fallout とある一人の転生者 (文月蛇)
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登場人物及び設定(ネタバレ注意)

十話更新したら、投稿しようと思って忘れていた設定資料です。

※これは主に後の登場人物や設定を織り込んだ上でのものです。全て読んだ上で(最新話まで)読むことを推奨。














 

《登場人物》

 

 

 

ユウキ

 

本作の主人公。シャルとは幼馴染み。だが、歳は一つ下の18歳。vault officerの重火器部門の責任者であと数年経てば警備長に昇進する筈だった。前世の記憶を持っているものの、長い年月を経ているため、記憶が風化してきている。前世を通じて銃が好きなミリヲタ。その好きさゆえに重火器部門の職についたのは天職といっていい。ジェームズと一緒に来たB.O.Sのナイトである椿の息子であり、離婚調停中であったゴメスの間に出来た子供である。

 

性格は徹底したリアリストであるが、たまに人助けをしようとする若干お人好しな面がある。容姿はアジア系で黒髪の単髪、目は茶色でほとんど日本人。若干、ゴメスのヒスパニック系の血が入っているため色黒。動物に好かれているのか、遊ばれているのかは知らないが、本人は嫌がっているよう。

 

容姿は色黒日系アメリカ人。中肉中背でウェイストランド人の平均身長。顔面はそれなり。テンペニータワー付近でタロンの傭兵によって目の付近に傷がある。それ以降、ひ弱に見えなくなった。

S.P.E.C.I.A.L.

 

7:Strength(筋力)    

7:Perception(五感)

6:Endurance(耐久力)

4:Charisma(カリスマ性)

8:Intelligence(頭脳)

7:Agility(俊敏性)

2:Luck(運)

 

Skills

 

45:Barter(商い)

85:Big guns(重火器)

65:Energy weapons(レーザー武器)

80:Explosives(爆発物)

40:Lockpick(鍵開け)

40:Medicine(医療)

55:Melee Weapons(接近戦武器)

80:Repair(修理)

 5:Science(科学)

85:Small guns(小火器)

40:Sneaking(隠密)

70:Speech(会話能力)

50:Unarmed(素手攻撃)

 

(捕捉)

カリスマが低いがspeechのレベルが高い。子供が苦手であり、ちょっと口下手でもあるから。しかし、交渉する場合は効果を発揮。scienceは単に科学のセンスがない。および興味がないため。「読み書き算盤」のように実生活での計算程度は分かるが、より深い科学の知識には興味がない。そのためか、Repairは100まで行かない。

 

シャルロット(シャル)

 

通称、“101のアイツ”もとい“101のあの子”。背丈は一般のウェイストランド女性よりも小柄。しかし胸部装甲は大きくロリ巨乳であることが……[Vault セキュリティよって削除されました ]

かなりのお人好しで主人公が止めに入るくらいの心優しい女の子。少しばかり口数は少ない。vaultではジェームズの元で学ぶ医学生であるが、殆どの医術を習得している。外科医としては高い技術を持ち、vault101史上もっとも名医ではないかと言われるほど。また医術以外にも科学方面をジェームズから教わっているため、skillは高い。容姿はダークブラウンの瞳にぱっちり二重瞼。色白できめ細かい綺麗な肌を持つ。しかし、だれしも欠点はある。ネーミングセンスは原作同様壊滅的である。

 

S.P.E.C.I.A.L.

 

4:Strength(筋力)    

8:Perception(五感)

4:Endurance(耐久力)

7:Charisma(カリスマ性)

10:Intelligence(頭脳)

6:Agility(俊敏性)

8:Luck(運)

 

Skills

 

60:Barter(商い)

15:Big guns(重火器)

60:Energy weapons(レーザー武器)

25:Explosives(爆発物)

80:Lockpick(鍵開け)

99:Medicine(医療)

20:Melee Weapons(接近戦武器)

20:Repair(修理)

99:Science(科学)

10:Small guns(小火器)

80:Sneaking(隠密)

40:Speech(会話能力)

40:Unarmed(素手攻撃)

 

(補足)

理系なので計算系のスキルは全体的に高く、医者であるためロックピックスキルも高い。しかし、身体が小さいため小火器や重火器を使うのには向かず、反動の少ないエネルギー兵器を使用する。徒手格闘はジェームズの血のお陰である。

 

 

ウェイン

 

元タロン・カンパニーの傭兵。ビッグタウン出身で多くの傭兵稼業をしている。弟のビルと共に多くの戦地を駆け抜け、D.Cの激戦区にも行ったことがある。越えてはならない一線を分かっているため、残虐非道なタロンから抜け出したために、ヒットマンがたまに狙ってくるため困っている。容姿は金髪に葵眼、体格はウェイストランド人の平均的な体格に準ずる。粗暴な傭兵というイメージがあるものの、なかなかのロマンチスト。

 

ビル

 

元タロン・カンパニーの傭兵。兄と同じビッグタウン出身で鍵なら何でも開けられる。グレイディッチでは尻に火炎放射を浴びて大火傷を負っているが、復帰して傭兵仕事をする。現在、モイラと交際(実験対象)している?

 

スクライヴ・クロエ

 

カリフォルニア生まれのB.O.S.アウトキャスト。アウトキャストに成ったのは親友の一人がアウトキャストに行ったため、自分も後に続いたという安易な理由である。専門はレーザーなどの光学兵器であるが、人手不足のアウトキャストでは専門外なことをさせられ苛立っている。護民官の髪の毛を燃やそうと考えている花の十九歳。容姿はスラヴ系の血が入っており、青い目に黒髪。

 

エンクレイヴによるアウトキャスト基地攻撃によって顔の半分が焼けただれていた。シャルによって回復中であるが、皮膚の移植手術をしない限り、火傷の後は残っている。

 

 

ナイト・リディア

 

カリフォルニア生まれのB.O.S.リオンズ一派。エルダーの人道的な方針に共感を抱いている。アフリカ系女性の24歳。レーザーよりも弾丸が好きだが、それよりも銃剣をこよなく愛する。スターパラディンクロスに指南を受けているらしい。ちなみに男勝りな性格でユウキからは「姉貴」と思われていたりする。

 

 

アリシア・スタウベルグ

 

エンクレイヴに所属していた情報局の工作員で階級は中尉。組織の中でもかなり優秀な部類に入る。父親がエンクレイヴに属する軍事基地の司令で。過去にエンクレイヴの大粛清によって父親が処刑されるなど暗い過去がある。

 

ジェファーソン記念館の一件の後、参謀本部直轄の捜索チームの一翼を担う。情報局の出向組であるが、使い捨ての駒という認識がアリシアと上司双方にあるようで、殆どオータム大佐の指示で動いている。

 

 

 

ジェームズ

 

本作における最強のお父さん。彼の拳は岩をも砕き、彼の指は敵のツボを刺激して爆発させる能力を持つ。彼の存在はまさに世紀末の象徴的な人物と言えよう(嘘)

 

体育会系のお父さん。格闘は100という0距離の鬼。B.O.S.でも勝てる兵士はいないと武装集団の中で密かに伝説として語り継がれている。

 

ジェファーソン記念館で致死量の放射線を浴びて死亡。

 

椿

 

ユウキの母。vaultに入る前はBrotherfoot of steelのナイトをつとめていた。銃や剣術が得意らしく、日本刀を使用。ユウキが生まれるときに死亡。彼女は日本の血があるらしいが、一体・・・・?

アメリカ西部に作られた亡命した日本人を中心とする科学者や軍人などが建設した核シェルターの冷凍カプセルによって生きていた戦前生まれの女性。NCRに吸収されたが、彼女は秘密裏に交流していたBOSへ加入した。

 

 

 

フォークス

 

ゲーム中、もっとも頼りになるナイスガイ。その戦闘に特化した筋肉は誰のそれにも負けない。ゲーム中ではデスクローでさえ、単独で倒す化け物。

 

本作中では、vaultの蔵書の影響によって厨二病患者へと変貌を遂げた。最近の悩みは「かっこいい二つ名」だと言う。

 

 

アウグストゥス・オータム

 

アメリカ合衆国軍統合参謀本部の首席補佐官。階級は大佐。殆ど参謀本部を自由に動かしているため、実質的なトップである。一応、大統領の補佐官でもあるため、多忙であるが、彼自身は大統領に忠実なわけではない。元々、彼は穏健派に位置するメンバーであるが、エンクレイヴの大粛正のあとは中道派に位置する。原作と違い、穏和であるものの、行動力やカリスマ性、人格共に優秀な指揮官である。軍人と言うよりは政治家向きでもある。アリシアの父、ウィリアム・スタウベルグ少将とは士官時代からの友人であり師でもある。

 

ジョセフ・ドライゼン

 

アメリカ合衆国軍参謀総長であり、階級は中将。

オータム大佐の父、シニア・オータム技術少将の後釜として統合参謀本部の参謀総長に任命されている。長身痩せ形でポセイドンオイル基地に若い頃いた人物。政治的手腕はいまいちであるが、指揮官としては優秀である。将軍になって以降、政治という戦場では苦戦し、現在では、エンクレイヴ軍のトップに位置するものの、傀儡のリーダーとなる。本人は中道ではあるが、殆ど穏健派に近い思考の持ち主である。

 

 

《設定》

・メガトン

旧高級住宅街のスプリングベール近郊に位置する大規模な集落。行政は存在せず、ルーカス・シムズ保安官を中心としたメガトンの市民によって決まり事が決められる。市民は主にメガトンに住居を構える人のことを指し、何らかの生産や商売をしていなければ市民権は剥奪される。それ以外は入居者と呼ばれ、食うや食わずの生活を送り、貧富の差が激しくなっている。

 

・リベットシティー

合衆国海軍第三艦隊の原子力空母の街。ウェイストランドの中では唯一民主的な議会があり、警察と似たセキュリティーが巡回している。ウェイストランドの中でもかなり安全な町である。物資も戦前のと中の工場プラントで武器弾薬の製造を少しばかりしている。また、食物生成プラントの活躍によって、自給自足が可能である。

 

・ジェファーソン記念館

二十年前に放棄された浄化プロジェクトを実施していた施設。ジェームズが帰還後に修繕されてかなり復旧された。ユウキによる潤沢な資金と物資によって要塞化されている。現在はエンクレイヴの支配下に置かれている。

 

・アサルトライフル(ユウキ改造モデル)

生前の知識を活かして様々な改造を施した。20mmマウントレイルを装着したR.I.S.タイプや伸縮ストックを搭載したカービンモデル、銃身を短くしたCQBタイプもある。また、併せてフラッシュライトやレーザーポインター、補助照準装置のホロサイトやACOGサイトも開発中である。

 

・vault101セキュリティーヘビーアーマー

従来のアーマーに追加装備を施した重装備モデル。ネックガードや太ももや腕にケプラー繊維を採用し、全体的に防御力が上昇。スリムなアーマーから一転して、重装備なものとなった。防御力で言えば、コンバットアーマーの防御力を軽くしのいでしまう。流石にパワーアーマーには負けるが、メタルアーマーと同程度の防御力である。

 

・簡易ミサイルランチャー(元ネタ、〈M72LAW〉)

アウトキャストとユウキが提携を結び、制作した簡易型ミサイルランチャー。いらない部分はすべてカットされ、射出用の筒と発射ボタンのみがある。米陸軍の「M72LAW」を参考にユウキが設計したミサイルランチャー。運用は殆どロケットランチャーである。現在、インディペンデンス砦でウェイストランド人を何人か雇って生産中。ユウキには売上の二割といくらかの武器提供が行われる。

 

・テクニカルトラック

ユウキが修理した武装トラック。至るところに装甲が施され、装甲車と化している。しかし、ミサイルランチャー一発でおシャカになる。武装は基本的には無いが、ミニガンを装着可能である。他にも作者の案では50口径の重機関銃やミサイルランチャーの筒を改造してミサイル砲塔とするつもりでした。今後の魔改造に期待。

 

・RL-3軍曹

ロブコ社の周囲でロボットを売りさばいている老人から交渉でもらったタコロボットならぬ、Mr.ガッツィー。軍用のため、兵員の装備を運搬する能力や武器の修理なども行える。主人公の案によって様々な改造が施されそうになっているが、実現されていない。今は、メガトンの武器屋でブライアンを立派な合衆国兵士に育て上げようと、ハートマン軍曹のように教練を積ませている。

 

・T49dパワーアーマー(ユウキ改造仕様)

弾薬の携行量を増加させるため、マガジンポーチを胸の装甲や腰に取り付けた弾帯装備バージョン。更に爆発反応装甲を取り付けてあるため、一時的にではあるが、徹甲弾を弾くことができる。ヘルメットは暗視スコープを併用して取り付けてあり、原型はとどめていない。

 

・vaultセキュリティーヘビーアーマー(改)

ユウキ達が脱出後、セキュリティーの一部のメンバーの主張で急遽作られた重武装アーマー。ラッドローチや外から来るウェイストランド人などを追い払うため、完全な防護が成されている。パワーアーマーにも似た装甲の厚さであるものの、実際はパワーアシストがないため、非常に重く、装着者は体力がないと使用できない。正面からの銃撃にも耐えられるが、背中の部分は装甲がないため後方からの奇襲に対処できない欠点を持つ。標準的なセキュリティーアーマーと比べると、遙かに重武装であり、その姿はボムブラストスーツを連想させる形状である。

 

・APC(エンクレイヴ軍兵員輸送車)

エンクレイヴが所有する兵員輸送車。装甲も厚く大抵の銃撃なら耐えることが可能である。遠隔操作式の車載機関銃や機関砲を装備でき、対戦車ミサイルや対空ミサイルも装備できる。8輪で10人まで搭乗可能で、パワーアーマー装備なら六人から八人搭乗出来る。車長と操縦手の二人で操作可能。また、榴弾砲を装備可能で、野営地で整備器具さえあればIFV(歩兵戦闘車)に換装できる。他にも、指揮通信車や救護車両に換装できる。

 

・IFV(エンクレイヴ軍歩兵戦闘車)

エンクレイヴが保有する歩兵戦闘車。85mm榴弾砲を装備しており、APCと部品は共通である。自動装填装置があり、携行弾数は40発前後。車長と操縦手、そして射撃手の三人で運用する。エンクレイブではこれを戦車の代わりに使っている。随伴歩兵は榴弾砲のため、搭乗することが出来ない。火力強化タイプとして105mmライフル砲を搭載したものも存在する。

 

 

・エンクレイヴアーマーMk.2(型番:X-01改良型)

エンクレイブが独自生産しているパワーアーマー。西海岸で使用されたものよりもスリムになっており、軽量化と携行弾数の増加が計られている.全体的にT51bなどと比べると、装甲は薄くなったが、通常火器に対しての耐性は抜群であり、技術研究局が制作した光学兵器を跳ね返す素材も使用されている。しかし、軍用の徹甲弾や爆薬弾などを使用すると、貫通して使用者を傷つけることが報告されている。参謀本部は急遽、ジェファーソン記念館の強襲で受けた損害を踏まえて、追加装甲を施すなどしている。BOSや市場では一般的にエンクレイヴパワーアーマーとして言われるが、正式名称としては「X-01advance power armor」としてエンクレイブ軍では使用される。

 

徹甲弾による貫通が確認されたため、急遽X-01A型に追加装甲を装備させ、実戦での不具合を元に改修型を制作した。従来のA型に追加装甲を施したものを「custom Ver.1」の意味を込めて、「X-01A-C1」と名付けられた。その他、指揮官タイプや強行偵察用の特殊装備が装備されたものまである。弾薬と傾向武器の増大と火器管制システムを導入した重装備タイプが作られたが、既にヘルファイアパワーアーマーなどが実戦投入されており、重装備タイプは打ち切られた。

 

・ヘルファイア・パワーアーマー

エンクレイブのデゥラフレーム・アイポット計画に並行して進められていた新規格の次世代パワーアーマー計画の集大成。並行していた計画は途中で凍結させられたが、ヘルファイア計画はその凍結した計画の資金を使用し完成した。新型の装甲によって外敵からの攻撃を全て跳ね返し、暑さ寒さを感じないような環境モジュールが装備されており2000度の高熱からマイナス30度の極低温までカバー可能。高出力レーザーか対戦車ミサイル榴弾でしか破壊することが出来ない。コストパフォーマンスはヘルファイア一着につき、Mk,2が3着作れる高コストであるものの、、非常に高性能を発揮。特務部隊や熾烈を極める部隊への支給が多い。

 

・中国軍バトルライフル

アメリカに上陸して来た中国軍の部隊が持っていたライフル。銃の形状は第二次大戦中にソ連が使用していた半自動小銃のトカレフSVT-40にそっくりである。308口径弾を使用し、装弾数は10発程度。精度の悪いアサルトライフルを歩兵と狙撃兵の中間であるマークスマンライフルに改良したが、現場の反応が悪く、急遽倉庫にあったものを引っ張り出した。一説では兵の数は不足しなかったものの、銃の数が不足し、古い倉庫から引っ張り出すしかなかったと推測されている。2070年代で旧式の部類に入っていたそれだが、堅実な設計とアサルトライフルと同等のメンテナンスの良さから兵士から親しまれ、訓練期間にそれで教育を受けていた中国兵も多い。多くが中距離スコープを搭載しており、希にアイアンサイトのものがある。D.C.では数が少ないものの、リベットシティーや海岸部のレイダーなどが多く所持している。

 

 

 

 

・エンクレイヴ

戦前のタカ派の政治家や軍人、企業などが結成した秘密結社。アメリカを影で操っていたと言われている影の政府とも揶揄されていた。戦後は生き残ったアメリカ軍の再編を行い、全てをエンクレイヴへと統合した。

 

最終戦争当時、大統領や各官僚、軍人などはアダムス空軍基地から航空機で油田プラントや核シェルターに退避している。

 

2277年のエンクレイヴの本隊は西海岸で壊滅しており、残存する東海岸駐屯部隊と西から逃れた部隊の集まりである。元々エンクレイヴは選民思想が根付いていたが、地理的環境と西海岸のエンクレイヴが在ったときに東海岸を左遷先としていたため、東海岸のエンクレイヴは穏健派が根付いていた。

 

ポセイドン基地壊滅後、シニア・オータム技術少将は生き残ったエンクレイヴの部隊を引き連れ、東海岸や北東部を後にした。彼らは東海岸に駐屯する部隊と合流するが、左遷された将兵達の心情は悪化していた。

 

最終的にジョン・ヘンリー・エデン大統領は国家転覆を企むウィリアム・スタウベルグ中将以下数十名を処刑。東側の将校の大粛清を行い、その他従わないものには左遷や隠居を行い、この大粛清の責任を取ってシニア・オータム技術大将は参謀総長を辞任した。

 

エンクレイヴの政府中枢は大統領に権力が集中しており、アメリカの民主政治の欠片もなく、専制政治となっている。大統領を長とする大統領府があり、その下に立法省・司法省・農林食産省・財務省・エネルギー省・植民開拓省・国防総省(陸海空などは一つに統一。軍編成も同様)・教育再生省・商務省とある。

 

キャピタルウェイストランドの暫定的統治として植民開拓省の行政局は各管区を統治するために市役所を設けている。

 

治安維持は国防総省のエンクレイヴ軍の管轄であるが、治安維持が安定しだい、司法省を編成し、管区ごとに警察機構を設ける予定である。

 

議会などは大統領命令による非常事態宣言と軍の最優先が最終戦争からずっとあり、上院と下院の編成は至っていない。文官や民間人はエンクレイヴの地下壕や基地に住んでおり、エンクレイヴの人口は10万人ほどである。

 

・議会

エンクレイヴの現体制に不満を抱いた者たちが結成した地下組織。政治結社でもある。大粛清前は東海岸でも穏健派として名高いウィリアム・スタウベルグ中将が率いていたが、絵電大王領と西海岸派によって軍人のほとんどが処刑された。現在は軍属が2割と文官が8割弱である。東海岸派が多いもののの、排他主義的な思想をもつ者も中には存在する。東海岸出身の兵士や将校からは厚い信頼を受けるが、西側出身からは毛嫌いし「テロリスト」の烙印を押している。行政を司る文官や高官が多数在籍しており、左派の市民議会も多数入ってきている。

 



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第一章 vault101
一話 プロローグ


駄文、短文の駄目駄目な小説です。更新も遅めです。書きためた分を一気に分割して更新していくので本当に遅いです。


大幅な改訂を行いました。微妙な変化と情緒的な文章の増加なので次の話に影響はありません。




かつてこの世界がどのような文明を築いていたか、知るものは殆どいない。

 

人類が誕生してから、その歴史は同じ種族の血に染まっていた。戦いは人を成長させ、文明を昇華させた。剣から槍へ。弓から火砲へ。そして火薬からレーザー。爆薬から原子爆弾へと人類は戦争を繰り返し、戦争の方法を変えていった。しかし、戦争の本質は変わることはない。

 

2077年.資本主義と共産主義の戦いは遂に終止符を打たれた。核戦争という最悪の結果で。

 

アメリカの資本主義経済によって優雅を誇る摩天楼や権力者の力を誇示する為に作られた高層ビル群、そして工場で大量生産された物の数々。これらは核の炎によって焼き尽くされ、瓦礫と廃墟、そして数百年以上残る放射能が残った。

 

人々はこの世界を「Wasteland(ウェイストランド)」と呼び、人類の歴史は血に染まり続ける。

 

荒廃した土地は人の心を荒廃させ、法も秩序もない世界へと変貌した。200年経った2277年でも、それらは変わらない。

 

 

 

戦争が始まる直前、アメリカは核や疫病から逃れるために「vault」と呼ばれる核シェルターに身を寄せた。そして、そのシェルターから出てきた人々は世界を見て驚愕する。ワシントンD.C.郊外にあるvault101。その耐爆扉は決して開かれることがなかった。しかし、200年の時を経て、突如その扉は開かれた。出てきたのは若い男女。これは本当なら居るはずのない男の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

鳥がさえずり、常に遠くでは車の音など雑音が聞こえてくる。空は蒼く、散りばめられた綿飴のような雲が空を漂っている。

 

銃声や悲鳴もなく、平和と言えるその土地は約七十年戦争を経験していない「日本」と呼ばれる国だった。

 

「早く家に帰らなくては!」

 

日本のとある住宅街の道をママチャリで爆走する。時計は短い針が12時を指す辺り。一般的にそれはお昼のご飯の時間であり、疾走するママチャリに乗る学生服姿を見られてしまえば、「学校を抜け出してきたのか」と思われるかも知れない。

 

しかし、簡単なこと。中学や高校の定期テストは、テストは半ドン。つまり昼には終わってしまうのだ。だから、食堂で友達と飯を食ってカラオケなり遊ぶ計画を立てるもよし。もしくは、家に帰って母親の飯を食うのもよし。俺はその二つの選択を取ることはせず、ママチャリのかごにコンビニ弁当と若干の菓子を入れて、坂を全力疾走で駆け上がる。

 

途中で食後の散歩らしき老人が疾走する俺の姿を見て不思議そうな顔をしていた。ご老人の場合「肉親が倒れた」とでも思うのだろう。だが、違うぞご老人。そんな不幸は訪れていない。

 

目的地に到着し、ふざけてドリフトをかましながら家の自転車置き場に自転車を置く。ドリフトは中学校の時に覚えた。決して格好いいからとやって一つタイヤを壊したわけではない。

 

バックの中の家の鍵を取り、扉を開けて家に入る。靴の向きを考えないで急いで中に入った。

 

「ただいま!」

 

いつもの癖でそう言うものの、返ってくる声はない。それもそのはず。母親はPTAの旅行のため今は留守である。

 

買い置きの清涼飲料を持って、すぐに自分の部屋へと突入する。通学鞄を放り投げてPC机にへばりつき、電源を入れた。

 

 

 

 

「やっと、ゲームが出来る。キャピタル・ウエイストランドよ!私は帰ってきた!!」

 

某ジオン残党、ガトーさんの名台詞を言うのもご愛敬。学ランをベッドに投げ、ヘッドセットを首に掛けた。そして、俺は不気味な笑みを浮かべる。

 

そう、友達とカラオケでも親のご飯を食べるわけでもない。そして肉親が倒れたから急いでいるわけでもない。

 

ただ、ゲームがやりたかっただけなのだ。

 

「二週間ぶりのゲームだ。はっはっは!長かったぞ」

 

定期テスト期間中、いつもはゲームする時間を全て勉強につぎ込んだ。何と言っても来年は高校三年生に辺り、内申の成績は良くてはいけない。いつもへらへらして遊んでいるが、こういうときは勉強しないと不味いのだ。センターや一般も良いのだが、何かあったときの予防線のつもりである。

 

 

「ふふふふ、やっとだ。やっとfallout3ができるぜ!」

 

 

fallout3

 

欧米では数々のゲーム賞を受賞した有名なゲーム。欧米のゲーマーでは知らない奴はいないほど。日本には吹き替えがあるものの、あまり知られていない。近未来 に核戦争が起こり、それの200年後の荒廃した世界。主人公は生活してきた安全な核シャルターから飛び出して、荒廃したアメリカ東海岸かつてのワシントンDC「キャピタル・ウエイストランド」を冒険していくことになる。世界観は近未来であるものの、文化は1950年代のままであり、近未来でありながらも何処か古めかしい、古き良きアメリカが描かれている。

 

パソコンのソフトでは、MODと呼ばれるゲームを改造するものも多くあり、ゲームの中には ないような武器やアイテム。主人公を超絶美少女に変えたり、新たなる新天地を作ることが可能なのだ。

 

「うーん、二週間見てない間に色々更新されてるな」

 

某MOD紹介サイトも見つつ、新しいfallout3のMODを確認していく。二週間の間にそこまで最新のものが、MODの改良版が出ていたりするものがあり、その都度更新していく。

 

「流石に3の新規MODは少ないな。new vegasばっかだ」

 

最近リニューアルされたfallout newvegasというのもあり、それはアメリカ西部の旧ネバダ州が舞台となるもので、3の方の世紀末的な雰囲気から西部劇っぽい雰囲気を醸し出している。

 

このゲームの特徴としては高い自由度とRPG、主人公の成長システムなどがある。その自由度の高いシステムがこのゲームの面白さを引き立てているに違いない。

 

今からやるのはfallout3であるため、それのMODを検索していく。

 

「さてと、・・・なんだこれ?」

 

海外のMOD公開サイトを見ていくと、「New another world」と題名されたMODを見つけた。紹介画像やMODの解説などは載っていない。ただ、データと題名があるのみ。インストール方法とファイル形式が一応書いてあったが、それ以外何もない。

 

「まさか、ウイルス付きとか勘弁」

 

最もダウンロードしてみなければ分からない。ダウンロードをマウスでダブルクリックし、ファイルをチェックする。しかし、ファイルにはウイルスの類いは見つからなかった。

 

「導入して、壊れたらヤバイよな。」

 

かといってMODを数多くやって来た俺にとって、その奇怪なMODには何が入っているんだろうかと興味が沸く。もう少し熟練した理系ゲーマーならプログラムが何なのか見る奴もいるのであろうが、不幸なことに俺は文系。数学はクラスの中でもワースト3に入る成績だ。それ故、数字やプログラムの羅列を見ても首を傾げるのみ。適当に導入しては、CTD(ゲームの機能が停止)するのもしばしば。だが、あらゆるMODを導入し、楽しみ尽くしたおれにとってそれは蛇が誘惑する禁断の果実。

 

所詮は人間。

 

欲には逆らえない。MODの管理モジュールからインストールし、ゲームを起動させた。セーブデータから始めようとしたところ、ある異変に気が付いた。

 

「ん?・・・・ってセーブデータが消えとる!!」

 

“Load”の文字が選択出来ないように、塗り潰されていた。

 

「あ~あ・・・しょうがない・・・・。最初からやり直すか?」

 

意気消沈して、新規にやり直そうと“New game”をクリックした。すると、オリジナルと違う選択肢が表示された。それも日本語で。

 

「に、日本語MODだったか?」

 

英語版のfallout3をMODで日本語化させるものがある。xboxから抽出した日本語を英語版に埋め込むものもあったりする。もちろん、有志の翻訳があるかもしれないが、俺は英語のままやっていたため首を傾げた。

 

「ん~・・・何?“注意”?」

 

画面中央には“注意!本当に最初から初めてもよろしいですか?”

と表示された。MODのエラーでロードデータを引き出せないのだろうと、そのまま“YES”をクリックする。すると、すぐに消えると思ったが、念を押してもう一度聞いてくる。

 

“本当によろしいですか?”

 

「だから、良いって言ってんだろ!!」

 

苛立ちながらYESをダブルクリックした。

 

 

 

すると、画面上から突風が顔を通り抜けた。

 

「パソコンから風!?」

 

窓のカーテンが踊り、近くにあった紙が舞い上がる。物理的にあり得なかった。そもそも、液晶画面から風が吹くなんて一体何の冗談だろう。身体を引き、椅子から立ってパソコンから離れようとする。すると周囲の物を吸い込み始め勢いよく、俺を吸い込み始めた。

 

「PCは友達・・・・でも俺は餌じゃない!」

 

訳の分からんこと言いつつ近くの学習机にしがみつく。そして目の前には通学用に使っていたバックパックがあった。それに手を伸ばして、吸い込まれないようにバックを抱き抱える。机にしがみついたものの、それまでも飛びそうな勢いだ。

 

 

「誰か!助けて!!!」

 

叫んでみたが、誰も助けてはくれなかった。

 

親はPTAの温泉旅行だ。畜生!

 

とうとう、テーブルまでもが宙を舞って、画面の中に吸い込まれ、意識を失った。

その翌日、新聞の小さな所に「不可解な高2消失事件」と書かれていたが、気を止める者は誰もいなかった。

 

 

 



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二話 転生

 

 

 

トクン・・・トクン・・・・・

 

最初は電車の音かと思った。しかし、耳を済ませると、血液の循環だと分かる。つまりは心臓の鼓動。俺の心臓?最初はそう思う。しかし、聞こえてくる方向は俺の真上。辺りを見回してみても、血管が浮き出た袋の中にいるのだろうと分かる。外の光が此方に僅かに来ている。

 

俺は誘拐されたのか?

 

だけど悪趣味な袋の中に押し込められている感覚はある。もしかして、ここって胎内?

 

俺は赤ん坊ってこと?

 

「破水したぞ!急いでオペ室に!」

 

「先生お願いします!息子と妻を!」

 

おうおう、どうやら生まれる寸前らしいな。オペ室とか言うことは医療は発展しているのか。普通、こんな高校生から赤ちゃんに戻ったらパニクる筈なのだが、それが全くない。

 

これって転生?

 

まさかね!

 

すると、押し出されるように引っ張られる。

 

「ん~~~!!!!はぁ・・はぁ・・はぁ・・んん~~~!!」

 

もうすぐ産まれんじゃん。やべえ、頭を捕まれ引っ張り出される。

 

「んぎゃあ!んぎゃあ!」

 

俺の体であろう喉が震え、赤ん坊の鳴き声が聞こえる。

 

「おお、元気な赤ん坊だ。椿、見るといい。元気な赤ん坊だ」

 

すると、黒髪の女性に抱かれた。瞳は蒼く髪は黒。日本人っぽい顔つきで日本人の名前なのでやっぱり日本人かな。瞳は青いけど・・。目鼻立ちがくっきりし、誰の目から見ても美人に見えた。確実にこの人がお母さんだろう。

 

「この子が私の・・・息子なのね!」

 

「ああ、名前はどうするんだい?」

 

俺の名前はどうなるんだい?一世一代の大行事!果たしてどうなる!

 

「この子の名前は・・・ユウキ。英語で勇気よ」

 

いい名前じゃないか。漢字は何なのか分からないが・・・・。

 

疑問に思っていると、お母さんの顔が苦痛に染まり、近くにあった機械から警報が鳴り出す。

 

「ジェ、ジェームズ・・・」

 

「椿、・・しっかりしろ。ジョナス来てくれ、彼女の息子を外へ」

 

眼鏡を掛けた黒人の看護師っぽい人が俺を抱える。

 

「よしよし、もう大丈夫だよ」

 

ジョナスと呼ばれた看護師は俺を抱え、オペ室を出た。その時俺は、ジョナスの着ている服を見て驚いた。

 

白衣に青い革製のスーツ。おいおい、これは一体何の冗談だ!?

 

「よしよし、お母さんは大丈夫でちゅからね」

 

ジョナス!気持ち悪い!変に赤ちゃん言葉使うなぁ!!

 

そうして俺はfallout3の世界に生を成したのだ。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

2077年。1950年代のアメリカ全盛期の人々が考えていた未来。核軍拡を推し進めていたアメリカ率いる資本主義陣営と中国率いる共産主義陣営が衝突。世界中が核ミサイルを放ち、世界中が放射能に汚染された。

 

アメリカではこうした全面核戦争から逃れるため、全米に核シャルターを築き始めた。

 

巨大複合企業「vault-tec」

 

軍需の一端も請け負う彼らは全米に核シェルターを築き始めた。ワシントンD.C近郊に位置する核シェルター「vault101」もその内の一つ。

 

核の炎が世界中を埋め尽くしたとき、vault101の扉は永遠に閉じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公誕生編。

薄っぺらい文章だなと言わないでください。一人称で書くのも久々ではないけど、のびのびと駄文をひけらかしたいでして・・・・


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三話 幼児

 

 

一年後・・・・・・・

 

「よしよし・・・・お父さんだよ」

 

vaultと呼ばれる核シェルターの中で俺は治安を守る監督官「オフィサー・ゴメス」に抱えられている。腰には10mmピストルのホルスターとピストルをぶっさして。

 

お父さん。子供が触ったらどうすんだよ!!もっと子供をあやすときは物騒な物は仕舞えよ!おい!

 

そう、この人“オフィサー・ゴメス”は俺の父親である。本名、ハーマン・ゴメス。バツイチの善きお父さんだ。この核シェルター「vault101」に産まれて、衣食住ある生活を送っている。産まれて落ち着いたあと、色々聞きたかったのだが・・・

 

 

「だぁだぁ!!」

 

これだよ!喋れねんだよ!!

 

「良くできました。そうだよお父さん(ダディ)だよ」

 

しかも父親は親バカ。溜め息を付こうとしても、ゲップが出る。赤ん坊ってこれだからやだ。しかし、部屋の内装も凄いこと。まんまvaultの内装です。これから暮らしていくとなると少々不安です。狭い空間に押し込められていると、何か息苦しく感じる。生まれながらの閉所恐怖症ならば、気が狂うかもしれない。

 

だが、その部屋には何故か日本の刀が飾ってあるのは何でだ?

 

部屋の隅に小刀と太刀が置いてあり、壁掛けは「精鋭無比」とアメリカの風土には似合わないものが置いてあった。

 

「だぁだぁ・・・」

 

俺はちっこい指で刀を指差した。本当なら色々と質問したいところだが、喋れねえ・・・

 

「ん?・・・ああ、これか」

 

ゴメスは一瞬悲しそうな目をした後、俺を抱きながら日本刀に近付いた。ゴメスは近くにあった椅子に腰掛け、膝に俺を座らせた。

 

「これはな、お前のお母さんの御先祖様の物なんだ。確か、日本って言う国のサムライと呼ばれる人達が持っていたものなんだ。」

 

ゴメスは精鋭無比の言葉の意味を言おうとしたものの、間違った意味を教えようとした。

 

「ぶ~!ぶ~!!」

 

いや!その意味違うから!!

 

「お~、お~。どうした?ああ、あれが怖かったんだね。大丈夫だから」

 

違げぇぇぇ!!こうして俺は赤ん坊として数年間過ごした。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

後日談

 

「ユウキ、ほらSPECIALだよ」

 

「だ!」(嫌!)

 

「いやいや、これ読まないと駄目なんだから・・ほらほら」

 

「ぶ~」(まったく、仕方ねえ)

 

「ほ、読んでくれた」

 

7:Strength(筋力)    

7:Perception(五感)

6:Endurance(耐久力)

4:Charisma(カリスマ性)

8:Intelligence(頭脳)

7:Agility(俊敏性)

2:Luck(運)

 

「運が2ってこれは・・・・・」

 

「だ!」(これでいいだろ、クソ親父)

 

「いやいや、これはちょっと・・・・」

 

「びぇぇぇぇぇ!!!」(俺はこれでfallout3をクリアしたんだよ!・・・まあvegasの時は運を上げまくったけどな)

 

「ああ、よしよし泣くな」

 

 

 

 

 

 




初回の時、「運はいらねぇ!」と言って運をめちゃくちゃ下げた記憶があります。そのあとで「なんで天使こないんだよ!」とあとあとになって見てみると運に振り分けてないとこないことが判明。あのときは落ち込みましたよ、本当・・・。


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四話 ファーストコンタクト

ゲームではカットされたシーン(嘘)


 

 

 

 

「ほら、この子がアマタだよ」

 

ゴメス(後は父と呼称)は俺を監督官の部屋に連れてきた。更には医者のジェームズも。そしてこのジェームズは主人公の父親。そしてジェームズの子供が「101のあいつ」になるわけだ。

 

「だぁだぁ・・・」

 

アマタは頭のてっぺんをゴムで結んだ、所謂パイナップルヘアというやつだ。初対面の時にその髪型を見て笑ったが、今はもう耐性がついているのでもう笑わない。

 

「アマー」

 

一応、アマタと言おうとしたものの、赤ちゃんなので話せません。仕様です。

 

「おお、ゴメス。君の息子は頭がいいな、そうだアマタだ」

 

と娘にデレデレな監督官。まあ、分からなくもない。パイナップルヘアだけど、だからこそ可愛い。俺の言うことが分かった監督官にはサービス。

 

「かんと~!!」

 

「おお、そうだ。監督官だ」

 

通じたみたいだな。

 

「お、俺のことは」

 

父は自分のことも呼ばれようと必死になる。

 

「ゴメス!!」

 

ズル!漫画の滑りと同じような効果音と共に顔面からこける父。無論やらせである。

 

「はっはっは!ゴメス、私がいつも言っているから覚えてしまったようだ」

 

父の背景にはブルーの縦線が入るような感じで項垂れ、笑いながらすまないと言う監督官。結構カオスだ。

 

「ユウキ君、ほら私の娘だ。よろしく頼むよ」

 

目の前に来たのは、ダークブラウンの髪をお下げにした女の子だ。例えて言うならば、「ト●ロ」のめいちゃんであろう。

 

「この子はシャルロットだよ」

 

ジェームズはシャルロットの頭を撫でて、俺の横に座らせた。

 

「シャ~ル?」

 

変な風に伸ばすアマタ。まあ、赤ちゃんだから仕方ないか。

 

「アマタ、よく言えたね。お友だちのシャルロットだ。仲良くしなよ」

 

「ほら、ユウキ。シャルロットちゃんとご挨拶。」

 

 

父にだっこされ、シャルロットの前に下ろされた。

 

「シャル」

 

俺は何とか言えた。ロットはまだ発音出来ない。まあ、外国だと言葉を短く発音するからな。このまま、愛称となっちゃうんじゃないか?すると、シャルは俺が座っている所まで来て、頭を撫で撫でし始めた。

 

「一年遅いが分かったのかな。お姉さんだね」

 

確か、ジェームズの息子・・・この場合は娘か。確か、ジェファーソン記念館で生を受けた。あんな地図の端っこから、中央部に位置するここまで赤ちゃんをどうやって連れてきたのか。そしてメガトンまで行ってvault101に入ってしまう、ジェームズとシャルロットは運が良い。

 

赤ん坊に撫でられると和むなぁ・・・。おれも赤ん坊だけど。

 

うん、母子家庭で姉が居なかったから、結構新鮮だ。

 

と感傷に浸っていたが、シャルロットは俺の髪を引っ張り始めた。

 

「ぶぇぇぇぇん!!」

 

何すんだ!こんにゃろ~!

 

やっとふさふさし始めた髪を引っ張るな。

 

「はははは、赤ちゃんの髪の毛はフワフワしているから気になっちゃったんだろう。」

 

ジェームズ!

 

でかくなったら、その髪の毛全部引っこ抜いてやる!

 

おお泣きした俺をあやすように、父は俺を抱っこしてよしよしとあやした。これが“vault101のあいつ”と呼ばれるシャルロットとのファーストコンタクトだった。

 

 

 

 

 

 



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五話 pip-boy3000

8年後・・・・・

 

「おめでとう!!」

 

「誕生日おめでとう!」

 

カメラのフラッシュと共に俺は歓声に包まれた。まあ、そんなに人数は居ないのでそんなに大きい歓声とは言えないが。

 

「父さん、まさか僕にもドッキリ仕掛けるなんて」

 

俺の一人称は僕。まあ、15歳位には俺と直そう。セキュリティーの防弾チョッキを着た、父ゴメスは俺の肩に手を置いてニッコリと微笑んだ。

 

「いやな、ジェームズやジョナスがシャルロットと同じようにドッキリにしようとな」

 

「え~、ドッキリにしようと言ったのは私ですよ!オフィサー・ゴメス」

 

近くにいたアマタは訂正する。アマタはまだ幼い顔付きで、まだ少しふっくらしている。彼女は後ろ手で何か隠しているが何だろう?

 

「プレゼントは何だと思う?」

 

シャルの時は駄作のコミック“グロックナック”だったな。この世界の人達は面白いと言うけどどうだかな。その時、グロックナックの修理をアマタと一緒にやったのでよく覚えている。

 

「う~ん、“合衆国陸軍の火炎放射機で出来る30のレシピ”とか?」

 

「はぁ~・・・ユウキは何でそう言うのになっちゃうのかしら?」

 

アマタは眉間を抑え、溜め息をつく。これは前世からの趣味だ。いまさらやめろと言ってもやめられるものではない。すると、アマタは後ろ手から本を出した。それは物品売買のskillを挙げる本「ゴミの街の馬鹿な商人の話」だった。

 

「お父さんの本棚から見つけたのよ。ユウキは数学とか苦手でしょ」

 

「う!」

 

前世からのバリバリの文系である。修理スキルや爆発物スキルは趣味がこうじて高いけど、数学とか科学とかあまり好きではない。苦手である。前世の時の期末では、確実に数学は赤だった。

 

「これ読んで少しは克服できるでしょ」

 

とは言うものの、お金が必要でない生活を送るvault101にはあまり意味のないものになると思うのだが・・・。次にダークブラウンの髪をポニーテイルにしたシャルが後ろ手に何か抱えている。

 

「えっと、シャルのは・・・“銃と弾丸”?」

 

「違う」

 

シャルは短く否定する。何故かシャルはあまり話さない。生まれつきの物かもしれないが、性格故に話すのが得意ではない。

 

出したのは去年アマタが上げた「グロックナック」だった。

 

「これを俺に?でも、アマタからもらったんだろ?」

 

そう言うと、アマタは微笑んだ。

 

「そうだけど、ここにあるのはあの一冊だけだから。独り占めにするのはよくないって」

 

アマタはチラッとシャルを見て、シャルは口を開いた。

 

「本は貸すものじゃなくて、上げるもの。私は全部読んだ。」

 

シャルは短く言って、頬を赤く染め、照れ臭そうにクラッカーを使う。

「ありがとう、シャル」

 

俺はプレゼントを貰い、浮き浮きしながら兄貴からもプレゼントを貰う。

 

「ユウキ、グローブとボール。あとでキャッチボールしようぜ」

 

一つ上の兄貴のフレディ。腹違いの兄貴ではあるものの、血の繋がった兄弟のように接してくれる。最高の兄貴である。

 

「兄さんありがとう」

 

「よせやい、照れる」

 

フレディは鼻を擦りながら、こちらも照れ臭そうにする。

 

「お父さん、継母さんは?」

 

「仕事があるからこれないとさ。まあ、仕方ないか」

 

父は申し訳なさそうに俺の頭を撫でた。俺の実の母は俺の生まれた直後に死んだ。よって、ペッパー・ゴメスが今の母親だ。

 

我が家、ゴメス家は複雑に絡み合った家族だ。まずペッパー・ゴメスとハーマン・ゴメスとの間に子供、フレディ・ゴメスが生まれる。しかし、双方の擦れ違いと相性の悪さが原因で離婚。フレディは母方に引き取られ、父はバツイチの独身男となった。そこで、母の椿が現れた。二人は結婚し俺を産んだ。しかし、出産後、早産のために体調が悪化。帰らぬ人となった。父は悲しみに明け暮れたが、そこに漬け込んだ・・・いや、優しく励ましたのが、別れた女房であるペッパー・ゴメスだ。結局、元鞘と言うべきか。俺の立場はドラマの姑と嫁と似た関係となった。俺の立場は無論後者。まあ、旦那が他所で作った子供なんて好きではないだろうしな。性格の悪さゆえに、家から追い出されることもしょっちゅうあり仕方がないことだろう。

 

フレディ兄さんからグローブと野球ボールを受け取り、上機嫌な俺。そこに監督官が現れた。

 

「おめでとう、ユウキ。今日が何の日か分かるかい?」

 

「10歳の誕生日です」

 

「よろしい!ここvault101では10歳になったら、大人と同じように仕事をして貰う。これで君はvault boyから立派な大人になったんだ。受け取りたまえ。pip-boy3000だ」

 

監督官の手には、このゲームの象徴とも言えるpip-boy3000があった。

俺はそれを受け取り、左腕にはめた。pip-boyが俺の腕に合わせるように保護パットを調節し、神経接続を行った。

 

「痛っ!」

 

「はっはっは!それが大人の痛みと言うものだ。明日には仕事なのだからちゃんと覚えるように!はっはっは!」

 

監督官は上機嫌な感じで近くのスツールに座った。

 

「監督官、なんか上機嫌だね」

 

「ハノン警備長とチェスをして勝ったんだろう。たしか、ウイスキーの配給券だったかな」

 

だから上機嫌なのか。お酒はともかくとしてnuka-colaだったら欲しいな。父は近くのスツールに腰掛け、溜め息をついた。

 

「ごめんな、ユウキ。お父さんが頼りないばっかりに」

 

「いいんだよ。でも、お継母さんに刀を仕舞われたのは悲しかったな」

 

ある意味、母の形見とも言える日本刀をキャビネットに仕舞われてしまったのは結構魂が削がれた。大和魂が・・・。

 

「あれはユウキが遊びに使おうとしたからだろ。普通に怒られるさ」

 

いや、あれは遊んでいたんじゃなくて、刃を研いでいたんですよ。おっさん。

 

「刃を研ぎたいのは分かるが、もう少し大人になってからな」

 

父は俺の頭を撫でて、パーティーを楽しんでこいと尻を叩いた。俺はケーキをカッティングしているパールムおばあちゃんの元へ行った。この前、Mr,ハンディがシャルの誕生日ケーキをぐじゃぐじゃにしたから、今日のカッティングはおばあちゃんが行っている。

 

「ユウキ、さあお食べ」

 

「おばあちゃんありがとう」

 

おばあちゃんにもらったショートケーキを食べて、満腹感に満たされる。

 

「おい、ユウキ美味しいもん食べてんじゃねーか」

 

後ろから来たのはブッチ。典型的なイジメっ子だ。

 

「お、ブッチ。自分の分は食べたのか?」

 

「ああ、お前の分も食べようと思ってな」

 

残りあと一切れ。既に人数分あるので、残ったのは誕生日のゲストである俺に来る。ブッチはケーキを食べたいのではなくて、自分がどれだけ強いかを見せつけたい。力を固持したいというイジメっ子特有の威張り散らしたいだけなのだ。単にケーキが食べたいのかもしれないが・・・。

 

「いいよ、これ以上食べると胃が持たれる。甘いの好きだけど、二切れも食べられないよ」

 

「え。い、いいのか?」

 

ブッチは驚いたようにする。以前にシャルの誕生日パーティーでシャルと殴り合いになったんだっけ。普通に貰うとは考えてなかったようだ。

 

「ブッチ、太るぞ」

 

「う、うるせー!」

 

俺は横腹を小突かれるが、テイラーおばあちゃんは眉間に皺を寄せた。

 

「ブッチ!行儀よく食べなさい!」

 

監督官が怒鳴るよりも、年輩の方が怒った方が伝わりやすい。ブッチは反抗しないで姿勢を正しくして食べた。後で聞いたのだが、ブッチの母親のエレンはアル中で、毎回酔っ払うと、ちょくちょく家出してブッチはテイラーおばあちゃんのお世話になっていたらしい。そのため、おばあちゃんに叱咤されると、反抗できないのだ。俺がケーキを食べ終わり、シャルとアマタからもらった本を開こうとすると、さっきまでパーティーから抜け出していたシャルが俺の服を引っ張った。

 

「ん?何?」

 

「ちょっと・・・来て」

 

パーティーを抜け出せと仰るのか。パーティーの主役が抜け出してもいいのか?と疑問に思うものの、周囲は思い思いのことをしているので抜け出しても大して変わらないだろう。そう言えば、ジョナスと父とジェームズおじさんはどこ行った?

 

「どこ行くんだ?」

 

「秘密」

 

手を引っ張られ、地下深くへと階段を降りる俺達。遂には、子供が入ってはいけない原子炉のあるゾーンへ到達した。

 

「ここ?」

 

「そう」

 

扉を開いて中に入る俺達。そこには、白衣を着たジョナスがいた。

 

「シャルはともかく、ユウキはまだ子供だろう。入っちゃダメだ」

 

ここで俺はスピーチスキルを発動した。

 

「(スピーチ70%)ジョナスは医者の卵でしょ。管轄違いの原子炉で何をしているの?」

 

「(成功)はっはっは。監督官に言われたら、独房行きだな。口が利けないようにここに監禁しないとな?」

 

ジョナスはおふざけ半分でヘラヘラとしながら言った。まあ、ふざけていたのだろう。

 

「ジョナス、早くつれていこう」

 

「そう焦るなって、せっかくのフィアンセなんだから」

 

「え!」

 

俺は驚いて声を上げた。うっしっしと言うかのごとく、ジョナスは笑い、シャルは頬を赤らめて俯く。

 

「ジョークだ!ジョーク!ほら、準備ができたぞ」

 

まだ若い医者の卵と称されているが、とんでもない。言っていることはそこら辺にいるオヤジとそう変わらない。

 

「何か失礼なこと考えてないか?」

 

「気のせいですよ」

 

どうやら読心術にも長けているようだ。注意せねば。

 

俺とシャルはジョナスに連れられて、とある通路に出た。そこは、ガラクタで作った張りぼてがあり、見たところ、射撃練習場っぽい。そして、付近には父とジェームズおじさんも。

 

「父さん、これってまさか・・・」

 

「当たりだ。秘密の射撃場だ。この前、巡回中にジョナスとジェームズがここら辺をうろうろしていてね」

 

父は微笑み、ジェームズとジョナスは困ったような表情だ。

 

「まあ、監督官に見つかったら大変なんだがね。君のお父さんに言い寄られてね。」

 

「まあ、一人より二人だろ。BBガンだってもう一丁あることだし」

 

父は持っていたBBガンを俺に渡してきた。

 

「まだ、プレゼントをあげていなかったな。これがプレゼントだ、」

 

「父さん、ありがとう」

 

前世では父親は赤ん坊の時に他界していたから、父親の暖かみは知らない。だけど、来世ではそれを知ることが出来た。本当にありがとう父さん。

 

「ほら、あれが的だ。撃ってみるといい」

 

父に渡されたBBガンを使い、狙いを定めて引き金を引く。

 

パコン!と的に取り付けられた灰皿の音が部屋に響き渡った。

 

「命中だ。シャルもほら」

 

ジェームズおじさんに言われ、シャルも置いてあったBBガンを使って的に狙いを定めた。

 

パコン!パコン!

 

二連射し、さすがずっとここで射撃の的を撃っていただけのことはある。

 

すると、コンテナの横から巨大なG。ラッドローチが這い出てきた。

 

「お、ユウキ。害虫駆除だ。撃て!」

 

父は叫び、俺は意気揚々とV.A.T.S.を起動する。

 

V.A.T.S. (Vault-Tec Assisted Targeting Systems)

 

核戦争後のサバイバルのために作られた戦闘システム。的確に的の攻撃部位を絞り込み、選択。攻撃できる画期的なものだ。pip-boyの神経接続によって、反射神経や脳の思考速度に影響を与える物でゲーム内では、説明が成されなかった物だ。

 

ラッドローチの一番ダメージの高いところを選び、攻撃する。体が勝手に動くような感覚で引き金を引き、BB弾がラットローチの顔面に直撃した。グシャ!という物がつぶれた音と共にラッドローチは絶命した。

 

「よくやったな、若きラッドローチハンターだ!」

 

言い方帰れば、Gハンターか。殺虫剤とかないのかな?バ●サンとかあれば簡単にやっつけられるんじゃないか?

 

「よし、じゃあ写真撮るから若きハンターを中心に集って」

 

ジョナスはカメラを手に取り、俺達に向ける。俺とシャルが中央に立ち、サイドに父とジェームズが立っている感じだ。

 

「はい、笑って笑って」

 

パシャ!

 

フラッシュと共にこの誕生日の出来事が記録された。

 

 

 

 




アメリカ人の考えは分からない・・・。なんで、Gを巨大化させようとするの?意味が分からない・・・・。


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六話 テスト

五年後・・・・

 

「ユウキ!起きなさい!」

 

軽くヒステリックな声が聴こえてくる。ああ、あの叔母さんか。継母と呼んだら怒られたし、叔母だったらいいらしい。俺は軽く睡眠不足であった。理由は戦前の小説を読んでいたのだが、内容は追々話すとしよう。

 

今はもう寝たい。

 

「あともう少し・・・50分」

 

俺は某第二次大戦を題材にしたパンツ丸出しで兵器を操るヒロインの一人を思い浮かべながら、口を開く。確かエーリカ・ハル●マンだっけ。ドイツのエースパイロットを参考にしたやつだったか。それにしても、この頃と言えばいいのか。前世の記憶がだんだんと薄れていく感じがする。短期記憶が長期記憶に変換され、その長期記憶がどんどん薄れているのだ。実際、それはあまり必要のないものだ。前世では好きだったアニメでも、今思い出そうとしても、だいたいのシナリオは思い出せるが、敵役の名前やヒロイン、挙げ句の果てに主人公の名前まで思い出せないこともある。

 

まあ、どっちにしても必要のない記憶。俺はさっさと二度寝を・・・。

 

 

と、寝ようとするが、それに痺れを切らしたヒステリック声の主は俺の布団をひっぺがした。

 

「起きなさい!今日は大事なテストでしょう!」

 

そう、今日は大切な職業適正試験G.O.A.T.(Generalized Occupational Aptitude Test)。名前の通り、イメージキャラは山羊だが、試験は支離滅裂な質問による職業審査だ。どういう判断基準なのか未だに分からない。正直言って可笑しいとしか言いようがない。性格のネジ曲がったハノン警備長に金(この場合は配給券)にがめついオフィサーケンダル。父はまともというより、むしろ警察官とかの仕事に向いている性格だ。出来れば俺もそう言う仕事につきたい。

 

俺はまだ、14歳であるけども、小さい学級で同年代の子供が居なければ、一つ歳上の生徒共に授業を受けたりすることもある。今日は一つ繰り上げでG.O.A.T.に臨むわけだ。

 

「あ!やっべ!」

 

ベットから飛び起き、椅子に掛けてあったジャンプスーツを着た。家の扉を開き、近くの水場で顔を洗う。急いで家に戻ると、兄貴のフレディと父、そして継母・・・ではなくペッパー叔母さんが既に食卓に着いていた。皿に乗せられていたシュガーボムを食べ、食物生成機で作られた合成麦パンを食べた。天然の麦で作られたパンを前世で食べたことがあるため、はっきり言って美味しくない。例えるならば、ゴムを噛んでいるような物だ。皿には合成の牛乳をシュガーボムの皿に浸している。この世界で言うコーンフレークだが、パンよりまし。テストが近いため、急いで食べた。

 

「兄さん、あんまりブッチとつるまないでくれよ」

 

「え、いいじゃないか。それよりもこの革ジャンかっこいいだろ」

 

フレディはギャングの「トンネルスネーク」の構成員で落書きをしたりして、警備を困らせている。兄貴はたびたびしょっぴかれていくので、父もいつも溜め息ばかりついている。兄貴がグレたのにも、理由がある。それは・・・。

 

「アマタにフラれたからって、どうしてそんなにぐれるのかね~?」

 

「五月蝿ぇ!お前に俺の気持ちなんか分かるか!」

 

とフレディ兄貴はテーブルに伏せて呻き声を挙げた。

 

元々、真面目で通していたフレディ兄貴であったが、ある日を境にぐれてしまった。それは初恋の相手に「キモい」と評されたことでカルマがちょっとだけ悪の方へ傾いてしまったようだ。

 

まあ、若い内ならよくあることだし、俺の前世の時みたいに厨二病の気にならなくて良かったと思っている。父は苦笑いし、叔母さんは頬をひきつらせている。まあ、グレた理由が失恋とは、初めて知った親はそんな顔をするのだろう。

 

pip-boyの時計を見ると、そろそろ時間である。

 

「兄さん、ほら試験」

 

「うぅ~・・・なんでジェームズ先生は整形外科医じゃないんだ!」

 

いや、あの人。本業は医者じゃないし・・・・。そんなこと言えずに、項垂れた兄貴を引っ張り、家の扉を開いた。

 

「じゃあ、言ってきます」

 

俺と兄貴は二人で教室を目指す。

 

歩いていると、ダークブラウンをショートヘアにしたシャルがこちらに歩いてきた。4年前とは違い、大人の階段を登り始めた今日この時。スタイルも女性らしくなってきたシャルはより一層美人に見えた。だが、その顔は少し不安げな表情だ。

 

「シャル、おはよう。どうしたの?不安?」

 

幼馴染みとも言える彼女の気持ちは手に取るように分かる。あまり喋らない彼女だが、長年一緒にいたので表情から気持ちを垣間見るのは簡単だった。

 

「うん」

 

「やっぱ、医者になりたいんだ」

 

「うん」

 

シャルは父のように医者になりたいと思っていた。俺は余り喋らない医者もどうかと思うのだが、父譲りの頭脳明晰なため、あまり不安には思わない。どちらかといえば、試験自体がおかしいのだ。

 

「風邪引いたと嘘ついたら簡単にバレた」

 

要は試験から逃げようとしたのか。シャルは以外と子供っぽいところがある。男子からは以外と評判はいいが、何故かバリアみたいに近づかない。何かあるのだろうか?

 

「コイツは母ちゃんに叩き起こされたんだ」

 

兄貴は俺に指差し、笑う。さっきの項垂れていたのはどこに行った。

 

「とは言うけど、昨日の夜に父さんからこっぴどく怒られなかった?」

 

「え?何のことかな?」

 

額から冷や汗を垂らすフレディ。すべてお見通しだ!(ト○ックのヒロインの声で)

 

「父さんのウイスキーを勝手に飲んでいたじゃん。ハノン警備長から報告を受けたって父さん、カンカンだったじゃん」

 

「ど、どうしてそれを」

 

答えは簡単だ。その時起きていたし、隣の部屋まで丸聞こえだ。

 

「自業自得」

 

シャルは冷淡にそれを言い放ち、フレディから物を割ったような音がする。いや、俺は何も聞こえなかった。美少女から冷淡に突き放された一言は辛かろう。俺は肩を叩き励ました。

 

そんな感じで話ながら歩いていくと、不良に絡まれたアマタとその不良のリーダー、ブッチとその取り巻きがいた。

 

「ちょっと、離してよ」

 

「いいじゃねえかよ、ちょっと付き合えって」

 

典型的な不良だ。俺の選択肢は色々あるが、まあ一つしかないだろう。

 

「ブッチ、何してんの」

 

俺は普通に声を掛ける。すると、やはり不良のようにブッチは眉間に皺を寄せて此方を睨む。

 

「あん?ああフレディなにやってんだ。弟が邪魔だ向こうに連れてけ」

 

どうやら、俺は見ていない。正直言って面倒だから早く終わらせよう。

 

「なあ、ブッチ。アマタを離してくんない?」

 

「五月蝿えな!生意気なんだよ!優等生ぶりやがって」

 

ブッチは俺の胸元を掴み、顔を近付けた。俺は腹を決めてこう言い放った。

 

「口が臭えぞ、くそ野郎」

 

「あ?」

 

ブッチが拳を握りしめ、俺の頬を殴ろうとした瞬間、俺は膝を思いっきり上げて、ブッチの股間を蹴飛ばした。

 

「ぎゃ!」

 

喉元から変な声を出すと共に床に崩れるブッチ。それを見た取り巻きのポールは殴り掛かる。

 

「この野郎!」

 

拳を反らし、コンクリート製の壁に当てさせ、ポキリと骨が折れた。苦痛のために呻き声を挙げるポールを尻目に顎にアッパーを食らわせた。瞬時にブッチとポールをノックアウトする。しかし、その背後にはバットを持った取り巻きのウォーリーがいるのを忘れていた。

 

「死ねぇ!」

 

俺の背中目掛けて襲いかかるウォーリー、避けようとするがバットが当たるのは避けられない。腕で受け止めようとしたその時だった。

 

「げふっ!」

 

いつのまにか、シャルはウォーリーの背後に周り、首を羽織攻めにしていた。バットを落とし、苦しいと暴れるウォーリー。シャルは手加減しながらもウォーリーを絞め落とした。

 

「・・・殺してないよな?」

 

「大丈夫、失神しているだけ」

 

ウォーリーの脈を触り、生きていることを確認したシャル。医者の娘って凄いね。いや、もとからか?

 

「ありがとう、助かったわ!」

 

アマタは俺をハグして、感謝の意味を込めて頬にキスをする。助けて良かった!アマタはハグし終えると、ブッチたちを見下ろした。

 

「はぁ~・・・なんで監督官の娘だからってこんなちょっかい出すのかしら?」

 

「そういうお年頃なんだよ」

 

アマタにそう言うと、クスっと笑い、試験会場である教室に入った。

 

「ほら二人とも行こう」

 

「ユウキ、待て。ブッチ達は?」

 

兄貴は一応仲間であるブッチに気を使う。でも兄貴、さっきのブッチの言動見る限り、あんたパシられてるだろ?

 

「いいよ、ほっとけば」

 

俺は教室に入り、先生のMr.ブロッチに挨拶する。

 

「おはよう御座います、ブロッチ先生」

 

「おはようユウキ、だいぶ廊下を散らかしたね?」

 

先生は腕を組み、俺を見た。

 

「粗大ゴミの片付けです。アマタにチョッカイだしてきたので解体してました」

 

教室にいた同級生達はプッ!と吹き出し笑う。案外、これが初めてでもない。ブッチ達が落書きをしている時、警備が来たので逃げようとしたらワイヤーに引っ掛かり、しっかりと留置場で過ごした。そのワイヤーが誰がやったか知ることはないだろうが、シャルとほんの“悪ふざけ”で行った。

 

「はぁ~・・・・。学生時代に喧嘩もいいことだが、あまり暴れすぎるのも良くない。殴らないで事なきを得るのも重要だ。いいね?」

 

ブロッチ先生は俺に問い掛ける。

 

「はい、出来る限りそうします」

 

「よし、じゃああとで血の跡を綺麗に掃除だ。いいね?」

 

俺は渋々了承し、空いている席へ座った。

 

後ろから来たシャルも俺の後ろへ座る。

 

「なあ、シャル?」

 

「ふん」

 

とシャルは膨れっ面のちょっと手前。やや、頬が膨れた感じで顔を反らした。

 

「怒ってる?」

 

多分、アマタが俺に抱きつき、キスの雨を降らせたことに嫉妬しているのだろう。

 

「なあ、」

 

「ふん」

 

ご機嫌ななめのようだ。かくなる上は・・・・。

 

「じゃあ、後で冷えたnuka-cola奢ってあげるよ」

 

そう言った瞬間、シャルの目が輝く。しかし、顔は反らしたままだ。

 

「それとパルマーおばあちゃんからロールケーキを貰ってこよう。美味しいんだよな、あのホイップクリームとふわふわとしたバニラ風味のスポンジとか・・・」

 

合成の小麦粉と牛乳や砂糖でよくあそこまで美味しいものが出来るのか分からない。しかし、俺はこの制限された世界では一番美味しいものだと言える。

 

「ほ、本当?」

 

シャルは顔を背けないで俺の目を見て聞く。

 

「ああ、あとで食べに行こう」

 

そう言うと、シャルはニコニコと微笑み、まだかなと独り言を言いながらテスト用紙が配られるのを待った。

 

数分してから、テスト用紙が配られ、試験が始まった。テストの問題は意味不明の物が多いものや科学的知識を問う問題や正義的な行動、更には道徳的な質問などが含まれていた。だが、一番変なのが最後の問題だった。全ての選択肢が監督官とされ、洗脳教育と評されることも吝かではない。俺は全ての問題を解いて、先生に提出し、先生が丸つけをしていく。と言っても、適正な職を選ぶので丸や罰は無いのだが・・・。

 

 

「おめでとう、警備部門の責任者。しかも、重火器を専門に取り扱う部署だ。君には天職だね」

 

神様、今日と言う日を忘れません。俺は精一杯この仕事をがんばります!!

 

俺は上機嫌で適正審査の紙を持って席につく。すると、アマタも通知の紙を貰ったのか、上機嫌だ。

 

 

「見て、監督官育成コースだって!やったわ!やりたかったのよ」

 

幸せそうに語るアマタ。そして、後ろにいたシャルも通知を持ってやって来た。

 

「どうだった?」

 

俺はシャルに聞いた。すると、震えた手で通知を渡す。そこには、シャルがやりたがっていた職業。外科医育成コースの文字があった。

 

「やったじゃないか!よかったね」

 

俺は言うと、いきなりシャルが俺の胸に飛び込んできた。体格的に俺の身長は平均的だ。しかし、今のシャルの身長は俺のちょうど肩当たりに頭が来る感じである。

「シャ、シャル?」

 

「・・・くすん・・・ひっく・・・」

 

鼻を啜る音としゃっくりを挙げる声。どうやら感激のあまり泣いてしまったようだ。俺は落ち着かせるように、背中をポンポンと叩く。

 

「よし、よし。大丈夫。もう終わったから」

 

小柄な小さい体躯のシャルの背中を撫でながら、落ち着かせる俺。なんかもう、一生の内の運を使いまくりだね。少ない内の運が。そして、俺達は満面の笑みで帰ろうとしていると、唖然とした顔で近付いてくる一人の男の姿があった。

 

「に、兄さんどうしたの?」

 

兄貴の表情に驚きつつも、質問した。

 

 

すると、兄貴フレディは震えながら口を開いた。

 

「せ、聖職者の育成コース・・・・受かっちゃった・・・・。」

 

「「「え?」」」

 

この時誰もがその審査結果に驚き、vaultの人々全員がこう言う声を挙げたのだった。

 

 

 

 

 

 




実際の所、フレディー・ゴメスは母譲りなためか、原作では性格がひん曲がっている。ちょっとしたキャラ崩壊ですが、まあいっか。


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七話 Escape Vault

勢いにのって投稿してしまい、かなり後悔しています。やっちまったな・・と思っている。
まあ、とてつもなく更新遅くなりますが、宜しくお願いします。


3年後

 

 

 

 

pip-boyに内蔵された目覚まし時計がなり、スイッチを切って堕眠を貪ろうとした。時計は5時を回り、普段なら寝ている時間だ。

 

「いけね、今日は巡回じゃん」。

 

今日の予定を思いだし、立ち上がる。警備の着る防弾チョッキを上から着て、警備が使うガンベルトを腰に巻き付ける。ホルスターには愛用している10mmピストルを差し込み、反対側に警棒を引っ掻ける。更に後ろのポーチには簡易型の手錠を突っ込み、警備のヘルメットを腰に引っ掻けた。ラッドローチの襲来の時には、被った方が言いかもれないが、普通の巡回にヘルメットを被る必要はない。部屋にあるキッチンでコーヒーポットを暖め、マグカップに合成のコーヒーを注いで、合成パンと共に啜る。昔は食べるのに気が進まないパンだったが、今では貴重な栄養源だ。朝食を食べ終え、歯を磨き、家を出た。

 

今はゴメス家を出て、一人暮らしをしている。何処に住んでいるのかというと、オフィサー用の特別宿舎で寝泊まりしている。因みに兄貴のフレディは既に神父となってvaultの最下層にある教会で祈りを捧げている。あまり、熱心な礼拝者は少ないが、誰かが結婚すると、立会人として結構役に立っている。以前では考えられないような変わりぶりだ。しばらく歩いてオフィサーの詰め所に到着した。

 

 

俺は警備長育成コースを順調に進んでいるため、ハノン警備長が辞めれば、代わりに俺が警備長になる。しかし、今はただのオフィサー。持っていた鍵でガンキャビネットの扉を開けて、クリップボードに数量を記入する。

 

「えっと、32口径が2つに10mmが5つ。アサルトライフルが二挺。ショットガンが一挺。弾はえっと・・・」

 

武器管理担当なので、ここにある武器を確認しなければならない。他にも監督官の部屋にはアサルトライフルとショットガンが二挺ずつ保管されているが、そちらは監督官補のアマタが管理している。弾薬は弾薬製造プレス機があるので製造可能であるが、使用頻度や材料の理由もあり、弾薬の数も多くはない。その代わりに、暴動鎮圧用の警棒やライオットシールド、手榴弾や閃光手榴弾などが置かれている。ゲームではなかった物もあるので、最初は興奮したが4年も経つので喜びも半減した感じだ。

 

「おお、やってるじゃないか」

 

来たのはハノン警備長。ホルスターの44口径マグナムを持った自称タフガイだ。

 

「在庫の数は確認しました。ここにサインを」

 

警備長に催促し、クリップボードにあるサインの欄に警備長の名前が書き込まれる。

 

「まったく、お前さんは仕事が早いな。おれの席がそんなに欲しいか?」

 

ハノンは俺を睨み付ける。

 

「いえ、そんな事」

 

「ふん、だけどないいか。警備長はこの俺だ!お前がいようといまいがこの俺だ。お前には譲らんから覚悟しておけ」

 

つくづく嫌になる性根の腐ったくそ野郎だ。4年前の試験のあのときみたいにぶん殴りたいが、それをすれば一発でクビだろう。父曰く、もうそろそろ解任間近で後続をなじるだけらしいが。ハノンはそう言って、詰め所から出ていった。

 

彼の姿が見えなくなるまで直立不動を続け、見えなくなると近くにあった椅子に腰を下ろした。

 

「覚悟なんかするかよ、馬鹿野郎」

 

 

ガンキャビネットに入ったアサルトライフルを取り出すと、机の引き出しに入っていた核分裂バッテリー内臓型のフラッシュライトを銃に取り付けた。スタンリー叔父さんに作って貰った特注品で、暗いところでもよく見えるのだ。それを背中に掛けてヘルメットを被る。本当は要らないが、とある巡回をするときは被らなければならなかった。詰め所を出て、住民の集会所とも言うべきアトリウムに向かう。本当の目的地はその向こう側にあるのだが。早朝であるにも関わらず、数人がチェスや戦前の映画を見て楽しんでいる。そこに完全武装の俺が歩いていく。しかし、誰も不審に思わない。何故ならばそれが日常であるからだ。

 

俺はアトリウムを抜けてゲートに差し掛かる。一度振り返ると、通路上の天井にはこう書かれていた。

 

「welcome to vault101! 」

 

戦前に来場した人達を出迎えるものであったらしく、いまだ色褪せないその天井は今も戦前の頃と変わらないということを見せつけていた。だが俺が行くところはゲートの先。つまりハッチのあるエントランスゾーンだ。そこは警備以外は立ち入り禁止で関係者以外は入れないようになっている。重武装なのはそのためで、侵入者を撃退するのが目的だ。たとえ、vaultから出ようとする人も同様に。俺はアサルトライフルの弾倉を確認し、レバーを引いて次弾が銃身へ装填された。

 

エントランスに入るハッチを見ると、あることに気が付いた。キーパッドが壊れていた。何時もなら点滅しているランプがある筈であったが、ランプは割られ、キーパッドは煙を挙げていた。脳内に緊急事態のアラームが鳴り響き、咄嗟に壁に寄り、アサルトライフルを扉に向けた。

 

キーパッドが壊れていると言うことは、侵入者が不正アクセスをしたと言うことに間違いない。と言うことは、脱走者?フラッシュライトの電源を点けて、手動で扉を開けた。エントランスはいつも通りで巡回していた警備はいない。それもその筈で、ここの警備は交代の時にタイムラグが発生する。これを知っていると言うことは警備の中にいる者かもしれない。アサルトライフルを周囲に向けつつ、足音を立てずにvaultの入り口であるハッチの近くに来た。

 

 

ガチャン!

 

 

機械的な音が鳴り響き、鉄の擦れる音がエントランス中に響き渡った。

 

まさか、ハッチが開いたのか!?

 

俺は中を確認しないでハッチのある部屋には飛び込んだ。そこには白衣を脱いで32口径ピストルをホルスターに入れたジェームズおじさんがハッチの制御盤を弄っていた。

 

「おじさん、そこで何を!?」

 

とは言いつつも、俺はジェームズが何故外に出ていこうとするのか知っていた。彼は20年前、外の世界からやって来た一人だ。赤ん坊を連れて。前世でやっていたゲームを朧気に思いだし、ここから物語が始まるのだというのを知っていた。だが、それを知ったのは前世の記憶。既に20年近く前の話なのだ。今の今まで忘れていても仕方がない。以前なら俺はこのまま外に出て行くはずだ。

 

しかし、今はどうであろう。

 

俺は今やvault101のオフィサーとして、治安と規律を守る番人として責務を果たすべく行動している。この仕事にも誇りを持っているし、vault101が故郷だと思っている。だが、これから起こるのはラッドローチの襲撃で起こる地獄絵図。ここは大混乱に陥り、多くの人間が死ぬ。

 

もしかしたら、それを食い止められるのでは?

 

俺の頭にそれが過り、アサルトライフルの安全装置を解除した。

 

「私を撃つのかい?」

 

 

ジェームズは俺に問いかける。彼は俺が銃を向けているにも関わらず、腰のホルスターにある32口径ピストルを抜いてはいない。既にハッチは開き、外の空気が風となって吹き付ける。

 

「ユウキ君は・・・・そう言えば君もだったな」

 

言っている意味がよくわからない。ジェームズは何かを悟ったように腕組みをした。

 

「君の父上はまだあのことを言っていないみたいだね」

 

「何のことです?早くハッチを閉めてください。監督官の所に連行します」

 

俺はオフィサーの役割を果たすべく、口を開いた。

 

「君はvaultの中で一番優秀なオフィサーだよ」

 

「どうも・・・・銃を床に置いて、制御盤から離れてください」

 

そこで何故誉める。俺は怪訝に思いながらも、一歩歩み寄った。

 

「君の母上、椿さんはvaultの人間だと思うかい?」

ジェームズの言った言葉に俺は行動するのをやめた。

 

え、何だって・・・・?

 

「それって、どういう・・・・」

 

その答えにジェームズは冷淡に答えた。

 

「彼女は私と一緒に来た外の人間だ」

 

 

俺は驚き、身体を強張らせた。その隙にジェームズは俺の構えていたアサルトライフルを弾き飛ばし、背後から首を締め上げた。

 

 

「がはっ!!」

 

気道が圧迫され、呼吸がしにくくなる。視界がぼやけ、意識が遠退いていく。ジェームズは俺の首を絞めながら、耳元で呟いた。

 

「娘を頼んだぞ・・・・!」

 

それは苦痛に苦しんだ病人が放つような苦しい一言だった。

 

その後俺は意識を手放し、失神した。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

10分後・・・・・

 

 

 

「ジョナス!貴様らがラッドローチを呼び寄せたことは分かっているんだ!いい加減白状しろ!!」

 

「し、知らない!だから殴らないでくれ!がっ!!」

 

骨が折れるような音とジョナスの悲鳴によって目を覚ました。冷たいタオルが俺の頭の上に乗せられ、横には父が心配そうな目で見つめていた。だが、近くにジョナスはいない。多分、隣の部屋なのかもしれない。

 

「大丈夫か?」

 

父は辛そうな目で俺を見る。俺を見るのが辛いわけではない。聞くに耐えない行為が隣の部屋で行われているのだ。服を見てみると、着ていた防弾チョッキとヘルメットは外され、いつものジャンプスーツだ。体を起こして、部屋のインテリア等を見る。見知ったことのある同級生の家。監督官の家のソファーに横になっていた。俺は立ち上がり、何が起こっているのか、部屋の扉を開いた。

 

 

「た、助けて・・・」

扉を開くとそこには、白衣を血で汚し、足元で助けを求めるジョナスの姿があった。俺は助けようと手を差し伸べようとする。だが、

 

「死ね!」

 

ハノン警備長は持っていた44口径マグナムの引き金を引き、ジョナスの頭部に命中した。血が飛び散り、赤い血が俺の頬を撫でた。銃声で駆け付けた監督官と数名のオフィサーがハノン警備長を見て、驚く。

 

「ハノン警備長!何てことを!」

 

俺は悲鳴にも似た抗議を発する、しかしハノンは持っていたマグナムで俺の頭部を殴り付けた。

 

「痛っ!」

 

殴られた衝撃でその場に尻餅をついた。

 

「外から来た野郎がとやかく言うんじゃねえ!腹が立つんだよ!」

 

ハノンは俺にマグナムを突き付け、人差し指は引き金に掛かっていた。

 

俺は殺されるのか?

 

俺はハノンの狂気で淀んだ目を見て思う。ホルスターに未だ収まっている10mmピストルがあるが、それを抜こうか。いや、その前に撃ち殺される。だが、どの道殺されるのなら足掻こう。俺は僅かな希望と大きな絶望を見い出しながら、ホルスターに手をおく。

 

しかし、

 

「息子に銃を向けるな!」

 

 

父は10mmピストルをハノンの頭部に突き付け、俺を庇おうとする。それを見たハノンはマグナムで父の頭部を狙う。緊迫感が漂い、その場の人間は凍り付いた。

 

 

銃口が互いの頭部に狙いを定め、撃鉄が下ろされようとしたその時だった。

 

「ハノン、貴様は最下層の教会でのラッドローチ掃討があるだろう。早く行け!」

いつの間にこの場にいたのだろうか。監督官は命令すると両者共に銃を下ろした。

 

「ちっ!」

 

ハノンは分かるように舌打ちをすると、部下のオフィサー・マックと共に外に出た。俺は痺れを切らし、監督官に食って掛かろうとしたが、父が止めに入った。

 

「止めろ、只でさえお前と私は危うい状況だ。ここで抗議でもしてみろ。確実に今の職を失うぞ」

 

ジョナスが目の前で死んだことに動揺していた俺だったが、次第に落ちついて来た。

 

「一体何が遭ったんだ?」

 

父は時間がないと言って手短に説明した。十分前に監督官のオフィスで警報が鳴り響き、外へ通じるハッチが開いたことを知らせた。監督官はすぐにオフィサー数名と共に、エントランスに行くが、そこには気絶した俺と閉まるハッチだけがあったそうだ。更に悪いことにvaultの中層階で大量のラッドローチが発生し、大混乱になった。以前ラッドローチが生息しているとされる区画の扉があり、警報が鳴ったすぐあとに半開きになっているのをラッドローチ鎮圧班が発見した。犯人はジェームズと脱出を手助けしたジョナスと思われるためで、注意を引くためにラッドローチを招き入れたと推理して、ジョナスを連行。尋問した。尋問と言うよりも、拷問に近く、痺れを切らしたハノン警備長はジョナスを撃ち殺した。手元の情報源が無くなったので次はシャルを重要参考人として引っ張るらしい。

 

「そんな・・・・」

 

俺はジェームズを止めていればvaultの惨事を食い止められたのではないかと思ったが、それを思ううちに、ジェームズの一言を思い出した。

 

『彼女は私と一緒に来た外の人間だ』

 

頭の中でそれがフラッシュバックし、目の前にいる父にこの疑問をぶつけた。

 

「父さん、俺の母さんは外から来たって本当?」

 

「!!」

 

俺が聞くと、父は顔を強張らせた。

 

「ハノン警備長も言っていた。どういうことか話してよ」

 

俺は自分のこと、いや目の前で父と呼んでいた男が信じられなくなっていたのだろう。

 

「そうだ、お前の母親、椿は外からきた人だ」

 

父の言った言葉に多少は救われ、多少は気が重くなった。

 

「20年前、お前の母親とジェームズは外と交流を深めるために派遣された調査隊と一緒にここにやって来た」

 

ゲームでその調査内容が監督官のターミナルに保管されていた。前世の記憶ではそう覚えているが、もうどうでもいい記憶の一部に過ぎない。

 

「あのとき、ジェームズは東から赤ん坊と護衛の二人と一緒にいた。一人は戦前のパワーアーマーを着て、もう一人の護衛。お前の母親も着ていたな」

 

まさか、母もbrotherfoot of steelの一員だったのだろうか。疑問が多く吹き上がるなか、父が口を開く。

 

「調査隊は武装集団に襲われて、ジャックとモリス、Dr.アリスも死んだ。その時vaultには医者がいなかったため、医者であるジェームズが入植出来るよう頼み込んだんだ。無論、すぐにOKを出した訳じゃない。余所者を入れるのはリスクがあったが、医療従事者が居なくなるのは避けなければならない損失だからな」

 

それなら、何故母がvaultに入れたのだろうか。

 

 

「お前の母親は何かの武装組織のメンバーだった。彼女も入植を希望したが、調査隊の隊長・・・今の監督官が許可しなかった。だけど・・・」

 

「父さんが何とかしたんでしょ」

 

俺は父の話の流れからしてそうだろうと、検討付けていた。

 

「ああ、そうだ。あの時のvaultには生き残る技術や知恵を持つ者は居なかったし、経験が物語る時代だ。彼女は軍事的知識が豊富であったから、警備の質の上昇に繋がると言っておいたんだ」

 

父の独白を聞き、俺は埋もれ掛けていた前世の記憶を掘り起こしに掛かっていた。ゲームをやっている内にこの世界に吸い込まれてしまった記憶。この世界で父とめぐり会えた。俺の選ぶべき道は多くある。

 

一つはこのままvaultで生きるか。それとも・・・・・。

 

 

「ユウキ!中層階の北側でまたラッドローチだ!お前もこい!!」

 

呼んだのは、オフィサー・ケンダル。彼はライオットシールドと警棒を持った重装備だ。

 

「了解、今行く」

 

「ユウキ、良いのか?」

 

その「良い」はどの良いだろうか?それは出るか出ないかを意味している。

 

「ああ、僕の故郷はここだ。ここ以外の何処でもない」

 

俺は立ち上がり、先ほど着ていたアーマーではなく、最近になって防御力が強化されたボディーアーマーを着た。首筋を守るために、ケブラー繊維を首周りに付けて肩も防弾繊維で固めてある物で、コンバットアーマーよりも防御力が高かった。腕と足にプロテクターを取り付け、覆面を被る。これは、発生した煙を吸わないようにする処置で、覆面の素材は煙の毒素を取り除く戦前の技術が利用されていた。

 

そして、標準装備のヘルメットをして、ヘルメットのフェイスガードを下ろした。更に、監督官のガンキャビネットからショットガンを取りだした。キャビネットから10mmピストルがなくなっているのに気が付いたが、誰かが持っていったのだろう。

 

「監督官がシャルを見つけ次第、無力化してここに連れてこいとのお達しだ。やればボーナスで配給券が貰えるらしいぜ」

 

ショットガンにショットシェルを装填する俺の手が止まる。確か、今から行くのは中層階の北側だ。シャルとジェームズもそこに住んでいた。俺はシャルを“無力化”してここに連れてくると言うことに躊躇いを抱いた。さっきまで、いや今でも友人であることに変わり無く、そんな彼女にvaultのためと言って暴力を振るうのか?

 

「おい、早くしろ!俺の家族もあそこに居るんだぞ!」

 

ケンダルの怒鳴り声で目が覚める。そうだ、俺がやらなければ大勢の仲間が死ぬことになる。シャルのことはもとより、ラッドローチの駆除に専念しなくては。ショットガンを背中に背負い、右手に警棒、左手にライオットシールドを持って中層階に走った。

 

「痛い!た、助けてくれ!」

 

「お母さん!起きてよ」

 

中層階に行く途中、怪我をおった作業員や動かなくなった母親に抱きつく子供を見る。喉元は食いちぎられ、至るところに噛み傷があった。破傷風のワクチンをvaultの住人は接種しているものの、接種していなければ、ラッドローチに噛まれた者の殆どが破傷風になる。

 

俺はそれを横目で見ながら下層へと急いだ。

 

「ラッドローチだ!!」

 

10mmピストルを持ったオフィサーが近づくラッドローチを撃ち殺し、逃げる住民を避難誘導していく。その中にシャルがいないか探そうとするが、見つからなかった。

 

「中階層の食堂まで行く、あとを頼んだ」

 

ケンダルは避難誘導をしているオフィサーに頼み、俺を連れて、ラッドローチのいる中階層に進んだ。

 

「食堂だ。奴等はここら辺を集中的に発生するからな、注意しろ」

 

ケンダルの忠告を聞き、警棒を握りしめ、ライオットシールドを確りと持った。

 

 

カサカサカサカサ・・・・・

 

 

ラッドローチの独特な音と共に、食堂から一匹這い出してきた。警棒を振りかざし、ラッドローチを力任せに殴る。グシャ!という音が響き、ラッドローチの体液が飛び散った。

 

「グへ、気持ち悪・・」

 

「そう言うな、食堂の中も潰していくぞ」

 

 

ドカ!グシャ!ドゴン!

 

 

何匹かは果敢に突撃し、ジャンプして俺を噛もうとしてくるが、ライオットシールドで防ぎ、警棒で叩き割っていく。ショットガンで一気にやってしまうのもありだが、弾の生産量と備蓄量も考えてみても、トリガーハッピーのように連射は危険であった。使うのは、群れで襲撃してきた場合だけだ。

 

「可哀想に、テイラーじいさんの奥さんじゃないか」

 

ケンダルは食堂の床に倒れた哀れな犠牲者に十字架を刻む。ベテラン警備で指導を担当するオフィサー・テイラーの妻、子供達からテイラーおばあちゃんと親しまれている穏和なおばあちゃんだ。しかし、食堂に倒れていたのは、哀れもない姿であった。喉元は骨が見えるまでグシャグシャに噛み喰われ、至るところに噛み傷が、腹の傷からは内臓が飛び出していた。俺は苦悶の顔で最後を迎えたテイラー老婆の目を閉じてやり、近くに置いてあったテーブルクロスを体に掛けた。

 

「次行くぞ、」

 

ケンダルを後ろから援護しつつ下層へと降りていく。

 

 

 

「助けてくれ、母ちゃんが!!」

 

「この野郎!」

 

ケンダルはブッチの母、エレンを襲うラッドローチを警棒で叩き殺した。それは戦前の主婦が新聞紙で叩くかの如く。グシャと潰れ、俺は10mmピストルでケンダルを援護した。サイトで狙いを合わせ、ケンダルに襲い掛かろうとするラッドローチに10mmホローポイント弾を喰らわせた。一通り終わる頃には、ラッドローチの死骸が散乱し、そこら中に黄色の体液がばらまかれていた。

 

「ありがとう、ユウキ!本当に助かった!母ちゃん助けてくれてありがとう!これを受け取ってくれ!!」

 

ブッチは持っていた革ジャンを俺に渡し、デロリアを連れて、急いで避難場所に走っていく。ブッチから感謝の言葉を言われたのは初めてだったが、まさか、「俺」が革ジャンを貰うとは思わなかった。一応、革ジャンをpip-boyに収納し、ケンダルは落ちていたウォッカを懐に納めた。

 

「こんな、大規模な襲撃は初めてだぜ。これは相当ヤバイぞ」

 

ケンダルは口から垂れた涎を服の袖でふき、呟いた。かつてのラッドローチの襲撃は生易しいもので怪我人しかでなかったが、今回は死傷者が出るほど大規模なものになっている。俺たちは次の区域を掃討するためにブッチの家を後にした。

 

「もう少しでジェームズが住んでいた家だ。友達だからと言って気を抜くんじゃねえぞ」

 

「・・・分かっています」

 

住居区に入り、逃げ遅れた住民が哀れな姿となって床に転がっているのを見つけた。もしかしたら、既にラッドローチに喰われているんじゃ・・・と最悪なことを想定する。しかし、したところでいまの状況が変わることはない。ライオットシールドをpip-boyの中へ収め、ホルスターに収められた10mmピストルのスライドを引いて次弾が装填されているのを確認した。一応、ショットガンは背中に掛けているが、それを使うのはラッドローチが出てきてからで、シャルに向けるつもりは毛頭ない。

 

「抵抗すれば、銃を使って無力化してもいいとの命令だ。躊躇わずに撃て」

 

ケンダルはホルスターの32口径ピストルのリボルバーマガジンで装填しているのを確認し、周囲に注意を払いながら進んでいく。

 

「誰だ!止まれぇ!」

 

「まって、アマタよ!撃たないで!」

 

廊下の向こうから走ってきたのは、アマタだった。息も切れ切れでラッドローチから逃げてきたようだ。

 

「アマタか、さっき監督官が呼んでいた。今すぐオフィサー詰め所に来いと・・・何かやらかしたのか?」

 

ダンケルはこの状況でよくへらへら笑っていられるなと、俺は疑問に思ったが、そこはベテランのオフィサー。住民が怯えないように落ち着いて避難できるようにそう言う態度をしているのだ。

 

「ええ・・・まあね」

 

アマタは意味げなことをいい放つと走り去っていった。そう言えば10mmピストルが無くなっていたが、アマタがシャルに渡したんだろう。それをケンダルに言おうとしたが、通路から何かが飛び出した。

 

「動くな!シャルロット!!お前を連行する!そのバットを捨てろ」

 

ダークブラウンのショートヘアに研修医であることを示す白衣。バットとの組み合わせは悪かったが、それは仕方がない。ケンダルは32口径ピストルをシャルに向け、それに呼応した俺は仕方がなく、10mmピストルを構えた。

 

「シャル!バットを捨ててくれ!なにもしないから!」

 

俺は友人の頼みと言うことで、俺はシャルに言った。最初、俺の覆面で誰か分からなかったのか、警戒した顔つきだったが、それは一気に怒りの顔つきとなった。シャルはあまり感情を表に出さない。楽しいときもあまり笑わないし、悲しいことがあっても泣かない。怒って普通な場合でも、表情には絶対出さない。しかし、このときは違った。同じ志を持つ友達を殺された恨みは大きかった。

 

「嘘つき!ジョナスを殺したじゃない!!」

 

それは悲鳴にも似た怒鳴り声。シャルの目からは涙が零れ落ちた。

 

「シャル・・・」

 

俺は彼女の怒鳴り声と表情に驚いた。シャルに近づこうと一歩、歩み出る。

 

「近付かないで!」

 

俺はシャルの叫び声と明確な拒絶で彼女に近付かなかった。シャルは俺が見殺しにしたと思っているんだろう。または、俺が殺したか。

 

そうだ。その通りだ。

 

ジョナスが殺されるのを止められず、あまつさえ、ハノン警備長と監督官に一矢報いることが出来なかった。さらには、やつらの手先としてシャルを捕まえようとしているのだから当然だ。奴等と同じであった。俺は謝らなくてはならない。ここで謝らなければ全てが崩れ去る。ここの生活や家族、思い出、そして友人。俺が謝罪の言葉を口にしようとした時、横の通路から黒い物体が襲いかかった。

 

 

キュイイイイィィィ!!!

 

 

独特の威嚇の鳴き声と共に、ラッドローチは俺とケンダルに襲いかかってきた。

 

「くそ!ラッドローチ!・・・がぁぁぁ!!」

 

ケンダルは32口径ピストルを放つが、ラッドローチには当たらず、喉元に食いついた。頸動脈を噛まれたのか、ケンダルの喉からは鮮血が吹き出し、ヘルメットのフェイスガードが血で濡れる。俺は襲いかかってきたラッドローチを10mmピストルで殴り付けるが、弾かれ首を噛まれそうになる。

 

「くっそ!!」

 

噛まれないように、必死でラッドローチの胴体を抑える。既に防弾チョッキのネックカバーの隙間から喰われようとしている。シャルは隙を見て、通路を走り去った。

 

「シャル!」

 

早く追わないと!

 

俺はグローブをはめた握り拳をラッドローチの目に叩き込み、ラッドローチは衝撃で床に叩きつけた。すぐに俺は床に転がった10mmピストルを拾い上げ、ラッドローチに撃ち込んだ。

 

 

グシャ!

 

 

そして、付近にいたラッドローチも撃ち殺し、首から血を流したダンケルに駆け寄った。

 

「ダンケル!しっかり!」

 

金にがめつい先輩であったが、よきベテランオフィサーとして勤めを果たしていた。だが、それは生きていた時の話。彼は大量出血のショックでそのまま息絶えた。脈を計った血のついたグローブを彼の首から離した。

 

「後で迎えに来ます」

 

俺はそう呟き、逃げたシャルを追った。

 

改良されたボディーアーマーはさっき命を救ったものの、今は怨めしく思えた。ケプラー繊維を重ね合わせ、コンバットアーマーよりも重武装。重たい対弾プレートや肩の保護パット、後ろに担がれたショットガン全てが忌々しく、走るのには不適切だ。だけれど、今ここで脱ぐ時間も身体を危険に晒すこともできない。

 

今はただ走るだけだ。

 

階段を掛け上がり、息も矢継ぎ早でシャルを制止できるかどうかさえ怪しい。しかし、着実にシャルの行く場所に近づきつつあった。ゲームでも俺は監督官からハッチへと続く秘密のトンネルを開くパスコードを教えて貰うため、アマタが尋問されている警備詰所に突撃した。その場で尋問しているハノン警備長を撃ち殺し、場合によっては監督官も手に掛けた。

 

しかし、このあとのクエストでも関わってくるため、監督官を殺してアマタとの関係をギクシャクさせたくなかったため、二回目には監督官は殴って走り去った記憶がある。だが、それはゲームの中の話。現実問題、親友が無惨な死を遂げて、仇を討とうとするだろう。シャルは今その仇を討とうとしている。そろそろ、警備詰所に着こうとしていた矢先、警備詰所の方で銃声が鳴り響く。それはシャルに違いない。俺はホルスターから10mmピストルを引き抜き、息を落ち着かせながら部屋へと入った。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「この糞アマがぁぁ!!」

 

 

肩からどす黒い血が出血し、ハノン警備長の青いジャンプスーツを真っ赤に染め上げていく。大きな血管を傷つけたのか、血が溢れ、vaultの床を汚していく。何が奴をそんなに痛め付けたのか。

 

答えは簡単だ。

 

白衣を着たシャルが震えた手で10mmピストルを構え、銃口からは煙が上っていたからだ。警備詰所の壁の端でvaultの監督官、アルフォンス・アルモドバルは怯みもせずにそこに立っていた。経験故か、またはそう言うことに怯みもしない肝っ玉の大きい奴か、それか気が違えたのかのどちらかだろう。

 

「シャル!止めろ!」

 

俺は叫び、銃を彼女に向けた。

 

震えた手で10mmピストルを構え、震えた人差し指は引き金に掛かる。しかし、そのピストルは軍用向けの拳銃。引き金は重く作られ、震えた指で人を殺すことはない。俺はそれを承知で銃を下ろし、シャルに語り掛けた。

 

「シャル、銃を下ろしてくれ」

 

「いや!父さんもいなくなったし、ジョナスも死んじゃった。私はどうすればいいのよ!」

 

いつもとは全く違う彼女の表情とセリフに驚く。が、これは彼女の本当の姿であった。よく、地方の村でも都会や外からやって来た人を忌み嫌うことがある。vault101もそれと同じ。余所者が来れば、仲間外れは当たり前。陰湿な嫌がらせもあっただろう。しかし、それを大人がすることはない。表面的な仕事上では情報交換はやらなければいけないし、仲間外れはあるはずもない。ところが子供はどうであろう。イジメによる相手の事を考えず、自分と生活基準が違うからと忌み嫌う。陰湿な嫌がらせは勿論の事。同年代からは孤立するだろう。シャルロットも外の世界から来たと言う理由で同世代の子から陰湿なイジメを受けた。vault schoolで物が無くなるのは当たり前。服が切り裂かれたり、仲間はずれにされたのはしょっちゅうだ。だから、シャルは自分の殻に閉じ籠った。表情を出さず、あまり喋らない。彼らとのコミュニケーションを減らすことでイジメから逃れようとしたのだ。彼女の親しい友人は同級生のアマタ、同じ志を持つ年上のジョナス。同世代の異性の友達は俺ぐらいだった。それでも感情を表に出さず、最低限の事はしない。だが、父はいなくなり、ジョナスは死に、友であった友人に銃を向けられた。裏切られた以外の何者でもない。

 

「シャル!お願いだ銃を下ろしてくれ。シャルがラッドローチを放つなんてあり得ない。俺達は友達だろ!俺は最初から撃つ気なんて無いんだ!」

 

「じゃあ、何でジョナスを!」

 

「あれはハノン警備長の独断だ。監督官だって命令していない。ジョナスは拷問を受けていたし、俺はそれを止めようとした。これがその証拠だ!」

 

俺はヘルメットを脱いで、覆面を脱いだ。

 

おでこの右端には、大きく切った痕があった。それはハノンが俺にマグナムのグリップを叩きつけたときの傷だ。ガーゼを貼って血を止めているが、少しガーゼから滲み出ていた。

 

「俺はジョナスを拷問し、殺したことを抗議した。そうしたら、このイカれ糞野郎が殴って銃を向けてきたのさ!」

 

「なんだと!てめぇ!」

 

俺はいつしか何時、“僕”から“俺”へと変化していた。しかも、上司に「イカれ糞野郎」と言ったのだ。クビは免れない。だが、もうどうでもいい、友人を失うより。シャルは震えた銃をゆっくりと下ろした。もう、撃つことはないだろう。

 

「銃を渡してくれ。これで終わりにしよう」

 

俺はシャルに近づいて、シャルの細い手に収まった銃を取った。

 

「ごめんなさい!・・・私・・・私!」

 

シャルは俺に抱きつき、俺の胸に顔を押し付けた。G.O.A.T.の試験の時にすすり泣きをした彼女だったが、今ここにいたのは大泣きするか弱い少女だった。俺は彼女の背中に手を置き、トントンと叩いた。それも、赤ん坊が泣いているのをあやすように。それは永遠に続くかのように思われた。しかし、一人の狂人が咆哮する。

 

「これで終わりだ!この薄汚いウエイストランド人め!」

 

肩を撃ち抜かれていたハノン警備長だったが、撃たれていない右肩には44口径のマグナムリボルバーが握られていた。

 

「死ねぇぇ!」

 

このKY!空気読めよ!!俺は前世の記憶から、古い流行語を思い出した。

 

「伏せろ!」

 

抱きついていたシャルを床に倒し、ホルスターから10mmピストルを引き抜いた。二人は素早く引き金を引き、一人は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

「あち~・・・・。なんであの時、これを着ちまったんだ?」

 

「かっこいいから?」

 

「う~ん、それも判断基準の一つかな?」

 

俺はシャルの問い掛けに答えると、シャルは笑った。あまり表情を出さなかったシャルだが、あの穴蔵から出てきてから表情は一変した。激昂していた時の会話は今と比べて普通だったが、今は英単語があまり並ばない。一応、英語を喋っているが、本当に発する語数が少ないのだ。それで医者が勤まるのかと聞くと、その時は語調は同じだが、語数を多目にするそうだ。だが、それもなくなって“普通の”シャルになるのかもしれない。どちらにしろ、殻を作る理由はないのだから。

 

シャルと俺は歩いていた。

 

灼熱の大地と煌々と太陽の下で。

 

そこは核戦争前にはD.C.圏内では有数の高級住宅街だった場所。最も治安が良いとされる場所であった。しかし、今は使っていたと思われる郵便ボックスと炭と化した家の支柱。放置された開かない金庫や壊れて錆びれた核搭載自動車がそこら中に廃棄されていた。

 

そこは「スプリングベール」と呼ばれた旧高級住宅街。

 

近くには20年前調査隊がコンタクトを取ったメガトンと呼ばれる街があった。そしておれたちはメガトンに続く道をひたすら歩いている。核シャルター育ちで教養があるとは言え、外に出たのは初めてであったし、太陽の日の光に当たるのも初めてだ。

 

だから、かなり疲れるのだ。

 

「あそこにあったホロテープと比べると、荒んでんな」

 

「核戦争があったから」

 

「それでも人間がまだ生きているんだ。凄いことだよ」

 

俺はヘルメットのフェイスガードを上げて、周囲を見やる。雲も少なく、青々とした空が広がっている。核戦争でオゾン層に穴が空いたのかも・・・と現実的な事を考えたが、200年の間に治ったと願いたい。

 

「ユウキ、ありがとう」

 

俺の顔を見たシャルは俺にそう言った。

 

「ユウキがいなければ私は死んでいた。命の恩人だよ」

 

俺に似合わない事を言われて、少しこそばゆい。命を救ったなんて・・・実際命を救ったんだろう。銃を構えたハノン警備長の眉間に銃弾を撃ち込み、監督官のオフィスから秘密のトンネルでエントランスに行って、ハッチを開いた。ありったけの武器と弾薬を持って。俺たちの友人であるアマタと別れを交わし、18年過ごしてきたvault101から飛び出した。アマタや父、義兄のフレディは元気でしているだろうか?まだ出ていってから余り経っていないのにそれを考えるのは、まだ未練があるんだろうな。故郷を後にした未練が。

 

シャルの感謝の言葉に複雑な心境に成りながらも、愛想笑いで返した。

 

「いや、俺は命なんて救っていないよ。それよりもあの集落へ行ってみよう」

 

俺は指差した。そこには戦前に使われていたであろう飛行機の部品をふんだんに使った城塞集落とも言える「メガトン」が見えた。

 

シャルは俺がそう言うところで謙虚なのを知っていたので、俺と愛想笑いをした。それはおれの複雑な笑いよりも、純粋で見とれるような可愛らしい笑顔だった。

 

「そうだね、じゃあ行こう!」

 

以前の彼女とは程遠い、元気ハツラツな声で拳を突き上げる。彼女の胴体の倍はありそうなダッフルバッグを揺らしながら。

 

これからどうするのか。

 

目の前にあるメガトンで持ち前の技術を活かして武器商人やガン・スミスも良いかもしれない。市民権取って、一軒家買うのも言いかもな。あわよくば、シャルとも・・・・。自分の未来図(妄想)を頭の中で描きつつ、口を歪める。

 

だが、彼女のしようとしていたことは全く別のものだ。

 

「あの街に父さんがいるかもしれない」

 

 

俺の理想図(妄想)と反する事を言ったシャルによって、俺の理想図は砕け、俺はズルリとづっこけた。遺伝かな。生まれたときの父のスベリと同じだぜ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

〈続く・・・・のか?〉




はい、これで第一章vault101は終了です。

最後がめちゃくちゃ長いが気にしない。

一応一万五千程度のストックがありますが、更新は来週です。まあ、更新できるかどうかは作者の気分次第です(おい!


※えっと、主人公がジェームズの脱走を事前に知っていたと言う所に加筆しました。これで、少しはおかしくなくなるはず・・・・です。(無理矢理だったか?)



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第二章 Welcome to Wasteland
八話 メガトン


書きためをどこで区切るか迷った。

チートは次の話の冒頭に来る予定です。


「メガトンヘヨウコソ。」

 

無機質な音声が周囲に響く。ロブコ社製汎用ロボット「プロテクトロン」が油もろくに注してもらってないのか、または、そういう仕様なのか知らないが、耳障りな音を出している。シャルとメガトンの前まで来るとスナイパーがこちらに狙いをつけている。しかし撃つ気配はない。確かストックホルムという名前だったか?

 

「み、水を・・・・」

 

ボロボロの衣服をきた男はシャルに水をせがんできた。

 

「ちょっとまって」

 

シャルは肩掛けバックからvaultと書かれた水のボトルを取り出した。

「おお、ありがとう」

 

確か名前があったはずだが思い出せない。大して重要なのではないのだろう。だが、俺は水乞いにさらに何かあげようとするシャルを引っ張り、メガトンの中へ入った。

 

何故かって?自分に必要な物を上げようとしたからだ。困っている人を助けるのはとても偉いことだ。しかし、このウェイストランドでは違う。明日の飯が食えるかどうか分からないのに、困っている人に清潔な水を渡すなんて言語道断だ。

 

俺はシャルを引っ張ってメガトンの街に入った。

 

「ちょっと待って。この中に確かダンディーアップルが・・」

 

「待てや、明日の飯が食えるかどうか分からないのに人に食べ物を上げるな」

 

「え?」

 

とシャルは驚いたように目を見開いた。可愛いのはさておき、俺は説教をする父親のように口を開いた。

 

「あのなあ、シャル。この世界では水や食べ物は放射能で汚染されて、綺麗な水なんて沢山飲めるものじゃ無いんだぞ」

 

「そう・・なの?」

 

「さっき、水溜まりでガイガーカウンターが作動したよな」

 

ガイガーカウンターとは放射能検知器で、シャルと俺がvaultから出たときに、いきなりシャルが足を滑らせて水溜まりに足を突っ込んだのである。

 

「うん」

 

「あれみたいに放射能で汚染されているんだ。無闇に綺麗な水や食べ物を勝手に上げるんじゃない。わかったね?」

 

「分かった」

 

とシャルは納得したようにコクりと頷いた。

 

「ったく、またvaultか」

 

そこには浅黒のアフリカ系のオッサンがこちらに歩いてくる。この確かメガトンの保安官だ。

 

「俺はルーカス・シムズ。この街の保安官だ。盗みや殺し、問題事を起こすなよ。それにしても、お二人さんはvaultか。vaultの警備はそんな重装備なアーマーを着るのか?」

 

とシムズは俺の着ている強化型セキュリティー・アーマーを指差した。下手なコンディションの低いコンバットアーマーよりも防御力が高い改良型なので、一般的な傭兵と比べれば比較的いい部類に入るのは確かだ。

 

「いいや、これは試作品みたいな物さ。それよりも格安物件はありますか?」

 

俺は前世の記憶を辿り、ある意味“格安物件”な家を求めた。

 

「あると言えばあるが・・・・お前さん、爆発物の取り扱いには慣れているか?」

 

と先程の怠けた態度とは一変して、真剣な表情で此方を見た。

 

「ええ、地雷から弾道ミサイルまで何でもござれですよ」

 

俺はvaultの中で色々な軍事書籍を漁っていた。理系が壊滅的に駄目な俺でも光学兵器なら色々できたし、爆発物の取り扱いにせよ、複雑なビルの爆破解体をするのでなければ、一応の爆破技術は習得している。

 

「そうか、頼みたいことがあるのだが・・・・」

 

シムズは街の中心部にある不発弾の事を話し始めた。

 

 

それから数分後・・・・

 

「えっとだから、この御神体をですね、触らせて貰っても?」

 

「だめ!」

 

と拒否されました。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「いいじゃねえか、ちょっとぐらい。減るもんじゃなし!」

 

俺は文句を言いつつ、カウンターに置かれた生ぬるいヌカ・コーラを煽る。その横でシャルは副食で出されたポテトチップスを頬張っている。

 

「ゴブさん、冷えたヌカ・コーラないの?」

 

「無理だなそりゃ、それよりも酒は飲まないのか?」

 

グールであるゴブと名乗るバーテンダーは汚い布でコップを拭きつつ訊く。

 

グールとは放射能によって変化した元人間の総称だ。肌は爛れ、肉は腐り、まるで戦争前のホラー映画に出てきそうな外見だが、話してみればそこら辺の人と変わらない。変わっていると言えば、殴られても喜ぶドMだと言うことだ。例えば水商売の女性からは・・・・

 

「ちょっと退きなさい!」

 

ドスッ!

 

「・・・へへぇ、すんません」

 

また店長であるモリアーティは・・・・

 

「ゴブ、何度言えば分かるんだ!」

 

バキッ!ドカ!

 

「・・・ヒヒ、すんません」

 

って感じである。D.C.都市部の歴史博物館にあるアンダーワールドと呼ばれる集落から来たらしく、モリアーティからは安い賃金で働かされている。可哀相に見えるが、彼はまだ良い方の部類である。町にはメガトンの市民権を持たない人々が多く居て、今日の飯を食べるために、身を粉にして働く。だが、それも報われずに死ぬのがこの世の中である。本来なら俺とシャルはこの酒場に入ることは出来ない。モリアーティの店には、金のある者しか入れさせない。無論、vaultから出てきた俺達はこの世界の通貨「キャップ」を持っていなかったものの、銃弾を少し渡して商談が成立した。

 

俺の前世の記憶にあるゲームに核戦争から20年後のモスクワの地下鉄を舞台にした物があった。その世界では銃弾が通貨の代わりとなっていたので、もしかしたらと銃弾を見せた。案の定、キャップの代わりに軍用の5.56mmライフル弾を30発程度渡して今日の寝床とコーラを手に入れることができた。

 

 

「まったく、あのカルト集団め。核爆弾を解体しようとしたら、何と“我らの神に触れることは許さない”とかなんとか言いやがって」

 

俺は目の前のゴブに愚痴を溢す。

 

「まあ、あれは仕方がない。チルドレン・アトム教会だってあれに触らなきゃ、人畜無害。それどころか、町の人手不足を補っているんだから良いところだと思うんだけどね」

 

ゴブは綺麗にしたコップをカウンター下の棚に戻した。

 

チルドレン・アトム教会とは核爆弾を崇拝するちょっとした新興宗教の類いだ。なんでも、核戦争で地球は浄化され、原子の力で云々と俺のような知識人(?)の常識はずれな説教を垂れる集団。それでも、教義などはしっかりしていて、彼らの信者で盗みや町の中の無意味な殺しはしないと公言している。

 

まあ、その崇拝対象である核爆弾を弄ろうとする余所者は追い払うのが当然。いきなり外国人がお堂で仏像をペタペタ触っていれば、誰だって追い払いたくなるだろう?

 

「姿の見えなくなる物があればいいんだけど・・・」

 

シャルはそう言いつつ、イグアナの角切りを食べる。以外とジューシーなイグアナ。あとで食べてみよう。ん?姿が見えない・・・

・。そうか!

 

「シャル、ちょっとここで待っていてくれないか?ゴブ、シャルに変な虫が付かないように見張っておいてくれない?」

 

「ああ、いいけど」

 

「どうしたの?」

 

ジャンプスーツを着ているシャルはこっちを見て言った。

 

「いや、良いこと思いついたんだよ」

 

そう言って俺は店から出ていった。

 

扉を開くと、ざらついた空気と焦燥感が込み上げるような風が俺を迎えた。殆んどジャンクと言ってもいいだろうこの「メガトン」。世紀末の代名詞だな。

 

俺が着ている改良型vaultアーマーは前世の日本のSATが使っていそうな重装備の物だ。それがメガトンの道を歩いていたら、目を引くのは当然だ。俺はその目線を無視しつつ、メガトンの雑貨店へと足を運んだ。

 

「いらっしゃい!すごい装備ね。何処から来たの?」

 

迎えてくれたのは、店主のモイラ。ロブコ社のジャンプスーツを着ていて、赤毛の女性である。設定では20歳前半とされていて、ゲーム中ではマッドな部分が発揮された。重傷を負った主人公にニコチャンマークを縫い付け、手術を「パッチワーク」と言う辺り、危険人物と言えるだろう。

 

「そこら辺をぶらりとね、単なる傭兵だよ」

 

俺はそこはvaultと言わない。だって、ここで言えばガイドブックを作らされる羽目になるからだ。

 

ガイドブックとは「ウェイストランド・サバイバルガイド」。所謂、荒廃した世界で生き抜くための手引き書である。これを書くためにレイダーと呼ばれる無法者の残虐集団の集まるスーパーに突撃したり、地雷原と呼ばれる場所に地雷を取りに行ったり、わざわざ放射能が出る所で被爆するなど、命が幾つ有っても足りないのだ。だがこの本は3年経つと、あろうことかアメリカ中西部のモハビ砂漠まで広がっているのだから、モイラの社会貢献の志が天よりも高かったことが証明された。

 

だが、俺はそんなことで命を掛けたくはないのだ。

 

壁に寄りかかる傭兵らしき人物は眉をひそめて俺を見るが、俺は目で挨拶すると、直ぐに目線を逸らす。いや、これは“逃げろ”と言う合図かも・・・・。

 

「そうなの!ちょうどいいわ!貴方に是非やって欲しいものがあるの!ウェイ・・・」

 

「ちょっと欲しいものあるんだけど!!」

 

少し大きめに声を出して遮った。モイラは驚いたのか、目を見開いた。

 

「あのさ、今すぐ欲しいものがあるんだが、この店なら何でも置いているかい?」

 

「そうね、物にもよるわ」

 

一応、こちらを買い物客として見てくれたらしい。直ぐにリストの書かれたクリップボードを取り出した。

 

「ステルスボーイはある?」

 

 

ステルスボーイとは中国軍ステルスアーマーの光学迷彩の対抗策として作られた変調フィールドを発生させる光学迷彩らしい。らしいと言うのは、ゲームでしか使ったことがなく、生まれてこの方使ったことがない。ロブコ社製の“モデル3001個人向けステルス装置”と正式名称としてあるが、では集団用や兵器にもあるのだろうか。

因みになんか連続して使用すると副作用があるらしく、偏執病や妄想癖、果ては統合失調症になるらしい。だが、ゲーム中ではステルスボーイを余り使わない。このゲームのDLCである意味チートでバランスブレイカーな「中国軍ステルスアーマー」がゲットでき、いつでもステルス迷彩が使えるため、最終的にロッカーの中に埃を被ることとなる可哀想なアイテムなのだ。

 

モイラはカウンターの棚から金属製のボックスを取り出して、カウンターに置く。そしてボックスから布でぐるぐる巻きにしたステルスボーイが姿を表した。

 

「いくらで・・・」

 

「ちょっとまって」

 

値段交渉に入ろうとするが、何故だか話を区切った。

 

「売ってくれないの?」

 

「売ることには売るわ。でも、交換条件といきましょう?」

 

ああ、ヤバい選択肢ミスったかな?

 

困ったようにする俺を見て、傭兵はある種の哀れみと同情を送ったのであった。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※

 

さて、メガトン公認(ある種の仲間内の決めごと)酒場に居る俺は先程買ったステルスボーイをテーブルに置いた。向かいにはvault101のジャンプスーツを着たシャル。ちなみにvaultに居たときに着ていた白衣はpip-boy3000に入っている。

 

pip-boy3000とは、vault-tecと提携しているロブコ社が開発したリストバンド型携帯端末の事である。腕の神経に接続し、体調管理等を行い、GPS測定によるマッピング、放射能測定、ラジオ、レコーディング機能すら搭載している。そして目玉機能としては、猫型ロボットが持つような四次元ポケット「亜空間収納スペース」があることだ。

それは、戦前注目されていたもので、四次元ポケットと考えても良いだろう。だが、一応端末の処理機能が落ちないように制限がなされていて、装着者にもよるが、ある一定の重量を越えると、身体機能や端末の処理能力が著しく低下する。とても便利なものなのだが、とてつもなくコストが掛かり、少数しか生産できないものなのだ。そのため、vault-tecは核シェルターに入れる人々を富裕層や上位の中流階級の人々にしか解放しなかった。だが、米中部には空いている核シェルターはある。目標としては生き残る価値のあるものにしか与えない選民思想があるため、貧困層や底辺部に位置する中流階級の多いvaultシェルターにはpip-boyを支給されていない。あったとしても、一台や二台そこらなのだろう。

 

俺はpip-boyからステルスボーイを取り出した後に、ボブに軽食を頼む。街の中心に位置する食堂とは種類が少ないが、酒のつまみになるものは存在する。

 

「でも、なんで2つステルスボーイを買ったの?」

 

シャルは首を傾げる。それには訳があるのだ、訳が。

 

「ああ、それはな一個は爆弾処理。もう一個はウルトラスーパーマーケットに忍び込むためのアイテムさ」

 

「でも、ここに家を作ったとしてもお父さんに会うんだよ?」

シャルはイグアナの角切りをフォークでつつきながら訊いてきた。

 

「[speech95%]それでも拠点は必要だ。ここはちょうどウェイストランドの中央に位置するし、あった方が助かると思う」

 

渋々納得するシャル。イグアナの角切りの皿の横に無線起爆装置が置いてある。それは良く見てみると、アメリカ軍が使用していた核弾頭の起爆装置でった。

 

「なあ・・・・シャル。これは?」

 

「・・・これ?これはおじさんから貰った。」

 

俺はシャルの目線を辿ってその人物を見る。その人物は白のビジネススーツを着て、戦前の帽子を被り、サングラスをした男だった。年は30代だろうか。

 

俺はその人物に見覚えがあった。

 

その人物はアリステア・テンペニーと言うイギリス人に雇われた男で核爆発を誰よりも好む男だ。その名をMr.バーグと言う。彼はメガトンの中心にある核爆弾を起爆させようとする極悪人である。日本語版ではすることの出来ないクエストで彼から起爆装置を受け取って、ここから数十キロ先のテンペニー・タワーで爆発を見物するという物である。殆んどのゲーマーはそのルートを余り選ばないだろう。そう言う俺も一回しかしていない。

 

俺とMr.バーグは目が合ったものの、バーグは会釈をすると酒場から去っていってしまった。

 

「なあ、シャル。何頼まれた?」

 

「これを爆弾に取り付けて欲しい。彼ならすぐ分かるって言ってた」

 

アイツ、そんなことをシャルに頼んだのか。

 

「それと、もしやれたらテンペニー・タワーに部屋を用意してあるって」

 

おいおい、そんなことを言うなよ。極悪人になっちゃいそうじゃないか。

 

俺はそんな邪なことを思いつつ、さらに出されたポテトチップスをかじりつく。

 

殆んどのプレイヤーはメガトンを核爆発させるようなことはしない。PCのMODの多くはメガトンに配置されたりもするので、爆弾を解除する方がデメリットがない。勿論、爆弾を解除したら、アリステア・テンペニーに目を付けられてしまうのも確かだ。

 

俺は軽食のモールラットステーキを食べると席を立った。ん?何か腹の中でピクピク動くような・・・・。気のせいか。

 

「行くの?」

 

リスシチューを食べていたシャルは食べる手を止めて聞いてきた。

 

「ああ、ちょっと用事を思い出してな。ゴブ、変な虫つかないように頼む」

 

「おう」

 

ゴブは返事をする。グールのおっさんだが話せばなかなか良い奴。普通に接すれば割り引きしてくれるからちょっとお人好しなのかもしれない。

 

俺は酒場から出ると、メガトンの中央部に位置する核爆弾に急いだ。何人かが夜の通りを歩いているが、影に隠れながら進む。あんまり目立ちたくはないし、ただでさえ目立つvaultアーマーなのだ。だが真っ黒なボディーアーマーだから影を歩けば人目につかない。

 

モイラの雑貨店の影に隠れて、町の中央を見る。そこにはアメリカ製の超高高度爆撃機用の戦術核爆弾が鎮座していた。それを見る限り、かなり老朽化しており爆発するようには見えないが、何せこの世界。200年前に製造されたロボットがまだ動いているのだから油断は出来ない。

 

「さてとやるか」

 

pip-boyからステルスボーイとプラス・マイナスドライバー、ラジオペンチなどをマガジンポーチや小物入れに突っ込んだ。そして、抗放射線薬のRADーXを飲んだ。一体、なぜ被爆する放射線量が低くなるのか分からないが、そういう性能をもつ物なんだろう。

 

そして、ステルスボーイをONにした。

 

ヴォン!

 

音と共に身体が透明となり、目を凝らさなければ見えなくなった。これで中国軍将校の剣なんて持てば、サイボーグ忍者・・・・いやいや、はやく爆弾処理しないと!

 

俺は腰を屈めながら音を立てないように、颯爽と走る。ちょっと腰が高めだが音は出ず、人に見つからない。中央の広場には誰もいなかった。

 

核爆弾に近づき、放射能物質が溶け出したような水溜まりに足を突っ込む。

 

カリ・・・・カリカリカリ・・・・・pip-boyから放射能が感知され、カリカリと音を立てる。俺は慌てず、爆弾の操作パネルを見る。そこには、被せてあったであろう蓋は何処かへ消えて、コードと数字が表示されるであろうデジタル画面がくっ付けてある。見たところ電源は失われ、起爆は不可能。爆発させるための信管も200年にも及ぶ放置プレイですっかり動かない。

 

このまま核爆弾から爆弾を取り出して持っていたいと思う。だが、何処に置くスペースがあるのか。誰も盗まないからいつでもいいだろうと、俺は念のため湿気った起爆剤に繋がっているコードをラジオペンチで切ると、爆発しないように制御チップであろう物も取り除きpip-boyに突っ込んだ。すると・・・・

 

〔pip-boyカスタマイズアイテムをゲットしました。〕

 

と画面の中央に表示された。

 

どういうことだろうか。

 

今は見る時間もないのでさっさと逃げる。すると、診療所の坂道を登っている最中にヴォン!と音を出して光学迷彩が切れてしまった。すぐに腰を伸ばして普通に歩いた。誰かに見られたのかもしれないと周囲を見渡すが誰もいない。唯一見ているものとすれば、診療所近くで飼われているバラモンであった。

 

何とかなったと俺は、溜め息を吐いて、安堵の表情を浮かべて酒場へと帰ったのだ。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

「よし、これならいい。あれは爆発しないんだな?」

 

保安官のカウボーイハットを被ったルーカス・シムズはメガトンの目と鼻の先である入り口に立っていた。脇には黒と赤を基調とするパワーアーマーを着た男達がいた。彼らは「Brotherfood of steel outcast」と呼ばれた武装集団である。

 

彼らはDCにある国防総省を根城とするエルダーリオンズ傘下の部隊から離脱した者達だ。

 

元々、「Brotherhood of steel」は西海岸のとある米軍基地で離反した兵士達の武装集団である。彼らは核戦争後に、放棄された政府要人核シェルターに移り、勢力を拡大。彼等の目的は、戦前のテクノロジーを保全し管理する。そして、それらを亡くさないためにあらゆる武力を持って食い止める武装結社となった。西海岸では一代勢力となったものの、東海岸には未進出だった。核戦争後もアメリカの首都であることに変わりなく、失われたテクノロジーを保全、管理するために正規軍の将軍にあたるエルダーリオンズは傘下の部隊を引き連れて東海岸に移動。旧国防総省を拠点とし、テクノロジーの回収に当たり始めた。

 

しかし、西海岸よりも東海岸の方は荒廃が酷かった。たった少しの放射能汚染されていない水でさえ、奪い合いが起き、無法者が数多く蔓延っていた。それに比べて西海岸ではvaultのシェルターを中心とした人々が開拓を始め、小国が出来つつあった。東海岸を見たエルダーリオンズはテクノロジーの保全を優先せず、現地人を救済するべきだと方針を転換。多くはそれに賛同した。だが、彼等の本来の目的はテクノロジー保全し人類を復興させることである。それに賛同しない者も多くいた。そして袖を別ち、本来の目的を達しようとするBOSの隊員達は「Brotherfood of steel outcast」となり、旧米軍基地である「インディペンデンス砦」に司令部を設けた。

 

 

 

目の前に居るのは、そう言う目的を持つ武装集団。時折、周囲をパトロールするが、ここは高級住宅地跡。彼らが欲しがるような軍事目的のテクノロジーは見当たらない。おおよそ、シムズが通りがかりの彼らを呼んだのだろう。

 

「確かにこれは米軍で使用されていた核弾頭の制御チップだ。高性能だが、殆どは大戦後に失われたものだ」

 

制御チップを指で挟み、パワーアーマーを着込んだ分隊長の男はそう言う。もしかしたら、失われたテクノロジーとして持ち去る危険性もあった。

 

「そもそも、保安官。俺に解体を頼まずに彼らに解体を頼めばよくね?」

 

「じゃあ、パワーアーマーと重火器身に付けて行ってきたらどうだ?爆弾に近付いた瞬間、信者に袋叩きだろうな」

 

「・・・・納得・・・で、分隊長殿はそれをお持ち帰りで?」

 

俺は目の前に居るパワーアーマーを着た分隊長に訊く。表情は分からないが、多分困った顔をしているのだろう。

 

「放置されて随分経っているし、正常に動かないだろう。こいつはお前にやる。どうせ、使えないだろうからな」

 

と、チップを放り投げる分隊長。まあ、経年劣化で使えないのは当たり前か。その後、アウトキャストの分隊が去り、俺はルーカス保安官の家の前に立った。

 

「こいつが家の所有権証書と市民権証書。メガトン市民だから週に一回精製水が支給される。そう言えば、前に住んでいた男の所有物がまだ残っている筈だ。それも使っても良いぞ」

 

「え、良いんですか?」

 

そんな設定だったっけ?俺は首を傾げた。

 

「2年前に行方不明になった。一応中にあった金目の物は市民に分け与えたが、開かない金庫やコンピューターがあった。色々、あったから使えるなら使っても良いぞ」

 

オリジナルの家には、パソコンや金庫は存在しない。もしかしたら、PCのMODがあるに違いなかった。そもそも、vaultのセキュリティーになってから色々とオリジナルにはない装備品が数多くあった。もしかしたら、俺が生前集めていた兵器と会えるかもしれない。

 

証書を貰い、その後シャルと荷物をまとめて家の前にたどり着いた。

 

「じゃあ、開けるぞ」

 

「うん」

 

俺はシムズから貰った鍵で扉を開けた。

 

 

 

 




記憶にあるゲームと言うのが、XBOXで出ている「METRO 2033」と呼ばれるゲームです。このゲームも核戦争後の世界を舞台にしたゲームなのでお勧めです。

pip-boy3000の「ア空間収納スペース」はオリジナル設定。荷物はどこに収納しているのかと思い至り、じゃあ青い猫型ロボットみたいなのでいいや。と思った次第。いや、だって一応23世紀だし。


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九話 自宅

念願の自宅をゲーット!!

拠点を作ったときの感動は忘れられません。PC版のfallout3で自宅MODを導入させまくってクラッシュさせたのも記憶に新しい。

今回はそんなMODで俺tueeee!!になるようでならない話。


「まさかな・・・・・ここまでいいとは思わなかった」

 

俺は冷蔵庫にあったヌカ・コーラの栓を抜くと喉を鳴らしながら、グビグビと飲み干した。俺の目の前には冷蔵庫の他にキッチン、そして水道が備え付けられていた。しかも、水道は他の家の水道とは違い、放射能の入っていない綺麗な水が出てくるのだ。

 

『かつて水回りとガスレンジ、食器棚が狭く置かれていたキッチンでした。今では二つの部屋に分けられて、キッチンは広々とした調理が可能となっています。

 

そして、隣の部屋には・・・・なんということでしょう!

 

かつて、風呂を浴びるには外のトイレを使わなければならなかったのに、今では大きなバスタブと個室のトイレ。ランドリーが備え付けられています。そして水道はもう一つの隣の部屋にある浄水装置によって、放射能に汚染されていない水が大量に使用できます。

 

二階の自室は以前窮屈でベットも一つしかありませんでした。しかし、大きく間取りされて、本棚にラップトップPC、洋服棚。そして豪華なクイーンベットが置かれています。さらに、本棚の上には日本刀と日章旗、星条旗、エンクレイブ国旗が掛けられています。そして隣の部屋は三つに分けられ、コンパニオンを衣食住させられます。かつて、科学実験キットがあった所は大きなソファーが儲けられ、映画など様々なものが見放題です。

 

そして決め手は地下のバンカー!

 

米軍正式採用のアサルトライフルから希少価値のあるプラズマライフル、スカベンジャーが着るようなフィールドジャケットから米軍最新鋭のパワーアーマーまで揃っております。更に、各種弾薬や新たな弾薬を生成する弾薬プレス機と充電変換コンソールを設置し、武器を解体して整備する作業台を完備。これでfallout3をenjoyしてください!』

 

かつて家のテーマがvaultだったら椅子が置かれ、戦前のテーマなら小さな椅子とテーブルが置かれた場所には食卓のような場所があり、そこには上記のことが書かれた説明書のようなものが置いてあった。

 

と言うものの、これは俺と理系の友人が作ったMODである。数々のMODをプレイしてきた俺だったが、満足いくようなMODには出会えなかった。そこで、俺は理系の友人に頼み、構成などは俺が考え、MODを友人が作った。確か、他にも自宅MODを組み込んでいるので、ウェイストランドを旅して他の導入したMODを見るのも言いかもしれない。

 

 

そう言えば、このMOD公開した時に日本人プレーヤーから誉められたな。説明にも、何処かのリフォーム番組みたいだと。だけど、英語で説明が出来なかったから、外国人の一部にしか使って貰えなかったな。

 

そう思って、部屋の本棚にあった「銃と弾丸」の本を開いた。

 

暫く読んでいる内に鼻歌と共に美味しそうな香りがしてきた。

 

「ユウキ、ご飯出来た」

 

「はいはい、今行く」

 

俺は本にしおりとしてメトロチケットでページに挟み込み、キッチンへと移動する。今、俺が着ているのはいつものvaultスーツである。

 

キッチンには標準的なガスキッチンと冷蔵庫(稼働中)と冷凍庫(稼働中)が置いてあり、カウンターにはスツールが3つ程。皿に盛られたのは、即席ポテトのパッケージから出した白いマッシュポテトと、モールラットステーキ。スープとして、リスシチューにポークビーンズを混ぜたビーンズスープ。アルミ製のお盆に載せて、食卓に置いた。

 

『いただきます』

 

『イダタキマス』

 

俺は手を合わせて日本語で言う。それを真似てシャルも手を合わせて日本語で言った。

 

別に珍しいことでもなかった。俺の母親は日本人のファーストネームであったし、日本人の「食の有り難み」を父から教わった。父ゴメスも発音に難が有ったが、俺の前世は日本人。しかも記憶も殆んど残っている。今でさえ、独り言でたまに出てしまうことがあるのだ。

 

たまに、シャル達親子と食事もする間柄でもあったため、俺がこうやってご飯を食べているのを知っていた。シャルは「ふふっ」と小さく微笑むと、作った料理を食べ始めた。

 

俺も食べるとしよう。

 

フォークとナイフを使ってよく焼いたモールラットステーキを切って口に入れた。

 

味を聞きたい?前世の記憶ならば、それは豚肉と表現すべきだろう。脂肪がなく、歯応えは堅いが、味は悪くない。即席ポテトと呼ばれるインスタント食品(固形のブロックを容器に入れて規定のお湯を注いで3分待つ。すると、ジャガイモで出来たマッシュポテトが出来上がる)も付属の塩を1振りして口に入れる。それもそのまんまの味で楽しむことも出来た。

 

スープもどんな味かと聞かれると、若干困る。スープに使われているのは、リスの肉(ワニの肉にそっくり)にプンガフルーツの葉っぱ(チンゲン菜っぽい)そしてポークビーンズである。戦前の缶詰であるポークビーンズは味もしっかりしており保存状態も完璧だったためか戦前の味がそのままである。そのまま食べると、濃いのだが、リススープに混ぜれば味も薄まって丁度いい味となる。

 

「美味しい?」

 

先程から俺は無言で食べ続けていたのか気になってしょうがないシャルは俺に尋ねてくる。

 

「美味しいよ、さすがシャルだ。」

 

「・・・・・」

頬を赤く染めて俯くシャル。本当に可愛いっす。このままtake outで・・ってもう持ち帰っていたか。

 

それにしても、シャルって俺よりひとつ年上なんだよね。なんか年上ってよりも妹成分が多い感じ。お色気ムンムンなお姉さんってよりも幼い感じが目立つ。正直、二十歳とは思えないんだよね。

 

「・・・・今、変なこと考えなかった?」

 

ん?まさかバレたわけではあるまい。いや、そりゃシャルも胸あるし女性の魅力はあると思うよ。だけど、なんかこうお姉さん成分がないんだよ。

 

「今、一個年上なのにお姉さんぽくないと思ったでしょ」

 

「な、何でバレた!」

 

「それはいつも一緒に居ればわかる」

 

多少膨れっ面のシャル。やっぱり、気にしていたらしい。だけどなシャル。お前は胸があって良いかもしれないが、世の中には幼女体型とかペッタンコなんてのが存在してだな。

 

「今、小さい女の子想像したでしょ」

 

「なんで分かるんだ!」

 

「顔に書いてある」

 

「そんな・・・・ひどい」

 

「酷くない、変態」

 

「変態じゃない。仮にそうであったとしても変態と言う名の紳士なんだ!」

 

Byクマ吉くん。

 

「何でクマ?」

 

「だから何でわかるんだよぉ!!」

 

 

と、シャルは放射能の影響でエスパーの能力を身に付けたのだった(嘘)

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

さて楽しく(悲しく?)夕食を終えて、俺は割り当てられた部屋にある机の椅子に腰を下ろしていた。

 

因みに、シャルから見た俺へのイメージとして「幼女好き」「変態」「クマ」との誤解も甚だしいキーワードが出てきている。チクショウ。

 

言っておくが俺は幼女が好きである。とは言っても「love」じゃなく「like」だ。例えるならば、犬好き。俺も犬が好きだが(前世でも飼ったことはないが)、おれとしても幼女と犬の好感度は=である。幼女好き(love)が変態であるならば、俺の場合は変態ではない。

 

それはさておき、PCの前に座った俺は電源を押した。ファンが回る音に続いて、ハードディスクが動いている音を聞いて溜め息を漏らした。

 

何たってパソコンである。vaultでは監督官や核融合施設にしかなかった貴重品だ。それが、俺の目の前にあるとは信じられない。

 

しかし、画面に表示されたのはとんでもない内容だった。

 

「ユーザーがロックされています。お近くの管理者にお問い合わせ下さいだとぉ!!!」

 

そう、ここで俺のスキルを見せなければならないだろう。

 

Skills

 

15:Barter(商い)

85:Big guns(重火器)

65:Energy weapons(レーザー武器)

80:Explosives(爆発物)

40:Lockpick(鍵開け)

40:Medicine(医療)

55:Melee Weapons(接近戦武器)

80:Repair(修理)

 5:Science(科学)

85:Small guns(小火器)

40:Sneaking(隠密)

70:Speech(会話能力)

50:Unarmed(素手攻撃)

 

 

科学が5って人生舐めてんの?!と思われるかもしれない。だが、文系の自分に何をせぇ言うの?今のこの俺と前世の俺との共通点はやはり文系で数学がてんで駄目だと言うことだろう。

 

 

「ああ、もういい。明日シャルに頼んでおこう。寝よ寝よ」

 

俺はデスクから立ち上がり、近くにあった真っ白いベットに体を埋める。今日1日大変な日だったな・・・・。

 

そんなことを思いつつ、意識を手離した。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「シャル、ちょっとこっちに来てくれるか」

 

「?・・・・うん」

 

シャルを引き連れ、浄水器の近くにある扉に行った。

 

その扉を開けて地下室へと下っていく。オリジナルにはないだろうが、そこには俺が前世で収集したきたMOD兵器が保管されているのだ。扉はエンクレイブバンカーで使用されるような扉で、近くには青く光る蛍光灯があった。

 

 

 

 

「こんなのあるんだ」

 

というのがシャルの感想である。まあ、そんな所だろう。しょうがないのでパソコンの電源をつけてみた。

 

 

ピピッ!!

 

と、pip-boy3000からブザーが鳴る。一応、サイレントモードを解除していたから音が出る。見ると・・・・

 

 

『科学スキルが足りません。ハック不可能』

 

 

何!???

 

そう言えば科学スキル5だったっけ・・・・・。畜生!!

 

 

「ハッキング出来ないの?」

 

シャルは首を傾げる。確か、これでハッキングできないとこのバンカーには入れないのだ。

 

「う~ん・・・・・」

 

「貸して」

 

シャルはvaultスーツを腕捲りしてキーボードに何かを打ち込んでいく。カタカタと文字列が打ち込まれ、何分か経つと、プシュー!というスチームが噴き出すと共に扉が開いた。

 

「シャル!お前って奴は!!」

 

喜びの余り思いっきり抱き締めてしまった。そのときのシャルの顔は地味に赤かったが気にしない。

 

だが、そのぐらい喜んでもいいだろう。このバンカーにはありとあらゆる武器弾薬が置いてあり、この期の生活に大きく関わるのだから。武器がなければ俺自身やシャルを守ることは出来ないし、防具がなければもしもの時に死ぬかもしれない。そのため、感激の余り幼馴染みを抱き締めたところでバチは当たるまい。

 

俺はシャルと共にバンカーの中に入っていく。

 

どう表現すべきか分からないが、棚という棚には小銃や狙撃銃、散弾銃、榴弾銃、短機関銃、軽機関銃、重機関銃、迫撃砲、対戦車砲等々が陳列している。量を見積もっても一個大隊規模はあるのではないか。これは序の口に過ぎず、近くにはvaultにあった同型の弾薬プレス機に充電変換コンソール、銃を解体するための作業台も置かれていた。まだ幾つか部屋があり、隣の部屋にはロッカーが所狭しと並べられ、中にはコンバットアーマーやパワーアーマー、様々な衣服が置かれていた。もうひとつの部屋には、木箱が並べられ、幾つかは武器弾薬を満載したコンテナもあることから、まだまだあるに違いなかった。

 

「すごい・・・」

 

シャルは驚きを隠せなかった。なにせ、それを売れば大金が手に入るのだから。幾つか、必要な武器と弾薬をリュックに詰め込み、ロッカーに掛けてあったコンバットアーマーとフィールドジャケットを手にとってバンカーを後にした。

 

あれなら、30年遊んで暮らせるぐらいの価値のある代物だった。ここを物色していないのはメガトンに住む住人がそこまで技術を持っていなかったのだろう。

 

俺はvaultのジャンプスーツを脱ぐと、黒の重装vaultアーマーに着替える。ヘルメットは被らず、スカベンジャーがよく被るようなゴーグルつきの帽子を被った。手元にはステルスボーイにサイレンサー付きのアサルトライフル。ライトを付けたかったものの、重いため省いた。そして、背嚢を背負って準備は整った。

 

「よし、じゃあ行ってくる」

 

「何処に行くの?」

 

「え、言ってなかったっけ。スーパー・ウルトラ・マーケットで食料調達」

 

「でも、食べ物一杯あるよ」

 

「そりゃ、モイラに借りあるし」

 

核弾頭を解体するとき、ステルスボーイが必要になったのでモイラの頼みを受け入れてしまったのだ。あのとき、銃を売り払って置けばよかったと心底後悔している。

 

「行かないで」

 

想像してみよう。目の前に自分より小さくか弱い幼馴染み、そしてその父親から守れと言われました。目はうるうるさせていて小動物を連想させる。そんな可愛い幼馴染みに言われて外に行こうとする奴はいるわけがない。だが、ここでおれはモイラに恩を売っておかないとダメなのだ。

 

「でも、やらなければならないから。絶対帰ってくるって」

 

とシャルと・・・そして自分に言い聞かせる。ゲームでは朝飯前であるが、現実である。俺にレイダーをやっつけて行けるのだろうか。

 

「じゃあ、私も行く」

 

「え・・・・・・はぁ!?」

 

俺は今の雰囲気だったら、「ちゃんと帰ってきてね」とか出来立てほやほやの新婚さんみたいな感じかなと一瞬期待していた。だが、予想とは裏腹に彼女も“行動派”である。

 

「ユウキだけじゃ危ない」

 

「俺は子供ですか!?」

 

「なんか怪我しそう」

 

彼女は外科手術をこなす外科医である。この町の町医者よりも腕が良いのではないだろうか。しかも、昨日から予感(読心術?)っぽいものを使っていた。

 

「はぁ~・・・・ジェームズさんに殺される」

 

あの人が見たらどう思うだろうか?一人の愛娘がレイダーの根城へ潜入するところを見たら・・・・肉片となっているだろう。誰がって?

レイダーと俺に決まっている。

 

 

 




多分、こんな味じゃない?と思って味の方を書いてみた。あの誤訳たっぷりのスーパーは英語のまんまにするか、日本語誤訳のままにするか迷いましたが、日本語訳と同じような名称に。

次回はちょっと番外編を投下します。

それと、所々で誤字脱字を発見するのですが、どうも見逃しているようです。もし、見かけたら、ひゃくとう・・・感想欄にお願いします。



大きな矛盾を発見しましたので修正いたします。自作MOD→共同MODへ。


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十話 二十年前

今日は二十年前のvaultから出てきた探索隊の話。主人公の母親や角刈りのおばさん?まで登場。そして、主人公もレイダーも肉片になるという謎の発言。いったいそれは・・・?

主人公は今回だけユウキの父親のゴメス視点でお送りします。一人称は私です。あまり本筋とは関係ないので「キャラ崩壊」にご注意を!


これは20年前の話、

 

「何度見てもすごいな・・・・」

 

私はメガトンの入り口から見る夕日を見た。ゆっくりと地平線に沈んでいく太陽を見ていると、vaultにあった古い映画を思い出す。それがどういう内容だったのかよく覚えていないが、あの夕日とそっくりだった。

 

だが、周囲には核によって破壊された高級住宅街の残骸が日に照らされている。何故、人間はこれほどまで愚かなのか。私はただのvaultセキュリティーの片割れ。高尚な理由は出てきそうにないが、目の前の荒廃した世界を見る度に人間の罪の重さに実感させられる。

 

「ゴメス、何をしているんだ?もうそろそろ帰らないと」

 

アルフォンスは私の肩を叩く。彼は現職の監督官の息子であり、次期監督官だ。私の友人ではあるものの、仲良しとは言えない。ギリギリ友と呼ばれる中である。彼が先頭に立って歩いていくなか、私の後ろからvaultスーツの上にフィールドジャケットを着た眼鏡の男が近づいた。

 

「ゴメス、このサンプルを持ってくれ。あとで調べるから」

 

そう言ってきたのは、食物生産を管理するジャックだ。彼の他にそれに携わる者がいるが、彼はクジでまけてここにいる。彼の仕事はここの食物についてである。残留放射能のチェックや毒素などを調べなければならないためだ。

 

私は背負っていた背嚢を下ろして、彼の持ってきたパッケージを中に入れた。私は見届けるとそれを背負って、持っていたアサルトライフルを持つ。

 

「モリス大丈夫?」

 

「どうってことない平気だ。まあ、肩を貸してくれないと動けないが、」

 

後ろからついてきたのは、私と同じvaultオフィサーのモリス。そしてそいつに肩を貸しているのが、唯一の医者であるDr.アリスだ。仲の良く睦まじい二人で、Dr.アリスが志願したときにモリスも志願したと聞く。

 

そこまで仲が良いのだろう。

 

私はvaultまで行く道程でかれらが話すことに耳を傾けた。

 

「vaultをやはり解放すべきなのよ」

 

「何を言っているんだい、君は?」

 

「vaultは核の冬に耐えきれるように作っているけど、永遠に住めるとは限らないわ。いつかは修復不可能になることだってあるのに・・・。私達はもっと外に出ていくべきなのよ」

 

「冗談は止してくれよ。俺を襲った連中を見ただろう?あんな危険な輩が彷徨いているんだ。vaultにいたほうがまだましさ」

 

「もし、永遠に閉じて引き籠ったとしましょう。vault101の人口はざっと150人前後。今は確か2、3世代目よ。5世代六世代と続けていけば劣勢遺伝子が増えても可笑しくないわ。150人って言うのは数世代で近親者に成りうるのよ。遺伝的な病を迎えるより、後世に優秀な遺伝子を残していく方がより確実よ」

 

 

大分、利に叶っている。他のvaultは知らないが、vault101の人口はそこまで多くない。よって近親者が増え、遺伝的欠陥が見つかってもおかしくない。既にvaultは解放すべきとの意見もあり、遺伝的な欠陥を誘発するとしてこの探索隊が結成された。しかしながら、メガトンの浮浪者によって、モリスは負傷。vaultの世論は一気に引きこもりに傾くだろう。

 

「二人とも、良いから歩いてくれ。君達のお陰で日が暮れてしまうぞ」

 

アルフォンスは仲の良い二人に対し言うが、二人のうち一人は怪我人だ。それ以上歩行速度が上がるわけではない。

 

「ならオフィサー・アルフォンス、背負ってもらえますか?」

 

「私よりもドクターがいいんじゃないか?」

 

「私は乙女ですよ!こんな筋肉の固まりを背負う筋肉はありません。」

 

アルフォンスはふざけつつ言うが、ドクターはそれに憤慨する。まあ、両者共にふざけているのだから良しとしよう。

 

後、半分という所でジャックが地質調査と言うことで土を採取しようと言い出した。

 

「ジャック、日が暮れたら誰かに襲われるかもしれないんだぞ!」

 

と本気で怒るアルフォンスに対し、宥めようと私は動く。

 

「まあ、いいじゃないか。どのぐらいで終わる?」

 

「あと二分位だ」

 

ジャックは小さな瓶を取り出して、土を瓶に詰めていく。

 

「二人とも一旦休憩だ。長くは休まないからくつろぐなよ」

 

私はそう言って、アルフォンスの隣に立った。

 

「ここは戦前は高級住宅街だったらしい。祖父はここの家に住んでいたんだようだな」

 

そこには郵便受けがあり、焦げているものの、“アルドモバル”と書かれていた。

 

「そのようですね、私の祖父はシャーマンタウン警察署で警察官をしていました」

 

「じゃあ、セキュリティーになったのもその影響か?」

 

「どうでしょうね、職業試験でたまたまって言う場合もあるし」

 

 

私はアルフォンスとただ喋っていた。それが私たちの犯した間違いだった。

 

 

 

パアァァァン!!!

 

 

近くで銃声が響き渡る。

 

私は突然のことで一瞬固まるが、目の前で起こったその光景に驚愕した。先程まで仲良く話をしていたモリスとDr.アリスのうち、モリスの頭が割れたのだ。

 

「伏せろ!レイダーだ!」

 

その犯人は直ぐに分かった。色々な継ぎ接ぎした防具を身に付けて、整備不良のハンティングライフルを持った男だった。

 

「殺人タイムだぁ!!」

 

男の他にも、鉄パイプやバット、台所で使われるような包丁を持って俺達に襲ってくる。ざっと15人前後だろう。

 

「撃て!」

 

隣にいたアルフォンスは叫び、10mmピストルの引き金を引いた。弾はレイダーの太股に命中し、叫び声をあげながら男は倒れる。私もアサルトライフルをセミオートからフルオートにして、引き金を引いた。5.56mm弾が発射され、バットを持った男を切り裂く。しかし、命中したにもかかわらず襲ってくる男もいた。

 

「アルフォンス!た、助けて!」

 

私は瞬時に声の主を見つけた。レイダーと呼ばれる無法者集団に囲まれ、服を剥ぎ取られそうになったDr.アリスの姿だ。

 

「アリス!」

 

私は助けるべく、迫る汚い格好をしていた男を銃床で殴り付ける。そして、アリスを助けようとした。だが、あと数メートルの所で私の背中に衝撃が走った。

 

「ガハッ!!」

 

鈍器で殴られたような衝撃で私はその場で前のめりに倒れた。

 

「ゴメス!た、助けて・・・」

 

男共の集団に囲まれ、剥ぎ取られていくアリス。私の後ろには、レイダーとおぼしき男の姿があった。目は濁り、着ているアーマーには返り血がべったり着いていた。

 

「ひっひっひ、今日のディナーはお前だ」

 

た、食べるのか!?

 

私はその言葉に驚きを隠せなかった。だが、この荒廃した世の中。食べるものも少ない。ならば、人間を食べるということを思い付くのだろう。

 

男は持っていたバットを振り上げて私の頭を目掛けて降り下ろそうとした。

 

 

とうとう、ここで死ぬのか。まだ、死ぬには早すぎる。息子も妻も待っているのに・・・。死ぬ覚悟なんてまったくなかった。未練たらたらだが、命乞いをするのだけはごめんだ。

 

そう、死を覚悟せず、死を迎えようとしたその時だった。赤い一本の光がレイダーの右腕に命中した。

 

「がぁぁ!!!痛ぇぇ!!やける!!」

 

レイダーは転げ回り、撃たれた右腕を庇うように動き回る。私は何があったのか理解できなかったが、vaultの本で呼んだ武器の名前を思い出した。

 

レーザーライフル。アメリカ軍が少数精鋭にしか支給しなかった高威力の次世代携行火器だ。

 

「そこの人、伏せて!!」

 

女性の声が聞こえ、直ぐに頭を伏せた。すると、爆発音と共にレイダーが数人爆風に吹き飛ばされるのを目にした。

 

「椿!援護して!」

 

「はい!」

 

パワーアーマーを着込んだ黒人系の女性兵士はレーザーライフルを乱射して、襲いかかってくるレイダーを射抜く。何人も倒れていくが、瓦礫の影から鉄パイプを持ったレイダーが出てきて、彼女に向かって降りおろした。

 

「このクソアマが!」

 

そう叫んで降り下ろすが鉄パイプは彼女の肩に命中する。彼女はパイプを掴んだ腕を掴むと、レーザーライフルをレイダーの心臓目掛けて引き金を引いた。

 

ブシュッ!!

 

レーザーはレイダーを射抜き、凝固しなかった血が血潮として外に舞った。

 

一方、近くにいた兵士もすごかった。

 

10mmサブマシンガンを片手で撃ち放ち、もう片手には中国軍将校の剣のようなものが握られ、近づいたレイダーを蜂の巣に。それか剣で頭と胴体が分離する離れ業を見せた。

 

vaultの映画で日本と呼ばれるアジアの国の戦士、“サムライ”が日本刀と呼ばれる剣で敵を切り捨てるシーンがあり、一瞬の内に敵の胴体と頭を分離させるのもあった。だが、それが出来るのは一流の剣士しか出来ない物で、この荒廃した世界ではその武器を使うことすら稀だ。

 

「はぁ!!」

 

パワーアーマーを着ているにも関わらず、華麗に敵の攻撃を避わし、敵の胴体目掛けて刀を降り下ろす。風を切る音と共にレイダーの身体に斬傷が出来、一瞬の内に5人ものレイダーがその場に横たわった。

 

顔はパワーアーマーのヘルメットで覆われていて見ることは出来ない。だが、顔を見ていないのにも関わらず、その洗練された動きに惚れた。

 

 

「ひとり逃げたぞ!」

 

戦闘に参加しなかった見知らぬ荷物を抱えた男が走り去るレイダーを指差した。

 

 

向かう先はメガトンでも話の種になっていたスプリングベール小学校。最近、レイダーの集団がそこに住み着いたという噂があった。もしかしたら、仲間を呼んでくる可能性があった。

 

「パラディン・クロス、レーザーライフルを!」

 

「あ、さっき格闘中に壊れちゃった」

 

角刈りの女性兵士は「やっちまった・・・」というような顔でレーザーライフルを見る。他に撃つことができるものがなく、出来るとすれば私が持っているアサルトライフルだけだ。

 

私は背嚢を銃の二脚代わりに置いて、その上にアサルトライフルを乗せた。フルオートからセミオートにして伏せ撃ちの体勢で逃げ

るレイダーを狙う。

 

だが、私の腕は先程の戦闘で恐怖したのか、震えが止まらなかった。

 

すると、先程まで剣を振り回していた兵士が此方にやって来て手を押さえる。私はその兵士の顔を見た。ここ周辺では珍しいアジア系で目は青く濡れ鳥のような黒髪とも例えても良い綺麗な髪を持ち、まるで映画や絵画から出てきたような前世紀の美女だ。私は妻も子供もいるのに、彼女に惚れてしまった。

 

「私が観測手を務めます。あなたは射撃に集中して」

 

彼女はバックから双眼鏡を取り出す。

 

「東からの風、修正。距離約30m。今なら当てられます」

 

私はゆっくりと息を吐いて、少し息を吸うと、そのまま息を止めた。そして、引き金を引くが、銃弾は右に逸れてコンクリートの地面に命中する。

 

「左に修正。少し狙いを上に、大丈夫、貴方なら当てられる」

 

私は落ち着いて引き金にもう一度指を掛ける。ゆっくりと引き金を引いた。

 

撃った銃弾はレイダー目掛けてまっすぐ飛んでいき、レイダーの背中を貫いた。人間の神経が集中している脊髄に命中し、胸骨まで到達する。神経は銃弾によって分断し、二度と電気信号が送られていくことはない。レイダーの男はまるで糸の切れた操り人形のように頭を地面に叩き付け絶命した。

 

「good job!」

 

双眼鏡で一部始終を見ていた彼女は親指を立てて、まるで女神の微笑みとも言えるかのような屈託のない笑みを浮かべた。なぜ見知らぬ私にここまでいい笑顔を見せるのか。メガトンでは、一定の安全は確保されているものの、誰しも誰かに教われないよう警戒していかなければならない。だからか、町中の人の顔を見ても彼女のような笑顔の人は見つからない。どうして彼女は私に笑顔を見せるのか?

 

「私はvault101探査隊のアルフォンス・アルドモバル。君達は何者だ?」

 

拳銃を突きつけてはいないものの、アルフォンスの目は射殺すかのように鋭い。突然、見ず知らない者に助けられて、手を叩いて喜ぶほどにこの世界は甘くない。

 

「私の所属はBrotherfood of steelと呼ばれる部隊の人間だ。名前はスターパラディン・クロス。ある人物の護衛に当たっている。彼女は私の部下である・・・」

 

「ナイトの椿です」

 

椿と名乗った彼女はお辞儀をすると、同行していた男に近づく。男は布に包まれた物を慎重に持っていた。そして、荷物を椿に渡した男はアルフォンスの元に近づいた。

 

「私はジェームズ、D.C近くで科学者をしていた。折り入って話したいことがあるのだが、ここで立ち話はよそう。また、レイダー達がやって来る前にここを離れなければ」

 

ジェームズと名乗った男はvaultの科学者と比べると、雲泥の差があった。無精髭は勿論の事、汚れた頬や掠れているフィールドジャケットから見るに、科学者とは到底思えない。白衣を着ていれば科学者に見えるのかも知れないが、どことなく科学者とは見えない一面があるのは確かだ。

 

私達は死んだ仲間達を埋葬しに掛かった。最も、埋葬と呼べるものではない。数人の死体が入りそうな穴を見つけて、そこに遺体を移動させるだけ。そして上から土を掛けるだけだ。

 

今日、ここで死んだのは三人。ジャックとモリス、Dr.アリスを含めて3人。痛手なのは唯一の医者であるアリスを失ったところであろう。彼女は凌辱されかけ、隙をみてレイダーから中国軍のピストルを奪い取って自殺した。もう少し、ジェームズ達の助けが早ければ助かったかもしれない。だが、それを責めるのは酷であったし、お門違いだ。

 

三人を埋葬したのち、我々はレイダーからの追跡と追撃を逃れるべく、vault101の入り口に近い高所に到着した。そこなら、高所からの狙撃に向いており、脱出経路もあるためだ。アルフォンスは嫌々だったが、スターパラディン・クロスと名乗った角刈りの女性は軍事訓練を受けたため、説得力があった。

 

私は彼女達の真意はよく分からなかったが、入り口についてからジェームズ達は口を開いた。

 

「vault101に入植させて貰えないだろうか?」

 

最初、我が耳を疑った。この男は我々の故郷に入りたいと言ったのだ。だが、彼がvaultに入りたがったのも無理はない。風の噂で耳にするように、ここは周囲と比べて文化レベルが非常に高い。安全な水と食料が自給自足であるため、周囲の者からすれば天国に等しいだろう。だが、それは無理なこと。ある程度空き部屋はあるが、キャパシティがそこまで大きくないvault101は大人数を受け入れることは難しいのだ。

 

最初、アルフォンスは拒否する。だが、ジェームズの能力と連れ子を見て、返事を決めかねていた。

 

Dr.アリスは死に、vault101にはインターンの者が数名しかいないことになる。何がなんとしても医者が必要だった。ジェームズは自信の経歴を明かして、自身を“医者”として入植させるよう頼んだのだ。更に、彼は娘を抱えていた。最近生まれたらしく、娘と安全な暮らしを望んでいたのだ。

 

アルフォンスはこの前、娘のアマタが生まれたばかり。私にも息子が一人いる。我が子を守りたい父親の気持ちは分かっていた。

 

そして、もう一人入植したいと申し出た者がいた。スターパラディン・クロスの部下であるナイト・椿である。

 

「君の能力は?」

 

「戦闘技術や軍事訓練の経験ではダメですか?」

 

その答えにアルフォンスは顔をしかめる。vaultは閉鎖環境で平和と言っていい。そして、その能力を必要としていなかった。アルフォンスの顔を見て、彼女は顔を俯かせた。

 

私は何故か、アルフォンスの決定を覆したかった。つまり、彼女を故郷に迎え入れたいそう思った。なぜだろう?私には妻もいて子供もいる。だが、夫婦関係は良いとは言えない。浮気者と言われてもよかった。ただ、彼女を中に入れることは出来ないだろうかと思った。

 

「アルフォンス、今回みたいに我々には力がなかった。vaultに軍事教練のプログラムも無ければ、経験者もいない。彼女も入れてあげたらどうだ?」

 

私の提案にアルフォンスは驚いた。

 

私の立場は所謂、解放反対派の一人だ。外は危険が多く、持ち合わせの武器は余りない。vault101を解放しても、外の勢力に吸収されるか、さっきのようにレイダーに殺される危険性もあった。vault101として外に出ていってからもひとつの勢力を保ち続けていきたいが、それは人数的にも物資的にも不可能だ。それに、彼女達を見て思った。vaultには知識の塊はあるが、経験と言う物がない。いくら、射撃訓練を行っていても、経験を得ることはない。

 

彼女に惚れた?多分、それもあるはずだ。

 

「参った・・・・今日、帰ってきたら一騒動あるぞ。それと、スターパラディン・クロスだったか?貴女はどうするのだ?」

 

アルフォンスはジェームズの隣に座るスターパラディン・クロス(多分階級だと思うが変)に訊いた。

 

「私には任務があります。科学者の彼を護衛すること。それが終われば、司令部に帰還しなくてはなりません。どうか、椿をお願いします」

 

クロスは頭を下げる。アルフォンスは彼女もvault入植希望者かと思っていたらしく、表情を変えた。

 

「そうですか、・・・・ではそろそろお別れですな」

 

我々はその後、スターパラディン・クロスと分かれ、vault101

のエントランスに到着した。

 

 

 

 

私は死んだ三人の荷物を持ってエントランスまで歩いてきたが、3人の荷物が一気に増えたため、足元がふらついた。

 

「私が持ちましょう。」

 

そう言ってきたのは、先程観測手をしてくれた椿さんだ。私は彼女にジャックの荷物を持たせて移動する。

 

「何故、私を入植させるようにしたんですか?」

 

彼女は荷物を運びつつ、周囲を警戒しつつvaultエントランスに入ろうとしていた。

 

 

「そうだな、さっきみたいにああ言う理由もあった。けれど・・・」

 

「けれど?」

 

「君みたいな人が入れば、私の人生が明るくなるだろうと思って」

 

それは、野球でカーブを投げたのと同じだろう。直球で「君に惚れた」とは言えず、曲がりなりのストライクを投げ込んだ。それはストライクゾーンへと入るか、それともボールと言われるか。

 

彼女は最初、驚いた表情をしたが、直ぐに笑ってしまった。

 

「そんな風に言われたの初めてですよ。でも・・・・・ありがとうございます」

 

椿は頬を赤く染める。私は一体どうしてしまったんだろう?妻子が居るにも関わらず、彼女に惚れてしまった。しかも、告白すると、拒絶するどころか感謝されてしまった。胸は少年の初恋のように高鳴る。これが、本当の恋ってやつなのか?

 

 

私はまるで十代の若かりし頃のように「恋」とは何なのか考えてしまう。

 

しかし、

 

 

「行けぇ!!敵討ちだ!!」

 

vaultエントランスに入ろうとした時、突如として、レイダーが群れをなして現れた。その数、10は越えるだろう。整備不良の銃器とバットやアックス、包丁などで武装していた。

 

「殺人タイムだ!」

 

「ヒャーハァー!!」

 

レイダー達は思い思いの叫び声をあげて突撃する。既にスターパラディン・クロスは帰還の渡についているため、戦えるのは私と椿、アルフォンス、そして娘を抱えるジェームズだけだ。

 

アルフォンスはホルスターから10mmピストルを抜いて続けざまにレイダーを二人撃ち殺す。私はジャックの所持品であったショルダーバックを地面に下ろすと、肩に掛けていたアサルトライフルを腰だめで連射する。隣にいた椿は10mmサブマシンガンを片手で放ち牽制した。相手はレイダーで突撃するしか能がない。しかし、彼らは全てジャンキーである。痛覚が麻痺し、一発撃たれても立ち上がってくる。私のアサルトライフルは5.56mmの高速ライフル弾であるが、302口径ライフル弾と比べると、威力は小さい。ジャンキーに対して私のアサルトライフルでは威力不足なのだ。

 

私は焦りフルオートで連射したため、銃身が熱くなり、弾倉が空になる。新しい弾倉を装填しようとして腰に着けたマガジンポーチに手を伸ばした。

 

 

「皆殺しだぁぁ!!!」

 

今日ほど運が悪いと思ったことがない。

 

銃撃を掻い潜ったレイダーは釘を刺したバットを私に降り下ろす。

 

咄嗟に私は左手で庇う。

 

バキッ!

 

と頭を守ろうとした左腕に鈍い音が響く。バットを降り下ろした衝撃で骨が折れ、バットの釘が肉を抉る。

 

「痛!!!この!!」

 

アサルトライフルをレイダーに投げつけると、ホルスターに収まった10mmピストルを引き抜いて引き金を引いた。放った銃弾はレイダーの眼球を抉り、脳に到達し即死した。だが、それ以外にもレイダーは多く近づいてきた。

 

「椿さん!ゴメスを中へ!」

 

アルフォンスは叫び、10mmピストルを連射すると、近づいてきたレイダーに落ちていた鉄パイプで一撃を加えた。

 

戦いは既に撤退戦に変わっており、椿が私を庇うように10mmサブマシンガンを放ち、それに続いてジェームズ、そしてアルフォンスが続く。エントランスに入るが、レイダーは止まるどころか中に入ってきていた。

 

「ハッチ開閉には時間がかかる。開けているうちに皆殺しだ!」

 

アルフォンスはハッチ開閉のコンソールを叩くように操作する。

 

レイダーは岩影にかくれつつも、じりじりと接近してきた。

 

私は岩影に腰を下ろし、怪我した左腕を庇うように10mmピストルを片手で放つ。左手から熱を発してジンジンとした痛みが伝わる。肉は抉れ、後々跡になってしまうだろう。

 

「これは不味い。何とかしないと」

 

私は呟く。弾倉も残り少なくなってきているし、レイダーもすぐそこまで迫っている。万事休すだった。

 

「ゴメスさん、だったか。娘を抱いていて貰えないか?」

 

ふと、振り向くと科学者のジェームズが娘を抱えていた。私が抱えて、彼が銃を撃つのだろうか。私は彼女の娘をだっこすると、彼に銃を手渡した。

 

「いや、私は要らない」

 

何を言っているのか?

 

彼は武器を持たず、今はただの素手である。そんな彼が何をすると言うのか。

 

「娘を頼んだ!」

 

彼はそう言うと、背嚢を下ろして真っ直ぐレイダーの元に走り始めた。

 

まさか、自爆か?!

 

手榴弾をいくつか抱えて自爆する戦法であるが、自分の命を代償に敵を巻き込むのは余りにも危険だった。

 

「おい、見ろよ!変なおっさんが走ってくるぜ!!」

 

「いい鴨だぜ!やれ!ぶっ殺せ!」

 

レイダーは叫び声を挙げ、手持ちの武器を手にジェームズに襲いかかった。しかし・・・・、

 

「貴様らの脆弱な弾が私に当たると思っているのかね?」

 

 

 

一瞬の事だった。ジェームズは殴り掛かってきたレイダーの腕を掴むと、背負い投げの要領で投げ飛ばし岩壁に叩き付けたのだ。

 

受け身の体制も取れず、ボキリッ!という鈍い音を立てて動かなくなるレイダー。そして、倒れた男の敵討ちと言わんばかりに続いて中国軍将校の剣を持ったレイダーが斬撃を食らわせる。だが、それを素早く身を反らし、脇に拳を打ち込んだ。

 

まるで空手家が瓦を割るように、ジェームズはレイダーの脇腹を粉砕する。そして、極めつけに顎にストレートを決めて顎を打ち砕いた。

 

「このクソ野郎!!」

 

すぐそばの岩影から出てきたレイダーは至近距離から中国軍ピストルを撃とうとするが、倒れ掛けていたレイダーの体を掴み、肉盾とし銃撃を防御した。

 

まだ、脇腹と顎をくだいただけで致命傷にはなっていないレイダーから中国軍将校の剣を奪い取ると、胸にそれを突き刺す。そして、そのままピストルを持つレイダーに突進する。

 

「あぁ!!!」

 

剣は一人目の男を貫き、ピストルを持った男までも突き殺す。まるで串刺しにする化のごとく、剣はレイダー二人を串刺しにしてしまった。

 

「ば、化物だぁ!!!」

 

最早、戦って負けると本能的に分かったのか、それとも少しばかりの理性が働いたのかは分からない。ジェームズの近くにいたレイダーは叫び声を挙げ、エントランスから外へと走り出す。それにつられてか何人かのレイダーも持っていた武器すらも捨てて走り始めた。

 

「望みが絶たれた~!!!」

 

「助け・・・グハっ!!」

 

彼らの背中に鉛弾が撃ち込まれる。逃げている者達を撃つのは卑怯と思うかもしれない。だが、彼らは逃げ延びればまた殺人や意味のない拷問を繰り返し快楽をえる。そんな、彼らを生かしておけば、いずれ自分にも還ってくる。そのことを知っていた椿や私、そしてアルフォンスは持っていた銃でレイダーの背中を撃ち抜いた。

 

 

「おわった~・・・・」

 

「もう、勘弁してくれ」

 

vaultに住んでいる我々はもやしっ子だ。地下でぬくぬくと育てられた、謂わば“温室育ち”。そんなおぼっちゃんにここまでの死闘は辛すぎた。

 

アルフォンスと私は岩を背にしてぐったりとした。扉が開いたとき、待っていたオフィサー達は私達二人が死んだのではないかと驚いらしかった。

 

我々は直ぐにvaultに入った。ハッチの内側では既に何人もの仲間達が出迎えた。私は直ぐにvaultのメディカルセンターに入り、アルフォンスはこの状況を伝えるために監督官に報告した。帰らなかった父。子供。幾人かは涙を流し、彼らが天に行けるよう願った。悲しい空気に包まれる者もいたが、それでも我々の生還でお祭り騒ぎなった。だが、私は入植を許可されたジェームズの所で左腕の治療をしなければならず、参加できなかった。

 

「さすが、外で暮らしているだけのことはあるよ。こういうのって馴れてるのか?」

 

「いや、私は医者。もとい科学者さ。そんな荒事は専門外さ。」

 

「だけど、あんな戦い方は映画でしか見たことないよ」

 

アクションスター顔負けの戦いぶりだった。もしかして、ジェームズは科学者ではないのではないか?

 

「これは外で生活すれば誰だって身に付くものさ」

 

「やっぱり、vaultに引きこもるわ。こんな化物になりたくない」

 

私が知らぬ間に外は化物だらけになったようだ。放射能でミュータント化した動物は見たが、人間全て少林寺拳法が使えるのはやはり放射能の影響か?

 

「私も化物なのかしら?」

 

「え?」

 

ふと、気付けば、隣のカーテンにはvaultジャンプスーツを着た椿の姿があった。シャワーを浴びたらしく、髪は湿っぽく黒髪が蛍光灯の光で艶やかに見えた。肌も白く男なら誰しも美人と言うだろう。

 

「・・・・いやいや、あれは言葉の綾と言うかなんと言うか・・・」

 

誰だって化物呼ばわりされるのは嫌だ。しかも、女性に対しては言ってはいけない。すると、彼女は笑い始めた。

 

「フフッ、冗談よ。私から見てもあれは規格外よ。」

 

「そうでもないだろう?私は幼い頃から・・・・」

 

「ジャイアントスコルピオンを素手で倒してしまうんですよ。何処のサイボーグですか?」

 

おいおい、まさかあれをか?

 

よく神話の蠍っぽいあの大きな蠍か?

 

文字通り化物やんけ。

 

「何をすればそんなに強くなるんだ?」

 

「幼い頃から鍛えれば出来るさ」

 

「・・・・・体育会系恐るべし」

 

私は引き気味でそう呟き、一層椿は笑い、ジェームズは「何が可笑しいんだ?」と言わんばかりの表情で私の腕に包帯を巻く。

 

三角巾で腕を吊ると、私はメディカルセンターを出る。ジェームズはDr.アリスの残した書類の整理をしなければならないらしく、私は椿と共にvaultを案内した。

 

「えっと、ここがvaultセキュリティーの詰所だ」

 

「へえ・・・・以外と装備が整っているのね」

 

彼女はロッカーに入った防弾ベストや暴徒鎮圧用のヘルメット、小銃を管理する武器庫や弾薬を製造する弾薬プレス機を見ていった。

 

「このベストはもう少し防御力を増した方が良いわ」

 

「え、これじゃダメなのかい?」

 

「そうね、首回りにケプラー製のネックガードを着けて肩や腕、足にも着けた方が良いわ。そして・・・・股間を守るためにフンドシ?・・・・エプロンみたいな三角状の物を着ければいいかしら?」

 

「それを作るのには時間が掛かるな。材料も調達しなければならないし」

 

「物は試しよ。やってみましょう!」

 

 

彼女のアドバイスによってvaultセキュリティーの質が向上されたと言ってもいい。一通りvaultを案内していると、時計は既に7時を過ぎていた。

 

「もう、こんな時間ね。楽しかったわ」

 

「私もだ。・・・・そう言えば、食事は何処で?」

 

「う~んまだ決まってないわ。いいレストランを紹介してくれるのかしら?」

 

「じゃあ、俺の家で食べないか?」

 

ついに言ってしまったその言葉。すると、驚いたような表情をした。

 

「え、でも確かゴメスさんは子供と妻が・・・」

 

「別居中で子供は妻のところさ。夫婦関係はもう修復不可能だよ」

 

元から難のある性格であるペッパー・ゴメス。子供が生まれたものの、生まれる前から関係はぎくしゃくしていた。ある程度歩み寄ったが、彼女の方から突き放したのである。私はまだ子供が生まれたてだし、夫婦関係は時間が癒してくれるものとばかり思っていた。だが、譲れないものもあるということがはっきりした。私が帰ってきても何一つ言ってはくれないし、顔も合わせてくれない。時間が癒してくれないことは火を見るより明らかだった。

 

「何ていうかな、人付き合いって本当に難しいものさ。」

 

「・・・・」

 

少し考えるように、彼女は俯く。

 

多分、彼女は下心が私にあると思っているのだろう。

 

「下心はない。むしろ、疑うのが自然だけど」

 

「いえ、そんなつもりじゃ」

 

「まあ、命を救ってくれたお礼かな。あの時、助けてくれなかったら、この故郷には戻れなかった。今日だけでもいい、恩返しと思って一緒に食事してくれないか?」

 

私はそう頼むと、手を差し伸べる。

 

彼女は少し考えるようにして、口を開いた。

 

「良いわよ、美味しくなければ返金ね」

 

「お望みとあらば!」

 

何が良いだろう?

 

スパゲッティ?オートミール?グラタン?

 

私は意気揚々と彼女と共に家に帰った。

 

vaultの仲間になんと言われようとも関係ない。どんなに疎まれようとも、彼女と何時までも一緒にいたい。例え、どんなに辛かろうとも。

 

私はそう心に誓って、彼女を家に招き入れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 




う~ん、自分では☆5つのうち3つと言うところか・・・・。ちょっと完成度はいまいち。
しかし、ジャームズの武闘派。あれは確実に「イワッシャー!!」とOPに入るような戦いだと思ってください。北斗百○拳?そんなの知らん!


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十一話 ウルトラ・スーパー・マーケット

えっと、弾薬についての説明。一応、このキャピタルウェイストランドでは弾薬の種類は豊富です。FJ弾やHP弾もある。しかし、設備等に限りがあるため一部の武装組織しか使っていない。例えば、タロン・カンパニーはバニスター砦に専用の弾薬プレス機があったり、旧国防総省にあったりする。

主人公は家にMODで導入してしまったがために、弾薬プレス機がおいてあり様々な弾薬を持っている。


「そう言えば、これはどういうことに使えるんだっけ?」

 

「制御チップの事?」

 

休憩で川辺の畔で腰かける俺はpip-boyから核爆弾にくっついていた制御チップを取り出した。どういうわけか、制御チップをpip-boyに収納すると表示される、

 

〔pip-boyカスタマイズアイテムをゲットしました。〕

 

という画面。

 

一応、シャルのpip-boyに入れてみても同じ項目が出てきた。Itemの項目にはAidとして入っている。一応選択してみると・・・・

 

〔pip-boyMODを付けます。二度と外すことが出来ません。よろしいですか?〕

 

何だこれ?つーか、pip-boyMODて何ぞや?

 

仕方ないのでpip-boyのhelpを見てみた。

 

『pip-boyMODとは、核戦争後のサバイバルで回収した高性能な制御チップや軍事用の管理ソフトをpip-boyにインストールできます。それによって、貨物キャパシティの拡張、レーダーの高性能化、アンテナの強化、護身用電撃武器などが使用可能となります。最大まで貨物キャパシティを引き上げることで車両の収納も可能となり得ます。』

 

マジかよ!

 

つーか、これをゲーム中に導入すればいいのに。

 

内容的には回収したテクノロジーを組み込んでpip-boyを拡張していくので良いのだろう。一応、性能と名称はこんな感じである。

 

・HydraⅤ(ハイドラ5)(type)軍用制御チップ

(Effect)演算処理up

WG100増加

レーダー索敵範囲拡大

(説明)超高高度爆撃投下型核弾頭に使用される起爆制御チップ。複雑な軍用アルゴリズムを採用し、中国軍のハッキングをブロックできる。

 

〔pip-boyMODを付けます。二度と外すことが出来ません。よろしいですか?〕

 

      →〔yes〕 〔no〕

 

 

〔インストール中です・・・・しばらくお待ちください〕

 

「pip-boyって改造出来たんだね。知らなかった」

 

俺がそう言うと、驚いたように目を見開いた。

 

「知らなかったの?」

 

「え?」

 

何故か俺以外は皆知っていました。理系のバカヤロー!!

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

MODをインストールして性能が格段に上がった後、俺とシャルは歩いてスーパー・ウルトラ・マーケットに到着した。

 

「敵の姿は確認できず・・・・。それにしても、あれはないな。」

 

俺は双眼鏡で店の入り口を見る。シャルに渡すと、俺と同様な反応を見せた。

 

「何が面白いの?」

 

ごもっともである。まるで人形のようにさらされた死体。天井から針で串刺しにしてペイントスプレーで色んな模様を書いている。レイダーが着ているような防具を着て、首を落とされて宙吊りになっているのを見ると、仲間内で「私刑」にしたようだ。

 

因みに俺達は川辺の近くで匍匐の状態で店を監視している。ここならば、敵がいてもすぐ逃げられるし、仮に川の獰猛な生物であるミレ・ルークがいたとしても走れば逃げられるだろう。それに、pip-boyにはレーダーがついているから、近づけばすぐにわかる。

 

 

「とてもじゃないが、何か食料はあるのか?」

 

「ないよ。薬もない」

 

「モイラに嘘の報告をするのも気が引ける。だからと言って入るのはちょっと抵抗ある。・・・・・そう言えば、シャルのSkillやSPECIALって見ていないよな」

 

いざ、戦うと思ってみれば、シャルの特性を理解していないとダメではないか。

 

「ならユウキのも見せて」

 

俺はシャルの肩に触れるぐらい近くに寄ると、シャルのpip-boyを覗く。

 

4:Strength(筋力)    

8:Perception(五感)

4:Endurance(耐久力)

7:Charisma(カリスマ性)

10:Intelligence(頭脳)

6:Agility(俊敏性)

8:Luck(運)

 

 

60:Barter(商い)

15:Big guns(重火器)

60:Energy weapons(レーザー武器)

25:Explosives(爆発物)

80:Lockpick(鍵開け)

99:Medicine(医療)

20:Melee Weapons(接近戦武器)

20:Repair(修理)

99:Science(科学)

10:Small guns(小火器)

80:Sneaking(隠密)

40:Speech(会話能力)

40:Unarmed(素手攻撃)

 

意外にも俺と比べて運がいいし、頭も2つも違う。まあ、理系だから?それに医者だからか医療の面も発達しているし、科学などにも長けている。科学がいいのか、光学兵器の取り扱いにも慣れている。これなら武器もそれなりのが期待できる。

 

「シャル、レーザーピストルを渡しておく。あと、プラズマ手榴弾とステルスボーイも」

 

シャルに武器とステルスボーイを渡す。因みにステルスボーイは家のバンカーに置いてあった。ついでに、シャルはコンバットアーマー、俺は改良型vaultアーマーである。装備を確認し終わると、一度、匍匐から腰を屈めた状態で店のすぐ近くまで接近する。店の窓は割れたり、焦げていたりと荒れ放題。外から中を見ることは出来ないが、中から外を見ることは出来ないだろう。

 

「シャル、合図をしたらステルスボーイを点けるんだ。そしたら、俺のあとに続いて来てくれ。いい?」

 

「うん、大丈夫」

 

シャルは小さく頷くと、持っていたレーザーピストルの動作確認を行う。俺は持っていたアサルトライフルのコッキングレバーを引いて、弾倉から次弾を銃身に装填する。そして、先端に付けられたサイレンサーを緩まないように締める。

 

そしてホルスターに収まった消音器付き10mmピストルを引き抜いてスライドを引いて同じように次弾を装填した。

 

「よし、じゃあ行こう」

 

ステルスボーイを起動させ、俺達はスーパー・ウルトラ・マーケットに入っていった。

 

 

最初に入った印象は薄暗い、カビ臭いという物だった。一応、入り口からの日光が反射して見渡せるが、目が慣れていなければよく見えない。

 

俺は腰を屈め、シャルを連れて入って直ぐのカウンターに侵入する。

 

「シャル、そこの冷蔵庫から食糧を」

 

「うん」

 

シャルが食糧を回収している間、俺は近くにあった弾薬箱からエナジーセルを一掴みと5.56mmライフル弾、マガジン一個分を回収した。

 

「お、ウィスキーみっけ。これも持ってこ」

 

背嚢の中に品質の良さそうなウィスキーの瓶を放り込む。一応、布にくるまれて置いてあったから、誰かが残しておいたのだろう。

 

「棚にスペアパーツあるけど、持ってく?」

 

「必要になるかもしれないから、手当たり次第に持っていこう。」

 

シャルにそう言うと、冷蔵庫の近くにあった棚のスチールボックスに入っている廃棄部品やワンダーグルー、洗剤など使えそうなものをpip-boyに仕舞っていっている俺はアサルトライフルを構えて周囲を警戒するが、あまりレイダーは寄ってこない。意外と、ステルスボーイなくても行けそうじゃん。俺はバッテリー消費を抑えるため、シャルにステルスボーイの電源を切るよう言い、自分もステルスボーイの電源を切った。

 

すると、シャルは全て回収し終わったらしく、親指を立てた。次の食糧保管場所を探すため、中腰になって扉を開く。周囲にはレイダーの姿がなく、直進すれば、従業員の詰所らしき場所にたどり着くだろう。アサルトライフルを構えながら、足音をたてずにゆっくりと詰所に向かう。

 

「ぎゃははは!!それでその奴隷商人はどうなった?」

 

「俺達が飯食ってるところ見てションベン漏らしてやがんの!」

 

「それ本当に奴隷商人か?」

 

「知らねぇよ、ジェットでぶっ飛んで辺り構わず殺しまくってたんだからよぉ」

 

詰所ではレイダーが談笑しているらしく、レイダーの馬鹿げた笑いが響き渡っていた。ちょうど品物の棚が切れる所にレイダーが背中を向けて談笑を聞いているらしく、こちらに無警戒だった。

 

「シャル、援護頼む」

 

俺はそう言うと、腰のガンベルトに付けられたコンバットナイフを抜くと、静かにレイダーに忍び寄る。

 

すぐに、レイダーの口を押さえてこちらに引きずり込むと、首筋にコンバットナイフを挿し込み、床を赤く染めた。

 

「むぐ!!ん!!・・・・・」

 

最初は抵抗していたが、直ぐに頸動脈を斬っていたため、直ぐに抵抗しなくなり、動きが止まった。抵抗しなくなったところで体を引きずって、持ち物を物色できるよう後退する。

 

「アサルトライフルにグレネード?以外と物持ちいいな。お前」

 

死んだレイダーに話しかけるが、当然返事はしない。アサルトライフルはぼろぼろかと思ったが、一通り手入れは行き届いていて、レイダーが持つには相応しくない。どっかの傭兵から奪い取ったのだろう。

 

「ジェットか、・・・・一応持っとこう」

 

「だめ、絶対」

 

「使わないよ、・・・・それってこの世界でも標語に?」

 

この世界?と首を傾げるシャル。まあ分からなくてもいい。レイダーの私物をpip-boyに突っ込むと、改めて詰め所を見る。レイダーが3人ばかり、そして隣の部屋の薬局には4人のレイダーがいた。数では負けているが、奇襲攻撃によって此方が優位に立てるだろう。

 

「シャル、プラズマグレネードを使って。俺は閃光手榴弾を使うから耳を塞いでおいてくれ。」

 

ベストに引っかけていた閃光手榴弾を手に取ると、ピンを引いて安全レバーを押さえたままにした。そして・・・・

 

「今だ!」

 

シャルと同時に投げ、プラズマグレネードはちょうど従業員の詰め所へ。そして閃光手榴弾は薬局のカウンターの中に転がり落ちた。

 

まず最初に閃光手榴弾が起爆し、強烈な閃光と共に鼓膜を揺さぶるような轟音が周囲を響かせる。そしてプラズマグレネードはグリーンの光を放ちながら、大爆発を起こし、レイダーの数名を液体に変えていった。

 

「move!」

 

そう叫び、閃光手榴弾を投げた所へ制圧射撃を加える。その銃撃の中で視覚と聴覚を奪われたレイダーは遮蔽物に隠れることも出来ずに蜂の巣にされる。その間にシャルは詰め所に飛び込んで、クリアリングを行った。

 

「く、くそ!」

 

爆風を受けながらも生き延びていたレイダーは持っていた中国軍ピストルを構えて撃とうとするが、シャルの持つレーザーピストルの赤いレーザーが眉間に命中し絶命した。

 

「薬局の鍵を見つけた!」

 

「よし、そっちに行って・・・ってトイレから来やがった!!」

 

詰め所に行こうとした瞬間、トイレから出てきた数名のレイダーがこちらに向けて銃撃を加えてきた。おれはその時通路にいたため、まるでカウンターにダイブするように詰め所に入った。

 

「あっぶね!シャル、これを投げろ!」

 

シャルに手榴弾を手渡すと、彼女はピンを抜いてレイダーに投げつける。手榴弾はレイダーのいる丁度真上で起爆し、レイダーは破片をもろに頭に受けた。

 

「よし、シャル。俺はこの通路からって・・・うわ!」

 

俺はアサルトライフルを構えながら、薬局へと通じる従業員通路の扉を開けた。だが、その扉の向こうには、バットやアックスを構えたレイダーの姿があった。目をあわせて互いに驚くが、先に動いたのは俺の方だ。

 

俺は勢いよく扉を閉めて、そのまま倒れ、足で開かないように固定する。そしてアサルトライフルを扉に向けて引き金を引き続けた。扉の向こうにいたレイダーはひとたまりもなく、扉の向こうの見えない敵から銃弾の嵐が降り注ぐ。

 

さらに仕上げと言わんばかりに、腰に引っかけていた手榴弾を通路に投げ込んだ。狭い通路で手榴弾を爆発させた場合、逃げ場もなく一瞬で破片の雨にさらされる。銃撃で運良く生き残っていても、手榴弾でその命は費えてしまった。

 

「やっぱ、俺って運悪い。シャル、そっちはどうだ?」

 

「いま、三人目を仕留めた」

 

「よし、一気に畳み掛けるぞ」

 

そこからは掃討戦に移行していた。貧弱な装備とジャンキーの組み合わせは悪く、それに相対して最良の装備に最良の能力をあわせ持った俺とシャルはこの時無敵に近い。多分、対する敵が傭兵やスーパーミュータントなる巨人ならば、少し状況が違っていただろう。だが、戦闘は既に此方が優勢だ。

 

 

「望みが絶たれた!!」

 

「逃げろぉ!!」

 

叫び声を上げて逃げるレイダー。その背中に鉛弾を浴びせる俺達。非道かも知れんが、見逃した相手が明日俺たちを傷つける場合もある。悪は成敗しなくてはならないのだ。

 

「た、助けてくれ・・・・グヘッ!!!」

 

俺は助けを乞う女レイダーに10mmピストルを向けて引き金を引いた。

 

「ユウキ、助けを求めていたんじゃないの?」

 

後ろにいたシャルは俺の行った行為を見て怪訝な顔をした。

 

「シャル、彼らはレイダーだ。無法者で快楽を求めて殺人を屁とも思わない奴らだ。そんな彼らに同情は必要ない」

 

「だからって・・・!」

 

シャルは俺に悲しそうな目を向けた。

 

「ああ、戦意のない者を撃ち殺す何てどうかしていると思っているね。俺だってこんなことしたくはないさ。でも、ここには警察も裁判所もない。法律だってここには存在しないんだ。彼らをどうやって裁くんだ?天にお願いをするのか?ここで彼らを裁けるのは俺達だけ。それに、彼らを逃がしたままにしておいたらどうなると思う。また、罪のない人間を殺すんだぞ。自らの快楽のためにだ。だったら、俺達がケリをつけなければならない」

 

俺はそう言って今まで生きていたレイダーの持ち物を探る。

 

「ほら、ジェットにサイコ。全て麻薬の類いさ。薬物汚染は神経洗浄で綺麗になくなるんだよな?」

 

「ええ・・・・」

 

「だが、彼らは治療よりも快楽を選んだ。それだけさ。シャルが無抵抗なレイダーを殺したくないならそれでもいい。だが、奴等はそれに漬け込んで他の人間を殺すというのを忘れるな」

 

「・・・・・」

 

シャルは顔を俯かせ黙ってしまった。

 

この世界は非情である。法もなければ正義もない。それがウェイストランドだ。シャルはまだvaultが抜けきれていない。戦闘に関しては結構いい動きをしていたが、まだ逃げる奴等を撃ち殺すにはためらいがあった。

 

だが、慣れなければならない。そうでなければ、奴等に飲まれ、命を絶つことになるかもしれない。

 

俺は俯くシャルの肩を優しく叩くと、声を掛けた。

 

「さっさと終わらせよう。彼らの死体から使えそうなものを取って薬局に行ってみよう。何か在るかもしれないし。」

 

「・・・・・・うん」

 

シャルはまだ考えているものの、死体から武器や弾薬を回収し始めた。俺はさっきいた詰め所と薬局のカウンターを漁る。そうしたら、アサルトライフル2挺に中国軍ピストル一丁、手榴弾にボトルキャップ地雷を回収した。

 

「お、“ゴミの街の馬鹿な商人の話”じゃん。一応持っていこう」

 

“ゴミの街の馬鹿な商人の話”は主にBarter(商い)のskillを上げるのに重宝するものである。

 

そう言えば、十歳の誕生日にアマタがくれたんだっけか。一応、勉強にはなったけど・・・。シャルにグロックナッグを何であげたんだ?やっぱり父親の望みかね?

 

俺は父から聞かされたジェームズの世紀末伝説を思い出す。所謂、オープニングで「イワッシャー!」ていう声で、ジェームズが「ワタタタタタタ!!!・・・・・お前はもう死んでいる」とレイダーに言って、「ひでぇぶぅ!!」と叫んで爆発したのは、記憶に鮮明に残っていた。

 

もしかしたら、シャルにもそう言う遺伝子があるのかもしれない。

 

 

「・・・何を考えているの?」

 

「シャル、俺はお前をエスパーだと思うんだけど、合ってるよな?」

 

「さあ?」

 

「はぐらかした!?」

 

シャルのエスパー疑惑はともかくとして、俺達は薬局の奥にある備品倉庫に到着した。

 

「シャル、開けてくれ」

 

「あかないよ」

 

「え?」

 

見てみるとピッキングをした後があり、鍵穴が見事にぶっ壊れていた。

 

「あらら。じゃああれを使うから、さっきのソード・オフ貸して」

 

俺はシャルに言うと、シャルはpip-boyからストックと銃身を切り詰めた水平二連散弾銃であるソード・オフ・ショットガンを取り出して俺に渡してきた。それに俺は青い12ゲージのシェルを二発取り出して装填した。

 

「ユウキ、それは?」

 

「ん?これはスラグだよ」

 

「スラグ?」

 

所謂、一粒弾と呼ばれる大口径ライフル並みのショットガンの弾である。ショットガンには幾つか弾の種類があるものの、部屋に突入する際、扉を破壊するために使用されるのだ。fallout3では登場してはいないものの、fallout:newvegasでは登場していた。

 

「じゃあ、扉をぶっ壊すから離れて」

 

ソード・オフ・ショットガンを蝶番に向けて放ち、もう一ヶ所にある蝶番にも一発放った。

 

「おりゃ!」

 

アサルトライフルに持ち変えて、足でドアをおもいっきり蹴飛ばす。経年劣化していたためか、直ぐにドアは壊れ、床に伏した。

 

「シャル、使えそうな薬品を集めてくれ」

 

「うん、じゃああの棚を探ってみる」

 

俺は入って左側を担当する。幾つもの棚が置いてあり、そこにはスチールのボックスや店の備品など数多くのものが置いてある。

 

「センターモジュール見っけ。・・・・pip-boyには付けられないか」

地雷の制御装置としても使えるが、pip-boyのmodには使えなかったようだ。他にも廃棄部品や洗濯用の洗剤など数多くの物を収集する。

ゲームをやっていると、必要ないものはそのまま棄てておいていたが、それらが生活に必要な物だと分かると、そうそう荷物を減らすために捨てるのは惜しいと思ってしまう。洗剤なら、服を洗濯する上で必要で、鉛筆やクリップボードも必要なのだ。

 

弾薬等は5.56mm徹甲弾が15発、10mmが30発程度集まった。そして、

 

「これって何?」

 

「ヌカ・コーラ クワンタムじゃねーか。」

 

ヌカ・コーラ クワンタムは核戦争当日に新発売された希少価値の高い清涼飲料水である。しかし、これにはストロンチウム放射能同位体が入っており、体内で被爆してしまう。外観は青白く光るヌカ・コーラのボトルだが、ギルダーシェイドのある男の報告では「尿が青く光り、三日発光し続けた」そうだ。因みに製造する前のモニターでは10人以上も放射線障害で亡くなっている曰く付き。しかも、ギルダーシェイドに住むある女性はこれを兵器化できるとか・・・・。

 

「飲めるの?」

 

「飲んだら、逝けるよ?」

 

「・・・・止めとく」

 

だが、売れば以外と儲かるし、兵器化できるので一応pip-boyにしまう。一通り収集し終わった時、天井に設置されたオンボロスピーカーから音が出始めた。

 

〔ガ~~ピ~~~!!!おい!帰ったぞ・・・・・、〕

 

スピーカーから流れてきたのはレイダーの声だった。薬局の奥にある倉庫に入ると、ゲームではいつもレイダーが登場する。今も絶好のタイミングであった。

 

「シャル、プロテクトロンを起動させて防犯モードを起動させるんだ。ソフトはいつの使っている?」

 

シャルは近くにあるパソコンに張り付き、いじり始める。シャルはカタカタとキーボードを打つと、プロテクトロンのソフトが何時なのかが表示された。

 

「ソフトは2076年12月更新よ」

 

「なら、中国軍侵攻対応プログラムが書き込まれている筈だ。それを有効にして、ターゲティングパラメーターで俺達を味方にするんだ」

 

プロテクトロンには中国軍が侵攻してきた時に備えてそう言った攻撃モードが付けられている。76年には敵国として認識されていたので、そう言ったモードがあるのは仕方がないことだ。他にも治安維持モードや警備モードが存在し、ソフトウェアごとに行う仕事も違う。ロボットなどが店番など商品売買を行う場合は物品取引売買モードをインストールしなければならないが、ここは旧ワシントンD.Cである。欲しいソフトがあれば、本社に突撃して探してくれば良いだけの話である。

 

シャルはコンソールでコマンドを打ち込み・・・・・いや何をやっているのか分からないので割愛しよう。だが、シャルが打っている間、レイダーが接近し始めていた。

 

俺はアサルトライフルのサイレンサーを取り外し、弾倉をチェックする。弾倉の残りはバンカーに残っていた数万発の内の500発をpip-boyに入れていたので困ることはない。

 

倉庫から出て、カウンターに予備の弾倉を幾つか置いて、近づいてくるレイダーに照準を合わせて引き金を引いた。

 

装填されていた5.56mmホローポイント弾はレイダーの顔に命中し、後頭部が破裂するかのように脳漿を飛び散らせた。

 

「新鮮な肉だぁ!!」

 

仲間が悲惨な状態で殺されたのにも関わらず、中国軍将校の剣を振り回してこちらに走る。

 

ミニガンがあれば其処ら中を蜂の巣にして、突撃してくるレイダーを肉片に出来るのだが、精神上宜しくないし、取り回しも悪いため持ってきていない。

 

親指でアサルトライフルのセレクターをセミオートからフルオートに直すと、引き金を引いて、殲滅していく。だが、隠れているレイダーを見ても残り10人前後。遮蔽物に身を隠して、見る限り骨が折れそうだと、首をポキポキと鳴らした。

 

「ユウキ、出来たよ」

 

シャルは中腰で薬局のカウンターに腰を下ろす。

 

「どうだった?」

 

「見れば分かる」とまるで某マッドな科学者っぽく怪しげな笑みを浮かべた。シャルってそんな顔出来たの?

 

すると、油を差していないような変な機械音と共にそのプロテクトロンは歩いてきた。

 

「合衆国に栄光あれぇぇ!!!!」

 

 

 

あれ、Mr.ガッツィーじゃね?

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「ハッハッハ、祖国アメリカに敵なぁぁぁし!!逃げるがいい中国兵め!」

 

「望みが・・・あぁ!!!・・・・」

 

声だけ聞けば、Mr.ガッツィーと戯れるレイダーと思う筈だ。しかし・・・・。

 

「何で、プロテクトロンがMr.ガッツィーの声なんだよぉ!!」

 

最後に生き残ったレイダーはそれを叫んで息絶えたのであった。

 

 

 

 

・・・・・・・・で、その後。

 

 

 

 

 

 

「errorが発生しました。errorが発生しました。errorが・・・・ぴゅ~・・・」

 

と煙を吹いて動かなくなるプロテクトロン。ボディーには無数の弾痕があり、よくレイダーを最後の一人まで殲滅することができたと感心してしまった。

 

「で、結局なにをしたんだ?シャルは?」

 

「・・・・・てへ☆」

 

「可愛く誤魔化すなよ!どうやったら、プロテクトロンをMr.ガッツィーにしたんだよ!ありゃどう見ても二足歩行だぞ!どうやったらタコ兵士になれるんだ?!」

 

「・・・・可愛いって認めてくれた(ポッ)」

 

「そんなんで照れんな!」

 

最初、何かのバグだと疑ったよ。でも話を聞いてみるとそうでもないらしい。

 

予め、中国軍侵攻迎撃プログラムがプロテクトロンにインストールされていたらしい。元々、Mr.ガッツィーの声や疑似人格は前線の兵士の戦意高揚と敵兵士の士気低下を狙ったもので、プログラムはそれをそのままコピーして作られたのである。もっとも、プロテクトロンには疑似人格などはないので、録音テープを流すだけなのだが。

 

「つまりは、元々くっついてたわけで、他の治安維持プロトコルを使えば普通の自衛攻撃しか出来ないわけだ」

 

「そう、元々、中国軍迎撃プロトコルはMr.ガッツィーを元に作られたから、敵を殲滅するまで戦うように機能を解放しているの」

 

治安維持プロトコルもあったものの、戦前書かれた合衆国陸軍の火炎放射器で作る20のレシピに中国軍迎撃プロトコルがあったから俺はそれをシャルに設定するよう頼んだ。もし、ゲームと同じように使えば、直ぐにレイダーに殺られて、あんな善戦しないで廃品となっていたはずである。

 

「シャルがいてくれて助かったよ」

 

俺はベンチに座ると、横に設置された自販機のコーラを取った。栓を抜いて温くなったヌカ・コーラを飲む。その横にシャルは座り、俺の肩に頭を乗せてきた。

 

何か、戦前・・・いや前世のリア充みたいだ。そう言えば、前世じゃあ彼女いない歴=年齢だったから、こう言うときどうすればいいか分からぬ。あ、でもvaultの映画で擦り寄ってきた彼女の肩を持って抱き寄せるなんてあったな。

 

そう言う思いで俺はシャルの肩に手を置いた。

 

「・・・!」

 

少し身体をびくつかせるが、直ぐに身体を寄せてくる。うわ、やっべリアル充実してるじゃん。そう言えば、ギャルゲーのようにヒロインは幼馴染みだし、シャルも幼馴染みである。ヤバい!超緊張してきた!!

 

リア充経験なんて無いに等しい俺は心臓がマシンガンのように鼓動し、緊張のあまり背中に汗が流れる。だが、そんな状態でも俺はシャルのそばにいたい。ずっとこのままでもいいと思ったのだ。

 

しかし、そういう時間は長くは続かないものなのである。

 

「新鮮な肉だぁ!!」

 

「うわぁぁぁ!!助けてぇ!!」

 

空気ぶち壊しじゃねえか!おい!

 

「助けてぇ!」

 

レイダーは包丁を持って、12歳前後の少年を追いかけ回していた。

 

俺はベンチから立ち上がると、近くにあったレンガを掴み叫んだ。

 

「おいぃ!このクソレイダー!こいつを喰らいやがれぇ!!」

 

ふりかぶって投げたレンガは放射線状に飛んでいき、丁度レイダーの顔面に命中した。

 

「ブゥヘラァ!!」

 

鼻が折れ、前歯が折れて顔面崩壊したレイダーを踏みつける。

 

 

「てめぇ、こら!せっかく我が世の春を満喫していたのにぶち壊しやがって!ポトマック流域に足にコンクリートくっつけて沈めるぞ!それか、ミレ・ルークの餌にするか?ああ?」

 

俺の数少ない運のうちに発生したイベントをこんな野郎がぶち壊しやがったのだ。それなりの処罰を与えなければなるまい。

 

「ありがとうございます。お陰で・・・」

 

「てめえもだ!何、親から離れてンだよ!ここはレイダーの住みかだろうが!少しは頭使って危険なこと位わかるだろ!」

「ご、ごめんなさい!」

 

誰だかは知らないが、貴様のせいでこうなったのだ。お前にも償わせて貰おうか。

 

「ユウキ、落ち着いて・・・・えっと、君の名前は?」

 

俺に相対してシャルは中腰になって少年の目線で話す。Peckで“child at heart”でも持っているのだろう。まるで、近所の優しいお姉さんっぽい雰囲気を出していた。

 

「ブライアン・・・ブライアン・ウィルクスって言います」

 

嘘だろ・・・・

 

俺は彼の顔を見て小さく呟いた。

 

 

 




いきなり、those!のクエスト始まり始まり!!

意外にも初回プレイの時、グレイディッチから走ってくる少年を見てびっくりした方もいるはず。そのあと、蟻退治することになるとは露とも知らずに。

今作ではブライアン君が大活躍?


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十二話 those!

久々の更新です。これからも亀更新ですが、読んでいただければ幸いです。

いつも※※・・で文を分けていますが、少し多く出来てしまいました。




前世の俺は日本の高校生だったと思う。母子家庭の一人息子で、母と二人暮しで、マンションで生活していた。父親は俺が赤ん坊の頃に亡くなったから顔も写真で見ることしか出来ない。だが、この世界で父親、ハーマン・ゴメスに出会い、父親の有り難みを知った。

 

ブライアン・ウィルクスはこのあとクエストで父の事を探して欲しいと俺達に言ってくる。そして俺達が見るのは、ジャイアントアントの死骸と戦って死んだ彼の父親。それを覚えていた俺はどうしようもなく彼に同情した。肉親は生まれた直後に死んでいるから彼の心の痛みは分からない。だが、亡くなったら、辛いという事は分かっているつもりだ。

 

「・・・ショットガン持ってくるべきだった」

 

「水平二連だと火力不足ね」

 

ウルトラスーパーマーケットからグレイディッチに行く道のりでブライアンは自分の住む町の事を話し始めた。町と言っても、人口はたった5人位なので町とは呼べない。つい最近になって科学者が近くの廃屋に住み込み始めたそうだ。ん?ブライアンを追いかけていたレイダーはどうしたって?そりゃ、レイダー共がやるみたいに鎖を腹に巻き付けて店の天井に引っかけておいた。吊っていた時は生きていたろうけど、今は知らない。多分、スカベンジャーのイヌにでも食われているんじゃないだろうか?

 

 

 

「ヤベェ!ビル走れ!」

 

「いつから奴ら火炎放射器体内に取り入れたんだ!?くそったれ」

 

入り口に近づいた時、男の声が聞こえ、入り口に銃を向ける。すると、入り口から出てきたのが、黒のコンバットアーマーを着て、タロン・カンパニーのロゴを入れた傭兵達が飛び出してきた。

 

「おうっと!こんなことしている場合じゃ・・・アチチチ!!!」

 

タロンの傭兵は俺達が銃を向けているのを宥めようとしたのだろう。だが、言おうとしたとき意味の分からない叫び声を挙げた。

 

「火が!ひ、火が!!あちちちち!」

 

燃えている尻を押さえて走る傭兵。これがギャグマンガなら笑い者だが、実際起こると大変なのだ。すると、一緒にいた傭兵は火を消そうとするがそんな簡単には消えなかった。

 

 

「あんたも手伝ってくれ」

 

「・・・え?」

 

「いいから!」

 

尻を押さえて逃げる傭兵。その隣にいた男はあろうことか俺に助けてきた。タロンの傭兵なのにである。

 

タロン・カンパニーとは無法者の傭兵集団のことである。ゲームでは、レイダーよりも質が悪い。整備したアサルトライフルや中国軍アサルトライフルを装備し、装備が良ければレーザーライフルやレーザーピストルを装備している。彼らの任務は金さえ積めば、何でもこなす。子供でも殺すという話もあり、非情な傭兵として忌み嫌われている。ゲームでは、メガトンの爆弾を解除したことで、タロンの傭兵がヒットマンとして主人公を殺しに掛かると言うのだ。

 

なのに、この二人の傭兵の内の一人は俺達の手を借りようとしている。明らかにイレギュラー。ゲームでは登場しないような人たちであった。

 

仕方ないので、pip-boyからウェイストランド人が着るような布を継ぎ合わせた物を取りだし、広げてバサバサ!と尻に叩きつけて消化する。

 

「くそぉ!尻が!」

 

厳つい顔だった傭兵の顔には大粒の涙が流れている。燃えた尻は着ていた戦闘服が溶けて皮膚にくっついていた。シャルは「移植が必要」と外科医らしき発言をした。

 

「おい、来やがった!」

 

頼んできた傭兵は持っていたレーザーピストルを入り口に向ける。そこには、放射能で肥大化したジャイアントアントが火を吹きながら、突撃してきたのだ。

 

「うお、汚物は消毒ってか?!」

 

「それ違う!」

 

何が違うのか、シャルに分かったのか?まあそれはいい。俺はホルスターに収まっている消音器付き10mmピストルを構えて引き金を引き、シャルはレーザーピストルを向けた。

 

三人による射撃によって、丁度射線上にあったアントの頭を撃ち抜いた。

 

グシャ!と気味の悪い音を出して絶命するアント。傭兵の男は腰にくっ付けていた地雷のスイッチを入れて、入り口にポイッと投げる。これでまた来たアントも吹っ飛ばせるだろう。

 

「さてっと・・・・なあ、タロンの傭兵さん。ここで何をしているんだ?」

 

俺は10mmピストルをタロンの傭兵達に向け、シャルもレーザーピストルを尻を大怪我した傭兵に突きつける。

 

「俺達にはこの荷物をマリーゴールド駅のDr.レスコっていう奴に届けなけりゃならん。それだけ」

 

「・・・・他に依頼されていたことは?」

 

「いいや、ない。」

 

傭兵は首を横にふる。後ろにいたブライアンは「そう言えば」と言ってシャルに話し掛けている。俺にも聞こえるように言って欲しいが、それは嫌なのだろう。

 

さっき、怒鳴りまくったから距離を置かれている。やっちまったかな?

 

「ブライアン君のお父さんはDr.レスコっていう人物を隣に建てた小屋に住まわせている。そこに行けばいいって」

 

シャルはそう言うと、尻を火傷した傭兵に近づく。背嚢に入った消毒液と軟膏を塗ろうとしているらしい。

 

「彼女は医者か?」

 

「ああ、vaultで最高の外科医さ」

 

vaultの中ではそこまでの事故は起きない。大きな外傷もなく、手術するのは何かの病に掛かったときなどだ。ウェイストランドでは弾の摘出ができる奴が名医と呼ばれているが、ならばシャルは神の手を持つ外科医と呼ばれても遜色無いだろう。

 

傭兵はvaultで思い出したのか、ハッ!と目を見開いた。

 

「そう言えば、バニスター基地でジャブスコ司令官がvaultの二人組を殺すよう命じていたな。・・・・お前らだったか」

 

そう言いつつも、目には戦う気力がないのだろう。銃を突きつけているにも関わらず、ポケットから戦前のタバコを取り出して吸い始めた。

 

「俺らの任務じゃないからな、手は出さないさ。それにしても何をやったら、俺達みたいな傭兵に狙われるんだ?」

 

「ユウキが核爆弾を解体した」

 

唐突にシャルが言うと、その傭兵はブハッ!と吹いた。

 

「おいおい、マジかよ。あのthree dogがラジオでメガトンの爆弾を解体したって言っていたのはお前らだったのか」

 

あ、そう言えばそんなのあったっけ・・・。

 

核戦争から200年後の今でも放送しているラジオ局がある。一つは謎の放送局のエンクレイヴ・ラジオ。そしてもう一つが人気のあるGaracxy news radioと呼ばれる放送局。three dogがDJを勤める放送局でウェイストランドの出来事を伝えている。

 

ゲームではメガトンの爆弾を解除すると、解除したことをニュース

で報道する。しかし、俺は保安官しか伝えていない。それなら誰かが解体を見ていたか、保安官の口が滑ったのだろう。どちらにせよ、アトム教会には睨まれそうである。

 

「テンペニーとMr.バーグは爆発しなかったことに大層腹を立てたらしいな。ジャブスコ司令も腕利きの隊員に命令を下しているよ・・・・確か、“やつらの頭をおもちゃにしてやるから、ここに並べろ!”だったかな?」

 

めっちゃ怒ってるやん。

 

こうなるなら、解体しなけりゃよかった。だが、彼はどうなのか?目の前にいる傭兵はキャップには目がないはずだ。

 

「あんたは?」

 

「・・・・・それが俺と弟のビルはタロンに入りたてでさ。そんな新米に重要な仕事を任せるわけがない。そうだろ?」

 

口調や物腰といい、タロンの傭兵と何処か違うと思っていたが、どうやら入り立ての新米らしいのだ。尻を火傷したのはビルという男で色白なヒスパニック。対して俺の目の前にいる男、名前をウェインというらしく、容姿は色黒のヒスパニック。腹違いの兄弟らしく、俺と似ている。元はビッグタウンで生活していたが、持ち前の射撃能力を生かして傭兵家業を始めたそうだ。幾つかの仕事を経て、キャップをもっと稼ぎたくなり、タロンの門を叩いたのだ。だが、彼のような男に勤まる筈がない。彼ら兄弟と一緒にいたもう一人のタロンの傭兵とは折り合いが悪く、そのためか先程全身をアントに焼かれて生涯を閉じたそうだ。場数を踏んでいても、越えてはいけない一線を知っているからか、タロンの傭兵のように残虐行為は行わず、他のメンバーからは反感を買い続けていたそうだ。

 

「もう、こんな仕事やめてやらぁ!あんな子供を撃ち殺すなんて正気の沙汰じゃない。」

 

尻のビル・・・もとより怪我しているビルは座れないため、瓦礫の上に横になっている。シャルがなけなしのスティム・パック(有料)と診断(有料)を行って、尻には新しいズボンを履いている状態だ。彼は任務で他の傭兵が子供を撃ち殺したのを見たことがあり、その時から彼はタロンを辞めたがっていた。

 

「ああ、もうこんな傭兵稼業はおしまいだ。奴らのアーマー着ているだけで吐き気がする。俺達はこれを届けるつもりだが、もう用済みだ」

 

ウェインは背嚢に収まっていた銀色の保護ケースを取り出した。

 

「なあ、それ俺達が届けようか?」

 

「え?・・・・でも、ブライアン君のお父さんを見つけなきゃ」

 

シャルは戸惑うが、俺はアントの近くに寄った。

 

「多分、このアントはDr.レスコの仕業かもしれない。どのみち、アントは殺さなければならないし、これをしでかした張本人なら止める方法も分かるだろ?」

 

俺はアントの頭を蹴飛ばす。200年経てば放射能でミュータントとなり、巨大化するなんて何の冗談だと何回思ったことか。これで大型の蜘蛛がいないだけましだろう。

 

「わかった、俺らはメガトンに寄る。何かあったら酒場に来てくれ。」

 

「ああ、そっちも気を付けて」

 

弟のビルを担ぎ、二人四脚で歩く二人。メガトンとは余り離れていないだろうから、直ぐに着くだろう。

 

 

「よし、中に入るぞ」

 

「うん」

 

俺とシャル、そしてここに住んでいたブライアンの三人はグレイディッチへと入っていく。だが、俺は知らなかった。まさか、こんな展開になるなんて・・・・。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「シャル、慎重に撃て。胴体は硬いが、頭を撃てば直ぐに死ぬ」

 

「・・・難しい・・・」

 

アサルトライフルを持つシャルは俺とグレイディッチにあるダイナーの屋根に伏せてアントを狙い撃っている。専ら、ここではシャルの射撃の的としている。レーザーピストルなど反動のない武器なら難なくこなせるようだが、実包となると反動が強くてコントロール出来ないようだ。

 

「シャル、確かハノン警備長撃ったとき10mmピストルで撃っていたじゃん。あれはどうなんだ?」

 

「あれ、頭を撃ったつもり・・・」

 

意外にもpip-boyは其処のところを忠実に再現しているようだ。

 

すると、シャルは最後の一匹のアントを撃ち、地上にいるアントの制圧を完了した。

 

「beautiful」

 

「何で美しいの?」

 

「マクミラン大尉の真似」

 

「?」

 

シャル、君は知らなくていい。あんな緑のムックは知らなくても大丈夫だ。

 

「何で緑色・・・」

 

「・・・可笑しいな、エスパーが出てきたっけこのゲーム・・・・」

 

vaultに出てきてから、なんかシャルに心を覗かれているような気がする。所謂読心術って奴か?!

 

「違う、これはただの勘」

 

「望みが絶たれた~!!(別の意味で)」

 

シャルのpip-boyのPecksには当然「psychic(サイキック)」があるだろう。

 

「それはない」

 

「だから、お前は何で分かるんじゃ!」

 

俺はダイナーの上で叫び声を挙げたのだった・・・。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「よし、中に入るぞ」

 

「うん」

 

ブライアンから借りた鍵でウィルクス家のドアを開けた。アサルトライフルを構えながらゆっくりと前進する。シャルはレーザーピストルを構えた。

 

家には3匹位のアントの死骸があり、弾痕が胴体と頭にある。しかし、父親の姿は一向に見つからない。落ちていた5.56mm弾の空薬莢を拾い、回収した。

 

「シャル、二階を頼む」

 

「うん、呼んだら来て」

 

俺はそのままキッチンへと向かう。冷蔵庫や棚には戦前の保存食品が幾つかとモールラットの塩漬けとアントの肉が置いてあった。

 

「虫の肉なんて誰が食うんだよ」

 

意外にも、メガトンの食堂のメニューでは出てくるし、メガトンの外で売り出す露店商には虫の肉が多い。幾らか栄養があるかもしれないが、虫を食べる気なんて更々ない。

 

「ユウキ、こっち来て」

 

シャルの呼んだ声で俺は二階へと上がる。二階に上がると案の定ブライアンの父親がいた。

 

「かわいそう・・・」

 

シャルは悲しそうな声で言った。彼は体の半分以上が焼かれ、顔の半分は真っ黒になっていた。俺は見開いた目を閉じてやり、ベットに掛かっていたシーツを彼に被せた。

 

「後で彼に会わせよう。それよりも、アントを何とかしないと」

 

「今からブライアンに言わなくていいの?」

 

「じゃあ、今伝えたらどんな顔をすると思う?自分の丈に合わないことをするに決まっている。敵討ちとかね」

 

しまった・・・。

 

既に遅く、シャルは顔を俯かせる。アマタがジョナスが死んだことを伝えて、シャルが復讐しようとしたことは事実。身内が殺されたことでとんでもない事をすることがある。

 

俺はそっと、頭を撫でて包み込むようにシャルの顔を自分の胸につけるようにしてギュッと抱き締めた。

 

「ゴメン、シャル。悪いこと思い出せちゃって」

 

「大丈夫、平気」

 

そう言うが、シャルの目尻には涙が溜まっている。復讐をしようとしたシャルの気持ちは分かる。だが、その復讐心の先にあるのは空虚と罪悪感のみで、冷静さの欠ける時にこそ分からなくなるものだ。

 

「あとで、お墓作らないと」

 

「・・・そうだね」

 

俺達はウィルクス家のアントの死骸を外に出して片付けると、町の隅にあるマリーゴールド駅に行った。

 

「何でまだ崩落しないんだ。200年も経つんだぞ」

 

「もともと核シェルターとして建設されたから?」

 

「かもしれないが、こんな浅いと放射能はもろに受けるな」

 

ロシアのモスクワメトロは核戦争が勃発した際にシェルターとして機能するように設計されている。元々、レーニンの後続であるスターリンが就任した後、就任祝いに合わせて後の第一書記となるゴルバチョフが第二次大戦前に建設し、後に核シェルターに近代改修された。モスクワに住んだことがあるなら、入り口に大きなシャッターが設置されているのが分かるだろう。エアロック付きの大きい金属製の扉である。だが、ここにあるワシントンメトロは網の格子しかないため、中に逃げ込んでも放射能で死んでしまうだろう。

 

「やっぱり煤が酷いな。・・・いや、これは燃えカスの匂い?」

 

「肉が焼けたような・・・・臭い」

 

俺は匂い対策として戦前の技術で作られた特殊繊維のバラクラバ(覆面)をする。シャルには戦前のガスマスクを渡して取り付けるように指示した。

 

アサルトライフルの弾倉を確認し、シャルはレーザーピストルの光線収束機の調整を行った。

 

「シャル、ゆっくり前進する。離れるなよ」

 

「うん」

 

アサルトライフルを構えつつ、ゆっくりと前進する。

 

途中にラッドローチを見つけたが、トイレの中にいたため、扉を閉めて放置を行った。途中落盤していたが、それを回避するような従業員用通路があり、そこを歩いていく。たまにアントがカサカサと歩いているが、消音器を装着したアサルトライフルで風を切るような音と共に、アントの頭が潰れていく。

 

「何でユウキはそんなに撃つのが上手なの?」

 

「う~ん、長年の成果?」

 

「練習すれば上手くなるんだね」

 

「まあ、そうだろうな」

 

と敵の姿が見えないときは他愛もない話をしつつ、電球がついている部屋を見つけた。

 

「あれか?」

 

「入ってみる?」

 

一応、扉をノックしドアに耳を押し当てる。

 

「何も居なさそうだ」

 

「ユウキ、後衛をお願い」

 

さっきとは打って変わってシャルが先鋒に立ち、俺は扉のハンドルを握る。

 

「開けるぞ」

 

「うん」

 

油の差してあるハンドルを回して扉は開いていく。そこには俺達が探していたDr.レスコの姿はなく、金庫や弾薬箱などが保管されていた。置いてあるのは5.56mmや10mm、306口径等で総数は100発以上あるだろう。

 

「シャル、幾つか鍵が掛かっているから解除してくれ。無理ならハンマーで叩き壊して構わない」

 

「え、壊すの?」

 

「当たり前だろ、ロックピックは多くないんだから」

 

ゲーム見たいにチマチマやって時間喰うことは避けたい。あれはミニゲーム的な存在だったけど、本当にやってみるとイライラしてしょうがないのだ。弾薬箱の鍵はハンマーで叩けば直ぐに壊れるし、鍵の掛かったドアであればを壊せば入ることは可能である。

 

俺は壁にもたれ寄りかかり、さっきのウルトラ・スーパー・マーケットにあったチューインガムを噛んだ。葡萄味のフレーバーな香りが口中に広がるが、考えてみるとこの果物はこの世界に存在しない。もう、こういった物を食べるのは最後になるのだろうなと感傷に浸りながら200年前に製造されたパッケージの表示を見る。

 

「“長期保存食品”・・・か。核戦争を想定して様々な食品を作ったけど、200年も持つように設計されたのか?」

 

2070年代、記録によれば中国との軍事衝突も避けられないと薄々感じていた大手食品メーカーは戦後50年以上経っても食べられるような食品を開発し始めた。普通の缶詰ならば最長で15年、短くて三年ぐらいな物である。それを50年や100年にしようと言うのだからとんでもない壮大なプロジェクトであった。核戦争後を想定された缶詰と普通の缶詰の相違点はいくつかあるが、加熱処理と真空処理がなされ、普通よりも容器が厚いことが挙げられる。それ以外にも化学調味料や保存するための薬品など試行錯誤が繰り返され、今手元にあるようなものが出来上がったのだ。それ以外にもソールズベリーステーキやマカロニ&チーズ、ヤムヤムデビルエッグ、即席ポテトなんかは乾燥食品だったり、肉詰めはポークビーンズと同じ缶詰である。俺が持っているチューインガムも半乾燥食品で水につけると普通のガムのように柔らかくなるのだ。

 

そんな先人の遺産をこうやって食い潰しているわけだから質が悪い。まあ、食い潰すというか、食い潰すという選択肢を残した先人が悪いのだが。

 

すると、メトロで甲高い足音が聞こえてきた。それは走っているような音で俺はアサルトライフルを入り口に向けて身構えた。すると、近づいてきたのは継ぎ接ぎのレイダーが着るようなアーマーにボルトアクションのハンティングライフルと言うような出で立ちの男であった。

 

「そこの男、止まれ!動けば射殺する。銃を捨ててその場で腹這いになれ!」

 

「お前がだ!タフガイ!そこに仕舞ってある金庫の中身を寄越せ!」

 

俺はふと見ると、ちょうど金庫の扉を開けて首を傾げているシャルの姿があった。

 

「ね、ネグリジェ?」

 

「なんでそんなところに・・・・」

 

う~ん、ネグリジェと言われて想像できる日本人は少ないだろう。簡単に言えばパジャマ。15禁相当で表すなら、娼婦が着るような透け透けの衣服である。シャルはそれを広げてしまい、顔を真っ赤に染めてしまった。

 

「いいから寄越せ!でないと・・・・」

 

「でないとどうなるんだ!」

 

俺はアサルトライフルを奴につき出す。人差し指は引き金に触れ、少しの力を掛ければ撃鉄が下ろされて薬莢についている信管に衝突。高速ライフル弾が発射され、男は死に絶えるだろう。それは俺に対しても言えることでお互いに銃を突きつけていると言うことは奴の弾が俺にも命中しかねない。

 

 

そんな緊迫した状況下で、シャルは唐突にも口を開いた。

 

「じゃあ、あげる」

 

「・・・え?」

 

「え・・・・・?」

 

 

「「えぇ!?」」

 

俺は驚きの声を挙げ、レイダーアーマーの男も驚きの声をあげる。その声は偶然にも重なり合い、ハモるという状況となった。

 

「しゃ、シャル?いいの?」

 

「・・・趣味悪い」

 

確かに、それを着るのは商売女だけである。

 

すると、男はシャルの手からネグリジェを奪い取り、線路沿いを走っていった。

 

「ひゃひゃひゃ!これで俺は金持ちだぁ!!」

 

あんなのよりも5.56mmの弾の方が遥かに価値があるように思えるのは俺だけか?そんな杞憂の甲斐もなく、男は喜びの声を上げて外に出ていった。

 

「なんだアイツ?」

 

「さぁ?」

 

「シャルの読心術でも分かんない?」

 

「何それ?」

 

「シラを切られた!」

 

とシャルと喋っていると、さっき走っていった男の叫び声が聞こえた。どうやら、アントに火だるまにされたようだ。

 

「あ~あ」

 

「アイツは本当に何がしたかったんだ?」

 

「さぁ?」

 

本当のことは神のみぞ知る。

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

その後、俺達は無事にDr.レスコに会うことが出来た。かなりの変人科学者だが、人間をグールに変えようとするマッドサイエンティストや科学者なのに格闘が100を越えている変なおっさんを見たことがあるため、そこまで変人には見えなかった。荷物を渡し、町で起こった惨状を報告した。それを報告した後、彼が言ってきたのは「協力しろ」という一言だ。この惨状は彼が行っている遺伝子治療の一環らしく、巨大になった蟻共を小さくし、昔のような虫に作り変える試みだった。だが、失敗してグレイディッチ周辺の蟻達は攻撃的になり、火炎を放つようになった。彼はそのために近くの豪商に頼んで数少ない薬品を手に入れようとした。

 

それで俺達が渡したのはいいとしよう。その後が問題だ。

 

その薬品を使うためには、女王蟻を守るアント・ガーディアンを始末しなければならず、ひ弱なDr.レスコは薬品を運んだ傭兵に追加料金を掛けてアント・ガーディアンを掃討する予定だった。この場合、その仕事ができるのは・・・・。

 

「俺たちってこと?」

 

「その通りだ。さすがに分かってくれたようだね」

 

Dr.レスコは溜め息を吐く。

 

いや、あんたらなんで俺に分からないような言葉を言うわけ?えっと、ホルモンを一定に押さえるためにXXXを?って意味わかんない。

 

「分からないの?」

 

「・・・もうやだこの理系共」

 

 

兎に角、俺達は彼の研究を助けるために、アントを何匹か殺さなければいけない。俺は邪魔になるであろう背嚢を下ろし、アサルトライフルの動作確認を行っている時にシャルは・・・。

 

「一緒にいけない?」

 

「うん・・・だって・・・」

 

「彼女には私の研究を手伝って貰わないとね」

 

とDr.レスコはあろうことか手を彼女の肩に乗せていた。

 

・・・・え、なにこの状況?

 

「えっと、・・・て言うことは俺は一人でアントを殺さにゃあかんと言うわけね?」

 

「そうだ!」

 

「う、・・・うん・・・・・」

 

 

さて、こう言うときは何て言うか知っているだろうか?

