錬鉄の軌跡 (凍結中) (倉木遊佐)
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プロローグ

姉の必殺『エヌマ・エリシュ』で消滅したかと思ったが士郎並の生存確率で復・活!
ありがとうバックアップ、切継さん並に涙が出る自分。


ある世界に多くの戦場で戦い続けた赤の弓兵がいた。

自身の正義を貫き、できる限り多くの人をを救いたいと思い、弓と剣を握り、戦い続けた。

その者は自身の死後をチップにし、世界を救い世界と契約した。

その世界さえも救い出した男の最期は、自身が助け出した人達による処刑という、彼にはそぐわぬ末路だった。

契約によって、男は人類の滅亡を回避する為の存在『守護者』となった。

周囲を、人々を、世界を救おうとした彼の天職の様なものになった男は喜んだ。

ーーーーーーーーーーこれでもっと多くの存在が救える、と。

 

 

 

それこそ幻想だ。

 

 

 

延々と人々の愚行を、世界に(・・・)被害が及んだ時に限って彼は呼び出され、愚者を処理する。

男はそれを数回行っただけで自身の信念や願望は崩れ去り、過去の自分に怒りをたぎらせていた。

「あぁ、違う‼︎こんな事のために守護者になったのではない‼︎」

最初は、義父の意志を引き継いだだけで、周囲の人々を守れれば十分だったのに、何故こんな事に。

偉業を成し遂げ、英雄となった者の霊『英霊』となってから彼は、幾度か過去の自分を殺そうとした。

しかし毎度、その願いの答えを得て、自身を殺さずに戻っていた。全ては世界から記録(・・)とされたが。

そして今、男は二、三回経験したことのある感覚に襲われた。

 

ーーーーーーーーサーヴァントとして召喚されるのだ。

 

「ーーさて、今回、私のようなハズレを引くのは何処のバカだろうか」

あかいあくまと記憶喪失者以外に彼を召喚したものは居ない。大方、今回もそのどれかだろう。

そう思いながら、錬鉄の英雄(エミヤシロウ)平行世界(・・・・)へと召喚されるのだった……。

 

 

 

団長が死んでから数日後、『北風の旅団』拠点跡地で元猟兵の少女は未だに膝を抱えていた。

意識が芽生えた時には戦場に佇んでいた少女は、ある猟兵団に拾われ、そこで育った。

皆、人一人は殺している大人ばっかだったが、少女のことを家族同然で彼女を見守っていた。

だが、団長が他の猟兵団団長と一騎討ちをし、相討ちしてから全てが変わった。

朝目覚めると、団員全員が拠点から居なくなっており、置き手紙には団長の死亡と少女を団から脱退させることが書かれていた。

『ほな、自由に生きや西風の妖精(シルフィード)

そこまで読んだ少女は手紙を投げ捨て、膝を抱えて待ち続けた。

ーーーーーーーーーーーーきっと何かの冗談、明日には笑って戻ってくるはず。

そう思い続けて何日も待ち続ける。

来客もあった。

いつの間にか目の前に立っていた赤い服を着た女性と、昔戦いあった元遊撃手(今は教師らしい)だけだ。

遊撃手は昨日きて、『学校に通ってみないか?』と聞いてきて、今日返事を聞きに来る予定だ。勿論断るつもりだが。

少女は少しの間考え込むと服のポケットからある物を取り出す。

それは、赤い宝石のついたペンダントと文字の書かれた紙切れ。

赤い服を着た女性が去る時に少女の目を見て、渡してきたものだ。

「わたしはあなたみたいな目をした子に会ったことがあるわ。大抵、自分の心の依り代でも失ったのでしょ?

……ふーん。………いいわ。あなたにこれをあげるわ。ペンダントを首に掛けて、この紙切れに書かれた呪文を唱えた後にそれを地面に落として。

そうすれば、あなたの心の拠り所になってくれる人……人の様な存在?が来てくれるはずよ」

少女は意を決して立ち上がるとペンダントを首に掛けた。

「ーーーー告げる。

汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うなら応じよ

誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

そして、紙切れを落とす。

その瞬間、地面に模様が描かれていき、ものすごい風圧が起こる。

風圧が収まると同時に、謎の模様が描き終わり赤く発光し始める。

(ーー⁉︎眩しいーー)

少女は赤い光が輝きを増す様子を見て目を瞑った。

「ふむーーここは……少なくとも日本ではないな」

目を瞑り視界が真っ暗の中、少女は聞いた。

「随分と殺風景な場所で召喚してくれたものだな。……む、この幼、少女しか居ないだと」

皮肉ごもった口調だが、人を心のそこから暖かくしてくれる、男の声を。

「まさか、マスターか……いや、あのペンダントは……あのあかいあくま(・・・・・・)の仕業か」

少女は光が輝きを失いだしたことに気づく。

「はぁ、イリヤで十分だ幼女は……しょうがない」

少女は少しずつ、目を開く。

そこには……

「サーヴァント・アーチャー。召喚に従い参上した。さて、君が私のマスターか?」

赤き服を着た白髪の男が片膝をついていた。

 

 

 

 

 



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召喚

「サーヴァント・アーチャー。召喚に従い参上した。さて、君が私のマスターか?」

 少女はアーチャーの声を聞くと、見開いていた目をいつもの眠たそうな目にして聞いた。

「……サーヴァント?……分かんない」

 少女のその言葉を聞き、アーチャーは「はぁ、やはりか」と呟いた。

「では、マスターよ。そのペンダントをくれたのはどんな者だったか、おしえてはくれないか?」

 そう、アーチャーはそれを見て、ある人物を想像していた。

 自身の予想通りなら、あのあかいあくま(・・・・・・)の容姿についてのことを少女は言ってくれるはずだ――

「ん……。赤い服を着ていて、黒い髪をしてた……多分。呪文とかも教えてくれた」

 少女はいきなり質問してきたアーチャーに少し驚きながらも、こたえてくれた。

「はぁ……やはり遠坂か。人との思い出の品を他人に渡し、ましてやサーヴァント召喚を勧めるとは」

 少女はアーチャーの、その様子を見て知人だったのだろうと推測していた。

(……この人、かなり強い。団長は無理そうだけどレオ位は倒せそう)

 否。それ以外にも、アーチャーに関する推測を色々していた。

 そこで、少女はいきなり自身の体から力が抜けるような感覚に襲われ、地に伏した。

「む。召喚で魔力が減りすぎたようだな」

 アーチャーは少女の様子に気づくと、さっさと近づき、少女を両腕で持ち上げた。

 少女は一瞬もがくが、中々体に力が入らないらしい。

「安心したまえ、マスターよ。

 今は眠りたまえ。起きる頃には食事を振舞ってやろう」

 少女はそれをきくと同時に眠くなってきた。今のアーチャーの言葉でどこか緊張していた心が解れたようだ。

(何だろ、とても安心する声。……団長みたい)

 そして、少女はその時点でアーチャーに身を任せ、意識を手放した。

 

 

 

「……眠った、か」

アーチャーは少々、揺さぶった後そういった。

「さて、今のうちに解析を済ませておこうか」

少女の右手には赤い模様がついている。サーヴァントと契約している証拠だ。

つまり、少女と自身が契約している、と推定したアーチャーは真っ先に思ったことがあった。

――――私はどれだけ全盛期の力を出せるのだろうか?

マスターの魔術回路が少なければ、その分だけサーヴァントは力を出せなくなる。

ならば、少女はどれぐらい魔術回路を保有しているのだろうか。

せめて、『無限の剣製』が十分近くは出せると良いな、と思いながらアーチャーは少女に解析を掛けた。

解析、開始(トレース・オン)

 

……。

…………。

………………。

 

魔術回路 活性化57本

魔術属性 時

起源   疾走

内部に異物を発見、解析。

『宝石剣キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ』と判明。

概念固有結界の展開の見込み有り。

 

「なんでさ」

アーチャーも素の声音が出る。

確かに、これは異常だ。

まだ、魔術回路57本は一流魔術師のなかでも一流の金の卵、ということで納得は出来る。

だが、魔術属性が時、起源の疾走等は未知のジャンルである。

さらには、遠坂の持っているはずの宝石剣が内部にあることや、活性化したばかりなのに固有結界を展開できる可能性があること。

普通の人間にとって利点はないが、

「魔術師からしたら、いい研究材料だな。これは」

だが、これを読み取ったことである程度事情は理解した。

「遠坂は『宿題』を完成させ、第二魔法でこの世界へ。

そこで出会ったマスターに共感やらをしてペンダントを渡し、私の召喚を促す。

何らかのトラブルで宝石剣がマスターに定着。そして、私は本気を出せる……む」

そこで、アーチャーは気づいた。

――――遠坂、宝石剣無いから、元の世界に戻れなくなっていないか……!

