黒い鳥と英雄 (天乃天)
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プロローグ 君と世界と

皆様初めまして。
突然ネタが降ってきたから衝動的に書いた←

これから頑張りますのでよろしくお願いします!



申し訳ない。少々文章を手直ししました。と言ってもストーリーの変更はなく、記憶のセリフの一部を変更しました。ここたまもいいけど別のに変更。


 ここはどこだろう? 一面真っ白だ。だが、どこか懐かしさを覚える。俺はどこかでこの空間を見たことがあるような気がする。だが一向に思い出すことができない。

 しばし悩んでいると目の前に一滴の雫が落ちてきて、一面真っ白な世界に波紋を広げた。その波紋は広く広くこの世界に広がっていき、気が付くと俺は天井が見えないほど高い本棚に筒状に囲まれた図書館のような場所の中央にある机の前にいた。机には眼鏡をかけた司書のような青年が座っていた。

 

「やぁ、久しぶりだね」

「久し、ぶり……?」

 

 にこやかに話しかけてきた青年は久しぶりと声をかけてきた。つまりは面識があるはずなのだが、この青年のことをまったく思い出せない。それだけではない。ここはどこなのか、なぜ俺はここにいるのかその全てが分からなかった。

 考え込む俺を見て一瞬キョトンとしていた青年は全て納得したかのように頷いたあと、引き出しからとある羊皮紙を取り出した。

 

「ここに君の名前を記入してくれ。それで手続きは完了だ」

 

 青年は羊皮紙と羽ペンをこちらに差し出し、いくらか文章が書かれている下のアンダーラインが書かれているだけの空白の箇所を指して言った。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 急に手続きと言われても分からない!」

「ホントは知らない方が幸せかもしれないけど、僕もなんだかんだで君とは長い付き合いだからね。特別に教えてあげようかな」

「あんたは一体何を知っているんだ?」

「君の全てさ」

 

 そう真面目な顔で言った青年は手を軽く振り上げた。すると本棚にある一冊の本が淡い光を放ちながら青年の手元にゆっくり降りてきた。それを手に取り本を開くと、音読するかのようにしゃべり始めた。

 

烏丸 恭史郎(からすま きょうしろう)。君と僕の最初の出会いは君が初めて転生をする時だ。まぁ、転生の執行を任されているのが僕だから当たり前なんだけどね」

「転生? 俺は死んでいるってのか……!?」

「もうずいぶん前にね。交通事故とはいえ最愛の人を目の前で失った君は世界に絶望し、最愛の人を守れなかった自分の無力にも絶望して自ら命を絶った」

 

 激しい頭痛と共にその光景がフラッシュバックする。同時に言いようのない悔しさ、後悔といった負の感情が胸を渦巻き、吐き気に襲われた。

 

「君は神様の慈悲で転生をすることとなった。そこで僕と出会い、強い意志を持った瞳で見つめて言ったんだ。誰かを守れるような強い力が欲しいってね。僕はそれに世界は用意するが手に入るかは君次第だと答えて、君を転生させた」

 

 青年の言葉は続き、どんどんと記憶が戻ってくる。幾度と繰り返した転生の記憶、その全てが。

『秩序無くして人は生きてゆけん。たとえ、それが偽りであってもだ。生き抜くがいいレイヴン。我らとお前、どちらが果たして正しかったのか。お前にはそれを知る権利と義務がある』

『いいか、俺は面倒が嫌いなんだ』

『ターゲット確認、排除……開始』

『我々はいつも誤りを犯す。そうは思わないかレイヴン。我々には管理する者が必要だ。我々は我々だけで生きるべきではないのだ。レイヴンの国……私はそれほど愚かではない。すべては理想のため、復活のため……消えろイレギュラー!』

『よく来てくれた。残念だが、目標などはじめからいない。だまして悪いが、仕事なんでな。死んでもらおう』

『イレギュラー要素は抹消する、ミラージュはそう判断した。管理者を破壊する……? 馬鹿げたことを……』

『XA-26483……ココマデガ、私の役割……レイヴン……後ハ、アナタノ役割……』

『裏切られることなど……傭兵の常とはいえ……だが、今この瞬間は力こそが全てだ! 私を超えてみろ!』

『私はただひたすらに、強くあろうとした。そこに私の生きる理由があると信じていた。やっと追い続けたものに、手が届いた気がする……。レイヴン。その称号は、お前にこそふさわしい』

『遅かったな……言葉は不要か……』

『ホワイト・グリント、大げさな伝説も今日で終わりだ。進化の現実ってやつを教えてやる』

『ホントは好きじゃないんだ、こういう、マジな勝負ってのは。俺のキャラじゃないしね。まあ、やるんなら本気でやろうか! そのほうが楽しいだろ!? ハハハッ!』

『認めない。人の可能性など、僕は認めない。だがもし、君が例外だと言うのなら……なら、生き延びるがいい。君にはその権利と義務がある』

 走馬灯のように、今までの転生で自分に言われた言葉やそのシーンを鮮明に思い出す。

 

「ここまでの君の活躍は素晴らしいの一言に尽きる。神様はそんな君に期待しているのかもしれないね。だから君の奇跡を起こす力で今度も世界を救ってほしいんだ」

 

 酷い頭痛の中、なぜか鮮明に聞こえる青年の声がただ、と付け加えた。

 

「僕は君に休んでほしいとも思うよ。確かに力を望んだ君にあんな世界を用意したが、ここまでとは想定していなかった。神様すら不幸な世界を救うために頼るような存在になるなんてさ」

「神様が、俺を頼る……?」

「そう。今度の世界は僕が用意したわけじゃない。上が決定したものだ。君が今まで行った世界とはまた違った絶望を抱えた世界。最初は上の決定に従おうとも思ったけど、ちょっと反逆してしまおうと思う」

「そんなことして大丈夫なのか?」

「大丈夫とは言えないかな。でも、次の世界で君のバッドエンドなんて見たくないからね。行かないようにすることはできないから、ちょっとだけ特典を付けてあげる。記憶もそのひとつだよ」

 

 青年が手に持っていた本はスッと消えて、羊皮紙と羽ペンが俺の目の前で淡く

輝きながら停止した。

 

