シリアスが書きたいという適当な理由で作り、設定もできてないのにテンションで投稿しました。
駄文だと思いますが、よろしければ見てやってください。
ああ、どうしてこうなってしまったのだろうか。
迫りくる敵を見つめながら少女は考える。
私はただ、平凡な日常を送りたかっただけなのに。
そんな意味のないことをつらつらと考えている間にも、少女の右手は確実に敵の目を握りつぶしてゆく。
――――本当にそう?
一瞬頭の中に響いた声を振り払う。こんなことを私が望んでいるはずがない。右手を握る度に人の命を散らし身体を壊していく。こんな非日常を私が望むわけがないだろう。私は平凡で何の取り柄もない普通の人間なのだから。
少女はまるで自分に言い聞かせるように、同じ言葉を何度も心の中で繰り返す。
――――違うでしょ? もう貴女は人間ではない、人間を餌にするバケモノなのよ。
うるさい、私は人間だ!
またも頭の中に響く声に、少女は癇癪を起した子供のように怒鳴り散らす。しかし一度意識してしまうと、どうしても先ほどの言葉が脳裏にこびり付いて離れない。本当は自分がバケモノだと気が付いているのではないか。ただ気が付かないふりをしていただけじゃないのか。
そんな考えが頭の中でグルグルと回っている時、ふと、少女は口元に跳ねた肉片を拭おうとして違和感を感じた。
――――――笑ってる?
まさかそんなことがあるはずが……。少女はそう思ってもう一度、顔まで手を持ち上げるが、口元に当てた手は確かに少女の口角が上がり、唇が三日月を描いていることを確かに伝えていた。
その感触に少女は思わず口元から手を離し、まじまじと見つめてしまう。その時、不意に、目の前に持ってきた自分の手の人差し指に、口元を拭ったときの肉片が付いているのが嫌に目についた。まるで本能が叫んでいるように、不思議と指に付いた肉片から目が離せない。どうしてだろうか、何時もなら本能よりも先に精神が拒否反応をするはずなのに、今は本能に逆らおうという気持ちが湧き起きることはなかった。
徐々に近づく手に、心の何処かで止めろと叫ぶ声が聞こえる。それをしてしまえば戻れなくなるぞと理性が悲鳴を上げる。しかし、疲弊した理性は本能には抗うことはできず、ついに少女は口元に近づけた人差し指に付着する肉片を舐めとった。
刹那、少女は理解する。
――――――――あぁ、やっぱり私はバケモノになったんだ。
そして、自分が人間ではなくなってしまったのだと諦めに似たような感情で認めたと同時に、少女の思考は何かに飲まれるように掻き消えた。
◆
少女には名前があった。今とは違う日本人らしい苗字と名前、合わせて漢字四文字のありふれた名前。今になってはもう思い出せるのはそれだけ、けれど確かに今とは違う名前の少女がいた。それは前世と言うべきもので、少女の記憶の中に薄らと、だがしっかりと残っていた。
少女の前世は何の変哲もない普通の高校生だった。何か特徴があったとすれば他人より冷静に物事を把握できたことくらいか。周りからは天才とも言われていたが、自分ではそうは思わない。特徴といったら上げられるのはこの程度のただの一般人で、何の変化もない日常を過ごして、そして何の変わりもないまま流されるように少女は人生の幕を閉じた。
けれど流されるままに生きていた少女には特に何も後悔もなかった。あえて上げるなら頑張って育ててくれた両親に別れの挨拶が言えなかったことだけだろう。それでも少女は命を落としたことに悔いはなく、満足―――とはいかないまでも十分に生きることができた。
だから、少女はそのまま消えてしまっても良かったし天国か地獄に行くのでも全然かまわなかった。
なのに気が付いたら少女は光る球体として真っ白な何もない空間にいて、目の前で無邪気に笑う男がいたときは、それを茫然と見ているしかなかった。その男は少女を見るとその無邪気な笑みを深く深く、邪悪に見えるほど唇を釣り上げて楽しそうに
「やあ、始めまして。君はいきなりこんなところにいて茫然としているかもしれないけど、まず挨拶をされたら返すものだよね。ああ、でも君の住む星には名前を聞くならまず自分からっていうんだっけ。でも僕には名前が沢山あるからどれを名乗ればいいのか分からないな。まあ、とりあえず君に分かりやすいようにするなら神様かな? じゃあ僕も名乗ったんだから君の名前を教えてよ。あ、もしかして僕が神様だって信じてない? それなら僕の力を見せてあげよう。そうだな、君の名前は『■■■■■』――――ってあれ? もしかして自分の名前を認識できてない? そっか、君が死んだときに抜け落ちちゃったのかな。それなら名乗れないのも仕方がないね。あ、そういえば自分が死んじゃったのは理解してる?」
自らを神と名乗った男は状況を理解できない少女に対して息を吐く暇もなくまくしたてる。
茫然としている少女は自称神の勢いに押されて問いかけにただ曖昧な声で肯定することしかできなかった。
「ならよかった。自分が死んだことを理解できてなかったら話にならないしね。ああそうそう、その話なんだけど、実は君に転生してもらうことにしたんだ。理由は聞くなよ? 僕は神様だからね、崇高で偉大で壮大な暇つぶしが目的なのさ。ってしまった、理由を教えちゃったよ。まあでも聞くなって言っただけだし、自分から話す分には問題ないよね。というわけで、今から君には僕の暇つぶしとして転生してもらいま~~~~す」
意味が分からない。何故自分なのか、そんなこと望んでなどいないのに。次々と沸き上がる否定の数々。しかし、神と名乗った男はそんな少女の考えを読んだかのように嘲笑う。
「あ、拒否権はないから注意してね。じゃあ早速転生するにあったって転生する世界と特典を決めようか。じゃあこのルーレットを回してね。あれ、でも今の君には手がないのか、それなら僕が変わりに回そう。じゃあいくよ? せーの! ――――――――はい、君が転生する世界は東京喰種だね。で、特典はフランドール・スカーレットの力か。なかなか大変そうなものになったね。それにしてもグールの世界なのに吸血鬼か、さすがにそれは……そうだ! 吸血鬼と喰種のハーフにしよう。代わりに妖力とか魔法は使えなくなるけど吸血鬼の弱点もなくしてあげる。ちゃんと能力は使えるから安心してね。じゃあ転生させるよ。せいぜい僕の暇つぶしになってね、バイバイ!」
こうして少女は何も理解できないまま、有無を言わされず無理やり転生させられた。
あのまま消えてもよかったのに
人生に十分幸福を感じていたのに
望まぬ特典を与えられて
望まぬ種族にさせられて
望まぬ世界に
少女は、望まぬ転生をした。
◆
急に転生した時のことを思い出した。明日が誕生日だからだろうかと少女は首を傾げる。
少女が転生して、明日で8年が経とうとしていた。思い返せば今世の両親には大分迷惑を掛けたものだ。などと少し感慨深げに転生した頃のことを思い返す。
転生して最初の頃は現実を認めたくなくてとにかく泣き喚いた記憶がある。転生したなんて信じたくなかったし、何より喰種と吸血鬼の食事を知った時は、悪夢を見てるんだと何度も自分に言い聞かせた。けれど時間が経つほどにこれが現実だと受け止めるしかなくなり、少女はなんの気力もなく、死んだように生きていた。
食事を抜こうとしたこともあったが、喰種の飢えには耐えきることができなかった。幸いなことに、少女は喰種と吸血鬼のハーフだった為に、血を飲めば飢えを充分に満たすことができたので、本当の意味での食事は一切せずに人間の血液だけを飲み続けた。
そんな少女に両親は根気よく付き合い続け、そのおかげで少女はだんだんと生きる活力を取り戻していった。
気力を取り戻し、現実を受け止められるようになった少女はやっと他の事を考える余裕が生まれ、この世界に馴染んでいった。
今まで呼ばれる度に違和感しかなかったユエ・スカーレットという自分の新しい名前がお気に入りになったし、鏡に映る自身の姿を見て、これが自分だと実感できるようになった。
鏡の中の少女――――ユエは吸血鬼である母親に似ていて、母親から受け継いだ綺麗な金髪と宝石のように美しい深紅の瞳が特徴的だ。
父親は日本人だが、北欧の方の生まれの母親に似ている少女はハーフらしい綺麗な顔立ちをしている。元々は前世の少女も御世辞なしで美人と言われるくらいには顔立ちは整っていた。だが、今世の少女はそれ以上で、このまま成長すれば、それこそ絶世の美少女になること間違いなしだろう。
ユエは時々元の自分が懐かしく感じることはあるが、今の美少女の身体は嬉しいし、何よりも、母親譲りの金髪と深紅の瞳がとても自慢で大切だった。
ユエがこのことを二人に言った時は母親はとても嬉しそうにしてユエに抱き付き、父親は母親を羨ましそうに見ながら自分のことで自慢はあるかと尋ねた。この二人、所謂親バカというやつである。
ユエが父親の質問に対して特に何もないと即答すると、父親は泣きそうになっていて、ユエは母親と顔を見合わせて一緒に大笑いした。
こうしてユエは、徐々に日常の中で幸せを感じられるようになっていた。
そして明日でユエが転生してから8年目。なんだか随分と時間が経つのが早かったように感じる。
母親と父親に明日の為にも早く寝なさいと言われて、ユエはこの世界でやっと感じられるようになった幸福感に身を任せて両親に促されるまま眠りに落ちた。
――――その幸福が崩れ去るなど知らずに。
その日の夜、ユエは何故だか妙に気持ちが高ぶって目が覚めた。時計を見ると既に誕生日になっていた。
まったく眠れそうになかったので身体を起こしカーテンを開ける。すると目に飛び込んできたのは夜闇を照らす大きな満月だった。それを見てユエは気持ちが高ぶっていた理由を理解する。
そういえば今日は満月だった。吸血鬼のハーフの私の気が高ぶるのも当然かもしれない。
今までは満月でも夜に目が覚めることがなかったので少し不思議に思うが、ユエは、まあ、そんな日もあるだろうと納得する。
それにしても、とユエは考える。何故か全く眠気を感じられない。もう一度寝るのには時間がかかりそうだと判断したユエは夜風に当たる為に窓を開ける。と、そこで何か違和感を感じた。何かあるのかと少し五感に集中すると窓の外から入ってくる風に不自然な匂いが混じっていることが分かった。
さらに匂いを感じる為に目を閉じ嗅覚に意識を集中させると、その匂いは甘く食欲を唆る様な、それでいて何時も嗅いでいるような――――
そこまで考えた時点でユエは匂いのする方向へと全力で駆け出していた。
前世の感覚の所為で気がつかなかったが、今のユエは喰種と吸血鬼のハーフだ。そして当然食事は人間の頃とは違う。なら吸血鬼と喰種の感覚で美味しそうと感じるもの、しかも慣れている匂いといえば――――
「――――お父さん…お母さん……!」
◆
走る、走る、走る。
グールと吸血鬼の身体能力を使って匂いの下へ全力で走り続ける。
どれくらいの時間が経っただろう。十分? 二十分? 三十分? それとも一時間だろうか?
そんな時間の流れすら気にならないほどユエは必死で走り続る。路地裏の要り組んだ道を匂いを頼りに駆け抜け、ついに匂いの下へと辿り着いた。
そこは空き地のような広い空間だった。ユエは荒い息を整えもせずにその空間に足を踏み入れる。そこには似たような服を着た大人たちが何人もいた。ユエはその服の意味を知っていた。両親に見かけたら見つからないうちに逃げなさい、と何度も注意されたからだ。彼等の服は喰種対策局、通称CCG、グールの間では鳩と呼ばれる者たちが着ているものだ。両親の匂いは鳩の向こう側からしている。ユエは嫌な想像をしてしまい頭を振って考えたことを追い出す。
しかし、どうしても嫌な予感は拭えず、鳩の中でも特に豪華な服を着た二人の話しに聞き耳を立てる。
「やっと終わったか」
「しぶとかったですね」
「さすがはSレートの蝙蝠といったところか。三河上等がいなければ危なかったよ」
「いえ、井上上等がいてこそです。それこそ私だけでは倒すこともできなかったでしょう」
「そうか。それにしても、まさか蝙蝠に女がいたとは思わなかった」
「そうですね。あの身体能力と再生力は驚異でした」
「だがカグネを一度も出してなかったし、赫子のコントロールができていなかったのだろうな」
もう鳩の話しなんてどうでもよかった。ユエの意識にあるのは唯一つ、一瞬、鳩の隙間から見えた空き地の中央にいた心臓にクインケが突き刺さっている女性、そして首と胴体が切断された男性のことだけだった。
理解できない、理解したくない。しかし、現実は非情なまでの結果をつきつけてくる。そうだ、あそこに倒れてるのは、あの二人は――――
「お父さん…お母さん……」
その呟きが聞こえた訳ではないだろうが、鳩の捜査官がユエに気がついた。
「何でこんなところに子供が……」
その言葉に他の捜査官たちも気がついたようで、一斉にユエに視線が集まる。だけどそんなことは気にならない。
ユエは中央に向けて足を進める。
「お嬢ちゃん、ここは危ないから入ってきちゃ……」
本当に善意からなのだろう。鳩の一人がユエにやんわりと優しく注意する。しかし、ユエに捜査官の言葉は意味を成さない。
誰かが話してる。でもどうでもいい。ユエはまた足を進める。
「お嬢ちゃん、だからダメだと言っているだろ?」
優しい男なのだろう。注意を無視したユエにもう一度優しく言い聞かせるように言う。だがユエの意識には男の言葉は入らない。
目の前に誰かが立つ。けれどそんなの関係ない。ユエは回り込む為に足を進める。
二度目の注意を無視したユエに捜査官もさすがに少し強く注意をしなければと考える。
また誰かが前に立った。何か言ってるみたいだけど私は早くお父さんとお母さんに会わなくちゃなんだ。だから――――退いて貰おうか?
ユエがそう考えた瞬間、井上上等捜査官は悪寒を感じてとっさに叫んだ。
「おい、下がれ!」
「え?」
しかし、井上の言葉がユエの前に立つ捜査官に届いたときにはもう遅く、ユエは既に動き出していた。
「……邪魔」
ユエの手は捜査官の腹部を貫通し、腕を引き抜くと捜査官は大量の血をまき散らしながら倒れる。人生初の殺人。しかし、今のユエにとってはそれさえもどうでもいいことだった。
ユエは周囲の捜査官が突然の事態に固まった隙に一気に捜査官の間をすり抜ける。そして、ついに広場の中央、両親の倒れ伏す場所へとたどり着いた。
「お父さん、お母さん。迎えに来たよ」
ユエはそう言って両親に近づくが、返事はない。
「お父さん、お母さん。起きてよ」
ユエが話し掛けても二人は反応すら返さない。
――――お父さんとお母さんは寝てるんだ。そう、眠ってるだけだ。
「お父さん…お母さん……」
どれだけ声を掛けても二人はピクリとも動かない。
……分かってる、死んじゃったんだと分かってる。でも認めたくない、認められるわけがない。だから――――
「……お父さん、お母さん。お願いだから……お願いだから、起きてよ………」
……
…………
……………………
……ュ………ェ……………?
―――――――――――――――!?
「お母さん!!」
どんな軌跡か、ユエが必死に呼び掛けると母親は口元から血を流しながらも笑った。
「……ユエ」
だから大丈夫、きっとお母さんは助かるんだ。ユエは言い聞かせるように思う。
「……私の…最後のお願い」
しかし、ユエの願いは届かない。
「………生きて」
母親はもう助からないと何処かで理解しているのだろう。だからユエはだんだんと小さくなっていく母親の言葉を一言たりとも聞き逃さないようにする。
「……ユ…エ」
最後の言葉を永遠に忘れぬよう、心に、魂に刻みつけるようにして覚える。
「――ぃ――――――――」
その顔は笑顔で
「……ずっと……ずっ…と…」
それでも願わずにはいられなっかった。
「…貴女を………愛して…る」
――――――――私を一人に、しないで……ッ!