そこで、アーチャーは誓った。

「会うことがあったら、皮肉を一つ言ってやろう」

 

 

 

少女は何かの匂いを嗅ぎとり、目を覚ました。

いまさっきのような脱力感は無く、いまでは大きく腹を鳴らせる程の活発具合だ。

「うぅ。おなか、空いた」

良い匂いを辿っていくと、自身が先ほどまで膝を抱えていた部屋に着いた。

そこには白いエプロンを巻いたアーチャーが、紅茶を用意していた。

「ふむ。起きたか、マスターよ。約束通り食事を用意してやったぞ」

そう言いながら、どこから用意したのか(勿論投影)椅子に座るのを勧めてきた。

「ん……サンクス」

感謝を述べてから座り、テーブルに乗ったものを見つめた。

豪華なティーカップとティーポット(勿論投影)に入った紅茶。

これまた豪華な皿とナイフ・フォーク(以下同文)に戦闘レーション。

「なんか、おかしくない?」

「紅茶には自信がある。あと、レーションは一工夫入れれば美味しくなる」

 

 

 

はっきりいって、美味しかった。

少女はレーションがこんなにも美味しくなることにも驚いたが、この紅茶が普通の茶葉を使っていることにはかなり驚いたようだ。

少女が頬を緩めながら紅茶を飲む様子をみながら、アーチャーは言った。

「そういえば、自己紹介をしていなかったな。

改めて、サーヴァントのアーチャーだ。目の良さと紅茶入れ、戦闘には自信がある。

君にペンダント等を渡してきた女の戦友だ」

それを聞いた少女はポカンとした後、フッと微笑んだ。

「フィー・クラウゼル。フィーでいいよ」

「そうか、では宜しくしよう。フィー」

「ヤー、アーチャー」

この後、アーチャーの説得によりフィーは赤髪の元遊撃手、サラ・バレスタインに例の件を承諾。

トールズ士官学院の入学に向け、活動を開始した。

 

 

そして、三月三十一日。トールズ士官学院入学式の日まで話は飛ぶ――――

 

 

 

 

 



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入学式

 七耀歴 一二〇四年 三月三十一日

 

 

 あと一日で四月となるこの日、近郊都市トリスタではライノの花が美しく咲き乱れていた。

 このトリスタは、良く言えば一般的、遠慮せず言って普通な街だ――――ただ、一点を除けば。

 それは、

 

    かの大帝・ドライケルス・ライゼ・アルノールが設立したとされる『トールズ士官学院』だ。

 貴族の嫡子から平民の生徒まで、在校生は多種多様であり、卒業後の進路もそれ同様。

 その様な伝統的な学校がこの年にはあった。

 そして、この日はその入学式がある日でもあった。

 少年少女達は、在校する二年間で何をし何を遂げるのか。

 そう考える新入生らは期待と不安を併せ持ちながらも、トリスタに訪れていた。

 

 

 

「ライノの花か、綺麗だな」

 視界から溢れんばかりのライノの花吹雪を見てそう呟いた少年、リィン・シュバルツァーも同様新入生だった。

 他の者と似た心境に立ってはいたが、他の新入生とは違う点が少しあった。

 トールズ士官学院では、貴族生徒は白、平民生徒は緑の制服を着るのだが。

 彼はそれらとは違い、赤色の制服に身を包んでいた。

(しかし、何故普通の新入生とは違う色なんだろう。他にも自分と同じ制服の人も居たが、圧倒的に少ないようだ)

 そう考え、立ち止まるリィンだったが、すぐに考えるのを止め歩き出した。

 彼はついさっきも考え更け、自分と同じ制服の女子にぶつかったばかりなのだ。

 歩き続けたリィンは、公園が目に映るとそちらに方向転換した。

 ――――――――少し休憩するのもいいな

 そして、公園内に入りベンチを見つけるとそこに腰掛けた。

 ふと、隣のベンチを見れば、全身をベンチに乗せ眠りふけている銀髪の少女がいた。

 よく見れば、これまた自分と同じ制服を少女が着ていることに気づき、

 こんな幼い子も士官学院に入るのか、と思いながらリィンは瞼を閉じて……

 

「少年よ、もうすぐ入学式の時間なのだが、寝てて良いのか?」

 

 男の声を聞いて、閉じていた目を開いた。

 どうやら、疲れが溜まっていたようだ。時計を見れば、入学式十五分前。

 次いで、自分を起こしてくれた人物の方を見た。

 そこには黒いシャツに赤い服を着た、白髪の二十代半ばの男が立っていた。

「む……起きたようだな」

「あっ、起こしていただき、ありがとうございます」

 男が話しかけてきたのを、リィンは感謝の言葉で返した。

「いや、構わないさ。もののついでだからな」

 男はそう言うと、今度は隣のベンチに向かい、未だ寝ている少女に声を掛けた。

 どうやら、本命はこちらのようだ

「フィー、起きるのだ。遅刻するぞ」

 フィーと呼ばれた少女は、少し体を動かすと、

「むぅ……あと一時間」

 と眠たそうな目でかえす。

「遅刻すると言っているだろう。さぁ、起きろ」

「めんどい。……分かった」

 少女は文句を言おうとしていたが、男が発する無言の圧力に負け起き上がった。

 男はため息をつくと、リィンの方に向き直った。

「では……む、フィーと同じ制服だな」

 リィンは男のその発言を聞くと頷いた。

「はい。案外同じクラスかもしれませんね」

「ふっ、そのときはこの子を頼むよ」

 リィンの発言に男は微笑み、そういった。

「ん……アーチャー。行こ」

 どうやら男はアーチャーと呼ばれているらしい。

 フィーとやらが催促している。

「分かった。ではまた会おう、少年」

 アーチャーはそう言うと、フィーの元へ向かい走っていった。

(まるで、親子みたいだ)

 そう思いながら、リィンは二人を見送った。

 

 

 

「『若者よ、世の礎たれ』――― ”世”という言葉が何を示すのか。何を以て”礎”とするのか。その意味を、考えて欲しい」

 入学式も無事に間に合い、アーチャーは学院長の話に耳を傾けていた。

 隣にはマスターであるフィーが船を漕ぎながら話を聞いていた。

『おい、フィー。起きろ』

『起きてる、多分』

 アーチャーが声を送ると同時に背筋を伸ばすフィー。

 何故アーチャーが新入生席に座っているフィーの隣に居るのか。

 それは聖杯戦争でも重宝された、サーヴァントの霊体化だ。

 そして、その派系の念話でフィーとアーチャーは会話していた。

『多分ではない、明らかに眠りかけていただろう』

『ん、だってこの式長い』

『そんな訳無かろう。普通はもっと長いぞ……終わったか』

 アーチャーが昔のことを懐かしんでると、学院長が壇から降りていた。

 そこに、教頭らしき男が声を出した。

「それでは、新入生の皆さん。制服と共に入っていた案内書に書かれたクラスにむかってください」

 その言葉に、アーチャーは疑問を持った。

(おかしいな、確かサラ教官から渡されたのは制服とARCUSとやらだけだったはずだが……)

 フィーも心当たりが無いようで、戸惑っている。

 一応言うと、アーチャーもARCUSとやらを持っている。

 フィーがサラ教官にアーチャーの存在をばらし、もう一台貰ったのだ。

 そして、いつの間にか周囲に人が居なくなり、残っているのは赤い制服を着た生徒達だけとなった。

「はーい、赤い制服を着てる子たちはコッチに注目~」

 赤い制服の生徒達が困惑した様子で、おろおろしていると場違いな明るい声が講堂に響いた。

 声のした方に振り向いて見れば、そこには赤髪の元遊撃手、サラ・バレスタイン教官が笑顔で立っていた。

「サラ、騙した?」

 フィーが疑い深そうな視線をサラにぶつける。

「いやいや、元々このやり方だったのよ」

 それを、サラは手で払うようにして受け流した。

 一同がこの二人を見つめている所を、その片割れであるサラがこれまた明るい声で宣言した。

「これから、きみたちには『特別オリエンテーリング』に参加してもらいますっ」

 その発言を聞いたアーチャーは嘆息した。

 --――――――――――絶対に碌な事態にならんな……。

 セイバーの直感スキルを持っていなくとも、そのことだけは予知できた。

 

 

 

 

 



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特別オリエンテーリング

   赤髪の教師、サラ・バレスタインに赤い制服一行はある建物の前へと連れられていた。

『まさか、ここが校舎なのか?』

『……違うと願う』

 絶賛霊体化中のアーチャーでも、驚くほどだ。

 本校舎の裏手にあり、かなり古びて薄暗い上に、どこか怪しげな雰囲気すら漂っているこの校舎はある意味、トールズ士官学院の中で一番の異彩であろう。

「フン、フフン〜♪」

 その校舎の扉を、躊躇うどころか鼻歌をしながら開くサラ。

 

「ねぇ、リィン。なんであんなに気楽そうなのかな。あの人は」

「俺に、聞かないでくれ……」

「ほうここに、俺たちの教室がーー

「そんな訳無いだろう⁉︎」

 

 そんな会話をしながら、躊躇気味に入る一行。

 サラについていくと、広間の様な場所に止まり、サラが近くの壇上に上がった。

「さて、サラ・バレスタインよ。あなたたち《Ⅶ組の》担任を務めさせて貰うわ。宜しくお願いするわね〜」

 そんなサラの気だるげな、口調とは相異なった発言に全員が疑問を浮かべた。

(む、確かココは五つしかクラスがなかった筈だが)

 アーチャーは生前からの記憶力の高さを盛大に使い、この世界『ゼムリア大陸』に関する情報を《英霊の座》から全て記憶していた。

「あの………確かトールズ士官学院の一年生のクラスは五つだったと思うのですが」

 そんなアーチャーの疑問を三つ編みの少女が代弁してくれていた。

「おっ、さすが学年主席。よく調べてるわね〜」

 どうやら彼女が今年度の学年主席らしい。本人はそれほどでもないと、ジタバタしているが。

(しかし、この床は足音がかなり響くな……空洞になっているのか?)