「さあ、時間だ。上に気づかれる前に手続きを済ませてしまおう」

 

 促されるままに羊皮紙に名前を記入する。記入が完了すると青年が確認することなく羊皮紙は燃えてなくなった。同じく羽ペンも燃えたので慌てて手を離す。

 

「目的を確認するよ。今回君に依頼するミッションは絶望の未来へと進むことが半ば確定している世界を救うこと。どんなに拒絶されようともやっぱり神様は人間を救いたいんだ。だから君をその世界に投入する」

「なんだかお前らしくない言い方だな」

「君を送った世界みたいな説明を意識してみたんだけど、やっぱり似合わないことはするもんじゃないね。さて、送った後はこちらから干渉することは一切できないから、君の頑張りに期待するよ」

「任せろなんて言えるほど自信はないが、お前に危険なことまでしてもらったんだ。なんとかしてみせるさ」

「頼もしい限りだね。じゃ、行ってらっしゃい」

 

 はにかみながらそう言うと、青年はこちらに向かって手をかざした。すると俺の身体が淡く輝き出し、そのまま光へと溶けていく。薄れていく意識の中で青年の声が聞こえた。

 

「やっぱりキョウは優しいね。だから……」

 

 その先は聞き取ることはできなかった。俺のことをキョウなんて愛称で呼ぶ人物は誰だったか。蘇った記憶を思い返してみても膨大な量の記憶から探し出すのは今の俺には困難だった。ただ、優しくこちらに微笑む女性が脳裏に一瞬だけチラついた。

 




皆様に面白いって思ってもらえたらいいなぁ…。
まだまだマブラヴ要素皆無なんだけどさ…

一応調べたら…←これ(三点リーダ)2個使わないと文章的にいけないってことをはじめて知った←


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第1話 超越した兵器

機体サイズの話をしましょう。
ACはLR含め、それより前のシリーズがだいたい10m。4系ネクストは14~15m。Vシリーズは約7m。
マブラヴシリーズの戦術機はおよそ18m。


AC小さいなぁ・・・

遅くなりました。楽しんでいただけたら幸いです!
まぁ、作者の独断と偏見で設定はすり合わせていきます←


【追記】
感想にてご指摘頂いたところの修正を行いました。


 目が覚めてまず目に入ったのは廃墟が立ち並ぶ街並みだった。それをどこか懐かしいと感じながら近辺を散策することにした。

 特に何か見つかるわけでもなくただただ廃墟が続き、昔は栄えていたのであろう残骸もみつめて思う。

『君が今まで行った世界とはまた違った絶望を抱えた世界』

『今回君に依頼するミッションは絶望の未来へと進むことが半ば確定している世界を救うこと』

 青年が言っていた絶望とはどんなものなのか。ここまで栄えていたものが今ではただの廃墟と化すほどの絶望。俺はホントに救うことができるのか。悩みつつも周辺を歩いていると懐かしいものを発見した。それは鋼鉄の巨人。ただ、それは俺の知っているものとは違うようだった。家に倒れ込む形で機能停止しているその巨人を眺める。ぽっかりと胸部がユニットごとまるまるないように思うから、きっと乗っていた人は脱出したのかもしれない。

 機体の損傷は激しく、ちょっと調べてみたが成果は全くなかった。唯一分かったことは俺の知っている技術で造られたものではないということだ。俺が前にいた世界ではAC―Armord Coreというロボットを駆り傭兵として戦っていた。その為、メンテナンスなどのためにある程度機体の知識はあるのだが、それがまったく役に立たなかった。俺が知っていることよりも機体の知識が増えていた気がするのだが、それは特典なのかもしれないと思いスルーする。

 そろそろ散策も飽きてきてさてどうしたものかと行動に迷っていると、何か大きな質量のものが落下したようなものすごい音が聞こえてきた。とりあえず他に何も浮かばないのと、気になるので音がした方向へと移動する。そこにいたものはもう何度も見た、とても懐かしい鋼鉄の巨人だった。

 狭いコックピットに乗り込み機器の確認等を軽く済ませる。問題ないことを確認してシステムを起動する。

 

≪おはようございます。メインシステム、パイロットデータの認証を開始します≫

 

 ヴェンジェンスとよく似たアセンブルをしたカーキ色の機体のパイロットデータ認証を終えて、武装をチェックする。

R ARM:KO-5K4/ZAPYATOI 3500

L ARM:URF-15 VALDOSTA 450

SHOULDER:USM-14 MATHURA 72

OVERED WEAPON:GLIND BLADE

RECON:STK-16/EL HETHU 30

武装名と残弾を確認し、リコンを射出してスキャンモードで周囲を探る。が、特に何もない。メインカメラの最大望遠で見える丘の上に、わずかに人工物の様なものが見えたのでとりあえずそこに向かうことにする。

 スキャンモードのままブースターを起動してグライドブーストで目的地を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 防衛基準体制1の発令を受け戦術機で待機していると、まっすぐとこの横浜基地に向かってくる見たこともない戦術機がいた。

 

≪おいおい、たったの1機じゃねぇかよ≫

 

 仲間たちの嘲笑がスピーカーから流れる。たったの1機。しかし、見たこともない機体だ。米軍でも日本でもない。欧州でもないだろう。だんだんと近づいてきてシルエットがはっきりしてきたからこそ分かるが、小さいのだ。戦術機の目測で半分程しかないだろう。そんな機体今まで聞いたこともない。

 近づいた不明機に警告が行われる。それを聞いた不明機は基地手前2km地点で停止した。展開された撃震と陽炎の混成部隊が手に持つ突撃砲の照準は全て不明機に集められている。

 

≪所属と目的を明かし、武装解除しろ。さもなくば敵対勢力とみなし攻撃する≫

≪どこにも所属はしていないんだが、この場合はなんて答えたらいいんだ? えーっと、目的は情報収集かな。あと、こいつ失うと俺なんにもないんで武装解除だけは勘弁してくれないか?≫

 