けれど、目から光を失った母親を見て理解する。
――……あーあ、
「死んじゃった」
言葉にした瞬間
ユエの中で
ナニかが
壊れた
――――――――アハ♪
◆
気が付けば辺りが血の海となり、所々に肉片が飛び散っていた。
無意識に指に付いた血を舐めとり、その背徳感と快楽に背筋を震わせる。今までは血を吸うという行為におぞましさすら感じていたのに今のユエは血を舐めても何も感じない。寧ろ何故今までこんなに美味しいことをしていなかったのかと疑問すら覚える。其れ程に彼女の中でナニカが決定的に変わっていた。
自分が何をしたかは覚えている。ただ、能力を使っただけだ。『あらゆるものを破壊する程度の能力』それがユエが神に貰った力。何故今まで使えなかったのか不思議なほどに馴染んだこの力で、CCG捜査官を皆殺しにした。なのにユエは初めての殺人に何も感じなかった。いや、実感できないと言った方が正しいか。
あの時のユエは笑いながらは鳩を惨殺しいて、まるで狂気に犯されたもう一人の自分を見ているように感じた。でもあれは確かにユエ自身で、ユエの中のナニカが狂ったのもまた事実だった。
でも、どれだけ自分が狂っても、それでも母親との約束だけは守ろう。ユエは心に刻み込んだ母親の最後の言葉を思い出す。
――――私は絶対に生るよ、お母さん。
――――――だから、お父さんとお母さんには私の力になってもらおう。そして私の中でずっと一緒に居よう。
それじゃあ――――
――――イタダキマス
この日、ユエが産まれて初めて喰べた
◆
――――今日は私の八歳の誕生日。一生忘れられない
―――――……私は
小説の主人公でも
何でもない……
前世の記憶があるとはいえ元は
ごく平凡な
何処にでもいる
普通の高校生だった……
だけど……
もし仮に
私を主役に一つ
作品を書くとすれば……
それはきっと……
『悲劇』だ
完全に深夜のテンションで目から汗を流しながら書きました。後から見直して悶えました。
次の話しもできていない状況での更新なので、次に投稿をするのは何時になることやら……
こんな適当な作品でもよければ、これからもよろしくお願いします!
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欺善
まだ一話しか投稿していないのにお気に入りや感想が予想以上に多くて驚いています。皆さん、ありがとうございます!
サブタイトルは『ぎぜん』です。
両親を喰べたユエは今まで住んでいた家を出て、様々な場所を転々としながら、時々襲い掛かって来る喰種を返り討ちにして少しずつ力を付けていた。
そんなことを3年近く繰り返しているうちにCCGに目を付けられ、ユエは上等捜査官二人が率いるチームを一人で全滅させたということもあって、S級レートに認定されていた。
人間を襲う際に血を好み月夜に行動することから、仮称『吸血鬼』という名で性別から赫子のタイプ、拠点など、ほぼ全てが分からない謎に包まれた喰種として結構有名になっている。
そんなある日、がユエが11歳の誕生日になる直前の日のことだった。
ユエは昨日から三区に来ていて探索の為に珍しく早朝に外を歩いていた。何が珍しいかといえば、ユエが早朝に外を歩いていること、というか起きてること自体が中々ないことだったりするのだ。
理由としてはユエがハーフであるとはいえ吸血鬼だからである。そう言われて真っ先に思い浮かぶのは恐らく日光によって灰になることだろう。しかし、ユエは神によって吸血鬼の弱点がなくなっている為にそれはあり得ない。ならば何故か、それは弱点ではなく吸血鬼の長所が仇になったからだ。仇になったのは吸血鬼が夜行性であること。この特性せいによってユエは夜の間は気が高ぶりあまり眠れない。それに加えて、活動するのは夜の方が安全なので、ユエは日が上ってからの午前中は基本的に寝ているというわけだ。
そんなわけで少し寝不足で怠い身体に鞭を打って三区の様々な場所を探索をする。ただ探索するだけではなく、細い路地裏などを重点的に歩き回り、万が一に備えて鳩対策の逃走経路などを頭の中で組み立てておくことも重要だ。これによって鳩から逃げられる確率が格段に上がる。ちなみにこれはユエの実体験である。
しかし、そんな風にうろうろしていたのがいけなかったのか、先ほどから誰かがつけてきていることをユエは察知していた。一度、人混みの中に入ってさり気無く確認したのだが、普通の恰好をした男だったので、多分鳩ではないだろうと判断した。そうすると一番可能性があるのは喰種なのだが、後をつけられる理由が分からない。随分と歩き回っているのにまだ出てこないので恐らくユエが人気のない場所に入るのを待っているのだろう。このままではらちが明かないと考えたユエは誘いに乗って敢えて人気のない裏路地に入った。
すると後ろをつけていた男が猛スピードでユエに殴りかかってくる。当然、こうなることを予想をしていたユエは後ろを見ずに気配で相手を察知して横に避ける。
「なっ!?」
男はまさか避けられるとは思っていなかったのか、空振りをした勢いで態勢を崩した。態勢を崩しユエと位置が入れ替わるように前に出た男の背中を、そこそこ力を込めて蹴飛ばしてやると、突っ込んで来た勢いも合わさり面白いくらいに吹き飛んでいく。
「ねぇ、貴方、喰種かしら?」
ユエはうつ伏せに倒れている男に喰種だと確信していながら、戯れに問い掛ける。
随分と前に分かったことだが、喰種にとってユエは美味しそうな匂いがするらしい。喰種は同種を美味しいとは感じないのだが、どうも半喰種は違うらしく、寧ろ普通の人間よりも美味しそうに見えるようなのだ。ユエの見た目が現実離れたレベルで美しかったのも災いしたのだろう。その所為で治安の悪い場所に行くと大抵喰種に襲われることが何度もあった。まあ、そういう目的で襲ってくる奴ほど弱いことが多いのだが。というか、精神年齢はともかく身体はまだ11歳なので、ユエを襲う奴はまごうことなき変態である。
とにかくそんなことがあるので、ユエは毎回注意していて、3区も治安が悪いのは知ってはいた。だが、まさか早朝から襲われるとは思っていなかったのだ。
そんなことを考えている間に倒れていた男は立ち上がっていた。まあ、わざと待ってあげていたのだが。待っていた理由は男の実力が自分には遠く及ばないと判断した上で、男の勘違いを正す為。
予想通りをユエを見た男は赤黒い目を見開いた。それは自分の左の白目部分が黒く染まっているのが見えたからだろうと想像通りの反応を示した相手から理解する。
「せ、隻眼の喰種!? 」
驚愕を露にしている男にユエはキレイな笑顔で微笑んだ。
「私、お腹が減ってない限り誰かを襲うことは滅多にしないのだけれど、襲い掛かって来た相手は容赦をしないことにしているの。だから――――死んでくれる?」
その言葉をトリガーにしてユエの中でバケモノが目を覚ます。同時にユエの肩付近から細い枝のようなものが皮膚を突き破って飛び出した。飛び出したのは喰種の武器である赫子だ。その中でもユエの赫子は羽赫と呼ばれるものに分類されていた。しかし、その翼のような羽赫は異形、もしくは異常と言うべきものだった。
通常、羽赫とはRc細胞を放射することで高い俊敏性能を得る赫子だ。しかし、ユエの羽赫は対の枝のような部分に七色の結晶がいくつもぶら下がっているという羽赫とは思えない不思議な形をしている。実際、この羽はRc細胞の放射をしていないので、俊敏性の代わりに高い持久力を持っていて、枝の部分は尾赫と同じような形状をしている。唯一、羽赫らしいところは枝に付いている結晶を飛ばして遠距離攻撃ができることだろうか。
そんなユエの異常な赫子に男は警戒心を剥き出しにして肩甲骨の辺りから赫子を発現した。どうやら男の赫子は甲赫のようだ。
赫子には相性というものがあり、尾赫は鱗赫に強く、鱗赫は甲赫に、甲赫は羽赫に、そして羽赫は尾赫に強いというのが常識だ。なので赫子の相性的に普通は男の方が有利なのだが、生憎、ユエの羽赫は通常とは違い明確な弱点が存在しない。それでも上げるとしたら、甲赫の固さがないことか。
ユエ自身も少しずるいとは思うのだが、わざわざ手加減する理由にはならないのでさっさと終わらせることにする。
ユエが自分の赫子を一度上下に動かすと結晶どうしがぶつかり、シャランと涼やかな音を鳴らす。それが戦闘開始の合図となった。
ユエが結晶を飛ばして攻撃すると、男は甲赫を盾にしながら接近してきて赫子を剣のように使って攻撃してくる。だが、甲赫はその固さ故に速度がないので、ユエは軽々と躱すと羽赫を振い、枝のような部分によって赫子のない方の男の腕を切断する。
「ぐっ!」
「貴方、弱すぎてつまらないわ」
一旦距離を取り、腕を抑えて苦悶の表情を浮かべる男に対し、ユエは嘲笑を浮かべる。
すると男は今の戦闘で敵わないと悟ったようで、背を向けて必死に走り出した。まあ、判断としては間違ってはいない。が、残念ながらユエは襲い掛かってきた敵を逃がすことはするつもりはなかった。必死に走っている男の前の地面が突然盛り上がり、その腹を貫通する。
「残念、私の羽赫は一対だけじゃないのよね」
そう、言葉にした通りユエの羽赫は一対だけではなく最大三対まで出すことができる。今回はそのうちの一対を戦闘中に地面に潜り込ませ、隙を見て腹を貫通させた。尾赫や鱗赫の喰種がよく使う手段なのだが、ユエの赫子は羽赫なので常識に囚われている相手にはとても有効な策となるのだ。なので、ユエは戦闘時に様子見の一手も兼ねて、この手段を用いることが多かった。
ユエは男から赫子を引き抜くと、反抗されたら面倒なので念のためにと羽赫の宝石を飛ばして男の頭を貫き確実にしとめる。男が息絶えたのを確認するとユエの中のバケモノが引いていくのが分かった。それから先ほどの戦闘を思い返し、小さくため息を吐く。自分がバケモノだと認めたときから、どうも戦闘になると破壊衝動に近いものが沸き起こり、自制が利かなくなってしまいがちなのだ。殺しに容赦がなくなることは助かるのだが、衝動が収まった後の感覚にはどうも慣れることができない。
「まったく、難儀なものね……」
そう一人ごちて頭を横に振る。とそこで倒れ伏した男の死体のことを思い出した。男の腹と頭から大量の血が流れ出てくのに気が付き考えを打ち切ると少し慌てて男に近づく。早く喰べないと血が失われてしまう為だ。吸血鬼のハーフであるユエにとってはグールのものであろうと血液は最高の食糧になる。この点は吸血鬼でよっかたと思えるユエだった。
周囲に人気がないことを確認したユエは男の亡骸の前に立つと手を合わせる。
「それじゃあ、いただきます」
◆
思わぬ事態もあったが無事に探索も終わり、裏の関係で情報収集していた時だ。一つ気になる情報が耳に入った。その情報とは三区のCCGの特等捜査官が一体のグールに殺害されたというものだ。
特等捜査官といえば一人でSレートのグールを倒すことができるほどの実力を持っている。そんな相手に一人で勝つことができるとしたら、それは最低でもSレート級の実力を持っていることになる。事実、集めた情報によれば特等を殺害したグールは仮称Xとされ、S級レートとして認定されたらしい。
そんなグールがいるなら一度調べた方がいいかもしれないと考えたユエは特等捜査官の殺害現場を確認しに行っく。しかし、現場はCCGのガードが堅いこともあって詳しくは調べられず、結局集めた情報以上の成果は何も得ることができなかった。無駄足に終わったことで少し精神的な疲労感を覚えて少し休憩しようと廃墟のビルに入ったときだった。
ふと、空気に混じる不思議な匂いを感じて立ち止まる。ユエが感じた匂いはとても美味しそうな大量の血の匂い。しかしそれは人間のものだけではなくグールの匂いも混じっていた。人間を襲ったグールがいるのだろうかと考え、ユエはいつ襲われてもいいように気配に気を配りながら目を閉じて嗅覚を鋭敏にさせる。
そうしてユエは自分が勘違いしていたことに気が付く。確かに人間を襲った者がいるのは確かだ。しかし、その襲った者の匂いが今までに嗅いだことのない不思議な匂いだった。それはまるで人間とグールが入り混じったようなもので、とても香ばしく今までで一番食欲をそそる美味しそうな匂い。
そこまで感じたところでユエは匂いの元に向かって歩き出していた。今のユエには危険だとか罠とかそういった考えは浮かんでも、歩みを止める自制心は残っていなかった。そうして匂いをたどり着いた場所で見たのは大量の血が乾いて赤黒く染まる床と、その中央で腹部を抑えて倒れているユエとそう歳が離れていなさそうな少女。
少女は意識を保つのがやっとなのか、よく見ると腹部の傷は赫包にまで届いているように思える。少女は今になってユエのことに気が付いたようで視界に入ったユエを見て目を見開き、身体が動かないにも関わらず敵意を剥き出しにして
ユエは自分を睨みつけている少女の直ぐ傍、手を伸ばせばお互いに触れられるほどの距離まで近づく。ユエの突然の行動に固まる少女に対してユエは敵意がないことを示すかのように優しく微笑みかけると、年齢に似合わぬ何処か妖艶に感じられる仕草で服をずらし、肩を露出させた。
「いいわ、食べて」
突然のことに戸惑う少女にもう一度安心させるように笑うと、少女は恐る恐る肩に歯を突き立て、そしてユエが未だに優しく笑っているのを見ると意を決したように一気に肩を噛み切った。ユエはその痛みに一瞬声を上げそうになるが必死に抑えて、笑顔を全く崩さない。それを機に、少女はユエの肉を貪り喰らい始めた。
ユエは痛みを堪えながら何故自分がこんな行動に出たかを考える。実はこれはユエが意図的にやったことではなく、少女の目を見た瞬間に衝動的に行っていたのだ。まず突然食欲が収まった理由、これは分かる。少女の目が自分と似ていたからだ。この世界に絶望していながらも強く生きようとしている。しかし、どこかで死んでしまっても仕方がないと諦めを感じている、そんな目だ。だが、何時もの自分はそれだけでは誰かを助けるようなことはしないことをユエは理解していた。そんな目をしているのは自分だけではなく世界中にいるし、それをいちいち助けることなどできないということをユエ自身が分かっているからだ。では何故か、じっくりと考えて、そしてやっとその理由に思い至る。
――――そういえば明日は私の誕生日だったな。
ただそれだけのこと、けれどそれはユエの中でストンと収まったように感じた。
その時、いつの間にかユエの肉を食べるのをやめて顔をじっと見つめる少女の姿に気が付いた。
「……どうして助けた?」
どうして、か。ユエは少女の問いに対して自嘲気に笑う。ただ両親の死んだ日に誰かに死んでほしくない、そんな自分勝手で責任感の欠片すらもない理由。しかもユエは助けたとはいえ警戒を怠ってはいなかったので、もし少女が妙な動きをしたら赫子を出せるようにしていた。それで素直に感謝されるのは少し気まずいし、それを目の前の少女に告げるのも少し躊躇われた。
「明日が私の誕生日だからよ」
なのでユエは適当にはぐらかすことにした。当然、意味の分からないセリフを言われた少女は頭上に疑問符を浮かべる。
「それに、同類を初めて見たから放っておけなかったの」
すかさず本当ではないが嘘でもないそれらしい理由を告げる。少女はユエの片側だけ発現した赫眼に目を見開く。そして少女は納得したように頷いた。それを見たユエも少女が納得してくれたのを理解して話題を変える。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はユエよ。貴女の名前は?」
「……私はエト、さっきは助けてくれてありがとう」
とはいえ、少女―――エトが見かけ上の言葉にここまで素直な態度で付き合ってくれることに、ユエの中に少しだけ罪悪感が沸き起こってくる。
最初に向けてきた敵意がまるで嘘のようだ。
それだけエトにとっては、命の恩人でもあるユエという同族が珍しく、仲間意識を持てる存在だということだろう。いや、もしかしたらエトにとってはユエという個人のみに仲間意識を持ったのかもしれない。ユエと同じく、エトもユエが自分と似た目をしていることに気が付いていたのだから。