 アーチャーは彼女のその足音で、床の異常さに気付き、調べてみることにした。

「だ、誰もが四大貴族の名前で怖気づくとは思うなぁ!!」

 周りは少々騒がしいが、マスターの安全を優先するがアーチャー。

 本当に危険な時にフィーは欠伸などしないと分かっているからこそだ。

 だが、いつ何が原因で起きるか分からない。

『フィー、何事だ』

 アーチャーはフィーに状況説明を頼んだ。

『ん、Ⅶ組は身分ごっちゃ混ぜクラス』

『……大体分かった』

 念話でも面倒くさがりのフィーの発言を吸収するのに時間を掛けたアーチャーだが、つまり貴族と平民が言い争っていると理解した。

 この世界では未だに貴族制度が有り、最近ではある宰相がこの伝統を変えようとしているらしく、

 それによる伝統を守ろうという建前の『貴族派』と革命思考の『平民派』の対立があるとのことだ。

 これまた面倒なトコに巻き込まれたな、と思いながら調査をするアーチャー。

(む、この床、開閉器が付いているな)

 アーチャーがそれを発見した時、ちょうど良くサラが口を開いた。

「あーはいはい。それじゃ、『特別オリエンテーリング』を始めるわよ〜」

 そして、後ろに下がりだした。

『フィーよ、落とし穴だ。今の位置から五歩右へ』

『……⁉︎ヤー』

 驚きながらもバレないようにササッと移動するフィー。

「それじゃ行ってらっしゃい♪」

 フィーが移動し終わると同時にサラが、いかにも危険そうな赤い隠しボタンを躊躇なく押す。

 本当に躊躇いのない女だ、とアーチャーが思うと共に、床が大きく傾く。

「うわっ⁉︎」

「何事だー⁉︎」

 いきなりの出来事で、フィーを除いて硬直していた一行が床を滑り、ズルズルと為すすべなく穴に落ちていく。

 そして、全員が落下し終えた様子を見たサラは、フィーに目を向けた。

「はぁ〜フィー、どうやって避けたのよ」

 ため息混じりに聞くサラにフィーは答えた。

「アーチャーに教えて貰った」

 その返答にサラはポカンと口を開け、瞬時に声を出した。

「アーチャーさん⁉︎ちょ、どこに居るのよ!」

「君の後ろだ、サラ教官」

「わっ‼︎」

 少し、からかいたくなったアーチャーはサラの背後に移動してから霊体化を解いた。

 思い通りに驚いてくれたことに満足しているのか、その表情は小さく笑みを浮かべていた。

「はぁ、カンニングじゃない。フィー命令よ、今すぐ落ちなさい」

 サラは、顔を瞬時に戻すと、フィーに命令し、

「アーチャーさんは今からでもお酒をーー

「結構だ、私はフィーについて行く。あと私はこれでも二十代だ。君のタイプではないが」

 アーチャーを食事に誘っていた。どうやらアーチャーがタイプにはまった様だ。お茶ではなくお酒と言っている時点で目論見がスケスケなサラにフィーは冷たい視線を送った。

「ではフィー、深いかもしれないから私につかまっておけ」

「ん、分かった」

 アーチャーは瞬時にフィーの元へ移動すると、フィーにそういった。

 フィーはその通りに腕につかまったのを見ると、アーチャーはフィーを抱え込んで穴へ消えていった。

「アーチャーさん、フィーのところにマスタークオーツをもう一つ入れたので、使っていいわよ〜」

「ほう、感謝しようサラ教官」

 

 

 

『――――とまぁ、こんなトコね』

 フィーとアーチャーはとりあえず無事に穴の奥に着地し、一行が居るであろう奥の部屋へと向かった。

 この時には、他者に姿を見られると面倒なことになるアーチャーは霊体化していた。

 そして、Ⅶ組一行はサラより、戦術オーブメントの通信機能をもって『特別オリエンテーリング』の説明を受けていた。

 アーチャーも一応所持しているモノで説明を聞いていた。

『あなた達の武器とオーブメントにはめるマスタークオーツは隣の部屋に各自用意されているから』

 入学式前に自分達の得物を預かったのはそういう意図があったのかと一同思う中、アーチャーは、

(となると、フィーの得物を預けた生徒会長である少女もグルだったか……)

 と一つ先を考えていた。

『これで説明終了、各自頑張りなさい』

サラはそう言うと通信を切り、一同は自身の得物が置かれた位置に向かった。

 

 

 

 



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アイデアル~理想~

 一方アーチャーも、フィーの得物が入った鞄にその所持者と共に向かう。

 そこにたどり着くと、フィーは真っ先に鞄を取り、開いた。

 その中には、短剣に拳銃が組み合わさった武器が二本、『双銃剣(ダブルガンソード)』が入っている。

 不調を至ってないか確認した後、鞄の上方に置かれている箱に手を伸ばすフィー。

 こちらには、ご丁寧に『Fee』『Archer』と立て札で区分された二つのマスタークオーツが入れてあった。

 オーブメントとは、使用者に導力魔法(オーバルアーツ)の使用や身体能力の上昇などの恩恵を授け、通信機能など戦闘面以外でも有能な代物だ。

 その効果は、オーブメントの中核をなす宝玉『マスタークオーツ』によって異なり、

 例えば、フィーのマスタークオーツ『レイヴン』は使用者に時属性の補助魔法の使用と敏捷上昇が主な効果だ。

 そして、このマスタークオーツは通常のクオーツとは違い、使用者と共に進化する(・・・・・・・・・・)クオーツなのだ。

『アーチャーはこれ』

 フィーは自身のマスタークオーツをオーブメントにはめた後、姿の見えぬアーチャーに念話でマスタークオーツの存在を教える。

『あぁ、分かっているが。一回霊体化を解かないといけないから、持っていてくれないか』

 だが、アーチャーはそれを断った。この場所で自身の姿を晒す訳にはいかない。

 霊体化にだって弱点はある。その一つが自身の所有物ではないモノには触れられない点だ。

 フィーはアーチャーのその言葉を聞き、『分かった』と言ってそれを制服のポケットに仕舞った。

 一同もどうやら、装着し終わったのか中央に集まりだしていたので、フィー達もそれに便乗した。

「ふん……」

 全員が集合し終え、黙りこくっている中動いたのは、金髪の美男子だった。

 先行して奥の部屋に向かおうとする彼を緑髪の眼鏡の少年が呼び止めた。

「待て、一人で勝手に行くつもりか?」

「馴れ合うつもりはない。それとも、“貴族風情”と連れ立って歩きたいのか?」

「な、なんだと……?」

 声から察するに、一階で騒いでいた二人のようだ。

 この場に及んでも対立を続ける反抗精神は素晴らしいものだ、とアーチャーが感心する。

「まあ、魔獣が怖いのであれば同行を認めなくもないがな。それなりに剣は使えるつもりだし、貴族の義務(ノブレス・オブリージュ)として力無き民草を保護してやろう」

「っ!! だ、誰が貴族ごときの助けを借りるものか!」

 そう言うと、緑髪の少年は真っ先に部屋の奥へと向かい、数秒後に金髪の美男子も奥へ向かった。

 サラの説明では、奥はちょっとした迷路となっており、魔獣と呼ばれる不思議生物も居るようだ。

 ――――後で面倒なことになりそうだ。

「ふむ……まあ、ここでいつまでも立ち尽くしている訳にもいくまい。我らも動くとしよう」

 青髪の古風な口調にほぼ(・・)全員が賛同する中、

『アーチャー、先に行く?』

 フィーはアーチャーにそう提案していた。

『何故、そうする』

 アーチャーが問い返すと、

『アーチャーが出てこれないよ?』

 そのフィーの返答にアーチャーは驚く。

 なにせ、生前も含め彼の周囲にそんな優しさをくれたマスターが居なかったが為だろう。

『う、うむ。では行こうか』

 少し戸惑いながらも肯定したアーチャーの声を聞くと、フィーは歩き出す。そして、それを後から追うアーチャー。

「では、そなたも一緒に――――

 どうやら、男女で分けたようで、青髪の少女はフィーも誘おうとするが、フィーはそれに気付かず去っていく。

 アーチャーは申し訳ない気分になったので、姿は見えないだろうが謝罪する。

「すまないな、少女よ」

 そして、アーチャーもフィーを追いかける。

 

 

 

「む……いま声が聞こえた気がしたのだが」

「う、うん。僕も聞こえたよ」

「いま、違う者の風を感じたような……」

「や、やめなさいよ」

「(いまの気配は――――霊?)」

「(今の声は、朝の――――)」

 アーチャーは忘れていた。

 霊体化しても声を出せば、声は伝わってしまうことに。

 遠坂凛の『うっかり』を見事に継承しているアーチャーだった。

 

 

 

 なぞの声騒ぎが入り口方面で広まっている中、アーチャーはフィーにちょうど追いついたところだった。

『アーチャー?どこ』

 フィーの問いにアーチャーは自身が霊体化を解いていないことに気付いた。

 霊体化を解除してからアーチャーは声を掛ける。

「すまない、フィー。霊体化を解除するのを忘れていた」

「ん、だいじょぶ」

 そう言って、フィーはポケットから一つのマスタークオーツを取り出す。

「ん、これ最後なんて書いてあるの?」

 アーチャーはフィーの言葉に疑問を覚えながら、マスタークオーツと共に説明書を受け取った。

「なになに………ふ、遠坂め。面白いやり方をしたな」

 説明を読んでいたアーチャーが途中から笑い声になっているのを見て、フィーは驚愕していた。

 普段は小さく笑みを浮かべるのが彼の笑い顔だと思っていたが、この様子を見た後ではフィーも考え直していた。

(どんなことになったら、あんなに笑うんだろ?)