 多くの銃口を一身に集めているというのに受け答えが非常に軽く、緊張感が感じられない。スピーカーから「こいつ、なめてるのか!」という仲間の声も聞こえてくる。

 警告が繰り返されるが向こうの返答は変わらなかった。その為、そのまま攻撃の許可が出された。

 

≪まぁ、そうなるわな。しゃーない、降りかかる火の粉は払わせてもらう!≫

 

 一斉に火を噴く突撃砲の弾幕をものともせず、左右へと素早いブーストで動く不明機に照準が合わず、接近され始める。そして不明機の左手に持つライフルが火を放った瞬間、隣にいた激震の腕が1発で吹き飛んだ。それに驚愕している我々をよそに不明機は肩からミサイルを射出しさらに距離を詰めてくる。

 手早くミサイルを処理して距離を空けるために下がるが、1機不明機に長刀を持って突撃する撃震がいた。小さいがために当てづらくあり、それに突撃砲を受けても大したダメージになっていない装甲を持ち合わせている不明機に長刀は愚策以外の何物でもない。味方の制止を振り切って突撃した撃震は不明機の蹴りで装甲がひしゃげ、物言わぬ鋼鉄の塊と化した。不明機は何もなかったかのように進む。

 

≪なんだよ、なんなんだよ!≫

 

 味方の通信からはヒステリーをおこしている声が飛び交う。それもそうだ。こんな相手にどうやって勝てばいいというのだ。

 恐怖に慄く我々の横を国連カラーに染められた不知火が通り過ぎて行き、不明機に120mmで牽制する。そのまま我々混成部隊の前へと不知火の部隊は躍り出た。

 

 

 

 

 

 

 

 新しく登場した機体は他とは違い、まず速かった。その機体で構成された部隊は先ほどの混成部隊の比ではないくらいにしっかりとした連携でこちらのAPを確実に削っていく。

正直、ジリ貧なのは確かだ。ここは拠点のようだし、増援がまだどのくらいあるのか分からず、この部隊並なのを相手にしなくてはならないのはやっかいだ。一気に終わらせるためにスロットルを全開で相手につっこんでいく。ライフルとガトリング、ミサイルはばらまいて周囲の機体への牽制や撃破を狙う。

ある程度近づいた時、うかつにこちらに近づいてきた新しい機体にブーストチャージを狙う。だがそれは陽動のようで、ブーストチャージが避けられただけでなく、口径の大きな火器でこちらのAPをごりっと削られてしまった。

 

「こいつはあんまり使いたくはなかったんだが、そうも言ってられないか……」

≪不明なユニットが接続されました。システムに深刻な障害が発生しています。直ちに使用を停止してください≫

 

左腕がパージされ、背中のグラインドブレードが展開される。禍々しい武装が機体のシステムを蝕み機体が悲鳴をあげている。

 

「悪いが圧倒的な力を持って全てを破壊させてもらう。それしか能がないもんでな!」

 




口径の話をしましょう。
【ACV】
スナイパーキャノン 355mm
バトルライフル 240mm
ライフル 150mm

【マブラヴ】
劣化ウラン弾 36mm
120mm砲弾


ACの設定おかしくないですかねェ・・・
自然と装甲もそれに見合うものになるとウラン弾ほぼ効かないってなると判断した←


あ、物語の終わり方はto be continued みたいなイメージです←

【追記】
ネクストは聞いた話によると

ライフル 60mm
スナイパーキャノン 120mm

らしいです。わりとまともだった?
まともかどうかはさておきマブラヴに近い口径してますね。PAとかAAとかわけわからんのついてますけどね!



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第2話 圧倒的な暴力

少し遅れてしまったかな・・・申し訳ないです。
お待たせいたしました。とりあえず、続きです。


 つい先ほど通信で香月副指令から我々に出された命令を思い返す。

『いい? あの不明機をなんとしても生け捕りにしなさい!』

 36mmは甘んじて受けるくせに120mmはきっちりと躱すあの不明機。戦術機の半分程しかない小ささながらも、36mmでは倒せないほど強固な装甲を持っている。それだけではなく、そんな装甲を持っているのにもかかわらず戦術機に劣らない機動性。大口径のライフルやガトリングなどを保持するパワー。またその火器から放たれる火力。

 明らかに戦術機とは異なるコンセプトで造られたのであろうことは一目瞭然で、それを生け捕りにするなど至難の業である。副指令の無茶は今まででも何度かあったが、今回ばかりは無茶過ぎる。

通信の声や表情から副指令自身も難しいとは思っている様子がこちらに察せるほどに動揺しているみたいだ。無理もない。あんな兵器は誰も想定していないのだから。

 先ほど陽動が成功し大ダメージを負わせることには成功したと思われる。だが、次からは陽動は成功しないに等しく、ここからは厳しい戦いが繰り広げられることになるだろう。

 そこまで思考していると、突如として不明機の左腕がパージされた。

 

≪悪いが圧倒的な力を持って全てを破壊させてもらう。それしか能がないもんでな!≫

 

 通信から発せられた声と共に、不明機の背部に背負われていた武装が展開される。6つの剣と思わしきものが1列に展開され、その剣は武装を仕舞った不明機の右腕を囲うように円状に並びを変えた。そのままものすごい速さで回転を始めた。

回転を始める際にチラッと確認できたが、あれは剣ではなくチェーンソーだ。刃の部分も回転をしており、触れた瞬間に粉微塵にされるであろうことが容易に想像できる。

 

≪大尉! あれはまずいですよ!≫

「くっ、全機距離をとれ! 決して近づくなよ!」

 

 120mmは弾数が少ないため心もとないが、あれに近づくことは自殺に等しいと理解できる。少しでも削れればと36mmをばらまきつつ後退する。

 

≪なっ、はや……≫

 

 火花を散らしながら突き進む不明機は、直線的な軌道ではあるものの先ほどよりも速い。なんとか回避に成功した部下の後ろにいた撃震がまきこまれ左腕、左脚を粉々に砕かれていた。

 脚部でブレーキをかけてクルッと180°回転した不明機は再びドリルのように高速回転するチェーンソーを片手に携え、こちらに複雑な機動で接近してくる。

予測される軌道上に120mmを数発放っておきながら後退を繰り返す。それしかできないことに歯痒い思いしながら、先ほどからばらまいている36mmが少しでもあの不明機の装甲を削っていることを信じて。

