場所で降すことができれば何とかなるんだが、そんな都合の良い方法は……。

 

 

「姫様ぁー!」「勇者様ぁー!」

 

 

 横から聞き覚えのある声が二つ上がったかと思うと、空を飛ぶセルクルに乗ったエクレールとリコッタがこちらに向かってきていた。

 

 

「ご無事ですか! 姫様!」

 

「ただいま到着でありま――「でかしたおまえらぁぁぁぁぁぁ!」――ひゃわぁ!?」

 

 

 俺の大声にリコッタが驚いているが、それはそれとしてなんという行幸!

 急いでベースジャバーを寄せ、セルクルに隣接させる。

 

 

「エクレール! 事情はあとで話すから大至急この三人をグラナ砦まで送ってくれ!」

 

「え!? まさか尊さん、一人であれと戦うつもりで――うわっ!?」

 

 

 俺の指示がどういうことか察したシンクがそんなことを聞くが、俺は有無を言わさずシンクの首根っこをつかんでセルクルの上に乗せる。俺のしたことに驚いたのか、心配そうにシンクに目をやっていたミルヒオーレ姫もこの隙にシンクの上に降ろし、最後にサラを抱き上げて少ない空いているスペースへ移す。

 

 

「ま、待ってくださいミコトさん! 私も戦えます!」

 

「申し訳ありませんが、奴の狙いはサラ様です。あなたを守りながら戦うには俺はまだ実力不足ですし、取り込まれでもしたらどうなるかあなたも想像できるはずです」

 

「け、けど……!」

 

 

 卑怯な言い方だと自分でも思うが、こうでもしないと彼女はこのままついてきそうなのだ。

 まだ何か言いたそうなサラから視線を外し、セルクルの手綱を握るエクレールと起き上がったシンクに話しかける。

 

 

「シンク、エクレール。必ず二人を砦まで送り届けてくれ。特にサラ様があれに取り込まれてしまえば、脅しでもなんでもなく本当に世界が終わりかねない。いいか、これは本当に大げさに言ってるわけではないぞ!」

 

「わ、わかりました!」

 

「ミコトさん!」

 

 

 最後まで心配そうな声を上げるサラに向き直り、俺は笑みを浮かべる。

 

 

「安心してください、サラ様。この月崎 尊、必ずやあれを滅ぼし、生きてあなたの元に戻ってきます」

 

「……信じて、いいんですか?」

 

「この身の全てを賭けて、約束しましょう」

 

 

 僅かに流れる沈黙。

 一度目を伏せ、サラはゆっくりと口を開く

 

 

「――気を付けて、くださいね」

 

 

 声色は先ほどとあまり変わっていないが、そう言ってくれたサラに俺は敬礼で答え、ベースジャバーを180度回頭させてサテライトエッジをハルバードで召喚する。

 

 

「……ふぅ。改めて思い返すと、かなり恥ずかしいセリフを連発したな。俺」

 

 

 ミドルエーテルを一本飲み干しながら小さく自嘲し、大きく深呼吸をして意識を切り替える。

 目の前には刃の触手が迫っており、その奥には変わらずいるプチラヴォス。

 

 

「――行くぞウニ野郎! 殻すら残してやらねぇからな!!」

 

 

 宣言とともにベースジャバーの紋章砲と『裂空一文字』を同時に放ち、触手を迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 ミルヒの愛騎である飛翔種セルクルのハーランに乗せられたサラは、ずっと尊が向かった方角を見つめていた。

 彼の言った通り、万が一自分がアレに囚われてしまえば、この温かな世界が自分の国と同じ末路を辿ることは容易に想像できる。

 だから尊は自分を逃がし、死を運ぶ存在を滅ぼすべく立ち向かっていった。

 今自分ができることは、彼の無事を祈ることだけだった。

 

 

「サラさん。さっき尊さんが言っていた世界が終わるって、本当ですか?」

 

「……ええ。あれは命あるものに破滅をもたらす、死の存在です」

 

 

 シンクの問いをサラは肯定し、故国の滅亡を思い返す。

 ラヴォスから放たれた光がジールを砕き、大地に降り注いでは世界を滅ぼしたあの光景を。

 繰り返させるなどもっての他なのは百も承知だが、それでも単身で挑みに行った彼の身を案じずにはいられなかった。

 

 

「ミコトさん……」

 

 

 つぶやきは風に消え、しばらくして一行は無事にレオがいるグラナ砦にたどり着くのだった。

 

 

 

 

 

 

「……やはり、行かれるか」

 

 

 禍太刀が落ちた場所へ向かっていたダルキアンとユキカゼだが、空から攻めるそれに気づいて動きを止めていた。

 

 

「御館様、加勢に向かわなくて本当によろしいのですか?」

 

 

 納得できないと思いながらユキカゼが尋ねると、ダルキアンは視線を空に据えたまま優しく答える。

 

 

「心配無用にござるよ、ユキカゼ。 ミコト殿は、あの程度の魔物には絶対に負けぬでござる」

 

「あの程度って……あれは昔御館様に教えていただいた星喰いという魔物では? ミコト殿を随分と信頼されているようですが、この前お会いしたのが初めてでございますよね?」

 

「うむ。ミコト殿とサラ殿からすると、この前に拙者と会ったのが初めてでござるよ」

 

「?」

 

 

 ダルキアンの言い方に首をかしげるユキカゼだが、轟いた轟音に思考が中断された。

 

 

 

 

 

 

 『集中』と『加速』を連発しベースジャバーの軌道を右へ左へ、上へ下へと忙しなく操作し、時には速度に緩急をつけて触手とのタイミングをずらす。

 尊が知る本来のプチラヴォスと違い、この個体はわかっているだけで触手の刃と紋章砲を使用してくる。彼はこれをフロニャルド個体特有のものとし、攻撃手段に関してはクロノ世界の個体とは別物であると決めつけた。

 しかし攻撃はこれだけでなく、彼が知っている本来の個体と同じ攻撃手段も普通に使用されることがこの短時間で分かった。

 

 

「また乱れ吹雪かよ! 状態異常の対策してない上に一人だから食らうとまずいんだよ!」

 

 

 プチラヴォスの口から放たれる攻撃にぼやきながらベースジャバーに回避行動をさせ、最後のミドルエーテルを飲み干してプチラヴォスの頭部にチャージが溜まったブラスターを構える。

 

 

「『勇気』!」

 

 

 銃口を弱点である頭部に向けて必ず攻撃を命中させ、かつダメージを3倍に押し上げる精神コマンド『勇気』を使ったうえでトリガーを容赦なく引く。

 エネルギーの塊が寸分違わず狙った場所に直撃し、轟音とともにプチラヴォスから悲鳴が上がる。

 プチラヴォスからしたら何故ピンポイントに弱点である頭部を狙ってくるのか理解できなかったが、これは単純に尊がプチラヴォスがどういう存在で、どう攻撃すれば安全に倒せるかを知り尽くしているからだ。

 

 

『グゥゥゥ……! 邪魔ヲスルナ! 貴様ノ相手ヲシテイル暇ハナイノダ!』

 

「邪魔するに決まってるだろうが! お前のような存在は一匹たりとも生かしておく理由がない! ましてや、サラをお前如きに吸収されてたまるか!」

 

 

 ツインソードを構え、迫るプチラヴォスニードルを『裂空十文字』で迎撃。

 空の抜け道を確保し、『勇気』に含まれた『加速』を使って地上からくる針の雨を避ける。ベースジャバーの機動力は彼にとって大きな武器となっているので、まだこの機動力を削がれるわけにはいかない尊は慎重に攻撃を凌ぐ。

 彼にとってうれしい誤算だったのは相手のプチラヴォスが今の姿になって間もないため攻撃や防御がワンパターンな上、ラヴォスの吐息やスプレットボムといった魔法系の攻撃をしてこないというアドバンテージがあった。

 スプレットボムを使用されれば攻撃の余波でベースジャバーから転落、もしくはベースジャバーそのものが消滅する可能性もあり、ラヴォスの吐息をもらえばスリープ状態となって戦いの最中に眠ってしまうという絶体絶命な展開もあり得た。

 それを考えれば尊にとっての脅威は混乱してしまう乱れ吹雪か全体に高威力のダメージを与えるプチラヴォスニードル、そして刃の触手と紋章砲くらいで、あとは反撃してくる殻に注意さえすれば――ゲーム上とはいえ――プチラヴォスの倒し方を知り尽くしている彼には大きな障害に足りえない。

 

 

『何故我ガ進化ヲ阻ム! 何故我ヲ拒ム!? 何故我ガ貴様如キニ遅レヲトル!?』

 

 

 理解できないとばかりにプチラヴォスは叫び、やたらめったに攻撃を仕掛ける。

 

 

「まずお前たちの進化は他人の良いとこ取りだ! 自分で成した進化じゃない!」

 

 

 迫る乱れ吹雪を躱し、ニードルを凌ぎ尊は前に進む。

 彼我の距離が100メートルを切ったところでプチラヴォスは触手の防壁を形成し、これ以上の接近を防ごうとする。

 

 

「しかもこれ以上進化の情報が得られないと分かれば用済みとばかりに星を殺す! そんな自分勝手な奴を誰が受け入れる! 『熱血』! てぇッ!!」

 

 

 攻撃力を強化した紋章砲で防壁を破壊。プチラヴォスまで目と鼻の先まで接近する。

 

 

「『勇気』! 『集中』!  ――そしてお前の最大の敗因はなぁ!」

 

 

 最後の『勇気』に『集中』を加えてザンバーを展開し、上段に構える。

 

 

「――サラを泣かせたことだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

ゾンッッッ!!!

 

 

 気合一閃。

 『勇気』によって元々の3倍の威力に挙げられた一撃は『加速』の効果で上がった速度のまま振り抜かれさらにダメージが増加。

 『直撃』の効果で紋章による防御もままならず真っ二つにされた頭部は殻から自壊を始め、ところどころから光が漏れる。

 

 

『シ…ンカ……。本体ト……オナ、ジ…………ソンザ――――』

 

 

カッ!!

 

 その言葉を最後にプチラヴォスは粉々になり、今までその身に蓄えられた輝力が空に昇って弾け暗雲を払い、元の綺麗な空を広げた。

 

 

「――くっはぁ……!」

 

 

 緊張の糸が切れドッと大の字で仰向けに倒れ、尊は張り詰めた空気を思いっきり吐き出す。

 深呼吸で心と体を落ち着け、気怠そうに空を眺める。

 

 

「……とりあえず、最悪の事態は回避できたか。最も、なんであれがこの世界にいたかは分からず終いだったがな」

 

 

 あのプチラヴォスは最初こそ禍太刀として土地神の子を魔物に変えていたが、サラの魔力を吸収することで本体の子――プチラヴォスとしての姿を作り出した。

 つまり禍太刀そのものがラヴォスの一部である可能性が高く、他にも存在する可能性が捨てられなくなってしまった。

 

 

「……あっちのラヴォスを潰したら元の世界に帰るつもりだったけど、またこっちに戻って調べてみるか」

 

 

 少なくとも原因を突き止めなければ、心置きなく元の世界には帰れない。

 そう心に誓って尊は動きたくない体を無理やり動かし、再びベースジャバーを展開してグラナ砦へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

「……本当に勝ってしまったでござる」

 

「言ったでござろう? ミコト殿なら負けはしないと」

 

 

 無事に戦いが終わり呆気にとられるユキカゼにダルキアンは満足そうに笑う。

 今頃は尊もグラナ砦に向かっているであろうと考え、自分たちも向かうべくそれぞれのセルクルの手綱を握り直す。

 

 

「では、姫様たちの出迎えに行くでござるよ」

 

「はい!」

 

 

 ――あと数ヵ月、といったところでござるかな?

 

 

 愛騎ムラクモを走らせながら、ダルキアンはその時にある彼らとの再会を今から心待ちにした。

 

 

 

 

 

 

 魔物の出現がたまたま放送されたこともあり、今回の戦は巨大な魔物の出現による負傷者が出たため中止という形で幕を閉じた。

 幸いにして死者や行方不明者は出ておらず、シンクもミルヒオーレ姫も無事なことから結果として最悪な終わり方は回避されたといっていい。

 魔物が出現した場所に近く、直接戦闘をしたというレオ閣下やミルヒオーレ姫の安否を両国国民の誰もが気にしたが、レオ閣下の代表放送によりその不安も解消された。

 放送でレオ閣下は戦を中止せざるを得なかったことについての謝罪をし、まだまだ領主として未熟な自分を両国国民に支えて欲しいと願い、誰もが歓声を持ってそれに応えた。

 そしてすっかり日も落ちた現在。グラナ砦にほど近い場所にて、今回の戦の埋め合わせも兼ねてミルヒオーレ姫の臨時ライブが開催されることとなり、出店で賑わう人たちを横目に俺とサラはある場所へと向かっていた。

 

 

「――お待たせしました」

 

「すまない、疲れているところを呼び出してしまって。どうしても、確認したいことがあってね」

 

 

 ミルヒオーレ姫がいる楽屋の裏手にやってくると、そこには俺たちを呼び出したロラン騎士団長と先にきて話をしていたシンクとエクレールがいた。

 

 

「勇者殿とエクレールから話を聞いたが、お二人はあの棘のついた魔物について何が知っているそうだね。詳しく教えてもらえないかな?」

 

 

 予想していた通りの質問が投げかけられ、俺はサラがいることを踏まえて言葉を選ぶ。

 

 

「あれはサラ様の国と世界を滅ぼした魔物の幼生体です。生まれたばかりでまだ力がないことが幸いしましたが、あれが成長すれば一匹でこの世界を焼き滅ぼしていたでしょう」

 

「一匹で国だけでなく世界を滅ぼしただって?」

 

 

 スケールの大きすぎる被害に驚くロランさんだが、隣にいたサラも肯定したことで納得する。

 

 

「奴はサラ様を吸収することであれ以上に強くなろうとしていました。だから俺はエクレールにサラ様を連れて行ってもらい、あれの撃破に向かいました。後はまあ、五体満足な俺を見てもらえればわかるかと」

 

 

 最も手足がもげようがUG細胞改のおかげで一分もたたずに元通りになるのだがな。

 

 

「……なるほど。ではあれがどこから来たかは、わかるかい?」

 

「流石にそこまでは。むしろ俺が知りたいですね」

 

 

 そもそもあのプチラヴォスが言っていた本体の個体がクロノの世界にいる個体と同一だと断定もできないのだ。

 その辺の調査もクロノ世界のラヴォスを潰してから調べるとしよう。そう考えるとシンクの送還が終わってからサラと一緒にあっちの世界へ戻る必要があるな。

 

 

「――わかった。話をしてくれてありがとう。私はこれから打ち合わせがあるので失礼するが、みんなはこの後のライブを楽しんでくれ。では」

 

 

 そう言ってロランさんは爽やかな笑みとともに立ち去る。このライブの警備に騎士団も駆り出されているようだし、打ち合わせってそっちのことか?

 

 

「そういえばエクレール。シンクを先に行かせるためにトルネイダーから落ちたって聞いたが、大丈夫か?」

 

「平気です。サラ殿のおかげで、すっかりよくなりました」

 

「僕も尊さんに怪我を治してもらいましたけど、魔法ってすごいですね」

 

「なに、俺の魔法なんかサラ様のものと比べたらショボイって」

 

 

 正直、プチラヴォスを倒したからレベル上がってるかなと思ったらまったく変わってなかったし、新しい魔法も習得していない。

 どうやらレベルや魔法に関してはあの世界で上げるしかないようだ。

 まあ、自己進化で新しいスキルを身につけられたことを考えれば、そう悲観することでもないんだが。

 

 

「それじゃ、僕とエクレは露店でご飯食べてきますね」

 

「……ん? それってつまり……」

 

 

 俗にいうデートではと思いエクレールの方を見てみると、彼女は顔を赤くしするなりシンクの手を取ってさっさと行ってしまった。しかもシンクはそんな彼女の様子に気づいていないらしく、引っ張られることに抗議の声を上げるだけだった。

 

 

「……エクレールも大変だな」

 

「そうですね……。あの、ミコトさん」

 

 

 サラは俺の前に来ると、いきなり頭を下げた。

 

 

「ありがとうございます。一度ならず二度も助けていただいて」

 

 

 二度も? ……ああ、海底神殿の時も含めてか。

 

 

「いえ、当然のことをしただけですから」

 

「……その当然というのは、私がジールの王女だからですか?」

 

「……えっ」

 

 

 突然サラの雰囲気が変わり、反応が遅れる。

 頭を上げたサラはどこか悔しそうな表情をしており、見方を変えれば泣きそうな子供にも見えた。

 

 

 

 

 

 

「ミコトさんは命をかけてまで私を救ってくれているのに、私は足を引っ張るばかりで何も返せていません。それが……嫌なんです…………」

 

 

 海底神殿で死を覚悟した際に現れ、救い出してくれた時のことと今回のことがサラの頭に浮かぶ。

 いずれも尊という存在がなければ命を落としていた可能性があり、今回に限ってはこの世界を滅ぼす鍵にもなりかけた。

 

 

「魔物に取り込まれたとき…私は怖くて震えることしかできませんでした……。助けていただいた後にミコトさんの力になりたいと思ってあの戦いに志願しても、貴方の言葉に何も返せず見送ることしかできなかった……。助けてもらってばかりの私は、どうしたら貴方に報いることができますか?」

 

 

 助けてもらってばかりで何も返せず、どうすれば報いることができるのかわからないまま葛藤する自分。

 そもそもだ――――

 

 

「どうしてミコトさんは、ここまで私を助けようとしてくれるんですか?」

 

 

 馴れ初めは傷だらけの彼を治療したことからだ。

 次に会ってみれば仮面をつけてジールにおり、クロノが再び古代に戻ることも知っていて、さらに海底神殿が崩壊することも知っていた。

 

 

「貴方は……何者なのですか?」

 

 

 全てがそこに集約されている。

 サラは、そう思わずにはいられなかった。




第28話、いかがでしたでしょうか?

あと2話ほどでDOGDAYS1期が終了し、クロノ世界に戻る予定となっています。
DOGDAYS'もやる予定ですが、導入はかなり先となりますので姫様やレオ閣下、そして2期より参戦のクー様をお町の方はしばらくお待ちください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


しかしこのシリアス……どうしましょう。(滝汗


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話「真実の一歩先へ」

どうもこんにちわ、雪歩のフィギュア欲しさにゲーセンへ赴いたら3000円使用して雪歩のほかに吹雪と睦月を入手した作者です。

さて、前回の終わりに発生したシリアスの影響を受け、本来ならクロノ世界に戻ってからする予定だった尊の暴露回が今回に回ってきました。また、クロノ世界に行ってからの展開に若干ながら影響が出ることが予想されます。
そして暴露の内容が前作と若干違う内容になっていますが、ご了承ください。

それでは本編第29話、どうぞご覧ください。


 いつまでも誤魔化せるとは思っていなかった。

 自分の異常性は十分理解していたし、いつかそれを指摘される時が来るのも予想できていた。

 それなのに――――

 

 

「貴方は……何者なのですか?」

 

 

 サラの問いを受けた瞬間、まるで心臓を鷲掴みにされたかのような苦しい感覚に陥った。

 そして同時に悟る。

 彼女には、話していなかった全てを語らなければならないのだろうと。

 

 

 

 

 

 

 サラの問いかけに尊は言い辛そうな表情を作り、目を逸らすようにミルヒのコンサートが行われる舞台に視線を向ける。

 

 

「……この世界に初めて来たとき、シンクを交えて話したことを覚えていますか?」

 

「ミコトさんが別の世界から来た人で、時代を巡って私の時代に来たという話ですか?」

 

「そうです。あの時、俺はクロノたちがゲートを封印されてなお戻ってくると断言し、海底神殿が崩壊することを別の時代で知っていたと答えましたが……あれ、正確には違うんです」

 

 

 視線をサラに戻し、揺れる瞳を落ち着かせて尊は告白する。

 

 

「……別の時代で知っていたからじゃない。物語としてそうなることを……全部、知っていたからなんです」

 

「物語として?」

 

 

 繰り返された言葉に頷き、話を続ける。

 

 

「まずどうして俺が時の最果てにいたか、と言うところから説明することになるんですが……俺は元の世界にいた神という存在のふざけた都合で世界を渡ることになったんです」

 

「……神のふざけた都合、ですか?」

 

 

 いきなり神などという大仰な存在の、しかもふざけた都合が原因だと言われサラは戸惑い気味に尋ねる。

 そんな彼女の言葉を肯定し、続きを話す。

 

 

「俺の世界ではどうやら神が部署を作って働いているらしく、死んだ人間に生きることに未練があるなら特典……超人的な身体能力や娯楽の中の兵器、望むものを与えて別の世界で新しい人生を歩めるようにしていたらしいんです。勘違いしてもらわないで頂きたいんですが、俺は別に死んだから別の世界を渡るようになったんじゃありません」

 

 

 魔王との決戦のあと流れ着いた次元の狭間で出会った女神の言葉を思い返しながら、ここに至る経緯を説明する。

 

 

「なんでも俺の生活していた場所を管理する神が、調子に乗って生きたままの俺を別の世界に飛ばそうとしたらしいんです。本来ならそれはギリギリ防がれるはずだったんですが、世界を移動するためのエネルギーと別の次元から干渉してきた力に巻き込まれてしまったらしく、結果として別の世界に飛ばされてしまったんです」

 

「そんなことが……。それで辿り着いたのが物語でしかないはずの、私がいる世界だったということですか?」

 

「はい。 その物語――タイトルを『クロノトリガー』と言います。この物語は俺の世界でゲーム……娯楽作品として大人気となった作品で、俺はそれを隅々まで網羅するほどのめりこんだ結果、どこの時代で何があり、どの敵がどんなことをするのかまで完璧に答えられるほどになりました」

 

「ではここに来ることも知って……いえ、でもあの時のミコトさんは確かに驚いて……」

 

「それについてなんですが……一つ、教えておかなければならないことがあります。サラ様にとって、非常に重要なことです」

 

「私にとって?」

 

 

 思考の海に沈みそうになったが、今までで一番重い口調の尊から意識を切り替え続きを待つ。

 数秒の間を置き、尊は意を決したように告げる。

 

 

「本来の物語であればあなたは海底神殿崩壊の折に行方不明となり、生死不明のまま二度と現れることはありませんでした」

 

「……二度と、ですか」

 

 

 つまり尊の言う物語ではそれ以降自分は存在せず、終わった人物として扱われているのだろうとサラは推測した。

 そしてハッと気づく。そうなるはずだった自分が今、尊とともにここにいるという意味が。

 

 

「ではあの時、ミコトさんが海底神殿にいたということは……」

 

「あなたがいなくなることを知っていて、行方不明となる未来を変えるために動いた結果です」

 

 

 ゲームをプレイして常々報われないと思った尊が、図らずも得た無二の機会。

 最終的に異世界へ渡るという結果になったが、生存がはっきりとした状態でサラは救われることとなった。

 それを理解した瞬間、ただでさえ恩を感じていた心が重みを増した。

 

 

「なら…なおのこと私は、ミコトさんに何かして差し上げなければなりません」

 

「いや、これは俺がやりたいからやっただけで、別に見返りを求めてのことでは――」

 

「そういう問題じゃないんです!」

 

 

 滅多に大声を出さないサラの声に驚き、言葉が詰まる。

 

 

「確かにミコトさんは、個人的な事情で私を助けたかもしれません……ですが私からすれば、助けてもらったということに変わりません。しかも今回のことを含めれば、ミコトさんには二度も命を救われた……それは、まぎれもない事実です。ならばその恩を私は、相応の内容でミコトさんに返す義務があります」

 

 

 この二回の出来事は、助けに来た尊さえ命を落としてもおかしくはなかったのだ。

 そんな命を懸けて助けてくれた相手に何もできないなど、尊が許してもサラは絶対に嫌だった。

 

 

「……決めました」

 

「……何を、ですか?」

 

 

 胸に手を当て、サラは決意を込めた目で尊を見つめる。

 

 

 

 

 

「私は――この身の全てを、ミコトさんに捧げます」

 

 

 

 

 

 全てを捧げる。即ち、自分を所有物として差し出すということ。

 それは真っ当な現代社会で生きてきた尊からすれば到底思いつかないことであり、同時に認められない提案だった。

 

 

「捧げるって、そんな自分を物みたいに……」

 

「海底神殿で生死不明になるところを。そして今回、魔物に取り込まれかけたところを救われたんですよ? 二度も命を救ってもらった私が今ミコトさんにできるのは、この命を貴方に捧げるくらいしかありません」

 

「いや、しかし……」

 

 

 ――それで自分を差し出すと言われてもな……。

 

 返答に困り、尊はおもむろに頭を掻く。

 好きにしていいと言われて本当に物みたいに扱うほど外道ではないし、ましてや見返り目的で助けたわけでもない。

 だがそれを今の彼女に伝えたところで主張は変わらないだろうし、納得もしないだろう。

 思考を巡らせ、代案を尊は提示する。

 

 

「自分を捧げてもらうというのは承服しかねますが、俺が元の世界に戻るまで手を貸していただくということでいかがでしょう?」

 

「お手伝いさせてもらうことはもちろんお受けしますが、それだけでは私の気が――「それともう一つ」」

 

 

 言葉を遮り、尊はもう一つの提案を伝える。

 

 

「俺が元の世界に戻れるようになった後、サラ様は自分の幸せを求めてください。それ以上のものはないと思えるような、そんな幸せな未来を」

 

「私の……幸せな未来、ですか?」

 

 

 尊の言うことなら何でも受け入れようと思っていたサラだが、虚を突かれたような提案に思わず面食らう。

 助けてもらってばかりの自分がそんなことを望んでいいのかという疑問が沸き、それはダメだと思いかけたところで尊が自分の考えを口にする。

 

 

「どんな過去や経緯があろうと、自分が望む形の幸せを求めてはいけないなんてことはないんです。もちろん内容によってはそれを否定する人もいるかもしれませんが、好きな人と一緒に平穏な時間を過ごすくらいの幸せは誰でも許されると思うんです」

 

「……私でも、ですか?」

 

「もちろんです。むしろサラ様が幸せになってくれれば、それが俺にとって掛け替えのない報酬になります」

 

 

 あの作品をプレイし、多くのプレイヤーが望んだサラの幸せな未来(ハッピーエンド)。それを自分の手で迎えさせたと思えば、これほど満たされるものはない。

 

 

「……ミコトさんがそれでいいのでしたら、少し、考えておきます」

 

「是非ともお願いします、サラさ――「ですが、これだけお願いします」」

 

 

 さっきとは逆に言葉を遮り、サラは尊に願う。

 

 

「これから私のことを、『サラ』と呼んでください。それと、敬語も不要でお願いします」

 

「……それは構いませんが、良いんですか?」

 

「もうジールは存在しませんし、私も王女という立場ではありません。何より私は、ミコトさんにそう呼んでもらいたいです」

 

 

 僅かな沈黙が訪れ、尊は小さく頷いて一度深呼吸をする。

 

 

「――じゃあ、改めてよろしく。サラ」

 

「――はい!」

 

 

 嬉しそうに声を弾ませ、サラは微笑みながら差し出された右手をぎゅっと握った。

 その手の温かさを感じていると、尊はいつの間にか胸の苦しみが消え去っていることに気づく。

 

 ――そうか、俺は……サラに笑っていて欲しかったんだ。

 

 自分が知る本来彼女が辿るはずだった未来を明かし、それでサラが悲しむかもしれないと思ったから苦しい気持ちになったのだと気づく。

 同時に話の一部を打ち明けた時に感じた罪悪感が、彼女に本当のことを黙っていたことからくるものだというのも理解した。

 

 ――ならせめて、この笑顔がいつまでも続くように努力しよう。

 

 

 

 

 

 

「な……なかなか壮絶な話だったのであります……」

 

「でござるなぁ……」

 

 

 尊たちから少し離れた木の陰から顔を覗かせたリコッタとユキカゼは、図らずも聞こえた内容に複雑な心境を抱かざるを得なかった。

 当初はシンクとエクレール目的で串焼きを片手に覗いていたのだが、二人を追う前に聞こえた会話が気になり耳を傾けてみれば、間違っても串焼き片手に聞いていい軽い内容ではなかった。

 

 

「これは……姫様に報告するわけにもいかないでありますね……」

 

「ミコト殿とサラ殿が自ら話されるまで、このことは拙者たちの秘密にするでござるよ」

 

「はうぅ……こんなことなら、直ぐにエクレたちを追うべきだったのであります」

 

「時、既に遅しでござる。今から追いかけるとするでござるよ」

 

 

 尊たちに見つからないようにこそこそとその場を後にし、二人はそそくさとシンクたちを追うのだった。

 

 

「ところでユッキー。自分一つだけ気づいたことがあるのでありますが」

 

「奇遇でござるな。拙者も一つだけ気づいたことがあるでござる」

 

 

「「あのお二人、あとで間違いなくレオ様にいじられるでありますよ(ござるな)」」

 

 

 

 

 

 

 サラに呼び捨てを求められた後、俺は彼女に自分が神からもらった力の内容を明かし、元の世界に戻るためにラヴォスを倒す必要があることを伝えた。

 スキルについて引かれるかとも危惧したが別にそんなこともなく、むしろ気になっていた点が解消されたと納得された。

 そんなことを経て現在。俺たちは露店を堪能しながらガレットで見つけた封筒をリコッタに渡すべくその姿を探していた。

 ここにきてそれなりになるが露店に並んでいるのは知らない食べ物ばかりで、冒険の意味も兼ねて俺たちは気になった物を購入して食べ歩く。

 チヂミっぽい料理のココナプッカなるものやどんな肉を使っているかわからないけど普通にうまい串焼き。そして適当に購入したフルーツジュース。屋台の形も相成って、まるで日本の夜店にきているみたいだ。

 日本にいる時と違うのは、気に入った食べ物を片っ端から亜空間倉庫に保管していることだ。食品類はどういうわけか、この中に入れておけばその時の状態で保存されて腐ることはないみたいだからな。

 

 

「それにしても、肝心のリコッタが見つからないな。騎士団の人によればユキカゼと回っているのを見たらしいけど……」

 

 

 白衣のリコッタに忍者装束のユキカゼ。どちらもこの群衆にしては目立つ服装だから、割とすぐに見つかりそうなものだが。

 

 

「――あっ、ミコトさん」

 

「ん?」

 

 

 サラの声に反応して首を向けると、屋台から離れた場所でシートを広げ露店の商品を飲み食いしているシンクとエクレール、ガウルにジェノワーズ、そして探し人の片割れユキカゼがいた。

 

 

「おっ! ミコト! サラ様!」

 

 

 ガウルがこちらに気づいて食べ終わった何かの骨を振る。それで他の面々もこちらに気づき、歓迎とばかりに二人分のスペースを作ろうとしていた。

 何故かユキカゼが気まずそうに視線を逸らしたが、何かやったか?

 

 

「丁度良かった。みんな、リコッタを知らないか?」

 

「リコですか? それならさっき、学院から緊急の呼び出しとかで席を外しましたが」

 

「なんだ、急ぎの用か?」

 

 

 ガウルが新しい骨付き肉を頬張りながら訪ねる。しかもこれは幻のマンガ肉じゃないか。ヤバい、すごく欲しい。

 

 

「送還に関することだから、それなりに急ぎではあるな」

 

「お兄さん、何か進展があったの?」

 

「割と重要なことだとは思うが、送還そのものの手段じゃないからまだ断言できない。確認も含めてリコッタの意見が聞きたかったんだが」

 

 

 ここにいないならまた探しに行きたいところだが、戻ってくる可能性もあるしちょっと待ってみるか。

 

 

「ところでガウル、そのロマンあふれる肉はどこで売ってるんだ? 是非とも食っておきたいんだが」

 

「おう! 買いに行かなくてもまだあるから遠慮せず食え喰え!」

 

「尊さん、これもおいしいですよ」

 

「サラ殿も、遠慮なさらずにどうぞ」

 

「あら、じゃあお言葉に甘えて」

 

 

 しばらくシンクたちと一緒に飲み食いして騒いだが、リコッタが戻ってくる気配はなかった。

 

 

 

 

 

 

 ライブが始まるまで間もなくまで迫った中、尊とサラはギリギリまでリコッタを探していた。

 てっきりライブ前にはシンクたちと合流すると思っていたのだが、開始10分前になっても姿を見せなかったので気になった二人が探しに出たという状況だ。

 

 

「聞いた話だと……こっちにきたらしいが」

 

 

 立ち入ったのは会場から少し離れた林の中。ここにリコッタが一人で向かう姿を騎士団の人間が目撃しており、このタイミングでそれは流石におかしいのではと思い二人は足を踏み入れていた。

 

 

「もしかして、もう戻っているかもしれませんね」

 

「それだったらいいんだが……ん?」

 

 

 不意に、嗚咽をさらに押し殺したような声が二人の耳に届いた。

 まさかと思いその方向へ向かうと、木の下で膝に顔を埋めた彼女を見つけた。

 

 

「ここにいたのか」

 

 

 尊の声にビクッと肩を震わせ、リコッタは顔を上げる。

 

 

「み、ミコト様……。サラ様……」

 

「どうかしましたか? 泣いていたようですが」

 

 

 サラが優しく尋ねると、リコッタはぽつぽつと話しだした。

 シンクの送還方法がわかり一安心かと思ったら、その送還のための四つの条件が彼女を悩ます原因となったこと。

 

 その1.送還においては、召喚主自身が送還を行うこと。

 その2.送還が可能なのは召喚から16日以内であること。

 その3.送還される勇者は、記憶を含むフロニャルドで得たあらゆるものを持ち帰る事ができない。

 その4.送還された勇者は、二度とフロニャルドを訪れる事ができない。

 

 この条件を知ったとき、リコッタは学術研究院主席としての自分の力不足と見識の甘さを痛感したそうだ。

 

 

「――そうだったんですか」

 

「せっかく……せっかく勇者様と楽しい思い出をいっぱい作れたのに、勇者様はそれを覚えておくことさえ許されないなんて…あんまりなのであります……」

 

 

 ぼろぼろと涙をこぼしながらリコッタは再度己の不甲斐なさを認め、二人に無様な顔を見せまいと俯く。

 ――と、そんな彼女の頭をサラは優しく抱きしめた。

 

 

「さ、サラ様……?」

 

「一人で抱え込む必要はないんですよ。それに、まだ希望は残っています」

 

「ふぇ?」

 

 

 サラが視線を合わせたことに頷き、尊は亜空間倉庫にしまっていた一通の封筒を取り出しリコッタに差し出す。

 おもむろにそれを受け取って中身を見ると、先ほどまで沈痛な面持ちだった彼女の顔が驚きに変わった。

 

 

「こ、これをどこで!?」

 

「ガレットの図書館にあった。戦に向かう前に本に挟まっていたのを偶然見つけて、移動中に内容を解読した。 使えるか?」

 

「もちろんであります!」

 

 

 力強く答え、先ほどまで流していた涙を袖でごしごしと拭う。まだ目元は少し赤いが、その表情に悲しみはもう見られなかった。

 

 

「お二人とも、ありがとうございます! このリコッタ・エルマール、必ずや誰も悲しまない方法で勇者様を送還して見せるであります!」

 

「ええ、お願いします」

 

「それじゃ、もうミルヒオーレ姫のライブが始まるし、急いで会場に行くか。リコッタ、吉報の報告をシンクに頼んだ」

 

「はいであります!」

 

 

 ぱたぱたと駆け出したリコッタを見送り、二人も遅れまいと後を追う。

 

 ――ここの問題はひと段落、といったところか。シンクの送還が一番望まし形で終わったのを確認したらすぐにクロノ世界に移動して、それが片付いたらまた来るか。基本方針はこれとして、今ばかりは楽しむとしよう。

 

 シンクの問題は終わりが見えてきたが、この世界で見つかった問題はまだ終わっていない。

 それを解決するためにまたこの世界へ来ることを心に決めながら、今はこのイベントのラストステージを楽しむべく会場へと向かうのだった。

 




相変わらずのゴリ押しでしたが、第29話いかがでしたでしょうか?

前回にあと2話でDOGDAYS編が終わると言いましたが、すいませんあと一話追加されます。
具体的にはコミック版にあったハチ熊の話です。
これが終われば今度こそクロノ編に戻りますので、もうしばらくお待ちください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話「ハチミツを求めて」

どうもこんばんわ、前回の投稿で日刊ランキング2位にランクインしたことに驚きを隠せなかった作者です。

さて、今回は予告した通りコミック版よりハチ熊の話を持ち込んでみました。
ご存知の方はお察しの通り、後半は肌色成分が多くなっております。(文章だから意味ない
最後まで書き切ってしまおうか悩みましたが、コミックと同じ場面で区切ることにしました。
仕事の合間に書いていたので内容がおかしいかもしれませんが、楽しんでいただけたら幸いです。

それでは本編第30話、どうぞご覧ください。


「そういえば……聞いたぞミコト。お主、サラ殿と只ならぬ関係になったそうじゃな?」

 

「ぶほっ!?」

 

 

 突然のレオの言葉に紅茶を口に含んだ尊は驚きとともにむせ、レオの言い方にサラは顔を赤らめる。

 グラナ盆地にて行われたミルヒのライブが大成功に終わり、夜明けとともに両国の兵士たちは自分たちの国へと帰還した。

 それは昨晩、フロニャルドならではの紋章術をふんだんに使ったライブの演出に度肝を抜かれていた尊とサラも同様で、二人はレオやガウルと同じタイミングでヴァンネット城へと戻った。

 住民たちからの熱烈な声援に驚いたりもしたが、何事もなく入城すると尊とサラはシンクの送還に関して進展があったことをテラスにいたレオに報告。また、尊はシンクの送還を見届け次第クロノ世界へと移動し、ラヴォス討伐の計画を立てようと考えていた。

 ちなみにプチラヴォスの情報はビスコッティとガレットの騎士全員に通達されており、出現したら撤退か頭部のみを集中攻撃するようにとの対策が下されている。

 もっとも、そちらよりもう一体の魔物、キリサキゴホウの方がサイズ的にもインパクトが大きかったため多くの者は「そんなのいたか?」と疑問を浮かべていたが。

 そんな報告と確認を終えメイドが用意してくれたお茶とお菓子で一服しようとしたところで、事態は冒頭へと戻る。

 

 

「か、閣下。どこでそれを……」

 

「ジェノワーズからじゃ。昨日共に食事をしたときに様子が変わっていると教えられてな。ついに王女と護衛騎士が禁断の恋仲に進展したのでは、という推測も出ておるぞ」

 

「あいつら……」

 

 

 頭が痛いとばかりに頭を押さえ、観念したように尊は昨夜あったことを打ち明ける。

 

 

「サラがそうしてくれと頼んできたんです。彼女の国はもう存在していないから自分は王女ではないし……ほかにも事情がありましたから」

 

「そ、そうです。なのでレオ様も、私のことは気軽に呼んでください」

 

「ふむ……それはまた考えさせていただくとして、ミコト。すまぬが席を外してくれぬか?」

 

「え? はぁ……」

 

 

 疑問符を浮かべながら尊はテラスを後にし、彼の姿が見えなくなったのを確認するとレオは顔を寄せて楽しそうに問う。

 

 

「それで、サラ殿はミコトのことをどう思っておるのだ?」

 

 

 その質問にドキッとなり、サラは平静を繕って聞き返す。

 

 

「ど、どうというのは?」

 

「とぼけるでない。ワシが只ならぬ関係といったとき、お主は恥ずかしそうにしながらもどこかそれを望むような顔をしておったぞ? これはワシの勝手な推測だが、ミコトが相手ならばそれもいいと考えておらぬか?」

 

 

 お見通しとばかりに笑みを浮かべるレオには敵わないと判断したのか、誰かに助けを求めようと視線のみを動かす。

 しかしその場にいた誰もがレオと同じような笑みを浮かべており、サラはこの追及を逃れる術がないのだと静かに悟るとこの告白の公開処刑のような状況の中、レオにしか聞こえないくらいの小さな声で答えた。

 

 

「……わ、私は――――」

 

 

 

 

 

 

 ヴァンネット城に帰還した翌日、俺とサラはガウルやジェノワーズのみんなと一緒にフィリアンノ城へと向かっていた。

 何故ここにいるのかと言えば、シンクとの決着がまだついていないことを思い出したガウルがそれを清算するために来たのだ。そのお供としてジェノワーズが。野次馬兼リコッタに用事の俺たちがついていくという形で進んでいた。

 ちなみに明日にはレオ閣下も合流するそうで、どうもこの数ヵ月、ミルヒオーレ姫とできなかったことを思いっきりするそうだ。

 

 

「そういや姉上から聞いたんだがよ、ミコトとサラ様は勇者が送還されたら行っちまうんだってな?」

 

「俺たちにもやることがあるからな。それが片付き次第、またこっちに戻ってくる予定だ」

 

「じゃあその頃にミコ兄とサラ様の仲が進展してるにおやつ三日分!」

 

「私はお兄さんが婚約を決めるに四日」

 

「ここは大穴でご夫婦になられているにおやつ一週間分!」

 

「お前らは何の賭けをしてんだよ」

 

 

 ガウルが呆れ気味に言う。確かに進展するはずもないことにかけて何が楽しいんだか。

 

 …………。

 

 ちらっと、隣のセルクルに乗っているサラに目を向ける。先ほどの内容を気にしているのか、彼女は少し顔を赤くして俯き気味になっていた。

 というかそんな顔をされるとこっちも変に意識して――

 

 

「「――あっ」」

 

 

 サラと視線がぶつかり、互いに気まずくなって顔を反らす。

 なんだこれ、我ながらどこの中学生だよ……。

 

 

「見てみ、あれ絶対くっつくで」

 

「これで何もなかったらお兄さんの精神を疑う」

 

「レオ様にも報告しなきゃね~」

 

 

 大阪のおばちゃんみたいにひそひそと会話する娘っ子たちだが、内容は丸聞こえだった。

 だけど、俺とサラが恋人か……。

 確かに彼女のことは嫌いではないし、正直俺なんかにはもったいないくらいだろう。

 しかし俺は彼女に自分の幸せを迎えてほしいと言った。確かにそれは俺の願いではあるが、俺自身ががその幸せの一端になるかはまた別だ。

 

 

「……まあ、それはないだろうな」

 

 

 サラと出会ってまだ半月ほどだ。たったそれだけで恋人になりたいと思われるなんてどこのラノベだよ。

 

 

 

――などと尊が思っている一方では――

 

 

 

 ――ミコトさんが……私の、旦那様……。

 

 

「……そうだと、嬉しいですね」

 

 

 尊の予想より先の未来を想像し、まんざらでもなさそうに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 大きなトラブルもなくビスコッティにやってきた翌日。

 シンクがハチミツを取りに行こうと言い出したのをきっかけに俺とサラ、ガウルとジェノワーズにユキカゼのメンバーは、エクレールを呼びに行ったシンクより先にビスコッティの南部にあるハチェスタ森林地帯に来ていた。

 ただし、何故か荷台いっぱいに食料を積んだ上にこれから戦でも始めるのかと思うような完全武装でだ。

 

 

「それにしてもハチミツか。長いこと食ってないな」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。一人暮らしでハチミツなんて使い道がなさすぎるし、何より結構な値段がするからまず買わない」

 

 

 実家なら母さんや悠がお菓子を作るのに買っているのを何度か見たが、自立してからは全く見てない。家にあってもホットケーキかトーストに使うくらいしか用途が思いつかないし。

 確かホットミルクに混ぜたりケーキのスポンジに混ぜたりすると美味しくなるんだっけ? まあ前者はともかく、後者は作る機会なんてないだろうな。

 それから間もなく、エクレールを連れてシンクが現れた。これで面子が揃ったか。

 

 

「よぅし! さっそく行こうぜ! 野郎共、武器や食料の準備は万全か!?」

 

「「「「おー!」」」」

 

 

 ガウルの掛け声にノリノリで答えるジェノワーズとユキカゼだが、やはり武器と食料の意味が分からない。

 

 

「武器はいざという時の自衛と考えればまだわかりますが、食料は何に使うんでしょうね?」

 

「うーん……とりあえず、ここは現地人に従って動くとしよう」

 

 

 もしかしたら養蜂をしている人たちに代金の代わりに支払うのかもしれないしな。

 しかもこの面子だ、危険が迫ってもそうそうやられることはないだろう。

 ま、ピクニックとでも思って気楽にいくか。

 

 

 

 

 

 ――などと思っていた時期が俺にもありました。

 

 

 

 

 

「――なんやワレェ。なんか用か?」

 

 

 今、俺たちの目の前には身の丈が2メートルを優に超え黒毛に所々白が混じった体毛をもつ巨大な熊がいた。しかも左目の傷が歴戦の猛者を彷彿させるメンドくさそうなの。

 

 

「あ、あの……エクレ、ユッキー。この熊はいったい……?」

 

「これが『ハチェスター黒熊』にござるよー」

 

「摂取した蜜花や果物を体内の蜜袋に溜めて熟成させ、そこから取り出すことで得られるのが『ハチ(・・)ェスター黒熊の()』。通称『ハチ蜜(・・・)』だ。お前の言っているのはこれではないのか?」

 

「ちなみに、ガレットの方やと『ハチくま蜜』の方が通りがええでー」

 

「思てたんとちゃう!?」

 

 

 想像していたものとのあまりのギャップに思わず某漫才師のコメントが飛び出す。と言うか蜂かと思わせて熊とかなんだそれ!? ○ーさんの親戚か!? ――あ、あっちはハチミツが好きなだけか。

 

 

「おう、ハチくまぁ! ちょいとばかしハチ蜜を分けてくれねーか? 対価はあの荷台にある食糧全部だ。いいモン揃えてんぜ?」

 

 

 こっちが驚いているうちにガウルがさっそくとばかりに交渉を始める。どうやら荷台の食料はこのための物だったようだ。

 さらにユキカゼが人間の男ならクラッとしそうなポーズでおねだりするが、ハチくまはそっぽ向くと帰れとばかりに手をシッシッと動かす。

 

 

「が、ガン無視かよこいつ……」

 

「あははー……。そういう時もあるでござるよ」

 

「ですがもらえないとすると、次はどうするんですか?」

 

 

 サラの問いも最もだ。こいつがダメならほかの個体を探して交渉をするのか?

 

 

「仕方ねえ! こうなりゃ決闘だ! 俺らが勝ったらタダでハチミツもらうぜ!」

 

 

 まさかの強盗まがいの決闘申し込み。確かにシンプルではあるが、装備もこれを想定してのことだったのか。

 一方、決闘を申し込まれたハチくまは不敵な笑みを浮かべ右手を掲げる。

 すると辺りの茂みからがざがさと音が上がり、四方八方から20体近いハチくまが姿を現した!

 

 

「う、うおおお!? 囲まれてたぁ!?」

 

「ハチくまは仲良し兄弟で有名でござるからなぁー」

 

「普通は2~3匹くらいだけど、今回は類を見ない大家族みたい」

 

「いやいや待てノワール、俺やシンクからすれば熊が群れで現れた時点で死を覚悟するレベルだからな! 冷静に解説してる場合じゃないぞ!?」

 

「ミコ兄なにゆーてんの? この前の魔物と比べたらこんなん可愛いもんやん」

 

「比較対象がおかしいよジョーヌ!? 魔物より熊の方が身近な分余計に怖いよ!」 

 

「――やっちまいなァ!」

 

 

 俺とシンクのツッコミが止まない中、ハチくまは問答無用で一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 うわー、これ日本どころか元の世界でもありえない光景だー(棒

 

 

「襲ってきたー!?」

 

「大丈夫、ここも守護力が効いている地帯だから大きなケガはしない」

 

「いつもの戦と同じでござるよー」

 

「そういうこった! ――輝力解放!」

 

 

 手足に輝力で出来た爪を纏わせ、ガウルが先陣切って手近なハチくまに攻撃を仕掛ける。

 強力な一撃をもらったハチくまは"けものだま"となって戦闘不能。なるほど、これなら多少大技を使っても大丈夫ということか。

 

 

「サラ、魔法は使わず紋章術で対応しよう。流石にガ系の魔法はオーバーキルだ」

 

「わかりました」

 

 

 そういうことで俺たちも輝力を解放し、迫るハチくまに容赦なく攻撃を放つ。

 だが思っていた以上に動きが機敏で、何体か撃ち漏らした個体が軽やかな体捌きでこちらに迫る。

 

 

「いっただきぃ!」

 

 

 仕留め損ねた個体を横からジョーヌが掻っ攫い、さらに援護でベールの矢が離れた場所にいた個体を狙い撃つ。

 

 

「悪い、助かった」

 

「気にせんでええよ。それよりハチくまは並の騎士より素早い上に、連携もかなりのもんやから要注意やで」

 

「だからこっちも連携して、華麗にどっかーん! です!」

 

 

 なるほど。普段アホなことばかりしているから軽視しがちだったけど、腐ってもガウルの親衛隊。連携はお手の物ってことか。

 いつの間にか最後の個体をシンクとエクレールが撃破し、襲ってきたハチくまは全滅したようだ。

 

 

「ようし! いっちょあが――ん?」

 

 

ドゴォーン!!

 

 

「ぐは――――っ!?」

 

「「「ガウ様――――ッ!?」」」

 

 

 轟音と共にガウルがどこかに吹っ飛ばされ、ジェノワーズから悲鳴が上がる。

 

 

「――あんたら、うちの息子になにしとんねん?」

 

 

 ガウルをぶっ飛ばしたのは何と、先ほど倒したハチくまたちより1メートル以上でかいハチくまだった。

 つーか今、息子って言ったよな? ということは……

 

 

「は、母熊……。子供のピンチに駆けつけたみたい……」

 

「子供思いなのは結構だが、今までで一番ヤバい気がする……」

 

「――ハチ熊真拳奥義!」

 

 

 そんな予感が当たったのか、母熊はなんと輝力を解放し始めた。熊なのに紋章術使えるとかマジか!?

 

 

「輝力砲だ! 各自防御――!」

 

「――熊破翔爪拳!」

 

 

 エクレールの警告が終わるより早く母熊の輝力砲が放たれる。

 一つの球体から無数に放たれた攻撃はまるでロックオンしたかのように全員に向かって飛来し、着弾した。

 俺は紋章術を使われ出した時点でヤバいと感じていたので咄嗟にシールドを挟むのに成功したが、砂埃がひどくて他のみんながどうなったかまでは確認できない。

 

 

「み、ミコトさん。大丈夫ですか?」

 

「サラか? 俺はだいじょう――ぶっ!?」

 

 

 後ろからサラの声が聞こえて振り返ってみれば、あろうことか彼女の服は紙切れのように消し飛んで多くの肌色が露出している。

 そう――つまるところ、彼女は真っ裸だった。

 俺の反応を不審に思ったのだろう、きょとんとした表情でサラはおもむろに自分の体を見下ろす。

 

 

「……きゃあああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

バシィィッ!!

 

 

「ウボァッ!?」

 

 

 悲鳴とともに放たれたサラのビンタが的確に顎部を捉える!

 張り手にも関わらず脳ミソは当たり所が悪かったのか盛大に揺さぶられ、俺の意識は一瞬にして闇の中へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

「ああっ!? ミコトさん!?」

 

 

 裸を見られた恥ずかしさから思わず手が出てしまい、その一撃は見事に尊の意識を刈り取った。

 自分のしたことに対する後悔と、こうしなければ彼に素肌を晒し続けることになっていたという羞恥心がせめぎあう中、不覚にも倒してしまった尊の頭を胸にオロオロする。思考が混乱しているせいか、自分が今していることに気づいていないようである。

 

 

「うわ、みてみアレ。気ぃ失っとるとはいえ男からしたら夢のような状況やで」

 

「サラ様、意外と大きい」

 

「そんなことより私たちも裸なんですけどー!?」

 

 

 母熊の攻撃で女性陣は一人残らず身ぐるみを剥がれてしまい、唯一残ったシンクは尊のようにディフェンダーが間に合ったおかげで事なきを得たが少なからずダメージは通っていた。

 そんなシンクに見所があると見たのか、母熊はかかってこいと手を動かして挑発する。

 

 

「シンク、一騎打ちを挑まれているでござるよ」

 

「分かってる。 ハチくま母さん、よろしくお願いします!」

 

 

 不利な状況であるはずなのにもかかわらず、シンクは生き生きと母熊に勝負を挑む。

 前代未聞の、勇者VSハチくまの対戦カードがここに実現した。




本編第30話、いかがでしたでしょうか?

尊はサラの攻撃で戦闘不能となりました。
次回でハチ熊の話を終わらせ、DOGDAYS編も終了させる予定です。
一気に詰め込むため次の投稿がいつになるかは未定ですが、どうか気長にお待ちください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。





余談

艦これの秋イベで以前取り損ねたプリンツやローマが手に入ると聞き、ツェッペリン回収も兼ねてE-4を掘り続けています。
しかし未だに誰もお迎えできていません。
バケツは後50……間に合うだろうか……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話「送還の日」

どうもこんにちわ、相変わらず艦これのイベントで欲しい艦がドロップ出来ていない作者です。

さて、今回は一気に展開が進んでハチくま編を終わらせて送還まで話が飛びます。
いい加減終わらせる必要がありましたのでごり押し感が否めませんが、ご了承ください。

それでは本編第31話、どうぞご覧ください。


 パラディオンと母熊の拳により凄まじい衝撃が起こり、大量の粉塵が宙に舞う。

 一発や二発ではない。既に二十合以上ぶつけ合っており、衝撃で森の一部まで吹き飛ぶ始末だ。

 母熊はその体格に違わぬ剛腕を振るうが、重量差が圧倒的にあるはずのシンクもそれに拮抗するだけの力で迎え撃つ。輝力による身体強化の恩恵があるとはいえ、何も知らない人間がこの光景を見ればシンクは十分人外認定されているであろう。

 

 

「くっ――すごいですね、ハチくま母さん!」

 

「――ボウズもなかなかやるやないの」

 

 

 互いにその力を称えあい、打ち合いを再開する。

 母熊の戦いがここまで長引くことは思わなかったのか、新たに現れたハチくまや既にやられて"けものだま"になった個体も介入しようとする。

 

 

「――兄弟! おかんをお助けするんや!」

 

「そうはさせん!」

 

「シンクと母熊殿は一騎打ちの最中にござる。拙者たちがお相手いたすでござるよー」

 

 

 ユキカゼの忍術で服の問題を解決した女性陣からエクレールとユキカゼがハチくまたちの前に立ちふさがり、介入を阻止する。

 ――ただし、水着姿で。

 

 

「ユッキー……もう少しマシな服を再現できなかったのか?」

 

「いやー、この『疾風早着替えの術』はまだまだ研究中の忍術で布地の少ないものしか再現できないのでござる」

 

 

 しかもこの忍術、ちょっとしたはずみで解けてしまうため下手に攻撃をもらおうものならまた素っ裸に戻ってしまうという欠点も持ち合わせていた。そしてこれを知るのは術を行使したユキカゼのみで、他のメンバーはそれを知らない。

 なお余談であるが、各々の水着はこんな感じである。

 

 ユキカゼ  ビキニ。

 サラ    ロングパレオ。

 ベール   ワンピース。

 ジョーヌ  バンドゥワンピース

 エクレール ショートパレオ。

 ノワール  スク水。

 

 閑話休題。

 シンクと母熊の戦いは激しさを増し、輝力をさらに解放して身体能力を強化させたシンクがパラディオンを叩き付ける。母熊が片腕で受け止めると体が僅かに地面に陥没したが、彼女は臆することなくもう片方の腕でお返しとばかりにシンクを弾き飛ばして木に叩き付ける。

 

 

「いってて……。身体を強化しててこれじゃあ、僕もまだまだだ」

 

「――ボウズ、なんでウチらの蜜が欲しいんや?」

 

 

 立ち上がるシンクを見ながら母熊が問うと、彼は口元に小さく笑みを浮かべて答える。

 

 

「お城で待ってる姫様やリコ……恩人で大切な友達の子たちに食べさせてあげたいんです!」

 

「――なるほど、ええ子やね。ならウチに一撃でも入れられたら好きなだけ分けたるわ」

 

「ありがとうございます! うおおおおっ!」

 

 

 ハチ蜜を得るための条件が明確になったことでやる気が上がり、シンクは勝利をもぎ取るべく駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 落ちていた意識が急速に浮上するのを感じ、尊は小さな呻き声とともに薄っすらと目を開ける。膝枕をしていたサラが真っ先にそれに気づき、顔を覗きこむ。

 

 

「大丈夫ですか、ミコトさん」

 

「サラ……ッ、状況は?」

 

 

 気を失う前のことを思い出したが直ぐに思考の外に追いやり、確認を取ろうと身を起こす。

 近くで響く轟音に目を向けてみれば、パラディオンを手に母熊と互角の勝負を繰り広げているシンクが目に入った。

 体格のハンデをものともせず立ち向かうその姿に一瞬見惚れ、同時に他のメンバーが加勢に入っていないことに気づく。

 エクレールとユキカゼはハチくまたちの相手をしており、ジェノワーズは自分たちと荷台を守っているのを確認したが、一人足りない。

 

 

「ノワール、ガウルはどうした? まだ吹っ飛ばされてどこかに行ったままか?」

 

「うん。けどガウ様だったら大丈夫。そのうちひょっこり戻ってくると思うから」

 

「おい、それでいいのか親衛隊」

 

 

 信頼しているともとれる発言だが、欠片も心配していない様子に思わずツッコミが出る。

 再び視線をシンクに戻すと、彼は尊と戦った時のように威力を抑えて速度重視の攻撃に切り替えて母熊を攻め立てていた。

 しかし母熊もそれに十分対応しており、決定打に欠けていた。

 

 

「これは加勢した方が――」

 

「あかんよミコ兄」

 

「シンク君と母熊の一騎打ちですから、邪魔しちゃダメですよー」

 

「……なるほど、そういうことか」

 

 

 だから誰もシンクに加勢せず、エクレールとユキカゼが他のハチくまの相手をしているのかと納得する。

 ならば自分が介入するのは無粋以外の何物でもないとして尊は腰を落ち着け、戦いの行く末を見守ることにした。

 

 

「――ハチくま真拳秘技! 『剛熊拳』!」

 

 

ズドォン!

 

 

 母熊の手から輝力砲が打ち出されるが、強化で機動力の上がっているシンクはそれを高いジャンプで回避し攻撃につなげる。

 

 

「せぇやああああ!」

 

 

 今までで一番早い一撃が繰り出され決まったかと目を張るが、よく見ると母熊は腕を交差させることで完全に防ぎきっていた。

 

 

「マジか、あれを防ぐのか。あの熊何者だよ――ん?」

 

 

 自分はあの熊より劣るのではと思ったところで妙な風が吹き、風下に意識が向く。

 するとそこには電気を纏った巨大な輝力の塊が浮いており、それを作り出しているボロボロのガウルがいた。

 

 

「シンクぅぅぅ! そこどけぇぇぇ! 俺様がトドメを刺してやんぜぇぇぇ!」

 

「ちょ、ガウ様! 今は一騎打ちの最中だから乱入しちゃダメですー!」

 

「しかもその技、未完成じゃなかったっけ」

 

「……あ、これヤバい展開だ」

 

 

 ノワールの言葉に尊は先ほどの二の舞が頭を過ぎり、せめてサラだけでも退避させようと腰を浮かす。

 しかし、その行動は新たな闖入者によって阻まれた。

 

 

「なんじゃ、この有様は?」

 

「おおー、派手にやっているでござるな」

 

「みなさーん。大丈夫ですかー?」

 

「「レオ閣下!?」」「「「レオ様!?」」」「姫様!?」「御館様!?」

 

 

 突然現れた三人に二人を除いて全員が驚愕する。

 そんな様子が見えていないガウルは自分のタイミングで輝力を解放し、ありったけの力を込めてそれを叩き込む。

 

 

「くぅらええぇぇぇ! 『獅子王轟雷弾・壊』!」

 

 

ズガァァァァァァン!!

 

 

 放たれた大技が尊たちを飲み込み盛大に弾ける。

 ガウルの一撃によって攻撃範囲にあった森が丸ごと抉られ、まるで爆撃でもあったかのような惨状が広がっていた。

 

 

「ゲホッ! ケホッ! ガウルの奴、何も考えずにぶっ放しやがったな……て言うか、この流れってまさか……」

 

 

 大きくせき込みながら愚痴をこぼす尊だが、妙なデジャヴを感じてこれから起こるであろうことを想像する。瞬間――

 

 

ビリッ! ビリリィッ!

 

 

 あちこちから何かが破れる音が上がる。それは彼の目の前にいたサラも例外ではなく、彼女が身に纏っていた水着は一瞬にして細切れになりその肢体をさらけ出した。

 一瞬の沈黙が二人の間に流れ、辺りから悲鳴が上がると同時にサラの顔が一気に赤くなった。

 

 

「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

ズバシィィッ!!

 

 

「あぼぅ!?」

 

 

 本日二度目の悲鳴とともに放たれたサラのビンタが的確に尊の頬を捉える!

 最初のより早く鋭い一撃は征服王に叩かれた少年のように尊を吹っ飛ばし、彼を地面に沈ませた。

 

 

「ああっ! ご、ごめんなさいミコトさん!」

 

「……別にいいさ。なんとなく、こうなる気はしてたから」

 

 

 意識を持っていかれることはなかったが倒れこんだまま小さく答え、全員が着替えを終えるまで尊は今日のことについて考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ダルキアン卿がなんと母熊の友人であり、ハチくま真拳なるものを教えた師でもあったそうだ。

 それを聞いたときあそこまで強い理由が腹にストンと収まったのだが、俺の中にある知り合いの強さ(補正なし)のヒエラルキーでダルキアン卿の評価が一段と高くなりトップを独走。さらにレオ閣下のやや下に母熊がランクインすることとなった。ちなみに自己評価では俺は最下位。

 それはさておき、あの後は友好的に話がついて食料と引き換えに本命のハチ蜜を樽三つ分ももらってフィリアンノ城へと帰還し、送還の最終調整をしていたリコッタも交えてそのままハチ蜜パーティーと相成った。

 苦労した分の補正もあったかもしれないが、ハチ蜜は俺の知ってるハチミツと違って深いコクと香りがあり、今まで口にしたどの蜜よりも美味いと断言できる代物だった。

 余った分は全員で小分け出来たのでまたいつか集まった時に食べようという話になり、サラはハチミツを使ったレシピを集めてみようかなど考えているそうだ。

 サラと言えば、あの日だけで二度も彼女の裸を見てしまったせいか妙に意識してしまうようになり、今でもふとした時にあの光景がもやもやと浮かんでしまう。

 向こうもそれを気にしているのか、廊下でばったり会うと顔を赤らめて俯いてしまうことが何度かあった。何処の中学生だよ、本当に。

 それ以外にフィリアンノ城でシンクの送迎会があったり、まったりとしたお茶会があったりとのんびりした日々があっという間に過ぎていき、とうとうシンクの送還の時がやってきた。

 シンクの送還――つまり、俺とサラがクロノ世界に戻る時でもある。

 

 

「――よし、こんなもんかな?」

 

 

 ヴァンネット城にあてがわれた自分の部屋で亜空間倉庫に詰め込んだ荷物の内容を確認し、最後に忘れ物がないかチェックして外にいたメイドに世話になった礼を述べておく。

 隣の部屋にいるサラの様子を見ると、彼女も荷支度を終えたところなのか満足げに部屋を眺めていた。

 

 

「準備はいいか?」

 

「はい」

 

 

 連れ立って正門に向かうと、レオ閣下にガウル、そしてジェノワーズがそれぞれのセルクルに騎乗して俺たちを待っていた。

 全員、俺たちを見送るために来てくれるらしい。

 

 

「来たか。もういいのか?」

 

「大丈夫です、行きましょう」

 

 

 向かう先はビスコッティの召喚台に通じる階段前。あちらからは荷物の整理や後片付けがあったため少し前に帰ってきたばかりだが、シンクの見送りのためまた向かうことになった。

 もっとも、送還条件の関係で最後まで見届けることはできず、階段の前で待つことになるのだが。

 そのシンクの送還を見送ったのち、俺たちもその場でサテライトゲートを開く予定だ。

 再びこの世界に来るのは少なく見積もっても一月か……長いんだか短いんだか。

 そんなことを思いながらヴァンネット城を出発し、セルクルに揺られること数時間。無事にビスコッティ組との合流を果たす。

 シンクのカッターシャツにスラックスといういかにも学生という服装をみて日本が恋しくなったが、ここはぐっとこらえよう。

 

 

「尊さん、サラさん、閣下。わざわざありがとうございます」

 

「気にするでない。ワシらはミコトについてきただけじゃ」

 

「そういえば、ミコト殿とサラ殿は勇者が送還された後に独自で世界を渡られるのでしたね」

 

「ああ。 それでリコッタ、条件は全部クリアできたのか?」

 

 

 ギリギリまで術式方程式に改良を加えていたというリコッタに確認を取ると、敬礼とともに返事が返ってくる。

 

 

「ばっちりであります。残念ながら時間が足りなかったので全ての改良は間に合いませんでしたが、勇者様を確実に元の世界に送り届けて再召喚が行えるようにできたであります」

 

「……そこまで出来てたのか」

 

 

 条件さえクリアできていれば一安心だと思っていたが、まさか僅かな期間でそこまでできるとは……。ますますチート転生者疑惑に拍車がかかるな。

 ルッカと会せたら一体どうなるか見てみたい気もするが、それは置いておくとしよう。

 

 

「勇者、そろそろ時間だ」

 

「わかった。 次に会えるのは三ヶ月後ぐらいですね」

 

「そのくらいだと、ここは夏か……。俺の感覚では冬真っただ中のはずなんだがな」

 

 

 秋の後に夏が来るって何かの歌であったが、まさか実際に体験することになるとはな。

 

 

「――それじゃあ、また!」

 

 

 手を振りながら階段を上るシンクに俺たちもそれぞれ返事をする。

 それからしばらくして召喚台の方から桃色の光が立ち上り、一つの強い光が天に向かって消えていた。

 それが何なのか、誰もが言わずともわかった。

 

 

「……いってしまいましたね」

 

「けど、また会えるでありますよ。絶対に」

 

「そうでなきゃ俺は困るぜ。結局、フィリアンノ城でもあいつとの決着がつかなかったしな」

 

 

 そんな会話をしていると、召喚台からミルヒ姫様とタツマキが現れる。若干沈んだ表情をしていたが、俺たちを見るなりどこか無理をした笑みを浮かべる。やっぱりまた会えるとわかっていても、別れが辛いのだろう。

 ともあれ、シンクの送還はこれで終わりだ。となると――

 

 

「――次は俺たちだな」

 

 

 サラが俺の側により、今度は閣下たちが残念そうな表情になる。

 

 

「名残惜しいが、暫しの別れだ。お主たちが為すべきことを果たしたら是非また来てくれ」

 

「そん時は盛大に歓迎するぜ」

 

「ビスコッティでも、精いっぱいのおもてなしをさせていただきますね」

 

「ありがとうございます。今回は、本当にお世話になりました」

 

「次に来るときは、もっと力をつけてきますよ。閣下、ガウル。その時はまたよろしく頼みます」

 

 

 これ以上の言葉は不要だろう。そう判断して俺はサテライトエッジをハルバードで召喚し、あの時のように頭上へと掲げる。

 こちらのやろうとしていることを察したのか、全員が俺たちから離れて安全を確保する。

 範囲外へと出たことを確認し、あちらの世界を思い浮かべながらハルバードを振り下ろす。

 

 

「開け! サテライトゲート!」

 

 

 叩き付けられたハルバードが光の粒子となって足元を中心に広がると六角形の扉を形成する。

 その光景に感嘆の声が耳に届く中、俺たちの体は扉の向こうへと吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 

 三人の異世界人が全て元の世界に戻ったのを見届け、レオはおもむろに空を仰ぐ。

 

 

「あの三人には、大きな借りを作ったな」

 

「はい。思い出も、たくさんもらいました」

 

「新しい目標もできたし、戻ったらまたゴドウィンと鍛錬すっか」

 

「少し前の日常に戻るだけなのに、とても寂しいのであります」

 

「また会えるんだ。いつまでもそんな気持ちではいられないぞ」

 

「とかいいながら、実はエクレも寂しがってるくせに」

 

「せやなぁ~。なんだかんだでシンクとおると嬉しそうやったしな」

 

「ツンデレですね~。それもかなりの」

 

「お、お前らーっ!」

 

 

 それぞれが再開への期待を胸に、彼らが救った日常へと戻っていく。

 次に会ったとき、胸を張って彼らを迎えられるように。

 春先に起こった出会いは一先ず終わりを迎え、次の季節に再びこの地で会うのを楽しみにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中世、デナドロ山。

 

 

「……ガイナーよ」

 

「どうした、マシューよ」

 

「……暇だな」

 

「……ああ、そうだな」

 

 

 刀の手入れをしていた仲間に声をかけるフリーランサー。彼らは自らデナドロ三人集と名乗り、かつて人間に君主を持って魔王城へ攻め込んだ経験があった。

 しかしその君主は魔王城の消滅と共に行方不明に。自分たちは衝撃に吹き飛ばされ魔王城の消滅に巻き込まれはしなかったものの、死線をさまよう旅路へと乗り出す羽目になってしまった。

 

 

「グランとリオンに腕試しをしようにも、奴らもいつの間にかいなくなってしまったしな」

 

「せめて御館様がいらっしゃればいいのだが……。どこにおられるのやら」

 

「なに、あのお方のことだ。時期に新たな力をつけて戻ってこられるだろう」

 

「……フッ、オルティーの言う通りだな。きっと今に我等の想像もつかぬ方法で現れるだろう」

 

 

 ククッとマシューが笑ったその瞬間、 

 

 

カッ!!

 

 

 三人の頭上が突然青白い光で満たされた。

 

 

「「「なっ!?」」」

 

 

 咄嗟に距離をとって臨戦態勢に入ると、光の中から何かが現れ落下する。

 

 

「いでっ!」

 

「きゃあ!」

 

 

 ドスンという音とともに聞こえたのは若い男女の声。そして男の声を聞いた瞬間、デナドロ三人集は目を見開いた。

 

 

「そ、そのお声は……!」

 

 

 ガイナーがわなわなと声を震わせる。

 光が落ち着き、現れたのは見知らぬ青い髪の女性と――女性の下敷きになっているが――主と仰いだ黒髪の男性だった。

 

 

「「「――お、御館様あぁぁぁあああ!!」」」




本編31話、いかがでしたか?

次回よりとうとうクロノトリガー編に戻ります。
前作の流れをそのまま持ってくるつもりなので内容に大きな変化をさせるつもりはありませんが、犬日々編を挟んだのでそれに伴って細部で変化が発生するかと思われます。
暇があれば見比べていただくのも一興かと。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。



おまけ①

尊による独断と偏見の戦闘能力格付けランキング(尊 補正なし)
S
ダルキアン
――――――――
A+
レオ エイラ
A
魔王 ハチくま母さん
A-
三人集
――――――――
B+
ロラン バナード ゴドウィン カエル
B
ユキカゼ クロノ シンク ガウル
エクレール ジェノワーズ ダルトン ビオレ ルージュ リゼル ロボ
B-
サラ マール ルッカ
――――――――
C



除外
ミルヒ リコ


おまけ②
ステータス
名前:月崎 尊(24)
属性:天・水

魔法・精神コマンド
努力     MP2
サンダー ★ MP2
アイス  ★ MP2
集中     MP4
加速     MP4
ケアル  ★ MP4
熱血     MP6
レイズ  ★ MP10
勇気     MP20
???
???
???
???
???


特殊スキル
UG細胞改
亜空間倉庫
ブーストアップ
次元跳躍
底力(Lv3)
紋章術者


クロノ世界でのステータス
Lv   :32
HP   :395
MP   :60

力   :58
命中  :14
すばやさ:14
魔力  :38
回避  :17
体力  :65
魔法防御:50


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クロノトリガー編 第2章
第32話「巨人のツメ攻略 準備編」


どうもこんにちわ、仕事の合間に本日二回目の投稿に踏み切った作者です。

ここからは再びクロノトリガー編となります。
前回でも言いましたが、前作とは細部が異なるだけで大まかな流れは同じ展開になります。
黒の夢終了後からまた大きな変化があると思いますが、その時までどうかお付き合いください。

それでは、本編第32話、どうぞご覧ください。


 フロニャルドから無事にクロノ世界に戻ってこれた尊とサラ。

 サテライトゲートを抜けた先は中世のデナドロ山だったらしく、デナドロ三人集と言う家臣のフリーランサーたちと感動的(?)な再会を果たした尊は、サラと共にグランとリオンがいたという洞窟で情報交換をしていた。

 

 

「――つまり、お前らは魔王城消滅の衝撃でどこかの島に飛ばされて、虹色の貝殻を守護する巨大な怪物とやりあって命からがら逃げ出したものの行く先々で今まで相手にしたことのない強さを持った敵と遭遇し何度も死にそうになったということか」

 

「はい。我ら一同、あの時ほど命の危険を感じたことはありませぬ」

 

「肉が厚くて刃は通りにくく、吐き出される火炎や翼から繰り出される攻撃は全て驚異の一言でございました」

 

「辛くも脱出した後はちょうど島に来ていた人間に話をつけて船に乗せてもらい、ここまで戻ってきたというわけです」

 

 

 ガイナーたちの話を整理し、尊は素直に感心していた。

 

 ――こいつらが飛ばされた場所は間違いなく巨人のツメだ。しかも虹色の貝殻の場所に落ちてそこでルストティラノと戦って五体満足で逃走に成功した上、めんどくさい魔物の連戦を潜り抜けてここまで帰ってきたと。うん、魔王城の辺りから薄々感じていたが、こいつらも大概バグキャラだな。

 

 しかし、と尊は思考を切り替える。

 

 ――フロニャルドで新しいスキルを得たり戦いの技術を磨いたとはいえ、結局レベルや魔法などは全くと言っていいほど成果が出なかった。それを考えると今の俺ではレベルや装備の観点からしても、ラヴォスどころかジールにすら勝利するのは難しいだろう。だが巨人のツメはこの中世において最強の雑魚がひしめく魔窟だ。レベル上げにはもってこいだろうし、ルストティラノを撃破すれば虹色の貝殻を入手できる。無論、全てを持ち帰ることは不可能だろうが、ある程度の量なら削り取れるだろうし、それを元にボッシュのところで加工してもらえばプリズムの防具が一個くらい出来上がるだろう。魔法防御に強くて状態異常をすべて無効にする防具。是非とも入手したいところだ。

 

 方針を固め、尊は「よし」と声を上げる。

 

 

「お前ら、その洞窟の場所に案内しろ。修行がてら、その虹色の貝殻を一部でもいいから手に入れる」

 

「おお! 流石御館様!」

 

「我ら一同、必ずそう仰っていただけると信じておりました!」

 

「御館様がいらっしゃればあの洞窟の魔物たちも恐れることはありませんな!」

 

 

 ガイナーたちのボルテージが上昇し空気はすっかり巨人のツメ攻略となっていた。

 そんな中、尊の隣で話を聞いていたサラは彼らのテンションについて行けず、恐る恐る尊に話しかける。

 

 

「あの、ミコトさん。彼らはいつもこうなのですか?」

 

「あー、だいたいこんな感じだな。ただ、御館様と聞いたらダルキアン卿が浮かんでくるあたり向こうに染まった気がするけど」

 

 

 苦笑いで説明をする尊をみて、オルティーが口を開く。

 

 

「時に御館様。先ほどから気になっていたのですが……」

 

「なんだ?」

 

「そちらの女性は御館様の伴侶様で御座いますか?」

 

 

 ……………………伴侶?

 

 伴侶。一緒に連れ立って行く者、もしくは配偶者と呼ぶこともある。

 男にとっての一般的な配偶者=嫁、または妻を指す。

 そこまで振り返ると、唐突にフロニャルドでジェノワーズが行った賭けの内容とハチくま母さんの戦いで起こった出来事(ハプニング)が思い返される。

 

――ボゥンッ!!

 

 瞬間、尊の顔が湯気が出るのではないかと思うほど一瞬にして上気した。

 

 

「あ、あのな……いくらなんでもそれは早計すぎやしないか?」

 

「なんと、これは失礼いたしました」

 

「そうだ、伴侶なんて人じゃない。彼女は――」

 

「恋人でございましたか。確かに、伴侶と呼ぶには少々早すぎましたな」

 

「そっちも違う! 確かにサラが恋人だったら俺も嬉しいが、そういう関係じゃないからな!?」

 

 

 家臣の誤解を解こうと必死になる尊だが、気づかないうちにとんでもない発言をしてしまいそれが三人の想像に拍車をかける。

 一方、話題の中心にいるサラは頭の中で尊の爆弾発言がリピートされていた。

 

 サラが恋人だったら俺も嬉しい。

 

 つまり自分が尊とそういう関係になってもいいのだと理解すると、急に胸の奥が暖かくなった。

 フロニャルドにいた時から時々感じたこの感覚。心の中でもしかしてと思う自分がいるが、彼女はそれが確信できるまでこの感情を胸の奥にしまっておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 今後の方針を決めた尊たちはデナドロ山を下山し、準備を整えるためパレポリに向かっていた。魔王軍が消滅したことでパレポリとチョラスを結ぶ定期便が使えるようになったかの確認と、必要物資の購入のためだ。

 ミドルエーテルはフロニャルドで使い切ってしまったため大量に補充する必要があり、しかも今回向かう先は強力な魔物がひしめく場所なので回復アイテムは言わずもがな、しばらく巨人のツメがある島でキャンプをする必要もあるので食料やシェルターの予備、そして新しい着替えなど入用なものがたくさんある。

 資金に関しては古代で尊がシドとして行動しているときにジールから日払いでもらっていた給料があり、この世界なら当分は生活に困らないくらいはあるので問題はない。

 パレポリに向かうのが二度目の尊だが、あの時と違い今回はサラとガイナーたちも同行しているためそれなりに賑やかな道中となった。

 

 

「……そう言えばお前ら、町に入っても大丈夫なのか?」

 

 

 今まで家臣として接していたため忘れていたが、彼らは人間の敵として認識されている魔物である。そんな彼らが街に入れるのかと思った尊だったが、彼らは自信満々に答える。

 

 

「ご安心くだされ、御館様」

 

「我ら一同、巨人のツメを生き抜くために行動をするうちに気配を完全に遮断する力を身に受けております」

 

「故に、御館様が懸念されておられる問題は容易に解決できます」

 

「…最早なにも言うまい……」

 

 

 どんどんチート染みたスキルを身に着けていく三人に尊は頭を押さえ、とうとう考えるのをやめた。

 かくして、問題なくパレポリに到着した一行はまず二手に分かれる。物資の購入を担当するのは尊とサラ。船の状況を確認するのはガイナーたちだ。

 ガイナーたちは街に着く前に姿をくらましており、現在大通りでは尊とサラが並んで歩いていた。

 

 

「アイテムはチョラスの方が揃えがよかったから……まずは服だな」

 

 

 歩き回ること半刻。ようやく見つけた服屋で自分とサラの服をまとめて購入する。フロニャルドで購入したものもあるが、着替えはあって困らないので気持ち多めに揃える。

 サラの服を購入する際、ニヤニヤと笑みを浮かべる女性店員に茶化されたりもしたが――若干頬を赤らめながらも――適当にあしらいって店を出る。

 

 

「御館様」

 

 

 二人が店から出てくるのを見計らったように声がかかり、振り向いてみると全身をローブで包んだ男がいた。

 

 

「その声……マシューか?」

 

 

 ローブの影から覗いてみると、右目の上に傷跡があるフリーランサーのマシューが笑みを浮かべていた。

 

 

「調べたところチョラス行きの定期便が10分後に出発とのことです。ガイナーたちは既に現地付近で待機しておりますが、いかがいたしましょう」

 

「行動は早い方がいい。それに乗り込もう」

 

「承知しました。では――」

 

 

 その言葉を残し、マシューはすぐ近くの裏路地へと入って行った。なるべく姿を見せないようにしながら移動するらしい。

 

 

「よし、じゃあ行くか」

 

「はい」

 

 

 サラは自分の服を自前の亜空間倉庫にしまうと、ここ気来るまでと同じように尊の隣に並ぶのだった。

 

 

「……イチャイチャするカップルは全て爆死すればいいのに」

 

 

 なお、店の中から一部始終を見ていた女性店員は仲睦まじそうに去っていく尊たちを眺めながらそう毒づくのだった。

 

 

 

 

 

 

 パレポリから出発した定期便に乗り込んで数時間。正規ルートで乗り込んだ尊たちと誰にも悟られることなく船に忍び込んだガイナーたちは合流するとここからの予定を相談していた。

 既に陽は傾き空は茜色となっており、沖合へ出ようとする船は一隻もない。必然的に、巨人のツメへの上陸は明日へと持ちこしにとなったからだ。

 

 

「寝泊まりは……前にここに来た時と同じでいいか?」

 

 

 以前、北の廃墟へ修業に向かったとき尊はチョラスの宿をとり、ガイナーたちは近くの森で渡したシェルターを使い夜を明かしていた。

 市販されているシェルターは一度設置したら24時間存在し、時間が切れると土に還ると言う謎の科学力満載の逸品である。初めてそれを知った時、尊は「この世界の科学の力ってすげー! でも文明のレベルとアイテムの科学レベルが釣り合ってねーよ!」と語った。

 提案された内容にガイナーたちは「我等は一向にかまいませぬ」と了承し、以前のようにシェルターを受け取ると近くの森のへと消える。

 残った二人はまず営業中のグッズマートでミドルエーテル、シェルター、ミドルポーションを大量に購入すると、宿へ向かう前に一先ず食事をすることにして以前尊が訪れた酒場へと向かった。

 

 

「それにしても……。この街はガレットやビスコッティのように賑やかですね」

 

「まあ、脅威が取り除かれた上での平和だからな。賑やかになるのは必然ともいえるな」

 

 

 ――ただ、その脅威の対象がサラの弟だったとは言えないがな。

 

 内心で尊がそう思っているとやがて目的地にたどり着き、二人はそろって中に入る。店内は尊が以前来た時より活気があり、誰もが楽しそうに飲食を楽しんでいた。

 そんな中で空いている席がないかと店内を見回すと、やがて尊はカウンターの二つの空席の隣に見たことのある男の後姿を見つける。

 

 

「よお、トマ」

 

 

 少し懐かしい気持ちになりながら声をかけると、名前を呼ばれた相手はぎょっとした表情で尊を見る。

 

 

「お前、ミコトか!?」

 

「ああ。久しぶりだな」

 

 

 酒を片手に男――冒険家のトマは酒飲み仲間を迎えようとすると、隣にいたサラに気づく。

 

 

「えーっと、そっちの女性は……お前の嫁さんか?」

 

「その質問をしたのはお前が二人目だが、違うぞ」

 

「なんだ、恋人だったか」

 

「いや、そっちも違うから」

 

「はっはっはっ。顔を赤くして否定しても説得力ないぜ?」

 

「……えっ!?」

 

 

 そんなはずはと思い咄嗟に顔を覆うとトマの笑みがさらに深くなり、尊ははめられたということを悟る。

 

 

「トマ…お前……」

 

「み、ミコトさん。落ち着いてください」

 

「はっはっはっ、照れるな照れるな。 マスター、二人に上等な酒をやってくれ。俺のおごりだ」

 

 

 からかわれて不機嫌な表情を作っていた尊だが、トマの一言が意外すぎて目を丸くしする。

 

 

「お前が酒をおごるとは……明日は嵐か?」

 

「おいおい、俺のことどう思ってやがんだ?」

 

「自分の胸に手を当てて思い返してみろ、酒が絡んだときの俺とお前のやり取りを」

 

 

 言われ、腕を組んで思い返すように目を瞑るトマ。すると次第に顔色が悪くなり、体が小刻みに震え始めた。おそらくサンドリノの宿で起こった出来事を思い出しているのだろう。

 

 

「どうだ?」

 

「……私が悪うございやした」

 

 

 トラウマを呼び覚まされたトマはガクッと俯き、溜め息のように謝罪の言葉を口にした。

 一先ずカウンターに座り、尊は以前注文したメニューと同じものを二つ注文する。注文が受けられるのと入れ替わりで、カウンターの男性がトマの注文した酒を二人の前に並べる。

 

 

「とりあえず、再会に乾杯」

 

「ああ」

 

「お嬢さんも、出会いに乾杯」

 

「あ、はい」

 

 

 グラスとジョッキをぶつけ合い、ゆっくりと喉に流し込む。

 尊は久しぶりに飲むトマとの味に頬を緩ませ、サラはジールやガレットで飲んだものとはまた違った酒の味に口元を手で抑えて驚く。

 

 

「このお酒、おいしいですね」

 

「そりゃよかった。で、お前はどこでこんな綺麗な人を見つけたんだよ?」

 

「仕事先でちょっとな。 そういえばお前、虹色の貝殻を探していたよな? 結局どうなったんだ?」

 

 

 サラのことを深く探られる前に以前ここで会話した内容を引っ張り出し、それとなく尋ねる。しかしその話になるとトマは少し難しい顔をした。

 

 

「見つけたっちゃ見つけたんだが、取りに行くならやめとけ。確かにあれを手に入れられりゃ巨万の富を築くなんて造作もないことだろうが、命捨てることになるぜ」

 

「なんだ、やばいのがいるのか?」

 

 

 ルストティラノの存在を知っているが、尊はあえてトマの口から聞きだそうとする。が、その口からは予想外の言葉が飛び出してきた。

 

 

「実はな、現地で出会ったボロボロのフリーランサーたちが『命が惜しくばやめておけ。ここの怪物はただの人が相手にしてよいものではない』って警告してきたんだよ。で、本当かどうか見に行ってみると確かにヤバそうなのがいやがったんだ」

 

「ブフォッ!?」

 

 

 思い当たる節がありすぎる発言に思わず口にしていた酒を噴出しむせてしまう尊。

 隣に座っていたサラも思い当たる発言に驚きを隠せないでいたが、咳き込む尊を見て彼の調子を最優先とした。 

 突然噴出した尊に疑問を持ったが、それ以上に目の前の光景がトマに別の思考を持たせた。

 

 

「お似合いだよ、お前ら。 ――ん? リア充爆発しろ?」

 

 

 最後に何処からか受信した謎電波がつぶやきとして漏れたが、それを聞いた者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 トマと再会して酒を飲みわかしてどれくらいの時間が経っただろうか。ふともう一つの隣が静かだと思い見てみると、サラは疲れたのか眠りに落ちていた。

 

 

「ッと、少し飲ませすぎたか?」

 

「それもあるだろうけど、今日は少し疲れたからな。ここらでお開きにするか」

 

 

 トマもこの提案に反対することなく、飲み食いした代金を折半する。万能薬と水で酔いを冷まし、寝落ちしたサラをおぶり酒場を後にした俺はトマと別れて以前も泊まった宿屋を目指す。

 それにしても、少し引っ張りまわしすぎたか? 船で少し休んだとはいえ、フロニャルドからこの世界に戻って来るなり、割とすぐに結構な距離を移動したからな。肉体的にも精神的にも疲労していてもおかしくはない。

 巨人のツメは……落ち着いてからでも遅くはないか。とにかく、今は休ませよう。

 背中にかかる重みを感じながらそう考えているとやがて見覚えのある宿屋の看板が目に入る。一直線に向かって入店し、自分とサラの部屋を取ったらさっさと寝ようと心に決める。

 ――が、その目論見は入店してから30秒も経たないうちに崩れ去ることとなった。

 

 

「部屋が一つしか残ってない?」

 

「大変申し訳ありません。本日は大変混雑しておりまして……。もうそこしか……」

 

 

 本当に申し訳なさそうに話すカウンターの女性から一度視線を外し、背中のサラに目をやる。

 すぅ、すぅ、と安定した寝息を繰り返しており、起きる気配が全くなかった。

 しかたない。彼女をベッドで寝かせて、俺は床で寝るとするか。

 最後の一室を取らせてもらい、鍵を受け取ると部屋まで移動する。

 

 

「――ここか」

 

 

 背中のサラを落とさないように鍵を回し、中に入って電気をつける。

 そのままベッドに下ろそうと進んだところで、俺は愕然とした。

 

 

「……だ、ダブルベッド、だと!?」

 

 

 そう、あろうことかベッドは一人用のシングルではなく、二人は優に眠れるサイズを誇るダブルベッドだったのだ。

 若い男女が宿のダブルベッドで一夜を過ごす……いかんいかんいかんッ!! そんな18禁的なことが許されてたまるか! 何故だかわからないが、やってしまえばいろんな意味で消されてもおかしくない!

 煩悩退散煩悩退散と頭の中で繰り返し、ベッドの上に来るなりサラを背中からおろす。彼女は相変わらず寝息を立てており、とてもじゃないか簡単に起きそうには見えなかった。

 

 

「よし、とりあえずこれで――っとぉ!?」

 

 

 ベッドから離れようとすると、不意に腕を引っ張られベッドに倒れこむ。何事かと思い重くなった左腕を見てみると、なんとサラが眠りながら腕をがっちりとホールドしていた。――って、この体勢だと腕が胸に!?

 年齢=彼女いない歴の俺にとって、これは少々刺激が強すぎるぞ!!

 

 

「おお落ち着け俺。そうだ、素数を数えるんだ。2、3、5、7、11ぃ!?」

 

 

 急に腕の締め付けが強くなったかと思ったらなんか抱き込みが深くなっとる!? なんだ!? 何なんだこの状況!? なにがサラをそうさせるんだ!?

 体温が急上昇するのを感じながらサラに目をやると、なんだか幸せそうな顔をして眠っていた。夢の中で何かいいことでもあったのか?

 とにかくこのままでは俺の精神的にも理性的にもよろしくないのでなんとか脱出を試みる。が、離そうとすれば彼女は嫌そうな顔をして手放すまいとさらに抱きつき、抵抗をやめれば再び幸せそうな顔をする。

 

 

「……こ、これじゃ眠れん……」

 

 

 その後、俺は悶々とした気持ちのまま数時間を過ごし、いつの間にか意識を落とすこととなった。

 

 

 

 

 

「…………んっ」

 

 

 瞼の裏を刺激する光でサラは目を覚ます。いつから眠っていたのかわからないが、酒場で飲んでいたあとからの記憶がない。

 加えて自分がいるのはどこかの部屋らしく、広いベッドの上で眠っていたようだ。

 

 

「私、一体……あら」

 

 

 自分の腕が何かに抱きついていることに気づき目をやると、どこか疲れた表情で眠っている尊がいた。

 

 

「……や、やだ! 私、どうしてミコトさんと同じ寝台で!?」

 

 

 バッと飛び跳ねてわたわたと顔を赤くし頬に手を当てるサラだが、その答えが判明したのは尊から説明を受けてからだった。




本編第32話、いかがでしたでしょうか?

今回のような感じでクロノトリガー編は描写に変化が生じると思います。
クロノたちとの合流は4話後を予定していますので、原作ファンの方々はもうしばらくお時間を。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話「巨人のツメ攻略 前編」

どうもこんにちわ、艦これの秋イベでどうにかツェッペリンをお迎えで来た作者です。

さて、今回からストックが増えたらできるだけ連日解放していこうかと思います。
ちなみに現在(12/6日現在)のストックは3本です。
無くなるまでに新しいのを書いていくので連日解放がいつまで続くかわかりませんが、どうか生暖かく見守ってください。

それでは本編第33話、どうぞご覧ください。


 目を覚ましてまず目に入ったのが顔に手を当ててあたふたするサラの姿だった。

 何故自分が俺と寝ていたかわからず混乱していたが、説明してやると恥ずかしそうにシュンとなった。

 

 

「本当にすみません……。酔っていたとはいえ、大変ご迷惑をおかけしたようで……」

 

「いや、それはもういいって。お互い何もなかったわけだし」

 

「それは、そうですけど……」

 

 

 思い返して羞恥心がぶり返したのか、顔を赤くしてだんだんと語尾が小さくなっていく。うん、こんな仕草を昨日やられてたら100%間違いなく俺は理性がぶっ飛んでとてもここでは表現できないことをやっていただろう。

 

 

「とにかくだ、この話はもう忘れよう。さっさと朝食を取って港で船を借りて、そのまま巨人のツメに向かおう」

 

「……はい」

 

 

 どうにか心の中で整理をつけたのか、少し落ち着いた表情で返事をしてくれた。よし、あとは戦いまくって昨日の出来事を忘れるだけだ。

 ざっと部屋を見渡し、忘れ物がないことを確認して先に部屋を後にする。

 

 

「……ミコトさんが相手なら、何かされてもよかったんですけど」

 

 

 最後にサラが何かぼそっと言っていたようだが、うまく聞き取ることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 港の組合に船を貸してもらえないか交渉し持ち主が亡くなったことで扱いに困っていたという船を1隻売ってもらい、簡単な船のレクチャーを受けて出港してから数時間。俺たちは滞りなく巨人のツメにたどり着くことができた。

 しかし今まで誰もこの洞窟へ立ち入ろうとしなかったらしいが、なるほどこれは現地入りしてみたら納得だわ。

 

 

「洞窟の奥からいろんな咆哮が絶えず響いてるな……」

 

 

 しかもひと際大きな叫びが轟くと他の叫びが一瞬にして止み、しばらくしてからまた騒ぎ出す。

 一番でかい声は間違いなくルストティラノだろう。最深部にいるはずなのになんでここまで声が聞こえるんだよ……。

 しかしあれを倒さないと虹色の貝殻は手に入らず、俺の目論見も達成されることはない。ならばどうにかして殺るしかない。

 

 

「――それじゃあ、俺とガイナーたちが乗り込むから、サラはここで待機していてくれ」

 

「そのことについてなのですが、ミコトさん。私も連れて行ってくれませんか?」

 

 

 予想外の発言に一瞬戸惑うが、冷静にここの危険さを説く。

 

 

「ここから先はかなり危険な魔物がひしめいている。下手をすれば命も落としかねないんだが」

 

「私の使う魔法を知るミコトさんなら、その有用性をよく理解しているのではありませんか?」

 

「む……」

 

 

 確かに彼女の魔法による援護は大いに魅力的だ。特に回復魔法の援護があるなら安心して前の敵に集中もできる。それにここの敵は魔法がよく効くからダメージ効率も戦力的に申し分ない。

 何より体力が多くて厄介なエイシトサウルスの防御力を下げるサンダガを持っているのは大きい。俺もサンダーを使えるが、サラの使う魔法に比べたら威力は雲泥の差だ。

 ……だがそれでも、やはりサラを戦場に立たせるというのはあまり気が進まないな。

 

 

「……どうしてもついて来るか?」

 

「はい。それにグラナ砦の時、私は何もできずにミコトさんを見送るだけでした。何も出来ずにいるのは、もう嫌なんです」

 

 

 なるほど、フロニャルドでも力になれなかった自分が嫌だからこそ、ここで俺のために動きたいということか。

 

 

「……了解した。ただし生き残るのが最優先だ。進行が難しいと思ったらすぐさま引き返すぞ。先頭は俺、真中にサラ、殿はガイナーたちで行く」

 

「はい。よろしくお願いしますね」

 

「――行くぞ」

 

 

 それを合図に俺たちは洞窟へと足を踏み入れる。入って間もなく原作と同様、地面にトマの書いたメモが落ちていた。内容も変わらず落とし穴はわざと落ちないと先に進めないというヒントのものだ。

 メモをそのままにし先へ進むと、不意に開けた空間へと出る。原始の時代にラヴォスが落ちたことで地中に埋まったティラン城の一部、その玉座の間だ。

 

 

「すごい……。洞窟の中にこんな場所があるなんて……」

 

「我々も初めは驚かされました。まさか地下にこのような空間があるとは思いもよりませんでしたので」

 

「こんな場所がここだけということはないだろう。まだ何かあるはずだ。 油断せずに行くぞ」

 

 

 玉座の間を通り過ぎて岩肌の通路に出ると、こちらの気配を察したのかエイシトニクスが4体とエイシトサウルスが姿を現した。

 予想してはいたが、やはりエイシトサウルスは抜きん出てでかいな。

 

 

「よし、蹴散らすぞ! サラはまずサンダガを頼む! ガイナーたちは俺と一緒にサラが撃ち漏らした敵を追撃する!」

 

「わかりました!」「「「承知!」」」

 

 

 サテライトエッジをハルバード形態で呼び出し、経験値が2倍になる『努力』を使用する。このダンジョンで最もHPが低いエイシトニクスはサンダガで全滅する可能性が高いが、逆に最も高いエイシトサウルスはまだまだ余裕があるだろう。

 ただ電撃を受けてしまえばこいつは防御力が低下して叩きやすくなる。

 

 

「行きます! 『サンダガ』!」

 

 

 サラの手から雷撃が迸り、恐竜たちに降り注ぐ。その威力にエイシトニクスのほとんどが断末魔の叫びを上げ、エイシトサウルスも感電して動きが鈍くなる。

 俺はサテライトエッジを握りしめると迷うことなくエイシトサウルスへ突っ込み、最小限の動きを意識しつつ土手っ腹を刃で切り裂き、振り抜いた勢いで一回転してそのまま脳天に叩き付ける!

 流石にこれには耐えきれなかったのか、エイシトサウルスは苦しそうな叫びをあげるとあからさまに動きが鈍くなり、とどめにエイシトニクスを一掃したガイナーたちの一斉攻撃を受けると今まで倒してきた魔物同様に霧となって消滅した。

 割とスムーズに処理できたようにも思えるが、やはり全体に攻撃できかつ防御力を下げたサラのサンダガが大きな要因だろう。

 

 

「サラ、大丈夫か?」

 

「はい。皆さんは?」

 

「ご覧の通り、全員無傷だ。サンダガの戦果が大きかったな」

 

「あのような強力な魔法は魔王しか扱えぬと思っておりましたが、いやはやサラ様も劣らぬ力の持ち主ですな」

 

 

 魔王という単語が出て思わずドキッとなるが何のことかわからないのかサラは頭にハテナを浮かべているようだった。

 ところで、久しぶりのこの世界の戦闘に加えてそれなりの敵を倒したがレベルの方は……おお、とりあえず1だけ上がったか!

 やはりフロニャルドより経験値の効率はいいな。魔法や精神コマンドは変わらずだが、このペースならそれも時間の問題だろう。しかもここにはイワンというドラクエで言うならメタルスライムやはぐれメタルのような経験値をわんさかくれる敵がいる。それを仕留めれば魔法を習得するもの早くなるだろう。

 

 

「よし、先に進むぞ。まだ序盤も序盤だろうからな」

 

 

 俺の声を合図にして、俺たちは再び探索を開始した。

 

 

 

 

 

 

 探索一日目が終了し、俺たちは休息を取るため地上へ上がりシェルターを展開していた。初めて使うシェルターだが内装はシェルターの名にふさわしくしっかりしており、それなりに広い3人分の部屋が存在していた。しかもシャワー室付き。

 ガイナーたちはどこかで調達していた自前のシェルターを使って休んでおり、このシェルターは俺とサラが使っていた。

 そして今、俺は自分の部屋に備え付けられたベッドの上でおおよそのダンジョンの進捗具合と自身のステータスについて確認をしていた。

 進捗については洞窟内が奥に進むにつれて足場の悪いところが多くなり、トマのメモにあった落とし穴の場所にたどり着いたものの、予想以上に疲弊したサラの様子から落とし穴だけ起動させて撤退せざるを得なくなった。また戦闘では頭上から攻撃してくるティランカイトが非常に厄介だった。電気を吸収することを忘れてサラにサンダガを撃たせてしまい、反撃のウイングブロウを俺がかばって一身に受けてしまったため一時混乱状態に陥ってしまった。ガイナーたちの手刀で正気に戻れたが、一歩間違えればサラを襲っていたかもしれないと思うと気が気でない。

 しかし予想以上に戦闘をこなしたのでレベルも相応に上がり、魔法もついに全体攻撃ができるアイスガとケアルより強力な回復魔法のケアルガを習得した。サラがファイガを使えるのでマールたちのように反作用ボム2を使えるように訓練するのもありだな。しかもまだイワンと遭遇していないので、うまく行けばまだまだ伸びる余地がある。

 

 

「伸びると言えば、あいつらも凄まじいよな」

 

 

 北の廃墟でも見事な連携を繰り広げたデナドロ三人集のあいつらだ。一発の威力は弱いと言わざるを得ないが、身軽さと攻撃の速さだけなら間違いなく俺なんて足元にも及ばないだろう。しかもいつの間にかフロニャルドで見た裂空一文字のようなかまいたちを全員が体得していた。

 ただのフリーランサーではないことはわかっていたが、ここにきてさらに認識を改める必要がありそうだ。というか三人だったらレオ閣下とタメを張れるかもしれない。少なくともジェノワーズよりは上だと断言できるほどだからな。

 とりあえず明日は落とし穴の先に行きたいところだが、今日の流れを見る限りサラの調子次第としか言いようがないな。……俺が全体魔法を多用すれば少しは楽になるか? まあいずれにせよ、明日にならないとわからないか。

 

 

「……今の調子は大丈夫なんだろうか」

 

 

 動き回ることに慣れないこともありかなり疲労していたので無理が祟ってないか今更ながら不安になってきた。

 わずかに逡巡し、やはり一度会っておこうと腰を上げる。

 シェルターの構造は階段を下りると小さなホールを中心に3つの部屋に分かれており、俺が使っているのは階段を下りて正面の部屋、サラは階段を下りて左の部屋を使っている。

 

 

「サラ、少しいいか?」

 

 

 ノックをして声をかけるが、扉の向こうからは返事がなかった。不審に思ってもう一度ノックし声をかけるが、反応は変わらず。疲れて寝ているのか?

 

 

「……入るぞ」

 

 

 一言断って扉を開くと、そこには誰もおらずベッドの上には畳まれた服が置いてあった。もしやと思いシャワー室に目をやると、使用中のランプが点灯していた。

 

 

「何だ、シャワーだったか。てっきり寝ていたのかと……」

 

 

 ……待て、確かこのシェルターに脱衣所なんてものはなく、シャワーは入ってすぐ使えるようになっている。つまり、この扉の向こうでは――――。

 

 

「あら? そこに誰か――」「すまんッッ!!」

 

 

 シャワー室の扉が開き肌色の何かが見えた瞬間、俺の体は脊髄反射の如く部屋を飛び出し階段を駆け上がり外へ出る!

