魔人族の母になりました (美坂 遙)
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人としての最後の時間

「こうして高校生活最後の夏は何もなく終わりを迎えるのであった。」

 

「何下らないこと言ってんだ?海にも行ったし祭りにも行ったろ?」

 

 つまらなそうにスマホを弄りながら歩く友人(赤城友也)と珈琲を飲みながら歩く俺(万里宗也)。

 

「そうは言うが、海はナンパしようとしたら彼氏持ちで俺は殴られるし、祭りは出店の手伝いで殆ど回れなかったじゃないか!」

 

 そう言ってスマホを見せてきた、画面にはデートスポットの詳細が載ったページが表示されていた。

 

「こうして準備は万端なのになぜもてないんだ!?」

 

「多分そう言うところだよ。暑いしそこのゲーセンに行かないか?」

 

「いいね、かわいい子もいるかもしれないし。」

 

 俺はため息をついてゲーセンへ歩いていく友也を

追った。

 

 

 ゲーセンの中は騒がしいが涼しくいい感じだった。俺達はレースゲームをやったり格ゲーを楽しんだ。

 

「久しぶりにやったけど相変わらず強いな、多分反射神経が活かせる仕事なら敵なしだな。」

 

「現実で役にたたない特技だけなら沢山あるからな。せめて運動神経がましなら役に立つんだろうけど。」

 

 俺はなぜか反射神経だけは良い、なのに極端なほど体力が無い。そのせいでスポーツは苦手だ。ゲームなら手だけで良いからなかなか役に立っている。

 

「一応、就職先は義兄の会社で事務員として働くことになってるけどね。」

 

「ああ、あの可愛い姪が居る香織さんの所か。結衣ちゃんだっけ?」

 

「可愛い事は否定しないけど、手は出すなよ?」

 

「出さねえよ!流石に3歳に手を出すか!」

 

 そんな話をして自販機の所へ歩いていると辺りが騒がしくなった。逃げろと叫びながら出口へと走る人もいる。

 

「何かあったみたいだな。火事とかじゃないみたいだけど、何かあったんだろうなどうする?」

 

「とりあえず俺達も避難するか「キャー」何だ!?」

 

 声のした方を向くと刃物を持った男が笑いながら小さい女の子に近づいて居るのを見つけた。近くには父親なのか男性が倒れていた。

 

「原因はアイツか、お前は回り込んでくれ。」

 

「捕まえる気か?警察を待った方が良いんじゃないか?」

 

「見捨てると後悔しそうだしな、結衣に年も近いし。」

 

 友也は頭をかくとゲーム機に身を隠しながら近づいていった。俺もゆっくりと近づき犯人が良く見える場所までやって来た。犯人はニヤニヤ笑いながら子供の顔の前で包丁の様な刃物を揺らしている。子供は怯えて涙を流して泣いている。

 

 ようやく友也が配置についたのか、犯人が居る場所の裏にあるゲーム機の影から合図が来た。俺も友也が動いたらすぐ動けるように移動しようとした時男が刃物を振りかぶる姿を見た。

 

 その瞬間俺はとっさに走り犯人に殴りかかった。犯人は俺に気付き体の向きを変えようとしたが俺の方が早く犯人の顔に先に拳が当たって吹っ飛んだ。

 

 それを見た友也は慌てて犯人に飛びかかるとベルトやどこから見つけてきたのかロープを使って拘束した。そして周りを見渡し何かを探している。何を探しているんだ?

 

 それを口に出そうと口を開けたとき吐き気と共に咳が出た。俺は手で口元を隠し一つ咳をしたが、何かで手が濡れた。

 

「え?」

 

 そこには真っ赤に染まった掌が有った。

 

「宗也!?」

 

 俺はゆっくりと下に視線を移すと胸の真ん中当たりに刃物が刺さっていた。それを意識した瞬間熱さと共に目眩が襲い俺は崩れ落ちた。

 

「宗也、しっかりしろ!誰か、救急車を!!」

 

 慌ただしく動く友也をぼんやりと見ながら、小さな女の子が男の人にすがりついているのを見て、あの子は護れたんだなと考えながら俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 俺がゆっくりと目を開けると目を開けたはずなのに真っ暗な視界だった。疑問に思い体を起こすと足下に手を伸ばすが何も手に当たらない。

 

「なんだここは?俺は・・・、そうだ刺されて病院に運ばれたはずだ。そうか、夢か。」

 

「近いが違う、ここは俺の管理する世界との狭間だ。」

 

 こんな空間現実に在る訳ないし夢かと思ったがいきなりの声に驚いて周りを見渡すが周りは何も変わらないが、聞こえた声からするとわりと若そうな声だな。

 

「誰だ!」

 

「お前にわかりやすい言葉で言うなら、異世界の神だよ。」

 

「いわゆる、俺は間違いで死んだから転生させてやるって奴か?」

 

 俺は少し複雑な感情を浮かべ神様に聞いてみた。

 

「神に人の寿命を決める権利があるわけ無いだろう?そんなのは人間の勝手な思いこみだ。体を酷使すれば勝手に死ぬ生き物の寿命を決める理由など無い、ただ指定した人間を殺すことはできるがな。それにお前はまだ死んではいない。」

 

「死んでないならなぜ俺はここに?」

 

「ただの偶然だな。偶々この世界を覗いてみれば魔素に取り込まれた男がいたからな、それを眺めていたらお前がその男に刺された。魔素で守られていない生き物が魔素で攻撃された貴重な例だからな、興味がわいたから呼んでみただけだ。」

 

 そう言って指を鳴らすと空間の一部が明るくなりどこかの部屋が現れた。

 

「あれは病院の治療室か?」

 

 そう言いながら俺が近づくとそこには色々な機械がつながれた自分の体がベッドに横たわっていた。そしてそこには涙を流しながらすがりつく姉の姿もあった。そしてすぐ隣には姪の結衣も不思議そうな顔で俺の体を眺めながら座っていた。

 

「いったい俺の体はどうなってるんです?」

 

「お前は魔素を纏った刃物で刺され倒れたのを覚えてるな?そのせいで中々血が止まらず血を流しすぎた、その結果脳にダメージが残り二度と目覚めることはない。」

 

 俺はその宣告に目眩がしたが、何とか踏みとどまり質問をした。

 

「回復の見込みはないのですか?神様なら何とかできるんじゃあ…」

 

「おい、神は万能ではないぞ?それにそこまでしてやる理由はない。」

 

 その言葉で俺の人生は終わりなんだと理解しその場に座り込んだ。その時病室のドアが開き医者と一緒に義兄が入ってきた。

 姉は義兄に駆け寄ると何かを聞いている。そして俺の状態を聞いたのか後ずさり椅子に座り込むと涙を流しながら結衣を抱きしめている。

 

「泣いてる香織姉さんを見てるだけしか出来ないなんて、せめて声だけでも掛けたかったな。」

 

「なら、俺と取り引きするか?」

 

 俺が姉の姿を眺めて悲しんでいると神様が声をかけてきた。俺が振り向くと続きを話し始めた。

 

「ちょうど俺の世界の問題を何とかしないといけないと考えていたからな。お前がその役目を果たすならそこにいる子供となら交信できるようにしてやるぞ?」

 

「詳しく知りたいんですけど、俺は何をするんですか?それとなんで、香織姉さんじゃなく結衣なんです?できれば姉さんと話したいんですけど。」

 

「仕事の内容は増えすぎた魔素の管理だよ、それ以上は機密だ。純粋な子供は交信用の回路を作ることが簡単だ、大人になると疑い深くてな中々難しいんだよ。それと転生すれば当たり前だがこちらの体は生命力が尽きる。」

 

 魂が抜ければそうなるか。それにしても仕事の内容は教えてくれないのに選択しないといけないのか・・・

 

「結衣に何か害とか無いんですか?」

 

「無いな、それと今回は直接繋ぐからお互いが起きていても繋がるが、普段は子供が寝ている時にしか繋がらない。どうする?」

 

 俺は姉の涙を流す姿を見て提案を受け入れることに決めた。

 

「わかりました、お願いします。」

 

 それを聞いた神様は再び指を鳴らした。すると結衣と何かで繋がった事が感覚的に理解できた。結衣も違和感があるのか抱きしめられながらも周りをキョロキョロと見回し始めた。

 

 俺は結衣が怖がらないように注意して出来るだけ優しく声をかけた。

 

(結衣、俺の声が聞こえるかい?宗也だよ、わかるかな?)

 

(宗也おじちゃん?あれ?口が動いてないのになんで喋れるの?)

 

(それはね、心でお話をしてるからだよ。)

 

(そうなんだ、すごいね!宗也おじちゃんはいつまでもお昼寝するの?もう夕方だよ?)

 

(実はねおじちゃんは遠いところに旅に出ることになったんだ。それを伝えたいから香織姉さんに今言った話を伝えてくれないかな?)

 

「うん、わかった!ママ、宗也おじちゃんがねこれから遠いところに旅に出るんだって!今、宗也おじちゃんがママに伝えて欲しいって言ってた!」

 

 その言い方だと信じないと思うぞ・・・、まぁ俺も良い手は思い付かなかったけど。

 

「結衣?宗也おじちゃんはここで寝てるでしょ?」

 

 まぁそう思うよな。

 

「えっとね、心でお話しできるようになったんだって!」

 

「そうなんだ、良かったわね。でも宗也おじちゃんは寝てるから旅には出れないわよ?眠いなら先にパパと帰る?」

 

 香織姉さんは眠いから変なことを言い出したと判断したようだな。すると結衣も香織姉さんが信じてないのがわかったのか涙目で主張を始めた。

 

「嘘じゃないもん!おじちゃんとお話しできるようになったんだもん!」

 

「わかったわ。それじゃあ宗也おじちゃんは他に何か言ってる?」

 

「ちょっと待って。宗也おじちゃん?」

 

(やっぱり中々信じてくれないみたいだね。それなら昔在ったことを話してあげるよ。香織姉さんの他では、結衣のおじいちゃんとおばあちゃんしか知らない話だよ。)

 

「わかった!宗也おじちゃんが昔のことを話してくれるって言ってるよ。」

 

「へえ、どんな話?」

 

 そこで俺は結衣に夏休みを利用して親にも内緒で自転車で旅に出たことを話した。

 

「えっとね夏休みに自転車で秘密の旅に出たんだって!」

 

「へえ、そうなんだ。」

 

(その後は自転車で移動して3日目に、タイヤがパンクをしたところに運悪くパトカーが来て、そのまま家に連れ戻されたんだよ。あの後は掃除や手伝いで大変だったよ。)

 

「えっとね、3日目にパンクしてパトカーに乗ってお家に帰ったって言ってるよ?パトカーに乗れるなんてすごいね!その後も掃除とかお手伝いをしたなんて宗也おじちゃん偉いね!」

 

「確かにそんなこともあったわ。でも結衣はまねしちゃ駄目よ?他には何か言ってる?」

 

 香織姉さんはそこまで聞いて少し動揺したみたいだけど少し考えて小さいときに亡くなった母さん達に聞いていたのかもと思ったのか他にも言ってないか聞いてきた。

 

(そうだな、ママに内緒でスーファミのカセットを買ってきた事があったな。ママと貯めてたお金だったからすごく怒られたよ。この話はママしか知らないから他の人には言っちゃ駄目だよ?)

 

 結衣はきょとんとした顔で考え込んだが、香織姉さんに話し始めた。

 

「えっとね、すうふぁみのカセットをママに内緒で買ったって言ってるよ?ママ、すうふぁみって何?」

 

 それを聞いた香織姉さんは驚いた顔で俺の体に振り向き何かを呟くと、ゆっくり結衣へ向き直ると結衣を見つめ直した。

 

「本当に宗谷と話せるのね。」

 

 そう言って震える手で結衣に触れ目を閉じた。

 

 俺は香織姉さんが信じてくれた事に感謝をし、結衣に神様から依頼された仕事で異世界へ旅に出ることを伝えるように頼んだ。

 

「宗也おじちゃんはね神様から異世界っと頃でお仕事するんだって。どんな事をするかはまだよく分からないけど、まそって言うのを管理するんだって!」

 

「そう、教えてくれてありがとう。いつ旅立つのか分かる?それとママもお話しできないのかな?」

 

「宗也おじちゃん、いつ旅に出るの?」

 

 俺が神様に確認すると今日の0時に移動するからこの体の生命力もその時尽きると教えてくれた。

 

(今日の0時に旅立つよ。それと残念だけど体を持ってくことが出来ないから、心での会話はこれからは結衣が寝ている時にしか出来ないんだよ。だからママとは出来ないんだ。)

 

「宗也おじちゃんは今日の0時に出発だって!それと心での会話はこれからは結衣が寝てるときにしか出来ないんだって。宗也おじちゃん寂しそうな声だったよ?」

 

「ありがとう。残念だけど仕方ないわね。」

 

 そう言って時計を見た。俺も見てみると時間は9時だった。

 

 香織姉さんは何かをこらえるように結衣を抱きしめると俺に仕事を頑張るように伝えるように頼むと病室から出て行った。

 義兄は展開に着いていけないのか少し慌てつつ結衣の頭を撫でた。

 

 そして数分後戻って来た姉の手には毛布が有った。どうやらここで俺の最後を看取るつもりのようだ。

 

「宗也おじちゃんは私達の声や姿は見えてるの?」

 

(見えてるよ、神様の話では結衣の近くにいる物が見えたり聞こえたりするみたいだよ。それと旅に出るとこの体は駄目になっちゃうけど心配はしなくて良いからね。)

 

「結衣の近くの物なら分かるって言ってるよ!」

 

「そう、聞いてくれてありがとう。ママはここで寝るけど結衣はどうする?」

 

