大江山の鬼共 (ヴェルクマイスター)
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プロローグ

導入部です。


 

 些細な事だ。

 

 

 

 生まれてから二十六年間、呆気ない人生だったと思う。 趣味には没頭し、他はなぁなぁでひと時の生を謳歌してきたんだ。

 俺の名前は、百鬼 勇樹。 苗字は、たまに間違われるんだ。 友達とかの場合は『ひゃっき』だの中二病満載でよく呼ばれていたが、病院など他の施設では、『ももき』などとも呼ばれていた。 まったく違うんだけど。

 趣味と好きなものは、車観察・乗車・星熊勇儀。 特技はスポーツ全般。もちろん彼女はいる。 いや、『いた』かな。

 職業は、給料が高い所だったって考えてくれ。

 

 

 

 俺、輪廻転生しちゃったようです。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 自分、と言うか『俺』が芽生えたのは、遥か幼いころ。 年齢にして1歳か2歳だったか。 

 初めは驚愕した。 目覚めると見知った親の顔、所謂前世と変わらない両親が俺を覗きこんでいる状態で、え? 何事? と口から声を発しようとすると、『あー』だの『うー』だのよくわからん馬鹿馬鹿しい赤ちゃんの様な声。俺のカリスマ溢れる渋声はどこいった。

 そんな俺を他所に、口角を上げ、微笑ましい物を見るかのように笑う親達。 いや、笑うなよ。 お宅の息子さん輪廻転生で記憶もってるよ?

 

 そこから驚愕と言うか、表現し難い事が満載だった。

 俺が輪廻転生する前の、最後に確認した年が『2015年 12月 22日』。そして、赤子さんである俺がどうにかこうにか聞き出せた今日の日付が『2119年 12月 22日』。

 あ、はい。 そうですか、もういいです。

 

 まぁ何というか、未来に来てしまったわけだ。 とりわけ、それを知った俺は喚きまくった。 『何故』とか『何で』やら『どうして』等など。 ・・・全部あーやらうーに変換されていたが。 それを目にした両親は、またもや微笑ましい物を見ているかのようなイラつく表情をしていた。 殴りたい、その笑顔。

 その状況を後々に聞いてみると、ものすごく奇妙な顔をしていたと親は語っていた。 なんせ、泣きながら笑っていたのだから。

 

 赤子さんから順調に成長していく。

 幼稚園では、落ち着いた世話の掛からない大人しい子、と教師には言われ、後には天才と慄かれた。 いやだってさ、せっかくこれからの人生に役立つ知識を継いでるんだから、忘れないようにね。 四則演算しました、はい。

 『すごい』等と親から賞賛の声が掛かり、どこで教わったかとか色々事情聴取されたが、早口で適当な事を言っておいた。 次にはご褒美にと、欲しいものはないか聞いてくる。 俺はその言葉に鋭く目を細めて、ちょっとニヤけてしまう。 そう、何故幼稚園児で四則演算などという難しい事を行ったかと言うと、目ざとく褒美を狙ってやってのことだ。 さっきにも言ったが、俺の好きなものは星熊勇儀。 東方projectで登場する鬼、星熊童子の元ネタとなった女性だ。 金髪長髪の和服美人、一本角の姐さんである。

 

 俺の好きな、大好きな、超絶大好きな勇儀姐さんの画像検索やニコニコ動画での動画検索。 それともうすこし成長したらネット通販をするために、パソコンを所望した。 割と切実に。

 その渇望に、俺の両親は引きつった笑みを浮かべて、カタコトになりながら了承してくれた。

 

 幼稚園児にて、パソコンをゲットした俺は、目にも留まらぬ速度で『星熊勇儀』とネットで検索を掛けてみると、検索結果が0件と言うあり得ない現象を観てしまったのだ。 ・・・は? え、まじで?

 嘘だろ。と心の中で絶望しながら、額には冷や汗を描く。 そして、次に『東方project』と調べてみると、物の見事にこちらも0件だった。

 『絶望』『恐怖』が俺を襲う。 そして、泣いた。 泣きに泣きまくった。 体を床に放り投げて、手足をばたつかせ、子供の如く慟哭した。 いや、子供っていうか幼稚園児なんだけどさ。

 

 一日中泣き腫らした俺は、魂が、本性が悲しんだ。 これから勇儀姐さん無しで、生涯を生きていかねばならぬ、と。 意気消沈した俺を見かねて、親が何か言ってくるが無視だ。 シカトシカト。 そんなことに構っていられる状態ではなかったのだ。