 

 

 

 

 

 的確な軌道予測で口径の大きな火器がこちらの軌道上に放たれ、その度に軌道の変更をしていると近づくことはかなわない。かといって今のAPでは無理をして突き進むのもはばかれる。よくできた部隊だと思う。どこぞの警備部隊とは違うな。

 最初の混合部隊はあらかた戦闘不能にはしたが、この部隊はどうにも削れない。ここにきて先ほどの陽動による集中砲火が響いてきている。敵の攻撃はACの装甲には大したことはないのだが、塵も積もればなんとやら。そろそろ無視できない。それに加えてグラインドブレードがそろそろ稼働限界だ。

 

「最後は派手にいくか……」

 

 そう呟いて最大速度で敵に突っ込んでいく。弾幕など気にしない。時折口径の大きな火器が当たり、機体に衝撃を伝えるがこいつはその程度では止まりはしない。

 

「こいつを喰らえええええええええ!!」

 

 新しい機体の内の1機をグラインドブレードで破壊したその瞬間、グラインドブレードは稼働限界を迎え強制終了する。グラインドブレードというOW―Overed Weaponの使用に伴い、稼働終了とともにブースターが一時使用不可になりその場に機体が停止する。カメラで確認などしなくともこの場にいる敵機のすべての銃口がこちらを向いているのがわかる。

 

≪不明機のパイロット、聞こえるか? 武装を解除しろ。これは命令だ。従わない場合、死んでもらう≫

「……従えば命を保障すると? 甘すぎる。流石に信用ならんな」

 

 そういってOWを解除した右腕に再び握られたガトリングの銃口を1機の新しい機体に向ける。

 

「でもま、もうやれることもないか」

 

 そう呟いてそのままガトリングをパージする。事実、最後の突撃でAPはすでにレッドゾーンであり、この数を相手には分が悪い賭けだ。なにより自分はこの世界を救うために転生したのであって、ここの人々を殺しに来たのではないのだから。このまま拘束され死んだとしてもそれまでだったということだ。力を貸してくれた青年には申し訳ないがな。

 

≪機体を下りてもらおう≫

「ま、そうだわな」

 

 コックピットハッチを開放し、機体から降りる。すると銃をもったMPが俺を拘束し、そのまま連行された。特に暴力を振るわれなかったことは幸いかな、などと的外れなことを考えながら基地の中へと連れられていく。

 拷問のようなものもなく、ただただ検査され営倉へとぶち込まれた。これでいいのか? などと考えながらいくらか時間が経過した時、ある人物が営倉の中に入ってきた。紫のセミロングの髪をしていて、どことなくキツイ眼差し。そして白衣といういかにもマッドっぽそうなアイテムを着用された女性はウサミミのようなものを着けた銀髪ツインテール娘と一緒に入ってきた。いかに俺が手錠をかけられているとはいえ無防備に入ってきたなと思った。白衣というアイテム一つでビビったりなんかはしていない。ナニカサレソウだなんて思っていない。いないったらいない。

 

「あんた、あの機体は一体どこで手に入れたの?」

「随分な挨拶だな。まずは自己紹介からじゃないのか?」

「捕虜に教える義理はないわ。いいから答えなさい」

 

 ジャキッと銃の銃口をこちらに向け構える。おどけるようなしぐさをしつつも真面目に答えることにする。

 

「分からない」

「死にたいみたいね」

「事実だ。言ったところで信じてはもらえないし、俺にも分からない」

「……いいわ、言ってみなさい」

 

 少し後ろに控えているウサミミ娘に少しアイコンタクトをした女性は俺の言い分を聞いてくれるようなので、どうせ信じてはもらえないだろうと思いつつもこれまでの経緯を話す。

・この世界の住人ではないこと

・本来の世界ではすでに死んだこと

・神様の慈悲で転生をしたこと

・転生の度に世界を変えてきたこと

・この世界を救うために送られてきたこと

・あれは転生先の世界の兵器であること

 全てを話し終えると一言「あっそう」とだけ残してウサミミ娘と一緒に退室していった。俺自身こんな話聞かされたら信じられないし、こいつ頭でも打ったんじゃないかとか思うだろう。ただ、個人的にはもう少しリアクションが欲しかったなと思う。営倉の中は暇なのでそういったリアクションひとつでも退屈しのぎになるのだ。

 

 彼女達との邂逅から数日が経ったある日、外も見えない退屈な営倉でボーっと過ごしていると、あれ以来いなかったこの営倉に再び来客が現れた。その来客はあの白衣の女性だ。再び何の用だろうと思考の海に潜りそうになっていると、またしても一言「ついてらっしゃい」と言って再び退出。俺はよくわからないままのっそりと立ち上がり、ゆっくりと開けられたままのドアをくぐり営倉を出る。手錠はついたままだが、それは仕方ないだろう。彼女は随分と先を歩いていたので慌てて追いかける。

 彼女に連れられ廊下を歩き、エレベーターに乗りと移動して辿り着いた場所は随分とひらけた場所だった。一緒に行動していた際は常に銃口が向けられていたことを追記しておこう。

 

「あんた、あれに見覚えはある?」

 

 彼女の指した方向に視線を向けるとそこにあったものを見て驚愕した。そこにあったのはかつての愛機なのだから。

 それは、かつて世界を破滅させた力。汚染をその身に纏い戦う圧倒的な兵器、ネクスト。

 

「アリーヤ……」

 




なんかキャラぶれてない?って感じてる。。。
ああ、原作キャラ難しいなぁ。

ホントは120mmもあんま効果ないんじゃないかななんて思ってたけど、流石にある程度のダメージはあるということで。あのアセンだとKE防御高いですけど・・・


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第3話 おめでとう。今日から君は

随分と時間を頂いてしまい申し訳ありません。

待っていてくれた方がどれだけいらっしゃるかは分かりませんが、お待たせいたしました。




最近、作業用にBGMを聞いているんですが、そのBGMがすごく中毒性のあるものでして一種の洗脳染みたことになってます。曲名はあとがきで←


 呟いた俺の声を聞き取った白衣の女性は不思議そうな顔をしていた。

 