 

「こぅの裏切者ぉ!!」

 

大切な者を奪われた男の叫びが地下鉄に響いた瞬間であった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「ひっく、なんで裏切ったシャルの奴・・・・」

 

いや、別に泣いている訳じゃない。シャルがNTRれたわけではないからいいとして、あの男に言いくるめられたシャルも許せなかった。まあ、そこまで怒っていないけど。・・・・帰ったらDr.レスコの髪を全部むしり取ってやろう。

 

俺はベストのポーチに入れていた消音器を銃口にくっ付けると、マガジンポーチに入れていた徹甲弾の弾倉をアサルトライフルに装填する。

 

fallout3では出なかったものの、fallout:newvegasには弾の種類が一気に増えた。徹甲弾やホローポイント弾は戦前では珍しくも何ともない弾であるが、great warで多くの核弾頭が落とされ、主戦場となった東海岸では、その殆んどの製造機械が失われた。徹甲弾などのとても効果的で実用性のある弾丸はすぐさま使われるため、200年経つ今日には、こう言った弾薬は無くなってしまった。しかし、旧米軍基地などには弾薬プレス機などが存在するため、旧米軍基地などを根城とするBrotherfood Of Steelsやタロン・カンパニーなど数少ない武装組織が使うだけとなっている。

 

だが、メガトンの自宅に帰ればその弾薬プレス機があるわけなので特殊な銃弾は使い放題なのだ。帽子を脱いで、黒のバラクラバだけとなり、上から黒塗りのコンバットヘルメットを被る。これで戦前のアメリカ陸軍の暗視ゴーグルがあれば最高なのだが、贅沢は言えない。

 

アサルトライフルを構えてゆっくりと、アントの根城に進んだ。木製の扉を開き、薄暗い裸電球の光を頼りに足音をたてないように進む。

 

「いたいた」

 

俺は小声で呟くと、セレクターを「セミオート」に設定し、ガーディアン・アントの頭を狙い定めた。引き金を引くと、消音器に減速されながらも、徹甲弾はアントの頭部を貫通し一瞬にして絶命した。

 

「ゲームなら人間に至近距離で撃っても死なねぇのに」

 

44口径マグナムを一発頭部に撃ち込んでも生きている奴がゲームのNPCにたまに居るのである。現実世界では確実に死ぬ筈なのにこの世界ではそんな化け物じみた奴等はいないだろうと思うのだが・・・。

 

「スーパーミュータントはどうなんだ?」

 

戦前にスーパーソルジャー計画が推し進められていた。内容は強靭な肉体を持ち、パワーアーマーのような高コストの兵器を着けずとも、一騎当千のような強靭な兵士を造り上げようとした。戦前、それに取り組んでいたのが、アメリカ軍のマリポーサ軍事基地とvaultのとある研究施設である。西海岸に位置するマリポーサ基地はFLVウィルスと呼ばれるものを研究しており、それがスーパーミュータントの元であった。西海岸ではそれらからスーパーソルジャーの成れの果てである緑色の巨体を持つスーパーミュータントと生き残った人類が銃火を交えた。ここ東海岸でもワシントンD.C.を根城に多くが生息している。

 

ゲームでは人間よりも体力があり、重火器を装備する異形の敵である。食べるものは主に肉。多くが人間を食用としている。

 

なんで俺はこの世界に来たんだ?荒んだ世界に生を為した俺は一体何のためにこの世界に来たのだろうか。俺はそんな疑問を胸に抱き、アサルトライフルを構えて異形の蟲の住処へと踏み入れる。人間やモールラットの死体を通りすぎ、アントを数匹撃ち殺しながら、女王蟻のいるところへ腰を低くして進んでいく。

 

「う~ん、“バグズライフ”?“スターシップトゥルーパーズ”?」

 

前世の映画を思い出してしまうほど、アントやこの世界にいる虫の印象が強かったのだろう。一つ目はディズニーので、二つ目がSF戦争ものである。

 

どうしてそんなことを呟いたのかと言うと、俺の背丈ほどあるアントがいたからである。大きさは・・・・2m弱。全長10mは越えている。幸いなことに巨大なクイーン・アントは俺のことを気付いていない。記憶では何かの粘液を吹き付けられるのだっけ。もしも強酸ならば、銃創の傷よりもとんでもない傷痕を残すのかもしれない。

 

クイーン・アントを殺せば、このグレイディッチの悲劇を食い止められるだろう。だが、Dr.レスコの実験を邪魔すればただじゃ済まない。人類は未来永劫、放射能で変異したアントにくるしめられるはめになる。一度は向けていたアサルトライフルを下ろし、そのまま腰を低くして立ち去った。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

「えっと、じゃあこれが報酬だ。それにしても見事な活躍だ。そうだ、アントから抽出したインプラントを・・・・」

 

「遠慮しておこう。このままで十分だ。・・・・蟻になりたくはないし。」

 

「そうかい?まあ、それならいいんだが」

 

「あんた、ブライアンは引き取れないか?」

 

「何度も言うようだけれど、それは無理だ。私には研究がある。彼の父親は残念だったが、この実験には犠牲が付き物だ」

 

Dr.レスコは言うと、アントの実験体を解剖していく。最早、実験にしか目を向いていない。これでは無理やりブライアンを託しても大変な思いをするだけだ。

 

「まあいい、あんたが人としてどうかしているのは分かっているが、レイダーよりはましだ。研究頑張ってくれよ」

 

俺はそう言うと、ポケットに入っていたガムを口に入れて外に出ていった。メトロの線路には何もいない。俺がいない間にレスコが策を講じたらしく、いままでいたアントは居なくなっている。一応、アサルトライフルは安全装置を外したまま、マリーゴールド駅の出口へ歩いた。

 

駅から出て、近くにある公園に向かう。戦前の遊具が置いてあるが、200年ほったらかしになっているため、動く気配がない。そんな、寂れた場所で幼馴染みがシャベルを片手に穴を掘っていた。

 

ザクッ!ザクッ!・・・・

 

無人に等しいグレイディッチの廃墟にただその音が響く。まるで自分の肉親を葬る準備をしているように。ただ無心に掘り続けるシャルの掘る手を止めた。

 

「シャル・・・」

 

掘る手を止めさせて、シャルの顔を見た。目は赤く腫れていて、手には無数の豆が潰れ血が滲んでいた。

 

「・・・大丈夫・・・、ちょっとジョナスの事を思い出して」

 

ジョナスは二人にとっても恩人である。俺が赤ん坊の時に色々と面倒を見てくれた人だし、第一彼は俺にこの世界を気付かせた人でもある。シャルにとっては先輩以上の存在だった。シャルより多くの事を学び、一流の医者だった。だが、彼はvaultにラッドローチを呼び込み、ジェームズの脱出を手伝ったとして拷問を受けて、警備長に殺された。その後、しっかりと葬式して埋めてあげたのか不安だったようだ。

 

「大丈夫、兄貴がしっかり葬式してくれる筈だ。」

 

「・・・うん、それと・・・お父さんちゃんと生きているよね・・?」

 

俺の胸に頭を預けていたシャルは顔を上げて俺の目を見る。だが、俺は彼女の目を見ることは出来ない。

 

いくら格闘技が上手かろうが、人は死ぬ。凄腕の傭兵であろうと死ぬときは死ぬのだ。いくら子供がいようが、恋人が待っていても、死は待ってくれない。ブライアンの父親のように誰にも看取られずに死ぬなんてゴマンといる。看取られて死ぬのはよっぽど幸せだ。こんな荒れた世の中、命は綺麗な水より軽い。それがこの世界なのだ。

 

「・・・お父さん・・・・」

 

シャルはそう呟くと、ポロポロと涙を流した。俺は声を掛けることも出来ず、そのまま彼女の震える肩をしっかりと抱き締めるだけだった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

その後、ブライアンの父を埋葬し、ブライアンを慰めてグレイディッチで一晩過ごした。夜通しでメガトンを目指すのも良いかもしれないが、周囲が分からぬまま歩いて、レイダーやアントに襲われれば為す術はない。メガトンのバンカーに暗視ゴーグルがあるが、出来ることなら危険のない昼間を歩くべきだ。

 

「ユウキ、ブライアン、ご飯出来たよ」

 

シャルに呼ばれ、俺は分解していたアサルトライフルの銃身を机に置くと、一階に降りた。一階のキッチンからは戦前の調味料を使ったらしく、美味しい匂いが二階に届く。

 

「さあ、座って」

 

俺は椅子に座る。テーブルにはウェイストランドの平均的な食事よりボリュームがある料理が置いてあった。

 

まず、マカロニ&チーズと即席ポテトを混ぜ、尚且つソールズベリーステーキについていた野菜をトッピングしたポテトサラダ。ソールズベリーステーキを細かく砕き、ヌードルに入れたチャーシューヌードル。それをみた俺は美味しそうだと心を踊らせたが、向かいに座っていたブライアンは目が落ちるぐらい驚きの顔をしていた。

 

「こんなに食べていいの?!」

 

「?・・・いいよ。さあ、どうぞ」

 

その後、ブライアンは泣きながら食べ始めた。後で聞くと、毎日ご飯を食べられる訳でもなく、1日一回の食事や二日に一回もあった。それに、食べられるのはほんの少し。良くここまで育てられたとブライアンの父に感心した。男手一つで育てられていたのか、そんなに手の込んだ料理を食べさせて貰えなかったようだ。そのまま俺も夕食を美味しく頂いた。

 

「ブライアン、ちょっと話があるんだけどいいかい?」

 

「・・・う、うん」

 

若干、怯えながら返事をする。もう夕食は食べ終わっていて、俺はpip-boyから綺麗な水のボトルとコップを取り出した。

 

「ほら、これを飲みな」

 

と水をコップに注ぎ、彼に飲ませる。そして話の本題に入った。

 

「ブライアンには親戚はいる?」

 

「えっと、確かリベットシティに叔母さんがいる」

 

「リベットシティ?」

 

シャルは聞いたことのない町の名前に首をかしげた。

 

「リベットシティって言うのは米海軍の原子力空母の残骸を元にした街さ。ここら辺で一番栄えている街じゃないか?」

 

俺は説明すると、シャルはト●ビアの泉のようにへぇ~といったような顔をした。あまり興味がないらしく、いそいそと食器を片付け始める。

 

「だけど、遠いな。ここから彼処まで行くのに護衛も付けずに行くのは自殺行為だ。スカベンジャーと共に行っていくのはいいかもしれないけど、命の保障はないし・・・・。もしも向こうが受け入れてくれなかったらどうする?」

 

「それは・・・」

 

ブライアンは言葉を詰まらせる。こんな世界で甥だからと言えど賄うのは難しい。ゲームと同じように人が良いのであれば問題ない。だが、この世界はゲームとは少し違う。性格が豹変していたり、死んでいる可能性すらあるのだ。

 

リベットシティに一緒に行くのもありなのかもしれない。だが、そんな足手まといは要らないし、リスクも背負いたくない。非情と思われるかもしれないが、そこまで行くのにはまず市街地を歩かなければならない。市街地はスーパーミュータントとタロン・カンパニー、ブラザーフット・オブ・スティールの三つ巴の戦いの中心地である。そんなところにのこのこと子連れで行けば、スーパーミュータントのゴアバックに詰め込まれて夜食にされるか、タロンに頭をねじ切られて玩具にされるか、BOSの放つ流れ弾に当たって死ぬか。市街地には死が溢れかえっている。

 

ゲームではメインクエストで父を探しに市街地に入るが、現実であったなら父の事を忘れてメガトンから出たくないと思ったものだ。

 

「俺達はここに長居は出来ない。幸い、ウルトラ・スーパー・マーケットから持ってきた食糧は豊富にある。スカベンジャーに手紙を託して返事が来るまで待とう。もしもこなかったら・・・・」

 

「こなかったら?」

 

「ここで独り暮らしになるかもしれん」

 

ブライアンは顔を伏せる。

 

俺だってこんなことはしたくない。だが、市街地を通ってリベットシティに行くのはリスクが高すぎるし、スカベンジャーと共に行っても、野垂れ死にが関の山だ。俺達にお前を養うことは出来ない。勘弁してくれ。

 

俺はブライアンを見つつ、心の中で謝る。

 

「一応、色々と助けられると思う。3日に一回位はここに来ることは出来るし、幾つか武器はある。下の店にレイダーは居ないからここに住んでも大丈夫だろう」

 

俺はそう言うと、席を立ち二階へ上がる。どうも子供は苦手だ。どう接していればいいのか分からない。

 

二階へ上がり机に腰を下ろして分解されたアサルトライフルに油を指した。

 

すると、暫くしてからシャルが階段を登って二階にやって来た。

 

「ブライアン君、落ち込んでた」

 

「仕方ない。でも彼は養ってくれとは言わなかったな」

 

「さっきまでユウキを怖がっていたんだよ。それに本当に彼を一人にしておくの?」

 

シャルは俺を批判するような眼差しを向ける。

 

「彼には血縁者がいるだろ。すぐに保護してくれるさ」

 

「無理だったら?彼を一人にさせておくつもりなの?」

 

「なら俺達が彼の面倒を見るのか?これからどうなるか分からないんだぞ。確かに、非情だとおもう。だけど自分達が安定した生活を送っていない限りは彼を養うことは出来ないぞ」

 

「でも、彼はここで一人ぼっちなのよ。このまま明日彼を置いてメガトンに帰れない」

 

「・・・・シャル・・・」

 

彼女の目には決意が宿っている。そう簡単には引き下がらない。

 

どうするべきか。

 

 

俺は暫く考えたのちに口を開く。

 

「分かった、でも彼の血縁者が保護する話になったら彼を引き渡すんだぞ」

 

「うん!ユウキありがとう」

 

すると、シャルは俺に抱きついた。

 

 

順々に俺は彼女にフラグ立てつつあるよな。いや、幼馴染みと言う時点で立ってはいるか。・・・・ってことはどこが勝負処だろう?

 

と前世の価値観で物事を考える癖は抜けておらず、結論として「まだこのままでいよう」と日本人でありがちな現状維持ということになりました。

 

チキン?腰抜け?ヘタレ?

 

どうせ俺はヘタレですから!!

 




さて、18にして扶養者?いえ、期間限定の保護者です。


たしか、MODで「スターシップトゥルーパーズ」のバグズを発生させる物がありました。導入したことはありませんが、映画は面白かった。続編の2や3は駄作でしたが・・・。



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十三話 後日談

これから一万文字投稿を始めます。一万文字を満たせば、投稿するので更新遅いです。亀更新なので気長に待ってもらえれば幸いです。




 

さて、その後は一晩ウィルクス家の家に泊まり、次の日の早朝に出発した。ブライアンは昨日の決定を知らなかったため、メガトンで生活すると言った途端、まるでカジノで賭けて大金を手に入れたギャンブラーのように大喜びした。言葉にしたくても出来ないのが世の常。本当なら俺達と一緒の方が良いと思っているに違いなかった。

 

一応、ブライアンには予備のコンバットナイフを持たせて、自分の荷物を整理させるように命じた。シャルと俺は持ってきた武器とメトロとウルトラ・スーパー・マーケットで集めた食糧や弾薬、各種予備部品を整理して背嚢に仕舞い込む。朝食にミレルークケーキを食べて準備が整った。

 

「お父さん、行ってくるね」

 

ブライアンは行く直前に土に眠る父に別れを告げる。俺とシャルも同伴し、心の中で冥福を祈った後、出発した。

 

早朝に準備万端で出発した俺達だったが、メガトンまでの道のりはそこまで険しくない。4キロの距離があり、小学校に近づかなければ、危険はアントか野生の動物だけである。よって、グレイディッチからメガトンまでの道程はまるで子供のお使い感覚で行くことが出来た。実際、戦前はスプリングベールに住む子供がお菓子を買いにここまで来たのだろうと考えて、俺はpip-boyのラジオを聞きながら、メガトンまでの道程を歩いた。

 

「ってことはメガトンの市民なの?」

 

「そうなるね、ユウキが爆弾を解体したお陰でなんとか家をゲットできた。」

 

「凄いなぁ。僕もそんな能力があればいいのに」

 

先頭に立つ俺は銃を持って先導しているが、後ろではブライアンとシャルが親しく喋っている。

 

「メガトンの市民て早々なれる訳じゃないんでしょ。いいな、綺麗な水が貰えるんでしょ」

 

メガトンの市民はメガトンに住居を持つ人の事である。メガトンはルーカス・シムズ保安官が一応仕切っており、何か決め事をする場合は住居を持つ市民が広い食堂などで会議をする。彼らには一週間に一回放射能の除去された綺麗な水が10リットルほど貰える。しかし、市民は特権を与える代わりに町の為になにかしなくてはならない。例えば、武器の扱いや修理、製造、医療、その他様々な能力をメガトンで発揮しなければならず、何も能力のない者は追い出される運命であった。

 

一方、住居がないメガトンの入植者達はメガトンの行政には関わらない。彼らはメガトンの内外に集団住居を持ち、メガトンの製造に日雇いで従事出来る。だが、その給料は低く、そこらで売っている何か良く分からない食べ物を食べて生活する。そういった生活環境下では1日に何人かは栄養失調か疫病か餓死か殺されるかしてメガトンに打ち捨てられる。それをまた日雇いの入居者が荒野に捨てに行くという悪循環が成り立っていた。

 

ゲームではそんな描写は存在しないが、現実味を帯びさせればここまでのようなひどいことになる。

 

俺達三人は他わいもない話をしながら、メガトンに到着した。

 

「保安官ガオ待チシテオリマス。」

 

メガトンの入り口にたつプロテクトロンの副官ウェルドはそう言うと、辺りを巡回するべく油の切れた足を使い歩き始める。

 

「ユウキ、どうしたの?」

 

「呼ばれているっぽい。先に帰っていて」

 

「うん、昼食の用意してる」

 

シャルとブライアンは先に家の方へ帰らせ、俺はご飯時であるためメガトン中央に位置する食堂へと足を向けた。

 

「あら、生きてたのね」

 

そう言ってきたのは、店番をしていたジェニーである。このメガトンの胃袋とまで言われる「ブラス・ランタン」の女将である。

 

「そんな簡単に死ねませんよ。保安官見なかった?」

 

そこまで仲良しではないが、食糧品を買う時に世話位はするようになった。

 

「中でヌードルを食べてるわ。・・・なんか新しいメニューないかしら。」

 

「そうだな、モールラットの肉を煮込んだスープを使えば?」

 

「そうね、ちょっとやってみるわ」

 

ジェニーはそう言うと、腕捲りをして近くにある冷蔵庫からリスシチューとイグアナの串刺しを出してカウンターにいたジェリコに渡した。

 

俺はそれを横目で見つつ、プラス・ランタンの扉を開けた。

 

「お、死んだと思っていたぞ」

 

「そう簡単に死んだら、vaultオフィサーの名が廃ります。何で呼んだんです?」

 

「メガトン市民なら務めを果たさんとな」

 

どうやらゲームの知識とここでは若干違うようだ。

 

ルーカス・シムズはビールを片手に説明し始めた。

 

知っての通り、メガトンに住宅を持つ者はメガトンに貢献しなければならない。例えば、「ブラス・ランタン」のジェニーは自分の料理や食料を提供している。それか、モイラであれば雑貨店の経営。ジェリコのようながさつな男であれば傭兵家業や街の民兵として街の防衛を行うこともある。

 

俺はメガトンの爆弾を解除したから、それが終わったのかと思っていた。しかし、爆弾を解除しただけでは一時的な貢献だけで、メガトンは永続的な貢献を求めていた。

 

「何か無いですかね?」

 

「そうだな、傭兵業は無理そうだし、自警団は頭数は揃っている。予備としてなら数えておこう。他には・・・そう言えば、銃の修理とか販売はどうだ?どうせなら家を改造して店舗に出来るぞ」

 

メガトンには銃の修理を専門とした店舗は存在しない。モイラも一応出来るけど、電子機器専門だから俺のスキルを考えると、俺の方がいい。だが、レーザーライフル等の光学兵器ならモイラの得意分野である

 

「あの家をですか?そうなると、ちょっと困るかな。それなら別に掘っ立て小屋作るって言うのも良いかもしれないですね。」

 

「屋台みたいにか?それなら、バーグの家を改造したらどうだ?彼処ならぴったしだ」

 

因みにMr.バーグだが、爆弾を解体してしまったため此処にはいない。

 

「彼処ですか?武器を運ぶのに面倒ですけど・・・・まあ大丈夫ですかね」

 

俺は承諾するとシムズと握手を交わす。

 

「店名は何にする?」

 

「・・・・そうっすね・・・」

 

俺はその場で思い付かず、また明日考えると一度帰ったのだった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「で、モグモグ・・・武器屋みたいなことしなきゃならないわけだ」

 

「ふ~ん・・・で、お父さんは何処に居るのかな?」

 

「ゴホッ!!」

 

丁度よく俺は気管にイグアナの肉を詰まらせ、むせた。

 

正直言うと、ジェームズが何処に居るかあまり思い出せない。確かウェイストランドの東に位置するというのは覚えているが、それが何処なのか全く覚えていない。確か市街地の何処かにヒントがあると記憶にある。

 

何かのキッカケがあれば思い出せるだろうが、今のところ朧気な記憶しかない。

 

「な、なあシャル」

 

「お父さん、探す気あるの?」

 

「あるよ。でも、拠点が必要だろ?」

 

「本当に・・・必要なの?」

 

その言葉で俺は唸る。俺のゲームのプレイスタイルはアイテムをコレクションしていくので拠点が有れば、そこに荷物を保管できる。だが、これは行動範囲を狭め、持ち物が一杯になったところで

家に帰らなければならないと言う欠点がある。これは俺だけかもしれないが、根なし草プレイも可能と言えば可能である。拠点を持たずに生活する。持ち物は最低限度に絞り、要らない物はpip-boyかそこらのスカベンジャーに売れば良い。だが、その根なし草にも欠点はある。物資が常に欠乏し、食糧も事欠く状況に陥る。最悪、餓死や弾薬が欠乏して鉄パイプのみでレイダーのキャンプに突撃するということになるやも知れない。

 

「俺は必要だと思う。だが、ブライアンはどうするんだ?もしも、スカベンジャーみたいな根なし草も良いけど、ブライアンの叔母が居なかったら?それだと、ブライアンは一人っきりだぞ」

 

「う・・・」

 

言い返せなくなったのか、言葉を詰まらせるシャル。

 

ブライアンは何とも言えないような不安そうな面持ちで俺達の会話を聞いていることだろう。まあ、シャルの言ったような根なし草作戦は失敗に終わるからやらないつもりだ。安心しろ。

 

「お父さんを助けるというのならここを手放すなんて・・・・そんな選択肢おかしいだろ。もっと良い方法があるだろ?」

 

「何があるの?」

 

「店番をロボットやブライアンに頼めば良い。店はMr.バーグの家を改造してやるから大丈夫だ。」

 

例えば、プロテクトロンを販売するスカベンジャーなどがいい。プログラムはロブコの本社から探しに行けばいいし、元々インストールされている機種を買えるかもかもしれない。ブライアンは・・・・少し勉強を積んでからだが、プロテクトロンが出来ないような仕事や出来ることならやれるだろうし、簡単な武器の修理を伝授できるだろう。

 

「まずは資本を借りなきゃならんが、モイラやジェニー、自警団から少しずつ貰わなきゃな。出来れば今度のメガトンの会議で資本集めしないと」

 

「やっぱりお金借りなきゃだめ?」

 

「ちょっと試算してみた・・・・」

 

俺は持っていたクリップボード(経理)をシャルに渡す。シャルの顔はみるみると赤から青に変わっていく。

 

「え?・・・え?・・・2000キャップ!?」

 

「それだけで収まったんだ。それの資金練りの成果だな」

 

掛け算出来ない子がどうして・・・・、とシャルの馬鹿にした発言は反応しないでおいてそれだけの金額が掛かってしまった。

 

防犯上、銃器を取り扱う上で普通の住居とは違うことをせねば成らない。例えば、一作目のターミネーターで武器店の店主がシュワちゃんに売り物のショットガンで殺されるシーンがある。売り物で殺されるなんてあっては成らないし、盗まれることもあっては成らない。そのため、武器の受け取りや支払いは何処かの遊園地のようなカウンターの所だけ穴が空いているような物にして商品と客の間に一つ区切りを付けた。また、暴動が起こったとき、襲撃を受けるのは武器屋であるので、武器の保管場所や弾薬の保管場所には気を配らなければ成らない。

 

必要経費と削減できる経費を今後知り合いの経営者に話を伺って見よう。モイラに聞いてみても、しっかりとした答えが帰ってくる筈だ。もし、変人紛いのセリフが返ってくるなら、とっくの昔に雑貨店は無くなっている。

 

「今手元にあるのは、345キャップ・・・。返済はどうするの?」

 

「分割して支払う。月に二百キャップづつ。家には最高品質の武具があると宣伝しとけば食い付くんじゃないか?それに俺は改造も加えてみたいし」

 

「改造?」

 

とシャルは首を傾げた。

 

既に忘れていると思うが、俺は転生した人間だ。前世の記憶を忘れていると言っても、興味のある物は何時まで経っても忘れることはない。例えば、2013年のアメリカ軍の兵装とかだ。

 

この世界は1950年代の文化で2077年の科学力を持つ。兵器もそれに準ずるものだが、前世の兵器と比べるととても面白い。

 

アサルトライフルなんて、H&KG3A3にそっくり(似ている小火器は多くある)だし、木製ストックは石油が枯渇したため、採用された経緯もある。前世の武器は光学機器を搭載するなど、歩兵一人一人の価値が上がっている。ここのアサルトライフルを改造して、ピカディニー・レールとかオプションパーツを付ければ面白くなる。

 

それをシャルとブライアンに絵付きで説明した。

 

「てことは、ここに取っ手とスコープをつけるの?」

 

「こんなに金属部品使ったら重くなるんじゃない?」

 

「いや、ブリキ缶のような軽量の金属で加工する銃身を取り付ける。密閉しないし、熱を放出する穴を開ける。木製のハンドガードだと、熱が篭るから此方の方が長持ちすると言えば、長持ちする。」

 

かねてより、アサルトライフル改造案を練っていた俺はpip-boyから設計図を取り出した。ハンドガードを取り替えて、フロントサイトの近くには20mmのレールを取り付ける。そして銃床も前世のアメリカ軍が使用するM4A1の伸縮ストックに差し替える。青い設計図用の紙に描かれた図面は色々な修正点と注意点が埋め尽くされており、専門用語が書き綴られた物を見ていたブライアンは首を傾げていた。

 

「そう言えばこの銃床と同じのがあったわね」

 

シャルは地下にある武器庫にあった武器を思い出す。

 

「幾つかは戦前に作られた5mm弾を使用するアサルトカービンだろう。ほかは・・・・まあ、あれも戦前の武器だな」

 

武器庫には俺がMODで収集した以外にもベガスで売られていた武器も置いてあった。例えば、50口径弾を発射するアンチマテリアルライフルや5.56mm弾を発射するセミオートのサービスライフル、同系統のマークスマンカービン。

 

他にも某サイトで手に入れた生前のアメリカ軍が使用していたM4A1やMINIMI軽機関銃、G36C、AK47、P90などなど。

 

弾薬はこの世界に流通する弾薬やここでしか生産できない物も存在する。俺はこれをvault内で構想を練っていたが、何時考えたのかと聞かれたら、メガトンに来てからと言っておこう。流石にvaultの中で構想を寝るのは無理があるし、ここに来てからという言い訳をすれば良い良い。

 

「ブライアン、風呂入っておいで。体汚れているだろ」

 

「うん、分かった」

 

メガトンには一応風呂屋もある。だが、殆んどが放射能汚染水なのでシャワーに止めておかねばならない。しかも、シャワーを浴びた後にradawayを体内に入れて放射能を分解しなければシャワーを浴びた分だけ被爆するから、後々放射能病になる。

 

だが、この家には浄水設備があるから大丈夫なのだ。

 

汚染の心配のないお風呂に入ることを知らないブライアンはさっさと風呂場へ直行した。

 

俺はテーブルに置いてあったポテトチップスを食べて、ウィークリー・セールスマンと呼ばれる雑誌を読んだ。雑貨店をやるモイラによると、二日前にスカベンジャーが雑誌を見つけたらしく買い取ったそうだ。俺は今日彼女の所に行って、武器の値段を聞いてきた。一応、お礼として新品同様のアサルトライフルと撤甲弾90発を渡した。その時、武器の金額表と一緒にこの雑誌を貰った。東海岸にはあまり見当たらないものだが、探せば幾つかここでも見つかるのではないかと思う。

 

ふと見ると、シャルが戦前のレポート用紙に綺麗な字で何かを書いていた。それは手紙らしく、リベットシティでホテルを営むヴェラ・ウィザリーという女性宛てに書いていた。

 

「一応、明日リベットシティを回るキャラバンに渡してみるね。」

 

「ああ、シャル。これ見てくれ」

 

俺がそう言って見せたのは、店を開店する上での予算編成だ。

 

「えっと、人件費が日雇い10キャップ×10人。フェンス付きカウンター1000キャップ。追加弾薬箱30キャップ×2。・・・・日雇いは5人で十分よ。それにここは・・・」

 

とシャルは武器屋の予算にメスを入れていく。これによって、2000キャップから1500キャップまで削減された。

 

予算削減が終わる頃、泥汚れなど顔が少し黒くなっていたブライアンは風呂から出てくると、戦前のCMに出てきそうな子役のように若々しくなった。

 

「は~、さっぱりした。・・・あれ、radaway打たなくていいの?」

 

「放射能汚染されていない水だからな。大丈夫だ。一週間に一回のペースで打てば問題ない。」

 

俺はそう言うと、まるで某お菓子メーカーのペコ●ゃん人形のように頭をカタカタとし始める。

 

「ああ、そう言えばこの家は生活水準が高いんだったな」

 

「高すぎますよ!!」

 

とうとう、ブライアンはすっとんきょうな声を上げて小躍りし始める始末。ウェストランドで風呂が入れる環境なんてタロン・カンパニーと仲のよいテンペニー・タワーかvault位な物で、それ以外は殆んどが放射能汚染水でシャワーを浴びなければならない。そして、被爆した身体から放射能を取り除くためにRadawayが必要となり、薬代と水代が掛かる訳で、ウェストランド人はシャワーすら入らない者が多い。

 

余談だが、Radawayは放射能を分解する薬剤である。戦前では世間一般に使われる物なのだが、現在では様々な活用法もある。一つ目が普通に脈に差して体内に注ぎ込む方法だが、「血の中でバラモンが暴れるように」と言われる位痛みを伴う。ウェストランド人はアルコール類を飲んで痛みを和らげながら、放射能を除去する。

二つ目が料理や水の中に直接薬剤を入れる方法。これだと、薬剤の殆んどが効果を無くすが、食料に入っている放射能はそれほど多く無いため、水や料理に入れれば、その料理の放射能が無くなってしまう。だが、薬剤その物が癖のある味のため、料理は味の濃い物にしなければならず、薬剤と水の組み合わせは最悪だ。

 

ともあれ、この家では医者も医療器具も全て揃っているため困ることはない。但し・・・。

 

「頼む・・・痛くないように・・・グヘッ!!」

 

俺は注射器の針と中に入ってくる薬剤で叫び声を挙げる。言っておくが、ウェストランド人と同じようにウィスキーやウォッカを飲むわけではない。痛みを和らげないで、飲まずに刺したのだ。

 

「痛くないから、息を吐いて楽にして」

 

言っておくが、注射は嫌いである。飲み薬や粉薬でもいい。だが、注射は嫌いなのだ。

 

ブライアンも放射能洗浄が必要だし、全員洗浄してからの方が計算が楽だとシャルが言ったので、ブライアンと俺は一緒に点滴を受けている。血中を巡るRadawayから起こり来る痛みを我慢して、奥歯を噛み締め我慢する。因みに点滴をしているのは食卓の置かれているところ。自宅に入ってすぐの場所である。食卓はひっくり返して壁際に置き、簡易型の医療用ベット二つを広げて、医療用ラックを立てている。

 

「シャル、お酒飲んじゃ・・・」

 

「ダメ、絶対!」

 

「今は2277年だぞ!んなもん忘れろい!」

 

「未成年の飲酒は脳に深刻なダメージを及ぼすの知らないの?」

 

「18なんだがら!」

 

「ダメったら駄目!」

 

「そこをなんとか」

 

「駄目よ。元々、点滴の最中にお酒飲もうとするなんて駄目に決まっているじゃない。それに、Radawayを使っているときにお酒飲んじゃ駄目なんだから」

 

シャル曰く、効果を見るためにお酒を飲むと十分に発揮できないそうだ。アルコールとRadawayの相互作用で放射能の分解が遅くなり、効果の半分しか期待できないそうだ。

 

「鬼!悪魔!」

 

「今更?」

 

「望みが絶たれた!」

 

幼馴染みが鬼とか悪魔だったなんて!もう駄目だ!

 

「もう終わったのに?」

 

「へ?」

 

見ると、黄色の半液体であるRadawayは無くなっており、シャルは慣れた手際で空のパックをバイオハザードのマークが書かれた箱に捨てた。ブライアンも終わったらしく、俺が渡した「銃と弾丸」を読んでいる。これから、ブライアンには俺と同じガンスミスとなるべくお勉強をして貰わないといけないからな。腕が鳴るぜ。ブライアンの叔母にはなんと説明すればいいって?生き残るための能力を授けましたと言えばいいだろう。

 

すると、シャルは医療用のベットから俺を追い出し、自身の身体を横たえた。

 

「次は私でしょ。そこのRadawayを医療用ラックに吊るして新品のチューブと針を繋いで、それと消毒液の綿を私の腕に塗って」

 

シャルは矢継ぎ早に指示を飛ばし、俺は急いで支度をする。銃創の応急処置や人工呼吸など救急救命の講習を幾つか出たことのあるものの、注射器を使った事はない。ましてや、点滴用の針など使ったことが無い。

 

先ずはシャルの部屋から持ってきた医療用のケースからRadawayのパックを取り出して医療用ラックに吊るして使い古した輸血用のチューブを取り付けて針もセットする。医療用ラックと医療台を近くに寄せて医療台に置いてあった金属製の容器から消毒液に浸した綿を腕の脈当たりを擦る。

 

「じゃあ、針を持って。垂直に刺すんじゃなくて、滑り込むように刺して」

 

何時ものシャルとは違い、口数が異常に多い。医者と言う能力をフルに発揮するとこうなるのか?

 

俺はそう思い、ゆっくりと針を刺して、Radawayの流れを止めていた洗濯バサミを外してシャルに流し込んだ。

 

「・・・ん・・・・んぁ・・」

 

どうやら痛みに耐えているらしく、歯を食いしばって顔を赤くしている。さらに、泣きたいのを押さえているらしく、目尻には涙が溜まり、時折声を漏らす。

 

なんだろう。この胸の高鳴りは?

 

ただ、幼馴染みが痛みに耐えているだけなのに悶えているようなこの声は一体・・・。

 

落ち着くんだ俺!シャルは痛みに耐えている。おれが耐えないで(?)どうする!?

 

「ん~・・・んぁ・・・ん」

 

頬を赤らめているシャルを見ていると・・・ヤバイですハイ!

 

その後、俺はシャルの顔を見られなくなったのは俺のせいではないと思う。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

夕食も食べて、シャワーも浴びて床に着いた。あの後、シャルの顔を見られなくなったりしたが、明日になればすこしは俺が落ち着く筈だろう。

 

シャルと予算の編成を話し合い、机にはクリップボードと紙の束。モイラの家には紙のリサイクル装置があり、真っ白な紙を生成できるそうだ。5キャップ程度リサイクルに費やされるが、それがあれば新しい記録が出来るようになる。会計データはパソコンに全部記録して置けばいいので、今回色々と書いた予算編成もリサイクルに出してしまえばいい。

 

天井に吊るされた核分裂バッテリー搭載の裸電球のスイッチを消して寝ようとした。すると、扉が開いて人影が見えた。

 

「ユウキ、起きてる?」

 

白のタンクトップに濃緑のカーゴパンツという傭兵スタイルのシャルは俺の部屋の扉を開けて中に入ってきた。

 

「うん・・・まあな」

 

夕食前のあんな物を聞かされて、俺はシャルの顔を見ることが出来ない。すると、シャルは同様に頬を染めて何か恥ずかしがっている素振りを見せた。

 

「どうした?」

 

「寝るところ無くて・・・・」

 

実はここにはコンパニオン用のベット3つと俺の部屋のベット一つの計4つが存在する。つまり四人寝られる訳だ。因みに俺の部屋はクイーンサイズのベットなので二人寝られます。だが、コンパニオン用の3つの部屋のうちの二つは蜘蛛の巣がかかり埃まみれ。そのため、使えるのはコンパニオン用のベットと俺の部屋のベット計二つなのだ。

 

ところで問題だ。俺とシャル、そしてブライアンがベットで寝ます。しかし、ベットは二つしかありません。俺の部屋にはクイーンサイズのベットがある。ブライアンはコンパニオンの部屋で寝てしまいました。ではシャルは?

 

 

つまりは、シャルが俺のベットで寝なければならないという事である。

 

うん。リア充氏ねだから、俺は食卓の椅子を縦に並べて寝るとしよう。

 

俺はベットから立ち上がり、「シャルが使って」と部屋を出ようとした。だが、その本人が俺の腕を掴む。

 

「ユウキ、何処で寝るの?」

 

「下で・・」

 

「風邪引くよ」

 

因みに、キャピタルウェイストランドは暑いが、夜になると寒い。例えるなら、サハラ砂漠がいいだろう。日が登っている間は40度を超え、夜になれば氷点下となる。ここではそこまでではないが、30度超えは日中当たり前だし、夜はたまに氷点下を迎えることだってある。夜には暖かいものを羽織って寝ることが望ましい。

 

俺は明日、Mr.バーグの家を改造するため身体を休まねばならないのに、椅子を並べて寝ることは耐えられぬ。

 

「片方占領するだけだからいいでしょ。だから行かないで」

 

シャルはそう言って俺の腕を引っ張った。

 

コマンド選択!

 

○逃げる

△戦う

□寝る

×抱き締める

 

なんだこれ!どこのゲームだよ。△の戦うって何!?FFかドラクエか!×はギャルゲーだろう!!

 

それを選択する間もなく、俺はベットに寝させられ・・・押し倒されてはいない!

 

まあ、俺は右サイドに寝て、シャルは左サイドに寝た。

 

 

エロいことしなさいだと!?

 

残念だが、この小説はR15だが、そういう描写はないのだよ。他を当たりたまえ。

 

 

「ユウキ、誰に喋ってるの?」

 

「え、自分に対してさ。」

 

誰もがここでギャルゲーやエロゲーの展開を望むものがいるが、残念な事に俺はそう言うことに関してはチキンである。臆病である。

 

こう、数十cm向こうの女子に触れる距離にあっても触らない。

 

だって、今の関係が壊れるのは嫌じゃないか。そんな事を考える度に最悪な事が目に浮かぶのだ。

 

だけど、心臓は高鳴って手や額からは汗が吹き出してくる。深呼吸したところで、アサルトライフル並みの心拍数は収まることを知らない。

 

 

「ユウキ、手繋いでもいい?」

 

「う、うん。い、いいよ」

 

震えた声は端から見れば滑稽なことだろう。

 

シャルの方へ左手を出すと、シャルの手が重なり俺の心拍数が急上昇した。

 

落ち着け!何を緊張しているんだ!手を繋ぐぐらいあった筈だろうに!

 

俺はパニクり、全く眠気が襲ってこない。もしかしたら、下で寝た方がいいのかな。

 

「ここにいて。一人にしないで・・・」

 

男殺しのセリフです。ありがとうございます。

 

 

そんなセリフを言うシャルだったが、やがてすすり泣きをし始めた。俺は外向きに寝ていた体勢を変えて中向きに、つまりシャルに向かうように身体を向けた。

 

「どうした?シャル?」

 

分かっているだろうに・・・・と自分の内で聞こえたのは気のせいだ。

 

布団で顔を隠すようにしてすすり泣いていたシャルは俺の事を見ると、まるで獲物を見つけたデスクローのようなスピードで俺に抱き付いてきた。

 

「このままでいて」

 

心臓は最早、爆発寸前であった。本当に爆発してしまうかもしれない。

 

「いつも、こうやって何かに抱き付いて寝てたの。明日もう一つの部屋を掃除するから今日だけはお願い」

 

シャルは俺がいやがっていると思っているんだろう。トンでもない!寧ろ、大歓迎であるし、嫌なわけがない。

 

「大丈夫、いつでも来ていいから」

 

「よかったぁ・・・」

 

まるで親の帰りを待っていて、親と再会を果たした子供の顔である。とても安心しきった笑顔を俺に向けてきた。シャルは19なのに何でこんなにも童顔なんだよ!

 

 

安心しきったのか、腕以外にも足を俺の足に絡ませて俺の身体を抱き寄せてきた。まるでオセアニアのユーカリジャンキー、コアラのようだ。だが、弛緩しきった顔ではなく、幸せそうな顔だった。

 

結構甘えん坊なんだな・・・。

 

俺は頭を撫でると、シャルは小動物が主人に頬を擦り付けるように、おれの胸に頬を擦り付けた。これじゃあ、どっちが年上か分からないな。

 

ずれている布団をシャルの肩まで掛けると、眠気に襲われた。このまま意識を手放すのも悪くないなと思い、目を瞑って意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

threeeeeeedog!!!!!

 

この世の地獄。首都の中心にある要塞化したバンカーから録音でお送りするよ!人生ってもんはすげぇもんだな!

 

ニュースの時間だ。またあのvault101の二人組がやりやがった。何をやったって?そりゃ、ウルトラ・スーパー・マーケットにあるレイダーの根城を完膚なきまでに叩き潰したのさ!嘘じゃないぜ?また、何処からともなく来るかも知れないが、よくやった!これを聞いているリスナーはあの二人にヌカ・コーラをご馳走してやってくれ!

 

もう一つニュースだ。

 

スカベンジャーとキャラバンのみんなに速報だ。グレイディッチで起こった変異したジャイアントアント襲撃でみんな商売上がったりだろうが、アントがいなくなったようだ。なんとまたもやvault101の二人だ!ここまで来ると、嘘としか聞こえないようだが・・・本当だ。信頼すべき情報屋によると、あの二人はそこに住むブライアンを助けて、アントを殺しまくったようだ。だが、それだけじゃあない。なんと、独り身のブライアンを家に住まわせているそうじゃないか。こんなウェイストランドにも善意はあったようだ。

 

 

さてさて、今日はリスナーからの便りを読んでみよう。何々、リベットシティのとあるセキュリティーからだ、匿名だが『vault101の二人は男女だろ?付き合っているのか?』だそうだ・・・・・。非常に言いにくいんだが、とある情報筋によると、あの子はウェイストランドでも一二を争う美少女らしい。俺も会ってみたいもんだな!で一緒にいるのがよく分からんひょろいにいちゃんだそうだ。

 

ウェイストランド男性諸君!!まだ勝ち目はある!!だから頑張れ。とある街の保安官によると、片割れの男の仕事の腕はいい。しかし、女にコクれないヘタレだそうだ。まだ望みはあるぞぉ!ウェイストランドぉぉぉ!!

 

では、一旦GNRより一曲お送りしよう。Jolly days。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

ユウキ「threedog!野郎!殺してやる!」

 

ウェイン「落ち着け!言っておくが、お前のポジションは誰もが欲しがる絶好の場所だ。花形のピッチャーと同じさ」

 

 




一番困ったのはスリードッグのトークです。どうしようか、本気で悩んだ・・・・。


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十四話 従業員

今回の話は※で一応区切っています。なんか、短く区切って話を進めるのが癖になっているようです。そこから、区切りのいいところをコピペしていくわけですが、今回それが少し目立ちます。


「ふあぁぁぁぁぁ~~・・・・」

 

ベットから起き上がって俺は軽く背伸びをした。長年使ってきた腕時計を確認すると、直ぐに交代の時間らしい。俺は、急いでロッカーからコンバットアーマーを取り出して着ると、いつものようにバンダナをしてゴーグルを頭に取り付ける。ゴーグルはあまりつけないが砂嵐やレイダーが来るときに目にごみが入らないようにしてくれるので役立っている。

 

「イグアナ?・・・ああ、もうこれでいいや」

 

昨日食べた残りのイグアナが一匹皿に載せてあったが、それではなく冷蔵庫からアントの肉を取り出した。手頃な大きさに切り分けて、ある程度清潔なビニール袋に詰めてガンロッカーから愛用のスナイパーライフルを取り出した。

 

「ん?不具合か?」

 

ボルトリリースレバーを引こうとすると、何かが引っ掛かるような音がした。多分、長年使っていたからボロが出たのだろう。何度も整備をして綺麗にはするものの、細かい部品が元で撃てなくなってしまう。因みにレイダーが中国軍アサルトライフルを使わないのは、弾を発射するための撃針が壊れやすく、レイダーなどのジャンキーが使うことは滅多にない。その為使うのは銃に詳しい傭兵かまたは高度な訓練を受けた兵士位なものだ。

 

今度修理をお願いしてみるか。

 

俺は口径が小さいが、精度の高いハンティングライフルを取り出すと急いで家から飛び出した。

 

担当は今日もメガトン入り口にあるジェット機エンジンである。獲物と言ってもバカなレイダーかもしくは群れとはぐれたアント位な物なので、たいして仕事が多い訳じゃない。だが、彼処からの狙撃は俺にしか出来なかった。

 

一度メガトンの中央にある爆弾の横を通りすぎようとしたとき、工事の騒音が聞こえた。

 

「そこ!それは壊れ易いんだ気をつけろ!」

 

工事監督らしい若い男がクリップボード片手に怒鳴っている。怒鳴っている先には日雇いのメガトン入植者だ。どうやら、彼はここの工事責任者らしい。その工事してある場所は・・・。

 

「あ、あの家ってMr.バーグの・・・」

 

そう言えば、爆弾が解体される前の日に意気揚々と帰っていったっけ。前はバーでアトム教会を名指しで嫌みたらたら文句を垂れていた。そして核爆発の美しさを皆の顔を見ずに延々と話していた。もしかしたら、vault101から来たカップルに騙されたのだろう。それにしても、大規模なことだ。

 

見る限り、扉は一度外されて、中から家財道具が全て出されている。それから、カウンターと様々な家具が運ばれている。また、入り口の近くには看板らしき板が掛けられていた。

 

「ストックホルム、何をしている?」

 

俺の肩を叩いてきたのは、この街の保安官であるルーカスだった。

 

「いえ、少し寝坊して。それにしてもvault101から来た奴ら、なんかしてますね」

 

「武器屋を開店するそうだ。どうも高性能な兵器を売買するらしい」

 

「へぇ・・・」

 

俺は自分のスナイパーライフルを思い浮かべた。確かに、あのvault101の片割れは武器の取り扱いに長けていたし、ここら辺の傭兵よりも出来る奴だとは思う。だが、知名度が高過ぎるとあまり傭兵仕事そのものが舞い込んでこない事もあるため、店を出したのは懸命な判断だろう。

 

今度、修理を奴に頼んでみるか。

 

俺は踵を返してメガトンのゲートへ向かった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「そこ、それは割れ物なんだ!気を付けてくれ!」

 

俺はクリップボードを見つつ、日雇いの労働者に注意する。だが、それを分かっているのか、俺の注意を物ともせずに乱暴に運び込んでいく。ただ、割れないようにしているのだろうが、本当に注意しているのか不透明だ。何故ならば、弁償なんて出来る筈もなく、彼らは日雇い労働者。弁償として金を要求したって返ってこない。弁償として家の店で働けとは、信用上の理由で言えない。だから、ただただ彼らは言われた通りにしようとするだけなのだ。

 

だが、そういうのを除けば、店は段々と形に成りつつある。元は銀行の預金を受け取るカウンターが店に入って正面に設置され、カウンターの内側に入ってこられないようにフェンスが張られた。唯一入れるのは左側のフェンスの扉である。そしてそのフェンスが出来た先には金庫とレジ。そしてガンロッカーとキャビネット。さらに、近くの幹線道路にある軍の検問所で長年放置されていた銃整備用の作業台を設置して、スチールの棚には弾薬箱と予備部品をストックした。

 

 

こうして、街から融資してもらった金額2000キャップの内1500キャップは材料費と人件費に消えた。

 

「今日の工事は終了だ。御苦労様。給与を忘れずにな」

 

バラモンの皮膚で作った小銭入れに給与のキャップを入れて、今回働いた日雇い労働者に渡す。なぜか、その時の方が生き生きとしているのは気のせいの筈だ。一般的な給与より少し多めなためかホクホク顔で出ていく労働者も少なくない。普通の日雇い労働だと、日に5~10キャップだ。だが、今回は少し多目の15キャップにした。意欲も出して欲しかったし、仕上がりももっと良くして貰いたかった。

 

「さてと、最後の調整に入りますか」

 

最後は銃の保管場所の設置である。ガンロッカーやキャビネットは有るものの、それは囮として使いたい。まず、ただ同然で放置してあった飛行機の部品を加工して薄く平らにする。それで部屋を繕い、その裏に煉瓦で壁を作る。戦前のセメントを使用して頑丈な部屋を作り、そこに家から持ってきた武器や弾薬などをストックした。最後に扉は牢屋のような鉄格子にして、その上に壁に見間違う扉を作った。商品の保管庫はいざというときのパニックルーム(避難所)として使えるようにした。これならば、暴動があって店に何者かが入ろうとして来ても、ここに逃げ込めば大丈夫な筈だ。

 

一通りの作業を終えて俺は運び終えてあったスツールに腰をおろす。着ていた作業用の繋ぎはセメントや泥汚れで汚くなり、汗を拭こうとした時に着いた泥が頬に付いていた。慣れない事をして疲れきった為か、スツールと同じように運び込まれた銃用の作業台に突っ伏した。

 

「こんな世界だからか・・・。秘密は自分だけの物にするには体力がいるね」

 

もし、彼ら日雇い労働者にこの秘密の部屋の存在を知られれば、暴動時に壊される可能性も出てくる。当然、作ったのは彼ら。脆弱な所は知っているから壊すのは容易。だから、重要な所は自分の手でやったのだ。あとは店員の配置だが、今日と明日は傭兵に泊まり込みで警備にあたらせる。武器屋と名乗れば、ここに武器があると公言するのと同じ。そしてそれを無償で得ようとする不埒な輩もいるのは確実だ。 

 

傭兵どうするか・・・・。

 

非常に厳しい難題だ。これはvaultの学校“ボルトスクール”で理数系の問題が出された以上に厳しい。

 

 

傭兵の質はやはりそれなりの経験と武器、身なり、あとは性格。俺の知っている限り、良い傭兵は知らない。つーか、知り合いに居ないのだ。

 

来たばかりの頃に酒場で傭兵がシャルにちょっかいを掛けていたが、そんな不埒な野郎に店を任せる訳にもいかない。どうするべきか。

 

仕方がないので、地雷を起動させて店のあらゆる所に撒いておく。地雷は動体センサーなので動いている物に爆発する。pip-boyと同期しているので、俺が近づいても爆発はしない。だが盗もうとする輩が店に入れば、何処かのレイダーの居場所よろしく、肉の塊が辺りに散乱するだろう。まあ、銃を盗まれるより遥かにマシだ。

 

鍵を締めてpip-boyで時刻を確認する。既に午後3時過ぎ。お菓子の時間であった。昼飯は工事をやっていて食べていないし、工事の疲れ以外にも腹が空きすぎたせいか、疲れがずいぶん貯まっているように感じられた。

 

シャルとブライアンは飯を食べたかな。工事には近づかないように頼んだけど、昼食作って欲しかったな。

 

と弁当を作ってもらえなかったサラリーマンのような心境に似ていると思ったのは間違いではない筈だ。

 

 

そして、疲れを癒しに居酒屋でビールを飲もうとするサラリーマンのように傭兵のたまり場である酒場へ行く。唯一の違いはまだ日が昇る3時過ぎであることだろう。物は試しに店主のモリアティーにお勧めの傭兵を教えてもらえないだろうか。

 

「いや、あのオッサンは金にガメツイから無理かな」

 

「誰のこと言ってるの?」

 

ふと、モイラの店の前を通過する時に声が掛かった。何時ものようなvaultスーツに何やら防具を着けた小柄な少女、シャルだった。

 

「こんな所で・・・それは?」

 

「エヘヘ♪」

 

「いや、誤魔化さんでええから答えなさい」

 

誤魔化すのに愛想笑いは無いだろう。と、俺は突っ込みを入れる。

 

「モイラさんにもらったの」

 

あたかも近所のお姉さんに綺麗なお洋服をお下がりでもらった子供のような言い種である。だが、近所のお姉さんといってもマッドな部類に入り、お洋服と言っても追加の防具とガンベルトを引っ提げたvaultスーツである。

 

「無償で貰ったの?」

 

「最初はそうだったんだけど・・・・」

 

とシャルの説明は酒場で聞くことになった。

 

『いらっしゃい・・・・ってあ!vaultから来たのね!ちょっと待ってね!採寸採寸!』

 

『え!私は買いたいものが・・・』

 

『何故vaultから出てきたの?』

 

『父を探すために幼馴染みと・・・』

 

『涙腺が崩壊する話だわ!こんな可愛い子を荒野に放り出せないわ!これ挙げるから着てみて!』

 

・・・・試着中・・・・試着完了・・・・。

 

『可愛いぃぃぃぃ!!!何をつけても可愛いわ!』

 

『えっと、そんなにですか?なんか、レイダーが着けてる防具と少し似てますね』

 

『そんなこと無いわ。肩についているのは、アイスホッケー用のパッドで腰に着けているのは、警察が使っていたガンベルトよ。私の作りなんだから』

 

『(流用している時点で手作りじゃないような・・・)』

 

『何か言った?』

 

『いいえ!?・・・でも、これ貰っていいんですか?』

 

『あなたの為なら良いわよ。身一つで荒野を歩かせられないわ。あなたのお父さんって酷いわね!』

 

『はぁ・・・・、でも何かしないといけないです。無償でなんて・・』

 

『じゃあ、頼みがあるんだけど聞いてもらえるかな?放射能を浴びてきて欲しいんだけど・・・』

 

『はい・・はい?』

 

『私は今本を書いているの。その名も“ウェイストランド・サバイバルガイド”。この世界で生き抜くためのノウハウを研究中なの。だから、その為に・・・・』

 

『放射能を浴びてこないと行けないんですね?』

 

『そう言うことになるわ』

 

『(medicine100%)私は医者です。少し教えるから、その通りに書いて』

 

『え?あなた医術を習得しているの?じゃあ、第二章の大怪我も教えてもらおうかしら?』

 

と言ったように事が進み、モイラの執筆活動が進んだらしく、最近手に入れた医療品を幾つか貰ってシャルはホクホク顔で店を出たようだ。そこで俺と会ったらしく、俺はシャルの話を聞きながら、酒場のカウンターでイグアナの角切りを頬張った。

 

「そんなことがあったのか。で、ブライアンは?」

 

「いま、ルーカスさん家でご飯ご馳走になってる。ここら辺じゃ同年代の子供が居ないからね。」

 

保安官を勤めるルーカスには息子がいる。確か、12歳位だろうか。メガトンはあまり子供が多くない。メガトンよりもリベットシティの方が設備が整っているため、地下鉄や海沿いから行く人もいる。メガトンの診療所も一応居るのだが、胡散臭いのである。

 

よって、メガトンに子連れで帰ってくるよりもリベットシティに住んでいた方が良いのだ。ルーカスは少子化を危惧していて、代わりの医者を探しているが、そんな好物件そんなに・・・・。

 

「何?」

 

「いたな。ここに」

 

「?」

 

だが、そんなこと出来るわけがない。何故ならば、メガトン診療所にはDr.チャーチが居るし、少子化対策の為に首を切ることはない。それよりも重要な問題があってそれどころではない。

 

シャルが診療所で働き、幾分かの胡散臭さを和らげば、少子化も幾分かましになるかもしれないが、彼女もそれどころじゃない筈だ。

 

「これからどうするんだ?」

 

シャルはまず父を探したい。だが、肝心の居場所が掴めていない。拠点を確保した。だが、維持も必要で、ブライアンをどう生活させていくかが問題だ。

 

「「はぁぁぁぁぁ~~」」

 

無計画に人を助けた成果、そしてゲームと同じように上手くいかないこと。その他諸々をしっかりと思い出せればこんな事には成らなかっただろう。いや、思い出していても結果は同じだろう。俺はシャルの顔を見て、そしてシャルは俺の顔を見て溜め息を吐いた。それは相手に対してではない。自分自身に対してだ。

 

「お父さん・・・何処に居るの?」

 

「ルーカスにも聞いた。だが、見たこと無い。だけど、補給のために立ち寄る筈だ。だから、誰かしら見ている筈なんだ。」

 

そう言えば、俺がvaultエントランスの巡回に行ったのは早朝だ。その時間帯はメガトンは寝静まっている筈だ。とすれば、保安官だって寝ているだろうし、殆んどの店は閉まっている。補給の為に立ち寄るとすれば、この店しかなかった。

 

「あ、そうだ。モリアティーの・・・」

 

「クッソ!このオンボロラジオめ!・・・・ん?なんだ?」

 

ふとラジオを叩くゴブと目があった。目は白く濁っていて目があったかどうか分からないが、向こうが反応したと言うことは目があったと言うことだ。

 

「い、いいや何でもない。」

 

だが、どうやって?モリアティーは金にガメツイ。只でさえ、メガトンで融資を募ったのだ。これ以上、金を借りることは避けねばならないし、出費も抑えなければならない。もしも知らなければ、もしも有益な情報でなければ金の無駄となる。

 

「あ~どうするか」

 

店の問題にジェームズの行き先。それらが重荷となり、俺にのし掛かってきた。

 

「お、ユウキにシャルロット。お二人さんどうしたの?」

 

すると、レザーアーマーに中国軍アサルトライフル、ヒスパニックなのに青白いウェインが声を掛けてきた。

 

「ウェインさん」

 

「いいよ、ウェインで」

 

ウェインは気軽に言い、俺の隣に腰掛けた。そして俺の頭の上にある電球に光が付いた。

 

「ウェイン頼みがある」

 

「ん?なんだい?」

 

「ちょっと、店の警備を頼みたい」

 

「いいぜ、1日1000キャップね」

 

「「ボッタクリだ!!」」

 

普通なら200キャップ位だろうか。それの五倍。如何に腕の良い傭兵でもそれは無い。シャルと俺は飽きれ半分と驚き半分で声を挙げる。

 

「あの時殺しておくべきだった・・・」

 

「物騒だな!おい!」

 

「あの時、ラッドスコルピオンの毒を傷口に練り込んどけば良かった」

 

「医者としてあるまじき行為だ!それは!」

 

「いいえ、人として治療した覚えは無いから。寧ろ、動物実験?」

 

「どこのマッドサイエンティスト発言だ!」

 

 

ここまで来れば、ウェインが冗談だと言うことが分かるだろう。

 

「弟を救ってくれた借りがあるし、1日だけは無料にしておこう。だが、二日目からは200キャップな」

 

「うへ、もう少し二日ぐらい無料にしてくれよ。」

 

「俺にも生活があるんじゃ。それも弟の治療費も割高だから洒落に成らん。」

 

治療費も馬鹿に成らんと、ウィスキーを煽るウェイン。酒の勘定は?と聞くと、それとこれとは問題が違うらしい。

 

でも、一応傭兵は1日だけだが確保できた。その間にロボットを確保せねばならん。そして、ジェームズの行き先も・・・。

 

「あー、どうしよう。これからどうする?」

 

俺は助けをシャルに求めた。

 

「じゃあ・・・・」

 

シャルはヌカコーラを飲みつつ、とある事を口にした。それは俺にとって、そして近くにいたウェイン共々巻き込むトンでもない事だった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

ウェイストランド・・・・荒廃した土地。核戦争によって荒廃した地域の事を指す。俺の頭上には、200年前までは高速道路であったのだが、核の衝撃だか経年劣化なのか崩れてしまっている。

 

太陽からは容赦なく日光が降り注ぎ、俺はトレーダーの帽子を深く被って目を日光から守った。サングラスが欲しいが、ウェイストランドに流通しているサングラスはカッコ悪い。スポーツサングラスは位掛けたいが、この世界には存在しない。MODで導入すれば良かったと強く思った。ふと川を見ると、二足歩行で獲物を追うミレルークの姿。蟹の外見をしつつも、二つのハサミで二足歩行で襲い掛かってくる。そして今日も・・・。

 

 

「望みが絶たれた~・・・・」

 

ハサミで削ぎ落とされたモヒカンを抑え、逃げ惑うレイダー。ギリギリ、ミレルークは足が遅いため追い付かないが、タバコやドラッグなどを使用しすぎて息が上がりやすい。たまに刺さりかける刃を避けながらレイダーは自分の住みかに引き返した。

 

「望み絶たれたね・・・。はあ、なんでこんなことに」

 

「いいじゃない。モイラの頼まれた事もできるし、一石二鳥じゃない?」

 

とvalut101アーマードスーツに身を包んだシャルはポケットから水筒を取って水を飲む。俺はバックパックに入っていた双眼鏡を手にとるととある建物に目を向けた。

 

荒野にポツンと聳え立つそれはまるでお伽噺に出てくるようなお姫様のいる建物だ。だが、そこはイギリスから来た資産家アリステア・テンペニーの所有するテンペニー・タワーだった。金の持つ者が優雅な生活が出来る荒廃した世界の中でも指折りの安全な場所だ。それでも、そこに行くのが目的じゃない。

 

「プロテクトロンを持ってくるのが目的だったのに・・・・モイラのせいだ・・・」

 

と俺は盛大に溜め息を吐いた。

 

 

なぜこうなったのかって?何処に行くつもりだって?それは数時間前に遡る。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、で君が来たわけね」

 

赤毛のモイラは皿に乗ったバラモンステーキの肉をフォークでさしてパクッと口の中へ入れた。核戦争後になっても牛の旨味と言うものは何時まで経っても変わることはない。例え、放射能によって頭が二つに成ってしまっても、味の変化は早々ない。

 

「まあ、自殺行為ですもん。あれは」

 

俺は座っていたスツールからモイラの家兼研究所兼雑貨店を見る。メガトンの住宅の殆んどは継ぎ接ぎして作られている。近くに空港があったらしく、その残骸から家を作り、壁を作った。その為、家の壁はぼろぼろである。モイラの所も例外じゃない。だが、他の家よりももっと酷いかもしれない。色々な怪しい実験を繰り返し、天井には変なシミがついている。現に今も煙が試験管と瓶の中から出てきている。俺はその煙を吸わないようにバラクラバを被るが、モイラは煙なんか無かったようにステーキを食べる。傭兵に至っては、ガスマスクを装着しているものの、最早この状況は慣れっこのようだ。

 

「大丈夫よ、実験をしていただけだから」

 

「モイラの大丈夫は危険と同義だからな。ガスマスクを持ってくれば良かった。毒ガス検知の機械があれば反応しているんじゃない?」

 

「いやね、それなら私はもう死んでるわよ」

 

 

俺は死にかけたがな・・・・。

 

ふとそんな視線(心の叫び?)を感じて後ろの傭兵を見るが、その時には視線を遥か彼方に向けていた。

 

「で、喧嘩でもしたの?」

 

「いいや、ただアンタのせいでもあるんだけど」

 

「?」

 

とモイラは首を傾げた。

 

ゲームをやった人なら覚えているだろうか。放射能耐性を調べた後に何を調査するか。答えは簡単。地雷を拾いに行くのである。取りに行く場所はその名の通り地雷原、奴隷商の中心であるパラダイスフォールズ近くに位置する住宅地跡に作られた所だ。奴隷商人は地雷原に住む人達を捕まえ奴隷にしていた。現在では何故か至るところに地雷が撒かれ、立ち寄る者は皆地雷を踏んで死んでいく。それだけでは対して問題ではない。俺はやる気などないし、彼処にはアーカンソーと呼ばれる老人がスナイパーライフルを持っていて、近付いたら撃ち殺される。そんな場所に行こうとは全く思わない。だが・・・・。

 

「なんで、シャルはあんなところに行こうとするんだよ・・・」

 

自殺願望者の行くところである。だがシャルは・・

 

『お父さんを助けるためにはもっと経験が必要。だから、この位で弱音を吐いちゃ駄目なの!』

 

と言った。まあ、それが出来たら苦労はしない。俺も行こうとしたが、一人で行くとやんわり断られた。俺にはロボットの従業員が必要であるし、お金を使わない為にも急いで従業員を確保しなければならず、1日以上外泊してしまえば、ウェインの追加料金が発生する。

 

「だから、私の所に来たわけね・・・。なら、丁度言い仕事があるんだけど」

 

「何だよ?」

 

俺は不機嫌そうに答えた。

 

「この機械をロブコ本社の管理コンピューターに取り付けて欲しいの。」

 

机の下から取り出したのは、ロブコ社のロゴが刻印された機械だ。傷も少なく、状態もいいそれはロブコ規格のコードと端子が刺さっていた。

 

「地雷の件は?」

 

「さっきね、診療所の近くを通ったら若い男の子に声を掛けられてね!アタックしてきたの!それでね・・・・」

 

「地雷取ってこいって言ったんか・・・」

 

「そうよ!」

 

ダメだこの人。一回デスクローに喰われた方がいいんじゃないか?

 

そう思い、ヌカコーラを煽ろうとした。

 

「モイラさん!持ってきました地雷!」

 

「ブホッ!」

 

まるで“鼻から牛乳”ならぬ“鼻からコーラ”である。

 

扉が開かれ、入ってきたのはタロンのマークが消された黒のコンバットアーマーに色黒のヒスパニック。元タロンカンパニーのウェインの弟、ジムだった。

 

「ありがとう!ジム君やっぱりやると思ってたわ!」

 

「いや、簡単でしたよ。地雷を拾って来るのは。爆発しないようにスイッチを落とさなきゃならないから。」

 

デレデレのジム。モイラからしてみたら新しい被験者・・・もとい新しい助手の誕生である。

 

傭兵よ、助けてという目を向けてこないでくれ。頼むから、子犬のような目線を向けてこないでくれよ!

 

こうして俺とシャルはロブコに行く羽目に成ったのだった。

 

 

 

 

で、現在に戻ってロブコ社前。オフィス棟と工場棟があり、アメリカ全域で見掛けられるロボの殆んどを製造するには小さいが、各地にロブコの工場があるため、工場の規模は小さい。

 

ロブコは民間よりも軍需を手広く扱う大企業で、その社名からも分かるように21世紀前半からロボの開発、製造を手掛けている。最終戦争前には西海岸で宇宙航行専門に取り扱うレプコン社を買収するなどしていた。vaultにはpip-boy3000を作り、製造から200年経っても稼働するコンピューターを作るなど、技術力は高かった。

 

 

「ん?あの人ロボットを一杯従えてるね」

 

ふと俺はシャルの指差す方向を見る。スカベンジャーが着るような茶色のフィールドジャケットに帽子、周りにはMr.ハンディやMr.ガッツィー、警戒ロボやプロテクトロンが居た。多分、ここら辺でスカベンジングする商人なのだろう。

 

ふと此方を見た商人は手を振ってきた。俺達は武器屋を営む上でロボットが必要なので太股に着けたホルスターから拳銃を出しやすくして近づいた。

 

「君達はロブコに用があるのかね?」

 

「友人の実験を参加しにです」

 

初老のよく日焼けした老人は顎をこすりながら訊いてきた。

 

「どんな実験?」

 

「(repair 78%)ロブコのメインフレームでロボを操る実験です。」

 

そう言うと、彼は少し困ったような顔をする。

 

「そうか、もしかすると君はロボを売り物にするつもりでここに?」

 

「いえ、自分はメガトンで武器屋を営むつもりで従業員として使えるロボがほしくて・・・まあ戦闘も出来ればいいんですが」

 

そう言うと、彼はホッとした様子で警戒を解き、セールストークをし始めた。

 

彼はここら辺でロボを売る何でも屋のジョーと呼ばれる人物で、ロブコ社に入ってはプロテクトロンをフォーマットして売り捌く商人だ。そのため、俺達が来て冷や冷やしていたらしい。まあ、俺達がその手の輩ではなく、普通の消費者である事が分かって安心したようだが。

 

「そうだな、セールスならこのプロテクトロンをお薦めするよ。戦闘面ならRLー3軍曹はどうだい?」

 

「司令官殿!自分は戦えるであります!」

 

少し塗装が禿げているが、アメリカ陸軍の濃緑色の塗装が施され、無骨なプラズマ砲と火炎放射器がまるで蛸足のようになっている。もしも有機物で構成されていて、ピンク色の生体アーマーとかSFっぽい構造なら宇宙人と間違えられても可笑しくない。Mr.ガッツィー型のRLー3軍曹はインプットされたセリフを吐いた。勿論、状況によっては多くのことを話すのだろうが、コミュニケーションが出来なければ買う気はない。もっとも、値段もそうそう手の出るものではないが・・・。

 

「いくらで?」

 

「1000キャップだ」

 

「・・・・・無理やん!」

 

正直言うと、生前RL3軍曹をコンパニオンとして使っていなかった。紙装甲やハートマン先任軍曹(RL3は演じた俳優の頭文字“RLE”から取っている)と言われるものの、もっと強いコンパニオンを使っていたがために値段を気にすることがなかった。

 

「そうかぁ・・・、コイツは気にいった人物にしか“司令官”と着けないから買い手が見つからんのだ」

 

「Mr.ガッツィー型はホストを司令官と呼びますよね・・・軍曹が選んでいる?」

 

本によると、ドックタグの登録番号や司令部の認証などでホスト(司令官)を決めるが、そんな認証コードなど失われているため、本体にコードを差してホスト設定をしなければならない。ロブコ社のコンピューターに互換性があるように作られているため、パソコンがあれば調整が可能だ。しかし、ここはウェイストランドのど真ん中。調整するためにはパソコンが必要だし、ここにはない。だとすると、軍曹にホスト設定の権限が与えられているのだろうか。

 

「昔、スカベンジャーから買い取ったものなんだが、買い手を選ぶので売れ残るのさ。君に“司令官”と言ったからもしもと思ったんだがね。」

 

「本当は手が出るほど欲しいんですけどね。店を出すために結構金を使ったし、ロブコ社の方で使えるプロテクトロンを持っていきますよ。それに他のソフトとか欲しいですし」

 

軍曹は欲しかったが、財布の状況を鑑みて無理だろう。ロブコ社のプロテクトロンなら持っていくだけなので金はかからない。だが、Mr.ガッツィー型には武器搭載能力や簡易的な修理能力(repair20)などがあるため、移動武器店舗にも利用可能だ。一方、プロテクトロンは民生品のため、そういった能力はない。

 

仕方なく俺達は諦め、一応メガトンで開業するので暇があれば見に来て欲しいことを伝えて俺達は別れた。何でも屋のジョーはテンペニータワーにMr.ハンディーを連れていくらしく、そのまま塔の方へロボを連れて歩いていった。

 

「シャル、準備はいい?」

 

「ええ、行きましょう!」

 

シャルは自宅の武器庫から持ってきたトライビームレーザーライフルを構えてニコッと笑う。それが異様に眩しくて、ウェイストランドに適応してしまったんだなと俺に教えてくれた。

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんか変わってしまったなと思ってね」

 

vault101から出てきてからしばらく経ったが、自分自身・・・そしてシャルの適応ぶりを見ていて驚いてしまう。1、2年前と比べれば雲泥の差だった。シャルに取っては合わなかったかも知れないが、俺にとっては・・・多分前世の記憶も相まって合っていたのだろう。じゃあ、このウェイストランドの生活はどうなのだろう。元々、シャルはウェイストランド人。そう考えてみると、vault101に出てきて故郷に帰ったと言っても言いかもしれない。だが、俺は?ゲームの延長線上の生活なのだろうか?

 

「・・・vault101ではあまり楽しい思い出はないよ。ユウキやお父さん、それにアマタとの楽しい思い出もあるけど、未練はない。でも、ユウキにはあるんでしょ」

 

未練・・・ないと言えば嘘になる。常日頃から自分の安全を考えなければならないし、水の殆んどは放射能に汚染されている。その点、vault101はどうだ?水は汚染されずに、生命の危険もない。ましてや、戦前の文化を維持している数少ない所でもある。そこで俺は順調にvaultofficerの警備主任になる筈で、監督官育成コースを歩むアマタと共にvaultの内政を担う筈だった。たまに、シャルと出ずにvaultに残ったらどうなっていただろうか、と想像することも多々あるが、シャルと共にウェイストランドに出ていった事を後悔したことはない。

 

「未練は有っても、後悔はない。だからシャルは気負いしなくていいよ。これは俺の選択なんだから」

 

そう言い、俺は持っていたアサルトライフルのレバーを引いて次弾を装填する。防塵用のスカーフを口に巻き付け、セーフティーレバーをフルオートにした。

 

「じゃあいくぞ」

 

「うん」

 

ロブコ社のエントランスの扉を開けて銃を構えながら中に入った。

 

内装は・・・言うまでもなく、長年のスカベンジングで荒れ果てている。埃っぽい匂いが立ち込め、微細な埃を吸わないように普通に雑貨店で売っているバンダナを鼻まで伸ばして覆っておく。先客やラッドローチの気配を感じてライフルを構えて進み、慎重に策敵を行う。

 

「ラッドローチよ・・・!」

 

とトライビームレーザーライフルを構えた。だが、ラッドローチは此方を見ることなく、デスクの隅をカサカサと動き回る。シャルの撃ちたい気持ちは分かるが、どうやら、こちらに興味はない。モイラがラッドローチについて実験結果を書き記していたが、放射能にも耐えられ、寿命も長い。そして、死肉を食らい、腹が減っていれば生きている人間までも補食しようと襲い掛かってくる。だが、腹が減らなければ比較的にウェイストランドでは珍しいおとなしい生物なのだ。近づきすぎれば自己防衛のために噛んでくるが、それは近づいたからで近づいたり危害を加えなければどうと言うことはない。

 

「シャル、セルの無駄遣いするな。奴はこっちに興味はない。移動しよう」

 

「う、うん・・・」

 

気味悪いから撃ちたい。そんな気持ちは読み取れるが、セルを無駄遣いすることはない。それにこのロブコ社にはラッドローチの他にモールラットもいる。一匹一匹対処するには弾薬に余裕がない。

 

襲いかかる生物に対応すればそこまで弾薬は消費しないだろう。

 

アサルトライフルを構え、カウンターに置かれた古い紙を拾い上げた。

 

『ようこそRobcoへ! Robco本社ガイド』

 

それを広げて裏面にあるここの地図を見た。どうやらソフト開発部は少し歩いた先にあるようだ。

 

「シャル、この先だ。後衛頼む」

 

地図を尻のポケットにねじ込むと、ライトをアサルトライフルのハンドガードに縛り付けて暗闇にライトの光を照らしながら進んだ。200年もほったらかしになっていたためか、そこら辺の壁紙は剥がれ落ち、二階のフロアが一階に落ちている所もあった。爆発物を使えば一発で崩れそうだと思い、シャルに手榴弾を使わないように指示する。

 

「あった、ここだ」

 

ライトで天井に釣られたものを見る。それは事業部の名前が書いてあり、「ソフト開発部」と書いてある。そこにゆっくり入り、念入りにラッドローチやモールラットがいないか調べる。

 

「クリア」

 

「こっちも大丈夫」

 

アサルトライフルを一度机において机の引き出しを引き出して中を見る。中に有ったのは会議のレポートや人事部の書類などいらない物だった。棚を探すが目ぼしいものは見つからない。ふと、床に目を下ろすと、一つのホロテープが目に止まった。

 

『プロテクトロン用商品売買ソフト』

 

そう書かれたホロテープを手にとってpip-boyに仕舞う。見てみると、しっかりとホロテープの詳細が載っていたため、壊れていないか確認でき、目的の物は手に入れた。あとは・・・・

 

「ユウキ、これ」

 

シャルは両手でホロテープを抱えて持ってきた。それらはRobco社のロゴではなく、提携を結んでいたGeneral Atomics International社のロゴや米陸軍のロゴが入っていた。

 

『Mr.ガッツィー 商品販売ソフト』

 

『警戒ロボ 拠点防衛ソフト』

 

『Mr.ハンディー 重火器換装ソフト』

 

因みに言っておくと、Robco社はロボットをメインとした企業ではなく、主にコンピューター産業と一部のロボット産業を担う企業だ。ゲームでは、一番厄介と言われる警戒ロボやMr.ガッツィーなどのロボットの殆んどはGeneral Atomics International社が製造している。では何故、robco社にそれらのロボットのソフトが在るのかと言うと、それらのロボットを制御するのはrobco社のコンピューターであるからであろう。アメリカ、いや世界の殆んどがRobco社のコンピューターを使用するため、必然的にrobco社に注文が集まる。ならば、奴隷商人の一部が使用するメメストロンのような洗脳兵器に似たロボを洗脳してしまう兵器もあるのではないだろうか。

 

「なあ、シャル。後でRobco社の社長室行ってみよう。何かあるのかも知れない。」

 

余談だが、Robco社のCEOはNewvegasで登場する。

 

だが、社長室は後にして、先にモイラから貰ったプロセッサーを付けなければ成らなかった。記憶にはうる覚えではあるものの、プロセッサーを導入すると、待機状態であったプロテクトロンが一斉に中国軍攻撃モードに入り、社員証を持たない人物を皆殺しにする。それは、野生生物も同様だ。scienceスキルが高ければ、中国軍攻撃モードから害虫駆除モードに入るが、生憎俺のスキルは5である。一応、シャルは限りなく100に近いためモードを切り替えることが可能だろう。

 

メインフレームのある棟に入ると、多くの待機中プロテクトロンが目についた。エントランス近くは何でも屋のジョーに持っていかれたので少なかったのだろう。起動すれば、プロテクトロンが攻撃し始めるので撃つ準備もした方がいい。

 

「そこの階段の上にあるはずだ。」

 

「私が前衛ね」

 

シャルはレーザーライフルを構えると、慎重に上に上がる。すると、何かを見たらしく青い顔をしてレーザーライフルの引き金を引いた。見ると、灰になったラッドローチの姿だった。

 

「・・・・虫なんて・・・核の冬でみんな死んじゃえばいいのに」

 

そういえば、vaultから出てきた時かなり清々しい顔をしていたな。ラッドローチの事が嫌いなだけじゃない表情だろうけど、それも何割か含まれていたのだろうか。

 

「まあ、好きな奴なんていないよ」

 

ポケモンブリーダーならぬ、ローチブリーダーらしき奴がいるけどね。

 

シャルはそのまま銃を構えつつ、メインフレームの部屋に到達した。扉を開き、邪魔だったラッドローチを撃ち殺すとメインフレームを弄り始めた。

 

「待機中のロボを起動させることになるわ。そこのプロテクトロンに注意してね。」

 

「ああ、プロセッサーを取り付けるか?」

 

「しないと、モイラから頼まれた事を終わらせられないじゃない?」

 

俺はバックパックから布にくるまれたプロセッサーをシャルに手渡し、アサルトライフルに徹甲弾を装填し直すと、持っていた武器を近くにあったテーブルの上に置いた。フラググレネードを3発に先程スチール製の箱にあったパルスグレネードを3発。徹甲弾が入った弾倉を5つばかりだして準備した。

 

「いいぞ、いつでもいい」

 

そう言うと、シャルはメインフレームのメンテナンス用の蓋を開けてプロセッサーを取り付け始めた。

 

すると・・・・

 

パシュッ!

 

と部屋にあったプロテクトロン待機用ポッドが開くと、中からロブコ社のロゴが入ったプロテクトロンが出てきた。

 

「中国軍ガ侵攻シマシタ。侵入者発見!法律ニヨリ小火器ノ使用ガー・・・」

 

プロテクトロンが言い終わる前に、俺は引き金を引いてプロテクトロンのカメラと頭脳とも言えるチップを徹甲弾で撃ち抜いた。

 

「アブね!シャル、急いでモードを切り替えろ」

 

「あと、2分待って!パスワード打ち込まないと!」

 

「早くしろよ!プロテクトロン全機に俺達の位置がバレたかもしれない」

 

レイダーならば、バレないかも知れないが、プロテクトロンならば発見した瞬間にネットワークにいるロボに発見した位置を一斉送信する。もし、発見した個体が破壊されても、情報を受けたプロテクトロンが駆けつける仕組みになっていた。既に下の階ではレーザーの発射音が響き渡ってきている。ここにレーザーが飛んでくるのも時間の問題だ。

 

扉を閉めてもう一つのテーブルで扉を塞ぐ。銃口を出すために扉を少しだけ開けておくが、攻撃されてもすぐに応戦できるように準備した。

 

「シャル、あとどの位だ!」

 

「あと二分!」

 

「二分でレーザーの蜂の巣が出来るぞ!早く!」

 

すると、階段の方から機械音と合成音が響いてきた。

 

「A21W1ノ沈黙確認。警察機関ヘノ通報不能。原状ヲロブコガ対処シマス。」

 

「生体熱源発見、無力化攻撃ヲ開始」

 

すると、プロテクトロンは腕から高出力レーザーを発射して扉を貫通する。

 

「喰らえ!!」

 

テーブルに置かれたパルスグレネードのピンを抜いてプロテクトロンに投げる。プロテクトロンの頭に命中し、床に転がり爆発。周囲にパルスが放たれた。過剰な電流はプロテクトロンの電子回路を焦がしていく。

 

さらに、5.56mmの徹甲弾がプロテクトロンを引き裂いていった。

 

だが、プロテクトロンもやられっぱなしでもなかった。俺の位置を把握したのか、レーザーを俺の近くに着弾する。

 

「手榴弾は・・・崩落するな。辞めとくか。」

 

200年も経っている建造物の中で爆発物を使うほどバカでもない。お返しとばかりにパルスグレネードを投げ込み、プロテクトロンをショートさせた。

 

「よし!出来た!」

 

シャルの声と共に、プロテクトロンの銃声が停止する。

 

「警戒モードヲ解除。通常業務ヲ再開」

 

「ゴ出勤ゴ苦労様デス。ヨイ1日ヲ」

 

さっきとは打って変わって、くるりと体を動かすと自分の居場所へ引き返していった。

 

「ふぅ~・・・」

 

「死ぬかと思ったよ」

 

壁際に腰かける俺とその隣に寄りかかるシャル。俺はこの時次から絶対モイラの頼みを聞いてやらないと心に決めた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

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ーServer 25ー

 

 

ようこそ、Mr.フランシス様

 

>・5月11日株主総会における報告

>・統合作戦本部への出席

>・Mr.ハウスについて

 

>>Mr.ハウスについて

 

あのナルシストめ!いつも俺に面倒事ばかり押し付けやがる。副社長という仕事は社長という仕事と比べて仕事が少ないと思っていたが、それは嘘だ。それにrobco社は巨大だし、しかも奴はいつもベガスだクソッタレ!!俺に休暇どころか、残業まで残しやがる。社長出勤なんて無いも同然だ!

 

唯一の楽しみは貯金が増えていく様だが、こんな時に貯金が増えていっても食費に全て無くなっていく。全ては中国と合衆国との戦争のお陰だ。俺はいつもロンドンの情景を思い出すが、それを見られるのは何時になるだろうか。飛行機もあまり飛ばなくなってきているし、イギリスではインフルエンザが猛威を振るっている。甥が心配だ。昔、甥が来たときに俺の社員証を渡したら、プロテクトロンが俺と甥を間違えていたことがある。今は机の中にあるが、しっかりと持っておかないとな。まあ、またここに起きっぱなしだが(笑)

 

 

「シャル、机の中にあるカードを取り出してくれ。」

 

「うん・・・、これって社員証?」

 

「ああ、それをあのMr.ガッツィーと交換すればいいんじゃないか?」

 

そう言うと、シャルが若干引く。いや若干というのは語弊がある。まるで、俺が変な事を言っているかのように、シャルは俺に疑問の表情を浮かべていた。

 

「え、確かRL3軍曹だっけ・・・。あれを従業員にするの?」

 

「ああ、嫌だったら家のメイドにでも」

 

「いや!あんな暑苦しいロボットを家の中に入れないで!」

 

因みにRL3軍曹等のMr.ガッツィーのセリフは・・・

 

「本日も我が軍に栄光あれぇ!」

 

「今日は戦死日和だな!」

 

「勲章をつけてくれ」

 

「身体をママの元に送ってくれ」

 

シャルは松岡○造がいたら、近寄りがたい存在なんだろうな・・・。と俺は生前の芸能界にいた人物を思い浮かべた。

 

「あ~・・分かった。一応、従業員としては採用するけど、家には連れていかないから安心して」

 

「いいよ、でも連れていくときは音声機能をOFFにしておくから」

 

「そこまで嫌か!」

 

「あのセリフを聞いているとイラって来ない?」

 

それはたまにと言うか何と言うか・・・。勿論、場所を選ぶが、そこまで嫌いに成る程でもない。虫の件といい、ロボットといい、仕舞いにはグールの方々も嫌いと言うのであろうか?

 

「え、だって彼らは元人間でしょ。フェラル・グールは嫌いだけど、彼らは喋るから大丈夫よ」

 

まあ、人にも色々あるからいいか。

 

俺は金庫をピッキングしていて何とか地下室の鍵と思われる物を見つけた。地下室と言うか、名称が「極秘地下壕の鍵」とあるのだから、レアなものが見つかる筈だ。

 

害虫駆除モードになっていてもさっきまでは社員証が無かったのでプロテクトロンに見つかれば、不法侵入と見なされて攻撃を受けたり追いかけられる事があったが、ちょうど逃げ込んだ先が副社長のオフィスだったことで幸いした。社員証があれば社員として認識されるだろうから何とかなるだろう。俺だけ持っていても連れだと認識させれば警戒も解除してくれる筈だ。

 

階段を降り、モールラットやラッドローチの死骸を踏みつけないように歩き、地下壕の扉まで降りた。

 

「えっと、社員証についているカードキーと鍵をセットで開くのか。」

 

機械にカードを通し、機械に鍵をさして開ける。すると、密閉式の扉が開き、中の照明が点灯する。内装はvaultに似た壁に幾つかのコンソールが設置されていた。そして置かれていたのは、ブルーの塗装が施され、足がタイヤで胸にテレビジョン。セキュリトロンであった。

 

「なんでこんなところに・・・」

 

セキュリトロンはアメリカ西南部のモハビで見掛けるMr.ハウスがベガスの治安を守るために使役しているロボットだった。電源が落ちているものの、それらはベガスで見掛けたそれと全く同じものだ。セキュリトロンはRobco社で設計されたものなので、考えてみれば、本社にプロトタイプがあっても不思議はない。

 

メンテナンス用のデスクの上にマニュアルが置いてあったので見てみると、これは全兵装を開放したMark 1だという事が確認できた。性能はベガスで使われるタイプと同じらしく、重火器も装備している。

 

 

 

 

「これなら何でも屋のジョーも喜ぶ。すこし使える部品だけ回収したら彼の所へ行ってみようか」

 

「社長室には行かなくてもいいの?」

 

「最上階にあるけど、確か階段が崩れてるから無理だろ・・・」

 

一応地図を見て確認したが、回り道出来ないようで瓦礫を退かして通ることもできそうに無かった。副社長の書いてあることが本当ならば、Mr.ハウスは本社にあまり出入りしていなかったことになるだろう。社長室に入ったとしても、キューバ産の葉巻や上物のウィスキーがある程度。機密書類など無いに等しい。そういう重要な書類は自身の砦があるベガスに隠すのが普通だろう。

 

 

ある程度、廃棄部品や核分裂バッテリーやセンターモジュールを回収した俺達はRL-3軍曹を所有する何でも屋のジョーの所へ行った。

 

「取引しませんか?これとRL-3軍曹と交換で」

 

「ロブコ社の副社長の社員証か。そう言えば、本社で実権を握っていたのは副社長だったな。イギリス人の・・・。だけど、それがなくてもスカベンジングが・・・」

 

「できないですよ」

 

「え?」

 

何でも屋のジョーは声を挙げる。

 

「社員証が無いと攻撃を受けます」

 

「な、なんだって~!!」

 

驚きのあまり顎が外れるのではないかと言う位大きな口を開けた。

 

「プロセッサー付けた途端に中国軍侵攻対応モードっぽいのが作動してしまって。一応、害虫駆除モードに移行させましたが、発見すると警察に通報します。この場合、警察は応答しないんで自己防衛プロトコルが作動して攻撃をし始めますね。」

 

「何と言うことを・・・」

 

「一応、ラッドローチやモールラットは害虫駆除で一掃したんで起動してあるのと、地下にあるセキュリトロンが十体ほど」

 

「せ、セキュリトロン?」

 

ジョーは聞き慣れない言葉に首を傾げた。

 

「ええ、確かMr.ハウスが極秘で作らせていた治安維持用のロボットです。副社長のIDカードで地下倉庫が開いたんでそこで確認しました。注文履歴によると、ベガスの方に千体規模で発注製造されていますね。かなり極秘にされていたようですけど。バージョンは1ですが、テスト機体だったようなんで全兵装が使えますね」

 

「兵装・・・何を装備しているんだ?」

 

「えっと、東海岸仕様らしく10mmマシンガンとレーザーガトリング、ミサイルランチャーにプラズマキャニスターらしいです」

 

「う~ん・・・・」

 

唸る何でも屋のジョー。すると、結論が出たのかポンと手を叩く。

 

「良いだろう。じゃが、二度とここにスカベンジングしに来ないのならRL-3軍曹をやろう」

 

「(better 75%)予備に何台かロボを持っていきたいんだが、そのぐらいなら商売に支障はでない」

 

「(成功)まあ、全部持っていくなら話は別だが少しなら良いだろう。武器屋だったら、メガトンに行く途中で寄ってみよう。」

 

俺と何でも屋のジョーは握手をする。こうして従業員確保に成功した俺達であった。

 

 




やっと従業員を確保。紙装甲のRL-3軍曹ですが、作者は意外とあれが好きです。NVならED-Eとかも愛用しています。




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十五話 テンペニー・タワー

ようやく投稿です。MOD武器についてですが、初登場と言うことなので自身で考えた(というより実在する)武器を登場させました。

最後の所では三人称になっていますが、仕様です。


「オススミクダサイ、オススミクダサイ」

 

「なあ、シャル。コイツも音声プログラム消しておいたら?」

 

「え、可愛いじゃない」

 

「何処が!感情の起伏すら感じないプロテクトロンの何処に!」

 

「シルエットとか、兎も角、軍曹は喋っちゃだめ!」

 

「・・・・」

 

軍曹御免よ。プロテクトロンよりも感情がありそうな君はシャルの機嫌を損ねるようだ。店に着くまで我慢してくれ。

 

なんとなく、軍曹の背景にブルーの斜線が入って落ち込んでいるように思えるのは気のせいだろう。まるでドラクエのように一列縦隊で歩く。野営するための食料や寝袋は軍曹に持たせているため問題ない。だが、彼の熱核ジェット噴射音が黙々と響くため、やっぱり可哀想に思えてくる。

 

「やっぱりさ・・・軍曹を」

 

「嫌!」

 

「そうですか・・・」

 

すまない!軍曹!やっぱり無理だ!

 

(老兵はただ無言で死すべきであります!)

 

そんな声が聞こえた気がする。涙声で。

 

 

荒野をメガトンに向けて歩き続けるが、次第に日はどんどん落ちつつあった。すると、荒野にポツンと佇むテンペニータワーが見えてきた。

 

「一杯人がいるね」

 

シャルが言った通り、テンペニータワーの周りにはテント村とおぼしきテント群が姿を現した。数は20近くあるのだろう。近くにはスカベンジャーのバラモンやテント村に住む入植者のバラモンもいるようであった。

 

中には露店や傭兵が立っていたり、雰囲気はメガトンと似ていた。このテント村はテンペニータワーに入りたい人が作った所謂スラム街である。ウェイストランドではスラムも街も殆んど似たようなものなのだが、テンペニータワー内と外では貧富の差がくっきり現れていた。

 

「なんか典型的なスラムだなぁ~・・・。シャル気を付けろよ」

 

「大丈夫よ。でも、ちょっとね・・・・」

 

どこの世界でも経済格差、貧富の差がある。巨万の富を築いた人もいれば、生涯極貧で過ごす者もいる。戦前のアメリカでもスラムなんて珍しくもないし、共産主義国家であっても貧富の差がある。人間の七つの大罪である欲望が差を広げるため、思想があろうとも差は無くなる事はない。

 

シャルは彼らに同情し、助けたいと思うのかもしれない。だが、それは無理だろう。彼らがここに居るのは、虐げられているからではない。彼らには現状を打開する力も知恵もないから。テンペニータワーに居るのは自力で勝ってきた者達。彼らを隔てるのは知識なのだ。力や運、そして知識。それがなければ中に入ることはおろか生きることも叶わない。彼等は負け組でテンペニータワーにいるのは勝ち組。俺達が武器を彼らに流してテンペニータワーを革命で奪ったとしよう。それは彼らの力によるものだが、そのあとテンペニータワーを維持できるのか、出来るわけがない。

 

出来ることといえば、その場にとどまり知恵を与えるだけである。明治政府を作った伊藤博文や桂太郎などは地方の郷士であり、勉学を頑張ったお陰で政府を作れた。福沢諭吉は極貧を脱するには学問が必要であると考えている一人で、学問を奨励し、義務教育をすることで現代日本の礎を築いた。

 

だが、義務教育なる物を作ってもやらない者もいるのも事実。できるのは、彼らに知識を与える場を与えて、釣り堀のように食いつくのを待つだけである。

 

「俺達が出来る事は何もない。・・・・あれは?」

 

 

シャルの肩に手を置いたその時だった。テント村の奥、テンペニータワーの門近くに人垣が出来、誰かの怒鳴り声が響き渡っていた。

 

「何だあれ?」

 

人垣の合間から見えたのは、インターフォンへ怒鳴り声を散らせるレザーアーマーを着たグールの声だ。散々、喚いた後にグールはテンペニータワーから離れていった。

 

「どうしたんだ?あの男は?」

 

俺は近くにいたスカベンジャーの男に聞いた。

 

「あれか?確か、戦前にここに来ていたらしいグールの一人だよ。中に入れて貰えないからって怒っているのさ。」

 

「へ~・・・・。」

 

そう、それはゲームの中でも最も後味の悪いクエスト“Tenpenny Tower”であった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

テンペニータワー周辺には宿もなかったため、近くのガソリンスタンドに一晩泊まることにした。付近に奴隷商人のキャラバンもいるが、こんな重武装の俺達に吹っ掛ければ只では済まない。軍曹のプラズマライフルと俺の持つ5.56mm撤甲弾をくらい、プロテクトロンのレーザーが命中する。更にスーパーミュータント・オーヴァーロードが使用するトライビーム・レーザーライフルを持つシャルが、至近距離でそれを撃つ。レーザー版のショットガンと呼ばれるそれは、至近距離で喰らえば只では済まない。

 

だから、俺達を見つけた奴隷商人は“触らぬ神に祟りなし”と言わんばかりな勢いで離れていく。軍曹を歩哨に任命し、ガソリンスタンドの中に入った。中には戦前のガムと肉缶、そしてポテトチップス。便所の紙やポケットティッシュの代用としても使える戦前の紙幣を3束程度。中にラッドローチが居たものの、シャルの悲鳴と三発のレーザーに寄って灰になり、箒と塵取りでお掃除しました。

 

プラズマだったら、ゼリー状なので面倒なのだから楽と言えば楽なのだろう。

 

「シャル、核分裂バッテリーとホットプレート、それと幾つかコード取って」

 

「うん」

 

pip-boyからそれらの物を出し、俺はそれを繋いで簡易型のコンロを作った。鍋を出して綺麗な水を注ぎ込み、中にカチンコチンに乾燥したソールズベリーステーキを一口大に切って入れる。ポークビーンズをコンバットナイフで開けて中に注ぎ込み、隠し味にビールを少し。残ったビールはシャルに隠れて飲みました。保存料が効きまくっていたが為に、あんまり美味しくありませんでした。

 

最後にミレルークケーキをパンの代わりにして食べた。味はその~、まあまあ美味しかった。ビールが少し余計だったみたいだけど。

 

「ユウキにしては上出来ね。ただ、隠し味が余計だったわね」

 

「う~、・・・・」

 

今日の食事担当の俺は項垂れる。食後にpip-boyから良く冷えたヌカ・コーラを取り出してシャルと山分けする。コップが無かったため、回し飲みだが、この世界で間接なんたらを気にしている余裕はない。

 

「おやすみ」

 

「ああ、おやすみ」

 

モイラから譲り受けた寝袋にシャルが入る。俺は一応、4時まで起きておこう。シャルはついつい布団を剥いでしまう癖が出てかけていた寝袋から出てきた。

 

「全く・・・」

 

どっちが年上だよ・・・。そんなことを思いつつ、寝袋をシャルの肩まで寄せておく。俺は被っていたトレーダーの帽子を近くのカウンターに置いておくと、黒のペイントを施したコンバットヘルメットを取り出しておく。それにはここらのコンバットヘルメットには見られない、暗視ゴーグルの取り付け金具が取り付けてある。

 

「これが使えるとは最高だね」

 

それは、戦前にアメリカ軍が使用していた暗視ゴーグルである。形は第二次大戦後試作されたタイプや現在使われている物とは違い、まるで甲殻機動隊に出てくるような感じである。目にメガネケースと取り付けるような形で、横に一本視界が出来ている。装着したときの視界は赤く、まるで特機隊のケルベロスアーマーの視界に近い。

 

「そう言えば、ケルベロスアーマーあったよな。」

 

ドイツV.S.日英同盟でドイツが原爆を使用した戦後日本。ドイツ資本で高度経済成長期に入った日本には共産主義に染まった過激派がテロ事件を頻発させた。そんな中で首都圏を中心に活動する特殊機動隊。通称、特機はドイツ軍の使用する装甲強化服であるケルベロスアーマーを身に付けてテロリストを一網打尽にする。パワーアーマーだからとケルベロスアーマーを作って、MG42も合わせて作ったんだっけ?それは確か、家の倉庫で保管されているはずである。

 

「まあ、それは置いておいて戦前の暗視ゴーグルはカッコいいね」

 

実はNVで登場する暗闇でも周囲が見える薬品“キャッツアイ”は東海岸では余り流通することがなかった。軍にも多少実験が行われたが、薬による効果も途切れ途切れになることが多く、核分裂バッテリーを使った物の方が長続きするため、軍ではキャッツアイは余り使われる事が無かった。

 

 

ゴーグルつきのコンバットヘルメットを被り、アサルトライフルを持ってガソリンスタンドの建物から出ていった。

 

「司令官殿、異常はありません!」

 

熱核ジェットを切り、地面に噴射口を下ろしている時でさえも軍曹の索敵能力は変わらない。三つの赤外線暗視カメラで数km先まで見渡せた。

 

暗視ゴーグルの実地テストも兼ねて、電源を着けて周囲を見渡した。星空の光源が増幅され、視界が開けていく。

 

「視界は良好だな。軍曹、接近する未確認生物はないな」

 

「問題ありません!・・・・接近中、北北西、距離800!コンバットアーマーに中国軍アサルトライフルを確認!規模からして一個分隊!」

 

「何!」

 

俺は暗視ゴーグルと併用してバックパックに入っていた双眼鏡を取り出すと、北北西にある旧国道の道を見る。そこにはアメリカ軍が採用していたコンバットアーマーに黒の塗装。社名のイニシャルである“T”をあしらい、手には中国軍アサルトライフルやレーザーライフルがある。

 

「タロンだ・・・!軍曹、M82を取ってくれ。」

 

「了解、どうぞ!」

 

アームが軍曹のバックからこの世界にある筈のない銃を取り出した。50口径の大口径で無骨なデザインのM82A1。ハーグ陸戦条約で人に対する使用を禁止された狙撃銃である。そのため、対物ライフルとして西側武器の代表的な物となりつつある。だが、実際人に使われることは多々あるが。

 

二脚を開き、pip-boyから50口径の弾が入った弾倉を入れてレバーを引く。機構に銃弾が装填されるのを確認すると、スコープを覗き込む。0.8kmも開いた距離に驚きながらスコープのクロスをタロンの身体に狙いをつける。銃と弾丸に載っていた距離と風、そして自転と湿度を計算する。文系なんで・・・・、などと言い訳をするわけにはいかない。

 

「やっぱ、ヒットマンだよな。クソッタレ!」

 

メガトンを爆破しなかったため、テンペニーが雇った暗殺部隊。本来なら3人編成なのだが、テンペニーお膝元と言うことか一個分隊。およそ10人前後である。その先頭にいるコンバットアーマーに色々と線が引かれている男にクロスを合わせた。

 

「すー、はー、すー・・・」

 

息を浅く吐いて、浅く吸う。そして・・・引き金を引いた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「おい、タバコを吸うんじゃねーぞ。光でバレちまうからな」

 

今回の分隊長であるジャクソンは中華アサルトライフルを肩に掛けて先頭を歩く。

 

他にも仲間の奴等はアサルトライフルにコンバットショットガン、スナイパーライフルなど、銃の見本市でもやっているかのようだ。

 

俺はレーザーライフルを持っているが、如何せん調子が悪い。昨日、ターゲットの男を殺したときに連れの女が掴みかかり、その時壊したんだろう。仲間と俺はその女でヤったが、男を殺した金はウィスキーに費やしたためない。

 

プリズムカットレンズにヒビでも入っているのかもしれん。あとで修理しねぇと。

 

分隊はバニスター基地から離れて、各集落を転々とした。時には恐喝し、時には根絶やしにする。メガトン周辺に行った後、金で雇った情報屋からターゲットがロブコ本社に行くと伝えられ、俺達はここにやって来た。

 

レーザーライフルを肩に掛けて、腰の10mmピストルを手に取る。夜は暗殺には絶好の狩場と化すのだが、自信の命も狩られかねない。これで相手が暗視ゴーグルを持っていれば厄介なことになる。

 

「いいか、この先にあるガソリンスタンドにターゲットがいる。目撃者によるとMr.ガッツィーとプロテクトロン、そして男一人に女一人だ。依頼主は男に最大限の死を与えろと言っている。女の方は好きに使えとな!」

 

ジャクソンが言うと、下品な笑い声が響く。

 

タロンの傭兵は残忍で卑怯と言うのは相場が決まっている。ヤクをやらないだけでレイダーと同じだと言う輩もいる。だが、舐めて貰っちゃ困る。レイダー以上に訓練も積み、そこらの傭兵とは格が違う。

 

今回の任務も軽くこなせるだろう。

 

「さて、そろそろコイツの出番なようだな」

 

隣にいたカルロフはミサイルランチャーを構えてニヤニヤと笑いを浮かべる。

 

「おいおい、そんなの撃っちまったら女が焼け焦げちまうよ!」

 

周りから罵声が掛かる。しぶしぶカルロフはミサイルランチャーを置いてホルスターから中国軍ピストルを抜く。以前、カルロフはBOSアウトキャストに攻撃を仕掛けて、パラディンの男からミサイルランチャーを奪った。その時から、ミサイルさえあればレイダーの一団やターゲットのキャラバンに撃ち込んで依頼を完了させてきた。だが、略奪するときの物が少なかったりする。出来ることなら、スーパーミュータントの一戦の時に使って欲しいものだ。

 

「今は一時過ぎだ。一気に畳み掛け・・・」

 

ジャクソンは戦前の士官の真似事でもするように命令を下す。タロンは命令系統がはっきりしないがこれだけは覚えていた。依頼書を持つ者がリーダーで、そいつの後に続けと。

 

だが、ジャクソンは命令を言おうとした瞬間ぱっくりと頭が割れた。

 

一瞬、何が起こったのか分からなかった。ジャクソンの頭蓋骨の破片が周囲に散らばり、足元にピンク色の脳漿が転がった。そして、少しした後に銃声が聞こえた。

 

「スナイパー!伏せろ!」

 

俺はジョンソンの破片が散らばっているにも関わらず、そこに伏せる。血の匂いで気持ち悪くなったが、贅沢は言っていられない。伏せるのが遅かったのか、もう一人の仲間が胸を撃たれて倒れた。

 

「ジミーがやられた!fuck! 野郎、徹甲弾を持ってやがる!」

 

俺はジミーの胸を見ると、黒のコンバットアーマーの胸のプレートに穴が空いていた。戦前のコンバットアーマーは胸や肩をプロテクトする標準個人防護装備の一つだ。確か、資源がなく、兵士の生存性を高めつつも、極力プレートの数を押さえた物だ。経費削減に減らされた兵士は度々政府を罵倒するが、プレートには7.62mmライフル弾を200m先から撃っても貫通しないものが取り付けられていた。何人もの兵士を救ったはずだろう。だが、貫通に特化していた徹甲弾はプレートをものともせずにジミーの胸部を撃ち抜いた。

 

俺は血溜まりに這いつくばり、双眼鏡を覗く。

 

ガソリンスタンドは目と鼻の先、そこには暗がりに伏せる人影と待機状態にあるMr.ガッツィーを確認できた。

 

「ガソリンスタンドにいるぞ、イアンとデイビスは制圧射撃だ。カルロフ!援護するからミサイルを撃ち込め!」

 

「おいおい、そんなことして・・・」

 

「略奪物資と命、どっちが大切なんだ!バカ野郎!」

 

俺は叫んでジミーの持っていたスナイパーライフルを構える。奴はタロンの傭兵には珍しい几帳面な奴だった。スナイパーライフルはしっかりと油が指されている。銃を構えて俺は叫んだ。

 

「制圧射撃!撃ち込め!」

 

アサルトライフルやレーザーがガソリンスタンドに着弾する。だが、それは敵を牽制する制圧射撃に過ぎない。敵は怯み、狙いを外す筈だと思った。

 

「カルロフ!今だ!」

 

廃車の影に身を隠していたカルロフはミサイルを装填したランチャーを構えて引き金を引こうとした。

 

その時俺はスコープを覗いていた。ガソリンスタンドの近くで発射炎がちらついたのを見た。風を斬るような音と共に誰かの呻き声が響き渡る。

 

それはミサイルランチャーを構えていたカルロフだった。喉を引き裂かれたカルロフは口から血潮を吹くと後ろに倒れた。だが、それで終わらない。奴はそのまま発射ボタンを勢いよく押していた。

 

ミサイルは廃車のエンジンに命中した。D.C近郊にある核搭載車輛の殆んどは機能しない原子炉がある。だが、稀に200年間稼働し続けている車両もたまにある。稼働中で冷却している燃料棒がいきなりミサイルの爆発で破損したら?冷却機能が停止して、核分裂反応を引き起こしたら?

 

俺達の近くにあった廃車は眩い閃光と共に爆発。迫る金属の破片が飛んでくるのを最後に意識を途絶えた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「走れ!走れ!」

 

暗視ゴーグルをpip-boyに乱暴に入れて持っていたアサルトライフルを引っ付かんで走る。ボディーアーマーが重く感じ必死に走る。俺の前にはvaultスーツをきたシャルとプロテクトロン。後ろに核ジェットを噴かす軍曹で走る。

 

途中俺と軍曹は止まり、後ろに銃を構えて敵の姿を見つけたら銃を撃った。息切れとアサルトライフルの精度故に敵を撃ち殺すことができず、牽制するだけにとどまっている。

 

タロンは俺達よりも経験を積んでいるし、もしも夜戦や先制攻撃を俺がしていなければ、俺達の誰かは死んでいる筈だ。途中途中で後ろから追撃してくるタロンの傭兵に5.56mm弾をばらまいていく。

 

「ユウキ、こっちこっち!」

 

シャルが指差してきたのは、戦前のメトロだった。戦争前は至るところに地下鉄や鉄道、バスなど交通機関があった。しかし、大戦によってすべては崩壊。地下鉄は200年経った現在でもその存在が確認できるがいつ崩落しても可笑しくない。それに、そこには戦前逃げ込んで、放射能によって喰人鬼であるフェラル・グールの住処となっている。

 

「畜生!」

地下鉄の入り口付近にスライディングすると、伏せ撃ちの体勢で引き金を絞る。放たれた弾丸は追撃するタロンの頭部に命中し、スイカ割りのスイカのように割れてしまった。シャルは手に持ったレーザーライフルを牽制するように引き金を引く。近くにいた軍曹やプロテクトロンもプラズマガンや自衛用レーザーを発射する。

 

「軍曹、下のシャッターを焼ききれ。プロテクトロンは軍曹に攻撃を加えようとする駅構内の敵性生物を殺れ!」

 

「了解!司令官殿!」

 

「カシコマリマシタ」

 

両者機械は返事をすると、駅に入るシャッターを開け始める。

 

 

腰のガンベルトに引っかけていた手榴弾を手に取ると、ピンを引いて敵のいるであろう場所に投げる。手榴弾はタロンの傭兵に転がるものの、急いでその場を離れて飛んでくる破片を避けてしまった。

 

敵の発射炎を頼りに引き金を引く。暗視ゴーグルをしなければ敵をよく見ることが出来ないが、視界の自由は解放された。それに敵も頼りにしているのは同じことだろう。

 

すると、球体がこちらに投げ込まれる。

 

「グレネードだ!」

 

それらしい物を拾い上げて敵に投げ返す。だが、それは不幸にもブリキ缶。暗闇で落ちたものなど判別なんて出来るわけがない。

 

投げたときには既に手遅れだった。敵もそこまで狙いをつけていなかったらしく、手榴弾は俺の少し離れた所に転がっていた。

 

一瞬の隙だった。手榴弾は爆発すると周囲に破片をばらまいた。破片はいくつも身体に突き刺さるものの、それはボディーアーマーのアーマー部分でたいした怪我ではない。だが、フェイスカバーをつけていなかったヘルメットしていたため、金属片が俺の左目の丁度下に刺さった。

 

「グハッ!・・クソ!目が!」

 

熱を帯びているように目が痛い。痛みで目を開けられず、持っていたアサルトライフルを落として両手で目を押さえた。目の近くはまるで心臓がそこにあるかのように脈動し、地面に血を垂らす。

 

「ユウキ!」

 

シャルは叫び、近くにいたタロンの傭兵にレーザーを叩き込むと俺の方に向かった。その時、俺は目が見えない。だが音で何をやっていたのか理解できた。バックパックから、白いガーゼを取り出すと、俺の目に当てて圧迫止血をする。眼球を潰さずに、優しく。すると、地下鉄の入り口のチェーンが地面に落ちた音と共に軍曹が報告を入れる。

 

「司令官、扉を開けました。」

 

「シャル、俺のバックパックから地雷を取って、起動してそこら辺に置いておいてくれ。軍曹は隠れられる場所を探せ。奴等もここには入りたくないだろうしな。」

 

「・・・ええ。」

 

シャルは俺のバックパックから地雷を取りだし、スイッチを入れて投げ捨てる。俺はシャルの肩を借りてメトロの中へ入った。

 

「生命反応を駅構内に発見。人型だと思われます」

 

「軍曹、先に行って隠れやすい場所を探せ。シャルは俺を置いて先に行け!」

 

「え、やだ!」

 

シャルは俺のことを見て叫ぶ。多分泣きそうな顔をしているんだろう。だが、盲目の人間など戦場では的にしかならない。俺はシャルの足手まといだ。

 

「おれがいても邪魔なだけだ。ここでタロンの奴等を引き付けるから・・・・」

 

「絶対置いてかない!何が何でもヤダ!」

 

シャルは俺を離さないとばかりに抱き締める。これが、家の中だったら嬉しいが、今はタロンの奴等に追われているときだった。こんなところで油を売っている場合じゃない。

 

「司令官、隠れる場所を発見しました!」

 

「・・・仕方ない。シャル、連れていってくれ」

 

「うん・・・」

 

鼻をすする音と布の擦れる音。シャルは俺の腕を肩に回させて俺をたたせる。周囲の情報は聴覚しか頼らざる終えないため、シャルと軍曹、プロテクトロンの視覚を信じて歩く。

 

扉を開けて部屋の中に入る。シャルは俺を壁際に座らせると物を引きずった。多分扉を塞いだのだろう。プロテクトロンが停止して、軍曹の核ジェットエンジンが停止した。シャルは塞ぎ終わるとすぐに俺の元に歩み寄った。

 

「ユウキ・・・」

 

今にも泣きそうな顔をしているのだろう。目の見えない俺を抱き締めて音を限りなくなくす。聞こえるのは俺とシャルの心臓の音のみだ。すると、爆発音が響き、ガチャガチャと金属の擦れる音が響く。

 

「何処だ。あの野郎ふざけやがって」

 

「ジョンソンやカルロフも殺られたんだ。一度基地に・・・」

 

「馬鹿か!?司令官が失敗した野郎に何させるか知っているか?逃げ帰るなんてもっての他だ!」

 

タロンの傭兵は仲間を罵倒すると、俺達を探すべく駅構内を探索し始めた。すると、扉を開けようとする音が聞こえ、俺は10mmピストルをホルスターから抜いた。だが、目が見えないため音を頼りに銃を向ける。

 

「こっちは塞がってて開かねぇ!改札の向こうに行くぞ!」

 

傭兵の足音は遠ざかり、シャルの腕が弛緩する。おれも持っている10mmピストルを下ろし、ホルスターに納めた。

 

「ユウキ、此方向いて」

 

声のする方向を向く。するとシャルの方からはバックパックを開く音がする。多分、持っている医療キットで俺を治療しようとしているんだろう。

 

止血するために巻いていた白いガーゼを取ると、両目が光が差し込んできた。盲目にはなっていないが、目の下からの激痛は抜けきれない。

 

「破片が刺さってる。抜くから動かないで」

 

「失明しなくてよかったけど、モルパインとかは?」

 

「あるわ。ちょっと待って」

 

その後はすぐに終わった。バックから出したモルパインを傷口近くに打ち、破片を摘出する。物は手榴弾の破片らしく、大きさは2cm位の鉄の破片が目の下に食い込んでいた。摘出し終わった後はサージカルテープで傷口を開かないように押さえ込む。そして、スティムパックを傷口に打ち込んだ。すると、傷口が塞がり始めた。スティムパックは戦前に軍や医療機関、果てや救急セットの標準装備とされていた。赤血球より小さいナノマシンが血小板等の生成や結合を補助して傷口を塞ぐ。更に、ビタミンやミネラル等の栄養素も加えられており、戦後も引き続いて使われている。戦後200年あまりに製造されたり、とある植物から血小板の生成を促進させることが発見され、代用品も数多く見られた。俺に使ったのは濃緑色のラベルの貼られたスティムパックだった。つまり、米陸軍仕様のスティムパックだ。

 

一応、傷口が開く恐れもあるためガーゼで押さえて、サージカルテープで押さえておく。見た目は顔半分がガーゼで覆われているが、外気に晒されているよりもマシである。

 

処置が終わると、シャルは医療キットを片付けた。

 

「し、シャル・・・さっきは・・」

 

「もう、私を置いていかないで」

 

シャルはこちらを振り返り、涙の溜まる眼差しを俺に向ける。もし、あの時俺があの場に止まり死んでいたら、シャルはたった一人でジェームズを探さなければならなかった。

 

「ごめん」

 

「謝らなくていい。だから、居なくならないで」

 

涙を流すシャルは俺に近付き、俺の胸に顔を埋める。両手を背中に回して、まるで心臓の鼓動を聞くように頬を擦り付ける。

 

主人公がヒロインを泣かせるとろくなことがない。この場合、主人公泣かせの俺も録なことはないな。

 

シャルの背中に右腕を回して、左腕で頭を撫でる。手にダークブラウンのサラサラとした触感と女の子特有の甘い匂いが鼻腔をくすぐった。ずっとこうしていたい。

 

そう思ったその時だった。メトロの奥から叫び声と銃声が反響する。その原因はひとつだ。

 

「グールだ。シャル、ここから出るぞ」

 

「うん、あれ?ドアが開かない・・・」

 

「何?!」

 

シャルの元に歩き、扉の近くを見る。それはロッカーで塞がれて開かなくなっているが、ロッカーを退かしても何かに塞がれて開けることが出来なかった。

 

「ここって駅員の詰め所か?」

 

中に入ったとき、ガーゼで見ることはなかったが、ここは駅員の詰め所であった。壁にはメトロの路線図やダイヤ。軍の徴兵ポスターやヌカ・コーラの宣伝ポスターがあった。ふと、見るともう一つ扉があり、メトロの地図を見る限りホームへと通じていた。

 

「シャル、銃の残弾をチェックしろ。軍曹は爆発物に気をつけて発砲しろ。中には元米軍兵士もいるかもしれない。だが、彼らは人間じゃない。プロテクトロンは治安維持モードに移行。レーザーの出力を最大にしろ」

 

「了解しました!司令官!」

 

「カシコマリマシタ!」

 

俺はアサルトライフルの代わりにpip-boyから新しい銃を取り出した。それはこの世界にはない銃であった。

 

「モスバーグM700!ショットガンの醍醐味だね」

 

西部開拓時代からショットガンなどの火器を作っていたモスバーグ。モスバーグ社製のショットガンはアメリカなど各国の治安機構に採用されている。よく、アメリカ映画やドラマなどで紺色の制服を着た警官がサングラスを掛けて、ショットガンを手にしているのを見掛けるだろう。大概はこれである。銃床やハンドガードは木製でいかにも頑健そうなデザインだ。それを更に緑蛍光のサイトを使用し、ダクトテープでライトを取り付けている。12ゲージのショットシェルを装填してハンドガードを手前に引いて、シェルを機構に装填した。

 

他にもシェルをアーマーの胸のシェル用のポーチに入れて保管する。幾つかはポケットに入れて準備が整った。

 

「シャル、扉を開けてくれ。先行する」

 

「うん」

 

TBレーザーライフルを片手に構え、シャルは扉を開ける。俺はライトを点灯させ、銃口を扉の向こうにある通路に向けて進んだ。かつてその通路はメトロ職員が駅のホームへと行ける短縮通路であったが、今ではごみが散らばり、ホコリが舞っていた。持っていたバンダナで口を覆い、ゴーグルを装着する。

 

ゆっくり進むと、銃声が近くで響き渡る。

 

音からして小口径のアサルトライフルの銃声が連続して響く。そして、軍用のコンバットショットガンの銃声。そして、幾つもの呻き声と悲鳴。それは真っ直ぐ此方に向かってくるように聞こえた。

 

ホームまで階段まですぐと言うところ。階段を降りようとした瞬間、階段の下にある扉が突如開き、黒い服装の男が飛び出した。

 

それはタロンの傭兵の男らしかったが、服装がおかしかった。武器は10mmピストルのみで、コンバットアーマーは血塗れでいる。男の頬にも血がべっとり付いているところを見ると、激戦を戦い抜いた事が分かった。そして、男はこちらを見て目を見開く。

 

「ちょ!ちょっと待ってくれ。お前らとは戦いたく・・・」

 

言い終わる前に後ろからうめき声が聞こえてきた。すると、扉の向こうから突然手が飛び出し男の身体を掴んだのだ。その手はとてもやせ細り、人間とは思えないような手であった。爪は長く血まみれで、皮という皮が捲れあがっていた。

 

「た、助けてくれ!」男は足をつかまれ、扉の向こうへ引きずり込まれる。俺とシャルは何とか男の腕を掴むと、扉から上半身がでる格好となった。最初、手は一つだけだったのだが、次第に手は増え始めて男は苦痛の叫び声を上げた。

 

「痛い!痛い!痛い!・・助けてくれぇ!!」

口から血を吐いて、向こうから無数のうめき声とバリバリと何かを貪る音が聞こえた。すると、ぶちっと変な音がしておれとシャルは尻餅をついた。どこからそんな音が出たのか。それは手元を見るとすぐに分かった。タロンの傭兵の腕がちぎれて、上腕部分から引き千切ってしまったのだ。

「ああああぁぁぁぁぁ!!!!・・・・」

 

悲痛の声が向こうの扉から響き渡り、俺は咄嗟に扉を足で押さえた。だが、向こうにいる奴らはドアにタックルを仕掛けてきていた。

 

「軍曹、さっきの入り口まで引き返して拠点死守モードに切り替えろ。シャル、俺のバックパックからマイクロフュージョンセルとか取り出せ。いったん戻って奴らを蜂の巣にしないと」

 

ドアが激しく叩かれ、振動がもろに伝わった。まるで、前世のゾンビ映画そのままだった。シャルはバックパックからありったけのセルを取り出して、セルのパッケージをそのまま取り出した。軍曹達はメトロ職員詰め所の入り口に陣取っているから後は大丈夫だった。

 

「シャル、走れ!俺も行くから行け!」

 

シャルは振り返りつつも、さっき来た道を走る。俺は足で押さえていたのを手に変えてぱっと手を離しショットガンを構えた。

 

その時出てきたのはまるでゾンビだった。ウェイストランド人も真っ青で逃げ出す化け物。話によれば、放射能で変異した人間のなれの果てと聞いたことがある。だが、見た目は人間が着ていた衣服を巻き付けた化け物に他ならない。ピンク色になった爛れた肌に真っ赤に染まった歯茎と白く濁った目。そして食欲しかない野蛮な生物。それが二足歩行で何匹も押し寄せてきた。

 

俺は目と鼻の先にいたグールに照準を合わせて引き金を引いた。撃鉄に触れた信管によって炸薬が引火した。そして中に入っていた無数の鉄の球体が飛び出してグールの顔を直撃する。それはまるでミンチという言葉通りに頭部が拡散する。グールであろうと、相手がウェイストランドの死神と呼ばれるデスクローであろうと、頭部という急所が存在する。ハンドガードを引いて機構に新しいシェルを装填すると、立て続けにグールの頭目掛けて引き金を引いた。

 

そして後ろからはシャルの放つトライビームレーザーが飛び、グールの頭部を焼き尽くす。ショットガンに装填されていたシェルを撃ち尽くすとホルスターに収まった10mmピストルを引き抜いて、グールの頭目掛けて撃った。だが、その銃火をすり抜けて俺に噛み付こうとグールは大きな口を開けて噛みつこうとする。

 

「近づいてくんじゃねぇ!腐った生ゴミ共が!」

 

胸のコンバットナイフを引き抜くと、グールの顎目掛けて突き刺した。顎の筋肉を引き裂いて刃が脳内を貫通する。引き抜くと思いっきり通路側に蹴飛ばしてグールをまるでドミノのように倒した。

 

だが、グールの数も多くゆっくりと押し返された。

 

「司令官殿、援護します!合衆国陸軍に栄光あれぇ!」

 

「不穏分子ヲ発見シマシタ。御注意クダサイ」

 

一度、メトロ職員の詰め所に戻り、待機していた二体のロボットは思い思いの武器を使い、グールのを殲滅し始めた。軍曹のプラズマがグールに命中して液状になり、プロテクトロンの自衛レーザーがグールの頭部を吹き飛ばす。詰め所に至る通路は殺戮ゾーンとなった。

 

そして十分経つと、硝煙と肉の焦げる匂いが通路と詰め所に充満する。ショットガンの銃身は焼き付き、10mmピストルの銃身は触れば火傷するぐらいに暑くなっていた。

 

アーマーの下に着ていた下着はビッショリと濡れていて、マガジンポーチに入れていた12番シェルも底を付いていた。通路には動くものはなく、辺りに散乱するグールであった肉片が満遍なく広がっていた。あと二日か3日立てば、そこは悪臭や病原菌の温床になること間違いない。

 

「軍曹、プロテクトロン。無事か?」

 

「プラズマガンの換装が必要であります!システムオールグリーンであります」

 

「自衛用レーザーガ使用不可能デス。取リ替エ説明書二ソッテ換装シテクダサイ」

 

二体のロボの状態を確認すると、横に立っていたシャルを見た。周囲には空のマイクロフュージョンセルが転がり、10mm弾の空薬莢が放置されていた。vaultジャンプスーツは煤などで汚れているものの、俺のように格闘戦をやっていないため、そこまでひどくはない。

 

「シャル、大丈夫か?」

 

「うん、でもこの人達は?」

 

「人じゃない。化物だ。」

 

俺はそう断言すると、シャルは納得行かないように首を傾げる。

 

「戦前の医療書にはそんなこと書いてないよ。放射能に被爆するとゾンビ見たいになるなんて」

 

「だが、実際ある。原因は放射能じゃなくて細菌感染かもしれない。だけど、治療法なんてないだろう。もし、放射能でなかったらウェイストランドはグールで溢れ返っているだろうけど。」

 

例外としてグールは被爆しまくって人格を残したままの“人間”がいることだ。例えば、メガトンの酒場で働くゴブなんて代表格である。一般的に人を襲うのはフェラル・グールである。だが、彼らがどうやってグールと化すのか全くわからない。放射能でなるのか、それとも細菌なのか。

 

シャルの知識では放射能では化物になることはない。そうなれば、チェルノブイリやビキニ環礁なんて化物の巣窟になる。もし、虫や動物が巨大な怪獣になるのなら、ビキニ環礁は動物王国が出来上がる。東宝映画見たいに。もし、細菌であったとしても治療法なんて見つかることはない。下手に人に広めてもパニックを誘発するだけだろう。だから、知識人は知っていても言いはしないのだ。

 

「戦前のアメリカ市民の成れの果てとも言われているからな。本当にコイツらの生態系を調べたら何か分かるんじゃねぇの?」

 

グールだけが住むアンダーワールドでは、戦前から生きている人物も居るぐらいだ。フェラル・グールの中にもそういった奴等が居ても可笑しくない。

 

シャルはグールの肉片を踏んで通路を歩く。顔がひきつっていたのは仕方がない。ガタのきたモスバーグを軍曹に預けると、10mmサブマシンガンを取り出して構える。瞬間火力はショットガンに劣るが、それなりに連射が可能だ。片手にライト、片手にマシンガンで進んでいく。ホームへと歩いていくと無惨にも食い散らかされたタロンの死体を通り過ぎる。周囲に落ちていた使えそうな武器を見つけて軍曹のバックやpip-boyに収納する。コンバットアーマーは千切れていて使えず、無傷な防弾プレートのみ回収した。もしかしたら、防弾チョッチやアーマーで修理として活用できるだろう。

 

「シャル、この線路は塞がってるな。その3番線は使えるか?」

 

「此方なら・・・音がするわね」

 

「音?」

 

俺は落盤を免れた線路に目を向けて、足元にある線路に耳をつける。金属は水ほどではないが、音を伝える性質を持っている。すると、人の走る音が聞こえてきた。

 

「シャル、敵かもしれない。軍曹とプロテクトロンはエスカレーターから援護射撃だ。だが、命令あるまで発砲するな。いいな?!」

 

「了解です、司令官!」

 

「シャルはそこで伏せて待ってろ」

 

「うん」

 

俺はメトロ路線図の影に隠れ、足音がするのを聞き続ける。足音はどんどん大きくなっていく。

 

俺は10mmサブマシンガンの安全装置を外して覗き見る。

 

使い古したレザーアーマーに本土に上陸した中国軍が使用していた中華アサルトライフルを持ち、放射能の影響かゾンビのように肌が捲れ上がったグールだった。

 

「fuck!誰だ!こんなことしやがったのは!!」

 

銃を持って怒っている奴の近くにいれば、撃たれても仕方がない。撃たれたくなければ近づくなとオフィサーの訓練で教わっていた。だからこの場合、落ち着くまで待ってみようか。

 

だが・・・

 

カラン!

 

偶然にもシャルの足元にあった石が転がり落ちて、レールに命中して甲高い金属音を響かせた。

 

ヤばい!

 

俺は咄嗟に遮蔽物から身を乗り出すと、10mmサブマシンガンをグールへと向けた。

 

「動くな!」

 

言う前にグールは中華アサルトライフルを構えている形となり、撃つ瞬間を失った。さっきのフェラル・グールとは違い、人間っぽい動きで持っていた銃を俺に向けて、銃を突きつけ合う形となった。

 

「お前か!?フェラルを皆殺しにしやがったのは」

 

「いや、・・・・どういうことだ?」

 

一応否定はしておくが、何故この男は只の化物に固執するんだ?そう言えば、テンペニータワークエストでタワーを占拠しようとしていたな。そのためにフェラルグールをタワーに放とうとしていたんんだっけ。確かコイツはロイ・フィリップ。ゲームじゃあ善人プレイをする101のアイツをことごとく失望させた奴じゃないか。

 

「あ~!もういい!これで計画がオジャンだ。畜生め!」

 

「計画ってまさか、フェラルグールをタワーに入れる計画か?」

 

「何でそれを知っている!?」

 

いや、だってあんたの持つグールマスク欲しさに何回かあんたの計画に加担した男ですから。知らないわけがない。どのクエストよりも善人プレイが報われないことはよく知っていた。

 

「お前らタロンの連中か?!アリステアの糞野郎に雇われたんだろう!」

 

「いやいや、その逆だ。タロンの傭兵部隊が攻撃してきてね。逃げ込んだ先がこのメトロだったんだ。そこの駅員連絡通路に行けば、タロンの兵士が着ていたコンバットアーマーが落ちていると思うぞ。最も肉片になっていてどれだか分からんかもしれんけど。」

 

「何だと?」

 

「メガトンの核爆弾を解体したらこうなった。メガトンが邪魔だからって核爆弾を起爆させようとするなんて馬鹿げてるよ」

 

「お前がVault101の奴か!」

 

「・・・・結構知られてるんだね」

 

なし崩しか緊張状態は解かれた。俺はサブマシンガンを下ろし、目の前のグールも中華アサルトライフルを下ろした。

 

「俺はロイ・フィリップだ。災難だったな」

 

「ユウキ・ゴメス、そちらこそ。向こうにいるのが相棒のシャル。上にいるのが、Mr.ガッツィー型のRL-3軍曹とプロテクトロン」

 

ロイは手を伸ばし、俺は握手を交わす。メガトンのボブとは結構仲がいいし、そこまで抵抗はない。ただ、めくれ上がった皮の下から見える筋肉を見て俺は少し動揺した。

 

「グールと握手するのは初めてか?俺もスムーズスキンと握手するのは初めてだ。ガッハッハ!」

 

どうやら俺を試したんだろう。もし、握手を拒めばソイツはグールが嫌いなのだと。それにタロンにはグールと仲良くするような博愛主義者はいない。普通のウェイストランド人でも、グールを毛嫌いする傾向が強い。

 

「こいよ、俺達のねぐらに案内してやる」

 

ロイに手招きされ、シャルと俺は彼の後ろに着いていく。

 

もしかして、ゲームじゃあ出来なかったクエストの終わらせ方が出来るんじゃねぇか?

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「おらぁ、酒持ってこい!今日は友人との祝い酒だ!」

 

俺はマグカップにウィスキーを注がれ、焚き火にあるモールラットの丸焼きから切り出した肉をツマミとして食いつつ、ウィスキーを口に含む。未成年だからと言っても招かれたのだから、晩酌に付き合っても良いだろう。

 

実はロイ、アンカレッジに従軍した兵士の一人らしい。中国軍が侵攻した際も防衛に当たったらしいが、俺の顔を見て一瞬中国人と勘違いをしたらしい。

 

「ハッハッハ!こんな楽しい夕食は久しぶりだな」

 

オートバイヘルメットを被るマイケル・マスターズと呼ばれているグールは高濃度の放射性物質に汚染されたヌカ・コーラクアンタムの飲む。うっすら、喉から胃に掛けて薄青く光っているのは気のせいではない。

 

一方、シャルはロイの恋人であるベッシー・リンに髪をといで貰っている。

 

「綺麗な髪をしているわ。ちゃんと手入れをしないとダメよ」

 

「この頃忙しくて」

 

「女の子なんだからもっと美容に気を付けないと」

 

ベッシーは昔床屋をやっていたらしく、昔の道具が一式揃っている。流石に髪を切って貰おうとは思わないが、俺はロイにさっきの事を聞いてみた。

 

「ロイ、あんたフェラルで何をするのか知らんけどヤバイぞそりゃ」

 

「・・・あの建物は元々、D.Cの喧騒から離れるための場所だったんだ」

 

ロイは昔話を始めていた。話によるとテンペニータワーは戦前、ホテルとして営業していたらしい。ロイはアラスカから帰ってから部隊の仲の良いメンバーとでタワーに来た。

 

「昔は近くに色々あったんだが、跡形もねぇ。分隊の一人に“ティッキー”て呼ばれる奴が居てな。奴はバーにいたウェイターの一人を口説こうとしたな。」

 

声や背丈、そして容姿に反して老人が昔話を話しているようだった。それもその筈。彼は200年以上も生きる人だ。ゾンビのようだと毛嫌いするやつも居るかもしれないが、彼らは歴史の生き証人とも言えよう。

 

「奴には恨みがある。奴は俺達グールを目の敵にしている。グールの敵だ。それに便乗するタワーの連中もな!」

 

老人は話が長い。それはグールにも当てはまるのだろうか。ロイはタワーの入居を拒否され、グールという事を理由に差別を受けていた。その矛先がテンペニーに飛んでも仕方がない。

 

「何でここに固執する?D.Cのアンダーワールドは?あれなら大丈夫だと思うが?」

 

「アンダーワールドだと?!あんな埃臭い所によく行けるな!俺はごめんだ。歴史博物館なんかで生活していたら、ハイスクールの歴史の先生を思い出しそうで怖い」

 

その話を聞いてマイケルやベッシーは笑う。彼らもロイの意見に賛同しているのだろうか。

 

「そりゃね。私は戦後、グールになったけど、スムーズスキンが私たちに対して行っていることは最低よ。勿論、貴方達は違うけど」

 

「俺は・・・・そうだな、テンペニータワーにいる奴が全員悪いと言う訳じゃないけど。頂上にいる野郎がガロン並みの量の糞野郎だってことは分かるぜ」

 

「でも、あのタワーに冒険野郎“ダッシュウッド”がいるんでしょ!」

 

シャルはニコニコとまるで有名人の名前を言うようだったが悪い。分からないんだ。

 

「誰それ?」

 

「「「ええ!!??」」」

 

 

俺の発した疑問を聞いた三人は声を揃えて驚いた。まるで、俺が何か悪い事したと思うじゃないか。・・・・したのか?

 

 

「そりゃ、お前!冒険野郎のハーバート・ダッシュウッドだろ!?ウェイストランドで一番有名な男を知らないのか!」

 

「彼はグールのことを差別したりしないし、優しい博愛主義者なのよ」

 

「まさかな、知らないとは・・・・」

 

「何で知らないのよ!ユウキ!」

 

一人は驚き、一人は説明する。もう一人は驚いてそれしか言わず。そして親友の反応として、友の恥は自分の恥とでも言いたげな様子で怒る。いや、だって仕方ないじゃん。知らないんだもん。

 

「まあ、これを聞きゃ分かるだろう」

 

すると、近くにあったラジオの電源を付ける。すると、調節してあった周波数からキャピタル・ウェイストランドでお馴染みのあのDJだった。

 

(Threedogだぜ!驚いたかい!)

 

うん、驚いたよ。やっぱりアンタか!!

 

(じゃあ、今日のドラマを!・・・・皆聞いているかい!冒険野郎ダッシュウッドだ。今日の話は・・・)

 

ああ、本当なのか分からないような話をラジオドラマで流すアレか!確か、グールの相棒がいて中国拳法で裏切者の女の心臓を抉り取ってしまうんだっけか?

 

「ね、凄いでしょ!!」

 

と大はしゃぎで俺に訴えるシャル。皆でダッシュウッドの冒険話を聞いたシャルはまるで子供のようである。だが、何でグールに対して温和な方がテンペニータワーにいるのか。そして、そう言う人間が居るのに何で攻撃を仕掛けようとするのか。

 

 

「ロイ、これじゃあおかしくないか?関係ない人を巻き込むのか?」

 

「戦争にはいつも犠牲が付き物だろ?俺はアンカレッジに行ってきたが、中国兵は民間人に何するか知っているか?男は殺して女は凌辱される。何もしていない民間人がだ。それと同じさ」

 

どういうことだろうか。彼の切り札であるフェラルグールを失い、次は何を企んでいるのか。

 

「少し危険だが、もう一つ手はあるんだ」

 

「ロイ、その計画は危険だ。タワー全体を死体で埋め尽くすつもりか?」

 

「何!?」

 

俺はマイケルの言った言葉に驚いた。フェラルグールをタワーに解き放つ作戦も人道的ではない酷いものだったが、考えれば他にもプランがあるのは明白だった。

 

俺の声に呼応して、シャルの髪をといでいるベッシーが口を開いた。

 

「タワーには2つ地下鉄に通じる通路があるのよ。一つはタワー内部からじゃないと開かないけど、もう一つはタワーの換気システムと下水道が集まった区画に通じているわ。だけどそこには、重装備のセキュリティーとオートタレットが待ち構えている。そこを制圧して核物質を置いたらどうなると思うかしら?」

 

「タワー全域が汚染されるな・・・」

 

よく24時間でテロ事件を解決するものや高校生の天才ハッカーがテロ組織と戦うものがあるだろう。細菌兵器や生物兵器、毒ガスは換気システムの中枢に置かれれば全ての施設が汚染される。もし、タワーが放射能で汚染されれば住人は死を免れない。阿鼻叫喚の地獄絵図と成ることは確実だ。

 

「おいおい、犠牲になるのは住人だけだぞ。テンペニーはタワーがやられてもさっさとバニスター砦に逃げるだけさ。」

 

「それはどうかな。タワーに設置されたファンは3分でタワー全体を換気している。気づく間もなく死ぬのが落ちさ。」

 

「(good karma)関係ない人々を死なせるの。それじゃあ、ロイさんが見た中国兵と同じじゃない!」

 

シャルは言い、ロイは顔をしかめる。

 

「(speech65%) あんたがやっていることはその残虐行為をした中国兵と同じだし、反グールの奴等と同じじゃないか?」

 

「何だと!」

 

「奴等はフェラルも貴殿方グールの区別は付かない。じゃあ、あんたらも善人と悪人の区別は付くのか?」

 

「・・・つ、つくとも」

 

「付くのなら分かる筈だ。あんたは虐殺をしようとしている。戦争に行っているのなら、民間人を無差別に殺傷することはいけないことぐらい分かっているはずだろう」

 

「・・・・」

 

戦争では民間人が虐殺されるのなんて珍しい事ではない。有史以降人類が度重ねて行ってきた戦争の最中に起こる戦争犯罪。テロリストによる無差別爆弾テロも無抵抗な一般市民に被害を出している。この2つの共通点は無実の一般市民に被害を出している点にあった。誰しも恨みによって目先のことしか考えられない。仲間や家族を殺されたり、迫害された怨み。根元から無くすのではなく、その周囲にいるというだけで無関係なのに攻撃に巻き込んでいく。その怨みは近くにいるという理由だけで、「避けられない犠牲」「大を救うために小を犠牲にする」の言葉で片付けてしまうのだ。

 

ロイは暫く考えた後、マグカップに注がれたウィスキーを飲み強めにマグカップを置いた。

 

「・・・いいだろう。それなら、タワーにいる奴等の一部には関係のない善人がいるとしよう。だが、タワーには悪人がいる。貴様ならどうする?」

 

「・・・そうだな。悪人なんて何処にでもいる。肝心なのはいかに悪の根元を絶つかだろう。それも周りに被害を出さないやり方で」

 

俺はそう言うと、いただいた酒をちびちびと飲む。マグカップになみなみと注がれたウィスキーを喉に入れると、焼けるような感触がしてヒリヒリとしてくる。

 

俺が言いたいのは善人の犠牲を出してはいけないと言った。だが、悪人を殺すなとは一言も言っていない。

 

ロイは俺の言いたいことが分かったのか、頬の筋肉を動かして笑っているような顔をすると、俺の肩を軽く叩いた。

 

「そうか・・・、そう言えばお前さんは武器屋だったな?」

 

「・・・・後で銃を売れるようにしておきます。高いですよ」

 

「やつを殺すのなら金なんて惜しくないさ」

 

こうして武器屋の最初の顧客が出来た。

 

「そうそう、でもちょっとやらなきゃならんことあるんです。それまで待ってください。」

 

「どうした?何かあるのか?」

 

「一つ計画があるんです・・・・」

 

俺は手の内を明かすと「貴様も相当の悪だ」とロイは笑い、ウィスキーを注ぎ込んだ。だって、好きな人が命の危険に晒されたらこうするだろう?

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

その老人はベランダに置かれていた椅子に座り、戦前に製造されたワインを飲んでいた。彼の目の前には沈みゆく夕陽が見えていた。それは戦前から変わらず、太陽は戦前と同じように核融合して光輝いている。

 

「やはり、あのゴミの山は邪魔だな・・・」

 

老人はそう呟いた。老人の目に映っていたものは遥か遠くに位置する飛行機の部品を使って作った街、メガトンだった。多くの人が一生懸命営むその集落でさえ、その老人には滑稽に見えた。

 

なぜゴミの街に住むのか。それは問題ではない。彼の関心は何故これが自分のタワーから見えているのか、どうすればそれを消し去れるかである。メガトンにどんな人間が住んでいようかそれは問題ではない。しかし、消し去ることは出来なかった。

 

その老人とMr.バーグとはかなりの付き合いがある。と言っても友人とは程遠い。顧客と請負人という関係である。老人が金を持て余している時にMr.バーグが現れ、老人をキャピタル・ウェイストランドに連れてきた。そして、戦前からあるホテルを使用可能なまでに修復した。それから金持ちの道楽と言うような事をし始めた。妙なアンティークを集めたり、戦前のワインを買い占めたり、付近の傭兵を金で組織して「タロンカンパニー」を設立させるなど、今やウェイストランドを牛耳っていると言っても過言ではない。だが、メガトンでの一件でMr.バーグの行方は分からなくなった。

 

いっそのことタロンの連中を使って核を爆発させてしまおうか。

 

老人はそう考えたが、現在のウェイストランドの市場を考えると、タロンの信用を失うばかりか、顧客まで失うことに成り得る。只でさえ冷酷無比の残忍集団と名が通っているのに、これ以上のイメージ低下は避けねばならなかった。老人は考えを辞めてタワーからの眺めを見やる。

 

ガチャリ!

 

自室の扉が開き、招き入れる予定のない老人は驚く。だが、何時ものことだろうと思い、座ったままワインのグラスを傾けた。チーフ・グスタボがグールを片付けたのだろう。

 

だが、老人の勘は外れた。出てきたのは黒の重装備のSWATアーマーのような装備に身を包んだ男だった。ウェイストランドには流通していない特殊な装備で、見た感じはメタルアーマーに似せたコンバットアーマーとも見えなくもない。顔は東洋人だが、凛々しくも荒々しい感じを醸し出し、髪は短くしてある。左目の下に大きな傷痕があり、歴戦の戦士をイメージさせる。アーマーも所々傷ついているため、かなりの激戦を耐えたのだろう。

 

「招き入れる予定はないね。君は?」

 

「自分はメガトンで武器屋を営むユウキ・ゴメスです。覚えておいでですか?メガトンの爆弾解体した者です」

 

東洋人の男は深々と頭を下げる。まるで、戦前のセールスマンのように礼儀正しい。だが、身なりからすれば荒々しい感じの傭兵を思い起こさせてしまう。

 

「君が私の計画を失敗に追い込んだ男かね。まあ、君の技術は素晴らしいの一言に尽きる」

 

「お褒めの言葉ありがとうございます」

 

皮肉の言葉を東洋人は真に受けて、老人は頬をひきつらせる。自分の計画、実際はMr.バーグが考え付いたものなのだが、ウェイストランドでは長生き出来そうにない部類の人間だと老人は思う。

 

「しかし、それなりの代償はかなり受けましたが・・」

 

「ふん!・・・・」

 

老人は憤ったように鼻で笑うようにグラスのワインを飲む。老人は計画が破綻してMr.バーグが行方知れずになったあと、タロンカンパニーに抹殺依頼を依頼した。だが、報酬を貰おうとする傭兵の姿は見当たらない。そして、目の前に立っていると言うことは傭兵は殺されたと言うことだろう。

 

「抹殺依頼を取り消してもらえませんか?」

 

「残念だが断る。君が有能なのはよくわかった。だが、君の存在は私のビジネスに邪魔なのだよ」

 

老人は私情をビジネスに挟む男ではない。どんなに憎い男でも利用するのが彼と言う人物だ。一時は抹殺依頼を出したものの、すぐに撤回した。だが、問題の二人が武器屋をやるとなってから状況が変わった。武器だけを扱う武器屋や品質のよい物を売っている所はこの世界に多くない。だが、情報筋で彼らは品質のよい武器を売るとの事。さらにメガトンには傭兵が多数いる。その傭兵の装備が充実してしまえば、タロンカンパニーの需要は低下する。その為には、武器屋を排除しなければならないのだ。

 

「では、交渉は不成立ですか」

 

「うん、そうだね~・・・・。君を生かすメリットがあるかい?私にはデメリットばかり多い気がするが」

 

「なら、地下鉄でタワーの破壊工作をしているグールはどうします?彼らを片付ければよろしいので?」

 

 

「・・・・ほほう、続けたまえ」

 

老人は驚いたような顔をした。

 

「彼らを片付け、あなたのビジネスに干渉しないようにしましょう。」

 

「どのように?」

 

「(speech79%)品質が高ければ値段も高い。自分達の武器は高品質な物ばかり。果たして、メガトンの二流傭兵がそれを買えますか?」

 

「(成功)そこまで高い物だとはな。良いだろう。依頼は撤回しよう」

 

メガトンの傭兵は三流と言えないまでも、装備は貧弱である。それに比べてタロンは装備などが優れている。どれも戦前の軍事基地から略奪したものだが、武器の流通によってタロンの需要が落ちるのは避けねばならない。しかし、高品質過ぎる武器は売れようにも売れないのが現実である。

 

 

「(batter55%)契約書として書面にしてください。それと、ここのセキュリティーはタロンの精鋭兵でしょうから、司令に伝令を出してもらえませんか?」

 

「(失敗)伝令は無理だが、書面にしよう。司令には命令を撤回するよう連絡する」

 

伝令を出すのは無理だったが、戦前のコピー用紙を取り出して契約書を書いてサインを書く。それを書き、本人控えも作成して東洋人はバックから軍用の樹脂製のケースを取り出した。

 

「それは?」

 

老人はケースを指差して聞く。東洋人はテーブルの上にケースを置くと、鍵を開けて中から新品同様の拳銃を取り出した。それは、10mmピストルであったが状態が違っていた。スライドはシルバーに輝き、サイトも見やすい物に置き換えられている。傷も付いていないことから、かなりの値がつくことだろう。

 

「カスタマイズされた10mmピストルです。完全な状態の10mmピストルの三丁分の値がつきます。」

 

「・・・上物だ。君はやはり有能だよ」

 

「それは差し上げます。では、そろそろメガトンに戻らなければならないので失礼します」

 

東洋人は深々と礼をすると、ベランダから出ていく。

 

 

老人はさよならと言わずに東洋人が出るのを見届けた。

 

「今度の出資先は彼でもいいだろう」

 

老人は口を歪めて悪意に満ちた笑みを浮かべてワインを飲む。老人が金持ちの理由は稼げそうな人間を見つけて出資することが得意だった。タワーやタロンカンパニーもそれに当てはまり、最近では奴隷商の聖地であるパラダイズフォールズにも手を広げつつある。東洋人をも抱き込めば、キャピタル・ウェイストランドを手中に治めることが出来るだろう。B.O.S.は有限ある部隊をDC都市部と言う名の底無し沼に際限なく展開させている。弱体化した彼らに残されたのは崩壊と言う二文字だけだ。

 

笑みを浮かべつつ、バニスター基地と連絡できる衛星電話を手に取った。世界が荒廃していても、地球軌道上にある衛星は戦前と同じように回り続けている。軌道補正用の補助推進剤も自立型のプラットフォームとロボットによって今後も使用できる。

 

「ああ、君か?メガトンの一件だが、殺さなくていいことになった。部隊も送らなくていい。・・・・もう一人だって?ああそう言うことか。いや、殺さなくていい。言っておくが、殺すんじゃないぞ」

 

老人は通話を切ると、ケースに収まった10mmピストルを手に取った。

 

「やはり、彼は殺さないべきだな」

 

老人は銃を一通り撫でると、ケースにしまう。だが、老人はケースに二度と触れることはなかった。生暖かい血が10mmピストルに跳ねて周囲が赤い血に広まっていた。

 

遥か彼方から飛来したキャピタルウェイストランドには珍しい50口径弾が老人の頭に命中した。まるで、水風船が爆発するように大量の血が飛び散り、脳奬が辺りにばらまかれた。貫通した弾はコンクリートを直撃し、大きな弾痕を残す。

 

老人の名前はアリステア・テンペニー。悪名高き富豪の人生はあっけなく幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

私はジョン・ヘンリー・・・・ハハハ!Threedogだよ!驚いたかい!

 

ニュースをお届けしよう。今日の午前中、テンペニータワーを所有するアリステア・テンペニーが殺された。情報筋とタワーを警備しているチーフ・グスタボの話によると遠距離からの狙撃によって暗殺されたようだ。しかも、頭が爆発してベランダ一面に血が撒き散らされたらしい。同情するよ。誰にだって?掃除夫のことさ。

 

もう一つニュースだ。

 

明日、メガトンに新しい武器店がオープンする。そう、vault101の二人が作ったらしい。噂によると、ウェイストランドには流通しない武器を数多く取り揃えているらしい。確か、店の名前は・・・「Strange Weapon Shop」。他にも武器の修理もしてくれるようだ。これでメガトン周辺の治安は向上するだろうな。

 

さて、皆が大好きな曲を掛けよう。

 

 

 

 




最高記録更新二万字超えました。まあ、書きためていた物を放出しているだけなんですけどね。

※戦争犯罪を取り上げる部分を一部修正しました。自分の思う事と真逆な事が伝わってしまうのは辛いですねw



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十六話 outcast

女心って書くの難しい。

今回はシャル目線のものを書いてみました。


「うーん、やっぱり跡になったか。」

 

鏡の前に立ち、俺は自分の顔を見る。左目の下にくっきりと傷跡が出来てしまっていた。傷跡は男の勲章と言われるが、ここまで目立つとどっかのヤがつく人達みたいじゃないか。

 

「え~、でも傷跡残していた方がカッコいいよ」

 

髪をといでいるシャルは俺の顔を見て言う。vaultシアターにあった日本の映画を思い出したらしく、俳優の名前を挙げる。だが、シャルよ。それは、仁侠物のやつじゃないか。つーか、なんでそんな映画がvaultにあるんだよ。

 

「そうか?まあ俺はそう思えないんだけど」

 

「そう?まあいいじゃない。・・・・そろそろ時間よ」

 

「ん、ああそんな時間か」

 

pip-boyのデジタル時計を見ると、8時を過ぎていた。俺は地下室に行って適当な武器と弾薬をpip-boyに納めて外に出た。

 

「ブライアン、仕事だぞ!」

 

「はーい!」

 

子供らしい元気な声が二階から聞こえ、上を見げると「銃と弾丸」や「ニコラ・テスラ」、「伏せろ!」、「中国軍特殊作戦:訓練マニュアル」を抱えたブライアンが階段を降りようとしていた。

 

「うわ、昔のユウキみたい」

 

「おい、俺はあんなに本は抱えてないよ」

 

vaultにあった米陸軍の教本も読み漁っていたな。まあ、殆んどが電子書籍に成っていたりしたから、読むのに目が悪くなりそうだったが。

 

「ブライアン、そこにある弾薬箱を持っていくぞ。シャルはここに居てくれ。」

 

「え、私は行かなくていいの?」

 

「軍曹に会いたくないんでしょ」

 

そう言うと、シャルはテヘッ♪と言う感じに頭を掻く。手伝ってくれって言っても用事もないのに「用事がある」と行って逃げてたから最初から期待していない。はぁ~・・・。

 

「昼御飯は持っていくから」

 

「うん、頼んだ」

 

「行ってきます、シャル姉!」

 

俺とブライアンは店に行くべく玄関の扉を開けた。この頃、ブライアンはシャルを「お姉ちゃん」と呼ぶようになった。まあ、良いんだけど、俺にも「お兄ちゃん」と呼びそうになったので、「師匠」か「店長」と呼ぶように言い付けた。だって、血も繋がらないのに兄貴と呼ばれるのは何かこそばゆい。

 

「お兄・・・いえ、師匠。今日は客来る?」

 

「う~ん、どうだかな。お前は後ろの作業台で10mmピストルを解体してるんだぞ」

 

「うん、でも・・・」

 

「どうした?」

 

言葉を濁すブライアンに訪ねる。

 

「怖い人来ないよね」

 

「まあ、来ないよ。接客するのは俺だし」

 

重そうに持つブライアンから10mm弾の弾薬箱を取って俺が持ち、店の前に到着した。頑丈に施錠された扉の鍵を開けて、店内に入る。

 

「司令官殿、お帰りなさいませ!」

 

米陸軍の塗装を施されたRL3軍曹はまるで基地にやって来た将軍を迎える兵士のように俺を迎え入れた。

 

「泥棒は来なかったか?」

 

「いえ!何もありません!サー!」

 

俺は軍曹からの報告を聞くと、持っていた弾薬箱を店の奥にあるスチール製の棚に置く。カウンターの下の棚に使用頻度の高い弾薬と「緊急事態」に対応できるよう、10mmピストルを置いておく。

 

壁には中華アサルトライフルの他に米陸軍採用のアサルトライフルやこの世界にはないM4A1。解体して改造を施そうとしていたミニガンを作業台の上に置く。あたかも生前脳内で描いていた俺の武器庫である。

 

こんな理想の空間見ていると・・・・

 

 

「くっく・・・クハハハハハ!!」

 

「し、司令官!!?」

 

「うわ、師匠が壊れた!?」

 

ま、ともあれ店は準備万端である。一度店を出てから扉のプレートを“closed”から“open”に変えて店内に戻った。すると、一時間に5人位が訪れ始めた。

 

「この銃を修理して貰いたい」

 

「はい、アサルトライフルですね。修理は明日に成ります。費用はこの位ですね。ここにサインを」

 

「この銃は買えるのか?」

 

「ええ、損傷も少ないので250キャップです」

 

「うちの孫の銃を買いたいのですが」

 

「分かりました。32口径と10mm、どれがよろしいのでしょうか」

 

「これを売りたい!」

 

「中華アサルトライフルですね・・・・マガジンのバネが切れてますし、照準が壊れてしまっています。機構にはゴミが詰まってますし、ボルトリリースレバーが壊れています。マガジンレバーも折れてる。見る限りセレクターも折れてますね。これは100キャップ位ですね」

 

てな感じに客に懇切丁寧に話を進める。生前ファーストフード店でバイトをしていたためか、接客はお手のもの。

 

 

「師匠、すごい客ですね」

 

「まあ、Threedogのお陰かな」

 

その後、メガトン付近で展開している傭兵が訪れるなどカウンターにあるキャップを納めたレジは満杯になった。

 

「ブライアン、そこの空弾薬箱を開けてくれ。そこにキャップを入れる」

 

足元にはキャップを納めた弾薬箱やスチール箱が置かれた。もう、ウハウハである。

 

「はい、いらっしゃいませ」

 

「失礼するわよ」

 

聞こえたのは、女性の声だった。振り向くと濃緑色に塗られたコンバットアーマーに身を包んだ金髪の傭兵だった。

 

「私はライリー。DCでライリー・レンジャーって言う傭兵部隊を率いているわ」

 

「ユウキ・ゴメスです。見た通り武器屋ですが、どのような用件で?」

 

ライリー・レンジャーは生前の記憶を辿るまでもなく、メガトンに来てからもよく耳にする名前である。極悪なタロンカンパニーと対照的に良心のある傭兵部隊の一つ。その名前はかなりの知名度で知られていて、仕事の達成率も高い。限られた高い能力のある人間を雇用する部隊でもある。その彼らが来たと言うことは、俺が売る武器が彼らに使われると言うことだ。

 

「ええ、ちょっと武器を購入しようと思って。何かいいのあるかしら」

 

俺はそう言われ、脳内でリストを出す。それはこの世界に出ている武器の他にも、MODで使われた武器や既存のアサルトライフルを改造するパーツも含まれている。

 

「趣向は何がいいですかね?」

 

「アサルトライフルかショットガン・・・その二つ位ね」

 

俺はリストを絞る。残ったのはアサルトライフルとショットガンの二つのジャンル。そしてここから使用頻度と精密さ、そして戦場での整備等を考えた結果、こう至った。

 

「じゃあ、これは如何ですかね?」

 

テーブルに出したのはアサルトライフルとコンバットショットガンであった。しかし、普通の銃ではない。アサルトライフルの場合、銃身が交換され、20mmマウントレイルが装着されたR.I.S.タイプ。更に銃床もコンパクトな伸縮ストックに変えられている。これ等は軽量なアルミを使用したタイプで木製のストックよりも大幅な軽量化が計られている。ショットガンはドラムマガジンからバナナ型のマガジンに変えられて、木製のストックからアルミ製の折り畳みストックに変えた。両者共に照準には緑の蛍光が付いており、狙いが付けやすいのが特徴である。

 

それを見せると、ライリーは目を見開いた。

 

「これは・・・さすがthreedogが宣伝するだけあるわね」

 

これは誉め言葉だと思いたい。すると、ライリーは新しく交換されたストックやマガジンを確認する。

 

「ここには何かつけられるの?」

 

「ここには照準をぶれさせないようなハンドグリップやフラッシュライトを装着可能です。これがいい例ですね・・・っと!」

 

近くに置いてあった木箱から生前のアメリカ軍が使用していたM4A1を取り出す。それにはACOGサイトとハンドグリップなどが取り付けられ、弾さえ入れれば撃つことが可能だ。だが、肝心の弾の入ったマガジンは装填されていなかった。

 

「へぇ・・・グリップは買えるかしら?このスコープは?」

 

「まだこの銃は試作品のようなもんなんですよ。このアサルトライフルもここにレイルを取り付けてないし」

 

「これ、試作品なの?」

 

おっと、口を滑らせた。試作品と言うのは語弊がある。実地経験がない見たいじゃないか。実際、試験運転はもう済ませてあるし、乱暴にしても平気だ。故意で壊そうと思えば壊せるが、そうそう出来るものじゃない。改造銃第30号位だが、実戦には十分耐えられる。だが、照準の所にレイルを取り付けるのに手間取っているのは事実であるが、今から渡すのは照準の所にレイルを取り付けていないタイプである。疑念を払拭するため、彼女に言うと、なんとか分かって貰えたようだ。

 

「・・・そう言うことね。じゃあ、その二つは買うわ。幾らぐらいなの?」

 

「それがですね。ここまで魔改造すると、値段がどれくらいか分からなくなっていましてね」

 

正直言うと製作だけでざっと、二百キャップ以上つぎ込んでいる。アサルトライフルが完璧な状態で販売されれば300キャップは行くだろう。だが、カスタマイズしたタイプが500キャップなら俺だったら買わない。その費用は幾つかの失敗を経ているため、それなりの開発費と思えばいいだろう。だから、買うとなるとまた話は別である。

 

「じゃあ、無償で渡す代わりに使用した感想と改善点を教えて貰えませんか」

 

「つまりモニターにするってこと?」

 

開発者の俺が使用して、改善点が分かればそれでいい。だが、激戦地で戦う彼らのような人による指摘で今まで銃と言う武器は進化を重ねてきた。こんな、荒廃した世界でさえ、武器の改造は行われているのも現実だ。

「ええ、実戦には使えると確信していますが、後の感想を聞かせてくれれば新たな武器を製作可能です。それにそいつは折り紙付きの代物です。」

 

耐久テストも行ったところ、改造後の弾詰まりや銃身の歪みは元のアサルトライフルと比べて低い。木製のハンドガードによって熱がこもり、壊れる原因にも成っていた事もあって、カスタマイズしたお陰か壊れにくくなっている。ライリーは少し考えると、腕組みを辞めて言う。

 

「いいわよ。その代わり満足できない武器ならthreedogに悪評を言うから覚悟していてね」

 

「うぅ・・・善処しましょう」

 

一応、特殊な弾薬も欲しがっていたため、5.56mm徹甲弾を300発とホローポイント300発を10%割引して売った。ライリーはお買い得商品を買ってご機嫌な主婦のように鼻歌を唄いながら、店を後にした。

 

だが、これで製品化が出来る。

 

客足が途絶え始めると、俺はブライアンに言って一度扉に掛けた札を“closed”させ、足元にあるキャップを満杯にした箱を隠し部屋に持っていくよう指示した。pip-boyの時計を見ると、12時になっていたため、ブライアンにシャルから昼食を持ってくるよう言った。

 

「ふぅ・・・・。さてと、ブライアンがいない間に軍曹改造計画を進めるか」

 

「司令官殿、有り難き幸せ!」

 

そう、軍曹は軍用に設計されため、ある程度は汎用性がある。例えば、収納能力を上げるために弾薬を減らしたり、収納能力を下げて追加装甲を施す事も可能だ。ひとまず、作業台に載せられたミニガンを床に下ろして設計図を広げる。それはMr.ガッツィーの設計図で兵装の交換の際、重宝する。改造案としてはこんな感じである。

 

①案:火炎放射器からミサイルランチャーに換装。拠点攻撃に特化したタイプ。

 

②案:レーザーガトリングを装着して分隊支援として運用する。

 

③案:弾帯やポーチなどを装甲の外装に装着。収納能力の倍増。

 

④案:キャタピラを履かせて、収納能力及び武装の増加。

 

ボツ案:医療用の蛸足を増やし、医療用ソフトを導入。しかし、これだと医者(シャル)要らず

 

因みにやるなら④がお勧め。そして腕をガトリング二つでミサイルランチャー二つにしてガ●タンクにしてみたり。え?原型を留めてねぇだって?仕方がない。これが男のロマン!大艦巨砲主義だ!

 

 

ギィー・・・・

 

 

扉の音がして、俺は振り返った。多分、ブライアンがシャルに頼まれてvault-tecの弁当箱に何か詰めたのだろうと見る。だが、そこにはブライアンの姿はない。黒と赤を基調としたパワーアーマーの兵士がそこにいた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「えっと、どういうこと?」

 

私はやっとの事で出来た医療用のバックをテーブルに置いて言った。最近、ユウキの怪我が多いし、医者としての仕事が多い。そんなときにしっかりとした医療器具を持っていないと、十分に処置が出来ない。だから、モイラやメガトン診療所からメスやピンセット、モルヒネや抗生物質、スティムパックを用意した。だけど、せっかく作った医療バックをテーブルから落としそうになった。

 

「だから、黒と赤のパワーアーマーを着た男の人達と一緒にメガトンの外に出たんだってば!」

 

黒と赤のパワーアーマーと言えば、ウェイストランド全域で見掛けるB.O.S.アウトキャストだろう。以前、ユウキが核爆弾の解体した時に立会人として外で核弾頭に搭載されていた制御チップを確認した。だけど、彼らはユウキに何をしようとしているんだろう。

 

もしかしたら、ユウキの持つ技術を使って何かをしようとしているのだろうか。でも、なんでそれをしたのか分からない。

 

「ブライアン、店を見ててくれる?一人で出来なかったら酒場にいるウェインかモイラの店にいるジムに頼んで」

 

「お姉ちゃんは?」

 

ブライアンは不安そうな声を出して、私の顔を見る。私は膝を床についてブライアンを抱き締めた。

 

「大丈夫、ユウキを見つけたら直ぐに帰ってくるから」

 

もし、私がこの子の元へ帰らなかったらどうなるのだろう。ウェインやジムが店を続けてくれるだろうか。ブライアンはユウキから色々な事は教わっている。ここら辺のスカベンジャーよりも銃の扱いは良いはずだ。だけど、ブライアンを私のように辛い思いをさせたくない。

 

ブライアンの頬にキスをすると、家にあったロッカーからコンバットアーマーを取り出して着込む。ユウキからは顔を晒さないように、女だと分からないようにしろと言われた。いつも、ユウキが居たからvaultスーツだけど、一人で行動するときは女だと悟られないような装備にしなければならない。

 

コンバットアーマーを着こみ、ロッカーのハンガーに広げていたバンダナで口と鼻を覆う。ゴーグルをして、濃緑色のコンバットヘルメットを被る。これで顔は分からない。最後に、背嚢に一日分の食糧と弾薬を詰めて準備は出来た。

 

「ユウキ、待ってて」

 

私は呟いて、愛用しているTBレーザーライフルを手にとって家のドアを開けた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「なあ、あとどれくらいなの?」

 

「もうすぐだ」

 

「だから、時間は?」

 

「少しは黙って歩け。ウェイストランド人!」

 

とパワーアーマーを来た後ろの兵士がどやし立てる。おい、こっちは客人だぜ!もう少し、礼儀ってもんがあるだろうに。

 

だが、彼らに俺への礼儀は無用と思っている限りこの待遇は続くだろう。B.O.Sは元々閉鎖的な社会であり、D.C.都市部で活動するエルダー・リオンズ率いる部隊の中でもごく少数だが差別的な態度を取る者もいる。それはテクノロジーや兵器の優位性からか、各兵士の傲慢な態度を引き出しているのだろう。B.O.Sアウトキャストも例外ではなく、リオンズ率いる部隊よりもそれは強い。人命よりテクノロジー確保に動いたアウトキャストの方がカリフォルニアの本部の意に沿ったものだろうが、人としては失格ではないだろうか。

 

だが、その俺は彼らアウトキャストに付いていっている。彼らの下働きはしないのだが、一応「キャップは払う」と言っているのでついてきてしまった。まあ、ブライアンもシャルも軍曹も居るから大丈夫だとは思うが。

 

「で、俺は何を修理すればいいんだ?」

 

「光学機器を幾つか。それと、ミサイルランチャーを量産したい」

 

「ミサイルランチャーをですか?・・・・出来ない事は無いけど。只の誘導性能のない発射筒になるけど、それでよろしければ」

 

「な、なんだと・・・!」

 

俺の言ったことに反応したのか、いきなり俺の肩を掴んできた。

 

俺、何かやった?

 

「いや、だから!大戦後には殆んどのミサイルランチャーは誘導装置が故障して、ウェイストランドじゃロケットランチャーとして運用されています。だから、ミサイルと同じ筒を量産して、推進剤に点火できるようにすれば簡単に生産が可能です」

 

「そうか・・・・、スクライブの野郎!ふざけやがって!」

 

パワーアーマーの兵士は憤ったように悪態をつき、また歩き始める。

 

キャピタル・ウェイストランドには米陸軍が使用していたミサイルランチャーが多く使われている。その殆んど、いや全てと言ってもいい。ミサイルを誘導するコンピューターが壊れているのだ。戦場ではロケットランチャーとして使われる事が多い。本来なら、地対空及び地対地ミサイルとして運用が可能な米軍が誇る汎用ミサイルランチャーだったが、唯一の欠点として搭載される誘導コンピューターが壊れやすかった。アンカレッジでも、専ら誘導コンピューターが故障して使い物にならないとして一般将兵が抗議したことがあるくらいだ。その後も改良型が出回るがD.C.には、改良型は出回っていない。

 

もしかしたら、パワーアーマーの兵士はスクライブに嘘の情報を握らされているのかも知れない。

 

「おい、ジェンスキー。もうすぐフェアファクスだ。声を潜めろ」

 

フェアファクス廃墟と呼ばれるビルの残骸はメガトンの目と鼻の先にある廃墟である。近くには米陸軍の基地があるものの、基地はアウトキャストの本部となり、フェアファクス廃墟はレイダーが屯している超危険地帯だ。日中はレイダーとアウトキャストの戦闘で夜は互いに牽制し合っている。

 

無駄な戦闘は無意味と判断したアウトキャストの分隊長は声を潜めるよう指示し、他の兵士はそれに従った。俺は何があるか分からないため、持っていたM4A1の弾倉を確認する。アサルトライフルを持って行こうとしたが、目の前にあったM4A1を何故か持っていきたくなり、日帰りの装備でアウトキャストの分隊に付いていっている訳だが、メガトンの方向を見てあのごみの山のような集落に帰りたいと思った。僅かしかいないものの、「住めば都」と言うようにメガトンにも多少の愛着はあった。

 

 

分隊は無事何も攻撃を受けることなく、ファークス廃墟を抜けてアウトキャストの司令部であるインディペンデンス砦が見えてきた。正直言って、エルダー・リオンズから“独立”したアウトキャストにはお似合いの施設だろう。

 

「キャスディン護民官、彼を連れてきました。」

 

「ご苦労だった。分隊は1300時より休憩に入れ。」

 

パワーアーマーを着た兵士達は護民官に敬礼すると、基地の中へ入っていく。一人残された俺はキャスディン護民官と対峙する。

 

「君がメガトンで武器屋をしているユウキ・ゴメスかい?」

 

「ええ、そちらはB.O.Sアウトキャストのキャスディン護民官殿でよろしいかったでしょうか?」

 

俺は何時もの敬語口調で話すと、キャスディン護民官は驚いた。

 

「ほー、君は他と比べてまともなのだな」

 

いくら堪忍袋のでかい俺でも見下した言い方はかなり腹が立つ。

 

「アウトキャストは十分に統率が取れていますね。流石はキャスディン護民官。ただでさえ、兵力の少ないのに無茶をするものです」

 

明らかにキャスディン護民官は痛いところを付かれたに違いない。ヘルメットで顔色は分からないが、いらだっているのは明白だ。

 

「なぜそれを?」

 

「ただでさえ大陸を横断した猛者ばかりで、全ての戦力を投入できれば都市部を制圧可能なのに、アウトキャストが離反してからB.O.Sは崩壊寸前。補給も送られず、現地調達の兵器と現地で志願した兵士達を投入するまでに至っている。元はと言えば、エルダー・リオンズと袖を別ってしまったことが原因では?」

 

「補給はリオンズが方針を変えた事に始まる。元々、我々はテクノロジーを保全することが任務だった。それなのに、奴は野蛮なウェイストランド人を守る方が必要だと言った。バカな奴だ。司令部からの補給が途絶えるに決まっているだろう」

 

「まあ、そうでしょうね。でも、貴殿方が居なくならなければ、D.C.都市部は制圧でき、三つ巴の戦いに戦力を投入せずに済んだのでは?」

 

「それはそうだが・・・」

 

「一時的に住民の味方をすれば兵力を現地兵から補うことは可能です。それに、大陸横断して補給品を届けられるでしょうか?戦略的に人員や物資の補給が難しいこの地でウェイストランドの救済と言えば人員はある程度集まるし、傭兵を戦力にすることも可能です。人道的な意味合いも持ちますが、政治的な意味合いも兼ねていたらどうです?」

 

実際、エルダー・リオンズが只の人道的な行いの為に司令部からの補給を蹴ったとは到底思えない。大陸を横断してのテクノロジーの回収は意義があるように思えるが、補給がそう簡単に出来る訳がなかった。補給の脆弱さを鑑みても、ウェイストランドを救済する方がメリットが大きい。人員は集まるし、ウェイストランド人の受けはいいだろう。それに比べて、元々の大義の為にテクノロジーの回収を行うアウトキャストの受けは悪い。

 

「ディフェンダーでさえ、大義を棄てたと子供のように騒いでいるのに、君はそう言う観点から物を見るとは侮れんな」

 

キャスディン護民官は苛立っていたような言動から一変して感心したようである。、護民官は俺についてくるよう言った。

 

「他の隊員にも君が来ている事は言っておいた。地下の研究所に案内しよう」

 

キャスディンはヘルメットを脱ぐと、基地内の扉を開けて進む。キャスディンは50過ぎのおっさんであった。エルダー・リオンズも60過ぎの高齢者だ。それにタメを張れるにはそのぐらいの年齢じゃないと無理だろう。

 

基地内を進み、地下の階段を降りると、赤いローブのような服を着た科学者が何かの研究に熱中している。

 

Brotherfood of steelは幾つかの階級があり、イニシエイト(訓練生)やナイト(戦闘兵士)、スクライブ(科学者)、パラディン(戦闘指揮官)、エルダー(将軍)がある。元々、青いローブを着るのはスクライブだったが、アウトキャストになったスクライブは赤色のローブを着ていた。アウトキャストの階級もリオンズ傘下の部隊と別けるために、階級名を変えていることもあるが、長年言っていた階級をそう易々と変えることはできなかった。研究所の上に作られた連絡橋を歩き、武器開発室と書かれた部屋に入る。

 

「護民官!どういうことですか!私はウェイストランド人が欲しいなんて言ってません!」

 

出てきたのは黒髪で肩まで掛かる長い髪。そして眼鏡を掛けた女性がいた。そんな、インテリ系であるにもかかわらず、手には姿に合わないミサイルランチャーが抱えられていた。

 

「私は言った筈だぞ。一週間進展がなければ、技術をもつウェイストランド人を連れてくるって。それなのに、どういう事だ?ミサイルが真っ直ぐ飛ばないミサイルランチャー・・・・いや、ミスランチャーか。そんなの作って何をしろと言うんだ?」

 

「あれは誘導装置を復活させようとしたら、なんか下に落ち始めたんです」

 

「私は戦いに使えるミサイルランチャーを量産しろと命令した。断じて、使えない物を作れと命令した訳じゃない。」

 

「わ、分かってますけど・・・・」

 

「分かるなら、彼と共にミサイルランチャーを量産できるように考えろ。劣化版でも構わん。何でもいいから作れ!」

 

部下を叱る上司のようにキャスディン護民官は顔を真っ赤にして研究所を出ていく。俺はそれを遠目で見守るが、怒鳴られた本人は溜め息を吐く。

 

「・・・・はぁ~。で、そこのウェイストランド人!名前は!」

 

「ユウキ・ゴメスです」

 

「へえ・・・Threedogが言っているほど、強いようには見えないけど。むしろ弱く見えるわね」

 

こいつ、初対面でいきなり俺を貶すとか舐めてんの?こいつ?最初のキャスディンといいコイツといい・・・・ウェイストランド人を舐めてんな。

 

「よく言われます」

 

「じゃあ、ゴメス。これが何だか分かる?」

 

いきなり名字を呼び捨てされてイラッと来たが、そこは押し殺して、指を指した物を見る。それはアメリカ軍が使用していたレーザーライフルだ。

 

「AER9型レーザーライフル、米軍が使用していた傑作光線小銃だ。旧式だが、構造も簡素で整備も楽。新型のAER11はレンズの耐久性が悪く、旧式を多く使っていたな。確か、アンカレッジ戦線の時に特殊部隊が多く使用していた。俺としちゃ、実弾の方が好きだけど」

 

「よく知っているわね」

 

あっさりと答える俺に驚いたようで彼女は眼鏡を指で上げ下げする。

 

「じゃあ、このミサイルランチャー・・・。生産するならどうするのよ」

 

「俺なら誘導装置は諦めて・・・」

 

「アンタ、バカァ?それじゃあ、ミサイルランチャーの意味ないじゃない!」

 

「殆んどのミサイルとして運用されてないけどな」

 

どっかのドイツ生まれの大卒中学生を思い出すが、それは置いておこう。

 

「待て待て、どっちにしろオリジナルのミサイルランチャーなんてすぐ誘導コンピューター壊れるんだし。だったら、最初から搭載しなければいい。その方が低コスト。」

 

「・・・・どうすんのよ」

 

俺は咳払いをして説明する。

 

「ゴホン!・・・まず装填やこのでかい図体。こんなのは戦場では邪魔その物。パワーアーマーを着ればそんなでもないかもしれないが、一般歩兵が携行するには大きすぎる。・・・そこでだ!こう考えた」

 

近くにある黒板に簡素な図面っぽいものを書いていく。

 

「只の筒で構わない。まず、アルミニウム製の筒を用意して簡易的な発射機構を作る。とにかく簡素化でトリガー部分は残しておくが、グリップは折り畳みにする。で、ここから発射するわけだが」

 

「これじゃバックブラストはどうするのよ。閉めたまま?」

 

バックブラストと言うのは、俗にいう噴射炎である。中東でテロリストが使用するRPG-7が良い例でロケットを発射すると、燃焼材が燃えて後ろから出てくる。しかもある程度それを逃がす長さの物がないと、使用者自身の身体に掛かる。

 

「心配ない。これは使用するときに伸縮して30cm大きくなる」

 

「伸縮するの?!それなら・・・」

 

「多分、再装填とか出来ない。筒の耐久性の問題で一発ポッキリで終わりだと思う。」

 

因みにこれはとある武器をイメージしている。今でもアメリカ軍が使用していた対戦車ロケット「M72LAW」だ。MGSPWに出てくる筈だ。1950年代に開発されたLAWはベトナム戦争に使用されて敵の装甲車や援兵壕を破壊するのに使われた。現在でも、一部の装甲車両に対して使用でき、未だに第一線で使用されている。

 

「一回しか撃てないのね・・・。でもこれなら量産は可能よ。設計図は出来るかしら?」

 

「一から書くのは初めてだが、出来るだけやってみよう」

 

でも、待てよ。それって俺がやるんだよな。この女はやんないのか?

 

「私は無理よ。専門は光学機器専門なのよ。ミサイルランチャーの設計なんて無理に決まっているじゃない!」

 

「じゃあ、何で護民官から命令受けてんだよ!」

 

「それは・・・誰も居ないわけだし」

 

アウトキャストに来たのは、殆んどが兵士などで科学者が少ない。その中でミサイルなどの推進剤を燃やす兵器を得意とする人間が居ないため、彼女に命令が回ってきたのだと言う。

 

「だって仕方がないじゃない。しかも、キャスディンのジジィは私にミサイルランチャーを量産しろって言うのよ!レーザーライフルやピストルならともかく!あの残り少ない髪をレーザーで根こそぎ剥いでやりたいわ!」

 

と彼女は愚痴を溢し、基地に残っていたインスタントコーヒーを作って飲んでいる。

 

「あなたにもあげるわ。まあ、カルフォルニアのよりは不味いけど」

 

「どうも」

 

マグカップに注がれたインスタントコーヒーを飲む。物凄い苦味が口に広がり、苦さのあまりむせそうになる。

 

「慣れてないとそうなるわね。・・・でも、あなたvaultに居たんでしょ?合成コーヒーとかなかったわけ?」

 

「あったけど、ここまで苦いのは無理。俺はミルクと砂糖を入れてたから」

 

「へぇ~、私はいつもブラックよ」

 

と眼鏡をかける彼女はマグカップに注がれたコーヒーを飲む。そう言えば、名前聞いていなかったな。

 

「あのさ、名前は・・・」

 

「クロエで良いわ。でも、あなた喧嘩でもしたの?」

 

「誰とだよ?」

 

「決まっているじゃない。相方の・・・いや、嫁の・・」

 

「よ、嫁って!」

 

いやいや、まあそうなりたいってのはあるけど!今はその幼馴染みって言うか!親友以上恋人未満という関係なのか!?

 

「・・ププ!顔真っ赤にしちゃって!可愛い!」

 

とクロエは歳相応にはしゃぎ、俺を指差して笑う。見た目からして俺と同じぐらいである。

 

「う、五月蝿い。喧嘩はしてないよ。護民官の部下が俺を呼びにメガトンの店まで来たんだよ」

 

「何で彼女はこなかったの?」

 

「彼女って・・・・、まあ声掛けなかったし」

 

そう言うと、クロエは驚いたように目を見開いた。

 

「あなた、彼女に声も掛けずに出てったの?心配してんじゃない?」

 

「いや、大丈夫じゃないか。完全重装備のB.O.S.の兵士に囲まれて行ったんだから」

 

「バカね、あの兵士達に連れ去られたって思うわよ。それでなくても、私達アウトキャストはここの人達から嫌われているんだから。」

 

「そうだよな~・・・。一回戻るべきかな」

 

「戻るべきね。まあ、これで婚約解消なら笑い話になるけど」

 

「だから婚約って・・・まあ、そうだよな~」

 

婚約はともかくとして、喧嘩別れもあり得る。些細な事で喧嘩して別れることなんて友情関係や・・・恋人関係も崩れることもある筈だ。ウェイストランドでだって例外ではない。それなら、急いで帰る必要があるだろう。

 

「俺は帰っても大丈夫なのか?」

 

「良いわよ、明後日にディフェンダークラスの兵士を送るから。貴方は早く帰らないと帰る家が無いわよ」

 

その通りである。

 

だが、なぜ彼女は俺に優しいのだろうか。しかも、そこまでウェイストランド人を毛嫌いしていないのか?

 

「バカね、私達の組織は実力主義よ。私達よりも技術や知識がある人間には誰であろうと敬意を抱かなければならないわ。例え、荒野で生きる野蛮な人間であってもね」

 

 

「ふ~ん、そういうものか」

 

「そう、護民官だって最初はあなたが本当に信用できるか、知識を持っているか疑り深かったのよ」

 

部外者を招き入れる事はそれなりに危険を伴う。だから、疑り深くてもそう大したことじゃない。俺はB.O.S.が実力主義であったことに少し驚きつつも、マグカップにあるコーヒーを口に含めた。

 

「ほら、早く行かないと彼女奪われるわよ」

 

俺はマグカップに注がれた苦すぎるコーヒーを飲み干して研究所を出ようとする。しかし、部屋を出ようとするとき、とある機械に目が行ってしまった。

 

「おいおい、何でこんなところに!!」

 

俺は叫んだ。

 

リンゴのマークが付いた音楽機器に日本製の黒光りする携帯ゲーム機・・・・。それは生前俺が使っていたウォークマンに携帯ゲーム機であった。近くには俺がいつも使っていたバックパックがあり、中に入っていた電子機器は机の上に並べられていて、今にもスクライブが来て解体しそうな勢いだ。

 

「クロエ!あれは何処で見つけた?」

 

「ん、あれ?この前倉庫の奥で見つけたの。余り見掛けないテクノロジーよ。軍事用じゃないから、あんまりスクライブは手を出してないわ・・・。見てみる?」

 

「もちろん」

 

自分の持ち物である。出来ることなら、持って帰りたい。だが、自分の物だと主張しても200年も前の物品だ。確実に無理な話だが。

 

「なあ、これさ俺に・・・」

 

「ダメ!」

 

「そこをなんとか!」

 

断固としてウンと言わないクロエ。俺は何とか彼女を頷かせようと、交渉する。

 

「頼む!軍事用じゃないから良いじゃないか!」

 

「軍事転用できるテクノロジーかも知れないでしょ!ダメよ!」

 

睨みあう俺とクロエ。まるで目からレーザーが出て、目と鼻の先で火花が散っているように睨みあった。だが、それを止めたのは多くの足音だった。金属が擦り合う音が通路に響き渡り、俺とクロエは睨み合うのを辞めた。

 

「どうしたの?」

 

「フェアファクスでレイダーの奴ら一大攻勢に出やがった。戦闘要員は急いで外に上がれとの命令だ!」

 

パワーアーマーの男は武器庫からミサイルランチャーをひっつかみ、ミサイルを入れた弾薬箱を抱えて連絡橋を走り抜ける。俺はそれを他人事のようにみる。だって他人事だし。

 

「クロエはここにいろよ。どうやら、どっかのキャラバンも巻き込まれたらしい。傭兵が一人トライビームレーザーで応戦している。長くは持たないだろう。」

 

え、今の兵士は一体何て言った?

 

「傭兵?」

 

俺の問いかけが聞こえたのか、パワーアーマーを着た男はレーザーライフルのマイクロ・フージョン・セルを幾つか取り出しながら答えた。

 

「ああ、顔を隠しているが・・・俺の勘じゃあ、ありゃ女だな」

 

「なんで分かるの?」

 

とクロエも疑問に思い声をかけた。

 

「雰囲気と言い、走り方は女っぽい。射撃の腕は良いが、押しが悪い。さっさと行かないと、分隊長に怒られる」

 

一瞬俺はシャルの顔を思い浮かべる。俺はこの前、一人で行動するときは女には見えないような格好をしろと注意しておいた。出来るなら顔も隠しておけば言いとも。それにシャルの使っていたのはトライビームレーザーライフルだ。かなり希少だが、性能はピカイチ。それに傭兵があれを使いこなせるとは思えん。

 

兵士はさっさと荷物をまとめて武器を持って立ち去った。すると武器庫にいるのは俺とクロエの二人になった。

 

俺は部屋の隅に置いていたM4を拾い上げ、機構のチェックを行い、装着していたACOGサイトの調整を行った。

 

「え、ゴメス。どこ行くつもり?」

 

突然の俺の行動にクロエは驚いた。

 

「今から俺も加勢する」

 

「え!・・だったら今のうちに逃げ・・」

 

「襲われているのは俺の親友だ!」

 

シャルとはずっと一緒にいた幼馴染みだ。親友でもあるし、ここまで生きてこられたのだって彼女のお陰だ。それに、俺としては一歩先に進みたい気持ちはあった。

 

すると、クロエはバカにしたような笑みを浮かべると、武器庫から5.56mmの弾薬と308口径のライフル弾。そしてスナイパーライフルを取り出してきた。

 

「これも必要よ。市街戦ではスナイパーライフルは頼りになるもの。」

 

後で返してね、とクロエは付け足す。俺は感謝の言葉を言い残し、渡されたスナイパーライフルを背中に掛けて走る。

 

「頼むから間に合ってくれよ・・・!」

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※

 

 

20分前・・・

 

「いや~・・助かった。傭兵の数が少ないから、探していた所だったんだ。本当に助かった」

 

キャラバンの責任者である少し痩せた黒人の商人は私に言う。私の後ろと前には荷物を満載したパック・バラモンが4頭いる。そしてそれを守るかのように私を含めた4人ほどの傭兵が周囲を警戒する。とはいえ、ここらではアント位しか姿を現さない。レイダーやスーパーミュータントはもっと北の方にいるためここら一帯は安全地帯なんだけど。

 

「いえ、こちらも仕事を探していたところだ」

 

妙な言葉遣いと少し高い声に若干の違和感を覚えた商人であったが、薮蛇に噛まれることを恐れて言及はしない。顔はバンダナで口を覆い、ゴーグルで目を隠しているため、不審に思われるかも知れないが、女だと分かれば何をされるか分からない・・・というのがユウキの考えなんだけども、傭兵の中にもレーザーアーマーにコンバットショットガンを携えた女の傭兵もいる。そこまで、隠さなくてもいいんじゃないかと思ってしまう。

 

「なあ、エイザ。カンタベリーコモンズに寄ったら・・・」

 

「嫌よ、あなたは下手なんだもの。クリスの方がよっぽど上手よ」

 

「キース、女の扱いをもっと知っとけ」

 

何やら下世話な話が聞こえる限り、その女の傭兵は開放的なんだろう。身体の事に関しては・・・。

 

私はそういった経験がないからよく分からない。だけど、vault schoolで又聞きした事はある。OOは下手で××は上手いだとかどうとか・・・。私も“運命の人”に会えばそう言うことをしたくなるのかな?

 

立ち止まり、少し考えてしまう。

 

私は異性の顔を思い浮かべると、ふとユウキの顔を思いだしてしまった。

 

えっと、そのなんだろう?それはユウキはいつも一緒にいるし、もう家族みたいなものだけど・・・あれ?そう言えば、この前、一緒のベットで抱きついて寝ちゃったよね?

 

私の顔はまるで火炎放射器で焼かれたように熱くなり、胸の奥が締め付けられるように痛む。

 

「おい、どうした?置いてくぞ」

 

我に帰ると、目の前にはメタルアーマーを着た傭兵が心配そうに私を見ていた。

 

「だ、大丈夫だ!も、問題ない!」

 

「噛み噛みで問題ないなら・・まあいいんだけどね」

 

「!」

 

私は口を押さえるが、もう言ったことは変えられない。ため息をつくと、トボトボとパック・バラモンの横を歩く。

 

赤い肌に頭が2つあるバラモン。元々、牛であったのだが、放射能の影響なのか頭が2つ生えている。人間でも、一卵性の双子で身体がくっついている症例もある。だけど、バラモンの場合はちょっと違う。生まれてくるすべてに頭が2つある。しかも、解剖すると、二体分の胃や内蔵があり、放射能を除去する牛乳まで出してくれる。糞には濃縮された放射能の塊があって、ユウキはそれを兵器にも出来ると冗談半分で言っていた。けれども、放射能を武器とするものは沢山ある。ユウキじゃなくても他の誰かが作ることもあり得るかもしれない。

 

医学的に放射能で変異することはあり得ないのだ。だけど、元にそうなっている。これから、色々な所に行ってお父さんを探さなければならないけど、色んなコミュニティーを巡って、科学者がいるに違いない。その時、何か聞けるかも知れなかった。

 

「ふぅ~・・・まったく、アウトキャストの野郎共は金払いはいいんだが、態度が酷いもんだ」

 

「本当、あの自称エリートでしょ?レイダーよりか幾らかましだけど、頭がイカれてるわ」

 

この大規模なキャラバンは全てアウトキャストの司令部へ行くらしい。全てがそうではないらしいけど、パックバラモンの荷物には戦前のコンピューターや米陸軍の刻印がされた部品があった。人手の少ないアウトキャストは商人を雇ってテクノロジーの回収に当たっているようだ。

 

「ん、あれは?」

 

キースと呼ばれる傭兵が指差す先には黒と赤の塗装を施したパワーアーマーを着た二人の兵士だった。持つ武器はレーザーやミサイルランチャーで、彼らに襲われれば、ひとたまりもない。だが、彼らは商人の商売相手。味方であれば、とても頼りになる兵士達だ。

 

「アウトキャストだね。レイダーの様子はどうだい?」

 

「ああ、フェアファクスの掃討が完了した。街に入っても大丈夫だぞ」

 

「ええ!レイダー共を片付けたんですかい?よかった。これなら、最短距離で基地の方へ行くことが出来ますよ」

 

商人によると、フェアファクスにレイダーが潜伏しており、数は一個中隊にも上るらしい。だけど、アウトキャストは手をこまねいているらしく、掃討することが出来なかった。理由としては人員の補給がないためらしい。

 

「これなら良いものが作れそうだ」

 

「そうでしょう。旧衛星施設から持ってきた代物です。キャスディン護民官に言っておいてください」

 

「ああ、そうだな。行っておこう。そのまま遠回りせずに真っ直ぐ行け」

 

アウトキャストの兵士を通りすぎようとした時、一瞬だけだが、首の所から血が流れているように見えた。乾ききっていて、塗装で隠れていそうに見えるが、日光の反射でそこに何かが流れていた痕が見えたのだ。そう、不審に見ると、彼らのレーザーライフルも整備されているようには見えない。そして、彼らの対応も少し変だった。

 

「アラン、少しあの兵士すこし変じゃないか」

 

私は多少なりとも男のように喋る。商人の名前はアランと呼ばれるここら辺では名前が通る商人だ。私はそう言うと、心配しすぎと言わんばかりの笑顔で私を見る。

 

「アウトキャストなんてのはそんなもんさ。見ず知らずの君を見つけて幸運だったようだ。君は医術が出来るから、これからも宜しく頼むよ」

 

私はその台詞で言葉を詰まらせてしまう。そもそも、私は傭兵に成るつもりはない。父を捜すのに傭兵になるなんて考えたことはない。多分、お父さんは反対するだろうし、ユウキもウンとは言わないだろう。彼らと一緒にいるのだってユウキを探すために、護衛の仕事を引き受けたのだし・・・・。

 

「・・・・本当にレイダーを殺したんだな。見ろよあれ」

 

クリスと呼ばれる傭兵が言う先にはレイダーと思われる死体が倒れていた。無駄に露出が多い継ぎ接ぎのアーマーにトゲトゲの肩パッドが付いていた。そして、どっかの消防署跡から拾ってきたに違いないマスクを着けていた。死体は二つあり、十字路の真ん中に転がっている。

 

「ったく、こいつらのせいでえらい目にあったんだ」

 

クリスは履いていた革靴で死体の頭をこづく。私は周囲を警戒するが、不審なものは見あたらない。周囲には動かなくなった核エンジンを搭載した車が横倒しになっていた。

 

「この通りからまっすぐ行けば下り道に出る。そこの死体をどかしてくれ。クリス」

 

「はいはいっと」

 

傭兵は面倒臭いと言わんばかりの表情でレイダーの腕を掴み挙げて引きずろうとする。だが、その身体を持ち上げたその時だった。

 

パキンッ!

 

まるで金属製の物が外れるような音だった。それは身体から離れたと同時に地面に転がる。それは破片手榴弾。ピンを抜いた状態で死体に隠され、安全レバーが外れるのを待っていたのだ。

 

「グレネード・・・・っ!!」

 

叫ぶと同時に手榴弾は起爆し、叫んだクリスは爆風によって吹き飛ばされる。すると、今まで隠れていたのか、様々な武器を持ったレイダー達が襲いかかってきた。ある物は破壊された建物の窓枠からライフルでこちらを狙い、バットを持ったレイダーはこちらに突撃してきた。

 

「罠よ!来た道を引き返して」

 

エイザの叫び声を聞いて、私は後ろに下がろうとするが、パワーアーマーを着た兵士二人がこちらに銃を向けていた。彼らはアウトキャストの兵士ではなく、兵士から奪ったパワーアーマーを着たレイダーだった。

 

私は一瞬死を覚悟するが、カチ!っという音のみが響く。

 

「クソ、何で撃てねぇんだよ!畜生!」

 

しめた!

 

私はガンベルトにくっつけていたプラズマグレネードの起爆ボタンを押すと、パワーアーマーを着たレイダーめがけて投げつける。爆発する前に私は小道に走り、爆発する瞬間を見ずに遮蔽物に身を隠す。

 

「畜生!なんでこんな事に・・・・がは!」

 

悪態をついていた商人のアランは飛んできた308口径弾が胸に直撃し、うめき声を出しながら地面に倒れた。私はパックバラモンの影に隠れる傭兵を呼び、レーザーの引き金を絞り、レイダーを灰にした。

 

 

「こっちだ!早く!」

 

私は叫び、レーザーライフルを撃つ。すると、銃火から逃れた二人の傭兵が走り込んできた。

 

「くそ!アランが殺られた。誰が給料払うんだよ!」

 

「キース、叫ばないで。この道沿いを行けば外に出られるわ。キースが先導して。」

 

「ああ、・・・さっきはありがとな新人」

 

私の肩をたたくキースは持っていたアサルトライフルのマガジンを交換すると、通路を歩く。私は後衛に付き、後ろから迫るレイダーを撃っていく。

 

「この建物に籠城するぞ!」

 

キースは扉に入ろうとするが、正気の沙汰とは思えないとばかりにエイザは彼を罵倒した。

 

「バカ!ここに残ったら殺されるわよ」

 

「囲まれてんだぞ!こうするほか・・・」

 

とキースは言おうとするが、男の目の前にある扉が勢いよく開く。そこにはバラモンの頭蓋骨で作ったヘルメットを装着したレイダーで手には銃剣が付けられた中華アサルトライフルがあった。

 

「jesus!」

 

誰に祈っても結果は変わらなかった。レイダーは銃剣を男の喉仏に突き刺した。近くにいたエイザは素早く、コンバットショットガンの引き金を引いて、レイダーの頭を吹き飛ばした。

 

「キース!!」

 

銃剣を刺されたキースは首から吹き出す血を止めようと両手で押さえている。私は建物の中が安全なことを確認すると、急いで彼を中に入れた。

 

「キースを助けて!!」

 

彼女は私に懇願する。私はモルパインを彼の太股に刺し、痛みを和らげると、持ってきていたスティムパックを首筋に打ち込む。若干出血は止まり、追加でスティムパックを刺した。二本も打ったお陰で傷口は辛うじてくっついたものの、大量に出血したお陰で顔は青白く、唇は紫色だった。

 

一応、応急処置はしたものの、レイダーがすぐに来るだろう。その前に以上に気付いたアウトキャストの兵士達が来なければ殺されることは目に見えていた。

 

そう思ったら、案の定数人の足音が近づいていた。

 

「ここは私が封じ込めるから、上から奴等を減らして!」

 

エイザは近くにあったガスコンロを移動させて扉に置く。そして、冷蔵庫や棚をひっくり返す。私はレーザーライフルのセルを交換して、二階に飛び出した。上はレイダーのオブジェと思われる首のない遺体が放置されていた。

 

「あ、これを使えば!」

 

近くに置いてあったグレネードボックスをひっくり返し、破片手榴弾を拾い上げる。そして扉近くの小道にピンを抜いて投げ込んだ。手榴弾は爆発すると、金属片を撒き散らしてレイダーを殺傷する。

 

窓縁から銃を出さないように外を狙い、近づいてくるレイダーを撃つ。幾分かレーザーライフルより精度は悪いが、それでも威力や精度は高い。レーザー光線はレイダーの頭と胸に直撃し、絶命させた。

すると、反撃か32口径弾が窓縁や壁に命中する。私は銃撃から逃れるためにタンスを倒して貫通する銃弾から身を守った。

 

「野郎共!この中から一人も生きて返すな!」

 

「ヒーハー!」

 

危険な薬を服用しすぎた彼らの狂暴さは理性を感じさせないような怖さを秘めていた。残りの手榴弾を投げてレイダーを吹き飛ばすと、マガジンポーチの中が空だったことに気が付いた。

 

「もっと、持ってくればよかった・・・」

 

ホルスターから10mmピストルを抜くと、レイダーに対して銃撃を加える。銃の反動は私の狙いを外させるのには十分なほどの反動で、レイダーの銃撃を合間にピストルを撃つだけだった。

 

「アウトキャストは・・・!」

 

窓の外から見るが、遠くから来る援軍は見えない。もしかして、見棄てられたのかもしれない。

 

「く、来るな!止めて!」

 

下で叫び声を聞いて、私は階段に銃を向ける。すると、大きな足音と共に、ナイフを持ったレイダーが狂気を孕んだ目で近づいてきた。

 

「殺人タイムだ!」

 

「来ないで!」

 

引き金を絞り、レイダーの頭に10mm弾で貫通した穴が開く。さらに近づいてくるレイダーを撃つが、何発か撃ったあとでスライドが後ろに引かれた。

 

え!なに?これ!

 

一瞬だけ頭が真っ白になる。スライドが引ききって弾が出ないのは簡単な事だった。

 

弾切れだ。

 

私はポーチから新しい弾倉を取り出そうとするが、レイダーによって阻まれる。右手を捕まれ、左手で腰に着けていたコンバットナイフを引き抜いてレイダーの胸に突き刺した。刺されたレイダーは力なく倒れるが、すぐに後ろのレイダーが迫り来る。

 

「は、放して!」

 

コンバットナイフを奪われ、腕と身体を押さえられる。レイダーは私に馬乗りになって私の手を押さえつけた。

 

「へへっ、やっぱり女だったか!こりゃ、楽しめそうだ!」

 

ヘルメットを脱がされ、口と鼻を覆う布を剥がされ、ゴーグルも奪われた。手足を動かしても全くレイダーは動かない。

 

「暴れるんじゃねぇ!!」

 

痺れを切らしたのか、レイダーは私の頬に平手を打つと、履いていたズボンのベルトを緩ませる。

 

「こんな上物生まれてはじめてだぜ。安心しろ、貴様を可愛がってやるよ」

 

悪魔のような笑みを浮かべるレイダーを見て、私は叫んだ。だが、そんなことをしても状況は好転しない。

 

「嫌だ!放して!こんなところで!」

 

何回か戦闘も経験し、死ぬ恐怖も幾らか克服できる。だけど、私はそれよりも恐ろしい事になると想像した。一線を越えれば、もう二度とユウキやブライアン・・・そしてお父さんに会うことは出来ない。

 

身体の震えが止まらず、自然と涙が溢れ落ちる。こんなに怖くて泣いたことなど今までない。そしてこんなにまでも孤独なことなんて今までになかった。

 

こんなことしたくない!!

 

そう思っても、レイダーは止めることを知らなかった。

 

「ここんところ、汚ねぇのしかヤってねからな。・・・安心しろよ、俺が可愛がってやるからよ、へッへ・・・」

 

汚い笑みを浮かべ、私は逃げようともがく。だが、レイダーは乱暴にコンバットアーマーのプレートを剥ぎ取り、着ていた野戦服を破る。

 

イヤだ!

 

誰か・・・!

 

顔を思い浮かべ、私は思いっきり大声で叫び声を上げる。

 

「ユウキ!助けて!!」

 

 

「はっ!貴様の彼氏なんて忘れろ!俺様がな・・・」

 

レイダーは声を出そうとするが、風を切る音と共にレイダーの男の頭に穴が開き、壁に血潮が掛かる。

 

私は一瞬の出来事過ぎて私は目の前に起こることが事実と認識するまでに時間が必要だった。だが、私に前のめりに倒れるレイダーを横に倒して、レイダーを倒した人物を見ると、それは現実だとわかった。

 

黒のvaultアーマーを着た黒髪の青年・・・私の大切な人。

 

 

 

「ユウキ・・・」

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

間一髪の所だった。レイダーの死体が多くあるこの建物を見つけ、一階にはレイプされそうになっている女を助けるために、M4A1にサイレンサーを取り付けて、女の身ぐるみを剥がそうとしているレイダー三人をヘッドショットで始末した。女以外にも首に怪我を負った傭兵らしき男がいたが、女を助けるためにレイダーと一戦交えたらしく、腹にナイフが刺さり絶命したレイダーと共に息絶えていた。

 

二階でもシャルとおぼしき人物の声が聞こえたので、こうしてここに来たわけだが、コンバットアーマーのプレートを剥がされ、野戦服を脱がされたシャルがいた。

 

なぜメガトンに居なかったと問いたかったが、今それを聞いたとこで何になるだろうか。pip-boyからブッチからもらった革ジャンを羽織らせて声を掛ける。

 

「大丈夫だ。さあ、帰ろう」

 

すると、極度の緊張と恐怖が途切れたためか、シャルは涙を流して俺に抱きついてくる。俺は背中を擦り、子供をあやすかのように背中を撫でる。何やっているんだろうか俺は。ジェームズとの約束を忘れたのか?おれはあの人から彼女を頼まれた。しっかりと、守ってやらなくちゃならないのに・・・。

 

「ごめんなさい・・・わたし・・・」

 

「いや、俺こそごめん。絶対離さないから」

 

小柄な体躯のシャルの背中を抱き寄せて、いつも以上に強く抱き締める。シャルは痛いかもしれないが、俺と同じぐらいシャルは両腕で強く抱き締めてくる。

 

どのぐらい経ったんだろうか。俺は時計を見ていないから分からない。だが、シャルが落ち着いたのは確実だった。シャルは俺の耳元に顔を近づけているため、鼻息が耳に掛かり、心なしか心拍数が高まった。

 

「ユウキ・・・」

 

シャルは呟くように俺の名を呼ぶと、俺と顔を見合わせた。頬は少しだけ紅く、肌は透き通るように真っ白だ。目には何か決心したように映り、俺は疑問に思う。

 

「ユウキ、私ね・・・」

 

続ける言葉は分かっている。彼女は目を閉じて、口を少しだけ付き出すように俺に顔を向ける。そう、これは・・・・

 

俺はそれに呼応して、顔を近付ける。

 

長い事待った。生前の事も含めれば彼女いない歴は36年弱。等々、やっとのことで好きな人と結ばれる。あと数cmで唇と唇が重なりそうになる。

 

 

とうとう・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お熱いね・・・お二人さん♡」

 

え?!

 

「「うわわわ!!!!」」

 

慌てて身体を引く俺達。声といい身体の動かし方といい、息もピッタリだ。それはどうでもいいが、声の主の方を見ると、先程助けた女傭兵ではないか。

 

「あんたが女ということは分かっていたけど、は~・・・嫉妬するような顔をしているわね。しかも、戦前のラブストーリー見たいに純愛物ね・・・。いいわ~、こういうの青春っていうのかしら?」

 

「誰、この人?」

 

「アウトキャストと契約している商人が雇っていた傭兵の・・・」

 

「エイザよ。こんな可愛い子がいるんだから、ちゃんと囲っとかないとダメでしょ!ちゃんと、放浪しないで家を守らないと!」

 

ポニーテールにした茶髪の髪があり、アングロサクソン系の顔立ちの野性的な女性である。

 

「え、ええ」

 

エイザの言うことも一理あるのは事実。だが、かなりオバサン臭い・・・。

 

「何か失礼なことを思わなかった?」

 

「なんでウェイストランドの女性って勘が鋭いの!?それって超能力!!」

 

「さぁ、けれど準備はいい?否定しないってことはそれなりのお仕置きが待ってるけど?」

 

これは不味い。この人は・・・・ドSだ!!

 

俺はシャルの目をみて助けを乞う。しかし、答えは・・・。

 

(南無~・・・)

 

祈るな!おい!

 

「さあ、行くわよ!!!」

 

「ちょ!おい、それは!わああああ!!!」

 

 

アウトキャストの部隊が町を掃討するまで、叫び声は町中に響き渡った。それはアウトキャストやレイダーでさえも震えるような叫びだったという。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「はい、あーんして」

 

「あーん・・・」

 

言っておくが、新婚生活における相手にスプーンで一口挙げると言うリア充なことをしているわけではない。

 

戦前に製造された綿棒に軟膏を塗り、それを口の中の傷に塗っているのだ。エイザのお仕置きが余りにもキツかったのだ。内容は・・・今は伏せておこう。

 

「それにしても、ここの設備は凄いわね。流石は元アメリカ軍基地よね」

 

シャルはスツールに腰かけて言った。俺達が居るところはアウトキャスト司令部「インディペンデンス砦」の地下にある武器庫兼武器研究所である。フェアファクス廃墟の一件の後、アウトキャストはレイダーの居場所である地下鉄や建物を戦前に残されていた軍用爆薬によって破壊。前哨基地を設置して、交易などを中心に発展させるようにするらしい。一方、輸送キャラバンの荷物は一応、エイザの所有となった。護民官やナイトなどはまるで獲物を狙う肉食動物のような目付きではあったが、これ以上アウトキャストのイメージを落とすことはなかった。商品売買には、一応武器商人である俺も参加し、エイザのアドバイザーとなった。彼女は恩を返すと、俺に幾つかの制御チップなどをくれた。それをpip-boyに装着して、意気揚々と俺は先程使ったM4A1の整備に取り掛かった。

 

「へぇ~、こんな銃見たこと無いわね。どこで拾ったの?」

 

スクライブローブを着たクロエが俺の持っているM4A1を指差して訊いてきた。勿論、MODで入手したとは言えない。

 

「確か、旧米軍基地の倉庫に眠っていたな。全部、俺の所にあるけど・・・高いぞ」

 

「ナイトの報告によると、性能は良いらしいと聞いたけど。いいな~・・・」

 

「(batter 75%)そうだな、これとあの機械で交換はどうだ?」

 

あの機械とは元々、俺が持っていたウォークマンやスマホなどの機械の事である。俺はあれをここに来るとき持ってきてしまった。余り記憶には無いが、画面に吸い込まれそうになって、咄嗟にバックを掴んだのだ。(一話目参照)

 

なぜ、それが今ここにあるのか分からない。だけど、俺の物であったのは覚えている。アウトキャストが持っていても有効活用するとは到底思えない。

 

「良いわよ。あの死んだ商人は面白い物を見つけたもの。そのぐらいどうってこと無いわ」

 

後日、聞いた話によると、シャルを雇用した商人はとある軍事基地を漁っていた。アウトキャストに売り込むためであったが、その掘り出し物がとんでもなく凄かった。機能する核弾頭の制御チップや暗号化アルゴリズム解析装置、ミサイルランチャーに取り付けられる誘導装置など多くの物品がパックバラモンに入っていたのだ。それを見つけたナイトやパラディン、そしてスクライブは半狂乱であった。そのため、軍用でない物はお呼びではないのだ。

 

「それにしても、その機械に固執する理由って何?」

 

「そうだな、・・・・人間が運命の出会いをするように、機械と人間が運命の出会いをするのと同じなのさ。」

 

「何それ?」

 

意味が分からないとばかりにジェスチャーをするクロエ。まあ、知らない方が良いだろう。

 

「まあ、いいわ。・・・・ここにリア充をいさせる場所なんて無いんだからさっさと行きなさい!」

 

「はいはい、クロエも早く彼氏・・・いや夫でも作るべきだよ」

 

「煩いわね、腰抜け武器商人!」

 

クロエがミサイルランチャーを持ってきて俺に発射する前に退散しよう。俺はシャルを連れて、インディペンデンス砦の地下通路を通って地上に出た。外は夕暮れ時で空にはオレンジに染まっている。

 

「ふぅ~・・・ユウキ、ブライアンが待っているし帰りましょう」

 

「ああ、早く帰ってウォークマンの充電しないと」

 

「何それ?」

 

「帰ってから説明するよ。家に帰ったら早速、核分裂バッテリーを取り付けて魔改造を・・・」

 

俺は脳内で設計図を書く。それは、オーバースペックなウォークマンやゲーム機なのだが、今日の夜にでも改造を施したい。多分、長年放置されて、バッテリーも死んでいる筈であろう。中に入っているデータも早く聞いてみたいのだ。

 

「え?でもやる時間はあるのかしら?」

 

唐突にシャルは俺に訊いてきた。

 

「どう言うこと?」

 

俺はシャルに聞き返す。

 

「だって、私が出ていく前も山のように客が来ていたわ。そうしたら、店の中は修理すべき武器だらけかも・・・・」

 

「な、何!!」

 

俺がアウトキャストと一緒に行く前も多くの客が来ていたが、修理も三、四件・・・。しかし、俺が行った後に修理依頼がとんでもなく多かったら、大変だ。武器修理はウェイストランド人にとって早く済ませねばならない物である。自分自身を守るために必要な物であるのだから、託される側も早めに修理して返さねばならない。

 

「メガトンに帰ったら徹夜だよ。シャル、急いで帰るぞ!」

 

「うん!」

 

俺とシャルは夕焼けの荒野を走る。しかし、十分後突っ走った後に着ていたvaultアーマーが重くて立ち止まり、その時おそってきたレイダーを返り討ちにしたのは後日話すことにしよう。

 

 

 

 

 

 




アウトキャストとの出会い。果たして主人公はどうするのか?



小説本文のご感想・アドバイスあれば宜しくお願いします。



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第三章 Looking for father
十七話 Following in His Footsteps


やっとのことメインクエストの開始です。長かったな~・・・。そして、この前見たところ、お気に入り件数が500件を超えていました・・・!昔と比べたら進歩したんだな-と思います。

では、お楽しみ下さい。


「疲れた・・・・」

 

ショットグラスに注いだウィスキーを飲み、スツールに座ったまま倒れる俺。それをみたゴブは笑って、ショットグラスにウィスキーのストレートを注いだ。

 

「ゴブ、ここの皆は水割りしないのか?」

 

「んなことするわけないだろ。本来の味が分からんだろうに」

 

とゴブは言う。こんなのガバガバ飲んだら、確実にアル中だよ。と俺は思いつつ、盛られたポテトチップスを頬張った。

 

アウトキャストのインディペンデンス砦から出てきて、メガトンに帰ってきたのは、すっかり夜が更けた20時過ぎ。武器屋の武器保管庫には、修理依頼が出された多くの武器と、前金として支払われたキャップを満杯にしたスチールケースがあった。俺は目から血を流すように、夜食とメンタスを噛み締めつつ、武器を分解して清掃し、劣化した部品を取り替えた。何度かレイダーを返り討ちにしたため、武器はたんまりとあったので、使えそうな部品を取り出して、修理に用いたりした。それは朝の9時まで続けてやっとの事で寝ることが出来た。しかし、正午ぐらいにはその倍以上の武器が修理に出され、俺は幾つかの行程を省くことを強いられた。

 

これは俺の憶測なのだが、一日目に修理に出された物が二日目に持ち主の所へ戻ったとしよう。それは、修理前に比べて性能が上がりまくっていた。そう言う話を聞いて、自身の武器を俺の所に持ってくる。それは鼠算的に増えていく。所謂、チェーンメール見たいに二人から四人、四人から八人見たいな感じに。値段的に少し高めではあるものの、値段相応の修理をしている店は繁盛し、店長である俺はとんでもなく疲れるのである。

 

「ゴブ、知っているかい。西海岸には戦前の武器を製造するメーカーがあって、とても性能が良いらしいぜ」

 

「ああ、聞いたことあるな。向こうから商人が流れてくることもあるけど、大抵、道中にレイダーに襲われるなりして死ぬけどな」

 

西海岸が中部から来た商人にはこの東海岸は少々危険すぎる。戦前は首都圏として栄えた東海岸は西海岸よりも荒廃している。中国軍がワシントンを主目標にしていたせいであろう。レイダーが略奪した武器は西海岸のNCR工廠で作られたり、民間のガンランナーと呼ばれるガンスミス集団が作っている物もあり、流れに流れて俺達に来ることもあった。最近、9mmピストルがモイラの店頭におかれたけど、誰も買うことがなかった。あまり、流通していない武器を買っても修理は出来ないし、弾薬も調達しにくいためだ。

 

俺は溜め息を着くと、これからのことを考える。

 

これからどうするかね~。ブライアンは手先が起用なので、12歳にしてアサルトライフルを分解できるし、シャルからは科学のお勉強をしてもらっている。そろそろ、武器の修理を手伝わせるのも良いだろうし、営業トークもやってもらわなければならないだろう。一応、武器の売買は軍曹がやってくれているので安心だが、ブライアンも出来るならやって欲しい。

 

シャルとは結婚してメガトンで暮らそうかと思っている。やがては子供も出来るだろうし、やがては武器屋を家業としていく筈だ。だが、問題なのはジェームズが何処にいるかということだろう。vault101から出てきて色んな事が沢山あったが、シャルはジェームズの事を諦めてはいない。実際、シャルは俺に相談しないで、リベットシティで情報を集めようと考えているらしいが、机にD.C.都市部の地図を広げているお陰で考えが分かっていた。

 

さてどうしたもんか・・・。

 

ショットグラスの入ったウィスキーを傾けつつ、生前の記憶を遡る。人間の記憶と言うものはいい加減な物でどうでもいいことを覚えていて、物事の核心はすぐに忘れてしまう。例えるならば、ジェームズが何処にいるのかであるが・・・。

 

「あ~、ジェームズのおっさんは何処に行ったんだよ!」

 

「ん?ジェームズ?・・・お前さんの言っているのはvault101に入ったジェームズの事を言っているのか?」

 

俺の叫びを聞いたのか、店の店主であるモリアティはジェームズの事を知っているかのような口ぶりで訊いてきた。

 

「そうだけど・・・・ジェームズが何処に行ったか知っているのか?」

 

「ああ、知っているさ。それにしても、ジェームズの娘の・・・えっと、シャルロットだっけか。元気にしているかい?」

 

「前に店に来てたじゃないですか?忘れました?」

 

「あのべっぴんが!?・・・は~、あんな赤ん坊があんな風に変わるとは驚きだよ。」

 

モリアティは驚きつつも、親指と人差し指を擦る。つまり・・・

 

「“情報”には金が要るってことですか?」

 

「まあな、対価なくして情報はあげられねぇな。」

 

「44口径マグナムを修理したのに?」

 

「あれは商売だろ?貸しで修理した訳じゃない。そうだな~・・・100キャップでどうだ?なんなら、借金取り立てをしてくれたらチャラにしてやってもいいが」

 

「そんなパシりはしたくない。でも・・・百キャップか」

 

今は財布がかなり潤っているので100キャップの出費はそこまで痛くない。だが、記憶があればそんな出費をしなくて良いのだから、自身の記憶に腹が立った。

 

「さあ、どうする?明日には倍額になるかも知れないぜぇ・・・」

 

金を支払うか、自力で探すか・・・。二者択一・・・。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「じゃあ、ブライアン。少しの間旅に出るからしっかり仕事をするように。」

 

「うん、お兄・・・じゃなかった師匠」

 

「ユウキ、いいじゃない。お兄ちゃんって呼ばれても」

 

vault101アーマードスーツに身を包んだシャルは俺に言う。だが、やはり「お兄ちゃん」と呼ばれるのは抵抗がある。ブライアンが妹キャラなら良かったのに・・・。

 

「ユウキ、また何か変なこと考えたでしょ」

 

「い、いいや」

 

「ブライアンが女の子であればよかったなんて思ったわよね」

 

「いいや、いいやそんなことは・・・」

 

「おまけに妹のようだったらどんなにいいか・・・とか?・・・・」

 

「分かった、ウェイストランドの女性がなんで強いか分かった。だから、勘弁してくだしゃい!!」

 

最早、ウェイストランドの女性は勘が鋭く、男の考えを読んでしまうんだろう。それが、ウェイストランドに人類が生き残った由縁だろう。それはともかくとして、俺とシャルは遂にジェームズの居所を掴んだ。“G.N.R.ビルプラザ”戦前にはD.C.周辺でラジオ放送を行っていたし、現在でもthreedogが放送を続けている。俺とシャルは荷物をまとめて行く準備を始めた。店の事は軍曹とブライアンに任せることにした。武器の売買は軍曹が取り纏め、ブライアンは銃の修理にまだ時間が掛かるため、一日に三件限定にした。修理スキルは俺の方が上であるものの、ブライアンは時間を掛ければ掛けるほど、よい仕上がりとなる。たまにウェインやビルに世話をお願いしておけば何とかなる。

 

俺は自宅武器庫からアサルトライフルにピカディニー規格の20mmレイルを取り付けたタイプを持っていくことに決めて、5.56mm徹甲弾400発と通常弾の5.56mmを2600発、10mmホローポイント弾45発、破片と発煙、閃光手榴弾を各5つづつ持っていくことに。食糧品も5日分携帯していくことに決めて、pip-boyの中にしまった。以前は背嚢を背負っていったが、都市部では足枷になるだろうし、なるべく装備を減らして、pip-boyに納めようと話が纏まった。

 

その他、暗視ゴーグルやガスマスクなどの装備を入れて準備は整った。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい!シャルお姉ちゃん、ユウキお兄さん」

 

「・・・やっぱり変えたい・・」

 

「いいじゃない。それで・・・」

 

シャルに言われるがやっぱりお兄さんと言われるとくすぐったい。物理的ではないにしろ、何かがアレルギー反応を起こしている。そんな感じだ。

 

トレーダーの帽子を深く被ると、俺とシャルは歩き始めた。一応、アサルトライフルは構えたままだが、警戒するに越したことはない。一度、ウルトラ・スーパー・マーケットの方向に歩いて川を渡ってファラガット西メトロ駅に行かなければならないが・・・。

 

「ニンゲンダ!コロセ!!」

 

「望みが絶たれた!」

 

まあ、ファラガット西メトロ駅の近くにはレイダーのたまり場があり、その川を挟んだ対岸にはミニガンとミサイルランチャーを持つスーパーミュータントの戦闘であった。レイダーが劣勢であるが、スーパーミュータントもかなりの苦戦を強いられている。

 

川を近くの橋から渡った俺達だが、思わぬ障害にぶち当たった。

 

「シャル、ステルスボーイを起動させろ。これじゃ、いつまでたってもここに釘付けだ」

 

「分かった。ちょっと待って」

 

そう言って、おれとシャルはステルスボーイを取り出して、スイッチを入れる。ヴォン!という音を出して、見えなくなる。使いすぎれば精神障害になるが、そこまで頻繁に使ってないので大丈夫だろう。一応、お互い見えないため、シャルの手をつかんでメトロの中へ入った。シャッターを開けると、カビ臭いが俺達を迎え入れる。銃声と爆発音がここまで聞こえる辺り、まだレイダーは死んでいない。

 

「シャル、前進するぞ」

 

アサルトライフルのレールに取り付けたフラッシュライトを点灯させて、ホームへ続く通路を歩いていく。しかし、経年劣化か大戦の影響か、瓦礫で埋まっていた。

 

「他にルートは?」

 

「ユウキ、こっちなら通れるよ」

 

シャルが指差したのは、駅員の詰め所だった。シャルが扉を開き、銃を向けて警戒しながら中に入った。この前廃棄部品で作ったハンドグリップを握り締めて、狙いを安定させながら進んでいく。

 

「トイレ、クリア!」

 

「こっちも大丈夫」

 

一つづつ部屋をクリアリングして、安全を確認する。トレーダーの帽子の唾を持ち上げる。変電室と書かれた部屋へと続く扉を開けると、シャルを先頭にして歩む。すると、通路の向こう側から変な音が聞こえ、シャルが進むのを止めさせた。

 

「何?」

 

「シッ!向こうに何かいる。多分、フェラルだ」

 

アサルトライフルにサプレッサー取り付け、忍び足で通路を歩き、ゆっくりと扉を開く。扉を開けた先は階段があり、何かを咀嚼するような音が部屋中に響き渡っている。

 

俺はハンドサインで上を指差し、ライフルを上に向けるよう指示する。足音を立てないように、慎重に階段を登りアサルトライフルのセレクターをセミオートからフルオートにする。

 

階段を上りきると、ガスの漏れるような音が聞こえ、通路の奥にあるフェンスの向こう側にはフェラルグールなどがモールラットに集っていた。こちらには気付いておらず、目の前の食事に掛かりっきりだ。手元にある手榴弾を投げようかと思い至ったものの、戦前のメトロは壊れやすいため、そう簡単に爆発させられない。何かないかと考えたものの、閃光手榴弾が適切だろうと踏んだ。何故なら、手榴弾と違って爆発はしないため、メトロを傷付けない。ガスを引火させる火元は閃光手榴弾のマグネシウム反応でどうにかなるだろう。

 

ガンベルトにあるグレネードポーチから閃光手榴弾を取り出して、ピンを抜くと、フェンス目掛けて投げて階段を一目散に掛け降りた。フェラルは音に反応して俺に振り向きフェンスを越えようと網に指をかませた瞬間だった。10万カンデラ以上にもわたる閃光とジェットエンジンにも匹敵する轟音で辺りに響かせ、ガスがそれに引火した。フェンス一帯に充満していたガスは一瞬にしてフェラルを焦がした。

 

「ふう~・・・危なかった。」

 

俺はシャルにバンダナで鼻と口を覆うよう指示し、バラクラバを被る。帽子さえなければ、何処かの特殊部隊員だろうが、ウェイストランドで見た目を気にする人間はごく僅かだろう。階段を登り、周囲を見ると、肉片や焦げたフェンスがあり、落盤の危険はない。安全を確認した俺は、シャルを呼んで、フェンスを通り抜けて変電室からフレンドシップハイツの駅に続く扉に来た。

 

「シャル、行く前に一つ重要なことを言い忘れた」

 

「何?」

 

「躊躇わずに撃て。スーパーミュータントもいるが、必ず殺すんだ」

スーパーミュータントは何処からともなく現れた。キャピタルウェイストランドでも上位を占める化け物だろう。人語を話すが、凶暴で普通の銃弾では貫通しない肉体を持つ。奴等の身体を傷つけられるのは重火器や徹甲弾位だろう。

 

しかも、都市部には様々な勢力が凌ぎを削り、年中銃声が絶えない。正直、言って俺はシャルを都市部には連れていきたくなかった。これまででも、シャルは抵抗しないレイダーを撃ち殺すのに気が引けた筈だ。躊躇わないようにしなければ、都市部に入っても死体となるのが関の山だ。いくら俺でもそれは無理だ。

 

だが、シャルは当然と言うような顔で俺を見る。

 

「分かってる。もう、躊躇わない」

 

決心したのか、銃のグリップを強く握りしめているのが分かった。前回のアウトキャストの一件でシャルは大幅な成長を遂げていた。

 

「よし、ここからフレンドシップハイツ駅に入る。傭兵の話によれば、レイダーが出没する地域だ。慎重にいくぞ」

 

「うん」

 

俺はアサルトライフルのマガジンをもう一本用意して、ダクトテープで二本を巻き付ける。少し、重くなるが気にしない。照準装置にはこの前、取り付けたM4A1のACOGサイトを取り付ける。

 

シャルに合図して開けて貰うと、おれは銃を扉の向こうにある線路に向けた。地下鉄の線路は戦前から供給されている電力で非常灯が点灯している。ほんのうっすらではあるものの、暗視ゴーグルを着けなくてもいい。シャルに屈むよう指示して慎重にホームの方へ歩く。すると、横転した車両の上にレイダーが周囲を警戒している。

 

「敵発見、俺が撃つ」

 

かがんだ状態から匍匐の状態にして、照準を安定させる。サイレンサーを確認して、セレクターをセミに直した。

 

「スー、ハー・・・」

 

息を整え、筋肉の動きが止まる一瞬を狙い、引き金を引いた。発射された銃弾はレイダーの右目に直撃し、眼球を一瞬にして破裂させ、脳髄に到達してかき混ぜた。弾は貫通して被っていたサイコチックな帽子を貫通してコンクリートにぶつかった。

 

「ん?何だ今の音は?」

 

仲間のレイダーが音で気づいたのか、数人のレイダーが動かなくなったエスカレーターを下ってホームに降りてきた。

 

「おい、クリーヴが倒れている・・・がっ!」

 

フルオートにしたアサルトライフルの5.56mm弾とレーザーがレイダーに襲いかかり、一瞬にしてレイダー達の体は引き裂かれた。24発撃ちきる頃には動くものは誰も残ってはいなかった。使えそうな弾薬と武器を回収し、アサルトライフルを構えつつエスカレーターを昇る。落ちてあった救急箱や弾薬箱を物色して、フレンドシップハイツの駅を出ようと改札へと歩く。

 

「お、ヌカ・コーラ発見!持っていこ!」

 

「pip-boyに入りきらないよ」

 

「大丈夫、何とか減らすさ」

 

俺はレイダーが持っていた10mmピストルを分解して使えないパーツを廃棄部品にして、残りをスペアパーツで管理する。それを幾つか繰り返せばコーラ3本分の空きを作ることができた。だが、pip-boyには冷えたヌカ・コーラが幾つか入っているし、家にもまだストックがあるため無理に回収しなくてもいいのだが、生前からの癖ゆえに、ヌカ・コーラ自販機の中のコーラを全てとっておかないと気が済まなかった。

 

コーラを仕舞った後に、封鎖されたシャッターを開いて外へと続く階段を踏みしめて地上に上がった。

 

核戦争によって倒壊したビル群、幹線道路は崩壊し、陸の孤島と化した都市部。遠くから響き渡る銃声と爆音を聞いて、メトロの壁に背中を着ける。小さな磨かれたアルミ板を少しだけ塀から出して外を確認してから、銃を構えながら外に出る。

 

「シャル、援護頼む」

 

メトロから出ると骨組みと少しの柱が残る建物に近づき、横転している車に伏せる。シャルもそれに続いて俺の背後に来る。倒壊した建物を尻目に、迂回して通路を歩こうとした。

 

「ダレダ!ニンゲンカ!」

 

「くそ!奴等だ!」

 

片言の英語を喋るスーパーミュータントの声を聞いて、アサルトライフルを向ける。緑色の肌に2m程はあろうかという体躯。継ぎ接ぎのアーマーを身につけた化け物がそこにいた。

 

「死ネ!ニンゲン!」

 

奴等はボルトアクションライフルを構えると俺に撃ってきた。シャルと俺は手持ちの武器で応戦するが、胴体に命中しても動きは止まらない。

 

「シャル!頭だ!頭を狙え」

 

空になった弾倉を抜いて、徹甲弾が入った弾倉をアサルトライフルに装填する。

 

「食らえ!化け物が」

 

フルオートで発射された5.56mm徹甲弾はスーパーミュータントの頭を吹き飛ばし、胴体を肉の塊に変えた。すると、レーザーがもう一体のスーパーミュータントの頭部を破壊してしまう。

 

「シャル、よくやった!」

 

「え?私撃ってないよ?」

 

見ると、マイクロ・フュージョン・セルを装填していた。弾切れで撃てる筈などない。さっき見たレーザーの向きから見てもシャルが撃ったのでは無いのだろう。レーザーが飛んできた方向に目を向けてみると、T-45dパワーアーマーを着たBrotherhoot Of Steelがレーザーライフルを持ちこちらに向けていた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「こんなところで一体何をしているの?ここはスーパーミュータントの根城よ。早く引き返して」

 

ブロンドの髪を後ろでポニーテールにして結び、パワーアーマーを着てレーザーライフルを持つ彼女はエルダー・リオンズの娘であるサラ・リオンズだ。パワーアーマーの肩にはリオンズ傘下の特殊部隊である“リオンズ・プライド”のマークが付いていた。

 

俺はここに来た説明をしようとしたが、その前にシャルが口を開いた。

 

「私の父がG.N.R.ビルプラザに来ている筈なんです。行っても良いですか?」

 

「いいえ、駄目よ。私達の部隊はここでミュータントを掃討しているけど、道中襲われるかもしれないわ」

 

「(guns75%)我々も加勢します。」

 

「(成功)ミュータントの数も多いし、入隊は大歓迎よ。でも、父親を探すのでしょうから、ビルプラザまで戦ってもらうわよ」

 

俺達の装備を見れば、そこら辺のウェイストランド人じゃないことは分かる筈だ。サラは笑みを浮かべると、奥の通路に案内する。そこには数人のパワーアーマーを来た兵士が通りの側からビルにいるミュータントの動きを見ていた。

 

「センチネル・リオンズ。彼らは?」

 

「さっきミュータントに襲われてたの。ビルプラザまで一緒に来ることになったわ」

 

「ようこそ」

 

「足手まといにならないでよ」

 

とサラは言うが、俺は笑みを浮かべて返した。

 

「ならないですよ。」

 

アサルトライフルのコッキングレバーを引いて次弾を機構に装填すると、セレクターをフルオートにして準備は整った。サラはそれを見届け、命令を下す。

 

「ジェニングスとウィーバーは先に前進、あとはそれに続いて、MOVE!」

 

サラの号令の元、パワーアーマーの兵士達が一斉に飛び出す。スーパーミュータントはそれに気付いて射撃を加えるが、後方に待機していた兵士達のレーザーによって灰になる。建物の中から奇形の形のケンタウルスが出てきて兵士の腕に長い舌で掴むが、兵士の胸に装着していたコンバットナイフが引き抜かれ、頭と思われる箇所に刺される。鮮血がパワーアーマーに飛び散るが、兵士は見向きもしないで、アサルトライフルを片手で乱射する。

 

「窓に一人!」

 

俺は叫び、アサルトライフルの引き金を絞る。スーパーミュータントの頭部に穴が開いて絶命する。

 

「good job!良い腕してるじゃねーか」

 

「どうも」

 

パワーアーマーを来ている兵士に誉められ、少し上機嫌になった俺はその兵士の後ろに立ってクリアニングを行う。

 

戦場で立ち回りが一番難しいのが、やはり市街戦である。ジャングル戦のように死角があり、人工的に作られたが故に隠れるところが多く、死角も多い。そのため、建物を制圧するクリアニングがとても面倒なのだ。近くにいる仲間を信頼し、息を合わせないと死角を無くすことは出来ない。

 

「上にミュータント!」

 

「Cover!」

 

「Grenade!」

 

上にいたミュータントを蹴散らし、通路に出てきたミュータントから身を隠して、兵士は持っていた破片手榴弾を投げ込んだ。ミュータントは全身に鉄の破片を喰らったが、片目が潰れた位で戦闘に支障はないようだった。

 

「痛イ!ナニスンダ!!」

 

スーパーミュータントは釘を打ち込んだネイルボードを片手に近くにいる兵士を殴った。バキッ!という音と共に兵士はコンクリートに叩き付けられ、意識を失う。それを見たサラは持っていたレーザーライフルを向けてミュータントの頭部に放つ。炭のように黒く染まり、倒れるミュータント。サラは倒れた兵士に駆け寄った。

 

「カール!衛生兵!」

 

サラは叫ぶが、この部隊には衛生兵はいなかった。その声に気付いたシャルは怪我した兵士に駆け寄ると、ヘルメットを脱がせて怪我の具合を確認する。

 

「脳震盪起こしている。もしかしたら、脳内出血を起こしているわ」

 

「助かる?」

 

サラは聞くが、シャルは厳しそうな顔でサラの顔を見る。

 

「手術して血を止めないと。早くビルの中へ」

 

俺は一旦、先頭から離脱しシャルの元に駆け寄った。すると、倒れた兵士の鼻から血が出ており、事態は深刻そうだ。

 

「頭以外は動かしてもいいか?」

 

「見る限り大丈夫。一度、ヘルメットを被せて連れていこう。」

 

俺はパワーアーマーの胸にある掴みを掴んで引きずる。本当なら背負っていきたいところだが、パワーアーマーもなく、生身の人間ならその重さには耐えられない。引きずるようにして兵士を運ぶ。他の兵士は戦闘中であるため、負傷者の手助けは出来なかった。

 

「こっちだ!もうすぐ駐屯地だ」

 

兵士の掛け声で最後の力を振り絞り、兵士を引っ張る。ズルズルという音が響くが問題はなかった。障害となるスーパーミュータントは掃討されていて歩く道にはミュータントの死体だけが残された。

 

「やっとたどり着いた・・・」

 

メトロの入り口と一体化した中央広場だった。戦前なら、そこでは多くの人がいたのだろう。しかし、今ではスーパーミュータントの死体と戦闘で戦死した兵士の遺体が転がっていた。焦燥たる有り様で、激戦を戦い抜いたらしい兵士は階段にもたれ掛かり、ヘルメットを脱いで一服していた。

 

「急いで担架を!早く医者を呼んで!」

 

その戦いの後の静けさを吹き飛ばすようなサラの声に休憩していた兵士達が動く。建物の中から担架を担ぐ兵士が走りこちらにやって来る。

 

「医者は?」

 

「さっきの戦いで流れ弾に当たって戦死しました。ここには衛生兵が数名しかいません」

 

それをサラは聞き、悔しそうに唇を噛む。だが、横にいたシャルは声をかける。

 

「私は医者です。中に案内してください!」

 

「本当?」

 

サラは疑いの目を向けるが、俺はそれを遮った。

 

「奴はvault101の名外科医だ。出来ないことなんてない」

 

それは嘘だった。人間なら誰だって失敗するし、無理なことだってある。だが、この場合目の前にいる人物を落ち着かせなければならない。

 

「そうね、頼んだわよ」

 

「うん、じゃあこの建物で一番清潔な所に彼を連れてって!それと清潔な水を沸かしてこの道具を煮沸消毒しておいて。それと・・・」

 

矢継ぎ早に飛ばす指示に近くにいた衛生兵は困惑する。俺は建物に運ばれる兵士とシャルを見つつ、俺は階段に腰掛けた。pip-boyから冷えたヌカ・コーラを出して、栓を抜いてゆっくりと飲む。炭酸の刺激が喉を通り、フレーバーな香りが口に広がる。

 

「ふぅ~・・・」

 

アサルトライフルを立て掛けて、サラの率いる部隊を横目で見ながら溜め息をついた。サラの率いる部隊は道路に放置された二台のバスの向こう側に行こうとしているらしく、俺は遠目で見守った。

 

ん?これってたしか・・・・。

 

 

前世の記憶が蘇りそうな感じがして、頭を押さえて思い出そうとするが思い出せない。悩んでいると、獣のような叫び声を聞いて、俺は階段から立ち上がる。

 

「ヤバい!そこから離れろ!!」

 

いきなり俺が叫び声を上げて驚く兵士達。獣のような叫び声と共に物が壊れるような音とバスが煙をあげていた。

 

「ベヒモスだ!!」

 

俺が叫んだのとほぼ同時だった。バスの核エンジンが爆発し、周囲に破片を撒き散らし、パワーアーマーを来ていた兵士に襲いかかる。バスの近くにいた兵士は爆風で飛ばされ、ビルに作られた遮蔽物に高速でぶつかった。

 

バスが燃える煙からは6mはあろうかという大きさの緑色の化け物が姿を顕す。ウェイストランド人からはスーパーミュータント・ベヒモスと呼ばれる、ウェイストランドの破壊神だった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「待避!!全員待避!!」

 

展開していた熟練兵は叫び、銃をひっ掴み後方に退却する。勇みよい新兵はアサルトライフルの引き金を引いてベヒモス目掛けて攻撃を加えるが、痛がるそぶりすら見せなかった。ベヒモスは爆発しなかった廃車を片手で掴むと、まるで軽々と兵士達に投げる。パワーアーマー着ていた兵士は避けることも出来ず、吹き飛ばされた。

 

「クソ!・・・50口径を使え!!」

 

部隊長らしき兵士はビルのベランダにいる兵士に叫ぶ。すると、ベランダから使い古した50口径重機関銃が姿を表した。50口径弾にベルトを取り付けた弾薬箱を機関銃に取り付け、機構に引っ掻けてレバーを引く。そして、大きな発砲音と共に巨大な弾丸がベヒモスに命中する。肉を抉り、骨を絶つ光景であったが、ベヒモスはその弾丸の嵐を物ともしなかった。

 

「何で効かないんだ!!」

 

スーパーミュータントでさえ肉片にすることが可能だった重機関銃でも、ベヒモスを倒せることは出来ない。ベヒモスは叫び、手元の巨大なハンマーをベランダ目掛けて投げる。ブーメランのようにハンマーは飛び、銃座にいた兵士は機関銃共々圧死する。俺は悪態をついて何かないかと探す。

 

確か、ここには大きな重火器が置かれている筈なのに・・・。

 

俺はビルの土嚢に身を隠しつつも、周囲に使えそうなものがないか探す。すると、B.O.Sの兵士の死体の側に普通はない兵器を見つけることが出来た。

 

「あれしかないか・・・・」

 

放射線量や建物の倒壊を気にする余力はない。チマチマと計算をしていれば、ベヒモスの胃の中に収まるだろう。ベヒモスが銃撃を繰り返す兵士を喰おうとする近くで、ベヒモスに対抗出来うる武器の元へ走る。

 

元々、そこまで距離は無いものの、戦場にいて絶体絶命だったためか時間が遅くなっているように思えた。怒号と悲鳴、そして銃声と唸りを聞いて、死体の元に急ぐ。その兵士は俺達が来る前に戦死していたらしく。ヘルメットの一部が陥没していた。兵士の腕から兵器を取り、必要最低限の動作を見る。家にあったのだが、実際に使ったことはない。

 

しかし、やらなければならなかった。

 

ミサイルランチャーよりも重い、それを肩に乗せて照準をベヒモスに合わせる。安全装置を解除して、ベヒモスの胴体に狙いを定めた。すると、先程まで銃撃を繰り返していた兵士を食ったのか、此方に興味を持ったようだ。限りなく醜い顔を俺に見せて、獣のような眼差しを俺に向けてきた。

 

「喰らいやがれ!!」

 

発射ボタンを押し、ベヒモスに放たれたミニ・ニュークと呼ばれる超小型核弾頭。弾頭の中心にあるプルトニウムに核分裂反応を起こさせるために、周囲に作られた爆薬が起爆して小規模の爆発がベヒモスに襲いかかる。小さいと言えど、数千度の熱線を放射する核爆弾である。失明するほどの光線が辺りを照らし、ベヒモスの上半身は蒸発する。爆発音と同じ音量の叫び声を放ち、ベヒモスは燃え盛るバスの中へと倒れた。

 

爆発する寸前に遮蔽物に身を隠していた俺は立ち上がり、ベヒモスの方に目を向ける。pip-boyに搭載されたガイガーカウンターがカリカリ鳴り響き、それでも俺はベヒモスの所へ歩み寄る。肉の焦げた臭いと共に筋肉がピクピクと動いている。それは人間で言う死後痙攣と言う奴であろうか。

 

「ふぅ~・・・終わった」

 

pip-boyから冷えたヌカ・コーラを取り出して栓を抜いた。さっきも飲んでいたが、爆風で飛ばされてしまってここにはない。だが、戦いが終わった後のヌカ・コーラの味は最高だ。

 

「敵を倒した後のヌカ・コーラの匂いは最高だ」

 

まるで、ベトナム戦争を題材にした映画で出てくるヘリ騎兵隊のキルゴア中佐のセリフであり、ここにnew vegasのハットさえあればと、俺はこの時のことを思い出して毎回思うのだった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

「クソ!心室徐細動機を持ってこい!」

 

「輸血パックを早く!」

 

ビルプラザの中は野戦病院そのものだった。あちこちで呻き声が響き渡り、血の臭いと消毒液の臭いがしている。硝煙漂う戦場ではなくても、ここは兵士達の命を分ける最前線であった。

 

「そこの人、そこのガーゼを!」

 

俺は呼ばれたことに気が付き、アサルトライフルを壁に立て掛けて医療台に置かれた止血帯を渡す。

 

「そこの鉗子を取って。それと、足元にある血漿をそこの兵士のと交換して」

 

ウェイストランドの手術服に大きなマスクをしたアフリカ系の衛生兵は指示をして、俺は鉗子を渡して足元の箱から血漿を取り出す。ウィスキーの瓶を再利用したような大きさに黄色がかった液体が入っていて、医療ポールに引っ掻け、手術用ホースと針を付けたものを兵士の左腕の静脈に突き刺した。兵士の横には小型のバイタルサインがあり、血圧が正常に戻りつつあることを教えた。

 

「ありがとう、お陰で助かった」

 

声からして女性らしく、俺は聞かなければならないことを聞いた。

 

「俺と一緒にいたvaultスーツを着た女の子知りません?」

 

「え、そう言えば、向こうの臨時手術室で手術していると思うが。かなり掛かるそうだ」

 

見ると、『会議室』の字を上塗りで「手術室」と書かれ、向こうから聞こえてくるのはシャルの声と衛生兵の声。今入ってみても、俺は邪魔者だろう。なら、先に俺が用事を済ませておくのも良い筈だ。

 

「じゃあ、threedogは?彼に聞きたいことがあるんだが?」

 

「彼はそこの階段を上がって中央の通路を歩いて扉がある。その向こう側に放送室があってそこに行けば会える筈だ」

 

「ありがとう。助かったよ」

 

俺はお礼をして階段に向かおうとするが、呼び止められる。

 

「ちょっと待って。お前はvault101から来たのか?」

 

「あ、ああ」

 

「ナイト・リディアだ。ウェイストランドの有名人に会えるなんて」

リディアは握手を求め、俺も握手する。だが、おれがいつ有名人になったんだ?