 父親代わりとして、アーチャーを見ているフィーはそんなことを考えているとき、アーチャーは再度、説明を読み返していた。

(遠坂も粋なことをしてくれたものだ)

 説明には、こう書かれていた。

 

『これは十日ほど前に謎の赤い服の女性が、アーチャーを名乗る人物が現れたら渡してくれ、とエプスタイン財団に届けられたものです。

 詳しい説明は、下記にその女性からの文が書かれている。

 《アーチャー、面倒だから挨拶等は抜いたわ。このマスタークオーツは私が持っていた宝石で作ったものよ。

 効果は魔術回路の代役。一段階ごとに代役できる量が十本増えるわ。常時発動であなたに強化と魔術防御の術式込みよ、感謝なさい。

 後、宝石剣、無くしちゃったから探すの手伝ってくれないかしら》』

 

後半をわざわざ、日本語で書いてある説明書を丁寧に折り畳み、仕舞いながらアーチャーは思う。

(面白いものを作ったもんだ、遠坂。宝石剣もフィーが持っているというのに)

 一つの歯車を中心に剣が並ぶ模様を描いた赤茶色のマスタークオーツ『アイデアル』を見ながらアーチャーは思う。

 アイデアル。それは――――――

                理想(かつて彼が捨てたもの)

「はっ、遠坂。君は私に、再度理想を持てと言うか」

独り言を語るアーチャーに、それを聞いているフィー。

「まぁ、いいさ。その話に乗ろう」

妥協しながらオーブメントに『アイデアル』をはめるアーチャー。

――――カチッ。

「――――――っ!?」

アーチャーがオーブメントにマスタークオーツをはめた瞬間、彼女は彼が別人になったように見えた。

アーチャーが赤茶色の髪をした黄色肌の少年の姿に、いつもとは正反対の姿にフィーは一瞬その様にみえた。

(気のせい、かな)

フィーが頭をかしげているなか、アーチャーは素の口調で呟いた。

 

「今だけ、理想に裏切られ続けた私(サーヴァント・アーチャー)から理想に憧れ続けた俺(エミヤシロウ)になってやる」

 

「さて、フィーよ。さっさと奥に進もうではないか」

「……分かった」

「どうした、悩みぬいた様な顔をして」

「むぅ……何でもない」

 

 

 

 

 



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attacker and all-rounder

 

 実際、この迷路はあまり複雑ではなく、かなり単純な設計をしていた。

 罠や仕掛けの類は無く、魔獣とやらも、そこまで強い訳でもなかった。

 そんな旧校舎の迷路(この世界ではダンジョンと言うらしい)の一角で、アーチャーはフィーの戦いぶりを観察していた。

 フィーの戦闘スタイルは、持ち前のスピードを生かして敵に手数で攻める。

 それでいて、回避技能も高く、まさに理想の『アタッカー』とも言える。

 だが、時折回避に失敗した時に来る痛みの耐性や、身軽さ故の防御力の低さと体力の無さ。

 ある意味、これを含めると他の『Ⅶ組』メンバーと釣り合いがとれているだろうと、アーチャーは推察していた。

「ーーーーふっ」

 フィーが双銃剣を一振りして、鞘に仕舞う。どうやら、終わったようだ。

「どうだった、アーチャー?」

 フィーがアーチャーの方を向いて言った。感想が欲しいのだろう。

「ふむ、キツめの推察と、非道な感想。どちらが良いか」

「どっちも同じじゃん」

 アーチャーの問いに真面目に返すフィー。この二人共、ある時は無表情で冗談を言うものだから恐ろしい。

 アーチャーは目を閉じて言った。

「では、言わせてもらおう。

 まず、遠距離攻撃時の広範囲掃射、『クリアランス』は対象を中央に捉えるのではなく、複数の敵が射程に入るような地点を中心にすると良いだろう。

 射撃などは、一つを見るのではなく、全体を見ることが大事だからな。

 次に、君は痛みに対する耐性が少ない。今度、魔術回路の起動訓練で慣れてもらおう。

 最後に、君は才能があるのに、体力が人と比べて異様に少ない。体力を増やすことを念頭にこれからの訓練内容を仕上げてやろう。

 と、こんなところだな」

 アーチャーが閉じていた目を開き、フィーの方を見やる。

「理に適ってるけど……褒めてくれたっていいじゃん」

「飴と鞭のバランスは大事だからな。言うときは言うさ」

 フィーのジト目を、小さく笑みを浮かべて受け止めるアーチャー。

 じっと見つめ合う二人。その均衡を壊したのはフィーだった。

「頑固だね、次はアーチャーの番」

「君が言うか、フィーよ。まぁ、実力を知らないと、私と合わせづらいだろう」

 そういう二人は、一斉に動いた。フィーは後方、フィーを観察していたアーチャーのいた位置に。アーチャーは前方、魔獣たちが群がっている場所に。

 魔獣たちがこちらに向かっているのは、二人とも察していた。

 一応、フィーとアーチャーはお互いの戦闘能力を、これまで把握していなかった。

 だから、この際お互い確認しよう、という事になっていた。

 内容は、魔獣たちとの戦闘。単純なルールだからこそ、相手の戦闘スタイルがよくわかる。

「さて、魔獣どもよ。未練はないだろうな」

投影開始(トレース・オン)』の詠唱とともに、アーチャーは二本の夫婦剣、干将・莫耶を投影し、魔獣たちが集う広間へと飛び込んだ。

 

 

 

人体を機械、魔術を動作と例えれば、魔術回路は機械の回路そのものだろう。

回路が多い程出来る事の範囲が増え、一工程に一本に掛かる掛かる負担も軽減される為動作をスムーズに行えるのは、機械回路も魔術回路も同じだ。

アーチャーなら、投影するまでの時間が短縮され、高位の宝具もスムーズに投影できる様になる。

だが、魔術回路は通常増やすことは出来ない。出来るには出来るが、他人の魔術回路を奪うこと前提で無いと不可能だった。

しかし、魔術回路で作り出した魔力を溜め込むことは可能だ。

遠坂家の宝石魔術が良い例だろう。

遠坂凛はそこに目をつけた。この世界にある、使用者に恩恵を与えるマスタークオーツと遠坂家の宝石魔術を組み合わせればどうなるか。

魔術回路を擬似的に増やせるのではないか?

その実験で作られたのがマスタークオーツ『アイデアル』であり、その効果は今まさに、アーチャーが実感していた。

(ふむ、投影がスムーズに行え、負担も少ないようだな)

真名解放は、未だに実践していないが、投影によるアーチャーとフィーの負担はとても少なく、

さらにアーチャーの体と投影した武器に(・・・・・・・)には強化と魔術防御の魔術が常時付与されている。

(この世界に来たからこその芸当だが、あの世界では宝具となってもおかしくない代物だな)

そんなことを考えながら、戦闘を行っているアーチャーを、フィーは無表情ながらもかなり舌を巻いていた。

弓で牽制し、槍等で引き寄せ、剣で倒す。

近中遠距離を武器を変えながら戦う、さながら『オールラウンダー』の戦闘スタイル。

何本も空中から武器を呼び出す(実際は作り出しているのだが)未知の魔法(アーツ)

そのどれにも驚くが、一番驚愕したのは違うことだった。

弓兵(アーチャー)名乗っている彼は確かに弓の技量は一流と言えるが、すべての武器の技量も一流には届かないがそれなりに使えている(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。特に、剣の二刀流には目を張るがせしめて一流には程遠い。

剣に、槍に、鎌に、斧にと一つの分野に秀でたものには負けるだろうが、『オールラウンダー』の理想とも言える才能、戦いの才能を持ち合わせている。武器の熟練度やためらいの無い行動をするところから、実戦経験もかなり積んでいるだろう。

(まだ、一流に至っていない私は多分負ける……団長といい勝負、かな)

初見時とは違うことを考える中、目の前でアーチャーが戦闘を終えるのを見届けた。

そして、フィーは思う。

                       ――――――アーチャーはどんな人生を送っていたのかな

 

 

 

 



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時に英雄となる者たち

 お互いの力を把握し終えたフィーとアーチャーは終点を目指し、歩いていた。

 目指すといっても、隅から隅まで全て把握するのが彼らのクオリティー。

 そのため、彼らのダンジョン踏破率は十割に程近いレベルに達していた。

 宝箱も全て回収しているので、他の一行は開いても空の宝箱にイラついていたとか、いないとか……

 どちらにせよ、その場に居なかったフィー達には一切伝わっていない。

「そう言えば、魔術回路の起動って何?」

 走っている中、フィーはアーチャーの指摘を思い出し、疑問に思ったことを問うた。

「あぁ、君に会ってから一回も魔術について語っていなかったな」

「魔術?魔法(アーツ)と何が違うの?」

 この世界はすべて導力が様々な現象を起こす力となる、だがアーチャーは、導力で発生させる“魔法”ではなく“魔術”と言った。

 ――――武器を作っていたあの力も魔法には無いはず……だから魔術?

 そう考え込んでいるフィーをよそに、アーチャーは語る。

「魔術回路というのは、魔術師になれる者が必ず持つ、魔術発動の媒体のようなものだ。

 私の様なサーヴァントを召喚する『マスター』も必ず持っている。

 その魔力を糧に我々は存在を作り出しているからな」

「ん?それじゃ、私はアーチャーを召喚できたから魔術回路がある?」

「む、珍しく察しが良いな。まぁいい。

 魔術回路を持っているものは、自身の属性と起源に関わる魔術を使用できるが、

 魔術を使用するにはまず、自身の魔術回路のON・OFFが自由に出来ないといけない。

 その為、他者から魔術回路を強制的に起動されて、その切り替えを覚えるのだ」

 導力スイッチの使い方と似ている、と思いながら話を聞いているうちにフィーはまたしも疑問を持つ。

「どうして、その起動が痛みにつながるの?」

「…………」

 フィーが問うと、アーチャーは黙りこくる。

 こんなやり取りを彼らは、走りながら行っているわけだが、息一つも乱さない姿はとても異常だった。

 

 

 

 

 そのとき、何故彼が黙ったのかは言うまでも無い。

 ただ、身に焼け死ぬような熱さを出し消しし続けた日々を思い出していた。

(初めて投影したときもそうだったな……これが一度経験するだけで良いと分かったときは絶望したものだ……)

 フィーのジト目を受け流しながらも、生前の苦労した日々を思い出すアーチャー。

「アーチャー、答え――――――

「フィーよ、終点が見えてきたぞ!!」

 フィーの追求を終点が近づいたことで、話を逸らそうとするアーチャー。

 そんなアーチャーに再びジト目をおくった後、フィーはため息を付く。

「これ終わったら、説明して」

「終わったら、即起動させようではないか」

 令呪を使われない限り、喋るつもりは無いアーチャー。しかも、フィーに令呪の存在さえまだ話していない。

(少女は無垢で、無知であるべきだ……)

 そんなことを考えるアーチャーの耳が一瞬、剣戟の音を拾った。

「……フィーよ、終点で戦闘が発生しているとみた。私は霊体化させてもらうぞ」

「ん、許可する」

 フィーの言葉を聞き遂げると同時に霊体化をするアーチャー。

 フィーに自身の姿が消えているのを確認してもらった後、二人は終点の広間へと向かった。

 

 

 