「別にいいわよ。さっきも言ったけど、
だからだろうか? ユエは先ほどと同じ理由、しかし今度は完全な本心を口にした。ただ、ユエの言う同類が隻眼のことを言っているだけではないことは明らかだった。エトもそれを理解した上で何も言わない。何故ならエト自身も同じ考えだから。
二人はお互いに同類であることに興味を持ちながらも、同類である根源については一切触れない。それは二人の考えが一致していたから。即ち、
『人に愛されるもっとも簡単で効率的な方法は「その人の傷を見抜いて、そっと寄り添うこと」でもそれは弱みに付け込んでいるだけであり、現実の逃避でしかない。ましてや同族がするのは「傷のなめ合い」でしかない』
このように思っていたからに他ならない。特にユエは意識してやったことではないとはいえ、この方法で両親にほだされたのだから、この思いは人一倍強かった。
要するに二人は不思議なほど波長が合っていて、一時間もしない内に友達どころか親友と呼べるまでの関係になっていたということだ。
そうこうしている内にいつの間にか時間が経っていて、外はすっかりと日が沈んで月が夜闇を照らしていた。二人はいつの間にか夜になっていたことに気が付き、こんなに話していたのかと顔を見合わせて苦笑する。
「ねえ、エト。身体はもう大丈夫?」
「うん。ちょっとお腹が空いてるけど赫子を出せるくらいには回復した」
「そう、それなら
「えー、ユエ、美味しかったからまた食べたかったのにな」
「笑えない冗談はやめて」
そう言ってユエは立ち上がり、歩き出す。その後に続いてエトも立ち上がり、ユエに付いていく。なんだか話しの終わらせ方が急だった気がするのだが、それは気の所為だ。決してエトの言葉が冗談に聞こえなくて打ち切ったわけではない。ただ、エトに早く傷を治してもらいたくて急いでいただけだ。
だから、ユエは後ろから聞こえた「冗談じゃないのに……」というエトの声は聞こえていなかった…………ことにした。
◆
九月に入り、夏の猛暑が少し収まってきた頃、真夜中の気温は半袖一枚で過ごすにはちょうどいい気温になっている。それの為、人々は夏の寝苦しさを忘れて深い眠りについていて、時計の針が午前三時を回った頃には三区全体が眠りに落ちたように静かだった。
「ぐぁっ!」
そんな静かな三区の狭い路地裏に男の声が響き、ドサリと何か重たいものが倒れた音がする。
雲に隠れていた月が顔を出し、薄い光が路地裏を照らす。そうして見えてきたのは背中から大量の血を流して倒れ伏す男だった。
「さすがX、強いわね」
そんな路地裏の状況に似つかわしくない呑気な声が響く。路地裏の影から出てきたのは二人の少女、一人は緑の髪が特徴的で年齢の割に小柄な少女、もう一人は月明かりが反射する煌びやかな金髪をなびかせて大人な雰囲気を漂わせている少女だった。
ただ、その二人の少女の姿は異常、いや、異形というべきか。緑の髪の少女は肩の辺りからゆらゆらと波打つ羽のようなものが出ていて、金髪の少女は同じく肩の辺りから枝に宝石が付いたような不思議な翼を持っていた。そして二人の目は緑髪の少女が右、金髪の少女が左の片側が赤黒く染まっていた。
そう、エトとユエの二人だ。この二人、一応エトの方が年上のはずなのだが、小柄なエトと大人っぽいユエでは完全に同年代に見えた。
「X?」
「あら、知らなかったの? エトって特等を殺したグールよね」
「気づいてたんだ」
「匂いがしたから」
ユエが特等が殺害された現場を見にに行った時にした匂いがエトからしたのだ。それがただの匂いだったらユエも気が付けなかっただろうが、現場に残っていた匂いは血の匂いだった。吸血鬼の能力により血の匂いが簡単に判別できるユエにとって大量の血の匂いを嗅ぎ分けるなど造作もないことだった。
「エト、貴女特等捜査官を殺害したからXと命名されてS級レートに認定されたのよ」
「へぇ、じゃあユエのレートは?」
エトは自分のレートなのに興味を示さずユエのレートを聞いてくる。レートが付いているグールはごく少数なのだが、エトはユエにレートが付いているのは当然といった様子だった。
「S級レートで吸血鬼、なんて呼ばれてるわね」
「吸血鬼、か」
エトはユエのレートには何も言わずに吸血鬼という名称についてだけを考えているようだった。どうやらエトの中はユエがS級レートなのは当然のようだ。
しばらく考え込んでいたエトだが、ふと顔を上げると何かに気が付いたようで、少しだけ慌てながら口を開いた。
「あ、時間が経つと不味くなっちゃう。食べてい?」
「もちろんいいわ。……それにしてもどれだけお腹が空いていたのよ」
鼻腔をくすぐる香ばしい血の匂いに食欲がそそられるが、何とか我慢してエトに譲った。ユエは許可をもらって無我夢中で獲物に喰らいつくエトを見てユエは呆れを含ませた声音で呟く。
ユエが言っているのは女性のグールは食事を見られるのが嫌いなのにエトはそれが気にならないほど夢中で食事をしているということだったのだが、エトにはそんな意識はなかったようで言葉のままの意味で捉えた。
「ユエを食べちゃいたいくらい」
「…………」
ユエは沈黙を持ってエトの言葉を全力で聞かなかったことにする。エトも今は食事の方が優先なのか、無視したユエに何も言わずに食事を再開した。二人の間に沈黙が落ち、路地裏にはエトが食事をする音だけが響く。
それから三十分以上経った頃、食事が終わったエトは立ち上がりユエに身体を向けたところでユエの様子が少しおかしなことに気が付いた。
「ユエ、どうしたの?」
「…………」
エトが尋ねてもユエは何も答えない。よく見ると、ユエは何かを堪えるように顔を俯かせて強く拳を握っている。
「ユエ――――ッ!?」
何の反応も返さないユエを不思議に思い肩に手を置いた瞬間、突然ユエが動いた。エトは何が起きたか分からず混乱するが、しばらくして自分が空を見ていることに気が付きユエに押し倒されたのだと理解した。
普段はこのような失態は起こさないのだが、エトがそれだけユエに心を開いている証拠か。ここで赫子を出して反撃するのだが、敵意や殺気を感じられなかったこともあって身体を起こそうとする。が、突如エトの身体に重みが加わり動きが止まる。何が起きたか確認しようと顔を上げたところで僅か数センチの距離にユエの顔があることに気が付いた。
「ユ……エ……?」
吐息が掛かる距離で見つめ合いながらエトは思わず戸惑いの声を上げた。それはユエがまるで熱に浮かされているかのようだったから。
エトの視界いっぱいに映るユエの顔は赤く紅潮していて、荒く熱い吐息がエトの顔に当り思わず身を攀じる。しかしユエはそんなことは気にも留めず、何かが込められた熱い視線でエトを見つめている。その真紅の瞳も左側が赫眼になっている上に、何故か両目共に瞳孔が猫のように縦に裂けていた。
「エト……食べていい?」
「……え?」
突然のユエの発言にエトは思わず間の抜けた声を漏らした。
(ああ、ヤバイ。止まれないかも)
ユエはそんなエトの様子を見ながら、霧がかかった思考で考える。最初にエトに対して感じた飢えが、再び襲いかかってきたのだ。飢えと言ってもただの空腹ではない。何かを心が求めているような、そんな狂おしく堪えがたい飢えだった。
昨日はいろいろとあった上に食事をしたばかりだったので、一度衝動を抑え込んだ後は何も感じなかったのだが、ユエは戦闘によって高揚していたところにエトの食事の匂いが加わり、既に理性が飛びかけていた。
「私も………」
「え?」
「私もユエを食べたい」
いつものユエなら冗談と言って流すところなのだが、飢えによって理性が飛びかけている今のユエにとって、エトの願いは「その程度か」としか感じられなかった。
「良いわ。だから食べてもいい?」
「うん。それじゃあ食べるよ」
『イタダキマス』
そして、二人は同時にお互いの首筋に喰らいついた。
エトは無我夢中でユエの肉を喰らい千切り、ユエは鋭い犬歯を突き立ててエトの肉を抉りながら血液を吸い続ける。
「はむ……んく…ぁ……うむ…ん……」
「…んちゅ……ぅぁ……んむ…ぁ……」
くちゃくちゃ、ぐちゅぐちゅ、とお互いの肉を喰らう粘着質な音が響き渡る。エトとユエは喰らい合っている間、激痛を味わっているはずなのだが、今の二人には痛みさえも届いていなかった。
喰らった血と肉は、口に入った瞬間に味が分からなくなる程の快楽の洪水が全身を駆け巡る。それはまるで禁断の果実を口に入れたようで、友を喰らうという背徳感、そしてそれを上回る圧倒的快楽にユエとエトは泥沼のように嵌りこんでしまう。二人はさらなる快楽を求めて、よりいっそう絡み合い、お互いを喰らい続けた。
以下、本文解説的なもの
【ユエの変心】
・二話目にしてユエは白カネキさんバリに変心しています。
ですが安心してください。ユエはラスボス系主人公にするつもりですから、『へんしん』はまだ残っています(白目)
【吸血鬼】
・ユエは上等殺害以外にもいろいろとやっているのでSレートになってます。
CCGが得ている情報は遠距離攻撃可能なことから恐らく羽赫だということと、ユエの着けているマスクだけです。ちなみにユエのマスクは未だに考え中。
【赫子】
・ユエの赫子はフランちゃんの羽です。付け根の位置から、羽赫にするか鱗赫にするか迷ったのですが、羽ということで一応羽赫に分類しました。……本当に羽赫と言えるかは微妙ですが。
【エト】
・エトについては謎が多すぎて迂闊にユエと合わせることができないので、唯一単体で動いていた特等殺害で絡ませました。怪我についてはかなり無理がありますが、あくまで二次創作ということで寛大な処置をお願いします。
きっと特等は不屈の篠原さんみたいな人で、エトは油断した隙を突かれてしまったのでしょう。
【喰らい愛】
・R18(意味深)
ユエとエトの歪んだ関係を書いたつもりだったのですが…………
どうしてこうなった
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夢苦
お待たせしました。
しかし待たせたわりに内容は酷い上に短いです。
理由、
ほのぼのとした日常を書こうとしたのが間違いでした!
ええ、私がほのぼのを書くのは向いていないことが今回ではっきりしました。何せいざ日常を書こうと思ったら手が止まり、そのまま二週間が経過していましたからね。結局内容はシリアスっぽくなりましたし。つくづくほのぼのが向いていないことが分かりました。
一応、言い訳をしておきますと、日常を過ごしているエトの姿と口調が想像できなかったんです。それでも二週間なにも書けないのは酷いと思いますけど。
そんなわけで内容は散々ですが目をつぶっていただけたら嬉しいです。
サブタイトルは『むく』
結局、あれからユエとエトがお互いを離したのは空が白銀のような薄白い色に染まり始めたころで、その理由も血液が足りなくなったということによるもの。お互いに喰らい合っても、喰らった分だけ再生することになる二人にとっては体力や傷など関係ないことで、もしもお互いの血がまだ残っていたとしたら、それこそ永遠に喰らい続けたのではないかと思えるほどだった。
冷静さを取り戻した二人はお互いに血にまみれた赤く染まった服を見て苦笑する。まさか自分たちでもここまでやるとは思っていなかったのだ。貧血によって少しふらふらとする頭で周囲を見渡せば、辺り一面、それこそ路地裏のアスファルトが赤く染まる程で完全に血の海と言える惨状になっていた。その大半が赤黒いシミに変わっていて、どれほどの時間を喰らい合っていたのかが分かる。
「これからどうしようか」
「どうって?」
「エト、このまま血だらけでいるつもり?」
「……どうしよう?」
困った様子で首を傾げるエトを見て、ユエはエトに仲間やアジトがないことを悟る。いや、いないと考えるのは早計だが、今近くにいないというのは確かなようだった。せっかく会ったのにこのまま別れたくもない。そこでユエは一つの提案をした。
「エト、私の泊まってるホテルに来ない?」
あれから三十分、喰種の身体能力をフルに使って人間に見つからないように家やマンションの屋根を飛び移ったりしながら移動し、やっと目的地に到着した。
「ここよ」
「……ここが?」
エトが唖然とした様子で呟く。それは当然とも言えた。なにせユエが泊まっているといったホテルは、高層の煌びやかな光を放つどこからどうみても立派な高級のホテルだったのだから。
ユエは茫然としているエトを連れて一目のつかない裏口へと連れて行く。辿り着いたのは関係者以外立ち入り禁止と書かれた小さな扉。どうみても職員用の裏口にしか見えないその扉をユエは独特のリズムでノックする。すると扉が内側に開き中から燕尾服を着た使用人のボーイがでてきた。そのボーイは血だらけのユエとエトを見ても眉一つ動かさず頭を下げる。
「お帰りなさいませ」
「シャワーを浴びるから着替えを二人分用意してちょうだい」
異常ともいえるボーイの態度にユエは当たり前の様子で命令をした。それを受けたボーイもこれが当然といった態度で再度綺麗な礼をして見せた。
「かしこまりました。それでは、ご案内させていただきます」
「いえ、構わないわ。代わりと言っては何だけど、マダムにしばらく依頼は受けられないと伝言を頼むわ」
「承りました。服は後ほどメイドに用意させます。では、どうぞごゆるりと」
そう言って再度頭を下げるボーイの横を通り過ぎシャワールームへと向かう。今まで茫然としてフリーズしていたエトもようやく動き出した。
「ねえユエ、ここって……」
「表向きは普通の高級ホテルだけど、ここは喰種が管理しているホテルよ。偶然オーナーと知り合う機会が出来てね」
「レイちゃんは元気かな」などと呟くユエに事情を知らないエトは首を傾げるしかない。
「そういえばユエの口調が少し違った気がしたんだけど、どうして?」
「ああ、今の方が素だけど、あっちが普段使ってる表向きの口調よ。まあ、癖みたいなものだから気にしないで」
実際は裏の仕事で子供だからとなめられない為に使っているうちに初対面の相手だとあの口調になってしまうようになったというのが正しいのだが、ユエはそこまで説明する気はなかった。
そんな感じで話し合っているうちに目的のシャワールームに辿り着く。実はわざわざシャワールームに来なくてもユエの部屋にちゃんとしたシャワーはあるのだが、わざわざシャワールームに向かうのは、ここのシャワールームが特別な使用で喰種専用になっているからだ。つまり今のユエたちのように、人間には見せられない理由で使う場所ということだった。
脱衣所に入ったユエはさっさと服を脱ぐと個室に入り身体を洗い始める。あまりシャワーや入浴が好きではないユエとしてはさっさと身体を洗って出たいと考えていた。前世ではそんなことはなかったので、恐らく吸血鬼の弱点の名残だろう。弱点が完全に消えても、生存本能としての苦手意識が消えることはないということだ。
ユエの異様なまでに白い肌に付着する血液は、まるで雪の中に紅い血が零れ落ちたようで、不思議なほどに美しく見えたが、それ故にとても目立っていた。そんな身体を血が残らないように綺麗に流し、さらに血の匂いが残らないように石鹸で洗う。自慢の綺麗なストレートの金髪は特に念入りに行い、手入れも忘れずに行っておく。いくら水が苦手だと言っても、これだけは欠かさずに行っていた。
「きゃっ!?」
「……きゃあ?」
ユエが身体を洗っていると突然隣からエトらしからぬ可愛らしい悲鳴が聞こえた。悲鳴の感じから何かに驚いたような様子だったので大事があったわけではなさそうだが、一体どうしたのだろうとユエは首を傾げる。
「エト、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫。いきなりお湯が出てきて驚いただけだから」
仕切り越しに聞こえてきた声に疑問を抱く。いきなりお湯が出てきて驚くとはどういうことだろうか? 理由を考えると、まさかと思うような突拍子もない一つの可能性に行き当たった。
(……エトってもしかしてシャワー使ったことない?)