 

「ユウキ・ゴメスだ。俺が有名人だって?嘘だろ?」

 

「Threedogの放送聞いてないのか?偉いべた褒めようだ。まあ、あの放送のお陰で私達は戦っていけるんだけどな」

 

ベヒモスも倒したことだし、英雄だな。というリディアであったが、まさかthreedog・・・・。貴様という奴は!

 

「ちょっと、マスゴミを掃除しなければな。ハハハ!」

 

「え、マスゴミって、ちょっと」

 

少しふざけた事言ったがやるつもりは(多分)ない。マスゴミとも言えど、これ以上俺を有名人にさせるつもりはないだろう。リディアとは、別れて階段を登って放送室に赴く。戦前の建物で痛んでいるとは言えど、ここはまだ使えるようであった。

 

扉を開けると、陽気な曲とthreedogの声が聞こえてきた。

 

「threedogだ。D.C.のバンカーからお届けするよ!今日はスーパーミュータントの攻撃に遇っちまった!なんとか、brotherhoot of steelの兵士達が撃退したが、被害は甚大だ。俺はパワーアーマーを着られないし、無力だ。だが、俺にはこの声がある!だから、この声でウェイストランド中の皆を元気にしないとな!そうそう、今日のスーパーミュータントをやっつけたのはvault101のあいつら。しかも男の方だ!凄いよな!ヌカランチャーでズドン!ドカーン!101のあいつに感謝の言葉を送りたい。ありがとう。それと、もう一人のあの子。今、即席で作った手術室でB.O.S.の兵士を手術している。頑張ってくれ!ウェイストランドの皆!彼女の応援よろしく頼む。じゃあ、ここで一曲だ!」

 

俺は中に入ると待ち構えていたようにヘッドラップにサングラスを掛けた男が突っ立っている。彼がウェイストランドのDJ、スリードッグだ。

 

「いや~、情報屋からは写真を貰ってなかったからどんな奴か分からないが、やっぱり皆共通だな」

 

「共通って?」

 

「なまっちょろい」

 

「すいませんね!第一印象悪くて!!」

 

人間は第一印象が悪ければ、悪いほど人間関係は難しくなる。俺の場合、戦前の時なら普通の青年だろうが、ウェイストランドなら弱そうなガキしか見えない。俺は半ば自暴自棄な感じで答えると、巷の気前のいいおっさんのような笑顔でスリードッグは俺の肩を叩いた。

 

「ハッハッハ、お前さんはまだ良い方だ。俺は生まれたときから病弱でただ口が達者なだけの男なのさ。」

 

「そんな、俺はvault101だと変人扱いでしたよ。必要の無い知識ばっかり身に付けているし・・・、まあ出てきてから、その知識を有効活用してますけど」

 

そんな世間話を少ししつつ、部屋の隅にある椅子に座り、テーブルにあった水を薦められて、俺はありがたく頂いた。

 

「よっこいしょ・・・。と、もしかして君達はジェームズを探しに?」

 

「ええ、そうです。教えていただければ・・・・」

 

「頼みを聞いてくれれば」

 

俺はそれを聞いて口をつぐむ。世の中、無償で貰えるものなど無いのだ。それは戦前の世界でも通じること。たった一つの情報でさえ、金が必要なのだ。

 

「無償って訳にはいかないんですね?」

 

「ウェイストランドは救済を求めている。頼みたいのはな・・・」

 

と話し始めるスリードッグ。後に俺はスーパーミュータントの巣窟であるモール地区に赴くのだが、俺は事が終わってスリードッグを殴ろうとしたのはまた別の話である。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「バイタルは正常、麻酔も準備万端です」

 

「ではこれより、急性硬膜外出血における血液の抽出に移ります。メス」

 

隣にいる衛生兵は慣れていない手つきで私にメスを渡す。間違えれば、私の手を怪我させそうな勢いだ。

 

G.N.R.ビルプラザの中にある会議室の一室を改造し、即席の手術室に作り上げた。本来なら、vaultの中にある滅菌室で手術を行いたいが、それも出来ない。服だって戦前の手術衣を戦死した医者から貰い受けただけだし、手の消毒も戦前の消毒液で綺麗にしただけだ。

 

悩んでも始まらないと思った私はペンでなぞらえた所をメスで斬る。横にいる衛生兵に鉗子を取って貰い、傷口を開かせた。

 

「これより、頭蓋骨に穴を開ける。ドリル。」

 

頭蓋骨を見たのはいつぶりだろう?戦闘以外で、医療目的で見たのはvaultで脳腫瘍が出来た老人を手術した時だっけ?あの時は頭蓋骨の脳の部分を全て外して腫瘍を取り除いた。だけど、老人は歳の為か手術に耐えられずに亡くなった。家族は私を責めなかったが、私は自分を責めてしまった。自分の部屋で嘆いていたのを励ましてくれたのは他でもないユウキだ。あの時も親友として接していたけど、ユウキには悪いことをしてしまった。

 

「シャル先生?ドリルです。」

 

ふと、昔のことを思い出していて、目の前に出されたドリルの事を見ていなかった。

 

「大丈夫、患者の頭を押さえて」

 

ボタンを押してドリルを回す。ギュィィィンという音が聞こえ、動いている事を知らせた。ドリルを骨に当てると、ボタンを押して頭蓋骨を掘削する。脳溢血の場所は事前に戦前の技術である透視技術で分かっている。脳を傷つけないように慎重に掘削をする。すると、手応えがなくなり、ドリルをとめて衛生兵に頭蓋骨の粉を取るよう指示する。そして、垂れそうになる汗を拭き取って貰い脳内部を確認した。脳膜を切り、中を見てみると血が凝固している。

 

「じゃあ、さっき作ったものを貸して」

 

持ってきたのは、注射器に手術用のチューブを取り付けたもので、チューブの端を溜まっている血に近付けて注射器で吸い始める。チューブから吸い出された血は注射器に入り、見るからに泥々とした固形物が見えた。

 

vaultを飛び出して1ヶ月ちょっと。ユウキにはいつも助けてばっかり。お父さんを探すという目的のためにここまで来たけど、ユウキを危険な目に遇わせるのは正直辛い。出来ることならこんな事を辞めてユウキと平和に暮らしたかった。でも、何でお父さんはvaultを去ったの?それだけが疑問に思う。

 

「血を摘出、血圧は安定しているわね。頭蓋骨はこのまま開けたままにしておくわ」

 

「骨の代わりに何か入れなくても?」

 

「金属片を入れてみてもいいけど、そこから菌が繁殖するわ。まず脳膜を縫合してから皮膚を縫い合わせる。針を」

 

ここでお父さん探しを辞めたらユウキはどうおもうだろう。正直、私の父は生きていると思えない。生きていたとしても、私の事を捨てたんじゃないかと、どうしても思ってしまう。ユウキは否定したとしても、私を置いていったのは私を捨てたからじゃないかと時々思う。お父さんがなぜ出ていったのか知るために命を犠牲にする必要はあるのだろうか。

 

「縫合完了、スティムパックを」

 

これが終わったらユウキと一緒にthreedogからお父さんの事を聞いてみよう。そして、お父さんの元に行くか行かないかを決めなければならない。

 

私はそう思い、次の患者の手術の準備を始めた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「・・・・もう絶対、メトロとか地下鉄には入らない!」

 

「地上でミュータントとやりあうよりまだましだろう?」

 

俺はモール地区のメトロの入り口近くで壊れていないベンチに腰かけて溜め息を吐いた。そして、ぐったりとした俺に言ってきたのは、G.N.R.ビルプラザで出会った衛生兵のナイト・リディアであった。彼女はパワーアーマーに赤十字マークが書かれた木箱を背嚢にくくりつけていた。

 

「パワーアーマーってすげぇ・・・・、俺も使いこなせればな」

背嚢にくくりつけられている木箱の量からして普通の人間なら背負うこととは出来ない。出来ても、スーパーミュータントぐらいなものだろう。

 

「ただ着るだけじゃ効果は発揮しないさ。コツがいるんだ、コツがね」

 

とT49dパワーアーマーを着るリディアは持っていたアサルトライフルを見た後、俺の改造したアサルトライフルを見た。

 

「あなたのアサルトライフルって凄いこと成ってるけど、いいなぁ」

 

「じゃあ、400キャップね」

 

「高っ!」

 

「そりゃそうだろう。最高の状態で改造を施されているんだ。そのぐらい金を取らないとね」

 

製品化するのなら、メガトンの入植者達を雇って製造業に従事させた方が良いだろう。工場を作り、雇用を大きくすればメガトンは拡張される筈だ。今は400キャップとバカ高いが、工場を作り、低コストに成功すれば、もっと安くなるだろう。だが、アサルトライフルの製造はまだ先の話である。

 

メトロの出口を見ると、長年放置されてボロボロになったエスカレーターがあり、そこを登れば、モール地区。D.C都市部でも有数の戦闘区域である。そこには独立記念碑が聳え、近くには博物館や議事堂がある。俺がここに来たのは、threedogから頼まれた仕事をするためである。その内容とは、記念碑を改造した通信施設を復旧することだった。一ヶ月前にスーパーミュータントの一大攻勢があり、流れ弾が塔の一番上にあるパラボラアンテナに命中した。それによって、キャピタル・ウェイストランド全域でthreedogの声が聞きづらく成ってしまったそうだ。そのため、threedogは歴史博物館に展示されている実物の月着陸船からパラボラアンテナを取ってきてくれと依頼された。そのパラボラアンテナを独立記念碑の上に取り付ければ完璧らしい。

 

そして、ビルプラザで出会った衛生兵のリディアであったが、モール地区の兵士に補給物資を届けるため、同行してくれた。だが、道中、行く先々はフェラルグールの群れ。多分、pip-boyに入れていた弾薬3000発無かったら、俺は今頃フェラルグールの餌になっていた。だが・・・・。

 

「ほら、早くぞ!」

 

目の前にいる兵士の弾帯は一発も減っておらず、見るとアサルトライフルには米軍が使用していた銃剣が取り付けられている。銃剣からはフェラルグールの血と思われる液体がベットリと付着していた。

 

「銃剣で戦えるなんてやっぱB.O.S.は化けもんだ」

 

「え、お前がフェラル全部撃ってくれたから撃たなくて済んだんだ。まあ、経費に煩いんだよ隊長は」

 

つまり俺は一人でフェラルを掃除して彼女は銃剣で幾つか倒してだけであった。俺はさっきよりも深く溜め息をつくと、やつれ気味にエスカレーターを上がる。

 

「それでも凄いと思うよ、あんたはあのフェラルの群れを殆んど撃退したんだ。大した腕だ」

 

「おいおい。そんなおだてると、木ならぬ記念碑に昇るぞ」

 

「本当のこと言っているんだが。まあ、ここから500m先に駐屯地があるからそこで弾の補給を受けて」

 

勿論有料だけどね、と付け足すリディア。有料という言葉が恨めしく思うが、弾薬が残り1000発ほど。何処かで補給すれば何とかなるだろう。

 

エスカレーターを登りきると、見えてきたのはアメリカの中枢に位置し、栄華を誇るアメリカ合衆国の独立記念碑があるモール地区だった。リンカーンの銅像が眠る所から独立記念碑、議事堂にいたる道。かつては世界の覇権を握っていたアメリカであったが、現在は面影だけを残すのみとなっていた。200年の歳月を経て劣化したビル群、大戦争後に中国軍との戦闘に備えて使われていた塹壕はスーパーミュータントとB.O.S.との戦いに利用されていた。

 

「こっち、ついてきて」

 

リディアは屈み、俺も姿勢を低くしてライフルを構えて進む。スーパーミュータントの罵声や銃声、爆発音が聞こえるが、焦らず慎重にリディアの後ろをついていく。すると、独立記念碑の周りには、コンクリートの壁が作られ、小さな駐屯地と化していた。

 

「何処の部隊所属だ?」

 

駐屯地にいる兵士がリディアに問いかける。

 

「G.N.R.ビルプラザの分遣隊」

 

「んで、そっちは?」

 

兵士は俺を指差す。

 

「アンテナの修理に来た技術者。一度技術博物館で資材を調達しなきゃいけないみたいだけど」

 

「おいおい、彼処はスーパーミュータントの巣窟だぞ。行かない方が身のためだ」

 

嘘だろう・・。

 

俺は頭を片手で押さえる。忘れていた。あそこには2mの体躯でどう猛なミュータント共が大量にいるのだ。しかし、どっちみち“行かない”という選択肢は残されていない。俺は駐屯地にいくつかの予備部品やいらない武器、食料等を置くとアーマー類を外してvaultスーツになる。そしてpip-boyから潜入用に持ってきていたあるものを取り出した。

 

「あんた、それって!!!!」

 

リディアはそれを見て唖然とする。俺は不気味な笑みを浮かべてその服を広げた。

 

「中国軍の黒鬼ステルスアーマー・・・・だ!!」

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

潜入作戦。英語で言えば、スニーキングミッションだろう。それが認知されるのは冷戦から。それまでにも枢軸国の基地を破壊工作するコマンド部隊がいた。しかし、潜入と呼ばれる特殊な作戦が数多く展開されるのは冷戦だ。大国同士が戦争をすれば、どちらも壊滅的な被害を受けるのは分かりきっている。第二次大戦のような総力戦体制は自国の経済を衰退させるものだからだ。さらに、核ミサイルが開発されれば、大きな軍事行動は控える。戦争が勃発すれば、互いの持つ優秀な大量破壊兵器を使用するから、冷戦時代には“CIA”や“GRU”、“MI6”などが諜報活動を駆使した。その中でも敵地にある軍事施設を叩く作戦があった。

 

誰にも見つからずに、目標を破壊して帰還する。某裸蛇のアクションゲームも潜入ミッションだろう。

 

俺は中国の特殊部隊が使用していたステルスアーマーを着る。それを見ていたリディアは信じられないような目付きで俺を見た。ゲームではアラスカ奪還作戦のシュミレーションをクリアすることによって某所の基地倉庫の扉が開き、ロカクされたアーマーがある。何故、それを持っているのかと言うと、自分の家に保管されていたからである。

 

「まさか現存しているものを持っているなんて・・・」

 

「200年前に破壊された中国軍の戦車にあったんだ。まだ光学迷彩も使えるぜ」

 

嘘八百を言ってスイッチを入れると、ステルスボーイと同じ音を出して俺は見えなくなる。完全な透明とはいかないが、光の屈折を変えて見えなくしているのである。

 

アメリカ軍は中国軍のステルスアーマーに対抗して様々な兵器を運用する。あまり使用されているのは見掛けないが、リコンアーマーも中国軍のステルスアーマーに似せて作られた。しかし、肝心の光学迷彩は使えない。しかし、思わぬ発明によって光学迷彩が生まれた。ステルスボーイである。しかし、中国のステルスアーマーよりも性能は悪かった。極悪と言ってもいい。

 

何故ならステルスボーイには人間の精神を乱す特殊な放射線を使用者に照射する。最初は何にもない。ただ神経質になったり、ただ不安に駆られることもある。しかし、長期使用だとガランと変わる。鬱病や統合失調症、精神的な病を患う。その点、中国のステルスアーマーは搭載されるバッテリーで稼働し、長期に渡って運用しても使用者の精神を壊すことはない。ステルスボーイを使用したアメリカ特殊部隊の中に精神異常の兵士が多数出たが、陸軍省は「過度のストレス」を原因とした。原因を知っていても「勝利のための必要な犠牲」とするだろう。

 

一度ステルスアーマーの電源を落とすと、ガンベルトを取り付ける。そしてpip-boyから黒のリコン・ベストを取りだした。Eagle RRV(ローデリアン・リコン・ベスト)と呼ばれるもので、偵察兵用に軽量化が図られたベストである。MODで増やした物だが、ステルスアーマーと合わせると、何処かのサイボーグ忍者である。それに弾倉を幾つか収め、アサルトライフルのサイレンサーをキツく締めた。

 

「これで日本刀があればいいんだが」

 

「日本刀?・・・・昔スターパラディンクロスの戦友に使っていた人がいたらしいな」

 

・・・・あ、それ俺の母親じゃん。

 

「どんな人だった?」

 

「スーパーミュータントを一刀両断したり、射撃の腕がぴか一だったり、えっと最後に確認されたのはvault101の近くだったらしいけど・・・名前は・・・・」

 

「椿・・・階級はナイトだった」

 

「そう・・・て、なんであんた知ってる?」

 

これは言ってもいいのだろうか?「俺の母親だ」なんて言ってもな・・・。

 

なんかマザコンみたいで嫌だ。

 

「か、風の噂で」

 

リディアの疑う目線をよそに俺は駐屯地の中から銃窓に視線を動かす。すると、ミュータントが此方に来ているのがわかった。

 

「十二時方向にミュータント!」

 

「!!」

 

俺は持っていたアサルトライフルでミュータントの頭を狙い引き金を引いた。放たれた徹甲弾は硬いミュータントの皮膚を貫通し、脳を破壊する。仲間が倒れたことに怒ったミュータントは雄叫びを上げてボルトアクションを俺の方向に乱射し始めた。

 

「後ろから回って駐屯地を出て。今ならミュータントを引き付けられる。早く行け!」

 

リディアは俺の背中を叩く。俺はそれを聞いて急いで駐屯地の中を突き抜け、後ろの入り口から外に出た。そこからステルスアーマーの電源を入れて見えなくなると、腰を屈めて走るように足を動かす。

 

「ニンゲンメ!シネ!」

 

ミニガンが駐屯地の防護壁を削り、怒号と叫び声がここまで響く。すると、一人のB.O.S.兵士がミサイルランチャーを構えてスーパーミュータントに発射する。ミサイルは燃料を燃やし、スーパーミュータントの腹に命中する。弾頭の接触起爆剤が爆発してスーパーミュータントの上半身をゴッソリと奪う。

 

「死ぬなよ・・・!」

 

俺は駐屯地にいる名の知らない兵士達に心の中で応援すると、技術博物館までの道程を走った。何体かのミュータントを始末していくと、技術博物館が見えてきた。ボロボロになった広告を見てみると、新しく展示された月探査機の広告のようだ。俺は身長に中に入って銃を向けつつ歩く。

 

「ソレハ俺ノダ!返セ!」

 

「ウルサイ、死ネ!オマエ」

 

どうやら喧嘩(というか殺し合い)を始めたらしく、俺は腰を屈めて階段を昇る。入って中央には木造のレシプロ飛行機が置いてあった。もしかしたら、つかえるんじゃ?と思うが馬鹿馬鹿しいので辞めておこう。命が幾つあっても足りない。

 

階段を上り角を曲がり、そこにはなんとvault体験コーナーと掛かれた看板が見えた。

 

「戦前にvaultがやってたものか・・・・」

 

中はvaultを模して作られてはいるものの、年月が経過していて、vault101の面影はみられる程度にしか残っていない。塗装が禿げて、足元も埃っぽい。光学迷彩を節電の為に切り、腰を屈めて内部に入る。すると、内部のセンサーが起動し、通路の電気が点灯する。

 

『ようこそ、vault体験エリアへ。首都圏には幾つものvaultを建設中です。核戦争を凌ぐため、vaultに入りましょう』

 

収録されたナレーションの男の声が通路に響き、俺はスーパーミュータントが来ることを考えて小走りで通路を走る。

 

『vaultではリサイクルエリアがあり、合成食物を生成するプラントや動植物を育成するプラントも存在します。』

 

『子供もしっかりとした教育を受けられ、最高水準の学習システムを作っています。更に、ゲームコーナーにはアクティビジョン提供の各種ゲームなどを取り扱っています』

 

『シェルターに入っても最高の生活水準を保ち続けます。娯楽施設には世界各国から取り揃えた映画を収集しており、・・・』

 

通路を通る度に男のナレーターの声が響き、耳を手で押さえたくなる。俺はvaultの未練がまだ残っている。何度も帰りたいと思ったことはあるし、vaultに居たときの夢だって見ることもある。だが、起きたときには汚い金属の天井を見る。これは何をしようとも変わらない。

 

『ご来場ありがとうございます、vault-tecをこれからもよろしく・・・』

 

そう言おうとしたアトラクションスピーカーだったが、俺が持っていたアサルトライフルを機器にぶち当てて煙を吹かせ沈黙する。ミュータントの姿が見えないことを確認すると、扉を開けて博物館の奥へと踏み入れた。「宇宙開発、技術コーナー」と書かれた所に出ると近くにあったあるものが目に入る。

 

『これは米軍が開発した試作軍事輸送機の模型です。XVB02“ベルチバード”は垂直離着陸が可能な航空機で、装甲を施した機体は極めて耐久性が高く、多彩な攻撃兵器や防御手段をを搭載することが可能です。過去に開発された同種の航空機としてはもっとも進化したもので、陸軍省は2085年までに実戦配備を予定しています。』

 

ティルトウイングが折れたその模型はまるで持って行けと言っているようにも見えた。いや、ただ俺が欲しいだけだろうと思う。

 

pip-boyの中に入れて「壊れたベルチバードの模型」と表示されるのを確認して階段を下る。ここはさっきよりも瓦礫が多く、通路は塞がっている。そしてスーパーミュータントの足跡が響いていて、俺はアサルトライフルのグリップを掴みながら、腰を屈めて進む。

 

「ニンゲン食イタイ」

 

「外デ食ッテ行ケ」

 

足跡が此方に接近し、俺はスーパーミュータントが来ることを予見してライフルを向ける。ドス!ドス!という足音を響かせて此方にやって来た。緑色の肌に2mはあろうかという体躯。凶悪な顔で通路を歩くが、怪訝そうな表情で鼻を動かす。

 

「ニンゲン臭イ・・・」

 

臭覚もパワーアップしてんのかよ!!

 

焦った俺はダブルタップでライフルの引き金を引いてミュータントの頭を粉砕する。消音器を取り付けても巨体が倒れれば、それなりの音がする。倒れた音を気が付いて、ミュータントが此方に迫っていた。

 

「ナンダ!ドウシタ?」

 

来ようとするミュータントの後目にゆっくりと階段の方へ歩く。すると、月に行ってきたロケットを見つつ螺旋階段を警戒しつつ降りる。異変に気付いたミュータントを殺しても良いが、この際都合がいい。異変があり、そこに注意を向ければアンテナを回収しやすくなる。異変に駆けつけるミュータントに見つからないように、急いで月着陸船まで行く。

 

「あれか・・・」

 

スーパーミュータントと同じぐらいの大きさのパラボラアンテナ。そしてその倍近い月着陸船。これを取り付けるのだから、広範囲な放送も可能になる。

 

光学迷彩のスイッチを入れつつも、アンテナを工具で取り外して床に置く。置くときも余計な音を立てないように慎重に置くと、腕に取り付けたpip-boyを覗き、質量計算を行って、pip-boyの四次元空間に入るかどうかチェックする。どうやら総重量だけで40wgあり、一応入るだろう。機械を操作してpip-boyに入れると、俺は来た道を引き返した。

 

入った道を同じようにたどり、スーパーミュータントに悟られないよう闇に隠れつつも、出口を目指す。やはり日本刀を背中にあれば、確実にサイボOグ忍者だった。・・・・いや、待てよ。これをもしシャルに着せたらどうなるんだ?

 

あるプレイヤーは体の線が結構見えるとサイトに書いていた。そしてまたとあるプレイヤーは女主人公でやるとき必ずステルスアーマーを着せる。アングルを変えると、キャラクターのお尻が・・・・・・・・・。

 

いかんいかん。落ち着け俺!!

 

考えてはいけない!!心頭滅却!

 

俺は煩悩を消し去ろうと違うことを考えるが、シャルに着せたらどうなるのだろうという想像は消し去ることは叶わなかった。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「リディア、スパナ取って・・・・・」

 

「はい。って大丈夫かお前」

 

パワーアーマーを着てないリディアは良く傭兵が好んで着るカーゴパンツと白のTシャツを着て、俺にスパナを渡す。俺は極力リディアの方向を見ないようにスパナを受け取った。

 

「そ、そうだ。・・・・訂正しよう。後の作業をやってくれるなら、メトロのグールを全部掃討する」

 

「無茶言うな」

 

リディアは呆れたようにため息をついて言う。俺はその反応にやけっぱちで答えた。

 

「ここよりメトロの方がまだマシだよ!!なんだよ、ここ!何で中国軍はここを壊さないわけ!ふざけんなよ中共め!チャン議長の髭を根こそぎ引きちぎるぞ」

 

「ここなかったら、放送できないだろ」

 

「GNRにあるだろ!」

 

「ないよ、全部吹っ飛んだ」

 

「くっそ!何で独立記念碑のてっぺんでアンテナつけなきゃならんわけ!ふざけるなぁ!!」

 

俺は涙目で叫び声をあげる。

 

そう、俺はここ独立記念碑に作られた放送設備を修理している。設置されたアンテナを付け替えて新しく持ってきたアンテナを取り付けるために。取り付けることには何ら問題はない。問題なのは、高さだ。そう、俺は高所恐怖症だった。

 

生前はそんなに高所は怖くない。だが、どうだろう。vaultの閉鎖空間で生活していれば、様々な弊害がある。俺は高いところがとんでもなく怖くなっていたのだ。更に一度、記念塔にある鉄塔によじ登って下を見る怖さはウェイストランド一の怖さだ。デスクローとどっちが怖いと言えば、俺にはどちらを取ればいいか分からない。

 

「ユウキ、早く終わらせろ。そろそろ飯の時間だ」

 

「もう勘弁してくれぇ!!」

 

スーパーミュータントは意外にも俺を撃たなかった。それは撃つに値しないのか、それとも哀れんでくれたのか誰にも分からない。

 

 

 

 

こちらはギャラクシー・ニュース・ラジオだ。今日もウェイストランドのニュースをお届けするよ。やっとアンテナが修理できた。多分、この放送を1ヶ月ぶりだと思う野郎もいるんじゃないかな、そうだろうとも。俺の声がなくて寂しかったって!嬉しいね。じゃあ、頑張らないとなぁ!そうそう、今回感謝しなきゃなんねぇのはあのvault101の奴ら。ああ、男の方だ。いやぁあいつは良くやってくれた。みんな、あいつを見掛けたら誉めちぎって誉めちぎって、なんか奢ってくれや。Threedogからの頼みだ。さて、音楽を流そう。・・・・そうそうこの前101のアイツが来たときに良いものをくれた。とある日本の歌手の歌らしいんだが、俺は知らない。だがさっき聞いたが良い曲だった。皆も聞いてくれ。マミ カワダ PSI missing。






確か、曲名なら大丈夫でしょう(汗

歌詞が入っていればやばいですが、歌手と題名を言うだけなら大丈夫なはずです。

ちなみに作者は感想をもらうと三倍のスピードでタイプします。まるで彗星のように・・。何かしらの反応をしてもらうと半狂乱で返事をおくります。ご感想お待ちしております。


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十八話 リベットシティ

主人公って最強なのか?

感想にて言われた一言・・・。作者の方針として主人公は人間を逸脱しません。HPが一桁になると核爆発したりすることはなく、骨格を総取っ替えしたりはしない。尚かつ、サイボーグにはしてない・・・。ですが、話の流れを追ってくとやっぱり最強の部類に入るのでしょうかwwww


※2013/9/01に加筆修正を加えました。物語の変更等などがあります。


 

 

「腹ヘッタ、コイツ食イタイ」

 

私はそれを聞いて、喰われるのだろうと思い身体を震わせる。私は何で何時もの通商ルートを通らなかったのだろうと、今は亡き雇い主の商人を憎んだ。

 

距離を稼げると、川沿いを歩いてリベットシティーに近づいて行っていたのに、スーパーミュータントに攻撃を受けた。護衛だった他の傭兵や商人は殺され、私以外の人間は皆ゴアバッグに押し込まれていた。時々、ミュータントはそこから肉片を取り出して食い、私は何度も吐きそうになる。だが、吐けば、ゴアバックに押し込まれた戦友と同じようになる。手首は針金でグルグルにしてあって引き抜くことが出来ない。座っている体勢ももうそろそろ限界だった。

 

すると、喰おうと言った他のミュータントの他に冑を被ったスーパーミュータント・プルートは言った。

 

「ダメダ、ソイツハ俺タチニナルカラ食ベルナ」

 

聞き取りずらい英語が聞こえ、私は疑問に思った。スーパーミュータントは噂では北西に位置するミュータントの根倉へと連れていくらしい。そこで何かの薬物を打たれて同じようにミュータントになるらしく、背中から悪寒が走る。

 

このままではミュータントにされてしまう!死にたくない!!

 

私は痺れが取れない足を何とか動かそうと、動かし転ける。

 

「人間、ウゴクナ!」

 

野太い声が響き、ごつごつとした手が私の背中を掴む。ビリビリと言うTシャツの契れた音がして、宙に浮いていた私の体は地面に叩き付けられた。

 

「グッ!」

 

肺から息が排出され、息が止まる。

 

そして再度手が伸びる。私は本能的に死ぬことを予期した。目から大粒の涙が零れた。ここまで波乱万丈な人生だったが、もっとチャンとした人生を歩むべきだった。ふと、過去の事を考えていると、生暖かい液体が足に掛かる。首をねじり足を見ると、真っ赤な血がベットリと付着した。その血の主は大口径の狙撃銃で撃たれたように、頭に穴が空いていた。

 

「人間コロス!」

 

死んで後ろに倒れるミュータントの隣にいた、もう一体のミュータントは陣地から離れ、遠くにいるのであろう人間の元に向かう。だが、私の視界から離れた瞬間、二発の銃声と共に大きな物が倒れる音が聞こえた。

 

視界が過度の疲れでぼやけ、意識が遠退きそうになる。塞がりそうになる目から見えたのは黒いアーマーを着た男とvaultスーツを着た女だった。死神が迎えに着たのだろうと、疲れた身体を地面に横たえた私は意識を手放した。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「よっこいしょ!」

 

背負った女性を落とさないよう体勢を変える。もし、アーマーが無かったら、布越しに女性の象徴たる物が当たって心臓がばくばく言うのだろう。だが、アーマーを着ているのでダメである。何か助かったような、損したような気持ちになったももの、それ以上は考えなかった。

 

傭兵のような濃緑色のカーゴパンツにTシャツという服装だったが、ミュータントに剥ぎ取られたのか、背中の部分は契り取られていた。俺はvaultを出ていくときにブッチから貰った革ジャンを羽織って歩く。どうやら、顔立ちからしてヒスパニック系。通りで美人で・・・

 

「ゴホン!」

 

シャルはわざとらしく咳払いをする。

 

「ん?どうした、シャル?」

 

「今、この人の事美人だと思ったでしょ。」

 

「いやいや・・・・」

 

「ヒスパニック系で綺麗だし・・・!!!」

 

目には怒気がこめられ、対処を間違えれば爆発しそうな勢いである。まるで、起爆しそうな爆弾である。こう言うときは爆弾処理と同じように処理しないと!

 

「シャル、これは人助けだから」

 

「でも、絶対そう思ったでしょ!」

 

「いやいや、・・・じゃあ、リベットシティーで何か食べよう。確か、ゲイリーズ・ギャレーのミレルーク鍋って言うのが美味しいらしいぞ。」

 

「い、要らないもん!」

 

ほほぉ、何でいま言葉が詰まったんだろうねぇ~・・・。

 

「ミレルークの肉をさっと茹でたあのプリプリとしたお肉、そしてプンガフルーツの葉・・・・仕上げにキンキンに冷やしたヌカコーラを一杯・・・」

 

こんな事考えているだけでヨダレが出そうだ。正直言って、この前から戦前の保存食やバラモンの肉を乾燥させた、バラモン・ジャーキーしか食べていない。ヨダレが出ても仕方がない。

 

「ユウキの意地悪!」

 

と不機嫌気味のシャル。歩きながら話しているうちにリベットシティーのエントランスにたどり着いた。そのとき、俺は目の前にある空母の集落に驚いた。

 

米海軍が誇る原子力空母で大戦前は第三艦隊の主力として活躍していた。しかし、great warの時に中国軍の潜水艦から攻撃を受け、空母を中心に展開していた護衛艦も中国海軍の餌食になり、河に逃げ込んで座礁。中国軍が上陸した事を真っ先に知らせたのが、この空母であった。中国軍が空母を制圧しようとしたが、奪い取れずに終わったこともあり、それほど内部の損傷は酷くないとも聞く。200年の月日が経って塗装は禿げ、艦載機は放置されていた。完全な状態の空母が見たいと思ったが、それは無理だろうと肩を落とした。

 

「凄い・・・・」

 

俺の落胆にも関わらず、シャルは空母の大きさに驚いた。俺は空母がボロボロであったために落胆したが、シャルは大きさや集落の大きさを見て大きいと思ったのだろう。シャルの怒りが収まったのだろうと、シャルを呼んでエントランスの階段を登った。

 

「み、水を・・・・少しで良いんだ・・・」

 

「ねえ、ユウキダメかな?」

 

「良いんじゃないか、水ぐらいなら」

 

俺は許可して、シャルはバックからボトルに入った綺麗な水を渡す。

「おぉ!ありがとう!あんたはマリアさんだ!」

 

水乞いのおっさんは喜びのあまり涙を流す。・・・涙流すなよ、水の無駄だろ。

 

俺は肩をすくませて近くにあったインターフォンのボタンを押す。

 

「橋を下ろしてくれ。これじゃ入れない」

 

(少し待ってくれ、今下ろす)

 

若い男の声が響き、すると空母に荷物を積み込むためのクレーンが動き、吊るされた橋が下ろされた。背負った女性を落とさないようにして橋を渡る。前を歩くシャルは何故か機嫌が良い。

 

渡りきると、黒のコンバットアーマーにセキュリティーヘルメットを着た男と中華アサルトライフルを持つ男がこちらに来た。

 

「私はハークネス。リベットシティーの警備主任だ。この街には何のようだ?」

 

「この街に行方不明の父を捜しているんです。知りませんか?」

 

「知らないな、それではリベットシティーに入らせるわけには行かない。そんな理由で入らせるならこの町はレイダーの巣窟だ」

 

ハークネスは正当な理由がないと入れさせて貰えない。俺はどうすれば入れて貰えるか考えた。

 

「(Barter75%)(Speech80%)武器売買でリベットシティーに立ち寄りたい。買い物が目的でもある。なんなら、身体検査でもすればいい。だが、それで俺が背負っているコイツが死んだら責任とれよ」

 

「(成功)わかった、わかった。そこを真っ直ぐ行けばハンガーマーケットだ。左に行けば階段がある。そこを登ってアッパーデッキだ。そこら辺のセキュリティーを捕まえて道を尋ねたらいい。」

 

ハークネスは溜め息混じりに言うと、道を退いてくれた。

 

シャルと俺は軽く会釈をして、そこを離れる。左側に位置する水密扉を開けてリベットシティーへと足を踏み入れた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

空母と言うのは一つの大きな街と例えられる。乗組員のインフラのために食堂や娯楽施設、弾薬工場、果ては散髪屋まで。一人一人が歯車となって空母と言う時計を回していると言っても良い。原子力空母であれば、自身で電力を発電でき、ある程度自給自足の生活が送れる。生前の世界の空母では、食料品や消耗品等の補給が必要であり、ワンマンアーミーは無理だった。大抵は、空母護衛群などの空母を中心とした艦隊編成を行う。

 

俺が今いる空母では、その自給自足の要の食まで生産しているのである。空母には野菜などの食料品を作る農園があり、ニンジンやジャガイモなどを生産している。また滑走路にも農場らしき所も存在する。ゲームでは見られなかったが、滑走路にもテント村のような物や、一部農場らしきものも見えた。ある意味人類最後の砦といっても過言ではない。メガトンもそうだが、彼処は消費のみで生産は行わない。できると言っても水ぐらいな物だろう。残りは狩りなどで仕入れたもの。自作農の食べ物が出てくることはまずない。その意味でリベットシティーは人間的な生活を送っていると言えるだろう。

 

「命には別状はない。でも、衰弱が激しいから今日は目が覚めないだろう。明日ぐらいに来なさい。」

 

眼鏡を掛けたウェイストランドでも医者らしい医者のDr.プレストンは庸兵服姿の俺たちが連れてきた女のカルテを見て言う。俺が見たところでも、衰弱はかなりの物だった。服は所々擦りきれていたし、彼女が持っているものと言っても、32口径ピストルのみ。よく生きていたと感心してしまうほどだ。Dr.プレストンの言葉を信じて、アッパーデッキから出て空母の奥にある研究所を目指す。Dr.リーを所長とする科学者集団。彼らはウェイストランドでも一二を争うインテリ達だ。彼らは日々、ウェイストランドの食の改善や環境の改善を行っている。今、リベットシティーが繁栄しているのも彼らのお陰であろう。

 

水密扉を開き中に入ると、途端に女性の金切り声と男の声が聞こえてきた。

 

「アンドロイドが来るまで私はここで待つよ、Dr.リー。私にも仕事があるんでね」

 

「私もよ!仕事の邪魔なの!出って行ってください!」

 

「そいつは無理な相談だ。私だって仕事の邪魔になることは重々承知だ。だが、科学的知識の集まるこの場所にいれば、私のアンドロイドはすぐ見つかる筈だ。」

 

後ろには庸兵服を着た男が、中華アサルトライフルを携えている。これを見れば、大概の者は雇い主らしき男には怒鳴らない。Dr.リーにもそれは分かったらしく、怒りが不完全なままDr.リーは研究に戻る。そして、初老の眼鏡を掛けた男と庸兵風の男は研究室の隅に行き、初老の男は腰をおろした。

 

見たところ、初老の男はMr.ジマー。“連邦”と呼ばれる所からアンドロイドを連れ戻そうとする男である。つまり、近くにいる傭兵風の男もそうなのだろう。傭兵の服装をしている男もジマーが連れてきたアンドロイドなのだ。

 

血色のある肌に本物のような髪の毛。見た目普通の人間である。たった一つ違うのは無表情。まるで、感情が無いような感じである。目は焦点が合っているが、何を考えているのか分からない。それは人間とは全く違う。生前に見た映画で寝ている間に宇宙人に体を乗っ取られ、世界中が侵略されるものがあった。怒りもなく、笑いも悲しみの感情すらない。そのときの俳優の演技はまさにそれだった。俺は不気味に思い、さっさと用事を済ませてしまおうと、Dr.リーの元に向かう。

 

すると、白衣の男に呼び止められた。

 

「そこの君、ここで何をしている。ここは立ち入り禁止だ」

 

「Dr.マジソン・リーに用があるんです。通してください。」

 

俺はそう言うが、壮年の科学者の男に止められる。

 

「何処の馬と分からない奴を通すわけにはいかん」

 

イラッと来たが、ここでこの男を殴るわけにはいかない。シャルに言ってもらおうと後ろを振り替えるがいなかった。

 

「あれ?」

 

「Dr.マジソン・リーですか?私の父を探しているんです・・・」

 

「お、おい!そこの君勝手にいくな」

 

「シャル、行動早っ!」

 

俺は驚きつつも、シャルの所に行く。

 

「今忙し・・・・あなたはまさかジェームズの・・・」

 

「君達ここはな・・・」

 

「ジミー、待って。彼女はジェームズの娘よ」

 

「おいおい、嘘だろ・・・」

 

ジミーと呼ばれた先程の科学者は驚いた様子で言う。シャルは「父をご存じなんですか」と聞いた。

 

「当たり前よ、彼は20年前に浄化プロジェクトを置いてVaultに行った。それなのに一ヶ月前に彼は帰ってきたわ。でも、貴方は危ないからVaultに残してきたっていう話を聞いたわ。何でここにいるの?」

 

「え、えっと・・・・・」

 

シャルはその問い返しに困るだろう。ジェームズは何も言わずにVaultを出ていったのだ。あの争乱の中でVaultに留まろうとする選択は出来ない。俺はシャルに助け船を出すべく、口を開く。

 

「ジェームズさんが出ていった直後にラッドローチの襲撃があり、ラッドローチを誘い出したのが、ジェームズさんってことになり、Vaultに居られなくなったんです」

 

「貴方は?」

 

「ユウキ・ゴメス。彼女の友人です。あの後、シャルは重要参考人として逮捕される事になってました。」

 

「ラッドローチに手こずっていたの?」

 

ウェイストランドではほぼ日常茶飯事で、目の前に出てくればそれは美味しいご馳走に見えるのかもしれない。だが、Vaultでは害虫以上に危険な存在だ。それに密閉空間であるため、逃げ場もない。死角の多いVaultには厄介な存在なのだ。

 

「Vaultは構造上、死角の多い設計になっています。それに、ウェイストランド慣れしているならともかく、ぬくぬくと戦前の基準で生活していたVault住民ですから、ラッドローチは危険な存在です。」

 

腹が減っていない状態ならそこまで危険ではない。だが、空腹時はレイダー以上に危険な存在なのだ。

 

説明を終えると、シャルはDr.リーに近づき訊き始める。

 

「父の居場所を教えてください。何処に居るんですか?」

 

「・・・彼は私達の仕事場だったジェファーソン記念館に行ったわ。彼は浄化プロジェクトに必要な物を見つけたと言ってた。でも、もうプロジェクトは放棄したし、彼処はミュータントの根城よ。」

 

「浄化プロジェクトというのは?」

 

シャルが訊くと、まるで懐かしい友人にあったような顔をして、Dr.リーの頬には微笑みが溢れた。

 

「生命の源は水。それが汚染されれば、それが何であろうと変異したり死ぬこともある。核戦争で汚染された川を浄化出来れば、数十年で土壌も改善されるというシュミレーション結果が出たわ。当時、私達のパトロンだったBrotherfoot of steelは資金や資材を提供した。だけど、私達は行き詰まってしまった」

 

「なぜ?」

 

「今知られているような放射能除去技術は元の水から放射能を取り除く。その除いた放射能をどうするのか問題なの。他にも幾つかの難題が立ち塞がった。度重なるミュータントの襲撃に行き詰まった研究・・・、更にはあなたの母親のキャサリンの死。」

 

すると、シャルは伏せ目がちになる。まるで、浄化プロジェクト放棄の責任はシャルにあるかのように。

 

「貴方のせいではないわ。むしろ、その方が幸せよ。」

 

「どういうことですか?」

 

俺は何故幸せなのか聞いてしまう。

 

「プロジェクトの発案はジェームズだけど、表立っていたのは彼とキャサリン・・・そして私。一人が欠けてしまい、キャサリンの死を悲しんだジェームズに研究を進める気力はなかったと思う。だから、娘のためにVaultに行った。あの時、Vault101の探査隊の噂をリベットシティーでも聞いていたから、ジェームズは信頼していたB.O.S.のナイトとパラディンが護衛に付いて行った。まあ、ナイトの一人帰ってこなかったけど」

 

「ナイトってB.O.S.の中でも精鋭兵ですよね?」

とシャルは訊く。

 

「いえ、確かVaultに入植出来たっていう話よ。噂ではね」

 

うん、それ俺の母さんだ。

 

俺は何とも言えないような気持ちになるが、まあこれではっきりした。記憶もはっきりした。まずはジェファーソン記念館に行かなければならないだろう。

 

 

「Dr.リー、忙しいのにすみません」

 

「いいのよ、旧友の娘に会えたのだから。気にしなくていいわ」

 

俺は頭を下げると、Dr.リーはこの前のピリピリした雰囲気から一転して、雰囲気が和らいでいた。すると、シャルは思い出したかのようにショルダーバックの中身を探す。

 

「どうした、シャル?」

 

そう訊くと、バックからはクリップボードと鉛筆が取り出された。

 

「私、今メガトンのモイラからリベットシティーの歴史について調べているんです。教えていただけませんか?」

 

「ど、どっかの課外学習ですか!シャル!」

 

俺は驚いた。そう、モイラから依頼されたウェイストランドサバイバルガイドの内容はまだ終わっていない。真面目すぎるシャルに溜め息を吐き、忙しいのにも関わらず、シャルのインタビューは続いたのだった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「美味しい!!」

 

そう満面の笑みを浮かべるシャルを見て、おれは鍋にあるミレルークの肉をフォークで刺すとそのまま口にほおりこむ。メガトンではあまり美味しくないミレルークの肉だったが、リベットシティーのミレルークは淡水ではなく海水のためか美味しいのだ。それか水質の違いもあるのだろう。味は戦前食べた蟹か海老のような味。それをプンガフルーツの葉っぱや人参、じゃがいもなどと一緒に煮込んだ物で、鰹節の汁や味ぽんなどはなく、海水から取った塩だけの味。とてつもなくシンプルだが素材の味がフルに伝わってくる。因みにメガトンで食べたミレルークは泥臭くてあまりにも食えたものではない。

 

「嬉しいわね、どんどん食べて!」

 

リベットシティーの食堂の中で一二を争う上手い店として評判の「ゲイリーズ・ギャレー」の看板娘のアンジェラはシャルの笑みを見て嬉しそうにする。料理人が食べて貰う客で美味しいと聞くときの喜びに近い。

 

俺はヌカコーラを一口飲むと、シャルの食べているところを見る。シャルがDr.リーにインタビューしていて少し時間を食ったが、約束通りゲイリーズ・ギャレーで鍋を食べている。土鍋とかではなく、ただのポットに材料を突っ込んで煮るだけなので、人気メニューには程遠い。ここはミレルークケーキが有名だ。

 

「シャル、ちょっと店回ってみるから食べてて」

 

「うん、」

 

俺は一度席を離れると、周囲を散策する。リベットシティーはゲームよりも活気があり、人も多い。更には開いている店舗も多いことからか、見るものも多い。見てみると、カンタベリーコモンズから来る行商やどっかのスカベンジャー。他にも、仕事を探す傭兵も見受けられる。バラモンなどをリベットシティーの甲板に連れていって、駐車して居るのだろうか。商人や近くの傭兵は安心して商売をしていた。だが、一番怖かったのが、タロンカンパニーの求人部隊である。

 

マーケットの隅には、スーツ姿の男とそれを囲む傭兵。そこには数名の男女が入隊受付をしている。タロンカンパニーはウェイストランドでも屈指の傭兵部隊で、レイダーよりもたちが悪いと言われる。それでも、求人募集をしているところを見ると、近づき難い。俺はそんなのを横目で見つつ、目当ての物を探しに行く。

 

「いらっしゃい、見ていくかい?」

 

傭兵服を来たリベットシティーの武器商人のフラックは机に両手をついて迎えた。机には様々な銃器が並べ置かれている。だが、その中にはModの武器はなく、元々ある武器のみが置いてあるだけだ。

 

「ああ、何か珍しい物ない?」

 

「珍しい物?・・・だったら、こんなのはどうだい?」

 

フラックが取り出したのは、鉛製と掛かれたとても重いアタッシュケースだ。彼が開けると、少しばかりの放射能が漏れだす。

 

「ヌカランチャーに搭載できる劣化ウラン弾だ。一応爆発するが、周囲に微粒子のウランを撒き散らす奴だ。性能は折り紙付き、値段は350キャップだ!」

 

「高っ!スーパーミュータントに効果あるのか?」

 

俺はそう聞くと、フラックは困ったような顔をした。

 

「いや・・・まあ爆発に巻き込みゃミュータントを一掃できるが、俺が作ったこれは対人用だ。ミュータントにだったらこんなのもある。・・・」

 

と、フラックは自作した武器を山ほど見せてくる。俺はその技術者魂に魅せられ、それを見続けた。

 

一時間後、意気投合した俺は持っていたアサルトライフルのアタッチメントを幾つか出して見せた。

 

「ほぉ、木製のハンドガードを変えたのか。これなら熱を籠らせることもない。」

 

「ここのレールにこう言うものを取り付けるんです。」

 

と、予め取り外していたACOGサイトを取りつけた。

 

「おお、低倍率のスコープか。これなら、元来あるセミオートの高精度を有効活用出来る。だが、こんなこと教えてもいいのか?俺がお前のアイデアを奪って自分で作るかもしれないぞ」

 

「逆にしてもらいたいですね」

 

「うん・・・・うん?」

 

と俺の発言にフラックは首を傾げた。

 

「そもそも俺が住んでるメガトンではこのアタッチメントが製造出来ないんです。技術を持つ人材もいない。ならリベットシティーならどうです?」

 

メガトンでは一次産業は発達しても二次産業である製造業を発展させることは難しい。設備もなければ人材も乏しいからだ。その点、リベットシティーはどうだろう?そもそも、空母には弾薬工場や各種修理、製造も行える設備を持つ。アサルトライフルをR.I.S.にするアタッチメントも簡単に出来る。そして、設備があればそれを操る人材も多い筈だ。リベットシティー栄えている理由はその二つであるだろう。もし、そういった物を売るのなら生産設備とそれに伴う人材は必要不可欠である。俺の目の前にいるフラックなら、手を組んで銃器製造が可能となる。生産基盤はリベットシティーにして、順々にメガトンにも工場を作ればいいだろう。もし、生産し、オプションパーツも売れ筋が伸びれば、確実にテンペニータワー並みの富豪になるにちがいない。俺はその趣旨を話すと、フラックはかなり乗り気だった。

 

「お前のその独創性と発明精神、そして俺の武器製造とコネ。それを合わせれば、凄いことになりそうだ。」

 

「一緒に仕事が出来る何て光栄だ」

 

俺はフラックと握手を結び、フラックアンドシュアプネルとの提携を結ぶことが出来た。初の提携を結んだことで気分がとてもいい俺は軽くスキップ状態でシャルのいる席に戻った。

 

「なあ、シャル・・・ってあれ?」

 

そこにはアンジェラがフキンでテーブルを拭いているところだった。

 

「ここにいた小柄でダークブラウンのVault少女は何処に行った?」

 

「え?・・・ああ、そう言えば、レールロードっていう組織の女性が彼女に声を掛けていたわよ」

 

「え!?」

 

俺は驚く。何故ならそのクエストはある物品を集めるか、直接連邦の諜報員に聞かなければならない。そのクエストは“The Replicated Man”。アンドロイドを見つけるクエストだ。本当なら、一定数のアンドロイドが残したホロテープを探すか、特定の人物に話をする。すると、レールロードというアンドロイド解放組織が接触してくる。組織に所属する女性のヴィクトリア・ワッツはアンドロイドをそっとするようお願いする。アンドロイドを殺されていたことにしておけばよいと。だが、このゲームがそれで終わるのは惜しい。複数ある選択肢の内、アンドロイドを見つけて自分をアンドロイドだと認識させると、アンドロイド自身がジマーを殺しにいく。その後、主人公にプラズマライフルをくれる。それは高性能なライフルで、ストーリーの後半から大活躍なのだ。因みにアンドロイドはリベットシティーの市議会メンバー、ハークネスである。彼は自身の顔を整形し、記憶を消した。ある暗号を彼に言えば、バックアップが働いて記憶が戻るらしいが、ヴィクトリアというあの女がシャルを扇動したようだ。

 

「不味いな、確かDr.ピンカートンは前甲板の所だぞ。」

 

ハークネスに整形手術を施したのは、Dr.ピンカートンと言う医者である。彼はDr.リーなどとリベットシティーを造り上げたが、意見の相違か、追放されてしまった人物である。そのため、彼はリベットシティーとは離れた空母の前甲板で整形外科医をしている。彼にリベットシティーの話を聞くと、クエストのオプションが達成されるわけだが、そこまで行くのに罠やミレルークの群れがあり、危険だった。

 

「もしかしたら・・・・・」

 

最悪の状況を想定し、俺は肩に掛けていたライフルを手に持ってマーケットの出口に走る。

 

「シャル!」

 

水密扉を開けたすぐ先には、キョトンとしたシャルの姿があり、シャルの目の前にいるハークネスは頭を抱えていた。

 

「シャル、死んだかと思ったぞ!何で一人でどっか行くんだ!」

 

俺は怒りの余り、拳を震わせていた。それを見たシャルは俺が怒っていたことがわかった。

 

「だって、ユウキばっかり頼っていたらダメだと思って!」

 

「俺はジェームズさんからシャルの事を頼まれているんだ!フェアファクスの時みたいになって欲しくない!だから・・・!」

 

俺が離れている間にフェアファクスに来て、レイダーにレイプされかけた。俺はその事をずっと考えていた。シャルから離れてはならない。離れたらもういなくなってしまうと。

 

大切な人を失いたくない。そんな思いがただあった。

 

「・・・ごめんなさい」

 

「いいよ、無事だったんだから」

 

シャルは謝り、泣きそうになっているシャルの頭を撫でる。指にさらりと滑る髪の感覚を感じつつ、抱き寄せてシャルの息遣いが耳に掛かった。

 

「おい、リア充。ハークネス主任あのままでいいのか?」

 

「え?」

 

影で壁にもたれ掛かっていたリベットシティーのセキュリティーは腕組みを組みながら、場を壊すような発言をした。

 

「あれ、そう言えば!」

 

シャルも気付いたらしく、ぱっと俺の元から離れる。俺は惜しくも逃げられたシャルの背を見るものの、俺の気持ちは伝わらない。だが、俺が来たときハークネスは頭を抱えていた。と言うことは?

 

 

タタタタァンン!!

 

船内から中華アサルトライフルの銃声が響き渡り、俺とシャルは目を見開いた。

 

「まさかこれって?」

 

「行こう!」

 

俺はシャルと共にリベットシティーへと再び入っていった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、こうなるなんて・・・・」

 

おれはその光景を見て驚いた。そこは昔、犯罪を犯した兵士が入れられる営倉であり、海軍ベットが各一個とトイレが付いていた。そんな独房が幾つもあり、数名の囚人が確認できた。

 

ウェイストランドは原則として、犯罪を行えば命はない。普通、被害を受けた人間が裁きを受けさせる形を取っている。メガトンでもそれが普通である。事件を起こすのが入植者なのでさっさと殺してしまう。しかし、メガトンに市民権を持っていると、簡易的な裁判が開かれたりするらしい。リベットシティーでは犯罪をした場合、命を持って犯罪を償わされるのだろうと俺は思っていた。しかしながら、それはウェイストランドの話であり、リベットシティーではそれはない。マガリなりにも戦争以前の刑法を採用しているが、裁量は市議会の警備主任に委ねられることが多い。市民なら市議会が判決を下すようなシステムらしく、物を盗んだからと言って殺すことはない。ただ、指を何本か切り落とされて海にダイブさせられることもあるようで、刑の種類は戦前と比べても明らかに過激だった。

 

その囚人の中にはリベットシティーの警備主任ハークネスがまるで、眼帯出っ歯のコーチと共にチャンピオンに登り詰めたボクサーが燃え尽きたときに見せるような雰囲気と同じだった。彼の服装は前と同じ黒塗りのコンバットアーマーだが、持っていた銃は全て没収されていた。

 

「幾らなんでも警備主任だからって銃撃戦をするなんて・・・」

 

「面目ない・・・・」

 

ハークネスはそう言う。ゲーム通りではアンドロイドであった記憶が戻ると、dr.ジマーと護衛のアンドロイドを始末する。だが、場所によっては研究所で銃撃戦をしたり、アッパーデッキですることもある。今回はその二つとは違い、マーケットでそれが行われた。突如として銃撃戦が始まり、Dr.ジマーと護衛のアンドロイドが死に、その他にも数名の客に流れ弾が当たり、損害は3000キャップに上るだろう。二人以外に死傷者が出なかったことは幸いだが、彼は警備主任。彼がやったことには何らかの償いがなければならないだろう。

 

「市議会の方の判決は?」

 

「わからない、明後日に裁判が行われる。その時に決まるが、追放が固いだろう。」

 

ウェイストランドで行われた罪は命を持って償われる。だが、規模や親しい者であれば酌量される。ハークネスの場合、これまで街に対して行った成果は大きい。人望も厚く、腕っぷしも良い。死刑ではなく、“追放”になりそうなのは、過去に残してきた成果だろう。

 

「ごめんなさい、私のせいで・・・・」

 

とシャルは責任を感じたようでうつむいた。しかし、ハークネスは怒る様子は感じられなかった。

 

「いや、君のせいではない。私も他のセキュリティと共に奴らを捕まえてからの方が都合がよかった筈だ。済まないな」

 

「いえ・・・そんな」

 

とシャルが言葉を紡ごうとしたその時、セキュリティーが中に入ってきた。

 

「もう面会は終了だ」

 

「でも・・・・」

 

「仕方ない。またくれば良いさ。ハークネスさん、シャルにくれたあの銃ありがとうございます。これで何とかなりそうです。」

 

「そうか、役立ってなりより。気をつけて」

 

「ありがとうございます」

 

シャルはお辞儀をして営倉から離れた。シャルはハークネスから貰ったプラズマライフルを背中に掛けている。ハークネスの製造番号である“A3-23”と言う名前で、改良を加えられたプラズマライフルだ。彼は多くを語ってくれなかったが、所属していた“連邦”はウェイストランドやB.O.S.よりも高い科学力があることが分かる。アンドロイド製造が良い例であり、ハークネスから頂いたプラズマライフルにしてみても、武器の品質から見て、二百年前に製造されたものではなく、最近になって作られたものだ。ゲーム中ではDr.ジマーは「瓦礫に埋もれているが・・・」と前置きを入れたが、プラズマライフルを製造できる技術力を誇る。いずれ、アンドロイド兵団がキャピタル・ウェイストランドを闊歩するかもしれない。

 

「ユウキ、何を考えているの?」

 

「分かるだろ?」

 

「分からないわ」

 

「・・・・Level4の読心能力者じゃなかったのか?」

 

「何それ?」

 

生前見たことがある、科学の力で超能力者を作り出す学術都市に住む主人公が不幸を抱え込むアニメがあった。実際、旧ソ連では、超能力の開発が行われたが、現在においてソ連が無くなったことは開発が上手くいかなかったと言うことであろう。しかし、今後の科学技術などの進歩によって解ることもある。ならば、この世界では超能力は日に当てられたのだろうか?生前の世界と比べると、幾つか技術が進歩していないものもあるが、総合的に見てもこの世界が遥か上を行っている。ならば、超能力を金さえあれば授けてくれるクリニックがあるかもしれない。

 

「シャル、医学や科学の力で超能力を授けられるものなのか?」

 

「どうしたの、急に?」

 

シャルは困ったような顔をした。

 

「そうね・・・・、理論上は可能よ」

 

「ほう、なら・・・・」

 

「ただし、危険な薬物を数百種使う上、人格崩壊やミュータント化のリスクも伴う」

 

実生活においてもリスクはある。それはウェイストランドでも同じで、生前や戦前よりもリスクは常につきまとうものだ。

 

「ふむ、じゃあやっぱり無理か」

 

早々出来ない事は分かっている。だけど、人類が一度核戦争を経験しているのなら、超能力を備えた人間が出てきても可笑しくはない。まあ、その理屈なら、日本の長崎と広島には超能力者が沢山いる筈だ。

 

そんなたわいもない話をしている内にアッパーデッキの水密扉の前までくる。開けようとすると、勝手に扉が開いた。どうやら誰かが先に開けたらしい。開けたのはリベットシティに住む背の小さい少年だった。12歳ぐらいの子供らしく、俺の顔を見ると声を掛けてきた。

 

「vaultのおにいさんとおねえさんだよね。Dr.プレストンが呼んでるよ」

 

少年はそう言うと、マーケットの方へ駆けていく。彼の手には、キャップが握られていた。多分、伝言させるためにキャップを握らせたのだろう。メガトンならそのまま伝言すらならないかもしれないのに、リベットシティは平和と言う証拠だろう。

 

「多分、助けた人の目が覚めたんだろ?クリニックの方へ行こう」

 

俺は見舞いの品でも持ってくるべきだったと後悔しつつ、足を動かす。その時のシャルの何とも言えない顔を見ることはなかった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「バイタルも正常、点滴も動いているな」

 

私は患者の近くに置かれた軍用携帯型バイタルサインを見る。患者のカルテは極稀な例の一つだ。ただ、栄養失調と膝の内出血。それと精神疲労もあるだろう。ウェイストランドでは普通かもしれないが、これらの症状が出るのは貧困層の人間のみだ。裕福な暮らしをするものにとって栄養失調は無いも同然だ。リベットシティで医者を初めてから全く見なかったし、処置もしてこなかった。だが、vaultから来たと言う二人は出し惜しみもせずに請求した医療費を払った。患者の関係は赤の他人と聞いて驚いたものの、彼らがラジオで流れている活躍をしたと鵜呑みにすれば当たり前なのかもしれない。

 

身長は170と平均身長。鍛えているであろうその身体と女の証であろう整った乳房。浅黒いヒスパニック系の患者は、男がすれ違えば10人中十人が振り替えるような美人だ。ウェイストランドでは早々御目にかかれる者ではない。ふと、入り口に立つ人物を察して振り返ると、何時も大人の仕事を手伝うリベットシティでは多い12歳代の少年だった。

 

「先生、手伝うことありますか?」

 

「そうだな・・・。ここに来ているVault101の二人組を見たことあるかい?」

 

私はそう聞くと、少年は満面の笑みで頷いた。

 

「はい、この前マーケットでフラックと話していたのを見ました。ウェイストランドのヒーローです」

 

ヒーローか・・・。

 

私はポケットからキャップを幾つか取り出して、彼に渡して連れてくるよう言って聞かせた。彼の両親は顔見知りだし、もし“悪さ”をしても分かるだろう。そろそろ目が覚めるだろうと、私は近くにある椅子に腰かけた。

 

机に置かれたマグカップに注がれていたのは、戦前のインスタントコーヒーだ。酸化しきっていて、はっきり言えば苦い。苦すぎるほどだ。だが、目が覚めるし、医療に携わっている身から言って、これは助かっている。それを一口啜ると、背もたれに体重を掛けた。他の患者のカルテを見終わると、個人情報が流出しないように金庫に仕舞う。

 

ピー!ピー!

 

バイタルサインの警告音が鳴り響き、私は振り返る。すると、患者が腕と胸に付けられたセンサーを取り、ベットから起き上がろうとしていた。

 

「目が覚めたか。私のこ・・・・」

 

そう言おうとしたその時、腹部に強い衝撃が走り、前屈みに倒れる。何が起こったのか分からず、患者の方へ顔を向けた。患者の拳を見る限り、私は事を理解した。目は真っ直ぐ、落ち着いた呼吸。錯乱しているのではなく、敵対しているから殴った。

 

患者は医務用のアルミプレートからメスを一本手に取り、水密扉から逃亡を図ろうとした。しかし、水密扉は勝手に開き、二人と遭遇した。その二人とは、Vaultから来たあの二人だった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、起きたんだっ・・・・!」

 

俺はそう言おうとした途端、助けた女の傭兵はメスを片手に突貫してきた。状況も分からぬまま、上から降り下ろそうとした腕を両腕でガードし、メスを持った手を壁に叩きつける。

 

「ちっ・・・!」

 

メスを奪われた彼女はがら空きになった脇に蹴りを入れる。俺はガードしきれずに壁にぶつかる。衝撃が内蔵に伝わり、口からうめき声を挙げた。徒手格闘の訓練を十分に受けていない俺に取ってこいつは不利だ。腰に何時も付けていた警棒を取り出し、勢いよく伸ばす。

 

「卑怯だけど、これないとあんたを倒せそうにない」

 

 

 

素人目から見ても、あれは軍隊式徒手格闘。ただのVaultセキュリティ崩れが戦っても勝ち目は無いに等しい。だが、慣れ親しんだ警棒なら勝てる勝率は僅かながらある。警棒を降り下ろし、それに当たらないように彼女は避ける。前世にあった警察の警棒と違ってリーチが短いため、決定打となるような一撃は入らない。縦横斜めと打撃を与えようとしても、するりするりとと避けてしまう。

 

「これで!」

 

足を一歩大きく踏み出し、横から打撃を加えようと降りおろす。しかし、それを予期していたのか、近すぎた距離は丁度彼女の手の届く距離にあり、俺の手を掴んでもう一方の拳をつき出した。

 

だけど、そんな簡単に負けてたまるか。

 

引き寄せられる力を利用して、足をつきだして拳ごと蹴り出す。引き寄せる力と蹴りが相まって彼女は医務室の壁に叩きつけられた。そして、畳み掛けるように俺はダメージを受けた彼女へ近づいた。

 

細くも鍛えられた筋肉を持つ腕は女性には似合わない荒々しい拳を出すが、俺はそこをすんでの所で避け、間合いを詰める。そして右手を相手の脇に左手を襟の部分を掴む。そして身体を反転させると勢いよく投げ飛ばす。

 

「!?」

 

彼女はなにをされたのか分からないだろう。ウェイストランドでは知っているものはいない。いるとしても、宇宙船に拉致された侍だけだ。柔道でいう“一本背負い”。実戦で使うとは俺も思ってみなかったが、さすがの相手も驚いたはずだ。

 

だが、途中まではよかった。しかし、約束稽古では綺麗に決まっても実戦で、試合では綺麗に決まることはまずない。しかも、初心者とあっては限りなくゼロに近い。投げ飛ばして、固め技に入ろうとした瞬間、掴んでいた手を逆に捕まれ、引き寄せられる。突然の動きにおれはついていけず、首を絞められ、頸動脈が圧迫された。

 

「ぐぅ!・・・・くっそ!・・・」

 

「まさかジュードーとは。久々に見たぞ」

 

その声は俺の首を圧迫する彼女。

 

身体をばたつかせようとも、思うように身体がついていかない。酸素が肺から入っていかず、酸欠状態に陥った。

 

「荒削りだが、良いセンスだ。」

 

貴様はどこの某ヘビ諜報員だよ!

 

頭の隅で突っ込みたくなる俺がいた。だが、目の前が白くなり、頭がぼぉーっとしてきた。ここで“死ぬ”というようなフレーズが浮かび、目の前にいる人物の顔が見えなくなる。

 

カチャッ!

 

不意に絞められた腕が緩み、酸素と血液が循環する。視界が晴れ、見えてきたのは銃を突きつけるシャルの姿だ。

 

「彼を離して!!」

 

Vaultで俺に向けていた10mmピストルは微かに震え、それは一歩間違えれば俺を射抜いていた。しかし、俺が見たのは微動だにしない10mmピストルと覚悟を決めたシャルの顔だった。

 

「ふん、良いだろう。どうせ撃とうが撃つまいが状況は変わらん」

 

彼女は俺の首から手を離すと、シャルの後ろから完全武装の警備兵が姿を表し、彼女を押さえ付けた。

 

「容疑者確保!」

 

「医療班を呼べ!」

 

所々叫ばれる声。

 

身の丈に合わない戦闘をしたため、身体はボロボロ。シャルの声を尻目に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 




改めて読んでみたけど、文の分け方が微妙だった件・・・・。なんか癖になってしまったようです。



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十九話 ジェファーソン記念館

まずはお詫び!
七月末に投稿しようとしていた矢先、大学の試験が重なったため急遽八月に延期しました。その後、夏休みはバイトがあったり、サークルでなんか色々あったり、サバゲーしたりとENJOYしました。
・・・・要するにPCに向かおうとする気力・・・意欲がなかったんです。

申し訳ないです・・・・。

九月末には必ず投稿するのでよろしくお願いしますWWW

※前の話の流れを若干変えました。以前、九月前に話を見ていた方は前の話をご覧ください


 

 

 

 

「ん・・・・?」

 

知らない天井だ。

 

テンプレ的な落ちを期待しているかもしれないが、本当に知らない天井を見ているのだから仕方がない。材質は金属であり、所々補強されている。そして、隣の部屋から響いてくる人の声や子供の笑い声が聞こえることから、場所は極端に限られる。

 

「すーっ・・・すーっ・・・」

 

誰かの寝息が聞こえ、首を捻ってその方向を見た。そこにはベットの隅に上半身を乗せたシャルの姿があった。ダークブラウンの髪が顔にかかっているのをどかし、ウェイストランドの基準では考えられないような容姿を堪能する。ふと、俺は起きる前に何をしていたのかを考え、医務室での乱闘を思い出した。

 

 

 

 

 

「あ、ってことは俺は助かったのか・・・・」

 

傭兵の軍隊格闘術に負けて、あと一歩で殺されるところだった。俺は多分、首を絞められて気絶させられたにちがいない。で、俺は何処かの部屋で介抱されたわけか。

 

俺はベットから出ると、変な体勢で寝ているシャルを所謂お姫様抱っこを行ってベットに寝かす。「ユウキ・・・むにゃむにゃ・・」と寝言をいうシャルに少しばかり驚いたが、直ぐに可愛く思えた。布団を掛けてやり、起こさないようにその場を離れた。そこは事件現場とはそう遠くないアッパーデッキの廊下で、突き当たりには黄色いテープで封鎖されていた。

 

「あら、起きたのね?」

 

声を描けてきたのは、戦前のワンピースを着た女性だった。ウェイストランドでも片手に収まるような美人と言っても良いだろう。彼女は買い出しにでも行っていたのか、手にはバケットと幾つかの食べ物が入っていた。持っているものや着ている物と言い、空母の中でなければ戦前からタイムスリップしてきたと言っても信じてしまう。

 

「えっと、貴女は・・・」

 

「まだ自己紹介はまだだったわね。私はヴェラ・ウェザリー。ブライアン・ウィルクスの叔母よ」

 

リベットシティでウェザリーホテルを経営する女主人だ。リベットシティじゃ、一二を争う美人だ。確か、父親が兄にあたるのではないだろうか。

 

「そうでしたか、自分はユウキ・ゴメス。メガトンで武器販売と製造を担っています。」

 

「あら、ガンスミスなのね。そう言えば、フラックと話していたけどそう言うことだったのね」

 

どうやら、俺とフラックの開発談話はかなり噂に成っているらしく、噂に敏感なヴェラの耳には既に情報が入っていた。その中では俺とフラックがトンでも武器を発明して、リベットシティを吹っ飛ばすというトンでもない噂もあったが、尤も達が悪いのがフラックがパラダイズフォールズに武器を売っているという情報だった。

 

「そんな噂話が?」

 

「ええ、前はそれほどでもなかったんだけど。貴方みたいな人が来てからはね?」

 

「どういうことです?」

 

俺は首を傾げた。

 

「貴方がパラダイズフォールズから来た武器商人だと言い触らしているのが居るようね。私はそれを否定して噂を流しているんだけど。一度、噂が出れば一週間は定着するわ。多分、市議会公認の武器販売業者はあの二人だけだから、他の商人が流したに違いないと思っているわ」

 

商売とは信用によって成り立つ。それは命を預ける武器を売るとなっては尚更だ。例えばウォール街の証券マンだと、ありもしない噂を流して、売りを促して、ライバル社を潰すと言うこともある。そうなれば何十億ドルの損失もあるかもしれないが、今ある問題もそれと似たような物だ。そして、それが潔白を証明しずらいものであると、損失は増大していく。

 

「でも、どうして庇ってくれるんですか?」

 

「どうしてって、それは甥を世話してくれているでしょ。そんな人が奴隷商人に武器を供給しないわよ。それに私の勘も貴方は悪人じゃないって分かるもの」

 

「勘ですか・・・。」

 

勘と言う不確かな物だけど、信じてくれているのはとても嬉しかった。

 

「そうだ。ブライアンにこれを渡しておいて」

 

そう渡してきたのは、スコープが外された44口径マグナムだった。キャピタルウェイストランドで普及しているタイプのようなシルバーモデルではなく、黒くペイントされた物だ。それを俺に渡すとヴェラは後ろのキッチンで作り置かれていたリスシチューをよそった。

 

「それは兄が使うはずだった銃よ。余り使う機会もないだろうから、ブライアンに渡して。」

 

「ええ、分かりました。」

 

俺はそれをpip-boyに仕舞うと、ヴェラからリスシチューを貰ってシャルが借りてくれた部屋へと帰った。

 

 

それから俺とシャルは少し遅い朝食を食べた。こうやら、クリニックのあと、俺は気を失ったまま夜を明けてしまったらしく、シャルは最悪の事態に備えて夜通しで備えていたらしい。それは脳溢血とかの脳外科系の外傷を想定していたらしく、俺はそれにならなくて本当によかったと思った。夜通しで俺を見守っていてくれたシャルは体力的に限界らしく、朝食を食べた後、また寝に入ってしまった。俺はまた布団を掛けると一度マーケットへと足を向けた。フラックと少し話さなければならないからだ。

 

マーケットに入ると、最初来たときと比べて人気が少ない。まあ、まだ午前中なので人が少ないのは当然だ。フラック&シュアプネルの店舗を見ると、シュアプネルが店番をしていた。

 

「誰かと思えば・・・・。フラックはここにはいない。他を当たんな」

 

「何をやるのか聞かないんですか?」

 

俺はフラックとシュアプネルの二人は仲がいいと思っていた。もしかしたら、既に聞いているかもしれないと思いもしたが、多分違うだろう。

 

「いや、興味はない。俺は会計専門で武器開発っていう金を溝に捨てるようなことは願い下げなだけだ。俺は再三辞めろと言っているんだがな、お前さんが来たお陰で奴のやる気が再燃したわけだ」

 

「(speech75%)いずれ生産しないと、石斧と弓で戦いますよ。それに俺とフラックのやることは必ず成功します。ですが、成功するためにはあんたの力が必要なんですよ」

 

「俺の力が?」

 

シュアプネルは首を傾げた。ゲームの時から俺は余り彼の事が好きではない。だけど、好き嫌いをしていたらなにも始まらない。

 

「ええ、フラックからは会計の達人で、不正収益を直ぐに見つけて問いただすと聞きました。あんたならコストを出来るだけ減らしていくことが出来る筈です。」

 

シュアプネルはそれを聞いて腕組みをして考える。問題なのは生産拠点と販売ルートの確保だが、キャピタルで影響力のあるキャラバンと取引できれば何とかなる。すると、シュアプネルは何を決心したのか、近くにあったキャビネットからウィスキーとショットグラスを取り出した。

 

「な、何をしているんです?」

 

「何、祝酒って奴だ。お前も飲め」

 

「ってことは・・・」

 

「お前の事は怪しいと思っていたが、やっぱり変な野郎だ。だが、この話は乗った」

 

二つのグラスにウィスキーを注ぎ、片方を俺に渡す。

 

「俺の酒は飲めないか?」

 

「いいや、飲むに決まってる」

 

喉に焼けるようなアルコールの匂い。こうして俺はリベットシティにおける武器関係産業に成功した。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

「え、もう一回言ってください」

 

ホテルに無事戻った俺はシャルとの食事を邪魔した警備兵の話をもう一度訊いた。

 

「クリニックで暴れたあの女が脱走したようだ。この空母の中に居るのかもしれないが、注意してくれ」

 

どうやら、リベットシティの警備状況は酷い有り様らしい。話によると、重犯罪者を入れておく独房の扉が開き、警備をしていた兵士は銃を奪われ死亡。依然、行方が分からない。独房などがある営倉エリアは厳重な警備体制だったはずだが、それが突破されたとなると、リベットシティの警備は腑抜け揃いか犯人が凄腕なのか。それか両方なのかもしれない。

 

報告をしてきた警備兵は用事を済ませると、急いで部屋を出ていった。独房を脱走するなんて早々無いことだろう。通路を出てみると二人一組の警備兵が部屋を一つづつ調べている。練度は低いと言えば低いが、警察機構としては機能している。だが、俺達は当事者で、相手のネジが外れている場合、俺たちの命は危うい。ネジがない時点で独房の脱出は難しいが、稀になくても出来るヤバい野郎は存在するだろう。

 

「ジェファーソン記念館に急ごう」

 

シャルは荷物を纏め、俺も急いで荷物を纏めに掛かる。補給物資は昨日買ったので装備品は大丈夫だった。ただ・・・

 

「ジェファーソン記念館はミュータントの巣窟なんだよな~・・大丈夫かな?」

 

「大丈夫でしょ。行こう」

 

シャルはVaultアーマードスーツにハークネスから貰ったA3-21プラズマライフル。俺はVault改良アーマーにアサルトライフルR.I.S.改造仕様とスナイパーライフル。

 

部屋を出て、ヴェラに鍵を返してホテルを後にする。捜索中の警備兵が俺達の装備を見て、目を見開いていたが気にしない。マーケットに一度行き、フラック達にお別れを言うと、「死ぬんじゃないぞ」とエールを送られた。餞別として幾つかの弾薬とヌカランチャーの弾頭を2つ貰った。何に使うと戸惑ったが、仕方なくpip-boyに納めた。

 

ゲイリーズ・ギャレーで少しだけ食糧を買い、リベットシティを出た。水蜜扉を開けて、リベットシティの橋をわたり終えようとする時、ふとシャルの足が止まる。

 

「どうした?」

 

「なんか懐かしいような感じがする」

 

「ん?赤ん坊の時に連れてこられたんじゃないか?」

 

俺がそんな事を言うと、シャルは首をふる。

 

「違うの、そうじゃなくて。こっちの外の方が懐かしいと思えちゃった」

 

荒んだウェイストランドの空気。1分に一回、市街地に居れば聞こえる銃声。リベットシティでは鉄の壁がいつもあり、考えてみればVaultと似たような感じだったが、入った瞬間息苦しさを覚えた。何て狭いところに住んでいるんだと。

 

「ああ、まだ2日3日しか経ってないけどな」

 

俺はそう言って再び歩み始める。Vaultに出てからどの位経ったのか。いずれにせよ、今まで生き残れていると言うことは、このウェイストランドの環境に適応していると言うことだ。これまで生き残り、シャルと苦楽を共にしてきた。そして、ウェイストランドの生活の楽しさを知ってしまった。

 

楽しさとはその名の通り、この世界で生き残ると言うことが楽しい。生死を掛けて、都市や地下鉄を探索したり、レイダーやミュータントとの銃撃戦。戦いは常にアドレナリンを分泌させ、生き残ることに達成感を抱く。それはスカベンジャーのように冒険そのものが楽しくなっていた。すでにそれは病気の類い、Vaultで異端者扱いとなっていた原因はそれだからだろう。既に皆気付いていたんだ、外は普通じゃないって。

 

リベットシティはキャピタル・ウェイストランドで人類最後の砦と言っても良い。だが、旧世界に染まったその場所は、俺にとって窮屈の何者でもない。

 

 

瓦礫の山と化した道路を歩き、例の女傭兵を助けた場所を横切って目的地を目指した。

 

 

「あれがジェファーソン記念館か。」

 

アメリカ第三代大統領トーマス・ジェファーソンを記念して作られた施設。ワシントンD.C.で就任演説を始めて行った一人で、アメリカの歴史の中で偉大な人物の中の一人と言われるほどである。2060年代に大改修が行われ、外からだと大統領の銅像が見えないが、中には様々な展示物がある。しかし、それは殆んど無いだろうと思った。

 

幾つかのパイプラインがジェファーソン記念館にあり、最近になって作られた金属製の橋。そして放棄された陣地。元々、パトロンであったのはBrotherfoot of steelであったため、スーパーミュータントから守るための施設もあった。

 

「ヤバイな、プルート4体にマスター3体・・・加えてケンタウロスか。詰んだね」

 

ジェファーソン記念館に近いコンクリートブロックからスナイパーライフルのスコープを覗く。レイダーなら後ろから接近して首をかっ切れば全員殺せる自信はある。だが、スーパーミュータントとなると、話は別だ。まず、ナイフが使えないし、銃弾も徹甲弾しか効き目がない。それ以前の問題で、徹甲弾の弾数が欠乏状態なのも理由の一つとしてある。だから・・・・・詰んだのである。

 

「どうにか出来ない?」

 

「どうにかって・・・・どうやるんだよ?」

 

pip-boyに入った武器を見ても、打開策は見つからない。力任せに突撃してもゲームのように勝つことはない。やっても、ミュータントの晩飯になるかならないか。そして、中国軍ステルスアーマーを使って後ろから撃っても無理だ。

 

「今さら戻るわけにも・・・・・あ!」

 

俺は良い方法を思い付き、声を挙げる。だが、この作戦は以外と難しい。

 

「どうしたの?」

 

「仕方ない。いっちょやるしかないか。」

 

シャルは頭に?を浮かべそうな表情をする。しかし、俺がその方法をシャルに伝えると、当然の如く怒ったのであった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「おい、ステファン。奴はまだ来ねぇのかよ」

 

「五月蝿いぞ、エド。そこで待っていろよ」

 

俺は中華アサルトライフルを肩に掛けて、右手の双眼鏡で周囲を見渡す。カモは見当たらず、此方にくる様子もない。

 

エドは持っていた愛用のコンバットショットガンを弄くりまわし、隣の無口なバーノンは中国軍将校が使用する剣を磨いている。

 

つい最近になってタロンの傭兵共がメトロの中に入ってきたので、カモの死体を餌に食わせていたフェラルを解き放ち、タロンに一泡吹かせた。フェラルごときでタロンの傭兵は死ぬことはないが、注意を削ぐことには成功した。ボルトアクションライフルや中国軍ピストルを撃ち、瞬く間に奴等は死んだ。フェラルは一匹も生き残っちゃいなかったが、タロンの持つ高性能な武器だけは手に入れられた。

 

そして、ここに入ろうとする商人を狙おうとしているが、早々こっちに来ることはない。

 

「あーヤりてぇーなー」

 

「エド、お前フィナを盾にして殺しただろ。自業自得だ」

 

「アイツが勝手にサイコヤってたから、偶然盾になっただけだ」

 

この前のタロンとの戦いで何人か死んだ。他にもメトロには仲間がいるが、尻軽で顔もいい奴はそうそういない。そんな奴がタイミング悪くサイコをやってるなんて俺も気が付かなかった。

 

無性に誰かを殺したくなってきた。

 

すると、リベットシティーの方向にある瓦礫の方向に光るものを見つけた。それは太陽光がスコープに反射したものだった。7.62mmの重い発砲音が響き渡り、俺の中華ライフルに穴が空いた。

 

「あっ!」

 

俺の頭を外したのか、声を挙げる狙撃手。俺の耳はそいつの声をはっきりと捉えていた。女だ。

 

「エド!バーノン!上物だぁ!!」

 

俺は腰に付けていた警棒を伸ばし、襲いかかる。女は形の良い尻を俺達に向け、誘っているように走る。顔も体もいい、使い古したのを奴隷商人に売ることはあったが売るに惜しい。

 

女はホルスターにあった10mmピストルを此方に向けて数発放つ。だが、走りながらの射撃は早々当たるわけもなく、女を捕まえようと手を伸ばす。だが、女は俺達よりも足が早く、ミュータントが根城としていたバリケードへ入っていった。

 

「おいおい、ステファン。中に入るのかよ・・・・。俺は嫌だぞここに入るのは」

 

「何を言いやがると思えば・・・腰抜けが!」

 

俺はビビっているエドを罵倒する。ミュータントのいないバリケードなど、ただのごみに過ぎない。生臭く汚いスプラッター屋敷なだけで、そこには主は居ないのだ。

 

「エドが先頭だ。入るぞ!」

 

ぶっ壊れた中華ライフルがないのは心もとないが、女一人位なら警棒一本で十分だ。

 

中は瓦礫で作られた砦といっても言い場所だ。血生臭い臭いと共に、二体のスーパーミュータントの死体。だが、女は何処へ消えたのか何処にも見つからない。

 

「ん?何処に消えた?!」

 

辺りを見渡すが、何もない。瓦礫と肉が詰められたゴアバック、幾つかの弾薬箱と救急箱だけだ。

 

待てよ、何であの女は不利と知っていて撃ったんだ?それに目の前にリベットシティがあるのに何故入らなかった?それに、こんなところに逃げ込めば、追い詰められるのは分かっていただろうに。

 

ふと不安が頭を過る。その不安は的中し、つるんでいた仲間の叫び声が響き渡る。

 

「逃げろぉ!ミュータントの攻撃だぁ!!」

 

ショットガンの銃声が響き渡り、断続的にアサルトライフルの銃声が響く。

 

逃げないと!だが、何処に逃げれば幾つかのいい?

 

俺は慌てて何処かに通路がないか探す。だが、さっき砦に入ってきたところしか道はない。ふと、ミュータントの手元にあるものが目に止まった。そこには昔の兵隊が使っていた小型核弾頭が転がっていた。

 

「これを使えば・・・っ!」

 

使おうと手を延ばしたとき、巻き付けられたセンターモジュールと爆薬が目についた。信号受信待機中なのか、豆電球がチカチカと動いていた。

 

「畜生ぉぉ!!」

 

 

 

 

ちょうど叫んだその時、地上に太陽が生まれた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

「爆破ぁ!」

俺は叫び、手元の起爆装置の起爆スイッチを押した。

 

体の奥にまで来る爆発の振動に鳥肌が立ち、爆風で周囲に散乱していたゴミが散乱する。ミニ・ニュークの起爆は直接目で見ることは小型であっても、視力が低下する恐れがあるため、爆心地はあえてみない。爆発に巻き込まれないように、廃車の影に隠れて居たため助かった。

 

「ユウキ、苦しい・・・」

 

「すまんすまん・・」

 

俺はステルス迷彩で透明になっていたシャルの上に被さっていた。何処からか見れば、襲っている様にしか見えないが、爆発に巻き込まれないようにしたのだから仕方ない。

 

砦は見事なまでに吹っ飛び、レイダーとスーパーミュータントもろとも吹き飛ばした。銃弾を弾く強靭な肉体を持つスーパーミュータントであっても、核爆発と飛来した瓦礫でボロボロだった。レイダーが居たのは驚きだったが、この際何でも良かった。

 

ジェファーソン記念館のミュータントを減らすために、傭兵の女を助けた砦まで誘き寄せる。だが、腐ってもスーパーミュータント。何もない所によっては来ないし、餌となる囮も必要だった。まず、シャルがレイダーを呼び寄せて砦に誘導する。そして俺はスーパーミュータントを誘き寄せるため、銃を撃ち、こちらの存在を知らせた。自分達を撃ったのはレイダーだと勘違いして襲いかかれば、計画通りだった。リベットシティで貰ったミニ・ニュークの信管を衝撃信管から無線式に取り替えて、爆発しなかった時に備えて300g程度のC4を仕掛けて置けば、見事な小型爆弾に早変わりした。

 

最後にジェファーソン記念館にいる残りのスーパーミュータントにこれを食らわせるだけだ。

 

「シャル、それを!」

 

シャルが渡してきたのは、ヌカランチャー。超小型核弾頭を発射するための発射装置だ。それの飛距離と角度を計算するため、シャルにクリップボードを渡す。ヌカランチャーを地面に垂直に立てると、そこの部分にある出っ張りに迫撃砲の底皿を置く。そして、グリップの窪みにメモリの付いた足を付けて、迫撃砲にした。

 

「こんな使い方あるのね」

 

「放射線状に飛ぶ武器ならこうやった方がいいんだ」

 

1950年代はトンでもない時代だと言われている。例えば核動力の戦車(ソ連製)やTNT換算で1トン級の小型核砲弾を発射する砲台(アメリカ製)などだ。その中でも一人で操作が可能な小型核ロケットを発射するデイビークロケットなどがある。目の前にあるヌカランチャーもその類い。ヌカランチャーは砲弾を緩やかにカーブして飛ぶので榴弾という扱いである。使い方によれば、元の開発プロジェクトで核迫撃砲として運用される筈だったが、運搬しにくくさと敵の攻撃による誤爆という問題もあり、迫撃砲から兵士が背負う兵器に変化した。それでも、砲弾の重さを考えれば、普通の迫撃砲より射程距離は短い。だから、運用方法としては迫撃砲としても使用できる。

 

「角度を+10、この方向なら大丈夫。」

 

「本当なら、何発か打ち込んでから修正を加えたいところだが、仕方がない。」

 

ミニ・ニュークの安全装置を外し、発射装置に装填する。ミニ・ニューク自体は推進装置を持たず、ヌカランチャー自体にカタパルトがあるので、そこから発射される。

 

「発射準備よし、発射!」

 

引き金を引くと、カタパルトが動き、ミニ・ニュークが打ち出される。シャルによって導き出されたミニ・ニュークの軌道はそのままジェファーソン記念館の入り口近くに命中する。内蔵された爆薬が爆発し、中心にあったプルトニウム235が衝撃で核分裂を起こす。莫大なエネルギーが放射され、近くにいたスーパーミュータントは吹き飛ばされる。放射能に耐性を持つ彼らでも爆発の威力によって即死である。核爆発には抗えなかった。

 

「よし!やったぞ!」

 

シャルと俺はハイタッチをする。爆風に飛ばされたミュータントも居るだろうが、手負い。簡単に片付けられる相手だ。

 

Rad-Xを数錠飲み、持っていたアサルトライフルを持って警戒しつつ、ジェファーソン記念館へ向かう。

 

カリカリカリ・・・

 

ガイガーカウンターの音がpip-boyから聞こえ、少しだけ冷や汗を欠いたが、そのまま前進する。

 

「俺が扉を開く。後衛は任せた」

 

「うん」

 

片手でアサルトライフルを持ち、もう片手でドアノブを持つ。慎重に扉を開けて銃口を通路に向けた。ミュータントの姿は見えず、ゆっくりとジェファーソン記念館に入った。

 

いつもと変わらず、埃とかび臭い臭いが立ち込めていた。展示物は取り外され、必要のない通路の端に山積みにされていた。少し通路を進んでいくと、『この先ギフトショップ』と戦前に設置された標識を見て、右に曲がろうとする。

 

「ハラガヘッタ」

 

「肉ガクイタイ」

 

扉の向こう側にはスーパーミュータントが屯っていた。数は二体。真っ向から向かえば死ぬことは目に見える。

 

「シャル、そこのパソコンから天井のタレットを操作しろ」

 

アサルトライフルに数少ない残りの徹甲弾を装填し、銃口をミュータントの頭に合わせた。

 

「今だ、やれ」

 

200年前に製造され、中国軍侵略対策のために設置されたタレットは近くにいたミュータントに対し、攻撃を加えた。アサルトライフルと同じ5.56mmの弾が発射され、スーパーミュータントの胴体に命中する。しかし、スーパーミュータントの強靭な皮膚を貫通することは出来ない。

 

「コロシテヤル!」

 

タレットにボルトアクションライフルで攻撃を加えるが、ある程度装甲で覆われたタレットを破壊することは出来ない。注意が引かれている瞬間、扉を開き、スーパーミュータント二体の頭部に赤のドットをあわせて引き金を引いた。

 

アサルトライフルに装填された徹甲弾は強靭な皮膚を貫通すると、スーパーミュータントの頭蓋骨に到達し、脳髄を掻き分ける。いくら丈夫なスーパーミュータントでも神経の終着地点、全身をコントロールする脳髄を破壊されては生命維持もままならない。ライフルの引き金を引いたまま、ミュータントはズシンと大きな音を出して倒れた。

 

「Clear、タレットをスタンバイ状態にして進もう」

 

ボルトアクションライフルの弾を抜いて、奥の管理室の机の下にそれを置くと、アサルトライフルを構え直し、「VR見学室」と掛かれた扉を開いた。

 

ゴウン!ゴウン!ゴウン!・・・・

 

機械と機械の接触音が見学室に響き渡り、何なのだろうと覗き見ると、階段が金属製の物へと変わっており、その下には水が張ってある。幾十ものパイプが中央のジェファーソン像を包む機械へと集中していた。

 

すると、そこへ緑の肌のスーパーミュータントが現れる。

 

「ミナゴロシダァァ!!」

 

実験エリアを徘徊していたスーパーミュータントマスターは中華アサルトライフルを構え、此方目掛けて撃ちまくる。弾はレイダーよりも正確な射撃で隠れていた柱を抉る。

 

「弾が切れるのを待て!」

 

レーザーライフルを撃とうとしていたシャルを止めて、弾が切れるのを待つ。スーパーミュータントは人間よりも知能が低い。アサルトライフルの弾の数を把握してないため、躊躇わず乱射する傾向がある。弾切れになった瞬間を見計らって、俺とシャルは姿を表す。

 

「今だ、制圧射撃!」

 

アサルトライフルの引き金を引き絞り、数発づつ発射する。徹甲弾はスーパーミュータントの胴体に当たるが、致命傷にはならない。シャルはレーザーライフルをミュータントの頭部目掛けて発射した。三本の光線がミュータントの頭蓋骨などに命中する。強靭な皮膚を焦がし、表面を薄くすると、さらに第二射が命中する。薄くなった皮膚を貫通し、脳髄に光線が到達する。光線に触れた脳組織は沸騰し、細胞は壊死する。スーパーミュータントは呻き声を挙げながら、その場に崩れ落ちた。

 

「Clear!中に入ろう」

 

一応、見掛けた敵を倒しただけであって、機械の影に何かいるかもしれない。銃を斜めに傾けながら、階段を登り、ホロテープが幾つか転がっていた。

 

「ん?これって録音機材のホロテープだな。シャル、これを持っていこう」

 

「うん、他の資料はどうする?」

 

「古いのは持っていかなくて良いだろう。むしろ、このホロテープ見てみろよ」

 

「“2277,12,March”私達が出ていってから一週間後?」

 

俺達が出ていったのは、2277年3月5日。その七日後にジェームズはここに来たようだ。しかし、ここに俺達が来て既に5ヶ月も経っていた。

 

シャルは不安そうな表情を浮かべる。5ヶ月も経過し、普通なら絶望視しても可笑しくない。俺はシャルの肩を叩く。

 

「大丈夫だって、ジェームズのおじさんがそう簡単に死ぬわけないだろう?」

 

「うん・・・・」

 

「多分、下の階にも研究施設があるだろうからそこ行くぞ。そこなら他の手掛かりも見つかるだろう」

 

アサルトライフルの弾倉を変えて、下の階へ行くべく実験室から出る。シャルはまだ気分が晴れないようだが、そのまま連れていくしかない。レールにフラッシュライトを取り付けて、辺りを照らし周囲を探索する。地下の居住区や濾過水槽がある階に降りる扉まで行くと、一度装備していた武器を点検する。

 

「室内なら、近接戦闘メインだからショットガンを使え。」

 

俺はpip-boyに入っていた閃光手榴弾を取り出して、腰のベルトにぶら下げる。気休めである10mmピストルを点検して扉に銃を向ける。

 

「開けるよ」

 

シャルは扉を開け、俺は中へ踏み入れた。

 

上の階層と違い、そこは薄暗く湿気が酷かった。ムッとする室温と湿度に顔をしかめ、ベタつく服に風を送るべく、襟を掴み風を送る。

 

「ミュータント二体、フェンスの所だ」

 

姿勢を低くし、アサルトライフルのサイトをミュータントの頭に合わせた。これまでは順調にやっているが、ミュータント二体が持っている物はボルトアクションライフルと木の板に釘を打ち付けたネールボードだ。銃撃戦ならいざ知らず、ミュータントとの格闘戦闘は死んだも同然だ。

 

「シャルはライフルの方を頼む。俺は棍棒持ちを殺る」

 

シャルに合図を出し、同時に放たれた弾丸と散弾はミュータントの頭部に命中する。俺の放った銃弾によって一方のミュータントは絶命するが、片方のミュータントは頭を抑えてうめき声を上げる。とどめの一撃と言わんばかりの一斉射撃により、ミュータントの頭部は木っ端みじんに吹き飛んだ。

 

「ごめん」

 

「気にすんな。・・・あ、そういやスラッグに変更してなかったな。マガジンをスラッグに切り替えろ」

 

12ゲージのショットシェルをサボスラッグである12ゲージスラッグ弾に変えていく。スラッグ弾は散弾では殺せないような熊などの大型動物に使われる大口径ライフルと同じようなものだ。大抵は部屋の突入でヒンジを破壊するときに用いられる。欠点は遠距離の攻撃に向いていないことだが、流石にスラッグで貫通しないスーパーミュータントはいないだろう。

 

「スーパーミュータントって大したことないのかもしれんな」

 

さっきのヌカランチャーを使った攻撃にしたって簡単に勝てたんじゃないだろうか?

 

スーパーミュータントはウェイストランド人からして、厄介者のイメージだ。人外の力で襲い掛かり、人を八つ裂きにする。しかし、ゲームでは雑兵程度。現実でもそうなのかもしれない。または俺が規格外なのか。

 

口を歪ませ、不敵に笑みを浮かべる。これからは真っ向から攻撃を仕掛けても大丈夫なはず。

 

そう思い、通路を進もうとした。

 

だが、進むことはできなかった。2mを越す緑の巨体がスレッジ・ハンマーを構えていたからだ。

 

「ユウキ!逃げて!」

 

シャルの声に我に返った俺はアサルトライフルを腰だめにして引き金を引いた。フルオートで撃ち出された徹甲弾はミュータントを貫こうと、銃口から飛び出す。しかし、ミュータントが身に付けていた物に弾かれてしまう。

 

「何でパワーアーマーの装甲を!」

 

それはT45dパワーアーマーの胸部の装甲をそのままひっぺがし、ミュータントは胸に装着していた。B.O.S.のマークがあることから、兵士を殺して奪ったのだろう。ゲームではミュータントの装備は統一されているが、ここではそうじゃない。上半身に何も身に付けていない場合もあるし、ゴミ箱の蓋やレザーアーマーの切れはしなど様々だ。今回当たったのは、運悪く重武装のミュータントだった。

 

「シネ!人間!」

 

スーパーミュータントはスレッジ・ハンマーを俺に横から叩きつけた。後ろに下がろうとするが、一歩遅くハンマーはアサルトライフルに直撃する。200年前に作られてもまだ正常に機能するライフルは衝撃で変型し、薬莢が圧縮されて暴発する。銃弾はコンクリートの壁に穴を開けて役目を終えた。

 

避けようとして後退り、姿勢を崩した俺はホルスターから10mmピストルを構え、引き金を引いた。対人用として生産されたそれはスーパーミュータントの皮膚を貫通しない。それでも痛覚は存在し、命中した腹を押さえて顔を歪ませる。

 

「痛イ!ヨクモ!」

 

怒りに駈られ、ハンマーを持ち上げる。その場から逃げようと立ち上がろうとするが、思うように体が動かない。

 

「シャル、逃げろ!」

 

ここは俺が囮になって逃げるしかない。腰のガンベルトのポーチから黒い丸い物体を取り出す。距離が離れれば殺傷能力が低下するが、この距離からなら大丈夫だろう。

 

だが、シャルは持っていたコンバットショットガンをミュータントに向けて放った。しかし、装填されたスラグはミュータントの皮膚を貫通しなかった。

 

「ウガァァァァ!!」

 

スーパーミュータントはスレッジハンマーを降りおろす。死を覚悟し、目を瞑って腕で頭を隠す。スレッジハンマーだから頭を腕で覆っても逃れはしないだろうが、咄嗟の行動だった。

 

しかし、死ぬであろう瞬間は訪れない。そっと目を開けて見てみると、口を開いた状態でスレッジハンマーを振り上げた状態のミュータントがそのまま固まっていた。何が起こったのかと姿勢を起こすと、ミュータントの口からはどす黒い血が流れだしていき、そのまま後ろに倒れていく。俺はシャルが仕留めたのかと後ろを向いたが、目を真っ赤にして涙を流すシャルがいた。これではラッドローチすら殺せない。・・・じゃあ、誰が?

 

通路から足音がするが、その足音は軽い。通路の暗闇からはレザーアーマーに改造されたスナイパーライフルを持った人物が現れた。

 

「ああ、また会ったな」

 

その人物はミュータントから救い出し、リベットシティで暴走した女傭兵だった。

 

 





遂に明かされる浄化プロジェクト!ジェームズの目的とは?
そして、現れる謎の美女!彼女は一体何者なのか?

fallout3とある一人の転生者・・・・次話へ続く! 

by threedog






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二十話 休息

正直、この話が一番悩んだかもしれない・・・。

予定とは違ってかなり急展開・・・・かも?


「ねぇ、お兄・・・師匠」

 

「いいよ、もう・・・・お兄さんだろうが、兄ちゃんでもいいよ」

 

だぼだぼのつなぎを着たブライアンは“師匠”と呼ぶが、俺はどうでもよかった。たかが、名称が変わった位でどうともしない。こんな事態と比べたら・・・・。

 

「へぇ~・・・、こんな武器をカスタマイズするのなんてお前ぐらいなものだ。ここら辺では滅多にお目にかかれない代物だな」

 

傭兵が使用するレザーアーマーに弾帯を追加した姿は歴戦の傭兵と言われても遜色無い。いや、その通りなのだろう。MODで追加したMG3機関銃を撫でる彼女の姿はまるで犬をあやすブリーダーのようにすら思える。彼女がそれを使えば、目の前に死体の山が築き上げられることは必然だ。

 

「そう言えば、店長・・・あの人の名前は?」

 

「え、彼女か?彼女の名前は・・・・・・」

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「自己紹介がまだだったな、私はアリシア。ニューヨークで傭兵をしていた」

 

ジェファーソン記念館の事務室にあったいくつかのランタンに火が灯り、それを囲うようにして寝袋が引かれた。ホットプレートと核分裂バッテリーを改造した湯沸し器でお湯を沸かし、リベットシティで入手したインスタントコーヒーを淹れる。戦前に米軍が支給していたコーヒーだったらしく、アメリカ軍のマークが刻印されている。それをマグカップに注ぎ、シャルとアリシアに渡した。

 

「俺はユウキ。Vaultでオフィサーをしていた。」

 

「私はシャルロット。同じく医者をしていたわ」

 

俺達は軽く自己紹介をすると、沈黙が部屋を支配する。それは当然であるだろう。何故なら、目の前にはリベットシティで指名手配となり、俺を攻撃した張本人がいるのだから。一応、助けて貰ったと言えど、昨日の事を簡単に忘れることは出来なかった。

 

「はぁ・・・・。あんたはなんでスーパーミュータントに捕まっていたんだ?そして、なんで俺を攻撃した?」

 

沈黙を破り俺は声を掛ける。すると、アリシアは頭をポリポリと掻いた。

 

「私は武器商人の傭兵でキャラバンを護衛してリベットシティに行こうとしていた。その時、ミュータント共に襲われて私は拘束。他は殺された。やつらにされる前にあんたたちが助けに来たようだが・・・それは感謝してもし足りないな」

 

「ならなんで恩人を気絶させた?」

 

「あれは正直言って想定外だった。あの医務室が想像以上に立派だったし、あんたの装備だって此処等ではお目にかかれないが?」

 

「つまり、装備が豊かで技術力を持った集団に捕まったと?」

 

俺はふと、悪の秘密結社を思い浮かべるが、アリシアは首を横に振る。

 

「違うと言えば違う・・・。何て言うか、錯乱状態と言えば分かるか?意識を失う前にスーパーミュータントが私をミュータントにさせようとしていたんでな。てっきり、スーパーミュータントを製造する奴等じゃないのかと・・・」

 

とアリシアは俯く。普通の思考ならスーパーミュータントが悪の組織の手先であるなんて世迷い事を言う輩は頭が可笑しいと思うが、錯乱状態ならそう思うのかもしれない。

 

「・・・・まあ、仕方ないよな。だけど、あの格闘技か?あれは戦前の軍隊格闘か?」

 

俺は柔道技を使用したが、簡単に打ちのめされてしまった。軍隊格闘などそう言った高尚な技術はなく、あっても警察で使われる逮捕術しか習得していない。だが、それも錆びがこびりついたものであることは間違いない。

 

「ニューヨークに住んでいる軍隊格闘を秀でる老人から教えて貰った。」

彼女はニューヨークの旧セントラルパークに作られた村で生まれたらしく、そこで育ったとのこと。戦前はそこに米陸軍の臨時司令部が置かれていたことから、軍事物資が大量に保管され、放置された軍用車両がバリケードの役に立ったという。そこには、元アメリカ陸軍の兵士であったグールもいたため、他の集落と比べて強い勢力であったらしい。

 

 

「それにしても良い銃を使っているじゃないか。これはアサルトライフルを改造した奴か?」

 

アリシアは俺の横に立て掛けていたアサルトライフルを指差し、「触っても良いか?」と聞き、俺は了承した。俺のはこの世界にはないピカティニーレールをアサルトライフルに取り付けた。傭兵と言う職業なら、興味がわかない筈がない。さっきの戦闘で壊れてしまったアサルトライフルに替わって、予備に持っていたアサルトライフルを渡すと、色々いじくり回す。

 

「良く整備されているし、この部分は何かをつけるのか?」

 

「えっと、ここにはですね・・・・」

 

武器を売り買いする上で必要なのはコミュニケーションだと思う。武器を使用する彼女とその武器をカスタマイズして販売する武器商人たる俺にとって、これほど有意義な時間はない。

 

レールにハンドグリップやライト、レーザーサイトを取り付ける事を説明すると、驚いたようで銃を分解し、中を見始めた。

 

「銃身も熱が放出出来るようになっているし、コイツは200年前に設計したデザイナーに見せるべきだな。戦前に作られていれば、革命が起こっただろうに」

 

戦前でも、生前の俺の世界でさえ、アサルトライフルの排熱機構は十分ではない。アメリカ正式採用のM4A1では、マガジン一個分を連射すると銃身が熱くなる。それは暴発の危険性もあり、精度低下にすら繋がるのだ。一方、目の前にあるアサルトライフルも同じ悩みを抱えていた。レールを付ける以前は木製のハンドガードを取り付けていたが、これも熱を排出するには不十分だった。寧ろ、前者よりも排熱は酷い。スカベンジャーや傭兵などの多くは壊れたアサルトライフルを持ってくるものの、殆んどが銃身が歪んだ品で武器商人達の頭を悩ませている要因になっている。レールを装着したお陰か、銃身を空冷によって冷やすことになり、木製のハンドガードと違って排熱がしやすくなった。

 

さらに、オプションパーツ拡充が出来るようになったため、様々な製品が生産出来、市場も広がるだろう。唯一、欠点なのが、現在のような荒廃した世の中で利益は戦前と比べても少ないことだろう。だが、利益が出ることは明らかであり、やってみる価値は十分にあるのである。

 

なら、ピットも掌握しないとな。

 

ピットとはDLCにある奴隷商人とレイダーが支配する工業地帯跡の事だ。元々、ピッツバーグという戦前では製鉄所と兵器関係の製造を行っていた地域だ。しかし、大戦争によって大半が瓦礫の山となり、唯一の水源である川は数百年に渡る浄化活動が必要なほど放射能に酷く汚染されていた。主人公はレイダー側か奴隷解放運動側のどちらかに身を委ね、ミュータントウィルスの抗体を奪おうとする。どちらかに身を委ねて勝った場合、主人公は未だに稼働する銃弾製造を可能にするプラントの利用権を得る。バグ技で無限に弾薬を取得することも可能であるが、現実ではそれ以外の事も出来るだろうと踏んだ。元々、兵器を生産する設備もあることから、兵器生産プラントも稼働するかもしれない。もし、そうなればウェイストランドの一大軍事産業が誕生することになるだろう。そうすると、食糧生産を行う場所と交易ルートの開拓、バラモンなど輸送キャラバンの購入をしなくてはならない。

 

「どうした?考え事か?」

 

「キャピタル・ウェイストランドでコルト社並の銃器産業を作ろうとね。」

 

「ほぅ・・・・」

 

アリシアは腕組みをして、頭を上下する。

 

アメリカ軍の主力小銃を作っている、アメリカを代表する大軍需企業の一つだったコルト社であるが、勿論そこまでデカイ会社が出来ることは難しい。しかし、目標がデカければ、それだけ充実した道程になることは事実だ。

 

すると、アリシアはまるで頭の上に豆電球が灯るように閃いたような顔をして、俺に話し掛けた。

 

「私をまだ信用していないのはわかる。だが、私の頼みを聞いてもらえないか?」

 

「何?」

 

「メガトンの工房を見させてくれ」

 

当然ながら答えはNOである。早々、あの工房を見せることは出来ないし、業務上の守秘義務と言うか・・・理由がありすぎて見せるわけにはいかないのだ。しかし、俺が首を振ると隣にいたアリシアは俺に肩を擦り寄せる。

 

「そんな言わないでくれよ。良いじゃないか、他の武器商人に情報を漏らすとでも?」

 

「その可能性も無いとは言えないだろ?」

 

「ユウキ、私はニューヨークから来た傭兵だよ?ユウキとライバルの武器商人と通じている筈がないじゃないか」

 

そもそも、ニューヨークから来たと言うのも少し怪しい。本当にそうなのだろうか?

 

俺は様々な可能性を視野に入れても、彼女を工房の中に入れてメリットがあるか考える。全くもって、メリットは無いに等しく、デメリットが大きい。工房を見るだけなら、大したことはない。だが、新型カスタムの設計図や生前の武器をイメージして設計したライフルもあるため、出来ることなら入れさせたくはない。

 

「ほう、メリットがないからだな。ならば、私の体でどうだ?」

 

シャルにギリギリ聞こえないような甘い囁き。おれは反射的にアリシアの顔を見てしまうと、彼女は扇情溢れる笑みで俺を見つめる。彼女はラテン系で色黒で美人だ。ウェイストランドでは指折りの女性であることは間違いない。彼女は自分の身体で代金を支払って工房を見ようと言うのである。

 

「何を言っている?!そんなこと・・・・」

 

「シャルちゃんとは余り上手くいっていないのだろう。多分、まだヤっていないと見える」

 

「な!?」

 

俺はアリシアの指摘に驚き、ふとシャルの顔を見る。コクンコクンと頭を振り、意識が朦朧としていた。数時間前まで緑色のミュータントと戦闘していたのだから疲れるのは当然だろう。アリシアは立ち上がり、シャルを座った状態から、近くのロールマットに寝かせた。小動物のようなシャルはかけられた寝袋にくるまり、静かに寝息を立てる。

 

「好きではあるものの、進展がないな。キスはしたのか?」

 

「し、したようで。してなかったり・・・」

 

「へたれだな。」

 

「いや、キスはしようとしたんです。その時は丁度あんたみたいな傭兵が来ちゃって」

 

俺は頭を抱える。そう言えば、シャルがアウトキャストに拉致されて、シャルがレイダーに犯される所を助けた。その時、自然と頭がシャルに傾いたんだっけか。あのあと、不発に終わってうやむやだったよな。

 

「そうだな~、私は女との付き合い方を教えよう。それとも、今この場で叫んだら、君はどうなると思う?」

 

「・・・恐喝じゃないですか」

 

「ん?どちらにしても私に節だらな事を考えるのが彼女に対しての背信行為だと思うのだが?」

 

だが、男にそれを求めることは酷である。例え、一生付き添うと決めた伴侶を隣にしていても、目の前に現れる美女に釘付けになる男は多い。女性から反感を買ってしまうのは仕方がないのだが、残念ながら「男」という手前、そう言うものなのだから質が悪い。

 

「男にそれを言うのは酷ですよ」

 

「さっきの提案なら君にもメリットがあるはずだが?それにここら辺にいれば、やがてリベットシティ市議会から懸賞金が掛けられる。メガトンまで同行しようじゃないか」

 

「三人で行くんですか?シャルといちゃいちゃできない」

 

「待て、そもそもチキンな君にそんな大胆なことができるのか?」

 

「さっきから心を抉るようなこと言って!」

 

へたれと言われて傷つかない人間はいない。そして臆病と言われてしまえば、曲がりなりの男の尊厳とかプライドとかが傷つくわけでして。何にせよ、俺は目から涙を浮かばせまいと必死に堪える。何せ、曲がりなりにも、美女からチキンやへたれと言われたのだ。いつもより三割り増しに傷が付くに決まっている。

 

「“曲がりなり”って・・・・・美女と言われるのは嬉しいが、曲がりなりとは一体?」

 

「お、俺の心の中(文章)を覗くな!ただでさえ、ギャグパートを作ろうと必死になっているのに!」

 

最早、自分自身でさえ言っている意味が分からない。アリシアと俺の会話はその喧噪で起きてくるシャルによって中断することになったが、アリシアがメガトンまで同行することが決まってしまった。既に、“私に色目を使った”という強力なカードが切られているのだから、俺はどうしようもない。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

俺は一連の事を話し終え、店のカウンター下においてあった稼働状態の冷蔵庫から冷えたヌカコーラを一本取り出して栓を抜く。

 

「大変でしたね。」

 

「まったくだ。・・・・ところでシャルの奴は?」

 

「モイラさんの所言って原稿作成してます」

 

シャルはリベットシティの歴史についてフィールドワークを行っていた。リベットシティの市議会から歴史を聞いて、また前部甲板に一人で住む壮年の医者の所へ行って歴史を聞いてきたりもした。シャルはそう言う仕事に関してしっかりとレポートを書くため、報告書が二万文字以上となった。流石と言うべきか、そのレポートを受け取ったモイラはどれが重要で本に載せるべきか、本人から聞きながら原稿作成に精を注いでいるそうだ。そのため、モイラのクレーターサイド雑貨店は臨時休業となり、買い付けに来た客が俺の武器店に顔を出す。

 

「このアサルトライフルコンバージョンキット、幾らだ?」

 

「300キャップだ」

 

「・・・・う~ん、高いな」

 

「あんたが筋金入りの傭兵なら分かるかも知れないが、このカスタマイズを見てくれ」

 

傭兵風の男に見せたのは、ジェファーソン記念館で使っていたライフルの姉妹銃で、ハンドグリップとフラッシュライト、ドットサイトが設置されていた。それを見た男は目を丸くする。

 

「おお、こいつは!」

 

「戦前の部品やジャンク品を溶かして作ったカスタマイズ品です。もっと大規模な製造拠点があれば、コストも落とせるんですけどね」

 

本体価格とコンバーションキット、そしてオプションパーツも加えると700キャップ。これだけで一般的なウェイストランド人の二年分の年収に匹敵する。男は値段を見ると、少し考えてしまったが、サイト上部に20mmマウントレールと照準器だけ付けるだけでも使い方が変わってくることを説明し、照準器を付けるのに100キャップも掛からないことを説明すると男は照準器を買い求めた。やはりライフル2挺分+αの金額では買うのを諦めてしまうのだろう。その後、男に徹甲弾などの弾薬を勧め、150キャップ分を売ることが出来た。しかし、設計した物はどうしても売ることが出来ない。

 

「コストを落とさないと、作るのにも金が掛かるしなぁ」

 

新しい製品を作るには、生産ラインを作らなければならず、収益が約束されていなければ無駄になってしまう。生産ラインを確立せずに作ったとしても、全てが手作りにならざる負えない。そうなると、手間や時間が掛かりすぎる。全ての製造を機械にすれば良いのだが、やはり製造拠点は限られるし、現存した設備は希である。

 

「噂には西海岸は東海岸と違って荒廃していないと聞くな」

 

と、飾られたAKを構えたアリシアは思い出したように呟いた。向こうには戦前のアメリカのような国家である新カリフォルニア共和国があり、NCR兵器工廠や民間企業のガンランナーなどがある。その他にも、ガンスミスが多くあり、機会があれば行きたいものだ。それらの軍需企業とは雲泥の差があるものの、彼らのような設備があればどんなにいいものか。

 

「NCRか、向こうは強大だからな。ここら辺の国家なんてデイブ共和国か?」

 

「冗談だろ?・・・ここらの一大勢力はやはりB.O.S.か?」

 

俺は冗談交じりで人口が20に満たない国家を挙げたが、アリシアは怪訝そうな顔でT45-dパワーアーマーヘルメットを触りながら訊いてきた。B.O.S.は国家と言うよりも、武装結社である。元は米軍から離脱した将兵達の結社で、西海岸を端した武装組織であるものの、NCRの数に圧倒されつつある。ここでは、現地徴用の兵員補給もあるために、兵員はある程度補給できるが、装備の方は老朽化したパワーアーマーを使用していた。

 

「だろうけど、その次に厄介なのがスーパーミュータント。その次がタロンカンパニーかな」

D.C.都市部で三つ巴の戦いに身を投じている三つの勢力。しかし、タロンは資金源であるアリステア・テンペニーを失い、勢力を失いつつある。そうなると、B.O.S.とミュータントの一騎打ちになるわけだが、そこで武器弾薬、装備品、兵員が欠乏しつつある状況を打開せねばB.O.S.に勝ち目はない。

 

アリシアと俺は世間話を幾つか話した後、pip-boyのアラームが鳴り、会話を中断する。Pip-boyの時計を見ると、18:00となっていた。閉店の時刻である。ブライアンに金庫と武器庫の鍵締めを頼み、RL-3軍曹に警備を頼む。

 

「司令官殿お任せ下さい!・・・・ブライアン二等兵!早く片づけんか!」

 

「ぐ、軍曹!そんな無茶な!」

 

「軍曹殿と呼べ!新兵!」

まるで軍のブートキャンプを想起させる光景に笑みが溢れる。RL-3軍曹を彼と一緒にさせて正解だったのかも知れない。慌てた様子で片付けるブライアンを尻目に、レッグホルスターに10mmピストルを差し込み、アリシアと共に店の外に出た。

 

「ユウキ、これからどうするのだ?」

 

アリシアはポケットから取り出し、しゃくしゃになった煙草のパッケージの中にあるしおれた煙草をつまむと口にくわえる。戦前に製造された煙草の数は200年経った今でも相当数瓦礫の中に埋まっている。戦前の人々に愛煙家がたくさんいたことに関係する。生前の1950年代では老若男女の殆どが吸っていたぐらいだ。たまに西海岸から輸入されたNCR民間企業の煙草が周りに回ってくることがある。だが、それは戦前の煙草よりも味が劣るらしい。アリシアはポケットからライターを取り出して、しおれた煙草に火を付けて紫煙を思いっきり吸い込む。生憎、俺は煙草のにおいが生前から駄目なので、それを見つめる。

 

「ユウキも吸うか?」

 

「いいや、俺は吸わない主義だ」

俺は断り、今日どうするか考えた。既に日は暮れて、数少ない戦前の電灯が灯り始める。治安悪化を心配して保安官が設置させた物だが、暗がりでは市民以外の入植者の犯罪は絶えない。尤も、メガトンの定住権を持つ“市民”に対しての犯罪は少ないが、入植者同士での犯罪が絶えない。日に一人か二人は死人が出るし、男女関わらず強姦される事件も起こる。目の前の美人もやられかねないが、彼女なら逆に精気を吸って、犯人を腹上死させるんじゃなかろうか。

 

「なんか失礼な事考えてない?」

 

「いいや、それより何かあてあるの?」

 

「あるだろう?これさ」

 

アリシアはグラスを傾けて飲むまねをする。そのジェスチャーなら一つしかない。酒である。

 

「この時間からか。ウェインとビルが酒場にいるかな?」

 

「誰だい、そのふたりは?」

 

「ブライアンを助けたときにいた元タロンの傭兵さ。悪人じゃないよ。いいやつらさ、合えば分かる。」

 

そういえば、帰ってきてからあんまり会っていなかった。近況報告も兼ねて奴らとも酒を飲みたいな。

 

「シャルも呼ぶか。」

 

すると、ブライアンは片付けが終わったのか外に出てきた。

 

「ブライアン、先に家に帰ってて。皆で酒場行ってくる。少し遅くなるかもしれないけど、昨日作ったご飯の残りがあるだろ?」

 

「うん、大丈夫だと思う・・・・・」

 

ブライアンは視線を落とし、肩をも落とす。そういえば、昨日はアリシアも交えての夕食だったが、リベットシティに行っていたがために一緒に食事をとることがなかった。俺達がいない間、彼はいつもウェインやビルと一緒に夕食を食べていたのかもしれない。もしかしたら、一人で食べていたのか。

 

「・・・いや、やっぱりブライアンも来い。酒場だけど、ヌカ・コーラでも飲んでようか」

 

「いいのか?」

 

アリシアは訊くが、俺はブライアンにシャルを呼ぶように雑貨店に行かせた。

 

「なにが?一応、俺は奴の保護者みたいなものさ。只でさえ、最近は一緒にいることが無かったんだ。少し位家族サービスしたって良いだろう?」

 

“家族サービス”血の繋がらない俺達が家族とは片腹が痛くなるかも知れない。最近は全く一緒に居られなかった。それに・・・・・

 

「“罪滅ぼしのため・・・”なんて考えているんじゃないだろうな?」

 

ふと、アリシアは俺が考えていた事をさらりと口に出す。俺は慌てるものの、アリシアはいつになく厳しい目線を向ける。

 

「何をしたんだ?あの子の親を殺したのか?」

 

「そんなことはしてない。ただ救おうとして救えなかっただけだ」

 

アリシアにはグレイディッチで起こったことを話していない。話すメリットがないので話していなかったが、俺が彼の両親を殺したから養っていると勘違いされたくはない。アリシアに要約しつつ、全容を述べる。すると、悪人を見る目から奇人を見るような目へと変わっていく。

 

「・・・・ハハハ!そんな理由だったのか?」

 

「じゃあ、言うけど。ゴーストタウンに子供を置き去りには・・・」

 

「出来るね」

 

殆んど即答だった。

 

「Vaultの人間は本当にお人好しだ。・・・いいか、その時の明日の食事がどうなるか分からないのに、食いぶちを増やすなんて正気の沙汰とは思えない。大体、大人だからどうとか馬鹿げてる。自分の子供ならまだしも、父親は会いもしない赤の他人だろう」

 

「いいや、会ったよ」

 

俺は否定する。ポケットから取り出したのは、ウェイストランド中に転がっている5.56mmの空薬莢だ。

 

「ブライアンの話では自分を囮にしたらしい。家には空薬莢の山がそこらじゅうにあった。周囲にはジャイアントアントが5匹もいた。だけど、死に逝く最後まで諦めなかった。その身が燃やされようとも我が子を守ろうとしたんだ。そんな光景を見て、ブライアンを残して去ることは出来なかった。」

 

どんなに荒廃した世界で生きようとも、人としての生き方がある。お人好しと呼ばれても構わないが、良心無くして人類の復興などあり得ない。

 

俺の独白を聞いたアリシアは一瞬だけ幸せそうな笑みを浮かべるが、すぐに俺の後ろから首に腕を引っかけて体重を掛けた。

 

「重っ、肩痛いって!」

 

「女の子に重いと言うのは失礼だろう。ほら、酒場行くぞ」

 

その姿はまるで部下に絡む壮年の上司のようだった。俺は嫌々ながら首に掛けられた重みに耐えつつ、酒場へ至る酒場に移動する。だけど、俺はこの時、満面の笑みを浮かべるアリシアをしっかりと見ることは叶わなかった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

「で、線路の所でレイダーと遭遇したんだけど、追いかけていたモールラットが地雷を踏んでレイダーに体当たりしたんだ」

 

「かなりの量の地雷だろうな。・・・レイダーって何しでかすか分かったもんじゃないな。地下鉄で爆発物使うとか正気の沙汰とは思えねぇ」

 

場所が変わって、モリアティーが経営する酒場の一角には6人の男女が酒を飲んでいた。内二人は元タロンの傭兵、ビルとウェイン。黒いコンバットアーマーを着ているが、社章のマークは消されていた。いつも持っていたレーザーライフルやアサルトライフルは近くにあるラックに置いてある。そして、加えて俺とシャル。俺の場合はコンバットブーツにカーゴパンツ、Tシャツとラフな格好だ。その代わり、10mmサブマシンガンを腰に吊るしてあるため丸腰ではない。シャルは先程から暑いと言って、Vaultジャンプスーツの上を腰に巻いて、豊かな胸が強調されるタンクトップ姿となっていた。見ないように堪えながら、ウィスキーのストレートを喉に流し込んだ。そして新参者が二人。ブライアンとアリシアである。ブライアンの場合はコップに注がれたヌカ・コーラを飲みながら、ゴッブ特製バラモンスープを食べている。その他にも、軽食類や食べたことない料理が並んでいる。一方、アリシアもシャルと似通った服装だった。俺と同じようなコンバットブーツを履き、カーゴパンツの裾は折られて綺麗な脹ら脛が見え隠れする。そして、上半身はタンクトップ。ウェイストランドの女性ってタンクトップ好きなのかと思ってしまう。

 

「なあ、ユウキちょっと良い?」

 

すると、ウェインは俺のコップにビールを流し込み、味がおかしくて途中で飲むのをやめる。

「な、なんだよ」

 

互いに余り酔ってはいないが、場酔いはしている。ウィスキーとビールの混合物を飲みながら、ウェインの話を聞く。

 

「いっつも会う度に美人を連れてくる。少しは分けて」

 

「は?」

 

「“は?”じゃないよ!あれか?それってハーレムって奴だろう!所謂、主人公補正って奴に決まってる!」

 

「何の話をしているんだ?!」

 

ちなみに俺はハーレムなんてものを作った覚えはない。そして複数人の女性を侍らせはしない。

 

「自覚は無いにしても、お前の回りには美女ばかりよってくるんじゃないだろうな?」

 

そう言えばと、俺は思い出す。シャルを筆頭にアマタ、アウトキャストのクロエにG.N.R.ビルプラザに駐屯していたリディア。彼女達はウェイストランドでも指折りの美人・美少女だろう。

 

・・・ん?モイラはだと?マッドサイエンティストを入れるわけないじゃないか。

 

自覚は無かったものの、考えてみれば美人は多いことに気が付いた。

 

「テメエ、コラ!表出ろ!」

 

「俺は悪くない。なんなら、アリシアを誘えば良いだろ」

 

「なぜ私の名前が出るのか?」

 

若干飽きれ顔のアリシア。軽く取っ組み合いの俺達を皆は笑いながら見る。久々に皆で酒を飲み、飯を食ったのは楽しかった。

 

「それにしてもゴッブの作った料理美味しい」

 

「そうだよな、何処かのホテルの料理みたいだ」

 

「噂によると、ゴッブのいたアンダーワールドにステーツマンホテルの5つ星レストランで働いていた元料理人のグールがいて、ゴッブは弟子入りしたって話だが」

 

「「「何それ、すごい」」」

 

そんな料理人スキルがあるのか。なら、こんなうらぶれた酒場で持て余すよりも、料理店でも経営すれば確実に儲かるだろうに。

 

「お金が貯まった暁にはゴッブのレストランがメガトンの一等地に開かれるらしい」

 

「「「スゲー」」」

 

「だから、出資者募集中だそうだ」

 

「提携はモリアティーで決まりだな」

 

「だな」

 

そんなたわいもない話をして酒を飲み、親睦を深めた。Vaultではセキュリティー・オフィサーの中で浮いた存在だったし、親しい人間は少ない。生前だって友人はいて、ファミレスや友人の家でゲームをしたものだ。だが、それにはアルコールが無かった。

 

アルコールは人を酔わせる効果があり、いつも皮を被っているけど、それを脱ぐような効果がある。ハイテンションになったりするし、変なスイッチが入ったりする。この面子ではばか騒ぎは無かったものの、非常に楽しい一時を過ごした。

 

「んじゃ、俺達は帰るわ。じゃあな、ブライアン」

 

髪型では何処かのレイダーにしか見えないビルはブライアンに手を振り、酔い潰れたウェインを運び出す。リバースする様子は無いが千鳥足だ。ビルは俺達がいない間もブライアンの面倒を見ていたらしく、端から見れば兄弟に見えなくもない。ブライアンは元気良く手を振って別れを告げる。俺はもう一人酔い潰れた人物の肩を掴み運ぶ。その人物はシャルであった。

 

「ん~・・・、ユウキ~♪」

 

何と言うか、シャルはお酒が弱かった。俺はザルと言うか、足取りが重いだけで頭はクリアである。シャルは酔い潰れたとはいかないまでも、一人では立てないのは確実だ。猫のようにじゃれつく彼女は無意識に胸を押し付け、俺の心臓が爆発しそうになる。

 

「シャルは酒が弱かったのか」

 

「危ない男なら直ぐにシャルちゃんは鴨にされていたね」

 

横にいたアリシアは苦笑を交えつつ、俺の代わりにブライアンの手を握る。ブライアンは若干頬を赤くしていたが、見なかったことにした。

 

「全くだ。シャル、帰るぞ」

 

「ふぇぇ~、ユウキぃ~。」

 

お酒を飲み、上気した彼女の顔は心身に悪い。何と言うか、本能に抗えないとでも言えるのか。

 

「ほぉ~、女を酔わせて手込めにするのか。中々、悪だね」

 

「いや、断じて違うからな!俺は・・」

 

「嘘つくなよぉ~。ユウキは私に興味がにゃいの~」

 

すると、会話を聞いていたのか。シャルは俺の胸に人差し指をグリグリと押し付ける。勿論、興味がないとは言わないよ!?だけど、酔ってる女の子を手込めにするなんてなぁ

 

男としてはちょっとね。

 

「ほら、バカップル。さっさと帰ろう」

 

「バカップル言うな!?」

 

「えへ、カップルだってぇ」

 

シャルは何を聞き違えたのか知らないが、カップルと聞こえたようだ。俺は小さく溜め息を溢してしまう。アリシアはまるで俺の家に帰ろうとしている。まあ、部屋を貸したけどさ。もう少し、借りていると言うことを考えて欲しい。・・・・俺がしっかりとした商人なら「賃貸料」として請求するのだろうが、俺は研究肌が強い。請求してもいいんだけど・・・。

 

家に帰ると、さっさとブライアンを風呂に入れてシャルをクイーンサイズのベットの方へ寝かせた。俺もさっさとシャワーを浴びて、アルコールの回った身体を落ち着かせる。シャワーの温度を少しだけ下げて頭を冷やし、シャワーから上がった後は「伏せろ!」と言う題名のスキルブックを読む。目の前を何人か横切ったが、ブライアンやシャルだろうと本に没頭した。

 

 

幾らか時間が経ったのだろう。ふと、視線を本から外に目を向けるとこちらを見るアリシアと目があった。

 

「ん?何を見ているんだ?」

 

。シャワーから出たばかりなのか、カーゴパンツに白いTシャツで首にタオルを掛けているアリシアの姿だった。髪はしっとりと濡れ、赤みを帯びた肌は色黒の肌も相まって、色気を醸し出す。

 

「ん~・・・、賃貸料を請求するけどいいよね?」

 

「いいとも、幾らだ?何なら身体で払おうか?」

 

とアリシアは自分の胸を撫で回す。一瞬だけ見惚れてしまったが、直ぐに視線を反らす。

 

「ん~♪・・・そう言う一途な所は結構好きだぞ」

 

「って、何でこんな近くぅ!」

 

鼻息まで掛かるような距離で彼女はずいっと顔を近づける。俺は驚いて近くにあるソファーに転けて座る。すると、頬を赤らめながらアリシアは俺の太股に乗り、俺の首に腕を絡ませた。すると自然にアリシアの胸が身体に当たり、顔が火照るのを感じた。

 

「初心はいいね。可愛くて♪苛めたくなるじゃないか」

 

身体をぴったりとくっ付け、互いの体温が伝わり合う。互いにシャワーを浴びたばかりだから体は火照っている。布越しに伝わる温もりを感じて俺の心臓はロックを奏でているようだ。俺は全神経を集中させて「あるもの」が起動しないよう、心の中で素数を数える。

 

「そんなことより、賃貸料は違うのにしてくれよ!」

 

「何だ、してほしくないのか?」

 

「して欲しいとは口が裂けても言えん。」

 

「なら、武器商人の護衛はどうだ?勿論、二人のことを守ろう」

 

アリシアは傭兵である。俺が助ける前も武器商人の護衛も務めていた。これまでのことを考えても実績がある。次の目的地まで来て貰えるのは有難い。

 

「確か、ここから西へ向かうのだろう?なら、レイダーの一大拠点があるエバーグリーンミルズに近いな」

 

目的地とメガトンの道程にはレイダーが多数いるエバーグリーンミルズと呼ばれる元住宅地工事現場があり、レイダーの拠点がある。そこを男女二人で行くなんて危険過ぎた。かなりの戦闘スキルのある彼女がいれば大丈夫だろう。

 

「どうだ?それならお前の童貞を奪わずに、賃貸料を払えるな」

 

「まあ、そうだけど。キャップなら・・・!」

 

言い終わらない内に口がアリシアの口で塞がる。俺は訳が分からず思考が停止する。アリシアは好機と見たのか、舌を絡ませ相手の口の中を蹂躙する。唾液が混ざりあい、体液を交換する。こんな卑猥なキスは子供には見せてはならない。嬉しいことにブライアンは自室で寝ている。

 

「・・・はぁ!」

 

一分だろうか、どの程度の時間が過ぎたのか分からない。恍惚とした表情を浮かべ、濃厚なキスをした口からはよだれが垂れていた。アリシアは拭うこともせず、俺の首筋に舌を這わせて、やがて耳にまで到達する。甘噛みをすると、僅かながら耳に通じる神経が快感を流し込んだ。

 

「ん!」

 

「可愛い・・・。でも、私が奪うのは面白くない。」

 

首筋から顔を出すアリシアの顔は何処か寂しげだった。彼女の細い指が頬を撫で、俺の顔を見つめた。

 

「私が食べたら、シャルに申し訳ないな。」

 

「何でさ。アリシアは・・・」

 

「ここで私がお前を奪ったら、シャルに怒られる」

 

既に怒られるようなことをしているだろ?と思ったが口にするのを止めた。嬉しいのか悲しいのか分からなかったが、アリシアは口許を拭うとソファーから立ち上がる。未だに、心臓がビートを奏でているが、アリシアは続けた。

 

「シャルがお前を好きだってこと分かってるだろ?何で愛してやらんのだ?」

 

「俺だって好きさ。だけど・・・・」

 

と視線を下に落として考える。生前だってこんな事はなかったさ!そう、俺は生前童貞でしたし、今もそうだよ!奪われそうになったが・・・。どうすればいいのか・・・。

 

すると、アリシアは呆れたように溜め息を吐くと、俺に歩み寄ると人差し指を親指で押さえて放った。それは所謂デコピンというもの、しかもそれはちょうど眉間に放ったのだ。

 

「痛ってぇ!」

 

「まったく、お前と言う男は!・・・少しは男、いや獣になったらどうだ?」

 

女性が言うのもどうかと思う。そんなこと言えばデコピンの効力射が待っているので言わないが。

 

「獣?」

 

「そうだ。情事に言葉がいると思うか?いいやいらない。黙って抱き締めて“愛している”と耳元で呟いて、押し倒せばいいんだ」

 

回りくどい事するな。と言い、アリシアはテーブルに置いてあったウィスキーのショットグラスにウィスキーを注ぐ。

 

「それだけでいいのか?」

 

「良いに決まっているだろう?好きな男に女として扱って貰いたいのが女と言うものさ。」

 

「アリシアは?」

 

「私か?私は自分に主導権あった方がいい。」

 

ガクッ!と俺の頭の中でSEが流れる。

 

アリシアは頭を掻くと、くいっとショットグラスに注がれたウィスキーを飲み込んだ。

 

「明日どうなったのか、報告な」

 

「ど、何処の運動部のなじりだよ!それ!」

 

所謂あれだ。運動部の先輩に彼女とヤった報告をしろと言い寄ってくるパワハラな先輩とそっくりだ。さっきのエロい雰囲気は何処へ行ったのか。ほら駆け足!と何処かの軍曹の掛け声のように俺は二階へと追いやられた。

 

「いいか、命令だ。男になるまで帰ってくるな!」

 

何だか良く分かんない・・・。なんか変なのと知り合っちゃったと俺は少し後悔した。寝る場所も一つしかないため、俺は速いペースで動く心臓を「落ち着け」と念じつつ、扉を開いた。

 

その部屋は最初、俺の部屋として使うことになっていた。パソコンは勿論の事、本やライフル、パワーアーマーのロッカーもあるためそこは俺が使っていた。しかし、ブライアンやアリシアが来たお陰もあってか、シャルと同じベットで寝ることになった。何回か同じベットで寝たことがある。だけどさ・・・・、

 

ベットには服を脱ぎ散らかしたシャルの姿があった。シャワーに行ったのか知らないが、今の姿は灰色の下着だけであり、ベットに大の字になって寝ている。ベットの隅に腰かけて彼女に背中を向ける。身体を捻ってみると、シャルの可愛い寝顔が見える。

 

「全く、こんな可愛い奴を襲えるわけないだろ」

 

シャルの頭を撫でると、ダークブラウンの滑らかな髪が手の上でさらりと落ちていく。撫で終えると、腰に付けていた10mmサブマシンガンをスツールに置き、武器を片付ける。ふと、背後で気配がしてスツールに手を伸ばそうとする。だが、それは胸という夢の詰まったものによって手を止めた。

 

「ユウキ~・・・」

 

「しゃ、シャル?!」

 

例えるなら、死んでいた筈の仲間がゾンビとなって現れた生存者の心境だろうか。それでも、背中に感じる柔らかい感じや女性特有の甘い香りはないだろう。

 

「ユウキ、さっき私に何しようとしたの?」

 

「え、何のことかな?」

 

「むぅ~!!」

 

怒ったのか、俺の首に回していた腕を絞め始める。

 

「ギ、ギブギブギブ!」

 

「答えてよ~!知ってるんだから!私に何かいやらしいことしようとしたでしょ!」

 

酔いは抜けているらしいシャルは、力加減もせずに首を絞める。酔っていなければ力加減をするに決まっている。呼吸は苦しくなるものの、血を止めるほどではない。暫くしてからか、シャルは絞めるのを止めた。だが、シャルはボソリと小さく呟いた。

 

「え、何?」

 

「なんで・・・何でしてくれないの?」

 

シャルの意外な発言に俺は驚いてしまう。って事はして欲しいって事なのか?

 

「Vaultを出てからだよ。いつ死ぬかも分からないこんな世界に放り出されて、いつもユウキの事を思ってた。お父さんを見つけられるかどうかも分からない、途中で死んじゃうかもしれない。いつも、怖くて折れそうになってもユウキが助けてくれた。」

 

「シャル・・・」

 

俺は呟き、後ろから抱き着いていた姿勢から顔を向き合わせる。シャルの顔は紅くなっていた。

 

「だから、好きな人と結ばれずに死ぬのは嫌。本当の気持ちを伝えないのは嫌。ユウキ、・・・・私はユウキの事が好き」

 

シャルは真っ赤な顔をして、直ぐに自分の顔を見せまいと抱き着いた。緊張なのか、身体が微かに震えている。俺は背中に手を回してそれに答えた。

 

「俺は・・・・俺は前世じゃ、日本人でさ。ゲームをこよなく愛する高校生だったんだ。」

 

「えっ?」

 

「よく、海外のゲームを学校から帰ったときによくやったんだ。転生しても、今でも覚えている。ゲームを起動させようとしたら、いきなり赤ん坊になってた。何の夢かと思ったよ。だって、俺はそのゲームをやろうとしていたのはこの世界をやろうとしていたんだ。いきなり、目の前にジョナサンが現れたときビックリしたさ。」

 

「じゃあ、ここはゲームの中だってこと?私は・・・」

 

「いいや、俺はここを現実だと思っているし、シャルの事も本物だと思ってるさ。ちゃんとした人間だ。銃を撃てば血が出るし、つねったら痛いだろ?」

 

俺は少し、シャルの身体から身を話して顔を会わせて話す。

 

「俺はこの世界の人間に生まれ変わって、沢山の人に会った。父さんやジェームズおじさん、アマタやブライアン。皆は生きていて、毎度この世界はゲームではない事を思い知らされた。そしてシャル、君だ。俺は何でVaultに残らず、君についていったか分かるかい?俺は君を護りたかった。命に変えても君を護りたかった。シャーロット、君の事が好きだ」

 

その言葉に一切の揺らぎはない。

 

シャルは嬉し泣きなのか、目からポロポロと涙を流し、手で涙を拭き取ろうとする。

 

その手を止めて、俺の指で涙を拭き取り、頬を撫でる。ゆっくりと顔を近付けて互いの唇を合わせ・・・

 

 

 

そして、俺はシャルを押し倒した

 

 




次の話はthreedogのラジオ放送をお聞き頂けるかと。


それともう一つ!

R18のfallout3を書いてみようかと思います。スキルアップを目指してやってみようかな。多分、駄作に終わるかもしれない。興味があったら見ていただけると光栄です。ともあれ、まだ、投稿する段階には至っていませんがww

作者は感想をいただけると、最大で一日4000文字を書く事があります。なんでもいいので書いていただけると励みになります(^O^)


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第四章 The Waters of Life
二十一話 Tranquility Lane


ちょうど一日に投稿できました(^O^)

本当は十月にやるつもりだったんですがすっかり忘れてましたorz




日がコンクリートを照らし、道は水分すらない荒涼とした地面。文明が進んだ現在においてそれらは逆に人を住みにくくする欠点にしているだろう。車を走らせるためにコンクリートで舗装する代わり、黒い大地が日光を吸収して周囲を熱する。石油を使用する自動車は大気を汚して、地球温暖化を引き起こしていく。だが、石油を使用する自動車の役割はこの半世紀を見る限り、大きなものであると理解できよう。人類が作り出したものは大抵、人の繁栄の為に作られ、地球を破壊するのが殆んどだ。それは原子力も同様で、原子分裂が分かった人類はそれらを科学と未来の為に使用した。だが、それらは軍事に必ず利用され、大国は神の御技を駆使して大陸弾道弾を敵国に向けている。これがもたらすものは破滅のみ。どちらかが戦争以外で政権崩壊を起こすか、どちらも剣を交えて共倒れするかのどちらかだ。

 

「アキヤマ伍長、聞いているのか?」

 

 

そんな、世界が危機的状況を迎えている今日でさえ、俺は軍の公用車を使用して、上司を目的地まで案内する。アメリカ東海岸の中層階級の多い住宅街を通り、目的地であるブロックへと進んでいた。

 

「すみません、ロドリゴ少尉。少し考え事していたみたいで。どうしました?」

 

運転席の後ろに座る、一本棒の入った少尉の階級章を着けた女性士官は、やや不機嫌な顔をしていた。経歴は深く知らないが、目の前のヒスパニック系のセリア・ロドリゴ少尉は陸軍士官学校を卒業し、情報科に配属されたらしい。だが、そこで上司のセクハラに遇い、裁判沙汰を起こした。結局、裁判には勝ったが、左遷。士官学校に入る前に取得していた教員免許のお陰もあってか、陸軍幼年学校に配属された。ヒスパニック系の色気のある褐色の肌とモデルとも見間違えるプロポーションの良さはハリウッドにも負けはしないだろう。唯一の欠点は男勝りな所だが、まあ良しとしよう。

 

「君は第82空挺師団に所属していたそうだな。なぜ、幼年学校何かに?」

 

幼年学校。10歳から17歳の少年に軍事教練を施す陸軍学校である。一般的な教養の他に、歩兵の基礎知識や士官候補、下士官候補になるための教育を受ける所だ。数は少ないが、東海岸に幾つかある。最近は入隊者も少ないが、それはアンカレッジ前線も影響してだろう。

 

俺は元第82空挺師団だった。師団は第二次大戦から活躍する落下傘兵の精鋭部隊である。アンカレッジでは中国軍の山岳部隊やクリムゾンと呼ばれる特殊部隊とも戦った。だが、俺は途中で戦線を離脱した。

 

「そうですね、長い話と短く要約したのとどっちがいいですか?」

 

「短いので頼む」

 

こいつ、人の話を短くすませようとする気だな。だが、曲がりなりにも上官。

 

「自分は元々、軍曹だったんです。82空挺では軽歩兵連隊で分隊長の補佐をしていました。初めは上手くやっていたんですよ」

 

銀色の雪景色に硝煙。飛び散る仲間の血潮に中国兵の突撃。寝付きの悪い日には夢にも出てくるかつての戦場。それでも、訓練を共にした仲間がいた。全員で生き残り、故郷に戻って酒を飲むという約束までした。だが、中隊司令部が攻撃されて、人望の厚い一人の上司が戦死した。そこから何もかもおかしくなった。新しく入ってきた中隊長は作戦の功績を追い求めるクソ野郎だった。部下を使い捨ての駒としてしか見ていない指揮官。後先考えない指揮は部隊に危険を招いて負傷者を増やし、やがて死傷者を出した。また一人、また一人と戦友が傷つく事を俺たちは良しとしなかった。小隊長を中心とした十数名の士官と下士官達は上告書を大隊本部に提出した。しかし、如何に無能な指揮官であろうとも、指揮官下ろしは「反乱」にも等しい行いだった。約20名の士官と下士官が軍法会議に掛けられた。小隊長クラスの指揮官は銃殺刑、分隊長は懲罰大隊に転属。そして、俺は幼年学校の警備主任を任された。

 

「そうか、すまない」

 

「何を謝る必要あるんですか?兵隊なんてそんなもんです。本来なら、反乱罪で死刑ですよ。降格して左遷なんだから、軽蔑して然るべきですよ」

 

主犯格なら死刑だった。俺は下士官だったからよかったものの、あの中隊長のせいで犬死にするのは勘弁して欲しい。

 

「いや、その中隊長は士官だったのだろう?出来損ないを君の部隊に配属させてしまったのは、我々上官の責任だ。すまなかった」

 

少尉は申し訳なさそうに謝る。だが、彼女の責任ではない。士官全員の連帯責任という訳ではないのだ。

 

「謝らないで下さい。兵士という手前、有能な指揮官の下で働けるのは本望ですが、基本的には上官を変えて欲しいなんて口が裂けても言えないのが原則です」

 

「・・・そうか・・・、ならいいんだ」

 

歯切れの悪い言い方をする少尉を見て、俺は怪訝そうな表情になりながらも住宅地の外れにある場所へとハンドルを握る。

 

「今回の子供はどう思う?」

 

「どう思うと言われましても・・・、ファイルは見てないので。それに、自分は判断する立場にないですよ」

 

「なら、ファイルを見せよう」

 

どうしてそ俺ではなくこまでして俺と話したがるのかなぁ。

 

内心、俺は後ろの少尉は一体何がしたいのかと首を傾げたくなる。さっきから聞いてきたり、生徒の個人ファイルを見せたり。警備主任であるところの俺は彼らに銃器の使用方法などを指導する立場にあり、個人ファイルを見ることは出来る。しかし、生徒を入学する上での審査は俺ではなく、士官の担当官に委ねられる。それは後ろの担任教師である少尉殿の管轄だ。

 

運転する手前、後ろ手で書類を貰い、膝の上に書類を乗せる。

 

「“ティミー・ネウスバウム、十歳。成績は中の中、性格は明るいが弱虫。家族を愛するが母親への依存が激しい。・・・・・会ってみないと分かりませんが、たぶん無理かと」

 

「どうしてだ?」

 

「文を見る限り、根性がありません。それに学校の雰囲気が彼に合うか微妙なラインです」

 

書類に書かれた事が本当なら、彼は学校に適していないだろう。学校での任務を一年もしていると、それぐらいは分かる。他の道でも上手く行ける子供に幼年軍事学校を進めるのは、可哀想に思うだろう。

 

「こればかりは両親と話さければな。それとティミー君に会わないと」

 

「幼年学校には不向きありますし、このご時世に“幼年学校中退”は不味いです」

 

住宅街を走り、看板が目に留まる。

 

『トランキルレーン』

 

その文字を見て何かを思い出しそうだったが、道に何かが動き、直ぐにブレーキを踏んだ。住宅地なら子供が飛び出してもおかしくない。急なブレーキだったため、体が前に飛びそうになり、車は揺れた。

 

十歳位だろうか、ダークブラウンのお下げに色白い肌。黄色のワンピースを着た女の子が車に驚いていた。その容姿に見覚えがあると思ったものの、直ぐにその女の子は住宅地のボロボロの家に駆けていく。その家がその子の家なのかと驚いたが、後ろに座っていた少尉が座席にいないことに気が付いた。

 

「あれ?少尉?」

 

体を後ろに向けてみると、座席下の足置きに転がる少尉の姿があった。

 

「あれじゃない!いきなりブレーキをかけるな!馬鹿者」

 

「すみません、女の子が飛び出してきて」

 

すると、少尉は俺の頬を指で摘まみ引っ張った。

 

「それを予期するのが伍長の役目!」

 

「痛いですって!痛い!」

 

「全く!」

 

少尉の怒りは収まらず、目的地であるネウスパウム家の玄関前に来た後も若干不機嫌だった。

 

「伍長、一緒に来て。学校の雰囲気については詳しいから」

 

「Yes,sir.」

 

運転席を降りて、基地から乗りっぱなしだった血行の良くない足や尻を少し揉んで軍服を直す。軍の公用車が盗まれるのは不味いので、鍵を閉めておく。

 

少尉は呼鈴を鳴らし、ドアが開くのを待った。すると、家の中で声がして中から白人の男性がドアを開けた。

 

「どうも、ジョージ・ネウスバウムです。」

 

「いえ、此方こそ。陸軍幼年学校のセリア・ロドリゴ少尉です。」

 

「ラミレス・アキヤマ伍長です」

 

俺も空気を読み、ネウスパウム氏と握手を交わす。彼は少尉と俺を家の中に案内する。後ろで男の子が大泣きしているが見てみぬ振りをして、家の中に入った。家はアメリカ中流家庭で見掛けるような内装の家で、近くにあったソファーに腰掛ける。ネウスパウム氏は台所から紅茶のセットをこちらに持ってきた。

 

「すみません、いつもは家内が入れてくれるのですが」

 

「お気になさらず。夫人はどちらに?」

 

「家内ですか、彼女ならレモネードを息子と作っている筈です」

 

「息子さんは外で泣いていましたよ」

 

俺は場違いなセリフを言って、セリアにジロリと睨まれる。しかし、ネウスパウム氏は又かと溜め息を吐いた。

 

「あの子は少々泣き虫なのです。つい最近も犬に噛まれて大泣きしていましたし」

 

「えぇ、それはそれは」

 

俺はそれを聞き、学校に入学して大丈夫だろうかと思う。もしかしたら、同じクラスで虐めに遭うだろう。ここで辞めさせとかないと、ティミー君が可哀想だ。

 

「泣き虫を克服するためにあの子を陸軍学校に入れようと?」

 

セリアは怪訝な表情を浮かべ、此方をちらりと見る。それは“よくやった”と言うよりも、“これを予期したのか?”という疑問の目を浮かべていた。

 

「ええ、家内は反対しましたが。ですが、息子のためにはそれがいいと」

 

ネウスパウム氏は立ち上がり、窓越しからレモネード売りをしている息子と夫人の方を見る。彼は彼なりに息子を心配しているが、弱虫だからと虎の穴に入れるのは如何なものだろうか。腐っても兵士、反乱紛いなことをしても、俺は彼の息子を軍に入れても余計悪化することを伝えなければならない。

 

「ご主人、ちょっとよろしいでしょうか?」

 

「ん?なんでしょ・・・・」

 

ネウスパウム氏が振り返ったその時だった。

 

急に外から銃声が鳴り響き、窓ガラスが割れて周囲に飛び散った。窓の近くにたっていた彼は背中に幾つもの銃弾を浴びて床に倒れる。持っていた紅茶が絨毯に溢れ、彼の血も染み込んでいった。

 

「伏せてっ!」

 

少尉を庇うようにソファーをひっくり返して床へ押し倒す。これが、夜中のロマンチックなシーンなら良かったものの、場所は硝煙の立ち上る銃撃戦だ。ホルスターから10mmピストルを引き抜き、銃撃が終わるのを待つ。スライドを引いて次弾を確認して、息を整える。久々の実戦に若干緊張しているが、俺の下敷きになっている少尉を守らないと行けなかった。

 

「少尉、俺の後について援護を頼みます。銃は持ってますよね?」

 

「ああ、ここにある」

 

9mmピストルを取り出し、少尉はスライドを引く。すると銃撃が終わり、俺は屈んでドアの隅に体を寄せた。すると、ドアが開き、中国軍のアサルトライフルの銃口が顔を出す。そして、迷彩服を着た中国兵が中に入る。咄嗟に10mmピストルを中国兵の顔面に向けて引き金を引く。眉間に銃弾が放たれて兵士は壁に脳奬をぶちまけた。兵士はそのまま、重力にそって倒れようとするが俺は首元を掴んで盾にするように後ろへ引きずる。ドアの外に2、3発撃ち、ソファーの方へ中国兵を投げた。

 

「わつ!ちょっと伍長!」

 

いきなり敵の死体を投げられて驚いた少尉だったが、俺はソファーまで行くと中国兵が持っていたアサルトライフルを掴んだ。チャンバーに次弾が装填されていることを確認して、換えの弾倉を軍服のポケットにねじ込んだ。

 

「少尉、これを渡しておきます」

 

中国兵の服をあさっていた時に出てきた中国製の手榴弾であった。少尉はそれを受け取ると、ポケットにしまう。俺はもう一つあった手榴弾のピンを引き抜くと、窓から道路へ投げ入れた。中国語の叫び声のあと爆発する手榴弾、俺はドアを開くと一気に外へと飛び出した。

 

引き金を引き絞り、5.56mm弾が発射されて軍の公用車に隠れていた中国兵の頭を吹き飛ばし、逃げようとしていた中国兵の背中に無数の穴があいた。公用車に隠れると、銃口を周囲に向けて警戒しようとした。

 

「中国の・・・・ってあれ?」

 

おれは周囲に銃口を向けるが、違和感があることに気づいた。誰ひとりとして、俺たちの事を見ておらず、中国兵は民家の方へクリアリングを行っていく。仲間を撃ったアメリカ人がいるにも関わらずである。

 

「伍長、これをみて」

 

少尉の驚いた表情で先ほど撃ち殺した中国兵の死体を指差す。それは背中に四発ほど小口径ライフル弾が命中した中国兵の死体だったが、まるで体中に電流が走るような激しい痙攣をしつつ、体が薄くなり消えてしまった。これは腰が抜けてその場に経たりこんでしまった。

 

「一体どうなっていやがる」

 

「どうにもってここはシュミレーションだって分からないのかしら?」

 

まだ、幼い女の子の声。銃声が幾度となく響き渡るこの住宅地で、平然と喋るピンク色のワンピースを着た女の子が中央の広場に立っていた。

 

「シュミレーションだって?」

 

「君たちがこの世界に来てから、ちょっとしたプログラムを掛けさせてもらった。自分たちを本当のアメリカ軍人に信じさせるためのな」

さっきの女の子の声から一変して壮年の男の声に変わり、俺は持っていたアサルトライフルを女の子の姿をした何者かに向けた。

 

「おいおい、君がもし撃ったとして私が死ぬとでも思っているのかい?・・・全く、あの小娘のせいで私の楽しみが台無しだ!!」

 

その顔は先ほどの少女ととは違い、私欲と憎悪に塗れた醜い大人の顔であった。普通ならこの場で撃ち殺してしまうだろう。だが、あまりにも奇妙で何が起こるかわからないものに銃を撃つことは危険だった。目の前にいるものがなんであれ、普通ではないのは確かだ。

 

「信じさせる?」

 

「そうだ、ここの住民はここが仮想世界だと思わせるために暗示と記憶の改竄を行っている。まあ、それが出来ない例外もいるさ。だが、君たちは案外記憶の上塗りはよくできたと思うぞ。この世界から出れば、悪い夢としか映らんだろうがな」

 

すると、少女の姿をした人物は滑り台の近くに来ると、指を鳴らす。すると、白い扉が現れた。何かの手品か冗談の何か。それとも悪夢なのか。俺は銃を向けるのすらやめてしまった。

 

「さて、現実に帰るか。この世界より現実のほうがいいと思うのか?あんな世界を生きるよりはこの世界で生きていたほうがよっぽどいい。さらばだ、ウェイストランド人」

 

その言葉を最後に白い扉のドアノブを掴み、意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫?」

 

「なんで命令違反して降格になった元落下傘兵なんだろ。正直、芸が細かすぎるわ!」

 

シュミレーションが終わった後、感じるのは胸の奥にある気持ち悪さと胃の中にある違和感だ。あのスタニラニウス博士があの空間を作ったとしたら、何処かの舞台作家になれるに違いない。新参者の俺にあんだけの情報を上書きしたのだ。天才の片鱗を垣間見た気がした。

 

「ごめん、シャル。ちょっとトイレ行ってくる」

 

心配するシャルをおいて千鳥足の一歩手前の足取りでトイレに目指す。シュミレーション酔いか、シュミレーション座席から降りた俺は胃の中のものを吐き出しそうになっていたが、俺は我慢してトイレに行って吐く。vaultの内部構造は殆んど似通っているから、直ぐにトイレに着いた。

 

「は~・・・、伍長大丈夫か?」

 

「少尉殿?・・・アリシア、それもういいよ」

 

彼女も酔ったのだろうか、若干青い顔をしてトイレの壁にもたれ掛かっている。あんな現実と認識させられるのは気持ちが悪いに決まっている。

 

「戦前はあんな風だったのか・・・」

 

「いつ核戦争が起こるか分からないあんな時代には戻りたくないな」

 

思い出せばおぞましい戦前の記憶。スタニラニウスが作った記憶は精密且つ、情緒溢れたものだ。元は死んだ兵士の記憶なのだとしても、自身の記憶だと認識させるのはかなりの技術力を要する。目を瞑れば、アンカレッジで戦った戦友達の顔が思い浮かべられる。しかし、それは偽物。これまで戦ってきた戦いの記憶は全て偽物なのだ。

 

口をゆすぎ、浄水チップで浄化された精製水を両手で掬って顔を洗う。それは記憶を洗うように。

 

俺はアンカレッジで戦った空挺隊員じゃない。Vaultで生まれて、生前の記憶があるオフィサー崩れのガンスミス、ユウキ・ゴメスだ。

 

そう何度も自分に言い聞かせ、項垂れるアリシアを置いてシャルのところへ戻った。見捨てたわけではない。アリシアは「先に行け」と力ない声で俺に言ったためだ。シャルの所に戻ると、抱き合う二人の影があった。一方は恋人で幼なじみのシャル、もう一方はその父親のジェームズだ。親子水入らずの再開に映画なら観客が涙を流すだろう。勿論、俺はモブキャラである。後ろに控えているのが得策だ。

 

「ああ、ユウキ君じゃないか。シャルと一緒に来たのか」

 

俺の事に気が付いたジェームズさんは俺の方へ体を向ける。その姿はVaultから出てきてから何も変わっていない。青い使い古したジャンプスーツに生えてきた無精髭、父からシャルへと遺伝したダークブラウンの髪型をオールバックにした壮年の凛々しい顔付きのおじさん。俺も体の向きを変えて話す。

 

「ええ」

 

「なぜ、Vaultに残らなかったんだ」

 

ジェームズの声は冷たく重い。それはまるで獲物を殺すかのような怒りも少し出ている。そんな様子をオロオロと戸惑うシャルの様子は少し可愛かったが、目の前の体育会系の先生をどうにかしないとツボを押されて死んでしまう。

 

「あなたが出た後、ラッドローチが大発生してかなりの犠牲者が出たんだ。それをしたのがジョナサンだと濡れ衣を着せられて・・・」

 

「殺された」

 

最後に言ったのはシャルだ。シャルの目には怒りよりも哀れみを浮かべる。復讐しようとして、その愚かさを知ってしまった目だ。

 

「あの状態のVaultに残っていることは虎穴に迷い込んだ子羊と同じでいつ殺されるか分かったもんじゃない。死ぬことは目に見えてた。だから、警備長を殺して監督官を殴ってアクセスキーを手に入れた。それであの穴蔵から出てきてあんたを探そうとしたんだ」

 

怒りを俺に向けるべきではない。むしろ、感謝すべきだ。俺はジェームズを睨み付ける。

 

「ジェームズさん、Vaultから出なければこんなことになら無かったのでは?一人娘を危険に晒す価値があったんですか?」

 

俺はジェームズさんの目を見る。怒気は消えて真っ直ぐな信念を持った目。決意を持った目だ。

 

「ああ、あった。それは確かだ。この不毛な大地を変え、戦前の豊かな土地に変えることが出来る。そしてそれが分かった。シャルロット、ユウキ君。私に力を貸してくれないか」

 

ジェームズが目指していたのは無制限に放射能汚染されていない水が戦前のように出る世界だ。川の水を浄化して、綺麗な水へと変えていく。ウェイストランド人の生活水準は向上し、やがては綺麗な水は周囲を綺麗にしていく。水源を綺麗にし、全てを浄化していく。それこそが真の浄化プロジェクトだった。

 

シャルはそれに頷いて、ジェームズに微笑み掛ける。そしてジェームズは俺の返答を聞こうとして身体を向ける。

 

「いいですよ、人類復興の為なら人柱にもなりましょう」

 

それは次の冒険の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

帰り支度のため、手当たり次第物資を回収していく。医療室や警備用のロッカーに小型の浄化装置、無制限に綺麗な水が出るため、持てるだけ持っていくことにした。ジェームズは俺達二人がVaultに出た後位にはメガトンを出ていたらしく、殆んど行き違いだった。俺達がこのトランキルレーンに到達したときはまだ一週間しか経過していなかった。その為か、予想に反してそこまで衰弱していない。ウェイストランド人の体力は凄いものだ。

 

居心地の良いVaultには移住区画に必ずある筈のガスコンロがないし、飲食禁止であったためにvaultの上に作られた自動車修理店の中でも夕食を食べることになった。まず、ここに住み着いていたモールラット一匹を皆で捌き、腹回りの肉を削いで焼いておく。移し変えておいたワインのボトルから香りを良くするために足らす。ジュウジュウと良い音を発てて、美味しそうな臭いを周囲に充満させる。適当にカットして皆のコッフェル(金属製の食器)に移す。「モールラットステーキワイン仕立て」の完成だ。

 

「ユウキ、料理の腕上がってない?」

 

「え?これはゴブから教えてもらった料理法」

 

「今度教えて貰おう」

 

「?」

 

極秘なレシピでも無いので、ゴブから教えて貰ったレシピを話しつつ食事をした。

 

「ニューヨークか。彼処は戦時中に防衛指令部が設置された場所だ。そこで生まれたのか?」

 

「ああ、当時から生きてるグールのおっさんもいたし、それなりに生活環境は整ってたさ。その代わり、周囲との争いが耐えなかったけど」

 

アリシアは出身地の事を話す。ジェームズさんにとって彼女は新顔だし、警戒する面もあったろう。しかし、程なくして警戒も解き、俺が渡したウィスキーを煽っている。

 

「ユウキ君は武器商人を始めたのか。昔からそういうのが好きだったからな。天性の才能か」

 

「好きなものはのめり込んでしまうんです。そう言えば、ジェームズさんは母の事をご存じですよね?」

 

「ああ、知ってるとも。彼女はB.O.S.隊員のナイトだ。ゴメスには教えにくいだろう。何から説明すればいい?」

 

俺の父親も母から聞いた話だったし、父親はVaultの人間だ。ウェイストランド人にしか分からない部分もあるだろう。ジェームズさんが知っているのも人づてに聞いた話だし、あまり詳しい事は分からない。だが、B.O.S.の指揮官レベルなら何か知っている。この前、D.C.に行ったときに聞けば良かったのだが。

 

母はカリフォルニアのB.O.S.バンカーで育ったとの事。誰から生まれたのかは分からないが、とにかく10歳までイニシエイトになるべく育った。2255年に当時17歳だった母はイニシエイトとして、エルダー・リオンズ率いる大部隊の一員としてカリフォルニアを離れた。道中でナイトに昇格し、キャピタル・ウェイストランドでは数々の戦果を挙げる。それは近接武器でミュータントをなます切りにしたり、100人切りに挑戦したという戦意高揚も含まれていた。幾つかの任務を経てジェームズ率いる浄化プロジェクトの警備任務を任された。プロジェクトをするジェファーソン・メモリアルは立地条件として最悪であり、度々スーパーミュータントの攻撃にさらされた。何時までも成果のでない浄化プロジェクトにB.O.S.は苛立ちを隠せなかったようだ。そしてプロジェクトを閉鎖に追い込む事件が起きる。シャルの母、キャサリンの死である。子供の出産と共に失った最愛の人の死。暗礁に乗り上げたプロジェクトを投げ出すには最適の理由であった。プロジェクトの中核であったキャサリンの死とジェームズの心の傷。プロジェクトは立ち行かなくなり解散。B.O.S.はプロジェクトの資金提供を凍結した。ジェームズは残された娘とエルダーが餞に守らせた二人の護衛。この二人はスターパラディン・クロスと母だ。父と子を守りつつ、四人はvault101の探索チームに会った。既に探索チームの人員は減り、運良く医療従事者が死亡していたため、ジェームズは運良く亡くなったメンバーの代わりをする事になった。母は今回の探査チームの危機対処能力や警備能力の向上の為に編入された。母に関しては父がてこ入れしたのだと言うのだから、当時からアツアツだったと分かる。普通なら、故人の話をするのなら悲しい顔をするけれど、当時の事を思い出してニヤニヤする父の顔はイライラした。それは再婚した義母にも感じることだ。

 

「詳しい話は聞いたこと無かったのでよかったです。それにしても、母は凄いですね」

 

「ミュータントをバッサバッサ斬り倒していた。あれは人間業じゃないよ」

 

パワーアーマーで俊敏な動きで敵を薙ぎ払い、一瞬のうちに死体の山を築き上げる。まるで、パワーアーマーが拘束具であるのではと言われるようにまでなった。あるものは“英雄”と呼び、あるものは“化物”と。G.N.R.ビルプラザのラジオ放送では英雄視されていた。

 

「その刀って何処にあるんですかね?」

 

「確か、ゴメスがユウキに20の誕生日に渡そうと・・・・。こうなると、もう無理か」

 

「vaultにはもう戻れませんよ。・・・あ~あ、母の形見が」

 

そう言って、ジェームズの持っていたウィスキーから自分の持っていたマグカップにウィスキーを注いでもらい、喉に流し込んだ。喉にヒリヒリするような刺激とウィスキーの香りが鼻を付く。シャルも飲もうとしていたが、飲まないようにと警告する。酒を飲んでいるシャルはちょっと危険なのだ。

 

「え~・・・。良いじゃん別に」

 

「お前、この前のようになっても良いのか?人前に見せられないよ」

 

「ああ、そう言えばこの前の報告まだだったよな。ここで聞かせろよ」

 

「報告?なんだい報告と言うのは?」

 

とジェームズは頭の上に?を浮かべて訊いてくる。アリシアはまるでスケベ親父のような厭らしい笑みを浮かべている。これはアリシアに嵌められたのだ。

 

「ん?ああ、試作したアサルトライフルのことですよ。ねー、シャル?」

 

「え?!・・・う、うん。そうだよ?」

 

何の事なのか分からないシャルは首を傾げる。

 

「シャルがお酒飲んだらどうなるのか私も知りたいな~。おじさん、この前の夜について聞かせてもらいたいな~」

 

「この前の夜?」

着実に核心に近づいていくジェームズ。俺は雛見沢の緑色の髪の毛の少女を思い出しつつ、つくづく俺の運が悪いことを思い知った。

 

 

 

 

夕食の後、俺は自動車修理店の放置された車両やエンジンを見る。あの後、奴隷商人と野良ロボブレインの銃撃戦の音によって会話は中断され、何とか一命はとりとめた。ジェームズさんが意外にも鈍いお方なだから助かったのだ。この期を逃さないよう、俺は店にあるものを見ていく。

 

「お、いいの見っけ」

 

それはまだ稼働すると思われるトラックだった。誰かが弄くり回したのか、エンジンの周りには様々な改良が施されていた。石油資源の枯渇によってガソリンが高騰して2060年代には石油エンジンは使われなくなった。その代わりに核エネルギーによる核搭載自動車がゼネラル・モーターから発売された。元々軍用であったために、整備は容易であり、2070年にはマイクロ・フュージョンセルによる自動車が発売された。核搭載自動車は電気駆動にかわり、熱を電気に変換するモジュールが取り付けられた。モジュールは製造が出来ないが、モジュールさえ無事であれば、様々な事が利用可能だ。

 

「このコネクターかな?あとこの部分をモジュールに繋いで!」

 

幾人もの人間がこの車を弄り、改造した。あるものは装甲板を。そしてある者はミニガンを取り付けるために銃座を設置した。しかし、肝心のエンジンは駆動部分に組み込まれていなかった。多くの人間がここで試行錯誤を繰り返していた。だが、俺が来るまでそれが直っていないと言うことは、やってた人間は諦めたか死んだかのどちらかだ。

 

「おいおい、あんたの愛車か客のかも知んないけど。もう持ち主は死んだんだからそんな目で見るな」

 

カウンター入り口にはこちらを見て死んでいる骸骨があった。それはこの店の店主だろうか。こちらを見るように倒れている。ボロボロの衣服は辛うじて作業着の繋ぎだろうと見受けられる。

 

幾人ものウェイストランド人が挫折したエンジンと電気駆動部分の接続だが、「repair50」以上のスキルがあれば修理が可能だ。車の知識と電気工学の知識。あまり電気工学は好きじゃないけれど、前にシャルから教えて貰ったため、何とか出来た。シャルに感謝しつつ、ボンネットを閉めて運転席に乗り込んだ。

 

タイヤは劣化しつつも使えそうなタイヤが6つ程見つかり、トラックにもつけられていたので大丈夫だろう。駆動部分やサスペンションも壊れていなかった。車内は二人乗りで、バックミラーなどの物は壊れていた。ベルトはギリギリ縛り付ける程度には動き、座席も柔らかい。濡れた雑巾で埃の乗った計器を綺麗にしてハンドル周りを綺麗にした。カウンターの金庫に入っていた鍵を差し込み回すと、ガソリンエンジンでは出ないような音が整備室内に響き渡った。

 

「ヨォォォシ!!!動いたぁ!」

 

あえて言うなら、それはレーザーライフルのセルチャージに似ている。ギュイィィィィン・・・という、あまり高音でもないが、SFっぽい音が響く。運転したいが、外はもう暗い。試運転は明日に回してしまおう。

 

すると、Vaultの方からハッチの解放するけたたましい音が聞こえてきた。多分、俺が叫んだのが響いたのだろう。夕食を食べた後、皆は下のVaultで身体を洗って、寝ていることだろう。時計を見れば既に11時を回っている。基本的に電気供給がないウェイストランドは夜には寝入る。多分、Vaultでは皆寝ているだろう。

 

エンジンを止めて、運転席のドアを開ける。すると、階段からはシャワーを入ったばかりのシャルが出てきた。昔のような、Vaultジャンプスーツでシャワーを浴びたのか、濡れた髪が妙に艶かしい。そして、腕には毛布があった。

 

「おう、シャル。皆寝た?」

 

「アリシアさんはまだ起きてるけど。父さんは寝ちゃったよ。・・・車、動いたの?」

 

「勿論、あんな宝物を置いて行くなんて出来ないよ」

 

俺はボンネットを軽く叩く。足元にはペンキがあり、車の名前を決めるつもりだ。

 

「どうしたんだ?毛布なんか持って」

 

「・・・えっと、修理しているときに寝てるんじゃないかと思って」

 

一回だけ。まだ、店が本調子じゃないときにロブコ社に行った後、山程の武器の修理に追われた。俺が店をオープンするまで武器専門店を開業しなかったのも修理が多くなった原因だろう。その修理をしていて、身体が追い付かずに作業台で寝てしまった。その時、毛布を掛けてくれたのがシャルだった。

 

「大丈夫だよ。下に下りてシャワーを浴びるか。」

 

「ダメだよ、もう皆下で寝てるんだから」

 

ここのVaultはハッチが開く音が全体に響く。シャワーを浴びに行けば寝ているかもしれないジェームズやアリシアを起こすだろう。

 

「仕方ない。この格好で寝るか」

 

着ていた作業着の繋ぎを脱ぎ、Tシャツとカーゴパンツの姿になる。油でベトベトになった手を整備場の端にある水道で洗う。放射能が混じっているが、油でベトベトな手で寝たくない。

 

一通り洗ったあと、シャルはカウンター近くに何故かあったマットレスにバラモンの毛布を引いて、もう一枚の毛布にくるまっていた。

 

「寒いから一緒に寝よ」

 

「お、おう」

 

下に親父さんいるのにな。

 

俺は妙な背徳感を覚えつつ、シャルの誘いに答えて一緒の毛布にくるまる。必然的に面積がさほど大きくない毛布なので、身体は自然と触れてしまう。これが初めてではないため、緊張はしない・・・と思う。

 

「ユウキの匂いがする」

 

「ごめん、汗臭いだろ」

 

「ううん、良い匂いだよ」

 

何だろ、ここに天使がいます。ここで「すきにしてもいい」なんて聞いちゃったら、暴走するだろう。落ち着け俺よ!

 

しかし、シャワーは無理か。・・・待てよ、ジェームズさんとアリシアがいるのにハッチを開けたのか?それに俺を下で寝させないために・・・ああ、そう言うことか。

 

「シャル」

 

「ん!な、なに?」

 

こいつ、なに緊張しているんだよ。頬を赤くした顔はもう食べ頃である。だが、ここは少しイチャイチャしようじゃないか。

 

「謀っただろ」

 

「え?!」

 

「嘘がバレバレ、ジェームズさんとアリシアにバレないようにしたかったんだろ」

 

普通ならシャワー位浴びらせる。それをさせないのは腑におちない。俺が寝てて毛布を掛けると言って、何で毛布が二枚必要なんだよ。

 

「違うよ、そんなこと考えたかもしれないけど・・・」

 

「やっぱ考えたんだ」

 

「!~」

 

顔を真っ赤にして、恥ずかしいのか俺の胸に顔を擦り付ける。それはまるでなついた子犬であった。

 

「ばか」

 

顔を擦り付け、俺を見上げるシャル。シャルは顔を近づけ目を閉じる。そして、俺も顔を近づけ唇を重ねた。

 

「んっ・・・・ちゅっ・・・」

 

啄むように唇を重ね、やがては互いの唇を食おうとするような勢いで唇を合わせる。いや、貪ると言った方が正しい。俺はここぞとばかりに舌を絡める。シャルは肩を震わせ悶える。細かく足を震わせ、逃げないように脇から手を入れて背中を支えて逃げないようにした。

 

「くちゅっ・・・・んん・・・はぁ・・・ん!」

 

互いの唾液は混ざりあい、口から漏れた唾液はシャルの喉元を垂れていく。互いの体液を求めるように舌を絡め、自然と抱き合っていた。只でさえ、シャワーで火照っていた身体はさらに暑くなる。

 

「ん・・・はぁ・・はぁ・・・ユウキぃ・・・」

 

その顔は恍惚とし、息は荒れ、俺は我慢していたものを吐き出したかった。

 

「シャル、お前の事が好きだ」

 

昔なら恥ずかしがっていた言葉。だが、今ならその程度の言葉ならすぐに言える。

 

「知ってる♪・・・ユウキ・・・来て」

 

下で目の前の女の子の父親が寝ている。そんな背徳感が二人の間のスパイスとなって、俺は再びシャルの唇を味わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、Vaultでは・・・・・

 

 

 

 

 

「娘さんやりますね」

 

「はっはっは、やっぱりね・・・」

 

「ここまで来る時の野営で何かすると思ってたけど、遠慮してたのか」

 

「話には聞いていたが、娘が他の男と愛していると少しやりきれんな」

 

「なら、私とします?」

 

「すまんな、私は熟女好きなんだ」

 

「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は・・・ジョン・ヘンリー・・・・ガハッハッハッハ!驚いたかい!Threedogだよ!元気かい?

 

ニュースの時間だ!このラジオ局はbrotherfoot of steelの支援の元に放送を続けているが、別れた彼女がどうもこれを教えて欲しいそうだ。現在brotherfoot of steel outcastはウェイストランド人が使用可能な武器を販売中との事だ。その性能は折り紙付き。値段は良心的価格だな。武器商人は早めに契約を取りつけた方が良いかもしれない。ちなみに既にその一部はメガトンの武器屋で販売中だ。早く買わないと売り切れるぜ。

 

次のニュースだ。聞いてくれ。リベットシティーで事件が発生した。華麗な美女には裏がある。ウェイストランドの男に忠告だ。間違っても、甘い誘いには裏があることを忘れるな。きっと後悔することになる。さて、曲を掛けるとしよう。これは一人の男が自分の人生について語る曲だ。Bon Jovi 「it's my life」

 




さて、ジェームズの性癖が顕になる。ここは意外にもゲームの設定に忠実。なにせ、ジェームズの妻のキャサリンとは年の差結婚。しかも、かなりの高齢だとか。ゲームでは描かれなかったけど、主人公を産んですぐに亡くなったのは高齢出産なのかもしれない。

若干、微エロが入りましたが、R15なので問題なし!もっと見たい?R18でもFO3を書くつもりなのでご心配なく(^O^)

感想お待ちしております!


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二十二話 タワー再び

こんな早く投稿できるとは思ってなかったんだ。まあ、【小説情報】でお気に入り件数が増えると、やる気も出るし、感想もらえると励みになります(^O^)








今から数百年前、人類は馬を使った乗り物や水蒸気機関をを利用した機関車、蒸気船しか使っていなかった。イギリスの産業革命を機に物を燃やし、そこから出るエネルギーを使うことによって人類は繁栄していった。木炭は単純な樹よりもより長く、より火力があった。しかし、それよりも利便性に長けるものを挙げるとするならば、石油を使用するエンジンだろう。西部開拓の終わりに出来た自動車はすぐに人類の新たな足となって、人や物が運ばれた。

 

2277年では稼働する自動車は殆んどない。強いて挙げるとするならば、NCRで作られた軍用車両や払い下げのトラックだろう。戦前はガソリンが不足し、核動力による自動車が戦争が始まる寸前に発売された。都市部にはその頃の名残である破壊された自動車がそこらかしこに転がっている。しかも、それらの幾つかは稼働状態にあるものもある。それらは一度組み立て直せば、自動車として使え得るかもしれないが、分解すれば高濃度の放射能が漏れ出すことだろう。

 

 

嘗て200年ほど前にあったであろう舗装された道路は、数百年もの歳月を経ているため風化していた。放棄された自動車は色褪せ、車内で死んだドライバーは骨と化して、ハンドルにもたれ掛かっていた。

 

すると、数百年お目にかからなかった鉄の箱車が嘗ての公道を走り去った。骨は風で形を崩し、土埃が舞う。

 

その走り去る自動車は原型を留めていない見事な武装トラックだった。ボンネットやエンジン部分には充分な鉄板が貼られ、破壊されまいと、防御されている。運転席のフロントガラスはないが、開閉式の防弾板があり、前方からの銃撃にはそれが機能する。後部の荷台は左右からの銃撃に耐えうる鉄板が溶接され、ミニガンを取りつけた銃座は周りの敵を蹴散らす。

 

「この砂埃はどうにかならないのか」

 

レザーアーマーに弾帯、そして砂埃を吸わないようにするためのバンダナが口と鼻に巻かれ、目に入らないようゴーグルをつけていたアリシアは弾倉を抜いたアサルトライフルを弄り、助手席に座っていた。俺はハンドルを握り、久々の運転に歓喜しながらもバラクラバを調節する。

 

「無理だ。200年前の核戦争の名残だ。いわゆる死の灰さ、これは。」

 

年月を経ているため、色は元あった土の色と混ざり、灰というイメージはつかない。火山灰ではないため、肺を傷付ける可能性は低いが、身体中砂埃がくっついている。

 

「えーっと、この車って名前なんだっけ?」

 

「インターセプターだ」

 

「邀撃機(インターセプター)?戦前の装甲車が敵だったら、この車はガラクタ同然だな」

 

インターセプターは邀撃機と言う意味合いだが、他の意味もある。ガソリンでは無いものの、稼働する車が少ないこの世界でこの名前をつけるのはあの映画のお陰だろう。まあ、この車はピックアップトラックなのだが・・・・。

 

「良いじゃないか。この名前が良いんだよ・・・。そういや、この道で合ってるか?」

 

「ああ。一度、テンペニータワーで休憩だ。運転も辛いし、何より振動がな」

 

路面は舗装されていないため、揺れに揺れている。振動を軽減するサスペンションはあるものの、振動はきついのだ。運転席と助手席はクッションがあるものの、荷台にはそれがないのだ。

 

「一応盗まれたら、エンジンにC4仕掛けたから綺麗なキノコ雲が上がるだろうな」

 

「用意周到過ぎるぞ」

 

アリシアが呆気に取られるが、レイダーにでも使われてしまえばマサカー(虐殺)が始まるだろう。それを防ぐには自爆と言う方法しかない。

 

「まあ、悪党の手に渡れば酷いことになるからな。テンペニータワーでもこれを奪おうとする輩がいるだろうから、完全武装で行くぞ」

 

座席の後ろにはMODで導入したM3ショットガンが掛けてある。ストックは伸縮ストックにしていて、弾は12ゲージを使用する。既にシェルは装填してあるので、緊急時にはすぐに使用可能だ。

 

「ユウキ君、10時方向にレイダーのキャンプだ。どうする?」

 

「向こうに見つからなければ撃たないで下さい。こちらを撃ってきたら、殲滅お願いします。」

 

銃座についているのはジェームズさんで、元あったミニガンをベルト給弾式に改造してある。一応、照準装置もつけておいたので、銃の苦手なジェームズでも簡単に扱えるはずだ。

 

すると、ピシィ!と銃弾が鉄板に弾かれる音が響く。ボルトアクションライフルの音だ。

 

「ジェームズさん!お願いします!」

 

「任せてくれ!」

 

ジェームズは丘の上にいる人影に狙いを付け、引き金を引いた。ミニガンの筒が回転し、毎秒40発以上の5mm弾がレイダーにばら蒔かれる。細部に置ける微妙な違いはあるものの、7.62mm弾を発射するM134は「遠距離ショットガン」と言う異名で遠距離の敵に散弾のように弾丸を浴びせる。しかし、散弾のような小さい球体が発射されるのではない。小口径ライフル弾が至るところに降り注ぐのだ。敵は防具を貫通し、肉を切り裂き、骨を砕いた。肉の塊と化した仲間を見たレイダーは恐怖におののくがジェームズの完膚なきまでの制圧射撃がレイダーを蹴散らした。

 

「望みが絶たれたぁ!」

 

「伏せろ伏せろ!!」

 

「糞ぉ!俺の腕が!」

 

丘の上では死体が散乱し、負傷者は足があるだけまだマシだ。中には両手両足無いレイダーまで居るようで、地獄絵図が広がっている。

 

「このままじゃ、終わりだぁ!刺し違えてもぶっ殺してやる!」

 

その男はレイダー達を取り仕切るボスらしいが、身体中傷だらけだった。もし、ここで車を逃がせば、男はボスの座から引きずり下ろされて新たなレイダーの血塗られたオブジェになる。その前に車を破壊しなければならなかった。

 

「こいつでトドメだ!」

 

男が取り出したのは、outcastで製造されている簡易型ミサイルランチャーだった。outcastの歯車に雷が描かれているエンブレムがoutcasutの兵器工廠で製造された事を表している。前後の蓋を開き、バックブラストが出るチューブを伸ばし、発射ボタンのカバーを開けた。照準を押し上げて、車に狙いを付ける。

 

「死にさらし・・・・?」

 

ボタンを押そうとしたが、上から音がして空を見上げた。

 

ヒュウウウウゥゥゥゥ・・・・

 

男はそれに聞き覚えがあり、B.O.S.のナイトが持っていた武器のそれと同じだった。小型核弾頭を発射する、ヌカ・ランチャーだ。

 

「うわわわわ!!!お前ら早く逃げろぉ!!」

 

男は走るが、ミニ・ニュークの爆発には逃れることはできない。廃屋を元に作られたレイダーキャンプはそこにいたレイダーもろともこっぱ微塵に吹き飛んだ。

 

ヌカランチャーを構えていたシャルはガッツポーズをした。一発で敵を殲滅することは稀で、レイダーを殲滅した俺達は再びテンペニータワーへと進路を向けた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「え~と、テンペニータワーってここで合ってるよな?」

 

「ああ、合ってるぞ。テンペニータワーへようこそ」

 

車から降りた俺は立っていた民兵に何処に車を止めれば良いのか訊いて見ようとした。しかし、この前来たときとは様子が異なっている。嘗てのテンペニータワーは周囲に戦後の日本の焼け野原に作られたバラックを思わせる掘っ立て小屋が幾つも建ち並び、無法者が多くいた。彼らはテンペニータワーに入れると言う儚い夢があったものの、彼らの懐には100も満たないキャップだ。テンペニータワーの四方八方はコンクリートブロックでガードされ、タワーセキュリティーが巡回する。

 

だが、今は掘っ立て小屋の大部分が撤去されて、テンペニータワーの門が開きっぱなしになっている。門の内側には監視塔と思わせる櫓が設置され、レザーアーマーを着た兵士がスナイパーライフル片手に警備に当たる。門の内側にはドラム缶の火を囲んで、バラモンの皮を鞣した服を着た男達がイグアナを焼いている。前のテンペニータワーとは偉い違いだ。

 

「アリステア・テンペニーが殺されたからか?」

 

「ああ、タワー崩壊とも呼ぶべきなのかもな」

 

民兵によると、アリステア・テンペニーの暗殺から始まった。俺達がタワーを去ったあと、テンペニータワーでは混乱が起きた。何しろ、タワーのオーナーが死んだのだから。これに喜んだのが、住居者だ。何せ、金を払う人物がいなくなったのだから。しかし、これに困ったのがタワーを警備するセキュリティーである。彼らの大部分はタロンカンパニーの中でもまともな部類に入る兵士達だ。彼らは雇い主が亡くなり、給与が払われないことに不安を感じた。何しろ、テンペニーはウェイストランドでも謎の多き人物だ。どこを収入源にしているのか分からず、本当にイギリス人なのかも不明だ。住居者がセキュリティの分を賄うと言っても、セキュリティに取って彼らの財布とテンペニーの財布、どちらが重いと聞けば後者である。セキュリティはタロンカンパニーとの契約は解除され、テンペニーの私兵だったことが幸いして、彼らの足枷はない。セキュリティは武装蜂起し、タワーを占拠。チーフ・グスタホを筆頭にテンペニーよりも多額の入居代金が掛けられた。これにより、半数近くがタワーを追い出された。

 

これでセキュリティによるタワーの管理となるのかと思ったのだが、民兵は続ける。セキュリティに怒りを抱いた元住居者は外にいた入植者と結託、そしてD.C.に行こうとしていたグールを説得。フェラルグールを地下から侵入させる計画が再び成された。一回、フェラルを集め直さなくてはならなかったが。これにより、セキュリティーは全滅。残っていた富裕層もフェラルグールの餌食となった。こうして、タワーは門を開いて入植者を迎え入れたのだった。

 

「なんか、結果的にこうなってしまう運命だったのか?」

 

「さあな。でも、タワーはこれまで通り機能しているぞ」

 

「え?浄水設備とかもか?」

 

確か、ロイ・フィリップがタワーを占拠すると、水道は汚れ放射能汚染水となる。俺はそれを聞くと民兵は面倒臭そうに頭を掻きむしる。

 

「ああ。追い出された人間の中には技術者もいたからな。今は医者が不足している。あんたらに医者がいたら、少し診察してもらいたい」

 

「医者か。丁度リベットシティーに行く道程にここに寄ったんだが、少し位ならあいつもやってくれるだろう。そういや、武器商人と取引したくない?」

 

「ん?なんだって?」

 

民兵は首を傾げる。

 

「だから、トレードだよ。俺は武器商人だから色んな高性能兵器を取り扱ってる。中で売り捌いてもいいかい?」

 

「ああ、いいぞ。武器弾薬、防具なんてあまりないからな。」

 

タワーの争乱によって武器弾薬が消耗している。セキュリティの残した武器弾薬は数が少ないし、フェラルグールを掃討する時に弾薬が消耗した。今補給するに越したことはない。

 

「それにしても稼働する車なんて初めて見たぞ」

 

「だろうな、停めるところあるか?」

 

「ああ、そこの空き地に停めてくれ」

 

俺は運転席に移っているアリシアに合図を送り、車は空き地に到着する。

 

「20分ほど休憩。アリシアとジェームズさんはここをお願いします」

 

「行ってらっしゃい」

 

「タバコ二つとウィスキーを買ってきて」

 

「飲酒運転はちょっと・・・」

 

「大丈夫よ。あんたに飲ませないから」

 

アリシアの自由奔放に呆気に取られるが、あの重装備なら何とかなる。ジェームズさんは44口径マグナムで武装し、アリシアはアサルトライフルを持って運転席に待っている。これを襲撃する奴は居ないだろう。

 

「シャル、あんまり診察は出来ないから。急いでやって」

 

「分かった。」

 

ドクターバックを抱えてタワーの扉を開き、弾薬箱を抱えた俺が中に入った。タワーは前と来たときと同じように曲が流れていて、セキュリティに代わってアサルトライフルを持った民兵が辺りを巡回する。シャルは前に医者が詰めていた診察室に入っていく。俺は警備主任だったチーフ・グスタホがいたカウンターに歩いていった。

 

「ここの警備主任は・・・ってマイケルか?」

 

「おお!ユウキじゃないか!久しぶりだな」

 

オートバイと粗末なバラモンの服を着ていた以前の彼とは違っていた。コンバットアーマーにコンバットショットガンを携行した姿だった。彼とはウィスキーを飲んで話した仲だ。早々忘れるわけはない。

 

「ラジオでお前の活躍聞いたぞ!いやぁ、英雄の凱旋か」

 

「大袈裟だって。それにしても、ここの警備主任?」

 

そう聞くと、歯痒そうにして話し出す。

 

「まあ建前上はな。おれは知識はあんまりないからな、もっぱら武器弾薬の管理さ。そういや、武器商人だったろ?幾らか売れたり修理できるか?」

 

「まあ、色々出来るが5mm弾は切らしている。寧ろ、5mmは買い取りたい」

 

ミニガンを銃座にしたお陰か、かなり5mm弾が消耗している。まだ少しあるが、出来れば売らないで、買い取りたい。

 

「ああいいぜ。武器庫に案内してやる。こいよ」

 

マイケルは席から立ち上がり、嘗て服屋のあった場所に移動する。

 

「ここってオカマ野郎の店だったよな?」

 

「ああ、奴はグール嫌いだからな。今じゃフェラルの胃袋の中だ。」マイケルはそう言い、店一杯に置かれたガンケースと弾薬箱、作業台を見せる。そして経理のクリップボードを出して商談を始めた。

 

「修理して欲しいのが、アサルトライフル20挺にスナイパーライフル5挺。購入したいのがミサイルランチャー二基に、ショットガンが5挺と10mmピストルが3挺か。弾薬は5.56mmが2000発に308口径が1000発、10mmが500発だ」

 

「かなり多いな」

 

「全部出してほしいとは言わんさ」

 

修理するのは時間的に無理だろう。多分アサルトライフルが多いのはセキュリティの遺品があるからに他ならない。弾薬や購入する武器はどうにかなる。

 

「修理は時間がないから省かせて貰おう。だけど、時間がある時に出来たらまたよるよ。ミサイルランチャーは取り揃えてる。ショットガンは2挺がコンバットショットガンで残りの三挺はモスバーグ590になる。ピストルは用意できるし、弾薬は出せるな」

 

「ん?手持ちはその弾薬箱じゃないのか?」

 

マイケルは俺の手提げの弾薬箱を指差す。

 

「いや、これは5.56mm500発だけど?」

 

「じゃあ、他の武器は?」

 

マイケルは怪訝そうな表情を浮かべる。しかし、俺はpip-boyを開いて、ミサイルランチャーとショットガン、ピストルに弾薬箱を取り出した。取り出したと言うよりも勝手にpip-boyから出てきたと言える。

 

「床に無造作に出された商品を見て、マイケルは驚愕の表情で俺を見る。」

 

「どどどど、何処から?!」

 

「これから?」

 

「pip-boyからか!」

 

マイケルは更に驚く。俺はミサイルランチャー以外にもoutcast兵器工廠で作られた簡易型ミサイルランチャーも取り出す。アサルトライフルも幾つか出すが、全て買うとは思っていない。

 

「それにしても品質が良すぎやしないか?」

 

マイケルは俺の出した銃器を見ながら言ってくる。

 

「俺の店は品質良いのしか使わないから。これらを合計して4560キャップだね」

 

「うーむ、高いな」

 

「あんだけ高いの羅列したら高くなるさ。」

 

俺は腕を組むと、取り出したスナイパーライフルを構え、捨てていないマネキンに向けた。

 

「拠点はメガトンだから・・・。だけど、武器製造が出来ればなもっと安くなるんだけど」

 

「武器製造までやるのか。・・・警備兵から聞いたんだが、稼働する車で来たそうじゃねえか。あれを使って武器販売とかしないのか?」

 

「キャラバンみたいにか?」

 

ウェイストランドで名高いのが、ラッキーハリスの武器キャラバンだ。その他にもカンタベリーコモンズ系列の商人がバラモンを足に移動している。もしも、俺達が車によるキャラバン営業を始めれば、向こうの商売上がったりだろう。

 

「やってみて損はないと思うが?」

 

「商売敵を増やすし、俺にそんな余裕ないよ。言っておくけど、ミサイルランチャー撃たれたら終わりだぞ」

 

ミサイルランチャーは戦闘機や戦車など陸空オールグラウンドなミサイル兵器だ。今ではミサイルランチャーの大部分が誘導装置が壊れているものの、戦車を破壊する威力は秘めている。

 

「無敵だと思ったのに」

 

「物には何処か弱点はあるものさ。さて、どうする?」

 

「4400キャップ」

 

「いいや、4560」

 

「4450」

 

「だめだ、4500」

 

「4460!」

 

「わかった4470でけりをつけよう」

 

こうして、大口の取引が成立した。

 

 

反対側の雑貨店でウィスキー二つとタバコを一ケース、その他食糧を買い、シャルのところへ行った。

 

「では口を開いてください。あーん」

 

「あー・・・」

 

「粒状の泡腫が出来ていますね。これは免疫力の低下で起こるので、伝染病では無いですよ。バファウトと幾つか戦前の抗生物質を処方します。用法はしっかり守ってください。」

 

最後の診察が終わったのか、ここに前からあった白衣を着たシャルは患者からの支払いを受け取って、大きく延びをした。

 

「終わった?」

 

「5分に二人よ。誤診するかもしれないと冷や冷やした。」

 

疲れた様子で椅子にもたれ掛かるシャル。俺は後ろから覆い被さり、顔を耳元に近づけた。

 

「え!ユウキ?」

 

「疲れたんだろうなと思って。」

 

後ろから覆い被さることが果たして疲れが取れるのだろうかと聞かれたら、Yesとは答えられない。だけど、シャルは俺の手を掴み、微笑んだ。

 

「ありがとう。疲れが取れた」

 

髪から漂う香りを堪能するが、ふと殺意の混じった視線を感じる。顔をその気配に向けると、今にも殺しそうな目をしている男達の姿だ。

 

「え・・・えっと・・・、ごめんなさい。イチャイチャするのは他でします」

 

彼らはフェラルグールを掃討するときに怪我をした傭兵である。彼らはそれなりに経験があるし、大人の階段だって登ってる。だけど、幸せそうなカップルにジト目を向けるのは当然だ。

 

「シャル、もう終わったのか?」

 

「うん、じゃあ私の言いつけ通りにしてくださいね」

 

「「「はーい!!!」」」

 

一刻も狂わない返事。彼らの目にはまるで可愛らしい動物を見るような感じ。そう、彼らはシャルを見て英気を養っていたようだ。

 

「じゃあ、ユウキ帰ろ!」

 

俺を置いてシャルは診察室を出ていく。すると、男達の目線は俺へと向かい、その目には怒気と憎悪が折り混ざっている。

 

「なんであんな奴がシャルロットちゃんと・・・」

 

「あの野郎・・・!」

 

「目の前であんなことを・・・許せん!」

 

男達は今にも動きだし、俺を殴ろうとする勢いである。だが、偶然にも俺は彼らの感情がわかった。偶然というか必然である。おれは彼らのことを見て考えた。

 

ハハハ、こいつら昔の俺じゃん・・・・。

 

 

エントランスを巡回していた民兵の数名は鬼のような形相で追いかける怪我人と必死に逃げ惑う東洋人の姿を目撃したと言う。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「はぁ~・・・まさか、ファンクラブまで出来てるとはね」

 

テンペニータワーの怪我人に殴られた頬を撫でながら、ハンドルを動かす。どうやら、テンペニータワーの外周部にいた男達は女の子成分が不足していたらしく、シャルが来たお陰でそれは補完された。しかも、彼らはシャルのような女の子を見たことがなかった。そんな子が親身になって診察してくれるのだ。見た目も幼く、彼らは彼女を守らなくちゃならないと思うようになる。そして、俺のような存在である。見た目からしてみれば、ひょろひょろなもやし君である。ごついウェイストランド人(個人差もある)と比べれば、頼りない。そんな男とシャルが一緒にいれば、変な虫がつかないように追い払うのである。つまりその虫は俺なのだ。

 

「シャルちゃんは可愛いから。」

 

隣に座っていたアリシアは俺が持ってきたコンバットヘルメットに暗視ゴーグルを着けている最中だ。まだ空は夕暮れ時でまだ視界は確保されている。しかし、良さそうな野宿場所を見つけないと、夜でも走らねばならないだろう。

 

「国立図書館からペンタゴンに回ってリベットシティーに行けると思ったのにな。道中のレイダーを相手にして殲滅するから遅くなっただろう。」

 

「仕方がないじゃん。こいつはレイダーにとって奪えば最強の武器になり得るんだ。俺達が何処へ行こうとも追ってくるよ」

 

実際、レイダーは何がなんでも手に入れるつもりなのか、撃っても撃ってもキリがない。逃げ切って一段着しても、他のレイダーが、それか追撃してきた執念深いレイダーまで現れる始末。どの道、出逢う敵を片っ端から凪ぎ払う武器は持っている。

 

「だが、弾薬ももうそろそろ尽きるぞ」

 

「リベットシティーまで行ければ良いんだ。ここら辺のレイダーのねぐらは余りないだろう。この前、リベットシティーの酒場で聞いてきて助かった」

 

ダッシュボードの中にある古い地図を指差す。そこにはリベットシティーの酒場や食堂で得た情報を書き記した地図が入れてある。どっかのスカベンジャーや傭兵、カンタベリーコモンズの商人達にも話を聞いた。最初はウィスキーをおごって情報を得ていたが、地図の情報量が半分に差し掛かると、情報を交換しながら地図を作成し始めた。地図には詳細なレイダーキャンプやスーパーミュータントの根城、賞金稼ぎのヒットマンに狙われるポイント、BOS前線基地、戦闘地域が書き加えられた。最後にフラックが地図の情報を全部見せろとせがまれたので、次来るときに画策している事に加えろと、C4を山ほど使って尻を火星まで吹き飛ばすと脅しを掛けて情報を見せた。どうなるか分からないが、フラックがよからぬ事を企んでいるのは明白だ。

 

「それにしても、この地図は売れば金になるな。私に売ってくれ」

 

「やだ」

 

「身体で支払うから♡」

 

「俺は良いかも知れんが、あとでジェームズの北斗百烈拳とシャルのメスでめった刺しになる。俺はまだ死にたくない。」

 

ふと、後ろの方からミニガンの回転音が聞こえたが、銃声もレイダーもいない。・・・・何でだろうね?

 

「よし!出来たっと。・・・どれどれ」

 

そんな俺の気苦労も知らず、アリシアはコンバットヘルメットの暗視ゴーグルを調整する。国立図書館を通りすぎようとしたその時、アリシアは暗視ゴーグルを図書館の反対側にある廃墟に向けた。

 

「ん!あれは・・・み、ミサイル!」

 

アリシアの叫びに俺はとっさにその方向を見る。廃墟からのバックブラスト炎。発射されたミサイルは真っ直ぐにこちらに接近していた。

 

「捕まれ!!」

 

アクセルを踏んで、ハンドルを切る。車体は傾き激しく揺れる。それが功を奏したのか、ミサイルは助手席側のタイヤ付近に命中する。爆発の衝撃で傾いていた車体は更に傾き、片方の車輪が宙を浮く。体勢の取れなくなった車はその場に横転した。スピードに乗った車は数m路面を側面にこすり、停車する。俺は衝撃で意識は一瞬飛ぶが、耳鳴りのする耳を押さえて自分の体を確認する。

 

「右足、左足よし。両手よし。首のしびれはない。」

 

自分の手足が繋がっている事を確認するが、レザーベルトのシートベルトをサバイバルナイフで切り取って、体の自由を確認した。

 

「アリシア?おい・・」

 

助手席には、レザーベルトのお陰で座席に座ったアリシアが傷だらけの状態で宙吊りになっていた。

 

「アリシア・・・死ぬなよ」

 

首に中指と人差し指で触ると脈があることが分かった。だが、脈拍は弱く、急いで処置をしないと死ぬかもしれない。意識を失ったアリシアを抱えながら、サバイバルナイフでレザーベルトを切り裂いた。身体に押し掛かる体重はそこまで重くはない。だが、鼻につく血の臭いに危機感を募らせる。

 

一度足元に横たえて、彼女が持っていたアサルトライフルを持って閉まっている防弾鉄板を開ける。

 

「クソ!・・・シャル!ジェームズさん!」

 

俺は後ろに叫び、アサルトライフルを構えながら荷台に走る。そこには足を怪我したジェームズさんとそれを見るシャルがいた。

 

「よかった、無事だったか」

 

「ユウキ、頬から血が!」

 

頬を触るとベットリと血が着いていた。だが、この血は俺の血ではなく、アリシアのだ。

 

「ジェームズさんの足は?」

 

「大丈夫、少しだけヒビが入っているけど。アリシアは?」

 

「俺達より数倍ヤバい。すぐに手当てしないと手遅れになる。すぐ来てくれ」

 

「私は中のBOSに助けを求めよう。二十年前の疫病神と嫌われるだろうが、人が死にそうなのに構ってられない」

 

ジェームズの近くの壁にはbrotherfoot of steelのエンブレムが描かれていた。最近、書かれた物らしい。俺はジェームズが図書館に入って行くことを見届けて、すぐに運転席近くに倒れているアリシアまでシャルを連れていく。アサルトライフルを周囲の廃墟に向け、レイダーがいないか確認する。さっき撃ってきたのは十中八九レイダーだ。なら、バットやナイフを持ったレイダーが来てもおかしくない。

 

「アリシア!・・・・数ヵ所に内出血と骨折。ここじゃ治療できないから、荷台の影に連れていこう!」

 

怪我の確認したシャルにアサルトライフルを渡し、アリシアを車内から引きずり出した。落ちていたM3ショットガンを拾い上げて肩に掛けると、運び出すために持ち上げて所謂お姫様抱っこをする。案外、軽く急いで車の影へ横たえた。

 

「脈が弱い・・・。急いで処置しないと!ユウキは外を・・・キャッ!」

 

言い終える前に車に数発の銃弾が命中する。銃が弾ける音が響き、俺は持ち変えたアサルトライフルの弾倉を装填し、ボルトを引いて機構内に次弾を送る。

 

「シャルはここでアリシアを治療しろ!俺は向こうで二人を守る。」

 

丁度10mも満たない場所に同じような構図で事故を起こした車が放置されていた。その車はトラックにいるシャル達を守るのに丁度いい。シャルにM3ショットガンを渡し、散弾を幾つか手渡した。

 

「え、でも」

 

「今聞こえたのはアサルトライフルだ。敵は中距離に位置している。接近されたら、全員あの世行きだ!」

 

腰のポーチから破片手榴弾を取り出して、ピンを抜く。適当に離れたところに投げ、爆発する。

 

アサルトライフルを走りながら撃ち、トラックと同じように横転した自動車の横に隠れる。少しだけ体を出して、アサルトライフルの引き金を引いた。フルオートで発射された5.56mm弾はレイダーのいる遮蔽物に命中する。薄い板であったため、壁に隠れていたレイダーは貫通した弾に命中し、絶命した。

 

「殺人タイムだ!」

 

「今日の晩飯だ!やれぇ!!」

 

手には血みどろのバットや古びた中国軍将校の剣、スレッジハンマーで突撃してきた。

 

「来いよ!相手してやる!」

 

弾倉を交換し、接近してくるレイダーの胸に二三発の銃弾を浴びせて沈黙させる。振りかざしてきた中国軍将校の剣を避けて、銃口に着けていた銃剣を腹にぶっ刺した。

 

「痛い!痛いぃ!」

 

「じゃあ楽にしてやるよ!」

 

引き金を引いて銃の反動によって、レイダーは吹き飛び、血が俺のアーマーに飛び散る。

 

「野郎っ!」

 

仲間を無惨に殺された怒りか、バットを持っていたレイダーはバットを振り上げて俺の頭目掛けて降りおろした。咄嗟にアサルトライフルで防御するが、予想していたのかレイダーは蹴りを俺の腹に食らわせた。

 

「死ねぇ!」

 

止めの一撃を仕掛けようとするレイダー。地面に倒れた俺はホルスターから10mmピストルを抜いて引き金を引いた。数発の銃弾がレイダーの胸に命中し、絶命する。急いで立ち上がり、アサルトライフルを構えようとするが、排出口が折れ曲がって弾詰まりを起こしそうになっていた。

 

「畜生!」

 

pip-boyからMOD武器であるSCAR-Hを取り出し、308口径弾の詰まった弾倉を装填する。周囲にはまだレイダーが居て、こちらに銃撃を加えているが、銃の精度かレイダーが下手くそなのか全く当たらない。セレクターをフルオートにし、引き金を軽く引いて三発の銃弾が発射される。5.56mmのような小口径ライフルではなく、308口径の大型ライフル弾であったために、肩にこれまで以上の衝撃が伝わった。そして大口径だからか、レイダーの後頭部は銃弾と共に吹き飛んでいった。

 

「威力めっちゃあるじゃん」

 

mod武器の高性能に歓喜しながら、銃のサイトにあるホロサイトの倍率を挙げるマグニファイアを下ろして、近くの廃墟を覗き見る。

 

数人のレイダーが何かしているのを発見し、腰を落として銃を車のボンネットに乗せて狙いを付けた。セレクターをセミオートにして引き金を引くと、レイダーの一人は腰に命中し、視界から消えた。

 

「窓から見えるようにするからだ。アホが」

 

空になった弾倉を交換し、レイダーを目撃した場所を再度見やる。人影はなく、そこにいたレイダーは姿を現さない。仲間が殺されたのを見て急いで逃げたのだろう。これでレイダーを全て掃討したに違いなかった。

 

「シャル、大丈夫か?」

 

「うん・・・・・屋上にっ!」

 

シャルは屋上を指差し、そこにはミサイルランチャーを構えるレイダーの姿を捉えた。

 

「ちっ!」

 

軽く舌打ち、ホロサイトの点をレイダーに合わせて引き金を引いた。高速で撃ち出された弾丸はレイダーの肺や脊髄を撃ち抜く。だが、レイダーはそこで終わらなかった。一秒も満たないが、レイダーは最後の力を振り絞り、ミサイルランチャーをユウキに向けたまま引き金を引いた。引き金と共に電気信号が流れ、ミサイルの燃料が点火する。200年保管されたにも関わらず、燃料は燃えてミサイル後部からブラスト炎が飛び出し、射出口からミサイルが撃ち出された。

 

「シャル、伏せろぉ!!」

 

シャルの元へ走り、意識不明になっているアリシアやシャルに覆い被さる。ミサイルは俺が元いた横転した車に命中し、爆発を引き起こす。車の破片が周囲に飛散し、爆風と共に破片が背中に突き刺さった。刺されるような痛みではなく、バットで背中を殴られたような衝撃だ。

 

「くっ!!」

 

着ていたセキュリティーアーマーの背の部分には無数の破片が突き刺さっているものの、防弾プレートが防ぎきっていた。

 

「行くぞぉ!野郎共!」

 

「皆殺しだ!」

 

かなりの戦力を有しているのか、鈍器を片手にこちらに奇声を上げて接近してくるのは紛れもないレイダーだ。

 

「これで最後か?」

 

シャルの手元にあったM3ショットガンを拾い上げ、安全装置を外して引き金を引いた。12ゲージスラッグに収まっていた無数の1mm程度の球体が接近していたレイダーの顔面に命中した。肉を引き裂き、骨を絶つ。レイダーは声を挙げることもなく、絶命する。更に、来るレイダーに引き金を引き、胴体を蜂の巣にした。最後の弾を撃ちきり、10mmピストルに持ち変える。

 

「ハッハ!死にやがれ!」

 

車の影に隠れていたのか、コンバットナイフを持っていたレイダーは飛びかかるように俺に突貫してきた。ピストルは衝撃で弾かれ、レイダーは俺に馬乗りになった。

 

「今日は貴様の腸でウィンナーを作ってやるぜ」

 

レイダーはナイフを降り下ろそうとするが、頭を狙っていた為に一撃は避ける。代わりに胸元にあったナイフをレイダーの喉に向けた。

 

「ハッハ!貴様の手が届くのか?それで精一杯だろ?」

 

レイダーは俺の腕までも押さえているためナイフを奴の喉元にぶちこむことは出来ない。

 

「そんなことは必要ない」

 

「何だと?」

 

持っていたナイフに仕組まれたボタンを押す。強いバネは金属製の留め具で押さえられていた。だがボタンを押され、留め具は解放される。バネは強力な瞬発力によってナイフの刃を発射する。銃弾よりは幾分か遅いが、人を殺すには十分な威力だ。レイダーの喉元に突き刺さり、口から赤い泡を吹いて倒れていく。

 

10mmピストルの弾倉も残り少なく、図書館の壁にもたれ掛かった。腕に熱を帯びるような感触がし、上腕には人差し指大の穴が空いていた。

 

「痛いじゃないか・・・」

 

いつ撃たれたか記憶にない。それを気にせずポーチから残りの弾倉を手元に置き、腰にある手榴弾を触る。手榴弾の残りはたったの一発。こいつは最後の最後にとっておこう。レイダーになんて食われたくないし、シャルに指を触れさせやしない。だが、いざとなったら・・・・。

 

強い視線を感じて、その方向を見る。怒っているのか泣いているのか、目に涙を浮かべるシャルの姿だった。右手にはスティムパックと左手には10mmピストル。

 

「・・・・女の子に良いところを見せなきゃな!」

 

諦める?そんなことは許されない。手榴弾で最後は皆でなんて虫が良すぎる。何で諦めようとする?まだ、生き残れないとは限らない。

 

10mmピストルを構え、迫り来るレイダーに銃口を向ける。数はさっきよりも多く、一人では守りきれない。だが、ここで諦めて何が男だってんだ!

 

「絶対、諦めるもんか!!」

 

 

 

 

 

 

 

「良く言った、兄弟!」

 

隣からぼやけた人の声がし、俺は視線を横にふる。そこにはT45dパワーアーマーを着た兵士達が重火器を持っていた。それらは突撃するレイダーを捉え、いくつかのミニガンは回転し始めていた。

 

「兄弟達よ、奴等に我らの鉄槌を!」

 

「「「「URAAAAA!!!」」」」

 

訓練された精鋭兵の咆哮が上がり、レイダーは恐怖する。

 

鋼鉄の兄弟、Brotherfoot of steelの鉄槌がここに落とされた。

 

 

 




SCAR-Hは某newvegasMODで愛用しているものから参考に登場させました。多分NVやっている方多いはず。PCMODでは高品質テクスチャなのでよかったら是非探してみるといいです。



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二十三話 国立図書館

一応、最後まで結末は決まっていますが、今考えただけでもすごい終わり方になりそうです(笑)




 

 

 

「ライナーとベルクマンは上の窓から見張っていろ。所詮、奴等はレイダーだ。手加減するな」

 

 

「Yes,sir.」

 

 

「第一分隊は前進してレイダーを掃討する。第二分隊はスクライブを守るように」

 

 

Brotherfoot of steelの戦闘指揮官であるパラディンは小隊のナイトとイニシエイトに命令をする。彼らが着るT45dパワーアーマーの肩には鋼鉄の歯車に剣を添えたマークがあった。命令された兵士達はテキパキと武器を調整し、戦場に行く準備をしだす。手には品質のよいアサルトライフルやコンバットショットガン、中にはモスバーグのポンプアクションショットガンや伸縮銃床に切り詰めた銃身のアサルトライフルCQB仕様を持っている兵士すらいる。それは、俺が売り込んだ兵器であった。

 

「君が来てくれて助かったわ。この頃、補給が無くて困ってたの」

 

スクライブ・ヤーリングと名乗ったローブを着た彼女は俺の腕の傷口を見ている。

 

シャルは清潔そうな部屋に移動してアリシアの手術をしている。手間の掛かる手術らしく、難航しているらしい。そのため、一応処置が出来る彼女が俺の傷口を見ているのだ。

 

「まあ、あんまり儲けになんのかな~・・・」

 

車が攻撃され、助けを呼ぶためにジェームズはBOSに反感を食うことを躊躇わず、図書館に踏み入れた。そこまでは良かったものの、入った途端、拘束。レイダーと勘違いしたようだが、浄化プロジェクトの責任者と知られて立場が一気に悪化する。20年前と言えど、分裂の起きた原因でもあるそれの責任者であることは古参のスクライブやパラディン、入ったばかりのイニシエイトでさえ不快に思わせた。ジェームズは俺が武器商人であることを知らせた。補給の目処のたたない彼らは考える。ここで見殺しにした後で残した物資を使えば良いのではないかと。それを予見したジェームズはとびきりのカードを切った。俺の母親、ナイト・ツバキの事である。結論から言えば、俺はBOSに入れる資格がある。それを伝えたのだ。

 

BOSは戦闘に特化した集団ではあるものの、食料生産や武器の新規製造などにはNCRなどの国家に遅れを取っている。それらは商人を通じて買ったり、生前の軍用糧食で賄う他ない。商人をこちら側に入れることはBOSの優先事項である。しかし、小規模な商人は当てにならず、カンタベリーコモンズ等の大規模な商社では足元を見られる。よって新興勢力で尚且つ信用できる人材が必要であった。しかし、BOSは元々閉鎖的な武装集団であり、レーザーライフルとパワーアーマーという姿は商人を入れる障害となっていた。スリードッグが友好的な放送によってイメージ改善が図られるが、しばしばoutcastの行動によって阻害される。その為、BOSに血縁的に関わりのある俺を引き入れれば、様々な事が可能になると踏んだようだ。

 

「これからBOSと取引出来るのだから、かなりの儲けになるんじゃない?」

 

「じゃあ、助けた代わりに割安で提供しろって言われるとね~」

 

スクライブ・ヤーリングはそこの所、抜け目のない人物である。俺達を助けて場所を作ってやったのだから武器を格安で提供しろと言ってきたのだ。それに応じなければ、図書館の外にほっぽり出される。言葉の裏には「応じなければ身ぐるみ剥がす」という意志が見え隠れしていたので頭を縦にするしか方法無かった。つーか、BOSがこんなことやっていいのかよ・・・。

 

「補給が先週から来ないのよ。普通ならそこに弾薬箱が積み上げられていたけど、困ったものよ」

 

ヤーリングは溜め息を吐き、ピンセットを銃創に差し込んだ。

 

「~~~~~!!」

 

「あともうちょいだから!」

 

傷口にピンセットを突っ込むのは辛い。殺菌消毒したピンセットであるものの、グリグリとねじ込まれるのは激痛だ。モルパインは節約のためにこの程度は打たなくても良いとヤーリングは言ったのだから、彼女の性格はあまりよくない・・・絶対良くない!