 

 

「む!? 御館様! 何事ですか!?」

 

「うおおおおおおおおッ!!」

 

 

 鍛錬をしていたガイナーたちの脇を通り過ぎ、服を着たまま雄叫びと共に海へ向かってダイブ。

 顔の火照りが一気に引いて行くのを感じながら海面に浮かび、体を波に委ねる。

 

 

「……なんかハチ蜜を取りに行って以来、やたらとラブコメチックな展開が多いような……」

 

 

 昨日の宿のことといいさっきの展開といい………………………………さっき見えたのって位置的にむn

 

 

「煩悩退散煩悩退散! 明鏡止水煩悩退散!! 心頭滅却煩悩退散!!! ぬああああああああ!!」

 

 

 頭に浮かんだことを忘れるべく俺は夜の海でやったことのないバタフライや全力クロール、そして意味のない奇行に走るのだった。

 

 

「……御館様は不能なのだろうか?」

 

「純粋なだけではないのか?」

 

「いや、人間の男は気になる異性と共にいると理性を保てなくと聞く。御館様はサラ様を思い自らの野生を鎮めようとしているのではないか?」

 

「なるほど……。しかし、それならば襲ってしまえばいっそ楽になるのではないのか?」

 

「待て、人間の男は気になる異性との一線を超えるときこそ女性との雰囲気を重要視すると聞いたことがある」

 

「つまり御館様はサラ様を思い一線を越える前に襲いかけた自分を鎮めようとしているのだな」

 

「流石御館様。気配りを大事にされておられる」

 

 

 ガイナーたちの間でそんな会話がされているなど露知らず、俺は体力がなくなるまで海で暴れた。

 

 

 翌日

 

 

「ミコトさん、顔色が悪いようですけど、大丈夫ですか?」

 

「……ああ、大丈夫だ」

 

 

 眼の下にこさえた隈を心配されながら俺たちは探索の二日目に突入するのだった。

 

 

 

 

 

 

 移動に慣れたのか、サラは昨日と比べて軽い足取りで奥へと進んでいた。また敵の少なさもあり尊の予想より早く一行は落とし穴の地点にたどり着いた。

 まずガイナーたちが先に降下し深さを確かめ、尊がサラを抱き上げ飛び降りる。着地する直前でブーストアップを使い体を強化し、衝撃を最小限にとどめる。

 フロニャルドで得た紋章術者というスキルを使って輝力を生成してベースジャバーを作ってもよかったが、MPの節約を考慮してそれはなしにした。

 

 

「これで、戻るにはガイナーたちが見つけた別の道へ出るか、ここを上るしか脱出経路はないな」

 

「ご安心を。我らが必ず外へお連れします」

 

 

 堂々としたもの言いに頼もしいと感じながらさらに奥へと進む。

 開けた空間に出たと思えば現れたのは無数のエイシトニクスにティランカイト、そして巨体が目立つフォシルエイプにエイシトサウルスたちだ。

 恐竜たちは自分たちと異なる生物を敵と認識し、一斉に尊たちの方へと殺到する。

 

 

「サラ!」

 

「はい! 『ファイガ』!」

 

「『アイスガ』!」

 

 

 サラが一番近い群れに爆熱の魔法『ファイガ』を放ち、尊がすこし奥の群れに向かって習得したばかりの『アイスガ』を放つ。『サンダガ』ならばエイシトサウルスの防御力を下げれたのだが、電気を吸収しウイングブロウで反撃してくるティランカイトが混ざっているのでリスク回避のために封印せざるを得なかった。

 ガイナーたちは混乱した敵の中に突入し、動きの素早いエイシトニクスとティランカイトを中心に討伐する。また尊もサテライトエッジのブラスターモードでひと際群がっている地点を薙ぎ払い、ボウモードに切り替えて宙を舞うティランカイトを狙い撃ちする。その間サラは前線で戦っているガイナーたちにプロテクトを使用し、突破してきた個体には『ファイガ』や『アイスガ』を見舞う。

 そんな戦い方を続けているといつの間にか数えるのも億劫だった恐竜たちは姿を消し、後には息を切らす尊とサラ、そして息一つ乱していないガイナーたちが残った。

 

 

「こ、ここだけで昨日倒した奴全部と同じくらいいたな」

 

「そう、ですね。ですが、こんなにいるのはそうそうないのでは?」

 

「申し上げにくいのですがサラ様。まだ数か所、ここと同じほどの魔物がひしめく空間がございます」

 

「最低でも2か所。しかしそのうちの一つにここから抜け出す道がございます」

 

「……ここから抜け出すには、あと一回はここと同じ戦い方をする必要があると言うことか」

 

 

 少しうんざりとした表情で尊はその事実を受け止め、ため息をこぼす。フロニャルドの戦で感じた爽快感が懐かしい。

 腹をくくって進むとすぐに同じような空間に抜け、また自分とサラの魔法で大部分を削ってからガイナーたちによる残敵掃討の戦法を敢行する。

 ここの戦いで唯一の救いと言えば、先ほどの空間と比べ天井が低いせいかティランカイトがいなかったので最も有効的な『サンダガ』の魔法が使えたことだろうか。

 防御力が落ちた恐竜たちは次々と討たれ、尊たちの糧となった。またガイナーたちが言っていた抜け道も同じ空間にあったため、尊はサラの疲労からこれ以上は無理と判断し脱出を選択。巨人のツメ攻略二日目はこうして幕を閉じるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話「巨人のツメ攻略 後編」

 巨人のツメ攻略三日目。ティラン城の仕掛けを駆使して敵を落としたり経験値をがっぽりくれるイワンを倒したり逃したりしながら突き進み、俺たちはついに最深部一歩前の牢屋にまで到達した。

 元々ここはティラン城に連れ去られたキーノが閉じ込められていた牢屋であり、崩れた壁の向こうからは今までの比ではない咆哮がビリビリと空気を震わせている。

 つまりこの先にいるのだ。恐竜人のボスアザーラの忘れ形見。ルストティラノとして復活したブラックティラノが。

 

 

「――準備はいいか?」

 

 

 一度振り返って4人に声をかける。ガイナーたちは一度やりあっているおかげか落ち着いてはいるが、サラは轟くバインドボイスにたじろいでいた。

 いくらここまで大量の恐竜を倒してきたり、フロニャルドで巨大な魔物と相対したといっても、この先にいるのは文字通り格が違う化け物だ。気圧されるのも無理はない。

 

 

「確認するぞ。この先にいる敵は5回ほど大きな咆哮を上げたのちに強力な火炎を吐き出してくる。行動はこれだけだが、火炎は決して看過できるものではない。これで間違いないな?」

 

「はい。咆哮が響く間に一気呵成で攻め立て、火炎が近づいたら物陰に隠れるか奴の背に取りつけば良いでしょう」

 

「しかし、炎の奔流は並のものではなく、岩など表面が溶けてしまうほどです」

 

「そして無暗に懐に飛び込んではいけません。奴は懐に飛び込んだものを捕食する傾向があります」

 

 

 捕食……確かゲームだと食ったやつからHPを奪う技なんだよな。けどこの世界でそれはどう考えても死亡フラグですから。

 しかも敵がアレなだけに昔見た恐竜映画よりひどい展開になりそうだ。

 

 

「となると、サラのマジックバリアでダメージを和らげるしかないか。――サラ、マジックバリアはどれくらい続く?」

 

「一回につき5分ほどです。使うのであればその火炎が放たれる直前の方がいいでしょう」

 

 

 5回目の咆哮がいつになるかわからないからこれは当然だな。一番の理想は火炎が放たれるまでに撃破することだが、かなりの体力を持っていたはずだ。

 輝力武装でシンクみたいに大きな盾を作り出すのもありかもしれないが、輝力武装一つを用意するのにMPがごっそり持っていかれる上に一回攻撃を受けたら盾が消滅することを考えるとあまり現実的ではない。

 そうなると……攻撃の暇も与えないほど攻めて立てて完封するしかないな。

 

 

「俺がまず一撃をたたきこむ。サラはそれを確認したらすかさずサンダガを。ガイナーたちはサンダガが放たれると同時に奴の後ろを取って攻めろ。挟み撃ちにする」

 

「わかりました」「「「承知」」」

 

「なら、作戦開始だ」

 

 

 それを合図にして俺も頭に疾風の鉢巻――オートヘイストの鉢巻をそう命名した――を縛り直し、シルバーピアスが装備されているのを確認してサテライトエッジをブラスターモードで呼び出す。

 壁の向こうへと足を踏み入れ、すぐにターゲットを視認する。黒っぽい巨体に首にはとてつもなく大きな鉄の首輪と鎖。間違いなくルストティラノだ。

 だがこいつは……予想以上にでかいな。目測でモンハンの怒り喰らうイビルジョーくらい……いや、下手すりゃもっとあるか?

 しかし幸いなことに奴のサイズに対して洞窟がそこまで広くないので動きを制限できそうだ。

 まだこちらに気づいていないチャンスを逃す理由もないのでまずは切り札ともいえるの精神コマンド『勇気』を使い、射程ギリギリの位置まで接近する。

 一度後ろへ眼を向け4人の準備が整ったのを確認し、ブラスターを構えてカウントダウンを開始。

 

 

「3……2……1……今だ!!」

 

「『サンダガ』!」

 

 

 手筈通りブラスターから攻撃が打ち出されると同時にサラがサンダガを唱える。さらにガイナーたちが軽い身のこなしで駆け出しルストティラノへ突っ込む。

 ブラスターの光が頭部を呑みこみ、サンダガが全身に炸裂する。

 

 

「GU!? GUAAAAAA!?」

 

 

 不意打ちを受けたルストティラノも流石に堪えたのか苦しそうな叫びを上げ体を震わせる。その隙にガイナーたちは開いた股下を抜け背後を取り、各々の得物で攻撃を開始する。

 無論俺たちもこのままじっとしている訳もなく、俺はサラを守るように前に立つとサテライトエッジをボウモードに変形させヘイストの恩恵に物を言わせとにかく光の矢を連射する。サラもまた一歩下がった位置からガイナーたちに注意しつつ正面に向かってアイスガを連発し、ルストティラノの動きを鈍らせようとする。

 

 

「GUUU……! GUAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「っ!?」

 

「チッ! 『熱血』!」

 

 

 流石に頭に来たのか思わず身が竦みそうなほど大きな咆哮を放つルストティラノ。

 その大音量にサラが耳を塞いで蹲り、俺は舌打ちをしながら打ち込まれるはずだったダメージの穴を埋めるべく攻撃力を倍加させる『熱血』を使用して射る。

 

 

「――ッ、す、すみません!」

 

「謝るのは後だ! MPの残量に注意しつつどんどん打ちこめ!」

 

 

 そう叱咤して俺も一度MPの残量を確認し、再び『勇気』を使って今度は一呼吸置いてから眉間を狙う。しかし突然大口が開かれ狙った矢は鼻の上にある角を砕くまでに終わった。

 同時に轟く2回目の咆哮。先ほどより大きなそれを受けてしまい反射的に耳を塞いでしまう。

 

 

「クッ! 馬鹿でかい声を上げやがって! サラ、大丈夫か!?」

 

「ど、どうにか……」

 

 

 耳を押さえたまま辛そうに返すサラをみてどうにか黙らせる方法はないか考える。

 ガイナーたちの分銅で口を縛る……には長さが足りないか? 正確な長さを測ったわけではないが、あのサイズの口を塞ぐにはおそらく足りないだろう。仮に3人分をつないで長さを確保しても次に強度の問題が上がってくる。

 見た目通りの凶悪そうな口からしてその力は計り知れない。ただの鎖では簡単にちぎりそうだ。

 しかもあの口のサイズだ。下手をすれば縛りに言った時点で大口に食われる可能性も……ん? 大口?

 

 

「! そうだ! なんで思いつかなかった!」

 

 

 『熱血』と『集中』を使い矢を引き絞り、ブーストアップで動体視力を上げてタイミングを計る。

 まだだ……まだ…………ッ!

 

 

「いけぇ!」

 

 

 口が開かれようとした直前で溜めていた運動エネルギーを開放。放たれた一撃は今度こそ狙い通りの位置へと着弾する。

 すなわち、肉質が柔らかい口の中だ。

 

 

「GYAAAAAAAAAAAAAA!?」

 

 

 今まで経験したことがないであろうダメージを受け、ルストティラノはその巨体で悶絶し暴れだす。

 取り付いていたガイナーたちは被害を受けぬよう後方へと退避し、虹色の貝殻の元へと降り立つとそれぞれが同時にかまいたちを放つ。

 

 

「『サンダガ』!」

 

 

 今までガイナーたちのことを考えて控えていたサンダガをサラがここぞとばかりに唱える。

 

 

「よし! もう一回――――ッ!?」

 

 

 有効な手応えを掴み同じ攻撃をしようと矢を番え、再び『熱血』と『集中』、ブーストアップを使用したところで不意に視界がブレる。

 何故、と考える前に理解する。これはブーストアップの副作用だ。

 ただでさえ集中しなければならない状況でさらに体へ負担がかかるドーピングを施したのだから副作用が現れるのも早かったのだろう。

 

 

「これは……予想以上にクル…………なッ!」

 

 

 視界が歪む中タイミングを計り、再び開かれようとする口を狙う。しかし今度は狙いがズレ、頬肉を浅く抉るだけに留まってしまった。

 今の一撃を外したのは余りにも痛い。次にブーストアップをしたら今度は意識を持っていかれそうなのだ。ここで倒れたらそれこそ終わりだ。

 しかもこれは疲労から来るものであり万病に効く万能薬では治せない可能性が高く、傷を治すだけのケアルやポーションでも無理だろう。

 

 

「くそ、使い時を間違えたか……」

 

「ミコトさん! 大丈夫ですか!?」

 

「問題ない。ただ、少しばかり手数が減るけどな」

 

 

 こちらの異常を察知したサラが寄り添うが、それを手で制して体に渇を入れ再度矢を番える。

 

 

「GUUUURUAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「グッ!?」

 

「うっ!?」

 

 

 口の中を痛めているはずなのにそれを感じさせない三度目の咆哮。フラフラの体に膝をつかせるには十分なものだった。

 

 

「御館様! サラ様!」

 

「オルティー!」

 

「承知!」

 

 

 ガイナーたちが再びルストティラノに取りつき、軽い身のこなしで一気に頭上まで駆け上がる。そして振り落とされないよう間髪いれず得物を両眼に突き立てた。

 

 

「GUGAAAAAAAAAAAAAA!?」

 

 

 目をつぶされたルストティラノは口の中を攻撃されたときと同じ……いや、それ以上の叫びをあげて暴れだす。

 既に離脱したガイナーたちは俺たちの前に降り立つと二人が再び切り掛かり、残ったマシューがサラと一緒に俺を支える。

 

 

「御館様! ご無事ですか!?」

 

「心配するな、少し無茶が祟っただけだ……。それより、奴の動きはどうだ?」

 

「最初のころに比べ明らかに勢いが落ちております。火炎を吐かれる前にしとめられるかは微妙なところではありますが」

 

「だったら最大火力で押し込むまでだ。サラ、前に教えてくれたコキュートスって魔法は未完成っだって言ってたな。なにが足りない?」

 

「詠唱の簡略化と試射です。通常詠唱に問題はないのですが、試せる場所がなかったので――まさかミコトさん……」

 

「そのまさか、だ。遠慮することはない、俺が撃った後にお見舞いしてやれ。自分の魔法がとんでもなく強いってことを教えてやるといい」

 

 

 ブレていた視界が落ち着いてきたのを確認し、サテライトエッジをブラスターモードに切り替え立ち上がる。チャージは既に、完了していた。

 

 

「それにいい加減疲れたし、さっさと終わらせて休もう」

 

 

 最後にそう提案して今日三回目の『勇気』を使い、ボロボロになってきたルストティラノの頭部へ狙いを定めた。

 

 

 

 

 

 

 尊がブラスターを構えたのを見て、サラも覚悟を決め彼の隣に立つ。

 失敗するかもしれない。けどそれは些細なことだ。

 

 ――失敗したなら、成功するまで唱えるまで。ミコトさんたちが整えてくれたこの瞬間、無駄にするわけにはいきません!

 

 呼吸を整え、サラは詠唱を始めた。

 

 

「――フリズ・フロズ・コーディアス、御霊も凍てつく結晶よ、清き氷雪を束ね我が手に宿れ、我が身を襲う敵に永遠の眠りの時間を与えたまえ!」

 

「ガイナー! オルティー!」

 

 

 尊の声とサラに纏わりつく空気から普通じゃない攻撃が来ると察し、ガイナーたちはすぐさま二人の後ろにいるマシューのところまで後退し舞台を整える。

 攻撃が止んだと理解したルストティラノは四度目の咆哮を上げ、口から高温の炎を漏らす。

 しかし、全てを整えた二人の前では既に遅かった。

 

 

「この攻撃で!」

 

「お終いです!」

 

 

 今の尊が撃てる最強の一撃が解放され、ルストティラノの頭部に直撃する。

 サラもまた、自分が使える魔法の中でも最強だと言える魔法を解き放った。

 

 

 

「『コキュートス』!!」

 

 

 

キイィィィィィィン!!!!

 

 サラの手から放たれた蒼い結晶が命中した瞬間、ルストティラノの全身が一瞬にして氷漬けとなる。

 ルストティラノは何をされたかを理解する前に全身の水分が凍りつき、氷像として微動だにしなくなった。

 

 

「――終わっ……た?」

 

 

 誰かが漏らしたその言葉を合図にしたかのように氷に亀裂が走り、ルストティラノは氷と共に粉々に砕け散り永遠の眠りへとついた。

 

 

「…………終わった。間違いなく、俺たちの勝ちだ」

 

 

 緊張の糸が切れて尊が崩れるように座り込み、サラも大きく息を吐いて寄り添うように座り込んだ。

 

 

「御二方、ご無事ですか?」

 

「なに、ただの疲労だ。お前たちこそどうだ?」

 

「ハッ、お二人が注意を引きつけていただいたおかげで我ら三人五体満足であります」

 

「無論、あちらも健在です」

 

 

 示された先にある虹色の貝殻を見て、尊とサラは自然と笑みをこぼすのだった。

 また、レベルの確認のためステータスを開くと新しい魔法を習得していたことに尊が歓喜するのだが、それはまた別の話。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話「A mon seul désir」

「――これが虹色の貝殻か」

 

 

 体力が回復しいざ虹色の貝殻の元へやってきた俺はまずその神秘さに見惚れた。

 貝殻と呼ぶには大きすぎる――高さおよそ1メートル、直径は2メートル以上と推定――そのサイズ。まだ魔力の見極めが素人だが、そんな俺にもわかるほど高密度に秘められた魔力。そして魔力が漏れ出て辺りに漂う虹色の燐光。いずれも元いた世界では一生かかってもお目にかかれないものだ。

 そして原作通りにとてつもない重量があり、全てを持ち運ぶには明らかに人手が足りない。というか亜空間倉庫にも収納できないとかどんな素材で出来てるんだよこれ。

 

 

「ミコトさん。確かにこれは素晴らしいものですけど、これをどうするつもりですか?」

 

「ん? ああ、簡単に言うとこの虹色の貝殻は特殊な素材で出来ていて、様々な魔法や症状から身を守る力があるそうなんだ」

 

「なんと、この貝殻にそんな力が宿っているのですか」

 

「そこでだ。こんなハイスペックな貝殻を素材にして防具を作ったら、どんなものが出来上がると思う?」

 

 

 そこまで聞いて理解したのか、全員がハッとした顔になる。

 俺はニッと笑みを浮かべ、解答を告げる。

 

 

「魔法に対する防御力が大幅に上昇し、毒や混乱と言った状態異常から身を守ってくれるという高性能な防具が出来上がるってわけだ」

 

「それはすごいですな。しかし、素材にするということはこの貝殻を削ると言うことになるのでは?」

 

「むぅ、それは少々もったいない気がしますな」

 

「だがこの素材はどうしても必要になる。アレに勝利するためには、使えるものを総動員する必要があるからな」

 

 

 サラに目配せしながら説明すると、彼女も何に対してのことなのかを理解したようだ。

 ただ今回作るものは非常に限られたものとなるだろう。なにせ原作だとプリズムメットを3つ作るのに必要な量がプリズムドレスを一つ作るのと同じ量が必要になり、その後さらに攻撃力を超強化する虹のメガネとクロノの最強武器である虹を作るんだからな。

 しかもマールのイベントを進めるためにはガルディア城の家宝にするため最低限の形と簡単には運びだせない重量は残しておかないといけないし、かといって取り過ぎを警戒しすぎて防具を作るのに必要な量が作れなかったらそれこそ本末転倒だ。

 必要な量がわからないなら加工してくれる人を連れてくるのが一番手っ取り早いんだが、それだったら原作通り偽大臣のヤクラ13世を倒した後の方が効率がいい。

 けどそれだったら俺たちでここを攻略したメリットが薄れるんだよな。大きな目的としてはレベル上げだったし、言い方はアレだがこの虹色の貝殻はついでといってもいい。

 しかしこうして実物を前にしている以上、やはりガルディア城の騎士たちに回収されるより先に材料を確保してボッシュに加工してもらったほうがいいだろう。

 

 

「削るぞ」

 

 

 サテライトエッジをツインソードで呼び出すと一本だけ手にして貝殻の末端から50センチほどの位置に刃を突き立てる。少し力を込めると――意外なことに――刃はあっさりと貝殻を貫通し、そのまま縦の曲線に沿って切り分ける。

 内側のほうは削りすぎないよう少し余裕を空けて刃を通し、切り取った部分は小さく削らずそのまま持ち運ぶことに。これは加工の際に大きさが足りないという事態が発生したときに備えての措置だ。

 しかしこれだけでも結構な重量があり、一人で運ぶには厳しい重さだ。

 

 

「ガイナー、マシュー、オルティー、頼めるか?」

 

「「「お任せください」」」

 

 

 三人に頼んで持ち上げてもらい、俺たちは来た道を引き返す。原作ではここから脱出するときははしごを使用していたが、ここでは普通に道があった。

 ただし高さ数メートルから飛び降りることが前提となっているので、降りるときは俺がブーストアップを使う必要がある。洞窟を抜けるまでしんどい思いをするが、仕方ないか。

 その後は敵と遭遇することなく抜け道を通過し予定通り俺がブーストアップで貝殻を、ガイナーがサラを下ろし洞窟から抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 外に出るなり即行でシェルターを展開しベッドで体を休めていた俺は急速に目が冴えていくのを感じた。体を起こして備え付けの時計に目をやると、最後に確認した時間からしてざっと4時間は眠っていたようだ。

 体調は万全。明日にでもチョラスで物資を揃えて直接トルース方面へ向かって航海するもよし。パレポリに向かってから地底砂漠のメルフィックを倒しにいくもありだ。ルストティラノに比べたら耐久力ももろく勇気を何発か使えば終わるだろう。

 しかしそれなりにでかくて重い虹色の貝殻を運んでいる以上、ここはさっさと現代でボッシュに加工してもらうべきだろう。ただ大きな問題として――

 

 

「クロノたちが待機している時の最果てのゲートを使わないとダメなんだよなぁ……」

 

 

 原作通りなら今頃マールたちはまだクロノの復活に時間を割いているか、すでに復活させて他の時代へ移動しているかだ。

 しかも魔王が味方についていた場合、俺の正体を知らされている可能性が非常に高い。そう考えると彼らを誤魔化し通すのももう限界がある。

 

 

「ここらが潮時、ということか」

 

 

 ここまできたらもはや隠し通す理由もない。それに俺自身の行動範囲にも限界がある。まともな移動手段が充実しているのがこの中世だけだし、訪れたことのない未来や原始は知識はあれどまさに未開の地といっていいだろう。

 ならばこちらから接触して協力関係を築いた方が圧倒的に有利だ。そうなればまずクロノやガイナーたちには俺の説明をする必要があるな。

 これはもう必要不可欠なことであり、一度俺の話をしているサラにはまだ話していないことも教えないといけない。俺の持つ能力についてや三賢者、そして魔王――彼女の弟のジャキについてとか。

 

 

「そうと決まれば、さっそく話すとするか」

 

 

 フロニャルドでサラに話した影響か、割とあっさり決意が固まる。

 あそこで話をしていなければ、きっとここでまた悩んでいたことだろう。

 膝を叩いて立ち上がり、俺はサラとガイナーたちに声をかけこのシェルターの最後の一室に集めた。

 

 

「して、御館様。重要な話とはいったいなんでしょうか?」

 

「まあ焦るな。 ――さて、何処から話そうか……」

 

 

 腕を組んで少し間をおき、不思議そうにこちらを見るサラの顔を見て俺は決意を固める。

 

 

「――単刀直入に言おう。俺はこの世界とは別の世界の人間だ」

 

 

 

 

 

 

 尊はフロニャルドでサラに語ったことと同じ内容の説明をした。

 自分がこの世界の人間ではなく、この世界は自分からしたらゲームという空想の世界であること。

 この世界には元の世界に居た神のせいでやってきたこと。

 そしてサラを助けた先で更に別の世界に渡り、そこで彼女に自分の正体を明かしたことを。

 

 

「――そうでありましたか」

 

「もっと言うなら俺は神に付与された力の一部のおかげで時間があれば大きな怪我も勝手に治るらしく、明らかに人間を逸脱した体を持っている。聞けば化け物と思われるかもしれないが、お前たちはこんな俺でもまだついてきてくれるのか?」

 

「愚問ですな、御館様」

 

「然り。我らの主はあなた様のみ。何処の世界からいらっしゃったとしてもそれは変りありません」

 

「何より我らは御館様に仕えたからこそここまでの強さを得ることができました。あなた様のお役に立つこそが我らの願いであり、誇りであります」

 

「……ありがとう」

 

 

 ――仕えると言われた当初こそ戸惑いはしたが、今なら自信をもって言える。

 

 

「俺は自慢の臣下を得られて最高だ」

 

「「「恐悦至極に御座います」」」

 

 

 ガイナーたちの言葉に満足し、今度はサラへと向き直る。

 

 

「私は既に答えましたよ。あの世界で伝えたこと……私は今でも、ミコトさんに全てを捧げたつもりですから」

 

「……それは受けかねるって言ったよな? それを撤回する気は……」

 

「ありません」

 

 

 はっきりとした物言いにガイナーたちは感嘆の声をあげ、尊は何が彼女をそこまでさせるのかと頭を抱えた。

 

 

「……自分の幸せを掴んでくれとも言ったよな? そっちはどうなった?」

 

「それも、一応考えてはいるのですが……ここではちょっと……」

 

「わかった。後で教えてくれ」

 

 

 急に恥ずかしそうに答えたのを見て打ち明けにくい内容なのかと察した尊は続きを後回しにして今後の方針を打ち出す。

 

 

「さて、俺の知っている流れと同じならクロノは時の賢者のアドバイスと理の賢者の遺したサポートで生き返る。そして力を蓄えてラヴォスを倒し、それで物語は終わる」

 

「! ハッシュとガッシュは生きているのですか!?」

 

「彼らはラヴォスのタイムゲートに飲まれてそれぞれ別の時代へと飛ばされた。時の賢者は時の最果てで生活していて、理の賢者はラヴォスに滅ぼされた未来で精神を病み、研究の末亡くなった」

 

「……そう、ですか。ではボッシュは?」

 

「命の賢者はクロノたちの時代で平穏に暮らしている。俺もこの世界に着たばかりの頃、身を守るために防具を買わせてもらったよ」

 

 

 その答えに満足したのかサラは少し安心したように息をつき、そしてふと気付いた。

 

 

「あの、私の弟のジャキはどうなりましたか?」

 

「あー、彼は生きているが、その……」

 

 

 再び言いにくそうな尊を見てサラは首をかしげ、もしやと思いたずねる。

 

 

「もしかして、あの予言者ですか?」

 

「……正解」

 

 

 心当たりがあったのかと思いながら尊は補足を加える。

 

 

「彼はこの時代から少し前に飛ばされて、ラヴォスに復讐すべく魔族の王となった」

 

「なっ!? ということは魔王はサラ様の弟君となるのですか!?」

 

「ああ、だからあまり言いたくなかった。生きてはいるがどんな状態かと問われれば答えにくかったし、命のやり取りをしたなんてもっと言いにくかった」

 

「いえ、生きているとわかっただけでも十分です。ですが、今はどちらに?」

 

「俺が推測できるパターンは二つ。ひとつはクロノたちに協力して行動をしている。もうひとつは……言いにくいが、この時代での決着を古代でつけてすでに死んでいるかだ」

 

「……ミコトさんは、どっちだと思いますか?」

 

「俺の予測は前者だ。奴も俺の正体を知りたがっていたから、早々命を張るようなマネはしないだろう」

 

「なら、きっと大丈夫ですね。何処へ行けば会えますか?」

 

「この時代にも時の最果てに繋がるゲートがある。明日、チョラスで道具をそろえてから船で直接トルースへと向かうつもりだが……どうするかは聞くまでもないな」

 

 

 訊ねる間もなく尊がそう判断したのは、彼女の瞳が絶対についていくと雄弁に語っていたからだ。

 

 

「――それじゃあ、明日の朝一でトルースへと船を出し、時の最果てに向かう」

 

「我々はいかがいたしましょう?」

 

「すまないが魔物であるお前たちがついてくれば話がややこしくなりそうだから、今回は残ってくれ。その間、可能ならトルースで情報収集を頼む」

 

 

 この時代で残っているイベントが緑の夢と勇者の墓、そしてビネガーの館の三つしかないのは既にわかっているが、他に何かないか念のため調べてもらおうと尊は考えた。

 

 ――黒の夢を見かけないのがどうも気になるが、これから古代で潰すことに成功してもうなかったことになっているのか?

 

 そう考察しながら尊は解散と休養の指示を出し、自分の部屋へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 ベッドにどかっと腰掛け大きな息を吐く。

 一度サラにぶちまけたとはいえ、やはり自分の異常性を説明するのは疲れる。しかもこれがあと一回あり、そっちの方がいろいろ言われそうで頭が痛い。

 だがもう決めたことだ。今更変更する気はないし、ここで協力を取り付けなければラヴォスに対して優位に進められない。

 それにフロニャルドに現れた個体についても早急に調べる必要がある以上、あまり時間をかけるわけにも――

 

 

コンッコンッ。

 

 

「ん? どうぞ」

 

「お、お待たせしました……」

 

 

 不意に鳴ったノックへ入室を促すと、おずおずとサラが入室した。

 さっきの話に出言いにくそうにしていたから呼んだわけだが、どうにも様子がおかしい。

 

 

「まあ、適当に座ってくれ」

 

「あ、はい。――失礼、します」

 

 

 そそくさと移動し、何故か俺のとなりに腰を落とす。……えーっと、これは……。

 

 

「――あ、あの」「――な、なあ」

 

「「あっ」」

 

 

 いろいろと声が重なり気まずい空気が余計に気まずくなる。

 漫画とかドラマでしかないと思った展開だけど、こういう時ってどうすりゃいいんだ……。

 

 

「み、ミコトさんからどうぞ」

 

「そ、そうか? ――えっと、さっきの話だが、サラが言いにくかったことって何なんだ?」

 

 

 とりあえず最初に聞いた理由を深く知るべく確認するように訊ねる。

 

 

「……ミコトさんは、私が幸せになることが何よりの報酬になると言っていましたよね?」

 

「ああ、確かに言った。 何か見つかったのか?」

 

 

 それならそれで喜ばしいが、サラは恥ずかしそうにするだけでなかなか切り出さない。

 少し間を置くと落ち着いたのか、自分の手元を見つめたまま話す。

 

 

「わ、私なりに考えてみたのですが……自分が本当に望む形を得るためには、どうしても足りないものがありまして……」

 

「足りないもの? なんだ?」

 

 

 ジールとの関係か? だとしたらそれは無理と言わざるを得ない。

 あれは既に心どころか魂の芯までラヴォスに染まっている。かつての姿に戻ってもらいたいとなれば、もう絶望的だとしか――

 

 

「……貴方です」

 

「……は?」

 

「私が望むたった一つの未来に、ミコトさんがいないとダメなんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の中が、真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

「な……、え……それは、どういう……」

 

 

 予想外の言葉に尊は混乱し、一度言ったことで戸惑いも恥じらいも落ち着いたサラが顔を向けてもう一度はっきりと答える。

 

 

「私が本当に幸せだと思う未来は、ミコトさんが隣にいることなんです」

 

「お、俺が?」

 

 

 何かの間違いでは? と思っている尊に首肯し、それが正しいことを示す。

 

 

「きっかけがいつかははっきりしませんでしたが、ジェノワーズのみんながおやつを賭けていたころにはミコトさんが旦那様だったら嬉しいと思っていました」

 

 

 言われ、尊も思い出した。

 グラナ盆地のコンサートから数日してガウルがシンクとの決着をつけにビスコッティへ向かったとき、それに同行した道の途中で三人娘が賭けをしていたことを。

 あの時は自分がサラの恋人になるなんてありえないだろうなと思っていたが、そのまさかな展開になるなど予想外もいいところだ。

 

 

「そしてこの世界に戻ってきてからそう想うことが多くなってきて、先ほど確認されたときにやっぱりそうでないとダメなんだって気づいたんです」

 

 

 

 だから、と繋げ、はっきりと宣言する。

 

 

 

「――私は、ミコトさんのことが好きです。ただ一人の女として、自分の一生を賭けて添い遂げたいと思うほど」

 

 

 恩のための言葉ではなく、幸せを望む一人の女性としての言葉。

 迷いなく、そして強い意志を秘めたそれは尊の心に深く刻まれ、同時に自分の奥から湧き上がる感情を把握させる。

 

 ――ああ、そうか。俺も、そうだったのか。

 

 それを理解した瞬間、尊はサラを強く抱きしめた。

 

 

「――俺も…君のことが好きだ、サラ。己の全てを賭けて、守りたいと思うほどに」

 

 

 いつからこんな気持ちを抱いていたかはわからない。だが、この気持ちに偽りはない。それだけは堂々と胸を張っていえることだった。

 そこから言葉は要らず、二人の影がゆっくりと重なった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話「合流」

 サラとの関係が進展した翌日、俺たちは巨人のツメから直接トルースの裏山へと来ていた。

 当初の予定では先にチョラスでアイテムを揃えるつもりだったが、物資にまだ余裕があったので協力の取り付けを最優先ということになり予定を繰り上げることに。

 トルースの裏山にあるゲートにたどり着くなり、俺は早速ガイナーたちへ指示を出す。

 

 

「それじゃあ、昨日話したとおりお前たちは情報収集に向かってくれ。そんなに時間をかけずに戻ってくると思うが、よろしく頼む」

 

「承知しました。伝令役として一人ここに残しておけばよろしいでしょうか?」

 

「それでいい。 ――じゃあ、行ってくる」

 

 

 サラに目配せすると彼女はどうすればいいのか理解したらしく、俺の腕を取って身を寄せる。

 しっかりと捕まれたことと、ここまで運んできた虹色の貝殻が自分とロープで繋がっていることを確認しゲートに触れると、久しぶりの浮遊感が俺たちを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 時の最果てではクロノが戻ってきたことで明るい空気に満ちていた。特にマールは自分にとって最も大切な人が戻ってきたことで甘えるように引っ付いていた。

 そんな中、彼らは広場の老人からもらった話を元にこれからどうするかを相談していた。

 砂漠を蘇らせようとする女性。落ち延びた魔王の配下。さまよう勇者の魂。機械の故郷。悠久の時を経て光を集める石。そして太古の時代より存在するという虹色の貝殻。

 いずれも心当たりがあるものばかりで、何処から手をつけるべきかと話し合っていると、唐突に光の柱に誰かが現れる音がした。

 

 

「おや、心強い相手が来たようだ」

 

「え?」

 

 

 老人の言ったことを把握する前に扉が開かれ、現れた二人に老人以外の全員が驚愕する。

 その中でも特に強い衝撃を受けたのは、クロノたちの話を他人事のように聞いていた魔王だった。

 

 

「久しぶりだな」

 

「ミコトさん!?」

 

「皆さん、ご無事で何よりです」

 

「サラさん!?」「サラ!!」

 

 

 古代から行方知らずになっていた尊とサラが揃って現れたことでその場は騒然となった。

 二人は驚くクロノたちを余所に真っ直ぐと魔王の元まで移動する。魔王は魔王でどう反応していいかわからず、意味もなく口を開閉させるだけだった。

 

 

「心配かけましたね……ジャキ」

 

「ッ、――お前の仕業か」

 

「悪く思うなよ、こっちにも事情があったんだからな」

 

 

 悪びれた様子もなく尊は一歩下がり、合わせるようにサラが一歩前に出る。

 

 

「事情はミコトさんから聞きました。いろいろ言いたいことはあるけれど……」

 

 

 魔王の顔に手を伸ばし、口元を緩ませる。

 

 

「……ただいま、ジャキ」

 

「……姉上……無事で、よかった」

 

 

 感極まり、魔王はサラを抱きしめた。

 めまぐるしく動く展開に置いてけぼりを食らうクロノたちだが、感動の再会だとわかると微笑ましそうに二人を見守ることにした。

 「感動の再会はそれくらいにして」と声をかけ、尊は切り出す。

 

 

「俺たちはラヴォスを倒す協力をするためにここにきた。ただその前に、ここにいる全員にどうしても知ってもらいたいことがある」

 

 

 尊が語ったのは昨夜サラたちに打ち明けたことと同じ内容だ。

 ただし、ここでガイナーたちにも話していなかった別世界に現れたプチラヴォスについて明かすと、クロノたちの表情が険しい物へと変わる。

 まさかこの世界だけだと思っていたラヴォスの情報が、他の世界から出てくるとは思わなかったからだ。

 

 

「――以上が俺から話せるこれまでの経緯の全貌だ。さっきも言ったが、俺はサラを助けるため歴史を大きく変えないようクロノが消えるのを容認した。見殺しと取られても仕方ないからこんなこというのはおかしいかもしれないが、すまなかった」

 

 

 腰を折って謝罪する尊を見て一同は返答に戸惑った。

 サラを確実に助けるために自分が知る歴史を大きく変えないようにしたというのはわかる。

 だがそのためにクロノは一度死んだと思うとどうにもすっきりしなかった。

 

 

「――まあ、こうやってクロノは戻ってきたし、サラさんも助かったからいいんじゃないかな?」

 

「……そうだな。それにこいつからしたら俺たちが架空の人物だったとしても、俺たちは確かに存在している」

 

 

 空気を破ったのはクロノの隣にいたマールだ。屈託のない意見にカエルが同調し、全員が結果オーライを容認してクロノが代表して尊へ向き直る。

 

 

「顔を上げてください、ミコトさん。現に俺はこうして生きてるし、この世界を知り尽くしているというあなたがいればラヴォスの対策も十分出来る。力を貸してくれませんか?」

 

「……ありがとう。俺の知っていることが何処まで通用するかはわからないが、好きなだけ使ってくれ」

 

 

 礼を述べてそう宣言したことで場の空気が幾分か和らぐ。そこへルッカが早速といわんばかりに、先ほどの会話をまとめたメモから看過できない話題を持ち出す。

 

 

「まず確認したいんですけど、ミコトさんはその……フロニャルドでしたっけ? そこにどうしてラヴォスの子供が現れたかわからないんですか?」

 

「こればかりは俺も予想外すぎてな。こっちの問題が解決次第、もう一度調査に向かうつもりだ」

 

「そうですか。じゃあ次に、これについて心当たりはありますか?」

 

 

 手渡されたのは老人から聞いたことがメモされた紙だ。

 内容を流し読み、全て自分が知る物と相違ないことを確認して頷く。

 

 

「……うん、全部知ってる。というか、このうちのひとつは実物がここにある」

 

「ナ、ナント!?」

 

 

 案内されて光の柱のところへ移動すると、ロープで括られた虹色の貝殻が鎮座していた。

 

 

「これは防具に加工するために切り取ったほんの一部だが、もっと大きな本体が中世にある。ただとてつもない重量があるから、俺たちで運ぶのはまず無理だ」

 

「ふむ……。ガルディア城に頼んでみるか? これなら家宝として扱う価値が十分にあると伝えれば騎士団を派遣してくれると思うぞ」

 

 

 カエルの提案が原作と同じだったので尊はそうするように頼み、続いて広場に戻りながらリストの中から効率よく動くための順序を選定する。

 

 

「まず砂漠を蘇らせようとする女性と落ち延びた魔王の配下、そしてさまよう勇者の魂は全て中世の出来事だ。幸い頭数が均等に揃っているから、同時進行で終わらせよう」

 

「頭数? ――貴様! 姉上を戦闘に出すというのか!?」

 

 

 尊の提案からサラが頭数に入っていることに気付き魔王が食って掛かる。しかしそれをとめたのはその彼の姉だった。

 

 

「大丈夫よ。私も戦えるから」

 

「サラの言う通りだ。というか、サラに傷を負わせるつもりは毛頭ない」

 

 

 自信満々に言い切る尊を胡散臭い目で見る魔王だが、姉には逆らえないのかしぶしぶと引き下がる。

 

 

「それで肝心のメンバー分けだが、砂漠にはクロノとマール、エイラで向かってくれ。勇者の魂にはカエル、ロボ、ルッカが。最後の魔王の配下には俺とサラと魔王で片付ける」

 

「このメンバー分けの理由を聞いてもよろしいデスカ?」

 

「まずこの砂漠は魔物の仕業だ。こいつは体のほとんどが砂で出来ているらしく水を吸うと著しく弱くなる。マールがアイスガで防御力を下げたところで、素早く攻撃を繰り出せるクロノとエイラの出番というわけだ。 いけるな?」

 

「任せてください!」

 

「エイラ、負けない!」

 

 

 やる気いっぱいのマールとエイラの返事を受け、尊は満足そうに次の説明に移る。

 

 

「次は勇者の魂についてだが、これはチョラス村の北にある廃墟を指している。ここには魔王に敗れたサイラスが眠っている」

 

「……だから、俺か」

 

「そういうことだ。魔物は俺が以前に駆逐したからもういないと思うが、万が一ということもある。注意してくれ。あと、ここが終わったらガルディア城に虹色の貝殻の説明を頼む」

 

「わかりました」

 

 

 ルッカの返事を最後に二つ目の説明を終え、最後の説明に入る。

 

 

「魔王の配下についてはビネガー、ソイソー、マヨネーを相手にすることになる。ちなみに、魔王がいなくなったからビネガー自ら大魔王を名乗っていて、これを放置していると現代のメディーナ村にビネガーの銅像が建つ」

 

「あいつが大魔王……気に入らんな」

 

 

 魔王の一言にビネガーを知る者全員がうんうんと頷いた。

 

 

「説得は出来ないんですか?」

 

「あいつらは一応魔族のために動いているからな。プライドがそれを許さないだろうな」

 

 

 ――もっとも、大魔王の割には最後が非常にアホくさいが。

 まさか自分の仕掛けをネコに作動させられて終わる最期を遂げるなんて誰が想像出来ようか。

 

 

「残りの機械の故郷と悠久の時を経て光を集める石は未来で、しかもシルバードがないと入手できないから行動できるメンバーは限られてくる。なのでこれはひとまず保留とする」

 

 

 そう締めくくって指定されたメンバーが固まったのを確認し、尊はさらに口を開く。

 

 

「移動方法についてだが、ゲートホルダーはクロノが持っていてくれ」

 

「わかりました」

 

「カエルたちは一番移動距離が多いからシルバードを使って移動を」

 

「了解だ」

 

「……ちょ、ちょっと待って。あと一組はどうやって移動を?」

 

 

 そこまで説明したところで、ルッカが慌てたように待ったをかける。が、尊はそんな彼女を余所にさらっと返す。

 

 

「どうにも俺はゲートホルダーが不要らしくてな。サラと魔王は俺に捕まって移動すれば問題ない」

 

「な、なんてデタラメな……」

 

「俺もそう思う」

 

 

 ははっと笑い、現状で出来る同時進行が他にないことを見直して最後にと通達する。

 

 

「それぞれ目的を達成させたらここに集合。全員が集合したところで次の行動を決める。何か質問はあるか?」

 

 

 全体を見回して誰も問題ないことを確認すると、尊はよしと大きくうなづいた。

 

 

「それじゃあ、行動かい――「あ、やっぱり一つだけいいですか?」――おぉう……」

 

 

 号令をかけようとしたところで唐突にマールが挙手し、調子を崩された尊は思わずずっこける。

 だがまあいいかと思い質問を受け付けようとするが、これが彼にとって最大の失敗となった。

 

 

「――ミコトさんとサラさんって、付き合ってるんですか?」

 

「……はい!」

 

 

 尊に抱きつきながらサラが肯定し、尊も恥ずかしそうに頬を掻く。

 

 

「まあ、付き合い始めたのは昨日からなんだけど……な………………」

 

 

 不意に、背筋が凍りつくような悪寒を走らせる。

 同時に血の気が一気に下がり、尊は唐突に命の危険を感じる。

 

 

「ほう……。貴様が姉上の…………」

 

 

 絶対零度の視線をぶつけていたのは自分の彼女の弟だった。

 それはもう視線だけで射殺しそうなほどのオーラを纏い、怨念が使えるならダメージは軽く一万は超えそうな雰囲気を醸し出していた。

 一方爆弾を投下したマールはサラを連れルッカとエイラを交えてキャーキャーとガールズトークを展開しており、男性陣は空気を察して出来るだけ関わらないようワザと気付かないフリをしつつ、この空間では意味のない天気の話などをしていた。

 

 

「ちょうどそこにいくら魔法を放っても問題ない空間がある。少し訓練に付き合え」

 

「いや、俺は別にいいんだが……」

 

「遠慮するな。あぶれた貴様の相手をして殺るだけだ」

 

「やるの字がなんかおかしくないか!?」

 

「おかしくなどない。さあ、姉上と何があったか洗いざらいぶちまけて――」

 

「えーーーーッ!? そ、そこまでしたんですか!?」

 

「はい♪ 好きな人にされるのは本当に幸せな気持ちになれましたね」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 大きく響いた女性陣の会話が二人の耳に届き、魔王は無言で冥王の鎌を取り出す。

 尊は悟りを開いたような顔になり、おもむろに先ほど魔王が示した扉へ顔を向ける。

 老人が扉を開け、親指を立てていた。

 

 

「グッドラック」

 

 

 その言葉を皮切りに、二人は同時に駆け込んだ。

 

 

「姉上に何をしたキサマアアアァァァ!!」

 

「キスまでしかしてないが)恥ずかしくて言えるかんなことおおおぉぉぉ!!」

 

「言えないようなことをしたのか!? 『ダークミスト』ォ!!」

 

「あぶ!? やめろバカ! 『キャラおかし』いぞお前!? 少し落ち着け!!」

 

「『サラ犯した』だと!? ゆ゛る゛さ゛ん゛!! 『ダークマタァァァァァァ』!!」

 

「そんなことしてないし、ここでそんなもんぶっ放すんじゃねえええぇぇぇ!!」

 

 

 ――結局、尊の命がかかったそれは突然自分の空間で暴れられた部屋の主の堪忍袋の緒が切れるまで続いたそうな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37話「ビネガーの館」

 怒れるガチムチスペッキオのおかげで暴走した魔王の猛攻から助かった尊はクロノのグループと光の柱がある部屋にいた。カエルたちのグループは既にシルバードで発進済みだ。

 

 

「えー、まず俺たちが先に行くから、クロノたちは俺たちが完全に渡った頃を見計らって来てくれ。あと、出た先でフリーランサーと遭遇すると思うが慌てないでくれ」

 

「フリーランサー? トルースの裏山にいましたか?」

 

「いや、俺の家臣だ」

 

「家臣って、家来ってことですか?」

 

 

 マールの問いに首肯する。信じられないと言った風に顔を見合わせるクロノたちだが、ここで議論しても仕方がないと至ったのかとりあえず了承する。

 

 

「じゃ、先に行くぞ」

 

 

 サラが腕に、魔王が肩につかまっているのを確認してゲートに身を委ねる。僅かな浮遊感の末、ゲートの出口であるトルースの裏山へと抜ける。そしてほぼ同時に姿を現すガイナーたち。

 三人そろっているところからすると、既に情報収集は終えたみたいだな。

 

 

「お待ちしておりました、御館様」

 

「悪いな。どれくらいの時間がたった?」

 

「はっ、ほんの二時間弱でございます」

 

「その間に得られた情報は二つ。一つはサンドリノの南にある砂漠で砂の渦が発生しているとのこと。もう一つは魔王三大将軍の潜伏先になります」

 

 

 十分すぎる報告に尊が満足そうに頷くと、後ろのゲートからクロノたちが現れた。

 

 

「うわ、本当にフリーランサーがいる」

 

「……あれ? こいつらどこかで見たような……」

 

 

 驚くマールと記憶を掘り返すクロノ。そんな二人を余所に尊は話を始める。

 

 

「こいつらが俺の仲間のガイナー、マシュー、オルティーだ。時の最果てに来る前に情報収集を頼んでいて、さっき聞いた報告では砂漠化の原因とビネガーたちの潜伏先が確認された」

 

 

 説明を受けクロノたちは思考を打ち切り耳を傾ける。意識が自分に向けられたのを感じ尊は続ける。

 

 

「俺たちはトルース村付近の海岸に停泊させている船でビネガーたちの潜伏先に移動するから、三人はそのままサンドリノ方面へ向かってくれ」

 

「倒したら砂漠の小屋に住んでるフィオナさんに教えればいいんですか?」

 

「それでいい。終わったら最果てに戻ってくれ。俺たちも終わり次第そうする」

 

 

 その後細かな打ち合わせをし、彼らは当初の予定通り二手に分かれて行動を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 俺たちビネガーの館攻略組は元々予定していた面子に加えガイナーたちを伴い行動していた。

 そして船の上などでサラと会話するたびに睨んでくる魔王に戦々恐々しながら移動すること数時間、俺たちはようやく目的地であるビネガーの館に到着する。

 外観の作りは魔王城に劣るものの、意匠などは似たような雰囲気を出していた。

 

 

「さて、いくか」

 

 

 一同に声をかけ、重厚な木製の扉を押しあける。

 エントランスホールを少し進んだところで、奴はいた。

 

 

「ウェ~ルカ~~ム。ここは大魔王ビネガーの…………」

 

 

 緑色の肌にでっぷりした腹でおなじみのビネガーがノリノリで出迎えるが、視線が魔王に定まった瞬間その続きがとまった。

 

 

「――おぴょお!? あ、貴方は魔王様!?」

 

 

 ファッ!? っとした表情と共に妙な声が上がる。まあ魔王がいなくなったと思ったから大魔王名乗ったのに本人来たらそりゃ驚くよな。

 

 

「……良い身分だな、ビネガー」

 

「……なにを言われるか! 魔族の世を築くための戦いを捨て人間どもに媚びへつらうあなたなどもう我等の王ではない!」

 

 

 まあ魔王の元々の戦いがラヴォスへの復讐だけだったから魔族の戦いなんて正直どうでもよかったかもしれないんだがーーあ、そうだ。ここで長年の疑問を聞いてみるのもありかもしれない 。

 

 

「ひとつ聞いていいか?」

 

「む、むむ!? 貴様はいつぞやの乱入者!?」

 

「あ、覚えてたのか。それはいいんだが、魔族の世を築いてどうするんだ?」

 

 

 そう、これだけはずっと本編でもあまり触れられてなくてずっと謎だった。おそらくベタな展開で魔族による世界征服とか、人間より優秀であることを示すことが目的なんだろうが。

 

 

「知れたこと! 魔族にとっての永遠の楽園、暗黒の世を築き上げることよ!」

 

 

 ……ああ、そんな感じはしてたがやっぱり思考がお決まりだったな。

 

 

「そして魔王様……何故我等を裏切った」

 

 

 その言葉を残しビネガーはこちらを向いたまま奥へと退避して行った。無論、見逃すつもりなど毛頭ないのでこのまま追撃に移るとしよう。

 

 

「ジャキ、あなたそんな世界を作ろうとしてたの?」

 

「俺はラヴォスを倒すために利用しただけだ。そんなものに興味はない」

 

 

 サラの質問に涼しい顔で答え、魔王は先頭を駆ける。俺たちもそれに続いて奥へ進むと、もう追ってこないと思っていたのかビネガーが広間の先で待っていた。

 

 

「ぬぐぅ! しつこい奴! こうなったら……マヨネ~ッ!!」

 

 

 虚空に向かって叫んだと思うと、俺たちとビネガーの間に白いローブを纏った人物が現れた。

 空魔士マヨネー。魔法を多用し、エルフみたいな耳をしてそこらの女よりも女らしいプロポーションを備える。

 

 だ が 男 だ。

 

 

「ハァ~イ。アタイをよ・ん・だ?」

 

「マヨネー! 侵入者だ! こいつらを蹴散らしてしまえ!」

 

「アラアラ? 誰かと思えば魔王サマじゃない。どのツラ下げて戻ってきたのカシラ~?」

 

「……なんだが、変った方ですね」

 

「あれ、実は男なんだぞ」

 

「そうなんですか!?」

 

 

 高笑いするマヨネーを脇目にそう教えてやるとサラがガチで驚いた。まあ初見であれは女にしか見えんわな。

 そんなことをしているうちに高笑いを終えたのか、マヨネーはビネガーを下がらせて臨戦態勢へと移行していた。

 ふむ、せっかくだから新しく考案した連携技っぽいものでも試してみるか。

 

 

「サラ、魔王。少し提案があるんだが」

 

 

 最近覚えた魔法を教え、同じものを同時に放って欲しいと指示を出す。

 そして律儀に待っていてくれたマヨネーに向き直り、こちらも戦闘態勢を取る。

 配置は二人一組でマヨネーを囲むようにし、俺にはオルティーが、サラにはガイナー、魔王にはマシューがつく。それぞれ魔法を撃つ後衛とそれを守る前衛に別れてのフォーメーションだ。

 

 

「ウフフ、作戦会議は終了したのカシラ?」

 

「おかげさまでな。そしてこれで終わりだ」

 

 

 俺たちは同時に右手に電撃を宿し、一斉にマヨネーに振り下ろす!

 

 

『『『サンダガ!!』』』

 

 

ドガガガガガガガガガガァンッ!!

 

 

「あひぃぃぃいん!?」

 

 

 容赦のないサンダガの三重奏。これぞ俺考案のありえるはずのない連携魔法。『エレクトリッガー』とでも名付けようか。

 単純にサンダガを同時にはなっただけだが、サンダガだけでも十分な威力があり、しかも使用者のうち二人はとんでもない魔力の持ち主だからその分威力も半端ない。

 これにクロノのサンダガとロボのエレキアタックがあればもっと楽しいんだが、それはまた機会があるときにしよう。

 

 

「くっ……はぁ…………。し、刺激的、ヨネー……」

 

 

 艶やかな声を漏らしてガクッと気絶するマヨネー。しかし上気させた顔に加え電撃の影響か時折ビクビクと痙攣している様がなんとも目の毒だ。

 原作では撃破と共に奥へと退避して行ったが、こうなってはそれはなさそうだな。

 

 

「お三方、流石でございますな」

 

「フン、次に行くぞ」

 

 

 ガイナーの賛辞も当然とばかりに流し先へ進もうとする魔王。俺たちも続こうとするのだが、サラの様子が少しおかしい。

 

 

「どうした? 顔が赤いぞ」

 

「い、いえ……。この方、本当に男の人だったんだって思いまして……」

 

 

 チラ、チラっとサラが向ける視線をたどると、マヨネーの股が妙に膨らんでビクビクと動いていた。

 おいおい……まさかこいつ、さっきの電撃で……。

 

 

「……あまり見るな、いろいろとよろしくない」

 

 

 サラを先に向かわせながら俺も見なかったことにして後を追う。

 一応周りを警戒しながら奥へ進むと、今度はベルトコンベアーのある通路に出た。あ、ここって確か……。

 

 

「な~いす とう みーちゅ~!」

 

 

 声がしたと思い顔を上げてみれば、テラスの上からドヤ顔全開のビネガーが待ち構えていた。

 

 

「いでよ! 我がしもべたち! ワシが魔王城から持ち出した宝を取り返そうとするこ奴らをボッコボコにしてやるのだ!」

 

 

 ハンドルが回されリフトから上がってくる魔物たち。そしてその着地点には落とし穴へと動き続けるベルトコンベアーが。

 

 

「れっつら ご~!」

 

 

 ノリノリな掛け声に応じてリフトから降り立つ魔物たち。彼らはベルトコンベアーで運ばれながらもやる気満々さをアピールする。

 ――が、自分たちが虚空の上にいると気づいた瞬間に下へと落下した。

 ……うん、アホだ。

 何とも言えない空気が流れ、俺たちはおもむろにビネガーへと目をやる。

 

 

「……び、ビネガー ピ~ンチッ!!」

 

 

 もはや代名詞ともいえるセリフを発し、「……さらばだ!」との言葉を最後にフェードアウトした。

 なんというか、まあ、設計段階で気付けよって話だな。

 そんなことを考えながらさらに奥へと進み、マヨネーを倒した場所と同じような空間で再びビネガーとエンカウント。

 

 

「ま、まだ追ってくる気なのか!?」

 

「そりゃあ、まだ終わってないからな」

 

「こ、こうなったら……ソイソ~ッ!!」

 

 

 また虚空に向かって叫んだと思うと、俺たちとビネガーの間に青い肌のスキンヘッドが現れた。

 外法剣士ソイソー。正直カウンターとかを考慮したら魔王の次に強いんじゃないかって思うほど強い奴だ。

 

 

「お呼びになられましたか?」

 

「ソイソー! 後は任せたぞ!」

 

 

 そう言い残すとあっという間に奥へと引っ込んでいくビネガー。他力本願にもほどがあるだろ……。

 

 

「久しぶりだな、ソイソー」

 

「かつて主君と仰いだ方と剣を交えるのは不本意であるが……これも運命とあらばしたかあるまい!」

 

「……御館様、ここは我らに任せ先へお進みください」

 

「いいのか?」

 

「あの方も主君のために戦う気高き誇りを持った戦士でございます。ならば我らも御館様のために戦うという誇りを持って迎え撃ちたいのです」

 

「……わかった。無理はするなよ」

 

「承知」

 

 

 こちらの話を聞いていたソイソーも不服はないらしく、それどころか楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

「ほう……、良い目をするフリーランサーたちだ。よかろう、外法剣士ソイソーが相手になってやる!!」

 

「フッ、我らとて御館様のために地獄を戦い抜いた戦士だ」

 

「然様。故に、そう易々とやられるわけにはいかぬ」

 

「参るぞ! ソイソー殿!!」

 

 

 ガイナーたちの戦闘が始まったのを見届け、俺たちはビネガーを追うべく再び追撃を開始する。

 次の通路に入ってまず見つけたのがギロチンとその奥にある宝箱。そしてテラスからはまたビネガーが。

 

 

「かま~ん、べいべ~!」

 

 

 またもノリノリな掛け声を上げてそばにあったハンドルを回すビネガー。それに連動してギロチンが稼働し始める。

 と言うか、そんなあからさまなトラップに誰が引っかかるんだよ……。

 

 

「とりあえず殴るか。階段はどこだ?」

 

 

 舐められたことに流石の魔王も腹が立ったのか、飛ぼうとせず直々に近づいて殴り飛ばそうと階段を探す。

 俺とサラも釣られて移動しギロチンをスルー。こちらの行動が予想外だったのか、ビネガーは目を丸くしていた。

 

 

「あ、あの~、宝箱は? 回収しないんすか?」

 

「いや、だって中身はハイエーテルだろ? そこまで固執するものでもないし。回収するんだったらむしろ……」

 

「な、なぜわかった!? ていうかそっち調べちゃらめええええ!」

 

 

 突き当たりの壁を触っていると石の重厚な感覚がなくなり薄くて安っぽい感覚に触れる。それを認識するなり俺はサテライトエッジを取り出し、思いっきり叩きつける。

 すると壁が突き抜けて新しい空間が出現し、見るからに豪華な宝箱が三つ並んでいた。

 

 

「魔王ー、お前の装備一式見つけたぞー」

 

「ほお、こんな所にあったのか。遠慮なく貰っておくぞ」

 

 

 その言葉通りに遠慮なく宝箱の中身を回収し絶望シリーズの装備を身につける魔王。

 一方、テラスの上でそれを見ていたビネガーはあんぐりと口を開けて硬直していた。

 

 

「……び、ビネガー ショ~ック!! うわああああああん!!」

 

 

 よほど悔しかったのか、テラスから飛び降り泣きながら奥へと走っていくビネガー。

 なんだろう、絵面としてはものすごいシュールなんだがすごい罪悪感が……。

 

 

「……ミコトさん。私、あの人がそこまで悪い人には見えなくなってきたんですけど」

 

「……まあ、放っておいてもいいかもしれないんだけど、ここで倒しておけば現代で魔物と人間の関係が良好になるから、できれば今のうちに何とかしておきたい」

 

 

 ここでビネガーを倒せれば魔族が人間を嫌悪すると言うことはなくなり、人間と一緒に平和を謳歌するようになるんだからな。

 さて、ビネガー追ってついに一番奥の部屋にまで来たわけなんだが、ここにきて俺たちは呆然とするしかできなかった。何故ならば――――

 

 

「シクシク、シクシクシクシク…………。な、なぜワシが丹精込めて作った罠がことごとくダメになっとるのだ……」

 

 

 ――いい歳した自称大魔王が部屋の奥で体育座りでめそめそと泣いていたのだから。

 というかあの腹でどうやって体育座りを成しているんだ?

 

 

「……どうするつもりだ、ミコト」

 

「いや、これはさすがに想定外にもほどがあった」

 

 

 まさかここにきていじめられっ子のように泣いているなんて誰が想像できただろうか……。

 正直これ以上戦ったところでこっちが罪悪感でいっぱいになりそうだから出来ればもう放置しておきたいが、ここで見逃しても現代に変化がなさそうなんだよな。

 どうしようかと考えていたところへ、不意にサラがビネガーに声をかける。

 

 

「あの、ビネガーさん?」

 

「ぐず……。な、なんですかお嬢さん?」

 

「もう、終わりにしませんか? 魔族や人間だからといって争うことはもはや不毛としか言いようがありませんし、これ以上戦ったらそれこそ魔族には終わりしか見えません」

 

「し、しかし、ワシには魔族の楽園を作ると言う使命が……」

 

「では、魔族の楽園という定義を変えてみましょう」

 

「「「……はい?」」」

 

 

 突然の提案に、野郎三人から疑問の声が上がる。

 

 

「まず暗黒の世と言うのが不要なのです。別にそんな世界でなくてもあなた方は生きていられますし、むしろ人間を滅ぼすことが問題だと思うんです」

 

「な、なんですと?」

 

「確認したいのですが、あなた方はどうやって生活していますか? 特に食べる物について」

 

「そ、それは人間から奪ったり野生の動物を狩ったりですが」

 

「食べなければ生きていけない。その時点で人間と同じですし、人間の作ったものに頼っている時点で滅ぼすことに問題が発生します」

 

「……あ」

 

 

 目からウロコとはこのことか。初めてそこにビネガーが気付いたことに満足し、サラは続ける。

 

 

「ならば人間と前向きに共存した方が安定した食料供給で生存しやすくなるでしょうし、人間側から技術をもらって自分たちで自給自足ができるようにもなります」

 

「だ、だが魔族のプライドが――「ビネガーさん」――はい?」

 

「プライドではお腹は膨れませんよ」

 

 

 真理。曲げようもない真理である。

 痛いところを突かれたようにビネガーは押し黙り、サラは――狙ってはいないだろうが――畳みかける。

 

 

「それにビネガーさんは今まで頑張ってきたのですから、きっとうまくいきますよ」

 

「……本当、ですかな?」

 

「はい。初めはうまくいかないかもしれませんが、時間をかければ努力は必ず実ります。ですから、もう争うことをやめて新しい楽園を目指しませんか?」

 

 

 

 

 

 

「まさか説得で終わらせてしまうとは……。これはサラだからこそと言うべきか?」

 

「そんなことありません。あの方は、きっと他の人の言葉でも動いていたはずです」

 

「いや、姉上以外の誰かが言ったところで、奴は変わりはしなかっただろう」

 

 

 来た道を引き返しながら三人でそんな考察をする。

 結局ビネガーはサラの説得に応じて『人間と魔族で作る楽園』を目指すことを宣言し、立ち直るなりソイソーとマヨネーを回収して今後の政策に乗り出すと息巻いていた。

 ちなみにガイナーたちとソイソーの戦いはガイナーたちが勝利を飾っており、止めを刺さず捕縛していた。最初こそ生き恥は晒せんと語っていたソイソーだが、サラとビネガーの説得に応じて新しい楽園作りに協力することに。

 その後に「彼らは本当にフリーランサーなのか?」と信じられないものでも見た表情でソイソーが尋ねてきたが、俺は肩を叩いてやることでそれに答えた。

 また、マヨネーも説得に応じたのだが、最後にもう一度『エレクトリッガー』を使って欲しいと何かに目覚めたような艶っぽい目で頼んできた。無論スルーしたのだが、やりすぎたか?

 

 

「ともかく、これで目的は達成した。後は最果てに戻って、次の作戦を練ろう」

 

「……ミコト。その前に聞きたいことがある」

 

「ん? なんだ?」

 

「以前、シルバードが謎のゲート反応をキャッチしてレーダーに映したのだが、そのうちの一つがこの近くにある。これになにか心当たりはあるか?」

 

「……なんだって?」

 

 

 中世の問題は、まだ終わってはいないようだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話「知らないゲートの先」

 俺は混乱した。

 この世界の重要なことについては知り尽くしていると自負していただけに、魔王からもたらされた情報はまさに寝耳に水だった。

 

 

「同じ反応が原始にも確認されたのだが……その様子では、これについては知らないようだな」

 

「……すまない。だが俺が知らないことが起きているという時点で、看過できるものでもないな。とりあえず今は最果てに戻って次の策を練ろう。ガイナーたちはその間、ビネガーたちに手を貸してやってくれ。ある程度の目処がついたらトルースの裏山で待機していてくれ」

 

「承知いたしました」

 

 

 来た時と同様に数時間かけて時の最果てに戻り、メンバーが全員揃っていることを確認するとクロノが訊ねてきた。

 

 

「ミコトさん、そっちはどうでしたか?」

 

「まずビネガーはサラの説得で改心し人間と共存することを宣言した。これだけでも俺の知ってる歴史から外れているが、まあ特に問題はないだろう」

 

「奴が改心? 信じられんな……」

 

「俺も信じられなかったが、事実姉上の説得に応じた。認めるしかないだろ」

 

 

 半信半疑といった面々だが、魔王が冗談を言うことはないというのを理解しているのかそれ以上追及することはなかった。

 

 

「俺たちの方は無事に砂漠の魔物、メルフィックを倒せました。ただフィオナさんが言うには何百年も働ける存在がいなければ森の再生は難しいそうです」

 

「そこでワタシが中世に残ってお手伝いをしようかと考えていマス」

 

「そうしてくれ。ただし手伝いに向かうのはほかの問題を片づけてからの方がいい。特に未来にあるジェノサイドームという場所にはロボがいないと入れないようになっている」

 

 

 砂漠の開拓をガイナーたちに任せてもいいかもしれないが、いくら規格外のあいつらでも寿命と言うものがある。残念だがそう長くは手伝えないだろう。

 

 

「こちらはガルディア城に頼んで虹色の貝殻の回収を依頼した。回収完了がいつになるかはわからないが、問題はないだろう」

 

「了解した。それじゃあ次に向かってもらう場所だが、まずクロノ、マール、カエルは現代のガルディア城へ向かって虹色の貝殻がちゃんと受け継がれているか確認してくれ」

 

「わかりました」

 

 

 返事をするクロノの後ろでマールが浮かない顔をしているが、彼女には何が何でも行ってもらう必要がある。

 ガルディア王の裁判やヤクラ13世のことをあえて教えないのも下手に情報を与えて話がややこしくなるのを防ぐためだし、何より和解させるチャンスをここ以外に俺が知らないからな。

 

 

「次に未来へ向かってもらうメンバーはロボを筆頭に太陽神殿と先ほど説明したジェノサイドームへ向かってくれ。太陽神殿にはサン・オブ・サンという魔物がいて、火属性の攻撃を仕掛けてくる。あと厄介なことに本体の周りにある炎のいずれかを攻撃して当たりを引き当てないとダメージが通らない」

 

「くだらん。全体魔法で消し飛ばせばいいだろう」

 

「周りの炎は全ての属性魔法を吸収するぞ。しかも当たり以外の炎は攻撃を受けると反撃してくるから、反撃の炎に晒されてもいいならそれでも構わない。ちなみに、その際に反撃してこない炎があればそれが当たりだ」

 

「ということは、囮として全体魔法を使うってのもアリなわけですね」

 

「そういうことだ。そして本体は強力な炎魔法を使ってくるから回復は怠らないことだ。可能ならばレッドプレートやレッドベストを装備して行くといい。この装備は火属性を吸収するからほぼ完勝できる」

 

 

 ただレッドプレートは中世のガルディア城でエネルギーを注入した後現代で回収なんだよな。色仕掛けでもらえるのが確かルストティラノだけだったはずだし。

 まあ魔法防御が高い魔王を連れていかせて、全体回復の手段を持つロボがいれば問題ないだろう。

 

 

「そして俺と一緒に来てもらうメンバーは原始と中世に現れたという謎の反応を確かめに行くため、まずは原始へ向かう。どのあたりに発生したか教えてくれないか?」

 

「ワタシのデータではプテランの巣より東へ進んだところの高い山の麓となっていマス」

 

 

 ……なるほど。これも知らない位置情報だな。おそらく徒歩で向かうことは無理だろうから、必然的にプテランを使用することになるな。

 

 

「未来へ行くメンバーはロボ、ルッカ、魔王の三人。原始へ行くのは俺とサラとエイラで――」

 

「待て! 何故俺が姉上と違うのだ!? 魔物の雑魚ごときならその女に任せてもいいはずだ!」

 

「いや、普通にバランスの問題もあるし、原始ではおそらくプテランを使わないといけないはずだから現地出身者に案内を頼むのはおかしくないだろ?」

 

「それでも姉上が貴様と行くには理由が薄い! 別にこのメガネの女でもかまわんだろ!」

 

「ちょっと! 私だって未知の技術がいっぱいありそうなジェノサイドームって場所に行きたいのよ!? 勝手に決めないでよ!」

 

「ならばカエルでもかまわんだろ! おい両生類! 姉上のために代われ!」

 

「お前、ミコトとサラ嬢を一緒にしたくないだけだろ……」

 

「なんか、サラさんが無事だってわかってから性格変わったよね?」

 

 

 マールの率直な意見に誰もがうんうんと頷く中、件のサラは仕方ないと言った風に嘆息する。

 

 

「ジャキ」

 

「姉上! 姉上も何か言って――――」

 

「我が侭を言うんじゃありません」

 

 

 やんわりと諭すような優しい口調で語りかけるサラだが、その目は彼女らしからぬほど笑ってなかった。

 

 

「……ミコト、今回だけだぞ」

 

 

 バツが悪そうに姉の言葉を受け入れた魔王は渋々とシルバードのある場所へと移動した。

 と言うか、サラもあんな顔するんだな……。

 意外な一面を見れたことは素直に喜ぶべきかもしれないが、ああいったプレッシャーを感じる一面はちょっと遠慮したいところだ。

 その後、グループごとに行動を開始した際に俺たちも不思議山のゲートを選択したものの、落下することをうっかり忘れて俺は某未来少年の真似事をする羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 プテランに騎乗しロボが教えてくれたデータを頼りに移動すること十数分。俺たちは問題となった謎のゲートへとたどり着いた。

 今までのゲートが青っぽいものだったのに対し、これは緑っぽいものだ。記憶を掘り返してもこんな物は見たことがなく、どこに通じているのかも検討がつかない。

 

 

「どうした? わからないなら行く。違うか?」

 

「……そうだな。わからないから調べに来たんだもんな」

 

 

 エイラの言葉に頷き、先陣を切ってゲートに触れる。今までのゲートと似たような浮遊感を感じるが、これはどちらかと言えばジールにいたころのものに近いか?

 やがて体がどこか洞窟のような場所に降り立つと、サラが何かを感じ取ったように声を上げる。

 

 

「ここは……どうやら私たちがいた場所とは違う空間のようですね」

 

「どういうことだ?」

 

「次元が違うとでも言いましょうか……別世界、別空間と言っていいかもしれません」

 

「別世界……フロニャルドみたいなものか」

 

「! 何かニオイする! きっと生き物いる!」

 

 

 エイラが発した言葉に俺とサラは顔を見合わせ、とりあえず奥へと進む。

 すると大きく開けた空間に出たのだが、いくつもの横穴とあちこちに設置されたテーブルでまるで村のように形成されていた。

 

 

「地の民の村に近いものを感じますが……なんだか不自然です」

 

「確かに。誰か住んでいてもおかしくないはずだな」

 

「でも人いない。この近く、探すか?」

 

 

 その提案に反論する要素などなく、とりあえず手近な光が差し込んでいる穴を選んで覗きこむ。

 するとそこには広大さを感じさせる湿原が広がっており、とてもじゃないが誰かいるようには見えなかった。

 

 

「ここ、なにもない。別の場所、行くか?」

 

「……本来なら調べに行きたいところだが、まあまだ調べていないところもあるからいいか」

 

 

 来た道を引き返し横穴を片っ端から調べていくが、どこもかしこも生活できるような空間があるにもかかわらず誰もいなかった。

 そんな中、一番奥の光が差し込んでいる二つ目の穴を発見し覗いてみると、今度はガルディアの森のような場所に出た。しかも魔物つきで。

 

 

「もしかして、誰もいないのはあの魔物たちのせいなのでは?」

 

「可能性はないとは言い切れないな。というか、どうにも友好的じゃないみたいだ」

 

 

 こちらに気づいたオウガンらしき魔物の三体のうち一体が茂みに手を突っ込む。取り出したのは――鉄のハンマー!?

 ハンマーを持ったオウガンはデナドロ山のオウガンとは比べ物にならない速さでこちらに突進し、得物を振り上げる!

 

 

「ちぃ!」

 

 

 俺はサテライトエッジをシールドモードで取り出しハンマーを受け流す。その開いた隙を逃さずエイラが殴りかかって弾き飛ばすがのそのそと起き上がるあたりまだ余裕があるようだ。

 

 

「『サンダガ』!」

 

「『ファイガ』!」

 

 

 間髪いれずに俺とサラの魔法が炸裂し、オウガンたちは強力な魔法に抗うこともできず今までの敵同様に霧となって消滅した。

 ふむ。鉄のハンマーは予想外だったが、ガ系魔法二発で無傷だったハンマーなしのオウガンが消し飛んだあたりあまり強くはないみたいだ。

 

 

「ミコトさん。大丈夫ですか?」

 

「ああ。どうやらここの敵はそこまで苦戦することはないみたいだが、とりあえず油断せずに行こう」

 

 

 その後も森の奥へ奥へと進んでいき、その過程でやはり見たことのない敵と遭遇する。

 ジャリ系の魔物にさらに新しいタイプのオウガン。いずれも少しタフではあったが、そこまで苦戦するような敵でもなかった。

 そして森の一番奥と思しき場所で2種4体のオウガンを撃破したところで辺りを見回していたエイラがようやく警戒を解く。

 

 

「魔物、全部やっつけた!」

 

「そうか。だが結局それだけだったな」

 

「とりあえず、さっきの村に戻りませんか?」

 

 

 サラの提案に俺たちは頷き、一応他に何かないか調べながら来た道を引き返す。だが結局何も得ることはなく、普通に最初の村に戻ったのだった。

 一先ず休憩がてら近くに設置されたテーブル席に腰を落ち着け、情報をまとめる。

 

 

「結局、ここにいたのは少しタフな魔物だけだったな」

 

「最初にエイラさんが言っていた生き物の臭いと言うのも、あの魔物のことだったんでしょうか」

 

「まだニオイある。けどよくわからない。どうする? 帰るか?」

 

「そうだな……」

 

 

 まだ調べていないところはあるが、さっきの魔物以上に強いのが出てきたらちょっと心許ないな。

 それに俺たちはここへ偵察に来たようなものだ。無事に戻って情報を伝えるという重要な役目もある。ならばここで一度切り上げて、それからまた来るという手もあるか。

 考えが一時帰還と言う方向へ流れ出し、それを提案しようとしたところで予想外の事態が発生する。

 

 

「誰や! 外で騒いどんのは! 魔物に食われても知らんぞ!?」

 

「なっ!? なんだ!?」

 

 

 突然響いた声に驚きながら席を立ち、発信源を探す。すると一番近くの横穴から足音が聞こえ、そこから緑色の鱗をした人と恐竜を足して割ったような生き物が現れた。と言うか、こいつって……。

 

 

「恐竜人、なのか?」

 

 

 確認するように尋ねると、今度は向こうがこちらを見たまま固まった。

 

 

「? お前、どうした?」

 

「……さ」

 

 

 さ?

 

 

「サルが立ってしゃべっとるぅぅぅぅぅぅう!? なんでや!? 何があったんや!?」

 

 

 恐竜人はあり得ないものを見たようなリアクションを取り、大げさに後ずさった。

 ……とりあえず、俺からはこれだけ言わせてもらおう。

 

 

「なんで関西弁やねん……」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話「虹の装備」

「――つまり、ここにいる恐竜人はみんな魔物におびえて暮らしていて、出来るだけ表に出ないようにしていたところへ俺たちが魔物を一網打尽にしたと」

 

 

 あれからぞろぞろと出てきた恐竜人のみなさんに話を聞いたところ、要約すればそういうことだったらしい。

 しかもここの恐竜人たちはクロノたちが戦っていた恐竜人とはまた別の一族らしく、クロノたちが倒したアザーラを知らなければラヴォスも知らないときた。

 やはりここはサラが言ったように、クロノたちがいた世界とは別の世界と解釈していいだろう。もしかしたら恐竜人が勝利したマルチエンディング――ディノ・エイジから派生した世界なのかもしれないな。

 通れるようになった理由は海底神殿が浮上してからだと聞いたから、かなり高い確率でラヴォスが絡んでいるとみるべきか。

 頭の隅でそんな考察をしている中、最初に出会った関西弁の恐竜人が代表して答える。

 

 

「せや。あんたらのおかげでこの竜の里に平和が戻った。あんたらはワイらの恩人や」

 

「助けたって言うのは本当に偶然なんだけどな。まあ、平和が戻ったのなら喜ばしいことだ」

 

「で、これはそのささやかなお礼や。受け取ってくれ」

 

 

 懐から取り出されたのは小さな紅い玉の中に竜の頭が封じ込められたピアスだった。

 

 

「これはドラゴンピアスゆうてな、相手の急所にダメージを与えやすくする力があるんや」

 

「なるほど、クリティカル率アップと言うことか」

 

 

 どれくらいの補正があるかはわからないが、いいアイテムであることに変わりはない。

 

 

「で、あんたらの腕を見込んでちと頼みがあんねんけど」

 

「なんでしょう?」

 

「ほんまに時々でええ。ワイらの頼みを聞いてくれんか? もちろんタダとは言わんで。十分な報酬は用意させてもらうし、そっちとしても悪い話やないと思うんやけど……どうやろ?」

 

「そうですね……」

 

 

 サラがどうしましょうと言った視線をこちらに向ける。

 長年培ったRPGの経験上、こういった依頼は受けておいて損することはまずない。クリティカル率を上げるアクセサリーがささやかなものなら、これ以上にいいものをくれる可能性は十分にある。

 だが今の俺たちはあくまでここの調査が目的だ。依頼を受けるとなるとまた話が変わってくる。

 

 

「今回俺たちがここに来たのは調査のためだけだったからな。依頼については他の仲間と相談させてもらう。ま、前向きに検討させてもらうから期待してくれてかまわない」

 

「ほんまか! 頼むで!」

 

 

 いい返事をもらえてうれしいのか、恐竜人は嬉しそうに俺の手を取って握手をする。

 俺たちとしても得られる報酬は魅力的だからな。それにまだ湿原地帯が未開拓だから他の魔物が出てくる可能性もある。それを考えるとここは黒の夢を攻略する前にできる最後の修行場になるかもしれない。

 だったら存分に使わせてもらうとしよう。

 俺はサラとエイラを連れてここに来るとき通ってきた光の柱を使い元いた場所に戻ると、プテランを使って時の最果てへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 時の最果てへと戻ってきた俺たちは全員が揃っているのを確認すると、さっそく恒例となりつつある報告会を開いた。

 まず未来へ行っていたロボチームの報告。

 

 

「ジェノサイドームは人間を滅ぼすためのロボットを作る工場でした。今は中枢のマザーブレインが破壊されたので二度と稼動することはないです」

 

「それと、これが太陽神殿で回収した暗黒石だ」

 

 

 ルッカの報告に続いて魔王がサッカーボールほどもある真っ黒な丸い石を取り出す。俺はそれを受け取り、一つ頷く。

 

 

「こいつは原始から未来まで存在する光の祠って場所に安置すれば力を取り戻す。そしてそれは現代で作る新しい武器に必要不可欠な素材となる」

 

 

 新しい武器と聞いて現代組の3人が目をキラキラと輝かせる。おそらく自分たちの武器になるのではと期待しているのだろう。

 その光景に苦笑しながら、続いて現代で活動していたクロノチームの報告を聞く。

 

 

「虹色の貝殻は無事に回収されて、ガルディア城の家宝として奉られていました」

 

「あと虹色の貝殻を利用して父上を陥れようと大臣に変装してたヤクラ13世を倒しましたよ」

 

 

 変装って、あれは普通に化けてたって言うべきじゃないのか?

 まあマールも父親と仲直りしたしヤクラも倒されたしよしとするか。

 

 

「ところで本物の大臣が宝箱に押し込められてたと思うんだが、助けてやったか?」

 

「助けることには助けたが、しばらく宝箱の山は見たくないな」

 

 

 カエル曰く、大量の空の宝箱が置かれた部屋の一番奥の鍵つき宝箱に押し込まれていたとのことだ。

 木を隠すなら森、宝箱を隠すなら宝箱の山ということか。しかし中身は空ばかりで唯一の当たりが爺さんだけとは、虚しさしか残らないな。

 

 

「さて。最後に俺たちが向かった先についてだが、こちらに友好的な恐竜人がいた」

 

 

 俺の発言にサラとエイラ以外が怪訝な顔をし、俺はあそこでの出来事を順に説明してそこでの有用性を説く。

 

 

「なるほど。黒の夢を攻略する前にそこでの依頼をこなしつつ修行をするということか」

 

「しかも強くなれる上に強力なアイテムがもらえる……おいしいわね」

 

 

 魔王が目的を要約し、ルッカが利点を上げて全員が納得する。

 

 

「じゃあ中世のゲートも同じものなのかな?」

 

「位置情報に大きな誤差はありマセン。可能性は高いデショウ」

 

「なら二手に分かれて調べに行く……で、どうでしょう? ミコトさん」

 

 

 話を振られて俺は思考する。

 中世の調査に向かうこと自体は全然構わないんだが、俺としては暗黒石を手に入れた今、先に回収できる装備を揃えておきたい。虹とか虹のメガネとか……ああ、そのとき一緒に俺たちが確保した虹色の貝殻で防具を作ってもらうのもいいだろう。

 となると、俺がついて行った方が後々効率がいいか? 竜の里は残り二組ローテーションで動けば一組は休めるし、暗黒石を太陽石に戻したあとはまた3組で行動できる……これで行ってみるか。

 

 

「先に暗黒石を太陽石に戻したい。俺が案内を買って出たいんだが、この作業にはシルバードが必須になってくる。そうするとゲートホルダーの都合上、活動できる組が一つになってしまうわけだが、残った二組はローテーションで原始の竜の里の依頼を受けて欲しい」

 

「ローテーションにする理由は何だ?」

 

「交代で回れば一組は休めるだろ? 太陽石にさえ戻せればシルバードはフリーになるから、それ以上俺が乗る理由もない」

 

「ミコトさんがシルバードに乗るのはこの一回だけってことですね」

 

「そういうことだ。それで組み合わせだが、まず俺と同行してもらうのがクロノとルッカ。サラと魔王、ロボは休んでもらって残りはエイラを案内役として竜の里へ――――」

 

「ミコトさん」

 

「ん? どうした、サラ」

 

 

 発表中に突然呼ばれたかと思うと、サラが寂しそうな目でこちらを見ていた。

 

 

「私を置いて、行くのですか?」

 

 

ズギュゥゥゥゥゥン!

 

 そんな彼女の仕草が、俺のハートにクリティカルヒットした。

 胸を抑え込み、バクバクと脈動する心臓を必死に抑え込もうとする。

 なんだ、なんだこの罪悪感と寂しそうな表情の破壊力は!? あまりの威力に心の中で即死しかけたぞ!?

 ヤバい! この状態で何かお願いとかされたら俺はもう――!

 

 

「お願いです、私も連れてってください」

 

「同行者はサラとルッカだ。クロノは休んでくれ」

 

 

 即答するしかないじゃないか。

 あまりの手の平返しに一瞬呆然とした魔王が、その言葉を理解した瞬間抗議の声を上げる。

 

 

「――き、貴様! そんなあっさりと姉上に同行を認めていいのか!? 休ませるために残ってもらおうとしたのではないのか!?」

 

「うるせぇ! 俺だって連れていきたいの我慢して休ませたかったけどな、彼女にこんな顔でお願いされたら断れるわけねーだろ!」

 

「おお、開き直った」

 

「黙れ両生類! 姉上! あなたも少しは自分を労わって――「ジャキ?」――……ミコト、くれぐれも姉上に無理をさせるなよ?」

 

 

 サラの一言と邪魔をするなと言いたそうな視線に屈した魔王が納得いかない様子で俺に釘をさす。

 うん、言いたいことはなんとなくわかるが、従った時点でお前の負けだ。

 こうしてシルバードの操縦をルッカに頼み、俺たちは太陽石を手に入れるべく原始へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「――それなりに時間がかかったはずなのに、もう終わった感じがするのはなんでだろうな」

 

 

 きっと世界の意思か何かでまたキングクリムゾンが発動したのだろう。まあ特に大きな問題もなかったからいいけど。

 ただ中世で買って保管していたと思ったハイパーほしにくがなかったことに若干焦った。

 今にして思えば、初めてチョラスからパレポリに戻るとき何らかの理由で食べ損ねていた気がする。

 結局、原作通り現代のまきがい亭でハイパーほしにくを購入し事無きを得たからよしとしよう。

 さて、現在俺たちはと言うとルッカの家で暗黒石から元のエネルギー溢れる状態に戻った太陽石を使って武器を作ろうとするルッカの姿を見学していた。

 

 

「太陽石のエネルギーを扱いやすいパワーに制御して…………真空カートリッジにパッケージング……」

 

 

 何やら聞いたことのあるセリフを呟きながら俺たちにはよくわからない装置をいじくりまわすルッカ。

 すると突然、装置から光の柱がエネルギーと共に漏れ出した。あまりにも異様な光景に思わずサラを後ろにし固唾をのんで見守るが、やがて光が収まるとルッカは満面の笑みで装置から一つの銃を取り出した。

 

 

「完成したわ! これぞ太陽石の高エネルギーによって誕生した『ミラクルショット』よ!」

 

 

 高々と宣言しクルクルと回りながらポージングを取ると、最後にビシッと決めて心底幸せそうな顔になる。

 

 

「ん~~~~、シビれるぅ……」

 

「……楽しそうでなによりだ」

 

 

 しかし良く自分にとって未知のエネルギーであるはずの太陽石を扱えるな。原作やってる間は流石と思っていたが、実際に目の当たりにするとルッカは本当にチートスペックをもらってこの世界に来た転生者じゃないのかと思いたくなる。

 などと思っているといつの間にかタバンがやってきて、太陽石を元に何やら装置を動かしていた。

 

 

「見ろルッカ! わしも負けずに太陽石を拝借して作ったぞ!」

 

 

 そう言って高々と太陽のメガネと思しき物を掲げるタバン。うん、原作と同じなんだからこれ以上考えるのはよそう。

 

 

「お二人ともすごいですね……。ジールと比べて劣る環境であれほど的確に太陽石を制御させられるなんて……」

 

「リコッタと会せたらどうなるか見てみたい気もするが、とんでもないことを成し遂げそうな気がしてならないな」

 

 

 あの子もチート転生者と言われてもおかしくないほどの才女だからな。そこへルッカを掛け合わせたら一体どんなトンデモメカを作り出すのだろう……。

 ともかく、これで太陽石のイベントはボッシュに加工してもらうのを残すのみだ。

 一先ず時の最果てに戻って切り取った虹色の貝殻を回収して、それからガルディア城にいるボッシュのところへ持っていくか。

 そう予定を立てて一度シルバードで時の最果てへと戻り、ちょうど残っていたクロノ、マール、カエルの三人に同行と運搬の協力を頼む。

 ちなみにクロノは竜の里に行っていると思っていたが、なんでもあれからいくつかの依頼をこなし、その間メンバーを組みかえていたら今の状態に落ち着いたとのことだ。

 まず俺とクロノとカエルでグループを組み、虹色の貝殻をリーネ広場の外まで運ぶ。無論、そのまま持ち出したらあまりに目立つため布をかぶせてルッカの発明品を運んでいるという事にする。

 外に運び出したらシルバードで待機していたルッカ、マール、サラとメンバーを入れ替え虹色の貝殻をそのままシルバードに括りつけて城の前まで運ぶ。

 貝殻だけでも相当な重さがあるので、重量オーバーを考慮してクロノとマールに城の方へ先行してもらう。残ったメンバーは徒歩で移動。

 それだけの行程を経てようやくガルディア城にたどり着き、俺たちは男のメンバーで貝殻を担いでボッシュのいる宝物庫へ足を向かう。

 道中に恐竜人の依頼で黄金のハンマーと虹の原石というものを手に入れたと報告を聞いていると、やがて大きな扉の前に来た。

 マールが押し開いた先に、以前見たときと変わらぬ姿のボッシュがそこにいた。

 

 

「ボッシュ! ちょっとお願いがあるんだけど!」

 

「ん? おお、マールのお嬢ちゃんか。なんだか大人数じゃっ!?」

 

 

 突然、ボッシュは言葉を切って信じられないものを見たとばかりにわなわなと震えだした。

 その視線の先にいたのは――彼からすれば――海底神殿以降行方不明となっていたサラだった。

 

 

「息災でなによりです、ボッシュ」

 

「さ、サラ……。お、お主、生きとったのか……」

 

「はい。ミコトさんのおかげで、うまく海底神殿から抜け出せました」

 

「そ、そうか……。本当に……うっ、良かった……」

 

 

 涙声でサラの手を取り、感触を確かめるように何度も握る。

 サラの無事を喜ぶボッシュを一同が見守っていたその時、

 

 

「――ムッ!? グランドリオンが!?」

 

 

 今度はカエルが携えていたグランドリオンが輝きだし、剣に宿っていたグランとリオンが姿を現す。

 

 

「あー、やっと姿を出せたね。兄ちゃん」

 

「ああ。最初の時はタイミングが悪かったからな」

 

「グラン! リオン! あなたたちも無事だったのですね!」

 

 

 唐突に現れた二人の顔なじみにサラは驚きながら声をかける。

 二人は本来、俺と一緒に最果てに現れたときに実体化して喜びを分かち合おうとしたのだが、先にサラが魔王と抱きしめ合い、続いて俺の身の上話が入ったため出るタイミングを見失っていたそうだ。

 もしこの場がなかったらこいつらはいつ姿を見せたんだろうか……。

 そんなことを考えているとグランとリオンがこちらに歩み寄り、満足そうな笑みを湛えていた。

 

 

「約束を守ってくれたね、シド」

 

「守れなかった罰として報復を受けるのが怖かったからな」

 

「そういうことにしておくよ。これからも頼むよ」

 

 

 それだけ言い残し、二人は再びグランドリオンとなってカエルの手に収まる。

 言われずとも、と心の中で返しておき、俺は貝殻の布を取り払い太陽石を取り出しながらここに来た本来の目的をボッシュに伝える。

 

 

「ボッシュ。あなたの腕を見込んで頼みがあります」

 

「皆まで言わんでいい。持ち込んだそれらを見たらわかるわい。――で、お主はその持ち込んだ貝殻で何を作って欲しいんじゃ?」

 

「話が早くて助かります。これだけの素材で、状態異常を無効化にする防具かアクセサリーを作ってください。ただし、太陽石は先にそっちの大きい貝殻と掛け合わせてください」

 

「ふむ。これだけの素材でか……。ならば先に太陽石を使わせてもらうぞい」

 

 

 キンキンキン! ガガガガガガガガガッ! プシューッ……。

 俺から太陽石を受け取ったボッシュは目にもとまらぬ速さで巨大な虹色の貝殻を加工し、太陽石と掛け合わせて二つのアイテムを生み出す。

 

 

「出来たぞい! 攻撃力を超強化する『虹のメガネ』と、ワシが作った中でも最強クラスの武器『虹』じゃ! クロノ、持っていくとええ」

 

「サンキュー、ボッシュ!」

 

 

 嬉々としてクロノが『虹』と『虹のメガネ』を受け取ると、ボッシュは俺が持ってきた素材の状態と大きさを確認し、何度か頷いて顔を上げる。

 

 

「それでミコトや。これならば今お前さんが装備しているプラチナベストより強力な『プリズムベスト』と、魔法の威力の底上げと状態異常を無効化にする『虹のリング』が二つ作れるぞい」

 

「十分すぎます。それでお願いします」

 

「まかされた。ならば早速……」

 

 

 キンキンキン! ガガガガガガガガガッ! プシューッ……。

 さっきと同じような勢いで見る見るうちに虹色の貝殻を加工して行くボッシュ。最後に残ったのは一着のベストと二つの指輪だった。

 

 

「出来たぞい! 特にこのリングは自信作じゃ! さあ、持っていけ!」

 

「ありがとうございます。 まずはサラ、この指輪を持っていてくれ。効果はさっきボッシュが説明してくれた通りだ」

 

「わかりました」

 

 

 ベストと指輪を受け取り、まず指輪の一つをサラに渡す。

 俺は今装備しているプラチナベストを脱いて倉庫にしまい、受け取ったベストを身につける。ステータスで確認してみればプラチナベストの時より防御力が10も高く、魔法のダメージを軽減するオートバリアが付与されていた。

 残った指輪は……俺が装備するか。状態異常の耐性も欲しいし。

 そう考えて指にはめようとしたところで、ふと気付く。

 ――これは、サラとペアルックになるのか?

 見ればサラは嬉しそうに左の薬指にぴったりのリングをはめており、マールやルッカが羨ましそうにそれを眺めていた。

 ……薬指に、ぴったり?

 

 

「まさか……」

 

 

 ゆっくりと虹のリングを自分の左の薬指にはめると、見事にぴったりと収まった。

 ……ボッシュの爺さん、もしかしてここまで見越してリングを二つ用意したのか? そんなことを思うと、親指を立てたボッシュが脳裏をかすめた。

 だが、このままつけて行けば魔王に見つかった時が恐ろしすぎる……。一先ず指輪を倉庫にしまい、必要な時に装備するとしよう。

 しかしそんな浅知恵も数分後にはサラとマールたちの視線によって屈することになるなど、この時俺は知る由もなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話「竜の里を防衛せよ!」

 現代のガルディア城にてボッシュから様々なアイテムを受け取った俺たちは、一先ず時の最果てへ帰還することにした。

 クロノ、マール、ルッカがシルバードで先に戻り、俺とサラとカエルはリーネ広場のゲートから戻るという編成だ。

 ちなみに俺の右の薬指にはボッシュからもらった虹のリングがはめられている。と言うのも、あのまま倉庫に保管して終わらせようと思ったがマールやルッカからの空気を読めよ的なオーラを当てられたのがきっかけだ。

 結局指輪をつける羽目になったのだが、流石に左の薬指にはめるのは恥ずかしい&命の危険があるので『特別な時までとっておきたい』という理由で見逃してもらった。サラもそれに同意し、俺と御揃いにするため同じく右の薬指にリングをはめている。

 そんな話を経て最果てに戻ってみると、ちょうど全員が揃った状況だった。

 

 

「お疲れさん。ロボ、状況を教えてくれ」

 

「ハイ。中世で手に入れた導きの宝珠について話を集めたところ、この宝珠には暗闇を照らす力があるそうデス。また、それを教えてくれた原始の恐竜人から湿原の西の洞窟を調査して欲しいとの依頼を受けマシタ」

 

 

 そういえばあの湿原って最初に軽く覗いただけで奥に進んだことなかったな。それにしても洞窟の調査か。俺が知る限りのマルチイベントは緑の夢を残すだけだし、別にそれは後回しにしても問題はない。

 

 

「ちょうど他に回るところもないから、いっそ全員で調査に行くか? 残っても暇だし」

 

「エイラ、賛成。なにもしない、退屈」

 

「問題はないだろう。これだけいれば不測の事態にはある程度対応できるはずだ」

 

 

 エイラとカエルが賛成し、そのあとも特に反対意見が出なかったのでこのまま全員で原始へと向かうことに。

 移動についてはシルバードでは定員に限度があるので、ゲートを使ったメンバーはプテランを使う組と久しぶりに輝力武装で作り出したベースジャバーを使う組に分かれ移動する。

 初めて見せる別世界の力にサラを除く全員が興味を示し、機会があればラヴォスを倒す前にフロニャルドへ遊びに行くのもありだと思いながら目的地へと到着。燃費優先の飛行をしたとはいえ長距離移動だったためか、途中でミドルエーテルの摂取が必要になったが。

 しかしフロニャルド以外だとベースジャバーはミドルエーテルという燃料でMPというエンジンを動かす航空機だな。

 それはさておき、今までにない大人数で来たことにより例の関西弁を喋る恐竜人が特に驚いていたが、全員の実力を知っているためより安心できると喜んでいた。

 湿原へと移動し、途中でサンダガを使ってくるカエルに驚きはしたがそれ以降は特に問題なく先へ進めた。そして件の洞窟を突き進み、ついに視界ゼロの暗闇の空間に出る。

 

 

「なにも見えないと聞いてはいたが、まさかここまでとはな」

 

「クロノ、導きの宝珠を」

 

「ああ」

 

 

 ルッカに促されてクロノが導きの宝珠を取り出すと、宝珠は閃光を放つと洞窟全体に明かりをつけて消滅した。

 

 

「見たところ普通の洞窟と変わりマセンネ」

 

「先はまだありそうね。奥へ行ってみましょう」

 

 

 ルッカに促され奥へと続く通路を進んでいく。しばらく通路が続いたかと思うと急に視界が開け、俺たちは言葉を失った。

 ごつごつとした岩肌ばかりの道から一転、突然ティラン城のような回廊が姿を現したのだ。

 

 

「すっごーい! 洞窟の奥にこんな場所があるなんて!」

 

「流石にこれは予想外ですね。それにまだ続いているみたいですし」

 

 

 マールとサラが感嘆の声を上げるが、それは俺も同意見だった。どうやらここはエントランス的な場所のようで、奥には入口らしきものが見えていた。

 しかし、一体誰が何のためにこんな場所を作ったんだろうな。ティラン城と同じくこの時代よりもっと前に何らかの事情で洞窟に沈んだとかか?

 

 

「――ムッ!? 何か来るぞ!」

 

 

 突然魔王からそんな言葉が上がり、俺たちは咄嗟に奥の道から見えない柱の陰に身をひそめる。

 すると奥からずるずるとはいずり回るような音と、低い声の会話が聞こえてきた。

 

 

「コノ近クニ、人間ドモガ住ンデイルラシイゾ……」

 

「ヒサビサノ獲物ダ。八ツ裂キ二シテヤル!」

 

 

 現れたのは緑色の鱗をした双頭の大きな蛇だった。ドット絵で言うならおそらく序盤の敵バイターの敵の色違いと言うべきか。

 しかしその会話から聞こえた内容はちょっと無視できないものだ。

 人間、獲物、八つ裂き。恐竜人は俺たちのことをサルと言っていたので、ここで言う人間とはおそらく恐竜人たちのことだろう。

 そしてその恐竜人たちが獲物となり、奴らが八つ裂きにすると。これは恐竜人たちがこいつらの餌になっていたととらえられる。だとすればこれは見過ごすわけにはいかないな。

 

 

「ボスノ指示ヲ待トウ。人間ドモハ皆殺シダ」

 

 

 新しい単語を拾い俺たちは顔を見合わせる。

 ボスがいると言うことは、そいつを倒せばこいつらは立て直せなくなるということだ。同じことを思ったのか、全員が何か思いついたような表情をしていた。

 

 

「どうする? こいつらほっとく、良くない」

 

「同感だ。むしろ油断している今なら攻めた方が早いだろう」

 

 

 カエルの言葉に全員が同調し、それならと一度敵を覗き込む。数はざっと20ほど。しかし奥からはまだ出てくる気配があった。おいおい、一体この先どれだけ敵がいるんだよ……。巨人のツメも相当だったが、下手をすればそれ以上か?

 

 

「魔法を使える人は姿を見せると同時にガ系の魔法をお見舞いしよう。どうせここから抜け出すにしても姿は見られるし、追いかけられるくらいなら薙ぎ払った方がまだマシだ」

 

「ム……ソコニイルノハ誰ダ!?」

 

 

 こちらの会話が漏れたのか、敵の一体がこちらに向かって叫ぶ。俺たちはクロノの提案した通りに飛び出し、一斉に魔法を唱える。

 

 

「ナ!? サルダト――!?」

 

『『サンダガ!』』『『アイスガ!』』『『ファイガ!』』『ウォータガ!』

 

 

ズガドドドドドドゴォォォォンッ!!

 

 

「「「グアアアアアアアアッ!?」」」

 

 

 敵は驚く暇もなく圧倒的な魔法の津波に飲み込まれ、20を超えていたはずの敵影は一瞬のうちに消し炭となった。

 えげつねぇ……。叩き込んだ俺たちが言うのもなんだが、これはえげつねぇ……。

 

 

「フン、脆いな」

 

「いやいや、あんなの受けたらだいたい死ぬからな」

 

 

 上級魔法の7重奏。

 今回はガ系の魔法だけだったが、『ダークマター』とか『シャイニング』とか『フレア』とか『コキュートス』が混ざったら一体どうなっていたことか……。

 

 

「それで、どうしマショウ。このまま竜の里に知らせに行きマスカ?」

 

「いや、ここは攻めるべきだ。どうせ今のどでかい魔法でやらかしたのはバレているんだ。だったらこのまま突っ込んで、連中のボスとやらを叩きつぶす」

 

「攻撃は最大の防御、と言うことか。だが竜の里に知らせることも必要だし、いざという時の防衛も必要になるぞ」

 

「なら攻略するグループと、里へ向かう伝令と守備に回るグループに分けたらどうかな? それなら両方達成できるし、みんながいるなら絶対いけるよ」

 

 

 この作戦に全員が同意し戦力のバランスを調整した結果、グループが次のように分けられた。

 

 洞窟の城攻略チーム

 前衛 クロノ、カエル

 中衛 尊(俺)、魔王

 後衛 マール、サラ

 

 竜の里防衛チーム

 エイラ、ロボ、ルッカ

 

 攻略チームはさっき挙げられたようにこのまま突入して連中のボスとやらを撃破。防衛チームは里へ戻って現在進行形で魔物に狙われていることを知らせ、そのまま万が一に備えて里に待機。

 さっきの雑兵と思われる奴だけでも結構な数がいたが、このでの攻略なら面子ならまあ問題はないだろう。守備に関しても大丈夫なはずだ。

 装備を交換し合いさらにバランスを調整し、準備が整う。

 

 

「よし! じゃあ早速行動を開始だ! みんな、竜の里を守るぞ!」

 

 

 クロノの号令を合図に、俺たちは一斉に動き出した。

 さあ、俺が知らないこのダンジョンで何が出ることやら。

 

 

 

 

 

 

 城に突入して早一時間。尊たちは次々と沸いてくる敵を撃破し、着々と奥へと進んでいた。

 攻略の要領は尊とサラが巨人のツメで実施した戦法と似たようなもので、主に中衛と後衛が全体魔法で薙ぎ払い、仕留め損ねた敵を前衛が始末するという流れだ。

 おまけに魔物は魔法に対して防御力が低く、虹のリングを装備した尊とサラの攻撃が特に大きな戦果をあげていた。

 故に魔物に苦戦することは皆無であったのだが、それ以上に厄介なのがこの城の構造だった。あちこちが入り組んでおり、進んだ先がいつの間にか通ったことのある場所に出るなどもざらにあった。

 ただでさえ気が滅入る展開だと言うのに、そこへさらに攻撃を仕掛けてくる魔物の大群がまた一段と邪魔であった。

 

 

「おーい、これで何体目だ? 『アイスガ』」

 

「さあな。間違いなく500は消し飛ばしたが、それ以上は知らん。『ダークミスト』」

 

 

 最早作業ゲーのように魔法を唱え続ける尊の問いかけに、魔王もまためんどくさそうに応えながら魔法を唱える。

 尊としてはサンダガを叩き込みたい心境なのだが、金色の恐竜――ゴールドサウルスは天属性の攻撃を吸収してしまうようで仕方なくアイスガを多用していた。

 それでも一撃で倒れてくれるのはありがたいのだが、数が多いというのも考え物だった。

 

 ――金とレベルはインフレを起こしてるんだが、面倒なのに代わりはないな。かといって輝力の訓練をしようにも撃破できないんじゃMPの無駄だし……もうちょっと骨のあるやつはいないのか?

 

 この世界で輝力砲はモンスターを撃破することはできず、相手の意識を刈り取る程度の力しかない。その割にMPの消費量はガ系の魔法以上なので、この世界に戻ってからというもの紋章術は輝力武装しか使っていない。

 のんびりとした思考でまた『アイスガ』を放ち、とりあえず今襲ってきた敵を全滅させる。

 ここで何本目かわからないミドルエーテルを摂取し、MPを回復させる。

 他のメンバーも各々でアイテムや魔法で回復を図っており、それを眺めながら尊はここまでの城の情報を思い返す。

 最初こそ洞窟から入ったので気付かなかったが、この城はティラン城の様な岩山の上に立っており、外にはこうもりの魔物ブラックバットやティラングライダの亜種とも取れるプテラニクスが飛び回っていた。

 こちらに関しては尊考案の『サンダガ』を使用した連携魔法『エレクトリッガー』(クロノを含めた4人バージョン)で一掃したためもういない。ちなみにこの時、落下しながら消滅していく魔物を見て尊が「見ろ! 魔物がゴミの様だ!」と某大佐のモノマネをしたが、当然ながらこのネタをわかる人がいるはずもなく、しばらくして恥ずかしい思いをすることとなった。

 また、外に設置されていた宝箱の中に尊も知らない装備の『竜姫の衣』が入っており、それをメンバー内で防御力が一番低いサラが装備することとなった。着替えシーン? シスコン系大魔王様の逆鱗に触れるためカットです。

 閑話休題。

 尊の体感に間違いがなければ、現在ここは8階の通路。先ほどのホールにはもう一つ上へ続く階段があったが、その先は外へ通じるものの行き止まりだった。

 複雑な回廊だった下層から一転して一本道となった以上、道に間違いはない。しかも先ほどの外から確認してみればこれ以上の上はなく、確認できる限りではこの8階が最深部となるだろう。

 

 ――それにさっきの連中を始末してからかなり静かになった……となると、次の部屋辺りが怪しいか。

 

 構造と魔物の気配がなくなってきたことから推測して次の部屋がボスとやらの部屋出る可能性は十分にある。ならば一度万全の状態に戻すべきだと判断し、尊はアイテムを取り出しながら通達する。

 

 

「そろそろ連中のボスの部屋に着くかもしれない。一度体力とMPを全快にしておこう」

 

「その根拠は何処から来る?」

 

「外から見た様子からして上に続く道はおそらくもうない。しかし道はこの8階にしかなかったことと、魔物の気配が少なくなってきたことから終わりが近いと判断した」

 

「じゃあ、あと少しってことですね」

 

 

 ハイエーテルを飲み干したマールの言葉に「あくまで推測だがな」と加えて返事をする。

 それに賛成し各自でアイテムを摂取し、万全の状態を整える。尊もまた、今の自分が用意できる装備が最高の状態であることを確認する。

 クロノたちの装備も現状で用意できる最強の武器であることを眺めていて、ふと気付く。

 

 

「そういえば、サラって何か武器は使えるのか? フロニャルドじゃ輝力武装でボウガンを作っていたけど」

 

 

 尊は変幻自在の神様武装。クロノは刀。マールは弓。カエルは剣。魔王は鎌。ここにいないロボはアームパーツ。ルッカは銃。エイラは身体能力の高さもあり拳を使用しているが、サラにはゲームで言うところの「たたかう」コマンドに相当する武器がない。

 

 

「一応ロッドの類は扱えますが、愛用していたものがジールと共に沈んでしまったので……」

 

 

 説明を聞いて納得する。同時に、尊はボッシュに会った時に彼女の武器を作ってもらえばよかったと後悔もした。

 

 

「今更、悔やんでも仕方ないか……。 さて、行こうか」

 

 

 出しすぎたアイテムを収納し、一本道の通路を突き進む。

 そして現れた扉をくぐると、巨大な二つの玉座がある大きな空間に出た。

 いかにもな部屋だなと内心で思っているところへ、人ならざる低い声が響く。

 

 

「我々ノ邪魔ヲスルノハ貴様ラカ……」

 

 

 声に反応して全員が臨戦態勢を取ると、部屋の上から赤と青の巨体がドスンと降り立つ。

 見た目は尊が知っている黒の夢に出てくる魔物デイブに酷似しているが、威圧感はここまで倒してきた敵の比ではなかった。

 

 

「お前らがこの城のボスか?」

 

「フン、ダトスレバドウスルノダ? サルドモヨ」

 

「残念ながら生かしておくと恐竜人たちがひどい目に遭いそうなんでな。ここで消えてくれないか?」

 

「ガハハハハ! サルゴトキガ我ラディノファング兄弟ヲ倒スダト!? クダラン! 人間ドモヨリ先ニ八ツ裂キニシテクレル! ユクゾ、弟ヨ!」

 

「了解ダ、兄者!」

 

 

 ディノファング兄弟と名乗った赤いディノファングと、弟と呼ばれた青いディノファングは同時に飛び上がるとそれぞれ『フレア』と『ウォータガ』を放つ。

 全員が魔法に対して高い防御力を発揮する装備をしていたことが幸いしそれほどダメージを受けることはなく、尊は今の攻撃でディノファングたちの弱点についておおよその見当をつける。

 

 

「体の色に違わず兄は炎を、弟は水をか。おそらく同系統の魔法は吸収してしまうだろうが、逆の属性なら弱点となる可能性が非常に高い」

 

「だがそれでは埒が明かんな。ならば……『ダークマター』!」

 

 

 魔王が詠唱を簡略化した自身の最強魔法を放つ。水でも火でもない冥の魔法は確実にダメージを与え、怯んだところへクロノとカエルが一斉に切りかかる。

 尊もディノファングたちが高く飛ばないよう、翼を狙ってサテライトエッジのボウモードで攻撃する。それに習いマールも手にしたワルキューレで翼を狙い、サラは前衛の二人を補助すべく『ヘイスト』や『プロテクト』を唱えた。

 

 

「小癪ナ! 弟ヨ!」

 

「応! 因果応報ダ!」

 

 

 ディノファングたちが尊たちを挟むように移動すると、彼らを驚愕させる魔法を唱える。

 

 

『『ダークマター!!』』

 

 

ゴォォォォォォオオオ!!!!