もしも本当にシャワーを使ったことがない生活とはどんな生き方をしてきたのか。一瞬そんな考えたが容易に答えが出た。とはいっても喰種には良くあることなので自分には関係ないと考えるのを打ち切る。友人として冷たい態度だとは思うが、立場が逆でもエトも同じことを考えるだろうし、お互いにそこまで踏み込むつもりはなかった。
ユエは一旦個室から出ると、隣の個室に入りエトにシャワーやボディーソープの使い方などを教える。頻りに感心していたエトに少し癒された。前世では醒めた性格で他人程乙女ではなく可愛いものに興味が薄かったユエでも、これが萌えか、と真面目に考えるくらいには。
その後は特に何か起こるわけでもなく普通に身体を洗い終え、用意されていた服に着替えるとユエの部屋に向かう。エレベーターで最上階に向かい、オートロックを解除して部屋に入る。ちなみに、ここまでの間にエトがずっと驚きっぱなしで、その姿にユエが悶えそうになったのは完全な余談だ。
ユエが泊まっている広いVIPルームを一通り見まわったエトは一旦落ち着くと流石に疲れが出てきたのか、少し意識が曖昧な状態になって来る。ユエも同じく疲れが出てきて、時計を確認してみると既に午前五時を半分も回っていた。寧ろ貧血の状態で良くここまで持ったものだと自分に対して変な関心のし方をすると、ユエと二人一緒に子供には少々大きいベッドに同時に倒れ込む。
「それじゃあ、お休みエト」
「うん。お休み、ユエ」
そう言って二人一緒に遅めの就寝に着いた。
◆
暗く黒い、光が届かず、存在さえ許されないような闇が支配する空間にユエは一人でぽつんと立っていた。
突如として襲い掛かる孤独と恐怖感。必死で我慢しようとするが、まるで精神退行したように感情の自制が利かない。
「……お母さん……お母さん!」
不安に駆られるままにユエは叫ぶ。しかし声は闇に溶けて消え、返事は返って来ない。
「お母さん……一人にしないで……」
呟くユエの背後から懐かしい声が聞こえた。
『――――ユエ』
「お母さん!」
振り返るとそこに立っていたのは、身体中が血に塗れ倒れ伏す母親の姿。ユエは慌てて駆け寄ろうとする。しかし地に足が付いていないかのように全く前に進まない。刻々と流れていく血液。
『ユエ、生きて……』
ついに母親がそう言って動かなくなると同時にユエは突如として動けるようになった。必死で駆け寄るユエ、しかし既に時は遅く母親はピクりとも動かない。
「おかあ……さん……」
母親に触れようとした瞬間、周囲の空間にノイズが走った。そしてノイズが収まった途端に急激に黒い空間が赤く染まり始めた。赤く、緋く、朱く、紅く、赫く。血よりもドス黒く禍々しい赤い色が黒を侵食して行く。
呆然とするユエしかないユエ。しかし、突然自分の足が誰かに掴まれて我に帰る。
足元を見るとそこには動かないなったはずの母親の手が伸びていた。
「お母…さん……?」
『―――ユ―――――て』
「え?」
ユエの声に反応するように母親がピクリと動く。
『ユエ……
ズルズルと、血を滴らせながらユエを支えにゆっくり起き上がっていく母親の姿にユエは恐怖を感じて一歩下がった。
『ユエ、喰べて』
『喰べて、ユエ』
『ユエ喰べて』
『喰べてユエ』
体中から血を滴らせながら這いよる母親から必死で離れようとするが何故か離すことができない。
今のユエには赫子という強力な武器があるにも関わらず、それを使うという発想に思い至ることは無かった。
『喰べて』
『ユエ』
『喰べて』
ついに同じ高さまで起き上がった母親はゆっくりと顔を上げる。
「……え?」
そこにいたのは母親ではなかった。
視線が合ったのは左目が赤黒く染まり、背中から一対の七色の光を放つ少女。
『喰べて、喰べて、喰べて、喰べて喰べて喰べて喰べて喰べて喰べてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテタベテ――――――――』
ケタケタ、ケタケタと、人が発してるとは思えない狂気的な声で嘲笑い、ゆっくり、ゆっくりと、鋭い牙を首筋へと近づけていく。
『ユエ』
何処からか、聞こえてきたのは母親の声。
『……ユ…エ』
『………エ…』
「――――ェ」
「――――ュェ」
「――――ユエ」
「ユエ!!」
牙が首筋に突き立てられる瞬間、ユエは目を覚ました。
「……え…と?」
周りを見渡すと最近移った自分の部屋、夢だったのかとユエは安堵する。
「大丈夫?」
「……平気よ、偶にあることだから」
心配そうに見つめるエトに問題ないと軽く手を振って答えると、頭を抑えて疲れたようにため息を吐く。そこに込められた意味は諦め、またこの夢かといったような呆れにも近い感情だった。ユエがこの夢を見るのは一体何度目か。誰かを喰べる度に同じような夢を見るのだから、それこそ数えきれないほどかもしれない。まったく、まだ人間としての感性が残っているのか、そう考えて自身の滑稽さに自嘲する。そんな感情、今更持っていても無駄だと言うのに。
しかし、既に慣れてしまった夢だけに切り替えも早く、頭を振ったユエからは憂鬱とした気分はかなり薄れていた。
「ねぇ、エトは今日、何か用事はある?」
「ううん、特にない」
「じゃあ、買い物に行きましょうか!」
気持ちえを切り替えるつもりで大きく宣言したユエに対してエトはキョトンと可愛らしく首を傾げる。その買い物とは何かと言わんばかりの態度にユエは先ほどの夢も忘れてしまう程の衝撃を受けた。結果的にはエトに助けられたのかもしれない。
ユエあり得ないことだと分かっていながらも、まさかと思う気持ちを拭いきれず一応確認することにした。
「……ねぇ、エトって買い物したことないの?」
「ないよ」
即答、流石にこれはユエも唖然として固まり、現実逃避気味に買い物自体は知っていたのか、などと考える。そんなことをしている内に、じわじわと言葉の意味を理解すると共に同情に近いものが沸いてきた。買い物をしたことがないなんて、本当にどんな人生を送ってきたのだろうか。一番高い可能性はエトが二十四区育ちだということ。ユエも一度二十四区に行ったことがあるが、今まで普通の生活を送ってきた身では、二十四区の生活に慣れることなどできなかった。できればもう二度と行きたくないと思えるほどには。
もしもエトがあそこで育ったとして、どうして表に出てきたのだろうとユエの頭に疑問が浮かぶ。あそこの喰種は表に出て来ることはほとんどないのに。まあ考えても仕方がないし、そんなことまで聞くつもりもないのでさっさと意識を切り替える。
「だったら私が教えてあげるわよ。新しい服も買わなくちゃいけないし、エトも一緒に行きましょう」
「うん、わかった」
素直に返事をするエトを見て、たまにはのんびりするのも良いかもしれないとユエは微笑んだ。
◆
ドシャ、と重く湿っぽいものが地面に叩きつけられる音が暗い路地裏に響き渡る。それを確認したユエは小さく息を吐いた。
「結局こうなるのね……」
昨日と同じようにエトと買い物をしていたら喰種に付けられたので返り討ちにしたわけだ。しかも今日二回目。三区が治安が悪いのは知っていたが、流石にこう何度も襲撃されるとため息を吐きたくなる。恐らくこれはユエとエトが二人でいることで美味しそうな匂いがより一層高まった結果だろう。
「それじゃあ早速、いただきます」
そう言って早々に倒した獲物に喰らいつくエトにユエはもう一度息を吐く。通常の喰種が必要な食事は一ヶ月に一人なので、この数はどう考えても異常だ。今まではお互いの事情に深く関わろうとはしていなかったのだが、流石にここまでくると気になって仕方がなかった。
「ねえ、エト。こんなに喰べてどうするつもりなの?」
「戦うんだよ」
「エトがここまでしなきゃいけない相手ってどんなのよ」
「CCG」
「……え?」
ちょうどエトが食べ終わったタイミングだったので思い切って聞いてみると予想外の返事が返ってきた。流石に聞き間違いかと思ったがどうやらエトの反応を見る限り本当のことのようだ。詳しい話しを聞いてみれば、なんとエトは二区にあるCCG支部に襲撃を掛けるつもりらしい。
「……本気? というか正気?」
「うん、本気だ」
そこで正気と答えないのは自分の突拍子もない行動に自覚を持っているからか。CCG支部を襲撃など本当に正気の沙汰ではない。いったい支部には何人の鳩がいると思っているのか。普通の喰種なら死にに行くようなものだ。エトの実力は見た限りでも最低SS級レートはあるようだが、それでも安心することなどできない。ここでどうして、とは聞かない。ユエとエトはお互いにそこまで踏み込むつもりはなかった。知っても何が変わるわけでもないし知らない方が良いこともあるだろうから。しかし、今回のは例外だ。
「――――私も行く」
「……いいの?」
「心配だもの」
ユエとしてはエトには死んで欲しくない。もしかしたらCCGにエトにも手が負えない相手がいる可能性だってあるのだ。自分がいれば最悪、逃げ切ることは可能だろう。気は進まないが、いざとなれば能力を使えばいい。ユエはそう考えていた。
だが、どうするにしろ、できるだけ力を溜めておいた方がいいだろう。幸いユエは吸血鬼でもあり燃費がいいので、獲物は二人程度で十分だ。狙い目はCCGに目を付けられることがなく、Rc細胞の多い喰種か。まあ、CCGに攻撃を仕掛けるのだから目を付けられるかどうかなど気にする必要もないのだが。
ユエはエトと共に次の獲物を探しに人々の目を避けるように暗闇を移動し始めた。
もしかしたらこの話は後で書き直すかもしれません。
何せ過去のエトがどのように過ごしたか分からないので今回の話しは捏造だらけでしたから。
だからエトは出したくなかったんや!←
次も一ヶ月くらいで投稿――――したいです。……できるといいなぁ。
以下本編の補足的なもの。
【喰種経営ホテル】
・伏線……のような何か。
正直な話し、適当に思いついて入れてみただけ。ユエにあまり酷い生活をして欲しくないという作者の優しさ()から生まれた。勘のいい方はオーナーが誰か気が付いたでしょう。
だがしかし、伏線……のような何かなのであしからず。
【脳内フレンド】
・喰種の主人公といったらコレ。
【買い物】
・書こうと思って諦めた。最終的には殺伐とした戦闘になるもよう。
【CCG支部襲撃】
・隻眼の梟による一回目の襲撃。
ここにユエが心配だからという理由で付いていくのは違和感があるかもしれませんが、一応理由はあるので続きをお楽しみに。
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協襲
ちょっと遅めのメリークリスマス!
長らくお待たせしました。
前回の更新から約二ヶ月半と随分間が空いてしまい申し訳ありません。ただ、タグにもあるようにこれからもこんな感じの亀更新になると思うのでご了承ください。
実は今回の話し、ほんの一周間前までは二千文字程度しか書いていませんでした。
この一週間で一気に書き上げられたのは、喰種の最新刊の発売や雑誌でのゾクゾクする展開、そして評価バーが真っ赤に染まっていたことが重なり、めちゃくちゃモチベーションが上がったことが要因だったりします。
評価をくださった皆様にはこの場でお礼をさせていただきます。本当にありがとうございます。評価バーの色を見たときは思わずリロードを押して二度見をしてしまいました(笑)
今回は約九千文字と中々長くなっています。あと主人公が主人公してないので一応注意です。
サブタイトルは『きょうしゅう』。
風が吹きすさび、ユエの髪が靡く。そよぐ黄金の滝が月明かりに照らされ、より一層美しさを増す。
そのまま一枚の画になるような幻想的な雰囲気の中、ユエは画の情調に似つかわしい哀愁を帯びた表情で夜空を見上げていた。
「ふぅ……」
どこか複雑な熱を孕んだ息は宙で冷めて白く染まり、強風に攫われ星空に溶けた。そんな風景を見ながら、ユエは前世に思いを馳せる。
例え世界が違っても、夜空の光景は変わらない。星の位置は変わらずに同じ輝きを放ち続ける。
変わったのは自分の身体。前世と変わらぬ汚染された大気は、鋭い嗅覚でむせかえる程の排気ガスの匂いが包み込む。失われた夜空の光も嘘のように明るく輝き、天を流れる光の河がこの目にしっかり見えていた。
そんな中でもただ一つ、夜闇を背景に輝く満月だけは、変わらず夜を照らし出す。しかし、ユエにとってはそれさえも、力を与える源となる。
世界は違うというのに、何故こんなにも変わらないのだろう。自分だけが知っている世界の形。せめてこの夜空が全く別のものならば……
そんな感傷に浸っている自分に気付き自嘲する。別に前世に未練があるわけでもないのに何を今更考えているのか。気を取り直したユエはゆっくり視線を下ろし、眼下に広がる街を見据えた。
「ねえ、エト。貴女はこの景色を見てどう思う?」
視線は固定したまま、いつの間にか隣に現れた気配を感じてユエは問いかける。
赤黒いローブを着たエトは問いかけに対してフードを下ろし街を眺める。
遮るものが何もない高所から見る三百六十度のパノラマは、静かな街を照らす街灯の明かりや、カーテンを透過して部屋から漏れる明かりが、深夜にもかかわらず街を明るくしていた。
「……別に何とも」
星空の明るさを対価に、明るく煌めき美しさを感じさせる夜景。そんな情景をエトは、無感動に、無感情に、無価値に、何も写さない赤黒い右目で無意味に見つめて無表情で答えた。
「そう……」
赤黒い左目で街を見下ろすユエは、エトと同じような、しかしどこか悲しみを帯びたような表情で呟くと小さく身体を震わせる。
それがどんな意味を持っているのか、それは本人以外が知ることなどできなかった。
「……頃合いね」
「そうだね。……壊しに行こう」
「えぇ、――ぃ――行きましょう」
ザワリと、強く吹き付けた風がユエの声を攫った。だが、エトはその言葉を確認することは無い。彼女にとっては最後の一言で十分だったのだから。
睨み付けるのは目の前の建物、CCG支部二区。
エトが深くフードを被り直し、ユエは何処からか取り出した黒い蝙蝠を模した仮面を被る。
次の瞬間、二人は夜景の中に身を投げ出した。
◆
時刻は間もなく午前二時を回ろうかとする頃。外はまさしく夜の帳が降り、草木も眠る丑三つ時。
しかしそんな時間にも関わらずCCG二区支部は大混乱の極みにあった。
「何だ! 何が起きている!?」「喰種の襲撃だ!」「落ち着け、状況を確認しろ!」「戦闘準備だ!」「駄目です! 前線と連絡がつきません!!」「カメラも全て破壊されています!」「クインケを出せ!!」「録画映像が残ってだろう! 確認しろ!!」「は、はい! 再生します!」「通信機を忘れるな!?」「映ったぞ!!」「三班は足止めに向かえ!」「了解!」「敵は……二体!?」「嘘だろ!?」「第三班行くぞ!!」「赫子のタイプは!?」「四班からの連絡によると二体とも羽赫だと思われるとのことです!」「六班との連絡が途絶えました!?」「予想レートは!?」「Sは確実かと!」「侵入を止められません! 早く増援を!?」「該当する喰種がいないかデータベースから調べろ!」「急げ!!」
「落ち着け――――!!」
大きな声が室内に響き渡り、喧噪がピタリと収まる。その場にいる全員の視線を一手に受けたのは、このCCG二区支部においての最高責任者の沢森裕也特等。
沢森は全員が自分の話しを聞く状態になったことを確認すると局員たちを落ち着かせる為に内心を隠して冷静な態度で喋り始める。
「いいか、現在この二区支部が正体不明の喰種によって襲撃を受けている。敵は二体、暫定レートはSS~だ。赫子のタイプは羽赫と甲赫だと思われる。戦闘班は鱗赫、甲赫のクインケを中心にして各員冷静に対処し、討伐ないし時間を稼げ。残りの人員は戦闘班が時間を稼いでいる間に本部に連絡、増援の要請、そして情報の統制と分析を行え。時間がない、急げ!」