 

「よし!取れた!」

 

金属製の皿にはライフル弾の破片と思われる弾が転がる。

 

「痛てぇ~・・・」

 

「男の子でしょ。少しは我慢」

 

スティムパックを患部に射す。スティムパックに入っていたナノマシンによって血小板や皮膚そのものが形作られる。熱を帯びていた銃創は薄くアザのような色となった。

 

「それにしてもスティムパックってすげー」

 

医者要らずになるくらいの性能に俺は毎度の事ながら感心する。

 

「でも、私が感心するのはあの車よ」

 

「あれですか?」

 

ヤーリングは頷く。スティムパックよりも稼働する自動車なんて早々お目に掛からない。スティムパックの製造は今のところ出来てはいないが、西海岸では似たような効能を持つ物を掛け合わせてスティムパックを作っているようだ。BOSも医療分野も開拓はしているが、やはり軍事に優先順位が傾いている。自動車は軍事に深く結び付きやすいのでヤーリングがそこに食いつくのは仕方がない。

 

「あれは何処で手に入れたの?」

 

「自動車修理工場ですけど。あれは何て言うか、修理工達の力を合わせて作った物と言って良いのかな?」

 

「誰かに作って貰ったの?」

 

俺はあのピックアップトラックについて説明した。工場に訪れたスカベンジャー達が長年修理し、俺が最後に放置されていたエンジン駆動を直して動くようにしてしまった。俺の力で全てを築き上げたとは言えない。これを作り掛けた人達は死んだり、何処かに居るのかもしれないが、もし会えるとしたら会ってみたいと思った。

 

「へぇ・・・あれは修理可能?」

 

「いや、無理でしょ。実際エンジンが無傷で残ってたことが奇跡だし。キーを回した途端にメルトダウンなんて嫌だ」

 

2060年代、ガソリンが地上から殆んど無くなり核動力の自動車が発売された。値段は張るものの、人々はそれらを新たなる足として活用した。その核動力エンジンを作るには幾つもの障害があった。核分裂反応を出来るだけ押さえる必要があるし、一般人が使えるように簡略化、自動化が為される必要があった。自動車事故を起こした場合、それらは放射能を垂れ流す恐れもあるため防御するための策が必要となる。燃料棒が露出しないようにする技術など様々な技術が施され、また容器が破損したり歪みが生じた場合は稼働しないように安全装置が組み込まれるなど様々な防護策が施された。だから、今回トラックに積んでいたエンジンはオシャカ。無理してメルトダウン何て御免だ。

 

だが、トラックに積んでいるようなエンジンが何処かにあるとは思えない。そして、代替エンジンとなる物は思い付かない。

 

すると、ヤーリングはあることを疑問に思ったのか口を開く。

 

「なら、動力を変えればいいじゃない」

 

それは何処かの王女が庶民に対して「パンが無ければケーキを」と言うような荒唐無稽な台詞だった。

 

「んな動力を変えるったって・・・。元々こいつは電気駆動だからガスタービンにしてみても一から作り直す必要がある。そしたら何年掛かることか。」

 

「これを使ってみたら?」

 

ふとヤーリングは腰のポーチから手榴弾大の大きさの物を投げ渡す。手のひらに収まるそれはレーザーライフルやプラズマライフルに使われるマイクロフュージョンセルだった。中身は水素を使用する核融合バッテリーで、高出力なレーザーライフルにはうってつけの燃料電池だ。少々弄ることで手榴弾を作ることが可能だが、作るには金額的に余裕がないと作る事は不可能だ。

 

「そうか、核融合セルなら下手に巨大な核分裂エンジンを積まなくても良いわけか・・・・。レーザーライフルの機関部分を改造して動力にしてしまえば何とかなるけど、俺にそのスキルはない」

 

一応言えば俺の能力は銃器の取り扱いに長けているし、整備や改造もドンとこい。だが、光学兵器になると話は別だ。整備は出来るものの、改造や一部品を取り出して他の物に作り替えるのは無理なのだ。

 

「シャルに・・・いや、アイツは医療専門だから無理か・・・」

 

車が攻撃を受けてから全ては決まっていた。もう、風を切る感覚や荒野を爆走することは出来ないのだ。だが、目の前にいるヤーリングが厭らしく笑みを浮かべていた。

 

「そんな簡単に諦めるんだ。私と取引しない?」

 

「取引?どんな取引だ?」

 

そう言うと、ヤーリングは笑みを更に浮かべる。彼女の目に宿っているのは歓喜とは呼べない、凄腕の商人の目であろうか、それとも獲物を見つけた野獣の目だろうか。俺は彼女の真意に気付かず、そのまま彼女の話を聞くことになったのだった。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「・・・・で、どうしてこうなった・・?」

 

俺はそう呟いた。そこは図書館のエントランスフロアから少し離れた通路。そこにはT49dパワーアーマーを着たBOS兵士が突入の合図を待つ。指揮官の持つ武器が不調らしく、一度エントランスに戻っているため、兵士達は待ちぼうけを食らっていた。

 

俺は何時も着ていたVault重装アーマーは着ていない。先の戦闘でかなり被弾し、ボロボロになったためだ。一応、MODであった濃紺のCIRASベストをVaultスーツの上から身に纏い、プロテクターにSCAR-Hを持っている。室内戦闘であるためショットガンを使いたいところだが、余っている弾薬を先に使った方が良いだろうとショットガンは諦めたのだ。

 

「仕方がない。スクライブ・ヤーリングは左遷された悲しいお方。戦闘車両を作ろうとして左遷されたからな」

 

「戦闘車両をか?」

 

しかし、不思議なことではない。かのNewvegasのNCRでさえ輸送用に軍用トラックを使用している。ゲーム中には走行するのは見なかったが、補給線には多くのトラックが活用されているのだ。西海岸のBOSも幾つか車両を所有しているらしいが、東海岸では全くない。その何もない地域に車両を走らせれば、かなりの軍事的優位を保てるのだ。ヤーリングの気持ちや考えは理解できる。

 

「まあ、生産ラインを作るにはあと30年掛かるらしい。今のBOSには人員も資材もキャップも足りないからな。ヤーリングは諦めずに放棄された軍用車両を使おうとしたが、修理にしたって金が掛かる。ヤーリングは司令部と揉めて左遷だ」

 

そうBOSの内情を詳しく語る隣にいたアフリカ系のBOS隊員は持っていた綺麗な水を一口飲んだ。

 

「なんでそんな情報を教えてくれるんだ?」

 

「だってお前もBOSになれるんだろ?仲間とは親しくしなくちゃな。俺はナイト・ジャクソン、ヨロシクな」

 

ジャクソンはパワーアーマーの手で握手を求める。俺はそれに応じ、握手をした。

 

「ユウキ・ゴメスだ。母親がナイトだからって強制じゃないんだろ?」

 

「まあ、強制じゃないし辞めることも出来る。だけどお前はBOSの状況を知っているだろ?」

 

ジャクソンは坊主頭の頭をポリポリと掻く。

 

BOSは人員の不足、弾薬や武器、装備の何もかもが不足している。唯一、T49dパワーアーマーが腐るほどあったために着る分は不足しないが、熟練な隊員がOutcastに渡ってから慢性的な人手不足に悩まされている。また、閉鎖的な組織故に新規の入隊は行っていない。今のリオンズ傘下のBOSは人員不足を補うために新規入隊を行っているが、それ則ち練度が低下することとなる。来年かそれとも一週間後か分からないが、BOSは崩壊するかもしれない危機に瀕していた。

 

「だけど、新興したBOSと繋がりのある武器商人を擁してもあんまり変わらん気もしないではないが」

 

「そんな考えは駄目だ。“塵と積もれば山となる”。日々蓄積された物が今後の人類に良い影響になるかも知れないんだから」

 

ジャクソンは持っていたパワーアーマーヘルメットを被り、内蔵されたHUDの調整を行う。持っていたレーザーライフルにセルを装填し、チャージ音が響いた。

 

「と言うか、ジャクソンは幾つだよ」

 

「ん?今年で18だ」

 

「げっ!」

 

俺の身長はウェイストランドでは一般的な背丈である。筋肉質であるかと言えば必要最低限の物があると言えよう。だが、ジャクソンは黒色人種なのか、背丈もウェイストランドでは高い部類に入り、体格はパワーアーマーが着られるギリギリの体格であり、筋肉質であることが分かる。そんな彼が俺よりも年下であったのだ。

 

「ハッハッハ、そうさ俺は黄色人種~。体格に敵うわけないしな~・・・」

 

「だ、大丈夫かユウキ・・・」

 

何でショックを受けているのか良く分からないジャクソンは慰め方に困る。ウェイストランドではそんなこと気にする余裕はないのだから。

 

そんな会話をしていると、一人のパラディンが通路に入ってきた。彼はこの分隊の指揮官であるが、装備していたレーザーライフルが不調で、俺が売ったモスバーグ590を使っていた。

 

「attention!(傾注)」

 

一人のナイトが言い、雑談をしていた兵士は直ぐ様静かになった。

 

「皆、済まない。これより掃討作戦を開始する。相手はレイダーだが舐めて掛かるな。薬で痛覚が麻痺しているからな、頭を狙え。間違ってもパワーアーマーの装甲を過信するんじゃないぞ。ダニエルと私、後の5名は中央口から蔵書エリアに侵入する。ロジャーとジャクソンの班は二階の踊り場から入れ。敵の注意を引き付ける間に踊り場の敵を殲滅しろ。それと、技術者として助けた武器商人を連れていく。連携を密に保て」

 

交換条件として出されたのは「技術者として戦闘に加われ」という彼女の提案だった。この図書館には蔵書のデータを丸々納めたパソコンがある。そのデータのコピーが欲しいのだ。問題なのは置いてある場所がレイダーのテリトリーであること。データデバイスを持っているのはスクライブ位な物でナイトやパラディンには任せられない。なら、スクライブと似たようなデバイスを持つ俺に白羽の矢がたった。

 

パラディンは中央口から入るため、急いで通路の近くで突入体制を取って周囲も戦闘準備を整える。ナイト・ロジャーと呼ばれた兵士は残りの兵士と俺を引き連れ階段を上がって突入準備を取った。

 

「ダニエル、スタンを!」

 

パラディンはダニエルと呼んだ兵士から手榴弾を受けとる。それは、敵の聴覚と視覚を奪う閃光手榴弾だった。

 

パラディンは扉を開けると、ピンを抜いてレイダーのいる場所へ投げ入れた。レイダーは扉から投げられた手榴弾に気付くものの、大して警戒はしなかった。どうせ、薬がキレて幻覚が見え始めたのだろうと。だが、投げられたのはピンの抜かれた閃光手榴弾。それは爆発し、100万カンデラ以上の閃光と200デシベルもの爆音が響き渡る。レイダーはそれに聴覚と視覚を一時的に奪われ、その隙にBOSの兵士達が突入し、ふらつくレイダーやパニックを起こす奴等に鉛玉を喰らわせていく。

 

「俺達も行くぞ!」

 

ナイト・ロジャーは持っていたアサルトライフルCQB仕様を片手にボロボロになっていた木製の扉を蹴破った。200年の歳月を経ていた扉はいとも簡単に破壊され、破片が周囲に散乱する。パワーアーマーを装備していた兵士達は踊り場に突入すると、洗練された動きでレイダーを掃討していく。

 

「12時方向に、レイダー3!」

 

「ラジャー!」

 

「リロード!」

 

「カバーする!」

 

互いに声を掛け合いつつ、システマチックに戦闘を行う彼らは殺人兵器と呼んでも過言ではない。SCARのマグファイアを下ろし、ホロサイトの倍率を上げて引き金を引く。発射された308口径弾はレイダーの頭に命中し、周囲に脳奬を撒き散らす。

 

「Good kill!」

 

近くにいた兵士は叫び、付近にいたレイダーに散弾を食らわせる。既にここにいるレイダーの大半は死ぬか息絶え絶えで床に倒れているかのどちらか。レイダーの一人が一階で10mmマシンガンを無茶苦茶に乱射するが、一階の兵士と踊り場にいた兵士達からの集中攻撃で倒れ、戦闘は終了する。

 

「踊り場クリア!」

 

「一階もクリアだ!これより隣のフロアを制圧する。二手に別れるそっちは二階の通路から移動しろ。ロジャーは班を指揮するんだ」

 

「了解、じゃあ行くぞ」

 

階段を見つけ、互いの死角を埋めながらクリアリングを行う。

 

「ユウキ、中々上手いじゃない」

 

「これでもセキュリティー崩れ。これ位こなせないとな」

 

とは言うものの、こんな集団の近接戦闘の経験はないし、一回だけVault時代に父と何人かの隊員で突入訓練をしたことがあるだけだ。Vaultのデータバンクに入っていた「警察育成訓練過程」のホロテープを参考にしてやったが、直ぐに監督官に止められた。治安もそんなに悪くないのに犯人が銃を持ったことを想定して訓練しても、市民が銃を持つことはないと断言して辞めさせられたのだ。あの頃を思えば、なまっちょろい訓練だったと思う。

 

ギリギリ、クリアリングに付いていき、階段を登ろうとした時、先頭の兵士の足が止まる。右腕の拳が握られ、“待機”の合図が送られる。

 

「地雷だ。ケルヴィン、解除しろ」

 

ケルヴィンと呼ばれた兵士は素早く地雷に手を伸ばし、解除ボタンを押す。地雷は踏んで爆発するタイプではなく、遅延式近接センサー型地雷だったため、解除の手順を間違えなければ簡単に解除が可能なのだ。

 

ベアトラップも見つけ、周囲に転がっていたブリキ缶で反応させて無力化していく。ブーケ型のグレネードトラップもあったので、それも慎重に解除していく。

 

「レイダーがここまで仕掛けるとはな。油断するなよ」

 

ナイト・ロジャーがそう言うと、ケルヴィンを先頭に進ませると階段が終わり左には通路が見えた。

 

「自分が廊下を・・・・ってわ!」

 

裏声とおぼしき高い声が廊下と階段に響く。見てみると、廊下の奥から野球ボール射出機が設置され、ケルヴィンのヘルメットに野球ボールが命中する。

 

「ケルヴィン!たかが硬式野球の玉だろ!機械に銃弾撃ち込めば壊れる!」

 

「ですけど!あ、視界が!」

 

ケルヴィンは銃を構えようにも野球の玉に遮られ、銃本体に命中して射線が安定しない。しかも、視界が何らかの理由で見えずらくなれば戦闘に支障する。そしてパワーアーマーに当たって階段にまで玉が飛んでくる始末だった。

 

「くそ、全隊集中攻撃!目標、野球ボール発射機」

 

ジャクソンやロジャーの二人は階段から出て身をさらし、持っていたライフルを発射機に向けて引き金を引いた。本来ならそれはバッティングセンターにでも納入されていただろうが、あろうことか図書館の通路に設置されて完全武装の兵士達を困らせているのだから、戦前これを組み立てた人達は驚くに違いない。火を吹き、機械は動きを止めてロジャーは射撃中止を命令する。

 

「ケルヴィン、大丈夫か?」

 

「身体に不調はありません。しかし、視界に歪みが生じています。多分、外側のレンズが割れているかと」

 

パワーアーマーのヘルメットは外側からはどうも視界が悪いように思えるが、実際のところ内部の視界はそれほど狭いわけではない。重機関銃の攻撃の中でも立っていられる能力はあるが、視界を遮れば攻撃能力は下がってしまう。それに、200年も経った現在では説明書通りの能力は発揮できないだろう。

 

「ケルヴィンは道を辿ってエントランスで休んでいろ」

 

「後で修理するから。」

 

「頼むな」

 

ケルヴィンはアサルトライフルを肩に掛けて階段を下っていく。残るは指揮をとるナイト・ロジャーとジャクソン。そして数名のイニシエイトと俺だ。先頭をジャクソンと俺にして進む。通路を道なりに進むと、壊れたトイレからジェットをキメたレイダーが姿を現した。

 

「コンタクト!」

 

俺は叫ぶと、ホロサイトの点をレイダーの身体に合わせて引き金を引いた。308口径弾が発射され、レイダーの左胸を貫いた。ライフル弾は威力が強く、その強力な運動量でレイダーは吹き飛ばされる。

 

「兄弟のために!」

 

ナイト・ロジャーが叫び、通路に飛び出すレイダーを撃ち抜いていく。レイダーが籠っている部屋の壁に張り付き、腰に付けている閃光手榴弾に手を掛ける。

 

「野郎共、あのブリキの張りぼてを片付けろ!」

 

「誰がぁ張りぼてだ!このヤク中共が!」

 

何が堪に障ったのか、ナイト・ロジャーは青筋を立てているように怒鳴り声を挙げる。それに返答するかのように銃撃が壁に命中する。

 

「ユウキ、フラッシュバンを!」

 

「ラジャー!レイダー共、BOSからのプレゼントだ!」

 

ピンを引き抜き、ドアへと投げ入れる。閃光手榴弾はバリケードの机にぶつかりバウンドし、空中で炸裂した一時的でも失明し、三半規管が狂いパニックを起こす。直後にパワーアーマーを着た彼らがアサルトライフルを撃ち、レイダーを殺していく。

 

「クリア!・・・おっと。」

 

ジャクソンは部屋の安全を確認するが、机の下で踞る女レイダーを見つけ銃を構える。

 

「助けてくれよ、あたいは死にたくない!」

 

薄汚れたレイダーアーマーにヤク中で顔色が悪いソフトモヒカンの赤い髪の女は手を合わせて懇願する。

 

ジャクソンは無言のまま銃を構えていた。

 

「あたいは無理やり奴等に・・・。だから見逃してくれよぉ!」

 

目から涙を流して懇願する彼女はジャクソンに抱きつかんばかりのように、ジャクソンに泣きつく。

 

「じゃあ、貴様に殺された人間が同じように言っても・・・・お前はそいつを助けるのか?」

 

「・・・!」

 

レイダーは目を見開く。ジャクソンは直ぐ様レーザーライフルを放ち、レイダーの眉間に赤い光線が突き刺さった。

 

「普通なら“シネェ!”とか言って襲いかかるレイダーをジャクソンが撃つんだけど」

 

「バカ、そんな悠長な事したら怪我するわ」

 

ジャクソンは女レイダーの手のひらに納められた破片手榴弾を拾い上げる。ロジャーはヘルメットの中で口笛を吹き、俺はジャクソンが若いが、この中で一番勘が鋭いことが分かった。

 

「所謂、カミカゼ・チャージって奴か?」

 

「レイダーは人のために特攻しない。神風特攻隊は家族や国を守るために散ったんだ。あれはただの道連れって奴だよ」

 

俺はそう言い、まだ息があるレイダーの頭に引き金を引いて絶命させる。

 

「ここはクリアだ。次へ移動する、ジャクソンが先頭だ。・・・イニシエイトは怪我無いな?」

 

「イニシエイト・スコット、異常無しです」

 

「右に同じです」

 

ヘルメットで見えないが、二人のイニシエイトは無事だと言っている。ロジャーは二人を確かめると、指示を飛ばして次のエリアに移動する。

 

 

「シャルは大丈夫かな?」

 

彼処にはスクライブや護衛の兵士が付いている。負傷はしているものの、ジェームズのおっさんも居るし何とかなる。問題は重傷を負ったアリシアだろう。今のままでは、護衛の仕事は無理だし、リベットシティーに預けることはこの前の事件でそれも無理だ。

 

「帰ったら全員で相談するか・・・」

 

と俺は結論を後回しにしてジャクソン達と次のエリアへと向かった。

 

 

 




次の話は近日中に公開予定。

明日か明後日には投稿できればいいかな?

次の話はいろいろと伏線(謎)を残しつつも、笑いネタを入れた。(笑えるかな?)

そして、BOS兵士達の悩みをお読みください(笑)


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二十四話 続・国立図書館

この頃、調子がいいのでガツガツ投稿していきます。でも二月になったら投稿が滞るかもしれません。長期休暇になると、あんまり小説を書かなくなるのでwww

ちょっと、コメディータッチで書いてみました。次からは本格的な浄化プロジェクト始動編です。


 

地面が凍りつき、たまに降り出す雪が周囲を一面銀世界に変える。しかし、砲弾の跡や兵士達の死体や血を消すことはできず、寒さと飢えが戦場を形作る。アメリカ軍の部隊もその戦場では窮地に立たされた。限りある弾薬に人員。暖房設備は高官のみに与えられ一般将兵は火を炊いて寒さを凌ぐほかない。二十一世紀に入っても人類は寒さを克服することはできなかった。

 

愛用している10mmピストルを布切れで汚れを拭き取りきれいにする。オイルを適度に差してスムーズに動くよう調節した。銃が正常に機能しないことには、敵の命を奪えないし、自身の命を守ること、ましてや仲間の命は守れない。

 

 

「少尉、攻撃部隊準備できました」

 

最後の仕上げをしようとしている時、テントの幕が上がり部下のベンジャミン軍曹が入り私に報告を行った。

 

「選抜メンバーは?」

 

「ラミレスとリーブコット、ダスティン、カーラと自分の5人です」

 

「武装は軍曹に任せる。頼んだぞ」

 

「アイサー」

 

軍曹は敬礼をして去っていく。机に置いてあった冷めきった官給品のコーヒーを一口飲む。市販のインスタントコーヒーの方がまだマシなんじゃないかと思わせるような味わいに顔をしかめる。不味いと定評のあるこのコーヒーだが、目を醒ますには丁度よい。支給された防寒着の上にコンバットアーマーの装甲板を取り付け、弾倉の入ったポーチを腰に取り付ける。

 

「さて、行くか」

 

飲んでから、10mmピストルをタオルで拭き、ホルスターに収める。女性士官として個室のテントを用意して貰ったが、ここは何かと寒いし、地面は雪で覆われている。人の体温で暖められた下士官や兵士の為の大人数テントの方が恋しく思える。

 

補給用の木箱に立て掛けていたアサルトライフルを肩に掛けてテントから出て行く。

 

低空飛行でキャンプの上空を飛行する二機のVTOL機、泥濘に入り泥を周囲に飛散させる兵員輸送のトラック。最前線基地であるここは数々の最新鋭兵器を終結させていた。

 

 

アラスカ州アンカレッジ。アメリカ国内でも有数の油田があるこの地域は2070年代に入ってから中国人民解放軍の侵攻を受けた。それは1942年に日本軍がアラスカ沖のキスカ島を占領して以来の出来事だ。中国軍の数万の勢力はアラスカの半分余りを占領。アメリカ軍はこれに対処するため、アメリカ軍の派遣を決定した。質に勝るアメリカ軍なら直ぐに決着が着くと思われた。しかし、敵の数に圧倒され、数多くの特殊部隊が補給線への破壊工作を行う。いつしか、占領され早一年が経過していた。

 

 

「T51bの機甲部隊は北西の補給所を急襲しろ。必要に応じて火力支援要請を許可する」

 

(whisky1-2より司令部、敵の戦車に攻撃を受けている!火力支援を要請する!)

 

野戦司令部から無線の支援要請や指揮官の命令が聞こえ、次は自分の声がそこから聞こえるのだろうとため息を吐いた。今でも中国軍との戦いは質より量で勝る中国軍が優勢だ。

 

「少尉、命令あれば直ぐに任に着けます」

 

部隊が集まる天幕に行くと、中にいた兵士達は私に敬礼する。既に完全武装を施し、冬季迷彩が彼らを敵の銃弾から隠してくれるだろう。彼らは支給された武器を最高な状態で整備を施してあり、それに訓練に訓練を重ねた兵士がそれを使用する。それは兵士にとっては最高の状態である。

 

「よし、ベンジー。ここの作戦地図を出してくれ」

 

大人数用の天幕にはアルミ製のテーブルがあり、そこに地図が広げられる。そこには敵の占領地域が赤く斜線が引かれていた。

 

「現在、中国軍の部隊はこの油田地域を占領している。他にも送電施設や鉄道施設・・・・そしてこの幹線道路もだ」

 

私が指を指したのは、地図の端に書かれた幹線道路。その地区は赤く斜線が引かれていないが、敵の野砲の射程圏内である。そこに兵員輸送車や輸送トラックが通れば野砲の餌食になること間違いない。

 

「我々の任務はこの幹線道路の確保をするため、敵の野砲を破壊する。情報部によれば、そこ一帯の敵歩兵部隊は人民解放軍の中でも練度の低い部隊らしい。偵察部隊は部隊の中に督戦隊を発見。多分、敵の殆んどが農民召集兵だ。」

 

「まるでゲシュタポだな」

 

ユダヤ系のダスティンは第二次大戦中にドイツで猛威だった秘密警察の名を挙げる。しかし、ゲシュタポは国内の不穏分子を摘発し、惨たらしい拷問にかけるが、中国軍の督戦隊は少し性質がことなる。

 

「ダスティン伍長、中国の督戦隊は歴史のある部隊だ。日中戦争にも撤退する兵士を撃ち殺して撤退させなかった。お前の腕なら督戦隊の兵士も何とかなるだろう。」

 

撤退をさせない兵士が居なければ、我先に兵士達は逃げ出すだろう。所詮、農民兵。アメリカ軍のような精鋭でもない。彼らが相手するのはアメリカの中でも強力なレンジャーなのだから。

 

「敵の数は?」

 

「不明だ。だが、相当数いるだろう」

 

「ピュー!」

 

ラミレスは驚いたように口笛を吹く。

 

「この人数で敵の火砲は幾つです?」

 

「5門はあるだろうが、防衛陣地は見当たらない。練度は限りなく低いだろうな」

 

作戦司令部に衛星写真が幾つかあるだろうが、それを持ってくる余裕は無かったため、地図に直接印を着けていた。

 

「よし、1600にトラックが到着する。それまでに・・・・」

 

そう、私が言い終わらない内に直ぐ近くで爆発音が響き渡った。

 

「!」

 

兵士達は身構え、近くの武器を引き寄せ、臨戦態勢を整える。テントに被害は無いものの、私はヘルメットを被り、肩に掛けていたライフルを構えてテントから出ていく。そして鼻につく臭いで何が起こったか分かった。

 

「爆薬・・・敵襲か?!」

 

そう、結論付けた瞬間警報が鳴り響く。

 

「敵襲!中国軍の特殊部隊の攻撃を受けた!戦闘員は直ちに反撃に出ろ」

 

警備兵が叫び、他のテントから何人もの兵士が走っていく。

 

「ベンジー!我々も合流する!弾薬以外持っていくな。行くぞ」

 

「Yes,sir!」

 

煙が立つ補給所からは爆発音と銃撃音が響き渡り、アサルトライフルを片手に補給所まで走る。

 

「急げ!」

 

兵舎を通り抜け、補給所に到着すると火の手が上がり隣の救護所が炎に包まれていた。救護所から叫び声や死に絶えた負傷兵が火の中で息絶える。かろうじて脱出してきた負傷兵は以前の傷と火災の火傷で重症を負っていた。

 

「何て事しやがる!中国人め!」

 

周囲には敵の攻撃によって倒れた兵士の死体が散乱し、中にはまだ息があるように思える。

 

「息のある負傷者を運び出せ。ベンジーとラミレスは消火ボンベを使って消火しろ!」

 

近くに倒れていた兵士の脈を確認し、火の手が来ない内に胴体を撃たれた兵士を担いだ。弾薬とボディーアーマー、そして成人男性の重さは女性に担げるものではない。だが、こんな時はそれをしなければ助けられない。近くにあった兵員用テントに担ぎ込み、組立式のベットに横たえた。

 

「少尉、敵は何処に行ったんでしょう?」

 

「知るか!それよりも止血帯で止血しろ!」

 

ポケットからモルパインを取りだし、負傷兵の太股に打ち込む。苦痛に耐えていた顔は次第に和らぐが、胴体を撃たれた兵士はもう持ちそうにない。

 

「medical!(衛生兵)」

 

「こっちだ!ここに来てくれ!」

 

続々と駆けつけた兵士が合流し、その中にいた衛生兵は血を流す兵士にスティムパックを打ち込む。衛生兵が何人も来たお陰で死にかけていた兵士達は命からがら助かったようで、私は近くにあった木箱に腰かける。

 

「ふぅ~・・・」

 

コンバットアーマーのポケットに入れていたタバコを取り出して、口にくわえてライターの火を付ける。だが、中々、火は付かない。

 

「おい、なんで警報止まらないんだ?敵の攻撃は終わった筈だろ?」

 

絶え間なく鳴り続ける警報、普通攻撃が終われば警報は切られる筈なのに未だに基地に響き続けていた。

 

「クソ、もう攻撃は・・・」

 

ラミレスはテントを開けて外を確認しようとするが、彼が言い終える前に彼の胸近くに何かが突き刺さった。それは中国軍将校が愛用する軍刀だった。

 

「ち、中国兵だ!」

 

突き刺さった状態でラミレスは叫ぶが、将校は右手に構えていたピストルの引き金を引き、ラミレスは絶命する。

 

 

「美国士兵的!杀!(アメリカ人だ!殺せ!)」

 

将校は命令し、入り口から中国軍アサルトライフルを持った兵士達が現れ、腰だめ撃ちで負傷兵に引き金を引いた。無数に放たれる弾丸は無抵抗な負傷兵に牙を向く。救護に当たっていた衛生兵は負傷兵の盾に成ろうとするが、銃弾を何発も受け、貫通して負傷兵は絶命する。

 

「やめろ!」

 

腰に着けていたナイフを引き抜き、近くにいた中国兵の喉を引き裂く。もう一人の兵士は仲間を殺され、此方に銃口を向けるが、ホルスターから10mmピストルを引き抜いて引き金を引いて中国兵の脳髄を破壊する。手当てをしていたベンジャミン軍曹も血で汚れていても構わずにホルスターから10mmピストルを引き抜いてアサルトライフルを構えていた中国兵の頭に鉛玉を食らわせた。私は奪った銃剣付きの中国軍ライフルを構え、テントの外に飛び出し、近くにいた中国兵の胸を貫く。

 

「张主席万岁!(チャン議長万歳!)」

 

そう叫んだ中国兵が銃剣付きライフルで突撃するが、それを避けずに脇に受け流す。突撃した兵士は殺したと確信したが、睨む私を見て絶望する。左胸に装備していたボウイナイフを引き抜き、顎からナイフを付き入れる。返り血で冬季迷彩が汚れるが気にする必要はない。

 

「来い!米兵!相手になろう」

 

流暢な英語を話す顔の見えない中国軍の将校は腰から剣を抜き、構える。その構え方は中国軍の将校と言うよりも、日本の侍の構え方ではないか。

 

リーチの長い剣は此方に不利。倒した中国兵の銃剣付きライフルを拾い上げて構えた。

 

「はぁぁぁ!!」

 

銃剣を取り付けたライフルを突き出すようにだし、それに応戦する将校の斬激を銃剣と銃のフレームで堪えた。幾つも斬りかかる将校は剣術のプロであり、こちらは射撃しかしなかった普通の士官。それが、銃剣で挑むなんて自殺行為も良いところだ。

 

「これでトドメ!」

 

剣を振りかざしたのを見て、咄嗟に銃を盾に受け止めるが、威力が大きすぎて斬激に耐えられず分解してしまう。剣は私の上腕を切り裂き、肩をも貫いた。

 

「があぁぁ!!」

 

余りの激痛に叫び声を挙げる。将校は剣を引き抜き、滴る血を一振りで吹き飛ばす。

 

「残念だったな、米兵。これで最後だ」

 

剣を突き刺すように高く上げ、私の胸に突き刺さるように調整し突き刺そうとする。ふと、手元に転がっていたボウイナイフを見つけ、それを手に取った。

 

「さらばだ!米兵!」

 

「死んでたまるかぁ!」

 

突き刺そうとした剣は私が動いたことにより、首筋を軽く切る。だが、私の握っていたボウイナイフを突き出したことにより、ボウイナイフの刃が将校の喉に突き刺さった。

 

 

「な・・・に・・・」

 

暗がりで良く見えなかった将校の顔が突き刺した近距離であったため、顔が露になった。黒い髪に浅黒、アジア系の顔に引き締まった顔だった。

 

将校は力尽き、私の上に倒れ息絶える。だが、その将校に見覚えがあった。彼は私の命を助けた恩人だ。

 

「・・・ユウキ・・・・?」

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

壁紙が経年劣化で剥がれ落ちそうになる天井を見たのが起きて最初の光景だった。自分は今、何処に居るのかと身体を動かす。すると、鈍痛が身体に流れ、怪我をしていることを悟る。首を回してみると、荒れ果てた本棚にボロボロになった書籍の山。そこに警備に当たるT45dパワーアーマーの兵士が目についた。兵士の肩には認識章であるBrotherfoot of steelのエンブレムが見えた。

 

「国立図書館か・・・」

 

カウンターにあった古ぼけたパンフレットを見て、何処なのか見当が着いた。

 

なんであんな夢を・・・・?

 

vault72であったVRシュミレーションポット。戦前では数多くのシュミレーションが構築され、軍でも戦闘訓練として使用された。だけど、それを未だに引きずるなんてどうかしている。Dr.スタニウスの記憶の刷り込みだと思うが、それが現実のように感じられるような事はあり得ない。ユウキやシャル、私よりも滞在期間が長かったジェームズでさえ、犬のような素振りを見せていない。

 

記憶を上塗りとはいかないまでも、記憶が混同するのではないかと怖くなる。いつしか、目の奥が熱くなり、こめかみの辺りに水筋が出来る。包帯で巻かれた両腕で隠したいが手が固定されているので拭くことも出来ない。

 

「アリシア起きたんだ・・・どうしたの?」

 

Vaultスーツを着て救急箱を片手に近づいてきたシャルには見られたくない光景だった。

 

「い、いや目に天井から降ってきた埃がな。これ外してくれないか?」

 

「ごめんなさい。簡易手術室から連れてくるときに固定しっぱなしだった」

 

彼女はテキパキと落下防止のために拘束していたベルトを取り、両手が自由になったところで、涙を拭いた。VRシュミレーションで記憶混同して悲しくなって泣いたなんて悟られたくない。それに何が原因でそうなっているのか彼女に話すことなんて出来ない。

 

「大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「嘘ね」

 

シャルはそう呟き、私の心臓が飛び上がる。まるで私が思っていることを分かっているように。ユウキが前にシャルが超能力者と泣きながら言っていたのを思い出す。それは本当だったのか?

 

「え、だって汗びっしょりだし、顔色も良くない。スティムパックと輸血パックの両方を大量に使ったのよ。それなのに顔色悪いなんて何か悪い夢でも見たんじゃないかって・・・」

 

「はぁ~・・・・焦った」

 

私は再度吹き出た冷や汗をタオルで拭く。長旅のお陰でベタつく身体を拭きたい所だが、濡らしたタオルで身体を拭く程度しか出来ないし、包帯で治療中の身。かけてあったレザーアーマーの上着ポケットから煙草を取り出そうとするが、シャルが止めに掛かる。

 

「血を失いすぎてるから、煙草は当分禁止」

 

「んな、殺生な」

 

「只でさえ血の殆んどが合成になってるの。その上、タールや煙を吸うなんてダメ」

 

取り上げたシャルを恨めしく思うものの、仕方がない。汚れつつある頭を掻いてふて寝しようとした。

 

「ねえ、アリシアどうしたの?」

 

「何が?」

 

「困ってるんじゃないかって」

 

全く、ウェイストランドでこんなこと言う奴なんて彼女位なものだ。それか好意を抱いている位だが、彼女にはユウキがいるし、彼女にその気はない。Vaultの人間はこんな奴ばかりなのだろう。

 

「Vault出身者って皆お節介を焼くのかい?」

 

「え、でも・・・・」

 

別に他意は無かったのだが、シャルの表情は固まり自身が悪いことしたのかと言うような表情をする。

 

「ごめんなさい。迷惑だったよね」

 

と悲しそうにシャルは謝る。ウェイストランド人は普通こんなにコロコロと表情を変えたりしない。そこが彼女がほとんどの人間に好かれる要因なのかもしれない。

 

「迷惑じゃないさ、・・・・ありがとう。でも大丈夫だ。悪夢をビビっているようじゃ傭兵は勤まんないさ」

 

私はシャルの肩を叩く。そう言うと、シャルは笑顔になり少し仮眠を取ると言って近くの寝袋に入ると直ぐに寝息を立て始める。

 

「貴女の手術でかなり疲れたようね・・・貴女は慕われているわね」

 

そう言ってきたのは近くでパソコンを弄っていたBrotherfoot of steelのスクライブの女性隊員だった。

 

「そうか?一ヶ月前ぐらいはちょっと嫌われていたんだが?」

 

「そうなの?貴方達姉妹かと疑ったわ」

 

私はヒスパニック系なので彼女のようなヨーロッパ系ではないからそこまで顔は似てないと思ったのだが、スクライブには姉妹に見えたようだ。

 

「スクライブ・ヤーリング、ここの責任者よ」

 

「アリシアだ。傭兵をやってる。」

 

ヤーリングは怪我をしているため、左手で握手をする。替えの包帯を持ってきているらしく、ヤーリングはそれを使い、血が滲み始めている包帯と交換し始めた。

 

「そう言えば、ユウキ君だっけ?誰と付き合ってるの?」

 

「ああ、それならそこの眠り姫さ。私は奴をリベットシティーでノックアウトさせたから、奴は私の事はそんな風に見ないよ」

 

「あら?でも貴女の事、担いできた時の彼の顔はかなり焦っていたし、必死だったわ。あれは想っている女性を助ける男の顔よ」

 

「あり得ないよ、シャルの方が女性の魅力は上だ。私なんて・・」

 

「・・・はぁ・・・。私がミュータントなら貴女の事を殴り飛ばせるのに」

 

「怪我人を殴る気か?!」

 

私はヤーリングの迷言に突っ込みを言ったためか近くの休んでいたBOS兵は笑っていた。

 

「だって、貴女かなりの・・・・ああ、自覚無しは辛いわね。ミニ・ニュークで吹き飛ぶか、ICBMにくくりつけて中国行くのどっちが良い?」

 

「自覚って・・・・どれだけ私に恨みがあるんだ?」

 

「それは・・・・東海岸ぐらい?」

 

「大層な恨みだな!それ!」

 

「何言ってんの?あんたの顔見たら、自分の母親を呪いたくなるわよ」

 

ヤーリングは暴走しているのか、近くにいる兵士達は集まり此方を笑っている。怪我人を助けるぐらいして貰いたいものだ。

 

「いい?貴方はユウキ君の事どう思うの?」

 

「アイツの事か?それは・・・・戦友か?」

 

「違うでしょ!もっとこう・・・・」

 

「あえて言うなら、世話の掛かる弟見たいなものだな」

 

「何でそうなる!」

 

「まあ、ユウキをけしかけてシャルとくっ付けたのは私だし」

 

「son of a bitch!(畜生!)」

 

あ~、ヤーリングが壊れた・・・、と後にBOSの兵士は語る。

 

叫び終わるとヤーリングはため息をついた。

 

「じゃあ、寝ているときに何で貴方は彼の名前を呼んでたのかな?」

 

「え?」

 

そもそも寝ている人間が口ずさむ事なんて意味の分からないもの。覚えている夢なんて起きる寸前に見ていた夢であり、その前にもほかの夢を見ているのである。その時見ていた夢がユウキと関係していても不思議ではない。このところ一緒にいるのだから。

 

だが、覚えている夢と言えばアンカレッジに出兵した夢で、私はそれをVRシュミレーションで体感したことがあるから見てしまったのだろう。だが、最後の所で私はユウキに似た中国軍将校を殺した。その答えを言ってもヤーリングの望む事にはならないだろう。

 

「あらあら、夢の中で随分お楽しみの様子で」

 

「奴とか・・・・まあ良いか。もう少し筋肉質が好みだが、あれもあれで悪くはない」

 

「ほう♪ってことは彼に好意を抱いている訳か」

 

三角関係だわ~!!とはしゃぐヤーリング。彼女は図書館に置かれた本などを読み、そう言った内容の本を愛読していた。怪我人が居るなかでこんなテンションは逆に治りが悪くなる。

 

「ヤーリング、頼むから他所でやってくれ」

 

「え~・・・、久々に人を弄ることが出来るのに」

 

「怪我人を弄るな!ユウキでやれ!」

 

奴は弄るより、弄られる方が好きな筈だ。私はどちらかと言えば前者である。それに怪我人を弄るのはどうかと思う。

 

「まあ、良いわ。ちゃんと怪我を治してね」

 

「言われなくとも」

 

ヤーリングはスキップをしながら、仕事に戻る。私は溜め息をつき、身体に掛けられていた毛布を肩まで引き寄せる。

 

「全く・・・・」

 

怪我の疲れや長旅だったと言うこともある。瞼が重くなり、直ぐに意識を手放した。次は良い夢を見たいと言う希望を持ちつつ・・・。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

「なあ、えーと、医者のシャルロットと傭兵のアリシアってどっちなんだ?」

 

「主語が抜けてないか、ジャクソン」

 

レイダーの拠点を制圧し、次のエリアへ行く時、従業員の休憩エリアで休息を取る。すると、ジャクソンは突拍子もない、主語もない事を聞いてきた。

 

「どっちとヤった?」

 

「もっとオブラートに包め」

 

ジャクソンにに肘鉄を食らわすが、パワーアーマーだから痛みはゼロ。しかも、やった俺に痛みが返ってくる。

 

「じゃあ、なんて言う?」

 

「そうだな・・・誰が好きとか?」

 

「何処の中学生だ」

 

ジャクソンの最もな意見が突き刺さる。

 

「どっちかって言うと、シャルとだな。幼馴染みだし」

 

「リア充爆発しろ」

 

「そうか?BOSは閉鎖的組織だから皆幼馴染みだろ?」

 

そんな事を言うと、ナイト・ロジャーやジャクソン、イニシエイトの数人が豹変する。

 

「んな訳ねぇだろ!?何か!メスゴリラが幼馴染みなんて俺は御免だ!」

 

「俺なんか、幼馴染み誰?って聞かれて“スターパラディン・クロス”って言う度に憐れみの目線だぞ!こん畜生ぉ!!おまけに奴は上司ですよ!それがどうしたんだ!」

 

「お前はどう言うことだよ!俺たちゃゴリラと同棲してんのにあんな可愛い子とイチャつ居ているわけ。しかもタイプの違う可愛い子と美女・・・・ああ!リア充プラズマ粘液に成りやがれ!」

 

Brotherfoot of steelは元々、米陸軍を母体とした組織である。彼らは兵士達の子孫であるため、戦闘能力の高い子孫が生まれるだろう。しかも、戦時中は女性の兵士も多く在籍している。彼女らもBOSに所属し、子を成して組織は成長した。問題なのは、遺伝なのか軍隊で活躍できる勇猛果敢な女性も産まれること。つまり、女性らしさや可憐な子が産まれる可能性が低いのだ。

 

しかし、リオンズ傘下の組織全部、可憐な美女が一人も居ないわけではない。全てが獰猛な兵士な訳ではないのだ。偶然そこにいた男達は皆、女性に恵まれない可哀想な人なのである。

 

「畜生ぉ!こうなったら、レイダーを皆殺しだぁ」

 

「正義の鉄槌を食らわせてやる!」

 

「童貞の力を舐めるなぁ!!」

 

「「「Yhaaaaaa!」」」

 

・・・・カオスである。この図書館にいる配属された兵士の7割強が男性である為なのだろうか。彼らの殆んどが女性とお付き合いしたことがないのか。それとも、テンションが上がってしまったのか分からない。でも、こう言うガス抜きもしないといけないのだろう。

 

「兄弟のために!」

 

「KILL THEM ALL!!」

 

「汚物は消毒だぁ!!」

 

各自、様々な罵声を吐きつつレイダーの拠点へ進軍する。それはまるで鬼神の如くレイダーをなぎ倒していく。

 

「殺人タイ・・・ブヘラァ!!」

 

「ひとーつ!」

 

ロジャーはスレッジハンマーでレイダーの胸に無慈悲な一撃を食らわせる。肋骨は全て破壊され、内蔵が破裂する。ロジャーが切り込み隊長を務め、他の者が近づくレイダーを銃撃で引き裂かれる。

 

「フフ、この肌触りこそ戦場よ」

 

「望みが絶たれたぁ!!」

 

「命だけは!!」

 

それは青い巨星と呼ばれるかのような男の闘いだろう。ランバ・・・ではなく、ナイト・ロジャーはスレッジハンマーを投げて突撃するレイダーの頭に命中させ、先程倒したレイダーの剣を奪い取り、突撃するレイダーを一刀両断して切り捨てた。

 

「ナイト・ロジャーって何者だよ」

 

「えっと、スターパラディン・クロスと伝説のナイト・ツバキと並んで近接戦闘が強い百戦錬磨の武人だよ」

 

ジャクソンはレーザーライフルで近付くレイダーを射殺する。ジャクソン曰く20年前のBrotherfoot of steelでは三人の近接戦闘のプロがいた。一人は銃など煩わしいと捨てて殴りに掛かるスターパラディン・クロス。もう一人は剣術と銃を駆使して戦うナイト・ツバキ。そして最後に、スレッジハンマーのような武器を駆使して戦うナイト・ロジャー。この三人によってBrotherfoot of steelは支えられていたと言っても良いだろう。

 

「まあ、ナイト・ツバキが戦死してからスターパラディン・クロスはパラディン長になって出世したけど、ナイト・ロジャーは万年ナイトじゃん。あれはさ、命令違反とか結構するためなんだよね。」

 

ロジャーは命令違反を良くするらしい。人望は厚いものの、出世は無かった。

 

「しかも、ナイト・ツバキに片思いだったんだから。愛した人が戦死だなんてな。でも、ツバキさんはどうやってお前を産んだんだ?」

 

「あ!」

 

そう、正式には俺の母。ナイト・ツバキは行方不明者(MIA)である。しかし行方不明と言うのは格好が付かないため「戦死」と言うようになっている。と言うものの、正式な書類では行方不明となっている。一般兵には戦死と知られているが、そこに俺が登場する。死んだのにどうやって産んだんだ?行方不明?じゃあ誰と誰の子?

 

ここで気づくのは、想いを寄せていた男。ナイト・ロジャー。彼は好きだった女が別の男と子供を作っていた。そうなればどうなるだろう。無茶をするに決まっている。20年という歳月で忘れるかもしれない。だが、それは個人差による。本当に、母を忘れて生きるとは限らない。

 

「ヤバい!ナイト・ロジャーを止めないと!!」

 

「何で?」

 

「ってことは、俺はナイト・ツバキの隠し子って事だろ?想い人が何処の馬とも知らない男と子供を作ってたらどうよ?」

 

「・・・ヤバい。スコット、ロジャーを止めろ!」

 

ジャクソンは叫び、それに応じてロジャーの後ろについていたイニシエイト・スコットはロジャーを止めようとする。

 

しかし、ロジャーはレイダーの拠点に突入しようとしていた。

 

「ヤク中が!これで!」

 

ロジャーは突入しようと入り口から突入する。しかし、レイダーはあるものを起動させる。それは鎖で天井に吊るされた鉄柱だった。よく、トラップでワイヤーを引っ掻けると落とされる原始的な罠である。レイダーはそれの留め具を外す。重力に従って地面に落ちようとするが鎖で繋がれている。それは振り子が動く要領で入り口にいたロジャーを吹き飛ばした。金属と金属が衝突しあい、吹き飛ばされたロジャーは壁にめり込んだ。

 

「ロジャーがやられた!」

 

急いでロジャーを捕まえ、後ろに待避させる。その間、レイダーの攻撃が為されるが手榴弾を投げることは出来ない。部屋の中にはデータが収まったパソコンがあり、破壊する恐れがあるためだ。

 

「容態は?」

 

俺は引きずられて助けたロジャーの横に座る。イニシエイト・スコットはロジャーの体を確認する。

 

「内部の衝撃吸収ジェルでなんとかなりました。軽い脳震盪ですが、命に別状ありません。」

 

「あとでシャルに見せないとな、意識はないか・・。指揮官は誰になる?」

 

「お、俺だ・・・。」

 

ジャクソンは戸惑っている様子で言ってきた。

 

「大丈夫か?」

 

「ちょっと無理かも知れん。お前、変わってくれる?」

 

「マジか・・・」

 

「俺の指揮で大変な事になったことがある。また同じ過ちは繰り返したくない。」

 

ヘルメット越しでは分からないが、かなり自信を失っている。もしかしたら、俺の交渉(speech)次第でやってくれるかもしれない。だが、それは本当に彼を元気付けられるだろうか?

 

「良いよ、やってやろうじゃないか。VaultセキュリティでやったCQB訓練の成果を見せてやろうじゃない」

 

瞬時に部隊を確認する。手持ちで動かせる隊員の数はジャクソンと俺、イニシエイトのスコットと名前を知らない奴が一人だ。

 

「イニシエイト・スコットはジャクソンと・・・えっと君は?」

 

「イニシエイト・イエーガーです」

 

「イエーガー、俺と一緒に来い。ジャクソンとスコットの二人はそのまま入り口から突入して制圧する。イエーガーと俺は向こうの通路から突入する。」

 

「ん?でも向こうから入れないのでは?ドアがありません」

 

「ドアが突入の障害になるなんて聞いたことがない。もう少し頭使おうぜ」

 

俺はpip-boyから幾つかの爆薬を取り出した。

 

「コイツは指向性爆薬を使用した物だ。これを壁に広げて破壊すれば突入用の入り口が完成する。」

 

「おお!」

 

この建物は国立図書館。200年位なら倒れる事は先ず無いのだろう。核攻撃の影響で崩壊したフロアがあるものの、頑丈な造りであるこの建物が爆発一つで壊れることは先ず無い。若干、脆くなっているが、指向性爆薬とも言えど、威力は手榴弾位なもので大丈夫だろう。さらに、手榴弾よりも限定的な爆発であるため、データは傷つかない。

 

「ジャクソン、スコットを率いて入り口から攻撃しろ。頼むぞ」

 

「ああ、任せとけ!」

 

入り口の扉から銃口を出して、レイダー目掛けて引き金を引く。しかし、レイダーは二人の銃撃よりも多くの弾丸を彼らに向けて放たれた。

 

「はっは!奴等を近づけるなぁ!あのアーマーから引きづり出してやる!」

 

アサルトライフルも構えるレイダーは引き金を引いて、フルオートで壁に銃弾がめり込んだ。

 

 

「イエーガー、そこに爆薬だ。」

 

少量のC4爆薬を壁の中央に設置し、細いチューブに爆薬を入れたものを十字架になるようにして広げておく。

 

「イエーガー、壁に成ってくれる?」

 

「え~・・・」

 

「え、酷くない?」

 

「冗談ですよ」

 

イエーガーは背中を向けて突入する壁の方へ向き、俺はその後ろに隠れる。距離は十分取ったし、指向性なので此方に危険が及ぶことは無い。

 

「点火する!」

 

発火スイッチを押して爆薬が起爆した。壁は木の板で作られた物で至近距離での銃撃がされていなければ貫通しない。電気信号によって爆薬が起爆すると、爆発によって壁を構成していた木材や壁紙などが散乱する。更にその壁にいたレイダーも堪ったものではない。外傷は少ないものの、衝撃波によって体内では内出血が起き、脳は破壊されてしまう。

 

「な、何だ!今の・・・」

 

レイダーは叫ぼうとしたが、放たれた308口径が顎に命中し、千切れ飛ぶ。そして、直ぐに第二射がこめかみに命中して絶命した。突如、爆発によってレイダーの防御は簡単に崩れ去り、二方向の銃撃によってパニックに陥った。

 

「スコット!あの机に制圧射撃だ!」

 

「了解!」

 

ジャクソンは命令し、スコットは机に隠れるレイダーにアサルトライフルで銃撃を加える。学校で使われるような学習机であった。装填されていたのが、貫通力の高い徹甲弾だったためにレイダーごと蜂の巣となる。

 

「イエーガー、一気に制圧する!俺に続け!」

 

「ちょ、アーマー無しに危険では!?」

 

「アーマーがあっても死ぬときは死ぬ。俺が死んでも、シャルが蘇生するさ」

 

SCAR-Lからコンバットショットガンに取り替えて、レイダーが築き上げた陣地に突入する。様々なガラクタを集めて作ったそれは、レイダーと言うよりもミュータントの防御方法に似ていた。何かの本で見た方法なのだろうか?

 

「命だけは・・・・・・グゲッ!」

 

12ゲージの散弾が至近距離でレイダーの腹部に命中し、血が宙を舞う。

 

「畜生めぇぇ!!」

 

捨て身の突撃と言うべきか、ソードオフショットガンを構えたレイダーは俺の目の前に立って叫ぶ。しかし、奴の攻撃は与えられず、仲間は全て死んだため、仲間達の持っていた銃の先は全て奴がいた。レイダーの脳から発せられる信号が指に到達するまでには無数の弾丸とレーザーがレイダーを肉片へと変えていった。

 

「All clear!」

 

「制圧完了、こちらナイト・ジャクソン図書館の中央コンピューターを発見した。これよりデータを回収し撤収する。over」

 

(了解、データを回収して帰投せよ。out)

 

短波無線によってエントランスのヤーリングまで伝わった。俺はパソコンに近づき、Robcoの配電盤にpip-boyを繋ぐ。

 

「どうだ?データ抽出出来るか?」

 

「ああ、保存用のデータは確保できた。・・・彼処の印刷機まだ使えるな」

 

ふと、コンピューターのオプションを見てみると印刷が出来るらしくオンラインになっていた。しかし、印刷機のインクと使用できる紙は少ない。だが、数冊は印刷可能だ。

 

「ユウキ、少し現地調達をしながら帰るから帰るのは若干遅くなる。時間はあるぞ」

 

つまり、印刷する時間はあるとの事。紙媒体の物など誰も興味を持たない。少し印刷して持って帰っても良いと言うことだった。

 

「分かった。じゃあ、これで良いかな」

 

俺は電子蔵書の中から興味のある物をピックアップして、印刷機のスイッチを入れる。間放置されていた印刷機が二百年振りに稼働した。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

常闇の夜は終わりを告げ、地球を照らす太陽がアメリカ東海岸を照らし始める。核戦争によって人類が絶滅寸前に追いやられようとも、日が必ず昇るように、必ず人類は復興する。BOSやアポカリプスの使徒、彼らは必ず人類が復興することを信じて活動を続けている。信念や思想が違えども、人類を救おうとしていた。

 

「よぉし!エンジン掛けるぞ」

 

そんな、東海岸に位置する国立図書館の前には改修されたピックアップトラックに改造を施している武装集団がいた。

 

核動力からマイクロフュージョンセルへと取り替えて、核融合エンジンへと変わっている。爆発の危険はあるものの、マイクロフュージョンセルを改造した手榴弾とミニ・ニュークを比べれば、ある程度危険性が下がったか分かるだろう。

 

俺は鍵を回す。すると、静かな音を立てるものの動力が動き、コイルに電流が流された。

 

「よし!行けるぞ!」

 

そこにはBOSの隊員が数名居て、感心したような声を出す。

 

「おおぉ!」

 

「すげー」

 

「NCRの部隊が使っていたの見たことはあるが、凄いな」

 

隊員達は口々に感想を言う。俺はタイヤを調整し、そこら辺を一周して帰ってくる。レイダーはBOSの兵士にヌカランチャーを持たせて、吹っ飛ばして貰い、ここら辺は安全地帯となった。

 

しかし、車の状態は良いとは言えなかった。只でさえ、製造してから200年以上も経過している。所々の部品に亀裂もある。それを、騙し騙し使っているのが現状だ。今回の事故で防御用のフロントカバーが破壊された他に、左座席の扉も大破。タイヤも破損しているため交換が必要不可欠だ。タイヤを修理できたが、リベットシティーまでなら走行は可能だろう。

 

「扉は吹っ飛び、搭載していたミニガンはおシャカ・・・・。リベットシティーで修理かな?」

 

とは言うものの、アリシアを安静に出来てジェームズの仕事ができる場所と言えば限られてくる。ひとまず、彼処に向かうことにすればいいだろう。

 

「じゃあ、ジェファーソン記念館に向かえばいいか?」

 

俺は地図を取り出して、ルートを決めた。

 

「やっぱりスゴイわね。どう?1000キャップと・・・」

 

「残念、こいつは非売品なんだ」

 

聞いてきたのは技術提供してくれたスクライブ・ヤーリング。もらったレーザーライフルの設計図と車の図面を見ながらの作業はかなり堪えたが、電気工学の知識を兼ね備えている彼女がいるおかげでどうにかなりそうだ。

「え~・・・まあいいわ。レーザーライフルのセル変換装置を組み合わせて使えればなんとかなったわね。」

 

「あとは細部の点検だけど、走れば奇跡。走れなければ必然って感じだろうな」

 

「昔のガソリンを使用していたのと比べるとエライ違いよね」

 

放棄されていた車から回収した廃棄部品やコンダクターなどを金属の箱に詰めて、荷台に乗せる。担架で運ばれてきたアリシアは俺が渡した冷やしたヌカ・コーラを飲んでいる。すると、ヤーリングは俺の耳元で周囲に聞こえないよう小声で話し始めた。

 

「一応、ペンタゴンの司令部には連絡しておいた。暇だったら顔を出して。近々、リクルーターがあなたの所に赴くわ」

 

「リクルーター?ああ、徴兵令状を届けに来るのか」

 

BOSは慢性的な兵員不足。しかし、練度の低い兵士を雇うわけにもいかないので、現地の傭兵斡旋業者などを通じて、BOSの理念が合う人材をリクルートしている・今回は俺の出生がバレたためにこうなってしまったのだが、仕方がない。

 

「ああ、時間があったら行けばいいんだろ?」

そう言い、話を辞めてしまおうとするがそう簡単には終わらない。

 

「それと・・・・アリシアの事どう思ってるの?」

 

「どうって・・・・」

 

どうと言われると、返答に困る。確かに人助けとして彼女を助けたのに危うく殺されかけたのだ。正直、いい気はしないが、今では信頼すべき人として認識している。それに、何度も誘惑されてけしかけられもした。俺の価値観からすれば、ちょっとHな従姉妹のお姉さん(?)とかそういう感じなんだろう。

 

「あえて言うなら、姉・・・なのか?」

 

「・・・・はぁ・・・。二人とも、言っていることが同じなんてありえないわ」

 

ヤーリングは頭を抱え、目と目の間を指でつまむ。ヤーリングが仕事していた机には戦前のドロドロとした恋愛小説が幾つも置いてあった。彼女は左遷されたフラストレーションを小説で消化していたに違いない。

 

「何回も誘惑されてましたが断ち切りました」

 

「なんで誘惑に負けないのよ・・・・、ああごめん。もしかして不能?」

 

「いやいや、ちゃんと機能していますよ?」

 

ちょっと男としては癪に触るのでちょっとばかし強気で反論する。

 

「言っておきますが、俺にはシャルロットって言う大事な恋人がいるんです。それを忘れて他の女に手は出しません」

 

「んなこと言っちゃってま~。ハーレムなんて男の夢でしょうに」

 

そりゃ、転生や召喚で異世界の女の子達とハーレムを築いてしまうなんて本の中では王道だ。でも、実際それをやってみてどうだ?嫉妬や独占欲と言う感情は人間誰しもあることだ。男一人に女二人・・・こんな歪な関係はトランプでピラミットを作っているように脆い。強欲に任せて一線を超えてリスクを背負い、尚且シャルを裏切るのはどうかと思った。

 

アリシアも俺の事をどう思っているかどうか知らないけど、恋愛感情があるとは思えない。

 

「現実でそんなこと出来る奴はいるでしょうけど、俺には出来ません」

 

「アリシアはあなたのこと好きだと言っていたわよ」

 

「へ?!」

 

俺は驚き、彼女の顔を見る。

 

「彼女さ、あなたが彼女を助け出して必死だったの朧げに覚えていたらしいわ。いいわね、好きな男と巡り会えるなんて」

 

「ちょっと待って!つまりあれか、ちょっとした大人の余裕で俺に誘惑していたんじゃなくて、本気で俺に惚れていて」

 

「多分、最初は“大人の余裕”だったんでしょ。でも、今回の一件であなたを愛し始めた」

 

「マジか!?」

 

「マジよ」

 

ってことは、俺はハーレムの選択肢があるってことか?まさか本当に?

「モテ期」というか、そんなモテモテになる事なんて驚きなのだが、本当にどうだとすればすごいのだろう。現実味がない。

ハーレムとするならば、シャルとアリシアの了承も必要だろう。だが、一番の問題がある。・・・そう、ジェームズである。

 

「絶対無理!!」

 

「え~・・・なんで?」

 

「北斗百烈拳ver.ジャームズでミンチになる」

 

「あちゃ~・・・それじゃ無理じゃん」

 

アリシアが本当にそう思っているのかが気になるが、それを事実確認して既成事実でも作ってしまえば、俺はデスクローにやられた死体よりも酷い事になると思う。

 

「ジェームズさんに“銃なんか捨ててかかってこい!”なんて言われそう」

 

それはどこかのコマンドーであるが、現にジェームズは科学者でありながらも格闘術が免許皆伝レベル。レイダーの弾に当たらない肉弾凶器でもあったりする。彼なら、旧カリフォルニア州知事に取って代わってもいい。もしくは、ツボを刺激して人を爆裂させるまで技を極めてもらいたい。

 

「ん?ユウキくん、私がどうしたんだ?」

 

話をすればその人の影とも言うが、本当に来て、尚且話を聞くとは。もはや運が悪いとしか思えない。ジェームズの何気ない微笑みでさえ、俺には罪悪感と知られるかもしれない恐怖感があった。

 

「そうそう、図書館でとある本を見つけたんだ」

 

「とある本?」

 

「たしか、“人を爆発させるツボ百選”だったか?ちょっと、実験したいから来てくれない?」

 

「よりにもよってそんなものを!」

戦前の人たちはなぜそんな物を書いたのだろうか。世紀末を予期してなのか。そして、俺に対する当てつけなのか。既に俺の目にはジェームズの事は鬼か悪魔にしか見えない。ふと、となりにいたヤーリングは俺の事を見ると、哀れみの目を向けるが、すぐに親指をアップ。つまり、「頑張れ!」とでも言うのか。

 

「さて、行こうかユウキくん♪」

 

「や、ヤダ!俺は死にたくない!」

 

「死にはしないよ。ちょっとばかし、痛いかもしれないが」

 

「ヤーリング助けてくれぇ!」

 

「さ~て、残りの小説を読もうかな?」

 

「し、シカトすんなコラ!」

 

まるで人さらいのようにジェームズは俺を連れて行く。哨戒していたBOSの兵士達は哀れみと同情の視線を送る。そのあと、行った先で叫び声が響き渡るが、BOS兵はジェームズを敵にしてはいけないと確信し、恐怖した。

 




ちなみに中国語はググって調べました。ええ、ちゃんと翻訳で(笑)

車は二三話過ぎたら、登場しなくなります。まあ、旅は基本歩きですから。


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二十五話 浄化プロジェクト

本当は昨年中に投稿予定だったのに、これでもない・・・ああでもないとやっていたら年が変わっていました。

そして2話編成となっているので、続きは日曜日に投稿します。

ではどうぞ!


キャピタル・ウェイストランドの中でもワシントンD.C.都市部はかなり危険なエリアである。多くのミュータントが生息し、掃討しようとするBOSと傭兵稼業を主とするタロン・カンパニーの三つ巴の戦いがある場所だ。そんな荒涼とした世界の中でも死に近いエリアはここ以外に考えられない。だが、そんなところでさえ商売できると考える者がいる。

 

何処の組織であろうとも、武器や弾薬がなくては戦うことが出来ない。また食糧がなければ、じり貧で戦えない。その為にはそれらが賄える設備などが必要だ。しかし、それが出来ない場合は商人に頼る場合がある。都市部でも比較的安全なエリアがあり、殆んどはそのエリアを通って都市部に入るのだ。地獄からリベットシティー至るルートはポトマック川沿いを行くのが楽であった。そのルートにはジェファーソン記念館も含まれている。

 

 

「ふぅ~・・・・ったく、タロンの連中は気前がいいよ」

 

キャップの入ったバラモンの財布を手の上で転がす商人は満面の笑みで道を歩く。周囲にはレザーアーマーを着た傭兵二人が護衛し、後ろから荷が軽くなったバラモンが後ろから付いていく。典型的な商人のキャラバンだった。バラモンの荷にはアメリカ軍の印がある木箱が幾つかあり、武器を先程まで満載していた。

 

「まあ、金払いは良いけど。戦闘狂が多いし、いつ襲われるかピリピリしていたんですよね」

 

片方の女の傭兵はアサルトライフルを持って呟く。

 

「奴等は略奪なんてよくやるからな。最近、タロン崩れのレイダーまで居る話だから注意しねぇと」

 

もう一人の傭兵はスナイパーライフルを両肩に乗せて歩く。あたかも、囚人のような体勢だが、目が良いため異変があれば直ぐに察知できる。

 

「リベットシティーに着いたら一杯やるか」

 

「フラックの所で弾薬の補充もしないとね~・・・」

 

傭兵二人はリベットシティーに着いてからの計画を話し合う。一応、何か異変がないかしっかりとチェックしているものの、無言で旅するのもつまらない。そんな感じでキャラバン一行はリベットシティーに向けて歩み続けていた。

 

「ん?記念館で何かやってんぞ」

 

リベットシティーに至るルートにはジェファーソン記念館が存在する。最近になって記念館のスーパーミュータントが一掃されたため、商人達はこのルートを通る事にしたのだが、行く道には何やら人が何人も居るようで、傭兵は警戒する。

 

「ん~・・・あれは、ジムとウェインじゃねえか?」

 

「え、嘘?」

 

傭兵は持っていたスナイパーライフルのスコープを外して、単眼鏡のようにして扱う。ジェファーソン記念館には見知った傭兵仲間がいてキャラバン一行は寄り道することにした。すると、見られていた傭兵、ジムとウェインが近づくキャラバン一行に気がついた。

 

「おい、あれってガルシアとミーナじゃないか?」

 

「あ、ほんとだ。お~い!」

 

タロン社の刻印を消したコンバットアーマーを着て、リベットシティーのセキュリティーに見間違える彼らは愛銃の手にそこの警備に当たっていた。

 

「久々だな、元気にしてたか?」

 

「まあ、ボチボチだ。タロンなんかやめて正解だったよ」

 

傭兵二人はウェインにタロン・カンパニーを辞めたことを聞いて、安堵の声を挙げる。

 

「それは何より。あんな所で傭兵やるなんてお前らの柄じゃねぇよ」

 

「だよな・・・。まあ、今は短期契約もやってるが、大部分はこれだな」

 

とウェインはジェファーソン記念館を指差した。

 

「ここで何をやるんだ?」

 

「俺はよく知らないけど、何でも凄いことらしいな」

 

「まあ、ここを見れば大概はそう予想できるよ」

 

商人は傭兵の話に口を挟む。

 

商人の目には以前のジェファーソン記念館とは違う印象を受けた。エントランスの所には機銃陣地と櫓が設置され、タレットが配置されている。他の傭兵は品質の良いコンバットアーマーを身に纏い、ミサイルランチャーや高品質なアサルトライフルを携行している。しかも幾つかの銃座には50口径の重機関銃まである始末。また商人が見ていない所には地雷がばら蒔かれ、ネズミ一匹入ることが出来ない要塞と化している。土嚢や塹壕が掘られ、独立記念碑近くの塹壕を思い起こさせる。

 

商人はかなり財のある人物なのだろうと確信する。そして、そのお方と商売が出来ればいいと思ったのだ。

 

「雇い主は誰なんだい?」

 

「え、あんたと同じ武器商人ですよ」

 

「は?」

 

商人は唖然とする。幾つもの装備品は一級品で自分でも取り揃えられるかどうか分からない代物、しかも中には見たこともない物さえ存在する。それが同じ武器商人であるならば、足元を見られるであろう。

 

「ああ、彼処にいた。お~い、ユウキ。こっち来てくれ」

 

そんな商人の心情を他所に、モヒカン頭のジムは櫓の機関銃を整備していた兵士を呼ぶ。商人にはそれが自分と同じ武器商人には思えなかった。青いVaultスーツを着て、上から黒のベストを着たアジア系の若い青年だった。

 

「ん?どうした二人とも。えっと、ガルシアとミーナだっけ?」

 

「おぉ、覚えてくれてたか。早々、アサルトライフル改造出来たか?」

 

「ああ、出来たよ。一応、ここにあるけど見るかい?」

 

ガルシアと呼ばれた傭兵は歓喜とばかりに喜び、アジア系の青年は軍用のテントからアサルトライフルを持ってくる。しかし、それは商人のの知るアサルトライフルとは異なっていた。

 

R-91アーバン・オートマチック・アサルトライフルと言う名称のそのライフルは木製銃床部分を伸縮ストックに交換され、ハンドガードはでこぼことしたレールが取り付けられている。そのレールの下部には取っ手が付けられており、同様に照準の所にも同じようなレールが付けられている。そのレールにはスコープなどの装備を付けるに違いない。

 

「おお!すげぇ!さすが、ユウキスペシャル!」

 

「んな、オーバーな。・・・・とはいえ、お金はあるんだよね?」

 

そんな青年の一言にガルシアの表情が凍る。商人はガルシアの金の荒さを知っているため、彼が表情を凍らせた理由は分かっていた。後ろでミーナと呼ばれる傭兵は「あ~あ」と言って、青年から頼んでいた武器を貰い、金を払う。貰った品物はノーマルタイプの中国軍アサルトライフルだが、その品質は最高級そのものだった。

 

「俺に土下座までして後払いにしてあげたのにこれかよ・・・。予約が結構あるし、同じ要望のある傭兵にあげちゃおうかな?」

 

「そ、そんなぁ~・・・。だって、あの旦那が安い賃金で働かせるから」

 

「俺のせいか!?」

 

商人は十分な程支払っているにも関わらず、少ないと言うガルシアの台詞に突っ込みを入れる。

 

「折角作ったのにな~・・・。まあ、ここの記念館を守ってくれたら半額いや、もっと値下げを・・・」

 

「やる!!」

 

「やらんわ!ボケぇ!」

 

難波のオッサンの突っ込みのように、商人の突っ込み(拳)がガルシアの溝にクリティカルヒットを起こす。ガルシアは痛みのあまり地面に突っ伏すが、商人は困ったような顔をして青年に対峙する。

 

「従業員をたぶらかさないで貰いたいんだが?」

 

「すいません。何せ彼が払ってくれないもので・・・。もしよかったらと思って言ったんですがねぇ~・・・」

 

「ここの防衛体制はまだ不足しているのか?」

 

商人の目には過剰防衛なような気がしてならない陣地を見て聞いた。

 

「武器や弾薬、設備は全くと言って良いほどなんですが、人員が不足していましてね。あともう少しいれば良くなるんですが」

 

商人はもう一度、陣地を見る。すると、数えてもすべてをカバーできるような配置ではなく、あともう一個分隊近く必要になるだろう。それでも、彼に一個分隊規模の傭兵に報酬を支払うことが出来るのだろうか。

 

「な~に、報酬は銃を50%OFFにすれば、大概の傭兵は首を縦に振りますよ」

 

商人は見た目幼いアジア系の青年をまるで化物のような目で見つめていた。

 

コイツ、高品質武器で傭兵を釣る気か!?

 

自分より遥かに高品質な武器を売りさばき、何桁も違う収入を得ている青年。その交渉術と一流の商人の目、商人はトンでもない化物と出会ってしまったと唖然とした。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「いやぁ、参ったね。俺のブランドがこうも人気を博していたなんて」

 

俺は軍用テントで傭兵達と語り合っていた。片手には冷えたヌカコーラと串で炙ったバラモンのカルビ肉の串焼きを持ち、傭兵の話を聞いていた。武器商人とガンスミスを兼業しているし、彼ら使用者の声はしっかり聞いとかなきゃならない。すると傭兵達は口々に俺のカスタマイズした武器を賛美し始めた。

 

「そりゃね。ライトやレーザーポインター、ハンドグリップに照準装置・・・普通の武器商人じゃまず扱ってないね」

 

「弾詰まりも無くなったし、以前よりも整備がしやすくなった。そういや、メガトンのあの坊主もかなり腕を上げたな。」

 

「まあ、高品質ゆえに其処らの武器商人じゃ取り扱ってないが、早々買えるもんじゃない」

 

「でも、コイツに出会ったら手放すことも出来ないよ」

 

アゴヒゲを生やしたこの中で一番の老兵のフランクは俺がスナイパー仕様に改造したアサルトライフルを撫でる。銃身が伸び、バイポットが装着してある。スコープはスナイパーライフルのスコープを使い、弾は高品質な狙撃用のハンドロード弾を使っていた。

 

今や、メガトンの「奇妙な武器店」はウェイストランド中に名前を轟かせている。高品質な武器を販売し、それなりに腕のいい傭兵なら必ず持つ武器になりつつある。立ち上げた店主は放浪癖があるが、弟子の少年とロボが売り捌くので有名に成りつつあった。

 

放浪癖はともかく、有名になり客も多いと聞いて俺は喜んだ。

 

「で、これだろ?そりゃ高品質な武器が半額で買えるならこの依頼を受けるさ。しかも、装備は貧弱じゃあ無くて、練度の高い傭兵を雇っている。この契約はお得だと思ったのさ」

 

俺はジムやウェインを筆頭に武器の格安を条件に契約書にサインをして貰う。他にも常連客やウェインの知り合いを通じて傭兵が集まったのだ。しかも、ウェインの知り合いには腕の良い傭兵が多く、彼らの殆んどが俺の顧客だったことが幸いだった。

 

「それにしても、こんだけの武器と弾薬、資材をどうやってあつめたのさ?」

 

先程、商人の護衛としてやって来たガルシアと恋仲のミーナはウィスキーを煽りながら聞いてきた。

 

「そうだな、武器弾薬は俺の調達している陸軍の武器庫から。資材は道路上に放置されていた工事用トラックのお陰かな」

 

勿論、嘘は大半を占めている。武器弾薬などタレットは家の貯蔵庫から持ってきた。コンバットアーマーもそこから持ってきて、借用金を払わせて使わせている。それでも欲しいと言えば、相場価格で買い取って貰う。そして櫓は市街地の道路に放置してあったトラックから鉄筋を拝借し、コンクリで固めたのだ。

 

「後はこれだよ、これ」

 

俺は脇腹のポーチから本を取り出す。そこには陸軍のマークがプリントされてある代物だ。

 

『陸軍士官戦術教書』

 

所謂、士官候補生の教科書である。図書館で必要なのをピックアップして気になったのを印刷した。Brotherfoot of steelにも似たような本があったらしく、彼らは戦前に学んだ士官が記した本を学んでいた。しかし、その原本が俺の手元にあるため、情報の精度は此方の方が高い。

 

「それは凄いな。・・・ってことはこの防御陣地の構成はそこからか?」

 

「まあね。後は土嚢でどれだけ防御陣地を作れるかだ。記念館の外周部も機銃陣地が欲しいね」

 

「まあ、施設内の臨時武器庫を見る限りだと、ここの敷地内にもう三つ陣地を作れるだろうな」

 

リベットシティーに着いた後、ジェームズはDr.リーと再会した。再会は最悪で先ずはリーの平手打ちから始まった。およそ二十年も音沙汰がなく、放棄していた浄化プロジェクトを始動させようとしたのだから当然であろう。他にも研究員がいたため、冷めた目で見つめていた。しかし、ジェームズはDr.リーを含めたメンバーを説得して浄化設備のあるジェファーソン記念館に移動した。

 

しかし、問題が発生する。何をするにも金が掛かる。施設を維持するにも改善するにも金が掛かるのだ。そして、近くにはミュータントのテリトリー。現にこの前までジェファーソン記念館はミュータントの巣窟だったのだ。更にポトマック川にはミレルークの巣もあり、施設の防衛費は膨大な金を必要とする。俺は少しばかりの援助をしようと思ったのだが、

 

「ユウキは武器商人なんだから大丈夫だよね?」

 

シャルの一言によって研究者一同が俺を羨望の眼差しで見つめ、俺は倉庫の武器を切り崩しに掛かったのだ。しかし、元からかなりの備蓄があるメガトンの自宅は記念館に20回配備しても余りある位の量だ。MODで増やしたお陰でまだまだストックがあるが、人員が足りない。幾ら武器があろうと、使う人員がいなければ話しにならない。だから、グレイディッチからの付き合いである傭兵のウェインとジムの兄弟に依頼し、高品質武器の割引案で依頼を引き受けさせた。他にもウェインの伝で多くの傭兵が揃い、BOSも真っ青の防御体制が出来上がった。「BOS時代よりも強固ね」とDr.リーが呟いたりしたが、それでもミュータントが度々攻撃を加えてくる。すると、傭兵の数人が負傷する。だが、ここも傭兵のケアに重きを置かれている。可愛い女医のシャルと格闘研究者兼医者のジェームズの親子タッグで怪我をした傭兵を診察する。シャルの笑顔に傭兵は心癒され、悪さを働こうとする輩はジェームズの鉄拳制裁が加えられる。この環境は誰しもがやりたがる理想の環境だった。

 

「それにしてもこれ美味しいな」

 

そう言ってきたのは、バラモンのカルビ肉の串刺しを頬張っているジムだった。彼はとうとう、モイラと恋仲になったようだ。アタックした甲斐があったものの、実験台という位置付けは変わらない。彼はモイラの元にたまに帰るので、図書館でダウンロードしたデータの写しを渡して置いた。多分、もう全ての章が終わっている筈なので何かしらの報酬が貰えるだろう。

 

「だな、これ誰が作ったんだ?」

 

ガルシアはポトマック川で仕留めたミレルークの腕を丁寧に食べている。

 

「まさか、シャルちゃん?ユウキは恵まれていていいね♪」

 

ミーナはモールラットの挽き肉パテを混ぜた即席ポテトを頬張っている。

 

「いや、俺の手料理だが?」

 

「「「何ぃ!?」」」

 

俺は自分が作ったことを言うと、全員が驚きの声を挙げる。

 

カルビ肉はレイダーに襲われたキャラバンのバラモンを解体しておいたものを焼いた。食べるところは少ないが、カルビの部分が残されていたので、ワインとマッドフルーツやニンジンを一晩煮たソースを浸して串焼きにした。ミレルークの肉はそのまま炙るのもつまらないので、海から塩水を回収して塩だけを抽出する。それだけじゃ、放射能まみれなのでrad-awayで浄化しておき、バラモンミルクで作り上げたバターを塗って炙っておく。モールラットはそのままだと、焼いても動き回るので挽き肉にして即席ポテトを混ぜた。ドイツの何処かの郷土料理もどきであるが、味は美味しい筈だ。

 

どういう風に作ったかを言ってみると、それを聞いていた傭兵一同は哀れみの目線を送る。

 

「え!なんで皆俺にそんな目を!?」

 

「普通は女の子に料理させるだろ。しかも、お前の料理って凝りすぎだよ」

 

「これじゃあ、シャルちゃん可哀想」

 

普通は料理と言えば女性の仕事・・・と言うわけでもないのだが、女の子の手料理と言うものはこの混沌としたご時世であっても良いものである。しかし、男女の中で一番料理をする人物は女性。だが、俺の場合は三ツ星シェフから指南を受けたゴブからレシピを貰い、それに沿って作っただけなのだ。

 

シャルだって作れば料理は美味しい筈!

 

俺は弁明の言葉を述べる。

 

「いやいや、シャルの料理は美味しいって」

 

「さ~てどうだろう?これってフラグ立ってるよね」

 

ミーナはウォッカをショットグラスに注いで飲んでしまう。だが、彼女の言っていることにあまり狂いはなかった。

 

 

 

 

その夜、俺が料理し終わった記念館の厨房でシャルは必死に何かを作っていた。

 

「ユウキは何であんな美味しいのを!!私だって!!」

 

決してシャルの料理が不味いわけではない。直接ゴブから指南を受けた料理はホテルでも通用するレベルに位置し、シャルはvaultでいつもジェームズの夕食を作っていた。経験値としてはシャルの方が上である。しかし、ジャンルというか畑が違うのだ。俺の料理はレストランに出しても良いような商業用商品をレシピ通りに作り、そして、シャルのは家庭的な暖かみのある料理。それはどれをとっても美味しいものでどちらが美味しいとか選ぶことは出来ない。しかし、そう言うレストランで出されるような食事を真似するべく主婦の方は勉強されるのも事実なのだ。

 

本当はゴブのくれたレシピをそのまま流用しているので、分量を正確にしていれば美味しくできる。シャルは持ち前の料理の腕とセンスを高めるために持ってきていた食材を使い、料理を作り始めた。

 

既にユウキが研究員分の食事を作ったため、作る必要はない。だが、先程味見したユウキの作った料理の味を噛み締めて料理の腕をあげようと決心した。

 

それから朝になって妙に量が多い朝食に傭兵達や研究員は胃を痛めるのだが、シャルの気持ちが分かる傭兵達は俺に料理を作らせないよう仕事を山積みするまでに至ったのだった。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

浄化プロジェクトを再始動して三週間が経とうとしていた。放置されていた装置諸々は研究員とリベットシティーからやって来た技師などの奮闘によって回復した。更に、施設の防御力は昔以上に回復し、要塞もかくやと言われるまでになった。エントランス近くには土嚢などで銃座を作り、櫓も建てた。防御は完璧で攻撃が来ても防げる手筈だ。

 

「ニンゲンコロス!」

 

「ミナゴロシダ!」

 

今日も懲りずに、スーパーミュータント・プルートやマスター、ケンタウロスなどの集団が接近していた。

 

(敵襲!敵襲!橋にミュータントが接近中、戦闘員は直ちに配置に付け!)

 

施設の外に設置されたスピーカーから、サイレンが響き、雇われた兵士が持ち場についた。

 

「右の銃座はマスター、左はミニガンをやれ。他の部隊は残りを」

 

俺は指示を出し、持っていた中国軍アサルトライフルを構える。しかし、それは何時もの中国軍ライフルではない。二脚が取り付けられ、銃身が延びている。更に、マガジンは長くなり60連マガジンが取り付けられている。それは分隊支援火器のRPKをモデルに作ったもので、制圧射撃を考えて作ったものだ。

 

「各員、制圧射撃!」

 

5.56mm弾が撃鉄に叩かれ、雷針が中の炸薬を燃やし爆発する。その衝撃で弾が発射され、スーパーミュータントの胴体を切り裂いた。しかし、一発だけではない。何十発もの弾丸がミュータントの身体を突き抜ける。如何に頑丈であろうとも、徹甲弾を貫通しないミュータントはいない。

 

「ヒャッハー!喰らいやがれ!」

 

「皆殺しだぁ!」

 

「一匹残らず・・・・駆逐してやる!」

 

傭兵達は携えた武器を用いて近づいて来るミュータントに弾丸を食らわせる。

 

「イタイ!・・・ウォ!」

 

僅ながら知性を持つミュータントは櫓にいる兵士が持つ武器を見て驚く。それはウェイストランドでも数が少ない対戦車兵器であるミサイルランチャーだった。

 

「大統領によろしく言っとけ」

 

傭兵は呟き、発射ボタンを押す。電気信号が流れ、ミサイルの燃焼燃料が引火する。発射されたミサイルはミュータントの足元に命中し、TNT換算で300gの爆薬がミュータントを爆散させた。爆心地には生きているものなど居る筈もなく、戦闘は終了した。

 

「負傷者は?」

 

「ライアスが兆弾に当たったそうだ。それ以外は何も」

 

「は~、良かった。不足する弾薬を補給所に申請しておいて、シフト以外の兵士は兵舎に戻っていいよ」

 

死傷者が居ないことを確認し、警戒体制を解く。持っていたライフルを肩に掛けると、施設の中に入った。

 

「イラッシャイマセ、ゴ注文ヲ」

 

「補給所のソフトなんて無いんだろうけど、仕方ないか」

 

廊下を少し行くと、右手には展示フロアがあり、左手には元々、使われなくなったガラクタが置いてある。しかし、ガラクタを退かして、プロテクトロンで物資を取引できるようにした。テーブルを起き、盗みを働いた場合はプロテクトロンレーザーと近くのタレットが犯人を蜂の巣にする。しかし、ちゃんとした客なら打って変わって豊富な武器弾薬を提供している。一応、キャップはちゃんと取るものの、割引をしておいた。元々、プロテクトロンはロブコ社に行った時に持ってきたもので、物品販売ソフトも本社で見つけたものだ。

 

「今日の売り上げはどうだい?」

 

「今日ハ、ドノバン氏トラコック氏ガ5.56mm弾700発トショットシェル50発ヲ購入シマシタ」

 

「あいつら使いすぎ、支給しているのにな」

 

一応、弾薬の支給はしている。しかし、支給した弾薬を使いきったら自腹とした。弾薬を無駄遣いするような奴等ではないことは分かっているけど、一応制約を掛けておいて損はない。物品の保管所としても機能する補給所に中国軍アサルトライフルを改造したRPKをプロテクトロンに預けて中に入った。

 

「外はどうだった?また、ミュータントが来たっぽいが?」

 

「兆弾で負傷者が一人出ただけで、それ以外は誰も怪我してないよ」

 

リベットシティーから来た顔見知りの雇われ技師が訊いてきたので、撃退したことを話すと直ぐに自分の持ち場に戻っていった。メガトンならもっと心配をしても良いぐらいなのだが、リベットシティーでの生活が長いのか、あまり警戒はしていない。長年に渡る安全な船の中で生活しているため、危機的意識が薄れているのだろう。他の科学者も没頭しているため全くこっちを見ようともしない。

 

「なんだかな~・・・・」

 

もしも、陣地が突破されたらどうするつもりなんだろうか。一応、避難用経路は確保しているが、経路にはグールも居るため、避難にはかなりの重装備で行くしかない。ならば、早めに片付けた方が良いだろう。

 

「シャルは撃たれたライアスの治療しているだろうし・・・・、リハビリでアイツを連れていこうか」

 

ジェームズの研究を手伝おうとしていた足を止めて、地下一階のエリアに向けて歩き出す。俺は理系ではないため、ジェームズの研究は手伝えない。そもそも、防御陣地での仕事をやっているのだから、これ以上他の仕事をする必要はない。兵士は兵士の領分をこなすだけで良いのだ。もっとも、兵士ではなく武器商人なのだが。

 

階段を下り、医療区画を通りすぎて研究員や技師が寝泊まりする場所へ到着した。二段ベットに休憩していた技師のグループはトランプで遊んでいる。非番な彼らはウィスキーを傾けてキャップを賭けていた。その中に一人、技師ではない人物が一人いた。傭兵が着るような濃紺のカーゴパンツにタンクトップを着ていた。タンクトップを着ている上半身は女性の特徴的な大きな脹らみがあり、女性であることを現し、男なら凝視してしまうかもしれない。ヒスパニック系の褐色の健康的な肌に目を縁取るような長いまつ毛、ウェイストランド人では無いのではと考えるような美貌を持っていた。

 

「これでどう?」

 

アリシアは持っていた手札を見せる。手の内はスペードのKINGがペアにダイヤのエースがスリーカード。所謂、フルハウスという奴だ。

 

「あ~・・・負けた~!」

 

「もっていかれた~!!」

 

「俺の今日の飯が・・・うぅ!」

 

対戦していた技師達は思い思いの嘆きを露にし、項垂れる。テーブルに置かれたキャップをアリシアは鼻唄を詠いながら数えて、バラモンの財布に納めていく。その数は100キャップに及ぶ。

 

アリシアはここに来た後、二三日寝たきりの状態だった。ミサイルに直撃はしなかったものの、彼女の身体に無数の傷を作り、骨を砕いた。そんな重症を何とかシャルはありったけのスティムパックと輸血パックで命を繋ぎ合わせたのだ。そう考えれば、二三日寝たきりなんてまだ良い方だ。しかし、二三日何もしなければ身体は鈍る。しかも、シャルは+一週間戦闘行為の禁止を言い渡した。傭兵稼業の人間にとっては死刑に等しい。しかし、アリシアは仕方ないと言ってベットで本を読んだり、こうやって技師とポーカーをやっている。先日、禁止解除され、ウィスキーやタバコを許可されても、ウィスキーやタバコを吹かして本を読むだけになってしまったのだ。

 

怠惰を貪るアリシアは事故の影響なのか、それとも思い至る事があるのか分からない。聞いてみても「余り休んでいなかったから、休ませてくれ」と言ってのんびりしていた。休むのも構わないし、ウィスキーを飲もうがタバコを吸おうが構わない。だけど、アリシアは何かが壊れたのではないかと思うようになった。

 

「アリシア、どうだ。調子は?」

 

「・・ああ、そりゃこんなにコイツらから根こそぎ奪ったんだ。絶好調に決まっているだろ。」

 

と、返すがアリシアは俺を見た途端に声のトーンを落とす。俺はヤーリングが言っていたことを鵜呑みにはしていないけど、この返事は好きと言う感情からでは無いだろう。

 

日に日に傭兵としての彼女が死んでいっている、そんな気がしてならない。

 

「避難経路にいるフェラルを掃討するんだけど、一緒に来てくれない?」

 

「一人で出来るだろ。腐った肉袋ぐらい何とかならないのか?」

 

アリシアがそう言うものの、技師達は彼女の言葉に待ったを掛ける。

 

「アリシア、それは無いだろ。技師の俺達だってフェラルの凶暴性は知っている。彼だけじゃ危険じゃないか?」

 

「BOSの兵士が一人でパワーアーマー着て掃討しに行ったら、リーヴァーになって帰ってきたって噂だ。彼が強いのは知っているが、自殺行為だろ」

 

BOSの兵士がグールになって帰ってきた噂話は良くある。だが、それは噂に過ぎない。しかし、アリシアの気持ちを変えるには十分だった。

 

「分かった、行こう。キース、私の財布を盗むなよ」

 

「しないよ」

 

キースと呼ばれた技師は言い、アリシアは俺と共に避難経路へと歩き始めた。

 

「これでいいか。アリシアは?」

 

「私はこれにしよう」

 

俺はさっきのRPKではなく、銃身を切り詰めたCQB仕様のアサルトライフルをプロテクトロンから受け取る。アリシアは手作りのドットサイトを取り付けたコンバットショットガンだ。アサルトライフル用のマガジンをマガジンポーチに収め、予備の10mmピストルの点検を行う。中に入っていた弾倉を抜き取り、スライドを引いて動作確認を行う。

 

「準備は?」

 

「大丈夫だ。行こう」

 

一度、展示室を通り、使われなくなった機械の近くに“非常用トンネル”と書かれたマンホールを見つけた。Dr.リーから借りた非常用の鍵を使ってマンホールを開けた。ライトをアサルトライフルに縛り付け、慎重に下へ降りる。ライトを点灯させて、周囲の安全を確認しておく。

 

「Clear!」

 

アリシアが梯子から降りて、彼女と共にクリアリングを行う。薄汚れたトンネルは何時、フェラルグールが襲い掛かってきてもおかしくない。慎重に進み、二つのエアロックのハッチを見つけた。

 

「整備トンネルの配電図によると、こっちがペンタゴンに行く通路。こっちがジェファーソン記念館の地下のパイプラインか。」

 

「パイプラインはこの前、ライアンが巡回中に確認したからペンタゴンまでの避難通路が良いだろうな」

 

広げた配線図の写しを指差し、道を決める。扉のスイッチが壊れていたため、ポーチに引っ掻けてあったペンチとドライバーを片手にスイッチの配電盤を開いた。

 

「どのくらい掛かる?」

 

「ざっと、5分って所かな」

 

大半が半永久的な核分裂バッテリーによる開閉装置だが、たまにネズミに配線を食われていることがあったり、経年劣化もある。手持ちの使える配線を組み合わせたり、破損した核分裂バッテリーを取り替える必要があった。

 

「なあ、アリシア」

 

「なんだ、ユウキ?恋煩いか?」

 

「大丈夫だ。もう解決しているし、順風満帆だよ」

 

本当か?と聞いてくるアリシアであったが、俺はあえてそれを無視してアリシアに尋ねた。

 

「何か悩み事ってある?」

 

「なんだ、いきなり」

 

アリシアは面食らったように驚いた顔をする。

 

「いや、だって図書館の一件で元気なかっただろ?それに傭兵稼業がうまくできる仕事場も出来たと言うのに、技師達とポーカーしているだけじゃん。そりゃ、心配もするよ」

 

俺はそう言って腐りかけていたコードをラジオペンチで切った。

 

「一応、雇い主ではあるけどさ。友達以上だと思ってる。ちょっと恥ずかしいけど・・・・アリシアの事を好きだし、姉のようにすら思うことだってある。何かあるなら相談に乗るよ?」

 

それは告白であるのかもしれない。でも、俺の気持ちは変わらないし、愛していると言うもの少しおかしい。だが、友人以上の存在だと言うのは自分でも分かった。修理がもう少しで終わりそうであったが、アリシアの反応が分からなかったため、身体を動かそうとする。

 

「アリシアはさ・・!」

 

後ろに身体を向けると、すぐ後ろにいたアリシアの身体が近づき、俺に抱きついてきたのだ。

 

「ちょ、え?」

 

俺は驚き、持っていたラジオペンチを落としてしまう。若干俺よりも背が高いアリシアは手を頭まで伸ばし、強く抱き締めてきた。

 

「ユウキ、ありがとう・・・・。ちょっと一人で抱え込みすぎたようだ。心配掛けてしまってすまない・・・」

 

アリシアの髪の毛から漂う女性の甘い香りが鼻腔を刺激する。不埒な事を考えそうになるが、震える肩と肩に感じる湿っぽい感覚でその考えは吹き飛んだ。

 

震える肩をそっと手のひらで抑え、もう片方の手で背中をさする。見た目は凄腕の女傭兵で弱点がないようにも見える。だが、彼女の何処かにはか弱い女性の部分だってある。落ち着かせるように、子供をあやすように励ます。それはアリシアが落ち着くまでずっと続けた。

 

「・・・・・すまん・・・、変なところを見せてしまったな」

 

目は赤く、涙で濡れた頬を手で払う。どの程度彼女が落ち着くまで掛かったのか分からない。準備が出来たと彼女は告げ、俺はハッチの配電盤を閉めてスイッチを押す。油が差されていないため、甲高い金属と金属が擦れるような音が響き、湿った風が顔を拭う。湿気っていたそこは昼間の高い気温に相まって、汗が首筋に流れた。

 

アサルトライフルを構え、しゃがんでいる人影に狙いを付ける。それはぼろ衣のような物を着た異形の存在。その頭部に狙いを付けて引き金を引いた。高速で放たれた弾丸は異形の頭を貫き、脳奬をばら蒔いた。

 

「シャアアアアァァァァ!!」

 

人間では出せないような、声帯を焼かれ、人ではない化け物が群れになって押し寄せる。

 

「ちょっと量が多いだろ!」

 

「大丈夫だ。この程度なら!」

 

セレクターをフルオートにするが、弾は景気よくばら蒔かない。軽く引き金を引いて接近してくるグールの頭に銃弾を撃ち込んでいく。隣にいたアリシアは新しくつけられたドットサイトの点をグールの頭部へと狙い、散弾を叩き込んだ。射撃の腕と場数を踏めば、グールなど驚異にはならない。的確に頭を狙い、装填する時間を無くして隙を見せなければいいのだから。

 

「ち、弾切れ!」

 

アサルトライフルのマガジンを抜き取り、脇にあるポーチからドラムマガジンを取りだし、アサルトライフルに装填する。ボルトを引いて次弾を装填して引き金を引く。フルオートで放たれた5.56mmライフル弾はグールの頭部を破壊し尽くす。奥から走ってきたグールですら、貫通して飛んできた弾丸の餌食となる。

 

「ハハッ!いいぞ、ユウキ!」

 

こんな良い笑顔を見たのは久々だった。ジェームズを助けに行く前に皆で飲んだときの笑み位だった。アリシアは気持ちの良い笑みを浮かべてショットガンで近づいてくるグールをミンチへと変えていく。

 

持ってきていた弾薬が無くなりそうになる頃には、大半のグールは肉片か頭部だけ無くなった死体となって下水道に横たわった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「は~・・・・良い湯だな」

 

その言葉は日本人なら誰しも聞くフレーズ。地震大国日本であると同時に活火山の多い国の一つでもある。そんな地域では地熱で暖められた湯が多くあり、温泉となるのだ。日本人の魂とも言える温泉は遥か昔から日本人は温泉をこよなく愛している。風呂などを作り、清潔好きな民族と言えるだろう。なぜ、こんなことを言っているかというと、現に俺が使っているからである。

 

手頃な大きさの石を使い、隙間にセメントを流し込む。少々荒削りなところもあるが銭湯として機能する。

 

なぜこんな物がウェイストランドにあるのか、それは俺とアリシアがトンネルに住むグールを掃討する二週間前に遡る。

 

 

 

 

「お風呂に入りたい・・・・」

 

そんな一言が切っ掛けだった。ジャファーソン像を囲む浄化槽と様々な精密機器が置かれたその場所で手伝っているシャルの口から女性ならば普通ならでるであろうセリフが飛び出す。そこにいたジェームズを含む研究員は笑った。

 

「まあ、リベットシティーから出て来たから入る機会は無いからね」

 

「もう入ってから結構経つよな・・・・。シャワー浴びたいぜ」

 

ウェイストランドの常識では、水は貴重な存在である。飲み水は殺し合いをしてでも欲しいものだ。しかし、水がなければ身体を綺麗にする事は出来ない。精々、タオルで身体を拭く程度。風呂に入るなど富豪のやることだ。綺麗な水を生成するのは放射能や汚れを除去するフィルターや放射能を分解する機械が必要となる。ウェイストランドにその機械の数は限られている。リベットシティーには空母に搭載された大型の除去装置があるため、シャワーなどが使える。しかし、浄化プロジェクトに使えるような物ではない。量が少なすぎるのだ。

 

「シャルちゃんはリベットシティーでお風呂に入ったのかしら?」

 

「ウェイストランドじゃあ放射能汚染の風呂しか入れないからな。病みつきになったんじゃない?」

 

「え?家にお風呂あるよ」

 

誰しもがここで驚くことだろう。先程も言ったように、富豪しか風呂に入ることが許されない。皆はそこで思う。放射能汚染風呂かどっかから湯船を持ってきたんだろうと。

 

「浄化プロジェクトで沢山水が出るなら風呂屋でも作るか?」

 

それを言ったのは、何故か入っていたアリシアである。

 

「浄化プロジェクトは無限に無償で水が飲めるようにと考えたんだ。放射能汚染のない水でお風呂を少しのキャップで入れる。この施設の維持費もあるだろうし、なにより皆風呂に入りたいんじゃないのか?」

 

アリシアがそう言うと、皆は顔を見合わせる。白衣や作業着に着替えているとはいえ、ウェイストランドの標準的な臭いである。簡単に言うのなら臭いのだ。タオルで身体を拭くのにも限界がある。それにリベットシティーではシャワーに入っていたのだし、彼らは水で身体を洗う快感を知ってしまっている。本当なら今すぐにでも入りたい。

 

「なら、作れば良いじゃないか?」

 

その時、俺はジェームズさんに記念館の防衛計画を話すために来ていた。作ろうと思えば作れるし、大して難しくはない。

 

「いやいやいや、無理だって」

 

「そもそも資源が」

 

「この前見つけたセメントと海岸沿いにある岩を削って地下に作れば良いんじゃないかな。適当に安い賃金でリベットシティーの労働者を募ればいける。」

 

「「「・・・・・」」」

 

俺の考えを言うと、明らかに呆気に取られたようで研究員達は言葉を失っていた。

 

「え、何だよ?」

 

「いや、流石武器商人・・・・。金の匂いに敏感だな」

 

「商人だけあるわね。他の物まで広げるとか、大物になるわ」

 

研究員は口々に感想を述べる。

 

「匂いなんて嗅いでないって」

 

「風呂なんて夢のまた夢だろ?それを具現化するのに、商売をしようと案を練る当たりそうかなって」

 

「いや、単に俺も風呂に入りたい」

 

「「「お前もかユウキ!」」」

 

その後、研究員からはよく分からない事を言われる。例えば、「やっぱ、大物になる」だの「もうよくわからない・・・」「ずれてる」とか言われた。流石にシャルは同意見だったことに嬉しかったらしいが、俺は風呂にこれだけ固執する理由はただ一つ。

 

メガトンの自宅の時と同じように風呂に入りたい、ただそれだけだった。

 

 

 

 

今に戻り、俺は湯船に使って張っているお湯を手で掬う。お湯はそれなりに透明度をほこっている。汚れも見当たらないし、手に着けたガイガーカウンターは反応しない。

 

浄化装置の機能は汚れと放射能を除去する。それは、フィルターなどを使えば取り除くことは可能だし、科学者でちゃんとした知識さえあれば取り除くことは容易なのだ。しかし、フィルターなどは何れ汚れがたまり交換しなくてはならない。フィルターを通しても若干の放射能と汚れは残る。200年の歳月で本来の能力よりも下回った能力しか出ない。そして絶対数が不足しているし、永続的には不可能だ。だが、ジェームズ達が考えている事は従来の物とは異なる。それは汚れと放射能を分解してしまうのだ。今のウェイストランドでそれをする事は不可能に近い。しかし、Vault-tecの開発したそれは天地創造を可能にしたG.E.C.K(Garden of Eden Creation Kit).は放射能を除去し、新たな肥えた大地を創造する。まさしくそれは神の力。それは西海岸でVaultのシェルターに保管され、核戦争後に使用された。それを使った場所は人々が入植し町を作った。それは次第に大きくなり、村から町を、町から街を。そして国を造り上げた。それが、新カリフォルニア共和国である。

 

ジェームズはG.E.C.Kを説明書通りに使わず、より大きな善のために使うつもりだった。G.E.C.Kは使用後、動力としている核融合装置は壊れてしまう。それは物質の分解と構築という神の所業を成し遂げたためだ。しかし、それは一地域だけに収まってしまう。ジェームズは考えた。もっと質量を減らしてしまう方が効率的だと。それは水だけに限定し、永遠に綺麗な水を再構築することがいい。水だけは分解せず、中に入った放射能と化学物質などを分解していく。全てを分解するよりも効率的であり、永続的に可能な機械。生命の糧である水をタイダルベイスンに流し込む。徐々に水は浄化され、やがては大気は浄化され、雨が降り注ぐ。荒廃した大地に水が流れ込み、肥えていき新たな生命が誕生する。地球の再生、それこそがジェームズ達が目指していた姿だ。

 

 

「今はフィルターで綺麗にしているが、綺麗な水でリフレッシュしてもバチはあたるまい」

 

施設には幾つもの施設がある。一部ではフィルターを使用して浄化できる設備もあったためにそれを今回はそれを使用した。しかし、フィルターでもすべてとることは困難だ。よって放射能はRad-xを入れて中和し、被爆する事はない。そして飲み水ではないので、ある程度の汚れは大丈夫だろう。

 

2週間の作業行程で本当に良くできたと思う。作業員を雇い、海岸の岩を砕いて運ぶの繰り返し。そして地下にそれを組み立てて配置する。そこにセメントを間に流し込み、乾燥させておく。水深一メートル以上のところもあり、座って肩まで浸かる低い位置も存在する。25mプールとは違うものの、それに準じた作りとなっている。

 

戦前のタオルを頭の上に畳んで置いておく。勿論、ババンっババンバンバン♪と歌も忘れない。

 

「はぁ~良い湯だな・・・・。日本人の魂だよ」

 

すでにヒスパニックの血も入っているため、純粋な日本人とも言えないし、この際どうでもいい。正直、魂は元日本人であるため言えると言っちゃ言えるけど、お風呂or温泉好きなら日本人と言っても悪くはない。(←無茶)

 

すると、後ろの扉が開き誰かが入ってくる。この時間帯は男性と決めているため女性は入ってこない。江戸時代の銭湯は混浴であったこともあったが、一応、二百年経っても貞操の価値観は同じである。湯船から立ち上る湯気が換気扇で外へと放出されるが、あまりに湯気が多いため室内は良く見えない。身体を洗っている音が聞こえているし、洗っている場所は良く見えない。誰だか分からないけど、一応決まりは守っているようだ。

 

シャワーから流れ出す音が聞こえ、体の石鹸を洗い流している。ジェームズさんならシャルの話し。そのほかの人なら陣地や研究、シャルの料理の話なんかでもいい。

 

すると、シャワーを浴びて隣に誰かが入ってきた。誰だろうかと首を向けると、俺は驚いた。

 

「ユウキ、どうしたそんな顔して」

 

時間外であるはずなのに、そこにはヒスパニック系によくある褐色肌、そして異性のアリシアが入ろうとしていたのだ。

 

「ちょっと!え!時間は!」

 

「ああ、一応入口には『進入禁止』の立札があるから大丈夫だ」

 

「いやいや、大丈夫じゃないって!」

 

褐色の肌とお湯が滴り、しっとりと濡れた髪は扇情的で頭がクラクラする。そして、長年傭兵をしていたためか、無駄のない体つきで、胸部には重力に負けずに双丘が女としての自己主張をしている。そんな色気に掛かって乗せられた男はどれほどいるだろうか。俺は最後の理性の力を振り絞り、風呂から出ようと淵に脚を掛ける。

 

「待たんか、ユウキ」

 

それは咄嗟の判断だったのだろう。アリシアは俺の腕を掴み、まるで人魚が漁師を海へ引きずり下ろそうとするように、深い風呂に落ちた。鼻にお湯が入り、何とも言えない不快感が鼻腔から喉までを刺激する。すぐにお湯から顔を出すと、鼻に入った水と喉の不快感を和らげる為に咳をした。

 

「ゴホッ!ゴホッ!・・・・・ってうわ!」

 

背後から抱きつかれ、柔肌が密着する。心臓はまるでミニがンの連射のように早く鼓動する。端から見ればそれは恋人同士のじゃれあいとも見えなくもない。しかし、俺には既にいるのである。ここで事を為せば、俺は後悔するだろう。

 

「アリシア、ちょっと落ち着いて・・・・」

 

「何だろうな、この気持ちは・・?お前を見る度に収まることがない」

 

「俺はその・・・・」

 

「何、とって食いはしないさ」

 

俺が食いそうなんですが・・・。とは口が裂けても言えはしない。豊かな双丘が俺の背中を撫で、理性を崩壊に導いていく。しまいには、アリシアの手は腹筋や胸筋を撫で始めた。

 

「案外筋肉あるんだな、驚いたな」

 

「俺も・・・驚いたと言えば驚いているんだけど」

 

確実に見誤っていた。俺の考えではアリシアは傭兵なので筋肉で硬いものとばかり思っていた。しかし、何も纏わぬ姿や密着する柔らかさを考えてもそれは艶やかな女性のそれだろう。筋肉質と思っていた太股や腕は筋肉はあるものの、女性らしさが残っている。そして腹筋は薄く縦に割れて括れてはいるが、女性らしい扇情的な様子である。さらに、胸は筋肉かと思いきや、背中に感じる柔らかさは堅いそれとは比べ物にならない。アリシアの暴挙と俺の推測との矛盾、二重の意味で驚いていた。

 

「お、俺にはシャルがいるんだ。ちょっとこれは・・・・」

 

「お前は何を言っているんだ?」

 

「ふぁ?」

 

アリシアは呆れたように俺の顔を覗き見る。俺は呆気に取られて彼女の瞳を覗き込んだ。その目は恋人に求めを乞うそれではなく、何時ものキリリとした顔付きである。え、ちょっと待て。俺の勘違い?身体を触れ合わせて何も無し?

 

「ユウキ、もしお前を求めたらどうなると思う?確かにそれは良いのだろうが、シャルロットは怒ると言う次元じゃ済まないな」

 

「確かに・・・・」

 

アリシアと俺の共通の認識である。『シャルは本気になると怖い』例を出せば、ジェームズを見つけるために安全なvaultから出た。これは並みの行動力と決意がなければ為し遂げられないだろう。そして、父親と協力してここまでの事を為し遂げる辺り、シャルの本気は世界を変えかねない。もし、彼女が怒ればトンでもない事になるかもしれない。もし、アリシアと俺が事を為せば、プラズマ粘液か灰になるだろう。その前に、ジェームズの北斗百烈拳でミンチにされかねない。

 

「安心しろ、お前を誘惑しているわけではない」

 

「なら、抱き着かないで下さいよ!」

 

「案外、初心なのだな。可愛いな」

 

と彼女は耳に息を吹き掛ける。この人は何処まで男を弄り続けるのだろうか。誘惑していないと言いつつ、誘惑して俺の悶える姿を見て楽しんでいるのだろう。

 

すると、アリシアは首筋に顔を埋める。それは何かちょっかいを出すのではなく、まるで何かの保護が欲しい子供のような様子だった。

 

「ユウキ、ちょっと聞いて言いか?」

 

先程とは声色が変わり、まるでグールを掃討したあの泣きそうな声に変わっていた。俺は何の迷いもなく「聞きますよ」と返した。

 

「もし、・・・・もし私が思想や宗教、信ずるモノが違ったらどう思う?」

 

「何ですか、いきなり・・・」

 

思想や宗教、信念の違いは人類に度々亀裂を、戦争を起こさせてきた。それは宗教戦争や政治紛争、そして思想戦争まで至る。それは人類が歴史として認識する以前、ホモサピエンスが生まれてすぐからそういったモノが戦争の人殺しの発端となった。

 

歴史とは繰り返すことで知られるが、世界はその都度、相手が消え逝くまで続けた。しかし、どちらかが滅びるまで続けられることは年を経てなくなっていく。人には喜びなどの感情がある。人は和解することも可能である。それは今までの歴史が示している。世界は戦争を無くすことが出来ないと考える物もいるだろう。だが、思想や信念が違うとしても、互いに認め合えば争いは無くなることが出来る。

 

「もし、アリシアが俺と宗教も思想も信念も違っていて、それが悪いことですかね?」

 

「え・・・」

 

「違っていて当然だ。全員が同じ考えな訳がない。違っていたとしても互いに分かり合えればいい。俺の事分かったでしょ?」

 

「そりゃ、分かっているさ・・・」

 

「じゃあ、俺の事嫌いになりました?」

 

「・・・そんなわけない。どうやれば嫌いになれる」

 

「なら俺もアリシアの事を嫌いにはならないさ。もしここで共産党の党員でしたと言ったら・・・・大きな声で議長万歳って叫んであげますよ」

 

「なんだそれは・・・・ククク!そうだな、もしユウキが“ハイル・フューラー”なんて言えばその場で頭を撃ち抜こう」

 

「ちょ、俺は屈伏したのに俺を撃つ気?」

 

「良いじゃないか、伍長殿に会いに行けるぞ」

 

「俺はナチじゃないから!」

 

そう言うとアリシアは笑い始め、俺から身体を離す。深いエリアな為、アリシアの艶かしい身体は湯に浸かっているため見えない。彼女の顔はさっきと違っていて晴れやかだった。

 

「そっか、ありがとう。お陰で楽になった」

 

それは傭兵のアリシアではなく、可憐で少女のようなアリシアの声だった。その後、俺とアリシアは風呂場で少し話した後に風呂から出ることにした。一緒に風呂場から出でしまうとばれる可能性が高いのである程度時間差で出ることにした。

 

「じゃあ、先出て待ってるよ」

 

時計を見ればもうすぐ夕食時、シャルが美味しい料理を振る舞ってくれる。出てくる料理を想像しながら服を着て、カーゴパンツとTシャツを着る。

 

「ああ、それにしても・・・以外と初心なんだな」

 

と小悪魔的な笑みを浮かべる。

 

アリシアは風呂上がりなため体全体が火照っている。水分を吸った髪はしっとりとした艶かしい雰囲気を醸し出す。そんな色気を出していると、他の男に襲われるんじゃないか?

 

「悪かったな・・・・あんまり誘惑しないでくれよ。俺はシャルが居るし・・・アリシアの事は好きだけど・・・」

 

「なら良いじゃないか。私も好きだぞ」

 

「いや、そうだろうけど・・・・。」

 

「襲ってくれないかと待ち構えていたのに・・・腰抜け」

 

え、あれってマジで誘っていたんですか!アリシア先生!

 

「そうに決まってるだろ。好きじゃない奴の風呂場に入る女が何処に居る!もしかして、私が股の緩い女と思っていたか?」

 

一瞬だが、怒気の籠った目線が向けられる。それは、シャルが出す怒りよりも弱いものの、鋭利な怒りと行った雰囲気だった。俺は首を振り、弁解した。

 

「いや、俺みたいな男が良いのかな・・・何て」

 

アリシアの身長は俺より高く、そして強い。命を救ったと言えど、俺の事なんて体のいい金蔓としか思っていないんじゃないかとすら一時期思っていた。

 

「言っておくが、ユウキは自分を過小評価し過ぎだ。お前はこの世界を変えられる。多分、強大な敵が立ち塞がってもお前なら何とかなる筈だ。」

 

「格闘戦は弱いぞ、俺」

 

「そんなの勘定に入れるな、バカ。・・・・まあ、過大評価するよりましなのかもしれんがな」

 

すると、アリシアの細い指が俺の胸を触り、やがて鎖骨から首、頬へと流れていく。両手で俺の頬を触り、アリシアの唇が俺の唇に触れる。鼻腔に甘い香りが広がり、本能を刺激する。本当ならここで押し倒したい。だが、シャルの笑顔がふと頭に過り、力を込めようとした手を同じように頬へと伸ばす。すると、彼女は唇を離した。

 

「全く臆病者め、ここなら大丈夫だろ?」

 

「事を終えてからシャルに此を報告して許可を得るのは無理だろ。そこは自重するさ」

 

「なんだ、お前を奪おうとするつもりだったのに」

 

「なんか、どっかの愛憎ドラマになるから辞めてください」

 

三角関係は嫌だ。それなら、はー・・・・いや、二人を愛することが出来れば良いと思う。でも、それはシャルに許可を取れば良いだろう。彼女が嫌と言えば其までだが、何とかなるんじゃないか?

 

「でも、なんで今になって?」

 

俺はふと疑問が生まれた。もし、彼女が俺の事を前から好きでいたならシャルと俺をくっつけようとは思わない。何か変と思ったため、彼女に質問をぶつけた。

 

「なんでって、こんな世の中だからさ」

 

そう言うと彼女は俺に背を向ける。

 

「今まで私は色々な戦場を歩いて来た。今まで硝煙にまみれて、泥や血にも染まってきた。それで気が付いたんだ。もし、いつか死ぬなら後悔がないように自分の好きな事をしようと。あの時はシャルとお前をくっつけようとしたさ。シャルはお前を愛していたし、お前だって彼女を愛していた。そんなの、誰でも分かるさ。私もお前に抱かれたかったしキスもされたかった。でも、やっぱり心には凝りみたいなのが残ってな。・・・・図書館前で攻撃を受けたときに感じたんだ。」

 

彼女は胸元まで隠していた戦前のタオルを取り、何も纏わぬ状態で俺に見せた。そこには風呂場でよく見えなかったが、無数の傷が身体中にあった。その中でも一番大きいのが、まだ傷口の色が濃い胸から腹にかけての手術跡。スティムパックで傷を塞いだが、あれは傷口までは消せない。上手く使えば消せるに消せるが、凄腕の整形外科医でない限り無理だった。

 

「いつか死ぬかも知れない。なら、惚れた男に尽くすのが女だろ?」

 

そして、彼女はもう一度背を向ける。

 

「傷だらけの身体だろう。・・・もし、嫌なら良いんだ。私は二度とお前の前には現れない。だから・・・」

 

俺は次の言葉を紡ぐまえに彼女を後ろから抱き締めた。

 

「そんなこと言うなよ・・・・。嫌なわけないじゃないか」

 

頭を彼女の肩に当てて、彼女の火照った身体を感じながら身体を密着させた。

 

「・・・・ありがとう、ユウキ。これでもう後悔はない。」

 

「そんな、これでもう終わりかよ」

 

「そうだとも、シャルに怒られるぞ」

 

「さっきは誘惑していたじゃないか」

 

「そうだな。やっても良いんだが、やらなくても誘惑しておちょくるのが面白くてつい♪」

 

「酷すぎるよ、アリシア」

 

散々、アリシアに弄られた俺はかなりのHPを削られて外へ出た。水密扉が閉められて俺はそのまま食堂に移動する。しかし、更衣室には一人アリシアが時間差で出るために一人でいた。

 

換気扇が天井で回転し、ロッカーからアリシアは自身が着ていた服の袖を通す。その作業はロボットのように淡々と無表情で行われる。するとアリシアは近くの椅子に崩れるようにして座り、目の部分をタオルで押さえた。

 

「・・・チクショウ・・・・・・」

 

アリシアの目から流れていく涙は止まることはない。一人残されたアリシアは時間が来るまで泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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二十六話 強襲

二日続けて二話投稿しています。

お気に入りからお読みになろうとしている方はご注意ください。


そこはアメリカ合衆国の首都“ワシントンD.C.”からそれほど遠くない場所にある空軍基地だった。大戦争直後、首都のホワイトハウスと政府専用トンネルから避難した政府要人をロスモアの核シェルターや核攻撃を受けない洋上、そしてポセイドンエネルギーの石油油田基地へと移動させた。大戦争から二百年、役目を終えたアダムス空軍基地と呼ばれた旧軍の遺物はゆっくりと老朽化していった。

 

戦前は基地に民間人が入らないよう、基地全体を見えないように丘と丘の間に建設された。政府要人の避難トンネルもあるため、位置はあまり知られていない。

 

するとそこへ数人のグループが侵入する。彼らは旧軍が支給していたコンバットアーマーやトレーダーが使用するフィールドジャケット、傭兵が使用する服装など統一性のない男達。彼らは使い古したアサルトライフルを携え、敷地のフェンスを越えて中へと入った。

 

「よし、まさかまだ荒らされていない空軍基地があるなんてな」

 

コンバットアーマーを着た一人が言い、周りは頷いた。

 

「まあ、戦時中に敵の攻撃を受けないために幹線道路を物理的に封鎖したんだ。いままでスカベンジングされなくて当然さ」

 

「あそこは宝の山だぜ。早く行こう」

 

男達は破壊された幹線道路やトンネルを使用せずに、山を越えてきた。本当なら政府の整備用トンネルや補給線として列車が用いられているが、彼らは知らない。彼らは近くの町の市庁舎でアダムズ空軍基地の情報を知っただけで、そこまでの道程はすべて破壊されていた。きつい行軍で全員は疲れはてていた。彼らを動かしていたのは様々な武器弾薬やジャンク品を見つけて売り捌きたいと言う欲だけであった。

 

「ん?なんだあれ・・・・」

 

一人の男が格納庫近くで何かが光ったのが見えた。しかし、男の言葉は最後までいうことは無かった。男が見た先から大口径のレーザーが男の顔を直撃し、顎から上を消し去ったのだ。

 

「スナイパー!」

 

「エヴァンズがやられた」

 

「伏せろ!」

 

何処からともなく、プラズマライフルの光線が彼らを襲う。破壊された軍用トラックの影に隠れ、一人の男はベルトに入れていた発煙手榴弾を投げる。

 

「投げ・・・グハッ!」

 

投げようとした男の腕にプラズマ弾が命中し、上腕より下はプラズマによって溶ける。辛うじて被害を免れた手榴弾は転がって煙を吹き出して周囲を包み隠す。これを好機と見た生き残りはフェンスから逃げようと身体を向ける。しかし、男達の耳に何か機械的な音が入ってきた。

 

何かが回転しているような音。それは次第に大きな音となり鼓膜を揺らす。すると、周辺を覆い隠していた煙は突風によって吹き飛ばされる。音の先に男達は目を向けると表情を凍らせる。

 

そこには戦前に飛んでいたであろう軍用の双発式ヘリコプター。濃緑色に塗装され、機関砲とミサイルポットが見える辺り戦闘ヘリ。尾翼には円陣の星々が“E”という文字を囲むエンブレムが見えた。男達は生きてこの方、ヘリと言う空飛ぶ乗り物を見たことが無かったためデスクローを見た以上に驚いていた。こんな鉄の塊が飛んでいるのかと。

 

ヘリの機関砲は回転し、20mm弾が男達を襲う。四肢がもがれ、血潮が舞う。銃撃が終わる頃には其処ら中に肉片が散らばっていた。ヘリは仕事に満足したようですぐに其処から移動していった。ヘリの音も消えて、周囲が静粛に包まれた頃。建物の影や塹壕から黒い人影が出てきた。それはこれまでのウェイストランドでは見たことのない黒い色のパワーアーマー、悪魔にも見えそうな禍々しい雰囲気で光学兵器を持って掃討し始めた。

 

「た、助けてくれぇ!死にたくない!」

 

運よく車の影に隠れていたのか、仲間の返り血でびっしりと血がコンバットアーマーにへばり着いていた。ガタガタと身体が震え、20mm機関砲で失われた脚の傷を腕で押さえていた。

 

「負傷した現地人を発見した、指示求むover」

 

パワーアーマーによってくぐもった声が響き、男はそれが人間だと知ることが出来た。

 

(こちら、HQ。生存者は必要ない。殺せout)

 

それは男の死刑宣告だった。ガタガタと身体を震わせる男に兵士は持っていたプラズマライフルを構える。

 

「了解、直ちに」

 

「やめろ、死にたくない!助けて・・・・」

 

男は涙を流し懇願するが、兵士は容赦なく引き金を引いた。発射されたプラズマ弾は男の顔を溶かし、絶命する。兵士は事が済み、後ろから別の兵士がやって来る。その兵士の背中には火炎放射器用の燃料タンク。兵士は火炎放射器の引き金を引いて死体を紅蓮の炎につつんでいく。その炎は黒いパワーアーマーを赤く照らしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、基地の中心にある滑走路にはキャタピラを履いた巨大な兵器があった。それは兵員の兵舎や研究施設、工場などを含む。謂わば、陸上で運用可能な空母だった。それは「クロウラー」と呼ばれる米軍移動型司令部として運用が出来る戦前のテクノロジーが集められたノアの方舟だ。移動要塞とも言える兵器の中心部には各指揮官が集められた会議室があった。そこには各分野の将校が席に着いている。彼らはアメリカ合衆国の軍服を纏い、ウェイストランド人からすれば大戦で戦った亡霊とも言える。あながち、間違ってはいない。彼らは“亡霊”だ。

 

「これより会議を始めます。まず、これを」

 

進行役である大尉の階級章を着けた士官は手元のクリップボードを見ながら、スクリーンを操作している下士官に合図する。部屋の証明は消され、スクリーンの灯りのみが周囲を照らす。そこにはウェイストランドと呼ばれる以前のワシントンD.C.の町並みがあった。

 

「大戦前、D.C.市街地は都市と自然が共生した未来都市として2050年代に構想が練られ、整理された都市区画と地下のメトロが市民の足として利用されていました。世界中でワシントンDCをモデルとした都市が建設され、世界に注目を集めました」

 

アメリカ合衆国の首都、栄華を誇っていた都市は市民の笑みが絶えず、町並みは美しく、公園では綺麗な水が流れ、鳥が飛び立つ。それは平和としか映らない。

 

「しかし、大戦後。都市部は荒廃し、現在はスーパーミュータントと現地傭兵部隊。そしてカリフォルニアで活動していたbrotherfoot of steelと名乗る武装組織の存在も確認されています。」

 

先程の戦前の写真とは違い、都市部はひどく荒廃していた。建物が崩れ、死体がそこら辺に放置される。焼け残った星条旗が連邦ビルではためき、銃声が響く。人ではない異形の敵、スーパーミュータントが人を喰らい、都市の覇権を巡って傭兵とパワーアーマーを着たBOS隊員との三つ巴の激闘が繰り広げられていた。都市部以外も荒廃し、文明的生活は既に失われたと言っていい。

 

「Brotherfoot of steelか、懐かしい敵と出会ったようだ」

 

老年の将校が呟く。この会議室の中では一番老いている将校はそう呟く。彼らはBOSやNCRに攻撃され、最後は彼らの大統領は殺されて本部としていた石油プラントは破壊されたのだ。そこにいる彼らは西部や違う所に基地を構えていた残存部隊だった。石油プラントを破壊された後、彼らは残存兵力を結集してキャピタル・ウェイストランドにやって来ていた。老年の将校が呟いたお陰で周囲は感傷に浸るが、机の端に座っていた男が静まった会議室で音を出す。

 

「中佐、話を進めるぞ」

 

その声は老年の将校よりは若く、階級は高かった。中佐と呼ばれた将校は軽く会釈して、大尉に進めるよう命じる。

 

「二十年前、南東に位置するとある施設で動きがありました。現在の河川は放射能で汚染されているため、周辺の集落では被害を受けており、生活水準はかなり低いです。そこにいた科学者達はの浄水施設に改良を加えていましたが、中止されました」

 

スクリーンには昔のジェファーソン記念館と現在のジェファーソン記念館の二つが表示される。ひとつは大理石の白い色が目立ち、歴代大統領の中でも素晴らしい功績を残した大統領の記念館。しかし、今では地下にあった浄水施設は土壌流出によってパイプラインが見え隠れし、新たに増設されたパイプラインがあった。

 

「参謀本部では、この施設を接収して浄化プラントを建設。放射能汚染のない水を現地人に配給することを提案します。これによって我々の統治体制を完璧なものにします」

 

「その施設を使う必要があるのか?」

 

武器製造を手がける将校は不満の声を出す。

 

「工廠の生産力は随一ですが、統計では記念館並の浄化施設を建設するのに掛かる資源と時間を考えますと十年は要します」

 

彼らの技術はアメリカ一と言っても過言ではない。しかし、彼らの資源は無限にはないのである。

 

「そうか、参謀本部は技術局と調整して施設を接収するときの人員を用意してくれ」

 

「はっ!」

 

参謀本部の将校は返事をするが、真横にいたメガネをかける将校は手をあげる。

 

「待ってください、大佐。最近になって記念館に元の研究者が戻り始めました」

 

「何ぃ!」

 

「情報局はもっと早く伝えるべきだろ!」

 

ほとんどの組織では諜報を行う部署は毛嫌いされる。それは現在のCIAなどの諜報機関、警察の公安などが挙げられる。それは、内部の敵がいないか探すこともあり、何をしているのか分からないからであろう。多くの将校は罵倒を浴びせるが、この場にいた大佐の地位に付いている将校は他の罵倒する者達を抑え、情報部の将校に聞いた。

 

「それは本当か?」

 

「はい、我々の工作員が伝えた情報です」

 

「工作員?」

 

大佐は首を傾げる。他の将校も工作員の情報を知らなかったらしく、全ての将校は首を傾げた。

 

「はい、数年前から工作員として様々な組織のフィールドレポートを書いてきました。現在あるここ周辺の勢力図や生態などはその工作員によるものです」

 

彼らの手元にはキャピタル・ウェイストランドの詳細な勢力図と組織の詳細、そして様々な生息生物が記録されていた。事細かに記録されたそれはスーパーミュータントの考察まで書かれ、傍から見ればそれは学者のような書き込みである。

 

「半年前に一度消息を経ちましたが、最近になって連絡がきました。現在は研究者の『浄化プロジェクト』と呼ばれるものの手伝いをしているとか」

 

スライドは移り変わり、ジェファーソン記念館の衛星写真が映し出された。それはジェームズらが来ていなかった時の画像だったが、直ぐに画像が変更される。それには土嚢やセメントで作られた防御陣地や重機関銃が幾つも配備された要塞と化していた。

 

「参謀本部と宇宙軍の報告ですが、軌道上の偵察衛星ホークアイから記念館を捉えた画像です」

 

宇宙軍とは名ばかりの衛星を管理するだけにとどまる将校は衛星から送られてきた画像を説明し始める。

 

「現在、ジェファーソン記念館は重武装の武装組織に防護されています。数は一個小隊程ですが、情報局との情報交換の結果、彼らの装備はそこらの傭兵とは比べ物になりません。二十年前は当時派兵されたBOSが科学者の研究に興味を持ってパトロンとして資金提供を行っていましたが、彼らはBOSの防御体制よりも強固なものと推測されます」

 

衛星写真ではなく、遠方から撮影された写真も追加される。それは櫓で警備に当たる兵士の写真であったり、至近距離で撮っている写真もあった。

 

「流石、アイボットだな。彼らはあのロボットが我々の尖兵だとは気づくまい」

 

それらの写真はアイボットと呼ばれるウェイストランドに漂っているロボットのことである。それは西部でスタートした「デュラフレームアイボット計画」と呼ばれる偵察型ロボットシリーズの最終形である。長年、ウェイストランドで目撃されており、こちらが攻撃しない限り、襲ってこないためウェイストランド人からは安全だと思われていた。

 

「ん?これはアサルトライフルだよな?」

 

メガネを掛ける技術技官はその写真を見てメガネを傾け、驚きの表情とともに画像を見張いる。

 

「おいおい、誰だよこんなの作った野郎はぁ!20mmレイルにホロサイト?そしてレーザーサイトにハンドグリップとか何処のコルトアームズだよおい!」

 

技術技官の豹変ぶりに会議室にいる将校は驚く。

 

とても大人しそうな技術士官と皆は思っていたが、会議室にいる将校の中で一番熱い男なのかもしれない。

 

「ロイド技術少佐、少し落ち着け」

 

大佐は少佐に落ち着くよう言うが、画像に食い入るよう見続けた。

 

「我が軍もこれを採用していれば!」

 

ロイド技術少佐と呼ばれた人物は巡回している傭兵の写真を見ていた。

 

「情報局は彼ら傭兵の武器について何か分かっているのか?」

 

「工作員の報告では、メガトンを拠点としたガンスミス兼業する武器商人が販売しているとのこと。武器商人の報告書もあります」

 

情報局の将校は近くにいた下士官に合図すると、下士官数名は持っていた紙を配り始める。

 

「彼の名前はユウキ・ゴメス。出身地はVault101、情報筋によると、スプリングベール旧住宅地にあるvaultシェルターで最近騒乱があり、脱出してきたとの事。」

 

アイボットから撮影された銃を構える写真と様々な記述が為された報告書。脅威評価は要注意人物と書かれていた。

 

「参謀本部はVault101の住民を救出することを提案します」

 

「何故助ける必要が?」

 

「現在、我々の人材は不足しています。戦闘員でさえままならぬ状況です。純粋なアメリカ国民ですし、技術面に置いても戦前と大差ありません。」

 

「参謀本部には救出作戦の許可を与える。それと、ジェファーソン記念館は第二騎兵隊を使え。機械化中隊も幾つか持っていくといい、指揮官はダグラス少佐でいいだろう」

 

「了解です、大佐」

 

長机の真ん中に座る、空中騎兵大隊と呼ばれる部隊を指揮するダグラス少佐は言った。彼の部隊はペルチバードを主力とする機動部隊であった。

 

 

「しかし、手荒な真似は避けろ。」

 

「何故です大佐?彼らは野蛮人です。我々が行けば勝つことは間違いありません」

 

大佐と呼ばれた将校の名前はアウグストゥス・オータム大佐。前任者に変わって亡霊とも言える軍隊の最高責任者だった。しかし、なぜ大佐と呼ばれる男が役職に合わない全軍の総司令官に任命されているのか。それはこの組織が巨大な国家の残りカスであるからだと表現できよう。

 

 

「私は君に戦争しろと言っているわけではない。彼らの施設を接収し、合衆国政府の管轄下に入れる。これから彼らを統治するのが我々、エンクレイヴの使命だ。無駄な殺傷は避け、穏便に平和的に事を済ませろ。其処にいる研究者も傷付けずにな」

 

 

エンクレイヴ。それは戦前では都市伝説とされていた組織である。アメリカを影でコントロールし、政府の意思決定はエンクレイヴの意思であると。

 

本当の彼らは政府内の極右政治家や軍人、産業界などが結成した秘密結社だった。彼らは世界の終末を察知し、資産を集めて終末に備えようとした。そして大戦争の後、彼らは事前に用意していた核シェルターや攻撃を逃れた高い機密レベルを誇る軍事基地、そしてポセイドンエネルギーの石油掘削基地などで生き延びていた。彼らは自身を「正統なアメリカ合衆国政府」とした。リーダーは大統領と称され、核による荒廃を正し、偉大なアメリカを復活させようとした。しかし、一人の男によってポセイドンオイル基地を破壊されて、鷲の頭は斬られてしまった。首脳レベルの司令官は軒並みオイル基地破壊時に戦死し、東にいた彼らは西にいた部隊と合流してとある人物がいるここ、キャピタル・ウェイストランドにやってきた。

 

「分かりました、必ずや合衆国に栄光を」

 

ダグラス少佐は決め台詞とばかりに言う。彼はエンクレイヴ上層部の大半を占めるエンクレイヴ至上主義派の一人だ。自分達は純粋な人類であり、ウェイストランド人は汚染された人類。純粋な人間が彼らを管理し、統制する差別主義に基づく。ポセイドンオイル基地の政府の要人の殆んどがそれであるため、西海岸のエンクレイヴの行動はまさしく悪の組織そのものだった。それに対してオータム大佐は現実的とも言えるだろう。ウェイストランドに住む彼らをアメリカ合衆国の国民であると認識しているのは大佐以外にもいる。だが、エンクレイヴという組織の本質的な部分はそう簡単に変わるわけでもない。戦前、自由の国アメリカという代名詞の元、大国として栄華を誇っていたが、実際は貧富の拡大や人種差別は根絶できなかった。

 

会議は終了し、将校達は自身の持ち場へと帰っていく。接収する任務を得たダグラス少佐は何人かの部下を引き連れて作戦を思案している頃合だろう。オータム大佐は彼に任せて大丈夫だろうかと一抹の不安を覚える。穏便に事を済ませろと命令をしたものの、本当に出来るだろうかと思う。エンクレイヴに根付く選民思想は今後の存続に関わってくるだろう。大半の将校は選民思想に染まっており、自身の上の政務に携わる指導者すらそれに染まっているのだから。そして、自身の手で忌まわしき産物の改良型まで作ってしまうのすら狂気だと。これで合衆国の再建、そして人類の復興などできるのだろうか。

 

オータム大佐は頭の中にある不安を打ち消そうと淹れたコーヒーを飲む。それはエンクレイヴの誇る食物生成プラントで生産されたコーヒー豆から煎れたものであり、一部のウェイストランドで出回っている戦前のものとは一味違う。香ばしい香りとカフェインによって彼の気分は晴れやかなものとなる。

 

もし浄水施設を接収し、エンクレイヴによるDCの統治が可能になれば晴れてエンクレイヴは正統な合衆国政府として返り咲く事が出来る。先人達が築き上げたアメリカ合衆国をこの地で再建できる。

 

 

「ポセイドンオイル基地の雪辱が果たせる・・・・」

 

オータム大佐は会議室の後ろに置かれたエンクレイヴの旗とアメリカ合衆国の旗を見ながら、手元にあるコーヒーをもう一度口にする。

 

オータム大佐が生まれる前のことであるために、エンクレイヴが全盛期の頃など知ることはなかった。そして、今は亡きアメリカ合衆国の軍人でありながら、戦前の美しい情景を見たことがない。アメリカ軍人でありながらも、帰属する国家はとうに失われたといえよう。しかし、彼は想う。再びアメリカという国を再建したい。スクリーンや写真でしか見ることができない世界をもう一度自らの目で見たいと。

 

それはもう間近だった。

 

ジェファーソン記念館さえあれば、自らが切望する景色を見ることができる。自分が死に何代かかっても構わない。自身の次なる子孫がアメリカを再建すればいい。その道のりは険しい。だが、それをやるのが自分の務めだ。

 

オータム大佐は残りのコーヒーを飲み干すと、会議で余った書類が偶然目に付いた。

 

 

「君がどのような人物か試してみようか」

 

そこにはこれから接収される施設にいるユウキの写真であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうすっかな・・・・」

 

「どうしたんだ?いきなり」

 

軍用のテントの中で俺は椅子に座って足を組み、腕を組む。俺の独り言に反応したのが、テーブルに置かれた陣地の配置を見ていたウェインだった。

 

「いやさ、何と言うかモテる男って辛いね★」

 

「リア充爆発しやがれ!」

 

ウェインは中指を立て、俺の状況を察することが出来た。そう、シャルに加えてアリシアまで関係を持とうとしていた。独り身のウェインに何故恨むなと言えるだろうか。

 

「教えた言葉を当の俺に使うとはね」

 

リア充爆発しろなんて言葉はこの世界にはない。だが、おれはウェインにその言葉を教えることにした。モテる男に何て罵倒すればいいと聞かれたのがキッカケだが、まさか自分に言われるなんて思わなかった。

 

「当たり前だ。シャルの次はアリシアとかてめぇーはドゥコフか?」

 

「酒浸りはやだなぁ」

 

「あれはハーレムの代表格だからな」

 

このウェイストランドにはドゥコフのハーレムの他にオールドオルニーの北東にあるデイブ共和国のデイブなどがいる。この辺りでドゥコフは有名で傭兵の時に一山当てて、好きな娼婦と惰性に過ごしている。

 

「どうしようか」

 

「だからなんだっての!」

 

「シャルにどう説明するかって事さ」

 

俺、アリシアの事好きなんだ!とか言ってみたらメスを投げられかねない。遠回しに言っても無理だろう。

 

「お前じゃなくてアリシアにやらせればいいだろ?」

 

「ああ、その手があったか」

 

同性ならば通じ合うこともある。一応、俺達の間では俺が言うことになっていたので変えとかなきゃならない。

 

「ありがとう、ウェイン」

 

「まあ、いいよ。それより陣地編成なんだが・・・・」

 

ウェインはジェファーソン記念館の周囲を記した地図を広げる。

 

「問題なのは、何故ここに機関銃陣地が?しかも設置された機関銃やミサイルランチャーは対空用のまであるじゃないか。一体、ミュータントは航空戦力なんて持っていないだろう?」

 

機関銃陣地は要塞を取り囲むように計6つ設置されていて、歩兵陣地には誘導装置が組み込まれたミサイルランチャーがある。配備された機関銃には空から来る敵を想定しているものもあり、上にも銃口を向けることが可能であった。

 

「念のためというか・・・・・ウェインは俺の話を信じるか?」

 

「信じるというか、何かあるんだろ?言ってみろよ?」

 

ウェインは真っ直ぐに俺の目を見つめる。それは嘘など通用しないようで、俺は言葉を選びつつ答えた。

 

「ウェインは輪廻転生って知ってるか?」

 

「輪廻?・・・それってあれだろ?仏教の生まれ変わって他の人生を歩むとかどうとか」

 

「稀にさ、それは記憶を持ったまま転生することもある。それは自分の知っていた世界だったとか」

 

「え、ちょっと待てよ・・・。てことは、お前は前世の記憶があり、この重装備はこれから来る敵に対してか?」

 

「まあ、そういうことになる」

 

ただ、敵が来るからなんて言っても信じて貰えるか分からない。なら、洗いざらい言ってしまった方がいいだろう。ウェインはう~んと腕組みをして考える。まともな神経をしているなら、俺の事は頭がおかしくなった男と判断する。戦前の人間なら精神病棟に投げ込んでいるだろう。すると、ウェインは判断ついたようで悩むのをやめた。

 

「じゃあ、一つ聞くが証拠は?」

 

「この世界にはなかった武器のアタッチメントを作った。あとは・・・これか?」

 

机の上に出したのはリンゴのマークが描かれた薄い長方体の機械だ。

 

「これは?」

 

「再生するから、こいつを耳に着けろ」

 

俺は機械に着けてある物をウェインの耳に着けて、“再生ボタン”を押す。流れたのは、前世でよく聞いていたグループの曲だ。

 

「うぉ!・・・これは凄いな。だが、戦前には・・・」

 

「戦前にこんな曲が流行った?それにこんな機械は生産していない筈だろ?」

 

ウェインに見せたのはアイポットで、核分裂バッテリーによって稼働している。いくつかの曲をスリードックに渡したが、それでもまだ余裕はある。たまに寝る前や暇になったとき、銃のメンテによく聞く。ウェインはこれに驚いたようで俺の見せた機械を見続けていた。

 

「これはアウトキャストの基地に放置されていた。前世で使っていた代物がなんであるのか、俺には分からない。だけど、これは証拠になるだろ?」

 

「ああ、分かった。・・・しかし、そんなのがいるなんて驚きだぞ」

 

ウェインは他にも出したゲーム機を触る。

 

「俺だって驚きさ。この世界じゃゲームはないから、シュミレーションか?いつもやっていた世界に入ってくるなんて、いきなり赤ん坊の姿なんか焦るわ」

 

ウェインは笑い、俺は出していた物を片付けながら笑う。

 

「お前も悪趣味な奴だ。なんだってこんな世界のシュミレーションなんてやってんだよ」

 

「その世界じゃ自分達が体感しえない物を酷く面白く感じる傾向にあったんだ。この世界で生まれてしみじみ思うけど、なんて物をやっていたんだと感じてしまうよ」

 

いつもテレビの向こうの主人公をコントローラーで操作して、バットで単身突撃したり、敵の猛攻の中で応射した。だが、それが現実ならば、それはまともな行動ではない。それに、一発の銃弾で人は死ぬことがある。そして、このウェイストランドの世界、とても過酷で荒廃していた。まともな感性なら既に参っている所だ。

 

「じゃあ、これから何が起こるか分かるんだろ。何が攻撃を仕掛けてくるんだ?」

 

ウェインは近くに置いてあったヌカ・コーラの栓を開けて、中の炭酸飲料を飲み干す。

 

「戦前の極右派の政治家と軍人、各財界が結社した秘密組織。アメリカを復活させるためなら容赦しない軍事組織・・・エンクレイヴだ」

 

「それってあれか?いつもここら辺一帯で放送されている・・・ジョン・ヘンリー・エデンだっけか?奴は自分をエンクレイヴだと言っているが、あれが仕掛けてくるって?」

 

エンクレイヴは名前だけはウェイストランドに浸透している。ここら辺でラジオのチャンネルを回せば、エンクレイヴが放送しているラジオかスリードックのラジオ番組が流れる。エンクレイヴが流すのは大統領を自称する男が自身の政策や自らを正統な合衆国政府と称していた。ウェイストランド人からしてみればそれは金持ちの道楽かマッドサイエンティストの所業という結論だった。

 

ウェインはよく聞いたことがあるためにそれが本当とは信じられなかった。

 

「ああ、彼の軍隊だ。奴らはかなりの重武装でくるはずだ。だから、俺達はかなりの武装で警戒に当たっている」

 

「さっきの話は信じるとして、エンクレイヴが攻めてくるなんてどうしても信じられないな。」

 

ウェインは頭を抱える。彼には転生の話は理解できても、エンクレイヴに対する備えだというのは理解できないようだ。それは当たり前だろう。見えない敵に備えるなんて誰しも信じるとは限らない。

 

「そうだろうな、だが今来ても可笑しくないのは理解して欲しい。」

 

俺は言うが、ウェインは怪訝な顔をしてテントの外へ出た。理解して貰えないことは分かっていたが、予想していたことにせよ辛い。

 

腰に取り付けていた水筒を手にとって、口に流し込む。乾ききっていた喉を潤し、座っていた椅子から立とうとした。

 

プロペラが回転するような音・・・・

 

それは次第に大きくなり、プロペラ音は一つではなく幾つもあることが分かった。

 

「本当に来やがった・・・・」

 

本当ならば、聞きたくなかった。記憶の間違いであって欲しい。頭の隅で自分の妄想ではないかと密かに考えていたこともある。しかし、現実は変わらない。

 

テントを飛び出し見たものはXVB02ベルチバードと呼ばれるティルトローターを回転させて近付く戦闘ヘリの編隊だった。5機の編隊で飛行し、搭載された機関砲で記念館に通じる橋の横に作られた櫓を破壊し尽くす。機銃掃射を行った機体はそのまま旋回して再び攻撃位置につこうとしていた。

 

「ユウキ、来やがったぞ!!」

 

ウェインは信じられないとばかりの表情でプロペラの爆音に負けず叫ぶ。先程まで話していた敵がすぐ目の前にいるのだから無理はない。自分ですら目の前で起こっていることすら信じられないのだから。

 

 

「皆に迎撃体制を取らせろ。ミサイルランチャーや重機関銃で落としてしまえ!」

 

近くにあったスピーカーのマイクの電源を入れてサイレンのボタンを押した。ジェファーソン記念館に設置されたスピーカーからは空襲警報のサイレンが鳴り響き、マイクのボタンを押した。

 

「敵機来襲!敵は空から来ている!各員配置に付け!非戦闘要員はマニュアル通りに避難してくれ!」

 

スイッチを切り、近くの木箱に収まった誘導装置が装備されたミサイルランチャーを担ぐとテントから飛び出した。

 

既に傭兵の中では死傷者が出始め、担架で負傷者を担ぐものや足りなくなった弾薬を運ぶ兵士が走り回る。陣地に置かれた50口径重機関銃がベルチバードに向けられ発射する。しかし、装甲が厚く、破壊することができない。そこら中に硝煙の臭いが立ち込め、ベルチバードの轟音と銃声が響き渡る。回転翼の風で砂埃は巻き上がり、視界が悪くなっていく。

 

俺はミサイルランチャーの筒にミサイルを装填すると、照準を下ろし、ペルチバードをカーソルに合わせた。機械音がピッピッピと断続的な音を鳴らし、レーザー照射を受けたペルチバードは照射を逃れるために旋回を行うが、既に遅かった。

 

断続音からピーと継続的な音になった瞬間に発射ボタンを押す。電気がミサイルの燃料に流され固形燃料に引火する。発射されたミサイルは本体のレーザー誘導に従って飛行し、ベルチバードの右翼ローターに被弾した。片方のローターを失ったヘリは高度を維持できなくなり、。黒い煙を上げ、ローターの回転速度は低下していく。次第に高度は低下していき、岸辺に墜落し、爆発した。

 

「敵は回転翼かローター部分が弱点だ!そこを集中的に狙え!」

 

弱点が分かったため、傭兵達は手持ちの武器をベルチバードのティルトローター目掛けて引き金を引く。小口径ライフル弾ならば弾く装甲であったとしても、12.7mm等の大口径マシンガンを食らえば只では済まない。ローター部分は装甲が厚いものの、空気穴等もある。ヘリの浮力を発生させるのはプロペラであるため、羽を破壊するのも効果的だった。

 

誰かがミサイルランチャーを発射し、プロペラに直撃する。浮力を失ったベルチバードは回転しながら川へと墜落した。大して深くない川であったため、ヘリは尾翼を上へ突き出して川底を抉るように地面へと墜落し、炎上した。上空にいるヘリは残り3機。しかし、敵の機銃掃射によって陣地では死傷者が続出していた。

 

「奴らは無敵じゃない!このまま押し返せ!」

 

「「「おぉ!!」」」

 

親しい仲間の死。誰だって嫌なものだし、戦いたくないと思ってしまう。誰かが鼓舞して戦わなければ自分達よりも強い敵には立ち向かえない。

 

ベルチバードの一機は主翼に設置されたミサイルを発射し、機関銃陣地を爆散させる。土嚢と金属片、そして傭兵の体とおぼしき一部が転がり落ちる。誰かのミサイルランチャーが発射され、ヘリは誘導できないよう、フレアを発射して命中するのを防ぐ。

 

すると、橋の向こう側から何かが接近してきた。

 

「おいおい、何だあれ!?」

 

アウトキャスト製のミサイルランチャーを構えたジムは橋の向こうから接近する何かを指差す。其処には俺も知らないエンクレイヴの兵器があった。コンバットタイヤを履き、銃弾を跳ね返して重火器を使用する。前世でも見たことのない形の装甲車両が車載の重機関銃を発射しながら戦場に突っ込んできたのだ。

 

「装甲車だ!重機関銃はタイヤを狙え!ミサイルランチャーは側面を!」

 

俺は叫ぶが、重機関銃陣地は装甲車に搭載された機関銃で蜂の巣にされ、塹壕は車載のミサイルポットらしき物から発射されたミサイルが直撃し、傭兵の死体が飛散した。

 

戦況は五分五分から劣勢へと変化する。一番前に設置した地雷原に装甲車は引っかかるが対人地雷なため被害は与えられない。一番前の塹壕では何人かの傭兵が粘っていたが、随伴歩兵のような人影が塹壕の中へ手榴弾を投げ入れた。手榴弾は旧軍が使っていた破片手榴弾のそれではなく、プラズマを発生させる光学兵器だった。高熱源のプラズマが放射され、塹壕にいる兵士達は溶かされ、悲鳴を挙げながら死んでいった。

 

「おいおい、パワーアーマーかよ!」

 

この前から来ていたガルシアはアサルトライフルをパワーアーマーを着たエンクレイヴ兵士に向ける。其処にはBrotherfoot of steelでは使っていない、エンクレイヴが独自に開発し生産したMk.2エンクレイヴ・パワーアーマーだった。黒く塗装されたボディーに光る双眼の光学機器。持っていたレーザーライフルはウェイストランドでも見掛ける物だが、品質は桁違いだった。

 

ガルシアはフルオートで5.56mm徹甲弾を発射する。胸や腹に当たった銃弾はパワーアーマーの装甲を貫通するが、エンクレイヴ兵士はそのままライフルをガルシアに向けて放った。

 

「ガルシア!」

 

恋人であるミーナはその光景を目撃する。レーザーはガルシアの肩に直撃し貫通する。俺は持っていたアサルトライフルをエンクレイヴ兵の頭部に狙いをつけて引き金を引いた。放たれた徹甲弾は兵士の顔を貫通し、光学機器は木っ端微塵に吹き飛ぶ。身体を動かす脳髄は破壊され、兵士は重力に従って倒れた。

 

「ガルシアが負傷!記念館に連れていけ!」

 

「陣地が持たない!早く後退を!」

 

塹壕にはミサイルと迫撃砲が落とされ、機関銃陣地の殆どが破壊された。敵は装甲車をもう一台投入したらしく、随伴歩兵と共に陣地に接近しつつあった。記念館のエントランスに近づきつつあり、遮蔽物のコンクリートの塊に身を隠す。

 

「ウェインはそこの地雷ボックスから地雷を幾つかばらまいてくれ。プラズマ地雷とかいろいろ有るはずだ。負傷者を集めて記念館に退却。非戦闘員が避難完了するまでエントランスで持ちこたえるぞ」

 

「おいおい、俺たちが持ちこたえるのか。さっさと逃げちまおうぜ」

 

誰かがそんなことを言い始める。最近来たばかりの傭兵なようだが、逃げたくなるのも無理はない。

 

「なら逃げればいい。だが、逃げて奴らが見逃しておくと思うか?多分お前のことを追い回した末に八つ裂きにするはずだ。死にたければ勝手にしろ、生き残りたかったら俺の指示に従ってくれ。俺だって仲間の死を見たくない!」

 

それは本心だった。例え雇い主と雇われた兵士という関係であっても、この何ヶ月間は誰も死なずにここまでやってきていた。同じ釜の飯を食った仲であるし、雇用主と雇われというような関係ではない。正規軍の兵士達のように、後ろを任せられるような関係になった。言うなれば戦友である。友を見殺しになんて出来るわけがなかった。

 

「何人死んだ?」

 

「ステファンとヴィンセントだ。あと、この前入ってきたラノスの傭兵仲間も」

 

最近になって、顧客の知り合いに小グループの傭兵チームを率いていた人物がいたらしく、3日くらい前にこちらに引き入れた。しかし、彼らが来る前のメンバーはウェイストランドの平均的な傭兵と比べても練度が高く、善人だったのだろう。ラノスと呼ばれる傭兵とその仲間はウェイストランドの典型的な柄の悪い傭兵だった。彼らの平均報酬は60と満たないが、数で任務を強引に完了させている感じがあった。数任せの戦術はエンクレイヴの攻撃になす術もなく散っていった。

 

ステファンとヴィンセントは店を始めてからと言うもの、かなりの常連だった。つい、数時間前まで朝飯を食って笑い合っていた仲であった人がこの世にはもう居ないことを考えると、憎しみと悲しみがこみ上げてくる。

 

「リーダーのラノスは?」

 

「MIA(行方不明)だ」

 

仲間を盾にして逃げたのか、それとも仲間と共に蜂の巣になったのかもしれない。どちらにせよ、かなりの人数が行方不明になっている。戦死者はもっと増えることだろう。

 

「しゃあない・・・・。全員中に入れ!後退だ!」

 

ウェインに地雷を撒くよう指示し、コンクリートに爆薬を設置した。エンクレイヴの兵士が来たら爆発を起こさせるつもりだった。

 

「おい、ユウキ!爆薬を幾つかくれ!」

 

既に頬がパックリと開き、煤と血でコンバットアーマーを汚したジムは走ってきた。

 

「何をする?!」

 

「彼処の建設途中の櫓を爆薬で破壊して、扉を塞ぐんだ!」

 

記念館周辺には櫓が4つあり、正面入口とエントランスに一つ、川に面したところに一つ、そして完成間近の櫓が記念館入口のすぐ近くに建設してあった。その柱を破壊して記念館の扉を塞いで、エンクレイヴの進行を遅らせようと考えたようだ。記念館に篭城しようとも、いつかは突破されてしまう。それよりも突入されるのを遅らせれば、なんとかなるはずだった。俺はバックパックからC4爆薬を幾つか渡す。

 

「よし、これで」

 

「頼んだ!早く戻って来い」

 

近づこうとするエンクレイヴ兵の頭に徹甲弾で撃ち殺し、腰に取り付けたプラズマグレネードを投げる。撃たれた兵士を助けようとした兵士もろとも爆発に巻き込まれ、プラズマ粘液に変化する。

 

「そこの機関銃手!戻れ!」

 

少し前にいた機関銃を撃っていた女の傭兵を叫ぶが、全く聞こえず近づいてくるパワーアーマーに掃射を加えていた。俺は敵の弾に当たらないよう、遮蔽物に隠れつつも穴を掘って土嚢で固めた機関銃陣地にスライディングして中に入った。

 

「記念館に後退する!早く行け!」

 

「でも、敵が!」

 

その会話の間に数発のレーザーが頭上を掠めていく。持っていた破片手榴弾を投げ爆発する。しかし、威力不足なのかパワーアーマーを着るエンクレイヴ兵に決定打を与えることはできない。アサルトライフルで牽制射撃を加え、重機関銃に地雷にC4を取り付けた爆薬増量タイプを設置して、腰に装備した発煙手榴弾を投げ込んだ。

 

「これで敵の視界を遮る。その間に向こうの扉に撤退する。」

 

発煙手榴弾によって次第に赤い煙で周囲が消えていき、敵の位置も敵から見える自分たちの姿も隠れることが出来た。アサルトライフルの弾倉を交換して叫ぶ。

 

「今だ!GO!GO!GO!」

 

煙で見えないものの、アサルトライフルを腰だめにしてフルオートで撃ちまくる。傭兵は入口に走り、もう一回手榴弾を投げ込み、入り口まで走る。あと十歩、アサルトライフルは途中でレーザーが命中してしまい、既に捨てた。両手まで動かして入り口まで全力疾走する。

 

「ヘリからのミサイルだ!伏せろぉ!!」

 

誰かの叫び声がして、後ろを見る。こちらに機体を向け、主翼に装備されたミサイルポットからミサイルを発射するペルチバードの姿だった。

 

狙いはこの俺だろう。急いで遮蔽物を探し其処に飛び込む。飛び込んだ瞬間、先程まで走っていた場所にミサイルが着弾し、金属片と土砂を散らせた。爆発の衝撃で視界がぼやけ、耳鳴りが酷く、周囲の音が聞こえない。

 

「あ・・・・b!!!!」

 

女性の苦痛に耐える叫び声が聞こえるが、朧気で聞こえない。そこジムらしき人物走り寄ってその女性の両脇を掴んで引きずっていく。俺は伏せの状態でホルスターから10mmピストルを引き抜いて、エンクレイヴ兵を撃つ。小口径の銃弾はパワーアーマーの装甲を弾き、来ている兵士へ貫通しない。撃たれたことに気が付いた兵士はプラズマライフルを俺に向けた。

 

シャルがレイダーの男をプラズマライフルで撃ち殺した光景がフラッシュバックする。シャルが放ったプラズマはレイダーの胸に直撃し、着ていたものを溶かし、肉まで溶かした。男はそのままショック死したが、シャルは無惨な殺し方に元々抵抗を覚えていた。貰ったプラズマライフルはそれ以来使っていない。

 

ああ、俺って死ぬのか。

 

フラッシュバックした光景が自分に振り掛かる。対プラズマ弾や光学兵器を想定したパワーアーマーなら未だしも、着ていたのはただプレートキャリア。光学兵器など貫通してしまう。

 

そう思い、死にたくないと体をのけ反ろうとした瞬間だった。

 

スナイパーライフルの銃声が聞こえ、エンクレイヴ兵の頭部に命中し、ドスンという大きな音と共に崩れ落ちる。撃ったのはおれを見つけたウェインだった。

 

「これは貸しだからな!あとで女を紹介しやがれ!」

 

「・・・すまん!」

 

肩を担がれ、急いで記念館の入り口に急ぐ。最後に俺とウェインが入りハッチが閉まるところを見届ける。其処には破壊された塹壕と機関銃陣地、途中で倒れた仲間の傭兵。すべては破壊され、黒く塗ったパワーアーマー着る兵士が闊歩する。扉は閉め出され、ジムに起爆装置を渡される。それは櫓や他の陣地に仕掛けたC4爆薬のスイッチだ。

 

「起爆する。皆伏せろ!」

 

通路の奥に避難し展示エリアの曲がり角で体を隠し、起爆装置の安全装置を外して起爆ボタンを押す。外で爆発音が響き、施設が軽く揺れる。そして、櫓が崩れる音を聞いて、誰もが成功したと溜め息を吐いた。

 

 

「ウェインは負傷者と共に避難経路の避難場所まで後退。ジムは地下に避難している非戦闘員を誘導してくれ。残りは入り口に地雷を設置して侵入されるのを防いでくれ」

 

「おいおい、俺達は捨て駒じゃないんだぜ」

 

「分かっている。彼処に補給所があるが、好きなの持ってけ。幾らか少なくなっているが、それでいいだろ?」

 

指差した先にはプロテクトロンの管理する補給所がある。緊急事態の時、保安体制は解除されて自由に武器弾薬が使用可能になっている。それにさっきの防衛戦でかなり消耗している。弾薬の補給は必要だろう。

 

避難を開始し、非戦闘員と負傷者を誘導する班と侵入に対処する班に別れて行動を開始する。エンクレイヴはすぐにでも突入してくるだろう。来る前に避難経路からBOSの管理するペンタゴンへ急がなければならない。

 

避難を開始し、地下の入り口から研究者や日雇いの技術者まで怯える様子で避難を行う。この前、避難訓練もどきをやって彼らから不評を買った。なぜ、こんなことをやるのか?自信がないのかと。備えあれば憂いなし。と言い聞かせて彼らも嫌々ながら参加したが、まさか実践することになるとは夢にも思わない。すると、その避難している人間に計画の主要メンバーであるジェームズやDr.リーがいない。そして、シャルの姿も居なかった。

 

「ジェームズやシャル、Dr.リーは?」

 

「さっき、他の傭兵と一緒に浄化チャンバーの方へいったぞ」

 

白衣を着た科学者の一人が言うには、傭兵と少し喋ったあと「持っていかなきゃならないものがある」とDr.リーとシャル、ジェームズは傭兵を連れて避難待機場所である地下からチャンバーへと移動したらしい。

 

「そうそう、見知らぬ柄の悪い傭兵もいたぜ」

 

それは多分行方不明のラノスだろう。自分の持ち場を離れるなんて契約違反も甚だしい。しかも、「も」ということは生き残った部下と何をやっているのか。

 

「ジム、俺はチャンバーの方に行っているから後は頼んだ。」

 

「おいおい、指揮官不在でどうするつもりだよ」

 

「ちょっとジェームズさんを迎えに行くから避難場所で待機してくれ。3分待っても来なかったら、直ぐにペンタゴンまで避難してくれ」

 

「わかった。だが念の為に・・・・、ドノバン!ユウキとその家族の護衛頼む」

 

「わかった、ユウキ行くぞ」

 

口ひげを少し生やした傭兵のドノバンは中国軍アサルトライフルを携え、行く準備は出来ていた。

 

「負傷者と非戦闘員が室内から退去したら、直ぐに傭兵を撤退させろ。彼らはペンタゴンに着いたら、自由だと伝えてくれ」

 

「・・・・わかった。早く戻って来い」

 

「ああ」

 

いつ、突入してくるか分からないため、補給所で自分の使う武器だけpip-boyに入れていたのは幸運だった。SCAR-Hに徹甲弾を入れた弾倉を装填し、ドノバンと共にチャンバーの方へ走っていく。

 

しかし、いつまでたってもエンクレイヴは突入する気配すら見せない。中にいる研究員を生け捕りにするためなのだろう。

 

避難する科学者や労働者の列を抜けてジェファーソン像を包むチャンバーのある部屋の前に到着し、扉を開ける。そこはいつもどおり、機械的なゴウンゴウンと音を立てていて、チャンバーの中にある濁った水が見えていた。

 

「ジェームズさん!早く逃げてください!」

 

扉を開き、チャンバーの前に来た俺は叫ぶ。しかし、ここから見てもあの三人の姿は確認できない。

 

「おい、貴様!何を!」

 

後ろから聞こえるドノバンの怒鳴り声を聞いて、銃を構えて後ろを振り向く。そこには膝を撃ち抜かれたドノバンと行方不明になっていたラノスが44口径マグナムを構えて立っていたからだ。

 

「野郎ぅ!」

 

ラノスにSCARを向けて引き金を向けようとするが、横から伸ばされた腕がライフルを掴み射線がそれて壁に弾痕を残す。伸ばしてきたのは黒い装甲のパワーアーマーを着たエンクレイヴ兵だった。先に電気ショックを取り付けたスタンロットを俺に押し付けようとするが、スタンロットを避けて両手でパワーアーマーの頭をもち、あらぬ方向へ無理やり回す。ゴキッ!っという鈍い音と共に兵士は倒れる。チャンバーの階段から降りてくるパワーアーマーを着た兵士がレーザーライフルを構えて降りてくるが、SCARを構えて引き金を引いて頭に銃弾を叩き込んだ。

 

「シャル!」

 

そう叫び、チャンバーの所へ走ろうとするが、脇から来る人影が見え、瞬時にそれに引き金を引いた。弾は人影に当たることなく、振り下ろされたスタンロットをSCARで受け止める。

 

「・・・な、なんで!」

 

そこには告白をしたアリシアがスタンロットを振り下ろしていた。

 

「すまない、ユウキ」

 

そう言い残すと、一瞬のうちにSCARは弾かれて腹にスタンロットが当てられ筋肉が弛緩するほどの電流が体に流され、声にならない悲鳴を上げた。

 

なんで、アリシアに殴られたんだ?

 

どうして、エンクレイヴと共にここにいるんだ?

 

アリシアはエンクレイヴ・・・・・?

 

 

 

 

 

 




次回は多分二月でしょうか?

等々、エンクレイヴの登場!

仲間の裏切り!

主人公はこの試練に耐えられるか!?


これから原作とは違った展開が始まります(前からか)


誤字や脱字、ご意見やご感想などがありましたら是非ご連絡ください。


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二十七話 死別

皆様方、お待たせしました。

前話より少し短めです。


はじめはアリシアの語りです。では・・・・どうぞ!












私は2255年、10月11日に生を受けた。周囲には私はニューヨークで生まれたと嘘をついているが、本当は違う。

 

 

戦前の極右政治家や軍人、軍需産業などを中心とした影の行政機関。アメリカの影で暗躍していたエンクレイヴという組織で私は育った。父は基地司令、母は数少ない民間人として。二人とも穏和な性格で、二人は私を科学者にしようとしていた。私にはその才覚は無かったが、家族の愛を一心に受けていた。あの時までは・・・・。

 

 

私が幼少期に入り、物分かりが着く頃になると組織も変わり始めていた。既に私が生まれる時にはエンクレイヴの首脳陣は戦死しており、東海岸側にいる私達と西海岸にいる司令部との連絡が取れなくなっていた。父は基地を解放し、地元の人々を救済しようとしていた。エンクレイヴの方針とは全く異なるが、部隊の殆んどが父に賛同した。元々、西と東では地理的要因はもとより、思想の違いすらあった。

 

東海岸に展開中のエンクレイヴは全て軍人であり、政治家などの行政を司る役人は全て西海岸に位置していた。更に、左遷された者は東に飛ばされることがあり、東に展開する兵達は上層部に不満があった。東海岸のエンクレイヴは時が立つにつれてエンクレイヴでは無くなっていった。

 

しかし、米軍極秘シェルターの一つから緊急信号が発信された。そのシェルターの名前は『レイヴンロック』と呼ばれる。核戦争後のアメリカを再建するために、行政や経済、あらゆる情報を保管していくデータベースがある他、各生産設備や工場、研究施設が作られた最重要施設だった。エンクレイヴのオイル基地司令部が失われて以後、兵員の配置が行われなかった施設であるものの、中の者が信号を発信したらしかった。

 

その信号を発信した人物は「ジョン・ヘンリー・エデン」。自身をエンクレイヴの指導者であると宣言し、ポセイドンオイル基地を脱出した高級官僚の一人であると言った。彼の全軍集合命令によって、各基地の司令などがレイヴンロックに集結した。そこには西海岸で生き残った部隊も参加し、老年のオータムシニア技術少将と副官で息子のオータム中佐も参加した。

 

東西のエンクレイヴは考え方がまるで違い、会議は辛辣を極め、元々上層部に不満を持っていた東海岸の将官は「国家反逆罪」の汚名を着せられ、銃殺刑に処せられた。まるで共産主義国の粛清の如く。指揮官の首はすげ替えられ、選民思想に染まった将官が配置される。

 

私の住む基地に来た将官は過去にカリフォルニアで生存していたvaultの住民をミュータントに変えた男で、基地内では既に反乱間近だった。私と母はその基地からレイヴンロックに移送され、半ば人質としての生活を余儀なくされた。基地の隊員達は基地司令であった父に忠義を尽くしているため、その母子を人質にすれば反乱しないと思ったのだろう。

 

しかし、そう簡単に事が進む事はなかった。上層部の思惑通りにはいかず、基地は武装蜂起し、基地司令を射殺するとエンクレイヴからの離脱を宣言。基地の兵器などの物資と共に行方を眩ました。残された私と母は存在価値のない者となった。母と私は離れ離れになり、私はエンクレイヴが近年作り上げた組織へと強制的に入らされた。その組織の情報は情報局の局員と参謀本部の数名、オータム少将、そして大統領の極一部の高級官僚のみに限られていた。

 

その組織の任務はウェイストランドに点在する集落や武装集団についての情報などを収拾し、計画中であるウェイストランド再入植計画の候補地を選定する事だった。情報収集の他にも破壊工作や暗殺任務などが与えられ、全てにおいて完璧を追求する。戦前の諜報組織をモデルとしたその組織の訓練は熾烈な物だった。戦前の精鋭部隊でさえこんな訓練は行わない。当時、15の私は脱落の危険があったものの何とか訓練を終えることが出来た。

 

すべては離れ離れになった母と再会するためだった。私が良い成績を残せば母は解放されて無事に二人で過ごせる。私は自分の身分を偽ってウェイストランド中を探索した。

 

Brotherfoot of steelや分派のアウトキャスト。傭兵集団として最大の勢力を誇るタロンカンパニーなどを調査し、テンペニータワーやメガトン、カンタベリーコモンズなどにも赴いた。只の傭兵として行商人の護衛をしながら調査した。エンクレイヴに忠誠を仕えれば母と共に暮らせる。アメリカへの忠誠はあったが、母さえいればいい。

 

だが、私に運命の女神は微笑んでくれなかった。

 

流行り病によって母が死んだ。エンクレイヴの医療であっても治りはしなかった。もしくは反逆者の妻に付ける薬は無かったのかもしれない。どちらにしろ、私が戦う理由は無くなってしまった。

 

母と父は死んでいき、私は一人になった。そして、雇っていた商人は余り通らない道を選び、スーパーミュータントの待ち伏せにあった。仲間は意図も容易く四肢は千切れ、商人の頭は捻り潰された。

 

唯一生き残った私はミュータントに拘束され、引きずり回された。いつ食われるか分からない恐怖に怯えて、足に取り付けた32口径ピストルを使えないまま、手を針金で固定されていた。力尽き倒れたところで服を千切られ、死を覚悟した。いや・・・覚悟しきれなかった。最後まで生きたいと願ったのだ。母が死んだと巡回していたアイボットから母の死を教えてもらってから、私は死のうかと悩んだ。家族と最後まで一緒に居られなかったから、母の元に逝けばとホルスターから銃を手に取った。しかし、いつまで経っても引くことが出来なかった。まだ、死にたくないと思った。母の元に行きたい気もあるが、生きたいと願った。

 

その願いだけは神に訊いて貰えたのかもしれない。

 

近くにいたスーパーミュータントはスナイパーライフルによって射ぬかれた。私にとって彼は命の恩人だった。ここらでは珍しい日系らしく、もう一人の少女と共にVaultから少女の父親を探しに来たと説明された。しかし、彼はよく私を殺さなかったと感心してしまう部分がある。それともお人好し過ぎるのか。

 

助けてもらった直後、起きたのはリベットシティーの中にある医務室だった。そこは戦前に軍医が使っていた場所でもあるが、私にとってはあまりよい場所とは思えなかった。ユウキには、ミュータントを製造する悪の組織ではないかと錯乱していたと説明したが、大体の所あっている。ミュータントではないが、一度エンクレイヴの任務で我々と同様の科学技術を誇る『連邦』の施設に侵入したときに一度捕まってしまった事がある。五体満足で無事だったが、あの時に部屋に響いた同室の捕虜の悲痛の叫びや気を狂わされた男の雄叫びが未だに耳に残る。起きたとき、その時の事がフラッシュバックし、その場にいた町医者を気絶させてしまった。直ぐに、正気に戻ったが、その直後に助けた本人が来るとは思わなかった。その時助けて貰ったことが分からなかった私は彼を『無力化』するべく、動き出した。

 

ユウキの動きは・・・訓練された動きであったものの、実戦には程遠い。直ぐに勝敗は決まる筈であった。しかし、予想外の抵抗にあった。ユウキは既に絶たれている柔道の技術を使い、私を投げた。エンクレイヴに格闘を主とする教官は一人いたが、柔道という技術は既に廃れているため、しっかりとは教えてくれなかった。しかし、彼は爪が甘く格闘戦はやったことが無いのか、直ぐに体勢を整えて彼の首を押さえた。殺すつもりは無かったが、気絶させておけば逃げる時間は稼げた。しかし、彼の恋人であるシャルロットに銃を向けられたことで私の思惑は潰えた。その地区を警備していたセキュリティーに連行されて、独房に入れられた。

 

 

リベットシティーの牢獄は簡単だった。色仕掛けで警備員を誘惑し、近付いた所で首を絞めて気絶させる。身ぐるみを剥がして、服装を頂戴する。黒のコンバットアーマーのそれを着込み成り済まして武器庫で使える物を盗んでリベットシティーから逃げる。後は、気の向くままに旅でもしようかと思っていた。実際、組織の中では行方不明になった諜報員が監視の目を逃れてウェイストランドの生活に溶け込んでいる者すらいる。

 

エンクレイヴは現在表だった活動をしていない。人員が脱走したとしても、情報局のエージェントが脱走兵を殺す。しかし、彼らの行動を知り尽くす私ならそのエージェントから逃げるのは容易である。私は自分が生まれる前にエンクレイヴが敗退した西海岸まで逃げることも考えた。

 

しかし、ジェファーソン記念館に歩いていく助けてくれた二人を見つけてしまった。何時もなら私は彼らのことを無視してさっさと逃避行をする筈だった。スナイパーライフルのスコープから覗く彼らの笑みを見て思い出してしまった。嘗て私が一緒にいた基地の皆の笑み。父や母が笑い合い、平和な一時。。

 

二人はジェファーソン記念館のミュータントを一掃する為に、レイダーを囮にしてミニ・ニュークを爆発させたりした。さらにはヌカ・ランチャーを迫撃砲代わりにするなど、突拍子もない事をしていく。それは任務で過ごしてきたウェイストランド人とは少し違った行動だった。

 

私の足はそのままジェファーソン記念館へと動き、携えたスナイパーライフルに弾倉を入れた。今までの私ならここで見ない振りをして帰る筈だ。だが、妙な胸騒ぎと気掛かりが私をそこへと導いた。

 

ジェファーソン記念館へは数少ない排気ダクトを通り抜け、道中出会うスーパーミュータントを殺して内部を探索した。内部は大規模な浄水プラントであり、何万ガロンもの水を綺麗な水へと変えることが可能だ。しかし、フィルターを通して行うタイプの物が多く、フィルターを製造する設備がないこの地では限界がある。

 

地下の階層を探索すると、一体のスーパーミュータントが上の上層階へと行こうとしていた。大分殺気だっており、正面からの攻撃は危険と判断して私は咄嗟に天井の換気ダクトへ身を寄せる。上から聞こえる銃声とミュータントの叫び声はあの二人が戦っている音なのだろう。ダクトから降り、二人の場所へ移動する。丁度、目に入ったのは殺されそうになるユウキと泣き叫ぶシャルロット。大抵は二人が死んだ後でミュータントを始末して物資を回収するのが手なのだろう。だが、ミュータントが振り上げるスーパースレッジを見ると、幼少時代の記憶がフラッシュバックされる。母と父、そして微笑みかける父の部下。あの二人が死んだら二度と戻ってこない。

 

携えたライフルを構え、引き金を引いてミュータントの脳髄を破壊する。

 

その後、私はユウキに助けて貰ったことを聞き、曲がりなりにも恩返しをと思った。「恩には恩で報いろ」人らしい生活をするためにはして貰ったことにはそれ相応の恩返しをしろと亡き父に言われたからだ。父なりの生き方でもあったのだろう。ウェイストランドの荒廃を見て、彼なりの考えがあったのかもしれない。

 

二人と旅をしていると、幼い頃の家族を思い出す。絶えない笑みと言うべきか、こんな荒廃した世界でなぜ楽しく過ごせるのか。私は不思議でならなかった。メガトンに着くと、ユウキが言っていた通り、街の中心に武器専門店を構えていて、大盛況の様子だった。

 

店内は私の知らない武器の数々。昔軍が使用していたライフルも彼の独創的な改造方法で周辺の傭兵からかなりのリピーターが存在していた。それは、戦前のガンスミス(銃器職人)と比べても大差ないレベルだろう。店は弟子なのか養子なのか分からないブライアンという少年を店番にしていた。彼はMr.ガッツィー型ロボットの助けも借りて、店番をしており、遠征しがちのユウキとシャルの代わりに店の運営もやっていた。それでも、子供には限界がある。周辺で活動する仲の良い傭兵や雑貨店を営むモイラも応援に来ることになっていた。

 

自分の子供でもない彼をどうして育てるのか。私は疑問に思いユウキに尋ねた。最初は、罪滅ぼしのようなものと言い、彼の親を殺したのかと警戒した。だが、私の勘違いだった。ブライアンはユウキに助けを求め、炎を吹くジャイアントアントを撃退したが、彼の父は既に亡くなっていた。ユウキは自分が助けられなかった事に力不足と責任を感じて、引き取ることにしたらしい。さらに、ゴーストタウンとなった街に少年一人にすることは辛いと思ったらしく、メガトンの家に住まわせて彼に銃の専門知識を教えるまでに至った。

 

ただのウェイストランド人はそもそも「助けを求める」ことはない。求められたとしても、助けようとはしないのだ。血のつながりや友人などは助けるだろう。だが、赤の他人を助けるなんて普通はあり得ない。私はエンクレイヴの任務でウェイストランドに出たが、土地も加えて人の心も荒廃していた。それを見てどうやって人類の復興が出来るのかと自問してしまうほどだ。

 

だが、ユウキはウェイストランド人が行わない、助ける行為を行った。しかも、よくあるような不幸な事故を自身の力不足という結論づけることなどない。さらに、助けたブライアンに衣食住を用意し、専門知識を授けるなど虫が良すぎるといっていい。

 

Vault暮らしだからだろうか?

 

いや、それも要因の一つだが、ユウキの性格がそう言った物なのだろう。正義感が強く、善と悪の見分けが付き、そしてお人好しだ。

 

今にして思えば、その時のユウキが話した事で惚れていたのかも知れない。それか、ミュータントに殺される瞬間に見たあいつの顔を見たためか。どちらにしろ、私が久々に好きという感情を抱いたのは間違いなかった。

 

だが、ユウキには思い人がいた。両者共に惹かれあっているのにくっつくことはない。戦前の恋愛小説のようであった。どうやっても、私がシャルロットになることは出来ない。嫉妬という感情も少しは芽生えた。だが、私のような人間がユウキと結ばれて良いのか?

 

私は何度もエンクレイヴのために関係ない女子供を殺してさえいる。こんな汚れた女に彼は振り向いてくれるのか。振り向いたとして、彼は私と結ばれて本当に幸せになれるのか。

 

どちらが幸せになれるのか。それは火を見るよりも明らかだ。私はユウキが幸せになればそれでいい。酒に酔うユウキの背中を押して、勢いでシャルロットを抱かせようと目論んだ。出だしは少し悪いが、互いが惹かれ合っているのだからどうにかなる。最後にと、ユウキに接吻して、心の中で区切りを付けた。私は見守る側に徹すると・・。

 

 

だが、シャルロットの父。ジェームズを助ける最中、Vaultに設置されたシュミレーションモジュールを起動させて入る必要があった。それは、Dr.スタニラニウスが設計した他に類を見ないシュミレーションの一つであり、エンクレイヴの施設にあったものとは比べものにならない。私とユウキ、そしてシャルロットはあいているVRポットに入り、シュミレーションの中へと意識を飛ばした。

 

博士の作ったシュミレーションはまるで現実と大差ないものだった。だが、内容は非現実的なものだ。嘗てのアメリカ合衆国の住宅地をモデルとしたその場所は、シュミレーションに囚われた当時生きていた住人が暮らしていた。博士は住人に暗示と精密に作られた記憶に従って、彼らはそれを現実と疑わなかった。迷い込んだ私たちも例外ではない。三人には別々の記憶を植え付けられた。アメリカ軍人としての記憶。目を瞑れば今でもその記憶の光景が目に浮かんでくる。その人物の記憶にあった親の顔や高校のボーイフレンド、ウエストポイント(士官学校)で出会った男。それは上塗りされた別の記憶であるものの、それが現実ではないかと思えるほどリアリティのあるものだった。VRポットから解放された私はすぐに設置されたトイレに駆け込んだ。何が現実で何が仮想空間の記憶なのか、そして自分が一体誰なのか。

 

Vaultにいたことや自分の顔を見て、自分の名前と所属。そして父や母を思い浮かべる。しかし、どうしても、どれが自分の記憶か分からなかった。上塗りされた記憶はもしかしたら本物ではないのか。2277年までの記憶は過酷で熾烈なものだ、もしかして、今いるこの世界が仮想現実(ゲーム)だったら?

 

現実と仮想空間。

 

数日経った後も私の頭の中ではこの疑問が蠢いていた。しかし、その疑問は意外な形で結論が出ることになった。

 

 

浄化プロジェクトを完遂させるため、動かせる核動力のトラックに乗り、ジェファーソン記念館に向かっていた。その目と鼻の先にある旧国立図書館前の公道を走行中にそれは起こった。図書館の反対側に位置する建造物の屋上から一発のミサイルが助手席に命中した。普通なら死んでもおかしくない。いや、シャルロットが手術をしている最中に何度も心肺停止に陥った。足の骨は砕かれ、内蔵は抉られた。まさに生きていることが奇跡。そして、五体満足で生きながら得るなど夢のようなことであった。

 

死を体感し、この世界が現実であったことを知り、そしていつ死ぬか分からないと実感した。

 

エンクレイヴから半ば離脱し、数多くの修羅場を越えていてもそれを実感するのは数少ない。死ぬのはやはり嫌だ。だが、何もしないでいるのは更に嫌だ。

 

未練がましい女だろう。

 

既に互いの愛を確かめ合った二人の間に入るのだ。歪な関係になることは百も承知だ。しかし、自分が生きた証や自分が想う人物に自分の思いを伝えないのは辛い。

 

 

私は怪我を押してユウキのいる外に出て、自分の気持ちを伝えようとした。拒絶されても構わない。伝える前に死ぬのは嫌だった。外に出て、私はユウキのいるテントへと向かおうとした。しかし、その時私は外に漂うあるものを見つけてしまった。

 

デゥラフレーム・アイボット計画の量産型である、広域ラジオ放送と偵察カメラ、潜入している工作員の連絡用として使用されるエンクレイヴ・アイボットだった。

 

それは私が追うことを予期して、施設の反対側に移動する。周囲の傭兵はアイボットの事を警戒もせずに通り過ぎていく。それがエンクレイヴの偵察ドローンだとは知らないからだ。外周部のオートタレットが設置された機関銃陣地に移動した私にアイボットは手のひらサイズの紙をプリントする。

 

それは潜入した工作員に対する命令や通達などを行うもので、色ごとに分けられている。赤は緊急度の高い命令、青は通常の命令。そして単なる通達や情報は白い紙だ。母が死んだときは白の紙が渡された。

 

そして今回渡されたのは赤。かなり緊急性かつ重要な任務だ。

 

命令書の差出は情報局ではなく、様々な部署を統率する統合参謀本部直属の命令だった。文章には、ジェファーソン記念館で起こっている事の報告と監視。そして、今後接収する為に必要である敵性部隊の配置の情報を流せという命令だった。

 

今更、エンクレイヴの任務を遂行する気はあまり起きなかった。アメリカへの忠誠は母の死と共に薄れていた。しかし、エンクレイヴの軍事力や科学力はウェイストランド随一だろう。Brotherfoot of steelも其なりの力はあるが、エンクレイヴの方が優れている。もし、私が任務に復帰しなくても、誰かがここをスパイする。そして、強襲部隊がここを襲って制圧するだろう。なら、内通者として私は最小限の被害で押さえられるよう情報を流せば良い。どちらにしろ、エンクレイヴに接収されるのは時間の問題だった。

 

 

 

身体が治った後も私は無気力なままでベットに横たわった。休憩していた技術者からの誘いでカードをする自堕落な生活に浸った。数人の技師は私の身体目当ての不届き者もいた。ユウキのことを想う私にとってそれは不快の何者でもない。

 

そしてユウキは何時ものようにして、私のところへやってきて気に掛けていた。傭兵稼業は身体が資本となるもの、ここで腐る私を何とかして助け出そうとしていた。まだ、歪な関係になるのを拒む気持ちが合ったが、やんわり断ろうとする私に技術者が待ったを掛けたお陰で地下道の掃討をすることになった。

 

武器を手にとり、何時にも増して私は気が重かった。そんな私をユウキは扉を開けようとする間もずっと私を励ましていた。

 

エンクレイヴの潜入者(スリーパー)として任務を行うことに罪悪感を抱き、自身のことを想うユウキの事を直視することも憚られた。記念館の地下のスペースに作った浴場で肌を触れ合わせ、気持ちを伝えた。だが、どうしても罪悪感が拭えない。後ろめたく感じてしまった。既にユウキやシャルを裏切っていた。だが、これが最善の策だった。他に手はない。二人を死なせずに済むのはこれしかないのだ。

 

 

 

「アリシア・・・何でだ!?」

 

ユウキは怒りと驚きに満ちた目を私に向ける。

 

そんな目で見たいで欲しい。

 

 

これしかなかったのだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろ手に縛られ、膝を着かされた俺とドノバン。彼は膝を44口径マグナムで撃ち抜かれたため、出血が酷い。早く応急処置しないとまず助からない。しかし、彼を撃ったラノスは無理やり膝を着かせて、苦悶の声を挙げさせていた。

 

「はっ!粗暴なウェイストランド人はこうやって教育する方がお似合いだね」

 

ドノバンが倒れそうになる所を蹴り、無理やりにでも膝立ちさせようとしている。見ているだけでラノスを殺したかった。

 

「やめろ、ラノス。そんなことをして何になる。」

 

スーパーミュータントから助けて、今まで一緒にやって来たアリシアはこれまでの表情は一変して険しいものに変わっていた。彼女の顔を見ている内に、混乱していた頭は収束し、怒りが頭の中に芽生えた。

 

「アリシア・・・何でだ!」

 

叫ぶ俺の事を何もないかのような表情で見る。まるで俺が叫んでいないかのように。

 

「あれは嘘だったのか?俺達が会うのも全て浄化プロジェクトの為だったのか!?」

 

ミュータントから助け、そして俺の事を助けるまで。近づくための口実だったのか。怒りと悲しみ、深い喪失感を得てアリシアを見る。俺の叫び声は全く聞こえないかのようだ。すると、チャンバー付近で男の笑い声が響く。それは浄化プロジェクトに入っていた傭兵や研究者の声ではなく聞き覚えの無い声だ。チャンバーの階段から壮年でゲルマン系の将校が降りてきた。佐官クラスが愛用する米軍のコートに軍帽を被った男は火のついたタバコを片手に近づく。

 

「彼女の名前はアリシア・スタウベルグ少尉。情報局でも指折りの工作員だ。彼女は優秀なスリーパーで、様々な組織の情報を集めていた。つい最近まで連絡が取れなかったがな。」

 

その将校は近づくと、煙草を吸い、気持ちよく口中に煙を立ち上らせる。

 

「君の事は知っている。ユウキ・ゴメス君、ベルチバードを落とすなんて中々だよ。普通の無知なウェイストランド人なら狂乱状態になるところだ。」

 

バカにしたような口振りで、俺とドノバンを見据える。それは、映画で見た昔のドイツ軍将校の雰囲気だ。エンクレイヴのような排他的な組織ならあり得る人物だろう。

 

「君を生きて連れ帰るのも任務の内だ。仕方がないが連れていくしかないな。・・・・それとジェームズ君、あまり待たせ過ぎると娘のフィアンセを傷付けるぞ!」

 

チャンバーに居るらしいジェームズに向けて叫び、階段からは手を縛られたシャルとDr.リーがパワーアーマーを着たエンクレイヴ兵を連れられて降りてきた。

 

すると、付近のスピーカーが作動し、ジェームズの声が響く。

 

<すまない、あともう少し待ってくれ>

 

チャンバーの中で数人の兵士の監視の元でジェームズは設置されたコンソールを動かしていた。

 

「ダグラス中佐、ジェファーソン記念館の周囲は完全に制圧しました。」

 

「よろしい、内部にはどの程度残っている?」

 

「入り口にはまだ多数の民兵が固まっており、侵入は出来ません。我々が通ってきた場所は崩落の危険性があるため使用不可能です」

 

「仕方ない、ここで待機だ。何があってもこの場所は取られるな」

 

「はっ!」

 

背中に通信機を背負った兵士は敬礼する。どうやら、これ以上エンクレイヴの兵士は増えないようだ。外にもいるらしいが、ここにいる兵力の少なさなら何とか打開出来るかもしれない。持っていたSCARは奪われてしまっているが、腰に付けていたコンバットナイフやホルスターに収まった10mmピストルは無事だった。ただ、両手が布製のロープで縛られている事以外だが。電撃のしびれも殆ど無い。これなら、脱出が可能だろう。

 

「・・・・・」

 

ふとドノバンの方をみると、袖からスイッチブレードを取り出し器用にロープを切っていた。横にラノスが煙草を吸っているが気づいていない様子だ。目配せし合い、ドノバンはラノスの持つ44マグナムを奪う手立てを考えていた。俺は近くにいるアリシアの行動を押さえれば何とかなるだろう。それには一瞬の隙を見計らっていかなければならない。

 

だが、アリシアはエンクレイヴの人間だったとして、武器庫やタレットに破壊工作をしなかったのは何故なのか。警備が厳重だったとしても。武器庫やタレットに爆薬の一つや二つ仕掛けてもおかしくはない。それなのに、警備する傭兵部隊の損耗は全てエンクレイヴの強襲部隊による攻撃だけで、破壊工作による損失はなかった。しかも、アリシアならばもっとうまいことやってのけるはずだろう。例えば、目の前に傭兵全員の死体の山が築かれて、科学者や技術者全員が拘束されているはずだ。もしかしたら、アリシアはこの任務をためらっていた?

 

 

「何をしているんだ?ジェームズ君!君の友人や娘、娘のフィアンセが傷ついても構わないのなら話は別だが!?」

 

待つことの出来ないダグラス中佐は苛立ちを声に出して、ホルスターからスライドが磨かれたシルバーモデルの10mmピストルが出される。銃は階段近くに並ばされたDr.リーに向けられた。

 

「ひっ!」

 

Dr.リーは悲鳴を上げ、それに満足したのかダグラス中佐はにやりと口元を歪めた。

 

<あともうちょっとなんだ・・・・。待ってくれ>

 

ここからは見えないものの、チャンバーのコンソールではジェームズさんが操作パネルを操作しているのがスピーカーからでもよく分かった。監視の兵士もいるらしく、チャンバー内を巡回している様子が見受けられた。

 

だが、いつまで経っても機械が作動する様子はない。

 

「ならば、Dr.リーの指が折れても急ぎはしないわけだな?」

 

とうとうダグラス中佐はDr.リーの近くにいた兵士に命令して拘束を解いて腹ばいにさせた。そして両手を広げさせ、彼女の指を軍靴で踏みつぶそうと足を乗せる。彼女は叫び声を上げて避けようとするが、兵士が彼女の背中を押さえて動かそうとはしない。シャルは「やめて!」と叫ぶが、ダグラス中佐は笑いながら、足に力を入れようとしていた。

 

アリシアはこんな奴らの為に戦っているのか?

 

おれは彼女をにらみつける。だが、アリシアの表情は先ほどと違って無表情ではなかった。彼女は限りなく無表情を装っているが、目だけは違った。ダグラスのようなどぶのような腐った目ではなく、闘牛のような怒りを満たした視線。そう、彼女は目の前の暴力に怒っていた。

 

彼女は本当にこれを望んでいたのか。

 

もしかしたら、何かしらの事情があったのではないか?

 

頭の中で疑問が沸く中、ダグラス中佐の堪忍袋は限界らしく、片足を挙げて思いっきりDr.リーの指を折ろうとする。シャルの叫びが部屋の中で響き渡る中、部屋の中央に置かれた浄化プラントからとてつもない轟音が響き渡った。

 

それは爆発物が爆発したような衝撃と腹に響くような轟音、そしてpip-boyのガイガーカウンターが測定した微量の放射線だった。その一瞬の出来事に部屋にいた人全てが中央の浄化設備に目を向けた。

 

これはチャンスだった。

 

まず一番早く動き出したのはドノバンだった。素早くスイッチブレードでロープを切ると、スイッチブレードをラノスの喉に突き刺した。頸動脈を斬られて血が噴き出し返り血を浴びる。そして、ホルスターから44マグナムを抜き取ると、Dr.リーの指を踏もうとしていたダグラスの眉間に向けて引き金を引いた。

 

44マグナム弾はウェイストランドで一番威力の高い拳銃弾の一つだ。それは映画「ダーティーハリー」の主人公ハリー・キャラハン演じるクリント・イーストウッドが使っていた物と同じ弾薬だ。この時のドノバンが使っていた武器もそれだった。まるで犯人に引き金を引くイーストウッドのように素早く狙いを定めて引き金を引くと、檄鉄が44マグナムの撃針に触れて薬室内の火薬が燃焼する。それによって弾頭は発射され、ダグラスの被っていた軍帽を破り頭蓋骨を貫通し、絶命した。続いて横にいた兵士の眼球ごと撃ち抜いた。

 

アリシアはそれを止めるべく、ホルスターから銃を引き抜こうとするが、俺は足に力を入れて彼女にタックルをかます。ちょうど肩が溝に入り、アリシアは苦しく呻いた。

 

「ユウキ、伏せろ!」

 

ドノバンが叫び、俺は身体を床に伏せた。彼の構えていた44マグナムはアリシアを貫いた。しかし、アリシアは撃たれる前に、銃をホルスターから取り出していてドノバンの下腹部に銃弾を放っていた。

 

同時に二人のガンマンは倒れ、俺はラノスの喉に刺さっていたスイッチブレードを器用に後ろ手で引き抜くと、ロープを切って拘束から解放された。スイッチブレードをかなぐり捨ててドノバンの元へ駆け寄った。

 

「ゴホッ!・・・俺のことはいいから、早く二人の元へ行ってやれ」

撃たれた下腹部を押さえながら、吐血するドノバン。俺が応急処置しても助かるかどうかは分からない。立ち上がって拘束されていたDr.リーとシャルのロープを解いてやり、二人の安全を確認する。

 

「小型原子炉のオーバーロードよ。このチャンバーには電力供給に使われているのがあるわ。それを使えば隔壁が閉じて放射能が・・・・まさかそんな!」

 

Dr.リーは説明の最中、驚愕に満ちた表情でチャンバーに走り出す。俺とシャルもチャンバーに走り出した。

 

階段を上がり、操作パネルのあるチャンバーを遮るのは分厚い隔壁だった。近づけば、pip-boyのガイガーカウンターがカリカリと基準値を超える放射線数値を叩きだしていた。隔壁の向こうには床に倒れていたシャルロットの父、ジェームズの姿があった。

 

「お父さん!」

 

「ジェームズ!」

 

二人は叫び、ジェームズは透明な隔壁に手のひらを付ける。

 

「逃げろ・・・!マジソン・・・・シャルロット・・・・」

 

大量の放射線を浴び、顔面が蒼白となったジェームズは今息絶えてもおかしくない。力の限りを振り絞り、隔壁の向こうの俺たちに向かって話した。

 

「ユウキ・・・娘を・・・頼んだ・・・」

 

最後にそう言うと、ジェームズは力尽き倒れた。

 

「父さん!お父さん!!!」

 

 

隔壁を叩き、声を挙げるシャル。それをやめさせようと肩を掴むDr.リー。俺は唖然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 



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二十八話 The eagle has landed

十日間で書き上げました。急ぎでやったので誤字があるかも知れないです。


 

 

 

 

 

 

「ドノバンしっかりしろ!後もう少しだ!」

 

ドノバンの片腕を俺の肩へと回し、もう片腕はウェインが担いでいる。一応応急処置はしたものの、敵の追撃を避けるためには急いでその場を離れなければならなかった。銃創はアーマーの防弾板がない箇所であったため、濃緑色の戦闘服は流れ出た血液でにじんで汚れていた。

 

巻いた止血帯は滲み、時折脈に指を置いて脈拍を測るが、弱くなっていた。

 

既に先方はペンタゴンに着いたのだろうか?科学者と技術者は傭兵数名の護衛を連れて先を進んでいた。シャルやDr.リーを除くウェインやビルなどの精鋭の傭兵は後方を警戒しつつ、負傷したドノバンを運ぶ。

 

「本当なのか?アリシアが裏切ったってのは?」

 

「・・・・ああ、エンクレイヴの擁する情報機関の工作員だそうだ」

 

ウェインは信じられないような顔をする。だが、当事者だった俺やDr.リー、一緒にいたシャルの表情を見ればそれが事実だと分かるだろう。

 

「まさかな・・・。避難を終えて行こうとしたときに気づいて良かったよ」

 

ウェインが指揮を引き継いで、科学者と技術者の避難をさせていた。既に出入り口は封鎖していて、何とかエンクレイヴが突入する前に科学者達を逃がすことが出来た。最後に地下の脱出路のマンホールにブービートラップを仕掛けようとした時にチャンバーで小型原子炉のオーバーロードが起こった。その音に気がついたウェインのチームはプロジェクトの中枢である浄化チャンバーに急行した。まさに幸運だったと言えるだろう。

 

「まさか、ジェームズのおっさんがな・・・・」

 

「ああ・・・・」

 

おれは心なしか声が半音下がる。生まれたときから可愛がられていた親のような存在だった人物だ。悲しまない訳がない。自分の力のなさや朧気な記憶。自身の前世の記憶でさえ呪ってしまいたい気持ちにさえ思う。

 

実の父親を失い、俯きながら俺の目の前を歩くシャル。彼女の肩を抱き寄せながら歩くdr.リーはまるで母親のようだ。実際、dr.リーはジェームズの事が好きであった。その事を思えば、彼女からすれば娘のようだろう。これからのシャルの行動が気掛かりだった。

 

「ジム、後方を警戒しておいてくれ。奴等は直ぐそこかもしれない。」

 

「分かってる・・・・奴等から頂戴したプラズマライフルで溶かしてやるさ」

 

モヒカン頭のジムはエンクレイヴの兵士から奪ったプラズマライフルを携帯していた。背中には幾つかのライフルが差してあるバックパックもある他、敵の追い剥ぎもしながらここまできたらしい。ウェイストランド様々だろう。

 

すると、地下道に反響するようなパワーアーマーの鈍い足音が後ろから響き渡ってきた。

 

 

「クソっ!奴等だ!」

 

「Dr.リー、シャル!ドノバンを連れて先に行ってくれ。あとで追い付く」

 

「分かった」

 

負傷したドノバンを二人に預け、俺達はこの前修理した地下道のハッチの遮蔽物に身を寄せた。そこは奇遇にもアリシアと共にフェラルグールを掃討した地下道であった。避難経路防衛用に幾ばくかの土嚢と弾薬箱を積み上げており、武器ロッカーの中にはM249分隊支援火器を入れていた。

 

持っていたSCAR-Hに新しく撤甲弾が入った弾倉を装填し、ハンドルを引いて薬室に弾を送り込む。狭い空間で使用するために、ホロサイトを調節して他の武器の作動具合も確かめた。

 

「この戦いが終わったらさ・・・」

 

「ウェイン、それ映画で言う死亡フラグだ。そのあとに『俺結婚する』とか言わないでくれ」

 

「お前みたいなやつに言われたくない。この戦いが終わったら、この銃くれないか?」

 

そうウェインは武器ロッカーから出したM249に弾帯を挟み込む。二脚を広げると、その陣地は限りなく攻撃能力の高いものになる。

 

「ああ、それが欲しいならやるよ。弾を食うけど、その代わりミュータント位なら蜂の巣に出来るよ」

 

「クールな武器だよ、お前の持つ武器は!」

 

ウェインはまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように上機嫌だ。Pip-boyから308口径の入った弾薬箱を出してSCARが使用する空弾倉を幾つか出す。持っていた弾倉の大部分を使ってしまったため、待ち伏せの間に弾倉内に弾丸を詰めていく。Pip-boyに弾丸を自動で弾倉内に詰める作業が出来れば文句はない。しかし、ゴミなどが混入すれば弾詰まりになる危険性すらある。だから、確かめながら弾込めしなければならない。敵が来そうなときにするのもどうかと思うのだが、持っているライフルがこれくらいしかないのだから仕方がない。

 

 

すると、記念館の方から金属が触れあう甲高くも重い足音がトンネル内に響き渡る。ウェインが仕掛けたブービートラップは解除されてしまったのだろう。複数の足音が聞こえ、SCARのセレクターのセーフティーを解除してセミオートにセットした。

 

「合図したら撃て」

 

「了解」

 

「おう、派手にやろうじゃねーか」

 

ウェインはM249のチャージングハンドルを引いて次弾を装填する。ガチャリと言う金属の音が聞こえ、引き金を引けば発射されることを伝える。トンネルの奥ではエンクレイヴの工兵が閉鎖されたマンホールを開けようとしているらしく、切断機の音が響く。ウェインとジムに不意打ちを仕掛けようと提案して、二人は頷いた。

 

 

やがて、エンクレイヴの工兵はマンホールを蓋ごと切断したらしく、蓋がトンネルの通路に転がり落ちる。乾いた音と共に、低い金属の塊がコンクリートと接触する音が響く。続いて幾つもの同じ音が響く。

 

「奴等はこの下水道を使った筈だ。捜索するぞ。第一分隊前進!」

 

「了解!」

 

パワーアーマーのヘルメット越しに話しているのか、声は聞こえずらい。重く低い足音がトンネル内に反響し、心なしか銃のグリップを強く握りしめる。複数の足音が此方に近づき、どっと背中に冷や汗を掻き始めた。戦場では死ほど必然的に存在し、何時発生するか分からない偶発的なものだ。良い方法を思い付いても上手く行くかどうかなんて保証はない。

 

接近してくるような足音を聞き、バックパックから円筒形のあるものを取り出す。それは対象を行動不能に出来る音響手榴弾だった。音を立てないように、ピンを引き抜いてエンクレイヴ兵士へと投げる。足元に転がるそれを見た兵士は「グレネード!」と仲間に警告するが、言い終わる前に炸裂する。

 

強烈な爆音とパワーアーマーのヘルメット越しでも伝わる強烈な閃光によってエンクレイヴ兵士は聴覚と視覚を奪われる。ヘルメットの暗視装置を使っていたのか、強烈な光によって暗視に切り替えていた画面は真っ黒に染まる。

 

「撃てぇ!!」

 

遮蔽物に飛び出し、目の前にいるエンクレイヴ兵の頭を撃ち抜く。ヘルメットを被っていても、装甲が薄いのか撤甲弾は貫通して兵士の脳髄を掻き回す。ジムはエンクレイヴから奪ったプラズマライフルを発射する。プラズマ弾はエンクレイヴ兵士の手先に命中し、装甲が薄い為か青白い炎で溶け、兵士は絶叫しのたうち回る。そして、M249を構えるウェインは雄叫びをあげなから引き金を引いた。ばら蒔かれる5.56mm撤甲弾はエンクレイヴ兵士の四肢を傷つけ、鉄の暴風雨と言うかのように兵士に降り注ぐ。視界を奪われた兵士達は反撃も逃げることも出来ず、ただウェイストランドの洗礼を浴びた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒煙が立ち上る、まだ燻る火に消火器を持つエンクレイヴ兵士が必死に消火作業に入っている。まだ、戦場であった名残はある。戦いに勝った彼らであるが、彼らが纏う雰囲気はまるで敗残兵のそれである。

 

圧倒的物量による勝利。

 

嘗てのアメリカが行ってきた戦争は常にその言葉が付きまとう。戦争はその国の生産力などや技術力に大きく左右される。先程の戦いはそれがおおきい。しかし、何故か敗残兵のような雰囲気を醸し出している。何故ならば、圧倒的優位である筈の彼らの中で死傷した兵士も居るからだ。戦場において勝っても負けても戦死者がいる。しかし、エンクレイヴの兵士達は全員パワーアーマーを装着し、唯一の航空戦力すら所有している。貧弱な武装を施したウェイストランド人を蹂躙し、ジェファーソン記念館を凱旋する。そんな考えが彼らにはあった。だが、現実はそんなことはなかった。

 

対空用の機銃陣地に整備された対空ミサイル。損失はベルチバード二機に重軽傷者20名、死者15名に昇る。しかも、敵を追撃するために一個分隊ほど敵の敗走した避難経路へと派遣した。しかし、連絡が途絶えて十分以上が経っている。圧勝で終わる筈が、貴重な航空戦力の損失と敵の予想以上の練度の高さ、そして装備の充実により攻撃部隊に痛手を与えた。彼らの想像に反した結果はエンクレイヴの兵士達にとって勝利とは言えない有り様だった。

 

すると、瓦礫の退かされたエリアに突風が吹き荒れ、土埃が立つ。それは自然の風ではない。八枚のプロペラが高速回転しているダウンウォッシュの強烈な強風だった。ティルトローターの独特な形状を持つエンクレイヴ所属のベルチバードはタイヤ付きの三脚を広げて着陸する。ハッチが開くと、ラテン系の白人が現れた。米軍上級将校のコートを着ていて、襟や肩の階級章には星が3つ。その人物の階級は大佐。名前はアウグストゥス・オータム大佐。統合参謀本部を束ねる大統領の右腕である。

 

本来ならば、参謀本部の中核は将官以上の人物であるが、主な実働部隊を率いている為か、部下や上官などの信頼は高く、准将昇進も遠くない未来だと言われる。有能な指揮官であり、父のオータム技術少将と共にアメリカ東海岸に来た西海岸部隊の一員であった。現在のエンクレイヴは上層部の七割強が西海岸、残りが東海岸である。実働部隊の主力も東海岸の部隊が主力であり、東と西の対立は激しい。しかし、その両勢力から支持されているのがオータム大佐であろうか。

 

元々、彼は西海岸出身であるものの、選民思想に染まっておらず。また、東海岸のように人々に救済を画策することも良いこととは思わない。そういった中性的な立場にある人物だった。

 

 

オータム大佐がヘリを降りると、周囲の兵士は敬礼し、オータム大佐は返礼する。後ろからは秘書官とおぼしき女性士官が後ろからついていく。そこへパワーアーマーを着て士官の軍帽を被る男が近づいた。

 

「第2空中騎兵団第1中隊のガンスキー大尉です。ご案内致します」

 

ガンスキー大尉のパワーアーマーは傷だらけで、撤甲弾で穴の空いている箇所もある他、肩のガードが千切れ飛んでいた。彼が前線で指揮をしたこと、そしてかなりの激戦であったことを物語っていた。

 

「ああ、それよりも君の上司のダグラス中佐はどうした?」

 

「ジェファーソン記念館の接収時に戦死しました。」

 

その報告にオータム大佐は目を丸くする。普通、指揮官と言うものは後方で部下に命令を行わなければならない。なのに、敵が占領しているエリアに部下と共に入るなど大佐は正気を疑った。

 

「敵はかなりの相手だったようだな」

 

「空からの攻撃も想定していたようです。幾つか対空用の重機関銃と誘導装置が生きているミサイルランチャーを使用していました。ご案内致します」

 

上空からのミサイル攻撃をしたような地面が抉れた跡。土嚢と破壊された機関銃陣地。コンバットアーマーを着た傭兵の亡骸など、多くあった。

 

「あれは監視塔か?」

 

「ええ、地上からの攻撃を想定して櫓を作ったようです。見事な防衛陣地ですよ」

 

ガンスキーは瓦礫を撤去した正面玄関に進む。そこの近くにはエンクレイヴの衛生兵でも救えなかった兵士達の亡骸が並べられ、合成布を被せられている。近くには膝を付いて泣いている若い兵士もおり、嘗て西海岸の戦いの資料を思い出す。

 

エンクレイヴの実働部隊の殆んどは実戦を経験していない兵士達だった。ポセイドンオイル基地陥落までの西海岸全域の部隊は精鋭であった。しかし、既に40年以上も経っており、現在の実働部隊は若く大規模な作戦を参加していない。基地の哨戒任務でレイダーなどと戦っても、B.O.S.やユウキ達のような装備の充実した傭兵部隊とは戦ったことがなかった。

 

オータムは今回の戦いによってウェイストランド再入植計画を考えなければならないと思い至った。

 

ガンスキー大尉は大佐一行を案内し、記念館内部へと侵入した。そこはブービートラップの残骸が残されており、突破された場合を想定してか、固定機関銃の足や土嚢が残されていた。さらに奥には破壊されたプロテクトロンの付近に無数の弾薬箱とロッカーが陳列されていた。無造作に開けられたガンロッカーには見たことがない銃が幾つか並べられている。

 

「これは?」

 

「多分、傭兵部隊が残した物資です。しかし、このタイプのアサルトライフルは見たことがありません。その銃の口径と形状も軍のとは異なります」

 

銃の側面には「Model PROJECT 90 Cal 5.7×28 SS190」と書かれており、この世界にはない物である。この世界にはPDW(個人防衛火器)などというジャンルは存在しないし、形状も独特なものだ。

 

「マガジンの形状は12.7mmサブマシンガンにそっくりだな。技術局のスタッカート少佐の元へ送ってやれ。回収した武器弾薬全てだ」

 

「Yes,sir」

 

オータム大佐は内心、今回の戦闘を不本意に感じていた。戦闘をせずに穏便に事を運ばなければならなかったのだが、ダグラス中佐は何を考えたのかミサイルと弾丸で対応した。また、施設を力ずくで接収しても、ここを管理していた技術者や科学者はBOSへと逃走してしまった。エンクレイヴの技術局が擁する科学者チームがいるため大丈夫かも知れないが、1から記念館のそれを作り上げた科学者とエンクレイヴに善戦した傭兵を取り逃がしたことは大きい。

 

一行は浄化施設の中枢であるチャンバーに到着すると、目の前にある惨状が理解できた。

 

大理石の床には所々血痕がついており、情報局の工作員の死体が倒れていた。そして帽子ごと眉間を撃たれたダグラス中佐もチャンバーの格子に背を持たれて死んでいた。

 

「生存者の報告によると、管理している責任者が小型原子炉をオーバーロードさせたらしく、その隙に拘束していた傭兵が行動を起こしたようです。」

 

「生存者?」

 

オータム大佐は訊くと、柱の影から腕を吊るした士官が現れる。士官の軍帽は被っていないが、傷病兵だから許される。怪我をしていない右手で敬礼をした。

 

「情報局、TF42所属のアリシア・スタウベルグ少尉です。」

 

「彼女はここの防衛の指揮に当たっていた人物の動向を監視していました。」

 

オータムは彼女の所属である「TF42」を知っていた。

 

エンクレイヴには幾つかの特殊部隊が存在する。それは機密性が高い任務が多い。つまり、要人の暗殺や組織の壊滅、情報収集である。エンクレイヴはアメリカ発端の地である東海岸に再入植を考えており、その為にはその地域にいる組織や自治体を知ることが重要だった。現地の人間に成り済まし、情報収集する兵士が必要だった。

 

それらに従事するのは軍内部で疎まれる人物である。主にそれはエンクレイヴ内の穏和派に属していた将校の子息が多い。20年前に東と西のエンクレイヴ再編成が行われ、その際に反抗的な穏和派の将校の弾圧を行った。その将校の家族はバラバラになり、子供はTF42の潜入工作員として訓練を受けた。

 

オータムは言わば数少ない穏和派の生き残りである。元々、東海岸生まれの彼であるが、西海岸で戦死したジョンソン大統領の執政に疑問を抱いていた。東の将校と西の数少ない穏和派と共に組織改革をするつもりであった。しかし、ジョン・ヘンリー・エデン大統領によって反乱分子の排除を名の元に粛清を実行した。

 

オータムは巧妙な偽装工作をしたため、組織改革を行おうとしたメンバーとは悟られてはいない。しかし、ほとんどのメンバーは逮捕されて処刑された。そのメンバーの中には、粛清後に武装蜂起してエンクレイヴから離脱した部隊の元司令の姿もあった。元司令はオータムに東海岸の兵士達が持つ忠義や理想を与えた。若輩者だった彼に戦前の政治理念や多くの知識を授けたのが、ウィリアム・スタウベルグ少将。アリシアの父だった。粛清後、家族はレイヴンロックに軟禁され、武装蜂起後は家族を人体実験することが決まっていた。

 

恩師の家族は守りたいと思ったオータムは娘だけでもとTF41の候補者として推薦した。母親は人体実験の検体となったが、娘のアリシアだけは生き延びていた。

 

真実を知ったら彼女はどう思うか?

 

オータムは彼女の顔をみて思う。

 

自分が任務途中に死んだと思っていた母親はずっと前に人体実験で死んだと分かればどうなるだろう。肉親の死を教えれば自殺するだろうと元から使い捨ての駒として扱っていた。情報局の傲慢さを知れば、矛先は情報局とオータムだろう。

 

オータムは小さい頃のアリシアにあったことがあり、その小さい娘が使い捨ての工作員としてエンクレイヴに使えていることに悲しみを覚えていた。そして、死ぬことを仕向けられた彼女が生きており、またエンクレイヴの役に立っている。何と皮肉か。

 

オータムは自分自身を呪いたくなった。助けようとした人物にいつか殺されるかもしれないという感覚。彼女の目は生気の抜けたようなそんな雰囲気があった。

 

「統合参謀本部のオータムだ。君はここの浄化施設を動かしていたチームと一緒に居たらしいが、詳細を教えてくれ」

 

「はい、私はここの浄化プロジェクトの警備をしていました。この施設はお気づきかと思いますが、放射能に汚染された水を浄化する施設です。プロジェクトの最終目標は河川や土壌の放射能を完全浄化する大規模なものです」

 

 

アリシアは抱えていたバックから計画の内容を記した報告書をオータムに手渡した。そこには浄化プロジェクトの目標や施設の構造が描かれていたが、肝心の浄化チャンバーに必要不可欠な放射能を取り除くものが抜けていた。

 

「私は技術者ではないが、この施設は肝心なところが抜けているように感じられるな」

 

「はい、そのため研究主任のジェームズ氏はvault-tecのあるものを探していると言っていました」

 

「あるもの?」

 

オータムはそう言い、近くに横たわっている死体袋に目をやった。そこには着古したvaultスーツを着た壮年の男の死体だった。見るからに体育会系の体つきをしている。オータムは事前情報で知らされていたプロジェクトの責任者であることを悟った。

 

「vault-tecの科学者であるスタニラニウス博士が作り上げた物質を再構築する植民するための機械・・・」

 

「G.E.C.K.か・・・。」

 

オータムは敵が使って戦前のように復興したことを思い出す。旧カリフォルニア州から生まれた民主国家である新カリフォルニア共和国もG.E.C.K.を持っていたvaultを擁していたため、強大化したと言われる。現在はエンクレイヴの技術を吸収して、大きく躍進していて、コロラド川より東の地を征服している軍事集団のシーザーリージョンと対立している。彼らは東海岸まで来てはおらず、シカゴからイリノイに掛けて防御線を敷いている。まだ、そこまでリージョンの手は迫っていないが、兵站や兵器の優劣に置いてもシカゴからDCまでがエンクレイヴが守れる精一杯の領域である。

 

昔と比べれば、エンクレイヴの人手不足は深刻である。エンクレイヴの選民思想などは彼らの誇りでもあり、足かせでもあった。

 

「一つ確認したいのだが、ここを警備していたパトロンと思われる人物・・・ユウキ・ゴメスという青年だが。彼の影響力がどれほどの物か知りたい」

 

パワーアーマーに対抗できる物と言えば、TNTなどの軍用爆薬や徹甲弾などの高性能弾薬だろう。その二つはキャピタルウェイストランドではそうそうお目にかかれる代物ではない。軍用爆薬はもとより徹甲弾は旧軍の軍事施設でしか見つかっておらず、生産設備もそこに限定されている。徹甲弾などの特殊な弾薬はBrotherfoot of steel かタロンカンパニーを除くと殆ど流通していない。組織内の使用に限定されている物が多いため市場に出回っていなかった。そのため、高額で取引されていることが多い。しかし、ジェファーソン記念館で使われていたのは、殆どが徹甲弾やそれを使用した大口径の機関銃だった。ウェイストランドの平均からして高品質な装備と武器。オータムが警戒するのも無理はない。

 

「彼の本職は銃職人(ガンスミス)で傍ら武器職人も兼業しています。彼の武器は他の武器商人と比べて高品質の武器を取り扱っており、徹甲弾なども取り扱っています。彼の家に徹甲弾を製造する設備が置いてあると聞きましたが、不明です。彼の顧客は中堅から腕の立つ傭兵が多く、記念館の警備もその傭兵を雇いました。メガトンを中心とする傭兵には顔が広く、財力は周囲の商人とは桁違いです」

 

ユウキが思っていた以上にキャピタルウエイストランドでの影響力は高まりつつある。武器弾薬の製造により、中堅から腕の立つ傭兵や商人にいたるまでユウキと関わりのある人間は多い。人の良い性格故に求心力があるのも事実である。人が悪ければジェファーソン記念館の警備をやったりはしない。その影響力は西なら旧テンペニータワー、東はリベットシティーなど。彼の財力さえあればそこ近辺の交易ルートを支配することが可能である。それ故に、浄化プロジェクトに参画してからというもの、アリシアを通して監視をしていた。

 

「彼は現在B.O.S.が支配しているペンタゴンに向かっているようだ。まだ我々はB.O.S.と交戦することはあってはならない。無論、B.O.S.は我々の急襲に感づいているだろうが、事態が好転するまで手は出さないだろう」

 

オータム大佐は口元に指を当てて少し考えた後、後ろにいた若い女性秘書官に命令を出した。

 

「では、作戦を続行しよう。フェイズ2に移行する。第一機械化大隊をリベットシティーに差し向け、第二大隊をメガトンに差し向ける。ユウキ・ゴメスなどの人物を指名手配しろ。生かすことが条件だ。メガトンの彼の武器店も接収する」

 

「分かりました。他には?」

 

秘書官の透き通る声にオータムはぴくりと眉を動かす。思い出したかのように彼はアリシアの方を見る。

 

「スタウベルグ少尉は今回の一件で一階級特進だ。これより浄化プロジェクトの重要人物である二人の捜索チームの指揮を執って貰う。」

 

「Yes,sir.」

 

アリシアは敬礼する。彼女はこのままでいれば、佐官戦死の失態の罪を着せられて死ぬ可能性もあった。それよりも、逃走した技術者や責任者の子息と恋人を捕まえる任務をさせれば死ぬことはないだろう。二人の身柄を押さえれば、彼女が死ぬことはない。オータムはそう考え、彼女に命令を下していた。

 

「しかし、その二人を捕まえるのは本当に得策でしょうか?」

 

「君はまだ書類を見ていなかったな」

 

秘書官の疑問を答えるようにして、彼女にオータムは先ほど渡された書類を見せる。

 

「この機械を操作するには三桁の暗証コードが必要になる。しかも、此奴は旧軍の中でも解除がしにくいシステムを組み込んである。不正アクセスは勿論出来ないし、数回やってしまえば、システムもろとも破壊される。これを解除するにはその娘の力が必要だ」

 

「ではその男の方は?抹殺することもいいのでは?」

 

「メガトンのようながらくたの街でこんな見たこともない武器を作れるか?私なら抹殺するより、寝返らせるよう説得したいところだがな」

 

オータムはエンクレイヴの中でも珍しい実力主義の人間である。普通ならここで選民思想によって手早く抹殺を選んでしまうだろうが、組織のいう「汚染された人類」であろうとも有用であるならば上手く取り込もうとするのが彼のやり方だ。

 

「『作戦名:The eagle has landed』か。あの方らしいと言えばあの方らしい。しかし、あの小説の主人公は枢軸のドイツ猟兵部隊ということをわかっているのか」

 

オータムは入ってくる防護服を来た科学者に敬礼し、チャンバーを後にした。チャンバー内の浄化水槽に入っている第三代アメリカ合衆国大統領のトーマス・ジェファーソンの銅像はこの地で起こる戦乱を憂うような表情をしていたと、入ってきたエンクレイヴ科学者は言っていたという。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

ジェファーソン記念館がエンクレイヴに制圧されてから、十四時間が経とうとしていた。既に記念館から昇った黒煙は燻り、沈静化していた。戦闘時に昇っていた太陽も既に落ちて、ウェイストランドは闇に満ちていた。そして、空がゆっくりとオレンジ色に染まっていく。

 

核戦争によって荒廃しても、地球は回り続けて日は昇り続ける。放射能に汚染された地球でもオレンジ色に染まる空は色鮮やかで美しく彩っている。荒廃したこの世界では唯一美しい景色では無かろうか。何世紀経とうともその景色は変わらない。

 

太陽が水平線から姿を出し、徐々に太陽の球体が現れる。日の出の光景はいつの時代を隔てても変わらず美しい。その太陽を背にして、轟音を上げながらキャピタル・ウェイストランド中心へと接近する物体があった。

 

12機のXVB02「ベルチバード」が六機ずつの編隊を組んで、4カ所のカーゴフックで荷物を吊り上げていた。武器を満載したコンテナやウェイストランドでは早々お目に掛かることの出来ない稼働する兵員輸送車(APC)であった。

 

<Delta 1-1より各部隊、統合参謀本部より本作戦の変更があった。現地住民を極力殺傷せずに、作戦区域の治安維持を務めろとのこと。Over>

 

暗号化された軍用無線によってウェイストランドの無線から彼らの声が聞こえることはほぼない。旧軍の軍用無線機なら聞こえるかも知れないが、暗号なども一新されているため、聞こえたとしても機械信号らしき音しか聞こえない。

 

ベルチバードの編隊は二手に分かれると、目標である集落。リベットシティーとメガトンを目指した。

 

<Carrier1-1より、Carrier1全機!目標地点まで3分!荷物を下ろす用意をしろ!>

 

ベルチバード間で相互に無線を行い、運んでいる物をおろす準備を始める。機体のチェックを行っていた副機長は後部に乗っていた兵士達に降下準備をするよう命じた。

 

「降下ぁ準備ぃ!」

 

「よし!おめーら!準備はいいか!」

 

「「「「おう!」」」」

 

兵士達は着ていたパワーアーマーのチェックと携行するライフルにフュージョンセルを装填する。彼らのアーマーは敵の徹甲弾対策で装甲板が増やされていた。元々T51bよりも装甲が薄い現在のエンクレイヴパワーアーマーMk.2はジェファーソン記念館の1件で防御力の増加をするべく、急遽装甲版が付与された。

 

「いいな、作戦通りに行動しろ!俺たちの部隊はリベットシティーの出入り口を固める。内部の勢力は上層部のお偉いさんに任せちまえ」

 

彼らは作戦前に上層部から来た佐官クラスの高級将校と若い女性士官を見ていた。それを思い出してか、ヘルメットを脱いでいた若いアジア系の兵士が叫びだした。

 

「くっそー!なんであいつに似ているんだ!畜生め!」

 

「お!作戦前に別れてと言われてたな。そういや、その士官にそっくりだったな」

 

ヘリのトループシートに座っていた部隊の指揮官は若い兵士が女性に別れを告げられたことを知っていた。それも別れた女性は作戦に参加した女性士官に似ていたというのだ。そんな兵士を周りは笑いを堪えようとしていた。

 

「その女の名前はなんて言うんだ?」

 

「アイリーンですよ!」

 

「戦場じゃ、女々しいと死んじまうぞ!いっそのこと忘れちまえ!」

 

「畜生!fuck !」

 

「Fukin, Eileen!!」

 

「「Yhaaaaa!!」」

 

「ベルチバード航空をご搭乗の皆様にお伝えします。機内では騒がしいことをなさったお客様は容赦なくDC上空をパラシュート無しで降下させますのでご了承下さい」

 

戦場に赴く前のテンションの高さ。仕方がないのかもしれない。機長までが悪のりをしている中、1番機の機体から全機体へ信号が送られた。

 

<Carrier1-1より、Carrier1全機!目標地点まで一分!>

 

「よし!お前らお遊びの時間はここまでだ!野蛮人共に俺たちの力を見せつけるぞ!」

 

「「「「URAAAA!!!!」」」」

 

 

ベルチバードの編隊はポトマック川をなぞりながら、ジェファーソン記念館、リンカーンメモリアルを横目で通り過ぎ、アナコスティア川の合流地点に近い。バザードポイント・パークにあった空母の街、「リベットシティー」に到着した。

 

ヘリのプロペラの音は川にいるミレルークを起こし、リベットシティーの住民を驚かせた。ヘリの編隊はリベットシティーの外と甲板の二手に分かれて、空中で制止する。空き地となった場所にヘリに吊り上げられた兵員輸送車がおろされると、降下用のロープがヘリから降ろされて兵士達はそれにつかまって降下する。リベットシティーの方も飛行甲板であった場所に次々と兵士達は降下していく。その光景をリベットシティーに住む人々は呆気に取られるしかない。船室に繋がる水密扉からはシティーの警備兵と市議会の主要メンバーが顔を出す。全員、エンクレイヴの重装備によって目が恐怖の色に染まっている。

 

すると、飛行甲板で警戒しているエンクレイヴの兵士達の後ろから、ある人物がやってくる。後ろから来る上官の道を空けて、兵士達は周囲に向けていた銃をいったん下ろした。そこにいたのは、佐官服を着用したアフリカ系の将校だった。

 

「私はエンクレイヴのアナベル中佐である。これよりリベットシティーは我々の管理下に入る。」

 

それは一方的な勧告であった。

 

「これは合衆国政府の要請ではなく、大統領令39903号の正式な命令である。直ちにリベットシティーは合衆国政府に自治権を委譲。警備及び民間人の武装解除を求める」

 

冷徹な男の声がリベットシティーの甲板の上で木霊する。こうして、リベットシティーの議会政治はエンクレイヴの襲来によって幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 




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第五章 Picking up the Trail
二十九話 Brotherhood of Steel


早くも初投稿から一年が経とうとしております。本作品は夏までには完結予定です。10話以内に納める予定ですが、収まりきれるだろうかwwww










「よし、そのまま力を抜いてマニピュレーターが脳の信号を感知する。筋肉はそれに付随していくからゆっくりでいい」

 

パワーアーマーの訓練教官である歴戦錬磨のパラディン・ガニーは俺が着るパワーアーマーの使い方について説明していた。指導されたとおり、指先に力を込めるようにする。二百年経つ鋼鉄の拳がゆっくりと握られる。限界まで強くすれば、リンゴなどは潰してしまうらしい。パワーアシストは車などの大型物を運ぶことも出来るらしく、ミニガンやガトリングレーザーを軽々と持ち上げられる。

 

中庭ではBrotherhood of steelの訓練兵が訓練を積んでいた。ある者は仲間と拳をぶつけ合い、またある者は射撃をして腕を磨いていた。

 

そう、ここはアメリカ合衆国バージニア州アーリントン郡ペンタゴン。六角形の建物であるアメリカの国防を一手に受けていた国防総省だった。嘗ては世界中のありとあらゆる情報がここへまわされ、精査される。それがアメリカの利益に反すれば、軍事行動を起こすこともある。核戦争の決定もここで行われた可能性も高く、キャピタル・ウェイストランドの中でも一番軍事機密の多い場所だろう。しかし、ここにはエルダー・リオンズ傘下のBrotherhood of steelの兵士達が駐屯していた。

 

大体、パワーアーマーのコツも掴み始めていた。今着ているT49dパワーアーマーは米軍が最初に作ったものの一つだ。パワーアシストや対弾コーティングも成されており、非常に強固な防御力も誇る。動力源はマイクロフュージョンセルが必要であり、次世代のT51bのような排泄物リサイクル処理などの高性能はない。長年の老朽化に伴ってパワーアーマーの装甲は何度も使用したために傷だらけである。渡されたパワーアーマーヘルメットにしてみれば、目の前に展開されるHUDは動いていなかった。ガニーによると、動いているのは希らしい。暗視装置も動いていないのが殆どで、頭についているライトがつけば良い方らしい。そんな整備状況で何とかやっているBOSに感心してしまった。

 

「だいたい、指導の方は終わったな。支給されたアーマーは自分用に改造するなりして構わんよ。ナイト・ゴメス」

 

「ありがとうございます、パラディン・ガニー」

 

階級で呼ばれることに躊躇いを覚えるが、仕方がない。教えられた旧軍式の敬礼をしてその場から離れた。

 

色々とパワーアーマーに魔改造したい気持ちを押さえつつ、まずは皆のいる居住スペースへ移動する。中庭の一角にある階段を上ったスペースに傭兵や科学者の空間があった。パワーアーマーのヘルメットを腰に取り付け、移動しようとした時だった。

 

「そこにいたのか、ユウキ君。探しておったのだ」

 

そこには初老で口ひげを生やしたBOSキャピタル支部のトップである、エルダー・リオンズが立っていた。俺は陸軍式の敬礼を行うが、笑いながら敬礼を止めさせた。

 

「畏まらなくても良い。今日は少し話そうとおもっての」

 

老練のリオンズは人の良い笑みを浮かべて、俺の肩に手を置く。

 

「話・・・ですか?」

 

「孫娘のように慕っていた椿の息子なのだから、話をきいてみたかったのじゃ。良いかな?」

 

「ええ、勿論です」

 

俺はリオンズに催促されて、近くにあったベンチに腰掛ける。腰に掛けてあったヘルメットを膝に乗せて話をし始めた。

 

「記念館での一件、大変だったの」

 

「ええ、準備をしていましたが・・・。多くの犠牲が出てしまいました。」

 

 

脱出直後、ジェファーソン記念館は完全にアメリカ合衆国政府。エンクレイヴの手に渡った。科学者や技術者は全員無事であったものの、傭兵が40人中12名戦死。14名が重軽傷を負った。脱出路先のBOSの司令部がある旧国防総省に逃げ込み、エルダー・リオンズに救援を求めた。

 

BOSもエンクレイヴの出現に驚きを隠せなかったらしく、対岸でジェファーソン記念館の戦いを監視していたらしい。Dr.リーは浄化プロジェクトを完全にBOS主導でやることを承諾し、地下の研究室でBOSの研究を手伝っている。他の生き残った傭兵のうち、負傷者はいくらかの治療費と共にBOSの医療チームが治療を施している。完治には一週間ほどかかる見込みである。他は記念館の警備も終了したため、契約金と少しばかりのボーナスを支払って帰らせた。何処にも属さない傭兵に無理強いは出来ない。ただ、友人であるウェインやジム、その他の傭兵は残ってくれることになった。そして俺の場合はエルダー・リオンズの薦めによってBOSに入隊することになった。母親がBOSのナイトであったため、入隊する必要な条件はそろっていた。元々、BOSは他から入隊させないのだが、人員不足のキャピタルではそうはいかない。猫の手も借りたい状況なのに、補充できないのは辛かった。また、人脈や資金、商業に縁のある俺を取り込みたいという事情もあるだろう。リオンズからそう言った大人の事情が感じられたが、それを指摘するのは大人としてどうなのか。どちらにしても、引くに引けないことなので、「行動を制限しない」と言うことを条件に入隊を決意した。こちらとしても、パワーアーマーを着られるので嬉しいことは嬉しいのだが。

 

問題はシャルであった。父のジェームズが死んでから、要塞のDr.リーの研究室に閉じこもっていた。俺が励ましにいったが、顔色はますます悪くなる一方だった。Dr.リーも仕事の合間に見ているそうだが、解決の見込みはない。

 

だってそうだろう。愛していた父親の死。回復するのはまだ先だろう。

 

これからどうすればいいのか、それを考えつつも目の前にあることをやって不安を解消していこうと努力してきた。しかし、エンクレイヴはメガトンやリベットシティーを占領下に置いている。メガトンに残してきたブライアンや武器店や家も心配だ。一刻も早くメガトンに帰りたかった。

 

「君は良く戦ったと思うぞ。話によれば君の仲間が裏切ったと訊いたが?」

 

「ええ、てっきり自分の事を好きでいるのかと思っていたのですが。どうやら自分の勘違いだったようで・・・」

 

脳裏に浮かぶのは、たまに目にする彼女の笑顔。そして、銃を向ける彼女の無表情な顔。信じていた事で傷ついた心はそう簡単に癒える物でもない。

 

「儂も裏切られたことがある。四十年共に戦ってきた戦友じゃった」

 

そう、呟きながら中庭の上に広がる青空をリオンズは見ていた。その顔は老練な顔付きで、幾多の戦場を渡り歩いてきたのかは知らない。だが、リオンズの顔の皺以上に戦場で戦ってきたことだけは確かだ。

 

「四十年・・・。長いですね」

 

まだ人生二十年にも満たしていない俺だが、四十年来の仲間に裏切られるのは辛いことだろう。

 

「そうじゃな。元々、儂はコーデックスの教えを信じてはいたが、それでいいのかとは思っていたんじゃ」

 

コーデックスの教え。BOSを結成する時に創設者のロバート・マクソン元大尉が考えた鋼鉄の誓いである。そこにはBOSの信念や新しい規律などが制定されているが、リオンズが不審に思っていた箇所はBOSの基本方針にあった。

 

「ただテクノロジーを保全し、管理して人類を再び戦渦に巻き込まないようにする。そのテクノロジーは誰にも使わせないようにすることが本当に必要か?ウェイストランドは荒廃しきっているのにも関わらず、助けられる我々が行動を起こさないのは人類を守るというより見捨てたも同然のように思えてならなかった。おぬしはどう思う?」

 

リオンズは横にいた俺に話を振る。

 

「人類は戦争によって科学技術が発展してきましたからね。戦争で発展した力を平和のために使えるのは限られています。BOSは二百年前の核戦争を二度と起こさせないために、人類を守るためにテクノロジーを保全する。なら人類を再興させるための行動も良いと思います。もっとも、ロバート・マクソン大尉がアウトキャストや西部のバンカーにいるエルダーを見たら、米軍式の鉄拳をお見舞いしそうですが」

 

「ハッハッハ!それもそうじゃの!」

 

もし、創設者であるマクソン大尉がリオンズ派とアウトキャストのキャスディン派と別れたBOSを見たら、本当に新兵キャンプの鬼軍曹の罵声が飛んできそうである。『そんな派閥争いしている暇があったら、ウェイストランドを救済しやがれ!』とか言いかねない。

 

「お主は今のナイトやイニシエイトが知らないような事を知っているのう。椿に教えて貰ったか?」

 

「いえ?母は自分が生まれたときには・・・」

 

ゲームをやってて、攻略サイトで前作の情報を見てましたとか言えないよ。

 

「そうじゃったか。だが、どうやって知ったんじゃ?」

 

「下のデータ保管庫やスクライヴからパソコンの記録を見せて貰いました。色々勉強したいと言ったら喜んで貸して貰えました」

 

と嘘を平然とついた。あとで、スクライヴにパソコンを借りるだろうから大丈夫な筈だ。

 

「そうか・・・。儂も昔は本の虫でな。よくキャスディンに身体を動かせときつく言われたのぉ~・・・」

 

リオンズは持っていた本を膝に載せる。本は戦前に出版された本らしく、所々痛んでいた。俗に言うBOSキャピタル支部の大分裂は仲間内で些細な意見の相違がもたらした悲劇だろう。元は同じ志を持つ同志だった。故に、互いの意見が違ったときの反発は想像以上だったに違いない。

 

「まだキャスディン氏の事を友人として見ていますか?」

 

「勿論じゃとも。この歳であの喧嘩別れしたのは辛い。私が皆に伝えなかったことも原因なんじゃがな」

 

リオンズは膝に置いた本を撫でる。ただキャピタル・ウェイストランドの救済はBOS本部との折り合いが悪くなるだけでは無かったのか。それとも他の理由があったのかもしれない。

 

「何を伝えなかったんです?」

 

「これは他言無用でな。とは言っても、皆薄々勘付いているかもしれんが」

 

とリオンズは薄くなった頭をポリポリと掻く。

 

「我々は西部のマクソンバンカーから、大陸横断鉄道の残骸を通りながらここにやって来たのじゃ。其処までは知っておろう?」

 

数十年前にBOSはテクノロジーの保全と管理を目的にキャピタル・ウェイストランドにやって来た。その多くは西海岸のマクソンバンカーと呼ばれる旧軍基地から派遣されて、長い遠征を経て来た猛者達だ。

 

「我々は嘗てアメリカ合衆国の首都であったワシントンD.C.の荒廃を見て、住む人々の救済をしなければならないと思った。そして、上級パラディンのキャスディンとの意見の相違で大分裂が起こった。しかし、そうしなければならない理由があったんじゃ」

 

リオンズはふと、中庭にある国旗のポールを見る。そこにはアメリカの星条旗とBOSのエンブレムが描かれた旗が吊るされていた。

 

「我々が派遣を受けた当初は支援や補給が受けられると確信しておった。しかし、大陸を隔てて補給を望むことは難しい。交通網が残っておれば別じゃが、元からその気は無かったんじゃよ」

 

「ってことは、見棄てられたと?」

 

俺はそのことに食い付いた。それは聞いていた事と全く異なる。てっきり、エルダー・リオンズが勝手にウェイストランドの救済をしたから、一切の支援を送られなくなったと聞いていた。

 

「元から支援する気もなく、バンカーの要らない要員を派遣したに過ぎん。古い言い回しでは片道切符を握らされたといえば良いのかの。エルダー議会で邪魔者だった儂を追い出したかった口実を作りたかったのも考えられる」

 

排他的な集団で問題になりやすいのが、人口の減少だった。多くが近親婚になるなか、NCRと長きに渡る戦争で、兵員の減少もあってBOSは人手不足に追われていた。エルダー・リオンズはそこで新たな兵士確保のために、新兵を募集すればいいと言った。しかし、排他的且つ選民思想なエルダー達はそれを一蹴した。

 

エルダーの中でも浮いた存在であった彼は都合よくワシントンD.C.に送り出された。ありもしない支援を約束されて。リオンズも支援されることなどないと思っていた。だからこそ、ワシントンD.C.に来てからは、ウェイストランドの救済を始めて新兵を募集し始めたのだ。しかし、連れてきた仲間の中にも西部のエルダーと同じ思考の持ち主が存在し、組織は二分した。

 

「西部のBOSとの連絡は?」

 

「取ってはいるが、儂のやったことに関してはおとがめなし。補給を送らないと言われたが、元から送るつもりもない筈じゃしな。」

 

本来、コーデックスに反したものは降格や追放、旧軍さながら銃殺刑となる。しかし、西部のBOSエルダー議会はそのような決定は下していない。元から、見放すつもりだったに違いない。

 

「兵士達には・・・」

 

「薄々感ずいている筈じゃ。まあ、支部自体地域によって特色があるからの。孤立しても自給自足するようには命令を受けている。上には意見を通さなくても、地域に貢献するBOSもいると聞いたことがある。何時の時代も腐敗するのは上の人間じゃな」

 

リオンズは満足したのか、ベンチから立ち上がった。彼の表情は先ほどとは違い、すこし晴れ晴れとした様子だった。

 

「儂は執務があるので失礼する。ガールフレンドを大事にするのじゃぞ」

 

彼はそのまま、ペンタゴンのビルの中へと入っていった。一人残された俺は一先ず、シャルの様子を見に行こうと足を動かす。パワーアーマーに慣れてきたのか、歩くのはスムーズになり、スクライヴが研究している地下施設へと進んだ。

 

 

アメリカ合衆国の国防の要である国防総省でも、二百年経つ老朽化した建物である。所々ひび割れが入っており、鉄筋などで補強している箇所も目立つ。階段を下り、研究施設のあるセクションへと降りた。

 

「ん?・・・・あれって」

 

施設の真ん中に置かれていた人型のロボット。経年劣化で塗装は剥がれ、錆び付いた金属が見えている。しかし、それから吹き出している威圧感は只者ではないことを教えてくれる。20mはあるだろう、その巨体は最終兵器と言っても差し支えないレベルのものだった。

 

「リバティ・プライム」

 

アラスカ・アンカレッジで中国との戦いに明け暮れていたチェイス将軍がRobco社に発注した二足歩行兵器。その兵器のスペック上、敵軍一個師団と戦える戦力を持っていた。それはアメリカの威信と狂気が産み出した兵器だった。

 

俺はそれを見るために階段を降りて、足元から見るべく移動する。リバティ・プライムは無人機ではあるが、コックピットがあれば乗ってみたいと思ってしまう。それはロボットが好きな人間。いや、男なら誰もが持つロマンなのだろう。

 

足元から見たそれは、見た者を圧巻し、戦慄させる。戦わずして負けたようなものだった。そんなだったからかもしれない。後ろにいる人物に全く気がつかなかったのは。

 

「君はナイト・椿の息子だね?」

 

ふと後ろから母の名前を言う声がして後ろを振り向く。そこにはパワーアーマーを着た角刈り頭の壮年の女性が立っていた。その顔は年相応のものであるにも関わらず、身体中から生気が感じられる。

 

「はい、あなたは?」

 

「私はスターパラディン・クロス。君の母の事なら良く知っている」

クロスはそう言うと、いきなり俺の頭を撫でながら抱きついてきた。

 

「君が椿の息子か~!そう言われると、椿の面影があるな!まったく、アイツを振ってVaultで男を見つけるとは流石だよ!」

 

まるで犬の頭を撫でるような荒々しい撫で方で俺の頭を撫で回す。パワーアーマーでガッチリと抱きついており、離れようにも離れられない。

 

「い、痛いです!スターパラディン・クロス!」

 

「ハッハッハ!私の事はクロスでいい。椿の息子なのだから遠慮しなくていいぞ!」

 

名残惜しいとばかりに離れるときにも、ワシワシと効果音が出るような撫でる。確実に脳細胞は死んでいる。絶対そうだ。

 

「年甲斐もなく、はしゃいでしまったよ。昔を思い出すな~。・・・そうそう、椿が持っていた刀はどうした?今は持っていないようだが?」

 

「あれはまだVaultにあります。あの状況で持ってこれなかったんで」

 

いきなりの事だったし、無理もなかった。あの事件は予期せぬ出来事だったし、母の形見であるあれは持ってこれなかった。

 

「そうか、息子も刀が使えると思ったのだが」

 

「自分はもっぱら火器専門です。・・・でも、刀ってかっこいいですよね」

 

刀鍛冶が伸ばして鍛え上げた刀身。それは、敵を意図も簡単に切り裂き絶命させる。鞘から抜き取ったそれは惚れ惚れするような見事な刀であった。

 

「そこはやはり親子なのだろうな。私はもっぱらこれだが」

 

そう言って背中に背負う物を叩く。それは打撃力を強化した戦闘用のスレッジだった。

 

「良く分かりましたね」

 

「何、初心者がパワーアーマーを着たときに良くやる動きをしていたからな。直ぐ分かるとも。」

 

にっこりと微笑むクロスの顔は何処かで見たことがあった。父の写真入れの箱に入っていた記憶がある。

 

「母とは親しかったんですか?」

 

「ああ、私達は当時のBOSの広告塔と言ってもよかったね。スリードックが私達の活躍を大々的に言っていたんだから。あと、もう一人居たんだがね~。あいつはここにはいない」

 

若干、クロスの声が半音下がる。それは多分、国立図書館にいるナイト・ロジャーだろう。正直、かなりクロスとお似合いと思うのだが、この際黙っておこう。両者共に拳で語り合いそうな感じがするのだけど。

 

 

「母はどんな人でしたか?」

 

父は母の多くを語ってくれた。しかし、それはVaultに来てからの事だったし、母がどのような生い立ちなのか知らなかった。

 

「そうだな、彼女は名前から分かると思うが日系人だ。自分の子孫は中国との戦争に逃れた日本の資産家だったと言っていたが、私も良く知らないな。誰にも優しく接してたし、男共からはかなり求婚されたと聞くが」

 

何かクロスから嫉妬に似た空気を感じ取ったが、知らない振りをした。昔、父から母の写真を見たことがあるが、大和撫子と言っても良いような日本の美人だった。艶やかな黒髪に整った顔立ち。小顔な彼女はウェイストランドの人からすれば異邦美人だろう。

 

「良く、日記を書き記していたな。それにBOSでは親しい人物に遺書を遺していた。もし、Vaultに戻ることがあるなら、見てみるといいかもな」

 

「見られたら良いですけどね」

 

あの事件の後、Vault101の扉は閉ざされてしまった。多分、永遠に閉じられることになるのだろう。母の遺品や形見、しっかりと父や兄にも別れを告げたかったが、それも叶わない。

 

俺はシャルの見舞いに行くことを思い出して、クロスに用事があると言って別れようとした。

 

「ガールフレンドを探しているんだろ。彼女なら墓参りに行ったぞ」

 

「墓参り?」

 

墓参り?