 その翌日も、我が魂は抜け殻。 どうしようかと考えに考えても、良い案は浮かんで来ず、その日の幼稚園は休んだ。 しかし、丁度親二人の就寝するときに、ピコンと閃いた。

 ――――無ければ、作ればよいのだ。

 

 明くる日、就寝時に閃いた我が妙案を実行すべく、行動に移る。 あ、作ればいいと言っても、東方project全体ではなくて、勇儀姐さんただ一人だ。 さすがに、全部は俺の手に負えない。

 次の日に、さっそく絵を描くことにしてみる。 勇儀姐さんの細部まで記憶に残る脳内画像で描く。 描く。 描く。

 途中でカメラを持った親に邪魔されたが睨む事で一蹴する。 そして、出来上がった暁には邪魔をしてきた親が、微妙が表情で『誰?』と問うてきたので、星熊勇儀さんと一言言っておいた。 うん、完璧だ。 妖艶な和服勇儀姐さん。

 

 幼稚園児は勇儀姐さんの絵を描く事で終わった。

 小学生に階級昇進すると、親が自転車を進呈してくれたので、とりあえず痛チャリ作ってみた。 もちろん勇儀姐さんの絵で。

 それに伴って、他のやつらからちょっかいを受けるようになってしまった。 勇儀姐さんを馬鹿にするとは愚かな人間めっ! 鉄拳制裁!!

 色々と問題行動をおこした俺だが、無事に小学生を終えることに成功した。 

 

 中学生では、所謂オタクと言うやつが増え始める年頃。 俺みたいに痛チャリにしてくれとせがんで来るやつが結構いたので、承諾してやった。 もちろん注文された絵じゃなくて、全部勇儀姐さんにしたけど。

 

 そして、人生の転機と呼ばれる物に邂逅したのが中学三年生の時だ。 

 当時、世間では『Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game』と言う、体感型オンラインゲームデバイスが話題になっていた。 体感型と言うのは、仮想世界にデータとして自らの体を用意して、その後、五感を投入し、あたかも現実で過ごしているかのように感じる画期的なものだ。 さらに同時発売したオンラインゲーム「ユグドラシル ~Yggdrasil~」もDMMORPGと同じく、話題沸騰中であった。

 「ユグドラシル」の広告はこんな感じだ。 自由度、やりこみ度、すべてに置いて無限の楽しみを追求することが出来る。

 そんなまさかと、思いつつもパソコンを開いて、ユグドラシルの紹介PVを観てみることにしてみた。 そこには、ユグドラシル制作委員会の謳い文句が、何一つも間違っていないこと証明していた。

 自身が宿るキャラクターだけでも420種類。 職業は二千を超えるほどである。 そして、数は制限されるが二千にも及ぶ職業の中から、自身の好みや得手で選べたりなど。

 さらに、別枠で販売されているクリエイターツールを購入することで、自身の外見はもちろん、武器や防具の外装、自分又は自分達が保有する居住の細部までの設定を変更することが出来るらしいのだ。

 

 俺こと、百鬼 勇樹は確信してしまった。

 このDMMORPGでユグドラシルをプレイすれば、俺の憧れ、大好きな人である『星熊勇儀』に成りきることができるのではないか、と。

 そこからの行動は早かった。 音を置き去りにするくらいのスピードで、痛チャリをはしらせ、ゲームデバイスとユグドラシル、クリエイターツールを購入しにいった。 資金は親のではなく、両親の随伴のもと、成り行きで買ったロト7で当たった一等の金で買った。

 

 即座に帰還した俺は、ユグドラシルとクリエイターツールを起動させて、キャラクター制作に取り掛かった。

 まず名前だ。 真っ先に思いついたのが、『星熊勇儀』。 しかし、この世界には東方projectを周知している人々はいない。 よって、元ネタである『星熊童子』でもいいのではないか、と悩みに悩んだ。

 悩みぬいて一時間程、名前は『星熊 勇儀』に決定した。 やっぱり好きな人物が一番でしょ。

 次いで、種族である。 さすが、無限を誇るだけ合って『鬼』の種族を発見するのは難しかった。 ちなみに、『鬼』と言う種族は亜人と分類されずに、異形種となっていた。 人間に近いから亜人と思っていたら違ったようだ。

 さらに次いで、職業だ。 『鬼』に最適な物を色々選んだ。

 最後に容姿の設定である。 待っていましたぁ! とテンションが最骨頂に達していた俺は、『鬼』である初期の容姿を観て、怒りがこみ上げてしまった。 なんでそのまんま『鬼』なんだよ! 誰得だよ! ふざけるな! 氏ね! と一人罵ってしまった俺は悪く無いだろう。 もう本当にそのまま。 お祭りでよく売ってあるお面のそれである。