「結衣もお見送りする!宗也おじちゃんの体は持ってけないから置いてくけど心配しなくて良いって!」

 

 香織姉さんは結衣の頭をなでると義兄と結衣は食事のために出て行った。

 

 すると声が聞こえなくなり映像だけの病室へと変わった。

 

「信じてくれて良かったじゃないか。それと仕事の内容はお前が生まれ変わった時点で理解できるようにしておいてやる。そうだな、少しくらいなら要望が在れば用意してやるぞ?」

 

 とりあえず衣食住だな。

 

「俺の転生先での環境はどうなってます?」

 

「その点は問題ない。服は魔素で作れるし、お前の新たな体は神と同じ物だからな。餓死すること無い、だが食べないと魔素が取り込みづらいから用意された食事はしっかり食べろ。住居は立派なのを用意しておいてやる」

 

「餓死することは無いって不死ですか?」

 

「勘違いするな、不死ではない。不滅だ、神域から出れば刺されれば死ぬし、お前の体もそんなに強いわけではない過信はするな。もし死んだら神域で再生はされるが死ぬのは痛いぞ?」

 

 神の体と同じなら無敵かと思ったけどそうじゃないんだな。

 

 そんな話をしていると結衣が帰って来たのか声が聞こえ始めた。時間を見ると10時になっていた。流石に眠いのか目をこすりながらうとうとしている。

 

(無視しなくて良いぞ?これからも結衣とは話せるんだから。)

 

「でもママはお話しできないんでしょ?一生懸命起きてるの!」

 

 そう言って頭を振っている。香織姉さんは結衣の頭をなで小さくありがとうと言った。

 

 そして結衣の手を借り最後の会話をしながら過ごしていたが、ついに残り一分となった。

 

(そろそろ時間だな、結衣頑張ってくれてありがとな。ママにも今までありがとうって伝えてくれ。)

 

「うん、わかった。ママ、宗也おじちゃんが今までありがとうだって!」

 

 その言葉を聞いた香織姉さんは結衣を抱きしめると口を開いた。

 

「私こそありがとう。マメに連絡をしてきなさいよ?そうしないと許さないからね?」

 

 そしてついに0時神様が指を鳴らすと病室が薄くなり始めた。機械類からから電子音が聞こえだし、医者が慌てて入ってきて処置を施すも持ち直すことはなく、家族に見守られながら体は生命活動を終えた。

 

 俺は病室が見えなくなると同時に、意識を失いながら異世界へと転生した。

 

 神様の嬉しそうな

 

「ようやく、魔素で生物を作り出せる母胎が見つかった」

 

と言う、イヤな言葉を聞きながら。




地球編

 万里宗也・主人公、反射神経だけは良い男。それなりにモテるが良い人止まりで終わる。犯人から子供を守ろうとして魔素が宿った刃物で刺される。

 赤城友也・主人公の友人、クラスメイトからモテようと色々なことをするが空回りする男、しかし嫌われてはおらず、対応を間違えなければ彼女は出来る。運動が得意。

 香織・主人公の姉、夫と共に会社を経営。

 結衣・主人公の姪、神の手で主人公との交信能力を得る。

 異世界の神・管理する世界の問題の解決策を探しているとどこから手に入れたのか魔素を帯びた刃物が刺さった主人公を見つけ観察。即死しないことからあることを思いつき狭間へ主人公を呼び寄せ提案をする。


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国土整備開始1

 目が覚めた俺はゆっくりと起き上がった。

 

「ここは?そうか、異世界に転生したんだっけ。」

 

 昨日のことを思い出し身の回りを確認する事にした。ちょうどベッドの横にある棚に小さい鏡が置かれてあったのでそれで顔を見てみると、宗也の頃と同じ黒髪で顔つきも面影があった。なんとなく中性的な顔な気もするけど、香織姉さん達との繋がりが残ったみたいで嬉しかった。

 

「体は6歳児って所か、髪型も宗也の時とあまり変わらないな。それにしてもここが俺の住む家か。誰にも聞いてないのに感覚的に何となく分かるってのは不思議な感じだな。」

 

 俺はベッドから降りて床にさわると見た目は石なのに少し暖かみのある不思議材質で出来ていた。

 

「何でだろうな、こういう事は知識に無いのは。」

 

 そう小さくつぶやくきドアの方へ歩き出そうとすると、扉が開き執事とメイドの二人が入ってきて頭を下げた。

 

「宗也様、おはようございます。我らは宗也様に仕えるしもべでございます。お好きにお使いください。」

 

 そう言って二人は頭を上げると、俺を真剣な顔で見つめてきた。

 

 二人は銀髪執事と金髪メイドの組み合わせで共に20才位のようだ。

 

「なら、建物の周りが見えるところに連れて行ってくれるか?」

 

「わかりました、こちらです。」

 

 そう言って執事の案内で部屋を出て少し歩くとテラスのような場所に着いた。執事とメイドが透明なガラスをはめ込んだ綺麗な扉を左右に押し開くと、そこには綺麗な空と見渡す限りの岩山が広がっていた。そして執事は後ろへ下がりメイドが少し前にでた。

 

「空は綺麗だけど何もないな。建物の外はこんな感じなのか?」

 

「宗也様のお部屋からはこの大陸最大の湖が見えますよ。それとあちらの岩山の影には塩水湖があり湖底で海と繋がっています。」

 

「大陸って言ったけど、地図はあるか?」

 

 それを聞いたメイドは何か空間に円を描き、そこから地球儀のような球体を取り出し目の前に浮かべた。俺はその現象に驚いてメイドに質問をした。

 

「どこからこれは出したんだ!?それにこの地球儀は地球とほとんど変わらないな。」

 

「この地球儀の様な物はこの星の模型です。似ているのはこの世界が宗也様の過ごしていた世界から枝分かれした世界だからです。そしてここが宗也様の為に新たに作られた大陸です。」

 

 そう言って地球儀を回し俺の正面に現在いる場所を教えてくれた。そこには大陸の縁がかすかに光るオーストラリアの半分くらいの島があって、南岸辺りが青く光っていた。

 

「場所は太平洋の真ん中当たりか。大陸っていってもあんまり大きくないな、それと地球にはなかった島がいくつか在るな。」

 

「その島々はこの大陸の土台を作成するとき隆起した新しい島で生物などは存在しません。他の大陸との交流に出向くときの足がかりにでも使うのが良いかと思います。」

 

 その島々はこの大陸からインドネシアへと向かって存在しているようだ。

 

「こんなに新しく色々出来たらこの星の人間は驚くんじゃないか?この星の技術力はどれくらいなんだ?」

 

「この星では科学はそこまで発展していません。変わりに魔学と言われる技術が発達しました。服や道具などを作る機械は存在しますが燃料に石油を使うことはあまりなく、魔素を固めた燃料を使い稼働させています。そのせいで自然が処理しきれない変質した魔素により動植物が大量に魔物となる問題が起こっています。」

 

「魔物が居るんだね。魔学って魔法だよな?」

 

「はい。魔物は本来なら変質した魔素が集まり実体化した存在です。そして魔物が倒されると正常化した魔素の結晶が残ります。それは時間を掛け大気に散り循環するというのが本来のこの世界のシステムでした。そして魔物を倒すときに使われる魔法程度なら問題なかったのですが、魔学者が魔素を利用して動く機械を開発したことでこの星のバランスが崩れました。」

 

 そう言ってメイドが再び円を描き何枚かの写真を取り出し宙に並べた。そこには犬のような小さい魔物に戦闘機のような形をした兵器で攻撃している写真がいくつかあった。

 

「この程度の魔物なら剣や下位魔法程度で十分倒せます。それなのに人間は過剰な力で討伐するようになりました。大まかな例としては、魔物一体を倒せば100の魔素が生まれますが倒すのに必要な力はそんなにいりません。熟練の冒険者なら魔法を使うこともなく武器でも倒せるでしょう。それなのにこの兵器は動かすためにも大量に魔素結晶を使用し、攻撃する弾も大気中の魔素を大量に消費します。これでは倒す度に新たな魔物が発生します。」

 

「なる程、その魔物を倒すのにもその兵器を使うから悪循環って事か。」

 

「はい、そこでこの星の三神の一人魔神様が異世界で宗也様を見つけ連れて来たのです。」

 

 なる程、魔素の管理ってのはこういう事か。

 

「それで俺は何をするんだ?詳しいことは何も聞いてないんだけど。なぜか、感覚的に理解できる事と理解出来ないことに差があってね。」

 

「宗也様には変質した魔素を取り込みエネルギーとして使える、新たな生命を生み出す力が備わっています。そこに宗也様の知識を反映し、その種族を繁栄させることが宗也様の使命となります。そしてここがその拠点となる宗也様のお城です。」

 

「ここは城なのか?どんな形をしてるんだ?」

 

 それを聞いたメイドはまた空間から写真を取り出して見せてくれた。見る限り小さめの洋風の小城だったが、とても綺麗なお城だった。

 

「宗也様、もうすぐ昼食の時間となります。食堂へと参りましょう。」

 

 メイドと話していると執事が懐中時計を取り出しそう告げ、室内への扉を開き二人の案内で食堂へと向かった。

 

 そして食堂の扉に着いたところで、二人の名前を知らないことを思いだした。

 

「今更だけどお前達の名前聞いてなかったな。」

 

「申し訳在りません。私は執事のシルバー。」

 

「メイドのゴールドと申します。」

 

「その名前は名字ではなく名前なのか?」

 

「名字と言うよりは、この世界にそれぞれ一人しか居ないので種族名に近いかもしれません。」

 

「なら俺が名前を付けてもいいか?名乗るときに姓と名前が在った方が便利だろう?」

 

 それを聞いた二人はよほど嬉しかったのか笑顔を浮かべて頭を下げた。

 

「二人は俺のしもべって言ってたけど、俺にとっての家族みたいなものだからな。地球での俺の万里から取って、バーンズ・シルバーとリリー・ゴールドでどうだ?」

 

「「ありがとう御座います。」」

 

そう言って再び頭を下げると扉を開きリリーは奥へと歩いていき俺はバーンズの案内で大きな円卓の在る部屋へ案内された。

 

「それにしてもこのテーブルはでかいな。20人くらいは座れそうだ。」

 

「宗也様がお客様を招いたときでも不自由がないようにと、魔神様が用意したものです。」

 

 少し周りを見ながら待っていると果物が乗ったカゴと皿を持ってリリーが帰ってきた。そしてバーンズは部屋の入り口へ、リリーは俺の斜め後ろに立ち静止した。

 

「バーンズ達は座らないのか?」

 

「しもべである私達は主人である宗也様と共に座るわけにはまいりません。それに私達は食事をする必要はありませんので。」

 

 そうリリーが言うのでバーンズを見ると小さく頭を下げ肯定した。そう言えば俺も餓死はしないはずだよな。

 

「そう言えば俺も食事は必要ないんじゃないのか?餓死しないんだろ?」

 

「宗也様は生命創造のために魔素を大量に取り込む必要があるので、生きるためと言うよりも子供のために食べるという方が近いと思います。この果物は大地や大気中の魔素を吸収し育つように改良された果物ですので、宗也様にとって最適な食べ物だと魔神様は説明していました。」

 

 なる程ね、そう思ってブドウのような見た目の果物を一つ取り食べてみると、甘酸っぱくてとても美味しかった。

 

「これ美味しいな!地球で食べた果物よりもかなり美味しかった。」

 

「ある意味当然です、地球の果物は個人のために改良された物ではありません。しかしこの城で育てている果物は宗也様が食べるものとして生み出された物ですから。」

 

 贅沢な味だなと考えながらも小さく切られた林檎や見た事もない形の果物の味をを堪能した。

 

 そう言えばこの体もこの星で生きる新しい体なんだよな。いつまでも万里宗也で居るわけにもいかないか。

 

 俺は少し考えてバーンズとリリーに宣言する事にした。

 

「二人にも名前をつけたし、この体は地球の万里宗也の体じゃない、だから地球の言葉で始まりに似た意味だったと思うけど、オリジンと名乗ることにする!」

 

 そして俺は椅子から降りると二人に向かい告げた。

 

「これから俺の名前はソーヤ・オリジンだ。よろしく頼む!」

 

 二人は頭を下げそれぞれ応えた。

 

「ソーヤ・オリジン様に永久の忠誠を誓います。執事、バーンズ・シルバー、神技を用い立ちはだかる敵を排除し。」

 

「ソーヤ・オリジン様に永久の忠誠を誓います。メイド、リリー・ゴールド、神術を用い如何なる敵からも護ります。」

 

 そう言ってバーンズは綺麗な剣を取り出し腰の辺りに差し、リリーは透明な10㎝位の球を二つ浮かべた。

 

 俺が二人によろしくと応えると、二人は武器を再び空間にしまった。

 

「二人共敵と言ってたけどこの近くにも危険な生き物が居るのか?ここは新しくできた大陸なんだろ?」

 

「そうですね、ソーヤ様には私がこの城の周りを案内いたします。詳しい説明は案内しながら説明しましょう。」

 

「わかった。案内を頼む。」

 

「では着いてきてください。リリー、後のことは頼んだよ。」

 

「わかりました。バーンズ、ソーヤ様をお願いします。」

 

 そう言ってリリーは食器を持って奥へと入っていった。

 

「では参りましょう。」

 

 そう言ってバーンズの案内で城の中を見て回ることになった。

 

 

「それにしても何もないな。」

 

「申し訳ありません。魔神様は生活に必要な物しか用意をしていませんでしたので。」

 

 俺が呟いた言葉にまじめに応えるバーンズに、別に問題はないと伝え改めて周りを見回した。

 