『はっ!!』
沢森の言葉に先ほどの混乱が嘘のように統率のとれた返事が返される。それに満足したように頷いた沢森は自身も戦闘に備えクインケを持ち出した。
「沢森さん、それは……」
話しかけてきたのは岩谷準特等捜査官。このCCG二区支部で沢森の右腕にあたる人物である。そんな岩谷の視線の先には沢森の持つクインケ、他の所員たちは沢森も気合が入っているのだと捉えたが、長年右腕を務めた岩谷は沢森がクインケを持ち出したその重要性を理解していた。
「嫌な予感がするんだよ」
「……予感、ですか?」
岩谷は目を見開き、驚きを露わにする。彼の知る沢森という人物は常に理性的で、状況判断能力に優れ、メリットとデメリット、何方の可能性も考慮した上で最適な判断を下す合理的な思考を持っていた。そんな沢森が予感などという、非合理的なことを信じる、それどころか言葉に出すことでさえ、岩谷には大きな驚愕をもたらすことだった。
「岩谷、勘というのは案外バカに出来ないものだ」
「はぁ……」
岩谷の沢森に対する印象は間違いではない。沢森は確かに合理的な人物だ。しかし、彼は合理的であっても頭が固いわけではない。例え勘という非合理的なものであろうとも、それが何度も当たることがあれば、それは彼の中で合理的判断となり得た。沢森の考える勘とは、今までの経験や知識が突発的に、今までの積み重ねによって過程を飛ばして辿り着いた結論であった。
そんな彼の勘が危険信号を鳴らしているのだ、このままでは死ぬぞと大音量で。
「なぁ、岩谷。先月の三区の特等殺害事件を覚えているか?」
「ええ、まあ。特等が殺害、しかも相手が単独となると中々衝撃的でしたからね……ってまさか!?」
「あくまで可能性だ。しかし敵はたったの二体。しかも両方SSレート並み、もしくはそれ以上ときた。それに最近頻繁に起こっている共喰い。それを起こしている喰種は『X』と『吸血鬼』の二体だ」
「全く関係ないとは思えない、そういうことですか……」
「……ああ」
二人の間に重苦しい雰囲気が漂う。SSレート並みが二体、しかもその内一体は特等を殺害した喰種。正直に言えば、特等である沢森と準特等の岩谷二人では荷が重いとしか言わざる負えなかった。
「今からCCG本部に応援要請をしてどれくらいで着くと思う?」
「そうですね……最低でも三十分は掛かるのではないかと」
「三十分か……」
三十分、それはあっと言う間にも思えるが、戦闘においての三十分とはとてつもなく長い時間となる。
現在この二区支部に出勤している捜査官は約80人。その中でクインケを持っている捜査官は20人足らずしかいない。これが日中であったならばもう少しはまともな戦力が揃っていただろう。しかし、それは言っても変わらないことだし敵も狙ってやっていることだ。
正直なところSSレート級の相手ともなればクインケを持たない捜査官は足止め程度しか……いや、それすらもできない可能性が高い。現に、侵入中の喰種を足止めできているのはクインケを持っている捜査官だけだ。しかもそれはクインケを持っている捜査官がいても足止めにしかなっていないということ。恐らく、まともに戦うとなれば上等捜査官が複数人必要であろうが、今この二区支部にはそれに匹敵するような戦力はなく、本部からの応援が到着するまではただ時間を稼ぐことしかできない。
さらに辛いのは敵の喰種の赫子が両方とも羽赫であるということ。羽赫は燃費が悪いことから、短期決戦を望むのは確実だ。そんな中で時間稼ぎの防衛戦をしなければならない。もしもこれがSレートなら、もしくは敵が一体ならば少しは状況が違っただろう。しかし現実は非情なもので、SSレートという明らかに格上の敵に対しての防衛戦は不利なものでしかなかった。
狙いが何かは分からないが、徐々に内部に侵入してきている今、交戦を避ける選択肢はない。そうなれば、やれることはかなり限られてくる。
「岩谷、出るぞ」
「了解しました!」
自身のクインケが収まったアタッシュケースを手に持った二人は、望みの薄い戦場へと自らの身を放り込んだ。
沢森と岩谷のが残りの戦闘員約30人全てを連れ戦闘場所についた時、そこは既にこの世の地獄であった。
怒号と怒声に叫び声、金属音や銃の音、そして合間に聞こえるうめき声と湿り気を帯びた重い音。むせ返るほどの血の匂いの中、立っているのは消耗している捜査官十五人。そして襲撃者であるエトとユエのみ。残り約40人は床に倒れ伏し、内半数以上は明らかに助からない重症を受けているか既に息絶えていた。
その惨状に、経験豊富な上等捜査官ですら眉を顰め、下位捜査官の中でも特に若い者などは口元を抑える者が続出している。
「油断するな! 既に戦闘は始まっている。班ごとに別れ現在戦闘中の者と期を見て入れ替わり、それぞれ対処を取れ!」
『り、了解!』
沢森からの叱咤に他の戦闘員、特に下位捜査官は慌てて武器を構える。それを見ながら、沢森と岩谷もアタッシュケースのロックを解除し、自身のクインケを取り出した。
「さあ。行くぞ、
「……黒刃!!」
アタッシュケースからRc細胞が噴出し、次第に凝固し硬化していく。そうして形作られたのは刀身だけで一メートルにも及ぶ大きな太刀――――甲赫・蜉蝣と一対の黒い双剣――――鱗赫・黒刃。
沢森は太刀を構えると一度息を吐き出し、そして大きく吸い込んだ。
「行くぞ!」
『おおおおおお!!』
雄たけびを上げながら、しかし冷静に班を組みながらユエとエトを囲むように突撃する捜査官たち。
先ずは囲んだ状態から味方に当たらぬように気を付けながら牽制の銃を放つ。しかしSSレート級にそんなものが通用するはずもなく全くの無傷。それでも一時的に気を引くだけの効果はあり、その隙をついて今まで戦っていた捜査官たちと入れ替わるようにしてクインケ持ちがユエとエトの二人の前に踊り出る。
だが、そう簡単に逃がしてたまるかとばかりに放たれたエトの羽赫による遠距離攻撃を数人が受けてしまう。それでも数人で済んだのはクインケ持ちの捜査官が防御に徹してしたからだ。
そんな捜査官たちに追撃が入る前に庇うかのように沢森と岩谷が前に飛び出し、ユエたちとの距離を一気に詰めた。
――――ガギィン! と金属同士がぶつかるような固い音がして沢森のクインケとエトの赫子、そして岩谷の双剣とユエの
途端、沢森の直感が警報を鳴らす。
「避けろ!」
「え?」
咄嗟に叫ぶが間に合わない。ユエの背中を突き破って飛び出てきたもう一対の翼が捜査官を貫いた。
ズルリと赫子が抜かれ重い音を立てて倒れ込む捜査官。しかし、沢森にはそれに意識を割いている余裕などない。
エトが力を込めた途端、沢森の身体が吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
その予想外の力にうめき声を上げながらも、空中で体勢を立て直して地面との摩擦を起こしながら着地する。
「沢森さん!」
吹き飛ばされた様子を見て心配した岩谷が声を張るが、こちらにも他を気にしている余裕などあるはずもない。ユエが背後の捜査官だったものから引き抜き自由になった羽を振った瞬間、羽に付いた水晶が岩谷に向かって一斉に放たれた。
「なっ!?」
まさか水晶が飛ぶとは思っていなかったのだろう。驚愕の声を上げなら反射的に飛びのく。一泊遅れて先ほどまで立っていた場所に水晶が突き刺さる。
冷や汗を流しながら顔を上げると、いつの間にか飛ばしたはずの水晶がぶら下がり、しゃらりと音をしていた。あの遠距離攻撃を何度も行えるのかと焦りや恐怖の入り混じった感情に沢森と岩谷は奥歯を噛み締める。
そんな時、岩谷は膠着状態の中でふと気が付いた。ユエの背後であるコンクリート、その周囲に亀裂が入っていることに。
「……まさか!?」
その可能性に行き当たったのと僅かな地面の振動に気が付いたのは同時だった。
気が付くと同時に危機感を覚えてほぼ無意識の内にその場から退避する。次の瞬間、地面から飛び出した赫子が先ほどまで立っていた空間を穿っていた。
しかし、ユエの攻撃はそれだけでは終わらない。地面から飛び出した赫子を大きく薙ぎ払うと同時に水晶を射出する。岩谷が偶々他の捜査官がいるところまで下がっていた為に近くにいた捜査官は反応できず、大半が赫子の直撃を喰らい、一撃で再起不能に陥る。更に薙ぎ払った勢いで広範囲に射出された水晶が岩谷に追撃を仕掛けながら、遠くにいた捜査官たちも巻き込んだ。
沢森はその状況に思わず内心で舌打ちを零す。今の攻撃だけで半数近くが重軽傷を負ってしまった上に、運の悪いことに岩谷と引き離されてしまった。
と、そこまで考えて気が付く。岩谷が偶々捜査官の場所まで下がっていて偶々自分のいる位置と反対方向に躱してしまう。これは本当に偶然だろうか? あり得なくはないだろう。しかし相手はSSレート級、そんな楽観視をすることはできなかった。
「間違いない、こいつら戦い慣れてやがる」
その声が聞こえたのかそうでないのか、沢森は相手がフードの下で嘲笑っているような気がした。
何度も衝突し、攻撃を与え、攻撃を受けながらも少しずつ経過していく時間。しかし、それでも時間の経過よりも捜査官たちの消耗の方が圧倒的に早い。
戦闘が始まり未だ十分しか経過していないのに、下位捜査官は全滅、上等捜査官も半数以上が戦闘不能に陥っていた。それでもまだ戦えている者がいるのは、捜査官たちが時間稼ぎに徹していたからに他ならない。それに加え、沢森と岩谷が上手く立ち回っていたことが大きいだろう。だが、そんな二人も体力の限界が近づいて来ていた。
「クソッ、不死身かよこいつら!」
沢森は赫子の攻撃を躱し、荒い息を吐きながら思わずごちる。だがそれも仕方がないかもしれない。何せ此方が攻撃しても十秒と掛からず回復していしまい、全くダメージが通ったようには見えないのだ。更に敵からの攻撃は一撃一撃が喰らえば確実に致命傷の威力を持っているのだから手に負えない。沢森と岩谷が一度離れた所為で個々で一対一に近い状況を作り出されたのも大きな痛手だった。
そんなことを考えていたのがいけなかったのか、一瞬の隙を突かれ赫子の攻撃が避けきれない近さで繰り出された。
ギリギリでクインケを間に入れることができたおかげで致命傷は逃れたが、その衝撃は殺せず横に大きく吹き飛ばされる。
「カハッ……!?」
「ガッ!?」
何処までも吹き飛ぶ勢いの中で何とか体勢を立て直そうとするが、その前に何かに叩きつけられ意図していなかった衝撃に肺から空気が吐き出される。
後ろに壁は無かったはずなのに一体どういうことだと背後に視線を向けると、そこには沢森と同じくえずきながら後ろを見やる岩谷と視線が合った。どうやら同時に同じ方向に吹き飛ばされ、途中で激突してしまったらしい。これは運が良いのか悪いのか。いや、偶然にしても合流できたのだから、間違いなく運は良いのだろう。しかし、敵に前後から挟まれているこの状況を素直に喜ぶことなどできなかった。
周囲を確認してみれば既に立っているのは自分たち二人しか残っていない。これでは持っても後五分が限界だろう。沢森は、こうなったら一か八か勝負を賭けるかと考えた。
「岩谷」
「何ですか」
「少し耳を貸せ」
二人はお互いの背を支えにしながら、ふらふらと立ち上がる。その間にも敵から目を離すことはしない。
「行くぞ!」
「はい!」
二人が大きな声を上げたことで、ユエとエトは少しだけ身構える。そこを狙って、岩谷が双剣の片方をユエに向かって思い切り投げ、沢森がエトに向かって転がっていたクインケを蹴り上げた。
流石にクインケが飛んでくるなど予想していなかった二人は若干の硬直の後、慌ててクインケを弾く。しかし次の瞬間、ユエはフードの奥で目を見開いた。岩谷が隙を狙って突っ込んで来るのは予想していた。しかしユエの視界に入って来たのは、片方のみとなった剣を構え突っ込んで来る岩谷と、目の前で太刀を振りかぶる沢森の姿だった。
「!?」
左右からの挟み込むような波状攻撃を前にユエは加速された思考の中、一瞬で状況を判断する。
赫子はクインケを弾くために使って間に合わない。回避も不可能。
そこまで考えたところで、クインケが吸い込まれるようにユエの身体を切り裂いた。
「首は無理だったが、これなら――――!」
「やったか!?」
沢森と岩谷は手に伝わってきた確かな感触に声を上げる。首と赫包を狙った二人の攻撃は、ユエが咄嗟に身体をずらした為に首は飛ばせなかったものの、右腕を肩から先まで斬り飛ばし、赫包を狙った攻撃は完全に狙い通りの場所に入っていた。これでは恐らく、
二人の作戦は単純なものだった。クインケを飛ばし、硬直している内に片方に対して二人で奇襲を掛けるというもの。しかしこれには、ユエとエトが飛んできたクインケを弾くという対応をしなければ背後から攻撃を受けるという、かなりリスクの高い作戦だった。だが、その作戦は成功した。それは偏にユエとエトが躱せる攻撃にも関わらず赫子で弾くという、完全な慢心から生まれた結果だった。
SSレート級の討伐。その快挙を成し遂げた二人は歓喜していた。同じように都合よく、もう一体のSSレートを倒せるなどとは考えていない。しかしそれでも、この快挙は最後の死地に相応しいものだろう。それにもしかしたら増援が来るまで耐えることができるかもしれないという希望も沸き上がっていた。
だが、そんな考えは一瞬で崩されることになる。
――――うふふっ
ゾッ! と、二人の背筋を悪寒が駆け抜ける。
ウフフフフフ――――
鈴が転がるような透き通る声が室内に反響する。
まさか、あり得ない。それが二人の心境だった。
ゆっくりと、錆びついた機械のように振えながら後ろを振り向く。どうか悪夢であってくれと願いながら。しかし現実は何処までも残酷な事実を突きつける。
ふらりふらりと、幽鬼のように持ち上がる身体。その口元からは恐怖を煽る不気味な笑い声が零れ続けている。
左手には斬り飛ばされた右腕を持っていて、切断面からお互いに向かって赫子のようなものが伸び、分かれた腕が接着しはじめている。赫包にまで届く脇腹の傷は、グチュグチュと嫌な音を立てながら肉が盛り上がり隙間を埋めていった。
おぼつかない身体が安定し、少しずつ背筋が伸びていくに伴い、ボロボロになったフードつきのローブが身体からずり落ちる。
――――ふわりと、黄金の輝きが舞った。比喩などではなく、そうとしか表現ができない美しい金糸が、窓から零れた月明かりを受けて輝いていた。
その光景に一瞬もの間状況を忘れ呆然と立ち尽くす二人を、蝙蝠を模した仮面の穴の片方から赤黒い眼が捉える。
「隻…眼……?」
呟いたのはどちらだったのか、異様なほどに縦に裂けた瞳孔がさらに細まったような錯覚を受けた。
笑みを描いていた唇が更に口角を上げ三日月を描き、どこか狂気的な
「……ウフフッ、アハハハハハハ、アッハハハハハハハハ――――――――!」
先ほどまでの静けさは何だったのかと思えるほど大きな笑声を上げ続ける。一頻り笑ったユエは口元に余韻を浮かべたままクインケを構えた二人を見据えると、始めて意味を持った美しい音色を零した。
「ふふ、楽しい」
「は?」
突然の場にそぐわぬユエの言葉に岩谷は思わず間の抜けた声を漏らす。
「この傷、とっても痛いの。おじさんたち、素敵ね」
笑いながら、愛おしそうに自分の傷を抉り、手に付いた血を舐め上げるユエ。その不快で不可解な行動に二人は眉を顰める。だがユエは、そんな二人が目に入っていない様子でクスクスと笑い続ける。
「んふふっ、もっと沢山遊びましょう? 私がおじさんたちを壊す、素敵な遊び」
そこまで聞いて沢森と岩谷の二人は理解した。コイツは頭がいかれてやがると、これ以上コイツの言葉に耳を傾ける意味はないと。
クインケを構えた二人は走り出す。
その途中、それで――――と続いたユエの言葉が耳に届いた。
――――――――おじさんたちも、私をいっぱい壊してね?
