ブラック・ブレットから絶望引いてみた(い)-凍結- (上やくそう)
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原作前
プロローグ


初めまして、上やくそうと申します。この度はテスト終わった(二重)変なテンションで書きました。初投稿なので変なとこに変な事書いてないかビクビクしてます。何やってんだろ受験生。
ミスした時は遠慮なくビシバシ指摘してやって下さい。
よろしくお願いします。

この小説はハーレム、微オリ設定、ご都合主義など、クレイモア並の地雷要素を含んでおります。そういうものが無理な方は遠慮した方が良いと思われます。






見切り発車です(ぼそ


 

 

 

 

西暦2021年、東京エリア某所 早朝

 

家と呼ぶにはあまりに大きな日本家屋がある。敷地はそこらのスーパーマーケットがすっぽり入って余りある。石庭には素人目に見ても息を飲むほどの見事な盆栽が並び、地面は艶やかな石が流麗な模様を描いている。

表札に『天童』と書かれているその屋敷の離れにあるこれまた大きな土蔵の中に、二つの人影があった。

 

(......ふむ)

 

一人は天童菊之丞。政界の名だたる大物を次々と輩出してきた名家、この天童家の当主である。自身もまた仏像彫りとして史上最年少(・ ・ ・ ・ ・)で人間国宝になった超大物だ。

彼らは今、その仏像を彫っている最中だ。何となしに視線をもう一人の方へと向ける。

 

「......」

 

里見蓮太郎。菊之丞が彫刻で初めて取った弟子である。今は師の菊之丞と同じく、仏像を彫っている。

その眼は険しく、まるで何かに急かされているかの様に一心不乱に木を削っている。

 

(その若さで辛かろうに...)

 

蓮太郎には親が居ない。今年、世界中に突如として現れたウィルス性の寄生生物『ガストレア』に二ヶ月ほど前に両親を殺されたのだ。ガストレアが過ぎ去った後に彼のもとに帰ってきたのは両親ではなく、炭化し朽ち果てた骨らしき物のみだった。

その怨みを、憎しみを、怒りを全て像にぶつける様にノミを握りしめ、木に叩きつけているのだろうか。

その気持ちは菊之丞には痛いほど理解できる。菊之丞も愛する妻を奴等(ガストレア)に殺されているのだから。

 

ただ、菊之丞が蓮太郎を弟子に取ったのは決して同情や慰めからではない。怨みや憎しみは必ず彫った仏像に現れる。負の感情がこもった仏は人を苦しみから救う物ではないと菊之丞は長く培った経験から知っているのだ。

試しにと彫らせてみた仏像に、僅かでも怨念がこもっていたのなら、菊之丞はもう蓮太郎にノミを握らせる事は無いだろうと考えていた。

 

妻を亡くしてしばらくは菊之丞もノミを握らなかった。今の自分が仏を彫っても出来上がるのは憎しみに満ちた鬼だと、他ならぬ彼自身が解っていたからだ。

 

だが

 

ーーー蓮太郎の彫り上げた(・ ・ ・ ・ ・)仏に、菊之丞は正しく仏を観た。

 

蓮太郎は6才だ。この年で仏像を彫り上げたというだけでも、十分に神童と称されるレベルである。しかしそれ以上に、菊之丞はその仏に込められた念に言葉を失った。

 

力強く、荒々しい。仏像に似合わないその彫られ方とは裏腹に、蓮太郎の仏像には確かな慈愛が満ちていた。どこまでも他者を慈しみ憂う優しさに溢れた瞳。しかしその体は怒りに震え今にも暴れ出しそうな、即ちこの理不尽な世界と境遇に対する憤怒。

 

菊之丞は直ぐに蓮太郎を弟子にする事に決めた。彼の人生でここまで才を見せつけられたのは初めてだった。もはやそれ以外に考えられなかったのだ。

 

そして、その蓮太郎はーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(6歳児の遊びが朝から仏像彫りとかウチのじいちゃんの頭お菓子過ぎる( ^ω^ ))

 

 

 

 

何かもう色々台無しだった。

 

 

 

 

 

 

 

俺の名前は里見蓮太郎。前世は日本人で大学生だ。

この体になった時は色々パニックだった、うん。

 

信じられんだろ普通。目が覚めたら難民キャンプみたいな場所で周りの人間全員目が死んでやがんの。なんか雑草を必死にもぐもぐしてる人とか体細すぎて骨と皮だけのガリガリ君もいるし、怖えよスネ夫かよ。

しばらくしたら急にガストレアがうんたらかんたら言いながら元気に走って行っちゃうし。

 

何なの?やっぱ元気なの?とか考えてると、ずっと側にいたらしいおっさんが松○修造ばりに熱血して「安心しろ蓮太郎。母さんも父さんも必ず追いつくさ...フ」としっかり綺麗にフラグを建てて俺を逃がした。いや蓮太郎誰だよ。俺だった。

 

途中で腐海の蟲っぽい、ていうかほぼまんまな蟲達に襲われたけど、天童菊之丞というカッコいい名前のじいさんに助けてもらった。ちなみに王蟲はいなかった。残念。

 

 

 

 

 

 

その後なんやかんやでいつの間にか天童家に養子として引き取られる事に。それにしても手続きっぽい手続きを一切無視して養子取れる天童マジ天童。謎すぎる。

そんな訳でどんな経緯か知らないが、今は仏像彫りの日々だ。ほって寝てほって寝ての繰り返し。......これだけ聞くと俺がとんでもない変態野郎みたいに聞こえるが、断じて違う。

つーか俺がちょっとじーさんの真似して彫刻してたらそれから仏像しか彫らせてくれんし。6歳児の遊び相手がジジイと仏像とかマジふざけんなし(怒)、飽きるわ。

このじーさん

「お前には遊びの様なものだろう」ニッコリ

とか言って自分の真似させてくるからね。お前が決めんのかよ、ふざけんなクソジジイ。

 

俺知ってるからね、天童(ウチ)が門外不出の武術教えてんの。俺そっちがいいんだけど。「天童式なんとか術○の型○○番!」かっけー。門外不出、かっけー。頼んだら教えてくんないかなぁ、俺も技名を叫んでから殴るってのをやってみたい。やっぱり男なら一度は憧れる。

 

とまあ、そうこうしている内に朝餉の時間である。ノミと鎚を動かす手を止め、土蔵を出て行くじーさんの後に無言でついて行く。

この天童家、朝食だけでもめちゃくちゃ豪華なので毎食がかなり楽しみだ。前世は10秒チャージさんに三桁は確実にお世話になっていた身としては三食もりもりきっちりはあまり慣れないけど。

あと屋敷では運が良いとカンヮイィロリっ娘に会えるのだ、名を木更たんと言う。最近はおしゃべりしたりもする。

 

早くいかなきゃ(使命感

 

 

 




とりあえずプロローグ。気が向いたら更新して行きます。タグにもありますが亀更新です。別にメタギアのせいとかじゃないです。


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原作前1

今更ですが時系列の細かい所は自信がありません。遠慮なく指摘してもらって構いません。

うちの木更サンは神眼持ってます


 

 

結論から言うと、天童流を習うのは許可された。

この前菊じいに超気合入れて「俺はもう...負けたくないです...!強くなりたいんです...ッ!」と頼み込んだらok貰えた。我ながら迫真の演技だったぜ。

 

何に負けたくないんだよゴルァ、とか言われるかと思ったけど杞憂だったようだ。まあその時はテキトーに「この世界に...ですよ(キリッ」とか言っときゃいいだろ、と思っていたんだけど案外チョロいな(笑)

 

まあいくら許可されようと菊じいに捕獲されてしまった俺には当然の如くヤツが付いてくる訳で。

 

 

 

 

 

 

 

ぶつぞう が あらわれた!▼

 

れんたろう は にげだした!▼

 

しかし まわりこまれて しまった!←今ここ

 

 

 

 

 

最悪である。俺の鍛練が終わると直ぐにニクいあんちきしょう(木製)とご対面だ。まあさすがに食事やトイレ、風呂の時間はあるのだが、それを引くと大体最近の日課はこうだ。

 

 

 

 

起床→鍛練→ヤツ「(´・ω・`)/やあ」→就寝

 

 

 

おかしい(確信

ここのところ視界に入る顔がジジイか仏像しかいないってどうなってんだよ。ジジイといえば、最近俺の周りにジジイが一人増えた。天童助喜与という菊の字に負けないくらいのジジイだ。負けないというのはジジイ度の高さで、という意味だ。ジジイ度ってなんやねん。

 

 

.....ジジイがゲシュタってきた。

 

その助じい、なんと天童流の師範だったのだ。師範とか何それかっけぇ。

ちなみに俺が習っているのは戦闘術だ。他の天童流には、天童式神槍術、天童式合気術、天童式抜刀術がある。

そのうち抜刀術は菊じいと木更ちゃんも習っているらしい。菊じいの方は何と免許皆伝だった。免許皆伝とか超カッコいいじゃないですか、俺も早く名乗りたい...。

天童式戦闘術は俺の他にもう一人習っている人がいるらしい。兄弟子とか憧れますわ。

 

正直選ぶ時はルビサファの最初の三匹並に悩んだ。全部カッコいいからね、仕方ないね。この「○○式○○術」ってカッコよすぎでしょ。特に式がミソ。

 

二人と同じ抜刀術にして一緒に鍛練するというのも魅力的だったけど、抜刀術選ぶと菊じいが調子乗って「ワシの動きをよぉ〜く見て頑張るんじゃぞい☆」とか言い出しそうだったから止めた。キモい。

木更ちゃんに一緒にやろうとか頼まれたら俺は抜刀術を選んでいたかもしれないけど。そらそうでしょ、木更ちゃんパゥワーには抗えんわ。

 

二つ以上やっちゃダメなの?とも思ったけど、そうすると一つ一つの技の練度が落ちるらしい。助じい曰く「一つの道を極めることでうんたらかんたら」だとか。お前全部やってんじゃねぇか。

 

「..........ずずず」

 

そんなこんなで今に至る。今俺は縁側でお茶を飲んでいるところだ。

クソッ...遂に俺の行動にもジジイっぽさが侵食してきやがった...ッ!ちなみに茶は玉露しかなかった。これが天童クオリティか。

何故仏像をゴスるか鍛練かの二択しかなかった俺がお茶を飲んでいるかと言うと、先日、ツインズジジイ達に鍛練や彫刻の合間に休む時間をくれ、と言ったところ、何とOKされたのだ。

流石に子供には大変だとは思っていたらしい。なら仏像やめろし。

 

「あ、里見くーん!」

 

 

 

瞬間、俺に電流奔るッ!

キターーーーーー!木更ちゃんキタ!これで勝つる!

 

 

「よ、木更」

 

表面上は至って冷静に、呼び捨てでいいと言われたので遠慮なく名前で呼ぶ。つーか内心どんだけ騒いでもこの体はあんまし動揺とかしないのだ。人からは俺は静かな子供という認識っぽい。

 

「何してるの?」

 

「ん、昼の練習終わったから休んでるとこ」

 

「私といっしょね!」

 

「そうだな」

 

木更ちゃんも剣の練習を終えたところらしい。元気いっぱいに話しかけてくる。ところで、動きやすい服って露出多くてイイよね。お肌の汗が眩しいです、ぐへへ、ごちそうさま。

 

「私、この前よりもっと強くなったのよ!里見くんがぐずぐずしてたら、すぐに置いて行っちゃうんだから!ふふーん、悔しかったら里見くんももっと強くなりなさい?」

 

「そっかー、そりゃ俺も急がなきゃなー」

 

ぺたんこの胸を精一杯張ってドヤ顔で宣言する木更ちゃん。正直毛ほども悔しくない。いや、別に向上心が無いとかそんなじゃなくて。むしろ仏像タイム減るし普通に楽しいし、向上心の塊レベル。でも、あんたがそんなことしても可愛いだけです。

 

「ちょっと、ちゃんと聞いてる!?里見くんは私の召使いなんだから、私の言うことは守らなきゃ駄目なのよ?」

 

「うんうん」

 

かーわいーいなー。なんかいつの間にか召使いになってるけどむしろ喜んでやるわ。木更ちゃんのためならお兄さんいくらでも頑張ります。

 

「って、なによその顔は」

 

おっといかん、ついにやけてしもーた。けどこれは議論の余地なく木更ちゃんが悪いね、だって可愛いんだもの。

 

「ふーんだ。じゃあ今度お兄様達から虐められても助けてあげなーーーー」

 

 

 

 

ハイ体当たりどーん!!!当て身ッ!

や、お兄様達の登場にイラっときた訳ではない、断じて。おい今遂に手出しやがったとか言った奴、後で屋上な。

 

ずしん、と。

 

さっきまで木更ちゃんがいた場所に巨大な何かが着地した。

 

「ーーーい?」

 

その大きな体躯と複数の動植物を無理やり一つの体に押し込めた様な怪物は、開いた巨大な口から粘液を滴らせながら、餌を見つけた歓喜に身を震わせて叫び声を上げた。

 

 

「ギイィィイイアアアアアァアアァアヴァアアア!!!」

 

 

どう見てもガストレアです本当に(ry

 

ウソダドンドコドーン...

 

 

 

 

 

 

 

天童木更にとって里見蓮太郎とは、一番身近な友人であり、兄しかいない自分にとって、初めて出来た弟の様な存在だ。

木更が蓮太郎を初めて見たのは数ヶ月前の事だ。

その日、現在の天童邸に住んでいる全員が集められた。菊之丞が一人の少年を養子として引き取ったためだ。少年と天童家とのお互いの自己紹介の場を菊之丞が設けたのである。

 

聞けば、その少年は木更と同い年らしい。ガストレア戦争で両親を亡くし、菊之丞に拾われたのだという。

不謹慎でいけない事だとわかっていたが、木更は少し喜んでしまった。木更には兄達がいるが、木更と彼等は大きく年が離れており、一緒に遊ぶ事も無ければ、構って欲しくても迷惑そうな目を向けられる事さえあった。当然、兄妹の仲は疎遠になり、木更もそんな彼等と仲良くなろうという気は自然と無くなっていった。

 

 

蓮太郎と出会ったのはそんな時だ。いくらしっかりしていても、彼女はまだ6歳である。養子という点を除いても蓮太郎個人に強い興味を持つには十分だった。

 

しかし、何故か天童家で蓮太郎と出会う事はあまり無かった。稽古場にもいない、鍛練がない時に、いつものように庭で一人で遊んでいても見かけることはない。

会ったとしても、朝昼晩の食事時のみだった。仲の良くもない家族が集う場所で、初対面の相手にいきなり話しかけるというのは木更には抵抗があった。

 

だから、木更は蓮太郎を何が何でも自力で探し出す事にした。食事時に家族に見られないようにこっそり聞く、という手もあったが、ここで本人に居場所を聞くのは自分の負けな気がして蓮太郎と話す事は無かった。

 

木更には一つだけ心当たりがあった。菊之丞が仏像を彫る時に使う巨大な土蔵だ。だが、そこはもう殆どが菊之丞の彫った仏像で埋め尽くされており、それ以外は本当に何もないので誰も近寄らなかった。というか入る必要がなかった。

さらに菊之丞は仏像を彫る時は土蔵に籠もり丸一日出て来ない事も稀にあるため、誰も近寄れなかった。

夜、部屋を抜け出て木更は土蔵へ足を運んだ。

 

木更が土蔵の扉を中にいるかもしれない蓮太郎に気づかれない様に開けると...

 

(....いた)

 

蓮太郎だ。扉に対して横に座って仏像を彫っていた。

ちなみに木更は菊之丞から隠れようとはしていない。というか天童式抜刀術皆伝の彼に隠れようとするだけ無駄である。菊之丞も木更を咎める気は無いようで、木更を一瞥した後に蓮太郎へ視線を移した。

ただ、興味が無いという感じではなかった。お前もこいつをよく見ておけ、とでも言うように顎をしゃくっている。

 

 

 

 

そして、視線を戻した木更は、いつの間にか蓮太郎を食い入る様に見つめていた。正確には、彼の瞳に。

 

 

 

 

蓮太郎は怒っていた。

 

蓮太郎は憂いていた。

 

蓮太郎は嘆いていた。

 

だが彼は其れを外には、他の人には向けない。向けるつもりも、ない。

 

齢6にして類稀なる剣の天賦を持って産まれた木更には分かった。彼はその目に様々な激情を宿しながら、迷いなく腕を動かしている。

木更は思った。

 

(ーーーきれい...)

 

彼の目に渦巻いているのは間違いなく負の感情のはずなのに、木更はその少年の姿をどうしようもなく美しいと感じた。

同時に、木更は彼の過去を聞いて少しでも喜んでしまった自分を改めて深く恥じた。

あの目になるまでに彼にどれだけの出来事があったのか、少なくとも、自分に想像できる範疇のちっぽけな悲劇ではないだろう、と。

 

そして、幼いながらも彼女は理解していた。

確かに彼は悲劇を背負いながらも綺麗だ。だが、あのままでは彼は一人だ。側で支える人が居なければ。

 

(私が支えなきゃ...!)

 

 

 

 

 

 

そして木更は間違ってはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何で夜まで倉庫でジジイと二人きりで木彫らなきゃなんねえんだクソがあああぁあぁ!!)ゴスゴスゴスゴス

 

 

 

 

 

 

 

当たっても、いない。

 

 

 

 

 

それから木更は出来るだけ時間を見つけては蓮太郎に会いに行った。自分はこの弟分兼召使いを支えるのだと。もっと剣の腕を磨いて、強くなって、綺麗なこの少年を一人にしない様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー思えば、彼の瞳に魅せられたあの夜から、それが淡い恋慕へと変わるのは必然だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、今、私が動かなきゃいけないのに。

私が彼を守らなきゃいけないのに。

 

「ギイィィイイアアアアアァアアァアヴァアアア!!!」

 

彼が自分の前に立っている。勝てるはずがないのに、私を守るために。

足が震えて力が入らない。

呼吸が荒くなっていく。

化物の声もよく聞こえない。

 

蓮太郎が静かに構える。

 

「天童式戦闘術ーー」

 

 

ごばっ、と。

あまりにも呆気なく。地を抉りながら下から跳ね上がった化物(ガストレア)の脚と触手が蓮太郎の左顔面を掠め、右手足を千切り飛ばした。

 

「がッ......」

 

静かな噴出音を伴い蓮太郎の右半身と左眼窩から面白い様に血が噴き出し、辺りに紅い血化粧をこれでもかと撒き散らせながら、少年の小さな体は吹き飛んだ。

 

「里見くんっっっ!!!!」

 

少年の名を泣き叫ぶ。自分は何をやっているんだ、そんな元気があるのなら立て、戦えといくら力を入れようと、足は石のように固まり命令を拒否する。

 

悔しい。彼のために強くなろうと決めたのに、こんな時に動けないなんて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーちょ、技名くらい言わせてええぇ!