 

 

「なっ!? くぅ!?」

 

 

 ディノファングたちが放ったのは、先ほど魔王が放ったのと同じ冥属性の最強魔法。

 あまりにも予想外の一撃ではあったが、やはり装備のおかげでそこまで致命的な一撃とはならずに済んだ。

 

 

「ちぃ! 雑魚の分際でダークマターを使用してくるとは!」

 

「サンダガを使ってくるカエルがいるんだ! おかしくはない! それより連携、行くぞ!」

 

 

 すぐに体勢を立て直し、クロノを除いた三人で『エレクトリッガー』をお見舞いする。通常の『サンダガ』より数段強力な電撃を一身に受け、ディノファングたちの表情が苦悶に変わる。

 

 

「グゥゥ! サルニシテハヤルナ!」

 

「ナラバモウ一度――」

 

「させん!」

 

「やらせるか!」

 

 

 ヘイストの恩恵で早さが倍加したカエルとクロノが弟に向けてエックス切りを放ち、続けて兄にもエックス切りを見舞う。

 ひるんだ隙を逃さず魔王が再度『ダークマター』を放ち、尊はおそらく最もダメージを受けているであろう弟に向けて精神コマンド『勇気』を付与してブラスターを構える。

 

 

「吹っ飛べ!」

 

 

 放たれた光の一撃は通常の三倍の威力となって弟を飲み込み、一瞬にして再起不能なほどにバラバラにする。

 敵が減ったことで沸くクロノたち。しかし弟をやられたというのに、残った兄のほうは不敵な笑みを浮かべていた。

 その様子が普通ではないと察し、警戒しながら尊は尋ねる。

 

 

「……どうした? 弟がやられたのにずいぶんと余裕だな?」

 

「ハッ! 我ガ弟ヲ倒シタ。ソレハ認メテヤロウ……シカシ、所詮ソコマデダ!」

 

 

 兄は高らかにそう宣言すると、腕に魔力を集中させて頭上に掲げる。

 

 

「――兄弟奥義、表裏一体!!」

 

 

 腕から射出された魔力が倒した弟の残骸に飛び込み、残っていた弟の一部を取り込み始める。

 その光景を見て、尊はあることに気付いた。

 今まで倒してきた魔物は、例外なく霧となって消滅してきた。

 しかし、弟は間違いなく倒したはずなのに体の一部が残っていた。そこへ兄から放たれた魔力の塊が飛び込み、それらを吸収。

 そこまで認識したことで、唐突にある可能性が閃いた。

 

 

「ま、まさか――――!」

 

 

 その言葉が続くよりも早く、魔力の塊が弾け倒したはずの弟が無傷のまま現れた。

 

 

「「サア、仕切リ直シトイコウカ!!」」

 

 

 戦いは、まだ終わりそうにもなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話「防衛成功! そして古代へ」

 ――まさか復活させる術があるとは……そりゃ余裕もあるわけだ。

 不敵な笑みを浮かべるディノファングたちを睨みながら俺は心の中で悪態をつく。これはきっと兄弟を同時に倒さない限り、どちらかが延々と復活させることができるとみていいだろう。

 だがそれだけで済むなら全然楽だ。なんせこっちは単体にも全体にも多大なダメージを与える手段がいくらでもある。

 とりあえず同時に倒さないと復活し続けると言うのを前提に戦うとして、まずダメージ調整で復活したばかりの弟をたたかせてもらおうか。

 

 

「赤いのより復活したばかりの青いやつを叩け! いま赤いのを倒せばまた復活していたちごっこになりかねない!」

 

「了解だ! クロノ!」

 

「ああ!」

 

 

 こちらの狙いを汲んだカエルとクロノが弟に向かってエックス切りを放つ。二人が駆け抜けたところへ今度は魔王がダークボムを放ち、そこへ俺がサテライトエッジをボウモードに変形させて追撃を仕掛ける。

 精神コマンドを使わなかったのは、もし倒してしまったらのことを考えてだ。

 

 

「グウウッ! サ、サルノクセニコノ短時間デ我ラノ弱点ヲ見抜イタトイウノカ!?」

 

「サガレ弟ヨ! 体制ヲ整エルノダ!」

 

 

 復活したばかりなのにゴリゴリと体力が削られ、弱点も見抜かれたことでさすがに危機感を抱いたのかディノファングたちは一度距離を取って同時に魔力を込め始める。

 

 

「『ボルケーノ』!」「『ブリザード』!」

 

 

 兄弟から炎と氷の嵐が放たれる。同時に発生したそれは二重三重と絡み合い、爆発的に勢いをつけて俺たちを襲う。

 

 

『『ダークマター!!』』

 

 

 そして戦い始めたときと同じように二人揃ってダークマターを放ってくる。

 確かに先ほどの一撃やこのダークマターは強力な一撃ではあるだろう。だが今の俺たちは防具の効果や元々のスペックのおかげで、魔法に対して異様に耐性が備わっている。

 つまり、何が言いたいかというと――――。

 

 

「ヌルい! ヌル過ぎる! 前に魔王(こいつ)からもらったダークマターのほうが十倍は強いぞ!!」

 

 

 ボウモードで攻撃しながら魔王を指差す。事実、あのときと比べて俺は反則的な速さで強くなっているが、それを差し引いてもこいつのダークマターが圧倒的に強いのは時の最果てで身をもって体感している。

 なので奴らの魔力が弱いのか俺たちが強すぎるのかは知らないが、ピンチになるほどのダメージを受けないのだ。今ならレオ閣下の『獅子王炎陣大爆破』も耐えれる気がする。

 しかも後方では万が一に備え、サラとマールが連携技のダブルケアルガを使用しているため、受けたダメージもほぼ瞬時に回復しているから負ける要素がこれでもかというほど見当たらない。

 

 

「バ、バカナ! サルノ分際デ我ラ兄弟ヲ上回ルトイウノカ!?」

 

「ウロタエルナ弟ヨ! サルナドニ我ラガ負ケルナドアリエン!」

 

 

 思うように攻撃が通用していない事実、そして一瞬にしてダメージが全快するほどの回復魔法を目の当たりにし、ついに弟が狼狽し始める。兄の方も言ってることは強気だが、攻撃が思うように通じていないのを気にしているようで声の方は少し震えていた。

 こうなると警戒していたこちらがバカらしく思えてきたが、初めて相対したことによることから警戒した、ということにしておこう。

 そして梃子摺るような敵ではないとわかった以上、最早ダラダラ戦う理由もない。

 

 

「サラ! クロノ! 魔王!」

 

 

 呼びかけながら『勇気』を付与し、右手に電撃を纏わせて掲げる。

 こちらの意図を察してくれた三人は自分たちの安全圏内に退避すると、同じように右手に電撃を宿す。

 さあ、(いかづち)の激流を受けるがいい!

 

 

『『『『サンダガ!!』』』』

 

 

 『勇気』の補正がついた分いつもより割り増しのダメージを誇る『エレクトリッガー』が炸裂する。ディノファングたちの声が轟音にかき消され、二体は読み通り同時にやられると他の魔物たち同様、霧のように消滅した。

 

 

「復活したのはびっくりしたけど、あっさり終わっちゃったね」

 

「こちらが規格外すぎるというのもありそうだが、ともあれ目的は達成されたな」

 

 

 マールやカエルの言う通り、結果的に見れば復活に驚いただけで後はなんともあっさりとした内容だった。

 兄は既にボロボロだったし、弟は復活したと思いきや集中砲火を喰らい反撃も虚しく最後は火力割り増しの『エレクトリッガー』をモロだからな。

 しかも『勇気』の中にガード無視の『直撃』が含まれているので防御も利かない。うむ、完璧に詰みだな。

 

 

「では、恐竜人の方たちへ報告しに戻りましょうか」

 

 

 サラの一言に同意し、俺たちは竜の里へと帰還した。

 

 

 

 

 

 竜の里に戻るなり尊たちがまず確認したのは、敵の別働隊が里へ襲撃してきたかどうかだった。

 こちらはいくつかの群れが襲ってきたものの、エイラとロボの打撃力とルッカの火力、そして里の人たちのサポートで特に苦戦することなく防衛に成功していた。

 尊たちも自分たちが敵のほとんどと親玉を倒したことで、もう襲ってくる魔物はいないだろうと報告。これを受け里の住人が歓喜の声をあげ、関西弁の恐竜人が代表して前に出る。

 

 

「よう、ようやってくれた! お前らのおかげでおびえながら暮らす毎日が、外で笑って過ごせる平和な毎日に変わったんや! どれだけ感謝しても足りへん。この里に代々お前らの伝説を伝えさせてもらうわ!」

 

「で、伝説って、そんな大げさな」

 

「謙遜することはあらへん! お前らはそれだけのことをしてくれたんやからな!」

 

 

 伝説扱いというに苦笑いを浮かべるクロノたちだが、里の住人たちはしきりに伝説コールを上げている。

 そんな中、関西弁の恐竜人は近くの恐竜人から小さな箱を受け取ると、それをクロノに差し出す。

 

 

「で、これは今のワイらに出来る最高のお礼や。この里に伝わる最古の秘宝、『ブレイブソウル』を里の救世主であるお前らに受け取って欲しい」

 

「良いのデスカ? そのような大切なものをいただいテモ」

 

「かまへんかまへん! お前らがおらんかったらこれもなかったかも知れんのやからな!」

 

「……わかった。ありがたく受け取らせてもらうよ」

 

 

 クロノがそれを受け取り蓋を開けると、中から見事な意匠が施されたサークレットが出てきた。

 

 

「それには偉大な勇者の魂が込められてるって言い伝えがあってな、その勇者は拳一つで敵をなぎ倒し、道を切り開いてきたって話や」

 

「拳一つで、か。だったらこれは、エイラが持っていた方がサマになるな」

 

「エイラ持つ、いいのか?」

 

「私たちの中で拳と言ったらあなただからいいのよ。だから――はい、遠慮しないでもらっときなさい」

 

 

 ルッカがブレイブソウルをエイラの頭に載せ、ポンッと肩をたたく。エイラは頭に載せられたそれに触れ、ニカッと笑みを浮かべた。

 

 

「よっしゃあ! 今日は宴や! 救世主と新たな伝説を讃えて宴を開くで!!」

 

 

 その言葉で里中が祭り一色となり、尊たちは主賓として最高の待遇を受けながら大いに騒いだ。

 

 

 

 

 

 

「……んが?」

 

 

 割り当てられた部屋で目を覚ました尊がまず感じたのは、どこかで経験したことのある頭部の感触だった。

 

 

「起きましたか? ミコトさん」

 

「サラ……? えーっと、これは……」

 

 頭にやわらかい感触を受けながら目を開くと、彼の視界にサラの微笑が映った。

 膝枕をされていると気付き体を起こそうとするが、体がだるく思うように動かない。

 

 

「まだ寝てていいですよ。クロノと飲み比べをしていて、ずいぶん酔っていましたし」

 

「あー、どれくらいこうなってる?」

 

「30分ほどですよ。私が起きて見つけたときは、お酒のビンを枕にしてましたので」

 

 

 その返事に「そうか」と答えつつ、とりあえず万能薬を取り出して胃に流し込む。

 いつものように効果がすぐに現れ、体を覆っていただるさが一気に解消した。

 

 

「――ふぅ。すまん、もう大丈夫だ」

 

 

 礼を言いながら体を起こし、大きく伸びをする。間接がバキバキと音を上げ、変に硬くなった体を一気にほぐす。しかしビンを枕にしていたのと固い床で眠っていたせいか、体の節々が妙な痛みを訴えていた。

 

 

「ところで、他のみんなはどうしてる?」

 

「みなさん、もう起きて広場のところで朝食を取っていますよ。尊さんが最後です」

 

「そうか。だったら、なくならないうちにもらうとするか」

 

 

 連れ立って広場へ向かうと、宴会の後に囲まれながら食事をとっているクロノたちを発見。

 彼らも尊たちに気づき、声を上げて手招きをする。空いていた席に腰を落としつつ、あいさつを交わしながらこれからのことについて切りだす。

 

 

「――この時代で出来ることは一通り片付いたはずだ。中世の方はもう少し対応するとして、俺とサラは一度、古代へ向かおうと思う」

 

「古代? 何故だ?」

 

「大きな理由としてはサラが愛用していたという杖が残された村にないかと言うのと、あとはダルトンの様子を見にだな。俺が知るダルトンと比べて性格が大きく変わったことで、古代がどういう状況になってるのか確認しておきたい」

 

 

 尊が知る原作のダルトンはシルバードの上でマールたちと戦い、マスターゴーレムを呼び出そうとして次元の渦にのまれたのが最後だ。

 しかしこの世界では尊が刷り込み洗脳を施したことで元の性格から180度転換、彼の予想以上に綺麗なダルトンとして生まれ変わることとなった。そんなダルトンがこの世界の古代でどんな影響を与えているのか、尊はその点が気になっているのだ。

 

 

「なるほど……。じゃあ俺もついて行っていいですか? 海底神殿でのお礼もちゃんとしてないので」

 

 

 クロノが立候補し、尊もサラも特に反対する理由がないのでそのまま許可を出す。そこで最早恒例となりつつある魔王の病気が発症したが、やはり恒例のようにサラに制されてあきらめると言う流れに。

 これで活動方針が決まったわけなのだが、今回も尊たちがシルバードを使わなければ残された村には行けないので、残りのメンバーは再びローテーションで中世の竜の里の様子を見に行くということで話がまとまった。

 その後たくさんの恐竜人たちに見送られて竜の里を後にし、一度行動しやすいように時の最果てへと戻る。

 里で振り分けたメンバーに分かれ、尊はサラとクロノと共にシルバードへ乗り込む。そこで、尊は唐突に自分の臣下たちのことを思い出した。

 

 

「……そういえば、あいつらビネガーの手助けは終わったのかな?」

 

「あいつらって、中世のフリーランサーたちですか?」

 

「ああ。指示を出してからそれなりに時間がたったはずだから、少し気になってきた」

 

「だったら心配いらないと思いますよ。トルースの裏山で会った時に中世の竜の里へ船で行きたいって説明したら、尊さんの仲間だからって快諾してくれましたし」

 

「なんだ、そこにいるってことはもう終わったのか。それなら安心だけど、古代の用事が終わったら一度会いに行ってもいいか?」

 

「了解です」

 

 

 流石に放ったらかしにしては主君としての沽券にかかわると思い至り、こうして今回の行動に中世行きを追加することとなった。

 

 

 

 

 

 

 シルバードで古代に着くなり俺たちの目に留まったのは、空に浮かぶ巨大な神殿だった。

 そしてその形状に見覚えのあるサラが、口に手を当てて驚愕する。

 

 

「あれは……まさか、海底神殿!?」

 

「そう、あれがラヴォスの力で持ち上がり、約14000年後の未来でラヴォスが目覚めるのを待つジールの黒の夢だ」

 

 

 中世であれの存在が確認できなかったことから、おそらくこの時代に落とされるのは確実だろう。それがいつになるかはまだ分からないが、そう遠くはないのは確かだ。

 

 

「初めてきた時と比べても、これはひどい状況ですね。陸がほんの少ししかない」

 

「ラヴォスの攻撃でジールが崩壊し、その落下によって発生した津波の影響がほとんどだ。ただ地上で猛威を振るっていた吹雪がラヴォスのおかげでなくなったというのは、皮肉でしかないがな。 ――あそこだ、あの黒鳥号の近くに着陸してくれ」

 

 

 残された大地の上にあるひと際大きな人工物を指し、倉庫からシドのマスクを取り出す。

 

 

「ミコトさん? どうして今そのマスクを?」

 

「ジールにいたとき、俺は仮面の男シドとして活動していた。サラがいるからいらないかもしれないが、ダルトンたちにわかってもらう念のための措置だな。最も、再会したら正体を明かすつもりだけど」

 

 

 元々ジールやクロノたちから自分の素姓を隠すための仮面と偽名だ。ここまできて隠す必要など皆無に等しい。フロニャルドでもシドとして参戦しようとこの仮面をつけたが、シンクとエクレールには一発でバレたんだよなぁ……。

 久しぶりに仮面をつけ、シルバードの着陸に備える。

 何事かと着地点付近で身構えているダルトン部隊の連中がいるが、こちらが着陸と同時に姿を見せると一斉に目を剥いた。

 

 

「し、シド様!? ご無事でしたか!」

 

「俺だけじゃない、サラ様もご無事だ」

 

「な、なんと! それはなんという朗報!」

 

「おい! 大至急ダルトン様と長老殿にお知らせしろ!」

 

 

 行方不明だった重鎮たちの帰還が相当効いたらしく、ダルトン部隊の連中はハチの巣をつついたように大慌てに動き出した。

 俺たちはシルバードから降りると、案内されるまま少し立派な家へと案内される。そこでこちらの姿を見るなり、感動して頬を緩ませるダルトンと元地の民の長老と思しき老人の姿があった。

 

 

「サラ様、ご無事で何よりです。そしてシドに坊主、生きてるって信じてたぜ」

 

「簡単に死んでたまりますか。そちらも、ご無事で何よりです」

 

「俺も危機一髪って奴だったよ」

 

 

 俺とクロノはダルトンと握手を交わし、サラも涙を流す長老と握手を交わしていた。

 

 

「で、お前のことだ。生きていたことの報告のほかに何かあるんじゃねえのか?」

 

「おや、わかりますか?」

 

「ここで人をまとめてるとな、一人来たらだいたいどれくらいの用事があるのか読めてくんだよ。さしずめお前は、生存報告のほかにあと2個ぐらいか?」

 

「……お見事」

 

 

 まさかこんな所で新しいスキルを身につけていたとは……。しかも話の内容からかなり民たちから慕われているようだ。まさかこのままダルトンの国が完成したりしないよな?

 そんなことを思いながら俺はまず仮面を外し、外気に素顔を晒す。その行動が意外だったのか、ダルトンは目を丸くしてこちらを見る。

 

 

「初めの話を。私――いや、俺の本当の名前はミコトと言います。素性を隠していたことは謝罪しますが、改めてお見知りおきください」

 

「ヘー、あっさりと晒すんだな」

 

「もう隠す必要もないですからね。それより、隠していたことを怒らないのですか?」

 

「今やジールもクソもない世界だからな。正体が一つ割れたところでもう何の意味もねえよ。第一、同一人物なら別に接し方を変える必要もないからな」

 

「ダルトン……。あなた、良い意味で変わりましたね」

 

「止してください、サラ様。こんな単純なことに気づくまで、ずいぶん時間がかかっちまったんですから」

 

 

 はっはっはと笑い声を上げ、ダルトンが目で話の続きを促してくる。それに応え、ここに来たもう一つの話を告げる。

 

 

「訪ねたいのですが、この村にサラ……いや、サラ様の愛用していた杖が流れていませんか?」

 

「ん? サラ様愛用の杖? 確か……先端に緑の石がある銀の杖でしたか?」

 

「そうです。もしあればと思ったのですが……」

 

 

 サラの肯定を受け顎に手を当てるダルトンだが、その表情はどこか言いにくそうにも見える。

 

 

「あると言えばあるのですが……。実物をお見せした方が早いでしょう」

 

 

 近くの箱から一つの長いケースを取り出し、部屋の中央に設置されたテーブルの上でそれを開く。

 すると中から一本の銀色の杖が現われたが、所々に傷が目立ちその先端には緑色の石がはまっているものの、大きな亀裂が入りくすんだ色をしていた。

 

 

「私の杖……しかし、これは……」

 

「今からひと月ほど前、海岸に流れ着いたものを売っているヌゥがこれを持ってきました。しかし杖は既にこの状態で、石の魔力は既に空となっていました」

 

 

 沈痛な面持ちで報告するダルトンとそれを受け取るサラ。おそらく、この緑の石は元々綺麗な色をしたものだったのだろう。だが何らかの理由でその力を失い、こんな状態になってしまったのだろう。

 

 

「もしかしてこの石は、所持者の魔力を高める力があったんですか?」

 

「お、鋭いな坊主。まさにそうだ。この石に高純度の魔力が込められていて、使用者の精神力の負荷を軽減させる力があった。俺たちの見解ではジール崩壊の際に何らかの衝撃で石にひびが入り、結果魔力が霧散してしまったという考えに至った」

 

「この石は他にないのですか?」

 

「残念ながら魔力を蓄えられる石そのものが非常に希少価値が高い物で、特にこのサイズは発見されたのが奇跡だと言われるほどだったんです」

 

「これを作ったとされるボッシュも、おそらく二度と作れないだろうと言っていたな」

 

 

 製作者はボッシュなのか。杖の本体は作ってもらえそうだが、流石にこの石は……待てよ、緑の石?

 

 

「一つ確認させてください。魔力を蓄えられる石は他の色でもあるんですか? 青とか赤とか」

 

「いや、確認できているのは緑色だけだったはずだが……なにか心当たりがあるのか?」

 

「確証はありませんが、可能性の一つとしては上がってきます」

 

 

 そう返す俺の脳裏には、森の樹脂で固められたという緑の夢が浮かんでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話「星の思い出に願いを」

今回と次回は前作と比べて大きな変化があります。
オリジナル設定&オリジナル展開が中心となりますので、ご注意ください。


 緑の夢は森の樹脂を固めて作ったものだが、それだけで瀕死の状態から回復させられるリレイズの効果を得られるとは考えがたい。

 となれば、可能性としてあがってくるのが森が大気中に漂う魔力を吸収して樹脂に圧縮、さらにそれを固めたことによりその力を得たと考えるのが妥当だろう。

 この仮説が正しければ、緑の夢は400年分の魔力を蓄えたエネルギー結晶体と言うことになる。

 それを触媒として魔法を使えば間違いなくい魔法の威力は上がり、ダルトンが言っていたように使用者の精神力の負荷を軽減させる力を備えるようになるはずだ。

 しかし本当にそうなるかどうかはやはり製作者に聞かなければわからないので、まずは実物を用意する必要がある。

 壊れた杖を受け取って最果てに戻ってくると、運がいいことにロボとルッカ、そしてマールが広場で待機していた。

 

 

「あ、おかえり! どうだった?」

 

「一応、杖そのものはあったけど、ちょっと面倒なことになった」

 

 

 クロノが事の顛末を説明し、俺が必要なものについて補足を加える。

 

 

「つまり、杖の素材としてその森の樹脂で固めたものが必要になると言うわけですね」

 

「ああ。ただこれは相当な歳月をかけて作らないと効果が得られない。そこで、以前からサンドリノ南の砂漠を森にしようと話している女性がいただろ? ロボにはその人に協力しつつ、俺たちが迎えに来るまで森の樹脂を固め続けてくれ。長くつらい仕事だが、どうか頼む」

 

「おまかせクダサイ。森の再生は初めから考えていたことですし、その素材が私にしか作れないのであれば望むところデス」

 

「ありがとう。じゃあ早速行こう」

 

 

 シルバードの組(クロノ、マール、ルッカ)とゲートの組(俺、サラ、ロボ)に分かれて中世へ向かう。俺たちゲート組がトルース裏山に出ると、すぐにガイナーたちが現れた。

 

 

「お久しゅうございます、御館様」

 

「悪いな、少しバタバタして戻ってくるのが遅れた」

 

「かまいませぬ。して、今回はどのような御用で?」

 

 

 オルティーの問いに、今回の内容を移動しながらかいつまんで説明する。

 開拓する場所がデナドロ山近くの砂漠と聞くと、三人は驚きながらも楽しそうな声をあげる。

 

 

「あの砂漠を森として甦らせるのですか。それはすばらしいことですな」

 

「確かに。あれを放置しておけば、いずれサンドリノの村も砂漠に飲まれてしまいますからな。それを防ぐのであれば、森の復活は必須」

 

 

 確かにマシューの言う通り森の復活は必要だ。けど森が復活しても、サンドリノは結局なくなっちまうんだよな……。あれは森が復活する前に砂漠に飲まれたんだろうか?

 今回してもらうことで、砂漠に飲まれる前に緑化に成功すればいいが……。

 自分が思い描く理想系を構想しながら、俺は一つの命を彼らに言い渡す。

 

 

「そこでだ、お前たちにはこのロボと一緒に森の再生をしてもらいたい」

 

「我々が、でございますか?」

 

「ああ。たぶん俺はもうここに戻ってこれることも数えるほどで、下手をすればもうそれもないかもしれない。だから俺がいない間、ロボの手伝いを頼みたい。お前たちの実力なら間違いなく力になるだろうし、人と魔族が共存するきっかけの一端も担えるはずだ。俺たちと一緒に戦ってきたようにな」

 

 

 事実、これ以上中世に戻ってくる理由が見当たらない。俺が言えばこいつらは間違いなく何処までも着いてきてくれるだろうが、来てもらうにしても今はそのときではない。 

 ならばその時までロボと共に砂漠を開拓してもらい、ビネガーたちがやろうとしている共存計画の下地を整えてもらおうというわけだ。

 これは間違いなく、俺たちと接してきたこいつらにしか出来ないことだと断言できる。

 

 

「承知しました。我らにとっても森の再生は必要なこと」

 

「人と魔族の共存も、これからの時代に必要だというのも重々承知しております」

 

「必ずや、御館様のご期待にお答えさせていただきます」

 

「感謝する。――さて、クロノたちも来たし急ぐか」

 

 

 この三人は本当に自分にはもったいないくらいだと思いながら、俺は降下してくるシルバードを眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 フィオナと何気に初の邂逅を果たし、ロボとガイナーたちを預けた俺たちはちょうど竜の里から戻ってきたエイラたちと遭遇し、そのまま現代に移動し目的地へと向かっていた。

 確か原作でロボが自分の400年は、俺たちにとって一瞬でしかないといっていたな。プレイしていた当時も「まあな」とか言いながら砂漠から一瞬で森になった場所を見ていたが――――

 

 

「これはちょっと変りすぎだろ……」

 

「すごいですね……」

 

 

 砂漠は確かに森となった。だが森の中には原作にはなかった自然を利用したサンドリノの町が存在し、その中心にはそこそこ大きな神殿が大樹を背に建てられていた。あれがおそらくフィオナ神殿だろう。

 あまりの変貌ぶりに俺たちは言葉を失っていたが、誰からともなく歩き出したのをきっかけに神殿へと足を向ける。

 みれば町民の中にジャリーやガーゴイルといった魔物たちも存在しており、人間たちと楽しそうに談笑を交わしていた。

 

 

「共存、うまくいってるぞ」

 

「ガイナーさんたちががんばってくれたんだね」

 

「ビネガーさんたちもですよ、マール」

 

「未だにあれが共存政策に貢献できたとは思い難いわ……」

 

 

 女性陣の会話を聞きながら解放された神殿の扉をくぐり、一番奥へと足を進める。

 そこには長い年月によって苔や汚れが付着した金属の塊――変わり果てたロボが鎮座しており、その背後にはどこかで見たことのある姿をした三つの銅像が。

 

 

「これは森の復活に貢献したとされるフィオナ様の協力者、ロボ様の御神体とその活動を150年の長きに渡り支えてきたデナドロ三柱神の像です」

 

「で、デナドロ三柱神……?」

 

 

 眺めていたところを神殿のシスターがニコニコと説明をしてくるが、その内容は俺たちの斜め上を行っていた。

 神扱いとか、空白の時間であいつらどういう生活を送ってたんだよ……。

 思わず推理しようと頭が働きかけたが、それを押し留めてまずはロボに意識を切り替える。

 

 

「ルッカ、頼む」

 

「ええ」

 

 

 ちょうどルッカがロボのスイッチを入れようとしているところのようで、周りのシスターたちが御神体に触れないでと叫んでいるがそれをサラとマールが留めている。

 その間に何処からともなく電子音が聞こえ、全員の視線が一箇所に集中する。

 そこには錆付いた体をぎぎぎと動かし、あたりを見回すロボがいた。

 

 

「こ、ココハ……」

 

「大丈夫か? ロボ」

 

「……オ、オオ……。みんな…みんな懐かしいデス……」

 

「無理しないで。400年分の劣化が響いてあちこちガタがきてるから、オーバーホールする必要があるわ」

 

「400年……そうカ……。みなさんには一瞬のことだったのデショウガ、ワタシには気の遠くなるような時間デシタ……」

 

「よくやってくれたな。積もる話しは後にして、ルッカの言う通り先に修理しよう」

 

「そうデスネ……。今夜は400年ぶりの再会を祝いマショウ……」

 

 

 

 

 

 

 当初ロボをルッカの家まで運ぼうと考えていた一行であったが、予想以上に彼に溜まったダメージがひどかったため緊急用の道具一式を持ち出し、森の開けた場所で修理しつつ野営を開くことにした。

 焚き火を囲んで修理を受けながら、ロボはこの400年の間に感じたことを話していた。

 

 

「今回400年もの旅をして気付いたことがあります。ワタシたちはゲートの出現はラヴォスの力のゆがみだと思ってイマシタが、違うような気がしてきたのデス」

 

「どういうこと?」

 

「カクシンは持てませんが、誰かが何かを私たちに見せたかったんじゃないデショウか。ゲートを通していろんな時代の何かを。もしくはその誰か自身が見たかったのかもしれマセン。自分の生きてきた姿を思い返すように……」

 

 

 マールの問いに自分の推測を述べるロボ。それを聞いたエイラが思い出したように立ち上がり、口を開く。

 

 

「エイラ、それわかる。人、死ぬとき今までの思い出、全部見る言い伝え!」

 

「人は死ぬとき、生きていたときに深く心に刻んだ記憶が次々と浮かぶという。それは楽しい思い出もあるが大抵は悲しい思い出さ」

 

「走馬灯って奴だな。俺の世界でも本気で死ぬのを覚悟したとき、その瞬間になって忘れていたものが記憶の底から呼び覚まされるとも言われている」

 

「似たようなものは、何処の世界にもあるんですね」

 

 

 カエルの言葉に続いて尊が自分の知識からそれに準ずるものを引っ張り出し、クロノが感慨深そうにつぶやく。

 

 

「きっと『あの時に戻りたい』、『あの時ああしていれば』……という強い思いに記憶が惹かれるのでショウ」

 

「願わくばもう一度、という思いに呼び覚まされてということですね」

 

 

 尊に体を預けているサラがどこか寂しげな面持ちでつなげると、側の木に寄りかかっていた魔王が何かを思い返すように目を瞑る。

 

 

「私も死ぬ時はそうなるのかな?」

 

「きっとそうよ」

 

「ルッカはあるの? 戻りたい一瞬が」

 

「ううん……」

 

 

 一瞬尊に目をやるルッカだが、彼は口を噤んだまま何か話そうとする気配はなかった。

 

 ――知ってるけど、ここで話すつもりはないってことなのかしら。

 

 尊の心情を読み取り、自分なりの答えをマールに返す。

 

 

「なるべく考えないようにしているの。だって疲れちゃうもの」

 

「……そっか」

 

「しかしだ……この想い出の持ち主はよっぽどラヴォスに縁があるんだな。どの時代にもラヴォスが絡んでいる」

 

「……それで誰なんだ、ミコト。その持ち主とやらは」

 

 

 魔王にその話を振られ、尊はそれに答えていいものか全員の顔を見渡す。

 その様子を察したのか、クロノが代表して答える。

 

 

「話して何か不都合が生じたりするとかなら、無理に言わなくてもいいですよ」

 

「いや、不都合はないと思うが……俺が話してもいいのか?」

 

「私は出来れば知りたい……かな」

 

 

 マールの返事に改めて考えるが、尊は小さく頷いて答えを出す。

 

 

「いや、どうせわかるんだったらその時にわかればいい。それに俺がネタバレしたら、その人の思い出が薄くなりそうだからな」

 

「そうデスカ。もしかしたら、それがわかる日が私たちの旅の終わりの時かもしれませんね。……そろそろねマショウカ?」

 

「そうだな。時間はまだあるし、そのときに話し合えばいいか」

 

 

 ロボの提案にクロノが同調し、彼らは自分のタイミングで眠りについていった。

 

 

 

 

 

 パチパチと焚き火の音が響く中、尊は誰かが起きる気配に釣られて唐突に目が覚めた。

 となりで眠るサラを起こさないように体を起こすと、森の奥へと進むルッカの姿を見つける。

 

 

「……そうか、あのイベントか」

 

 

 記憶を探るまでもなく思い当たった尊は、このあと起こることを考え興味本位でその姿を追う。

 少し離れた場所から様子を伺うとルッカがひとつのゲートを発見し、導かれるようにその中へと入っていった。

 尊の記憶通りならあのゲートは彼女の過去に繋がっており、彼女の母親を助けることができる瞬間にたどり着くようになっている。

 

 

「あとはルッカ次第か……がんばれよ。――さて、俺はもう一眠りでもするかな」

 

 

 あくびを一つして戻ろうとすると、前方から足音が聞こえてきた。

 

 

「ここにいたんですか、ミコトさん」

 

 

 やってきたサラが尊を見るなり安心したように表情を崩す。

 どうやら彼がいなくなったので探しに来たのだろう。

 

 

「すまない。目が覚めたから、ちょっと散歩に行ってた」

 

 

 ルッカのことは伏せて説明し、少し肌寒く感じる体を撫でる。

 

 

「戻るか。このままいても風邪をひきそうだし」

 

「はい……あら?」

 

 

 何かに気づいたサラの視線を追うと、尊は自分が知るはずのないゲートが出現しているのに気づき目を見開いた。

 

 

「なんだ……これは」

 

「……この感じは…………」

 

 

 どこか郷愁を呼び覚ますような空気を感じ、抗えない感覚に陥ったサラがゲートへと足を進ませる。

 一人で行かせるわけにもいかないと尊もついていきその前までやってくる。

 まるでそのタイミングを待っていたかのようにゲートが開くと、二人は互いの手を握り合って静かにゲートへ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 謎のゲートに入って間もなく、俺たちはゲートの外へと身を躍らせる。

 現状を確認しようと顔を上げると、そこは見覚えのある部屋だった。

 

 

「……ジールでの、俺の部屋?」

 

 

 ある程度の差異はあるが見たことのある部屋に声を漏らしていると、サラが信じられないといった風に驚いているのに気づく。

 

 

「ま、まさか……この部屋は…………」

 

「サラ?」

 

 

ガチャッ

 

 

「おや?」

 

 

 突如、部屋の扉が開き新しい声が耳に届いた。

 振り向いた先にはジールの神官たちよりも明らかに位が高いとわかる服を纏った青い髪の男性がいた。

 マズイ、この部屋の主か? だとすれば俺たちは明らかに不審者――

 

 

「そんな……ち、父上…………」

 

「……サラ、なのかい?」

 

 

 ……え?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43話「父と娘」

 二人のやり取りに尊は思わず間の抜けた表情を浮かべた。

 ルッカが過去を変えるか否かのイベントだけかと思えばもう一つのゲートが出現し、その場に居合わせたサラとくぐってみればそこで出会った人物はサラの父親だという。

 

 ――言われてみれば、確かに似ているが。

 

 二人を見比べて尊は思う。目元や雰囲気は、確かに親子と言われれば納得できそうなほどに。

 推察する彼を他所に、男性は笑みを浮かべて喜ぶ。

 

 

「いやぁ! まさか本当にサラとはな! 美人に育って父はうれしいよ!」

 

「ち、父上。その……体の具合は、大丈夫なのですか?」

 

「そんなもの、何故か成長した娘に会えた事に比べれば些末なことさ!」

 

 

 心底心配するサラとは対照的に笑みを絶やさないサラの父は、ようやく彼女の隣にいた尊に気づく。

 

 

「ところで、君は誰かな?」

 

「――あ、失礼しました。俺はミコトと言います。えーっと、なんといいますか」

 

「父上。ミコトさんは…私の恋人です」

 

 

ヒュカァン!

 

 言い淀む尊に変わってサラがやや恥ずかしそうに答えると、尊の頬を何かが掠める。

 同時にツーっと血が垂れ、振り返ってみれば壁に氷の刃が突き刺さっていた。

 まさかと思い向き直ってみると、ニコニコと笑みを浮かべたまま突き出した腕に冷気を纏わせるサラの父がいた。

 

 

「すまんな、サラ。父さんの聞き間違えでなければそこの彼が恋人だと聞こえたのだが?」

 

 

 今の動作と質問で、尊は二つの確信を得た。

 

 ――こ、この人……親バカか!

 

 自分がサラの恋人だと聞いた瞬間に繰り出された攻撃と言葉から間違いなくそうだと断定し、サラのためなら寄り付く男の排除も厭わない姿勢は彼女の弟(シスコン魔王)を彷彿させる。

 むしろ後者の方が親子だと断定させる材料に適しているかもしれない。

 

 

「父上……いえ、アウル様。それ以上ミコトさんに危害を加えるなら私が許しませんよ?」

 

「すまんサラ、それだけはやめてくれ」

 

 

 絶対零度の視線とともに娘から名前で呼ばれたことが余程堪えたのか、サラの父――アウルは冷や汗とともに全力で謝罪をした。どうやら長男と同じく、娘には逆らえないようだ。

 

 

「すみません、ミコトさん。父がご迷惑を……」

 

「い、いや、それはもういい。 あの、アウルさん。何故サラが成長した自分の姿だとわかったんですか?」

 

「若いころの妻に似ていたからね。それに昔からサラが成長したら美人になるだろうと常々思ていたんだよ。もっとも、生きているうちに会えるとは思わなかったがね」

 

 

 おおらかに笑って答えるアウルだが、その言葉に尊は違和感を感じた。

 

 

「生きているうちに、とはどういうことですか?」

 

「ああ――――私は心臓を患っていてね、もう長くはないんだ」

 

 

 

 

 

 

 あっけらかんと答えられた内容に尊は思わず息を呑む。

 同時に自分が近いうちに死ぬというのがわかっているのに、何故この人はこんなに他人事みたいに話すのだろうという疑問が湧いた。

 

 

「我々光の民は魔法でしか治療方法を知らないからね。それでどうにもならないとわかると、もう死を待つしかないんだ」

 

「……だったら、どうしてそんな――「『どうしてそんなに軽く話すんだ?』って思うかい?」――……はい」

 

 

 言おうとしたことを先に言われ、そのまま肯定する。

 

 

「私なりの受け入れ方だよ。 ――二人とも、気にしないで座りなさい」

 

 

 促され、二人そろってソファーに腰かける。

 その間にアウルは部屋の隅にあったティーセットを取り出し紅茶を淹れる。

 三つのカップと少し大きなポット。そして砂糖をテーブルに並べ尊たちの向かいに座ると、一息ついたとばかりに息を吐く。

 

 

「ミコト君……と言ったね。君は自分の命の時間が残り少なく、それが決して避けられないものだとわかればどうする?」

 

 

 その質問が自分をアウルに置き換えたらどうかだというのは、考えるまでもなくわかった。

 しかし、その質問に尊は直ぐ答えることができなかった。

 頭に浮かんだのは自分が元の世界でそうだった場合、死ぬ原因が何なのかですることが大きく変わってくるだろうということだけだ。

 

 

「……わかりません。状況によりけりだと思うので、その時になってみなければ何とも」

 

「まあ、それが普通だね」

 

 

 アウルもこの答えを読んでいたのか特に何も言わず、蒸らし終えた紅茶をそれぞれのカップに注ぐ。

 そのうちの一つを口に運び喉を潤すと、今度は自分の番だとばかりに話し出す。

 

 

「私の場合はね、余命が長くないと宣告されたその日から残りの人生を座して受け入れるのではなく、自ら彩ることで胸を張って素晴らしい最後だと誇れるものにして受け入れようと決めたんだ」

 

「自ら彩ることで……ですか?」

 

「うん。人間というのは面白い生き物でね、自分がもうすぐ死ぬとわかると今まで単純な日々だったものがとても美しく見えるんだ。それを知った時からの私は残りの時間の短さを嘆くのではなく、残りの時間でどれだけのことを自分が成し得るのかを試したくなったんだ。同時にそれは楽しんで行うもので、死ぬことに怯えながらするものでもないと悟った。だから私は自分が死ぬとわかっていながら、何でもないことのように話せるんだ」

 

「そうして過ごす余生が、自分の命に色を付ける……というのが父上の結論ですか?」

 

「そういうことだよ、サラ。無論時間が足りず、諦めていたものもあったがね」

 

 

 娘が自分の考えを理解したのが嬉しいのか、アウルは笑みを浮かべてまた紅茶を一口含む。

 つまり彼はどうせ死ぬなら味気ない最期より、心底楽しかったと思える最期を迎えたいから自分が死ぬということを笑って受け入れているのだろうと尊は推察した。

 そうでなければ、死ぬとわかっているのにこんな楽しそうにするとは到底思えなかったからだ。

 

 

「さて、今度は私の質問だ。 君たちは、どうしてここにいたのかな?」

 

 

 もっともな質問にサラが尊に目を向ける。彼女がどうしたいのか察して小さく頷くと、サラはアウルに向き直って説明を始めた。

 

 

「父上なら既に察しているかと思いますが、私たちは未来から来ました。ですが、やってきたのはこの時代からおよそ13000年後になります」

 

「13000年後? どういうことだい?」

 

「……父上はこのジールに魔法をもたらしたのが、地中深くに眠るラヴォスという存在だというのはご存知ですね? この時代から十年後、父上が亡くなったことで死を恐れた母上が永遠の命を得ようとラヴォスを呼び覚ましました。その結果この国――いえ、この世界はラヴォスによって滅ぼされることとなりました」

 

 

 サラの説明にアウルはいつの間にか先ほどまで浮かべていた笑みを消し、真剣な表情で話を聞き入っていた。

 自分の話の重要さが伝わっていると感じているサラは気持ちを落ち着けようと深呼吸を繰り返し、説明の続きをする。

 ラヴォスが出現したことでジールだけでなく地上も壊滅的な被害に見舞われたこと。

 自分は尊のおかげで難を逃れ、紆余曲折を経て13000年後の未来に辿り着いたこと。

 そして不思議なゲートをくぐってみれば、何故かここにいたということ。

 

 

「――これが、私がここに至ったまでの経緯です」

 

「……そうか」

 

 

 締めの言葉を聞くとアウルは深いため息をつき、悲しそうな表情を見せた。

 先ほどまで笑って生きると言っていた人とは思えないほど、とても悲痛な表情だ。

 

 

「ジールが世界を滅ぼし、ジャキは復讐に駆られる、か……」

 

 

 相当ショックだったのだろう。愛する妻が自分の死を欠如に人が変わって世界を滅ぼし、その影響でこの時代ではまだ生まれて間もない息子が後に復讐に身を染めることになったということが。

 同時に尊は納得もしていた。アウルが死んだという事実があったからこそジールは永遠の命に対して異常に執着するようになり、そのためならば身も心も魂もラヴォスに捧げたのだろうと。

 尊も自分が死んだことでサラがジールのようになったら死んでも死にきれないし、魔王とて愛する姉が狂った母の二の舞になるなど悪夢でしかないだろう。

 暫しの間を置き、アウルがゆっくりと顔を上げる。その表情は、他人から見ても複雑に満ちていた。

 

 

「確かに妻が世界を滅ぼしてしまうのは悲しいし、その罪が許されざるものだろうというのも理解できる。 ……けど、私はその過ぎてしまったことに一つだけ感謝したいことができてしまった」

 

「感謝したいこと?」

 

 

 意外な発言に尊が言葉を繰り返すと、アウルは小さく頷く。

 

 

「さっきも言ったが私はもう長くはなく、時間の都合でどうしても出来ないと諦めたことがあった」

 

「そういえば、さっきそんなことを言っていましたね。父上は、何を諦めていたのですか?」

 

「なに、とても単純なことさ」

 

 

 ハハッと笑い、少し照れながら答える。

 

 

「父親として、自分の子供が幸せになろうとしているのをこの目で見ることだよ」

 

 

 それを聞いて、尊は素直に納得した。

 親が子供の幸せを願うのは至極当然のこと。だがアウルは本来それを見届けることが出来ないはずだった。

 しかし巡り巡った因果の糸が奇跡を招き、図らずも彼の望みを叶える結果となった。その過程で、妻がこの世界を滅ぼすのだとしてもだ。

 

 

「確かにサラが恋人を連れてきたというのには驚いて思わず手を上げてしまったが、サラが本気でミコト君を想っているのもわかった。それが君たちの望む未来につながるというのなら、それを知ることができただけでも私は満足だ。 ――だからミコト君」

 

 

 名前を呼ばれて思わず姿勢を正すと、アウルは尊の手を取って深々と頭を下げた。

 

 

「サラのこと、よろしく頼むよ。これは老い先の短い男が望む最大の願いだ」

 

「はい――必ず、俺は彼女を幸せにします」

 

 

 握られた手をしっかりと握り返し宣言する。

 その答えに満足したアウルは笑顔で頷くと席を立ち、クローゼットから一つのローブを持ち出してそれをサラに差し出した。

 

 

「サラ。こうして会えたのに何もしてやれないが、せめてこれを受け取ってほしい」

 

「これは……父上のローブでは?」

 

 アウルが出したものは青地に黄色のラインが入ったローブで、襟もとには天、水、火、冥を司る四つの宝石が取り付けられている。

 このローブはボッシュがジールの王に即位したアウルのためにと作り上げたもので、この世に二つとない破格の性能を秘めた逸品だった。

 王位を継承して以来宮殿の外に出る際は常に身に着けていたものだが、病を患ってからは纏う機会がめっきり減ってしまったが。

 そのローブを渡されるということが、サラにはとても重く感じられた。そんな彼女を察してか、アウルは優しく語りかける。

 

 

「別にこれを受け取ったからと言ってジールを再興させてほしいとか、そういうことを言ってるんじゃない。私自身が守ってやることができないから、このローブにその役を担ってもらうんだ。 ……君は、君だけの幸せのために生きなさい。サラ」

 

「……おとう、さん」

 

 

 瞳から涙を溢れさせながらローブを受け取り、アウルに抱き着く。

 十年ぶりに感じた父の温もりは、恋人である尊とはまた別の大きな安心感に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 あり得るはずのない会合は、再びゲートが出現したのを欠如に終わりを迎えた。

 尊は時間切れなのを漠然と理解し、サラはこの奇跡から覚めるのを拒絶したくなった。

 そしてゲートを初めて見るアウルは二人の反応からそれが何なのかを察し、名残惜しそうな表情を作る。

 

 

「どうやら、この出会いも終わりの時が来たようだね」

 

「そのようです。正直、もっと話したいことがあったんですけど」

 

「私は未来の息子と酒を飲み交わしたかったね」

 

 

 軽口を叩いたアウルだが、悩んでいるようなサラを見て少し困ったような顔になる。

 

 

「サラ。君とも話したいことがたくさんあるが、私が言いたいことはさっきので全部だ。唯一ジールのことが気がかりだが……もう、君の声も届きそうにないかい?」

 

「……おそらくは。 海底神殿の時には、もう話も聞いてくれませんでした。空に浮かぶ海底神殿にいることを考えれば、状況は悪化してもはや誰の声も届かなくなっている可能性が……」

 

「……そうか。 親の尻拭いを子供に押し付けるのは気が引けるが、二人とも。彼女を頼む」

 

「はい」「わかりました」

 

 

 最後の願いを聞き届けた二人は返事をするとゲートに歩み寄り、一度振り返り会釈を残してゲートをくぐった。

 二人を受け入れたゲートは自動的に消滅し、部屋には主であるアウルだけが残された。

 

 

「……誰が起こしてくれた奇跡かわからないが…………ありがとう。これでもう、安心して逝けるよ」

 

 

 ――翌朝、ジールの王アウルは寝室で静かに息を引き取った。しかしその死に顔は、とても穏やかなものであった。

 

 

 

 

 

 

 ゲートを抜けた先は真夜中の森の中で、そこがすぐに少し前まで自分がいた場所であると理解する。

 サラが亜空間倉庫から受け取ったローブを取り出し、先ほどの出来事が現実であることを確認した。

 

 

「……いい親父さんだったな」

 

「ええ……私たちの、自慢の父親です」

 

 

 ローブを倉庫にしまうと、サラの瞳に涙が溜まっていくのが見えた。

 何故、と考えるまでもなかった。何も言わずに正面から抱きしめると、サラは胸に顔を押し付け声を殺して泣いた。

 彼女が泣き止むまで抱きしめながら俺は必ずラヴォスを倒すことを、遥か昔に永い眠りについた未来の義父とこの星に誓った。

 

 




この話の構想はDOGDAYS編を書いている際に思い付いたのですが、今回導入に当たってリメイクで一番梃子摺った回だと思います。
また、今回の話を導入したことで尊が何故か元の世界に戻れたという場面は丸ごとカットとなりました。気になる方は前作第25話「決意」をご覧ください。


オリジナル装備設定・解説

エレメントローブ
・サラ専用の装備
・防御力90
・全属性攻撃無力化
・DS版クロノトリガーに出てくるルッカ専用防具のエレメントガードに匹敵する装備
 かつてアウルのためにボッシュが作り上げた逸品で、先述の通り全ての属性攻撃を無力化させる破格の性能を誇る
 最終的にサラの手に渡り、以後は彼女の愛用の装備となった


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44話「決戦に備えて」

 イレギュラーがあったものの無事に野営から一夜明け、ひとまず動くことまでは修理の終えたロボを完璧に仕上げるためオーバーホールをすべくルッカの家に移動した。

 

 

「――完全に完了するまで……丸一日ってところかしら」

 

「こいつを一日で完璧に仕上げることに俺は驚きだぞ……」

 

 

 メガネを上げながらルッカが口にした言葉にツッコミを入れざるを得ない。やっぱりこいつはメカチート転生者じゃないのか?

 それはともかく、昨夜からルッカの機嫌が非常にいい。というか、ララが普通に歩きまわってた時点で未来を変えられたんだな。

 ここでロボの修理がおこなわれている間、俺はサラと共に森でロボから受け取った緑の夢をボッシュに頼んで武器にしてもらうべくメディーナ村へ向かうことにした。

 なんでもトルース町からメディーナ村へ行ける定期便が出ており、これを使えば2、3時間で到着できるらしい。ぶっちゃけシルバード使った方が圧倒的に早いんだが、まあ時間があるしのんびり行くのもいいか。

 これに魔王がさも当然とようについて行くと言いだし、カエルが新しいメディーナ村を見ておきたいので同行するということになり、結局4人でメディーナ村へと向かうこととなった。

 トルース町も魔族が普通に生活しており、定期便の受け付けではミャンヌが笑顔で出迎えたりもしていた。

 敵としての側面しか知らない俺やカエルはどうにも慣れない歓迎を受けながら船に乗り込み、数時間の船旅を経てメディーナ村へ到着する。

 こちらは魔族の村と言うこともあって大通りを歩いている人たちの7割ほどが魔族だったが、訪れる人間に友好的に声をかけている辺り原作での最終的な状態に酷似していた。

 

 

「……そういえば、こうなった場合の村長っていったいどうなってるんだろ」

 

 

 原作であればビネガーの館を攻略するまでビネガーの子孫だったが、攻略後はジャリーが村長になって子孫は気弱なお手伝いさんだったはずだ。

 確認してみたい気がしないでもないが、普通に考えればアポなしで村長に会いに行くのは失礼だよな。それに今回そこまで重視する必要もないはずだから……まあいいか。

 村を抜けて一直線にボッシュの小屋へと向かう。ここを通るのは初めてここに来たとき以来となるので、あの時と比べるとなんだか感慨深いものがあるな。

 しみじみと当時のことを思い返しているといつの間にか小屋の近くについており、あの時のようにカウベルを鳴らしながら入店する。

 

 

「いらっしゃい――おや、お前さんたちか」

 

 

 カウンターで本を読んでいたボッシュがこちらを見るなり席をたって出迎える。俺たちは手早く用件を済ませようと倉庫からそれぞれ傷だらけの杖と緑の夢を取り出す。

 

 

「ボッシュ。あなたにこれを直してもらいたいのですが」

 

「む? これはお主の杖か。ふむ……先端の魔石はもうダメじゃな。それで、代替品として用意したのがそれか?」

 

「はい。これは緑の夢と言って、400年分の魔力を凝縮した森の樹脂で出来ています。これを使って、サラの杖を直してもらえませんか?」

 

 

 緑の夢を受け取ったボッシュは宝石を鑑定するときに使うようなレンズでじっくり観察すると小さく唸る。

 

 

「驚いたわい。初めてサラの杖を作った時の石と同じようなものをまた見ることができるとは……」

 

「では、修理の方は?」

 

「任せておけ。ワシが腕によりをかけて直しておこう。出来上がるまで……まあ、半日といったところか」

 

 

 半日か……今からだと受け取りが明日になってしまうが、まあ仕方ないか。

 その条件で製作を進めてもらうことで話が決まり、俺は頭の中で自分が知る限り他にやり残したことがないか整理する。

 虹の貝殻、ビネガーの館、勇者の墓、ジェノサイドーム、国王の裁判、地底砂漠、太陽石、そして緑の夢。竜の里は予想外の出来事ではあったが、とりあえずこれ以上やることはない。

 揃えられるだけの手札は揃えたつもりだ。となれば……ついに仕掛け時か。

 

 

「そうと決まれば、あとは足がいるな……奴に頼むか」

 

 

 必要なものを思い浮かべながら、俺はその時を想像して笑みを抑えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 あれから一夜明けてロボの修理が完了し、俺たちはサラの装備を回収するため再びボッシュの小屋に訪れていた。

 今回はシルバードで来ており、ロボが自身の動作チェックを兼ねてシルバードを操作している。ちなみに、他のメンツはリーネ広場で待機中だ。

 クローズの札が掛けられた小屋に入るなりボッシュは腰を上げ、テーブルに置いていた布を持ち上げる。

 

 

「待っとったぞ。これが、頼まれたものだ」

 

 

 布が取り払われ、一本の杖が姿を現す。

 傷だらけだった本体は一片の汚れもない白銀の姿をしており、縁ふちに施された装飾がシンプルながらも高貴な印象を抱かせる。

 そして先端にはひびが入り力を失った石ではなく、昨日渡した緑の夢が新たに備わっていた。

 

 

「すごい……。前のものと全然変わっていません」

 

「あたりまえだ。そうなるようにしたからの」

 

「魔法の効果については結局どうなったんですか?」

 

「そちらも心配することはない。むしろ素材のおかげか効果は上がっているとみていい」

 

 

 さすがリレイズが付与された逸品、格が違ったか。

 

 

「ソレで、この杖はなんという名前なのデスカ?」

 

「いや、特に決めとらん。サラ、お主がつけるとええ」

 

「私がですか? ……ミコトさん、お願いできますか?」

 

「名前か……」

 

 

 緑の夢を使ってできたサラの杖。

 緑の夢……森…………サラ――――。

 

 

「――沙羅双樹」

 

「さらそうじゅ? どういう意味ですか?」

 

「花の名前なんだけど……なんだったかな、俺の世界のある宗教と深い関わりがあって、夏になると白い花弁を咲かせるんだ。で、盛者必衰……どんなにすごい人でも必ず衰えてしまうという意味も含まれているんだ」

 

 

 盛者必衰のくだりは確か平家物語だったか? 昔習った国語の内容がここにきて役立つとは……やっぱり学校は侮れないな。

 さて、肝心の名前についてはサラも気に入ってくれたのか、何度か口にして大きく頷く。

 

 

「ミコトさん。その名前、この杖の名前に使わせてもらいますね」

 

「良いと思うぞ。名前も揃っていい感じだし」

 

 

 サラが持つ沙羅双樹。駄洒落のつもりはないが、個人的には全然ありだと思う。

 正直、盛者必衰の部分は自分でもどうかと思ったが、気に入ってもらえたのならいいか。

 

 

「ありがとうございます、ボッシュ」

 

「かまわんよ。お主たちも気をつけてな」

 

 

 ボッシュに見送られ小屋を出た俺たちはみんなが待つリーネ広場へ戻り、ルッカのテレポッドがある広場で今後のことについて話し合おうとしていた。

 

 

「……はずなんだが、これは一体どういう状況なんだ?」

 

「ミコト、わからないか? 宴だ!」

 

 

 さも当然と言うようにエイラが手にした瓶を煽る。

 目の前には屋台の料理であろうものがずらりと並んでおり、飲み物も大量に用意されていた。

 

 

「次の戦いがたぶん最後になるんじゃないかって話になったんで、場所の都合もあって揃えてみたんです」

 

「……まあいいか。概ね間違いじゃないし」

 

 

 用意された椅子に腰かけ近くにあった焼きそばに手をつける。明らかにこの世界のものではない料理が並んでいるが、おそらく気にしたら負けだろう。

 

 

「食べながらでいい。俺の話を聞いてくれ」

 

 

 焼きそばを嚥下しながら水でのどを潤し、俺は昨日の考えを口にする。

 

 

「サラの装備を回収したことで、俺が把握している限り回収できる重要な装備やアイテムは全て入手できた。そこで、そろそろ最後の戦いに挑もうと思っている」

 

 

 最後の戦いと聞き、飲み食いしていた手が一斉に止まり俺の言葉の続きを待つ。俺も手にしていたものを一度置き、続ける。

 

 

「行き先は古代の空に浮かぶ黒の夢。ターゲットは最深部にいる女王ジールと、奴が呼び出すラヴォスだ」

 

「……ついに来たか」

 

「…………」

 

 

 近くの柱に寄りかかっていた魔王が呟き、アウルさんのこともあるのかサラが複雑そうな面持ちで話を聞く。他の面々もジールとラヴォスと聞いてどこか強張っているようだ。

 

 

「黒の夢への突入については一つ考えがある。これがうまく行けば、ここにいる全員で攻めることが可能になる」

 

「全員? だが敵は空に浮いていて、シルバードは3人までしか乗れないぞ。お前の……ベースジャバーだったか? あれもそんなに大人数は無理だろ」

 

「問題ない。古代にはあいつもいるからな。協力を要請する」

 

「あいつ? もしかして……」

 

「ダルトンですか?」

 

 

 誰なのかに心当たりがあったマールに続いてルッカが確認するように名前を挙げる。それに対して俺は正解と返し詳細を語る。

 

 

「幸いにも黒の夢は一か所に停滞し続けている。黒鳥号で横付けしてもらって突入し、あとは突き進むだけだ」

 

 

 原作では黒鳥号もダルトンがシルバードに取り付けたレーザーのせいで撃墜されたからな。こういう時こそ使わせてもらおう。

 やり方を聞いて全員納得したのか、突入手段についてはそれで決定した。

 次に挙げるのが敵の戦力と特徴、そして規模だ。

 といっても、少し鬱陶しいのがミュータントとプチラヴォスの強化型で、あとは本当に有象無象でしかない。

 本当に厄介なのはジールから先だが、明らかに原作より多い戦力で殴り込みをかけるので負ける気が全くしない。

 大トリのラヴォスも9段階目までは大丈夫だろうが、問題はその先だ。

 海底神殿で最強モードだったとはいえ、外殻相手に自分が死ぬのを幻視したことがあるだけにまともに向き合えるか少々不安ではある。

 ……あの時とは全く違うんだ。やれる、やってやるさ。

 誰にも聞かれないよう心の中でそう決意し、話の締めにかかる。

 

 

「これが終わったらシルバード組は古代のゲートを解放してくれ。残ったメンバーは時の最果てから解放されたゲートに飛び込んで古代へ移動、そこで俺はシルバードに乗り換えてダルトンに話をつけに行く。 ――俺からは以上だ。あとは好きにしてもらって構わない」

 

 

 そう告げて俺は再び手元の焼きそばに食らいつく。それを皮切りに他のみんなも並べられたものに手をつけ、思い思いに祭りの余韻を楽しむ。

 それを眺めながらふと倉庫の中に放り込んでおいたものを思い出し、それを次々に取り出して並べる。見たことのあるそれに、まずサラが反応した

 

 

「ミコトさん、それって」

 

「ああ、フロニャルドで買ったやつだ。みんな、遠慮せずに食ってくれ」

 

「うわぁー! 美味しそう!」

 

 

 提供された異世界の料理にマールが感嘆の声を上げる。みんなの手が次々と伸ばされ、取り出した料理はあっという間に姿を消した。

 元々確保していた量がそこまで多くなかったのもあるが、クロノやエイラががっつりと食べていったため消費は思った以上に早かった。

 次にこの料理を提供できるとすれば、ラヴォスを倒した後だな。あっちのみんなは、元気でやっているだろうか。

 

 

「……そういえば、ジェノワーズ(あいつら)の言った通りになったな」

 

 

 思い出したのは、あの三人が賭けをしていた内容だ。

 確かジョーヌが俺とサラの中が進展しているにで、ノワールが俺がサラに婚約を決める、ベールが俺とサラが夫婦になっているに賭けていたな。

 今のところ賭けに勝っていると思うのがジョーヌだが、あっちに戻るまでまだ日がある。

 その間に俺とサラが……夫婦になっているという可能性も決してゼロでない。

 実際にそこまでいくのかはまだ分からないが、まあ頭の片隅にでも留めておこう。

 ガレットの地酒を喉に流し込みながら、俺は英気を養うことに専念した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45話「黒の夢 突入編」

 シルバードに乗り込んだクロノたちのおかげでティラン城跡地のゲートと古代の小さな洞窟にあったゲートが時の最果てとつながり、最果てで待機していた尊たちはそれを使って古代へと移動。

 そして残された村で使われている船を一隻借り受け洞窟のある孤島から移り、黒の夢に突入するための足を確保するべくダルトンがいる広場にやってきていた。

 

 

 

「――つまり、あの女王をぶっ飛ばしに行くのに黒鳥号を使いたいってことだな?」

 

「ああ。シルバードでは運ぶ人数に限界があるし、確実に乗り入れるのならあれが確実だ」

 

 

 魔王の言葉を聞いて納得したのか、ダルトンは空に浮かぶ黒の夢を一瞥する。

 

 

「事情はわかった。俺たちとしてもあんなのが一生頭の上にあるってのは気に入らないんでな。足代わりくらいなら協力させてもらうぜ」

 

「ありがとうございます、ダルトン」

 

「しかし、良いんですかい? お二人は実の母親を……」

 

「母が世界の滅亡を促そうと言うのなら、それを阻止するのは子の役目だと思いませんか? それに暴走した母を野放しにさせては、先立った父も悲しみます」

 

 

 サラの言い分に複雑な心境を抱くダルトンだが、止められないと悟ったのか両手を挙げて降参の意を示す。

 

 

「わかりました。俺たちは精いっぱいのサポートをさせていただきますよ……おい!」

 

「ハッ!」

 

「聞いての通りだ。黒鳥号を動かせるように調整しとけ!」

 

「ハッ、直ちに!」

 

 

 控えていた兵士たちが敬礼とともにその場を去り、ダルトンの視線が尊に向けられる。

 

 

「で、突っ込むからには間違いなく勝算はあるんだろうな?」

 

「もちろんです。俺の情報に間違いなければ女王を相手にするまで苦戦するような敵はいませんし、魔神器に対するカウンターもこちらの手にあります」

 

「なら、俺からはもう何も言わねえ。頼んだぜ、お前ら」

 

 

 自信満々に帰ってきた言葉に満足したのか、ダルトンも作業に加わるべくその場を後にした。

 

 

「これであとは準備が整うのを待つだけだが、俺は最後の戦力を呼ぶため一度中世に向かう。誰か一人、シルバードを操縦できる奴がついてきてくれ」

 

「最後の戦力?」

 

 

 頭に疑問符を浮かべるクロノだが、すぐに尊が呼ぼうとしている人物にたどり着く。他のメンバーも同じ結論に至るのだが、同時に気がかりな部分もあった。

 

 

「あいつらを呼ぶのは別にいいが、向こうは大丈夫なのか?」

 

「俺が知ってる本来の内容だったら、元々あいつらはいなかったんだ。それにこれが最後の戦いなら、手札はあるだけだした方がいい」

 

 

 尊の言い分に納得し、クロノがシルバードの操縦を担当することになり二人は一路中世へと向かった。

 

 

「ナルホド。あの時ミコトさんが来たのはこのためでシタカ」

 

 

 一人、別の理由に合点がいったロボはそうつぶやくのだった。

 

 

 

 

 

 

「――全員、準備はいいか?」

 

 

 空を飛ぶ黒鳥号の翼の上で俺はこの場にいる全員に声をかける。

 今この場には最初からいたクロノたちに加え、先ほど中世から連れてきたガイナーたちもいた。

 こいつらには魔法を中心とする後衛メンバーの直掩に当たってもらうだけでなく、いざという時は前線に出て敵を叩く遊撃の役割を担ってもらうつもりだ。

 必要なのかと疑問に感じるかもしれないが、ゲームと違って何が起こるかわからないので対応させる時の手段は多く用意しておきたかった。

 結果として原作の4倍の戦力で攻めることになった今回の黒の夢攻略。負ける気はしないが、油断せずに行こう。

 

 

『カウントダウン、始めるぞ!』

 

 

 黒鳥号の外部スピーカーからダルトンの声が響き、俺たちは目の前に近づく桟橋に意識を集中させる。

 

 

『5!』

 

 

 クロノ、カエル、エイラ、ロボがいつでも動けるように身構える。

 

 

『4!』

 

 

 ルッカと魔王が得物を握り、俺はすぐにサンダガを撃てる準備をしてタイミングを待つ。

 

 

『3!』

 

 

 ガイナーたちがサラたちを守るように展開する。

 

 

『2!』

 

 

 ガイナーたちに守られるサラ、マールが装備を確認し、飛び乗る準備をする。

 

 

『1!』

 

 

 桟橋が近づき、黒鳥号の翼が真横に着く。

 

 

『ゼロ!』

 

「総員、飛び移れ!」

 

 

 俺の声を合図に全員が一斉に桟橋へと飛び移る。同時に侵入者を迎撃するレーザーサイトが起動し、こちらに照準を合わせる。

 

 

「『サンダガ』!」

 

 

 撃たれる前にあらかじめ準備しておいたサンダガを放ち、レーザーサイトを一掃する。他に砲門がないことを確認すると、続いて全員の無事を確認する。

 問題なく跳び移れたことを確認し、最終確認をする。

 

 

「最後の確認だ。まず全員が共通して全状態異常の耐性を徹底すること。これのあるなしで優位性が圧倒的に違うからな。次に陣形。前衛のクロノ、カエル、エイラ、ロボは物理攻撃を中心に頼む。状況に応じて魔法を使う必要があればその都度指示を出すが、基本的には前で自由に戦ってくれ」

 

「わかりました」

 

「中衛の俺と魔王とルッカは攻撃魔法を中心にした援護攻撃を行う。ただ俺は武器の特性上、必要になったら前に出る」

 

 

 この面子においてそんなことはそうそうないと思うが、精神コマンドの恩恵がある以上、ここぞと言う時に前に出て戦うのは決して間違いじゃないはずだ。

 

 

「ガイナーたちは後衛の護衛をしつつ臨機応変に動く遊撃として行動。後衛のサラとマールは回復や補助魔法で全員のサポートを頼む」

 

「「「承知」」」

 

「お任せください」

 

「最後に黒鳥号の中で決まった通り、戦闘の指揮は僭越ながら俺が取らせてもらう。なお、不測の事態に陥った場合はクロノに譲渡する」

 

 

 この攻撃の指揮と言うのは移動中に陣形を決めている際、クロノが提案したものだ。

 敵の情報を知り尽くしている俺が指揮をしてくれるならやりやすいと推薦し、それに全員が同調したことで決定した。

 推薦されたときこそ戸惑いはしたが、たしかにこれだけ人数がいるのに全員が必要以上に動くのはかえって危険だと判断しその任を引き受けた。

 

 

「よし。立ち塞がる敵は突き破り、襲ってくる敵は弾き飛ばす。狙うはラヴォスを狂信するジール唯一人だ。奴を下せばあとはラヴォスしかいない! 行くぞ!」 

 

『おおっ!』

 

 

 唯一の扉を開き、黒の夢に突入する。どことなく海底神殿に似た作りの内部は見上げれば上層へと続く吹き抜けが存在し、多くの通路が区画をつないでいた。

 突入して数分、少し広い場所に出るとともにそれは聞こえた。

 

 

「虫けらどもが! またも、わらわに逆らうつもりか!」

 

「っ! こ、この声は!?」

 

 

 目の前で一条の光がたちのぼり、一人の女性が姿を現す。

 

 

「――ジール!」

 

 

 憎しみをこめて魔王がその名を告げる。ジールは魔王を一瞥すると、視線を俺に合わせた。

 

 

「予言者といいお主といい……。わらわに刃向えば無駄に寿命を縮めると言うことを理解せんとはな」

 

「自分の子供を容易に切り捨てる人間の考えなんて理解したくもないがな」

 

「当たり前だ。ラヴォス神の偉大さを理解しないものなどゴミ同然なのだからな」

 

「母上! ラヴォスは危険なものです! もうこれ以上は……!」

 

「サラ……ラヴォス神に刃向かうならばお主もわらわの敵。もう娘でも何でもない、何処へなりと失せるがよい」

 

 

 娘ではない。

 こういう展開も予想はしていた言葉だがやはり直に言われては堪えるらしく、その言葉にサラは動揺して僅かに体を震わす。そんなこともお構いなしにジールは高々と言葉を紡ぐ。

 

 

「わらわは永遠の命を手に入れた! ラヴォス神とともに永遠に生き続けるのだ! ラヴォス神は地中でゆっくりと星を喰らい力を蓄え、14000年後に星を滅ぼし世界の王となられるのじゃ!」

 

「そんなことはさせない! そのために俺たちはここまで来た!」

 

「滅ぼした世界の王……なんとも滑稽な王だな、ジールよ」

 

 

 クロノが啖呵を切り、カエルがラヴォスを滑稽な王と揶揄するが彼女の笑みは収まらない。

 

 

「フォフォフォ……ラヴォス様に嫉妬する弱者の戯言よの。この黒の夢はラヴォス神へとつながる道……わらわに無限の力を与えてくれる神殿じゃ。お主たちの求める未来なぞこの奥におわすラヴォス神があられる限り望むべくもないわ!」

 

「さっきからラヴォス、ラヴォス、ラヴォス……。そんなものに頼らなければ、お前は何もできないただの人間でしかないんだがな」

 

「……なに?」

 

 

 何もできないただの人間という言葉が気に障ったのか、ジールは睨むようにこちらを見た。

 

 

「実際そうだろ? ラヴォスという信仰対象がいて初めてお前は自分を保てるんだ。狂信的な奴ほど崇めるべき存在を無くしたときの姿は醜いものだ」  

 

「面白いことを言うのぉ……。お主ごときががわらわやラヴォス神を倒せるなどと、本気で思っているのか?」

 

「俺がラヴォスを倒す? お前の方が面白いことを言うな」

 

 

 不敵に笑い、俺は震えているサラを支えながらサテライトエッジを突きつける。

 

 

「俺たちはラヴォスという星に取りついた病原菌を殺しに来たんだ! 腰ぎんちゃくのおばはんなんてただのオマケにすぎないんだよ!」

 

 

ビキィッ!!

 

 俺のおばはん発言にジールの額に青筋が走る。おぉ~、年増の顔がさらにひどくなってもうコワイコワイ。

 

 

「よかろう……最早貴様らを生かしてなどおくものか! 貴様ら全員、ラヴォス神への生贄となるが良い!」

 

 

 ジールが腕を払うとともに奴の背後の空間から巨大な何かがにじむように現れる。

 黒の夢第一のボス、メガミュータントだ。

 

 

「フォフォフォ! 貴様らごときこのメガミュータントの前では――」

 

「クロノ! 魔王! ルッカ! 最大火力発射!」

 

「『シャイニング』!」「『ダークマター』!」「『フレア』!」

 

 

 俺の声を合図に三人が自分の持ちえる最強魔法を叩きこむ!

 メガミュータントは出現と同時に放たれた攻撃を何もできないまま一身にくらい、そのままあとかたもなく消滅することとなった。

 

 

「――こいつの前では、なんだって?」

 

 

 神経を逆なでするような問いかけにジールは醜く表情を歪め、射殺さんとばかりに俺を睨みつける。

 

 

「……フン、少しはやるようだが、あれはわらわの手駒の中でも最弱のものじゃ。それを倒したくらいでいい気になるでないぞ」

 

「はっ、似たり寄ったりの力しかない手駒をいくら嗾けようと結果は同じだ。 それと、これは個人的な話になるんだが……」

 

 

 すっかり震えが収まったサラに一度目をやり、しっかりと抱きよせる。

 

 

「お前がサラをいらないというのなら、遠慮なく頂いてもかまわないな?」

 

「ほう……情でも移ったか?」

 

「いや、いくらさっき親子の縁を切ったとはいえ、未来の旦那として彼女を貰っていいかの最終確認だ」

 

「……なに?」

 

 

 あまりにも場違いな言葉に一瞬呆けるジールだが、その言葉の意味を汲むとジールは心底おかしそうに笑いだす。

 

 

「フォフォフォフォ! お主たちはそういう仲なのか! つまりお主はサラを嫁として迎えると言ってるのだな!?」

 

「ああ。サラは俺のものになる……かまわないな?」

 

「良いだろう! だがどうあがこうとこの黒の夢でラヴォス神の生贄になると言うことを忘れるでないぞ!」

 

 

 そう言い残してフェードアウトして行くジール。さっきのやり取りでサラの装備――アウルさんのローブを纏っているにもかかわらず何の反応も見せなかった様子から、やはりもうあの人のことは頭の中から綺麗になくなっている可能性が非常に高い。

 次に相対するのは最深部に辿り着いてからだから、今度はそこで確かめるとするか。

 サテライトエッジを格納しもう一度サラへと向き直ると、彼女は頬を染めてこちらを見上げていた。……うん、どう考えても最後の啖呵が原因だよな。勢いでいったとはいえ、正直俺も恥ずかしかったのが本音だったりする。

 

 

「……まあ、そういうことだから。必ず生きて帰るぞ」

 

「……はい」

 

 

 自分でこんな空気を作っておいてなんだが、改めて負けられない理由ができた。

 周りを見れば一人を除いて全員が温かい目でこちらを見ていたが、この際無視しよう。

 

 

「流石御館様。このような時でもサラ様のことをお考えになられていたとは」

 

「愛する人のためなら何でもできると聞いたことがあるが、まさかその一端を垣間見ることが叶うとは」

 

「これこそ(おとこ)というものなのだろうな」

 

「貴様が姉上の嫁だなどと、俺は絶対に認めんからな!」

 

 

 ……なんかいろいろ聞こえる上に混乱しているのかおかしなことを口走ってる奴がいるが、それについてはもう終わった後考えるとしよう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第46話「黒の夢 進撃編」

「黄色のデブには天と冥の属性が効かない! サラと魔王のファイガとルッカのフレアで焼き尽くせ! 生き残りは前衛で殲滅して俺とマールは空を飛ぶ敵を中心に狙い撃つぞ!」

 

 

 ジールが引いて先へ進むと同時に多くの魔物が一斉に襲い掛かり、尊が敵の情報を提示しつつ指示を飛ばす。

 普通の視点で見ればとてつもない量に見えるが、それ以上の敵を相手にしてきた尊たちにとってこれはとても手に負えない量でもなかった。

 何より尊が知る状況と比べて4倍の戦力で攻略にかかってる以上、苦戦するのがありえないほどだった。

 

 ――それに最深部のジールやラヴォスを倒せればいいんだから、全部を相手にする必要はまったくないんだけどな……あれ? なんか状況が昔やったゲームに似てるけど、タイトルなんだっけ?

 

 一人そんなことを思いながら精神コマンドの『熱血』を使用した尊がサテライトエッジをブラスターに変形させ、間髪いれずに引き金を引く。青白い閃光が迸り、プチマーリンやデイブを一掃する。

 

 

「ミコト! でかい目玉とちっさい目玉の新手がきたぞ!」

 

「何? ――任せろ! 『勇気』! 『アイスガ』!』

 

 

 カエルの情報を聞いてここにいないはずの敵を認識するなり『加速』と『熱血』、そして『必中』と『直撃』が付与される『勇気』を使い『アイスガ』をさまようものとたゆとうものに向けて放つ。さまようものは一掃されたが、たゆとうものは何事もなかったかのように健在だった。

 

 

「元々属性攻撃が効かない相手に属性攻撃を仕掛けては『直撃』といえど意味を成さないか……。 ――でかい目玉はオールロックを使ってくるからで先に倒せ! 知っているかもしれないが、たとえ使われても本体を潰すか時間が経てばロックは解ける! あと残った小さい目玉にはどの属性攻撃も効かないが、経験値だけはやたらとくれるから出来るだけ倒せ!」

 

 

 同じ技を使ってくるイワンから同じものを受けたときの対策とたゆとうものの特徴を伝え、再び『勇気』を使い今度はツインソードを構えて前に出る。

 回避が高いたゆとうものといえど必ず当たる『必中』の前ではその真価を発揮することも適わず、2体が同時に切り捨てられる。

 

 

「クロ!」

 

「ああ!」

 

 

 クロノとエイラが通路を塞ごうとしているルインゴーレム数体をはやぶさぎりでなぎ払い、血路を開く。

 そのすぐ先に次のエリアへの扉が設置されており、ロボがそれを開くのを見て尊が声を張り上げる。

 

 

「全員扉の向こうへ駆け抜けろ! 殿は俺と遊撃で受け持つ! あとその先では壁も攻撃してくるから注意しろ!」

 

 

 追ってくる敵を圧倒しているガイナーたちに合流し、残敵を『アイスガ』で押し返す。後衛のサラとマールも側面から襲い掛かる敵を同じように対処しながら扉をくぐる。

 ガイナーたちが先へ行ったのを確認し最後とばかりに『熱血』を使った『アイスガ』を放ち、尊も扉を抜ける。

 その先では魔王の『ダークマター』により破壊された壁が並んでおり、床にはウォールの残骸が散らばっていた。

 

 

「フン、温いな」

 

「確かに苦戦はしてないけど、竜の里のときとはまた違った厄介さがあるな」

 

「ここの敵は魔法に対する耐性が強いからな。使う魔法の属性には注意を払う必要がある」

 

 

 魔王とクロノの会話を聞き、尊もそれに同意しながらこの先に現れるであろう敵の情報を話す。

 竜の里を防衛したときはゴールドサウルスとディノファング兄弟を除けば魔法が面白いように通用したが、ここではそれ以上に属性に対して強い耐性がある魔物がひしめいているのだ。それが群れをなして襲ってくれば厄介極まりないのは明らかだった。

 

 

「他に厄介な敵って、どんなのがいるんですか?」

 

「そうだな……さっき出てきた目玉のコンビもそうだが、反撃技にMPバスターを使用するノヘや即死魔法のデスを使用するカズーなんかも厄介だ」

 

「そ、即死魔法!?」

 

 

 非常に物騒な単語が飛び出たことで緊張が走るが、尊は口調を変えずにあっさりと告げる。

 

 

「確かに反撃としては厄介だが、体力的にはそこまで高くない。それこそ、ここにいた壁の敵ウォールより低い」

 

「なんだ。ならば問題ないではないか」

 

「ただノヘに関しては水属性を吸収して冥属性を無効化にするから、倒すならクロノのシャイニングで一掃するのが一番確実だ。だからクロノ、ビジュアル的に気持ち悪い敵を見つけたら迷わず叩き込め。それがノヘとカズーだ」

 

「わかりました」

 

「あと出てくる敵はメタルミューという未来の廃墟にいたミュータントみたいな敵とツインカムという双頭の蛇、ファットビーストというヘケランの色違いとダイゴローという青いゴンザレスだ」

 

「ご、ゴンザレスって……まさか私の!?」

 

 

 心当たりのあるルッカが声をあげ、尊が首肯する。

 ゴンザレスと相対したことのある全員がその姿を思い浮かべ、その一人であるマールがある可能性に気付く。

 

 

「ゴンザレスってことは……やっぱり歌うんですか?」

 

「ああ。国民的ガキ大将のリサイタルばりにひどい歌を歌って全員を混乱させ、ダルトンゴーレムみたいな鉄球を投げつけてくる」

 

 

 国民的ガキ大将というのがなんなのかわからないが、自分の作ったロボットがそんな歌を歌う姿を想像してルッカが頭を抱えた。

 そんな彼女を余所に、別の考察をしている人物がいた。

 

 

「なに歌う? ボボンガか?」

 

「「「流石にそれは違うと思う」」」

 

 

 自分の村に伝わる歌を歌うロボットを想像したのか、若干目を輝かせたエイラの発言に対しボボンガを知る全員が「ないない」と手を振る。

 

 

 

 

 

 

 黒の夢攻略を再開した俺たちはさまようものとたゆとうものがひしめく通路をそのまま突っ切り、メタルミューとプチアーリマンのエリアに到達した。

 さまようものとたゆとうものをスルーしたのはどうあがいてもオールロックを防ぎきらないので倒すのが面倒になるからというのと、その2種類しか敵が出ないからというものだ。

 想像してみて欲しい。そこまで強くないとはいえ目玉しかない敵が周りを囲んでいる光景など、子供が見たら泣いてわめくこと間違いなしだろう。

 要するに、その光景があまりにも不気味だったため戦う気がなくなってしまったのだ。

 レベルを一気に上げる機会を自ら捨てたのは少し痛いかもしれないが、出現ポイントはここだけじゃないんだ。そこで狙っても問題ないはずだ。

 そう結論付けて現在のエリアにいる敵と戦っているわけなのだが――――

 

 

「ダメ。こいつら何もくれない」

 

「やっぱりこの手の連中に色仕掛けは無理があったか?」

 

 

 敵を片付けつつプチアーリマンからエイラの色仕掛けでゴールドピアスをいただけないか試していたのだが、奴らこのナイスバディーに何の反応も示さず攻撃してきやがる。

 この様子ならおそらくラストエリクサーをくれるツインカムも同様だろう。せっかくシルバーピアスからランクアップできるかと思ったが……通用しないなら仕方ないか。

 

 

「生け捕りにして体をまさぐったら何処からか出てこないか?」

 

「アマリ意味を成さないカト」

 

「だよなー……」

 

 

 ドレインを仕掛けようとしていたメタルミューをぶちのめしながらそうつぶやくが、ロボの返答が余りにも的を射ていて思わずため息が出た。

 見た目全裸の敵をまさぐったところでアイテムが出ないのは明らかだ。ならばもうすっぱりとあきらめたほうがいいか。

 残念だと思いつつサテライトエッジをボウモードに切り替え、射抜く。本来ならお宝をくれるはずの標的は光の矢の直撃を受け、消滅した。

 道を塞いでいたメタルミューもサラとルッカ、魔王のファイガを受けて文字通り蒸発し別のエリアへの道が開く。

 先に前衛が道を確保し、続いて後衛、そして中衛と遊撃が先へ進む。中にあった転送装置に乗り込み、さらに別のエリアに移動。海底神殿のものと同じ大型のエレベーターへと出る。

 

 

「ここで現れる敵はデイブとツインカム、ダイゴローの3種類だが他にも現れる可能性がある。後衛を中心にして円陣を組むぞ」

 

 

 後衛を中心に遊撃、中衛、前衛の順に円陣を組みエレベーターを起動させる。それを見計らっていたように上空からデイブとルインゴーレムが出現し、ツインカムとプチアーリマンがなぜかエレベーターの下から現れる。

 出現するはずのダイゴローがいないのが気になるが、出てこないのならそれでいい。

 俺とマール、ルッカでプチアーリマンを中心に狙い撃ち、サラと魔王がファイガでその他の敵を焼き尽くす。そして残った敵を前衛と遊撃が一掃ともはやパターンと化してきた殲滅方法で敵を圧倒していく。

 

 

「! 上空から大型の金属反応がありマス!」 

 

「きたか、ダイゴロー!」

 

 

 金属反応と聞いて真っ先にその敵を思い浮かべると、他の敵を押しつぶしてそれは降り立った。

 全体的に青いボディー、耳をつけたような頭部、特徴的な胴体、そして左手にマイク。確かに俺が知るゴンザレス後継機……もとい、ダイゴローがそこにいた。正し予想外なことといえば――――

 

 

「――――で、デカすぎぃ!!」

 

 

 そう、予想外だったのはその大きさにあった。

 ルッカの話ではゴンザレスが約2メートルほどで、ロボより少し大きい程度。だがこのダイゴローは間違いなく5メートルはあり、見た目だけで十分に威圧感があった。

 

 

「おいミコト! こんなデカ(ブツ)がこの先何体もいるというのか!?」

 

「流石にこのサイズは予想外だけど、そこまで耐久力はないはずだ!」

 

 

 一度頭を冷静にし、腹を開けて鉄球を取り出そうとしたところへ『熱血』を付与したブラスターをお見舞いする。

 脆い内部機構に直撃したためかダイゴローは体制を崩して床の穴へ転落、わずかに間をおいて爆発した。

 

 

「み、ミコトさん……。あれは、あと何回出てくるんですか?」

 

「……最低でも、2回は確実だな」

 

 

 その答えに少し引き気味になるサラだが、自分でもあの大きさの敵をそれだけ相手にしないといけないと思うと、それだけでちょっと憂鬱になってくる……。

 ともかく、あのダイゴローが最後だったのかそれ以降の増援はなく、エレベーターは無事に目的の階へと到達した。

 陣形を戻して先へ進めばまた大量の敵と遭遇し、やはり魔法での一掃からの物理攻撃による残敵掃討という流れへと移行することとなった。

 

 

「それにしても御館様、この要塞は何処まで続いているのでしょうか」

 

 

 ガイナーの質問に記憶を掘り返してみるが、さっきのように途中でエレベーターに乗るから明確な場所までははっきりしなかった。

 

 

「そこまでは俺もわからないが、もう少しで半分の手前ぐらいに到達するはずだ」

 

「何か目印があるのですか?」

 

「そこにつくとアイテムを売ってくれるヌゥと入り口に戻してくれるヌゥがいる。俺はそこを一つの区切りとしてみているな」

 

 

 今思ってもあのヌゥたちはなんでここで商売をしていたのだろうか。昔は海底神殿で逃げそびれたヌゥが脱出を諦めて居座っていたと思ったが、今にして思うと脱出を提案している時点でそれはないな。

 ……まあ、原作公認の謎の生物が考えることは俺にはわからんな。

 そんなことを思いながら共食いを始めたツインカムに向かってサンダガをお見舞いし、飛んできたデイブの顔面にハルバードの刃を叩き込む。

 

 

「ん? なんだこれ」

 

 

 デイブを倒したかと思うと、カランと足元に何かが落ちる。

 透明な瓶に入った液体は無色ではあるが、ほんのりと光を放っていた。

 

 

「おお! エリクサーではありませんか! あの黄色い敵は良いものを落とすのですな」

 

 

 マシューの言葉に思わずへぇ、と声を上げる。

 そういえばここに来るまでエリクサーは一度も見たことがなかったが、こんなものだったとは。

 というか、デイブはさっきから狩りまくってるけどこんなのを落としていたか?

 少し周りを見渡すと、敵を倒した後に出てくるアイテムをしっかりと回収しているクロノたちが目に入った。

 そういうことなら、俺も倒した後は少し念入りに探してみるとするか。

 しかし物欲センサーが働いたのか、その後はアイテムをドロップ出来ないままヌゥがいるエリアへとたどり着く。

 

 

「よし、一息入れよう。クロノ、マール、ルッカ。今のうちにエーテルとポーションの補充を頼む。どうせここで最後なんだ、金の出し惜しみはしない方向で頼む」

 

「わかりました」

 

 

 三人が商品を扱うヌゥに駆け寄るのを見送りながら俺はステータスを開き、自身の状況を確認する。

 フロニャルドから戻ったころに比べたら、レベルもステータスもそのほとんどが倍以上になっている。

 そして使用できる技の欄に新しい精神コマンドが解放されているのに気づき、その効果に目をやるとこれがとてつもない切り札になり得ることが容易に想像できた。

 主な効果としてはダメージ4倍攻撃を2回連続で実行するというものだが、攻撃魔法はMPを2回消費することになり、2回目を放つ時点でMPが足りなければ不発となるとのこと。

 また、熱血と気合の併用は出来ないがブーストアップとの併用で攻撃力をさらに強化させることが可能とある。

 使いようによっては間違いなく化け物じみた火力を発揮する一手となるが、その代償として使用するのに必要なMPが桁違いに高い。シルバーピアスの恩恵をもってしても一回で25も使うのだ。仮にサンダガを使用したとして消費MPの合計は30以上と現在の俺の総MPの約3分の1だ。普通に頭おかしい。

 

 

「雑魚相手にはまず使おうとは思わないが、どこかでテストはしておいた方がいいな」

 

 

 流石の俺もここまでぶっ飛んだ性能の精神コマンドは確認もしないで使おうとは思わないので、この先にいるミュータントかファットビーストにでもくれてやろう。

 さあ、黒の夢もあと半分。このままイレギュラーなく進んでもらいたいところだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第47話「黒の夢 撃滅編」

 ヌゥの部屋でアイテムの補充と束の間の休息を取り攻略を再開した俺たちだが、目の前の敵に少し気が滅入っていた。

 

 

「確かにファットビーストが出てくるポイントだけどさ、なんでダイゴローが随伴してるんだよ……」

 

 

 通路を塞ぐ三つの巨体。特に鋼鉄のボディーを持つ二体はエレベーターで戦ったのと同様とりわけでかく、相手をするのが面倒臭くなること請け合いだ。

 しかもさらに小型の敵もそれなりにいるので鬱陶しさはさらに2割増しである。

 

 

「……まあいいや。 全員、少し下がってくれ。新しい力を試す」

 

 

 当初の予定とは若干違う形になったが、ここまで敵がいるのならむしろ好都合かもしれない。

 新しく得た精神コマンドの効果を確かめるべく、全員の前に出てそれを発動させる。

 

 

「――『覚醒』!」

 

 

 体の奥が急に熱くなり、視界がスローモーションになる。なるほど、使った瞬間はクロックアップしたようになるのか。続けて敵を一掃すべく、全体魔法を唱える。

 

 

「『サンダガ』<サンダガ>!!」

 

 

 サンダガを唱えた瞬間――どういう理屈かは不明だが――俺の声が二重に重なる。おそらくこれが魔法を唱えた場合の連続実行の現象なのだろう。

 4倍の威力を持った二つのサンダガが同時に放たれ、エレクトリッガーを放ったような轟音が響く。

 サンダガなのにクロノのシャイニングのように空間が閃光で包まれ、光が収まった後には何も残ってはいなかった。

 

 

「……ミコトさん、今のは一体……」

 

「俺の新しい力の効果だ。MPをバカみたいに食うけど、ダメージを4倍に押し上げるうえにそれを2回連続で実行するってものだ」

 

 

 その回答に質問したクロノだけでなく、一部を除いた他の面々も信じられないといった様子だった。

 まあ、本来の『覚醒』の効果を知ってる俺からしてもこんな力は信じられなんだけどな。

 ちなみに、その一部を除いた面々はというと――――

 

 

「さすが御館様。新たな高みへとまた一歩進まれましたか」

 

「これは我らも負けてはいられんな」

 

「うむ、予てより訓練してきた連携をお見せする時が来たようだ」

 

「フン、あの程度なら俺と姉上の連携をもってすれば……」

 

「ジャキ、素直にミコトさんの力を認めなさい。私たちでもあそこまでは無理ですよ」

 

 

 家臣たちは新しい技のお披露目を計画し、魔王は対抗意識を持っているようだがサラに現実を突きつけられてどこか悔しそうにしていた。というか、また新しい連携を身につけたってのか俺の家臣たちは。

 気を取り直して攻略を再開すると本来ダイゴローが出てくるはずだった場所ではその姿はなく、エィユーの盾と今までの区画と比べたら比較的小数の敵が詰めているだけだった。

 無論こんなところで苦戦などするはずもなく、道を塞ぐ敵のみを排除してどんどん奥へと突き進む。

 さまようものとたゆとうものが多数いる部屋ではデイブやプチアーリマンもいたが、魔法や技、アイテムが使えない状況では面倒以外の何者でもないので強行突破。

 ブラックサイトとプチアーリマン、そしてファットビーストとダイゴローが出現するエリアも問題なく突破しついにたどり着いたのは――――ゲテモノ出現エリアだ。

 

 

「うわぁ……確かに気持ち悪い」

 

 

 マールの一言に全員が同意し、改めてターゲットを見据える。

 竜の里の洞窟に出てきた紫の奴の色違い――あれがノヘだろう――に加えて、形容しがたい容姿のカズー。

 ビジュアル的にも嫌悪感を抱かざるを得ない敵が広いフロアに散在していた。

 

 

「最短距離で突っ切るぞ。道を塞ぐは容赦なく蹴散らしてくれ」

 

 

 中衛と後衛で『反作用ボム』や『ミックスデルタ』などの連携魔法を多用して雑魚を一掃し、討ちもらしを前衛と遊撃が確実に殲滅する。

 さまようものとたゆとうものについてはオールロックを受けるのが面倒なのでスルーし、カズーとプチアーリマンの群れを新しく考えた四つのアイスガによる連携魔法『アイスエイジ』で始末したところでラストエリクサー(エリクサーと比べ青い光を放っている)の宝箱を発見し回収。

 そうしてゲテモノエリアを突破すると、急に何もない空間へと抜けた。

 確かここは、と思う間もなく空間が歪み、メガミュータントの色違いが出現し通路の先を塞ぐ。ということは、こいつがギガミュータントか。

 

 

「『勇気』。サラ、クロノ、魔王、連携だ」

 

 

 最早お馴染みとなりつつダメージ増加&防御無視の『勇気』を付与しながら指示を出し、作業の如くダメージを強化した『エレクトリッガー』をお見舞いしてやる。

 別に最強魔法で圧殺してもいいが、メガミュータントのときのようにジールに火力を見せ付ける意味もないし、無駄にMPを使うので連携のダメージを強化することで消費量をセーブしておく。

 直撃を受けたギガミュータントは奇声を発したのを最後に霧となって消滅し、塞いだ道を明けた。

 

 

「ものすごいあっさりと倒しましたけど、あれ絶対普通とは違う出来ですよね?」

 

「まあな。あのギガミュータントは物理に対して異様に強く、こちらを一瞬で瀕死の状態に持っていく技を持っていた」

 

「ならばそれを喰らう前にあの一撃で葬れたのは僥倖だった、ということですな」

 

 

 ライフシェイバーを恐れていたわけではないのでマシューの言うように僥倖というわけではないが、一撃で倒せたのは本当に偶然だろう。

 俺の見立てでは――精神コマンドで強化していたとはいえ――あの一発のほかにもう一撃くらいいるだろうと踏んでいた。

 だからあの後マール辺りに魔法を使ってもらおうとしたのだが、結果はあの通り。

 補正が強かったのかあれが本当に弱かったのかはともかく、残る中ボス強雑魚はあと2体だ。距離も近いし、さくさく殺ってしまおう。

 移動しながらHPとMPの回復を図り、ふたつ目のエレベーターの連戦をこなしていく。

 もはや襲ってくる敵で苦戦することなどなく、最後の雑魚ラッシュも連携で難なく突破。

 そして最後のミュータントであるテラミュータントの元へたどり着いたわけなんだが――――

 

 

「お前たちはドラクエ8のトリプルブルーメタルかよ……」

 

 

 目の前でテラミュータントの上半身を滅多切りにしているガイナーたちを見て、思わずキラーマシンのジェットキラーアタックを彷彿していた。

 動きを簡潔に説明するなら三人が同時にクロノのようなみだれぎりを使用し、その動きの速さはまるでヘイストをかけているかのように早い。これでさらにヘイストがかかったらもうトランザムかNT-Dみたいな動きになりそうだ。

 それはそれで見てみたい気もするが、何故か越えてはいけない一線のように感じるので自重しよう。

 ともかく、どうしてこんな状況になったのかといえばテラミュータントの特性を説明したことに起因する。

 下半身は物理も魔法も効き目がないが両方ダメージが通じる上半身さえ仕留めれば問題ないと説明したところ、ガイナーたちがどうしても俺に見せたい技があるということで注意点を把握してもらい、残りは回復などのバックアップへ回ることに。

 攻撃が始まるとまずガイナーが今のような圧倒的疾さで斬撃を繰り出し、彼が終わればマシュー、オルティーと続き最後に今の三人同時攻撃の状況へとなった。

 しかも攻撃を仕掛ける前に彼らの武器の性能が白銀剣くらいしかないとことが判明し、クロノが使っていない自分の刀(朱雀、鬼丸、燕)を提供。これにより一撃が今までとは段違いなものとなり、水を得た魚どころか大海を得た鮫のようにテラミュータントへと喰らいついた。

 

 

「「「――極技・風神ノ舞!!」」」

 

 

 連携の締めなのか、技の名を叫びながらひときわ高く飛び上がると三人が同時に弧を描くかまいたちを放つ。

 テラミュータントは猛攻に耐え切れなかった上半身が消滅し、下半身もそれに釣られるように消滅する。

 

 

「またつまらぬものを斬ってしまった……」

 

 

 鞘に朱雀を収めながらガイナーが以前ネタで教えた某斬鉄剣所有者の言葉を口にする。

 いや、確かに今の俺たちからしたらちょっと強い雑魚と言ってもいいやつだが、仮にもミュータント系最強の敵だったはずだぞ?