◆
『 2002年 10月5日
駆逐対象「X」そして「吸血鬼」によって二区支部が襲撃、援軍が現場に到着した時点で支部長の沢森特等を含め、出勤中の戦闘員大半が死亡、のこりも後遺症が残るレベルの重症を負う。既に二体はおらず、壊滅的被害を受けた。このことから危険性を加味し、「X」と「吸血鬼」の二体をSレートからSSレートに引き上げる。
また「X」の持つ赫子がふくよかな羽毛にも見えた為、「X」の呼称を「梟」と改める。赫包は6つから8つほどが確認された羽赫の喰種だとと思われる。
そして「梟」に伴い「吸血鬼」も、印象に残る金髪と特徴的な赫子が月の光を受け輝くさまから呼称を「
……さらに「梟」と「
後日提出された報告書より抜粋 』
以下本編捕捉的な何か。
【ユエの仮面】
・蝙蝠を模したもの。無難な感じになった。
【沢森特等】
・合理的な人物。ただし和修政と違って人命優先。相当に優秀な人物だったようだが、彼はユエ(作者)の為の犠牲となったのだ。
【岩谷準特等】
・冷静に見えて心中は割と熱血な人物。沢森とは長年コンビ戦を組んでいて、タッグ戦なら特等にも引けを取らない。村人Aではないが、門番二人を越えた先にいる衛兵A・B……の更に後ろにいる衛兵Cみたいな人。
【二区支部の戦力】
・全く予想できないので適当。これはおかしいと思ったら指摘していただけると嬉しいです。
ただし全滅する運命は変わらない。
【太刀の蜉蝣と双剣黒刃】
・ぶっちゃけモンハンの影響。名前はノリで決めた。
【慢心】
・めっちゃ舐めプしてます。二人が本気で掛かれば特等と準特等でも一分と持ちません。
【やったか!?】
・やってない。
赫包にダメージがあっても吸血鬼の再生力で治る。喰種としても腕くらいなら簡単に治る。合わさるとノロ並の再生力。
【遊びましょう?】
・フランちゃん的な破壊衝動。その他諸々の感情が混じって割と複雑な感じになっている。
【
・カッコイイから。
以下ネタバレ注意
試し読みで雑誌の内容見たんですが、エトがなんか思った以上にアレでした。まあカネキ君と仲良くなれそうって言ってたので、ユエでも行けるはず。つまり矛盾はない! っていうかカネキ君、エトに告白された上に舐められるとかなんてうらやまけしからん。
後、金木君の過去とか鳥肌立ちました。十四巻の最後の方で顎をさすっているのとか全く気が付きませんでした。まさかあんな伏線があったとは……
エトをぶった切るとかカネキさんツヨスギィ!
先の展開が全く読めなくて続きがとても楽しみです。
最後に、エトの赫子の「エトしゃん」が地味にツボりました。
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梟鬼
本当に、ホンッッッットにお待たせしました!(五体投地)
なんと約半年ぶりの投稿。
こ れ は ひ ど い
亀更新にも程がある……。これだけ待たせても読んでくださる方がいるなら、本当に有り難いです。
話は変わりますが、私がハーメルンに初めて小説を投稿して一年が経ちました。何となく目出度い気分。東京グールのカレンダーを見たら絵がエトさんでさらにテンションアップ。なんだか今日はいい日になりそうな予感(笑)
もともとエトは好きでしたが、今ほどではありませんでした。やっぱり自分でキャラを書いてると愛着が湧きますね。
サブタイトルは『きょうき』
CCG二区支部襲撃から約一ヶ月。
あれほどの惨劇を起こした二人は、その様子を微塵も感じさせることなく、高級ホテルの一室でのんびりとしていた。
「ねぇ、ユエ」
「なに、エト?」
会話する二人が倒れ込んでいるのは子供二人が寝るのには十分過ぎるほどに大きいベッド。
何処か蠱惑的な甘い響きでお互いの名を呼ぶ二人は、部屋に誰もいないのをいいことに、陶器のようにきめ細かく、雪のように幻想的な白い肌を惜しげもなく晒している。
二人の年齢は十代前半というまだ大人とは言えない若さであったが、第二次性徴期を迎え、子供から大人へと変化する過程を通る二人は、少女から女に変わる青い果実独特の匂い立つような色香を醸し出していた。
「あっ……」
「どうしたの?」
「手についてる」
「あら、本当だ」
果たして名の後に続く言葉は何だったのか。それを知る前にエトがユエの手を持った。
エトの言葉に自身の手に付着するソレに気付いたユエが、そろそろ色々洗わなければならないかと身体を起こそうとする。しかしそれは、エトが手を引いたことで止められた。
「……もったいない」
「ちょっと、エト!?」
更に持つ手を口元まで持って行き、しげしげと眺めて呟いたエトは、パクリと、ユエの指を口にくわえた。
「んチュ……ぁむ」
「え、エト! ……んっ」
艶めかしく指に舌を沿え、唾液の線を引きながら指に付着したソレを舐めとる。指を舐められる感覚が堪えがたいものだったのか、ユエは小さく声を漏らし身をよじる。
その光景は男であれ女であれ、本能的情動を誘うような生々しく妖艶なもの。
しかし、人間はその情動を感じる前に別の本能が働くだろう。
どれだけ生々しく、艶めかしく、妖艶で、妖美で、性的なものであろうとも、赤黒く染まったシーツの上で、貪り絡み合うバケモノに圧倒的恐怖を覚えるであろう。まるでこれが当たり前のように、何の違和感も感じず、何食わぬ顔をして会話をするモノをバケモノ以外に何と呼ぶのか。
「アァ、エトの所為で高ぶってきちゃった。……責任、とってよ?」
「アハハッ、もちろん」
それが日常の一部であるかのように、お互いに喰らいつき、啜り合う。溢れだし零れ落ちたどす黒い赤が、赤黒いシーツを鮮やかに染め上げていく。
それを二人は疑問に思わない。何故なら、二人にとってはこれこそが日常なのだから。親友を喰らい合うのは、ちょっとした戯れであり、ただの友情や愛情の確認だ。この行為こそが二人にとってのスキンシップであり、慣れた恋人同士が軽いキスを交わすのと同様の意味を持つ。
ぐちゃり、ぐちゃりと部屋に響く湿った音は聞きなれたもの。びちゃびちゃと濡れた音は唯の水遊び。ブチブチと千切れる音は少し力を入れ過ぎただけ。ガリゴリという音は、ちょっとしたじゃれ合いだ。そしてグチュグチュと再生していく音は遊びが再開する合図。
絡まり絡まれ縺れ合う。貪り啜り喰らい合う。その行為に理由はなく、ただ何となく、親友とバカ話をして楽しみたいのと変わらない。
――――ああ、私はバケモノだ。
ユエは快楽の洪水の中、薄い意識で考える。それを否定することはない。否定する必要はない。
だから、もっと溺れよう。何も考えられないくらいに。何も考えないように。
一時の幸福に身を任せ、沈んでゆくのだ。バケモノへ。
浮き上がる必要はない。浮かび上がりたくない。
だからこそワタシは喰らい続ける。
助からないくらいに。
いつかのように、ユエの意識は呑み込まれ掻き消えていく。
――――それがいつだったのか、
◆
「ふぅ……」
あれからしばらくして、シーツやその他色々なものを片付け痕跡を消したユエは、今度こそ一息つく。部屋は先ほどまで起こっていたことなど最初から無かったかのように綺麗なものになっている。これは二人がやったものではなく、ホテルの従業員に片付けてもらっているのだ。一週間に一度はこんなことが起こっているのに、全く嫌様子を見せず、毎回新品同様の部屋にしてくれることに、ユエは感謝と申し訳なさを抱いていた。
「エト、何読んでるの?」
「……白秋」
ユエが問いかけると、新しくなったシーツにうつ伏せで寝転がり、暇そうに脚をバタバタとさせながら本を読んでいたエトが気だるげに顔を上げた。
「その人の本、よく読んでるけど、好きなの?」
「好きだね。ユエも読めば?」
「うーん。私の好みには合ってないし、遠慮しておく」
「ユエはファンタジーものばっかりだもんなー。なんか、ユエがライトノベルを読むのは意外だったよ」
「別にファンタジーしか読まないわけではないわよ。昔は色々読んでたし、ライトノベルなんて最近になって読み始めたもの」
「昔って……ユエって今11でしょ」
「まあ、そうなんだけどね。でもそんなこと言ったら、14で北原白秋を読むのもどうかと思う」
昔というのは転生する前のことだったが、いくらユエがエトと仲が良くても、転生したことについては教えるつもりはない。それ自体に大した理由はなかったが、ユエはこの秘密を誰にも教えるつもりはなく、墓まで持っていくつもりだった。
「それならユエだって11歳で白秋を知ってるじゃん」
「それでもエトほど詳しくはないわよ。……まあ、それくらいなら知ってるけど」
エトの持つ本を覗き込むようにしながら呟く。そこには大きく『からたちの花』と書かれていた。
「へえ、この童謡は知っているんだ」
「そうね。きっと後数年したらもう少し有名になるでしょうから」
「え、何で?」
「……いえ、何でもないわ。そう思っただけよ」
「そう……?」
エトは釈然としない思いを抱きながらも、深くは訊ねない。それはユエとエトのお互いで知らぬうちに決まっていた暗黙の了解のようなものだった。
「そうだ!」
「どうしたの?」
少しだけ微妙になった雰囲気を変える為か、大きな声で思い出したように言うエトに、ユエは心の中で感謝しながら問う。
「また二区を襲撃しようと思ってるんだけど、手伝ってくれない?」
「……いつ?」
ただし、エトの口から出てきたのは、先ほどの雰囲気を打ち壊すと同時に、正気を疑うような到底感謝するようには程遠い発言だったが。だがエトが唐突に爆弾発言をするのには慣れているのか、ユエはあまり取り乱すことなく詳細を訊ねる。
「一週間後の夜かな」
「随分と急な話ね。他に協力者はいるの?」
「うん」
答えを聞いてユエの頭に浮かんだのは少し前の出来事。エトが徒党を率いてコクリアを襲撃した際の者たちだ。あの時ユエは他にやるべきことがあり襲撃には参加していなかったが、後から聞いた話から仲間がいたことは知っている。
聞いたものは意外に思うかもしれないが、ユエとエトは四六時中一緒にいるわけではない。寧ろ、場合によっては一週間以上も会えないことがある。そのために、ユエはコクリア襲撃に協力した仲間がいることは知っていても、その仲間たちがどのような人物かは一切把握していない。
さて、とユエは心の中で呟いてから脳裏に予定表を浮かべる。そして一週間後の予定を思い出し、ユエは思わず「うわー」と気の抜けた声を漏らした。
「ごめん、その日にちょうど予定が入ってる」
「そっかぁ……」
「お偉いさんの護衛をしなきゃいけないの」
お偉いさんとは今ユエがいるホテルのオーナーをしている人物のことだ。できれば予定をキャンセルしてエトと共にいたいが、日頃から便宜を図ってもらっている身としては依頼を受けざるを得ない。
「でも襲撃するのが夜なら、もしかしたら間に合うかも」
「うん、りょーかい。頑張ってねー」
「終わったら急いで行くから、エトも気を付けてね」
二人の言葉はお互いの身を案じるものではあったが、実際に何かが起こるとは思っていなかった。二区の襲撃など、普通で考えれば命を投げ出すようなことにも関わらず、二人は何でもないことかのようにしている。しかし傲慢とも言えるそれはお互いを信頼している証でもあり、二人は言葉にすることができるだけの実力を伴っていた。
――――故に
――――……
堕ち行く中で願ったのは、さらなる力。
歪んだ
砕かれた
それは一体、誰に向けてのものか。
ただ、遠ざかる
――――――――ユエ、来てくれなかったな
友と交わした小さな約束。
零れた滴は如何なる意味か。
届かぬと分かっていても、無意識の内に音を紡いだ。
「……ユエ」
「――――エト!」
音が、届いた――――
◆
――ドンッ、と。
大きな衝撃を受けながらも、エトの身体が受け止められる。しかし、空中という足場のない不安定な場所で衝撃を受けた為か、ユエはバランスを崩してしまう。だが、このままでは背中から地面に叩きつけられてしまうという状況でもユエに焦りはない。肩の付近から飛び出した四本の赫子を壁に突き刺すと、まるで手足のように使いながら体制を立て直し落下の勢いを殺した。軽やかに着地したユエは、腕に抱えるエトを優しく降ろす。
「ユエ……」
「ごめんね、少し遅くなっちゃった」
虚ろな瞳で見上げてくるエトに、ユエは安心させるように微笑んだ。
エトの状態を手早く確認したユエは、何の躊躇いもなく赫子を使って自身の腕を切り落とす。飛び散る鮮血を気にする様子もなく、もう片方の腕で自分の手をキャッチすると、エトに腕を差し出した。
「これで逃げるくらいに回復はできるでしょう。鳩が来る前に早く行って」
「ユエはどうするつもり……?」
「足止めと、友達を虐めてくれた報復」
軽く言い放つユエにエトは不安な瞳を向ける。先ほどまでは負けるなど少しも考えていなかったが、慢心の結果自分の身に起きたことで、ユエまで同じようなことになるのではないかという弱気が生まれていた。
しかし、そんなエトの思考を読んでいたかのようにユエが言葉を重ねた。
「大丈夫よ。メインの目的は足止めだから、危なくなったらすぐに逃げる」
「本当だよな?」
「ええ、だから早く逃げて」
そう言ったユエはエトが腕に喰らいつくのを確認すると、蝙蝠を模した仮面を着け思いっきり跳躍する。そして三十メートル以上ある高さの壁を赫子を使って登っていった。
上へと昇っていくうちに、切り落としたはずの腕は回復しはじめ、頂上に着く前には既に怪我をしていた痕跡は付着した血液だけとなっていた。
ユエは自身の体調が万全になったことを確認すると、頂上の手前で赫子を二本同時に壁に突き刺し、その力を使って身体を持ち上げ、捜査官の前に飛び出した。
「なっ!?」
「まだ生きて――」
捜査官たちが反応しきる前にユエの肩からさらに二本の赫子が出現し、計六本となった枝のような羽赫を大きく振るった。ジャラリと音を鳴らす七色の水晶が赫子の動きと共に射出され、碌に防御も取れない捜査官たちに降りかかる。運の悪い者は音に反応した瞬間に顔に水晶が突き刺さり、一瞬で命を落とす。他の防御姿勢をとれていなかったものも、腕や脚、胴体などに水晶が刺さり、重症に陥った。
膝を曲げるようなこともせず軽やかに着地したユエは、水晶の復活した赫子をシャラリと鳴らし、捜査官たちに
「隻眼の梟じゃない……?」
「蝙蝠を模した仮面に金髪、そして特徴的な赫子……まさか、
「何だと!? 隻眼の悪魔か!!」
叫んだのは一体誰か。その声が捜査官たちの間に響き渡り、大きな動揺を生む。捜査官たちにからしてみればSSレートの相手を連続でしなければならないのだから、普通なら絶望的で逃げ出す者がいても可笑しくない状況だろう。それでも動揺するだけで済んだのは、ここに残っている捜査官は隻眼の梟との戦闘を乗り越えた猛者たちだったからだ。しかし、だからといって事態が好転するようなことはない。
「うふふ、今夜は満月、高ぶっちゃって手加減できそうにないわ」
その可憐で楽し気な声とは裏腹に、仮面の奥から覗く一つの瞳は、紅い敵意で満たされている。
「こんなにも美しい満月だから――」
「来るぞ!!」
「――――楽しい夜になりそうね」
紅い鮮血が舞った。
◆
降り注ぐ水晶の刃、驚異的な身体能力を以て繰り出される鋭い一撃。合間を縫って放たれるクインケ。何度も攻防を繰り返す中で、どんどん消耗が激しくなっていく。しかし消耗しているのは明らかに捜査官たち。数は戦い始めたころから半分も減り、大半の者が地に伏している。
「ぬん……!」
黒岩の気合のこもった力ある一撃がユエに向かって振るわれる。ガキンッ! と、凡そ羽赫ではあり得ないような音がして黒岩の攻撃がクロスした二本の赫子で受け止められる。その動きが止まった一瞬を狙い、左右から捜査官が切りかかる。だが、その一撃は黒岩には遠く及ばないもので、ユエはそれぞれ一本ずつの赫子を使い余裕で防いだ。
さらに完全に動けなくなったユエの背後から遠距離射撃が襲い掛かる。一歩間違えれば味方に当たるような攻撃、しかし確かな自身を持った射撃は狙い通り全てがユエに向かって撃ち出された。だが、ユエにとってはその攻撃さえも予想通り。残った二本の赫子を使い、全ての攻撃を弾き落とした。
「嘘っ!?」
華麗な連携を重ねた上での攻撃を全て防がれ、捜査官から思わず驚愕の声が漏れる。それだけ自身のあった攻撃でも、ユエにはどれ一つ届かなかった。
ユエは反撃とばかりに身体を捻り、その勢いを利用して黒岩たちを弾き飛ばす。さらにクルン、と一回転しながら赫子を振るい、水晶を凄まじい勢いで全方位に放った。月明りに照らされた黄金の髪が流れ、暗闇に紅い瞳が残光を引く。それはまるで戦舞のように美しく、神秘的であったが、放たれた水晶は捜査官たちに数多くの死を運んだ。
「ウフフフフ――――」
既に戦闘が始まってから二十分。辺りには濃密な血液の匂いが漂い、地は黒く染まっている。その匂いや雰囲気に当てられ、いつの間にかユエの目的は足止めから殲滅へと変わっていた。