 怒り心頭。 こみ上げる激情を押さえ込みながら、クリエイターツールを開いて『星熊勇儀』を作り上げていく。 金色の長い髪の毛、おでこから伸びる赤い一本角。 そして赤い目。 その際のアクセントとして、右目の下に小さい星マークの泣きぼくろを入れておいた。

 服装は、ロングスカートな和服。 肩を開けさして、胸の半分だけ覗いている、妖艶な服だ。 メインの色は紫で、桜など鬼のイメージが着く花びらを刺繍する。 帯は赤色。 江戸を思わせる下駄。 これで勝つる。

 

 ・・・おぉ。 目の前に映る、和服美人な勇儀姐さんは本物となんら変わりはない。 泣きぼくろを除いてだが。

 

 

「ふふっ」

 

 

 自然と湧き出てくる歓喜の笑い声。

 これから始まる『星熊 勇儀』としてのロールプレイ。 楽しみだ。

 

 

 

 ――――さぁ、之こう。 三度目の新しき人生。




次話から一気に飛んで、原作開始します。


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第一話

オリジナル要素が出てきます。


 明朝。

 俺は、数年ぶりとなるDMMORPG『ユグドラシル』を起動させる。 5日ほど前に、私用メールアドレスに一通のメールが届いていたからだ。

 差出人は、『モモンガ』さん。 内容は、あの人気絶頂だったユグドラシルが5日後サービス終了するのこと。 そして、最後に皆で集まりたいと言うお誘いだった。

 このメールを見た時は、『懐かしい』や『楽しかった』と言った感情が芽吹いて、すこし涙ぐんでしまった。

 

 何故、数年ぶりの起動かと言うと、所謂仕事である。

 仕事と聞くと、皆はこう思うだろう。 定休日とか有給休とれるじゃないか、とね。 もちろん定休日等はあったさ、入社したてはね。

 入社時から五年位は、学生時代のin率や時間ではないにしろ、結構ユグドラシルを起動させ、『星熊 勇儀』としてのロールプレイを楽しでいた。

 でも、出世するとそうはいかなくなったんだよ。 部下の尻拭いは当たり前、残業も当たり前、親密な他社との付き合いや、上司達の付き合い、他にもたくさん原因はあるが、主にこのせいでも合った。

 するとどうだろうか。 必然的にユグドラシルには入らなくなったし、『アインズ・ウール・ゴウン』の皆とも連絡を取らなくなっていた。

 

 仕事に生きる。 と言っても、宝くじであたった30億があるでしょ? と質問されたら、少し困るな。

 その30億で一生暮らしていけるかもしれないが、仕事をしない人間はどうなると思う? 真っ当で立派な大人と言えるだろうか。 ・・・言えるはずがない。 そう言う人間は、社会不適合者やマダオ、ゴミクズ、人類のダニ等といった、堕ちた人に成り下がってしまうんだ。

 そう、仕事って言うのは人のステータスだ。 人間に無くてはならない物、必ず必要なもの。

 

 ・・・まぁ。 その無くてはならない物で、俺の三度目の人生がなくなったわけだが・・・。

 そんなこんなで、忙しくロクにインできなかった俺には、片手間でできる息抜きが必要だった。

 趣味の一つである車の観察、乗車。 これが俺の新しく始めたものだった。 資金はユグドラシルで課金してたとはいえ、かなり有り余っていたため、車に意識を向けるのは実に簡単だった。 いや『浮気』か。

 ちょっとした仕事の合間や、会社経由で仕事用の車一台と、完全個人用の車を四台買い、そのままユグドラシルを置いて没頭してしまった。 まぁ、そのうち二台は勇儀姐さんの痛車なんだけど。

 

 

 大分話がずれた。

 

 とにかく、『モモンガ』さんからのメールに返信をすることにしたんだ。 過去の出来事になるが、ユグドラシルでの人生は、すごく充実していた。 俺自身が勇儀姐さんに成りきれていたと言う事実もそうであるが、現在所属しているギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の前に、我らだけで結成されていたギルドのことも含めて全部。

 返信の内容が、ユグドラシルのサービス終了日は、仕事が休みなのでその日の朝から参加する、と言う主旨を打って伝えた。

 すると、10秒後には『モモンガ』さんからの返信が帰って来ていて、中身は非常に簡素であったが、そんなに嬉しいんだろうなと、苦笑が隠せなかった。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 ――ナザリック大地下墳墓 第九階層――