 城の二階にあったのは沢山の客室と、大部屋が東西南北に一つずつ。後は二階中央の広間を登った所にあるとても綺麗な王座の間。そして三階には俺の個室とそこに繋がるテラスや寝室。一階には沢山の人が生活できそうな部屋がいくつかと、中央にあるとても綺麗な中庭どうやらさっき食べた果物はここで収穫した物のようだ。

 

 そして城の門から外に出ると、草も生えてない不毛の大地と見渡す限りの岩山。

 

「これを開拓するのは大変だな。草すら生えてないとか、家畜を飼うことも出来ないな。」

 

「申し訳ありません。この大陸は変質した魔素が集まりやすい性質を持っているので、動植物や人間が長期間生活するのには適しません。なのでソーヤ様にはこの城付近の変質した魔素を吸収し浄化をお願いします。」

 

「どうやって吸収するんだ?いや、何となくわかった。こうだな、魔素よ集え。」

 

 そう俺が神言を言うと大気中の魔素が体の中に入ってくる感覚があった。何となくお腹の辺りが暖かい気もする。

 

「お見事です。説明は必要ありませんでしたね。ソーヤ様は何も指定していませんでしたので大気中から吸収しましたが、指定することで特定の属性を集めやすくなります。先ほどの場合なら風の属性だと思います。」

 

 成る程ね、それにこれ以上吸収するのは感覚でまずいと分かったので、吸収はせずに周りを見て回った。

 

 色々見ながら城の周りを一周したところでリリーが呼びに来た。

 

「そろそろ、城へお戻りください。ソーヤ様は今日目覚めたばかり、無理はなさらないでください。」

 

「わかった。バーンズ、そろそろ戻ろうか。」

 

 そう言って城へ歩こうとするとリリーが止めた。

 

「ソーヤ様、今日は疲れたでしょう?私が神術でお送りします。」

 

「どうするんだ?」

 

 俺は疑問に思ってリリーに振り返るとさっき見た二つの球が俺達の周りを回っていた。

 

「こうします。転移!」

 

 その言葉が聞こえると、風景が変わり一階にある大階段に俺達は立っていた。

 

「すごいな。転移出来るなんて。俺には使えないのか?」

 

「申し訳ありません。人間が開発した魔学とは違い、神術は私専用に三神が作ったものですので私にしか使えません。同じくバーンズの神技とソーヤ様の神言も専用の物なので他人は使うことは出来ません。」

 

 残念、転移とか使ってみたかったんだけどな。

 

「お疲れでしょうし、浴場の準備ができましたので、お入りになってください。浴場の場所は分かりますね?」

 

「バーンズに案内されて分かってるよ。俺の部屋から奥にある階段で下りたところにあるやつだろ?」

 

 そう、この城には三つの浴場があった。その一つが俺専用の浴場。城主とはいえ贅沢だな。

 

「替えの服は用意していますので、参りましょう。」

 

 そう言って俺とリリーは浴場へと向かった。バーンズは城の周りを見張りに行くらしい。

 

 浴場に着くと俺と一緒にリリーも入ってきた。

 

「何でリリーも!?一人で入れるよ!」

 

「ソーヤ様、体が地球の頃と違って小さいので一人では危険です。安心してください。私は専用の服を着て入りますので気になさる必要はありませんよ。」

 

 そう言って先に中に入ると一瞬で真っ白な着物のような格好に着替えた。

 

「さあ、服をお脱ぎください。それとも手伝いましょうか?」

 

「いや、いい!一人で大丈夫!」

 

 俺はせめてもの抵抗にリリーを浴室に先に行かせ、しぶしぶ服を脱いだ。そして姿見の前を通った時、どこかに違和感があった。

 

 俺は少し戻り姿見をもう一度見てみると、俺の下半身には姓の象徴が何も無かった。それどころか本当の意味で何も無い。恐る恐る触ってみるとそこには本来人間、いや生物ならあるはずの排泄のための穴すらなかった。

 

 俺は少しパニックになり鏡の前でしばらく硬直していた。

 

「ソーヤ様?何かありましたか?」

 

 俺が入って来ないので疑問に思ったのかリリーが声をかけたことで我に返ると入り口にあったタオルで体をかくし浴室に入った。

 

「入って来ないので何かあったのかと心配になりましたよ。どうかしましたか?顔色が悪い気もしますけど。」

 

「なぁ、俺って男じゃなかったんだな・・・」

 

「そうですね、ソーヤ様に性別はありませんが、どちらかと言えば生命を生み出すと言う意味で女性に近いかもしれませんね。」

 

 俺はその言葉で落ち込みながらもシャワーのある場所まで行き、リリーが用意した道具で体を洗い始めた。

 

 そして、お尻に近づいた時違和感に気づいた。尾てい骨の所に何かツルツルした物がある。なんだこれと思って考えているとまだ頭の中にこれが何のための器官でどう使うかが浮かんできた。

 

「産卵管か・・・」

 

 俺はもうどうにでもなれと少しやけになりながら、産卵管が伸びるように意識した。するとゆっくりと伸びた、どうやら俺の思った通りに動くみたいだな。

 

「ソーヤ様、浴室で卵は産まないで下さいね?」

 

 その一言で我に返ると元に戻るよう意識し産卵管は元のように収まった。

 

「産卵管って名前で予想ついたけど、卵産むんだな。」

 

「はい、産んだ卵に力を注げば命が宿り、暫くすれば孵化します。」

 

 俺は髪を洗った後浴槽に入り暖まりながらリリーに聞くと、やはり肯定の言葉が返ってきた。

 

 俺はその後は無言で用意されていたパジャマに着替え、リリーと共に食堂へ向かった。そこで昼と同じように果物を食べ終わるとバーンズとリリーと共に寝室へと移動した。どうやら生命創造の話をするらしい。

 

 俺は浴室での事を思い出し、説明よりも先に聞いてみた。

 

「俺には排泄のための器官が無いみたいだけど、どうなってるんだ?」

 

 リリーは浴槽でも少し話していたので直ぐに答えてくれた。

 

「ソーヤ様は半神ですから体は神と同じで体内に取り込んだ物はすべてエネルギーへと変わりますので排泄のための器官は存在しません。」

 

「そうなのか。もしかして二人も?」

 

「ソーヤ様の考えているとおり私達にも存在していません。」

 

 俺が追加で質問しないことを感じたリリーは産卵について説明を始めた。どうやらバーンズは話に加わるつもりはないらしく、少し離れたところで立っていた。

 

「ソーヤ様が産卵をする事は理解してますね?先ほど食べた果物を三回食べれば確実に一つは卵が体内で生まれます。その他にも神言で取り込んだ魔素が一定量あれば数を増やすことが出来ます。」

 

 一日に一つは最低でも産むとか鶏か!

 

「産卵管を操作していたということは、産卵の方法は理解していますよね?」

 

「何か元男としては複雑だけど、確かにどうやったら良いのかは分かる。」

 

 俺の頭の中には今の体内にある卵の数は二つだと認識できていた。

 

「良かった。その感覚は我々では説明他出来ませんので安心しました。それでは産まれた卵の孵化について説明します。ソーヤ様が産んだ卵も力を込めるまではただの卵です。魔素濃度が高いこの大陸なら放置していても孵化はしますが力の弱い種族しか産まれません。そこで各種族の代表格にはソーヤ様が直接力を注ぎ、それ以降は我々や産まれてきた種族の代表が力を注ぐと良いでしょう。」

 

 俺はとりあえず卵を産んでみることにして、ベッドに座っている俺の横に産卵管を伸ばし、卵を体内から移動させた。

 

「う~、痛くはないけど何か変な感じがする。」

 

 俺は産卵管の中を卵が移動するくすぐったいような不思議な感覚に耐えながら二つの卵を産んだ。

 

 色は一つは薄緑でもう一つは少し深めの緑だった。

 

「卵の属性は取り込んだ魔素の状態で変化します。例えばこの二つは植物の力を持った種族が産まれやすい物と、風の力を持つ種族がやや産まれやすい卵です。」

 

「この緑から別の属性も産まれるんだな。」

 

「例えばこの緑は果物から取り込んだ魔素が反映されたようなので植物が優性ですが、植物には水や大地の魔素も含まれています。意識して卵を作成しない場合は少し安定はしません。それでは力の注ぎ方は分かりますか?」

 

 そう言われ注ぐことを意識するとやはり頭の中に浮かんできた。俺はうなづくと二つの卵に触れ魔素ではなく種族としての力の様な物を流し込んだ。するとだんだん何かが抜けていく感覚があり、注ぎ終わる頃には激しい眠気が襲ってきた。

 

「まだ体が小さいので二つが限界のようですね。無理をなさらずこのままお眠り下さい。」

 

 そう言ってシーツを俺と卵にかけると二人は部屋から出て行った。

 

 俺は目線を卵に向け少し優しい気持ちを感じながら眠りに落ちた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 俺は眠ったはずなのに不思議な空間に立っていた。

 

「あれ?ここはどこだ?」

 

 周りを見渡すと少し光っている場所かあったので近づいてみた。そこには姪である結衣が寝ていた。

 

「あぁこれは夢か。」

 

 そう言って撫でようと手を伸ばすと結衣が目を開けた。結衣は目の前にいる俺を見ると首を傾げ聞いてきた。

 

「何で宗也おじちゃんお姉ちゃんになってるの?」

 

 その言葉でこの結衣は地球にいる本物の結衣だと理解した。

 

「結衣には分かるんだな。おじちゃんはね生まれ変わってこんな姿になったんだよ。」

 

「そうなんだ、でも姿が変わっても宗也おじちゃんは宗也おじちゃんのままだよ!でも今は宗也お姉ちゃんかな~?」

 

 そう言ってニコニコしている。

 

「確かにそうかもね。そっちでは変わったことはないかい?」

 

「おじちゃんの友達が泣いてたよ。まだ一日しかたってないからそれくらいしか分かんない。」

 

 あいつには最後に会いたかったな。そんなことを考えていると光が薄くなってきて、声も聞こえにくくなってきた。どうやら時間切れらしい。

 

「今日はここまでみたいだね。また今度話そうね。香織姉さんにもよろしく言っておいてよ。それじゃまたね。」

 

「うん、バイバイ!」

 

 そう言ってゆっくりと光と共に俺の意識は闇に沈んでいった。




羽化→孵化


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国土整備開始2

 俺は朝日で目を覚ました、窓に顔を向け外を見ると綺麗な太陽が、カーテンの向こうに見えていた。まだリリーも来てないし寝直そうと思って寝返りを打とうとすると、お腹の辺りに柔らかいものがあった。

 

「なんだ?」

 

 そう呟いてシーツをめくるとそこには結衣位の見た目の子供が二人眠っていた。俺が固まり二人を見ているとシーツをはがされたせいで目を覚ましたのか俺の顔をぼんやりと見つめてきた。

 

 そして目をこするとかわいい笑顔でそれぞれ、ママやかーさまと口にした。そしてそのまま固まった俺に抱きつきスリスリと甘えている。

 

 困惑してなすがままになっているとリリーが入ってきた。

 

「ソーヤ様おはようございます。私の予想よりも早く孵化したようですね。二人共ソーヤ様の着替えるのを邪魔してはいけませんよ?」

 

 そう言って二人を俺から引き離そうとするが一人が服にしがみついて中々離れようとしない。俺はその子を説得するために頭を撫でようとして手を動かしたところで頭に小さな花が咲いている事に気づいた。

 

 俺は少し冷静になれたのかこの二人が昨日の卵から孵化したのだと理解した。だから二人は俺のことを母親だと言ったのか。

 

「ごめんな、また後で俺から会いに行くから。」

 

 そう言って頭を撫でるとしぶしぶ離れてくれた。リリーはバーンズを呼ぶと二人を連れて先に行くように言った。

 

「ソーヤ様、二人の事はお任せ下さい。」

 

 そう言って二人を連れて出て行った。俺はリリーの用意した少しドレスに近い服を着ながら二人の事を聞いてみた。

 

「予想より早かったと言ってたけど、いつ孵化する予想だったんだ?」

 

「そうですね、昨日注いだ生命力の量なら昼頃の予想でした。おそらく早まったのはソーヤ様が同じベッドで寝たことでソーヤ様から漏れ出した力も吸収したのでしょう。」

 

「問題はなかったよな?そのせいで体に問題を抱えさせたくないんだけど。」

 

 俺が心配そうな顔で聞くとリリーは微笑みながら否定した。

 

「親の生命力で異常は起きませんよ。孵化した後に無理矢理流し込んだりしたら駄目ですけど、殻は周りの魔素を変質させて吸収してますから問題ありません。」

 

 俺は安堵するとリリーについて食堂へ向かいながら心の変化を感じた。

 

 食堂に入ると二人の子供は席に座っていたが、俺に気づくと椅子から降り俺に抱きついてきた。

 

 リリーはそのまま奥へ入りバーンズが少し近くに移動して俺達を見守り始めた。

 

 二人の頭をなでながら顔を見てみると二人は男と女だと気づいた。見た目では分からないのに何で気づけたんだろ?