 

女子を泣かせておいて未だに蓮太郎(アホ)はそんな事を内心ほざいて意識を失った。駄目だこいつ。

 

 

 

 




蓮太郎...フン、戦闘力5か、ゴミめ...。
技名いうのが悪い。


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原作前2

やっとこさ投稿。気になる所を添削しまくってるとどうしても時間がかかってしまいます。すみませんがご了承ください。


ぐっはああああああああ( ^ω^ )

 

や、やっぱし現実は甘くなかった。いやわかってたよ?わざわざこっちが技名言い終わるのを待ってくれる敵キャラなんてのは幻想だって。そんな奴いないって...。

 

俺も昔はドラ○ンボール読みながら思ったものだ。

「かめはめ波長えよw」と。

 

ああ、これが報い()なのか...

キャスター付きの担架みたいな物に運ばれながら漠然と思う。

 

「輸血をーーー急いーーー血液型はーーー」

 

........でも、でもよぉッ、夢くらい見たっていいじゃねぇか...!

 

つかあれだね、やっぱ技名長いのが悪かったんだ。何だよ「天童式戦闘術○の型○○番○○」って。長えよ。まったく、誰だよ技名叫んでから殴りたいとか言った奴(怒)

 

ゆっくりした結果がこれだよ!

 

クソがもう許さんぞ。帰ったらツインズジジイとクソガキ(兄貴)ども纏めてぶっ飛ばーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腕 が ね え !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足 も ね え !

 

 

 

 

 

 

あァァァんまりだァァアァ!!

 

「心拍数ーーー急激ーーー脈拍ーーー血が足りまーーー」

 

ちょ、痛い痛いマジでやばい、体がものすごく軽い。まるで天使の羽が生えたようだ。

いやそれ死んでるわ、軽いんじゃなくて完全に天に召されてるわ。

もう駄目かも(諦め

 

そういや木更ちゃんが心配だ。だって俺開幕死よ?

こんな感じで2秒くらいでポイされたからね。

 

 

俺「いくぜ...天童式戦t」

 

ガ「うるせ( ・ω・)っ≡っ」ぺち

 

俺「」

 

 

っべーよやべーよこれ絶対召使いクビだよ。木更ちゃんに愛想尽かされたかもしれん。

 

だって俺が前に出た時木更ちゃん「何してんのこいつ」て顔してたし、そりゃそうですわ。よく考えたら木更ちゃんあの年で抜刀術初段だからね。

出しゃばってマジすいません。

6歳で有段者とかどんなチート使ったらそうなんの?

つーかそもそも天童家がなんなのアイツ等。人外魔境だよ。

 

ちなみに、今の俺がどのくらいやばいかと言うと、頂上戦争でズタボロにされた白ひげくらいやばい。

 

あれ...?もしかして結構平気...?

ワンピースのキャラって殺しても死なないよね。

 

やっぱダメじゃん。これワンピースじゃないし。むしろバイオハザードですしおすし。ゾンビじゃないけどね!

 

「蓮太ーーー君!ーーー里ーーー郎君!?ーーー聞こえーーーか!?ーーー先生!」

 

さっきからうっぜーぞボケ!!こっちは右手足無いの!痛いの!そこらへん分かってんのかゴルァ!

 

「こふ......ぁ...ぅあ...」

 

声出ねー。

喉に血が溜まってアホみたいな音しか出なかった。

いいからメディック早よ。おれしんじゃう。

 

 

「やあ」

 

 

やあ(´・ω・`)

じゃなくて。気が付けば、白衣にゴム手袋、マスク、給食帽子みたいなの、と。

小学校の給食係みたいな格好の巨乳の人が俺を覗き込んでいた。

 

「里見蓮太郎君だね」

 

どうやらこの人が俺の主治医らしい。巨乳の先生が付いてくれるなら安心だ。視覚的にも精神的にも。

 

「はじめまして。そしてもうすぐさようなら」

 

前言撤回。喧嘩売ってるとしか思えないセリフを両手に一枚ずつ紙をつまみながら言ってきた。

 

「私が右の手に持っているのは死亡診断書だ。あと5分もすれば私がここに一筆入れて手続きを終え、君の名前は速やかに戸籍から抹消される。

そして左の手に持っているのは契約書だ。

こちらは君の命を助けられるが、君には命以外の全てを差し出してもらう

 

さあ、選べ」

 

うぇええぇー。これ選択の余地無くない?

つかこいつさりげに俺があと5分で死ぬみたいな事言いやがったんですけど。時間ないのになんで患者にこういう事やらすかな。

 

 

 

いやー、思い返せばこの人生...

 

この人生...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ....?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仏像しか彫ってねえ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ねるか!仏像彫って終わる人生とかふざけんなァ!まだ木更ちゃんとお風呂にも入ってないのに!7、8歳までのこの時期が唯一のチャンスなのに!

「私将来は里見くんのお嫁さんになるー!」をまだ聞いてないのだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。

 

おら契約書よこせ!

 

「...ぁあ.......ぁ...」

 

俺は力を振り絞って医者の左手の紙を手にとった。

 

よっしゲットだぜ!ふははは、もう返さねえぞ。この契約書は俺のもんだ。

 

「ーーーーー」

 

あ、けど命以外の全てって具体的に何を差し出すんだろう。

 

こう、「命以外の全てと言いましたよねぇ?契約書をちゃんと読みもせずに取ったあなたの過失を私に押し付けられてもねぇ...フヒヒ」とかだったらどうしよう。

 

 

や、やっぱやめようかな(´・ω・`;)

 

 

「ーーーよく選んだ」

 

 

いや、ちょ、あの〜やっぱり右の方がいいかな〜、なんて...

 

ああけど死にたくはないしだからと言って命以外全部とかロクな結果にならない気しかしないしだったらいっそここで死んだ方がいいかもしれないんだけど木更ちゃんとお風呂入りたいからどっちにしようか決められーーー

 

 

ーーーあ、ちょ意識がががが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

う〜ん、いてて.........はっ!

ここは...天童(ウチ)の大浴場...だと...?

そうだ、俺は確か病院で給食係服の巨乳に契約を迫られて...どうしたんだっけ。

あ、「契約を迫る」ってカッコいいよね。

 

「起きたのかい?」

 

で、出やがったな巨乳給食係!

あのゾンビの様なオーラ、死人の如き顔色の悪さ、地獄の底から這い上がってくる様な声だ。それを聞いて振り返る。

会った時間はごく短いが、見間違う筈もない。

 

 

 

俺の前にタオル一枚の巨乳美人がいた。普通に見間違った。え?誰こいつ、超眼福なんですけど。つか声があの医者じゃなかったら分からなかいレベル。

 

 

ーーーお前は...なぜここに...?

 

「おや、忘れたのかい?私は言った筈だよ、『命以外の全てを差し出してもらう』と」

 

ーーーな、何を

 

「ふむ、どうやら状況が理解できていないようだね。いいだろう、おいで、木更ちゃん」

 

「......」

 

巨乳がそう言うと、巨乳の背後からタオル一枚の木更ちゃんが姿を現した。

 

ーーーな、き、木更...

 

どゆこと。なぜ木更ちゃんがここにいる。アイツと同じくタオル一枚で。うーむ、ロリは好きだけど、こういう時ばっかりは普乳以上はボリュームがないとなぁ...見応えというか、ね。

ま、足拝めるのは変わらないから無問題だ。おみ足ペロペロしたいでおじゃる( ^ω^ )

 

「まず手始めに君からは木更ちゃんとのお風呂を頂いちゃおうかと思ってね」

 

....................は?

 

コイツイマナンツッタ?イタダク?キサラチャントオフロイタダク?

 

「だ、か、ら、言っただろう?命以外の全て、と。アレはそのまんまの意味だよ」

 

言葉の意味を数秒かかって理解した瞬間、俺は激昂していた。

 

ーーー貴様ァ!

 

「ファハハハハハハァ!そう!それ!その顔だよ蓮太郎君!ああ何て甘美なんだ!これが寝取りという物なのか!愉☆悦!」

 

げ、ゲスい、なんてゲスいんだコイツ!

何処の麻婆神父だこの野郎!!クッソおおお!

 

「里見くん...」

 

木更ちゃん助けてえ!

木更ちゃんがこちらにペタペタと歩いてくる。顔は俯いていて髪が垂れ下がっており、表情が見えない。

 

ーーー木更?

 

木更ちゃんはサッと顔を上げ、満面の笑みを浮かべて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弱いからチェンジで!」

 

 

 

 

 

▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわああああああああ

 

 

 

そこで俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十数時間にも及ぶ大手術を終えた執刀医は、手術室から出もせずに、眠り続ける患者の少年の側に立ち尽くしていた。

 

(もう引き返せないな......)

 

室戸菫。『神医』と謳われる程の医師であり、また『世界最高の頭脳』の一人で、機械化兵士計画日本支部『新人類創造計画』の最高責任者を務める『四賢人』の一角だ。

 

彼女はガストレアに恋人を殺され、憎悪のままに計画に参加した。当初は睡眠も食事も取らず、その人類最高峰の頭脳を感情に任せて、どうガストレアを殺すか、より確実に、効率よく殺戮できるかを追い求め続けた。

 

 

 

もうあの時に一生分悲しんだ。

 

もうあの時に一生分哀しんだ。

 

もうあの時に一生分憎悪した。

 

もうあの時に一生分絶望した。

 

 

 

彼女はその短期間に感情を燃やし尽くしてしまった。

そうして灰になった時に思うのだ。

自分はこれからどうすれば良いのだろう、と。

 

首に掛けたロケットペンダントに触れる。

かつての恋人の写真が入っている時代錯誤な代物だ。

が、これ(ペンダント)が最早自分にとって大切な物なのかすら分からない。あの時、感情を燃やし尽くしてから、これにも懐かしさ位しか浮かばない。

 

菫は今までの人生で「迷い」というものを経験したことがなかった。

決して猪突猛進という訳ではない、むしろ彼女の性格は怠惰極まりない。

 

ただ、迷うまでもなく答えを導けただけの事だ。

 

視線を手術台で眠り続ける少年に向ける。

 

その右手足は深く光を吸い込む漆黒に輝き左のまぶたを開くと、瞳には蒼く美しい幾何学的な装置が不規則に回転している。

 

彼を存命させるためには、左眼はともかく、必ずしもあの義手義足が必要という訳ではなかった。

他の医師には分からないが、少なくとも菫には血を止め、手遅れにならない内に適切な処置を施す事が出来た。だがそれをしなかった。

 

(私が、この子を...)

 

四賢人の誓いである「生命の尊重」を聞いた時は、綺麗事を、と嘲笑した。奴等(ガストレア)に復讐する為ならばどんな手段でも取ろうと、人の道を外れる事も厭わないと思っていた。

 

だが結局、菫は「外道」にはなりきれなかった。

 

最後に蓮太郎に選択肢を与えたのだ。実際、彼女は蓮太郎が死亡診断書を取っても治療するつもりだった。

子供は大人より本能的だ。選択肢を提示された時に、蓮太郎が心の底から苦しみ生を諦めていたのなら、彼は()を選んだだろう。

 

自分の話を理解できずに契約書を取ったという可能性もあるが、菫はそれは無いだろうと考えていた。彼は残った左眼を動かして話を聞いた順に左右の書類を見ていたし、声が出なかった様だが、それは口の中が血溜まりだったからだ。

 

彼に迷いは無かった。

 

まるで選べと言われるのを待っていたかのように、彼は契約書を取ったのだ、紙を握りつぶす程に強く。

 

(どうかしているな、私も。こんな小さな子供に縋っているなんて...)

 

他人には小さい出来事だが、あの時見せた蓮太郎の迷いのなさ、意思の強さは、人生が無意味なモノとしてしか映らなくなっていた菫に、微かな色を齎した。

 

感情を燃やした彼女に、燃やしたモノの代わりに羨望を覚えさせ、希望を抱かせる程の衝撃となって。

 

 

 

ーーーうーんお風呂怖いよおおぉ、木更ちゃん助けてぇ後おみ足ペロペロさせてぇ...。

 

 

(このアホ)が後に、自分を救い、罪から解き放してくれるとまでは今の彼女には知る由もない事である。

 




次か二話後くらいには原作前が終わる予定です


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原作前3

Q:ずいぶん遅かったじゃねぇか

A:執筆データぶっ飛びました☆


あ"あ"あ"ぁ"!!!!

いや〜、自分も他のssの作者様が「データがっ!」と書いてるのを見て「気をつけなよ?」と偉そうに思ったものです。
ちょっとだけですよ?あ、なんかこれエr((ry

その分大分長くなっちゃってます。ガタガタでスイマセン。

皆さんも画面の前で「上やくそうがバカすぎて大草原w」とか思ってますでしょ?
一回書いてごらん、絶っ対やらかしますから。

もうね、コレは呪いかと。




え?ほんとは全然書かずに遊んでただけだろって?


オイオイ失礼だね全く!!
あっそうそう、今日カラオケで97点トッチャッタ☆(ドヤ





あの日、大切な者を失った。

 

 

 

最愛の家族(両親)を。

 

支えると決めた家族()を。

 

 

これからだった。

 

彼を支えられる様にと腕を磨いて、強くなろうとした直後にそれは起きた。

 

天童家にガストレアが侵入。

 

木更の両親を殺害し、蓮太郎は木更を庇い右手足と左眼を失い意識不明の重体。

 

彼も何時死んでもおかしくない状態だったと言う。

 

 

蓮太郎がガストレアに吹き飛ばされた後、菊之丞が二人の前に立ちはだかった所で木更の精神は限界を迎え、ブレーカーが落ちる様に彼女の意識を闇へ沈めた。

 

 

そして目が覚めた時、彼女に周りから突きつけらたのは、両親の死という現実だった。

 

当然、未だ6歳の木更にそんな話が信じられる筈もなく、彼女は早く親に会わせて、と聞かなかった。

 

 

そして、再会は遂に叶わなかった

 

 

木更が見たものは親の形をした肉塊だった。

 

数分経ってその意味を理解した時、木更は肉塊にすがりついて泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

一週間が経ち、漸く現実を見る事ができるようになってからーー受け入れられる様になった訳ではないーー現実逃避する様に彼の容体が気になった。

 

いや、本当はずっと彼が心配で気が気でなかった。

 

親に続き彼まで失った事を知らされては、今度こそ自分が壊れる事を漠然と理解していたから、無意識のうちに考えないでいただけの事。

 

あの時のストレスから、木更は腎臓の機能が停止していた。

病院でその治療を受けた時も、彼の病室は知らされなかった。

 

そんな時、彼が目を覚ましたという事を祖父(仇の一人)から知らされた。

 

おそらく奴は木更がこの一週間で真実を知った事(・・・・・・・・・・・・・)に気づいただろうが、どうでもいい事だった。

 

今は奴らの事より、目を覚ましてくれた彼の方が遥かに大事だからだ。

 

 

そして今、木更は彼の病室の前にいる。

 

 

「....ふふっ」

 

 

まずはどんな事を話そうか。

初めはやはり生きていてくれて安心した事を伝えよう。

 

親の死を自分から話す気はない。また耐えきれずに泣き出してしまいそうだから。

 

いずれ天童家の人間が彼に伝えるだろう。

 

 

ーーああ、そうだ。

新しくできた目的(・・・・・・・・)も彼には話しておかないと。

もう、自分が頼れるのは彼しかいないのだからーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイボーグやら機械やらと、そう聞いて皆様方は何を、どんな事を思い浮かべるだろうか。俺は誰に話してるんだろうか。

 

まあいい。

 

 

 

サイボーグ。それは、機械と人間が織り成す、奇跡の協奏曲(コンツェルト)

 

いや、それは奇跡などではない。

 

浪漫を目指し、己の生涯を掛けて尚、歴史に名を遺す事なく無念の果てに散って行った偉大なる科学者達の希望を、人類の夢を詰め込んだ『必然』なのだ。

 

 

 

人間にして絡繰

 

 

絡繰にして人間

 

 

 

彼らには全て、全員に共通している事がある。

それは何かーーー

 

 

例えば全身サイボーグ。

 

世界的に有名なターミネーター。

 

我が国では某攻殻機動隊。

 

サイボーグ009。

 

変態鉄人海賊。

 

リリカルマジ狩る戦闘機人。

 

元がステルスアクションゲーのくせに何でもかんでもぶった斬るサンダーボルトさん。

 

城之内家のサイコショッカー。などなど。

 

 

例えば一部サイボーグ。

 

言わずと知れた錬金術師。

 

LEVEL5のビームおばさん。

 

暴食白髪エクソシスト。

 

メタルでギアなBIGBOSS。

 

神々の眼を持つぱっつぁん声。

 

 

 

ーーーもう理解できた者もいるかと思う。

 

 

 

時には機銃掃射で薙ぎ払い

 

時には光線で鉄を飴細工の如く焼き切り

 

時にはその眼に内蔵されたスコープで遥か遠くの目標を視認する

 

メカニカルな腕で、眼で、脚で、全身で

 

 

彼ら全員に共通すること、それはーー

 

 

 

 

 

即ち、「カッコいい」

 

 

 

 

 

 

そう、カッコいいのだ、とにかく。

 

カッコいいったらカッコいい。

 

異論反論抗議質問口答えは認めない。

 

え?サイボーグ009はちょっとダサい?サイコショッカーとかどう見てもキモい?

 

 

だがしかし、俺はそんな奴らに断固として言ってやろう、バーロー(コナン風)と。

 

だっておめェ、加速装置よ?加速装置。

 

超速くなって敵の攻撃とか全く当たんねぇの。

もうね、当たらなければどうという事はないんだよね、これが。

赤い彗星とタイマン張れるレベル。

 

あ、サイコショッカーは...まいいや次行こう。

 

 

「コイツいきなりどったの?」と思っている人には謝罪しよう。

 

実は俺もう結構前に目が覚めたんだわ。

 

でも、その時の菫先生のお話がちょっと衝撃的すぎて、その後の菫先生の話しもお見舞いに来てくれた木更ちゃんの話しも上の空で適当に流してしまった。

 

この俺がだよ?他の奴らはともかかく美人さんと木更ちゃんを流したんだで?