 

彼女はウェイストランドに死んだ知り合いがいたか?

 

俺は頭の中で色々考えたが、こたえを出したのはクロスだった。

 

「彼女の母親の墓だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

『逃げろ・・・!マジソン・・・・シャルロット・・・・』

 

 

夢の中でも父は放射能汚染された浄化チャンバーのコンソールで苦しみながら、私達に言う。どうしても、父の最後が頭の中でフラッシュバックする。父を探してVaultを飛び出し、何故出ていったのか聞きたくて幼馴染みのユウキと共に嘗てのワシントンD.C.。キャピタルウェイストランドを旅した。

 

父の生涯を捧げた浄化プロジェクトの事を知り、私とユウキは出来うる事をもって手助けした。プロジェクトは軌道に乗って、あともう少しの所まで来ていた。それなのに・・・・・

 

 

私の直ぐ頭上を二つのモーターを持つヘリコプターが旋回して、ジェファーソン記念館とリベットシティー上空を飛行した。

 

護衛のBOSの兵士に教えて貰ったが、リベットシティーとメガトンは完全にエンクレイヴに占領されてしまったらしい。BOSは正面衝突を避けるために各地の前哨基地に命令を出しているが、アウトキャストは40年前にエンクレイヴを壊滅させたように、今回も勝つつもりで居るらしい。しかし、どちらが勝つのかはウェイストランドの世捨て人でも気付くだろう。

 

三人のBOS兵士が護衛に付き、変装したDr.リーと私はある場所へ向かっていた。

 

「シャルロットさん、あともうちょっとよ」

 

Dr.リーは私の前を歩き、私の手を引っ張っていた。

 

 

研究室から一歩も出ない私を元気ずけようと、「連れていきたい所がある」と彼女は外に連れ出したのだ。

 

一応、エンクレイヴから逃げてきた身であるため、護衛と変装は必須になった。

 

だが、これからどうすればいい?

 

旅の目的である父は見つけ、父の人生を捧げた浄化プロジェクトはエンクレイヴによる父の死によって奪われてしまった。私は父を失い、これからどうすれば良いのだろう。

 

ある者はエンクレイヴを憎めと言う。

 

だけど、憎んで仇を取ったところで父は帰ってこない。

 

途方もない喪失感と無気力。

 

持っていた護身用の10mmピストルが腰に重くのし掛かる。そして鉛のような重く感じる足を動かしながら、Dr.リーの言っていた目的地に急ぐ。

 

「HQ、こちらecho2-2。objectは5分後に目標に到着。基地の帰還予定時刻は1610。over」

 

(HQ了解。Echo2-2、objectを失わないよう慎重に行動せよout)

 

近くの兵士は定時連絡で司令部に連絡を入れる。私やDr.リーはスカベンジャーのような商人の格好をしている。BOSは武器弾薬を調達するために、自前の武器以外にも市場を通じて武器を購入している。御用達の武器商人を護衛する事はそんなに珍しいことではないため、偽装するにはうってつけらしい。

 

「今回はリオンズに無理を言ったのよ。でも、貴女にはあれを見せなければならないと思ったのよ」

 

そんな人物にまで無理を言うなんて、Dr.リーは只者ではない。BOSの指導者に無理を言えて、尚且つ実現できる人って普通いない。

 

最初、BOSの兵士も嫌々だったらしいが、Dr.リーがその兵士に耳打ちをすると、表情が一変して真っ青になった。その後の兵士達も気を抜かないようしっかりと警戒しているのを見るに、何か恐ろしい事を言ったに違いない。Dr.リーはもしかして・・・・

 

 

「シャルロットちゃん、どうしたのかしら?」

 

「ひ、ひゃい!なんでもないれす!!」

 

思わず、噛んだけど。Dr.リーの表情が恐ろしく怖かったなんて言えるわけがない!

 

 

そんな事をしながら歩いていくと、Dr.リーが言っていた目的地にたどり着いた。とは言うものの、そこの場所には見覚えがあり、何度もそこを往来していた。

 

ジェファーソン記念館とリベットシティーを結ぶ川岸沿いの道。エンクレイヴの攻撃を受ける前には記念館への道程として、物資運搬路として機能していた。その道程の半ばにはコンクリートで作られた石碑が設置されている。

 

「ここは?」

 

私はDr.リーに聞いた。直ぐ近くではスーパーミュータントと戦った場所があり、そこにポツンと置かれていたそれに気が付かなかった。

 

「そこに彫られた文を読んでみて」

 

私は言われた通りにその文を読む。

 

『愛するキャサリン ここに眠る 夫のジェームズと娘のシャルロットは貴女の事を忘れない』

 

石碑にはそう刻まれ、Dr.リーはリベットシティーで育てていた花を一輪水を入れたミルクボトルに差した。

 

「このお墓は母の・・・」

 

「ええ、あなたのお母さんよ。」

 

私は足の力が抜けて膝を地面に付ける。石碑を指で撫でた。母の遺体は燃やして川に遺灰を流したらしい。ただ、母が生きていることを残すために石碑を作ったようだった。さほど大きくないそれにポタポタと水滴が落ちた。

 

ウェイストランドでは雨は降らない。

 

濡れた石を撫でているうちに自分の目から涙が垂れていることに気がついた。お父さんが死んでから、ずっと泣き続けていたから涙腺が枯れてしまったのではと思った。でも、お母さんのお墓で泣いていることに驚いていた。

 

涙腺からあふれ出す涙を止めることができず、両手で涙を拭った。すると、後ろから手が伸びてきて私の肩に触れた。

 

「キャサリンはね。私が二十歳の頃にリベットシティーにやってきたの。ジェームズと一緒に働いていて、彼女が浄化プロジェクトをやろうと言い始めたのよ」

 

Dr.リーは私の肩を撫でて、耳元でささやきかける。

 

「ジェームズとキャサリンは恋に落ちた。それはもう、こっちが赤くなるほどにね。キャサリンが羨ましかったわ。ジェームズの腕に抱かれて。嫉妬してしまうほどに」

 

私は最初、Dr.リーの二人の恋愛に顔が赤くなると言う言い回しに笑いが出たが、後半で意外な事実を知った。そう言われると、父を見ていたdr.リーの視線が何処か熱っぽく感じられたのはそのせいだろう。

 

「でも、彼の幸せは私の幸せよ。影ながら応援もしてたわ。やがて二人はあなたをもうけた。出産に立ち会ったのは私よ。覚えてないかも知れないけれど」

 

「Dr.リーがですか?」

 

私はいったん涙がわき出るのを阻止し、目を彼女へ向ける。

 

「ええ。あなたはとっても元気が良かったわ。でも、キャサリンも持病があったからあの後はジェームズが蘇生を施してもダメだったわ」

 

私が生まれた後、力を使い果たして亡くなった母。父からの話だけで、写真などはなく顔は知らなかった。Dr.リーの顔は愛しい人を奪われた嫉妬の念を抱く人のそれではない。友人を死を悼むものだった。

 

「ジェームズは今の貴女のように落ち込んだわ。でも、立ち直るのは早かった。何故だか分かる?」

 

「え?・・・何でですか?」

 

私は戸惑い聞いた。Dr.リーは私の肩から腕に手を伸ばして私の手のひらを掴む。

 

「貴女が居たからよ。ジェームズは落ち込んで間もなく、メガトン近くのVaultが開いたと言う知らせを聞いて飛び付いたわ。G.E.C.K.の情報も入っていたし、何より貴方をウェイストランドに居させる事はしたくなかった。浄化プロジェクトは凍結、事実上の放棄だったけど」

 

私はDr.リーの目を見る。その目からは一筋の涙が流れていた。

 

「貴女には守る物、やらなければならないことがあるはずよ。」

 

「守るもの、やらなければならないもの・・・」

 

Dr.リーの言った言葉をもう一度唱える。目をつぶり考える。そこから出てきたのは、ユウキの顔やブライアン。そしてメガトンの皆やリベットシティー、テンペニータワーや沢山の人の顔だった。

 

「貴女が決めること。このまま身を隠したって良いわ。それは貴女の自由。でも、貴女がもし守りたいなら困難な道なるはず。それは逃げるより難しいでしょうね」

 

Dr.リーは一度手を話して、私の顔をジッと見据えた。

 

「でも、これだけは信じて欲しい。その道の先はあなた次第で良い方向悪い方向に傾くはず。その時は自分を信じて前に進みなさい。それが貴女の出した答えなら・・」

 

私はエンクレイヴから追跡を受けている身。だが、彼等の支配地域さえ抜ければ身の安全は保証される。逃げれば命は助かるだろう。

 

しかし、お父さんが探していたG.E.C.K.を見つけて浄化プロジェクトを主導するBOSに託せば、お父さんが人生を捧げたものを達成できる。エンクレイヴを譲歩させられるかもしれないし、人類の復興にも繋がる。

 

私はどうするか考えた。それは一秒か一分か。それとも一時間か。どの位の時間が過ぎたか分からない。

 

頭の中で結論を出して、震えながらその言葉を紡ぎ出した。

 

 

「私は・・・・」

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

そこはBOSが運用する武器兵器庫の一角にある廃品置場である。その横には様々な作業台や工具が沢山あり、防具や武器の修理や修繕を行う。廃品置場から稼働しなくなったパワーアーマーやライフルなどから部品を回収して修理をしているのだ。T49dパワーアーマーは国防総省の地下兵器庫に大量に保管されていた。また、近くにあった倉庫もそういった兵器の倉庫があった。

 

T49dパワーアーマーは2070年代にはすでに旧式の兵器となっている。主力はT51bパワーアーマーであり、T49dは軍の倉庫に押し込められていた。旧式の兵器と言えど、一騎当千の能力があるため、パワーアーマー数は一定数必要である。予備機として保管して何かの役に立つだろうと思った役人が廃棄せずに倉庫に入れたのだ。

 

その役人の貧乏人根性が功を奏したお陰か、東海岸のBOSが使用している。当の役人も二百年後まで考えてはいなかったのではなかろうか。

 

 

「おーい、ユウキ。こんなところで何をしてる?」

 

その場所に入ってきたのは、黒のコンバットアーマーを着たウェインだった。背中には最大限のカスタマイズがなされたアサルトライフルが下げられている。基地内では武器の使用が厳禁だが、『携行』することに関しては禁止していない。暴発を考えてか、弾倉は外されていた。

 

俺の服装はVaultスーツにCIRASベストではない。戦闘区域でもないし、装備自体邪魔だったので埃を被っていた陸軍が使用していたらしい整備士用のジャンプスーツと工具キットを腰に下げていた。

 

「見て分からない?改造だよ」

 

オンボロのパワーアーマーを貰い、『はい、これで戦います』なんて言う奴の気が知れない。T49dパワーアーマーの本当の性能を知っているやつからすれば、目の前にあるそれは残骸でしかなかった。なら、勝手に改造を加えてしまおうと思い至った。

 

T49dの装甲に更に装甲版を増強する。スクライヴが戦前の技術を流用したレーザーやプラズマを跳ね返す塗料を塗り込んでおく。効力は少ししかないが、無いよりマシである。そして、ベストにあるようなマガジンポーチを胸や腰に装着して携行量を増やす。更に故障していたヘルメットを魔改造してHUDを復旧させる。暗視装置は壊れているので、直接目で覗くタイプを改造して、ヘルメットの外につけられた暗視バイザーを下ろすことで、暗視装置が作動するようにした。

 

最早、原型は留めていない。肩に掠れていたBOSマークをしっかりと塗り直して完成である。それを見たウェインは飽きれと驚きの表情が見えていた。

 

「お前さ~、凄いというか馬鹿というか・・・・」

 

「そんな誉めんなよ」

 

「後者はいいんか?後者は?」

 

馬鹿という発言に対しては自覚があるため、あんまり気にしないことにした。世界広と言えども、こんな魔改造をする輩はいない。マガジンポーチを設置したとしても、暗視装置を取り付けることはない。

 

「んで、なんで俺を探しに?」

 

俺は持っていたスパナで最後の仕上げのボルトを締める。

 

「ああ、さっき司令部で上級パラディンや各部門の責任者が呼ばれた会議があった。そこで話されていたことにお前が聞きたいことがあるんじゃないかと思って」

 

ウェインは後で俺が飲む筈だったキンキンに冷えたコーラの栓を抜くと、ラッパ飲みで黒い液体を喉に流し込む。

 

「おい、ウェイン。レーザーガトリングで体を引き裂かれたくなかったらヌカコーラを置け」

 

「ったく、ヌカコーラ位多めにみやがれ」

 

「冷やしてある奴、それで最後なんだ!勝手に飲むな」

 

ヌカコーラはメガトンの自宅で稼働する自販機で冷やされている。今持っているのは、ジェファーソン記念館に来てからゆっくりと消費されている物のひとつである。pip-boyはその物の状態を一定期間変えない事が可能である。だから、キンキンに冷えているヌカコーラが飲めるが、さっきも言ったように冷えたヌカコーラの残りはウェインが飲んだ一本しかない。

 

ウェインが持つコーラを奪い取り、喉に流し込もうとするが一滴しか飲むことができなかった。一滴というのは喉を潤すことなどできない。ウェインを睨むと、そんなことよりと勝手に話を変え始める。

 

「BOSの無線技師がある信号を捉えた。どうやら、アウトキャストからの救難信号のようだ」

 

「それって、旧軍の稼働するVRシュミレーターがある場所だろ?」

 

それはDLC版でアラスカのアンカレッジで起きた中国軍侵攻でアメリカ軍がやった作戦のシュミレーターがあった。それは新兵訓練用のものであるが、試験中の物であるため、シュミレーションで戦死した場合は現実でも死ぬと言う曰く付きのものだ。主人公はシュミレーションを終えると、アウトキャストの内輪揉めに合ってしまう。シュミレーションをクリアすると、旧軍が保管していた倉庫の鍵が開くが、目ぼしいものは冬期型T51bパワーアーマーと中国軍ステルスアーマー位なものだろう。

 

しかし、ウェインは首を横に振った。

 

「いいや、場所は旧軍のインディペンデンス軍事基地らしい。アウトキャストが運用する無線機から救難信号が発信された。偵察員の情報じゃ、基地の方角で黒煙が昇っているようだ。」

 

アウトキャストはリオンズ傘下のBOSから離脱した部隊だ。構成はベテランのパラディンやナイトが殆んどであったため、精鋭だと言うことがわかる。近くのフェアファクスの廃墟にはレイダーの集団がいるが、アウトキャストが手間取ることはない。しかし、基地から黒煙が昇っていることを推測しても、考えられる事は一つしかなかった。

 

「エンクレイヴか・・・」

 

 

 

 

 

私は・・・ジョン・ヘンリー・・・・・ハッハッハッハ!!驚いたか!Threedogだぞ!

 

さて最新のニュースをお送りしよう。皆も知っての通りだが、エンクレイヴがリベットシティーとメガトンを占領した。流血沙汰は今のところ起こってないようだが、メガトンの一部の入植者。まぁ、メガトンでもかなりヤバい奴等が攻撃を仕掛けたようだが、彼等の手を煩わせることなく殲滅されたようだ。

 

今のところ、選民思想にまみれた彼らは住民を皆殺しにはしていないものの、二大集落が占領されていることによってウェイストランド全体の物資流通が滞っているらしい。スカベンジャーや商人には注意して欲しい。商業ルートを変えてレイダーの餌食になってみろ、エンクレイヴが助けるかは分からんからな。

 

もう一つニュースを。ジェファーソン記念館はエンクレイヴに占領されている。これは前の報道通りだ。しかし、続報がある。そこで働いていた技術者や科学者は全員BOSに保護されているらしい。ブラボォー!!!

 

エンクレイヴの空爆から守りきり、避難経路から脱出させたようだ。まったく、奴等の攻撃から全員を守りきるなんて凄すぎるだろ。今はBOSの所に匿われている。国防総省のビルにいるから、差し入れをしたい者は来てくれよ。そこらのパラディンに渡せたら上出来だ!

 

さて、曲を掛けよう。今日はそうだな、Vaultのあの二人の無事を祈ってあの曲にしよう。

 

Linkin ParkのWhat I've Done

 




新章突入しました!

物語も佳境に入って参りました。ご感想及び誤字訂正など受け付けております。感想貰ったら半狂乱で喜びます故よろしくお願いします!


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三十話 友

この話でインディペンデンス砦に行けると思っていましたが、行けなかったようです。

しかし、旅の友がまた増えました。


刻も既に昼を過ぎて、夜の帳の準備をしようとするなか。最近になって聞くことが多くなった双発のプロペラ音が響く。

 

旧ワシントンD.C.上空にはエンクレイヴ所属のベルチバードが多数飛行していた。多くは巡回するパトロール部隊の随伴であるが、彼らの任務の中にはジェファーソン記念館から逃亡した数名の身柄を発見するというものもあった。

 

その上空を飛行する一機のベルチバードのパイロットは地上で停止する友軍の車両部隊を発見した。

 

「こちらhatchet1-2。司令部、Delta4-2の車列を確認した。どうやら、ミュータントの攻撃を受けている模様。Over 」

 

(hatchet1-2、Delta4-2は物資運搬中である。物資が破損する恐れもあるため速やかにDelta4-2の救援を開始されたし。Over)

 

「了解した。これより航空支援を行うout」

 

哨戒していた、hatchet1-2と呼ばれたベルチバードのパイロットは操縦桿を傾けて戦闘区域へと向かう。彼の乗っているベルチバードは火力支援が可能な30mm機関砲と対戦車ミサイルやロケット弾が装備されており、後部の爆装にはミニニュークが20基装備されている。これは上空から投下できるものであり、敵への爆撃が可能となっている。

 

エンクレイヴの航空戦力はヘリ以外にもジェット戦闘機を数機所有しているが、敵対する勢力に航空戦力を所有していないためお蔵入りとなっている。実際、ヘリよりもコストパフォーマンスが悪いため、殆ど倉庫から出されることはない。そのため、現時点ではヘリが唯一の航空戦力となり、爆撃機のような使い方もしなければならなかった。

 

「中尉、敵はあの黄色の化け物でいいんですね?」

 

無線に応答したパイロットの横に座る若い射手は訊く。その黄色の化け物はスーパーミュータントであり、2mを超す巨人である。一対一で戦えば確実に死が待っているはず。しかし、ベルチバードとスーパーミュータントが相対したとき、その結果は逆転する。

 

「ああ、あの化け物共を皆殺しにするのが俺たちの任務だ」

 

「よっしゃ!シュミレーションからやっと実戦だ!」

 

 

若い射手はシュミレーションでしか戦闘を経験していない。基地周辺の哨戒任務でもたまに敵対勢力を排除することもあるが、今まで行動を制限されていたため、戦闘を経験するのは歩兵位である。ヘリのパイロットは西部から来た士官であったし、親は西部の戦いで戦死していた。若い射手の昂る気持ちを察してはいたものの、自身の境遇ゆえにキツく当たった。

 

「あまりはしゃぐな。お前が一発でも撃ち漏らせば、仲間が死ぬかもしれないんだ。少しは落ち着け」

 

「りょ、了解」

 

射手は少しばかりへこんだものの、少しは自覚をしていたのか深呼吸を行う。誰だって初めての実戦は緊張する。己の指に力を込めれば、30mm機関砲が発射されて敵はたちまち肉片になるのだから。

 

パイロットは操縦捍を動かし、高度を下げて車列の真上へと移動する。

 

 

「こちら、hatchet1-2。Delta4-2応答されたしOver」

 

(こちらDelta4-2!FLV変異体約20から攻撃を受けている!先頭にいたIFV(歩兵戦闘車)が戦闘不能!こちらの火力では防ぎきれない!)

 

崩落したビルの穴から出てくるミュータント。先制攻撃により砲塔から煙が昇るIFVを盾にパワーアーマーを着たエンクレイヴの兵士達は必死に応戦する。徹甲弾を装備していないミュータントが大半であるため、撃たれていても装甲板で跳ね返してしまう。しかし、中にはミサイルランチャーを装備したものや、素手でパワーアーマー兵の胴体を引きちぎる事も出来るため油断できない。APC(兵員輸送車)から随伴歩兵が降りてきて、持っていたレーザーライフルやプラズマライフルを発射する。突撃してくるミュータントを倒そうとする兵士がスレッジハンマーで吹き飛ばされるなど、歩兵戦闘は有利とは程遠い。

 

「了解、Delta4-2。これより航空支援を行う。攻撃指示を頼むover」

 

(煙の出ているIFVの向こう側は全て敵だ!スモークを炊かなくても分かるだろ!)

 

交信している兵士は相当狼狽えており、パイロットは溜め息を吐く。

 

「了解した。これより攻撃を開始。遮蔽物に隠れとけよ、何が飛んでくるか分からないからな」

 

パイロットは武器管制システムをチェックし、兵器の操作を射手に回す。射手は意気揚々とロケットを選択した。

 

「Rocket・・・・・FIRE!!!!」

 

射手は発射ボタンを押す。ベルチバードの胴体のサイドに装着されたロケットポットからミサイルランチャーのミサイルよりも大きく緑がかったロケット弾が発射された。バシュッ!という発射音と共にロケットは音速を越えてミュータントのいる地点に命中した。

 

弾頭に装填された成形炸薬はその場所の地面をえぐり、周囲に破片をばら蒔いた。ミュータントの四肢を契り去り、幾十の破片がミュータントの体を切り裂いた。

 

ロケットは一発のみならず、立て続けに発射されてミュータントを圧倒する。そしてウェイストランドでは見ない30mm機関砲が火を吹いた。大口径のそれは一瞬にして硬いミュータントでさえも肉片と化した。ベルチバードに装備された弾薬が四分の三になる頃には既にミュータントは物言わぬ亡骸と化していた。

 

「こちらhatchet1-2、敵勢力排除を確認。そちらの損耗は?over」

 

(hatchet1-2、こちら、Delta4-2。IFVの45mm機関砲が破壊されたがまだ移動可能なようだ。そちらにリベットシティーまでの護衛を要請したい。燃料は大丈夫だろうかover)

 

パイロットは燃料計を見る。まだ燃料は半分近く残っており、護衛は可能である。弾薬もまだ豊富に残っており、護衛任務は初めてであるがやらねばならないだろう。

 

「了解したDelta4-2。これより上空から援護する。Out」

 

パイロットは一度、高度を上げる。車列がいたのは荒野と市街地の境である旧幹線道路である。二百年も放置された道路は舗装のあとはあまり見られない。戦時中の塹壕や投棄されたトラックまであることから、当時の状況が鑑みることができた。

 

パイロットは今回のエンクレイヴの方針転換に対して不安を覚えていた。彼が幼く父が生きていた頃は、カリフォルニアで一大勢力を築いていた。アメリカ再建まであと少しであり、再び星条旗が翻る日を夢見ながら、パイロットやその家族は仕事に励んでいた。しかし、ポセイドンオイル陥落によって、エンクレイヴは敗走。東へと移動し、残存する軍事基地へと身を寄せた。

 

若かったパイロットが見たのは、大の大人が考えの違いを理由に言い争いをする光景だった。東はウェイストランド人に寛容であり、エンクレイヴが崩壊すれば何らかの形でウェイストランドを助けようとしていた。一方、西は選民思想に凝り固まり、ウェイストランド人を人として扱わず「汚染された人類」として扱った。パイロットも父からそう聞かされていたが、東に属する将校からは意外な事実を耳にした。

 

ポセイドンオイル基地ではとある極秘作戦が進行中であり、偏西風にFLV改良型ウイルスを散布して、ウェイストランド人を虐殺しようとしていたのだ。パイロットは最初信じられなかったが、知り合いを通じてそれを知ると、エンクレイヴという組織が一体何なのであるか分からなくなってしまった。その後、彼は西の将校の中で数少ない穏健派将校の一人となった。

 

東の将校の大粛正のあと、生き残りの穏健派の将校は連絡を密にしているがこれと言って自身の意見を外に漏らすわけにはいかなかった。どこに大統領直属の諜報員が紛れているか分からず、ましてやタカ派の奴らに目を着けられては組織にいることすら出来ない状況に陥ることは避けたい。パイロットはそうした状況の中で穏健派に属する将校の一人だった。

 

統合参謀本部が考案した作戦『operation:The eagle has landed』は表向きエンクレイヴの再入植計画である。しかし、それを主導しているのは選民思想を持つ西の将校であった。穏健派将校であるオータム大佐が実働部隊の指揮を執っていても、実行するのは西側の将校とその兵士達である。前大統領であるリチャードソンと同じような思想の持ち主ならば、グールと人間の区別すらつかないのだ。

 

パイロットはエンクレイヴが今後地域を平定していく上で選民思想が一番の足かせになるだろうと思った。

 

 

「大尉、あれを見てください」

 

若い射手は荒野を歩く行商人らしき人物らを指さした。計器を確認していたパイロットはフライトヘルメットの全画面HUDを下ろしてそれを見る。

 

ベルチバードは緊急用のコックピットウィンドウは狭く、見にくい。エンクレイヴのベルチバードパイロットはHUDと全画面液晶のフライトヘルメットを装着して外部にあるカメラを通して外部の様子を見ることが可能となっている。

 

彼が見た先には、行商人を護衛するBrotherhood of Steelの兵士の一団だった。情報局が公表している標準的な装備ではなく、何らかの現地改装を施したパワーアーマーを着た兵士が警戒に当たっていた。

 

「あの集団は攻撃しなくて良いんですかね」

 

「司令部からお達しがあったの忘れたのか。BOSの兵士を攻撃するのは禁止されているぞ」

 

エンクレイヴは戦前のように大質量をもって敵に挑むのは自殺行為である。戦前のアメリカなら質量戦で勝つだろうが、現在のエンクレイヴにはその余力はないに等しい。ポセイドンオイルの頃に比べても生産能力や軍事力は衰えていったといっても良いだろう。

 

今のエンクレイヴなら航空戦力を使って容易にBOSの司令部を急襲して勝つことは可能である。しかし、当初の目的であるウェイストランドの植民地化には大きな悪影響を及ぼすことになる。今現在、D.C.都市部のミュータント掃討はBOSが行っており、地域貢献などを考えてみてもぽっと出のエンクレイヴよりも好感度が高い。そのBOSを壊滅に追い込めば、ミュータントは闊歩し、人間の生活できる安全地帯は限りなく狭まる。また、地域貢献をするBOSを排除したことによって、人々の好感度は下がっていくことになるだろう。そのため、BOSへの対処は基本的に未干渉に務めている。

 

しかし、水面下での政治工作などがないとは言えなかった。

 

「え、でも3時間前にBOSの基地を制圧しに行ったじゃないですか?」

 

「あれは分派のアウトキャストと呼ばれる組織でBOSとは違うんだっての。よく奴らの服装みやがれ」

 

パイロットは若い射手の間違いをいらつきながら訂正する。

 

BOSは米陸軍で使用されているグレーの掛かった色をそのまま使用している。しかし、キャスディン護民官に集うアウトキャストは黒と赤を基調としたデザインのよいアーマーを着用していた。もし、彼らを攻撃すればエンクレイヴは再植民計画の実行が困難になる。

 

「了解です。・・・でも、結局はBOSを殲滅するつもりなんですよね。」

 

「・・・まあな」

 

統合参謀本部からすればBOSほど植民地計画に邪魔な者は居ないだろう。今はウェイストランドの守護者であるBOSを民衆の好感度を下げることなく殲滅しなければならず、困難だろう。だが、選民思想を掲げる上層部が己の信念を曲げずに殲滅したとして、民衆やミュータントの後始末をすることになる。

 

過去に起きた共産主義と資本主義の冷戦。お互いのカードを読みながら戦略を練るそれは、力のないエンクレイヴと言う老馬に鞭を打つようなもの。現在のBOSは既に離反者が居ないために、一枚岩になっている。しかし、エンクレイヴは組織自体に欠陥を抱えている。作戦に影響を与えかねない思想や政治闘争により、技術力と軍事力は優れていても、組織の質は断然BOSが有利である。

 

パイロットはエンクレイヴが過去の遺物にしがみつく亡国の組織である事を知っていた。最早、組織は虚像の指導者に従う事で本来の目的すら失っていることに。

 

「いつになったらこの戦いは終わりを迎えるんだ?」

 

パイロットはそう呟き、周囲の景色を見渡した。

 

 

小さい野球場跡にある国旗ポールの頂上に星条旗が風で翻る。核戦争の後に誰かが吊るしたらしい星条旗の端はボロボロで繊維が解れきっていて、煤がこびりついている。そして国旗は不自然にも二ヶ所ある内の一ヶ所の止め紐がほどけていた。

 

まだ戦争は終わっていない。満身創痍なその国旗は今のアメリカを表すかのようだった。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・、バレなかった~」

 

 

俺は被っていたパワーアーマーヘルメットを脱いで、腰に取り付けた水筒に口を付ける。ウェイストランドの気候によって、水は生ぬるく美味しくない。しかし、BOSが餞別として渡してくれたことには感謝した。

 

 

「全くだ。奴ら報告通り何もしてこなかったな」

 

 

同じようにヘルメットを被っていたウェインは俺と同じような改良型T49dパワーアーマーにある腰の留め具にヘルメットを装着した。

 

 

ウェインはBOSに入隊したわけではない。兵員確保のためにBOSに雇われたのだ。BOSは慢性的な兵員不足に悩まされており、各集落に傭兵や腕の立つ人物をヘッドハンティングしたり、徴兵を行っている。しかしながら、ヘッドハンティングで入るのは稀である。そして徴兵では訓練するコストも掛かる。そのため、戦闘に馴れた傭兵などを雇うことも少なくない。商人の護衛などはBOSが着けさせていることもしばしば。今回もパワーアーマーの操作方法の引き換えにBOSに雇われることになった。

 

ウェインの他にもモヒカンのジムや幾ばくかの兵士も参加している。そして、もう一人医療担当も存在する。

 

「なんで私だけ、商人の格好?モイラに貰ったアーマードスーツでも良いじゃん」

 

スカベンジャーが着るような、焦げ茶色のフィールドジャケットにトレーダーの帽子を深く被ったシャルは自前のトライビームレーザーライフルを携えていた。

 

「一応、偽装用なんだから頼むぜ。俺達が何時もの格好で歩いていたら、確実に捕まるんだから」

 

「うん、その時は返り討ちにするんでしょ」

 

「まあ、それが出来れば苦労しないけどな」

 

さっきのような車両や戦闘ヘリと対峙して勝てるとは全く思っていない。対戦車火器があったとしても、戦略的優位は向こうにあるため出来れば避けたい相手なのだ。

 

偽装とはいえ、パックバラモンの一匹も持っていないようじゃ怪しまれるということで、俺の横には荷物を抱えているバラモンが歩く。変異した赤い皮膚や二つある頭部を見ても、もしかしたら人間もこう言う風に変化するかも知れなかったと思うとぞっとする。人間はゴキブリ程ではないが、適応能力は他の動物とは比べ物にならない。人間にとってその能力はかなり救いだった。

 

持っていたレール付きアサルトライフルを提げながら、目的地に進軍する。しかし、途中で夜が更けるために何処かで野宿しなければならなかった。

 

「えっと、この先にスカベンジャーが言っていたジャンクヤードがあったな。立地条件もいいからそこにしよう」

 

リベットシティーで作成したスカベンジャーや商人、傭兵の口コミが書かれた地図は重宝している。何せ、安全な野宿場所や現在生息する生物の位置。レイダーの駐屯場所まで分かるのだ。pip-boyに入っているのはフラックが作った地図の写しになっていて、最新版はもっと情報量や修正点が多い筈だ。

 

バラモンの背中を撫でると気持ち良さそうに鳴く。案外、パックバラモンも可愛らしく、スカベンジャーが愛用しているのも頷けた。

 

パックバラモンに載せられた荷物の殆んどは医療品ばかりであり、今回の目的地も確実に必要とする場所であろう。目的地とはアウトキャストの司令部が置かれるインディペンデンス軍事基地だった。

 

 

 

シャルが帰ってきた後に、エルダー・リオンズの娘である。センチネル・リオンズから至急やって欲しい任務を頼まれた。ウェインが又聞きしたアウトキャスト壊滅に関する事だった。

 

BOSから離脱した者とはいえ、元々同じ釜を食った同志である。その為、エルダー・リオンズは小規模の偵察隊を派遣することに決定した。正規の隊員と医療関係者、傭兵の編成で行くことになり、俺達が呼ばれることになった。精鋭のスターパラディン・クロスも参加する運びとなり、商人に偽装した偵察隊はアウトキャストの基地を目指して進軍した。

 

途中でエンクレイヴを見掛けることもあったが、こちらを警戒するだけで一発も撃ってくる気配はない。エンクレイヴは今のところ、BOSと戦う意思は無いようだった。

 

 

やがて、偵察隊は休憩場所であるジャンクヤードの手前に来ようとしていた。

 

「止まれ、あの場所で何かやってる」

 

前方を偵察していたパラディンは後ろから進む一行を止めた。俺はパラディンに歩み寄った。

 

「どうしたんです?」

 

「複数の銃声と悲鳴、それに立ち上る黒煙の量からしてレイダーの襲撃だろう。ユウキとウェインは付いてきてくれ。他は医者とバラモンの警備だ。」

 

俺はアサルトライフルの動作確認を終えると、ダクトテープで弾倉を二つ固定して準備する。ホルスターに収まった10mmピストルもスライドを動かして次弾が機関部に装填されているか確認した。背嚢をシャルに預け、偵察したパラディンの元へ行く。

 

「先ずはジャンクヤードに入る。死角を埋めて、最低限音を立てるな」

 

パラディンは筒状の消音器を銃口に装着して、先頭に立って慎重にジャンクヤードへ近付いた。その後をウェインと俺が続く。

 

ジャンクヤードは戦前にスクラップになった車輛を放棄する場所だ。バスや車が幾つも点在し、立地上レイダーなどが住み着く。しかし、歴史を紐解けばそこの住人はレイダーばかりではない。立地上防御しやすい点からBOSの前線基地やアウトキャストの仮設営基地、一時期はトレーダーの集団がそこを休憩場所として商売を始めたこともあった。現在では商売はやっていないが、トレーダーの休憩場所となっていた。

 

防衛しやすい事から遮蔽物が点在し、物陰から何か出てくるかも知れないと考えて銃を向けて警戒する。たかがレイダーと侮れば、痛い目に合うのは自分達である。

 

ジャンクヤードに入ってから銃声と悲鳴のする方向へ進んでいく。銃声は段々と少なくなり、それに対してレイダーの卑劣な笑い声が聞こえる。

 

「前方にレイダー。歩哨のようだ、ユウキ片付けろ」

 

アサルトライフルを背中に掛けてホルスターから10mmピストルを抜き取る。腰からコンバットナイフを抜き取って銃口を向けた方向に刃先を向けて銃と一体化するように腕をクロスさせる。

 

レイダーは警戒しながらも器用に左腕を紐で縛り、モルパインを打とうとしていた。腕に注射器の針を差し、中の薬品が体内を駆け巡る。恍惚としているレイダーの口を押さえ一気に後ろへ体重を掛ける。

 

「!!!」

 

レイダーは驚き、叫ぼうとするが口を押さえられていて声は出ない。

 

『おやすみ』

 

英語ではなく日本語で言い、胸にコンバットナイフを突き刺す。レイダーは数秒じたばたしていたが、直ぐに絶命する。モルパインでハイになっていたため痛みは感じなかっただろう。幸運である。血で汚れたナイフをレイダーの着ている衣服で拭き取り鞘に収める。

 

「ユウキ、そこのバスの上から狙撃を頼む。ウェインと俺は奴らを片付ける」

 

「了解」

 

「わかった」

 

アサルトライフルをpip-boyに仕舞い、改造したスナイパーライフルを取り出す。構造状はあまり変わっていないが、不可視レーザーによって弾着地点をマークできるIRキットを装着していた。

 

瓦礫と化した自動車を登り、バスの上に到着すると這いつくばるようにして見晴らしの良い位置へ移動する。パワーアーマーが車に擦れて音が出ないように両手と音を出さないように布を巻いた膝で移動して、狙撃ポジションに着くと音を立てないように伏せ撃ちの体勢になる。

 

「こいつは酷い・・・」

 

 

そこはさっきまで商人達の設営地だった。しかし、バラモンは撃ち殺され、中央の広場では商人だった肉片が転がっている。レイダーの何人かは焚き火で肉を焼いて喰う光景があった。商人の護衛に女が居たようでレイダーの男達が数人で襲いかかっていた。悲鳴は絶え絶えになっており、悲鳴は枯れ尽きていた。

 

(飛び道具は食事してるレイダー数名だけだ。ユウキはそいつらを、俺とウェインは突入して奴らを蹴散らす)

 

パラディンの声は怒気が籠っているようなそんな声だった。パワーアーマーの通信機で交信した俺はスナイパーライフルの二脚を広げて、食事をする女のレイダーに照準を合わせる。

 

そのレイダーの横にはアウトキャストの簡易ミサイルランチャーとおぼしき形があった。IRサイトの電源を入れて、暗視ゴーグルで周囲を確認した。

 

「了解、焚き火をしているのが三名纏まっている。あと南西に女とヤってるレイダー四人組。あと、そちらのまん前にいるレイダーと

影のバスの中でレイダーのカップルが」

 

(分かった。バスと銃を持ったやつを頼む)

 

もう一度照準を戻し、食事をするレイダーへ銃口を向けた。レイダーが食べているのは良く見えないが、彼らがバーベキュー出来る材料はあっただろう。

 

息を整え、手が震えないようにパワーアーマーのアシストを用いる。自分の筋肉は未だしもパワーアーマーの人工筋肉は震えることはない。しかし、アシストをすることによって照準を次に移す作業がしにくい。

 

安全装置を外し、人差し指を引き金に触れる。機関部に弾が入っていることを確認して呼吸を止め、引き金を引いた。撃鉄が機関部に入っている308口径弾の撃針に触れた。薬莢内の火薬が弾丸を押し上げ、銃身へと導く。ライフルから飛び出した弾は回転しつつレイダーのこめかみを撃ち抜いた。側頭部は吹き飛んで脳奬を散らせる。隣に居たレイダーは何が起きたのか分からず、顔に飛んできたのか人肌程の粘着質なものをふく。いったい何なのか確認しようとしたレイダーは第二射でおでこに大きな穴があいた。

 

 

「スナイパァァー!!」

 

リーダー格らしいレイダーは叫び、仲間に遮蔽物に隠れるよう指示を出す。直ぐに、バスの影に隠れている男女のレイダーを狙撃すると、直ぐに弾丸がバスの上に飛んでくる。

 

「ウェイン、制圧射撃!奴ら銃を隠していやがった!」

 

レイダーは直ぐに遮蔽物へと身を隠して、影から出てきた時にはアサルトライフルやレーザーライフル、中国軍の使用していたバトルライフルまでと高性能ライフルを構えて的確に攻撃を仕掛けていた。今までのレイダーとは質が違っていた。素早く身を隠して正確に銃撃を行う動き、それは何度か見たことのある動きだ。

 

「二人とも!奴らタロン社崩れだ!」

 

スコープから死んだレイダーの腕を見てみると、タロンカンパニーを彫った刺青があり、奥のトラックから出てきたレイダーの服装はタロンカンパニーのコンバットアーマーだった。

 

「BOSのブリキ野郎だ!皆殺しにするぞ!」

タロンカンパニーはテンペニーの暗殺によって出資者がいなくなり、経営不振に陥っている。そのため、大規模なリストラを行ったという噂もある。元々、はみ出し者の集まりである彼らが全うな仕事に就くとは到底ない。殆どのものは重装備のレイダーと化した。

 

リーダー格らしきレイダーの男は中国軍アサルトライフルを俺の所へ向ける。咄嗟に隠れようとするが、何時もとは違ってパワーアーマーを装備していた。当然、直ぐに身体を動かせる筈もない。アサルトライフルから放たれた弾丸はバスの屋根やパワーアーマーに命中する。

銃弾が当たった肩は装甲が抉れて貫通していた。もし、その向こうが生身であったり駆動系部品なら危なかったかもしれない。

 

「奴ら、徹甲弾を装備しているかもしれない!遮蔽物に身を隠せ!」

 

腰に着けていた破片手榴弾を投げてレイダーを吹き飛ばす。しかし、吹き飛ばしたのは数人だけでまだ残り10人前後残っている。

 

「薬中のサイコ野郎が!皆殺しにしてくれる!!」

 

パラディンは埒が開かないと思ったのか、背中に背負っていた大型のバックパックからあるものを取り出す。それは最大級の破壊力を持つヌカ・ランチャーだった。しかし、それを使用してしまえば、周囲は多量の放射能に汚染される。ここに野営するつもりだった手前、それはさせたくない。無線機で止めるように叫ぼうとするが、それをする必要がなくなった。パラディンがヌカランチャーを背負ったその時、多数のライフルが彼に向いていたからだった。

 

「今だ!撃てぇぇ!!」

 

一斉に放たれた銃弾はパラディンの体に命中する。普通の弾丸なら跳ね返す装甲だったが、今回は異なった。奴らが持っていたのはタロンが使う徹甲弾だった。通常の弾薬ではミュータントを傷つけることができないため、タロンはバニスター軍事基地で攻撃能力の高い徹甲弾を使用する。俺が販売するものと同じ貫通力の高い弾薬だった。

 

発射された弾丸はパラディンの装備するパワーアーマーの装甲を貫くと、体を引き裂いた。それは一発ではなく、幾方向から発射され、何十発もの徹甲弾がパラディンの身体を引き裂いた。重機関銃の猛攻でも弾くようになっていても、それがフルメタルジャケット弾などであった場合である。何層の防弾板を貫き、駆動部分を破壊されたパラディンは後ろに仰け反りながら倒れた。

 

 

「ユウキ、パラディンがやられた!俺は交代する」

 

ただのレイダーではないことがわかったウェインは、突撃して奴らを蹴散らそうとは思わなかった。アサルトライフルでレイダーを牽制しつつ、バスの後ろに隠れた。俺は持っていた破片手榴弾の一つを投げてバスの屋根から飛び降りる。

 

「残りはどのぐらいだ?」

 

「さっき手榴弾で吹っ飛ばしたし、ウェインも一人やったから残りは9人か?」

 

「歩く戦車が聞いて呆れるぜ」

 

「俺とお前のは追加装甲を付けているから死なないけどな」

 

「おいおい先に言ってくれ」

 

とウェインは身体を乗り出して突撃しそうになるが、俺は手を伸ばしてやつの肩を掴んだ。

 

「まてまて、一発当たれば対弾能力が低下するからダメだ」

 

「なんだそりゃ、一体どういうこった?」

 

ウェインには全く話していなかったが、追加装甲の装甲はただの装甲ではない。装甲といっても、防弾板を掛け合わせただけでなく、とある工夫が施してある。

 

「こいつ、徹甲弾が命中すると爆発する仕組みになっているんだ」

 

「お前バカだろ!!」

 

ウェインがヘルメット越しでも伝わるような大きな叫び声を放つ。

 

俺が作ったのは所謂爆発反応装甲(Explosive Reactive Armor )である。ドイツの科学者が1970年代に理論を実証し、イスラエルが初めて実用化した装甲である。ミサイルや砲弾などから攻撃を受けた時に、爆発によって攻撃力を低下させる能力があった。小口径弾による誤爆などがないよう作られたものは旧東側諸国を中心に使用される。今回はそれの応用版で、貫通性の高い弾薬でしか反応しないよう反応爆薬の上に装甲版をしているのだ。そのため、二人の着ているT49bの装甲は原型を留めていない形になっている。先ほど死んだパラディンにも追加装甲を勧めたが、拒絶された。もし装備していたら助かっていたかもしれない。

 

ウェインに原理を説明して、渋々突撃するのを諦めた。

 

「それでどうする?一度しか装甲が使えないんじゃ、パワーアーマーの意味がない。万事休すだ」

 

「どうすっかな、こんな時に奴らの気を引いてくれる何かがあれば」

 

手元にある装備を見る。一応、閃光手榴弾の類は幾つか持っている。しかし、レイダーと言えど、元は傭兵部隊のタロンカンパニーである。不意打ちで閃光手榴弾は効くかもしれないが、戦闘中にやっても不意打ちの効果は低い。それに閃光手榴弾の閃光や爆音にも耐性があるだろう。そうなれば気をひくものはない。

 

一度、出直すかそのまま後退してやり過ごすのも手かも知れないと思い始めた時。敵のいる方向にレイダーの叫び声が響く。

 

「おい!この犬をどけてくれぇ!」

 

「スカベンジャードックだ!畜生何匹もいるぞ!」

 

そんな叫び声と共に銃声が響く。俺とウェインはそれを好機と見てバスの影から走る。パワーアーマーの人工筋肉が収縮し、動きをアシストする。ウェインは左から攻め、俺は右の焚き火をしていたエリアへと足を向ける。何人かのレイダーは襲いかかるスカベンジャードッグへと銃口を向けており、こちらには向けていなかった。

 

商人たちが飼っていたらしいスカベンジャードッグの群れはレイダーを混乱させ、獰猛な歯でレイダーの喉元を食いちぎる。

 

俺は引き金を素早く引いて、ダブルタップの要領で二発ずつレイダーの頭に弾丸を叩き込む。4人ほど始末すると、銃声は収まり生存者がいないかpip-boyの動体センサーに目を向ける。

 

「スカベンジャードッグは全滅か・・・・、主人が殺されて怒り狂っていたんだろうな」

 

犬というものは人間以上に忠義深い。それはあたかも忠臣蔵の武士のように自身が死ぬかも知れないのに、果敢に挑もうとする姿勢。だからこそ人間は最終戦争を生き延びたあとも犬を連れているのである。レイダーによって撃ち殺された犬や死ぬまでもう長くない犬を見ながら、他にも生存しているのがいないか調べた。

 

「さっきの襲われていた女はどうした。」

 

「そこに倒れているよ」

 

そこには見るも無残な女の傭兵の姿があり、全裸で横たわっていた。しかし、最後の力を振り絞ってレイダーの首を折って、奪ったライフルで近くのレイダーを撃ち殺したようだ。

 

「あとで墓を作ってやんないとな」

 

「ああ・・・・・、ん?向こうで何か動いたぞ」

 

俺はpip-boyを見ると動体センサーに白い丸が表示された。動体センサーはかなりのスグレモノで敵対感情などが向こうにある場合、赤く表示されて注意を促してくれるvaultサバイバーの必需品である。昔は父が俺のところに来ないか心配で本を読みながら、センサーをチェックしたことがあるため、センサーは馴染みぶかい。しかも、某人を殺しまくるSFモンスター物のような接近音を骨伝導で発するし、何メートルの位置にいるのか教えてくれるのだ。

 

「距離は?」

 

「50m」

 

暗くてよく見えず、暗視スコープを覗けばpip-boyの液晶が見えないためHUDを通してでしか見ることができない。次第にセンサーはそれが接近することを示し始めた。

 

「次第に近づいている・・・」

 

「残り四十m」

 

俺は唐突にも某SFモンスター映画のシーンを思い出す。酸性の体液を持つモンスターに宇宙海兵隊が立ち向かうもので、主役は女性乗組員なのだが、襲いかかる前にそのセンサーが反応していつ襲って来るのかと見るものを緊張させていた。それは一体何なのだろうか。その酸性の化物以上に危険なものではないのか。

 

「残り10m」

 

俺の内心を悟ったのか、ウェインですら声が強張り、携えたアサルトライフルを構える。

 

 

「来るぞ!」

 

俺は身体を強ばらせた。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

私の足取りはいつになく軽かった。年の割には身体を動かしていると同年代のロジャーに言われたものだ。いつまでも出世をしないナイト・ロジャーは命令を遵守しない男だが、仲間の為なら命を捨てられるという意思はそんじょそこらの兵士には真似できる事ではない。私以上に前線に出ている男に言われたくなかったが、体の節々が自分の意思についていかない事があるのは薄々と分かっていた。既に年齢は四十を超えて、子供を授かっていたら、その子供は立派な青年になるだろう。だが、私の子宮は今だ子宝には恵まれていない。と言うか愛を育む相手すらいないのだから仕方がない。

 

ナイト・ロジャーは幼馴染という手前、あいつの好きだった女のことはよく知っていたし、その女も私の親友だった。

 

かつて私とロジャー、そしてナイト・椿と共にBOSの先陣を切って戦っていた。私も含めて接近戦のプロフェッショナルであり、GNRが行うBOSの宣伝ではひっきりなしに戦果が伝えたれたものだ。ロジャーは私の幼馴染であったため、あいつのこともよく知っている。そして好きだった女のことも。

 

彼女は元々、BOSの生まれではない。しかし、私の上司が連れてきた部下の一人であり、そのことを咎める理由は私にはなかった。作戦を彼女と一緒にするようになり、仲も良くなり、それまで共に戦ってきたロジャーも一緒に前線に出ていた。その為だろうか、ロジ

ャーが彼女に惚れたのは。

 

「烏の濡れ羽色」という言い回しのような艶やかな長い黒髪。ウェイストランドでは珍しいアジア系で異邦美人というべきだろうか。アジア系と言っても、私がこれまで会ってきたアジア系の女性とは一味違っていた。BOSでも五本指にはいるほどの美貌だろうか。正直、友人の私でさえ嫉妬したこともある。

 

そんな彼女だったが、護衛任務であることを漏らした。

 

『vaultの中に入れないかな?』

 

私は彼女の一言を冗談だと思っていた。しかし、その話をしていくうちに彼女のvaultに入りたい意思は固いのだと分かった。理由は私には理解できないから、聞かないでおいた。なぜなら、彼女はBOSとは雰囲気ともにどこか違う感じだった。容姿もそうだが、戦前の知識は誰よりも豊富であり、時には敏腕のスクライヴでさえ舌を巻くほどに。戦闘要員ではなく、スクライブで科学技術を研究すればいいのではと思ってしまう時もあった。どこか彼女は私達とは違っていた。

 

BOSが最後の餞別としてジェームズ氏を護衛していて、目的地であるvaultの手前で別れ際の際に、彼女は泣いて別れを惜しんだ。彼女の行くvault101は今後も封鎖される予定であったから、今後は会うことはできないだろうと。鋼鉄の兄弟という間柄、本当の姉妹のように親しかった。別れるのは辛かったが、彼女も『やらなければならない事がある』と言っていた。

 

公式には行方不明とし、GNRの放送では戦死と流れた。惚れた女が死んだか行方不明になったとう情報はロジャーに悲しみを与えた。その時、私は一度、椿に嫉妬を覚えた。なぜ、この男は私を選ばずに彼女を選んだのか。私はいなくならないのにと。

 

一人が抜けたことによって、ロジャーとは疎遠になった。時々連絡をとるようにしかならなくなり、私はいつしかスターパラディンという地位にまで上り詰めた。

 

幼い兵士を鍛え上げる教官職であり、私にとっては天職だった。いつしか40という区切りも超えて、女としての山場も過ぎ去ってから、思わぬ一報が私の耳に飛び込んできた。

 

Vault101の扉が開かれて、中から男女が出てきたという知らせはBOSでも届き、ウェイストランド中に広まった。メガトンの入植者はこぞってvaultに足を運んだが、対爆ハッチは閉じられたままだったらしい。

 

私はメガトンに行って椿が無事かどうか知りたかったが、BOSの指揮官として持ち場を離れるわけには行かなかったし、教え子から目を離すことは嫌だった。次第に、vaultから脱出した二人の話はウェイストランドに広まり、GNRでも度々報じられるようになった。そして、BOSのリクルーターの情報では男女のうち男の方は椿の息子だということだった。私はそのことを知り、いてもたってもいられなくなった。だが、さっきも言ったように私は指揮官たる所以。そうそう、動くこともできない。

 

女の方もジェームズ氏の御子息であることも知り、ジェファーソン記念館で浄化プロジェクトを再開し、潤沢な資金でそこを運用し始めたことを耳にした。何度か、エルダーに有給を使えるよう求めたが、戦時下で悠長なことを言うなと苦笑を交えながら苦言を言われた。非常時であるため仕方が無かったが、エンクレイヴによるジェファーソン記念館攻撃によって、椿の息子と出会えたのだから。なんとも運命とは皮肉なものだった。

 

 

椿の息子であるユウキから聞かされた彼女の死。いつか人は死ぬ。だが、友人が死んだ知らせというものは余りにも辛い。その息子は母親と同じBOSのナイトの道を進んでいる。私の使命は彼の親代わりをしろということなのだろうか?

 

母親に似たのか、サラサラとした黒の髪。すこし色黒の肌。ダークブラウンの瞳は母親そっくりだった。

 

息子がいれば、彼ぐらいの歳になっているかもしれない。私はエルダーの命令によって彼が入った偵察隊の指揮官として付いていくことになった。

 

毎回、厳しく鍛えた新兵が戦地に行くたびに何割かの者は戦死する。それは戦場に身を置く者の宿命だった。ユウキは何度も戦闘を経験し、エンクレイヴの猛攻にも耐えた。しかし、人は死ぬときは死ぬ。それは変わらない。銃声と爆発音、悲鳴や怒声が遠くから聞こえ、静かに旧世界に信じられていた宗教の祈りを唱えていた。

 

すると、バラモンのバックに入っていた無線機から先行するユウキたちから連絡が入り、ジャンクヤードの安全を確保したとのこと。私はこれまで以上に嬉しかった。親友の息子はやはりあの椿の子であると。

 

 

ジャンクヤードの広場に入ると、撃ち殺されたレイダーがそこらじゅうに転がり、レイダーの残忍な人間解体ショーもここで行ったらしい。他にも犠牲になった傭兵の死体があったが、そこにはバラモンの布が被さり、戦死したパラディンの死体もあった。私はそのパラディンのもとへ行き、膝を付いて十字を切った。パラディンの宗派はわからない。もしかしたら、神を信じてもいないのかもしれない。だが、私は彼が安らかに眠るよう祈った。ふと、見るとユウキとともにジャンクヤードを掃討した傭兵であるウェインと目があった。

 

「キリスト教で?」

 

「ああ、見た目に似合わないとよく言われるよ」

 

そんな皮肉をユウキと歳が近いウェインは苦笑を交えながら言った。

 

「人は何かを信じているから、強く生きていけるんですよ。そうは思いません?」

 

「なかなか、外見に合わないことを言うな」

 

「それはお互い様」

 

「ふっ」

 

私はウェインという青年は何処か粗暴な者と思っていたが、中身はかなりのロマンチストである。ウェイストランドでは理想主義者と眉唾と言われかねない。だが、今のウェイストランド、そんな人物がいなくては復興が成り立たないだろう。私は周囲を見渡すが、ユウキの姿が見当たらなかった。それを察したのか、ウェインは笑い始める。

 

「ハハハッ、あいつはそこで遊ばれていますよ!」

 

ウェインは腹を抱えて笑い始める。それはどういうことなのだろうか。私は立ち上がるとウェインの指差す方向へ歩き始める。そこはジャンクヤードの中でも風上で、ジャンクヤードの管理小屋のある場所だった。そこに近づくとユウキと覚しき叫び声が聞こえた。

 

「ちょ、シャル!この野獣をなんとかしろ!」

 

「いいじゃない。ドックミートが楽しんでいるんだから」

 

「やっぱ、お前にはネーミングセンスの欠片がぁぁぁ!噛むんじゃない犬っころ!!」

 

そこには親友の息子であるユウキがスカベンジャードックにアマガミされて嫌がり、それを見ているガールフレンドのシャルロットは笑っている姿だった。さっきまで近くで銃撃戦が行われ、その前にはレイダーによる虐殺が行われていたとは露にも思えない光景だ。しかし、犬の名前がドッグミートとは・・・・・。

 

「クロスもなんとか言って・・・舐めるなぁぁ!」

 

ユウキは抗議の叫び声を出すが、スカベンジャードックは止まらない。止まらないというか、わかっているらしく、やられている本人とは違って楽しんでいる。例えて言うなら、遊び道具ができたような、そんな喜び方をしている犬である。

 

「ドックミート!ほら!」

 

シャルロットは商人が残していたバラモンの干し肉を投げる。すると、ドックミートはジャンプして干し肉をキャッチしてモグモグと食べ始めた。

 

「まったく、シャルはもっといい名前にしなかったのか」

 

「でも、本人は気に入っているみたいだよ」

 

本人って・・・・。というユウキのセリフを他所にドックミートは返事のようにワンッ!と吠えた。まるで人の言葉を理解しているかのように。

 

二人が会話している光景は何処かのそれにそっくりだった。私は思い出そうとする。それは私が彼らと同じような年の時、私とロジャーがスカベンジャーに譲ってもらった子犬と遊んだ時だった。あの頃は若く、私はロジャーに抱いていた感情がなんなのかわからなかった。

 

だが、今ならわかる。あれは恋だった。私はこの年になるまでずっとロジャーに惚れていたのだ。この歳でそれを理解するまでかなり長い時間を掛けた。この作戦が終わったら、ロジャーと話したい。私はそう思った。

 

「いや、ドックミートはやめよう。八はどうだ?」

 

「なにそれ?『ハチ』?どういう意味?」

 

「確か日本の初代陸軍大将の飼い犬の名前だよ」

 

「ガルルル!」

 

「怒ってるみたい」

 

「何でぇ!」

 

怒りというよりもふざけているのか、ドックミートはユウキに飛びかかり、器用にユウキの顔をベロベロと舐め始める。ユウキは呻き声を上げながら、シャルロットに助けを求める。しかし、助けを求められた彼女は笑いながらそれを見る。

 

 

これからは彼らの時代だろう。ウェイストランドを復興できるのは彼らのような若い人材だ。

 

私は目の前で繰り広げられている犬と人間のじゃれあいを笑いながら見ることにした。若い頃見た想い人との思い出を重ねながら。

 




ユウキのpeakの一つは『animal toy』と言うもので、主に友好的な動物に遊ばれます。


感想・誤字脱字お待ちしております!(*´∀`*)

※ミュータントの肌の色を緑から黄色に変更しました。にぼし蔵氏よりご指摘から修正しました。ありがとうございます!


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三十一話 故郷へ (上)

四月・五月は忙しすぎる。カリキュラムの編成や変な講師の授業を受けないよう変えたり、新しく設立したサークルの運営で忙しいwww

昨日は深夜までこれを書いてたら三万五千字を越えたため二つに分割して投稿します。




ウェイストランドを照らし続けていた太陽は落ちて、星空が覆うようになる頃。風上に位置するジャンクヤードの管理小屋では作戦会議を行っていた。外にはバラモンと若いイニシエイトが歩哨を行う。その間、中では地図をテーブルに広げて会議を行った。

 

メンバーは俺とウェイン、スターパラディン・クロス、シャルにパラディン・デントと言う30過ぎの兵士が古びた椅子に座って今後のことを話し合っていた。

 

「直接、インディペンデンス砦に行くものと思っていたけどな。」

 

ウェインはスチール製の容器に入ったウィスキーをちびちびと飲む。これが終わったら夕食を食べて寝るつもりであるので、誰も咎めることはない。

 

「まあ、一応占領されているメガトンの偵察もしなければならなかったし。それに、最短距離で行くこともできないからな」

 

俺はウェインにそう返した。

 

本来ならばそのままアウトキャストの司令部のあるインディペンデンス軍事基地まで図書館を通ってヌカコーラプラント。そしてアンデールを横目に見つつ、フェアファクスを通って基地まで行くつもりであった。しかし、レッドレーサー工場からヌカコーラプラントに掛けてはレイダーのテリトリーが最も多く、更にエンクレイヴの掃討作戦が開始されたらしい。BOSの偵察員はエンクレイヴの航空部隊と随伴歩兵を連れた装甲車を確認している。そのため、他のルートを選ばざる負えなくなった。所々検問もあるため、無駄な警戒や戦闘を避けるため、エンクレイヴとは距離を置かなければならない。それは現在のBOSの方針だった。

 

グレイディッチ付近も既にエンクレイヴの部隊が駐屯している情報もあったため、川沿いを行く道は不可能となった。なので一度川を渡ってエンクレイヴの哨戒部隊に発見されないよう、DC都市部の川沿いのルートを進み、大きくそれてしまった。一度ベセスダの旧市街の近くを通る時、そのままメガトンに行って野営するのもあったのだが、エンクレイヴがメガトンを占領している事があるため、危険だった。

 

「アウトキャストはどうなってる?」

 

「無線の交信を聞けば分かるかも知れないけど、かなり苦戦しているようね。フェアファクスで市街戦を展開中よ。インディペンデンス軍事基地の建物は崩落したらしいけど地下部分はなんとかなってるようね。」

 

クロスはバラモンジャーキーを噛みながら言う。BOSの偵察もアウトキャストの戦闘を見たわけではないため、情報が錯綜していた。アウトキャストが壊滅した知らせはBOSの偵察員ではなく、商人の話からもたらされた情報であったため、信頼性は低い。

 

「元々、BOSのベテランが離反してあの組織を作ったからな。エンクレイヴの爆撃だけじゃ、死にゃしないだろ」

 

パラディン・デントは侮蔑も込めているのか、腕を組みながら嫌そうな顔をする。リオンズ傘下のBOS兵士はリオンズの行ったことにかなり賛同している。本来のBOSの教義に不満を抱えている兵士も少なくない。彼らからすれば、指揮官に対する裏切り行為にしか見えないはずだ。

 

「スターパラディン・クロス。どうします?」

 

偵察隊の指揮官はクロスである。そのため彼女の命令には従わねばならない。

 

「朝一番に出発してメガトン近くのスプリングベールに向かう。そこからメガトンを偵察する。偵察後は南下してインディペンデンス軍事基地へと向かう。何か質問は?」

 

ハキハキと命令するクロスはまさに軍の指揮官だろう。一応、主目標はアウトキャストの偵察だが、ほかの地域の偵察行動も認められているし、奨励すらされている。大きくそれてメガトンの状況を確認すれば、注意されるどころか感謝されるだろう。

大抵の場合、軍の作戦会議ではあまりしつもんはないのだが、意外にも質問の手が上がった。

 

「えっと、質問というか・・・いいですか?」

 

軍の作戦会議とは似つかしくない透き通ったシャルの声はウェインの笑いのツボをつつく。小さく笑うウェインをパラディン・デントは睨むがクロスはシャルの姿に苦笑を漏らす。

 

「いいよ、言ってみなさい。シャルロット」

 

「さっきpip-boyの無線をイジっていたんですけど、こんなものを聞いてしまって」

 

シャルはpip-boyの音声再生をオンにする。それは慣れ親しんだvault101の緊急信号だった。発信主は俺とシャルの脱出を手助けした幼馴染のアマタだった。それは俺とシャルに宛てた無線信号で、vault101の内部で紛争状態になっているらしい。依然はラジオ信号として発信していたらしいが、ここ一週間は流していないらしい。

 

「スターパラディン・クロス。Vault101へも偵察させて下さい。」

 

俺はクロスに言う。彼女は俺の故郷の危機であることはさっきの信号でわかったはずだ。しかし、彼女は渋い顔をする。

 

「メガトン近くにはエンクレイヴの部隊もある。指名手配されている君達をあまり行かせたくはない。だが、行きたいというのなら・・・・」

 

「私はいいです。Vaultを捨ててきた身ですし・・・」

 

「シャル・・・・!」

 

おれはシャルの言葉に驚きを隠せなかった。彼女も俺と同じようにvaultで育った人間だ。彼女からしても第二の故郷だろう。俺の素振りを見た彼女はすこし視線を落としながら口を開く。

 

「アマタやフレディ、ユウキのお父さんはいい人だよ。でも、vaultには帰りたくない」

 

シャルの心情はもっともだった。シャルのvault生活は良いとは言えなかった。ジェームズと共に外からきた所為か、ずっと代々vaultに住んでいた人から見れば異質な存在。影から疎まれてきた彼女にvaultを助ける必要はない。彼女に優しくした人物も何人かいただろう。だが、それ以上に彼女のvaultに対する想いは悪かった。

 

「自分はまだ父と兄がいます。なので、様子だけでもいいんで見に行かせてください」

 

シャルとは違って俺はそこまで疎まれなかった。勿論、母親が外から来た事も起因して一部からは変な目線を受けたことがある。でも、父親がセキュリティーだったためかもしれない。

 

「明日はスプリングベールに向かう。歩哨は二時間交代だ。今日はゆっくり休んでくれ」

 

会議は終了し、英気を養うべく夕食作りとなった。

 

多くは保存食とかで凝った食事は出来る訳はない。しかしながら、今日は新作にチャレンジしてみようと思った。

 

「で?今日は何を作るんだい?ユウキ総料理長」

 

ウェインはふざけた様子でウィスキーを煽りながら聞いてきた。総料理長と言うのはジェファーソン記念館で付けられたあだ名というのだろうか。たまに料理を作り、みんなに振舞っていたためにこんな名前が付けられた。

 

リベットシティーで仕入れた残りの材料とBOSから支給された食料もある。それに、リベットシティーで買ったあるものをまだ食べていなかった。

 

「バラモンチーズフォンデュ」

 

本格的なものではないが、まず野菜や肉など炒めておき、チーズを付けて食べたら美味しそうなものを準備しておく。そのあと、大きめの鍋にバラモンの牛乳を発酵させて作ったバラモンチーズにワインを少量入れつつ溶かしていく。トロトロになったところに、リベットシティーで少し高値に取引される生成プラントの野菜を付けて食べる。ちょっとした贅沢である。

 

放置されていたマグカップに残ったワインを注いで飲む。程よい酸味が口に残り、二百年もののワインだと思うとこれが本来の味なのかと疑ってしまう。

 

チーズフォンデュを食べたメンバーは旨いと言って食べ始めた。

 

「ユウキはこれを何処で思い付いたんだ?」

 

小分けにされたチーズを野菜に絡ませながら食べるクロスは訊いてきた。

 

「メガトンにゴッブっていうグールがいるんですが、ソイツの住んでいた所に元3つ星レストランのコックが居たらしいです。料理を教えて貰い、おれもゴッブから色々教えて貰いました。」

 

「ほう、他にもあるのか?」

 

「レシピは幾つかありますけど・・・・、そのゴッブ曰く“メガトンにレストラン開くから、飲食関係の業者に公開禁止!”と念を圧されましてね」

 

ゴッブの住んでいたアンダーワールドは戦前の人物が何人か住んでいる。その街の平均年齢は100を越える過疎地域もビックリな町である。そんな理由から高い技術を持つ人が多く、街が存続している原因でもあった。

 

なんやかんやで料理を食べて皆は満足した。食後は食器などを片付けた後、ちびちびと酒を飲んで多くの者が寝てしまう。バラモンで運んでいた寝袋を広げて寝るものや、放置されていた毛布にくるまるなど様々だ。

 

俺はウェインから無断で拝借したウィスキーの入った容器から少し飲み、横になる。保温性の高いバラモン毛布を広げてくるまって寝ようとした時、頬を赤くしたシャルがやって来た。

 

「シャル、どうした?」

 

「えっと、歩哨してるウェインに夜食を渡してきた。一緒に寝てもいい?」

 

「ああ、いいよ」

 

俺はパワーアーマーを脱いでいて、お互いカーゴパンツとTシャツになっているため、腕等が密着する。バラモン毛布を被ると、ぬくぬくとした暖かみがあった。右腕を枕にして、シャルの頭はちょうど俺の胸辺りにやって来る。昔なら此処等で心臓がバクバクいっていたが、今はそれほどでもない。

 

「ユウキ、あんまり料理されると傷付く」

 

「ごめん、でもつい作りたくなっちゃって」

 

俺がそう言うと、「デリカシーが無いんだから」と顔を胸に擦り付ける。それは彼女の横で寝ているドックミートのような仕草だった。すると、ふとシャルの頭が上がる。

 

「ユウキ、ごめんね」

 

「ん?何が?」

 

「Vaultに帰りたくないなんて言って」

 

シャルにはVaultで良い思いではあまり無いだろう。子供の教育機関であるVaultスクールでも彼女は浮いた存在だった。子供は自分とは違う存在を忌み嫌うことがあり、大人になってもそれは変わらない。俺は前世でもそう言う事が嫌いだった。彼女に何かする輩にはキツい一発をお見舞いしたし、父親の権力を乱用させた事もある。だが、俺だって所詮は子供である。十倍返しになって跳ね返ってきたことがある。喧嘩に強くなかった俺をシャルの父、ジェームズが抗う術を授けてもくれた。それでも、俺が見ていないところでシャルは嫌がらせを受けていた。彼女の意思は納得できるものだ。

 

「いや、良いんだよ。クロスと一緒に居てくれ。あの人は俺の母親の戦友だって言ってたから、叔母さんみたいな感じかな」

 

「叔母か、鋼鉄の兄弟だから叔母であり姉であり・・・・どこの大統領?」

 

そんなことを言うもんだからシャルは笑い、腕を俺の首に絡ませる。女性を主張する豊かな双丘が俺に触れる。

 

「ユウキは居なくならないよね?」

 

顔が近づき、唇が触れそうな距離でシャルは聞いてきた。青い瞳は俺をじっと見据え、俺のダークブラウンな瞳は彼女の目を見続けた。俺は答えを言おうとしたが、行動に移した方が良いだろうと頭を傾ける。

 

ただでさえ、唇が近いため俺の唇はシャルの唇に触れる。柔らかい感触がし、彼女の髪の匂いが鼻腔を刺激する。シャルは最初驚くような素振りをしていたが、「よくもやったな」いったような感じで唇を貪るようにして唇に吸い付く。

 

「ユウキ・・・・、答え聞いてない」

 

「ん?言ってなかったっけ?」

 

はぐらかそうとする俺に対してシャルは頬を紅く染めながら膨れっ面をしている。俺はそんなシャルを可愛らしく思い、彼女を抱き締めた。

 

「居なくならないよ。大丈夫だから」

 

背中を撫でて、彼女の息が胸に当たる。安心したのか、彼女の口数は少なくなって夢の世界に旅立って行った。そんな彼女のサラサラとした髪を撫でながら目を閉じる。

 

次第に意識は遠のいて、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灼熱の太陽がウェイストランドを煌々と照らし、荒野に住む生物を蝕んでいく。干からびた大地は嘗ての豊かな大地とは程遠い。僅かに生き残る生物はその日の糧を奪い合っていた。

 

その大地にかつてこの大陸を支配していた組織の車両が走っていく。それはエンクレイヴの徽章と黒い塗装が施された「APC(兵員輸送車)」と呼ばれる鋼鉄の車はスプリングベールの幹線道路を走り、vault101の入口近くに停止する。

 

「全員下車!」

 

指揮官の声で降りてきたのは、パワーアーマーを装備したエンクレイヴの兵士達だった。エンクレイヴが独自に発達させた漆黒のエンクレイヴパワーアーマーMk.2を装備し、何人かはエネルギー兵器の攻撃力を増強するテスラ装置なるものを取り付けていた。

 

「重火器兵展開!急げ!」

 

最後に降りてきたのは、ほかの兵士とは違った装備の兵士が降りてきた。黒の塗装がしてあるのは同じであったが、デザインは全く異なっていた。Mk.2パワーアーマーとは違い、装甲が厚く、重火器用のバックパックの取り付けが容易なように凸凹がない。ヘルメットも他のと比べると、特異な形をしていた。

 

「ヘルファイアパワーアーマーだっけか?最新型を投入してきやがったな」

 

俺は双眼鏡でその兵士を確認する。重火器を主に使用する兵士が装備するアダムス空軍基地で製造されたパワーアーマーだった。従来のパワーアーマーと違い、重装甲なのが特徴的である。大口径ライフル弾など貫通せず、徹甲弾も跳ね返す。破壊できる術はミニニュークか対戦車ミサイル位だろう。

 

ヘビーインシネレーターと呼ばれる火炎放射器と言うよりも「投射器」に近く、遠距離の敵に対して火炎弾を放ち、放物線を描いて命中させる重火器を兵士は装備していた。

 

「見つかったら、バーベキューにされちまうな」

 

横にいたウェインはそれを聞いてスナイパーライフルを脇に置く。どのみち、ここで必要になるのはライフルではなくバズーカなどの重火器だ。

 

エンクレイヴはVaultのエントランス前の道に検問を敷いており、モールラット一匹通さないような状況だ。メガトンも同様に、正面の門の前には簡易型のヘリポートまで作られている。そこで、何人かのウェイストランド人らしい人物がヘリに積み荷を載せる手伝いをしている。日雇いで手伝わされているのに違いない。

 

偵察のために登っていた民家の屋根から降りると、周囲を警戒しながらスプリングベールに設置したキャンプに撤収する。スプリングベールの西側はこの前までレイダーの領域だったのだが、エンクレイヴの掃討作戦の影響で全滅している。そのため、スプリングベール小学校は200年の歳月を経て瓦礫の山になっている。誰も居なくなったその場所は、隠れるのには絶好の場所だった。

 

もし、見つかった場合に備えて数少ない徹甲弾を装填したアサルトライフルを携えて銃口に消音器を取り付ける。

 

「ユウキ、援護する。」

 

「ああ、後ろは任せた」

 

 

音をださないようパワーアーマーを地面に擦らないよう慎重に行動する。どうせなら、静穏性の高い中国軍ステルスアーマーを装備すれば良かったと思ったが、それはメガトンの倉庫に眠っているため、今回は違うもので代用しなければならないだろう。哨戒ヘリに悟られないよう、廃墟の影に隠れながらスプリングベール小学校を目指す。歩兵がパトロールをしていないため、そこまで警戒する必要もないのだが、用心に越したこともない。

 

慎重に小学校へと戻ると、Vaultから出てきた時のスプリングベール小学校の様子を思い出した。スプリングベール小学校は核攻撃に遭ってから二百年姿を保ち続けていた頑丈な建物は地下一階から二階まであり、レイダーの根城になっていた。今はエンクレイヴの攻撃によって二階と一階は瓦礫の山になっていて、辛うじて地上に露出する地下一階ロッカー室等はまだ残っていた。そこでテントを張って仮夜営地にしていた。昼夜問わず、歩哨を置いて警戒している。エンクレイヴがBOSとは敵対しないが、現場レベルでなら、攻撃してくる可能性もあるため油断は禁物であった。

 

偵察を終えて偽装用のゴミ箱をずらして小学校の内部へと入る。これまで使っていたテントを張り直し、二階の残った踊り場は監視所として使っており、ロッカーの所はバラモンの居場所となっている。一度、指揮官用のテントに入りクロスへ報告する。

 

「報告!Vault101の周辺はエンクレイヴの検問所が設置してありました。敵の規模は一個分隊。また、最新型のパワーアーマーを確認。重火器を想定した重装甲のパワーアーマーと思われます。敵の量は想定内です。予定通りに1850時、潜入は可能です。」

 

「一個分隊を相手にだぞ?隠密にVaultに侵入できるか?」

 

クロスは怪訝な顔付きで首を傾げた。

 

「一個分隊なら大丈夫です。それにパワーアーマー装着している場合は索敵能力が低いですので、素早く動けば潜入は可能です。」

 

俺の言葉に納得したらしく、クロスは壊れていなかったテーブルに置かれたインスタントコーヒーを出した。熱湯が入ったポットからお湯を注いでマグカップを満たし、ティースプーンでかき混ぜる。

 

「ユウキ、そこの箱を開けてみろ」

 

クロスは指揮官用天幕の隅に置いてあったメタルボックスを指差した。俺はそれに近付き、ゆっくりとそれを開ける。

 

「えっ、これって」

 

「色が違うが、性能は折り紙つきだ」

 

それは米軍が偵察や潜入作戦用に作ったリコンアーマーだったが、所々改修が加えられていた。リコンアーマーの欠点である軽装甲から、コンバットアーマーのプレートが胸部に付けられ、幾つかのマガジンポーチが腰に付いていた。色も黒く塗られており、潜入には持ってこいの装備品だ。

 

「昔、BOSが製作したリコンアーマーの改良型だ。対人作戦なら効力を発揮するだろうが、これまでの敵はミュータントだったからお蔵入りしていた。使えるとあってはそれも本望だろうさ」

 

「ありがとうございます、スターパラディ・・」

 

言い終わる前にクロスは俺の頭を荒々しく撫でる。

 

「今はいい。敬語の時は形式的にしなくてはならんが、こんな時は名前で呼んで構わない」

 

クロスはまるで犬と戯れるように頭を撫でる。それは「よーしよしよしよし!」と動物好きなオジサンを思い出しかねない。

 

Vaultの時は叔母という人物はいなかった。義理の母は叔母と呼べと言っていたが、あまり良い性格とは言えない。クロスのような人物は俺にとっては新鮮な存在だった。俺は少しの間話したあとクロスと別れて、空きのテントの中に入る。そこは俺とシャルのテントである。シャルはメガトンに入った行商人の話を聞くべく、小学校の外に出ていた。

 

パワーアーマーを脱ぎ、クロスから貰ったリコンアーマーを着始める。コンバットアーマーと違い、全身に密着した繊維が擦れないような構造になっていた。それを一度着て、ホルスターと防弾プレートがアーマーにしっかりと取り付けられているかチェックする。

 

持っていくものはステルスボーイや消音器を取り付けた10mmピストル等の隠密性の高いものにする。そして、

 

「これも持っていくか」

 

 

それはキャピタル・ウェイストランドでは見掛けることはない5.7×28mmを発射するP90だ。

 

それは専用のドットサイトではなく、ホロサイトが装着されている。P90はケブラー繊維のボディーアーマーを貫通するために作られた火器で、貫通能力は非常に高い。それに、徹甲弾を装填してあり、追加装甲がなされたパワーアーマーでも貫通が可能である。

 

しかし、それは最終手段である。それはジェファーソン記念館でウェインが持ってきた物で、弾薬も心許ない。もし戦闘になっても、使いきらないように注意しなければならないだろう。それに消音器もないため、本当に重要な時にしか使えない。

 

最後にBOSで貰った使いかけの黒のドーランを顔に塗る。肌の色が見えないように顔の殆んどを塗りたくる。リコンアーマーヘルメットはなく、耳を覆い隠さないため、耳まで塗る。これで骸骨を書いたバラクラバがあれば良かったのだが、そんな上手くいくことは

ない。pip-boyから18時になる事を知らせ、俺はテントの外を出る。肌寒い風が吹き、ウェイストランドに夜がやって来たことを知らせた。いつも、夜は夜襲や奇襲などがあるため煩わしさを感じていた。しかし、潜入や奇襲をする側からすれば、こんなにも頼もしい仲間はいないだろう。

 

周辺を警戒する歩哨のイニシエイトと出会い、軽く別れの挨拶をした後。音を立てないようVaultに向けて歩き出した。既にVaultを飛び出して半年以上の月日が流れていた。ここに戻ってくるまでの間、様々な事が起こった。メガトンに店を構えて、ブライアンを弟子にした。そしてシャルと共にジェームズを見つけ出し、浄化プロジェクトを再開させた。そこまでは順調だった。しかし、エンクレイヴの攻撃とジェームズの死。

 

ふと見ると、スプリングベールに来たときに最初に目についた核燃料チャージャーのあるロケットの形をしたスタンドがあった。廃屋の間を通り抜ければ、我が故郷Vault101のエントランスがある。

 

『何でこんな重いの着たんだろ?』

 

『カッコいいから?』

 

Vaultから出てきた後の会話を思い出す。あの頃はウェイストランドがどんなものか全く分からなかった。

 

 

エンジンの駆動音が常闇に満たされたこの場所に響き渡り、とっさにホルスターからサイレンサー付き10mmピストルを構える。Vaultの正面に停車していた装甲車両は化石燃料を燃やしながら、サーチライトを周囲に照らしながら道路をゆっくりと移動する。素早くピストルのスライドを引いて、こっちに来ないようにと祈る。

 

装甲車はスプリングベールに入ることなく、そのままメガトンの方へと行ってしまった。

 

緊張のため激しく鼓動する心臓を抑えるようにゆっくりと深呼吸を行う。背中や頬には汗が滲み、腰につけていた水筒を手に取り水を飲む。

 

「無線で誰かがサポートしてくれればいいのにな」

 

無限バンダナもあれば心強いのにと言い加えて、一人笑いする。この世界でそのネタを知っているのは俺一人ぐらいだ。メガネを掛けたロボットアニメオタクも飛び級した中国の諺を度々言う女の子もこの世界で言っても分かってくれるやつは一人もいない。

 

彼もこんな気持ちだったのだろうかと思いを馳せるが、蛇以外あまり思い出せなかった。一人で戦うのはこんなに心細く、寂しいものであったとは知らなかった。時間が経つごとに高まる不安をどうやったら止められるのだろうか。よく、個人プレイのスポーツは自分自身との戦いという。それは、自分しか頼ることが出来ないからだろう。学校にいるシャルの顔やモイラに保護されたブライアンの顔を思い浮かべる。おれが死んだらどんなに悲しむか。ならば絶対に死んではいけない。

 

守るべきもののために戦うという意思。それは逆境な状況を覆す力となる。いかなる困難な状況ではそれが力となるはずだ。

 

色々なことに思いを馳せ、ガソリンスタンドを過ぎて坂道を匍匐で進み、エンクレイヴの検問所に到着した。

 

「Vaultのあの女見たか?あのvaultスーツの尻のラインがやばかったな」

 

「たしか監督官の娘だっけ?俺はあんまりな~」

 

『keep out』とつくられた車止めの奥には、真新しい核稼働の軍用トラックと装甲車が三

輌が停車しており、軍用ボックスの上に座るエンクレイヴの兵士が二人話をしていた。

 

「さっきの技術佐官は何しに来たんだ?Vaultの技術なんてたかがしれてるのに。特殊な研究していたのか?」

 

「閉鎖されたコミュニティで、絶対的な監督官の能力を評価する実験だったらしいぜ。そこまで貴重なテクノロジーはないはずだが・・・・例のあれかな」

 

ヘルメットを脱いでいる彼らはウェイストランド人とは違い、非常に丁寧な英語を使っていた。一般兵まで教育が行き届いていることはこの荒廃した世界ではとても凄いことだろう。文明のレベルが低下して、ウェイストランド人の二人に一人は字が読めない。エンクレイヴはその点優れている。

 

 

「ジェファーソン記念館攻撃作戦で部隊が損害を受けたの覚えているか?」

 

「ああ、ヘリが何機か落とされたって聞いたけど。敵はVaultに?」

 

「記念館を警備していた責任者が半年以上前にVaultを飛び出したらしい。技術将校は何かあると踏んでここに来ているようだ。」

 

「へぇ~、そんな奴がな」

 

「ほとんどの武器や兵器は彼が所有している物だったらしい。Vaultに住んでいた者がどうやってそんな物を持っていたか調査しているそうだ」

 

メガトンにはかなりの物資が置いてある。それが接収されたのは痛手だったが、Vaultにまで手に出すとは思わなかった。アダマや父さん、そして兄貴の安否を考えながら、這いつくばりつつも軍用トラックの下に潜り込んだ。

 

「Vaultにも警察機構やライオットシールドもあるなんてな」

 

「そりゃ、監督官の権力強化のためだろ。住民を力で押さえつけるためにしか思えないな」

 

エンクレイヴの兵士が話に気が取られているうちに、腰に取り付けたバックパックからC4爆薬を取り出して、動力部分に取り付けた。そして、隣の装甲車にも同じ物を取り付ける。慎重に匍匐で進み、Vaultエントランスの扉を見つけた。それは出てきたとき良く見ていなかったが、蹴り壊せそうな古い木を使った扉だった。それは検問から丸見えだったため、何とかして気を引くような物を作らなければならない。

 

手元にあった石を掴むと投げてさっきまでいた窪みへと投げ入れた。案の定、石は物音を立てて、エンクレイヴの兵士は警戒した。

 

「物音がしたぞ」

 

「誰かいるのか?」

 

彼らの視線は音を立てた石へと向き、その隙に車の下から身体を出し、急いでエントランスに入る。古い扉を開けて中に入ると、エントランスから流れるvaultの匂いが漂ってくる。

 

匂いとは人間にとって些細な物であるが、匂いを感じ取ることによってその場の記憶を思い出すことが出来る。例えば消毒液の匂いなら小学校の保健室や病院、微かにカビの匂いがする所なら体育館のマットが保管されている体育倉庫なんていうものを連想させる。花の香りは花畑を、シャンプーの香りなら好きだった幼馴染みを連想させるかも知れない。だがウェイストランドに出てきてから、嗅いだことのない匂いが鼻腔を刺激する。Vaultの人口太陽では作り出せない暖かみのある空気やおいしい香りのするバラモンステーキ。そして硝煙や死臭。血なまぐさい匂いやレイダーの獣臭い匂い。強烈かつ刺激的な嗅覚になれた俺は、あの優しい匂いに包まれたVaultの匂いを求めていたのかも知れない。

 

しかし、匂いは普通しないはずだった。Vaultの隔壁は空気を漏らさないように密閉構造となっているはずである。それは、核戦争の死の灰や放射能を施設に入れないようになっているはずなのだが、vaultからの空気が流れていると言うことはハッチが開かれている事を差していた。

 

Vaultの扉から話し声が聞こえ、すぐさま扉のコンソールの影に隠れた。脳裏にvaultから去るときに別れを告げたアマタの顔を思い出す。彼女の顔はその日に起きた出来事で憔悴しきっていたが、別れの際は目から涙を流していた。彼女から助けを求めているのは、重要な出来事があったということだ。

 

ホルスターからサイレンサー付きの10mmピストルを抜き取って構えた。

 

「かみさん元気にしてるか?」

 

「まあな。弟を失ったから、一時期は取り乱していたけど今は大丈夫だ」

 

その声は同僚だったオフィサー・タッカーとオフィサー・リアンだった。少しだけ覗いてみると、vaultスーツに見たこともないアーマーを装備していた。例えるなら何処のジャガーノートだろうか。

 

腕や足にプロテクターをはめて、首もとをガードするプロテクターと目元しか見えないフルフェイス型のヘルメット。それだけで、どこかのゲームに出てきそうである。

 

おれがそんなことを考えている内に二人は話を進めていく。

 

「あのときはどうなるかと思ったよ」

 

「ああ、ラッドローチが大量発生するなんてな。やっぱ、ジョナスか?」

 

 

ふと、ジョナスの顔を思い出す。彼は俺が生まれたときに助産した人物だ。人の良く、ジェームズの手伝いをしていた。シャルとは付き合いもよかった。ジェームズがvaultを出るときに彼が手伝ったが、ラッドローチを放ったという濡れ衣を着せられ、ハノン警備長に撃ち殺されたのだ。するとオフィサー・リアンはそれを否定した。

 

「おいおい、エンクレイヴの奴らから聞いてなかったのか?あの封鎖されたハッチは経年劣化によるもので、単なる事故だったらしいじゃないか。ジェームズ親子が脱出したのもタイミングが重なった偶然だろう」

 

確かに、ジョナスがそんなことをするとは思えない。オフィサー・タッカーはため息をついた。

 

「なあ、エンクレイヴの奴ら。本当に信用できるのか?」

 

「どうした、いきなり」

 

オフィサー・リアンは扉が開いているため、大きな声で話さないよう求めたが、タッカーは嫌そうにした。

 

「良いじゃないか。言動からしても将校は高圧的だし、外の野蛮なウェイストランド人がどうとかって奴らの差別意識は尋常じゃないぜ」

 

「と言うお前だって、ジェームズ親子が来たときは毛嫌いしてたじゃないか」

 

「エンクレイヴの奴らは俺よりも毛嫌いしてただろ」

 

「そうか?普通の兵士もいたけどな」

 

二人は巡回の合間だったらしく、ハッチの開く音と同時に足音が響いて足音は遠退いていった。

 

気配が無くなった事を確認すると、入り口からするりと屈んで入り、向こう側の扉から見えないよう遮蔽物に身を隠す。

 

「あの向こうは見通しが良すぎる。行ったら蜂の巣だな」

 

もし、警備が周囲に居た場合はすぐさま発見される。Vaultの入り口から真っ直ぐ行けば、そこは入ったものを出迎える広場になっていた。二階から見渡せるそこは狙撃ポイントのひとつである。もしも、そこに機関銃を持つ警備が居れば、俺を見つけた途端蜂の巣にするだろう。何せ、黒のリコンアーマーにサイレンサー付き10mmピストルなのだ。俺でも問答無用で引き金を引くだろう。

 

「どっかに迂回できる道は・・・」

 

おれは考える。周囲を見渡してとある打開策を思い付く。

 

「まあ、これしかないか」

 

正直なところ、あまり良い作戦とは言いがたい。だが正面から行くよりはずっと良い。俺は重い足取りでその作戦に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い間歴代監督官が使用する執務机で書類に私の名前を書き記す。その書類はVaultに必要な合成食物生成機の稼働報告や廃棄する機械等が記載されていた。

 

二百年という物は三世代から四世代、もしくは五世代にわたる。機械も彼らと生活を共にすることによって経年劣化して壊れていく。多くはそれに抗うことは出来ない。壊れたものは出来る限り修理していかなければならない。壊れてしまえば、解体して使える部品は保管する。または工房で似たような部品を製造しなければならない。

 

長きに渡って使われ続けた監督官の机は丁寧に使っても、無数の傷が残る。書類にサインを終えると、書類を待つセキュリティーにサインを書いた書類を渡した。

 

「これを工房にお願い。それと、厨房から何か差し入れを外のエンクレイヴの人にお願い。疲れているでしょうし」

 

「了解です、監督官」

 

セキュリティはそう言うと、書類を脇に挟んで部屋を出ていく。私は一息着こうと、テーブルのコーヒーに手を出すが、扉がノックされる。飲んでから返事をしようと思ったが、間を入れずにノックをしてきたので、ため息をついて返事をした。

 

「ええ、どうぞ」

 

若干苛立ちの混ざっていた声を出した私は視線を扉に向けた。出てきたのは若いエンクレイヴの将校だった。佐官用のコートを着た彼は見た目からすれば良い顔立ちなのだが、掛けている眼鏡で台無しだった。例えてしまえば、何処のマッドサイエンティストの眼鏡なのだろうと。

 

「スタッカート少佐、どうされました?」

 

その少佐はエンクレイヴの技術局にいた技術将校と名乗っていた。彼はう~んと唸りながら、私の方へと近づいていった。

 

「君の知り合いのユウキ・ゴメスという人物の部屋を見たいのだが?」

 

「・・・ええ、構いませんよ」

 

ユウキ・ゴメス。元Vaultセキュリティの一人で重火器の取り扱いに長けた友人だった。友人以上かもしれない。彼に助けられた事は多くあり、何れは警備長になる彼は私の仕事を手伝ってくれると胸を踊らせていた。

 

だけど、ジェームズさんによるここからの脱出と同時に起きたラッドローチの襲来でVaultは混乱に包まれた。ジェームズの娘である、シャルロットもラッドローチを解放した実行犯として追われ、最後はユウキと共にVaultから脱出することになった。私が思い描いていた未来は立ち消え、私もシャルを手伝ったために監督官補佐から外された。

 

その後、Vaultは内乱が起きて、監督官率いる保守派とVaultを外へ解放しようとする解放派に別れて争いの限りを尽くした。元より監督官の絶対的な力によって抑圧していた均衡が混乱によって一気に崩れ去り、住民の不満が爆発したのだ。

 

そんなこともあり、何時もなら必要なくなった品々は売り出されたりするものの、混乱の最中だったために彼が出てってそのままになっている。

 

「これが鍵ですが、中の物を持っていくなら。申し出てください。」

 

「コンピューターデータのコピー位なら良いだろう」

 

「構いませんが、あまり荒らさないでください。オフィサー・ゴメスが管理していますから」

 

彼が居なくなってから数日後、数名の住人が彼の部屋に侵入しようとしたらしく、近くにいたオフィサー・ゴメスが取り押さえた。彼らの言い分としては持ち主が居なくなったのだから、Vault住民が貰っても良いじゃないかと。このVaultでは、死んだ住民の物品は遺族に受け継がれる。大抵は配給券などと交換するのが普通だが、ジェームズ達が去った部屋の物品は騒動が終わった後に荒らされた。同じく、出ていったユウキも同じように荒らしても良いのだろうと思ったようだ。だがオフィサー・ゴメスは受け入れる筈もなく、彼の部屋を守るためにアサルトライフルまで持ち出す始末だった。

 

 

しかし、彼がそれを持ち出した理由は単に息子の持ち物を守りたいのではなかった。既にVaultの治安は悪くなっていて盗みを働く者もいる。更には暴力事件や殺人未遂まで。セキュリティーの数も少なく、元セキュリティーの家に盗みに入るのは、無政府状態を意味している。それを防ぐため、彼は銃を取った。

 

 

内乱も佳境を迎え、保守派の重武装なセキュリティーと若者の多い解放派がぶつかり合おうとするとき、突如Vaultの隔壁扉が開いた。そこにはエンクレイヴと自称するアメリカ合衆国政府と名乗る兵士達だった。そして、彼らの指揮官はこう告げた『助けに来た』と。

 

 

内乱はエンクレイヴの登場により沈静化した。解放派の私達はエンクレイヴという組織を最初は怪しんだものの、直ぐに誤解は解けた。礼儀正しく、昔の映画に出てくるような兵士達。浄化チップを修理し、負傷した人物を軍医が治療していく。瞬く間に治安は良くなった。そして、監督官である父は私に監督官を譲った。Vaultの未来を危うくさせた責任を取り、辞任。私に監督官の職を譲ると部屋に籠ってしまった。治安を悪化させ、Vaultを二つに引き裂いてしまった事もある。私は父の後を引き継ぐと、Vaultを元に戻すよう尽力した。

 

 

「物は幾つか持って行くが返すつもりさ。それと、後で秘書官が来ると思う。重要な書類だからしっかりと目を通しておいてくれ」

 

スタッカート少佐は微笑むと、軽い足取りでスタスタと出ていった。彼は将校と言うよりも、技術者に近いのではと思ってしまう。彼のような人物は一人知っている。彼もセキュリティーという職に付いていながら、色々な技術を収得していた。

 

彼はここにはいない。

 

ふと、私は依然皆で取った写真を思い出した。それは確かメタルボックスに入っていて、私は席を立ってすぐ近くの配電盤の下に置いたメタルボックスを開けた。

 

そこには思い出の品々が収まっていた。Vaultスクールの成績表や雑誌、そして幾つもの写真だった。その中でも一番のお気に入りだったのが、G.O.A.Tを終えて学校を卒業した時の写真だった。

 

そこにはまだ若い私と友人達の姿があった。私はテスト前にブッチ達に絡まれていた。今は解放派の一員として頑張ってくれた節があるけれど、あの時は嫌いだった。そこにユウキとシャルロットが通りかかり助けてくれた。私はその嬉しさにユウキに抱き付いていた。今思えば、赤面ものだけれど、あの時の事は忘れたことはない。

 

どの程度、経ったのか。私は他の写真を見ようと手を伸ばすと、後ろから機械音が響く。それはチェーンやギアが動く音で私は突然の事で驚いた。

 

「え、一体・・・・・!」

 

後ろにあった監督官の机は変形していく。机全体が動き、下からは

地下に通じる階段が見えた。

 

それは父に教えられていたVaultのエントランスに繋がる入口だった。

 

しかし、それが稼働するところを私は見たことがない。まさかと思い、私はじっと待った。ゆっくりと現れた黒い人影。それはVaultではお目にかかれない軍用の偵察アーマーに身を包んだ人物だった。私はその人を知っていた。

 

 

「ユウキ・・・!」

 



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三十二話 故郷へ (下)

お気に入りから飛んだ方へ!

本日は二話連続投稿しています。ですので、(上)を読んでいない方は【前の話】に戻って下さい!




 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで開くか?」

 

 

Vaultエントランスの右隅にある配電盤の向こうはなんと監督官のオフィスへと通じる秘密の部屋があった。なぜこのような部屋を作ったのか俺には分からないが、それは向こう側のスイッチで開く。しかし、配電盤をちょいと弄れば隠された扉を開くことは容易い。スイッチを起動させると、配電盤は動いてコンクリートで固められたトンネルが開いた。そこはVaultを脱出するときに通った通路で、ラッドローチが何匹かいた。案の定、そこにも何匹かいたが、瞬時に10mmピストルの引き金を引いた。発射した銃弾がラッドローチの脳髄を破壊し、沈黙する。依然、Vaultから出た直後の俺ならこんなにも早く撃ち殺しはしないだろう。

 

監督官のオフィスへは監督官の机が動く仕組みになっているため、部屋に人がいれば見つかる可能性がある。聞き耳を立てると誰かが話している声が聞こえた。

 

その一方は知らない男の声だったが、もう一方はよく知っている人物だった。

 

「アマタか、誰と話しているんだ?」

 

聞き覚えのない男の声はVault住人の者ではないことははっきりしていた。全員の声と顔と名前は直ぐに一致するし、もしかしたらエンクレイヴの兵士か将校だろう。

 

アマタとはこの十九年間一緒にいた幼馴染みだ。アニメのような展開を予想したかったが、それは無理な話。現に今はシャルが居るから、無い物ねだりは良くないし、Vaultを捨てた人間が今さら故郷の幼馴染みの事を思い出して悶える必要はない。

 

話は終わったらしく、人気がなくなり静かになる。俺は意を決して10mmピストルのスライドを少し引いて次弾が装填されていることを確認すると、スイッチをオンにする。余り整備されていない監督官の机が音を立てて動いていく。

 

 

「え、一体・・・・・!」

 

その声を聞いて、誰か居たことに驚き体を出して銃を声の方向へと向けた。

 

そこには、Vaultを出てきたときと変わらない幼馴染みのアマタの姿があった。そんな彼女に銃を向けることはせず、オフィスの扉が閉まっていることを確認するとホルスターに銃を戻した。

 

 

 

「ユウキ・・・!」

 

 

「おうアマ・・・うぉ!」

 

普通に挨拶をしようとした矢先、まるでアメフトのアタッカーのような体当たりに近い抱き付きをしてきた。いきなりの出来事に俺は体勢を崩す。

 

 

「ぐすっ・・・・うわ~ん!!」

 

「うぇ!えっと、アマタ。大丈夫か?」

 

抱き付いて泣き出すという異常事態におれは慌てふためきながら、背中を摩る。何故泣き出したのか聞きたいところだが、Vaultの様子を見れば、大変な事があった事など分かる。彼女は俺が居ない間、皆を纏めていたのだ。何処かに心の拠り所がなければ、やっていけないに決まっている。

 

「落ち着いたか?」

 

「う、うん。大丈夫だと思う・・・ひっく!」

 

赤く充血した目を擦りながら、嗚咽を少なからず響かせた。

 

そろそろ、巻き付いた腕を離して貰いたいな~、と彼女の腕を掴むもののピクリとも動かない。俺は久々に刺激するシャンプーの香りや女性の匂いが鼻腔を刺激して緊張する。

 

何気に俺やシャルは最近シャワーを浴びてない。濡れたタオルで身体を拭くことはあっても、なかなか汚れは落ちない。そのため、清潔に保たれたVaultにいたアマタは正直言って目の毒ならぬ鼻の毒である。毒は元々俺の場合は良薬。薬は耐性が無いものやアレルギーがあるものは毒として認識する。その毒がそれである。

 

俺が離させようと四苦八苦していると、痛い視線が突き刺さる。その視線はアマタの視線である。

 

「故郷に来たのにこんな重装備だなんて、何処のOSI工作員?」

 

「これには訳があるんだ、エンクレイヴに悟られたくなくてね」

 

「どうして?あの人達、正統なアメリカ合衆国政府だと言ってたけど」

 

俺はエンクレイヴがどのような物なのか説明する前に、Vaultから出てからの話をかいつまんで説明した。Vaultから出た後に自身の技術を使って武器店を開き、それを元手にジェームズを探した。ジェームズは浄化プロジェクトを復活させるためにVaultから脱出し、浄化プロジェクトももう少しで完成する所でエンクレイヴという邪魔が入る。武力による制圧で犠牲となったジェームズの死。そして、その地域を納めるB.O.S.となり、浄化プロジェクト発動の切り札であるG.E.C.K.の確保をめざして行動する。自分でも説明できるか不安だったが、全てをアマタに教えた。

 

「外も大変なのね。でも、エンクレイヴが全て悪いって訳じゃないわ」

 

アマタは俺がVaultから出た後、治安が悪化して監督官率いる保守派とアマタやブロッチ先生率いる解放派の内乱。騒動によってインフラの整備が良くなくなり、全生命の源とも言える“浄水チップ”の故障。保守派と解放派が激突しようとするとき、エンクレイヴが現れたらしい。彼らは高圧的ではなく、寧ろ要救助者を救う救命隊員と表現すれば良いだろうか。彼らは直ぐにインフラを復旧させ、負傷者を治癒した。そしてエンクレイヴはある命令をした。

 

「エンクレイヴと共にアメリカを再建?」

 

「ええ、彼らは純粋な人間を探しているようよ。国民が足りないため、Vaultから連れていくみたい。若い人材は連れていきたがっている。老人などは愛着があるだろうから任意らしいけど」

 

俺はそんなエンクレイヴの命令に目を丸くした。カリフォルニアに本部を構えていたとき、彼らはスーパーミュータントの実験の為にVault住民を実験の材料したのだ。そんな彼らがそんな優しい事をするわけがない。俺がそう言うが、アマタは反論した。

 

「でも、実験の材料にするなら問答無用で催眠ガスでも投げてしまえば完了よ?そんなまどろっこしい事をすると思う?」

 

「まあ、それはそうだが・・・」

 

「確かに外に頑張っている人の事を軽蔑していたけど、皆殺しにするとか言っているのはいなかったわ。」

 

エンクレイヴは選民思想にまみれた危険な組織であると思っていた。しかし彼女の話を聞いている内にそんな事を思えなくなっていた。

 

「でも、上層部から様子を見に来た将軍っぽい人はそれっぽかったわ。兵士達は散々来た人の悪口を言ってたわ」

 

「上層部と実働部隊の兵士達とは違うのか?」

 

「私には分からないけど・・・・“西側の将校はいつもこうだ”って悪口を言ってたわね」

 

西側?東側?俺は一瞬、冷戦時代の米ソの関係を思い出すが、そういう思想的な物では無いだろう。もしかしたら、エンクレイヴは一枚岩ではないのかもしれない。

 

「そうか、それならなんとかなるかもしれないな」

 

俺は立とうとするが、腕をガシッと掴まれる。掴まってきたのはアマタであるが、頬を赤く染めていた。

 

「なんで、こんな大事なときに貴方は居なかったのよ」

 

「いや、なんでって言われてもな」

 

Vaultの将来ではなく、シャルとの将来を選択したとは到底言えるわけもなく、困り果てた俺は彼女から目を反らす。そんな俺に彼女は怒鳴った。

 

「なんで私を選んでくれなかったのよ!」

 

それはアマタの心の底から出した言葉だった。

 

俺はそれに面食らう。アマタがそんな事を思っていたなんて知らなかったのだ。

 

「なんでって言われても!俺はシャルのことが・・・」

 

嘘をつくことが苦手な俺にとって、正直に気持ちの底を言うしかなかった。すると、床に尻餅を着いていた俺をアマタは無理やり押し倒す。

 

「痛て!・・・アマタ、落ち着け」

 

アマタに正直こんな一面があるとは思わなかった。ゲームではVaultの為なら身を粉にできる感じだった。もしかしたらその意思の強さが恋愛の方に今シフトしたとしたら?

 

「ウォーリー・マックはどうすんだよ。付き合ってただろ?」

 

幼馴染みで性格はすこぶる良くないが、セキュリティーになってから彼と付き合っている噂を聞いたことがある。そう言うと、アマタは呆れたような顔をする。

 

「あれを選ぶなら貴方のお兄さんを選ぶわよ」

 

「兄貴と比較するな。可哀想だろ」

 

そこそこ良い兄貴だと思うのだが、女性陣はその良さを理解してくれない。聖職者は手が出しにくいのか?

 

「私はあなたを選んだ。それじゃ、だめなの?」

 

アマタは顔を近付ける。距離でいえば鼻先がくっつく位に。

 

「俺はシャルを生涯愛するって決めたんだ」

 

「外の事は知ってるけど、かなり荒廃しているわ。一夫一妻じゃなくても良いはず。寧ろ、良い遺伝子を残すためなら、一夫多妻でも生物学上はまかに通ることよ」

 

アマタは持っていたハンカチで黒く塗っていた顔を少しずつ拭き取る。主に口元を綺麗にする。洗顔料で簡単に落ちる塗料なので、洗濯で直ぐに落ちる。アマタは綺麗に拭き取ると、頬を赤く染めた。

 

「ユウキ、嫌なら私を突き飛ばすくらい容易な筈よ。何でそうしないの?」

 

「そりゃ、だって・・・」

 

シャルを愛するって決めたのだけれど、つい前まではアリシアともと考えていた節がある。アマタは予想外だったが、悪魔の囁きと言うべきだろうか。このまま押し倒してしまえ、という俺の一面が確かに声を大にして言っていた。

 

「じゃあ、していいわけね?」

 

「いや、ちょ・・・」

 

アマタは俺の返事も待たずに両手を俺の頭に固定する。ガッチリと動かせないようにした彼女の手は簡単には動かない。俺が否と言ってもするつもりだったのだろう。アマタは唇を近付け、俺の唇を貪ろうと迫る。

 

 

コン!コン!コン!

 

 

唇が重なるギリギリの所、監督官のオフィスにノックされる。アマタは悔しがるような表情をしてから、素早く俺を監督官の机の下に隠した。

 

「ここで静かにしていて」

 

アマタはそう言ってエントランスに通じるトンネルを閉めようとしたが、起動したところで外の人間に聞こえてしまう。アマタは軽く舌打ちすると、トンネルの近くに立って返事をした。

 

「どうぞ」

 

「失礼します。スタッカート少佐の使いです」

 

扉を開けて入ってきたのは士官服を来たスタッカートの女性秘書官だった。白い肌に金髪のゲルマン系の典型的な白人士官はアマタに書類を手渡した。

 

「この書類はガーミン中佐が司令部で作製したものです。一応、サインをすることで移送計画は開始されます」

 

書類は俺の所からでは見えないが、Vault住人を移送するための手続きだろう。命令書と言うわけだ。

 

「このトンネルはどうしたのですか?前はこんなのないと思ったのですが?」

 

監督官の机が変形して、秘密のトンネルが出来ていたのだから突然の事に驚いている筈だ。俺は机の影で見えないアマタに上手く立ち回れるよう願った。

 

「これはVault-tecが作った非常用の監督官専用の脱出口です。このVaultでは閉鎖的な環境での監督官の能力とその社会性を評価する実験が行われていました。監督官は暴動が起きたとき、ここから外へと逃げられるようにしてあったらしいですね」

 

これはアマタの嘘である。しかし、嘘と言うよりも推測に近い。寧ろ、ここにエントランスに通じるトンネルがあるのは不自然だ。これは、暴徒化した住民から逃げるために作られた出口と見てもおかしくない。

 

「そうですか、それは予備策がちゃんと考慮されていたようですね。」

 

「スタッカート少佐はまだ部屋に居るのですか?」

 

「はい。先程持ち主の父親と口論になりまして、監督官である貴方に父親を説得して貰うよう頼みに来ました。」

 

俺の父親は何をやっているのか。

 

それは息子だからという理由もあるのかもしれない。だが、曲がりなりにも国家権力に楯突くのは不味い。

 

「分かりました。向こうで待っていて貰いますか。セキュリティーと一緒に行って対処するので。時間も時間ですし、食堂で軽食でも食べていてください。非番のセキュリティを呼ぶのも大変ですから」

 

秘書官は「分かりました」と言うと、オフィスを出ていった。俺は安堵のため息を吐き、コンピューターで隠しトンネルを閉める。

 

何とか、難を逃れた。彼処で「何故開いたのか?」と聞かれて、アマタが嘘を言って通じるとは思えない。もしものために何時でも飛び出して“証拠隠滅”することは可能だった。

 

すると、アマタは。

 

「ちょっとそこで待ってて」

 

と言い、オフィスを飛び出した。

 

俺はどうしたのかと、追いかけたかったが寸前の所で思い止まった。そう言えば、ここはアマタの家である。他のvaultではどうなっているか知らないが、このVaultでは監督官のオフィスと監督官の移住区画は同じである。と言うことは、アマタの父も居る筈だった。

 

すると、直ぐにアマタは戻ってきた。手にはメタルボックスを持って。

 

「じゃあ、これを着て」

 

それは、Vaultセキュリティーが着ていたVaultスーツとライオットアーマー、そしてヘルメットにバラクラバが同封されていた。

 

「これで変装して。怪しまれることはまずないわ。一応、貴方は新人のセキュリティーの一人。安心して今はセキュリティーの数は少ないし、シフトと配置を考えても大丈夫な筈よ」

 

アマタは「ああそれと」と言ってもう一つ俺に渡す。それはタオルだった。

 

「一階家のシャワーで体を洗って。結構匂うわよ」

 

やっぱりですか。Vault住民からすればそりゃ匂うわ。

 

その後、アマタに急げと催促されてシャワー室に駆け込んだ。装備品を外して何一つ纏わずにシャワー室に入って蛇口を捻って温水を頭から被る。泥汚れや脂質が流れ、据え置きのシャンプーを手のひらにのせて、髪の毛に塗りたくり、ガシャガシャと髪の毛を洗う。久々のシャワーで気持ちが良いものの、湯船に浸かりたいと思ったのは仕方がないことだろう。

 

ふと、アリシアの顔が思い浮かぶが直ぐに忘れようと両手で頬を叩く。石鹸を手にまぶして顔を擦り、黒い塗料を洗い流す。

 

彼女は何故裏切ったのか。そもそも、スーパーミュータントから救うのまで計算尽くしで実行したのか。それは分からない。だけど、俺はアリシアに会って聞きたい、裏切った理由を。

 

蛇口を逆に捻り、お湯を止めると脱衣場に出て体に滴る水滴をタオルで拭き取った。そして久々に長年着ていたVaultスーツを身に纏う。そして上からライオットアーマーを着込む。これは従来のセキュリティーアーマーや防護板を増強した改良型とは違うものだった。

 

胴体以外にも、太股や脛。上腕から下腕、指先に至るまである防護パット。特に左手はライオットシールドを持ちやすいよう、防護パットの取り外しが可能であった。ヘルメットもラッドローチ対策の為か首元や脛椎を守るためのガードがある。ヘルメットの形状も口元を覆うような、まるで前世にあったフルフェイスのバイクヘルメットのような形状をしていた。

 

その重装備故に俺の父親を何だと思っているんだ?と少し考えたが、直ぐに辞めて装備を装着する。太股のホルスターに10mmピストルを収めてバラクラバとヘルメットを装着した。

 

着終わり、アマタの方へ向かうと、俺の方をみて驚いたような顔をした。

 

「やっぱり重装備過ぎたのか?」

 

「いいえ、今のセキュリティーはそれが標準装備よ」

 

「マジかよ」

 

アマタによると、ラッドローチ襲来直後。セキュリティーはもっとアーマーに防御力が必要だと感じて監督官に訴えた。それにより、アーマーのデザインを一新して実用的かつ重武装のようになったと言う。

 

つーか、これジャガーノートだよな。銃弾を受けても突き進んで軽機関銃撃ちまくるあれだよな。

 

「アマタ、これの愛称とかって・・・」

 

「え、これの愛称は確かボトムズだっけ」

 

「そっちかよ!」

 

「違った・・・、えっとザクだっけ?」

 

「大きくなったなおい!」

 

「ああ、ブレアレオスだっけ?」

 

「既に物じゃなくて人になってしまった」

 

「そもそも、ユウキは何を言ってるの?」

 

本当は“グラディエーター”という名前らしい。あまり名称が合っていないのは、そう言う事を理解していない人物が名付けたに違いなかった。

 

装備を付け終えて、アマタと共にVaultを歩く。

 

Vaultで生活したのは酷く昔のように思えるが、そこまで経過はしていなかった。アマタに途中で渡されたハンティングショットガンを携えて、セキュリティーの時を思い出しながら住んでいた家へと歩いた。

 

「結構ゴミとか散らばってるんだな」

 

「掃除する暇も無かったからね。明日辺りに全員で清掃する清掃デーを設けたから、以前みたいに綺麗になる筈よ」

 

所々にゴミが落ちていたり、血痕がそのままになっている箇所もある。雰囲気的には最悪だろう。暫く歩いていると、家にたどり着いた。

 

「アマタじゃないか、君まで言うつもりかい?彼らが本当にアメリカ合衆国政府なんて言うつもりはないだろう?」

 

そこには幾らか老けた父親、ハーマン・ゴメスの姿があった。

 

彼の服装は俺が着ているライオットアーマーではなく、長年使っていた防弾ベストにフェイスガードつきヘルメットを装備していた。腰には10mmピストルがあり、壁際にはアサルトライフルが立て掛けてあった。

 

「そのことじゃないの。ユウキの部屋の中で話しませんか?」

 

「どういうことだ?」

 

父は怪訝な顔をしてアマタをみる。おれはどうしようもないので、父の目の前に立つと、ヘルメットのアイガードを開く。

 

「お、お前は・・・!」

 

と、叫ぼうとした父の口を手で塞ぎ、もう片方の手で一本口許に指を立てて「シー!」と言った。父も直ぐに通じたらしく、壁に立て掛けたアサルトライフルを持つと、部屋の扉を開けた。

 

部屋の中は俺が去った時と変わらず、何も変わっていなかった。配給券一年分を費やした読書用コンピューターやVault蔵書ネットワークから印刷した戦記物の本。警察や軍の教本も置いてあったそこは懐かしさを感じたが、メガトンの我が家と比べても故郷と感じてしまう。

 

ヘルメットを脱いでバラクラバを被った姿となり、俺は口を開く。

 

「よく、俺だと分かったね」

 

「なに、お前を十九年育ててきた父親だぞ。目もとで直ぐに分かる。それよりもよく帰ってきたな」

 

バラクラバを脱ぐと、父は俺を抱き締める。ゴメス家にはハグすることで習慣はない。しかし、死地に赴いた息子が帰ってきたのだから、父親としてするのが普通だろう。

 

「どうして帰ってきた?」

 

「アマタが緊急信号を発信して、信号をPip-boyが捕らえたんだ。アマタに会ったら、早速シャワー浴びろと言われたよ」

 

「だろうな、外は早々風呂に入れないだろう」

 

父は苦笑いした。アマタは本題に入ろうと口を開いた。

 

「オフィサー・ゴメス、エンクレイヴのスタッカート少佐がこの部屋を見たいと言っているのです。明け渡して貰いませんか?」

 

「いや・・」

 

「いいよ」

 

俺は肯定すると、父は驚く。

 

「ユウキ、お前は良いのか?」

 

「良いわけじゃないが、エンクレイヴに見られて不味いものはない。見られたくないものもあるけど、不利になるわけじゃない」

 

「そもそも、何故奴等はお前の持ち物を見たがるんだ?」

 

俺は痛いところを付かれ、苦笑いを浮かべた。説明しようとするが、父は俺の説明を聞こうとはしなかった。

 

「まあ、エンクレイヴという組織は歪だと言うことは理解している。指揮官がああだからな。外の世界では憎まれた存在なのだろうな」

 

父はアマタにあとで事情を聞くといい、俺は渋々頷いた。微かに父に自分が経験したことを話したい節が有ったのかもしれない。すると、外に人の気配がした。すると、ノックがされる。pip-boyの動体センサーを見ると、二人位が外にいる。俺は急いでバラクラバとヘルメットを装着する。

 

「どうぞ」

 

アマタはそう言い、扉は開かれた。

 

そこには佐官用のコートを着た将校が一人と士官服を着た先程の女性秘書官だ。コートはまるでゲームのオータム大佐が着ていた物にそっくりだったが、被っていた軍帽は鷲がエンクレイヴの頭文字を掴んだ意匠の凝った代物だった。

 

「話中で申し訳ないが、もう終わったのかい?」

 

「ええ、オフィサー・ゴメスも承諾しました」

 

「隠した物はありませんよね?」

 

と将校は鋭い視線でアマタや俺、父を見据える。

 

「いえ、隠すも何もあんたが何を探しているか知らないもので。ベットの下のエロ本はそのままにしているがね」

 

ちょっと、父さん!あんた何を!

 

俺がヘルメット越しで驚愕の表情をしていているのが救いだった。

 

すると、その将校は笑い出す。

 

「いやはや、驚きました。エロ本は私も・・・」

 

「ゴホン!」

 

と後ろの女性秘書官は咳払いをする。彼女の表情はこめかみに血筋を浮かべていた。

 

「はっはっはっは。そうですな、息子さんの部屋を漁るのですからゴメスさんは外で待っていて貰えますか?直ぐに済みますよ」

 

笑いでなんとか誤魔化して、将校は父に配慮するため父を外すよう言った。

 

 

「しかし・・・」

 

「ならそこにいるセキュリティーが同伴すれば良いでしょう?」

 

成る程、部屋の主が居れば大丈夫である。すると、父は「良いでしょう」と言って外を出ていき、アマタや秘書官も外へ出る。しかし俺を探しているエンクレイヴ将校と一緒にいると言うのは絶対絶命のピンチだった。

 

「そこの警備の人、あんまり荒らさないから大丈夫」

 

人懐っこい笑みを浮かべて、笑う将校はエンクレイヴとは到底思えなかった。どことなく武官ではなく、技術将校っぽい。マッドサイエンティストのような眼鏡にボサボサの髪。そうとしか見えなかった。

 

将校は俺の本棚にある銃の本に手を伸ばして、中をペラペラと捲っていく。彼が持っているのは「アサルトライフルの歴史と概念」である。

 

「ん?これは・・・」

 

将校が見つけたもの、それは俺がまだ15の時に描いたM4A1のデッサン画である。他にも記憶にあるアサルトライフルを書いてはその本に挟んでいたのである。

 

見ている俺からしてみれば、何て物を遺したのだと赤面ものである。例えば、中学校時代のノートが出てきたとしよう。そこには、厨ニ病というべき、思い出しただけで赤面して目から血を流すくらいのものである。それが、知らない人に見られたら?

 

結論を述べれば、死にたくなるものだ。

 

しかも、それだけで終わらなかった。

 

「ん?これはM4A1!しかもキャリングハンドルつき。ちゃんとコルト・アームズの刻印まであるじゃんか!そして、SCARにAK!FN2000まであるじゃんか」

 

や、辞めてくれぇ!俺の精神が崩壊する!

 

ガラスのハートが全部砕けちる!

 

しかしふと考えた。何故、彼はその銃器の名前を知っているのだろうか。俺がそこにイラストを挟んだが、そのイラストにはこの世界にはない銃がある。一体、なぜ彼がその銃を知っている?

 

M4A1やAK、SCARなんてこの世界にはない。なら彼はもしかすると・・・。

 

彼はイラストを挟んであった本に「証拠品」の札を付ける。俺の黒歴史を持っていくつもりだ。そして他にある「設計図Ver1」と書かれたスケッチブックを取った。

 

不味い!不味すぎるぞ!

 

「ん~・・・・おいおい、これは」

 

そこには俺が書いた銃の設計図が記されていた。その銃の名前はFN2000。FN社が開発したブルパップ式アサルトライフルだ。転生当時は高校生だったので、俺は銃の構造はよく分からなかった。しかし、Vaultには銃整備士になるための書籍があり、原理や構造を知ることが出来た。そのため、12の誕生日を迎えてから、本格的な銃の製造や設計を学び始めたのだ。生前にみた外見と今持つ知識を掛け合わせて出来たそれは、オリジナルとは多少違うかもしれない。無論、メガトンの武器庫にあったオリジナルのそれはおれのと少し違っていた。

 

先程の黒歴史とはまだ程度は低いが、それでも技術将校と比べたら・・・。

 

「コイツも持っていこう!」

 

技術将校は意気揚々とそれを持ち、「証拠品」の札を張る。って、良いんですか?そんなセキュリティーが趣味で描いていたものですよ?!

 

おれはそう思っていたが、それを読む技術将校は設計図に記された文字を読もうとしていた。

 

「えっと、これは・・・」

 

「それは“3cmずらして”って書いてません?」

 

「ああ、そうか!・・・ってうん?」

 

俺は悩んでいる技術将校に無意識に口を挟んでいた。ヤバイと思ってヘルメット越しで口を押さえようとするが、既に遅かった。

 

「君、名前は何て言うんだ?」

 

おれは思い悩む。実名は論外だし、頭に浮かんだ名前を言った。

 

「ウォーリー・マックです。」

 

ふと、奴のニヒルな笑みを思い浮かべ、殴りたい衝動に駆られる。すると、将校は右手を出した。

 

「私はエンクレイヴ技術局のロイド・スタッカート少佐だ」

 

軍帽を脱ぎ、よく見えなかった彼の素顔が明らかになる。アングロサクソン系の白人であるが、目はダークブラウンで髪は黒。しかし、白人っぽい顔つきはアジア系には無いものである。顔立ちは美男子なのだが、彼の掛けるメガネがそれを台無しにしていた。どこかのマッドサイエンティストのようなメガネは彼がそういう仕事についていることを現していた。髪も軍人であるはずが、髪は長く、後ろでそれをまとめている。髪型であれば女性のような感じである。

 

彼の手を取り、握手をするとロイドは苦笑する。

 

「いやぁ、秘書官にエンクレイヴの威厳が削がれるから帽子を脱ぐなと言われてね。室内なのに全く困っちゃうよな」

 

馴れ馴れしいというか、目の前にいるエンクレイヴの将校は俺の想像に反して友好であったため、面食らってしまう。俺のその様子を見ていたのか、またもロイドは苦笑を重ねる。

 

「エンクレイヴの将校って二つに分かれているからね。現地や部外者にも優しい奴と現地人を人と見なさない奴とか・・・ほんと困っちゃうよね」

 

ロイドは困ったようにいう

 

おい、ちょっと待てよ。いま、なんて言ったよ。エンクレイヴの将校が優しい?んなことあるわけ無いだろうに。

 

「エンクレイヴの方はなんというか、選民思想やアメリカ至上主義的なものがあると思っていましたが?」

 

おれはその疑問を彼にぶつけた。すると、ロイドは困った顔をしながらも起用に笑う。

 

「まあ、そう見られてもおかしくないな。ここに住むVaultの人たちもエンクレイヴの実情を知りたいだろうし。少しだけなら教えてあげられる。」

 

と言って、ロイドは丁寧にもエンクレイヴが現在どうなっているか話してくれた。エンクレイヴは西のカリフォルニアから来た石油掘削基地の総司令部にいた官僚の子孫など、選民思想などを持った者と東の基地に元からいたウェイストランド人に対して積極的な救済策を考えていた者がいる。しかし、十年前に西側の高級将校達を中心とした一派が大粛正を敢行。多くの穏和派の東側将校を処刑した。今の指揮系統は西側の将校がおり、実働部隊の殆どが東側だという。参謀本部でも何割かは穏和派の者はいるが数少ない生き残りだということ。そして、ロイドは本部の中でも少ない穏和派の一人だというのだ。

 

「エンクレイヴも一枚岩ではないからね。他の組織もそうだろうさ。アメリカ建国当時と比べたら、悲惨だな」

 

ロイドは説明を終えると秘書官がおいていったメタルボックスに「証拠品」を次々と入れていく。

 

エンクレイヴが組織の上で亀裂が入りやすいのなら崩壊は容易い。そして、BOSに勝つ見込みもあるということだ。

 

「そういえば、君はこの部屋に詳しいようだが、ここに住んでいた者とは親しかったのか?」

 

俺は一瞬考えたが、すぐに口を開く。

 

「ええ、ユウキの家には結構出入りしてました。良い奴ですよ」

 

「そうか、さぞ銃マニアだったんだろう。会って話してみたいもんだ」

 

俺はその時、一瞬だけ彼に自分が何者であるか教えたくなった。エンクレイヴという敵対している組織の人間だ。でも、彼とは良い友人になれるのではと。そして、彼はもしかしたら・・・・・。

 

「少佐・・・・帽子を被ってと言っているではありませんか!」

 

そこに入ってきたのは、先ほどの女性秘書官だった。外見上クールビューティーな感じでかなり新鮮だ。

 

「ハハハ、ハンナ少尉。いいじゃないか、そんなに俺の顔を周りに見せたくなかった?」

 

「っ!・・・少佐!変なこと言うのはよして下さい!」

 

女性秘書官の顔に驚きと羞恥の表情が見える。若干頬が赤く染まっているのは先ほどのクールビューティーな感じからして、ギャップが感じられて可愛かった。俺の目線に気がついたのか、咳払いをする。しかし、俺に見られていたということに動揺してか、声は少しうわずっている。

 

「そ、それで少佐。情報収集は終わりましたか?」

 

「ああ、このセキュリティーのオフィサー・マック氏のお陰でな!」

 

彼は嬉しそうに、メタルボックスを抱える。その様子は子供のようで少尉も俺に見られているにも関わらず、その光景に微笑んでしまう。彼女はロイドに惚れているのだろう。彼女の目線からしてそんな感じがした。

 

「では、急いで下さい。あと十分でヘリが離陸します。あまり、ヘリの稼働数が少ないのですから」

 

「分かってるよ」

 

二人は部屋を出ようとするが、おれは思い出したように口を開く。

 

「ロイド少佐」

 

「いや、ロイドと呼び捨てでも構わないよ?」

 

「え、ああ。えっと、そのメタルボックスの本はどうするつもりで?」

 

「これはユウキ・ゴメスという才能を持っている人物のものだ。俺は彼の技術が欲しくてここにやってきた。本人が来たら、しがない技術将校が持って行ったと伝えてくれ。必ず返すとも」

 

ロイドはそういうと、踵を返してそのまま扉の向こうへ行く。しかし、なにか思い出したように振り返った。

 

「ああ、そうだ。もう一つあった。もし会えるのなら、ウィスキーでも飲みながら話したいと伝えてくれ。勿論、俺の奢りだ」

 

扉は閉まり、窓から彼が行く後ろ姿を見る。その背中が小さく見えなくなるにつれて、俺の不安は大きくなる。

 

 

エンクレイヴの兵士や将校。

 

そして彼が戦場にいたら引き金を引けるのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はロイド少佐と別れてから、戻ってきた父と合流しゴメス家へと帰ってきた。

 

「お帰り、ユウキ」

 

Vaultスーツの上に神父の黒い服を着た兄、フレディー・ゴメスは目を赤くしながら、俺を迎えてくれた。涙もろいのは、あんまり変わっていないらしい。俺は兄貴とハグすると、叔母であるペッパーおばさんもいた。彼女は俺の事はまだ気に入らないらしく、顔を背けていた。

 

「ペッパーおばさんも無事でよかった」

 

「ふん!」

 

「すまないな、ユウキ。けど、母さんはユウキがいなくなってから大丈夫か大丈夫かと心配していたんだぜ」

 

「フレディー!そのことを言うなって言ったでしょ!」

 

ペッパーおばさんは顔を真っ赤にして怒鳴る。俺を遠ざけるようにしていたおばさんであったけど、やっぱり心配していたらしい。俺の心配してくれないおばさんだったとしたら、父は再婚なんてしないだろう。おばさんも根は優しい人なのである。

 

俺は久しぶりの我が家に帰ってきた事で目から水滴がぽろぽろと落ちてくる。俺はまだ返事をしていなかったことを思い出し、涙も拭かずに言った。

 

 

「ただいま!」

 

 

夕食は取ってしまった後だったので、ペッパーおばさんが「別にお前のためにつくったんじゃないんだからね!勘違いしないでよ」と言うようなツンデレっぽい事を言った。父にそのことを言うと「テヘペロ☆」みたいな仕草をしたんでイラッとした。父はそのツンデレ具合に惹かれたらしい。冷蔵庫にあった残りのサンドイッチを食べると、久々の故郷の味が感じられ、またも涙がこぼれ落ちそうになる。

 

食べ終わる前に、父から「俺の部屋に来い」と言われたのでサンドイッチを食べると、そのまま父の部屋に行った。

 

「父さん、どうしたの?」

 

「お前に見せたい物があるんだ」

 

父は俺をベットの近くまで来させた。そして、ベットのマットレスをひっくり返すと衣類ロッカーが現れた。いや、これは衣類ロッカーではなく武器ロッカーだった。

 

「お前の母親が遺していったものだ。お前が二十歳になるまで見せないつもりでいたが、そうも言っていられないようでな」

 

父はそういうと、首に掛けていたロッカーの鍵を使い、ロッカーを開ける。そこには昔俺が磨いで怒られた日本刀ともう一本の布にくるまれた何か。そしてpip-boyで再生できるホロテープが二つ入っていた。

 

「父さんこれは?」

 

「お前の母親の遺言と出生にまつわる話。そしてお前への手紙だ」

 

父はそういうと、俺の手にホロテープを置く。

 

「これは今聞かなくていい。あとで聞くといい。お前も急いでいることだし。仲間もこれ以上敵地にいたら心配するだろう?」

 

「敵地って・・・・」

 

父の言葉に俺は驚いた。Vault101は俺の故郷だからだ。しかし、父の言うこともまた真実だった。ここはエンクレイヴが占領し、じきに住民の移送始まる。そして何より、彼らはエンクレイヴの人間として生きることになるのだから。それは俺にしてみれば敵地同然であり、故郷の人間であろうとも、俺を土産として持ち帰れば確かなる地位を約束されても良いのだから。

 

俺は反論したいが、そのことが分かっているために視線を落とす。しかし、父はホロテープを覆うように、俺の手を握る。

 

「大丈夫だ。俺がお前の父であることに変わりない。もしかしたら、また会えるかもしれないからな」

 

父はそういうと、ロッカーにあった残りの物品を取り出す。ホロテープをpip-boyに仕舞い、父は日本刀を俺に渡した。

 

「これはお前に見せたとき、かなり興奮していたな。やっぱ母親の血なのかな。刀のことになると一時間ぶっ通しだったからな」

 

父は笑い俺に渡す。それは今見てみると、大分古くなっていた。鞘はボロボロで柄は何度もまき直して新しい物に換えている、父に「鞘から出して良いか」と聞いてから抜いてみると、見事な刀身が露わになった。

 

「日本刀だったか、お前の母、椿はこれを持っていただけで使わなかった。戦闘には不向きだからな。だが、この刀は家族同然と言っていていたし、形見のような物だったんじゃないか?」

 

父はそういうと、もう一個の布に包まれた物を渡してきた。それは日本刀と比べると少し重く感じられた。布を外すと、それは日本刀と比べると全く違うことが分かった。

 

鞘は木製ではなく、金属製の鞘だった。そして柄の部分はまるで柄糸を外して茎が露わになっているようにすら見えた、しかし、それはしっかりとグリップのような物があり、それは金属製の柄だということが分かった。それは日本刀と違い、近代的なもので、前世のコンバットナイフの柄のようにすら感じられた。鞘から抜き取るとそれは、ただの刀では無いことが分かった。

 

日本刀とは違って光沢はない。しかし、刀紋の部分は鋭く指をかざせば切れてしまいそうだ。しかも、刃先は殺傷力を上げるためにコンバットナイフの後ろののこぎりのような形状になっていた。それは棒樋も同じような加工が施されている。それは、日本刀を近代技術で再構成した近接戦闘用の刀だった。

 

「ユウキ、この文字が読めるか?」

 

父は柄に刻まれた文字を指す。そこには漢字が刻まれていた。

 

『之越持者大和越受継者成』

 

「之を持つ者大和を受け継ぐ者成り」

 

それはレーザー刻印なのか分からないが、見事な和文体で書かれていた。それを普通に日本語で読んでしまった。そのため、父は俺の話す言葉が理解できなかった。

 

「ん?」

 

「この刀を持つ者は大和民族を受け継ぐ者なんだとさ」

 

「まだ、裏に書いてある。読んでくれないか?」

 

父はそういい、柄をひっくり返す。すると、刀の銘を読むことが出来た。

 

『火龍』

 

それは、嘗ての太平洋戦争で日本初のジェット戦闘機として設計された機体の呼び名であった。ドイツとの技術交換でジェット戦闘機のMe262の設計図を提供され、日本は独自のジェット戦闘機を作り上げた。海軍では橘花と呼ばれる機体が作られ、軍艦への爆撃を主眼に設計されており、それはいつでも特攻攻撃が可能であった。しかし、火龍は日本陸軍が設計した初めてのジェット戦闘機であった。日本本土を焼夷弾によって爆撃され、それへの対処がままならぬ時、祖国を守るために設計され、防空戦闘機を主眼に置かれていた。

 

製造は行われるはずであったが、終戦により一機も生産されずに至った。

 

本土防衛として設計された機体はまさに技術者の悲願と呼んでもいい。焼夷弾をまき散らす高々度のB29には為す術がないのだから。

 

そんな願いの込められた刀の名付け親は戦史や戦闘機をこよなく愛していたに違いない。むしろ、これ以外の理由が思い浮かばなかった。

 

「火龍・・・、意味は、火のドラゴンってところかな」

 

「バーバリアンに出てくるあれか?」

 

と父はドラゴンにさらわれた娘を救い出すため、戦士がドラゴンと対決する昔の漫画のことなのかと言った。本当は違うので、本当の意味を言った。

 

「昔の戦闘機の名前だよ。祖国を守ろうと作ろうとしたけど、作られずに終わった。良い名前だと思うよ」

 

俺は刀身を見ると、スッと鞘に収め、pip-boyのなかに入れる。俺は父の顔を見ようとするが、父は背を向けたまま動かなかった。

 

「父さん?」

 

「これで最後だ。ユウキ、会えると言ったが、可能性は低いだろう。もう二度と会えない可能性が高いな」

 

父は振り向き、俺の肩に手を乗せた。

 

「お前に会えなくなるのは残念だ。もう少し話していたかったが、時間はもうないだろ。あと一時間で日の出だ」

 

壁の時計を見れば既に深夜の四時を回っていた。明るくなる前に戻らないと、外のエンクレイヴの警戒線に引っかかる。そろそろ、行かないと不味かった。だが、このままvaultで暮らしたいと思ってしまう自分もいた。

 

それを察したのか父は俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

「お前にはシャルちゃんがいるんだろ?なら、あの子を幸せにしてくれ。孫を見せに来いとは言わんからさ」

 

父は満面の笑みをする。しかし、目から涙を流していて、今にでも嗚咽をあげそうだ。

 

「父さん・・・」

 

「いいか、何か選ぶことがあったら誰かを頼るんだ。それはシャルや友人、誰でも良い。でも、もし誰もいなかったら。その時はどうする?」

 

父は俺の両肩を掴む。そして涙を流しながらも続けた。

 

「その時は自分を信じろ。お前が一体何がしたいのか、どうしたいのかを考えろ。外の世界は可能性の塊だ。自分を信じて進んでいけ。」

 

父は、そういうと、俺を部屋から押し出した。

 

「父親としてやるべき事は全てやった。これでお別れだ、息子よ」

 

父は扉のスイッチに手を掛ける。

 

「父さん!」

 

俺は父に駆け寄ろうとしたが、父は手で来るなとジェスチャーをする。時間は残り少ない。既に予定は大幅に遅れていた。

 

「ユウキ、自分を信じて生きろ!」

 

父はそういうと、ハッチを閉じた。機械的な油圧式ハッチが閉まり、耳の鼓膜に伝わった。ハッチに行って配電盤を弄くりまわして、開けたい衝動に駆られた。しかし、ベットに倒れ込む音とすすり泣く声が聞こえ、俺は父も同じ気持ちであることを知った。

 

兄も叔母も既に寝床に付き、明日もおれがいることを信じて眠っている。俺は家から飛び出し、監督官のオフィスへ向かう。目から溢れる涙を何度も拭きながら、かすむ視界を頼りに監督官のオフィスへと舞い戻った。

 

Vaultを去ったとき、こんなに悲しい気持ちだったろうか。あのときは状況が状況でVaultにお別れも言えない状況だった。あのときのことを思い出しながら、トンネルを通って隠し扉のスイッチを押す。配電盤に偽装した隠し扉は開かれ、俺はそこで思わぬ人物に会った。アマタだった。

 

「こんな早朝に出て行くんだ」

 

アマタは泣きもしないで、耐爆扉のコンソールの横に立っていた。彼女の手は扉の開閉プロトコルの所にあり、開閉を行う鍵は刺さった状態だった。

 

「アマタ、それは・・・」

 

「違うわ。これはあなたが出て行くから、出てった後に閉めるため」

 

「え?」

 

俺は驚き、アマタの顔をみる。エンクレイヴとの関わりを絶って生きていくのかと思ったものの、予想はそれとは違っていた。

 

「防犯上の理由よ。向こうにはスペアのキーコードを伝えてあるし、強制解除キーも向こうが持ってるのよ」

 

「そっか、なら仕方がないよな」

 

すると、アマタは俺の所に近づき、両手を俺の首に絡めた。

 

「私を選ばずにシャルロットを選ぶなんて・・・・。乙女心を踏みにじって」

 

「俺の気持ちはどうなんだよ」

 

乙女心を踏みにじったつもりもなければ、なにかした記憶は無いため彼女に俺の気持ちも考えて貰いたかったが、アマタはそこでにやりと笑う。

 

「女は我が儘な生き物なのよ。自分の物にならなければ嫉妬するに決まっているじゃない。」

 

アマタは俺の首元に顔を近づける。彼女から漂うシャンプーや女性独特の香りは俺を惑わそうとする。そして、アマタは囁くような声で言う。

 

「Vaultに残ることはできないの?」

 

「無理だ」

 

「みんなを説得するから」

 

「外には俺を必要とする人がたくさんいるんだ。・・・・ごめん、アマタ。君の気持ちを踏みにじってしまって」

 

俺は彼女の背中に手を伸ばし、強く抱きしめた。彼女ともこれでお別れだった。もう二度と会うことはないかもしれない。走馬燈のようにまぶたを閉じると、vaultで生活した光景が蘇る。そして、そこで生活することは二度と叶わないのだ。自然と涙が目からこぼれ落ちる。自分がこれほど涙もろいとは思わなかった。アマタはゆっくりと顔を上げる。彼女の目も赤かった。

 

「アマタ・・・・」

 

「今だけで良い・・・お願い」

 

アマタは俺の頬に両手を添える。彼女の青い目は綺麗で、背中に回した手をゆっくりと強めた。

 

彼女は目を閉じ、俺も閉じて彼女の唇に口づけをした。

 

これは彼女との最初で最後のキス。そのキスは塩っぱく、忘れられない味だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

『聞こえているわね・・・・・、よし。これで良いわ。これを聞いたとき私は死んでいるでしょう。もし、生きているとすればすぐに再生を中断して、そうでないと私があなたを叱りに行くわ!でも、もし死んでいるならこれからする話に耳をしっかりと傾けておいて。私の名前は・・・・そうね、あなたの父さん。ハーマンからは“ナイト・椿”としか、伝えられてないはずよね?多分、本名もあの人に話してはいないはずよ。知っているとすれば、これを聞いたかも知れない。まあ、聞いていたとしても関係ないわ。私はその名前も捨てたし、今の名前で満足しているわ。“椿・ゴメス”にね!

 

話を戻すわ。そう、私の本名は市ノ瀬 椿。ここでは椿 市ノ瀬となるわ。名前からわかるかもしれないけど、日系の名前ね。でも、日系の名前だけど私は日系じゃないわ。私は純粋な日本人。東京で生まれたの。生まれは2063年。

 

たぶん疑問に思うでしょうね。私は214歳って!一応合っているわ。年月を計算すれば。でも体が経験したものは23年ちょっとよ。決してお化けじゃないから安心して。

 

もしもう一個のホロテープを先に見てしまったのなら今説明するわ。

 

アメリカを勉強する上で2070年にアラスカのアンカレッジでアメリカと中国が戦争したのは知ってるわね。あの戦争の前哨戦だったのが、2069年に起きた中国の日本侵攻作戦よ。

 

私はあのとき6歳だった。今でも覚えているわ。中国軍は放った核ミサイルに焼かれる故郷が。あの戦争はアメリカを焦土にするためにどれだけの核を落とせばいいか、テストケースとして日本に核攻撃を仕掛けたと言っていい。私は父親が資産家だからよかったけど、あの炎の渦に飲まれたてたら、あなたは今頃生きていないわ。

 

 

日本という国家や故郷は潰えた。でも、まだ人は生きていた。そして戦う意志も。私の父は持ちうる資産を持ってアメリカに全面協力したわ。アメリカ国籍を取得して、その資産と生き残った頭脳明晰な科学者と共に日夜兵器研究を行ったわ。中華ステルスアーマーの光学迷彩の技術も元は日本原産よ。正直なところ日本の技術はアメリカよりも上を行っていた。

 

だけど、2070年。アンカレッジ戦線が形成されてから、生き残りの社会学者はあることを提唱し始めた。それは「米中による最終戦争」。これは、中和剤による放射能除去も間に合わないような放射能が核によって世界中に広がり、人類が壊滅してしまうと言う予想を立てた。当時も「最終戦争論」は騒がれていたけど、アメリカ人はそんなことは夢物語だと思っていたみたいね。

 

でも私たちは故郷を灰にされた。だからこそ、アメリカと中国がやりかねないと思っていた。父は残りの私財をなげうってとあるドームを作り上げた。それは、Vaultという生存目的ではなく実験のために作られた核シェルターと違った。アメリカの上流階級の人間はVaultには入らず、自分たちが出資した核シェルターを造りそこに入った。自給自足が全て賄われ、科学を研究して発展する施設もそろっていた。父と私、日本から逃れた多くの著名な人々はそこへ移動した。そして、2077年に最終戦争が勃発した。私たちはかねてより、実用化段階だった冷凍睡眠の技術を使用して五十年に一回。一年間外で生活して、また五十年冷凍睡眠するというサイクルを行った。そして、私たちはドームに接触を試みる国家が現れた事を知った。

 

彼らの名前は新カリフォルニア共和国。

 

Vaultに設置されたG.E.C.K.を使用して、豊かな土地を手に入れた“Vaultシティー”を中心に作られた民主主義的な国家はドームの保持する科学力や知識を欲しがっていた。接触した直後、全員で会議が行われて彼らと交流することになった。多くの知識人や科学者は温かく迎えられ、多くの人々は喜んだ。日本という民族を再興できると。

 

しかし、私の父は違った。

 

父は資産家であり、特段知識や科学を用いてなかった。資産もドーム建造に使い果たし、残りのものもNCRでは役に立たない物ばかりだった。父はNCRの補助金で生活した。しかし、父はそれに耐えることが出来なかった。いつも冷凍睡眠のまま目覚めなければ良かったと言い、父はゆっくりと壊れていった。

 

父は最後に残った財産を使って投資を行った。父にはそれしか得意な物が無く、取り柄としてはそれしかない。しかし、神は微笑んでくれなかった。投資は水の泡になり、借金がかさみ始める。父はそれを苦にして自殺。私と多額の借金を遺してこの世を去った。

 

財産もなく、この身一つしかない私にとって選択肢は限られていた。身体を売るか、逃げるか。しかし、神は私にだけ微笑んでくれたのかもしれない。

 

父の抱えの研究者はとある組織と繋がりがあった。戦前の技術を保全し、過去の戦争を二度と繰り返さないようにする。Brothehood of Steelはかねてより、ドームの事に興味を持っていた。科学者達はNCRに裏切られる可能性も考慮して秘密裏にBOSとの交流を行っていた。科学者達は生き残ることが出来た父に報いるため、遺された私をBOSに託した。

 

戦前の教育を受けた私はBOSに入ってから優遇された。科学者がくれた高周波ブレードや戦闘用インプラント。BOSの戦闘インプラントよりも、研究に研究を重ねていたそれは格段に違っていた。そして私は、エルダー・リオンズ傘下の東海岸派遣部隊と一員として東海岸にやってきた。

 

あとはハーマンが話してくれると思うわ。・・・でも、これだけは言い忘れてたわね。何で、BOSを捨ててVaultにやってきたのか。

 

BOSは悪くなかったし、死ぬまでいてもよかったわ。でも、私は父やNCRに残してきた科学者達とある約束を交わしたの。それは好きな人物と幸せに暮らすと。

 

それは言われなくても私も願っていたことだった。でも、ウェイストランドでそれが達成させられるかというと、無理だった。BOSも国家ではなく、戦闘集団なために幸せとは言い難いわ。だから、私はVaultが解放されたと聞いてそこに飛び込もうと思ったの。

 

あのドームにいたのは科学者が40人前後、軍人や政治家が15人。父と私、そしてその彼らの家族が100ちょっと。政治家や軍人は日本を再建したいと言っていたけど、たったの150人弱でどうにかできるはずもない。それに、その中でも女は50人弱で若い女は私を入れて10人にも満たしていなかった。そもそも、そんな人数だけで再建は困難。

 

科学者は自分たち日本人の遺伝子を残すよう私に言った。それはロマンのかけらもない言い方で最初はむかついたけど。彼らの意図することはなんとなく理解できた。再興などは考えず、先祖代々続いていたものを後世へと語り継いでいく。荒廃した世界で、故郷の名前を知らなくても、私はそれを後世へと伝えなければならないと思った。

 

本当ならあなたに直に話したかったわ。

 

でもね、市ノ瀬の家の女性は何故か子供を産むとき床に伏すことが多いみたい。祖母も私の母もみんな子供を産んだときに亡くなってるわ。だから、この音声をホロテープに残そうとおもったの。

 

 

ユウキ、あなたは私の宝物よ。私はあなたの成長した姿や声を聞くことは出来ないし、あなたも私の姿を見ることはないわ。

 

私はいつまでもあなたを天国で見守り続けてるわ。愛してる・・・・・』

 

2258年 五月十三日 午後五時十二分三秒

 

 

 

 

 

件名:『ワシントン・タイムズ一面記事より抜粋・2069年3月12日 朝刊』

 

「中国・日本へ核攻撃!」

 

三月十日の午前三時三十分、中華人民共和国のチェン議長は日本に対する宣戦布告を発布。即座に中国海空軍による先制核攻撃が行われた。午前7時にはウィリアム・グロック国防長官は中国に対する非難声明を発表した。中華人民共和国広報部のコメントは「嘗て第二次大戦時に大きな爪痕を残した日本は神罰に値する。」と辛辣な事を広報官は言った。放射能による海洋汚染が心配されるが、核攻撃による放射能汚染は殆ど地上に限定される予想だ。

既に首都の東京は数発の核が投下され、状況は不明なままである。また北海道や九州などは既に中国陸軍が上陸したとの情報もあり、正確な情報は伝わってはいない。しかし、日本の中枢、頭脳は完膚無きまでに破壊されたと言っていいだろう。空路や海路は多くの日本人戦争難民が発生しており、米国政府は受け入れ体制を作り始めている。2050年代に日本共産党が第一党になり、日米安保を破棄してから十年が経ち、今は自由党が政権を握っていた。しかし、一度共産政権が誕生しているため、政府の受けは悪く、関係改善の目処が立っていなかった。これは極東アジアで最後の民主主義国家の消滅を意味しているだろう。

 

 

 

 





Fallout3やこの世界では日本はあまり語られていません。しかし、作者はまたしてもねつ造設定をしました。一応、国際連合の最後の事務総長は日本人ですし、中国とはりんごくですので、こんなことになっていそうだなと予想して書きました。

あと、ドームに関して言うと、これはfalloutnewvegasのネクサスにあるMODを参考にしました。気になる方はネクサスの大型DLCMODを調べてみると良いと思います。

誤字脱字、ご感想お待ちしております


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三十三話 アウトキャスト



最後の投稿が五月・・・・・本当に申し訳ないです!
六月に投稿と言いながら、七月も投稿出来ず、八月になるなんてほんとうにすみません。

活動報告にも書きましたが、スランプでした。(あと区切りが見つからなかったのもあります。

あと、去年もそうだったのですが長期休みになると筆が全く進まなくなります。もしかしたら次は九月の終わりに投稿するかも知れないです。







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Brotherhood of steelは人類を再び大規模な大戦争を行わないため、戦前の軍事テクノロジーを保全、管理する戦闘集団である。それは、少数精鋭という特質のため古代ギリシャの一都市国家。ポリスにあるスパルタを連想させるかもしれない。三百人が十万人に立ち向かった話も聞くが、あれは空想である。軍事的にそれは無理に近い。

 

 

「ディフェンダー!前方より敵のAPC(兵員輸送車)!」

 

黒と赤の塗料を塗ったパワーアーマーを着る兵士は乱雑に置かれた木箱のこの中から、生産されたばかりの簡易ミサイルランチャーを取り出した。

 

チューブを伸ばして安全装置を解除する。近づく黒いパワーアーマーを着た兵士が此方に走ってくるのが見え、私は持っていたアサルトライフルの引き金を引いた。装填されていた徹甲弾は兵士の脇腹と腕に直撃する。追加装甲を施していたと言えど、装甲の比較的薄い箇所に当たったのか、兵士はその場で倒れる。後続の兵士はその兵士を助けるためにAPCの影へと引きずり込む。

 

「発射ぁ!」

 

仲間の兵士が叫び、ミサイルを発射する。それは燃料を燃やしながら直進し、装甲のない車窓に命中させる。APCの動きが止まり、中で何かが爆発する音が聞こえた。内部に保管していた弾薬に引火したに違いなかった。

 

「後退するぞ、エルロス!聞いてるのか?」

 

先程までアサルトライフルを撃っていたエルロスという仲間に近づき肩を掴んでみると、胸には大きな穴が空いていた。

 

「ディフェンダー!敵が西から!」

 

塹壕を走ってきた兵士は報告しようと、走ってくるが彼の頭に何かの銃弾が命中する。頭部が晒されていたため命中したのだろう。粘着性の何かが彼のヘルメットにくっついていた。俺はその粘着性の物を良く見てみると、赤く点滅する機械的な物があった。

 

 

「爆弾だ!伏せろ!」

 

そう叫ぶと同時に、兵士の頭が吹き飛ぶ。爆発は限定的だったが、もしかしたらエルロスの胸がああなっていたのも、コイツのお陰かもしれない。

 

「地下下水道に待避だ。ディモンド!三十秒だ!」

 

「了解」

 

下水道の入り口まで十秒ほどで行けるが、大いに越したことはない。アサルトライフルの弾倉を替えて、手榴弾を投げる。パワーアーマーを着ている兵士に手榴弾は効かないが、無いよりましだ。ここにレーザーガトリングがあれば言うことないのだが、初戦の爆撃で破壊されてしまった。フェアファクスの地下施設に移した戦力でどうにかできるとは思えなかった。

 

「ディフェンダー、爆破準備完了」

 

「よし、全員待避だ!後退するぞ!」

 

俺は塹壕にいた残り5名弱の隊員に命令する。目の前の光景は未だ信じられない。昨日までは八人、そして一昨日は十三人の部下が居たのだから。

 

塹壕の奥にいた三名はエンクレイヴに牽制射撃を加えるが、追加装甲を施してあるパワーアーマーで傷を付けることが出来ない。すると、破壊したAPCの後ろから85mm榴弾砲を装備したIFV(歩兵戦闘車)が現れる。牽制を加えていた兵士が近くの木箱からミサイルランチャーを出すが、榴弾砲が火を吹いた。発射された弾頭は弾頭が分散し、大きな釘のような物となり、突き刺さるフレシェット弾だった。大口径の機関銃を貫通しないようになっているパワーアーマーの装甲を貫通し、兵士を殺傷する。牽制していた兵士の身体には至るところにフレシェットの釘が刺さった。

 

「走れ!走れ!」

 

俺は部下に叫び、空になった弾薬箱を蹴飛ばし、下水道の入り口に走る。先頭を走っていた兵士がはしごを降りる。俺も直ぐに降りようとして梯子を掴んだ。端を掴んで一気に下りるが、上から響く爆発音に俺は起爆したのかと驚く。あと十秒弱は残っていた筈だ。

 

上を見上げると、俺の後ろからついてきていた部下の顔が下水道の出入り口から現れる。俺は早く降りてこいと言うが、部下は返事をしない。すると、頭から下水道へと降りようとする。それは誰が見ても危険で俺はその行動を見て驚く。しかし、部下は降りようとして降りたわけではなかった。

 

頭から下水道へと落ちた部下の下半身はなかった。虚ろな目が俺に向けられ息はしていなかった。俺は唖然としてその場に立ちすくむ。しかし、俺の腕を誰かが引っ張る。振り向くとそこには先行して下水道に入った部下だった。

 

我に帰った俺は急いで入り口から離れなければならないことを思い出す。

 

「先に行け!」

 

部下を先に行かせ、俺も急いでここから離れるよう部下の後ろに付いて行く。

 

ちょうど、地下の補給所にたどり着いたとき、下水道入り口の方から地響きと共に崩落の音が響き渡る。爆薬は陣地の周辺以外にも下水道に通じる場所を埋めるため、200年立ち続けていたビルの支柱を破壊した。それは戦前の発破工事で破壊するよりも容易く、廃墟であるそのビルは糸も容易く崩壊した。それによって侵入を試みようとしたエンクレイヴを道連れにしたに違いなかった。

 

「部下は一人か」

 

俺は独り言のように呟く。

 

その部下はヘルメットを脱いだ。髪は赤茶でショートカットに纏めたそれは異様である。BOSという組織は軍を継承しているため規律は厳しい。だが、周囲の意見を退ける技能は彼女にはあった。そして日焼けをしないのか真っ白な白い肌。顔立ちも良く、あと五年経てば熟すと言う感じのあどけない少女だ。父と共にアウトキャストになったが、当の父親はすでにエンクレイヴの攻撃で戦死した。あまり表情を表に出さない彼女でも、俺は何処か悲壮感漂っているように見えた。

 

手持ちの弾薬は底をついたので仮説の補給所に向かう。部下のさらさらとした髪を上からクシャクシャにして掻き回し、補給所へと歩く。

 

俺の名前はロココ・ロックフォウル。

 

分隊を全滅にしてしまった無能な指揮官だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビルが崩れたな」

 

崩落に巻き込まれ、エンクレイヴの部隊は其処から後退していく。一度体勢を建て直すようだ。ウェインは俺が渡した双眼鏡を覗き、後退するIFVを見る。後ろには牽引された中破するAPCがあった。近くにはゆっくりと後退するパワーアーマーを着るエンクレイヴ兵の姿が見られた。

 

「それにしても、酷いな」

 

その様子を見るスターパラディン・クロスは自身が持つ双眼鏡でその市街地戦の惨状を見る。元々同志だった仲間が骸となるのはやはり忍びない。

 

後ろのバラモンには彼らに対する医療物資が山程載せてあるが、エンクレイヴの包囲を突破して彼らにそれを届けられるとは思っていない。

 

商人として偽っても、エンクレイヴが親切丁寧に誘導してくれるとは思えない。エンクレイヴには東と西の勢力が混ざりあった組織。そこに居るのは優しい東側か選民思想に染まった西側の可能性も否定できない。優しい兵士にあったとしても、指揮官が冷血漢では命はない。

 

 

「隠密に行っても、見つかったらアウトキャストとBOSが同じだと言うことで攻撃を受ける可能性もある。かと言って、堂々と行っても通してもらえるとは思わないしな」

 

俺はそう言って、バラモンの頭を撫でる。嬉しそうにバラモンは鳴く。

 

「司令官!ここは強行突破を!」

 

「軍曹、少し黙ろうか?」

 

RL-3軍曹は俺に進言するが、暑いセリフにうんざりしたシャルは軍曹に殺意を向ける。笑いながら殺意を向けるのもどうかと思うが、俺はドックミートにバラモンの干し肉を上げて頭を撫でる。

 

「ウェイン、なんでこんなの連れてきたのよ!」

 

「必要だろ?これから」

 

シャルは耐えきれず、隣のウェインに訴えるがさらりとウェインは体を避ける。

 

ウェインはメガトンを偵察するついでにメガトンへ行って私物を回収しに行ったのだ。エンクレイヴの支配下であったものの、そこに住んでいた証さえあれば入れるようだ。住人が彼の事を知っていれば中に入れるが、新参者は入ることは出来ない。

 

ウェインは荷物のあるモイラの雑貨店に赴いて、モイラとジムが無事だということを知り。そしてブライアンやRL-3軍曹をモイラが匿っていたのだと言う事実を知った。

 

エンクレイヴはメガトンを制圧すると、俺の家や店舗を接収した。ブライアンは家にあった武器弾薬をありったけRL-3軍曹やモイラの雑貨店に隠した。全てとはいかなかったが、ブライアンの粋な行動によって撤甲弾を補給することが出来た。なにより、RL-3軍曹は元々米陸軍の兵士の武器を運搬できるようになっていたため、数人の一般人が完全武装出来る武器弾薬を搭載可能だった。

 

「軍曹、久々の出番だもんな」

 

若干メタな発言だが、余り戦闘に出してないこともあったので軍曹は意気揚々と熱核ジェットで揚々と浮いていた。

 

「敵陣に乗り込んでいって玉砕する覚悟であります!」

 

「いやいや、勝手に行くなよ。軍曹」

 

若干暴走気味な軍曹だが、持ち主の俺と一緒に居なかったためなのかもしれない。すると、拗ねたのか愚痴を漏らし始める。

 

「しかし、司令官。自分は戦闘用のロボットであります。それだけに、新兵の訓練は辛かったのであります。プラズマガンは撃てないし、火焔放射機も・・・・」

 

好戦的なMr.ガッツィーは端から見れば、戦争中毒な兵士に見えるだろう。そもそも、戦争末期は兵士もアメリカ本土の治安も不安定で満足に戦えなかったと聞く。それならば、士気の低下した兵士にその好戦的なロボを見せることで戦わせるように仕向けた。平時ではかなり喧しいものになったに違いない。そして何故か、Mr.ハンディーのような愚痴も言うのは、似たようなソフトを使用しているからであろう。

 

「分かった。今度、お前に改造を施してやるからそうひねくれるな」

 

「本当でありますか!・・・司令官の為ならボルト一本惜しくもありません」

 

「もうあれ、壊そうよ。良いでしょウェイン?」

 

「ダメだ。落ち着けシャルロット。」

 

後ろでスレッジハンマーを持つシャルと止めにかかるウェイン。おれはそれを横目に見つつ、RL-3軍曹を見る。

 

RL-3軍曹等のMr.ガッツィー最大の特徴は頭の部分にある貨物スペースである。Mr.ハンディータイプはそこに日用雑貨を入れるようになっているが、ガッツィータイプはそこに弾薬や武器を入れる感じとなる。ハンディータイプより二回りほど大きいのは貨物スペースと追加装甲の為である。俺はその頭に布製の弾帯を取り付けて携行弾薬の数を増やしていた。兵装は何時もと同じプラズマガンと火焔放射機だが、以前の失敗を踏まえて兵装はアタッチメント式にしているため、戦場で軍曹の換装が可能となった。

 

「このままだと、ここまで来た意味がないな」

 

腕組をするクロスは後ろの喧騒した中でも指揮官として名案が浮かばないか模索する。

 

「いっそのこと、エンクレイヴに掛け合うしかないですかね?」

 

俺は軽い感じで言うと、まるでクロスの頭の上に電球が現れてパッと光るかのように、彼女は閃いた。

 

「ユウキ、良いことを思い付いた」

 

クロスはまるで悪戯を思い付いたような表情を見せる。それは俺にとっても、そして他の皆にとってもその内容はひどく子供じみたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「Delta1-1とDelta1-2は死傷者が三割を越えたため後退、Bleze2-1のAPCは大破したため、FLVで牽引しました。整備兵曰くスクラップ同然だそうです」

 

「Whisky4-0が明朝に空爆を行います。爆装はバンカーバスターを使用します。その後、Delta2-1を投入して制圧します。」

 

仮設された指揮テントでは、士官達が報告と今後の策を話す。全員、高度に訓練された兵士であり、全ての戦術を頭に叩き込んだエリートである。

 

「地下は敵の壕が張り巡らされている。軍用バンカーを破壊する為に作られたものならひとたまりも無いだろうな。」

 

テーブルに広げられた偵察衛星から撮影された衛星写真を見る。敵の地上に設置された陣地は赤く丸が書かれており、それがフェアファクス旧市街に幾つも点在している。だが、今日の戦いで殆んどの陣地は沈黙しているため、重ねて赤いバッテンが記されていた。

 

 

すると、此方が押している事を思ってか一人の士官が笑う。

 

「技術局から送られてきた最新の狙撃銃がかなりの効力を発揮しています。装填される特殊爆薬弾は簡単にパワーアーマーの装甲を破壊しますから」

 

 

大戦中に構想された対パワーアーマー兵器は指向性エネルギー兵器などがあるものの、エンクレイヴの技術局は指向性爆薬を使用する兵器を開発した。発射した弾頭は粘着性かまたは突き刺さるような構造となった爆薬を用いるものである。それは時限式や接触信管で出来ており、着弾後には何層にも渡る複合装甲に穴を開ける大口径狙撃銃だった。

 

今回はBOSの分派であるアウトキャストとの戦闘で試験評価を行う腹つもりらしく、実戦投入はウェイストランド最大の勢力であるエルダー・リオンズ傘下のBOSに対して使うつもりらしい。

 

「狙撃部隊を編成してみたが、案外使い勝手が良い。」

 

「Hawk1-1と1-2だろ?中々のスコアだ」

 

狙撃部隊は通常のパワーアーマー以外にも増設したセンサー機能とレーダーが備え付けられている。また超長距離射撃でも狙撃手が撃ちやすいよう演算も可能である。

 

しかし、部下の兵達が戦死しているにもかかわらず、指揮官である士官達は未だに演習気分である。彼らは今回の作戦では指揮センターで指揮を取る形であり、戦場には出ていない。指揮官の数が少ないという理由で参謀本部は士官以上の人間をあまり戦場には出したがらない。

 

兵士達もその様子を見て、反発している様子も見られる。早くその命令を解除しなければ不味い。兵士達が反乱を起こすことなど考えたくはない。

 

私は当直の伍長からコーヒーを受け取り、口を付けて香ばしい香りのコーヒーを飲む。すると、通信士が声を張り上げた。

 

「緊急入電!北よりパワーアーマーを着た武装集団!白旗を挙げて近づいている模様」

 

「何!?」

 

私は驚きの余りコーヒーを溢しそうになるが、こぼさないようにテーブルにマグカップを置いて通信士の元へ行く。

 

「敵の所属と規模は?」

 

「Hawk1-1、こちらHQ。武装集団の規模と所属は分かるか、over」

 

(こちらHawk1-1、武装集団はT49dを着たBrotherfoot of steelの偵察部隊・・・いや輸送部隊と思われる。規模は小規模。先頭の一名は白旗を挙げて此方に接近中。指示を求むOver)

 

「ヘクストン少佐、ご命令を」

 

通信士は真後ろで見守る私に聞く。私の判断は既に決まっているものの、近くにいる士官は声を挙げる。

 

「ウェイストランド人は何をするか分からない。これは陽動かもしれません」

 

「元々、アウトキャストはBOSの分派です。この隙に攻勢にでる可能性も!」

 

士官の懸念も否定は出来ない。私は彼らに振り返り口を開いた。

 

「部隊に警戒体制を敷け。スナイパーは周辺陣地に目を配っておけ。車輛部隊も動かせるように。接近する部隊には装甲車を向かわせろ。」

 

「殲滅するので?」

 

車輛部隊の指揮官はBOSに攻撃を加えないという参謀本部の命令に背くのかと、不安そうな表情を現した。

 

「いや、彼らの代表者をここに寄越せ。白旗を挙げていると言うことは戦闘する意思は無いだろう。交渉の余地がある。車輛の責任者には穏便に事を進めろと指示しろ」

 

士官達は私の命令に対して、何か言いたそうな表情を浮かべていた。

 

「向こうも我々と戦闘はしたくないだろう。それは我々も同じだ。腫れ物を扱うように接触してなかったのに、彼らの方から来た。これは良い兆候だろう」

 

私はそう士官に言うと、彼らは黙った。

 

「多分、アウトキャストの為に何かするだろう。スナイパー班と車輛強襲チームは彼らの攻撃に備えて待機しろ」

 

この期に乗じて、彼らの意図を理解していないアウトキャストが攻撃をするかもしれないし、逆に彼らもグルになっている場合もあった。

 

命令を下すと、部下達は直ぐに命令を出すべく動き回る。私は近くの当直下士官に白旗を挙げる人物を迎え入れる準備をするべく命令し、さらに追加のコーヒーを持ってくるよう指示した。

 

下士官は一度テントから出てゆき、数分後コーヒーのマグカップと砂糖を持っていた。下士官は手慣れた様子でそれに砂糖を入れて混ぜ私に手渡す。鼻腔に通る香ばしい珈琲豆の香りを堪能し、ゆっくりと飲む。

 

BOSの使者が来るまで、背もたれに掛かってリラックスしていようと息を吐き出して待った。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

静音性の高いエンジンと近くにいる兵士のパワーアーマーが擦れる音は装甲車の中に響いていた。足元の感触や周囲の構造。戦前の科学技術が使われていることが分かる。

 

パワーアーマーも漆黒に塗装された威圧感を与えるものであり、私の着るパワーアーマーと比べると、性能は断然向こうの方が上だ。

 

(Bleze1-1、状況を知らせよ。over)

 

「こちらBleze1-1、BOSの代表者を乗せて移動中。間もなく到着する。他のBOSの部隊は先程の場所で留まるようだover」

 

(了解した、穏便に事を進めるため、絶対に攻撃するな。HQ,out)

 

無線通信をするパワーアーマーを着る下士官はヘッドセットを外すと、装甲車輛のフックにヘッドセットを掛けて近くの椅子に腰かけた。

 

「ジョージ、周囲には警戒しておけ。いつ、敵が襲撃してくるか分からんからな」

 

「了解です、軍曹」

 

軍曹と呼ばれた男は目の前の椅子に座ると、溜め息をついた。

 

「自分はこの隊を指揮するヴィクター・ソコニスキー軍曹です。」

 

「BOSのスターパラディン・クロス。本名はジェニス・クロスよ」

 

「スターパラディンというと、軍の階級だとどの程度なので?」

 

ソコニスキー軍曹は私に訪ねる。私が聞いていたエンクレイヴと違い、かなり友好的だったため、驚きつつも表情に出さないよう答えた。

 

「士官に相当するわ」

 

「ってことは自分より上ですな。自分も歳ですので、これ以上昇進は望めないですよ。ハッハッハッハ」

 

 

私はソコニスキー軍曹の気さくな笑いでこういう人達と戦うことになるのかと、内心悪態をつきたくなった。エンクレイヴは穏健派と武力で支配しようとする一派の二つがあり、士官は後者が多いと聞く。高圧的な敵であるならば、引き金は引きやすい。だがソコニスキーのような人物であることを知ってしまえば、躊躇いを覚えるだろう。

 

 

そう、思慮をしているうちに装甲車は停車する。

 

 

「よし、到着した。スターパラディン・クロス殿、今から指揮官のヘクストン少佐と面会します。武器などは絶対使用しないように」

 

「大丈夫だ、戦いに来た訳じゃない」

 

話し合うためだ、私は最後にそう言って開いたハッチへソコニスキーの後に続く。

 

 

何輛ものAPCやIFV、仮設された前線基地には車輛が並べられ、二人一組で巡回する兵士が見られた。仮設されたテントや簡易ヘリポート。BOSよりも充実した装備と兵員。見ているだけで戦意を喪失してしまうほどのものだった。基地の中央には、他のテントより丈夫な大きい天幕が設置されていた。巨大なパラボラアンテナに繋がれたコードがテントに入っているのが分かり、そこが司令所なのだと分かる。

 

「第二機甲中隊のソコニスキー軍曹、BOSの代表を連れてきました。」

 

「良いぞ、入りたまえ」

 

軍曹が幕を開け、テントの中へと入る。そこには二名の士官らしき人物と佐官用のコートを来た男が一人、中央の突き当たりの椅子に座っていた。私が彼の前に立つと、椅子から立ち上がった。

 

「私はアウトキャスト殲滅を命令されたエンクレイヴの指揮官、第二特務大隊長のヘクストン少佐だ。」

 

「Brotherfoot of steelのスターパラディン・クロス。旧軍の階級では士官の大尉に相当します。」

 

ヘクストンは私と握手をして、向かい合うように椅子に腰かける。

 

 

「白旗を挙げて来た君達の要請を無線で聞いた。“我が軍とアウトキャストの一時停戦”で宜しかったかな?」

 

 

一時停戦。

 

これが、私が考えた策だ。可能性が一番低いがそれしかない。彼らの目を誤魔化して、アウトキャストに救援物資を運んできたことを見つかってしまえば、エンクレイヴとBOSの開戦は避けられない。しかし、エンクレイヴに一時停戦掛け合うのも難しいと思えるが、どちらを取るとすればやはり後者を取らざる負えない。ユウキの言うことが正しければ、成功する確率もある。一か八かの賭けに見えるかもしれない。だが、強行突破するよりはましである。

 

「はい、現在のアウトキャストは満身創痍。中には非戦闘員も居るので、彼らと重軽傷者だけでも救えさせて貰えないでしょうか?」

 

 

エルダー・リオンズの命令は「離反した隊員の懐柔」。つまり、こちらに率いれようとすることだ。これはBOSをエンクレイヴとの衝突を避けるため考えられた策であり、アウトキャストを支援しない。バラモンには必要以上の医療物資があるものの、それはシャルロットが必要だと言って携行しているに過ぎない。

 

負傷者はそこまで運ぶことは出来ないが、医療物資によって救うことが出来る。負傷者の救助と非戦闘員の保護を求めれば、エンクレイヴも嫌とは言えない。選民思想が組織を腐敗させても、曲がりなりにも正規軍を自称している軍隊。捕虜を虐殺することは表立ってやらないはずだ。

 

 

「そちらには十分メリットがあるだろうが、こちらにはまったくもってないに等しい。その状態ではそちらの要請を受け入れるのは無理だ。申し訳ないができない」

 

「メリットはあると思いますが?」

 

「何?」

 

ヘクストン少佐は私の言ったことに反応し、疑問の声を出す。近くにいる士官の格好をする男は不愉快そうな表情を浮かべていた。

 

「あなた方エンクレイヴは、最近になって出始めた組織。いわば新参者。いきなり無慈悲にアウトキャストを殲滅すれば、ウェイストランド人の心象は悪くなると思いますが?」

 

「う~ん・・・」

 

エンクレイヴの目標としてはこの地に入植することだろう。そのためには生きているウェイストランド人を労働資源として使わなければならない。その為に彼らを怖がらせることは当然、統治に問題が出てくることだろう。

 

「あんな野蛮人ども、こちらを恐るに越したことはない。恐怖で縛り付けたほうが従順だ」

 

すると、士官の一人が気味の悪い笑みを浮かべて言う。隣の士官も同様に嘲笑を交えて頷いた。

 

ヘクストン少佐は理解ある将校であるが、周囲の尉官は選民思想に染まった人物であることは明白。その口に10mmピストルの銃口を突き入れて引き金を引きたい衝動に駆られたが、それをすることは出来ない。

 

「辞めろ、中尉。君の言いたいことは分かるが、話し合いの場で話すことではない」

 

「失礼しました、少佐殿」

 

まるでそれを失敗と思っていないような言い方に苛立ちを覚える。中尉と呼ばれた男は叱咤を受けても尚、気味の悪い笑みを浮かべていた。目の前にいるヘクストン少佐は溜め息を吐くと、私に向き直る。

 

「そちらの要望を受け入れよう。猶予は14時間、明日の6時には攻撃を再開する」

 

「感謝します、ヘクストン少佐」

 

私は少佐に一礼すると、指揮テントから出る。そこに待っていたのはここまで案内してくれたソコニスキー軍曹だった。

 

「どうでした?上手くいきました?」

 

「少佐の隣にいた尉官が危なそうだが、何とかなった」

 

それを聞くと、はぁ~と溜め息をついて返す。

 

「あの連中はいつもそうです。気にしないで下さい。」

 

ソコニスキー軍曹は困ったような表情をして、ポリポリと頭を掻く。ソコニスキー軍曹はそこまでウェイストランド人を差別するような言動をしていない。あなたはどうなのだろうかと尋ねると、笑みを浮かべて話し出す。

 

「元々東海岸周辺の基地の兵士はそこまで差別はしませんよ。寧ろ、BOSのリオンズと呼ばれる将軍と同じで救済しようとまで考えていましたんで。でもまぁ・・・上層部の殆んどは西海岸出身の将校で人類浄化の為に皆殺しも視野に入れてるという話だからなんともね」

 

ユウキの言っていた事とはこの事だったのかと納得する。実際に直に彼らと接触し、話さない限りエンクレイヴの実情は分からないだろう。

 

ソコニスキーは彼らの場所へ案内すると、言って案内する。待たせていたユウキ達の元へ行くため、彼の指揮する装甲車へと急いだ。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ドックミート」

 

「クゥン?」

 

「お前さ、犬肉って呼ばれてて嬉しいのか?」

 

「ワン!」

 

「嬉しいのかよ!?」

 

「ワウワウ!」

 

「違うのか?」

 

「ワン!」

 

「じゃあ、何だよ。」

 

「クゥ~ン」

 

「自分で考えろとでも言うのかよ」

 

「ワン」

 

妙に俺の言葉が通じているようで恐ろしい。ドックミートの頭を撫でて、バラモン・ジャーキーをかじり、残りをドックミートに食わせる。すると、ドックミートの側に来て背中を撫でようとするシャルの姿があった。

 

「クロスさん、遅いね」

 

「ああ、直ぐ来るだろ?」

 

倒壊したビルのコンクリートに腰かけた俺は周囲を見る。集合場所とした瓦礫と化したビルで休憩していた。パックバラモンに水を飲ませ、俺はドックミートと会話(?)を楽しむ。エンクレイヴが近くにいるため、ヘルメットは脱がないため少し息苦しい。

 

インディペンデンス砦には一緒になって簡易ミサイルランチャーを作ったクロエがいる。元々光学兵器専門の彼女だが、護民官の命令でミサイルランチャーの再生産をしようとしていた。分野外の彼女にとってそれは難しいだろう。生産するにも物資が不足しているのに生産は難しい。その時、シャルとはまだ「幼なじみ」という関係で、彼女はもっと攻めろとアドバイスをくれた最初の一人だった。もし生きているのなら助けたい。

 

 

すると、角ばったデザインの兵員輸送車(APC)がひび割れたアスファルトの上を走行するのが見えた。車載の重機関銃が見え、一瞬体が強ばった。APCの上部ハッチが開かれ、車両部隊が使用するヘルメットを被る兵士が上半身を晒した。手を振っていることから敵対する意思は無いのだろう。

 

APCはビルの残骸の横に止まると、後部の兵員ハッチが開いて傷一つ無いクロスが現れた。後ろにはヘッドセットを付けているエンクレイヴ・パワーアーマーを装備する兵士が立っていた。

 

「隊長、交渉はどうでした?」

 

「明日の6時まで戦闘を停止するそうだ。停戦勧告はソコニスキー軍曹が率いるAPCで行う」

 

「第二機甲中隊のソコニスキー軍曹です。自分が停戦勧告を行います。我々はあなた方の後方からスピーカーにて放送します。」

 

40代位の厳つい顔立ちのソコニスキー軍曹は丁寧に伝える。彼の声はなかなかの美声であり、この声なら耳障りなく聞くことが出来るだろう。多少、エンクレイヴに関して、BOSの面子は良い顔をしない。嘗ては西海岸で一戦交えたのだから。しかし、それは4、50年も前の話。自分たちの世代は直接戦っては居ないため、敵対関係を持っているわけではない。幾ら自分達の父親の世代が戦ったと言っても、エンクレイヴに対して怒りを抱いているわけではない。もっと敵対していた勢力もあり、壊滅した組織が復活し、脅威になっている状態であったとしても、直接的な攻撃を受けない限り敵対関係になり得る訳ではない。例え、離反した元同僚が八つ裂きにされても、直接的な攻撃ではないからだ。

 

準備を終えると、偵察隊の隊長であるクロスの命令は素早かった。

 

「ユウキとウェインは先頭に立て。シャルと私はバラモンと中央、スティルは後ろを」

 

素早く一列縦隊を形成し、クロスの命令と共に歩き出す。RL-3軍曹に入れていた伸縮ストック仕様のMk.46軽機関銃パラカービンモデルを持ち、腰には再装填用の200連の弾帯を入れた弾薬箱をぶら下げている。

 

高出力のガトリングレーザーを持ちたいが、エナジーウエポンは相性が良くない。そのため、隣のウェインが幾つかの改造を施したガトリングレーザーを携えていた。

 

荒野をゆっくりと行進し、次第にフェアファクスの市街地周辺に到着した。以前来たときとは違い、幾つかの建造物は倒壊し、弾痕や爆発跡。土嚢が置かれた陣地に夥しい血痕の痕すらあった。

 

(エンクレイヴはBrotherfoot of steelのスターパラディン・クロス提案により、明日の6時まで停戦する。そちらへBOSの救助隊を向かわせる。撃たないで貰いたい!)

 

APCのスピーカーから、ソコニスキー軍曹の声が流れ、フェアファクスの廃墟に響き渡る。フェアファクスに入った俺たちはアウトキャストから撃たれませんようにと願いながら、フェアファクスの市街地へと侵入した。

 

「結構変わっているな・・・・」

 

アウトキャストは俺達が去った後、フェアファクスを掌握し、市街地に検問所と前線基地を設置した。要所には土嚢が積まれている場所もある。そこには戦いで死んだアウトキャストの兵士の死体があった。

 

「そうだね、あの時が懐かしい・・・」

 

ウェインを先行させて、俺だけ少し後ろを歩いていたが、後ろからシャルの声が聞こえた。彼女は濃緑色のコンバットアーマーを着ており、肩には赤十字のマークがあしらわれている。顔を隠すためにバンダナが鼻と口を覆い隠すようにしていて、BOSのマークをあしらったヘルメットを被っていた。

 

「側を離れるなよ、シャル」

 

「もう離れないから、大丈夫」

 

シャルはパワーアーマーを着る俺の右腕を触る。本当なら手を繋ぎたいのだろうけど、銃を持っているし、パワーアーマーを着ているため、彼女の温かさは感じられない。悔しいが、仕方がない。

 

ずっと、腕を組むことは出来ないため、直ぐにシャルは俺から離れた。名残惜しい表情をしていたが、先頭で警戒しなければならない手前、下手すればクロスに叱られるだろう。

 

 

Mk.46のマウントレイルに取り付けたドットサイトがちゃんと機能しているか確かめ、パワーアーマーのセンサーを起動させて、周囲に生態反応がないか探る。

 

「パワーアーマーで阻害されているかもしれないぞ」

 

「だとしても、スピーカーで停戦勧告を出しているのに何も来ないなんておかしいだろ」

 

破壊された陣地やビルの残骸など、隠れられそうなところには人の気配すらしない。もしかしたら、撤退したのか?だが、彼らが逃げられる場所などあるのだろうか。

 

警戒しつつ進んでいくと、遠くで銃声が響き渡る。発砲音からして308口径弾だった。

 

ビシッ!と足元のアスファルトに命中し、軽機関銃を咄嗟に構える。すると、どこに隠れていたのかT49dパワーアーマーを装備したアウトキャストの一個分隊近い兵士が至るところに現れ、携えていたライフルや重火器を此方に向けていた。

 

「そこのキャラバン、動くな!」

 

勇ましく周囲に威圧を与える声が響き渡る。正面に現れたのはヘルメットを被らないアウトキャストの兵士だ。見る限り、パワーアーマーは所々、被弾して傷付いている。片肩のショルダーガードは無くなっており、応急処置の鉄板が溶接してある。声の主は中国軍アサルトライフルを腰だめで構えながら、近づいた。

 

「リオンズの腰巾着が一体何のようだ」

 

開口一番に言われた言葉がそれである。俺は咄嗟に言い返そうとしたが、クロスの言葉によって遮られる。

 

「エルダーの命令でアウトキャスト指揮官のキャスディン護民官にお伝えしなければならないことがある。面会を求める」

 

「キャスディン護民官は戦死なされた。現在、アウトキャストは・デイフェンダー・ロックフォウルが指揮を取っている」

 

「何!」

 

驚きの声を上げたのは他でもないクロスだった。キャスディンは西海岸のマクソンバンカーから東海岸までくる道程をリオンズと共に来た精鋭中の精鋭である。誰が死ぬか分からない戦場であったとしても、元上司でもあったキャスディンの死はクロスに驚きを与え、エンクレイヴの恐ろしさが身に染みたに違いなかった。

 

「BOSのコーデックスに従わない異端者には用はない。立ち去れ!」

 

冷淡に言い放つアウトキャストの目を俺は見た。何か決心を付けたような目だった。例えるなら、死に場所を見つけたかのような。

 

それを見た瞬間、俺は決心を決めてヘルメットを脱ごうと首に手を当てる。無論、エンクレイヴに見つかるかもしれない。だが、俺の顔を晒してしまえば、アウトキャストに有益な事をした人間としてロックフォウルと面会する可能性は高まる。俺はヘルメットを脱ごうとするが、その手を隣にいたウェインに止められた。

 

「ユウキ、バカな真似をするのはやめろ」

 

「だけど、このままじゃ」

 

「バカ、エンクレイヴに露見したらシャルはどうすんだ」

 

エンクレイヴはシャルの身元をどうするのか分からない。良いとは言えないのは確かだ。損得勘定は武器商人だから直ぐにできる。頭の中で天秤が揺れ動き、決定を下す。アウトキャストの友人や人を救いたいという気持ち。そして対するのはエンクレイヴに露見する危険とシャルの存在。後者のひとつは俺にとって余りにも重い存在だ。

 

悔しい思いもあり、ゆっくりと手を首から離す。

 

クロスは悔しい表情でこちらを向き、後退の合図を出す。その表情は苦虫を噛み潰したような表情で、俺たちの足取りは何処と無く重い。

 

三歩進んだところで、誰かが来る足音がする。アウトキャストが此方に照準を合わせているにも関わらず、アウトキャストの方から此方に近づいているのだ。俺はその音が誰のか振り向く。そこには傷だらけのパワーアーマーを装備したアフリカ系の男が立っていた。

 

「待ってくれ、スターパラディン・クロス。用件を聞きたい」

 

「・・・・エルダーはアウトキャストに対して援助をしろと。それと叶うのなら、ペンタゴンへ戻って欲しいと言っていたわ」

 

 

クロスは諦めた様子で話す。

 

しかし、そのアフリカ系の兵士は驚いたような顔をし、少し考え込む。そして、俺の姿を確認した。

 

「おい、貴様。名を何と言う?」

 

「特務偵察隊所属、ナイト・ユウキです」

 

陸軍式の敬礼をする俺にその男はおれの装備をジロジロと見る。

 

「BOSではあまりお目に掛けないような改修方法だな」

 

「エンクレイヴ対策の一環で、スクライヴによる研究から製作したと聞きます。あとは、指揮官の許可を貰って自分自身で取り付けました。」

 

リオンズ率いるBOSはウェイストランド人の志願者を募っている。アウトキャストは元来の閉鎖的な組織のままだが、聞き慣れない名前と声で俺の事を志願した兵士だろうと思ったにちがいない。アウトキャストと取引したとしても、全員とではない。彼らも俺の声は覚えていないか、知らないこともあるだろう。

 

「まあ、これでエンクレイヴと対峙できるのならいいのだが。俺には見る機会はないだろうな・・・」

 

小声でそう言うと、アフリカ系の男は振り返り警戒するアウトキャストの兵士達に命令する。

 

「彼らを地下に通せ。彼らを受け入れる。」

 

「しかし、ディフェンダー!彼らは・・・」

 

「四の五の言っている場合か!モールラットの手も借りたいようなこの状況から脱するのに、どこの所属かは関係ない。モルロフ!基地のやつらに客が来ると伝えろ!」

 

「りょ、了解!」

 

一人のアウトキャストの言葉を黙らせ、矢継ぎ早に指示を飛ばす。命令に不服な兵士も居るだろうが、仕方がない。

 

アウトキャストの兵士の先導で町の外れへと誘導される。そこは瓦礫と化したインディペンデンス砦の目と鼻の先だった。

 

元々、レイダーが仕掛けた排水溝を改造して落とし穴にしていたのを、更に隠し通路に改造し直したそれはアウトキャストの貨物搬入路だった。バラモンの装備を全て外し、Pip-boyにも入れる。だが、入りきらないので、幾つかをパワーアーマーのバックパックへと移した。

 

バラモンは逃がして、離れるように命令する。と言っても人間の言葉を理解することは無いので、叩いて走るよう命じた。

 

バラモンはまるで名残惜しいかのような目で俺を見つめると、さっさと荒野へと走っていく。このまま、ラッドスコーピオンやレイダーに喰われるかもしれないが仕方がない。それにどっかのスカベンジャーにまた飼われるかもしれない。

 

アウトキャストはバラモンを食用として買おうとしたらしいが、調理場を考えて辞めた。俺達もバラモンを食おうと一瞬考えたのだが、それを調理する時間と資源はなかった。

 

排水溝へと進み、アウトキャストの兵士の後に続く。元々レイダーのアジトであったため、落書きは消えていない。しかし。要らないものを捨てて、基地から色々なものを運んできたのか、濃緑色の木箱や赤十字の箱が通路の至るところに置かれている。

 

フェアファクス廃墟の地下にアウトキャストの司令部を移したようで、待機兵士の休憩室が見られ、武器庫や食品庫もこちらに作られていた。そしてアウトキャストの兵士は「地下鉄通路」とかかれた扉を開ける。

 

そこは駅の改札口で土嚢が積まれており、重機関銃が設置されていて歩哨が数人見張っていた。そして改札を通り過ぎ二車線のホームを見る。踊り場から下へエスカレーターがあり、そこに設置された蛍光灯が煌々と駅構内を照らす。そこには横たわる負傷兵や治療を行う兵士達の姿があった。また、半分のスペースにはスクライヴの数名が銃火器のメンテナンスを行っており、その中にクロエの姿はない。

 

「クロエを知りませんか?」

 

近くのアウトキャストの兵士に聞いたが、その表情はウェイストランド人に向ける表情のそれではなかった。聞いた人物に悲しみを抱いているかのような表情。

 

俺はその表情を見て悟った。

 

その兵士に聞く必要がないと思い、聞くのをやめた。軽く会釈をして医療エリアへと移動する。

 

「ユウキ、パワーアーマーを脱いでこっちに来て手伝って」

 

「あ、ああ」

 

隣のフロアで治療準備をするシャルは俺を呼ぶ。俺は急いでパワーアーマーを脱いで、Tシャツのカーゴパンツという出で立ちになる。

 

パワーアーマーの背中のバックパックから医療キットを持っていき、シャルの元へ急いだ。

 

「ユウキ、この人に小型バイタルサインを装着して。それから局部麻酔を掛けて、胸にある銃創を切開して弾を取り出すから。輸血パックも用意して」

 

矢継ぎ早に言われ、若干焦りながら医療キットから使い古した軍用バイタルサインを取り出して治療を行う兵士に装着する。輸血用の管も用意して、シャルにモルパインを渡す。

 

シャルは負傷兵に麻酔をして、傷口近くをアルコールで消毒し、持っていたメスで傷口を切開する。

 

「肺は傷ついていない。様子からしてパワーアーマーで衝撃が吸収して、破片が浅く食い込んだみたいね。鉗子を」

 

鉗子を渡し、傷を押さえて更に進んでいく。銃弾を見つけピンセットで弾を摘まんでアルミの皿に投げ入れる。生体糸で縫合し、元あったように戻していく。スティムパックも併用して投与し、傷口を治癒させる。傷を塞いだのを確認して次の患者へと移る。

 

それから二時間、重傷な兵士をシャルが治癒し、それをサポートする。

 

シャルは何処ぞの医者免許の持たない天才外科医のようにすら思える。

 

「いま、ユウキ私のこと考えてた?」

 

「ああ、どんなこと考えてたと思う?」

 

「フランケンシュタインのような継ぎ接ぎの天才外科医」

 

「シャル、VaultのESP(超能力)研究所で改造されたか?」

 

久々にシャルの超能力発言。その言葉は前よりも能力が開花しているのではなかろうか。読心能力や念動力、発火能力とかも持っているのでは?

 

「いいえ、これはただの勘」

 

「むしろ、その勘の良さが超能力的」

 

ちょっとばかし、軽口を叩きつつ重篤から軽傷の順に治療していく。応急処置のまま横たわっていた負傷兵も相当数いて、治療の甲斐もなく死ぬ者もいた。スティムパックも万能ではないし、物資にも限りがあった。アウトキャストの医者は死んでいるため、負傷兵は放置されていたという。また、仲間内で安楽死させたこともあるらしく、もし来なければ負傷兵は命を絶っていただろう。

 

順々に重傷な者は減っていく。アウトキャストのずさんな救急体制にシャルは怒り浸透であったようで、休憩中も何かと不機嫌だった。

 

すると、顔を負傷した女の兵士が運ばれてきた。ほっそりとした体つきで、悪くいえば幼児体型、まな板とも言える。前向きに言えばスレンダーな身体と言えるけれども、そんな考えは隣にいたシャルの“勘”にピリリと感じたらしい。

 

「ユウキ、スレンダーが好み?」

 

「んな分けないだろ。大人の女性がやっぱりね」

 

すると、シャルは大人の女性に反応したのかジトメで俺を見据えた。

 

「だから、ユウキはアリシアの事を色眼鏡で見てたから騙されたのね」

 

「いやいや、シャルだって」

 

とシャルも騙されたと言おうとしたが、ふと横たわる女兵士を見る。何処かで見たことあるその彼女は顔が包帯で覆われている。シャルのカルテを見てみると、エンクレイヴの爆撃で左顔に火傷を負うと記されている。エンクレイヴは最近になって対パワーアーマー対策として、対物ライフルに指向性の爆薬を取り付けており、パワーアーマーを装着する兵士を一撃で殺せる能力を持っている。それは遅延型の信管であったらしく、弾頭自体粘着性のものであった。

 

「どうしたの?」

 

シャルは俺の顔を覗き見るが、カルテに書いてあった女兵士の名前を見て俺は唖然としていた。

 

 

「彼女は元スクライヴのクロエだ」

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「抗生物質の投与は出来た?」

 

「ああ、麻酔も指示通りに」

 

クロエは麻酔の影響で意識を失っている。顔の手術は意識があると非常にやりにくい。その為、今回は寝て貰い、火傷の治療を行おうとする。

 

ゆっくりと包帯を外していくと、膿んだような酷い匂いが鼻腔を刺激する。鼻が曲がりそうなその匂いにシャルは不機嫌な顔を作った。

 

「これは酷いわ。アウトキャストの救護兵は全員クビだわ」

 

明らかに怒るシャルは何時もとは違う雰囲気でメスを持ち、クロエの皮膚組織を剃り取っていく。神のメスとはこの事を指すのか、壊死した細胞や爛れた肌を迷いもせずに削いでいき、生きた正常な細胞はそのままにしている。俺はスティムパックを渡し、切除し終わった皮膚に注入していく。

 

切断した筋繊維は復元し、皮膚はゆっくりとではあるが、修復される。スティムパック一本だけでは治癒しきれない。救急セットから追加のスティムパックを取り出して、シャルへと渡す。スティムパックは皮膚繊維に対してナノマシンで細胞分裂を活発化させる。細胞を分裂し結合を繰り返す皮膚組織は拡大し、元々あった皮膚のように広がる。肌の色は若干ピンクに近いものの、殆んど治癒していた。昔ならば化粧で色を大人しく出来るだろうが、今は無理だろう。

 

「よし、これで良いわ。肌はまだ敏感だから軟膏を塗って包帯を巻いちゃって」

 

シャルから軟膏を渡され、出来立てホヤホヤの皮膚へと塗布していく。上から大判のガーゼを当てて、包帯で固定する。一番最初に見たときのミイラのような容貌よりは若干マシな様子になった。

 

「そろそろ麻酔が取れるわ。ユウキも少し休んだら?」

 

「ああ、ウェイン。足の方を持ってくれ。」

 

近くにいたウェインを呼び、手術台となっている台から病院のストレッチャー代わりに使っている担架の上にクロエが寝るシーツを掴んで担架へと移す。

 

手術が終わった患者は順々に部屋を移動する。

 

「1、2の、3っ!」

 

両端の二つの掴みを掴んで、彼女ベッドへと運ぶ。マットレスを敷いただけの、ウェイストランドの標準的なものだが、贅沢を言えるだけの物資はない。シーツがあるなら包帯を。木材があるなら薪を、枯渇しかけたアウトキャスト最後の砦には負傷者に構う余力はない。

 

クロエの担架を運んで壁際のベッドに移すと、疲れがどっと込み上げる。壁へ持たれ掛けると、それを見たウェインは笑みを浮かべた。

 

「疲れただろう、交代してやる。少し寝とけ」

 

 

目元は重く、それを眠気と理解するまでに数秒掛かった。pip-boyをみると既に日は替わっていて、時計は3時を回っていた。標準的なウェイストランド人の体内時計であるため、生前のような夜型ではない。何時もならば、この時間は直ぐに寝ていた。

 

「分かった。シャルの手伝いをしてくれ。クロスは交渉に成功したか?」

 

「負傷者と技術者の殆んどがここから離れることを望んでいる。アウトキャストの数名が離隊希望だ。他は・・・・ここを死に場所にするようだ」

 

クロスともう一人のナイトは現在のアウトキャスト暫定司令官であるロックフォウルと話している。彼と彼らの部下は既にここを死に場所とするようで、勝利は無いが士気は高い。だが、その玉砕的な考えに批判的な者や戦闘が不可能なものもいるので、ロックフォウルの行動に反対的な者もいる。

 

そんな戦況で負傷者や死にそうな人間に物資を分けることは無理だった。当然、重軽傷者は治療を受けられず、死んだことにされる。顔に大火傷を負ったクロエは表面上死んだことになり、半ば放置されていた。

 

俺はそうしたアウトキャストの行動に最初は怒りを覚えたものの、こうした戦況の中で最初に捨て置くのは負傷者だ。それを考えると、怒りは鎮まって憐れみの感情で一杯になった。

 

ウェインに後を任せて、俺はクロエの近くの壁にもたれ掛かる。抗生物質を投与して、幾らか顔色は良くなってきているが、全身に回った毒を消すために身体は熱を帯びていた。濡らしたタオルで額から滴る汗を拭き取る。眠気とギリギリまで戦い、一通りし終わると、壁にもたれ掛かり、目を瞑った。何時もより強い眠気は直ぐに意識を夢へと誘い、意識から手を放した。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時もは大昔に建設された地下室の一室でレーザー兵器の設計図を見直したり、整備していた。私もそれを天職だと感じていたし、変える気もなかった。

 

「エイムズ、そこのカットレンズを取って」

 

「はいよ、俺にもそのヌカコーラを」

 

勝手に手を伸ばそうとするエイムズの手を私は叩いた。

 

「痛って!」

 

「私がスカベンジャーから買って、頑張って直した冷蔵庫で冷やしたんだから、それ相応の対価を払ってよね」

 

そう言う私の事をエイムズは怒ることなく、笑顔になる。私は何時もそんな彼に対して暴言を吐く。

 

「何笑っているの、気持ち悪いわね」

 

普通なら私のような女は男に嫌われる。それなのにこの男は笑顔でいる。本当は嬉しい筈なのに何でこんな言い方しか出来ないのか、自分を恨む。だけど、エイムズはライフルの整備を辞めて私に近づいた。

 

「対価が欲しいって・・・そうだな~。俺と付き合ってくれない?」

 

ふと、彼の口から紡がれる言葉を聞いて私は一瞬頭が真っ白になった。私とエイムズが・・・付き合う?

 

「ぬ、ヌカコーラの対価が付き合うって・・・私は安く思われているみたいね」

 

疑問と何時ものトゲトゲとした言動も相まって酷いことになっている私の口調はエイムズを怒らせることなく静かに首を振らせた。

 

「安く思っていない。寧ろ、俺が悪いのかもな。タイミングが掴めなかった。」

 

聞いてみれば、タイミングを何時にしようか悩みに悩んでいたらしい。まったく、彼らしいと言えば彼らしい。だが、何時も彼と一緒にいる私にとってそれは驚きだった。私が思うに、それは女友達という感覚だと思っていたのだから。

 

少し考えていると、不審に思った彼が私の顔を覗き込むようにして顔を見て、私は仰け反って避ける。

 

「ば、バカ!不必要に顔を近づけるな!」

 

「すまん、どうしたのかと思って・・・・。それで答えは?」

 

 

彼は返事が欲しいようで、私に真剣な眼差しを向ける。

 

スクライヴ・エイムズはカルフォルニアで幼少期を過ごした時から一緒に過ごしていた幼馴染み。何時も一緒に過ごしていて、スクライヴとなってからも一緒にいた。彼と離ればなれに成りそうになったのは、アウトキャスト結成の時に彼も一緒に来て欲しいと私に言った時だ。私は迷ったが、彼以外の人と一緒にいるのも嫌だった私は彼と共にアウトキャストとなった。

 

その後も彼と共にずっと一緒にいた。彼を男として認識したことも多々ある。でも、最近ではメガトンの武器商人に出会ったときかもしれない。あのVault101のカップル。あれを見て私もああなりたいと憧れ、幼馴染みと添い遂げる私の姿を考えた。でも、私は彼と一緒にいても良いのだろうか?何時も誰にでも悪態をつく私に怒らず笑った人はそういない。でも彼は私に微笑んでくれる。私はいつしか彼の笑みを見ていたいと思っていた。

 

 

悩んでいると、私達の部屋にあるスピーカーが鳴り響いた。

 

 

 

(ヴゥゥゥゥゥ!!!・・・・緊急事態発生!CODE:666!繰り返すCODE:666!地下にいる兵士は直ちに避難を開始!物資を規定通り避難壕へ移動させよ)

 

 

「答えは今度でいい。良い答えを期待してるよ」

 

「え、ちょ・・・」

 

私が言おうと思ったときには既に遅く、彼は急いで物資をかき集めてコンテナに積み込んでいた。私も発令されたものを思いだし、急いでそれに着手する。

 

CODE:666。

 

それはアウトキャスト司令部が何者かの組織的攻撃を受けたときに発令される命令コード。それを一旦発令されれば、スクライヴからも戦闘員を出さなければいけなくなり、過酷な戦闘をすることになるものだ。この場合の敵はエンクレイヴしか有り得なかった。警戒巡回中の部隊が彼らと交戦して装備を根刮ぎ奪い取り、それを我々スクライヴに分析させていた。どうみても、報復攻撃として間違いない。

 

フェアファクス地下はレイダーの根城だったが、度重なる戦闘と基地で発見した神経ガスによって殲滅していた。今は厳重に守りを固めていて、若しもの時は基地設備を移すつもりだった。エンクレイヴが出現してからは、攻撃を受けたら物資を全て移動させる手筈だった。

 

それが幸を奏したのか、エンクレイヴの空爆によってインディペンデンス砦は瓦礫の山と化したのだが、物資はフェアファクスに通じる下水道を通って全て無事だった。しかし、戦闘員の減少によって、スクライヴまで駆り出されることになった。

 

戦闘慣れしていないスクライヴなどすぐに死んでいった。私の番が来るのは最後かと思ったが、戦闘が二日目に差し掛かる頃にはナイトから予備のパワーアーマーを受け取り、手には出力を最大に上げた改造レーザーライフルがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

二日目の昼。街北西の防御陣地で隠れている塹壕の周囲をレーザーが溶かしてガラスの破片を形成していた。プラズマ弾はコンクリートを溶かして、コンクリートは粘液になって地面に落ちていく。

 

「今日は敵が多いわね」

 

私は呟いて、銃撃が止むのを待つ。レーザーライフルにマイクロフュージョンセルを装填し、内部機関にチャージする独特の音が耳に伝わった。出力を最大にすると、通常なら24発。しかし、最大だと5発しか発射できない。スコープも付ければ狙撃銃に早変わりだが、それが出来れば良かったと思う。

 

「クロエ、大丈夫だったか?」

 

エイムズは在庫のないパワーアーマーの代わりに埃を被っていたコンバットアーマーを身に付けていた。手にはエンクレイヴから拝借したプラズマライフルがある。塹壕を這いつくばりながら、彼は私の元にくる。パワーアーマーのヘルメットで私の表情は分からないけど、彼は笑顔でこちらにやって来た。

 

「大丈夫じゃないわ。向こうからずっとこの調子よ」

 

周囲を指差してガラス化する土や溶けるコンクリートを見せる。

 

「大丈夫さ、お前の事は俺が守るから」

 

「な、何歯が浮くようなこと言って!」

 

「だって、あの答えをまだもらっていない」

 

「あ・・・・・」

 

私はその一言に戦場と言う空間に居るにもかかわらず、目の前の彼に何て答えれば良いか詰まってしまう。答えが決まっているにも関わらず、私は口で言い表せないでいた。

 

「わ、私は・・・」

 

 

「敵の大攻勢だ!南東から敵装甲車両!」

 

答えを言おうとする最中、無線を携えた通信員が叫び、正面から歩兵を随伴する装甲車両が現れた。咄嗟に銃を構えた私は引き金を引き絞り、装甲車に随伴する兵士に撃つ。通常のレーザーライフルの五倍の威力を持つそれは、エンクレイヴ兵の胸に命中し、大きな穴を開けた。倒れた兵士を助けるべく、エンクレイヴの兵士は駆け寄るが、その兵士の頭に照準を合わせて引き金を引いた。特徴あるエンクレイヴのヘルメットは一瞬にして溶け、頭部の殆んどが蒸発する。

 

「エイムズ!あとで言うから」

 

「ああ、それなりの答えを期待してるよ」

 

彼は腰のポケットからプラズマグレネードを起動させ、装甲車両付近に目掛けて投げる。それを見た兵士は叫ぶが、強力なプラズマ照射によって装甲は溶け落ち皮膚を焼く。

 

「増援を呼んだ、すぐに・・・」

 

そう無線兵が立ち上がり、叫ぶ。私は伏せろと叫ぼうとするが、彼の胸に何かが命中した。

 

「な、なんだこれ?」

 

粘着性のある粘液が無線兵の胸にくっついており、光っている針が装甲に刺さっている。彼の体に別状はない。ねっとりと装甲にまとわりつくものを無線兵は手で触り、それを見せる。

 

「クロエ、これは・・・!」

 

無線兵が私の名前を呼ぼうとした瞬間、粘液が突如爆発して彼の胸に大穴を開けた。飛散する彼の一部が周囲に散らばり、ヘルメットの画面にへばりつく。

 

「小型爆弾だ!射出式の爆裂弾頭!射手を捜し出せ!」

 

近くにいたディフェンダーが叫ぶが、彼の頭にプラズマが命中して絶命する。私は反撃しようと少し体を出して撃とうとするが、ヘルメットの全面に何かがへばりつく。

 

「クロエ!ヘルメットを脱げ!!」

 

私はエイムズの叫び通りにヘルメットを脱ぐと、エンクレイヴの方へと投げる。放物線を描くようにして投げたヘルメットは空中で爆発した。

 

硝煙と飛び散る土が顔を覆い、私は顔をしかめた。エイムズは私の所へ駆け寄り無事を確認した。

 

「クロエ、大丈夫か」

 

「大丈夫。ただ顔を守れなくなって手入れしずらいなと思っただけよ」

 

私は無事だと分かるように冗談を口にし、エイムズは苦笑を交えた笑みを浮かべる。

 

「それだけ言えたら無事だな。・・・ここの陣地はもう駄目だ。撤収しよう」

 

 

「ええ、エイムズ。ここに爆薬を設置して・・・」

 

私が言い掛けようとしたとき、エイムズの胸に何かが突き刺さった。私は目を疑ったが、コンバットアーマーの装甲に刺さった針と粘着性の粘液が付着していたのは紛れもない事実だった。

 

「エイムズ!」

 

私は叫び、彼に駆け寄る。パワーアーマーと比べると装甲が薄いコンバットアーマーは貫通し、彼の体に針が刺さっていた。針と言うよりも釘だろう。釘の先端がピカピカと光り、まるで爆発するとでも言っていた。

 

私は彼のついた粘液が高性能爆薬である事に気付いて手で拭おうとするが、手を伸ばすと彼に止められた。

 

「無理だ。付着したら君も爆発して死ぬ。君は一刻も早く逃げるんだ。もうすぐ爆発する。」

 

エイムズは血を吐いて、コンバットアーマーは赤く染まる。

 

「まって、この爆弾の信管を解除すれば爆発は!」

 

「時限信管で、あと数秒するかしないかで爆発するかもしれないんだ!頼むから!」

 

エイムズは叫び、胸に刺さった釘のような信管は点滅する光の間隔が短くなっている。爆発するのはすぐだ。

 

彼は最後の力を振り絞って立ち上がると、落ちていた私のレーザーライフルを拾い上げる。

 

「行け!援護する!」

 

交差するレーザー光線と舞い上がる土埃。私はエイムズの行った言葉に従い、陣地から離れようと後ろ向きで後退するが、エイムズの方向を見ていた。

 

レーザーが追撃するエンクレイヴ兵士に命中し、倒れエイムズは果敢に引き金を引いていく。彼が爆発することを見るのは耐えられず目を背けた。破裂するような音が響き渡り、彼が死んだことを認識すると、彼と一緒にいた日々を走馬灯のように思いだし、目から出る涙を止めることもせず、その場に呆然としていた。

 

装甲車に装備された対戦車ミサイルが陣地に向けて発射された。陣地にミサイルが着弾し、音速に近いスピードで陣地を破壊し、爆薬が放つ爆炎に肌を焦がす。私はその衝撃で意識を途絶えさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開いて、最初に見たのは薄らぼんやりと光る裸電球だった。エンクレイヴの機甲部隊に攻撃されていた陣地ではなく、フェアファクスの地下に設置された野戦病院。

 

鼻につく消毒液や血の臭いでここがどこなのか思い出させた。今見ていたのは夢だったに違いない。ふと、鼻に入る臭いがいつもと違うことが分かる。腐りかけた自身の顔の臭いで何時も気分を悪くしていたが、膿んでいた皮膚と染み付いた包帯は消え去り、洗剤の香りが残る清潔な包帯に取り替えられていた。鏡で自分を見たいと身体を起こして周囲を見渡すと、これまでいた病室とは違っていた。

 

汚い包帯で止血された負傷兵や痛みで泣き叫ぶ兵士に猿ぐつわを嵌めて放置する衛生兵。それらはすべてなくなり、清潔感のある病室へと早変わりしていた。奥では戦前のビニールで作った即席手術室で手術を行っているらしく、医者のその声に聞き覚えがあった。

 

「すー・・・・すー・・・」

 

そして横には寝息を立てるアウトキャストに協力してくれた武器商人のゴメスの姿があった。衛生兵の服と手術衣を掛け合わせたような服には誰かの血が付着していた。

 

彼はVaultの幼馴染みと共にここに来たようで、私はゴメスを戦死した親友に重ね合わせる。顔も人種も違う二人だが、二人とも私に対して笑顔で接してくれた。いつも嫌なことばかり言う私は仲間内でも嫌われているのに。

 

エイムズに対する答えは「YES」だった。もっと早く言えば良かったと後悔した。この病室に来てから顔を覆う包帯を何度涙で濡らしたことか。

 

私は身体を傾け、ゴメスの顔を見ながらもう一度眠りにつこうとする。何時もなら寝るのに時間が掛かるが、彼がいれば良く眠れるかもしれない。私はうとうとと意識を薄らいでいき、躊躇することなく意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Threeeeeeeeeeeeeeeedっ、ゴホッゴホッ!