 

 そう俺が考えたのが分かったのかバーンズが説明してくれた。

 

「この二人はソーヤ様の生命力を強く受け継いでいます。ですからソーヤ様が成長し力を巧く扱えるようになれば性別等ではなく、現在地等も分かるようになるでしょう。」

 

 なるほど、そういう力も身に付くのか。

 

 リリーが奥から果物を持ってきた事に気づくと二人を椅子に座らせて俺も椅子に座った。

 

 リリーは二人の前に林檎を切ったものを置き、俺の前にはそれ以外にも小鳥サイズの鳥を内臓などを取り除いて串に刺して焼いた物を用意していた。

 

「この鳥はどうしたんだ?この島には動物は居ないんだろ?」

 

「バーンズが今朝城の近くで魔物化した海鳥を見つけ討伐したので、その核となった鳥を骨も食べられるように加工して焼き上げました。」

 

「え?魔物って食べられるの!?」

 

 俺が驚いて琥珀色に焼けた鳥を見つめるとバーンズが説明してくれた。

 

「魔物は魔素が集まり産まれた物と、動物を核として魔物化した物があります。前者は倒すと魔素結晶だけが残り、後者は魔素結晶と核となった生物が残ります。しかし普通の人間が食べるには魔素が多すぎるので、特殊な方法で取り除かなくてはいけないのであまり食べることはありません。ソーヤ様やソーヤ様の生み出した生命体の場合はそのまま食べる事が出来ますし、果物と同じで美味しく感じるはずです。」

 

 試しに翼を食べてみると、皮はぱりっとした食感で味は甘辛い味でおいしく、骨も揚げた麺類のような食感で良い感じだった。

 

 俺が用意されていた物を食べ終わるとリリーは食器を片づけるため奥へと入っていった。俺は二人を見ると満足したのか少し眠そうに座っていた。

 

「リリーが帰ってきたら中庭に行きましょう。」

 

 そう言ってバーンズは二人の方へ歩いていき話しかけている。二人はそれを聞くと眠そうだった目をあけ俺の方に走ってきた。

 

「かーさま、お庭に行きましょう!」

 

 そう言って服を掴んでくる男の子と無言でお腹に抱きつく頭に花の咲いた女の子。俺はリリーが来たらねと言いながら二人の頭をなでた。

 

 少し待つとリリーが帰ってきたので中庭に移動したいことを伝えると、俺と二人の周りを二つの球が回りリリーの神術で中庭へと転移した。二人は初めてだったのにあまり驚いてはいないようだ。

 

「よし、二人共好きに遊んで良いぞ!」

 

 それを聞くと二人は少し考えた後走って行った。俺と遊ぶか考えて走り回ることを選択したみたいだな。良かった、子供との遊びとかよく分からないしな。

 

「ソーヤ様、ベンチを用意していますのでこちらへ。」

 

 バーンズが示した所には綺麗な彫刻が施されたベンチと小さなテーブルが用意され、半透明な材質の屋根も設置されていた。俺はベンチへと座りリリーが付いている二人を眺めた。

 

「そう言えばあの二人は俺と同じ食生活でいいのか?」

 

「ソーヤ様は食べた物をすべてエネルギーへと変換できますから、極端な例としてはその辺にある岩すら食べる事が出来ます。しかし、ソーヤ様が生み出した生命体の場合、変質した魔素を吸収出来ると言うこと以外は、基本的に人間と違いがありません。」

 

「変質した魔素を吸収出来ると言うことは魔物化した動物も食べられるのか?」

 

「はい、しかしあの二人はまだ小さく果物以外を食べる事が出来ません。」

 

 それであの二人には果物しか用意されてなかったのか。そう考えながら二人を眺める。

 

「二人を見ていると暖かな気持ちが湧いてくるのは転生の影響なんだろうな。多分、母性本能に近いのか?」

 

 そう思って二人を詳しく見てみた。

 

 男の子は髪は薄い緑で髪から覗く耳は長く少し尖っている。女の子は深い緑の髪で頭に小さな白い花が咲いている。

 

 男の子は分からないけど、女の子は植物系の力みたいだな。花咲いてるし。そう思って眺めていると走っていた男の子が躓き勢いよく前に飛んだ。俺が慌ててリリーに指示を出そうとすると男の子がいつまで経っても地面に着かないことに気づいた。

 

 俺がどうしようかと悩んでいると、男の子は色々試して力を理解したのか、そのままふわふわと俺の近くまで寄ってきた。

 

「かーさま、飛べるようになったー!」

 

 そう言って自慢気に笑っている。

 

「どうやらこの子は風の属性を持っているようですね。自らの周りの風を操り体を浮かしているのでしょう。」

 

 確かにこの子が近づいてきてから風の流れが変わった気がする。この子の種族特性って所か?

 

「そう言えばこの子達の名前は俺がつけた方がいいのか?それといつまでも生命体って言うのも変な感じだし大まかな名前を付けようと思うんだけどどうかな?」

 

「そうですね、ソーヤ様のやりやすいようにしたら良いと思いますよ?リリーその子も連れてこちらへ。」

 

 俺がリリー達の方をみると女の子はピョンピョンと飛び跳ねていた。どうやら自分も飛びたいみたいだが、女の子には飛ぶ力はないらしい。リリーに俺の所に行くよう聞いたのかこちらを向くとこちらへ走り出した。

 

 俺が待っている所まであと少しというところまでトコトコと走って来ていた女の子が、なぜか立ち止まり地面を叩き始めた。すると地面に生えていた草が伸び女の子を持ち上げるとそのまま男の子の隣に移動してきた。この子は植物系みたいだな。二人共俺にほめてほしいのか俺の顔をじっと見つめている。

 

「二人共力を扱えるようになったんだな、偉いぞ。」

 

 俺がそう言いながら頭をなでると物凄く嬉しそうにニコニコしている。よし、この二人にも名前を付けよう。そうだな、後のことを考えたら詳しく設定しておいた方が良いか。

 

「バーンズ、リリー。俺が生み出した生命体の名前は魔素を管理するために俺を連れてきた魔神様から取って魔人族とする。」

 

「了解しました。それとリリーが神術を使うときに球に表示させている漢字はこの星では現在使われていません。なので他の国では自動的に他の字に見えるような仕組みを三神の方々が用意されたそうですので、他の人間に見られても問題はありません。」

 

「漢字が無いって日本や中国はどうなってるの?」

 

「詳しくはまた今度説明しますが、魔学平気の暴走で国土が殆ど使えなくなり、他の大陸に移った影響で廃れたようです。」

 

 異世界とはいえ日本がないのは残念だな。

 

「なら俺の国ではバンバン使おう!まずこの男の子は、風の属性を持ち見た目は殆ど人間と変わらないから魔人族・亜人・シルフだ。そして名前は初めに産まれたから疾風ハヤテだ。」

 

 俺が名前を付けると疾風は、自分の名前を口に出しながら抱きついてきた。

 

「そして女の子は植物系みたいだし、頭の花以外は同じく人間と変わらないから、魔人族・亜人ドリアージュだ。そして頭の花が白いから麻白マシロだ。」

 

 麻白も俺に抱きつきスリスリと甘えてきた。

 

 その後、疲れたのか眠った二人をリリーに任せ俺とバーンズは王座の間へ向かった。

 

 俺が椅子に座るとバーンズは地図を取り出しこれからの事を説明し始めた。

 

「まず我々がしなくてはいけないのは成長した魔人族が生活する集落の作成と水路を作り、この大地を緑化させることです。」

 

「大地の緑化は良いけど、魔人族の生活する集落は急ぐ必要あるのか?まだアイツ等は子供だぞ?」

 

「確かに集落については今すぐ作る必要がないと思うかもしれませんが、道や水路を作るなら最初から計画に組み込んでおいた方が効率が良いのです。それにソーヤ様の産んだ魔人族は魔神様が言うには、魔素を取り込んで生活しているので成長が早いそうです。」

 

「成長が早いなら寿命が短いなんて事はないよな?」

 

 あの二人がすぐに死んでいくなんて見たくないぞ。

 

「魔神様にもそれは分からないそうです。環境次第で変わるだろうとのことです。」

 

 神が寿命を決めてるわけじゃないから流石に分からないか。

 

「ソーヤ様にやって貰いたいことは湖への道を作りながら、道付近の魔素を吸収していただきます。」

 

「変質した魔素を減らし大地を浄化しながら、この国の民を増やすんだな?わかった、でもどうやって整地をするんだ?この城は魔神様が作ったんだろ?」

 

「城の地下に魔神様が用意した者が居ます。ソーヤ様が触れれば目覚めるはずですのでこれからまいりましょう。」

 

「昨日は地下には行かなかったな、そいつもバーンズ達と同じ感じなのか?」

 

「目的が違いますから我々とはかなり違います。見れば違いは直ぐに分かりますよ。」

 

 そう言いながら俺を案内し地下へと向かった。

 

 地下に降りた俺の前にはかなり大型の機械があった。見た目は米国とかにありそうな無駄に大きな削岩機って所か?それにしては運転席はないな。これを操作するバーンズ達の仲間は何処だ?

 

 俺が周りを探し始めたのでバーンズは機械の前に立ち此方を向いた。

 

「ソーヤ様、ここに居るのが多目的工作機械ブロンズです。今は眠っていますが、ソーヤ様が触れれば目を覚ますはずですよ。」

 

 俺はそれを聞くと恐る恐るブロンズと呼ばれた機械に触れた。すると駆動音と共に所々が変形し、大きな五本指のアームや、どこかのアニメのような緑の目と長方形の箱状の頭を持つ機械ブロンズが目を覚ました。

 

「ソーヤ様おはようございまス、私は魔神様に産み出された機械ブロンズと言いまス。」

 

「ああよろしく。早速だけどお前にも名前を付ける、シルバーやゴールドと同じように俺の名前からマーチ・ブロンズと呼ぶが良いよな?」

 

「了解、私の名前はマーチ・ブロンズでス。これからの開発の役に立てるよう力を尽くしまス。」

 

 そう言って背面から何かを伸ばし光らせている。

 

「早速だが湖への道を作ることになった、力を貸して貰うぞ。」

 

 そう言って俺が笑うと奥の扉が開いた。俺はバーンズに抱えられマーチの上に移動した。意外なことに自我がある機械なのにちゃんと座る場所があった。

 

 マーチが通路を進み通路を抜けると城から近い場所に出てきた。出てきた通路のあった場所をよく見ると既に見た目では分からない岩場へとなっていた。隠蔽は完璧のようだ。

 

「ソーヤ様、ここから湖へと道を造るのですがソーヤ様には予定通りマーチの削った大地に残る魔素の処理をお願いします。」

 

「残骸は良いのか?」

 

「削った岩にある魔素は魔素結晶の補助エネルギーとして、私が使用しますので問題はありませン。」

 

 マーチは魔素で動くのか。これだけでかいと写真で見た兵器みたいに、魔素を大量消費はしないのか?

 

「人間の作る兵器とは仕組みが違いますから大丈夫ですよ。マーチの動力源は確かに魔素結晶ですが、結晶そのものを消費するのではなく、媒体として使用し変質した魔素を睡眠時に貯え利用します。更に削岩した残骸を固める時に魔素を吸収しますのでほぼ休みなしでも一週間程なら働くことが出来ます。」

 

「そうなのか。でも、休み無しで働いて異常が起こったら困るし、無理だけはするなよ?」

 

「了解しました。では作業を開始しまス。」

 

 そう言ってマーチは湖へ向かって進み始めた。予想してたよりも静かに進むマーチの上で俺は地面に存在する変質した魔素を吸収し始めた。直接触れなくても意識すれば近くなら吸収出来るのは、大気の魔素を吸収したときに理解していたから問題なく吸収できた。

 

 後ろを見ると綺麗に踏み固められた道が出来ていた。横幅は5メートル位のようだ。小型車なら二台通れそうだな。

 

「これで道は完成なのか?」

 

「このままですと削り踏み固めた分地面よりも低くなっていますので、左右に溝を掘り道の表面にも舗装をしないと雨が降ると水が溜まりぬかるんでしまうので後でマーチの眷属が仕上げをします。」

 

「眷属?」

 

「マーチのいた地下室にあるいくつかのハッチの中には、マーチが指令を出すと動く専用機械があります。自我はありませんのでマーチが止めるまでずっと働き続けます。動力源はマーチと同じです。」

 

 なるほどね、マーチのこのサイズでは細かい作業に対応しにくいのか。

 

 しばらく進んでいくと前方に1メートル位の半透明の体を持つ魔物を発見した。

 

「ブルーゼリーですね。非常に弱い魔物ですが、打属性と刺属性が効きづらく装備によっては手間のかかる魔物です。私なら切断を繰り返し体積を減らし倒しますが、リリーなら神術で楽に倒せます。」

 

「俺ならどうすればいい?」

 

 それを聞いたバーンズは申し訳無さそうに答えた。

 

「ソーヤ様ですと神器をまだ具現化できていませんので倒すのであれば、剣などを装備するほどの腕力は無さそうですので、生物などの場合直接触れて魔素を吸収するしかないかと。」

 

 俺は直接触れて魔物と戦う姿を想像すると、ゼリーに取り込まれ中でもがく姿が思い浮かび鳥肌が立った。神器か、バーンズの剣とリリーの球がそうかな。そう思って頭の中で俺の神器、神器と考えていると目の前に何かの力が集まって行くのを感じ目を開けると、そこにはうっすらと杖の様な物が浮かんでいた。しかし触れようとすると霧散し消えてしまった。

 

「今のが俺の神器か?」

 

「そうですね、しかしまだ具現化させるには力不足のようです。成長すれば作り出せるようになりますよ。では私はブルーゼリーを片づけてきます。」

 

 そう言って飛び降りると横に剣を一閃、ブルーゼリーは弾力を失い水溜まりの様になった。俺は何となく魔物から霧散していく魔素を吸収してみた。すると水溜まりは小さくなっていき消えていった。どうやら死体であれば吸収出来るようだな。卵が発生する兆候が感じられたが理由がない限り産まれる卵の属性は考えないことにした。そう言えば今朝食べた鳥の魔物は美味しかったけどこの魔物は魔素が集まったものだから何も残らなかったな。魔素結晶も俺が結晶になる前に吸収したから残らなかったし。そう俺が考えているとバーンズが帰ってきた。