「アリーヤ? それがあの機体の名前かしら。まあいいわ。とりあえず知っているのね」

「……何故あの機体がここに?」

「あたしが知るわけないでしょう? 気が付いたら演習場に転がっていたのよ」

「転がっていた……」

「そんなことはどうでもいいわ。で、あれはいったいなんなの? いくら調べてもブラックボックスだらけで何も分からないじゃない。むかつくわ」

 

 白衣の女性は苛立ちを隠そうともせず頭を掻きむしる。

 

「話してもいいが、その前に契約しないか? 俺は傭兵だ。報酬分の仕事はする」

「契約ぅ? あんた自分がどんな状況か分かってないの!?」

「分かってるさ。だが、俺を殺すとあれの解析はできない。できたとしても何年先なんだろうな? 技術面では俺のいた世界の方が先を進んでいるようだからな」

「っ」

「契約内容は、あんたらに俺は惜しまず協力しよう。戦闘でも、技術面でも。そのかわり衣食住とこの世界での俺の立場の確保を要求する。いつまでも捕虜はつらいからな。あんたらにとっても悪い話ではないと思うが、どうだ?」

 

 女性はきつくこちらを睨みつけた後、構えていた銃をおろした。

 

「契約成立、かな」

「言っとくけど、まだ完全に信用したわけじゃないわ。あんたの利用価値が高そうだからってだけよ」

「構わないさ。とりあえずこの手錠を外してくれないか」

「あたしは手錠の鍵なんて持ってないわよ。そんなことより、さっさとあれについて教えなさい」

 

 なんとなくそんな気はしていたが、どうやらまだしばらくはこのままらしい。とりあえず、俺のいたあの世界の兵器について説明することにした。ACという兵器について。そしてそこにあるアリーヤ、ネクストについて。

 

「そのネクストってのがあれなのよね? 汚染は大丈夫なわけ?」

「見たところ稼働状態ではないし大丈夫だとは思うが、一度コックピットまで行かせてもらってもいいか?」

「行かせるわけないじゃない。そのまま暴れられたらたまったもんじゃないわ!」

「銃を構えた状態でついてきてもらっても構わない。どのみちいつかはコックピットを開かないといけないだろう?」

「いちいちむかつくわねぇ。いいわ、その提案にのろうじゃない。少しでも変な動きしたら撃つから」

 

 彼女は俺の後ろに回り込み、俺が先導する形でコックピットまでたどり着く。ハッチを開くとシートの上に見慣れない携帯端末があった。振り返り彼女から許可を貰うと端末をシートから持ち上げる。

 

≪データの認証を開始。……認証が完了しました。初めまして、黒い鳥(レイヴン)

 

 急に端末から女性の声が聞こえてきて驚く。振り返るが、白衣の女性も知らないようで怪訝な顔をしている。

 

≪私はあなたのリンク型サポート用AIとなります。そうですね、名前は並び替えてAILS(アイリス)とでも名乗っておきましょうか。以後よろしく≫

「リンク型サポート用AI?」

≪ええ。私にできることはACのオペレーター代わりとACのシステムサポート、またメンテナンス等の技術面のサポートです≫

「……アリーヤは動くのか?」

≪いえ、動きません。コジマ粒子を必要としない代わりに膨大なG元素が必要になります。最低でもハイヴ1つ分は必要ですね。レイヴンにはまだ分からないかもしれませんがそういうことですので、期待していた香月博士には申し訳ありません≫

 

 何を言っているのかまったく分からないがそういう事らしい。香月博士と呼ばれた白衣の女性を振り返るときつい表情で「使えないわね」とつぶやいていた。

 

「じゃあなに? そのACとやらもネクストとやらも使えないわけ?」

≪浅はかな。何が使えないというのです? ACがあの程度の攻撃でやられるとでも?≫

「使えないわけではないだろうがもうAPは」

≪そんなもの欺瞞情報に決まっています。ネクストを演習場に放置し、博士に興味を持って頂いてから見知らぬ機体が来れば必ず興味を持たれます。ましてやネクストが全く解析できないならばなおさら。そして見知らぬ機体のパイロットから是が非でも情報を聞きたいはずです≫

「欺瞞情報なんてどうやって……」

≪先ほども申しあげたとおり私はリンク型サポートAIで、ACのシステムサポートもしています。その程度のことは造作もありません≫

 

 博士はあからさまに不機嫌な表情でこちらを見つめた。

 

「じゃああたしはあんたらの掌で踊らされていたわけ? このあたしが……屈辱だわ」

≪我々の目的はこの世界の救出です。その為にはあれくらいはしなければこの物語に関わることができません≫

「……いいわ、あのACは使えるわけね。とりあえず指示は出しておくから、今日はあの営倉に戻ってなさい。明日にはあんたの立場とか用意しとくわ」

 

 そう言って博士はここから離れてどこかへ行ってしまった。

 とりあえず俺はアイリスを持ち、アリーヤのコックピットハッチを閉めて下へと降りた。ここまで来たうろ覚えの道をたどるのかと考えているとこの空間の入口に立っている銃を持った兵士が営倉まで誘導してくれた。扱いは捕虜のままだったのでとても冷たくて、ほろりと涙が出そうだ。まぁ当たり前だし自業自得なんだがな。アイリスのことは博士から連絡が伝わっているのか、見逃してくれたので営倉の中でアイリスと話すことにする。

 

「向こうからの手助けはできないんじゃなかったのか?」

≪できませんよ。だからこちらから手伝える存在を作ったのです。とは言ってもあくまでサポートであり、実際に何かをするのは全てあなたです≫

「随分と俺は優遇されているな」

≪あの方に感謝するべきですね。私を作り上げ、ACやネクストをこちらに送ったのですから≫

「感謝してもしきれないよ。ただ、あいつの身が心配だけどな」

≪この世界を救出することが出来れば、神様も文句はないと思いますよ≫

「そのために俺は頑張らないといけないってわけだな」

 

 アイリスと一通り話して、俺は睡眠を取ることにした。明日から本格的に活動をすることになるのだろうし、休めるときに休んどいた方がいいからな。とりあえずはACのメンテナンスとこの世界の情勢について調べることになるだろう。もしかしたら雇い主の香月博士から別の仕事を割り振られるかもしれないが、それはその時だな。などと考えている内に、意識はまどろみの中に消えていった。

 




みなさんからいろいろ意見やアドバイスを貰って、考えて考えた結果私はこうなりました。
なんじゃこりゃなんて思った方もきっといるかと思いますが、どうか今後もお付き合いいただければと思います。
またいろいろ意見等あればお気軽にください。よろしくお願いします。


曲名は「Ever Green Family type2」です。
いやもうこれの中毒性ヤバいっすね。ゲームでも思いますけど頭にめっちゃ残るし。
ウィ!ラィ!エッヴァグリ!フォエバーハピネスメイカッドリム!