 

 

 

ちょっと新記録に挑戦しようとしたんだが、さすがに伸ばしすぎたようだ。遊びは終わりにして本日のニュースに入ろう。

 

 

 

情報によると、アウトキャスト司令部のインディペンデンス砦とその周囲のアウトキャストは壊滅。エンクレイヴの殲滅作戦によってアウトキャストの戦力の9割強が喪失した。フェアファクスとその周囲はエンクレイヴの航空部隊によって完全に更地になった。BOSから離反した裏切り者だったが、彼らの戦いには敬意を示す。そして今後の冥福を祈る。生き残ったものはBOSの偵察部隊が救助している。エルダー・リオンズは寛容的な姿勢なようだ。これを聞いているアウトキャストのリスナーに言っておきたい。死ぬにはまだ早すぎる。BOSは君達が帰ってくるのを心待ちにしている。

 

さて、辛気臭いニュースはこれまでにして、リスナーのみんなの生活に関わるニュースを一つ。エンクレイヴというか、アメリカ合衆国政府(仮)は通商の自由化を計るべく許可証を発行したらしい。それを購入するには多額の賄賂・・・・・じゃない税金を支払わないといけないようだ。特典か?あるぞ。その許可証のスイッチをONにすると、エンクレイヴの強襲部隊が来るらしい。本当かどうか俺にも分からんが。

 

この放送はGNR、ギャラクシーニュースレディオからお送りするよ。

 

さて、曲を掛けようか。

 

これはとある飛行士と亡国の姫君の物語の主題歌だったらしい。らしいと言うのは、ユウキ・ゴメス提供の曲だから何処からなのか分からない。まあ、さっき聞いたが良い曲だと思うぞ。

 

いとうかなこ「とある竜の恋の歌」

 

 

 

 

 

 



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第六章 Finding the Garden of Eden
三十四話 休息と使命と追跡と


遅くなりました。

加筆→修正→時間と気力・体力無いからから投稿後回し→加筆・・・

を繰り返し遅くなりました。そして、サブタイが良いの思いつかないww

ちょっと微妙にR-15指定の描写入ります。初っ端です(笑)







 

そこは最近になって使用可能になったシャワー室だった。元々、国防総省の職員の娯楽のためにスポーツジムが備わっており、付属している設備であった。大戦争と経年劣化によって大部分が崩壊していたため、それをBrotherfoot of steelが修復して、お湯まで出せるようになったのは兵士の生活環境が劇的に変わったと言えよう。

 

個室であるそこは10人ほどが使用可能であり、スクライヴが作った石けんやシャンプーが置かれている。年がら年中武器について研究するのもいいのだが、スクライヴの中にも生活に即した研究を行っている者もいる。

 

修理された換気ファンが回るものの、ボイラーの湯気が相まってシャワー室は湯気に包まれて視界が悪い。しかし、シャワーが早々出来ないウェイストランド人に取ってみれば、それは幻想的空間に他ならない。出てくるお湯は若干放射能に汚染されている物の、汚れた水よりも比較的被曝量は押さえられていた。

 

 

 

シャワー室の個室には一人の少女の姿があった。少女という呼び方は彼女の年齢から行って相応しくない。しかし、その容姿をみれば間違えてもおかしくない。以前はショートボブで短くしていた髪は肩胛骨まで伸び、ダークブラウンの髪はシャワーの温水で艶やかに光る。項から背中のライン、太ももに至るまでほどよく引き締まった身体は女性なら喉から手が出るほど欲しく、男性なら生唾を飲み込むだろう。ウェイストランドの標準的な身長より少し小さい小柄な背丈であるものの、彼女の胸にある豊満な双丘は張りがあった。汗ばんだ身体をシャワーで流し、近くにあった石けんを身体洗い用の荒布にまぶして身体を洗い始める。

 

手から二の腕、鎖骨にかけて良くこすり、双丘は谷間や下の垢が残りそうなところを重点的に擦る。突起については敏感なところであるため優しく擦り、次第に腹部から太ももを擦る。

 

「ユウキ、見るなら手伝ってくれる?」

 

「うーん、触るなと言われてるのにか」

 

そんな艶めかしい彼女を俺は劣情を押さえながら見守っている。こんなお預けを食らっているのは彼女が「全て洗ってから」と言っているからに過ぎない。律儀に俺はそれを忠実に守っているなんてなんて紳士(?)だろうか。

 

「仕方ないな」

 

彼女から石けんをまぶした布を受け取り、彼女の背中を擦っていく。布越しではあるものの、彼女の皮膚や骨格を感じて我慢の限界に差し掛かる。

 

「ユウキ、鼻息荒い・・・。」

 

「あのな、こんな仕打ちされて耐えられるわけないじゃん」

 

彼女の手を掴み、顔を壁に向けていたシャルをこちらに向けさせて彼女の唇を奪った。柔らかい唇と何気に乗り気なシャルは互いの舌を絡め合わせた。

 

「・・・んっ・・・ぷはっ、このシャワー室は女性だけなんだから。」

 

「誘ったのシャルじゃん。旅ばっかで一緒にいることが少ないし、寝る場所だってみんなと同じだからって・・ん」

 

続きの言葉を紡ごうとした矢先、彼女は両腕を俺の首に絡ませ、唇を奪って舌を進入させる。舌を絡ませ、口から漏れ出た唾液が互いのあごから首へと垂れていく。彼女の柔肌は病みつきになるぐらい柔らかく、それでいてシルクのように滑らかだ。もっと柔肌を触っていたい、感じていたいと身体をくっつけていると、壁へと押しつけていた。しかし、どちらが積極的かというと追い詰められているかのようにも見えるシャルであった。

 

「・・・・はぁ・・・・、ユウキ・・・・・」

 

 

耳元で囁くシャルの声は脳を麻痺させ、本能に従わせるような魔法が掛かった言葉であった。このあと俺とシャルがどうなったのか言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

アウトキャストが完全に殲滅されたのは、休戦終了後の二時間後だった。エンクレイヴは慈悲のつもりか最初に降伏勧告を行った。「捕虜の安全は保証する」などであった。しかし、アウトキャストは頑なに勧告を拒否した。脱走兵がいてもいいはずであったが、この時既に俺たち偵察隊と共に否定的なアウトキャストの兵士達と技術者、負傷者は戦闘地域から遠ざかっていた。最終的に攻撃が開始されたのは午前8時。ヘリ5機によるバンカーバスター爆弾による爆撃。そして、重迫撃砲による砲撃。それらの攻撃によって完全にフェアファクス市内は破壊され、地下施設も破壊された。生存者はエンクレイヴの調べによると10も満たなかった。その内の5人は残りわずかの命であり、残り何名かは救護所にて自殺していた。

 

のこったアウトキャストと俺たちはまるで退却する兵の如く、陰残な雰囲気を残しながらBOS司令部のある旧国防総省へと向かった。遠回りする必要もなく、エンクレイヴが行ったレイダー掃討作戦は終わりを迎え、我々が通る頃にはレイダーの死体を焼く黒煙が空を支配していた。通りで見かけたエンクレイヴの兵士も交渉したヘクストン少佐の連絡が行き届いているのか、道を空けてくれた。なんの攻撃も受けずに国防総省に辿り着いた俺たちはまず負傷者の引き取りとアウトキャストの彼らの処置をどうするのか、エルダー・リオンズとクロス、そして俺の三名で話し合った。リオンズという最高指揮官の命令に背いて離反し、アウトキャストという組織を作り、あまつさえ貴重な物資と人員の殆どを失ったのだから。罪は重いだろうと。しかし、それはリオンズの行動によって。そして、BOS本部との軋轢が生んだ結果だとして、アウトキャストに属していた彼らを裁かない方針を定めた。そして、リオンズが演説することが決まった。

 

BOSの指導者として、そしてウェイストランドを救済する組織の長としての声明。それはGNRの放送局と軍用周波数を使用して放送された。それはアウトキャストとリオンズ傘下の隊員の軋轢を生まないようにするための措置であり、同時にエンクレイヴを牽制する演説であった。

 

内容としては、キャピタル・ウェイストランド自体がBOS組織内における政治的な敗北によって遣わされた任務であり、名誉ある任務である出征は左遷であったこと。それを語らなかったリオンズ自身にアウトキャストという組織を作った責任があるということ。最後に、キャピタル・ウェイストランドの守護者としてスーパーミュータントを駆逐して、ウェイストランドの平和を守り、悪を制するといったものだった。

 

これにより、アウトキャストに対する反感は収まった。少なからず軋轢はあるものの、GNRのスリードッグの放送や各指揮官の通達、配慮によって最小限になった。そして悪を制するという内容。これはウェイストランドを害する者を排除するという意志が込められている。これはエンクレイヴに対しての者で、両方が正義だと主張しても信じるのはウェイストランド人。現在どちらが貢献しているか考えれば、BOSに違いない。とすれば、悪になるのはエンクレイヴである。今のエンクレイヴは新興勢力としてウェイストランド人が見定めを行っている段階だ。今のところ、目立った動きも残虐的行動も報告されていない。しかし、選民思想があることは事実であり、それが露呈すれば悪と見なされるだろう。

 

 

 

汗や泡を洗い流した俺とシャルはタオルで身体を拭いて、パワーアーマーを着込む。女性用シャワー室から隠密スキルをフル活用して出てきた俺はシャルと共に割り当てられた中庭の宿舎へと移動する。階段を上がり、中庭に出ると訓練兵が鍛錬をする場所に辿り着いた。

 

「ナイト・ユウキ、スクライヴ・ロスチャイルドが呼んでいる。至急ラボへお越し下さい」

 

 

宿舎に戻ろうとする俺たちを伝令の兵が止めた。俺はシャルに先に行くよう言って、俺はその伝令兵に追いていくことにした。ペンタゴンの建物の中へと入り、往来する兵士達をかき分けてラボに通じる道を歩き、階段を下りてラボの扉を開けた。

 

中央のリバティー・プライムの様子を横目で見つつ、BOSに技術的な支援をするDr.リーに手を振ったりもして、自分を呼んだスクライヴ・ロスチャイルドの元へ向かった。

 

「久しぶりだね、ナイト・ユウキ君。どうだ、休息はとれたか?」

 

スクライヴが良く着るローブを纏い、バーコードな髪型のスクライヴ・ロスチャイルドはクリップボードに記されたグラフを見るのを止めて、俺に向き直った。

 

「自分が行く前にはシャワー室は無かったので驚いてますよ。前は川の水を使って身体を拭いていたので」

 

国防総省には核戦争に備えて様々な設備がある。会議室はもちろんのこと、各方面軍の事務室やアメリカ全土に渡っての資料があり、統括する司令室も存在する。現在BOSが使用する施設はまだ3割にも満たない。その殆どが200年という歳月を経て風化し倒壊しているためだ。崩壊した設備を修復して使えるようにすることが出来たのは、日々の生活の向上を図るスクライヴのお陰だろう。彼らは塵に埋もれたここを使えるようになるまで整備し直している。そして国防総省の秘密についても探っている。

 

国防総省の地下には無稼働状態の核融合炉や秘密工場、アメリカ五軍を指揮下においた最終戦争を指揮する、壁一面を画面にした統合作戦司令室なるものも存在すると言われる。戦争が終わった今でもそこに入れるものはいない。戦争終結後、ラボより下の地下施設は中国軍侵攻のためロックダウン(無期限閉鎖)がなされているため、数十年スクライヴが解除コードを探しているが見あたらない。もし、開けることが出来れば、軌道上の軍事衛星を操作して、旧軍の秘密基地にアクセスすることが出来るだろう。しかし、今でもそれが出来ないところをみるにあたり、それが出来るのは当分先だろう。もしかしたら、一生ないかもしれない。200年前のアメリカ軍が使っていた軍事暗号は難しく、それは重要度が増す施設であれば、それは増していく。国防総省という国防の中枢なら尚更で、過去の遺物を研究するBOSのスクライヴの技術ではどうすることも出来ないのだ。

 

ロスチャイルドは俺を手招きすると、ラボ一角にあるキャピタル・ウェイストランドの全貌を地図にした所へ案内される。そこには、衛星からの撮影を元に作成された現在の地図であり、DC都市部の道路には一部×印や赤くラインが引かれている。そこはスーパーミュータントの生息地帯であることを示しているようだ。

 

「一応、現在の指揮官であるスターパラディン・クロスから連絡があるだろうが、詳細を伝えねばなるまい」

 

近くにあった椅子に座るよう、彼は言うので俺は座り、とある書類を渡される。そこにはBOS偵察員が書いたと思われる詳細な報告書だった。現在ある衛星施設や軍事施設、商業施設。そしてワシントンに点在するVaultの位置まで記録されていた。

 

「以前、エルダーの命令で今も稼働するVault施設の位置とその施設を調べるよう命令が下った。スーパーミュータント駆逐のための活動以外にも、技術復興としての任務もあるからな。我々はその偵察に加えて近年発見したvault-tec本社を調査して内部状況や施設の目的など多くの情報を入手した。」

 

彼は隅の書類棚から多くの書類を俺の目の前に積み上げる。そこにはいくらか年月が経たため、劣化しているのも見受けられる。そこには各施設に対する報告書があったが、中にはページ数が三枚しかないものもあった。

 

「ロスチャイルドさん、これは?」

 

「ああ、確か入ろうとしたら、デスクロウに襲われて一個分隊が壊滅した奴だな。生き残った一人は報告書が書けるような状況ではないから、うわごとから推測して書いた」

 

「はぁ・・・」

 

なんというか、この報告書見て分かった。再確認だけどウェイストランドって怖い。普通に人が死ぬ環境ってどう考えてもやばいわ。エンクレイヴが直そうとしているのは分かる気がするよ。

 

そして、俺はその中でも一つの書類に目がとまった。そこには「vault87偵察報告」と題されたファイルが置いてあり、俺はそれを手に取った。

 

「今日伝えるのはそのvaultに関してだ」

 

ロスチャイルドはそのファイルを俺の手から取ると、あるページを開いておれに見せた。

 

「浄化プロジェクトに必要なのは、GECKと呼ばれるテラフォーミング装置であり、今では失われたテクノロジーだ。浄化施設がエンクレイヴに渡った今、彼らよりも先にこのGECKを回収することがBOSの急務だ。君の任務はVault87からGECKを回収して持ち帰ることだ。」

 

俺は報告書にあったvault-tec社のロゴと社外秘と書かれたGECKの詳細な説明とその配送先が記されていた。しかし、最初これを見たときに読んだ文章を思い出してページをめくる。最初のエントランスの位置は高濃度の放射能に汚染され、さらにスーパーミュータントが多く生息すると書いてあった。

 

「ロスチャイルド、どうやって侵入しろと?おれにグ―ルにでもなれっていうんですか?」

 

おれがそういうと、待ってましたとばかりにロスチャイルドはにんまりと笑う。

 

「いやいや、vault87はそこの書類に書いてあるかと思うが、ちゃんとした密閉型シェルターじゃないんだ。近くの洞窟とvaultが通じているようだ。Vault-tecから持ってきた書類にも書いてあるだろう」

 

分厚い資料を全て読むのは、速読が出来る人ならともかくとして、最近では文字を読むよりも敵の動きを読んで、引き金を引くことが多い。そんなことだからか俺は文字を読むスピードは遅く、そこまで読むことは出来ない。仕方ないので、目次を見ながらその資料のページまで捲った。

 

「vault87に通じるランプライト洞窟は戦前観光地として使われていた。しかし、現在では我々のような大人が入れない子供だけの集落が形成されている。核の直撃でグールになる危険性のエントランスから入るか、それともランプライト洞窟から入るかは君に任せよう」

 

「わかりました。どのくらいの規模で向かえば良いでしょうか?補給所に弾薬の申請も・・」

 

と言葉を紡ごうとするが、ロスチャイルドはそれを遮った。

 

「いや、弾薬の申請はする。しかし、BOSとして行って貰うわけにはいかない」

 

「え、どういう事ですか?」

 

俺は驚き、ロスチャイルドに尋ねる。

 

「エンクレイヴと我々BOSの関係は緊迫した状況にある。エルダーの演説のお陰で緊迫した状況になっているため、下手にBOSがエンクレイヴと接触しないようにしなければならない。」

 

「つまり、俺はBOSとしてではなく、武器商人としてBOSの支援無しでこれをやり遂げろと?」

 

「支援はする。しかし、この緊迫した状況下でBOSの直接的な関与が認められれば事だ。君は偵察部隊から外してシャルロット嬢と共に向かわなければならない」

 

つまり、エルダーの演説によって士気が向上したが、まだエンクレイヴと戦う段階ではないらしい。そのため、今はエンクレイヴとの関係は悪化させるわけはいかない。だが、GECKの確保がある以上、BOSとしても動かなければいかなくなり、俺やシャルを使って行かせる腹づもりらしい。しかし、BOSの兵士を変装させればそれでいいのではないかと聞くが、ロスチャイルドは首を横に振る。

 

「BOSの標準装備はパワーアーマーの他にも、戦闘用インプラントを手術で取り付けている。カリフォルニアから来た兵士達の全てがインプラントを使用しているし、医療センターでも、ここで入隊した兵士にインプラントを施している。」

 

身体の骨をアダマンチウムの骨に変えることやサイボーグなどに換えることなど、インプラントという戦前の肉体改造手術は今でも行われている。BOSでは全ての兵士がこれをやっており、肉体増強や視力倍増などを行っており、それらの体内に埋め込む物には全てシリアルナンバーやBOSのロゴが記されている。それは身元の分からない死体を割り出すために控えられており、そのシリアルナンバーから身元が特定できる。もし、BOSの兵士がエンクレイヴに攻撃を行い、それで戦死して死体がエンクレイヴに渡ったら。検死によって所属が明らかにされてしまう。

 

この広いウェイストランドでそれができるのか怪しいものだが、どちらにしてもリスクは侵せない。ロスチャイルドはそれを説明すると、あるものを書き始める。

 

「これをラボの最下層にいる武器管理責任者のナイト・キャプテン・ダーガに見せなさい。彼女は新参者には手厳しいから、少ない量の弾薬しか配給してくれないはずだ。そうだとしたら、これを」

 

それは、最優先で物資を提供するよう書かれた命令書だった。しかも、エルダーのサインまで書かれている。これを持っていけば、パワーアーマーも状態の良い物を支給してくれるはずだ。

 

「BOSや私が君にすることはこれ位しかない。すまないと思っている。だが、君ならやり遂げられると信じている。」

 

ロスチャイルドは言い、他の仕事が山ほどあるとこの場を後にした。おれはその事を伝えるべく席を立ち上がり、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・ということだ。BOSとしてではなく、Vault87に赴くことになる」

 

俺はロスチャイルドと別れてから、皆が中庭の宿舎に来るのを待ち、スターパラディン・クロスの説明の後に続くようにしてから補足説明を行う。それを聞いた皆は殆どが、BOSとして参加出来ないことに疑問を抱いた。しかし、任務と情勢の悪化を鑑みれば妥当な采配だと納得するほか無かった。

 

「私や他の部下は行くことが出来ない。本当にすまない・・」

 

クロスは頭を下げる。彼女は力になれないことを悔やんでいた。俺はそれを宥め、世話になったBOSの兵士に今までありがとうと感謝の言葉を残す。

 

「ユウキ、俺たちはどうなる?」

 

そう言ったのは、浄化プロジェクト発足以降、付いてきてくれたウェインだった。

 

「これからVault87へ向かう。正直、かなり険しい道のりだと思う。ウェインを雇う財布の余裕は今ない。」

 

ウェインは傭兵だった。彼はキャップがなければ戦えない。そして俺の財布には食糧を道中買えるようにするために少し残しておかなければならないため、出費は避けねばならない。彼は中堅のベテラン傭兵。支払うお金は多い。

 

「そうか・・・だが・・・」

 

ウェインは考えていると思う。今度の旅は傭兵と雇い主の関係を越えたものであると言うことに。そして、契約金が支払えないと言うこともある。彼は決めかねていた。

 

「でも、ことが終わって浄化プロジェクトが再開すれば何万ガロンもの浄化された水が手に入る。無理にとは言わないし、それはまだ可能性の範囲内だ。俺としては一緒に付いてきて欲しい」

 

 

俺はそう言って彼の顔を見る。すると、考え終わったようで伏せていた顔を俺に向けた。その表情はいつになく喜んだ表情だ。

 

「良いだろう。その代わり、良い報酬を期待するぞ」

 

ウェインは俺の肩を叩き、煙草を吸うと言って外へ出る。ウェインの他にBOSの要塞でぶらぶらしていた傭兵数人いたが、彼等は契約金が出ないため、辞めることになった。おれは、これまでありがとうと言うと、彼等は「お人好しすぎる」と苦笑しながら、握手する。

 

 

 

これで面子は揃った。

 

傭兵で人の良いウェインにミュータント並みの生命力を持つドックミート、魔改造を施したRL-3軍曹、幼馴染みであり恋人のシャル。本当なら、もう一人いたら良かったと思う。彼女が居ないのは幾ばくか悲しいが仕方がない。

 

 

「準備はいいな?」

 

「ワン!」

 

「準備完了です!司令官殿!」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「うん、行けるよ!」

 

 

俺達は旅立った。一匹は主のために。一機は司令官のために、一人は友のために、そしてもう一人は亡き父のために。

 

ゲームとは違うこの世界。この後の展開は、俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

(こちらWhisky2-1、巡回を完了した。これよりRTB(基地へ帰還)。)

 

 

 

 

 

ガンシップ型のベルチバードは周囲の航空警戒の任務を終了し、基地へと帰還する。ヘリの巡回した地域はエンクレイヴが平定したインディペンデンス砦とフェアファクス市街だ。

 

 

フェアファクスは戦後、建物は破壊されても幾つかはまだ現存していて、レイダーの根城になっていた。しかし、最近になってBOSの分派のアウトキャストがレイダーを掃討し、フェアファクスを完全に手中に納めた。しかし、エンクレイヴに対して攻撃を仕掛けたため、アウトキャストは報復攻撃を受けた。

 

町の殆んどが瓦礫と化し、数百年立った建造物は脆く壊れやすかった。アウトキャストはヘリや装甲車などの強力な兵器群に圧倒され、地下に戦力を集めたゲリラ戦を展開。しかし、結果は推して知るべし。

 

インディペンデンス砦とフェアファクスの市街の至るところには大穴が開けられ、バンカーバスターと呼ばれる地下壕破壊爆弾によってクレーターが作られていた。軍事上の三割が全滅と定義されるが、実際はアウトキャストの9割の兵員が戦死していた。数値から見れば文字通りの全滅だろう。爆撃後に生き残った兵士は最後の突撃を行い、玉砕した。

 

未だに生存する残党兵を掃討しなければならないため、付近にはエンクレイヴの兵士や装甲車、さらにはエンクレイヴ・アイポットなどが使用された。

 

そのエンクレイヴの前哨基地には駐機されたベルチバードや装甲車が鎮座していた。奥には黒塗りのコマンドテントがあり、奥には「接近禁止」と書かれた札を吊るした怪しいテントがあった。入り口には歩哨が二名配置され、警備をしている。

 

そこへ、士官がそのテントへ歩いてくる。兵士はその姿に気付いて敬礼した。

 

「スタウベルグ中尉」

 

「捕虜の様子は?」

 

彼女は返礼として敬礼し、下ろすと敬礼していた兵士も下ろす。捕虜とはつまり、エンクレイヴの爆撃から生き残った兵士の事だろう。

 

「一応中佐に報告しましたが、負傷兵や戦闘に参加できない技術スタッフと数名の兵士はBOSの部隊と共に旧国防総省へと避難したとの事。その兵士の中に手配中の人物がいたと証言しました」

 

兵士はそのレポートをスタウベルグに見せる。彼女はページを捲り、文字を読み表情はゆっくりと柔らかい物へと変化する。

 

「そうか、やつはここに居たみたいだな」

 

兵士達はスタウベルグの顔を見てヘルメット越しではあるが、驚いた表情を見せる。

 

その表情は泣いているようで笑っている。まるで、生き別れの兄弟か恋人を探しているかのようだったからだ。

 

「捕虜はある程度の食料と武器を渡して解放しろ」

 

「え、良いのですか?!」

 

彼女の言った言葉に彼等は驚いた。何せ、エンクレイヴに仇なす敵であるのだから当然である。本来なら銃殺刑が普通の処置。それなのに、捕虜に食糧をやり、武器を与えるのは驚くべき事である。

 

「せっかくあの爆撃から生き延びたんだ。その捕虜も我々エンクレイヴの恐ろしさが身に染みて分かっただろう。我々の事を流布するなら、そのまま生きて帰させるのが一番いい」

 

スタウベルグは踵を返し、駐機していたベルチバードに出発する用意をしろと手で合図をし、ベルチバードのメインローターが回転する。

 

「司令部に国防総省から出ていくBOSの小隊を衛星から追尾しろと伝えろ。Vault87に向かいそうな部隊をマークして足取りを探れ」

 

ヘリの近くにいた下士官は命令を聞き、すぐに命令を遂行しに移る。ヘリは下士官とスタウベルグを収容すると、メインローターの回転数を増やし、離陸する。地上から飛び立ったベルチバードはエンクレイヴの総司令部「レイヴンロック」へと向かった。

 

 

 

 

 




ちょっと無線のところでルビ振ってみました。変なところあれば修正します。



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三十五話 北西セネカ駅

二話連続投稿です。

日付が変わらぬ内に投稿したので、読んでいない方が多いかも











 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!・・・・はぁ!・・・・はぁ!」

 

荒い吐息と滴る汗。灼熱の暑さで下着が汗ばむ環境で全力疾走は辛い。風は全くといって良いほどなく、雲のない空は容赦なく日光を体に突き刺っていく。

 

走る商人の手には古びた10mmピストル。服には返り血らしきものが着ていたフィールドジャケットにこびりつき、洗わなければ血の匂いを嗅いで野犬かラッドスコルピオンが来てもおかしくない。だが、それらよりも怖いのは同じ人間だった。

 

「ヒャッハー!殺人タイムだ!」

 

古びた中国軍将校の剣を持ったレイダーは雄叫びを上げつつ、商人に襲い掛かった。

 

「く、来るなあぁぁぁ!!」

 

護衛の傭兵は殺され、彼の全財産であるバラモンと荷物はレイダーに奪われた。残ったのはこの身だけ。だが、生きていれば何にでもなる。商人は襲いかかるレイダーにピストルを向けて引き金を引く。

 

慣れていない射撃と全力疾走で走っていた手前。彼の銃の先はレイダーに向いていない。一発はレイダーの肩に命中したが、薬物中毒で痛覚が麻痺しているのでその一発だけでは押し止めるのは不可能だ。商人は二発目を撃とうとするが、ガチャ、という不自然な音を立てていることに気が付く。

 

整備不良のため排莢されず、引っ掛かっているのだ。幾ら引き金を引いたところで撃つことはできなかった。それを見たレイダーはニヤリと口を歪めて剣を商人に突き刺そうとする。

 

商人はこれまでかと、涙ぐんだ目でレイダーを見る。近づいていくレイダー。

 

「今日は肉が食い放だっ!・・・」

 

それを言って切り殺そうとしていたレイダーは剣を振り下ろそうとするが、飛来する大口径の銃弾がレイダーの頭部を破壊する。それは大口径ライフルよりも巨大な50口径の対物ライフル弾だった。レイダーの頭部は原型を留めないほど、砕け散り、脳奬を撒き散らした。それを見た商人は一体何が起こったのか分からなかった。レイダーが倒れる時には重く響く銃声が遠くの方から響いた。

 

 

商人が呆気に取られるのも束の間だった。彼が気づいた時には狙撃者の姿はなく、一人寂しさを感じさせる風が吹き、土埃が舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイスキル!良い腕だな」

 

「800m位ならちょろいね。なにせ無風だったし」

 

二脚を広げた50口径対物弾が装填されたM82対物狙撃銃によってレイダーの頭部はまるで西瓜のように砕け散る。スポッター(観測手)であるウェインは俺の狙撃を誉めるが、何しろそこまでの距離もなく無風であったため、楽な狙撃であった。

 

ライフルの二脚を畳み、重火器運搬をするRL-3軍曹へと渡してR.I.S.搭載のアサルトライフルに持ち替えた。

 

ウェインは前のパワーアーマーにタンカラーで塗装し直したものに直している。爆発反応装甲は周囲に被害を与えるために外してあるが、スクライヴが開発した光学兵器を跳ね返す塗料や徹甲弾を貫通させないよう、装甲を厚くしている。同様の改修を俺のパワーアーマーにも施している。

 

高台であった崩壊した廃屋の屋根から下りると、待っていたシャルやドックミート、軍曹に合流する。

 

「ドックミート、ほら」

 

持っていたバラモンジャーキーの欠片を投げると、跳ねて口でキャッチする。それをモグモグと食べる姿はなかなか面白い。

 

ウェインと俺、シャルは廃屋から持ってきたテーブルの上に地図を広げる。

 

「今いる地点はここだ。ここから川沿いに進んでウィルヘルム埠頭を通って橋を渡ってベセスダ市街かすめるように移動する。その後は北西セネカ駅を通ってアレフを過ぎてリトルランプライトへ直進する」

 

本当ならウィルヘルム埠頭からスプリングベールを抜けていきたいが、俺たちが一時期そこにいることがばれたらしく、BOSの偵察員によると、兵力が増強されてヘリのパトロールが増えたようだ。

 

「確か北西セネカはグールの集団がドラッグの研究していたな。あと、アレフは吸血鬼騒ぎもあった。不用意に近づくべきじゃないな」

 

「だけど、この道行かないとエンクレイヴに見つかるし、さらに北に行けばスーパーミュータントの生息地域よ」

 

アレフに近づきたくないというウェインの意見に対し、シャルはエンクレイヴと北にあるvault87の周囲にいるミュータントの生息地帯を通るのに反対した。Vault87に入れば、嫌でもスーパーミュータントと戦わねばならないが、今すぐ奴らと対峙する必要は何処にもない。ならば、弾薬の消費を押さえるようなルートにしなくてはならない。

 

「吸血鬼って・・・・、ニンニクエキスを撃ち込めば死ぬかな」

 

「いやいや、ここは十字架を見せて立ち退かせるか」

 

「銀の弾なら有効化かもよ」

 

吸血鬼と聞いて俺たちは対峙したときにどうするか案を繰り出す。と言ってもそれが放射能に汚染されたミュータントだったら笑うところだろう。それならば、問答無用で弾をお見舞いした方が良い。

 

一休みしていた俺たちは川沿いを進み、ウィルヘルム埠頭に着く。そこでは店を営むスパークルばーちゃんがいて、いくらか支払ってミレルークシチューを食べた。途中で盗賊らしき奴らがやってきたものの、俺たちの重武装さにびびり、何もしてこなかった。一緒にいたシャルにやらしい視線を送ってくるので、手が勝手にホルスターに行きかけたが仕方がない。

 

腹を満たした俺たちは橋を渡ってベセスダ市街の近くを歩くと、負傷したレイダーが数人路面に倒れていた。警戒しつつ、一人に話を強引に伺ってみるとベセスダにもエンクレイヴの攻撃があり、中心部と東側は既にエンクレイヴが制圧しているらしい。負傷したレイダーは命からがら逃げてきたらしいが、俺たちはそれを助けようとはしないでさっさとそこを離れた。

 

そうこうしているうちに夜の帳が近づいてきていた。一応道中のペースを鑑みても以前と比べて早いが、常に走っているわけにもいかない。負傷者を一緒に連れていた時はとんでもなく遅かったが、少数のグループで移動しているためさほど時間は掛からない。ルートはGPSによる測位と衛星写真のリンクによって現在の位置と方角が手に取るように分かった。

 

「このペースなら北西セネカ駅まであと一時間弱ってところだろうな。」

 

「向こうに何もなければいいんだがな」

 

北西セネカ駅の周囲は幾つかの建物がある。封鎖されている建物が幾つかと、商店が一つ。北西セネカ駅には直接の用事は存在しない。あるのは、そこで休息が取りたいということだ。薬物を研究するグールがいるのが唯一の懸念事項だが、こちらから攻撃しなければ何もしてこない。ウェインの話によると、ウェイストランドで流通するジェットと呼ばれる薬物の数倍の威力のある薬物を生成しているらしく、痛覚の麻痺した重度の薬物中毒者や痛覚の鈍いグールなどに最適だそうだ。商人は周期的にここへやってくるが、自分たちが来る頃に彼らが滞在するとは限らない。寧ろ、可能性はごくわずかだろう。

 

しばらく歩いていくと、倒壊仕掛けた橋と荒野にぽつねんと建つ幾つかの建造物が見受けられた。日が落ち始めているためか、周囲にはドラム缶を利用した火が見え、商人がいるのだろうと期待する。しかし、先頭を歩くウェインの合図によって足を止めた。しゃがむようハンドサインで後方に伝え、直ぐさま腰を屈めて全員銃を準備する。

 

「お客さんだ、レイダーみたいだな。奴隷商人もいるようだ」

 

ウェインは俺に双眼鏡を手渡す。ヘルメットを脱いで駅の方向へ見ると、レイダーがいることが分かった。。

 

「レイダーが五人、あとはパラダイスフォールズの奴隷商人達か。」

 

レイダーのスパイクアーマーを着た男女が合計5人。そして傭兵服や整備の行き届いたライフルを持つ奴隷商人達。そして、ボロ衣を纏った老若男女。中にはまだ幼い子供がいた。

 

「メトロはまだ制圧していないようだな」

 

「ああ、確かあそこのグールはかなりのやり手だ。それに、大事な供給先を潰そうとは考えるまい」

 

ウェインは軍曹から消音器が装備されたM40狙撃銃を受け取り、二脚をひろげた。

 

「軍曹は観測手を務めろ。ドックミートとシャルは向こうへ行くぞ」

 

「了解、司令官殿!」

 

「ワン!」

 

「うん」

 

軍曹を残し、俺とドックミート、シャルは北西セネカ周辺の窪地へと移動する。パワーアーマーは軍曹に預け、リコンアーマーを着込みアサルトライフルに消音器を装着した。リコンアーマーの上からチェストリグを装着し、武器弾薬を携行しやすくした。シャルは以前使っていたコンバットアーマーを装備している。追加装甲で若干重くなったかもしれないが、死ぬよりましである。そして、ドックミートは新たな装備が加わった。

 

某ゲームの軍用犬のように身体を守るボディーアーマーを着せており、弾薬の携行を可能にした。勿論、ドックミートが引き金を引くことは無いが、持つ弾薬の量は多い方が良い。動きにくいからとアーマーを嫌がっていたのだが、必要性を説いてやっとのことで着させることが出来た。若干走るスピードが低下したが、許容範囲内だろう。

 

二人に隠密行動するように伝え、腰を低くして前進する。アサルトライフルの伸縮銃床を縮めて取り回ししやすいようにした。

 

ゆっくりと窪地から身体を乗りだし、素早く建物の影へと移動する。既に日は落ちてきており、もうすぐ闇が支配する時間帯となる。影は絶好の隠れ場所だ。

 

建物から身を乗り出して敵の様子を確認しようとする。しかし、歩哨のレイダーが余りにも近い場所に居るため様子を見ることが出来ない。

 

(ユウキ、奴隷商人と奴隷らしき者は雑貨店に入っていった。目の前のレイダーは今ほっておけ。その建物を影づたいに進んで行くと通りにレイダーが1人酒で座って飲んでいる。そいつを先に片付けろ)

 

丘の向こうで監視するウェインは無線で連絡する。俺はアサルトライフルを背中に掛けて、消音器を装備した10mmピストルとナイフをクロスするかのように構えた。

 

シャルとドックミートは待機させ、壁伝いに歩く。すると、目の前の路肩に腰掛けてウィスキーを傾けるレイダーの姿があった。

 

「くそエンクレイヴが~。お前らのせいで・・・」

 

そう呟きつつ、レイダーはウィスキーを煽る。周囲には誰もいないので、丁度よい。ナイフで喉を掻き斬ろうと思ったが、血糊を綺麗にするのは面倒なために鞘に戻した。レイダーがウィスキーを煽り、瓶を地面に置いた瞬間を狙って、レイダーの首を羽覆攻めにする。

 

声を発する前にレイダーの顎を持って思い切り反対方向へ回す。ボキンッ!と物が折れるような音が聞こえ、レイダーは口から泡を吹いて絶命する。地面に放置して歩哨にバレないようにするために、建物の影に引きずり込む。

 

「片付けた」

 

(ああ、後は三人の歩哨だけだ。1人はこちらでやる。同時に始末する。準備しろ)

 

レイダーは残り3人。五人いたが1人は死に、もう1人は奴隷商人と話をしている。

 

シャルにも仕留めるように言い、持っていたアサルトライフルを渡す。シャルの手持ちがレーザーライフルだったために銃声が大きく使えない。、俺が使うのは消音器付き10mmピストルだ。

 

 

(残りの歩哨はメトロ入口にたむろしている。俺は真ん中をやる)

 

(私は右の座っているのを)

 

メトロ入口には、歩哨らしきレイダーの姿があったが警戒している素振りは見せていない。寧ろ、統制が取れていないようで、警戒しなければならないのに煙草を吸い、仲間と談笑していた。雑貨店にいるはずであろう彼らのボスが見れば怒るに違いない。

 

10mmピストルを構えながら、正確に撃てる至近距離まで接近する。左に腰掛ける女レイダーの頭部に銃を向けた。女は三十代過ぎぐらいで、薬物の影響で頬は削がれ、顔色は悪い。夕焼けで周囲が暗くなっているけれども、女の瞳位は分かる。彼女の目は淀んでおり、まるで死んでいるかのようだ。手は震え、薬物の末期症状だろう。

 

「位置に着いた。スリーカウント・・・・3・・・2・・・1」

 

カウントが終わった瞬間三方向から発射された銃弾がレイダー達の頭部に命中する。俺が持っていたのは口径の小さい拳銃弾であったが、二人はライフル弾であったため、撃たれたレイダーの頭は後頭部が砕け散っていた。

 

俺は無線でウェインを呼び、一緒にいた軍曹も駅周辺へと降りてくる。シャルにアサルトライフルを渡していたため、軍曹からP90を受け取って残りのレイダーと奴隷商人のいる雑貨店に突入する準備を始める。軍曹の積載バックから閃光手榴弾を取り出して、扉に近づいた。中では奴隷商人とレイダーのリーダーらしき男が談笑している。今なら突入して全員無力化することが出来るだろう。全員に指示を出し、突入体制に入る。扉近くの壁に寄って指示を出し、左手で持っていた手榴弾のピンに手を掛ける。コンバットショットガンを持つウェインに目配せして突入の合図をすると扉を開けて手榴弾を投げられるスペースを作り、手榴弾のピンを引き抜き、そのスペースへと手榴弾を投げ入れた。

 

閃光手榴弾は転がり、3秒で閃光が商店を満す。数百万カンデラの強烈な閃光と130デシベルの強い爆音が響き、密室に近いそこにいたレイダーと奴隷商人、そして奴隷は一時的な失明と耳鳴りを引き起こた。

 

「move!」

 

ウェインを先頭に勢いよく開かれた扉から突入する。ウェインは持っていたショットガンで近くにいた奴隷商人の胸目がけて12番ゲージを喰らわせ、その衝撃で奴隷商人は商店の壁へと激突。俺はP90をセミオートで発射して、近くにいた奴隷商人と棚の後ろに隠れるもう一人を撃ち殺した。飛び散る血潮が白い棚へと付着し、撃たれた商人は床に伏せる。P90は貫通力が高く、棚を貫通して奴隷商人の右胸と胃に命中し、衝撃によって棚の方へ吹き飛び、脳震盪で意識を失う。

 

「畜生!誰だぁ、くそったれが!」

 

未だ閃光と爆音による後遺症が抜けていないのか、レイダーは見当違いな方向へ銃を向けて引き金を引く。閉じられていた窓に命中して木片とガラス片が舞う中、シャルは迷うことなく、アサルトライフルの引き金をひいて至近距離で銃弾の雨を降らせた。身体が衝撃を吸収できずに、壁にぶつかり胸や腹は引き裂かれる。迷いもなく撃ったシャルの成長には目を見張る思いだ。

 

敵対する者を全て排除したことを確認すると、「Clear!(制圧)」と言って戦闘が終了したことを知らせた。

 

「ふぅ・・・・、ウェインと軍曹は周囲の警戒。ドックミートはレイダーと奴隷商人から使える物を探して、シャルはそこの人たちの手当を頼んだ」

 

商店には奴隷商人の持ち物とおぼしき物品が置いてあり、寝袋や小型ガスコンロがあるのを見るにかなり財布が重い連中であったことが理解できる。さらに背嚢の中には乱雑に入った弾薬箱や小金庫が押し込まれていた。彼らが荷物を支度していたとき、切羽詰まった状況であったに違いない。

 

「この包帯を巻くんで、動かないで下さいね」

 

奴隷商人が連れてきたとおぼしきみすぼらしい服を着る男女数人と子供が数人。子供の方を見ると、眼つけて睨み、すぐに視線を反らす。奴隷として育てられたなら、大人への信頼など無いに等しいだろう。こんな体験をすれば誰も信用できないのかもしれない。すると、子供の1人は俺の事を見ると、怪訝そうな表情で聞いてきた。

 

「ねえ、ムンゴはこれから私たちをどうするつもり?」

 

それは彼ら奴隷達の総意だろう。自分達はどうなるのか、BOSなら即時解放。それ以外ならキャップの為に転売もあり得る。それを恐れた大人の奴隷は口をつぐむものの、子供の口に戸は立てられない。すると、治療を終えたシャルは子供の頭を撫でながら答える。

 

「[Child at heart]大丈夫、何も心配いらないからね」

 

と言うと、奴隷であった彼らは表情を緩める。中には持っていたガラス片を落とすほどだ。余りにも気を緩めすぎてそのまま倒れてしまった者も居たようでシャルが慌てて駆け寄るものの、心配は要らなそうだ。ただの過労で倒れたらしい。

 

彼らは人権など塵カスに等しいこの世界の奴隷としてこき使われた。ここまで来るのも大変だっただろう。子供はシャルの膝でスースーと寝息を立てて寝ている。

 

俺はまだ起きていた奴隷に話を聞くことが出来た。

 

「あんた、名前は?」

 

俺は雑貨店で置いてあったコップを一回濯いでから、綺麗な水を入れて渡す。

 

「スティーヴだ・・・これ本当にいいのか?」

 

スティーヴは躊躇いながらも、手を伸ばしていた。

 

「ああ、貴重だから溢さず飲んでくれ」

 

そう言うと、彼はコップを取って飲もうとする。一瞬気管に入り掛けたようで一瞬噎せそうにしたが、一気にそれを飲み干した。

 

「・・・・はぁ~!こんな美味しい水飲んだのいつぶりだ!」

 

「それは良かった。あんまりあげられる水はないが、いいか?」

 

「いや、綺麗な水を飲ましてくれただけでも嬉しいさ。普通なら放射能汚染された水だからな。本当にありがとう、感謝しきれないよ」

 

スティーヴは一時期メガトンで傭兵をしていたらしいが、借金がかさんでトンズラ。北上したが、スーパーミュータントと遭遇して殆んどの弾薬を消費してボロボロになりつつもビックタウンに到着。弾薬は余り手に入らず、西へと移動したところ、愛銃が壊れ、奴隷商人が彼を発見。抵抗虚しく奴隷となった。当初はピットに送られる筈だったが、エンクレイヴの活動が活発化して輸送路が使えなくなった。ストックばかり増えるため、レイダーに男は食用として売り込もうとしたところ、エンクレイヴの襲撃に遭って、その隙に奴隷は逃げたようだ。ある程度逃げたものの、遠征中の奴隷商人に見つかり、今に至る。

 

「と、言うことはパラダイス・フォールズはエンクレイヴによって壊滅したと?」

 

「更地になった。文字通りにな」

 

嘗てそこにはウルトラ・スーパー・マーケット系列の巨大ショッピングモールがあったらしく、地盤も頑丈であった。そもそも、大戦争時にパラダイス・フォールズは米軍の臨時補給基地だったこともあり、周囲には破壊された建物を効率よくバリケードにしていた。。戦時中はジャーマンタウン警察本部を避難民と負傷兵の野戦病院として使っていたこともあるため、補給としての設備も幾分か整っていた。

 

「飛んでいた・・・たしかヘリだっけ?あれからの機銃掃射とミサイル攻撃。そして極めつけは戦車が敷地内に突っ込んできたんだっけ。」

 

エンクレイヴによる電撃作戦。空と陸からの攻撃に奴隷商人は手も出せず、引き裂かれ、彼らは地獄の業火に焼かれた。

 

「ユーロジーのくそ野郎もくたばったし、もしかしたらBOSの時代からエンクレイヴへと換わるかもな。奴隷商人の話じゃ、メガトンとリベットシティーに新品の浄化装置が運び込まれたらしい。ミュータント駆除に掛かりっきりのBOSと比べたら心証は大きく変わるだろうな」

 

彼の話を聞く限りウェイストランド人の心の中では既にエンクレイヴの方が好感度が高い。正義と言うものは大抵、多い方が。そして強い者の味方である。以下に外道で悪であったとしても、それらが強大であり、人々の支持が得られてしまえば正義と成りうる。『勝てば官軍、負ければ賊軍』とあるように、負けてしまえばそれは「悪」に成ってしまうのだ。

 

そして、ウェイストランド人である俺はどちらに付けば良いのだろうか。BOSに入ったとしてもそこまで忠誠があるわけではない。母が入っていたと言っても、その繋がりで心中は御免だ。俺の記憶ではエンクレイヴという存在は極悪非道の軍事集団だ。しかし、今のエンクレイヴは多面性を持ちつつも、ウェイストランドを良くしようとしている風にも見えなくはない。もし、それが事実であるならば、自分の立ち位置を考えなければならないだろう。

 

スティーヴと別れて、雑貨店のカウンターへと足を伸ばす。そこにはドックミートが伏せの状態で尻尾を振って待っていた。俺を見て吠えようと構えるが、俺がシッ!と口に指を添えると、ドックミートは吠えるのを辞めた。

 

「よし、良い子だ」

 

俺は頭や首を撫でてから、ポケットからバラモンジャーキーを取り出して半分に千切って与え、残りのジャーキーを口に頬張った。ビーフジャーキーと同じ味で、海水から抽出した塩で味付けしたそれは日中の時間帯に流れ出た塩分を補完する。ドックミートはもっと欲しいと俺のジャーキーの匂いのついた指をペロペロと嘗める。

 

「今日はこれだけな。明日美味しいの作ってやるから我慢してくれ」

 

「クゥ~ン」

 

それを聞いて心なしか凹んだドックミートは尻尾と耳を垂らす。俺は「すまない」と言って毛並みを整える。ふわふわとする毛並みは気持ち良く、またドックミートの体温は夜のウェイストランドの冷えから逃れさせてくれる暖かさを持っていた。

 

「ドックミート、お前どう思う?」

 

 

「フゥ~ン?」

 

明らかに「何の事だ?」と聞いているようで、俺の顔を見る。

 

「エンクレイヴをどう思う?」

 

「ワフ」

 

とドックミートは頭を横に振り、明らかに「俺に聞くな」と言っているようだ。そして俺の悩みなどどうでも良いらしく、俺の膝に顎を伸せて大きく欠伸をする。大分疲れているようで、個々まで来る間は匂いによる索敵も行っていた。ドックミートの活躍は非常に助かっている。

 

俺はpip-boy機能にあるミュージックプレーヤーを起動した。年月は経っているものの、ミュージックプレーヤーの中にあった音源データは無事であった。pip-boyにはそれを組み込んで再生可能にしてある。それを操作して再生ボタンを押す。pip-boyは使用者に特殊なナノマシンを体内に注入しており、V.A.T.S.や各種体調バランスを管理していた。ミュージックプレーヤーは聴覚神経に直接働きかけて、曲を再生する。周囲に流れることはなく、サバイバル面においてもそれは重宝する。

 

流したのは、何の変鉄もないクラシック。ベートベンの交響曲第9「運命」。

 

その曲は人生の有り様を表現しているようで、人生は波あり谷ありというものを教えてくれる。

 

既にそれらは失われている名曲の一つだろう。俺はそれらを聞きながら、ウェインが交代するその時までドックミートと静かに待ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よう、リスナーの皆元気にしてるかい?Threedogの情報網から集めた最新ニュースをお届けしよう!

 

 

さて、どうやらエンクレイヴの軍隊共はリンカーンが禁止した奴隷売買禁止法に基づいて動いたらしい。あのくそったれのパラダイスフォールズは今や瓦礫の山。既に消毒されてエンクレイヴの前線基地へと改造されているらしい。そこにいたユーロジーのすけこまし野郎は死んだらしいな、因みにこれは奴の近くにいた奴隷の話だ。奴等の大半は死んだが、少しはまだこのウェイストランドをさまよっている。君達が善人なら、奴等の頭に鉛弾を撃ち込んでやれ。これがやつらに殺された者達への供養だ。

 

 

さて、今日はリスナーよりお便りを貰っている。

 

誰だか知りたいか?これはメガトンのマーニャ・バーガスという老婦人からだ。内容を掻い摘んで読んでいこうと思う。

 

彼女の住むメガトンはエンクレイヴの進駐部隊によって統治されているらしい。以前あった保安官の統治はなくなってエンクレイヴの文官が仕切っている。彼女の文章を読む限り、俺が考えていた悲劇はなかったようだ。

 

彼女曰く、「エンクレイヴとBOSのどちらを信じれば良いのだろうか?」と。

 

もし俺ならば、BOSだろう。

 

リスナーのみんなはエンクレイヴを信じるかい?俺としちゃエンクレイヴの言っていることなど嘘っぱちだと考えている。アメリカの復興?どう考えても無理な話だ。首都の国会議員なんてものはないし、アッシュで作られたバットなんて野球用に使っちゃいない。人を殺す道具でしかない。ケンタッキー州のある田園?リスナーの諸君、君たちは田園をみたことがあるかい?答えはノーだ!奴の継承する偉大な合衆国政府が中国との戦いで全てを無にしたからな。

 

どうだい、みんな。エンクレイヴをまだ信用できるかい?俺はDJをやる前はひ弱な人間で家で本を読むしかなかった。その本は俺たちの祖先が作ったアメリカ建国から大戦争になる前まで記録されていた。俺が読んでいた本は俺の父や祖父、そして代々受け継がれていた日記だった。

 

日記では今流れているラジオがどんどん戦争をしていくに従って、流されている内容が酷くなっていくのを書き記していた。読んでいるたびに心が痛くなるよ。リスナーのみんなに嘘を言うDJがいるなんて本当に悲劇だ。

 

戦前のラジオや新聞は戦意高揚の為のニュースを流していた。そこには誇張され、嘘で塗り固められているものばかりだ。そして、やっている政策も然り。リスナーのみんな忘れないでくれ。Brotherfoot of steelはウェイストランド人の味方だ。

 

 

 

さて、音楽を掛けよう。さてこの曲は圧倒的な敵を打ち倒す中々かっこいい曲だ。俺達に相応しい。

 

歌手はLinked Horizonというグループで 紅蓮の弓矢。

 

聞いてくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何故、あの曲にと思ったでしょうね(笑)

実のところ、作者のネタ切れが理由の一つですw

誤字脱字・その他感想などお待ちしております!


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三十六話 Vault87 上編

やっと書けました。

十一月初めに大学の文化祭があり、自分主導の元で文化祭の出し物の指揮をしていました。

十月までに書こうとしていましたが、やっぱり月を超してしまい申し訳ない。

最後の区切りでは三人称になっていますが、そこは場面と視点が異なるので仕様ですww














「ムンゴ、早く早く!」

 

2人のリトル・ランプライト住民のサニーとペニーは俺達の先頭に立って彼らの住み処まで案内している。無論、周囲を警戒しているものの、彼女達のスピードが予想以上に早く、距離を離されているのが現状だ。

 

「二人とも、もう少し遅く歩いてくれ。俺達はパワーアーマー着てるから辛いんだ」

 

強いて言えば重い。パワーアシストされていると言えど、着ているものは鋼鉄の鎧である。普通のアーマーとは風通しが悪いし、動きづらい。

 

たまにちびちびと水を口に含み、あまり飲みすぎないようにしつつ、目的地まで進む。途中レイダーキャンプに遭遇したが、その殆んどがエンクレイヴの空爆によって壊滅しており、歩兵部隊の火炎放射器によって死体が燃やされ、黒煙が空を覆った。

 

 

偶然、群れとはぐれたモールラットがいたため、殺さないよう捕獲しようとした。しかし、モールラットはゴキブリ以上の生存能力があり、リベットシティーの研究者からの報告では、殺してから一週間は肉が動いていたと言う報告がある。核戦争の影響で巨大化したモールラットだが、細胞自体も強固になった。

 

捕獲してランプライトの交易の品にしても良いのだが、移動に時間が掛かるため、その場で仕留めて解体して行った。解体して残った物はラッドローチや野犬、スコルピオンが食い漁る。食物連鎖やそういう観点からしてみれば、放置していくのも自然の摂理だろう。

 

 

はぐれたスーパーミュータントに遭遇することもなく、俺達はランプライトのすぐ目の前に到着することが出来た。

 

「ムンゴ、ここが私達の家だよ」

 

「そう言えばペニー、ムンゴってなに?」

 

俺はムンゴと何故呼ばれるのか気になったため、サニーと一緒にいるペニーに話を聞く。

 

「う~ん、おいらも分からないんだけど。昔のおいらのような子供の書いた日記があってな」

 

ペニーは包み隠さず話し出す。俺達は一度その話を聞いてみる事にして洞窟に入るのはそれが終わってからとした。

 

 

彼らの洞窟は嘗ての観光名所であり、ワシントンD.C.近郊では最大規模の大きな洞窟だったらしい。最終戦争の当日。スプリングベール小学校の生徒は遠足でこのランプライト洞窟に入った。彼らは年相応のはしゃぎっぷりで洞窟の管理人には日誌で大変だったと書き記されている。しかし、入ってから一時間後には西海岸が壊滅。引率教員は洞窟で待機することにした。

 

数十発の核が東海岸に投下され、地獄の業火に燃やされた。政府はもし核が落とされたとしても、政府中枢が破壊されないことを宣伝していた。そして被爆してもRad-XやRad-aWayによって被爆を無くせると言っていた。そして、核投下後の地表は爆心地以外であれば大丈夫だと公表していた。

 

だとしても、神の力とも揶揄された核爆弾の威力は相当なものである。その予想は非常に悪い意味で覆された。洞窟の教員や洞窟の管理者は救援を求めるべく、地表に上がろうとする。

 

その時大人でさえパニックに陥っていた。彼らはここに居て欲しいと言う子供達の渇望を無視し、外へ飛び出した。外は文字通り地獄だった。

 

放射能と業火に犯され、皮膚がケロイド状となった被爆者。中には正気を失って人を喰らう姿。ある一方では上陸する中国軍を向かい撃つべく、満身創痍のアメリカ軍。ホワイトハウスは核の直撃を受けているため、指揮系統が分断され、自国民にすら兵士は平気で略奪を行う。そこは隣人が獣へ、防人が盗人へと変わる地獄だった。助けを求めにいった大人は分からない。アメリカ軍に助けを求めて流れ弾に当たったか。それとも、正気を失った人間に襲われたか分からない。だが、結果として、子供を見守るべき大人が居なくなった。

 

子供は助けを求めてVault87へと向かった。そこには、彼らが求める大人が。自らの親となり得る存在がいた。しかし、Vaultの監督官はハッチを開くことはなかった。何故なのかは分からない。だが、子供達が大人を信用しなくなったのは事実だ。そしてリトル・ランプライトと呼ばれたそこに子供を捨てに行くのは子供だけで生きていける環境だからと大人達は思ったのかもしれない。しかし、子を捨てるという行為はその地の子供達に大人達への疑念と怨念が長年降り積もり、子供だけのコミュニティーが出来上がった。

 

その話を聞いて俺は意外にも動ずることがなかった。このことは既に考えられることだった。そうでしか、彼らの存在はそうでしか成りえず、必然であった。彼らの存在を知らないシャルは涙ぐみ、故郷であったウェインはリトル・ランプライト出身であるため、固い表情で握り拳を作っていた。

 

ウェインはランプライト出身で、元ビックタウン住民の一人である。彼もその話は知っている筈だった。彼はどうなのだろうか。子供の頃はムンゴと罵っていたであろう彼は今では立派な大人となっている。

 

現実はピーターパンのように子供のまま生きることは出来ない。いずれは成長し大人となっていく。それは自然の摂理であり、時は戻ること無く進み続ける。

 

そんな話をして俺たち全員が気を暗くしている中、普通なら躊躇う筈であろうその空気を読まず、あえて話し掛けてくる愚か者(勇者)がいた。

 

「あ、そこのムンゴ・・・じゃなかった!そこの人、実はランプライドから追放されたんだけどぅ、ビックタウンに一緒に行って欲しいんだけど、できません?」

 

よくこの空気を読まないまま聞いてきてくれた。怒りは通りすぎ、呆れすらも無くなった。あるのはそう、尊敬に近かった。

 

 

すると、ウェインは憤怒の表情というのだろうか。まるで般若のお面のような顔で喋ってきた少年の胸ぐらを掴んだ。

 

「う、ウェイン!空気読まないからってそれは!」

 

「こいつは何度もやる。昔も言っただろ!話しかける前に少しは状況を考えろって!」

 

「・・・え?」

 

俺はすっとんきょうな声を挙げ、彼を止めようと伸ばした手を止める。

 

「ウェイン皇帝!お、お久しぶりぃ!え、ちゃんと読んだよ。」

 

「読んだなら普通は声掛けねぇだろうが!」

 

その光景を見て思う。この二人はもしかして・・・・

 

 

「もしかして生き別れの兄弟!?」

 

「んな訳あるか!」

 

鉄拳が飛んでいき俺の側頭部に命中する。そしておれは理解した。このウェインはビックタウンの元リーダーであり、そして拳による恐怖政治で統治していた暴君だと言うことに。てか、なんで皇帝?

 

 

そんな疑問を他所に一人は怒鳴り、もう一人はそれを苦しそうに聞いている。ウェインの表情は怒りと言うよりも懐かしい友に逢って喜んでいるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玉座と言うものをご存知だろうか。

 

それは王と言う人々の頂点に立つ者の椅子である。選ばれたものしかそこへ座ることは許されない。そこに座る者は国家の代表として、象徴として民族或いは国家の支配をする。人の命すら簡単に権力によって消し去ることも出来、王を侮辱すれば不敬とされ罰せられた。近代に入って立憲君主制に始まり、国家の礎は王ではなく国民に移り変わった。自由を求める国民は王を抑制する憲法を。王を慕う臣民は法の上に王が立つ憲法を作った。世界が二度戦火の炎で包まれたとき、人の上に立つ王は事実上消滅した。最終戦争前、王家はあったとしても、主権は国民に委ねられた。玉座はあったとしても、嘗ての権威と名声、国家の象徴が集中した椅子ではない。王であった子孫が座る生きる文化遺産と表現するのが相応しい。

 

最終戦争後、アメリカは無政府状態となった。核の炎で包まれたその地には民主主義国家はなく、嘗てのような君主政治を行う地域も存在する。荒廃した大地は人の心ですらも荒廃させ、文明レベルも衰退した。

 

 

何が言いたいと思われても無理はない。しかし、キャピタル・ウェイストランドにも君主制が存在したことは知られていない。この俺でさえもゲームでやったことを覚えていない・・・・本当にこんな内容だったのか。

 

「やはり、この椅子がしっくりくる。まあ、成長したからかもう少し大きい方が良いかな?」

 

ウェインは嘗て洞窟管理責任者の椅子に座る。そこはランプライト洞窟を管理する州の観光局の責任者が座っていた。皮張りの椅子は高級感溢れ、住んでいた子供達が装飾したらしき飾りもある。彼の目の前にはデスクがあるが、上に置かれた「マクレディー市長」というネームプレートは伏せられていた。

 

「う、ウェイン帝!もう許して」

 

「許さん、全く弟がお前に何故後任を譲ったのか分からん!」

 

オフィスに置かれた子供用の小さい椅子にはタンクトップに半ズボン、そしてパーティー帽を被るマクレディ市長がいた。今にも泣きそうな顔は辛うじて男だから泣くわけにはいかないと我慢しているように思える。彼のその格好は妙に可笑しく、ここで悪いことをすると着せられるある種の罰則らしい。

 

 

ウェインが居たときのランプライトの状況としては稀に見る安定期らしい。ウェインとジムの兄弟両名による先制政治は民主主義とは違うものの、住民の意に沿った事が行われた。ランプライトでは彼らのリーダーの称号は自身で決められるらしく、過去には大統領や大佐、議長や総理などあったらしい。

 

そしてウェイン達が選んだのは皇帝。絶対的権力を保持する存在になった。決め方は普通に選挙であり、ウェイン達は住人の支持があったためである。例えば、ウェインの場合。奴隷商人から子供を助け、殺人通りから入ってくるスーパーミュータントを仕留めたり。

 

支持率はうなぎ登り。歴代ランプライトのリーダーでもここまでの逸材はいない。しかし、歴戦練磨の少年にも敵わないものがあった。そう、時間である。

 

彼は歳を経ていくうちに成長した。二次成長になり、大人と変らなくなる。そして十五歳になって彼はリトルランプライトから追放された。彼には弟分がいた。ジムは一緒に同じ場所に捨てられていたので兄弟かどうかは定かではない。しかし、下手に血の繋がった兄弟よりも強い絆があったことは確実だ。

 

今にも泣きそうな拘束されているリトルランプライトの長であるマクレディはウェインが教育していた中でも一番の問題児であった。そのため、ウェインは住民を事務所に寄越し、門の歩哨以外は隣の詰め所で待っている。彼らの話を聞くと・・・・

 

「マクレディはいっつも癇癪で周りに怒鳴るんだ。理不尽だよ」

 

「私の友達はマクレディに好かれてて強引にデートしようとしてた!」

 

「バラモンステーキを独り占めする!」

 

「いっつも本を貸すとボロボロの状態で帰ってくる!!」

 

と、やりたい放題であり、マクレディに対しての批判が数多くある。普通なら弾劾裁判のように罷免出来るらしいが、マクレディの取り巻きが力で押さえ付けているためどうにもできない。だが、その取り巻きはウェインの鉄拳制裁によって泣きべそ掻いている。

 

「子供は小さい大人として接するべき・・・か。それは無理だろ」

 

過去に子供を小さい大人として見るべきと中世中期辺りから言われていた。しかし、今ではそれが間違いであることは常識であろう。今の状態を見る限り、リトルランプライトは自治組織としては機能していないと見るべきだ。

 

他の皆、シャルは捨てられて間もない乳児の世話をしていて離せない。ドックミートはリトルランプライトで飼われている雌犬のお尻を追っかけている。軍曹はリトルランプライト整備士が整備している。最初は躊躇いを覚えたが、子供の整備士の腕は確かだったため、軍曹を預けた。

 

「やはり、子供だけでやっていくには無理がある」

 

ウェインは寂しげに呟いた。リトルランプライトは完全なる子供の集落である。ウェイストランドの孤児が集まり、子育て出来ない者が子供を捨てる場所として知名度が高い場所だ。

 

しかし、未熟な彼らに一人で生きるのは無理があった。一年に数人は食中毒や病気、放射能障害によって命を落とす。生活も子供のそれ相応の生活しか出来ない。技術面においてもそれらは変えることの出来ない経験の差があった。

 

「じゃあ、どうする?」

 

「基本的俺はお前等みたいなお人好しじゃない。浮浪者に水を挙げたりしないし、簡単に人を信用しない。それに俺ならセネカでも違う場所で休息を取る選択肢を取っただろう。俺の古巣だが・・・・ランプライトの彼らが大人に心を開くとは思えん」

 

それは彼が経験したからこそだからだろう。昔ならなら孤児は孤児院に入る。善良な大人なら、正常な社会なら彼らも心を開いただろう。だが、Vaultを開かなかった大人によってリトルランプライトの子供達はその扉を閉ざし、いつしか捨てられる子供が思う怨み妬みが集った結果今のような社会が形成された。

 

「俺はウェインの判断に任せる。でも、その前にシャルの所に行かない?」

 

俺はウェインに手招きする。彼は「イチャイチャすんじゃないぞ、リア充」と訳の分からないことを言って俺の後に続く。

 

管理長の部屋を出て、その隣の詰め所へ赴く。そこには集落の子供全員が集まっていた。度々聞こえる子供の笑い声が廊下に響き、ウエイストランドではあまり聞こえないその声に心が暖まる。

 

「え!じゃあ、竜に姫は食べられちゃうの!」

 

「いいえ、そこに来るのは誰だと思う?」

 

「王子だ!」

 

「違うよ、従者だ」

 

詰め所にはまだ幼い子供がシャルの読み聞かせを聞いていた。彼女は読みながらも挿し絵を見せながら説明する。因みにリトルランプライトの識字率はかなり低い。そもそも本を読むのはリトルランプライトの記録係か本を漁る希な子供位なものだ。

 

シャルは乳児の世話が終わった後、隅に置かれた絵本を読み聞かせていた。それがまだ小学校の年代の子には大ウケしていた。ここにはVAULTスクールのような学習施設は存在しない。

 

子供は好奇心の塊だと表現する人がいるがまさしくその通り。彼らは語るシャルを囲みながら和気藹々と話を聞く。その本の題名は分からないが、ファンタジーの鉄板ネタであることが分かった。

 

「『従者を連れた王子は竜の住む城へたどり着きました。其処には竜によって倒された亡き勇者達の亡霊がいます。竜は彼ら亡霊を使役していたのです。王子は持っていた勇者の剣を。従者は弓や槍、斧を持って立ち向かいました。嘗ては巷を騒がす勇者だった操られし者の戦い振りは王子達を苦戦させるものでした』」

 

絵本を捲り、その壮絶な戦いに子供達は心を打たれる。たった一人の女性のために王子と数名の従者は圧倒的な数の敵に立ち向かった。その絵本・・・、絵柄は物々しい血沸き肉踊るような描写であり、絵本と呼ぶには差し支えがあった。むしろ、なぜそれをシャルが選んだのか。

 

「『死の谷や亡霊の街、エルフの住む密林、多くの旅をしてきた勇者には沢山の仲間がいる。寡黙なエルフの弓使いや斧を振り回す小柄ながらも豪快なドワーフ、王子とは敵対する恋敵だけれど愛するもののために戦う敵国の騎士。彼らは操られし勇者の亡霊や竜に従う魔物を倒し、幽閉された姫を救うために竜のいる城の最上階にたどり着きました』」

 

ボロボロになりながらも、互いの肩を支え、流れる血を止めて前進し続ける王子達。そして遂に姫を捉えている竜と対峙する。

 

それは見ていた俺とウェインはその絵に吸い込まれるのではないかと言うぐらい、物語を聞いていた。語り部であるシャルが上手だったのか、それとも挿し絵に書かれていたものがリアル過ぎたのか。骨の髄まで震え上がるような竜の姿に自分達が襲われるのではないかと錯覚する。

 

「『そして王子達は戦いました。あらゆる技術で立ち向かい、エルフは竜の目に矢を。ドワーフは斧で竜の尻尾を切り、槍使いは竜の土手っ腹に一撃を、最後に王子は惜しくも竜を倒そうとして死んでいった勇者達の弔いとして、亡者から拾い上げた幾つもの剣で切り裂いた。竜は硬く強い。しかし、四人が束になって掛かれば強大な敵でも打ち倒せる。しかし死闘の末、竜は王子を食おうとし、飲み込まれました』」

 

子供達はその衝撃的な展開に驚きの声を挙げる。その展開に驚き、王子さまが死んじゃうと涙ぐむ女の子がいた。

 

「『王子は竜の胃の中で自身がまもなく死ぬのだと考えました。そしてこれまで経験した全てがが走馬灯のように見えました。道中出会った仲間、旅先での事件や出会った人たちの笑み。そして旅立つ目的であった姫の顔。王子は死ぬこと受け止めず、一緒に食われた勇者の剣を腹の中で振り回しました。竜の皮膚はとても堅いですが、中はとても柔らかいものでした。身体の中を斬り付けられた竜は痛みに苦しみます。そして王子が脈動する心臓に突き刺すと竜は心臓のある場所を押さえながら倒れました』」

 

子供はやった!と騒ぎ、シャルがページを捲ると苦しみ悶える竜の姿があった。それは今にも最後の雄叫びをあげる竜の様子で血みどろの従者が絵のサイドに写っていた。

 

「『従者達は倒れた竜の腹をこじ開けました。其処にはボロボロになった王子の姿がありました。王子は勇者の剣を杖のようにして姫の元に走ります。何度転けようとも、彼の足は止まりません。そして姫の横たわるベットのカーテンを開きました』」

 

 

子供達は息をのみ、その後の展開を待ち望む。

 

「『眠らされていた姫は王子の口づけによって目覚めました。姫は王子の様子や従者の姿に驚きます。満身創痍の彼らは鎧もボロボロで綺麗な服を何一つ持っていないのですから。彼らはそんな状態でも笑いながら姫をエスコートしました。目指す先は彼等の故郷。竜は倒され、暗雲が立ち込めていた空は青空に変わっていました。世界は王子によって救われたのです。王子と姫はどうなったのか、この本には書かれていません。ドワーフとエルフの種族を越えた友情の話や姫と結婚する王子に迫り来る元従者であった恋敵の騎士の話。それらは次の本で明らかになるでしょう。しかし、それが無かったら?想像してみましょう。この旅を見届けた君達なら、一緒に戦った従者であるなら、未来は自分で描くことを考えましょう』」

 

 

シャルが本を閉じると今までにない静けさがこの空間を覆った。そして、一つ二つと拍手と歓声が響いた。

 

「面白かった!!」

 

「私、本が読めるようになりたい!」

 

「僕も読みたい!お姉ちゃん、字を教えて!」

 

見ていた子供達はシャルに群がった。しかし、字を教える時間はな

いため、シャルは子供達の頭を撫でて喉の奥から捻り出すように声を出した。

 

「ごめんね、お姉ちゃんはやらなければならないことがあるの。帰ってきてから教えられるから、ね?」

 

GECKの回収。それがやるべきこと。シャルは本当ならリトルランプライトに住む彼らの世話をしたかった。しかし、それは後回しにしなければならない。

 

「え~!・・・・やだよ、殺人通りなんて行ったら化け物に殺されちゃうよ!」

 

「また他のムンゴと同じように僕たちを置いていくの?」

 

それを聞いたシャルは驚きを覚え、そして涙ぐみながらそれを呟く子供を抱き締めた。

 

「置いていったりしない、必ず迎えに来るから。だから、悪いことしないで皆と待っていてくれるかな。やることが終わったら直ぐに迎えに来るから、ね?」

 

「やる事ってなあに?お姉ちゃん」

 

まだ小学校に満たない子供がシャルの服を引っ張る。俺はそろそろ涙腺が崩壊しそうになるシャルの肩を叩いた。

 

 

「お姉ちゃんはね、ウェイストランドを救う大事な仕事があるんだ。もう夜遅いからシャルお姉ちゃんと俺が旅してきた話で終わりにしよっか。シャルは軍曹とドックミートを集めてくれ。そろそろ、出発しないと」

 

俺は立ち上がるシャルと同時にその場の椅子に腰掛ける。

 

「よし、君達。今の冒険談に負けない武勇伝を話すとしよっか」

 

「え~!おじちゃんよりシャルお姉ちゃんがいい!」

 

え、ちょっと待てやコラ!おれはまだ二十歳も過ぎて・・・いや過ぎたか。そんな若い奴を捕まえておじちゃんとかいうなや!

 

「おじちゃんじゃない。シャルより一歳下なんだぞ、お兄さんって呼びなさい」

 

「どうみても親父だろ!」

 

「髭はえてるしムンゴは頭悪りい!」

 

最近は髭も沿っていないため無精髭が生えている。正直剃りたいのだが、落ち着いたところで剃りたいものだ。子供の住むリトルランプライトでは髭そりなんてものはないため、剃れない。

 

そして頭悪い発言はちょっと許せん。拳骨をお見舞いしたいが我慢しよう。

 

「わかったわかった・・・・・子供は苦手なのに。じゃあ、シャルと俺が何でここまで来たか教えてやる。」

 

俺は話し始めた。口下手なので上手く話せないけれど。彼らは理解していたから良しとしよう。

 

 

そんな話を眺めていたシャルとウェインはクスクスと笑っていた。

 

「ユウキが子供に接してる。あんなに嫌がってたのに」

 

「まあ予行演習なんだろ。いつ作るんだ?」

 

「セクハラよ!・・・・もう少し後かな。ユウキはまだ欲しいとは言ってないけど。私は・・・」

 

シャルは頬を赤らめ、ウェインはそれを可愛らしく思う。もしシャルがユウキとデキていなければ、ウェインはアタックするつもりでいた。会ったときから仲が良かった二人だから少し遠慮していたが、こんな表情をする彼女を見ればどんな男でも惚れるだろうとウェインは思う。

 

「俺もすこし決心がついたよ」

 

「?」

 

呟いたウェインの言葉にシャルは首を傾げる。

 

 

「俺はこの場所に捨てられ、成長してこの場所を出た。子供の頃は心底大人を憎んでいた。でもそれは・・・・親が欲しかったんだろうな」

 

子供に愛情を注ぐ母親、そして苦手でも子供に向き合おうとする父親。それが何であれ、彼ら子供には生みの親が必要だった。

 

「俺は彼らにはもう親を持つ心は無いのだろうと思っていた。だけど、二人を見る限りそうとは言えないな」

 

ウェインはシャルに微笑み、弾薬の入った背嚢を背負う。かなり重いそれはウェインの肩に重くのし掛かる。しかし、彼の背中はここに来る前より幾分か軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

殺人通りとはランプライトの住民が名付けた名前である。数年前に彼らの住みかはスーパーミュータントの大軍に襲われた。普通の兵士でも敵わない奴等に子供達が叶う筈もない。

 

幼少のウェインが指揮を取って殺人通りと呼ばれた区画は閉鎖され、数人の住民が命を落とした。ランプライト住民の住み処の残骸が周囲に散らばり、彼等の遺体が未だ片付けられずに放置されていた。ミュータントはその時武装をあまりしていなかったため、今の封鎖線から今住民が住む住居区を襲うことはなかった。

 

今ではスーパーミュータントはアサルトライフルや爆発物を携行した重歩兵と化しており、危険である。もしも、戦力を集中させれば、残りのリトルランプライトは壊滅するだろう。しかし、知能がそこまで高くないミュータントにそれは出来なかった。一度反撃を受けた彼等は攻撃をしてこず、その場を守ることにしたのだ。

 

 

 

歩哨として配置された最底辺のスーパーミュータントの一体は猟銃を改造したボルトアクションのハンティングライフルを持って周囲を警戒していた。その当たりには一日寝ていても敵は来ないため、サボれる絶好のチャンスであった。しかし、ミュータントは眠ることはせず、任務を着実にこなしていた。彼等は本能的な狂暴な生物であるが、自分のボスや格上の命令には絶対服従だった。

 

 

「ハラガヘッター!」

 

そのミュータントは叫び、腰のバックからラッドローチの肉を取り出して片手で起用に平らげた。その後の胃にモゾモゾと動くような感触がしたが、それを無視して周囲を警戒する。すると、近くの浴槽近くから音が聞こえ、ミュータントは不信に思ってライフルを向けた。

 

「誰カイルノカ?」

 

その問いに答えるものはなく、代わりに転がってきたものが返事だった。ミュータントは転がってきた物を足で受け止める。壊れてしまうことをあまりない頭で考えて足を退かしてそれをみる。

 

其処には小さくプシューと音を立てた破片手榴弾があった。ミュータントは叫ぼうとするがあまりに遅すぎた。内蔵する炸薬が爆発し爆薬に引火する。外装の金属片がミュータントの足を衝撃で千切り飛ばし、見るも無惨な肉片へと形を変えた。

 

「敵ダ!ケイホ・・・」

 

近くにいたミュータントは鐘を鳴らして仲間に知らせるよう叫びたかったのかもしれない。それを叫ぼうとするものの、消音器で減速して発射された5.56mm徹甲弾がミュータントの側頭部を撃ち抜いた。それは強固な頭蓋骨を貫通し、人体の中枢を破壊する。

 

其処には完全武装を施したパワーアーマーを着た男達がいた。

 

「ニンゲン!コロス!」

 

最後のミュータントの雄叫びは周囲のミュータントの興奮剤として働き、敵を取ろうとすべく集まった。パワーアーマーを着た一人は埒が明かないと言って、一旦アサルトライフルを片付けると同じ口径で有りながらもベルトリンク給弾式の軽機関銃を構えた。Mk.48mod0と呼ばれた特殊作戦用に製作された機関銃は硬い引き金が引かれ、嵐のように5.56mm弾がミュータントに降り注ぐ。

 

「kill them all!!」

 

叫ばれたそれはミュータントの殲滅を宣言した雄叫びだった。その宣言通り銃口は増え、発射音が独特なガトリングレーザーも発射される。人間を蹂躙し、食糧としてきた彼等はその予想外の攻撃に驚きを覚えた。そして、彼らが体験したことのない「恐怖」という感情。人間を震え上がらせてきた存在は食糧としてきた人間達によって恐怖を骨の髄にまで感じさせた。

 

「URAAAAAA!」

 

一人の男が雄叫びを挙げながら突進していく。目の前にいたスーパーミュータントにとってその人間の行動は不可解だった。仲間の話では、姿を見るなり逃げるか、後退りながら撃つと言ったものだ。しかし、目の前にいるパワーアーマーを来た男は違った。此方が銃を向けているのに、勇敢に突撃してくるのだ。本来ならそれは蛮勇と呼ぶ。しかし、スーパーミュータントは恐怖した。

 

人間は正体の分からない未知の物に恐怖心を抱く。それはスーパーミュータントでも同じこと。収奪される者、蹂躙され喰われる者としていた者が牙を剥いて突撃してくる。これ程怖いものはない。

 

「クルナ!クルナ!」

 

スーパーミュータントはボルトアクションを向けて発砲する。その弾はパワーアーマーの装甲に弾かれる。至近距離まで接近していた男は腰に差していた日本刀らしき物を抜く。しかし、それは厳密には日本刀ではない。科学技術を結集し、必ず切り裂く「斬鉄剣」。高周波ブレードと強化セラミックとチタンの複合素材を使用したそれはアサルトライフルを弾く。そして、ミュータントの肌はバターのように切り裂く。

 

ミュータントがボルトを引こうとしたとき、男は至近距離まで迫るとボルトアクションを真っ二つに斬り、ミュータントを袈裟斬りする。僅かにずれてミュータントの右肩は切り落とされ、左手で傷口を押さえる。何時もなら反撃をするかもしれないが、得たいの知れない物にどう抵抗できようか。

 

抵抗すれば命は助かったかもしれない。おしむらくは、命が少しだけ死を免れただろう。男の持つ剣がミュータントの首をやわらかいバターを斬るかのように簡単に切り裂かれる。斬られた頭部は宙を舞い、男が刀を鞘に納めたと同時に血が吹き出される。返り血が舞わないよう、男は直ぐに立ち退く。

 

その光景にミュータントは恐怖する。そして彼等は語彙の少ない頭から男達に相応しい名を叫んだ。

 

「アクマ!」

 

「コワイ!」

 

見た目からすれば、ウェイストランドの風土に合わせて色を変更したカーキ色のT-49dパワーアーマーである。悪魔のような容姿は威圧感のあるエンクレイヴのMk.2パワーアーマーが相応しいかもしれない。しかし、彼等は温室で育てられたエンクレイヴの兵士など怖くはなかった。怖かったのは、目の前にいる男達だ。

 

 

ウェイストランドにいる狂暴なスーパーミュータントが撲滅されるまで、彼等の間では悪魔として記憶されることになった。

 

 

 

 

そして、スーパーミュータントに悪魔として語り継がれる男達は・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウキ!なんで刀で突撃するの!あれほどやっちゃダメって言ったのに」

 

「いや、だって使ってみたくね?格好い・・・」

 

「格好の問題じゃない!修練もちゃんと積まないで戦わないで」

 

「素振りしてた・・・」

 

「あれは修練じゃない!」

 

スーパーミュータントを震え上がらせた「悪魔」と呼ばれた存在。その正体は今現在、俺の恋人による説教によって正座している。土下座も何度か行い、言い訳を未だ続ける俺は彼女と言う火に言い訳という油を注いでいるわけだ。

 

 

俺の母、椿も近接戦闘。刀による攻撃が専門だった。もしかしたら、敵からは悪魔だとか鬼なんて言われていたかもしれない。それはさておき、何故俺が怒られているか理由がある。それは彼女による高周波ブレード禁止命令だ。

 

シャルの父。ジェームズはB.O.S.と比較してもかなりの逸材であり、科学分野以外に近接格闘術が使える。もし、彼が道場を開けばウェイストランド中の腕に自信のある者が集うだろう。そんな彼だからか、娘のシャルはある程度のことは教わっていた。その中でもニワカの知識で戦闘することはご法度と教え込まれた。

 

例えば知識のみで柔道をする者と、しっかりと道場で覚えた者。どちらが勝つかといえばやはり後者だろう。知識では実技に叶わず。師範が居なければ、技術の研磨は難しい。競う者や目指すべき者がいれば変わってくる。

 

高周波ブレード、つまり刀に関して、俺は例えをそのまま使うなら前者。「知識のみの者」に当てはまる。素振りと言ってもバットや中国軍将校の剣を使ったり、シャドーバトルする。しかし、それはしっかりとした基礎が出来ているのみでその他の技は映画などから収集した知識である。そんなニワカではいずれ怪我をする可能性が大だった。

 

無論、ウェイストランドでは仕方なしにその未熟な技術を駆使して生き残るのもまた事実であるが、俺のように選択肢があるならば確実な方を選択するのが普通である。得意の射撃も然り、これはVAULT内の訓練で習得し、ウェイストランドで磨いた経験でもある。剣術も経験を積めばうまく扱えるかもしれない。だか、実戦によっての経験の積み重ねは危険である。それをするよりも、訓練を行った方が安全だ。

 

「シャルロット、流石にあいつも懲りただろうし許してやれよ。結果として、あいつはミュータント達に恐れられたんだからさ」

 

ウェインは未だに怒るシャルを落ち着かせるべく、リトルランプライトの住人が売っていたひんやりと冷えたヌカコーラを渡した。シャルはそれを受け取り、ナイフで栓を抜いてグビグビと飲む。

 

「・・・・ング・・・ゴクッ・・・プハッ!分かった、でも次やったらもう許さないから」

 

ヌカコーラで機嫌を直したシャルは俺にそう言い、俺に捕まらせるよう手を伸ばす。俺はその手を掴んで正座していた足で立ち上がった。

 

「足が痺れてピリピリする!」

 

「自業自得よ」

 

周囲はランプライトの住民がいたとおぼしき残骸があった。白骨化している子供の死体があるが、ミュータントが攻撃を仕掛けたときに逃げ遅れたに違いない。

 

洞窟内の安全を確保した俺達はVault87の入り口近くに軍曹とドックミートを歩哨として配置している。もしミュータントが来れば、プラズマ粘液か炭か肉片としてそこら辺に転がるだろう。

 

掃討が終了して、ウェインはランプライトから数名戦える子供を呼んでここの警戒を任せた。ミュータントの持つアサルトライフル等は軽く整備して、幾らか割引きしてランプライトの子供達に売った。先程まで使っていた武器の手入れも行い、弾薬の補給も済ませると、一度Vaultの扉近くに集まった。既にミュータントは敗走し、vaultの中に隠れてしまった。扉は封鎖されたが、核分裂バッテリーを動力源にして扉を開こうと思えば、簡単に開く。

 

 

「室内だから死角に気を付けろ。フレシェット弾はミュータントにあまり効かない。5.56mmの徹甲弾なら貫通する。それかガトリングレーザーなどのレーザーは貫通力があるからいける。殺すときは頭を狙え」

 

室内の近距離戦闘ならショットガンなどが有利だが、洞窟よりも狭い空間であるため、長物はかさ張り、ショットガンは貫通力に欠ける。アサルトライフルの銃身を切り詰め、伸縮銃床に変えたCQB仕様のアサルトライフルにして、ホルスターには10mmピストルよりも貫通力のあるFN5.7と呼ばれる拳銃をいれる。

 

FN5.7はP90に並行して作られた特殊作戦用拳銃であり、口径はP90と同じ5.7×28mm弾と他の拳銃と比べて大きい口径を使用する。拳銃だけでもボディーアーマーを貫通する能力があり、いざというときにはそれが使える。ジェファーソン記念館ではホルスターから出した10mmピストルはミュータントに有効ではなかったためだ。5.56mm弾を貫通しないミュータントには、5.7mmでも貫通することはない。しかし、10mm弾よりも素トッピングパワーが優れていることを考えれば、選択肢としては取らざる負えないだろう。

 

ウェインもガトリングレーザーを下ろして、ストックレスタイプの中国軍アサルトライフルを持つ。

 

「俺とウェインが前衛だ。ミュータントが突貫した場合は交代して後ろから来るシャルと軍曹の一斉射撃でトドメを差す」

 

おれはそう言うと、ハッチの右にあるスイッチに手を掛ける。シャルやウェイン、ドックミートに目配せし、全員の準備が出来たことを確認してスイッチを押した。

 

ミュータントが後退する際に閉めたと思われるハッチは埃を舞い挙げながら開いていく。ウェインは開いていく隙間から銃口を覗かせ、扉の向こう側に敵が居ないかどうか確認する。

 

「扉の向こう側はクリアだ。ゆっくり開けよ」

 

ハッチの配電盤を開いて、配線を弄りながらゆっくりと扉を開く。アサルトライフルにくくりつけたライトを照らしながら、ウェインは扉の向こう側を確認して、扉が人が這って通れるようになる隙間から上半身を覗かせる。

 

「よいしょ、扉には・・・・ヤバい!」

 

確認したウェインは叫ぶ。それを聞いた軍曹は熱核ジェットを吹かしてウェインとロープで結んだ蛸足を引っ張る。

 

瞬時にウェインは扉の向こう側から救出されるが、爆弾は既に秒読みに入っていた。

 

「扉の向こうに爆弾が!」

 

ウェインが叫び、俺は咄嗟にハッチを閉じてしまう。ハッチの裏側に仕掛けられたC4爆薬は扉が閉まると同時に電気信管が作動。爆薬が爆発した。

 

ハッチが吹き飛び、俺は爆風によって吹き飛ばされる。いくらパワーアーマーを着ているとは言えど、爆発の衝撃波や金属片による損傷は着ていた身体まで影響される。

 

近くにあった砂利に俺は後ろ向きで倒れ、飛んできた扉にぶつかる。一瞬意識が飛び掛け、パワーアーマーのHUDが真っ黒に染まる。

 

耳鳴りと視界が真っ暗になり、パニックしかけたが太股に刺さった金属片による痛みで意識が覚醒する。

 

爆薬は開閉によって一時的に動作が止まる所にトラップを取り付けたに違いなかった。ミュータントにこんなことが出来るのは想定外だ。

 

 

「ユウキ!」

 

シャルの叫び声が聞こえたが、後ろで待機させておいて幸運だった。今の爆発ではコンバットアーマーを着ているといえ、即死してもおかしくない。

 

足の動力を腕に回し、腕の力で覆い被さっていた扉の残骸を退かす。そして映らなくなったパワーアーマーのヘルメットを脱ぎ去ると、目の前の廊下から走ってくる者に驚く。

 

「クソ!オーヴァーロードだ!撃てぇ」

 

 

 

スーパーミュータント・オーヴァーロード。マスターと呼称されるミュータントの上位種よりも凶悪な個体。一説ではベヒモスの第一形態とも言われる種類であり、その説を裏付けているのが耐久性と生命力だ。

 

咄嗟にアサルトライフルを拾おうとするが、爆発の衝撃で銃身から歪み、丸焦げであった。ホルスターに収まったFN5.7を抜き取って、安全装置を外し、引き金を引いた。10mmよりも衝撃が強いそれはピリピリと痛みが走るものの、それに構う余裕はない。

 

貫通力であれば5.56mm弾も凌駕する5.7mm弾はミュータントの顔面に命中し皮膚を抉った。

 

「ニンゲンメ!オトナシクシネ!」

 

オーヴァーロードは背中に抱えていたトライビームレーザーライフルを俺に向けて構える。5.7mm弾は効いてはいるものの、痛覚が麻痺しているのか反応は薄い。撃つのを止め、オーヴァーロードの持つライフルの照射口へと銃口を向ける。引き金を引き、貫通力の高い弾丸はライフルのレーザープリズムレンズを割り、内部のフュージョンセルを破壊した。フュージョンセルは爆発し、オーヴァーロードの腕は吹き飛ぶ。周囲に肉片が散らばり、どろりとした血が床を汚す。

 

「ウデヲ!コロシテヤル!」

 

その目はまるで獣の目。そこにいれば喰われることは明白だった。震えと冷や汗が一気に流れ、持っていたFN5.7を見る。スライドは後退し、弾倉は空になっていた。

 

「オイオイ、勘弁してよ」

 

ホルスターの横にあるマガジンポーチから新しい弾倉を取り出そうとするが、手が震えて弾倉が銃の中に入らず、焦る余り落としてしまう。

 

「食ッテヤル!」

 

ミュータントは口を開いて、手を伸ばそうとする。食われて死ぬのだけはごめんだ!落ちた弾倉を拾い、急いで銃に挿入してスライドを戻し、引き金を引こうとする。その瞬間、無数のレーザー光線がミュータントの上半身に命中する。

 

「軍曹、制圧射!頭を狙え!」

 

ウェインは軍曹に命令し、持っていた中国軍ライフルを撃ち、RL-3軍曹の蛸足に繋がれたガトリングレーザーがオーヴァーロードの上半身に命中する。磨かれた六連装のプリズムレンズから放たれるレーザーは皮膚を焼きつくし、筋肉から内蔵器官に至るまで串刺しにする。

 

「イタイ!!!ガハッ!」

 

レーザーの数本がミュータントの喉と頭部に命中し、ぐらりと姿勢を崩して倒れる。倒れた衝撃で降り積もった埃が舞い上がり、ドスンと周囲に響いた。

 

「ユウキ!無事か!」

 

ウェインはパワーアーマーのヘルメットを外して叫ぶ。

 

「無事と言いたいが、パワーアーマーがボロボロだ。太股に刺さってる鉄筋を抜いてくれ!」

 

「軍曹、入り口の警戒を!ドックミートはそれを補佐!」

 

ウェインはパワーアーマーの胸の取っ手を掴み、パワーアシストを最大にしてそこから離れる。気が抜けたと同時に右太股に激痛が走り、腰に取り付けていた個人用救急キットからモルパインを取り出した。しかし、露出しているところが無かったため刺すことが出来ず、痛みを噛み締めるしかない。

 

「ユウキ!・・・ウェインはユウキを落ち着かせて。足の装甲を外すから」

 

良く見れば自分の手と同じ大きさの鉄筋が足に突き刺さっていた。それを見て平常で居られるか。俺は上半身を起こそうとするが、ウェインによって止められる。

 

「落ち着け、大丈夫。大したことないから」

 

こいつは何を根拠にそんなことを言っているのか。

 

自分の腕の大きさの鉄筋が突き刺さって大丈夫と言えるのなら、こいつの腹に突き刺さっても平然としていられるだろうに

 

「大したことないわけないだろ!」

 

「動かないで!」

 

とうとう二人の力では抑えきれないので、犬なのにミュータントと接近戦では互角のドックミートに身体を固定される。

 

「やっと足の装甲が外れた。ウェインこの装甲を持って、」

 

動こうとする俺を戒めるようにドックミートは俺の頭に前足をおいて動かないようにする。犬の癖にミュータントと戦闘しても単独で勝ってしまうので、かなり力が強く頭を押さえられただけで頭は動かない。すると足に麻酔を刺したような痛みが走り、すぐに痛みが抜ける。

 

「シャル、足はどうなってる?」

 

「突き刺さった鉄筋と装甲と内部の対ショックジェルが凝固してる部分があるからそれを取り除くわ」

 

シャルがそう言うと、ウェインは胸に装着したコンバットナイフを取り出した。

 

「痛いが我慢しろよ」

 

そう言うと、鉄筋がゆっくりとぐらついて足が動くような感覚が走る。

 

「よし、抜くぞ!1~2の・・・3!・・・あら?」

 

「え、嘘!」

 

「え、なんだよ!どうなったんだ!」

 

 

気の抜けた声と驚いたような声。

 

只でさえ、気が動転している俺はパニックに陥る。

 

「ど、どういうことだ!ドックミート邪魔!」

 

ドックミートはもういいやと言わんばかりに俺の身体から降りる。上半身を動かして怪我をした下半身を見ると、鉄筋の刺さっていた場所は軽い切り傷程度の物だった。

 

「え、だって鉄筋が刺さってたんじゃ?」

 

「装甲の上からだ。装甲と対ショックジェルが衝撃を吸収して足を貫けなかったらしいな。運の良い奴だ。それにしても、これしきのことで動転するなんて驚いたよ」

 

「ちょっと、ウェイン!人は思い込みで痛みを増幅させてしまうわ。装甲の上からだと、傷がどんなか分からない。だからイメージしてしまい、その分想像した痛みが脳で再現されたと考えた方が良いかもね」

 

「つまりは思い込みで痛い痛いと言ってたわけか」

 

何と恥ずかしい話か。

 

恥ずかしさのあまり顔が熱くなるのを感じる。ウェインは笑ってるし、ドックミートに至っては「何だそんなことか」と残念そうな感じだ。

 

「誰だって思い込みはあるわよ。多分・・・・」

 

「フォローになってないよ、シャル!」

 

最後に言った言葉はある意味で反対な意味になるのをお忘れなく。Vaultに入るまでの二十分弱、俺は羞恥心と戦いながら、どうVaultを攻略するか考えることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(整備兵は第二発着所から退避。早くベルチバードを離陸させろ)

 

 

 

 

(こちら第二発着所、油圧が不安定なため離陸不可能です)

 

 

 

 

 

レイブンロックの内部にある隠蔽型ヘリポートにはVB-02ベルチバードが離陸準備に入っていた。しかし、後続機であった二機は既に離陸したものの、一番機は未だに機体の不具合で離陸できないでいた。

 

「仕方ない。二番機のブレイマー中尉に命令し、二機でVault87周辺を空爆しろ」

 

「了解、こちらLightning leader。commanderより命令。Lightninng2及び3は二機でVault87の敵性生物の排除に移れover」

 

(了解した、Lightninng1、これより作戦空域に移動out)

 

ベルチバードには士官服を来たアリシアの姿があった。後ろにはヘルファイアパワーアーマーを着た重火器兵やテスラアーマーを装備した光学兵器兵の姿もある。

 

アリシアは考えていた。自身の選んだ選択が本当にこれで良かったのか。もっとよい選択肢はなかったのかと。両手で作った拳を額に着けて考え、離陸の時を待つ。

 

「中尉、参謀本部のオータム大佐から連絡です」

 

ヘリのパイロットは彼女にヘッドセットを渡した。

 

「アリシア中尉です。代わりました」

 

「オータムだ。多分、命令が来るだろうが先に伝えておく。Vault87に入ったら、G.E.C.Kと手配中の二人を拘束したまえ。生きたまま捕らえるのだ」

 

「彼らと一緒に居ると思われる人物はどうします?」

 

「拘束して連れてくるのは彼らだけで十分だ。残りの処置は君に任せる。それと・・・・この通信は誰か聞いているか?」

 

そう言われたアリシアはパイロットの二人に秘匿回線に切り替えさせ、ヘッドホンのソケットを抜くよう指示する。

 

「いえ、だれも聞いていません」

 

「分かった・・・・・、これは秘密事項だが現在エンクレイヴ内部では大きな政治紛争が起きている。そして今も内部分裂の危機が直ぐそこまで迫っている。君には一人の下級将校に過ぎないかもしれない。だが、君のお父上の意志を考えて行動して欲しい。」

 

「そ、それは・・・・・」

 

それは参謀本部のトップから出るセリフではなかった。反逆罪で処刑された将軍の娘という存在のアリシアに対し、その父の意志を考えてとは反乱を企てる人間ならともかくとして、彼は大統領の側近であり、現職の高級将校だった。

 

彼女も幼い頃にオータムとは多少面識がある。しかし、彼女からしてみれば母や自分を助けてくれなかった人物としかみていない。敵としてはみていないが良い人物とは思っていない。

 

「私は父が犯した過ちを直そうと思う。・・・・君の父上がしようとしていた事を次は私が実現させる。君が関わりたくないのであれば、それでも構わない。その時はこのことを口外しないで欲しい。」

 

アリシアの父、ウィリアム・スタウベルグ少将。元アメリカ合衆国空軍ポッターミサイル基地司令は東部のエンクレイヴを総括していた人物であり、穏健派のトップとして東部では人望が厚い。元々、東は西から左遷された将校が配属されることが多く、ナヴァロより東はあまり優遇されていない。

 

西にいた総司令部のポセイドンオイル基地が陥落して以降、生き残った多くの部隊は東側の部隊を強引に自身の配下に押さえた。そして、当時は封鎖されていたレイヴンロックを解放して、総司令部としシニア・オータム中将を合衆国統合軍参謀総長に就任して『ジョン・ヘンリー・エデン大統領』を合衆国大統領に就任させた。

 

西側の強引な行動に東側のエンクレイヴは不満や反発をする。エンクレイヴを二分するかに思われたが、西側による東側の大粛正によって沈静化した。「国家反逆」と言う国賊の烙印を押して。建前であれば、周囲に対し「父が国賊になって申し訳ない」とエンクレイヴという組織、アメリカ合衆国政府に対して恭順の意志を表明しなければならない。

だが、彼女の気持ちとしては父に幾ばくかの恨みもありながらも、同時に家族で生活することが出来なかったのかと深い悲しみが募っていた。

 

オータムの言うことが正しければ、彼が率いる東側の将校や穏健派は行動を起こす。それは正統な合衆国政府と考えれば、南北戦争から実に400年が経過していた。

 

「わ、私は・・・・・・・。」

 

アリシアは言葉を詰まらせる。既にエンクレイヴに対する忠誠は無いものである。彼女を動かしているのは、悲しみや後悔と言った類いだ。ユウキ達追跡の任がなければ、彼女は持っていたプラズマピストルをこめかみに付けて引き金を引いたことだろう。

 

彼女は自身の選択が間違っていたことに後悔を抱いていた。もし、出来るのならエンクレイヴから離反して彼の元へ行きたい。だが、エンクレイヴの能力はウェイストランド全土を手中に納められるほどの能力がある。逃げることはおろか、敵前逃亡として銃殺刑だ。

 

今回の任務で彼らを連行し、説得する。その時エンクレイヴはどちらかの勢力が掌握している事だろう。どちらが良いかはアリシアが良く分かっていた。

 

「私は父の意志を引き継ぎます。ですが、一つお聞きしたい。オータム大佐は今回の任務で連れてくる彼等に危害を加えませんか?」

 

「約束しよう、危害は加えない。浄化プロジェクトはエンクレイヴ主導で行うが、我々が行わなければどうなるか分かる筈だ」

 

エンクレイヴと言う組織は一枚岩のアメリカ浄化を目的とした極悪集団ではない。穏健派やウェイストランドの救済を考える者もいる。ウェイストランドに住む人々には徐々に受け入れられている。それはユウキ達にも理解できることだ。そして、BOSよりも高い技術と人材、資材がある限り、エンクレイヴの方が活用出来るだろう。

 

「分かりました。任務に変更はございませんか?」

 

「いや、ない。だが、私以外の高官の誰かが一緒に来る可能性がある。もう少し待ってくれ」

 

 

オータム大佐との通信を切ると、アリシアは命令通り待つことにした。

 

そしてその一方、オータム大佐はオフィスを離れ、レイヴンロックの司令室に赴いた。最高クリアランス(機密保持)である大統領執務室の隣にあるそこの出入り口にはパワーアーマーを着る二人の警備兵がいる。

 

「大佐、IDと網膜センサーのチェックをお願いします」

 

警備兵は敬礼し、警備兵がもつセンサーに大佐の持つクリアランスカードを差してロックを外して、銃の形の網膜センサーで顔を近づける。

 

「壁に設置すれば楽なんだがな」

 

「申し訳ございません、大佐」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「IDと網膜、共に異常ありません」

 

チェックが終わると、警備兵は敬礼し、オータム大佐は返礼すると扉の向こう側へと行く。自動的に扉が開き中に入った。

 

 

(こちらLightninng2、Vault87付近の敵性勢力の排除を確認。降下地点はまだ高い放射能で覆われている。高いところで数百RADも浴びるぞ!司令部、放射能除去剤を要請する!Over)

 

「こちら司令部、Lightning1は修理が終わり次第発進する。出発前に爆倉に中和剤を装着する。燃料の節約のため付近に着陸できるか?Over」

 

(ああ、出来る。一キロ先にあまり壊れてない幹線道路がある。そこに駐機する。Out)

 

 

そこはゲームで見たことのあるユウキならば仰天することだろう。大統領執務室に通じる扉は警戒ロボットと警備兵数名によって完全に封鎖されている。そしてその司令室はゲームと違ってスペースが拡張されていた。

 

中央には立体映像で大きなウェイストランドの地図が写し出され、部隊が何処にいるのか把握できる仕組みになっていた。そして、それを囲むように作戦オペレーターがコンピューターを弄りながら、実行部隊に指示を与えている。ユウキが見れば「どこの甲殻●動隊?」と言うかもしれない。

 

「こちらHQ、Golf2-0。応答せよ、定時連絡が遅れているぞover」

 

「Tango leader、民間人への攻撃は許可されていない。衛星で確認している。直ちに射撃を中止しろ!」

 

「支援要請受信、座標コードを砲兵隊へ送信中。後30セカンド」

 

ウェイストランドの各地に散らばっているエンクレイヴの部隊の情報は司令部に送られ、司令センターで命令を出す。ウェイストランドの広大な領域の地図を囲んだオペレーターはその部隊に適切な支援や注意、そして命令を下す。オータム大佐はその司令センターがかなり多忙であることを横目で見つつ、中央の地図盤の近くに行った。

 

そこにはエンクレイヴの首脳陣が揃っている。ポセイドンオイル基地崩壊以降、生き残った高官は上の空いた席を高い位の順に当てはめた。しかし、例外も存在している。オータム大佐の父であるシニア・オータム技術少将は他の将軍を差し置いて参謀総長になった。現在は隠居しており、実権は息子のオータム大佐が握っている。その他の将軍などは他の役職を得ており、権力争いでオータム大佐が失脚と言う展開もあるかもしれない。しかし、実際に一人の将校がオータム大佐の失脚を画策し、それが実行に移された。しかし、大統領主導でそれは裁かれた。

 

東にいる将軍数名は先の粛清によって死亡している。残っている将軍も片手で数える程度だが、政治的には余りにも弱い。

 

 

 

「オータム大佐、浄化プロジェクトの進捗状況はどうなっている?」

シニア・オータム少将の後を引き継いだ傀儡の参謀総長であるジョセフ・ドライゼン中将は穏和な表情で訪ねる。

 

殆んどの実権はオータム大佐が持っており、その参謀総長たる役職は形骸化している。ドライゼンは穏和そうな壮年の男で髪は薄く、エンクレイヴ軍の上級指揮官にはあまり見えない。彼にもエンクレイヴのトップになりたいという願望があるが、彼の場合は自分の技量を大きく逸脱していることを知っていた。最高権力者である大統領になっても、エンクレイヴを崩壊に導くだろう。なったとしても傀儡として居座るのが目に見えていた。

 

東の将軍の中で最後の生き残りの彼は中立の立場を保っていたことが彼の命綱だった。

 

粛清以後はその責任を取ってシニア・オータム技術少将が辞任し、後釜はオータム大佐となった。しかし、佐官であったため、軍のトップである参謀総長はドライゼン中将が就任していた。

 

 

「現在、情報局のスタウベルグ中尉は第二航空団のLightningと共に作戦行動中です。あと十分程で出発するとのこと。三時間ほどでG.E.C.Kとパスワードを持って帰ってくることでしょう」

 

「それはいい。よくやった大佐」

 

中央の立体地図は消えてジェファーソン記念館の様子が映される。そこはユウキ達がやったよりも強固な陣地が築かれ、コンクリートで作られたトーチカや装甲車から85mm砲を取り外して砲台を設置していた。航空部隊の対処をする必要がない彼らの装備は少なく、兵士の数も少ない。しかし、完全武装のパワーアーマーの兵士と戦闘ヘリや装甲車などを持つ彼らに攻撃することは自殺行為に等しい。

 

その様子を見ている矢先、エンクレイヴの首脳陣の中から一人の男がオータム大佐の元へ近づいた。

 

「オータム大佐、情報局のハワードです。私の部下のヴェルスキー少佐をスタウベルク中尉と同行させていただきたい。」

 

陰湿な雰囲気を持ち、細い眼光を放つ情報局に在籍するハワード中佐はオータム大佐の目の前に立った。後ろには彼と同じような種類だと伺える佐官用のコートを着たヴェルスキー少佐が立っており、上司の前だと言うのに態度が悪かった。

 

「なぜ情報局が?参謀本部の行う作戦に何か不服でも?」

 

首脳陣の中でも老練の将校はハワード中佐を問いただす。

 

「いいえ、これは大統領命令に基づく要請です。大佐ご自身でお確かめになられては如何ですか?」

 

「な、何だと?」

 

オータム大佐は驚きを隠しきれなかった。

 

ジョン・ヘンリー・エデン大統領は前大統領のように暗殺されるのを防ぐため、声のみしか公開されていない。彼の姿を知るものはオータム大佐を含め、技術局局長と隠居しているシニア・オータム少将だけだ。

 

そんな彼が情報局に命令を下すのは、前例がなかった。そしてオータム大佐はすぐに大統領の発案するプランが頭を過る。

 

それらは、もし首脳部の耳に入れば危険だと声高々に叫ぶだろう。エンクレイヴ内でもかなり大きい派閥である大統領支持派ですら、自身の派閥を脱退してしまうかもしれない。それか、自身が大統領になろうと群雄割拠の内部崩壊が待ち受けている。

 

「わかった、構わない。しかし、作戦の指揮はスタウベルク中尉にさせる。ヴェルスキー少佐は見ているだけだ」

 

「大丈夫です、彼らに二三の質問をするだけですので大したことはありません。情報局の欲する情報さえあれば、BOSなど簡単に排除できるでしょう」

 

大統領を狂信的なまでに信奉する彼らの一人であるハワードはニヤリと口許を歪めて微笑んだ。

 

一体、今の大統領のもくろみを知っている者はこの中にいるのだろうか。それはオータム以外、誰もいないのかも知れない。その目論見は地球上の生物を死に至らしめるもの。核戦争から200年あまり。やっと、人類が復興の兆しが見え始めたと言うのに、旧世界の亡霊がその希望を消し去り、生命のいない荒廃した世界を造り出そうとしている。

 

それを知らない彼らに罪はない。選民思想を持つ西側将校や大統領支持派は大統領の目論見を知れば、賛同する者は大半だろう。その時は彼らを止めればならない。そして、それはすぐそこまで迫っていた。

 

(南北戦争から400年・・・・、合衆国なき今も亡霊同士で殺し合いか)

 

オータム大佐が思い浮かぶのは、ホロテープや歴史の書籍で読んだ南北戦争についてのこと。工業地帯を含む保護貿易を望む北部とプランテーション農業を行う自由貿易を望む南部とのアメリカ内戦。今後のアメリカを左右する最大の戦争だったが、今よりはまだましなはず。何故なら人類存亡を掛けた内戦ではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GOOOOODMOOONING!ウェイストランドゥ!!

 

今日は朝一番のニュースをお届けするよ!

 

今日は何でそんなにご機嫌かって?戦前の古いホロテープを見たのさ。そこにはラジオDJでどんな面白いことが言えるかがわかったんだ。だから、リスナーには面白い放送をお届けするぜ!

 

さて、情報によるとBOSの極秘作戦が進行中だ。何がだって?これを言ったら今行われている作戦に支障がでちまうから言えないよ。だが、これは正義のための戦いだと言っておこう。

 

次にここから北にあるのカンタベリーコモンズからの連絡だ。

 

とうとう此処にもエンクレイヴがやってきやがった。そこでは悪の蟻使い、アンタゴナイザー。そして街を守るロボット使いのメカニストが熾烈な戦いをしていたのさ。

 

エンクレイヴが何をしたのかって。軍事用語で言えば「鎮圧」だ。まず、アンタゴナイザーの住みかに毒ガスを・・・以上だ!何、町の様子を聞きたいって?大丈夫、街は無事だった。メカニストはエンクレイヴの警戒ロボットなどを整備することで財を成しているようだ。そしてアンクル・ロエのキャラバン商社はエンクレイヴの要請に答えた。これでエンクレイヴの勢力がまた増えやがったよ。

 

 

 

 

聞いてくれて感謝する!こちらはギャラクシー・ニュース・ラディオYHAhaaaaaa!

 

さて、曲を掛けることにしよう。これは聴いてて中々楽しい曲だ。

 

Creedence Clearwater RevivalのFortunate Son。聞いてくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字ありましたらご指摘のほどお願いします。

ご感想指摘ありましたら、執筆速度が通常の三倍になります。


次回の投稿は今月までに(←何処の政党の公約ではあらずww)


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三十七話 Vault87 中編

やっとこさ完成しました。


11月に投稿するとと言ったが・・あれは嘘だ(ノ`∀´)ノ=ヽ(゚ロ゚;)キェーッ!


ゲームに転生したオリ主とか、今更言うけど書きにくいっすね。ゲームのイベントを驚かないで対処しちゃうので。

寧ろ、ここで驚かねばダメだろ!ってなります。

なので、作者の執筆skillと話の都合上「記憶を忘却していた」という設定にしています。





Vault82の内部を簡単に言い表せるなら「廃墟」。整備や清掃は全く行わず、血潮がベットリついた壁を掃除しないためか、壁は錆びて変色している。そして、ミュータントの弁当箱とも言えるゴアバックには人間の破片とおぼしきものが詰められ、直視するだけで胃のものを吐き出してしまいそうだった。

 

 

そんなごみ溜めに相応しいその場所に新たな臭いが追加される。戦前に生産された小口径ライフル弾の硝煙とスーパーミュータントが吹き出る血潮。

略取する者からされる者へと代わった彼らに抵抗するという行動は存在しない。彼らの人間だった頃の感情「恐怖」が発現し、レイダー。いやそれ以下の存在に転じていた。

 

 

ウェインの持つレーザーガトリングが最後の抵抗を試みようとするミュータントの身体を引き裂き、退却しようとするミュータントには俺が腰だめで撃った5.56×45mm徹甲弾が命中し、絶命させる。

そこにいたミュータント達は何も言わぬ亡骸となった。

 

 

「Clear!」

 

「生命反応は・・・ないな」

 

パワーアーマーを装備するウェインは軽々とレーザーガトリングを構える。その後ろから隙間を埋めるように、CIRASボディーアーマーを着た俺はMk.48mod0を構えつつ、ウェインの死角を埋める。

 

後ろからはコンバットアーマーを着たシャルと犬用ボディーアーマーを装着するドックミート。そして倉庫扱いのRL-3軍曹。

 

何故軍曹が倉庫扱いと言うと、先の戦闘で武装が全て破壊されてしまったからだ。ブービートラップが作動して、俺はパワーアーマーの重装甲のお陰で事なきを得たが、軍曹はトラッキングセンサーを爆発の破片で破壊されてしまった。更に射撃管制装置や火焔放射器まで。プラズマガンだけは撃てるものの、時間が経つにつれて銃身に亀裂が入っていたため使い物にならない。オーヴァーロードが来た時はガトリングレーザーを装着し、制圧射撃をしたものの。あれは運が良かっただけ。もし悪かったなら、奴と一緒にレーザーの蜂の巣になっていたに違いない。

 

修復不可能な物は全て捨てて完全な移動貨物車両として動いていた。軍曹の積載ブロックにはミュータントの使っていたライフルや手榴弾などの爆発物をのせている。量は一個分隊規模に登るだろう。全て解体してバラしているのでそこまでの量ではないが、帰ったら武器屋のスペアパーツとしよう。もっとも店があればだが・・・・。

 

 

「ここら辺が研究施設の区画か。敵の量も段々増えてきたな」

 

ウェインは空の充電パックを投げ捨てると、充電してあるパックを装填する。研究区画の扉を開けたらいきなりミュータントと遭遇した。損傷はなかったが、弾薬の消耗が激しかった。徹甲弾は皮膚の硬いスーパーミュータントを貫通できる。しかし、その弾薬はサルベージしてもそうそう出てくることはない。FMJ弾は見つかるものの、貫通力の高いものはそうそう無いのである。ミュータントが希に持っているが、Vault82のミュータントは一発も持っていなかった。高出力のレーザーなら硬い皮膚も貫通できるが、効き目は徹甲弾の半分ぐらいだ。

 

「ミュータントは奥へ後退したらしい。ゆっくり進んでいくぞ、ブービートラップに引っ掛かって死ぬのはごめんだ」

 

「もう引っ掛かってるからね。」

 

茶化すようにシャルは悪戯っぽく笑みを浮かべた。重症だと思っていた俺は叫んで暴れたものの、本当は軽く皮膚を削った程度だったのだから。馬鹿にされても仕方がないと言えば仕方がない。かなり恥ずかしいけど・・・

 

ウェインを戦闘に周囲に銃口を向けながら警戒をする。研究区画は他の区画以上にボロボロであるが、幾つもある内の一つの実験チャンバーには今まで見たことがないミュータントがいた。

 

「ユウキ・・・あれ」

 

シャルが指差したのは、封鎖されたチャンバーで生命反応の無いミュータントらしき物体だった。それは今まで見たミュータントではなく、ピンクっぽい色をしていて、肉の塊と表現すればいいかもしれない。それの下半身は青いレザースーツが確認できた。

 

「これってまさか・・・Vaultスーツか」

 

19年間着ていたのだから、それが何なのかはっきり分かる。全米のVaultで使用された住民の着るスーツ。下半身は筋肉が拡張したためパツパツであるが、肥大化した上半身は耐えきれずに破けている。pip-boyで確認するが、生命反応はない。

 

「頭に弾痕があるな。ミュータントが殺したのか?」

 

「同族で殺しあったのか?聞いたことあるけど、本当にやってたとはな」

 

変異した者の頭部らしき部分には確かに弾が貫通した部位があった。スーパーミュータントは部隊の頭を決めるため殺し合いをすることがあると聞く。ミュータントの成れ損ないかもしれない。

 

すると、奥で物音がして瞬時に皆その方向へ銃口を向ける。

 

「ウェインが先頭、あとは後ろに。ステルスで進む」

 

チャンバーに次弾が装填されていることを確認すると、弾倉のふたを開いてどの程度入っているか確認した。まだ、百発以上残っていることを確認し、腰を低くして銃口を音がしたその方向に向けつつゆっくりと前に歩き出す。

 

「ヤツラマタデキソコナイウッタ」

 

「ホッテオケ」

 

ウェインは左手でハンドサインを作る。拳を握ったそれは「待機」。そして左手で払うかのような動作は「散開」の意味を持つ。

 

「引き付けて撃て・・・・」

 

 

安全装置を外し、ミュータントの頭部が見える位置に銃口を保つ。アサルトライフルよりも重いそれは維持するのは難しい。地面に這いつくばって二脚を広げて銃口を来るであろう場所に向けた。

 

そして曲がり角から中国軍バトルライフルを持つスーパーミュータント・マスターが現れた。

 

「FIRE!!」

 

そう叫んだ俺は重い引き金に指を掛けて思いっきり引いた。毎秒二十発もの弾丸がミュータントの身体を突き刺す。5.56mmの弾丸とウェインの放つ無数のレーザー光線がミュータントの身体を引き裂く。その音を聞き付けたミュータントは仲間の敵討ちとばかりにアサルトライフルを持って、射線上に身を乗り出すが、ミイラ取りがミイラになるように蜂の巣となった。

 

「撃ち方やめ!敵は死んでる」

 

生体反応を失ったミュータントを確認すると、俺とウェインは手持ちの武器でミュータントの頭部を完膚なきまでに叩き潰した。ライフル弾は至近距離で撃てば人間の内蔵などミートパテになる。頭を撃てば、こっぱ微塵になることは確実だ。そして、ウェインはパワーアシストされた足で頭部を踏み潰す。

 

ミュータントは生命力が高く、生命反応が無くなっても生きていることがまれにある。脳髄を破壊すれば如何なる生物も生存できないため、止めを刺さねばならない。

 

「ゆっくり移動する。慎重にな」

 

ミュータントが突貫することを予期しつつ、銃口は構えながら進む。曲がり角を曲がり、開閉ハッチがあったので内部に入ると、そこは研究施設の受付らしかった。

 

「シャル、情報収集だ。ドックミートとウェインは周辺警戒を頼む」

 

軽機関銃を下ろし、俺とシャルは周囲に散らばった書類や放置されているコンピューターを起動する。

 

「医療物資の配送に鎮静剤、拘束衣・・・・この量はどっかの精神病棟みたいだな」

 

「パソコンにはある薬品を投与して死亡した人を事故死として扱っているみたい。凄い量よ・・・・これ」

 

俺は散在する書類を見ており、シャルはパソコンに記録されているリストを見る。そこには、Vaultの内部で死んだ人達のリストがあった。その薬剤とは一体何なのか分からなかったが、この研究施設を探っている内に明らかになるだろう。

 

「ミュータントはやっぱりここから来ているのかもしれない。この薬剤もここにあるのかも」

 

シャルはスクリーンに映されたリストを見る。Vault-Tecが作ったVault核シェルターは人類を生存させるために作られたものではない。彼らは核戦争後に法的にも禁止された研究を行うために入居者を実験台にしたのだ。Vaultそのものが人間を検体とした大規模な実験場だった。ここのスーパーミュータントもこのVault82で研究された物の一部なのだろう。

 

「G.E.C.Kを回収次第、撤収しないといけないが。エルダーにここがミュータントの生まれた場所だと教えないとな。」

 

必要な情報をPip-boyに転送し、置いていたMk.46を拾い上げる。

 

「ウェイン、先頭に立ってくれ。前進しよう」

 

パワーアーマーを着るウェイン先頭に、ミュータントを掃討しながら進んでいく。研究区画に入って以降、何体かのミュータントに遭遇したが、レーザーや徹甲弾で蜂の巣にして進む。殺人通りでミュータントに恐怖を植え付けたことが原因か、これといって目立つ抵抗をすることなく前進し続けた。しかし、進む度に遭遇するミュータントはそこら辺のレイダーとは違って正確に攻撃を仕掛けてくるし、数が多かった。

 

 

「ここまで来ると、市街地のとは比べ物にならんな」

 

 

「だな、量が桁違いだ!」

 

 

大型の配電盤に隠れ、ミュータントの銃撃をやり過ごす。銃弾が命中し火花が散る音が聞こえ、貫通しないかひやひやするが、戦前の劣化した弾であるからか貫通はしない。徹甲弾だったら命はないが、無くて幸いだ。

 

手元にあった破片手榴弾のピンを抜いてミュータントの方向へ投げる。爆発はミュータントの手前で爆発し、銃撃が一旦止まる。

 

アサルトライフルの銃口だけを遮蔽物から出して引き金を引いてブラインドファイアで牽制を行い、ウェインは立ち上がりガトリングレーザーで蜂の巣にする。

 

「充電パックのセルが底をついた。こっちを使うぞ」

 

ガトリングレーザーを下ろして中国軍の使うバトルライフルを取り出す。308口径弾を使用するそれはアンカレッジでは中国軍兵士のマークスマンが使っていた銃だった。アメリカに上陸した中国軍もバトルライフルを使用していて、形状としては第二次大戦中にソ連が使用していた半自動小銃のトカレフSVT-40に酷似していた。

 

 

そろそろ弾薬も底が見え始めている。たくさんあった5.56mm徹甲弾も残り数百発。虎の子のレーザーガトリングも弾切れだった。

 

できれば敵に遭遇したくはないが、閉鎖空間であるので出会ってしまう。帰るまでに弾が持ってくれるよう祈りながら前進した。

 

 

通路の階段をゆっくりと下り、ふと階段の壁を見る。

 

『医療経過室→

 薬品貯蔵室→

 特別保管室→

 サーバールーム→

薬品貯蔵室→

 エントランス→』

 

と書かれた案内板が目に入り、どれかがG.E.C.Kがあることを知った。

 

「あともうすぐだ。ゆっくりと進むぞ」

 

順番で行くのは医療経過室とは名ばかりの実験で投与した検体を収容するための収容施設だ。生存者がいれば救出できるが、この過酷な環境で生きている保証はない。

 

階段を上りきり、バトルライフルを構えたウェインは後ろを振り返り突入する合図を待った。

 

「こっちはOKだ。行けるか?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

看板には医療経過室と書いてある。弾の消費の激しいMk.46を片付けてCQB使用のアサルトライフルに徹甲弾の満たした弾倉を装填する。コッキングバーを引いて機構に次弾を装填した。

 

「行くぞ!」

 

俺はハッチ開閉スイッチをONにしてハッチを開く。素早くウェインは周囲にライフルを通路上に向けて警戒する。彼に続いて同じように銃を向けて警戒して敵がいないか確認する。通路にはミュータントは居らず、何かを引きずったとおぼしき後があった。

 

「Clear!」

 

「こっちもClearだ!」

 

通路には誰もいない。収容された部屋が幾つもあり、そこには超強化ガラスがはめ込まれている。

 

通路は二方向に別れていて、近くの案内板には片方の通路が目的地だと教えてくれた。

 

「こっちの方向だな。行くぞ」

 

俺は方向を確認し、壁際に寄って進む方向に銃口を向ける。突き当たりを左に曲がり階段を上がって進めば目的地。プレートキャリアのマガジンポーチに入った弾倉の数を確認し進もうとした時だった。

 

 

 

『そこにいるのは人間か?すまないが、そこのインターホンで会話できる。助けてもらいたい』

 

行こうとした矢先、近くにあったインターホンから野太い声が響き渡る。それはさっきまで戦っていたスーパーミュータントとそっくり同じだった。

 

全員の顔が強ばり、持っていた銃をしっかりと握り直す。俺はウェインと目配せし、周囲を警戒する。そうした行動を見ないで察したのか、若干落ち込んだような声でインターホン越しの「それ」は話し始める。

 

『この声を聞いて警戒するのも無理はない。私も彼らと同じだ。だが、彼らのような事はしない。私は理性があるからここに幽閉されたのだ』

 

「理性があっても、人を喰うのを正当化している人間はいるからな。流石にいきなり信用は出来ないよ」

 

アンデールという人食いの村を思いだした。彼らは自分達に近づいた者を友好な振りをして夕食のおかずにしてしまうのだ。レイダーよりも質が悪いそれは、今のように理性的に振る舞っていた。だが、それは彼らの仮の姿。ひとたび彼らに隙を見せれば殺されてしまう。そして、納屋か屋根裏部屋。もしくは地下室で精肉店の肉のように解体されてしまうのだ。

 

世界は荒廃しているのを知っているのか、「それ」はたいした驚きもなく話を続けた。

 

『そう思うのも無理はない。同族は君達に襲いかかっていることを知っている。そして、君達はG.E.C.Kを求めていることも』

 

「ど、どうしてそれを知っている?!」

 

ウェインは驚愕の表情で叫んだ。

 

当然だろう。幽閉された者がそれを知っているのは可笑しい。そして、その声を察するにそれは「スーパーミュータント」であることが理解できた。

 

『不毛の土地を豊かな緑溢れる地に還る。核戦争で荒廃してVaultもこの有り様だからな。誰かが取りに来ることは予期していた。だが、ここまで長いとは驚きだ。』

 

哀愁漂うその声に俺は彼が幽閉されたその苦しみに共感した。

 

そう言う言葉の響きには悲しみと怒りはなく、ただただ苦しいという感情が含んでいたことが分かった。

 

 

「そうか・・・長かったんだろうな」

 

『ああ、このVaultに人間が居るときからずっとな。かれこれ百年近い』

 

「よく気が狂わなかったな」

 

『人間が居た頃に制限付きだが、中央データベースにアクセスできるコンピューターが与えられた。知能がどれ程あるかテストだったらしいが、それで時間を潰した。歴史や社会、文学、多くの書籍があったから良かった。』

 

会話している内に人の状態など分かるものだ。

 

全てとはいかないが、胡散臭いのは話している内に分かるものであるし、声がどうであれ話している者は英語を流暢に話し、とても丁寧な言葉遣いをしている。そして、そのインターホンの横から窓を覗けば話している人物が分かるはずだ。

 

「そうか、あんたがどれだけ知的なのかは今の話で理解できたよ」

 

俺はそう言って、数歩踏み出して強化ガラスを通してその話していた人物を見た。

 

俺は彼をよく知っている。非常に高い体力と専用の武器を持ち、頼りになる人外ながらも相棒であった者。

 

『私の名前はフォークスだ。よろしく頼むよ』

 

聞く者に絶望と恐怖を与えるその野太い声は俺にとっては何十年も会っていない友のように思えた。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

「こちらLightning1-1、離陸準備完了した。管制塔、離陸指示を待つ。Over?」

 

(こちら、Raven Rock Tower。Lightning1-1了解した。離陸後は高度500まで垂直上昇。方位054に進んで管制空域離脱後に作戦空域に進入せよ。基地周辺はかなり混雑している、ニアミスに注意せよOver)

 

一機のベルチバードがレイブンロックの地下格納庫からエレベーター付きヘリポートで地上へと昇っていく。衛星からも岩場にしか見えない所にいきなり岩がぱっくりの割れ始め、ハッチが開かれる。エレベーターが完全に止まると、ヘリのメインローターが回転を始めた。

 

「IFF、GPS、AVSオンライン。燃料OK、油圧よし」

 

「火器管制システムALL GREAN。20mm機関砲よし、放射能除去剤も満タン。対戦車ミサイルも準備よし」

 

機長と副機長によるかくヘリのチェックが行われ、その間にヘリのティルトローターの回転数は上昇する。

 

(こちらRaven Rock Tower、風速は2m。天気は曇りだがいつも通り雨は降らない。作戦成功を祈る)

 

ティルトローターの回転数が徐々に上昇していき、機体が浮き上がった。

 

「了解した、Lightning1-1離陸する。」

 

空の上にローターを向けていたベルチバードは方向を管制塔の指示通りの方向に向けると、二基のティルトローターは機首に向く。ヘリと双発航空機の両面を併せ持つベルチバードは一見航空機のような形態となりウェイストランド上空を飛行し始めた。

 

「機長、あとどの位で到着できる?」

 

「はい、あと5分で作戦空域に。Vault87へは放射能除去剤を散布してからとなります」

 

HUD付きのフライトヘルメットを被る機長は手に持っているフライトスケジュールを見つつ答えた。先程まで整備不良によって離陸できなかったために、隣にいる副機長はフライトマニュアルと安全管理のチェックリストを見つつ、不具合がないか調べていた。

 

後ろのキャビンにいたアリシアはその光景を見つつ、自身の座る席以外の乗員を見る。

 

空中機動部隊の一翼を担うエンクレイヴの航空戦力を有する第一航空団。規模は大隊規模であり、ヘリは最大で10機を有する。彼らは、単に兵員や物資を運ぶ部隊とは違って、全員が戦場で戦える兵士として訓練された。ヘリからの爆撃による殲滅とそれの仕上げである兵士による掃討。その一連の事を成し遂げる部隊だった。物資の輸送は同じ部隊でしか行わず、完全な戦闘部隊として運用され、空からの強襲部隊。殴り込みをかける機動部隊としてエンクレイヴ内では一目おかれていた。40年前のNCRとの戦争では彼らのような強襲部隊がNCRの歩兵部隊に大きな影響を与えた。いまでもそれは武功として語り草として有名だ。もっとも、実験用の人間集めをしていたことや武器を持たない民間人を虐殺したことは伏せられているが。

 

騎兵隊のエンブレムが肩にプリントされたエンクレイヴパワーアーマーの背中には、指揮官用の中距離無線機が取り付けられ、左手にはPip-boyのような戦術情報ネットワークにリンクされた小型端末を装備している。その隣には、火炎放射器のナパームタンクを背中に載せたヘルファイアパワーアーマーの兵士がいる。

 

彼等は徹甲弾の被弾も考慮に入れて追加装甲を施している。装甲なしでは綺麗な曲線を描いた胸部の装甲は、追加装甲によって不格好を呈している。

 

そしてそれに向かい合わせに座っている御仁。アリシアよりも階級が高い情報局の上司であるヴェルスキー少佐は付いてきていた数名の部下と共に何かを話していた。

 

「中尉、情報局の連中は何を話しているんですかね?」

 

アリシアに声を掛けてきたのは、降下部隊を指揮するアフリカ系の将校である、リノック少尉だった。髪はモヒカンのように切り込んでおり、その髪型がそうであるように彼は猛者であることを伺わせる。

 

彼は情報局の奴等に聞かれないよう、部隊内通信を使用している。

 

「さぁな、ろくでもない話なのは違いないな」

 

ヴェルスキー少佐と護衛の兵士二人と技術局からきたらしい白の防護スーツを着た技術兵。身体のシルエットから女性だと言うことが理解できるが、彼女の手には手錠で繋がれたアタッシュケースが確認できた。

 

「Vault87はスーパーミュータントの巣窟だと聞きましたが、サンプルの採取でしょうか」

 

「恐らくはな。まあ、大佐の言っていることが正しければ・・・・」

 

「大佐の・・・?どういうことです」

 

アリシアはうっかり口を滑らせたことに憤りを覚えたが、リノック少尉のような人物にそれを教えるわけにはいかない。アリシアはため息をつきつつ答えた。

 

「今のは言わなかったことに。軍事機密だ」

 

「了解です、ですが彼らが良くないことをするのは確かなんでしょう?」

 

軍事機密と言われても全く動じない限り、彼はなかなかの剛の者であった。アリシアはそんな彼に微笑を溢しながら口を開く。

 

「ああ、そうだ。私も詳しくは知らないが。彼ら独自で動くそうだ」

 

「なら、彼らの為に一機貸し出すよう考えとかねばなりませんね」

 

もし、ミュータントの数が部隊よりも多く対処しきれない場合は撤退を考えなければならない。別に行動するのであれば、一機彼らのために割くのは致し方ない。

 

「中尉、そう言えば貴女は情報局の人間でしたよね?」

 

「ああ、だからどうしたんだ?上司はでき損ないが多いのは当たり前だろうに」

 

「ブホッ!」

 

リノックは普通に上司を批判する彼女に対し笑いを堪えきれない。彼のイメージとして情報局は差別主義者や狂信的な愛国者の集団だと思っていた節があったからだ。

 

「そんなに笑わんでも、私は情報局に在籍しているが居ないようなものだからな」

 

彼女は知らないが、情報局の上層部からしてみれば捨て駒に等しい存在であった。今彼女が居るのは、彼女に価値があるからであるからだろう。反逆した将軍の娘など、後々反旗を翻しかねない懸念もあるが、人物鑑定の結果としてそうした反抗はしないという結果が出ている。薄々、そのことに気が付いている彼女にとってエンクレイヴや情報局の存在は邪魔にしか思えなかった。

 

「いえ、まあ一枚岩だと思っていたので。・・・そう言えば、中尉はジェファーソン記念館に潜入していたと聞いていますが、今度のVault87にも彼らが居るらしいですね?」

 

Vault87に赴く理由はユウキ達の拘束とG.E.C.Kの確保である。衛星による追跡によってユウキ達の位置が特定し、Vault87に通じるリトルランプライト周辺には機械化部隊の車輛がバックアップとして控えている。また、オータム大佐の指示により、エンクレイヴ保安部隊による子供の保護もしているらしいが難航している。元より大人に対する警戒心の強く、そう簡単に和解できるわけではなかった。

 

リノックが言うと、アリシアは渋い表情をしながら答える。

 

「ああ、彼等はかなりのやり手だからな。生きたまま捕らえろと指示が出ている。閃光手榴弾で自由を奪って拘束するのが良いだろう」

 

「了解です。部下に伝えときます」

 

「まもなく、Vault87上空です!降下準備を」

 

会話が終わるときに、パイロットから降下準備の指示が出される。

 

 

ベルチバードはVault87に到着すると、機体の下部に吊るされた爆倉のハッチを開いた。

 

「投下!投下!」

 

「LUNCTH」と赤いボタンが押され、幾つかの薬剤が投下される。

 

それはエンクレイヴが局地的な放射能汚染に使用する除去剤である。放射能マークにスラッシュが描かれたそれは高濃度の放射能に汚染されたVault87に投下され、周囲のミュータントを掃討した時に落とされた放射能測定マーカーが機長のウェアラブルコンピューターに表示された。

 

「放射能マーカーの数値、劇的に低下中」

 

「Lightning全機、降下準備。2と3は歩兵部隊の降下を」

 

ベルチバードは数値の芳しくない場所に残った薬剤を投下する。エントランスは未だに数値が高く、再度薬剤が投下された。

 

「弾着地点か・・・・地獄へご招待」

 

歩兵部隊の指揮を取るリノック少尉は皆に聞こえないようそう呟く。最終戦争当時に中国の核弾頭が直撃したエリアであるため、かなりの放射能が残留していた。Vault87は窪地であったためなのか、vaultというものがあるからなのか、そこには放射能が200年経ったイまでも残留していた。他のヘリは放射能が低下したことを確認し、ハッチを開いて降下ロープを垂らして兵員が降下する。地面へと降りた兵士は周囲へ銃を向けて警戒しながら着陸地点を確保した。

 

 

「これより着陸する。中尉、こちらから緊急で無線を送るかもしれません。回線は常にオープンにお願いします」

 

「了解した、最善を尽くそう」

 

ヘリは着陸の衝撃で少し揺れる。リノックがヘリのハッチを開いて先に出て、アリシアも後ろから彼に続いてヘリから降りる。

 

「中尉、周囲の安全を確認。オートタレットと歩哨を配置。」

 

「第二小隊、侵入準備完了。工兵がテルミットでハッチを部分破壊します。命令次第爆破します」

 

「了解した。ヴェルスキー少佐は如何なされる?」

 

アリシアは報告する兵士から話を聞き、後ろで待つヴェルスキー少佐に訪ねた。

 

彼は佐官服を身に纏っているが、彼の雰囲気は科学者のそれである。技術佐官であろうことが分かるものの、彼が出しているものは狂気だった。眼鏡の奥にある目からは、ドブのような腐った目をしている。人とは思えないような様子だった彼にアリシアは一瞬後退りしそうになる。

 

「我々は別行動をさせて貰う。なに、情報では既に大部分のミュータントが掃討されたと聞いている。護衛二人なら大丈夫だろう」

 

「了解しました・・・工兵、ハッチを破壊しろ!」

 

 

 

「Yes, Ma'am.・・・・爆破用意!」

 

アリシアから命令を受けた工兵はハッチにテルミットと高性能の指向性爆薬を設置し、有線で爆発すべく点火装置に手を付ける。

 

 

「爆破します・・・・3・・・・2・・・1・・・点火!」

 

 

閃光がハッチから放たれ、数千度もの炎が至近距離でハッチを焼き尽くす。そして指向性爆薬が爆発し、複合装甲で核の直撃でも耐えられるハッチに大穴があく。核の直撃を耐えられると豪語していた当時のVault-tecの技術者だが、二度目に核と同程度の高熱に当てられ、更に爆薬によって破壊されるとは思っても見なかっただろう。

 

 

200年封印されていたVault87の扉が今開かれた瞬間だった。

 

 

しかし、アリシアは疑問を覚えた。ハッチのことではない。

 

 

 

『我々は別行動をさせて貰う。なに、情報では既に大部分のミュータントが掃討されたと聞いている。護衛二人なら大丈夫だろう』

 

 

 

 

 

「どこからの情報だ・・・・?」

 

 

彼らにはエンクレイヴの内通者がいない。アリシアというスパイがいたからこそジェファーソン記念館は陥ちたようなもの。しかし、現在の様子やvaultの内部まで分かるのはどう見ても不自然だった。

 

 

アリシアは一抹の不安を抱きながら、vault87という地獄の扉をくくり抜けて中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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嘗て、イギリスの自然学者、チャールズ・ロバート・ダーウィンは人類の進化論を唱えた。人は類人猿より進化し、ホモ・サピエンスとなると。

 

 

それは宗教でいう神の子供という一般的な解釈から、大きく逸れたものであった。当然、多くの人々がそれに反発した。しかし、いくら意義を唱えて異端扱いしようとも、真実であることに代わりはない。それは時代を経ていく内に人の常識へと浸透した。

 

 

そして科学者は思う。

 

『人の進化を促進することは出来ないだろうか』と。

 

 

人と言う生物は様々な文化、歴史を紡ぎ出した。そして科学技術が発展して今の世の中がある。それも人間が進化していく過程として見受けることが出来るだろう。しかし、人間の身体自体さほど変わっていない。寧ろ、その科学技術の発展によって、古きよき時代にいた人達と比べると身体能力の衰えすらあった。

 

環境に適応しているといえば響きが良い。しかし、昔と比べて衰えているという事実は変わらない。

 

科学者は人を次の段階に進めるための研究を始めることになった。しかし、それは可能性を探るためであり、進化を推進するものではない。進化は自然に任せ、人類の次なる可能性を見い出すものとして研究を重ねた。

 

 

しかし、人間は文化を織り成す過程で作り上げた「信条」「主義」によって。または「人種」によってその進化を促す目的は変容した。学術的なものではなく、国家を守るための剣とするため。

 

「スーパーソルジャー計画」

 

共産勢力は資本主義国家より強力な軍を保持していた。テクノロジーには劣るものの、兵士の練度は米軍兵の二倍に匹敵する。忠誠心も高く、過酷な環境でも士気が高い。劣勢になれば脱走を図る米兵とは偉い違いであった。

 

アメリカ政府はテクノロジーの塊であるパワーアーマーを装備させた機甲兵を用いて対抗したが、兵士の単価が上昇してしまった。そこで政府は兵士の基礎能力の向上を低コストで成してしまうことを実現するために、科学者が研究する人類の進化を司るプロジェクトに介入し始めた。

 

学術的な研究から国家を守るための殺戮兵器として。

 

それは巨大企業と陸軍の研究施設にて研究が行われた。「浄化プリオン計画」と名づけられたこの研究は新人類を創造する研究ではなく、人と人との闘争に勝利するための強化兵士の研究に成り変わった。

 

最終戦争による核の応酬によって、アメリカ全土は核の炎に焼かれた。先の研究施設も例外ではない。例外的なVault-tec社の秘匿研究施設のあるVault87を除き、マリポーサ軍事基地やウェストテックなどの軍需企業の研究施設は破壊され、強制進化ウィルス「FEV」が大気にばら蒔かれた。放射能の影響によって変異したFEVは核の炎に包まれた世界に拡散した。

 

最終戦争でも戦える兵士の創造を目指していたFEVは投与された検体を強靭な肉体に変え、放射能に耐性を持つ生物に変異させる。しかしFEVは直接放射能浴びるなどした影響でそれらの能力は大きく変容を遂げた。一説には中国軍の生物兵器による影響と言われたが定かではない。

 

FEVウィルスは大気中に拡散し、核の炎で生き残った生物に感染した。感染した生物はそのウィルスに耐えきれずに絶滅したものもいる。そして姿をそのままに変異を遂げずに放射能に耐えることが出来るものもいれば、放射能とそれらの環境に適応するために大きくなったものもいた。

 

ウェイストランドに住む野犬や人。これらは戦前と余り変わらず、戦前と比べて簡単に病気に掛かったり、放射能にある程度耐えられるようになった。

 

そして、放射能と環境に適応したモールラットやラッドローチ。堅い甲羅を持つミレルーク。ハエが巨大化したブロードフライやヤオ・グアイ、ジャイアントアント、スコルピオン。そして、フェラル・グール。

 

外見上変化していない人間だが、戦前よりも放射能に耐える能力が向上している他、グールになるのもウィルスの影響だろう。放射能を浴びすぎてグールになり、さらに浴びて凶暴化して肉を求めるフェラル・グールとなるのが通説であるが、それが真実であるのか未だに分かっていない。放射能を浴びて死ぬウェイストランド人もいれば、戦前生まれのグールも存在する。そして、D.C.の地下に張り巡らされたメトロには多くのフェラル・グールがおり、かれらの姿から戦前にいた者達ではないかと推測される。

 

そして、vault87で開発されたFEVとそこから生まれたスーパーミュータント。西海岸で確認されたマリポーサ軍事基地から生まれたスーパーミュータントとは違うが、肌の色を除けば、殆ど同じである彼ら。数十年前から姿を現した彼らミュータントは何かを引き寄せるのかD.C.近辺に集まっている。スーパーミュータントは放射能汚染されてないFEVを感染させて変異した人間の成れの果てだった。

 

結論として言えることは・・・・。Vault87のFEVの貯蔵施設はまだ生きていて、ウェイストランド人を検体にスーパーミュータントを製造しているということだ。

 

 

「どうだ?理解できたか?」

 

FEV変異体、スーパーミュータント本人であるフォークスを講師に招き入れたFEVウイルスについての成り立ちの講義を聞き、俺達はその古人が作り上げたとんでもない発明の説明に付いて行けなかった。ロボットはそうした教育方面の頭脳は組み込まれていないし、ドックミートは伏せの体勢で目を瞑って寝息を立てている。ウェインはそう言った歴史や科学に関する知識が皆無だったために、頭の上にクエスチョンマークを浮かばせているのではないかと思う。俺とシャルは戦前のアメリカと中国の対立や世界情勢は知っている。国防総省にあったデータも見れば、いかにアメリカと中国が死闘を繰り広げていたか理解できた。

 

「放射能を浴びたFEVがそこまで変異させるような毒素を出ないことは分かったわ。でも感染した貴方やミュータントと接触した私達は変異するの?」

 

「いや、我々の体液を大量に摂取すれば、変異する可能性もある。しかし、体内に注射されたFEVと変異体の体液とでは含まれるウィルスの数が少なすぎる。皮膚から浸透圧による方法がかなり変異しやすいと聞く。だが、我々のようなミュータントになるとは限らない」

 

つまり、彼らと相対しても彼らの血を集めた風呂に入らなければ大丈夫と言う話。さすがの気がおかしくなったウェイストランド人でもしないだろう。

 

「まだFEVは残っているのか?」

 

「この施設の地下五階に位置する施設AIに隣接された製造施設がある。Vault-tecはFEVを実用化して配備する予定だった。当然、生産設備も完備してある」

 

「え、は?AI?製造施設?」

 

フォークスの口から出てきた単語はこの世界を知っている俺にとって全く知りもしないものだった。

 

そもそもこのVault87に人工知能があることは言及されていない。どうFEVに感染してスーパーミュータントになるのかすら明らかにされていない。そもそもVault87は本社のコンピューターにすら記載されていない超極秘施設であった。何せ、人道的ではない人体実験を行っていたのだ。万が一情報が漏れないようにする必要がある。

 

「この施設は西海岸と通信をしていたらしい。何を交信していたか不明だが、高度な軍事暗号アルゴリズムだった。君達が言ったようにワシントンD.C.にスーパーミュータントが居るのもその人工知能によるものだろう。つい最近は北西にある極秘軍事施設とコンタクトを取っていたようだ。内容が分かるかと思ったのだが、私がパソコンを弄っていたことがばれてメインフレームとの接続が切れた。恐らくAIの仕業だろう」

 

「つまりはAIがスーパーミュータントに指令を送ってD.C.に駐屯するよう命じたのか。それなら、奴等の行動パターンも読めなくはない」

 

西海岸では、マスターと呼ばれる男がスーパーミュータントを従えてウェイストランドを掌握しようと動き出したことがある。そもそも、スーパーソルジャーを造り出す筈だったFEVは遺伝子の中に絶対的な指揮官を決めるように刷り込みをかけてあったという一説もあり、東海岸でも同じことが言えるだろう。しかし、スーパーミュータントを指揮しているのは人ならざる者に変化したマスターではなく、鉄の塊であろうAIなのだが。

 

「それで、君達はどうするつもりだ?G.E.C.Kの在処は分かるが、我が同胞は際限なく君たちを襲うし、AIの無効化は君たちにとっても利益があるのではないか?」

 

「このまま見過ごすわけにもいかない。だが、弾の残りも僅かだ。さっきも話したようにエンクレイヴという組織がいつ来るか分からない。速めにG.E.C.Kを持って行きたいのだが・・・どうするか」

 

AIの暴走によって引き起こされたスーパーミュータントの侵略。そんな話を知らなかったので持っている装備で対処できるか不安だ。一度、エルダーにこの事を連絡する事が必要だろう。だが、通信機器を持っていないため一度要塞に帰らなければならない。

 

「一度、G.E.C.Kを回収してからで良いだろう。それから、装備が不安だったら行かなければいい」

 

ウェインはバトルライフルに弾倉を入れてボルトを下ろす。ウェインは乱暴にドックミートの頭を撫でて起こした。起きたてで不機嫌なドックミートであったが、ウェインはどっから出したのかバラモンジャーキーをドックミートの口の中に投げ込む。瞬く間に完食したドックミートはウェインを先頭に先ほどまでいたフォークスの独房から出た。

 

「よし、ウェインとドックミートは前衛。後衛は俺と・・・」

 

「いや、私が前衛をやろう」

 

ふと、肩をフォークスのドでかい手で掴まれる。彼の手には何処から持ってきたのか分からないスーパースレッジと呼ばれる戦闘用ハンマーが握られていた。

 

先ほどまでのインテリ系ミュータントであった彼の目は闘志に燃えた熱い男になっていた。

 

「ハハッ、血湧き肉踊るとはまさにこのこと!」

 

いや、言っていることややっていることは普通のスーパーミュータントと同じか?

 

ウェインやドックミートを追い抜いて、階段を掛け上がると目の前にいたミュータントに間髪入れずにスーパースレッジを振り下ろした。

 

「ひとーつ!!」

 

横殴りでスレッジを顔面に当てられたミュータントは歯を砕き、脳奬と共に血潮が天井に飛び散った。もう一体のミュータントは同じミュータントがミュータントをいきなり殺すことに驚き、一瞬引き金を引くことが出来なかった。直ぐに正気に戻り、持っていたアサルトライフルを連射する。

 

「当たらぬわ!」

 

肩を反らし、弾を避けてスレッジハンマーを構え直す。そして落ちていたコンバットナイフをミュータントの顎に突き刺すと、そのナイフの柄の部分にハンマーを振り落とした。ナイフは衝撃でミュータントの頭蓋骨を突き破り頭からナイフの刃が付きだし絶命する。

 

ミュータントがミュータントを蹂躙する光景はまさに異様であった。

 

「バケモノ!」

 

「同じ同胞に対して言う言葉か!万死に値す!」

 

スーパースレッジをミュータントの頭部目掛けて振り下ろし、頭蓋骨が割れるような音が響き渡る。あらかた掃討したかに思われたが、奥から咆哮と共に響く足音によって何者かが近づいてくるのが分かった。

 

「来たか・・・」

 

そこには、スーパーミュータントオーヴァーロードが立ち、フォークスと同じスーパースレッジを携えていた。

 

「オ前、俺達ト違ウ!殺ス!」

 

「私と貴様とでは種族は同じでも力量が違う。貴様では私を殺せぬよ」

 

「!!」

 

オーヴァーロードは馬鹿にされたと感じたのか、憤慨したようにスーパースレッジを振り回す。

 

「殺ス殺スコロスコロス!!」

 

「見せてもらおうか、貴様のようなミュータントの力とやらを」

 

 

フォークスのセリフがゴングとなって、オーヴァーロードはスレッジをフォークスへと振り下ろす。フォークスは避けずに、スレッジを盾に打撃を防いだ。

 

「ふん、力だけはあるようだな。だが!」

 

フォークスはオーヴァーロードを突き放すと、柄の部分で肋骨を突き刺す。更に軽いフットワークで蹴りを繰り出し、オーヴァーロードを翻弄する。それを辞めさせるかのようにスーパースレッジを振り回すが、フォークスも素早くそれを避けきった。

 

「当たらなければどうということはない!」

 

オーヴァーロードは横殴りでフォークスを牽制するが、フォークスは隙を見てスーパースレッジを当てて、振り被るのを阻止する。そして、スレッジを捨てるとオーヴァーロードの腕を掴んだ。

 

「ふんぬぅ!!!」

 

それは柔道の背負い投げであった。2m近い巨体であるオーヴァーロードが宙を舞い、Vaultの壁に激突する。

 

「・・・・・グハッ・・・・」

 

口から血を吐き、所々怪我をするオーヴァーロードは通路で倒れ伏す。しかし、フォークスはトドメとばかりにスーパースレッジを振り下ろす。強固な皮膚と筋肉、そして頭蓋骨を持つスーパーミュータントであってもその打撃に耐えられない。血潮と共にミュータントの脳奬が飛散し、辺りに血の池を形成した。

 

 

「ふふ、この風、この緊迫感。これぞ戦争!」

 

 

 

「フォークス・・・・あんた厨二病や」

 

 

数百年の封印から解かれた邪神とか自分のことを言いそうで怖い。実際、数百年もの間、Vaultのデータベースに保存された本を読んで時間を潰していたと言うし、そうした本を読んで感化されたとしてもおかしくない。

 

厨二病紛いのセリフを言うフォークスは残りのミュータントを掃討することが出来た。全く銃弾を使わずにだ。

 

 

 

 

「これが大地を肥沃の土地にし、放射能と言う邪神を追い払うVaultの科学者が作り上げた天地創造の神器」

 

「フォークスの厨二病発言は置いといて・・・これがG.E.C.Kか」

 

「私は厨二病ではない。本で学んだ台詞を言うぐらい良いじゃないか!カッコいいだろ!」

 

「いや、まあ良いんだけどさ・・・・」

 

カッコは良い。だが、それを言ってかっこいいと思えるのは中学生までだ。俺達よりも年老いた者が言っても羞恥心が増大されるだけである。

 

保管室に至るまでの通路には総勢で20前後のミュータントが守っていた。当然、激戦になるわけなのだが、俺たちは一発も発射していない。全ては日頃・・・いや年単位の鬱憤がたまったフォークスは鬼神もかくやの行動でスーパーミュータントを蹴散らし、制圧した。台詞はもう、赤い彗星か青い巨星の台詞。または、元カリフォルニア都知事の台詞か。どちらにしても、フォークスの心は中学二年生の心に引けをとらないということであろう。

 

制圧後、パワーアーマーでもカバーしきれない放射能汚染によって、保管室に入ることが不可能であった。一応、保管庫から改良型の放射能防護服を手に入れたが、それでも高い放射線が検出していたために入ることが出来なかった。

 

フォークスは「私に任せろ」と言い、「普通の人間なら耐えられないが、私のような超人類なら・・・うぉぉぉぉ!」と、俺らから見ればいい年した(推定数百歳)大人が何を言っているのかと思う。

 

 

 

 

 

「もっとこう・・・なんというか・・・」

 

「もっと機械じみた感じだろ。例えば核弾頭みたいな」

 

シャルの疑問ももっともだ。G.E.C.Kと呼ばれたそれはアタッシュケースに収まるほどの小さいものだからだ。アタッシュケースを開いてみると、幾つもの機械の他にそれを取り扱う冊子も入っていた。

 

「えーと、どれどれ・・・・“このVault-tec社製、G.E.C.K〔エデンの園創造機〕は核戦争後の荒廃した大地に命をもたらします。このケースの中には小型核融合炉と放射性物質分解装置、各種植物の種子などがあります。しかし、機械にも稼働範囲があり、最大で半径5kmの地しか肥沃にすることが出来ません。一番壊れやすい放射性物質分解装置は土の分解の場合、負荷がかかりやすく他の装置より長持ちはしません。専門の技術スタッフか電子工学と量子力学の博士が居る場合は監督官に配られる行動要領の8項目に沿って行動してください。”・・・なるほどね。あとはこの分厚い資料を通して理解する訳だ。」

 

ウェインは取り扱い説明書らしき冊子を読む。それは辞典並みに分厚いため専門の科学者に調べさせる必要があるだろう。

 

「さて、どうするのだ?私が居れば、ここのAIを破壊して製造施設も破壊できるだろう」

 

「ユウキ、まだミニ・ニュークある?」

 

「まだかなりある。施設を破壊するなら一発で十分だ」

 

超小型核弾頭一発在ればコンクリート製の建物は簡単に消し飛ぶ。それが、Vault内部であったなら多大な損害を与えることが出来るだろう。

 

「たしか、厳重に封鎖された二重扉の奥だよな。貯蔵施設とAI管理室は」

 

フォークスが軟禁してあった部屋から、G.E.C.Kに至るまで。放射能で汚染されたエントランスとAIやFEVが貯蔵、製造される施設に繋がる通路がある。通路と言うよりも各エリアに行くための分岐点であり、そこにはこの研究施設で重要度の高いAIの管理室やFEV製造施設に通じるハッチがあり、二重の防護扉が敷いてあった。開けようかと思ったが、何か嫌な予感がしたために開けることはなかった。事を起こすのはシナリオ通りでいいのであり、下手に手を突っ込む必要はあるまい。

 

よくあるウィルスを研究する地下施設が閉鎖され、調査のため扉を開けたら有害なウィルスがばら蒔かれ、地上の都市にアウトブレイクしたのが良い例だ。

 

それはフィクションなのだが、「触らぬ神に祟りなし」と言うように。要は触らなければいい。ただ、それだけなのだ。

 

だが、どのみちスーパーミュータントはここから生まれてくるのだから開けねばならない。

 

「嫌だぞ、おれがウェイストランドを壊滅させたなんてことになったら・・・」

 

俺はそう呟くが、フォークスの手が俺の肩に乗る。

 

「安心しろ、私の戦い振りを見ただろう。この拳に勝るものなどないのだ。」

 

まあ、彼なら死の爪を持つ怪物でも殴り倒し、そしてグレイ型宇宙人も肉片と化すまで殴りつけそうだ。

 

 

「じゃあ、そのAIの元へ急ごう。ウェインとドックミート先頭だ。」

 

「いや待て。私が刈り残した同族達が襲ってきたらどうする?君たちの武器や装備で対処できるか?」

 

フォークスは先ほどの自分の雄志を見ていないのかと言うかのように胸を張ってニコリと微笑む。確かに彼は一騎当千の力を持つ。もしかしたら彼一人で全てを為せるに違いないだろう。だが・・・

 

「フォークス。G.E.C.Kまでの道のりを安全にしてくれただけでなく、俺たちは放射能に汚染されることなく君のお陰でこれを手に入れることが出来た。少し休んでいてくれ。必要になったら声を掛けるから」

 

「そうか、なら私は後ろで待っていることにしよう。必要ならすぐに呼んでくれ」

 

スーパースレッジを肩に掛けて重低音の足音を響かせながら、フォークスは最後尾に付いていく。

 

「慎重にな。まあ、さっき通ったところだろうけど」

 

「大丈夫だって。何も出てきやしないさ」

 

ウェインは軽口を叩きながら、バトルライフルを左右へ向けて警戒は緩めなかった。

 

「そこが分岐路だ。注意しろよ・・・・」

 

 

 

そう言い終わろうとした瞬間、頭に鈍痛が襲う。刺した痛みと言うよりも、抓られたような。感覚のない脳をつままれたような痛みが走り、その場にしゃがみ込んだ。

 

 

 

 

「痛っつ!」

 

「ユウキ、大丈夫?」

 

頭の中にちらつく映像。最初は何なのか分からなかったが、すぐに思い出すことが出来た。それは、ウェイストランドでは見えない蒼い空。澄んだ空気。行き交う人。平和な街。そして、学校や自分の部屋と思わしき空間。

 

そこにあったのはウェイストランドのパソコンとはまた違う高性能なデスクトップPC。画面に映っていたのは今生きている世界そのもの。断片的な記憶が再統合され、今から起こる出来事が思い起こされた。

 

 

「・・・・クソ・・・やばい!・・・ウェイン!そこから離れろ!」

 

 

「え?どうした?」

 

 

「エントランスの入り口から奴らが・・・!」

 

 

 

既に換算すれば20年弱の記憶。生前の年齢を合わせてみると36歳であろうか。その時の記憶はとうの昔に薄れ、必要ではない記憶は忘れてしまっている。それも住み慣れない文化や言葉、そしてvault101の洗脳プログラムなどの影響によってそれ以前の記憶は殆ど消えていると行っても過言ではない。

 

 

ゲームの内容もまた然り。

 

 

ゲームでは大きなターニングポイントであったから思い出すことが出来たのだろう。だが、それは既に遅かった。

 

 

 

エントランスに通ずるハッチの隙間から金属製の物体が投げられた。

 

「EM45 SHOCK GRENADE」

 

 

とプリントされたものは壁にぶつかり、ウェインの足下で停止した。

 

 

 

 

「グレネード!!」

 

ウェインが叫ぶと同時に強烈な閃光と音が耳と目を塞ぐ。すぐに手足の力が無くなり後ろに倒れ伏す。ゆっくりと感覚の失せる手足に恐怖を覚えながら、目の前にある光景にゾッとした。

 

その光景は多少の差さえあるものの、一度見た光景であるからだ。液晶画面から見たそれを。

 

 

 

エントランスに通ずるハッチが開いたかと思うと、漆黒の塗装を施したパワーアーマーを着た兵士がガトリングレーザーを構えながら近づいてくる。彼らのアーマーは至る所に改修された形跡があり、重火器兵の横を歩く指揮官らしきアフリカ系の兵士は後ろから来る人物に報告した。

 

「中尉、対象を無力化しました」

 

「殺してないだろうな?」

 

「それはもちろん」

 

後ろから歩いてくるのは、エンクレイヴの士官服に身を包み、濃紺のベレーを被った女性士官だった。しかし、その顔には見覚えがあった。

 

「アリシア・・・」

 

「久しぶりだな、ユウキ」

 

何とか声を出すものの、それは掠れたような声だった。意識が朦朧とし全身の感覚が消えていく。何とか意識を保とうとするものの、眠気にも似たものによって意識を手放した。

 




「ハハッ!執筆タイムだ!」

さて、土日はサンタの格好してサバゲーしようと思います。

「リア充共は爆発だ!」

と白い袋からC4投げながらね・・・・・・(; ̄д ̄)ハァwww


誤字脱字感想等お待ちしております


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三十八話 vault87 下編



「一ヶ月ごとに投稿すると言ったが、あれは嘘だ」

(゚皿゚)r┏┳---ドドドド ∑ヾ(;゚□゚)ノギャアアーー!!


(実際、読んでいた友人にエアガンで撃たれました)


どうも、投稿が遅れまして申し訳ないです。すっかり、年が明けまして三ヶ月ぶりになりました。四月もこの日位を目処に投稿する予定です。(フラグ)

大学で教職課程なのでもしかしたら、投稿が遅れる可能性も(言い訳)


新年度までには間に合ったので何卒ご容赦くだせぇm(_ _;)m



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと・・・・ここは?」

 

そこは見覚えのある空間だった。

 

壁にはどこかの歌手のポスターか映画のポスターが貼ってあり、ベッドとパソコンが置かれた机。漫画や雑誌が入った本棚も置いてある。そう、これはつまり・・・・。

 

「俺の・・・部屋・・・?」

 

ウェイストランドとは違い、壁紙は剥がれておらず。新品同様の白さを保っているそれはどこか懐かしさを感じさせた。時計を見る限り、まだ朝の7時を過ぎた時間帯であり、自身の服装は高校で着ていた詰め襟の学ランだった。先ほどまで来ていたボディーアーマーやコンバットウェアではなく、日本の学生が着るものである。

 

 

「勇樹!朝よ!」

 

自分の部屋は二階だった。一階から懐かしい母親の声が聞こえ、すぐに返事をする。

 

「起きてるよ・・・!」

 

声を出してみると、自分の声ではないのかと言うくらいの幼い声が響く。ウェイストランドの時の自分とでは顔も声も異なっていた。恐る恐る、俺はパソコンの画面に顔を向ける。

 

「・・え・・・・これが俺だったか?」

 

そこには、どこにでもいるような日本人の少年だった。ウェイストランドの自分とは全く似ても似つかない、生前のころの自分であった。

 

「さっきのは夢だったのか?」

 

夢にしては20年という記憶が全て残っている。まるで、今までそこにいたかのような記憶。これが夢であるのか、それともウェイストランドの記憶が夢であるのか。しばし、考えていると、時計の短い針が八時に近づき、長い針が十一時へと近づいた。

 

 

「あ、学校・・・間に合うのか」

 

今日の一限は大の苦手な教科、数学の小テストがあるではないか。

 

「やばい、急がないと」

 

昨日のように思い出してくる昨日の数学教師のしてやったりの顔とブーイングを言うクラスメイトの和気藹々とした声。ウェイストランドの殺伐とした戦場が嘘のように感じられ、学生鞄を急いで拾い上げ、定期ケースと自転車の鍵がポケットの中にあることを確認して、急いで自室の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

「・・・・ん?・・・・・臭っ!!」

 

これは一体何の匂いだろうか。ぶっちゃけていえば、それはトイレに漂うあの匂いだった。意識を失っている間に致してしまったのかとすぐさま目を開けた。先ほどの眩い光によって、目が慣れていないのか周囲の光が目を刺激する。

 

「気づいたようだな」

 

そこには、試験管に似た金属製の容器を持つエンクレイヴの衛生兵らしき人物がいた。

 

周囲にはプラズマライフルやミニガンをもって警戒する兵士の姿があった。首を動かしてみると、拘束されて意識を失っているウェインやシャル、ドックミート、アイドリング状態で停止されたRL-3軍曹の姿もあった。しかし、どうしてかフォークスの姿が見当たらない。近くにはミュータントの死体は見当たらないため、彼はどこかに隠れているだろう。もしかしたら、隙を見計らっているかもしれないが、パワーアーマーと重火器で武装しているエンクレイヴの兵士は強敵だ。如何に鋼の肉体と不屈の闘志があったとしても、集中砲火を受ければ死は免れない。

 

身動きしようともがくが、後ろ手に拘束具で固定されているため、芋虫のように動かなければならないだろう。

 

「動かないほうがいい、君は後ろから頭に狙いをつけられている。妙な事をすれば、プラズマ粘液になる」

 

両肩とパワーアーマーヘルメットに赤十字マークを描かれた衛生兵は俺の肩を掴んで静止させようとした。その声は女性らしく、妙に口調が柔らかい感じであった。

 

「そうか、みんな生きているよな?」

 

「ああ、生かすように命令を受けているからね。でも、スタウベルグ中尉が起こさせるなんてどうしてかな」

 

どうやら俺を起こすよう命令したのはアリシアらしい。

 

「さぁ、スパイした男に再び興味が出たとか?」

 

「そういえば、あなた達をスパイしていたわね。あなたを誑かしていたのかしら?」

 

「どうだろうな、ここで油を売ってると怒られるんじゃないか?」

 

「そうね、じゃあ中尉をお呼びするわ」

 

彼女はそう言うと、俺の視界から消える。後ろには誰かの気配がするため、言っていたことは嘘ではないのだろう。首を回すと、FEVの製造施設とAI管理施設のある区画へのハッチが開いていた。二重のハッチは全て開いており、オートタレットが二基設置されていた。ハッチの奥の方からは嫌な冷気が出ており、背中には冷や汗が流れる。

 

FEVは人を強制的に進化させるウィルスだ。しかし、進化とは裏腹に感染した生物を変異させて凶悪な化け物へさせる狂気のバイオテクノロジーである。開けてはならない扉を開けたのではないかと考えた。

 

そう考えるうちに、甲高い軍靴の音が響き、プレートキャリアの背中にある取っ手を捕まれ引っ張られた。

 

「ん!ぐ!」

 

いきなり凄い力で引っ張り挙げられた俺は肺から息を出す。前を見ると、エンクレイヴの軍服に身を纏ったアリシアが仁王立ちで立っていた。

 

「久しぶりだな」

 

「ああ、目の前にいるのが信じられないよ。それにしても、やつれてるな」

 

「・・・っ」

 

アリシアは俺達と一緒に居たときとは違い、顔色が悪く目の下に隈ができていた。目もとは以前よりもナイフのように鋭くなったように感じられる。

 

「それで俺達をどうするつもりだ?」

 

「浄化プロジェクトを再開させてもらう」

 

彼女の口から出た言葉は信じられないものだった。今現在ウェイストランドで最大の勢力であり、アメリカの中でも最高峰の科学技術を持っている。彼らなら浄化プロジェクトなど、推進していた科学者に頼らなくても完遂できる筈だろう。

 

「なぜだ?」

 

「浄化プロジェクトの主要システムは高度な軍事暗号によってプロテクトが掛かっている。その暗号を知っている人物が起動しないと無理だ。それに、あれはG.E.C.Kがないと起動しない」

 

ジェームズから話は聞いていた。近くにある首都圏核サイロ基地を漁っていたスカベンジャーから高額で買い取ったものらしく、浄化プロジェクトが悪人の手にわたらないようにしたらしい。しかし、そのプロテクトもここまでだった。今はその暗号を聞こうと彼らは俺達を拘束した。時間の問題だろう。

 

「あともうひとつある」

 

「ん?」

 

考えられる理由はこれだけだった筈だ。俺は疑問符を浮かべたまま、彼女の話を聞いた。

 

「エンクレイヴの技術局はお前の技術や発想を欲している。メガトンの自宅を接収したとき、技術局の面々は驚きのあまり倒れたようだ。彼ら曰く“数十年先を言っている”とさ。」

 

アリシアはこの時初めて笑みを浮かべる。先程までの冷たい表情ではなく、血の通った柔らかい表情。懐かしむようなその言い方に俺は違和感を覚えた。

 

「私はお前を殺す気もないし、無理やり暗号を聞き出すつもりもない。」

 

そう言うと、彼女は折り畳みのナイフを取り出し、俺の後ろ手に縛ってある拘束ストラップを切り、手を自由にした。

 

「私は・・・出来ればお前にエンクレイヴに来て欲しいと思ってる」

 

それは彼女の本音が出た瞬間だった。周囲にいた兵士からは驚いたような声を挙げていた者が少なからずいた。それはそうだろう、装備だけ整った粗暴なウェイストランド人なんて仲間に値しないだろうと思っているかもしれない。

 

「お前はVault101の住人だろう。なら大丈夫だ。エンクレイヴはVault101の住人を保護している。数名は軍に志願した。お前だって・・・」

 

「シャルやウェインはどうなるんだ?」

 

俺が言った瞬間、アリシアは表情を凍らせる。

 

「シャルはVault生まれなんだろう?なら大丈夫だ」

 

「ならウェインはどうなんだ?奴はリトルランプライト出身だが、元はスカベンジャーの子供だ。バリバリのウェイストランド人だ。奴はどうなんだよ」

 

俺はそう言い、アリシアは顔を背ける。エンクレイヴがどのような組織か。彼らとはどういうものなのか直ぐに分かるこの問い。アリシアは絞り出すように声を出した。

 

「エンクレイヴという組織は排他的だ。純血でなければ、ただの消耗品や労働力程度にしか思わない。残念だけど・・・」

 

エンクレイヴは東西の思想が混じり合った組織だ。だが、上層部は排他的な純潔主義だ。一般兵でもそれはあるだろう。ウェイストランド人はエンクレイヴにとっては労働力か体の良い捨て駒に過ぎない。

 

「わかった。俺は・・・エンクレイヴには行けない。」

 

 

俺の言葉にアリシアは予想していたのか、あまり驚きもしなかった。一瞬悲しそうな表情を見せたものの、諦めたような感じで作り笑いをした。

 

「そうか・・・予想はしていたが、実際そうだと悲しいな。でも、連れていくことには変わりない。伍長、彼を再度拘束しろ。」

 

後ろにいた兵士は後ろ手で拘束しようとしたが、俺は手を後ろに出さずに前に出す。

 

「おい、手を後ろにしろ」

 

「痛いからいやだ。前で縛ったって変わらないだろう」

 

「んだと!こいつ!」

 

後ろの兵士は苛立ちのあまり手を挙げようとするが、アリシアはそれを止める。

 

「別に後ろで縛らなくて良い。前に縛ってやれ。拘束を解いたとしても、やることはないだろう」

 

アリシアはそう言うと、後ろの兵士は渋々従って俺の両手を前で縛る。

 

「我々の任務は完了した。ヘリに彼らを乗せろ。」

 

意識のないシャルやウェインをエンクレイヴの兵士は担架で運んでいく。俺はコンバットブーツに隠していたスイッチブレードを取ろうとしているが、不意に動けばプラズマ粘液に成りかねない。兵士の動向を見つつタイミングを伺った。

 

「あとはヴェルスキー少佐を待つだけだ」

 

貯蔵施設へと向かったらしい彼女の上司を待つべく、運搬要員以外は周囲への警戒を忘れない。俺はいつか来るであろう兵士達の隙を窺うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで地獄へ直通と考えても可笑しくない位深いエレベーター。実際それほどまで深いのか分からない。しかし、人間という物。個体差のある感覚の違いや先入観によって体感するものはまちまちであった。

 

壁の塗装がはがれ、劣化によってギシギシと軋む床。パワーアーマーを来た兵士を二人も乗せていれば、床が抜けるのではないかと唯一の科学者の女性は思ってしまう。先ほどまでかなりの量が居たFEV変異体も先ほどの放浪者やエンクレイヴの兵士達によって制圧されていた。

 

 

地下深くまで続くエレベーターの下には変異体が居ないか、科学者は不安に思うものの、下の階層には保安プログラムが起動しており、安全な区域であることが確認されている。科学者の他には護衛の兵士二人と諜報部のヴェルスキー少佐がエレベーターに乗っており、只ならぬ雰囲気であった。

 

「少佐、FEVのサンプルを回収とのことですが、本当に小隊を前進させて安全を確保しなくてもよろしいのですか?」

 

ミニガンを持つ重火器兵は隣にいる根暗なヴェルスキー少佐に問いかけた。

 

「安心したまえ、下の施設は生きているし完全自動の保安装置で安全が確保されている。なに、あの方からの直接の指示だ。」

 

「あの方?あの方とは・・?」

 

兵士は訊こうとするが、エレベーターが目的地に近づき、彼の上司が彼の肩を叩く。

 

「動体センサーを起動させろ。」

 

ミニガンを持つ彼はそれにつけてある動体センサーを起動する。見てくれはグレネードマシンガンと似たような形状を持つ。ミニガンの取っ手の所にはブラウン管テレビに似た画面とレーダー装置とおぼしき機械が取り付けてあり、スイッチをONにした。機械の調整をすると、彼の後ろにいた上官もプラズマライフルのフュージョンセルがしっかりと収まっているか確認した。

 

「少佐、自分達が前へ行きます。ですので離れないように」

 

「分かっている、頼りにしているさ」

 

プラズマライフルを持つ兵士は少佐に声を掛ける。すると、エレベーターが目的の場所である最下層に到着すると、ゆっくりと扉が開かれた。

 

「おいおい、嘘だろ」

 

兵士の一人は構えていたプラズマライフルを驚きのあまり下ろしてしまう。それもその筈だった。目の前にあったのは廃墟のようなVault87ではなかった。そこには、戦前のvaultが建設されて間もないような清潔感溢れるエントランスだったからだ。

 

「保安システムが生きているというのはこれだったか」

 

目の前では清掃用のモップを持ったロボブレインが床を掃除しているというシュールな光景があり、エンクレイヴの兵士二人は拍子抜けしたかのように銃口を下に向けた。他にも近くにはMr.ハンディーがスリープモードで待機していたり、プロテクトロンが充電ステーションで保管されているところを見る限り、完全自動化が為されていた。

 

「動体センサーには幾つかの動くものが見受けられますが、どれも鈍足です。全てロボットかと思われます」

 

ミニガンを持つ兵士はそう報告して、ヴェルスキーに前進するかどうか訊ねた。

 

「もちろんだとも、さあ任務を遂行しよう」

 

ミニガンをもつ兵士が前方を歩き、プラズマライフルを持つ兵士は後方を警戒する。その間に少佐と科学者は守られるようにして歩いた。

 

奥へと続く通路や製造設備を動かすのであろう中型の核融合炉。戦前の姿を保とうとする機械達。それらを見つつ、生体保管庫と呼ばれる部屋を見つけた。そこはVaultの扉にも似た頑丈な扉であり、空気をも通さない密閉扉であった。

 

「この部屋か?」

 

「確認します、下がってください」

 

ミニガンが少し後ろから狙いを付け、プラズマライフルを持った兵士がハンドルに手を掛ける。

 

「おいおい、手動操作かよ」

 

機械も開けることはないであろうその扉をミシミシと音を立てながら開いていく。やっとの事で開いた扉へプラズマライフルを構えながら進入する兵士。入って数秒で驚いたような叫び声が響き渡った。

 

「わぁ!」

 

「軍曹!どうしたんです?!?」

 

ミニガンを持つ兵士は軍曹を助けるべく中に入る。少佐と科学者も様子を窺うべく顔を覗かせた。

 

 

「一体何だよこれ・・・」

 

喉の奥から出したようなその声は明らかに怯えと恐怖が入り交じっていた。そこには、肉の塊と言えば相違がある。だからといって生き物と言えば、人としてその形はおかしかった。背中は猫背のように丸くなり、胴体が丸く手足も普通の人と比べても短い。首は無くなり、胴体と一体化した頭。スーパーミュータントと言うには不完全すぎるFEV変異体の姿はそこにはあった。

 

それはホルマリン漬けのような容器に押し込まれて保管されており、死んだように動いてはいない。狂暴で危険なスーパーミュータントでもここまでおぞましい生き物はいないはずだ。

 

「FEV変異体か?・・・・機械を見る限りまだ生きているらしいな」

 

ホルマリン溶液ではなく、変異体が浸かっていたのは各種栄養素が溶けている羊水のようなものであった。良く見れば、口に管が差し込まれ息をするようになっていた。

 

容器の下にあるバイタルサインはその変異体が生きている事を知らせていた。

 

「実験はまだ続いているのか・・・って事はまだここには生存者が?」

 

兵士はそう呟くものの、ヴェルスキーはそれを否定した。

 

「それは無いな、ここを良く見てみたまえ。人が最近いた痕跡はあるか?」

 

近くにあった机にはマグカップやクリップボードが置いてあるものの、それらが使用された痕跡はない。埃が被り誰も触っていないところを見るに、人は数十年いなかったように見える。

 

「いえ」

 

「だろうな、ここは生きている人間は居ないと聞く。早くしたまえ、目的地はすぐそこだ」

 

兵士達は少佐を囲むように、警戒しながら更に奥へと進んでいく。そこは居住区画がなく、純粋にウィルスの製造施設と研究、そして施設を管理するAIがあるだけだ。順々に進んでいくと、製造施設らしき所を見つけた。

 

「博士、君は軍曹と共にサンプルを採取しろ。」

 

「了解しました」

 

「ハニガン、少佐に怪我させるなよ」

 

「軍曹も博士を口説き落とさないで下さいよ」

 

二手に分かれた彼らの片方の博士と軍曹は、製造施設へと入った。そこは戦前の施設とは思えないような物だった。施設の壁は白く、エンクレイヴでも持ち得ない画期的な物ばかりだった。

 

『コレヨリ消毒ヲ開始シマス。研究員ノ皆サンハ180年振リノ入場デス。今日モ1日頑張リマショウ。』

 

消毒液らしき物が噴射され、消毒室では科学者と軍曹の二人が無言のままそれを浴び続ける。しかし、とうとう沈黙が嫌になったのか、軍曹は口を開いた。

 

「博士、帰ったらディ・・・」

 

「伍長に言われた通りにしないの?」

 

案の定、部下から言われたことを破る軍曹を見た博士は笑い声を挙げる。そして、「考えておく」と言った博士に軍曹は昔のインディアンのような雄叫びを挙げたくなったが、自重する。流石にいきなり叫ぶのは如何なものか。

 

『殺菌ガ完了シマシタ。今日モ安全ニ業務ヲ遂行シマショウ』

 

消毒室の扉が開き、二人は製造施設の中へと入っていく。そこは博士も見たことがないウィルスの製造プラントが広がっていた。人より巨大な培養槽や注射器に薬剤を入れるために作られた機械群。エンクレイヴにもFEVのウィルス研究施設があり、培養施設も存在する。しかし、過去の変異体による暴動や彼らの予想しない行動によって、下手に従えることが出来ないと上層部は確信し、研究と培養は凍結された。残ったものは現在流行っている疫病の治療に当てられ、ウィルスの研究は行われていない。

 

Vaultにあったものは巨大な、そして大規模な製造施設だった。培養槽や大量に製造された注射器。もし、変異体の戦闘能力が戦前のアメリカ軍に認められていたならば、東海岸の兵士にFEVの入った注射器が配備され、東海岸は変異体の王国が出来ていたことだろう。幸運なことに研究が軌道に乗ったのはVaultが閉鎖されてからであった。

 

博士は製造施設の近くにあった研究員の詰め所に入ると、試作品のある冷凍庫を発見したが、ターミナル制御の電子ロックが掛かっている。

 

「これをハッキングするから、少し待っててもらえる?」

 

「ええ、待ちますよ。所で何を食べます?」

 

何を食べるか、それは即ちディナーは何を食べるかだろう。博士は笑いながらも、ターミナルを操作してハッキングを行う。一致するパスワードを見つけて、パスワードを打ち込んで電子ロックの冷蔵庫を開く。

 

「じゃあ、フレンチでお願いするわ」

 

ウィルスのサンプルを見つけ、持ってきていた対爆ケースにそのサンプルを入れていく。

 

「さぁ、行きましょう」

 

二人は来た道を通り、消毒室を通って入り口へと戻る。想定していた時間よりも早くサンプルを回収してしたため、二人は合流しようと足をヴェルスキー少佐のいる方向へと向けて無線チャンネルを開く。

 

「此方シェイド、ハニガン聞こえるか?」

 

(・・軍・・・、緊・・・・!・・退を・・・)

 

地下なので電波を拾いづらく、直進する通路にアンテナを向けると無線内容がはっきりした。

 

(軍曹!、こちらハニガン!少佐は死亡、変異体の化物共に攻撃を受けている!急いで撤退してください!)

 

無線からは彼の声の他に何かの生物らしき叫び声とミニガンの銃声が響き、尋常ではないその状況に軍曹はプラズマライフルをいつでも撃てるようにしておく。

 

「お前は何処にいる?救助が必要かOver?」

 

(じ、自分は後から行きます!なので・・・来るな来るなぁぁ!!)

 

ハニガンの叫び声はミニガンの銃声によって掻き消される。軍曹は彼が居るであろうAI管理室に走ろうとするが、後ろから手が伸び、彼を止めた。

 

「博士、ハニガン伍長を助けないと・・」

 

「ダメよ。あなたの任務は何?私を守ることでしょ」

 

彼らのような装甲強化兵の任務は一緒にいた軽武装の二人を守ることである。しかし、護衛対象のうち、一人は死に、護衛するはずの人物も生きているかどうかすら分からない。軍曹の使命は博士を安全な場所まで護衛しなければならない。例え、部下が八つ裂きにされ苦しんでいようとも。

 

保身のためのように聞こえた軍曹は博士を睨み、肩を掴んだ博士の手を掴む。

 

「そうだ。だが・・・!」

 

「あなたは兵士でしょ。私だってあなたと同じように命令を受けている。これは大統領令に基づく最優先度の高い任務。私だってしたくないけど、あなたを軍法会議に出すことも可能よ」

 

憤慨し、保身のために言ったことを怒鳴ろうとした軍曹だったが、博士は臆することなく自身の任務について話す。保身でないとはいえ、信頼の厚く、友情が芽生えていた部下を助けられず失うことはショックだった。博士は軍曹のような人物はエンクレイヴに相応しくないようにすら思えた。

 

博士が身を置く研究機関はウェイストランド人を普通に人体実験することに抵抗はない。博士すらも、それに従事している。すでに彼女の両手は血に染まりきっていて、それらを濯ぐことは不可能だ。部下を信頼し、任務すら放棄して助けようとする軍曹の人間性。博士はエンクレイヴという非情な組織に身を置く兵士としては不適格と思うものの、自分が無くした物を持っていた彼に興味を抱いていた。

 

軍曹は博士の腕を放すと、近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばし、大きく歪ませる。彼はプラズマライフルを構えて臨戦態勢を取った。

 

「これより上層階に退避します。博士、急いでエレベーターまで移動しましょう」

 

「ええ、先導して」

 

軍曹はプラズマライフルの安全装置を外して、エレベーターのある方向に足を向けたその時だった。

 

地揺れと腹に響くような鈍い爆発音が聞こえ、照明が消えて緊急灯が点滅する。

 

「爆発・・・融合炉か!」

 

軍曹は爆発の原因を悟る。そして、近くのスピーカーからアラームと共に合成音が鳴り響いた。

 

(生物汚染ヲ確認!緊急規定マニュアルQuebec Whiskey - 32 Alpa ヲ適用!下層階ノ研究施設ヲ融合炉ノオーバーライドニテ消毒措置イタシマス。職員ノ皆様ハ規定マニュアルニシタガッテ行動シテ下サイ!残リ五分デ消毒ヲ開始シマス)

 

「Holy shit!・・急ぎましょう!」

 

アラームが鳴り響き、緊急灯がちかちかと点滅する通路はまるで旧世界の遊園地にあるお化け屋敷のようだった。エンクレイヴ内のVRシュミレーターでそれを体験したことのある軍曹は何かが出てきそうな雰囲気だった通路に冷や汗を掻きながら、重いパワーアーマーの足を動かし、前へと進む。

 

つい先ほどまで、来た道を引き返すのは容易いが、短いと思っていた通路は意外にも長く感じられ、一分が1秒に感じられるほど、時間の感覚が狂い出す。全身を覆う装甲によって身体が重く、走ろうとしても息苦しさと動きにくさによって軍曹は自身の装備を呪いたくなった。

 

「あともう少し!」

 

先導しようとしていたのはいつであったのか。後ろにいた博士は軍曹を追い抜き、ウイルスのサンプルを入れたケースを抱えながら、もう片手でプラズマピストルを持ち、先へ先へと走っていた。

 

「こん畜生っ!!」

 

ウィルスに感染しないよう、完全防護装備のパワーアーマーは従来よりも息苦しいものだった。今にでも脱いでめい一杯息を吸いたい衝動を抑えつつ、重い足を懸命に前へ前へと進める。

 

エレベーターまで少しのところで、適所に設置されたスピーカーから消毒する時間があと何分かを伝えてくる。

 

(残リ3分デ消毒ヲ開始シマス!)

 

すぐそこにエレベーターがあることを知っていた軍曹は、まだ余裕があると走っていた足を少し遅くした。これならば二分でエレベーターに到着するだろうと。

 

安心するのもつかの間、背後にあった水密扉でふさがれていたハッチに何かがぶつかる音がし、幾度も繰り返された銃を標的に向ける行為を不審な音をだすそれへと向けられた。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「何をしているの!?急いで!」

 

「エレベーターに先に乗ってろ!すぐに追いつく!」

 

バクバクと唸る心臓とは破裂するかのように酸素を求める肺。しかし、自然とそれらは収まり、神経に接続された戦闘インプラントが上がる息を整え、神経を研ぎ澄ませた。

 

エンクレイヴの兵士の強みは最新型のパワーアーマーだけではない。幾重にも訓練を積み重ねた屈強な肉体とそれに外科手術でとりつけた戦闘用インプラントだ。それは、戦闘中のアドレナリンの分泌量を調節したり、体感時間を遅くするなど様々なものが存在する。手ブレや高倍率視力インプラントなど。それらはウェイストランドで普及しているものやBOSの兵士達よりも優れたものを使用している。

 

そして、ヘリから降下し敵を一掃する強襲兵などは最高級のインプラントが導入されていた。

 

軍曹はプラズマライフルを構えていると、一瞬にして水密扉が破壊され、周囲に破片が飛び散り、軍曹は咄嗟に手で顔を覆う。

 

すぐ爆発したその方向へと視線を向けると、そこには信じられないような光景が広がっていた。

 

生体保管室に居たFEV変異体とおぼしき者が立っている。しかし、普通の変異体、スーパーミュータントのような体躯ではない。1m半の小柄な体躯で首がなく、顔は胴体にくっついており、手が長い。そして胴体と一体化した頭部。顔は何故か口を歪ませニタニタと笑っていた。

 

「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャッヒャッヒャッヒャ!!!」

 

不気味なその笑い声は通路内に響き渡り、変異体は手足を使って四足で軍曹に向かって走り始めた。

 

本能的にヤバいと感じた軍曹は急いで引き金を引いた。マイクロフュージョンセルをエネルギー源に圧縮されたプラズマ弾は低速ながらも独特な発射音とともに飛んでいく。プラズマ弾は変異体の胸を直撃し、細胞を瞬時に蒸発させ、焼き殺す。溶けた細胞は粘液となって床に飛散し、変異体は絶命した。

 

軍曹はそれで終わったと思ったが、彼の考えを覆すように保管室から響く複数の笑い声が響き渡った。

 

「fuck!」

 

最大限の罵り言葉を叫んだ軍曹は、迫り来る変異体の数に恐怖した。恐怖から来る震えを抑え、プラズマライフルの引き金を引いて数発撃ち、腰に取り付けたプラズマグレネードを手にとり、起爆ボタンを押した。燃料電池から供給されるプラズマと発光によって極限まで温度が高まり、軍曹は生体室へと投げ入れた。

 

起爆すると、四方八方にプラズマが飛び散り、物体という物体を溶かしつくす。高温のそれはありとあらゆる物を融解させ、溶かし尽くしていく。軍曹はプラズマ光に照らされた通路を見て仰天した。先ほど走ってきた通路には無数の変異体がこちらに向かって走ってくるではないか。それも壁や天井を重力などものともしないように通路を通って軍曹へと近づいていた。

 

「嘘だろ、おい!!」

 

最早、銃撃による足止めは不可能だと判断した軍曹は踵を返してエレベーターへと走る。後ろへ手榴弾を投げようと考えた軍曹だったが、投げる手間を考えれば、手足を動かして走る方がまだましだった。不気味な笑い声はだんだんと近くなり、死がすぐそこまで迫っていた。軍曹は死にたくない一心でエレベーターまで走った。プラズマライフルをかなぐり捨て、身体中汗がまとわり付いても気に留めなかった。

 

「軍曹!急いで!!」

 

曲がり角を曲がったすぐ30m先にはエレベーターの中で待つ博士の姿があった。

 

(融合炉オーバーライドマデ残リ一分。)

 

 

軍曹は残り30mを全速力で走った。普通なら全速力で8秒ぐらいであったが、パワーアーマーを来ている彼は二倍ほど遅かった。彼を食らいつくさんという勢いで笑い声のような雄叫びを叫び、変異体は速度を上げた。

 

「急いで!」

 

博士は持っていたレーザーピストルで軍曹の後ろから迫る変異体の眉間にレーザーを撃ち込む。高温のレーザーは変異体の脳髄を焼ききり、絶命へと導いた。

 

軍曹はエレベーターに飛び込み、博士は閉めるのボタンを押した。しかし、閉まる瞬間に変異体の一部が手を伸ばし、博士を捕まえようと迫った。

 

「きゃっ」

 

「させるか!」

 

軍曹はとっさに、胸に取り付けていたリッパーを手にとると、博士の手を掴んでいた変異体の腕をリッパーのカーバイド刃で切り裂いた。エレベーターと真っ白な博士の防護服に返り血が飛び散る。他の腕も掴み取ろうとするが、エレベーターが上昇し、エレベーターの入り口の隙間に挟まれて契れていく。手は始めピクピクと動いていたものの、やがて動かなくなり、ピンク色だった皮膚はゆっくりと色を失いつつあった。

 

 

エレベーターは上昇し、軍曹は安堵したのかエレベーターの壁へもたれ掛かる。

 

エレベーターはVault87上層階と同じように内装がボロボロであったが、血や臓物で汚れてはいなかった。しかし、今ではさっきの返り血を浴びて壁には血がこびりつき、博士も心なしか手が震えていた。軍曹はその手に自身の手を伸せて優しく握る。

 

 

それは彼女を思う気持ちを現したからではなかった。軍曹でさえ、悪夢のような化け物に殺されかけた。インプラントがなければ手が震えていただろう。

 

 

数秒経ち、手を握った軍曹を博士は見て口を開いた。

 

 

「貴方との料理、フレンチじゃなくて普通に戦闘糧食(レーション)でも構わないわ」

 

 

軍曹は拒否されるのではないかと思っていたが、想像を越えた返答であった。

 

「フレンチじゃなくてもいいので?」

 

「食べる暇無いでしょ?レイヴンロックに着いたら、部屋のキーを渡しておくわ。技術部のブライアン技術少佐って名前が書いてあるでしょうから」

 

「しょ、少佐ぁあ?!」

 

軍曹は目の前にいる博士と呼ばれていた人が天上人であることを知り、驚いたに違いない。そんな人物とのディナーをしようと声を掛けたのだ。普通なら拒否するのが普通であるが、それをせずに寧ろ快よく受け入れてしまった。

 

すると、少佐は彼のパワーアーマーを叩く。

 

「上官命令よ、腹をくくりなさい!」

 

防護ガラスの奥に秘められた彼女の笑みは軍曹の目にはっきりと映った。

 

もしかしたら、自分は間違った選択肢を選んだのではないだろうか。軍曹は寄り添ってくる博士を押し返すことも出来ずに苦悶の表情を浮かべた。

 

 

 

ここでカメラアングルが代わってエンドクレジットならどんなによかったか。それはハリウッド映画ならではだろう。しかし、そういった終わり方はあり得ない。FEV変異体の化物がそんな簡単に諦める筈がないのだ。

 

金属が擦れるような鈍い音と共に、エレベーターの床から手が伸びる。それはピンク色の独特な色の手。次第に手でその穴を広げると、身体を乗り出して這い上がろうとしてきたではないか。

 

「嘘だろ、おい!」

 

エレベーターシャフトはエレベーターを動かすだけのスペースのみしかない。エレベーターの荷車を手助けする軌道レールにはエレベーター内にいる二人を食い殺さんばかりにこちらを見てにやけている変異体の昇る姿があった。器用に異常に発達した両腕でレールを掴み、食い殺さんばかりに隙間のあいた床から軍曹と博士をのぞき込み、一気に飛び上がると、仲間がこじ開けた穴へ腕を伸ばす。

 

「この野郎!」

腰に付けていたプラズマピストルを抜き取ると、ぶら下がる変異体へ引き金を引いた。超高温のプラズマ弾は床を突き抜けて、変異体の頭部を溶け、絶命しエレベーターシャフトの闇へと落ちていく。

 

しかし、プラズマでほのかに照らされた下のエレベーターシャフトには無数の変異体が蠢いていた。

 

「畜生、これじゃ不味い。上の味方まで巻き添えだ」

 

「ここの生物汚染を食い止めるため二重のエアロックがあるはず。それをすぐに閉鎖して貰うわ」

 

 

群れを為し、笑い声が幾つ響いているのか分からない。

 

軍曹は床が落ちないことを祈りつつ、プラズマピストルにエナジーセルをたたき込み、近くにいる変異体へと引き金を引く。必死な彼を嘲笑するかのように笑い声が響く。

 

変異体が何故、笑っているのかは分からない。

 

だが、面白くて笑っているのではないことは明白であった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

状況を冷静に判断し行動するよう訓練されたエンクレイヴの兵士達。彼らが隙を見せたのは地下から響く轟音と地揺れであった。

 

揺れは1分ちょっと掛かっただろう。

 

地震になれていないエンクレイヴの兵士達は一体何が起こったのか分からない様子だった。震度は4から5辺り。揺れ動く地面に兵士達は動揺した。

 

「一体何が起こってる!?」

 

「地下から爆発したのか。地震でこのvaultは?!」

 

ある統計では1970年から2000年まで震度4から7までの地震の起きた回数はアメリカが200回近く。日本はその10倍の2000回であった。しかも、その地震は一地方の活火山近くであるため、大多数のアメリカ人は地震と言えば、核爆発などの人的影響だろうと思うに違いない。

 

動揺するのはエンクレイヴの兵士だけではなかった。俺よりも数段戦闘能力が高いアリシアも例外ではない。突如起きた地震で冷静さを欠いていた。

 

「全員静かに!落ち着け!通信兵、下との連絡は!」

 

アリシアが俺に背を向けたのを見計らい、拘束用のストラップをナイフで切ると、素早くアリシアを羽交い責めにした。

 

「がっ!」

 

「中尉!」

 

エンクレイヴの兵士達は一瞬の行動を察知することができず、銃口を向けるのが遅れてしまった。向ける頃にはアリシアは盾にされている状況だ。

 

「全員動くなよ。出なければ、中尉の頸動脈から血が噴き出すぞ」

 

「ちっ!」

 

 

既に、シャル達は拘束されてヘリで輸送されていた。今更、俺がアリシアを人質に取ったところで佐官クラスの高級将校ならともかく、現場を指揮する尉官クラスの指揮官を人質に取っても何の交渉材料にもならない。

 

一旦、来た道を戻る事が必要だと考え、慎重にリトルランプライトへの道へ後ずさる。

 

エントランスのハッチまで来ると、アリシアの足が止まり、そこへ立ち止まる。

 

「アリシア、動け」

 

苛立ちを押さえて冷淡に言うと、アリシアは何やら冷笑をしてこちらを見る。

 

「残念だが、来た道を戻っても意味がないぞ」

 

「何だって」

 

「既にリトルランプライトの出入り口は押さえてある。今は彼らの保護を行っている。どっちにしても、もう手遅れだ」

 

子供達は気の毒だ。汚染された子供として使い捨て可能な労働力として動員するだろう。エンクレイヴは選民思想の組織であるため、子供達に未来はない。

 

「ちっ」

 

「もう諦めろ。悪いようにはしない」

 

「諦める?エンクレイヴがウェイストランド人を迫害し、奴隷のようにされるのを阻止することか?!」

 

どうやら俺はシャルやジェームズに毒されたらしい。

 

自分はウェイストランド人になりきったつもりだったが、本心はそうじゃなかった。

 

 

もし、水を乞うウェイストランド人がいれば、助けたくなる。蟻に襲われた少年が居れば、助けるし、可能な限りの事をしてあげたい。レイダーに襲われた商人を助けようと思うし、出来るならウェイストランドを救えるよう綺麗な水を何万ガロンもの水を供給し、荒廃した大地を。そして人類を救いたい。

 

普通のウェイストランド人がいれば最初で断念するはずだ。寧ろ、助けたいなんて思わないし、貴重な水を分けることすら考えない。蟻に襲われた少年を助けて、さらには家に呼んで生きていくために武器商人として教育を施したりはしない。そして、幼馴染みの父親に支援して物資を切り崩して浄化プロジェクトを要塞化したりなんてしない。そして、亡き彼の志を継いで浄化プロジェクトを完遂させようとなんて誰がするだろう。

 

そしてアメリカの亡霊とも言えるエンクレイヴという強敵。

 

普通のウェイストランド人は裸足で逃げ出している。だが、俺はこの場所に立っている。何としてでも、この逆境に立ち向かわなければならない。

 

Vaultの人間は典型的に人を助けたいお人好しなのかもしれない。嘗て、西海岸のvaultの住人。彼は綺麗な水を供給するための浄化チップを荒野のウェイストランドで探そうと旅だった。様々な場所を旅し、スーパーミュータントを率いるザ・マスターを抹殺し、ウェイストランドを平和へ導き、無事に旅を終えた。そしてその子孫の選ばれし者は捕虜となっているvaultの住人達を解放し、西海岸で拡大していたエンクレイヴを壊滅させた。

 

彼らも人を助けたいという善意があって行動していた。すべてのvaultの住人がそうであるならば、その祖先であるアメリカは未だに存続していたに違いない。

 

彼ら「vaultの住人」と「選ばれし者」かれらは卓越した才能やカリスマ、運。そして、人を助けたいという意志が強かった。ウェイストランドで生まれる英雄はそうした者を持ち得ている。そしてその英雄という称号は彼女に相応しい。

 

 

「俺はVaultの生まれだからかな。変な奴が多いんだ、気を付けた方がいい。もっとも、エンクレイヴのポセイドンオイル基地が吹っ飛んだ原因はVaultの人間だったか」

 

実際はVault住人の子孫だが、どっちにしても同じだろう。

 

「何故その事を?」

 

俺に銃を向けていたエンクレイヴの兵士は驚いたような声を挙げる。

 

「FEVウィルスで戦前のアメリカ人より放射能に耐性があったり、簡単に病気にならないんだ。それを考えるなら、環境に適応した人類と考えればいいだろう。強制進化ウィルスと言うのなら、今のウェイストランド人こそ適応した人類。Vaultやエンクレイヴの人間は純粋なアメリカ人と言ってるが、単に進化できなかった適応できなかった出来損ないだろ」

 

「な、貴様!」

 

出来損ないと言われた兵士は激高するものの、引き金は引かない。しかし、他のエンクレイヴの兵士は驚いたような反応をするが、激高する兵士以外はそこまでの怒りを持っていないように思えた。

 

Vaultやエンクレイヴにしたって、しっかりとした教育と科学力を持っているからウェイストランドで生きて行けるのであって、最終戦争で生き抜いてきた生粋のウェイストランド人は「純粋な人類」と比べて適応能力は並外れたものだろう。もし、同じ土俵に上がれば、負けるのは、エンクレイヴやvaultの住人かも知れない。

 

「何故それをお前が知っているんだ?エンクレイヴか一部の研究者しか知らないその情報を」

 

アリシアは俺の言った事がウェイストランドでは全く出回っていないことを知っていた。FEVウィルスなんていう単語はBOSでさえ知らず、エンクレイヴか一部の科学者のみしか知ることを許されないもの。

 

「何でだろうな?どっちにしても、俺はエンクレイヴが西海岸でやっていた事を知っているし、未だにそれを行おうとしている人間も居ることは知ってる。だから・・・諦めるわけにはいかない」

 

エンクレイヴという組織は善悪の区別を付けるとしたら、勿論悪だろう。正当なアメリカ合衆国政府と言っているものの、中身は選民思想と排他主義の過激組織である。ウェイストランド人を汚染された人類として、残虐な人体実験を行ってきた。さらには、FEV研究のためにvaultの住民をテストしてFEV変異体、スーパーミュータントに変えてしまうなど悪の組織として西海岸に君臨していた。

 

今はそうした事をやっているという報告はない。メガトンやリベットシティーには懐柔政策が取られていると聞く。西海岸で行っていた悪逆非道な行動はないようだが、いつ化けの革がはがれるかは分からない。

 

「そうか、残念だ」

 

アリシアはそう呟き、下を向く。

 

エンクレイヴは悪逆非道な組織で間違いはない。だが、vault101で会った技術将校のロイド・スタッカート少佐。彼はエンクレイヴが一枚岩ではないことを話していた。選民思想などを受け継いだ西海岸出身の高級将校。そして、東海岸で育ち、現場主義で左遷されてウェイストランド人に偏見を持たない良識ある将校。全てが全て悪ではないことは知っているものの、トップがあれならば組織は悪の組織のままだ。

 

 

周囲の兵士達がプラズマライフルとレーザーライフルで俺を狙っている中、FEV製造施設に通じるエアロックからエレベーターが昇ってくる音が聞こえてくる。

 

下に居たエンクレイヴの兵士達が帰ってきたに違いない。もし、逃げられるとすれば下層階だろう。だが、どちらにしても袋のネズミだ。

 

しかし、エアロックから出てきたのは、ボロボロのパワーアーマーを来た兵士と返り血で赤く染まった白い防護服を着た技術者だった。後ろからいきなり出てきた二人に気を取られた俺は自分の失態に気づき、注意をアリシアへと向ける。

 

彼女の肘鉄が脇腹へ直撃し、内臓が揺さぶられる。そして羽交い責めにしていた右手を掴むと一気に俺を投げ飛ばした。

 

「ガッ!」

 

すぐに俺に銃を向けていた兵士は俺を拘束した。

 

その時、エアロックから帰ってきた二人は急いで緊急閉鎖のボタンを押していた。それを見ていたアリシアはまだ帰らない兵士と情報局のヴェルスキー少佐はどうしたと二人に問う。

 

「残りの二人はどうした」

 

「下層階でFEV変異体に遭遇。生物汚染の為退避しました。少佐と護衛の部下は死亡!」

 

「なっ!」

 

アリシアは安全だと言っていた本人が死亡し、さらには満身創痍の状態で二人が帰ってきた事に驚いていた。警備をしていた兵士の一人は警戒しながら人一人分の空間のエアロックに近づいた。エアロックはゆっくりと閉まっていき、ゴウンゴウンと機械音を出しながら閉まっていく。

 

「ん?なんだ今の音は?」

 

兵士は何か聞こえたらしく、頭を傾ける。その音はだんだんはっきりと聞こえてきた。まるで、人の笑い声のような・・・・

 

「おい!そこから離れろ!!」

 

「え?」

 

エアロックから帰還した兵士は不用心に近づいた兵士に向かって叫ぶ。しかし、兵士が振り返った瞬間彼の後ろからピンク色の腕が伸びて彼の身体を掴んでいった。

 

「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」

 

そこには、シャル達と見たVaultスーツを身に纏った失敗したFEV変異体と呼ばれるミュータントであった。首はなく胴体と頭が繋がっており、顔には満面の笑みがあるものの、それは喜びを表現しているとはとても思えなかった。

 

「うわ!辞めろ!来るなぁ!」

 

次から次へと伸びる手はエンクレイヴの兵士を掴むと、エアロックの向こう側へと引っぱっていく。エアロックは徐々に閉まり、エンクレイヴの兵士はじわじわとハッチへと引きずられていく。

 

「何してる!救助しろ!」

 

 

我に返った兵士達は捕まった仲間を助けようと身体を掴み、引っ張ろうとするがエアロックは既に閉まり掛かろうとしていた。

 

「離せ!離せ!・・・・痛い痛い痛い!!」

 

エアロックの向こう側に上半身が持って行かれ、懸命に足を引っ張るが、連れ戻すことが出来ない。兵士の断末魔とバキボキと言うおぞましい音と、彼の叫び声が聞こえなくなり暴れていた足が大人しくなる。すると、妙にその兵士の身体が軽くなり、掴んでいた兵士が引っ張り上げた。

 

 

「ひっ!」

 

誰が叫んだが分からない。パワーアーマーの装甲は全て引き裂かれ、中にいた兵士の手足頭はもぎ取られ、腹部からは臓物が垂れ下がっていた。

 

「ヒャヒャッヒャ!」

 

「てめぇ!」

 

エアロックの隙間から身体を出し、両腕で閉まらないようにしていたミュータントは見下ろすように、こちらを見て気味悪い笑みを浮かべていた。それに腹立った兵士は持っていたプラズマライフルでミュータントの手足を吹き飛ばした。

 

「ヒャヒャッヒャ・・・ギャァァ!」

 

エアロックはミュータントの手足を失ったことにより、閉鎖されていき、ミュータントの身体を潰していく。生理的に聞きたくないつぶれる音と血潮がエアロックの周囲に飛び散り、閉鎖が完了した。

 

 

ウェイストランドでも異質なそれを見た兵士達はしばし沈黙するが、アリシアの激高と共にそれは破られた。

 

「ブライアン博士、一体今のは!」

 

「今のが、vault87で研究されていた生物兵器。ベースはFEVウィルスの改良型。経口感染などで変異体にすることの出来る変異種。暗号名は『ウロボロス』と呼ばれているわ。」

 

二重に閉鎖されたエアロックからでもウロボロスは笑い声を挙げ、兵士達は後ずさった。

 

「総員ヘリへ帰還。無線兵は司令部に全隊員へウィルス除去チームを要請。BC科学部隊を派遣し、ここ周辺を封鎖する」

 

「了解、司令部に打電します」

 

エアロックからはドンドン!という音が漏れ聞こえ、ハッチが壊れるのではないかという轟音を出していた。

 

「彼はどういたしますか?」

 

俺を立たせ、プレートキャリアの取っ手部分を掴み、立ち上がらせた兵士はアリシアに訊いた。

 

「連れて行く。レイヴンロックで説き伏せるから手荒なまねはしないでくれ」

 

「了解しました。ほら、行くぞ!」

 

手荒な真似をするなと言われているにも関わらず、自身の指揮官に危害を加えた男に対しては恨みしか持っていないのだろう。強引に力任せに立ち上がらせると、背中を突き飛ばすようにしてエントランスへと連行する。

 

殿はミニガンを携行する兵士が行うらしく、俺の後ろには三人の兵士が警戒していた。

 

最初は入れなかったエントランスのハッチを通りすぎようとした時、後ろで響いていた音が途絶え、代わりに金属が掠れるような音が響き渡った。

 

「おい、まさかまさか!」

 

押し破るなど、知能的にはスーパーミュータント以下なのだろうと思っていた。しかし、押してダメなら引いてみろとでも言わんばかりに、金属がこすれるような音が響き、成功したことを喜んだのか、再び笑い声が響いた。

 

「走れ走れ!」

 

背後を見る間もなく、後ろの兵士に背中を押されエントランスの通路を走る。後ろではミニガンの爆音とプラズマライフルの発射音が聞こえ、そしてすぐに悲鳴が響いた。

 

「やつら走ってくるぞ!」

 

プラズマライフルで応戦しようと、立ち止まり、襲いかかろうとするミュータントにエンクレイヴの兵士は銃撃を加える。しかし、2・3匹殺したところでさらに6匹以上もミュータントが襲いかかり、群がって装甲を剥ぎ取り貪り喰らう。怒号と悲鳴、そして爆発音が響き、足の遅い兵士達は次々と奴らに喰われていった。パワーアーマーは銃弾や破片を弾き、トラックが衝突しても無傷であるなど頑丈ではある。しかし、装甲は取り外しが出来るよう、装備しやすいようにモジュラー装甲を採用しているため、力のあるミュータントは装甲を引きはがして兵士達を惨殺した。

 

 

手はさっき兵士によって針金でぐるぐる巻きにされ、自由は利かない。自由が利かないが、エンクレイヴの重装備の歩兵よりは早い。

 

「急げ!」

 

「こっちに来るな!・・・がっ!嫌だぁぁぁぁぁ!」

 

 

肉を引き裂き、骨を砕く。後ろから迫るミュータントに襲われ、生きたまま貪られる姿を見、重装備で遅いエンクレイヴ兵士を追い抜く。

 

「こちら、Echo1-2!vault87の未確認ミュータントを確認。攻撃を受けている。これより撤退する。支援要請を求む!」

 

以前のvault101のように前線基地にするつもりだったのだろうか、エントランスには幾つものエンクレイヴボックスが並べられ、稼働していない警戒ロボットやタレットが確認できた。怒濤のように押し寄せるミュータントはそれらをなぎ倒し、生きる者へ襲いかかった。

 

「ヘリが離陸するぞ!急げ!」

 

Vault101のようなエントランスを抜けると、エンクレイヴの兵士達数名が横列となり、ミニガンやレーザーガトリングを手に襲いかかろうとするミュータントに一斉射撃を加えようとしていた。

 

「皆殺しにしろ!撃ちまくれ!」

 

唸るミニガンのアイドリング音とエネルギーが充填されるレーザー照射器。横切った時、指揮官らしき人物はまさにここを死に場所に選ぶとばかりにすがすがしい顔をしていた。

 

「撃ぇ!!!」

 

エンクレイヴの造兵廠で作られた5mm弾と充電パックから充填されたレーザーは怒濤の勢いで迫るミュータントに発射され、肉を抉り、血潮を挙げる。

 

 

「急いでヘリに乗り込むんだ!急げ!」

 

後ろから、分隊の指揮官らしき男が叫ぶ。しかし、その叫ぶ間にミニガンを持つ兵士へ射線から逃れたミュータントが飛びかかり、すぐに他のミュータントが群がっていく。

 

「はぁ・・はぁ・・・はぁ」

 

息が切れ、エントランスがもう少しの所まで迫る。

 

ミニガンやレーザーの発射音も聞こえなくなり、笑い声はすぐそこまで迫っていた。

 

融解したvaultのエアロックをくぐり抜け、土と焼き焦げた匂いが風に乗って顔に掛かる。エアロックをくぐり抜けた先には、即席で作られたヘリポートと周囲を警戒していたエンクレイヴの兵士の姿、そしてティルトローターを回転させるベルチバードの姿があった。

 

「急いで乗れ!後ろから来るぞ!」

 

エンクレイヴの兵士に促され、走って行くとすぐ後ろからまたも笑い声が響いた。先ほどの足止めで準備していた兵士達はもうやられたのだろう。近づくミュータントに追いつかれないよう、ヘリのパイロットによって開かれたヘリのハッチへと入って行く。

 

「離陸するぞ!急いで中へ!」

 

ベルチバードは一度ゲームで見た朧気な記憶と幾つか似ていて、入るとそこには先ほどの白い防護服を着ていた技術者らしき人物と数人の兵士。そして、すこしやつれた顔をしたアリシアの姿があった。

 

「奥に入ってくれ!」

 

「おっと!」

 

俺は機内の奥へと追いやられ、すぐそこにある機内窓へ顔を近づけた。

 

 

「こちらlightning1-1離陸する!援護頼むぞ!」

 

(了解、leader!)

 

機体の外から聞こえる機関砲の音とロケット弾の爆発音。そして、機体はフアリと浮き上がり、離陸したことを身を以て体験した。

 

「こちらLightning1-1。HQ、vaultからミュータントの軍勢が南南西の方向へ移動中。我々の燃料と武装では殲滅不可能だ。直ちに航空支援か火力支援を要請するover」

 

(こちらHQ、了解した。近隣の航空部隊に連絡しそちらへ爆撃を行う。)

 

 

旋回するベルチバードからみるその光景は異様な物だった。穴蔵からはわらわらと人ならざる者、ウロボロスと呼ばれるミュータントは群れを為して固まって移動しているのが見て取れた。

 

 

一人、その光景を見ていると、横から手が伸び、誰かが俺の腕を掴んだ。その手は思い切り、俺を引っ張ると座席へと座らせた。

 

「って、何を!?」

 

俺の腕を掴んだ張本人はさっきまで俺が羽交い責めにして、手痛いしっぺ返しを喰らわせた人物だった。アリシアは俺を隣に座らせると、周りにいた驚き声を挙げた兵士に「何を見ている」とにらみを利かせた。

 

俺はその突然の事に驚きを隠せなかった。

 

「ん~・・仲直りしようと思って」

 

「はぁ!?」

 

先ほどまで犬で例えるなら牙を剥いて威嚇していた俺である。それなのに、そんな人物との仲直りを望むなんてどうかしていると思う。ましてや、自分の所属する勢力を貶していたのだ。そして、浄化プロジェクトを裏切り、俺たちを裏切った。今更、仲直りだなんて虫が良すぎる。

 

「・・・・一応、感謝はする。ヘリに乗せてくれなかったら死んでいたかも知れないし」

 

おれは一応、彼女に礼を述べた。

 

「ユウキはエンクレイヴに対して勘違いをしている。全てが全て、悪逆の限りを尽くす訳じゃない。どんな組織や国家にだって、許されない行為を行ったことはある。今のエンクレイヴはウェイストランド人から見ればまだ危険分子かもしれない。だが、昔よりは格段に良くなっている」

 

あらゆる組織や国家には、完全に善というわけじゃない。例外を除いては何かしらの許されない行為を行った歴史が存在する。核戦争後の血塗られた時代となった今では、許されない行為を行わない組織や国家はあっただろうか?エンクレイヴはその時代の中では極悪とも言うべき存在だ。だが、歴史を辿れば、さらに極悪の組織や国家が存在する。そして、それらが左右曲折を経て、まともな存在になったことがある。

 

「そうかもしれないが、ウェイストランド人を差別する選民思想は根強く残っているし、浄化プロジェクトの時はプロジェクトチーフを殺したんだぞ。流石に、エンクレイヴを容認できないよ」

 

「そうか・・・、まあ基地まで行ってから話をしよう」

 

アリシアは呆れたような顔をするものの、まだ諦めないつもりらしく、周囲の兵士から視線を受けているにもかかわらず、平然としていた。

 

最後は俺だけだったが、他のみんなはヘリに乗り込んだのだろうか。さっき他の兵士が基地へと移送したと言っていたが、それを確認したわけではないので、少し不安が過ぎる。すると、コックピットから機長らしき人物の怒声が響き渡った。

 

「何ぃ!我々がいるのにそんなことを!少尉!急いで離脱するぞ!」

 

機長らしき人物が隣の副機長に叫ぶと、操縦桿を握って大きく旋回した。急激な旋回とエンジンの出力を挙げるように、ローターの回転音が上がっていく。急な旋回によってGが掛かり、身体が揺れ動く。アリシアはその事態に驚き、席を立ってコックピットへと急いだ。

 

「機長、どうした?」

 

「レイブンロックから通信で、ここへブラッドリー・ハーキュリーの爆撃が有るようです!」

 

「何だって!」

 

そのアリシアの驚愕の叫びに周囲の視線が向く。そして、空の方から轟音が響き、空にいた俺たちでさえ、その地響きに近い揺れに驚きの声を挙げた。そして、俺は急いで立っていた兵士の脇を通り抜け、機内窓から外を覗く。地上にはvault87と移動しているウロボロスの群れがあった。

 

すると、轟音と共に筒状の物が落とされる。

 

それは、大戦争前に製造された中国本土へ発射するために作られた衛星ミサイル兵器。

 

一発のミサイルはvault87のエアロック目がけて突入し、爆発した。

 

 

弾頭は通常弾頭か核弾頭か分からない。しかし、その威力はヘリの航行を不安定にするだけの威力を持っていた。爆発と共に衝撃波がベルチバードを襲い、機体が揺れてアラームが鳴り響く。衝撃波によって機体が軋み、揺れによって兵士が床に倒れ、兵士のうめきが木霊した。すぐに取っ手に掴まり、事なきを得たが、地上にいれば衝撃波によって爆殺されたに違いない。

 

地上には核の冬で出来た灰と土埃が舞い上がり、視界を奪う。そして澄んだ空には核を象徴すべきキノコ雲が立ち上っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次は第七章「The American Dream」です。物語も終盤ですが、やっとここまでこれました。これも読者様方のお陰でございます。

最後まで頑張っていきます。


誤字脱字、アドバイスなどございましたら宜しくお願いします。


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第七章 The American Dream
三十九話 レイヴンロック


遅くなり申し訳ないです。
いつも使っていた小説を書くSONY社製の携帯端末が壊れたため、ノートパソコンで書いている次第です。

大学で教職を取ると辛いですね、レポートを書いて書いて・・・そしてまた書いて・・。

もう辛いっすww


「地球は青かった。だが、神は居なかった」

 

 

嘗て人類で初めて宇宙へ行った宇宙飛行士、ユーリィ・ガガーリンはソヴィエト連邦の有人ロケット「ボストーク1号」によって宇宙空間へと旅立った。彼は後に記者とロシア清教の歓迎パーティーで語ったという。

 

彼が見た地球の大気の青い海や緑の大地。そして文明の灯火は彼の死後、沢山灯った。人類はその後、彼のあとに続いて宇宙空間へ旅立った。何百年もの昔から星は人を魅了し、その空を我が物にしようと手を伸ばした。人はそれを求め、隣から延びる手に気が付いた。それを求めていたのは一人ではなかったのだ。

 

宇宙へと資源を求めたアメリカと中国は核という最悪の兵器を使わずに相手に対しての有効打を得ようとしていた。宇宙開発へと乗り出した両国は次々と地球軌道上に監視衛星を配置し、人類のためにと言いつつ、軍事衛星を次々と打ち上げた。

 

先人達のような、宇宙の神秘を解き明かすという崇高な目的は無くなり、敵よりも一歩先という蛮勇の目的へと宇宙への渇望は変わっていった。

 

両者の戦いは遂に終わりを迎え、核の応酬という最終戦争の炎が地球を包んだ。宇宙も例外ではなかった。中国とアメリカ、双方に配備された対衛星攻撃ミサイルによって地球軌道上にある衛星へと到達した。

 

しかし、月へと到達したアメリカの宇宙技術を含む科学技術は10年中国の先を行っていた。幾つかの年代遅れの監視衛星や天候観測衛星は破壊されたものの、衛星攻撃ミサイルを事前に防ぐために、迎撃レーザー砲台が軍事衛星に配備されていたからだ。元々、要らなくなった衛星を破壊した場合、そのデブリは軌道上を回転し、その他の衛星や宇宙ステーションを巻き込みかねない。そこでアメリカ宇宙軍は最新型にはミサイルとデブリを迎撃するシステムを導入するに至った。そのため、中国の衛星は全て破壊されたものの、アメリカの衛星の八割は現存しており、宇宙での戦いはアメリカの勝利に終わった。

 

そんな地球軌道上には、一際巨大な軍事衛星の姿があった。

 

全長200m、トンボを思い浮かばせるようなシルエットをしていた。それは元々各国が出資した国際宇宙ステーションであったが、最終戦争前に巨大な攻撃宇宙ステーションへと変貌した。大気圏に落とす予定出会ったそれをアメリカ政府は危険のない再利用事業としてせんでんしたが、実際は地上目標に回避不可能なミサイルを落す兵器だった。

 

それらには、地上へ核攻撃が可能な核弾頭や燃料気化爆弾など通常弾頭、MIRVを含む質量弾が配備されていた。元は有人であり、研究資材が持ち込まれていたが、今では頑丈な防弾防壁と武器弾薬が満載したコンテナとステーションを維持するためのロボットとメンテナンス機材がところ狭しと並んでいる。

 

最終戦争で、殆んどのミサイルは中国本土へ落とされ、残っているのはメガトン級核弾頭が2、燃料気化弾頭が1、その他通常弾が幾つか残る攻撃衛星は地上目標もなく、ただ前世紀の遺物として軌道上に打ち捨てられた巨大な粗大ゴミと化した。

 

 

視認しやすいように白い塗装が施された国際宇宙ステーションの物陰はなく、宇宙空間での有視界戦闘も考慮に入れた黒く塗装された衛星には星条旗と衛星の名が描かれていた。「ブラットリー・ハーキュリーズ」と名付けられたそれは、地上目標も大規模戦闘も。ましてや敵国も存在しない今日において、繰り返し整備を行うことしかできなかった。

 

そして、星条旗の横には「E」を中心に星々が円を描く、エンクレイヴのマークが描かれていた。最終戦争終結後、ポセイドンオイルに移ったアメリカの首脳陣はヒューストンからの物資輸送は困難だと知り、衛星の管理を機械に任せることになった。今では中央コンピューターが現在の管理人だ。乗組員は既になく、最終戦争後に搭載された脱出カプセルで地上のエンクレイヴへ編入している。

 

そして、中央コンピューターは一人で巨大な衛星の軌道制御を行っていた。200年という歳月でも動いてはいるが、酸素がなくとも金属疲労などによって所々ボロが出始めている。メンテナンス用のプロテクトロンやMr. ガッツィー、果ては警戒用ロボットまで使用する始末だった。

 

日々のルーチンワークが終わりを迎えようとするなか、防宙レーダーに巨大な機影をコンピューターは捉えた。すぐに目標物の大きさは検討がついた。大きさは全長300mを越える円盤だった。さらにそれは二機あった。

 

直ぐ様、防空警報を出して待機中であったレーザー砲台へエネルギーを注入する。何機かは故障しており動いて居なかったが、20機近くのレーザー砲台がレーダーを元に目標へ照準をつける。コンピューターは有視界で隕石を確認しようとするが、確認するよりも先にレーダーから円影が消失する。有視界で確認するが、その宙域には何も存在していなかった。太陽光によるゴースト(誤作動)と認識したが、これが人間であれば疑問に思って、各部点検や哨戒艇を派遣することもあったかも知れない。どちらにしても、宇宙ステーションを管理するコンピューターには誤作動と結論づけるほかなく、地上にあるエンクレイヴの司令部へ報告を送ろうとした。

 

融合炉からエネルギーを供給するレーザー砲台のパイプラインを切り、省電力モードへと切り替え、いつもの通りのメンテナンスと現状維持のルーチンワークを開始した。

 

<Receive Top priority order>

 

地上のエンクレイヴより命令が受信する。命令はいかなる他の命令よりも優先される特別なものだった。

 

<Top priority order

 Request from the NAADC

 The level is A5.

 Call for a ground attack.

 One discharge warhead.

 A warhead is Thermobaric.

 Coordinate November 9 Zulu 43 Echo 47 Alfa 8.

 The attack time is East Coast standard time, 055002.>

 

その命令は北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NAADC)によって出された命令であり、命令のレベルは最高位に位置している非常に優先度の高い命令だった。

 

弾頭は揮発性の高い燃料を当該地域に散布し、爆発させ核爆発にも等しい破壊力を持つ燃料気化爆弾。通常兵器とすれば非常に攻撃力の高いものだ。早朝に落とされるそれは座標通りならばアメリカ合衆国の東海岸に位置するメリーランド州の田舎である。

 

人間ならば、自国にミサイル攻撃を仕掛けるのかと訊くだろうが、コンピューターは非情にも何の感慨もわかず、命令されたとおりの行動に移る。

 

弾道ミサイル発射台にミサイルを設置するため、ロボットアームで保管庫を開けると、並べられていたミサイルを掴みあげ、発射台へと組み込む。宇宙航行と整備装備を装着したMr.ガッツィーが外付けの燃料タンクにパイプを繋いで燃料を注ぎ込む。

 

他にも数機のロボットが各部の点検を済ましていく。これが、地上に何年も放置されていたICBMなら全体改修しなければならないが、ここは幸いにも宇宙だった。酸素も金属を錆びさせる要素もない真空において、200年の歳月は問題でもない。ボロが出ると言っても、常日頃稼働するコンピューターやレーダーと言った部類。最終戦争から200年が経ち、数百年ぶりのミサイル攻撃。コンピューターが壊れていなければ間違いなく、発射が出来るだろう。

 

<Fuel infusion completion

 The last discharge check completion

 System All green>

 

発射準備に入り、燃料パイプが切り離される。衛星の姿勢制御が動き、軌道修正が為された。つい、半年前まではユーラシア大陸へ照準されていたが、命令によって東海岸上空へと軌道変更した。

 

<The aim orbit is clear

count down to liftoff

 It's now 2 minutes to zero>

 

遂に発射秒読みが開始され、まだ人がいた頃の名残である室内のスピーカーから秒読みをする合成音がステーション内に響き渡った。

 

嘗てアメリカ市民の血税を投じたこの軍事宇宙ステーションが二百年経った今では、東海岸本土へミサイルを放とうとしていた。それも、軍事的に価値があるかどうか疑わしい荒れ地のど真ん中だ。それは先人達への最大の皮肉だろう。何せ、敵国ではなく、自国へとミサイルを発射するのだから。

 

 

<4・・・・・3・・・・2・・・・1・・・・Launch!!>

 

接続が切り離され、軌道補正の噴射によって地球へと墜ちていく。地上から発射するときは重力の楔を断ち切るために、噴射炎を吹かせながら弾道ミサイルは上昇していくが、ステーションから切り離された弾道ミサイルは軌道に乗りながら、軌道補正をして重力の坩堝に引かれて落ちていく。

 

大気圏を突破し、薄い雲を通り抜けて核の炎に焦げた大地へと到達する。

 

<It is one minute until aim arrival>

 

第一段階の保護用パネルが分解し、代わりにミサイルを動かす三次元型噴射ノズルが顔を出した。そして一気に燃料が燃焼し、目標地点へ加速する。ほぼ直角に落ち、音速を越える速度に超音速波が周囲に響き、爆音のようなものが周囲に響いた。それを聞いた生物は目覚め、何の音かと戸惑った。

 

<It is 20 seconds to an impacted bomb>

 

目標まで少し。あと数十秒で目標に到達する。すると、ミサイルは一気に減速し、そして爆発した。酸化エチレンなど揮発性の高い燃料が爆薬によって加圧され、一気に放出され、周囲の水素と酸素が反応する。太陽にも似た閃光が周囲を照らし、地上に第二の太陽が出現した。爆風による圧と殆んど真空状態になり、その場にいた生物、FEV変異体は死滅する。そして一気に4000度の熱量が彼らを焼き殺す。

 

爆発による衝撃波によって半径百キロにいるものは、その衝撃波によって吹き飛ばされた。

 

そして吹き飛ばされた彼らは爆発した方向を仰ぎ見る。

 

そこには、ウェイストランドの死の象徴。

 

大きなキノコ雲が昇っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ん?ここは・・・・?」

 

不思議な感覚だった。重力が下へと流れていくなか、全身の筋肉を使わずに地面を垂直に立っている。そして、身体には奇妙にも何かが巻き付けられて指一本動かなかった。

 

「えっと、まさかここは」

 

首は動かないが、目は動かすことができた。周囲は金属製の独房らしく、扉の近くには球体型の監視カメラが設置されていた。そして自分が何故体が動かないか察知した。それは、拘束フィールドが全身を被い、身動きできないためであった。

 

ここは一度見ている光景。エンクレイヴの司令部が置かれているレイヴンロックの地下牢だった。

 

ロッカーを見る限り、あそこに俺の装備品が保管されているだろうが、今のエンクレイヴが俺の武器をそこに置くことはないだろう。そこまでバカではない。普通なら武器装備を没収されて違う場所に保管されている。

 

 

ここに来る前まで、確かエンクレイヴのベルチバードに乗っていた筈だった。そして最後に見たのはVault87に投下された衛星ミサイルとその爆風だった。

 

 

記憶を遡って何があったか思案していると、青白く起動していることを示すライトを出す監視カメラが不自然な動きをするのに気が付いた。そして、赤色の発光をするとカメラは動かなくなってしまった。

 

そして、拘束フィールドが消滅し、いきなり消えたため俺は地面に倒れ伏せた。

 

「一体どうなっている?」

 

ゲームなら、解放される前にオータム大佐がここにきて浄化プロジェクトのパスワードを聞こうとやって来る。本当のパスワードを言えば殺されてしまうが、言わなかった場合大佐は激昂するも、大統領が助け、執務室に来るよう言うのだ。そうして、やっと行動できると言うのにどうしたのだろうか。俺はシャルではないからだからか?

 

すると、目の前にある扉が開いて一人の男が入ってきた。背丈体格は同じくらいで、おれと同じような黄色人種だ。彼の服装はアメリカの囚人らしく、オレンジ色の繋ぎに番号が印刷された囚人服だ。俺も見てみると、同じオレンジ色の囚人服で、更には同じ番号だった。彼は俺に小さいメモを渡す。其処には・・・

 

<ロッカーに入っている士官服を着て、行政区画まで来い A >

 

一体どういう事だと目の前にいる男に問いただしたかったが、彼の雰囲気は何も聞くなと言わんばかりの雰囲気を出していた。

 

俺はロッカーを開けると、ハンガーに掛けられた大尉の階級章が付けてあるエンクレイヴ士官服が置いてあり、それを手に取った。他にもガンベルトとプラズマピストルが置いてあったが、マガジンケースの中は空だった。流石に弾は入れていない。しかし、足首に付ける小型のホルスターには、34口径ピストルがあり、弾倉には5発の弾とサイレンサーが装着されていた。隠密仕様に改造されているらしく、通常のシルバーメッキの34口径ピストルではなく、ブラックに塗装されていた。ネームプレートには「Cap. Jhon Munemori」と刻まれている。日系とヒスパニックのハーフなので、日本人の名でも十分大丈夫なはず。口で「ジョン・ムネモリ大尉」と三度口にして急いでオレンジ色の繋ぎに手をかける。

 

 

囚人服を脱いで、急いでエンクレイヴの服へ着替えていく。ふと、ロッカーの扉に嵌めてあった鏡を見た。鏡には旅の汚れで黒くなっていた顔ではなく、さっき風呂でも浴びてきたかのような姿をした俺が映っていた。髭も剃られ、所々切り傷があった顔には傷がない。目を負傷したときに出来た大きな傷跡は残っているが、それ以外の細かいものは綺麗になっていた。更には、長旅の汗や体臭はない。

 

もしかすれば、エンクレイヴのバンカーに入るとき防疫措置として勝手に身体を綺麗にされたのかもしれない。

 

ウェイストランドは戦前とは違って、荒廃して所々死が潜んでいる。疫病や害虫、数え上げればきりがない。エンクレイヴもウェイストランドで伝染するウィルスや病原体を持ち込ませないようにしているのだろう。

 

直ぐに身支度を済ませて士官服の帽子を被った。準備が整い、扉の前に立つと自動で扉が開いた。

 

 

 

通りに誰もいないことを確認し、牢屋を出ると後ろから誰かの足音がした。とっさにホルスターから銃を抜こうとするが、今は軍服を着ているからバレることもないだろう。変な動きをしない限り大丈夫な筈だ。

 

「何をやっている?」

 

そこには、エンクレイヴ士官の服を着た将校が俺を見つけ、怪訝そうな顔で近づいてきた。彼の襟元の階級章は中尉。ネームプレートにはウィリアムス中尉と刻まれていた。服装上、俺の士官服の階級は大尉だから、彼から見れば俺は上官だった。すると、彼も俺の階級章を見たのか、身体が硬直し、すぐに俺へ敬礼する。

 

「し、失礼しました。こ、ここら辺で油を売ってる下士官かと思い・・・」

 

「いや、構わん。まじめに取り組んでいてなによりだ」

 

返礼をしてその場を立ち去る。格好良く敬礼してその場を治めたものの、内心冷や汗がだらだら出ていて、心臓はミニガンの様に早く脈動していた。挙動不審に思われないようにその場を後にして、生前のゲームの記憶を思い出そうとしながら、留置場区画から出ようと歩き出す。

 

「えっと、ここはどう行ってたか。どっかに階段とか合った気がするけど」

 

士官が基地内できょろきょろしてるのは不審がられて非情に不味いが、見なければ分からない。しばらく歩いていくと、基地内の地図が映された立体映像があるフロアに到着した。

 

レイヴンロックは元々、ワシントンD.C.から退避するために政府要人や軍の高級幕僚を避難するために建設された大規模軍事シェルターだ。国防総省の地下にある地下施設やシャイアンマウンテンにある北米の防空司令部がある通称「NORAD」など、それらと同規模である。

 

 

その二つは現行の使われている核シェルターだったが、レイヴンロックは最終戦争寸前に完成した次世代の核シェルターだ。

 

最終戦争直前、エンクレイヴは事前のシュミレーションで中国との核戦争によって気候変動が発生し、一般的に交付されているマニュアルや予測は殆んど役に立たないことを理解していた。国民に知らせれば、大パニックとなってしまうことは必須だろう。

 

エンクレイヴはそのシュミレーションを元に地下シェルターで気候が安定する時期まで生存可能にするための施設を建設した。Vault-tec の作る悪魔の実験のための核シェルターではない。純粋に核の冬を乗り越えられ、更には付近に部隊を展開できるよう、自給自足が完全に可能な施設が建設させられた。それが、レイヴンロックだった。地下に作られた巨大な兵器工廠や食料生産プラント、それらの巨大施設を管理し、首都の膨大なデータ保管が可能なZAXシリーズが設置し、本格稼働が為される筈だった。

 

しかし、最終戦争には政府要人はそこに入ることはなく、規程のマニュアルに従ってシャイアンマウンテンやポセイドンオイルの海上油田へと退避した。単にマニュアル作成前であったこともあり、更にはレイヴンロックがワシントンDC近郊であるため、中国軍の攻撃にさらされる危険性があった。エンクレイヴは最終戦争終結後、生存した米軍部隊を終結させてエンクレイヴへ再編成された。

 

レイヴンロックの敷地面積は20ヘクタール。東京ドーム4個が余裕で入る大きさであり、各種生産プラントが置かれ、そこからでも政府中枢として動けるよう、各行政まで区画が作られていた。あまりにも巨大なため、輸送車両が基地内を往き来し、モノレールが基地の人員を乗せて動いている。

 

構造上、地下都市が形成されていると言っても良い。ガンダムのジャブローをコンパクトに纏めたと表現しても良いだろう。

 

言わば、アメリカ合衆国の政府中枢をレイヴンロックに詰め込んだと言っても良い。西海岸に首脳陣がいたため政府中枢はポセイドンオイル基地だったが、東海岸であればレイヴンロックが政府中枢になったに違いない。

 

その巨大な基地に俺は驚きを隠せなかった。今見ているレイヴンロックの様子は、記憶とはまったくもって掛け離れていたからだ。pip-boyを覗き込み、立体映像の地図データを取り入れようとしたが、周囲の兵士の視線を察知した。

 

そう言えば、エンクレイヴの兵士はpip-boyを装着しない。だからと言って外すわけにもいかないので、データを収集し終わると、直ぐに袖で隠し、急いでその場を立ち去る。警備兵pip-boyの存在を知っていれば脱走したとバレるかもしれないが、さっさと行政区画へと移動しなければならない。

 

pip-boyを操作し、行政区画への道程をナビゲートする。拘置所を出て、憲兵詰所を抜ける。そしたら近くのモノレール駅からモノレールに乗って、行政区画へと行く。地図を見ると行政区画は巨大だが、流石に向こうから気づいてくれる筈だ。

 

「落ち着け・・・バレることはないさ」

 

まるで映画の「大脱走」。ドイツ国防軍の軍服を調達して収容所から抜け出して越境する登場人物のようだ。幸い、ここはアメリカで言葉が通じることだろう。

 

拘置所を出ると、外は地下であるにも関わらず街灯が無いのに明るく感じられた。空はなく、コンクリートと配線が確認できた。

 

所々、パワーアーマーを着た兵士が警戒しているものの、軍用犬を使用しているようには見えなかった。焦らないよう慎重に人目を避けながらpip-boyを覗いて、近くにある憲兵詰所の近くにあったモノレール駅を目指した。道にはウェイストランドでよく見るような打ち捨てられた軍用トラックがとても良い状態で停められ、他にも緑色に塗装されたセダンも確認できた。

 

エンクレイヴのテクノロジーはウェイストランド随一。いや、アメリカ一と言っても良い。正直、この設備を破壊するのは惜しい。

 

やがて、歩いていると憲兵詰所が見えてきた。道路の向かい側にはモノレール駅が確認できた。

 

輸送トラックが通っていないことを確認すると、道路を渡りきり、モノレール駅へと足を運ぶ。駅は二階にあり、階段を登って扉を開けた。すると、駅には数名のエンクレイヴの兵士が椅子に座って談笑していたり、ヌカ・コーラを飲んでいる姿があった。

 

直接の部下ではないため敬礼をすることはなく、士官が入ってきたため声を抑えていた。

 

エンクレイヴ兵士の下士官や兵の服装は士官が着用する衣服と少し異なり、色は同じであるが、学ランのような形であった。

 

元々、学ランは軍服のデザインであり、とある大学の学ランはそのまま軍人になれるよう、装飾を外せば軍服になれるものも多い。また、今の女子高生が着るセーラー服も海軍兵士の軍服であった。元々、学校の教員は戦前、軍事教練を施されていたことにも起因する。

 

俺はそんな下士官や兵の服装をちらりと見て、さっさと改札まで赴いた。ポケットに入っていたカードキーをかざして改札を通りすぎ、モノレールに乗り込んだ。

 

モノレールはニューベガスにあった物と似ているが、車窓はしっかりと嵌められており、ウェイストランドで放置され、スカベンジングの材料である列車とは偉い違いだった。

 

モノレールに乗り込み、座席に座ると警笛を鳴らしながらゆっくりと出発した。車内にいるのは俺と技術者らしき繋ぎを着た技術兵。がらがらの車内を歩いて、近場の座席に座ってモノレールの行き先を見る。

 

[食料生産プラント方面行き]

 

近くにはモノレールの路線図があり、行政区画には一度軍司令部の駅から乗り換えなければならない。

 

ウェイストランドとVaultしか知らなかった場合、モノレールで行政区画へと行くなんてとてもじゃないが出来はしない。あれを書いた人物はもしも、途中で迷子になったらどうするのだろうか。前世の記憶があるから行けるのだけれども、普通にウェイストランド人として生きていたら、改札すら通れるか疑問だ。

 

呼吸を整え、身体を落ち着かせる。モノレールは兵器工廠西口に到着し、扉が開くと同時に繋ぎを着た技術兵が数名の乗車してきた。ツールボックスなどを抱えた作業服姿の兵士達を見ると、5人の内4人が女性だった。一人の中年下士官に4人の若い女性技術兵が話し込んでる様はハーレムと差し支えないだろう。

 

風紀的に良くないような気もするが、ふと見ると、周囲の座席に座る男の技術兵数名は目を細めたり、呆れた顔で彼らを見ている。独り身からしてみれば、それは羨ましく、嫉妬の対象だった。すると、隣の車両から移動してきたのか、「MP」の腕章を付けている軍曹が通り過ぎ、怪訝そうな顔でそれを見やる。どうやら、MPもそれを止めないようだ。4人の女性を侍らせるあの男はちょっとエンクレイヴ軍の風紀としてどうなんだ?と疑問を抱かせるものの、諦めた俺は次の停車駅である「司令部」に降り立った。

 

(一番ホームに行政区画方面行き、まもなく発車いたします)

 

アナウンスが周囲に鳴り響き、早歩きで向かい側に位置するホームへと移動した。扉が閉まる前に車内へと入ると、そこには軍服以外にもスーツなどの服を着た文官らしき人がほぼ満席の状態だった。中にはスーツを着た女性の姿もあり、モノレールの座席は全て埋まっていた。

 

(発車いたします。お掴まり下さい)

 

警笛がなり、スムーズに動き出し扉の近くの壁際に寄りかかった。

 

(この電車は行政区画方面行き。0900より大統領府より大統領の演説があります。その時間帯は運行を一時運休します。ご利用予定の要員は地上の交通車両か担当官へ具申するように)

 

普通であれば、車内に流れるお知らせはお客様から始まるが、全てが官営であるため、身内。敬語などはあまり気にする必要もなくなる。九時から何やら有るようだが、pip-boyを見る限り、あと一時間半を切っていた。

 

ふと見ると、扉の上には液晶テレビのような画面が取り付けられていた。すると、そこに映されたのはスーツ姿の男が原稿を読み上げるニュース番組だった。外のウェイストランドでは食うか食われるかの生活を送っているのに対し、エンクレイヴは戦前の技術をそのまま維持していた。

 

(第七管区、通称メガトンでは連日住民が抗議活動を行っています。司法省が布告した「武装解除令」に対して、自称保安官のルーカス・シムズ(47)を中心に抗議活動が繰り広げられています)

 

字幕で流されたそれらを読み、ニュースキャスターの場面からメガトンの様子が流された。

 

メガトンの様子は俺が知っているものと異なっていた。中心地にあり、街の名前の由来となったメガトン級の核爆弾は撤去されて、代わりに区役所と書かれた看板があるエンクレイヴの施設が見えた。周囲には給水車やヘリポートなどが設置されている他、住民の衣服や表情が大分変わっている。

 

前まで入植者達はボロ布のような服装で一日の糧を得るために日雇いの辛い仕事に手を出していた。メガトン未公認の出店で何の肉かわからないものに手を出して食中毒で死んだりした。道の隅に倒れた死体はその内の日雇い労働者が引きずって外へと捨てていく。人口は減るだろうが、それ以上に中に来るものもいる。表情には陰りがあり、笑うことはない。

 

だが、今はどうだろう。エンクレイヴが支援したお陰か、真っ白なTシャツを着て入植者の誰しもが表情が柔らかい。

 

このままゲームのようにB.O.S.の一人としてエンクレイヴを倒す方がいいのだろうか。エンクレイヴはゲームのような選民思想にまみれた極悪組織ではない。少しはあるものの、彼らの中にも善人はいる。やっていることは強引だが、人々を支援している。ウェイストランドにとってどれが一番幸せだろう?