 

 

 ユグドラシルへと入るときに感じる、不思議な感覚を久しぶりに味わう。

 

 

「ん・・・。 最後はここで落ちたのか」

 

 

 瞑っていた目を開けると、数年前から見ていなかった、懐かしき見知った廊下があった。

 五メートル先には、豪華なマホガニーで出来た巨大な両開きの扉が有る。 そしてその先には、『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドメンバーが一同に集っていた、四十一人分の円卓と席が揃う大きな部屋だ。

 

 流れるような動きで、メニューを開き、アイテム欄から『星熊之盃(ほしぐまのさかずき)』を取り出し、左手へと持つ。

 『星熊之盃』とは、勇儀姐さんが持っている『星熊盃』だ。 クリエイターツールを使って、ただの『盃』から擬似させた物である。 外見こそ星熊盃だが、効能を似せるにはすごく苦労した。 試行錯誤を繰り返して、様々なデータを組み合わせることでやっと真似る事ができたんだよ。

 そして、異形種『鬼』だけの唯一の回復アイテム『酒』を、取り出して、ゆっくりと注ぐ。 口に盃を付けて一献、喉を潤す。 すると、体力は限界にも関わらず、回復するエフェクトが体を包み、俺の頬が朱色に染まる。

 

 

「ふぅー・・・。 あれま、設定が戻ってる」

 

 

 こうやって酒を飲んでも、ユグドラシルでは味が無いから何も感じることが出来ない。 が、それだけでも俺の気分が上がるからいいんだけどさ。

 まだ酒が残っている星熊之盃を片手に、コンソールを開いて回復エフェクトをオフにして、そのまま扉へと歩く。

 

 

 カラン。 カラン。 カラン。

 

 

 足を進める度に、鳴り響く下駄の足音。

 

 メールで朝と伝えたが、さすがに六時は早すぎたかとすこしばかり後悔しながら、心地良い下駄の音に耳を傾ける。

 高級感が漂うマホガニーの扉に手をそっと添えて、いざ開かん。

 

 

 ――――あ、おかえりなさいです。 勇儀さん!

 

 

 音もなく扉が開いた先には、俺達『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドマスター『モモンガ』さんが片手をあげ、嬉しい表情のアイコンを出して、俺を迎えてくれていた。

 

 

「・・・、えっと。 大分、待たせちゃったかい?」

 

 

 なにこれ、すげー緊張するだけど。

 仕事上、目上の人達に結構挨拶とかしてて、余裕だったから緊張とは無縁だなって思ってたらコレかっ。

 

 

「今さっきログインしましたからそこまで待っていなですよっ」

 

 

 モモンガさんのうれしいアイコンが駄々漏れ!

 もし、俺がモモンガさんの立場だったら、もっと怒ってるとおもうんだけどなぁ。 このギルドに途中参加者で、数年間もログインしないやつなのに、よく寛大で要られるよ。 俺なら絶対切れてると思う。 あ、モモンガさんが眩しい!

 

 ・・・でも、まぁ。

 

 

「・・・ありがとう、モモンガさん。 そしてただいま!」

 

 

 そんなモモンガさんだからこそ、我らだけのギルドから移籍しても楽しかったのだろうと思う。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

「え、勇儀さんって男の方だったんですか!?」

 

 

 あの後は、お互いに自分の席へと座って色々ぶっちゃけた話しをしまくった。 特に仕事の話しとか 仕事とか仕事とか。

 

 

「うん? もちろんさ。 元々ユグドラシルを始めたのも、星熊 勇儀としてなりきれると確信したからであって、リアルではちゃんとした男だよ」

 

 

「うはー。 すごい一筋魂感じますね・・・。 確か、勇儀さんのロールプレイって言うのは聞いたこと有りますけど、ずっと女性の方だと思ってましたよ・・・。 だって、声とか歩き方とか、仕草とか女性のそれですもん」

 

 

 モモンガさんが困惑のアイコンを出す。 そんなに意外かなぁ。 まぁ、ガチのネカマじゃない限り、こんなことする奴なんていないだろうしね。

 でも、ちょっとうれしく感じる。 他人から観て、俺が星熊 勇儀として、ちゃんと成りきれているってことを証明されたからだ。

 

 

「照れること言ってくれるねぇ。 あ、わかってると思うけど、私ネカマでもそっち系でもないからね?」

 

 

「ええ。 もちろんわかっていますよ!」

 

 

「ん~? それは本当かい? こりゃ確認しなきゃだめだね。 ちょっと闘技場行こうか」

 

 