 

まぁ、目覚めたばっかで体の怠さ半端なかったし普通に全身痛かったしノーカンだよね。

 

あ〜けど木更ちゃん最初はなんか様子がおかしかったなあ。

 

......いや、アレはちょっとシャレにならなかった気がしないでもない。

 

オレァ クサムァヲ ムッコロス!みたいな。

 

いやだめだ.....!あれよく考えたら完全に危ない人や...!

 

いつのまにか電波少女キサラに変身してましたからね。

毎週日曜日朝8時半からのプリキュア枠ぶんどれるレベル。

 

まー説教しといたからなんとかなるさ(ぶん投げ

 

なんつーか、こう、選択肢を間違えたら致命的な場面に出くわした感じだった。

 

ペルソナ4の終盤みたいな感じと言って通じるかな。

え?わからん?じゃあ買うしかないね(ステマ

 

まあ成り行き(頼れるお口)に任せてたらBADENDは免れたっぽい。多分。

なので無問題。次いこう。

 

 

 

 

とまあさっきから色々と話してきたが、結局の所俺が何を言いたいのかと言うとーーーー

 

 

 

 

 

『手術は成功した。...私を恨んでくれて構わない。

君はこれからの人生を憎み、呪いながら生きる事になるだろう。右手足を失くした幻肢痛、神経接続の痛み、

そしてーーー

 

 

 

 

 

 

ーーーその黒い義肢が証だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーカッコよすぎやでぇ...!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ.....ほんと、何してたんだろ、私...」

 

木更は病院を出て呟いた。

 

今考えれば、先程までの自分がどれだけ恐ろしい思考に取り憑かれていたかがよく分かる。

 

そこから救ってくれたのは、やはり彼だった。

 

「.....ぅぅ〜」

 

まずい、顔が熱い。

彼を思い浮かべると、どきどきする。

 

先程の病室でのやり取りを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スライド式のドアを開けると、蓮太郎はもう起き上がっていた。

と言っても、上体を起き上がらせていただけだが。

 

 

「.......」

 

 

横向きに置かれたベッドから窓の外を見ていて、顔が伺えない。

 

どうやら誰かが来たことに気付いていない様だった。

 

 

「里見くん.....」

 

 

声を掛けると、少ししてゆっくりと顔がこちらを向く。

 

 

「木更か」

 

 

蓮太郎の声に覇気は無かった。

その目は何処か遠い所を呆然と眺めているかの様で、それが彼との距離がまた離れてしまった事を無情に告げる。

 

(私が、弱かったから...)

 

 

いや、

 

 

(あいつら(天童)の、せいだッ...!)

 

どす黒い感情が鎌首をもたげる。

 

この一週間でいくら感じたか数えるのも億劫になる程の負の激情が湧き上がる。

 

もしかするとずっとかもしれない。

 

 

「ごめんね、里見くん。私、もっと強くなるから....」

 

 

その声に憎悪が滲むのを抑えられた自信はなかった。

 

 

「......そうか」

 

 

だが、彼はそれだけを口にした。

 

それが自分の目的(復讐)を正当化してくれるようで、木更は嬉しかった。

 

会話が終わる。

 

 

「.........」

 

「.........」

 

「.........ねえ」

 

「.........ん」

 

 

 

「............里見くんのお父様とお母様はどんな人なの?」

 

 

(ーーーーーーーあ)

 

 

沈黙に耐えきれず、口に出してしまってから気付く。

 

 

やってしまった。

 

 

そもそも蓮太郎が天童家に来たのは、両親を亡くし身寄りのない所を菊之丞に拾われたからだ。

 

天童家の人間はそれを知っている。

 

当然、木更はそれを知っていながらこの質問をしたという事になる。

 

もし、今の状況で自分と蓮太郎の立場が逆だったら自分は激昂していただろう。

 

ましてや蓮太郎は生死の境を彷徨ってきたばかりだ。

 

そこに、こんな追い打ちをかける様な質問をされては、少なくとも自分では心が保たない。

 

 

ーーーそれを、私がするなんて...!

 

 

木更は激しい自己嫌悪に陥った。

 

勿論、意図して口に出した訳ではない。

 

 

ただ、同じ傷を舐め合いたかっただけ。

 

 

「ぁ....ごめん、なさい」

 

「いや、気にするな」

 

 

ーーなぜ、そこまで平気なのか

 

 

「....父さん、はよくわからない人だったな。母さんの事は覚えてない」

 

「.......悔しく、ないの?」

 

「木更、何かあったか?」

 

 

びくり、と肩が震えた。

 

ここにきて初めて蓮太郎のあの瞳が木更を捉えた気がした。

その見透かす様な眼差しに、思わず口調が刺々しくなってしまう。

 

 

「いいえ...それより、答えて」

 

 

やめろ。

 

 

「...ま、いいか。悔しいかどうか、か?

あの日力の無かった俺に対しての悔しさはあるよ。

ただ、それが殺した奴らに対して恨んでいるかっていう質問ならーー

 

 

 

ーー別に、そういうのはないな」

 

 

やめてくれ。

 

 

「..........んで」

 

「........?」

 

 

もう、だめだから。

 

 

「.........なんでよ!!お父様もお母様も殺されたんでしょ!?

なんでそこまで平気でいられるのよ!!!家族が死んでるのに!!

仕返ししたくないの!?ガストレアを殺したくないの!?二人と同じ、それ以上に酷い目に合わせてやりたくはないの!?私は許せない!!二人を殺した奴らが!!

全身をズタズタにしてガストレアの餌にでもしてやらないと気が済まない!!

そうだわ、きっと二人もそれを望んでいるに決まってる!!私が、私達がやらないといけないのよ!!二人の意志を継がないと!!

これは私と里見くんにしかできないの、ねえ里見くん?二人で奴らに復讐しましょう?ええ、それがいいわ!だって里見くんは私の召使いだもの!

奴らに地獄を見せるのよ!!自分のしたことを百億回後悔してもまだ足りないくらいに苦しめてやらないといけないの!!」

 

 

「................」

 

 

蓮太郎は黙して聞いていた。

 

そして木更の怒鳴り声が収まると、静かに口を開いた。

 

 

「...まず、俺は平気でも何でもないぞ」

 

 

なにを、言っているのか。

 

ーーだってそんなに平然としているじゃない。

 

 

「さっき言わなかったか?

 

俺は母さんの事を覚えてない(・・・・・・・・・・・)。いや、知らない(・・・・)

 

「えーーーーー」

 

 

知らない。

 

覚えていない、でもなく「知らない」

 

それは、どういうーー

 

 

「俺の原初の記憶はあの日(・・・)からだけだ。

 

一面の焼け野原と屍の山に、充満した死の匂い。

その中で、隣にいた父の言葉だけを頼りに生き延びた。

 

その前の事は、覚えてない」

 

 

記憶喪失。

言葉なら木更も知っている。強いショックを受けた脳がその記憶を封じ込める。

 

つまり、彼はそれ程までの地獄を既に体験してきたのだ。

 

そんな時ですら、自分達は温室でぬくぬくと過ごして。

 

なんて、無知。

これでは奴らと自分に何ら変わりは無いではないか。

 

 

「そして次。

仕返ししたいか、って質問だけど、...まぁ、殺した奴が判った時は、多分俺は仇を討つよ」

 

「そ、そうよね、許せないわよね!!?」

 

「けど」

 

「.......!」

 

 

す、と。

まるでたしなめる様な瞳が木更を貫く。

 

 

「それは『そいつら』だけだ。

もしもの話、結果として間接的に関与したとはいえ、事情を知らない人間を私刑(・・)に掛けるつもりは無い。

 

それに、お前の中では俺の両親を殺したのはガストレアって事になっているみたいだけど、二人の死因は不明だ。

だから呪われた子供たちなんていう奴らも憎む気はない。

 

...今理解させないと手遅れになるから言うぞ。

 

木更、詳しくは知らないし聞かないけど、お前のソレは私刑(・・)だ」

 

 

「ーーーッ!」

 

 

はっきりと、蓮太郎は木更の目的(復讐)を私刑と断じた。

 

ーーどうして?里見くんは私の味方じゃないの?

 

 

「あ、はは」

 

 

ーー私、ほんとに一人になっちゃったんだ

 

 

「ーーーーおい」

 

「!」

 

「何か勘違いしてるな、お前。

俺は確かにお前の私刑に手を貸したくなんかない。

けど、俺は木更の召使いだ。............チェンジされて無ければだけど」

 

「どういう、こと?」

 

 

最後の呟きは聞こえなかったが、結局はなにを言いたいのだろう。やはり自分に手を貸してくれるのだろうか。

 

 

「召使いだから、なるべく木更の手伝いはしたい。だけど今の木更を手伝いたくはない。

 

だから、俺が手伝いたくなる様に木更をりふぉーむしてやる」

 

「......どういうこと?」

 

「こういうことだ」

 

そうして、蓮太郎は初めて体を(・・)こちらへ向けた。

 

「ーーーーなによ、それ」

 

 

蓮太郎の右手足は黒く染まっていた。

 

そうだ、自分はなぜ今まで思い出さなかったのだろう。

彼の右手足は自分を庇った時既にーー

 

 

「超バラニウム製の義肢だそうだ」

 

 

ーーそれは

 

 

「わ、私が動けなかったから...」

 

「違う」

 

「でも!」

 

「どうせ二人じゃ勝てない相手だった」

 

 

そんな、じゃあ自分が強くなろうとしたのは全て無駄だったとでも言うのか。

 

 

「で、そんな俺たちを助けてくれたのは誰だ?お義父さんあたりか?」

 

「!?」

 

(天童、菊之丞...ッ!)

 

 

 

『ーー死にたくなければ生きろ』

 

 

 

だけど、認めたくなんてなかった。怨敵に命を救われたなどという事実は。

 

 

「木更、俺はな、あの日父さん達を見捨てて逃げ出した。

 

 

ーーそれが、最期の言葉だったから」

 

 

そこに、どんな苦悩が、葛藤があったのだろう。

きっと、彼の激情を映す眼はその時にうまれたのだ。

 

 

「木更にもあるんじゃないか、そういうの」

 

「ぁ...」

 

 

両親は、いつも木更に「正しく在れ」と説いてきた。

 

間違っている物を正し、

 

間違っている人を糾せ、と

 

そして、二人はその信念を貫いた先に力及ばず果てた。

木更の両親は天童家の裏での所業を知った。そしてそれを二人は許さなかった。

 

そう、木更の両親は口封じに天童家に(・・・・)殺された。

 

 

「よく考えろ。

お前のやろうとしている事は、本当に『それ』に背く程の物か?」

 

 

 

 

ーーその言葉は、木更の芯から沁み渡るように。

 

 

 

 

「本当に、『それ』を教えてくれた人より重い物か?」

 

 

 

 

ーー木更を闇から照らすように、

木更の心の奥に届いた。

 

 

 

 

 

木更は、両親が天童に負けたのは、両親が『正義』だったからだと、『正義』では『悪』に勝てないからだと考えていた。

 

だが違う。

だってそれでは「正義は必ず勝つ」という言葉に説明がつかない。

 

正義だって悪を倒せるのだ。

 

木更は自分が絶対正義などとは思わない。

 

だが、両親のあの教えはこの世のどの悪にも屈しない正義だと確信している。

 

 

「ーーううん、違う。違うのね」

 

 

そうだ、そんな、二人との約束を破って達成される仇討ちなんて二人が喜ぶはずがなかった。

 

 

「ん......もう大丈夫そうかな。

今の木更なら、どこまででもついてくよ」

 

「ーーうん。その、ありがとうね、里見くん」

 

「ああ。また木更が変になったらこの腕でデコピンしてやる」

 

「上等よ。私の剣術とどっちが強くなったか勝負ね」

 

「それにな、俺は本当にこの傷も、あの日生き残った事も、悲しいけど後悔してないんだ。むしろ感謝してるぐらいだ」

 

「な、なんでよ!」

 

 

蓮太郎の言葉に思わず声が大きくなる。

もし彼が本当に親の死に感謝すらしているというのなら、今度は自分が蓮太郎を正さなければならない。

 

 

だが、そんな木更の覚悟をぶち壊すように、蓮太郎は嬉しさに満ちた声で微笑んだ。

 

 

「ーーーだって、あの日父さんに言われた事を守ったから、俺は木更に会えたんだ。

 

ーーーだって、あの日父さんに言われた事を守ったから、俺は木更を護れたんだ」

 

 

 

 

 

 

木更は大爆発した。

 

正にだいばくはつを起こした。木更のHPは0になった。

 

具体的には、硬直した数秒後に首から上が真っ赤になってボン、である。

 

 

「あ、あの、ああり、がと、ぅ」

 

「......?ん」

 

 

木更の挙動不審に蓮太郎は僅かに首を傾げながらも、すぐに右手に視線を向けて熱心に見つめている。

木更は内心絶叫した。

 

 

ーー今の素で言ったの!?

 

 

何度見ても、蓮太郎は話は終わったとばかりに右手を見つめて動かない。

 

その様子に頭を抱える。蓮太郎、恐ろしい子である。

 

木更は最後にもう一度礼を言い、顔の熱さに耐えながら、ふらふらと病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バス停の椅子に座って考える。

 

多分蓮太郎の言う通り、あそこが木更にとっての最後の分水嶺だったのだ。

 

 

親の仇を皆殺しにするまで止まらない復讐鬼となるか

 

親の意志を継ぎ罪に見合う罰を与える断罪者となるか

 

 

そう、彼との距離が離れたと感じたのは、単に自分から遠ざかってしまっていただけの事。

 

それを気づかせてくれたのは、気づくキッカケをくれたのは、他の誰でもなく蓮太郎だった。

 

だが、だからと言って仇討ちをやめるつもりは無い。

 

 

 

ーーーそれ(復讐)は、生きる彼より大切な事?

 

 

木更は自問する。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー否

 

 

木更は自答する。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーそれ(復讐)を、親の教えを捨ててまで?

 

 

木更は自問する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー断じて、否

 

 

木更は、自答した。

 

 

「ーー待っててね、里見くん。私、もっと強くなるからっ」

 

しっかりとした足取りでバスに乗り込む。

 

 

ーー今度の決意表明に溢れていたのは、憎悪ではなく希望だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、なんだいお嬢ちゃん。告白でもすんのかい?」

 

「ちちち違いますっ!!」

 

 

 

 

 




今回、木更視点の所がくそ難しかったです。超難産でした。

ご都合主義(というか捏造?)の活躍回でした、嫌いな方には伏して謝罪します、気分を害して申し訳ない。
ただ、このssのタイトルの通り、絶望を引くためには外せない事でした。
それに伴い文字数の突然の激増、プロローグからお読み頂いた方は困惑していらっしゃるかと。
重ねてすみませんでした。



いや、作者も思いましたよ、「6歳児の会話じゃねぇ!」みたいに。
でもブラブレには人外多いしセーフでしょ(暴論

木更が「両親を殺すよう仕向けたのが天童だった」という事をいつ知ったのかが原作読んでも判らなかったので、蓮太郎が眠っている間、という事にしときました。どんな6歳児やねん。

ペラ読みだったんで飛ばしただけかもしれませんが。



もし間違ってたら教えて頂けると作者は狂喜乱舞します。

でもその後の編集作業を考えると作者は意気消沈します。


ちなみにペルソナ4は作者の今までで一番好きなゲームです。
キャベツがおいしくなるゲームです←ここ重要









>『電波少女クビカル☆キサラ』
毎週木曜日25:35〜26:05放送

キャッチコピーは「地獄絵図、つくりました。」

あらすじ:
自称平凡な6歳児、天童木更は血を求める声に導かれ、不思議な燕尾服の男が負傷している所を発見、止めを刺す。

その夜、再び声が響き男を埋めた場所に向かうと、虫のような怪物が始末したはずの男を咥えている場面に出くわす。

男の正体はモノリスの外からやってきた変態「蛭子影胤」だった。
影胤から授けられた「殺人刀・雪影」を手に、覚醒したキサラは影胤ごと怪物を斬り捨て御免。

キサラは思った「やだ、ゾクゾクしちゃう...!」

電波を受信送信しながらキサラ名物O☆SHI☆O☆KI(即死)を繰り返すキサラのスプラッタ系ドタバタコメディが幕を開けるーー!










(ヾノ・ω・`)ナイナイ


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原作前4

今回は後半を日記形式にしてみました。違和感あったら遠慮せず指摘して頂けると嬉しいです。


 

 

キングクリムz(ry

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで13歳である。

 

 

いや、特筆する事なんてないのだ。

俺の腕が火を吹くことなんてなかったからね、一度として。

 

期待した?

 

俺の所属していたらしい「陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊」というカッコいいけどクソ長い名前の部隊で、俺が似た境遇の仲間たちと時には衝突しながら自分の過去を克服していく物語とか期待した?ハハッ、ナイナイ。

 

大体、他の隊員がどうかは知らないけど、というか他にいるのかすら知らないけど、俺の場合は名前だけ登録してたっぽい。

 

 

当然、俺が陸自の基地とかに行って訓練とかいう事もなかった。

 

 

病院ではとにかく腕と脚を使いたくてうずうずしながら生殺しの日々だった。

 

しかし、なんかアレだった。

 

俺の手足は本当は物凄いイカす機能が付いてるらしいんだが、子どもは成長が早いからそれに合わせて義肢をどんどん取り替えなきゃならないらしく、当然、こんなスバラシイ義肢にはクソみたいな費用がかかるわけで。

 

菫先生曰く「時が来たら与えよう」だそうだ。今すぐ欲しいんですけど。

 

 

そんな話をされて、まあそれでも十分カッコいいからいっか、とルンルン気分でやっとこさリハビリを終え退院。帰宅したらーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菊(´・ω・`)つ仏像<久しぶり!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわあああああああ

 

 

 

この後滅茶苦茶仏像した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんなん?アレなんなん?

もうちょっとワンクッション置こうぜ菊じいよぉ...!!