 二・三分走り続けたところで、一本道は終わって終点の広間へ到着した。

 広間の中ではフィー以外のⅦ組メンバーが一体の魔獣と戦っていた。

 何百年も前に起こったという《暗黒時代》に神殿や遺跡などに侵入した“異物”を排除する為に産み出された魔物。身体は岩よりも硬く、攻撃を与えられたとしても、たちまち再生してしまう“石の守護者”ガーゴイル、と世界から得た情報を元にアーチャーはこの魔獣の正体を看破した。

(これは、かなり分が悪かったようだな)

 かなり疲労を溜めていたのか、女子勢は青髪の少女以外、男子勢では赤髪の少年らは気力で立っている始末。

「アーチャー、行ってくるね」

「あぁ、精々頑張ると良い」

 アーチャーの言葉を聞き、フィーは敵を見つめ、走り出した。

 余裕ぶっていたガーゴイルはフィーの接近に残り数歩のところで気付き攻撃をしたが、フィーはそれを空中に退避して回避。

 その後、ガーゴイルの背後に着地し、双銃剣でガーゴイルの翼を断ち切った。

 ガーゴイルも流石に痛かったのか、獣のような叫び声をあげフィーに反撃を加えようとするが、

「《エアストライク》」

 風の塊がガーゴイルに当たり、その攻撃を不発させた。

(いまのは、セイバー(アルトリア)の風王鉄槌……いや、それにしては威力が小さい)

 疑問に思い、発射元を見れば金髪の美男子がARCUSを構えていた。

 どうやら、今のが導力魔法の一種らしい。英霊の道具を知らぬうちに真似るとは、中々発想が良い。

 そこで、朝も見掛けた黒髪の少年が機と思ったのか、全員に声を掛けた。

「いまだ、畳み掛けるぞ!!」

 その声に反応し、勝機を逃すまいと全員が己の武器を構え直したその時、彼らの身体を、突如として淡い光が包み込んだ。

 更に光のラインが伸び出し、彼ら一人一人を繋いでいく。

 それはアーチャーも例外ではない。それに少し戸惑いながらも、戦いの行く末を見届ける。

 光のラインが全てをつなぎ終えた瞬間、彼らは攻撃を開始した。

 剣が、槍が、銃が、魔法等が炸裂する。

 その連携はまるで、長年連れ添った仲間達かのよう。

 その理由を、アーチャーは理解していた。

 攻撃をしている者全員、誰が次にどんな行動を起こすのかが視えるのだ。

(これが、ARCUSの真価、なのか?)

 アーチャーがそう考えている間に、戦局はかなり変わり、今や止めの一撃の瞬間だった。

「いまだ、とどめを!」

「任せるが良い!」

 黒髪の少年の声に、青髪の少女は答え、それ以外はガーゴイルから離れようとするが、

「――――――うっ!?」

 フィーはガーゴイルの追い討ちを受け、その痛みでその場に転んでしまった。

 その様子を見て、アーチャーは溜息をつく。

(だから、痛みの耐性を付けろといったのだ……まぁ、助けてやるとしよう)

『フィーよ、少しだけ足止めしてやろう』

『……ごめん、アーチャー』

『ならば、痛みに対する耐性をつける努力をしてもらおうか』

 フィーの謝罪に毒づくアーチャー。

 内心ではこれで魔術回路の起動訓練を大手を振るって出来る、と考えているのを念話で伝えないようにしていたが。

「それでは、やるとしようか

 

 ――――I am the bone of my sword

 

                 ――――《天の鎖(エル・キドゥ)》ッ!!」

 

 

 

 見覚えのある銀髪の少女が転び戸惑う中、リィンは聞き覚えのある声を聞いた。

 その声が、止まると同時にガーゴイルの周囲に鉄の鎖が現れ、それを拘束した。

「なぁっ!?」

 誰かが息を呑む声が聞こえたが、それも納得してしまう。

 それ位、その鎖は美しく、強固なものに見えたのだから。

 ガーゴイルは拘束を解こうともがくが、その度に金の鎖はガーゴイルをどんどんきつく締め上げる。

「はっ、とどめを!」

 気付いたときには金の鎖は消え、ガーゴイルはぐったりと倒れている。

 どうやら、銀髪の少女も立て直したようで、自分達の後方で傷を癒している。

「――――ッ!!分かった、任せるが良い!」

 気を持ち直して大剣を構えるラウラは、ガーゴイルの首筋に渾身の一撃を加え断ち切った。

 そして、消えていくガーゴイルの身体。

 それを見届けてから、誰かが言った。

「……何だったんだ、今のは」

 

 

 

 

「……何だったんだ、今のは」

 緑髪の少年がそう呟く。

 その瞬間、広間に鳴り響く拍手の音。

 Ⅶ組一行が声と音のした方へ顔を向けると、そこには、満面の笑みのサラの姿があった。

「いや〜、やっぱり最後は友情とチームワークの勝利よね〜。うんうん、お姉さん感動しちゃったわ」

 そんなことをほざきながら、階段を降りてくる。そして、一行の前に立ち止まった。

「さて、これで特別オリエンテーリングは終了な訳だけど……もうちょっと喜ばないの、あなた達は?」

「喜べるわけないでしょ!」

「正直、疑問と不信感しか出てきませんが」

 緑髪の少年と金髪の少女がサラに異議を申し立てた。

「単刀直入に問おう」

 そこで、金髪の美男子が冷静な態度を崩さず、聞いた。

「この、Ⅶ組はどういう目的でつくられたんだ?」

 この問いはⅦ組全員にあった疑問だろう。

 身分関係無くなら、何故自分達が選ばれたのか。

 アーチャーは人が何かを行うときに必ず理由があると知っていた。

 だからこそ、この人選にも意味があると察していた。

 そして、サラは語った。

「それは、ARCUSが一番関係しているわ。

 いまさっきおきた光、《戦術リンク》が戦術オーブメントに備わったのがそれ。

 その適正があったのがあなたたち。この《戦術リンク》がどんなに凄い力か、わかるでしょう?」

 その言葉にアーチャーは驚嘆していた。

 この力があれば、新人兵同士でも長年のパートナー同然の働きを見せられる、この世界において戦局が大幅に変わる代物ということだ。

 一行もこれを察したのだろう、神妙な面つきをするなか眼鏡を掛けた少女が唐突に思い出したように言った。

「では、あの金色の鎖は、何だったんですか?」

 サラはその言葉を聞くと、フィーのほうを向いた。

 サラのジト目とフィーの眠たげな目が視線を交わす。

「まぁ、そのことは置いといてこの話を聞いて《Ⅶ組》に参加するかどうか──改めて聞かせてもらいましょうか?」

 お互いの顔を見合わせる彼らの表情には、はっきりと困惑が見て取れた。

 そんな中、口火を切ったのは、

「──リィン・シュバルツァー、参加させてもらいます」

 黒髪の少年が、瞳に揺ぎ無い意志を込めて一歩前に出た。

「一番乗りは君か……何か事情があるみたいね?」

「いえ……我儘を言って行かせてもらった学院です。自分を高められるのであれば、どんなクラスでも構いません」

 この一言を機に、他の者達も次々と──火花を散らしていたマキアス(緑髪の少年)とユーシス(金髪の美男子)でさえも参加を表明していった。

「さて、これで八名。残るはあんただけだけど……どうするの?」

 サラはそう言い、フィーの方を再び向いた。

『アーチャー、どしよ』

『なに、こっちの方が面白そうではないか。どちらにせよ、サラ教官は入れさせようとすると思うがね』

「むぅ……んじゃ、参加で」

 アーチャーの言葉を聞き、それもそうだと思ったフィーは、変な抵抗もせず参加を表明した。

 サラはその様子に一瞬たまげていたが、直ぐに納得したような顔をした。

「はぁ……どうせ近くに居るんでしょう。仲間には見せてあげても良いんじゃないの?」

 その言葉に、フィー以外の一行は首を傾げたが、フィーとアーチャーは神妙な面つきになった。

『フィー、君が決めると良い』

「それじゃあ、まだいいや」

 フィーの独り言と取れる言葉を聞いた一行は首を傾げている。

「あら、意外と秘密主義になったじゃない」

「む、私だって成長する」

サラの皮肉にそう答えるフィー。

その一言に、サラとアーチャーはフィーの身体を一瞬で眺める。

二人とも考えていることは一緒であろうが、精神面のみ成長したフィーのことを思い、余計な口出しはしないつもりらしい。

「……まあいいわ。ともかく、全員参加ね。……それではこれより、この場をもって特科クラス《Ⅶ組》の発足を宣言する。

 この一年、ビシバシしごいてあげるから、楽しみにしてなさい」

 こうして、子供のように無邪気な笑みで告げられたこの言葉と共に、

 エレボニア帝国の士官学校・トールズ士官学院において、特科クラス《Ⅶ組》が設立された。

 そしてこの瞬間は、

         後の英雄となる者達の出会い

 

 

          英雄への道を書いた物語の序章でもあることに。

「さて、この先どうなることやら。良い日々になると良いのだが……」

        英雄の道に、良い日はあれど、トラブルは必ず起きるものだ………



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とある一日の光景~1~

(なんだろ、……悲しい気分)

 ある意味騒然とした特別オリエンテーリングから数日後、半分寝ぼけながらもフィーは自身の感情の違和感を悟る。

「ん、問題ない」

 自身のたいちょうを軽く確かめ、異常なしと判断し、ベッドからモソモソと起き上がる。

 自分の枕に染み付いた涙は、どうやら閉じかけの眼には映らなかったらしい。

 

 

 