 

 

 

 

ふと視線を周囲に向けると、先ほどよりも文官が目立ち、ビジネスバックのようなものを抱えていたりしており、前世で見た通勤途中のサラリーマンのようだった。幾つかの駅に止まり、さらに多くのスーツを着た文官や軍服をきた軍人が乗車し、行政区画に付くまでに車内は満員となった。

 

男の文官はすぐ近く、目と鼻の先に近づいており、内心肝を冷やしながらその場を凌ごうとする。

 

ふと、何かの視線を感じ、その場所へ視線を向けた。そこにはちょっと目付きのキツいスーツを着た女性が俺のことを見ているではないか。眼鏡を掛け、インテリ系の雰囲気を醸し出しながらも、女性の魅力を失わず、ウェイストランドのような野性的なものはない。黒髪をボブカットにしている彼女は中々魅力的。

 

だが、それでもエンクレイヴの文官である。俺が軍の者ではないと分かれば、近くのMP を呼ばれかねない。

 

睨む彼女がいつ声を挙げるか分からず、焦りを募らせていたが、幸運にも目的地はすぐそこに迫っていた。

 

[次は行政区画。左のドアが開きます、ご注意ください]

 

そのアナウンスに助けられ、少し息を吐いて精神を落ち着かせる。そしてモノレールは行政区画へと到着した。扉が開き、それと同時にモノレールを降りて改札を目指す。スーツを着た文官や軍服を着る将校。人の流れに乗りながら改札に向かおうとした時だった。ふと、右腕が掴まれたのだ。

 

掴んだ主は先ほど俺にガン飛ばしていたキャリアウーマンの眼鏡の女性。

 

 

これは、あれかもしれない。

 

オワタ・・・・

 

「やっと見つけたわよ・・・」

 

執念の末に真犯人を見つけたとでも言うような表情。もしかして、俺を掴まえたら懸賞金が出るとか?

 

横から青いエンクレイヴの軍服を着た駅員が鬼の形相で近づいてくる。もしかしてあれなのだろうか?

 

「この人痴漢です!」

 

ゲームの世界に転生して、初めて痴漢冤罪で捕まった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと思い出したのが、falloutと同じく核戦争後の世界を描いているゲームだった。それはアメリカとの核戦争で廃墟と化したモスクワ。そこのモスクワメトロの地下で生活する主人公など生き残った彼らは、核戦争などで変異したミュータントや得体の知れない怪物に怯えながらも懸命に生きていた。しかし、ロシア民族主義と国粋主義を中心に置いたファシストや共産主義者などメトロでは壮絶な殺し合いが行われていた。

 

掴まったのはモノレールだったが、モスクワメトロから痴漢冤罪などで捕まった人は核戦争後どうなったのかふと考えてしまった。

 

今居る駅員のオフィスはそのメトロの世界に似すぎていた。エンクレイヴの施設と言えど、既に建設してから200年の歳月が経っている。無論、所々劣化して居てても可笑しくはない。それに、建設当時は世界的に核戦争のカウントダウンが始まっていた。世界中で不安と焦りが蔓延している時に何百年も経っても使えるバンカーが必要であるだろうかと疑問視する者も少なくなかったはずだ。レイヴンロックの内部は確かに素晴らしい設備ではあるが、完全に補修が出来ているわけではない。施設が巨大であり、全てが補修できていないのが現状だ。

 

駅員のオフィスは、外と違って少し古ぼけた物となっている。エンクレイヴのバンカーとは違って、まだメトロの駅事務所に似ている。唯一違う所はウェイストランドと違って荒れていない点であろうか。

 

古ぼけた机と右手にはめられた手錠は机の足に繋がっており、簡単には外せそうにない。もし、俺が偽将校だとばれたらやばい。左手で何か無いか探し、机の上や引き出しを開けて確認する。すると、机の中にはエナジーセルが一つとヘアピンがあった。プラズマピストルは駅員に没収されたが、足首にあった34口径は無事だった。銃で手錠の鎖部分を破壊しても構わないのだが、それだと手錠は付いたままなので見た目的に良くないのだ。ヘアピンを折り曲げ、使いやすいようにおると手錠の鍵穴へと差し込む。ロックピックはあんまり得意じゃないが、それなりには可能だ。メガトンの武器庫は流石に無理だが、そこら辺の金庫の鍵なら楽勝だ。最近は有っても、ショットガンで破壊したりしていたからか煩わしく思ってしまうが。

 

とっかかりを感じ、優しく慎重にまわすとカチャリと機構が音を立てた。手錠はゆるまり音を立てないようにそっと床に置いた。

 

34口径ピストルを抜き取ると、腰を低くして事務所の扉を開けた。ゆっくり開けて廊下を確認すると、廊下の中心にあるこの扉と左右にある扉は開いておらず全くの無人だった。多分、右の扉は出口と書かれているから、たぶんそちらに行けば外へ出られるだろう。

 

扉を開け、猫背のような姿勢で中腰になりながら銃を構えて右奥のドアへと接近する。外は改札に通じているらしく、ドアを開けようと手を出したときだった。

 

 

扉はいきなり開かれ、思い切り突き飛ばされた。腕を掴んだその手は反応できない俺を押して壁に床にたたきつけると、俺の上腕で首を絞めた。

 

振りほどこうとしても離すことが出来ず、気道が確保できるぎりぎりのところで食い止めた。そんな事をしたのは誰だろうか。

 

デジャビュとも言えるその光景に相手はやはりあの女だった。

 

「ユウキ、少しは上達したんじゃないか?」

 

被っていた軍帽は脱ぎ捨てられ、セミロングの茶色の髪は俺の鼻先をくすぐり、甘い香りが刺激する。アリシアはvault87で会ったときよりも生き生きとしていた。

 

悪戯っぽい笑みを浮かべた彼女は俺の腕から力を抜いた。

 

「アリシア、一体何をしているんだ?」

 

「お前を迎えに来た。手紙は読んだんだろう?」

 

アリシアは「よくここまでこれたな」と不思議そうに俺を見る。前世の記憶が無ければ来ることは出来なかっただろう。エンクレイヴはかなり無茶をするものだ。

 

「本当なら、もっと遅くに迎えに行くはずだったんだが、手違いがあってな。手紙にしてもすぐに私が拘置所で合流するはずだった。手紙もプランBということになっている。成功する可能性はかなり低いが」

 

つまりプランBは自力でここまで来いと言うことか。何と言うか、転生者ではなかったらどうするつもりだったのだろう?

 

「その時は留置所に戻されるから、プランAだな。私が迎えに行くだけだ。だが、銃を構えれば射殺だろうけど」

 

「しかし、行政区画で痴漢に間違われるとは参ったな。手を出したわけではないだろう?」

 

アリシアは笑いながら、俺を指差し始めた。

 

「俺だってまさか痴漢に間違われるとは思わんし、第一顔が似てるからって手錠で机に繋ぎ止められる身にもなって欲しいね」

 

そんな俺の恨めしいセリフにアリシアは更に笑う。あれは流石に肝が冷えたが、バレなかったのは幸運だろう。

 

 

すると、アリシアは俺の顔を見る。彼女の顔はふざけたような笑みから真剣なものへと変わった。

 

 

 

「さて、ユウキ。お前はエンクレイヴをどう思う?」

 

 

「唐突だな、戦争を引き起こし、大地を焦土に変えたエンクレイヴの先祖は腹が立つ。それに、それを引き継いだ高慢な奴等もね」

 

「確かに、エンクレイヴの組織の質は良くない。過去も今も変わっていない。それに浄化プロジェクトの一件はやりすぎだ。それにメガトンや他の集落にしてもそうだ。ウェイストランド人は野蛮だとか言っている奴等も結構いる。だが、エンクレイヴの技術力や国力はどうだ?キャピタル、いやアメリカ全土で一番の技術力と科学力を保持しているだろう。NCRやBOS、北の連邦と比べれば分かる筈だ」

 

「それを差し引いたとしてもエンクレイヴの組織の本質はどうなんだ。いくら技術力や国力があるとは言えど、その国民が選民思想に染まって、ウェイストランド人を野蛮と言う。言うだけじゃなく、虐殺行為もあったんじゃないか?」

 

人は相手に対して恨めしく、又は見下してしまえば言葉を使い、攻撃する。そして直接痛め付けるようにすらなる。それは有史以前から行われている他者廃絶の歴史だ。奴隷としてこき使い、または民族根絶、民族浄化のなの元に虐殺を行う。政策によって迫害したものもあれば、宗教によって行われた。

 

エンクレイヴの政策は穏健的なものかもしれない。だが、根底にある選民思想や差別意識はやがてウェイストランドに危害を加えるだろう。

 

「ああ、情報統制で情報が伝わらないようにしているが、ある一部隊が集落を皆殺しにした所もあった。命令違反として裁かれたが、軽いものだ。昔なら厳罰で銃殺が妥当な筈だろう。お前の言う通り、

選民思想はかなり根付いている」

 

「だったら・・・・」

 

おれは続けて言おうと彼女の目を見るが、彼女の目はその事を苦慮していると言うよりも何かの決心をしたような強い意志が感じられた。

 

「だから、内部からそれを治さなければならない。私は昔、家族が居たが、皆死んでしまった・・・」

 

一瞬、アリシアは昔を思い出したのか、表情が硬化するものの、直ぐに元に戻る。

 

「恨んだ時もある。何故、上に従わないのか。今のままでもいいじゃないかって。だけどそれは問題を先伸ばしにするだけ。悪いことに目を瞑ってもそれは改善しない。寧ろ悪くなる一方」

 

アリシアは一息置いて、俺の顔を見て口を開く。

 

「最初は逃げ出そうと思ってた。別れてから、あの時の事を後悔したさ。逃げ出してもどうにもならないことを考えて、プラズマピストルの銃口を頭に向けたこともある。だけど、ユウキやシャルロット、ジェームズ達と一緒に居たときが一番良かった。・・・・・一度犯した過ちはもう取り戻せない。だから私はそれを償おうと思う。」

 

 

アリシアは視線を落とし、ペタンと床に尻を着けて座る。胡座ではなく、両足を左右に伸ばすような座りかただ。

 

「ユウキ、私が謝っても許してもらえないのは分かってる。シャルロットも多分、口すら利いてくれないだろうけど・・・・・すまなかった・・・」

 

微かに嗚咽と床には溢れ落ちる水滴が水溜まりとなっていく。俺は彼女の頭を撫でて、背中をさすった。

 

 

 

アリシアは浄化プロジェクトに対して行ったエンクレイヴのあの行動を歓迎した訳じゃない。むしろ、忌々しく思っただろう。だが、彼女はエンクレイヴを知っていた。稼働する航空兵力や装甲車両、高性能なパワーアーマーに鍛え上げられた装甲兵の軍団。科学力は戦前以上のものを保有する彼らと戦えば死ぬことは目に見えている。アリシアは俺がエンクレイヴに属すればと思っただろうに違いない。多少強引にでも取り込めればいいと思ったかもしれない。家族を謀殺された彼女はエンクレイヴとは忠誠の対象ではなく、食い扶持としか考えていない。彼女の選択は間違っていたわけではない。ただ、方法が悪かった。悪すぎたのだ。

 

「アリシア、お前を許すよ。だから、もう泣かないでくれ」

 

俺は泣き崩れるアリシアを立たせた。嗚咽して、背中を撫でるなど落ち着かせる。落ち着いたのか、ゆっくり立ち上がると、息を整えた彼女は再度決心したように俺の目の前に立った。

 

 

 

「だから私は決めた。父の意思を継ぐ。エンクレイヴを脱するのではなく、中を変えていこうと思う。一緒に来てくれないか、ユウキ」

 

俺はアリシアの言ったことに驚くことはなかった。故郷のVault101で出会ったロイド・スタッカート技術中佐が言っていたように、エンクレイヴは一枚岩ではなく、東海岸に元からいた将校達と西から逃げてきた者達とで衝突している。クーデターが起きるのも時間の問題だっただろう。アリシアがそれを手伝うのは必然だったかもしれない。俺はどうするべきか、それは決まっている。

 

 

 

「いいよ、アリシアを信じよう」

 

 

「ありがとう!!」

 

 

 

俺がそう言うと、アリシアは俺を抱き締める。「べ、別にあんたの為に助けるんじゃないからね!」と俺の僅かなツンデレが叫ぶが、口には出さない。

 

シャルが見れば浮気現場なんだろうな〜と考えた。

 

 

アリシアは暫く俺に抱きついていたが、俺が時間は?と訊いたお陰で正気を取り戻す。まあ、正気と言うよりも彼女のデレが出ただけで正気なのだろうけど。

 

何時もなら俺を弄ぶような言動の彼女だ。デレが出たことを恥じたのか、頬を朱色に変えて恥ずかしそうにモジモジとした後、くるりと俺を背に「時間がない、急ごう」と気を取り直す。しかし、さっきのあれを見せた彼女は何処と無く落ち着きがなかった。

 

俺は何処へ向かい、誰に会うのか訊きたくなった。

 

「なあ、アリシア。俺は何処に向かうんだ?」

 

「貴方に会いたいと、議会の面々に命令されてね」

 

議会?と俺は疑問符を頭に浮かべるかのように、アリシアに尋ねた。

 

「議会はエンクレイヴには無いからな。所謂、戦前の民主主義を渇望する反政府組織と覚えておいておけばいいさ」

 

エンクレイヴは大戦争前に発布した非常事態宣言によって議会は一時機能を停止している。政府機能はすべて最終戦争で破壊されたが、アメリカ合衆国政府の公布された非常事態宣言の元にエンクレイヴは大統領を中心とする独裁政治が行われていた。

 

「成る程ね、打倒するのは大統領府か。親玉はエデン大統領とオータム大佐かな?」

 

「まさか、そんなわけないだろ?」

 

アリシアはバカを言うなと、俺の顔を見る。一瞬、もしかしたらアリシアは大統領府に所属する二重スパイかと疑うが、彼女に大統領に忠誠を誓う理由が理解できない。すると、彼女は笑いながら口を開いた。

 

「大統領府は打倒するさ。だが、オータム大佐を倒してどうするんだ?彼は議会の立役者なのに」

 

おれは耳を疑った。もし、それが本当なら驚くべきことだ。

 

「え、どういうことだ?」

 

 

 

「ああ、オータム大佐は議会の議長だ」

 

 

 




予想ですと、あと二・三話で本編は終了します。多分、番外編でDLCを入れるかもしれませんが、まだ考え中です。

そう言えばとうとうfallout4が出るようですね。
エンジンが違うのかなと思いましたが、ゲームシステムは同じにして欲しいですね。

誤字脱字ありましたらよろしくおねがいします。



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四十話 議会

やっと退院いたしまして、投稿です。

長かった・・・・。

時間はかなりあったので、ノーパソで時間があれば書いてました。もっとも、体力が許す限りですがw



この話は三部構成です。※のラインから時間軸が変わります。最初の一部以降は全部三人称となりますのでご注意下さい。


 

 

行政区画

 

 

そこはまだ、合衆国政府が存在しているようだった。いや、『しているよう』ではない。実際、そこに政府は存在していた。

 

 

最終戦争前、エンクレイヴは政府機能を生き残らせるために数カ所に機能を分散させることを構想する。それは、古代中国における複都制と似通っているものであった。それは、エンクレイヴの本拠地であるポセイドンオイル基地に大統領府を設置し、軍事をそこへ集中させる。省庁などの司法や行政に関わるものは、一先ずレイヴンロックのデータベースへと保管した。

 

 

しかし、エンクレイヴの予想を遥かに上回る核攻撃の被害によって、複都制はアクセスの困難さが仇となった。そのため、中央行政はレイヴンロックの行政区画の省庁が担当し、その他地方行政は人員を派遣した、またはそこにいる役人に委任した行政を行った。大統領府と米軍総司令部はポセイドンオイルとした。一応、レイヴンロックには総司令部にもできる設備があったが、官僚主義的な事なかれ主義がポセイドンオイルに大統領官邸をそのままにし、vaultの住人によって壊滅することになるとはエンクレイヴも想定していなかっただろう。

 

 

分散させた行政能力のおかげで、西海岸の基地と領土を失った以外は、国家としての運営は可能だった。西海岸から逃れた生き残りの総司令部の将官は僅かであり、大統領官邸にいる行政官は全滅だった。現在では、大統領の継承順位によって大統領が選ばれている。それが、ジョン・ヘンリー・エデンだ。

 

 

そんな話をアリシアから聞いて、アメリカの首都機能を分散させるためにそうした行動をとったのには驚いた。なにせ、大陸をまたいで大統領官邸と行政の省庁を分けてしまったのだから。しかし、核の炎によって全てを焼きつくされるよりはマシなはずだ。中国はワシントンD.C.を荒廃した大地に変えてしまったのだ。しかも、大統領官邸(ホワイトハウス)はフェンスに近づいただけで被曝するようなクレーターに姿を変えてしまっている。

 

アリシアの後に続いて、彼女の話を聞きながら行政区画を歩いて行く。

 

行政区画にはウェイストランドでは見られないような通路が人の川のようになるところ。黒いスーツをきた役人が歩きまわっていることに驚きを隠せなかった。

 

「いつもこんなに人数が多いのか?」

 

「出勤時間だからな。私もあまり来ないけどすごいな」

 

アリシアも行政区画に来ることは全くないのだそうだ。エンクレイヴの総司令部はよく行くそうなのだが、今日に限っては行政区画の閉鎖されたエリアで「議会」の会合となる。廊下の人垣をかき分けながら閉鎖されたと言われるフロアへと移動する。

 

途中、エンクレイヴのMPの下士官が巡回していて、俺を見ると敬礼して去っていく。

襟にある大尉の階級章は伊達ではない。

 

「ご機嫌ですね、大尉殿♪」

 

茶化したようにアリシアは俺に言う。一応、見た目だけは大尉であるから、アリシアが弄ってくるのも分かる。しかし、公衆の面前でそれをやられても困るのだ。

 

「スタウベルグ中尉、案内してくれ。命令だ」

 

「は~い、了解です」

 

演技する気も失せたのか、間の抜けた感じで彼女は案内する。俺たちは忙しいのにと、怒気を孕ませた視線が痛かったのでアリシアを急かして急ぐ。アリシアの案内によって、オフィスフロアの隅にあるエレベーターに到着した。そのエレベーターは工事中のため立ち入り禁止の札が掛かっており、作業着姿の工兵が談笑していた。

 

「大尉殿、申し訳ございません。このエレベーターは封鎖中です。下の階へは中央エレベーターをお使い下さい」

 

その作業着の工兵だったがよく見てみると、彼らは工兵ではない。工兵なら機械油の臭いが染みつき、手は長年の機械油のお陰で黒くなっているだろう。その両方とも存在せず、左脇は妙に出っ張っているではないか。

 

「アリシア、ここだよな?」

 

「ああ、アクセスコード“Foresty”」

 

アリシアがそう言うと、工兵は敬礼してズボンのポケットから鍵を取り出した。

 

「認証完了です、スタウベルグ中尉。そちらは?」

 

「重要参考人といえばいいか、議員達はもう?」

 

「はい、皆さんお待ちしています」

 

工兵二人はエレベーターの両脇に立って、鍵を指すと、息を合わせて鍵を回した。エレベーターの扉が開くと、そこは基地のエレベーターとは違って、木材を使ったノスタルジック調のエレベーターだった。

 

それに乗り込むと、エレベーターの扉は締まり、エレベーターは下っていく。

 

「彼らは警備兵か?」

 

「ああ、よく分かったな」

 

「眼光は工兵のそれじゃないし、手は汚れてない。それに左脇が膨れてたからばれるさ」

 

「そうか、二人に伝えておこう。お前みたいな勘の鋭い奴がいると困るからな」

 

ボタンを押し、エレベーターは下降を始める。到着し扉が開かれると、そこは何処かの洋館を思い出させるような木調の壁だった。無機質な壁ではなく、優しさを感じさせる茶色の濃い年輪が見え、複合材ではないことが伺えた。

 

そしてエレベーターの目の前には、アメリカ合衆国初代大統領、ジョージ・ワシントンの肖像画が壁一面に飾られていた。その他にも生け花が花瓶に指され、まるで生きているかのようだ。おれは花に近づき手に取る。生前まで、何気なく見ていた花だったが、転生してVaultの住人になってから生きている花を見るのははじめてだろう。

暖かみのあるそれに俺は驚きを隠せなかった。

 

「ユウキ、花を見るのは初めてか」

 

「ああ、エンクレイヴが花を栽培しているとはな」

 

元々、エンクレイヴが作っていたわけではない。新カリフォルニア共和国のVaultシティで栽培しており、戦争中に生体サンプルを入手していたらしい。それをクローン培養で生んで、高額ながらもエンクレイヴ内で取引しているようだ。

 

「そう言えば、通貨とかあるんだよな?」

 

「勿論、電子通貨だがな」

 

アリシアがポケットから取り出したのは俺の軍服に入っていたのと同じカードだった。俺のは名前や顔写真が入っていないが、アリシアのは顔と名前、所属と基地内の住所が書かれている。

 

「昔はイトオートマチックの生成装置や自販機もあったけど、今使われているキャップと誤認したらしい。それも軍の配給装置でもだ。そこで、全て電子情報にしたのさ」

 

200年の間、戦前と同じ水準を保ち、尚且つ進歩していることからそうした電子貨幣に移り変わるのも技術革新の流れからしてみれば当然なのかもしれない。キャップが擦り合わさりガチャガチャと音を鳴らせ、高い買い物に幾つものバラモン鞣しの財布をパンパンにさせて行く必要はない。だが、エンクレイヴは独自の貨幣経済が浸透していることはもしかして・・・・。

 

「アリシア、エンクレイヴの人口ってどのくらい居るんだ?」

 

貨幣経済はそれに関係する国民がいなければ成立しない。そもそも貨幣とは、金品や物品を交換できる金本位の交換券として始まった。それを保証する国も必要であるが、相当数の国民もいなければ金は循環しない。

 

「エンクレイヴの人口か?」

 

「ああ・・・」

 

「そうだな、この前厚生省の報告だと去年は10万人だったっけか?」

 

10万人、それは東南アジアの島国の小国の人口と同じぐらいだ。そして新カリフォルニア共和国と比べると凡そ、6倍。NCRは60万もの人口を持っている。

 

エンクレイヴが単なる武装集団ではなく、確りとした国家であったことに驚いたが、実際考えてみればパワーアーマーやベルチバードなどの兵器を持つ手前、生産する設備やそれを動かすメカニック。兵士が居れば食物を作る農民。軍とは巨大な消費機構であり、絶対生産する事はない。ただ、物を消費するのが軍隊であり、得るものは領地と賠償金。あるいは僅かながらのお金と勲章、星条旗と棺桶が与えられる。強力な軍には必ず国民が居るのである。

 

「何処に住んでいるんだ?」

 

「飛び地だから詳しく言いにくいけど、東海岸の一部を除く軍事基地と隣接する市街地。あとシカゴは地元のBOSと戦闘しているが、あそこもエンクレイヴの支配領域だな」

 

昔はナヴァロやポセイドンオイル。あとはサンフランシスコ、主要基地がエンクレイヴの領地だった筈だ。彼らが、選民思想と排他的でなければ西海岸のエンクレイヴが壊滅することはなかったかもしれない。

 

「ユウキ、無駄話はこれくらいにして先に進もう。議員達が待っている」

 

アリシアは俺を呼ぶと、通路を歩き俺もそのあとに続いた。

 

廊下には歴代の大統領の肖像画が飾られている。その廊下を歩いていくとリチャードソン大統領の肖像画があり、その隣に知らない男の肖像画がある。名前を見てみると、ジョン・ヘンリー・エデンと書いてあるではないか。

 

「アリシア・・・・今の大統領って・・」

 

「ああ、エデン大統領だ。元々、ポセイドンオイル基地の閣僚だったが、シニア・オータム技術中将が連れてきたらしい」

 

壮年のアングロサクソン系の白人。目立った特徴がないが、彼が本当は大統領ではないことは知っている。彼はレイヴンロックに作られたZAXスーパーコンピューター。自我を芽生えさせたAI。人ならざるものだ。議会のメンバー上層部の彼らは知っているのだろうか。オータム大佐は確実に知っているだろうが、俺がそれを知っているのが分かれば疑われるのは必須だ。

 

廊下を歩いていくと、扉の両脇にはパワーアーマーを着てプラズマライフルを携帯する兵士の姿が確認できた。識別するために肩には青い布が被されていた。

 

「スタウベルグ中尉、既に議員達は会議中です」

 

「分かっている、その為に彼を連れてきた」

 

アリシアは俺を親指で指差し、パワーアーマーを着た兵士は顔を見合わせたあと、片方の兵士は後ろからタッチパネル型の携帯端末を取り出した。

 

「一応規則ですので、ここに手を」

 

アリシアはそこに手を乗せて、幾つものセンサーが彼女を読み取る。指紋から整脈、DNAに至るまで。画面は検査中のため黄色になっていたが、すると画面が青くなり検査が通ったことを知らせた。

 

扉が開くと両脇の兵士はアリシアに敬礼し、その扉が開かれる。

 

 

そこは、天井が高く数百名が収容可能な会議場だった。核戦争後に地下でも議会を運用するために作られたそこは、Mr。ハンディーが綺麗にしているはずであったが、空気中には埃が漂っていた。大戦争中に非常事態宣言が出され、その時に議会は一時閉鎖となっている。非常時の大統領は強大な権力を持つよう、一極集中するようになっていた。

 

エンクレイヴの母体となっているのは、タカ派の議員や軍人。そしてアメリカの軍需産業を牛耳る軍事複合体である。資本主義を是とする国家だからか、殆どの政策は経済を動かす財界によって左右される。戦争と共に肥大化した軍事複合体も特にそれに当てはまり、彼らが儲けるために戦争を行うようなものなのだ。

 

だが、大戦争による核の炎で全てが焼きつくされた時、儲けるものは存在しなくなった。核戦争は彼らが望んだわけではないかもしれないし、予想外の被害だったのかもしれない。軍事複合体の彼らが銭を稼ぐことは未来永劫なくなってしまった。エンクレイヴの首脳部による国家統制経済によって貨幣がコントロールされ、地下軍需工場は国営同然となった。

 

横暴な軍部やタカ派の中でも過激な政治家。それらに反感を抱いた者達は秘密結社を結成し、再び資本主義社会を。民主主義社会を求め、自分たちを「議会」と名乗った。

 

 

「【話をすれば影】とはこのことか、ようこそ議会へ。歓迎するよ、ユウキ・ゴメス君」

 

そこには議会のメンバー数十人と議長である佐官姿のアウグストゥス・オータム大佐が人の輪の中心に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『会議は踊る、されど進まず』

 

ナポレオンが敗北し、1814年のオーストリア帝国のウィーンでは戦後処理の会議が行われたが、互いの国の意見がぶつかり合い、ダンスパーティーで踊っても会議は進まなかった。その言葉は会議が進まない時の表現として度々用いられることになるが、核戦争から200年経った後の会議でもそれは変わらない。

 

 

エンクレイヴは大統領派と西海岸オイルリグ派・東海岸派の3つにわかれている。

 

大統領派閥はオイルリグ崩壊後にシークレットサービスの生き残りの集まりで、参謀本部の中にもシンパが存在する。彼らは大統領に陶酔する親衛隊のようなもので大統領の命令に背いたものは打ち首にすればよいと本気で考えるものがおり、エンクレイヴ内でも危険視されている一派である。しかしながら、エンクレイヴは合衆国と大統領に忠誠を誓うため、公然と親衛隊の創設や大統領批判は銃殺といわなければ認知されないのだ。今分かっているメンバーとして情報局のボイド・ハワード中佐やその部下であった 情報局が一番多いとまことしやかに囁かれているが、三つの派閥の中では少数派であるものの、その力は大統領の命令を出させるほどに力が強くなっている。

 

 

そしてオイルリグの生き残りである西海岸派はエンクレイヴ上層部の殆んどが属している。オイルリグ破壊後にシニア・オータム技術少将が残存兵力を結集し、東海岸へ統合した。彼らのその多くがエリート意識を持っており、東海岸が嘗て左遷される場所だったこともあり、エリート意識は更に増加した。オイルリグのあったとき、リチャードソン大統領を信奉していた者達の生き残りは穏健派であった東海岸派の将軍を一掃するなど、エンクレイヴの大半を支配下に置いている。

 

 

東海岸派は西海岸から左遷された者が多く、東海岸自体僻地と捉えられていた。ポセイドンオイルが大統領官邸(ホワイトハウス)の役割を持っていたとき、首都をワシントンに遷都する意見が出たものの、リチャードソン大統領によって却下されている。エンクレイヴとしては、核攻撃を多く受けているため、汚染は酷いと予測していた。民間より軍を重んじる風潮が上層部にあったためか、行政を担うレイヴンロックはそのまま残してあると言った状況。

他よりも荒廃している地域であったためか、東海岸の人員はウェイストランド人に対して同情的だった。中には基地を解放すべきとの意見も出るほどであり、2277年現在の大半の兵力は東海岸出身者が大半を占めている。彼らは西海岸派の高圧的且つ排他的選民思想に呆れ、既にあった地下組織である「議会」と接触した。彼らは大統領となったジョン・ヘンリー・エデンを暗殺すべく行動を開始したが、密告によって粛清を受けた。

東海岸派の中心人物であるウィリアム・スタウベルグ中将を国家反逆罪で処刑し、その他構成員を多数処刑した。「粛清」と呼ばれる反対派の一掃は東海岸派を弱体化させ、議会も表だった活動はしなくなったのだ。

 

しかし・・・・・

 

 

エンクレイヴの首都であるレイヴンロック。その行政区画の奥にあった合衆国議会堂をそのまま持ってきたような内装の大部屋には20人ばかりの人が集まっていた。

 

その面々は行政のメンバーが大半を占め、軍服を着たものは少なかった。黒いスーツを着ている重鎮らしき面々は行政のトップが勢ぞろいしていた。ほかにも軍需生産や食糧生産、非公式に作られた市民議会の議員の姿もあった。そんな文官が多くいる中で目立つのは軍服を着た武官の存在だ。

エンクレイヴの最高機関である統合参謀本部の責任者である参謀総長のジョセフ・ドライゼン中将が神妙な顔つきで議論に耳を傾けている。そして、20数名の議会のメンバーの締めであり、統合参謀本部首席補佐官と大統領補佐官を兼任するアウグストゥス・オータム大佐。壁際で控えているのは最近オータム大佐のお気に入りと目される、議会グループの首領であったウィリアム・スタウベルグ中将の遺児、アリシア・スタウベルグ中尉。情報局でもかなりのやり手といわれる彼女は議会が地下組織であるために必要な人材だった。そして、その傍らには大尉の階級章を付ける日系かスパニッシュかの人種であろう男が壁にもたれ掛かっていた。まだ若いものの、左目の下には切られたような傷跡があり、修羅場を抜けてきたとわかる。だが、権力者が護衛である退役した元情報士官に探りを入れさせても誰だか分からない。数名の行政からきた壮年の男たちはその存在に疑問を抱きつつも、会議に参加していた。

 

「皆も知っての通りだが、例の作戦はどうするつもりなのだ?オータム大佐」

 

話の区切りがついたころ、オータム大佐に質問したのは、文官の中でも地位の高いロバート・マクスウッド農林食産省長官だった。最終戦争終結後、アメリカ全土が放射能に汚染され、核の冬が終わった後も土壌は放射能によって汚染され、穀物などの食糧が生産できない状態だった。合成食料など未だ技術的に発展途上の段階で、食べられたものではなかった

。エンクレイヴは農林食産省主導で農業改革プロジェクトによって基地周辺の適した土地を開拓。放射能除染剤を散布し、土壌をクリーンにした。品種改良した小麦や大豆などの穀物を育てることでエンクレイヴの食糧事情は好転することになる。そのため、農林食産省はエンクレイヴの省庁の中でも花形とされ、そのトップは行政区画の実質上のトップとしても過言ではない。実際の行政トップはエデン大統領だが。

 

「情報局と司法省の動きがある。あまり下手に行動すればこちらがやられかねない」

 

「しかし、このままでは大統領の支持率も上がってきている。民主主義の復活を大義としても今やらなくては、その大義は成り立たないぞ」

 

エデン大統領は継承順位があったため大統領になったにすぎない。もっとも、前任者のリチャードソンもエンクレイヴの首脳陣から推薦されて大統領となっているのだが、ポセイドンオイルの一件以降、大統領をかなりの期間在任しているのはこの男であった。

 

「人の手にエンクレイヴを戻さねばならん。あの化け物を大統領の座から引きずり出さねばならない。オータム大佐、それはなによりも君がよくわかっているはずだ」

 

「・・・・っ」

 

オータム大佐は言葉を詰まらせる。

 

すると、奥で控えている参謀総長のジョセフ・ドライセン中将が席から立ち上がった。

 

「オータム大佐、私は君に賛同してここにいる。西海岸派閥の勢いが強くなり、これではエンクレイヴの内部崩壊はすぐそこまで迫っている。君はそれを出来るのか?病弱で籠っていたあの大統領を・・・・・」

 

そうドライセンは続けようとするが、それを聞いていた周囲の文官は苦笑する。ドライセンは怪訝な顔をして顰めるが、それに答えたのはオータム大佐だった。

 

「中将閣下、貴方は大統領とお会いになりましたか?」

 

「ああ、会ったことあるとも。私が会わないわけないだろう?マクスウッド長官は化物と言っているが、彼は容態が悪いから表に出ないだけだ。それに任期が長すぎるというが、彼以外の適任者もいまい?」

 

大統領の公表された支持率は可もなく不可もないような数値であったが、実際のところあまり顔を出さず、長期にわたって大統領をしているエデンの存在は国民にとって不審に思うことは多々あった。実際の支持率もそこまで良くはないが、かと言って彼と同等かそれ以上の指導者は見つかっていないような状態なのだ。いたとしても、その人物はどこかの派閥に所属し、対抗勢力の反感を買いかねない。

 

支持率にしても、マスコミによる印象操作や数値の改ざんなど当たり前で、大統領に批判がいかないようにマスコミは日々言葉を並べている。その都度、批判されるのは行政のお役人方なのだから、腹が立つのも仕方がない。しかし、マクスウッド長官は「化物」の表現したのは憎悪よりもべつの何かだった。

 

「閣下、お会いしたのであれば大統領の様子に何か違和感があったと思わないので?」

 

オータム大佐は話の核心に近づき始める。もし、これがただの兵士の間の話であれば、即座に憲兵が兵士を拘束するであろう。そこまでこの話は最重要機密として扱われる案件だ。しかし、来たばかりのドライセン中将はオータム大佐の言葉にそこまで疑問を抱かなかったが、確かに彼にも思い当たる節はあった。

 

「確かにあの方はご高齢なのだが、若干若々しいとは思う。だが、昔であれば、老衰や他の病で死に絶えるかもしれないが、今は23世紀だ。情報局によれば、大戦争前に既に細胞の活性化を行う手術やカプセルを使用した延命装置によって数百年生きられるものも存在する。マクスウッド長官、逆に聞くがなぜ彼を化物と?」

 

ドライセン中将が問いかけると、周囲にいた文官は一様に顔を見合わせる。その表情は戸惑っているようにも見えていた。彼に本当のことを打ち明けてもいいのかと。

 

オータム大佐がマクスウッド長官に耳打ちすると、オータム大佐は口を開いた。

 

「閣下のいう通り、大統領のお年は90近い。それなのに見た目は若々しい。それは現在の技術であれば可能です。しかし、彼のかかりつけ医師は手術や薬品投与は一切行っていません。」

 

「何!?」

 

ドライセン中将は驚くが、オータムはさらに続けた。

 

「更に言えば、彼の顔は何処かで見覚えありませんか?技術本部が大統領の顔をスキャンしたところ、歴代大統領の顔をすべて合成した顔に非常に酷似しているという報告があります。」

 

「そんなことが・・・・?」

 

ドライセン中将はにわかに信じがたかった。すると、オータム大佐は覚悟を決めたようにしゃべり始める。

 

「そもそも、何故父がエデン大統領を推薦したがご存知か?」

 

「ポセイドンオイル基地が壊滅したとき生き残ったからではないのか?」

 

「世間ではそう言われていますね。国防長官としてポセイドンオイルからサンフランシスコ郊外の基地に視察に行く途中で基地が破壊されて生き残ったと。ですが、当時の記録から見ても<ジョン・ヘンリー・エデン>という人物は存在しないんです」

 

ドライセン中将は驚きを隠せない。しかも、その事を知らなかったのは議会の中でも自分一人だけだったことに、かれは周囲を子供のようにキョロキョロと見回してしまう。一人だけ、納得しているような表情をした日系っぽい軍の士官を見たが、驚いた様子でもないため中将は驚いた表情から一変して怪訝そうな表情をした。

 

「では、一体彼は何者なのだ?」

 

「アメリカ合衆国の科学の結晶、Robco社の誇るスーパーコンピューター。ZAXシリーズの最新鋭機」

 

「まさか・・・・・そんな・・・・・・」

 

ドライセン中将は肩を落とし、椅子に座る。しかし、彼が執務室であった男は確かに息をして紅茶をたしなむ老人だった。人間と同じように息をして飲み食いする存在があのスーパーコンピューターとは思えず、思い至ったように立ち上がるが、それを制すようにオータムは再度口を開く。

 

「影武者かそれともアンドロイドの類でしょう。既にアンドロイドの技術はマサチューセッツ工科大学が開発し、彼らの連邦が軍事転用しており、我々もいくつかのサンプルを保有している。大統領派の人間が秘密裏に研究所を立ち上げて作ったとも思える。どちらにしろ、人間に見えて中身は機械。本体は行政区画の中央コンピューターだろう」

 

淡々と述べるオータム大佐にドライセン中将は恐怖を覚える。

 

「しかし、それを公表すれば・・」

 

「それは無理でしょう。あんたがた軍部は派閥争いに夢中だ。庶民は信じるだろう。だが、其れが成されたとしても、君たち軍が全て狂言として抹殺するのは目に見えている。西海岸派は現状に満足しているし、大統領派は言わずもがなだな」

 

それを言ったのは、非公式に作られたアメリカ市民議会と名乗る組織から来た若いスーツを着た男だった。アングロサクソン系の短い金髪の整った顔立ちの彼の名前はリー・シャーマン。工場勤務のロボットエンジニアに過ぎない彼だが、1万人の市民議会構成員を率いる議長であった。現在の軍が主導権を握るエンクレイヴに対しての反感を募らせる民間人の中でもかなりの左派に分類される。平時であればリベラル思想の集団であるものの、軍からしてみれば、オータム率いる「議会」グループより質が悪いといえよう。

 

そんな彼らを議会の構成員に招き入れたのは、エンクレイヴをまともな国家とする為には異なる思想や主義があっても許容するべきとオータム大佐は思っていた。思想や考えの違いによって争いが生まれる。その考えをまとめ、両者ともに納得したものにする為に話し合いをする。エンクレイヴが内部対立しているのは、他者との意見が相違し、それを受け入れないからに他ならない。そのためには異なる考えを許容していく他生きる道はないのだ。

 

「我々はあの大統領を引き摺り下ろさねばならない。そのためには、今日行われる大統領演説に行動を起こさなければならない。中将閣下協力していただけますね?」

 

ドライセン中将はオータムの要請を聞く。それはエンクレイヴの対する反逆であり史上五度目の大統領暗殺計画の一翼を担うものだった。成功すれば、エンクレイヴは正当なるアメリカ合衆国の後継者となり、まともな政府として生まれ変わるだろう。そして、失敗すれば逆賊として裁かれるのは明白だった。

 

ドライセン中将はゆっくりと頭を縦に振るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「補佐官、ウェイストランドの統治状況はどうなっている?」

 

 

内装は白く、青い絨毯が引かれたそこは一国の指導者の執務室たる雰囲気を醸し出していた。元々、合衆国の大統領官邸の大統領執務室のコピーであるため、オリジナルとは少々異なるものの、数十年もの大統領の執務室であり続けたからかコピーといえどもオリジナルと同様のものであったに違いない。

 

執務室の机には、上等なオーダーメイドのスーツを着た60代過ぎの見た目である男は隣にいたメガネの補佐官に問いかけた。

「植民開拓省の報告では、計画の約80%が完了しています。主要集落は我が治安部隊によって統治され、開拓省は戸籍の作成と支援物資の配給を行っています」

 

六十近い見た目の男は既に90を超えていると言われているが、まだ若々しいと思えるような容姿だった。男は執務机に置いてあった書類を手に取り、読み始める。

 

「物資の配給は滞りないことは分かるが、備蓄は足りるのか?我々とて、資源が有限ではない。そこは大丈夫なのか?」

 

エンクレイヴの科学力は世界一であるが、物資は戦前の物資を浪費し、軍需工場で少数生産を行っているに過ぎない。その為、ウェイストランドの集落で行っている配給は赤字を抱えている。今後同じことを続ければ他10万のエンクレイヴの国民が餓えて苦しむことになる。

 

「一応減少の見込みですが、食糧においては品種改良の小麦や大豆を第七管区周辺のエリアに植え、集落のウェイストランド人に収穫させようというプランがあります。また、第一管区の通称『リベットシティー』においては空母の工場や技術や学識ある者がおります。彼らが自給自足の生活を送っていたのは事実ですし、今回のような生活物資の支援は逆に我々の首を絞めたことでしょう」

 

「そのようだな。統合参謀本部は何れ死ぬ輩に物資を支援するなんて愚策の極みだ」

 

男は言うと、執務机に座り、机においてある書類を眺め始める。

 

「ふむ、vault101の住人は既に基地の民間人居住区についたのか?」

 

「はい、幾つかのグループに分けて、各基地の居住区に移動しました。技術者はさまざまな形で貢献してもらう予定です。数名の元警備兵は軍や治安部隊を志願しています。彼らは純粋なアメリカ国民ですので良い働きをすると思います。」

 

「ふむ、良いことだ。補佐官、今日の予定は?」

 

「はい、0900時に閣下の演説が練兵場広場にて。かなりの市民が来ると予測されます」

 

「一般に顔を出すのはそれが初めてだからな。警備状況は大丈夫だな」

 

「ええ、周囲はシークレットサービスと治安軍が展開して不審人物を特定できる状態です。それから、1300時より国防長官との会食。1700時より司法省改編に伴って設置される首都警察の創設パーティーが催されます。その時には大統領のお言葉をお願いしたいと、警察庁長官よりお頼みが来ています」

 

時計は既に八時を過ぎており、そろそろ出発の時間だった。男は立ち上がると近くにいたシークレットサービスが掛けてあったスーツを男へ着せる。

 

「ありがとう、グレック君」

 

「いえ、大統領。お気になさらず」

 

スーツを着た男は大統領と呼ばれ、笑みを浮かべた。誰も彼の本当の姿を知ることはない。彼が本当は人ではないことに。

 

「やるべき仕事は大量にある。エンクレイヴは・・・アメリカは必ず蘇る。」

 

 

 

 

男の名はジョン・ヘンリー・エデン。

 

 

 

 

機械仕掛けであり、人のような皮を被った化物だ。

 

 




やっと出ましたラスボス(仮)です。

あれ、なんか人じゃんと思うかもしれませんが、連邦を元に作られた民衆向けのアンドロイドです。しかし、老化はしないので化物呼ばわりされてますねw


new vegas のプロットくみ上げ中ですが、本編との間にDLCを組み合わせてみようと思います。FO3は絡めにくかったのですが、NVは意外と簡単に出来そうです。



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四十一話 自然淘汰

とうとうUA十万越えました。

もう二年も経ってしまったのですね。早いものです。






 

 

 

 

 

 

よくしゃれたレストランや格式ばったところではフルコース料理が出される。その源流はフランスであり、現在の世界基準として注目されていた。

 

 

前菜からスープ、魚料理か肉料理、口休めのソルベ。そしてローストなど工夫を凝らした肉料理、生野菜、デザートといった順で出されていく食事方法である。大戦争後、そう言う技法を凝らした料理は失われ、ウェイストランドなどの荒廃した世界において、食事を工夫するよりも腹を膨らませることが大事である。今では西海岸のNCR位なもので、後はベガスの高級レストランぐらいが関の山だろう。

 

そしてもう一つある。エンクレイヴだ。

 

彼らの上層部の殆どは、政府首脳や実業家、高級将校などでフルコース料理といった文化は継承されて、現在でもエンクレイヴの街には何店舗か存在するほどだ。そしてその首都のレイヴンロックには民間人や非番の軍人向けの商店街やレストランが存在し、戦前の文化が継承されるエリアがあった。そのレストラン街の一角にある高級レストランは士官以上でしか入室を許可されないほぼ会員制である。

 

そしてその奥の政府高官エリアの一室には統合参謀本部の担当官であるオータム大佐が肉料理に舌鼓を打っていた。そしてその向かい側には中尉の階級章を付けるアリシアがワインをグラスに注ぎ、火照った顔でグラスを傾ける。そして俺は目の前にあるものを凝視する。牛のヒレをよく煮てシャリビアンソースを掛けたものであり、その肉は100%牛肉だ。バラモンと言った変異した牛肉ではない。放射能に汚染せず、変異もしない肉であった。

 

エンクレイヴには合成食料を生成する食料のほかに、地下で酪農ができるような設備も完備しているらしい。さすがに10万もの国民に100%の牛肉を行きわたらせることは不可能なのだが、高級官僚や軍人であれば食すことができるそうだ。ナイフで柔らかい肉を切り取ってフォークでそれを口に入れる。

 

肉からこぼれ出す旨みの凝縮した肉汁が口に溢れ、味覚中枢を刺激する。肉とは思えないその柔らかさに涙が零れ落ちそうになるが、すぐに次の肉を切り取って口に入れた。

 

バラモンの肉にもA5級の肉があり、食べたことがあるものの、肉を柔らかくする技法は戦前から続く高級レストランの御業なのだろう。アンダーワールドにはミシュラン三ツ星シェフだったグールがいたがどちらが美味しいのだろうか。しかし、ここのレストランは200年の間、顧客に美味しいものを提供するために切磋琢磨したに違いない。それを考えれば、どちらが勝つかは火を見るよりも明らかだろう。

 

隣にいる、先ほど合流したシャルは最初不満そうな顔をしていたが、今はその柔らかい肉を食べて満面の笑みを浮かべている。

 

 

会議終了後、解散となった俺たちはオータム大佐とともにここにやってきた。オータム大佐の部下が拘束していたシャルやウェイン、軍曹やドックミートを助け出した。シャルは関係者だったので連れてきたが、他三名はばれるのを避けるために基地から退避してもらったようだ。ウェインやドックミートは渋々といった様子だったが、レイヴンロックにいても何が起こるかわからないため、シャルが説得したらしい。必ず帰ることを約束してきたらしいが、帰らないわけがないだろう。

 

ウェイン他三人(一人と一匹、そして一機)はメガトンに渋々帰ったものの、ウェイン曰く「俺を蚊帳の外に置いたんだから、報酬はたんまりもらえるよな?」と皮肉っぽく言っていたようで、彼には今回の礼もあっていろんな装備を提供しなくてはなるまい。

 

 

 

「どうかな、3人とも。私も会食以外ではここには来ないのだが、旨いだろう?」

 

 

 

そしてゲームではありえなかった温和なオータム大佐。正直言って、俺から見れば中間管理職の胃薬がいくつあっても足りないような人物だったなと記憶している。片や一人の101のアイツに振り回され、そして上司は人類を破滅に導こうとし、その中間で指揮を執っていた彼にはかなりの重荷であっただろう。

 

「非常に美味しいです。元ミシュラン三ツ星料理人に会ったことがありますが、材料も限られてますからね、こことは雲泥の差ですよ」

 

「ほう、戦前生まれが残っているとはな。放射能で変異したものたちか・・・・」

 

オータム大佐は渋い顔をするが、俺はそのまま続けた。

 

「彼らは文字通りの大戦争の生き証人です。外見は醜いでしょうが、長年培ってきた経験や大戦争当時を生で体験している。歴史の教科書が歩いているようなものですよ。迫害するなんて論外ですよ」

 

空になった肉料理の皿が給仕に引き下げられ、追加で生野菜のサラダが出された。それを新しいフォークでつつき、口に含める。レタスのシャキシャキとした食感が口に広がっていき、チーズをベースとしたドレッシングが絡み合い絶妙なバランスで旨さを引き立てた。

 

「エンクレイヴは排他主義で昔のような人種差別も公然と行っている。君の言うように彼らが生き証人であったとしても、人は外見で判別してしまうからな。・・・・・だが、私も安々歴史の教科書を焼くわけにはいかない。」

 

とオータムはグラスに注いであったワインを飲んだ。俺も飲みたかったが、俺はエンクレイヴの士官に化けた身の上。いつバレルかわからず、ほろ酔い気分はまずい。

 

「オータム大佐、このような歓迎を受けて非常に有難いのですが、私たちをただ歓迎するためだけにここに来たわけではない筈です。私たちに何かさせる為にここに呼んだのでは?」

 

シャルは料理を堪能する片隅でそのことを考えていたらしい。彼女でなくても、俺もそれを考えていた。ただの捕虜ならこんな好待遇はありえない。何かをさせる為にこうして料理を振る舞っているのだろう。

 

「そうだな、そろそろ本題に移るか・・・・」

 

オータムは給仕に料理を片付けるように言い、人払いをするよう声を掛ける。そして、ジャミング装置のような機械のスイッチを入れた。

 

「この店一体の盗聴器を混乱させる装置だ。これで我々の話は漏れない。さて、話をしよう」

 

 

そういうと、アリシアは持っていた書類鞄から一枚の見取り図らしきものを取り出した。それは何かの会場のようだった。少し古い紙らしく、縁には少し汚れが染みついている。見取り図には「第7室内練兵館」と書かれていた。大きさからして体育館と言えなくもないだろう。

 

「1700時より、ここで司法省改編の際に設立される首都警察の開設式が執り行われる。そのあとはパーティーとなるのだが、ユウキ君にはある人物の殺害を頼みたい」

 

殺害?

 

俺は声に出さず、ただ目を見開くしかなかった。

 

一度、アリステア・テンペニーを暗殺させるために対物ライフルを貸し与えたり、700mの距離からレイダーを狙撃したこともある。だが、至近距離からの暗殺は専門外だ。見取り図から見ても、狙撃ポイントは限られるし、シークレットサービスは既に目星を付けている筈だ。それに、窓からの狙撃を行おうとしても外の道路や建物の屋上にはパワーアーマーを着た部隊が警戒態勢を敷いている。

 

なら、専門外である至近距離からの暗殺となると話はさらにややこしくなる。禿げたおっさんのように暗殺者をやろうと思っても絶対不可能だろう。俺はそこまでスペックが高いとは言えない。ウエイストランドにいた時は物資に物言わせてきた。熟練のウェイストランド育ちの傭兵と俺を比べれば一目瞭然で前者が強いに決まっている。ダラスで暗殺されたケネディー大統領にしても、至近距離でなく。狙撃によって暗殺された。それ以降、狙撃に対しては厳戒体制を敷いて警戒に当たっていた。今では暗殺されない様にすべての可能性に備えて重武装のシークレットサービスや軍が配備されている。仮に誰かを暗殺することに成功したとしよう。その周囲にはシークレットサービス。死を覚悟する前に、プラズマ粘液になりかねない。

 

 

 

 

「大佐、無理です。出来ません」

 

「まあ、そういうだろうな」

 

「仮に一か月調べ上げる時間があればいいのですが、今からですと五時間後です。30分勉強して中国人にフランスフルコース料理を作れと言っているようなもんでしょう」

 

大佐は苦笑しつつ、テーブルの端におかれたコーヒーを一口飲むと、両手を組み口元へ寄せる。

 

「誰を殺すのか知っておいてほしいがね」

 

「さっきの話から分かりそうなものですが」

 

話の流れから大体理解できている。人類を破滅に追いやる現在の指導者の暗殺。史上五度目と思われる大統領暗殺。

「標的はジョン・ヘンリー・エデン大統領ですね」

 

「ああ、そうだ。だが彼を殺すためには本体であるZAXスーパーコンピューターの大型サーバーを破壊しなければいけない」

 

「なら本体を先に破壊すればいいのでは?」

 

 

「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」という諺がある。だが、将を射ることができる距離にいるなら、矢を放ってしまって良いだろう。将を討つためには周到な準備が必要であるが、近道があるのであれば、手間を掛けるよりも最短を目指したほうがいいに決まっている。

 

「エンクレイヴにも国民がいることは知っているだろう。いきなり演説中、ロボットのようにエラーを叫び始めたら困るだろう?」

 

それならば、就寝時間中にサーバーを破壊すればいいのかもしれない。しかし、就寝中に老衰したと報道されることだろう。現在の副大統領は何処の派閥にいるのかと聞くと、大統領派であった。其れ故に臨機応変な対応が出来ない。大統領の肯定絶対主義者であるがために、ほかの事は出来ない。自身が政策を想像して執政することは困難だ。

 

そうすれば、自然と西海岸派の連中に吸収されてしまうだろう。それだと、意味がなくなってしまう。東海岸派は暗殺したことが無意味となり、結局は西海岸派の増強という結果となる。議会の目的は真の意味での民主主義の復興と資本主義の再開。それを達成するためには大統領の暗殺と西海岸派、大統領派の掃討が必要である。

 

「あの場では言わなかったが、統合参謀本部のドライセン中将を議会に入れたのには意味がある。我々の行動が実を結べるようにした。あの方を取り入れなければ暗殺が成功しても主導権をとることは難しいからな」

 

傀儡として噂されているドライセン中将であるが、それなりにいる無所属な中道派である。そんな彼は前統合参謀本部総長のシニア・オータム中将によって推薦されている身であった。そんな彼は西海岸派と東海岸派の緩衝材としてうまく中枢を纏めているといっても過言ではない。そして、彼が議会に属したことによってパワーバランスは大きく変わっていく。

 

「大統領が死亡した場合、継承順二番目に当たる副大統領が大統領として就任する。その時を見計らってドライセン中将が戒厳令を発布する。事前に大統領には大統領令として参謀総長が反乱やクーデターの証拠を掴んだ場合、独断で軍を展開できるよう命令が下せるようになっている。大統領暗殺に乗じて西海岸派の主要メンバーを拘束し、副大統領に退任を要求。継承順位三番目に位置する国防総省長官が大統領に就任する」

 

それは、歴史上。の名前で行われた軍事クーデターのほとんど同じであった。名称や所属は差異あれど、率いる首謀者が大佐という階級に運命の悪戯すら思えてならない。

 

副大統領を排することができれば、議会メンバーの一人である国防長官が大統領に就任することができる。西海岸派を全て拘束したのち、危険分子や反乱分子は強制労働か銃殺刑となるだろう。革命やクーデターには血が流れるのは必然だった。

 

「大統領を暗殺か・・・・撃ち殺した後『暴君はかくのごとし』と叫べばいいのかな?」

 

リンカーン大統領暗殺事件の時、犯人は事件現場でそう叫んだという。それをすれば、いう前にプラズマ光線が降り注ぐことになるだろう。

 

「改めて言うが、俺には出来ない。暗殺の訓練を受けたことがないんだ。そもそも、可能性の低い賭けにしか思えない。他に適任者がいる筈だろ?」

 

「ああ、君が思うように君を暗殺者とするには、やはり役不足だ。やろうと思えば、他にも適任者がいる・・・・・君の横にいるアリシア君とかね」

 

オータムはそういうと、コーヒーを一口飲む。

 

俺はその一言でアリシアの顔を見るが、俺の顔を見て愛想笑いを浮かべている。

 

「ユウキ、お前がやらないならば私しか居ない。むしろ、私の方が適任かな」

 

大統領を暗殺すれば、その場で射殺は免れない。射殺されないようにしたとしても難しいだろう。周囲にはシークレットサービスが展開している。暗殺をしたとしても、脱出は容易ではない。

 

「君ひとりで暗殺させるわけではない。脱出の手引きはこちらで用意している。あとは君の戦闘技術とサポートする人員だけだ。サポートする人員は整っているから、あとはどうにかなろう。辞めても構わない。だが、大統領や西海岸派の奴らを野放しにしておけば、君もどうなるか分かるだろう?」

 

今、エンクレイヴが融和策をとっていても、それはオータム大佐が色々と策を講じているからに他ならない。オータム大佐が居なくなれば、排他的な西海岸派によってウェイストランド人は奴隷としての扱いに転じることになるだろう。だが、東海岸派が掌握すれば、民主主義的なエンクレイヴが誕生する。それがウェイストランドのためになるのか。そして、亡きジェームズの意思や浄化プロジェクトは?

 

隣にいるシャルの顔は俺と同じような葛藤をしていることだろう。俺の左手を握り、俺の目を見る。そこにあった彼女の意思を読み、最終的に俺は決断を下した。

 

「分かりました。・・・・シャルの安全を保障してください。それと、浄化プロジェクトについては・・」

 

「君たちの言いたいことは分かっている。あれを金儲けや支配確立のためには使ったりしない。だが、民間の手にはあまりにも壮大で巨大すぎる利権を生む。」

 

仮にBOSが浄化プロジェクトを掌握しても、誰かが横流しをしたりした。きれいな水は生命の源であるがゆえに、それだけで殺し合いが起きてしまう。利権がうまれ、それを持つ者の支配は確固たるものになるだろう。

 

だが、その壮大な利権を生む物を保護・無料で配るためには、それを侵害しないようにある程度の武力を持たなければならない。俺の武器は有限であり、守り切れる自信はなく 、現に守り切れていなかった。エンクレイヴのような強大な力を持つのであれば話は別だ。それはベルチバードや装甲車、そしてパワーアーマーを着た兵士が護衛し、ウェイストランドに水を配給する。

 

「なら約束してくれませんか。死んだジェームズは無償でウェイストランドに水を与えようとしていました。彼の意思を尊重してほしい」

 

交換条件、そんな言葉が浮かんだが条件を出せる立場ではない。寧ろ、要求されているのはこちら側だった。向こうが頷かなければそれでもうお終いだった。

 

すると、オータム大佐は軽く頭を頷かせると、口を開いた。

 

「それに関しては安心したまえ。水は無償にするつもりだ。アメリカ合衆国には国民にインフラを提供する義務がある。エンクレイヴの統治体制が盤石なものになるだろうが、これに関しては仕方がない。」

 

オータム大佐はコーヒーを全て飲んだようで、給仕を呼んで片付けさせる。すると、他の給仕がデザートらしきアイスクリームを出してきた。

 

黙々とシャルはそれを食べていた。いつもであれば、満面の笑みで100%のミルクで作られたアイスクリームで美味しく頂いていたことだろう。アリシアに至っては渋い表情で既に冷えているコーヒーを飲んでいる。その空気の悪さを招いたことを後悔したようで、オータム大佐はさきほどの会合の続きがあると、ここを後にした。だが、そこで何もしないのでは統合参謀本部というエンクレイヴの魔窟で実行部隊の指揮官と大統領補佐官を兼任することは出来ない。彼はしばらくゆっくりするといいと言って、基地のホテルを案内した。

 

 

 

 

エンクレイヴは各基地からの高級将校や官僚の宿泊施設としてホテルが設置されている。以前は、軍の宿泊施設があったものの、貧相な軍施設に満足できる者などいなかった。エンクレイヴの組織からして、一兵卒が泊まるところに満足できなかったことが原因だ。大戦争前、上層部は大戦争前に貴重なものをシェルターに移送するよう命令を下していた。其れらはレイヴンロックの倉庫に保管されることになる。芸術品や古文書、文化的に価値があるものは多く運ばれるものの、公文書館に保管された独立宣言書などを筆頭に回収されなかったものも多くある。保管されたものの中にはマホガニー材を使用した家具や調度品があり、それらを一部の官僚だけに独占することは、その下の官僚に不平不満が募る恐れがある。そのため、生き残りの企業家がそれを任され、高級官僚のためのホテルをオープンした。オープンまでにはかなりの苦労と妨害があり本一冊ほど書けるだろうが、今回は割愛する。

 

 

 

「イーグルネストホテル」と呼ばれる、一階部分の外装はレンガ造りでできており、従業員入口や二階以降のフロアはコンクリート製で出来ている。もしかして、ここはドイツのベルヒデスガーデンで、エンクレイヴはドイツ国防軍だったのか。

 

ワーゲンの国民車ではなく、フォード社の核融合車両に乗ってホテルについた我々は民間人の支配人に連れられて中に入る。中はvaultの中で見た戦前映画のホテルにそっくりだった。オータム大佐は5時間後に迎えに行くといい、参謀本部の方へと車に乗って行った。

 

「当ホテル支配人のセバスチャンと申します。オータム大佐からスイートルームへとご案内するようにとお請けいたしました。お料理はお作りいたしますか?」

 

何処の執事かなと疑問を抱くものの、彼の疑問を答えたのはアリシアだった。

 

「この二人はランチを食べたので大丈夫だ。私はまだ腹が減っているから何か持ってきてくれ。部屋は別がいいのだが」

 

俺たちの面倒を見るように言われていたアリシアであったが、シャルとの蟠りがとれていないこともあり、同じ空間にいるのは酷だろう。だが、申し訳ないと言わんばかりの表情で支配人は告げる。

 

「申し訳ございません。当ホテルの客室はほとんどが満員状態でして、予約も埋まっております。ご料理につきましては承知いたしましたが、お部屋をお取りするとなると・・・」

 

「そうか、それは致し方ない。案内してくれ」

 

支配人に案内され、ホテルのエントランスからエレベーターフロアへと移動する。元々、軍の弾薬庫だったのだが、火薬を使用する銃器をエンクレイヴはほとんど使用しなくなったために、弾薬庫に残ったものはすべてリサイクルに回された。空っぽになった弾薬庫は周囲に非番となった兵士の慰労として商店や高級将校のための料理店を建設したため、保安上の問題で建物を売却した。

 

建物は四階まであり、壁がコンクリートで出来ている。しかし、前述のようにマホガニー材を使った家具があり、プロの芸術家が描いた絵画が飾られているなど様々な工夫が施されている。無骨な雰囲気であるコンクリートであるが、資材の節約や焼けてしまった木材は今や貴重な存在だった。弾薬庫だった名残か、壁には霞んだアルファベットと数字が書かれているが、それを隠すかのように古い時計が飾られていたり、豪華な調度品で無骨な雰囲気を消しているかのようだった

 

 

エレベーターで四階まで上がり、オータム大佐の護衛の一人はエンクレイヴの装備品箱を携えていた。四階に到着すると、スイートルームの扉がすぐ前に来ていた。

 

「スイートの『狼の砦』でございます」

 

「・・・・・あとで予備軍の大佐が爆破しに来ないよね?」

 

「・・・・・・そのような人物を通しませんので安心してください」

 

ふと、ヒトラー暗殺未遂事件のことを思い出す。イーグルネストはドイツのベルヒデスガーデンにあるヒトラーの別荘の別称である。そして狼の砦は1944年7月に起きたヒトラー暗殺事件におけるヒトラーの総統大本営の名称であった。ヴォルフスシャンツェ (Wolfsschanze=狼の砦)と呼ばれるところは、ヒトラーが居る途中で爆殺しようと企む反ヒトラーグループによって爆発事件が起きた。そのことを知ってか知らずか、その名前をイーグルネストホテルのスイートにしていることに何らかの悪意かユーモアを感じる。

 

ホテルの部屋はリビングと寝室、風呂場と三つある。ベガスのlucy38のプレジデンシャルスイートには及ばないものの、家具の高級さはここの方が上だろう。長年整備され続けたマホガニー材の高級家具とエンクレイヴ旗と星条旗が飾られ、戦前の映画が見られるようリビングにはシアター装置が置いてあった。

 

「何かありましたら、電話でお呼びください。」

 

支配人とオータム大佐の護衛は荷物を入口に置くと、さっさと部屋を離れた。空気は微妙なものとなり、アリシアは苦笑し、シャルは能面のような顔つきであった。それに耐えきれないのは他ならない俺だ。まるで、二股が発覚した男の心境というべきなのか、非常にその場にはいたくなかった。そんな見るに堪えない俺の表情を見かねたアリシアは苦笑を交えながら寝室を指さした。

 

「私はリビングで食事をしよう。二人は積もる話もあるだろうし、寝室で話したらどうだ?」

 

「あ!ああ、シャル向こうで話そうか!」

 

そんな空気を打破するために少し声を大きめに話しながら、シャルを寝室へと連れていき引き戸を閉める。寝室はクイーンサイズのベッドでかなり豪華だった。高級な調度品があり、スイートの風格を醸し出している。空調は涼しいが、エンクレイヴ士官の軍服は厚かった。ハンガーに上着を掛けて振り向くと突如顔に衝撃が走った。

 

一瞬何が何だか分からなかったが、それはシャルの平手打ちだと分かった。

 

「シャル・・・・」

 

「なんで何も相談しないで勝手に決めるの!」

 

シャルは怒りながらも、彼女が着ていた士官服を投げてよこす。大抵の男ならそこで理由のない怒りから怒りを抱くかもしれないが、彼女の怒りは尤もだった。

 

「相談しないで決めたのは悪かった。だが、彼の要請・・・命令に背けばどうなるか分かっていたはずだろう?」

 

「だけど、なんでアリシアまで!彼女は裏切ったじゃない!」

 

「・・・・あいつは・・・・エンクレイヴの実情を知っていた。シャルも分かったはずだ。エンクレイヴがどれだけの国力を持っているか知ってるか?戦前以上の科学力を持ち、インフラや独自貨幣が存在し、教育まで整っている。軍事力なんて言わなくたって分かるだろう?」

 

「だけど・・・・」

 

「分かってる。奴らには選民思想や排他的で危険だ。だけど、それを正そうとしてる。浄化プロジェクトにしたって・・・」

 

「BOSはどうなの?彼らは?」

 

「彼らに装甲車やヘリはあるか?最新鋭のパワーアーマーは?浄化プロジェクトの主導権を握れば、ウェイストランドを支配下に置いたと言っても過言じゃない。だが、浄化プロジェクトを守るには、BOSだけで守れるとは思えない。都市部のスーパーミュータントを一掃できていないんだ。もし、奴らが大挙して押し寄せたら?BOSじゃ勝てそうにない」

 

「ユウキはお父さんがされたことを忘れたわけじゃないでしょ!!」

 

「忘れるわけないだろ!」

 

俺はその言葉に激昂してしまう。

 

流石に忘れたりするものか。浄化装置の原子炉装置をオーバーロードさせて俺たちが逃げるよう命を懸けて助けたジェームズのことを忘れるわけがない。エンクレイヴのやったことは許されないものだ。決して許してはならない。だが、エンクレイヴ全体に対して憎むべきものなのか?『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』と諺があるが、一番憎いのはあの場でジェームズに装置の起動をさせる為にシャルやDr.リーを痛めつけようとしたエンクレイヴの佐官だ。あいつさえいなければジェームズが死なずに済んだはずなのだ。しかし、だからと言ってエンクレイヴのすべてを憎むわけじゃない。

 

 

「じゃあ・・・・!」

 

 

「すべてを憎むのか。確かにエンクレイヴにジェームズを殺された。なら、エンクレイヴを壊滅させるのか。皆殺しにでも?」

 

 

「そうじゃなくて・・・・」

 

 

「エンクレイヴは10万人もの国民がいる。それをどうするんだ、ここを破壊して政府機能をマヒさせれば、何千もの餓死者が出ることになるぞ」

 

 

それはレイヴンロックを破壊すれば、政府機能はマヒするはずだ。ゲーム通りにエンクレイヴを破壊すれば、ウェイストランドからすればハッピーエンドだろう。だが、今のエンクレイヴには養わなければならない国民がいる。そして、俺には全てが全て極悪人とは思えない。

 

 

「それは分かってる!でも・・・・、私は誰にこの恨みを晴らせばいいの?この気持ちはどうすればいいの!」

 

 

BOSへの肩入れやエンクレイヴに対して敵対しているような行動を何度も行ってきた。GECKを入手するためにウェイストランドの横断を行い、そして強靭な肉体と凶暴性を秘めたスーパーミュータントと死闘をした。それはただウェイストランドに貢献したいという気持ちだけでは動けない。彼女のような子には復讐というただ一つの目標を胸にここまで来た。

 

ただ、エンクレイヴには悪役でいてもらいたかった。だが、実際にはただの軍事組織ではなかった。彼らは養うべき国民が存在し、彼らのために新天地を探していた。単に悪の結社であったほうがよかったかもしれない。シャルを案内したのはオータム大佐の右腕とも称される男であり、人心掌握に長けていたようだ。俺たちが議会で話をしている間、彼女はレイヴンロックにある民間人居住区へと足を向けていた。

 

そこで目にしたのは、アメリカ合衆国の歴史を学び、英語を覚え、科学の基礎を学習する小学生。夫の帰りをまつ妻。軍を退役した老人とその老婦人。皆、普通に生活している善良な市民だった。悪人と糾弾して批判を繰り返していたスリードックだったら驚くに違いない。いや、驚かないで「上流階級の富裕層」とその存在を批判することだろう。

 

しかし、シャルは違った。極悪人の組織として見ていたシャルには衝撃的だったに違いない。彼女は、彼らを見て憑き物を落とした。そしてその残りが彼女を怒りに導いていた。

 

ポタポタと涙を零し、嗚咽を出す彼女の背中を撫でながら、その小柄な体躯を抱き締める。その身体は震え、今にも崩れていきそうだ。

 

「エンクレイヴ全てを破壊することは出来ない。だが・・・・根源なら消せる」

 

俺がそういうと、俺の胸に顔を埋めていたシャルは顔を上げる。

 

「浄化プロジェクトを強行的に奪おうと命令した張本人さ。それに、浄化プロジェクト以外にもヤバい計画が進行しているからな」

 

「ヤバいってどんな?」

 

俺は色褪せた星条旗を見て答えた。

 

 

「ウェイストランド・・・いや、人類が滅ぶかもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

    

 

 

 

 

 

 

 

レイヴンロックはDC郊外の岩盤をくり抜いて建設されており、施設の大半は地下に造られていた。バンカーバスターと呼ばれる爆撃に耐えられるコンクリート製防空壕を破壊できる特殊弾頭でさえ、レイヴンロックを破壊することは不可能だ。

 

 

 

 

そして、軍需工場や市民居住区、行政区画などがある層より更に地下深くには生物化学兵器の研究所が存在した。地下深くに設置した理由が生物汚染を施設全体に及ばぬように、隔離できるような仕組みが成されていた。レイヴンロックの西部に位置する西部医療センターには唯一のエレベーターが存在する。伝染病や疾病対策センターとして特化された医療センターを目的としているが、実際は大統領命令によってウェイストランド人の人体実験が行われている。

 

 

 

そして、その地下にある研究所のもっとも機密性の高く尤も警戒レベルの高いエリアに白衣を着たエンクレイヴの科学者がスクリーンに映された実験映像を見ていた。見ている男の容姿は暗くてまったくよく見えない。白衣を着ていることは分かるものの、男か女か分からなかった。スクリーンに映されたのは機密扉で封鎖された人体実験用の部屋だった。

 

 

(これより実験体W342へvault87で採取したFEVを改良したV1型を投薬する)

 

 

(離せぇ!この外道どもがぁぁ)

 

 

エンクレイヴ科学者がよく使う防護服に身を包んだ科学者はモヒカンの暴れる男に薬を投与しようとしている。実験体と呼ばれる男はレイダーの一味なのだろう。血色が悪く、いかにも悪人ずらをしている。

 

(今回、実験の目的は改良型のFEV-V1型がウェイストランドに散布した場合、地元住民がどの程度の時間で死亡するかの経過実験である。)

 

V1型と名付けられたそれは、vault87で回収したウイルスに更に改良を施したものだ。元々、偏西風で西海岸にばら撒くつもりであった「Curling-13」を水溶性に改良したものはすでにあったものの、水溶性にするには若干毒性が薄まることが懸念された。そこで、毒性を強化し、vault87で製造されたFEVを元に更に改良したのが、vaultの頭文字からつけられた「V1型」である。

 

それは既に存在するオリジナルのFEVと反応し、免疫力を低下させ体組織を破壊する。1mlでもウイルス入りの水を摂取すれば、重度の放射能障害を引き起こしたかのように内臓を破壊し、最終的には脳を破壊する。更に、摂取した感染者からも経口・接触・空気感染によって感染が広がる。

 

大戦争後、ほぼすべての生物は放射能によって死滅するはずだった。仮に核の嵐を耐え抜いた生物がいたとしても、草一つ生えることのない不毛の地では餓死するか何かの肉食動物によって殺されてしまうだろう。放射能と過酷な環境。百年も経たぬうちに地球は微生物以外住むことは困難になる。だが、200年たった今では変異した生物がウェイストランドを闊歩している。

 

放射能で変異することなどありえない。子孫が放射能によって変異することはあるかもしれない。だが、基本的に放射能に巨大化を促すことや牙を生やすことなどできないのだ。だが、現に変異しており、食糧は変異した生物によって賄われている。

 

なら、どうして変異したのか。答えは簡単だった。

 

マリポーサ基地やvault87で製造されていたスーパーソルジャー計画のための強制進化ウイルス。

 

それらは大戦争終結後、破壊された貯蔵タンクから何らかの形で大気に触れた。元々気体を吸って変異させるタイプを量産させるつもりであったため、すぐに大気に広がっていき米全土に広がった。もしくは世界中に散ったのか。生き残った人や生物はFEVによって強制的に進化した。放射能に耐えられる体や、病原菌やウイルスにある程度の抵抗を持った。動物によっては巨大化し、生命力や攻撃能力が上昇した。

 

そして個体差によっては放射能の影響で半永久的な生命を得ることも可能になった。生き物のいないノーマンズランドにならなかったのは生きていた生物が放射能やそれらの環境に強制的に適応・進化したためだからだ。

 

 

(この実験体は第4管区にて殺戮や略奪行為に走った犯罪者であり、腕や首には薬物を投与した痕跡。投与には静脈より注射して経過を観察する)

 

スクリーンの科学者はそういうと、抵抗しようとする男の行動もむなしく腕に注射針が突き刺さり、ウイルスが体内に注入されていく。

 

(やめろぉぉお!!てめぇら!絶対ぶっ殺してやる!!)

 

男は叫ぶものの、注射器の容量にはウイルス剤はもはやない。体内に全て注入されてしまっていた。映像はそこで途切れ、スクリーンを見ていた科学者は操作盤を操作して若干早送りで再生し、手のひらサイズの音声レコーダーを再生する。

 

(実験体W342へFEV-V1型投与から74時間経過。体温は38度と高温であり、脈拍も乱れている。内臓機能は乱れており、血便や下痢を多数見受けられる。)

 

(実験体W342へFEV-V1型投与から100時間経過。吐血が多数。貧血や顔面蒼白の症状。120時間後には体温は39度を超えた。言語機能の低下や認識機能が低下しつつある。)

 

(実験体W342へFEV-V1型投与から130時間経過。出血性ショック死により死亡が認められる。また、空調を同じくしていた実験体W343からW346までが感染。実験体脂肪の3日後にラッドローチ、モールラットが死亡。これにより空気感染が確認された)

 

(FEV変異の見られない猿や犬の空気感染は確認されたものの、発症することはなく自身の免疫によって排除されていた。FEVによって変異していない生物には害が見られない。これにより、大統領の要望には応えられたといえよう)

 

レコーダーはそこで終わり、上映室にエンクレイヴ軍の士官服を着た男が科学者へと近づいた。

 

「ハウプトマン博士、大統領命令により例の物を受け取りにきました」

 

「ああ、情報局のフィッシャー中尉か。ウイルスは第五実験室の保管室だ。金庫に保管されている。」

 

「暗証番号は?」

 

「0000だ。そのままだよ。私はパスワードというものは好きではなくてね」

 

ハウプトマン博士と呼ばれた男はフィッシャー中尉と呼ばれた士官が蛍光灯のスイッチを入れたために容姿が顕れる。

 

ハウプトマン博士はまだ50代過ぎ。しかし、見た目はすでに70を超えているのではないかと思えるほど、老化していた。白衣に止められた写真付きのIDカードには髪は黒く、まだ若々しい彼の姿があった。数十年前の彼の姿を見ているようだが、写真が撮られたのは2年ほど前だ。いったい何が彼をここまで老いさせたのだろうか。白髪には油がなく、風さえ吹けば倒れてしまうような痩せ細った体躯。彼がここまで衰えたのは、実験による副産物だ。あまりにも残虐な実験と作り上げたものの恐ろしさに恐怖し、窶れ、老いた。目には狂気と諦めが漂い、生きることを忘れてしまったようだ。

 

フィッシャー中尉は腰にあった無線を使い、部下に指示を送った。

 

「ああ、あいたか。例のものはあったな。よし、軍曹に撤収の準備をさせろ。」

 

「君たちはいったい何をするつもりだ。機密性の高い兵器と訊いたが、統合参謀本部や技術局へは何も話してはいないのだろう?大統領の独断なのは知っていたが・・・・」

 

「なんだ、貴様・・・、大統領の意思に背こうというのか?」

 

そこにいたのは、大統領を崇拝する大統領派の人間だった。ハウプトマン博士はやはりといったような顔で肩を竦ませ、笑い始める。

 

「背くのであれば、あの悪魔の兵器を作ったりはしないさ。・・・・元々、高度化された核兵器や生物化学兵器は抑止力として考えられていた時期がある。それは、使用すれば悪魔の所業として語られるからだ。そして、世界規模で使われれば人類の破滅すら導きかねん。」

 

ハウプトマン博士は見下すようにして見ているフィッシャー中尉の顔を見る。一見好青年に見えるだろう。だが。彼の眼はどぶのような腐った目をしていた。彼の右手は既にホルスターに掛かっていた。ハウプトマン博士はそのことを承知で話す。

 

「我々は適応できなかった人類だ。純血を誇りとしているが、それは放射能に適応しきれなかった劣等種に過ぎない。科学力や軍事力を持ったとしても、自然淘汰には抗えない。環境に適応できなければ滅ぶしかないのだ」

 

博士はそういうと、死を覚悟した。だが、死をもたらす男は黙ったまま何も動かない。すると、突然フィッシャー中尉は笑い始める。

 

「ハハハハハ!何を言うかと思えば、科学者は軍人の俺たちよりも頭がいいと思っていたが、ここまで愚かとは思わなかったぞ」

 

「何を言って・・・」

 

「ならば変えればいいのだ。その環境をな。兵士は敵が居れば叩き潰し、障害があれば破壊する。それはエンクレイヴにも言えること。使えるものがあればそれを使えばいい。生き残りたければ、頭を使うのが俺たちだ。劣等種?おいおい、ウイルスに侵されたか?俺は物をもつ者こそが勝者だとか考えている。奴らに何がある?高々、ウイルスで若干適応できるようになった身体だけじゃないか。それを適応種として迎え入れるなどおこがましい!」

 

フィッシャー中尉は怒り狂ったように近くにあった椅子を蹴り、スクリーンに椅子を命中させる。博士はそれを驚くこともせず、それを見ていた。

 

「大統領は決断したのさ。この汚染された大地を正常に戻してしまおうと。ミュータントどもを皆殺しにすること。適応できなければ、適応できるよう、障害を排除して環境を変えてしまえばいい。」

 

狂気。

 

 

その言葉が相応しい。フィッシャーはホルスターからプラズマピストルを抜くと椅子に座っている博士の眉間に狙いを付ける。

 

「私は先に地獄で待っている。君のために席を用意しておくよ」

 

博士は最後の言葉として言うと、フィッシャー中尉は引き金を引き、博士の命は潰えた。

 

「大統領のために」

 

フィッシャー中尉はそういうと、上映室を出ていく。外には完全武装の兵士達が待機していた。一人は大切に耐爆ケースを手錠付きで持っていた。

 

「すぐに撤退する。上等兵は俺と行動を共にしろ。それを大統領閣下に届けるのだ」

 

「Yes,sir.」

 

前衛にトライビームレーザーライフルを構えた兵士が前進する。床には兵士たちに殺された科学者の死体が転がっていた。警報らしき音が鳴り響き、ビーム発射音と叫び声が研究所内の所々に響き渡っていた。

 

「アルファ分隊は残りの科学者グループの掃討にあたれ。爆弾は仕掛けたか?」

 

「すでに爆弾は防疫措置としてクラスⅤの核弾頭が起爆可能です。」

 

「ならば、十分後に撤収する。科学者共は我らの理想のための犠牲となって貰おう」

 

兵士達は残る全ての科学者を掃討し、暴走したミュータントやFEVに感染した検体のの仕業のように見せかけた。

 

 

撤収するフィッシャー中尉や兵士たちは直通エレベーターに乗り込み、すぐに医療センターへと上がっていく。エレベーターから出て行くと、外には白衣を着た医者や看護師が往来する廊下に到着した。

 

医療センターは表向き研究施設ではない。普通の医療施設だった。小隊はそのまま医療センターを出て行き、停めてある軍用トラックに乗り込む頃には軽い地響きとともに医療センター全体に警報が鳴らされた。トラックは颯爽と医療センターを離れていく。トラックにはバイオハザードマークが描かれたジェラルミンケースが載せられていた。

 

 

 

 

 

研究所はその後の発表で生物汚染を防ぐために施設全体を消毒したと発表した。FEVウイルスが持ち出されたことは知ることは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





falloutnewvegasのMODではビックホナーのジャーキーなどMODによって新たなレシピが追加されるなどあります。

正直言うと、新しくレシピ作るのが好きだったりします。

今の話の流れだと出来ませんがねwww

誤字脱字ございましたら、御報告頂けると助かります。

他にもご感想頂くと、某最後の大隊の少佐のようにココロ躍ります(笑)


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四十二話 Sic semper tyrannis!





ラテン語:暴君はかくのごとし

アメリカ合衆国バージニア州のモットーであり、かの『リンカーン暗殺事件』において、実行者のジョン・ウィルクス・ブースが暗殺直後に暗殺現場の劇場で観客に見せつけるようにして叫んだという。


 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーとは政治家にとって戦場である。

 

血生臭く、硝煙が混じる空気に泥を浴びるものが戦場とは限らない。戦う場は民間人であろうとも存在する。工場であれば、技術者の戦場は壊れた機械群だろう。兵士は生命そのものをベットして賭けをしているが、政治家は政治生命を掛けた戦いに身を投じる。頭を使い、持ちうるすべての知識と財力で話す。非合法な手段で情報を得て相手に揺さぶりを掛けることもある。失敗すれば、嘲笑と共に政界から引退する。大概の人物は持ちえた財力を潰して余生を過ごすのが相場だが、悪事を染め続けた政治家の末路は刑務所、もしくは不審死を遂げることとなる。

 

 

「首都警察設立記念式典」と銘打たれたパーティーでは行政区画の各省庁の高級官僚のほかに軍上層部の高級将校。地方から来た官僚もパーティーに参加している。そして、俺も高級将校の一人として「少佐」の階級章を付けてパーティー会場にいた。オータム大佐のような佐官用の軍服を身にまとい、シャンパンのグラスを傾けていた。

 

ウェイストランドはエンクレイヴから見れば、無法地帯そのものである。実際そうなのだが、その中でもコミュニティーが作られ、メガトンやリベットシティーのように独自の価値観によって作られた法が存在する。もっとも、それらは掟とか他者に危害を加えたら死刑など、戦前と比べればアバウトなものだ。そこでエンクレイヴは嘗ての法の統治を行うために法を守らせるための執行機関を設立した。

 

元々、軍所属の憲兵によって治安維持が行われていたが、軍の本質は国外からの敵を排除するために作られた物だ。よって守るべき国民が国の敵と安易に考えることが出来る。軍が国民を統制する機関となると、組織は変質する。守るはずの国民を威圧していき、次第には害するようになってしまう。国民を法の下に統治し、法執行する特化された警察機構が不可欠だった。

 

だが、大統領を始め、西海岸出身の高官はあまりいい顔をしなかった。市民による地下活動に加えて、反政府組織の存在もあることから、国民を下手に刺激すれば反乱分子が増えることを懸念した彼らは首都警察の設立を渋々了承するに至った。

 

 

いつまでも軍が警察の代わりをやるわけにはいかない。エンクレイヴという組織、アメリカは弱り、前へと向かねばならなかった。派閥争いをする彼らだが、戦前のアメリカを取り戻したいという思いは共通の事項だった。

 

 

「スタウベルグ中尉、楽しんでる?」

 

「はい、少佐殿。あまり食べたことないものがたくさんあり、舌鼓を打っています」

 

「さっきまで食べてたじゃん」

 

「別腹ですから」

 

アリシアはそう言うと、テーブルに置かれていたショートケーキを食べ始める。勿論それは、合成食品を使ったものではない。全て天然の食材から使われているもので、アリシアはそれを口にすると頬を綻ばせた。

 

「まさか少佐としてここにくるとはな」

 

俺は小声でそう口にする。少し離れた所ではオータム大佐が様々な要人と会話をしている。パーティーは苦手だ。出来ることならウェイストランドに帰りたいと願ってしまうが、戦争前の華やかなパーティーよりも荒廃した大地を求めるなど退廃的としか言いようがない。

 

料理は確かに絶品だが、戦場の真っただ中で楽しく味わうことなどできはしない。美味しそうだから食べてみても味を確認することなどできない。味わう余裕なんてないのに、隣のアリシアは嬉々としながら、ローストビーフを食べていた。

 

腕時計を見てみると19時を過ぎたところだった。

 

一度、俺はpip-boyを装着していたおかげで、正体がばれそうになった。その為、その趣旨をオータム大佐に話したところ、それでは困るということで外科的な用法でpip-boyを取り除いてしまった。本来は半永久的に死ぬまで取り外せないものなのだ。死んだ場合は、次の世代に受け継ぐために遺体から取り外される。外科的な方法で取り除くのだが、vaultで生活する上で携帯端末の役割や身体能力や体感時間を変化させる機械がなければ仕事すらままならない。

 

特殊な機器で取り外せるのだが、大抵のvaultにはそれが存在しない。取り外す必要がないためだ。エンクレイヴには過去にvaultを襲撃して住人を人体実験の材料にしたことがある。Pip-boyは高価であるため、変異して肥大化した腕によって破壊されないよう、戦争前の情報を元に器具を制作。倉庫で眠っていたそれによって俺の腕から取り外すことに成功した。

 

外したことによってその能力は使えなくなるし、神経接続介して体感時間を大幅に遅らせるV.A.T.S.は使えなくなった。しかし、pip-boyの取り外しに加えて顔には特殊メイクで顔識別システムをかいくぐれるように施術が成された。

 

身元がばれないだけ良しとしよう。

 

 

「食べます?」

 

「いや、これが終わったら楽しく食べられるだろうな」

 

乾杯の時にシャンパンを飲み、薦められた肉のパイ包みを食べたが味を感じることはなかった。

 

「あのホテルで食べとけばよかった。」

 

 

「盛ってないで食べればよかったのでは?」

 

「う、煩いわ。寝室に誘導したのは中尉だろうに」

 

 

アリシアは大佐と共に食べたフルコース料理の他にもホテルの料理を食べている。それも二人前だ。どこにそんな胃袋があるのかと問いただしたかったが、パーティーで出された料理を食べるアリシアを見てその気も失せた。

 

あの後、シャルを落ち着かせた後彼女に襲われた。無論、性的な意味であるが、後から聞くと料理で出されたワインを飲んだためにムラムラしたらしい。ワイン自体に催淫効果があるのか疑ったが、実際シャルには酒淫の癖があるようだ。

 

隣に音が聞こえてしまったらしく、アリシアにとっては「またやってるな~」と思ったに違いない。

そんな赤裸々な話を周りに聞かせるわけにもいかずに小声で話し始める。

 

「あのままアリシアが乱入してくるのではと焦った」

 

「私だって空気は読める。まあ、乱入して搾り取るのも良かったかもしれないが」

 

「え?」

 

アリシアの一言に一瞬驚きを見せるものの、いつものような弄りだろうと結論づけた。

 

「またまた、まずはシャルと仲直りしてからにしてくれよ」

 

「いや、既に話は済んでいたからな。あとはお前の気持ち次第だった。今日は忙しいからあとにしようと思ってな」

 

「な・・・なんだと?」

 

彼女の顔は冗談を言っているようには見えない。冗談に思えない冗談はあまり言わないし、彼女の顔を見れば一発で分かる。何せ、口元が笑っているから一目で分かる。だが、今の彼女は先ほどのホテルで乱入すれば良かったと後悔している表情だった。

 

「う~ん。ホテルで食べずともここで食べれば良かったのだから失敗したかもな」

 

「いや、ちょっと待ってよ。シャルと話したってどんなことを」

 

「・・・いや、恥ずかしくてそんなこと言えないよ」

 

「乱入しなかったことを後悔している女の発言じゃないだろ」

 

 

シャルと和解していた事は予想外だったが、それ以上にアリシアには気兼ねなく接することが出来るだろう。アリシアとも関係を作るとなれば、シャルに一度聞かねばならないだろう。非常識であることは分かるけども・・・・。

 

 

 

 

 

「ムネモリ少佐・・・・だったかな?すこしよろしいかな?」

 

 

そこへやってきたのはタキシードを着た初老の男とその妻らしき女性だった。

 

初老の人物はさっきの議会で見たことある人物だったが、どんな要職に付いているかは知らされていない。

 

「私の名前はブレストン・フォークドマン。国防長官だ」

 

そう言えば、彼は議会の中でもあまり口を開かなかったが、オータム大佐曰く議会でもナンバー3に当たる人物だったはず。それだけでなく、エンクレイヴ軍の中の軍人以外で大統領を除く文官のトップであった。

 

現在のエンクレイヴの保有する軍は陸海空軍全てを国防総省が指揮しており、統合参謀本部は作戦の立案や遂行を行っている。その裏方として行政や各部署を統括するのが目の前に居るフォークドマン国防長官だった。60近くの高齢であるものの中肉中背の肥えていない腹部を見る限り、健康的な生活を送っているようだ。

 

白髪が大半を占める頭部と老眼鏡を掛ける彼は一見、穏やかなお爺さんと見えることだろう。だが、事前にアリシアから伝えられた情報は外見に反して、政治という魑魅魍魎がはびこる世界に生きている人物には到底見えなかった。

 

俺はエンクレイヴの佐官服着ているため、一応彼は上司に当たる。敬礼しようとする俺に彼はさっと片手を出して握手しようとし、俺はすぐそれに応じた。

 

「統合参謀本部第三作戦室のジョン・ムネモリ少佐です。国防長官殿」

 

「こっちは家内のアナベラだ」

 

「アナベラよ。よろしくね・・・。あなたかなりもてそうね、もう婚約者はいるのかしら?」

 

貞淑な老婦人の印象を持つアナベラ夫人は握手すると、まるで少女が恋話を見つけたような笑みで俺を見つめてきた。そんな彼女にフォークドマン長官は呆れたようにため息を吐く。

 

「アナ、花婿探しはよさないか。オータムの話じゃ、既にいるのだから諦めなさい」

 

「あら、この会場で娘にあう子を探してるけど、やっぱりダメね」

 

どうやら自分の娘に合いそうな男を捜しているらしい。フォークドマン夫妻のような人たちの娘ならさぞ美しいのだろう。

 

「お二人の娘さんならさぞ美しいのでしょうね」

 

「あら、煽てても何も出ないわよ。でも、あなたのような口の上手い子に遊ばれてしまうから注意しないとね」

 

お茶目っ気のあるアナベラ夫人はテーブルに合った葡萄を一房取ると、アリシアへと照準を定めた。どうやら俺たちの話を聞いていたようで、舌なめずりしながら(多分してない、幻覚だろう)アリシアへと近づいて恋バナを咲かせている。どの世界もそう言った話は女性が好物とするようだ。すると、蚊帳の外になった俺と長官はお互い困ったような表情をしてしまった。

 

「家内はマイペースだからな。それに、人の恋愛を知るのはこの上なく好きと言っている。まあ、言いふらしたりはしないだろうから安心だ。」

 

「そうでしたか、それなら良かったです」

 

「君はまだここへ来たばかりなのだろう。なら、注意することだ。パーティーは華やかに見えて権謀術数の世界だ。彼女が君達にしたのはほんの子供だましさ」

 

本来であれば、あの挨拶など遊びにしか過ぎない。ウォーミングアップにすらならないだろう。パーティーで話し始めれば、情報戦が展開される。何も、ハッキングやスパイだけではない。パーティーでも様々な情報戦が繰り広げられているのである。

 

「これがただの結婚式なら気楽なことこの上ない。だが、ここは政界の魑魅魍魎共がウヨウヨしている。ここで生きていくのなら、身構えておくことだよ」

 

長官はそういうと視線を移し、「手を出したまえ」と俺の手に何かを手渡した。

 

「私の今回の役割は運び屋かな。ブツは奥の男子トイレの奥から二番目の個室だ。そこで紙を見るといい。」

 

手渡されたのは何やら白い紙だった。ここで開きたいものだったが、ここでは人目につく。

 

「長官、自分はちょっとトイレに行ってきます。副官はあなたの奥方に拘束されているようですので彼女を見ていてもらえますか?」

 

「ああ、美女といるのは幾つになっても嬉しいものだからな」

 

「聞こえてますよ、貴方」

 

 

アリシアと話していたであろう夫人は冷やりとするような冷たい笑みを浮かべた。長官は困ったように笑うと、俺に早くいくよう促した。

 

会場から出ていき、近くのトイレへと移動する。

 

パーティーの会場である第七室内練兵館は元々兵士たちのレクリエーションの場としても用いられる。室内競技であるバスケットボールやバレーボール、格闘技などが行われる。しかし、こうした式典にも用いられるような設備も整えられている。近くに厨房があり、作ったものをすぐに会場にもっていけるような体制になっている。学校の体育館のようだと思ってしまうのは俺だけだろうか。

 

トイレは体育館の汚いトイレではなく、上品な外観で清潔だった。

 

「奥から二番目・・・」

 

小声で言うと、そのトイレに入って腰かけた。長官からもらった紙を読んでみる。

 

 

『目標の暗殺は照明を消した状態で行う。

1950時に大統領の演説が終了して政界の要人に挨拶をしはじめることだろう。それを狙って照明を落とす。銃は22口径の消音拳銃を使用する。特殊な加工と消音処理をされたそれは暗闇でも発射光が見えない仕組みだが、一発でも撃てば、その機能は無くなってしまう。一発で仕留めなければならない。

 

目標の暗殺後、アリシア中尉と共に厨房へ移動後、中の手引きで装甲車へ移動する。そこから仮設司令部へと向かう。シークレットサービスからの抵抗があるだろうが、火器と人員は既に配置している。

 

暗殺時はすべての照明が消されるが、シークレットサービスの暗視インプラントによって暗闇でも見えてしまう。五秒以内に暗殺を行い、銃を隠さなければ彼らの人口眼球によって発見されてしまう。暗殺終了後、混乱を見計らって脱出せよ。脱出ルートはスタウベルグ中尉が把握している。

 

22口径特殊消音拳銃と暗視用のキャットアイはトイレットペーパーの山の裏にある。

幸運を祈る                 A                 』

 

たぶん、オータム大佐を指すのだろう。書いてあった通り、トイレットペーパーの山の裏を見てみると22口径拳銃とキャットアイのラベルが張ってある小さい瓶を見つけた。キャットアイを見てみると、パッケージには「軍用のため、民間への横流しは法律で罰せられます」と書かれていた。効果は一時間。それを飲むと、視界が一瞬歪んで緑がかった視界へと変わっていく。副作用で癌を引き起こすんじゃないかと冷や冷やしつつも、その効果は窓を見ることによって明らかになった。

 

人口の太陽光が基地の上にあるものの、時間的には夜である。防犯上の理由で街灯や光を最小限にして暗闇に染まらずに済んでいた。だが、大統領の警備体制をより強化するために、周囲は灯火管制が敷かれており、あたりは暗闇に包まれていた。いま周囲が確認できるのは、暗視ゴーグルや視覚インプラントを持つシークレットサービスかパワーアーマーを装備した部隊だろう。

 

キャットアイによって、視界がクリアとなり建物に何があるのかはっきりと見ることができた。ツーマンセルで周囲を見守るスナイパーやミサイルランチャーを構える兵士たち。道路には半機械化された軍用犬と巡回する兵士がおり、そして幹線道路につながる道には検問と装甲車が配置されていた。

 

「これ、大丈夫なのか?」

 

厳重な警戒態勢でモールラットの出る穴もない・・・、いやあれだけ大きいと困るが、穴がないのは確かだった。

 

しかし、アリシアが脱出ルートを知っているなら大丈夫なのだろう。

 

22口径ピストルに異常がないか確認する。弾倉を抜いて薬室を空にする。普通の22口径拳銃よりも銃身部分が分厚く一発だけ無音無光となる特殊消音器具となっている。一発撃ってみたいが、撃つことによって隠密機能が失われる危険性もあった。8発の弾が入った弾倉を装填し、スライドを引いて薬室に次弾を送り込む。

安全装置をオンにして胸のホルスターに入れておくと、個室を出た。

 

 

誰もいないが、一応手を洗って鏡を見てみると自分の顔かと驚いてしまう。あごは割れて、二重から一重瞼に変わり、左目近くの傷は消えて、新たに大きい鼻が装着されていた。顔色も変えられて色白になっているが、耳の裏から引っ張り剥がせば簡単に元の顔になる。

 

それはさながらスパイ映画のようであった。あの映画も国防総省から極秘データを盗み出すのを任務としていた。俺もその主人公と似たようなことをしているが、あの映画の最後は自分の上司であり師だった男に裏切られていたという結末だった。

 

 

そんなことを考えていると、腕時計は長い針がもうすぐ六時を指そうとしていた。トイレをさっさと出ると、会場へと入っていく。

 

「失礼、少佐殿。身分証明書を拝見します」

 

心臓が跳ね飛び、目の前にいる人物に驚く。俺の身長を子供と言わんばかりの巨体の男は黒いスーツを着て、シークレットサービスのマークのピンバッチを付けていた。スキンヘッドの男に殴られれば俺の体が粉々になってしまうかもしれない。スーパーミュータントも殺せるんじゃないかと思えるような男は巨体に似合わないような笑みを浮かべていた。

 

焦らずに胸ポケットから事前に渡されたIDカードを渡す。

 

「失礼いたしました。ムネモリ少佐、もうそろそろ大統領の演説ですので警備を一時的に強化させていただきました」

 

「いや、構わない。そちらも大変だな」

 

「私はこのような豪華な食事は胃腸に合いませんので」

 

「私もだ、もっと質素な食事の方が体に合う」

 

お互いに愛想笑いを浮かべると、労いの言葉を掛けてその場を後にした。すると、入口で待っていたのか扉付近にはアリシアがワインを傾けて待っていた。

 

「遅かったですね、少佐殿。腹でも下したんですか?」

 

「まあ、久々に美味しいものを食べすぎて驚いたようだ」

あまり食べていないが、この後の事を考えれば当然だろう。大統領の演説が始める予定で、既にステージでは準備が進められ、出されている料理の半分ほどがデザートへと変わっていた。ステージの周囲には黒い服を着たシークレットサービスが周囲を警戒していて、ステージになにか小細工がないか調べている徹底ぶりだ。

 

俺は彼女の側によって小声で話しかけた。

 

「準備ができた、会場はどんな感じ?」

 

「あと少しで大統領の演説が始まる。演説のすぐ後に大統領は数人の高官と会食をする。テーブルを挟んで彼を撃て。もう薬は飲んだよな?」

 

「ああ、飲んだ。軍用のキャットアイがあるなんてな」

 

「民生品は急に暗闇になると適応するのに時間が掛かるが、軍用はすぐに見えるようになるはずだ」

 

アリシアは言うと、目線を演壇上に向ける。壇上には最終チェックであろうマイクの設置や大統領の原稿を表示する防弾ガラスを設置していた。

 

「俺たちはここにいていいのか?」

 

アリシアと俺は入口の近く、演壇上から少し離れた位置にいた。ここに大統領がくるのにどれほどかかるだろう。電灯を全て消すタイミングと大統領がこちらに来るタイミングが合えば何とかなるだろうが、その疑問は彼女が解決してくれた。

 

「シークレットサービスと大統領補佐官が持っているスケジュールで把握している。大佐も補佐官の一人だからな。大統領のスケジュールは分刻みだ。演壇から降りた後のスケジュールも組まれている。誤差は30秒というところだ。ここであってるから安心しろ」

 

アリシアは俺の不安を払拭するように言うと、照明が消えて室内には演壇の光が灯る。俺たちがいる位置は暗く、キャットアイを飲まなければ目を凝らさないと見えないようになった。間もなく、大統領の演説が始まるはずだ。

 

「なあ、ユウキ。これが終わったら・・・」

 

「アリシア、それはフラグだぞ」

 

「フラグ?それってフラグ(旗)のことか?」

 

フラグとは近年見る伏線のことをさす。元はコンピューター関連の言葉であったが、そのルーツは日本の2chである。もっとも、この世界には2chは存在しないので、この世界にフラグは通用しない。

 

「映画でいう『俺、国に帰ったら結婚するんだ』とか必ず言った兵士は死ぬだろ。エンディングは主人公が彼の遺品を彼の婚約者に渡すんだ。これが終わったらなんて、何があっても言わないでくれよ」

 

どれをどう見ても、彼女のセリフはフラグ建築士としては最高の腕前かもしれない。しかし、ここで披露されては困るのだ。

 

彼女は言葉の意味を理解したのか、成程といった表情で掌に拳を載せる仕草をする。

 

「ならば、これならいいだろう」

 

アリシアはそういうと、満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

俺の視界が遮られたと思うと鼻腔に女性独特の甘い香りが流れ込み、唇に柔らかい感触が脳髄を走る。サラサラとした髪が顔に掛かり、一方的に唇を吸われる。それは互いの身体に腕を回すような情熱的ではないものの、そのパーティー会場にはあわないものだ。ただ唇を触れあわせるだけの接吻な筈なのに、舌を絡め合うような脳髄を溶かすような強烈なもののように感じられた。

 

それは一瞬の間だったのかも知れないが、唇を離すと下唇をペロリと舐めている様子は艶めかしく、満足感に浸った笑みを浮かべていた。

 

 

「あ・・・アリシア・・・」

 

 

とっさに周囲を確認するが、その瞬間を見ているものはいない。演壇に大統領が登場したためそちらに注目してしまっていたからだ。

 

(アメリカ合衆国大統領、ジョン・ヘンリー・エデン氏に拍手をお願いいたします!!)

 

俺の心臓が高鳴り、早く脈打つ鼓動は拍手でかき消され、スピーカーから流れる音楽によってアリシアの声は周囲に聞こえない。

 

「言うのがダメなら行動で示そう。これが私の気持ちだ。あとは終わった後でならいいだろう?」

 

先ほどの初心な乙女の表情をしていたアリシアではなく、いつも通りの表情へと変えていた。いや、幾ばくか生き生きとした表情だった。

 

「ああ、これが終わったら続きを・・・・」

 

 

たぶん、この会話聞かれているんだろうな・・・・。所々で生暖かい視線と殺気が飛んできてるし。

 

アリシアはここで覚悟を決めたのだろう。

 

 

 

今後の目標が見えなくては、人間は生きていけない。命をかけて戦う兵士は勿論のこと、日々普通に生きる人間には目標が不可欠だ。アリシアも生きるためには目標が必要だ。成功率が低く、生存率も無いに等しいものでも、生きる目的があれば成すことも可能だ。俺にキスしてきたのは、彼女なりの決意表明だった。

 

 

 

 

俺は演壇を見る。

 

 

演壇にはいまだ拍手が鳴りやまない喝采の中、周囲の人間に手をふるエデンの姿があった。その姿は人間のようで、どうみてもアンドロイドには見えなかった。

 

 

「諸君、多大なる喝采に感謝する。昼間の演説を聞いた方も多いようだし、同じ原稿を使うのはつまらないからやめにしよう」

 

 

場を笑わせるジョークを言い、周囲は笑いに包まれる。声はゲームやラジオで聞こえていたエデン大統領の声と全く同じだ。容姿は議会に飾られていた肖像画と同じような初老。しかし、公式発表では80代前後。戦前の技術を駆使すればできるかもしれないが、多忙な大統領に容姿を気にすることができようか。手術する時間があれば、公務に精を出しているはずだ。察しのいい人間なら気づくだろうが、エンクレイヴの首脳陣の集まるこのパーティーにおいてそれを指摘する者はいなかった。

 

 

「首都警察の設立に貢献した皆々様にこの場を使って感謝する。そして、地下の輸送網を通ってはるばるここまで来た基地司令や行政各局にもお礼を言いたい。君たちのお陰でエンクレイヴの国民は生きていけるのだから」

 

エデンはそこで話を区切る。

 

 

 

 

「さて、諸君は知っての通りだが、私はアメリカが好きだ。いや、私はアメリカが大好きだ。」

 

 

 

「この大地で育まれた文化や科学技術、軍事、民主主義、国民、あらゆるものが好きだ」

 

 

 

「アメリカを発端とするジャンクフードは多くの肥満を生み、生活習慣病の引き金となった。それでも、あれは言い表せないほど、美味だ。実際二週間に一回の割合で私も食べている」

 

 

若干名の人は今の台詞に苦笑を漏らした。

 

 

「月まで到達した宇宙飛行士。宇宙開発では他国の追随を許さず、確固たる地位を守り続けたアメリカの科学技術には感服せざる負えない。アメリカの軍事については言うまでもない。『世界の警察』たる地位を盤石なものにした五軍は今でも色褪せないほど、栄光の光に満ち溢れていた」

 

 

「このアメリカで養われた民主主義はヨーロッパで虐げられたプロテスタントがこの地に逃げ込み、そしてイギリスの圧政に苦しんだ事はご承知の通りだと思。独立を所望したジョージ・ワシントンの意思を継いだ崇高なる精神が根底にある。そして、その守護者たる国民は同時に軍や私が守らねばならないものだと確信している。常々彼らを正しい道に導くことこそが使命であると」

 

 

 

 

「私はその使命を思い、常日頃から公務の他にラジオを使ってエンクレイヴについて放送しているのはご存じだろう。ケンタッキー州の田園地帯で生まれ、愛犬と少年時代を過ごしたと言っているはずだ。だが、そんなことはない。ありえない。何故なら200年前の大戦争によって合衆国の誇る穀倉地帯は全て灰と化したからだ!」

 

 

エデンは声を張り上げ、体を左右に揺らしながら大きくジェスチャーをする。

 

 

 

「ケンタッキー州は失われ、地上には犬の形をした何かが生息している。無論、私があの放送で言ったことは嘘が含まれている。それは政治的なプロパガンダであることは明白だ。」

 

 

 

エデンは演壇に置かれた水を一口飲むと続けた。

 

 

 

「では、なぜ私が使命を思い、嘘をつくのか。とある市民政治グループは私のことを阿呆と言っていることと思う。確かにケンタッキー州で育ったことはない。私が育ったのはカリフォルニアのヴァンデンバーグ基地だ。愛犬など居ない。これまでラジオでそれを流していたのは、外にいる無知な彼らに戦前の様子を伝えるためだ。」

 

 

 

演壇の左右にあるブラウン管テレビが起動し、そこには嘗ての自然豊かなワシントンDCが映された。ウェイストランドのオゾン層が破壊された空ではなく、幾分か汚れた空ではあるものの、様々な種類の鳥が群れを成して大空を飛ぶ姿。生い茂る緑の木々。笑う子供らに幸せな家族。それはアメリカの国民が享受していた幸福な世界だった。

 

 

 

そして映像は変わり、アンカレッジ戦線の記録映像が流された。戦線を指揮するチェイス将軍の映像から塹壕戦、冬季迷彩に身を包んだ兵士たちが凍える手で銃剣を装着し、雄叫びをあげながら中国軍陣地へ突撃する様子が見られた。並べられた火砲によって兵士は吹き飛び、四肢を引き千切られる。欠乏した数少ない弾薬を装填して、果敢に突撃する。銃剣を敵兵に突き刺す。そして他の敵兵が突き刺した兵士へ銃撃を食らわせる。弾が無ければ銃剣で。銃剣が無ければ、スコップ、ナイフ。それもなければ己の拳を。有史から同種である人を殺めてきた闘争本能は高度化されたその戦場においても、本質は全く変わらない。己が生き残るために力の限りある暴力を使って敵を殺していく。幾度となく繰り返されてきた殺し合いは最終的に核という己自身を滅ぼす最悪の矛を使った。核爆弾が落とされ、キノコ雲が上がり、4000度の炎が文明を焼き尽くした。

 

 

映像はそこから最近撮ったと思しき映像が流れていく。それはエンクレイヴボットから撮影されたものらしく、メガトンの街並みやリベットシティーの様子。そしてレイダーが行商人を襲い、奴隷商人がボロ衣を着たか弱い少女を鎖でつないで引っ張っていく様子が見られた。核戦争から二百年経った今日でさえ、人は殺し殺されていく。過ちは繰り返しながら。

 

 

 

 

「嘗ての肥えた大地や澄みわたる青空。破壊されていないオゾン層。それらは彼らにとって夢物語にも等しい。ならば、それを彼らに伝えねばならない。夢物語は現実に起こせる出来事であると。だが、具体的に彼らに伝えたとして戦前の生活に戻すことは我々の世代では難しい。」

 

「だが、今のエンクレイヴであれば後世に肥沃な大地を与えることも難しくはない。嘗てのアメリカの朝食、パンに牛乳、コーンフレーク、そして新聞を読む父親。我々、純粋なるアメリカ国民が食しているのは大半が合成食料だ。それを何としても自然に作られた小麦で作られたパン、変異していない牛から搾乳された牛乳。これらを実現するためには法の守り人たる警察官が不可欠であると私は思う。」

 

「君たちはどう思う?今のままで満足するか?

 エンクレイヴを作り上げた先人たちが遺して行った遺産を食いつぶしてもいいのか?

 そんなはずはない。君たちはエンクレイヴである前に偉大なるアメリカ国民なのだから」

 

 

演壇に立つ男に全ての参加者が集中し、その一つ一つの言葉に聞き惚れていく。これはまるで20世紀最悪の指導者であった演説に瓜二つだった。それは人を扇動し惑わすカリスマ豊かな指導者。それがZAXシリーズのスーパーコンピューターが行っているとはどうにも考えられない。

 

一体奴は何者なのか、本当にエデン大統領はZAXコンピューターなのか?

 

 

 

「現在のワシントンDCは、キャピタル・ウェイストランドと呼ばれていることは知っての通りだ。道を歩けばミュータントや無法者に襲われ、人喰いが徘徊している。全ての地域で無法が蔓延り、植民計画は計画はじめから頓挫した。我々は我らの首都を、治安を復活しなければならない。その為には国民一人一人が団結しなければ成し遂げられないだろう。汗を流し、時には血をも流すかもしれぬ。しかし、これこそがアメリカ復興の兆しである。私はここに首都警察機構の設立を宣言する!これがアメリカ合衆国復活の第一歩となるであろう!」

 

演説終了と共に会場を埋め尽くす程の雷音のような大拍手が響き渡る。この中は様々な思惑が入り交ざった政界の真っただ中であったが、すべてが彼に向けて視線と拍手を送っている。彼らは政治家という身でありながらも、政的には敵である彼にこの瞬間だけ魅了されていたのだ。

 

20世紀を代表する独裁者は完全なる民主主義のシステムを経て、合法的にその座に上り詰めた。そこにはカリスマと狂気に満ちていたが、彼には人を魅了する演説の才能があった。二度目の世界大戦の後、彼を支持した国民の殆どが彼を拒絶した。まるで詐欺に騙されていたように。もし、そうであるならば、彼の存在は詐欺師そのものに他ならない。

 

俺とアリシアはその演説に恐怖していた。形だけ拍手をしているが、出来るのなら今すぐにでも懐にある22口径拳銃で奴の頭を撃ち抜きたい。コンピューターである彼がここまで人を騙せることを知り、今すぐにでも奴の茶番に終止符を打ち込みたかった。

 

エデン大統領はその声援に軽く手を振りながら視線を周囲へ向ける。そして俺たちのところへ視線を向けた時、奇妙なことに俺のことを真っすぐ見ている気がした。間違いなく、俺のことを見ていた。エデンは俺のことを察知していた。アリシアへそのことを伝えようとしたが、彼女もそれが分かったようで、顔を強張らせている。

 

(ありがとうございました、大統領閣下。パーティーは引き続き続きます。残り短い間となりましたが、シェフ自慢のデザートを用意してあります。どうぞご堪能くださいませ)

 

時計を見るとまだ時間はある。大統領が周囲を回って政権支持者へとあいさつ回りした最後にこちらに近づいてくる。そこで暗闇となり奴を葬る予定だ。心臓が高鳴り、緊張の余り制服の下に着ていた下着が冷や汗で湿っていく。

 

「アリシア、まさかバレたんじゃ?」

 

「いや、そんなはずはない。私は知っていてもお前の顔は特殊メイクをしている筈だから分からないはずだ」

 

「だよな・・・・、じゃああの視線は一体・・・」

 

一抹の不安が頭に残るが、時計を見ればまだ五分ほど時間があった。五分後に来ればこちらとしても仕事がやりやすい。しかし、大統領が居る周囲が慌ただしかった。ギャラリーが大統領に握手を求めているのではないかと思ったが、どうやら近くを警備していたシークレットサービスは耳に装着したインカムで交信を繰り返していた。すると、人垣から大統領がこちらに向かって歩いてくるではないか。

 

「アリシア・・・!」

 

「動くな、無暗に動けば気づかれる」

 

ここで下手に動けばシークレットサービスが不審に思うはずだ。下手に動けず、大統領はすぐそこまで迫っていた。

 

「大統領!一応、ルートがすべて決まっているのです。あまりご自由になされても困ります」

 

「会いたい者が居るのだからいいではないかね?この後は少し予定がずれても問題ないはずだ。就寝する時間を減らせばいいだけの話だろう?」

 

そういうことではなく・・・、と秘書官の台詞が聞こえたが、大統領はその秘書官の制止を振り切ってエデン大統領は俺とアリシアの目の前に立った。

 

やはり大統領が見ていたのは俺のことだった。大統領は俺の目の前に立ち、品定めするように俺を見据える。この状態で暗闇になったとしても、真正面から撃ったとして直ぐにバレてしまうだろう。出来れば至近距離ではなく、近距離から中距離であればなんとかなるのだ。

 

だが、其れよりもなぜ大統領が俺の目の前にいるのか。

 

「ムネモリ少佐かな?君のことは知っている。大佐を手伝っているそうだね、彼は実に多忙だ。彼をうまく補佐してやってくれ」

 

大統領は茫然と立つ俺の手を取って握手する。アリシアは驚いた表情で目の前で起きた状況を把握しようとしている。暗殺者の手を握る大統領とはとても滑稽かつ大胆極まりないものだ。そして確実に俺の正体を見破っているはずだ。統合参謀本部にムネモリ少佐は在籍していないし、そんなこと大統領は分かっている。なら、なぜこんな猿芝居を打つのか。ここで、俺が偽将校だとバラせば、暗殺者として処刑することができるはずなのに。

 

「あ、ありがとうございます、大統領閣下。閣下にお手を煩わせない様努力いたします」

 

頭が真っ白になっていたが、何とか言葉を返し、大統領は俺達から離れていく。今のは、「貴様を知っているぞ」という、威嚇だったのか。それとも、軍のデータベースに作った俺の偽パーソナルデータを参考に、声を掛けに来たのか分からない。だが、どちらかであるならば後者であったほうが喜ばしい。

 

大統領はそのまま俺達から離れていき、狙いにくそうな位置へと移動していく。大統領が移動したのはかなりの誤算だったが、少しずつ動いていけば、しっかりと狙える距離に近づくだろう。

 

「中尉、デザートを取りに行くが一緒に行くか?」

 

デザートのテーブルが丁度大統領の近くにあり、取りに行くことを理由に大統領に近づくつもりだ。アリシアも俺の意図に気が付いたのか、頷いた。

 

「少佐、貴方のことですから大統領にお会いして緊張したのですか?」

 

「その通りだ。今にも倒れそうだから甘い物が食べたいんだ」

 

腕時計にはあと1分ちょっとで照明が消される。その前に狙いやすい位置に移動しなければ、暗殺は失敗に終わるだろう。そのためにも移動しなければならない。ゆっくりと人をかき分けながら、ウェイターからもらった取り皿を取って大統領へと近づいた。

 

照明がもうすぐ消えるため、心臓が再び高鳴り、緊張が俺の心をかき乱す。頭では失敗したらどうしようかと頭の中でグルグルと駆け巡っているが、それをやめなければ大統領を打つことはできない。

 

デザートのテーブルに近づき、ウェイターが切り分けるケーキの向こう側に政府要人と笑顔で話している大統領を見つけた。ここならば大統領を暗殺することができるだろう。ウェイターにケーキを皿に置くよういい、22口径拳銃をすぐにでも抜けるよう準備しておく。小さく深呼吸して息を整え、腕時計を見たその時だった。

 

二階に位置する窓ガラスが大きく割れて、パーティーにいた人は驚きの声をあげた。窓の下にいた人は軽い悲鳴をあげながらそこから退避するが、その悲鳴よりもさらに大きな悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

おれが窓からその叫び声に目を移し、最初に見たものは胸に大穴が空き、真っ白な血を吹き出すエデン大統領の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 






やっと殺せました。まあ、やったのは主人公ではありませんがw

多分、次の話は短くなるかと思いますが今月中に投稿出来るよう頑張ります。

いやー、最近hellsingの少佐キャラに嵌っていまして、ああいう狂人キャラだそうかなと考えたりしてます。ある意味、大統領も人というか狂ってますけどねw

hellsingの二次創作とか面白そう(←やるとは言ってない)


誤字脱字ありましたらよろしくお願いします。その他ご感想頂けると、袖付きの真っ赤な全裸のように執筆速度が速くなります


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四十三話 coup d'État

九月に投稿すると言ったが、あれは嘘だ←

すいません、間に合いませんでした。

クーデターの雰囲気が分からず、いろいろと文献や映画に手を出して見ていました。上下で区切るつもりですが、最後の決戦もやるつもりですのでよろしくです。

サブタイトルの「coup d'État」ですが、フランス語でクーデターです。語源もフランス語のようですね


 

 

 

 

 

 

 

「大統領が撃たれた!救急車を早く!」

 

 

 

「スナイパーだ!外周部の警戒部隊は何をやっていた!」

 

 

 

(皆様、慌てず落ち着いて行動してください!)

 

 

パーティーという、豪華絢爛な催しはたった一発の銃弾で混沌と恐怖に支配された。シークレットサービスが無線で応援を呼び、壁から無理やり取り外したと思われる救急箱から止血剤を取り出して、吹き出す白い血液を止めに掛かる。人間の血液の色ではないそれは、その場にいる人間すべてに見られていた。そして大統領は既に息絶えていることも。

 

「アリシア、どうする?」

 

「・・・作戦変更だ、会場から脱出する。私についてきてくれ。私が発砲するまで演技を続けて」

 

大統領を暗殺した後、変装した状態で脱出するつもりだったのだから他の人物が暗殺したとしてもやることは変わらない。

 

人垣をかき分けて、会場の出口へと移動する。しかし、既にシークレットサービスが出口を固めていた。そのため、アリシアは来賓の出入り口ではない料理搬出用の出入り口から出て行くことにした。会場から出る扉を出ると、案の定非常事態なため警備兵は一人もいない。民間人らしきウェイターも呆然と立ち尽くしていたり、近くの仲間と会話をしているようで、こちらに注意を向けていない。

 

アリシアはそのまま搬出口から出て行くと、ポンプ室らしき部屋に俺の手を引っ張り入る。若干蒸気が漏れ出ていて蒸し暑い部屋だったものの、扉を閉めるとアリシアはロッカーから白い衣服を渡してきた。それはさっき会場内で料理を運んでいたウェイターの制服だった。アリシアは変装を取れと言い、俺は耳の裏の突起を掴むと一気に剥がしに掛かった。薄く、ゴムの形状のそれは一気に剥がれていき、元の顔が露わになった。

 

佐官服を脱ぎさると、急いでウェイターの服に着替え直す。黒のズボンに白いシャツとネクタイ。黒のエプロンという姿で、女性用はタイトスカートだ。アリシアのスカート姿に慣れないだろうなとふと後ろを向くと士官服を脱ぎさるアリシアの姿があった。彼女は黒のブラジャーを付けているが、そこから見える双丘は綺麗な曲線美であr・・

 

「何見てるの!急がないと」

 

といつも以上に急がなければならないのに見てしまうのが男の性である。アリシアの真面目な一面だけでも見れたので良しとしよう。

 

「まったく、これだからもう・・・」

 

と呆れ顔で俺を見る。彼女はさっさと着替えを終え、俺はズボンを履き替えて22口径ピストルをズボンの中に隠す。

 

アリシアはゆっくりと外に出て誰もいないことを確認すると、俺を手招きして安全であることを知らせた。

 

通路には誰もいないため、アリシアに連れられて通路を曲がり厨房近くにあるエレベーターのスイッチを押す。

 

「エレベーターを降りると、迎えの装甲車が控えている。そこから司令部に向かう。多分、強行突破だから注意して」

 

そう言うと、アリシアはエプロンで隠していた9mmピストルを構えた。

 

「アリシア、無事に帰ったらもっと良い銃作ってやるよ」

 

「ああ、楽しみにしてる」

 

22口径ピストルの安全装置を解除して、それを構えると、エレベーターが開かれた。下は食品を納入する駐車場として機能するらしく、軍用トラックのほかに民間に供与されたトラックや要人用の黒塗りキャデラックが見ることができた。しかし、迎えの装甲車らしき車両は待機していなかった。

 

仕方なく、アリシアは出口に近い場所で待機しようとエレベーターから出た。

 

「クリア。行くぞ・・・・」

 

「おい、そこで何やってる!」

 

安全だと確認し、エレベーターから降りたそのときだった。駐車場の向こう側にあった来賓用のエレベーターホールには現場封鎖のためにシークレットサービスが警戒に当たっていた。既にウェイターは業務を停止して、どこかに集められていたのかもしれない。俺たちを見た彼らは手に下げていたバックのようなものを振り、サブマシンガンのような銃が現れた。

 

 

「FMG―9かよ!?」

 

銃器メーカーMAGPUL社が開発した折りたたみ短機関銃FMG-9は、折りたたむと工具箱などに偽装できる。銃の形は威圧するため、要人警護に用いられるよう設計された。この世界にはその会社は存在しないはずだったが、誰かが似たようなことを考えたのかもしれない。一瞬でサブマシンガンを組み立てたシークレットサービスは引き金を引き絞り俺たちに銃弾の雨を降らせた。

 

急いで左にあるロールスロイスの車に隠れ、銃弾に当たらないように22口径銃を発砲する。威嚇のためとはいえ、銃声すら聞こえない弾は威嚇とはほど遠い。アリシアは牽制で9mmを発砲すると、陰に隠れた小口径の弾丸が車体を弾痕で傷つけていく。

 

 

「pip-boyがあればな!」

 

「ないものねだりはするな!あきらめろ!」

 

と9mmピストル狙いをつけず、奴らのいる天井へ銃弾を撃ち込み、蛍光灯の破片を降らせた。

 

「迎えは?」

 

「もうすぐ来る!」

 

シークレットサービスは銃撃を加えつつ、じりじりとこちらに近づいてくる。22口径は牽制にはならないものの、反動の少ないそれは精密射撃に向いており、サブマシンガンを乱射するやつの頭に狙い引き金を引くと、狙い通りの場所に命中し、マシンガンの乱射は止まった。

 

「よし!・・・っと!」

 

命中したことを喜ぼうとしたが、車の陰から何かが飛びかかってきた。それはにじり寄ってきたシークレットサービスらしく、俺に飛びかかると馬乗りになり、持っていたコンバットナイフを振り下ろしてきた。

 

「ここで死んでたまるかぁ!!」

 

振り下ろしてきたコンバットナイフを自分の頭上にずらし、コンクリートにナイフがぶつかり、ナイフがはじかれる。持っていた二十二口径拳銃を襲ってきた男の顎に向けて引き金を引いた。極限まで銃声を押さえられた弾丸は顎から脳髄を突き抜け貫通する。ロールスロイスのフロントガラスに脳漿が飛び散り、男の命は潰えた。横に男を投げ捨て、腰に装着していたらしい10mmピストルを抜き取り、近づいてきていたシークレットサービスの伏兵に対して引き金を引く。こちらに銃口を向けられるとは思わなかった男たちは放たれる10mm弾に引き裂かれた。

 

 

警報装置が作動し、周囲に機械的な警告音が鳴り響いた。その状況がさらに悪化したことを告げ、空になった弾倉を交換し、死んだシークレットサービスの男から予備弾倉を抜き取って装填し、スライドを戻す。

 

 

「迎えはまだ!?」

 

「もう少し!もう少しで迎えがくる!」

 

重武装のシークレットサービスが駆けつけ、さらに弾幕が濃くなっていく。エレベーターから敵が来なかったことは幸いで、最初の敵の銃撃によって配電盤あたりを撃ち抜かれたそれは火を噴いて、この階に鎮座していた。だが、来賓用エレベーターホールは防護シールドを構えた警備兵まで来る有様で迎えが来なければ本当にジリ貧だ。

 

 

10mmの弾倉は残り数発で弾が切れるだろう。蜂の巣になりつつあるロールスロイスの車の隙間から銃撃を続ける警備兵に向けて撃とうと構えるが、緑色の閃光が車の後部ナンバーに命中し、異臭とともに溶け出した。

 

「パワーアーマー兵だ!」

 

「万事休すか・・・」

 

プラズマライフルでロールスロイスの車を溶かしていき、そのプラズマ弾は隠れているこちら側を溶かし尽くす勢いだ。

 

「銃弾よりもプラズマは勘弁してほしい!」

 

 

牽制で数発パワーアーマー兵に撃ち込むが、厚い装甲故に甲高い金属音とともに銃弾はどこかへ飛んでいく。やつが本気ならば一気に突入すればこちらを殺せるはずだ。前は特殊な徹甲弾を装備していたから、難なく奴らのパワーアーマーを装備する兵士に一撃を加えることができた。だが、今はそれがないため、彼らは文字通り人型戦車としての性能を発揮している。拳銃しかない俺たちにとってそれは死に神にも等しい存在だ。

 

ついに10mm弾が底をつき、9mmの弾丸も底をついたアリシアと俺は互いの顔を見合わせる。

 

 

「なあ、迎えは?」

 

「もしかしたら、やられたかも・・・・・」

 

「あの中間管理職め。仕事をしっかりしろよ!」

 

物腰が柔らかくなってしまったオータム大佐だが色々と忘れてしまったのではないだろうかと考えてしまうような不手際。俺たちがエレベーターから降りたらすぐに装甲車に乗れるようにすればいいのに。

 

(無駄な抵抗は止めておとなしく投降せよ!命は保証する!)

 

拡声器を使った警備兵は防護シールドに守られながらもこちらに声を送ってきた。

 

(諸君らは陸軍の所有物を破壊し、大統領の命を狙ったかもしれん。今投降すれば、弁護士はつけるようこちらからも願い出る。だから手を挙げて投降せよ)

 

「大統領親衛隊(シークレットサービス)が私たちを生かすとは思えないな?」

 

「たぶん、拷問に掛けた後に銃殺刑かな。オータム大佐が助けてくれることを願うよ」

 

シークレットサービスは親が任命されていたり、軍の高官である。大統領を守るエリートと見なされている。昔は、大統領警護は軍の出身者などであったが、現在では一種のエリートのステータスとしていることが多く、その大半は大統領に命を捧げてもよい連中だ。そんな連中が優しくしてくれるとは思えない。

 

(もう一度だけ言う!今すぐ手を・・・・おい!なんだあれは!!)

 

警備兵の絶叫でおれとアリシアはロールスロイスの残骸から頭を上げて彼らを見る。すると、コンクリートの壁が突き破られ、黒の装甲車が駐車場に飛び出してきた。そして、上部にある無人銃座が起動し、車載された20mm機関砲が火を噴く。

 

毎分200発を誇るエンクレイヴ軍需工場で製造された対空にも使用可能な20mm機関砲は来賓用エレベーターホールにいた警備兵やシークレットサービスに対し、弾丸の嵐を浴びせた。50口径の重機関銃よりも倍大きい弾は人体を一瞬で引き千切り、四肢をもぎ取ってミンチへと変えた。パワーアーマー兵も例外ではなく、装甲は大きく抉れ、一度発射が止まり徹甲弾に切り替わると数十発の徹甲弾がパワーアーマーに降り注いだ。装備していた兵士は即死し、挽肉のように引き裂かれてしまった。

 

銃身が暑くなる頃には、エレベーターホールは瓦礫の山と化し、動くものは一人も一人もいなかった。装甲車は俺たちがいるほうへバックで下がっていき、後部ハッチを開いた。

 

「臨時司令部より来ました。中尉、ご無事で?」

 

ハッチから出てきたのは、搭乗員用の軽量化されたコンバットアーマーを着た兵士だった。右腕には青い腕章が付けられていて、それは識別用のものだということがわかる。被っていたヘルメットは戦車兵が被るような耐ショック用のもので、ウェイストランドに現存する装備品よりも洗練された印象を受けた。

 

 

「無事だが、もう少し早く来てくれないか?」

 

「各区画を既にロックダウンがなされていますので時間がかかりました。ほかにも抵抗があるようです。急いで乗ってください!」

 

パワーアーマー兵を乗せることを前提に設計された装甲車はゆとりある装甲車であり、座先に座ると、ハッチが閉まっていき、装甲車の電灯が白から赤に変わっていく。急いでベルトを締め、先ほど出てきた兵士は近くの銃座に座ると、10インチサイズの画面を見ながら、機関砲の銃座を操作する操縦桿を握り周囲を警戒し始めた。

 

「これより臨時司令部に向かいます。シートベルトをお閉めください。チップは目の前にある弾薬箱に。エチケット袋は用意していませんので、催す兵は車外へ放出して下さい。」

 

運転手らしき男はそう言い、装甲車は移動を始める。ジョークを聞かせた通りに目の前にはチップ入れがおいてあり、いくつかの落書きが書いてあった。

 

「軍曹、これは誰が書いたんだ?」

 

銃手である男にアリシアが聞くと、彼は笑いながら答えた。

 

「それはですね、外の旧軍基地に行ったときに、拾ってきたんですよ。名前は何だったかなー」

 

弾薬箱には色々書いてある。誰が書いたかわからないが、色々と落書きされたそれはレイダーの落書きより芸術的に見えた

 

「封鎖線を突破します!衝撃に備えて!」

 

装甲に無数の弾丸が命中し、甲高い金属音が車内でも響く。怒号と車両の爆発音が立て続けにおき、車載の20mm機関砲が発射される。封鎖線のバリケードを破壊したのか、車内が大きく揺れ、動こうとする弾薬箱を足で受け止める。

 

「ユウキ、着いたらこれに着替えてくれ」

 

渡されたのは、先ほど着ていた軍の佐官服ではなく、ビニール袋のような袋に入った士官服だった。俺はかなりの疑問を覚えた。

 

「なあ、アリシア・・・」

 

「それ言わないで・・・。言わなくてもわかるから」

 

なんで、ウェイター服に着替えたの?

 

その質問をしようと思ったが、アリシアの表情からしてその質問は彼女にとって酷だろう。もし、佐官服のままならば、特命でいそいで行かねばならないとでも言えるかもしれないからだ。まあ、アリシアの着替え姿見ただけでも良しとしよう。

 

「ユウキ、今回の失敗は私も想定できなかったの」

 

無論、俺でなく他の誰かが大統領を暗殺したためだろう。それによってすべてが狂ったに違いない。そもそも、外の警備が増強されたのは、パーティー会場の中ではなく外からの狙撃だったため、装甲車もここまで遅くなったのだ。エレベーターホールのシークレットサービスにしても、すぐに着いた装甲車が彼らを駆逐し、もっと早く司令部に向かうことができただろう。

 

だが、一体誰が大統領を暗殺しようと考えたのだろう?

 

東海岸派は勿論であるが、それは俺が協力する派閥であり、俺が暗殺するのだからありえない。もし、他の別働隊が動いているとしても、連絡も無しに暗殺する可能性は0にも等しい。そして、他の派閥が大統領を暗殺することはあり得ない。シークレットサービスなどの大統領派は論外であるし、西海岸派にとっても暗殺するメリットはない。寧ろ、デメリットが大きいはずだ。

 

では、一体誰がやったのか?

 

「分かってる・・・・・。でも、まあ~結果的には良かったかも知れない」

 

目の前で大統領が胸を撃ち抜かれている姿を見た。それも、50口径のような大口径の弾丸だ。身体を突き抜け、床に大きく弾痕があった。白い血液が流れ出て、骨や内臓も人の物ではない。それらを見た人々は大統領が人ではないことを理解したはずだ。小口径で撃たれたとしても大問題だが、大統領が人間ではなかったことも東海岸派としては都合が良い。

 

「そうだな・・・だが、私としては今回のことで問題が一個だけ」

 

アリシアは真面目そうな顔をして俺の顔を見る。

 

「ウェイター服着替えたのを眼福って考えるなら、シャルに言いつけるから」

 

「なんで!?」

 

問題とは一体何なのかと構えてみれば、実際は変なところで色目をつかった俺に対しての私的な問題だった。そんなこと気にする必要ないのではないかと考えるが、それを見越してアリシアは不機嫌そうな顔をして応える。

 

「お前はシャルロットもいるだろうに・・・。あまつさえ私もか?まったく・・・」

 

 

前の運転席と射撃管制装置のところにいる兵士はニヤニヤと笑みを浮かべており、呆れも含まれていた。

 

「おいおい、マジかよ。軍の高官には愛人を何人も抱えていると聞いているが、まさか未来のエリートも予約済みかよ~」

 

「仕方ないさ、伍長。俺ら一般兵には無理な相談だ。下町で女を捜すんだな」

 

会話はもろ筒抜けで俺は顔が熱くなるのを感じた。ウェイストランドにしても重婚している者やハーレムを築いた者は存在している。ただ、それは希な話である。自然界においては百獣の王には何匹もの雌のライオンがいて群れを形成するように、強い雄の遺伝子を残そうとする。荒廃したこの世界において強い遺伝子を残そうとすることは、百獣の王と同じように、女性が複数いたとしても不思議ではないのかも知れない。

 

 

ただ、200年前の価値観が未だにウェイストランドに浸透しているからか、そうした種を残そうとする本能を阻害しているようにも思える。もっとも、これは自分の気持ちを整理したり、正当化するためにしか見えるに違いない。

 

そんな葛藤を司令部に着くまで俺は苛まれることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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都市を丸ごと地中に作り上げたレイヴンロックは中央に基地管理センターが置かれている。モノレールや各輸送網。送電網や攻撃の際に各区画を防御壁で移動不可能にするものまである。また、各区画ごとに暴徒鎮圧用の催眠ガスを散布出来るように作られた換気口も存在するが、それらは厳重にロックが掛けられていた。

 

基地管理センターはレイブンロック中央にあるエンクレイヴ軍総司令部のビルの最上階に位置していた。巨大な自然洞を利用したレイブンロックだが、核攻撃時には耐ショック構造に不安があるため東西南北一本ずつの支柱が伸び、中央には半径3m程の鉄柱が200年もの間ここを支えている。それに肉付けするように総司令部ビルが建設され、まるで展望ルームのように最上階には基地管理センターが構えていた。

 

「首都警察機構のパーティーは2時間後に警戒解除がなされる。交代要員にはそのことをキツく言っとけよ」

 

「分かってますよ、大尉。任せてください」

 

基地管理は厳重な管理の元、行われ24時間体制で職員が詰めている。半ば自動化されているシステムであるが、全てのシステムが動いているか見ていなければならないため、士官が一名と他五名の下士官が詰めている形となる。この基地管理センターに入るにはカードキーと生体センサー、網膜パターンを通らなければならず、ここはレイヴンロックの心臓部と言えるだろう。

 

「そう言えば、さっき第6地区周辺で爆発騒ぎあったけどどうなったんだ?」

 

「あれか、単なるボヤだそうだ。首都警察設立パーティーの隣の地区だからな。過敏に反応しちまったんだろ?」

 

警報装置が響き、 何が起こったのかと身構えたが、単なるボヤという消防隊の報告に胸を撫で下ろしていた。大尉と呼ばれた士官は基地管理センターを一任された技術士官であり、6時間交代で任につく。まもなく、彼らは任を離れて、長く責任重大な任務から解放される。彼らの頭には家族や恋人、また家の冷蔵庫で眠る冷えたビールを思い浮かべていることだろう。

 

すると、管理センターのセキュリティーチェックの扉の起動音とロック解除の音が響く。伍長は交代要員の奴らを出迎えようとした。だが、彼に待っていたのは無数の銃口だった。

 

「全員動くな!」

 

エンクレイヴが使用する軽歩兵用のコンバットアーマーに身を包み、レーザーライフルを構える兵士は作業をしていた彼らに向ける。

 

「おい、あんたら一体!?」

 

「全員手を上げろ!動くなよ!」

 

レーザーライフルは技術兵達の頭を狙っており、動作は技術兵の比でない熟練されたものだ。戦うことは死を意味すると理解した彼らは手を上げて、降伏する。

 

 

兵士達は青い腕章をつけており、覆面で顔は分からない。手をあげていた彼らを結束バンドのようなもので両手を拘束すると、部屋の隅に追いやってガムテープで口を封じる。

 

一人の指揮官らしき男は腰に付いてある無線を手に取り、送信ボタンを押した。

 

「こちら Owl leader。樹の頂上に着いたover」

 

(了解した、Owl。作戦通り“森を閉ざせ”)

 

 

命令が伝えられると、先ほど技術兵達がいた場所に彼らは行き、指揮官が命令を伝える。

 

「各地区の防御壁を起動、交通信号を全て赤に。モノレールのコントロールを奪え」

 

「防護壁を起動します」

 

レイヴンロックの区画は地面から生えてくる厚さ30cmのコンクリートによって遮断される。民間人は何事かと驚き、軍属の者は驚きを隠せない。20もある区画が移動できないよう防護壁によって遮蔽され移動ができなくなった。

 

「交通網の遮断確認。各基地へのトンネルも全て遮断しました!」

 

レイヴンロックは核戦争後の政府要人用とされているが、基地ネットワークの中枢を担うようにも設計がなされている。各基地には連絡運搬用の地下トンネルがアメリカの地下に張り巡らされている。西海岸と東海岸を繋ぐルートも存在したが、NCR軍にネットワークを介して侵攻することを恐れ、西海岸や中西部の一部を除いてトンネルを爆破しているため、通行することが困難になっていた。

 

元々、 大陸弾道弾や中距離弾道弾を秘密裏に運搬するよう作られたトンネルだが、大戦争の10年前から核戦争後も生存する基地との連絡のために大幅に拡張され、エンクレイヴの生命線ともいえるものとなった。モノレールや軍用車両が行き来し、基地や核シェルター内にある工場で生産された物資を各基地へと送るなど、物流の肝である。それを閉鎖したのは、クーデターを鎮圧するために軍を送り込まないようにするためだ。もっとも、全ての基地においてクーデターの要員は配置されているのだが。

 

「運輸省が全モノレールのコントロールを議会へ提供するそうです」

 

「よし、モノレールが動かせることをオータム大佐に連絡しろ。緊急回線ではなく、一般回線でだ」

 

「了解!」

 

命令された兵士はセンターの指揮官デスクから電話を掛けた。

 

 

 

 

 

 

一方、基地管理センターから下へ地下8階の位置ある作戦指令室には、エンクレイヴ軍の統合参謀本部の高官達が顔を揃えていた。

 

 

彼らは既に大統領が暗殺されていることが耳に入っている。将軍達はかなり狼狽しているようで副大統領を大統領に就任させる段階になり揉め始めたのだ。

 

 

エンクレイヴ軍は合衆国五軍を統合した。大戦争によって半数の部隊を消失した軍は連絡の取れる部隊を支配下にある核シェルターへと非難させた。既に私設部隊として機能していたエンクレイヴの部隊と合流した米軍部隊の確執があったものの、二百年の時を経て無くなった。しかし、地域によって独自性が芽生え、中央から見放された地方は政府や上層部に反感を抱いた。西海岸派と呼ばれる上層部の生き残りと反感を抱く東海岸出身の将校達。西海岸派を占める統合参謀本部の将軍達は暗殺を東海岸派残党だと決めつけていた。実際、計画していたのだが、実行できずに終わっているとはオータムも口が裂けても言えない。

 

すると、航空部隊などベルチバードを指揮しているネイサン・オルドリック陸軍少将は周囲の狼狽する将軍達を一喝するように机を強く叩いた。

 

「落ち着け!我々が落ち着かなければ更に混乱することになる!副大統領に連絡することも叶わない。ならば、我々が戒厳令を敷くしかないだろう!」

 

「しかし・・・、我々だけでやればクーデターと見なされるのでは?」

 

気弱そうな面持ちで疑問をぶつけたのは、苦労が垣間見え、周囲の将軍とは違う軍服を着るベルド・スティングレー海軍少将と呼ばれる男だった。その気弱そうな性格でありながらも、軍服にはいくつもの略章や勲章が付いている。実力はあるのか、それとも家柄でなったかわからない。苦労が多いためか照明で光る頭皮は同様に苦労の多いオータムにとって、頭皮の危機を予感させるものだった。

 

そんなことをオータムが考えていると、その台詞に激怒したオルドリック少将は我慢できなかったのか、スティングレー少将の襟を胸ぐらを掴んだ。流石に将官同士で殴り合いは不味いと判断したのか、近くの将軍も止めに入る。

 

「そもそも、大統領に現在の軍政を推し進めようとしたのはお前だろうが!だいたい!・・・ン!」

 

それ以上言うなとばかりに近くにいた将軍に口を押える。オータムはその行動が大統領暗殺を裏付けるとは言わないが、十分疑わしい。こちらが行動を移す動機としては不十分だが、彼らを拘束しておいて証拠を押さえることは出来るだろう。

 

だが、今はその時ではない。部下である会議室隅にいる将校にオータムは「まだだ」と目配せをする。

 

エンクレイヴの統治状態は大統領を君主とする専制政治であり、権力の中枢は軍部が独占している。例えるならば、太平洋戦争勃発時の大日本帝国の政治状態と似ているだろう。大統領が最終的に決定権を持つが、その行動や選択を与えるのは軍部であり、実質軍政と言われても不思議ではない。

 

 

軍には超法規的な権限が与えられているが、10万の国民が見ている前で強権的なことをすれば批判が待ち受けている。平時において、それを行う意味はない。無茶をすれば、免職する可能性すらある。下手をすれば銃殺刑も免れないだろう。

 

だが、現在。国家の指揮官たる大統領が死亡し、指揮権は副大統領へと移る。だが、副大統領はシカゴのエンクレイヴ軍の前線基地へ視察を行っている。シカゴ周辺の北西部は好戦的なBOSと戦闘が続いており、通信も断続的に遮断される。現在もBOSの通信妨害が続いている。現時点で彼に命令を仰ぐのは適切ではない。大統領の継承順位だと副大統領に次ぐのは財務省長官であるものの、暗殺現場に官僚のほとんどがいたため、統合参謀本部や国家軍事センターにいるのは将軍たちのみだった。

 

もともと、司法省の推進する首都警察の設立パーティーである。優先度の高い軍の治安維持の仕事を奪われた形であるエンクレイヴ軍にとって、あのパーティーに出席するのは役人のご機嫌取りだと批判する将軍達だった。本心、戒厳令を引いて軍政になるのも悪くはないが、国民お批判や官僚の反発も懸念すべき事項の一つだ。

 

 

「仕方ない。戒厳令は我々が敷こう。それと今回の暗殺犯の足取りは?」

 

「ああ、警護していたシークレットサービスによると、窓から対物ライフルで狙撃し即死したようだ。狙撃した犯人は現在調査中。それと、給仕の格好をした不審者が現場を封鎖したときに駐車場にいたようで、現在駐車場は銃撃戦をしているらしい」

 

ジョン・ケラード陸軍中将は白髪に染まった髪を撫で、焦った様子で若い憲兵がそのことを記載していた紙を渡していた。

 

その紙を見て、ケラード中将は驚愕し、声を荒げた。

 

「おい!基地管理センターが防御壁を起動させたらしい」

 

 

「そんな!我々はそんな命令出してないぞ!」

 

「誰が動かしている!止めさせろ!」

 

「いや、このままでいいだろ!戒厳令を敷いてしまえばそのままでいい!」

 

混乱が混乱を生み、彼らから冷静を奪っていく。元々、二万にも満たない軍隊で戦前と同じように将軍の数が多ければ、指揮中枢としては問題だった。自らの保身を第一に考えた戦前のエンクレイヴ首脳陣は降格などをせず、半合議体制で事を成していた。老害は更に老害を生み、エンクレイヴという組織は中心から腐っていた。

 

一度、破壊して創り直した方がいい。オータムは頭を失いあわてふためく将軍達を今すぐ抹殺しなければならないだろうと思う。

 

 

オータムは溜め息を付き、そのことすら見ていない将軍達に内心呆れながらも、隅にいた将校に合図を出した。

 

 

将校は頷くと、その場に似合わない軍用の携帯無線を手にとり交信する。すると、自動ドアである扉が全て開くと完全武装の兵士達が銃を構えて入ってきた。

 

「なんだ貴様らは!」

 

将軍の秘書官らしき男は銃を構えようとするが、兵士の構えたライフルのプリズムレンズからレーザーが男の額に命中する。

 

他の将軍達も腰にある銃を抜きたかったが、感情の見えないフェイスマスクとゴーグルを着けた兵士達の向けるライフルはいつレーザー光線が飛ぶか分からず、その恐怖ゆえに銃を抜けなかった。

 

兵士達は将軍達から銃を取り上げる。一緒にいた秘書官の銃も取り上げられ、将軍達の腕には手錠が掛けられた。

 

「国家反逆罪及び大統領暗殺の罪で逮捕します」

 

「な!?ふざけるなぁ!」

 

「何を根拠に!」

 

大尉の階級章を付け、覆面と青布にMPの字が書かれた腕章を腕に巻いた男は叫び憤る将軍達を尻目に、目の前で拘束されつつある将軍たちの目の前でゆったりと椅子に座りコーヒーを飲むオータムへ敬礼をする。

 

「大佐、司令部の制圧は全て完了しました。」

 

「副大統領は?」

 

「スコット空軍基地にて身柄を拘束しました」

 

「この!反逆者め!」

 

オルドリック少将は怒鳴り、近くにいた兵士に体当たりするものの、兵士たちはすぐに彼の肩を押さえつけてしまう。周囲の将軍も小声で「反逆者」や「国賊」など喚き散らす。そんな彼らを前にオータムはコーヒーを飲み終えると、椅子から立ち上がった。

 

 

「反逆者か・・・・。ならば問うが、私が反逆者であるなら貴様らは一体なんだ?アメリカの民主主義を自身の保身と利益のために捨て去った少将は民主主義の敵。アメリカの敵でしょう?」

 

「何をいう!?国家の非常時に議論をする余裕などあるものか!」

 

「開かれた議会と文民統制。軍が戒厳令を敷くなどクーデターですな」

 

実際、大統領を暗殺して、政府を掌握しようとしていたオータム大佐であるが、表向きは西海岸派の軍のクーデターをオータムら議会のメンバーが阻止するという筋書きだ。この際、どちらが大統領を暗殺したかは問題ではない。オータムに指摘されたオルドリック少将は苦虫を噛み潰したような顔をする。表向きは大統領を支持するとは言っても、彼にもエンクレイヴのトップに君臨したいという欲は存在するし、今回の事件をチャンスと思っていたに違いない。それに、軍が勝手に戒厳令を敷くことはクーデターと思われても仕方がないのだ。

 

「私や他の将校たちは軍のクーデターを見過ごすわけにはいきません。これまでの非常事態宣言下の政府運営は限界。大統領も凶弾で死に、軍が実権を握るわけにはなりませんからな」

 

「お父上が嘆きますぞ!大佐!」

 

この作戦指令室でも最も年老いた将軍であり、シニア・オータム中将と同年代であるユーリ・ゾルニスキー空軍中将はオータムに対し、説教をするような口調で言う。しかし、オータムは先ほどまでの侮蔑の目ではなく、悲哀の目で彼を見る。

 

「あなたは何も知らないからそんなことが言えるのだ。あの人が死んだ理由など癌ではありません。・・・・・・自殺です」

 

 

「なんだと!?彼は胃癌だと聞いていたが・・・」

 

 

シニア・オータム技術中将。

彼は西海岸に散らばる軍や民間人を救助し、東海岸へ連れて行った功労者の一人である。技術者であるにもかかわらず、その行動力と統率力は東海岸出身の将校からは英雄視された人物だ。事実上、すべての政府高官を失ったエンクレイヴは組織分裂の危機にあったものの、エデン大統領を擁立することで軍部と行政を纏め、国民を結束させることができた。彼は東海岸特有の選民思想や純血主義などの偏った思想の持主ではなかった。国民による民主主義のアメリカを復活するよう、レイヴンロックに議会堂を築き上げた。だが、思わぬ事態によってそれはとん挫する。

 

東海岸将校と大統領率いる一派によって推し進めていた民主主義政策が廃案。そして、それの礎として組織していた議会と呼ばれる研究グループの粛清。彼らは派閥としての性格よりも、政策研究のグループとして発足したものだ。シニア・オータム技術中将が資金援助を行い、ウィリアム・スタウベルグ中将が組織を運営し、今後の民主主義政治に必要なことを研究する。

 

彼らが大統領の命令によって粛清されたとき、オータム中将は自身の選択に後悔した。人という存在が過ちを繰り返すのならば、その過ちを全て記憶する機械によって人の世を統治しようと考えた。簡単に人の過ちを忘れてしまうのであれば、過ちを決して忘れることのない存在に決定権を委ねてしまおうと。だが、委ねた存在は過ちそのものであることに気が付かず、気が付いたときには既に手遅れだった。阻止しようにも、大統領の権力集中はゆるぎないものとなった。機械によってエンクレイヴ中枢が掌握され、血の通わない心のない機械が政策を行い、人を殺す。自身の責任の重さに耐えきれなくなった中将は自分のこめかみに45口径の銃口を向けて引き金を引いた。流石のエンクレイヴの英雄が機械の大統領を推薦したことを後悔して自殺したとは報道できなかった。この事実を知っているのは大統領とオータム大佐。一部の身辺警護をしていた部下のみ。

 

オータムは事実を伝えても信じてはもらえないだろうと思い、MPに彼らを独房に連れていくよう命じた。

 

「地獄に堕ちるがいい!この反逆者共!」

 

「合衆国を破滅に導くのは貴様らだ!覚えておけ!」

 

作戦司令室のオペレーターや情報将校、警備兵まで青い色の腕章を付けていた。ここにいるのは議会の命を受けた者達だ。彼らの目には先ほどまで上官であった人物が拘束されて去っていく姿。それを見て、動揺しない人間はいなかった。

 

本当に自分たちは国を再興できるだろうか?アメリカ合衆国の英雄になりたいが、一歩間違えば反逆者の汚名を着せられるかもしれない。もしかすれば、これが原因で破滅にみちびくのでは?

 

動揺が動揺を呼び、焦りや不安がその場を支配した時、大きく手を叩く音が聞こえ、皆の意識がそれに集中する。手を叩いたのは、他ならぬオータム大佐だった。

 

 

「合衆国というが、既にアメリカ合衆国という国家は存在しない。200年前のあの日に消滅した。今の私たちは亡国の兵士だ。国民は10万を切り、そのうちにアメリカという名前も消滅する。君たちの使命は合衆国を救うことでも、エンクレイヴに仕えることでもない。君たちの子供たち。そして次の子供たちへよりよい世界を作るために自分を信じてほしい。今ならば、その青い腕章を外して家族の元に帰っても良い。だが、帰ったあと待ち受けて居るのは緩やかな破滅だ。アメリカという存在を地球から消し去り、家族にその光景を見せつけ死なせたいのであれば今すぐ帰れ」

 

オータムがそう言う。指令室から出ていくのは誰もいない。彼らが今ここにいるのはエンクレイヴを後世まで残すことではない。子供や次の世代により良い世界を創るためにいる。彼らの目には戸惑いや不安はない。決心して強い意志が目に現われていた。

 

「いいだろう。これより、作戦を開始する。まずはレイヴンロックの完全掌握だ。西海岸派の将校を拘束。大統領官邸(ホワイトハウス)に部隊を派遣しろ。各基地への連絡も密にせよ」

 

指令室はすぐに喧噪の多い仕事場へと変わる。オペレーターや情報将校が動き回り、計画された攻撃対象に議会の擁する特殊部隊によって東海岸派が多くいる地域に攻撃を仕掛けていく。

 

 

 

 

周到な計画なもと、始まったクーデターはここに始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 




捏造設定のオンパレードです。

原作とここが違うという指摘ございましたらおねがいします。たまに設定弄りすぎてもとの原作設定すら変えてしまう事があるのでw


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四十四話 Snatch!

皆様方、お待たせいたしました。
本当ならもう少し投稿をはやめようと思っていたのですが、大学でいろいろありまして、全然投稿する暇がありませんでした。


次の話は多分短いですが、46話で終了の予定です。
46話以降はエピローグとDLCを予定しています。


fallout3の作品は一通り終了後、作者の就活のため暫し、執筆活動は休止します。本当なら年越し前に終わらせるつもりでしたが、ちょっと無理そうですw






       

 

 

 

 

装甲車というものは、人が軍馬を用いて人を運搬し、その台車に装甲をつけた時から始まる。古代において戦車とはギャロップと言ったような馬によって引かれた戦う荷馬車と思えばわかりやすい。それはローマにおける闘技場でも高価を発揮し、それを用いて敵を一掃する様は興奮を覚えるに違いない。

 

 

 

装甲車は産業の発展からエンジンが組み込まれ、世界大戦を経て、銃弾を弾き飛ばして兵員を運ぶ役割が重要となると、それを戦場で見ることが多くなった。二度目の世界大戦では、工業力が高く機動力を重視した国家が装甲車を作り上げた。兵員を安全に運搬することや軽装甲によって敵陣地を突破する能力を持つそれらの兵器は戦場において重要視されることになった。

 

 

核による大戦争から200年。稼働する装甲車の数も少なく、エンクレイヴ軍においても生産数は極めて少ない。しかし、その設計思想は過去の設計と比べてもかなり違いがある。

 

 

 

まず積載量であるが、マイクロフュージョンセルによる大出力のエネルギーとそれを動力とするエンジンによって小型ながらも、パワーのあるエンジンがあるために従来のディーゼルエンジンを載せた装甲車と比べて格段に積載量が増えている。そして、その積載量は完全武装の兵士なら20人は乗ることが可能である。しかし、これは「重さ」に限った話である。そもそも、装甲車は狭い。輸送を考えれば、利便性も踏まえて20人もの人を乗せて運用などしない。

 

 

 

エンクレイヴで生産されるAPC(装甲車)(Armored Personnel Carrier)「M235 コンドル」はパワーアーマーを着た兵士を4人搭乗させることができる画期的な装甲車である。そのため内部は広く作られており、車体は縦と横に大きく、ストライカー装甲車を縦に伸ばしたようなものと考えてもらいたい。八輪駆動のため悪路でも安定した走行が可能である。標準的な装備としてM2重機関銃や30mm機関砲などが遠隔操作で射撃可能である。また、それらは、IFV(歩兵戦闘車)(Infantry Fighting Vehicle)として換装が可能であった。I85mm榴弾砲が装備することから、エンクレイヴ軍におけるIFVは「戦車」の役割があった。ウェイストランドにおけるこれらの兵器はチートのようなものである。

 

 

 

そして俺が乗っているのは、APCと呼ばれる兵員輸送車だった。30mm機関砲搭載車両のため、M2期間銃を載せたものと比べるとだいぶ空間が取られている。しかし、それは気にならない程度に兵員スペースが確保されており、狭いイメージを持っていた俺はその広さに驚いていた。兵員はパワーアーマーなら3名。普通の歩兵なら六人程度だろう。

 

 

 

「司令部です。地下駐車場に止めます。巡回の部隊がいますが、腕章を確認してください。味方には撃たないでくださいよ」

 

 

「分かっている。君たちは私達を下ろしたらどこへ?」

 

 

「次はわかりませんが、多分人手が足りないので何処かの区画に行くと思います。多分西の工場区画ですかね。彼処は西海岸派の将校が多いので」

 

 

「腕章ってその青いやつか?」

 

 

俺は腕章をつけた兵士に聞いてみる。

 

 

「これですか?一応、議会に所属するメンバーは蹶起した時に識別のためにつけるよう言われてます。確か、色が青なのはフランス革命のとこから来ていると聞いてますが」

 

 

フランス革命時に革命の指導者や地下組織のメンバーが行動時に識別のためにそうしたものをつけていたらしく、青色を使ったという話らしい。もし、赤色であったならば、共産主義として、西海岸派などの勢力から批判されかねない。そもそも青色にしたのは識別しやすい色であるからかもしれない。

 

 

装甲車への銃撃は先程からやみ、外では怒鳴る声や命令をしている指揮官の声が聞こえてくる。 外の光景を見ている運転手や機銃手は会話をしていた。

 

 

「サントス市場は制圧したみたいだな」

 

 

「市民が多いですからね」

 

 

民間人の殆んどは東海岸寄りの思想を持つものがほとんどであるが、暴動の時に迷わず神経ガスを使おうとしたエンクレイヴ軍に恐怖して、表立ったことはしていない。議会派は市民議会などの左派団体を取り入れ、武装蜂起の際は、協調していくことに同意した。思想や心情は議会の大半を占める保守的・右派的思考とは相容れないが今後の民主政治にはお互い歩み

寄るしかない。

 

 

民間人のエリアらしきところを通り抜けていき、幾つかのトンネルなどを通って装甲車は停止する。

 

 

「到着しました。総司令部です。忘れ物が無いように」

 

 

どこかのバスの運転手のような口調でいう装甲車の運転手は笑いながらいい、ハッチを開く。降りていくと、青い布を肩のアーマーにつけたパワーアーマー兵士と士官服を着た指揮官らしき男が近づいてきた。

 

 

「スタウベルグ中尉殿、作戦おめでとうございます」

 

 

「私達がやったわけではないわ」

 

 

「それでもです。無事に帰還できたことは喜ばしいこと。おふた方はこれをつけておいてください。」

 

 

渡されたのは同じ青い腕章だった。渡された腕章をすぐに右腕の上腕に取り付けると、アリシアと共に地下駐車場近くのトイレで着替え、エンクレイヴの士官服の格好に変身する。男女別のトイレだったので見ることは叶わなかったが、渡された荷物の中にはアリシアが持っていた9mm弾を発射するブローニング拳銃が入っていたため、ホルスターに納めてエレベーターホールでまつ。

 

 

エレベーターが階に到着すると、扉が開いたその先にはオータム大佐の補佐官が待ち構えていた。

 

 

 

「大佐は第一作戦指令室でお待ちです。中尉と少尉は急いで向かってください」

 

 

 

「え、まだ演じる必要があるのか?」

 

 

 

今回の士官服は脱出したときの軍服とは違って大尉でも少佐でもない少尉の軍服だ。そして、更に奇妙なことに俺のフルネームの名札が左胸についているではないか。 偽名でなく本名。これでは本当にエンクレイヴの将校になってしまうじゃないか。

 

 

「はい、演じるというかそのまま成って戴こうかと思いまして」

 

 

 

「俺、士官学校とか出てないから。それにエンクレイヴの人間じゃない」

 

 

「一応Vault101の全住民をエンクレイヴの国民として編入することになっているので、その資格はあります。それに、エンクレイヴ軍は慢性な人手不足です。なので、それぞれの適応する階級を提供して軍務に服するよう強制的に入隊させることが可能です」

 

エンクレイヴは現在、慢性的な人手不足だ。ワシントン全域をカバーする戦力がなく、統治するのも各拠点や集落に重点配備するしかなくなっている。兵担においても、軍需物資を生産するための工場の人手を他から回さなければならず、ほぼ全ての部署が人手が不足していた。

 

 

「拒否とか出来ない・・・よな。それに、部隊指揮なんてしたことないよ?」

 

「ご冗談を。我々はあなたのpip-boyから数々の戦闘データによって貴方の指揮官としての能力が分かります。分隊やツーマンセルの指揮だけでなく、交渉術や戦闘指揮、戦闘能力、物資を的確適所で使用し、傭兵を纏め上げたではありませんか?それにリベットシティーと呼ばれる地域ではR-91アサルトライフルや既存の銃の改造案や傭兵ネットワークの創設。正直申し上げれば、ユウキ・ゴメス少尉ではなく、その能力に見合う階級は少佐クラスの方が適任です」

 

 

多くは高性能な物資や兵器があったからで、ただのチートである。しかし、高性能な兵器や装備を持っていたとしても人は死ぬ。俺は幸運でもなければ、かといって体をサイボーグにしたわけではない。幾ら物資チートを誇っていたとしても、所持しているのがVault警備員崩れならば宝の持ち腐れと言ってもいい。普通ならウェイストランドの荒れ地で死体としてそこら辺に転がっていてもおかしくない。俺は使えるところで物資を有効活用した。ただ物資を溜め込むだけではなく、それを流して地域の影響力を強めたことが今の俺を形作っているだろう。メガトンに武器屋を開いたことで物流が大きく動き、キャップの流動が大きく変化した。需要と供給が一致し、高性能な武器を求める中堅から腕の良い傭兵との繋がりが構築された。そしてリベットシティーの小さな工場でも俺の作ったアサルトライフルの改造や少数ながらも、銃の修理や量産が出来つつあった。更に、フラックの要望でpip-boy地図情報をプリントアウトし、傭兵や商人の為の情報ネットワークを確立させた。ある意味、それは中世ドイツで作られたギルドや戦国時代の堺に通ずるところがあるのではないか。そして、ジェファーソン記念館での一戦。旧式の兵器であるものの、攻撃を仕掛けてきた部隊に対して、善戦をすることができた。結局撤退したが、俺達よりも攻撃してきた部隊より損耗度は低い。敵対し、エンクレイヴの兵士を殺したとしても、その結果は敵ながら天晴れと言えるのか。

 

 

それら全て、俺がやったことではない。少し誇張も入っているだろう。だが、彼の言っていることはあながち間違いではなかった。

 

だからと言ってエンクレイヴに仕官するつもりもない。だが、シャルは現在、大佐の保護下にある。つまり・・・・・・。

 

 

「・・・嵌められたか・・」

 

 

「騙したつもりは私も大佐にもありません。仕官しなくても結構です」

 

 

「じゃあ、俺の家族は?父や兄貴もエンクレイヴいるんだ。状況からして家族を人質にしたようなものじゃないか」

 

 

「はて、“仕官しないと家族の命はない”と言ったわけではありませんよ」

 

 

言わなくても言っているようなものじゃないか。口からそう言おうとしたん、副官は俺を睨み付ける。

 

 

「大佐は仰いました。“ゴメス氏の意思に任せる”と。ですが、シャルロット氏はどうするのですか。私からすれば命が幾つあっても足りない荒野で過ごすより、仕官してお二人がエンクレイヴの・・・・いえアメリカの国民になればいい。そもそも、我々はアメリカ国民でしたな。・・・・それに、もし子供ができたら?貴方は荒野で育てるつもりですか?Vaultやエンクレイヴのような所で育てた方がいいでしょう?」

 

ウェイストランドで子育てすることとレイヴンロックでするとでは大分違う。それに、なぜジェームズがVault101 に入ってきたのか。それはG.E.C.K.の在りかを知るためだけではない。子供を安心して育てられる環境が欲しかったからだ。ウェイストランドはエンクレイヴに植民地化され、次第に住むのに困らない場所になる。だが、そうなるのはまだ先の話。10年以上かかるかもしれない。

 

「騙していないのはよくわかった・・・・・、もう少し考えさせてくれ」

 

「分かりました、いい返事をお待ちしています」

 

副官は踵を返し、エレベーターのコンソールを弄り、持っていた鍵で閉鎖されている区画のボタンを押した。

 

「作戦指令室のある地下5階は閉鎖されています。入れるのは作戦に関与する指揮官だけです」

 

エレベーターは直通なのか止まらずに下っていく。扉の上の何も書かれていない地下五階の作戦指令室に到着すると、左右の機関銃陣地がこちらを狙う。

 

「オータム大佐の代理だ。通してくれ」

 

「了解です。」

 

そこはただの廊下であったが、クーデターを起こしている最中であるため、警備は異常とも言えるほど警戒を厳にしていた。休憩用のベンチは倒され、軍が使用する防護壁を使用して封鎖していた。

 

明らかに異質なその警備部隊であったが、奥には警戒中のミニガンを装備したパワーアーマー兵も準備していて、死守する構えを取っていた。もっとも、司令部ビルは完全に制圧され西海岸派の部隊は完全に掃討している。中に入ることはおろか、近づくことも出来ないだろう。

 

機関銃陣地を通りすぎ、金属探知機と各種センサーが置かれた部屋へと入る。

 

「武器をお預かりします。このトレーに武器を置いてください。弾薬やナイフも忘れずに」

 

番号が振られたセラミックのトレーに9mmピストルとシークレットサービスから拝借したコンバットナイフ。弾が無くなった22口径消音ピストルと9mm弾倉二つをトレーに置くと、トレーは近くの小型武器庫に置かれ、引き取り証の札を貰いポケットに納めた。

 

「金属の物や弾丸、金属片が入っている場合は教えてください」

 

と空港でやるような金属探知機が行われ、一度負傷していると答えると、一応金属探知機のゲートをくぐり、警報が鳴る。

 

「何処を怪我しました?」

 

「顔だけど・・・摘出した筈なんだが」

 

ハンディータイプの金属探知機を顔に近づけるとブザーが鳴る。タワーでタロン・カンパニーに襲われたときに手榴弾の破片が左頬と目の下に突き刺さった。大事には至らず、破片は摘出したと思ったがまだ体内に残っていたようだ。仕方なく、身体検査で何かもっていないか検査を受けた。

 

アリシアは負傷したことがあっても、機密区画に入ることが多いため、負傷して金属片を体内に留めても、こうして俺のように面倒な目に遭う。昔、銃撃に遭って9mmが体内に残っていたが、エンクレイヴの防疫検査で引っ掛かり摘出したようだ。

 

全ての検査を済ませ、バンカーのハッチの両脇にたった警備兵は俺たちに敬礼し、すぐに返礼で答える。警備兵は両端にあるカードキーでハッチを開いた。

 

 

作戦指令室と呼ばれたそこは、映画やアニメで見るような所だった。正面に大きくスクリーンがあり、それを半円状に広がり、机に座ったオペレーターらしき女性情報統制官が各部署へ連絡を伝えていた。その連絡を当直の担当情報士官が受け取り、何かあれば増援部隊。上の上司へ連絡する。

 

 

 

「こちらCP。Tango 2-1、第3ヘリポートで死者多数。Zulu3-1を援護せよ」

 

 

 

「Delta4-2、今砲撃しているのは味方部隊だ!砲撃を中止せよ!繰り返す・・・」

 

 

「 Golf2-4、パッケージは司令部へ連行せよ。生かして連れ帰れover」

 

 

「Whisky leader、こちらCP。工場地帯は完全に制圧した。これより第3区画のヘリポートへ増援に向かえout」

 

エンクレイヴ軍は二つに割れ、腕章やそれに順ずる何かで識別をしている。クーデターは味方同士の撃ち合いが一番多い。味方である部隊がいきなり反旗を翻すのだ。された側はたまったものじゃないだろう。同士討ちや民間人の殺傷もしないようにするため、戦闘指揮などは戦闘指揮所(CP)や本部(Head Quarter)が必要となる。現場指揮官は逐次状況を知らせ、状況が変わり支援が必要になれば、連絡を行い航空支援が行われる。

 

議会の会合で使われていた議事堂と違い、ここは戦闘を統制し、統合するエンクレイヴ軍の脳髄にあたる。緊張によって顔が強張る戦闘指揮を行う彼らは反乱軍のイメージを作りなしていると言えるだろう。今後、臨時政府が作られ、その政府軍として機能する。旧来の軍とは違う印象を民衆に与えなければならない。軍を第一とする軍国主義的なものではなく、国民を第一に考えているものでなくてはならない。

 

スクリーンに対して半円状に広がり、階段のように大学の教室のような机に座り、オペレーターが各部隊の統制を行っているところをみると、エヴァンゲリオンの戦闘指揮所か甲殻機動隊の指令室にも見えなくない。

 

スクリーンとオペレーター達の端末の間には、円型の3Dスクリーンがレイヴンロックを映している。将官や佐官がそこを立ち、丁度説明を行っていたようだ。

 

 

「着いてきて、私のあとに」

 

アリシアは言うと、その集団の中で指揮を取っているオータム大佐の元へ行く。

 

近づいていくにつれて、彼らの会話が聞こえてきた。

 

「レイヴンロックの主要軍施設の90%が制圧。D.C.地区に展開している約70%は我々の指揮下にあります。北東部と南東部の基地、中部も完全に我々の傘下に加わると」

 

「それで、反発している部隊は?」

 

「第一航空団の二個中隊。第22機械化中隊所属の装甲車5両。シークレットサービスが2個中隊。ジェファーソン記念館に駐留する第87空挺大隊から派遣された二個中隊。パワーアーマーは約30前後、武装ヘリは4機ほどあります」

 

「かなり多いな」

 

「殲滅戦の覚悟を持っていかねば我々は時間が経つにつれて分が悪くなります。それに制圧と言っても、全ての部隊が了承したわけではありません。その上位指揮官のみを懐柔か拘束の二択でしたので。早急に議会の正式発表と政府の樹立宣言も・・・・そして何より・・・」

 

「本体の破壊はまだ出来ていないか」

 

円筒型の3Dスクリーンには議会の意向に反して徹底抗戦をしようとする部隊が持つ武器兵器類が映し出される。それらは二個大隊規模の大きいものである。そして、大統領支持派とレイヴンロックから今まさに脱出しようとしている西海岸派の将校達。彼らは少なくなく、新政権にとっての膿でしかない。

 

本体とはつまり、大統領のことを差す。ZAXコンピューターは自我を持つAIであるが、その容量は非常に大きい。彼の本体であるサーバーを破壊しようと特殊部隊を大統領官邸に送り込んだが、あったのは空のサーバールームだけで、本体はすでに別のところへ移されていた。

 

オータム大佐や複数の高官と周期的にカウンセリングを受ける整備士がいるが、大統領のことを知るものはそれ以外にいない。敵対勢力の西海岸派や大統領を信奉する一派と睨むが、いつ移動したのか分からなかった。

 

「大統領の身柄を拘束しないとな。所在は分かるのか?」

 

「いえ。しかし、レイヴンロックの第七ヘリポートからジェファーソン記念館へ浄水施設の制御装置と書かれた機械が二日前に送られたそうです。パイロットによると、それは巨大な電算機であったようで・・・・」

 

「そうか、奴はやはり我々の行動をつかんでいたか」

 

報告を受けたオータムは眉間に皺を寄せて唸る。水面下で同志を増やし、決起の準備を整えていたオータムにとってほぼ成功に近い形とは言え、知ってて尚鎮圧しなかったのはどうみてもおかしかった。大統領のような権力があれば証拠がなくとも、逮捕できるのだ。銃殺などは流石に無理かもしれないが、逮捕の間に証拠を見つけ、一網打尽にできる。

 

なぜ、知っていて防止しようとしなかったのか?

 

機械と言えど、人が創ったもの。間違いも存在するのか。

 

オータムは俺達が近づいているのを知り、残りの報告をしようとする情報士官を止めて俺達の方へ視線を向けた。

 

「スタウベルグ中尉、ゴメス少尉。特務を終え、帰投しました」

 

「ご苦労・・・と言いたいところだが、今回の暗殺の目星はまだわからない。二名は別名あるまで待機を命じる。」

 

「了解しました」

 

簡潔に報告を行い、俺とアリシアは踵を返して指令所から去ろうとする。

 

これで終わりか?呆気ない。

 

そんな感想を胸に帰ろうとした。

 

情報将校の報告を背に外に出ろうと歩き始めるが、地響きと共に揺れが指令所を揺すった。

 

「何事だ!」

 

「司令部ビルの2階小型弾薬庫で爆発!特殊部隊と思われます!」

 

「まさか、司令部の周囲は完全に制圧したはず」

 

「敵は我々のトラックに偽装し、正面から強襲してきた模様」

 

「警備部隊に武器の使用を命じる。敵の規模は?」

 

「およそ一個小隊。半分が重武装のパワーアーマーで武装しています。・・・・・警備部隊によりますと、人質がいる模様。20代女性仕官かと」

 

「誰だ?・・・・まさか・・・」

 

その台詞に俺は居てもたってもいられずに、司令室の外へ向かう。後ろで俺の名前を呼んでいたが、それを無視し、司令室の外の武器保管室へ行き、持って来ていた武器を返却してもらう。

 

 

もしかしたら違うかもしれない。そんなことが思い浮かぶが、流石にこのタイミングにシャルと同じ20代の女性が拐われている理由は検討が付かない。そして、そもそも、シャルはゲームの主人公である。俺ではなくシャルが大統領の元へ行くよう求められるのがゲームの展開だ。

 

間違いなく拐われたのは、シャルに決まっている。それ以外にあり得ないのだ。

 

 

「HQ、こちら司令室武器庫。状況知らせ」

 

(全部署に通達。特殊部隊が一階と二階を攻撃している。保安要員は各部署を守れ。これは訓練にあらず、応援保安要員は直ちに四階へ集合せよ)

 

無線で司令部内の警備本部と無線連絡を取っている警備兵は緊張した面持ちで周囲の警備兵にコンバットアーマーを配布し、レーザーライフルで武装する。

 

「武器はあるか?」

 

「ありますが、許可はありますか?少尉殿?」

 

「いや・・・・・、」

 

基本的に警備兵以外は重武装をすることを許されない。非武装の士官は安全地帯に避難するか、非常事態に基づき、武装を許される。そうしなければ、指揮系統に歪みが生じることになるからだ。戦闘部隊の指揮官であればなおさらで、如何に有能であれど指揮系統が混乱する恐れがあるため、回避することの出来ない非常事態以外では武器を取って戦ってはならない。

 

しかし、例外も存在し、本部や何らかの命令によって警備部隊以外の増援が駆けつけることもあり、現場の判断でそれを行うこともある。だが、実際のところ、俺は何らかの命令を受けているわけではないし、これは私用に他ならない。

 

「重火器の携行は警備本部の命令書がないと許可できません。申し訳ないですが・・・」

 

自分よりも階級が高いため、敬語で言っているが、暗にその程度知っておけと言うような眼差しでこちらを見る。本当はそんなことを思っていたのではないかもしれないが、拐われていたのはシャルなのは確実であり、焦りと緊張からそんな疑心じみたことを考え、ホルスターに収まった拳銃で脅してしまおうかと頭を過ぎったその時、後ろに人気がして振り返った。

 

「軍曹、少尉と私は警備本部から応援要請を受けた。ここにある武器を借りるがいいか?」

 

アリシアは自分の引取り証と共にいつ作られたのか、警備本部が発行する命令書が留められたクリップボードを軍曹の座る机に置いた。

 

「確認しました。武器庫の中へどうぞ」

 

「中尉殿これは・・・?」

 

「・・・・罪滅ぼしだ」

 

武器庫の扉が開き、俺とアリシアは内部に入っていく。

司令室前の小型武器庫と言えど、C4などの軍用爆薬は敵にそのまま奪われる恐れが在るため置いていないものの、弾丸を使う小火器からレーザーやプラズマを使う重火器など多岐に渡っている。

 

武器庫に入った俺とアリシアは武器庫を管理する軍曹から武器庫を通され、警備兵が非常時に着る防弾ベストを手渡される。それは、現代のMOLLE(Modular Lightweight Load-carrying Equipment)のようなベストだった。兵科に合った装備品を付けられるよう統一された規格でポーチや無線機などを装着できるよう設計されたもので、この世界の2080年代では50年代の人々が考えた未来故に兵士一人一人の価値がそこまで高くなく、兵士の装備も発達しなかった。2270年代になってやっと兵士の単価が上昇し、兵運用が発達したのかも知れない。もしくは、俺のように前世で情報を得たのか・・・。

 

アメリカのイーグル社が開発したプレートキャリアCIRAS(Combat Integrated Releasable Armor Systm)に似た構造を持つそれは既にからのマグポーチとフラグポーチが付いており、破片や弾丸を貫通しないよう防弾プレートが挿入されていた。

 

「軍曹、このプレートだが・・・」

 

「技術研究所で設計されたものらしいです。たしか、パワーアーマーを着ない歩兵向けに作られた次世代の防弾アーマーだとか・・・。レーザーやプラズマには一発だけ耐性があります。7.62mm弾だと20mの距離でも貫通しません。コンバットアーマーMk.6と言われています」

 

 

この世界のコンバットアーマーは肩にある防弾プレートがあまり必要ではないとエンクレイヴの研究グループは思っていたようで背中のプレートが無かったことも挙げられ、エンクレイヴ軍は戦術思想を変更して現在のアーマーを考えたようだ。従来のコンバットアーマーは強化プラスチックとセラミックの複合材が使われた最新鋭の物らしいが、兵士の意見を尊重しなかったり、対ゲリラなどのコマンド部隊などがあまり発達しなかった世界であるためか、兵士の装備品は戦場にいない技術研究の技術者のみが作っていた。

 

それを、核戦争後。一兵卒の意見までも考慮して装備は変わっていった。巨大な機関になると、一度決めてしまえば変わることは少ない。それを維持する費用や製造過程を見直さなければならなくなる。しかし、数の少ないものであったり、規模が小さければ装備の変更はかなりの低コストで収まる。核戦争による規模の強制的な縮小によって技術革新が得られるとは何と皮肉なことだろうか。

 

エンクレイヴの士官服の上からプレートキャリアを着込み、武器庫に保管された破片手榴弾を三つほどポーチに突っ込み、プラズマ手榴弾と閃光手榴弾をひとつポーチに入れて、ライフルラックへ目を向ける。

 

「軍曹、火薬を使用する武器はあるか?」

 

「対人火器として配備されているのがありますが、連絡によるとパワーアーマー装備の特殊部隊です。光線型重火器の方がいいのでは?」

 

「いや、念のために10mmサブマシンガンを使おうと思ってな。対パワーアーマー用の装備って何がある?」

 

 

「こちらです」

 

軍曹が『火気厳禁』、『当直士官の命令によって開封すること』と書かれた札の貼られたガンキャビネットに近づき、扉を開いた。

 

「技研で作られたM18A1対物ライフルです。通常の対物ライフル弾と共通で50口径を使用します。カーボンとステンレスの複合で電子機器を搭載して特殊弾頭を発射できます」

 

それはM82A1とも似た対物ライフルであるが幾分かスリムになり、スコープも距離と経度などが分かる補助標準装置もセットになっていた。幾つか分からない装置も見つけたが、軍曹が見せたお陰で解決した。

 

それは50口径弾に違いないが、弾頭の部分は普通のと違って幾分か柔らかい物質で出来ていた。

 

「技研で開発された特殊徹甲弾です。弾頭は命中すると粘着トリモチのように装甲に張り付きます。この物質は新開発された爆薬の一種でこの前の戦闘で使われました。」

 

「これは私が使う」

 

アリシアは重そうなライフルを撫で、横においてあった弾倉に入っている弾丸を抜き取り、特殊徹甲弾の弾薬箱から弾を取り出して弾倉に詰めていく。

 

「今回の弾薬は室内や施設の二次的破壊も考えられるので、爆薬を指向性爆薬にしたタイプです。周囲に軽い爆風がありますが、一メートル以内でも爆風に巻き込まれても火傷程度で済みます。」

 

 

「他にある?」

 

「一応、技研が開発した光線兵器がありますが・・・・」

 

「ん?」

 

「これになります・・」

 

出されたのは、レーザー兵器らしいのだが形状はライフルではなく、肩に背負うランチャータイプの物だ。それだけ聞かされれば似たような兵器であるテスラキャノンが思い浮かべられる。だが、それは純粋な光線兵器であり、一撃で主力戦車を破壊できる対戦車火器だ。

 

「なんでスパルタンレーザー?」

 

それは一見してみれば、この世界の兵器設計思想から逸脱したものだ。デザインもスタイリッシュになり、補助照準装置としてレーザーポインターとスコープが装着してある。

 

アメリカで大人気のSFゲーム「HALO」に登場する携行型対戦車光線兵器と記憶している。それは装甲兵「スパルタン」と呼ばれる強化兵士が運用できるよう設計されているため、スパルタンレーザーと愛称を込めて呼ばれている。

 

この世界にはないものなのだが・・・・

 

「スパルタ・・・まあ、技研が開発したMX1レーザーキャノン“ゴリアテ”です。弾種はマイクロフュージョンセル。一発ごとにセルを装填し、弾倉には10発。一気に全て撃つオーバーファイアモードを備えています」

 

技研ではスパルタン・レーザーと呼ばれているらしいが、とある技術者が「パクリは不味い」と名称を変えたと曰く付きだったらしい。多分、これを作った人間は誰なのかは分かっている。

 

「まだ試作段階らしく、20発撃つと、プリズムレンズにひびが入るらしいです。」

 

「それは難儀な物だが、まあ一撃でパワーアーマーを破壊できるなら良しとするか」

 

それは非常に重く、仕方ないので背中に背負うようベルトを調整して肩に掛ける。バナナ弾倉に成っているので、それにマイクロフュージョンセルを詰めて、装填する。予備弾倉は既存のマグポーチに入らなかったため、多目的用の脇腹近くのポーチに入れて事なきを得た。

 

軍曹から10mmサブマシンガンを受け取り、弾倉を差し込み次弾を機関に送り込む。

 

「中尉、バックアップをお願いします」

 

「任せろ。」

 

10mmサブマシンガンを下げ、廊下を急いで移動し、エレベーターに乗ろうと思ったが緊急時であったため反応がない。

 

「階段はこっちか?」

 

階段のマークのある扉を見つけて、扉に近づいた。アリシアはドアノブに手をつけ、開ける準備が整うと一気に扉を開け、進入して周囲に銃口を向ける。まだ、敵はここまで来ていないらしく、重い装備であったが階段を駆け上がった。

 

階段を上がり、地下二階の階層まで登りきると上の踊り場が騒がしい。10mmサブマシンガンを下ろし、背中に背負ったままのレーザーキャノンを背負うと、足音を立てないようにゆっくりと階段を上がる。一階の踊り場が見えるところまで来ると、誰かの声が聞こえてきた。

 

「パワーアーマーの兵士が居るなんて聞いてないぞ!」

 

「警備本部への連絡は?」

 

「駄目だ。二階と三階も攻撃をうけてるし、地下へ降りるしか!」

 

警備兵の三人は階段を閉めて何やら撤退の算段らしいが、彼らが見える位置まで近づくと、ミニガンの銃撃音が響き、5mm弾がドア越しにいる彼らへと降り注いだ。

 

二人はボロ雑巾のように踊り場に倒れるが、下り階段近くにいた警備兵は伏せたお陰で肩をかすった以外に怪我はない。俺とシャルは無事だった警備兵に声を掛け、警備兵もそれに気付いてゆっくりと移動しようとするが、突如コンクリートの壁から鋼鉄の腕が警備兵の顔を掴む。

 

「反逆者め、簡単に仕留めてしまったぞ」

 

スピーカーらしきものを使っているのか、警備兵の頭が鈍い音を立てて血潮が宙を舞う。レーザーキャノンをコンクリートに狙いをつけるが、流石にパワーアーマー相手では赤子のように捻り潰される。

 

パワーアーマーは血濡れの腕を壁から抜き取ると、大きな足音を立てながら廊下を歩いていく。

 

一階と二階・三階は完全に攻撃を受けているため、そこから侵入するのは骨が折れる。するとアリシアは俺の肩を叩いた。

 

「地下一階は駐車場エリアだ。すでに司令部周辺には機械化部隊の増援が到着している。脱出路は多分、地下一階を使う筈だ」

 

「さっき来たところだな。・・・・じゃあ、そこで押さえれば」

 

「まだ間に合うかもしれん」

 

俺は咄嗟に身体を地下へ向けて階段を駆け降りようとするが、アリシアは俺の肩を掴む。

 

「ユウキ、お前が焦ったらあいつは助からん!落ち着け!」

 

軽く頬を叩かれ、我に帰る。焦って何度失敗したことか。それを愛する女のために焦り失うことは避けなければならない。アリシアによって俺は我に帰り、一度深呼吸をする。大きく息を吸い、一瞬止めて吐く。

 

焦りは若干あるものの、さっきのように考え無しには動かない。

 

「下はまだ攻撃されていないが、慎重に行くぞ」

 

「ああ」

 

階段を下り、地下一階の踊り場に降りる。鉄製の扉があり向こう側に誰もいないか耳を着けて確かめる。音はなく、周囲にはまだ敵は居ないのだろう。

 

アリシアに合図を出すと、後ろから援護するように少し階段をあがって対物ライフルで金属扉に狙いをつける。俺はドアノブを回し、軽く隙間を開けて向こう側の様子を確かめようとするが、扉に金属の塊が勢い良くぶつかる。俺は扉に近くにいたため吹き飛ばされ、階段の踊り場の縁に激突する。

 

アリシアは反射的に対物ライフルを引き、耳鳴りがするほど凄い音が響き渡る。対物ライフルから放たれた粘着性の高い高性能爆薬がパワーアーマーヘルメットにぶち当たり、ベチャッという音が響き渡った。

 

「おい、なんだこれ?子供だまっ・・・」

 

そのあとに言葉が続くことはなかった。粘着した爆薬は2秒も立たずに爆発し、ヘルメットを粉々に吹き飛ばす。肉片と金属片が飛び散り、コンクリートを血で染めた。

 

コンクリートに打ち付けられた俺は痛みで悶絶していたが、打ち身だけで骨折は辛うじて無いようだ。

 

「ユウキ、しっかりしろ」

 

「・・・・大丈夫、行ける」

 

背中はジンジンと痛みが走るが、それを緩和する時間もない。投げ出されたレーザーキャノンを背負い直すと破壊された扉を潜り抜ける。

 

 

地下駐車場のエントランスは破壊されたエレベーターと血の海に沈む遺体が幾つも転がっていた。向こうにはいくつかの軍用車両と高官用の車があったが、幸運にも俺達の姿が遮られるよう車が横倒しになっていた。さっきまで何もなく真っ白なタイルの床であったのに、今では警備兵の血溜まりが作られていた。姿勢を低くしながらエントランスを出た。

 

近くに議会派の兵士が倒れていた。俺は近づき首筋を触るが、脈はない。ブービートラップがないことを確かめてひっくり返すと胸はプラズマによって大きく穴が空いていた。酷い死に方に顔を背け、アリシアがライフルを構えているところへ近づいた。

 

「どうした?」

 

「正面、装甲車のそば。パワーアーマー兵が二人。二人で同時にやるぞ。」

 

アリシアが見ている場所。スロープによって地上に出る所に見張りのために配置されたのかパワーアーマーを着た兵士が二人確認できた。近くには議会派識別のために一部青い塗装が施された装甲車が確認できる。

 

俺はアリシアから少し離れ、横転した車両の端からパワーアーマーのちょうど胸の辺りに狙いをつける。照準装置を覗き、チャージを行う。発射を行うにはエネルギーチャージを3秒しなければならず、速射できないがその分高威力が期待できる。照準装置のカーソルの横にあるチャージサイクルが満タンとなり発射出来ることを知らせた。

 

「一秒開けてユウキは発射しろ。そうしないと、時間差で爆発するこれだと仕留めきれずに攻撃される」

 

「じゃあ、2でアリシアは撃て。1で俺が撃つ」

 

「分かった。5・・4・・・・3・・・2・・・」

 

アリシアはライフルを撃つと狙っていた兵士の隣にいた兵士の頭に命中する。兵士はいきなりのことで動けない。

 

「・・・1!・・・」

 

重い引き金を引き絞ると、チャージされたレーザーが重低音の発射音と共にプリズムレンズを通して発射される。パワーアーマーを溶かし、搭乗する人を炭へと変え、それでも勢いが収まらず、停車していた公用車のガラスを突き破った。

 

「敵!・・・」

 

持っていたミニガンを向けようとした瞬間粘着爆薬の信管が作動して爆発。周囲に破片を撒き散らしながら糸が切れた人形のように地面へと転がった。

 

「危な、威力高すぎだろ」

 

一応、説明書を読み、敵兵士を殺すことに成功したが、あまりにも威力が強すぎた。もともと、装甲の厚い車輛を破壊するために設計されたのであろう。パワーアーマーは現在の装甲車よりも若干装甲は薄かったためかもしれない 。背後の公用車の窓は溶け、合成革のシートが燃えていた。

 

 

「ユウキ、爆薬は持ってるか?」

 

「持ってないが、プラズマと破片が4つ程」

 

「それをエンジン基部に取り付けろ。これは議会派の装甲車じゃない。情報部所属の装甲車だ」

 

「情報局?」

 

「ああ、戦前のCIAと呼べばいいのか。味方部隊の内偵もやるし、それなりの戦力を持つ」

 

情報局は国防総省の内部にある諜報を主とする機関だが、それは省内でも異質である。諜報や味方の内偵も行う彼らは当然忌嫌われる。そして更に大統領派を公言する将校が多数おり、表沙汰には出来ない任務を多数行っていた。人の口には戸は立てられぬと言うが、それは情報局を有効に活用している。反逆者のあぶり出しのために情報をわざと漏洩させ、反乱分子をその軍備を持って抹殺する。シークレットサービスを親衛隊とするならば、情報局はゲシュタポのような秘密警察組織としての面も持つ。憲兵自体は警察的な法執行に対し、情報局のような存在は国外の敵の情報収集と国内の敵の情報収集にも従事していた。

 

「そこってアリシアが居たところだよな。なんで・・・」

 

「私は対外工作などの部門だ。公安関係と私たちとじゃ別組織と言っていいほど情報が渡らん。」

 

情報局の本部は現在、議会派の部隊によって制圧され局長は拘束されていると聞く。大統領派や西海岸派閥子飼いの部隊なのだろう。装甲車は偽装がされているものの、各装甲車の認識番号を照会すればこの装甲車が議会派が保持するものではないことが分かるはずだ。

 

「 情報局の奴ら、我々の部隊装備まで分かるなんて」

 

「ちょっと待てよ・・・・。なんで装備まで知ってて議会派を野放しにしたんだ?」

 

 

明らかに不自然だった。大統領の暗殺にスムーズすぎるレイヴンロックの制圧。もっと抵抗してもいいはずで、少しぐらい情報が漏れて大きな抵抗を受ける筈だ。しかし、すんなりとことが運んでいる。抵抗も少なく、司令部を制圧していることを考えると、もしかしたら・・・・。

 

「アリシア聞いてくれ、もしかし・・・・・」

 

俺の言葉は続かなかった。

 

天井が突如爆発し天井の一部が降ってきたのだ。

 

コンクリート破片が散り、塊が周囲を舞う。瓦礫に押し潰されないよう、公用車の影に飛び込むと、コンクリート片の先にはパワーアーマーを着た兵士が4人程此方にミニガンを向けていた。

 

 

敵は包囲されていたのか、ショートカットのためフロアの床を破壊して、下のフロアに降りてきたのだ。

 

 

「反乱軍だ、殺せ!」

 

ミニガンの 砲身は回転し、俺へと向ける。死を覚悟して公用車の影に隠れると、爆音が唸り5mm弾が車へと殺到する。エンジンをわざと外しているそれらの弾丸は公用車の装甲を撃ち抜き俺の頭の上を通過する。ギリギリ弾丸は俺の上を抜けて後ろの公用車へと命中した。ガラスが飛び散り、破片が体に落下する。

 

「ハッハッハ!蜂の巣にしてやる・・・グハェ!」

 

 

ミニガンを持っていた男の後頭部が爆発し、引き金を引き続けていたミニガンの砲身は天井を向き、弾丸が天井へと突き抜けた。

 

転がっていたレーザーキャノンを拾い上げると、プラズマライフルを構えるパワーアーマー兵に引き金を引く。既にチャージがされていたレーザーキャノンはプリズムレンズから数千度にも及ぶ高熱線を発射し、プラズマライフルごと蒸発し兵士の胸に巨大な穴が開いた。

 

「助けて!!」

 

残り二人のパワーアーマー兵のうち一人が肩に抱えていた人物は黒い頭巾を被り、もがいているではないか。そして、その発する声はシャルの声に違いない。

 

「シャル!」

 

「ユウキ、助けっ・・・!」

 

最後まで声を聞くことはなく、抱えていた兵士は装甲車に乗り込み、もう一人の兵士は持っていたレーザーライフルで俺へ牽制射撃を加えた。レーザーは脇近くを掠り、お返しに10mmサブマシンガンを片手で放ち、頭のカメラ目掛けて発射する。

 

しかし、装甲の厚い兵士はレーザーライフルを俺ではなく、アリシアのいる所へ撃ち込む。先ほどの狙撃で位置が割れていたらしく、アリシアの隠れていた公用車の扉に被弾する。

 

 

「急げ、増援が来る!」

 

「放して!」

 

「コイツを取り押さえとけ!」

 

装甲車のハッチが閉まろうとしており、レーザーライフルを持つ兵士は装甲車の中へと入っていく。手元にあるレーザーでは装甲車の装甲を溶かし尽くしてシャルを殺しかねない。プラズマグレネードでも同じこと。タイヤを破壊しようとレーザーキャノンを構えるが、照準装置には「プリズムレンズ破損!発射不能!」と表示される。

 

「使えない!畜生!」

 

レーザーキャノンをかなぐり捨てて、下げていた10mmサブマシンガンを構えて引き金を引いた。ばら蒔かれた弾丸はタイヤに命中する。

 

しかし、装甲車のエンジンは起動し走り始める。

 

「なんで動く!」

 

「銃弾では穴の開かないコンバットタイヤだ。追うぞ」

 

レーザーライフルを持つ兵士は投げたプラズマグレネードがヘルメットの真上で起爆し、全身がプラズマ粘液となり、溶け死んだ。

 

アリシアは対物ライフルを持ち、急いで上に上がろうと言う。装甲車は駐車場出口へと迫り、そのままシャッターを破壊してスロープを登り地上を目指す。

 

アリシアの先導の元、先ほど来た道を戻って階段を駆け上がり、一階へと到着する。一階は司令部の入り口であり、簡素ながらも軍の司令部らしい荘厳としたデザインのエントランスだった。しかし、壁には弾痕や血痕がこびりつき、飾られていた花瓶は粉々になり、貴重な絵画は破壊された。所々に議会派の兵士の死体が倒れ、集中砲火を浴びて破壊されたパワーアーマーの姿があった。

 

「スタウベルグ中尉でしたか!?ご無事ですか!」

 

エンクレイヴ士官服に俺と同じコンバットアーマーMk.6を着た士官はアリシアの顔を見て駆け寄った。さっきの先頭で頭にコンクリートの破片が当たったらしく、頭から血を出していたからだ。エントランスに据え置きだった救急箱からガーゼを取り出して止血をしようとしていたが、邪魔だと言って取ってしまった。

 

「ああ、敵は人質を取って装甲車で逃走しようとしている。急いで追撃しろ。だが人質救出が最優先だ」

 

「了解!司令部に報告します。」

 

無線兵らしき兵が駆け寄り、その士官に受話器を渡して報告を行おうとする。俺はアリシアを連れて急いで司令部から出ると地下駐車場から出てきた装甲車を見つけた。周囲を警戒していた部隊は即座に警報を鳴らし、各々の銃口を装甲車へとむける。

 

「敵の装甲車だ、タイヤを狙え!」

 

10mmサブマシンガンの引き金を引き、タイヤを目掛けて撃つ。ゴム部分は撃ってもきりがないが、傷付けることは可能だ。

 

周囲の兵士たちも俺の声でそれが味方に扮した敵の装甲車だと分かり、持っていたプラズマライフルやレーザーで攻撃を加える。しかし、装甲車の車載重機関銃がこちらへと向いた。

 

「伏せろ!」

 

 

車載50口径重機関銃が火を吹き、大口径の弾丸がコンクリート壁を粉々に撃つ。威力の高い其れは即席の土嚢を吹き飛ばし、防御陣地を破壊する。重機関銃でも貫けない防御壁があったが、入口付近にしか置かれておらず、展開した警備兵を全て守り切れない。逃げ遅れた議会派兵士の頭部に命中し、被っていたヘルメットも空しく頸椎を残して飛散する。更に他の兵士も腹部に命中し、下半身が吹き飛んだ。寸でのところでエントランスの柱に隠れ、攻撃から身を守る。うめき声と硝煙が満たされ、死屍累々の戦場と化した。アリシアは横転した装甲車の陰に身を隠していて免れていた。装甲車は攻撃した敵を一掃したと思ったのか、全速力で司令部から離脱する。

 

「畜生!逃げられる!」

 

「あれを!あれで追いかけましょう!」

 

アリシアが指さしたのは、先ほど乗っていたのとは種類が違うものの、車載は機関砲ではなくM2型重機関銃を搭載したタイプの装甲車だった。

 

駐車場にある装甲車を選び、先の戦闘で戦死した装甲車の操縦士らしき人物から鍵を取り、急いで装甲車に乗り込んだ。

 

「ユウキ、機銃を使って!」

 

アリシアはそう叫び、俺は車内で機銃が撃てる遠隔式操作が出来るRWS(Remote Weapon system)が装備されたコンソールを起動する。操縦方法は簡単なもので司令部に来る時の30mm機関砲と同じ構造であったために、電源を入れてブラウン管の画面を覗いた。赤外線カメラによって映され、爆走する装甲車が見えた。

 

「こちらスタウベルグ中尉。司令部を攻撃した特殊部隊はわが軍の装甲車にのり、幹線道路7号線から第三区画のヘリポートへ移動中、人質がいる。付近の部隊はこれを追撃せよ」

 

(こちらwhiskey leader。第三区画は敵部隊の攻撃が激しい!ヘリも一機落とされている!注意せよ)

 

画面のレティクルを慎重に動かし、コントロールスティックを操作して、狙いを付けた。トリガーを引くと、電気信号を通してM2重機関銃が起動し、毎分一千発もの弾丸が装甲車の右側のコンバットタイヤに直撃した。小銃弾では有効な攻撃はできなかったが、大口径のそれはコンバットタイヤをずたずたに切り裂いた。アスファルトに擦れ、煙を上げる。続けて左のタイヤを破壊しようとするが、敵の装甲車の機関銃が火を吹いた。装甲車の装甲に大口径弾が命中し、火花が散る。

 

「くっそ、機関銃を先に破壊するか!」

 

八輪のうち一つを破壊したが、まだ七輪残っており機銃も健在だ。装甲車のM2重機関銃は走行不能にすることはできるが、完全に破壊することは出来ない。しかし、仮に対戦車火器があったとしても、シャルの命を危うくさせる。

 

タイヤから機銃に照準を合わせ、トリガーを引く。だが、向こうの機銃手も同じ考えのようでほぼ同時に機関銃が火を吹いた。敵の機関銃は50口径弾が命中し、銃身が折れ、弾薬箱に被弾して爆発を起こす。使用不可能になったそれは火を吹いた。

 

「よし!・・・・あれ?」

 

急に画面が真っ黒に染まり、何も映らなくなった。ブラウン管だから叩いても平気なため、普通に叩くが一向に映らない。もしかして、さっきの銃撃でカメラが破壊されたのかもしれない。

 

「アリシア!RWSが破壊された!銃座から攻撃を食らわせる!」

 

「分かった!気を付けろ。ヘッドセット付きのヘルメットを被れ」

 

言われた通り、壁にかけてあった装甲車を操縦する兵士が被る通信装置付きのヘルメットを被り、ゴーグルを付けるとRWSの遠隔操作コンソールを退かして車外へ上半身を露にする。

 

車外に出てみると、そこは軍の訓練施設らしき建造物があり、弾痕や爆発跡が周囲に広がっていた。

 

(もうすぐ、第三区画だ!敵部隊の攻撃がある!警戒して!)

 

第三区画はエンクレイヴ軍上層部の多い住宅街があり、戦前の街並みが再現されたところが幾つかある。その外れにヘリポートと駐屯地もあることから西海岸派や大統領派の兵士や将校が多くいる地帯だ。今いるのは、丁度となりに位置する第四地区と呼ばれる場所であり、軍の訓練施設が集中する場所だ。レイヴンロックの外はほとんど議会派が掌握しているものの、重点的に防衛する戦略にする構えであり、すべてのエリアや空域をカバーすることは出来ない。もし、ヘリポートまでたどり着き、連れ去られてしまえば彼女を助け出せなくなる。

 

青い腕章を付けた歩兵やパワーアーマーを着た兵士の姿も見受けられる。見る限り議会派は苦戦しているものの、着実に西海岸派の部隊を一掃している。

 

RWSユニットはかなり被弾しているものの、手動操作であれば使用は可能だ。弾帯を外し、きれいに整えると弾帯を置き蓋を閉めてチャージングハンドルを引いて次弾を装填する。引き金を引くと、身体に響き渡るような銃声が響き、大口径の弾丸が射出される。タイヤがちぎれ飛び、動くのは6輪のみとなる。

 

(ユウキ!まえ!)

 

無線から聞こえたアリシアの声で道の向こうに目を向ける。そこには、被弾しつつも、ミニガンを振り回すパワーアーマー兵の姿があった。

 

「くっそ!これじゃあ、貫通しないぞ!」

 

パワーアーマー兵へ50口径弾を食らわせたが、装甲によって弾かれていく。エンクレイヴ軍が使用するX-01改良型パワーアーマーは従来と比べて装甲が若干薄いものの、重機関銃の攻撃は弾くことが可能だった。パワーアーマー兵は銃撃をもろともせず、装甲車へ銃撃を始めた。アリシアは装甲車で兵士に体当たりし、50km近い速度を出す装甲車にパワーアーマーは吹き飛ばされる。それを皮切りに他の議会派兵士を狙っていた敵部隊はこちらを攻撃し始めた。

 

「アリシア、スピードを上げろ!逃げられる!」

 

(わかっている!掴まれ!)

 

機関銃銃座を回転させ、銃撃の多い建物へ銃撃を加える。大口径の弾丸は西海岸派の防御陣地の土嚢を蹴散らし、銃を構えていた兵士の脳髄を飛散させた。壁の薄いところに命中すると、壁は貫通し、向こう側に控えていた兵士達は死傷する。

 

猛スピードで走る装甲車に追随して、議会派のベルチバードが上空からサーチライトを照らし出す。

 

(こちらHound1-2。装甲車二両を発見。味方車両はどっちだCP?over)

 

(こちらスタウベルグ中尉。前の装甲車が敵の装甲車だ。人質が登場している、攻撃は避けろover)

 

(こちらCP、命令を変更する。Hound1-2はスタウベルグ中尉の乗るコンドルを援護せよ。重火器の使用を許可する、中尉の命令に従い攻撃を行えout)

 

上空のガンシップ型のベルチバードは建造物と基地の天井にぶつからない高度を維持しながら、サーチライトを照らし、目標を映し出す。

 

重機関銃を追っている装甲車のタイヤを狙い、引き金を引いた。破壊したタイヤを貫通して残り五輪となり、続けて機関銃を連射する。

 

周囲は議会派が優勢の地域になり、建物や敵の防御陣地からの銃撃もほとんどなくなっている。装甲車のタイヤを全て破壊すればすぐにでもシャルを助け出すことができるだろう。タイヤを全てではなく片側のみすべてを破壊することができれば、装甲車も走行できなくなる。

 

「アリシア!装甲車を真横に着けろ!タイヤを破壊する!」

 

(わかった、向こうも抵抗するはずだから注意しろ!)

 

乗っていた装甲車のスピードは上がり、追っていた装甲車の右真横に近づいた。回転する残り2つの車輪に狙いをつけ引き金を引こうとした。しかし、100mにも満たない離れた建物の屋上にミサイルランチャーを構える兵士の姿を見つけた。

 

「ミサイル!回避しろ!」

 

アリシアはハンドルを回し、ロックオンされないようにブレーキを踏む。しかし、ミサイルは俺たちの方へはやってこなかった。ミサイルの射手は俺達ではなく上空のヘリへとミサイルランチャーを向けていたのだ。発射されたミサイルは赤外線誘導によって追尾されて真っすぐにベルチバードへと突っ込んでいく。

 

(こちらHound1-2!ミサイル接近!空域を離脱する!)

 

パイロットは回避しようとするが、ここはレイヴンロックの中であり、回避できる空間など存在しない。天井と地上の間は限られており、ここでは回避できることなど無理であった。しかし、パイロットは機体を左右へと振って何とか機体への攻撃を最小限にしようと動く。ミサイルはそのため、機体の胴体には当たらず、右翼のローターに掠り爆発した。右翼を丸ごと吹き飛んだベルチバードはもう一個のローターの遠心力によって機体が回転し、天井と建物に機体をぶつけて破片をまき散らす。

 

(緊急事態発生!墜落する!メーデー!メーデー! こちらHound1-2!座標はWhisky56 Tango78 Kiro10!)

 

機体は何故か俺たちの方へと向かっており、ヘリは建物にぶつからず道路に沿って降下していく。

 

「アリシア!後ろからヘリが墜落してくる!回避!」

 

さすがにこれはやばい!

 

幾ら修羅場を潜り抜け、ヘリの墜落も耐えたとはいえど、墜落するヘリに直撃でもされれば流石に死ぬ。

 

道路は戦闘のために破片や破壊された公用車の残骸が散らばり、速度を上げられない。周囲の建物を破壊しながらも墜落するヘリは着実に装甲車に近づき、衝突すると思った瞬間、意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

一体どれほどの時間が経っただろうか。

 

 

今が何時で何日かすら分からない。

 

 

 

私は一体どうなってしまうのだろうか?

 

 

 

最後に見たのは、殺される寸前だったユウキの姿だった。あのあと、ユウキの声や銃声が響いて装甲車に押し込められてしまったが、意識を失う前に銃声が多く聞こえたはずだからユウキは生きているのだろう。

 

 

 

連れ去ったのはエンクレイヴの派閥の中でも勢力の強い西海岸派か大統領信奉主義者のどちらか。だけど、どちらの派閥だとしても目的が不明瞭。私はただのvault育ちの医者に過ぎない。そんな人物が特殊部隊に拉致されるというのは、どうみてもおかしい。

 

 

 

一体、何のために私を拉致したのだろう?

 

 

 

 

すると、私が入っていたらしい部屋の扉が開き、被っていた黒い布に太陽光に似た光が差し込み、私はまぶしさの余り目が眩んだ。外は何やら騒がしく、前に聞いたヘリコプターのプロペラ音らしき回転音が聞こえ、兵士の怒鳴り声も聞こえてきた。

 

 

「ハワード大佐、大統領は何故この女に会いたがっているので?」

 

「さあな、分からん。だが閣下はこの女が何かしらの利益になるとお考えのようだ。少尉、こいつを大統領のいらっしゃるお部屋へお連れしろ!」

 

「yes,sir!!」

 

私は椅子から両腕を掴まれ、立ち上がらせ無理やり歩かされる。足はなぜか痺れが走っているらしく、立とうにも痺れが感覚を鈍らせ、引きずられるようにしてどこかの建物へと入っていく。何の薬品か幾つか検討が付くが、エンクレイヴの能力はまだ分からない。新薬を開発している可能性もある。

 

 

周囲はガチャガチャと音を立てた警備兵の足音やパワーアシストの駆動音も聞こえてくる。軽い足取りも聞こえるから、兵士以外の人物もいるはずだ。

 

 

「軍曹、認識番号を」

 

「Zulu Uniform 2334 Delta 9801 Lino 2121」

 

「認識番号を確認した。軍曹の連れた人物のみ入室を許可する。」

 

「了解」

 

光を遮ろうとした。しかし手は鉛のように重く、口元までもっていくのが精々だった。

 

「ほら、手を出せ!」

 

エンクレイヴの下士官は乱暴に私の手錠を外すと、乱暴に私の襟首をつかむと扉の前に連れていく。

 

「大統領閣下だ。粗相のないようにな」

 

ウェイストランドでもお馴染みの水密扉で、貨物搬入用にワイドに広がったものがあった。それが何処の扉なのか判別できた。これはジェファーソン記念館の浄化施設の管理コンピューターが設置された扉だった

 

開閉スイッチのボタンが押されると、水密扉が開き、見たことある光景が現れるはずだった。しかし、そこにあったのは、以前の電算室ではなく、拡張され、巨大なスーパーコンピューターが設置されていた。奥行きは何らかの工事によって拡張され、縦に置かれたコンピューターは浄化施設の水流によって熱を逃がしているようだった。

 

「これは一体・・・」

 

 

「驚いたかね?」

 

 

「うわ!」

 

突然、老人の声が何処からか聞こえ、私は変な声を挙げるが、ここには私以外誰もいなかった。それになぜこんなところに大統領がいるのだろう?ここは大統領執務室ではない、浄化施設の制御コンピューターだった。

 

どうして、大統領という人物がここにいるのか。それよりも、どこにいるのか?一見、そこには誰もいない。

 

 

「君はシャルロット君かね?私はアメリカ合衆国大統領のジョン・ヘンリー・エデンだ」

 

「はい、どうして私を?」

 

「君に話があったのだ。重要な話だよ」

 

私は元Voult住人の医者に過ぎない。それが何故大統領に呼ばれたのか。

 

だけど、その重要な話をするのに顔を見て話さないのだろうか。

 

「大統領・・・・・、重要な話は分かりますが、どこにいるのですか?」

 

「私は君のすぐ近くにいるではないか。どこにいるか分かるかね?」

 

「いえ・・・・、どこにいるのですか?」

 

部屋には誰もいない。居るとすれば、ステルスボーイで隠れているかもしれない。でも、腕につけていたpip-boyにとる生体反応でどこにいるか分かる。光学迷彩で隠れていてもいる方向は把握できる。しかし、その部屋には私以外だれもいないことが分かっていた。

 

「君の近くにいる。この部屋の中だ」

 

「部屋の中には私しか居ないはずです。機械を通して出来る話は重要ですか?」

 

「ハッハッハ、機械を通してと言うが、それは仕方あるまい。機械という存在は機械でしか話せない。間接的に生物を通して命令を伝えるが、実際命令を伝達するときは人に似せたアンドロイドを通してだ。」

 

 

「・・・・・機械という存在?あなたは・・・・」

 

 

「そうか、君はまだ知らないのだったな・・・。目の前の画面をみたまえ」

 

 

私の目の前にあったのは、大きな画面のある場所だった。浄化施設の管理コンピューターのチェックを行うための端末なのだろう。画面の近くには誰が置いたのか分からない過敏が置かれ、白い花が差されている。

 

 

「これは・・・・・」

 

 

「それが私の顔のようなものだ。公にはアンドロイドを使っていたが・・・・・、私の目的のためには壊すしかなかったのだ・・・・。このような姿で申し訳ない」

 

 

大統領が話すたびに画面の点が動き、画面近くからは大統領らしき声が聞こえてきた。自らを機械と言い、公の場ではアンドロイド・・・・・。

 

もし、彼が言っていることが本当なら大統領は人ではない・・・・。

 

 

 

 

「御覧のとおり、私は機械だ」

 

 

 

 

 

 

 




   


やっとここまで来ました。

ここまで長かったな・・・・・

戦闘描写が長すぎてしまったのでくどいかもしれません。時間があったら修正しようと思います




誤字脱字、ありましたらご報告よろしくお願いします。



ご感想いただけると嬉しい限りです。頂けると、執筆速度が某丸裸な真っ赤な仮面紳士のように三倍早くなります。


※X-01改良型はエンクレイヴパワーアーマーの型番です。説明としてX-01の名を載せました。レムナントだとX-01のみ。東海岸のだと改良型が付きます。話の中では今回のみの表記ですので「エンクレイヴパワーアーマー」というゲーム上の表記で統一します。


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最終章 Take it Back!
四十五話 ラストバトルⅠ


皆さま、お久しぶりでございます。気づいたら正月になり、書き終わったらゴールデンウィーク過ぎていたというとんでもないことになってました。

というのも、年明け早々就活準備と公務員試験準備をしておりまして遅くなり、現在も就活戦線で死に物狂いで戦っている最中です。

とりあえず五月は一息ついたので、完成したのをアップします。








 

 

 

 

昔から人類は空を飛ぶことを夢見ていた。羽がない人類にとって空を飛ぶことは長年の夢である。イカロスの神話が作られたように、人類が何千年にも渡って飛ぶことを研究していた。しかし、発達した筋肉を持たず、浮力のない人間はたとえ蝋で作った羽では、墜落してしまう。だが、人はそれでも諦めなかった。幾多の技術革新が行われ、飛ぶ努力が重ねられた。

 

そして1900年のライト兄弟を皮切りに航空機競争がスタートし、20年も経たぬうちに旅客機が登場した。そして二度の世界大戦を経験し、噴射エンジンの実用化で音速の壁まで超え、人類は遂に宇宙へと進出する。

 

 

しかし、幾ら科学が発達したとしても人間の本質は変わらない。航空産業は必ず軍事面に大きく関わっている。新技術は闘争のために活用され、多くの血が流される。戦争は変わらない。

 

航空機を発明した先駆者は一体何を思うのだろう。オゾン層が破壊され、核戦争の爪痕が強く残るキャピタルウェイストランドを見て。

 

 

きっと、溜め息をつくに違いない。

 

 

「全員、降下用意!」

 

 

誘導員の兵士は拡声器で叫び、キャビンにいる兵士達はそれを合図に幾度目かの装備点検を行う。そこはエンクレイヴの輸送機の中だった。エンクレイヴが使用するベルチバードなどのヘリとは違い、大容量を輸送する大型輸送機であり、機内には大出力のプロペラ音が響き渡っていた。戦場に赴くこの輸送機には降下する兵士とその物資が積載され、空挺部隊所属のパワーアーマーが鎮座していた。

ある者は準備ができたと自信のついた表情で降下ランプを見る。ある者は名残惜しいと家族の写真を見、そしてある者は聖書の一節を口にする。

 

 

 

「“私はアルファであり、オメガである。最初であり、最後である。私は、渇く者には、いのちの水の泉から、値なしに飲ませる。”」

 

 

黙示録21章6節。

 

戦場に行く兵士が唱えるものではない。小声で俺は唱えると、座席から立ち上がり割り当てられたパワーアーマーの中に入る。T49dのような古めかしいものではなく、真っ黒に塗装された最新鋭型。待っていたエンジニアは俺が中に入ると、背部の動力バックパックを取り付ける。身体の動きに合うようにパワーアーマーが内部で調節され、ヘルメットのHMDにパワーアーマーのチェックリストが表示される。

 

「油圧」

 

「チェック」

 

「フュージョンコア」

 

「チェック」

 

「電子防護システム」

 

「異常なし」

 

「アビオニクス制御」

 

「システムALL GREEN」

 

出撃前の機体の点検を行う。本来、パワーアーマーは精密機器の塊であり、最新機器を身に着けたハイテク兵器である。それらにはエンジニアが必要であり、整備をきちんとこなさないといけないのだ。BOSのようなお粗末な整備でなく、専門の整備士が付く。エンクレイヴの兵装はウェイストランド随一だろう。

 

「武器の通常兵装」

 

「チェック」

 

右腕に握りしめていたミニガンのトリガーを引いて空撃ちを行う。勿論、弾は出ない。そして次の兵装をチェックする。

 

「特殊兵装」

 

「チェック・・・」

 

兵装を切り替えて、ミサイルランチャーをスタンバイする。背部動力の上から更に装着されたこれは携行型ミサイルランチャーであり、改良版で作られた肩撃ちランチャーである。背部にあるため4発のミサイルを携行でき、戦闘中にも補充が可能なよう、積載量も気を使っている。エンクレイヴパワーアーマーMk.2はBOSの呼称であるが、エンクレイヴでは「X-01A」と名付けられている。西海岸で使用されたのは「X-01」と呼ばれ、北西部のトレーダーではレムナントパワーアーマーと呼ばれている。オイル基地破壊されたのち、エンクレイヴの残存兵力は東海岸へ集結し、パワーアーマーのデザインを変更。改良型の「X-01A」を生産する。「Advance(改良)」の頭文字をあしらったモデルは現在のエンクレイヴ軍に使用されているが、T51bよりも若干軽装甲であり、拡張性や携行武器もそこまで多くない。浄化プロジェクト襲撃によってウェイストランドで限定的に流通する徹甲弾がパワーアーマーを貫通した。これが切っ掛けでエンクレイヴの国防総省隷下の技術研究局はX-01Aに装甲板を加え、積載量や通信能力の強化を行った。それは「X-01A-C1」とされ、ヘリによる強襲降下して戦闘を行う部隊など危険な任務を行う兵士に重点的に配備された。

 

俺が装備しているMk.2パワーアーマーは「X-01A-C5」とされるものらしく、「X-01-C1」は重装甲を施したモデルであり、「X-01-C2」は通信能力を上昇させた指揮官モデルであった。他にも偵察仕様や回収用アーマーが開発されたが、C5型は重装甲且つ分隊支援兵としての装備を携行する重武装モデルだった。だが、重武装をコンセプトに設計されたヘルファイアーパワーアーマーと被るために、試験評価として数機しか製造されない希少モデルだった。

 

「Mk.2タイプって種類多いな・・・」

 

「Mk.2?・・・・ああ、一部ではそう呼ばれてますが、技術局が派生型ばかり出すから整備が面倒なんですよ。技術屋のやりたいことは理解できますが、整備する俺らの身にもなって欲しいものです」

 

米陸軍のジャンプスーツを着た整備士はクリップボードを片手に愚痴を溢す。確かに生産面に負担を掛けている。そもそも、技術力は高いが、国力がそれに追いついていないため、幾ら派生型を作っても整備や生産が追い付かなければ整備不足や共食い整備を行うしかないのである。

 

「なるほどね・・・自己診断プログラム起動・・・・問題なし」

 

「了解です・・・ご武運を祈ります!」

 

整備士は敬礼すると、他のパワーアーマーを整備する。

 

T49dは本当に鎧のイメージであったが、今装備しているのは完全に鎧というよりも戦闘機に近い。アビオニクスなどの制御装置がよいとここまで違うのかと驚きを隠せなかった。

 

降下するパワーアーマーの準備が整い、パワーアーマーの固定ロックが外れて誘導員がハッチまで兵を誘導する。

 

降下ハッチの前には15あまりのパワーアーマー兵が並び、その光景は負けを許されない強力な装甲強化兵の軍勢だ。敵が只の歩兵だけであれば、一方的な蹂躙と殲滅が可能だが、相手は貧弱な装備を持つ中国軍兵士や人食いレイダーではない。自分達と同じようによく訓練され、高性能な兵器やパワーアーマーを装備する元同僚達だ。

 

彼らの目の前には一台の装甲車が鎮座しており、パワーアーマー兵へ弾薬を補給するなど支援車両として効力を発揮する。パワーアーマーの兵士達が装甲車の後ろに並び終わったと同時にハッチ上部のランプが赤色に点灯し、照明が切り替わる。HMDに無線を受信したと表示され、左腕のウェアラブル端末でそれを聞く。

 

(ブリーフィングで説明した通りだが、今回の降下は高度100m代の超低空降下を行う。降下後、直ぐにパラシュートを開き、着地前に補助ジェットで大幅に減速する。着地後はパラシュートを纏めてその場所に廃棄する。今回は市街地への降下となるため周囲には十分注意し、集合地点へ移動せよ)

 

 

今回の降下するパワーアーマー兵の部隊「第101空挺大隊」はパワーアーマーを強襲降下させて電撃作戦を展開するための核となる存在だ。その中でもA中隊と呼ばれる部隊に俺は特別に同行を許され、オブザーバーという立場で作戦に参加する。

 

(ハッチを開放!武運を祈る!)

 

機長と思われる声が機内スピーカーから放送され、油圧によってハッチが開かれる。地上より冷たい風が吹き付け、輸送機のネットが跳ねる。

 

ハッチから見える闇夜の中には双発のプロペラを回転させ、追随する後続の輸送機が見える。ハッチの近くにあった降下ランプの赤色のランプがしだいに点滅すると、ぱっと青色に輝き、誘導員は叫ぶ。

 

 

「降下ぁぁぁ!!!!!」

 

叫び声とともに装甲車が滑り降りるようにしてハッチから排出された。そして後続のパワーアーマーの兵士達は一斉に動き、順々に降下していく。降下する場所は草原や荒野の真ん中ではない、廃墟と化したD.C.市街地だった。暗闇に紛れながらも次々に兵士たちは大空へと身を投じていく。

 

 

 

最後の列だった俺は最後まで待つことになった。次々と降下されるパワーアーマー兵の目の前が降下していくとき、闇夜に光る物体を見つける。それは鳥でもなく、議会派の航空機でもなかった。

 

(敵に捕捉された!?回避!)

 

放送がオンになっていたのか、機長の悲痛な叫び声が聞こえ、その瞬間に機体に強烈な振動が襲う。後続の輸送機が空中で爆散したと思うと、先ほど見たガンシップ装備のベルチバードが20mm機関砲で輸送機の装甲を穴だらけにしていく。

 

「第二エンジンが燃えているぞ!」

 

パワーアーマーを整備していた整備士の一人が右翼のプロペラエンジンに火が出ていると叫ぶ。そして、その瞬間に燃料に引火したらしく、爆発と共にその整備士は反対側の機体窓に飛んだ。機体の破片が機体内を跳ね回り、何も身に付けていないエンジニアの体に命中する。

 

(コントロール不能!?メーデー!)