「え゛ぇ゛っ。 あ、えと。 で、出来れば遠慮したい感じ、なんですけども・・・」

 

 

 俺は今、すっごい笑顔だと思う。 モモンガさん、かなり焦って動揺してるし、今にも逃げ出しそうな勢いだ。

 

 

「つべこべいわず、ほら! さっさといくよ!」

 

 

 自席からいきよい良く立って、右手の人差指に装備されている指輪を発動させる。 

 この指輪は『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』と呼ばれ、このギルドに所属する全てのメンバーが保有している超便利な代物だ。 何故たいへん便利な物かというと、ナザリック大地下墳墓は、原則全階層を徒歩で移動しなければいけならない。 この条件を、システムの中から違反と断定されない程度に改良し、テレポートと言う魔法が込められているのが、この『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』と言うわけだ。

 即ち、この指輪さえあれば、ナザリック大地下墳墓をどこでも行き来できるということになる。 もちろん制限区画は数個程あるが。

 

 『キラリ』と指輪が光ると、視界が一面黒く染まり、目がやられないようにゆっくりと光景が写り始める。

 

 

 

 

 

☆ 円形闘技場 ☆

 

 

 

 

「ここに来るのも、何時ぶりだろうかねぇ」

 

 

 俺の前に広がる景色は、茶釜さんが創りだした建造物。 古代ローマのコロッセウムを基に考えた場所らしい。

 丸く連なる、無数の客席。 回りには、色々な所に装飾された膨大な魔法の光がこの場所を明るく映し出している。

 

 

「たしか、此処にはアウラとマーレがいたはずだけど・・・」

 

 

 アウラとマーレ。 同じく茶釜さんが創りだしたNPCだ。 二人はダークエルフの双子と言う設定で、姉が男装のアウラ、弟が女装のマーレと製作者の趣味満載な外見をしている。

 

 そうこう懐かしんでいる内に、モモンガさんが闘技場へと転移してきた。

 

 

「・・・・・・勇儀さん」

 

 

「あん? なんだい?」

 

 

「絶対の絶対に、手加減してくださいよ」

 

 

 すごくせっぱ詰まった声音で話しかけてくるモモンガさん。 それとプラスさせて、汗アイコンを出している。

 数年ぶりとなるユグドラシルに、数年ぶりとなる戦闘・・・。 モモンガさんとの戦いは、数えきれないけど、またそれも数年前の事。 

 俺はコンソールを開いて、モモンガさんにバトルを申し込む。 このシステムは主に、ギルド同士やギルド内同士のためにある戦闘システムだ。 この戦闘システムのメリットは、バトルにおけるルールを細部までに設定できたり、バトル終了後にはアイテム体力やMP、装備の耐久値などが全てリセットされる事だ。 逆にデメリットと言えば、一対一でしか戦うことが出来ないくらいか。

 今回のモモンガさんとのバトル設定は、片方がHP三〇パーセント以下になると負ける。 と言う風にしてある。

 あとは相手の承諾を待つだけ。

 

 

「あはははは!」

 

 

 俺は右手に持った星熊之盃を、アイテムボックスへとしまう。

 

 

「山の鬼に――――」

 

 

 アイテム欄から俺の得物を選び、呼び出す。

 

 

「横道はないよっ!!!!」

 

 

 『鬼の器』と名前に記載された、異形種『鬼』専用の片手武器だ。 形状は、皆が知っている通りに鬼の金棒である。 ただ、全長は俺の顔の部分に持ち手があるため、二メートルちょっとだと思う。

 この武器は遺産級で、ダメージ量とレア度的にはそこまで高くないが、注目するべき点はそこではないのだ。 最大の長所となる着目点は、この武器能力。 それは相手を攻撃して与えたダメージ量÷5分の数値を、防具の耐久力を削ることだ。 耐久力が無くなった防具などは、強制的に装備から外れて、修理をしない限り再装備不可能となる。 かなり嫌われた武器で、俺が重宝したものだ。

 

 俺が決まったセリフが終わると同時に『バトル・オン』と目の前に文字が表記される。

 

 

「いや、ほんとお願いしますっ!? <マジック・フィールド/魔力の砦>」

 

 

 モモンガさんは初っ端に、自身を護る上位の魔法を展開させる。

 あぁ、甘い。 モモンガさん、それは鬼に対して定石すぎるよ!