 フィーが夢見心地ながら毎度の眠たそうな目をして、食堂に向かうと、アーチャーが朝食の準備をしていた。

 Ⅶ組はほぼ特例扱い。学生寮が違えば、授業内容も一般生徒と少々違う。

 だが、あくまで『特例』。『特別』扱いはされないのがⅦ組。

 その辺を勘違いしている生徒も多く、貴族生徒からは『寄せ集め』と呼ばれる始末だ。

 そんなこんなで日々は過ぎ、四月十七日。明日には自由行動日が控える日となった。

 今日はフィー(+アーチャー)が食事作りの担当となっている。

 ここ、第三学生寮ではサラ以外のⅦ組一行が一日置きに交代してコレを担当している。

 他にも掃除担当、生活用品担当、健康確認担当などがあり、これら全てアーチャーの助言を挙げた、フィーの案である。

 少人数だからこそできるこの案に全員が賛成。満場一致で採用された。

 何故、サラが例外扱いとされているのか、それは彼女の戦果によってのものである。

 食事の準備をすれば皿は割る、掃除は大胆で隅までやらず、生活用品を飲酒しながらやったのか数が正しくない。この結果サラは免除。

傍から見れば、矛盾と違和感満載だが、真相はアーチャーを以ってしても判っていない。

 「やっと来たか……それでは朝食を作るとしようか」

了解(ヤー)

 アーチャーはフィーを見やると一言漏らし、調理を開始。

 フィーもそれに了解する。

 普段フィーは寝起きがあまりよろしく無い。更に、最近は授業やアーチャーの体力増加トレーニングを行っている為、疲れが溜まり直ぐに寝てしまう。

 大半の授業は寝ているので、疲れの原因はアーチャーの特訓だろうが。

 その為か、髪の寝癖や服の着崩れが多く、その度にアーチャーが注意したりエマが直してやったりしている。

 疲れが溜まり直ぐに眠る程ハードなアーチャーのトレーニングだが、効果は無い訳がなく、着々とフィーの体力を増やしている。

 そうこうしている間に調理は終了、テーブルまで食事を運ぶが、まだ誰も居ない。

 そこでアーチャーが口を開いた。

「そう言えばフィー、体力はそれなりに増えただろうから、特訓内容を少々減らすぞーー」

「ーーっ!?」

 その言葉にフィーは喜ぶ。どこぞのアニメの様に頭のてっぺんの短いアホ毛が左右に揺れる。

 それだけでどれぐらい特訓が嫌だったのか分かる。

 だが、アーチャーはまだ口を閉じていなかった。

「ーーあと、今日は魔術回路の開通を行うからな。やっと部屋に防音性をつけることが出来てな」

「ーーっ!?」

 今さっきと同じ反応をするフィー。だが抱いた感情は真反対。

 防音性をつける程の何かが起こる、フィーのアホ毛はその恐怖に短いながらにもそそり立っていた。

 アーチャーはその様子を見て、

(どのアホ毛持ちでも動くのだな……どういう構造をしているのやら)

 昔憧れた、元自身のサーヴァントに思いを馳せ、いつか解析魔法をかけてみようと考えていた。

 

 

 時は変わって、帰りのホームルーム。アーチャーはフィーに問いかけていた。

『フィーはどの部に入るのだ?』

『園芸部』

『これは予想外、もう決めていたか』

『ん、昼寝ができるって言われた』

『……一応部活動はするようにな』

 授業中や昼休み、放課後も大抵寝ているというのに、とアーチャーは思うが、マスターがそう決めたなら従うがサーヴァント。反論は特にしない。

 せめて、授業中は嫌が応にも起きてもらおう、と策を練っているアーチャーを端に時間は進む。

「ーーーーそれで、自由行動日が終わった後だけど……Ⅶ組特別カリキュラムの実技テストと特別実習があるわ」

 その言葉を聞くと同時にⅦ組全員に緊張が走る。

 自由行動日の一週間後にある実技テスト、そして詳細が知らされていないーー実技テストが終わった後に伝えるらしいーー特別実習。

 このことにはアーチャーも興味を抱いていた。

 さて、何故アーチャーがホームルームに参加しているのか。

 勿論、毎度恒例の霊体化だ。これにより、フィー以外のⅦ組生徒にバレずにフィーのそばに待機している。

(まあ、例外はあるのだがな)

 そう思いながら、ある人物を見るアーチャー。

 そこには、眼鏡をかけた三つ編みの少女ーーエマ・ミルスティンが居た。

 彼女はどうも『霊感』が強いらしく、実際今もアーチャーが居るであろう場所付近に視線が彷徨っている。

 それのお陰なのか、アーチャーとエマの二人が近づくことはそうそうない。霊体化していても感じられるアーチャーの『何か』をエマは警戒しているのだ。

 被害者たるアーチャーも彼女を避けている。

 一度、アーチャーはⅦ組全員(サラ含め)を夜間に解析魔法で調べており、全員が魔術回路を有していることを確認していた。

 おそらく、新型戦術オーブメントの適正が魔術回路に関係していたのだろう、全員が多い量の魔術回路を活性化していた。

 その中、エマだけは怪しい結果が出たのだ。

 彼女の魔術回路はかなり昔に開通していて更に使い古された(・・・・・・)ような状態になっていたのだ。

 その点からアーチャーは彼女がこちら側の人間(・・・・・・・)と判断した。

 

 閑話休題

 

 アーチャーはサラの話を聞き、一つの計画を立てた。

(……これならどれ程フィーが強くなったか、分かりやすい)

 アーチャーはホームルームが終わった後にサラにある話を付けに行った……。

 

 

 

 

 



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とある一日の光景~2~

どうも皆さん、エヌマ・エリシュ前も読んでいた方はとてもお久しぶりです。
そのあとの方もお久しぶりです。
倉木遊佐です。
今日から再び更新を再開しようと思います。
言い訳としては、はい。
閃の軌跡Ⅱからの方が絡ませやすいなぁ~、
この作品の二次書こっかなぁ~、
あれスマホ何処いったの、等々。
簡潔に言って、色々です。


 サラにとある話をつけたアーチャーは第三学生寮に向かっていた。

 アーチャーの私生活は、基本的に決まってなく、フィーと共に昼寝することもあれば技術棟で作業服を着た太り気味の青年(ジョルジュ)の様子を盗み見したりするのが基本的。彼の技術力はブラウニー時代のアーチャーを大きく上回っており、元の世界には無かったモノの修理方法も判るので重宝している。

 だが、この日はそのどれにも当てはまらず、一人寂しく帰宅していた。

 最近では各部屋に防音性を持たせる(フィーの部屋以外も深夜に行った)事等も大仕事も行い、扉の前に立たない限り音が漏れないという会心の出来で、その他様々なことを陰ながら行っていた。

 だが、アーチャーは一つ悩みがあった。

 ーーーー魚料理が少なくなっていることだ。

 本来、バランスよい栄養摂取の為に取り入れるべき、魚なのだがこの世界の魚は力が強く、元の世界産の釣竿(投影品)ではすぐに駄目になってしまう。

 生徒会の依頼に頼むか、と悩むアーチャー。

 そんな事を頼まれても困るだろうが。

 そんな四苦八苦を繰り返していれば、気付けば学院から出ており、七耀教会の近くまで来ていた。

「む、この音は……川の方からか?」

 川付近に人声が聞こえ、気になったアーチャーは川の方面へ向かう。

 そこには、年齢からして学院生であろう貴族制服の少年が川の端に座っていた。

 だが、アーチャーはそこには目を付けなかった。

 見るのはその少年が持つーーーー釣竿と魚の入ったバケツ。

「ーーーーすまないが少年、その釣竿を見せてくれないか?」

「はい……釣りに興味があるんですか?」

 アーチャーは霊体化を解き少年に声を掛け、少年は声を発しながら振り向く。

 少年はアーチャーを見つめると、釣竿を渡した。

「あぁ、故郷で少々嗜んでいてな。ここの魚は力強くて竿が駄目になってしまう」

「となると、北国の方でしょうか。アイゼンガルド連峰付近は引きが弱いらしいですね」

 そのような会話をしたのち、アーチャーは目を閉じ数分待つ。

 竿がちょんちょんと震えた瞬間目を開き、竿をサーヴァントの人外染みた力で振り上げる。

 空を舞い、大きめのバケツ(いつの間にか投影していた)に入ったのは、日本で言う鮭が一回り大きくなったかのような魚。

 サーヴァントの力とこの魚の重さに耐えきった竿にアーチャーは称賛を送りながら、こっそり解析魔術を掛け、自身の脳内に構造を保存する。

 過去には機械の部品やサッカーボールを投影するという『才能の無駄遣い』をした彼には単純な物なら白兵武器以外も投影可能である。

 努力の方向を間違えながらも才能の利便性を上げる所業に感服する他ない。

「これはサモーナですね。ですが、流石の腕前です。故郷とやらでは嗜む程度でなくやっていたでしょう」

「ああ、それなりにな」

 アーチャーが竿を少年に返すと、

「あっ、自分は士官学院二年のケネス・レイクロードと言います。この時期だとすると、新入生の関係者でしょうか?」

 と自己紹介をしてきた。

「ああ、Ⅶ組の生徒の一人の(一応)保護者で、アーチャーだ」

 アーチャーもそれに習い返すが、ケネスは首を捻る。

弓兵(アーチャー)、ですか?」

「とある事情で本名を名乗りたくなくてな。過去に呼ばれていた二つ名を名乗っている」

 ケネスの疑問に嘘半分で返答をする。

 平行世界なのだから、本名を名乗っても問題無いと当初考えていたアーチャーも、フィーの令呪、英霊召喚が行えた事などからある事に気付き、この様な行動を採っていた。

(推測に過ぎないが、。自分が現界しているからには他にもサーヴァントは居るであろう。もっと言えば、この世界に『聖杯』がある可能性は高い。最悪の場合、汚染されていないとも限らない)

 その後、少し談話しながらサモーナ四匹釣り、帰宅するアーチャー。

「ふはは、四匹もフィーッシュ!今夜は晩餐だ!」

(あぁ、確かに趣味として楽しんでますね。性格が最初と大違いですし)

 そんなアーチャーのハイテンションぶりを優しく見届けるケネス。

 かれが、未だ、フィーも見たことのない、アーチャーのハイテンションの第一人者となった瞬間だった。

 

 

 