 

 

 

怒りに任せ一通り仏像をゴスり終えた後で、この鬱憤は鍛練で晴らすしかないぜオラァ、と超やる気出して修行してたら当時110歳の助喜与(怪物ジジイ)が来てなんか説教された。

 

 

要約するとこうだ

 

 

 

助「お前このままじゃその手脚の力に驕るじゃろ?」

 

蓮「(´・ェ・`)?」

 

 

 

助「( ◠‿◠ )☛ワシが叩き直しちゃるぜ感謝しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわあああああああ

 

 

 

 

 

この後滅茶苦茶鍛練した。

 

 

いや、助じいとの鍛練という究極の理不尽イベントがなかったとしても俺は超頑張った。

 

そう、未だあの夢での「チェンジ事件」を俺は忘れた事はない。

心が折れそうになったり疲れたり筋肉痛になったりした時はあの事件を思い浮かべて頑張った。

でもね、

 

助じいには勝てなかったよ...。

 

いやマジでシャレにならん強さだった。

だって相手の年齢抜きにしてもこの腕超合金製よ?

 

そんな鉄塊で思い切り殴られたら誰でも死ぬだろ普通。

なのにアイツ腹にわざと受けてしれっとしてやがるし、ネテロかよ。

 

 

 

後、俺の兄弟子に会った。

名前は薙沢彰磨。

強い、COOL。以上。

 

だけどあの人、戦闘術八段までいったくせにいつの間にかいなくなってた。勝ち逃げしやがった。

 

 

ちなみに小中学校は通ってない。

この右半身だからね、仕方ないね。

 

悲しきかな、マジカル☆カナミンが長らくサブカルの頂点に君臨しているこの日本では俺の義肢の素晴らしさを理解できる小中学生は少ないのである。

 

...ち、ガキどもめ。

 

 

いわゆる精神年齢というやつが20いってる俺は別に学校いらんと思ったけど、こんな右半身ゴt、カッコいい小学生が昼間に街をうろついてたら補導不可避なので、学習の点は我らが菫先生の担当だった。

 

その菫先生、巨乳美人の医者ってだけでも結構な属性持ってるのになんと「四賢人」やら「世界最高の頭脳」やら「空前絶後の変態」などの異名を持ってらっしゃった。最後おかしくね。

 

 

さて、そんな天才にマンツーマンの家庭教師をトライさせるとどうなるか。

 

 

 

 

こうなる

 

 

 

 

 

菫「できたら言いたまえ」つ本

 

蓮「いやあの、これ大学レベル...」

 

菫「え?できないの?」

 

蓮「俺6歳...」

 

 

 

菫「( ◠‿◠ )☛私の教え子なんだ、それくらいしてくれよ全く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわあああああああ

 

 

 

 

 

この後滅茶苦茶勉強した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな感じの7年間。

結構特筆する事あった。

 

 

「遅いな...」

 

 

俺はあいあいえすおー?なる組織の施設の一室に通されている。

 

 

それというのも、一週間くらい前に俺は木更さんと一緒になんかよくわからんまま家出した事から話が始まる。

 

いきなり木更さんが「時は満ちた!」的な感じで家出るぞーついて来いオラァ、って言うからついて行ったら、なんか木更さんが会社作るわ俺が社員になるわいつのまにか家がボロアパートになるわの三連コンボ決められてた。

 

な、なにをいってるか(ry

 

まあアパートの近くの中華料理屋が美味かったからいいんだ。正直天童の屋敷のメシに勝るとも劣らないレベルだった。

店長に今度料理を教えてもらおう。

 

 

ちなみに木更ちゃんの呼び方は心の中ではさん付けする事にした。

 

いや、木更ちゃんがね、おっきくなっちゃったんですわコレが(意味深)。

もう木更ちゃんじゃなくて木更さんの方が似合うね。

 

それで何故俺がここにいるかと言うと、木更さんの作った会社が民警だったからだ。

 

民警。

 

民間警備会社の略で、何だっけ、民間で警備する会社なのだ(適当

 

民警のライセンスを取るための試験があったけど菫先生にめちゃ教育された俺にはヌルすぎた。エロい意味ではない。

 

 

まあ重要なのはそこではない。

一番重要なのは「女子と仕事できる」という点である。

 

絶対に女子と仕事できるのだ。例外はない。

 

この何と素晴らしき事か。

 

説明しよう!民警は二人ペアで、プロモーター(加速因子)イニシエーター(開始因子)に分けられていて、イニシエーターは細胞分裂が云々でおにゃのこになるのだ!

逆だ。おにゃのこだけがイニシエーターになるらしい。

ともかく民警いいね!

 

俺のパートナーは藍原延珠という名前らしい。絶対可愛い娘だわ。

なぜか?それはイニシエーターは可愛い娘しかいないから。

 

 

「おい!大人しくしろ!」

 

「離せ...!」

 

 

お、来たかな。

 

それにしても、うん、ドア越しでも不機嫌オーラというか空気の悪さがビッシバシ伝わってくるぜぇ...。

 

 

「.........」

 

 

ドアを開いてIISOスタッフと現れたのは、オレンジ髪ツインテールっ娘だった。

 

普通に可愛いですハイ。目のクマ凄い事になってるけど。

 

 

「すいません。こんな荒い奴ですが貴方のイニシエーターはこの子に決まったので...」

 

「ああ。謝らなくていい」

 

「............」

 

 

むっちゃ睨まれてるんですが。やってけるかなぁ。

 

いかん、俺が弱気になってたらだめだ。

よし、まずは自己紹介からだ。

 

 

「今日からキミのプロモーターになる里見蓮太郎だ、よろしくな」

 

 

どうだこの爽やかスマイルッッ

握手するのも忘れていない、完璧すぎる...!

 

 

 

 

 

バシンッ!

 

 

 

 

 

全く、いきなり馴れ馴れしく笑いながら握手しようとするなんて。誰だよそんな事するバカは(怒)

 

俺だった。

 

 

「お前、何をしてるんだ!」

 

 

それは俺へのセリフだよね?そうだよね?

 

 

「.....馴れ馴れしくするな」

 

 

ですよねー。すいません。

 

ああもう、これ最初から好感度上げるどころかヘイト値MAXじゃん...。

 

こ、これからどうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-一日目/くもり-

 

パートナー初日。昨日は延珠ちゃんが俺の家で生活するために必要な物を買いに行った。

 

今日はウチの会社に延珠ちゃんを紹介しに行った。社長を除いて社員二人だと聞いて延珠ちゃんがちょっと驚いてた。そりゃ誰でも驚くよね。

 

こんなできたばかりなのに倒産寸前の会社に依頼がくる訳もなく帰宅。夕飯はモヤシ炒めだ。

 

延珠ちゃんはあまり食べなかった。

 

それにしても会話が続かない。

いや、俺は延珠ちゃん眺めるだけでも満足だから気まずくはないんだけど(俺が)、あんまし見てると睨まれるし、どうしたら仲良くなれるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-二日目/雨-

 

今日も依頼は無い。オフィスにいても暇なので、依頼来たらメールしてと木更さんに言って菫先生の所に遊びに行くことにした。

ついでに延珠ちゃんを紹介しよう。

 

病院へは徒歩で行った。延珠ちゃんと相合い傘がしたかったが昨日傘を購入した事を思い出して涙を飲んで断念。

 

 

病院地下、どこのラスダンだよと言いたくなる扉を開けるともう大魔王スミレが倒れていた。大魔王は餓死するようだ。

 

 

声をかける。

 

返事がない。ただのしかばねのようだ。

 

 

もう起こすのがめんどくさいので口に持参したたまごボーロを三袋流し込んで放置。

 

数分くらいしたら子鹿みたいな足取りで起き上がってきたから、お姫様抱っこで手術台に座らせるとありがとうと言われたのでどういたしまして、と返して延珠ちゃんを紹介する。

 

菫先生の青白い顔が若干赤い気がしないでもなかったけどしゃーないでしょ。倒れてる女子をお姫様抱っこ以外で運ぶのって逆に失礼だと思うんだ。おんぶでも可。

 

延珠ちゃんの菫先生を見る目が完全に困惑してた。強く生きろ。

 

 

先生がちょうど良かったと言ってきた。今日は俺に話があって電話しようと思ってたらしい。

なんでも、民警は戦う仕事だから君の義肢に本来の力を与えよう、だそうだ。

 

 

 

キターーーーーー!!

 

 

 

ぃよっし!遂に来たよ強化イベント!ああ、何年この言葉を待ち焦がれたことか。

 

念願のパワーアップに俺が狂喜乱舞してるとなんか二人がシリアスな雰囲気で俺を見てた。

よくわかんないので、やらないのか、と言うと菫先生が語り始めた。

 

ぶっちゃけ早くして欲しくて話がめんどいから菫先生をとにかくベタ褒めしてゴリ押ししてたら涙目でじゃあ始めようか、と言ってきた。

 

 

やっべ、めんどくさがってたのバレてる...?

 

 

バレてしまった事は仕方ないので開き直って満面の笑みで頼むぜ、とサムズアップ。

 

 

 

 

手術、というか義肢外して取り替えるだけだった。三分もかからない作業になんで菫先生はあんな覚悟決めた顔してたのか謎である。

 

つかそんなことが気にならないくらい義肢がカッコよすぎて辛い。

 

先生にお礼を言って退室。会社はどうせ依頼なんてこないんだから(失礼)、帰宅一択である。木更さんには肉じゃがを作り置きしてきたし無問題。

 

帰り道に延珠ちゃんが腕の事とか家族の事とか聞いてきた。会話のネタに困っていたのでチャンスとばかりに話した。

しかし延珠ちゃんから会話してきてくれるとは。まあその後黙っちゃったから結局あんま話せなかったけどね。

 

義肢が嬉しくてテンションMAXだったから夕飯は奮発。近所の中華料理屋で肉丼だぜ。

 

 

 

 

 

肉丼には勝てなk((

 

 

今日のオススメ頼んだら目の前にチョモランマが降臨した。どういう事なの...。

 

くそ、奮発するとは言ったけど3000円なんて高すぎる。社長嫁と同じ攻撃力だ。

 

ちなみに延珠ちゃんは普通に完食した。ぅゎょぅι゛ょっょぃ...。

 

 

 

え?完食しても料金は貰う?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-三日目/晴れ-

 

 

ヒャッハー! 皆殺しじゃボケェッ!!

逃げるガストレアはただのガストレアだァーッ! 向かってくるガストレアは良く訓練されたガストレアだァーッ!!

 

 

 

やっと依頼が来たのでガストレアに昨夜散って行った漱石一個小隊の恨みをぶつける。

 

そして遂に今日、俺の義肢がそのベールを脱ぎ脱ぎした。

 

やっべー、超楽しい。

 

俺の義肢は腕に十発、脚に十五発仕込んだカートリッジシステムが生み出す超攻撃力で敵を撃砕する、というスタイルだった。スゴいぞーカッコいいぞー!

 

カートリッジシステム。なんてカッコいい響きだろうか。

ベルカ式魔導師になったっぽい今なら紫電一閃とか放てそうだ。

 

終始そんなテンションでガストレアを粉砕☆玉砕☆大喝采してたら同じ依頼が来てたらしい民警ペアに独り占めするなと怒られた。そんな事より義肢がっつり見られちゃったけど大丈夫かなぁ。

 

延珠ちゃんがクソ強かったです(小並感

戦うロリとか初めて生で見た。これはいいものだ...。

 

外周区のギリギリの場所での任務だったのでそれなりにガストレアがいた。

俺がはっちゃけたおかげで討伐数もなかなか稼げた。グラサンには申し訳ないがこっちの報酬のほうが多かった。悪いね☆

 

民警の仕事は分かりやすくこちらの命を賭けているので報酬も結構出るのだ。

そんな訳で俺の財布にも諭吉フォーマンセルができたので今日も肉丼を食べた。

 

今日は結構延珠ちゃんと話せたなぁ。

 

 

 

 

○今日のまとめ○

 

延珠ちゃんマジわらわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-四日目/雨-

 

今日は木更さんが勝手に応募した司馬重工なる会社のパトロン契約?の面接に行かされた。なにやってんすか社長。

 

ウチのようなちっさい所がこんな見るからに大企業ですよー、て雰囲気がする会社と契約できるわけないでしょうに。

 

でもご令嬢が和服美人だったからいいや。眼福眼福。

 

待ち時間はゲームしてたので暇しなかったから暇しなかったけど。

ギャルゲーはこっそりやらないとね。

 

クソ人数がいたから数時間は待たされたけど面接自体は数分で終わって拍子抜けだった。

 

 

会社に戻ると延珠ちゃんに謝られた。まるで意味がわからんぞ。

 

なんでも俺を誤解してたらしい。そうなの?

全然わからないけど、とにかくパートナーと認めてくれたなら大歓喜だ、やったー。

 

 

 

喜んでると社長の携帯に電話がきた。

 

 

俺に用があると言うので代わると

 

『あ、里見ちゃ〜ん?アンタ採用や〜』

 

ということらしい。まるで意味がわからんぞ。

 

詳しく聞くと、俺が電話しているのはあの和服美人なのだと。

 

そいで俺が契約すると戦闘に必要な武器やら道具やら装備やらを無料でくれるらしい。

 

ただそれにも条件があるらしく、俺を宣伝に利用する事と、俺が和服美人と同じ高校に通う事が条件だそうだ。

 

わーい進路決まったー( ^ω^ )

 

二つ目がイミフだったけどまあいいでしょ、武器とかに金かけたくないし。

という訳で受諾。なんで不機嫌なんすか社長。

 

正直かなりありがたい申し出だったのでテンション上がってきた↑

 

まだまだ義肢の(テンション)も冷めない俺は三人を誘って肉丼にしようとしたけど、延珠ちゃんがモジモジしながら俺の作った飯がいいとダイレクトアタック。

 

 

 

ぐっはああああああ( ^ω^ )

 

 

 

肉丼食ってる場合じゃねえ!!

 

 





ブラック・ブレットのBD&DVDについてきた神裂紫電先生書き下ろし小説に蓮太郎と延珠が仲良くなるまでの話が書いてあったらしいですが、作者は買ってないのでオリジナルにしました。

それと蓮太郎が13歳で民警になっとります。年齢制限はどうなの、というコメントはごもっともですが目を瞑って下さい。

次回で原作前は終わりにしようと思ってます。


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原作前5

待たせたな(大塚明夫V)

次話で原作前は終わると言ったな?アレは嘘だ。
や、すいません。字数が万超えするとかえって読みづらいかなという作者の余計なお世話です。


違うんだ、更新が遅くなったのも執筆が遅いのも全部いつのまにか満足民になってた妹にガチデッキで迎え撃ったのにイワークされたのがいけないんだ。

なんなの...。お前去年までクリボー眺めて満足してたくせに何でクリボーがクリフォートになってるの...。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー初めは可笑しいとは思わなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両親の顔はもう覚えていない。

 

ただ、ふと同じ境遇(・・・・)の女の子に名前を聞かれた時、そういえばと思い出した自分の名前だけを知っていた。

 

自分の世界はこの見渡す限りの瓦礫の山だった。

これ以外の光景を知らなかった。

 

 

初めはこの生活を不思議には感じなかった。

 

 

家なんてモノはある程度雨を凌げればそう呼べるモノだと思っていたし、ゴミの山から服を拾いクローゼットにした。

 

一日食事が無いなんて日常茶飯事だった。

たまに年上の子が何故かボロボロになりながら持ってくるご馳走を目を輝かせて頬張った。

 

傷の事を聞いてみても、少し転んだだけだと言われる。それを真に受け、自分ならそんなおっちょこちょいな事はしない、と胸を張って言っていた。

 

年上の子たちはそんな自分に苦笑しながら頭を撫でるだけだった。

 

 

 

 

ーーある時から、年上の子の一人の姿が消えた。

 

 

そういえばあの子はどうしたのか、と聞いてみても彼女達は泣きそうに笑いながら、本当のお家に帰っただけだと言った。もうここに遊びには来れないのだと。

 

最初はまた会いたいと駄々をこねていたが、暫くしていい考えを思いついた。

 

 

 

自分で捜しに行けばいいのだと、遠くに見えるビル群を眺めながらーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜中に一人は怖かったので、早朝に皆で寝ていた廃バスの寝床に書き置きを残し延珠は意気揚々と出発した。

 

いつも、あの大きな建物が沢山ある場所には行ってはいけないと口を酸っぱくして聞かされていたが、延珠は友達を捜しに行くだけなのだ。怒られる事は無いに決まっている。

 

友達を捜しに行くだけだが、実際はやはり好奇心を隠せなかった。

 

あの街との距離が離れすぎていていつもは唯の背景としてしか映らなかった。

それに迫力だけを比べるなら、街の建物より遥か上空の雲の上まで届き荘厳と佇むモノリスの方がずっと圧倒される。

 

ただ、やはり黒一色で塗りたくられた巨大な板より、毎夜毎夜に違う光で煌びやかに彩られるビル群に興味を抱くのは仕方のない事だった。

 

 

 

 

 

そうして街が近づくにつれ、延珠の瞳は驚愕に染まっていった。

 

 

 

 

 

 

その目に映る全てが延珠には新しかった。

 

 

車は外周区にもかろうじて原形を留めた物があるが、ここまでつややかな体で疾走するなんて知らなかった。

ガラス張りの店頭に並ぶ板の表面に人が映り動いている。「箱の中に人がっ!」だった。

道ゆく人々の服装は自分たちとは違い見栄えも美しく、どこも破れていないどころか汚れすら少しも付いていなかった。

 

 

ちらちらとこちらを見て過ぎ去っていく人の視線も延珠は気にならなかった。いや、街に圧倒され気づかなかった(・・・・・・・)

延珠を見たあと露骨に嫌な顔をする者や、舌打ちの音にさえ。

 

 

 

ーー初めて訪れる街に興奮し延珠の瞳は赤く染まっていた。

 

 

 

自分がどういう存在かを「人間」に知られてしまった事の重大さに気づかず、延珠は今日の楽しい冒険(哀しい現実)に心を踊らせ歩き始めた。

 

 

 

ーーそんな彼女を見つめていた通行人の一人がポケットから携帯を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街を探索しながら、延珠は探し人の事を聞いて回った。

年齢や外見の特徴などを話しながら、目にはいる人に手当たり次第に聞いて行った。

 

ほとんどの人に無視されていたが、それでも話を聞いてくれる人は僅かだがいた。ただ、そんな人達も住んでいる家を尋ねられて答えると途端に立ち去って行ってしまったが。

 

 

 

 

あとから思えば、即座に通報されないだけマシだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き込みをし続け、そろそろ日も暮れようかという頃になってそれ(・・)は唐突に訪れた。

 

 

 

警察官、というらしい人間が二人やってきて、延珠を車に乗せたのだ。

外周区にも錆びつきひっくり返ったモノならいくらでもあったが、実際に動く車に乗るのはこれが初めてだった。

 

初めての経験に興奮する延珠の眼を見て、二人がやっぱりか、という表情を浮かべていたのにも延珠は気づかなかった。

 

 

暫くすると目的地に着いたようで、その建物の一室に通された。

 

 

そこで延珠は二人の話を聞き歓喜した。

なんとこの二人はあの子の事を知っているというのだ。

 

延珠はあの子とまた会える喜びに小躍りしながら二人に尋ねた。

 

 

 

 

ーー■■ちゃんは今、どこに居るのだ?