 

 

「残念! 今の私は久しぶりの戦いで、体が喜んでるのさっ!! <オニノシセン/妖かしの珠>」

 

 

 鬼の器を持たない左手を上に掲げて、モモンガさんへと振り下ろす。すると、頭上から赤黒く輝く光弾が発生して、手を振り下ろした方向へとまっすぐ発射される。

 <オニノシセン/妖かしの珠>と言うのは、異形種『鬼』がたった一つしか持たない遠距離攻撃の妖術と呼ばれるものだ。 鬼にとっての魔法とも言える。 この効果は、攻撃から身を守る魔法のバリア系の耐久値削りに特化した攻撃方法なのだ。 デメリットとしては、連発不能であることと、異形種『鬼』の能力値からして精々5発が限界ってところ。

 俺の妖術がモモンガさんの展開したバリアにあたると、勢い良く爆発して煙がモクモクと脇でてくる。

 ふーむ、どうしようか。 このまま、モモンガさんに突っ込んで鬼の器を振るうのもありだけど、それこそ俺が定石となるな。 よし、歩いていこう。

 

 

「<サモン・ダーク・デッドナイト/死の従騎士召喚>」

 

 

 ゆっくり、ゆっくりと近づいていく俺に、召喚魔法を使用したモモンガさんは続け様に召喚魔法を唱える。

 

 

「ちょ、ちょっと、怖いですよ、勇儀さん! <サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル/根源の火精霊召喚>」

 

 

 なるほど、ダーク・デッドナイトを繋ぎの時間稼ぎとしてプライマル・ファイヤーエレメンタルで俺にダメージを与えるって所か。 まだまだ序盤だな。

 素早く接近してきたダーク・デッドナイトは、いち早くに俺を切りつける。 ・・・が、それだけだ。 攻撃を受けたエフェクトが出るが、実際のダメージ量はたったの1。 『鬼』の種族防御力値と一つの種族レベルの効果が桁違いに高いため、大抵の攻撃は二桁以内で収まる。

 剣を振り下ろし、ダメージを与えたダーク・デッドナイトに、趣向返しとして、俺は鬼の器を上へと振りかぶり、そのまま真下へと振り下ろす。

 俺の攻撃を受けてしまったダーク・デッドナイトは、たったの一撃で体力を全て奪われ、その体を霧散する。

 

 ふふっ。 片手で壊し、片手で死を与える。 何もかもを片手で壊滅させる! それこそが俺、星熊 勇儀としての戦闘スタンスだっ!

 

 

 ――――キュオォォォォオオオオ!!

 

 

 モモンガさんが召喚したプライマル・ファイヤーエレメンタルは、周囲の酸素を莫大に吸い上げ、炎を辺りへと撒き散らす。

 既に戦闘状態となったプライマル・ファイヤーエレメンタルはこちらに顔を向けて咆哮を放った。

 いいねぇ。 ほんと、わくわくしてきたよ。

 

 

「さぁ、戦いはまだ始まったばかりさっ! 来な!」




主人公のアインズ・ウール・ゴウンに入るまでの過去話は、間話としてちょくちょく入れていきます。


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第二話

 

 

 ――――キュオォォォォオオオオ!!!

 

 

 プライマル・ファイヤーエレメンタルは、爆音とも呼べる咆哮を俺へと向けて、吐き出す。 レベルの低い者が喰らえば、ダメージを食らうのは確実。 他に状態異常『恐怖』や「麻痺』などもおまけで付いてしまうだろう。

 だがしかし、そんなものは『鬼』に通用しない。 するわけがない。

 何故なら、それは俺が『鬼』だから。 なんてことはなく、所謂種族の効果による影響だ。 異形種『鬼』と言うのは派生がたくさんあり、その全部が、一貫してどれかに特出しているの大きな特徴なのだ。 俺の武器『鬼の器』ほど一つに特化しているというわけではないが・・・。

 

 鋭い眼光が俺を捉え、行動を起こす。

 鈍重に足を進める俺に対して、プライマル・ファイヤーエレメンタルは素早く攻撃に移る。

 十m以上離れた距離から、炎を纏う爪撃を撃つ。 三つ又の爪撃を一つ、2つ、三つと連続して放ち、相手に隙を与えまんとする。

 俺はその攻撃を真正面から受け続ける。 ダメージ量は一つに付き3。 

 チクチクとダメージが増えていくが、俺の体力からすると、微量も微量すぎるし『鬼』としての自然回復もあるので、実質0だ。

 実質0。 そう、実質0なんだが、如何せん、受けるたびに視界が悪くなるのが駄目だ。

 

 

「<オニノホイッポ/山河を超える足>」

 

 