 

「ソーヤ様。魔物を吸収するのは良いのですが、湖への道の魔素を処理する事の方が大事なのであまり多用しないで下さい。」

 

「悪いな、魔物からもここから吸収出来るか試したかったんだ。今日はもうしないよ。」

 

 俺がそういうとマーチに先に進むよう指示を出し、偶に現れるゼリー系の魔物を倒しながら進んだ。そして湖に近づいてきた頃リリーが疾風と麻白を連れて転移してきた。

 

「ソーヤ様、そろそろ昼食の時間です。城に戻るのも良いですがこの先の湖で食べませんか?」

 

「そうだな、遠足みたいで良いかもな。よし、マーチ湖への移動を優先してくれ。昼食を食べてから続きをしよう。」

 

「了解しました。地面の削岩のみをして移動を優先しまス。」

 

 マーチはそう言って速度を速め湖へ向かって進んでいった。疾風達は俺の後ろに座り周りを楽しそうに眺めている。初めて城外に出たから珍しいんだろうな。

 

 マーチが湖に着くとリリーはマーチから飛び降り、湖の直ぐそばにあった砂地にテーブルと椅子を出した。

 

「リリーの用意が終わったようなのでソーヤ様も参りましょう。」

 

 そう言って俺を抱えるとリリーのいる場所まで跳んだ。疾風と麻白もふわふわと飛んでいた。

 

「あれ?どうやって麻白は飛んでるんだ?」

 

「疾風が麻白の周りにも力を使い浮かせているようですね。想定よりもかなり成長が早そうです。」

 

 確かにまだ産まれて1日目なんだよな。俺が地面に降り椅子に座ると二人も自分の椅子に座り用意されていた果物を食べ始めた。朝よりも勢いよく食べてるな。

 

「体内の魔素を使ったのでおなかが空いたのでしょう。」

 

 そう言えば俺は餓死しないからお腹も空かないな、幾らでも食べられそうだけど。そう考えながら果物を口にした。

 

 二人は食べ終わると砂地に横になりお昼寝を始めた。俺も少しウトウトしながら湖を眺めていたが、ここの水は限りなく透明で遠くまで見渡せた。

 

「この湖にも生き物は居ないんだよな?この水にも変質した魔素が大量なのか?いい加減ややこしいな、灰素カイソと呼ぶことにしよう!」

 

「了解しました。そうですね、この湖は雨水が溜まって出来ているのでそれ程含まれてはいません。同じように塩水湖も海水が流れ込んだもなのなので灰素は生物が生息できるくらいの濃度です。」

 

「なら塩水湖には魚はいるのか?」

 

「いえ、湖底の穴はあまり大きくないですし、地下深くで繋がっているため魚などは居ないはずです。しかし、捕まえてきて放流すればこの湖と塩水湖は生物が育つ環境ではあります。」

 

「それなら城の近くにもここから水を引いて池を作ろう!余裕があれば塩水湖からも引けたらいいな。」

 

「そうですね、塩水湖の方は潮位の影響がありますから難しいと思いますが、池の方は直ぐに取りかかれるでしょう。」

 

 俺はマーチに指示を出すバーンズを岩にもたれ眺めながら、心地よい風に吹かれ眠りについた。



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国土整備開始3

 俺は昨日のように暗い空間に居ることに気づいた。しかし周りを見渡しても光る場所はなく結衣の姿はなかった。

 

「あれ?結衣が居ないって事はこれは夢か?」

 

 そう言って耳を引っ張ってみると結構痛かった。

 

「何をやってるんだ?普通は頬に何かをするのではないのか?」

 

 俺が振り返ると後ろに魔神様が立っていた。

 

「いや、頬はありきたりだし試しにしてみました。」

 

「お前少し子供っぽくなってないか?まぁ、いいか。お前は結衣という子供を捜していたみたいだが基本的には真夜中にしか交信能力は発動しないぞ?俺の力は夜の方が力が増すから効率がいいのだ。」

 

「それなら俺がここに来たのは魔神様が呼んだんですか?」

 

「そうだ。お前の力の説明をしておこうと思ってな。お前と結衣の繋がりは共に寝ていることが条件だ。しかしその条件にも少し違いがある。お前が夜寝ることで繋がるのに対し、結衣の場合昼寝などで一定時間寝た場合なら交信が可能だ。その際に時間が同期される。例えばお前が二日寝ずに過ごした場合でも、昼寝をしている結衣にとっては自らが起きていた時間分しか時間が流れない。」

 

 そうなると結果的に俺の方が時間が経つのが早いことになるのか。

 

「そう言えばまだ礼を言ってなかったな。すでに魔素の管理を始めてくれたようだな。礼を言う。」

 

「まだ、ほとんど何もしてませんよ。あぁ、そう言えば俺の性別変えるなら前もって言っておいて下さいよ。風呂に入る直前に気づいて焦りましたよ!」

 

 それを聞いた魔神様は首を傾げ聞いてきた。

 

「お前は男の姿のままで卵を産みたかったのか?そうなりたいなら体を一度壊して作り直しても良いが?」

 

「やっぱりこのままで良いです!」

 

「まぁ、それでも俺の力で造った体だ、不滅だとは言えあまり無茶はするなよ?仮にも俺の子供の様な物なのだからな。」

 

 そう言って頭をなでてきた。元の年齢からしたら嫌な気持ちが湧くかと思ったが、予想外に不快感は起こらなかった。魔神様は俺から手を離すと何かを俺の頭に乗せた。

 

「それは三神の力を受けた者の証だ。少なくともまともな国家代表なら馬鹿な真似はしないだろう。お前はこれから他の大陸へも行くことが在るだろう。それが少しは役に立つはずだ。」

 

「他の大陸って、この大陸内でまだ色々やることがあるんじゃないの?」

 

「確かにやることは沢山あるだろう。しかし家畜や魚などはどうするつもりだ?お前が名付けた魔人族も成長すれば果物だけではなく野菜や肉も必要だろう。それを仕入れるために必要な通貨はこの国にはないからな。」

 

 確かにこの国には通貨がないから買い物は出来ないな。でもこの大陸外に行かないと買い物が出来ないのは不便だな。

 

「別に買い物は他の大陸に行かなくても港さえあれば、大海移動船団から仕入れることが出来るぞ?家畜などはそこから買うことになるだろう。名前の通り陸地で暮らすのではなく、海で生活することを選んだ自由貿易を認められた集団だな。」

 

「ここから近いのはどこの国?地図には地名とか載ってなかったけど。」

 

「近さで言うならサザンクロス連合国の国家代表がいるサウザンクロスが近いな、だがここから移動するならウェストクロスがいいだろう。移動にはマーチを使うことになるしな。」

 

 そう言って地球儀を出し位置を教えてくれた。サウザンクロスがオーストラリアでウェストクロスはその西にある島国のようだな。

 

「リリーの神術で移動するのは駄目なんですか?それならマーチじゃなくても良いと思いますけど。と言うかマーチ海移動出来るんですか!?」

 

「マーチは空以外なら対応可能だ。ホバー船の様な感じだな。それに転移先に行った事があるか、知った者やマーカーがある場所でないと転移は出来ない。それと、神術や神技は俺の加護の強いこの大陸なら無制限に力を使えるが、他の大陸では著しく効率が落ちる。他の大陸からの長距離転移は難しいだろう。」

 

「なら俺の神言も効率落ちます?」

 

「いや、お前は神の体を持っているから魔素操作の効率はほとんど落ちない。まぁ、神器を具現化出来ないお前では吸収位しか出来ることはないだろうがな。」

 

 そうか、リリー達の力が落ちるこの大陸以外のことを考えると早めに具現化出来るようにならないといけないな。 

 

「ウェストクロスの神殿にいる三神教の神官に、お前が近いうちに訪れる事を伝えておこう。そこでマーチの中に溜まっている魔素結晶と通貨を交換すると良い。神殿で港の認識票を受け取り港に設置すれば大海移動船団が寄港してくれるようになるだろう。」 

 

「ありがとうございます。なるべく早く港を作ってウェストクロスに向かうことにします。」

 

「気にするな、仮にも俺の娘のようなものだからな。そうだお前の頭につけた髪飾りは力を注げば短時間なら障壁を張ることが出来る、強度はお前の技量次第だ。それではな。」

 

 そう言って魔神はさり、俺はこの空間での意識は薄れていった。

 

 

 俺が目覚めたのは湖ではなく自室のベッドだった。俺が寝ている間にリリーが転移させたんだな。周りを見渡すとベッドの横の棚にベルの様な物が置かれていた。

 

「これって昔の貴族とかが使用人を呼ぶのに使ってるのを見たことがあるな。これを使うのか?」

 

 俺は手を伸ばしベルを持つと振ってみた。すると綺麗な音が鳴った。そして数秒でドアを開けてリリーが入ってきた。

 

「お目覚めですね。先程鳴らしたベルはソーヤ様が鳴らせば私達がどこにいても聞き取ることが出来ますので、用があるときはいつでも使って下さい。そろそろ夕食の時間ですので浴場へ行きましょう。」

 

 そう言ってリリーは俺を連れて歩き出した。俺は途中で窓から外を見るとすでに夕方となっていた。

 

「あの二人はどうした?」

 

「あの二人なら先程までは中庭で遊んでいましたよ。バーンズが見ているはずです。あの二人も下の浴場に向かうでしょう。」

 

 そうか、俺の浴場は専用だったな。でも広いし問題無さそうだけどな。

 

「あの二人も一緒はだめか?」

 

「二人もですか?それはソーヤ様が問題ないのならかまいませんけど。そうですね、バーンズに伝えておきましょう。」

 

 そう言って二つの球を浮かせ交信と呟くとバーンズに神術で伝えたようだ。

 

「その神術ってのはどうやってるんだ?」

 

「神術はこの球に神言を簡易化した文字を表示して組み合わせで発動しています。今の場合なら交と信ですね。」

 

 そう言って俺の前まで球を近寄せる。確かに中にはその文字が見えている。これは漢字みたいだな。俺が読むからそう見えてるんだろうけど。

 

「これは漢字だったよな?」

 

「そうです、この世界に漢字が残っていないので魔神様がソーヤ様が神言を扱いやすいように日本語を元に作りましたから、自然と神術等も漢字を元に作られました。」

 

 確かに使い慣れた言葉の方がやりやすいな。魔神様に感謝だな。

 

 俺が浴場に着いたときにはまだ二人は来て居なかったので、先に俺とリリーは中に入り俺の体を洗った。俺がのんびりと浴槽に入っていると二人が中に入ってきた。流石にバーンズは脱衣場までしか入って来なかったので、隙間からみえた扉の向こうにはバーンズの背中が見えた。

 

 二人は順番にリリーに体を洗われると俺の居るところまで走ろうとしてリリーに捕まえられていた。二人がリリーに連れられ浴槽に入った所で注意をすることにした。

 

「二人共、お風呂では走っちゃだめだよ?滑ると危ないからね。約束できるなら、お風呂は一緒に入っても良いよ?」

 

 そう言うと二人は元気良く頷き直ぐそばまで近づいてきた。俺は二人の頭をなでながらこれからの事を二人にも聞こえるようにリリーに話しかけた。

 

「リリー、もう少し人数が増えて手狭になるまでは、子供達も一緒に入ろうと思うんだけどどうかな?」

 

「それは構いませんが、あまり人数が増えますと私達だけでは手が回りませんよ?」

 

「そうだな、孵化させる速度も考えないとな。疾風と麻白も弟や妹が出来たらお手伝いよろしくね。」

 

「うん!」

 

 そう言って二人は俺に抱きついてきた。なんかプニプニしてて面白いな。そう思って二人の頬をつつくと二人はくすぐったそうにしながら笑っていた。

 

 リリーははしゃぐ二人と俺に服を着せると、バーンズを伴い食堂へと向かった。

 

 リリーが用意したのは小さめに切られた果物の盛り合わせと、鳥を骨ごと煮込んだ物だった。多分串焼きの鳥と同じだろうな。料理を食べるために用意されていた道具は使い慣れた箸だった。

 

「へぇ、箸があったんだ。この大陸で作れる植物が増えたら料理が楽しみだな。」

 

「その時は私達が力の限りおいしい料理を用意すると誓います。」

 

 俺はリリー達からの返事に笑みで返し、おいしい料理を楽しんだ。子供達二人は料理を食べ終えた俺とは別室に向かうことを聞かされると予想通り抵抗した。俺が頭をなでながら説得すると、二人の反応には少し違いが見えた。疾風は我慢をすでに覚えたようで、俺に悲しそうな顔を向けてはいる物の自分から離れた。だが麻白は甘えたいのか離れようとはせず俺から半ば強制的にはぎ取られ、リリーに連れられて行った。別室へと向かう麻白が、時々振り返っているのは少し可哀想かな。

 

「ソーヤ様の精神の影響を受けていますので、普通の子供よりは精神的に発達しているようですね。普通の子供は産まれて初日にあれだけのことを理解することは出来ないのですから。」

 

 そういえばそうだな、あの見た目だから忘れてたけど、産まれてまだ一日だった。

 

 自室に帰ってきた俺は、リリーにも後で伝えることをバーンズに頼み、昼寝の時の魔神様との話を伝えた。

 

「港ですか。ここから南、城の正門から先に海があります。現在は浅い海岸線が続いているのでマーチに指示を出し港造りを優先させましょう。道に関してはマーチの眷属に任せれば何とか成るでしょうし。」

 

「そうだな、そうしてくれ。それと、基本的にはこれからの事はバーンズとマーチである程度は自由に整備してくれ。勿論魔素の吸収には行くけど、俺には国作りの知識は無いからな。」

 

「分かりました。ところで今日はもう休みますか?」

 

「さっきまで寝てたから眠くないし、卵を産んだ後はのんびり過ごすよ。」

 

 そう言って俺は産卵管を操作しベッドに卵を産んでいったが、今回は昨日と明らかに違う卵が二つあった。

 

「なぁ、色々混ざった青は水系、真っ赤なのは火だと分かるけど、真っ白なのが在るがこれは何だ?」

 

「恐らく私達しもべから漏れている力を睡眠中抱いてマーチで長時間移動したので、無意識に取り込んだのでしょう。魔神様と会ったことも影響しているかもしれません。そうですね、この卵は私とリリーが育て、子供達の世話係として育てましょう。」

 

「世話係?流石に子供の世話を子供がするのはきついんじゃないか?」

 

「最初は確かに難しいことは出来ないでしょう。簡単なことから教え込むつもりです。予行練習にも成りますし。」

 

「予行練習?」

 

「私達はそれぞれが種族を問わず子孫を作る機能が備わっています。リリーとの子供を作ることは出来ませんし、こらからも機会があるかは分かりませんが。」

 

 なんか二人が子供を育てているのを考えると、複雑な気分だ。独占欲か?