 それを一度の連携で撃破……三柱神の異名を垣間見た気がするぞ。

 

 

「クロノ殿。これはすばらしい業物ですな」

 

「こちらの燕など所有しているだけで自身の素早さを底上げしているので非常に行動が楽でした」

 

「あ、ああ。気に入ったならそのまま持ってて構わない。ここでわざわざ武器のグレードを落とす必要もないだろうし……あのかまいたち、俺の知ってるかまいたちと違う……」

 

 

 口の端を引きつらせながら使わなくなった武器を譲ったクロノだが、目の当たりにした技が信じられないらしくレイプ目になっていた。うん、その気持ちはすっごいわかるぞ。

 

 

「……と、ところでミコトさん。母上の元まであとどのくらいですか?」

 

「あー、あとプチラヴォスを強化した個体とウォールを倒せばすぐだ。プチラヴォスの倒し方は殻を無視してひたすら口を叩くだけだが、殻へダメージを与えるのを避けるため出来るだけ物理攻撃で攻める」

 

 

 プチラヴォスの対策については実際に戦ったことのある魔王やマールたちからすれば今更のようだが、初めて対峙するクロノはレイプ目から復帰してうんうんと頷いていた。

 一方。プチラヴォスと聞いてサラの表情が若干険しいものとなった。おそらく、フロニャルドの出来事を思い出したのだろう。

 

 

「まあ強化してある個体といっても、俺が知っている状況と比べればはるかに戦力が充実しているんだ。負ける要素がない……一気呵成でケリをつけるぞ」

 

「そうなればいよいよ、ということか……」

 

 

 ジールが近いことを想像しているのだろうか、魔王は口に手を当ててなにか考えるような仕草をする。それに釣られたのか、サラもなにかを考えるような表情をしていた。

 

 

「ミコト。ジールが目と鼻の先というのなら、先に奴の情報を教えてくれないか?」

 

「了解だ」

 

 

 カエルの提案を受け入れ、ジール戦における注意点と対策を記憶から掘り返す。

 

 

「まずジールとは2回戦うだろう。その一回目では敵を一瞬にして瀕死に追い込むハレーションという技を使い、MPを吸収するデスキッスとエネルギーボールによる物理攻撃しかやってこない」

 

「え? たったそれだけなんですか?」

 

「この時点で奴はまだ本気を出していないからな。手抜きであることを考えればむしろ妥当だ。で、魔神器との戦いをはさんだ二回戦では本気モードとして顔と手だけになって襲ってくる」

 

「顔と手だけ……想像できまセンネ」

 

 

 ロボがシミュレートを試みたようだが、うまく反映できなかったようだ。

 まあ、あれは実際に見てみないと状況がわからんな。

 

 

「第2形態も両手を無視して顔を集中攻撃すれば問題ない。注意する技については移動しながら説明するとして、まずはプチラヴォスを狩りに行くか」

 

 

 一先ず目先のボスを倒すという目標を掲げ、俺たちは先へと進むことにした。

 黒の夢の残敵もあとわずか……ここが正念場だ。

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 

 クロノのみだれぎりが炸裂し、プチラヴォスRは断末魔の叫びを上げると霧となって消滅する。

 普通の個体と比べて大幅に強化されているとはいえ、やはり殻を無視すれば苦戦するような相手ではなく、結果大きなダメージをもらうこともなく勝利した。

 原作だと色仕掛けでプロテクトメットやヘイストメットが手に入ったんだが、ダブル色仕掛けを使っても何も得ることはなかったところを見るとやはり色仕掛けは万能ではないみたいだ。

 

 

「まあ、手に入らないのならそれでいいか。 さて、俺の知っている通りならこの先にいるウォール5体を倒せばすぐにジールが待っている」

 

「女王を守る最後の壁があれとは……。あのプチラヴォスで仕留められると思っていたのか?」

 

 

 ここまで散々破壊してきた壁が最後の障害と聞き、カエルが呆れた風につぶやく。まあ、わからんでもないがな。それこそこのプチラヴォスが最後の壁としては適役だったはずだし。

 しかも原作ではセーブポイントを出すウォールだが、そんなシステムが存在しないこの世界では余計に存在価値がない。そう考えると、なんかものすごい哀れだ……。

 そんな考察をしながら件のウォールを破壊し、一本道の回廊を抜けて最後の扉を開ける。

 

 

「こ、これは……」

 

 

 誰からともなく声が上がり、全員が部屋に浮かぶそれを見渡す。

 シリンダーのような光に浮かべられて眠る俺たち。いずれも悲しそうな表情をし、中には苦悶の表情を浮かべているものもあった。

 

 

「ククク……。そこに眠っているのは、お前たちの未来だ」

 

 

 声がする方へ目をやると、全壊とも言えるほど損傷した魔神器の元にジールが姿を現す。

 ジールは祭壇の上からこちらを見下ろし、愉悦の表情で続ける。

 

 

「これからかなうかもしれぬ夢、得られるかもしれぬ喜び悲しみ……お前たちの明日そのものなのだ!」

 

「これが、私たちの未来ですって!?」

 

「そうだ。この黒の夢はあらゆる時間、次元を越えてラヴォス様が目覚めるその時を待ちながらゆっくりと時の針を進め、いつか必ずここにたどり着く。そう、お前たちに未来などないのだ!」

 

「……で、話はそれだけか?」

 

 

 高らかに告げられた言葉に魔王がそう返すと、クロノが一歩前に出る。

 

 

「こんなのが俺たちの未来だって言うなら、お前とラヴォスを倒して変えてやる!」

 

「ククク……。一度ラヴォス神に敗れた者共に、そのようなことが出来るとでも?」

 

 

 侮蔑を含んだ嘲笑。確かに海底神殿でラヴォスには大敗を喫した……しかし、この場の誰もがそれを笑い飛ばすかのように声を上げる。

 

 

「出来る! エイラたち、もう負けない!」

 

「あのときの私たちと同じだと思ったら、痛い目見るんだから!」

 

「そうそう、あんたの妄想に付き合ってあげるほど暇じゃないのよ!」

 

「敗北は成長のための糧だ。あの敗北があったからこそ、俺たちはさらに強くなれた!」

 

「人の可能性ハコンピューターでも予測できマセン。アナタが示した未来を回避する可能性も十分にあるのデス!」

 

「然り! ただの魔物であった我らがここまで強くなれたのも御館様たちに出会ったからこそ!」

 

「絶望的な未来が待つというのであれば、この出会いという奇跡で変えてみせよう!」

 

「願いは想いとなり、想いは力となる! そしてここにいる者全員が、それを具現化する力を持っている!」

 

「必ずとめてみせます! 母上もラヴォスも、この星と未来のために!」

 

「さあ行くぜジール! お前が相手にするのは、星の運命を背負った最強の戦士たちだ!」

 

「よかろう! 来い、人の子よ! わらわがいざなってやろう……ラヴォス様の眠りの中へ、永遠の黒き夢に!!」

 

 

 星の未来を決める決戦の戦端が、ここに開かれた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第48話「VS ジール&魔神器」

推奨BGM:Rebellion~反逆の戦士達~


「受けよ! 『ハレーション』!」

 

 

 開戦と同時にジールがいきなり全員のHPを1にする技ハレーションを使用する。ジールを中心に虹色の波動が放たれ、尊たちの体力は一気に瀕死までなくなった。

 だがこれも、尊にとって想定内のことだ。

 

 

「サラ!」

 

「は、はい!」

 

 

 声をかけながら体に力を込め、同じ魔法を同時に打ち上げる。

 

 

『『ケアルガ!』』

 

 

 二つのケアルガが頭上で衝突し、弾けると共に尊たちの体へ降り注ぐ。

 連携技の『ダブルケアルガ』は瀕死の体に絶大な効力を発揮し、死に際から一転して開戦前と同じ状態へと戻す。

 

 

「小賢しい! ならばもう一度――」

 

「前衛総攻撃! 中衛は前衛を、遊撃は後衛を援護! 後衛はハレーションに備えていつでもダブルケアルガを使えるように待機!」

 

 

 再びハレーションが放たれるのを防ぐべく一気に指示を出し、尊も射撃でジールの動きを牽制する。

 前衛4人はジールの前後左右を囲い、中衛の邪魔にならないようヒットアンドアウェイか一歩離れた位置からの攻撃を仕掛ける。中衛も前衛に攻撃を当てないよう注意を払いながら牽制、あるいは直撃を狙っていく。

 

 

「ちぃ! 味なマネを……ならば、『アイスガ』!」

 

 

 前衛のクロノたちをアイスガで蹴散らし、距離をとって再びハレーションを唱えようとする。

 

 

「やらせない!」

 

「いっけえ!」

 

 

 ルッカとマールが遠距離から狙い撃ちジールの行動を中断させ、前衛が立て直している間にハルバードを手にした尊と絶望の鎌を構えた魔王が距離を詰める。

 

 

「『ファイガ』! 『サンダガ』!」

 

 

 二つの魔法が連続して唱えられ、接近していた二人が弾き飛ばされる。装備している防具のおかげで魔法によるダメージはさほど強くはないが、距離をとられるには十分な威力があった。

 

 ――俺が知ってる技以外を使ってきたのは正直予想外だったが、あの二人の親なら別に使ってきてもなんらおかしくはない話だ。

 

 

「これは早めに倒したほうがいいな……『勇気』! 喰らえッ!」

 

 

 他にも知っているものとは違う行動をするのではないかと警戒を高めつつ、尊は体制を整えながら『勇気』で攻撃を強化し、ハルバードからブラスターに変形させてエネルギーを解放する。

 必ず命中しどんな強力な障壁も意味を成さず、威力が三倍に強化された一撃がジールに直撃し、お返しのようにその体を弾き飛ばす。

 

 

「今だ! 集中砲火!」

 

 

 尊の号令と共に反応できる全員が一斉に攻撃を開始する。

 マールとルッカによる『反作用ボム3』から始まり、サラの『コキュートス』と魔王の『ダークマター』が直撃。追撃にロボの『マシンガンパンチ』とエイラの『三段蹴り』、そしてガイナーたちの連携『三位一体』が炸裂した。

 

 

「ぐぅぅ! な、なんだこの手際の良さは!?」

 

「どうしたどうした! ご自慢の神様が無限の力をくれたんじゃないのか!? クロノ、カエル! 連携行くぞ!」

 

「はい!」「おう!」

 

 

 煽りながら『アイスガ』の準備をしている尊の意図を察し、二人が連携を繋げる。

 まずクロノがカエルの上に乗りそれをカエルがジャンプ斬りの要領で一気に跳ばし、クロノが全力切りの姿勢に入ったところへ尊の『アイスガ』が彼の持つ『虹』の刀身へと放たれる。

 

 

「くらええぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 クロノの雄叫びと共に振り下ろされた刀身がジールを切り裂きながら一瞬凍らせ、同時にカエルのグランドリオンがX字になるように切り抜けられる。

 三人技『アークインパルス』。本来なら尊ではなくマールと行われる連携技だが威力に大きな違いはなく、ジールはその攻撃で大きく足元がふらついた。

 そこへトドメとばかりに、尊が追撃を仕掛けていた。

 

 

「き、貴様!?」

 

「出来ればこれでもう起きないでくれ……後が楽だからなッ!」

 

 

 サテライトエッジのツインソードで舞うように切り刻み、切り抜けると同時にハルバードへと切り替え下から切り上げる。

 浮いた体にザンバーを突き刺しシールドに変形させて手元へ引き寄せ、さらに形状をブラスターへと変形させて零距離照射。そして離れたところでボウに変形させ狙いを定める。

 

 

「とっておきだ! 受け取れぇ!」

 

 

 射線が重なると同時に最後の一撃が放たれ、光の矢は寸分違わずジールを貫いた。

 

 

「ぐああああ!!」

 

 

 弾き飛ばされたジールはそのまま魔神器の上に落下するが、まだ起き上がるだけの体力は残あるらしくよろよろと立ち上がる。

 

 

「く、ここでは力が出せんか……」

 

「うそ!? あれだけ攻撃されたのにまだ動けるの!?」

 

「ラヴォスから力をもらったってのは、伊達じゃないってことね」

 

 

 あれほどの猛攻を受けたにもかかわらず起き上がるジールにマールが信じられないと言った風に声を挙げる。

 一方のジールは魔神器に寄りかかり体を支えていると、何かを思いつたかのように笑みを浮かべる。

 

 

「ククク……良いことを思いついた。キサマらを魔神器に取り込んでくれる」

 

「魔神器に取り込むですって?」

 

 

 ルッカの問いに何も答えず、笑みを浮かべたままジールは腕を掲げる。

 

 

「光栄に思うがいい! この船の一部になれることを! この私の一部になれることを!! ラヴォス様の一部になれることを!!!」

 

 

 魔神器の上に飛び乗るとともに、掲げられた腕が振り下ろされる。魔神器を中心に空間が歪み、小規模なゲートが尊たちを呑みこむと彼らの体は黒の夢とは別の空間へと吐きだされた。

 

 

「こ、ここは……」

 

「位置情報がエラー……どうやら別の次元に落とされたようデスネ」

 

「! 来る……!」

 

 

 一番初めに警戒した魔王の言葉に反応するかのように、尊たちの前に銀色の巨体が姿を現した。

 魔神器。黒の夢で損傷していたそれとは色こそ違えど、かつての姿と同じものであった。

 現れたそれを見て、尊は不敵に笑いながら呟く。

 

 

「――さあ、第2ラウンドだ」

 

 

 

 

 

 

 今の段階で物理攻撃を与えれば防御力が上昇、魔法攻撃を行えば魔力が上昇。

 確実に叩いて行くならエネルギーが放出された後での一斉攻撃だな。一応、グランドリオンが通じるから先に攻撃をしていてもらってもいいんだが、ダメージ効率はそこまで高くないんだよな……技や連携絡めると防御力とか上がるし。

 ゲームだったらそんなのもガン無視して魔法とか連打しまくったし、『勇気』があるから上昇した防御力も無視できるだろうけど、反動の威力がどれくらいかわからない以上慎重にいくとしよう。

 

 

「まずは体力とMPの回復だ。クロノ、ラストエリクサーはどれくらいある?」

 

「えっと……5個くらい、ですね」

 

「俺のと合わせて7か……なら、魔法でHPを回復した後MPをエーテルで回復するとしよう」

 

 

 サラと連携技の『ダブルケアルガ』を使い全員の体力を回復させ、手持ちのハイエーテルやミドルエーテルでMPも8割ほど回復させる。

 

 

「さて。まずこいつの攻略についてだが、今は何もしない」

 

「む? こちらから攻めぬのですか?」

 

「今のあいつは何もしてこないし、こっちから攻撃したら物理攻撃だと防御力が上がってダメージが通りにくくなるし、魔法だと受けた魔力を吸収してこちらに放出してくる。ただ一度放出させてしまえばまた放出に必要なエネルギーを変換させるまでポイントフレアと言う火属性の攻撃しかしてこない」

 

「なるほど。一度放出させてから、またエネルギーを貯めるまでの間に倒してしまおうと言うわけですね?」

 

「そういうことだ。唯一の例外として、あれと同じ赤い石で造られたグランドリオンなら普通にダメージを与えることができる。が、グランドリオンによる普通の攻撃でしか効果を発揮しない」

 

 

 俺の説明に何人かが要領を得ないといった表情を浮かべたのを見て、補足を加える。

 

 

「つまりだ、ジャンプぎりとかの単体特技や連携技では防御力が上がったり魔力が上昇したりするんだ」

 

「本当にただ普通の攻撃しか効かんと言うわけか……俺は別にかまわんぞ。少しでもダメージが通るならやるべきだ」

 

 

 手にしたグランドリオンを持ち上げて見せ名乗りを上げるカエル。確かに早く決着をつけようと言うのなら、少しでも攻撃を加えておいた方が得策だろう。いくらダメージ効率が悪くても、だ。

 

 

「なら頼んだ。ただ、エネルギー放出の前兆とかは全くわからないからそこだけ注意してくれ。それと、グランドリオンで攻撃すれば相手のエネルギーを吸収してわずかだが回復することができる」

 

「了解だ。 では、行ってくる」

 

 

 そう告げてカエルはグランドリオンを構え、真っ直ぐに魔神器へと斬りかかった。

 俺たちはこの後の行動に備え『ヘイスト』と『プロテクト』、『マジックバリア』を全員に付与してその時を待つ。それから一分ほどしたところで、魔神器からキィィンっと甲高い音が響きだす。何の予兆なのかは、すぐにわかった。

 

 

「くるぞ! 後退しろカエル!」

 

 

 沈黙を保っていた魔神器の初めての異変からエネルギー放出の可能性を感じ取り、後退の指示を出す。

 甲高い音が徐々に大きくなり、あたりから無数に光の柱がたちのぼり俺たちを包み込む。電撃のような衝撃が体を焼くが、その威力は非常に弱いものだった。

 

 

「いてて……やっぱり、何もさせなかったら大したことないな。――みんな」

 

 

 まだ痛む箇所をパンパンと払い、口角を吊り上げる。

 ここから先は、やりたい放題だ。

 

 

「スクラップにしてやろうぜ」

 

 

 そこからは当事者ながら目を覆いたくなるような数の暴力による攻撃の嵐。

 その結果ポイントフレアが放たれるより早く、魔神器は崩壊とともに消滅していった。

 

 

 

 

 

 

「なんともまぁ……あっさりと終わったな」

 

 

 武器を収めながら崩壊していく魔神器を眺めカエルが呟く。ジールが圧倒的な自信を持って行った策も、反則的要因である尊がいたために木偶人形同然の最後を迎えることとなった。

 

 

「ところで、どうやってここから出るんですか?」

 

「魔神器が消滅した今、この空間も自然に消滅するでしょう。出てくる場所は、おそらく先ほど母上と戦った場所でしょう」

 

「いや、出る場所はそこじゃない」

 

 

 サラの予想した場所を否定し、尊は知識として把握している場所を思い浮かべる。

 

 

「俺たちはこれから黒の夢の頂上、屋外フィールドとも呼べる場所だ」

 

「――! マ、待ってくだサイ! 黒の夢の頂上はおそらく成層圏界面のギリギリ……人間が活動できるであろう限界の高度に位置していマス! 屋外の戦いとなるとワタシはともかく皆さんが……!」

 

「……あ」

 

 

 ロボの指摘を受けて尊は現実的な戦闘条件にようやく気付く。

 彼の記憶では次の戦場は宇宙が近く、地球の丸さがよくわかるほど高い場所だ。尊自身詳しい知識を持っている訳ではないが、上空に向かえば向かうほど気温は低くなり、成層圏から中間圏に向かうほど気温は上昇して行くようになっている。

 それでも成層圏界面のギリギリは摂氏3度ほどで、生身の人間が軽装で動くには非常によろしくない気温だ。

 

 

「……短期決戦でカタをつけよう。ジールの頭を集中攻撃すればそれで終わる――ちっ、厚着をする暇さえ与えてくれなかったか」

 

 

 最も早く終わると思われる戦い方を決めたのと、空間が再び歪んだのはほとんど同時だった。

 この空間に来た時とは違い、落ちるような浮遊感を全身に受けながら体がゲートに呑まれる。

 わずかな時間をおいて、彼らの体がどこかに降り立つ。機械の駆動音が響くそこは徐々に明るくなり、尊が知る風景と同じ場所となった。

 

 

「……どういう理屈かわからないが、温度は大丈夫そうだな」

 

 

 懸念していた気温の問題が解消されひとまず安堵すると、当たりの装置から青い光が昇り一点へと集中する。

 何事かと全員が構えたところで、憤怒の表情をした傷だらけのジールが姿を現した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第49話「VS ジール」

推奨BGM:魔王決戦


 先の戦闘でボロボロとなっているにもかかわらず、ジールの瞳はさらに狂気に染まって継戦の意思を顕わにしていた。

 

 

「虫ケラどもが……。わらわは、ラヴォス神とともに永遠にこの世を支配する女王なるぞ。そのわらわに逆らおうと言うのか」

 

 

 完膚なきまでやられたにもかかわらずなおこの世の女王を自負する彼女を見て、魔王は哀れみを込めて口を開く。

 

 

「愚かな……。全ての存在は、滅びの宿命から逃れることは出来ぬ……」

 

「この杖と同じ名前の花に、盛者必衰という言葉があるそうです。どれほど強大な力を得ようとも、いつか必ず衰えるときが来ます。永遠の力なんて、この世の何処にも存在しないのです」

 

「黙れっ! ラヴォス神は死に抗えぬ有象無象とは違い絶対にして完全なる存在! 滅びも衰退もないのだ!」

 

「死を受け入れた父上は最後の時まで自分の生き様に誇りを持とうとしました! 母上は、そんな父上の意思も否定するのですか!?」

 

「黙れ黙れ黙れぇ! あのような男とわらわを同じにするな! わらわは死なぬ! ラヴォス神の御加護がある限りな!」

 

 

 かつて愛したはずの男の存在すらジールは否定する。

 もはやそこにかつての母親としての姿などなく、邪神に心を奪われた狂信者の醜い姿のみが残っていた。

 ここまできたらもう手遅れだと悟り、サラは一度顔を伏せると決意をこめてジールを睨む。

 

 

「母上……。もう私たちの声も想いも届かないと言うのなら、父上の望みを酌んであなたを倒します!」

 

「ラヴォスに魅入られた悲しき女よ。せめてもの情けだ……一思いに楽にしてやるぞ!」

 

「呪われし予言者よ…そなたが海底神殿で犯した罪、わらわは忘れてはおらぬぞ。そしてわらわに屈辱的な傷を負わせたそこの優男よ! 貴様らだけは楽には死なさぬ! わらわに楯突いたことを後悔するがいい!!」

 

 

 魔王に続いて尊にそう宣言したジールが光に包まれ、やがて巨大な顔と手となって姿を現した。

 不気味な見た目に違わず溢れる魔力からは背筋が冷えそうな冷たさが感じられるが、尊はさもどうでもよさそうに口を開く。

 

 

「で、言いたいことはそれだけか?」

 

「なに?」

 

「楽には殺さない? 楯突いたことを後悔しろ? 三下のセリフ過ぎて笑いも込みあがらないな……さて、思い残すことはないか? 神様へのお祈りは済ませたか? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする準備はOK?」

 

 

 涼しい顔で繰り出される挑発行為にジールの顔は忌々しく歪み、視線だけで殺せそうな目で尊を睨みつける。

 

 

「貴様、何処までわらわを馬鹿にするつもりだ!?」

 

「何処まで? 何処までもだよ。あんたが俺たちを見下して虫ケラ呼ばわりするように、俺はあんたを脅威にすら感じていないんだからな。恐れるに足りない相手を馬鹿にするなんて、よくあることだろ?」

 

 

 その一言が引き金となったのか、ジールの中で何かがキレた。

 

 

「殺す!!」

 

 

 右手からレーザーが、左手から怪光線が繰り出され尊に直撃し、ジール本体からヘブンゲートが放たれ光の柱が立ち上り尊を飲み込む。

 さらに水属性のヘキサゴンミストにより、虹色の光彩を放つ六芒星が全員へと襲い掛かった。

 

 

「おい! 今のはちょっと痛かったぞ!」

 

「イキマス!」

 

 

 クロノの抗議に続いてロボがマシンガンパンチをジール本体に向けて放つが、それを両手が遮り直撃を回避する。

 ダメージを受けた右手が反撃の動作に入り、ロボを滅多打ちにし始める。ひときわ大きな爆発が起こると同時に右手が下がると、そこには瀕死のロボが残されていた。

 すかさず尊が『ケアルガ』を唱え回復させ、声を張り上げる。

 

 

「両手の反撃に注意しろ! 右手はライフシェイバーで今みたいに瀕死の状態に落とし込み、左手はMPバスターを仕掛けてくるぞ!」

 

「厄介な……。『ダークボム』!」

 

 

 悪態を付きながら魔王がジール本体に魔法を唱え、ルッカとエイラの連携技『炎3段蹴り』が追撃を仕掛ける。

 ダークボムこそうまく本体に直撃したが、連携技は左手に防がれた挙句エイラは反撃のMPバスターを受ける結果となった。

 

 

「吹き飛べ! 『ダークギアー』!」

 

 

 ジールの攻撃は続き、二つの黒い三角形が尊たちの頭上で衝突すると爆炎になって降り注ぐ。

 ヘキサゴンミストには及ばないものの、このダークギアーも魔法防御が低いメンバーにとっては結構なダメージを与えた。

 

 

「ちぃ! 『勇気』! くらえっ!」

 

 

 特殊効果を付与したボウで本体を狙い撃つ尊だが、予想外の状況に若干焦っていた。

 

 ――両手が邪魔すぎる! 『必中』がある『勇気』のおかげで俺はまだまともに攻撃できるが、普通に攻撃しようにもなかなかダメージが通らない!

 

 『サンダー』や『アイス』など単体にダメージを与える下位魔法なら本体にダメージを与えられるがそれも大したものではなく、物理的要因を伴う攻撃はかなりの確率で両手に阻まれる上に反撃を食らう。

 この反撃がまた厄介極まりなく、ロボやエイラといった全体攻撃をしないで直接ダメージを与えるしかないメンバーにとって、あの両手は鬼門に等しかった。

 しかも背後や下から攻撃しようにもジールがいるのは足場のない空中で、死角からの攻撃に対して非常に強い位置にいた。尊の輝力武装であるベースジャバーで接近できればいいのだが、一撃でももらえば消滅して地上まで真っ逆さまとなるので選択肢にはない。

 一応、接近して攻撃した際は顔や手を足場にして戻ることができるのだが、本命にダメージを与えられないので接近しようとする者はいなかった。

 

 ――このままじゃ埒が明かないが……明確な対策が思いつかないな――て言うかレーザーとかヘブンゲートとかやたらと俺に集中してないか!? 思い当たる節はあるけどさ!

 

 少ないダメージも積もれば大きなダメージとなるように、ジールの集中攻撃は確実に尊の体力を削っていた。幸い後衛による『ダブルケアルガ』のおかげでピンチには至らないが、回復した側からダメージを受けるので状況はイタチごっこと言ってもよかった。

 

 

「エイラ、怒った!」

 

 

 尊が状況をどう打破するべきか考えていたところへそんな声が響き、両手に阻まれてロクに攻撃ができなかったエイラが持ち前の身体能力を生かして一気に接近する。

 無論ジールも手をこまねいているはずもなく、接近を許すまいと怪光線やヘブンゲートが飛来する。

 しかしエイラがそれらを器用に避けると、動揺したかのように手の動きが一瞬鈍る。

 

 

「ウラァ――――ッ!!」

 

 

 数瞬遅れて壁のようにふさがる手をすり抜けるとその手を足場にし、雄たけびと共にジールの顔へ跳び蹴りが放たれる。

 文句のつけようもないクリーンヒットにジールの顔が歪み反撃に移ろうとするが、既にエイラはクロノたちの元へ離脱し始めていた。

 

 

「おぉー…さすが野生児、一瞬の隙を突いてあんな芸当をやってのけるのか」

 

 

 くるくると回転しながら戻ってきたエイラを見て思わず呟くクロノに「まったくだ」と尊が同意すると、彼の頭でふと一つの策が思いついた。

 ただしそれは諸刃の剣とも呼べるもので、誰かが割を食わないと成功しない策だった。

 

 

「……こういう場合、発案者がその役を引き受けるもんだよな――サラ」

 

「なんですか? ミコトさん」

 

「一つサポートを頼みたい」 

 

 

 

 

 

 

「……本当に、そうするつもりですか?」

 

 

 尊の策を聞いたサラは、信じられないと言った風に聞き返す。だが尊の返事に変わりはなく、彼は問題ないと告げる。

 

 

「MPの消費が少ないサラだからこそできる策なんだ。頼む、危険は承知だが、現状を打破するにはこれが最善だと思うんだ」

 

 

 先ほど聞かされた内容を思い返してみるが、確かにこれは現状を打破するには最善かもしれない。だがその反面、尊にとっては綱渡りも同然の戦法でもあった。

 愛する人を危険に晒すことになるが、勝利のためにこの作戦が必要と言う葛藤の末、サラは決断する。

 

 

「わかりました。ミコトさんの命、私が預かります」

 

「ありがとう。 ――じゃ、早速やるか!」

 

 

 気合を入れて手にしたサテライトエッジをボウモードに切り替えて素早く2回射る。

 放たれた矢の先は――――ジールの両手へと突き刺さった。

 

 

「愚か者が! わらわの手はラヴォス神の御力によって圧倒的な強さを誇っておるのだぞ!」

 

 

 尊の行動を嘲笑いながら反撃のライフシェイバーとMPバスターを放つ。

 それとほぼ同時に、彼の口から指示が飛び出る。

 

 

「今だ! 本体に総攻撃開始!」

 

 

 直後に両手からの攻撃を受け苦悶の表情を浮かべるが、指示とその意図を察したクロノたちは尊に群がる手を無視してジールの本体へと攻撃を開始した。

 尊が考えた現状での最善策、それは自身が両手を引きつけて反撃を受けている間に残りのメンバーが本体へ直接攻撃を仕掛けると言うものだ。

 ジールの反撃はオートで行われているため一度起こした動作が終了するまで行動ができず、尊はそれを利用して隙を作るようにした。

 そしてライフシェイバーの対策として用意したのが、最愛の女性に頼んだサポートだ。

 

 

「『ケアルガ』!」

 

 

 サラが唱えた『ケアルガ』により瀕死同然だった尊の体に活力が戻り、表情に笑みが浮かぶ。

 これが彼の考えた策の全貌。自身を餌として両手を釣り、そばにサラを置くことでダメージを気にせず敵の守りを引き剥がす。

 MPに関しては完全に捨てる方向で行っているため精神コマンドや魔法が使えないが、両手を完全に引き付けるためなら安いものだ。

 

 

「肉を切らせて骨を絶つ……一歩間違えれば即死同然だが、サラがいる以上それはありえない!」

 

 

 回復と同時にまた両手を射抜くという動作を繰り返すことで、ジールの守りは丸裸となっていた。

 

 

「小賢しいマネを! ならばライフシェイバーが当たった直後にヘキサゴンミストでトドメを――」

 

「させない!!」

 

 

 クロノとマールによる『アイスガソード』がジールの行動を妨げる。続けてルッカとロボの『ファイガタックル』にカエルとエイラの『あぐら落ち斬り』、ガイナーたちの『風神ノ舞』が炸裂する。

 

 

「ミコトさんが危険を犯してまでくれたこの隙、絶対に無駄にはしない!」

 

「虫ケラどもが、わらわの邪魔をするな!」

 

「戯け、貴様を抑えねば姉上にまで被害が出るのだ。いくらでも邪魔してやるに決まっているだろう――『ダークマター』!」

 

 

 ジールの懐に飛び込んだ魔王がほぼゼロ距離で『ダークマター』をお見舞いすると、ジールの本体が大きく仰け反る。

 

 

「これで眠るがいい! ジール!!」

 

 

ヒュカァァンッ!!

 

 魔王の持つ『絶望の鎌』が縦に振りぬかれ、ジールの顔が真っ二つに割れる。

 顔の崩壊と共に尊を攻め立てていた両手も消滅し、最後には元の姿に戻ったジールだけが残った。

 

 

「ム、虫ケラの分際でこのわらわを追い詰めるとは……!」

 

「母上! これでお仕舞いです! もうこれ以上は――」

 

「黙れサラ! ――ラヴォス神よ! その御力をわらわに!!」

 

 

 この期に及んでなおもラヴォスに縋るジール。

 狂信者の言葉に応じたのか、黒の夢の遥か下からどす黒い力が溢れだしその一部が霧となってジールにまとわりはじめる。

 霧に包まれたジールは恍惚とした笑みを浮かべ、体を震わせる。

 

 

「フフフ……、ハハハ……、フハハハハハハハ!!」

 

「何が可笑しい、ジール!」

 

「勝ったと思ってるんだよ――ラヴォスが出てくるからな」

 

「その通りだ!」

 

 

 尊の言葉を声高に肯定するのとほぼ同時にジールの体がボロボロと崩れ始める。

 その光景に何人かが息をのむが、当の本人はかまわず狂笑を挙げながら叫ぶ。

 

 

「ついにラヴォス神が御目覚めになる! キサマたち虫ケラなぞラヴォス神の前では赤子同然! わらわはラヴォス神とともに永遠の生命を手にすることとしよう! 覚悟するがいい……ラヴォス神と一つになったわらわが、キサマたちに絶望を与えるということを! クッククク……クァハハハハハハ…………!!」

 

 

 その笑いを最後にジールは背後に現れたゲートに呑まれて消滅し、黒の夢が激しく振動を始める。

 

 

「な、何が起こるの!?」

 

「黒の夢が崩壊してゲートに飲み込まれていマス! こ、このゲート反応は……!?」

 

 

 ロボが解析を進める間もゲートは黒の夢を呑みこむ範囲を広げ、頂上にいた尊たちも巻き込まれるといつの間にか魔神器と戦ったような場所へと導かれる。

 すると今度は地鳴りが発生し、海の底が割れると共にソレが姿を現した。

 無数の刺を生やした巨大な殻。目とも口ともとれる頭部。

 クロノを消滅させ、尊に自分の死を幻視させたこの星に巣くう生命体。

 

 

「――ラヴォス」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第50話「VS ラヴォス①」

推奨BGM:ラヴォスのテーマ


 ついにここまで来た。

 このクロノトリガー(世界)に置ける最後の敵。

 星を喰らい、進化を我がものにして用が済めば星を殺して去っていく寄生虫のような生命体。

 その第1ラウンドだ。

 

 

「さて、こいつは今から今まで倒してきた敵の中から弱い順に9段階に分けて強くなっていく。俺の記憶通りならガルディア城のドラゴン戦車から――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッ!!

 

ドドドドドドドドドドドドドドッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐああああああ!?」

 

 

 空が光ったと思った瞬間、天からの攻撃が全てを滅ぼさんと降り注ぎ、とてつもないダメージによって俺たちの口から絶叫が上がる。

 どういうことだ、開幕と同時に行われるこの攻撃は外殻戦でないとしてこないはずだぞ!? 残りHPは――――なっ!? 6割も削れた!?

 尋常じゃないと悟ると、焼けるような痛みに耐えながらラストエリクサーを取り出し、開詮と共にためらいなく頭上へ放り投げる。中身が飛び散り俺たちに降り注ぐと、体の奥から一気に活力が沸き上がる。

 これでとりあえずは大丈夫だが、ボスラッシュをすっ飛ばして外殻戦だったとしてもこの装備、このレベル、このステータスで600近く喰らうとかあり得ないぞ! それこそ海底神殿の――――

 

 

「……まさか」

 

「おいミコト! この攻撃は海底神殿の時のものだぞ! 何が今まで倒してきた敵のものだ!」

 

 

 魔王がこちらを罵ってくるが、これは素直に受け入れよう。

 今までもそうだったのに何故考えなかった。ゲームと全く同じ展開だったこともあるが、それ以外の展開も何度もあったと言うのに!

 

 

「全員気をつけろ! こいつは俺の知ってる流れのラヴォスじゃない! 海底神殿に現れた()()()()ラヴォスだ!」

 

 

 そう叫んでこのラヴォスの正体を知らせると、同時に全員を混乱させる『カオティックゾーン』が放たれる。

 幸い、全員が全ステータス異常に耐性があるため混乱は避けられたが、相手にとって最弱の攻撃のはずなのにHPを100近く持っていかれた。

 

 

「さ、最強外殻!? どういうことですか!?」

 

「俺の知っている流れでは、ここでのラヴォスは海底神殿の時と比べかなり弱くなっていた……だが、このラヴォスは海底神殿の時の強さを維持したままの状態なんだ。二つを比べた時のHPは3倍も違い、攻撃力もケタ違いになっている!」

 

「対策ハあるのデスカ!?」

 

「行動パターンに違いがなければ小まめな回復とゴリ押しで行けるが、それ以外があった場合は俺が前に出る!」

 

 

 精神コマンドをフル活用すれば出来なくはないだろう。いざとなったらサテライトゲートのエネルギーを攻撃に転換するし、ブーストアップも使って底上げもできる――後でどうなるか知らないがな。

 

 

「後衛は連携して『ダブルケアルガ』を集中運用だ! 残りは全員で集中攻撃! ありったけの技や魔法を叩き込め!」

 

 

 指示を飛ばしながら俺も出し惜しみなどせず、『覚醒』を使用してハルバードで殻に攻撃を加える。

 突き刺して叩き切る動作を二回行うと苦しむような叫びを上げると共に、無数の針が俺に向かって飛来する。こちらの威力も非常に強く、最初の攻撃と同様にHPをごっそりと持っていく。

 どうやら弱点が頭部と言うだけで殻に攻撃を加えてもダメージは通るらしい。だが反撃でラヴォスニードルを撃ち込んでくる辺り、プチラヴォスと変わりはないようだ。

 距離をとりながらサラの『ケアルガ』でダメージを癒してもらい、『勇気』を使い頭部へと狙いを定める。クロノのみだれぎりが終わると同時に矢を解放、『必中』の効果もあり頭部のど真ん中に命中した。

 今の一撃の影響か、一瞬ラヴォスの動きが硬直するとすかさずクロノとカエル、ロボによる『トリプルアタック』が炸裂し、さらにガイナーたちが追撃を仕掛けエイラとルッカによる『炎3段蹴り』に加え魔王も単独で攻撃を仕掛ける。

 

 

「! 来ます! 皆さん、気をつけてください!」

 

 

 サラが何かに気づいて警告すると、再び天から降り注ぐものによる攻撃が発生し全員のHPが無慈悲に削られていく。

 

 

「ぬぅっ!? なんという化け物だ! このような敵が太古より星を喰らっていようとは!」

 

「臆するなオルティーよ! 我らはまだ負けておらぬのだからな!」

 

『『ケアルガ!』』

 

 

 ガイナーがオルティーを鼓舞し、再び頭部へと仕掛ける。その間にサラとマールによる『ダブルケアルガ』のおかげですぐさま回復することができたが、これは時間をかけすぎるとこっちが危険だ。

 

 

「サラとルッカは手分けしてプロテクトを全員に! カエルは一度後退してマールとケアルガの準備を!」

 

 

 物理攻撃である天からの攻撃に備えるべく――どれほどの効力があるかは不明だが――プロテクトの指示を出して再び『覚醒』を使い、今度はザンバーで頭を薙ぎ払う。

 

 

「キュアアアァァァァアアアァァアア!」

 

 

 再びラヴォスから叫び声が上がると、殻に異変が起こった。

 いくつかの棘が形を変え、ラヴォスのボスラッシュのときに見た謎の敵に姿を変えた。

 

 

「なるほど、どうやら外殻を相手にしながらボスラッシュの相手もしろってことか。しかも二つ出てきたってことはドラゴン戦車かガードマシン、もしくは――」

 

 

 当たって欲しくないと思いながらその名を口にしようとすると二つの敵から炎が放たれ、続けざまに黒い電撃が俺たちを襲う。当たって欲しくないものほど当たるとはよく言ったものだ、よりにもよってギガガイアとは……。

 

 

「クロノ! 魔王! 最大魔法発射! 邪魔な取巻きを一掃してくれ!」

 

「わかりました!」

 

「チッ! 仕方あるまい!」

 

 

 反応はそれぞれだが、二人から『シャイニング』と『ダークマター』が放たれ取巻きの敵は一掃。ラヴォスにもダメージが通ったが、反撃のニードルが二人へと飛来する。

 すかさず『ダブルケアルガ』で回復したが、殻による反撃が本当に厄介だ。殻を巻き添えにする度にこれならいっそのこと全体魔法は封印したほうが――――

 

 

「クルゥアアアアァアァァアア!!」

 

 

 考え事をしている最中にラヴォスがさらに知らない行動を起こす。

 頭部を大きく開けたかと思うと、その奥の穴から嫌な光が漏れ出す。

 

 

「ま、マズイ! みんな避けろ!」

 

 

 クロノの切羽詰ったような叫びが響き、俺たちは反射的に頭部の射線上から逃れるように飛び退く。瞬間、頭部から恐ろしいほど強い魔力のビームが発射され、そのままいずこへと消えていった。

 動作からしてあれはおそらく、クロノを一度殺したビームか。だからクロノがいち早く反応できたんだろう。

 にしても頭部からのビーム……ゲロビとかビグザムじゃないんだぞ……。

 それにしても、あれがあるなら正面から頭部を狙うのも難しくなるな……しかもいつの間にか棘が敵を量産してるし。

 棘から生産された敵が一斉に飛び掛り、俺たちへ群がりながら周りを囲もうとする。

 

 

「全体魔法封印とか言ってる場合じゃないな……サラ! 魔王! ルッカ! 襲い掛かる敵に向かって同時にファイガをやってくれ! ダブルケアルガは俺とマールで受け持つ!」

 

「はい! いきますよ、ジャキ! ルッカ!」

 

 

 サラの合図で三人同時にファイガが放たれ、包囲網を作ろうとしていた敵が津波に飲まれるように一瞬にして焼き尽くされる。

 炎の津波……FF9のタイダルフレイムみたいだな。連携技として採用するか。

 そして予想通りサラたちに向かってニードルが射出されるが、俺はそれをブラスターで可能な限り迎撃しながら『ケアルガ』を放つ準備をしておく。

 落としきれなかった攻撃がサラたちに降り注いだのを見ると、間髪いれずにマールと『ケアルガ』を放ち『ダブルケアルガ』を完成させる。

 

 

「ミコトさん! 上空より高エネルギー反応アリ! 例の攻撃がまたキマス!」

 

「早すぎ――ぐぅぅぅぅ!!」

 

 

 回復したばかりだと言うのに、天から降り注いだ攻撃のおかげでまた回復の必要がある。

 プロテクトの効果をもってしてもダメージを500に抑えるのが精一杯とかふざけるのも大概にしろ!

 

 

「しかもこの間にも棘が敵になっていくとか反則臭ぇ! そのまま禿げちまえバカヤロー! 『覚醒』! 『サンダガ』<サンダガ>!!」

 

 

 悪口を言いながらまた『覚醒』を使い、ヤケクソ気味に全体攻撃のサンダガをお見舞いしてやる。

 雑魚が一掃され、反撃のニードルを耐え切るとすぐさまエリクサーを取り出して嚥下する。

 その間にクロノ、カエル、エイラによる三次元アタックが炸裂しているのを見て、俺もすぐさま追撃に向かう。いくぜ! まだ俺たちのバトルフェイズは終了してないんだよ!

 

 

「『覚醒』! 『加速』!」

 

 

 攻撃力が強化されたツインソードを構え、『加速』による高速化でこれでもかと乱舞、乱舞、乱舞!

 

 

「これでとっとと、くたばりやがれええぇぇぇ!!」

 

 

 渾身の力を込めてソードを掲げ、全力でX状に斬り伏せる! 

 

 

「クルゥアアアアァアァァアアァァァァアアアアアアァァ!!」

 

 

 ひと際大きな叫びがあがったかと思うと、頭部が消滅して中へと続く道が開かれた。

 つまり、ようやく三連戦の一つ目が終わったのだ。

 

 

「や、やった!?」

 

「マール、それはフラグだ。 まだ奴は生きている」

 

 

 ひとまず大きく息を吐いてツッコミを入れておくと、すぐにロボから報告が入る。

 

 

「ラヴォスの体内からはさらに強力な生命エネルギーが感知されマス……!」

 

「息の根を止めてやるぞ、ラヴォス……!」

 

 

 先陣切ってラヴォスの体内へと向かう魔王に続き、俺たちも内部へ突入する。

 

 

 

 

 

 

 降り立った場所はゲームで見たとき以上に気味が悪く、一部の壁に至っては脈動までしていた。

 

 

「薄っ気味悪いトコだぜ。魔王城より悪趣味だ……」

 

「あれはビネガーの趣味だ」

 

 

 さらりとカエルにそう返す魔王だが、果たして本当にそうなんだろうか……。

 それはそれとして、俺は先の戦闘を元に一つ説明をしなければならない。

 

 

「みんな、聞いてくれ。さっきの戦いで、ラヴォスは俺が知っているものとは違う行動を起こしてきた。それを踏まえると、残りの戦いでも俺が知っている行動以外のものをやってくるかもしれない」

 

「棘が形を変えて襲ってきたり、みたいにですか?」

 

「そうだ。だからこれから敵の行動パターンを伝えても、相手がそれ以上のことをしてくる可能性が高いということを頭に入れておいてくれ。 ――俺の知識も、アテにならなくなっているかもしれないからな」

 

 

 本体がギガガイアのように、両腕を再生させるとかいう事態だって十分あり得る。そうなったらせっかく光破を封じたと思ってもまた警戒しなければならない。

 何より、ボスラッシュでくるはずの外殻が最強外殻で現れたんだ。最悪の場合、本体やラヴォスコアも能力が強化されている可能性を考慮しないと。

 ここのラヴォスでこれなんだ、もしフロニャルドで同じような展開が起きたらそれこそ洒落にならん。

 

 

「それで、ミコトさんが知ってる流れではこのあとどうなるんですか?」

 

「この先にいるのはラヴォスの本体だが、両腕から装備しているステータス異常の耐性を無効化にする技を使ってくる」

 

「耐性を無効化ですか……厄介ですね」

 

 

 そうつぶやくサラの言葉に「だから」と続ける。

 

 

「真っ先に両腕を潰す。そうすれば強力な技の一つを潰せるし、本体は厄介な状態異常攻撃を仕掛けてくるから耐性が無効化されると面倒だからな」

 

 

 状態異常に対するアドバンテージを失うことの重大さを十分に理解してもらっているためか、その戦法に誰からも反論は上がらない。

 

 

「もういくか?」

 

「いや、ちょっと待ってくれ」

 

 

 エイラを制し、俺はある変更事項を伝える。

 

 

「次の戦いから、俺は最初から最前線に出張る」

 

「え、それじゃあ指揮の方はどうなるんですか?」

 

「もちろんそれもやっていく。さっきの戦いでわかったが、俺は中途半端な位置で攻撃するより前に出て仕掛けた方がダメージの効率がいいみたいだ」

 

 

 攻撃に向いている精神コマンドがたくさんあるからこそ、一歩下がった位置で戦うより前に出て一店突破を図ったほうが敵を崩しやすい。特に最後にやった『覚醒』と『加速』による乱舞は今になって考えてみればえげつないほど高い力を発揮した。

 こうしてみるとメリットだらけに思えるが、ある一点において非常に大きなデメリットがある。

 

 

「ただMPの消費が激しいから、エーテル系のアイテムを多用することになる。それだけは許してくれ」

 

 

 そう、シルバーピアスのおかげで消費MPが半減しているにもかかわらず、『覚醒』一回で『シャイニング』や『ダークマター』以上にMPを使うことを考えれば燃費が非常に悪い。

 ゴールドピアスを借りれば問題ないかもしれないが、後衛でありながら俺の次くらいにMPを使っているマールが装備している以上交換と言うわけにもいかない。

 安定した回復やサポートを得るためにも、彼女にゴールドピアスは必須だろう。

 そのことにも納得してもらい、俺たちはラヴォスの本体が待つ広間へと足を進めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第51話「VS ラヴォス②」

推奨BGM:世界変革の時


 奥に進むにつれて脈動する壁が多くなり、同時にとてつもない力の気配も近くなる。

 移動する間は誰も口を開かず、警戒体制を厳として各々武器を手に進む。

 そんな沈黙の均衡が破れたのは、最深部に到達した時だった。

 中央に陣取る巨大な姿。脈動する壁の終着点にして、人の上半身を思わせる姿。

 それを認識した瞬間、誰もが奴だと理解した。

 

 

「これが……ラヴォスの本体!」

 

 

 刀を構えなおしたクロノに続き、ロボから驚愕の声が上がる。

 

 

「シ! 信じられマセン……! この星に生命が誕生して以来のあらゆる生物の遺伝子を持っていマス!」

 

「そうだ。こいつの目的は――「くるぞ!」――っちぃ! 言わせてくれてもいいだろ!」

 

 

 魔王の叫びと共にラヴォスの胸部が開き、全体にダメージを与える『光破』が放たれる。

 さきほど倒した外殻の天からの攻撃に引けを取らない衝撃が俺たちを襲い、回復したばかりの体力がまたごっそりと持っていかれる。

 しかし、ボスラッシュと思わせて最強外殻と戦うことになった状況と比べれば、これが来るとわかっているだけまだ許容範囲内だ。――最も、今の一撃で500近く喰らったことについては想定の範囲外だがな。

 どうやらこの形態も最強外殻ほどではないが、攻撃力がかなり強化されているらしい。ということは、全体的にHPも上がっているとみていいだろう。あとの問題は、知らない攻撃があるかどうかだ。

 

 

「それでも最初にやることに変更はない……まずは両腕を始末する! 後衛は『ダブルケアルガ』をつかったあと全員に『ヘイスト』! クロノとエイラは連携して『はやぶさぎり』! ルッカとカエルは『ラインボム』! 魔王は『ダークマター』! で、それが止んだらロボとガイナーたちは左腕を集中攻撃! 俺は右腕をやる!」

 

 

 全員に指示を飛ばし、俺も『覚醒』を付与してタイミングを計る。予定通り魔王の『ダークマター』が決まったのを見届け、一気に駆け出してサテライトエッジのコンボを叩きこむ。

 ジールの時と違いザンバーを突き刺した後はこちらから接近して零距離射撃、離脱しつつボウで狙撃する。『覚醒』の効果で二回連続で行われたことによりMPの減り方があまりにもおかしい、シルバーピアスの恩恵をもってしても半分以上消えたぞ。

 しかしそれに見合うだけの戦果をあげたのか、右腕はとどめの一撃を受けると崩壊を始めた。左腕は……クロノたちも攻撃に加わっているから時間の問題だな。なら俺は本体を叩くとしよう。幸い、防御を突き破る方法もあることだし。

 

 

「『勇気』! ぶち抜け!」

 

 

 『直撃』が付与されたボウを本体の顔面に打ち込み、接近しながらもう一度『勇気』を使いクロノが全力切りをするようにザンバーを掲げて一気に叩き下ろす。

 

 

「グオオオオォォォオオォォォォオ!」

 

 

 本体から雄叫びが上がったかと思うと、外殻が使った『カオティックゾーン』のような攻撃が放たれ俺たちを包む。

 これは……全員を混乱させる『邪気』か。左腕がまだ残っているが、もう本体始動を始めたか。左腕もステータス異常防止を無効にさせる『守封』を使ってくるから先にそっちを潰そう。

 

 

「今なら本体にダメージが通る! 腕は俺が潰すから後衛以外は本体に集中してくれ!」

 

「はい! うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 指示に答えたクロノが本体に斬りかかるのを目じりに、俺はもう一度『勇気』を使いハルバードで斬りかかる。

 

 

「サラ! マール! 連携頼む!」

 

「わかりました! マール、やりますよ!」

 

「はい!」

 

 

 サラがファイガを、マールがアイスガを放ち『反作用ボム2』が左腕に直撃する……が、まだ健在か。右腕より体力低いくせにしぶとい。

 ハイエーテルを2本まとめて飲み干し、『加速』を使って今度はツインソードによる乱舞を仕掛ける。

 

 

「援護しマス!」

 

 

 さらに本体を攻撃していたロボからマシンガンパンチが放たれ、ダメージが許容値を超えたのか左腕も右腕同様崩壊を始めた。

 

 

「よし! これで少しは楽に――――」

 

 

 そう口にした瞬間、なんと崩壊したはずの腕が本体から勢い良く生え出した!

 

 

「さ、再生した!?」

 

「ふざけんな! テメェ顔だけじゃなくやることもセルと同じかよ!」

 

「セルってなんですか!?」

 

 

 思わず罵った内容にクロノが食い付いたが、再びラヴォスの胸部が開いて『光破』が放たれる。しかもありがたくないことにダメージはそのままときた。セルやナメック星人だって再生したらパワーが落ちると言うのに!

 『ダブルケアルガ』で回復してもらいつつ、戦う前提を見直して指示を飛ばす。

 

 

「後衛以外は連携や魔法で全体攻撃だ! 本体を叩きつつ、ついでに両腕も持っていくようにするぞ!」

 

「クロ! また飛ばすぞ!」

 

「わかった!」

 

「カエル! こっちもやるわよ!」

 

「了解だ!」

 

 

 クロノたちが『はやぶさぎり』を、ルッカたちが『ラインボム』で腕と本体に同時攻撃を仕掛ける。さらに魔王も『ダークマター』で攻撃を仕掛け、ガイナーたちも本体へ斬りかかっていく。

 

 

「ロボ! 俺たちも行くぞ!」

 

「ワカリマシタ!」

 

 

 精神コマンド『勇気』で火力を上げつつ、ロボの『エレキアタック』が発動するのと同時に『サンダガ』を使うことで連携技『スーパーエレキ』を発動させる。

 『エレクトリッガー』と比べれば若干威力は劣るが、『勇気』で補正をかけている分、普通に使用した場合と比べれば十分だろう。

 しかしそれでも両腕を破壊するには至らず、反撃とばかりに円月殺法が飛来し俺の体を切り裂く。『光破』より弱いものの、それでも単発で300オーバーか……両腕で攻めてきたらちょっと厳しいな。

 すぐに後衛から回復魔法が掛けられ全快になると、もう一度『勇気』を使用し今度は本体へブラスターを放つ。

 かなりダメージを与えたはずだと言うのに、本体は何事もなかったかのように体のあちこちから毒々しい煙を放出する。おそらくこれが全員を毒にする『影殺』だろう……と言うことは、あと『闘炎』が来ればすぐにアレが来ると言うわけだ。

 

 

「出来れば喰らわずに終わりたいが、難しいだろうな……」

 

 

 などと呟いているうちに、本体の口から炎が放たれ俺に向かってくる。咄嗟にシールドで受け止めるが、この攻撃が何なのかすぐに理解して指示を飛ばす。

 

 

「後衛、全体回復! それが済んだら全員防御態勢を取れ! ヤバいのが来るぞ!」

 

 

 指示を出しながらせめてのあがきとして『覚醒』を使い、『サンダガ』を連発する。これでどうにか両腕を破壊することに成功するが、本命の阻止はできなかった。

 

 

「コォォォオオォォオオオオォォォォオ!!」

 

 

 ラヴォスの口から光が放たれ俺たちの足元を一閃。瞬間、

 

 

 

 

 

カッ!!

 

 

 

 

 

 凄まじい閃光と爆発が起こり、衝撃によって抉られた地面により俺たちは勢いよく弾き飛ばされる。

 この巨神兵のような一撃がラヴォス本体の使用する最強の技、『邪影闘気殺炎』だと言うのは考えるまでもなかった。

 そして最も恐ろしいことに、この一撃で持っていかれたダメージはなんと700を超えそうだった。しかもこいつはこの攻撃の後『魔放』という能力によってさらに攻撃力が上がるのだから(タチ)が悪い。

 俺が持つ最後のラストエリクサーを惜しげもなく使い、全員のHPとMPを全快にする。叩くなら、今をおいて他にないだろう。

 

 

「とにかく本体にダメージを与えるぞ! クロノは『みだれぎり』! ロボは『マシンガンパンチ』! 魔王とサラは最強魔法! ルッカとマールは『反作用ボム3』! カエルとエイラは『あぐら落ち斬り』! ガイナーたちは連携だ!」

 

 

 矢継ぎ早に指示を出し、俺も『覚醒』でダメージを底上げした状態でサテライトエッジのコンボを叩きこむ。しかしこれでも終わらないのか、腕を再生させたラヴォスは『光破』を放ちながら両手から円月殺法を放ってくる。一緒に撃ってくる攻撃が『邪影闘気殺炎』じゃないだけまだマシか。

 『集中』を使い殺到してくる円月殺法をツインソードで叩き落とし、迎撃に成功するとすぐさまエリクサーをのどに流し込む。

 

 

「ミコトさん! 大丈夫ですか!?」

 

「今のところはな! けど、これ以上はキツイ!」

 

 

 サラにそう返しながら何度目かもわからない『覚醒』を使用し、ボウモードの矢を番える。

 ――その時、ふと脳裏にルストティラノと戦った時の光景が頭をよぎった。

 あれが通用するかはわからないが……やれることはやっておくか。

 さらに『集中』とブーストアップを重ね掛けし、あの時のようにタイミングを計る。本体の口がスライドし、奥から炎が見えた。

 

 

「こいつを喰らっとけ!」

 

 

 連射して放たれた矢はうまい具合に口の中に突き刺さり、何かに誘爆したかのように激しく炸裂する。

 これが予想以上にダメージを与えたのか、ラヴォスの動きが若干鈍くなる。無論、ずっと攻め立てていたクロノたちがそれを見過ごすはずもなかった。

 

 

「『コキュートス』!」「『ダークマター』!」「『フレア』!」

 

 

 サラと魔王、ルッカの最強魔法が直撃し、ロボの『マシンガンパンチ』とエイラの『三段蹴り』が追撃。

 

 

「「「極技・風神ノ舞!!」」」

 

 

 ガイナーたちのとっておきが続き、最後にクロノ、マール、カエルの連携が発動する。

 

 

「はあああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 高く跳んだクロノの刀に向けてマールがアイスガを放ち、冷気を纏った刀身を全力切りでラヴォスに放つ。そして最後にカエルが切り抜けることで本家アークインパルスが完成となった。

 この一撃でラヴォスが一瞬硬直したかと思うと、何かが切れたかのように両腕が崩壊を始めた。

 

 

「や、やった! 倒したぞ!」

 

 

 崩れていくラヴォスを見てクロノが歓喜の声を上げ、つられるように全員が声を上げた。

 確かに倒したな……第2形態を。

 

 

 

 

 

 

 崩壊していくラヴォスを見て尊以外の面々がやり遂げたと実感していた時に、それは起こった。

 両腕を失った本体がまばゆい光を放ち、徐々に小さくなっていくとまるで宇宙服を着た人のような姿へと変貌していった。

 全員がまだ終わっていないと認識するとともに、何人かがラヴォスの目的について悟る。

 

 

「も、もしかしてこいつ、この星の生き物たちが持っている力を全部備えているのか……?」

 

 

 わなわなと震えだしたクロノに、尊が答える。

 

 

「そうだ。原始でこの星に寄生してから気の遠くなるような時間をかけ、星に住む生命(いのち)が辿った進化の中でも特に優れた部分をかき集め、自身が進化するための材料としてきた」

 

「……そして自分が満足すれば用済みとなった星を滅ぼし、同じ遺伝子を備えた幼生体を残してまた新しい進化を求めて別の星に移動すると言うことですか」

 

「なるほど……いわばラヴォスのためのエサにすぎなかったというわけか。我々人間……いや、この星の生命すべてが……」

 

 

 その身勝手な手段に魔王の鎌を握る手が怒りに震える。

 

 

「じゃあ、私たちはこいつのために生きてきたっていうの!?」

 

「冗談じゃねえ……。テメェの糧になるために、みんな生きてるわけじゃねえんだぞ!」

 

「他人の力を貪るだけで自身が進化したなどと……我らは認めはせぬ!」

 

 

 マシューの言葉に続き、クロノが刀を抜く。

 

 

「自分の都合で俺たちを……星を食い物にしようだなんて……ふざけるなよッ!」

 

 

 クロノに続き、みんなも一斉に武器を構え出す。

 

 

「ここは、クロノや私たち……リーネやドンやみんなの……みんなの星なんだからッ!!」

 

「そんなふざけた進化なんて……私は絶対に認めないわッ!」

 

「テメェなんぞのために……俺たちは生きちゃいないッ!!」

 

「ワタシは人間によって作られた命……しかし命は命デス! ルッカや、他のみなさんと同じ……この星の多くの命の一つデスッ!!」

 

「エイラ、負けない! エイラたち、この大地の命! お前、この大地の命…ちがう!!」

 

「……今度こそ貴様を倒し、我が長き闘いに決着をつけてやる!」

 

「貴様に教えてやろう!」

 

「他人任せで得られた力など!」

 

「自力で得られた力には遠く及ばぬということを!」

 

「あらゆるものに死を運ぶ……そのような存在は、ここで消滅させます!」

 

「これですべて終わらせる! お前を倒すことで、俺たちは明日への道を切り開く!!」

 

 

 その言葉に対し、ラヴォスは大量のビットを召喚することで応える。

 最終決戦の火蓋が、切って落とされた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第52話「VS ラヴォス③」

推奨BGM:ラストバトル


 ラヴォスコア。

 原作において画面真ん中の人型が本体だと思って攻撃し、実は右にいる丸いのが本体だと騙されたプレイヤーは数知れないだろう。

 俺はそんな初見殺しの設定であるラヴォスコアが、どれが本物かわからないほどたくさんいたらと妄想し勝手に絶望したことがある。

 

 ……その妄想が今、目の前で現実のものとなっている。

 

 人型のセンタービットを除いても、それ以外のビットはざっと見ただけでも70から80はくだらない。原作同様、丸いほうが本物のラヴォスコアだったとした場合、探すだけでも面倒なことになる。

 魔法で一掃できればいいのだが、厄介なことにラヴォスビットは魔法を吸収して物理攻撃しか通さないし、ラヴォスコアはビットを再生させる『命活』を使うとき以外は常にガードを張っているためそれを剥がすまで有効打は期待できない。

 全体攻撃の物理技があればいいんだが、広範囲に仕掛けられるのは一直線の『はやぶさぎり』か時間をおいてしか使えないサテライトエッジのブラスターのみだ。

 しかもこれまでの流れから推察して、コアどころかビットも能力が向上している可能性が十分にある。原作では一回の連携で倒せたラヴォスビットも、それでは倒しきれない可能性があるということだ。

 また倒せたとしても、本命のコアが『命活』を使えばまた倒したビットの相手をする必要がある。

 そして一番厄介なのが、人型のセンタービットだ。あれの繰り出す物理最強の『巨岩』や魔法最強の『夢無』、そして単体魔法『天泣』は下手をすると即死しかねない。昔、素のダメージで1000を超えたことがあるだけに、これらの攻撃は特に警戒する必要がある。

 それらを踏まえたうえでまずは邪魔なセンタービットを排除し、他のビットを倒しながら本物のコアをあぶり出すとしよう。

 

 

「クロノは俺にラストエリクサーを二つ回した後、エイラと『はやぶさぎり』で丸いのを可能な限り削ってくれ! 本体は防御を張ってその中のどれかにいるはずだ!」

 

「え!? あの人型じゃないんですか!?」

 

「マールの言いたいこともわかるが、残念ながらあれは本体じゃない。本物もこの段階では分からないが、確実にダメージを与えられる機会は必ず来る。その時を逃しはしないし、それまでこの丸いやつを可能な限り減らす。絞り込んだらあとはどうにかして目印をつけるだけだ。ただし本体と人型以外は魔法が効かず、数を減らしても本体がビットを復活させるからそれまでにという条件付きだがな」

 

「面倒な条件だ。だが、やるしかないな!」

 

 

 カエルがそばにいたビットを叩き斬り、ロボがそれを追撃する。

 

 

「サラは『マジックバリア』を、マールは『ヘイスト』でルッカは『プロテクト』を全員に! クロノとエイラ以外は人型を集中攻撃! あれが一番邪魔だ!」

 

 

 倒したところでいずれ復活するのがわかっているが、全滅のリスクを孕む存在の排除は必要不可欠だ。クロノからラストエリクサーを受け取りながらまずは『勇気』を使い、ブラスターの銃口をセンタービットとその他大勢の群れへと合わせる。

 こちらの動作を見て攻撃されると悟ったのかビットがセンタービットを守るように群がるが、『直撃』+火力3倍が付与されたこの攻撃にそんなものは無駄無駄無駄ァ!!

 

 

「消し飛べ!」

 

 

 一撃で5体ほどのビットを消滅させ、さらにセンタービットにも攻撃が通る。火力を上げているとはいえ、ブラスター一撃でこれだけ削れるならまだ希望はありそうだな。見れば、クロノとエイラの『はやぶさぎり』もかなりの戦果をあげているようだ。

 このままセンタービットを集中砲火で排除といきたいところだが、重要なダメージソースをやらせたくないのか他のビットが守るように周りに集まっている。

 そしてそれを幸いと言うようにセンタービットが宙に浮くと、赤い星が出現と同時に分裂しながら俺たちへと降り注ぐ。これは……全員のHPを半分にする『魔星』か。死にはしないが、この状態で『巨岩』や『夢無』といった強力な攻撃を喰らうとかなりマズイ。

 動きを封じたいところだが、周りのビットがかなり邪魔な動きをしているな……それなら!

 

 

「後衛は『ダブルケアルガ』! クロノとエイラは人型に向かって『はやぶさぎり』を連続使用! 取り巻きもろとも切り裂け!」

 

「わかりました!」

 

「行くぞ、エイラ!」

 

「おう!」

 

 

 サラがマールと『ダブルケアルガ』を、クロノたちが『はやぶさぎり』でセンタービットへ斬りかかっていくのを目じりにしながら、俺は『勇気』を使い『サンダガ』を放つ。

 いくら『直撃』が付与されているとはいえ、魔法を吸収するビットにこの攻撃は意味をなさない。だが、本命のコアに関しては話が別だ。防御のおかげでダメージが通りにくいだけで、コアに魔法は普通に効く。それを押さえていれば本物がどれかはわからなくとも、『直撃』の効果でダメージだけは確実に与えることができる。

 しかし、既に20以上のビットを倒しているが本命のコアらしきものは未だに発見されていない。そろそろ『命活』を使用するために防御を解くはずなんだが……防御を解くモーションはあるのだろうか。解いたかさえ分かれば魔法も普通に通るから、俺以外のメンバーも最強魔法による広範囲攻撃でセンタービットごとダメージを与えることができるので積極的に撃っていきたいところだ。

 攻撃を受けながらも注意深くビットを観察するが、怪しい挙動をする個体は見受けられない。まだ解除前なのかと考察したその時、ロボから焦ったような声が上がる。

 

 

「周囲に高エネルギー反応! 増援のようデス!」

 

 

 その報せと共に周囲の空間に孔が開き、中から倒したはずのビットがわらわらと姿を現した。

 モーションはなかったが、しっかり『命活』は行っていたか……だがこれはありがたい。『命活』発動直後はしばらく防御力がダウンしているから、魔法によるダメージも十分通る。つまり、心おきなく最強魔法が撃てるということだ!

 

 

「本命のコアが防御を解いている今のうちに魔法を使え! 無論、一番強いやつだ!」

 

 

 告げた瞬間に魔法を撃てるメンバーから最強クラスの魔法が一斉に放たれる。俺も遅れまいと『覚醒』で強化された『サンダガ』をビットの群れへと解放する。

 凄まじい魔力の奔流が嵐のように巻き起こり、ビットを葬らんと荒れ狂う。センタービットはこの攻撃に耐えきれなかったのか、低いうなり声を上げながら姿を消した。しかし他のビットたちが健在なのを見ると、流石にまだコアを仕留めるには至っていないようだ。だがセンタービットがいない今、強力な攻撃に対して警戒せずに本体探しに集中できる。

 ラストエリクサーを使用し全員のHPとMPを回復させ、クロノたちにビットの殲滅を指示しようと口を開く。

 

 

「各員、残ったビットを手当たり次第――「ミコトさん! 後ろ!」――ん?」

 

 

 指示を出す中でサラの悲鳴のような声が上がった瞬間、

 

 

ドゴォ!!

 

 

「ガッ――あ゛ぁ……ッ!?」

 

 突如現れた凄まじい衝撃が、俺を背中から襲った。

 体からボキボキと、人として出してはいけないような音が凄まじい勢いで上がり、肺の空気が押し出されるのと同時に口の中が鉄の味でいっぱいになる。

 衝撃に振り抜かれて体が宙を舞い、飛びそうな意識で俺はようやく何が起こったのかを理解した。

 再び姿を見せたセンタービットが、腕を振り抜いた体勢で陣形のど真ん中にいたのだ。

 

 ――空間、転移……だった、か…………。

 

 消滅したのは倒したからではなくこのためだったと理解すると、ビットの群れへ落ちるとともに俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

「ミコトさん!!」

 

「姉上! チィ、邪魔だ!」

 

 

 サラが声を張り上げ、ビットの群れの中へと落ちた尊の元へと駆け出す。

 群がるビットを切り捨てながら魔王が遅れぬようその後に続くと、クロノたちもそれに追従する。

 

 

「クロ!」

 

「エイラ、やってくれ!」

 

 

 エイラの声で何をやろうとしているか把握したクロノは連携技である『はやぶさぎり』の体勢に入り、行く手に群がるビットを一掃して尊への道を切り開く。

 一気に広がった道の先では口から多量の血を噴き出した尊が大の字のままピクリともせず、死んだように倒れていた。

 

 

「ミコトさん! しっかりしてください!」

 

「御館様!」

 

 

 サラやガイナーが声をかけながら抱き上げると尊の体がほんのりと光っていて、内側からパキパキと音が上がっていた。

 普通ではないその状態をロボがスキャンすると、何度目かわからない驚きの声が上がる。

 

 

「シ、信じられまセン! 砕けた骨と臓器が凄まじい速度で再生していマス!」

 

「え、どういうこと!?」

 

「考えるのはあとよ! それよりクロノ! ここにくる前にミコトさんが言ってたこと、覚えてる!?」

 

「――手筈通り、ミコトさんの代わりに俺が指揮を執る! サラさんはそのままミコトさんの看護を続けて、ガイナーさんたちはその護衛! 魔王とカエルとエイラは人型を抑えてくれ! 俺も人型を攻撃しつつルッカと本物を探す! マールとロボも後衛で全体回復を使いながら一緒に本体を探してくれ!」

 

 

 一度深呼吸をして気持ちを落ち着け、尊がやろうとしていたことを踏まえつつ今どうすべきかを考えクロノは指示を出す。

 レイズやアテナの水による意識の回復も考えたが、この再生がUG細胞改によるものだとわからないクロノは下手に使用して問題が起こったらマズいと思いせめてこの現象が収まるまで迂闊に手出ししないようにと決めた。

 戦力的にも精神的にも心強い尊がやられたのは大きな痛手だが、必ず復活すると信じてクロノは手にした『虹』をしっかりと握り直すとゆっくりとこちらへ歩み寄るセンタービットへと斬りかかった。

 ルッカもまた尊の言っていた内容を分析して本物のビットを発見するべく、自分の亜空間倉庫に収容していた愛用の火炎放射機の中身をとある液体に入れ替えていた。

 

 

「――まずは目印をつける!」

 

 

 いつもは炎が出る発明品だが、今回発射されたのは緑色のペイント液だった。

 大量の液体がビットへと降り注ぎ、べったりと色を変えていく。

 

 

「クロノ! マール! ロボ! 『回転ぎり』で色つきの敵を狙って! 最後に残ったのが本体よ!」 

 

「わかった! うおおおおおおおおお!!」

 

 

 ビットの群れに自ら飛び込み、全力の『回転ぎり』で緑に染まった敵を切り刻む。ルッカも手にした銃で片っ端からビットを狙い撃ち、本体を探す。

 

 

「ロボ! 私たちもやるよ!」

 

「ワカリマシタ!」

 

 

 マールもボウガンで狙い撃ち、ロボもマシンガンパンチで次々と敵を消滅させる。

 

 

「エイラ! 魔王! 挟み込むぞ! 姿を消す暇もないほど攻め立てる!」

 

「まかせろ! ァァアアアアァァアアアア!!」

 

「……『ダークボム』!」

 

 

 エイラが雄叫びをあげて殴りかかり、魔王も――カエルに指図されて不服そうではあるが――力強く魔法を唱える。

 一方、尊の看護を任されたサラは強い願いを込めて『ケアルガ』を唱える。傷は癒え、心臓もしっかりと鼓動を刻むが、本人が目覚める気配はまだない。

 

 

「サラ様! ここは我らが引き受けます!」

 

「一匹たりとも近づけさせませぬ故、御館様をお願いします!」

 

「ありがとうございます! みなさん、お気をつけて!」

 

「お任せあれ! 行くぞ二人とも! 近づくモノは全て叩き斬る!」

 

 

 ガイナーたちが接近するビットを蹴散らし始めると、サラは眠ったままの尊を強く抱きしめる。

 

 

「……お願いです、ミコトさん。目を開けてください……」

 

 

 その光景を見ていた魔王はどこか悔しそうに顔を背け、緑に染まったビットを切り捨てる。

 

 

「――さっさと目を覚ませ。姉上にあのような表情をさせるな…………義兄上(あにうえ)よ」

 

 

 誰にも聞かれない声でそう呟き、魔王は再び魔法を唱えるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第53話「VS ラヴォス④」

 尊がやられてからというもの、クロノたちの戦況は思わしくないものへと推移していた。

 ルッカがペイントをビットたちにぶちまけたことで狙うべき相手が定めやすくなったものの、色付きのビットを狙いに行けば『命活』で復活したビットが身代わりになるように立ちふさがる。

 しかも立ちふさがった先のビットが本物かと思えばそうではなく、復活したビットは残り続けるビットであれば無条件で身代わりとなりに行っているため排除に余計な手間を取られる結果となった。

 クロノの『回転切り』でそれなりに数を減らせるものの、開戦当初の『はやぶさぎり』による戦果と比べればあからさまに効率が落ちてる。

 『はやぶさぎり』 に必要なエイラも人型であるセンタービットの相手で手いっぱいとなっており、呼び寄せる余裕もない。

 

 

「くそ、邪魔だ!」

 

 

 復活したビットを切り捨て、勢いよく飛び込んで『回転切り』を放つ。色付きのビットを数体屠ることに成功するが、他のビットたちの動きに変化は見られない。

 色付きのビットは残り15体ほどまで落ち込んでいるが、色付きが減るたびに守りに移行するビットが増えるため徐々に攻めの勢いが失われていく。

 そして一番の脅威は何といっても――――

 

 

「でかい岩、来る!」

 

「またかよ! ロボ、マール!」

 

 

 カエルのうんざりしたような声に反応し、呼ばれた二人は巨大すぎる岩が自分たちに直撃すると同時に連携技『ケアルガウィンド』を放つ。

 一瞬にしてダメージは全快したものの、彼らの緊張は決して緩まない。

 否、緩められないのだ。

 

 

「いい加減くたばれ、ラヴォス……!」

 

 

 忌々しそうにその名を吐き捨て、魔王は猛威を振るうセンタービットを手にした『絶望の鎌』で切り裂く。腕を上げることでそれを防いだセンタービットは反撃とばかりに強力な雷の魔法『天泣』を落とす。

 このメンバーの中でも非常に高い魔法防御力があるにもかかわらず、それだけで魔王の体力は半分以上削られることとなった。

 後衛から回復魔法が唱えられダメージはすぐに回復するものの、センタービットから放たれる一撃一撃が看過できない威力を誇っており、いくら攻撃しても何の変化も見られない状況がクロノたちの中で焦りとなり始めていた。

 

 

「あー! もー! どれが本物なの!?」 

 

「何か法則性がわかればよいのデスガ……!」

 

 

 色付きのビットを狙ってボウガンを連射するマールと、同じく色付きのビットに向けてマシンガンパンチを放つロボ。その攻撃のほとんどが復活したビットに防がれる結果になっているが、それでも運よく直撃して消滅させることに成功しているものもあった。

 そんな芳しくない戦況の中、ルッカは色付きのビットの動きを追いながら行動の法則性を見出そうとしていた。

 

 

 ――ビットが復活するときに特別な動作をする個体はない。何もしないで復活させるのは分かったけど、ミコトさんは復活した直後に本命が防御を解いているからダメージが通るって言っていた。つまり、本命が他のビットを復活させるには必ず防御を解かないといけないということに他ならない。これが正しければ、直後以外だと最低でも直前も防御を解いているはず。けど、復活前の動作をどうやって見つければ……。

 

 

 この考えを尊が聞いていれば、その洞察力に賛辞を送っていただろう。確かに『命活』を使用する際、ラヴォスコアは他のビットを復活させるためにその防御を解除する。そして『命活 』使用後は反動のためかしばらく防御力が低下したままとなり、絶好の狙い目となるのだ。

 しかし、そのチャンスを最大限に生かすためには本命のコアがどれで、どのタイミングで防御を解除するかを見極める必要がある。

 ただでさえノーモーションでビットを復活させるため、手掛かりが無いに等しかった。

 

 

「パターンに変化がなければ、そろそろ他のビットが復活するはず…………ん?」

 

 

 注意深く色付きのビットを観察していると、ふとその中に違和感を受けた。

 ビットは常に不規則に動き回っているので、一度入り乱れてしまえば特定の個体を目で追うのが困難になる。

 しかし、それは色が付けられる前の話だ。ペイントのおかげで特定のビットが追いやすくなったことで、ルッカはその色付きビットの動きに不自然さを感じた。

 一つだけやたらと取り巻きによるガードが多く、位置も自分たちの場所から最も遠い位置にあった。

 普通に考えて、何度でも復活するビットがそこまでガードを固める必要がない。では、それが普通のビットでないとしたら?

 

 

「――! まさか!」

 

 

 確信に近い直感を感じ、狙いを定めて『ミラクルショット』のトリガーを引く。狙ったビットへ弾が飛来すると、取り巻きのビットが一瞬にして壁を作りそれを守る。

 それが、ルッカへの回答となった。

 

 

「見つけた! みんな、本命のコアは――「ルッカ! 逃げろ!」――ッ!?」

 

 

 コアの存在を教えようとしたところでエイラから警告が響くと、尊がやられたシチュエーションが脳裏に映り咄嗟に飛び込み前転を行う。

 すると先ほどいた位置からブォン!と凄まじい力で風を切る音が上がり、空間からにじみ出るようにセンタービットが姿を現した。

 

 

「こいつ、まさか気づいたの!?」

 

 

 本命のコアを発見したルッカを最も危険と認知したのか、センタービットはズンズンと歩み寄り再び『堕撃』を繰り出そうとしていた。

 ルッカは後退しながら周りに目を向け、コアに最も近いクロノへ向けて声を張り上げる。

 

 

「クロノ! 一番離れた場所で守りが固いビットを狙って! それが本体のはずよ!」

 

「――アレか!」

 

 

 言われた対象はすぐに見つかり、すぐさま排除しようとクロノは『虹』を握り直して駆け出す。

 が、ほぼ同時にすべてのビットが先へ行かせまいとクロノへ体当たりを始めた。

 さらに本命のコアは全方位をがっちりとガードされ、残りは攻撃のみならず行動を制限するように全員に対して体当たりを開始する。

 

 

「これは……まずいぞ!」

 

「ミナサン! 一度集まりまショウ! 分断されては各個撃破に持ち込まれてしまいマス!」

 

「くっ、仕方ない……! 『シャイニング』!」

 

「喰らえ、『ダークマター』!」

 

 

 ついに本命がわかったことで勇んでいたクロノだが、ロボの言う通りこのままではやられるだけだと理解してせめてもの一撃として『シャイニング』を放ちつつ全員が集合するサラたちの元へと移動する。

 また、魔王もそれに続いて『ダークマター』を放ち、コアに直撃したのを確認して後退を始めた。

 

 

「サラ様! 御館様は!?」

 

「傷は治りましたが、意識はまだ……」

 

 

 サラはこの時ほど、自分がレイズの魔法をつかえないことを呪ったことはないだろう。

 レイズの魔法は意識が戻らない人を目覚めさせる力がある。サラはクロノとマールがそれを使えることを知らず、クロノたちも魔法や技の連発でMPがほとんど残っていなかった。

 

 ――傷の再生が止まっているんだったら、今ならアテナの水を使えるか?

 

 

「クロノ、ラストエリクサーを頼む! 体力もそうだが、そろそろMPも危ない!」

 

「っ!? わ、わかった!」

 

 

 アテナの水の使用を考えたクロノだが、先にカエルからの要請が届き群がるビットの攻撃を凌ぎつつ、自分が持つ最後のラストエリクサーで全員のHPとMPを万全にする。

 もしかしてと思い尊に目をやるが、やはり目を覚ます様子はない。

 

 

「待つしかないようだな――来るぞ!」

 

 

 魔王の言葉に反応して全員が構えた瞬間、全方位から迫っていたビットの攻撃が苛烈になり、やや離れた位置でセンタービットが両手に莫大な魔力を込めていた。

 

 

「いけません! 人型からとても強い攻撃が――!」

 

 

 こめられた魔力の異常性に気付いたサラが声を上げるが、センタービットの攻撃のほうが早かった。

 

 

キィィィィィィン――――カッ!!

 

 

「ぐああああああっ!!」

 

「きゃあああああっ!!」

 

 

 放たれた魔力がピラミッドを形成し縮退、臨界を迎えると同時にクロノたちの頭上で盛大に弾ける。

 マジックバリアで魔法防御を上げていたとはいえ、無属性の最大魔法攻撃『夢無』の直撃はクロノたちの陣形を容易くズタズタにした。

 同じ方向に吹き飛ばされたクロノと魔王が急いで体を起こすと、センタービットがゆっくりとした足取りで一点を目指していた。

 

 

「まずい……! 姉上!」

 

「ミコトさん! 起きてください!」

 

 

 二人がそろって声を上げるが、視線の――尊を抱きしめたまま吹き飛ばされたサラは衝撃が抜けたばかりで、周りがどうなったか確認し切れていなかった。

 彼女の纏うエレメントローブをもってしても、属性を持たない攻撃を防ぐことは叶わず直撃を喰らっていた。

 

 

「み、ミコトさんは……っ!?」

 

 

 ようやく状況が呑み込めたが、そこはすでにセンタービットの攻撃範囲内。

 気づいたころには、どう足掻いても逃げ出せない状況となっていた。

 

 

「くっ、サラ様!」

 

 

 別方向に吹き飛ばされたガイナーがどうにか体を上げるが、センタービットはその腕を大きく振りかぶり始める。

 その一撃を防ぐために誰かが彼女の元へ駆けつけるには、圧倒的に時間が足りなかった。

 

 

「っ、ミコトさん!!」

 

 

 反撃という手段も頭から抜け落ち、サラはぎゅっと目を瞑ってその名を叫ぶ。

 センタービットの『堕撃』が、容赦なく振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来ると思った衝撃が来ず、代わりに硬質なものが叩かれる音が耳に届き、サラは恐る恐る目を開ける。

 目の前で掲げられた腕に備わった盾がセンタービットの攻撃を防ぎ、ぎりぎりと拮抗していた。

 

 

「――悪い、負担かけた」

 

 

 顔のすぐ横からそんな声が上がり、同時に強い安堵感が込み上げてきた。

 

 

「『加速』!」

 

 

 拮抗していた攻撃を受け流し、自分に抱き付いていたサラを抱き上げて安全圏まで後退する。

 その光景に誰もが呆気にとられたが、状況を理解すると自然と口元が笑みに変わった。

 

 

「すまない、待たせた」

 

 

 完全復活した尊は、どこか申し訳なさそうにそう謝罪するのだった。

 

 

 

 

 

 

 抱き上げていたサラをおろし、シールドとして展開していたサテライトエッジをハルバードに変形させる。

 『堕撃』によるダメージが完全回復しているが、これはUG細胞改に備わった自己再生の恩恵だろう。意識が飛んだ時は死んだと思ったが、ラッキーだったな。

 もう骨が砕けたり内臓がつぶれる音なんて二度と聞きたくないが、あれくらいのダメージならまだ死なないこともわかったのはちょっとした収穫だ。

 予想外だったのは意識を持ってかれたことだが、全員無事なうちに復帰できてよかった。

 しかし相当強い攻撃を食らったのか、陣形はめちゃくちゃで全員がボロボロだ。……とりあえず、この陣形を立て直すか。

 迷わず最後のラストエリクサーを開封し、放り上げながらそれぞれの位置を統合して声を上げる。

 

 

「陣形を戻すぞ! 中心となる魔王とクロノの場所に集合して円陣を形成、中心にサラとマールとルッカをおいて、残りは壁を組むぞ!」

 

 

 敵味方が入り乱れている状況で最初みたいな陣形は不利と判断し、新しい形を指示しながらサラを連れて迫るビットを薙ぎ払いながら突き進み、目的地点へと到達する。

 

 

 

「ミコトさん、大丈夫ですか!?」

 

「ああ、もう平気だ。 ところで、ここまでの状況を教えてくれないか?」

 

「はい、敵の本命の可能性があるビットを見つけました」

 

「……マジか?」

 

「マジ、です」

 

 

 その報告に目を丸くして聞き返すと、ルッカはニッと笑って答える。

 数瞬おいて俺の口にも笑みが浮かび、親指をぐっと立てる。

 

 

「グッドだ。で、目標はどれだ?」

 

「ペイントがついたビットの中で、私たちから一番遠くにいる個体です」

 

 

 体当たりを敢行してきたビットを弾き飛ばしながらその個体を探す。しかしペイントか……それは盲点だったな。

 そんなことを思っていると、センタービットの後ろに張り付きながらも他のビットに守られているものを見つける。なるほど、アレか。

 しかもたった今『命活』を発動させたのか、多数のビットが空間より出現する。本体が分かっているうえにこれだけ好条件がそろっているのなら、もう有象無象のビットに目を向ける必要もない。

 

 

「全員、これから本命のコアに向けて突っ込むぞ! 行けるか!?」

 

『はい!』『おう!』『承知!』

 

 

 俺の問いに反論の声はなく、むしろ一部からは待ってましたという気概さえ感じられる答えが返ってきた。

 

 

「よし! なら、突撃だ!」

 

 

 ハルバードからザンバーに変形させて先陣を切る。群がるビットを薙ぎ、まずはコアを守るように立ちはだかるセンタービットへ集中砲火を浴びせる!

 

 

「人型もろとも叩きのめす! まずはエイラの三段蹴り! 次にガイナーたちの連携! それが終わったらサラと魔王は最強魔法! マールとルッカは二人に合わせて反作用ボム3で追撃して、その後にクロノ、カエル、ロボはトリプルアタック! 締めは俺が叩き込む!」

 

「わかった! ウゥゥゥララアアアァァァァァァ!!」

 

 

 まずエイラが跳び蹴りを二発食らわし、最後の一撃をセンタービットの脳天に叩き込む。

 体制を戻したセンタービットは両手に魔力を込めようとするが、それより疾い奴らが攻撃を開始する。

 

 

「やらせるものか!」

 

「ゆくぞ! これぞ我らの!」

 

「乾坤一擲の一撃なり!」

 

 

 ガイナーたちが今まで放ってきた連携の中で最も速い攻撃を繰り出し、センタービットの両腕を切り飛ばす。

 

 

「合わせて、ジャキ!」

 

「まかせろ! 姉上!」

 

「ルッカ! 私たちも!」

 

「ええ! お見舞いしてやろうじゃない!」

 

「『コキュートス』!」「『ダークマター』!」「『アイスガ』!」「『フレア』!」

 

 

 姉弟(きょうだい)の最強魔法が炸裂し、続けて連携魔法の『反作用ボム3』が盛大に爆発する。

 

 

「うおおおおおおおお!!」

 

「はああああああああ!!」

 

「オオオオオオオオオ!!」

 

 

 クロノとカエルがエックス切りで切り抜け、ロボが渾身のタックルを叩き込む。

 そして俺はここぞとばかりに、精神コマンドやブーストアップとは別の最後の切り札を解放させる。

 

 

「サテライトゲートエネルギー転換! 全エネルギーをブラスターへ供給!」

 

 

 前に女神様に教えてもらった、サテライトゲートの起動に使うエネルギーを攻撃に転用させることで火力を上昇させるとっておきの一撃。

 手にしたブラスターが莫大なエネルギーを受け、それを扱うに適した形態へと変化する。

 銃身が長くなり、それを支えるための持ち手が増えトリガーが引き金から握るタイプに変わりながら横に移動し、まるで携行ランチャーのようになった。

 

 

「『勇気』! おおおおおお!!」

 

 

 『勇気』に付与された『加速』を使って一気に接近し、センタービットの腹に銃口を突き刺す。その真後ろには、ラヴォスコアがへばりついている。

 

 

「くたばれえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 トリガーを引き切ると小さな銃口から出るとは思えない極太の青白いエネルギーが爆発的な勢いで射出され、センタービットを蒸発させる。『直撃』が付与されている上に威力が三倍に押し上げられたこの一撃は、そのまま背後にいたコアも飲み込む。

 青白い光の奔流が視界を埋め尽くしランチャーの咆哮が響く中――世界を割るような絶叫が響いた。

 

 

 

 

 

 

「……終わった?」

 

「ああ……終わりだ」

 

 

 全てのビットが消え失せたのを見てついにやったんだと理解すると、途端に体がだるく感じられた。

 

 ――あとはこの空間から抜け出すだけなんだが、そこから先どうなるのかまでは知らないから流れに身を任せるしか――。

 

 そう尊が思った瞬間に空間が震え、立っているのもやっとな振動が身体を揺さぶった。

 

 

「こ、今度はなに!?」

 

「まさか…まだ来るってのか!?」

 

 

 揺れに耐えきれずマールがその場に手を突き、どうにかグランドリオンを構えたカエルが周囲を警戒する。

 すると何かを検知したロボがデータを解析し、この揺れの正体を掴む。

 

 

「類似パターンを検知! このエネルギー反応ハ……魔王城に発生したゲートと同じものデス!」

 

 

 魔王城でのゲートと同じと聞き、ロボ以外にクロノ、カエル、魔王、そして尊がこの後の展開を予想できた。

 あそこで発生したゲートに呑まれてクロノたちは原始へ、尊と魔王は古代へと移動した。

 不確定要素の塊と言っていいこの空間でそんなものに呑まれてしまえば、どうなるかわかったものではない。

 

 

「ゲートに呑まれて転移するぞ! 全員一か所に集まって両隣の奴の体をしっかりつかめ! はぐれても知らないぞ!」

 

 

 尊の指示に誰もが行動に移り、互いにしっかりと手を握ったり腕を掴んだりして離れないようにする。

 直ぐに魔王城で発生したもの以上に巨大なゲートが発生し、瞬く間に彼らを取り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてゲートを抜けた先は、焼き払われた集落の後だった。




どうもこんにちわ、前作の内容をほぼ丸ごと流用させて第2章を投稿した作者です。

さて、今回でクロノトリガー編第2章は終了となり、次回から新章となります。
今度の舞台はズバリ、『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』です。
1月には炎龍編が始まることもあって、話題としてはタイムリーなのでは?と勝手に思っております。
一応炎龍編まではプロットができていますが、動乱編以降はまだ手探りな状態となっています。
また、空白期を利用して多重クロスタグをフル活用しようかと考えています。
どのような展開になるかは、今しばらくお待ちください。

12月22日現在でストックが切れてしまいましたが、28日にも投稿できるように努力しますので、これからもよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり編
第54話「自衛隊との遭遇」


どうもこんにちわ、作者です。

ついに新章、『GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』編が始まります。
ここでは原作、漫画、アニメの設定全てを作者の都合で取り込んで展開していきます。
キャラデザインはアニメ準拠で描写していきますが、お好みで脳内保管してください。
また、作者は現時点で外伝は未購入につきノータッチのため展開する予定はありませんが、どうにか導入できるよう頑張ります。

それでは新章、どうぞご覧ください。



※この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。


「……ここはどこだ?」

 

 

 魔王の発したその一言が、この場にいる全員の心境を代弁していた。

 ラヴォスの最終形態を仕留めた後に発生したゲートに呑まれ、抜けた先は焼き払われて間もない村と思しき場所だった。

 しかも所々で人だった何かが目に留まり、マールやサラは口に手を当てて込みあがる吐き気を堪えている。

 

 

「……ロボ、何かわかるか?」

 

「地質、地形データに一致するモノはアリマセン。恐らく、別ノ世界へ転移したト思われマス」

 

 

 別の世界と言われ、質問した尊の脳裏に一瞬フロニャルドが映った。しかしあちらの空は紫がかっていたのに対して、ここの空は――雲の隙間からではあるが――普通に青空が見える。

 

 ――少なくともあの世界とは違う、ということか。ホッとするべき……ではないな。

 

 目についた人だったものを見ながら頭を切り替え、今どうするべきなのかを決める。

 

 ――サテライトエッジのエネルギーはラヴォスにトドメを刺すのに使ったから、サテライトゲートを開いてクロノ世界に戻ることはできない。となると、否応にもしばらくはこの世界に留まることになるわけか。

 

 

「……一先ず、情報を集めよう。こんな場所で期待していいかわからないが、生存者を探しつつこの世界についての手掛かりを探そう。可能なら遺体も丁重に埋葬したいがところだが、自分たちの身の安全が保障できない間は下手に手出ししないでおこう」

 

「それしかないな。 しかし、この村で一体何があったんだ? 周囲の焼け具合から元は森だったようだが、ことごとく焼き払われている」

 

 

 カエルのつぶやきでエイラとクロノ、ロボは原始に存在したラルバ村のことを思い出した。

 あの村もここほどではないにしろ恐竜人の手で森ごと家屋が焼き払われてしまい、多くの人が命を落としたのだ。

 その時の状況に酷似していると思いながらもクロノは先に進み、エイラも高いところに上って何かないか探し出す。しかし立ち上る煙で視界がはっきりせず、匂いを頼ろうにも異臭に阻まれて思うような情報は得られなかった。

 やがて広場だったと思しき開けた場所に抜けると、井戸を見つけたマールが思い出したようにつぶやく。

 

 

「ここのお水って、飲めるのかな?」

 

 

 それを聞いてクロノや尊も喉が渇いてきたことに気づき、無性に水が欲しくなってきた。激戦を無事潜り抜けたとはいえ、体にかかった疲労も相当なものだ。

 戦いの最中は忘れられていた渇きや空腹がここにきて主張を訴え始め、呑めるかもしれない水を前にして喉が鳴る。

 しかし周囲の具合から無警戒に水が飲めるとは思えず、尊は何かないかと井戸の周りを探る。するとロープがついた無事な桶が見つかり、少なくともこれで井戸の中の水がどうなっているか探れるくらいはできそうだった。

 

 

「ロボ。引き上げた水が飲めるか調べることはできるか?」

 

「おまかせクダサイ、可能でアレバ、飲料水にする方法も提示させてイタダキマス」

 

「そりゃ頼もしい」

 

 

 ハハッと笑いながら、尊は無造作に桶を井戸に放り込んだ。

 

コォーン!

 

 

「ん?」

 

 

 突然響く、どこか心地いい音。

 その直後にバシャっと水音が上がり、一同は顔を見合わせた。

 水以外の何かがこの中にある。

 全員の考えはそれで一致し、同時にここの水は飲めないかもしれないという絶望感が漂い始める。

 

 

「……調べてみましょう」

 

 

 ルッカが自分の亜空間倉庫から自作の懐中電灯を取り出し、覗き込みながら井戸の中を照らす。

 全員がそれに倣って覗き込むと、光の先にはおでこを赤くした金髪の少女が気を失った状態で水に浮いていた。

 

 

 

 

 

 

 井戸の底から女の子を引き上げると、その子が普通と違うことにすぐ気が付いた。

 

 

「この子……もしかして、エルフか?」

 

 

 普通の人と違う笹穂状の長い耳を見て真っ先に浮かんだのがそれだった。

 ファンタジー小説やRPGの代表的な種族のひとつで、人間よりはるかに長い寿命を持ち、森で静かに暮らす弓使いの人々というのが俺の知ってる大まかなエルフだ。

 もしかしたらこの村は元々エルフの村で、何か異常が起きた際にこの子だけ井戸の中に押し込まれて難を逃れたのかもしれない。

 ただ、気を失っている原因が自分の放り込んだ桶が原因かもしれないと思うと非常に申し訳なく思えてくる。

 

 

「まだ脈があるわ。けど、相当長い時間水に浸かっていたみたいで体がとても冷たいわ」

 

「暖める必要があるが、服が濡れたままってのもよくないな。サラ、マール、ルッカ、シェルターを出すから中で着替えとか頼む」

 

「わかりました。レイズやアテナの水はどうしますか?」

 

「そうだな……」

 

 

 やろうと思えばすぐにできるが、ここが別世界である以上シェルターやアテナの水は補給が効かない。

 本音を言えばシェルターも使いたくないが、他に隠して着替えさせる場所がない以上は――

 

 

「ミコトサン、センサーに反応がありマス。排気音と駆動音からディーゼル車のようデス」

 

「ディーゼル車?」

 

 

 なんだろう、なんか懐かしい気が………………んん゛!?

 

 

「まて! ディーゼル車だとぉ!?」 

 

 

 ロボの報告に度肝を抜かれていると、唯一残った道からやってきたそれに俺は驚きを隠せなかった。

 見慣れたナンバープレートをつけた三台の車。ニュースなどでしか見たことはないが、それがどこの物なのかすぐにわかった。

 

 

「――なんでエルフがいるファンタジー世界に陸上自衛隊がいるんだ!?」

 

 

 

 

 

 

「エルフにロボット、鳥人間にカエル人間……どういうことだよ」

 

 

 日本陸上自衛隊第3偵察隊隊長の伊丹耀司二等陸尉は、目の前にいる面々を見て思わずそうつぶやいた。

 コダ村の村長の紹介でからコアンの森に住むという村人たちに会うべく行動をしていたが、進行方向から上がる煙を見てドラゴンを目の当たりにし急ぎ駆けつけてみればそこにいたのは数人の人間ととがった耳が特徴的なエルフ(?)の男、そしてあからさまなロボットに鳥のような頭をした人とカエル人間がいたのだ。

 

 

「隊長、どうします?」

 

「どうもこうも、話を聞くしかないでしょ」

 

 

 運転席の倉田にそう答え、降車する。伊丹を見て一番に反応したのは黒髪の男――月崎 尊だった。

 

 

「あ、あの! なんで自衛隊がこんな所にいるんですか!?」

 

「……日本語!? 日本人!?」

 

 

 特地語と呼称されたこの世界独特のものではない馴染み深い言語に今度は伊丹が驚愕し、高機動車からその様子を見ていた桑原が通信を送る。

 

 

<<隊長、どうしましたか?>>

 

「あっ――おやっさん! 日本人がいる! 銀座事件の行方不明者かもしれない!」

 

<<なんですって!?>>

 

 

 伊丹の報告に桑原陸曹長も驚き、同じく報告を聞いていた第3偵察隊の面々も装備を確認して次々と降車する。

 突然現れた武装集団にクロノたちも思わず警戒するが、尊は先ほど伊丹の口から出た言葉に眉をひそめた。

 

 ――銀座事件……俺の世界じゃそんなものは聞いたことがないな。

 

 この時点で尊は今までの経験から一つの仮説を立て、それがほぼ間違いなく当たっていると予感していた。

 

 

「すいません、ひとつ確認したいんですけど、いいですか?」

 

「ん? 答えられる範囲でよければ」

 

「難しいことじゃありませんよ。 ――今は西暦何年ですか?」

 

 

 尊が世界を渡ったのは2014年の9月だ。あのころから大雑把に計算して、今は11月ごろと推測していた。

 もしこれから大きくズレた時間を告げられれば、彼らは自分の世界とは違う世界の自衛隊だと判断できる。

 

 

「今は2011年の11月だよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 かくして、尊の予想は的中した。

 この自衛隊が異なる世界の部隊だと断定し、ならば自分にかかっている誤解を解くべきだとして自己紹介を始めた。

 

 

「先にお伝えしますが、俺はその銀座事件とやらの行方不明者じゃありません。もっと言えば、皆さんとは違う世界の日本人です」

 

「違う世界の、日本人?」

 

「話せば少し長くなるんですけど、その前に彼女の処置をお願いしてもいいですか?」

 

 

 そう言って示した先には、井戸にいたエルフを介抱しているルッカたちがいた。

 

 

 

 

 

 

「――話をまとめると、月崎君は俺たちとは違う世界の日本人で、こっちのクロノ君たちがいた世界に流れ着いた先でさらにこの世界に来てあのエルフの女の子を見つけた……ってことでいいのかな?」

 

「概ねその通りです。なので俺は先ほど教えてもらった銀座事件とは何ら関係がありませんし、クロノたちもこの特地の住人ではありません」

 

 

 伊丹耀司と名乗った自衛官に俺の経緯を話しながら、クロノたちがこことは違う世界から来たことを説明し終えると、要約した彼は面倒くさそうに頭を掻いた。

 さっきの話でこちらが得られたのは伊丹さんの世界で計算して数ヵ月前に銀座とこの特別地域――通称、特地が『門』と呼称されたものでつながり、帝国と呼ばれる国からの宣戦布告を受けて多くの死傷者と行方不明者を出したそうだ。

 最も帝国の技術レベルが魔法や竜などを除けば、剣や弓を中心にしたクロノ世界の中世と同じくらいしかなかったため、自衛隊や警察の機動隊の尽力もあって戦火が銀座より広がることはなかったらしい。

 そして現在、特地の調査として自衛隊が派遣され伊丹さんたちは現地の人の紹介でこの森に住んでいるはずだった人に会いに来たのだが、巨大なドラゴンが森を焼き払っているのを目撃。脅威が去ったのを確認してここにやってきて、俺たちを見つけたとのことだ。

 ちなみにさっきの会話で俺とサラがもう一つの世界――フロニャルド――を知っていることは説明していない。あの世界にクロノたちは関係ないし、余計な混乱を招きかねないからだ。

 

 

「で、月崎君は俺たちの世界とは違い銀座事件がなかった数年先の日本から来た……っと。 こっちの世界もそのまま行ってくれれば、同人誌即売会に参加できたのになぁ……」

 

 

 最後の方は聞き取れなかったが、ひどく落ち込んだ様子から少し羨ましがっているのはなんとなく分かった。もしかしたら銀座事件なんて面倒なことがなかったのが羨ましいのか?

 

 

「隊長、よろしいですか?」

 

 

 こちらの話に区切りがつくのを待っていたのか、長身の女性がサラたちを連れてやってきた。

 サラたちには同じ女性ということで女の子の処置を手伝ってもらっていたが、表情を見る限り峠は越えたようだ。

 

 

「どうだった、黒川?」

 

「保護した女の子なのですが、命の危険は脱しました。しばらくすれば、目が覚めると思います。ですが、これからどうしますか?」

 

「うーん……集落は全滅しちゃってるし、このままにしておくわけにもいかないでしょ。それに、月崎君たちのこともある。 女の子は保護ってことで一度連れ帰るけど、そっちはどうする?」

 

「そうですね……」

 

 

 伊丹さんの問いかけに俺は他のメンバーの意見を求めて顔を向ける。

 

 

「俺たちはミコトさんに任せますよ。幸い、ミコトさんはこの人たちがどういう組織なのかよく知ってるみたいですし」

 

 

 クロノの言葉に誰も異を唱えなかったのを見て、俺はこの機会を受け入れることにした。

 

 

「行く当てなんて当然ありませんからね。こっちとしても保護していただけるんなら、願ったり叶ったりです」

 

「わかった。上の方にはどうにか話をつけてみるよ」

 

「あ、でしたら俺が別の世界の日本人だというのは伏せてもらえますか? ただでさえ別の世界の連中がここにいたことが問題になりそうなのに、そのうえ別の世界の日本人がいたなんて間違いなく厄介ごとになりそうなんで」

 

「……だねぇ」

 

 

 面倒ごとはノーサンキューなのだろう、伊丹さんは苦笑いで同意した。

 

 

「ですが隊長、連れて行くにしてもこれだけの人数は流石に……」

 

 

 黒川さんの言い分は最もだ。

 何せさっき保護した女の子を含めれば、こっちは実に13人。ベースジャバーで無理やり運ぶにしても、フロニャルドじゃないから輝力にMPを使う以上必ず魔力切れ(ガス欠)が伴う。となると……

 

 

「ガイナー、マシュー、オルティー、エイラ。持久力に自信はあるか?」

 

「距離にもよりますが、半日は持続して駆け抜ける自信があります」

 

「エイラ、一日中走れる!」

 

「そうか――伊丹さん、この4人をそっちの車に乗せてやれますか? 残りはこっちで何とかしますから」

 

「なんとかって、どうするの?」

 

 

 クロノ、マール、ルッカ、ロボを示しながら説明すると伊丹さんから疑問の声が上がり、その回答をするために俺は輝力武装を展開する。

 突然出現したベースジャバーに自衛隊の皆さんは、信じられないものを見た風に声を失っていた。

 

 

「これで空を飛んで追いかけます。4人までならギリギリ乗れるんで。あとの面子には走ってもらいます」

 

「そ、それで本当に大丈夫なの?」

 

「大丈夫ですよ」

 

「……なら、いいけど」

 

 

 半信半疑ではあるが伊丹さんは納得し、黒川さんもそれ以上言及しないで引き下がった。

 

 

「よし! 全員乗車! これよりコダ村経由で、アルヌス駐屯地に帰還する!」

 

 

 よく通る声で伊丹さんの命令が響き、クロノたちは黒川さんに連れられてジープ――こういう時は高機動車だったか?――に乗り込み、俺のベースジャバーにサラとカエル、魔王が乗り込んだ。

 さて、この世界はどんなところなんだか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで月崎君。これって、もしかしてガンダムのアレ?」

 

「あ、わかりますか?」

 

 

 どうやら伊丹さんはそっちの知識も豊富のようだった。




原作では年号が20XX年となっていましたが、ここでは2011年とさせていただきます。
また、11月というのは参考人招致の時期から逆算して避難民が保護されたのはこのくらいだろうと作者が勝手に設定したものです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第55話「特地の脅威」

ある程度話が進むまで特地語は【】で、日本語は「」で表現します。


 自衛隊に案内されて到着したのは、トルース村より規模が小さいコダ村という場所だった。

 伊丹さんは村長と思しき人に手元の本を見ながらこの世界の言葉で会話しており、竜の絵を見た瞬間に村長だけでなく他の村人からもどよめきが上がった。

 すると村人たちは一斉に動き出し、荷車や馬車を出しては次々と家財道具などを載せ始めた。

 

 

「どうやらここの住民たちは、ドラゴンから逃げるタメに村を捨てるようデス」

 

「ロボ、わかるのか?」

 

「イタミ殿が会話を始めタ段階から言語の解析を行っていマス。デスガまだまだデータ不足なので、主観から推測シタにすぎまセンガ」

 

「いや、十分だ。そのまま解析を続けてくれ」

 

 

 サテライトゲートを開くためのチャージが終わるまでこの世界に留まるのなら、最低限会話と読み書きはできるようになっておかなければならないだろう。

 いくら自衛隊がいるにしても、いつまでも保護される立場ではいられないからな。長引くかもしれないなら、どこかで自立することを視野に入れなければ。

 そんなことを思っているといつの間にか自衛隊の車両を先頭に避難する人が長蛇の列を作っており、名残惜しそうに村から去ろうとしていた。

 ちなみに俺たちは自衛隊が避難民に合わせて速度を落としているのを機に、徒歩に切り替えて列に加わっていた。

 また、ベースジャバーは村についた時点で混乱を避けるため解除し、それに合わせて目立つ装備はすべて亜空間倉庫に入れ、比較的現地人に似た服装となっている。

 だがそれでも俺たちの面子は異色なのだろう。避難民の大半がロボやカエルにチラッ、チラッと視線を送っている。

 中には俺たちへの興味を隠そうともせずガン見している少女もいた。ローブと杖を持っている姿から、もしかしたら魔法使いなのかもしれない。

 

 

「……この人たち、行く当てはあるんですかね?」

 

 

 列を眺めながらクロノがポツリとつぶやく。

 確かにいきなり村を捨てる羽目になったんだからすぐに行く当てが見つかるはずがない。

 ある程度は最寄りの村で受け入れてもらえるかもしれないが、全員を受け入れられるキャパシティなどないはずだ。

 必然的に、ある程度の人数は新たに受け入れても会える村や町を探して逃避行を続けることになる。だがそれも、そう長く持つはずがない。

 体力もそうだが、食料や路銀がすぐに底をつくだろうし、なによりこの世界じゃ盗賊なんかが普通に出てくるらしい。

 移動をする人数が少なくなり、自衛する手段を失ってしまえば格好の的になる。襲われてしまったら、後はどうなるか容易に想像できる。

 どうにかしてやりたいとは思いたいが、流れ者の俺たちにできることなど何もない。

 

 

「……ままならないな」

 

「ええ、本当に」

 

 

 サラも同じ心境だったのか、俺の言葉に同意してくれる。

 嘆息していると、不意に列が進んでいないことに気づいた。

 

 

「御館様。どうやら荷を積みすぎた馬車の車軸が折れ道を塞いでいるようです。それに伴い、少女が怪我をしたとか」

 

 

 先に様子を見に行っていたらしいガイナーが報告してくる。

 なるほど、持てるだけ持っていこうとして重量オーバーになってしまったわけか。それにしても子供が怪我か……それくらいだったら治せるか。

 

 

「ちょっと様子を見てくる。ついでに、怪我したって子供も治してくる」

 

「あ、私も行きます」

 

「じゃあ俺たちは道を塞いでるっていう馬車の撤去を」

 

 

 俺の行動を皮切りに全員が移動し、問題が起こったという場所にやってくる。荒い呼吸を繰り返す女の子の様子を黒川さんが診ていて、その近くでは倒れた馬に横転した荷台が惨状を物語っていた。

 

 

「黒川さん、ちょっといいですか」

 

「え? あっ、迂闊に触れないで。この子は脳震盪を起こしていますし、肋骨に皹が入ってる可能性も」

 

「肋骨に皹…ですか。だったら――『ケアルガ』」

 

 

 唱えた魔法が少女を包み、擦り傷などを一瞬にして癒す。同時に女の子の呼吸が安定し、目に見えて危険を脱したことが伺える。

 その様子に辺りから驚愕が広がり、間近で見ていた黒川さんも信じられないといった表情をした。

 

 

「い、今のは?」

 

「回復の魔法です。怪我に関してはこれで大丈夫ですから、あとは意識が戻れば大丈夫です」

 

 

 よし、子供はこれでいいとして、後は馬と荷台を――

 

 

「うおっとぉ!?」

 

「ウラァ!」

 

 

ズドムッ!