 異形種『鬼』全般が覚えれる職業スキルの一つ。 移動スキルと攻撃スキルが混じった、なかなか使えるものだ。 職業レベルによって範囲距離は変わるが、自身を中点としたら全周囲20m以内にある任意のポイントまで、ノーモーション且つ瞬時に移動できる、これが強みだ。 ノーモーションと言っても制限は無く、棒立ちのまま移動したり、先を読んだ姿勢であったりと、とにかく応用が効くすぐれものだ。

 

 <オニノホイッポ/山河を超える足>で、『鬼の器』を右肩に抱えた状態でプライマル・ファイヤーエレメンタルの頭上へと移動する。

 すると、それを待っていたとばかりに、プライマル・ファイヤーエレメンタルは顎を上にあげて、口を大きく開けた。 次の瞬間、業火の焔が口内から吹き上げて俺を包み込む。

 しかし、この程度でやられるほど『鬼』は弱くない。 物理耐性が高くて、魔法耐性が低い『鬼』ではあるが、しっかりと対処済みである。 ダメージ量は3が連続といった所か。

 

 

「ヌルい、ヌルいよ! 私をもやしたくば、太陽の五つや6つぐらいもってきなっ!」

 

 

 さすがに6つも持ってこられたら、溶ける以前の問題であるが、この際置いておこう。 勇儀姐さんならケロっとしてそうだし。 ・・・そう思いたい。

 

 

「ほおらっ!!! <オニノウデジマン/剛力の遊戯」

 

 

 肩に背負っていた『鬼の器』を、プライマル・ファイヤーエレメンタルの頭に叩きつける。 

 脳天の一撃を食らったプライマル・ファイヤーエレメンタルは、でかい図体を霧散させる。

 

 

「正直何度見ても、目を疑うレベルの攻撃力ですよ『鬼』・・・」

 

 

 後ろで呟くようにコメントを残すモモンガさん。 それもそのはず。 本来プライマル・ファイヤーエレメンタルと言う召喚獣は、攻守において桁外れに高いモンスターなのだ。 たとえ本体がLv80前後であっても、Lv100のプレイヤーでさえめんどくさがるプライマル・ファイヤーエレメンタルと言う存在だ。

 

 

「しょうがない、奥の手・・・かな?」

 

 

 そう言って、アイテムボックスから何かを取り出す仕草をするモモンガさん。 捕捉をすると、『対戦』と言う決闘システムはアイテムの使用も設定できたりする。 今回のアイテム設定は、回復系のアイテムを禁止しているので、俺の星熊之盃は参加ご遠慮と言うわけだ。

 そして、モモンガさんが何かをアイテムボックスから取り出すと、それを前に掲げた。

 

 

「な・・・っ! だ、大豆・・・・・・だとっ!?」

 

 

 モモンガさんの指に五つほど挟まれた、大豆。 ・・・大豆。 そう大豆なのだ。 アイテム名は『炒めた大豆』。

 やばい! 色々興奮しててすっかりわすれてたっ!? 俺の弱み!!

 異形種『鬼』は、対人戦や対モンスター戦において有効な手段をたくさんもち、非常に強力でタフ、耐性もそれなりにあり、しかるべきパーティーを組めば、そうそう負けない。 だが、唯一にして超絶最大の弱点と呼ばれるものが有る。

 それが炒めた大豆だっ!!!!

 

 

「ふっふっふっふ。 <ファイヤーボール/火球>」

 

 

 不敵な笑いを浮かべるモモンガさん。 こりゃまじでやばい、もう遅いが直視してはならない!

 何故直視して駄目なのか。 それはなんとも酷いことであるが、『鬼』の弱点『炒めた大豆』を視界にいれて認識すると、様々なバッドステータスが強制付与される。 攻撃力減少、物理耐性減少、魔法耐性減少、移動制限・・・等など。

 そして炒めた大豆と言うアイテムはフィールドに結構あることが多くて、人間プレイヤーからすれば、街でもどこでも手に入れることができるのだ。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 炒めた大豆を媒介にした、<ファイヤーボール/火球>をくらった俺は苦い声を上げてしまう。 やばい、めっちゃ食らった。

 さらに、酷い現実が待ち受けている。 『鬼』は炒めた大豆を見ただけでも、色々なバッドステータスが付くが、炒めた大豆が直接体に当たると、ダメージ判定を受けて結構食らうし、元々のバッドステータスを上乗せするバッドステータスが強制付与されてしまう。 まぁ、『鬼』の性能から考えたら妥当っちゃ妥当かもしれないけどさ・・・。

 

 

「くっ。 なかなかやるねぇ・・・っ」

 

 

「いやいや、『鬼』といったらこれしかありませんよ」

 

 

 バッドステータスが重くてろくに動けん! 対処法は有るには有るんだけど、酒を使うことになるから、この戦いじゃ使えない。 もうひとつがスキルでのバッドステータス解消。 と言うかこのスキル、かなり当てならなくて、実践でも成功したことがやたらと少ないんだよ。 でも一か八か! 成功しろ!