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第4話 その時君は、美しい。

お待たせしました。
いろいろこじつけてる気がというかこじつけていますがこれでどうか……

つかサブタイトル考えるの難しい……


【追記】
アンケートを活動報告の方に投稿しました。良ければご協力お願いします。


「……て、起きてよ。もう起きてったら!」

「ん?」

 

ゆすり起こされて重たい瞼をあける。

 

「もー、やっと起きたね。遊園地行くって言ったじゃないか」

「遊園地……?」

「まだ寝ぼけてるの? 言い出したのはキョウの方じゃないか」

「……ああ、そうだったな。お化け屋敷に行かないとな」

「ちょっと! お化け屋敷には行かないって約束だったじゃないか!」

「何言ってるんだ。カップルで遊園地と言ったらお化け屋敷は定番中の定番だろ。そしてお化けに驚いてキャーと抱きつかれると柔らかい……ああ、すまなかったな」

「今どこ見て言ったのさ! つるぺたで悪かったな!」

 

 ギャーギャーと騒ぎ暴れる彼女を宥める。

 

「悪かった悪かったって。お化け屋敷には行かないから」

「まったく、最初からそう言ってるじゃないか。……やっぱりキョウも大きい方がいい?」

「その質問何度目だよ」

「だって! キョウが不安になるようなことばっかり言うから……」

「俺はサイズなんて気にしないし、お前だからいいんだよ。他の誰でもない、お前がいいんだ」

「キョウ……」

「つか、うわ恥ずっ! めっちゃ恥ずい! 俺は真顔で何言ってんだ!」

 

 恥ずかし過ぎてベッドにダイブしてその上で悶える。言ったことは紛れもなく本心だ。だがこう言葉にして伝えてしまうと恥ずかしさがこみあげてきて居たたまれなくなる。

 

「ほら、早く遊園地に行こ! 僕、楽しみにしてたんだから!」

 

 満面の笑みで手を差し出す彼女の手を取りベッドから起きる。

 

 

 

 

 

≪おはようございます、レイヴン。……どうかしましたか?≫

「ん? どうかって、何がだ?」

≪泣いていますよ?≫

「泣いて……?」

 

 アイリスに言われて顔に触れると、確かに涙が頬を流れていた。どこか胸が締め付けられるような切ない気持ちと合わせて、何か夢でも見ていたのだろうか。

 

≪レイヴン、人が来たみたいですよ≫

「人?」

≪はい。私のセンサーに人らしき熱源を感知しました≫

「便利だなお前。敵になられたら恐ろしいよ」

≪何を言っているんです? 私はあなたをサポートするように作られています。いついかなる時でもあなたの味方です。裏切りなどありえません≫

「心強いよ」

 

 アイリスと話していると営倉の扉が開いて銃を持った兵士2人と男性が入ってきた。

 

「君の処遇について伝えに来た」

「……あんたは?」

「私はこの横浜基地の司令をしているパウル・ラダビノッドだ」

「司令直々か」

「まず、君は今からどんなことがあってもその位置から動かないと約束できるかね?」

「言ってる意味が分からないんだが」

「そのままの意味だ」

「……いまいち分からないが、動かなければいいんだろ? 約束するよ」

 

 そういった直後司令の両脇に控えていた兵士が銃を構えた。銃口をこちらに向けて。

 

「おい、どういうつもりだ」

「君の犯した行動は決して許される行為ではない。それは分かるな?」

 

 このままでは撃たれると思い、身体を動かそうとして先ほどの約束が頭をよぎった。

何故いきなりあんな話をしたんだ? 銃殺するならわざわざあんな約束をする必要はない。何があるのか分からないが、約束を守る方がよさそうだと直感が告げる。どのみち逃げ場はないというのもある。そのまま瞳を閉じ、相手の行動を待つことにする。見ていると反射的に避けようとするかもしれないからだ。

瞳を閉じてからほんの数瞬後、発砲音が鳴り響いた。が、身体はどこも痛みに襲われていない。恐る恐る目を開けると銃口を下げた兵士と司令がいた。

 

「決して許される行為ではないが、幸い負傷者こそ出たものの死者は出ていない。また、あの新概念実証機の性能には目を見張るものがある。あれは君が開発したのだと聞く。あれほどの機体を開発した君を失うのはあまりにも惜しい。よって、今一度チャンスを与えようということになったのだ」

「俺が言うのもあれだが、随分と甘いんだな」

「それほどの価値を君に見出したということだ。香月博士には感謝しておくんだな。あとの説明は香月博士から聞いてくれたまえ。私はこれで失礼する」

 

 そう言って司令は去って行った。それと入れ替わるように香月博士が入ってきた。

 

「じゃ、そういうことだから。これ、明日までに全部頭に入れておきなさい」

「ちょ、そういうことじゃなくて説明してくれ! あとこれ分厚っ! 明日まで!?」

 

 伝えるだけ伝えて、分厚い資料をこちらに投げてよこした博士が帰ろうとするのを慌てて引き留める。

 

「なによ、めんどくさいわねぇ。あんだけ大暴れしたあんたの立場を確保するのがどれだけ大変だったと思ってんのよ。、あんたは機体から降りてきたときはあのスーツとヘルメットで顔は分からなかったし、声は加工されてたからラダビノッド司令のような一部の人だけで済んだけど、このあたしがあんたのために頭まで下げたのよ? 屈辱だわ」