 

 後ろから馬の高い嘶きとともにクロノの驚く声が上がり、同時にエイラの力強い声と何かを殴ったような鈍い音が響く。

 振り返ってみれば泡を吹いて気絶している馬と、手をプラプラさせているエイラがいた。

 

 

「クロノ、何があった?」

 

「馬が突然暴れ出したんですけど…まあ、見ての通りです」

 

 

 それだけで察した。暴れ出した馬をエイラが拳一つで黙らせ、被害を未然に防いだといったところか。

 暴れ出した馬は危険だと聞くけど、エイラにとっては子犬を黙らせるようなものなのだろう。ともあれ、新しい怪我人が出なくてよかった。

 

 

「あの嬢ちゃん、すげぇな……。俺は馬を撃つつもりでいたんだが」

 

「原始時代を体一つで生き抜く世界でも有数の戦士ですからね。あの拳にかかれば、大抵の敵は沈みますよ」

 

 

 小銃を手にした桑原さんにそう答えながら、ついでにと提案をする。

 

 

「桑原さん、俺たちも何か手伝わせてください。ただ見てるだけっていうのは、ちょっと嫌なんで」

 

「……わかった。隊長に聞いてみよう」

 

 

 さっきの出来事で俺たちが普通の人間じゃないことを理解したのか、桑原さんは俺たちにできることがないか伊丹さんに確認しに行った。

 さて、とりあえず俺はロボたちと一緒に荷台を退かすか。

 

 

 

 

 

 

 少女、レレイ・ラ・レレーナは目の前で起こった現象に目を見開かずにはいられなかった。

 初めは聞いたことのない言葉を話す緑の人たちと進まない前方の様子を見るために向かったのだが、そこでは緑の服の女性と話す男が見たことのない魔法で子供の傷を癒したり、露出の多い服を着た女性が拳一つで馬を倒すという光景が広がっていた。

 後者に関してはまだ納得できなくはないが、男の使った魔法は賢者の異名を持つ師匠からも聞いたことがない未知の技術だった。

 しかもカエルと鳥の亜人、鋼鉄のゴーレムと自分の知らない存在が目の前にいる。

 

 

【……世界は、広い】

 

 

 彼らのことをもっと知りたいと思いながら、レレイはこのことを師匠に教えるべく自分たちの荷馬車へと戻った。

 

 

 

 

 

 

「――一晩でたった1.5%か……」

 

 

 伊丹たちと行動を共にしてから最初の夜が明け、尊は家臣であるデナドロ三人集とともに列の最後尾を移動しながらステータスを確認し渋い表情を浮かべる。

 彼が自力でゲートを開くには、サテライトエッジに月の光を当ててチャージを100%にする必要がある。

 クロノ世界、フロニャルドと二つの世界を通じてそれは同じであり、尊は月が多い方がチャージ率がいいと仮説を立てていた。

 しかしこの特地ではどういうわけか月があるにもかかわらずチャージ率は予想を大きく下回っており、このままでは最低でも3ヶ月は特地に留まる必要があった。

 だがこの世には「働かざるもの食うべからず」という言葉がある。

 自衛隊の保護を受けるにしてもそれはずっと続くものではないため、やはりどうにかして自立をするしなければならない。

 

 

「とはいっても、現状で使える手段なんてないんだよなぁ……これがフロニャルドだったら、閣下やミルヒ姫様を頼れるんだが」

 

 

 ない物ねだりをしてもしても仕方ないのは理解しているが、つぶやかずにはいられない。

 と、唐突に列の動きが止まってしまう。昨日から断続的に荷車のトラブルが起こっているため今回もそれがらみではと考え、その場をガイナーたちに任せて前に向かう。

 どうやら荷車がぬかるみに嵌り、進行の妨げになっているようだった。既に荷車の持ち主だけでなくパワーのあるロボと自衛隊の富田 章、栗林 志乃も駆けつけて後ろから押し出そうとしていた。

 人手が足りていることを確認し、せっかく前に来たのならとついでに先頭の車両にいるサラの元へと移動する。

 彼女は昨日尊が使ったような回復魔法が使えるということで、怪我人の治療係としてマールとともにエルフの女の子を看病しながら待機していた。

 トラブルがあったため移動も中断されたおかげでものの数十秒で目的の車に追いつき、後ろの扉を開けてひょいと乗り込む。

 

 

「お邪魔しますよっと」

 

「あ、ミコトさん」

 

 

 出迎えたマールに片手を挙げながら、エルフの看病をしているサラと黒川に声をかける。

 

 

「その子、様子はどう?」

 

「バイタルは安定しているので、意識が回復するのも近いそうです」

 

「エルフってことで人間と同じ基準にしていいか不安だったけど、大丈夫みたい。助けた後すぐ暖められたのも大きな要因よ」

 

「よかった。せっかく助けたのに死なれたんじゃ、目覚めが悪いですしね」

 

 

 一安心とばかりに胸を撫で下ろすと、今度は前の席にいる伊丹から声がかかる。

 

 

「月崎君、後ろの様子どうだった?」

 

「富田さんと栗林さん、それからロボがぬかるみに嵌った荷台を押し出してました。あれならすぐに移動を再開できると思います」

 

「ありがとう。君らのおかげで、少しは楽させてもらって助かるよ」

 

「ですね。特にあのロボットのおかげで、特地住人との会話が隊長より断然捗ってますからね」

 

「余計なお世話だ」

 

 

 運転席でハンドルを握る倉田の茶々に伊丹が手にした翻訳本を投げつけ、車内に少し笑い声が上がる。

 しかし実際、尊たちのメンバーで最も自衛隊に貢献しているのがロボだった。

 機械ならではの疲れ知らずのパワーにコンピューターによる言語解析、果てには内蔵されたセンサーでの警戒行動とまさに百人力の働きをしていた。

 だがこの逃避行には、それだけでは足りないのも現状であった。

 

 

「移動速度は、如何ともしがたいですがね」

 

 

 こればかりはどうしようもなかった。

 徒歩で移動するしかない住民の心配だけでなく、荷車を引く馬やロバの体力も考慮しなければならないのだ。

 それらを考えたうえで移動するとなると、どうしてもゆっくりとした移動になってしまう。実際この高機動車でさえアクセルはほとんど踏まれず、倉田自身こんな速度で運転するのは教習所以来だとぼやいていた。

 

 

「車両の増援とか頼めないんですか?」

 

「あー、一応ここフロントライン……前線超えててね。下手に大規模な部隊を動かせば俺たちの敵が動くかもしれないし、それに伴って偶発的な戦闘や無計画な戦線の拡大、戦力の消耗だけでなく新たに広がる戦火に避難民まで巻き込みかねない。最悪の事態を考えればぞっとする……てね」

 

 

 挙げられた内容に尊は閉口せざるを得なかった。

 最後の一言から上の人間に厳命されたことなのだろうが、確かに一つの村の住人をドラゴンから助けるためにそれ以上の被害を誘発しては、何のために村人を助けたのだということになる。

 サラとマールも同じことを想像したのか、何ともやるせない気持ちになりながらエルフに視線を落とした。

 

 

「……じゃあ、俺たちでどうにかするしかないってことですね」

 

「そういうこと。ま、戦闘は俺たちに任せて、君たちは避難民を守ってやってくれればいいよ」

 

「正直、戦闘にならないのが一番ですがね」

 

「まったくだ」

 

 

 全員同じ気持ちなのか、このまま何事もなく終わってほしいと心から願うのだった。

 

 

「……ん?」

 

 

 何気なく視線を前方に向けると、道の先で大量のカラスが空を飛んでいるのに気づいた。

 その様子に伊丹も気づいたのか、双眼鏡を取り出して様子を探る。そんな彼の視界に飛び込んできたのは――

 

 

「――ゴスロリ少女!?」

 

「ヴェッ!?」

 

 

 巨大なハルバードを手に黒いゴシックドレスを纏った少女が、妖艶な笑みを浮かべてこちらに向かってきている姿だった。

 

 

 

 

 

 

 伊丹さんの声に反応して倉田さんが妙な声を上げて双眼鏡を構える。そんな姿に呆れる黒川さんを横目に改めて前を注視すると、確かに黒地に赤いフリルのついたゴスロリ服を着た少女がこちらに歩いてくるのが見える。

 ただし、その体躯に不釣り合いな大きなハルバードを手にしてだ。しかも蛇みたいなのが絡みついた禍々しい装飾付きの。

 

 

【あなたたち……どこからいらしてぇ、どちらへ行かれるのかしらぁ?】

 

 

 特地語で話しかけられ俺の頭にハテナが埋め尽くされる。

 この場で一番言葉を理解できるであろう伊丹さんに目を向けるがこの人も把握しきれていないようだ。こんな時にロボがいてくれたらなぁ……。

 

 

【神官様だー!】

 

 

 突如、後ろにいた子供たちが車から降りて少女に駆け寄っていく。

 子供だけでなく大人や老人まで少女に近づくと、祈りを捧げるように跪いた。

 

 

「祈りを捧げているみたいですね」

 

「ということは……服か武器に宗教的な意味があるんですかね?」

 

 

 だとしてもゴスロリ服に宗教的意味があるとは思えないし、まだ禍々しいハルバードの方が邪教とかの神官として証明するのに説得力がある。

 だが物怖じせず話しかける子供たちの様子から、別にその手の神に仕える神官とかいうわけでもなさそうだ。

 件の少女はこちらに近づくと不思議そうに車両を眺め、子供から何か言われると楽しそうな笑みを浮かべてつぶやく。

 

 

【これ、私も乗せてもらえるかしらぁ?】

 

「あー……さ、【こんにちわ、ご機嫌いかが?(サヴァール ハル ウグルゥー?)】」

 

 

 とりあえず答えた伊丹さんだが、少女はハルバードを車両に乗せると満面の笑みで彼の膝に座った。というか君、ハルバードを寝ているエルフに乗せるんじゃありません。うなされてるぞこの子。

 一方、突然椅子にされた伊丹さんは何度も降りるように促すが、少女はそのポジションが気に入ったのか動こうとしない。その隣で倉田さんが頻りに「羨ましいッス!」と叫んでいるが……あれか、我々の業界ではご褒美ですってやつか?

 そんなことが数分続き、結局伊丹さんが席を詰めることで納得してもらい移動が再開された。ちなみにハルバードはエルフの隣に置きなおしたが、正直尋常じゃない重さだった。キログラムで軽く三桁はあった気がするぞ。

 予定外のこともあったが用が済んだので先頭から離れ、戻りながらトラブルがないか目を通していく。その間に草原が主だった景色が茶色い荒野へと推移し、心なしか気温が高くなった気がする。

 

 

「――あ、ミコトさん」

 

 

 唐突に名前を呼ばれ足を止めると、ロボが肩に子供を乗せ、その隣でクロノが子供をおぶって歩いていた。そのさらに隣には魔王の姿もあるが、こいつは腕を組んで歩いているだけだった。

 

 

「どうだ、なにか問題はないか?」

 

「今のところハ大丈夫デス。シカシかなりの距離を歩いたこともアリ、村人たちの体力に懸念がアリマス」

 

「確かに昨日から歩きっぱなしだが、こればかりはどうしようもないんだよなぁ」

 

 

 村から大分離れたとはいえ、ドラゴンの脅威から逃れたとは言い切れない。

 しかもここはかなり開けた場所だ。体力を消耗して動きが鈍くなってる今を狙われたらどんな被害が出るかわかったものじゃない。

 

 

「フン、こちらから始末した方が早いのではないか?」

 

「おいおい、確かにそれが手っ取り早いかもしれないが、相手の具体的な戦闘力がはっきりしてないんだぞ。しかも伊丹さんが村長から聞いた話じゃ、そのドラゴンだけで国が滅びかねないほどらしい。もしそれが本当だとすれば……」

 

「最低でもドラゴンは国を滅ぼすだけの力がある……ってことですね」

 

「そういうことだ」

 

 

 いくら俺たちがラヴォスという星を殺すほどの敵を倒した実績があるとはいえ、大部分は俺が反則じみた手段を用いたことと、ラヴォスについてよく知っていたことに起因している。

 おそらく原作通りのクロノたちだけでは、あの並外れた力を振るったラヴォスを倒すのは困難だっただろう。

 よしんば第2形態まで倒せたとしても、ラヴォスコアの法則を知らなければ最後の戦いでやられていた可能性が高い。

 無数のビットに紛れたコアを仕留めなければならなかったあの悪夢は、もう二度と味わいたくないな。

 さて、そろそろガイナーたちのところに――

 

 

「! センサーに反応! 上空ヨリ巨大な熱源を感知デス!」

 

 

 突然ロボが叫び、俺たちは反射的に空を見上げる。

 その行動につられて村人も空を見上げると、彼らの顔が絶望に染まった。

 

 

「GRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 

 真っ赤な鱗に覆われた巨大なドラゴンが、そこにいた。




クロノ世界やフロニャルドと比べてサテライトエッジのチャージが悪いのは作者の都合によるものです。特に深い理由はありません。
また、今回の投稿でついにストックが切れましたので次回投稿に少し時間が開きます。ご了承ください。

次回、炎龍遭遇戦。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第56話「後悔」

どうもこんにちわ、スパロボZシリーズにGガンダムをねじ込んでみたいと妄想している作者です。

さて、なんだかんだで連日投稿に成功した今回は炎龍との初戦になります。
原作と比べて本作の炎龍はスペックアップがされております。
具体的な内容はあとがきにて。

それでは本編第56話、どうぞご覧ください


【え、炎龍だあああぁぁぁぁぁ!!】

 

 

 避難民から悲鳴が上がると同時に炎龍は大きな翼を羽ばたかせ、村人の列に向かって飛翔すると凶悪な口から火炎を吐き出す。

 広範囲に渡って灼熱の炎が猛威を振るい、命拾いした人がいれば一瞬にして消し炭になってしまった人もいた。

 

 

「戦闘用意!」

 

「オオオオオオ!」

 

 

 先頭の車両で伊丹が叫び、別の場所では足をもつれさせて倒れた親子を守るようにロボが体を滑り込ませ、炎龍に向かってロケットパンチを放つ。

 しかし大したダメージは見受けられず、炎龍は軽く身震いすると逃げ惑う人々に向かって再び炎を吐く。

 

 

「なんだこいつのデカさは!? ティラン城で戦ったブラックティラノなんざ目じゃないぞ!」

 

「逆に考えるのよ! 図体が大きいということは攻撃を当てやすいはずだから!」

 

 

 パニックで怪我をした女性を抱えながらカエルが愚痴り、ルッカは即座にミラクルショットを構え炎龍に向かって三連射。

 だが炎龍はその巨体に似合わない機動力で全弾回避し、大口を開けて近くの村人を食いつぶそうとする。

 そこへチーターの如き速さで四つの影が駆け抜け、炎龍に飛び掛かる。

 

 

「やらせはせんぞ!」

 

「我らの自慢の一撃!」

 

「受けてみるがいい!」

 

「ラアアアアァァァァァァ!」

 

 

 ガイナー、マシュー、オルティー、エイラがその頭部に攻撃を加え、炎龍の意識を自分たちに向けさせる。

 速さを生かした斬撃の乱舞を繰り出す三人集と自慢の拳を叩き込むエイラだが、その鱗の強度は彼らの予想をはるかに超えていた。

 

 

「コイツ、すごく硬い!」

 

「ならば腹はどうだ!?」

 

 

 オルティーが比較的肉質が柔らかそうな腹部に向けてかまいたちを放つが、目立った効果は表れなかった。

 

 

「な、なんという鱗だ! ルインゴーレムをも切り裂く一撃がまるで効かんとは!」

 

「一度退くぞ! 我らがいては御館様たちが魔法を放てぬ!」

 

 

 ガイナーの合図で逃げそびれた人たちを抱えながら4人は一気に離脱する。

 そこへ自衛隊からの射撃が入り、炎龍の眼が高機動車や装甲車を捉える。

 

 

「怪獣と戦うのは自衛隊の伝統だけどよ! なにもこのタイミングでドンパチやるこたないだろ! 倉田ぁ! 走れ走れぇ!」

 

軽装甲機動車(LAV)は牽制を! その隙にM2(キャリバー)を叩き込め!」

 

 

 桑原の叱咤が轟き、伊丹の命令で各々が手持ちの武器で攻撃を続ける。

 しかし豆鉄砲でも受けているかのように炎龍は平然としており、大きく息を吸い込みタメを作る。

 

 

「マズッ! ブレス来るぞ!」

 

 

 その動作が何なのか直ぐに理解できた伊丹は声を張り上げ、回避の指示を飛ばす。

 各車両が射線から離れるように進路を取ると、ほぼ同時に先ほどまで自衛隊がいた場所を炎が通過した。

 

 

「クロノ! 魔王! 頼むぞ!」

 

「はい!」

 

「しくじるなよ、貴様ら!」

 

 

 輝力武装のベースジャバーを展開し低高度を移動させる尊が同乗者の二人に合図をし、三人は同時に右手に雷を宿らせる。

 

 

『『『サンダガ!!』』』

 

 

 真昼の空に雷鳴が響く。

 連携技の『エレクトリッガー』が炸裂するが、これさえも炎龍は少し怯んだ程度のダメージしか受けなかった。

 

 

「嘘だろ!? 物理だけじゃなく魔法にもここまで強いのか!?」

 

「まったく効いていないわけではない! ボヤく前に魔法を撃て! 『ダークミスト』!」

 

 

 動揺するクロノに魔王が叫ぶ。

 尊もそれに倣って魔法を放とうと思ったが、炎龍の狙いが自分たちに向いたのを感じて直ぐに離脱を図る。

 

 

「ミコト! 何故離れる!?」

 

「あまり近すぎると伊丹さんたちが迂闊に銃を使えない! それにベースジャバーは一撃でももらったら消滅する! 火炎ならともかく味方の流れ弾を喰らって地面に落ちるなんてのはご免だぞ!」

 

 

 端的に答えながらサテライトエッジをブラスターで取り出し、炎龍の顔に向かってトリガーを引く。

 その一撃を炎龍は自身の翼で受け止めるが、思った以上にダメージが効いたのか動きを少し鈍らせ低い声で唸る。

 今まで打ち込んだ攻撃で最も効果が得られたのを見てこのまま連射したい気持ちに駆られるが、ブラスターは一定時間チャージしなければ次弾を撃てないことに尊は舌打ちをした。

 一方、伊丹たちは鈍くなった炎龍をこのまま釘付けにしようとひたすらに連射をするが、尊のブラスター以上の効果は得られないでいた。

 

 

「全然効いてないッスよ! どうするんスか隊長!」

 

「今は撃ち続けろ! ブレスだけは絶対にもらうな!」

 

 

 指示を飛ばして新しい弾倉(マガジン)を取り出すと、突然伊丹の肩を誰かが掴む。

 

 

「おわ!? なんだ!?」

 

【目を狙って!】

 

 

 肩を掴んだのは気を失っていたはずのエルフで、彼女は言葉が通じないながらも自分の意図を伝えようと必死に叫ぶ。

 

 

【目よ! 目を狙うの!】

 

「……そうか! 目だ! 目を狙え!」

 

 

 強調される同じような言葉と目を指す動作から伊丹は気づき、改めて指示を出す。

 よく見れば、炎龍の左目には矢が刺さっており既に誰かが片目を奪っていることを示していた。

 突破口が見つかり攻撃が右目に向かって集中する。これには流石の炎龍も堪らないのか、姿勢を低くして頭を守ろうとする。

 

 

「動きが止まった! 勝本、パンツァーファウスト!」

 

「了解!」

 

 

 ここで伊丹が現状出せる中で最大の火力を誇る武器を使わせる。

 担当を任された勝本三等陸曹はスコープを覗いて照準を合わせようとし、大事なことを思い出す。

 

 

「おっと、――後方の安全確認!」

 

「遅い! さっさと撃て!」

 

 

 武器の使用上大事な手順ではあるのだが、一秒でも惜しい現状では非常にまどろっこしい工程だった。

 今度こそと武器を構えるが、車両のスピードと路面がもたらす振動で照準がまともに定まらない。

 どうにか合わせようとする勝本だが、一際大きな振動で手元が狂い照準が定まらないまま弾頭があらぬ方向に発射された。

 

 

「ヤバ! ガク引きした! 外れちまう!」

 

「外れるんなら当てさせるんだよおおぉぉぉぉ!!」

 

 

 機会をうかがっていた尊がベースジャバーを全速で飛ばして弾頭に追いつき、向きを無理やり炎龍に合わせ離脱する。

 迫る攻撃に気づいた炎龍が、弾頭を迎撃しようと大きく息を吸い込む。

 

 

【せぇーの!】

 

 

 それをさせまいと伊丹の車両にいたゴスロリ少女が軽い身のこなしで屋根の上に上ると、自身の武器であるハルバードを大きく振りかぶって炎龍の足元に向けて投擲。

 超高速で飛来したハルバードは炎龍の足元に突き刺さると広範囲に渡って大地を割り、炎龍の動きを中断させた。

 何物にも阻まれることなく弾頭は突き進み、炎龍に着弾する。

 

 

ズドォォォォォン!

 

 

「GRUAAAAAAAAAAA!?」

 

 

 今までの攻撃の比では無い一撃に炎龍が悲鳴を上げる。

 弾頭が直撃した場所が良かったのか、炎龍の左腕は付け根から丸ごとなくなっており、傷口からはボタボタと血を垂れ流していた。

 ここまで負傷するとは思っても見なかった炎龍は翼を大きく広げると、すぐさま空の彼方へと飛び去って行く。

 

 

「……終わったのか?」

 

 

 だんだんと小さくなっていく炎龍を見ながら誰かがポツリとつぶやき、危機が去ったことに大きく息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 炎龍との遭遇から数時間。

 日が傾いて世界がオレンジ色に染まる中、被害に遭って亡くなった人たちを埋葬し終えた尊たちは手を合わせて黙祷を捧げていた。

 600人はいた村人の1割近くが亡くなり、そのうちの半分近くは腕や足だけだったり、酷い人は骨すら残らなかった。

 ラヴォスを倒した(星を救った)という実績を持つ自分たちがいながらそれだけの死者を出したという現実が容赦なく心に突き刺さり、クロノたちは悔しそうに拳を握っていた。無論、それは尊も例外ではない。

 

 ――確かにドラゴンは強かったが、俺はその気になればもっと大きなダメージを与えられたにもかかわらず、ペース配分を重視して強力な精神コマンドの使用をケチってしまった。

 

 最初から『勇気』や『覚醒』を使っていればどれだけの人が救えたかと思うと、燃費重視の戦い方をした数時間前の自分を心底殴り飛ばしたい衝動に駆られる。

 

 

「あまり自分を責めない方がいい。むしろあの状況で被害がこれだけで済んだんだ。月崎君たちがいなかったら、最悪俺たちは全滅していた」

 

 

 伊丹の言うように、開けた場所で無防備な村人が襲われたにもかかわらず犠牲者が百人を超えなかったのはコダ村の村長も奇跡だと言っていたが、尊にとって重要なのはそこではない。

 

 

「……俺はもっと被害を出さずにドラゴンを撃退できるはずの力があったのに、それを使わなかった……使えなかったんじゃない、使わなかったんですよ」

 

「けど月崎君は戦況を考えて、それを使うのが最善かどうかを判断していたんじゃないのか? 少なくとも、俺はその判断は間違ってなかったって思うよ」

 

「イタミの言う通りだ。それに今更そんな後悔をしても結果は変わらない。60人近い村人が犠牲になり、500人以上の村人を救った。その結果を受け入れろ」

 

 

 二人の話を聞いていたカエルがそう助言する。

 彼の言う通りなのだが、それでもやはり思ってしまう。もっとうまく立ち回れていれば、と。

 

 

「今のおまえはガルディア軍にいたころに見た新兵と同じだ。終わったことに対してああしていればと仮定を繰り返し、次の戦場ではあれこれ考えすぎて命を落としていくようなな。――割り切れ、でなければ次はお前が死ぬぞ」

 

 

 それだけ言い残すとカエルはクロノたちの元に向かい、伊丹が付け足す。

 

 

「これだけは覚えておいてほしい。確かに犠牲者は出たが、それでも君たちに感謝している人もいるってことをさ」

 

 

 もういうことはないとして、伊丹もその場から離れて報告を受けるために隊員のところに向かう。

 残された尊は空を仰ぎ、カエルの言葉を反芻する。

 

 

「……割り切らなければ俺が死ぬ、か」

 

 

 呟き、視線をある一点に向ける。

 そこには怪我をした村人の治療を終え、先ほどの戦いで親を失った子供の相手をしているサラがいた。

 

 ――……そうだ。サラのためにも、俺はここで死ぬわけにはいかない。

 

 割り切るにはまだ少し気持ちの整理がいるが、尊はそれだけはと心に刻み付けて彼女の元へと向かった。

 その頃、尊との話を終えた伊丹は黒川と通訳を買って出たロボからの報告に頭を悩ませていた。

 

 

「村人のほとんどは身内のところか街や村に避難するとして、問題は身寄りのなくなった子供とお年寄り、それ以外の理由で残った人か。月崎君たちのことも含めると、俺たちについてくるのはざっと40人ってところか」

 

「村長サンは神に委ねると言っていマス。救ってイタダイタことニ感謝はしているそうデスガ、あちらも自分たちのことで精一杯だソウデ」

 

「……そっか。じゃあ、仕方ないか」

 

 

 村長たちはそのまま別の町に向かって移動を再開する。

 それを自衛隊の面々は手を振って見送り、頑張れとエールを送る。

 やがて村人たちが見えなくなり、伊丹は改めて残った面々に目を向けた。

 コダ村の住民23名にエルフ1名、ゴスロリ少女1名に異世界の人間12名の総計37人が自分を見つめていた。

 

 ――ここで檜垣三佐にそのまま報告したら間違いなく咎められるよな……かといって、放っておくわけにもいかないし。

 

 

「……まあ、いっか」

 

 

 やりようはいくらでもあるとひとりごち、伊丹は親指を立てながら笑顔を見せる。

 

 

「だーいじょうぶだ。俺に任せてよ」

 

 

 言葉は通じないが受け入れられたとコダ村住民は本能的に理解し、歓声を上げた。

 

 

「全員乗車! これより、アルヌスに帰投する!」

 

 

 乗せれるだけの人数を乗せた車両が発進し、一団は自衛隊が駐屯しているアルヌスの丘へと向かうのだった。

 手土産に吹き飛ばした炎龍の腕を携えて。

 

 

 

 




本編第56話、いかがでしたでしょうか?

自分が最初から参加した戦いで始めて人が死ぬのを経験した尊の描写を書いてみましたが、何とも難しい物でした。

また、前書きで原作より炎龍がヤバいと書きましたが、本作の炎龍は原作の設定に加えて『魔法防御がクソ高い』という項目が追加されています。
どれくらい高いかというと虹の眼鏡かけたクロノのシャイニングをラヴォスに叩き込んだにもかかわらずダメージが500超えないくらい。
尊の場合は『勇気』と『覚醒』でワンチャンありますが、MPが死ぬので連発できません。
こんな設定にして炎龍編どうするんだよ、俺……

とりあえず、今回はこのあたりで。
次回は有名は『鉄の逸物』の話とアルヌスでの出来事を書いていくつもりです。
今度こそ投稿が未定となりますが、できるだけ年内に投稿できるよう頑張ります。

それでは、また次回の投稿でお会いしましょう。



余談
前書きで書いたGガンダム in スパロボZが実現すればこんな展開になりそうです。
・世界三大恥ずかしい告白シーン揃い踏み
・GガンからOOまでのアナザーガンダムシリーズ大集合
・生身の戦力鬼強化
・愛を叫ぶので乙女座も大満足
正直、上二つだけでも公式でやる価値はあったと思うのですよ。
テーマである進化もDG細胞がありますし。(要素としては弱いかもしれませんが
あとは師匠生存ルートがあれば……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第57話「計略は無意味であった」

どうもこんにちわ、なんだかんだと連日投稿が続けられたことに少し安心している作者です。


さて、今年最後の投稿となりました。
今回はゲートでも有名な『鉄の逸物』の話に加え、尊が狭間将軍と会談する話がメインとなります。
また、冒頭の酒場での会話はすべて特地語でやり取りされています。
第55話で特地語は【】で表現すると書きましたが、見栄えが悪かったので◇で区切るまで「」で書いています


最後に、前回の炎龍戦に関する感想について活動報告に捕捉を投稿していますので、そちらも読んでいただければ幸いです。

それでは本編第57話、どうぞご覧ください。


「はぁ!? 炎龍を追い払ったぁ!?」

 

 

 とある村の小さな酒場。そこで挙げられた話題に酒を飲んでいた客が情報源の女給に訊ねる。彼女は自衛隊と尊たちに助けられたコダ村の避難民の一人で、酒の入った注文のジョッキを手に胸を張って答える。

 

 

「ああそうさ! このあたしが見たんだ、間違いないさね!」

 

「おいおい、嘘つくんならもう少しマシなヤツにしとけよ」

 

「魔導士どころかエルフだって古代龍を倒すのは無理なんだからな。人間にそんなことできるはずがない」

 

「新生龍か翼竜の見間違いじゃねえのか?」

 

「いや、コダ村から来た連中がこぞって同じ話をしていたらしいぞ。あながち嘘じゃないかもしれん」

 

「仮に本当だったとして、一体どんな奴らなんだ?」

 

 

 いい感じで酒が入って酔っぱらった人たちが奏でる喧騒の中、店の一角で食事をしていた身なりの良い四人の騎士たちが耳に入った内容を話題に話し合う。

 

 

「緑色の斑服を着たヒト種で構成された謎の傭兵団に、エルフと鋼鉄のゴーレムと鳥頭の魔物とカエルの亜人を連れた謎の集団……。騎士ノーマ、どう思います?」

 

 

 話題を振ったのは青いヘアバンドをした茶髪の女性騎士で、ノーマと呼ばれた男性騎士は不味い酒の味に顔を顰めお代わりを注文しながら「そうだな」とつぶやく。

 

 

「少なくとも、コダ村から避難してきた連中が揃いも揃って同じことを口にしているんだ。傭兵団と謎の集団は本当かもしれんが、炎龍に関しては信じられんな。お前は信じるのか? ハミルトン」

 

「私は信じてもいいような気がしてきています。十人が十人とも炎龍と答えている以上、信憑性はあると思います」

 

「本当の話だよ、若い騎士さんたち」

 

 

 彼女たちの話を聞いていたのか、話題の発端となった女給がお代わりの酒を手にやってきた。

 

 

「ハッハッハッ! 他の連中は騙せても、私は騙されんよ」

 

「じゃあ私は信じるから、その人たちの話を教えてもらえる?」

 

 

 ハミルトンがチップを差し出しながら聞くと女給は気を良くしたのか、銅貨を受け取りながら声を弾ませる。

 

 

「ありがと♪ こりゃとっておきの話をしてあげなきゃね」

 

 

 コホン、と咳ばらいを一つすると先ほどまでの喧騒がしんっと止み、誰もが彼女の話に耳を傾け始めた。

 

 

「コダ村から逃げるあたしたちを助けてくれたのは緑の人たちが12人、その人たちと同じ言葉を話す謎の集団が12人の全部で24人の連中さ。

 その中に大人の女が二人に女の子が四人ってところで、明らかにヒト種じゃないのが6人いたよ……え? 女たちがどんな姿かって? ……ハァ、男ってどいつもこいつもそればっかりだね。

 まあいいさ。大人の女は長身で綺麗な黒髪をもつ異国風美女と、栗色の髪をした小柄なかわいい娘だったよ。娘の方は牛みたいな乳をしてたけど、くびれているところはちゃんとくびれてんだ。 ――こらそこ、乳の部分で食いつくんじゃない。みっともないね。

 あとの女の子たちは金髪の活発そうな娘に変な兜をかぶった眼鏡の娘、それから何かの動物の毛皮だけを着た娘に青い髪をした優しそうな娘だったね。

 さっきから女の話題ばっかだけど、謎の集団にはいい男もいたよ。――男の話はいい? 馬鹿言うんじゃないよ、その男の一人がすごいんだから。

 男の一人は集団の頭目らしくてね、見たことのない魔法で怪我をした人をあっという間に治しちまうのさ。女の子の中にも同じ魔法が使えるのがいたみたいだけど、ありゃ名のある賢者に違いないね。

 他にもツンツン頭の男の子と顔色の悪いエルフがいたけど、炎龍に襲われたときにどっちも魔法で戦ってくれたのさ。

 ここですごいのがさっき話した頭目の男。そいつは青白い光と見たことのない紋章を宙に浮かべて"空飛ぶまな板"を作ると他の男を乗せて炎龍に立ち向かったのさ。

 まな板が空を飛ぶわけないって? 確かにそうなんだけど、男のまな板は翼竜なんて目じゃない速さで空を飛んだのさ。

 地上では緑の人たちがものすごい速さで動く荷車にのって、それぞれ魔法の杖で攻撃を始めたんだけど炎龍にはちっとも効かなかった。

 ところが、炎龍の動きが鈍くなると緑の人の頭目はついにアレを使わせたのさ。

 そう、"鉄の逸物"をね。

 "鉄の逸物"には特大の攻撃魔法が封じ込められていてね、「コホウノ、アゼンカクニ」って呪文が唱えられるとすごい音と一緒に炎龍の腕が吹っ飛んじまったのさ。あの時、"空飛ぶまな板"に乗った男が炎龍の注意を引き付けたのも大きな一因だったとあたしは思うね。

 これには炎龍も痛そうな悲鳴を上げてね。ついに尻尾を巻いて逃げちまったってわけさ」

 

 

 女給の話が終わると一瞬の静寂が店に流れ、忘れていたかのように喧騒が戻る。

 ある者は素直に感心し、ある者はやはりデマなのではと疑り、ある者は女性陣の話を蒸し返して品のない話で盛り上がっていた。

 一方、騎士たちでも評価は大きく分かれ、ノーマはやはり信じられないといった風に眉をひそめており、ハミルトンは"鉄の逸物"という単語に頬を赤らめ、最も年を重ねた騎士はまだ判断しかねるのか静かに杯を傾け、最後の一人――赤い髪の女性騎士は一つだけ気になることについて考えていた。

 

 

「女。(わらわ)は兵士が持っていた魔法の杖というものが気になるのだが、それは"鉄の逸物"と同じものなのか?」

 

「あっはっは! あんたは男を知らないみたいだね。逸物はイチモツ……ありゃ男のナニと一緒さね。それも黒くて特大の」

 

 

 女給の言葉に要領を得ない赤髪の騎士とは別に、ハミルトンを含めて意味を理解している者たちは気まずそうに食事を再開した。余談であるが、彼女たちの会話に聞き耳を立てていた客の中には思わず自分の物を押さえて項垂れる者がいたそうな。

 

 

 

 

 

 

 炎龍と呼称されるドラゴンを撃退した翌日、俺たちはついに伊丹さんたち自衛隊の本拠地となるアルヌスの丘という場所に辿り着いた。

 視界に入る建物や重機、そして上空から警戒をしているヘリが異彩を放ちここだけでもう日本と言われても違和感がなかった。

 元のである程度は見慣れている俺はこれだけの感想で済んでいるが、コダ村の住民はもちろんのこと。海底神殿や廃墟とはいえ未来の建物を見たクロノたちも見たことのない光景にきょろきょろと首を動かし眺めている。

 そんな俺たちが珍しいのか、周囲の自衛官から視線が刺さり、話し声も僅かに耳に届く。

 

 

「これがミコトさんやシンク君の世界の物なんですか?」

 

「かなり特殊なものではあるが、概ね同じものだな。 ――しかし自衛隊の基地に入るなんて、いつ以来だ?」

 

 

 昔何かのイベントで開放されたときに遊びに行った記憶があるし、確かそこで買った名物で辛い食べ物があった気がするな。名前は忘れたが。

 しばらくすると報告のために離れていた伊丹さんが戻り、他の隊員たちに指示を出すと俺のところにやってくる。

 

 

「月崎君、ちょっとこっちに来てもらっていいかな? 特地とは別の異世界の代表として、うちのお偉いさんと会ってもらいたいんだ」

 

「わかりました。 ちなみに、俺の名前って出しました?」

 

「いや、そこはまだだけど」

 

 

 ということは、今ならシドという名前を使っても構わないということだ。

 だがそれはそれでいつかボロが出そうだから、今回は苗字を伏せて名前だけ使うとするか。

 

 

「了解です。今直ぐにですか?」

 

「ああ、ついてきてくれ」

 

 

 伊丹さんに連れられて「特地方面派遣隊本部」という看板を掲げた建物へと足を踏み入れる。中に入ってしまえばここが既に日本だと錯覚してしまいそうで、実はもう元の世界に帰ってきたんじゃないかと思ってしまう。

 導かれるままやってきたのは応接室と掲げられた部屋で、そこにはすでに二人の自衛官が待っていた。

 一人は狭間という名札を付けたいかにも偉いとわかる髭の男性で、もう一人は柳田という名札を付けた眼鏡の男性だ。

 

 

「君かね。この特地とは別の世界から来たという者たちの代表は」

 

「はい。尊と言います、以後お見知りおきを」

 

「私は特地方面派遣部隊指揮官の狭間浩一郎だ。こっちは柳田明二等陸尉」

 

「よろしく」

 

 

 柳田さんの言葉にこちらも「よろしく」と返すと、狭間さんがソファーへ座るよう促したのに便乗して腰を下ろす。

 

 

「早速訊ねさせてもらうが、君たちは何故この特地にやってきたのかね? 伊丹二尉からは別の世界から来たとしか聞いていないのだが」

 

「自分たちは元の世界にいたある脅威と戦っていました。その脅威との戦いに打ち勝ち、それぞれの場所に戻ろうとしたところで謎のゲートに巻き込まれ、気が付けば焼けた村の後にいたのです」

 

「そこで伊丹二尉が率いる第3偵察隊と出会い、ここまで来たというわけか。しかし、我々が真っ当な組織である保証などどこにもなかったはずだ。どうして保護を受け入れようと思ったのかね?」

 

「直感的に感じ取ったのです。この人たちなら大丈夫だと」

 

「直感的に、ねぇ……」

 

 

 柳田さんが胡散臭い物を見るような目で俺を眺めてくる。視線を合わせれば何か言われそうな気がしたので、目線は狭間さんに固定したまま話の続きを待つ。

 

 

「では次の質問だ。君たちのメンバーはどうも不審な点が多すぎる。君のような人間がいれば、カエル人間に鳥人間、果てにはロボットまでいるじゃないか。カエル人間と鳥人間に関してはまだわかるが、君たちの服装から文明レベルはこの特地と大差ないように感じる中であのロボットはあまりにも特異だ。どういった経緯で連れ立っているのかな?」

 

「言ってしまえば簡単な話ですが、ロボとは俺たち王国歴1000年の時代から1300年後の未来で出会いました」

 

「1300年後の未来? 流石に話を盛りすぎじゃないか? 仮に真実だとして、どうやって君らは出会ったんだ?」

 

「少々長くなるので端的にお答えさせていただきますが、きっかけは王国樹立1000年を祝う祭りでの出来事でした」

 

 

 そこから俺は自分がクロノたちと同じA.D1000年のトルース町出身という設定で、クロノトリガーのストーリーをそのまま話した。

 ただの町民だった俺とクロノがルッカの発明したテレポッドで開いたゲートをきっかけに過去へ移動したことから始まり、元の時代で追われる身になってから逃げる手段でゲートを使って文明が発達した廃墟の世界に辿り着いたこと。

 そこでその世界がある脅威によって滅ぼされた後の自分たちの未来だと知り、その未来を変えるために進んだ先で件のロボ、カエル、三人集、エイラ、魔王、そしてサラと出会ったのだと。

 話を終えた時の三人の反応は実に様々だった。

 狭間さんは難しい表情で静かに目を閉じ、柳田さんは疑うような目をこちらに向け、伊丹さんは「それなんてゲーム?」と零していた。

 

 

「――つまり君たちは自分たちの世界が滅びる未来を回避するためにその脅威と戦い、勝利したと同時にこの特地にやってきたというわけか」

 

「そういうことです」

 

「なら君たちは、どうやって元の世界に戻るつもりなんだ? その脅威とやらが繋いだゲートはもうないんだろ?」

 

「地道に手段を探していきますよ。少なくとも、この特地は既に別の世界と繋がっているようですから。前例があるのならば、何かしらの方法で元の世界とつなげられなくはないはずです」

 

 

 こちらの回答に感心したのか、柳田さんは「へぇ」と面白そうに声を漏らす。

 すると、隣にいた狭間さんが難しい表情を崩して口を開く。

 

 

「話は分かった。一先ず君たちを、コダ村の住民たちと同じ扱いで保護させてもらおう。ただその代わりというわけではないが、ロボット君の協力を得ても構わないかな?」

 

「協力、ですか?」

 

「ああ。我々でもまだ四苦八苦している特地の言葉を、ロボット君だけはもうかなり扱えるそうじゃないか。言語の壁は我々も早々に取り払いたいのだが、どうだね?」

 

 

 そういうことか。確かに倉田さんもここに来る途中、同じようなことを言っていたな。

 まあ、それくらいなら問題ないだろう。

 

 

「わかりました、話をつけておきましょう。ただ、特地の言葉を習得する時にこちらのメンバーも混ぜさせてもらえますか? 自分たちもロボなしで会話できるようになっておきたいので」

 

「了解した。では今後、我々とのやり取りをする際は伊丹二尉を頼ってくれ。逆に我々が用のある時は君を窓口にさせてもらうが」

 

「構いません。よろしくお願いします」

 

 

 狭間さんと握手を交わして話が終わり、俺と伊丹さんは揃って建物を後にする。

 

 

「それにしても、月崎君って本当にあんなゲームみたいな体験してきたの?」

 

「途中参加ですけどね。というか、あの世界は俺の中では本当にゲームの世界ですからね」

 

「……それって、言葉通りの意味ってこと?」

 

 

 まさかと言いたそうな顔でこちらを見た伊丹さんに、俺は口元だけ笑みを浮かべて答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「柳田二尉。彼のこと、どう思うかね?」

 

 

 尊と伊丹が去った後、狭間と柳田は場所を変えて先ほどの話を振り返っていた。

 

 

「言っていることのほとんどは本当でしょう。ただし名前と言動の観点から見ても、日本人である可能性が非常に高いと思われます」

 

 

 柳田はまず彼らのメンバーの中で尊だけ名前の毛色が違っていることを挙げる。メンバーの名前を並べてみても、それは実に顕著だった。

 次にただの町民だったと語っていたが、その言葉遣いは実に日本の社会人臭かった。習ったと言われればそれまでだが、それにしてはあまりに完成されすぎていた。

 それらを踏まえて尊が日本人だと仮定すれば、自衛隊が直感的に大丈夫だと感じたからついてきたというのも、自衛隊だから大丈夫だと知っているからついてきたに変わる。

 無論これらは推測の域を出ないが、狭間も概ね同じ判断を下していた。

 

 

「だが仮に日本人だとしても、今度は彼が我々の世界の日本人であるかどうかという問題が出てくるな。既に三つの世界の存在が確認されている以上、別の世界の日本から流れてきたという可能性もあるわけだからな」

 

「本国に調査を依頼しましょう。近年、尊という名の男が行方不明になったりしていないかを調べれば、少なくとも彼が銀座事件の被害者かどうかはわかります。最も、その可能性は限りなく低いかと思いますが」

 

「何故かね?」

 

「彼が本当に銀座事件の被害者であるのなら、間違いなく伊丹が報告を上げています。奴が握りつぶしたのだとしても、明らかに階級が上である陸将とお会いしたのならあの場で告白すれば済むことだった。それがなかったということは……」

 

「銀座事件の被害者ではなく、別の世界の日本人である可能性の方が濃厚だということか。だとすれば、それを話そうとしなかったのは彼なりに余計な混乱を避けようとしたためかもしれんな」

 

「伊丹からこちらの情勢について聞いているでしょうからね。その説は十分に考えられるかと思います」

 

「ともかく、彼らはコダ村避難民と同じく保護として受け入れよう。幸い、意思疎通に関しては彼らの方が双方としても取りやすい」

 

「では、それも含めて担当は伊丹に任せましょう。 次に、第3偵察隊が持ち帰ったドラゴンの腕についてですが――」

 

 

 こんな話があったこともあり、条件に該当する戸籍や行方不明者の記録が存在しないことが後日明らかになると、尊や伊丹があえて伏せようとしていた情報が二人の間で決定的になるのだった。




本編第57話、いかがでしたでしょうか?

せっかく伏せようとした尊の情報も自身の言動と名前が相まってアッサリ割れてしまいました。でも本編に大きな影響は出ないはず……。
また、尊のベースジャバーは『空飛ぶまな板』として今後も語り継がれていくことになります。
さて、次回から2話くらいイタリカまでの日常を描くつもりなので、貴腐人殿下の登場はしばらく先になります。
尊たちがこの特地でどう暮らしていくのかもそこで描写するつもりなので、楽しみにしていただけたら幸いです。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。
皆様、よいお年を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第58話「アルヌス難民キャンプにて」

遅ばせながら新年あけましておめでとうございます。

さて、年明け最初の投稿となりました。
今回は原作から見れば全然進んでいませんが、次回はイタリカ行きまで話を進めたいと思います。

それではさっそく本編第58話、どうぞご覧ください。


 自衛隊の指揮官である狭間さん――後で伊丹さんから陸将と聞いて驚いた――との話が終わり、俺たちは自衛隊基地から少し離れた場所に作られた難民キャンプで一夜を過ごした。

 コダ村の人たち――特に子供たちが物珍しそうに近くを覗いてきたのを除けば特に何かあったわけでもなく、俺たちはそれぞれのテントで目を覚ました。

 簡単に用意された洗面台で顔を洗っていると自衛隊基地の方からバタバタとヘリのやかましい音が鳴り響き、さらに重機やトラックが大挙して向かってくるのが見えた。

 ほとんどの人が何事かと慌ててテントから出てくる中、俺は平然とした顔で自分たちのテントへと戻る。

 すると案の定、コダ村の人よりは落ち着いているが何事かとクロノが寄ってきた。

 

 

「ミコトさん。今の音なんですか?」

 

「大丈夫だ、自衛隊のヘリとかトラックが来ただけだ。たぶん昨日伊丹さんが言っていた、俺たちの家を作るためだろう」

 

 

 昨日の別れ際にテント生活もユニットハウス――いわゆるプレハブ――ができるまでの辛抱と言っていたが、あれって実際どれくらいで出来るのだろうか。

 クロノに答えながら他のメンバーに説明するべく、一つ一つのテントに声をかけて説明する。

 ついでに全員を集め、朝食ができるまでに今日の予定とこれからの方針を簡単に決めておく。

 

 

「今日は自衛隊が避難民の名前登録をするらしいから、全員それに参加だ。といっても、名前を答えるだけだから難しいことは何もない。むしろ問題なのは、すぐにガルディア王国のある世界に戻れないということだ」

 

「お前が世界を渡るゲートが開けないからか?」

 

 

 魔王の言葉を肯定し、原因の説明をする。

 

 

「ラヴォスの決戦の際、必要なエネルギーを全て攻撃に向けたからゲートを開くための力を出し切ってしまった。しかも改めてそれが使えるようになるまで、少なく見ても3ヶ月近くかかることが分かった。だからどうしてもしばらくはこの世界で生活することになるんだが、自衛隊に保護してらえるのもそう長くはないはずだ」

 

「じゃあどうするんですか? 働くの?」

 

「いや、そもそも働くにしても俺たちはこの世界じゃ自衛隊の人たちとしか話せないぞ」

 

 

 マールやカエルの意見も最もだが、運がいいことに俺たちにはそれなりにやりようがある。

 

 

「まずはコダ村の人たちと意思疎通を図れるようにするべきだ。そこでこの世界の情報を集めつつ、自衛隊の人たちに対する通訳や別の町への稼ぎ口の手掛かりを探る。今のところ、俺はこのあたりが無難かと思うんだが」

 

「そうですね。幸いロボがもうかなりこの世界の言葉を扱えるみたいですし、私の発明も自衛隊の人たちが興味を持ってくれれば多少の資金源にはなるはず。ただ、自衛隊の人たちを見る限りじゃミコトさんの世界の技術って相当進んでますよね?」

 

「総合テキにはワタシがいたA.D2300ほどではアリマセンガ、一部の技術にオイテハそれを凌駕していると思われマス」

 

「あながち間違っちゃいないな。とりあえず発明に関しては後回しにして、しばらくは特地語を覚えるのに専念しよう。それとロボ、自衛隊の人もお前の力を借りたいと言っていたから、できれば簡単な言語マニュアルを作ってくれるか? 紙や端末が必要なら伊丹さんに頼んでみる」

 

「了解シマシタ」

 

「他のメンバーはとにかく言葉を覚えることを最優先。ロボが自衛隊の人に言語の教育をする際に俺たちも混ぜてもらえるように頼んでおいたから、話せるようになるまでは積極的に参加してくれ」

 

 

 勉強と聞いてクロノとマールがあからさまにいやそうな顔をし、何もわかっていないエイラはずっと寝ている。

 エイラの場合勉強させるより、積極的に会話させて感覚で覚えさせた方がいいかもしれないな。覚えるかどうかは別にして。

 続きを食後にすることにして一度話を切り、昨日分けてもらったレーションを開けて朝食にする。

 コダ村の人たちで手間取っているのを見て手を貸したところ、何人か同じ言葉を使ってきた。たぶん、ニュアンス的にありがとうと言っているのだろう。

 そんな朝食を終えて間もなく高機動車がやってくると、伊丹さんたち第3偵察隊の面々が現れた。

 

 

「やっ、昨日は眠れたかな?」

 

「おかげさまで。 ノートとポラロイドカメラってことは、名前登録ですか」

 

「ああ。と言っても、君らはすぐ終わりそうだけど」

 

 

 笑いながら伊丹さんは指示を出し、俺たちもそれに従って順番を待つ。

 その間ロボの通訳を通して、他の人たちの名前を覚えておくことにする。これから近所付き合いになるであろう相手の名前を知るというのは大切だからな。

 

 

【儂は賢者カトー・エル・アルテスタン。こっちは弟子の――】

 

【レレイ・ラ・レレーナ】

 

【私はコアンの森、ホドリューの娘、テュカ・ルナ・マルソーよ】

 

【ロゥリィ・マーキュリー。暗黒の神、エムロイの使徒よ】

 

 

 杖を持った老人と水色の髪の少女に続き焼けた村で助けたエルフの女の子、それからここに来る途中でついてきたハルバードの少女が順に答える。

 エルフ――テュカと名乗った子は最初に着ていた服が諸事情で使い物にならなくなったため、今はTシャツにジーンズという非常にラフな格好に。

 ロゥリィと名乗った少女は例のデカいハルバードを軽々持ち上げながら自己紹介するが、暗黒の神の使徒とかマジで邪教の信者か何かか?

 などと考えているとついに俺たちの番に回り、クロノたちが順に自己紹介をする。

 

 

「俺はクロノ。トルース町の住民です」

 

「私はマールっていいます!」

 

「ルッカです。トルース町の外れで発明家をしています」

 

 

 現代組が終わると、別の時代組がそれに続く。

 

 

「クロノたちの時代カラ1300年先の未来よりキマシタ。ロボといいマス」

 

「カエルだ。クロノたちの時代から400年前の時代の者だ」

 

「フリーランサーのガイナーと申します。出身はカエル殿と同じで、今はミコト殿を主として仕えております」

 

「同じくマシュー」

 

「同じくオルティー」

 

「エイラだ! お前強いか?」

 

「彼女はクロノたちの時代からおよそ6500万年前の原始時代で、イオカ村という村の酋長をしていました」

 

 

 俺が補足を加えると黒川さんや栗林さんが驚きの声を上げるのが見えた。

 そしておそらくこのメンバーで一番の問題児へと続く。

 

 

「えっと……、尖った耳からして、君もエルフでいいのかな?」

 

 

 自信なさ気に伊丹さんが尋ねると、魔王は腕を組んだまま口を開く。

 

 

「魔王とでも呼べ」

 

「……は?」

 

 

 予想通りというかなんというか、魔王の回答に伊丹さんだけでなく他の自衛官たちも「何言ってんだコイツ」といった視線を魔王に注いでいた。

 

 

「あー、伊丹さん。こいつの名前はジャキって言って、誇張でもなんでもなくカエルの時代で猛威を振るった本物の魔王でもあります。耳は……何で尖ったんだ?」

 

「知らん。勝手にこうなった」

 

「あ、そうなの。えー…魔王っと。通じるかな、これ」

 

 

 名前にジャキと記入され備考欄に魔王と追加されたらしいが、傍から見ればどういうことなのと混乱を招きそうだな。

 

 

「ジャキの姉のサラです。クロノの時代からおよそ12000年前の時代の人間です」

 

「え、お姉さんなの!?」

 

 

 流石にこれは予想外だったのか、今度は倉田さんが驚愕する。確かにパッと見で兄弟と結びつけるにはあまりにも要素がなさすぎるし、ましてや時代を超え成長して古代に戻ったため年齢で見れば弟の魔王の方がサラより年上という奇妙な構図になっている。

 具体的に言えば、二十歳になったジャイ子が小学生のジャイアンといるようなものだ。……なんか余計にわかりにくくなった気がするが、図式としては間違っていないはず。

 

 

「で、最後に尊君っと。 そういえばあのベースジャバーって、いったい何なの?」

 

 

 俺のことを記入しながら向けられた質問に俺は一瞬考え、これくらいならまだ大丈夫だろうと公開することにした。

 

 

「あれは俺の紋章術者としての力の一端です。魔力を輝力というエネルギーに変換し、明確なイメージでもって形にする輝力武装というもので作り上げました」

 

「イメージで形にする?」

 

 

 いまいちピンとこなかったのだろう、伊丹さんが少し首をかしげる動作をするのを見てならばと実践してみせるために紋章を発動させ、右腕に一振りの剣を顕現させる。

 そのフォルムに真っ先に反応したのは、やはり伊丹さんだった。

 

 

「じ、GNソード!?」

 

「ベースジャバーが分かる伊丹さんなら知っていると思ってましたよ。 これと同じ要領でベースジャバーを作り出し、魔力を燃料に空を飛んでいたというわけです。ただ、なんでもありそうに思えるこの力にも欠点がありましてね」

 

 

 ソードの刀身を展開して平らな部分を思いっきり殴りつけると、GNソードは光の粒子になって消滅した。

 たった一発の拳で消滅したのを見て、伊丹さんはなるほどと納得する。

 

 

「明確なイメージがあれば何でもその形に作り出せるけど、攻撃を受けたらすぐに消滅するってわけか」

 

「そういうことです。そういうこともあって、俺も専ら移動用にしか使っていませんが」

 

 

 ただし、フロニャルドに戻ったら思いっきりはっちゃけようと思っていたりする。

 あそこなら攻撃を受けても消滅しないし、その気になれば武器を作りまくって王の財宝の真似事もできるし。

 一先ず俺たちの登録が終了し、今度は登録した人の年齢や種族、成人しているかどうかの整理が行われた。

 クロノたちの世界では20歳から大人扱いされ、それに当てはめれば現代組以外は全員大人扱いらしい。

 ちなみに確認したところ、クロノが17歳。マールが16歳。ルッカが19歳。カエルが28歳。ロボが稼働時間400年越え。エイラが24歳。魔王が24歳。そしてサラが20歳で三人集はいつ生まれたのか覚えてないそうだ。

 これを聞いて先ほど上げたサラと魔王の奇妙な構図が合っていたのを再確認でき、カエルが魔王が年下だと聞いて驚いていたのがなんとも印象的だった。

 

 

「えーっと、わかっているだけで老人が三人に中年が三人。大人が八人で、子供が22人か。尊君たちのグループはこれで全員OKとして……あとはコダ村の方か。黒川、そっち分かった?」

 

「はい。どうやらこの世界では15歳から大人扱いされるらしく、避難民のうち3人が大人扱いだそうです」

 

 

 黒川さんと会話していた少女――レレイと名乗っていた子によれば、なんと片手で69まで数えられるらしい。手話もびっくりである。

 

 

【テュカは165歳】

 

「うへぇ……本当にエルフだな」

 

「え、そんなに年上なんですか?」

 

「165歳ダそうデス」

 

「「「うそぉ!?」」」

 

 

 ロボの解説にクロノ、マール、ルッカが驚いて振り向き、テュカは突然向けられた視線に戸惑っていた。まあ、どっちの気持ちもわかるんだが。

 

 

「それで、最後の一人は?」

 

「あの神官少女らしいです」

 

「……あの子ですか?」

 

 

 示された方向にいたのは、例の暗黒の神に仕えているという少女ロゥリィだった。視線の先にいる彼女は子供たちと遊んでおり、15歳というにはまだちょっと幼い気がする。

 

 

【子供じゃない。年上の年上。それより年上】

 

【じゃあ何歳なの?】

 

 

 伊丹さんが聞き返すとレレイはぷるぷると首を振り、気まずそうに視線を離す。

 

 

【怖くて聞けない……】

 

「……怖くて聞けないとか、何歳なの?」

 

 

 伊丹さんのつぶやき耳に届き、思わずロゥリィに目が行く。

 え、あのナリでテュカより年上だとでもいうのか? だとすれば最低でも165歳以上ということになるぞ。

 怖いもの見たさ、というわけではないが、正直かなり気になる。

 

 

「……ロボ、聞いてきてもらっていいか?」

 

「ワタシはまだスクラップになりたくないのデスガ……」

 

「……いや、俺が聞こう」

 

 

 そう答えた伊丹さんは神妙な面持ちでロゥリィに近づき、声をかける。

 

 

【少し、話し、いい?】

 

【あらぁ? 何かしらぁ?】

 

「えー……【みんなの、歳、調べてる。君、歳、いくつ?】」

 

 

 隣でロボの通訳を受けながら話を聞いているが、伊丹さんドストレートにいったな。まあ、変にはぐらかそうとして言葉がおかしくなるよりはいいか。

 で、肝心の年齢は……。

 

 

【961歳よぉ?】

 

 

 …………。

 

 ……………………。

 

 

「「ファッ!?」」

 

 

 この時、伊丹さんと一緒に変な声を出した俺は悪くないと思う。

 

 

 

 

 

 

 無事に名前登録を済ませ、昼食ができるまで自由行動となったため尊はサラとともになんとなく自衛隊の作業風景を眺めていた。

 尊の予想以上にユニットハウスの組み立てが進んでおり、もう数時間もあれば寝泊まりするくらいは十分に可能な状態になるだろう。

 

 

「すごいですね……家があっという間に」

 

「ここまで速いのは俺も予想外だったけどな。まあプレハブなんて、土地さえ慣らしてしまえばあとは組むだけだからな――おっと」

 

 

 視線に入ったものに気づき、尊は早足でそこへ向かう。サラもあと追っていくと、その先には興味本位で重機に近づこうとする子供たちの姿があった。

 

 

「はいストップだ。ここから先は危ないから、立ち入り禁止」

 

 

 先頭にいた女の子を抱き上げ注意をするが、子供は首をかしげるだけで理解していないようであった。

 

 

「あー……この先、危ない。入っちゃ、ダメ。OK?」

 

 

 身振り手振りで危険を伝えようとするが、イマイチ話が伝わらず子供たちはさらに首をかしげる。

 

 

「……やっぱりダメか。サラ、ロボってまだ伊丹さんたちと一緒だよな?」

 

「はい。まだ少しかかるみたいですが」

 

 

 ロボは現在、自衛隊がこれまで集めた特地語を取り入れ、自身の翻訳精度の向上を行っている。

 同時に自衛隊の翻訳ミスも修正しているため、終了はまだまだ先になる。

 

 

「となると、別の方法で興味を引くしかないな。 それなら」

 

 

 子供たちの前で右手を掲げると尊は紋章を発動させ、指先に小さな球体を作り出すと線香花火のような光を放たせた。

 

 

【うわぁー!】

 

【すっげぇー!】

 

【きれー!】

 

 

 子供たちの興味を引くには十分すぎたらしく、尊はうまくいったのを確信するとそのまま誘蛾灯のように子供たちをキャンプへと導く。

 

 

「さあ、あっちは危ないから向こうで遊ぼうな。サラ、悪いが付き合ってくれるか?」

 

「いいですよ」

 

 

 言葉が通じないなりにやり方があるものだと独り言ちながら、尊とサラはロボの手が空くまで子供の相手に励むのだった。




本編第58話、いかがでしたでしょうか?

カエルと魔王、サラの年齢やロボの稼働時間は作者が勝手につけたもので公式設定ではありません。
最後のところで尊が子供たちに見せたのはDOGDAYSでミルヒがシンクに見せたものと同じです。
正直あそこの部分は抜こうかと思いましたが、字数が少し少ない気がしたのでなんとなく足してみました。
さて、冒頭でもお話ししましたが、次回はイタリカまで話を進めるつもりです。
早ければ特地版地獄の黙示録はその次辺りで投下できると思います。
それまで飽きずに楽しんでいただければ幸いです。

それでは、今回はこのあたりで。
本年もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第59話「イタリカへ」

どうもこんにちわ、本棚に余裕がないくせにポケスペや刃牙などの古本をどか買いしてしまった作者です。

さて、今回はイタリカへ向かうフラグとその道中の話となります。
貴腐人殿下の登場は次回となりますので、お待ちの方はもうしばらくお待ちください。

それでは本編第59話、どうぞご覧ください。


 アルヌスに滞在し始めて数日。

 ロボのおかげでコダ村の人たちとだいぶ意思疎通が取れるようになってきて、どうにか信頼関係も築けるようになってきた。

 この数日で俺たちがやった主なことは自衛隊との特地語勉強会と、コダ村の人と一緒に自衛隊が倒した軍隊にいた翼竜の鱗を剥ぎ取る作業だ。

 なんでも某狩りゲーばりに翼竜の鱗は高く売れるらしく、コダ村の人たちが俺たちと同じく自分たちの生活費を稼ごうと考えたところ、大量にある翼竜の死体に目を付けた。

 自衛隊も必要なサンプルは取り終えたらしく、自立するのに役立つのなら好きなだけ持って行っていいとお墨付きを得た。

 カトー先生やレレイによれば状態の良い翼竜の鱗一枚でデナリ銀貨30枚から70枚になるらしく、おまけにその銀貨1枚で5日は普通に暮らせるらしい。

 それがこの数日で優に150枚は回収できた。しかもより高価となる爪が数本と、この世界で普通に暮らすには十分すぎる額が入る計算だ。

 

 

「――しかし、俺たちもそのお零れにあやかっていいんですかね?」

 

 

 複雑な表情でクロノが磨き終えた翼竜の鱗を手で弄ぶ。

 俺たちは今、剥ぎ取った鱗を洗浄して大まかに状態の良いものと悪いものを選別する作業の真っ最中だった。

 

 

「カトー先生や他の人から、炎龍の戦いで命を張ってくれたんだから当然だって言われてるんだ。貰えるものは貰っておこう。それに、貰いっぱなしじゃ悪いと思ってるから俺たちはこういう作業をしてるんだろ?」

 

「それはそうですけど……」

 

 

 現在、俺たちのグループで行っていることは大きく分けて4つに分担されている。

 まずは翼竜の死体から鱗を剥ぎ取る作業をしているカエルと魔王。

 相性が悪いのではと懸念していたが、二人とも黙々と作業をしているため別に剣呑な雰囲気になったという話は聞いていない。

 次に自衛隊の方へ赴いて通訳の講師や発明品の売り出しをしているロボとルッカ。

 ロボのおかげで自衛隊からの印象はかなり良好なものになりつつあるし、ルッカの催眠音波や火炎放射もそれなりの評価を得ている。流石にナパームやメガトンボムはヤバいということで見送られたらしいが。

 続いて持ち前の身体能力を生かして周辺の地形、地質の調査をしているガイナーたちとエイラ。

 自衛隊が入りにくかった場所を主に調査していて、こちらも上々の評価をもらっている。

 手が空きがちなサラとマールはコダ村の大人たちと一緒に炊事、洗濯、子供の面倒を見ている。

 遊び相手としてマールはよく好かれており、サラも女の子を中心にフロニャルドで覚えた歌や物語を聞かせている。

 そして俺とクロノがやっているのは主に雑用全般だった。

 必要とあらばカエルたちと一緒に剥ぎ取りに向かうし、サラたちと一緒に子供の相手もする。

 俺はそれに加えて自衛隊との窓口になっているので、何かあれば直接伊丹さんに連絡しに行く仕事もあった。

 最初はまだごたごたして走り回ることも多かったが、最近は少し落ち着いてきている。

 

 

「――よし、俺の分は終わりだ。クロノも終わり次第自由にしていいからな」

 

「わかりました」

 

 

 周りの人たちにもお疲れさまと声を掛けながらその場を離れ、次はどうするかと考えながら歩いていると別の場所でレレイと鱗の選別をしているカトー先生を発見する。

 何故先生と呼んでいるのかは、まあ周りがそう呼んでいるから合わせているだけなんだが。

 

 

【お疲れ様です】

 

【おお、お疲れ様。そっちはどうじゃ?】

 

【まあまあです。 それにしても、大分集まりましたね】

 

「そろそろ、200枚集まる。換金も、必要」

 

「なるほど。 レレイも日本語がうまくなったな」

 

 

 まだ少し片言ではあるが、意味をくみ取るには十分すぎる。

 このまま日本語をマスターしてくれれば、特地側の人間としては初めての日本語通訳者となるだろう。

 

 

【しかし、これだけ鱗を換金となると、相当信頼できる相手に、対応を依頼したいですね】

 

【それなら、イタリカという街にワシの古い友人が店を構えておる。お前さん、ジエイカンたちに運んでもらえないか頼んでくれんか?】

 

【イタリカ?】

 

「テッサリア街道と、アッピア街道の交点に位置する、交易都市。ここから少し離れた場所にある」

 

「コダ村よりか?」

 

 

 俺の問いにレレイがこくんと頷き、コダ村からここまでの行程を思い返す。

 あの時は避難民も一緒だったため相当速度を落としての移動だったが、確かに自衛隊の車を使えばすぐに着くだろう。

 しかし、イタリカか。なんかヘビメタバンドのメタリカに似た名前だな。もしくはBASTARD!でそれを元にしたメタ=リカーナ王国とか。

 

 

【わかりました。頼んでみます】

 

【すまんな。お前さんたちやジエイカンたちには頼りになりっぱなしじゃ】

 

【持ちつ持たれつです。では】

 

 

 さっそく今の話を持ち掛けるべく、ここ数日の連絡係として使用頻度が最も高い文明の利器を頼るべく自分の部屋に向かう。

 まあ文明の利器なんて大層なこと言っているが、要は自衛隊から借り受けた連絡用の通信機だ。

 わざわざ連絡の度にベースジャバーや厩舎の馬を借りて基地に向かうのも手間だという理由から、都合をつけて一台借り受けたというわけだ。

 現在、周波数のみ割り出してルッカが自作しようとしているが流石に道具がなさ過ぎて難航してるらしい。

 出来たら出来たで確かに便利なんだが…なんだろう、自衛隊とルッカを会せたせいで何かとんでもないもの作り出しそうな気がしてならない。

 最近ではカトー先生曰く、天才に分類されるレレイとも仲が良いらしいし、もしかしたら混ぜると危険な要素を合わせてしまったかもしれない。

 早めに釘を刺すべきか悩むが、とりあえず静観しよう。何か起きてからでは遅いのも確かだが、何もしてないのに注意するのもなんだしな。

 自分の部屋についた俺は早速通信機を起動させ、伊丹さんの通信機に繋げる。

 僅かなノイズののち、向こうからの応答があった。

 

 

『――どうしたの? なにかあった?』

 

「実はカトー先生から翼竜の鱗を換金するために、イタリカという街まで送ってもらえないかと依頼されまして。車って出せますか?」

 

『偵察ってことならいけると思うよ。それに便乗する形で乗り込ませれば、特に何も言われないはずだし』

 

「ありがとうございます。出せる日取りが決まったらまた教えてください」

 

『はいよ。 ところで、そっちの生活には慣れた?』

 

「みんなはともかく、俺は前に味噌汁食った瞬間からずっと日本での食事が恋しいです。ハンバーガーとか牛丼とか」

 

『そりゃ大変だ。じゃ、また連絡するからカトー先生たちによろしく――』

 

『伊丹ぃ! いつまで油を売ってるつもりだ!』

 

『げっ、檜垣三佐! い、いや、今キャンプの代表と通信中で……』

 

『片手に薄い本持ってそんな発言されても説得力がまるでないわ! さっさと仕事に戻れぇ!』

 

『は、はいぃぃぃぃ!』

 

 

 ブツッと通信が切れ、俺の耳には伊丹さんの叫びが残響していた。というかあの人、また仕事中に同人誌読んでたのか。

 確か以前、特地語勉強会で基地に寄った時に木陰で堂々と読んでいるのを見たが、あの時は栗林さんがキレてたな。

 食う寝る遊ぶ、その間にちょっとの人生。そんなモットーを掲げた人が自衛官で一部隊の隊長なんだから、世の中分からないものだ。

 

 

「……とりあえず、話がついたことを報告しに行くか」

 

 

 それにしてもこの世界の街か……ちょっと行ってみたいが、そこは要相談だな。

 通信機を片づけながらそんなことを思い、俺はカトー先生の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 自衛隊に依頼を出した翌日、俺とサラは鱗を売りに行くレレイ、テュカ、ロゥリィらとともに高機動車でイタリカという町に向かっていた。

 加えて今回は町がどんなものなのかを事前に探るべく、ガイナーたちデナドロ三人集を偵察という名目で先行させている。

 いくら現地人であるレレイたちがいるとはいえ、俺たちが乗っているのは異世界の技術の結晶だ。無用な混乱を避けるべく、場合によっては離れた場所で車を止めて徒歩に切り替える必要があるためだ。

 俺とサラが同行できたのは不測の事態に備えての回復役と、ロボを除いたメンバーの中では特に特地語を理解しているのが主な理由だ。

 ちなみに理解度としてはこんな感じである。

 

 ロボ>>>サラ>俺>ルッカ=魔王>カエル>クロノ=マール>三人集>>>>>エイラ

 

 エイラが一番低いのは、お察しくださいだな。

 というか、特地語を全く勉強していないからな。本人曰く、「あたま、火山になる!」とのことだ。

 

 

「今走っているのがテッサリア街道で、イタリカがここか」

 

「異世界でも地球産の方位磁石(コンパス)は使えるんですか?」

 

「いや、そういえばちゃんと調べてないな。基地に戻ったらロボ君に北極と磁北極のズレを割り出してもらえないだろうか?」

 

「保証はできませんが、聞いてみます」

 

 

 桑原さんとそんな会話をしていると、レレイが興味深そうに地図とコンパスを注視していた

 その視線に気づき、桑原さんが解説を始める。俺は入り込む余地がないと判断し、サラの隣に座ってほかの二人に目をやる。

 が、何か内緒話でもしているのか車の音もあって会話はよく聞き取れない。テュカの表情が赤く、それを見て楽しそうに話すロゥリィを見る限りなにかからかわれたりでもしたのかね。

 

 

「……こうしてみる限りじゃ、本当に子供なんだけどな」

 

「ロゥリィさんのことですか?」

 

「ああ。失礼かもしれないが、未だに神様だって実感が沸いてこない」

 

 

 それは名前登録の時のこと。

 見た目に反して900年以上を生きているという彼女は亜神と呼ばれる「人の肉体を持ったまま神としての力を得た存在」らしく、あと半世紀も生きれば肉体を捨てて本物の神へと昇神するとのことだ。

 やたら身近な神だなとは思うが、よく考えれば俺は神と呼ばれる存在に遭遇したのはこれで三度目だ。

 最も、ラヴォス神と崇められていたアレは俺からしたら邪神でしかない。もう死んだので気に掛けることもないが。

 

 

「それにしても、シルバード程ではないにしても車って早いですね」

 

「まあ、あっちは飛行機だしな。それでも、その気になれば自衛隊の戦闘機の方が早いかもしれないけどな」

 

「そうなんですか?」

 

「シルバードの最高速度がどれくらいかわからないが、こっちは分かってるだけで音速を超えるぞ」

 

 

 ただ、シルバードの突撃でラヴォスの第一形態を撃破できることを考えたら、相当な速度を出せることは間違いない。

 もしかしたらシルバードのみでみたら自衛隊にも勝るのか? ダルトンが武器を搭載していたならレーザーも撃てるし。

 というか、あれも古代に残したままだったな。クロノ世界に戻ったら回収して現代においておくか?

 

 

「尊君、先行していた三人が戻ってきた」

 

「え、あいつらがですか?」

 

 

 伊丹さんの呼びかけに反応して前を見てみると、確かにあの三人が砂塵を巻き起こしながら駆けてくるのが見えた。

 しかも別の方を注視してみれば、何やら黒い煙が上がっているのも見える。もしかしたら、あれのことについてか?

 倉田さんが車を停止させ、俺は荷台の窓から顔を出してガイナーたちを迎える。

 

 

「御館様、ただいま戻りました」

 

「どうした、なにがあった?」

 

「ハッ、実はイタリカと思しき街で戦闘を確認しました」

 

「戦闘? じゃあ、あの煙は……」

 

「伊丹殿のお察しの通り、町民と賊との戦いによるものです。確認した限りでは賊の方は既に撤退をしたようですが、あの様子ではまた攻められる可能性が高いと思われます」

 

 

 三人の言葉に緊迫した空気が流れ、伊丹さんは少し考える素振りを見せると通信機を手に取り後続の車両に通達する。

 

 

「全車、周辺と対空警戒を厳にせよ。ここからイタリカへは慎重に接近する」

 

 

 各車両から了解と返答がある中、俺の頭には避難民がドラゴンに襲われたときのことが重なった。

 平穏な暮らしをしていたはずの人たちが理不尽な暴力によって命を散らし、亡骸すら人として扱われなかったあの光景が脳裏に浮かぶ。

 盗賊という外道に人権はないと聞いたことがあるが、同じことがこの先の街で起こっていると思うとあながち間違っていない気がした。しかし、それでも相手は人間だと思うとどうにも腑に落ちない。

 

 ――割り切れ、でなければ次はお前が死ぬぞ。

 

 カエルの言葉が脳内でリフレインする。もし盗賊と戦闘になった場合、俺は割り切って命を奪えるだろうか。

 

 

「……今後同じことが起きた時どうするか、ここで答えを出す必要があるかもな」

 

 

 これからの生き方を決める一つのポイントになる予感を感じながら、俺は車内に顔を引っ込め徐々に近くなる煙を眺めた。

 

 

 




本編第59話、いかがでしたでしょうか?

早ければ次回にでも自衛隊による地獄の黙示録が入ります。
大音量コンポとワーグナーのCDをご用意ください(嘘

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第60話「イタリカの攻防 共闘編」

どうもこんにちわ、Joshinが3月にガンプラ3割引きをやめると聞いて今のうちにMGフェネクスを購入するべきか悩んでいる作者です。

さて、今回はアニメ版では5話にあたる内容となります。
作者の都合で盗賊の数が原作より多くなっていますが、ご了承ください。
また、やばそうな叫びをあげる敵がいたり死亡キャラが生存したりこいつらだけでいいんじゃないかという展開が含まれていますが、解説はあとがきにてさせていただきます。

それでは本編第60話、どうぞご覧ください。




 イタリカの南門は盗賊の襲撃により破壊され、門としての機能をほとんど失っていた。

 それでも完全に破壊されていないのは、たまたま訪れた帝国の第三皇女。ピニャ・コ・ラーダの指揮によるものだろう。

 ここに訪れる少し前にイタリカが襲われていると聞き、彼女はてっきり自衛隊が攻めているものだと思い三名の部下を連れて先行。しかし攻め立てていたのはかつて帝国の招集を受けて自衛隊に攻め入った連合諸王国軍の敗残兵であり、予想とは違う展開に彼女は戸惑い、自身の初陣が賊となったことに苦虫を噛み潰したような心境を抱かざるを得なかった。

 しかしそれはそれとして彼女は薔薇騎士団の団長として持てる知識と戦略全てを用い、辛くも撃退に成功した。

 だが使える兵は訓練もろくに受けていない民兵ばかりな上に勇敢な者から次々と命を落とし、落ちる一方の士気は最早最低と読んでもよかった。

 そんな自身の思い描いた初陣とは程遠い現状にピニャがギリギリと歯を軋ませる中、彼女の元へ更なる不測の事態が舞い込んできた。

 

 

「姫様、あれです」

 

 

 騎士団最年長の男、グレイ・コ・アルドに促され門番用の出入り口に設けられた覗き穴から外を伺うと、その先には彼女が見たことのない三つの物体があった。

 共通しているのは四つの車輪を着け全体的に緑色であり、中には斑柄の鎧をまとった人間が見える。そのうちの二台は布の天井だが、残る一台は武器を乗せていた。

 

 ――なんだ、攻城用の木甲車か? だが、あれは鉄でできているな。

 

 

「ノーマ! 他に何か見えるか!?」

 

「敵の姿はありません!」

 

 

 城壁の上にいる部下のノーマ・コ・イグルーから受けた返答にどうしたものかと思考を巡らせると、相手の方に変化が見られた。

 

 

「あの杖…リンドン派の正魔導師か?」

 

 

 リンドン派とは特地における魔法学学派の一派であり、戦闘魔法を研究する学派である。しかし戦闘魔法と呼ばれる割には機動的な速応戦術に向かないため、近年の特地では一般兵科の攻撃補佐的な用途にしか使用されていない。

 そんな魔導師に続いて、もう一人別の人物が姿を見せる。

 

 

「今度はエルフだと? 精霊魔法を使われては厄介だな…しかし、あの服装はなんだ? 男を誑かすつもりなのか?」

 

 

 体のラインがはっきり浮き出ている服装の女エルフを見てそんなことを思い、敵ならば今のうちに城壁の兵たちに弩銃で始末させようか考えたところでさらにもう一人現れる。

 しかしその姿を見た瞬間、ピニャの額に汗が噴き出した。

 

 

「あれは…ロゥリィ・マーキュリー、だと!?」

 

 

 暗黒の神エムロイの使徒にして死神と呼ばれるほどの圧倒的戦闘力を持つ亜神。

 そんな化け物が現れたと知ると、辺りから動揺する声が上がる。

 

 

「魔導師にエルフに使徒……なんだ、何なのだこの組み合わせは!?」

 

 

 ロゥリィの後からもう一人出てきたようだが、先に出てきた彼女のインパクトが強すぎるためピニャはそちらを気にする余裕がない。

 ただでさえあのロゥリィという少女を含め、おおよそ神と呼ばれる存在は何を考えているかわからない存在であり、もし気まぐれでも敵に与しているならば勝てる保証など万に一つもありはしない。

 だが逆に、与しているのならばこのタイミングで現れるというのもおかしな話だった。

 戦の神とも呼ばれるエムロイの使徒が最も激しい戦いの時に現れなかったのは、盗賊たちに関与していないという可能性もあるわけだ。むしろその気に参加されていれば、自分たちはとうの昔に敗北している。

 もし敵でないのならばこちらに引き込むことも可能であり、成功すれば味方の士気向上にはこれ以上ないほど有効な手立てとなるだろう。

 

 

「ひ、姫様。どうするんですか?」

 

 

 腹心のハミルトン・ウノ・ローから弱気な声が上がり、ピニャ自身もこの異常事態にどう対処すべきか余裕のない頭で必死に導きだす。

 しかし解決策は浮かばないまま、ついに扉の向こうから落ち着いたノックが数回響いた。

 

 ――妾にはもう民の士気を上げさせる手段はない。彼女たちが何用でここに来たかは知らぬが、おそらくこの機会を逃せばもう敗北しかない! ならば!

 

 

「――強引に仲間に引き入れるまで!」

 

「姫様、なにを!?」

 

 

 突然扉の閂を外しだした主にグレイが困惑の声を上げるが、ピニャはそれを無視して力いっぱいに扉を押し開ける。

 

 ゴンッ!

 

 

「ロゥリィ聖下! よくぞ来てくれ…た……」

 

 

 勢いに任せて迎え入れようとしたが、三人の視線が下に向いていることに気づき声の勢いが削がれる。

 さらに視線を追ってみれば、斑柄の服を着た男が額を赤くして気絶している姿が。

 状況から推察して、どうしてこうなったのかは誰の目から見ても明らかだった。

 

 

「……もしかして、妾が?」

 

 

 三人から帰ってきたのは攻めるようなジト目と、無言の首肯だった。

 

 

 

 

 

 

「隊長! 聞こえますか!? 隊長!」

 

「モロ入ったみたいですからねぇ……気絶してるんじゃないですか?」

 

 

 桑原さんが無線に向かって声を張り上げるが、通信相手の伊丹さんからは一向に返事がない。

 イタリカと思しき街が見えたところで最初は近くの森でもあればそこに車両を隠して街へ向かおうかと考えていたのだが、見事に開けた場所しかなかったためこちらの存在がまるわかりなのでは? ということで伊丹さんの指示で直接向かうことに。

 しかし案の定、向こうさんは俺たちが敵なのではと警戒しまくっていた。

 そこへレレイ、テュカ、ロゥリィがこちらに敵意がないことを伝えるといって交渉すべく車を降り、伊丹さんが女の子だけ行かせて残るなんて出来ないと言って同伴した。

 特に攻撃されることなく小さな扉まで進むことができ、伊丹さんがノックをした直後にあちら側から扉が開き、中から赤い髪の女性が姿を見せた。

 ただし、扉の前にいた伊丹さんを弾き飛ばしてだ。

 そんな一部始終をみて桑原さんが通信を入れたが、一向に返事がないまま4人は城門の中へと入っていったのだった。

 

 

「御館様、我々が城内に進入して調べてきましょうか?」

 

「待ってくれ、下手に動いて相手を刺激してはマズイ。 ――隊長、返答してください!」

 

 

 ガイナーの提案に桑原さんが釘を刺し、改めて通信を入れる。

 すると今度は少しのノイズが走り、あちらから返答があった。

 

 

『――こちら伊丹、ちょっと気を失っていた』

 

「そうでしたか。危うく突入するところでしたよ」

 

『悪い、連絡があるまで待機してて』

 

 

 それからしばらくして再び伊丹さんから通信が入り、――なんでも赤い髪の女性は帝国の第3皇女様だったらしく――盗賊を撃退するまで協力関係を結ぶこととなったそうだ。

 戦いでボロボロとなった南門から入城し、自衛隊が戦いの準備を進める中、俺とサラはレレイたちからこの街の現状を簡単に説明してもらう。

 

 

「――まさかアルヌスで自衛隊がドンパチやった影響が、こんなところで出てくるとはな」

 

 

 前に伊丹さんから自衛隊がこの世界に来たばかりのころ、敵の大部隊とアルヌスで戦いがあったと聞いたことがある。

 その戦いにこの一帯を治めていた貴族や領主も参加したが、終わってみれば全員が行方不明に。

 しかもこのイタリカを治めるフォルマル伯爵領の現当主ミュイはまだ幼い少女であり、周りの手を借りてどうこうするにしてもあまりに力がなさ過ぎた。

 話によれば彼女の後見人争いをしていた長姉と次姉も前述したアルヌスの戦いで両家とも当主を失い、ミュイ嬢に構う余裕をなくして連れてきた兵たちをすべて引き上げ自分たちの土地をまとめるのに手いっぱいだそうだ。

 結果、街の治安は急激に悪化し、そこへ追い打ちをかけるようにアルヌスの戦いで敗れ落ち延びた兵たちが盗賊となってこの街を襲っているのだとか。

 まあ、11歳の女の子に街を治めろというのはどう考えても酷な話だ。ハマーン様みたいな有能な摂政がいるわけでもないし、かといって頼れる知り合いがいるわけでもない。

 そういう意味では、兵が少ないとはいえ帝国の第3皇女殿下がこの場にいたのは不幸中の幸いだろう。

 イタリカに入城してから数時間。

 日は既に傾いて世界を赤く染め挙げる中、俺は双眼鏡で遠方を探っている伊丹さんと桑原さんに問いかける。

 

 

「それで、敵は本当にここに来ますかね?」

 

「斥侯が来ているのは確認できた。他にもわかっただけで本隊が700から800ほどいるらしい」

 

「その人数でこの街を包囲して攻撃することは不可能だから、どこか一点を集中して攻撃してくるはずだ。こういう時、攻撃箇所を選べる敵のほうが有利なんだ」

 

「川と切り立った崖に面している北側を除けば、確率は三分の一。しかも一度突破されたこの南門を守るのは俺たちのみ。あの姫様は俺たちを囮にここを手薄に見せて敵を誘い込み、奥の二次防衛線を決戦場にする気だよ」

 

 

 振り返り、城壁下の陣形に目を向ける。

 南門を囲うように柵が形成され、突破されても足止めできるように作られているが、素人目から見ても何とも心許ない。

 

 

「これ、敵が乗ってこなかったらどうするんでしょうね」

 

「その時は姫様の手腕に期待、ってところだな。少なくとも、今の俺たちは彼女の指揮下にある。ある程度は言うことを聞いておく方がいい。不測の事態や何か問題があった場合は、こっちの判断で動くつもりだけどね。手も打っておいたし」

 

 

 そういえばアルヌスに連絡を入れていたけど、その時に何か頼んだのか?

 しかし事前に手を打つというのであれば、こちらもないわけではないんだよな……提案だけしてみるか。

 

 

「伊丹さん、ひとついいですか」

 

 

 思いついたことをざっくりと説明すると、伊丹さんだけでなくとなりの桑原さんからも驚いたような返事が返ってきた。

 

 

「それ、本当にうまくいきそうなのか?」

 

「少なくとも、片方は成功しているところを見たことがあります。あとは状況次第かと思いますが、あいつらの腕ならば問題ないかと」

 

 

 俺の提案に伊丹さんは難しい顔で唸り目を伏せたが、すぐになにか決意したかのように顔を上げる。

 

 

「保険はかけておくに越したことはない。ただ基本方針は絶対に見つからないことと、命大事にでたのむ」

 

「わかりました」

 

 

 許可を得られたので直ぐに俺は提案した策の手配を済ませ、盗賊がいたとされる南の方角に目を向ける。

 遠くの方で煙が昇っているのが見え、伊丹さんたちの話からあそこが盗賊たちの居場所なのだろうと辺りをつける。

 

 

「戦いに、参加するんですか?」

 

「……状況次第、としか言えないな」

 

 

 隣にやってきたサラの言葉にそう返しつつも、俺の中では7割方決定していた。

 偶然とはいえ、これは炎龍と戦った時に抱えた問題と向き合う重要な機会でもあると俺は考えている。

 この問題を放置しておくことはできないので、早急に答えを確立させる為にも前に出る必要がある。無論、伊丹さんから何か言われるかもしれないが、そこは押し切らせてもらおう。

 

 

「あらぁ? ミコトとサラは参加しないのぉ?」

 

 

 どこかねっとりとした口調が耳に届き振り向くと、どこか楽しそうなロゥリィがステップを踏んでやってきた。

 彼女もレレイほどではないが、かなり日本語が達者になってきた一人だ。

 

 

「俺はともかく、サラは絶対に前に出させないぞ。それよりどうした、ずいぶんご機嫌みたいだが」

 

「うふふ、久しぶりに思いっきり狂えそうだから、戦いが待ち遠しいのよぉ」

 

「……狂う?」

 

 

 ロゥリィから出てきた言葉にサラが首を傾げ、俺も同じく頭を捻った。

 ただ、彼女のハルバードが猛威を振るうのだろうということだけは、何となく察せた。

 

 

 

 

 

 

 日がとっぷりと暮れ、既に丑三つ時も過ぎた夜中にそれは起こった。

 慣れない徹夜の眠気でうとうとしていた町民たちが、突然飛来してきた矢の雨によって絶命した。

 

 

【敵襲! 敵襲ぅ――――ッ!】

 

【ピニャ殿下に伝令! 敵は東門に現れたと伝えろ! 弓兵、応戦しろ!】

 

 

 ノーマが声を張り上げて指示を出し、自身も弓を手にして応戦する。

 一方、南門の守備を任された自衛隊の面々は険しい顔で東門に目を向けていた。

 

 

【なによぉ! こっちじゃないのぉ!?】

 

0312(マルサンヒトフタ)、夜襲には絶妙な時間ですね」

 

 

 戦いを子供のように待ちわびていたロゥリィが不満そうに声を上げ、倉田が時計を見ながら敵の手腕に感心する。

 

 

「盗賊と言っても、元は正規兵だ。その辺の兵法は心得ているんだろうな」

 

「知性のある盗賊か……面倒な敵ですね」

 

 

 しかも普通の盗賊と違い、装備や練度も高いという強みもある。

 対して守備に回っている町民はロクに軍事教練を受けていなければ、戦いの才能があるわけでもない。

 今はまだピニャの指示した布陣で拮抗しているが、それもそう長くはもたないだろう。

 

 

「東門からの応援要請は?」

 

「まだありません」

 

「そうか。 尊君、あっちの三人は……」

 

「大丈夫です。伊達に死線を潜ってない連中ですし、実力は俺が保障します」

 

 

 ところ戻って戦いの最前線。

 城壁に取り付いた盗賊が城内に侵入しようと梯子をかける。

 それをさせまいと兵が矢を放つが、敵側の精霊使いによる矢除けの加護によりそれは無力化されることとなった。

 ならばとひとりの農夫が手にした斧で直接梯子を叩き落す。

 やった、と思ったのも束の間。直ぐに敵側からの矢で脳を撃ち抜かれ農夫は城壁から転落。

 天秤のように兵の士気が盗賊有利に傾きはじめ、ついに城壁の上にまで到達され始めた。

 

 

【くそ! これ以上やらせるか!】

 

 

 ノーマは剣を振るい城壁に上ってきた敵の首を切り飛ばすが、際限なく登ってくる敵に苦戦を強いられる。

 そして敵が増えるにつれて味方はその数を減らしていき、ついに敵は城門を内側から開け放った。

 

 

【ヒャッハァー!】

 

【皆殺しだぁー!】

 

【WRRYYYYYY!】

 

【くそ! あいつら――【覚悟ぉ!】――っ!】

 

 下から聞こえる盗賊たちの歓喜の声に気を取られ、ノーマは後ろを突かれた。

 背後に自分を突き刺そうとする刃が見えたが、正面の敵を抑えているため体勢を変えて迎え撃つことは叶わない。

 

 ――ここまでか!

 

 自分の死が脳裏を過ぎり、死神の一刺しが心臓めがけて迫る。

 

 

 

斬ッ!

 

 

 

 突如、謎の風が吹き抜けるとともに背後の敵が何かに切り飛ばされ地面を滑る。

 ノーマも、ノーマを抑えていた敵も何が起こったかわからず、戦場の真ん中でありながら思考が抜け落ちた。

 

 

【――っ! はぁ!】

 

【ぐあああ!】

 

 

 いち早く自分が助かったことを理解したノーマは目の前の敵を蹴り飛ばし、肩口から一気に切り伏せる。

 

 

【ここはもう持たん! 下の二次防衛線前まで退け!】

 

 

 何故助かったと考える前にもう城壁が持たないと察すると、生き残った兵たちに後退指示を出して自身も殿(しんがり)を務めながら後退を始める。

 最後にちらっと自分を背後から襲った敵の死体に目をやると、鋭い刃物か何かで縦に真っ二つにされていた。

 

 

「――御館様は自衛隊の増援がくるまで絶対に姿を晒さぬように立ち回りつつ、遠距離から賊を討てと申されたな」

 

「うむ。自衛隊が皇女殿下の指揮下にあり、御館様もそれに含まれているため家臣である我らが断りなしに介入したことが発覚すれば、面倒なことに発展するようだからな」

 

「先ほどまでイタリカの兵が邪魔で迂闊に攻撃できなかったが、城壁に上ってくる敵はもはや我らの的。広場の門は解放されてしまったようだが、そちらは下の兵たちに任せるしかあるまい」

 

 

 闇夜に紛れながら人ならざる姿の三人は各々の得物を構え、城壁に上ってきた盗賊に向かってそれぞれかまいたちを放つ。

 篝火があるとはいえそれでも暗さが勝る中、軌道の見えない斬撃が何も知らないまま顔を出した盗賊を切り裂く。

 

 

「正面から力をぶつけることこそ戦の花だが、そこに無関係な民草を巻き込むとなれば話は別」

 

「卑怯者の誹りを受けようと、賊となって街を襲う輩にはこれくらいがちょうど良い」

 

「夜が明けるまで一時(いっとき)もない。空が白み始めればこちらの姿を捕らえられかねないが、それまでに御館様たちが参られるだろう」

 

「ならば我らは、可能な限り民を影から守護するぞ」

 

「「応っ!」」

 

 

 その言葉を合図にデナドロ三人集は三方向に散り、イタリカの兵たちを援護するのだった。




本編第60話、いかがでしたでしょうか?

まず敵に吸血鬼みたいな叫びをあげるやつがいましたが、モブなので問題ありません。
デナドロ三人集をぶっこんだのでノーマが生存しました。
正直こいつらだけで盗賊は殲滅できるのですが、縛りがあるので介入はこれが限度かと思っています。
もしかしたらこの話も予告なしに修正加筆が入るかもしれませんが、その際はご容赦ください。
さて次回は、「尊の紋章」「ロゥリィ無双」「地獄の黙示録」の三つをテーマに展開します。BGMとして「ワルキューレの騎行」をご用意ください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第61話「イタリカの攻防 戦女神の鉄槌編」

どうもこんにちわ、積んでいたガンプラを消費していたら執筆が滞ってしまった作者です。

さて、今回は有名な自衛隊はっちゃけ回となります。
推奨BGMとして「ワルキューレの騎行」をご用意ください。

それでは本編第61話、どうぞご覧ください。


 イタリカの街でデナドロ三人集が行動を開始した頃、アルヌスでは支援要請を受けた自衛隊の部隊が出動準備を進めていた。

 

 

「我が第四戦闘団四〇一中隊の攻撃目標は『盗賊団』! 数はおよそ800! 既に被害は甚大であり、我々が征かねば陥落も時間の問題でだろう! そしてこの出動は我が隊の初陣でもある! 気合を入れていけ!」

 

『『『おうっ!!』』』

 

「よし! 全員、搭乗!」

 

 

 健軍俊也一等陸佐の言葉に力強く応えた隊員たちがそれぞれのヘリに乗り込む。

 

 

「では陸将、行ってまいります」

 

「うむ、十分気を付けてな」

 

 

 特地における最高責任者である狭間に敬礼し、健軍は側に待機していた部下に声をかける。

 

 

「例の物は準備できてるか?」

 

「大音量スピーカーにコンポ、ワーグナーのCDはワルシャワ・フィルで用意してますよ」

 

「パーフェクトだ、用賀二佐!」

 

「感謝の極み!」

 

 

 某機関の吸血鬼と執事のやり取りを彷彿させる会話と先に聞こえてきた内容に狭間は眉間を抑え、この後起きるであろうことにため息をつく。

 

 ――こいつら、キルゴア中佐の霊にでも取り付かれたか? どうなるか容易に想像できる……。

 

 そしてついにヘリ部隊が出動し、力強い音を響かせて飛び立つ。

 地球でも大きな音を響かせるローター音がいくつも同時に鳴り響けば当然周囲にも容赦なく轟くわけで、難民キャンプでは爆音のような音に叩き起こされた住民が夜明け前の空を突き進むヘリを見上げ呆然としていた。

 ただ、例外もいた。

 

 

「なにあれ何あれナニアレ!! この前飛んでたのとは微妙に違うけど全部ミコトさんがいってたヘリコプターってやつ!?」

 

「だと思うけど……元気だな、ルッカ」

 

 

 夜明け前だというのにテンションが吹っ切れた幼馴染にそう零し、クロノは大きなあくびをかますのだった。

 

 

 

 

 

 

 デナドロ三人集の介入により思った以上に被害が抑えられているイタリカだが、最前線である東門とは別の場所で新たな問題が発生していた。

 

 

【はっ……あぁん! だめぇ…なんで、こっちにぃ……こない、の…くはぁっ!】

 

 

 艶めかしい喘ぎ声が南門に響き、その場にいた男の何人かはしばらくすると思わず前かがみになった。

 

 

「お、おい、大丈夫か――っ?」

 

 

 小刻みに体を痙攣させるロゥリィに伊丹が何事かと近づこうとすると、テュカとレレイがそれを止めさせる。

 同じく声をかけようとしていた尊がそれに気づき、レレイに問う。

 

 

「なんで近づいたらダメなんだ?」

 

「危険だから」

 

 

 なんで、と伊丹が問う前に悶えるロゥリィがハルバードで後ろに積んでおいた土嚢を足場ごと粉砕する。

 その光景を見て危険という意味を理解し、誰もが気持ち数歩ほど彼女から距離を取る。

 安全圏まで下がったのを見てレレイは頷き、今のロゥリィについて説明をする。

 

 

「戦場で倒れた兵士の魂魄が彼女の肉体を通してエムロイのもとへ召される際、使徒である彼女に媚薬のような作用をもたらしている。戦いに身を任せればいいらしいけど、詳しくは分からない」

 

「……いろんな意味でヤバいな、それ」

 

【だめぇ! おかしくなっちゃうぅぅ!】

 

 

 なおも響く嬌声にテュカとサラは思わず顔を赤くし、男性陣から前かがみになる者がまた二人ほど増える。

 

 

「どうします隊長? このままだとまずいと思うですけど」

 

 

 少し気まずそうに栗林が尋ね、伊丹はロゥリィの声を耳に入れないようにしながらどうすべきか思案する。

 

 ――敵が来る気配もなさそうだし、援軍の誘導もしなくちゃな……。

 

 

「栗林、ロゥリィについてやってくれ。それから富田と俺、この四人で東門の援護に向かう。残りはここで待機を――「俺も行きます」」

 

 

 伊丹の言葉を遮って志願の声が上がり、視線がそこに集中する。

 

 

「……どういうことだ、尊君」

 

「俺も行かせて欲しい、と言ったんです」

 

「俺たちが今から行くのは戦場だ、人を殺すことになるし、殺されるかもしれないんだぞ?」

 

「わかっています。けど、炎龍からコダ村の難民を守るために戦った時の気持ちに決着をつけるためにも、自分が駆けつけられる範囲にいる人くらいは助けたいんです。それに――」

 

 

 言葉を区切って一度サラに視線を送ると、尊は改めて誓うように口を開く。

 

 

「――俺はサラを残して死ぬ気は微塵もありません。彼女の父から託された願いを果たすためにも、絶対に」

 

 

 はっきりと告げられた言葉に一瞬悩む伊丹だが、何かを耐えるように体を震わすロゥリィと白み始めた空を見て決断を下す。

 

 

「わかった。けど、俺の指示には必ず従うと約束してくれ」

 

「了解です」

 

「よし! 残りはここで待機だ! 急ぐぞ!」

 

「ロゥリィいくよ! もう少しの辛抱だから――あっ!」

 

 

 栗林が声をかけてすぐにロゥリィは城壁から飛び降り、常人離れした速度で東門へと向かう。

 桑原が思わず「早っ」と零した隣で遅れまいと伊丹たちもすぐに車両に乗り込み、後を追う。

 

 

「ミコトさん! 気を付けて!」

 

「おう!」

 

 

 最後に届いたサラの言葉にしっかりと応え、移動する車内で尊は装備を整える。

 プリズムベストを着こむほどではないと判断しプラチナベストを着こんでシルバーピアスを装着し、最後に虹のリングを指にはめる。

 MPの最大値は黒の夢に乗り込んだころから変わらず99のまま。シルバーピアスの恩恵で魔法や精神コマンド、紋章術まで消費MPが半分になるとはいえ、これからのことを考えると少し心許ない。

 

 ――紋章術が特にMP喰うんだよな……クロノたちに相談してゴールドピアスを回してもらうか? そうすれば計算上、今までの倍は使えるようになる。一番いいのはUG細胞改の自己進化が燃費の改善をしてくれるなりMPの総量を増量させてくれることなんだが、これは当てにできないだろうなぁ。

 

 

「……ねえ、月崎君。そのベストとかどこから出したの? 今なにもないところから出てきたように見えたんだけど」

 

 

 紋章術の燃費の悪さについて対策を考えていると、隣の栗林から何か信じられないものを見たような声で聞かれ、そういえば伊丹にも教えていなかったかと思い説明する。

 

 

「クロノたちの世界の人間はみんな亜空間倉庫というものを持っているんです。収納できるものの種類は明確には分かっていませんが、小物のアイテムからちょっとした鎧の装備までほぼ無制限に収納することができます」

 

「あれ、でも月崎さんは別の世界の地球人では?」

 

「何故かあの世界に渡ったら身に着けていましてね。便利ですよ? 着替えもこの中に詰められるし、食料品は鮮度を保ったまま保管されるし」

 

「……羨ましいねぇ。弾薬の持ち運びに重宝しそうだ」

 

「隊長の場合は同人誌運ぶために重宝するのでは?」

 

「甘いな、栗林。戦利品は手に持ってこそありがたみがあるんだ」

 

「……理解できないわ。ていうかしたくもない」

 

 

 ――伊丹さんの言う戦利品がどんなものか容易に想像つくけど、発想は共感できるな。

 

 栗林が頭を抱え、富田がため息をこぼす中、尊だけは考え方のみ心の中で同意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 さっきまでまだ暗いと思っていた空が一気に明るくなり、朝日が街の屋根を照らし出す。

 それは、尊が自分の家臣に与えた指示が終わることを示していた。

 

 

「伊丹さん、ガイナーたちの援護が終わります。ベースジャバーで上から先行して、足止めに向かってもいいですか?」

 

「……俺たちよりロゥリィが着く方が早いだろうから、援護してやってくれるか?」

 

「わかりました」

 

「よし、なら次の直線で後ろから出てくれ! もうすぐ自衛隊(ウチ)の援軍も来るはずだから、あまり前に出すぎないように! でないと巻き添えを喰らうぞ!」

 

「了解!」

 

 

 下された指示にはっきりと答え、予告された通りの直線に出ると同時に尊は荷台の扉を開放して飛び出すと同時ベースジャバーを形成。すぐさま上昇して東門へと進路を取る。

 先行していたロゥリィがその存在に気づくとそちらの方が走るより早いと判断したのか、ベースジャバーが隣に来ると同時に尊の後ろに飛び乗った。

 

 

「ロゥリィ、援護するから前で思いっきり鬱憤とかいろいろ晴らして来い!」

 

「言われなくてもぉ!」

 

 

 精神コマンドの『加速』を使い一気に東門の上空に来るとまずロゥリィが敵陣のど真ん中に飛び降り、尊は柵の中を一望できる家の屋根に降り立つ。

 ロゥリィは辿り着くなり妖艶な笑みを浮かべ、自分に攻撃してきた大きな体躯の男にハルバードを振るい一撃で倒すと、目の前の敵めがけ狂ったように笑いながら突っ込む。

 一方の尊もやられた人たちの姿が目につき、腹の底から怒りが込みあがるのを実感しながらサテライトエッジをツインソードで召喚し、紋章を顕現させてロゥリィが仕掛けているものとは別の敵陣に向けて紋章剣を放つ。

 

 

「『裂空――十文字』!」

 

 

 青白い十字の斬撃が地面ごと敵を吹き飛ばし、そこへ追い打ちをかけるように突如として城門が爆発する。

 これには流石に驚いた尊だが、遠くから聞こえる音楽とヘリの音を聞いて伊丹の言っていたアルヌスからの援軍が来たことを理解した。

 

 ――けど流してる曲が『ワルキューレの騎行』って……爆竜大佐や地獄の黙示録じゃあるまいし遊びすぎだろ、この自衛隊。

 

 ともあれ、気を取り直して尊は紋章を顕現しながら特地語で声を張り上げる。

 

 

【賊ども! これ以上の抵抗は無意味だ! 今の攻撃は威嚇だが、まだ抵抗するのなら――】

 

【ふ、ふざけんな小僧ぉ!】

 

【ぶっ殺せぇ!】

 

 

 最後まで話を聞こうとしないで柵を破壊し攻め入ろうとする賊をみて勧告は無駄だと判断すると、今度は切っ先から輝力砲を放ち盗賊たちを薙ぎ払う。

 砲撃がやんだところでMPに目を向けてみると既に半分近く無くなっていることに気づき、今の攻撃を受けてもまだ攻め込もうとしている敵を見て紋章術から魔法に切り替える。

 

 

「『サンダー』!」

 

 

 威嚇するように先頭にいた盗賊の前に雷を落とす。

 見たことのない魔法に一瞬たじろぐ敵だが、それがどうしたとばかりに雄たけびを上げて突っ込む。

 一瞬、自分がやろうとすることを思いためらった尊だが、直ぐに力強く魔法を唱える。

 

 

「――『サンダガ』!」

 

 

ズガガガガガガガガッ!!

 

 

【ぐああああああ!?】

 

【おごおおおおお!?】

 

 

 尊の眼下にいた盗賊に先ほど落とされた雷以上の電撃が降り注ぎ、多くは瀕死だが息があるものの、中には耐えきれずに命を落とした者もいた。

 自分の攻撃で人が死んだという事実が不快な感情となって突きつけられるが、それを押し殺して目の前の状況に集中する。

 

 ――伊丹さんがくるまで抑えればいい…それに前は前でロゥリィが無双してるんだ。しかも別のグループも今の一撃(サンダガ)で浮足立ってる…ならここからは無理に魔法で攻撃する必要もない!

 

 

「輝力武装! 『88ミリ高射砲(アハトアハト)』!」

 

 

 作り出したのはかつてフロニャルドにいた際、輝力武装の検証の際に調子に乗って作り出した大砲と同じ物だ。

 青白い紋章とともに溢れた光が大きな砲に変化したのを見て、流石の盗賊たちも分かりやすい脅威から泡を食って逃れようとするが、門の外はミサイルと銃弾の雨が降り注いでおり姿を見せようものなら一瞬にしてミンチになりかねない。

 かといって門の中で避けようにも楽しそうに笑いながら大の大人を5、6人まとめて始末する死神の少女が猛威を振るっている。

 絶望的なこの状況で助かる道を余裕のない頭で必死に考えるが、尊は容赦なく宣言する。

 

 

「吹っ飛べ!」

 

 

ドォン!

 

 輝力の弾丸が放たれ、盗賊たちに直撃する。

 命を奪う力はないが意識を刈り取るぐらいの力を持つ輝力をまともに受け、射線上にいた盗賊たちは軒並み意識を失った。

 しかし輝力武装や紋章砲を多用したためMPの残量は88ミリ砲を2、3回撃てば尽きてしまう程度まで落ち込んでおり、尊は貴重なエーテルの使用を視野に入れる。

 

 

「はああああああ!」

 

 

 そこへ勇ましい掛け声とともに栗林が柵の内側へ躍り出ると、小銃の先端に装着した剣でロゥリィに仕掛けようとした敵を突き刺し発砲。さらにそのままロゥリィと絶妙なコンビネーションを発揮し、敵の掃討に移行する。

 二人ながら十分に足りている戦力とMPの残量から、自分の出番はもうないと判断して尊は輝力武装を消滅させて家の屋根から飛び降り、丁度下にいた伊丹と合流した。

 

 

「尊君お疲れ! あとは俺たちでやる!」

 

「お願いします」

 

 

 念のために一番弱いが、燃費の良い魔法だけでもすぐ撃てるように成り行きを見守る。

 そこへ一機のヘリが門内上空へと現れ、伊丹の通信機に警告が届く。

 

 

<<こちらハンター1 これよりカウント10で門内を掃討する。至急退避されたし! 繰り返す、直ちに退避されたし!>>

 

 

 伊丹と富田は顔を合わせるとすぐさま前方で戦っているロゥリィと栗林を回収し、射線から逃れるべく全速力で尊がいる場所まで後退する。

 そして、その時は訪れた。

 

 

<<――3、2、1>>

 

 

ヴゥイィィィィィィィィィィッ!!

 

 

 カウントダウンが終了すると同時に20ミリ機関砲が火を噴く。

 圧倒的な火力に門内の敵はなすすべもなく蹂躙され、銃弾の雨が止むころには屍の山が築かれていた。

 

 

「……ば、化け物」

 

「あれは…悪魔の使いか……?」

 

 

 ハミルトンとノーマが呆然と呟き、ピニャは響く音楽から別のものを連想した。

 

 ――これは…鋼鉄の天馬を従えた女神の蔑みなのか?

 

 彼女たちがそんな畏怖を抱いている間にも四〇一の隊員はヘリからラペリング降下で投降者の確保と生存者の救出に乗り出していた。

 尊もあまり実感が湧かないながらも終わったのだと理解すると、近くの壁にもたれかかりながらため息とともに腰を下ろす。

 

 

「……俺、魔法でとはいえ人を殺したんだよな」

 

 

 襲われた人を助けるために人を殺した。

 改めて思い返すと魔法を受けた盗賊たちの断末魔が蘇り、胃袋の奥から急に熱いものがこみ上げる。

 

 

「ぅ――げぇ!」

 

 

 人目もはばからず地面に手をつき、胃の中のものを吐き出す。

 幸か不幸か、胃液しか出なかったため吐瀉物はそれほど大したものではなったが、周りの住民は突然吐き出した尊に驚いた。

 

 

【き、君。大丈夫かね?】

 

「ゲホッ――【だ、大丈夫です。皆さんの方こそ、大丈夫ですか?】」

 

【あ、ああ。緑の人や使徒様、それに君のおかげで街は救われた――ありがとう】

 

 

 『ありがとう』。

 それだけの言葉で尊の心は幾分か楽になり、口元を拭うと自分が殺した盗賊たちの屍に向かって手を合わせた。

 

 ――今の俺にはああするしかなかった。許してくれとは言わないが、来世があるならもっとマシな人生を送ってくれ。

 

 

「……さて、伊丹さんと合流してからサラに無事を知らせるか」

 

 

 気持ちに区切りをつけて立ち上がったその直後、打撃音とともに伊丹の情けない悲鳴が響いたのだった。

 




本編第61話、いかがでしたでしょうか?