 

 

尋ねて、しまった。

その質問を聞いた二人が僅かにたじろいだ。二人は顔を顰めながらも延珠に全てを話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーあの時初めて疑問に思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IISOのイニシエーター達に与えられる個室の中で延珠は考える。

 

一体自分は、自分(呪われた子供)たちは何なのか。

 

あの後魂が抜けた様に茫然としていた延珠は、警察官が呼んだらしいここ(IISO)の職員に引き取られ保護された。

 

それは世間での呪われた子供達の扱いを考えれば、夜中に延珠を一人で外周区に帰らせるよりは余程良心的な対応だった。

 

奪われた世代でありながら延珠を相手に警察官としての職務を全うした彼等程の人格者はそうは居ないだろう。

 

いくら延珠が超人的な戦闘能力を有していようと、まだ7歳の無垢な少女だ。

呪われた子供達という事実を抜きにしても、10年前とは見違えるほどに治安の悪化したこの時代にそんなことをしては、どんな事が起きるかは想像に難くない。

 

『呪われた子供達』

 

それが延珠達に付けられた名前だ。

 

怪物の血を引く怪物。周囲の「人間」からしてみれば、延珠は体のいい復讐の対象だった。

 

 

あの後、結局最期まで探し人が見つかる事はなかった。

 

もう会うことも無い。

 

 

代わりにこの世界(時代)の実情を知った。

 

思い返せば街を歩く度に感じていた怒りや侮蔑を含む視線の意味も、自分の立ち位置も、延珠は知った。

 

街では自分と同年齢程度の子供はいくらでも見かけたが、今ではそれさえも自分とは全く違う生き物に見えて仕方なかった。

 

誰が自分と同じで、自分が誰と違うのかがわからない。

 

必然的に延珠は疑心暗鬼に陥った。

 

囚人のような生活を送るここの住人(同類)でさえ、いつか自分を蔑むのではないか、いや、もしかしたら呪われた子供達は自分だけで他は全員人間なのでは、そして自分の知らない所で自分を嘲笑っているのではないかーー

 

いつしか延珠の頭にはそんな考えしか浮かばなくなっていた。

 

 

もう仲間とも長く会っていない。

 

ここでは毎日三回食事が出る。外周区にいた頃は考えられなかった贅沢だ。量もあの頃の食事よりはるかに多いし、味付けもしっかりしている。

 

 

ーーだが、なぜだろう。

腹を空かせて、ただでさえ少ない食べ物を皆で分け合っていたあの頃がどうしようもなく輝かしく思えて堪らないのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寂しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IISOに保護されて数週間、延珠はただ日々を消化した。

同じことを繰り返すだけの変化のない毎日。

 

そんな時、延珠はIISOスタッフに呼び出された。

 

民警になって、とあるプロモーターのパートナー、つまりイニシエーターとしてペアを組めというのだ。

 

これは提案ではなくただの確認だった。もとよりイニシエーターに拒否権などない。

 

ーーどうせそいつも「敵」に決まってる。

 

まだ7歳の幼い少女が受けた傷は深い。いきなり他人を、人間を信じる事などできる筈もなかった。

 

 

 

 

そうして藍原延珠は里見蓮太郎のペアになった。

 

 

 

 

 

 

 

IISOの一室に里見蓮太郎はいた。

随分長い間待たされたのだろうか、その顔には若干の疲れの色が見られた。まあ、そんな事は延珠にはどうでもいいのだが。

 

蓮太郎の瞳が延珠を捉える。

 

意外な事に、その瞳に映る色は侮蔑ではなく、若干の戸惑いと驚きだった。

 

その事に延珠も戸惑いを覚えないでもなかったが、すぐにその思考を頭から叩き出し眼前の「敵」を強く睨みつける。

 

こいつが戸惑っているのも驚いているのも、「怪物」が人の形をしているのを初めて目の当たりにしたからだろう。

どうせすぐに自分を気味悪がって近寄らなくなるにきまっている。

 

延珠は警戒を強くした。

近寄らなくなってくれるのはむしろ好都合だが、いつこいつのガストレアへの憎悪が自分へ向けられるかわからない。

いくら仕事の立場上相棒という関係になるとはいえ、安心などーーー

 

 

「今日からキミのプロモーターになる里見蓮太郎だ、よろしくな」

 

 

ーー満面の笑みとともに差し出された手は延珠を混乱させるには十分だった。

 

目の前の人間の言っている意味がわからない。

今こいつはよろしく、と言ったのか?

それはあり得ないだろう、と延珠は思った。「よろしく」とは同族(・・)に対して言う言葉ではなかったか。

 

目を閉じて考える。

自分は怪物だ。延珠はこの短期間で一気に世界に晒されたことでその思考が無意識の内に頭に刷り込まれていた。

 

だから今のは自分の聞き間違いだろう。そう延珠は誰に向けるでもなく繰り返し目を開くとーー

 

 

「......?」

 

ーーなんで、

 

 

数秒前と全く変わらない光景に延珠は更に混乱した。

まるでお前のは全ていらぬ心配だとばかりに晴れやかな笑みと変わらず差し出されている掌。

 

間違いなく、この「よろしく」は仲間へのそれだった。

 

元から人を疑う事をしてこなかった延珠は、少なくともこの人間は他とは違うのではないかと思った。

 

 

 

 

 

 

 

バシンッ!

 

 

 

 

 

 

「......!」

 

「.....馴れ馴れしくするな」

 

 

ーーーだが、そんな事は簡単に初対面の「人間」を信じられる理由になんてなりはしない。

 

 

自分が疑う事に長けていないのならば、信じるなんて事を初めからせず、こいつのボロが出るのを待つだけだ。

 

 

「.....」

 

 

だから、何故蓮太郎があそこまで悲しい顔をするのか延珠には分からなかった。

 

 

そんなこと、考えたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、あれ?俺嫌われてないよね?ちょっと茶目っ気出しちゃっただけだよね?』

 

 

延珠はもうちょっと疑った方がいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペアを組んで一日目の夜、延珠は蓮太郎のアパートにいた。

 

オフィスで寝泊まりしてもよかったのだが、通常、ペアはイニシエーターかプロモーターのどちらかの学校などの場合を除き、ほとんど常に行動を共にする。

 

延珠もその例にもれず、蓮太郎と寝食を共に過ごすこととなった。

 

 

の、だが。

 

 

「悪い、生憎金がなくてな。こんな飯しか出せないけどまあ、その、なんだ。一応毎食欠かさず作るつもりだ」

 

 

延珠の目の前に広がっているのは山盛りのモヤシ炒めと小皿に分けられたモヤシとモヤシの味噌汁とモヤシ(生)だった。

 

ーーなんだ、コレは。

 

延珠は未だかつてここまで一つの食材を主張してくるメニューに出会った事がなかった。

 

延珠はもう帰りたくなった。

 

昼間の会社での事といい蓮太郎といい、民警は皆こんな生活を送っているのか。

 

会社とか言うわりに総社員三人だわ主食がモヤシだわでロクな事がない。

 

だが、それにしても...

 

 

「もぐもぐしゃきしゃき」

 

 

これだ、この目の前で無表情にかなりのスピードでモヤシを食べるこいつだ。というかこいつ無表情のくせして箸が異常に早い。

 

 

延珠はこの一日でますますこの男(蓮太郎)の事が解らなくなっていた。

 

まず蓮太郎の延珠を見る目である。

延珠は呪われた子供達だ。

そんな存在とペアを組み仕事をする、それがどういう事か。

それは蓮太郎も分かっているはずだ。それを承知の上でないと民警にはなれないのだから。

 

しかし、蓮太郎からはあからさまな嫌悪感も突き刺すような憎悪の視線も感じない。

 

それどころか、まるでもっと仲良くなりたいと言わんばかりの雰囲気だった。

 

いくら延珠が民警初日とはいえ、今日は会社に依頼が来ないからといって勤務時間中に延珠の生活用品を買い揃えに行った程だ。もちろん延珠も連れて行かれた。

 

今着ている服もその時に買った新品だ。

ちなみに蓮太郎が選んだ物だ。

一応蓮太郎の為に言っておくと、延珠がどれでもいいと言ったので蓮太郎が店員と一緒にあれこれ悩んでいた。

 

ここまで深く「人間」と関わった経験の無い延珠には、蓮太郎の友好的な態度にどう接すればいいのかがわからなかった。

 

だが、いくら友好的だからと言ってもまだ一日目だ。いつ本性を表すかわからない。

もう勝手に信じて裏切られるのはごめんだ。

 

 

「...食わないのか?」

 

 

蓮太郎を信じる事はできないが、せっかく出された夕食だ。

仮に毒を盛られたとしても自分は死なない、だって自分は怪物だから。

そんな自虐的な思考をしながら、延珠は夕食に手をつける事にした。

 

 

 

 

「ーーー!」

 

 

 

「...どうだ?」

 

 

美味しい。

施設の食事の方がはるかにバリエーションに富んでいたはずなのに。

こんな一種類だけで作られた夕食を食べて、何故か延珠は外周区での楽しかった日々を思い出した。

 

 

「......普通」

 

「......そうか...もういいのか?」

 

 

だけど素直にそう言うのは何故か恥ずかしくて、まずいと言うのも可哀想と思ったので当たり障りのない返事をして延珠は食事を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

深夜になっても延珠はなかなか寝付けなかった。

原因は分かりきっている。急な環境の変化と、なによりも蓮太郎のせいである。

 

延珠が寝床にしているのは蓮太郎が昼に買った羽毛布団だ。

献立を見れば嫌でも分かる少ない貯金を切り詰めて延珠に与えて、自分はタオルケットを掛けて畳の上にあどけない顔で寝ている。

 

自分の生活がーー呪われた子供達にーー圧迫されているのに、本人は嫌な顔一つせず過ごしている。

 

蓮太郎といると、ふとした時に気を抜きそうになってしまう。

 

さっきの事もそうだ。見るに耐えない貧相な料理は施設での栄養を摂取するだけのそれとは違い、何故か懐かしく、心が満たされていくような気がした。

 

以前友達から聞いたことがあった。

 

『お料理ってね、食べてもらう人を思いやって、おいしいって言って貰いたいってあいじょう込めて作るとおいしくなるんだって』

 

 

延珠はそこまで考えた所で自分を嗤った。

 

思いやる?愛情?まさか。

あり得ない。自分は呪われている怪物だ、同族はともかく人間に受け入れられる事はない。

 

こいつがこんな気楽でいるのも今のうちだ。どうせ暫くしたら自分を邪魔者として見るようになる。

 

 

ーーどうせお前もわらわを虐める

 

 

ああでも、自分が彼等を受け入れられたら。

自分を彼等が受け入れてくれたら。

 

それはなんてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日目。昨日は会社に顔見せに行っただけなので、実質は今日からが延珠の正式な勤務が始まる日だ。

 

延珠が起きた7時過ぎの時には既に蓮太郎は起床していた。

延珠が起きるのを見計らったかのようにちょうど蓮太郎が作り終えた朝食を食べた後は、「鍛練してくる」とだけ延珠に告げ、アパートの階段を降りて行った。

 

帰ってきた蓮太郎が「そろそろ会社行くか」と言ったのは正午を少し過ぎた時だった。実に適当である。

延珠は厳密にはまだ社会人ではないのでよく分からないが、それでも随分と遅い出勤だということは理解できた。

 

自分が外周区にいた頃だって、廃墟の時計で確認した時は10時までには起きていたというのに、会社というのは何時行ってもいいものなのだろうか、と延珠は思いながら蓮太郎の後についていった。

 

 

 

「ううぅ....お腹減ったぁ里見くんなにか作って頂戴...」

 

 

出勤早々このザマである。

 

 

 

「またか木更...」

 

「仕方ないじゃない、依頼が来なきゃお金が入らないんだからぁ...この前なんか私たちが子供ってだけでお客様帰っちゃったし」

 

 

そう、この会社は依頼がとにかく来ない。

当然だ、最年長が13歳なのだから信用できる筈もない。出勤が遅いのも納得だった。

社長の天童木更もそれを咎める気は無いようで、もはや部下に食糧をたかる有様だ。それでいいのか社長。

 

 

「それこそ仕方ないんじゃないか?家出するにしても流石に早すぎたな」

 

「嫌よ、あれ以上あんな家にいるのなんて。五分で肺が腐るわ、あの家は腐海よ」

 

「紫垣さんならお金貸してくれるとは思うぞ」

 

「.........嫌よ、人のお金で買った食べ物で腹を満たすなんて」

 

「だいぶ間があったな」

 

「うぅ...」

 

「一応ここの冷蔵庫に食材は買い置きしてたんだろ?」

 

「ええ、でもその」

 

「作れないのか」

 

「うぅぅ〜...」

 

 

完全によくできた兄とアホな妹の図だった。どうやら延珠の上司はポンコツらしい。

 

 

「...よし、作れそうだな。木更、肉じゃが作るけど「食べるっ!!」ん、じゃあ食べといてくれ」

 

「うんっ!里見くんありがとう!って二人は食べないの?」

 

「俺らはもう食べてきたし、先生のとこに延珠と行きたいからな。それとも延珠、食べるか?」

 

 

突然名前を呼ばれて身構えたが、自分に話が振られたのだと理解した。

 

 

「...いらない」

 

「...そうか。じゃあ木更、少し出る」

 

「いってらっしゃい、ちゃんと延珠ちゃんの面倒みるのよ.............ってこれじゃあ幼稚園に子供を送ってからお仕事に行く旦那様を見送る奥さんじゃない......悪くない、むしろいい、いえ最高ね...」

 

 

この13歳の社長も延珠を煙たがる事はなかった。むしろ積極的に話しかけてくるほどだ。

今は頬を染めて何やらボソボソ呟いていてそれどころではないようだが。

なんとなく木更の独り言のシチュエーションがリアル過ぎる気がした。

 

そうして延珠と蓮太郎は「先生」という人の元へ向かう事にした。

 

 

 





木更さんってどこに住んでんすかね。

そんな事より蓮太郎の義眼が空気すぎてヤバいんですよね
今回書いてて途中で「そういえば義眼あったな」と。

まぁそのうち出しますよ(目逸らし


延珠たそと警察官の署でのお話はご想像にお任せします。
ちなみに警察官は多田島のおっちゃんだったとか。

紫垣さん:原作七巻にて登場。いい人っぽい悪い人。

元々一回に纏める予定だったのを二分割したので次話は早く投稿できる!

といいな。



ところで、今季アニメは面白いの多いですね。
ワンパンマンの作画には感激しました。戦闘シーンかっこよかったです(粉ミカン
できればあのまま逝って欲しいですね。
ジェノスはカッコいいです、ウチの蓮太郎君とはおおちg(焼却

後はやっぱおそ松さんですかね←


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原作前6


ハイどーも。
「か」と打つと次候補の先頭が「彼女いない」の作者です。イジメか。
ご主人様に喧嘩売ってるタブレットを叩き割った所で行ってみよー。

はっじまっるよー。



 

 

 

 

 

勾田公立大学附属大学病院。

 

そこが「先生」という人物の居場所らしい。

会社を出て電車を乗り継ぎ、数分歩いた場所に勾田大学の敷地はあった。

 

かなりの広大さを誇る勾田大学の隣に病院は建っている。

大学も病院も初めて見る延珠はつい視線をそこかしこに移してしまった。

延珠に歩くペースを合わせ、少し前を進む蓮太郎がそんな延珠を振り返って微笑んでいたので、つい強く睨みつけてしまった。

 

自動ドアを開くと途端に綺麗なロビーに入った。

受付の看護師とは顔見知りのようで、蓮太郎は少し話してから奥へと進んでいく。

 

進んで行く内にだんだんと人気がなくなり、ついには無人となった廊下の突き当たりに地面を四角く切り取った穴があった。

 

「ここだ」

 

よく見るとそれはかなり急な造りの階段だった。

底が暗く見えないその階段を降りていくと、途轍も無く禍々しい装飾が施された扉が現れた。

 

「......」

 

ーーこ、ここに入るのか?