 

「そうだ、これから産む卵は属性や種族などを産み分けることはしないと決めたよ。」

 

「なぜですか?狙った属性の子供を産めば色々と都合が良さそうですよ?」 

 

「勿論、必要が在れば調整はする。でもどんな奴が産まれるか分からない方が楽しみじゃないか。」

 

「わかりました。この国の主はソーヤ様ですから、好きになさって下さい。我々はその手助けをするのが仕事ですから。」

 

 そう言ってバーンズは卵を持って部屋から出ていった。

 

 俺はベッドから降りると窓の外を眺めた。遠くの方で何かが光っているのはマーチやその眷属だろうか?

 

「港が出来たらこの星の人間と会うのか。魔人族が人間に受け入れられるかは不安だけど、バーンズが言っていたように、俺がこの大陸の主だ。出来る限りのことはしていこう。」

 

 そう一人空と大地を眺めなら決意をした。

 

 そして外が暗やみに包まれ真っ暗になった頃、リリーが俺の部屋を訪れた。そろそろ寝ることにした俺は卵に力を注ぎ、昨日のように眠りについた。 

 

 

 昼のように暗い空間に着いた俺は周りを見渡したが、そこには予想通り昨日と同じように結衣が眠っていた。俺はがっくりと近づくと目を開けた。どうやら光に俺が触れるのが条件のようだな。

 

 

「あ、宗也お姉ちゃん!」

 

「おはよう、結衣。今日は子供が産まれたことを教えてあげるよ。俺には新しい種族を作り出す力が在るんだよ、魔人族って名付けたんだけどね。」

 

「そうなんだ。ねえどんな子?」

 

「そうだな、男の子は割と頭のいい優しい子かな。女の子は甘えん坊でかわいいよ。まだ産まれて一日しか経ってないけど、最初から結衣位の見た目なんだ。」

 

「そうなんだ、なんか不思議だね。いつか会ってみたいな。」

 

「そうだね、いつか会わせてあげられたらいいね。」

 

 そんな話をしていると光が薄くなってきた。

 

「どうやらここまでみたいだね。」

 

「うん、バイバイ!」

 

 俺も手を振る結衣に手を振り返しこの場所から消えていった。



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国土整備開始4

 俺は何かがへばりつくような感触で飛び起きた。

 

「なんだ!?」

 

 周りを見るとまだ夜が明けたばかりのようで少し薄暗かった。そこには何も異常がなかったので気のせいかと思って息を吐くと今度は腰から太股のかけて何かが這うような感触があり急いでシーツをめくった。そこにはまだ割れていない卵と何かの液体が腰の辺りにへばりついていた。

 

「こいつはゼリーか!?いったいどこから!」

 

 俺が慌てて剥がそうと手を伸ばすと、ゼリーは自分から離れ丸くなって震え始めた。まさかと思い卵を確認するとやはり青い卵がなくなっていた。どうやらこのゼリーは卵から産まれた俺の子供のようだ。

 

「・・・もしかしてさっきのは甘えていたのか?」

 

 俺がそう問いかけると、深い青い色で半透明の体を持つ50センチ位の女の子へと変わり、涙ぐんだ瞳を俺に向けていた。下半身は足ではなく液体のようだが、上半身はちゃんと人と同じ様な形だった。服は少し透けているので体と同じ性質なんだろうな。

 

「悪かったな、直ぐに気づいてやれなくて。安心しろ、もう怒ったりしないよ。さっきはいきなりで驚いただけなんだ。」

 

 俺はゼリーの魔人に謝りつつ手を伸ばした。女の子は恐る恐るという感じで手に触れてきた、女の子の体は見た目通り水の属性なのかひんやりとしていた。俺が拒絶していないことを理解したのか、器用に下半身を使い俺の直ぐ側まで近づいて来た。しかし、タイミングの悪いことに扉が勢いよく開きバーンズが入ってきた。

 

「ソーヤ様叫び声が聞こえましたが、何かありましたか!?」

 

 女の子はよほど驚いたのか液体化すると俺の体にへばりついた。なんか濡れたみたいで落ち着かないな。暑いときは良いかもしれないけど。そう言えばこの大陸の季節はどうなってるんだろ?とりあえずはバーンズに説明しないとな。

 

「いや、俺が勘違いして叫んだだけなんだよ。こいつが卵から産まれたんだが、ゼリーが俺にくっついてると勘違いしてな。ほら、お前も安心しろよ。この人はバーンズといって俺の家族みたいな奴なんだ。」

 

 そう言って俺の胸元から顔を出した女の子の頭を撫でた。すると女の子も落ち着いてきて、服の中から出てくると先程のような人型へと変わった。

 

「お前はゼリー系の魔物に似てるから、誤解されないようになるべく人型でいるんだぞ?それにしても魔物の特性が強い奴をどう呼ぶかな。この星にはスライムと名前につく魔物は居るか?」

 

「いえ、不定形の魔物の内、液体の魔物についているのはゼリー系だけですね。気体にも種類はいくつかありますけど近い名前はありません。」

 

 俺は女の子の頭に手を乗せると名前を付けた。

 

「お前は魔物に近い姿だから知名度を上げるためにもわかりやすい名前にしたよ。お前の名前は魔人族・妖人ヨウジンブルースライム・青香セイカだ。」

 

 妖人のゴロは悪いが仕方ない、あやかしびとと読んでも良いが他の種と同じく分かりやすいだろう。多分。

 

 俺がそんなことを考えていると青香は嬉しそうに俺の体に手と下半身を使いへばりつきながら震えている。なんかマッサージされてるみたいな感じに感じるけど、くすぐったいから止めるように言って俺の隣に移動させた。

 

「それでは私は城外の警備に戻ります。」

 

「あぁ、すまなかったな。見回り頑張ってくれ。」

 

 バーンズは頭を下げると部屋から出ていった。

 

「完全に目が覚めたな。青香、お前の兄姉が起きてくるまでのんびり過ごすか。」

 

 それを聞いた青香は俺の横で器用に形を変えながら何かをしている。とりあえず見ていると何かの形に成ろうとしているようだ。少し見ていると部屋にあるグラスやベルの形を真似しているようだ。そう言えば青香は一言も話していないな。

 

「お前は喋れないのか?喋れないなら何か対策を練らないといけないんだが。」

 

 すると青香は体の一部を伸ばすと俺の頭にくっつけた。俺が首を傾げているのを見た青香はにこりと微笑むと言葉を口ではなく体の一部を使い伝えてきた。

 

『ママ、お話しできるの。』

 

「これはどうやって伝えてるんだ?」

 

 青香は少し考えた後、首を傾げた。

 

『頭の中に浮かんだの。』

 

 骨伝導でも使ってるのか?音は振動で伝えられるはずだしな。

 

「よし、後でリリー達に相談してみよう。他の皆共話せるように出来ると良いな。」

 

 俺は青香の体を引っ張ったり、青香が形を色々変えるのを見ながら過ごしていると残っていた卵にもひびが入った。

 

「お?お前の妹か弟が生まれるみたいだぞ。そう言えば孵化を見るのは初めてだな。」

 

 青香も俺の膝の上に移動して卵の変化を見始めた。しばらく見ているとひびがだんだんと広がっていき、僅かに中が見えるくらいの亀裂が入った。するとそこから何かが溢れてきて卵の側に集まり始めた。魔素というよりは生命力と魔素の混ざったものかな?

集まった力はだんだんと人の体のように形成を始め、少しずつ実体化を始めた。卵の側で丸くなった姿を見る限りは赤い髪の女の子の様だな。そして実体化が終わったのか最後に残っていた殻が砕けると女の子の服に変化した。

 

 俺はこれ以上変化がないことを確認し、女の子の頭を撫でてみた。青香も興味があるのか恐る恐る近づいている。そして少しすると女の子が目を開けた。

 

 女の子は俺の顔を見ると可愛く笑みを浮かべ抱きついてきた。小さくママと聞こえるから喋れるようだ、間に挟まれた青香は隙間から抜け出し少し怒っているみたいだけど。俺が頭を撫でると背中に何か動くものが見えた。

 

「ん?ちょっと後ろを向いてくれるか?」

 

 女の子は首を傾げながら向きを変えてくれた、するとそこには小さめの翼が生えていた。

 

「なるほど翼か、昨日食べた鳥の影響かな?それにしてもこの姿はドリアージュよりも動物に近いし、妖人よりも人に近いな。よし、動物の特徴が出てるからお前は獣人と言うことにしよう。」

 

 女の子はまた俺の方を向くとスリスリと俺に甘えている。反対側からは青香も甘えているがどこか不機嫌そうだ。

 

「そうだな、お前はどんなことが出来るか分かるか?」

 

 女の子は少し考えた後、翼を広げると羽が燃えた。だが同時に女の子の後ろにあったシーツも燃えた。

 

「わ!?ストップ、止めて、シーツも燃えてる!」

 

 女の子は慌てる俺を不思議そうに見ている。確かにこれをやるように言ったのは俺だな。俺は急いでベルを鳴らす、すると今度は上から水が降ってきた。振り返ると青香が力を使ったのか手から水が出ている。

 

「ありがとう青香、おかげで火は消えたよ。出来れば範囲は絞ってほしかったけどね。」

 

 俺は青香の頭をなでお礼を言いながらびしょ濡れになった周りを見渡した。女の子もびしょ濡れになり、翼からは少し水蒸気が出ている。俺は二人を抱えると床におろしベッドを確認した。

 

「良かった、燃えたのはシーツだけでベッド自体には被害はないな。乾かせば問題なさそうだ。」

 

 俺が安心していると後ろが騒がしくなってきた。振り返ると手を鞭のように使いながら女の子を攻撃する青香と羽を矢のように飛ばして喧嘩する二人がいた、女の子が水をかけられたことに怒ったって所かな。

 

 俺は喧嘩する二人を眺めながら溜め息をついた。ベッドの事は俺の考慮不足だし、青香はは火を消してくれただけだから怒りづらいよな。とりあえずあの子にも名前を付けてあげるか。翼が燃える獣人か、安直かもしれないけどファイアウィングって所かな?とりあえず喧嘩を止めるか。羽や周りの物が散らばって片付けが大変そうだ。

 

「そろそろ、喧嘩はやめてくれ。部屋が凄い事になってきたから。青香はその子のお姉さんなんだから、大目に見てあげてね。」

 

 青香は不機嫌そうな顔で喧嘩を止めると俺の側までやってきた。

 

「それと君はこれから魔人族・獣人ファイアウィング・陽炎カゲロウだ。水を被ったのはベッドの火を消してくれたんだから、あまり怒ったら駄目だよ?」

 

 陽炎も名前を付けて貰って嬉しそうだが、俺の隣に居る青香を見ると不機嫌そうに目をそらし青香とは反対側の俺の隣に移動した。火と水なだけあって相性は最悪だな。

 

 睨み合う二人を宥めているとリリーが入ってきた。

 

「お呼びですか?それにしても凄い事になっていますね。」

 

 リリーは周りを見渡すと球を浮かべた。まずしたのは濡れたベッド周りを乾燥させたようで周りの水気が無くなった。そして今度は散らばっている羽を掃除機のような力を使い吸い込んで片付けた。

 

「リリーの力は凄い役に立つな。俺には出来ないよ。」

 

「私はメイドですからね、万能性が私の売りです。」

 

 そう言って焦げ付いたシーツを取り替えると疾風達も目を覚ましたことを伝えてきた。

 

「そうか、なら会いに行ってみるかな。リリーはこの二人をお風呂に連れて行ってくれ、名前は青香と陽炎だ。その後はみんなで食事にしよう。」

 

「わかりました。では、二人共行きますよ?」

 

 リリーは未だににらみ合う二人を連れて浴場へと向かった。あの二人は麻白とは違って、俺に甘えるよりも喧嘩の方に意識が向いているのかすんなり離れたな。

 

 俺は歩きながらも睨み合う二人に溜め息をつきながら見送り、疾風達の部屋へと向かった。

 

 俺が二人の居る部屋に入ると二人は何かを見ていた様だが、俺が入ってきたのに気づくと側までやって来た。

 

「二人共おはよう。何を見ていたんだ?」

 

 俺が頭をなでながらそう聞くと疾風が見ていた物を持ってきて見せてくれた。そこにはこの城の周りの地形が、少し粗いとはいえ薄い木の板に書かれていた。

 

「かーさまの為に地図を書いてみた。板は麻白が木の枝から作ったよ。」

 

「ママのお手伝いするの!バーンズから港作るって聞いたから役に立つかと思って。」

 

 二人は褒めて欲しそうに目をキラキラさせて俺を見てきた。この二人は青香達と違って喧嘩もしないし仲もいいな。

 

「あぁ、ありがとう。二人のおかげで港作りは楽になるよ。頼んでも居ないのにお手伝いが出来るなんて二人はえらいな!」

 

 俺が二人を褒めるととろけるような笑顔を浮かべ麻白は甘えてきた。疾風はニコニコしながら頭を撫でられている。俺達は部屋にあるテーブルへと移動し椅子に座り、俺は二人に話しかけた。

 

「この地図はどうやって調べたんだ?」

 

「お空を飛んで書いたの!魔物がいたら危ないから城からはあまり離れてないよ?海の方には空を飛ぶ魔物が居るから危ないんだって!」

 

「お城の近くはバーンズが警戒してるから安全なんだって言ってたよ。」

 

 そう言えばバーンズは良く見回りに行ってるな。

 

「そうか、無茶をして怪我はしないようにね?」

 

 俺が注意を促すと二人は真剣な顔で頷いていた。禁止されなかったから、これからも役に立てるって思って嬉しいのかな?そうだなこの二人には青香や陽炎みたいに後から生まれてくる子供達のリーダーを担って貰いたいな。

 

「二人共、今朝二人には妹が二人産まれたよ。青香と陽炎って名前なんだ、面倒を見てあげてね?」

 

「はーい。」

 

「頑張ります!」

 

 二人は妹が出来て嬉しいのか元気に返事をした。そう言えばこの二人は生まれたところを見てないからどちらが上と考えてるんだろ?