少々あっさり終わりすぎな気がする上に尊に対する描写が少ない気がしますが、今後このあたりも改善できたらと思っています。
というか、終わりの方が手抜き過ぎた感じが否めません。

さて、次回はベルばら軍団と栗林の衝撃、ピニャの胃にGATEのテーマで進めようかと思います。
そろそろサラといちゃいちゃした展開を書きたいなぁ……。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第62話「協定破り」

どうもこんばんわ、デレステやガンプラに勤しんでいたら筆が進まなくなっていた作者です。

さて、今回は短めな上少し時間が飛びます。と言ってもそこまでぶっ飛ぶわけではありません。
アニメ7話の前半くらいまで話が進みますが、日本に行くのは早くて次回となります。

それでは本編第62話、どうぞご覧ください


 日が落ちて数刻ほど過ぎたか。尊たちと自衛隊はイタリカが見える丘で街の様子を探っていた。

 

 

「隊長、もう死んでたりして」

 

「縁起でもないこと言わないで下さいよ」

 

「無理やりとはいえ自分の足で走っていたみたいですし、まだ大丈夫じゃないですか?」

 

 

 顔に迷彩ペイントを施した栗林の発言に同じようなペイントを塗っている倉田と尊から反応が返ってくる。

 今、この場に第3偵察隊の隊長である伊丹の姿はない。

 というのも、イタリカでの用事が済んだ後の帰還中にトラブルが発生したことが原因であった。

 時の針は、数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 伊丹さんと援軍でやってきた健軍さんがピニャ殿下とフォルマル伯爵領の当主ミュイ嬢といくつか協定を結び、本来の目的であった鱗の売却も済んで俺たちは一路アルヌスに向かっていた。

 徹夜は久しぶりだったが、体が慣れているのか俺はまだ余裕があるものの隣にいるサラや対面のレレイ、ロゥリィにテュカは静かに寝息を立てている。

 三人集は今回のことをクロノたちに教えるべく、一足先にアルヌスへと帰還した。

 

 

「ふぁぁ……ねみぃよ、倉田」

 

 

 右目の周りに痣がある伊丹さんが助手席で大きなあくびをかまし、愚痴を零す。

 なんでも盗賊との戦いのとき、ヘリの警告を受けてロゥリィを抱えて下がった後に殴られたそうだ。

 理由を聞いてもロゥリィはつーんとそっぽを向き、伊丹さんは言いずらそうに苦笑いを浮かべるだけだった。

 

 

「俺だって眠いですよ。やっぱり、一休みしてから帰った方がよかったんじゃないですか?」

 

「参考人招致の準備があるのに、そんな悠長なことしてらんないって」

 

「参考人招致? なんですか、それ」

 

 

 聞き慣れないキーワードを拾い訊ねると、伊丹さんが「ああ」と言いながら教えてくれる。

 

 

「前に炎龍と戦った時の状況を知りたいって本国から言われてね、国会で現地人を交えて説明することになったんだ」

 

「へぇ……ん? じゃあ直接戦闘に関わった俺たちも、そこに行かなきゃいけないんですか?」

 

「んー、そうだね。今のところ特地の事情を説明できるレレイと、明らかに異世界人だとわかるテュカを呼ぶのは決めてる。後は戦闘に参加した尊君も来れば、十分かな?」

 

「なるほど」

 

 

 ということは、別の世界ながらも日本に帰れるということか。……たった数ヶ月なのに、もう何年も戻ってないような気がするな。

 これから先も、そう簡単に日本へ来れるとも限らない。ならこの機会に――

 

 

キキィッ!

 

 

「おわ!?」

 

「きゃ!?」

 

 

 唐突な急ブレーキによって生じた慣性により、横向きに座っていた俺たちの体は大きく滑るように傾く。

 どうにか手をついて倒れるのを阻止するとともにサラの体を受け止めることに成功したが、向かいに座っていた三人は大きく体勢を崩し、レレイに至っては滑り落ちて足元に顔をぶつけてしまっていた。

 

 

「隊長、前方より煙が見えます!」

 

「また煙かよ!?」

 

 

 前の方からそんな会話が聞こえ、また厄介ごとかと思いながら俺も視線を向ける。

 遠めなのでよく見えないが、確かに砂埃が巻き上がってこっちに向かっているようだった。

 

 

「煙が邪魔でよく見えないな……」

 

「――あっ、見えました!」

 

「何が見える?」

 

「ティアラです!」

 

「ああ、ティアラね――ってティアラ!?」

 

「金髪です!」

 

「金髪ッ!?」

 

「縦ロールです!」

 

「縦ロールぅ!?」

 

「目標、金髪縦ロール1。男装の麗人1。後方に美人多数!」

 

 

 …………。

 

 

「薔薇だなッ!!」

 

「薔薇ですッ!!」

 

「……アホか、あんたら」

 

 

 前の二人に冷ややかな視線が向けられる中、話題の元となった集団が直ぐ近くまでやってくる。

 馬を駆り赤、黄、白の薔薇が描かれた旗を掲げた女性ばかりの一団から金髪縦ロールさんと男装の麗人さん(仮称)が見え思わず「縦ロールすげぇ」と零してしまったが、冷静に考えるとこれは少しマズいかもしれない。

 彼女たちからすれば、自衛隊は異世界から攻めてきた敵国の軍勢だ。先ほどピニャ・コ・ラーダ殿下から滞在と往来を認めてもらう協定を結んだとはいえ、この世界の技術レベルではその情報が伝わっている可能性は非常に低い。となれば、面倒なことになるのは容易に想像できる。

 

 

<<総員、警戒態勢>>

 

 

 俺と同じ予想に行きついたのか、桑原さんが武器を準備しながら告げる。

 しかし、その指示に伊丹さんが待ったをかけた。

 

 

「おやっさん待って。総員敵対行動は避けろ、協定違反になりかねない」

 

 

 隊長の指示を受けて自衛官たちが武器を下ろすが、体勢的に何かあれば即座に構えられるようにしているのがわかる。

 そうこうしているうちに薔薇の騎士団が進行方向に立ちふさがり、男装の麗人さんが前の車両で運転している富田さんに問いかける。

 

 

【貴様たち、どこから来た?】

 

「えっと……【我々、イタリカから来た】」

 

【どこへ向かうつもりだ?】

 

【――アルヌス・ウルゥへ】

 

【なんだと!? 貴様ら、異世界の敵か!?】

 

 

 富田さんの答えを聞いた瞬間、後ろに控えていた騎士たちが一斉に武器の矛先をこちらへと向けた。

 一人馬から降りた縦ロールさんは富田さんの胸倉をつかみ、再度問う。

 

 

【もう一度、言ってごらんなさい?】

 

【い、イタリカから来て、アルヌス・ウルゥに向かう……】

 

 

 威圧するような問いに気圧されながらも富田さんははっきりと答える。

 しかしこのままじゃまずいことに変わりない。かといって、協定の話をして信じてもらえるかどうか……。

 

 

「手を出すな。いいか、絶対に手を出すなよ」

 

 

 ここにいる全員にそう向け、伊丹さんは装備を外すと手を上げながら縦ロールさんたちに近づく。

 

 

【あのー、部下が何か致しました…か……」

 

 

 無手であることをアピールして話しかけたが、喉元に剣を向けられて思わず言葉が日本語へ戻ってしまったようだ。

 剣を突き付けた男装の麗人さんは警戒を緩める素振りも見せないまま鋭い視線を伊丹さんに合わせ、命令するように告げる。

 

 

【抵抗は無意味だ、降伏なさい!】

 

 

 いや、こっちが抵抗したらそっちに甚大な被害が出るから。もちろんそんなことしないけど。

 当然こんな命令を受け入れられるわけもなく、伊丹さんもタジタジしながら言葉を返す。

 

 

【あ、あのー、とにかく落ち着いて話を――】

 

【おだまりなさい!】

 

 

 パシンと乾いた音が響く。聞く耳持たんと言わんばかりに、縦ロールさんが伊丹さんの顔を叩いたのだ。

 これを敵対行動ととったのか、銃座に座っていた自衛官がガシャっと次弾を装填させる音が上がるものの、即座に桑原さんから待ての命令が上がる。

 

 

「逃げろ! とにかく今は逃げるんだ!」

 

 

 このままでは不味いと判断した伊丹さんの命令を受け、各車両が急バックをしてすぐに来た道を引き返す。ただ来た時と違うのは、伊丹さんをあの場に置き去りにしてきたということだ。

 

 

 

 

 

 

 そして話は冒頭へと回帰する。

 

 

「――あの騎士団がピニャ殿下の直属の部隊なら今回のことは間違いなくあの方の耳に入るでしょうし、お屋敷ならイタミさんも手厚く看護されるのでは?」

 

「協定を結んでいる以上、彼女たちの行いは看過できない。何より帝国としても、ニホンに付け入る隙を与えるのを良しとしないはず」

 

「確かに。そう考えると最悪の事態はなさそうだな」

 

「まあ、それを除いても隊長なら大丈夫だと思いますよ。一応、レンジャー持ちですし」

 

 

 サラ、レレイ、尊の話を傍で聞いていた富田が何気なくこぼす。

 富田の一言に理解が及ばない三人はピンと来なかったが、逆によく理解したうえで見過ごせない人物が声を上げた。

 

 

「富田ちゃん、隊長がレンジャーってマジ!?」

 

「え、ああ」

 

 

 嘘だと言ってほしかった言葉が肯定で返され、問いかけた栗林はぷるぷると体を震わせのたうち回る。

 

 

「あ、ありえないぃぃぃ! 勘弁してよぉぉぉ!」

 

「イタミさんがそのレンジャーというものを持っていてはいけないのですか?」

 

「だってキャラじゃないのよぉ! 地獄のような訓練課程をくぐり抜け、鋼のように強靭な肉体と精神でどんな過酷な任務でも遂行する精強な戦士! それがレンジャー! あんな人には似合わないものなのよぉ!」

 

「……え、てことは伊丹さんって、実は凄い人なんですか?」

 

「まあ、わかりやすく言えばエリートに分類されますね」

 

 

 倉田の解説に普段目にする伊丹の姿を思い浮かべ特地の三人娘はそのギャップに大笑いし、尊とサラは見かけによらずすごいと純粋に感心した。

 程なくして救出のために行動することとなり、自衛隊の半数に加えあの騎士団から目をつけられにくいであろう尊たち5人を加え、一行は昼間に出発したイタリカへと向かう。

 その頃、レンジャー持ちということが発覚し周囲からの評価に変化が見られた伊丹自身はというと――。

 

 

【イタミ殿! お気を確かに! イタミ殿!】

 

【おいハミルトン! あまり揺らすな! 意識が朦朧としているのにそんなことをしていると――】

 

 

ぱたり

 

 

【【イタミ殿ぉぉぉぉぉぉ!?】】

 

 

 ノーマとハミルトンの悲鳴が屋敷に響き、彼をこんな目に合わせた部下を前にしてピニャは頭を抱えた。

 何せ結んだその日に協定破りをしたのだ。相手が帝国ならこれを口実に戦争の一つや二つ容易に吹っかける。しかもピニャたち4人は自衛隊の力をすぐ近くで見ているため、彼らが同じ手口を使えばただでは済まないことが手に取るように分かった。

 

 

【――貴様らぁ、イタミ殿になにをした?】

 

 

 一先ず伊丹を屋敷のメイド長に任せ、ピニャはドスを聞かせて今回の問題を引き起こした金髪縦ロールことボーゼス・コ・パレスティーと、男装の麗人ことパナシュ・フレ・カルギーに問い詰める。

 しかし彼女らは何故ここまで怒られているのかわからなかった。

 いつも通り捕虜となった者の首に縄をかけ、いたぶりながらここまで連行したことを告げるとピニャは盛大にため息をついた。昨日までの自分ならそれでもよかっただろう。

 だが彼らは自らが往来を許可し、捕虜には人道的な扱いをするとも協定で結んだ。

 前者だけならまだやりようがあったかもしれないが、後者は言い逃れができない。

 

 

【姫様、ここは素直に謝罪されてはいかがでしょう? 幸い、今回は死人も出ておらぬことですし】

 

【妾に頭を下げろというのかグレイ!? 帝国の弱みを見せることになるのだぞ!】

 

【ならば戦いますか? あれほどの力を振るったジエイタイと、彼らに与するロゥリィ・マーキュリー。そして見たことのない魔法と紋章を掲げる男を相手に】

 

 

 その言葉にピニャはぬぐっと声を漏らす。

 自衛隊は言わずもがな、ロゥリィの力も噂に違わぬ化け物レベル。そしていつか酒場で聞いた、謎の集団の頭目と思われる男が見せた雷撃の魔法と紋章の力。

 前の二つと比べれば見劣りするが、男の力も普通の人間では相手にならないものだというのは遠目からでもわかった。しかし殺しはまだ経験していなかったのか、話によれば戦いが終わってすぐ吐いたそうだ。

 

 

【小官は御免被りますな。まあ、どうなるかはイタミ殿の御機嫌次第かと思われますが】

 

 

 最後にそう締めくくり、グレイはピニャの後ろに控える。

 何度目かのため息をつき、ピニャはボーゼスたちを下がらせ今回の処理を考えるべく当てがわれた部屋へと向かう。

 

 ――どうすれば協定違反をなかったことにできるか……いかん、考えただけで胃が痛くなってきたぞ。

 

 胃のあたりを押さえながら、ピニャは部屋の扉を押し開けるのだった。




本編第62話、いかがでしたでしょうか?

前書きにもありましたが、早ければ次回にでも日本の土を踏みます。
作者がペース配分を間違えなければおそらく10話以内には新章へと移行します。
そこでいろいろ伏線を回収していけたらと思いますので、それまでは原作に沿った展開をお楽しみください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第63話「いざ、日本へ」

どうもこんばんわ、数年分のデータを溜めていた2TBHDDが突然お亡くなりになりモチベがブラックホールに吸い込まれるように消え去ってしまっていた作者です。

さて、今回はアニメ第7話に該当する場面となります。
原作と比べて微妙に展開が違ったりしますが、概ね同じ流れのはずなので問題はないと思います。

それでは本編第63話、どうぞご覧ください。


 結果から言えば、伊丹さん救出作戦(?)はあっけないほど簡単に終わった。

 まず城門の兵士たちは俺たちが来ると顔パスで中に入れてくれ、城壁の騎士はテュカの精霊魔法によって眠りの世界へ旅立った。

 その隙に外で待機していた富田さんたちを誘導し、フォルマル伯爵の屋敷に潜入。途中でこちらを待ち受けていた屋敷のメイドであるネコ耳ウサ耳のお姉さん方に案内され、他のメイドさんたちに手厚い看護をされている伊丹さんのもとへたどり着いた。

 とりあえず傷が酷い伊丹さんを見かね、サラがさっそく魔法による治療を行うことに。

 

 

「――お、すげえ。怪我した場所が全然痛くねえ」

 

「傷は完治していると思いますけど、何か違和感があれば言ってください」

 

 

 ケアルガで消えた傷や痣に触りながら感心する伊丹さんにサラが確認を取ると、傍に来た富田さんが感心するように言う。

 

 

「それにしても、魔法って本当に便利ですね」

 

「便利は便利ですけど、今は魔力を回復させるアイテムが少ないので乱用できないのが欠点ですけどね。あと、魔法で回復するのは傷だけで疲労は回復しないんですよ」

 

「なるほど、だから体の怠さは抜けてないのか」

 

 

 俺の説明に納得したように伊丹さんが呟く。疲労が回復しないというのは実体験からの助言だが、まあ一晩寝たらある程度はマシになるだろう。筋肉痛の場合、どうなるか知らないが。

 さて、と一息ついて辺りを見回すと、倉田さんはネコ耳メイドさんに熱いアピールをかましており、メイドさんは満更でもなさそうに笑みを返している。

 ほかにも栗林さんがウサ耳のメイドさんに盗賊との戦いを絶賛され、謙遜しながらも嬉しそうに答えている。また視線を動かしてみれば髪の毛が蛇の女の子をレレイが興味深そうに観察しており、ヒト種のメイドさんがテュカのシャツに興味を持って話しかけ、メイド長と思しき妙齢の女性はどうやらエムロイの信徒らしく興奮気味にロゥリィに話しかけている。もっとも、ロゥリィ本人は物欲しそうにどんどん数を減らしているお菓子にちらちらと視線を送っているが。

 

 

「急いで帰る必要はないみたいですね」

 

「夜が明けたら曹長を呼んで帰りますか、隊長」

 

「そうだな。ま、今日は文化交流ってことで一晩過ごしますか」

 

 

 伊丹さんの一言でその後は軽いどんちゃん騒ぎとなり、俺やサラも出された料理に舌鼓を打ったりメイドさんを交えて話を広げたりするのだった。

 ――この後、また面倒なことになるとは露知らず。

 

 

 

 

 

 

【――で、その傷は?】

 

 

 苛立ちのこもった声でピニャが問う。

 彼女の前には微妙な表情を浮かべる自衛隊と尊たち、それと治したばかりなのに新しい傷を顔にこさえた伊丹と青い顔で震える縦ロールが特徴的なボーゼスがいた。

 ピニャの計画では問題を起こしたボーゼスに躰を使って伊丹を籠絡させ、それで今回の協定破りをなかったことにしようというものだった。

 命令を下された当初、ボーゼスもピニャと帝国のためにと決意を固め、男の情欲をあおるような透け透けの服を纏って伊丹がいる部屋へ赴く。しかし和気藹々とメイドたちと交流している自衛隊とその他の光景が視界に飛び込み、誰一人として自分に目を向けようとしなかった。

 誇り高い帝国侯爵家の次女としてのプライドと、こんな格好をしてきたにもかかわらず相手にされないという激情に駆られ、ボーゼスは頭に血を上らせたまま怒りの矛先を全て伊丹にぶちまけてしまい今に至る。

 

 

【……わたくしが、やりました】

 

【はぅああぁぁ~~~~~~ッ!?】

 

 

 蚊が鳴くような声で発せられたボーゼスの告白にピニャの口から絶望に満ちた悲鳴が上がる。

 籠絡して協定破りをなかったことにするよう命じたはずなのに、あろうことかさらに攻撃を加えて協定破りを重ねたとあれば無理もない。

 

 

【この始末、どうしてくれよう……】

 

 

 必死に考えて出した答えがあの命令だったのだ。それすらも無になった今、ピニャに新しい策などありはしなかった。

 そんな彼女を見かねたのか、富田が気遣うように提案する。

 

 

「あ、あのー。隊長はこちらで引き取るので、そちらのことはそちらで決めていただければ」

 

【勝手にやっていい、と言っている】

 

【それは困る!】

 

 

 レレイの翻訳内容に彼女は即答する。協定破りの件はここでなかったことにしたいのだ。そのまま持ち出されてしまえば帝国に付け入る隙を与えたままになってしまう。ピニャは皇女として、それだけは何としてでも阻止しなければならない。

 

 

【そ、そうだ! もうじき夜が明ける! 一緒に朝食を取ろう! そうすれば考えも……!】

 

「朝食を一緒に取ろう、と言っている」

 

「あー、申し訳ありません。実は隊長、国会から参考人招致がかかっていまして、今日中に戻らないとマズいんですよ」

 

「コッカイ?」

 

「簡単に言えば、国を動かす政府機関だな」

 

 

 聞き慣れない言葉の問いに尊が補足を加える。

 今回の通訳をレレイが担当しているのは、彼女が自分の通訳としての実力がどの程度まで使えるのか試したいと申し出たのがきっかけだった。

 今のように日本側の知らない単語については、よくわかる尊が補足を加えて翻訳の精度を上げるようにしている。

 説明を受け、倉田が言った内容をピニャでもわかるように翻訳する。

 

 

【伊丹は元老院に報告を求められている。そのため、本日中に戻らなければならない】

 

【げ、元老院だと!?】

 

 

 レレイとしては国を動かす機関と聞いて帝国に該当するものを当てはめて伝えたつもりだが、ピニャの中では全く別の意味で捉えられた。

 

 ――たかが一部隊の隊長が国の指針を取り決める機関から招集がかけられるなど、余程の地位にいる者でなければあり得ない。ならばこの男…冴えない風体をしていながらエリートキャリアだというのか!?

 

 彼女の頭には日本の皇帝(空想)に跪き、協定破りが行われたことを事細かに報告する伊丹の姿がよぎった。

 自衛隊の力を直ぐ近くで見ていたこともあり、連鎖的にその報告だけで自衛隊が本格的に帝国に攻め入る可能性があると彼女は至った。

 最も尊を含め、自衛隊の面々はそれだけで部隊が本格的に攻め入る理由にはなり得ないと断言するだろう。

 しかし日本という国をよく知らず、自分の世界の常識を当てはめるしかできなかった彼女はそれだけは何としてでも阻止せねばと伊丹に告げる。

 

 

【――な、ならば! 我らもアルヌスに同道させてもらう!】

 

「アルヌスへ一緒に行くと言っている」

 

「……はっ?」

 

【此度の件、そなたたちの指揮官に、正式に謝罪させていただきたい! よろしいな、イタミ殿!】

 

「えぇーっ!?」

 

 

 予想斜め上の展開に伊丹が本気なのかと言わんばかりに困惑の声を上げる。

 結局、謝罪のために問題の原因となったボーゼスと上官であるピニャがアルヌス駐屯地に同行することとなり、竜の鱗を売りに行くだけだったはずのイタリカ訪問はこうして終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 およそ3日ぶりにアルヌスへ帰還し、通訳のため伊丹についていったレレイと別れ難民キャンプに戻るなり、尊たちは出発の前にはなかった新しい建物と掲げられた看板を見上げていた。

 

 

「アルヌス協同生活組合?」

 

 

 キャンプの入り口付近に出来たそれは自分たちの住まいであるプレハブと同じ物で出来ており、窓から中を伺うとカトーを筆頭にクロノ、マール、ルッカが難民らと何か作業をしていた。

 すると向こうもこちらの存在に気づいたのか、机に向かっていたマールが立ち上がると直ぐに出迎えに来た。

 

 

「みんな、おかえり!」

 

「ただいま」

 

「――ねぇ、マール。これなぁに?」

 

 

 テュカが答えたのをきっかけにそれぞれがただいまと応え、ロゥリィが看板を指さしながら問う。

 

 

「カトー先生の提案でね。このキャンプで自活していくために、個人じゃなくみんなで助け合っていくために設立したの」

 

「今のところレレイ、テュカ、ロゥリィ、カトー先生が組合の幹部としてカウントされてるわ。加えて私たち異世界組からはミコトさんとサラさん、私、ロボが幹部補佐として名前が挙がっているわ」

 

 

 後ろから話を聞いていたルッカが補足を加え、幹部に指名された面々は寝耳に水だとばかりに驚く。

 その反応も当然だと加えつつ、ルッカは説明をする。

 

 

「理由は複数あるけど、まずほとんどがキャンプにいるみんなからの推薦よ。カトー先生を含めてレレイたち三人は日本語の理解力が上から数えた方が早いし、今のところ一番自衛隊とかかわりが深いのも一因ね。異世界組に関しても同様、特にミコトさんは満場一致で決定したわ。組合設立前から自衛隊との連絡係もやってたし」

 

「なるほど――ん? だったら俺が幹部にねじ込まれていてもおかしくないか?」

 

「それなんですけど……立ち話もなんですし、続きは中で話しましょう」

 

 

 クロノに促され、尊たちは組合事務所の中へ足を踏み入れる。

 内装を見て尊が受けた印象は、元の世界で就職活動の際に訪れた小さな会社事務所と同じようなものだった、

 備品も自衛隊から支給されたものなのか、スチール製のデスクと棚に折り畳みの長テーブルとパイプ椅子が並んでいる。しかもよく見ると、一つしかないスチールデスクには月崎と書かれたネームプレートが立てられていた。

 つまり、そのデスクは尊専用の物だということだ。

 

 

「事務所が大きくなったら、また机をそろえてくれるそうです」

 

「……そうか。 ――じゃあ、さっきの続きを頼む」

 

 

 幹部補佐のはずなのにいきなり専用の机が与えられたことで、これから先どんなことを任せられるのか容易に想像出来ると思いつつ、尊は自分の椅子に腰を落ち着け肝心な内容の説明を求めた。

 

 

「まずミコトさん……というより異世界組が全員幹部補佐なのは、最終的に私たちがいなくなってもいい事態を見越しての割り当てです」

 

「どういうこと?」

 

「俺たちはいつか元の世界に戻るつもりだからさ、俺たちがいないと組合が回らないなんて状態になったらマズいだろ?」

 

 

 クロノからテュカへの説明を聞き、尊やサラも納得した。

 自分たちはこの世界に骨を埋めるつもりはないのだから、抜け出せないように枠へ押し込まれては後々面倒なことになるのは明らかである。それでも幹部補佐という位置にいるのは、まだ人材がそろっていないが故だろう。

 この説明に異論を唱える者がいないのを確認し、ルッカは続ける。

 

 

「次に組合の活動内容についてですけど、これは至ってシンプルですよ。基本方針は、ここに住むみんなが生きていくのに困らない生活を送れるようにすること。翼竜の鱗が主な収入源ですけど、これで得られたお金は盗難防止も兼ねて自衛隊に預かってもらいます。収支管理についてはカトー先生かデクスターさん、プロスさんかカムランさんの4人が担当しますけど、イタミさんの部隊にいるトヅさんって人が詳しいみたいなので協力を仰ぐことになってます」

 

「戸津さん……ああ、あの眼鏡の人か」

 

 

 尊のつぶやきで他の面々も思い出したのか、同じように「ああ」と声を上げる。

 

 ――しかしカトー先生を除いた収支管理の人たちの名前、どこかできいたような……。

 

 

「ところでイタリカから戻るときにトラブルがあったみたいですけど、結局どうなったんですか?」

 

 

 引っかかりを感じていた尊を他所に話は進んだらしく、今度はマールの方から質問が上がった。

 思考を打ち切り、尊はピニャの薔薇騎士団と接触したところから要約し3行で説明する。

 

 ・異世界の敵ということで武器を突き付けられるも協定を守るため説得のために出ていた伊丹を置いて逃亡。

 ・イタリカで協定破りの責任を取りに来たはずの女騎士(ボーゼス)が無視されたことで頭に血が上り治療してもらったばかりの伊丹を追撃。

 ・続けて起きた協定破りについての謝罪をするため皇女自ら同行し現在レレイを通訳に狭間陸将と会談中。

 

 かなり端折った説明だったが、上の二つだけで伊丹にどれだけの不幸が降り注いだのかクロノたちはよくわかった。

 

 

「俺たちから報告できるのは、こんなものかな。そっちは他にあるか?」

 

「こっちは特にありませんね。ミコトさんは、明日からまたあちこちの手伝いですか?」

 

「いや、俺は別でまた予定がある」

 

「予定?」

 

 

 マールが聞き返したのとほぼ同時に、事務所の扉がガラッと開かれた。

 

 

「尊くーん、テュカー、いるかー?」

 

 

 現れたのは完全装備から解かれて軽装になった伊丹だった。ちなみに顔の傷は既に治療済みである。

 

 

「伊丹さん。なんですか?」

 

「明日の参考人招致について説明をね。 それにしても組合の話は聞いたけど、こうしてみたら尊君が一番偉く見えるな」

 

「ただの机補正ですよ」

 

 

 自分が思っていたことを言われ苦笑いを浮かべる尊を他所に、サラが尋ねる。

 

 

「イタミさん、イタリカでも言っていましたけど、参考人招致ってなんですか?」

 

「んー、簡単に言えば特地の代表として門の向こうに行って、そこで二人とレレイに質疑応答をしてもらうんだ。二泊の予定だから、そんなに長く離れないけどね」

 

「門の向こうってことは……」

 

「世界は違うけど、俺の故郷だな」

 

「じゃあ、ミコトさんからすればある意味里帰りですね」

 

 

 里帰り。

 ルッカの言葉に尊は気持ちが昂るのを感じ、遠足を翌日に控えた子供のように明日が待ち遠しくなった。

 

 

「ちょおっとぉー、わたしは除け者なわけぇ?」

 

 

 先ほど呼ばれた名前の中に自分がいなかったことが不服なのか、拗ねた口調でロゥリィが伊丹に訴える。

 伊丹としては現地人として一番知識のあるレレイと一目で普通の人とは違うとわかるテュカ、そして炎龍と直接戦った尊がいれば事足りると考えていた。

 確かにロゥリィは高い身体能力を持った亜神という人ならざる者だが、伊丹としては連れていくには少し理由が弱いかとも思っていた。

 

 ――けど、連れて行かなかったら後で面倒なことになりそうだな。

 

 腕を組んで考え込み、伊丹はすぐに判断を下す。

 

 

「わかった。亜神って種族の一人として同席させてもらえるよう許可を取ってみるよ」

 

「あら、いいのぉ?」

 

「行きたいんだろ? 門の向こうに」

 

 

 その一言でロゥリィの顔が花の咲いたような笑顔になり、それを切っ掛けにほかの面々が一斉に主張を始める。

 

 

【ワシも! ワシも門の向こうに行きたいぞい!】

 

「わたしもわたしも!」

 

「俺も行きたいです!」

 

「未知の技術をぜひ!」

 

「ちょ、ちょっとぉ!?」

 

 

 しばらく行きたい行きたいと騒いだクロノたちだったが、またいつかの機会にということでこの場は一先ず収束した。

 やってきた時と比べてかなり疲弊した伊丹に同情しつつ、尊はいくつかの確認をする。

 

 

「伊丹さん、向こうには俺のことなんて伝えてるんですか?」

 

「旅の戦士ってことになってる。コダ村で炎龍が出るって聞いて避難の隊列に加わって、最終的に俺たちについてきたって設定。クロノ君たちと一緒に別の世界から来たとは話してないけど、名前はミコトで通してるよ」

 

「となると、偽名は使えないってことですね」

 

 

 名前と容姿から変な勘繰りをされるのではと考え尊はせめて偽名を使おうか考えていたのだが、既に話が通ってしまったのなら偽名という手段は使えない。

 ならば、と尊は亜空間倉庫から仮面を取り出す。

 

 

「これつけて参考人招致に出席しちゃダメですかね?」

 

「仮面? ――こ、こいつはっ!?」

 

 

 見たことのあるデザインに驚愕した伊丹だが、ひとまず気持ちを落ち着け冷静に問題がないか考察する。

 

 

「……まあ、宗教的な理由でつけてるってことにしたらいいんじゃないかな?」

 

「わかりました。 それと、もう一つお願いがあるんですが」

 

 

 

 

 

 

 参考人招致当日。

 引率の伊丹、富田、栗林のほかに、門の前には五つの人影があった。ロゥリィ、テュカ、レレイ、尊、そしてサラだ。

 全員が初夏を思わせる気温の中、厚手の服を用意して門が開くのを待っていた。

 

 

【なんでこんな厚着をしないとだめなの?】

 

【向こうでは気温が違うらしい】

 

【伊丹さんによれば今の日本は冬だ。軽装で行ったら風邪ひくぞ】

 

 

 タートルネックのセーターにぼやくテュカにレレイと尊が説明をする。

 特地では薄手の服装でも構わないのだが、今から向かう日本は真冬の12月。半袖で向かおうものなら体を抱きすくめて歯をガチガチと鳴らす羽目になるだろう。

 一方、最初に聞いていた人数から二人も増えたことに疑問を抱いた富田が、隣にいる伊丹に耳打ちする。

 

 

「ロゥリィとサラさんが来るなんて聞いてませんよ」

 

「二人とも許可なら取ったよ。ロゥリィは特地特有の種族の一人として。サラちゃんは別枠で必要になった」

 

「別枠?」

 

 

 富田が首を傾げていると一台の車が一行の前に現れ、中から柳田が姿を見せる。

 

 

「悪い悪い、手続きに手間取っちまった」

 

「お嬢さん方は?」

 

 

 伊丹の問いに皮肉めいた笑みを浮かべ、柳田は後部座席のドアを開ける。そこから出てきた二人に、富田と栗林は驚愕した。

 

 

「ぴ、ピニャ殿下とボーゼスさん!?」

 

「た、隊長! どういうことなんですか!?」

 

「殿下は講和のために帝国との仲介役をやってもらうんだ。その通訳として、サラちゃんを参考人招致とは別枠で連れていくことにした」

 

 

 こともなげに答える伊丹だが、この二人がついてくると聞いたのは昨日のことだ。元々は尊がサラを連れていけないか伊丹に相談し、柳田に相談を持ち掛けようとしたところでピニャたちがお忍びで同行することを聞かされた。これは渡りに船だと伊丹は利用し、通訳としてサラを合法的に連れていけるようにしたのだ。

 尊がサラを日本に連れて行こうと思ったのは、純粋に自分が生きていた世界を見せてやりたいと思ったからだ。無論、尊もダメ元で頼んだことだったのだが、幸運が重なって同伴が許されることとなった。

 これで今回の日本行きのメンバーが全員揃い、柳田が守衛に指示を出すと門を覆っていたドームの入り口がゆっくりと開き始めた。

 キィキィと甲高い音を上げながら入り口が全開となり、古代ローマを彷彿させるような意匠の門が姿を見せる。

 

 

「この先が、ミコトさんがいた世界……」

 

「ああ。世界は違うが、この向こうにある。 ――俺の故郷、日本が」

 

 




第63話、いかがでしたでしょうか?

組合の収支管理に設定した名前はただのネタなので特に深い意味はありません。
次回は国会での質疑応答をねじ込んで伊丹の嫁宅まで向かわせるつもりです。
掻きたかったシーンのひとつなので、早めに次話を投稿できるよう頑張ります。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第64話「参考人招致 前編」

どうもこんにちわ、質が落ちたという評価を受けて展開をどうするか悩んでいる作者です。

さて、今回はアニメ8話の参考人招致回となります。
長くなったので二回に分けましたが、おおよその長れは原作と変わりません。

それでは本編第64話、どうぞご覧ください。


 見慣れたビルに見慣れた道路、そして至る所に目につく文字には懐かしさすら感じられる。

 三つの世界を渡った経験からこの世界の空気はやはり汚いと実感できるが、それすらもどこか心地いい。

 寒さとはまた別の感覚でふるふると体を震わせ、こらえきれないとばかりに彼は叫ぶ。

 

 

「――日本よ、私は帰ってきた!」

 

 

 世界の境たる門を潜り抜けて数分。両腕を広げた尊は感動のあまり某少佐のようなセリフを放ち、大きくガッツポーズをとった。

 突然のリアクションに特地の三人娘は何事かと目を張り、彼を慕うサラは別の場所とはいえ自分の国に帰ってこれた嬉しさの表れなのだろうと思いながらその光景を見つめていた。

 彼らがいるのは日本の銀座。数ヶ月前、この場所で帝国の侵略によって端を発する銀座事件が起こった。

 逃げ惑う無力な人々に容赦なく刃を向け、死体の山に侵略の証として旗を立てた帝国。だがその場に居合わせた伊丹の咄嗟の機転で皇居に人々が避難し、鎮圧のために行動を起こした自衛隊と警察隊によって戦場の拡大が防がれることとなった。

 あれからおよそ4ヶ月の月日が流れ、銀座はまだ一部立ち入り禁止区域があるもののかつての賑わいを取り戻しつつある。

 そんな中、尊を除いた他の6名は改めて辺りの建物に目を向ける。

 何階にも分けて建てられたビルが軒を連ね、さながら摩天楼の集合体ではないかとピニャは思う。

 近くのビルは自衛隊が間借りしているのか、外から覗くガラスの向こうでは談笑する人の姿も見て取れる。

 

 

「これが……ミコトさんのいた世界」

 

【狭い土地を有効的に使っているのね】

 

【イタミの国って、それだけ狭いってことぉ?】

 

【もしくは人口がとても多いのかもしれない】

 

 

 そんな会話が耳に届いたのか、尊はにやりと笑って彼女らの疑問に答える。

 

 

「日本は全国的に山が多く平坦な土地が少ないから、テュカが言ったように狭い土地を有効的に使うようになってきたんだ。ちなみに国の面積が世界的に見てもそこまで大きくなくのに対し、逆に総人口は多くおよそ一億二千万人。この東京だけで約1300万人は存在している」

 

「そ、そんなにいるんですか!?」

 

 

 まさに桁違い。教えられた4人はあまりの数字に言葉を失い、日本語がわからないピニャとボーゼスは目に見える日本から帝国との技術差に圧倒され、絶望的な未来が頭を占めていた。

 やがて伊丹から声がかかり、7人は受付の前まで移動する。そこへ、フェンスの向こうから狡猾そうな笑みを浮かべた男が現れ伊丹に歩み寄る。

 

 

「伊丹二尉ですね? 情報本部から参りました、駒門です。今回は皆さんのエスコートを申し付かっております」

 

「……おたく、公安の人?」

 

 

 その問いに駒門と名乗った男は笑みを浮かべ、くつくつと笑う。

 

 

「わかりますか? 流石は英雄殿だ」

 

「たまたまだよ」

 

「ほう、あれほどの経歴を持ちながらたまたまと言うかい」

 

 

 懐から手帳を取り出し、駒門はそこに記した調査内容をどこか面白そうに読み上げる。

 

 

「一般幹部候補生課程の成績は、同期から怪我人が出たためブービー。任官後の評価は不可にならない程度に可。業を煮やした上官に幹部レンジャーに放り込まれなんとか修了。その後は何故か習志野に異動し、素行に難ありとして三尉に留め置かれていた。が、例の事件で二尉に昇任した…と」

 

「……よく調べてるねぇ」

 

「クククッ。月給泥棒、オタク、隊内ではコテンパンだねぇ」

 

 

 おおよそ今の人物像と変わらないその情報に部下である富田、栗林を含め尊たちは苦笑を漏らす。

 しかし、直後に放たれた駒門の一言が全てをひっくり返した。

 

 

「――そんなあんたがなんで『S』なんぞに?」

 

「……え、ええ、えええええ゛え゛え゛え゛え゛!?」

 

「く、栗林さん!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

 『S』という単語に発狂したように叫ぶ栗林へ尊とサラが声をかけるが、彼女は頭を抱えたまま固まっていた。

 今の彼女はどうにもならないと見切りをつけ、同じく単語の意味を知っているであろう富田に質問を振る。

 

 

「と、富田さん。『S』ってなんですか?」

 

「特殊作戦群……特戦群とも呼ばれる部隊なんですが、グリーンベレーやデルタフォースのようなものと言えばわかりますか?」

 

「ぶっ!?」

 

 

 人目も憚らず尊は噴き出す。グリーンベレーやデルタフォースという単語はゲームや漫画で馴染み深く、どういう組織なのかもその手の知識で得たのでよく知っている。

 しかし、しかしだ。普段の素行を知る者たちにとって目の前の男(伊丹)がそんな特殊部隊の出身だと言われて、驚くなという方が無理である。

 現に一名、驚きのあまりヒスを起こしているものがいるのだから。

 

 

「うう嘘よぉー! 嘘だと言ってぇぇぇ! こんな人がレンジャーな上に特戦群とかありえないぃぃぃぃぃ!!」

 

「シノさん落ち着いてください!」

 

 

 涙目になって現実を否定している栗林をサラが必死に落ち着けようとしているが、まったく意味を成していない。

 そんな光景を駒門は腹を抱えて笑い、働き者の中で怠け者を演じる伊丹を尊敬するとして敬礼を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 伊丹さんの衝撃の経歴を聞かされて直ぐに用意されたバスへ乗り込む。終始、栗林さんがこれは夢なんだと繰り返して現実逃避をしていたが、やがて受け入れたのか忘れるかしたのかおとなしくなった。

 バスの窓から見える景色はありふれた日本の景色のはずなのに懐かしく感じ、後ろの席ではサラとレレイたちが街頭に設置されたクリスマスツリーについて何かのおまじないかと考察している。

 答えてやってもいいんだが、一度解説したらあれもこれもとなりそうだな。

 

 

「――ところで、このバスって国会に直行してるんですか?」

 

「いや、まず服を整える。そのあと飯食って、国会に向かう」

 

「テュカさんがジーンズですからね。国会にあの服で行けば、叩かれるのが目に見えますよ」

 

 

 なるほど。今回の招致で日本の服を着ているのはテュカだけだ。レレイやロゥリィはあっちでもよく来ている服装だし、俺とサラもクロノ世界やフロニャルドで入手した服ばかり着ている。

 ……そういえばこっちに来る前に通訳の報酬とかで日本円をもらってたな。それも結構な額で。時間があれば服とか買いに行きたいところだ。

 などと思っているうちにバスは大手のスーツ販売店で止まり、そこでテュカのスーツを一式購入。はっきり言って耳が人間と同じなら就職活動をしている学生に見えなくもない。

 ロゥリィとレレイもどうかと勧められたが、レレイは簡潔に不要と、ロゥリィはゴスロリ服が神官の正装だからいらないと答えた。ゴスロリが正装ってなんだよ、エムロイ教……。 

 

 

「月崎君とサラちゃんもいらないの?」

 

「私も自分のがありますから」

 

「俺は一応、旅の戦士ってことになってますからね。それらしい装備で行った方が説得力あるでしょ?」

 

 

 レレイやロゥリィが許されて俺がダメなんてこともないだろう。サラは別の場所でピニャ殿下たちの通訳として向かうから、国会には行かないのでスーツは不要だ。

 一先ずスーツの問題を解決し次に食事をということで再びバスに乗り込んだのだが、銀座で飯なんて食ったことないし、何より高級店しかないイメージが強いので何処で食べるのか皆目見当もつかない。

 

 

「――で、これっすか」

 

「前に言ってたでしょ? 牛丼とかハンバーガーが恋しいって」

 

「いや、確かに言いましたけど……まあ、いいや」

 

 

 目の前に鎮座するのは「早い、安い、うまい」でおなじみの庶民の味方、牛丼である。

 伊丹さんによれば参考人招致に出ている間は出張費扱いで、食事代は一食500円しか出ないらしい。まあこのあたりでその価格内に収められるものを考えたら至極納得なのだが、何とも世知辛い。

 それはともかく、本気で久しぶりの牛丼だ。(ツユ)だくで頼んだ一杯に生卵を投下して米と肉に十分絡ませ、そこへ紅ショウガと七味をトッピング。

 いただきますと宣言し、さっそく口の中へ運ぶ。肉の味と卵、そしてご飯がよく絡み合い七味と紅ショウガがピリッと舌を打つ。うむ、牛丼はこうでなくては。

 ちらっと隣を見てみればサラたちが実に美味そうに牛丼を食べており、後ろのテーブル席に目をやると未知の味が気に入ったのか一心不乱に牛丼を食べるピニャ殿下たちがいた。

 その反応が昔テレビで見た初めて牛丼を食べる外国人とよく似ているが、牛丼でこれならカツ丼を食べさせたらどんな反応をするのかちょっと気になるところだ。

 そんな考えもあった食事タイムが終了し、バスはついに国会議事堂へと辿り着く。ここでサラとは一度別れるのだが、こればかりは仕方ないな。

 

 

「じゃあサラ、そっちは頼んだ」

 

「わかりました。ミコトさんも頑張ってくださいね」

 

 

 笑顔で見送られ、俺も軽く手を上げてバスを降りる。本当ならハグのひとつでもしたかったが、場所が場所だ。また今度にしよう。

 

 

「それじゃ、行こうか」

 

 

 伊丹さんが先導し、俺たちもそれに続く。さあ、どんな質問が飛び出してくるのやら。

 

 

 

 

 

 

 日本では国会内でのやり取りをテレビで中継しているが、普段からその様子を興味深そうに視聴している人などそう多くはない。

 しかし、今回の国会中継は違った。誰もがテレビやスマホのチャンネルを国会中継に合わせ、各都市の街頭テレビも同じように放送をしている。しかも日本国内のみならず、ネット中継を利用して様々な国の人が一国家の中継に注目していた。

 何故か。その理由はテレビのアナウンサーの言葉に全て込められていた。

 

 

『――銀座事件からおよそ4ヶ月。今回初めて現地の自衛隊員のほか、保護された特地の住人を参考人として招いての質疑応答が行われます』

 

 

 今まで誰もが門の向こうがどうなっているのか知りたかった。今回はついにその一端がわかるということで、世界の目が国会中継に注がれていた。

 アナウンサーが国会の様子を中継する中、議会でのざわめきが一際大きくなる。

 自衛隊特有の緑色の制服を纏った伊丹を筆頭に、杖を持った青い髪の少女。スーツを着た金髪に長い耳の少女。布で覆われた何かを手に黒地に赤いフリルが付いたゴスロリ服を纏い顔をベールで隠した少女。そして黒いマントに白金のベストを着けた仮面の男が入場し、一斉にシャッター音が鳴り響く。

 

 

「これより、参考人に対する質疑に入ります」

 

 

 それぞれが席に着いたのを合図に、ついに質疑応答が始まる。

 質問者の代表として幸原みずき議員がマイクの前に立ち、民間人犠牲者60人と書かれたフリップを取り出して口を開く。

 

 

「単刀直入にお尋ねします。特地害獣、通称ドラゴンによって自衛隊保護下にあった現地の住民60名が犠牲となったのはなぜでしょうか?」

 

「伊丹参考人」

 

 

 名前を呼ばれて伊丹が席を立ち、対面のマイクに立ち説明をする。

 

 

「えー、それは単にドラゴンが強かったからですかね」

 

「なっ、何を他人事のように! 尊い命が失われたことに責任は感じないのですか!?」

 

 

 あまりにもあっけらかんとした発言に幸原は虚を突かれ、ふざけるなとばかりにフリップを叩く。

 しかし伊丹は気にしないとばかりに、当時の状況を思い出しながら淡々と続ける。

 

 

「大勢の人が亡くなったことについては、残念に思います。あと、こちらの力不足を感じましたね」

 

「! それは、自衛隊の対応に非があったことを認めるということですね!?」

 

「いえ、不足していたのは銃の威力です」

 

 

 ここぞとばかりに問うた幸原の言葉を伊丹はバッサリと否定する。

 

 

「7.62㎜なんて、まるで豆鉄砲でしたよ。もっと威力のある武器があればと、心底思いました。荷電粒子砲とか重力子爆弾とかはともかく、実用の目処が立ちつつあるレールガンでもあれば状況は変わったんじゃないかと」

 

「それをどうにかするのがあなたたちの役目ではないのですか!?」

 

「あー、委員長、よろしいでしょうか?」

 

 

 一方的に考えを押し付けようとした幸原の発言を見かねたのか、一人の議員が補足をするためにマイクの前に立つ。

 

 

「自衛隊が持ち帰ったサンプルを解析した結果、ドラゴンの鱗はタングステン並みの硬さを持ちながら重量はその7分の1しかなく、それに加え高温の火炎を広い範囲にわたって吐き出す空飛ぶ戦車並みであることが分かりました。このような生物を相手にして犠牲者をゼロに留めろと言うのは、いささか酷な話ではありませんか?」

 

「……いいでしょう。先ほどの発言を訂正します」

 

 

 ドラゴンのスペックがいかに凶悪であるか理解したのか、幸原はバツが悪そうに答えると次の人物を指名する。

 

 

「では、レレイ・ラ・レレーナ参考人にお尋ねします。 日本語は分かりますか?」

 

 

 指名を受けたレレイがマイクの前に立ち、「わかる」と日本語で答える。

 それだけなのに議員たちはざわめき、伊丹は大げさなとため息をついた。

 

 

「結構。今は難民キャンプで生活しているそうですが不自由はありませんか?」

 

「不自由の定義が理解不能。自由でないという意味ならヒトは生まれながらにして自由ではないはず」

 

 

 予想していたものとは違う哲学的な返答に出鼻を挫かれ、幸原は聞き方が悪かったのかと改めて問う。

 

 

「言い方を変えましょう。生活する上で不足しているものはありませんか?」

 

「衣、食、住、職、霊のすべてにおいて必要は満たされている。質を求めるときりがない」

 

「では60名もの死者が出た原因として、自衛隊の対応に問題はありませんでしたか?」

 

「ない」

 

 

 きっぱりと返答をされてはこれ以上望む答えは来ないと判断したのか、質問を終了して次の人物へと移る。

 続いてマイクの前に立ったのは、テュカだった。

 

 

「私はエルフ。ロドの森の部族、ホドリュー・レイの娘。テュカ・ルナ・マルソー」

 

 

 自らエルフと名乗ったことでテレビの向こうではまさかという声が上がり、幸原ももしやと思い確認するように尋ねる。

 

 

「失礼を承知でお尋ねしますが、その耳は本物ですか?」

 

【その耳は本物かどうか聞いている】

 

 

 聞き取れなかった部分をレレイが補足し、テュカは納得したように髪をずらして耳の根元を見せる。

 

 

「ええ、自前ですよ。触ってみますか?」

 

 

 ぴょこぴょこと動かして見せた瞬間、ネットを含めて世界は騒然となった。

 某呟きサイトや大手掲示板ではこぞって『エルフキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!』だの『なん、だと……!?』だのとコメントが溢れ、場内では議員たちがマナーもクソもなく手持ちの携帯電話で写真を撮りまくる始末だ。

 委員長が必死に「静粛に!」と声を張り上げるが、手にした携帯電話にはちゃっかりとテュカの姿が撮影されていたりする。

 どうにか騒ぎが収まったのを見計らい、幸原が改めて質問を飛ばす。

 

 

「ドラゴンに襲われたとき、自衛隊の対応に問題はありませんでしたか?」

 

「……よく覚えてない。その時、気を失っていたから」

 

「……結構です」

 

 

 腹の中では忌々しそうに思いながらも表面上は仕方ないといった風に話を打ち切り、次の人物へと視線を向ける。

 

 

「ロゥリィ・マーキュリー参考人」

 

 

 委員長の名指しで三人目の少女、ロゥリィが席を立ったのをみて幸原はほくそ笑む。

 

 ――黒服にベール……きっと喪服ね、都合がいいわ。

 

 今度こそ自衛隊の非を突き付ける材料になるだろうと内心で喜び、気持ちを切り替えるように咳ばらいを一つして質疑を始める。

 

 

「難民キャンプではどのような生活をしていますか?」

 

「単純よぉ。朝目を覚ましたら生きる、祈る、そして命を頂き祈り、夜になったら眠る。大体こんなところかしらねぇ」

 

「い、命をいただく?」

 

「食べること、殺すこと、エムロイへの供儀、色々よ」

 

「……なるほど」

 

 

 エムロイへの供儀というのは理解できなかったが、前半の二つから日本でいうところの魚や肉に対する「いただきます」かと納得し、本命の話を切り出す。

 

 

「次の質問です。見た所あなたは大切な人を失ったようですが、そうなった原因が自衛隊にあるとは思いませんか?」

 

「? 【ねえ、レレイ。この人はなにをいってるのぉ?】」

 

【大切な人がいなくなった原因はジエイタイにあるのではないかと聞いている】

 

【意味が分からないわぁ】

 

 

 呆れたようなロゥリィの言葉を受け、レレイは幸原が亜神について知らないと思い通訳をしながら補足をしようと試みる。

 しかし、その言葉も説明しようとした人物に阻まれてしまい伝えることが叶わなくなった。

 

 

「資料によれば、ドラゴンの襲撃を受けた際に避難民の10分の1を犠牲にしておきながら、自衛隊員には死者どころか重傷を負った者すらいません。身を挺して戦うべきだった人間が自身の安全を第一に考えたその結果、民間人を危険に晒したのではないでしょうか!?」

 

 

 捲し立てるように自分の考えを強く推すその姿にロゥリィはまた呆れるが、それを幸原は自衛隊の非を引き出せると確信したのか大げさに手を広げて叫ぶ。

 

 

「さあ、話してください! 貴女が見た、自衛隊の本当の姿を!!」

 

 

 勝利を信じて疑わない彼女はロゥリィの口から語られる話を元に、一気に自衛隊を糾弾し悪に仕立て上げるつもりでいた。

 そしてロゥリィは大きく息を吸い、マイクに向かって思いっきり叫んだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

『あなたおバカぁぁぁ!?』

 

 

 

キィィィィィィィィィィィィィィン!!

 

 特大のハウリングが場内を支配し、その場にいた全員の耳を襲う。

 まだある程度の耐性がある議員たちは顔をしかめて耳を抑える程度にとどまったが、初めて味わったテュカとレレイは耳を抑えたまま何事かと辺りをきょろきょろ見渡した。

 一方、予想外の展開に見舞われた幸原はロゥリィの発言に耳を疑い、恐る恐る尋ねる。

 

 

「い、今なんと……?」

 

「あなたはおバカさんですかぁ? と尋ねたのよ。 お嬢ちゃん?」

 

 

 独特の口調で語りかけながらベールを上げ、ロゥリィはその妖艶な笑みを晒すのだった。




本編第64話、いかがでしたでしょうか?

後編を投下した次の話あたりで箱根山中夜戦になると思います。
ほんの少しですが何気に書きたかった展開がここにあるので、楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。




◇没シーン◇
 やがて伊丹から声がかかり、7人は受付の前まで移動する。そこへ、フェンスの向こうから狡猾そうな笑みを浮かべた男とトレンチコートの男が現れ伊丹に歩み寄る。


「伊丹二尉ですね? 情報本部から参りました、駒門です」

「同じく鎧衣です。今回は皆さんのエスコートを申し付かっております。どうぞよろしく」

「……おたくら、公安の人?」

「クククッ、分かりますか? 流石英雄殿だ」

「たまたまだよ」

「ほう、レンジャー持ちにして特戦群出身という並のエリートではない経歴を持ちながらたまたまとおっしゃいますか。ならば私は並のエリートから外れたあなたをSES……スーパーエリートソルジャーとでも呼びましょうか?」

「なんかダサいネーミングだ」



書いている最中に突如として沸いてきました鎧衣課長。
MLOWも続きを書かないといけないんですが、時間とかネタとかがががががが


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第65話「参考人招致 後編」

どうもこんにちわ、およそ3年ぶりに発売されたゼロの使い魔の最新刊をどうにか入手できた作者です。

さて、今回は参考人招致の後編となります。
かなり飛ばして伊丹の元嫁のところまで話が進みますが、参考人招致で尊が加わったこと以外に原作と大きな違いはありません。

それでは本編第65話、どうぞご覧ください。


 自分に向けられた発言が信じられないといった風に呆然としている幸原へ、ロゥリィは先ほどの質問に答える。

 

 

「イタミたちは頑張ってたわぁ。難民を盾にして安全な場所にいたなんてことは、ぜぇったいにないわよ」

 

 

 魅了するような笑みのまま、目の前の女を嘲笑うようにロゥリィは実に、実に楽しそうに続ける。

 

 

「第一、兵士が自分の命を大切にして何が悪いの? 彼らが無駄死にしたら、あなたたちのように雨露凌げる場所で駄弁ってるだけの連中を、一体誰が守ってくれるのかしら。お嬢ちゃん」

 

「お、お嬢、ちゃん?」

 

 

 明らかに自分を見下した発言に苛立ちを募らせる幸原だが、ロゥリィの主張はまだ続く。

 自分が望む展開ではなく、自衛隊を擁護する展開として。

 

 

「炎龍を相手にして生きて帰って来た……先ずはそのことを褒めるべきでしょうに。それと避難民の10分の1が亡くなったと言ったけど、正確に言えばイタミたちは10分の9を救ったのよ? それがどういうことかもわからないのかしら。お嬢ちゃぁん?」

 

 

 先ほど議員が話したドラゴンのスペックを当てはめて10分の9が生き残ったという結果を見れば、これがいかに凄いことかよくわかる。

 600人の避難民が空飛ぶ戦車という規格外の存在に襲われて、最終的に540人も生き残ったのだ。100人以上が犠牲になってもおかしくなかったにも関わらずこれだけ生き残ったかを突き付けられれば、自衛隊を糾弾することなどできるはずもない。

 しかしそれを認められないのは議員としての誇りか、所属する党のプライドがそうさせるのか幸原は論点をずらすように苦し紛れの話題を持ち出す。

 

 

「と、年上に対する言葉遣いがなってないわね……お嬢ちゃん?」

 

「それって私のことぉ?」

 

「当たり前です! 特地ではどうか知りませんが、この国では年長者は敬うものです!」

 

 

 怒りのままそう指摘した直後、国会に一つの笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

 

「あっはっはっはっは! はっははははは!!」

 

 

 ――だ、ダメだ! 議員の発言がブーメラン過ぎてもう耐えられん! 周りの視線がすごいが、こればっかりはどうしようもない!

 

 突然爆笑しだした最後の参考人――尊を見て誰もが呆気にとられ、自分が笑われていることを理解した幸原は顔を真っ赤にして声を荒げる。

 

 

「な、なな、何ですか貴方は! 突然笑い出すなど不謹慎な!」

 

「はっはっは……いや、失敬。今の発言が俺のツボを非常に強く刺激しましてね」

 

「ツボ? 何のツボだというんです!?」

 

「無論、笑いのツボですよ。さっきから聞いていればあなたは相手の情報をロクに知りもしないのに、さも自分の発言が正しいと決めつけているかのような発言しているんですよ? 彼女たちのことを事前に知っていれば、今みたいな年齢に関する話は出てきませんよ?」

 

「年齢? そんなもの見ればわかります! この少女はどうみても10代前半ではありませんか!」

 

「はい、では10代前半と断じられたロゥリィさん。正解をどうぞ」

 

「961歳よぉ」

 

 

 刻み付けるように、ねっとりと告げられた言葉に議事堂内は水を打ったような静けさが広がり、直後にあたりからざわめきが起こった。

 もちろん、それは先ほどまで年上目線で話をしてた幸原も同様である。むしろ彼女の方が内心では大きな動揺が広がていた。

 

 ――きゅ、961ですって!? ……そ、そういえば昔読んだ本にエルフは長命だって…まさか!?

 

 

「ち、ちなみにテュカさんは……」

 

「165歳よ」

 

 

 ごくり、と生唾を飲む音が嫌に大きく聞こえた。

 ロゥリィの方が800歳近くも年上なのだが、テュカもテュカで女子高生のような見た目に反して年齢は3ケタ台。若さを渇望する人たち――特に女性――からすれば、まさに垂涎ものである。

 

 

「ま…まさか……!」

 

 

 二度あることはなんとやら。もしやとした予感に声を震わせて残りの二人に目を向ける。

 

 

「15歳」

 

「24歳です」

 

 

 残り二人がまだ現実的な年齢だとわかり、先ほどの衝撃とは打って変わって妙な安心感があたりに漂った。

 ここで種族についての説明をするべく、レレイが代表して話し始める。

 

 

「私や彼はヒト種。その寿命は60~70年。私たちの世界の住民は殆どがこれ。テュカは不老長命のエルフの中でも希少な妖精種で、寿命は長く永遠に近いと言われている。ロゥリィは元々人だけど、亜神となったとき肉体年齢は固定された。通常は千年ほどで肉体を捨て霊体の使徒に、やがては神になる。それと彼女の着ている服はエムロイの神官服で、喪服ではない」

 

 

 付け加えるようにロゥリィの服について説明するが、幸原の頭には届いていない。

 永遠に近い寿命を持つエルフに人の姿をしながら神である存在。自分たちの常識をはるかに上回る状況を突き付けられ、幸原が深く考えるのを止めたためだ。

 レレイが下がったことで誰もが質疑が終わるだろうと思ったが、忘れてはならない。この参考人招致に呼ばれた人物があと一人いることを。

 

 

「では、ミコト参考人」

 

 

 名前を呼ばれた尊が前に立つが、幸原は先ほど告げられたロゥリィの服について尊の仮面も同じような意味があるのではと勘繰り、仮面については無視して手元の資料から質問の内容を選ぶ。

 

 

「えー……あなたは自衛隊とともにドラゴンと戦ったとありますが、ドラゴンに襲われる前に避難民を助けることはできなかったのですか?」

 

「不可能です。ドラゴンは出現すると同時に、火を吐きながら避難民の隊列後方を襲撃しました。俺は隊の中腹にいて、自衛隊は先頭と中腹に分かれていました。しかも襲われた場所は見通の良い開けた土地で、どう行動しても犠牲者が出るのは避けられませんでした」

 

「では、どのようにして被害を最小限に留めようとしたのですか?」

 

「簡単なことです。ドラゴンの意識を避難民から自分たちに向けさせ、真っ向から戦ったのですよ。自衛隊の方々がそれぞれの武器を使ったように、俺も自分しか持ちえない武器を使って」

 

「自分しか持ちえない武器?」

 

「そう、魔法です」

 

 

 明確に断言された魔法という単語に辺りからざわめきが広がり、信じられない、しかし特地ならあるいはといった声がそこかしこから上がった。

 相対する幸原も最初はそんなものと思ったが、これまでの出来事からもしかしたらと天秤が傾き、ついに本当ならもうそれでいいと思考放棄にも似た結論を出す。

 

 

「その、あなたが言う魔法というものをこの場で見せてもらうことはできますか?」

 

「できなくはないですが、それを使えばこの場が火事か氷漬けになってしまいます。 なので、魔法とは別の力をお見せしましょう」

 

 

 そう言って尊は右手に紋章を発動させ、手のひらを上に向けてソフトボール大の輝力の球を形成させる。

 この世界ではありえない現象を見せつけられ議員たちから畏怖にも似た驚愕の声が漏れ、中継を見ていた人々も呆然とその映像を眺めていた。

 

 

「ご理解いただけましたか? 議員殿」

 

「……え、ええ。結構です」

 

 

 納得してもらったところで輝力を霧散させると、テュカの時ほどではないが世界に大きな喧騒が広がった。

 使用したのは魔法ではなく紋章術だったが、こっちの世界の人間からすればどっちでも同じかと思いながら、尊は質問の回答を続ける。

 

 

「ご覧になって頂いた力を含め、俺は魔法を使い自衛隊とともにドラゴンを撃退。結果はそちらがご存知の通りです。生き残った人たちの大半は別の村へ避難しましたが、それでも自分やここにいる三人を含め、身寄りをなくしたご老人や子供など総勢37名が自衛隊に保護されました」

 

「その人たちが難民キャンプで生活している、ということですね?」

 

「そういうことです。付け加えて言わせてもらうなら、特地では今回のドラゴン――炎龍というものは嵐や火山と同じ天災のようなものです。それもたった一体で特地の小国を滅ぼすことも可能だとされているほどに凶悪な。そんな化け物級の敵を相手にしていたということを頭に入れて、もう一度考え直してください。600人の避難民を抱えた状態で一国以上の力を持つドラゴンに僅か12名で挑んだ彼ら自衛隊が、どれだけ命を張って奮戦し避難民たちを守ったのかを」

 

 

 たかが十人ちょっとで、国を滅ぼすことが可能なドラゴンを相手に混乱する村人600人を護衛し、全滅どころかたった1割の被害に抑え込んだ。

 世間はこれを聞いて素直に伊丹たちを称え、同時に門の向こうにいるとされるドラゴンに脅威を感じた。

 対して自衛隊の汚点を必死に探していた幸原は改めてとてつもない事実を突き付けられ、質疑開始直後に思い描いていた状況との違いにもはや何も言い返せなかった。

 

 

「幸原議員、質問は以上ですか?」

 

「……以上です」

 

 

 放心状態のままどうにかそれだけ応え、幸原は資料をまとめとぼとぼと席に戻る。

 こうして驚愕と波乱に満ちた参考人招致が終了し、4人は伊丹の先導で退場するのだった。

 

 

 

 

 

 

「……開いた」

 

「開いたな」

 

「開いたねぇ」

 

 

 アルミ合金の扉が音を立てて自動で開きホームのアナウンスが現在地を伝える中、目の前で開いた扉を前にレレイがポツリとつぶやく。

 のんびりとした様子で尊と伊丹が返すが、思い出したように飛び込む。

 

 

「感心してる場合じゃない! 早く乗って!」

 

「急げ! 閉まるぞ!」

 

 

 二人の言葉にレレイとテュカは直ぐに乗り込んだが、ロゥリィだけはおどおどした様子で乗車をためらう。

 直ぐに伊丹が手を引いて乗せると同時に扉が閉まり、一行が乗り込んだ電車は東京へ向けて発進した。

 ギリギリ乗れたことに伊丹が安堵し、吊革につかまりながら尊が先ほど言われたことを思い返す。

 

 

「それにしてもバスを囮にして地下鉄で移動ってことは、なんかやばいことでもあったんですかね」

 

「間違いなくそうだろう。特地の人間ってだけで、どっかの連中が攫う理由としては十分だ」

 

「その対策のためと思えば確かに仕方ないですが……流石に視線がすごいですね」

 

「ああ、怪しいタレント事務所のプロデューサーにでもなった気分だ」

 

 

 何せ昼間のテレビで大々的に取り上げられた国会中継の中心人物がこぞって地下鉄にいるのだ。それぞれの容姿も相成って、周りからの視線はテュカたちに釘付けであった。

 すると隣の車両から見たことのある面々が現れ、こちらを見るなりすぐにやってきた。

 

 

「隊長、お待たせしました」

 

「おう、ご苦労さん」

 

 

 別の場所で会談をしていた富田たちが合流し、特地から来た当初と同じ面々が揃う。

 違いがあるとすれば伊丹たち自衛官と、尊の服装が変わっていることくらいだ。

 それを見て、サラは気づいた。

 

 

「ミコトさん、その服はもしかして」

 

「ああ。上着はボロボロだけど、下はまだ使えなくもないから倉庫から引っ張り出した」

 

 

 今の尊の服装はかつて魔王との決戦でボロボロになってしまい、捨てるのにも何となく未練があったため亜空間倉庫に押し込んでいた自分の服だ。

 上着は完全にダメになっていたので他の服になっているが、伊丹から借りたコートを羽織っているのでパッと見は普通の服を着たようにしか見えない。

 最も尊も、あの時取っておいたものが再び使うことになるとは予想していなかったが。

 

 

「ところで……ピニャ殿下たちも地下鉄が怖いんですか?」

 

「さっきから地の底に連れて行く気かっておどおどしてるわ。けど、『も』ってなに?」

 

「あれですよ」

 

 

 栗林の問いに親指を向けて答えると、そこには地下鉄に怯え伊丹にしがみつくロゥリィがいた。

 怖いもの知らずと思っていた彼女の意外な一面を垣間見たのか、栗林は驚きながらなるほどと納得した。

 

 

「ロゥリィ、地下鉄ダメなの?」

 

「地面の下はハーディの領域なのよぉ! あいつったら、200年前にお嫁に来いって言って以来しつこくてしつこくて……。無理やりお嫁に行かされそうになったことも一度や二度じゃないわぁ……」

 

「200年……スケールでかいな。けど、なんで俺にしがみつくの?」

 

「ハーディ除けよぉ。あいつ男は嫌いだから、こうしていれば寄ってこないのよ」

 

「いや、そこは嘘でも――『か、勘違いしないでよね! あんたはただの虫除け! カモフラージュなんだから!』――だろ?」

 

「きもっちわる!」

 

 

 ツンデレの指南を自ら女口調でした伊丹だが、それがあまりにもひどく栗林は嫌悪感を隠さずはっきりと切り捨て、聞き耳を立てていた乗客も内心でキモいという評価を下すのだった。

 異世界の住人を乗せていようと地下鉄は淡々と平常運転で運行し、定められた駅に停車する。そこで新たな乗客を乗せ、再び規則的なリズムを立てて目的地を目指す。

 

 

「――予定を変更して箱根に向かうぞ」

 

 

 先ほど止まった駅――霞ヶ関駅で合流した駒門が扉にもたれかかりながら告げる。

 

 

「バスの方は?」

 

「見事に引っかかってくれたよ」

 

 

 本来ならば彼らはバスに乗り込んで用意された宿泊施設へ向かう予定だったが、招かれざる客の対処をするために直前で使用予定だったバスを囮に移動手段を変えた。

 面白いように思惑通りになっているのか、駒門は狡猾そうな笑みを浮かべながら続ける。

 

 

「移動手段の変更を知らされていなかった時点で、容疑者は二人に絞られた。今、大元を突き止めるために泳がせている」

 

「本当にいるんですね、自分の利益のために国益を損ねるようなことをするのが」

 

「全員がそうじゃないが、目が眩んじまった奴もいるってことさ」

 

 

 尊の言葉に肩をすくめ、駒門はやれやれとため息をつく。

 そこへ、ロゥリィの切羽詰まった声が上がる。

 

 

「イタミぃ! ここから出たいのぉ! もう我慢できないわぁ!」

 

「もう少しの辛抱なんだが……無理そうか?」

 

「無理ぃ! もう無理よぉ!」

 

 

 今までどうにか苦手な相手の領域(テリトリー)を移動していたがそれも限界らしく、腕を引っ張って必死に訴える。

 目的地まであと二駅。我慢してもらうのが一番なのだが、これ以上不安を与えるのもよくない。

 何よりここまで不安そうにしているロゥリィに、もう少しだけ耐えてくれと返す選択肢を伊丹は持ち合せていなかった。

 その心境を読んだかのように電車が止まり扉が開く。ロゥリィの手を取り、伊丹はホームへ降り立つ。

 

 

「俺たち、銀座(ここ)で降りるから」

 

「はぁ!?」

 

 

 駒門が「ウソだろ!?」と言いたそうに声を上げるが、尊たちから見てもこれ以上ロゥリィを不安にさせるのはよくないと言えた。

 それなら少し時間がロスするが、地上を移動して東京に向かった方が精神的にもいい。

 焦る駒門を他所にぞろぞろと電車を降り、そのまま改札口を抜ける。

 

 

「勝手に移動されちゃ困る! こっちにも段取りってもんが――『お客様にお知らせします。現在地下鉄丸ノ内線は、銀座東京間で発生した架線事故の影響で運行を休止しています。大変ご迷惑をおかけしますが、運転再開の目途はたっておりません。繰り返します――』……」

 

 

 追いついた駒門が伊丹に食って掛かるが、そこへ駅員のアナウンスが耳に届く。

 その内容に二人は思わず顔を見合わせ、何も言わずにそのまま地上へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 12月の太陽は沈むのが早く、地下鉄に乗る前は茜色だった空もすっかり暗くなっていた。

 窮屈な地下から出てくると、ロゥリィは嬉しそうに大きく伸びをする。

 

 

「ん、ん~っ。 不味い空気だけど、地下よりずっといいわぁ」

 

 

 心底安心した様子の彼女を見て地上に出てよかったと思うと同時に、伊丹は先ほどの架線事故について駒門に尋ねる。

 

 

「地下鉄まで止めるとは……『(やっこ)』さん何が目的だと思う?」

 

「デモンストレーションだな。いつでも手を出せると警告したいんだ。だがバスと地下鉄を立て続けに失敗したから、次はもっと単純かつ直接的に手を出してくるだろうよ」

 

「単純かつ直接的に?」

 

「ああ。例えば――」

 

 

 尊の疑問に答えようとしたその瞬間、群衆に紛れていた一人の男がロゥリィの手にあった包みを奪いとる。

 

 

「なっ!?」

 

 

 ひったくりだと尊が思ったのも束の間、彼の心配は盗られた物より盗った人間の方へと向けられた。

 その心配は的中し、ひったくり犯は奪い取った包みに潰され身動きが取れなくなっていた。

 国会の時も手放さないでいた包みの中は彼女にとって神意の証たるハルバードだ。これがロゥリィの手にある間はそれほど重くないのだが、彼女の手から離れれば大人が数人で抱えるような本来の重さに戻り、一人ではとても持ち運べるものではなくなる。

 そんなハルバードを気を失っていたテュカの上に乗せていたことがあったが、その時はミコトのおかげで事なきを得ていた。

 

 

「あーあ。ご愁傷さま」

 

 

 予想通りの結果となった光景に尊は合掌し、サラやレレイたちも自業自得だとして特に心配をしなかった。

 ただし、何も知らない人間からすればただこけて盗品に潰されたようにしか見えない。

 

 

「やれやれ、なぁにやってんだか」

 

 

 助けて捜査の材料にしようと考えた駒門がハルバードに手をかける。

 それを見て伊丹が声を上げようとするが、

 

グギッ!

 

 

「ふぎぃ!?」

 

 

 先に駒門の腰から破滅的な音が上がった。

 

 

 

 

 

 

 悶絶している駒門さんがストレッチャーに乗せられる。

 ロゥリィのハルバードを持とうとして予想外の重量に腰をやられてしまい、何とも痛ましい姿だ。

 

 

「ミコトさん、魔法で治療してはダメなんですか?」

 

「無理だ。ここじゃ目立ちすぎる」

 

 

 サラの気持ちもわからなくないが、こんな衆人観衆のど真ん中で使えば確実に面倒極まりないことになる。駒門さんには悪いが、素直に病院で治療してもらおう。

 

 

「とりあえず今晩は、市ヶ谷会館にぃ……」

 

 

 それだけ言い残し、駒門さんは救急車に乗せられると速やかに最寄りの救急病院へと搬送されていった。あと不謹慎だが、救急車のサイレンも久しぶりに聞いて少し気分が高揚した。

 

 

「それで、どうします? このまま市ヶ谷会館に直行ですか?」

 

「いや、その前にちょっと寄らせてもらいたいところがある」

 

「秋葉原なら行きませんよ」

 

「違うからな、クリ」

 

 

 栗林さんの言葉を否定しつつ、伊丹さんは最寄りのコンビニに移動し弁当やら飲み物やらを購入する。

 俺たちも同じように適当に購入して後をついていくと、やがて辿り着いたのは住宅街にある小さなアパートだった。

 

 

「あの、伊丹さん。ここに何が?」

 

「ん、ちょっとな」

 

 

 ポケットから鍵を取り出し、表札のかかっていない扉に差し込む。ガチャンと音を上げて鍵が開き、伊丹さんは躊躇いなく部屋に入る。

 入っていいものかと入口でとどまっていると、やがて薄暗い部屋から一人の女性が這って出てきて伊丹さんの持ち込んだ弁当に飛びついた。

 どうも面識のある様子だが、何者なのだろう。

 

 

「みんな、かまわず入ってくれ」

 

 

 気楽にそう告げる伊丹さんだが、正直女性が気になってそれどころではない。

 やがて富田さんが口を開き、単刀直入に尋ねる。

 

 

「あの…隊長。誰です、その人」

 

「あぁ、これは――俺の元嫁さんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………は?

 

 

「元……!?」

 

「嫁……さん!?」

 

『『『ええええええええええええええええええええっ!?』』』

 

 

 夜の住宅街に、驚愕の絶叫が響いた。




本編第65話、いかがでしたでしょうか?

次回はトラブルありの箱根山中夜戦までこぎつける予定です。
最近どこかの賞に出すためにオリジナル作品の構想も練っているので投稿ペースが不安定になっていますが、これからもよろしくお願いします。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話「とある大型掲示板のスレ」

64話と65話の参考人招致の様子を2ch風にしてみました。
けどどっちと比べてもこれの方が長いって……


85:ななしなな:2011/12/11(日) 14:42:54

 

 もうすぐ国会で参考人招致か

 いつもなら国会中継見るくらいならアニメ見るんだが、おまえらどうする?

 

 

86:ななしなな:2011/12/11(日) 14:43:33

 

 >>85

 特地の人間が来るんだっけ?

 銀座事件でオークとかいたって話だから妖精とかケモ耳美女期待しておk?

 

 

87:ななしなな:2011/12/11(日) 14:43:56

 

 事前に発表された内容じゃ現地の自衛官と特地の人間数人が来るらしいな

 

 

88:ななしなな:2011/12/11(日) 14:44:20

 

 ワラワラ動画で生放送するらしいからそっちで見るわ

 一応会場リンク貼っとく

 

 ttp://live.waravideo.jp/watch/lv?????????

 

 

89:ななしなな:2011/12/11(日) 14:44:47

 

 >>88 テレビないから助かる

 

 

90:ななしなな:2011/12/11(日) 14:46:02

 

 参考人来たぞ!

 

 

91:ななしなな:2011/12/11(日) 14:46:21

 

 マジか!?飯食ってる場合じゃねえ!(AA略

 

 

92:ななしなな:2011/12/11(日) 14:46:30

 

 二重橋の英雄 出現

 

 

93:ななしなな:2011/12/11(日) 14:47:00

 

 ぱっとみ連れてきたの女の子ばっかだな

 杖持ってる子可愛い

 

 

94:ななしなな:2011/12/11(日) 14:47:05

 

 スーツ着てる金髪の子さ、耳長いけどもしかしてエルフか?

 情報はよ

 

 

95:ななしなな:2011/12/11(日) 14:47:11

 

 なんかゴスロリきたw

 手に持ってるでかいのなんだよw

 

 

96:ななしなな:2011/12/11(日) 14:47:15

 

 ちょっとまて!最後の奴の顔についてるのなんだ!?

 

 

97:ななしなな:2011/12/11(日) 14:47:23

 

 ざわ…ざわ…

 

 

98:ななしなな:2011/12/11(日) 14:47:25

 

 大佐!全裸大佐じゃないですか!

 

 

99:ななしなな:2011/12/11(日) 14:47:45

 

 >>98

 馬鹿野郎!金髪じゃないし後ろの髪の毛もっさりしてないぞ!

 

 

100:ななしなな:2011/12/11(日) 14:47:56

 

 特地の人間で唯一の男みたいだけどあの仮面どうしたしwww

 特地で売ってるのか?wwww

 

 

101:ななしなな:2011/12/11(日) 14:48:10

 

 首から下だけ見たらスレイヤーズとかにでてきそうだけど仮面のせいでいろいろアンバランスすぎるw

 

 

102:ななしなな:2011/12/11(日) 14:49:10

 

 とりあえず、呼ばれたのこの5人みたいだな

 

 

103:ななしなな:2011/12/11(日) 14:49:45

 

 英雄

 魔法使い(?)

 エルフ(?)

 ゴスロリ

 大佐

 

 どう見ても最後おかしいw

 

 

104:ななしなな:2011/12/11(日) 14:50:26

 

 >>100

 言い値で買おう

 

 

105:ななしなな:2011/12/11(日) 14:51:08

 

 >>103

 文字で見ても大佐浮いてるな

 

 

106:ななしなな:2011/12/11(日) 14:53:41

 

 ネコミミ娘とか期待していたんだけどなぁ……

 

 

107:ななしなな:2011/12/11(日) 14:53:59

 

 この面子なら誰からの話に興味ある?

 ちな大佐

 

 

108:ななしなな:2011/12/11(日) 14:54:15

 

 >>107 大佐

 

 

109:ななしなな:2011/12/11(日) 14:54:18

 

 >>107

 大佐

 

 

110:ななしなな:2011/12/11(日) 14:54:24

 

 大佐

 

 

111:ななしなな:2011/12/11(日) 14:54:31

 

 >>107

 大佐

 

 

112:ななしなな:2011/12/11(日) 14:54:45

 

 圧倒的な人気ではないか、大佐殿!

 

 

113:ななしなな:2011/12/11(日) 14:56:04

 

 >>112

 そりゃ異世界の人間が見たことある仮面つけてきたら普通気になるだろw

 ちなみに女の子だったら俺はエルフかもしれない金髪ちゃんを推す

 

 

114:ななしなな:2011/12/11(日) 14:56:39

 

 >>113

 俺は杖持ってる子

 魔法見せてくれるかもしれん

 

 

115:ななしなな:2011/12/11(日) 14:57:40

 

 >>113

 ゴスロリだな 罵られてみたい

 

 

116:ななしなな:2011/12/11(日) 14:58:14

 

 ここまで全く話題に上がらない俺らの英雄www

 

 

117:ななしなな:2011/12/11(日) 14:58:51

 

 >>116

 こんな面子の中でどう推せとw

 

 

118:ななしなな:2011/12/11(日) 15:01:12

 

 質疑応答始まった

 

 

119:ななしなな:2011/12/11(日) 15:01:25

 

 でたw妖怪フリップ議員w

 

 

120:ななしなな:2011/12/11(日) 15:03:45

 

 60人も死んだのか

 

 

121:ななしなな:2011/12/11(日) 15:04:01

 

 これ前にニュースでやってたけどどんな状況だったんだろうな

 

 

122:ななしなな:2011/12/11(日) 15:05:22

 

 ドラゴンが強かったからってwww

 

 

123:ななしなな:2011/12/11(日) 15:05:33

 

 Q.なんでこんなに犠牲が出た?

 A.ドラゴン強かったから

 

 どんぐらい強いんだよ。銃じゃどうにもならんかったんか?

 

 

124:ななしなな:2011/12/11(日) 15:08:06

 

 7.62㎜が豆鉄砲ってヤバくないか?

 どんな銃なら通用するんだ

 

 

125:ななしなな:2011/12/11(日) 15:11:15

 

 タングステン並みの硬さを持ちながら7分の1しかない重量の鱗に広範囲の火炎放射を吐く空飛ぶ戦車とか勝てる気がしない

 てかそんな鱗に覆われてるならそりゃ7.62㎜とか豆鉄砲だわwww

 

 

126:ななしなな:2011/12/11(日) 15:13:38

 

 ええい!特地のドラゴンは化け物か!

 

 

127:ななしなな:2011/12/11(日) 15:15:56

 

 >>126

 化け物かも何も化け物なんですがそれは……

 

 

128:ななしなな:2011/12/11(日) 15:17:47

 

 しかしこんな奴に自衛隊よく勝ったな

 ところで大佐は何をされてたんで?

 

 

129:ななしなな:2011/12/11(日) 15:19:38

 

 幸原あっさり引いたな

 まあこんなこと言われちゃ反論できんわな

 

 

130:ななしなな:2011/12/11(日) 15:20:56

 

 魔法少女は日本語ペラペラだな

 向こうじゃそんなに日本語浸透してんのか?

 

 

131:ななしなな:2011/12/11(日) 15:21:30

 

 >>130

 自衛隊が教えたんじゃね?話通じないのは面倒だからな

 

 

132:ななしなな:2011/12/11(日) 15:25:00

 

 なんか哲学的な返答受けちゃってるwww

 

 

133:ななしなな:2011/12/11(日) 15:27:03

 

 「人は生まれながらにして自由ではない」

 確かにそうだけどそのおばちゃんが聞きたいのはそうじゃないwww

 

 

134:ななしなな:2011/12/11(日) 15:27:50

 

 こっちの意味が特地で通じるとは限らないからね

 仕方ないね

 

 

135:ななしなな:2011/12/11(日) 15:34:42

 

 難民キャンプで不自由はないかっていうけど、普通に考えたら元の家よりキャンプの方が住みやすいんじゃないのか?

 

 

136:ななしなな:2011/12/11(日) 15:36:35

 

 >>135

 まあそこは捉え方の問題だな

 俺たちからしたらそうかもしれないけど、特地の人からしたら元の家の方がよかったってこともあるかもしれないし

 けどこうしてみる限りじゃキャンプの方がいいみたいだな

 

 

137:ななしなな:2011/12/11(日) 15:40:35

 

 エルフ(?)娘キタ!

 

 

138:ななしなな:2011/12/11(日) 15:40:44

 

 この中で2番目に気になるの来たw

 

 

139:ななしなな:2011/12/11(日) 15:41:00

 

 おおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

 

140:ななしなな:2011/12/11(日) 15:41:03

 

 マジもんエルフきたああああああああああ!!!!

 

 

141:ななしなな:2011/12/11(日) 15:41:06

 

 この耳、動くぞ……!

 

 

142:ななしなな:2011/12/11(日) 15:41:10

 

 リアルエルフだ!すげえ!

 

 

143:ななしなな:2011/12/11(日) 15:41:15

 

 エルフキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!

 

 

144:ななしなな:2011/12/11(日) 15:41:22

 

 生のエルフを見れただけで我が人生に一片の悔いなし!

 

 

145:ななしなな:2011/12/11(日) 15:41:23

 

 なん、だと……!?

 

 

146:ななしなな:2011/12/11(日) 15:41:30

 

 まて議員どもwwww

 

 

147:ななしなな:2011/12/11(日) 15:41:32

 

 議員自重しろwwwww

 

 

148:ななしなな:2011/12/11(日) 15:41:35

 

 パシャッ    パシャッ

    パシャッ

       ∧_∧ パシャッ

 パシャッ (   )】Σ

 .     /  /┘   パシャッ

     ノ ̄ゝ

 

 

149:ななしなな:2011/12/11(日) 15:41:48

 

 エルフだから仕方ないのは分かるがなwwwww

 とりあえずキャプで保存した

 

 

150:ななしなな:2011/12/11(日) 15:41:59

 

 >>149

 くれ

 

 

151:ななしなな:2011/12/11(日) 15:42:02

 

 >>149

 くれ

 

 

 

 くれ

 

 

152:ななしなな:2011/12/11(日) 15:43:02

 

 ようやく収まったw

 初めて大佐を見た時並のインパクトだったなw

 

 

153:ななしなな:2011/12/11(日) 15:44:10

 

 ところでエルフってことは精霊がどうとかってマジであるのかな?

 

 

154:ななしなな:2011/12/11(日) 15:45:03

 

 ドラゴンがいるんだからありえるんじゃね?

 

 

155:ななしなな:2011/12/11(日) 15:46:55

 

 気を失ってたのか

 

 

156:ななしなな:2011/12/11(日) 15:48:15

 

 じゃあ仕方ないな

 

 

157:ななしなな:2011/12/11(日) 15:52:01

 

 ゴスロリちゃん来たけど、なんか飢えた狼さんに声似てるな

 

 

158:ななしなな:2011/12/11(日) 15:53:20

 

 しゃべり方が何かねっとりしてて……すごく、エロいです……

 

 

159:ななしなな:2011/12/11(日) 15:53:30

 

 おっきした

 

 

160:ななしなな:2011/12/11(日) 15:53:50

 

 ↑お巡りさん、こいつです

 

 

161:ななしなな:2011/12/11(日) 15:54:09

 

 憲兵さん、>>159です

 

 

162:ななしなな:2011/12/11(日) 15:54:58

 

 >>159のような奴からゴスロリちゃんを守れ!

 さあ、あんな奴よりおじさんのを見ておくれ(カチャカチャ

 

 

163:ななしなな:2011/12/11(日) 15:55:40

 

 ↑お巡りさんこいつもです

 

 

164:ななしなな:2011/12/11(日) 15:58:14

 

 ゴスロリはなんか宗教っぽい話をしてるな

 食べて祈るとかこっちでいうカトリック(?)みたいだし

 

 

165:ななしなな:2011/12/11(日) 16:00:05

 

 おいおい、大切な人を亡くしたって決めつけてるけど、幸原はゴスロリ服が喪服にでも見えんのかね?

 

 

166:ななしなな:2011/12/11(日) 16:01:16

 

 黒服にベールだからって安直に決めつけてそうww

 

 

167:ななしなな:2011/12/11(日) 16:04:39

 

 なんかだんだん質問する声に熱が入ってきてるな

 ただし、自衛隊の汚点を探そうと必死なのがまるわかりである

 

 

168:ななしなな:2011/12/11(日) 16:05:11

 

 まあどんな戦い方をしていたのかっていうのは気になるけど

 

 

169:ななしなな:2011/12/11(日) 16:07:08

 

 ハウったw

 

 

170:ななしなな:2011/12/11(日) 16:08:01

 

 今バカって言ったぞw

 

 

171:ななしなな:2011/12/11(日) 16:09:22

 

 おばちゃんをお嬢ちゃん呼ばわりする幼女

 

 

172:ななしなな:2011/12/11(日) 16:09:22

 

 やばい、ベール取ったらすげえ可愛い

 

 

173:ななしなな:2011/12/11(日) 16:10:51

 

 改めてみると女の子みんなレベル高いな

 

 

174:ななしなな:2011/12/11(日) 16:12:42

 

 「雨露凌げる場所で駄弁ってるだけの連中を一体誰が守ってくれるの?」

 ぐう正論

 

 

175:ななしなな:2011/12/11(日) 16:15:07

 

 幸原とかマスゴミ含めて60人も死んだって騒いでるけど、この子の言う通りドラゴン相手に全体の9割を助けてるってこと考えたら普通に凄いよな

 

 

176:ななしなな:2011/12/11(日) 16:18:35

 

 でたwあからさまな論点ずらしw

 

 

177:ななしなな:2011/12/11(日) 16:19:21

 

 大佐が爆笑しとるw

 

 

178:ななしなな:2011/12/11(日) 16:19:52

 

 思っていた声と違うじゃないか(憤慨

 

 

179:ななしなな:2011/12/11(日) 16:20:11

 

 さすがに声まで一緒ってわけにはいかなかったか

 

 

180:ななしなな:2011/12/11(日) 16:22:49

 

 え

 

 

181:ななしなな:2011/12/11(日) 16:22:51

 

 ファッ!?

 

 

182:ななしなな:2011/12/11(日) 16:22:58

 

 961歳とかBBAじゃねえか!

 

 

183:ななしなな:2011/12/11(日) 16:23:05

 

 ババア!ロリババア!

 

 

184:ななしなな:2011/12/11(日) 16:23:13

 

 つまり合法……

 (;゚д゚)ゴクリ…

 

 

185:ななしなな:2011/12/11(日) 16:23:28

 

 そりゃ幸原はお嬢ちゃんだわwwwww

 

 

186:ななしなな:2011/12/11(日) 16:23:36

 

 おう、年上だぞ

 敬えよ

 

 

187:ななしなな:2011/12/11(日) 16:23:40

 

 エルフも165歳かよwwwwwww

 平均年齢高スギィ!

 

 

188:ななしなな:2011/12/11(日) 16:23:51

 

 あれ、じゃあ残りの二人もまさか……

 

 

189:ななしなな:2011/12/11(日) 16:24:02

 

 こっちはまだまともだったか

 

 

190:ななしなな:2011/12/11(日) 16:24:28

 

 議員たちなんかほっとしてるw

 

 

191:ななしなな:2011/12/11(日) 16:24:34

 

 ε-(´∀`*)ホッ

 

 

192:ななしなな:2011/12/11(日) 16:28:35

 

 妖精種のエルフってことはハイエルフ?

 

 

193:ななしなな:2011/12/11(日) 16:30:16

 

 ゴスロリマジもんの神様だった

 

 

194:ななしなな:2011/12/11(日) 16:31:20

 

 神降臨

 

 

195:ななしなな:2011/12/11(日) 16:33:55

 

 Q.神はいると思う?

 A.国会中継で見た。

 

 

196:ななしなな:2011/12/11(日) 16:35:30

 

 魔法使いエルフときて神様かよ

 予想以上だな。特地

 

 

197:ななしなな:2011/12/11(日) 16:36:41

 

 きた!

 ついに大佐殿来た!

 

 

198:ななしなな:2011/12/11(日) 16:37:01

 

 大佐!大佐ぁああああああああ!

 

 

199:ななしなな:2011/12/11(日) 16:37:21

 

 流行りの仮面は嫌いですか?

 

 

200:ななしなな:2011/12/11(日) 16:38:00

 

 >>199

 それ大佐違い

 

 

201:ななしなな:2011/12/11(日) 16:38:59

 

 バックアタックされたんか

 場所や位置からしても犠牲は不可避ってことだったんだな

 

 

202:ななしなな:2011/12/11(日) 16:39:10

 

 そんな状況でどうやって被害を60人に留めたし

 わりとガチで気になる

 

 

203:ななしなな:2011/12/11(日) 16:40:03

 

 真っ向から自分の武器で戦ったって、あれか?通常の3倍速でかく乱したとか?

 

 

204:ななしなな:2011/12/11(日) 16:40:48

 

 大佐は魔法使いだったのか!

 

 

205:ななしなな:2011/12/11(日) 16:41:29

 

 つまり魔法で3倍速になって戦ったと

 

 

206:ななしなな:2011/12/11(日) 16:41:57

 

 >>205

 3倍速から離れろw

 

 

207:ななしなな:2011/12/11(日) 16:44:13

 

 やべえ、魔法やべえ

 

 

208:ななしなな:2011/12/11(日) 16:44:18

 

 すごいぞ!魔法は本当にあるんだ!

 

 

209:ななしなな:2011/12/11(日) 16:44:25

 

 なんだあれ!?気か!?チャクラか!?

 

 

210:ななしなな:2011/12/11(日) 16:44:36

 

 >>209魔法だっつってんだろ!

 

 

211:ななしなな:2011/12/11(日) 16:44:59

 

 つまりこの魔法を応用すればかめはめ波だって撃てると?

 

 

212:ななしなな:2011/12/11(日) 16:45:26

 

 もしかしたら管理局の白い魔王様みたいに光の球で圧殺したのかもな

 

 

213:ななしなな:2011/12/11(日) 16:45:48

 

 >>212

 大佐が使うんだからそこはファンネルだろ、常考

 

 

214:ななしなな:2011/12/11(日) 16:46:00

 

 >>213

 馬鹿おめぇ、この大佐ならシナンジュかネオングだろ

 

 

215:ななしなな:2011/12/11(日) 16:48:53

 

 ドラゴン一匹で国が滅ぶ、だと……

 

 

216:ななしなな:2011/12/11(日) 16:50:34

 

 国を滅ぼせる力を持ったドラゴン相手に避難民が600もいる中たった十何人で戦って最終的な被害が死者60人

 

 どっちが化け物だ

 

 

217:ななしなな:2011/12/11(日) 16:52:41

 

 向こうじゃドラゴン=自然災害と一緒なのか

 つまり幸原は地震や台風ででた死者60名は自衛隊にあるんじゃないかって言ってたことになるな

 

 

218:ななしなな:2011/12/11(日) 16:53:36

 

 大佐がどれだけ貢献したか知らないけど、こうしてみたら自衛隊凄いな

 

 

219:ななしなな:2011/12/11(日) 16:55:29

 

 あ、質疑応答終わった

 

 

220:ななしなな:2011/12/11(日) 16:55:48

 

 こんなに長い時間国会中継見たの初めてだわ

 まあ見てよかったとは思うが

 

 

221:ななしなな:2011/12/11(日) 16:56:05

 

 魔法少女とかエルフとか神様とか大佐とか、濃い面子で面白かった

 

 

222:ななしなな:2011/12/11(日) 16:56:23

 

 とりあえずドラゴンがヤバくて、そんなドラゴンと十人ちょっとで戦い抜いた自衛隊もやばいってことは分かった

 

 

223:ななしなな:2011/12/11(日) 16:58:03

 

 改宗してロリ神様に仕えるわ

 

 

224:ななしなな:2011/12/11(日) 16:58:21

 

 ( ゚∀゚)o彡゜ロゥリィ!ロゥリィ!

 ( ゚∀゚)o彡゜合法ロゥリィ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第66話「デート」

どうもこんにちわ、今更ながらRAVEとFAIRY TAILのコラボOVAがあったことを知った作者です。

さて、今回はアニメ第9話の観光シーンに該当します。
タイトルから想像できるかと思いますが、できるだけイチャコラさせてみました。
しかしその代償というわけではありませんが、前回予告した箱根に辿り着いてすらいません。
次回にはそこまで進ませるつもりなので、ご容赦を。

それでは本編第66話、どうぞご覧ください。


 これほどまでに衝撃を受けたのはいつ以来だろうか。まさか、まさか伊丹さんに――

 

 

「元とはいえ嫁さんがいたとは……」

 

「なんて物好きな……! けどこれは、なんか納得できてしまう組み合わせね……」

 

 

 よれよれのジャージに半纏、何日か風呂にも入っていないのか少しぼさっとした髪と大きめの眼鏡とパッと見ただけでオタクな感じが漂ってくる。

 栗林さんの発言に「誰が物好きよ!」と反論しているが、確かに今のは軽率な発言だったな。経緯はどうあれ、二人が夫婦になったのはそれなりの理由があったのだろうし。

 驚くのも結構だが寒空の下、いつまでもいるわけにもいかないのでお邪魔させてもらうことにする。

 これだけの人数が入るのか少し不安だったが、座るスペースくらいはどうにかあった。しかし部屋のあちこちに置かれた同人誌や本棚の上にある人形が彼女――梨紗さんが伊丹さんと同類であるというのがよく理解できた。

 

 ……ただ、18禁BL本(こんなの)が無造作に置かれているのは非常に気まずい。

 

 ピニャ殿下たちは興味津々に読んでいるが、サラの眼には止まらないようにしなければ。

 スペースを作るフリをしながらその手の本を押し入れに封印し、うっかり開けられないように門番の如く座り込む。

 

 

「みんな、とりあえず飯にしよう。好きなものを選んでくれ」

 

 

 意識も先ほど購入してきた弁当類に向けさせ、適当に配る。

 みんなが食べたいものを手に取っていく中、俺も手近なおにぎりを手に取って包装を剥き頬張る。うむ、やはりどこの世界でもツナマヨは最高だな。

 久しぶりの味に頬が緩むのを感じながら二口目をかぶり付いたところで、富田さんが携帯電話を手に難しい顔をしているのに気づく。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「ん? ああ、見てください」

 

 

 見せつけられた画面に目をやり、俺は思わず声を漏らす。

 表示されているのは速報のニュースサイトで、一面には『市ヶ谷会館で出火』と書かれていた。

 本来なら今日はそこに宿泊する予定だったので、これもどこかの連中がやらかした可能性が非常に高い。

 そう考えると、伊丹さんの危機回避能力は神がかっていると言えるだろう。地下鉄然り、今回のこと然り。

 

 

「なんと書いてある?」

 

 

 レレイが同じように携帯電話の画面を見るが、日本語を話せても読むことはまだできないみたいだ。

 

 

「泊まる予定だった場所で火事があったらしい。今日一日のことを考えれば、作為的な臭いがプンプンする」

 

「じゃあ、今日はここに泊まるの?」

 

「そうなるな。――伊丹さんも匿ってほしいって頼んでるし」

 

 

 少なくとも、今日はここで一泊するのは確定だろう。明日のことはその時に決めるだろうし、明後日には特地に戻るんだ。伊丹さんの性格から推測して、どこかで買い物に時間が割り振られそうだ。

 そのあとは寝床を割り振ることになったのだが、座るならともかくそこまで広くないアパートの一室では横になるとなれば大きな制限がかかる。

 シェルターが設置できればよかったんだが、こんな場所では展開できるはずもない。結局は俺とサラが廊下で自前の寝袋を使って寝ることになり、残りは狭いながらも居間で寝ることとなった。伊丹さんは申し訳なさそうにしていたが、この程度はなんてことない。

 時間も時間なのでみんなが次々と床に就く中、俺も寝ようとするがなかなか寝付けないでいた。

 居間の方から富田さんと梨紗さんの話声と、梨紗さんが同人誌を書いている音だけがやけに大きく聞こえる。

 

 

「……ミコトさん、起きてますか?」

 

 

 俺に寄り添って寝ているサラから小さく声が上がった。

 

 

「なんだ、眠れないのか?」

 

「ええ。少し父と会った時のことを思い出して……」

 

 

 その言葉を聞いて納得した。クロノ世界で緑の夢のイベントがあった時、どういうわけか俺たちはサラの父――アウルさんが生存している時代に向かうことができた。あの時も俺たちはこうして身を寄せ合いながら寝ていたが、サラはその時のことを思い出していたのだろう。

 今にして思えばあれはクロノ世界の星がルッカのために過去を変えられる瞬間を開いたように、サラとアウルさんを引き合わせるためにゲートを開いたいのではないだろうか。

 

 

「それにイタミさんとリサさんが元はご夫婦だったと聞いた時は驚きましたけど、どうして別れることになったのかも気になったんです。話を聞いている限りでは不仲となって別れたわけではなさそうなのに、何故そうなってしまったのか」

 

「それこそ人それぞれとしか言いようがないと思うが……どうしたんだ?」

 

「……こんなことを尋ねるのは酷いかもしれませんけど、ミコトさんはずっと一緒にいてくれますよね?」

 

 

 不安そうなサラの瞳が俺を捉える。アウルさんとの話と思い出したうえで今の梨紗さんたちの話を聞いて、もしかしたら自分もこうなるのではと勘繰ってしまったのだろう。

 寝たままの体制で腕を伸ばし、サラをぎゅっと抱きしめる。突然のことに少し驚いたようだが、安心させるように声をかける。

 

 

「大丈夫だ。俺はずっとサラと一緒にいる。引き裂かれるようなことになっても、絶対に迎えに行く。サラが俺のいない世界を受け入れられないって言ってくれたように、俺もサラがいない世界を受け入れられないからな」

 

「ミコトさん……」

 

「ありきたりな言葉かもしれないけど――愛してる、サラ」

 

「……私も愛してます、ミコトさん」

 

 

 サラの腕が俺の背中に回り、抱きしめられながらサラの温もりを感じる。

 最上の安心感と幸福感に包まれながら、俺たちは静かに眠りに落ちた。

 

 

 

 翌朝になって抱き合っている姿を発見され、他の人たちから温かい眼差しとともに囃し立てられることになったが。

 

 

 

 

 

 

「ぃよぉーし! 今日は楽しむぞ!」

 

「はぁ? 楽しむったって、こんな状況じゃそれどころじゃないんじゃないですか?」

 

 

 朝食を終えて伊丹さんが開口一番にそう宣言する。しかし栗林さんの言う通り、楽しむといってもどこかの敵に目をつけられているはずなのに、そんなことしてていいのだろうか。

 

 

「いいか! 俺のモットーは食う寝る遊ぶ、その間にチョットの人生だ!」

 

「なんですか、その三連コンボは……」

 

「第一、向こうさんが俺たちの位置を知ってるなら、どこだって危険だ。それならいっそ、人目のつく場所にいた方が安全だ」

 

 

 富田さんのツッコミをスルーしたが、言い分は理解した。

 こそこそと移動していたら万が一捕まった時非常にマズいが、捕まえるところを見られるのは相手からしても避けたいはずだ。

 そう考えると人目のつく場所で堂々と振る舞っていれば、昨日の参考人招致の件もあって嫌でも注目されるだろう。そしてその注目されることこそが、自分たちの身を守る術となるわけだ。

 

 

「理由は分かりました。具体的には、どうしますか?」

 

「はいはーい! お買い物行きたい! 渋谷とか原宿とか!」

 

 

 真っ先に名乗りを上げたのは少し前に脱稿したと喜んでいた梨紗さんだ。手にした義援金と書かれた封筒を掲げ嬉しそうに提案するが、その金は遊ぶための物じゃないはずでは……。

 それでもせっかくの東京だからいろいろ買い物をしたいという声がほとんどを占め、午前中は分かれて行動し昼に落ち合ってから温泉に移動ということに決定した。

 梨紗さんを筆頭にレレイ、テュカ、ロゥリィが買い物に向かい栗林さんがそれに同行。ピニャ殿下とボーゼスさんは図書館に行きたいということで富田さんが同行するらしいが、昨日の様子では二人が求める本は図書館にはないだろう。

 で、俺とサラは伊丹さんと一緒に行動かと思いきや二人での自由行動が認められてしまった。

 こういう場合、自衛官の誰かと行動した方がいいのではと思ったのだが俺は仮面がなければ特地から来た参考人とは思われないし、サラは交渉のために同行したピニャ殿下と同じく公に姿を見せていないので珍しい人で済まされる可能性が高いとのことだ。

 人目につくところを中心に動くことだけ意識して楽しんでくるといいと言われ、せっかくなのでお言葉に甘えることにした。たぶんこの好意の裏には今朝のことが絡んでいるのかもしれないが、存分に活用させてもらおう。

 行動方針が決まると時間は待ってくれないと梨紗さんが逸らせ、それぞれのグループに分かれ行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

「――まずは、服をどうにかするか」

 

 

 顔が割れていないとはいっても、二人の服装は少々目立つものだ。その気になれば民族衣装で通せるかもしれないのだが、せっかくだから日本の服をと思いついた尊はサラを連れてそこそこ大きなアパレル洋品店へと足を踏み入れた。

 様々な組み合わせの服があちこちに展示されているのが珍しいのか、サラは驚いた様子で店内を見渡す。

 

 

「こんなにたくさんあるんですね」

 

「まあ、フロニャルドやクロノ世界とは違うからな。 ところでサラ。先に言っておきたいんだが、生憎と俺は女性の服選びなんて生まれてこの方やったことがない。だから店の人に任せてしまうけど、構わないか?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

 

 フロニャルドではジェノワーズの三人娘やガレットのメイドたちが。クロノ世界ではパレポリに寄ったとき店の人に任せて選んでもらっていた。本来なら尊は自分が選んでやりたいと思っていたのだが、女性の服に関するセンスが正しいのかわからないのでその道のプロに頼むことにした。

 ちょうどこの頃、別の場所では梨紗の手によりレレイたちが大変身を遂げていたのだが、サラの服も彼女に任せればよかったのではと尊が気付いたのは合流した後になってからだった。

 

 

「すいません、彼女に似合う服をいくつか揃えてもらいたいんですけど、お願いできますか?」

 

「あ、ハイ。お任せください」

 

 

 店の人にサラを任せ、尊はメンズコーナーに移動して自分用の服を適当に見繕う。

 資金に関しては十分あるので、普段なら悩むような額のジャケットも即決で購入していく。

 

 ――予想通りというか、あっさり終わってしまったな。

 

 男の服選びなんてこんなものかと独り言ちながら試着室を借りて購入したばかりの物に着替え、トイレに行くフリをして伊丹から預かったコート以外のすべてを亜空間倉庫に収納して店に戻る。

 店内を見渡してもサラの姿は見当たらず、試着室の前に女性店員数名が服を手に集まっているのを見てあそこにいるのかもしれないと思いながら適当に店内をぶらつく。

 するとアクセサリーワゴンが目が留まり、時間つぶしも兼ねてざっと眺める。

 シルバーアクセサリーを筆頭にヘアピンやブローチといったものが並べられ、なかなかの品揃えを誇っていた。

 

 

「……へぇ、宝石のペンダントなんてのもあるのか」

 

 

 価格が安いので本物ではない模倣宝石なのだろうと思いながら自分の誕生石に相当するものを手に取り、裏面に書かれた説明文を流し読みして尊はふと思いつくとワゴンを漁りだす。

 商品を手に取っては説明文に目を通し、いくつか候補を絞り出すと最終的に一つを選びレジで会計を済ませる。

 品物を受け取り後はサラを待つだけだと思っていたところへ声がかかった。

 

 

「ミコトさん」

 

「おっ、終わった…か……」

 

 

 顔を向けた瞬間、尊は思わず声を失った。

 結い上げられていた髪はすべて下ろされており、寒色で合わされたスカートとセーター、雪のようなストールが彼女の持つ上品さをこの上なく引き出していた。

 女性のファッションに疎い尊でもこれ以上ないほどに似合っていて、すんなりと言葉が漏れる。

 

 

「……すごく似合ってる」

 

「ふふ、ありがとうございます。と言っても、お店の人のおかげなんですけど」

 

「とんでもございません! お客様は良いものをお持ちです! 私たちとしても合わせ甲斐がありました!」

 

 

 いい仕事をしたと言う気持ちが店員たちの非常に良い笑顔から伝わってくる。

 この服をそのまま着ていくという形で会計処理を済ませ、最初に着ていたものを他の服と一緒に袋に詰めてもらい店を後にすると人目のつかない場所で手荷物を亜空間倉庫に収納。あとは気の向くままに街を練り歩く。

 道行く人がすれ違う度にその姿を追い、サラはジールにいた時とは違った注目のされ方にこそばゆいものを感じた。

 

 

「なんだか、みなさんこっちを見てますね」

 

「そりゃ、サラが綺麗だからな。俺だって街中で見かけたら、間違いなく目で追う」

 

 

 こんなに注目される美人が自分の彼女だなんて、本当に自分にはもったいないくらいだと改めて尊は思う。

 周りからの視線を受けながら街に目を向けると、サラの視界に一組のカップルが腕を組んで歩いている姿が入った。

 僅かに思案し、サラは思い切って尊に提案する。

 

 

「ミコトさん。あの、腕を組んでも、いいですか?」

 

 

 彼女からそんな頼みが出るとは思わなかったのか、尊は一瞬目を丸くすると小さく笑って「もちろん」と答え腕を差し出す。

 先ほどのカップルの見よう見まねで腕を絡め、寄り添うように街を歩く。

 

 ――よく考えれば、付き合ってから初めてのデートだよな。ゆっくりできる…とは言い難いが、せっかくの機会だ。じっくり堪能させてもらおう。

 

 次はもっと気を楽にして行きたいと思いながら、二人は図らずも出来た一時を存分に楽しむのだった。

 

 

「あんな美人とデート、だと……」

 

「羨ましい、妬ましい、恨めしい……」

 

「イケメンは死ね、イケメンは死ね、イケメンは死ね……」

 

 

 ――その様子を見ていた通行人(主に独り身)から呪詛のような言葉が上がっていたが、それも冷たい風が冬の空へと巻き上げ消えていった。

 




第66話、いかがでしたでしょうか?