 

7歳の延珠にはお化け屋敷じみたこの部屋に入るのは少々、いやかなり辛いものがあったが蓮太郎はそんな事などお構いなしに扉を開いて中に入っていく。延珠は慌てて後についていった。

 

 

中に入ると人が死んでいた。

 

「ひっ...」

 

初めて人の死体をみた延珠が悲鳴を上げてしまったのも無理はないだろう。むしろ気絶しなかったのを褒めるべき事である。

 

「ほら食え先生」

 

「むぐぐごご」

 

「....!?」

 

蓮太郎に聞かれなくてよかったと安堵する延珠をよそに、本人はあろうことか死体の口を開き強引に菓子を詰め込んでいた。

 

 

というか今死体が喋った。

 

 

あのどうみてももう手遅れな感じの顔色の悪さで生きているとでもいうのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

数分すると本当に死体がゾンビのような足取りで起き上がってきた。

 

「ぅうん....あれ、蓮太郎君じゃないか。女性の寝込みを襲うなんてそんな子に育てた覚えはないぞ?」

 

「餓死しかけてた貴女にたまごボーロを恵んでやった俺を労ってくれてもいいんじゃないか。菫先生」

 

蓮太郎はそう言うと、顔色が悪く未だに足取りがおぼつかない菫をおもむろに抱き上げた。所謂お姫様抱っこである。

 

「ひゃあっ...」

 

いきなり抱えられ慌てる菫と無表情の蓮太郎。

それを視界に入れながら延珠は驚愕した。

13歳の少年が抱えるには明らかに身長的に無理があるというのに、蓮太郎は眉一つ動かさず平然としている。

 

「や、やめないか...!これくらい一人で歩ける!」

 

「足震えてるじゃないか、産まれたての子鹿みたいだぞ。しっかり食べろ、金があるんだから。今日はたまごボーロしかないけど、今度差し入れでもするよ」

 

「あ、悪いね。でも肉じゃがにじゃがいもを入れるのはやめてくれよ。じゃがいもは嫌いだーーーじゃなくて、コレをやめろと言っているのに!....ひ、姫抱きはないだろう......!」

 

「先生が言ってるのは味噌汁から味噌を抜けと言ってるくらい不条理だ」

 

それはただのお湯である。

 

そんな会話を続けながらも蓮太郎はすたすたと椅子まで近づくと菫を優しく降ろした。

 

数歩とはいえ自分の体重以上の人間を抱えて歩いた後とは思えないほど涼しい顔をしている。

 

「....こほん。ま、まあいい。そっちの子は?攫ってきたのかい?」

 

菫の視線が延珠へ向く。さっきまでのやり取りを見ていた延珠は困惑するしかなかった。

病院内で餓死しかける死人のような顔色の医者との会話術なんて持ち合わせていないのである。

 

「俺のイニシエーター(相棒)だ。名前は藍原延珠。延珠、この人が室戸菫先生だ」

 

菫のからかいを見事にスルーして質問にだけ簡潔に答える蓮太郎。スルーされた本人は蓮太郎の後ろでいじけていた。

 

「へーんだ、なんだいなんだい。少しくらい反応してくれてもいいじゃないか、全くもってつまんないね君は。っと、はじめまして延珠ちゃん。私は室戸菫。蓮太郎君の教師だ。あ、勿論『奪われた世代』だよ」

 

「......ふん」

 

「あらら、嫌われたものだね」

 

「そんな言い方するからだろう」

 

自己紹介にさえも息をするように皮肉を交えてくる菫にムッとしたので延珠は無視をする事にした。

 

ただそれは逆にいえばムッとする「だけ」だった。

そこにはへばりつくような憎悪も悪意も無かった。事実、根っからの皮肉屋な菫は今の会話に皮肉を入れる事ができたから皮肉を言っただけだ。

 

なぜ皮肉を言うのか、と菫に聞けばこう答えるだろう。

 

『そんなの、そこに会話があるからさ』と。

 

つまり菫は口を開けば皮肉が自動で出るのだ。全自動皮肉マシーン、それが室戸菫なのだ。

 

「...ところでだ、蓮太郎君。その、丁度いいタイミングで来てくれたね」

 

「丁度いい?何がだ?」

 

「.........」

 

「先生?」

 

急に歯切れが悪くなり俯く菫。その顔に浮かぶのは悔恨と自嘲だった。

 

「...民警は、戦う仕事だね」

 

「...?そうだな」

 

「命懸けでガストレア達と戦う仕事だね」

 

「そうだな」

 

「...もうそろそろいいだろう。君に本来の力(・・・・)を与えよう」

 

 

「...まさか」

 

 

 

「ーーーーああ。君のその義肢(・・)に」

 

いったい二人が何を話しているのか延珠には分からなかった。しかしその表情からは緊張と覚悟が見て取れる。

 

菫はこの話を切り出すのに相当な勇気を要したのだろう。

兎の因子(モデル・ラビット)を宿す延珠には彼女の動悸が加速していく音さえ聞こえてきた。

 

「ーーーそう、か」

 

蓮太郎もいきなりの事に驚愕を隠せないでいる。

「きみのぎし」と言うからには蓮太郎の持つ「ぎし」とやらに関する話なのだろうが、7歳の延珠には「義肢」の意味が分からなかった。

 

だから、次に起こった出来事に延珠は絶句した。

 

「......ふぅ」

 

「.....!?」

 

ーーな、なな何をしているのだお主は!?

 

 

突然蓮太郎が上着と靴を脱ぎ捨て、上半身と足首を露わにした。

いきなり何をやっているんだと叫びそうになったが、本当に延珠が驚愕する事になるのはそこではなかった。

 

蓮太郎の右手足の皮膚にコバルトブルーの回路模様(サーキット)が浮かび上がったかと思うと、まるでそこから熱が伝わり(・・・・・・・・・)焼き切れて行くように(・・・・・・・・・・)皮膚が剥がれ落ちて行く(・・・・・・・・・・・)

 

 

「ーーーーえ」

 

 

人口皮膚に覆われていたソレは、光を吸い込む漆黒の鋼。

 

バラニウムの手足だった。

 

 

 

「...延珠ちゃんに言ってなかったのか彼は。教えてあげるよ延珠ちゃん。

私は彼の教師であると同時に担当医でもある。あの右手足と、普段は分からないが片眼も彼自前の物ではない。

 

ーーー彼はね、七年前に両親をガストレアに殺され自身の半身も失ったのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼はね、七年前に両親を殺され自身の半身も失ったのさ」

 

 

菫の言葉を聞いた延珠が愕然としている。

 

この表情を見るだけで菫は蓮太郎が延珠に本当に何も教えていなかったという事が理解できた。

そして、蓮太郎が本当に「呪われた子供達」に対して負の感情を抱いていないのだという事も。

 

二人はペアを組んでそれ程時間が経っている訳ではないのだろう。

延珠は常にピリピリとした雰囲気を纏っており、視界に入る人間全てを疑い、警戒している。

 

取りつく島もない程の警戒っぷりだが、所詮はまだ7歳の少女だ。蓮太郎が自身の境遇を話して義肢を見せつけてやれば、罪悪感は嫌でも生まれるだろう。そしてそこにつけ込むのは実に容易だったはずだ。

 

しかしそれをせず延珠の態度にめげずに彼女に接しているのは、延珠との絆を深めようと蓮太郎の方から歩み寄っている証拠だ。

 

もはや呪われた子供達=ガストレアと認知されつつある現在の「一般人」共からすれば、延珠を敵として彼女を仇の代わりとしてサンドバッグにしてもおかしくないというのに、蓮太郎の延珠を見る目は慈愛に満ちていた。

 

 

蓮太郎の中でガストレアと呪われた子供達は明確に隔たれていた。

 

 

菫もガストレアが憎いという気持ちは確かにある。だが、菫はガストレアと呪われた子供達が生物学的にどこがどう違うかが正確に理解できていたからどうしてもガストレアと彼女達を同一視できなかった。だから呪われた子供達を初めから「憎みにくかった」だけなのだ。

 

しかし蓮太郎はそんな前提がどうのという話ではなく、心から彼女達を人間として認めている。

 

彼は他の人間とそこが決定的に違う。

13歳、中学一年生に相当する年齢の少年にしてはかなり大人びていてどんな時でも自己を貫き通し冷静に判断を下せる。

 

七年前、菫に()せたあの意思の強さ。

 

 

ーー彼ならばあの力を正しく使える。

 

 

「神医」室戸菫の「新人類創造計画」はまだ完成していない。

 

 

ーー復讐に取り憑かれていた自分の創り出してしまったあの忌々しい力を。

 

 

今の蓮太郎が使っているのはほぼ生活に必要な運動を行える機能のみのただの義肢だ。

 

いわばまだ真っ白な状態。

 

それを、これから自分が穢してしまうのか。

復讐のためだけに創り上げたあの力で。

 

本人の前でアレを与えると言った以上、もう取り下げる事はできない。

取り下げるつもりもない。なぜなら菫は蓮太郎ならあの力を使いこなせると信じている。

 

だが、

 

 

「.......っ」

 

 

 

意思に反して、菫の体は動いてくれなかった。

 

 

(なぜ、今更...!)

 

もう決めた事だというのに、動けない。

蓮太郎を信じていない訳では断じてない。だが、アレを自分以外の人間に預けるという事が、それ程までに菫に重くのしかかっていた。

 

 

 

 

「ーーやらないのか、先生?」

 

 

 

そんな不安を、そんな葛藤を消し飛ばす様に、自信に溢れた声が菫の耳朶に響いた。

 

「...すまなかった、蓮太郎君。私は、後悔しているんだ」

 

気づけば菫の口は動いていた。

 

もう黙っていても仕方がないと、決意を曲げる様で情けない事だが、菫は蓮太郎に打ち明けた上で力を手に入れるか判断してもらう事にした。

 

「...何に?」

 

「今から君に与えようとしている力を私が生み出してしまった事にだ」

 

「なぜ?」

 

「私の醜い心をありったけ詰め込んだんだ。

それを造った当時の私は復讐のためだけに、どうガストレアを効率よく、無惨に、確殺できるかを突き詰めた。恋人を殺された私は一生分涙を流してガストレアを憎み絶望したからね。

...まぁ、その時憎み尽くしたおかげで、もう呪われた子供達を理不尽に恨む事が無くなったのが幸いかな」

 

視界の隅でびくり、と延珠の肩が震えた。

彼女の思考には自分はガストレアだという考え方がこびりついているのだろう。

 

「君に与えようと、いや押し付けようとしているのはそんな恐ろしい物なんだ。

 

それでもいいのかい?」

 

 

 

「ああ、構わない」

 

 

 

「なーーー」

 

 

即答だった。

思考時間0秒の反射。打てば響く様に返された蓮太郎の答えに菫は一瞬言葉を失う。

 

「...な、なぜそんなことが言えるんだ!君も初めて会った時の私を知っているだろう!

あれが私の本性だ!私は今から君を自分の復讐のために利用しようとしているんだぞ!?

君を戦わせて自分は此処に篭るだけだ!」

 

菫は蓮太郎に自分を罰して欲しかった。

四賢人の生命の尊重を破り、自らの復讐のためにまだ幼い少年の未来を奪った。

彼女は他の何であるよりも先ず一人の医者でなければならなかったのに。

 

蓮太郎の即答で余りに呆気なく自分が赦された気がして、そして何よりそれに安堵してしまった自分にどうしようもなく腹が立って菫は叫んだ。

 

「...先生」

 

そんな自分に呆れる様な、そんな自分を優しくあやす様に蓮太郎は菫に話しかける。

 

「あなたがそれを後悔してようが、その力がどんな物だろうが、俺は先生の事を醜いとは決して思わない」

 

「...嘘だ」

 

 

「嘘じゃない。だって

 

ーーーーー俺を利用する事が目的だったとしても、俺は貴女に(・・・)命を救われた。俺がここにいるのは先生に会えたからだ」

 

 

そして気づく。蓮太郎の絶対的な自信。

蓮太郎のあの声音に含まれていたのは自信ではなく信頼だったのだ。

(命の恩人)への全幅の信頼。

 

 

 

「貴女がくれる力なら、他の誰が何と言おうと俺は安心して命を預けられる

 

 

 

ーーー俺は信じてる。先生がくれたこの腕は、きっと誰かを救うための物だから」

 

 

そうして生意気に、少し面倒くさそうに告げる。

 

「だからやってくれ先生。もう迷わないでくれよ?」

 

彼にとって今の菫の話は本当に面倒以外の何物でもないのだ。

自分を救ってくれたのに何故謝るのかが本当に解らない、という顔で菫を見ている。

 

こんな自分を、命の恩人と言って全幅の信頼を置いてくれる。

 

 

「ーーーそう、か。そうか...」

 

 

全く、今までずっと悩んできた自分が馬鹿みたいだ。

まさか本人が恐怖しないどころか最初から気にしていなかったなんて。

全て杞憂だったのだ。蓮太郎が離れてしまうのではという恐怖も、自分を恨んでいるかもしれないという不安も。

蓮太郎が自分の醜い部分を知ってもなお信頼してくれるという事実がたまらなく嬉しくて、やっと肩の荷が下りたようで、菫の目には涙が浮かんでいた。

 

「それにさ」

 

「?」

 

 

 

「先生は一生分悲しんで、哀しんで、憎んで、絶望したんだろうけどさ。まだ喜んで、楽しんで、愛せて、希望を持てるじゃないか。

あまり悲観する事ないと思うぞ」

 

「...!?〜〜!!」

 

そこにこの不意打ちだ。そんなこと、考えた事もなかった。

この生意気な教え子は間違いなく女泣かせになるだろうなと思いながら、菫は眦に溜まる涙を払いながら微笑んだ。

 

 

 

 

「まったく、敵わないな......わかった。それじゃあ始めようか」

 

「ああ、頼む」

 

 

 

 

涙でぼやけた視界は、なぜかいつもより輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にくどーん、お待ちー」

 

「......」

 

「来たかーーーーなんだ、これは」

 

「あいやー、雨の日スペシャル肉丼ー」

 

病院の帰り、ボロアパート近所の中華料理屋。

今日はここで蓮太郎が「ふんぱつ」という行為をする事で夕飯が食べられるらしい。

 

今までの人生で初めて見る巨大な肉の山に驚愕すると共に思わず頬が緩みそうになるが、奇跡的に延珠は我慢に成功した。

 

横目で蓮太郎を見やる。

どずん、と轟音を響かせテーブルに置かれたどんぶりに珍しく頬を引きつらせていた。

 

こうしているとただの少年にしか見えないが、延珠は知ってしまった。

この少年が途轍もなく過酷な人生を送っているという事を。

 

そして、もしかしたら自分が信じる事ができるかもしれない人間だと言う事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院を出て帰る途中、延珠の頭は未だに少し混乱していた。

 

今日の事でますます蓮太郎の事が分からなくなった。

ガストレアに両親を殺されて、自分の体も喰われた。

 

その話を聞いて延珠は蓮太郎への警戒心を高めたが、それでも蓮太郎の自分()を見る目が優しいものにしか見えなかった。

もう不可解を通り越して不気味でさえあった。

 

家族を殺されても何も思わない程に薄情な人間なのか。

ーーそれでは自らの半身を喰われたのに恨まない理由にはならない。

 

誰が死のうと自分がどうなろうとどうでもいい程に絶望しているのか。

ーー違う。蓮太郎は社長や菫と話す時も、自分と接する時でさえ表情が読み取りづらいが楽しそうにしている。本当に全てに絶望している者はそんな顔はしない。

 

「...なぁ」

 

「なんだ?」

 

延珠は自分が隙を見せるリスクよりも蓮太郎に探りを入れる事にした。

 

「...その腕」

 

「ん、コレがどうかしたか?」

 

「何でなくなったのだ」

 

「あぁ...ガストレアに喰われた」

 

「っ.....じゃあ、家族は」

 

「同じだ」

 

やはり、菫の言っていた事は本当だった。

ではなぜ蓮太郎は自分を前にして何事もないのか、普通なら激昂し殺していてもおかしくはないはずだ。

 

「......なぜ、」

 

「?」

 

「わらわはお主の仇と同じ化物だ。嫌いじゃないのか?痛くしてやりたくはないのか?」

 

そこがずっと不思議だった。なぜ自分に人間と同じように接するのか、なぜ自分(ガストレア)を憎まないのか。

いくら延珠が超人的な力を持っているとはいえ、今の蓮太郎に勝てるとは思えない。

新しい義肢の力を使えば延珠を殺す事は容易なはずだ。

 

なぜ、なぜーーー

 

 

 

 

 

 

「なぜ?」

 

 

 

ーーえ?

 

 

「いや、だからなぜ俺が延珠を憎んでる前提なんだ?」

 

「いや、わらわはガストレアだから...」

 

「違うじゃないか」

 

なんだコイツは。話がまるでかみ合っていない。

そう思っているのは向こうも同じなようで、「何言ってるんだコイツは」とでもいうような顔をしていた。

 

「お前、本当に自分のことをそう思っているのか?」

 

「それ、は」

 

だって、周りは散々自分を人間と別の扱いをしてきた。

お前と人間はどうしても他の生き物なのだと、嫌という程見せつけられた。

だから自分は化物だ。

 

「周りじゃなくて。ここにはお前と俺しかいないぞ、お前の意見をどうこう言う奴はいないんだ。

お前は自分がどうありたいんだ、という話だ」

 

「わ、わらわは」

 

 

「俺は自分を人間だと思っている。半身は機械だが、それでも俺がそうありたいから」

 

「ーーーー」

 

「仮にお前がガストレアなのだとして、それが嫌なら変わればいいだろ。と言うか見た目はただの人間の女の子だ」

 

とんでもなく理不尽な持論。

だが延珠はこれが蓮太郎なのだと漠然と理解した。

「俺は俺だ」と断言する周りに振り回されない強烈な自我。

 

自分の事は自分で決める。

これが里見蓮太郎なのか。

 

「少なくとも俺は延珠を化物か人間かはともかく、『相棒』で『家族』だと思っている」

 

相棒、それは彼我の立場が対等だという事だ。

 

つまり蓮太郎は延珠をーーー

 

そこで会話は途切れ、蓮太郎も「後は自分で決めろ」とばかりに口を閉じた。

延珠は一瞬立ち止まり、蓮太郎の数歩後ろをついていった。

 

 

蓮太郎の確固たる意思の言葉は、延珠には少し眩し過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......多いな....」

 

 

流石の蓮太郎も辟易とした表情を隠せず、眼前の肉の山に小さく呟いた。

 

「...悪いな延珠、お勧めがこんな初見殺しとは知ら.........食った、のか」

 

「......」

 

少し申し訳なさそうに延珠の方を見た蓮太郎がどんぶりを見て驚愕した。

実に失礼である。美味しい物を完食して何が悪いと言うのだ。

 

お前のモヤシ三昧よりよっぽどマシだと言いたかったが情けをかけて見逃してやることにした。

延珠は優しいのである。

 

食べきれずに代金の額を聞いて無表情で硬直している蓮太郎を余所に、食べ終わった器を見つめながら延珠は不思議に思っていた。

 

 

これの方がずっと美味しかった筈なのに、蓮太郎に作ってもらった食事より物足りなく感じるのは一体なぜなのだろう、と。

 

 





今回のお話にはウンザリするような綺麗事がたっくさん詰まってるYO☆(事後報告


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原作前:了

本日二度目である。
本 日 二 度 目 で あ る 。

ハイ、たいして大事な事でもないけど二回です。

あー、とですね。読者様に御指摘頂いて気づいた事なんですけれども。
二話くらい前に延珠が年上の友達を探しに上京()したお話ですけど、アレ年代的に考えて延珠より年上の「呪われた子供達」はいないという事が発覚いたしました。説明させて頂きますと

2021:ガストレア出現
2031:原作開始

で、原作開始時の延珠の年齢が10歳。つまりガストレア出現と同年に生まれているわけですね。イニシエーター最年長つーわけだこりゃ。
超無理がありますが、そこら辺は無視して頂けないでしょうか。もしくは延珠を原作より1歳年下にするとか。

...あれ、これでいいんじゃないかな。だってそうすれば作者は楽できるし皆様は原作よりロリな延珠を楽しむ事ができる。まさにWin-Winじゃないですか!