「俺、声加工されてたのか?」

≪あ、それは私がしておきました≫

「便利だなおまえ……」

「……これであんたの立場は確保できたわ。それは今回の騒動や、あんたのこの世界での立場に関するこちらが用意したシナリオよ。ぼろが出ないように明日までに頭に叩き込んでおきなさい」

 

 そう残して今度こそ香月博士は去って行った。

 

「少佐をお部屋へとお連れ致します」

 

 外で待機していた兵士が俺の手錠を外し、この基地での部屋へと案内してくれた。移動中もシナリオを読んで少しでも頭に入れる。兵士が俺のことを少佐と呼ぶ理由は言わずもがな、香月博士が用意した立場だ。

簡単にまとめると俺は国連軍少佐で、新概念実証機の開発責任者。香月博士がこの新概念実証機のことを知り、護衛用の機体として第4計画に組み込むことを決定。それに伴い横浜基地へと向かう途中、機体のテストパイロットが突然暴走し機体を奪取。横浜基地へと襲撃を仕掛ける。新概念実証機はその堅牢な防御力や火力を遺憾無く発揮し、基地防衛隊を圧倒。新概念実証機が未完であることもあり、なんとか捕縛に成功。その後テストパイロットは射殺され、開発責任者である俺がテストパイロットの後釜になる。ってことらしい。

ちなみにテストパイロットの暴走の原因は度重なる稼働テストによる疲労が、実戦での度重なるBETAとの戦闘での疲労と近い状態になり錯乱したと推測となるらしい。

兵士に案内された自室でもシナリオを繰り返し読み、頭に叩き込む。人間集中すると何かを忘れることがある。今回は俺は食事をとることを忘れており、慌てて地図見て食堂へと駆け込んだときには誰も食堂にいなかった。

 




城内省だっけ?あそこって日本人すべてのデータ入ってんのかな?
だとするとたけるちゃんみたいに恭史郎も月詠さん達に怪しまれちまうかな?とすると外人設定にした方がいいか?日系人みたいな…… なんかユウヤみたいだなそれ

レイヴン・イェルネフェルト

外人設定って思った瞬間にふっと浮かんだ名前候補がなんとも微妙だった……

このまま烏丸 恭史郎でいいか?むぅ……


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第5話 腹が減っては…

随分お待たせしました。
年末になるにつれて忙しくなってなかなか更新できなくて申し訳ありません。


さて、アンケートはまだまだ募集してますので、よかったらどうぞ!
最初はアイザック財団という財団があってその傘下にムラクモ、レイレナード、アクアビット、キサラギなどの会社があって、ACの武器を・・・みたいなことを考えていましたがちょっとアンケートの内容ともかぶりますし、現在は保留。みなさんの意見も聞いてみたかったり・・・←


なんとか昨日貰ったシナリオを頭に叩き込んだ俺は今度こそ食堂へと足を運ぶ。起床ラッパが鳴るのはまだまだ先の事だろうが、食堂で出待ちでもしようかと行動したわけだ。流石におなか減った。

食堂に来るとすでに仕込みが行われていた。慌ただしそうに動いている人を眺めながら何を食べるのか悩んでいると、元気そうなおばちゃんが声をかけてきた。

 

「おや、こんな時間からいるとはとんだ食いしん坊だね。ちょいと待ってておくれよ、今支度をするからね」

 

 テキパキと支度をしていくおばちゃんは支度を終わらせてにこやかな笑顔でこちらに向き直った。

 

「待たせたね。さあ、何を食べるんだい? おや? 見ない顔だねぇ」

「昨日付けでこちらに着任した烏丸 恭史郎というものだ。以後、よろしく」

「あたしゃ京塚 志津江。この食堂のおばちゃんさ。あんたも気軽におばちゃんと呼んどくれ」

「わかったよ、おばちゃん。実は昨日は資料とにらめっこしていたら食事を忘れてしまって、今すごくお腹がすいているんだが、がっつりと食べれるオススメはあるかい?」

 

 おばちゃんは目をぱちくりとしたあと、豪快に笑った。

 

「そりゃあこんな時間に来るわけだ! それじゃ、着任祝いも兼ねてたんとサービスしてあげるよ!」

「そいつはありがたい」

 

 おばちゃんは奥に引っ込み、食事の用意をしてくれている。特にすることもないのでおばちゃんをカウンターから眺めている。テキパキと無駄のない動きで用意を進めており、その姿からはプロフェッショナルであることを感じる。そんなことをぼーっと考えながら待っていると、おばちゃんは待たせたねと言ってトレーをカウンターに置いた。

 

「合成サバ味噌定食と合成豚角煮丼特盛りだよ」

「これはがっつりと食べれそうだ。ありがとうおばちゃん!」

「いいんだよ。あんたもあんま無理せず、ちゃんとご飯食べに来るんだよ!」

「分かった、気を付けるよ」

 

 カウンターでおばちゃんにお礼を言って別れ、まだ誰もいない食堂の適当な席について食事を開始する。

 食事は満足の一言で済ますのはもったいないくらいだが、他に言葉が出てこない。合成と名前についていたがおいしかった。過去の転生の記憶の中にはまともに食事がとれていなかった時期もある。こんな世界で贅沢は言えないし、むしろ今食べたのは贅沢なのではと疑いたくなるほどだ。お茶らしきものを飲みながらほくほく顔でくつろいでいると、食堂にウサミミの女の子がやってきた。

 

「君は確か香月博士と一緒にいた……」

「……」

 

 彼女は無言で俺の制服の裾をくいくいっと引っ張る。頭に疑問符が浮かんでいると彼女の引っ張る力がより強くなり、どこかに連れて行きたいのだと悟る。付き合ってあげてもいいか。

 

「食器を返してくるから少し待っててくれ」

 

 コクンと頷いた彼女から離れ、食器をカウンターへと返しに行く。その際、おばちゃんにご馳走様と声をかけると笑いながら「あいよ」と返してくれた。

 ちょこんという擬音が似合いそうに立っている彼女と合流し、食堂を後にする。これは後でアイリスから聞いたことだが、食堂ではなくPXというらしい。どう違うのかはよく分からないがそうらしい。

 ウサミミの彼女に連れられるままに通路を進み、エレベーターに乗って下へと向かう。あれ? これなんかデジャヴ。無言のまま女性にどこに行くかも告げられずに連れられることが前にもあったぞ。そして、ずいぶんと下のフロアらしいけど何階まであるんだろう?