次回こそ箱根入りさせる予定です。
一部キャラ崩壊が存在しますので、予めご了承ください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。




この作品が終わったら今度こそMLOWに力を入れようと思っているのに、そんなときに限ってオリジナルやグラブルの作品構想がががががが


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第67話「混沌と波乱の箱根」

どうもこんにちわ、グラブルのデレマスイベントと相変わらず休みの取れない仕事に押しつぶされて執筆時間が取れなかった作者です。

さて、今回は箱根旅館での出来事をほぼ1話で終わらせてみました。
ロゥリィファンの皆様、申し訳ありません。聖下の無双シーンは執筆を試みたものの作者が挫折したため要約されました。
本当なら前半にサラとのデートシーンも追加しようか悩んだのですが、ダラダラ長引きそうでしたので機会があれば閑話として投稿します。

それでは前置きはこのあたりにして、本編第67話、どうぞご覧ください。


 服を調達した尊たちは雑貨屋や露店で特地にいる仲間へのお土産を買ったりゲームセンターで遊んだりとそれなりに充実した時間を過ごし、新宿駅で伊丹たちと合流すると当初の予定通り箱根へとやってきた。

 バスを降りて山道を歩くこと数分。山海楼閣と掲げられた旅館に到着すると、一行は男女に分かれて各々旅の疲れを癒していた。

 

 

「いやー、眺めのいい露天風呂は最高ですね」

 

「ええ。これだけでも、日本に帰ってきた甲斐があります」

 

 

 芯まで染み渡るような温泉の熱が体に溜まった旅の疲れを癒す。

 風呂に入る日本人の(さが)か、三人の口からおっさん臭い吐息が漏れる。そんな中、伊丹がふと思いついたように口を開く。

 

 

「俺たちだけだなぁ……」

 

 

 思い返してみれば、門を抜けてから男のみという状況はそうそうなかった。昼間の自由行動では伊丹は単独行動を。富田はピニャとボーゼスを図書館に案内し、尊はサラとデートとなった。人数の構成上それは仕方ないことなのだろうが、女子の誰かと行動を共にすることが多かった。しかし、僅かな間をおいて尊と富田は先ほどの発言に別の意味を感じ取った。そう、具体的にはベンチに座ったツナギ姿の伊丹が前のホックを外しつつ――

 

 

 

 ――やらないか。

 

 

 

「僕は女の人が好きなんでっ!」

 

「俺にはサラがっ!」

 

「へ? ……ちょま、勘違いすんじゃねぇ!」

 

 

 くそみそ的展開が脳裏をよぎった二人が伊丹から逃れようと一斉に風呂から上がる。伊丹は誤解を解こうと追いかけるが、それが仇になり若干の時間を要することとなった。

 一方、そんなアホらしいことが男湯で起こっているとは露知らず、女湯では梨紗の持ちかけた話題で盛り上がりを見せていた。

 

 

「ねぇねぇ、サラちゃん。月崎君とはどうやって知り合ったの?」

 

「あ、それあたしも知りたい。教えてよ」

 

 

 栗林を筆頭にテュカたちも興味津々といった様子で視線を送り、サラは懐かしそうに当時のことを語る。

 

 

「そうですね……。ミコトさんと初めて会ったのは、ほんの2ヶ月ほど前なんです。あの時、私は悩みを抱えていて、気分転換に散歩をしていたんです。その途中で傷だらけのミコトさんと出会って…それが馴れ初めですね」

 

「たった2ヶ月前なの? それであんな仲にまで発展するなんて……最近の若い子って進んでるわ」

 

「それでぇ、サラはどうしてミコトが好きになったのぉ?」

 

「実は私、ここに来るまで二度も命を助けてもらっているんです。それも、どちらも助けに来たミコトさんが命を落としかねない危険な状況で。初めはその恩を返すために、私自身を差し出すと伝えました。でもミコトさんはそれを良しとしないで、私に自分が望む幸せを求めてもらいたいと言ってきたんです。それから何度も私が求める未来を思い描いているうちにいつもミコトさんが中心にいることに気づいて、そこであの人が好きなのだと自覚しました」

 

 

 初めはラヴォスが崩壊させた古代ジールで。もう一度はフロニャルドに現れた魔物との戦いで。フロニャルドの時は戦が終わった後に尊が抱えていた秘密を打ち明けられ、そこで恩義を感じて自分を差し出すと言い出した。だが、今にして思えばあの時の自分は魔物がプチラヴォスに変貌したり、尊に明かされた秘密の衝撃が強くて考える余裕がなかったが故の発言だったのかもしれない。

 

 

「それで、どっちが告白したの? 月崎君? それとも今の流れ的にサラちゃん?」

 

「ふふ。それは私とミコトさんの秘密です」

 

 

 既に栗林は察しているだろうと思いつつも、サラはもったいぶるように答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「あー、このまま年末まで残りてーな……7のツーペア」

 

「そうもいかんでしょう……9のツーペア」

 

「年末までというあたり伊丹さんらしいですね……うーん、パス」

 

 

 豪華な食事を終えて再び男女で別れた俺たち男組は、売店で買ったトランプを手に大富豪に興じていた。ルールは8切り、階段縛り、革命、ジョーカー、スぺ3(スペードの3であればジョーカーを切れる)あり。ジョーカー、2、8上がりなしで一位にはビールが、二位にはジュース、最下位には水が用意されている。

 女性陣も混ぜようかという話もあったが、向こうが女子だけで話をすると言ったため男は完全に締め出される形となった。

 

 

「尊君はサラちゃんと離れて寂しくないの? ジャックのペア」

 

「大丈夫ですよ。寂しくないと言えば嘘になりますけど、別にずっと離れるわけじゃないですからね。 富田さん、どうします?」

 

「パスします」

 

「よし! ならここで10のスリーカードだ!」

 

「ぬぅ、パスします……」

 

「これは行くしかない、クイーンのスリーカード」

 

「んげ!?」「うお!?」

 

 

 伊丹さんが勝負に出たのを契機に俺も取っておいたカードを惜しみなく放出する。キングは既に出尽くしたし、エースも2枚出ているうえに一枚しかないジョーカーも切られた後だ。そして2に関しても――

 

 

「さらに2のペア。これ以上強いカードがないから自動的に切り。次に8のツーペアで切って、最後に4のスリーカードで上がりです」

 

「ああ、クソ。流れるように勝ちを持ってかれた」

 

「では、月崎さんは賞品を先にどうぞ」

 

「ゴチになります」

 

 

 一位上がりに送られる予定だったビールに手を伸ばし遠慮なくプルタブを引く。缶ビール特有のプシュっと小気味良い音が鳴り軽く泡が噴き出る。

 さて、晩飯には出なかったから本当に久しぶりのビールだ。いっただきまー――――

 

 

 

ドンドンドン!!

 

 

 

 口をつけようとした瞬間に部屋の襖が乱暴に叩かれ、俺たちは弾けるように立ち上がる。

 まさかどこかの工作員が連中が乗り込んできたのかと警戒していると、思いっきり襖が開け放たれる。その先にいたのは――

 

 

「男どもぉ! ちょっとこっちこいやぁ!」

 

「こいやぁ!」

 

「あんたらかよっ!」

 

 

 一升瓶片手に酒臭い息を吐きながら、大音量で怒鳴り散らす栗林さんとロゥリィの出現に思わずツッコミが出る。しかし二人ともそんなことはお構いなしなのか、俺たちの襟首を引っ掴むと女性とは思えないパワーでずるずると部屋から引きずり出す。

 そのまま強引に引きずられて女部屋に放り込まれると、そこは男にとって天国か地獄か、非常に判断に困る光景が広がっていた。

 

 

【はれ、イタミどのではらいかぁー】

 

「うぇーぃ、のんでるぅー?」

 

 

 俺たちを連行してきた二人と同じく誰もが酒に酔っていて、グラスを傾けているピニャ殿下にボーゼスさん、酒が回ったのか寝落ちしているテュカの三人はあられもない姿を晒していた。

 日本酒やウィスキーといった、明らかに部屋の冷蔵庫にはない酒やチーズに柿ピー、ビーフジャーキーなんてものまで開け散らかされている。これは…晩飯の後に売店から買い込んできたな。

 

 

「あー、みことしゃーん」

 

 

 間延びした声が俺を呼び顔を動かすと、先ほどの三人ほどではないが浴衣が着崩れし顔を上気させたサラがグラス片手にとろんとした目をしていた。しかも呂律が回ってないから完全に出来上がってしまっている。

 

 

「だ、大丈夫か。サラ」

 

「らいじょーぶれすよぉ。ふわふわするおみじゅがきもちいいれすからぁ」

 

「サラ、それ水じゃない。酒だ」

 

 

 ふわふわするという時点でそう断定し、彼女の手にある酒を回収する。どんな酒なのかちょびっと飲んでみると、少量にも拘らず強烈な刺激が口に広がり喉を焼くような感覚が来たかと思えば、まるで水を飲んだようにスッキリとした感覚に変わる。

 今まで飲んだことのない味にどの酒なの調べようと、床に一本だけ転がっていた空き瓶のラベルを確認する。ラベルには力強い達筆で『流刃若火』と書かれていた。

 

 

「? なんだ、この銘柄の酒をどこかで聞いたような……」

 

 

 

 ――それと、これは我々からの差し入れです。ダルキアン卿がお好きなアヤセのお酒もあります。

 

 ――おお! 『流刃若火』でござるな!

 

 

 

「……え!? あれなのか!?」

 

 

 フロニャルドでエクレールがダルキアン卿に渡していた酒と同じ名前だが……偶然だよな? 飲んだことないから同じ物だと判断できないが。

 しかもよく見ればアルコール度数がまさかの30度オーバー。瓶の大きさから2リットル近くあったはずのその酒が空になっているということは、ここにいる面子でこれを飲み干したということになる。しかもそれだけじゃ飽き足らず現在進行形で他の酒を飲んでいるとか、普通に考えてやばい。

 

 

「サラ、深酒は体に悪いからここまでだ。今日はもう寝よう」

 

「えぇー、まららいじょうぶれすよぉー」

 

「呂律が回っていない状態で言われても説得力ないし、酔っ払いはみんなそう言うんだ。いいからこっちに――」

 

「よっしゃあぁぁぁ!」

 

 

ごすぅ!!

 

 突然後ろから嬉しそうな叫びが上がったと思えば何かを殴ったような音が聞こえ、確認してみると迷彩柄のブラジャーで覆われた胸を惜しげもなくさらけ出した栗林さんが酒瓶片手に拳を振り上げていた。そしてその前で顎を腫らした伊丹さんが倒れており、その様子から栗林さんが何かの拍子で振り上げた拳が直撃したのだろうと察せられた。

 よく見ると何があったのか、富田さんは真っ白に燃え尽きたボクサーのように部屋の隅でうずくまっている。いや、サラに構っている間に本当に何があった。

 

 

「あ! そーだつぅきざきくぅん!」

 

「は、はい!?」

 

「異世界渡り歩いてるんならいい男紹介してくらはい! いまたいちょーが特戦群の人紹介してくれるっていったんらけど、ついでにお願いしまふ!」

 

「んな無茶な!? というかソレさっさと隠してください! 目のやり場に困ります!」

 

「らめれふ! みことしゃんはわらひのれふ!」

 

 

 今度はサラが栗林さんに俺を取られまいとしだれかかり、フーッ!っと猫のように威嚇する。ダメだこのカオス、早く何とかしないと。

 クロノ世界の時からお世話になっている万能薬を使えば酔いを醒まさせることも可能だろうが、こんなくだらないことでいつ補充できるかもわからない万能薬を使うなど、無駄遣いもいいところ――。

 

 

「みことしゃん!」

 

「今度はなん――むぐっ!?」

 

「んむ……ちゅ…………あむ……じゅる」

 

 

 振り向いた瞬間、サラの唇が俺の口を塞ぎ言葉を封じる。しかもそれだけで終わらず、なんと舌まで差し込んで口内を蹂躙し始めた。

 酔っぱらっているとはいえ、普段の彼女からは想像もつかない大胆な行動ともたらされる感覚に脳みそが蕩けそうになり、俺はされるがまま押し倒される。

 

 

「……ぷはっ。えへへ……だいしゅきれす、みことしゃん」

 

 

 離された唇が糸を引く。貪りつくして満足したのか、幸せそうな表情で俺に覆いかぶさりながらサラは静かに寝息を立て始めた。

 一方の俺はようやく何をされたのか明確に理解でき、同時に体中の血液が沸騰したかのような錯覚に陥る。

 

 

「こ……これは、ヤバい…………」

 

 

 世間体的にマズい状況にならないよう必死に理性を保たせるが、あと一回来られたら理性が崩壊していた自信がある。というか、伊丹さんたちがいなければ襲っていると断言できる。

 おまけに体に溜まった熱は逃げ場を求めて俺の精神を削り、確実に理性というベルリンの壁を崩しにかかっている。

 

 

「か、かくなる上は――ふん!」

 

 

ゴスゥッ!

 

 全ての理性を総動員させて近くの机の角に向かって躊躇いなく頭を叩き付ける!

 激痛とともに意識が遠退いていくのを感じ、俺は失ってはいけない何か大切なものを守り切ったのを感じながら思考を闇に沈めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ――ガガガ! ダンダン! カカカカカ! ピキ! パリン!

 

 妙な音が耳に届き、尊は意識を覚醒させる。

 いつの間に眠っていたのか思い出そうとするが、新たにガラスが割れるような音が聞こえ窓の外に目を向けたことでそんな思考も一気に消し飛んだ。

 窓の外では闇夜に溶けるような装備で武装した集団がサプレッサーのついた銃で撃ち合い、その合間をハルバードを手にしたロゥリィが笑いながら駆け抜け発砲している男に切りかかっていた。

 頭から真っ二つにされて絶命した男に目もくれず、ロゥリィはすぐ隣の男に向けてハルバードを薙ぎ頑丈そうな石庭ごと叩き潰す。

 いくつかの銃口がロゥリィに向けて発砲されるが、彼女はその直前に駆け出し射線から抜け出す。流れ弾がまた数発ガラスを抜け、部屋の壁に弾痕を作る。

 

 

「伏せてろ!」

 

「動いちゃダメ!」

 

 

 床に這っている伊丹が声を張り上げ、体を起こそうとしたレレイを栗林が抑える。ピニャとボーゼスを富田が守り、窓から死角になる冷蔵庫の陰に梨紗は伏せ、テュカは本日購入したコンパウンドボウでロゥリィを援護していた。

 

 ――なんだ、何が起きてる!?

 

 

「ちぃ!」

 

 

 尊は混乱しつつも自分の上に覆いかぶさっていたサラを守るように抱き寄せ、サテライトエッジをシールド形態で召喚し自分たちを覆う。何発かの流れ弾がシールドにあたるが、こちら側に被害が及ぶことはない。

 視界がシールドによって完全に閉ざされたが、向こうからは聞こえるだけで英語、ロシア語、中国語、そして少女の笑い声が飛び交い、銃弾とハルバードが交差していた。

 どれだけの時間が過ぎただろうか、いつの間にか銃声も男たちの声も止み、辺りに不気味な静寂が漂う。尊は警戒しつつシールドを収納し、栗林にサラを任せて起き上がった伊丹とともに外を伺う。

 二人の目に飛び込んで来たのは、多くの死体と血の海に佇み、月光に照らされ恍惚とした笑みを浮かべる死神(ロゥリィ)の姿だった。




本編第67話、いかがでしたでしょうか?

大富豪のルールは作者の地元で最もポピュラーなものを使いました。
あと酒の力でサラも暴走させてみました。酔っぱらっているから仕方ないよね。(ゲス顔
さて、早ければ次回には特地に戻り、一度閑話を挟んで新章という流れになるかと思います。
新章から様々な伏線の回収やオリジナル展開を投入していきますので、問うぞお楽しみに。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第68話「旅行の終幕」

どうもこんにちわ、最近iPodが壊れて新しい曲を入れられなくなってしまった作者です。

さて、今回はかなりダイジェスト風味が強い展開になっております。
なかなかネタが出なかったのと原作と比べ政治パートがないことで執筆に手間取ったのが割と大きな要因ですが、改めて自分の未熟さを痛感しました。

それはさておき、早速本編第68話、どうぞご覧ください。



 風光明美な旅館の庭が一夜にして凄惨な戦場へと変貌した。

 石庭は無残に破壊され、池は血に染まり死体と薬莢が散乱した光景は見る者の背筋に恐怖という寒気を走らせる。

 幸いにも流れ弾にかすりもしなかった尊や伊丹たちは、日本という国において異常といって差し支えない光景を目の当たりにし言葉を失う。しかしそれも束の間。いち早く我に返った伊丹がこれからどうすべきか指示を下す。

 

 

「ここにいたら間違いなく面倒なことになる! 後始末は公安に任せて、直ぐに荷物をまとめてここからずらかるぞ! 富田と栗林は使える武器を回収! 予備弾倉も忘れるなよ!」

 

「「了解!」」

 

 

 伊丹が指示を出しながら返り血まみれのロゥリィを連れて部屋の浴室に向かい、富田たちは物言わぬ屍となった兵士たちに手を合わせてから武器の回収を始めた。

 それを見て尊もはっとなり、今自分ができることを成すために動き出す。

 

 

「梨紗さん、サラの着替えを頼みます! 彼女、酒が入るとなかなか起きないんで! あと、変なことはしないでくださいよ!」

 

「こんな状況でしないから!」

 

 

 ――……こんな状況でなければやるのか?

 

 一抹の不安を抱くが、一番早く着替えさせられそうなのが彼女以外にいないのでそのまま任せ、他の四人に声をかける。

 

 

「レレイ、テュカ! 荷物を全部、一か所に集めてくれ! 俺がまとめて預かる!」

 

「預かるって、結構あるわよ。どうするの?」

 

「説明は後でする! 【ピニャ殿下とボーゼスさんも、手持ちの荷物があれば俺がお預かりします!】」

 

【しょ、承知した!】

 

 

 返事を受けるや否や、尊は元の部屋に戻って手早く服を着替えるとレレイたちの元に移動し、荷物がまとめられていることを確認する。

 買い物の袋や着替えなどの鞄に触れ、片っ端から亜空間倉庫に収納していく。目の前で荷物が消えたことに事情を知らない面々は驚愕し、尊は収納しながらざっくりと説明する。

 

 

「俺やサラは亜空間倉庫って道具入れを持っていて、大きすぎないものであればいくらでも収納することができる。門についたら改めて取り出すから、安心してくれ」

 

「それも魔法?」

 

「魔法というより、固有能力だな。クロノたちの世界の人間なら誰でも使えるぞ」

 

「けどミコトって、別の世界のニホンジンよね? だったらどうして使えるの?」

 

「それはまた今度教える――よし、これでひとまずOKだ」

 

 

 二人の疑問に対して尊は簡潔に答え、荷物の収納を終える。そこへロゥリィの血を流し終えた伊丹や銃を回収した栗林たち、そして動きやすい服に着替えたレレイたちが揃い、まだ着替えていない伊丹たちが手早く身支度を済ませ一行は旅館を後にする。直前に伊丹が狭間陸将より預かった観光の軍資金(ほぼ手付かず)の扱いに頭を悩ませたが、最終的に旅館へのお詫び金という形で残すこととなった。

 街灯で照らされた道路を進み、伊丹、富田、栗林が服の下に銃を隠しながら他の敵がいないか警戒しつつ尊たちを護衛する。

 そんな中、先頭を歩く伊丹がため息交じりに愚痴をこぼした。

 

 

「なんか、最近こんなことばっかだな」

 

「ですね。 それにしても、あの旅館には悪いことをしましたね」

 

「まだいいほうよ。あそこ、防衛省共済組合の旅館だから、あたしたち以外に客はいなかったし。それよりあの旅館をやめて、飛び入りで入った一般の旅館であの騒ぎがあったらと思うと……」

 

「うへぇ……考えたくないわね、それ」

 

 勘弁してと言いたげに梨紗が漏らし、尊も苦い顔で同意する。

 あらかじめ用意されたことで騒ぎの惨状をもみ消せる旅館だったからいいものの、予定調和もない普通の旅館で同じことが起これば一般市民に被害が及んだ可能性が非常に高かった。

 しかも尊が荷物を取りに男部屋に戻る際、一部の流れ弾が壁を貫通して廊下まで抜けているのを確認していた。もし乱戦の際、その弾が何も知らないで眠っている客の命を奪っていたらと思うと、一同の背に冷たいものが走った。

 

 

「……で、襲ってきたのはどこの連中ですか? 聞こえてきた言葉から、なんとなく察しはつきますけど」

 

「英語、ロシア語、中国語の時点で月崎君の思ってる通りだと思うわよ」

 

 

 酒の力で静かな寝息を立てるサラをおぶっている尊が問うと、栗林から彼の想像通りの答えが返ってきた。

 英語を使う国はいくらでもあるが、ロシア語、中国語の時点でまずふたつが確定。そこへ日本と強いつながりがあり、かつ確定している二つの勢力が利益を得ることを良しとしない勢力を考えれば、もうひとつも自然と浮かび上がる。

 

 ――どの世界でも、日本を取り巻く情勢は変わらないんだな。

 

 そこぐらいは自分の世界と違っててもいいのではと思ったが、特地という手つかずの地下資源(宝の山)が眠る世界と繋がっていることを考えれば、自分の世界よりひどい状況かもしれないと尊は嘆息した。

 しばらく歩くと富田が不審な車両を発見し、伊丹たちが運転手を引きずり出す。

 明らかに日本人ではない風貌と最新のPDW(パーソナルディフェンスウェポン。短機関銃とアサルトライフルの中間に位置する銃)を所持していたことから状況的にクロと判断し、レレイの睡眠魔法で無力化して足を手に入れる。しかも車内が一般の乗用車と比べ広く、11人という大所帯にも拘らず、すんなりと乗ることができた。

 

 

「直接銀座に行くのはやめよう。待ち伏せられたらキツい」

 

「ですが隊長、下手にこっちにいるより、門の向こうの方が安全じゃないですか?」

 

「戦闘地域の方が安全って、皮肉ね……」

 

 

 富田の言葉に複雑そうな表情を浮かべる栗林。しかし、門の向こうの方が安全ではということについては尊も同意見だった。

 日本にいることで工作員からちょっかいをかけられるのであれば、手の届くことのない向こう側に行けばそれから逃れることができる。しかもスケジュールでは今日にも特地に戻る予定だ。そう考えれば、ここで切り上げるという判断も間違いではない。

 

 

【――イタミ殿、一つ尋ねたいのだが】

 

 

 行動予定が特地への帰還で固まりつつある中、どこか緊張した面持ちでピニャが口を開く。

 

 

【そもそもなぜ妾たちは逃げ隠れしなくてはならぬのだ? 妾たちの周りで、いったい何が起こっているのだ】

 

 

 参考人招致という正規の手続きで日本に来た尊たちならともかく、講和交渉のため秘密裏にやってきた自分たちまでそうしなければならないということは、非公式にやってきたことがばれていることに他ならない。伊丹の立場上、言えないことがあるのは分かっているが、尋ねずにはいられなかった。

 特地語が分からない梨紗のためにレレイが通訳し、ピニャの言葉を改めて伝えると伊丹の表情が重苦しいものに変わる。

 

 

「……隊長、何か知ってるんですか?」

 

 

 何時にない真剣な表情を目の当たりにし、栗林の言葉にも緊張がこもる。

 

 

「実はな……」

 

 

 次の言葉を聞き逃すまいと、一同が固唾を飲んで続きを待つ。

 そして一拍置いたのち、伊丹ははっきりと告げる。

 

 

 

 

「――――俺にもよくわからんッ!!」

 

 

 

 

 

「なんでやねん!」

 

「キメ顔で言うことかぁ!」

 

「うおっ!? ま、まてクリ! 話せばわかる!」

 

 

 梨紗からツッコミが入り、栗林が切れ気味に銃口を伊丹に押し付ける。流石にこれは洒落にならない伊丹は両手を上げ必死に説得すると、栗林の後ろから助けの声が上がった。

 

 

【待たれよ、クリバヤシ殿。先にいくつか確認したいことがある。 イタミ殿、妾たちは売り渡されたのではないのか?】

 

【い、いえ、それはあり得ません。絶対に】

 

【だが一日二日の間に度重なる乗り物と予定の変更が続けて起き、極め付けには先程の旅亭での襲撃だ。妾はニホンと帝国との交渉の仲介、つまり講和のために来た。察するに、それを快く思わない勢力と進めたい勢力がありせめぎ合っているのではなかろうか?】

 

 

 ――……なるほど。確かに日本と帝国が講和を結べば、日本はこの世界のどの国より先んじて特地の資源を得ることができる。今回襲ってきた連中のことを考えると、日本の妨害をするには十分な材料だ。

 

 

 膝の上で眠るサラの頭をなでながら、尊はピニャの推測が的を射ていると実感する。

 特に半島を挟んだ先の国はその国民の数故に、資源は喉から手が出るほどに欲している。日本から特地のつながりを奪い、自分たちのものにしようとする確実性の高い理由がある以上、今回の件とは無関係だと断じることはできないだろう。

 

 ――特地に戻るまで安心できないな……。最悪、魔法を使ってかく乱することも視野に入れておくか。

 

 無駄になってくれればと願いながら尊もシートに体を預け、その時に備え英気を養うのだった。

 

 

 

 

 

 

 明け方のパーキングエリアで休憩を取ることになり、そこで伊丹は梨紗に頼んで一つの仕込みを行った。

 

 

「――よし、食いついた!」

 

「いけそうか?」

 

「うまくいけば、千人くらいの『お友達』が献花の様子を見るために詰めかけてくるわね」

 

「よし。一般人がいれば、それだけ連中も動きにくくなる。その調子でどんどん頼む」

 

「はいは~い」

 

 

 スマホの画面をいじる梨紗を最後尾の列で眺めつつ、尊は先ほど買ってきた缶コーヒーをすすりながら銀座についた時の状況を予想する。

 

 ――昨日の国会の様子からして、絶対に千人じゃすまないだろうな。下手をすると万単位で押しかけてくるかも。

 

 梨紗の言う『お友達』の行動力は並ではないだろうと思いながらサラに視線を向ける。相変わらず規則的な寝息を繰り返し、添えられた手を放すまいとぎゅっと握っていた。クロノ世界で腕にしがみついていた時と比べればなんともかわいいものだと思っていると、前の席から不意に声をかけられる。

 

 

【ミコト殿。少しいいだろうか】

 

「ん? 【何でしょう、殿下】」

 

 

 レレイたちの席を挟んだ先の列にいるピニャから声がかかり、特地語で応対する。

 

 

【ミコト殿はイタミ殿たちとは違う世界のニホンジンだと聞いた。そなたの世界でも、やはり帝国はニホンに攻め込んだのか?】

 

【いえ、俺のいた世界とこの世界は全くの別物です。技術レベルこそ俺のいた世界より数年遅れていますが、同じ年代に特地とは繋がっていませんし、どこかの世界と繋がったということもありません】

 

【そうか】

 

 

 どこかホッとした様子のピニャを見て、その世界の帝国は日本に攻め込んでなくてよかったと思っているのだろうと尊は推察する。

 イタリカでその力を見せつけられ、日本に来たことで相手にしている国の技術力と国力に度肝を抜かれたのだ。せめて他の世界の帝国は、そんな馬鹿な真似はしないでほしいとピニャは願った。

 

 

【俺からも一ついいですか? 殿下】

 

【むっ、妾の答えられることで良ければ構わぬが】

 

【ありがとうございます。 伝承でもなんでもいいのですが、昔に空から赤い星、もしくは大きな火の玉が降ってきたという話を聞いたことはありますか?】

 

【? いや、すまぬが聞いたことはない。それが何かあるのか?】

 

【知らなければ構いません。むしろ、そういったことがなかった事の方がいいので】

 

 

 話を無理やり打ち切って、尊は残ったコーヒーを一気に飲み干す。

 

 ――情報がないだけならそれでいい。けど、もしこの手の情報があるのなら……。

 

 

「……その時は、やっぱり調査をしてみる必要があるよな」

 

 

 もしかしたら一生帰れないことをやろうとしているかもしれないが、せめて気づいた分は対応したいと尊は密かに思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 夜明けとともにパーキングエリアを出発し、昼ちょっと過ぎぐらいに銀座につくように向かっていたのだが、あと少しのところで大量の人垣が道路を塞いで完全に立ち往生してしまった。

 元を辿ればパーキングエリアで梨紗さんの仕込みが発端なのだが、工作員の身動きを封じる策が自分たちの動きまで封じてしまうとはなんという皮肉か。

 

 

「まいったなぁ……大きいお友達ナメてた。まさかこんなに集まるなんて」

 

「ここまで動かないと、いっそ清々しいですね……」

 

 

 道にあふれる人、人、人。まるでニュースで見た海外のデモか暴動のワンシーンだ。

 

 

【て、帝国に攻め入る軍勢でしょうか……】

 

【これだけの群衆をリサ殿一人で招集したというのか?】

 

「ガレットに凱旋した時と同じ……いえ、それ以上ですね」

 

「閣下には失礼かもしれないけど、帝国同様国力が違い過ぎるからな。たぶんシンクも納得するぞ」

 

 

 日が昇ってようやく目が覚めたサラの言葉に同意しながら、道をふさいでいる群衆に目を向ける。明らかに県外からも押し寄せてきてるはずだ、下手をすれば国外からもあり得る。

 このままでは微動だにしないのは明白だが、これを解消するには、騒ぎの中心である俺たちが直接向かうしかない。

 

 

「歩いていくしかないな」

 

「それしかないのは分かりますけど、大丈夫ですかね?」

 

「大丈夫よぉ」

 

 

 伊丹さんに返した俺の言葉を、なぜかロゥリィが答える。そして献花の花束と神意の証たるハルバードを手に車を降り――おぉい! むき出しはダメだろ!

 こっちの心配も何のその、窮屈な車内から解放されたロゥリィは大きく伸びをすると近くでスマホをいじっている男性に話しかける。

 

 

「ねぇ、ギンザはどっちぃ?」

 

「へ? ――ふぉお!?」

 

 

 世間を騒がす有名人が自分に話しかけたことか、はたまた自分よりでかい武器を持った少女が話しかけたことに驚いたのかは不明だが、男性は手にしたスマホを落として後ずさりした。

 それが引き金となり群衆がロゥリィの姿を認めると、全員が同時に左右に割れて彼女に道を譲った。

 

 

「おぉー……モーゼみたいだ」

 

「感心してる場合じゃないと思うんですが、どうします。伊丹さん」

 

 

 こちらの問いに伊丹さんは難しい表情を浮かべると、やがてこれしかないと腹を括ったのか一度顔を叩くと部下の二人に命令する。

 

 

「富田二曹、栗林二曹。賓客に害をなそうとする者がいたら、構わず撃て」

 

「「了解」」

 

 

 方針は強行突破で固まったらしい。ならばと俺もプラチナベストとマントを取り出し、最後に公の場で活動するのに欠かせなくなったマスクを装着する。サラには……マントの予備を纏ってもらうか。

 倉庫に押し込んでいた予備のマントをサラに渡し、全ての準備を終えて伊丹さんたちと一緒に外に出る。乗ってきた車については梨紗さんに乗り捨てるよう言っていたが、ペーパードライバーにこのサイズの、しかも左ハンドルの車を任せるとか事故る未来しか見えない。まあ、うまくやってもらうしかないだろう。

 さて、俺たちも花束を手に門の慰霊碑に向かっているのだが、周りからの歓声がとにかくすごい。中には飛び出して写真を撮ろうとした人もいたが、ロゥリィがハルバードを突き立ててるとその音と力強さに気圧されたのか尻餅をつき、そのまま近くの警官に連れていかれた。さらに少し離れた場所では栗林さんによく似た女性(二人の口ぶりから姉妹のようだ)が栗林さんと親しげに話しており、俺たちにインタビューできないか交渉しているのが見える。

 そんなこともあった中、何事もなく献花台に到着すると俺たちは手にした花束を添えて祈りを捧げる。つい癖で手を合わしそうになったが、直ぐにピニャ殿下たちのポーズを真似ることで事なきを得た。

 

 

「――たくさんの犠牲者のために、鎮魂の鐘が必要ね。 誰かぁ、鐘を鳴らしてちょうだぁい」

 

「鐘?」

 

 

 たぶんベル的なもののことを言っているんだろうが、こんな場所にそんなもの――

 

キーンコーンカーンコーン……

 

 突然、学校のチャイムのようなものが鳴り響き、誰もが反射的に音の方へ眼をやる。

 絶妙のタイミングで建物に掲げられた時計が時報のチャイムを鳴らしていたが、それでいいのかロゥリィが満足げに頷く。

 

 

「うん、ありがとぉ」

 

 

 これで献花のスケジュールも終了し、最早ここに留まる理由もなくなった。

 封鎖されたゲートが開くと誰もが終わるのを感じたのか、誰からともなく群衆から大きな歓声が上がり、俺たちはその迫力と声援を受けながら門の方へと進む。

 

 

「……疲れたぁー」

 

 

 人目が無くなると同時に零れたテュカの言葉に誰もが同意し、壁にもたれかかりながら大きく息を吐いた。

 狙われる心配がなくなったこともあり、緊張の糸はプツリと切れて疲労が一気に襲い掛かる。

 サラもあまり注目を浴びなかったとはいえ、今回の旅は相当疲れたようだ。

 

 

「大変でしたね……」

 

「ああ……。けど、来てよかった」

 

 

 お世辞にもゆっくりできたとは言えないが、それだけは間違いなく言えることだった。

 

 

「それじゃ、ちゃっちゃと検査を済ませて帰りますか」

 

「ミコト、昨夜のことを改めて教えてほしい」

 

「あー、それはまた向こうに戻ってからな。今説明するとちょっと長い話になる」

 

 

 マスクを外しながら亜空間倉庫について尋ねに来たレレイへそう返し、収納していたお土産や買い物袋を取り出していく。

 最後のひとつを取り出したところで俺は一つの箱を取り、サラの元へ向かう。

 

 

「サラ、俺からのプレゼントだ。受け取ってくれ」

 

「私にですか?」

 

「ああ。開けてみてくれ」

 

 

 促され開封すると、サラは出てきたそれを手に感嘆の声を上げる。

 中身は昨日のデートの時に購入した宝石のペンダントで、銀の装飾の先端にドロップタイプのサファイアがついているものだ。

 

 

「安物だけど、初デートの記念ってことでな。出来れば、大切にしてくれ」

 

「…出来ればなんて、言わないでください。私、ずっと大切にしますね」

 

 

 ペンダントを割れ物を扱うように大切に抱きしめ笑顔を浮かべるサラ。それがたまらなく嬉しく、改めて彼女のことを守りたいと思えた。

 こうして波乱に満ちた参考人招致の旅は終了し、俺は異世界の故郷に別れを告げた。

 

 

 

 

 

 ――そして月日は流れ、ついにサテライトエッジにエネルギーが溜まった。

 

 

 

◇おまけ

 

 

 

 封鎖されたゲートが開くと誰もが終わるのを感じたのか、誰からともなく群衆から大きな歓声が上がった。

 

 

――テューカ! テューカ! テューカ!

 

――レ・レ・イ! レ・レ・イ! レ・レ・イ!

 

――ロゥリィ! ロゥリィ! ロゥリィ!

 

 

 アイドルのコールの如く腹の底から響く歓声に、俺たちは苦笑いを浮かべる。

 たった一日姿を見せただけでこの人気ぶりだ。もし本当にアイドルみたいにコンサートなんか開いたらどうなることやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ジーク、ジオン! ジーク、ジオン! ジーク、ジオン!

 

 

「……うん、予想はしていたけどな」

 

 

 俺に向けられたのはテュカたちのように名指しのコールではなく、ジオニストたちの熱い叫びだった。




本編第68話、いかがでしたでしょうか?

次回に閑話をはさみ、その次から新章となります。
閑話を一話にまとめようとしていますが、長くなりそうなのでもしかすると2話に分割するかもしれません。
また、新章は『DOGDAYS'』を予定しております。
ここからオリジナル展開の幅を広げていくつもりなので、最後までお付き合いいただければ幸いです。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話「参考人招致後の出来事」

どうもこんばんわ、艦これでついに武蔵をお迎えできた作者です。

さて、今回は新章が始まるまでの空白期にあったことを書いてみました。
気持ち的にはコミックの末尾にある4コマのノリで書いていますので、飛ばして読んでも構いません。

それでは、どうぞ。


◇「お土産」

 

 

「さて、お待ちかねのお土産タイムだ」

 

 

 目の前にいる面々、クロノたちに向けて尊は日本で買ってきたお土産の開帳を始める。

 それを待ちわびていたクロノやマールは瞳を爛々と輝かせ、今か今かと待ちわびていた。

 

 

「まず全員に向けたお土産だ。立ち寄った店で物産展をやっていたから、お菓子や名産の食べ物なんかを買い込んだ。好きに食べてくれ。 で、個別のお土産はマールにはサラが選んだアクセサリーセット。ルッカには俺からノートパソコンだ。レレイが買ったものと同じようなものだから、使い方は相談しあってみてくれ」

 

「ありがとうございます! サラさん、ミコトさん!」

 

「大切に使わせてもらいます!」

 

 

 二人が嬉しそうに品物を受け取るのを見送り、続いてエイラとカエル、魔王に向き直る。

 

 

「エイラには上等な肉を、カエルと魔王には酒とそれに合いそうなつまみを買ってきた」

 

「肉! 助かる!」

 

「お前の世界の酒か。ありがたく飲ませてもらおう」

 

「……悪くはないな」

 

 

 三者三様の、しかしおおよそ予想していた反応に満足して今度はロボと三人集へのお土産を取り出す。

 

 

「ロボには正直どういったものがいいか悩んだんだが、悩み抜いた結果、装甲を磨くためのワックスを選んだ。三人にはカエルたちと同じく、酒とつまみだ。それぞれに用意しているから、じっくり飲んでくれ」

 

「わざわざドウモ」

 

「ありがたく頂戴いたします」

 

「ガイナー、オルティー。今晩にもどうだ?」

 

「うむ、早速いただこう」

 

 

 それぞれが喜んでお土産を受け取り、尊は最後の一人に向き直る。

 

 

「待たせたな、クロノ」

 

「よかった、俺だけないのかって心配しましたよ」

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。クロノにピッタリのお土産を選んできましたから」

 

 

 サラの口から自分にピッタリのお土産と聞き、クロノの期待は否応にも高まった。

 そして尊が亜空間倉庫からそれを取り出し、クロノに差し出す。

 

 

「こ、これは……!」

 

「これが、サラが選んだお前のお土産だ」

 

 

 わなわなと声を震わせてクロノが受け取ったのは細長い茶色の――

 

 

 

 

 

 

 ――木刀だった。

 

 

「刀を使うクロノにピッタリだと思ったので。 大切にしてくださいね」

 

「……アリガトウゴザイマス」

 

 

 屈託のない笑顔から純粋に喜んでもらえると思い選ばれたのだろうと感じ、クロノは複雑な心境でそれを受け取った。

 

 その夜、難民キャンプの広場でどこか悲しげな表情で木刀を振るうツンツン頭の少年の姿が目撃されたと言う。

 

 

 

◇「混ぜるな危険」

 

 

「イタミ殿より面白いからと勧められたのだが、これはどう見ればよいのだ?」

 

 

 預かったDVDを手に頭を捻っているのは尊に忠誠を誓うクロノ世界の魔物、デナドロ三人集である。

 伊丹が異世界の人間たちにアニメや漫画を布教させようと行動を起こし、その波が彼らにも届いたのだ。

 しかしながらDVDだけを手渡されても彼らにはどうすればいいのかわからず、こうしてパッケージを眺めているだけにとどまっていた。

 

 

「――オヤ、どうシマシタカ?」

 

 

 そこへ通りがかったロボが声をかけると、三人はおお、と声を上げる。

 

 

「ロボ殿。実はイタミ殿よりこれを見てみるといいとお借りしたのだが、どのように見るのかわからない有様でして」

 

「光学ディスクデスカ。これでしタラ、組合事務所にあるプレイヤーで再生が可能デス。今は誰も使用シテイないハズなので、よろしければ再生方法を教えマスヨ?」

 

「かたじけない」

 

 

 ロボの協力と組合事務所で仕事をしていた人に許可をもらい、三人はさっそく視聴を始めた。

 

 

 …………。

 

 …………………。

 

 

 

――ヒケン...ツバメガエシ!

 

 

 テレビの中で着物の男があり得ない長さの刀を振るい、青い騎士に襲い掛かる。

 三方向から全く同時の斬撃を放つその姿に、三人集は心を震わせていた。

 

 

「なんと……これほどの剣技を扱う者が居ようとは……」

 

「是非とも体得したいものだな。しかし戯れで燕を落とそうとしたところから始まったというが、果たして我らにもできるかどうか……」

 

「弱気になってどうする。この者ですらその極地に至れたのだ。我らとて努力すれば、きっと届くはずだ」

 

「……そうだな。試してもいないのに諦めるなど、我ららしくもない」

 

「ならば目指そうぞ! 一文字かまいたちを体得できた我らだ、出来ぬはずはない!」

 

 

 その日から彼らは暇を見てはテレビの向こうで繰り広げられた剣技を思い出し、毎日毎日剣を振るう。

 アニメに影響されて始めたと聞いて自衛隊は笑って済ませたが、これが後に新たな伝説を打ち立てるきっかけになろうとは、この時点では誰も思わなかった。

 

 

 

◇「輝力で遊ぼう!」

 

 

 参考人招致から戻って間もないある日の昼下がり。

 食後の運動としてクロノやカエルと模擬戦をこなした尊はステータスを眺めながらふと思った。

 

 

「――ゴールドピアスを回してもらったってことは、輝力武装もちょっとは無茶できるってことだよな」

 

 

 以前からフロニャルド以外で輝力を発動した際に消費されるMPの量を気にしていたのだが、マールにゴールドピアスを使わせてほしいと頼んだところ、シルバーピアスと交換の条件で譲ってもらったのだ。

 これにより計算上は以前の倍は魔法と精神コマンドを使用でき、単純計算でベースジャバーの飛行距離も倍となった。

 そして最もMPの消費が激しかった輝力武装の展開も今までの半分で展開できるようになり、かなり巨大なものも作り出せるようになったわけだ。

 その事実を認識したところで、尊は思いついたように立ち上がると誰の邪魔も入らない広い場所に出る。

 

 

「荒野って土地のシチュエーションを考えたら……これなんか面白そうだ」

 

 

 頭の中で固めたイメージを輝力で展開させる。青白い光が巨大な形を形成し、全高18メートルを超えるそれを作り出す。

 重厚なボディーに黒と紫のカラーリングが施され、左胸の砲門がキラリと光る。頭部のモノアイは特地風に言うならサイクロプスを彷彿させ、見る者に多大な畏怖を与える。

 そして自衛隊の心には、とてつもない衝撃と子供心を刺激した。

 

 

 

 

 

 

「た、隊長! 伊丹隊長!」

 

 

 いつものように木陰でのんびり同人誌を鑑賞しているところへ部下の騒々しい声が聞こえ、伊丹は体を起こす。

 

 

「どうした、倉田。そんなに慌てて。炎龍でも出たか?」

 

 

 ささやかなひと時を邪魔されて少し投げやり気味に尋ねるが、返ってきたのはあまりにも予想外の物だった。

 

 

「ドムです! 難民キャンプの近くでドムが出ました!」

 

「……ドムって、ガンダムの? 黒い三連星の?」

 

「そうです! 踏み台にされたり3分で12機やられたりしたあれっス! 一機だけですけど、間違いないっス!」

 

 

 そんな馬鹿な、と思った伊丹だが、直後に基地が慌ただしくなり複数のヘリが飛び立つのが見えた。

 流石にこれはただ事じゃないと思い、事実確認のために走り出す。塀の上に出て双眼鏡を構えると、確かにいた。

 

 

「おおおお!! マジだ! なんだあれ!?」

 

「でしょお!」

 

 

 二人して騒いでいると、伊丹がそれを見つけた。

 ドムの肩に乗り、様子を見に来たヘリの隊員に説明をしている尊の姿を。

 

 

「……まさか」

 

 

 思い立つなり倉田を連れて車の元まで走り、現場に急行する。既にかなりの人が集まっており、その中心でドムはポージングの基本ともいえるS字立ちを維持していた。

 車から降りるなり伊丹は声を張り上げ、今回の騒ぎの張本人であろう人物に問いかける。

 

 

「みぃことくーん! このドムどぉーしたぁー!?」

 

 

 その声が聞こえたのか、ドムの肩にいた尊は飛び降りるとうまい具合に着地して伊丹の元にやってくる。

 

 

「すいません、騒がせてしまって」

 

「いや、それよりこのドム本当にどうしたの? 今朝にはなかったっしょ?」

 

「ベースジャバーと同じですよ。ある都合で輝力武装が今まで以上に使えるようになったので、そのテストに作ってみました」

 

「なるほど……でもなんでドム?」

 

「ガンダムかザクにしようか悩んだんですけど、周りの土地が主に荒野ってことを考えたらコイツが先に出てきまして」

 

 

 伊丹と倉田、そして周りで会話を聞いていた話の分かる自衛官たちも納得した。

 ドムの特徴は足に備わったホバーによる図体に似合わない機動性だ。その真価を見せつけたのは0083とUCのトリントン基地襲撃や、ガンダム本編でのジェットストリームアタックのシーンなどだ。特に広々とした荒野の土地をホバーで駆け抜ける姿は実にマッチしている。(※なお、作者はUCのホバーしながらマシンガンをぶっ放すドム・トローペンがお気に入り)

 

 

「ただ再現できたのは外装だけで、中身はスッカスカの張りぼてです。それと他の輝力武装の例にもれず、ちょっとした衝撃で消滅します」

 

「ガンダム立像と同じようなもんか」

 

「今は無理ですけど、魔力が回復したら鍔迫り合いを利用して1号機と2号機の戦いも再現できると思います」

 

「おーい! 写真撮らせてもらっていいか!?」

 

 

 別の方からそんな声が上がり、その場はしばらく自衛隊によるドムとの撮影会場となった。

 後日、その時の写真がネットに流れ様々な反応が世間を賑わすこととなるが、それはまた別の話。

 

 

 




空白期の閑話一発目、いかがでしたでしょうか?

次回は少しシリアスを含めた閑話を一話投稿しようと思います。
それが終わればいよいよ新章となります。
早めに投稿できるよう努力しますので、今しばらくお待ちください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話「ゲート起動の前日談」

どうもこんばんわ、少し前にMLOWをおよそ9か月ぶりに更新した作者です。

さて、今回も閑話となります。
正直この閑話を飛ばしていきなり新章に入ろうかとも思いましたが、新章の第1話を目的の場所までスムーズに運ばせるために予定通り投稿することにしました。
前回の予告と微妙に異なる内容となっていますが、ご容赦ください。

それでは、どうぞ。


◇「マンガ肉? いいえ、マ・ヌガ肉です」

 

 

 とある日の正午。一仕事を終えた尊とクロノはマールとエイラに誘われて昼食を取りにアルヌスの街へと繰り出していた。

 元は難民キャンプだったこの場所も自衛隊向けにPX(売店)を開いてからというもの、いつの間にかここに行けば緑の人を相手に一儲けできるという話が広がり商人たちがこぞって集まるようになった。そこからは瞬く間に人と物流の流れが盛んになり、僅か2ヶ月ほどでコダ村以上の規模を誇る街へと変貌した。

 

 

「けど、本当にサラさんを呼ばなくてよかったんですか?」

 

「サラは今、自衛隊の人たちに特地語を教えに基地の方へ行っているからな。呼ぼうにも呼べない」

 

 

 いつもならサラと一緒に食事をとる尊だが、この日は彼女が特地語の講師としてレレイ、カトーらとともに基地に赴いていたため一人での食事も考えていた。

 そこへクロノを誘いに来たマールたちから声がかかり、渡りに船とばかりに同伴することとなった。

 

 

「それで、どの店に向かってるんだ?」

 

「さっき自衛隊の人たちがものすごい勢いでお店に駆け込むのを見たから、そこにしようかなって思ってます」

 

「前、エイラもいった! 肉、うまい店!」

 

「お、エイラがそういうならまず当たりだな」

 

 

 4人でそんな会話をしているうちに目的の店に辿り着くと、確かに店内には自衛官たちと香ばしい肉の香りで溢れていた。しかし、そんな肉を食べる自衛官たちの表情はどこか悔しげである。

 

 

「……なんだ、様子が変だぞ?」

 

「とりあえず、注文しちゃお」

 

 

 適当に空いてる席に腰を落ち着け、備え付けられたメニューを広げる。日本のファミレスと同じように写真付きのメニューであり、日本語と特地語で料理の一覧が書かれていた。

 

 

「それで、エイラのおすすめはどれだ?」

 

「なんでもうまい。けど一番うまいの、これだ」

 

 

 

 指差されたメニューはマ・ヌガ肉と書かれており、写真をよく見ると一枚の長い肉を串代わりの骨に巻き付けて焼いたものだった。

 確かにおいしそうなメニューではあるが、これを見て尊はふとある可能性に思い至った。

 

 

「もしかして、自衛隊の人たちが悔しそうにしているのってこれが原因じゃないのか?」

 

「どういうことですか?」

 

「日本にはマンガ肉って呼ばれるフィクション――架空の作品でよく使われる骨付き肉があってな、こういう肉巻きみたいなのじゃなくて一本の骨を覆った巨大な一枚肉の塊が一般的なんだ」

 

「え? でもそれって、私たちの世界では普通にありますけど……」

 

「そっちの世界では、な。さっきも言ったけど、俺たち日本人からすればマンガ肉は架空の食べ物であり、一度は食べてみたいと思うロマン料理なんだ。それと同じ物があると思ってきたのに、実際に出てきたのはただの肉巻きだと知ったのだと考えれば、自衛官たちの沈みようも納得できる」

 

「なるほど」

 

 

 尊も同じ日本人として自衛官たちの気持ちには非常に共感できた。あの見るからにジューシーさを感じさせる肉をモンハンのこんがり肉みたいに貪ったり、なかなか切れないから食いちぎろうとぐぃぃっと噛みしめたりしたかったのだろう。

 フロニャルドで初めて体験した身としてはその感動を彼らにもぜひ教えてやりたいと思い、尊は次にフロニャルドへ行ったときは可能な限りあの時と同じ肉を買い占めておこうと心に決めるのだった。

 

 

 

◇「サテライトゲート起動前日」

 

 

 ラヴォスと戦い、特地に流れ着いて早2ヶ月半。

 尊の予想よりも早くサテライトエッジのエネルギーが100%に達し、それを確認すると尊は大切な話をすると告げて伊丹、レレイ、テュカ、ロゥリィの4人を集めた。

 

 

「それで、話って何かな。尊君」

 

 

 アルヌス協同生活組合の事務所で向かいの席に座っている尊へ伊丹が問う。

 

 

「以前、狭間将軍を交えて俺たちがこの世界に流れ着いた経緯を話したとき、どうやって元の世界に戻るのか話したのを覚えていますか?」

 

「確か地道に探していくとか言ってたな。もしかして、手段が見つかったの?」

 

「見つかったというより、条件が揃いました」

 

 

 そう言って尊はテーブルの上に手をかざし、そこへサテライトエッジを召喚する。サテライトエッジの出し入れ自体は何度も見せているので今更驚かれることはなかったが、伊丹はそれをここで出した理由が掴めなかった。

 

 

「実は伊丹さんにも話していませんでしたが、このサテライトエッジは月の光を当ててエネルギーを最大まで溜めると別の世界へ移動するためのゲートが生成出来るようになります。しかも一度訪れたことのある場所なら自分の意思一つで確実に移動できるので、クロノたちを連れて帰るのも問題なく可能な代物です」

 

「では、条件がそろったというのは」

 

「レレイの察する通り、エネルギーが最大まで溜まったのでやろうと思えば今すぐにでもあちら側に戻ることができる」

 

 

 今すぐにでもという言葉に流石の伊丹も驚く。彼はてっきりもっと面倒な手順を踏むと思っていたのだが、まるでコンビニに行くような感覚で行き来できるというのだ。しかも尊の話に間違いがなければ、彼の意思一つで漂流のリスクもなく目的地に辿り着けるという。

 

 

「じゃあ、尊君たちは直ぐにここを発つのか?」

 

「いえ、まずちゃんと向こうに戻れるかテストして、それからまたここに戻ってきます。完全に戻るのは、受け持っていた仕事の引継ぎを済ませてからですね」

 

 

 もともといなくなることを前提にした組織図であったが、いざその時が来るとなるといろいろ準備が必要になる。特に尊とロボは自衛隊との窓口にもなっていたので、その役職を別の人間に引き継ぐ必要があった。候補としてはレレイとカトー、テュカの3名が挙がっているが、実際やってみてもらわないことには判断できない。

 一度戻ってくるという話を聞いて伊丹はどこか安心した風に息を吐き、わかったと頷く。

 

 

「それじゃあ、完全に戻るときになったらまた教えてくれ。そのタイミングで、陸将にも話にいこう。それで、テストは尊君だけでやるの?」

 

「出来れば全員で行きたいところですね。正直、このゲート精製能力を俺自身もしっかり把握していないものでして。全員まとめて移動できるかも、ここで確認しておきたいです」

 

「うーん……向こうからこっちに戻ってくるまで、どれぐらいかかりそう?」

 

「あっちではフルチャージに一週間ほどかかりましたから、たぶん同じくらいかかるかと」

 

「意外と短いな……。まあ、試してみればいいんじゃないかな。陸将たちには元の世界に戻るための手掛かりをつかんだから、調査のため街を離れるとでも言っておくよ」

 

 

 伊丹の提案に尊たちはそれでいいと頷く。伊丹の言い分もあながち間違いではないし、一週間いなくなっただけで問題が起こる程アルヌスの運用は穴だらけではない。

 何より自衛隊も街を利用しつつ協力してくれているし、元コダ村難民の人たちもレレイたちほどではいがそれなりに仕事をこなせるのだ。そんな彼らにこの一週間を、いつか来る尊たちの永久離脱に備えての予行練習として任せてみるのも一つの手段である。

 こうして話がまとまったかと思うと、突然レレイが挙手をした。

 

 

「ミコト。私もつれて行ってもらえないだろうか? イタミのニホン同様、あなたたちがやってきたという世界にも、私はものすごく興味がある」

 

「あら、なら私もいいかしらぁ? サラたちのいた世界も面白そうだし」

 

「私も行きたい。マールが言ってたけど、お祭りやってるんでしょ?」

 

「……と言っていますが、どうしましょう。伊丹さん」

 

 

 組合の中枢メンバーとも言える三人がこぞって希望したのを見て、彼女たちの面倒を見ていることになっている伊丹に問う。

 少し考え込んだ伊丹だが、すぐに顔を上げて軽く応える。

 

 

「まあ、無事に帰ってこれるのならいいんじゃない? 三人ともここんとこ働き詰めだったし、息抜きに行くのもいいと思うぞ」

 

「決まりねぇ」

 

 

 かくしてサテライトゲートの起動に立ち会う面子が追加され、尊はひとり何事もなくゲートが開くことを祈るのだった。

 




サテライトゲート起動の前日談、いかがでしたでしょうか?

早く新章に取り掛かりたいためにかなり話を飛ばしましたが、これでいいのか正直不安です。
ともあれ、いよいよ次回から本編は新章「DOGDAYS'編」となります。
オリジナル要素が多分に含まれる展開となっていきますが、基本的な流れは原作と大きく変わりません。
オリジナルストーリーの導入も検討していますので、楽しんでいただければ幸いです。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第69話「成功と衝撃」

どうもこんばんわ、先日稼働したばかりのガンダムUCカードビルダーをプレイして、あのゲームは自分に向いていないと実感した作者です。

さて、今回から新章と予告していましたが、申し訳ございません。区切りの都合で次回からとなります。(話数的にもおそらく都合がいいかと
今回の内容はだいたいタイトル通りとなります。
どんな内容なのかは、本編をご覧になってください。

それでは、本編第69話、どうぞご覧ください。


 これ以上ないほど晴天な特地の朝。日が昇って間もない早朝に、踏み均されて間もない森の道を移動する一行の姿があった。

 アルヌスの街から少し離れたその森は特地に住む精霊たちにとって理想的な環境が整っており、人にとっても重要な薬草や食料に十分な恵みを与えていた。

 そんな場所を進む一行の先頭を行くのは森と深い関わりを持ち、精霊たちとも友好的な契約を結ぶエルフの娘、テュカである。

 

 

「――ついた。ここならどう?」

 

 

 彼女の案内で辿り着いたのは森と絶壁の境目に存在する小さな洞窟だ。テュカが教えてくれた場所に納得できたのか、中の様子をうかがっていた尊は満足げに頷く。

 

 

「十分だ。深すぎずそれでいて中は広く、アルヌスからも遠すぎないが人が寄り付かなさそうという条件にもピッタリだ」

 

「じゃあ、早速始めるんですか?」

 

 

 クロノの問いに尊はああ、と答える。

 彼らが今から行うのは、サテライトゲートを用いたクロノ世界への転移だ。

 尊が所持する神様武装サテライトエッジに月の光をあてることでエネルギーを溜め、それが100%まで溜まったときにのみ開くことのできる異世界を渡る扉。前回のチャージした分はラヴォスを倒すための攻撃エネルギーに変換して使用してしまい、改めてゲートを開けるように溜めていたら2ヶ月半という日数を要してしまった。

 そしてこれから問題なく特地からクロノ世界に戻れるのかをテストするために、尊が求めた条件の場所をテュカに用意してもらったというわけである。

 この世界に来た時と違う点があるとすれば、あの時と比べてクロノ世界に渡るメンバーが増えていることだ。

 

 

「それじゃあ三人とも、向こうに渡ったら必ず俺たちの指示に従ってくれよ。何かあって怪我でもしたら、伊丹さんに申し訳が立たないからな」

 

「大丈夫よぉ。私、死なないしぃ」

 

「ミコトたちが魔法で治療すれば問題ないのでは?」

 

「矢除けの加護を受けてるから近づかれない限り大丈夫よ」

 

「……そうか」

 

 

 それぞれの反応にどう返そうか一瞬詰まった尊だが、結局言い返せずそのまま流すことにした。

 気を取り直して全員が洞窟内に入ったことを確認し、サテライトエッジが中心に来るようにぐるりと囲む。

 

 

「先に言っておく。俺が今から向かおうとしているのはクロノたちの家があるA.D1000年、通称現代だ。俺の思い通りならテレポッドの広場が出口になるはずだから、各自転ばないようにだけ注意してくれ」

 

 

 あらかじめ目的地を告げてから行くぞと声をかけ、尊はハルバード形態でサテライトエッジを召喚し振り上げる。

 

 

「クロノたちの世界への扉を開け! サテライトゲート!」

 

 

 ハルバードが振り下ろされると打ち付けられた地点を中心に六角形の扉を形成する。使用者の連れて行こうとしている人数の多さに応えようとしているのか、尊とサラが見たことのない大きさの扉が形成され、青白い光が溢れ出す。

 初めて見る光景にクロノたちが声を漏らし、全てを受け入れようと開かれた扉はその場にいた全員を向こう側へと誘った。

 

 

 

 

 

 

 サテライトゲートの出口が開き、俺たちは目的の場所へと踊り出る。

 いつかのように落下するようなこともなく降り立った俺は、自分たちのいる場所に確かな手ごたえを感じると同時に予定外の展開に喉を唸らせた。

 

 

「ここって……」

 

「時の最果て?」

 

 

 誰からともなくそんな声が漏れる。確かにここはクロノトリガーの世界にある時の最果てであり、俺たちは目的の世界への移動に成功した。

 しかし俺は時の最果てではなく現代に出ようと思っていたのだが、どういうことだ? 人数が多すぎたとか、この世界の人間ではないロゥリィたちがいるのが原因か?

 

 

「おやおや、久しぶりの面々だな」

 

「ハッシュ。お久しぶりです」

 

 

 最果てに住む老人、時の賢者ハッシュの言葉にサラが答える。

 ひとまず見知った場所に出られたことに安心したのか、クロノたちからホッとした空気が漂う。状況がつかめていないレレイたちはこの特異な空間を眺め、ポツリとつぶやく。

 

 

「精霊たちが全くいないわ」

 

「というよりぃ……時の流れがおかしくなぁい?」

 

「さっき、ルッカが時の最果てと言っていた。もしかしたらここは、時間の果てにある場所なのかもしれない」

 

 

 僅かな情報からそこまで推察したのは流石というべきだろうか。しかしクロノ世界に来れたことには変わりないが、マルチエンディングでは最果てのゲートって確かラヴォスを倒したら消滅したような――。

 

 

「喜べ、ミコト。まだゲートは健在のようだ。ここから現代に行けるぞ」

 

「……なんだって?」

 

 

 ラヴォスを倒した後だからゲートが消滅しているのではと勘ぐっていたところへ、光の柱がある部屋を確認してきたカエルからそんな言葉がかかり思わずその部屋に駆け込む。確かに9本の光の柱が消滅する兆しも見せないまま存在しており、使用すればすぐにでも時代を超えられそうだった。

 何故、と思考をを巡らせた瞬間、俺の中で最悪の予想が導き出された。それを確認するべくすぐさま来た道を引き返し、何か知っているかもしれないハッシュに問いかける。

 

 

「ハッシュ。一つ確認したいんだが……まさかとは思うが、ラヴォスはまだ生きているか?」

 

 

 俺の言葉にクロノたちから息を飲むのが感じられ、視線が一気に集中する。

 ハッシュは頭の帽子を触りながら、重々しく頷く。

 

 

「……可能性は、ある」

 

「そんな!? 確かにあの時、ミコトさんがとどめを刺したはずなのに!」

 

「本当にあいつを倒したのなら、ここにゲートは存在しない。倒して間もない時間ならまだゲートが残っていても不思議じゃないが、俺たちが倒したのはもう2か月以上も前だ。もちろん俺たちが特地でそれだけの時間を過ごしても、ここではまだ30分もたっていないのかもしれない。だけど今、ハッシュははっきりと奴が生きている可能性があると答えた。つまり、俺たちがあいつを倒してから同じだけの時間が流れたと考えていい」

 

「その通り。お前さんたちが黒の夢を沈めてから、それだけの時間が流れておる」

 

 

 肯定の言葉に俺たちは忌々しい表情を浮かべる。しかし、そうなると今度は別の問題が浮き上がってくる。

 まだ生きているというのなら、いま奴はどこにいるのか。またA.D1999年に現れるのか、それとも別の時代に現れるのか。

 

 

「ミコト、先ほどからあなたたちが言っているラヴォスとは何なのだろうか?」

 

「みんなの反応からして、あまりいいものじゃないみたいだけど」

 

「おいていかれっぱなしじゃつまんないわぁ。教えないさよぉ」

 

「……そうだな。教えておこう。この世界であった、星の命運をかけた戦いがあったことを」

 

 

 

 

 

 

 尊たちから語られた内容は、レレイたちの想像をはるかに超えた物だった。

 伊丹からは彼らがある脅威と戦い勝利した末に特地へ流れ着いたと聞いていたが、まさか星の存亡をかけて戦っていたとは思いもしなかった。特に驚きだったのはこの世界そのものが尊にとってゲームの世界であり、しかも彼の恋人であるサラは行方不明になるはずだったというものだ。あまりにも濃い内容だったため何度か休憩を挟んだが、ようやく話が終わり確認するようにテュカが声を上げる。

 

 

「――それじゃあ、ミコトたちはそのラヴォスっていうのを倒すためにまた旅をするの?」

 

「そのつもりよ。あれはこの世界……いいえ、どこの世界にもいていい存在じゃないわ」

 

「それはいいけどぉ、アテはあるのぉ?」

 

 

 きっぱりとルッカが答えそれに全員が同調する中、話を聞いていたロゥリィが至極真っ当な質問を投げかけるとクロノたちは気まずそうに言葉に詰まった。

 確かにラヴォスをのさばらすことはできないが、現時点であれがどこにいるかなど皆目見当がつかない。

 だが、手掛かりがないわけでもなかった。

 

 

「奴自身がどこにいるかは知らないが、関わりを持っていそうな場所なら心当たりがある」

 

「……おい、それはまさか」

 

 

 尊の言わんとしていることに魔王も思い当たり問いかけると、彼は頷いて答える。

 

 

「ここや特地とはまた別の世界で奴の幼生体……プチラヴォスが出現したことがある。そこを調べれば、何かわかるかもしれない」

 

 

 その言葉にクロノたちは声を上げて思い出す。尊とサラが自分たちと合流した際に何をしていたのか話したとき、別の世界でもプチラヴォスが出現したという話を。

 一方、まだ他にも異世界へ行ったことがあると判明するとレレイが興味深そうに尋ねる。

 

 

「まだ他に異世界に繋がりがある、と?」

 

「ああ。B.C12000年でラヴォスがジールを滅ぼしたとき、俺とサラはサテライトゲートの力を使ってその世界に避難したんだ。そこでちょっとした問題があって、それの解決に協力をしていた時に遭遇した」

 

「じゃあ、もしかしたら……」

 

「そこにいるかもしれない、ということだな」

 

 

 マールとカエルの言葉に首肯すると、方針が直ぐに定まった。

 

 

「ですが、ミコトさんのゲートはまたエネルギーを溜めないといけませんし、レレイたちを特地に戻すことを考えたら少し時間が開いてしまいますね」

 

「確かコチラの世界では一週間ほどで済むらしいデスガ、特地では2ヶ月半かかりマシタネ。そう考えると、その世界に行けるのは実質3ヶ月後になる計算デス」

 

「3ヶ月かぁ……」

 

 

 直ぐにでも調べに行きたいのに、それだけの時間を待たなければならないと分かり一同はやきもきした。

 

 

「出来るかもしれんぞ。直ぐに移動が」

 

 

 突然上がったその発言に視線が集まる。発言元の人物、ハッシュは手にした杖を尊たちが出てきた場所に存在する光の柱に向けた。

 

 

「ミコト君がサラをここに連れてきた時から、その柱から不思議な力を感じての。もしかしたら、お前さんたちの言う別の世界と繋がっているかもしれん」

 

「その根拠は何だ、じーさん」

 

「ゲートが繋がるとそこの部屋に通じる…それと同じ理屈だ。ミコト君が開いた異世界のゲートがここのゲートと繋がったと考えれば、後は他のゲートと同じように移動ができるかもしれん。ま、論より証拠という言葉もある。確認してみたらどうかな」

 

 

 特に案があるわけでもなかったため、尊はハッシュの言葉に従い自分たちが出てきた光の柱に触れてみる。

 すると収納されていたサテライトエッジが勝手に召喚され、ひとりでに浮き上がると同時に柱とともに強い光を発した。今までにない現象に身構えて警戒した尊だが、突如として彼の脳裏にカーソルとアイコンが浮かび上がった。

 

 

→フロニャルド

 特地

 

 キャンセル

 

 

 ――……なんで突然ゲームっぽくなるんだよ。

 

 思わず心の中でツッコミを入れ、とりあえず何もしないためキャンセルを選択。するとサテライトエッジが再び尊の亜空間倉庫に収納され、柱の光もサテライトエッジが無くなるのに合わせてすぐに納まった。

 

 

「……どうやら、サテライトエッジを鍵とすることで別の世界にすぐ行けるようになったみたいだな」

 

「ならばミコトさえいれば、我々は特地だけでなく姉上も行ったという別の世界に行けるということか」

 

「たぶんな。ただ、戻るときはまた向こうでサテライトエッジのチャージをしないといけないかもしれないから、戻るタイミングを合わせないと時間がかかったりしそうだ」

 

「てことはぁ、私たちが自分の世界に帰るのはミコトに合わせないといけないってことぉ?」

 

「おそらくそうなる。ただ私たちはイタミから一週間の猶予をもらっているから、その時には必ず帰れるはず。ミコトもイタミと約束した以上、それを反故するわけにもいかないだろうし」

 

 

 レレイの言う通り、尊は何があっても一週間以内にはテュカたち3人を特地に戻すつもりでいた。

 伊丹との約束もそうだが、もともと今回はクロノ世界に戻れるかどうかを試すために来たのだ。ラヴォスの調査は本命ではない。

 

 

「とにかく、別の世界に行けるか試してみよ! ミコトさん、ここに来た時みたいにみんな一緒にパーッといけませんか?」

 

「ん、やってみる」

 

 

 マールの提案を受けてサテライトエッジを再び柱の中に浮かべると、青白い光が広場を照らす。大人数を連れていくつもりでサテライトゲートを開いた時のように行き先をフロニャルドに合わせると、光の柱が大きくなり尊たちを取り込む。狙い通りに行ったことに安堵するが、尊は同時に疑問を抱く。

 

 ――まとめて移動できるのはいいことかもしれないが、時間の移動じゃないから原作であった3人縛りは適用されないのか?

 

 クロノトリガーをプレイしていた時、初めてここに来た際に違う時間を生きる者が4人以上で時空のゆがみに入ると次元の力場が云々という説明を受けて、物語では時代を移動するのに3人でなければならない理由が発生する。尊はこれを回避するためにゲートホルダーとシルバード、そして自分という3つの要素を使って時空のゆがみに大きく干渉しないように調整しつつ時間の移動を可能にした。

 だがいま行っているのは時間の移動ではなく世界の移動で、しかも違う時間を生きる者どころか、違う世界を生きる者を含めているのだ。世界の移動が制約の例外にあるのか、それとも他に原因があるのか。それに尊が気付くのはもう少し先となる。

 

 そして来た時と同じ人数を連れて、ゲートはもう一つの異世界へと繋がるのだった。




本編第69話、いかがでしたでしょうか?

今回判明した主な点は以下の通りです。

・ラヴォス生存
・世界間移動でのゲート制約の緩和

世界間移動でのゲート制約の緩和についてはご都合主義というオリジナル設定です。おかしいと思う点があるかもしれませんが、どうかご容赦を。
さて、今度こそ次回から新章「DOGDAYS'」となります。
尊たちとフロニャルド組とのバトルを予定していますので、どうかお楽しみに。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

DOG DAYS'編
第70話「約束の夏」


どうもこんばんわ、レコーダーに録画したEXVSFBのプレイ動画(ソロアッガイでボスラッシュ制覇)をPCに移そうとしたらうまくいかず四苦八苦している作者です。

さて、今回からDOG DAYS'編となります。
この章ではシリアスを除いて基本的にやりたい放題やっていくつもりです。
そのためこの章だけで何話行くのか作者にも全く予想がつきません。下手をすればこの章で大台の本編第100話に到達する可能性も……まあ、そうなったらその時ということで。

それでは早速本編第70話、どうぞご覧ください。


 (いくさ)渦巻く大陸、フロニャルド。

 大陸の南方に位置するビスコッティ共和国とその隣国、ガレット獅子団領ではこの春、魔物を巡ってのトラブルが巻き起こった。

 しかしその問題も異世界から召喚されたビスコッティの勇者と、偶然にも異世界からフロニャルドに流れ着いた者の手によって事なきを得ることができた。

 その後勇者は送還により元の世界へ、流浪人も一緒に流れ着いた女性とともに自分たちがきた世界へと帰還した。

 あの出来事から3ヶ月。季節は巡って夏となり、この日は勇者がフロニャルドへ戻ってくる日。

 そして図らずも、流浪人たちが仲間を連れ、再びこの地へやってくるのだった。

 

 

 

 

 

『さぁさぁ! 空は晴天、本日も絶好の戦日和です! 主役の到着はまだですが、ビスコッティとガレットの戦いは既に始まっております!』

 

『現在こちらには、戦の解説としてビッグゲストをお招きしております!』

 

『そうなんです! ガレットからは騎士団長バナード将軍と、レオ様のお側役のビオレさん!』

 

『そしてビスコッティからは同じく騎士団長のロラン団長と、隠密部隊頭領のダルキアン卿!』

 

 

 メインステージ上で二人の司会者、フランボワーズ・シャルレーとパーシー・ガウディがマイクに向かって叫ぶ。

 二人の熱に呼応するように会場の客席からは歓声が上がり、中継先の兵士たちも武器を掲げ大いに楽しんでいるのをアピールする。

 今回の戦は『お帰り勇者様、歓迎記念戦興業』と銘が打たれており、春先にフロニャルドの危機に立ち向かった勇者が再びやってくるということで、戦の参加者のみならず中継を見ている国民たちもその雄姿を記憶に刻むべく登場の瞬間を待ち望んでいた。

 

 

「本日の主役、ビスコッティの勇者殿は、もうすぐこちらに到着するそうです」

 

「我らが姫様と親衛隊長も一緒にござる」

 

「こちらもレオ様が間もなく到着されますよー」

 

「無論、ガウル殿下もご一緒にです」

 

『戦線の皆さん! お聞きになった通りです! 両国主力が到着すれば、戦場は大変なことになります!』

 

『なので今のうちにポイントをしっかり稼いで行きましょう! その活躍がそのまま勝利に反映されますよ!』

 

 

――うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

 

 メインステージからの檄に戦場から鬨の声が上がり、戦いはより一層激しさを増した。

 戦場の映像をステージ上の大型スクリーンに流しつつ、フランボワーズがもう一つの話題を持ち出す。

 

 

『さて、勇者様と言えばもう一つ。春の戦でガレット側の戦士として参加し、魔物騒動の時は勇者殿とともに戦った異世界の戦士がいましたね』

 

『はい。私も勇者殿と親衛隊長を相手に立ち回る姿を間近で拝見していましたが、あの人は今どうしているでしょう。解説の皆さん、何かご存知ではありませんか?』

 

 

 パーシーに訊ねられた解説陣だが、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべるだけだった。

 

 

「実は我々も、あの二人がどうなったかわかっていないのです。レオ閣下には調査のため早ければ一月ほどで戻るとお伝えしていたようですが、こうして音沙汰がない以上はまだ戻っておられないようです」

 

「ビスコッティでも同じでござる。ですが、我らは必ず戻ってくると信じているでござるよ」

 

『そうですか。では、その話題の人物、戦士ミコトが当時どのような戦いをしていたのか、VTRで振り返ってみましょう!』

 

 

 戦場を映すスクリーンの上にもう一つ映像が展開され、ビスコッティの勇者と親衛隊長を圧倒する男の映像が映し出された。

 勇者の宝剣と同じく複数の形態に変形する武器。輝力とはまた違う魔法という力。それらをいかんなく発揮して戦う月崎尊の姿がそこにあった。

 

 

「……ダルキアン卿。ミコト殿はまたこの世界に来ると思うかい?」

 

 

 映像を眺めながらロランは隣の席の人物に問う。話を振られた彼女は小さく笑みを浮かべ、楽しそうに答える。

 

 

「可能性は高いでござろう。3ヶ月前も勇者殿が召喚されたときに現れたと聞く。もしかすれば今回も」

 

「なるほど……だとすると、とても楽しみだ」

 

 

 ダルキアンの答えにロランも笑みを浮かべ、当時のことと重ねながらその光景を思い浮かべる。

 現れた尊たちに勇者であるシンクと、彼のことを気に入っていたガレットの王子ガウルとその親衛隊ジェノワーズが喜んで迎え、待たせすぎたことに文句を言うべくレオが宝剣片手に突撃をかます。

 そんな光景が容易に想像でき、ロランは本当に楽しみにしつつ笑みを深めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 真っ先にフロニャルドの大地を踏んだ尊は全員が無事に移動できたのを確認すると、すぐに現在地が何処なのか記憶と照らし合わせる。

 

 

「ここは……召喚台の入り口か」

 

 

 ゲートを抜けて降り立った場所は、最後にこの世界を去ったのと同じビスコッティ共和国内の召喚台に通じる道の前だった。

 3ヶ月前。ビスコッティ共和国の勇者として日本の少年シンク・イズミがこのフロニャルドに召喚され、勇者の名に恥じぬ戦いぶりを発揮して隣国ガレット獅子団領との戦いで連敗を喫していたビスコッティに勝利をもたらした。その勇者のデビュー戦に図らずもラヴォスの脅威から逃れてきた尊とサラが闖入することになり、敵と間違われてガレット兵に追い回されたりしたが、それも二人にはいい思い出だ。

 さて、初めてやってくる世界に驚きは付き物である。現代から荒廃した未来に移動した時のクロノたち然り、特地から日本に向かった時のテュカたち然り。そして今回も、彼らはその例から漏れることはなかった。

 

 

「みてみてクロノ! 島がジールみたいに浮いてる!」

 

「太陽は出てるけど、空は紫がかっているのね。地球や特地の大気と違って青より紫が出やすいのかしら?」

 

「森、たくさん! エイラ、わくわくする!」

 

「何かしら? 精霊のようなそうでないような、不思議な性質の精霊みたいなのがいるわ」

 

「ニホンも興味深かったけど、この世界もなかなか……」

 

 

 今まで見たことのない光景にはしゃぐ面々に尊とサラが苦笑を浮かべていると、離れた場所から花火が上がった。

 ドンッドンッと響く音にクロノたちが何事かと目を向ける中、思い当たる節がある二人が口を開く。

 

 

「あそこは……確かファルネットだったか?」

 

「戦みたいですね。ガレットとビスコッティが戦っているのかもしれません」

 

「い、戦? 大丈夫なんですか?」

 

 

 不穏なワードにクロノが反応するが、すぐに尊が解説を挟む。

 

 

「大丈夫だ。この世界で言う戦はいわゆるスポーツイベントで、守護力と呼ばれるこの世界特有の力で守られている限り死傷者はまず出ない」

 

「それってぇ、私が思いっきり暴れても大丈夫ってことぉ?」

 

 

 ロゥリィが期待を込めた眼差しで尋ね、尊は過去の戦を思い返す。

 

 ――守護力の利いている地帯であればレオ閣下やダルキアン卿の一撃でも一般兵が無事だったから……たぶん大丈夫か? けど、ロゥリィのパワーもトンデモだからなぁ……。

 

 

「戦うことになったとしても、とりあえずは念のため全力の5割くらいに留めてくれ。守護力があるとはいえ、亜神の力は文字通り桁違いだからな」

 

 

 尊の脳裏にはイタリカで無双するロゥリィの姿が浮かんでいた。小柄な体に似合わない圧倒的な亜神としての戦闘力は、大の大人の体を容易に分断させるほどの力があった。守護力があるから大丈夫だと思いたいが、念には念を入れておきたいところである。

 

 

「よし、早速向かうぞ。あそこなら高い確率で知り合いがいるはずだ」

 

「向かうのはいいが、この人数であそこまでは少し時間がかかりそうだぞ。お前の輝力武装とやらも限度があるはずだが」

 

「いや、輝力武装はもともとこの世界特有の力だから他の世界と比べて使用の制約が非常に緩くなるし、ゴールドピアスの恩恵もあるから大丈夫だ。それにせっかくだからその辺のテストも兼ねて大人数が乗っても安全なものにしてっと……」

 

 

 右手に紋章を宿すと今まで以上に巨大な紋章が展開され、現れたのは屋根こそないが特地で自衛隊が使用していた高機動車によく似た車だった。

 輝力武装の特徴はイメージが明確なほど確かな形と力を得るというもの。特地でしょっちゅう自衛隊の高機動車を目の当たりにしたり、ルッカやロボと一緒に整備現場を見学したおかげでかなり細部まで再現ができていた。そうでなくとも車の基本的な原理はよく知っているので、それさえ分かっていれば輝力武装による車の再現は容易だったと言えよう。

 そんな見慣れた乗り物が出てきてまずレレイが乗り込み、つられるようにロゥリィとテュカ、そしてクロノたちが乗り込む。車を作った尊は運転席に座り、シートベルトを装着してハンドルを握る。隣の助手席にはサラが乗り込み、同じようにシートベルトを着用した。

 

 

「ミコト、運転できるのか?」

 

「車なんて基本はみんな一緒だ。アクセルを踏めば前に進むし、ブレーキを踏めば停まる。進行方向に沿ってハンドルを切ればちゃんと曲がるし、しかもベースジャバーと同じく輝力を燃料にしているから環境にも優しい」

 

 

 魔王の言葉にそう返してギアをニュートラルに入れたまま軽くアクセルを踏む。――どんなエンジンかは知らないが――ボンネットの中から唸るような音が上がり、仕様に問題ないことを確認する。

 

 

「発進するぞ。特地の道を行くのと同じ感じになるから、振動に注意してくれ」

 

 

 それだけ警告し、尊作輝力製高機動車は『お帰り勇者様、歓迎記念戦興業』が行われている戦場ファルネットへと進路を取った。

 

 

 

 

 

 

 ファルネットでの戦況は目まぐるしく変化していた。

 まず最初の変化はガレット側から主力部隊のひとつ、ガウル率いるジェノワーズが現れたことで徐々にガレット有利に傾きつつあった。しかしビスコッティ側からもついに今回の主役である勇者、シンク・イズミや親衛隊長エクレールといった主力が到着と同時にジェノワーズを撃破したことで勝負は振り出しの互角へ。

 そのタイミングでガレット軍の総大将、レオンミシェリがガレットの勇者としてシンクの従姉にして師匠でライバルの高槻七海を投入。彼女は日本から来たシンクとその幼馴染レベッカ・アンダーソンと違いロンドンに住んでいたため、ガレットの勇者召喚でこのフロニャルドにやってきて正式にガレットの勇者として参戦した。

 両軍切り札が出そろい、シンクはエクレール、ユキカゼらとともに歯車エリアの敵兵を撃破しながら進軍。ガレット側もレオ自らの出撃と参戦したばかりとはいえ勇者として恥じぬ戦いぶりを見せる七海の活躍もあり、戦況は五分五分のまま二人の勇者を引き合わす。

 

 

「行くよシンク! 真剣勝負!」

 

「望むところ!」

 

「「レディ、ゴーッ!!」」

 

 

 棒状の神剣パラディオンと、同じく棒状の神剣エクスマキナが正面からぶつかり合う。神剣同士の戦い故か、凄まじい衝撃波があたりに吹き荒ぶ。

 "けものだま"となった兵士たちが木の葉の如く宙を舞い、四方八方へと吹き飛ばされていく。救護班が慌てて回収に向かうが、やはり勇者対決は見ておきたいのか視線はチラチラと二人の元へ向けられていた。

 レオもまた滝エリアに乱立する丸太の足場に愛騎ドーマに騎乗したまま辿り着くと、勇者たちの戦いに満足そうに頷く。

 

 

「ふむ。やはり勇者対決ともなれば、大いに盛り上がりそうじゃな」

 

「ですがあちらばかり盛り上がられては、拙者たちの立つ瀬がないでござる」

 

「そういうわけで、レオ様。お相手願います」

 

「よかろう。二人まとめて、相手をしてやろう!」

 

 

 エクレールとユキカゼに向かって紋章を顕現させながら堂々と宣言し、ドーマに装備させていた戦斧と盾を手に迎え撃つ。

 

 ――ミコト、サラ殿。お主らはいつ戻ってくるのじゃ。せっかく勇者とその友人らも来ておるのに、お主らがおらねばどうにもしっくり来ぬわ。

 

 この場にいない恩人たちの姿を思い浮かべながら二人の攻撃を凌ぎ、すぐさま広範囲紋章術で応戦する。並の兵ならこれだけで"けものだま"の山を作っているが、流石ビスコッティ騎士団切っての軽装戦士コンビ。身軽さを生かして範囲外へ離脱し、丸太の足場で身動きがとりづらい点を利用し遠距離攻撃でその場に釘付けにする。

 

 

「ユキカゼ式忍術! 『閃華双烈風』!!」

 

 

 ユキカゼが両手に構えた輝力の大型手裏剣を放ち、レオを挟むように襲撃する。

 両手に持った武器と盾でそれらを受け止め、雄たけびとともに力技でかき消す。硝子が砕けるように二つの手裏剣は消滅したが、盾には浅くない亀裂が走った。そんな絶好の場所を見逃すわけもなく、別方向から迫っていたエクレールが亀裂に向かって短剣を突き立てる。拮抗したのもほんの僅か。先に盾が限界を迎えて砕け散り、衝撃でレオのガードが緩くなる。

 

 

「ユキ!」

 

「承知でござる!」

 

 

 絶好の好機と見たのか、エクレールの呼びかけに答えるようにレオの背後の虚空からユキカゼが姿を現し、エクレールと挟撃するように小太刀を構える。

 

 

「レオ様! 御覚悟を!」

 

「ふっ、ヌルい!」

 

 

 勝ちをほぼ確信したエクレールが短刀を構えて足場を蹴る。だがレオは不敵に笑い、短刀を伸ばしたエクレールの腕を難なく掴むとそのまま後ろに向かって振りかぶる。その先には挟撃しようとしていたユキカゼの姿が。

 

 

「「うわああああああ!?」」

 

 

 ユキカゼは叩き付けられたエクレールもろとも後方へと弾き飛ばされ、水切りをする石のように水面を跳ねる。その途中でどうにか体勢を整え近くの桟橋に着地するが、その過程はレオに大技の準備をさせるのに十分すぎる時間を与えてしまった。

 

 

「ふははは! 覚悟はいいか!」

 

 

 輝力のオーラと紋章術による炎を滾らせ、レオは全力で戦斧を振るう。

 

 

「『獅子王烈火爆炎斬』!!」

 

 

 放たれた炎が鳥の形を成して空を舞い、行く手を阻む足場をものともせず破壊しながらエクレールたちの元へ着弾する。

 爆炎が立ち上り誰もが二人の様子を気にする中、煙の中から何かが飛び出す。

 

 

「ふぅー、危機一髪にござるよ」

 

 

 エクレールを抱えたユキカゼから安堵が漏れる。あの一撃を真っ向から受けていては間違いなくただでは済まなかっただろう。

 しかし、『天下無双』の異名を持つレオの一撃は躱したと思わせてはくれなかった。

 

ビキィッ! ビリィッ!

 

 

「うわっ!?」

 

「おおっ!?」

 

 

 再び丸太の足場に戻ってきた二人だが、構えた瞬間に武器が砕けたり身につけた衣服が破れるなどのダメージが遅れてやってきた。

 

 

「はっはっは! その程度で我が一撃を完全に逃れたと思うたか!?」

 

『機動性重視の隠密衣装は防御力が低いため、攻撃を喰らうと大変危険なのです!』

 

「あははー、そうなのでござるよ」

 

「ユキ。一度引いて、装備を整えよう。二人がかりとはいえ、武器がなければレオ様とは戦えない」

 

「了解でござる」

 

 

 エクレールの提案にユキカゼも同調し、二人はレオを残してビスコッティ側の補給地点へと撤退する。

 

 

「さて、ワシはどうするか……」

 

 

 相手がいなくなったことで自分も補給に戻ろうかと考えたところで、フランボワーズの実況が耳に届く。

 

 

『たった今入った情報です! 戦場の範囲外から自走する馬車籠が乱入し、フィールドを駆け巡っているそうです!』

 

「なに?」

 

 

 近くの映像に目を向けると、確かに凄まじい速度で戦場を駆ける迷彩柄の車が中央フィールドに向かって爆走していた。

 どこのバカだと思い目を凝らすと、レオは運転席らしき場所に見知った顔を見つけるのだった。




本編第70話、いかがでしたでしょうか?

尊たちと犬日々メンバーが会合するのは次回となります。
ですが現在、プロットの調整を行っているため次回投稿がいつになるか未定となっております。
早めに投稿できるよう努力しますが、場つなぎ(?)でMLOWを更新、またはオリジナル作品の試験的な投稿をするかもしれません。
どれが投稿されるかわかりませんが、今後も本作をよろしくお願いします。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第71話「再会と出会い」

どうもこんばんわ、スランプやらイベントやらで投稿が遅くなった作者です。

さて、今回はついにフロニャルドの面々と合流します。
今回は顔合わせが主な展開となっておりますが、次回から戦に入ろうと考えています。
また、一部に独自解釈がありますのでご了承ください。

それはさておき早速本編第71話、どうぞご覧ください。


「み、ミコトさん! これ本当に大丈夫なんですか!?」

 

戦場(いくさば)に紛れ込んだ時点で大丈夫じゃない! だから行けるところまでとことん突っ走る!」

 

 

 クロノの切羽詰まった声が耳に届く中、運転席でハンドルを握る尊が可能な限りアクセルを踏み込みつつ答える。

 現在彼らは、戦真っただ中のフィールドを高機動車で疾走していた。その光景に見たことのない乗り物に一般兵たちが驚き、骨のある騎士たちが敵側の新兵器かと勘繰って矢を番えたりセルクルで可能な限り並走しながら剣を振るう。

 なぜこうなってしまったのか、理由はごく単純なことだ。ファルネットのガレット陣営を目指して高機動車を走らせていたのだが、間違えてあろうことか戦場の中に踊り出てしまったからだ。引き返そうにも直ぐに一般兵や騎士たちに囲まれつつあり、数ヶ月前のデジャヴが頭を過ぎったこともあって尊は包囲網が完成する前に突破を慣行。どうにか囲まれる前に飛び出せたのはよかったが、進行方向は戦場の中心部に向かっていた。さらに引き返そうにも障害物や兵士たちが邪魔でUターンができず、結局そのまま中心部に向かって激走することとなってしまったのだ。

 右へ左へ揺られながら、ロゥリィがふてくされた様子で声を張り上げる。

 

 

「ねぇ! そこらへんのキャットピープルとかワーウルフと戦っちゃダメなのぉ!?」

 

「それは本当に最悪の場合だ! 今はまだ――「ミコト、何か来る」――は?」

 

 

 レレイの言葉に振り返ってみれば、何やら見たことのある金髪の少年と活発そうな少女が紋章砲を撃ち合いながら迫っており、その流れ弾がこちらにも向かっていた。それも見た感じかなりの威力を持った一撃が。

 

 ――あ、これあかん奴や。

 

ズガァン!

 

 

「ぬぉおおお!?」「うわあああ!?」「きゃあああ!?」

 

 

 紋章砲が直撃し車が宙を舞う。車内が阿鼻叫喚となる中、尊は咄嗟に車を消滅させて全員を宙に投げ出させる。窮屈な車内から身体が投げ出されたのを感じて荒事に慣れているメンバーは自力で着地体制を整え、そうでないレレイとテュカを魔王とロゥリィが助け、尊は隣にいたサラを引き寄せつつ精神コマンドの『集中』とブーストアップを使って体制を整え着地に成功する。

 

 

「――みんな、無事か!?」

 

「ど、どうにか」

 

「びっくりしたー」

 

「あれ!? 尊さんにサラさん!?」

 

 

 ブーストアップの副作用に頭を抑えながら周りの無事を確認していると、今度は驚きの声が聞こえそちらの方に目を向ける。

 案の定、ビスコッティの勇者シンクが先ほどまで戦っていた少女と一緒にこちらへ向かってきていた。

 

 

「よぉシンク、久しぶりの再会にキッツい紋章砲の流れ弾をありがとう。生きた心地がしなかったぜ」

 

「え、えーっと、ごめんなさい?」

 

 

 苦笑いを浮かべ謝罪するシンクに笑みを返し、状況を確認しようと口を開く。

 

 

「シンク、この戦ってやっぱりガレットとビスコッティの――ッ!?」

 

 

 突如、背筋にぞくっと悪寒が走る。思わず振り返ったその先には、力強く駆けるセルクルに跨りながらも手にした武器に輝力を解放している――――『天下無双』の姿が。

 

 

「遅いわ戯けがぁぁぁぁっ!」

 

「うおおおおおお!?」

 

 

ガキィインッ!!

 

 レオが尊に掛けたのは普通に再会を喜ぶものではなく、遅すぎる再来に対する文句であった。しかもグランヴェールによるキツイ一撃付き。

 咄嗟にサテライトエッジをシールドにして受け止めるが、とてつもない衝撃が腕を伝わり足元を陥没させる。

 それでもどうにかブーストアップを再度使用することで力を加え拮抗させることに成功する。レベルが上がったことで基礎ステータスも上がっているおかげか、拮抗させるまでにそれほど時間はかからなかった。

 しかし肉体強化をしてなおいっぱいいっぱいな尊とは対照的に、己の純粋な力のみでぎりぎりと力比べをしながらレオは涼しい笑みを浮かべる。

 

 

「ほう、力をつけてきてはいるようだな。これでねじ伏せられたら何をしてきたのかと怒鳴り倒しておったわ」

 

「色々ありましたんでね……っ! 遅くなったことは弁明の使用もありませんが、もう少し力を抜いてもらえればうれしかったです……っ!」

 

「フン。 まあ、このくらいで許してやろう。遅れたとはいえ、確かに約束を果たしたのだからな」

 

 

 力を抜いて闘気を収め、レオはドーマから降りるとグランヴェールを突き立て、尊に手を差し出す。

 

 

「よくぞ戻ってきてくれた。ガレット獅子団領領主として、ワシはお主らを歓迎する」

 

 

 余裕が出来た尊も笑みを浮かべ、サテライトエッジを収納するとその手を取って握手する。

 

 

「感謝します、閣下」

 

 

 

 

 

 

 尊たちが乱入したことと、ちょうど昼休みの時間が迫っていたこともあって戦は中断となり、一団はレオに案内される形でビスコッティ本陣にやってきた。

 レオ同様、この世界を去って以来の会合となるミルヒオーレの他。シンクの地球からガレットの勇者として召喚され、先ほどまで彼と戦っていた従姉の高槻七海と、幼馴染のレベッカ・アンダーソンと顔合わせとなった。

 

 

「お久しぶりです、ミコトさん、サラさん。春の戦では、本当にお世話になりました」

 

「こちらこそ。お元気そうで何よりです」

 

「あれからどうですか? ダルキアン卿やユキカゼが加わったことで、ビスコッティも勝率が上がったんじゃないですか?」

 

「ええ! おかげさまで!」

 

 

 再会を喜び合いながら軽く挨拶を交わしたところで、双方のつなぎ役となる尊が紹介を取り持つことにした。

 

 

「紹介します。俺とサラの仲間たちと、別の世界で知り合った三人です。 みんな。こちらはビスコッティ共和国の領主、ミルヒオーレ姫だ」

 

「初めまして。ご紹介に預かりました、ミルヒオーレ・フィリアンノ・ビスコッティと申します」

 

「こんな少女が領主とは……。同じ姫としてはどんな感想だ、マール」

 

「いやぁ……スゴイとしか言えないよ」

 

 

 カエルの言葉に同じく一国の姫であるマールは、尊敬の念を込めた眼差しをミルヒに向ける。そういえばマールもお姫様だったなとクロノやルッカが零す中、今度はシンクから質問が上がった。

 

 

「尊さん。さっき別の世界で知り合った三人って言ってましたけど、どういうことですか?」

 

「そのままの意味だな。こっちの三人は、俺たちが流れ着いた特地って呼ばれる別の世界で知り合った三人なんだ。 実はその世界、異世界につながる門が開いて起こった事件が切っ掛けで、魔法とかドラゴンがいる世界に自衛隊が駐屯している」

 

「「「自衛隊!?」」」

 

 

 流石に予想外な世界観に、シンクを含めた地球出身の三人は驚愕する。その様子を見て内心でニヤニヤしながら、尊はクロノたちより先に三人の紹介をする。

 

 

「杖を持っているのが魔導師のレレイ・ラ・レレーナ。耳が長いのがエルフのテュカ・ルナ・マルソー、ハルバードを持っているのが亜神ロゥリィ・マーキュリーだ」

 

「あ、亜神? ていうか、エルフ!? 本当ですか!?」

 

「ええ、本当よ。触ってみる?」

 

「わっ! わっ! すごい! 小説とかゲームだけの存在じゃないんだ!」

 

「そういえばベッキー、ファンタジー小説とかRPG好きだったね」

 

「あ、すいませんテュカさん。写真撮らせてもらっていいですか?」

 

 

 レベッカの反応を見て参考人招致の時のように耳をピコピコ動かして見せるテュカ。それをみて大はしゃぎする三人の反応に少し満足したうえで、尊は個人的に本命のロゥリィについて説明する。

 

 

「ロゥリィは亜神って紹介したけど、ぶっちゃけてしまえば彼女は神様だ」

 

「神様って、土地神様と同じようなものですか?」

 

「えっと…少し違うと思います。どちらかと言えば、ユキカゼさんが彼女に近い存在かと。けどそれ以上に、積み重ねた年月は彼女より圧倒的に上だと思います」

 

 

 サラが以前フロニャルドを訪れた時に得た知識と照らし合わせてミルヒの問いに答える。

 フロニャルドにおいて土地神とは大きく分けて二種類あり、一つは精霊に近い半透明の生き物だ。彼らの生息する場所は基本的に自然の恵みが豊かで、かつ守護力に満ち溢れているため人にとっても安心して生活できる場所となっている。

 もう一つはユキカゼのようにはっきりとした姿を持った土地神で、有体に言えば精霊に近い土地神よりも上位に位置する土地神となる。また余談となるが、春の戦で禍太刀によって魔物となってしまっていた子狐もこれにあたる。

 

 

「なに? ということはこの者……いや、この方はダルキアンより長く生きておられるということか?」

 

「気になるのぉ?」

 

「……教えていただけるか?」

 

 

 レオの言葉に不敵な笑みを浮かべるロゥリィ。失礼だと思いつつも好奇心が勝ったのか、控えめに尋ねる彼女にロゥリィは参考人招致の時を思い出しながら実に楽しそうに答える。

 

 

「961歳よぉ」

 

 

 その言葉に、場の空気が二つに分かれた。既に知っているためやはり桁違いだという感想を抱いたクロノ組と、予想以上の年齢に凍り付いたフロニャルド組。尊とサラの予想ではシンクたちがもっと慌てるかと思ったが、次元が違い過ぎて言葉もなかった。

 

 

「ず、ずいぶんと……お、お若く見えますね」

 

「ふふ、ありがとぉ」

 

 

 必死に頭を捻りだした言葉がそれなのだろう、ミルヒが苦笑いを浮かべそう述べる。ロゥリィ自身もこういった反応には慣れているのか、笑みを浮かべてその言葉を受け取る。その横でシンクたちがひそひそと「不老不死?」と相談し合っていたが、間違いではないと尊たちは胸中で答える。

 

 ――テュカが165歳でロゥリィと似たようなものだと知ったら……いや、あまり変わらないか?

 

 見た目が高校生か大学生程でありながら165歳という年齢とはいえ、如何せんロゥリィのインパクトが強すぎる。何よりレベッカはファンタジー小説を好んで読んでおり、エルフと言えば不老長命の種族という固定観念が定着しているので「やっぱりエルフなんだ」と改めて認識するにとどまるかもしれない。そこまで思ったところで尊が思考を打ち切ると、レオから一つの提案が上がった。

 

 

「そうじゃ。お主らも今回の戦に参加せぬか?」

 

「いいんですか? これって一応、国同士の戦いのはずじゃ」

 

「ガレット、ビスコッティのどちらにも属さない特殊勢力として混ぜ込んでしまえば問題なかろう。ミルヒはどうじゃ?」

 

「私も賛成です。皆さんにもフロニャルドの戦を楽しんでもらえるいい機会だと思いますし」

 

 

 ルッカの懸念も両国領主の公認によって解消され、参加してみたいと思っていた面々は誰もがやる気に満ちた表情を浮かべる。特にロゥリィはその言葉を待っていたと言わんばかりの満面の笑みだ。

 

 

「ほら、尊さんたちも参加するみたいだし、ベッキーもやろうよ!」

 

「そうそう! 絶対楽しいって!」

 

「わ、私はいいよ。見てるだけで楽しいし」

 

「「えぇ~~~~」」

 

 

 消極的なレベッカにシンクと七海が同じ顔で残念そうな声を上げる。その様子を眺めたマールがふと視界に入ったレレイを見て訊ねる。

 

 

「レレイはどうするの? レベッカさんと一緒にここで観戦する?」

 

「いや、私も参加する」

 

「「「えっ?」」」

 

 

 予想外な答えに質問したマールのほかにクロノとレベッカが反応する。声を出さずとも同じく気になったメンバーが何故と言いたげな視線を送ると、レレイはその目に好奇心という炎を宿して語る。

 

 

「ミコトが輝力武装というものは、もともとこの世界特有のものだと言っていた。勇者として別のニホンからきた少年が使っていたところを見るに、私にも使えると推測する。試せる機会が目の前にあるのなら、積極的に関わるべき」

 

「ほお、なかなかの探求心じゃな。発明王といい勝負かもしれん」

 

「発明王?」

 

 

 発明という単語に反応するルッカ。それを見てシンクはこの場にいない小さな友人について教える。

 

 

「ビスコッティにリコッタって子がいるんですけど、いろんな発明を作った凄い子なんです」

 

「具体的にハどのヨウナ発明をされたのデスカ?」

 

「大陸全体で放送用のフロニャ周波を増幅させる機械が普及してるんだが、それを当時5歳のリコッタが発明した」

 

「5歳!?」

 

 

 尊の説明に流石の自分もそこまでではないという意味が篭った驚きをルッカが露わにする。他にも彼女のことを知る尊やサラ、シンクにミルヒやレオを除いた全員が驚愕を隠せずにいた。千年近く生きてきたロゥリィもそこまでの才女に会ったことがないのか、クロノたち同様衝撃を隠せない様子だ。

 

 

「……会ってみたい。是非」

 

「私もだわ。自衛隊に会ってからまだ未熟だと思ってたけど、改めて実感したわ」

 

 

 ――三人寄れば文殊の知恵というが、ガチ天才が3人揃ってしまえば本当にどうなるんだろうか。

 

 以前からこの三人が出会えばどうなるのだろうかと夢想していた尊だが、彼の直感はトンデモないものを発明しそうだと囁いていた。

 科学を魔法に取り入れるという閃きと応用に長けるレレイ。

 魔法的な要素のフロニャ力の術式を機械に組み込めるリコッタ。

 そして機械の扱いにおいては他の追随を許さないルッカ。

 この三人で作り上げる発明は間違いなく三世界を驚かす代物になるだろうと思っていると、不意に太陽が何かに遮られる。

 それに続き、空から女の子の声が響く。

 

 

「おーい! ミルヒ姉! レオ姉!」

 

 

 全員が上を見ると手綱のついた大きな鳥に跨り手を振っているリスのような少女と、苦笑いを浮かべながら手綱を握る青年がいた。

 見知らぬ人物の登場に誰もが呆気にとられる中、名指しを受けたミルヒとレオが驚きながら答える。

 

 

「クーベルにキャラウェイではないか!」

 

「お二人ともどうされたんですかー!?」

 

「頼みがあるのじゃー! この戦にウチも、パスティヤージュも参戦させて欲しいのじゃー!」

 

「パスティヤージュって、確か……」

 

「はい。ビスコッティ、ガレットとは隣国にあたる国です。そして、あの英雄王が召喚された国でもあります」

 

 

 二国と隣接するように存在するパスティヤージュ公国。この国はサラが述べたように、かつて大陸に平穏をもたらした英雄王発祥の地とされる国だ。今上空にいるクーベル・エッシェンバッハ・パスティヤージュは名前で分かるようにパスティヤージュの第一公女にして領主見習いであり、その英雄王の血を引く子孫でもある。領主としてはミルヒよりも幼いが、彼女同様、優秀な家臣の助けもあって安定して国を治めている。

 

 ――でも、どうして今になって参戦を?

 

 疑問を浮かべるサラの答えは、クーベルの口から出てきた。

 

 

「でもって、うちはその子を――レベッカをいただきに来たのじゃ!」

 

「「「……へ?」」」

 

「「「……はい?」」」

 

「「「……えええぇぇぇ――――――っ!?」」」




第71話、いかがでしたでしょうか?