 第三学生寮、この寮に泊まっているものが粗方寝静まった頃、アーチャーとフィーは魔術回路の初起動を行おうとしていた。

 実際は部屋の遮音性に物言わせて就寝時間直後から始めようとしたが、生徒手帳を届けに来たリィンの登場で延期されていたのだ。

「レッツ、魔術(マジック)

「その軽さで挑める代物ではないがな……」

 開き直ったフィーを片目に嘆息するアーチャー。

 なんとも締まらない光景だ。

 アーチャーはため息をつくのを止め、厳しめにフィーを見据える。放たれた威圧感にフィーが背筋を伸ばす。

「さて、魔術回路が活性化しているからには、魔術を使えるようにしたい。そのため、これから魔術回路の起動を行う。まず、私がフィーの中に魔力を流し、魔術回路を強制起動させる。そのあとは何とかして起動停止してくれ」

「……まず、魔術回路の起動ってどんなの?」

 最後の最後でフィー任せの発言をしたアーチャーだが、魔術回路の操作は人それぞれ違うもの。変な先入観を与えたくないがためだろう。

 流石に曖昧過ぎたのかフィーが疑問を口にする。

 アーチャーは少し考える。

「そうだな、簡単に言えば蛇口だ。蛇口(魔術回路)は人それぞれハンドル(起動スイッチ)が違っているのだが、フィーはそれをどうやって動かすのかは構造を把握しないと分からない。

 だから私が強制的にハンドルを回させ(起動させ)(魔力)を流させるからその間に構造を把握して、ハンドルの回し方(起動方法)を知る、と言ったところだな」

「例えはもうちょっとどうにかならなかったの?」

「こういうのは人それぞれ違うからな。これ以外の在り得ないだろう魔術回路の起動方法は思いつかないな」

 やはり具体性を持たせないと説明しづらいのが魔術、そうアーチャーは心の奥で決めつける。

 

 閑話休題

 

 フィーはベッドの上でうつ伏せになり、アーチャーはその横でスタンバイ中。また、最初は弾薬を詰めた木箱の上で行おうとしていたが、アーチャーが必死で阻止した。

(これまでフィーの就寝中の様子は見ていなかったが、まさかこんなところで寝ているとは。これからは注意しておこう)

 そんなことを考えながら、アーチャーはフィーに視線で「準備は出来たか」と問う。その視線と目を合わせたフィーは返答する。

「……ふふご(いいよ)

「準備が良いな……」

 自分の口に厚めの布を噛ませているフィーの様子を見て、そう口にするアーチャー。少しひいているのを鉄面皮スキルC₊で隠し、話を進める。

「それでは、今から数十秒起動させる。その間で見つからなければ一旦塞ぐ。あとは見つけるまでその繰り返しだ。続けてやった結果、ショック死されては目覚めが悪いのでな」

「えっ」

 アーチャーの最後の一言に少し呆けるフィー。だが、そのような様子を見せてもアーチャーが止まるわけがなく、

回路起動(トレース・オン)

 本人に自覚はないだろうが、その呪文は無慈悲に放たれた。

 




ちょっと文章力下がったかも……?


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とある一日の光景〜3〜

来年になる前に投稿っ!
『Fate/Calico Jack』も期待していてください!


 アーチャーの呪文が発されると共に、フィーの身体に『何か』が流れ込む。これが魔力なのだろう、と思うと同時に、フィーは拍子抜けしていた。

(痛いというより、気持ち良い……?)

 その意見も魔力が身体の奥底まで至ろう瞬間に変わる。この時のことを、数分後のフィーは一言、「詐欺」と語った。

 心地よく流れていた魔力が身体全体に行き渡ると同時に、フィーは自分の何処かが切り替わるような感覚を得る。

「……っ、ん――っ゛!!?」

「やっと起動したか……くっ、暴れるでないっ!」

 これが魔術回路の起動かと思ったも束の間、其処から溶かした鉄を流し込まれるような痛みがフィーを襲う。

 アーチャーはその様子を見て、ちゃんと起動したことに安堵するも、フィーのバタつく足が見事にアーチャーの脛に何度も直撃している。ガシガシと尋常でない音が鳴る度にその顔が苦痛に満ちてゆく。

 

 

 

 ある意味もの凄い攻防が始まってきっちり二十秒後、アーチャーは魔力を流すのを止める。フィーに向けていた右手で右膝を庇うようにしながら、汗と涙で顔を少しばかり濡らしているフィーに問いかける。

「どうだ、イメージはつかめたのか?」

 その言葉を聞き、フィーは少し顔を上げる。

「……すっかり忘れていた」

「……もう一度だな」

 その言葉に顔を蒼褪めるフィー。内心、拷問技術並みの痛みを伴うこの作業がトラウマに成りかけている。

「この際諦める……」

 ふてくされる様に言いながら、ベッドにうつ伏せる。

 その瞬間さりげなく胸ポケットに手を入れーー

「鎮痛剤を飲んだとしても変わらないぞ、この痛みは神経とは無関係なのでな」

 取り出そうとした鎮痛剤を胸ポケットに再び戻す。この訓練に逃げ場などない、遠まわしにそう告げているのと同義である。

 ベアトリス教官から鎮痛剤を貰っていることは、霊体化した状態で眺めていたのか、知っている模様。

 どちらにせよ鎮痛剤の入手が徒労であったことに、フィーは落胆するのだった。

 

 

 

「……では始めるぞ」

「……わかった」

 アーチャーが、背中に右手を添えたのを感じ、絶望的な表情をするフィー。

 最終的に、痛みから逃れたければ考え続けるほかないとのことだ。あの痛みの中で考え続けることが出来るなら苦労しない、そう思いながら猿轡役の布を横たわりながら外す。

「ほう、いいのか?外してしまって」

「ん、痛みを許容しちゃうからね」

 その言葉にアーチャーは少し驚いたような反応を示す。

(まさか自分と同じ発想をするとはな……いやはや、今回のマスターは過去の自分(衛宮 士郎)と少々似ているな)

 摩耗していない記憶の一、切嗣が自分に初めて魔術を教えてくれた時のことを思い耽るアーチャー。

「アーチャー?」

 意識を今に戻せば、フィーが不思議そうにアーチャーの顔を覗いている。

「ふっ、何でもない」

 アーチャーは気を取り直したのを見て、フィーも心構えをしておく。

「……回路起動(トレース・オン)

 アーチャーの一言で、フィーは再び痛みに陥った。

 

 

(――――痛いっ、けど探さなきゃ)

 フィーは痛みに悶えながらも、今回は考える余裕を持つことが出来た。

 それはそうだ、これで百六十二回目(・・・・・・)の強制起動なのだから。空が少し明るさを持ち始めた今になり、彼女はようやくここまで至った。

 痛みで歯を食いしばったのだろう、フィーの端唇と歯茎に血が滲んでいた。八回目の時点で実行した策の一つ『他に痛みを与え、気を保つ』の結果である。最初から思いついてはいたが、痛みに対する耐性が弱いフィーは自傷行為に走れなかったようだ。

(…………っ、何だろコレ)

 探り続けていたフィーの脳裏に何かはっきりしたイメージが浮かぶ。

 長方形の容器の中に振り動く物、その動きに合わせて容器の上に着いた円盤の針が動いているイメージ。

(えっ、振り子時計)

 まさかのイメージに愕然とするほかないフィー。スイッチどころか切替の概念はどこにも残っていない。

 少々時間が掛かったが、振り子時計の原動力たる『振り子』を止めるイメージをする。

 振り子の振れ幅が短くなっていくのに合わせて、体の痛みが引いていく。

「どうやら停止出来たようだな。気分はどうだ、フィー?」

「気持ち悪い」

 停止を確認し終えたアーチャーがフィーに問いかける。フィーはそれに今にでも眠りそうな表情で答える。

 アーチャーはその返答に皮肉げに窓、というより外の様子を見る。

「それはそうだろうな、人生何度目かは知らないが、徹夜成功おめでとう。少しシャワーを浴びてくると良い」

 窓は半分朝日が浮かび上がっている空と、スズメがひさめく様子を映していた。

了解(ヤー)

 その様子を見たフィーはシャワー室へ、のっそりとした歩みで向かう。

 それを見届けたアーチャーは一つため息を吐く。

「さて、私はシーツを片づけるとしよう」

 アーチャーの視線の先には汗と少量の血で汚れたベッドシーツがあった。

(……これはどう処理すべきか。最悪嫌な勘違いをされかねない代物だ)

 まだ、Ⅶ組一同は起きる気配はない。サラ教官はこの時間は、食堂で酔いつぶれているだろう。

(やるなら今しかないっ!)