 

 

「<オニノショウネンバ/起死回生の志>っ!」

 

 

 わざわざ口に出して、スキルを発動させる。

 回復のエフェクトが出てこないが、バッドステータスのいくつかが解消される。

 

 

「うは、成功しちゃいましたかっ!」

 

 

 いよっしゃぁ! まだバッドステータスは残ってるが行動するのに異常はない。 もっと楽しもうかとおもっていたが、次出されるとさすがに無理だ。 ケリをつける!

 

 

「おら! 一気にいくよっ!! 『三歩必殺』!!」

 

 

 三歩必殺。 容姿や性格、口調と違ってロールプレイで表現できなかった模倣物。 と言うかオリジナルになるが、ユグドラシルで一時有名になった星熊 遊戯の必殺技だ!

 

 

「一歩っ! <オニノジナラシ/大地の轟轟>」

 

 

「<フライ/飛行> <グレーターフィールド/頑層の魔壁>」

 

 

 足を大きく開き、伸ばしてスキルを発動させてから地面に勢い良く叩きつける。

 モモンガさんの目下の大地が、大きく盛り上がり、荒々しい尖った岩が一挙に突き上がる。 しかし、既にモモンガさんは空へと浮かび上がり、素早く横に避ける。

 

 

「二歩!! <オニノホイッポ/山河を超える足>

 

 

 未だに避けている行動中のモモンガさんへと瞬時に近づく。

 そして三歩目。

 

 

「三歩ぉっ! <オニノセイヅキ/正々堂々の拳>」

 

 

 最上位の魔力障壁を展開しているモモンガさんへと正拳突きっ!

 突然だが、ここで一つ俺の悔みを公開しようと思う。 星熊 勇儀をロールプレイするにあたって、勇儀姐さんの攻撃方法とはいかに。 と質問されたら、俺は真っ先に拳しかないだろと即答するのだが、如何せん異形種『鬼』の職業で拳闘士やらファイター、拳で攻撃するものがなかったのだ。 そのため、スキルで拳をつかことが合っても、通常攻撃には拳が使えない。 『鬼』のユグドラシルの戦闘システム上、ただのパンチは攻撃に判定されなくて、泣く泣く、それはもう盛大に悔やんだのち武器を携帯するようになった。

 

 モモンガさんの張る障壁が、崩れない。 大豆のバッドステータスが響いてるか・・・。

 しょうがない、三歩で決められなかったけど、此処でやらなきゃ、また離される。

 

 

「<オニノカナボウ/鉄の錘>!」

 

 

 『鬼の器』を振るって障壁を破り、そのままモモンガさんへと直撃する。 モモンガさんは物理無効のスキルを持っているが、『鬼』の最上位種族効果で、それを減少に置き換える。

 大豆のバッドステータスが未だに残っているが、それでも『鬼』の攻撃力は異常だ。異常を通り越してチートかも知れない。

 俺の攻撃を食らったモモンガさんの体力が29パーセントで固定され、眼前には『勝利!』との文字が出てくる。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

「いやー、お変りなく強いですね! 勇儀さん」

 

 

 バトルが終了して、お互いの体力やMP、装備の耐久力などがシステムにより回復したあと、モモンガさんが声を駆けてくる。

 

 

「おつかれさん。 まぁ『鬼』だし、星熊 勇儀だからね。 これくらいは強くないと私が認められないんだよ」

 

 

 こういっちゃなんだけど、『鬼』と言ったらタイマンで最強。 って言うイメージしかなかった俺には物足りない。 ユグドラシルでの『鬼』はパーティーメインで、前衛を請負、しっかりした後衛の基でPKとかバトルをしなきゃままならないんだ。 主に大豆のせいで。

 

 

「それじゃあ、俺は円卓に戻りますね。 皆が戻ってくるかもしれないので」

 

 

「あぁ、無理言って遊びに付き合わせてすまんね。 私は見納めとして、ナザリックを見て回るよ」

 

 

「いえいえ、俺も久しぶりの戦いだったんで、楽しかったですよ。 ではまたあとで円卓で会いましょう」

 

 

 笑顔のアイコンを表示させて、テレポートするモモンガさん。 

 ・・・さて、まずは、我がナザリックでの住居にでも行こうかね。



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