次回から戦パートに入り、異世界混同チームがフロニャルドの陣営に喧嘩を売ります。
誰が誰と戦うのか、どうかご期待下さい。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。




追記

・その1
今月に入ってから艦これアーケードを始めてみました。
毎回2時間以上待ってのプレイですが、それなりに楽しくやってます。
しかし戦艦レシピで重巡どころか軽巡すら出ないとは……。少ない資材ぶっこんで建造結果が駆逐艦だった時のがっかり感は凄まじいです。
早く榛名をお迎えしたい……。

・その2
グラブルのSSを書き始めました。
現在2話目を書いていますが、5話くらい溜まったら新規投稿していこうと思います。
え? そんな暇あるならほかの作品を書けって?
そ、それはネタが浮かんだら……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第72話「結成、異世界混同チーム『クロノス』」

どうもこんにちわ、最近pixivでこの作品のマルチ投稿を始めた作者です。

さて、今回はいつもの半分ほどの文章量でお送りするため短めの内容となっています。
というのも最近忙しいくせにいろいろネタが混在してきてどの辺から手を付けていいか迷走しています。
一先ず今まで最低5000字ほどを目途にして投稿いたものを半分の2500字ほどに削減し、これなら最低限の区切りで投稿できると判断したものから投稿していこうかと思います。
これにより各作品のペースが少し上がる分内容が少ないという事態になると思いますが、ご了承ください。

それはともかく。本編第72話、どうぞご覧ください。


『さあ! お昼休みを挟んだところで、午後の部が開催です!』

 

『両軍とも布陣を敷きなおし、解説席の皆さんもここから戦参戦となります!』

 

 

 解説に回っていた騎士団長たちが加わり、ビスコッティとガレットの戦はここから総力戦となる。

 総大将であるミルヒとレオはそれぞれの本陣で指揮を執るため今は戦列に加わってはいないが、必要とあらばすぐ出られるよう傍らに武器を控えさせている。

 両軍の兵たちが今か今かと闘志を滾らせ、実況からの開始宣言を待つ。

 

 

『午後の決戦、間もなくかい――『その戦! ちょぉっと待ったぁ!!』』

 

 

 フランボワーズたちの声を遮り、新たな声が戦場に響く。

 一部の人間を除き誰もが何事かと思うと、空中ディスプレイがその主を映し出す。

 

 

『ウチじゃ! パスティヤージュ公国第一公女、クーベル・エッシェンバッハ・パスティヤージュじゃ!』

 

 

 予想だにしなかったもう一つの同盟国の出現にある人物は怪訝な声を上げ、ある人物は知り合いの登場に笑顔で答える。

 打ち合わせしたかのように落ち着いた様子でミルヒがマイクを握り、応対する。

 

 

『クー様。今日はどうなされたんですか?』

 

『どーしたもこーしたもないぞミルヒ姉! それにレオ姉もじゃ!』

 

『なんじゃ、ワシもか?』

 

『確かに我がパスティヤージュは戦興業がそんなに盛んな国ではないが、そっちだけで勇者とか呼んで内輪だけで大盛り上がりしているのはずるいのじゃ!』

 

『ふふ、混ざりたいのであらば最初からそう言えばよかろう』

 

『えーっと、混ざって頂くのは構わないんですが、ルールとか勝利条件とかはどうしましょう?』

 

 

 その質問を待っていたとばかりにクーベルはいたずらっ子のような笑みを浮かべ、自分の後ろにいた少女の姿を晒す。

 画面に現れたのは勇者であるシンクと七海の友達、レベッカだ。

 

 

『ウチの狙いはこの子じゃ! 異世界からの客人レベッカは、こちらで預からせてもらう! 返してほしくば、我がパスティヤージュが誇る飛空術騎士団40騎とエッシェンバッハ高速陸士隊150騎を突破して、ウチのところまで来るのじゃ!』

 

 

 いつの間にか用意されていた新たな装いの軍隊の出現に会場は盛り上がりを見せる。

 ビスコッティやガレットと比べれは数字の上では少々心許ないかもしれないが、制空権を独占していることを考えれば数の不利はあってないようなものだろう。

 

 

『ふむ。我がガレットとしては、パスティヤージュが参戦しようとビスコッティもろとも撃破するだけじゃが、うちの勇者はどうするかの?』

 

「私としては、レベッカさんを助けたいですが…勇者シンク、どうしましょう?」

 

 

 ここまで来ればよほど鈍い物でもない限りこれが仕組まれたものだと気づくだろう。事実、合点がいったダルキアンはなるほどと笑みをこぼし盛り上がる予感を感じてガウルは獰猛な笑みを浮かべた。

 そしてお膳立てが整い、改めてクーベルが問う。

 

 

『両軍勇者、返答やいかに!?』

 

『『――無論、受けて立つ!!』』

 

 

 

 

 

『よく言った! それでこそ勇者だ!』

 

 

 

 

 

 突如、また新しい声が戦場を駆け巡る。

 多くの兵が誰だとどよめき、聞き覚えのある声に一部の者はまさかと驚く。

 するとまた映像が切り替わって腕を組んだ仁王(ガイナ)立ちで不敵な笑みを浮かべる一人の男が、背後に14人ほどの武装した集団を従えている様子が映し出された。

 腕組を解いてマイクを握り、映像の男――尊は宣言する。

 

 

『だが、うまくいくと思わないことだ。お前たちの相手は二つだけではない。異世界の敷居を跨いで結成された俺たち『クロノス』が、この戦場をひっかき回させてもらう!』

 

「はぁ!? なんでなんミコ兄!」

 

「ひどーい! 私たちを裏切るんですかー!?」

 

「なんという鬼畜」

 

 

 彼に懐いていたジェノワーズが予想外の宣言にぶーぶーと文句を垂れ流すが、涼しい顔で尊は説明を始める。

 

 

『まあぶっちゃけてしまえば俺たちも戦に参加したいからなんだが、普通に参加するだけでは面白くない。だから俺たちはどこの陣営にも属さない第4勢力として乱入し、全ての陣営の目的を妨害するために行動させてもらう。ただし、俺たちはあくまで妨害を目的とした勢力だから撃破ポイントが加算されたりすることはなく、リザルト結果発表の時に順位がつけられることもない。だが逆に俺たちを撃破すれば特別ポイントを獲得することができ、しかもターゲットによっては総大将クラスのポイントを得ることもできる』

 

 

 そう告げる尊の隣にポイントが記されたボードが用意され、誰にどれだけのポイントが懸けられているかが記されていた。

 

  ロゥリィ …4000P

  エイラ …3500P

   尊  …3000P

   魔王  …3000P

  カエル …2800P

  クロノ …2800P

  ガイナー …2500P

  マシュー …2500P

 オルティー…2500P

   ロボ  …2500P

   サラ  …2000P

  ルッカ …2000P

  マール …2000P

  テュカ …1500P

  レレイ …1500P

 

 ずらっと並べられた配点に会場から歓声が上がり、戦場の兵たちは大量得点のチャンスにやる気を滾らせる。一番低いポイントでも親衛隊長以上の価値があり、一番高いロゥリィに至っては三国の総大将より高いポイントが懸けられている。これで盛り上がるなという方が無理な話だ。

 

 

『加えてこちらは紋章術以外に魔法という独自の技術を持っているが、攻撃魔法の一部は効果範囲が広く強力過ぎるためパワーバランスを保つべく使用しない。だが補助や威力の弱い魔法、紋章術に魔法以外の技術はどんどん使用していくので、舐めてかかると痛い目を見るぞ』

 

「ハッ! おもしれぇじゃねえか!」

 

『フフン、ウチの飛空術騎士団で叩きのめしてやるのじゃ!』

 

「相手がサラ殿であろうと、戦場では容赦はしないでござるよー」

 

『ええ、こちらも簡単に負ける気はありませんよ』

 

 

 各陣営からやる気に満ちた声が上がり開始前から会場のボルテージは最高潮を迎えようとしていた。選手や観客でこれなのだ。当然、実況者もその声に熱が篭る。

 

 

『これは、とんでもないことになってきました!』

 

『では! 各勢力代表の皆さんに開戦のコールをしていただきましょう!』

 

 

 フランボワーズの言葉を受け、まずクーベルが答える。

 

 

『此度の戦は、四勢力混成バトルロイヤル!』

 

『撃破ポイント総当たり戦! 勇者二人は、レベッカさんの奪還!』

 

『妨害者たちを退けて、その手に勝利を掴んで見せろ!』

 

『ファルネット湖水上戦、午後の部スペシャルマッチ!』

 

『『『『――開戦!!』』』』

 

 

 フロニャルド史上初の異世界勢力を含んだ戦が、ここに幕を開けた。




第72話、いかがでしたでしょうか?

一月以上も止めておいてこれだけかと思われるかもしれませんが、いろいろ事情が……。
次はもう少し早く投稿できるようにしようかと思います。
さて、次回はついにフロニャルド勢に対して異世界組を大暴れさせます。
誰と誰がぶつかるのか、妄想しつつ次回までお待ちください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第73話「大乱闘!スマッシュフロニャルド! その①」

どうもこんばんわ、最近かわぐちかいじ氏の作品『ジパング』を読破して何とも言えない気持ちになった作者です。

さて、今回から5話ほどカオスな戦を考えております。
それに伴いサブタイをどうしようかと考えたらこんなサブタイになってしまいましたが。
それはさておき、今回からフロニャルドの三国に尊たち異世界混同チーム『クロノス』がケンカを売っていきます。
また、尊たちが抱えたハンデはサンダガやアイスガと言った『全体魔法の禁止』だけですのでダークボムやメガトンボムと言った限定範囲技や魔法以外の全体攻撃は有効としています
。それを理解したうえで戦の展開をお楽しみください。

それでは本編第73話、どうぞご覧ください。


「先に行かせてもらうわよぉ!」

 

「エイラもいく!」

 

 

 開戦が宣言されると同時に飢えた狼の如くロゥリィが先陣を切り、エイラがそれに続く。進行方向からしてガレット陣営に突っ込んだみたいだが、二人のターゲットから考えて迂闊に近づくと間違いなく巻き添えを食うな。

 

 

「ねえねえ、どこから行く?」

 

「どこでもいいぞ。ロゥリィたちみたいに敵陣のど真ん中に突っ込んで特定の敵を目指して大暴れするもよし、無差別に部隊を襲撃して戦場を引っ掻き回すもよし。チームを組んでさっき渡したリストに書かれた人物を襲撃するのもアリだ」

 

 

 始まる前に渡した顔写真付きのリストには各陣営の主力が名を連ねており、ロゥリィはレオ閣下を、エイラはガウルに狙いを定めて突っ込んでいった。

 

 

「ミコトはどうするの?」

 

「俺はシンク…ビスコッティの勇者にケンカ売ってくる。前の戦じゃ決着つかなかったからな」

 

「私はビスコッティにいるという発明王と呼ばれている者に会ってみたい」

 

「ならレレイの護衛は俺が行こう。ちょうど、親衛隊長の少女と戦ってみたいと思っていたところだ」

 

「では、我らはこのジェノワーズという者たちと刃を交えて参ります」

 

「連携に長けた者同士、是非とも力比べをしたいですな」

 

「それに御館様とも顔見知りのようですので、是非ともここは我らに行かせてくだされ」

 

「おう。あいつらに力を見せつけて来い」

 

 

 レレイとカエルがリコとエクレを狙いに定め、ガイナーたちがジェノワーズを標的にして戦場に進攻する。他にも魔王が空の敵が鬱陶しいからと単騎でパスティヤージュの飛空術騎士団を落としに行き、クロノは七海に挑むようだ。

 残りの面々はギリギリまでサラから紋章術の扱いを教わるということなので、俺はベースジャバーを用意するとクロノを乗せて勇者たちを探しにフィールドへと繰り出した。

 さて、久しぶりに輝力の制約がない戦いだ。派手に行かせてもらおうか!

 

 

 

 

 

 

 まず戦況が動き出したのは滝エリアの広場だった。ビスコッティの騎士団長とガレットの騎士団長が春の戦以来の直接対決と相成り、彼らに追従していた騎士たちも両名の邪魔をしない位置で戦いを開始する。そこへ漁夫の利を狙うように姿を見せるは第3陣営、大型獣ブランシールを操るパスティヤージュの飛空術騎士団だった。

 

 

「晶術砲弾、ってぇー!!」

 

 

 隊長のリーシャ・アンローベの号令でパスティヤージュの騎士たちが手にした銃で地上の騎士たちを空襲。見た目はマスケット銃でありながら輝力の込められたパスティヤージュ独自の技術『晶術』の力によりホーミングレーザーを思わせるような軌道を描き、絨毯爆撃さながらの被害を地上軍に与えていく。

 

 

「ふむ。やはりパスティヤージュの飛空術士隊は厄介だな」

 

「確かに――ロラン。ここは戦列を維持するためにも共同戦線を張らないか?」

 

「その提案、ぜひ乗らせてもらおう」

 

 

 互いの利害が一致すると、二人は阿吽の呼吸で前衛後衛に分かれる。そこへ騎士団長が揃って固まっているのを好機と見たのか、飛空術士隊がロランたちに向けて晶術砲弾の集中砲火を放つ。

 

 

「ロラン!」

 

「任せろバナード! 『障壁陣』!」

 

 

 前に出たロランが盾を構えて紋章を発動。青白い光がドーム状に展開されると、空からの砲撃を完璧に抑え込む。しかも彼らの後ろに避難していた騎士たちにも全く被害が及んでいない。

 

 

「あーん! やっぱり硬い!」

 

『鉄壁のロランの代名詞! 防御の紋章術がパスティヤージュ飛空術士隊の攻撃を完璧に防ぎました!』

 

「今度はこちらからいかせてもらおう! 『天光破陣』!」

 

 

 ロランの後ろで輝力を溜めていたバナードが槍の先を空に向け紋章砲を解放する。凄まじい速さで飛来した紋章砲は飛空術士隊の陣形中央で爆発し、その戦力をごっそりと削り取る。

 

 

「うそぉー!?」

 

『決まったぁ―――! バナード将軍の長距離紋章砲が炸裂! ロラン団長が防御特化なら、将軍は攻撃特化と言ったところでしょうか!』

 

 

 攻撃の余波を受けてリーシャやだま化を逃れた騎士たちはそのまま方々へ墜落。これによりパスティヤージュは制空権というアドバンテージを失い、立て直しに時間がかかることになるだろう。

 しかし、それで制空権がフリーになったかと言えばそうでもない。

 

 

「ほう、あれが紋章砲というものか」

 

 

 新たに現れた声にロランたちの視線が空の一点に集中すると、そこには腕を組んで空に漂う一人の男がいた。

 

 

「ならば俺は、貴様らに魔法の力を見せてやろう」

 

「あれは、ミコト殿のところの!」

 

「まずい! 全隊、散開せよ!」

 

「遅い! 『ダークボム』!」

 

 

 魔王の指先から魔力の塊が撃ち出され、固まっていた騎士たちの後ろで闇色の爆炎となって炸裂する。

 ロランの防御に守られるために固まったのが仇となり、そこにいた騎士のほとんどが"けものだま"となって弾け飛ぶ。間一髪で逃れた両軍騎士団長だが、その炸裂範囲に冷や汗を流す。

 

 

「なんと強力な力だ…。もう少し反応が遅ければ、我々もただでは済まなかったな」

 

「これで力を制限しているというのだから、本気で来られたらひとたまりもないぞ」

 

「安心しろ、ルールには従うからこれ以上に強力な魔法は使わん。だが、俺の魔力は並外れているのでな。下級魔法でも貴様らを戦闘不能に追い込む自信があるぞ」

 

「なるほど、それは怖い――バナード」

 

「わかっている。共同戦線は続行だ」

 

 

 二人は改めて武器を構えなおし、自分たちを見下ろす新たな敵に立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

 騎士団長たちと魔王が戦闘に入った頃、最初から共闘態勢を結んだジェノワーズとエクレール、そしてリコッタの一行は自軍の兵たちに道を作るべくパスティヤージュの地上部隊攻略に乗り出していた。しかしここでも晶術を用いた精密射撃隊が立ちはだかり、彼女たちの進行を妨げていた。

 

 

「くっ、さすが技術大国パスティヤージュの晶術隊。易々と行かせてはくれないか」

 

「しかも弧を描くように広がっているので一点を撃破しても突破はまだ困難でありますよ」

 

「せやなぁ……。せめて真横に広がてくれとったら射角を利用できんねんけどな」

 

「お兄さんの陣営の誰かが乱入してくれたら戦況が楽になるかもしれない」

 

「ノワ、そんな都合の良い展開が起こるわけ――」

 

 

 

斬ッ!!

 

 

 

 ベールが言いかけたところで突然精密射撃隊の真横から弧を描くかまいたちが三つ飛来し、陣形を文字通りズタズタに切り裂きながら大量の"けものだま"を生産する。

 この状況を作った張本人たちは、逃げも隠れもせず堂々とやってきた。

 

 

「……前から思っていたんだが、お前たちのそのかまいたちは反則級だな」

 

「御館様も仰っておりました。おなじかまいたちでもクロノ殿やソイソー殿のものとは性能がかけ離れていると」

 

「剣速だけでかまいたちを発生させるのもなかなか理不尽。亜神なら出来るかもしれないけど、普通の人間には無理」

 

「しかしレレイ殿、イタミ殿の勧めてくださった映像では三方向から全くの同時に斬撃を放つ剣士がおりましたぞ」

 

「うむ。我らでもまだ二方向からほぼ同時に発生させるくらいしかできておりませぬが、彼も技量を積んでそれを可能にしたと言います」

 

「……ミコトが言っていたが、あれは作り話の技だそうだぞ」

 

「けどイタミたちからすれば、私やミコトたちの魔法も作り話の技らしい」

 

「ほう。レレイ殿の話を当てはめれば、我らが会得しようとしている技も別の世界で存在しているのかもしれんな」

 

「ならばやはり剣を極めれば作り話の技も実現できるかもしれんな」

 

「うむ、イタミ殿から借りた本にもあったな。諦めたらそこで試合終了だと」

 

「いかん、こいつらイタミに毒されてきている」

 

 

 騒がしく現れたレレイ、カエル、デナドロ三人集にエクレールたちは暫し呆然とする。そこで不意に、ノワールが呟く。

 

 

「……都合のいい展開、起きた」

 

「……起きたなぁ」

 

「……起きたのであります」

 

 

 戦開始から半刻。状況は徐々に動き出していた。




本編第73話、いかがでしたでしょうか?

伊丹の布教効果で三人集がさらにバグ化していきます。Jumper -IN CHRONO TRIGGER-で初めて導入した時はここまでバグらせるつもりはなかったのにどうしてこうなった……。
それはさておき、次回からサラたちも行動を開始します。
今のところパスティヤージュ勢がぼこぼこにされていますが、ベッキー参戦あたりからマシになるはず……。

ともあれ、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第74話「大乱闘!スマッシュフロニャルド! その②」

どうもこんばんわ、仕事に加え某ガンダムグループのオフ会や止めていたスパロボ天獄篇の攻略再開、突発的に思いついた新しい作品のネタまとめなどに着手していたら執筆が止まってしまっていた作者です。

さて、今回も引き続きフロニャルド勢VS異世界混同チーム『クロノス』となります。
今回は中央バトルフィールドでの戦いが中心になっていますが、依然と比べ執筆量が低下しているため短めの内容となっています。

それでは本編第74話、どうぞご覧ください。


 ビスコッティとガレットの騎士団長が魔王と。ジェノワーズとエクレ、リコのグループが三人集と会敵したころ、中央バトルフィールドでも新しい動きがあった。

 

 

「本来なら貴様とやり合いたかったのだがな」

 

「なに、共闘というのも面白いでござるよ」

 

 

 あまり残念そうなそぶりを見せないレオに陽気な返事をするダルキアン。ビスコッティとガレットのそれぞれで最強の異名を持つ二人がタッグを組むという、並の兵が見ればとんずらをこいてしまいたくなるコンビが爆誕していた。なおそれぞれのお供は二人のフォローに徹するのを決め込み、のんびりとした様子で追従している。

 

 

『これはパスティヤージュ大ピンチです! 他のエリアでも騎士たちが押し込まれているとの情報もありますので、このまま一気に畳みかけられるのでしょうか!?』

 

「ぬぐぅ…予想していたとはいえ、実際に手を組まれるとなかなかに絶望的じゃの」

 

「ですねぇ……」

 

 

 考えてはいたが一番流れてほしくない実況にクーベルは苦々しく呟き、レベッカもそれに同意して他の戦況を見渡す。

 勇者二人はパスティヤージュ晶術騎士団の一員であり、エッシェンバッハ騎士団指揮隊長のキャラウェイ・リスレの足止めで先に進めないでいるが、先ほど七海がシンクのレクチャーを受けて輝力武装を会得した。作ったばかりの武装だが師弟ということで連携もなかなかであり均衡が破れるのも時間の問題だ。

 

 

「ここはやはり、レベッカに出てもらう必要があると思うのじゃが」

 

「あ、あの。さっきもいいましたけど私、シンクや七海みたいに戦ったりは――『みぃぃつけたぁ!!』――はわっ!?」「なんじゃ!?」

 

 

 突如聞こえた歓喜の叫びに驚き、二人して映像盤に目を向ける。

 そこには最強コンビを前にして、逃げるどころか喜々として突っ込む黒き亜神の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「あっはははははは! さあ、思う存分戦いましょぉ!」

 

「ほう! やはり来られたか、ロゥリィ殿!」

 

「面白い! ダルキアン、ビオレ、手を出すでないぞ!」

 

 

 愉悦の表情でハルバードを振り回しながら向かってくるロゥリィに対し、レオはドーマから飛び降りるとガレットの宝剣である魔戦斧グランヴェールを取り出して真っ向から迎撃する。シンクと七海がぶつかった時以上の衝撃波が辺りに走り、その凄まじい迫力に歓声が上がった。二合、三合と打ち合いつつも互いに一歩も退かず、剣戟は激しさを増すばかりだ。

 

 

「うふふ、いいわぁ! いいわよぉ! 私と一騎打ちでまともに()り合える相手は本当に久しぶりだわぁ!」

 

「伊達に天下無双と呼ばれておらんのでな! まだまだこれからですぞ!」

 

「上等ぉ!」

 

 

ガギィ! バゴォ! ズガァン! ドゴォーン!

 

 

『す、凄まじい攻防です! お二人の戦いで中央バトルフィールドがまるで粘土細工のように形を変えていきます!』

 

『今あのお二人に近づくのは大っ変危険です! 一般兵の皆さんは別ルートからの進行をお勧めしまーす!』

 

「……やべぇ、あの二人がぶつかったらすごいことになるとは予想してたけど、台風が爆弾バラ撒いてるみたいだ」

 

「ち、地形が変わってますけど、大丈夫なんですか?」

 

「俺の目にはそんなの映ってない。だから知らん」

 

 

 必死さが伝わってくる実況を耳にしながら何も見なかったようにする尊に倣い、クロノもあの二人の戦いに関してはもう何も言わないことにした。

 さて、二人が現実逃避をしている一方。レオとロゥリィに置いてけぼりを喰らったダルキアンたちはどう進行するべきか思案していた。

 

 

「このまま兵を率いて中央を突破するのは無理ですね。間違いなくレオ様とロゥリィ様の巻き添えを受けてしまいますから」

 

「しかし、これだけの人数を連れてパスティヤージュ陣営を攻めるとなると、必然的に遠回りになってしまうでござるよ」

 

「ふむ。拙者とユキカゼ、それにビオレ殿のみであれば突破できなくないが…それでも覚悟する必要がありそうでござるな」

 

 

 何せ目まぐるしい動きで天災の如くフィールドの形を変えながら戦う二人の側を通るのだ。それなりの対策を講じていかなければあっという間に巻き込まれるだろう。

 

 

「――仕方ない。ここは遠回りをしてでも部隊を動かして――む!?」

 

 

 時間制限もあるのであまり悠長にはしていられないとダルキアンが決断を下そうとしたところで、突如後方から輝力による矢と光弾の雨が飛来する。

 咄嗟に三人が輝力を発動して迎撃することであらかた撃ち落とすことに成功するが、輝力とはまた別の丸い物体がいくつか兵たちの足元に転がる。直後――

 

ドドドォーン!!

 

 丸い物体――メガトンボムが盛大に爆発しダルキアンたちが率いてきた兵の半数以上が"けものだま"になった。

 

 

「ロボ、突撃!」

 

「了解デス!」

 

 

 新たに現れたのは黄色い装甲を持つロボとそれに乗ったルッカ、そして二人の後方で輝力の矢を番えるマールとテュカの一行だった。

 

 

「マール!」

 

「うん! せぇの!」

 

 

 ロボたちの進行をサポートするようにテュカたちが覚えたての紋章術を解放する。山なりに放たれた光の矢は頂点に達すると無数に分裂し、攻撃範囲を点から面にしてダルキアンたちの元へ殺到した。これに対し攻撃を受けた三人は残りの兵たちの前に出るなり、それぞれ輝力を解放して迎え撃つ。

 

 

「近衛騎士団流紋章剣! 『裂空連斬』!」

 

「ユキカゼ式忍術! 『閃華烈風』!」

 

「『裂空一文字』!」

 

 

 ビオレが二本の剣を振るって輝力の斬撃を三連射。ユキカゼが輝力で作られた大型手裏剣を投擲。そしてダルキアンが居合い抜きの要領でシンクや尊が使うものとは比べ物にならない『裂空一文字』を空に走らせる。

 降り注ぐ矢雨を全て相殺し、続いて三人は正面からくる二人に目を向け――驚愕した。

 

 

「オオオォォォォォォッ!!」

 

 

 紅蓮の炎に包まれたロボが全速力で迫っていた。

 

 

「なんですとぉ!?」「なんですかそれぇ!?」「これは予想できなかったでござるなぁ……」

 

「いっけぇーっ! 『ファイガタァーックル』!!」

 

 

 途中で降りていたルッカの号令とともにロボが突っ込む。ダルキアンたちは驚きつつもこれを回避するが、その先には彼女たちが庇った兵たちが残っており、ロボは問答無用でその集団に吶喊した。

 

 

「ぬわーーー!!」「ひえーーー!!」「サヨナラー!!」「サラダバー!!」

 

 

 燃え盛るロボに跳ね飛ばされながら兵たちは次々と姿を変え、避け切った三人を除いて全員が"けものだま"の山を築いた。

 阿鼻叫喚の光景にダルキアンたちは冷や汗や苦笑いを浮かべ、挟まれる形でルッカたちと対峙する。

 

 

「今の攻撃は驚いたでござるよ。まさか火だるまになって突撃して来ようとは」

 

「私たちはミコトさんやロゥリィたちと違って力がないもの。だったら足りない分は奇策とコンビネーションで差を埋めるしかないわ」

 

「なるほど。自分たちより強い相手に挑む鉄則ですね」

 

「御館様。いかがいたしましょう」

 

「ふむ、そうでござるな……」

 

 

 ユキカゼの問いに余裕をもって思考し、ダルキアンは笑みを浮かべる。

 

 

「とりあえず、おとなしくやられるつもりはないでござるよ。ならば、やるべきことは一つにござる」

 

 

 その言葉にユキカゼとビオレも笑みを浮かべ、各々の武器を構える。

 それを見てルッカたちも臨戦態勢を取り、出方を伺う。

 

 

「ここでリタイアしていただき、我らのために撃破ポイントを残してもらうでござるよ」

 

「あら、簡単に行くかしら?」

 

「連携したら、私たちだって十分強いんだから」

 

「精霊の力を借りた矢除けの加護もあるわよ。だからさっきの技はこっちには通用しないわ」

 

「ワタシにダケ通用するルールの抜け穴もアルとミコトさんが言っていマシタ。ソレもジュウブン活用させてもらいマス」

 

「結構。 では尋常に――」

 

「「「勝負ッ!!」」」

 

 

 中央バトルフィールドが、混沌の時間帯へと突入した。




本編第74話、いかがでしたでしょうか?

今回ビオレさんには作者が考えた紋章剣を使ってもらいました。ネタがなかったもので……。
次回はガウルVSエイラ、勇者二人VS尊&クロノを予定しています。
色々と忙しいため次回の投稿がいつになるかわかりませんが、エタるつもりはないのでどうか最後までお付き合いください。

また、前書きでお話しした突発的に思いついた新しい作品のネタについて活動報告の方に内容を書き溜めていますので、気になる方はそちらもどうぞ。
さらに、時間を見てこの作品の小ネタをまとめたものを章ごとに活動報告にあげていこうと思います。
現在「クロノトリガー編 第1章」分を掲載していますので、気紛れにご覧ください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第75話「大乱闘!スマッシュフロニャルド! その③」

どうもお久しぶりです、約4か月ぶりの投稿となった作者です。
前回の投稿から今日までブラックどころかダークネスな仕事を辞めるために奔走したり、身内の入院転院に付き添ったりでバタバタしてたらこんなに時間が開いてしまいました。

さて、今回も引き続きバトルロイヤル戦です。
なかなか筆が乗らなかったこともあってちょっと書いては止まってを繰り返したためキャラが不安定に感じるかもしれませんが、ご容赦ください。

それでは本編第75話、どうぞご覧ください。


 並の兵が迷い込めば即座に"けものだま"となってリタイアするのが目に見えるほど苛烈な戦場へと変貌した中央バトルフィールド。そことはまた違う場所でも、普通の兵士が手を出せない戦いが繰り広げられていた。

 一方は雷の爪を展開し、もう一方は素手のみで打ち合っている。激しい打撃音から並ではない威力であるのが想像できるが、二人の勢いは留まることを知らない。

 

 

「おまえ、強い! 強いやつ、エイラすき!」

 

「はははっ! そりゃオレのセリフだ! ミコトにゃ悪いが、アンタの方がずっとつええ!」

 

 

 ガレット獅子団領の王子にしてレオの実弟であるガウルが、輝力武装の獅子王双牙を展開して生身のエイラと激突する。

 彼に同行していたゴドウィンも主であるガウルの命で下がっているものの、その目まぐるしい攻防に手を出そうなどとは思わなかった。何よりガウルがシンクと戦っているときのように実に楽しそうなのだ。これを邪魔するなど家臣としても武人としてもできることではない。

 

 

「いくぜぇ! 『獅子王爪牙 爆雷斬り』!」

 

 

 両手に纏わせた獅子王双牙に輝力を流し込み帯電を大きくしたガウルがエイラに切りかかる。それに対してエイラは――

 

 

「がうっ!」

 

「なに!? ――ぐふぉ!」

 

 

 電気を纏っているその手をがっしりと受け止め、そのままガウルの腹に蹴りを叩き込む!

 実はエイラ、クロノとの連携技で雷を受けることが多かったため、生身でありながら雷や電気に対して体質ができていたのだ。そのためガウルの雷撃は少し痺れるが耐えられないほどではない結果となった。

 それを知らないガウルはまさか攻撃を真っ向から受けるとは思っても見なかったためまともに攻撃を受けてしまい、後方へと吹っ飛ばされる。

 主君に打ち込まれた一撃を見て周りの兵からどよめきが、映像を見ていた客からは大技を押し返したことに大きな歓声が上がる。

 

 

「いってて…マジでつええな、燃えてきた!」

 

「こい! エイラ、負けない!」

 

「そりゃオレのセリフだ! うおおおおお!!」

 

 

 やられても笑みを浮かべ、闘志を滾らせるガウルは獅子王双牙の具合を確かめて再度突撃し、エイラもそれを正面から迎え撃つ。重い打撃音が響き、戦いはますますヒートアップしていく。

 

 

「いやぁ、殿下が楽しそうで何よりだな」

 

「将軍、我々はいかがしましょう?」

 

「決まっておろう――殿下の戦いに水を差そうとする連中を抑えるだけのことよ」

 

 

 問いかけた騎士にそう返しながらゴドウィンは斧と鉄球を構え、別方向から進攻してくるビスコッティ、パスティヤージュの部隊へ突撃をかけた。

 そして水上エリアでは、勇者二人が空を舞うエッシェンバッハ騎士団指揮隊長を墜とさんと、壮絶な空中戦を繰り広げていた。

 滑空ボードトルネイダーを操るシンクが勢いよく空を舞いつつ、輝力の遠距離攻撃でブランシールを駆るキャラウェイを追い込む。その行き先からスケート靴の様な輝力武装で水上を自在に駆け抜ける七海が挟み込み、エクスマキナを振るう。迎撃が間に合わないと悟るや否や、キャラウェイは片手でブランシールの手綱をしっかりと握りつつ剣を握る手で突き出されるエクスマキナを受け流す。

 ギャリッと耳障りな音と共に七海の軌道を逸らすことに成功し、ブランシールは一気に彼女の脇を抜ける。攻撃を外された七海は続いて迫ってきたシンクのトルネイダーに着地し、改めて追撃する。

 

 

「キャラウェイさん、強いというよりうまいね」

 

「うん。さっき受け流されたのも最初は行けると思ったんだけどね」

 

 

 指揮隊長の肩書は伊達ではないということを実感していると、シンクの視界にこちらへ接近するものが見えた。

 パスティヤージュの増援かと思い目を凝らすが、迫ってくるのは早期奪還を優先しなければならない現状ではあまりにも厄介な存在だった。

 

 

「Ya――――――Ha――――――ッ!!」

 

「ミコトさん…吹っ切れてるなぁ……」

 

 

 異常なテンションでベースジャバーから跳躍した尊が弾丸の如くシンクたちへ強襲を仕掛ける。彼に同行していたクロノもそのハイテンションに若干引きつつベースジャバーから跳躍し、先ほどシンクたちが仕留め損ねたキャラウェイに向けて牽制のかまいたちを放つ。三人集の放つ弧を描くようなものではない線の斬撃がブランシールを襲うが、キャラウェイは冷静に回避して尊とシンクたち両方を相手とれる場所で滞空する。

 一方、シンクたちに突っ込んだ尊はサテライトエッジのブラスターでトルネイダーを狙いエネルギーを開放。このままでは迫る光弾を避けきれないと判断したシンクは七海とともにトルネイダーを捨ててすぐ下の足場に飛び降りた。それも織り込み済みだった尊はサテライトエッジをボウに変形させると同時に輝力を発動し、春の魔物騒動以来の技となる『ブレイクショット』を下に逃げたばかりのシンクたちへ放つ。

 

 

「ディフェンダー!」

 

 

 一本から無数に分裂し、雨のように降り注ぐ輝力の矢に対してシンクも巨大な盾を輝力で召喚すると傘のように掲げる。ガガガガッと耳障りな音が響くも数秒ほどで収まり、二人は離れた足場に降り立った尊へと向き直る。

 

 

「そうだ、そうじゃないと面白くない! いくぞシンク! エクレールはいないが春の戦いの決着、ここでつけさせてもらう!」

 

「望むところです! うおおおおッ!」

 

 

 同時に足場を蹴った瞬間、フィールド上でサテライトエッジとパラディオンが激しく打ち付けられる。一瞬だけ拮抗すると尊は体格差を利用して押し崩そうとするが、春の戦いで得た教訓からシンクは真っ向から受けようとせず、パラディオンに込めた力を意図的に緩めることでサテライトエッジの攻撃を受け流す。

 相手の体勢を若干崩せたのを見るなり、シンクは受け流した勢いを利用してそのまま側頭部を狙う。一方受け流された時点でそこへの攻撃の可能性に至ったのか、尊もすぐに腕を掲げて攻撃を防ぐ。パラディオンの柄を受け止めたことでびりびりと衝撃が伝わるが、彼の口元には楽しそうな笑みが浮かんだ。

 パラディオンごとシンクを蹴り飛ばして足場に着地し、サテライトエッジをハルバードからツインソードに切り替え再度突っ込む。

 

 

「オラァ!」

 

「なんのぉ!」

 

 

 飛ばされたシンクもまた着地するなりパラディオンを分割し、ロッドから双短槍に変形させると真っ向から迎え撃つ。

 

 

「魔法は使わないんですか、尊さん!」

 

「せっかくの一騎打ちだ! 同じ条件で戦ったほうが面白いだろ!」

 

「じゃあ思わず使わせてしまうまで追い詰めさせてもらいます!」

 

「言ったなこいつ!」

 

 

 二人は自分たちの戦いに没頭し、足場の悪いフィールドを互いに輝力武装などで補いながら縦横無尽に駆け巡る。

 そんな彼らとはまた別に、同じフィールドにいた三人もそれぞれ戦いを始めていた。

 

 

「はあっ!」

 

「ふっ! セイッ!」

 

 

 七海の繰り出すエクスマキナの突きを回避し、愛刀『虹』で反撃をするクロノ。

 その瞬間を隙と見たのか、上空からブランシールを操りながらキャラウェイが紋章術を放つ。横やりを察知して二人同時にその場から離脱し、お返しとばかりに紋章砲や魔法をお見舞いする。紋章砲は回避できたがサンダーがブランシールの翼に直撃したことで飛行困難となり墜落。キャラウェイは落下中にどうにか足場に退避できたが、アドバンテージであった制空権を喪失する結果となった。

 

 

「流石ガレットの勇者様に異世界の戦士殿ですね。まさか、自慢の空中戦から引き釣り降ろされるとは思いもしませんでした」

 

「悪いね。元いた世界じゃ空飛ぶ魔物がいっぱいいたから、上から攻撃されるのは慣れっこなんだ」

 

「なるほど…ですが、私にもエッシェンバッハ騎士団指揮隊長の意地があります。地上に落とされたからと言って、簡単にやられるつもりはありませんよ」

 

「ふふん、そうこなくっちゃ。けど、最後に勝つのはあたしです!」

 

「いや、俺だね!」

 

 

 七海の宣言に負けじと主張するクロノ。三人のにらみ合いが発生するが、膠着状態はそう長くは続かなかった。

 

 

『――はーっはっはっは! 残念じゃったな勇者たち! タイムアウトじゃ!』

 

 

 戦場に響いた力強い放送により――一部を除いて――各所で戦いの手が止まる。

 見上げた空中ディスプレイには先ほどの放送の主、クーベルの姿が映し出された。

 

 

『我がパスティヤージュの秘密兵器が、今ここに爆誕じゃー!』

 

 

 大げさなクーベルの動きに合わせてカメラが動き、緊張した面持ちのレベッカが映し出される。

 その映像を見てミルヒやサラはまさかと期待に満ちたまなざしを送り、映像を見守る兵士たちも彼女がどうなるのかと固唾を飲んで見守る。

 やがてカメラの向こうで何かやり取りがあったのか、レベッカは小さくうなづくと右手の人差し指に嵌めた指輪を眼前に突き出し、そのまま頭上へと掲げた。

 

 

『――装着!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...カァーッ…カァーッ……

 

 

 ……しかし彼女の宣言とは裏腹に何も起こらず、上空のカラスの鳴き声だけが虚しく響く。

 

 

『……あ、あれ?』

 

 

 レベッカも不発かと思い指輪を目の前に持ってくると、突然指輪から強い光が迸った。

 光はレベッカの右手を包み込むように広がり、やがて体まで包み込むと彼女を体ごと上空へと持ち上げた。

 やがてひと際強い光が弾け、中から黄色と白を基調にした服を纏ったレベッカが宙に浮く箒に乗って現れた。

 

 

『だーっはっはっは! みさらせ! これがウチの――パスティヤージュの飛翔系勇者、レベッカじゃ!』

 

 

 クーベルの宣言とともに、バトルロイヤルは中盤戦へと推移する。




本編75話、いかがでしたでしょうか?

アニメでも話題になったベッキーの変身シーンですが、改めて見直しても少々文に起こしにくかったためカットしました。
また、どこかの回でも宣言したかもしれませんが本作はラストのプロットまで完成しているので、時間をかけて完結を目指すことは確定しています。
しかし依然と比べ時間に余裕ができたとはいえ、執筆速度は相変わらず不安定なものになると予想されますが、どうかご容赦を。
さて、次回はまたほかの戦域でどうなっていくのかを書いていきます。予定ではあと4話ほどでバトルロイヤルが終了し、ちょっと休憩回を挟んでオリジナル展開に進む予定となっています。
しかしそこにたどり着くのはいつ頃になるのだろうか……。

それはさておき、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第76話「大乱闘!スマッシュフロニャルド! その④」

どうもこんにちわ、鉄血第38話のアトラに度肝を抜かれた作者です。

さて、今回はジェノワーズ、エクレ、リコに戦いを挑む三人集、カエル、レレイの話となります。
しかしこの戦パートからとっとと抜け出したいという気持ちが筆に表れているのか、後半に移るにつれ雑く感じられます。

四苦八苦しながらの執筆ですが、とりあえず本編第76話、どうぞご覧ください。


 レベッカが飛翔系勇者としてパスティヤージュ陣営に参戦する少し前。ジェノワーズとエクレール、リコッタの共闘グループは新たに現れた陣営から足止めを食らっただけでなく、予想以上の劣勢を強いられていた。

 必死に引き離して体勢を立て直そうとするジェノワーズを猛追し攻勢にでることすら許さないデナドロ三人集。ビスコッティ騎士団親衛隊長のエクレールを稽古でもつけるかのように抑え込むカエル。そして意外にも――リコッタが相手とはいえ――自らが使う魔法とここに来て新たに学んだ輝力を駆使して善戦するレレイ。

 嘗めてかかったつもりはない彼女たちだが、これは明らかに想定以上の苦戦だった。

 

 

「やめてー! こないでー!」

 

「なんなんあの三人組! なんでウチらばっか狙うん!?」

 

「同じ三人組だから?」

 

 

 飛来する斬撃や詰められた瞬間ほぼ同時に飛んでくる多方向からの斬撃に晒されるジェノワーズだが、ここまでいずれも持ち前の連携力と神がかった反応でどうにか回避している。その様子からなかなか骨があるとみているのか、彼女たちを襲撃する三人はさらにギアを上げる。

 

 

「さすが御館様と轡を並べたという者たちだ。未だに有効打を与えられん」

 

「マシュー、オルティー。イタミ殿に見せていただいたアレで一点突破を図るのはどうだ?」

 

「ほう、アレか。確かに、実戦で試すにはちょうど良い機会だな」

 

「ならば狙うは前衛の虎の少女だな!」

 

 

 狙いをジョーヌに定めた三人は重なるように一列に並び、まず先頭のガイナーが一気に踏み込むと同時に真っ向から切りかかる。

 

 

「! やばっ!」

 

 

 切り込みの速さから直感的に回避が間に合わないと感じとっさに手持ちの武器でそれを防いだジョーヌだが、その瞬間ガイナーの後ろからマシューが飛び出しかまいたちを放つ。

 

 

「二段構え!?」

 

「させない!」

 

 

 輝力で強化した短剣でノワールが割って入りかまいたちを受け止める。しかしそこへ『燕』を水平に構えていたオルティーがガイナーの肩を足場にして最後の一撃を放たんとジョーヌに狙いを定める。

 

 

「秘剣――」

 

「やらせません!」

 

 

 タッチの差で後方から放たれたベールの紋章術が三人集に襲い掛かり、ガイナーたちは連携が失敗したと悟るや否やすぐに紋章術の範囲外まで後退する。

 

 

「ぬぅ、踏み台にはされなかったがジェットストリームアタックを破られるとは」

 

「速さが足りなかったか。我らもまだ未熟だな」

 

「しかしコツは掴んだ。もう少し鍛錬を重ねれば確実に仕留められるようになるだろう」

 

「うむ。一先ず彼女らに一人一撃で掛かるぞ!」

 

「「応っ!」」

 

「嘘でしょ!?」

 

「来んな! もう来んでええからな!」

 

「鬼! 悪魔!」

 

 

 ジェノワーズが心の底から交戦を拒否するが、三人集は得物を構え直しそれぞれでターゲットを絞る。そんな攻撃をなんだかんだ文句を垂れながらも火事場の底力でどうにか凌いでいるあたり、彼女たちも潜在能力は高いだろう。

 そこから少し離れた場所では何度も双剣を振うエクレールがいたが、彼女を相手にしているカエルは涼しい顔でグランドリオンを操りすべてをいなす。

 

 

「筋も早さも悪くない。その若さで親衛隊長というのも、まあ納得できる…が、技量もまだ甘く純粋な力が足りん。この世界では輝力というものの補助が大きいようだが、それに頼ってばかりでは肝心な時に押し返されるぞ」

 

「は、はい!」

 

「よし。――さっきも言ったが筋がいい。腕力が弱いから鍔迫り合いになったとき押し切られることが多いかもしれないが、受け流す技術を磨けばそれも補える。そして受け流して相手の体勢を崩せば今度は自分にとって好機になる。これくらいは理解できるな?」

 

「はい」

 

「では輝力に頼らずできるだけ受け流すことを意識して俺の攻撃を捌いてみせろ。 いくぞ!」

 

 

 完全に稽古をつける側とつけられる側になった二人。エクレールは純粋にカエルの剣技が参考になるものが多く自然と学ぶことに力が入り、カエルから見ても彼女は将来有望な騎士になると感じられつい教えることに熱が入っていった。

 そんな二人からさらに離れた場所では近接戦闘が目立つ二組と打って変わり、派手な光弾と音が響く射撃戦が繰り広げられていた。

 大きな威力はないが相手をのけぞらせることくらいはできる魔法と、開始前に覚えた――その割にはレオやミルヒからみても非常に精度が高い――紋章砲を伊丹が見ていたアニメから参考して自前の杖で収束させリリカルめいた砲撃と弾幕を形成するレレイ。相対するは自らが作成した武器と発明品で同じく弾幕を形成することで対抗するリコッタ。

 カラフルな輝力が飛び交うため一見花火の打ち合いのようにも見えるが、伊丹がいれば無限の剣製か王の財宝のみたいだとのコメントがもらえるだろう。

 

 

「当てるであります!」

 

「迎え撃つ……!」

 

 

 マントに隠していた複数の砲台を展開し、手にした二丁の銃に輝力を送り込みどこぞのガンダムのようにフルバーストするリコッタ。これに対しレレイは杖の先端に輝力を集中させることで威力を限界まで高め、真っ向から迎撃する。二人の中間点あたりで衝突した輝力は大爆発を起こし、大量の粉塵を巻き上げて両者の視界を奪う。

 

 

「――――っ!」

 

 

 視界が遮られる直前に見た相手の位置を推定し、レレイは研究中の魔法を展開すると自身が行える最速で射出する。

 

 

キュパァン!

 

 

「ひゃわ!?」

 

 

 砂埃の向こうから何かが飛び出すと同時に強い光と音が鳴り、リコッタは思わず体を硬直させる。声が上がったことで位置を特定したレレイはさらなる追撃として輝力のスフィアを形成すると一点に向けて斉射した。

 しかしリコッタも伊達に場数をこなしていない。直ぐにその場から移動することで現在地を悟らせないようにしつつ再び銃を構え、威力任せに砂埃を払う。視界が良好になり、リコッタは興奮気味に尋ねる。

 

 

「すごいであります! さっきの光と音は何でありますか!?」

 

「研究中の爆轟の魔法。でも速度もなく本当に音と光が一瞬だけ展開されるだけ」

 

「なるほど、そんな技術があるとは……! やっぱり世界は広いであります!」

 

「こちらにしてもこの輝力という力は興味深い。戦が終わったらいろいろ教えてほしい」

 

「任せるでありますよ! しかしながら、今は敵同士。ここは勝たせてもらうであります!」

 

 

 ジャカッと銃を構えて臨戦態勢に入ったリコッタを見てレレイも杖を構える。

 

 

ズドゴオォォンッ!!

 

 

「はうあ!?」

 

「何事!?」

 

 

 突如、凄まじい衝撃と轟音がフィールドを穿った。その場にいた全員が思わず顔を向けると、発信源から二つの影が飛び出した。

 

 

「そらそらそらそらそらぁ!」

 

「無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!」

 

「「「レオ様!?」」」「「「ロゥリィ殿!?」

 

 

 まるで誇り高き血統の一族と闇の帝王の対決のようなセリフを発しながら中央フィールドで戦っていたはずのロゥリィとレオが互いの戦斧を叩きつけるように振るい、一進一退の激しい攻防を繰り広げていた。

 予想外の介入に思わず攻撃を止めてしまった三人集。これを千載一遇の好機と本能で悟ったジェノワーズはすぐさまその場から離脱。ガイナーたちの攻撃範囲外にまで後退することに成功した。

 

 

「エクレ! リコ! 下がるなら今のうちだよ!」

 

「うちらは先に行かせてもらうで! こいつらとはまともにやりたないからな!」

 

「二人とも急いで急いで!」

 

 

 脱兎という言葉が似合うほどの速さでジェノワーズがガレット陣営へと撤退していき、エクレールとリコッタも災害のように暴れまわるロゥリィたちを見て「確かに」とわずかながら冷や汗を流す。

 

 

「仕方ない。カエル殿、ここは失礼させていただきます」

 

「いや、俺も楽しかった。また機会があればいろいろ教えてやる」

 

「ありがとうございます。 リコ!」

 

「はいであります! ではレレイ様、自分は失礼させてもらうであります」

 

「レレイでいい。それよりさっきの話、ルッカも交えて是非お願いしたい」

 

「了解であります!」

 

 

 自分たちが乗ってきたセルクルに乗ってエクレールたちも後退をはじめ、残ったカエルたちはレオたちの闘争に巻き込まれない場所まで移動して次の行動を決める。

 

 

「我らはこのままガレット側に進攻し、ジェノワーズの追撃にあたろうかと思います」

 

「私はテュカたちに合流しようかと思う。あそこが一番無難そうだから」

 

「ならば俺が護衛につこう。それに中央フィールドには強者(つわもの)がいるらしいからな。今度は自分の実力を測ってみたい」

 

「承知しました。では、ご武運を」

 

 

 完全撃破しか眼中にない三人集は撤退したジェノワーズにとどめを刺すべくガレット陣営を目指し、残された二人は別のフィールドの仲間と合流すべく移動を開始した。

 

 

 

 ――極悪な台風が通った後のような惨事の道を(しるべ)としながら。




本編第76話、いかがでしたでしょうか。

三人集はジェノワーズに対抗意識を燃やし、カエルは若手を育てる教官になり、レレイはルッカを交えての技術交流を提案しました。
これがどう転ぶかは今後の展開にご期待ください。(特に最後

それでは、今回はこのあたりで。
おそらくこれが今年最後の投稿になると思いますが、来年もよろしくお願いします。
では、また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

超番外編「裏話」

「どうもこんにちわ、作者の明石明です。突然ですが今回は本編から外れてこの『Jumper -世界のゲートを開く者-』の裏話を展開していこうかと思います」

 

「本当に突然だな。というかなんだこの書き方?」

 

「自分的にはラジオ風に書いてるつもりです。そんな理由から今回は会話文のみの展開となります。一応誰がしゃべってるのか名前振ってるので混乱することはないかと」

 

「それも理解した。 ――で? こんな企画に踏み切った最大の理由は?」

 

「……ほ、本編の執筆が進んでないから投稿できてない分の埋め合わせ……」

 

「(最新話チェック中)……なるほど、俺以外のメンバーのシーンで手間取っているのか」

 

「実をいうとお前のシーンになれば筆を一気に進ませられる自信がある。ただそこに至るまでにあと魔王とロボたちのシーンを挟むつもりでな」

 

「じゃあ頑張ってそこまで書き上げろ。読者も楽しみにしてるんだからな」

 

「いや、マジすまねぇ……」

 

「あと気になってるんだが、このテーブルにもう二つほど席があるが誰が来るんだ?」

 

「ああ、その席の方々は俺の合図一つでおいでになる。それでは早速どうぞ!」

 

 

PON☆

 

 

女神

「おっと、出番か」

 

サラ

「きゃっ! ビックリしました」

 

「はい、ということで本作のみならず作者が手掛ける他の作品でも登場する女神さまと、前作『Jumper -IN CHRONO TRIGGER-』から尊の嫁として扱われるようになったクロノ・トリガーのサラをお呼びしました」

 

「女神さまはともかくサラのその紹介はやめてくれ、かなりハズい……」

 

「いいじゃん。タグにも公表してるし。しかも前作からの読者には周知の事実だぞ」

 

女神

「ちなみに今回はどこで式を挙げるつもりだ?」

 

「タイミングのみを公表するなら犬日々3期のどこか、と言っておきましょう」

 

サラ

「結構先ですね。プロットでは今の章が終わったら炎龍編に入ってますし」

 

「この章と炎龍編が原作と比べてオリジナル設定を多く含んでいるな。特にえん――」

 

「おっと、ネタバレはそこまでだ。それより本来の目的に戻りましょう」

 

サラ

「Jumperの裏話でしたね」

 

「そういうことです。それではまずこの作品の設定をざっと振り返ってみましょう」デデン

 

 

―・―・―・―・―・―

 

原作

 クロノトリガー

 

主人公

 月崎 尊(オリジナル)

 

ヒロイン

 サラ(原作キャラ)

 

オリジナルキャラ

 デナドロ三人集

 

尊の特殊能力

 UG細胞改(機動武闘伝Gガンダム+オリジナル設定)

 精神コマンド(スーパーロボット大戦シリーズ+オリジナル設定)

 亜空間倉庫

 ブーストアップ

 紋章術者(オリジナル設定)

 

尊メイン武器

 召喚型多段変形武装サテライトエッジ(メガスラッシュエッジ+ユナイトソード)

 

クロス作品

 DOG DAYS

 GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり

 

―・―・―・―・―・―

 

 

「まず最初の裏話。原作はクロノトリガーですが、前作のあらすじや第1話で触れたように元々はスーパーロボット大戦Aを元にして展開していく予定でした」

 

「ああ、確かそんな設定だったな。ビルドファイターズに影響されたのがきっかけでプラモのミキシングを始めた作者が、その時に作ったガンダムに俺をのせようとしていたのが」

 

サラ

「当時の画像があるみたいです。真ん中の機体が使われる予定だったとのことですが」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

女神

「3機のガンダムをそれぞれ入れ替えただけのようだが…ダブルエックスの装備が貧相すぎるな」

 

「だな。せめてツインバスターライフルを持たせてやれよ。それかウイングのバスターライフル」

 

「き、機動力はこの中で最高の設定だし、シンプルな武装でも十分強いから……」(震え声)

 

サラ

「とりあえず、この機体を使って話を進めようとしていたんですね」

 

「そ、そういうことです。実はあの話の続きではスパロボが終わった後にシンフォギアとかダブルオー、リリなのシリーズにも介入させようと思ってました。けどそのあとすぐにクロノトリガーの構想が浮かんできてガンダム……というかロボット要素を排除したら面白いかもと思い至って、紆余曲折の末に今の形になりました」

 

女神

「節操がなさすぎではないか? そんなに混ぜては収拾もつかんだろう」

 

「複数作品のクロスをどうしてもやりたかったんです。それを絞ったり混ぜたりした結果、この『世界のゲートを開く者』として投稿することになったというわけです」

 

サラ

「ああ、だから一度クロノトリガーとして完結した前作をリメイクして、クロスオーバー重視の今作に作り直したわけですね」

 

Exactly(その通りでございます)。複数作品のクロスをどうしてもやりたかったんです」

 

「でもDOGDAYSは別作品として続きを書いていたよな? それをこっちにまとめたのは?」

 

「本来ならあっちも原作沿いで終わらせるつもりだったんだけど、3期の序盤を見て閃きとともにNT音が脳内を駆け巡ったんだ。そのころ丁度ゲートの原作を読み終わったこともあって、急速に今作の終わりまでの道筋が見えた」

 

サラ

「あちらと比べて私と尊さんがガレット側に移ったのは何故ですか?」

 

「キリサキゴホウ戦にサラを絡ませやすくしようと思ったことと、あとは純粋にガレット陣営での話を書きたかったからです。ただこれを書き上げてしまったせいかビスコッティ版DOGDAYSの続きが書けなくなってしまいました。今書こうとすれば高確率でこの作品と同じような戦展開が繰り広げられます」

 

女神

「つまり、月崎があちらでもシンク・イズミの敵になると言うわけか」

 

「なるほど。一度使ってしまえば、別の作品では違う展開に仕立てないといけないからな。今の作者の頭じゃ無理だ」

 

「……さて、次は尊に持たせた能力について触れてみよう」

 

女神

「言い返せないから流したな」

 

サラ

「尊さんの能力…ここまでの話を察するにスーパーロボット大戦時点での名残をそのまま受け継いでいる感じですね」

 

「ぶっちゃけそうです。UG細胞改に持たせた自己進化を使ってシンフォギア世界ではノイズと普通に戦える力を持たせるつもりだったし、ダブルオー世界ではスパロボAで培わせた能力と技術でトリニティへの妨害や沙慈の姉を助けることも考えてました」

 

「俺はいったいどこへ向かおうとしていたんだ……」

 

女神

「というか、作品としての終わりは考えていたのか?」

 

「全部の作品の主人公たちを集結させてオリジナルのラスボスに挑ませようと考えていました」

 

「ガンダムのせいでどうあがいても無理ゲーだな」

 

「いやいや、シンフォギアは限定解除(エクスドライブ)させれば量産機くらいは圧倒できそうな火力があるし、なのはさんのSLBは気持ち的にウイングガンダムのバスターライフルに匹敵するから行けると思う。しかもStsならさらに倍率ドン」

 

尊     女神    サラ

「無理無理」「無理だろ」「無理があります」

 

「ぬぐっ、い、一斉否定か……」

 

「もっと言うならダブルオーを他に合わせるというのも無理があると思うぞ。ダブルオーの機体を使ったISの二次作品をさらにクロスさせるのならともかく、MSを人間サイズまで縮小させることがすでに無理だ」

 

「そ、そこは女神さまのお力でちょちょいと――」

 

女神

「お得意のご都合主義の力でどうにかなるかもしれないが、話の展開を考えるのが君である以上、月崎の言うようにその足りていない頭では無理だ」

 

「……ん? なんか今一言多かった気が」

 

「気のせいだろ。それより次行くぞ。お題は作者のノリと勢いで生まれた『デナドロ三人集』についてだ」

 

サラ

「ガイナーさんたちは確か前作から続投でしたね」

 

「勝手に進行を推し進められた……まあいいか。デナドロ三人集は執筆当時に主人公にはないバグ属性を持ったキャラを入れたいと思いましてね。最初こそキタの町元町長のようなしぶとさを持つキャラを入れようかと思いましたが、どこかで作者の歯車が狂ってテラミュータントを容易く屠れるチートキャラへと変貌していました」

 

女神

「しかも多少とはいえ人気が出てしまったのがまたなんとも」

 

「たぶん人気が出なければすぐに消えたと思いますよ。話ごと」

 

「おまけに今作では作者が久しぶりに読んだ漫画と、GATEが加わったことで伊丹さんからいろんな要素を追加できるようになったからバグ化が悪化してるし」

 

サラ

「どこまで強くなるかは完全に作者さんの裁量次第ですね、これ……」

 

「最終的には伊丹に教えられて知った御神不破流の奥義歩法体得を目指そうかと」

 

「こいつ、あいつらに『神速』を覚えさせる気だ……」

 

女神

「ご都合主義も度が過ぎれば問題だぞ。そんなに設定を詰め込んで大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、きっと問題ない」

 

サラ

「駄目な予感しかしないんですけど……」

 

「まあ更なるバグ化の余地大いにありということで、こいつらの話はこのあたりで。名前に関しても元ネタの三人をもじっただけだし」

 

「名前と言えば、俺の名前はどういった経緯で決まったんだ?」

 

「十年位前から書き溜めていた創作用オリジナルキャラクター名の中から。サテライトエッジが月にまつわるものだからまず苗字に『月』がつくものを探して、そこから適当に人名事典をめくって気に入った名前をつけた」

 

女神

「実に大雑把だな。――それにしても、十年以上もよくため込んだものだ」

 

「当時はCLANNADを始め水月とか君あるに影響されていろいろ書きました。今読み返せば黒歴史を目の当たりにすることとなるので間違いなく発狂します」

 

サラ

「ああ、恥ずかしいんですね」

 

「物書きやってる連中は大体そうです。当時はいけるいけると意気込んだものの、数年して読み返してみれば余りのイタさに『なんでこんなの書いた……』と顔を覆い悶絶します」

 

「この手の話は物書きをしている読者に多大なダメージを与えかねないからここまでにしよう。それで、次のお題は?」

 

「いま公開できる裏話としてはたぶんこれで最後。えー、ぶっちゃけるとこの作品、本来ならヒロインは存在しないはずだった」

 

女神

「つまり、月崎とサラ嬢が結ばれないという流れだな」

 

サラ

「今となっては絶対に考えたくない話ですね……」

 

「でも実際、前作の感想でヒロインにサラをという声がたくさん上がったから今の形になったんだよな」

 

「前作当初の予定では尊にサラを救出させて、クロノトリガー終了後に単身で別の世界の危機を救わせようと画策していた。それこそ最初に話したいろんな世界を転々とさせるといった形に。ちなみにこの設定でそのまま進んでいたらクロノトリガー終わった後はシンフォギアかなのはにぶち込むつもり満々だった」

 

女神

「なるほど。行く先々でUS細胞改に搭載された自己進化を働かせ、月崎を人外系主人公に仕立てようとしたわけか」

 

サラ

「よく見ると前作のあらすじに『jumper-人外への道-』というタイトルを変更した旨が残ってますね」

 

「お前は俺をどういう人間に仕立てようとするつもりだった……」

 

「シンフォギアなくてもノイズと真っ向から戦えたり、なのは世界でサテライトエッジにカートリッジシステム搭載させようとしたりを考えてた。ちなみにプロットの時点でノイズと戦えるようにするために腕一本犠牲にさせた」

 

「よかった…今の形に落ち着いて本当に良かった……」

 

女神

「しかし、UG細胞改にモノを言わせた展開になるのが目に見えるな。腕一本犠牲にしてもそれで再生するのだからな」

 

サラ

「もしかしてこれをまた書く気になったりは……」

 

「流石にそれはありません。月崎尊というキャラクターを使った作品は今作でもう充分ですから」

 

女神

「続編に関してもか?」

 

「血縁者なら構想中のネタがあります」

 

「俺の血縁者? ……まさか」

 

サラ

「そういうこと、ですか?」

 

「そこは続編に発展した時にということで」

 

女神

「ふむ。ではこの話もここまでで良いだろう」

 

「ですな。さて、この『Jumper -世界のゲートを開く者-』が今日に至るまでの経緯を現時点で可能な限り公開したわけですが、お三方の心境的にはどうですか?」

 

「俺としては『そういえばこんな設定もあったな』って思い出したくらいだな」

 

サラ

「私は今の形になってよかったと思ってます」

 

女神

「私はメインに出張る役柄ではないので何とも言えないが、一つ確認してもいいか?」

 

「なんでしょう?」

 

女神

「サラ嬢は公式絵があるので容姿はわかるのだが、月崎や私は作者の中ではどんなイメージなんだ?」

 

サラ

「あ、それは私も気になります」

 

「本編じゃ俺の情報は黒髪の男としかないからな。どうなんだ?」

 

「なるほど。えー、まず女神さまは作者の中ではスーパーロボット大戦シリーズのリン・マオの髪を多くした姿となっています。性格もそれに近い感じで」

 

女神

「ほう。てっきり美城常務あたりかと思ったぞ」

 

「実をいうと女神さまの容姿は作者が初めてハーメルンに投稿した作品の時点で決めてました。なので美城常務はないです」

 

サラ

「では尊さんは?」

 

「正直こいつが一番容姿に悩みました。現在のイメージではガンダムOO外伝の主人公フォン・スパークを黒髪にしてマイルドにした感じです」

 

「あいつかぁ……。キャラの経歴だけ見たら絶対まともな人間じゃないぞ」

 

「安心しろ。マイルド成分混ぜたから目つきはあそこまで酷くない。あと脳内CVも同じ人を当てておいたぞ」

 

サラ

「それでもマールたちが全く埋まってませんね」

 

「作者的にこれって当てはまるのがないんですよね。まあこちらも思いつき次第追加していきますよ。さて、ほかに何かありますか?」

 

女神

「最後に一ついいか? さっき初めて投稿した作品という言葉で思い出したのだが、君宛に手紙が来ている」

 

「はい? 誰からです?」(手紙を受け取る)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こ っ ち の 続 き も さ っ さ と 書 け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………――ッッ!?」ダッ!

 

サラ

「えっ!? どうしたんですか!?」

 

???

『逃がすかあああぁぁぁ! さっさとこっちも進めろぉぉぉ!』

 

「うおっ!? なんだあのデルタカイは!? ハイメガとファンネルで作者を狙ってるぞ!?」

 

女神

「うーむ……予想できたとはいえ更新を止めていた作者の自業自得しか言えんな。 さあ。作者もいなくなったし、今回はもうお開きだ。諸君、また本編で会おう」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第77話「大乱闘!スマッシュフロニャルド! その⑤」

お久しぶりです。少しずつ書いていたため遅れに遅れましたが、やっと本編の続きを更新できました。
非常に更新が不安定で申し訳ありませんが、それでも楽しみにしていただいている読者に多大なる感謝を。

それでは本編第77話、どうぞご覧ください。




 デナドロ三人集がジェノワーズの追撃を始めるのとほぼ同じ頃。滝エリアでは二人の騎士団長を相手に戦いを繰り広げる魔王の姿があった。

 最初のダークボムで随伴の騎士全員がやられたのが幸か不幸か。ロランたちは周りを気にせず魔王の攻撃に専念することができるものの、撃退したパスティヤージュ飛空術士隊に変わって制空権を取られたのは実に厄介で、上に向けて攻撃するにはどうしても輝力砲に頼らなければならない分普通の戦闘と比べて輝力的にも精神的にも消費は激しかった。

 それでもまだ撃破されないでいるのはロランの防御力とバナードの攻撃力。そして互いに騎士団長という誇りと実力があればこそだろう。

 加えて魔王も魔王で、徐々に上空というアドバンテージが意味を成さなくなりつつあった。

 理由は至極単純明快。魔法の連発による魔力(MP)切れだ。

 今回はエーテルやポーションによる回復でフロニャルド陣営が不利になる可能性があるとして、それに準ずるアイテムは使用禁止のルールが設けられている。回復魔法に関してはアイテムではないので使用が認められているが、現在のところクロノス陣営は誰も使用していない。

 

 

「ちっ、しぶとい。紋章術を考慮してガルディア軍の騎士団長よりマシ程度には思っていたが、認識を改める必要があるな」

 

 

 悪態をついて攻撃手段を魔法から紋章術に切り替えるが、輝力の打ち合いに関しては一日の長がある騎士団長たちが発動の機微を察知して抑え込む。

 接近戦という手段もあるのだが、魔王としてもそれは最後の手段にすべきだろう。

 

 ――紋章術はあくまで自身の周りで発生させた紋章を起点に術を行使する。魔法のように敵の真下や直上で発動させることができないのはこの戦いで理解したが、その分攻撃手段は使い手の技量一つで多岐にわたることも理解できた。なにより、自身のイメージが術の発動における重要なファクターとなっているというのが面白い。

 

 

「改めてまとめるとなかなか興味深い力だ。もう少し研究してみたいところだが……」

 

「せいッ!」

 

「はぁッ!」

 

 

 地上から再び放たれる紋章砲。一発の威力はそうでもないが、威力を落としたことで連射による対空弾幕が形成される。

 これを魔王は比較的弾幕が薄い場所へ移動し、それなりに練った輝力砲で迎え撃つ。

 放たれた青黒い輝力は迫る攻撃を逆に飲み込み、地上にいる二人の騎士団長へと迫る。

 

 

「『障壁陣』!」

 

 

 ロランが盾を構えるとともに発動させた紋章術が上空からの輝力砲を完璧に防ぎ、攻撃をしたことでわずかに硬直を見せる魔王にバナードが仕掛ける。

 

 

「『天光破陣』!」

 

 

 パスティヤージュ飛空術士隊を撃破した時の焼き回しのような光景が広がるが、予測済みだった魔王は軽快なターンで紋章砲をいなす。

 このような攻防が何度も繰り返され、魔王も内心でどうしたものかと嘆息する。

 一方、魔王相手に連携で一進一退の展開を繰り広げている騎士団長たちも同様のことを考えていた。

 

 

「さすがサラ殿の弟、といったところだろうか」

 

「勇者殿たちもそうだが、紋章術を学んで間もないはずなのにこの精度。異世界の人々は皆こうなのかと疑いたくなるな」

 

 

 自軍の騎士たちでもここまでの成果は出せないと零しながら二人は目の前の男のほかに四人の姿を思い浮かべる。

 召喚されたその日に紋章砲を扱うようになった両軍の勇者。そして自身が使う魔法でイメージを固めやすいのか、いまだ顕現させたことのない輝力武装を除けば紋章術でできる大体のことを数日でマスターした魔王の姉。

 尊こそ安定して紋章術が扱えるようになるまで多少の時間を要したが、紋章術者という力を得てからはそれまでの不安定さは何だったのかというほど輝力の扱いが安定した。

 しかも彼らはまだ知らないが、特地という尊やクロノたちとはまた違う世界から来た者まで紋章術の講義を受けたその日にある程度は扱えるようになっている。

 こうしてみればロランの言うように地球人に限らず異世界の人間はかなり――いや、この世界の人間からすれば驚くべき速さで紋章術を会得しているといえるだろう。

 だが、その輝力を行使するためにも何かしらの代価が必要となる。魔法に対するMPのように。

 

 

 ――このまま紋章術で打ち合いをしていては数と術の練度でこちらが不利か……。

 

 

 輝力を使用するたびに少しずつ蓄積される疲労感を受けながら、魔王はこのままでは目の前の二人に敗れる可能性が高いことを直感で感じる。

 様子見を兼ねての襲撃で片方でも撃破に持ち込めれば御の字と思っていたが、こうなってしまっては致し方ない。

 武器を収めると同時にバサッとマントで体を覆う。今までにない行動に未確認の攻撃かとロランたちは身構えるが、直後に魔王から告げられた言葉でその予想は覆る。

 

 

「悪いが、この勝負は預けさせてもらう」

 

「おや、どういう風の吹きまわしかな?」

 

「単に今のルールではお前たちを倒しきれないと判断したまでだ。だがそれを抜きにしてもなかなか興味深いデータが取れた。次は確実に仕留めさせてもらう」

 

 

 それだけ言い残し、魔王は一先ず得られた紋章術の情報を整理すべくエリアから離脱した。

 目下の脅威が去ったことで二人はようやく一息つけ、同時に異世界で魔王と恐れられた彼の実力に肝を冷やした。

 

 

「……バナード。あのまま戦っていれば、我々は彼に勝てただろうか?」

 

「二人とも撃破されず、というのは無理だな。彼を倒すために私たちのどちらかは、確実にやられていただろう。それにルールの縛りがなければ、最悪の場合、こちらが全滅もあり得た」

 

 

 騎士団長二人を同時に相手とるということだけでもこの世界でそれをやってのける者は非常に少ない。それこそレオやダルキアンと同等か、それ以上の実力が必要となる。

 今回、魔王は紋章術を初めて使うことと接近戦よりも魔法による打ち合いのほうが強いため射撃戦を展開した。だがもし彼が制限なく力を奮えたならば、彼の持つ強力な魔法の数々が二人を襲ったことだろう。

 

 

「次に戦うときは、彼も紋章術をもっとうまく使用してくるだろう」

 

「ああ。気を引き締めてかからねばな」

 

 

 その後二人は流石にこのまま第2ラウンドという気持ちにもなれず、各々の陣営へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 滝エリアに劣らず混沌とした試合展開が繰り広げられつつある中央バトルフィールド。

 レオとロゥリィが災害のような攻防を辺りにまき散らしながら去ったところへ現れたマールたちクロノス陣営。強力な一撃を打ち込んでくる異世界の四人に対し、ダルキアンたちフロニャルドの三人は連係においてはそうそう負けないであろうと思っていたマールたちが舌を巻くほど高い連係プレーでその攻撃を打ち破る。

 最初のファイガタックルこそダルキアンたちの度肝を抜いたが、それ以降の攻撃は冷静に対処され決定打を与えられず大陸最強の実力に圧倒されていた。

 

 

「いくでござるよー!」

 

 

 ユキカゼが手にした『閃華烈風』をテュカたちに向けて放ち、仕掛けられた攻撃に対してマールとルッカが前に出る。

 

 

「『アイス』!」

 

「『ファイア』!」

 

 

 二つの魔法を混ぜることで発動する連係技『反作用ボム』がユキカゼの攻撃を打ち消す。

 その際に生じた爆炎を目隠しにロボがロケットパンチを放ち、テュカは紋章術で威力を底上げした一射を合わせて放つ。

 二つの攻撃は煙幕を払いのけて目標に向い飛来するが、彼女は笑みを浮かべ手にした大剣を薙ぎ払う。

 

 

「ナ、ナント!?」

 

「嘘でしょ!?」

 

 

 決して弱くはないその攻撃をたったひと振りの攻撃で防がれたことにロボたちだけでなくルッカたちも信じられないといった表情を露わにする。

 対して、迫る攻撃を一撃の名のもとに叩き伏せたダルキアンはニコニコと笑いながら感想を述べる。

 

 

「いやぁ。拙者も様々な者たちと戦ってきたでござるが、矢の攻撃はともかく腕を飛ばしてくる者は初めてでござるよ」

 

「まあ、ロボットですからね。構造次第で人間にできないことはいくらでもできますよ」

 

「それに、ロボがすごいのはまだまだこれからですよ!」

 

「ま、まだなにかあるんですか?」

 

 

 表情を少しひきつらせたビオレの言葉にマールたちはにやりと笑い、ルッカがどこぞの高速戦艦姉妹長女のようなポーズをとりながら叫ぶ。

 

 

「レーザーフル稼働!」

 

「ラジャー!」

 

 

 ガシュン!という音とともにロボの装甲が開き、その下に隠されていた砲口が露出する。続けて出力を限界まで落としたレーザーが照射されると、そのままロボの動きに合わせてダルキアンたちへと襲い掛かる。

 これこそ、「魔法ではないのでルールに抵触しない全体攻撃」として尊がロボに使用を許可した回転レーザーだ。威力こそ安全を考慮して最低まで落とされているが、攻撃方法は元のままなので並の兵ならば全滅は必至だろう。

 そう、並の兵ならば。

 

 

「ひゃあ!?」

 

「おっとぉ!?」

 

「よっと」

 

 

 迫るレーザーを驚きながらも持ち前の身軽さで避けるビオレとユキカゼ、そして冷静に逃げ道を見極めて体を滑らせるダルキアン。

 ゲームの仕様で全体攻撃=基本的に命中と考えていた尊が見たなら「ウソォ!?」と驚愕の声を上げていたことだろう。

 しかしこうなる可能性も予想していたのかマールとテュカが回避した隙を狙って再び輝力の矢を放つ。これはまずいと判断したダルキアンが「ふむ」と一歩前に踏み出し、静かに息を吐く。

 

 

「――即技、『裂空連牙』」

 

 

 居合抜きのように構えた刀を一瞬の動作で抜刀から切り返しまで持っていき、たった二振りの攻撃で刃から無数の斬撃を繰り出す。

 斬撃は降り注がんとした攻撃をすべて撃ち落とし、結果的にフロニャルド組は無傷で乗り切ったこととなった。

 一方、今度こそ有効打を与えられたであろうと思っていたクロノス組はもはや何度目かもわからない驚愕に言葉を失っていた。 

 

 

「れ、レーザー回避はともかく…そのあとの迎撃が全く見えなかった……」

 

「ふふ、実戦でこの技を出したのは本当に久しぶりでござるよ。ここ数十年では、レオ様以外いなかったでござるからな」

 

「拙者は御館様の稽古を受けているときに見せていただいて以来でござる。それでもたった二振りであれだけの攻撃を容易く対処できるのは、わかっていても驚きでござるが」

 

 

 味方であるユキカゼも流石にダルキアンの技には「たはは」と苦笑い。

 ここまでされてはこの三人を倒しきれないだろうと判断したのか、ルッカが少し悔し気に決断する。

 

 

「……みんな、ここは退くわよ。ルールの縛りもあるけど、それ以上にダルキアンさんが規格外すぎて私たちの手に余るわ」

 

「そうね。ロゥリィがいてくれたら倒せたかもしれないけど……」

 

「レオさんと大暴れしてるみたいだしね」

 

 

 テュカの言葉にマールが答えるが、その顔は遠くから響く轟音と実況から聞こえる二人の暴れっぷりを受けて冷や汗を流していた。

 

 

「ロボ、煙に巻くから後方警戒を厳にしてちょうだい」

 

「リョウカイ」

 

 

 それだけ告げるとルッカは手のひら大のボールを数個取り出し、思いっきり地面に叩きつける。色とりどりの煙幕が形成され視界が不明瞭になると今度はビオレとユキカゼが紋章術で煙を吹き飛ばす。

 だがその時には既に三人を乗せたロボがマールからの『ヘイスト』を受けて高速で撤退していた。

 

 

「ふむ。仕留められなかったのは残念でござるが、問題ないでござろう」

 

「では御館様、これからいかがしましょう」

 

「うむ。一度陣に戻ってもよいかもしれぬが、せっかくだからこのまま三人で行動してはどうだろうか。もしかすれば、クロノスの別の者たちを叩けるかもしれないでござるよ」

 

「私は構いませんよ。元々レオ様のお供で行動するつもりでしたけど、ご本人が行っちゃいましたからね」

 

 

 ビオレも乗り気で提案に乗ったため、ダルキアンたちは気ままに戦場を移動することにした。

 

 

 

 ――デナドロ三人集と別行動を始めていたカエルとレレイがこの中央フィールドにやってきたのは、それからわずか五分後のことだった。




本編第77話、いかがでしたでしょうか。

今回ダルキアン卿の使った技は作者のオリジナルとなります。
ちなみに他の作品で同じ技名が使われていないか検索したところ真っ先にテイルズの『爪竜連牙斬』が出てきました。

さて、次回は尊たちの状況を書くか、もしかしたら思い切ってこの話をすっ飛ばし戦後の話を書くかもしれません。
どう転ぶかは完全に作者の乗り次第となりますが、ご容赦ください。


それでは、今回はこのあたりで。また次回の投稿でお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第78話「大乱闘!スマッシュフロニャルド! その⑥」

『なんと三人目! パスティヤージュの勇者レベッカ、ここに参上ぉ!』

 

 

 レベッカ参戦と同時に会場は大きな歓声に包まれた。

 ビスコッティ、ガレット陣営からは新たな勇者誕生に対して。パスティヤージュ陣営からはそれと同様に自軍の勝利に希望が出てきたことに対して。

 このような事態を阻止するために動いていたシンクと七海だが、浮かべる表情は悔しさよりも幼馴染の参戦を喜んでいた。

 メカメカしい機構を備えた箒に跨り空から出撃するレベッカとクーベルが映し出された映像を眺め、尊は各陣営の勇者が(シンク)(レベッカ)(七海)で分かれているなと思いながらシンクに一撃お見舞いしつつ一度距離を取る。

 

 

「さて。おまえたち二人の目的だったレベッカちゃんの奪還作戦は御覧の通り頓挫した。これで戦は通常通りのポイント獲得による総当たり戦に移行。でもって俺たちは、この戦いにおいて無視できないボーナスターゲットだ――この首、獲りに来るか?」

 

 

 首筋を手刀でトントンと叩きながら挑発をかけるが、シンクは笑みを浮かべてトルネイダーを作り出す。

 

 

「確かに尊さんをここで倒せれば戦は有利になりますけど、僕らはベッキーのところに行きますよ」

 

「せっかくやる気になってくれたんですから、拗ねられないように相手してあげないと!」

 

 

 言うや否や、七海が紋章砲で水面を穿ち巨大な水柱を打ち上げる。クロノがかまいたちを放って視界を確保するも、既に二人は大きく距離を開けてレベッカの迎撃に向かっていた。さらに同時に相手取っていたキャラウェイも、三つ巴が崩れれば自分が不利になると悟り、すぐさまだま化した相棒を回収して自陣へと撤退した。

 それを追撃するでもなく、尊とクロノは戦闘態勢を解く。

 

 

「逃げられましたね」

 

「なに、俺たちにとって撃破の有無はそこまで重要じゃない。楽しむだけ楽しんでいこう。――さて。レベッカちゃんが勇者として参戦したから戦も中盤ってとこか。そろそろサラも動くかな?」

 

 

 他のメンバーに紋章術を教えている際に試したいことがあると言って出遅れたサラを思い浮かべつつ、尊はクロノを伴って次のターゲットを求めて再び行動を開始した。

 

 

 

 

「ゆけぇ! レベッカ! パスティヤージュの勇者の力、見せびらかすのじゃー!」

 

「うんっ、クー様!」

 

 

 クーベルの説得に応じ本格的にパスティヤージュの勇者として参戦したレベッカは、魔女の箒のように飛ぶことができるブルームモードへと変化したパスティヤージュの宝剣『神剣メルクリウス』を駆り、自身の力を確かめるように戦場の空に輝力の軌跡を描く。

 右へ左へ。急降下からの急上昇。そして大きく派手なロール。操作感覚がゲームに近いのが幸いし、何物にも阻まれず自由に飛ぶ。その見惚れるような軌道に兵士や観客から大歓声が上がる。

 

 

「はーっはっはっは! そして、飛ぶのは勇者だけではないぞ!」

 

 

 この光景を誰よりも強く見たかったクーベルも込みあがる笑いを抑えられず、続けて右手を掲げる。

 

 

「目覚めよ! 天槍クルマルス!」

 

 

 指にはめられたパスティヤージュのもう一つの宝剣『天槍クルマルス』が主の命に応え光を発し形状を変える。

 指輪からマスケット銃のような形となったクルマルスを掲げ、クーベルはさらに輝力武装を展開。

 輝力が形をとり操縦桿とペダルがついた魔法の絨毯ともいうべき姿となり、クーベルをレベッカと同じ空へと飛翔させる。

 

 

「パスティヤージュ公女クーベル、これより参戦じゃ! 勇者レベッカとともに劣勢を覆す! スカイヤー、発進!」

 

 

 勇者に続いて公女の参戦にパスティヤージュ陣営の士気が大いに向上する。

 味方が活気づいたのを肌で感じ取り、クーベルはレベッカに並走して次の一手を下す。

 

 

「レベッカ、操縦は大丈夫か?」

 

「うん、ゲームみたいで思ったよりわかりやすい。これなら、なんとかなるかも!」

 

「うむ! ならば次は攻撃じゃ! さっき教えたとおりにやってみるとよいぞ!」

 

「はい! 勇者レベッカ、行きます!」

 

 

 箒を操作し一気に加速するレベッカ。兵士たちが入り乱れるフィールドに差し掛かると右ももにセットされたケースからカードを数枚取り出す。

 

 

「バレットカード、セット!」

 

 

 レベッカの輝力を受け無地のカードに絵文字が浮かび上がる。

 目標ポイントとタイミングを見計らって放たれたカードに晶術が宿り、着弾と同時に一定範囲を爆風が包む。

 空爆を受けた兵士たちは予想だにしない襲撃に散り散りとなるが、レベッカはそこへ更なる追撃をかける。

 

 

「それっ!」

 

 

 新たに繰り出したカードは広範囲に広がると帯電をはじめ、雷のような光弾が地上の兵士たちへ無差別に襲い掛かる。

 セルクルで咄嗟にジグザクに避けようとする兵士もいたが、追尾する光はそんな稚拙な回避も逃さない。

 他の陣営に航空戦力はなく、空から単騎でビスコッティとガレットの騎士団長を相手にしていた魔王も一時戦線を離脱したため、制空権はパスティヤージュへと傾く。

 

 

「はわわ! 味方がピンチであります!」

 

「まずいな……リコ、お前は機動砲術師隊を率いてレベッカ殿とクーベル様へ牽制を。私はガレット兵を相手にしつつ、パスティヤージュの飛空術騎士団を迎撃する」

 

「了解であります!」

 

 

 カエルたちとの戦闘から離脱し、自陣へ一時撤退したリコッタとエクレールは補給をしつつ対応を決めて陣地を発つ準備を進める。

 また、彼女たちよりも早く同じ戦域から撤退していたジェノワーズも、自分たちを執拗に狙っていたデナドロ三人衆から命からがら逃げおおせガレット陣営でようやく一息を入れていた。

 

 

「くはぁぁぁ……。バケモンかいな、あの三人」

 

「逃げきれたのが、未だに信じられない……」

 

「セルクルにも無理させちゃったし、しばらく休憩ね……」

 

 

 息も絶え絶えに三人は先ほどの相手を思い返す。

 自分たちと同じ三人組で全員接近重視でありながら連携に隙がなく、機動力は自分たちが知りうる中で最も早いビスコッティの隠密隊以上。攻撃手段は紋章術を用いない剣技のみで、しかしその技は振り抜くだけで裂空一文字のような衝撃波を圧倒的な速さで繰り出す。

 彼女たちにとって幸いだったのは三人衆が全力の全力を出していなかったことと、実戦での新しい連携技がどこまで通用するのかの様子見をしていたところへレオとロゥリィが乱入してきたことだ。

 いまなお周囲へ被害を拡大させている二人が来なければ、それこそ今頃自陣に戻ってはこれなかっただろう。

 

 

「戦況って、いまどないなってんの?」

 

「んー…見た感じガレット(うち)が優勢だね。パスティヤージュは新しい勇者がすごい活躍してて、ビスコッティに迫る勢いで猛追してるみたい」

 

「ポイントを稼ぐのならクロノスの誰かを狙うのが理想だけど……あれ? そういえばサラ様は?」

 

 

 尊を筆頭に戦場のあちこちでその力を見せつけているチームクロノス。

 その中の一人で自分たちもよく接していた女性の姿が確認できていないことにベールが首をかしげる。

 

 ――直後、パスティヤージュの飛空術騎士団が舞う空を複数の紋章砲が突き抜けた。

 

 

 

 

『何事でありましょうか! パスティヤージュが制した空を無数の紋章砲が襲う! 飛空術騎士団のブランシールたちが動揺しております!』

 

『あーっと! その隙を逃さぬかのように再び砲撃が迫る! この紋章砲は一体どこの攻撃でしょう!?」

 

 

 実況に合わせてカメラも砲撃の出所を探るべくレンズを丘の上へと向ける。

 その先には五つの輝力スフィアを展開し銀の杖を掲げる一つの人影が。

 

 

「一応の完成、といったところでしょうか」

 

 

 自分が求めていた成果を得られたことに一安心し、クロノス最後の一人――サラは小さく笑みを浮かべるとスフィアに陣形を取らせて輝力をチャージさせる。

 淡雪のような輝力の光が強く輝き、サラの背後に巨大な紋章を浮かび上がらせた。

 

 

「とくとご覧ください。これが私の輝力武装――『マルチスフィア』です! 砲撃(バースト)!」

 

 

 輝力が解放されそれぞれのスフィアから高威力の紋章砲が扇状に放たれる。隙間があるものの広範囲かつ、長射程の砲撃が今度は地上の兵たちを襲う。

 ただでさえレベッカの晶術によって混乱の極みにあった地上部隊は、そのほとんどが直撃を受け大量のけものだまを量産することとなった。

 

 

『異世界混同チームクロノスのサラ様! 春の戦では使用されていなかった輝力武装で三国の兵たちを薙ぎ払っております!』

 

『凄まじい範囲の砲撃! パスティヤージュの空中戦力はクーベル様とレベッカ様に加え難を逃れた飛空術騎士団の兵が少々! 地上のビスコッティおよびガレットの陸戦部隊はほぼ壊滅状態です!』

 

「ぬぅぅ、予想外の強敵出現じゃ。レベッカ! 二人で抑え込むぞ! あわよくば撃破で得点を稼ぐのじゃ!」

 

「はい!」

 

 

 さすがに看過できない火力を見せつけられクーベルはスカイヤーより機動力のあるレベッカの箒に乗り移り、二人そろって上空からサラに目がけて強襲をかける。

 

 

散弾(バレット)!」

 

 

 上空から迫る敵に対しサラはスフィアを円状に配置し、それぞれから拡散弾を打ち出す。先ほどの砲撃に比べれば威力も射程も劣るものの、面制圧により迎撃としては高い効果を発揮する。

 しかしレベッカは弾幕ゲームのごとく散弾の隙間を縫うように飛翔し、クーベルのクルマルスが届く射程まで無理やり突っ込む。

 

 

「クー様!」

 

「ここじゃあ!」

 

 

 レベッカの合図とともにクルマルスにチャージしていた輝力が解放される。迎撃の散弾が逆に輝力砲に飲み込まれ打ち消されるが、サラは慌てず輝力をチャージし杖を振るう。

 

 

反射(リフレク)!」

 

 

 攻撃をやめたスフィアが瞬時に集結すると淡雪色のフィールドを展開し紋章砲を防ぐ。しかしそれだけでは終わらず、受け止められた紋章砲は威力が減退したもののそっくりそのままレベッカたちの方向へ反射した。

 

 

「のじゃあああ!?」

 

 

 自分の攻撃が返ってきたことにクーベルから悲鳴が上がる。そんな中でもレベッカはサラの反射という単語を直感的に感じ取りギリギリのところで急上昇で回避した。

 

 

「な、なるほど…マルチってそういうことなんだ」

 

 

 肝を冷やしたレベッカはサラに追従するスフィアの仕組みを理解した。

 スフィアそれぞれが砲台となり、時には集結して攻撃を防ぐ盾となる。しかも輝力武装なので彼女がどういう攻撃をしたいか。どういう防ぎ方をしたいかもイメージで補完しつつ、声に出して命令することでより高い効果を発揮するなど、まさに多様性(マルチ)に重点を置いた戦法だった。

 しかし操作に集中する必要があるのか、スフィアに指示を出しているときにサラ本人から紋章砲などが飛んでくる気配はない。

 弱点らしい弱点といえばそれくらいしか確認できていないが、それを差し引いてもまるで要塞を相手にしているような威圧感があった。

 

 

「いかん。勢いで挑んでみたが予想以上に攻撃の汎用性が高すぎて手の内が読めんし、あまり時間をかけると逆転の目が消える。 ――レベッカ。得点は惜しいがここは離脱じゃ。二手に分かれてビスコッティとガレットの陣地に殴りこんでポイントを稼ぐ!」

 

「わかりました。じゃあ私はシンクたちのいるビスコッティに行きます」

 

「うむ! ならウチはガレットじゃ! ついでにレオ姉に一泡吹かせてやるのじゃ! 飛空術騎士団、散開せよ! 集団戦ができなくなったのは痛手じゃが、ほかの陣営も兵が激減しておる! あの広範囲の紋章砲に警戒しつつ、敵主力隊を根こそぎ打ち倒すのじゃ!」

 

『了解!』

 

 

 君主の命を受けパスティヤージュ陣営が四方八方へと散開する。

 目前の敵がいなくなったのを確認し、サラは展開していたスフィアを消滅させて輝力武装の仕上がりを振り返る。

 

 ――イタミさんに見せていただいたアニメを真似た輝力武装でしたが、一対多の戦闘なら攻撃魔法が使えないこの状況でも十分に渡り合えそうですね。また参考にできそうな作品があれば教えてもらいましょうか。

 

 伊丹としてはサブカルチャーで趣味の仲間を増やせたらとアニメを布教したつもりだったが、図らずも異世界で黒い三連星や魔砲少女が爆誕するという結果を招いたのだった。

 無論、特地でのほほんと過ごしている本人がそれを聞かされたら苦笑いと冷や汗を流すことだろう。

 

 

「追撃する理由もありませんし、次は誰かと合流して動いてみましょうか」

 

 

 後ろに控えさせていたセルクルに騎乗し、サラは仲間を探しに別のフィールドへ移動する。

 かくして、クロノスの全戦力は懸賞首に見合う通りかそれ以上の力を示し、戦場のいたるところで戦果を挙げては兵士たちの記憶にその実力を刻み込んだのだった。

 




お久しぶりです。前回の投稿から6年と半年ぶりの投稿となってしまいました。
ちまちまと続きを書いてもっとストックがたまってからまとめて投稿をと考えておりましたが、鳥山明氏の訃報を受けてクロノトリガーを題材にさせていただいた者として生存報告を兼ねての投稿としました。
まだまだ書き溜めが少ないため続きの投稿は時間がかかりますが、作品は進めていますので楽しみにされている方には申し訳ありませんが、長い目で見ていただけたら幸いです。

最後に、鳥山明先生に最大級の敬意とご冥福をお祈りいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第79話「終戦からの交流戦勝会」

『タイムア――――ップ!!』

 

『ただいまを持ちまして、戦の終了を宣言いたしま――――す!』

 

 

 シンクたちの企画していた戦にパスティヤージュ共々、飛び入りで参戦させてもらったこの戦いもついに試合終了を迎えた。

 結果だけ見れば尊たちクロノスのメンバーは誰も撃破されることなく戦い抜いたが、やはりというべきか、予想通りかそれ以上の力を見せつけられた場面も少なくない。

 一対一で戦いながらも通りかかった戦場の各所を混沌の渦に叩き落したロゥリィとレオの戦いは結局勝敗がつかず、一か八かで横やりの奇襲をかけたクーベルが逆に返り討ちにあったり。

 ダルキアンに挑んだカエルは傍から見れば実力伯仲といった感じだったが、本人曰く元の姿で戦っていたら負けていたかもしれないと冷や汗を流した。

 序盤からしばらくビスコッティとガレットの騎士団長を相手に互角の戦いを見せた魔王は決め手に欠けると判断するや否や早々に引き上げ、以後は輝力の可能性を探りつつ時折その力を確認するかのように戦場へ現れては実践し、ほとんどの時間を輝力の特性把握に費やした。

 デナドロ三人集はジェノワーズを探していたようだが、最初のインパクトが強烈すぎたためか彼女たちが再戦を拒みひたすら密集した戦闘地帯へ飛び込んで撹乱しつつ、見事逃げおおせる大太刀回りをやり遂げた。その副産物としてか、ジェノワーズ全員のポイントを合わせるとガレットの総合ポイント割合の上位にランクインする大金星を挙げることとなった。

 また、ガレットの主戦力の一人であるガウルとタイマンを張っていたエイラは電撃系の輝力武装である獅子王双牙と相性がよく、そのまま押し切って戦闘不能に。追従していたゴドウィンは二人の戦いに邪魔が入らぬよう雑魚散らしに専念し、決着後はエイラの戦闘力から自分では太刀打ちできないと判断するとガウルを回収し撤退。

 ルッカやテュカたちはダルキアンたちとの戦闘から退却して以降レレイと合流し、隊長格の相手とは戦っていないが三国の兵士たちを相手に圧倒。しかしロボを攻めの起点にしつつ後方から輝力の矢と銃弾による一方的な砲煙弾雨もかくやな攻撃をしすぎたせいか、後半になるにつれてどの陣営も積極的な手出しを控えるような展開となった。

 そして尊とクロノは最後に参戦したサラと合流して輝力の連携技を研究しつつ向かってくる兵たちを一方的に蹂躙。尊と面識のある各陣営の隊長たちも同伴しているのがクロノだけならと思っていたが、遅れて参戦したサラの輝力武装を前に対応を改めざるを得なくなった。

 

 

「ん~~~ッ! たのしかったぁ!」

 

 

 大きく伸びをし、心底満足した様子のロウリィ。

 箱根での一件以降、大手を振って武器を振るう機会もなく、たまにクロノや尊たちの鍛錬に付き合うだけだったので今回の戦はいいガス抜きとなった。加えて、彼女と比肩しうる力を持ったレオの存在も大きいだろう。亜神として超人的な力を持つ自身と真っ向からぶつかれる存在など、特地でもそうはいないのだから。

 

 

「紋章術……とても興味深いものだった」

 

「まったくだ。紋章砲や輝力武装などある意味反則技の塊だ。発動させるための輝力と、それを顕現させるイメージさえ固められるのであれば、おおよそ何でもできる。しかし見た限り三国の連中でそれをある程度以上使いこなしているのは、戦闘経験が豊富な隊長以上の兵と勇者のガキどもぐらいだな」

 

「勇者三人が使いこなせるのは…まあ地球のサブカル――娯楽の影響が大きいんだろう。実際、サラも伊丹さんから提供されたアニメをベースに輝力武装を完成させたし」

 

 

 この世界特有の力に最も興味を示していたレレイと魔王も戦の内容を振り返り、尊は勇者たちが飛びぬけて輝力を使いこなす理由がアニメやゲームに由来するからだろうとあたりを付ける。特に身体能力で劣るレベッカはシューティングゲーム感覚で使いこなしたのだからあながち間違いでもないだろう。

 

 

「それにしても……いくら死にはしないとはいえ、アレ(・・)はちょっとどうなの……?」

 

「ああ……アレ(・・)ね……」

 

 

 ルッカのこぼした言葉に複雑な表情で同意するマールが思い返したのは、三人目の勇者として参戦したレベッカに挑んだシンクと七海、そしてそれを迎え撃ったミルヒの顛末だ。

 フロニャルドの戦は守護力のおかげでどれほど強力な攻撃を受けても死ぬことはなく、かわりに戦闘不能状態として"けものだま"と呼ばれる毛玉形態となって救護スタッフに回収される。だま化となるのは装備が貧弱な一般参加の兵士がほとんどで、しっかりとした鎧をまとった騎士団クラスとなるとだま化することはそうそうないが、高い火力の攻撃を受ければそのダメージは防具を貫通し同様の道をたどる。

 しかし、隊長以上の実力者となると輝力による身体強化が当たり前に使われるため、防具が破壊されたとしても"けものだま"となることはまずない。

 ではだま化するほどではなくとも、防具が木っ端みじんに破壊されるほどの火力を受けた場合はどうなるか――。

 

 

「――まさか服どころか下着まで破壊されるとは……。クロノス(うち)から被害者が出なくて本当によかったな」

 

 

 思い返しながら呆れたようにつぶやいたカエルの言葉に女性陣がうんうんと同意する。

 レベッカのバレットカードによる炸裂弾の直撃を受けた二人の勇者――シンクはぎりぎり下に着こんでいた水着を残したが七海はすべてひん剥かれ戦闘不能に。

 そのままビスコッティ本陣に強襲をかけたレベッカをミルヒが聖剣エクセリードで迎え撃つが、互いの攻撃が迎撃しあうことなく素通りし直撃。二人そろって防具どころか上着まで破壊されての相打ちとなった。

 

 

「ミコト。サラ。服破れる、しってたか?」

 

「あー……すまん、俺たちも目の当たりにするまで忘れてた」

 

「戦自体が久しぶりでしたからね……ごめんなさい」

 

 

 

 ――い、言えない…既に身をもってアレを体験しているとは……。

 

 仲間に謝罪しつつも二人の脳裏をよぎるのは前回の送還前に発生したハチ蜜騒動である。

 尊とシンクはどうにか凌いだが、サラを含め最初から参加した女性陣は二度も服を消し飛ばされ、様子を見に来たミルヒ、レオ、ダルキアンの三人まで巻き添えを食らう事態となったいろいろ気まずい出来事であった。

 そんな二人を他所に会場は結果発表へと移行。

 優勝はロゥリィと戦った余波で敵兵を巻き添えにしてトップの撃破ポイントを獲得したレオの率いるガレット獅子団。

 第二位はポイント差で惜しくも敗れたが、鬼札ともいえる活躍でクロノスを抑えて見せたダルキアンの所属するミルヒのビスコッティ共和国。

 そして空戦というアドバンテージがあったもののサラの輝力武装で戦力を一気に削がれてしまい、ポイントが稼ぎきれなかったクーベルのパスティヤージュ公国が今回の戦で敗者となった。

 クロノスと同じく飛び入りとはいえ、勝ちを狙っていただけにステージの上で悔しがるクーベルとそれをあやすレベッカの姿を微笑ましく見届け、それでとクロノが切り出す。

 

 

「これからどうするんですか?」

 

「さっきミルヒ姫様から提案があってな。泊まりの当てがないならぜひ城に来てくれと招待された。無論、全員でだ」

 

 

 勇者たちに加えガレットとパスティヤージュの重鎮たちも所用で二日ほどビスコッティで過ごすと聞いたため、翌朝にこの世界へ戻ってきた理由を説明するには非常にいいタイミングだったこともあり尊は二つ返事で招待を受けたことを伝える。加えて今朝に特地を出立して時の最果てを経由し、この世界へ来るなりあまり間を置かずに戦に参加と疲労もそこそこ蓄積されている。

 今夜は厚意に甘えて疲れを癒すことを優先させる運びとなり、一行は迎えに来たビスコッティ騎士団の案内の元フィリアンノ城へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

『『『『かんぱーい!!』』』』

 

 

 カチン、あるいはガキンとグラスやジョッキを合わせる小気味いい音がそこかしこで響く。

 フィリアンノ城のホールでは戦興業の打ち上げ兼ガレットとビスコッティの戦勝祝いというお題目で立食パーティーが開かれていた。

 加えてほとんど身内だけの集まりみたいなものなので堅苦しい作法もなく、突然の来訪にもかかわらず招待を受けた尊たちやパスティヤージュもご相伴にあずかることとなった。

 

 

「まさかお風呂だけでなくパーティーまでお呼ばれされるとは思わなかったわ」

 

「そうね。ミコトとサラの関係者ってだけですごい歓待だったし」

 

 

 グラスのジュースを傾けながらあまりの好待遇に落ち着かないルッカの言葉を肯定するテュカ。

 城に着くなりまずは汗を流してと大浴場に案内され、上がった順に案内されたのがこの会場だった。

 近くで二人の会話を耳にしたエクレとロランが改めてこの待遇の説明をする。

 

 

「先にお話しさせていただいた通り、皆様はミコト殿とサラ様のお仲間ですから。こちらに滞在中はお二人と同じ国賓としておもてなしをさせていただきます」

 

「彼らには春の戦で勇者殿と同じく、姫様を魔物から救っていただいた大恩がある。それに、ミコト殿は単身で星を滅ぼす可能性を持った魔物も倒してくれた」

 

「……プチラヴォスか」

 

 

 星を滅ぼす魔物と聞いてカエルがつぶやく。

 その言葉に「うむ」と答えロランは続ける。

 

 

「こちらでは現在、ダルキアン卿より提示された『星喰い』という名で通している。今回貴殿らがここを訪れたのも、それが関係しているのかな?」

 

「ああ。詳しい話は明日、ミコトから語られるだろう。俺たちがここにいられる時間も含めてな」

 

「承知しました。 改めてになりますが、どうぞごゆっくりご歓談ください」

 

 

 マルティノッジ兄妹が他の席へ向かい、傍で話を聞いていた魔王がフンッと鼻を鳴らす。

 

 

「星喰いか……どの世界でも、奴の目的は変わらんということか」

 

「あの様子だとミコトさんが私たちの世界に戻ってからは、特に問題はなかったみたいね」

 

「俺たちとしては、できればこのまま何事もなく時が過ぎて欲しいと願うばかりだな」

 

 

 そう言ってカエルは手に持った酒を流し込み、さてどうしたものかと視線を巡らせる。

 

 

「――ぶほっ!? なんだこりゃ!? 口ん中で弾けたぞ!?」

 

「えっ、コーラ!? なんでこんなところに!?」

 

「あ、俺が特地で買ったやつだ。みんなで飲めたらって思って出したんだけど、フロニャルドには炭酸ってないのか?」

 

「僕は見たことないですけど……身近だけどここにないものがあるってなんか不思議だなぁ」

 

「けほっ、なんだ、これシンクの世界にもあるやつか? けど、慣れるとうまいなコレ。シュワシュワした感じが癖になるぜ」

 

「味の濃い料理と一緒だと余計に美味いぞ。個人的には焼いた肉とか」

 

「マジか。クロノだっけ? これまだあるか? うちの連中にも飲ませてやりてぇ」

 

「いいぞ。シンクも飲むか?」

 

「いただきます!」

 

 

 未知の飲み物に興味を持ったガウルとは対照的に、見覚えのありすぎる飲み物がこの場にあることに驚いたシンクにペットボトルのコーラを渡すクロノ。

 

 

「――なんと、すべての矢雨をダルキアン卿お一人で?」

 

「でござる。御館様の実力はよくわかっているつもりでござったが、改めて尊敬したでござるよ」

 

「ルッカ殿たちの攻撃を容易く凌いだと耳にしたときはただ者ではないと思いましたが、まさかそれほどの実力者だったとは」

 

「ジェノワーズとの決着もまだついていないが、これは滞在中に是非とも一戦交えておきたいな」

 

「そうだ! 近々、拙者とシンクとエクレとノワの四人で一泊二日の修行を行うのでござるが、お手すきであればお三方もいかがでしょう?」

 

「ほう。それはなかなか魅力的な提案ですな」

 

「ガイナー、オルティー。明日にでも御館様に相談してみるか」

 

「うむ、異存はない」

 

「……うーん。ミコト殿も御館様と呼ばれていると、少々複雑な心境でござるな」

 

 

 忍者同士としてウマが合ったのか会話を弾ませるユキカゼとデナドロ三人衆。

 

 

「えっ!? マールさんも元の世界じゃお姫様なの!?」

 

「そういえば、ここにきた最初の紹介の時にカエルがそんなこと言ってたわねぇ」

 

「私たちもそれは初耳」

 

「あはは…あまり大っぴらに言うことじゃないし。私自身、王女を名乗るには未熟すぎるって自覚はあるから」

 

「未熟って思うんやったらサラ様に相談したらええんちゃう? あの人も元王女なんやろ」

 

「……そっか。そういえばそうだった。いつもミコトさんと一緒にいるから忘れてた」

 

「ミコトさんと言えば……サラ様とは今どんな関係なんです? 最後に別れたときはまだ恋人ととかそういう特別な関係にはなっていませんでしたけど」

 

「現時点デハ婚約者ですネ。一応サラさんの実母からお墨付きヲいただいていマス」

 

『『『こ、婚約ぅ!?』』』

 

「あら、あのふたりってまだ夫婦じゃなかったのぉ?」

 

「リサの家に泊まった時の様子からてっきりもうそういう関係だったのかと思っていた」

 

「あっ! じゃああん時の賭けってノワの勝ちやん!?」

 

「……ああ! おやつ一週間分が~!?」

 

「おやつゲット。いぇーい」

 

 

 勝ち誇った笑みでピースを決めるノワールと崩れ落ちるジョーヌとベールの姿にマールやレベッカたちから笑いが溢れる。

 向ける視線の先で和気あいあいと交流を深める仲間たちを見やり、カエルはフッと頬を緩めてグラスを向ける。

 

 

「ま、せっかくの宴だ。今は楽しむとしよう」

 

「――それもそうね」

 

 

 同感と言った笑みを浮かべてルッカが手にしたグラスを軽く合わせる。

 奏でられた心地いい音を耳に、この世界が自分たちの未来と同じ道を歩まぬようにと願いを込めて。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。