 

「そう言えば二人はどちらが姉や兄ってなってるの?」

 

 それを聞いた二人は少し考えて疾風だと答えた。確かに疾風は落ち着いてるから長兄として頼れるかも。

 

 俺達が地図の事や港のことを話ながら戯れているとバーンズが部屋に入ってきた。

 

「ソーヤ様、食事の用意が出来ました。青香達も既に食堂にいます。」

 

「そうか、よし二人共朝食に行こうか。」

 

「「はーい。」」

 

 俺達が食堂に着くとそこには少し離れた席に座った青香と陽炎がいた。これは俺が誰の席の近くに座るか決めさせようと言う事か?まぁ、俺の席は一番奥の席だからどちらからも遠いけど。

 

 俺はため息をつきつついつもの席に座ると入り口近くに座っていた二人を見てみた。二人は俺の座る所はここだと知らなかったのか、ガーンいった顔で此方を見ていた。しかし青香と陽炎はお互いの顔を見て席を立つと此方に近寄ってきた。しかし俺の近くの椅子には既に疾風達が座っているので、近くに来たは良いもののどうしようかと悩んでいるのか、席の近くをうろうろしていた。

 

 それを見ていた俺が二人に声をかけようとすると疾風が席から下り陽炎の手を取ると自分が座っていた席に座らせた。陽炎はどうしたらいいのか疾風の顔を伺っている。

 

「僕お兄ちゃんだから、妹にかーさまの隣の席代わってあげる!」

 

 それを見た麻白もかなり名残惜しそうに青香を持ち上げると席に座らせた。

 

「私もお姉ちゃんだから。でも時々代わってね?」

 

 二人は疾風と麻白に満面の笑顔で返し俺の方をみている。二人が大人しくなったのを見計らったのかリリーが果物を持ってきた。置かれた物を見る限り今日は果物だけみたいだな。俺は皆に配られたのを確認して四人に声をかけた。

 

「青香と陽炎は喧嘩をするからさっきみたいな事になるんだよ?これからはもう少し仲良くね、そうしないと一緒に食事できなくなるよ?それと、疾風と麻白は偉かったね。流石はお兄ちゃんとお姉ちゃんだよ。」

 

 それを聞いた青香達は頷いて食べ始め、疾風達は嬉しそうに食べ始めた。俺もそれを確認すると目の前の果物に手を伸ばした。




ここまでがすでに出来ていた過去作の下書きですので次話からの更新は時間がかかるかもしれません。


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国土整備開始5

 俺が果物を食べ終わるとリリーが片付けを始め、バーンズは部屋から出ていった。マーチの所に行くんだな、そうだな疾風達が作った地図を試してみるのも良いか。

 

「疾風と麻白は二人で青香達の相手を頼めるかな?さっき見せて貰った地図を使って城の周りを見たいんだ。」

 

「一緒はだめなの?」

 

 疾風は頑張る!って感じの表情で二人の元へ歩いていった。流石に喧嘩はしていないけど、青香と陽炎だけではいつか始めそうだ。麻白は悲しそうな顔で俺を見ている。

 

「港の方まで行くと危ないかもしれないからね。それに、青香達を疾風だけに任せるのはきついだろうしな。」

 

 リリーも居るけど、何かあったとき一人では手が回らないかもしれないしな。

 

「わかった。今度は連れてってね?」

 

「そうだな、安全が確認されたらこの前みたいに外で食べるのも良いな。」

 

 そう言って頭をなでるとしぶしぶ三人の所へ歩いていった。俺はそれを見送ってから食堂を出ると、地下倉庫兼格納庫へと向かった

 

 俺が地下格納庫の扉を開けるとそこには色々な機械が起動していた。倉庫にあったハッチが開きそこから出てきているようだ。バーンズとマーチは俺に気づくと、マーチは機械に並ぶように指示を出しバーンズと共に近寄ってきた。

 

「ソーヤ様何かご用ですか?」

 

「俺も一緒に行こうと思ってな。疾風達が近くの地図を書いてくれたから、それの確認もしたいしね。問題ないよな?」

 

「勿論です。今日は港予定地への調査が主な予定ですので、時間は問題在りません。」

 

 そう言ってバーンズは頭を下げる。それにしてもここにある機械は地球の物と似てるな。

 

「ここにある機械はマーチの眷族だよな?此奴等が港や町の仕上げをしてくれるんだな。」

 

「はい、マーチの眷族の工作機械達で、この星の工作機械や地球の工作機械を参考にした物達です。」

 

 確かにブルドーザーやパワーショベルなど、よく見る機械が存在しているが、中には見たことのない物も在る。

 

「そこにある箱型の物は何だ?」

 

「そこにあるのは、残骸などを圧縮してブロック状にする、物質圧縮機でス。」

 

 なるほど、上から入れた物を内部で圧縮してかさばらない様にするのか。

 

「それとそこにあるのが作業のサポート用半人型ロボットです。戦闘用ではありませんが多少は戦えます。」

 

 指差した方をみると、腰から上は人型で腰から下がキャタピラー式のロボットが何体か並んでいた。たしかに細かい所なら人型の方が向いてるだろうな。俺はマーチに作業に戻るよう言うとマーチは眷族達の側まで移動し反転すると後ろに付いていたハッチを開いた。そして眷族達は列になってそこへ入っていく。

 

「マーチの後ろのハッチは眷族を収納できる空間になっています。他にも昨日ソーヤ様が座っていた上部には非生物を入れる事の出来る空間に繋がるハッチもあります。」

 

「非生物って事は道具とかは運べるわけか。長距離移動するときの食事はそこに入れるのか?」

 

「はい。リリーの空間にも用意はしていますが、二手に分かれる場合役に立ちますので。それと、植物の種や実を入れる事も出来ますが発芽能力が無くなりますので、その点は注意をして下さい。それを利用して病原菌などの繁殖機能を消して無力化する事も出来ます。」

 

 残念、種の仕入れはマーチ任せには出来ないわけか。俺達はマーチが眷族達を収納し終えるまで待って、港予定地への調査へと出発した。

 

 俺は疾風達が書いた地図を見ながら移動しているが、地図の精度はかなり高くて結構役に立つことが分かった。

 

「疾風達のおかげで調査が捗るな。・・・そこの谷を湖に繋いで川にしたらどうかな?」

 

 俺は地図を眺めながら川や道などの設計を話し合っていた。

 

「そうですね、それで良いと思います。この地図はかなり正確に地形が書かれているので設計に役立ちますね。今、ソーヤ様が谷も湖から海まで繋ぐことが出来るくらいのことは分かる精度ですし。」

 

「それにしても森がないのは不便だよな。貯水能力が山にないから、溜まった雨水や海水を水源として使うしかないからな。」

 

 俺は剥き出しになった山肌を眺めながらため息をついた。

 

「そうですね。少しずつ浄化した土地を増やし、緑化させていくしかないでしょう。魔樹や魔草を浄化したしていない土地に植えても実を付ける前に魔物化してしまうでしょうから。」

 

「魔樹や魔草ってのは城の庭に生えてる植物だよな。俺の持つ力とどう違うんだ?土地の魔素や灰素を集めてることには違いはないだろ?」

 

「確かに魔樹なども灰素などを集める点では同じです。しかしそれは圧縮して実に蓄えているだけです。魔人族やソーヤ様が食べることなく地面に落ちればいつかは腐り圧縮してあった分その周りの汚染が酷くなります。それとマーチにはソーヤ様と同じく浄化する力は在りますが、魔素結晶化する事で蓄えますので効率が悪いのです。」

 

「俺なら灰素を変換して魔人族を増やせるから、効率は魔人族が増えれば増えるだけ効率が上がるって事か。」

 

 地図も端に近づき海が近づいてきた事を感じていたが目の前にはかなり大きな岩山が聳え立っていた。

 

「バーンズ、これを回り込むとなるとどれだけかかる?」

 

「そうですね、二時間と言ったところでしょうか?」

 

 遠いな。地球ならトンネル掘る方法があるけどどうなんだろ?

 

「ここから反対側までの距離はどれくらいだ?」

 

「そうですね地図には山に遮られて反対側の地形は見えなかったのか書かれていませんが、海岸線をみる限りは二キロほどかと。それを聞いてきたという事はトンネルですか?」

 

「ああ、マーチ任せにはなるが掘れるならその方がいいと思ってな。どうだ、マーチ出来るか?」

 

「了解、調査機を先行させまス。ソーヤ様は少し早いですが昼食を取ってはどうでしょうか。」

 

「そうだな、なら俺は昼食を取ることにするよ。食べられる物を出してくれるか?」

 

 俺がそう言うと俺が座っていた場所から少し離れていた所のハッチが開き中からアームが果物を持って近づいてきた。

 

「ありがとう。」

 

 俺は受け取るとそれを食べながらのんびりと過ごした。時々バーンズは魔物を倒しに行っているようだが、近くまで魔物が近付くことはなく、俺は安心してバーンズを眺めていた。

 

 暫くするとマーチが眷族から送られてきたデータを元にトンネル作成の準備が終わったことを伝えてきた。

 

「ソーヤ様はバーンズと共に私の後ろから着いてきてください。移動用の眷族を出しまス。」

 

 そう言うとハッチから装甲車のような眷族を取り出した。

 

「俺はマーチと一緒では危ないのか?」

 

「危ないと言うよりは、変形すると乗る場所がなくなりまス。」

 

 そう言ってマーチは俺達が下りたのを確認すると変形を始めた。その姿は巨大な削岩機が前に付いた電車のようだった。

 

「前に付いている部分で岩盤を砕きながら取り込み、周りに圧縮しながら張り付けることで崩落を確実に防ぎまス。」

 

 なる程これなら乗れないな。後ろからついてくのも崩落の危険はないなら安心だ。

 

「ソーヤ様、それではお乗りください。マーチ、眷族に魔光灯を設置させてください。その方が後々役に立つでしょう。」

 

「了解、それでは作業を開始しまス。」

 

 マーチはハッチから何機かの眷族を発進させて、目の前の山へと潜っていった。以外に速度は速いな。

 

 装甲車の中に乗り込んだ俺は、マーチから安全な距離を取り解説を聞きながら進み始めた。

 

「ソーヤ様、魔光灯の説明をしながら進むことにしましょう。」

 

「分かった。名前からすると魔素を使って光道具だな?」

 

「はい、他の大陸で売られている標準的な照明器具です。消費魔素が少ないので、汚染も気にするほどではありません。サイズ的にも小さめですが十分道が分かる程度には発光します。」

 

「もしかしてマーチの眷族が天井と両サイドに刺してる杭のような物がそうなのか?」

 

「その通りです。まだ必要量の魔素が溜まってないので光りませんが、明日くらいには光り始めるでしょう。」

 

 俺がのんびりと車に揺られながらウトウトしていると急に装甲車が止まった。

 

「バーンズ、どうかしたのか?」

 

「どうやらマーチが山を抜けたようです。」

 

 そう言われて窓から顔を出してみると僅かに潮の香りがしていることに気づいた。でも、車を止めたのは何でだ?