 

「ーーーーーやっ!」

 

 

右方向から迫るガストレアの顔面に回し蹴りを叩き込む。

 

恐らくはステージⅡだろうか、獣と虫を無理やり一つにまとめた様な生物は頭蓋を砕き割られる硬質な音を延珠の耳に残し、血飛沫を撒き散らしながら吹き飛んだ。

 

「ハアアァッ!」

 

間髪容れずに跳び上がりざま後方へ方向転換、思いきり踵を下に振り抜く。

イニシエーターの超人的な膂力を遺憾なく発揮した痛烈な踵落としは後方より突進してきた蟻型ステージⅠの胴体に直撃、金属程もある硬度を誇る体表を容易く砕き、臓物ごと叩き潰し対象を刹那の内に絶命させる。

 

 

三日目の昼を少し回った頃、里見、藍原ペアはやっと来た依頼を受け外周区へと来ていた。

依頼内容は、外周区内でモノリスの磁場の効力の範囲内にて目撃情報があったステージⅣ(・・・・・)、及びその付近のガストレアを狩るというもの。

 

明らかに力不足だ、と延珠は思った。

ベテランの民警でさえ一ペアで挑む事は困難を極めるソレをこんな子供達が達成できるはずもなかった。

非常に高い命の危険を伴う代わりに、当然、報酬も弾むのだが、それにしても無茶苦茶だ。

 

実は民間警備会社を立ち上げる事自体はそう難しくはない。

それが災いし、天童民間警備会社は総数三人という悲惨な事態になっている。

取り敢えず任務に向かわせるだけ向かわせて、報酬を踏み倒そうという依頼人の思惑が丸見えだった。

恐らく依頼人は反イニシエーター思想の人間。

依頼が失敗、つまり延珠達を自分の手を汚さず殺す事が目的。

依頼を達成してもステージⅣが駆除できるならそれはそれで僥倖、という魂胆なのだろう。

 

蓮太郎が菫にどんな力を貰ったかは知らないが、ステージⅣに勝てるわけがない。

 

蓮太郎の指示を受ける間もなく単独行動に走った延珠は、外周区の瓦礫の山を抜け森へ入り少しした頃飛び出してきた二体のガストレアを今しがた駆除した所だ。

 

ビッ、と霞む速度で脚を払い、ブーツに付着した血糊を弾き飛ばす。

 

「いい蹴りだな」

 

「!」

 

聞こえてきた声に瞬時に振り返る。

 

5m程後方を見ると、蓮太郎が少し驚いたように此方を見ていた。

 

「若干筋力に頼って軸足がブレているが、蹴り足の引きと軌道は見事だった」

 

蓮太郎の話を聞きながら延珠は戦慄した。

 

ーー気づかなかった

 

だが、今の言い分。

もしかして蓮太郎はイニシエーターがろくに戦えないとでも思っていたのだろうか。

 

外周区に住んでいた頃はガストレアの出没なんてそう毎日起こる程ではなかったが、他地域と比べ比較的多いガストレアが何故か延珠の住んでいた三十二号モノリス(・・・・・・・・)付近の地域には侵入して来ていた。

当然、ガストレアとの交戦は幾度も経験してきた。

 

本当に蓮太郎がそう思っていたのなら、それは愚かと言わざるを得ない。

確かにイニシエーターは非常に高い身体能力を持つが、その精神は幼い少女だ。

彼女達の死因の大半は、命を懸けた戦闘に怯えてその身体能力を十分に活かせずガストレアになぶり殺しにされるというのが殆どだ。

 

だが延珠は違う。三十二号モノリス付近の子供達は他のモノリス付近の子供達とは違い戦闘経験が豊富だ。

 

蓮太郎も自分を心の中では見下していたのだろうか。

そう思うとなぜだか悲しいような、悔しいような気持ちが湧き上がってきたが、即座にこの考えは杞憂だと理解できた。

 

先のセリフも、今の蓮太郎の瞳にも、そこに込められていたのは純粋な称賛だったからだ。

施設に入ってからの生活を送り、延珠にもそれくらいは読み取れる様になっていた。

 

「ともかく、追いつけて良かった。もう先にいかないでくれよ」

 

単独行動に走った延珠を少しだけ嗜めてから、蓮太郎はすたすたと歩き出した。

 

「...ふん」

 

先の自分の行動を少し蓮太郎に申し訳なかったと思うも、延珠は素直に言い出せずつっけんどんな返事を返す。

 

「さ、行こう。外周区と言っても広い。目撃情報があった場所近辺を散策するぞ」

 

そう言う蓮太郎の背中を延珠は小走りに追いかけた。

 

 

ーーなぜ蓮太郎に見下されたと勘違いした時に悲しさを覚えたのか、それが杞憂と分かった時になぜ安堵したのか。

 

 

延珠はまだ、気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十数分程モノリスの磁場が届くギリギリを進むと、森の樹々の隙間から赤い瞳が此方を見ている事に延珠は気づいた。

 

「...ガストレア」

 

延珠が小さくつぶやく。蓮太郎も既に気づいていたようで、赤い瞳の方向を睨んでいる。

延珠が腰を落とし、突撃しようとした所で二つの赤い光は森の奥へと消えていった。

二人は顔を見合わせ一つ頷くと後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こやつ、結構速い)

 

 

少しづつ縮まる距離を感じながらも、延珠は内心臍を噛んでいた。

 

ステージⅠ、猿の姿のガストレアを追っているがなかなか追いつけない。

 

蓮太郎がついてきているかは確認していない。

実力のわからない蓮太郎に背中を預けたりなどすれば、かえって戦闘の邪魔になると判断したからだ。まあ、その前にただの少年が(・・・・・・)イニシエーターの速度に追いつける訳など無いのだが。

 

ステージⅣを相手にしたとしても、延珠程の膂力をもってすれば、真正面からでは困難を極めるものの、死角から急所を全力で突けば倒せるだろう。

 

外周区にいた頃はあまり森へ入ってなかった事もあり(勿論、危険だと知っていたからだ)、延珠はガストレアに追いつけないでいた。

 

延珠の持ち味はその爆発的な瞬発力だ。もともと持久には向いていない。

 

そろそろ一気に詰めるか、と体を沈ませ力を溜めようとしたその時。

 

 

「なッーーーーー!?」

 

 

パシッ、と乾いた音と共に地面の蔦が(・・・・・)延珠の足首の高さに張られた(・・・・・・・・・・・・・)

 

突然現れたソレを豪速で疾駆する延珠が躱せるはずもなく、足首を蔦に絡め取られた延珠は時速100kmに迫る凄まじい速度で空中へと投げ出された。

 

「く、ぁ」

 

一体、何がーーー

 

 

反転する視界の端に捉えた物を認識した時、延珠の疑問は氷解した。

 

ベースとなった動物の輪郭すら覆い尽くす程にその体表から生えている植物(・・・・・・・・・・・)

 

ーーー動植混合ガストレア

 

自身の状況と敵の正体を認識した瞬間、延珠は受身も録に取れぬまま地面に凄まじい勢いで叩きつけられた。

 

「うぁッーーーー」

 

10m程地面を転がった所で延珠の体は何かに激突し、その勢いを止めた。

 

樹にしては柔らかいその感触を不思議に思いながら顔をあげると、延珠の頭程もある大きさの瞳をぎらつかせたトカゲの顔が静かに此方を見つめていた。

 

 

「ステージ、Ⅳ....」

 

 

誘い込まれた、そう思った時には全てが遅かった。

 

「ギシィアアァ"ア"ァァアアア"ァ!!」

 

唾液を振りまきながら延珠の体など容易く5人程は入りそうな大口を開け、ガストレアの口が少女の矮躯を呑み込まんと迫る。

 

 

 

 

『今日からキミのプロモーターになる里見蓮太郎だ、よろしくな』

 

 

 

 

なぜか思い出すのは外周区での生活ではなく、彼の顔。

 

自分勝手だが、今思えば彼にはずいぶん酷く当たっていたなと考えながら延珠は迫り来る死をただ見つめていた。

 

 

自分よりも大切な者を失くす痛みを知っていたからこそ、蓮太郎はこんな自分にも根気強く接してくれた。

 

 

初めて人の作った料理を食べた。

初めて人に食事を奢って貰った。

初めて人が家族と言ってくれた。

 

ーー自分を、人間と言ってくれた。

 

もし次があるのなら、彼は自分を許してくれるだろうか。

同じように接してくれるだろうか。

 

どうせここで死ぬのなら、最後くらい人を信じてみても良かったかもしれない。

 

許されるなら、彼に今までの事を謝りたい。しかしそれももう叶わない。

 

 

 

「死にたく、ない」

 

 

願い虚しく、ステージⅣガストレアの顎が延珠の体を食いちぎろうとーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『隠禅(いんぜん)上下花迷子(しょうかはなめいし)』、撃発(バースト)ッ!」

 

 

 

 

 

 

ーーー其の一撃は鉄槌の如く。

 

 

 

 

ガストレアの脳天に放たれた踵落としは、頭部ごと地面を纏めて陥没させた。

 

轟音を響かせ跳ねる巨大な身体。

陥没した地面からは四方八方に罅が走る。

脚撃の余波ですら風を巻き起こし、樹々はしなり大地は震える。

 

チン、と何故か空から降ってきた(・・・・・・・・・・・)一つの薬莢の音が延珠を現実へと引き戻した。

 

この一撃を放った張本人は倒れたガストレアの頭部に降り立ちその背を延珠に向けている。

 

荒れ狂う闘気を立ち上らせるその少年はゆっくりと此方を振り返った。

 

 

(あーーーーーー)

 

 

 

 

「先に行くなと言っただろう。まあ、無事で何よりだ」

 

 

 

里見蓮太郎が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、嬢ちゃん大丈夫か」

 

「あんた、怪我とかないの?」

 

延珠が突如として現れた蓮太郎とその一撃に絶句していると、金髪にサングラスをかけたガラの悪そうな男と同じく金髪の少女が声をかけてきた。

 

「道中で会った同業者(民警)だ。俺達と同じ依頼を受けたらしい。お前が取りこぼしたガストレアを協力して駆除して来た所だ」

 

片桐玉樹(かたぎりたまき)だ、よろしくな」

 

弓月(ゆづき)よ」

 

初対面の人間に、思わず身構えようとすると、蓮太郎から補足が入る。

 

「....藍原延珠」

 

二人の自己紹介を聞き流しながら延珠が来た道を振り返ると、腹部を大きく陥没させて絶命しているガストレアが見えた。恐らく胴体へのたった一撃で葬られたのだろう。

先の光景を目撃した延珠には、それを誰が成したかが理解できた。

 

 

「さてーーー」

 

 

右袖を捲り上げ、肩口から指先にかけて瑠璃色の回路模様(サーキット)が奔る。

そこから人工皮膚が剥がれ落ち、漆黒の義手がその姿を現した。

よく見れば、蓮太郎の右脚は既にズボンが膝の部分から千切られており、バラニウム製の義足が露出していた。

 

ふと、蓮太郎がちらりと延珠を見やる。

 

玉樹と弓月に支えられながら、未だ微か震える足で延珠は立とうとししていた。

 

再び目前の敵へと眼差しを向けた時、その眼に宿るは冷たく燃え盛る憤怒。

 

 

「ーーーやってくれたな。さあ、死にたい奴から前に出ろ、潰してやるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

そこから先は戦闘ではなく蹂躙だった。

 

ガストレア達を一撃で吹き飛ばす剛腕になす術なく周囲のガストレア達は屠られていく。

 

延珠も、玉樹も、弓月も、誰も何も言えなかった。

ただ目の前の光景に目を奪われていた。

 

暗く、重く、しかしどこまでも透き通る漆黒は彼の心を映した故か。

その右手足は通常の銃弾ごときでは傷をつける事さえ困難なはずのガストレア達の体表をいとも容易く食い破り吹き飛ばす。

ステージⅠ、Ⅱのガストレアがあらかた片付いたか、という所で

 

「ジィイィアアアア"アヴヴァアァァ"ア"!!!」

 

轟音。

周囲のガストレアをただ一人で殲滅した蓮太郎に息をつかせる間もなく、森の木々をなぎ倒しながら新たなガストレアが姿を現した。

 

それは全長十メートルに及ぶ甲虫型のガストレアだった。

虫型のガストレアであそこまでの巨体はそうはいない。

いるとすればそれはーー

 

「チッ!ステージⅢ...まだいやがったのか...!」

 

「.....!」

 

傍の玉樹が悪い冗談だ、とでも言いたげに舌打ちした。

延珠もそれには全くの同感だった。

さっき死にかけたばかりなのだ、あの恐怖を忘れられよう筈もない。

見れば弓月も顔つきを険しくして身構えている。

正直ここから全員で離脱するのは厳しい状況だった。

だからこそ、

 

 

「まだいたか」

 

 

ふらり、と。

まるで散歩にでも出かけるかの様な口調で三人の前に出て敵と対峙するその姿を、一瞬理解しかねた。

 

「バッ...おい、いくらお前でもありゃ無理だ!」

 

玉樹が血相を変えて叫ぶ。

弓月の顔色はもう真っ青だった。

事実、ステージⅢとはいえ甲虫型のこのガストレアの甲殻の堅さは先のステージⅣのそれを凌駕するだろう。先のステージⅣを一撃で倒せたのは死角から急所を突いたからだ。

 

「■■■■■■■■!!!!」

 

もはや声にならない絶叫を轟かせながらガストレアが蓮太郎ごと三人を圧殺せんと突き進む。

 

ザリ、と地を擦る音も静かに蓮太郎が構えを取った。

身体を半身に、腰を落とし、左の掌を対象に翳し、右腕を深く鋭く引き絞る。

 

漆黒の義手がカシン、と音を立てて駆動した。

 

 

ーーーカートリッジ解放。

 

 

「■■■■■■!!!!」

 

蓮太郎とガストレア、彼我の距離が致命的なまでに消滅して行く。

猛風を逆巻かせる巨体、対し構える蓮太郎(機械化兵)

迫るガストレアの五分の一にも満たない少年の背中が、どうしてか延珠にはこれ以上なく大きく、頼もしく思えてならなかった。

そして、ガストレアが蓮太郎の拳の射程範囲に入る刹那、蓮太郎の静かな呟きと共にソレは放たれた。

 

 

 

「『焔火扇(ほむらかせん)』、三点撃(バースト)

 

 

 

パァン、という炸裂音と共に義手に内蔵されたエキストラクターがカートリッジを掴み出し排莢(イジェクト)。黄金色の空薬莢が三つ、宙を舞う。

 

「■■■■■■■!!?!?」

 

ただ殴り、穿つ。

カートリッジ三個分の爆発的な推進力を得た拳はステージⅢのガストレアを甲殻に覆われた頭部ごと粉砕し、胴体を森の奥までぶっ飛ばした。

 

「な........」

 

それは誰の漏らした声だったか。

後に残されたのは破壊し尽くされた森と静かに残心する蓮太郎のみ。

 

蓮太郎以外の三人はその光景に只々絶句していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの依頼が終わり、しばらくは何もない日々が続いている。

 

玉樹達には蓮太郎の義肢を気味悪がられるかと延珠は思ったが、「テメーは一人で倒し過ぎだぜ里見っち!」「あたし達の報酬なくなるでしょ!」と怒られただけだった。

正直に言えば、蓮太郎が自分達みたいに避けられなくて延珠は少し嬉しかった。

 

因みに報酬は延珠と同じ考えだったらしい蓮太郎が木更に依頼人の事を話すと、それはもうイイ笑顔で依頼人をオフィスの別室に連れて行き、20分後に大量の額が振り込まれた通帳を嬉々として見せてきた。木更の後ろで依頼人が顔を真っ青にして震えていたが延珠は見なかったフリをした。

世の中知らない方がいい事もあるのだ。

 

だから談話室から鯉口を切る音がしたのも知らないし、天童式抜刀術がどうのと言う技名も聞いていない。

聞いてないったら聞いてない。

 

閑話休題。

 

ーーーあの日蓮太郎に命を救われて、延珠はある決心をした。

 

そのために今日、蓮太郎が司馬重工へ行っている間に木更に相談をした。

最初は驚いていた木更だったが、事情を話すと途端に笑顔になり、快く相談に乗ってくれた。

 

 

『木更、延珠。戻ったぞ』

 

 

「......!!」

 

「ほら延珠ちゃん。まずは謝るんでしょ、今までのこと」

 

「...で、でもだな。その、心の準備が」

 

『...出かけてるのか?』

 

談話室に二人隠れてこそこそと話す。

今までの自分の蓮太郎への態度を思い出すと、延珠は顔から火が出そうだった。

 

「はいはい、今更何言ってるの。行ってきなさいっ」

 

「わぁあ...!?」

 

どん、と背中を押されて蓮太郎の前に転がり出された。

 

「なんだ、いたのか」

 

「あ、あの...そのっ」

 

「?」

 

 

ーー思えば、それはとても簡単な事だった。

ボロボロのアパートで食べた質素な食事で心が満たされたのも、中華料理店で食べた肉丼を美味しいのに物足りないと感じたのも、自分を「相棒」と呼んでくれた時嬉しかったのも。

もう延珠はとっくに蓮太郎に心を許していたのだ。

 

だから、だからまずは、

 

 

 

「い、いっ今まで、ごめんなさいっ...!」

 

 

 

少しでも素直になれるよう、頑張ってみようーーー

 

 

 

 

因みにこの後、司馬重工の令嬢から電話が来て一悶着あったり、延珠が頬を染めて躊躇いがちに「...蓮太郎のご飯が、いい」と言って彼が内心悶絶したりとあったが、それはまた別の話。

 




11/13戦闘シーンを改稿。


(´-`).。oO(せんとうびょうしゃってむつかしいんだなぁ)

え、蓮太郎の戦闘描写が雑だって?察してくれよHAHAHA。

あ、あと前書きの「藍原エンジュ幼女計画」のアンケートでも取ろうかなと考えているんですが皆様どうでしょうか!

ともあれ、感想、アドバイス等ありましたら是非。ビシッとズバッとグサッとお願いします。


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神(笑)を目指した者達
燕尾服の変態 が しょうぶ を しかけてきた!