縦に裂けた瞳孔が獲物を探すかのように動き、やがて一点で動きを止める。
「アハハハハハッ!!!!」
飛び出したユエの狙いは、吹き飛ばされたことで体勢を崩している黒岩。突き出された赫子を転がるようにかわしながら立ち上がるが、完全に立て直す前にさらなる追撃が襲い掛かる。
「ぐぬっ!?」
ぎりぎりのタイミングでクインケを身体の間に割り込ませることには成功したが、予想外の威力によりエトとの戦闘で致命的ダメージを与える代償に受けた肩の傷がザックリと開いた。肩から血が噴き出ると同時に、黒岩の重心が大きくずれ、致命的な隙を晒した。
「死んじゃ――」
その隙を逃すはずもなく、ユエの赫子が黒岩の頭部に吸い込まれるように放たれ――――
「エ」
――斬、と。
ユエの赫子が半ばから切断された。
「!?」
ユエは何が起きたかも分からないままに危機感を感じて、黒岩の前から咄嗟に飛び退く。次の瞬間、先ほどまでユエが立っていた空間に斬撃が走った。その攻撃の先を辿り、ユエはようやく敵を認識する。
そこには死神が立っていた。
いや違う、立っていたのは一人の少年だ。青み掛かった髪の眼鏡をかけた普通の少年。それなのに、何故かユエは少年に対して漠然と死神を見た。理性が逃げろと叫ぶ。本能が危険だと警告を鳴らしていた。
ユエが次の行動の判断を決めかねていると、そこに遅れて何人もの捜査官たちが現れた。
「有馬! 先走るなと言っただろう!」
「………すみません」
「戦っていた奴らは無事か!?」
「アレが
グールと吸血鬼の優れた聴覚が会話を聞き取り、援護が来たのだと理解する。そしてユエの判断は本能へと傾いた。
――――危険だ。
血に誘われ発露した破壊衝動は本能と混じり合い、狂気となる。沢山の
「ァハッ!」
一瞬で捜査官たちの前に肉迫したユエは、未だにユエを見失っている捜査官に赫子を突き出し胴体を貫こうとする。しかし、赫子が届かんとするその直前で、視界の端から迫る白い刀を認識し、回避を余儀なくされた。
「――――イっタいなァ」
「……駄目か」
二人が独り言のように呟いた瞬間、パキンッ――! と澄んだ音を鳴らし、有馬の持つクインケ、ユキムラ1/3が刀身の半ばから折れ、同時にボトリとユエの赫子がずり落ちた。
痛いと言いながらもユエの顔に浮かんでいるのは薄い笑み。元々赫子に痛覚はなく痛いというのは唯の演技。笑みを浮かべている理由は自身の狙いが上手くいったからだ。
このタイミングで有馬のクインケが壊れたのは偶然ではない。先ほど有馬の攻撃を回避する瞬間、横薙ぎの斬撃に合わせ、刀の腹に向けて下から赫子を振り抜いたのだ。
人間離れした反射神経や動体視力を持っているからこそ可能な神業。しかし、同時に有馬はユエの攻撃に合わせ、赫子と接触する瞬間に手首を返し、赫子を切り落とすように刃を立てていた。結局、赫子の重量に耐えられずユキムラは折れてしまったが、ユエの赫子を切り落とすことに成功している。それは、有馬の反射神経や動体視力がユエに劣っているものではないことを示していた。
それだけ聞けば両者互角に思えるが、実はそうではない。有馬とユエには決定的な違いがあった。それは、武器。有馬のユキムラは既に折れ使い物にならなくなっているのに対し、ユエの赫子は十秒と経たずに完全に再生したいた。だからこそのユエの余裕。
「アハは! 武器がコワレちゃッたけド、どウするノ?」
「…………」
「イくヨ?」
その言葉が空気に溶ける前に、既にユエは有馬の寸前まで迫っていた。
「……!」
「ふフっ――――!」
笑いながら突き出された赫子は、有馬の頬を掠りながらも紙一重でかわされた。しかし、ユエはそれを読んでいたいたように身体を捻ると、反対の赫子を振るい追撃を図る。だが、有馬はそれすらもかわして見せた。上体を反らしながら赫子をやり過ごした有馬は、その体勢から蹴りを繰り出す。不安定な姿勢からの攻撃には重さが足りず、ユエの身体を動かすこともできなかったが、有馬は蹴りの反動を利用してバク転を交えながら距離を取った。
「速いな……」
一端下がった有馬は呟きながら、ユキムラ1/3の入っていたケースからさらにユキムラ2/3と3/3の二本を取り出す。その隙を狙ってユエは赫子から水晶を大量に射出するが、その攻撃は有馬が振るった二本の刀で殆どが切り落とされた。
そのあまりに人並み外れた高度な戦闘に、先ほどまで戦闘していた捜査官や、援軍に駆け付けた捜査官まで、入る隙を見つけられず唖然としたまま傍観することしかできない。それ以上に、たまに飛んでくる流れ弾の対処に手一杯で、戦闘に参加することなど考えられもしなかった。
ユキムラを二本構えた有馬は、再びユエに接近すると刀を素早く振るい、先ほどよりも手数の多い攻撃する。しかし、ユエはそれらの攻撃を全て避けきり、攻撃が途切れた一瞬を狙って赫子を薙ぎ払う。有馬はその攻撃を刀で受け止めるが、想像以上の力強さに大きく吹き飛ばされる。
だが、咄嗟に空中で姿勢を立て直した有馬は、赫子を振り切り隙だらけのユエに向かってユキムラを投擲した。真っ直ぐ赫包の位置を狙って飛んで行ったユキムラは、直前でユエが何とか身体をずらしたことによって、脇腹を切り裂くだけにとどまる。
普通であれば脇腹が切り裂かれるだけでもかなりの傷になるのだが、再生力の高いユエにとってはこの程度はかすり傷であり、有馬が着地して体勢を立て直すころには既に完治していた。
「……これ、借ります」
倒れていた黒岩の近くに着地した有馬は、一言だけ断りを入れると返事も聞かずにクインケを手に持ちユエと相対する。黒岩のクインケは彼の為に作られた巨大な甲赫のクインケであり、有馬の体格には合っていないものだったが、有馬はそのクインケを難なく振るうとユエの赫子と打ち合った。
ユキムラを持っていた時より攻撃の速度が遅くなってはいたが、その代わりに一撃一撃の重さが格段に増しており、ユエは防御に意識を割かなければならなかった。先ほどよりも大きくなったモーションの合間に反撃をするも、それは最初から読まれていたように難なくかわされる。
――――武器を代償にダメージを与えたものの、即座に回復され決定打を与えられない有馬。
――――全くダメージを受けていないものの、反撃を読み切られ赫子がかすりもしないユエ。
周囲の者は手出しすることすらできず見ていることしかできない中、二人の戦いは膠着状態へと陥っていた。
なんだか中途半端な形で終わっちゃいましたが、こうでもしないとかなりの文字数になりそうだったので。
文字数が増えると、そのままずるずると投稿しなくなりそうだったので、一周年を機会に投稿することにしました。
以下適当な本編の補足的な何か
【喰らい愛】
・今更ながらタグにガールズラブを入れるべきか……。でも二人の関係は、あくまで歪んだ友情であってloveではないし……
【からたちの花】
・2007年に日本の歌百選に選ばれる。現在作中の時間軸は2002年。
ちなみに花言葉は相思相愛。……上記の通りなので他意はありませんよ?
【お偉いさんの護衛】
・護衛対象はもちろんあのヒト。アオギリが繋がりを持っていたのも実はユエを介してだったりなかったり……?
【
・原作ではエトの表情が印象的だった。だったら助けるしかないじゃない!(使命感)
これぞ二次創作の醍醐味。
【楽しい夜になりそうね】
・お姉様のセリフ。かなり好き。ちなみに私はノーコンでこのセリフは中々聞けない。
【有馬さん】
・正直最新話見た後だとユエでも勝てる気がしない。でもユエはまだ赫者でもないし、能力も使ってないから……(震え声)
とりあえず赫者じゃなくても店長より強い。
【ユキムラ】
・支給品だし多分もろい。それを使いこなす有馬とハイセの異常性が分かりますね。折れても結構簡単に直せそう。
【膠着状態】
・お互いにまだ様子見の段階。どっちが先に動くかで今後の展開が変わるかも?
次回で一章は終わりになると思います。半年経っても一章が終わらず投稿数は五回。……こんなんで大丈夫か、私!
次の投稿もいつになることやら……。
少なくとも半年以内には投稿できる……はず。
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叫祈
はやい(二ヶ月)
というわけで、お待たせしました。
今週の喰種を見てテンションが上がったので、一気に書き上げました。
なので、ちょっと雑なような気がしなくもないですが、許してヒヤシンス。
それと、7月4日はフランちゃんの日だったらしいです。何故かと思い調べたら、4月95日目だからだとか。考えた人凄いですね。
今回の話は前話との二部構成みたいな感じなので、サブタイトルは前回と同じく『きょうき』
個人的に今までで一番お気に入りのサブタイトルだったり。
太陽が沈み、静寂が空間を支配する丑三つ時。
しかし、寝静まったはずの街には、耳を劈くような金属音が幾重にも重なり、夜闇を静かに照らす満月の光が、地上で幾度となく交錯する剣線の残光を写し出していた。
有馬とユエの戦いは既に十分以上も続いていた。たかが十分とも思われるだろうが、戦闘においてその時間はとてつもなく長い。
さらに、有馬とユエのような実力者になると、その時間の長さはより大きいものになる。それは、周囲で二人の戦いを見守っている捜査官たちでも感じ取れるものだった。
二人の攻防は絶え間なく続き、息をつくどころか、瞬きする間も殆どない。一秒の間に、お互いの急所を狙った攻撃が三度は重ねられる。
頭を狙われればそれをかわし、喉を狙われるとパリィを使い、心臓を狙われれば防御する。時には動きを阻害する為に脚を狙い、攻撃手段を減らすために腕や赫子を狙う。
加速する意識の中、二人は筋肉の張り方、相手の視線、次の行動、そこから割り出される思考まで、お互いのことをくまなく観察し、次の手どころか三手先までも予測する。それに対し、次の行動を読まれないように、視線で、力の入れ方で、間合いの取り方も含めてフェイントを入れ敵を騙す。
圧縮された時の中で行われるこれらの攻防により、十分という短い時間は、一時間にも二時間にも感じられた。
戦いは一見すると有馬の有利に進んでいるように思えた。人間とは思えない速度で繰り出される斬撃は、ユエの脇腹を切り裂くなど、小さくない傷を負わせている。
比率でいえば、ユエよりも有馬の方が攻勢に出ているように見え、周囲で見ている捜査官たちも、その光景を明るい表情で見つめていた。だが、実際は周囲が思っているほどに有馬の状況は良いわけではない。
ユエの一番恐ろしいところは何かと言われれば、今まで戦ったことのある人物の大半は、その圧倒的な身体能力だというに違いない。実際、人間より身体能力が何倍も高い喰種でさえ、ユエのには遠く及ばない。
だから、その考えは間違っていないのだろう。しかし、今まで戦ってきた相手は知らないのだ。ユエの本領がどんなものかを――――
「またか……」
有馬の呟きと共に、手の中で幾つ目かも分からないクインケが砕け散った。素早く後退した有馬は、近くにいた捜査官から新たにクインケを借りる。
その隙を逃すかとばかりに、ユエが水晶を射出しながら驚異的な速度で距離を詰めるが、そのタイミングは一足遅く、有馬は新なクインケで攻撃を弾いた。
近くにいた捜査官は反応しきれず、有馬から逸れた水晶を顔面に受け、脳髄を撒き散らしながら倒れたが、二人はそちらを見向きをせず再び激しくぶつかり合う。
「アハハ!」
笑いながら振るわれた赫子が、有馬のクインケと衝突して火花を散らした。片翼の枝のような部分を絡ませ、一本の太い幹のようになった赫子の衝撃は想像以上のもので、有馬は強く踏ん張り対抗する。
それを予想していたように、地面から残りの三本の赫子が有馬を囲むように三方向から飛び出した。有馬は手首を使うことでクインケを上手く流すような角度に変え、押し込まれる力が弱くなった一瞬で赫子に当てたクインケを起点に跳躍する。同時に腕に強く力を込めることで、赫子による追撃を防ぎながら、反動により空中で体勢を整えた。
ユエは全ての赫子が先ほど有馬がいた場所に残され、防御する手段と攻撃に移ることができなくなる。有馬はそんなユエに向かって落下の勢いを利用した一撃を振り降ろそうとした。しかし、それすらもユエの手の平の上でしかない。一見隙だらけのように見えたのは誘いだったのだ。
ユエは地面に突き刺した赫子で体勢を無理やり変え身体を持ち上げると、クインケを振り上げて胴ががら空きの有馬に、サマーソルトキックのような蹴りを叩き込んだ。予想外の攻撃に反応が一瞬遅れた有馬は、何とか自分の間にクインケを挟み込むことに成功したが、いくら無理な体勢から放たれたとはいえ、驚異的な身体能力を誇るユエの蹴りだ。空中では踏ん張ることもできず、面白いくらいに吹き飛ばされる。
空中を吹き飛びながらも何とか体勢を整えるが、無茶な使い方をされたクインケは持ち手の部分を残して砕け散った。
「っ……」
着地には成功したが、それは明らかに無理な体勢だ。膝と手をつき勢いを止めることはできたが、次に動くまで二秒近い時間を要するだろう。それはこの戦いおいて致命的な隙だった。
思いっきり地面を蹴ったユエは、一瞬で有馬に接近し、頭と心臓に狙いを定めて赫子を突き出した。
決定的な一撃が有馬に突き刺さろうとして――――
――――ぞぷっ、
そんな音がユエには聞こえた。
◆
――嗚呼……音が聞こえた。
いや、本当に聞こえたのだろうか。
聞こえたと感じただけかもしれない。
そもそも感じることができているのか。
だって感覚を司るのは脳という機関だ。
だからきっと、感じているのではなく認識しているのだろう――
――――私の頭ニ、クインケが突キ刺さっていた。
ワタシの目がクインケで埋まっテいる。
あリマに赫ネがとドいてなイ。
ナんで?
クいンケはコわしたハず。
ジゃあさサッてるノは?
白いカたな。
シろいカたなガのウにめりコむ。
アたまがイたい。
ワれチゃう。
わレテる?
えキがこボれてル。
もっタイなイ。
ひダりガクらい。
くライノはこワい。
コわい。
こわイ。
こワi。
死ヌ?
シぬ。
siヌ。
し。
シ。
si。
死。
し。シ。死。し。si。死。シ。し。シ死sisiしシ死死シsiし。シし死siし死シシしし。シ死sisiしシ死死シsiしシし死s。iし死シししシnu死si死siしシ死死シsiしシし死siしし死シしし。シ死sisiしシ死死シsiしシし死siし死シししシ死sisiし。シ死死シsiし死シヌ。。し死siし死nuシシしし。しシ死sisiしシ死死シsiしシし死siしし死シししシ死si死siぬしシ死死。シsiし死シし死siしし死シsiししシ。死sisiしシ死死シsiしシ死し死死死siし死シしsiしシし死siしし死シし。しシ死sisiニしシ死死シsiしシシし、死siし死シししシ死sisiしシ死死シsiし死シし死sニiし死シシnuしししシ死sisiしシ死死シsiしシし死siしに。しnesi死シししシ死s。isi死s。iしシ死死シsiし死シし死siししsi死シsiししシ死sisiしシ死死シ。siしシ死しヌ死si死死siシし死シししししシ死sis、iしシ死ネ死シsiしシし死siしし死。シししシ死si死siしシ死死シsiし死シし死siしし死シsiしし。シ死sisiしシ死死シにsiしシni死し死死死siし死シしsiねしシし死siしし死シししシ死sisiしシ死死シsiしシシし死siし死シししシ死sinisiしシ死死シsiし死シし死siし死シシにしししぬシ死sisiしシ死死シsiしシし死siししsi死シししシ死sisi死siしシ死死シsiしね死シし死siししsi死シsiししシ死sisiしシ死死シsiしシ死し死si死死sineシし死シしsiししシ死sisiしシ死死シsiしシ死し死si死死siシし
し
シぬ。
siね。
しni。
しにタい。
シねない。
死ナなイ。
――約ソく。
生きル。
イきなキャ。
たベナきゃ。
いヤダ。
タべたクナい。
シニたイ。
いキる。
シぬ。
――いシきなニタきイゃ。
おキエかタあさイドんウとシテのやイくキテそルくまンダもらロウ。
なくコちワゃごセキはエんたロべナクたナくなレい。きオもナちカスわるイタいこオわイいくるシソしウいつイらいイいニオやイだどクラうしエてわコたしロセがこコワんセ、
なめミンにあナコうワのにレテくいシかみがマにくエタいこノんシイなせサかいイはきコウらいアだせソかいボがにウくキュいこッわれろ。トなシテくなドれきカえンろしアねハたすハけハてハおとハうさハんおハハかハあさモん。ットやだアよしソボななウいでコひとワレりテはいコやワだシいっテょコワにレいロキよエういロただシきネますタおノいしシイいキあャはハハはハはハハはははハハはハハハハはハはははハハハははハはハハはハはハハはハハはハハはハハはハはははハははハはハハハはハハはははハハはハハはハハはハハはは――――――――――――
しヌ。
なra
死ね。
◆
決まったっ――!