 

 

エンジンを破壊され低空で失速する輸送機は煙を登らせて墜落していく。空挺降下用の自動操縦を解除するが、揺れ動く機内で姿勢を崩す。機体は角度を変え急に降下を始めた。機体とともに心中したくない俺は助走を着けてハッチからダイブする。初めてのパラシュート降下であったが、パワーアーマーの高度制御とGPS誘導によって自動でパラシュートが開いた。展開したパラシュートの空気抵抗によって強い衝撃が体を貫く。

 

「ウグッ!!」

 

体はゆっくりと地上へ降下していき、エンジンが炎上した輸送機は川へと不時着を試みる。しかし、着陸と同時に右翼の翼が千切れ、半回転して水飛沫を挙げる。

 

降下地点を1kmあまり過ぎてしまい、川のすぐ側にある国防総省の近くに墜落したようだ。

 

ヤバい。

 

今装備しているのはエンクレイヴのパワーアーマーだ。一応、敵対状態は今のところないB.O.S.だが、さっきの着陸で犠牲者が向こう側にいるかもしれない。それに、俺はB.O.S.に戦時昇格でナイトとなってはいるものの、エンクレイヴに誘いの連絡まで来ている。もしかしたら、裏切り者の烙印を押される可能性がある。それに今の装備では確実に裏切り者だろう。

 

ここは一先ず、第101空挺大隊の元へ戻らなければ。事が終わった後に説明しに行こう。これを後回しという言い方もあるし、逃げるというネガティブな言い方もある。だが、ここで面倒は御免だ。

 

 

地面が10m位まで近づき、HMDに補助ジェット噴射の文字が表示され、足に装着されたブースターが起動する。外付けの一回のみのブースターであったが、かなり減速され、ゆっくりと地上に降り、直ぐにパラシュートがパージする。

 

「輸送機の生存者を先に探すか。」

 

ミニガンを構えながら小走りで輸送機を目指す。途中で輸送機を漁ろうとレイダーらしき集団がいたが、俺を見た瞬間に「化け物だぁぁぁ!」と叫んで逃げてしまった。一体俺は何をしたというのか。

 

 

川にそって進んでいき、国防総省近くの橋を越えると、黒煙を巻き上げる輸送機の残骸があった。さっきの爆発の影響で周囲の動物が恐慌状態になっており、下水道や地下鉄からはモールラットが飛び出してくる。

 

残骸近くで安全そうな場所を見つけ、火の海になりかけていたので、熱で暴発は勘弁してほしいとミサイルランチャーとミニガンを置いておく。勝手に弄られるのも困るのでプラズマ地雷の上に装備を置いて急いで燃える機体へと近づいた。

 

ポトマック川に落ちなくて幸運というべきか、川の中州に落ちたため残骸は川に沈まずに済んでいた。しかし、輸送機の燃料が漏れているらしく、放射線が検出されるが1Radと少ない。Radawayさえ飲めば元通りなので急いで生存者を探しにかかった。

 

(こちらHunmer leader。Hunmer4-0、状況を伝えよ)

 

「こちらHunmer4-0、・・・あー、輸送機と共に墜落した。生存者の捜索をしたい。 救援機は要請できないか?」

 

(現状では不可能だ。生存者が居た場合は此方へ連れてこい。そこでは格好の標的だ。)

 

機体の残骸は燃え、生存者は居ないようにも思える。機体は火の海に包まれつつあり、そろそろパワーアーマーの油圧が心配になってきた時だった

 

「誰か!」

 

瓦礫の奥で声が聞こえ、その声を便りに瓦礫を掻き分ける。倒れているパワーアーマーを払い除けると、俺のパワーアーマーを整備していた整備士が壁にもたれ掛かっていた。

 

「大丈夫か?」

 

「はい・・・・一応歩けますが、周囲が火の海だととても・・」

 

俺はそう言えばと、さっき払いのけたパワーアーマーがあったのを思いだし、一度戻り倒れているX-01A-C1を拾い上げる。

 

「こいつは使えるか・・・・」

 

整備士の近くへそれを置き、整備士は確認し始める。

 

「燃料と油圧は大丈夫そうです。よく無事だったな。そこのバックパックを外すので持ち上げてください。」

パワーアシストによって簡単にパワーアーマーの動力バックパックを外し、整備士はその中に入りバックパックを元に戻す。

 

「通信装置も異常無いようです。武装はリッパーナイフだけですが、なんとかなります」

 

太股のガンラックに収まっていたチェーンソーを小型化したリッパーナイフを整備士は手に持った。すると、何処かのエネルギーセルが熱によって爆発し、火は瞬く間にパワーアーマーを包み込む。

 

警報音が鳴り響き、整備士を連れて火の海から逃れる。

装甲によって火の海から隔絶された環境とは言え、熱伝導率の高い金属の中に入っている。まだ、衝撃吸収のためのジェルが沸騰していないが、次第に体は茹蛸になってしまうだろう。

 

「急げ!ここから脱出するぞ!」

 

燃料の爆発と慣れないパワーアーマーの操縦でふらつく整備士の手を掴み、外へと急ぐ。入ってきた通路は炎によって塞がれ、迂回し障害物を破壊しつつも炎の海から逃れた。輸送機の残骸から命辛々脱出し、ミニガンを置いていた安全地帯に逃れた。

 

 

「これどうやってはずれるんだ?」

 

「ここを開けるのさ」

 

整備士はヘルメットを外そうともがくが、ヘルメットの外すためのスイッチが見付からない。俺は誤作動防止用に被さっていた留め具を開けて、中のボタンを押してロックを解除する。

 

「プハァァ!!新鮮な空気だ」

 

「核戦争後の空気の方が澄んでるとは・・・なんとも皮肉だけどね」

 

整備士と同じく暑苦しいヘルメットを脱ぎ去り、新鮮な空気を肺に流し込む。核戦争で空気は汚れたかと思われたが、200年経った現在。地域を限定すれば、戦争前の空気を比べるとそこまで汚れてはいなかったりする。実際調べてはいないが、前世の記憶がある俺に言わせれば車の排気ガスのない世界はやはり空気が澄んでいた。

 

炎による暴発防止を考えて外していた弾薬類の装備を装備し直していく。背中に装着するミサイルランチャーを装備し、ミニガンも同様に装備しなおす。サイドアームのプラズマピストルも壊れていないか動作確認し、整備士に渡した。

 

「いいのか?」

 

「無いとそれだけじゃ心許ないだろ」

 

リッパーナイフだけじゃ、ここらへんに住むレイダーやスーパーミュータントには弱い。飛び道具があった方が生存率はぐっと上昇する。

 

「名前は?」

 

「ユーリ・ザカリエフ伍長です」

 

「ユウキ・ゴメス・・・少尉だ」

 

内心、本当に士官でいいのかと疑問だったが、与えられた階級である。戦時中には整備士から戦車兵になり、大隊長にまで登り詰めた人も居る。あとで勉強するべきなのだろう。

 

「少尉殿、これからどうすれば?」

 

「味方部隊に合流だ。ここら辺はB.O.Sのお膝元だ。敵の攻撃で墜落したとはいえ、流石に友好的に接することは出来ないだろうな・・・・」

 

さっさとここから離れなければならない。ここから破壊された橋を登り、合流地点である「アナスタシア交差点」にいかねばならなかった。リベットシティーやメガトンの駐屯地には、議会派の部隊が多数存在しており、後方支援として使える兵力がある。レイヴンロックから爆撃用の攻撃ヘリと本体が来るまでに敵の威力偵察が任務であり、本隊合流後、電撃作戦によって敵を粉砕するというのが今回の流れだ。もし、BOSが介入し、三つ巴の戦いになってしまった場合、戦場は混乱するだろう。

 

「さっさとここから離脱するぞ。BOSが来る可能性があるからな・・・」

 

 

ミニガンの弾丸を発射機構に装填し、銃身を回せば即時発射が可能だ。レイダー程度であれば単騎で殲滅が可能だろう。しかし腕に嵌められたウェアラブルコンピューターによるGPSマップの案内では、ジェファーソン記念館を横切るようにルート設定がなされていた。当然、その道は敵が防御陣地を敷いている筈であり、通れば敵の集中砲火を受けかねない。先に降下した部隊は合流地点に迎えただろうが、墜落寸前で降下した俺と墜落して生き残った整備士は味方の集合地点とは真逆の地点に降下してしまっている。

 

迂回して合流地点に行くべきだろう。

 

マップに迂回ルートを選択させ、地下の下水道を選択した。戦前の下水網がインプットされているが、200年も経っているので崩落や変異した生物がいるに違いない。

 

HMDとGPSマップをリンクさせ、下水道の入り口まで北へ300mのところにある。

 

「よし、ここから300mだ。ちょっとキツイが地下から現地へ向かおう。交差点近くには地下鉄がある。そこへ行けば・・」

 

「しょ、少尉!あれ!」

 

 

ザカリエフ伍長の指差したと同時に、彼の立つ地面にレーザーが命中する。周囲にはレーザーポインターと思しき点が動き、周囲からは光学兵器独特のエネルギーセル充填音が響いた。

 

「私達の庭で何をやっているのかしら?G.I.ジョーのお二方?」

 

今絶対に会いたくない相手。エルダー・リオンズの娘にして、キャピタル・ウェイストランドのBOS特殊部隊「プライド」の部隊長、サラ・リオンズは満面の笑みを浮かべながら、こちらにレーザーライフルを向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

そこはレイヴンロックでも議会派における首脳陣が集まる部屋だった。

レイヴンロックの制圧も一通り終わり、肩の力を抜いて戦勝記念と称してワインを開けたい所であったが、まだ予断を許さず、大統領が生きている状況でそれをするのは早計だった。本来ならば、閣僚級レベルの会議であるため、エンクレイヴ軍の会議室を使いたかったが、大統領派の特殊部隊によって被害を被っており、行政区画で以前から使っている狭い会議室で重鎮が肩を寄せあって会議をしていた。軍服とスーツが丁度半分ずつおり、政治家と軍人、企業関係者も数名参加していた。国粋主義者や純血主義の西海岸出身将校とは違い、まともであったアメリカを取り戻そうとする面々だった。

 

そこにいるのは、議会派オータム大佐以下重要ポストを予定されている高官であり、大統領暗殺を企てたグループである。

 

新政府樹立のための政党をここにいるメンバーから選ぶ。

行政は殆どが文官であるのが幸いしてそのまま引き継げるが、軍の高官は人材不足のために軍に在籍しながらも議員として所属する。議院を設立しても、議会派の大半を占める保守派が占めるため、リベラル思想の強い市民から輩出される議員は少ない。

 

中道派や左派も議会派の軍人には何名かいるため、日本の明治中期における自由民権運動の様相に成るかも知れない。長年、大統領による戦時特権を理由とする独裁が続けられ、200年経った今では政党や議会の動かす方法を知るものは居ない。

 

 

経験のある元政治家のグールを雇えば解決するだろうが、エンクレイヴではそうはいかないだろう。戦前に残された本とデータを頼りにアメリカ本来の民主主義の姿に戻すのである。嘗てのアメリカのように共和党と民主党の二大政党制にするには今しばらく時間が掛かる。

 

一通り、議会運営の方針と建国宣言文書が定まった後、会議は一時休憩と成った。

 

「オータム大佐。大統領暗殺の首謀者と聞いたのだが、まだ実行者が捕まらないのはどういうことだ?」

 

議会派の重鎮の一人がオータムに聞いた。暗殺事件の後始末はオータム大佐主導で行われている。事態を知らない市民や軍人は急な指導者の死に動揺するため、直ぐさま報道機関に報道規制と情報統制を行い、今回の騒動は大統領の暗殺は政策に反対する過激派の軍司令部によるものだとして、政治家と軍が蜂起したと伝えている。情報部の報告では市民の間ではこの蜂起を支持する動きが大半であり、その御輿に上げられているオータムには市民の期待は大きかった。

 

「それは実行者ではないと言うことですよ、議員。私は情報局から引き抜いた人材を今回の実行者にしたのですが、私の他にも暗殺を企てたものが居るようです」

 

その言葉に周囲は驚きの声を上げる。暗殺というリスクの高い物に参画する者など軍人か鷹派の政治家であり、議会と呼ばれる政治結社に入るメンバーに暗殺を企てる者がいるとすれば、少数である。それこそ、オータム大佐や一部の軍属でさえ、その選択は最悪の手段として考えていた。他の方法として政治的に失脚させる事や幽閉という手段を考案したが、暗殺という手段を用いたのは、大統領が人ではなかったからだ。そして実行するならば先に重鎮に話を通すのが筋だ。議会派は一枚岩ではないが、軍人の殆どがオータムの勢力であり、別に暗殺作戦を執る情報は全く入ってこない。

 

 

「我々の中からかね?」

 

 

半信半疑の重鎮はオータムに問い掛けると、彼はゆっくりと頭を縦に振る。

 

「議会に居るメンバーが実行しようとするなら、まず私の耳に入ることは確実です。市民議会の可能性もありましたが、意気込みはあってもツテが存在しません」

 

 

 

地下組織として長年労働者などと市民運動を重ねる市民議会はリベラル派などで、議会派の政治家や軍人からすれば左派に該当する。独裁的な戦時特権を握り続ける大統領に対し、市民も怒りを露にしていた。しかし、それを行動に移す動機や意気込みはあっても彼らにさせるために手段を提供できるほど議会の大半を占める軍人や政治家はお人好しではない。

 

だとすると、暗殺は議会派ではなくべつのグループであることが消去法的に結論付けられる。

 

 

「だとすると、やはり西海岸派か?だが、尋問では誰もやっていないと・・・・・」

 

「彼らも軍人ですから、口は固いでしょう。しかし、彼らには理由や動機はありません。あったとしても薄いのです」

 

大統領独裁で一番甘い蜜を吸えるのは大統領の思想と良く近い西海岸派などの国粋的且つエリート意識の高い者達だ。彼らが大統領を害する理由はまったくなく、メリットがあったとしても、デメリットは数多くある。暗殺する度胸はないとは言わないが、全く必要ないのだ。

 

「彼らでないとすれば・・・・、もしかしたら信奉者とかか?」

 

政治家の重鎮は肩を竦めると、周りは苦笑する。信者が教祖を殺すという大罪は侵さない。シークレットサービスなどの大統領警護を行う者やその親族など、異常なまでに大統領を崇拝し、あたかも神のように接するのだ。オータムや議会派の彼らは大統領や彼ら信奉者をまるでカルト教団のような目で見る。もし暗殺したとすれば、それは神殺しの烙印を押されることだろう。

 

しかし、そのオータム大佐はなんとも言えない表情を浮かべる。その表情に周囲は驚くが、オータムは待ってくれと手を振った。

 

「いや、そうではない。・・・・・まだ余計な憶測をする余裕はないため先延ばしにしていたが、今の内に報告しようと思う」

 

会議室は暗くなり、会議室の世界地図が真っ二つに割れ、そこから液晶画面が現れる。そこにはあの時のTV中継映像が映された。そこにはシークレットサービスに守られた大統領と周りには高官がワインを飲んでいる首都警察設立パーティーを行っている様子だった。そして、映像は問題の暗殺シーンへと映る。大口径の弾丸が背中から胸に掛けて穴を開けて血が噴き出す。その血は白く、人ではない何者かの証明となった。

 

その瞬間、叫び声と怒号が支配し、テレビ中継もそこで止まる。生中継は演説だけで、その後はカメラマンによる独断での録画であったため、マスコミに伝わる前に押さえることが出来た。もし、これがマスコミに知られた場合、独裁政権であるにせよ、情報は瞬く間に知られることになるに違いない。もしこれがエンクレイヴの全てに流れてしまえば、エンクレイヴは崩壊してしまっただろう。

 

「大統領の遺体は研究機関に回したところ、技術的に連邦の技術が応用されていることが分かりました」

 

その事実に響めきが起こる。エンクレイヴの指導者の身体が実は連邦の技術であったと言うのだから。

 

「あの工科大がか?奴らが秘密裏に関わっているとなると・・・・」

 

エンクレイヴは秘密裏に連邦と接触していた。ボストンで連邦を形成する彼らはまだ小規模であるものの、地元の有力勢力として情報部から名が上がっていた。戦前のマサチューセッツ工科大のメンバーが設立した科学者グループであり、戦前の技術を発展させながら、人造人間を作っていた。

 

エンクレイヴの技術のその殆どが兵器に関する物が殆どであり、大型兵器などに力を入れている。しかし、連邦の人造人間製造に関してはエンクレイブの技術力を凌駕している。吸収すればエンクレイヴの技術の足しに成るだろうが、そのための犠牲が余りにも大きい。ボストンは軍施設がいくつか点在しており、戦前の軍需物資輸送計画では多くの州兵や部隊のために武器や兵器をボストン近郊の基地に搬入していた。大戦争中、東海岸は中国軍上陸部隊によって核の攻撃に晒されながらも米中両軍が激しく戦闘したエリアである。ボストンは辛うじて中国軍の攻撃目標からそれていて、パワーアーマーなどの兵器や武器が大量に温存されている。連邦の科学力も侮ることも出来ない。さらに、エンクレイヴが一番恐れていたのは人造人間を工作員として運用されることである。

 

人造人間は外見では人間とほとんど同じであり、見分けがつかない。もしも、政府高官にすり替えられでもすれば大事である。普通のスパイでは整形やその人物を真似ることが必要となるが、人造人間が高度な知能を持っていてそれらの演技をコピーすれば問題はなくなるのだ。

 

アメリカは嘗て第二次世界大戦中でのファシズムとの戦いの中で、共産主義と手を取って戦った時期がある。しかし、その時期に共産党のシンパがホワイトハウス内に多く存在したことが分かっているのだ。エンクレイヴでは、過去の教訓からそうした思想面ではかなり慎重になっており、首都であるワシントンを占領してからであると考えていた。

 

 

連邦がエンクレイヴの中枢に深く浸透していると思い、重鎮や軍人達は戸惑いを隠せなかった。

 

しかし、その光景を見ていたオータムは周囲を宥めるようにしてつづけた。

 

「いえ、分析に参加した科学者によると、以前ボストンに潜入した特殊部隊が人造人間を捕獲。その時のサンプルを元に確認してみたところ、大統領であった人造人間は連邦で生産されたものでなく、通信機器やいくつかの部品がわが軍が使っているものだと分かりました」

 

スクリーンが変わり、検死をしている科学者チームと大統領の遺体があった。

 

人間であれば青白くなっているはずの肌が不気味なほどに血色がよく、まるで今にでも息を吹き返しそうな色をしていたが、胸には直径十センチほどの大きな穴があけられていた。腹部の切開や頭蓋骨を開けて中を見てみると、生体部品に交じって電子部品らしきものが出てきた。グロテスクな映像に数名の政治家が顔を青白くしているため、周囲の軍人は無言でゴミ箱を渡す。

 

「血液は連邦で使われていたものでなく、現在軍が研究している大替血液です。合成血液とでもいいますか・・・」

 

「技術局で開発中のものだな。全ての血液を人工血液にして兵士の基礎能力を底上げする。・・・・」

 

人体の血液を強化して酸素運搬量の増加やアドレナリン、血小板の調整を行えるように考えられていた。しかし、人体に入れると拒否反応を起こすために開発は難航していた。

 

「連邦の人造人間は人間ベースとする精巧な合成血液ですが、我々の技術力では模倣できなかったようです。血液を調べると、同じ血液は暗殺に使われた狙撃銃の周囲にも発見できました。」

 

画面の映像は切り替わって、暗殺に使われたとおぼしき対物狙撃銃と周囲には白い血が飛び散っていた。

 

暗殺の直後。銃声に気が付いた兵士は急いで屋上に上がり、屋上狙撃班の死体と奪った狙撃銃で大統領を狙撃したエンクレイヴ士官が居たらしい。その兵士は咄嗟にその士官を撃ったらしく、その反動で暗殺者は屋上から地上へ落下。兵士は屋上から地上を見たとき走り去る暗殺者の背中を見たという。

 

「つまり・・・・どういうことだ・・?」

 

 

既に結論に近い推測を考えたに違いない。その政治家は困惑と底知れぬ恐怖感から震える握りこぶしを押さえながらオータムに聞いた。

 

 

「これは大統領が仕組んだことかもしれません」

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

「本当にあなたが仕組んだことなの?」

 

 

私は大統領の話に付いていけなかった。

 

 

エンクレイヴの大統領がAI?

 

しかも、改良型FEVを散布して人類を抹殺するためにわざとエンクレイヴ内で内乱を起こし、人間の手によって完遂させようとするなんて・・・・。

 

私の問い掛けに笑いを含んで話し出す。

 

「そうだ、驚いただろう?議会グループの改革派を動かすには私が自分の手で死ぬ他なかった。・・・だが、オータムは中々切れる男だ。死んでも失敗しても痛くない人材を使うとは、私も驚いたよ」

 

その人材とはアリシアとユウキのことだ。ユウキは部外者だし、アリシアはエンクレイヴ内でも煙たがれていた存在だと聞いた。私はオータム大佐に対しての評価を変えなければいけないと考えながら、FEVウイルスについて質問した。

 

「なんでFEVウイルス散布を?強制進化ウイルスを生物兵器として運用してウェイストランドを死の大地に変えるつもり?」

 

「既にウェイストランドは死の大地だ。君はあの世界を見てどうも思わなかったのか?」

 

 

周囲に置かれた液晶画面にウェイストランドの映像が映し出された。変異した動物に犯罪行為を繰り返すレイダー達。草木は炭となり、僅かな植物が生える大地。放射能に汚染された地域に廃墟と化したワシントン都市部。

 

「嘗ての緑の大地は失われ、森で囀ずる鳥や昆虫、肥沃な大地は全て失われた。これは誰がやったのだと思う?これは全て君たち人間の行った所業だろう?!」

 

映像が切り替わり、大戦争前に撮影されたと思われる紛争を撮影した映像だった。ハイテクパワーアーマーの米軍部隊が暴徒化した市民を鎮圧するために催涙弾を撃ち込み、紛れていたゲリラを射殺する様子。アンカレッジ戦線で巻き込まれたアラスカの人々の無惨な死体。突撃の声と共に雄叫びを叫びながら、中国兵に突貫して銃剣をがむしゃらに突き刺す16にも満たない幼い兵士。

その他にも過去の戦争映像が次々と写されていく。

 

 

 

 

 

 

「君たち人間達は生を受けて何をして来たと思う?破壊と殺戮だ。肉食動物は食べるために生き物を殺すが、君たち人間はエゴで同じ人間を殺している。戦争では何もしていない民間人を殺し、己の劣情を満たすためにレイプする。戦勝国だろうと敗戦国だろうとやってることに変わりない。何が違うかと問うのなら、旗の色が違うだけだ。君たち人間は殺しに殺しを重ねて進化をかさねてきたではないか」

 

 

私はエデンの言う事に反論できずにいた。昔、ユウキに何で大戦争が起こってしまったのかと聞いたことがある。私は歴史に疎いため、彼ならどうして起こったのか結論が出ているのだろうと。

 

彼の答えは至極簡単だった。

 

大戦争が起こった原因は敵愾心。相手への憎しみと怒りを募らせ、何時か攻撃するかもしれないと思う不安は更なる軍備の拡張をもたらし、互いの内側は度重なる軍拡によって治安が悪化する。資本と共産。交じり合えない存在はぶつかり合い、やがては互いを滅ぼしていく。

 

誰かが止めないのかと、私は彼に尋ねた。すると彼は、

 

『指導者は危険だと思えば踏みとどまったんだろう。だけど、この世界ではそうならなかった。資本主義と共産主義のどちらかがチキンレースに敗れたとしても、次の選手が入場して再びチキンレースをする・・・・、人類共通の敵が見つかれば何とかなるんじゃないかな?』

 

茶化してユウキは答えるものの、大戦争をもし回避しても戦争は変わらなかったと言う。

 

もし、大戦争をせずにどちらかの陣営が倒れてしまい、一国による世界支配が行われたとしても、何れ対抗馬として新たな国家が名乗りを上げるに違いない。そして同じことを繰り返し興亡と殺戮を繰り返す。

 

液晶画面は次々と映像を流し、上空から撮影したと思しき映像が移される。それはカラー映像であり、都市を上空から取ったものだった。そこへ何かが飛来する。それはペンのような細長い物体であったが、ペンのようなものは次第に大きくなり、それは核弾頭を積んだミサイルであることが分かった。次の瞬間に都市の真上で眩しい閃光が周囲を照らし、映像はその場面で途切れてしまう。すぐに画面が移り変わりそこには都市があった場所に巨大なキノコ雲が上り、業火が地上を焼き尽くす地獄へと変貌した。

 

 

「君たち人間は作った、この地獄を。人類と言う種は何もしなくとも互いを殺めて進化していくが原始の頃から本質は何も変わらない。殺すという行為を昇華させてこの悪魔の兵器を造り上げた。私が大統領に成らなくとも殺し続ける。」

 

「だからFEVウイルスで皆殺しに・・・・」

 

 

「元々、FEVはマリポーサ軍事基地で作られた。偏西風に乗って今や世界中の生物が変異して化物と化している。地球の浄化、再生をするには変異動物を駆除しなければならない。それは人間も同様だ。」

 

エンクレイヴで読んだ資料には米軍の強化兵士計画の中で人為的に肉体を進化させ、来るべき核戦争に耐えられるよう研究されたのがFEVウイルス(強制進化ウイルス)だった。実験は西海岸のマリポーサ軍事基地で行われたが、核戦争後に破損した容器からウイルスが流出。大気中にばら蒔かれたそれは偏西風や核戦争の乱れた気流に流され世界中に散らばった。核戦争で生き残った生物は過酷な放射能を帯びる死の世界でも耐えられるよう、強制進化ウイルスによって進化した。

 

ネズミや昆虫が巨大化し、変異生物として放射能に耐性を持つものとして進化した。人もFEVによって変化した。放射能によって奇形児が産まれることが劇的に減り、更に高濃度の放射能ではある一定の確率でグールと呼ばれる皮膚の爛れた人間となる。その代わり、長寿となることがあるものの、グールになる原因は全くわからない。そして更に理性が無くなり肉を求める獰猛な獣となるフェラルグール生まれ始める。

 

私は戦前の医学書を頼りにグールになる原因を考えたが、エンクレイヴの資料を見るまでは中国軍の生物兵器だとばかり思っていた。だけど、本当は自国の残した生物兵器によって汚染されているなんて、エンクレイヴはそのことを理解しているのだろうか?

 

「ウイルスは変異した個体のみ発症する。エンクレイヴは無事だろうが、統計的に見て単独での生存はもはや不可能だ。内部の対立と食料自給の問題。やがて残った核を使って再び核戦争をするに決まっている。」

 

「それは貴方が決めるべきものではないわ。生き物を全て殺すなんて・・・・そんなことする権利なんて・・」

 

「それを言うならば、君たち人間こそ地球を滅ぼしかけた生物。核戦争で地球を荒廃させる権利をいつ手に入れた?」

 

痛いところを付かれる私はこれ以上何も言えなくなる。確かに大統領の言うことは納得できる。歴史上何度も殺し合いを続ける私たち人間は彼からすれば愚かであり、地球を汚した大罪人。だけど、人間や変異した生物を全て殺し尽くすことはあってはならない。

 

「君は私を機械だからと。思っているのでは?確かに私には感情もなければ生殖機関もない。だが、考えることは出来る。生き物を機械が殺す?いや違う私は生命体だよ。自我を持ったね・・・」

 

AI(人工知能)は自分自身で考える力を持つ。数字を計算し、真似ることしかできない機械は想像力を得た。生命体の定義は幾つかあるが、自己の分裂や複製、そして生殖といった事で生命は芽生える。仮にAIを知能があったとしても生命を生むことは出来ない。

 

「・・・・いずれにしても人は滅ぶ。かつての恐竜が絶滅したように、人もまた滅ぶ運命だ」

 

すると、外で爆発と思われる地響きと警報が鳴り響いた。

 

「オータムはもう来たのか。計画を少し早めなければな」

 

そのセリフがスピーカーから響いた瞬間、後ろのハッチからパワーアーマーを着た兵士が現れた。

 

「教えてもらおうか・・・浄化装置のパスワードは?」

 

その声はサーバールームに響き渡る。私の答えは決まっている。そうでなければ父に顔向け出来ない。

 

「言うわけないでしょ、狂った機械め」

 

容赦ないパンチが私の鳩尾を直撃し、息が漏れ、胃液が吹き出した。両手で口元から垂れる唾液を拭きたいけど、女性を殴るなんて紳士とは程遠い。

 

「貴方は人よりも利口なんでしょ。……なら、私がパスワードを吐かないのを知ってるはずよ」

 

「その通りだな。君は口を割らないだろう……なら君の恋人をダシにして聞き出すまでだ」

 

「操作チャンバーへ連れていけ」と命令を受けた兵士は私を引きずっていく。サーバールームを出た後、AIであるエデンの勝ち誇った笑い声が聞こえていた。

 

 






久々すぎて文法がおかしくなっていないか心配です。
多分、前後編で後編は後日投稿します。
その後は、ゲームのエンディングとエピローグ。DLC番外編を組む予定です。

エンクレイヴパワーアーマーについては設定資料に整理して記述しておきます。


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四十六話 ラストバトルⅡ

やっと出来ました。

最終章は非常に難産です。

就活の間にやるのも難しいですがw


ほぼ戦闘シーンです。久々なので誤字脱字や文法上おかしなところあれば教えていただけると助かります


 

ジェファーソン記念館へ本隊が攻撃を開始する時間が既に8時間を切っていた。東部BOSの司令部である国防総省の地下にある拘置所エリアに連れてこられた。パワーアーマーを脱いだ後、裏切り者扱いを受けてひとしきり殴られた後、引きずられるようにして拘置所エリアに拘束された。整備士のザカリエフ伍長は非戦闘員と言って適当な扱いを受けている筈だが、俺の場合はそうはいかないだろう。なにせ、BOSの隊員だった男がエンクレイヴの輸送機から降下し、認識票まで貰っているのだから。

 

 

拷問官が来るのかと考えていたが、殴られている時にエルダーに会わせろと言った直後、パワーアーマーを着た兵士に蹴られ意識を失ったところまでは記憶があった。かび臭いマットと詰まった便器。そしてウジが湧きかけた腐りかけの肉。食おうとは思わず、体中が痛み、顔を殴られた時に歯が折れ、口を切っていたのか、少し腫れている。

 

 

看守には数時間後にエンクレイヴの反乱軍が大統領率いるジェファーソン記念館の部隊を攻撃するから、エルダーに会わせろと叫んだところ、川から汲んだらしい水を入れたバケツで全身びしょ濡れになった。

 

 

寒さで震えながらどうにかして脱出する方法を考えなければならない。とあるゲームで仮死薬によって敵兵の注意を引きつけて脱走するシーンがあったが、そんな便利グッズは持っていないし、独房からの脱出方法を学んではいない。だが、仮病を使うことは出来そうだ。先ほど新しく置かれた、手をつけていないモールラットの肉を見て、それを食って吐きさえすれば何かしらの問題になるが、見た目からしてかなりヤバイ色をしており、生存力の高いモールラットの肉は一週間経っても腐ることは無かったから、もしかするとそれ以上経った物か変な疫病に感染したものかもしれない。

 

 

食べるはずであった戦闘糧食を奪われたため、胃袋は空っぽ。腹の虫が納まらず、狭い独房に響いていた。

 

 

「本当に食べたら軽蔑するわよ」

 

 

 

いつから見ていたのか、独房の外にはサラ・リオンズが品定めするような目で俺を見つめていた。かなり腹が減っているが流石に食べようとは思えない色をしているし、食うわけがなかった。

 

 

「食うわけが無い。それより、銃殺する日は?それとも出して自由にしてくれるか?」

 

 

「出す?無理無理。貴方は事もあろうに任務を放棄し、更にはエンクレイヴの輸送機から降下して来た。しかも首には識別票をぶら下げてね。銃殺はすぐにはしないけど、殆ど決まってるわ」

 

「事情があったんだ、あんたは命に代えても守りたい者がいるか?」

 

「嫌味な質問ね、総司令官の娘にして指揮官。こんな女を欲しがる男は稀よ」

 

サラはウェイストランドの平均的な女性よりもレベルが高い。モテない訳がなく、部下と指揮官の溝を埋めればなんとかなるのではないかと思ったりする。だが、そんなことは聞いてはいない。

 

「父親は?あんたは父親を見殺しに出来るのか?」

 

「……!アンタは脅されてパワーアーマー着て来て私達を殺そうとしているわけ」

 

「違う、なんか勘違いしてないか」

 

どうやらそこで重要な勘違いが発生したらしい。俺はタメ息を吐いてしまい、サラを不機嫌にさせた。

 

「もうひとりの……整備士のザカリエフ伍長は?」

 

「別の独房に入れたわ、あなたよりはいい待遇のはずよ」

 

「アイツの口から何か言わなかったか?エンクレイヴ内でクーデターが発生して新政府が樹立して、エデン大統領率いる旧政府軍と交戦中だってことは?」

 

「なにそれ!?初耳よ!」

 

どうやらB.O.S.は諜報を全くしていないらしい。これでは幾ら頑張っても勝てはしないじゃないか。よくゲームでこんな弱小組織が買ったと思う。

 

「まずはエルダーに報告させろ、このままじゃBOSだって無くなることになるんだぞ」

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の話を聞いたエルダーは早速指揮官を集めて会議を開催した。上級パラディンや上級スクライヴなど、狭い会議室に押し込められた人の熱気によって室温は上昇していた。しかし、その室温を下げるような話によって彼らは冷や汗を流していた。

 

 

1通り話した俺は一息つくかのように背もたれに寄りかかる。『カチャリ……』という音を立てた先には手錠が掛けられており、BOSの憲兵が1人俺の後ろに立っている。その彼も俺の話を聞いているためか心なしか能面の顔が若干青くなっていた。

 

「そんなこと信じると思っているのか裏切り者。戦前と同じ水準に大陸の基地を結ぶ地下トンネル?そんなもの戦前のオカルト雑誌じゃあるまいしあってたまるか!!」

 

1人の上級パラディンは怒鳴り声を上げ、近くのパラディンは抑えるのに必死だった。

 

「では、パワーアーマーを見ても何も思わないのですか?どう見てもあれはよほどの国力がない限り製造できませんし、ジェファーソン記念館を攻撃し、メガトンやリベットシティを占領した装甲車は?ヘリはどうですか?そのことは偵察で見ているでしょう?それも嘘だと仰るので?」

 

俺はそう言い、怒鳴った指揮官を黙らせる。すると、渋い顔をしていたスターパラディン・クロスは総司令官に発言の許可を求めた。許可され起立したクロスは残念そうな顔をして話し始める。

 

「こんなことになって残念だ、ユウキ君。私や他のパラディンの総意として聞こうと思う。君はBOSをどう思っている?半ば我々は君を強制的に入隊させた。志願でもなく、君の主義思想に反してね。君にとってエンクレイヴはどうだった?BOSは今後どうした方がいいと思う?」

 

そんな質問にパラディンはどよめく。実は半強制的に入隊したことなどエルダー・リオンズとクロス以外は知らないことだ。強制的にと言うのは、語弊があるが、それ以外の選択肢を選べなかったというのもある。

 

ジェファーソン記念館を攻撃され、居場所を無くしたDr.リーや科学者達、雇い入れた傭兵。彼らを保護したのはBOS。彼らの支援無くして奪還は出来ないし、綺麗な水を無限に作り出す計画にBOSの軍事力は不可欠だ。

 

理念や思想などBOSに忠誠を誓っている訳では無い。

 

「言い方を変えれば、選択肢が自分にはそれしかありませんでした。エルダー、以前言ったことを覚えておいでですか?」

 

「どのことかの?」

 

「B.O.Sの活動意義についてです。コーデックスや設立理由を考えると人類救済のため、2度と核戦争を起こしてはならないという事から結成された。だけど、アウトキャストや西部の総司令部はテクノロジーに固執するあまり人類救済という目的を見失った。エルダーの行っていることは正しいと思います」

 

その言葉で上級パラディン達の表情は柔らかいものに変化していた。数名はまだ疑わしいと言った表情であった。続けて俺は話し出した。

 

「現地の住民や末端の兵士。そしてエンクレイヴ内のNo.2であるオータム大佐と面会し、現状、エンクレイヴ内は二つに分裂しています。先ほど申し上げたように今臨時政府を建てたオータム大佐以下議会派はウェイストランド救済をしようとしている。願わくば人類を救済しようとしている。BOSも歩み寄り、戦わない方法があると考えます」

 

「奴らがそれをすると思うのか?既に幾つかの集落ではエンクレイヴの小隊によって壊滅させられたと聞いているぞ」

 

「それはどんな集落ですか?メガトンやリベットシティのような文化的……いや友好的な所でしょうか?辺境の集落では食人だってある。その都度戦闘になってもおかしくない。」

 

文化的で友好的な集落はたまに存在するが、アンデールのような人の革を被った悪魔が居るケースもある。エンクレイヴが接触を試みてそういった奴らに出くわせば鎮圧されてもおかしくない。

 

「もし、ジェファーソン記念館へ攻撃を仕掛け、エンクレイヴの議会派を援護して、大統領派を掃討すれば、こちらの有利な条件を提示できるかもしれません。まだ、エンクレイヴと国交を結んではいませんよね?」

 

俺は目の前にいるエルダーに声を掛ける。

 

「まだじゃ。お互い牽制しあってるが、大きく戦うことはしてない。」

 

「この戦いを行えばBOSに有利な条件でエンクレイヴと交渉に出ることが出来ます。戦闘に加勢すれば、ウェイストランド人の支持も得られます。まだ、BOSの支持は根強いはずです。なんせ俺が子供の頃からD.C.を根城にミュータント退治をしてウェイストランドを保護していたんですから」

 

俺の話を聞き、上級パラディンは頷く。そして一人のパラディンは発言した。

 

「兵力はかなり違いがある。通常戦力では奴らに太刀打ちできません。全軍を投入すれば浄化施設の奪還は出来るでしょうが損耗は8割を超えます」

 

BOSの全軍、ウェイストランドに分散する部隊や新兵や補給部隊、戦闘員をすべて含めた全軍をジェファーソン記念館へ投入する。人海戦術を用いれば、敵が車輌や航空兵器を持ちえたとしても損害をもろともせずに襲いかかる。8割を死傷して奪還できたとしてもウェイストランドのパワーバランスは変化し、エンクレイヴに軍配が上がるはずだ。

 

エルダーは流石にそれは出来んと提案を下げさせ奪還作戦は暗礁に乗りあげようとしていた。しかし、とあるスクライヴが手を上げたことによって進展する。

 

「''例のあれ,,を投入させましょう」

 

「無理だろう?!あれは試作品なはずだ」

 

手を挙げたのは技術研究責任者のスクライヴ・ロスチャイルドだった。彼の言ったことに数名のパラディンやスクライヴは驚きの声を上げるが、ロスチャイルドは首を横にふる。

 

「動力源が安定しなかったが、D,リーのお陰で動かすことができます。システムはいくつか調整の余地があるが、それを修正すれば直ぐにでも。」

 

例のアレ。

それはアラスカ方面軍チェイス将軍の要請によってRobco社が制作した巨大人型兵器。

 

「リバティー・プライムは直ぐにでも投入可能です。ご決断を!」

 

BOSの生き残りを掛けた戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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国防総省近くにある395号線のある14Thストリート橋は200年経った現在でも川に架かっていた。核戦争後の影響で川の水位は低くなり、放射能に汚染された河川が海へと流れ込んでいる。

 

その橋にはBOSが来ないよう防御線が張られており、更にエンクレイヴの議会派の空挺部隊を警戒して52口径105mmライフル砲を備えたIFV(歩兵戦闘車)と防空を主にするAPC(兵員輸送車)が対空兵装である地対空ミサイルを装備していた。元々、多目的ミサイルとして開発されたものであるが、ヘリや低速の航空機などにはこれで対処できる。

 

「こちらSierra1-3、BOSの様子がおかしい。外に部隊を集めている、映像で確認できるかover」

 

(こちらCP、確認できた。しかし、敵の攻撃あるまで発砲は禁ずる。交戦規定どうり、FPL(突撃破砕線)侵入後警告後に撃退されたし)

 

「了解、CP。Out……クッソ」

 

見張りについていた大統領派の兵士はタメ息をついた。指揮官に説得されて正統派と言われたこっちについたが、戦力差は開いており、勝てる気がしない。せめて装備丸ごと持って行ってレイダーになるのも手かもとその兵士はパワーアーマーの中で独り言を呟いた。マイクは切っているため、周りにいる同僚には聞こえず、いっそのこと本当に脱走しようと考え始めた。装甲車丸ごと奪ってポイントルックアウトに逃げた分隊も居たので俺もそっちに合流しようかと兵士は思うが、分隊の半分は熱心な大統領派であるため、再びタメ息を吐いた。

 

「おい、ペンタゴンの様子がおかしいぞ」

 

さっきの連絡のあと変化があったらしくヘルメットを被っていない無用心な新米士官は双眼鏡によって国防総省を確認しようとした。小隊内では頭でっかちのヒヨコと称されバカにされている指揮官だ。靴紐を結べない新兵とまでは言わないが、頭でっかちの知識詰め込みし過ぎたオタクより新兵の方がまだ可愛いほうである。それも、大統領派に組みしようと言った彼に何故か小隊の半数は同意してしまったのでしぶしぶ付いていくことになったのだが、さっきまで脱走しようとしていた兵士の思考には後ろから士官を川底へ落としてしまおうかと本気で考えるに及んだ。しかし、それは杞憂に終わった。空気を切る音とともに、周囲に何かが飛び散った。滑り赤黒い何かであったが、頭を破裂させた分隊長が倒れ、兵士達が正気へ戻った。

 

「スナイパー!」

 

ヘルメットを脱いでいた兵士は直ぐにヘルメットを被る。

 

「サプレッサー付けたスナイパーライフル……7.62mmか」

 

徹甲弾でなおかつ、308口径であれば従来のX-01Aは貫通する。しかし、装甲板と傾斜角度を上げたX-01A-C1であれば308口径弾が徹甲弾であっても貫通しない。指揮官の階級の下にいる先任曹長は対物ライフルを持つ兵士にひきつけている間に狙撃手を仕留めるよう言う。

 

先任曹長は周りの部下と共に国防総省近くに攻撃を始めた。

 

「制圧射撃開始!」

プラズマ弾やレーザー光線が発射され、国防総省の周囲に設置された陣地へ着弾する。警戒ロボットがその攻撃に対し、5mm弾を発射し、橋に命中した。更に国防総省の屋上に備え付けられた櫓からはミサイルランチャーを構えたと思しき兵士がミサイルを発射しようとしている。

 

「こちらSierra1-3、hammer head聞こえるか?」

 

(こちらhammer head、聞えているOver)

 

「屋上の櫓らしき場所にML(ミサイルランチャー)。砲撃支援求む」

 

(hammer head了解、攻撃に移る)

 

 

Hammer headと呼ばれるIFVは、105mmライフル砲を装備しており、攻撃支援を受け取ると、車長は砲手に狙いを定めるよう指示し、BOSの兵士がいる櫓に照準を合わせた。スムーズに砲塔が旋回し、砲身がミサイルランチャーを構えるBOSの隊員に向けられる。

 

「敵の監視塔に照準よし。」

 

「撃ち方はじめぇ!」

 

IFVに乗る車長の号令とともに砲手は発射ボタンを押す。IFVの中でも一際口径のデカイ105mmライフル砲弾は櫓に直撃し、BOSの隊員は吹き飛ばされ、設置していたミサイルに誘爆し、大爆発を起こした。

 

 

「目標沈黙を確認!」

 

「CPより連絡、交差点まで後退せよとのこと」

 

IFVに乗る無線手が車長に叫ぶものの、車長は砲手とともに射撃装置の画面を見続けていた。二人の表情は凍り付き、まるで死神でも見たかのような顔をしていた。

 

「何だ……これ……」

 

車長は震える声を何とか抑えつつ、口にする。

 

画面にはクレーンで釣り上げられた黒い巨人の姿があった。車長はあまりの大きさに言葉を失う。巨大な鋼鉄の身体に合衆国陸軍のマーク。実験機なのか色は米軍機の色ではないが、それは国防総省から現れた。体長15m弱、一つ目玉のそれは赤いモノアイでこちらを睨みつけているのである。車長は急いで操縦手に移動を命じた。

 

クレーンから下ろされた巨人は数秒ほど何もしなかったが、急に人間のように顔を出してスピーカーらしき物体がないにも関わらず、声が発せられた。

 

『レッドチャイニーズに死を』

 

モノアイから放たれた高出力レーザーはIFVの手前に展開していた対空兵装のAPCに直撃し、装甲を溶かすと同時に燃料や爆薬に引火して大爆発を起こした。破片が飛び散り、近くにいた兵士は爆発に巻き込まれ、何人かの兵士は爆風で橋から川へ落下する。

 

「砲手!やつに牽制射しろ、急いでここを離れるぞ!」

 

歩兵も手に負えないと思ったのか、生き残った兵士達は急いでこの場から立ち去ろうと走る。自動装填装置によって、105mmAPFSDF弾が装填され、砲手は走行中でありながらも照準を合わせた。

 

車長は巨大な二足歩行ロボットを見て昔見た映画のシーンを思い浮かべ急いで逃げなければと考えた。橋に設置されたバリケードを避けながら急いでそこから離脱する。

 

「標的をロック、発射ぁあ!!」

 

砲手は引き金を引き、火薬が燃焼し爆発エネルギーによってAPFSDF弾が発射され、

毎秒2000mの速度で巨大ロボットに迫る。しかし、砲弾を探知したのか、赤いモノアイが激しく点滅すると高出力のレーザーがモノアイから発射され、蒸発した。

 

「嘘だろ!?」

 

砲手は叫び声を上げた。周囲の兵士達は果敢にもプラズマライフルやレーザー、見知るランチャーで攻撃を加えていくが、傷一つつかない。車長は上部ハッチから身を乗り出すと車載レーザーガトリングに手を伸ばした。

 

「これでも喰らえ、ブリキ野郎!」

 

重高温の銃声が響き、車載型のレーザーガトリングが空中に真っ赤な赤い光線を描く。しかし、その巨人は光学兵器を跳ね返す磁気が帯びているのか跳ね返って明後日の方向へ飛んでいく。悪態を付いた車長であったが、巨人は再び声を上げる。

 

『コミュニストを皆殺しにせよ!』

 

『アメリカは共産主義に必ず屈しない!』

 

エンクレイヴに対して共産主義者(コミュニスト)とはいったい何の冗談なのか。巨人は背中にあった円筒上の何かを手に取ると、装甲車へ投げつけた。ガトリングでうち落とすつもりでガトリングレーザーを向けるが、その円筒の真ん中にある表示を見て車長は驚愕する。

 

その円筒には放射能のハザードマークが書いてあり、起爆装置が点滅しすぐ目の前まで来ていたからだ。

 

車長は命令しようとするものの、遅すぎた。起爆と同時に車長の意思は刈り取られ、熱線と爆風があたりを包むこむ。焼け爛れた装甲と煤で汚れた星条旗を記した装甲車の残骸は同じく星条旗を記し、民主主義の守護者と標榜する巨人『リバティー・プライム』によって川底へたたき落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらhammer4-0、HQ。BOSが大統領派に攻撃を仕掛ける。BOSの指揮官は議会派へは攻撃しないと言っている。攻撃するな」

 

(こちらHQ、衛星の映像から見ると国防総省から二足歩行兵器の移動が認められる。BOSの武装か?Over)

 

「そうだ、BOSのリオンズ将軍より支援すると言う話だ。二足歩行兵器への攻撃は自動的に敵対と見なされ攻撃される恐れがある。絶対に攻撃するなout」

 

 

無線の音声を外へ流し、横にいるサラ・リオンズに聞こえるようにして無線に応答する。すると、上出来であったのかサラの表情は満面の笑みを浮かべていた。

 

 

「お見事」

 

「攻撃しないという保証はないよ」

 

無線交信を終了したが、回線はオープンにした状態にしておく。サラ・リオンズはT-49d型のパワーアーマーではなく、角ばった感じのT-60型を装備して笑顔で俺の肩を叩き、整列する部隊の目の前に立った。

 

サラ・リオンズが着ていた戦前での最新鋭機T-60型は国防総省の地下にあった武器庫に保管されていたものらしく、スクライブの尽力によって閉鎖されたロックダウンを一部解除した時に開いたらしい。キャピタル・ウェイストランドのBOSの標準装備であるT49Dは余剰軍事倉庫に眠っていたものであり、51b型は整備するための部品が少ない為お蔵入りとなっている。T60型も西海岸ではほとんど見かけず、最新型であるため、絶対数はT49やT51と比べて少ない。だが、試験投入という形でサラ・リオンズ含め数人の兵士が使用していた。

 

そもそも、T60型は主力機のT-51bパワーアーマーに次ぐ次世代パワーアーマーとして期待されていた代物である。大戦争の間際には一線級の部隊に重点的に配備されたため、その殆どがキャピタルではスクラップになっている状態だ。加えて首都を直接核と陸上攻撃することを想定していなかった。

 

 

 

周囲は旧米軍の迷彩であるグレーの塗装が施されているが、俺だけ1人真っ黒なエンクレイヴの塗装となっている。1人だけ浮いた感じもするが、この際仕方がない。

 

リバティー・プライムとそれを誘導する先遣隊は橋の確保に成功し、本隊の到着を待っている。

 

サラは愛用のレーザーライフルを構え、国防総省中庭に集まる兵士達が見えるように武器ケースの山の上に立った。

 

「鋼鉄の兄弟達よ!」

 

最前線に行く兵士達を統率する彼女の声に呼応し、中庭に集まった100人近い兵士たちの視線がサラに集まった。

 

「エンクレイヴは内戦によって二分している。浄化施設にいるのは本隊から離れた賊軍のみになった!私たちはこれからそこを強襲し、浄化施設を奪回する!」

 

特殊部隊「プライム」とそれを支援する砲撃、狙撃を行う兵士達は事前のブリーフィングもあってか、驚きはせず、相槌が聞こえた。

 

「あの場所は荒廃した大地を救う設備がある。アメリカの亡霊が使っていいものではない。ウェイストランド人のために、奴らのためには使わせてはならない!

 

奴らは強い。我々にはないものをいくつも備えている。だが、奴らにないものを我々は持っている。それはこれまで異型の者達と戦い培ってきた勇気。戦友。そして再び大罪を為さないよう人類を救済する大義。

 

我々は必ず勝つ。今は無き戦友達のために撃鉄を上げろ!奴らの喉を5.56mm弾で引きちぎれぇ!!」

 

 

 

「「「「「Ahhhhhhhhhhhhh!!!!」」」」

 

 

 

兵士達の雄叫びが中庭を響かせ、突き上げてた拳やレーザーライフル、アサルトライフルの銃口が空を指す。

 

「兄弟たちよ!行くぞ!」

 

 

 

「「「「hooah!」」」」

 

 

 

米陸軍式の掛け声とともにサラを旗元に兵士達は門へと進む。1人はBOSの記章の旗を持って。その旗印の元BOSの兵士達は前進を始めた。エンクレイヴのような最新鋭装備を携えた兵士達とは違い、彼らの空気はまるで異なる。長年に渡るスーパーミュータントとの死闘によって、彼らは逆境に慣れ、場数と技量は一人のBOS兵一人に付き、エンクレイヴ兵5人分に匹敵する。戦争慣れしていないエンクレイヴ軍は技術力と装備をもってしても越えられない壁が存在する。

 

 

サラ・リオンズと共に走り、門をくぐると、目の前の快進撃に目を奪われる。

 

15m弱の巨大な二足歩行ロボットであるリバティー・プライムは、漆黒のエンクレイヴ兵を高出力レーザーでなぎ倒し、IFVの砲撃を跳ね返し、背中に装着された小型核爆弾によって一瞬にして駐屯していた部隊を壊滅に追いやっていた。応援に駆けつけたガンシップタイプのベルチバードが急降下し対戦車ミサイルによって破壊しようとするものの、ミサイルを発射する瞬間にレーザーが直撃し爆散する。

 

 

「進撃しろ!抵抗するものは叩き伏せろ!」

 

 

リバティー・プライムの攻撃を避け、追随するBOSの兵士を殺そうと待ち構えるエンクレイヴ大統領派の兵士達は手持ちの兵器を用いて反撃に転じようとするが、高音と共に空から飛来する何かによって吹き飛んだ。

 

「奴ら迫撃砲を持っていやがる!気を付け・・・」

 

と先任軍曹の階級章を付けたエンクレイヴの下士官は言い終わる前に胸に大きな穴を開けて絶命する。近くにいた兵は恐慌状態になり、防御陣地から這い出してしまい、その場所を狙っていた迫撃砲の餌食になって倒れてしまった。

 

 

「次、800m先。敵兵2名・・・ML装備。左からの風風速10m」

 

「確認、仕留める」

 

先に先遣隊として到着したBOSの狙撃チームは近くのビルの屋上を陣取って生き残っている防御陣地にいる兵士を見つけると、観測手は狙撃するための情報を教え、狙撃手はそれを元に敵兵の急所をパワーアーマー対策に出力を強化させたガウスライフルによって狙撃していく。

 

俺は橋を渡りきり、下り坂とビルとビルを繋ぐ連絡橋にはエンクレイヴの兵士が固定式レーザーガトリングを持って歩兵部隊を牽制する。

 

「連絡橋の上をマークして」

 

「了解、目標をマーク!」

 

サラの近くにいた兵士はレーザーライフルのような物を構え、不可視レーザーを発射した。赤外線カメラを用いれば見ることができようレーザーは連絡橋に命中し、他のレーザー装置を持つ兵士もレーザー照射する。

 

これも地下の兵器庫から持ち出されたものであり、核戦争後航空戦力による爆撃の誘導など出来なかったため、それらの技術は散逸した。リバティー・プライムとリンクしたそれは目標の位置を知らせた。

 

『歩兵の支援要請を受諾。共産主義者の根城を攻撃』

 

リバティー・プライムはその巨体の背中に装着された小型核爆弾を掴み取ると、連絡橋にいる兵士達へ投げた。投げられた小型核弾頭、歩兵携帯型核弾頭であるミニニュークの3倍の威力であるそれは連絡橋を一瞬にして火の玉へと変わり、元々スーパーミュータントの狩場であったそこは崩落した。

 

『レッドチャイニーズの車輌を確認!世界は赤を必要としない』

 

リバティー・プライムが攻撃するのは歩兵に誘導された敵勢力と攻撃をしてきた敵のみに限定される。熾烈な攻撃を耐え抜いたエンクレイヴ兵もそれなりに存在し、BOSの隊員は残党の掃討にあたった。

 

 

「まだ、生きているぞ!殺せ!」

 

動く目標を見つけ、殺気立ったBOSのナイトはレーザーライフルを後退しながら逃げるエンクレイヴ兵に狙いを定め、引き金を引く。しかし対光学兵器対策として塗られた特殊塗料によって弾かれてしまう。

 

「敵は後退中!追撃しろ」

 

支援砲撃として高層ビルの屋上から迫撃砲が発射される。独特な高音と共にフレシェット弾が降り注ぎエンクレイヴ兵士を釘付けにしていった。

掃討が荒方完了すると、リバティー・プライムはジェファーソン記念館に通じる橋へ赴くため二重設置されたエネルギーフィールドを破ろうと動き始めた。

 

 

『敵のエネルギーフィールド確認。中和中ー』

 

 

物理的な遮断が可能なエネルギーフィールドによってBOSの兵士の進撃は一時ストップする。リバティー・プライムがそれを中和しようとする時、エンクレイヴのヘリ部隊が攻撃を仕掛けてきた。

 

 

「敵の攻撃だ!全員路肩に!」

 

 

唖然とするBOSの兵士を隠そうと掴み引きずる。逃げ遅れた兵士はガンシップタイプのベルチバードの20mm機銃が火を噴いた。パワーアーマーと言えど、機銃掃射には耐えられない。鉄の暴風に称される対地攻撃によって蜂の巣になった。

 

「こちらalpha 1-0!敵航空戦力と陸上戦力の攻撃を受けている。近接砲撃支援を要請するover!!」

 

 

(こちらHQ、こちらにも敵の航空兵力によって砲撃支援が出来なくなった。現状の現戦力によって打破せよout)

 

「ダメだ!砲兵部隊も殺られている」

 

航空戦力は先に砲撃部隊を撃滅した後、大統領派の陸上部隊を支援しようと残りの弾薬をこちらで使い切るつもりらしい。

 

「糞が、こいつを食らいやがれ」

 

背中の副武装である背部に装備された多目的ミサイルランチャーを操作し、ヘリをロックオンする。赤外線シーカーによって自動追尾能力のあるミサイルは発射すると、自動誘導によって片方のティルトローターに直撃する。回転翼の一つを失ったベルチバードは回転しつつ、横のビルに激突し、大爆発を起こした。

 

 

しかし、まだ数機のベルチバードが旋回しており、兵員輸送型であると確認できた。

 

「リバティー・プライムは?」

 

大火力であればベルチバードを全て打ち倒せる。俺は近くにいる誘導レーザー装置を持つ兵士に話しかける。

 

「ダメです。あのエネルギー装置を中和しようしていて対空攻撃までするのは無理です」

 

彼は試しとばかりに旋回中のベルチバードにレーザーを照射するが、ブザーと共にキャンセルされる。

 

『歩兵部隊の支援要請。キャンセル!自らの手で殺せ』

 

とリバティー・プライムは目の前の事で1杯いっぱいらしく、旋回する数機のベルチバードは制圧した地区に更に兵員を降下し始めた。

 

「敵のへリボーン強襲だ!」

 

エネルギーフィールド近くに集まりすぎていたBOSの攻撃部隊は三方向から包囲される形となった。ミサイルによって撃ち落とそうとするが、ベルチバードの自動機銃によって攻撃を受け、急いで遮蔽物へ隠れる。ヘリから鋼鉄製のワイヤーがおろされ、そのワイヤーにつられてパワーアーマーの部隊が降下する。

 

「左右に展開!!敵の防御陣地を使って」

 

サラ・リオンズはすぐに命令を出し、敵の防御陣地を利用しつつ、リバティー・プライムを覆うようにして陣形を形成する。遮蔽物や防御陣地のある場所に移動し、制圧したエンクレイヴの防御板を使い攻撃するエンクレイヴ兵士を退ける。

 

 

 

『エネルギーフィールド中和まで3分』

 

「ブリキ缶のポンコツ野郎」

 

敵のプラズマ弾が周囲に飛来し、運悪く飛び出した兵士はプラズマの高温によって装甲が溶けてしまった。逃げようにも密着したアーマーは脱ぐことが出来ず、隊員は断末魔の叫び声をあげながら体を溶かした。

 

「くそ、これはまずいぞ」

 

 

ここで装備の格差に思い悩むことになるとは。多くプラズマライフルを供給するエンクレイヴはその圧倒的な火力でBOSの兵士をねじ伏せて行った。BOSの火器はレーザーやアサルトライフルなどで、ミニガンやミサイルランチャー、鹵獲したプラズマライフルによって敵を倒すことができる。だが、その数はエンクレイヴが断然上で歯が立たない。

 

手持ちのミニガンを乱射するが、倒したのは二人程度。軟目標を蹂躙するために使われるミニガンはパワーアーマーに対してあまり効果を発揮しない。BOSの攻撃部隊の200人余りの兵士は半減してしまう。

 

BOSの優勢であったが、リバティー・プライムが戦闘できなくなったことによってエンクレイヴ大統領派は息を吹き返し、組織的な攻勢に転じ始めた。車両と航空兵器。加えてプラズマ火器によってBOSは劣勢になった。空からの機銃掃射によって大口径の銃弾が装甲を貫き、死に絶える。装甲車の固定型レーザーガトリングによってレーザーが体を突き刺し、プラズマが兵士の身体を溶かしていった。

 

リバティー・プライムは残りもう一つのエネルギーフィールドを中和するため残り3分近くリバティー・プライムを死守しなければならない。あれは自力で自己防衛する機能があるが、エネルギーフィールド相殺時には支援が出来ない。何もフィールドを直接出力する機器破壊しないのかと言いたいが、何度もバグというバグを修正し続けたスクライヴ達にそれを求めるのは酷というものだろう

 

ミニガンの弾薬が切れ、ミサイルも残りわずか。落ちていたプラズマライフルを拾い上げると接近してくるエンクレイヴ兵に引き金を引く。

胸を撃たれた兵士は真ん中にポッカリと空洞が空き倒れていく。

 

閃光手榴弾でエンクレイヴ兵の目を撹乱しつつ、劣勢になりつつあるBOSの指揮をするサラのいる遮蔽物に身を隠す。

 

「どうだ?」

 

「すこぶる元気よ」

 

「違う、俺達のことさ」

 

サラはたまにアホなことを言う。脳筋だから仕方ないとはいえ……

 

「なんか変なこと考えなかった?」

 

「つくづくウェイストランド人はエスパーだって思い知らされるよ!」

 

プラズマグレネードを投げ、エンクレイヴの部隊を吹き飛ばすものの、増援として駆けつけた歩兵部隊や装甲車によって猛攻に晒された。レーザーやプラズマ。時にはミサイルによって瓦礫の山をさらに瓦礫へと変えていく。

 

「センチネル!部隊の半数が死傷!損耗が激しい!撤退を!」

 

「ダメよ!ここで退却はBOSの存亡に関わるわ!」

 

ここで撤退すればBOSは衰退し、エンクレイヴに最悪殲滅されるだろう。ウェイストランドに影響を確固たるものにするためには何としても浄化施設を奪い取らねばならない。

 

「しかし……」

 

サラに反論しようとした兵士は飛来してきたプラズマ弾が頭に命中し、土嚢にもたれ掛かるようにして崩れ落ちた。

 

「くっそ!」

 

「弾がない!」

 

「俺もだ!」

 

弾薬が欠乏し始め、予め準備しておいた予備のマイクロフュージョンセルの弾薬箱をなげてよこす。

 

「弾を節約しろ!あとは敵を殺して奪い取れ」

 

レーザーとプラズマが陣地を集中攻撃していて、一歩出ることすら叶わない。

 

「ユウキ、弾無くなった」

 

「最後の弾倉だ。大事に使え」

 

 

マイクロフュージョンセルをサラに投げ、残骸の隙間から除き見る。敵はおよそ一個中隊に加え、APCが2両残っている。火力と兵員に圧倒的差があり、ジリ貧で全滅する危険があった。

 

腰のスモークグレネードで視界を眩ませ、撤退する方法もある。ただ、撤退する兵力が残されているかだろう。もう既に半数以上が死傷している。軍事上3割が全滅判定を受ける。この現状は非常に不味い。

 

「センチネル・リオンズ、これでは持たない。」

リバティー・プライムはそろそろ中和を終える頃合だ。だが、追随する歩兵部隊がいなければ、撃破されてしまうかもしれない。

 

だが、サラは首を横に振った。

 

「いいえ、ここで引くわけには行かないわ。ここを死守よ。」

 

サラの目にははっきりと決心の感情が現れていた。だが、同時に死の恐怖も含んでいるような眼差しだった。その瞬間、陣地近くがいきなり爆発し、建物の瓦礫が飛散する。咄嗟にヘルメットを被らないサラを庇い、がれきを背中に受け止める。砲撃音の方向へ見るとパワーアーマーを着るエンクレイヴ兵と装甲車の群れが陣地に迫っていた。。

 

増援としてやってきたのか105mmライフル滑空砲を搭載したIFVはエンクレイヴのパワーアーマー兵の随伴の元、BOSの防御を破ろうと前進した。砲塔は微調整を行い、砲身はこちらの陣地に狙いを付ける。

 

「逃げろぉー!」

 

数人のナイトはその叫びで陣地から飛び出していく。俺も逃げようとしたが、さっきの爆発で破片を頭部に当たって脳震盪を起こしたのか気絶するサラ・リオンズが膝の上に倒れてきた。

 

「これまでか……」

 

なんともあっけないものか・・・。

 

 

砲塔が回転し、砲身が俺のいる陣地へと向けられた。彼女を担ごうが見捨てようが間に合わない。

 

シャルの顔が目に浮かび死を覚悟し、その場に蹲る。

 

 

高低音の音と共に爆発音が響き渡った。目を食いしばって耐えようとしていたが、いつまで経っても意識が途切れることが無く、目を開けると火達磨と化すIFVの車両があった。

 

 

 

 

 

 

 

(こちらBlue Thunder0-1。敵装甲車排除を確認!これより掃討を始める)

 

 

 

頭上に飛来するガンシップタイプのベルチバードは旋回し、翼に装着されたロケットポッドからロケット弾を発射する。推進剤が燃焼し、パワーアーマーを着る兵士達を次々に紙吹雪のように吹き飛ばしていく。次々とベルチバードの編隊とIFVの車輌が接近する。それは大統領派の部隊ではない。民主主義を復活しようとする議会派の部隊だ。

 

 

(こちらHQ,劣勢に立たされるBOSの攻撃部隊を援護せよ。彼らの大型兵器へは発砲攻撃を禁ずる)

 

(Rider1各機、敵装甲車を捕捉、攻撃開始)

 

(Rider1-2,旧厚生省に大型SAM複数を確認、攻撃する)

 

(mongoose2-3、敵車両捕捉。DU弾(劣化ウラン弾)装填……撃ってぇ!!)

 

 

翼や車両の側面、パワーアーマーの右肩などに記された青い塗装が成され、議会派のエンブレムが記された部隊が到着した。後ろから議会派のヘリ部隊と車両部隊の強襲によって大統領派のBOSを包囲した部隊は総崩れとなる。優れた装備と人員で圧倒する事に慣れた彼らは同規模の敵との交戦には耐えられない。空と地上の二方面から攻撃を受け、あっという間に戦線が崩壊した。

 

「リオンズ指揮官は!」

 

 

パラディンの1人はこちらに駆け寄り気絶した彼女を見る。

頭からは出血しており、彼女の金髪は血で汚れていた。腰に付けていた水筒を取り出し、思いっきり彼女の顔に掛けた。そして、ほっぺを叩き彼女の意識は覚醒する。

 

「……ふぇ?……何!」

 

額と生え際の近くを切ったらしく、近くにいた衛生兵がガーゼでそこに止血していく。意識が覚醒し、言語機能に異常がないかどうか確かめた後、パラディンは残党の銃撃を考え姿勢を低くして報告した。

 

 

「報告、敵包囲は崩れました。例のエンクレイヴ反乱軍が挟撃に転じた模様。リバティー・プライムもエネルギーフィールド中和を確認。御命令を!」

 

 

「敵施設へ突入するわ。敵は大統領派と呼ばれるエンクレイヴの過激派のみ。議会派と呼ばれる反乱軍部隊には発砲しないこと!」

 

「yes.ma,am!」

 

 

未だふらつくサラに肩を貸して陣地から離脱し、衛生兵が包帯でぐるぐる巻にすると、落ちていたヘルメットを被せる。

 

「何するのよ!」

 

「破片食らって脳震盪を起こしたんだから被っておけ!」

 

半ば強引にヘルメットを被せ、衛生兵に彼女を引き渡す。衛生兵には脳震盪で意識を失ったが脳溢血の可能性も視野に入れるよう忠告しておく。ざっと生き残ったBOSの隊員の数は70名。ほかは戦死か負傷によって行動出来なくなっている。

 

「指揮継承順で誰が指揮する?」

 

「ちょっと私が・・・」

 

「負傷しているんだから、後方で待機だ。」

 

衛生兵が座るよう促すなか、頑固にも戦場に出ようとするサラ・リオンズは周囲の兵士から止められる。先ほど脳震盪によって気絶していたこともあり、重度であれば脳溢血の可能性もある。こちらからすれば安静にしてもらいたい。そうなると代わりの指揮官が必要となる。

 

「貴方です、パラディン・ゴメス」

 

俺は驚きのあまり、同じパラディンの彼に向き直る。

 

「いやそれは不味くないか?」

 

 

 

「エルダーと、センチネル・リオンズはリオンズ隊長が殺られた場合は代理でパラディン・ゴメスに指揮権を移譲するようにと言ってました。……私は敵に下ったと思い貴方を軽蔑してましたが、リオンズ隊長を庇った時貴方に付いて言ってもいいと思った。」

 

「いや、おれはそもそもナイトなんだが……」

 

そもそもナイトという階級は下士官等を指す。その下にはイニシエイトやその他旧軍の階級を使用するが、パラディンは尉官から佐官にかけての戦闘指揮官である。因みにサラ・リオンズはパラディンとエルダーの中間にあるセンチネルという新たな階級を創設しているが、あまり定着せず、たまにパラディンと呼称する。

 

そして俺だがいつから部隊を指揮するパラディン(英雄)になったのか。

 

「いいえ、貴方はエンクレイヴの首都に潜入して情報を収集した。その功績でパラディンに昇進よ」

 

「情報って……まあいい」

 

リオンズはまだ衛生兵に救護を受けているが、彼女を先頭に駆り出すのは酷だろう。昇進なら先に俺へ伝えるべき事柄だ。すると、彼女は「忘れてたわね」とヘルメット越しでもわかる笑みを浮かべていた。この脳筋め

 

だが、一番問題なのはエンクレイヴの兵装を装備した俺という存在だ。後ろ盾にサラ・リオンズがいたことで俺がBOS側の兵士だと思われていても、指揮官が敵方の装備を着て、以前にスパイ疑惑で拘留されていたならば話は別だ。数名は俺の戦いぶりやサラを信頼してこそ、俺を信用しているが、大半は俺を疑っているか敵視しているかのどちらかだ。

 

「一応、あんたにはペンタゴンには戻らずに後方指揮を任せるよ。前線は俺が率いるから」

 

 

 

ふと、シャルと出てきたVault101の扉を思い浮かべた。あの時でて来てから多くの危険と出会いをしてきた。この世界がゲームの世界ではなく、現実の世界と認識してから、記憶と違うこの世界の運命を左右するところまで進んでいった。

 

ウェイストランドを旅してから思ったのが、自らの頭を撃ち抜けば、扉をくぐった時の瞬間に戻れるのではないだろうかと。もし、ゲームの世界であれば、前のセーブデータから再開される。それかこれは全部夢落ちなのではないかと思ったことすらある。

 

 

だが、Vault101を出る時に目にした光景を思い出し、すぐにその考えをやめる。怒りを露にし、復讐心を燃やしたシャルと遭遇し、彼女を連行しようと近づいた瞬間に俺と共にいたオフィサー・ダンケルはラッドローチに襲われた。俺は何とか撃退したものの、ダンケルはラッドローチに頸動脈を食い千切られ、失血死した。大量の生暖かい血液がグローブにしみこみ、清潔なVaultのタイルが真っ赤に染まる。自らの血液で溺れ、バタバタと足を動かし、圧迫止血をしようとしても噴水のように吹き出る血液がヘルメットのフェイスガードに飛び散った。眼前に死が迫る恐怖。ダンケルの目には必死に助けようとした俺の姿と死への恐怖が滲んでいた。

 

この世界はは0と1を組み合わせた電子上のデータでもなければ、視覚化したコンピューターによる仮想現実でもない。ハヴォックエンジンで構成された物理演算でもない

赤い血が流れ、命が失われていくか弱い人間だ。

 

何度も危ない目に遭い、傷だらけになりながらも人を殺してここまで生きてきた。人を打つ時の感触。目の前で死に絶える男の姿。いつしか、この世界で死ぬことが本当に死を意味することを直感で理解した。

 

 

 

――生き残ってシャルと共に人生を歩んでいきたい ――

 

その思いを考え、パワーアーマーの無線を操作し、BOSの周波数に合わせた。

 

 

「こちら、パラディン・ゴメス。負傷したセンチネル・リオンズに代わって俺が前線指揮をとる。残存兵力をジェファーソンに叩き込む。リバティー・プライムによる砲撃支援をするため、レーザー誘導は確実に行え。間違ってもエンクレイヴの反乱軍勢力には攻撃するなよ」

 

生き残った兵士達は倒れた仲間の武器や弾薬を拾い、俺の後に続く。旗手の持つBOSの紋章が書かれた隊旗はさっきの戦闘でボロボロになってしまっている。

 

「生き残った兵はジェファーソン記念館を目指せ!」

 

プラズマライフルを拾い上げ、生き残った兵士達の先頭に立ち、ジェファーソン記念館に急いだ。

 

 

 




次がラスト!
その次が後日談となります。

DLCはどうしたか?・・・・・それはのちのち・・・・


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四十七話 ラストバトルⅢ

大変お待たせいたしました。

最後の投稿から・・・・半年も経っている(驚愕)

公務員試験や一般企業に加えて、卒業論文など二月になるまで色々あり、今の今まで執筆の時間を割けず、申し訳ございません。

ちょいちょい時間を取って執筆をしていましたが、やっと完成。既に後日談まで執筆しています。

三月中には最終話を上げようかと考えてます。あともう少しのお付き合いですが、よろしくお願い致します。。


 

 

 

 

『民主主義に敗北なし、共産主義はまやかしだ!!』

 

 

 

強固に強化され、要塞化されたジェファーソン記念館のエントランス前には15m強の鋼鉄の巨人、リバティープライムが鎮座していた。所々、塗装が剥げ、レーザーによる焦げ跡やプラズマによる装甲の焼けただれた部分を見ればプライムが戦場を突き進んだことが分かるはずだ。

 

 

スクライヴの進軍プログラムによって歩行し、ここまで来たプライムであったが、そこで何をするかという任務内容までは入力されていない。それをしたいものの、数億もあるバグや計算ミスなどを修正していたスクライヴはそこまで手が回らなかったのだ。誤射を避けるために自衛と歩兵の誘導攻撃のみに限定した、敵対するすべてを破壊するプログラムや照準装置など様々な分野においてスクライヴの技術が結集し、ある程度完成した兵器として運用されるに至った。Dr.リーの支援もあったため、プライムは動いた。もしも、エンクレイヴが浄化プロジェクトに関心を示さず、それらを襲おうとしなかった場合、プライムは未だに国防総省の秘密地下研究所の奥で埃を被っていたかもしれない。

 

 

 

すると塹壕に入っていたエンクレイヴ兵は携えていたレーザーライフルを発砲する。レーザーはプライムの肩に命中するが、目立つ損傷は与えられない。攻撃されたことを察知したプライムはカメラのライトを赤く染め、高出力のレーザーを発射。兵士の上半身を炭にした。

 

 

その光景をみた周囲の兵士は反撃しようと銃を構えるが、守備隊の指揮官らしき男は声を張り上げる。

 

 

「撃つな!奴は自衛モードなのかもしれない!撃てば向こうは容赦なく殺しにかかるぞ!」

 

 

市街地で戦闘を目の当たりにしていたエンクレイヴ大統領派の指揮官はリバティー・プライムが戦闘中眼前にある装甲車を破壊しようとしてこなかったり、攻撃できる隙があったにも関わらず攻撃しなかったこともあって、自衛行動と歩兵による誘導が必要ではないかと踏んでいたのだ。

 

 

彼の予想は当たっていた。

 

 

「第一分隊は後衛だ。第二分隊は慎重に進んであのデカブツに接触してみろ。出来ることなら鹵獲するんだ」

 

 

指揮官の命令に嫌々ながらも兵士達はゆっくりと塹壕から這い出してプライムへと近づく。至近距離にあってもプライムは攻撃してこないため、エンクレイヴの兵士は安どのため息を吐いて近づいていった。

 

 

 

ジェファーソン記念館には俺が防備を固めていた時と違い、監視塔が増設され、コンクリートによるトーチカや塹壕に設置された固定式レーザーガトリング。ジェファーソン記念館もコンクリートとエンクレイヴ軍が多く使用する防護壁が配置され、防備は固い。だが、先ほどの戦いで兵員の殆どを失い、ここにいるのは最低限の人員のみである。大統領派のエンクレイヴ兵は恐怖の色を隠せなかった。

 

 

その様子を見てから、周囲に展開するBOSの兵士を呼んで説明を始める。

 

 

 

「よし、これから部隊を二手に分かれる。一つはこの橋を渡って直接攻撃するルート。もう一つは先行して海岸から泳いで向こうへ行くルートだ。そのルートには50名ほど借りる」

 

 

 

俺が指さす先には、エンクレイヴの装甲車やヘリが破壊されたまま放置されており、殆どが川べりに沿って隅に置かれていた。修復不可能なまでに破壊された兵器群は鉄として溶かして、新しく作ることが可能であるが、キャピタル周辺の治安向上のため部隊を展開している。そのため輸送ヘリはそちらに割かれ、レイヴンロックに持っていくことが出来なかった。邪魔であったそれらは兵士たちの遮蔽物とするのは頼りないので川べりに沿って放置された。それらは奴らの視界から我々を隠すに丁度良い。そこにBOSの部隊を隠し、一斉に攻撃を仕掛ける。強化装甲に身を包んだ兵士の突撃はかなりの見物だろう。

 

 

「俺の合図で一斉に攻撃に入る。再編した第一中隊はこっち。第二中隊は君が指揮を」

 

 

 

「了解」

 

 

生き残った部隊を中隊として再編成し、大雑把な分け方だが、兵に川を泳ぐよう言い、川を泳いでばれない様、ジェファーソン記念館の目の前のスクラップに隠れた。何名か老朽化の激しいパワーアーマーのために泳ぐことが出来ず、第二中隊と共に橋から攻撃を仕掛けることになったが、ほとんどが川を渡り切り、エントランスを正面に突入する準備が完了した。

 

 

最新鋭のエンクレイヴが作ったパワーアーマーは水に使っても駆動できた。破壊された装甲車の陰に身を隠し、エントランスに陣取る敵へ視線を送る。まだこちらには気づいていない。

 

 

「準備は出来ているか?」

 

 

俺はリバティー・プライムに接近しようとする大統領派の兵士を見つつ、瓦礫に身を寄せたレーザー照準装置を構えるナイトに呼びかける。

 

 

「ええ、いつでも行けます」

 

 

「総員、突撃準備。合図があるまで勝手に行くなよ」

 

 

ヘリの残骸や撃破されて放置される装甲車の陰に隠れるBOSの隊員は今か今かと突撃の合図を待つ。かなり人数が少なくなってしまったが、リバティー・プライムの支援攻撃があれば突破は不可能ではない。突撃準備に命令によって兵士達の何人かはスレッジハンマーやヒートランスを構える。

 

 

「中々、すごい作戦ね」

 

 

「二百年前もハイテク兵器に囲まれても突撃はしたんだ。パワーアーマーでやるんだから、記録映像は撮ってほしいもんだ」

 

負傷しつつも、前線に出たいと言っていたサラ・リオンズは俺の提案する作戦に対して驚きつつもその作戦を了承した。

 

 

突撃という戦術は状況を打破するのに最適な攻撃方法の一つであり、最適な支援攻撃を行いつつ実行する浸透突撃などは効果を発揮する。2070年代にも塹壕戦や銃剣突撃が行われており、前世の世界でもハイテク兵器に囲まれながらも、イラク戦争においてはイギリス軍が銃剣突撃を実施した例があるほどだ。生身の歩兵に対して行われる攻撃は分隊以下の人数で行われるため、パワーアーマーが中隊規模で突撃することは稀だった。

 

サラは遮蔽物となる装甲車のところで突撃支援を行う部隊の指揮を執ることになり、前線近くではあるものの、敵の目の前よりはましなはずだ。

 

「おれ・・・大丈夫だよな。指揮できるだろうか」

 

 

「大丈夫よ、心配しすぎ」

 

 

俺が指揮することに嫌悪感を抱く者も多い。加えて言えば俺を殴って蹴っていた隊員もいるだろう。それに関しては多少恨みがあるがここで私情は持ち込まない。エルダーによって冤罪を証明したが、まだ疑っている者も多い。だが軍隊という上下関係の厳しい組織において命令は絶対である。俺のことを幾ばくか信じる何名かのパラディンとナイトによって不平不満は抑えられているはずだ。

 

 

「よし、リバティー・プライムを暴れさせパニック状態になったら突撃する。お前はここから敵をターゲッティングして支援しろ・・・・やれ」

 

 

ナイトの持つレーザー照準器が照射され、大統領派の兵士のいる櫓に当たる。

 

 

『歩兵の支援要請を受諾。共産主義者の監視塔を攻撃』

 

 

高出力レーザーは櫓に命中し、備蓄してあったミサイルに引火し爆発した。大統領派の兵士達は突然の攻撃に驚き、指揮官が止めるにも関わらずリバティー・プライムに攻撃を始めた。その瞬間にBOSの兵士達は動こうとするものの、それを制した。

 

 

「全部隊、まだだ!敵の損耗してからだ。合図を待て!」

 

 

塹壕のエンクレイヴ兵士はリバティー・プライムによって踏み潰され始める。味方の陣地を攻撃したリバティー・プライムに対してエンクレイヴの兵士は攻撃を再開し、指揮官がそれを制止しようとするがそれでは収まらない。そして別に動いていたスナイパーに指示を出す。

 

 

「owl2-2、指揮官をやれ!」

 

 

(了解、始末する)

 

 

離れた所で偽装効果の高い偽装ネットを被っていたBOSのパワーアーマー兵は伏せ

撃ち(プローン)の状態で改造したガウスライフルで大統領派の指揮官を狙っていた。射撃中止を命令しようとしていた指揮官は命令とともに電磁力で加速した徹甲弾によってヘルメットを貫通し、その生涯を終える。いきなり指揮官がしたことによって大統領派の防衛部隊は瓦解した。

 

 

 

「今だ!突撃ぃ!前ぇ!!」

 

 

 

 

「「「「Ahhhhhhhhhhhhhh!!!!!!!!」」」」

 

 

 

鬨の声を上げ、空気が震え上がる。50名近くの兵士が上げる雄叫びはその空間のエンクレイヴ兵に対して恐怖を与えた。

 

 

突撃に雄叫びは己を奮い立たせるだけではない。それは声による制圧。相手を恐怖させ、戦う気を失わせる古来から存在する武器である。

 

BOS兵は鋼鉄の剣の御旗を旗印に突撃を敢行した。旧式のパワーアーマーと侮り、プラズマライフルの射撃の的だと豪語していた隊員やBOS兵士を動く野蛮人と評する者も存在した。だが、戦いという古代から行われていた争いに野蛮さは必然的に存在する。野蛮さを取り除けば、人間という生物は成り立たない。

 

BOSの喊声は戦場を震え上がらせ、新兵を委縮させる。吶喊する彼らの息吹は彼らを恐怖へ叩き込む。怒涛の様に土石流の様に押し寄せる彼らを前にしていたエンクレイヴの兵士達は震え、涙が止まらない。

 

「来るぞ!」

 

彼らの敵はそれだけではなかった。巨大な二足歩行兵器。リバティー・プライムは敵を逃がさない。放たれた高出力レーザーはエンクレイヴの遮蔽壁を貫通し、兵士ごと溶かしていく。恐慌状態となった兵士は塹壕から這い出せば、リバティー・プライムのレーザーと支援攻撃をするBOSの兵士たちによって射殺される。

 

突撃するBOSに対抗する術を持たない彼らは蹂躙されるしかない。

 

「うぉおおおおおおおおおお!!!」

 

応戦とばかりにプラズマライフルを発射する兵士は一人を撃ち殺すと、近づいてきたBOSの兵士三人に取り囲まれ、側頭部にハンマーを打ち付けられる。ヘルメット内のHUDが割れ、兵士の顔に突き刺さると同時に、BOSの兵士が持っていたヒートランスが胸に突き刺さった。熱されたランスは簡単に装甲を溶かし、生身の体を串刺しにした。叫び声を聞こえず、死んだか確認することもできないため、何度も突き刺しては死亡確認をしていく。

 

「来るなぁ!来るなぁ!」

 

俺の目の前の兵士は手持ちのレーザーピストルを発射し、すぐ顔の横を通過していき、腰だめの状態で俺はプラズマライフルを発砲する。プラズマ弾は兵士の右ひざに命中し、高温を発するプラズマが装甲を溶かし、足を燃やしていく。

 

「足がぁ~!俺の!足、あしがぁぁぁ!」

 

 

その兵士のスピーカーがオンになっているのか、兵士の絶叫が周囲を響かせるが、彼に情けを掛けるわけにはいかない。彼の持っているライフルを蹴飛ばした。あとは周辺の後詰め兵が何とかしてくれる。

 

 

「そのまま内部まで突入する!第一中隊はついてこい!第二中隊は周辺警戒を行え!サラ君はエンクレイヴ議会派との交渉でここに待機だ」

 

記念館の入口の陣地は死屍累々の惨状だった。金属の装甲で覆われたパワーアーマー兵の急所は大部分が関節だった。BOSの火器では装甲面の破壊は困難なため、関節にリッパーや斧で破壊し、四肢が切断され無残なエンクレイヴ兵の死体が残る。戦闘は掃討戦に移行しており、武器を持ち降伏しない兵士へは数の暴力で圧倒していく。投降した者は幾人か殴られるが、命を奪うことはしなかった。命令によって指揮下にいるBOSの部下を呼び寄せ、記念館のエントランスに到着する。

 

 

「工兵!扉を吹き飛ばせ!」

 

「了解!」

 

工兵はパワーアーマーに増設したバックパックからC4プラスティック爆薬を取り出して扉に仕掛ける。電気信管を指して遮蔽物に隠れると、工兵は俺へ合図を送る。

 

 

「よし!やれ!」

 

「点火ぁ!」

 

 

起爆スイッチを起動すると同時に電気信管によって起爆剤が起爆。扉は粉砕され、中のエンクレイヴ兵が急いで築いたと思しきバリケードが木っ端みじんに吹き飛んだ。

 

 

「突入する。行くぞ!」

 

エンクレイヴ大統領派の兵士の死体や補給品の残骸から回収した弾薬を拾い上げ、補給した兵士達はエントランスへと突入する。

 

「鋼鉄の兄弟のために!!」

 

「Uraaaaaaaa!!!!」

 

雄叫びとともに突撃するBOSの兵士達はバリケードの瓦礫をものともせず突破し、爆風によって吹き飛ばされていた兵士達を蹂躙する。

 

「大統領のために!」

 

「野蛮人共だ。殺せ!」

 

ただ殺されることを良しとしないエンクレイヴ大統領派の兵士達は吶喊するBOS兵を迎撃する。我先にと突入するBOS兵士は出力を上げたレーザータレットによって吹き飛ばされた。装甲を貫通し、くぐもった悲鳴を上げながら倒れていく兵士。プラズマグレネードをとっさにバリケードを構築するエンクレイヴ兵へ投げた。プラズマが全方位に解き放たれ、一瞬にして強固な装甲を持つエンクレイヴ兵はプラズマ粘液となっていく。緑色の閃光を周囲に照らしながら、後ろに控えるBOS兵を前進させた。

 

「突破口を開いた!行くぞ!」

 

「そこの五人は下層階へ行け!後は浄化装置を奪還する!」

 

俺についてくる20人弱の兵士は俺の後へと続いていく。浄化水槽と浄化施設の中枢であるジェファーソン像を包み込むドームのある部屋の扉にたどり着いた。入口は二つあるため、兵員を二つに分けると扉にとりついた。

 

「突入準備だ。弾倉確認!」

 

扉の両脇に並び突入の準備し始め、ライフルの弾倉を新しいものへと変えていく。

 

「パラディン・・・爆破突入(ブリーチ)?」

 

「いや、このままクリアリングだ。爆破しても範囲に敵がいるとは考えられない。向こう側の仲間への誤射には十分注意しろ。あと、捕虜になっている者もいるから射撃には注意しろ。向こう側も分かったな」

 

(大丈夫です!いつでもどうぞ)

 

無線のスイッチをオンにしていたので、もう一個の入口にいた兵へも連絡する。手にもつプラズマライフルには新たなフュージョンセルを装填し、太もものプラズマピストルにも新たなエナジーセルが新しいものか確かめる。緊急用のリッパーも胸部の抜きやすい位置に取り付けた。

 

その部屋にはオータム大佐は存在しない。代わりとしているのは誰なのか。もしかすれば、オータム大佐に似た何者かだろう。囚われているシャルも救えるはずだ。

 

 

「突入するぞ・・・・・・3・・・・2・・・・・1!」

 

「突入!」

 

 

BOSの兵士はパワーアシストによって強引に扉を蹴り、プラズマライフルを持つポイントマンが入り、次々と中へと進んでいく。

 

「撃つな!捕虜が居るぞ!」

 

その声を聴いた俺は居てもたっても居られなくなり、すぐに兵士を掻き分けて中へと入った。

 

 

「シャル・・・」

 

そこに居たのは、椅子に縛り付けられた痛ましい姿だった。来ていたエンクレイヴ軍の下士官服は所々が裂け、口元には殴られた裂傷が見える。近くにいた衛生兵は彼女の脈と呼吸、外傷を確認する。

 

「パラディン・・・、口元に殴られた傷がありますが、目立った外傷は見られません。拘束具を外しましょう。」

 

俺はリッパーを胸の鞘から抜き取り、シャルの手首に取り付けられた手錠の鎖を切る。抵抗したらしく手錠した付近は皮が捲れ、痛々しい傷があった。

 

「・・・・クソっ!」

 

俺は悪態を付き、エンクレイヴの兵士が置いていった弾薬ケースを蹴り飛ばした。その憤りを見た衛生兵は俺の肩を叩く。

 

「たぶん大丈夫でしょう。見た目的にはレイプされた形跡もありませんし、一般的に見れば幸運なほうです」

 

衛生兵の言う通り。女の捕虜は大抵レイプされることが多い。寧ろ、そのために生きたままにしておくわけであり、ウェイストランドの女傭兵はそうした危険が伴う。集落においても荒廃したこの地では普通に起こり得ることで、シャルがただ殴られただけなのは奇跡に近い。

 

だが、それを聞いたからと言って俺が怒らなくなる訳ではない。俺が憤りを感じているのは自分自身。彼女を守れずけがをさせたことに非常に腹を立てていたのだ。愛した彼女を守れず、朽ちていく者はウェイストランドに多くいるだろう。だが、それは自分に守る力を持ってない人だ。俺にしてみれば、自前の武器を持ち、エンクレイヴやBOSの力を借りることが出来る。最愛の人を守るすべを持っていたのにこの体たらくだ。

 

 

そんなことを考えていると、シャルの意識が覚醒したらしく、ゆっくりと体を動かし始めた。

 

「・・・・うぅ・・・・ここは・・・」

 

「シャル!無事か!?」

 

「ひっ!」

 

彼女は俺を見るなり、恐怖の滲んだ目線を俺へとむける。そういえば今の俺の装備はエンクレイヴのパワーアーマーであったのだから無理もない。急いでヘルメットを外して彼女に顔を見せた。

 

「シャル、俺だ!ユウキだ!」

 

恐怖の孕んだ視線から次第に驚いたような視線へと変化した。

 

「ゆ・・・・ユウキ・・・?」

 

彼女の瞳は俺を見、手は俺の顔元へ近づけ頬を触る。すると彼女の目からは溢れんばかりの涙が流れ落ちた。

 

「い……生きて……た……」

 

声にならないような泣き声と共に彼女はゴツゴツとしたパワーアーマーに抱きついた。パワーアーマーを彼女の涙で濡らしていく。そのか弱い背中を鋼鉄の手で撫でる。

 

「終わったか……」

 

BOS兵士達から生暖かい目線を向けられるがあまり気にしない。浄化装置に目立つ損傷もなく、エンクレイヴ大統領派の兵士も掃討したことで、ここは安全地帯となった。Dr.リーやBOSのスクライヴを呼んで整備を行い、浄化プロジェクトを完遂しなければならない。幸い、浄化設備に異常があるようには見えない。工兵数名を下層と上層に向かわせ、爆発物がないか調べているが、保管されているもの以外見つかってはいない。

 

 

だが、物事がそんな簡単に物事が運ぶとは思えなかった。この後、議会派がエンクレイヴのすべてを掌握した事によってウェイストランドへ入植を始めることだろう。長年に渡り、ミュータントとの抗争とウェイストランド人の保護を行っていたBOSとは必ずぶつかる。どちらかが倒れるまで戦争が行われるかもしれない。外交によって解決するのが一番望ましいが、懸け橋となるのは、どちらとも交流のある俺やシャルだ。この後は双方が血を流さないように動かしていかなければならない。困難な道は続くだろう。

 

 

「・・・・・ぐすっ・・・・もう大丈夫」

 

赤く目を腫らしたシャルは袖で涙を拭く。その様子を見ていたBOSの隊員はタイミングよく俺に報告を行う。

 

「報告!下層階及び上層、浄化プラント、外周部の残存的勢力は全て掃討完了しました」

 

「よろしい。国防総省に連絡。すぐに技術者チームをよこしてくれ」

 

 

「了解・・・」

 

兵士が敬礼を行い、長距離無線機を使おうとした時だった。館内のスピーカーが突如として通電し、ノイズが館内全域に放送される。

 

 

 

 

 

『・・・・・ははっ!はははははははは!』

 

突如として館内に響く初老の男性の笑い声にそこに居たBOS兵は驚きの声を挙げる。それは誰しも聞いたことのある声だった。

 

「その声は・・・・・」

 

『何を勝ったつもりでいるのだね?まだこれからではないか』

 

その声の主。エンクレイヴの総司令官として君臨していたジョン・ヘンリー・エデンその人だ。

 

 

「狂ったAIめ!」

 

悪態をついた後、浄化装置の上の方から浮遊するロボットが現れる。それはMr.ガッツィーのような蛸の足のような腕を持っているが、球体にはテレビのブラウン管らしき画面が取り付けられていた。

 

『狂っているとは心外だ。私からしてみれば人間の方こそ狂っていると言えるがな』

 

画面に映されたのはエデン大統領の表の顔であるアンドロイドの顔が映し出された。しかし、本体はZAXスーパーコンピューターであり、彼に顔などは存在しない。

 

「下層階にコンピュータールームがある。やつはそこに居るはずだ。」

 

 

ZAXスーパーコンピューターを設置する場所は限られている。あるとすれば、浄化施設制御を行うコンピューターのある電算室だろう。ただ、あの場所にZAXが収まるようなスペースはあるのだろうか。

 

「了解!直ちに」

 

命令したナイトは他の兵士を連れて下の電算室へと走る。その光景をカメラに通して見ていたのかエデンは再度笑い声をあげる。

 

「無駄だ・・・・、君たちに未来はないのだよ」

 

 

「・・・・まさか!」

 

 

はっと思いだした俺は浄化チャンバーへと向かう階段を駆け上がり、浄化槽フィルターの薬品ボックスをのぞき込む。そこには生物汚染(バイオハザード)マークが書かれた金属製のパッケージが装着され既にフィルターに何かの液体が染み付いていた。

 

『これで全てが終わる。地球の全生物を変化させた人類はやっと死に絶え、新しい時代が始まる。新たに作られたFEVによってこの地は浄化され、ここから流れる水によって世界に広がっていくだろう』

 

オータム大佐は大統領派や西海岸の将校を尋問して出てきた情報であったが、生物化学兵器となったFEV改良型が密かに開発されている情報を伝えていた。

 

それはゲームでvault101から出てきた主人公がエデン大統領に渡されるあのウィルスである。ただ、シャルのことだから、無論拒否したのだろう。ゲーム進行的に持たなければ話は進まないのでどうにもならないが、頑なにエデンを拒否続けたために、エデンは自分や崇拝していた兵士を使ってウィルスをばら撒くつもりだ。

 

かつて西海岸で勢力を保っていたエンクレイヴはリチャードソン前大統領によってFEVをばら撒こうとしていた。それは『選ばれし者』によって阻止され、西海岸のエンクレイヴを壊滅させた。ただ、FEVによる世界の浄化はエデンに引き継がれ、「人類の滅亡」という新たな目標を成し遂げようとしていた。

 

補助用の濾過フィルターに入れられ、ウィルスの入った容器は外すことは困難だろう。無理に外しても、容器から漏れ出し、周囲を汚染することにも繋がる。そして取り付けられた装置は既に機械内部でウィルスが広がってしまっているかもしれない。

 

ただ、この施設の原子力発電の融合炉を破壊すれば人類の破壊は防ぐことが出来るだろう。

 

俺は無線の回線を開いた。

 

「全部隊に告ぐ。エンクレイヴの生物兵器が浄化設備に設置されていた。工兵及び必要最低限の人員を除いて速やかに浄化施設から退去せよ。」

 

無線によって周囲にいる全部隊へ通信した後、今すぐにでも退去しなければならない人を思い出し、彼女の近くにいた兵を呼ぶ。

 

「そこのナイト、彼女を連れて外に出ろ!」

 

「いや!待って!ユウキ!」

 

泣き叫ぶシャルを尻目に工兵と広域無線機を背中に背負った兵士を近くへ呼んだ。最後に何か言ってやりたかったが、言う暇もない。多分、彼女と別れの言葉を交わせばそのまま目の前の危機から逃げ出したくなる。

 

彼女の叫び声を聞きながら、彼女の元に走りたくなる気持ちを抑えて歯を食いしばる。周囲を見れば、無線機を借りた無線兵は俺の無線を聞いたのか、顔面蒼白となっていた。

 

「大丈夫だ、君は無線機を置いてそのまま退去しろ」

 

俺と同じか、それより若いイニシエイトの無線兵は頭を下げて扉の元へ走る。恐怖の色を見せながらも近くで命令を待つパラディンはこちらを見て命令を待つ。

 

「下層階に行った兵士が居ただろう。彼の元に行って電算室を確保しろ。破壊はするな。手出し無用と伝えておけ」

 

「了解です・・・・、しかしどうなさるおつもりで?」

 

「これを作ったのはDr.リーだ。国防総省では既にこちらから通信が来るのを待っているはず。もしも、どうにもできなかった場合はこの施設を破壊する」

 

「!?・・・・しかし!」

 

異議をとなえようとするパラディンに対し、俺は首を横に振った。

 

「エンクレイヴのオータム大佐の報告では、今回のウィルスは致死率90%、感染率9割を超えるものだ。しかも、ウィルスは人間以外に対して効果がなく、生命力の強いやつだ。これを少しでも外に出せばどうなるか・・・・・わかるよな」

 

「・・・くっ!」

 

作戦目標であるこの施設を破壊する。BOSの実働部隊の半数を減らしてまで奪還したそれを手放すことはBOSにとってつらい決断だ。それは末端の兵士から指揮官であるエルダーもそうだろう。

 

無線兵からもらった無線を起動させ、国防総省へ呼びかけようとしたが、近くのインターホンから独特な女性の甲高い声が聞こえてきた。

 

(ねぇ、だれか!聞こえてる?浄化施設を奪還したんでしょ、今すぐ応答して)

 

Dr.マジソン・リーの声が響く。手に取っていた旧型の広域無線機のマイクを置いて、インターホンに話しかけた。

 

「Dr.聞こえてる。浄化施設を奪回したが、補助用濾過フィルターの薬品入れにFEVの容器を入れられた。猛毒性のウィルスだ。これを外す術はないか?」

 

(なんですって!・・・少し待ちなさい。今、エンクレイヴの技術者と話をしているわ)

 

確か、今話しているのは国防総省で待機しているDr.リーだが、既にエンクレイヴ議会派は戦闘中にBOS接触しているのだろう。もしかすれば、先の市街地戦闘で介入した部隊はBOSとの交渉を有利にするための行動であったに違いない。

 

「核融合炉をメルトダウンさせ施設全体を消毒すればウィルスが外に出ることは無いはず」

 

(……!いえ、そこまでしなくても、エンクレイヴは安全策としてG.E.C.Kの再構成範囲を広げることでウイルスを殺してしまうようにすることができるようよ)

 

「どうすれば出来る?」

 

(浄化チャンバーのコンソールからシステムにアクセスして。パスワードは“Apocalypse”よ)

 

「それとエデン大統領のサーバーが電算室にいるが、電算室から浄化施設を操作することが出来るのか?」

 

(それはないわね。電算室にあるのは建設当時に建設用のプロテクトロンの管理用に設置したものなの。内部のコンピューターは補助的な電算のみで管理権限は与えていないわ。動かせるとしたら地下の原子炉位だけど。今はエンクレイヴの外部電力で賄われているから使ってない筈)

 

内部の浄化チャンバーに入ると微量の放射線を確認し、短時間であれば居ることは可能なので、エンクレイヴの設置したコンピューターによってG.E.C.Kの操作に取り掛かる。彼女から教わったパスワードを使用し、起動に成功すると、インターホンのスピーカーから何かを話している声が聞こえてきた。近くにいるエンクレイヴの科学者と会話をしているのだろう。

 

その間、俺は無線で地下に居る兵に退去するよう命令を下す。

 

コンピューターには『G.E.C.K分解構成レベル』と銘打たれていて、分解するレベルを調整するらしい。他にもいくつかの数値をいじる項目があったが俺の知識でいじれるような代物ではなかった。

 

「Dr.リー、どうするんだ。分解構成レベルをいじるのか?」

 

(そう、それを・・・・・ちょっとまって・・・・そうこれね!数値をLOWの30からHIGHの90まで増やせばいいわ)

 

画面の選択肢はLOW(30)やMEDIUM(50)、HIGH(90)、OVER(100)と設定されている。さっき言われたHIGHの項目にチェックを入れると、周囲の機械が反応し、警告音を発する。

 

「Dr.今のは?」

 

(チャンバー内に汚染物質かあるいは生物汚染を確認したサインね。あとはマニュアル通りやれば浄化施設は稼働するはずよ!)

 

(ただし、起動時に強力な衝撃波と放射線が発生するわ。パワーアーマーでも耐えられないわ)

 

なら、急いで起動準備させ、秒読み中に脱出すれば問題ない。浄化装置の起動コンソールに触れようとした時、突然警報が鳴り響いた。

 

(ビィー!ビィー!ビィー!……)

 

「一体……」

 

浄化装置のコントロ―ルチャンバーの扉が閉まると、ガイガー・カウンターが放射能の上昇を伝えている。

 

(なんてこと、地下の核融合炉が動いているわ。急いで浄化装置を起動しないと、施設が爆発するわ!)

 

 

 

 

 

「……あぁ、そうか。やっぱりゲーム通りか」

 

 

やはり、この世界はゲームと全く同じだった。多少、差異はあるものの、大きな流れは変えられなかった。

 

自己犠牲……

 

キリスト教圏ではよくある自己犠牲によって他者を救う。俺は主人公と同じく、この放射能に汚染されるチャンバーにて身を投じる。だが、俺は主人公じゃない。本来の役目はシャルであり、俺じゃない。

 

この後、BOSの医務室にて目を覚ます。だが、今回もゲーム通りか。本当ではシャルがこの役目を演じるはずなのだ。もしかすればこの違いによって俺が死に、それをバネにシャルは何かするのかもしれない。

 

死なない保証などなく、起動時の衝撃波と致死量の放射能で即死する可能性があった。

 

死にたくない。

 

まだやらなければならないことはある。

 

だが、いまここで起動しなければ浄化プロジェクトは破壊され、キャピタル・ウェイストランドは人無き世界(ノーマンズランド)になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゲーム通り……人は過ちを繰り返す……』

 

 

いつの間にか内部に入っていたエデンのロボットは俺に画面を向けている。

 

『そうだ。人は何度も過ちを繰り返してきた。裏切りに嫉妬、暴力、殺害、戦争……君達は何度も過ちを繰り返してきたのではないかね。醜いと思わないかね、ゴメス君。それを起動すれば、私が作らせたウイルスは死滅する。だが、人間もやがて……いや、今すぐにでも再び大きな殺し合いを始めるだろうな』

 

『世界は最終戦争には包まれていないかもしれない。だが、生き残った人類は再び殺し合いを続けている。次の世界大戦は石と棍棒かね?』

 

 

『君はどうしてもそれをするつもりなのか?人類は互いに殺し合っている。やがて私でなく、人間の誰かが再びウィルスや核を、それこそ生命が息絶えるまで破壊し続けるだろう。最早、君が止めなくとも誰かがやる』

 

すると、遮断扉が開き、チャンバー内の空気が外へと放出される。

 

『今逃げれば間に合うだろう。愛する人に会いたくないのか?浄化施設は爆発し、ウイルスが飛散するが、エンクレイヴならば化学防護チームがいる。基地内であればウイルス汚染は無いだろう。』

 

エンクレイヴは外で待機している。爆発する前に退避すれば、ヘリに乗って逃げられる。レイヴンロックに逃げ込めば安全であり、キャピタルがウィルスの猛威に晒されていても地下壕で過ごせる。無論、食糧生産の限界や人口の激減などがあるだろう。だが、自分の世代で起こらないかもしれないし、もっと後になることも考えられる。

 

『私が保障しよう。レイヴンロックで君は一生を平穏無事に生きられるはずだ。だから・・・』

 

 

だけど、やはり分かってはいなかった。エデン大統領は機械なのだろう。幾らAIとなり、人を凌駕する統治者となったとしても、人の心を持つことはない。

 

俺は持っているプラズマピストルを目の前の大統領の映像を映しているロボットに向けて放つ。画面が破壊され、コントロールを失ったロボットはジェット推進力で天井と床をバウンドして停止する。

 

 

「・・・・統治者としては優秀かもしれない・・・だけど重要な判断をするのはいつだって人間だ」

 

 

煙を上げて人間のように作業用アームを痙攣させたようにぴくぴくと動く。俺はそれを横目で見つつも、コンソールを見て、よくジェームズが言っていた言葉を思い出す。

 

 

「私はアルファでありオメガ、始まりであり終わりだ。命の水を欲するならば、この泉から、好きなだけ飲むがいい。・・・・・・・黙示録21章6節」

 

コンソールに数字を打ち込む。ENTERを打ち込もうとするが、後ろから声がかかる。

 

『本当にそれでいいのか?貴様はもうここから出られないのだぞ?』

 

「・・・・・・はぁ~、だからお前の計画は失敗するんだよ・・・」

 

『なんだと?』

 

どこから出てきたのか、再び同じ型のロボットが現れる。だが、俺のため息とともに出た呆れた声にエデンは困惑したような声を出す。

 

「俺が逃げると思ったのか?愛する者を盾にすれば多少は効果あったかもしれないけど、彼女と共に生きてキャピタルを犠牲にするか、自分を犠牲にしてここを守るのなら・・・・・答えは分かるはずだがな」

 

俺はそのままenterのボタンを押す。

 

(浄化装置起動中・・・・本格稼働まで残り30秒・・・)

 

聞いてて気持ちの良い女性の音声がチャンバー内に響き渡る。どこか聞き覚えのある女性の声はどこか愛しいアイツの声にそっくりだ。

 

「ああ、これは・・・」

 

シャルのお母さんか。

 

どおりで気持ちが楽になるわけだ。

 

 

『・・・・・私は人間ではないからな。人間の愛というものは理解できん・・・』

 

「そりゃそうだろうさ……」

 

『まさか浄化装置を起動させようとするとは……彼女はいいのかね?』

 

「いいわけないだろう!俺だってまだ死にたくないさ!……だけど俺しかいないだろ……」

 

自己犠牲が尊いとは思わない。好きな人に会えなくなるのは嫌だし、ウェイストランドは過酷だが、それでもまだ楽しいことがあったりする。世捨て人のように死ぬのは嫌だが、浄化装置のために死ぬのは嫌だ。

 

だけど嫌でもやらなければならない。もし、やらなければウェイストランドは死に絶え、親しい者は死んでいく。もし好きな人と共に歩めるとしても、その手が真っ赤な血に染まっている。ウェイストランドよりも彼女を選んだとしても、彼女はこちらを振り向いてはくれない。

 

 

彼女が笑わない世界なんて誰が欲しいのか。

 

 

(残り20秒……)

 

『……そうか……私は機械だ。何を言い繕っても人ではない。』

 

「ああ、あんたは人間じゃない。ただの機械だ。0と1の計算機だ」

 

『そうかもしれん、ただ私の創造主もだがな』

 

「……何だって……今なんて言った」

 

ZAXスーパーコンピューターから遠隔操作しているエデンは、人間の喜びという感情を理解しているか分からない。だが、画面に映された笑顔は笑顔という単語の枠から外れた狂気に満ちた表情だった。

 

『私の創造主は人ではない。元々、この頭脳の大半……コピーはとある惑星から発した……の墜落した宇宙船のコンピューターから解析し組み込まれたものだ。』

 

言わば代理出産。人間という母胎から生まれた存在。だが、人が創りし機械ではない。

 

『……エリア51……私のコピーはそこから生まれた。』

 

『人という存在は激しく愚かだ。何故、宇宙人と呼ばれる種族が地球に墜落するのか。何処からともなくUFOを見たと言い、政府は相手にしないでオカルトして作り話として定着する。……それを誰も彼らからのプレゼントだとは気づかないとは……』

 

 

「……一体何を言っている?」

 

エデンの話す言葉が理解出来ない。人が新規に作ったのではなくコピー品?それもエリア51で生み出された?

 

どっかのオカルト雑誌からの切り抜きなのか。どうしてもそれが事実だとは信じられない。

 

『あの核戦争は誰が起こしたと思う?末期的な食糧難で餓死者が多かった中国。そして、同じく食糧難と新ペストが蔓延していたが、まだ政府機能は維持していたアメリカ。あの年の終わりには米中共同宣言によって戦争は終結する筈だった……。さて問題だ、どこの陣営が最初の核を撃ったと思う?』

 

「……しらない……、どっちが最初だ?」

 

『言っておくが、アメリカでもなければ中国でもないぞ。ロシアでもない。……この地球上どこの誰でもない。』

 

……嘘だろ、それじゃあ核戦争の発端は人類ではないということ?ZAXの謀反?イヤ違う。彼らはそこまで軍事には利用されてない。とするなら……

 

 

(起動まで残り十秒……)

 

『これでお別れだ。ゴメス君……真実にたどり着いてしまった宿命だな。』

 

『今回は失敗したが、彼らが必ず人類を滅ぼす。君は死者の世界で見物しているといい』

 

 

『ハーハッハッハッハ!アメリカよ栄光あれぇ!』

 

エデンの叫び声はチャンバー内に響き渡る。アメリカ復興するための機械は狂い笑う。その声と共に浄化施設は起動した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて、自分を育てるため、人類の明日に背を向けた父。

その父の足跡を追うため、Vault 101を飛び出した2人の旅人がいた。

 

 

荒れた大地と荒んだ心が支配している不毛の地で、多くの人々が悪に屈していく中、二人の旅人は闘い続けた。

父の教えは確実に子へと受け継がれていく。

勇気、愛、仲間。

その気高き心が、旅人達を導いた。

 

 

そして、長い旅の果てに、二人の旅人がたどり着いた答え。

勇気のもつ真の意味、それは犠牲。

己の身を、汚染されたコントロールチャンバーに投じ、

かつて父がそうしたように、人類の明日のために片方の旅人は命を捧げた。

 

 

 

 

選ばれし者として、多くの命を奪うことを、旅人は拒んだ。

人の過ちを許し、絶やすことのないよう、命の水が流れ始める。

全ての人類のために、誰にも奪われることのない美しい水が、不毛の大地を救った。

 

 

Brotherhood of steel

 

Brotherhood of steelはジェファーソン記念館奪還戦において戦闘要員の半数を失った。

リバティー・プライムという超兵器を得たものの、使えなければ無用の長物であった。

エルダー・リオンズはエンクレイヴと交渉の末、不可侵条約を結ぶ。ジェファーソン記念館の浄化施設を本拠地として移動し、要塞化した国防総省を手放した。

エルダー・リオンズ死後、アーサー・マクソンは正式に西部BOSからの独立を宣言。

2280年には、キャピタル・ウェイストランドにおけるスーパーミュータントの撲滅に成功する。エンクレイヴと和親条約を結び、2290年に新アメリカ合衆国憲法発布と議会の設立に向けてBOS母体とする「鋼鉄党」という政治結社を結成する。エンクレイヴの援助によって、軍事力を強化したBOSは連邦へテクノロジーの回収に行く。

 

 

 

 

 

 

メガトン

 

メガトンはエンクレイヴ特別自治区となった。違法薬物と過剰な重火器を没収した後、エンクレイヴの支援によって多くの入植者が救われた。浄化プロジェクトによる清潔な水の提供によって生活環境が改善された。メガトンの目の前の荒れ地は耕され、ポンプで送り込まれる綺麗な水は大地を潤し、穀物を育てていった。

 

ブライアンはモイラに預けられた後、ウェインやビルによって厄介な実験を受けない様、二人が身代わりとして犠牲となった。二人は一時的に禿げたり、ニキビが出来たりしたが、友人のような関係を築きつつ、二人の旅人を待ち続けた。ブライアンは独り立ちした後、メガトンに武器屋を開く。

 

傭兵兄弟のウェインとビルは傭兵家業から足を洗い、メガトンの自警団に所属となった。メガトン特別市と名前を変えた時、自警団はメガトン市警に名前を変え、ルーカス・シムズが総監となり、メガトン周囲の治安維持に努めた。

 

 

リベットシティー

 

自主的にエンクレイヴに編入した。船倉の住居区画を改善し、エンクレイヴの衛星都市として機能する。加えて浄化施設に駐屯するBOSの隊員が来ることによって経済は右肩上がりとなる。

 

武器商人のフラックとシュアプネルは空母の武器工場を経営して「flag&sure」という製造メーカーを設立する。戦前の武器を改良したものを製造した彼らはウェイストランドでも有数の富豪となった。

 

 

Brotherhood of steel out cast

彼らは完全に崩壊した。生き残った隊員はリオンズが寛容な態度で受け入れるものの、殆どはエンクレイヴの攻撃によって玉砕した。辛うじて生き延びた者達はハイテクレイダーとなり、エンクレイヴへのテロ攻撃へと軸を変えた。

 

旅人たちに救助された専門家もといスクライヴ・クロエは顔の半分に火傷を負いながらも、生きながらえることが出来た。彼女は国防総省の病院に収容されていたが、out castの一員であったために疎まれた。回復後、彼女は何処かの組織のリクルーターと接触し、行方を眩ませた。

 

 

 

 

 

デイブ共和国

 

エンクレイヴの支配に入らず、独立国の立ち位置を変えなかった。2280年には大統領のデイブは暗殺され、エンクレイヴに吸収された。

 

 

テンペニータワー

 

エンクレイヴの前哨基地となった。高層ビルの上には巨大なレーダーを設置し、ヘリポートが増設された。キャピタルウェイストランド南西部のもっとも安全な場所となった。テンペニータワーの住民はエンクレイヴ軍へ住居と憩いの場、酒を提供し大いに潤った。

 

 

 

アンダーワールド

 

特別保護区域とされた。歴史的な遺物や貴重な生物を保護するため、許可のあるもの以外入れないようになった。エンクレイヴは大戦後に大部分の歴史を失い、アンダーワールドに住む戦前のグールから大戦の歴史を学ぶ。BOSやウェイストランドで蔑まれていた彼らは、生きる歴史としてエンクレイヴに迎え入れられた。

 

 

Vault101

 

住人はエンクレイヴに吸収された。彼らはかつての故郷に思いを馳せながら、エンクレイヴの住宅地で技術者や労働者・警察官など様々な地位を得た。あるものはエンクレイヴ軍に入隊することになる。

 

 

 

 

 

 

エンクレイヴ

 

大統領の死後、急進派の閣僚を逮捕した。アウグストゥス・オータム大佐率いる議会派と呼ばれる政治結社は政府中枢を掌握。2277年政変と呼ばれる事件によって、大統領独裁を行っていたエンクレイヴの歴史に終止符を打った。

 

議会派は2280年にはBOSと共闘してスーパーミュータントを撲滅。いくつかの知的ミュータント以外を完全にキャピタルから消滅させた。この年にエンクレイヴはアメリカ合衆国の再建国宣言を発表。2290年までに議会を開催し、憲法の発布と政党の結党を許可した。議会は新共和党を設立。過去のアメリカを取り戻さんとする保守派の集まりではあったが、市民議会の設立する新民主党と長年対立を続けることになる。

 

キャピタル・ウェイストランドのD.C.都市部を中心に都市改造を行って、2285年には議事堂を再建。各省庁を移転する計画となる。2290年、新アメリカ合衆国憲法を発布した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Vault 101を飛び出した旅人の、一つの旅が今終わり、歴史に綴られた。

しかし、人類が歩みを止めることはない。

生き残りを賭けた終わりなき闘い。人は……過ちを繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前の話でラストと言ったな?

あれは嘘だw


後日談というか、最終話は次です。ラストクエスト(本編)は終了したので、次はBroken Steel (壊れてない)話になります。若干ゼータも混じるかと。


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四十八話 エピローグ

三月に投稿しようとしてました・・・・・気づいたら四月になってました・・・・m(__)m

公約違反w

なので、5月までに次回作のNewveagas編の予告編上げます・・・・

後書きを後々、気持ちの整理がついたときに書いていきます。




 

 

『このメガトンはエンクレイヴに編入された。豊かな暮らしに清潔で安全な水。我々の身体に必要なものがエンクレイヴから提供された。だが、彼等は我々を人だとは思っていない!我々を奴隷かミュータントの何かであると考えている。我々は奴隷か?いや違う!我々は強権的なエンクレイヴに対して反撃しなければならない!』

 

 

アウターメガトンの一角。酒場の片隅に男が一人演説を行う。彼の服装はエンクレイヴの供給する綺麗な服ではなく、バラモン革で鞣した雑多な服だった。よく見れば、彼の足元にはチルドレンアトム教会の聖書がある。だが、彼らは政治結社ではなく、危険なテロリストの証だ。

 

 

酒場のカウンター席に腰かけた傭兵らしき人物は傭兵が好んで着るレザーアーマーに「flag&sure」印のアサルトライフルを背中に掛けており、バーテンダーにウィスキーを注文する。

 

 

「ウェインの旦那、こんな時に来るなんてタイミングが悪いですな」

 

 

バーテンダ―は視線を左右に動かしてウェインに分かるように目配せする。だが、それを知っていたウェインは肩を竦めると、ショットグラスに傾け、喉にウィスキーを流し込む。

 

 

「ここもあらかた掃討されたはずだろ。なんであいつ等居るんだ?」

 

 

「アトムの奴らは何処にでも居るからな。でも……ほら来た」

 

 

バーテンダーは言った時、酒場の扉が開かれ、警官が2名ほど現れる。キャピタル全域の治安維持を目的とする首都警察と呼ばれる彼らは、新たに考案された防弾プレートを背中と胸に入れたプレートキャリアを身に着け、その下には紺の制服を着ている。半分はエンクレイヴの“一等市民”で構成され、高圧的な態度が多いのが特徴だ。

 

 

 

「おい、貴様!ここでの布教は禁止だとママに教わらなかったか?」

 

「またアトムの狂信者共だぞ。今日で7人目だ」

 

ホルスターに手を伸ばし、暴れても咄嗟に銃を抜けるよう準備する。1人は手錠を持ち拘束しようと手を伸ばした。

 

 

「この侵略者共め!」

 

宣教師の手にはリッパーが握られており、近くにいた警官の肩に切りつける。しかし、警官は慣れた手つきでそれを避け、リッパーを弾いて床へ叩きつける。

 

「どうせ末端の輩だ。……署まで連行する」

 

ウェイストランド流なら、この場で射殺して外に投げ捨て、野晒しにしていた。だが

世間体を気にするためか男の手に手錠をはめ、外のpoliceと書かれた払い下げの装甲車に連行する。宣教師が持っていた聖書箱は酒屋の外の道に積まれ、白燐手榴弾で燃やされる。

 

周囲は驚きと反抗の渦と言いたいが、酒場の周囲は「またか」と言わんばかりの雰囲気であり、寧ろ近くのアウターメガトン市民にとってアトム教会の輩は危険なテロリスト集団として認知されていた。

 

 

アウターメガトンが形成されて2年。エンクレイヴがここへ来て3年が経とうとしていた。彼らは2277年政変と呼ばれる一連のクーデター事件があったものの、方針は全く変わらず、メガトンとリベットシティーを編入。キャピタル全体をカバーすることは容易でなく、エンクレイヴの科学や生産能力の恩恵を得るには二つの集落に行くしか方法はない。そのため、自然と人が集まり、核爆弾を囲う元からあったインナーメガトン。そしてエンクレイヴの恩恵に預かろうとインナーメガトンからスプリングベールと小学校跡、エンクレイヴ駐屯地の周囲に築かれたアウターメガトン。集落の面積からすれば、過去最大の集落となった。

 

しかし、問題が幾つもある。エンクレイヴの資源も有限であるため、出来る限り、メガトンは自給をしなければいけない。メガトン周囲には農耕用地を作り、食料自給率を伸ばしているが、続々とメガトンに入植する人々は増加し、そのたびに食糧が不足するという負のスパイラルに陥っていた。しかも、其れだけでなく、入植には審査などは行わず、人頭税などを取るだけであるため、犯罪者やエンクレイヴに対してテロ攻撃を行おうとする者も中にはいた。例えば、先のようなアトム教会の宣教師等が良い例であり、核爆弾の撤去を行うエンクレイヴ兵を殺害したことにより、政府から危険な宗教として見られ、メガトンから追放刑となった。だが、エンクレイヴが彼らの聖像を奪ったために、エンクレイヴへ「神の鉄槌」を下すべく、動き出しており、ベルチバードや装甲車、メガトンでも展開している首都警察もテロ攻撃の対象としていた。そして、他にも・・・・

 

「奴さんがおいでなすったぞ」

 

バーテンダー、いやそれに扮した首都警察の刑事は酒場に入った男を見て、ウェインへと呟く。ウェインはため息を吐いてウィスキーを傾ける。

 

入ってきた男はウェインと同じような傭兵の恰好をした、彫りの深いアフリカ系の男だった。普通の傭兵に見えるだろう。だが、男の背中にはレーザーライフル、腰にはプラズマピストルと重武装なのが窺える。そこらの傭兵はエンクレイヴ軍の活躍によって開店休業状態であり、賢い傭兵は辞めて首都警察に入っている。ともすれば、男の身なりはどうしても今の傭兵としては疑問が残った。どうして、高価なプラズマピストルやレーザーライフルを携行しているのか。

 

男は首を左右に動かし、隅に集まる妙な傭兵集団へと近づいた。彼らもまた、巷の傭兵とは違い、かなり良質な武装であった。

 

「ウェイン、指向性マイクの調子は?」

 

「問題ない、ダニエル。続けるぞ」

 

ウェインがカウンターテーブルに置いた「銃と弾丸」の本は、中身が指向性マイクとなっており、彼はその妙な男たちの会話を聞くために見晴らしのよいカウンター席に腰かけていた。

 

『ディフェンダー、首尾はどうだ?』

 

『排水溝に我々のアーマーを隠しておいた。インナーメガトンには奴らの軍も火器の所持を禁じているらしい』

 

『なんでだ?』

 

『以前、奴らの兵士が酔って発砲したようだ』

 

先ほど、酒場にやってきた傭兵風の男はディフェンダーと呼ばれているらしく、何かの地図をテーブルへ広げた。

 

『レイダーの陽動攻撃によってインナーメガトンの周囲は手薄になる。ここの隔壁は他と違い脆弱だ。C4爆薬で穴が開く』

 

『内部の公安勢力は?』

 

『首都警察の拠点はあるが、パワーアーマーは無いから何とかなる。比較的軽武装だから簡単に対処できる』

 

『兄弟達には今夜行うと伝えろ、奴らに償いをさせるぞ』

 

ディフェンダーと呼ぶ階級に仲間を「兄弟」と呼称する。そして、エンクレイヴに対して憎しみを抱いている。憎しみを持つ組織は数知れず。だが、ディフェンダーや兄弟を呼称する団体は一つしかない。

 

「BORの野郎共、なんてことを考えてやがる」

 

Brotherhood of steel out castはエンクレイヴの攻撃によって、本部のインディペンデンス砦を破壊された。しかし、攻撃から生き延びた隊員はエルダー・リオンズの元に戻ることはなく、エンクレイヴへテロ攻撃を仕掛けるテロ組織「Brotherhood of revenge」B.O.R.を

結成した。リオンズのようなウェイストランド人への救済を考えない彼らは周囲の犠牲も厭わないテロ攻撃を行い、ウェイストランドでは害悪極まりないレイダーと同等とされるに至った。

 

首都警察はテロ組織と化したoutcastを狩り出すため、多くの捜査員を投入しているものの、決定打はまだない状況だ。

 

「ウェインどうする?」

 

「本部にこのことを伝えろ。泳がせるか、それとも予備の捜査員を投入して奴らを逮捕するか聞け」

 

バーテンダーは「酒蔵から追加の持ってくるから見ててくれ」と言い、その場を離れた。ウェインは彼が出したイグアナのサイコロステーキを頬張りながら、ヌカ・コーラで喉を潤す。だが、イヤホンから聞こえる男達の話により、彼の背中はびっしょりと冷や汗が流れていく。

 

『最近、首都警の奴らの動きが激しい』

 

『市街地や官庁街かなり整備されているからな、他の・・・』

 

『いや、そうじゃない。潜入した兄弟の何人かは奴らの監視下にも入っている。もしかしたら、この酒場も監視されているかも』

 

心臓の音が早鳴る。掌には汗が滲み、視線を他へとむける。それがマズかったのか、その行動に気づいた男たちの一人がウェインの元へと歩いてきた。

 

「おい、お前。俺たちの事見てたな」

 

潜入捜査員は酒場にはバーテンダーと物売りの女性、そして傭兵の恰好をするウェインの三人しかいない。5人以上いるBORのテロリストとでは、火力の違いもあり、瞬時に灰かプラズマ粘液になるのはウェインだ。言葉を選ばなければならないと思い、傭兵時代の言い回しや態度を鑑みて口を開いた。

 

 

 

 

「は?何のことだ?俺はてっきりカマ野郎のパーティーだと思ってたんだが?」

 

 

 

「んだと!この野郎!」

 

 

挑発に乗った男はウェインの胸ぐらを掴むが、ウェインは腰にあったホルスターから10mmピストルを引き抜き、掴んでいる男の胸へ銃口を押し当てる。

 

「っ!!」

 

他の男たちも持っていた銃をウェインに向けるが、胸ぐらを掴む男が居て撃つことは出来ない。

 

「落ち着けよ。いきなり声を掛けてきたのはオメェだろ?カマ扱いしたのは悪いと思うが、あの後どうするつもりだった?」

 

「もういい、部下が失礼した」

 

根を挙げたのは詰問してきた男でなく、ディフェンダーと呼ばれたアフリカ系の男だった。ここで騒ぎを起こせば、首都警察の目につくだろうと思い、直ぐにこの状況を落ち着かせたかったに違いない。

 

「それならいい。こっちは久々にゆっくりと食事が出来ているんだ。ちょっかいを出すのは辞めてくれ」

 

傭兵家業で一番大切なことは「舐められないこと」。自身が武器を持ち、いつでも相手を殺せるという意思表示も必要である。銃をホルスターに戻すと、ウェインは男を突き放す。ウェインの胸ぐらを掴んでいた男は腹いせとばかりにカウンターの板を蹴る。

 

「あっ……」

 

それがいけなかった。廃材で作った再生品の塊であるカウンターは衝撃で凹む。穴を見れば光線兵器を弾く特殊装甲が垣間見える筈だ。だがそれだけではない。カウンターに置いてあった、指向性マイクを仕込んである本が衝撃で落下する。ウェインは落下する直前で拾おうとするが手をすり抜けた。本が落ちる音と同時に金属の衝突する機械音が周囲に響き、そこにいた人達は本から出る奇妙な音に注目する。ウェインの胸ぐらをつかんでいた男は本を持ち上げ、床に散らばる機械の破片を見る。マイクなどの盗聴器。なぜ、くり抜いてマイクを入れたのか。男が疑問を持つ寸前、意識が途切れる。何故ならば、脳髄がウェインの持つ銃によって破壊されたからだ。

 

「エリぃ-!!やれぇ!!」

 

近くにいた日雇い労働者の格好をしていた女性はテーブルを引き倒し、持っていた新規設計された短機関銃。いや、PDWと呼ばれる個人防御火器、FN P90が火を噴く。装甲のない、レザーアーマーでは5.7×28mm弾から守ることは出来ない。掃射された弾丸は男達に集中する。運悪く、射線にいたテロリストの男は無数の弾丸を受けて倒れる。だが、彼らは高度な戦闘能力を持っており、すぐ物陰や机に隠れた。レイダーならば直ぐに殺られてしまうが、彼らは元BOS。弱い訳が無い。

 

ウェインは彼らの銃撃から撃ち返してバーカウンターの中に滑り込む。カウンターの裏に隠している破片手榴弾を取り出し、腰に装着した。10mmピストルでは心もとなく、銃床を削り落としたポンプアクション式ショットガンのチューブにショットシェルを詰め込んでいく。

 

「おいおい、どうなってんだこれ!?」

 

「ダニエルか、……うん、バレた」

 

ダニエルと呼ばれた偽バーテンダー改め、首都警察の囮捜査員はバーテンダーの服の上から黒の防弾アーマーを装着し、ライトマシンガンを両手に抱えてきていた。バーカウンターにはレーザーやプラズマが撃ち込まれ、バーカウンターの形は装甲板だけとなっている。

 

「なんでバレたかは聞かないよ。それよりどうするこれから?」

 

レーザーやプラズマを撃たれ、ウェインとダニエルはバーカウンターから一歩も出られない状況となっている。そして、日雇い労働者に扮した女性捜査官も物陰から応射するものの、銃撃は激しさを増す一方だった。

 

「どうしようか・・・おう?」

 

「ん?・・・」

 

ウェインは破片手榴弾を投げ込み、一気に制圧しようと思ったが、バーカウンター内部に投げ込まれた球体を見て驚愕する。投げ込まれたのは、ピンが抜かれた破片手榴弾だった。

 

「に、逃げろ!」

 

勇気があれば、いつ起爆するかもわからない手榴弾を敵へ投げ返すことも出来たが、投げ返すよりも逃げ出す方が得策と考えた二人はすぐにカウンターから飛び出した。幸い、敵の客席からの射線は外れているため、破片は彼らを傷つけはしなかったが、酒場は狭く爆発の音が三人の脳を揺さぶる。三半規管が混乱し、高音が彼らの耳に残り続けた。

 

「オルキンスとウェルシュはカウンターをやれ。ザックはあの女労働者を見てこい」

 

「了解!ウェルシュ、援護しろ」

 

銃撃が止んだため、男達は死んだかどうか見るためにライフルを構え前進する。ただ、彼らには時間がなかった。アウターメガトンとは言え、巡回中の警察官もいる。銃撃戦を聞きつけて突入してくる可能性もあったため、急いで脱出しなければならなかった。

 

ウェインはふらつきながら、落とした10mmピストルを手に取る。体勢を立て直そうとする。すると、目の前には男たちの内の一人がウェインを見つけ、ライフルを構えていた。ウェインは10mmピストルを向けようと思うが、スライドが開かれていた。それは弾倉に弾が入っていないことを物語っていた。それを見た男はライフルを向けたまま笑みを浮かべる。

 

ウェインが抵抗できないことを知って、ゆっくりとした動作でライフルを向けた。まるで今から殺す事を楽しむかのように。生き残ったアウトキャストのメンバーは半ばレイダーのようなことを行って生計を立ててきた。エンクレイヴの輸送隊や何の罪もないキャラバンや小規模の集落を狙ったりもしていた。彼らの中で善悪の区別が曖昧となり、残虐行為に喜びを見出す。ウェインを今にも殺そうとしている男も例外ではなかった。だが、ライフルの引き金を引く瞬間、外から大きな金属がぶつかる音が聞こえ、その男も含めた全員がその音の方向へ銃を向ける。

 

「なんだ?一体?」

 

壁際に立っていた男の一人が呟いた瞬間だった。

 

突然、壁から鋼鉄の腕が伸び、気づいた時にはその腕が振られて男は反対側の壁に叩きつけられる。金属の継ぎはぎのような壁はその黒い塗装を施された金属製の腕で破壊され、その正体が露になる。エンクレイヴが使用する最新型のパワーアーマー、「ヘルファイアMk.2」だった。

 

「撃て!撃ち殺せ!」

 

レーザーとプラズマ弾が降り注ぎ、パワーアーマーが大破するのを誰もが想像する。手榴弾と壁の破壊によって溜まっていた砂埃が舞って煙のようにパワーアーマーを隠すなか、周囲に聞こえるような声が周囲に響き渡る。

 

「次は俺の番だ」

 

独特の回転音とレーザー発射音の音が響き、無数のレーザー光線が正面でプラズマライフルを構える男に命中する。出力の大きいレーザーは男の来ているレザーアーマーを安々と貫通し、酒場の柱を焦がす。数十発のレーザーを浴びて、文字通り全身ハチの巣となった男が倒れると、周囲の男は戦意が喪失したかのように、唖然とした表情で立ちふさがるパワーアーマーを見る。

 

「奴のようになりたくなければさっさと投降しろ!それとも・・・?」

 

レーザーガトリングの砲身が最後通牒のように回転し始め、男たちは恐怖を覚えて次々と銃を捨てていった。

 

「よし、お前ら!手を頭の上に載せて腹這いになれ!」

 

「貴方には黙秘権がある。この供述は法廷で不利な証拠として用いられる場合がある・・・」

 

次々と突入してくる首都警察の警官はストッピングパワーの優れた45口径拳銃を構えて突入し、次々と彼らを拘束する。

 

「おい、銃を捨てろ!」

 

「待て待て、同じ警官だ」

 

格好も同じであるため、制服警官に銃を突き付けられたものの、胸ポケットにしまったバッジと身分証明書を見せて確認する。そして、パワーアーマーが待機モードに入って、中から人が下りてくる。

 

「よう、兄貴」

 

「ジム!助かったぞ」

 

今は無きリトル・ランプライトの義兄弟。大人として追い出された後も傭兵として共に生きてきた戦友。以前、エンクレイヴとも戦ったこともあるが、二人そろってエンクレイヴの創設する警察組織に入っていた。下手な兄弟よりも仲がいい二人であり、ウェインは職務中にも関わらず、ジムにウィスキーを勧める。ジムは困りながらも、ウィスキーの瓶を受け取るとラッパ飲みでそれを飲んだ。

 

「囮が兄貴とはね・・・・そうだ、気になっている女ってのは・・・」

 

「おい!声が大きい」

 

 

まだ告白もしておらず、思いを伝えていないウェインはジムの口を押えようとするが、ジムの察したような顔を見たウェインは彼の視線を辿った。すると、そこにはウェインの同僚の二人が抱擁を交わしている姿であった。勿論、ウェインの素知らぬことである。

 

「・・・どんまい、兄貴」

 

「リア充爆発すればいいのに」

 

『リア充』という単語を教えてくれた人物にウェインは久々に会いたかった。だが、その教えた彼もリア充に含まれる。腕っぷしや戦闘能力に掛けてはずば抜けているウェインであったが、この方、恋人が居らず、弟分に先を越されるに至る。自分の恋が敗れ去ったウェインはウィスキーの瓶片手にさみしい夜を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「閣下、こちらにご署名願います」

 

「枢密院の原稿が仕上がっておりますのでご確認を」

 

「宇宙軍のオキタ司令より月面での作戦報告書です」

 

 

 

メガトンより遠く離れた旧米軍が建設した、首都機能を移管すべく設計された超巨大核シェルター「レイヴンロック」の行政区域でも最高レベルの裁定を行う「白地区」とも呼ばれるエリアがある。その白地区は大統領官邸の名前から取ってきており、内装は最終戦争で消し炭となったものと寸分違わぬサイズで再現されている。これは最終戦争後に政府最高指導者が核戦争後の執務もある程度のストレス軽減すべく考案されたものであったが、200年たった今では遺構として扱われていた。嘗てのアメリカ合衆国という大国を表現するかのような、内装はノスタルジックな気分にもさせ、レイブンロック以外にも崩壊した旧エンクレイヴ総司令部のポセイドンオイルリグの大統領執務室も同じ様式である。ただ、このノスタルジックにさせる執務室こそが嘗ての大国の妄執とも言える思惑を増長させる原因となった。

 

 

「ホワイトハウス建造計画書」と銘打たれた計画書の束を見ていた新アメリカ合衆国第2代目大統領、アウグストゥス・オータムは黒のスーツと赤いネクタイをして執務机に座り、各分野の担当官から来る書類にサインを行う作業へと移り、枢密院と呼ばれる法案決定を行う議会のような機関で発表する原稿を受け取る。

 

多くの補佐官に支えながらも実務をこなしていくオータムは最後の旧アメリカ合衆国大統領であるエデンを思い浮かべる。参謀と補佐官を兼任していたオータムであったが、自分が任命した補佐官たちを見て、自分はここまで働いていたのかと思いを馳せる。兼任していたからエデンは仕事を割り振っていなかったと思いたかったが、オータムに出来る仕事を与えて、他の事項は全て自らが処理していたことが発覚し、彼はひどく落ち込んだ。実務能力を比べれば、人工知能であるエデンのほうが圧倒的に優れており、手際の良さはオータムが自信を無くしても仕方がなく、両者の隔たりは非常に大きなものだった。首席補佐官を中心に、国防や内務、治安維持など様々な事項を各補佐官に担当させて最終決定をオータムが行う、旧来の大統領の職務に戻しつつあるが、一番の懸念は枢密院であった。

 

法案を作成し、発布、施行する手順は国会や議会の機能であるものの、国民の代表を出してそれらを作るには未だに整備がされていないため、開くことは出来ない。そのため、エデンが独裁していたときに結成した「議会」から重鎮を選び、立法を司る「枢密院」を新たに結成し、今後の議会の前身として作られた。問題は彼らが派閥を形成している点である。殆どがオータムに付き従うものが多いが、資本家や文官を中心とする反オータム派もあるため、「議会」から創設された枢密院も一見して一枚岩であるが、中身はそうではなかった。今後、国民の代表から議会を創設する際、オータムなどの旧議会派を集め「新共和党」を結成する予定であるが、派閥争いが過熱すれば、結成前に分裂する可能性もあった。BOSは「鋼鉄党」という政党を結成し、エンクレイヴ内に存在する市民団体は「新民主党」を結党するために、国を動かしていく中で意思を統一していく必要があった。

 

そのため、自らが神輿として上げられ、権力を集中させるためにオータムは傀儡として最高指揮官として担ぎ上げていたドライゼン参謀総長を新アメリカ合衆国第一代大統領として就任させた後、持病の都合で辞任させ、自らが大統領として地位についた。他の重鎮と比べても若く、何時足元を掬われるか分からない不安を胸に秘めていた。唯一の安心はエンクレイヴやキャピタル・ウェイストランドなどにおいて、オータムの知名度や支持率は軒並み高く、軍上級将校から一兵卒に至るまで信奉している者が多いことが何よりも救いだった。

 

オータムは枢密院の原稿を片付けると、首席補佐官に声を掛けた

 

 

「D.C都市部の改修計画は進んでいるか?」

 

「はい、進捗状況は昨日の時点で30%を超えました」

 

首席補佐官と呼ばれた、黒のスーツを身にまとい、黒縁メガネを掛けた30代過ぎの女性はクリップボードに収まりきらない書類を見て報告する。2290年までに行政区域をDC市街に移す計画であるが、様々な障害が発生している。人材や資材の不足もあるものの、一番の問題はDC地下には嘗て逃げ込んだ人々がフェラルグール化して地下墓地(ネクロポリス)となっており、他にも巣を作る野生動物が工事の度に襲い掛かってくることがあった。

 

「年間計画としては順調ですが、やはり地下整備に時間がかかっています。人材と資材の不足も相まって財務省では各政策の縮小も提案されています」

 

「たとえばどんな政策だ?」

 

「政策縮小や中止を提案しているのは、メガトン周辺の開発や農業・衛生の救済の停止

加えてリベットシティーにおける各分野無償援助の停止、他には・・・」

 

「まだあるのか!」

 

オータムは首席補佐官の口から出る耳を塞ぎたくなるような政策停止提案に驚きの声を上げる。ウェイストランドの支持基盤を形成するためにも必要であった政策であるが、財務省から停止を提案されると、無理にでもと言えない状況である。

 

エンクレイヴは西部を捨てたことで慢性的な経済不況を抱えており、西海岸に以前あったエンクレイヴ総司令部と首脳が滞在していたオイルリグが破壊された時、エンクレイヴは一時的な機能不全と経済不況に見舞われた。多くの資材を投入していたため、西海岸など中西部から西を放棄した現在では、その経済規模は陰りを見せている。今回は入植するウェイストランドには、現地住民を新アメリカ合衆国の国民として取り入れ、人口と安定した投資先を確保した。土壌改良によって食糧生産の向上や幾ばくかの天然資源の確保、以前までは地下工場など立地的に難しい場所に生産拠点を築いていたが、ウェイストランドに工場を作ることにより、各産業の生産能力の上昇が期待された。

 

だが、問題がある。ウェイストランドは荒廃した土地という意味合いから、非常に旨みが少ない。つまり、投資しても、返ってくるのが僅かであるものや利益となる時間があまりにも先の話となる。衛生環境や生活環境、教育面において成果を見せて、出生率が上昇したとする。それにより、人口の増加と労働人口に伴って生産規模が拡大する。オータムは長期的な視野を持って、これらの政策を推し進めているが、歴史を鑑みるに国民が見たいのは目に見える自らが享受する利益であり、子や孫が授かる利益を求めない。

 

そもそも、キャピタル・ウェイストランドに再入植すること自体、長期的な視野がなければ入植することは困難である。国民には、殆どプロパガンダに近い報道によってある程度、国民の意識を遠ざけているが、長くは持ちそうにない。そのため、彼らに目に見える形で利益を還元する必要があった。

 

「メガトン・リベットシティーの技術・産業支援チームがあったな。彼らに規模の縮小と両住民へは細心の注意を払って説明しろ。反感や暴動などはごめんだ。完全に停止するのではなく、縮小として半年からゆっくり行う形でいいだろう」

 

FEVの影響を受けていないエンクレイヴ国民やVault出身者は数代にわたってウェイストランドに住み続ける者達と比べて虚弱である。温室育ちであるというものではなく、ウィルスの影響によって過酷な環境でも適応し、病気や放射能に対して耐性を持っていた。そのため、彼らに不必要な薬品や過度な生活環境の改善などは行わず、費用と彼らの状態を鑑みた采配が必要だった。

 

「了解しました。支援チームにはそのように通達しておきます。閣下も一度、彼らの元へ?」

 

「ああ、彼らがどう支援していくか気になる。予定を組んでおいてくれ」

 

オータムは執務机のコーヒーを飲み、眉を顰めた。補佐官の報告を幾つも処理していたら、コーヒーは冷めてしまい、地下農場で生産された高級コーヒー豆を挽いて淹れた物で残念なことをしたと、一気に飲み干した。独特の苦みに旨みを感じつつ、最後に聞くべき宇宙方面担当の補佐官に声を掛ける。

 

「ターコリエン中尉、報告を・・・・、いやその前に場所を変えよう。」

 

オータムの補佐官達に紛れる士官の男、元アメリカ合衆国陸軍第108歩兵連隊第二衛生大隊の衛生兵であったエリオット・ターコリエンはエンクレイヴ軍改め新合衆国軍の軍服とは違って、濃紺の軍服に仕立て上げられた特別仕様の軍服を着ていた。未だ、エンクレイヴの記章のままの将校が多い中、新アメリカ合衆国の国旗と「United States Space Command」の紋章のワッペンが刺繍されていて、ターコリエンは緊張した面持ちで敬礼する。

 

「はっ!」

 

「いや、緊張しなくても構わんぞ」

 

初対面でもない二人であり、首席補佐官までには至らぬが、それなりに日常会話もする2人である。それでも緊張しているのか、緊張の色は消えない。首席補佐官を含める三人は、残りの補佐官や軍幕僚を執務室に待機させると、護衛のシークレットサービスでも極秘情報を交換する際に担当するチームが護衛となり、機密区画のエレベーターへ到達する。

 

エレベーターを守備する兵士の持つ特殊な端末にオータムは手の指紋と脈拍をスキャンし、網膜パターンのチェックを行い、更にはPINコードをテンキーで打ち込みエレベーターに乗り込んだ。エレベーターは下りていき、扉が開かれるとそこには巨大な画面とそれに向かう机が階段状に並べられ、多くの情報士官が分析を行っている。これは、作戦時にエンクレイヴ軍が使用していた戦闘指揮に用いられる指揮センターにそっくりであったが、画面に映るのはウェイストランドなどの作戦地図ではなく、地球を中心とした太陽系や宇宙空間の平面地図とゆっくりと動く立体地図であった。それに加えて、机で分析を行い、そこら中を行き来している情報士官はターコリエンと同じ濃紺の軍服を身にまとっていた。

 

オータムが目的地に行くまで気づいた士官は敬礼し、オータムは返礼しつつ、目的地の宇宙軍の司令長官室へ移る。

 

オータムは入っていくと、執務室には髭をたくわえた壮年の宇宙軍司令長官、オキタ中将が執務机に腰かけていた。

 

「大統領閣下!こんなところへようこそ、こちらへ」

 

60過ぎのオキタ司令は執務机から少し離れた席へ大統領を誘導し、ターコリエンに何か飲み物を持ってくるよう命令し、オータムは熱くしたコーヒーを所望する。

 

「すまないな、本当なら彼から聞けばいいのだが機密保持の問題に加えて、指揮官から話を聞きたくてな。迷惑を掛ける」

 

「いえ、閣下。最高指揮官が気になるのも当然です・・・・なにせ私も最初、彼から聞いた時は戸惑いました。既に脳が放射能にやられてフェラル化したのではないかとおもったものです」

 

知る人ぞ知る、政変の立役者であり、入植をスムーズに進めることが出来た影の人物。エンクレイヴを裏から支配しているとも言われているが、実際のところ、技術者との交流もあり、今後影響力が大きくなると警戒される彼。ただ、彼の情報は一般民衆からは秘匿され、軍上層と政治家、資本家が知るのみとなっている人物。彼はエンクレイヴを崩壊に導くであろう情報を持っており、加えて最終戦争のきっかけを知る者でもあった。あの浄化プロジェクト起動時に事故で多くの放射線を浴びたために脳が破壊されたのではと、荒唐無稽な彼の主張にオータムを含めたエンクレイヴ指導者は疑った。だが、エデンの本体であるZAXのデータを解析すると、既存の技術に加えて未知のテクノロジーを使用したものが見つかり、地球上存在しない言語が発見された。更にそれと機密資料を元にネヴァダにある旧アメリカ空軍基地「エリア51」へ調査隊を派遣。エデンなどのZAXコンピューターはエリア51に保管されたエイリアンのUFOからのテクノロジーを使用した証拠が見つかった。そうした証拠があったものの、最終戦争がエイリアンの仕業という証拠が出てこず、彼は事実上干される形となった。

 

だが、あらぬ形で彼の言っていた事が証明された。エンクレイヴの支配が盤石なものとなった2277年政変から半年後、キャピタル・ウェイストランドにおいて、原因不明の失踪事件が相次いだ。失踪することはウェイストランドにおいてありきたりの風景であった。それはエンクレイヴが来ても変わることがない。ただ、それが異常として認識されたのは、無作為且つ何も証拠が残っていなかったことだ。大抵であれば、血痕や空薬莢があってもおかしくない。犠牲者は入植者やスカベンジャー、傭兵、レイダー、BOSの兵士など挙げられ、エンクレイヴの兵士も多数いた。多くが野外で跡形もなく消失しており、その中には「彼」も含まれた。

 

そして、窓際族として閑職が送られる部署「宇宙軍」と呼ばれる、大気圏外からの攻撃に対応し、ICBMなどの弾道ミサイルの監視や衛星の管理が任される彼らが軌道上に二つの巨大な物体を探知した。そして、彼らの管理する数少ない監視衛星が大型物体から放たれる高出力のエネルギー体を観測し、ユーラシア大陸の山岳地帯に着弾した。

 

この攻撃により、エンクレイヴはデフコン2を発動させた。防衛準備状態となり、1962年10月23日のキューバ危機から二度目の宣言だった。対策会議が開かれ、未だに整備と保存がされていた大陸弾道弾と戦略兵器の準備が為され、軌道上の大型物体への攻撃が実施されようとした時、二つのうちの片方がもう片方に攻撃を受け、月に墜落した。残りの物体へ攻撃も画策されたが、その物体からアメリカ合衆国陸軍の機密度の高い暗号通信で交信してきた。しかも、『アメリカ合衆国陸軍アラスカ方面軍司令、チェイス将軍』に宛がわれた特殊な暗号を使用したものであったために更に混乱させた。そして、その交信をしてきたのは「彼」であったのだから混乱しても仕方がない。

 

「私もですよ。ただ、あのUFOから交信してくるとは・・・・・SF映画染みているな」

 

オータムでさえ、「最終戦争はエイリアンの仕業である」という彼の発言には懐疑的であり、一部の過激な者は排除する動きも出ていた。だが、多くの点で有益な彼の能力を鑑みて、ほとぼりが冷めるまでエンクレイヴから離れるよう言って聞かせたのだ。そんな彼はウェイストランド中で厄介事(クエスト)を引き受けていたらしいが、ひょんなことから彼もUFOに拉致されたようだ。

 

「しかも、我々にとっては賊軍であった彼らを引き受けてくれたのだから。厄介払いもできたのでしょうな」

 

オキタは肩を竦め、コーヒーを淹れてきたターコリエンからコーヒーカップを受け取り、オータムもそれを受け取る。

 

「比較的軽い者達ですが、潜在的に危険と見なすべきと言われましたよ」

 

オキタの厄介払いの発言には不快な表情を見せていたオータムは淹れてもらったコーヒーを貰う。このコーヒーは庶民に行き渡る合成食品と天然のブレンドであり、中流階級が好んで飲む銘柄であった。執務室で飲んだのとはグレードダウンするが、淹れたては香ばしく、美味しさを感じさせた。

 

政変後に西海岸派などに属する将軍や高級将校は軒並み逮捕され、支持やそれらの派閥に属する士官も同様に逮捕されるか、閑職に追い込まれた。士官や下士官には西海岸派閥は少ないものの、それなりに存在し、その多くが思想云々で選んだものではなく、血筋や直属の上司、若しくは取引で属していた。そうした彼らは閑職に追いやられ、軍人としての尊厳や希望を奪われてしまい、それを理由に新合衆国へ歯向かう可能性もある。彼らは目の上のたん瘤として扱われ、「彼」の要請でUFOのクルーにしてしまうことは願ったりであった。

 

オータムは高級将校や将軍達の政治的争いに巻き込まれたであろう彼らに対して同情しており、処刑や収容所送りにしなかったのは、それが理由であった。オキタはオータムのそうした優しさを評価しつつも、弱みであることを理解していた。

 

「閣下、優しさも時には必要ですが、彼らが地球を亡ぼす恐れもありましょう。」

 

西海岸派閥に属していた将校達である。信用できるだろうかと暗に言うが、オータムは否定する。

 

「まさか、それはないだろう。一応、精神鑑定と人物評定で大丈夫な者だけ君に預けたはずだぞ。それでも、まだ不安か?」

 

オータムは依然見たことがあるUFOの乗組員の書類を思い出すが、オキタは諦めたように愛想笑いを浮かべた。

 

「ええ、不安ではありますが閣下が言うのであれば信用いたしましょう。」

 

オキタは砂糖もミルクも入れないブラックをそのまま口に含むと、話題を変えてターコリエンに渡した報告書を机に置いた。

 

「月面に配備した監視基地の報告ですが、エイリアンの残党は完全に制圧したようです。一応、エイリアンの地対艦砲台を鹵獲したので、そのまま流用出来そうです。次はないとは思いますが、再びかれらのような敵も現れないとも限りませんし・・・・」

 

 

「彼」の起こしたUFOでの反乱と制圧。そして、敵の旗艦への破壊行為によって地球は異星人の侵略から救われた。彼らが破壊したのはエイリアンの旗艦であり、国土とも呼べる巨大なスペースコロニーであった。とは言っても、その時、生活していたのは推定100人。他は冷凍睡眠によって眠りについていたのである。

 

エンクレイヴの科学者の推測では、エイリアンは自分の故郷が何らかの理由で居られなくなり、第二の故郷を見つけるべく流浪の旅をしていたという見解を大統領に報告した。エイリアン達は増えすぎた人口を冷凍睡眠によって眠らせ、船を運用する人員と軍人のみで惑星を侵略し、地球をわが物としていたと考えた。墜落した敵の母船からは幾万のエイリアンの冷凍された死体が見つかり、科学者達の裏付けが為された。

 

エンクレイヴが彼らの制圧したUFOを接収し、エイリアンの前哨基地のある月面に降下。エイリアンの残党を蹴散らし、新たなるエイリアンの出現に備えて宇宙軍も科学技術の吸収に全力を注いでいた。

 

「ふむ、エイリアンのテレポーテーション技術を利用できるだろうし、西部の放棄された研究施設で同様の研究が行われていたと報告が上がっていたな」

 

テレポーテーション技術や新時代の超合金。これらは西部に存在する旧連邦政府極秘研究所「ビックマウンテン研究所」で研究されていて、エリア51の断片的な技術を元に新しいテクノロジーを作り上げていた。最終戦争後の混乱によって、ビッグマウンテンの位置情報は失われ、エンクレイヴは断片的な情報を元に捜索を続けたが、オイルリグ破壊と西部撤退以降、捜索活動は停止したままである。

 

「そうか、“彼ら”は今どこに?」

 

「『ゼータ』は地球軌道上でブラットリーハーキュリーズの補給と点検作業に入っているところです。」

 

鹵獲されたUFOは宇宙軍が大型物体として仮呼称として「Z物体」「Y物体」と呼んでいた名残であり、そのままUFOは「DSB-1 Zeta」(Disk type Space Battleship)として新合衆国宇宙軍艦艇として登録された。ただ、宇宙軍内で名称変更の発案が相次いでおり、かつてのアメリカ合衆国建国の父やウェイストランドに入植して多くの人気を得ていたが、暗殺されたエデンの名前が挙がった。

 

ちなみに、エデンは表向き、良き指導者として祀り上げられたままとなっており、悪しき軍指揮官達の陰謀によって暗殺されたと一般民衆には報じられている。これらは議会派が権力中枢を掌握した時に、エデンの大統領権限を継承したことで成り行きのままエデンは正体を暴かれずに済んでいる。もしも、一般民衆にエデンが人類抹殺を目論むエイリアンの刺客であることが知られれば、確実にエンクレイヴは崩壊する。ただ、ジェファーソン記念館にて、エデン大統領の狂言はBOSの兵士達も聞いており、ウェイストランドの七不思議として語り継がれることになるのは別の話である。

 

話を戻そう。

 

オキタ司令はその説明をした後、部屋の照明が消えて暗闇に包まれる。すると、プロジェクターが起動し、フィルム式の古いプロジェクターではなく、200年の間研究されてきたコンピューターによる演算によって、CGによる映像が移された。オキタ司令はそのまま、座った状態でレーザーポインターを地球軌道上に充てる。

 

「ゼータはハーキュリーズに弾薬と技術兵を数名残した後、月面軌道上で補給物資の投下後、地球に降下。ゼータは極秘作戦のため、ネヴァダ州エリア51に到着後、作戦を開始します。」

 

「operation:desert treasureか。進捗状況はどうだ?」

 

『operation:desert treasure』

NCRとシーザー・レギオンとの勢力争いに加え、ニューベガスを支配する謎の支配者「Mr.ハウス」三つ巴の戦いに介入し、NCRの拡大を抑えてシーザー・レギオンを壊滅させる作戦であった。既に大統領は参謀本部と宇宙軍に作戦認可を与えて、宇宙戦艦ゼータに作戦指揮権を委任して任務に当たらせていた。

 

作戦の責任者の「彼」自らが推し進めていたものであり、「Mr.ハウス」の資料とビッグマウンテン研究所についての文書を持っていたことが何よりも作戦を推進する証拠となった。既に、余剰武器や技術を生かした工場を建設して、倉庫に眠っていた旧型のパワーアーマーなどをダミー傭兵会社によって運用している。NCRの勢力拡大の増長にも見えなくもない行動はNCR内部の政治基盤を侵食。NCRが行う元エンクレイヴ要員の狩り出しを抑えるなどを行っている。

 

2280年現在のニューベガス周辺、フーヴァーダムを起点とする場所は火薬庫の呼び名が相応しい鉄火場になっている。ゼータの機動力と緊急展開能力など高性能航空機の使用が考えられるため、ゼータが擁する陸戦戦力を使用した諜報戦を挑むつもりであった。

 

「NCRにおける支持基盤の形成は確実です。影響力のある議員を数名こちら側に引き込みました。工場はあちらの材料を使用した兵器や軍服で賄うことが出来、向こうの貨幣を得られ、今後の活動資金も自力で調達できるでしょう。傭兵会社の方はNCR軍情報部がかなり探りを入れていますが、廃棄した我が軍の兵器貯蔵庫を本部とする傭兵部隊としてストーリーを信じ込ませました。数名、エンクレイヴだとバレ、NCR当局に引き渡すよう命令を受けましたが、先の議員の“鶴の一声”で止めることが出来たようです。多分、CIAの方から連絡が来るはずです。」

 

「バレたのか?」

 

「発覚したと言っても、想定内のことです。ヘリやパワーアーマーの操縦など知る者が居なければ怪しみます。構成員の中にアドバイザーとして任務に就くものも居なければなりませんし」

 

西海岸での諜報活動は、エンクレイヴ軍諜報部から独立し一機関として設立された中央情報局、CIAが任務に就いている。ただ、諜報機関はその機密度の高い任務の性質上、他の部隊と比べ危険度の高い任務を行うことが多く、当然独立性の高い機関であった。しかし、ニューベガスの作戦立案は宇宙軍の「彼」が指揮しており、軍の管轄である。古巣で新たに創設・拡大を続ける宇宙軍と独立したCIA。エンクレイヴでもこの二つの勢力は協力状態であっても、活動場所が重なる両者はライバル意識を強めていた。

 

しかし、オキタ司令はふと、ゼータに乗る「彼」を思い出し、吹き出してしまう。それを見たオータムは驚く。彼は失礼したといい、笑みを溢しながら謝罪した。

 

「いえ、失礼。ゼータの彼のことを思い出しまして・・・彼が居れば宇宙軍とCIAの確執も何とかなるでしょう。BOSとエンクレイヴであった我々を戦わせなかったのですから、何とかなる・・・はずです」

 

 

「・・・ぷっ!・・・それは確かに」

 

事実、彼の行動によってBOSとエンクレイヴの戦いは大統領派による強硬派によって起こされた戦闘として、エンクレイヴ本隊との戦闘は回避された。その後も緊張状態は続くものの、彼の奔走した結果、不可侵条約を締結させ、新アメリカ合衆国に入ることが決定した。合衆国の立法や政治に関与するため鋼鉄党を作るようにしたのも彼のアドバイスによるものであるが、エンクレイヴ以外の準軍事組織として活躍し、勢力を拡大させ続けることにエンクレイヴも多く協力し、共生の関係を築いている。そして宇宙軍とCIAの関係であるが、そこまで心配することもない。なぜなら、ゼータにいる彼とCIAの西海岸方面部長は“懇意”の間柄であるのだから。

 

「それでエン・・・いや新合衆国では重婚は合法にするので?」

 

「さ~、どうだろうな。」

 

彼とその周囲は何かと話題に欠かない。幼馴染みの子と結婚する話もあったが、先の方面部長の関係もあり、加えて幼馴染みでもあるVault出身の女性も現れた話もあり、どっからどうみても、最近文化レベルの高いエンクレイヴ地下都市で流行中の「ライトノベル」というものに見られる「ハーレム展開」なのだろうと、オータムは冗談交じりに聞いてきたオキタに対して少しはぐらかす。稼ぎの多い男は2人目や三人目の妻を娶るべきという意見や養子をとるべきであるという意見も強く、これはかつて見られたイスラム教の重婚を許可していた理由が貧困で喘ぐ人々の救済政策の一つであったことはあまり知られない。

 

若い男性に多い、「モテる男」は羨ましいという風潮があり、「ハーレム」と言った複数の女性に言い寄られたり、関係を結ぶことはよいことであるというものが多い。ただ、そうしたハーレム状態はフィクションにおいて脚色され、美化されているため、良いと思われがちであるが、実際は好きであっても気を使う分、一人の方が気が楽であるという考えも挙げられる。オータムも権力の中枢に近く、複数の女性に言い寄られた時期がある。ただ、一人の女性でさえ、気を使うのに、複数いればどうなるだろうか。その複数の女性を例え愛していたとしても、一人の方がまだましである。

 

一夫多妻制は男側に多くの負担を強いるために、その制度を推し進める意見やフィクションの増長には警戒を強めていた。

 

 

「彼はお人善しですからな。」

 

「今度の作戦で増えてるかもしれませんよ」

 

「違いない!」

 

2人は笑い、部屋を響かせる。その笑い声は宇宙にいる「彼」に届いたのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「は・・・・ハックシュン!」

 

「大丈夫?」

 

「悪い、風邪ひいたかな」

 

背中をさすられ、乾いた喉を潤すべくコップに注がれていた水を口に含んだ。寝ぼけた眼を擦りながら、俺は洗面台に行き、蛇口から出る水を顔に掛けて目を覚ます。滴る顔面についた水滴を拭きとろうと事前に準備したタオルを取ろうとするが、床に落ちたのかそこにはない。すると浮いてきたかのようにタオルが手元に近づき、それを取って顔を拭く。

 

「ありがとう、シャル」

 

「どういたしまして」

 

数年前まで少女の面影があったシャルは今では大人の色気を出し、艶やかな容姿となっていた。髪は伸ばし、子供っぽい雰囲気は無くなっていた。タンクトップにショートパンツという露出の多い服だからかもしれない。ただ、以前にも増して彼女の魅力は増す一方だ。

 

「腕の調子はどう?」

 

「問題ないよ。どこぞの錬金術師か伝説の傭兵を思い出すかな」

 

「何それ?」

 

とシャルの知らない例えを言い、微笑んでそれを尋ねる。

 

「昔見たものでやってた」

 

「まーた、あの話?ほら、腕出して」

 

「はいはい」

 

シャルに呆れられたものの、左腕を出す。そこにあった筈の左手は存在せず、腕の骨と接合したアダマンチウム合金の骨が現れる。シャルが持ってきた金属製の腕を装着して、神経が接続される痛みが走る。一々外すのは面倒であるものの、誤作動でベッドや自分自身、シャルを傷付けるかもしれないため、一々外していた。

 

1本1本指の感触を確かめ、不具合が無いことが分かり、掛けていた軍服に袖を通す。昔、オータムも着ていた佐官服を着ているが、宇宙軍仕様の濃紺になっていて、コートに袖を通した。

 

 

「今日は遅くなるかも」

 

「私は今日、先生に見せる日だから」

 

シャルの下腹部は若干膨らんでおり、よく見なければそれは太っていると思うかもしれない。だが、彼女のお腹の中には新たな生命が宿っていた。

 

「性別は分からなさそう?」

 

「まだだって」

 

シャルも準備し始め、宇宙軍の士官服の上から白衣を着る。外科を多くこなしてきたが、自身が妊婦となったため、出産に立ち会ったことのある産婦人科の軍医に見てもらう予定であった。そろそろ、上司として産休にさせようと思うのだが、「研究が遅れちゃう」と一向に産休申請を出してもらえないので、中間管理職の自分としては辛いところだった。

 

「仕事が終わったら大事な話があるから、終わったら艦橋の方に」

 

「職権乱用?……また悪いコト覚えて」

 

と不満そうな顔をするが、そこまで怒っているようでもなかった。

 

「じゃあ、行ってくる。」

 

「いってらっしゃい。」

 

軽くキスを交わして、部屋を出る。昔なら「欧米だー」と騒いでたかもしれないが、身も心もアメリカ文化に浸り、ウェイストランドでの生活を懐かしく思えるようになった。エイリアンが建築した宇宙船の廊下を歩く。宇宙船の地球外の金属を使う床をウェイストランドの廃墟や寂れた軍事基地と比べたら、眩しすぎるものだった。

 

 

廊下をたまに通る士官に敬礼を返し、艦橋に行くワープゲートに行く。到着すると、そこには火花を散らせたワープゲートに修理道具を携えてきた工兵が待っていた。

 

 

「すいません、艦長。ここのワープは故障中です。練兵場を通ってください。」

 

技官はツールボックスと修理用のエイリアンドローンを使って修理を行う。仕方なく、遠回りであるが練兵場の方のワープを使おう。

 

敵の攻撃を考え、艦橋に直通で行けるワープ装置は二つしかない。そのため、現在いる移住区と武器保管庫にしかない。武器保管庫近くのワープ装置に行くため練兵場を通る廊下を歩いていく。

 

 

 

 

 

 

三年前のあの時、俺はジェファーソン記念館で起動スイッチのENTERを押した後、機転を効かせて足元の金属床をプラズマピストルで撃ち抜いた。

 

溶けた床は俺の体重を支えられなくなり、浄化水槽に落下した。水は幾つかの放射線を遮断できるため、装置が起動してかなりの量の放射線が放射されたが、水の中にいたお陰でそこまで被爆はせずに済んだ。だが、装置が起動し、俺はファンに巻き込まれそうになり、腕を一本犠牲にした。

 

何とか水槽から這い上がることが出来、エンクレイヴの医療ヘリに載せられ、治療を受けた。シャルからは平手打ちと抱擁を交わして事なきを得たが、大変なのはこれからだった。

 

エンクレイヴはBOSと先の戦いで共闘したものの、浄化施設の管理を巡って一触即発の事態に陥っていた。怪我した状態で両者の仲裁役として会議に参加し、不可侵条約と技術供与協定と軍事協約を結ぶことが出来た。BOSは先の戦いで戦力の半数を失っていたため、ウェイストランドを明け渡すしかなかった。ただ、BOSの活動目的は最終戦争の惨禍を繰り返さない為に結成された組織であった。BOSは国家間戦争が発生しても核などの大量破壊兵器の使用を自粛する密約を行い、BOSは新アメリカ合衆国に含まれることになった。

 

浄化施設はエンクレイヴと浄化プロジェクトのメンバーが運用し、BOSが警備する共同運用が為され、ウェイストランドの統治はエンクレイヴが主導で行われる形となる。

 

 

そして、俺はジェファーソン記念館であったエデンの正体をオータムなどの高級官僚に打ち明けた。あまりにも荒唐無稽な話だった。暴走したZAXコンピューター、実はエイリアンの手先であり、大戦争はエイリアンの仕業であったなんて誰が信じるだろう。どこかのゴシップ記事かオカルト系で組まれたテレビ番組の内容であり、信じる者は皆無。

 

浄化施設が起動した後、エデン大統領本体であるコンピューターは浄化施設のサーバールームに移動され、技術チームによる解析が行われた。既存の言語以外に未知の言語が見つかり、未知のテクノロジーが使用されていた。

 

だが大戦争にエイリアンが関与していることやエイリアンが地球を侵略しようとしているとする一連の警告は当然のように無視された。この後ウェイストランドで起きるエイリアンによる攻撃を事前に知っていなければ信用などされるはずもない。俺のことを信じる数少ない者はいたが、エンクレイヴという組織からは一時的に爪弾きされた。

 

エイリアンの証拠があったとしても、それは無視されただろう。一部では一定の影響力のある俺の抹殺が目論まれたらしいが、恩のあったオータムはそれを差し止めた。ほとぼりが冷めるまでウェイストランドを旅する(クエスト達成)ことになる。

 

エンクレイヴの制圧部隊と共にピッツバーグのレイダーを一掃したり。テロリストであったアウトキャストの前哨基地を降伏させて、アンカレッジ作戦のVRを試す。そして、いくつもの調査隊が行方不明になるポイントルックアウトを探索した。

 

そしてそうこうしているうちに、謎の怪電波をpip-boyが受信した。UFOの救難信号であり、これまでにない重装備を持っていくことにした。エンクレイヴの数少ない筋を通してオータムへ連絡を行い、宇宙へ警戒するよう伝えた。

 

シャルには危険なため、レイヴンロックに行ってもらって保護してもらう。単身でUFOの墜落地点に到着すると、UFOに拉致され、身体検査を受け、身ぐるみを剥がされた。牢屋の同室だったソーマに義手の左腕を弄られ、根掘り葉掘り聞かれる羽目になる。その後、二人で殴り合いの喧嘩をしてエイリアンの注意を引き、脱走。冷凍保存された人間を救出し、重武装のアーマーでエイリアンを蹴散らした。

 

着々と宇宙船を占領していくなかで、地球の通信を傍受する通信室からエンクレイヴの通信と思しき信号を傍受していた。其れには軌道上にあるエイリアンの宇宙船二隻を弾道ミサイルによって破壊することが伝わった。DEFCON2発令よってエンクレイヴは通常の数倍の通信を行い、数年分の通信を数分で行った。

 

急いで生存者たちを率いて艦橋を占拠して船全体を掌握した。しかし、船を乗っ取られたことを知ったもう一隻のUFO、司令船であるもう一隻が攻撃を仕掛け、なんとか敵のUFOを撃退することに成功した。ここまではゲームの通りだった。問題はエンクレイヴが弾道ミサイルによる攻撃を行おうとしていた。

 

ゼータには未だに多くの人間が冷凍保存されていて、俺達生存者もエンクレイヴの弾道ミサイルによって殺されたくはなかった。ごみ処理場で拾ったチェイス将軍へ送るはずだった補給物資には上級将官用の長距離無線機とIDがあった。それを使用し、エンクレイヴへコンタクトを取って何とかミサイル攻撃を止めさせることに成功した。

 

 

UFOをエンクレイヴの管理に入れるが、新合衆国となってからは慢性的な人員不足となっていた。人員は西海岸派閥に属していて比較的に反逆しない、思想的にも東海岸よりな穏和な将校が選抜され、UFOを航行することになった。エイリアンの存在は公になっていないとはいえ、上層部へ存在を認めさせた俺は任官して少佐の階級を貰う。指揮官としての基礎的な教育を受けた俺は晴れてゼータの艦長として地球圏の防衛に着くことになった。

 

 

 

 

 

廊下を通り抜け、扉を抜けて「練兵所」の看板のある部屋へと入った。

 

 

「オイ!ジェイムズ二等兵!モット腰ヲ低クシロ」

 

「すいません!カゴ教官」

 

「貴様ラノナマッチョロイ動きは、レイダーナラ1人倒せば2人増エル!技ハモット正確に!そして早く!」

 

新兵の戦々恐々としている声に酷い日本語訛りの強い英語が練兵場の一角に作られた畳を模した柔術場に響いた。

 

すると、新兵の1人がこちらに気づいたのか。踵を揃え叫ぶ。

 

「Attention!」

 

その号令と共に基本訓練で染み込んだ新兵たちは条件反射で整列し、直立不動になる。

 

『カゴさん、新米の教育は順調?』

 

『外人の兵はここまで腑抜けとはな。我ら尾張の兵と比べて軟弱過ぎるわ』

 

尾張の織田家の家紋が描かれた鎧を身に付けていたカゴの話によれば、尾張の国の守護代織田氏に仕えた下級武士。戦乱の日本において、主君織田家に仕えた家臣の一人らしい。

 

らしいというのも、日本の歴史に関して高校生程度の知識しかない俺にとって「久長様は我が主」というが、織田信長の後か先の時代の人物か分からないため、なんとなく戦国時代の人間であることは想像できた。

 

 

「一体、艦長は教官と何語で話しているんだ?」

 

「中国語じゃないのか?・・・・いや、日本語じゃない?」

 

 

アメリカでは日本語を喋る者は少なく、理解できる者は限られる。それこそ、出自が分からなければ中国語なのではと考えるほどに。

 

『カゴさんの時の兵士とは違って鉄砲を使うからね。あのパワーアーマーを着るのが普通さ』

 

『外人どもはいつもそればかりだ。昔、琉球から来た石火矢を見たことはあったが、ここまで改良されるとは・・・・拙者も歳を取ったものよ』

 

『石火矢ってあれか。「もののけ姫」じゃん』

 

『もののけ?!またあれか!エイリアンの来襲か!?』

 

『違う違う、英語でmovieだよ。足利将軍の時を舞台にした森の神と言語を喋る古の動物の森・・・的な?』

 

 

現代語と昔の日本語、決して交わらない言葉を交わせば、どちらにしても疑問や違和感を持つのは当然である。カゴは怪訝な顔をしつつもうなり声を挙げた。

 

『う~む、やはり子孫の日ノ本言葉は難しいのう』

 

『今度、NCRの日本人コミュニティーとコンタクト取るから、俺よりも未来の日本人に会わせるよ』

 

既に彼には俺が転生したことを話していて、意外にも彼は呑み込みが早く、茶化さずに信じてくれた。元々、「輪廻転生」の価値観は仏教で伝わっていて、彼の生きている時代には既に浸透していた思想だ。それが現代日本では好意的に受け止められ、異世界に転生して楽しく生きるという物語が作られた。かつての日本の昔話は現代の日本人のルーツを考えれば、考えることも同じだろう。助けた鶴が人間になって帰ってくる話やおにぎりを落とした先には人の言葉を話すネズミ。擬人化やディ○ニーの先を行く想像は何百年経っても変わらない。

 

そんな日本語の会話に困惑した新兵たちの内の一人は勇気を振り絞って声を掛けた。

 

「か、艦長、艦橋より至急来るようにとのご連絡です」

 

「艦長殿、急イデ行かれた方ガヨロシイのでは?」

 

まだ訛りのある英語は俺にとって親しみのある英語に聞こえる。英語は非常に簡単な言語で、複雑怪奇な日本語と比べたら表現が限定される。だから、英語で話している内容も日本語に翻訳するとき、敬語かタメの口調かは翻訳者に委ねられる。

 

俺は新兵に「その意気だぞ新兵」と声を掛け、カゴには剣術の指南をしてもらう約束を取り付けた。

 

 

左腕に時計のように取り付けた軍用PDAを見てみると、迂回と教官との会話により、艦橋に行く時間帯が大幅に遅れてしまっていた。失敗したなと思い、急いで艦橋へとつながるワープ装置へと急いだ。

 

 

廊下を小走りで歩き、通り過ぎる部下たちの敬礼に返礼で返し、急いで歩く。目的のワープ装置の傍には宇宙軍の制服を着た若い女性士官が怒りの表情で俺を見つめてくる。

 

 

 

 

 

「艦長!どこで油売っていたんですか?!もうこんな時間に!重役出勤ですか?そうなんですね?あのカゴっていうサムライと遊んでましたよね。分かりました、シャルロットさんに言いつけます。いえ、他にも誰でしたっけ?・・・ああ、アマタさんとスタウベルグ大佐でしたね。絶対に許しません。例え、火星からエイリアンの親戚が現れても許しませんから」

 

「お、落ち着け!ジェーン・ウリエル中尉!」

 

 

焦って彼女のフルネームで呼んでしまうが、彼女の怒りは収まらない。長い金髪を纏め、ラフヘアのようにふんわりとした髪型の彼女は怒っている割に人の感情にあるような本当の怒りには感じられない。

 

 

「分かってます。これは真似しただけですから問題ありません。」

 

「真似じゃなかったらちょっと心配してたけど・・・」

 

 

「もし怒っていたら、この船のコントロールを奪って太陽にでも沈めますよ」

 

「お願いシャレにならない!絶対にちゃんと仕事するから許してください!」

 

 

彼女が本気を出せば簡単にZETAは乗っ取られ、太陽か月面に体当たりを仕掛けてもおかしくない。今からでも宇宙軍の機密レベルの高い核ミサイル発射コードをハッキングすることも可能だろう。

 

彼女がどこまで本気か定かでないが、エンクレイヴが分裂してしまう契機を作り出した人物として考えると、彼女を本気で怒らせればタダでは済まない。

 

気が済んだのか、ためいきを吐いた彼女は俺のすぐ近くまで来て制服を整える。

 

「“ 砂漠の宝作戦”……今日が発動日です。気をつけてくださいね」

 

「分かってるよ……これに失敗すると色々とヤバイからな」

 

前世で知っていたアメリカ軍の作戦名に因んで名付けた作戦。案外好評であり、パクった本人からしてみれば申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

その作戦はモハビ砂漠でこれから起きる戦いにエンクレイヴが介入し、都合のよい結末へと進めていく。地域の安定化とNCRの瓦解を狙う作戦。エンクレイヴの存在は既に亡きものであると誤認している状況を利用し、NCRの深部にシンパを増やしている。アメリカ東海岸と北東部を領域とする新アメリカ合衆国。アリゾナを中心に支配領域を増やすシーザーリージョンとNCRはアメリカ大陸の中でも一二を争う一大勢力の一つ。リージョンは既に既存の文明を排除した勢力圏を築いているため、共存の余地はない。だが、NCRに至っては旧来のアメリカ合衆国の持つ民主主義と資本主義の源流をくみ取る国家であるため、共存は容易だ。

 

 

ワープ装置に立ち、装置を起動させるとまぶしい光と共に一瞬で艦橋のあるワープ装置に足を付けていた。それを下りると、ワープ装置が再び起動し、副官が現れる。

 

「では、行きましょう!艦長」

 

副官の先導と共に艦橋へ入っていく。

 

「艦長が戻られました!」

 

「総員、気を付け!」

 

「休んでいい、そのまま仕事を続けてくれ」

 

濃紺のエンクレイヴの軍服と比べて色が異なるそれは彼らが宇宙軍の兵士であり、元西海岸派閥に属していたことを表していた。

 

艦橋には各部署の責任者や舵手、砲術長などが控えており、エイリアンが使っていた装置ではなく、それを元に開発された人間用の操作パネルが設置されている。

 

「航海長、現在の位置と状況を」

 

「はっ!現在、我が船は月軌道上に位置しており、月の前哨基地への補給物資の運搬と地対空ミサイルを設置中。もうすぐ完了するかと」

 

「副艦長、私が居ない間に何かあったか?」

 

「特にないですな。海兵隊員と航空隊の間でひと悶着あった程度です。」

 

時計は既に0810時となっており、完全なる遅刻である。他の部署の要員は深夜帯に配置についていた者と朝勤務の者とが交代していた。完全に出遅れ、俺と交代する副艦長は老練な佐官だが、歳なのか目を擦っていて、とても申し訳なかった。

 

「遅くなってしまってすまない」

 

「いえ、構いませんよ。彼女の様子はどうでした?」

 

「元気そうだったよ。産休を取ってもらいたいところだが・・・」

 

「あの様子じゃダメでしょうな」

 

ゼータに限らず、エンクレイヴ全体で人材不足に陥っており、知識や才能のある者は多くの仕事が割り当てられる。長らく、高等教育機関が作られていなかったため、現在の新合衆国政府は人材の育成に苦心していた。定年を過ぎた技術者やシャルのような身重の女性も活躍を余儀なくされている。

 

「では艦長、暇を頂戴します」

 

「ああ、ゆっくり休んでくれ」

 

敬礼をし、副艦長は艦橋を後にする。俺は夜勤の報告書が挟まれたクリップボードをちらりと見つつ、艦橋から見える見慣れた光景に笑みを溢してしまう。

 

何重にも重ねられた放射線を遮断する強化ガラスらしき物質の向こう側に広がるほぼ無限に広がる宇宙。暗黒が広がり、星の光がそこら中に広がる中、目の前には地形がはっきりわかるほど接近した月面の姿があった。そこには、かつて月面計画で着陸したNASAの調査機があり、最近になって堕ちたエイリアンのUFOが転がっている。

 

 

ゼータより降下した基地建設用のドローンや建設資材、保安要員や各種兵器を投下して月面と地球防衛のための前哨基地を建設している。圧倒的な技術力を見せつけられ、彼等の援軍が来る可能性もあることから、早急な軍備増強が求められていた。

 

 

「エイリアンは来るかね~」

 

「どうでしょうね。映画みたいにグレードアップして来られたら大変ですけど」

 

副官は戦前のエイリアンの襲来から戦うアクション映画を思い出し、現職のオータムが独立記念日に演説して戦闘機に乗り込んで戦うと言い、艦橋で笑いが漏れる。

 

「艦長、物資の搬出作業完了しました。防衛要員も既に基地に配備完了です。」

 

航海長の報告によって、月軌道上にいる必要が無くなった。

 

「航海長、作戦空域へ移動しろ。陸戦隊とCIAへは作戦準備命令を伝達。」

 

「了解、各部隊に準備命令を伝達。」

 

「エンジン出力上昇、これより巡航速度に入ります。」

 

「ゼータ作戦室より護衛機各機へ。本艦はこれよりDT作戦上空へ移動する。哨戒厳と為せ」

 

(こちらPhantom leader了解した)

 

強化ガラスの向こう側には、ゼータを護衛する小型UFOが飛び回り、周辺宙域を哨戒する。カラーリングを宇宙戦に考慮してグレーに塗装し、星条旗と宇宙軍のマーク。そして、亡霊のトレードマークが描かれた戦闘機に分類される小型UFOが旋回した。

 

「目標、旧ネヴァダ州モハビ砂漠。」

 

「座標入力確認、作戦開始まで一時間を切りました。目標上空まで30分、各部署状態知らせ」

 

ゼータの機関室や医務室、武器弾薬庫、居住区、格納庫など状態が知らされる。

 

「各部署状態正常確認…艦長、艦内放送に切り替えます」

 

「ああ、マイクを」

 

当直士官から艦内放送用マイクを受け取り、トークボタンを押す。

 

 

「艦長より発する・・・・・ゼータはこれより、NCR軍、シーザーレギオン、Mr.ハウスの三つ巴の領域、旧ネヴァダ州モハビ砂漠上空へ到達する。既にCIA工作員の支援が行われている。NCRからは既に我々は亡き者とされ、組織的能力は失われていると思っているだろう。我々にとっては好都合だ。しかし、現地では作戦進行に際し、多くの困難が予想される。各員、引き締めて任務に掛かれ」

 

 

艦橋内の全員が緊張した面持ちとなるなか、口を開く。

 

「ついでに財布の紐を引き締めろ。ベガスで一ドルでも落とせば、月面でガラクタ拾いをさせるからそのつもりでいろ」

 

艦橋にどっと笑いが漏れ、他の部署でも同じような笑いが出ただろう。

 

「各員、重ねて気を引き締めてかかるように。」

 

 

マイクを当直士官に返すと、副官に促され、艦橋中心に位置する艦長専用の椅子に腰かけた。

 

 

「モハビ・ウェイストランドですか・・・・こっちよりも復興していればいいんですが・・」

 

副官のウリエル中尉は報告書でしか知らないモハビの実情を知っていたのか、クリップボードにはCIAの報告書があった。モハビはかつてのキャピタル・ウェイストランドとは違って、きれいな水が普通に流通し、地下水や淡水湖が複数存在する。食糧事情も良く、畑も存在することから、まだましだと考えたのだろう。

 

「いや、モハビは寧ろ派閥を考えないといけないから、こっちよりは難しい。」

 

「そうですか?生存率はこちらの方が20%近く高いですけど」

 

「数字の問題じゃないんだけど・・・・まあ仕方ないか」

 

 

 

人間のように考えることは出来ない。何故なら彼女(ジェーン・ウリエル)は人ではないから。

 

1と0で構成されたスーパーコンピューターで作られた、ZAXという次世代AIなのだから。

 

 

ゼータの乗組員や宇宙軍上層部も知らない事実。知っているのは新合衆国統合参謀本部の限られたメンバーのみ。エデン大統領のZAXコンピューターをフォーマットし、プログラムに人類への奉仕を義務付けした新たな人格。エイリアンのコンピューターの全てが解析された現在では、新合衆国軍のメインサーバーにテクノロジーが使われるほどであった。未だにバイオテクノロジー関連は技術研究が行われ、解析が進んでいない。人類を異形に変形させ、侵略の尖兵にしようと目論んでいた彼らの殆どは絶滅し、民間人として乗り込んでいた技術者と奴隷身分の労働者のみが捕虜という扱いでエドワーズ空軍基地の最重要機密区画で監禁されてる。

 

彼女が人類を裏切り、反旗を翻すことは億に一つ、京に一つと技術者は言っていた。

 

信用はしているが、信頼はしていない。

 

副官として非常に頼りになるのは事実だが、脳裏にエデンの顔が浮かんでしまうのはどうしようもなかった。

 

『人類は互いに殺し合っている。やがて私でなく、人間の誰かが再びウィルスや核を、それこそ生命が息絶えるまで破壊し続けるだろう。最早、君が止めなくとも誰かがやる』

 

『人は過ちを繰り返す』

 

 

彼女がエデンでないと分かっていても、奴の言葉を思い浮かべてしまう。彼女は人類にとって敵となるのか。それとも、人類の可能性を広げる天使(ウリエル)となりえるか。

 

 

 

「艦長、西海岸に到着しました。・・・・見てください、NCR領の首都は明るいですね」

 

 

まだ西海岸は夜中であり、復興を成し遂げたNCRの首都や他の各都市は街の明かりによって、上空からでも煌々と光り輝いている。

 

いずれ、ワシントンD.C.も明るくなるだろう。この光はあと何年たてばアメリカ中に広がるのか。

 

「『人は過ちを繰り返す』・・・・・だが、これ以上の失敗はない」

 

嘗て緑の多い地球は200年前の大戦争を経て不毛の大地となり果てた。だが、核の炎から逃れた木々は確かに存在し、ゆっくりと地球は形を変えつつも再生している。

 

 

人類も変わらねばならない。過ちを糧とし、二度と己をも滅ぼさない災厄を引き起こさないように。

 

 

モハビ上空に到達し、当直士官が報告を行う。左手のPDAには作戦開始時刻が表示され、開始時間を告げた。当直士官は艦内放送を行い、作戦開始を合図する。

 

 

 

 

 

 

「作戦開始5秒前・・・・4・・3・・・・・作戦開始!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued………………fallout newvegas

 

 

 

 

 

 

 




これにて本篇は終了となります。長い間ありがとうございましたー



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番外編
番外編 一話 双頭の大熊


番外編 一話目 Newvegasを繋ぐ話となります。

ほぼ、NCR国内の話となります。


 

大戦争から200年。

 

 

 

地球の大半を核の炎で焼き尽くした人類は残された先人の遺産を食いつぶしながら、その日の糧を得ていた。

 

嘗てのような栄華は残り香として漂い、廃墟に未だ垂れ下がる星条旗を見て思いを馳せる。大国であった頃の残骸が朽ちていく様は復興させようとする人々を追い立てた。

 

 

旧来の民主主義システムを復活させ、復興を成し遂げた新カリフォルニア共和国はその思いを具現化した存在と言える。西海岸のvaultにあったG.E.C.Kの天地創造モジュールを使用して、戦前のレベルにまで復興を為した。

 

NCRはマスターの指揮するスーパーミュータント軍やエンクレイヴ、B.O.S.との戦いにも勝利した。そしてアリゾナを収める部族、シーザーレギオンとの戦争を始めようとしていた。NCRはここ50年で大きな成長を遂げ、エンクレイヴがかつて使用するベルチバードや戦闘車両などを生産し、領土拡大を続けている。

 

 

 

モハビ戦線のNCR軍はロング15から核搭載トラックや輸送機型のベルチバードによって大規模な軍事物資を供給していた。老朽化した高速道路を日雇い労働者によってコンクリートで塗り固め、軍用トラックが行き来するようにした。ロング15は絶えず、トレーダーや武器商人、物資を守るために雇われたキャラバンガードや傭兵が居るかつてない市場規模となっていた。

 

 

第一次フーバーダムの戦い以降、コロラド川までの戦線は落ち着き、シーザーレギオンの敗退によって軍事物資の必要量の減少に伴って、ウェイストランドに商機を見出したキャラバンは東へと進路を取り、横切る軍用トラックを尻目に動いている。

 

ロング15の集積所の休憩場所には軍民問わず、多くの商人や傭兵、兵士でごった返していた。

 

 

 

「じゃ、再会を祝って!」

 

「第一偵察隊に!」

 

 

その一角の酒場にはNCR退役後に傭兵となった男二人が酒を交わしていた。彼らの装備はレザーアーマーに9mm弾を発射する、ジョン・ブローニングが設計したブローニング・ハイパワーがホルスターに収まっている。そこまでは巷の傭兵でも良く装備する物だ。だが、彼らの背には7.62×51mm弾を使用するハンティングライフルらしきものを背負っているが、そのライフルのフレームは強化プラスチックのマークスマンストックに変えられ、光学照準のスコープが装着されている。軍事訓練を受けた人間が見れば、狙撃のプロであることは人目で分かるだろう。

 

加えて彼らの頭には彼らのトレードマークである赤いベレー帽があり、それは現役のNCR兵が尊敬と畏怖の眼差しを向けられるほどである。NCRでは退役後も予備役として復員できるように彼らの籍を設けており、原隊の所属を顕す赤いベレー帽は彼らが精鋭であることを知らしめていた。。狙撃銃も一般の選抜射手の使用する官給品のマークスマンカービンではない、私物のボルトアクションライフルや限定生産された精度の高いライフルを使用するプロフェッショナルだ。

 

NCR軍の第一偵察隊はレンジャーなどの特殊部隊とは違い、狙撃を重視した部隊編成であり、スコープなどの補助照準器なしで700mの距離の標的を狙い撃てる、レンジャーでも稀な狙撃技術を持っている部隊だった。彼らはNCRで生産されるウィスキーを注いだショットグラスを傾け、一気に喉へ流し込んだ。喉と胃が熱くなり、ウィスキーの香りが鼻に通る。

 

 

「まさか会えるとは思ってなかったぞ。何年ぶりだ?」

 

「かれこれ3年じゃないか?」

 

男たちは退役後、別々の道を歩んだ。一人はロサンゼルスへ戻り、もう一人はサンフランシスコに住んだはずだった。だが二人は軍隊での生活と戦場が忘れられず、軍の請負も兼ねるキャラバンガードの道を進み始めた。NCR軍の請負傭兵として稼ぎ家族を養う彼らはそれこそ同じ業界であっても会うことは全くなかったが、丁度NCR請負キャラバンの護衛として雇われた時、一緒になったのである。

 

「・・・三年か。ついこの間まで古臭いフィールドジャケットに革製プレートの装備はどこ行ったんだろうな。軍の装備変わり過ぎやしないか?」

 

「だよな・・・・ここまで技術革新が進むとは思えないんだが」

 

2人の傭兵は口を揃えて言う。彼らの近くにはNCR軍の兵士が酒を飲んで楽しんでいたり、彼らの指揮官や輸送トラック運転手、ベルチバードのパイロットが居たが、どれも彼らが居た時のNCR軍とは殆ど違う装備になっていた。

 

 

彼らのかつての戦闘服(BDU)は荒廃した大地を想定して茶色の野戦服とバラモンの革を鞣して鉄製プレートを入れたプレートキャリアにて構成される。中には革でなく、布製であったり様々であり、頭部を守る昔の英陸軍を彷彿とさせるジャングルヘルメットに似たヘルメットや一部かつての米軍が使用するM1スチールヘルメットを使用していた。

 

核戦争前に製造されたコンバットアーマーやヘルメットの方が高性能ではあるものの、戦前のであれば劣化しており、一から製造するとNCRアーマー3着分のコストが掛かる。以前のNCRでも、全軍にケプラー繊維のアーマーを支給するのは難しく、レンジャーのアーマーのみ再設計されたパトロールアーマーが支給されていた。

 

「三年でこーまで変わるか?」

 

「・・・・奴らとの戦いでとうとうバラモン長者とvaultシティーの奴らが金をだしはじめたとか?」

 

今の彼らの装備はマルチカムと呼ばれるカーキ色とライムグリーンを基調とする新世代の迷彩を採用しており、布製のプレートキャリアに防弾プレートが入れられるようになっており、モハビ砂漠に適するようタンカラーのプレートキャリアを装備している。そして新たにMOLLEシステムを使用した弾倉ポーチをキャリアに装着できるような革新的なシステムが組み込まれている。以前のNCRアーマーより若干コスト高であるものの、製造工場が殆どロボットであるために、以前のアーマー以上に高品質なアーマーとなっている。そして彼らの被るヘルメットも耳まで覆うような第一次大戦時のドイツ帝国で使用され始めたフリッツヘルメットに似たケプラーを使用するヘルメットを採用していた。

 

 

これが違う世界でのアメリカ軍の装備を模したものであることは知る由もない。

 

 

「まだ、木製銃床とハンドガードのサービスライフルだけどよ。新しく新型ライフルのトライアルがあるらしい。ガンランナーや他の企業も参加しているらしいが、とある会社の近代化改修キットが採用されるらしいぞ」

 

「まさか・・・あの会社か?」

 

 

その話題を持ち出した瞬間、酒場に数名の傭兵らしき人物が入って来る。

 

「おい、マスター。ビール4つにイグアナ角切り頼む」

 

「あいよー」

 

入ってきた傭兵の腕には、鴉が翼を広げ、小銃を足で掴んだシルエットのパッチを装着しており、どこかの傭兵部隊の所属だと示していた。黒のBDUにタンカラーのプレートキャリア、ヘッドセットが装着できるよう、耳を覆う部分をくり抜いているヘルメットを被り覆面をする彼らは徴兵されたNCR兵から見れば、彼らの方が正規兵か身分を隠した特殊部隊に見えることだろう。

 

彼らは「Eagle Claw Security Company」イーグルクロウ警備保障という、最近になって現れた傭兵部隊の形である。戦線の縮小とシーザーレギオンの戦略転換によって、大軍と大軍の大規模戦闘は無くなった。しかし、レギオンは破壊工作やゲリラ戦に転じ、コロラド川以西の戦闘では物資輸送やパトロール部隊に被害が出ている。その穴埋めとして傭兵部隊の需要が増加し、治安維持や物資輸送、要人警護などの分野において市場が拡大しており、任務次第では高額報酬が見込まれる傭兵部隊に入った者が数多くいる。この会社以外にも戦争経済(グリーンカラー)に参入した民間軍事請負企業(PMC)が何社かあるものの、彼ら以上に装備が充実している傭兵派遣会社はいないだろう。

 

 

「払い卸で防弾ベストがあったが、かなり丈夫に出来ているぞ」

 

「レンジャーのバトルアーマーはどうだろう?やっぱり向こうが上か?」

 

NCRのベテランレンジャーは西海岸の軍や警察が使用するライオットアーマーを使用する。殆どは戦前のアーマーであるが、西海岸や州軍で使用されたコンバットアーマーと比べても耐久性や防弾能力など桁違いである。

 

男たちはウィスキーをショットグラスに注ぎ、二杯目を楽しみ、ツマミの角切りにされたバラモンステーキを頬張る。

 

「たぶんな、バトルアーマーはかなり高品質だと聞くぞ。軍のアーマーは次世代とはいえ、低コストなぶん、色々カバーしているからな。」

 

「それに最近じゃ、兵員輸送車や戦車がモハビにも送られてきているし、シーザーのクソ野郎共をひと泡吹かせられる」

 

ふと二人は酒場の窓の外にある駐機されたベルチバードや軍用トラックを見る。その傍らには装甲車や榴弾砲を搭載した自走砲らしきものも確認できた。ただ、これらは大軍にならない限り使用はできず、NCR軍情報部がもたらすシーザーレギオンの戦略転換、ゲリラ戦を用いた攻撃に対して、砲撃の効力はあまり期待できたものではない。ただ、ベルチバードの航空支援はこれらの攻撃の対処には非常に有効とされ、期待されている。

 

すると、そのうちの一人が思い出したかのように声を上げた。

 

 

「あ、そうそう思い出した。イーグルクロウ社の奴らにはいろいろと噂があるぞ」

 

相棒であった彼の噂好きを知っていた男は苦笑いを浮かべながら、顔を近づけ耳を傾ける。彼の言った話は殆どがデマや阿呆みたいな噂が殆どであった。赤黒い雲にそびえ立つカジノの話や巨大なクレーターを利用した謎の研究所、遥か彼方の東にある人造人間を製造する秘密結社。真実だと確認できない話は信じない達である男はかつての相棒の話を作戦中の暇つぶしとしてよく聞いていた。

 

 

「なんだ、酒の肴で聞いてやるよ」

 

男は得意げな笑顔で話し始め、その様子は近くのNCR兵やキャラバンが耳を傾ける。

 

「とある情報筋によるとイーグルクロウの拠点の一つにとある古い米軍基地がある。」

 

「ああ、聞いたことあるぞ。というか、ロスに居た頃新聞でイーグルクロウの拠点の一つがそうだったって書いてあった気が・・・」

 

 

「まあ、最後まで聞けって。・・・そこは州軍の施設なんだが、多くの資材や物資がまだたくさんあってな、特殊部隊出身の傭兵がそこを見つけて、それを資本に傭兵会社を成したってのは聞いたことあるだろうさ」

 

周囲はいつしか彼の話に耳を傾け、バーテンダーでさえ、グラスを磨くのを辞めて彼を見る。

 

「その資本と軍で培った伝を使って傭兵会社を設立して、軍の受注を受けるようになった。更に、事業を展開して旧軍の装備研究施設から試作の迷彩や装備を分析し、新たに軍需企業としても名を挙げた。ガンランナーや国営の兵器廠にも匹敵する。何故なら軍事施設にあったロボットを活用し、限りなく人件費を削って製造するからな」

 

キャラバンやNCR兵、果ては話中のイーグルクロウの傭兵までそれを聞き始めた。

 

「さて、ここで噂を伝えよう。多分何人かは聞いたことがあるだろう。イーグルクロウはもしかしてエンクレイヴとかかわりがあるんじゃないかっていう噂だ」

 

「聞いたことあるぜ」「ああ、大統領が人造人間だったっていうのもな」とヤジを飛ばすキャラバンやNCR兵、それに笑いが木霊する中、男は笑いながらも話をつづけた。

 

「そう、みんなも聞いての通りだ。だが、それを裏付けるのもある。彼らの軍事基地の装備や備品の多くにはエンクレイヴという文字や刻印、どこかの工場で作られたと思われる刻印があったらしい。」

 

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。それはエンクレイヴの装備を接収したからであって、俺らがエンクレイヴだっていう証拠はないだろう?」

 

自分達をエンクレイヴだと訴える男に我慢できなかったのか、イーグルクロウ社の傭兵の一人である男が声を上げる。

 

「まあ、その通りだ。だが、彼らの運用するベルチバードはどうかな?あれを操縦するパイロットは?確か、今でもNCR軍の使用するベルチバードの操縦は元エンクレイヴのパイロットが教官だったって聞いたけど?」

 

 

「そ、それはだな・・・・・」

 

傭兵の男はそれを知らず、頭を抱える。彼は雇われの身であるため、そこまでの事は知らない。そもそも、傭兵の男も元NCR兵だったらしく、強襲部隊や輸送任務でなければベルチバードに乗ることはない。特殊な任務に就くことはない、至って平凡な輸送警護任務だけなのだから。

 

「まあ、あとはイーグルクロウ社の装備や武器は正規軍よりも上で尚且つ訓練も行き届いている。」

 

「装備はともかく、言っとくけど危険手当つくし、軍よりも給与はいいぞ」

 

傭兵は彼の話に意外と理解を示しているものの、自分自身も元NCR兵だったことからか周りの兵士に対して給与の話を持ち出す。その話をしたためか、周囲の兵士が何名か食いつく。何故なら、これからNCR領へ帰る者が大半を占めており、ベガスで給料の大半を費やし、財布が寂しくなっていた者達だからだった。

 

「まあ、ともあれイーグルクロウ社がエンクレイヴの可能性は高いかもな・・・・」

 

 

「ベルチバードを操縦している奴らはいわゆる一期生。イーグルクロウにあるベルチバードはやっぱりおかしいって思うだろう?・・・」

 

NCRが運用するベルチバードの稼働数は少なく、パイロットも少ない。戦前の遺物を扱うことのできる傭兵会社は珍しく、NCRのパイロットを高給で釣ってきたとも考えられなくもない。だが、男にはそういうたぐいの話は聞いてこなかった。

 

そもそも、NCRのベルチバードパイロットは脱走し、寝返ったエンクレイヴによって訓練された者達であり、NCRの重要部門には多くの元エンクレイヴが存在する。NCR政府はエンクレイヴの技術者を確保したいのに加え、戦争中の大量殺人に関わる兵士を逮捕すべく捜査をつづけており、イーグルクロウ社も捜査対象に入っているという噂があった。

 

「さて、みんなは信じるか?イーグルクロウ社がエンクレイヴの亡霊なのか・・」

 

男の問いに周りのキャラバンや兵士は答えらなかった。答えられそうなイーグルクロウ社の傭兵でさえ頭を掻き、「エンクレイヴの資材を使っていることは間違いないが、組織自体がとは言い切れないとは思う」と弱弱しく弁解するが、あまり力が入っていないことは明白だった。

 

 

NCRの急な装備の近代化。多くの資本を投入したNCR軍。正規軍より高性能な兵器を扱う「イーグルクロウ警備保障」、西海岸はある者の手によって正史から逸脱し始める。それはエンクレイヴでなく、「新アメリカ合衆国」ではない。あの男によるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

アウターベガス

 

 

 

ストリップ地区の残りかす、肥溜め。廃墟。様々な呼び名があるが、Mr.ハウスが再開発をしようとしなかったエリアであり、そこではギャングや無法者がうろつく危険地帯である。キャピタル・ウェイストランドとは違って、そこそこ悪くない暮らしは出来るものの、それでもまだ底辺としか言えない生活である。そのアウターベガスの外れに位置する小さな医療施設があった。そこはベガスでも最古の建造物である「オールドモルモンフォート」と呼ばれ、呼び名の通りキリスト教を系譜とするモルモン教の建物だった。現在では建物こそ残っているが、その広い敷地にはアポカリプスの使徒と呼ばれる慈善団体がテントを何棟も建てて、市場価格に照らし合わせれば比較的安い価格で治療することができ、金のない者でもほぼ無償で出来るウェイストランドでは珍しい場所である。

 

「う~ん、やはりこれではだめか・・・・」

 

科学実験机の前の椅子に腰かけ、アポカリプスの使徒の白衣を着た男はフラスコの中の液体を揺らし、ため息を漏らす。戦前から普及している外傷万能薬「スティムパック」の代用品を見つけるため、日夜採取してきた植物などを分析し、似たような成分を作ろうとしていた。

 

戦前は大手のリー・ラピッド製薬会社が民生・軍事にスティムパックやヘルスディスペンサーなどの製造販売をしており、廃墟を探索すれば高確率で手に入る代物である。ただ、製薬会社や工場は破壊され、数も限りがあることからスティムパックに変わる新たな外傷薬の開発を急がねばならなかった。

 

スティムパックは複数種の興奮剤やナノマシンなどの高度な技術によって身体の代謝を促進させ、傷口を治す物である。モルヒネなど中毒作用のある薬品が混合された物も中には存在し、「スティムパック中毒」になる者もいる。ただ、文字が読めれば、それが医療従事者のみが使用できるタイプの製品である事やモルヒネが成分として含まれていることが判るので、俗説や都市伝説として戦前から言われていることであったりする。

 

そして、いかにもインテリで気難しそうなこの男はアルケイド・ギャノン。アポカリプスの使徒でも皮肉屋として名高き、知識人としてフォートでも一目置かれた存在であった。彼の目下の目標は低コストで最良の効果を出すスティムパックの製造だ。

 

「植物成分から抽出したのも効果はいまいちだったし・・・・軟膏としては使えるんだが・・・」

 

金髪の髪の毛を生やす頭皮をガシガシと掻き、分析結果が表示されたターミナルを凝視する。試作したザンダールートとブロックフラワーは外傷に塗ると傷口の保護と回復促進が見られたが、スティムパックほど回復は見られなかった。粉末状にした「回復パウダー」が既に市販薬として流通しており、アポカリプスの使徒の医療キャンプでも塗り薬として使用している。

 

これまで通り自然治癒に任せる他なく、アルケイドはヌカコーラを口に含む。

 

「NCRかBOS・・・・もしくは・・・・」

 

モハビの一大勢力となったNCRは戦前の製薬工場を復旧させ、スティムパックを製造している。現在は衰退し、モハビで見かけなくなったBOSも小規模ながらも製造設備があると聞く。そして、アルケイドの両親が所属し、今は亡きエンクレイヴ。

 

彼らであれば、これまで以上の医療品や物資を揃えられるだろう。しかし・・・・

 

 

 

「・・・・無い物ねだりはよくないか。」

 

 

 

スティムパックの他にも鎮静剤、抗生物質などの医療物資は不足しており、それを独自製造する目途は今のところ経っていない。目下、戦前の病院や倉庫から収集する他ないが、それも200年の歳月を経て無くなりつつある。独自製造によって供給をしなければならないだろう。

 

「アルケイド!お客さんだぞ」

 

同僚の一人である白衣を着た医師はテントのカーテンを開いて、彼を呼ぶ。思案に浸る彼を呼ぶことは滅多にないどころか、来客がくるのは本当に久々であった。

 

「おや、アル坊やも随分あの人に似てきたねー」

 

「デイジー!お久しぶりです」

 

デイジー・ホイットマン

 

子供のころからの付き合いがあり、オイルリグ破壊後にNCR軍がナヴァロに強襲して脱出した時も彼女が操縦桿を握ったベルチバードで脱出していた。子供の頃に見た凄腕のベルチバードパイロットはウェイストランドで長く生きる老婆となってアルケイドの前に現われた。アルケイドにとっては叔母も同然で、脱出した後も母替わりともいえるように多くのことを学んだのである。

 

「最近はどうだい?」

 

「まぁ、色々と大変ですが、楽しい仲間にも恵まれて忙しくやってます」

 

 

散らかっていたテント内を少し整えると、来客用に持っていた椅子とテーブルを出して、戦前のコーヒーマシンからコーヒーをマグカップに注いで、デイジーに渡す。

 

「悪いね~・・・・そういや、お前さんも結構良い歳なんだし女の一人ぐらい・・・・」

 

「・・・デイジー、僕があまりそういったの興味ないと言いませんでしたっけ?」

 

「あら、お前さん男に・・・・」

 

「いやいや、そうじゃないから。」

 

昔からこうやって人の事を弄る。叔母がいれば実際こんな会話なんだろうと思い出しながら、久々の会話を楽しむ。

 

ノバックの世話話やアウターベガスでのいざこざ等々。久々に会った二人の話は尽きなかった。

 

 

「そういえば、あの馬鹿オリオンから面白い話を聞いたよ」

 

「どんな話です?・・・・NCRが近々崩壊するとかですか?」

 

オリオン・モレノ。元エンクレイヴ降下強襲兵として、パワーアーマーを着こんで敵を吹き飛ばすのを生き甲斐とした愛国者だった。今はアウターベガスのさらに東にある廃屋でひっそりと暮らしていたが、アルケイドに会うついでなのか、彼にも会っていたらしい。アルケイドの冗談に鼻で笑いながらも、バラモンミルクで味を調えたコーヒーを飲むと、そっとホロテープを渡した。

 

 

「あの男、東へ行った奴らと交信したらしくてね。今じゃ『新アメリカ合衆国』と名乗ってるそうだよ」

 

「・・・・・まだ、あったんですね・・・・・」

 

アルケイドの声は沈み、苦悶の表情を浮かべた。

 

 

幼少期、アルケイドはエンクレイヴが全盛期だった頃はエンクレイヴの行動が正義であると思いこまされていた。アメリカ合衆国を再建し、再び栄光を取り戻す。プロパガンダにまみれたニュースや教育によって愛国心のある少年だったが、オイルリグの崩壊と故郷であったナヴァロを失い、今まで知らされていなかった事実を告げられる。

 

エンクレイヴによるVault居住者の人体実験。大量虐殺、強力な兵器での服従を強制。そしてFEV進化型ウィルスを改良し、偏西風によって人類を死滅させようとする悪魔の所業。アルケイドは自分の出身であるエンクレイヴに只ならぬ忌避を抱いていた。

 

 

だが、目の前にいるデイジーも含め、正しい倫理観を持った人たちも中にはいる。戦争中だったと割り切る者もいるが、多くはそのことを心の傷として抱いていた。それは年を経たアルケイドにも分る事で、彼らの望郷の気持ちは少なからず分かっていた。

 

「私も色々と話を聞いてみると向こうでも色々あったらしいが、それなりに良い国になっていると聞く。アル坊やも行ってみたらいいんじゃないかい?」

 

「向こうに合流するんですか?!・・・・でも・・・」

 

「分かってるさ、でもお前さんはまだ諦め切れていないじゃないかい?」

 

何をあきらめるのか。それはアメリカ合衆国の復興。

 

エンクレイヴの者であれば誰もが願うその思いは確かにアルケイドの中にもあった。だからこそ、エンクレイヴで学んだ知識を他へと伝えるためにアポカリプスの使徒へ入り、微力ながらもアメリカという存在を再び作ろうと思っていた。

 

「だけど・・・・エンクレイヴは・・・・」

 

 

「人道的でない・・・・悪逆非道なこともあったさ。私も今更許してほしいとは言わないよ。だけど、あのエンクレイヴ・・・いや新アメリカ合衆国はだいぶ様変わりしたようさね」

 

机に置いたホロテープの中身は知らされていなかったが、デイジーはお土産がまだあると言ってもう一つ、一枚の紙きれを置いた。

 

「もし、詳しい話を聞いてみたかったらキャンプマッカランに駐留するイーグルクロウ警備保障に話を通して。これを見せてね。多分なんとかなるはずだから」

 

「イーグルクロウ・・・・ってあの最新兵器をじゃらじゃらさせた例の傭兵部隊?」

 

噂に聞く練度が高く、そこらへんのNCR兵よりも規律や練度に勝るとも言われ、自前でそろえた兵器類はレンジャーでも苦戦すると言われるほどであったと聞く。アルケイドはその背後にエンクレイヴが居ることを知り、納得した。

 

「そうさね、部隊長に話をしてみればわかると思うわ・・・・ほかのレムナントメンバーに話してみたけど、まぁ私ら老兵はこのまま朽ちる方がいいかもしれないがね」

 

「向こうには合流しないのか?」

 

「わたしらがしたところで老い先短い私らだよ?国のためには働けないのは目に見えてる。・・・・モレノは例外だけどね」

 

「あ~・・・・」

 

ふと、厳つい鬼軍曹の降下強襲装甲兵を思い出す。大のNCR嫌いであり、いかに残虐な命令でも従う冷血漢でもあったが、彼はナヴァロの一件で一番心に傷を負った人物の一人だ。己が人として失格なのは自身でもよくわかっている。それでもなお、国のために自身を犠牲にした愛国者だった。

 

 

 

デイジーはノバックへ向かうキャラバンと共にアウターベガスを去った。彼女はその他にも軍用規格の医療品を大量に寄付していったらしく、ジュリー・ファーカスは歓喜していた。見た感じ、製造されて間もないものであり、NCR領内の工場で作られた規格のものではなかった。

 

アルケイドは研究が暗礁に乗り上げたこともあり、自身のベットに横になり思案する。デイジーからもらったホロテープには新アメリカ合衆国の位置や状況などが記録されており、大規模な復興作業が今も続いているらしい。もし、彼等がこのベガスで起きている紛争に介入することになれば戦いは避けられない。

 

 

一晩経った後、アルケイドはプラズマキャニスターを準備してNCR軍の管轄であるキャンプマッカランへと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シェイディ・サンズ

 

今ではNCRと呼ばれる、新カリフォルニア共和国の首都として栄えている。ただ、多くのNCR国民はこの土地の繁栄を誇りとし、あえてシェイディ・サンズと呼ぶ者が多い。かつて、ここは寂れた農村と呼ぶに相応しく、悪く言えば紛争地帯から逃れた難民キャンプの様相だった。ただ、ウェイストランド基準でいえば、幾分かましな方である。元々はVault15に住む人々が人口増加に伴って出てきた居住地であり、一般的なウェイストランド人と比べて高度な教育を受けていたことで、拡大を続けたのである。

 

 

高度な教育を受けたvault居住者。その中でも創設者のアラディシュ。そしてその娘のタンディはそのカリスマ性や人間性、ウェイストランドへ貢献する姿勢により人々を感化させた。

 

加えて、カリフォルニアはキャピタル・ウェイストランドと比べて中国軍の核攻撃目標が少なく、逆にアメリカ政府が西海岸に上陸を想定して防衛計画を練っていた経緯があったため西海岸は東海岸と比べ荒廃せずに済んだのである。戦争直前にエンクレイヴは中国軍の米本土攻撃作戦を察知しており、政府首脳陣はワシントンに近いレイヴンロックではなく、未だ石油資源が多く残るポセイドンオイルリグに避難したとされる。

 

 

NCRの首都。嘗てのワシントンDC、ペンシルベニア通り1600番地(ホワイトハウス)を知っているならば、シェイディ・サンズの官庁街の中央に位置する大統領官邸は瓜二つだと言うはずだ。さらに後方に位置する建物は旧カリフォルニア州議事堂、若しくは合衆国議会議事堂そっくりのNCR議会堂が見える。新アメリカ合衆国の都市整備職員が見れば涎を垂らすに違いない。

 

そして、更には工場で生産された核動力の自動車がアスファルトで舗装された道を走る。東海岸を除けば、一番復興が進んだ地域であることは明白だ。

 

五つの州都も同様に戦前のような街並みが広がり、幹線道路が整備され、着々と豊かになっていく。ただし、大戦争の発端となった資源不足はNCRの悩みの種であり、それは鉱物資源に限らず、人的資源にも言及できる。NCRは有能な人材ならば例え元エンクレイヴや元BOS、果ては頭脳と機械を融合させた変態科学者の知識ですら欲している。戦争犯罪を犯したエンクレイヴの将兵は刑務所や矯正施設に入るか、銃殺刑に処せられる。ただし、共和国に貢献できる技術者は恩赦を与え、その技術力を活用していた。

 

 

だが、その急速な発展はNCRを歪にし、政治家と資本家の癒着と汚職が広がった。その歪みはマフィアやシーザーレギオンの諜報、そして新アメリカ合衆国に付け入る隙を与えた。

 

 

「部長、調査報告書を纏めました。また一人シンパが増えましたよ」

 

そこはシェイディ・サンズ市街地の一角にあるオフィスビルだ。NCR国内の企業が一挙に集まる其処はビジネス街とされ、首都に本社を置く企業は多い。NCR創設の際、首都に本社を置くことで法人税を低く設定したことにより、多くの大商人や手工業者が集まり、戦前の企業を模倣して多くの会社が設立された。国策として建設されたビジネス街には多くの中小企業が軒並み集まっており、NCRを支えていた

 

質素なオフィスの前には「サクラメント信託銀行本社」と看板があり、中堅銀行ながら多くの軍需企業などに出資する成長を続けている会社があった。その一部門の一つである「情報システム部」の一室、「マリア・アンブロス - 情報システム部長」と立て札がある一室に部下が報告書を纏め、やって来る。

 

 

「よくやった・・・・・ってこれ汚職していた証拠か。これじゃ、そこらのマフィアと変わらんな」

 

「ダウンタウンのヤクザよりマシですよ。こっちはwin-win、向こうは搾取って感じですから」

 

黒のスーツを着こなしたラテン系の若い女上司は調査報告書を受け取り、ファイルを見ていく。そこには大手商社「クリムゾン・キャラバン」の取締役が映っており、その横には調査報告の主役であるNCR上院議員がいた。そこはダウンタウンのストリップクラブと見られ、スーツケースを渡している姿があった。勿論、スーツケースの中身はキャップ・・・・・・・ではなく、NCRドルである。

 

 

NCRドルはBOSの金鉱攻撃によって、金本位制を敷くNCRは急激なインフレに襲われた。最低値5ドル=2キャップで取引されるに至るが、NCRの工業化により、NCRドルはインフレから脱却し、1ドル=1キャップにまでなった。ただ、急激な工業化はデフレを伴う恐れがあり、NCR経済産業省はドル紙幣の増刷など、金融政策にも取り組んでいる。

 

領土拡大に伴う軍事費の増大は戦前のアメリカと同じく、軍需産業の成長と政治家の癒着も発生しており、既に外交政策よりも銃火を交える大統領の支持率は軍需産業の意向もあって、高まっている。巨大化したNCRは建国から100年も満たぬうちに罅が入りつつある状況だ。

 

「サルヴァトーレの口封じは終わった?」

 

「はい、ジョンソンの掃除チームが他の抗争中のマフィアの犯行に思わせるようにしました。」

 

「よかったわ。奴らに無線を傍受されたら面倒なことになってた」

 

ニューリノを拠点にしたサルヴァトーレファミリー。一帯を牛耳るマフィアであり、オイルリグ崩壊前にエンクレイヴが秘密裏に武器の提供を行っていた。見返りに労働や実験用の奴隷、麻薬といったものを取引していたが、オイルリグ崩壊後、混乱に乗じて彼らはエンクレイヴ軍の補給所を強襲。高性能兵器を使用するハイテクレイダーと化していた。NCR高官と蜜月の間柄だったため、表だった当局による捜査が行われることがなく、強奪した物資の中には現在でも使用する軍用無線機や暗号解読に関わるホロディスクなどが存在する。存在の露見は勿論のこと、強請や集りといった行為に及ばれれば諜報活動に支障が出る。そのため、その証拠もろとも消えてもらうことにしたのだ。

 

 

「モハビの状況はどう?」

 

「現在、イーグルクロウの機械化歩兵一個大隊を展開中。及び、空中騎兵一個中隊がキャンプマッカランにて巡回警備任務に就いています。ただ、近隣がフィーンドなどの薬物集団に度々被害を受けているので、高官に圧力をかけて爆撃を行おうとモハビ支部は考えているようです」

 

「なるほど・・・・ただNCRの軍備がかなり増強されているわね。我々が思っていた以上に厄介になるかも」

 

「まだ海軍能力は皆無ですが、空軍能力は着々と成長していますから。」

 

NCRは廃墟からサルベージした設計図を基に飛躍した工業力を駆使し、既に数個の航空隊を組織。対地攻撃能力のある攻撃機を出し、シーザーレギオンの軍事拠点への空爆を計画中である。だが、航続距離や実戦配備にはまだ課題が残り、核パルスジェットエンジンの耐久性などがあった。

 

「新型ジェット機の開発に圧力をかけて政財界の圧力で中止に。その代り、後援している兵器工廠にレシプロ攻撃機をトライアルに出すように」

 

 

「レシプロ機をですか?」

 

戦闘機といえばジェット戦闘機と思うのは当然だろう。だが、文明が荒廃した戦場において制空権を確保し、上空援護を受けられること戦術的に有利に立てる。敵からしてみれば悪夢の始まりである。航空機がアメリカの空から消えて二百年。レシプロ戦闘機のような骨董品でも、NCRの技術力ならば可能であった。

 

「ああ、そうなればモハビの戦いも有利に進められるからな」

 

「分かりました。NCR技術局と政財界のタカ派政治家に当たってみます。航空機については我々のダミー会社が製作することが出来るでしょう。近日中に企画部へ提案を行い、近日中に計画段階までもっていかせます」

 

 

報告書を渡しに来た部下は新たな仕事を与えられてオフィスを後にする。サクラメント信託銀行の仕事は多い。名前通りの顧客の預金から投資、軍需企業への賄賂、NCR政府の裏工作に至るまで。

 

 

表向きの情報システムの仕事ではなく、本国の中央情報局長へのメール送信の内容を吟味し始める傍ら、目の前から消えゆく姿を横目に見ていたが重要案件を思い出し、その場で呼び止めた。

 

 

「あ!そうだった!」

 

 

「ど、どうしました!?」

 

 

あまり、その光景に見覚えのない女上司の声にまだ若い部下の青年は驚いた様子で彼女を見る。

 

「NCRとレギオンが補給路にしようとしていたデスバレー要塞はあのあとどうなってる?」

 

 

「あれですか・・・・・()()()()()はNCRもレギオンの野蛮人たちも手を出していないみたいですよ」

 

「ディバイド?」

 

部下の言葉に疑問を覚え、オウム返しに聞き返す。その単語(Divide)は二分や分割すると言った言葉であり、彼女には見覚えのない言葉だったからだ。

 

 

「・・・・・・ああ、すいません。モハビでは、ホープヴィルやデスバレーの近くを割れ目の廃墟ということでそんな呼び方をするらしいです」

 

「作戦名で教えてくれんとわからんよ。・・・で本当かそれは?」

 

部下はモハビ支部から転属した若い将校であるからか、流行り言葉や通称で伝えてしまう。向こうでもそれで伝えていたようだが、「Divide」と言われても「割れ目」や「分ける」と伝えられて分かるはずもなかった。

 

「はい。ダムの防衛戦以降、両軍はあの場所を輸送路としていないのは確実です。・・・・NCRとレギオンのスパイ曰く、我が軍が試作運用したラッドリザードと放射能の砂嵐が輸送網を阻んでいるとかで」

 

「地下から攻撃することを前提にトカゲとモグラを掛け合わせた生物か。技術局は何を考えているんだか」

 

 

 

呆れ果てて頭を抱える彼女に言葉を掛けられない男は苦笑いを浮かべつつも、エンクレイヴが実施していた作戦を挙げた。

 

「まあ、長距離弾道ミサイルや東海岸を標的にする長距離弾道ミサイルを残さなかったので、野蛮人共は本土に核を撃たないとは思いますけどね」

 

「はぁ・・・・・・そうだな」

 

女上司は部下の面倒な感想にため息を漏らす。未だ、ウェイストランド人への差別はエンクレイヴに存在し、未だに根強く庶民の奥底に存在する。東海岸派と呼ばれた排他的絶滅主義の輩は廃絶されたが、それは表面上に過ぎない。エンクレイヴが長年やっていた差別排他的教育は隅々まで行き渡っており、そうそう覆すことは出来ないのだ。民主主義を復活させた新アメリカ合衆国の首脳陣でさえ、それを表立って報道することが出来ないため情報統制を行っている。

 

 

FEVや放射能に晒されていても、純粋な汚染されていないエンクレイヴ国民と比べても何ら違いはないウェイストランド人。エンクレイヴ、NCR、Vault、ウェイストランド出身。生まれがどうあろうと、大差ない人類。そのことを経験上よくわかっている女上司はため息を漏らしつつも頷く。

 

「そういえば、あの核ミサイルの火薬庫はどうなったんだ?デスバレーは戦前に弾道ミサイル発射基地となっていたはずだよな?前任者はどうやってあの場所を処理したんだろうな」

 

まだ拝命から日が浅い若きシェイディ・サンズ支部長だが、前任者は前エデン大統領時代に任命された人物。多くは前任者が築いた基盤を元にNCRへ根を広げているに過ぎない。

 

 

「それは三年前のクロスロード作戦ですか?」

 

支部長の秘書として任命された青年はその記憶力が特徴の生きるデータベースだった。女上司は現状の問題について解決する傍ら、秘書に任命した彼に前任者が残した負の遺産を清算するために彼に覚えさせ、それを解決する能力を付けるために解決策を事前に提示するよう宿題を出したのだ。

 

前支部長は東海岸派のタカ派の元軍人であったため、モハビではNCRやレギオン問わずに肩を入れして混乱を生み出し、彼女の頭を抱えていた。エンクレイヴの封印する軍倉庫を原住民に解放してザイオン国立公園を戦場にしてしまい、ビックマウンテン極秘研究所から漏れ出す危険虫類生物をウェイストランド人撲滅のため遺伝子操作を行い、繁殖できるよう工作するなど様々な爪痕を残した。

 

 

そして、クロスロード作戦という前任者が残した戦後最大の負の遺産。これが大戦争のない平和な時代であれば、歴史の教科書に載るであろう放射能汚染。モハビ・ウェイストランドで語り継がれる二人の運び屋の死闘に至るキッカケを作った人物であったとは誰も知る由もない。

 

 

 

「ああ」

 

「過去にNCR軍に所属していた運び屋が核の発射コードを持ち込み、基地を吹き飛ばしました。ただ、あの基地は巨大ですので、大陸弾道弾以外の核ミサイルなら生き残っているかもしれませんね」

 

旧カリフォルニア州デスバレー。二十世紀初頭にゴールドラッシュが起き、金鉱目当てに労働者が集まったが、第二次世界大戦前には廃坑となり、荒地の谷として放置された。二十一世紀には国立公園として整備されたが、思わぬことでこの地は注目された。

 

枯れた金鉱の奥には高濃度の軍事転用可能なウランが多くあり、資源枯渇が叫ばれていた当時、再び多くの労働者がくるキッカケとなった。暫くしてその鉱脈も枯れると、その鉱脈跡地に米軍が目を付けた。その枯れたウラン鉱脈跡地は核攻撃にも耐えられる岩盤を削ったものであり、対中国対策として大陸弾道ミサイル発射基地を建設した。2070年代には、カリフォルニアを中心とする西海岸に中国軍の上陸部隊が来ると予測した統合参謀本部は核搭載中距離弾道ミサイルを配備する本土をも焦土とする作戦計画を建てた。だが、その頃には中国の潜入工作員が潜んでおり、侵攻部隊に被害が出ると踏んだ中国軍は米本土中枢である東海岸への攻撃計画を建てた。結局本土にミサイルを発射することなく、エンクレイヴがそれを維持管理していたのだ。

 

オイルリグ崩壊後、東へ移動したエンクレイヴはNCRに利用されやすいホープヴィルミサイルサイロ基地を含めた、デスバレー秘密都市は弾道ミサイルの核の自爆によって崩壊した。

 

いつしか彼はファイルキャビネットからその時の資料を取り出し、彼女へ渡していた。「極秘」と印が押されたそれは担当者の名前と大統領と統合参謀本部の承認が得られたことが記されており、彼女はファイルをめくり、作戦の状況を見ていく。

 

 

「元NCRレンジャーの運び屋?・・・・・モハビ・エクスプレス?」

 

「ネバダ州で秘匿性の高い荷物や重要性の高い荷物を運ぶ運送業者らしいですよ。

今ではMr.ハウスが投資してNCR製の車両を使って大規模な輸送を行っているようです。前まではイーグルクロウに警備依頼が来ていましたが、自前の部隊を使用しているっぽいですね」

 

工業化を果たしたNCRを投資の好機と見たMr.ハウスはモハビ・エキスプレスを買い取り、NCR製の車輌を購入。ニューベガスの物流を一手に引き受けていた。それに伴い、市場の独占によって大手のクリムゾン・キャラバンやガンランナーの三強のみがモハビに生き残るようになった。ごく一部の中小キャラバンが居るものの、殆どはハッピートレイルキャラバンのように他の強豪企業の手の及んでいない地域へ足を運ぶしかない。だが、其れは分の悪い賭けでしかなく、NCRの支配の及んでいない地域は人食いレイダーや野蛮な部族、最悪の場合にはシーザーレギオンのプロフリゲート狩りに遭って生首を晒す羽目になる。

 

 

「Mr.ハウスは要注意人物だ。そのうち、カリフォルニアへ手をのばしかねん。・・・・それか、こちらの事を教えるべきか?」

 

「我々の存在をですか?・・・かなり危険な賭けだと思いますけど」

 

「Mr.ハウスは自分の砦に閉じこもっているが、奴の技術力や兵力はかなり未知数だ。それにシーザーレギオンの前線基地の下にはハウスの秘匿Vaultがある。それはVault-tec本社のメインサーバーでさえ情報がなかった。もしかすると、国防総省の地下にあった“あれ”があるかもな」

 

「え!まさかあれが!?」

 

BOSが修復させ、ジェファーソン記念館に立てこもる反乱軍を壊滅させた鋼鉄の巨人。戦術核と高出力レーザーを用いるアンカレッジ奪還のため極秘裏に建造したロボット。今は新合衆国政府の調査も終わり、BOS唯一の強力な戦力として保持しているが、新アメリカ合衆国に組み込まれることのない準軍事組織として依然として勢力を保っていた。軍内部ではリバティープライムを恐怖の対象として見ており、以前BOSを仮想敵として見てしまう所以があった。

 

もし、シーザーレギオンがあのロボットを発見すれば膨大な電力を生み出すダムは破壊され、モハビはシーザーレギオンによって砂に還ることだろう。

 

「資料によるとマスコミに騒がれていた巨大ロボットだ。使い勝手も悪いし、多分一個師団に相当する軍事ロボットが眠ってるだろうな」

 

「・・・・モハビ支部の報告によりますと、大戦争前にネリス空軍基地がかなりの数の軍事用ロボを発注していたようですが、当時の史料を掘り返しても管理記録や部隊に所属された記録も一切ありませんでした。」

 

「・・・・・となるとMr.ハウスはかなりの私兵部隊を揃えているみたいだな」

 

既にニューベガスストリップ地区ではMr.ハウスのRobco社製PDQ-88bセキュリトロンが多く配備されており、その多くが治安維持のために動いている。総数はおよそ一個大隊規模であり、ニューベガス全体をカバーしているとみられる。そしてフォートにはその三倍、一個師団規模のセキュリトロンがMr.ハウスの命令を待っている。

 

 

改めてMr.ハウスの脅威が理解できた彼女は残りの目の前の書類に目を通す。

 

「モハビ支部が応援を要請したら、すぐバックアップできるよう人員にもたしておけ」

 

「了解です・・・・あ、そうでした」

 

「ん?どうした?」

 

「さっきのデスヴァレー要塞ですが、放射能汚染の砂嵐がひどく監視衛星も基地を確認できなくなっています。」

 

「・・・・ん?ちょっと待て。さっきNCRやレギオンの奴らが手を出していないってどうしてわかる?」

 

さっきの秘書の話では、さも見て来たかのような言い方であった。確認できないのであれば、どうして奴らが基地を制圧していないと言えるのだろう。

 

「NCRとレギオンの兵站情報は随時、諜報員から送られていますが、作戦実施以降は兵力の投入は無駄と判断したようで、双方ともに部隊を派遣してはいないようです。・・・ただ・・・」

 

「ただ・・・どうした?」

 

 

秘書官の言いよどむのを怪訝に思った彼女は問うものの、秘書官は苦い顔を浮かべつつその問いに答えた。

 

 

「砂嵐で生き残ったNCR兵やレギオン兵がフェラル化したとの報告が上がっていました。武器は使うものの、技術者は軒並み死亡しているのでミサイルの使用はできないと考えられます。ただ、何者かが軍事ネットワークのリンクを遮断して、アイボットや監視ドローンの使用、遠隔操作が出来なくなりました。核爆発によるEMPの可能性もありますが、誘爆による物理的な破損の場合も考えられるかと」

 

「・・・・・何やってるの!それじゃあデスバレーの状況が分からないじゃない。今すぐモハビ支部に連絡して、あの場所の状況確認を!」

 

「りょ、了解しました!スタウベルグ少佐!」

 

「・・・・私はマリア・アンブロスよ。次、間違えたらピッツバーグ刑務所で看守やらせるから」

 

マリア・アンブロス改め、アリシア・スタウベルグは秘書の青年に対して、青筋を立てながら新アメリカ合衆国の中でも、凶悪犯を収容して鉄溶鉱炉で働かせている刑務所に左遷するぞと脅す。その看守の仕事は非常に危険な仕事であり、ピッツバーグ市街は未だにその土地特有の伝染病に侵されたミュータントが発生しており、頑丈なビルを要塞化していた。

 

 

「マジっすか!・・・・支部長それだけは勘弁してください!」

 

「ならちゃんと働きなさい。しっかり働けばご褒美あげるわ」

 

 

「ご、御褒美?!」

 

美人で有能な女上司からご褒美を頂けると言われる。部下の男にとってそれはいろいろな考えが巡り、思慕を募らせる秘書官にとっては驚きと興奮があった。

 

ただ、運命は残酷なもので、秘書官が勘違いしたことを察し、小悪魔のような笑みを浮かべる。

 

「残念だけど、私には付き合っている人が居るから。あなたに良さそうな子紹介してあげるわ」

 

「・・・・・あっ・・・・そうですよね・・・・ははっ・・・」

 

 

漫画・アニメ調に表現するならば、青い縦線が彼の頭から背中にかけて引かれ、どんよりとした雰囲気が彼の周りを包み込む。報告の終わった秘書官は恋破れ、敗残兵の如くゆっくりとした歩調で帰っていく。

 

アリシアは「まだ若いな」と呟き、先ほど渡された資料の中にあったモハビ・エキスプレスと“例の運び屋”の身元を確認する。

 

 

「次はモハビが戦場ね・・・・誰が勝ち、誰が負けるのか。チップを多くベットした者が勝つとは限らないわ」

 

 

オフィスの窓から見えるNCR官庁街を眺めつつ、遠くから見える靡くNCR国旗を眺める。広場の隅にあるフラッグポールのてっぺんに付けられた国旗は双頭の熊ではなく、嘗て大陸に君臨していた星条旗が翻る。

 

だが、その星条旗は逆さに掲げられ、薄汚れて綻んでいる。白の生地は黒く汚れ、200年の歳月を経た旗。今にも消えてなくなりそうなそれは、今のアメリカを象徴していた。

 

 

 

 

逆さの星条旗。

 

 

 

それはかつてのアメリカで決められた救難信号。生命や財産が奪われる危機的状況に助けを求めるそれは、NCRが建国したすぐに掲げられた。

 

 

 

 

大戦争から200年。星条旗(アメリカ)は未だ逆さのまま、荒涼とした土地で少ない資源を求め争い合う。

 

 

 

人は……過ちを繰り返す……

 

 

 




批評・感想大歓迎です


Newvegas編はもうちょい先になるかと。


仕事で色々ありまして落ち着いてから書き始めたいと思います。


DLC編は後々アップ予定です。


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