 

「ここで停止しているのは何でだ?出口は危険があるかもしれないからか?」

 

「いえ、マーチの調査では敵対する魔物などは居ないようです。ここに止まっているのは、トンネル開通時に外の光が射し込みソーヤ様が目を悪くしてはいけないので、目を徐々に慣らすためです。」

 

 確かに急に明るくなったら危ないのか?この体の耐性がどれだけあるか分からないから、その方が安全なのかもな。

 

 そしてついにマーチがトンネルの向こう側へ抜けきると光と共に風か吹き込んできた。

 

「へぇ、なかなか良い風だな。問題ないみたいだし先に進もう!」

 

「分かりました。それでは外へ進みます。」

 

 俺を乗せた車はゆっくりと進みついに外へと抜けた。そこには綺麗な海が広がっていた。

 

「うわー、こんな綺麗な海は初めて見たよ!お、マーチも元の姿に戻ってるな。」

 

「そうですね、地球よりも石油を使っていないので海水だけなら汚染は地球よりも無いでしょう。勿論海中にも魔物が居ますから、危険ですのであまり一人で近付かないでくださいね?」

 

 そう言ってバーンズはマーチのそばに車を止めると車から俺と共に下りた。車から降りて改めて周りを見渡すと、このあたりは岩が多い磯のような地形だったが、少し離れたところには砂浜も在るようだ。

 

「ソーヤ様、私はマーチと共に港の予定地を詳しく調べます。ソーヤ様はあまり私達から離れすぎないようお願いします。マーチの眷族の調査では近くに魔物は居ないようですが、生物は居るようですので。」 

 

「分かった。なら俺はそこの岩場で何かないか見てくるよ。」

 

 そう言って俺は岩場屁と向かった。マーチは眷族を出現させると次々と海へ放っていった。海底の調査の様だな。

 

 岩場へ着いた俺は岩の隙間などをのぞき色々探してみた。その結果。

 

「地球と同じ様な生態系なんだな。イソギンチャクやヤドカリ、磯溜まりには小魚か。色はカラフルだけどな。」

 

 そうだな、あの子達にも見せてあげたいから塩水湖へ放流ってのも良いな。よし、バーンズに聞いてみるか。

 

 俺が走ってくるのに気づいた二人は俺の方に近づいてきた。

 

「何かありましたか?」

 

「いや、問題はないよ。所でマーチ、生き物をここから塩水湖へ運ぶことは可能か?」

 

「あまり大きな物ではなければ眷族達で運ぶことは可能でス。しかし魚などは餌がないと生きてはいけないので、肉食の物はお勧め出来ません。」

 

「そうか、それもそうだな。なら藻なんかを食べる蟹や貝なら大丈夫だな?」

 

「それならば可能でス。」

 

「よし、塩水湖へ道が繋がったら移動を頼む。」

 

 そして俺は磯へと戻りマーチやバーンズが呼びに来るまで、心まで子供の戻った感覚で、心行くまで楽しんだ。



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国土整備開始6

 帰り道はマーチの眷属が頑張ってくれていたようで、道がある程度整備されスムーズに帰ることが出来た。城の前ではリリーが出迎えてくれた。

 

「お帰りなさいませ、すでに食事の用意が出来ています。」

 

「ありがとう、子供達は?」

 

「食堂で待っていますよ。」

 

「ソーヤ様、私は作業に戻りまス。」

 

「無理はしないでくれよ?」

 

 俺達を城の前に下ろすとマーチは再び作業に戻るそうで港へと戻って行った。俺はリリーと共に食堂へと向かった。

 

 俺が食堂に入ると子供達は嬉しそうな顔で俺を見てきた、どうやら打ち解けてきたようだな。まだ青香と陽炎の距離が遠いのは最初があれだったから仕方ないだろうな。

 

 リリーが用意してくれた食事を食べ終わると俺は疾風と麻白に声を掛けた。

 

「疾風と麻白の作った地図は良い出来だったよ。ありがとう、おかげで作業がはかどったよ。港が完成したら皆で見に行こうな。」

 

 誉められた二人は嬉しそうに笑っている。青香達は少しうらやましそうに見ている。

 

 その後は今日は何をして遊んだとか、何が楽しかったとかを四人から聞いて過ごした。しかしいつまでもこうしているわけにもいかないので、子供達はリリーに連れられ出て行った。子供達はすでにお風呂には入っていたようでそのまま寝室へと向かうらしい。俺は風呂に向かいながらバーンズに話しかけた。

 

「もう少し早めに帰ってきてやったらよかったな。」

 

 そう言うとバーンズは首を振った。

 

「いえ、ソーヤ様は確かにあの子達の親ではありますが、一人一人にそれ程手を掛けていてはこれ以上増えてくると公平に手を掛けられず不満がたまる子供が出てくるでしょう。出来ることならあまり手を掛けない方が後のことを考えれば良いと思います。」

 

「そうだな、親としては複雑だけど、確かに今は良いけど人数が増えたら大変だよな。」

 

 俺は風呂に着くと浴槽に浸かりながらおなかの中に感じる卵の事を考えていた。リリーとバーンズだけでは手が回らないなら魔神様の言うように早めに街に向かうべきなんだろうな。でもそうなると子供達は連れていけないから二人のうちどちらかは残らないと、街に行けないんだよなぁ。

 少し不安な気持ちを首を振り鎮めると風呂をでて自室へと向かった。

 

 ベッドに座るといつものように卵を産んだ。今日は青と緑だな。

 

「ソーヤ様、今日はどうしますか?」

 

「そうだな、食堂や風呂の中でも考えたんだけど人手が増えるまでは俺の手で孵化させるのはなるべくしないことにしておくよ。バーンズ達だけじゃきつくなるだろ?」

 

「わかりました。来週位には私達が引き受けた卵も孵化するでしょう。それまでは私達が安置室で何とかします。」

 

「生まれたばっかりでもう働けるのか?」

 

「恐らく大丈夫でしょう。我々の力を受け継ぐ者なら働くことが役目だと感じるはずです。鳥が本能で飛べるようになるのと同じようなものですね。」

 

「そんなものなのか。なら当分はそれで頼むよ。港が出来たら教会で人手を借りような。」

 

 俺は卵をバーンズが運んでいくのを見送りベッドに横になった。そして夢の中では結衣と港の事を話し海に行けることを羨ましがられた。

 

 そして、それからの一週間は特に事件や問題もなく子供達とのんびり過ごした。午前中は子供達と遊び、午後はマーチの作業を見学やバーンズと共に浄化に向かう生活。だがついにバーンズとマーチから港がほぼ完成したと報告を受けた、城の屋上かに上がるよう促され外を見ると、そこには道路の側に水路が出来池も完成していた。

 

「港が出来たって聞いたけど水路も完成したんだな。」

 

「いえ、池はとりあえず完成しましたが、水路は小型船が城に来れる程度の幅と深さにして完成です。あそこに見える海から運河を作り水路につなぐ予定です。ただ、完成にはしばらく掛かるでしょう。ソーヤ様が街から帰る頃にはおそらく出来ているでしょう。」

 

「へえ、それは楽しみだな。所で街へは誰がいくんだ?」

 

「子供達の世話があるのでリリーは行けません。それにリリーの神術は国外での使用に難がありますので、マーチと私の予定です。もしそろそろ孵化する我々が管理している卵の子が役に立ちそうなら連れて行くつもりです。」

 

 俺は生まれたばかりの子を連れて行くのはどうかと思ったけどまぁバーンズ達が判断したなら大丈夫かと思い池へと目を向けた。ぼんやり見ていると何か動くものが池の近くに有る。よーく見てみるとリリーと子供達が池の周りで遊んでいた。

 

「ありゃ、もう遊びに行ったんだな。もう生き物は居るのか?」

 

「マーチの話では水ごと生物を流し込んだので有る程度は居るとのことでした。確実にいるのは藻を食べる蟹や貝そして魚ですね。後は餌を探して自然に増えるでしょう。港にいく途中寄ってみますか?」

 

「そうだな、池を見てみたいしそうするよ。それにしても青香達ももう俺から離れて遊ぶようになったんだな。青香と陽炎の仲は相変わらずみたいだけど。」

 

 俺はマーチに乗り港へと向かう途中にある池に向かった。俺が着くと楽しそうに走り回りながらこちらに手を振っている、手を振る子供達に手を振り返すとまた楽しそうに走り始めた。

 

「子供達にはマーチが動いているときには近付かないようにリリーが言っているはずですので寄ってこなかったのでしょう。」

 

 子供の成長は早いなぁと考えているとマーチは港へと進み始めた。

 

 トンネルを抜けると数日前までは建物はなく平らな土地だった場所に石で出来た建物が出来ていた。

 

「すごいな、もう港だけでなく建物も出来たのか。」

 

「港としての最低限の機能は完成しましたが、人手がや食糧は足りないので宿泊施設はまだ建ててはいません。後は周りの浄化をしてもらえれば魔草などを植える事が出来ますので、人間でも滞在できるでしょう。」

 

「なら人手は教会に頼まないとな。食糧は船団頼みか?」

 

「いえ、この近くに人間でも食べられる植物を植えて、マーチの眷属が育てる予定になっています。」

 

「マーチは大変だな。体を壊さないでくれよ?」

 

「お気遣いありがとう御座いまス。」

 

 そうだな、マーチだけじゃなく子供達にも手伝わせるか。

 

「よし、明日は子供達を連れて緑化作業をするぞ。海を見せてあげたいしな。」

 

「わかりました。リリーと話しておきます。それではソーヤ様浄化をお願いします。範囲はこの港中心部から出来る所までで構いません。」

 

「分かった。それじゃ行ってくるよ。」

 

 俺は二人と別れのんびりと歩きながら灰素を吸収し始めた。

 

 しばらく集めていると卵の素が出来たのが分かった。そしてしばらく続けていると慣れてきたのか吸収し浄化した魔素の流れが分かるようになってきた。

 

「ゲームで言うところのレベルアップって所か。ゲームみたいに明らかな違いなんてのは無いけど、感覚で分かってくるのはありがたいな。」

 

 お腹の辺りの流れを感じていると一つの卵作成が終わったのか二つ目の卵の素に成るのか魔素が集まり始めた。

 

「そういやこの時点での卵に魔素を集めたらどうなるんだろな。」

 

 何となく一つ目の卵を覆うように力を集めてみるが特に変化は無いようだ。いや、僅かに大きくなってるか?特に異常が感じられるわけじゃないから作業を続けてみることにした。

 

港の基礎周りが終わった頃限界に成ったのか、上手く吸い込めなくなったのでバーンズ達と城に戻ることにしたがその頃には卵の数は最初の一つだけだが大きさが明らかに大きくなっていると感じた。これ、大丈夫だよな?

 

城に戻りお風呂に子供達と入った後、明日皆で港に行って手伝いをしてくれないかと言ってみたら皆嬉しそうに返事をしてくれた。

 

 部屋への移動途中バーンズと明日の事が決まったことを話すことにした。

 

「皆が手伝ってくれるのは助かるな。」

 

「そうですね。あの感じだとソーヤ様の役に立てるのが嬉しいのでしょう。魔人族の本能にはソーヤ様への忠誠心が有るはずですし、ソーヤ様子供達の事をよく考えていますから親としても懐いているのでしょう。」

 

「まぁ、子供達の信頼を裏切らないように頑張らないとな。」

 

 部屋に着いた俺はいつものように卵を産むことにしたが、なぜか上手く産むことが出来ない。

 

「あれ?もしかして卵が大きいせいか?」

 

「どうしましたか?」

 

「いや、ちょっと卵に力を注ぎすぎてサイズが大きくなったみたいで、上手く出てこないんだ。どうしよう?」

 

「さすがに私達にはわかりません。しかしその身体なら無理な事をしようとしても制限が掛かるはずですので産めないことはないと思います。そうですね、リリーを呼んできますからソーヤ様は色々試してみてください。」

 

 そう言うとバーンズは部屋を出ていった。俺は仕方なくお腹に力を込めてゴロゴロと転がっていると痛みと共にお腹から産卵管に卵が移動したのが分かった。

 

「痛!?まさか裂けてはいないよな?」

 

 恐る恐る鏡で後ろを見るとパンパンに膨らんだ管が見えた。どうやら限界まで伸びてはいるが行けそうだ。手も使い少しずつ先へと進ませていくが中々の痛みがおそってくる。

 

「いたた、今度からは考えて卵は作ろう。涙が出てきたし。」

 

 そして普段の倍ほど掛けていつもの卵より一回りほど大きな卵をなんとか産み落とした。

 

 俺は産まれた卵を抱きながらリリーをのんびり待っていると扉が開きリリーが入ってきた。

 

「ソーヤ様大丈夫ですか?」

 

「何とかなったよ。これからは考えて卵は作ることにするよ。とりあえずお尻の辺りが痛いから見てくれないかな?」

 

 そう言うとリリーは神術を使い体調を確認していたが安心した表情で答えた。

 

「大丈夫、特に異常はありません。限界まで伸びたせいで痛みがあるのでしょう。明日には治ってますよ。それでその卵はどうしますか?」

 

 俺は苦労して産まれた卵を抱きながらリリーに告げた。

 

「今までで一番苦労したから俺が育てることにするよ。」

 

「わかりました。それにしても大きな卵ですね。色や模様も複雑ですし何が産まれてくるのやら。」

 

「確かにな。それじゃ俺は寝ることにするよ。呼び出して悪かったな、お休み。」

 

「いえいえ、ゆっくりとお休み下さい。」

 

 俺はリリーが出て行くと卵を抱きながら横になった。

 

 いつもの空間に着くと結衣と港が完成したことを話し、近い内に外の国へ行くことを伝えると羨ましがられた。

 

 そして結衣が消えたのに俺は目覚めないので周りを見渡すと魔神様が立っていた。

 

「無茶をしたようだな。確かにお前の身体には身体が壊れないように制限は掛かってはいるが、限界まで育てるのは次からは控えろよ?」

 

「はい、次からは気を付けます。痛いのはもういやです。」

 

 俺は痛みを思い出し人間の出産はあんな感じなんだろうかと、世の中の女性を尊敬した。

 

「反省しているようだからこの話は終わりだな。港が完成したようだな。いつ向かうのだ?」

 

「多分数日のうちに行けると思いますよ?明日は子供達と緑化作業をする予定ですから、順調に行けば明後日ですかね?」

 

「そうか、なら神殿には五日以内と伝えておこう。神殿から教会へ連絡が伝わるのには時間は掛からないから、お前達が教会に着く頃には神官に伝わっているだろう。教会に着いたらこの前渡した髪飾りを出しておけよ?あれは意識すれば具現化出来る。」

 

「わかりました。ありがとうございます。」

 

 俺がお礼を言うと魔神様は消え俺の意識も薄れていった。



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