 アーチャーの体裁的にバレてはならない隠密行動が始まるのだった。

 ところでその時フィーは、

(……ん、危なかった。あと少しで寝てた)

 水による窒息死に遭遇しかけていた。

 

 

 

 約一時間後、ある意味苦行を強いられた二人――――言うまでもないがフィーとアーチャーである――――は再び自室にて集まっていた。

「最後にフィーの魔術属性と起源について説明するぞ。……フィー、あと少しだから頑張ってくれ」

「…………………分かった」

 アーチャーがコホンと咳払いをし、そう発言する。

 しかしながら、徹夜明けのフィーは眠気で意識が飛んでいたようだ。二三秒経ってから返事を返す。

 分かっていないだろ、と思いながらもそれを指摘せず話を進める。どうやら時間をかけない方がフィーの負担が少ないと考えたのだろう。

「魔術属性と起源だが、この二つのどちらが色濃く出ているかで魔術の使い方が変わる。属性が濃ければ、汎用的に魔術が使える。起源が濃ければ、一点特化という具合だな」

「それじゃ私の属性と起源は?」

「属性は『時』、おそらく架空元素『無』の内の一点を重視された属性だ。起源は『疾走』、自身に対する『速さの概念への干渉』を得意とする」

 フィーはその二つを聞き、

(自分の特徴なら、『小柄な体型』、『健脚』かな)

 性格面の特徴を上げないのは、自分の性格を一応把握しているが為か。一通り考えて、フィーは結論を出す。

「私は起源の方かな」

「半分正解だ。フィーの身体面は起源が色濃く出ているが、性格面では『少々時間にルーズ』、『過去への執着』と魔術属性が色濃い。よって正解は両方だ」

 アーチャーの物言いに文句があるのか、フィーはアーチャーをじっと見つめる。

「レディーに対してひどい」

「それはすまない、これまでずっとガールだと思っていたよ」

 アーチャーはそれに皮肉げな口調で返す。

「……」

「……」

 お互いに相手のことをジト目で見る。

「……」

「……はあ、話を進ませて貰うぞ。眠そうに頭を揺らして、眠られたら此方が困る」

 珍しく先に折れたのはアーチャーだった。だが置き土産を忘れないあたり、不可抗力の様だ。

「……むぅ」

 頬を膨らませながらもフィーは覚えがあるのか反論しない。

「さて、君の様に両面が色濃く出ている魔術師の大抵は、起源が色濃く出過ぎて、魔術属性が起源に塗りつぶされたが為。だからか、通常以上の一点特化ーーーー言うなら超一点特化の魔術師となる。この様な者わ魔術師業界では『起源覚醒者』と呼ばれる。起源だけなら通常の魔術が苦手なだけで、使えない訳じゃない。だが起源覚醒者は、自身の属性・起源(魔術特性)に関係する魔術以外は必ずと言って良いほど失敗する」

「かなりのマニアック具合だね」

「軽いな……まあ重くなるよりは良いか。フィーに出来る魔術はコレのお陰でかなり制限される。そこで習得する目標を私が決めさせて貰った」

 アーチャーの最後の言葉にフィーは目を輝かせる。

 超一点特化の自分に習得してもらう魔術は何だろうか、と期待を寄せているのが目に見える(主にアホ毛で)。

 そして、アーチャーはフィーに告げる。

「フィーの目標としたのは、適正の高いであろう『時間操作』の戦闘応用魔術、『固有時制御(タイム・アルター)』だ」



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フィーの魔術訓練 byアーチャー

遅くなりますた。
恒例言い訳の時間ですが、テスト襲来と自分の体力低下です(;一_一)
今回は校内投稿……誤字があったらホーコクお願いします!


4月18日、休息日の昼過ぎの東トリスタ街道に、フィーとアーチャーは居た。

徹夜明けによる睡眠不足も解消され、調子の良いフィーにアーチャーは講義を始める。

「それでは、魔術講座を始める」

「わー……それで何やるの?」

フィーは適当に返事を返そうとするが、アーチャーの目つきが鋭くなったのを見て真面目になる。

アーチャーはそれを見て、現界してから百数回目のため息をつく。

百回目の時にフィーに皮肉を浴びせてからは数えていないアーチャーだが、百回まで数える執念もそこそこだ。

「まずは魔術の基礎中の基礎、『強化』だ。やり方は簡単、魔術回路を起動させ、対象に魔力を流す。魔術師の属性や起源によって特定のモノしか強化出来なかったりする。フィーの場合は概念に関係しているから、制限は特に掛からないだろう。ということで、まずはこの剣に強化してみると良い」

アーチャーはそう言うと、何処からか無骨な剣を取り出し、フィーに渡す。

フィーは不思議そうな顔でそれを見ていたが、直ぐに顔を上げアーチャーに問う。

「これって何処から出した?」

「説明していなかったな。私は生前魔術師……というより魔術使いだったのは察していると思うが、魔術の中でも白兵武器――特に剣を複製する魔術が得意だった。その剣は魔術で今創ったものだ」

アーチャーは思い出したかの表情をする。そこで、フィーはアーチャーの発言にある疑念を抱いた。

「アーチャーの魔術属性は?」

「『剣』、架空元素『虚』の一点特化だ」

「……起源は?」

「……『剣』だ」

(私と同じ超特化型じゃん)

アーチャーが淡々と語るなか、フィーの目はどんどん細まる。

「なのに『弓兵(アーチャー)』」

「ふっ、矛盾しているとは思ったさ」

アーチャーの反応を見て、フィーは面白く無さそうな顔をし、剣に視線を戻す。残念ながら、彼はその弄りには耐性が有る。

心を落ち着かせ、剣全体を捉える。そして、脳裏に振り子時計を思い浮かべ、振り子を振るイメージをしながら呪文を唱える。

回路起動(アウェイケン)

「ふむ……フィーは起動がゆったりとしているな。イメージはどんなものだったか?」

自分の勢いのある起動とは違うのを見て、アーチャーはフィーに訊く。

フィーは一言、

「振り子時計」

と告げて魔力の集中過程に移る。

「それは何と言うか……君は未知の塊だな(やはり今度、くまなく解析して見よう)」

「誉め言葉として受け取る(ミステリアスな女性はモテるらしいし)」

お互い内心思っていることが微妙だが、これも二人が似ているが為だろう。実際、容姿も相まって親子に見える主従関係だ。

「ふー、強化開始(アクティブ・スタート)

どうやら、魔力を腕に集めることに成功したようで、剣にフィーの魔力が流されていく。

「――ん!?」

「半分成功だな、次は剣の構成を強くイメージすると良い」

グキュと音が鳴ると同時に、剣の根本が曲がる。どうやら魔力の流れ方が合わなかったようだ。それでも魔力が霧散していないのを見るに、量は適切なのだろう。

アーチャーはそれを評価し、新しい剣を造りだす。

フィーはそれを見て「おー!」と驚嘆の声を上げる。

「フィーも頑張れば似たようなことができるさ」

とアーチャーは言い、さっきの剣を消そうとする。

「む、これは……」

が、何故かその剣を懐に入れる。フィーは怪訝そうな顔でアーチャーを見る。

「どうしたの、アーチャー?」

「いや、ちょっと用事を思い出してな。私が戻るまで花や土など様々な物に強化して見るとよい」

そう言ってトリスタへ戻って行くアーチャー。

「……変なアーチャー」

剣を使っている時点で、変なアーチャーか、と自身の発言にツッコミながら、フィーは近くに生えた花を摘んだ。

 

 

 

強化訓練をフィーの自由にしたアーチャーだが、現在は第三学生寮のフィーの自室に来ていた。

剣を片手にじっと目を閉じている様は傍目から見れば異様であろう。

「……やはり、強化された剣の消滅が遅すぎる」

これはおかしい、と思い解析を掛ける。

同調開始(トレース・オン)

基本骨子……約六割程に乱れが生じている

(これは強化に失敗したからだな。次だ)

構成材質……異常なし、言えば成分が少しも動いていない

(異常なし……ん?少しも動いていない……だと)

アーチャーは構成材質に違和感を覚え、さらに解析する。

強化に失敗して、基本骨子に乱れが生じているというのに、なぜ()()()()()()()()()()というか。

調べ尽くす勢いで解析を深く掛け、アーチャーはやっとの事で真実を知る。

「剣がこの状態で()()()()()()()()()()のか……だが強化するだけでそんな状態になるとは思えない」

そこでアーチャーは気づいてしまった。あり得ない話ではないそれは、

フィーが強化を使えず、勘違いして()()()()を使っている可能性だ。

アーチャーは半分理解すればいい方のフィーに対して、少しでも複雑な話は切り捨てて説明していた。その切り捨てた説明の中に『魔術特性』というモノがあったりする。

魔術属性と起源により選ばれた得意な魔術が人には必ず一つは存在する。家系などで引き継がれる可能性の高い其れを『魔術特性』と呼ぶ。例として衛宮士郎(アーチャー)の魔術特性は『強化:剣・解析:剣・投影:剣』といった具合だ。

魔術特性の中でも強化は、全員の魔術師(アーチャーの知りうる)の魔術特性にあり、満足に使えた。だから、使えるだろうと思い込んだのだろう。

だが、強化とは一番単純かつ全ての魔術の基礎でもある。

「それが出来ないとか、思いっきり前提が崩れるじゃないか……!」

アーチャーは再び剣を解析しながら、この先の修行を組み直していく。

掛けられた魔術が『固定:時』、通称『停止の魔術』と判明するのは5、6分先のことだ。

 

 

アーチャーという抑止力がなくなった東トリスタ街道では、

「これが、『強化』……!」

フィーの周囲は様々なモノが動きを止めていた。草も花も木も、風が吹いても一切揺れない様は、フィーの持ち合わせた不思議さと合わさって神秘的な光景となっている。ただ、強化と勘違いしているが為か、殆どが歪な形をしているのが目に毒である。

その原因がフィーは、生物を『強化』してみようと、畑あらしと鬼ごっこしている。畑あらしも先程までの光景を目にしているので必死に逃げる。

フィーが武器を持っていないことが救いだったのだろう、アーチャーがフィーの様子を見に来るまで約十分の間、畑あらしは逃げ続けることに成功したとのこと。

 

 

 

「ーーーーということで、フィーのそれは強化ではなく、停止の魔術だ」

フィーが『停止』させたモノの魔力を散らすことで東トリスタ街道の一角を通常通りにしてから、アーチャーは嘆息混じりに、草原に座っているフィーへと説明する。

それを聞き、フィーは顔色を変える。

「さらにマニアック性能上昇だね……」

「それを知って、嬉しそうな顔をするフィーには恐れ入る。知っているかフィー?魔力を散らすのは案外辛いのだぞ?」

アーチャーは諭すように語るが、目には険が宿っている。

「アーチャーがやっても良いって言ったじゃん」

「限度というものがあるだろうに、……もう直ぐ夕方か、今回はこれで締めよう」

了解(ヤー)

フィーも赤みを増したた空を見て、アーチャーの提案に賛成する。

余裕で立ち上がるフィーを見、アーチャーは驚嘆する。

(此処ら一帯に魔術を掛けていたというのに、まだ楽そうだな。流石魔術回路57本)

そして、二人は寮へと戻っていく……。

 

 

道中、魔力の使い過ぎによる体力低下でフィーが倒れたのは言うまでもない。

 

 



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