捜査官たち誰もがそう思った。長く苦しい戦いが終わり、歓喜に顔を染め、勝利の雄たけびを上げようとして――――誰もが口を閉ざす。
空気が変わった。
その場にいた全員が感じられるほど、決定的に空気が変わった。言い換えれば、変わったのはそれだけだ。しかし、空気という曖昧なものにも関わらず、その場にいた全員が圧倒的なナニカを感じ取った。
確認するまでもなく、何が原因かを本能で理解する。全員の視線が集まる一点には、有馬の持つユキムラに左目を貫かれ、頭を貫通した状態で俯いているユエの姿があった。
見える部分は何も変わっていない。だが、纏う気配が、雰囲気が、先ほどまでとは全く違う。
一言で言うなれば”狂気”。ただ、そこに居るだけで気が狂ってしまいそうな、正気の世界の裏側に潜む、人間が触れてはいけないモノ。そんな感覚を捜査官たちは味わっていた。
ピクリとユエが動く。
たったそれだけの行動で、全員が恐怖に縛り上げられる。喰種を相手にする場合、再生が始まる前に攻撃を畳みかけるのが捜査官の常識なのに、誰も動くことができなかった。あの有馬ですら、何を考えているか分からない表情でユエの動きを観察している。
ユエが顔を上げた。頭を貫いたユキムラが、眼球を抉り脳髄を掻き乱す。しかし、それを一切気にした様子もなく、ゆっくりと、時間をかけて顔を持ち上げた。
ボロボロになった仮面が落ち、ユエの容貌が露わになる。左目の赫眼が潰されているというのに、それでも誰もが美しいと思った。何よりも惹きつけられるのは右目。赫眼ではないその瞳は、血のように紅く鮮やかで、縦に裂けた瞳孔は深淵を覗き込んでいるかのような不気味な色を湛えている。
顔を上げ、雑にクインケを引き抜いたユエは、嗤った。嬉しそうに、楽しそうに、悲しそうに、苦しそうに、辛そうに、全ての感情を掻き混ぜて溶かしたような笑みを口元に張り付けた。その笑顔を見た者は誰もが魅了された。目が離せなかった。
だが、同時に言いようのない恐怖を感じた。ただ漠然と、自分はここで”終わり”なんだと理解させられる。”死”などという明確なものではない。宇宙のような無限の混沌の中で、人が触れてはならない未知という名の狂気を詰め込み、世界に潜むあらゆる悪意を煮詰めてドロドロに溶かしたような、そんな重たい感覚だった。
誰も動けない。恐怖という感覚に支配され、狂気に当てられ精神を擦り減らしながらも、ただ茫然と立っていることしかできなかった。
そんな中、ユエが無造作に右手を上げる。
「キュッとして――」
可愛らしく、無邪気な言葉は、純粋な悪意にまみれていた。
「――ドカン」
一番近くにいた捜査官の頭が爆ぜた。
ただ立ち竦むしかない。何が起きたのか脳が理解することを拒絶していた。理解の範疇を越えているのだ。ユエが行ったことと言えば、右手をかざして何かを潰すように握り込んだだけ。それだけで、人ひとりの命がいとも容易く消し飛んだ。
呆然と佇む捜査官たちの前で、もう一度ユエが手を持ち上げる。その時になって、ようやく有馬が動き出した。
右手に持った半ばで折れているユキムラ1/3をユエに向かって投擲する。当然ユキムラは弾かれたが、意識が有馬に向いたことで少しの時間を稼ぐことができた。
勢いよく立ち上がった有馬は、近くに落ちていたクインケを二本手に取りユエに一瞬で詰め寄ると、かかげられた右手に向かって勢いよく両手を振るう。
片方のクインケが防御しようとしていた赫子を弾き飛ばし、もう片方がユエの右手を切り飛ばした。
「――残念でした」
そんな声が聞こえたと思った瞬間、十数人もの捜査官がまとめて弾け飛んだ。
何故――? そんな疑問が全員の頭を占め、ユエを観察することで答えに辿りつく。視線が集まる先は、握り込まれた左手。
「もう一回、ドカーン」
そんな言葉と共に再び左手が閉じられ、今度は数十人の捜査官が一斉に爆発する。たった十秒程度の間に捜査官の半分近くが殺された。
何もできないまま、隣にいた相手の臓物や血しぶきが雨のように降り注ぐ惨劇は、現実とはかけ離れているようで、いっそこれが全部夢であればどれだけ救われるのだろうかと、生き残っている者たちは願うように思うしかない。
「きゅっとしてぇ~」
言い切る前に、有馬の一戦がユエの左手を切り裂く。これで先ほどまでのようなことはできないと、誰もが希望を持った。しかし、そんな望みは数十人の頭と共に儚く砕け散る。ユエの
手で何かを潰すだけの簡単な動作を止めることは有馬にしかできず、周りの捜査官は、いつ自分が弾け飛んでもおかしくないという恐怖に怯えながら、ただ二人の戦いを見ているしかない。
左手で突き出されたクインケの一撃はユエの喉を貫くことに成功するが、攻撃を受けた本人は気にした様子もなく再び右手を前に出す。その手をもう一方のクインケで切り裂き妨害するが、今度は左手が持ち上げられた。
返した刃を左手に当てようとするが片翼に防がれ、残りの赫子が有馬の胴体を狙う。一瞬で引き戻した左手でそれを受けるが、圧倒的な力の差で大きく後退させられる。
「ドッカーン!」
捜査官がさらに減った。恐怖で逃げ出す捜査官もいたが、逃げ切る前に全員殺されている。
有馬は再び距離を縮めながら、両手に持ったクインケを投擲した。幸い、死んだ捜査官の分だけクインケが散らばっている。投げたクインケが赫子に防がれている間に新なクインケを拾うと、ユエに斬りかかった。
今までならば確実に回避に徹した急所を狙う攻撃。しかし、あろうことか、ユエはその攻撃に対して、自ら身体を投げ出した。吸い込まれるように突き刺さるクインケ。だが、それを痛いとも思っていないように身体を捻ると赫子を振り回した。抉られる傷口から血が噴き出すが、気に留めた様子は一切ない。そして、赫子はそのまま有馬に向けて振り切られる。これは流石に予想外だったのか、有馬はクインケを使い捨て、大きく吹き飛ばされながら、飛んでくる水晶で身体を切り裂かれた。空中でありながらも回避行動を行ったのか、致命傷には程遠いながらも、間違いなく今日一番のダメージを負った。
だが、有馬も流れ出す血を気に留めることはない。痛みはあるはずなのに表情にはそれを一切出さず、再びユエとの距離を詰めた。
何十回も赫子とクインケを打ち合わせながら、隙間を縫うような攻撃がユエの腕や急所を切り裂いていく。しかし、その傷は二秒もしないうちに完治し、次の行動に移っていた。
今までの相手はユエをここまで追い詰めることなど一度もできなかった。だが、有馬はユエを追い詰めたのだ。それこそ、ユエが死を感じる目前まで。だから、ユエは初めて自分の本領を発揮することができた。
ユエの本領――それは圧倒的な回復力。喰種と吸血鬼、この二つのハーフであるユエの回復力は異常だ。致命傷が二秒も立たずに回復してしまうし、喰種の弱点であるはずの赫包を破壊しても、吸血鬼の再生力で復活してしまう。だからこそできる無茶、防御の大半を捨てて攻撃にリソースを振るというのが、ユエが一番力を発揮できるスタイルなのだ。
何度目かも分からない致命傷。しかし、その傷は一瞬で治り何人かも分からない捜査官が四散する。既に空は白み始め、何度も何度同じ攻防が繰り返される中、突然転機が訪れる。
「――…あ、れ?」
ふらりとユエの身体が傾き、直後、首が刎ね飛ばされた。己の首から上が無い胴体が目に入り、思わず疑問の声が零れる。そのまま意識は暗闇の中に呑まれて行き――――完全に沈む直前で、強制的に引き戻された。
映像がコマ送りされたように視界が変わり、目の前には再び迫るクインケ。
先ほどと同じように首を切り落とす軌道のクインケをギリギリのタイミングで躱すが、それでも三分の一に切れ込みが入り、気管に流れ込んだ血液を口から吐き出す。
傷は一瞬で治ったが、その僅かな間でクインケが返され脚を切り裂こうとしていた。密着した状態で機動力を削がれるのは拙いと判断したユエは、すぐさま回避に移ろうとするが、クラリと先ほどと同様の感覚に見舞われ動きが鈍る。
一秒にも満たない一瞬の停滞。その僅かな時間が致命的なものとなった。
支えがなくなりユエの身体がバランスを崩す。そこを狙って、すくい上げるような刃が右腕を切り飛ばした。さらに続けて振り降ろされたクインケが、残光と共に左手も落とす。止めとばかりの一撃が胴体を両断しようとしたところで、何とか赫子の防御が間に合い、そのまま有馬を押し返す。
その間に手足は再生したが、立ち上がった足取りは、ややおぼつかないものだった。
「あはは……血が足りなくなっちゃった」
参った参ったと、おどけたように笑うユエ。その表情からは、とても参った様子など見受けられないが、事実、ユエの限界はかなり近づいていた。
確かにユエの再生力は常識を逸している。それはまさしく不死の王と呼ばれるに相応しいものだが、本当に不死というわけではなく、当たり前のように限界というものがも存在していた。
いくら再生力が高かろうと、流れ出た血は戻らない。当然血が足りなくなれば動きも鈍り、思考も纏まらなくなる。これは人だろうと喰種だろうと吸血鬼だろうと同じことだった。
「ここまで追い詰められたのは初めてよ」
「………………」
「貴方は私を壊せる? それとも壊せない?」
「…………君は」
「もうこれで終わりにしましょう」
そう言って笑うユエの顔は、どこまでも壊れて狂っているようで、しかし、昇った朝日を背後に受けながら煌びやかに光る金髪と相まり、儚く寂しそうな笑顔にも見えた。
「――……ああ」
有馬が飛び出したのと、ユエが右手をかかげたのは同時。
そして――――
有馬の右目が弾け飛び、
ユエの心臓が串刺しにされた。
周囲の人間は誰も認識できないような刹那の間。その攻防を制したのは有馬だった。
飛び出した有馬を阻むように六本の赫子が行くてを遮るが、全て躱しながら懐に入り込み、ユエの右手を切り裂きながら心臓に刃を突き立てたのだ。しかし、右手を切り裂くのと、手に力が込められたのはほぼ同時だった為、有馬の右目が持っていかれることとなる。
この行動が全て刹那の内に行われた為に、捜査官たちには右目が弾けた有馬と、心臓にクインケが突き刺さったユエという結果だけが見えたのだ。
「――ふふ……あははは……っ」
心臓を貫かれているというのに、口から血を吐き時折咳を交えながらもユエは嗤う。
「貴方は……貴方もなのね」
その声は有馬を嘲笑っていると同時に、自嘲が含まれているようだった。
「でも違う。私ではきっと貴方の望みを叶えられない」
「…………」
全てを見透かしたような笑顔を浮かべるユエ。有馬はその言葉に何も返さず、ただ沈黙を貫いている。その右目からは血が零れ、頬に跡を残していた。
愛おしそうに有馬の頬に手を伸ばしたユエは両手で顔を固定する。そして、右目があった場所に顔を近づけると、舌で瞼をこじ開け、かき回すようにして中身を舐めとった。
「全てを諦めたなら私のところに来て。そしたら、せめて欲しがっているものを貴方に上げる」
唇を鮮血で染め艶やかに笑ったユエは、そっと有馬の頬から手を放す。
次の瞬間、
ユエの身体が両断された。
そこに躊躇いはなく、容赦もない。しかし、戦いにおける大切な何かが欠如した一閃は、ユエの上半身を容易に刎ね飛ばした。
「ふは、アハハハハハ――――!」
身体が両断されても尚、ユエの顔には笑顔が張り付いている。そこに含まれた感情を読み取ることは叶わず、ユエはこの世の全てを嘲笑うような狂笑を響かせながら闇の中へ堕ちて行った。
◆
『 2002年 11月20日
駆逐対象「梟」による徒党で二区支部が二度目の襲撃を受ける。本局対策Ⅰ課特別編成チーム構成員である黒岩巌上等捜査官によるクインケの一撃で赫包に致命的なダメージを与えることに成功。しかし、「
後日提出された報告書より抜粋 』
戦闘に丸々一話使うのってどうなんでしょう?
私的にはまだ内容が薄い気がするんですが……気にし過ぎですかね。
これで一章は終了です。一章が終わるまで一年近くかかっているという……。
二章は原作に入るか、その前に何か話を入れるか迷ってます。プロットがないので気分次第で変わるでしょう。
本当は一章のラストはVS店長のつもりだったんですが、いつの間にか有馬になってました。行き当たりバッタリだと、こういうことが多々起きます。
皆、小説を書く時はプロットを作るんだ! 作者との約束だゾ☆
……はい。
以下本文の解説的な何か
【意識の加速】
・やりすぎな気もするが、有馬さんは金木君を二秒で殺せるとか言ってるから多分できる。……何だかあの人だけ別の漫画にいませんかね?
【ユエの身体能力】
・喰種が人間の4~7倍程度なので、ユエは10倍以上を想定しています。ふわっとしててサーセン。許してクレメンス。
【いシきなニタきイゃ】
・読み辛いけど、これだけ読めればOK。祈りを叫ぶということで今回のサブタイトルになっています。大したことは書いてないので、全文を読む場合は暇つぶし程度で。
【狂気】
・一周回って元の位置に戻った感じ。原作のフランちゃんのイメージ。
本当は母親譲りの髪の毛ぶった切って、さらに精神的に追い詰めようと思ってたけど、髪の毛も再生できる気がしたのでやめた。
【狂気表現】
・最近クトゥルフTRPGの動画をあさっていたので、それに引きずられた希ガス。
【きゅっとしてドカーン】
・一話目から出したくて仕方がなかった。満足した。
【捜査官虐殺】
・原作キャラは生きてる。狂気に染まって目的が、時間稼ぎ→殲滅→遊びになった為に爆発四散した哀れなモブ。
【顔を見られたけど大丈夫か?】
・大丈夫だ、問題ない。喰種の世界はどう考えても正体が分かるマスクなのに、バレてないからへーきへーき。ご都合主義は偉大です。
【血が足りない】
・斬られまくったら流石に負ける。勝敗は有馬の体力が切れるか、ユエの血がなくなるかだった。ユエが防御を続けていれば勝てた。尚、能力を最初から有馬に使っていれば楽勝だった模様。
【壊せる?壊せない?】
・狂える?狂えない? アンラベル聞いてると筆記がはかどる。
【有馬の右目】
・いずれ見えなくなるなら、なくしちゃってもいいよね☆ ダメだったら後で書き直す。
【欠如したもの】
・もしかして:愛
もしかしなくても:
【上下両断】
・6巻の金木VSエトのイメージで書いた。
最新話見た後、元々高かった有馬さんの株が急上昇した。有馬さんがヒロイン(!?)で作品が書ける気がする。有馬さんの設定的にBADエンド待ったなしだけど。
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