【朗報】今期No.1ロリはルパン8話のカーラたんに決定(決定)

久野ボイスのロリとか最強でしょ。


夕暮れ時、茜色に染まり始めた住宅街の一角に一際みすぼらしいボロボロのアパートが建っている。

 

今は一部屋しか使われておらず、住人はたったの二人だ。

その内の一人が今、錆び付き、いつ崩れてもおかしくはない階段を登っていた。

 

スクールバッグを肩に掛け、制服を着ている少年、里見蓮太郎は帰宅時の幸福感に、傍目には分からない程ごく僅かに口許を緩ませ、扉を開いt「れんたろーーーー!!」

 

「ぐっ….」

 

部屋の中から飛び出してきたオレンジ色の突進が鳩尾に突き刺さり小さく苦悶の声を上げた。

 

「おかえりなさいなのだ!あのな、わらわはな、学校終わってからもちゃんといい子にして宿題して待ってたぞ!!」

 

「ん…そうか、偉いな延珠。よしよし」

 

「みゅふふ〜」

 

一瞬浮かんだ苦い顔を更に速く消して、蓮太郎は腰に抱き着く少女の頭を撫でた。

蓮太郎からのご褒美に心底幸せそうに、にへら、と笑顔を浮かべて延珠は更に頭を蓮太郎に押し付けた。

 

「でも友達と遊びに行ってても良かったんだぞ」

 

「んーん、『りょうさい』は旦那さんをちゃんと待つのだ」

 

「そうか」

 

「…むー」

 

自分の夫婦発言を微笑ましい物を見るような目で返されて若干ふてくされる延珠。ぷくー、と頬を膨らませるその姿はどこかハムスターを連想させた。そんな延珠を見て、蓮太郎はもう一度延珠の頭を撫でた。

 

「えへへ〜」

 

途端に破顔しにやける延珠。実にちょろい。

 

撫でる手を止める。

 

 

「ぁ……」

 

 

撫でる。

 

 

「…ぇへへ〜」

 

 

止める。

 

 

「うぅ…」

 

 

撫でる。

 

 

「…ふふ〜」

 

このまま延珠と遊んでても良いのだが、蓮太郎は自分の腰に頬ずりしている延珠に声をかけた。

 

「それはそうと延珠、木更さんから連絡があった。依頼だ」

 

「おお、そうなのか!よし、わらわに任せろ!」

 

「ああいや、延珠には別に頼みたい事がある」

 

「お、おぉ。な、なんでも言うが良い!」

 

そう言って蓮太郎は割と鬼気迫る表情で延珠の肩を掴み、重々しく要件を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁん?お前が応援に来た民警だぁ?」

 

厳つい顔つきの男、多田島がドスの効いた声で蓮太郎を睨みつけた。

男は視線を寄越しただけで大の大人でさえ縮み上がりそうな目つきの悪さと鋭さを有しており、横に駐車されたパトカーがなければヤクザと思われても何ら不思議は無かった。

 

「馬鹿も休み休みに言え。まだガキじゃねえか」

 

蓮太郎の身なりを見て鼻で笑うようにそう言った。それに眉を顰めすらせず蓮太郎、

 

許可証(ライセンス)なら持っている。それに、民警に年齢は然程関係ない。そういう事は成果を見てから言ったらどうだ」

 

「…チッ、まあいい。ライセンス出せ」

 

本人は単純に相手を気遣っただけなのだが、それが多田島の気に障ったようだった。蓮太郎が差し出したそこそこ年季の入っているであろうライセンスを乱暴にひったくる。

 

「その服、お前学生か?」

 

「ああ」

 

「天童民間警備会社…どっかで聞いた様な聞いてない様な…」

 

「それ程売れてはないがな。それより仕事の話だ、状況は?」

 

話も程々に蓮太郎が切り込む。それに多田島は僅かにハッとしてライセンスを蓮太郎に返した。

 

「っと、そうだな。その前にお前、イニシエーターはどうした?民警ってのは二人一組なんだろ」

 

「別件だ。ウチは兎に角人手が足りないんだ」

 

「はぁ、そうかい。…で依頼の話だが───」

 

 

 

 

 

 

 

 

古びたマンションの二階、その一室の前に戦闘用の装備を整えた大量の警官が待機していた。

 

「何か変化は?」

 

多田島が状況を聞くと、警官の一人が震える声で言った。

 

「た、たった今ポイントマンが上階より懸垂下降にて突入………連絡が途絶えました」

 

その言葉に多田島は絶句し、血相を変えて警官に詰め寄った。

 

「馬鹿野郎!どうして民警の到着を待たなかった!」

 

「我が物顔で現場を荒らすあいつらに手柄を取られたくなかったんですよ!主任だって気持ち分かるでしょう!?」

 

警官の方も半ばヤケクソのように叫ぶ。と──────

 

 

「喧しいぞ」

 

 

然程大きくもない、寧ろ静かな少年の声、その威圧感に周囲は静まり返った。

 

「下らん言い争いなら余所でやってくれ、もしこの奥にいるかもしれないガストレアを刺激させたらどうする」

 

「…そうだったな、すまねえ」

 

多田島がこの場を収めた蓮太郎と詰め寄った警官に対し謝罪した。今は民警への八つ当たりに近い感情も捨てねばならないのだ。もしこの室内にガストレアがいて、そいつがこんな喧嘩で暴れ出したら目も当てられない。多田島とてその分別は弁えている。

 

「俺が突入する」

 

蓮太郎は腰のホルスターからスプリングフィールドXDを抜き、サプレッサを取り付ける。銃口をドアノブに押し当て、引き金を二回引いた。

プシュッという音がするとともに蓮太郎はドアを蹴破り部屋に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

室内、そのリビングの異様な光景がまず蓮太郎の目に入った。

クレーターのように円形に陥没した壁、そこには二人の警官が血塗れで(はりつけ)になっており、ヘルメットのバイザーは粉々に砕け散り手足の関節は三つか四つに増えていた。

 

そして一際目を惹きつけるのは、この凄惨な部屋に蓮太郎に背を向け悠然と佇む燕尾服の男だった。

 

その男はゆっくりと振り返り、

 

 

「やあ、民警君、随分と遅かっ───」

 

───眼前に迫る掌底を避けられたのは奇跡に近かった。

 

男はこの一撃を避けずに防ぐ(・・・・・・)事もできたが、振り向いた瞬間には身体が反射的に動いていた。それも『迎撃』ではなく『回避』を。男は仮面の奥で小さくない驚愕を受けた。

 

ボッ、と風を逆巻かせる掌打が顔の横で唸り声を上げる。

伸びきった右腕を絡め取ろうとする間もなく残像を残しその腕は引き戻され、蓮太郎の姿が男の視界から消えた。

 

──どこに。

 

そう思うのも束の間、背筋を奔る悪寒に従い跳躍。瞬間、直撃すれば膝をへし折られていたであろう超低姿勢から放たれた回し蹴りが爪先を掠めた。

男の表情が仮面の奥で歓喜に染まる。

攻撃が避けられているにも関わらず、蓮太郎は淡々と呟く。

 

 

「───獲った」

 

 

(!しまっ───)

 

男が着地するより遥か先んじて、回し蹴りの勢いをそのままに身体を捻り再度放たれる蓮太郎の上段後ろ回し蹴り。

 

 

「天童式戦闘術二の型十六番、

隠禅(いんぜん)黒天風(こくてんふう)』」

 

 

空中に囚われ、避けるどころか身動きすらままならない男は「どうみても犯人だからシバく。というか変態だからシバく。犯人じゃなくてもシバいてから事情聴取する」という蓮太郎の割と危ない思考から放たれた一撃が腹部に直撃し、家具を薙ぎ倒しながら吹き飛んだ。

 

蓮太郎、『水天一碧の構え』を取り残心。後には荒らし尽くされた室内が残る。

 

 

 

 

 

 

「───フフフ、ハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 

 

「……!」

 

突如響き渡る哄笑。先の絶戦を見て放心していた警官が突撃銃(アサルトライフル)を構え男の転がった和室へ向かおうとするが、蓮太郎がキッと睨み制する。

 

──無駄死にするつもりか?

 

ごく短いとはいえあんな戦いを繰り広げた蓮太郎にそう睨まれれば警官は歩を止めるしかなかった。

部屋の奥から男が歩いてくる。奇妙な仮面を着けた燕尾服の男は何が嬉しいのか、肩を歓喜に震わせくつくつと嗤いながら蓮太郎を眺めていた。

 

「楽しいッ!私はなんて運がいいんだッ!たいして期待していなかったが、こんな『大当たり』と出逢えるなんて!」

 

──大当たりとか何のこっちゃ

 

蓮太郎は内心この人頭大丈夫かな俺が蹴って壊れちゃったのかな、とか思いながらも尋ねた。

 

「で、お前は何者だ」

 

「おや、済まないね。何しろ録に話せずぶッ飛ばされたものだからね」

 

「…不審者だからな」

 

「ハハハ、お察しの通りだよ。自己紹介といこうか。私は蛭子影胤、これ(・・)の犯人だ。君は?」

 

「…里見蓮太郎」

 

「サトミ、里見君ね…」

 

prrrrrrrr、と。

影胤が蓮太郎の名前を呟いていると、室内に携帯電話の着信音が鳴り響いた。

影胤はポケットから折りたたみ式の携帯電話を取り出し耳に当てる。

 

「ああ、小比奈か。ちょっと今立て込んでいてね。後にしてくれるかい……あぁ、では」

 

相手と話しながら影胤はベランダの欄干に足を掛け、勢いよく蓮太郎を振り返り、言った。

 

「では里見君、また会おう。

──────私は世界を滅ぼす者。誰にも私を止める事はできない」

 

影胤がふわりと空に足を踏み出し落下する。

 

「……」

 

蓮太郎が欄干に乗り出し、下を確認してみても、もう影胤はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、変態である。

 

 

 

 

 

 

いや、いきなり何言ってんのって感じなんだけど変態なんですもの。仕方ないじゃんか(錯乱

 

何なの?腹蹴られて喜ぶってさ。もうアレ喜び超えてたよ、悦んでたよ。

っべーよやべーよ…。俺当たりとか言って目ぇ付けられたよ...!

超嬉しそうに「また会おう」とか俺の寒気が凄い事になっとる。

 

「おい、民警!」

 

「…何だ」

 

「気持ちは分かるが今はガストレアだ!」

 

あ、仕事中でしたね、すみますん。あんな変態とエンカウントするなんて思ってなかったから忘れてた。

 

「ここは部下に任せる、俺たちはガストレアの捜索だ。パンデミックにでもなったら目も当てられん」

 

「…ああ、行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑散とした住宅地。人通りのない道路を岡島純明(おかじますみあき)は歩いていた。

 

(…あれ、俺は何で……)

 

職を失い、家族関係もうまくいかず離婚して早数年。先日やっとの思いで再就職先を見つけ、ここからまたやり直すつもりだった。

 

(そうだ、家に帰らないと)

 

それが今はどうしたことか、見覚えのない住宅地をふらふらと歩いている。

どうしてこんな所にいるのか記憶にないが、取り敢えずは人にここがどこなのかを聞こうと、純明は足元を濡らす液体に気づかず(・・・・・・・・・・・・・)歩き出そうとした。

 

「いた───…!」

 

ふと背後から声が聞こえて純明は足を止めた。後ろを振り向くと、ちょうどコートを着た中年の男性と学生服の少年がこちらに走り寄ってくる所だった。

 

「あの、すみません。ここは」

 

「おい!あんた、岡島純明だな!?」

 

ちょうどいいと、ここが何処かを聞こうとした時、男性に勢いよく詰め寄られ言葉に詰まる。

その剣幕に戸惑いながらも純明は応えた。

 

「え、ええ。そうですが…あの、いきなりすみませんが此処はどこですか?」

 

「───お前、自分がどうなってるのか分かってないのか…?」

 

何を言っているのだろうか、この男性は。

純明は、どこか話が噛み合っていないような印象を受けた。

 

「…わかった、じゃあお前さん、ゆっくり自分の体を見てみろ。パニックにならないようにゆっくりとだ」

 

「あ、ああ…」

 

純明は男に言われたとおりにゆっくり自分の体を見下ろした。

 

 

「──────え?」

 

 

途端、純明の視界に広がっていたのは、血で赤一色に染まったワイシャツと大きく抉られた肩、そして今もどくどくと血を垂れ流す自らの肉体だった。

 

(……そうか、俺は)

 

 

純明はガストレアに襲われた。

 

今思い出した。

マンションのベランダで再就職が決まった事を離婚した妻と娘に伝えようと携帯を手にした時だった。

柵にもたれ後ろを振り向くと、マンションの壁に巨大な赤眼の蜘蛛が張り付いていた。

 

後は気が付いたらここを歩いていて今に至る。

 

「あなた達は、民警ですか?」

 

「俺は警察だが、こいつがそうだ」

 

男性が学生服の少年を指差す。少年は特に否定するでもなく純明を見つめていた。

 

「そうですか。それで民警さん、俺は…」

 

「…ああ、おそらく体内侵食率が50%を超えている。間もなく形象崩壊が起こるだろう。…何か、言い遺したい事はあるか」

 

少年は済まなそうにする事も、見え透いた嘘をつくことも無かった。

ただ淡々と真実を告げた。

 

それが純明には有難かった。安い同情をされるのは嫌だったからだ。

それを少年は分かっているのだろう。純明の眼を真っ直ぐ見つめ、遺言を問うて来た。

 

純明の脳裏をこれまでの人生が駆け巡る。走馬灯とは少し違う。

純明は意図して最期に記憶を掘り起こし、眺めていた。

 

声が、喉が震えている。目尻からはとめどなく涙が溢れ、目の前の少年の顔すら霞がかっていた。

 

「…そうか。じゃあ、一つだけ、妻と娘に言っておいてくれないか──────今まで、ゴメンって」

 

返答を聞くことは無かった。それが純明の見た世界の最期だった。

ただ、心配はしていなかった。

 

確信等何もない。

だが、自分の気持ちを正しく汲み取り、真摯に接してくれた彼ならば。

きっと異形と化した自分を解放して、言伝も届けてくれるだろうという、不思議な安心を胸に抱きながら、岡島純明の意識は遠い世界へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ああ、任せろ」

 

隣に立つ少年が呟く。

 

一瞬にして人間の原形を跡形もなく崩し、「岡島純明だったモノ」がヒトの皮を食い破るようにしてその姿を表した。

 

常人ならば誰もが逃げ出すであろうその光景を前に僅かも怯むそぶりを見せず、ただ噛みしめるようなその声が多田島にはやけに大きく聞こえた。

 

「ステージⅠ、モデルスパイダーを確認。これより戦闘に移行する。……ここから先は俺の仕事だ。警部さんは下がっていろ」

 

「………了解した、民警殿」

 

多田島も余計な口出しはしなかった。

餅は餅屋。専門家がいるのだから、素人の自分が下手な手出しをした所でかえって邪魔になるという事くらい、彼にも分かっていた。

 

 

それに、岡島純明は里見蓮太郎に託し、里見蓮太郎は任せろと言った。

それだけで十分だ。

 

 

「ッッギィイイアァアアアァア!!」

 

蓮太郎の背丈と同じほどの巨大な蜘蛛が粘液を撒き散らしながら威嚇する。

蓮太郎はそれに刹那すら怯まず瞬時にドロウ(抜き撃ち)

 

多田島にはホルスターからXDを抜く所すら視認できなかったほどの早撃ちは蜘蛛の真紅の複眼二つを狙い過たず撃ち抜く。

 

弾丸の着弾を見届ける事すらなく蓮太郎が飛び出す。瞬間、蓮太郎のいた場所を蜘蛛の脚が突き刺した。

複眼を撃ち抜かれ暴れようとする蜘蛛に行動を許さず、下からすくい上げる一の型十五番───

 

「『雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう)』」

 

一閃。

 

素人目に見ても分かる程洗練され練り上げられた修練の果てに形づくられた拳打は、蜘蛛の脚をいとも簡単に吹き飛ばす。

 

「ギシィアアアァァアアァア!!!」

 

自らの脚を吹き飛ばされた怒りに震える蜘蛛。

 

眼前に潜り込んできた蓮太郎を擦り潰そうと開かれる大顎。

 

 

「遅い」

 

 

しかしてその攻撃はほぼ真下から放たれた蹴り上げによって、果たされる事はなかった。

 

凄まじい威力の超上段蹴りは生々しい音を振りまかせながら、蜘蛛の頭部をザクロをぶちまけるように粉砕し、蜘蛛がゆっくり倒れる。

 

 

その瞬間、勝者が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に行われた圧倒的で一方的な「駆除」。

 

それを成した張本人は怪物の骸の前に立ち、静かに黙祷を捧げていた。

多田島は蓮太郎に歩み寄る。

蓮太郎が目を開ける。その瞳は何を思っているのか、多田島には読み取る事が出来なかった。

 

「民警…」

 

これが民警という職では日常的に起こり得る事なのだろうか。

まだ高校生の少年がこんな役目を負わなければいけないのだろうか。

 

「警部」

 

蓮太郎の声に我に帰る。少年の目は、覇気と決意に満ちていた。

 

「十七時四十一分三十秒。任務を達成した」

 

「任務達成を確認した。ご苦労、民警殿」

 

多田島は敬礼して告げる。この少年は立派だ。

警察と民警の確執に構うことなど無く、ただ依頼の達成と周囲の安全確保に励み、怪物と化した岡島にも最後まで人間として接する、仁義に溢れた、紛れもない傑物だった。

 

「では、俺はこれで失礼する。…やる事があるからな」

 

伝言の事を言っているのは直ぐにわかった。

この少年を見ていると今の警察と民警の関係がバカバカしく思えてくる。皆で手を取り合おうという綺麗事を吐くつもりは無いが、もう少し協力し合う事も出来るのではないか、と。

 

立ち去る蓮太郎の背を見送りながら、そんな事を思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、報酬渡すの忘れた」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜その頃の延珠〜

 

 

 

「これ下さいなのだ!」

 

「あら、お嬢ちゃん偉いねぇ。おつかい?」

 

「うむ!蓮太郎に頼まれた、とても大事な事だぞ!」

 

「まぁ可愛いこと。お菓子でもおまけしちゃおうかねぇ」

 

「ほんと!?やった!蓮太郎とはんぶんこする!」

 

 

 

 

藍原延珠は今日も元気いっぱい。




お久しぶりです。テストで忙しかったとです。受験も控えてるので、二月くらいまではこんな調子です。すみまそん。

こんな事言っといてなんですが、新作を投下致しました。ダンまちの二次になっております。暇だったら見てくだせえ。


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