 そんなことを思っているととある一室の前に着いた。パシュっと自動ドアが開きウサミミの彼女がさらに中へと俺を連れて行く。連れられるままに中へと足を踏み入れると、まず目に入ったのは部屋中にある乱雑に置かれた本たちだった。

 

「遅いわ!」

 

 そして部屋の主であろう香月博士がデスクに座りながらこちらに怒声を浴びせる。遅いと言われても呼ばれた記憶もないし、アイリスに聞いた兵士が起きる時間を知らせるという起床ラッパまではまだ余裕がある。どういうことだろう?

 俺が遅いと言われ疑問を抱いていると、博士はもう興味はないようで次の話題へと話を進めた。

 

「今日はあんたに戦術機について学んでもらうわ。新概念実証機開発責任者が戦術機を知らないなんてお話にならないわ。それにパイロットも務めるなら乗れないといけないでしょ? ピアティフには話を通してあるからシミュレータールームに行って、今日一日で乗れるようになりなさい。あとこれ」

 

 またしても無理難題を押し付けられているような気がするが、言っていることは至極当然であるとも思うので頑張るしかない。そして、博士から何かのカードを受け取った。

 

「これは?」

「それはこのフロアまでくることができるセキュリティパスよ。これから何かしら呼ぶこともあると思うから持っておきなさい」

 

 セキュリティパスを受け取り、制服のポケットへと一旦しまっておく。

 

「シミュレータールームまでの道は社に連れて行ってもらいなさい」

 

 社と呼ばれたウサミミの彼女にまた連れられて今度はシミュレータールームへと移動する。少々眠そうだが、起床ラッパよりも前に俺を呼びに来てくれたのだから当たり前か。俺を送り終えたらしっかりと睡眠を取ってほしいものだ。

 シミュレータールームに到着すると社は「ばいばい」と言って去っていった。きっと相当眠かったんだろう。社が去ったあと、金髪の女性が俺に近寄ってきた。他に人影は見当たらないからこの人がピアティフさんなのだろう。

 

「あなたが烏丸さんですね? 話は香月副指令より聞いています。本来であれば戦術機適正を調べてからなのですが、それは必要ないと言われておりますので動作教習基本課程Aから始めさせていただきます。その前にこれにお着替えください」

「ああ、わかった」

「更衣室はあちらです」

 

 指示された場所で着替えをしようとその服を見ると、すごく恥ずかしい感じの服なんだが着なきゃだめだろうか? しばし悩んでいるとアイリスが耐Gやレスキューパッチ等の機能があるスーツであることを説明されて仕方なく着た。この体はどうか分からないが、過去に強化された記憶がある俺は恥ずかしい思いまでしてスーツを着たくないのが本音だ。まぁ、こちらの世界に来た時から耐Gスーツ着ていたからこの体は強化されていた頃の身体ではないとは思う。

 着替えてシミュレーターへと乗り込み教習課程を進めていく。基本課程なだけあって分かりやすく戦術機の動かし方を説明、訓練できた。午前中を使って動作教習基本課程を全て終わらせる。午後からは動作教習応用課程をするそうだ。一日使ってと言われたがこの分なら夕方までには何とかなりそうだ。正直、ネクストを扱った記憶があるせいか反応が鈍く感じる。なんというか動作が鈍いというか重いというかそんな感じ。ちょっと言葉にできないんだけど。

 

「おばちゃん、合成豚角煮丼ひとつ。特盛りで!」

「あいよ!」

 

 朝の合成豚角煮丼がおいしかったので昼もそれを食べることにした。PXは朝とは違い、多くの人で賑わっており席の確保に手間取りながら食事をとる。なんだか周りがざわざわしているがいったいなんなんだろうか?

 

≪多分、レイヴンが強化装備を着たままだからですよ≫

「このスーツは強化装備っていうのか。というか着たままはだめなのか?」

≪ダメではないと思いますが、普通は着替えるのでは?≫

「このあともシミュレーター使うし着替えるの面倒じゃないか。いいよこのままで」

≪レイヴンがそれでいいなら私は止めませんが……≫

 

 そんなこんなで注目を集めながらの食事を終え、動作教習応用課程をこなしていく。正直ACの操縦に慣れている俺にとって難しくもなんともないものなので、淡々とこなしていく。操作の重さや反応の鈍さに若干の苦戦をしながらも動作教習応用課程Fを終わらせる。

 

「これにて全教習課程を修了します。お疲れ様でした」

 

ピアティフさんと別れた後、教習課程の修了を報告するために香月博士のところへと向かう。時刻を見たら夕方で終わると思っていたが、思いのほか時間がかかったようでもうとっくに日は沈んでいる時刻だった。報告が終わったらまた合成豚角煮丼でも食べようと決め、博士の部屋へと入る。

 

「あら、誰かと思えば。どうしたの?」

「教習課程を修了したので一応報告を」

「わかったわ。あ、そうそう。明日中にACとやらの整備を済ませておきなさい」

「明日中に?」

「ええ。明後日に新概念実証機の実機テストすることになったから」

「また随分と急な話だな」

「ま、そういうわけだからしっかりしときなさいよ」

 

 「話は以上よ」と言われてはこれ以上話を続けることはできないので、PXへと向かって合成豚角煮丼を食べることにする。今日シミュレーター使っていて思ったこともあるし、アイリスと話しながら明日のACの整備をどうするか今のうちに考えておこう。

 




京塚のおばちゃんは個人的にお気に入りのマブラヴキャラだったり。

烏丸のスケジュールは基地襲撃から日にちが経っていますし、過密になるのは仕方ないかと思いますが、過密すぎるかな?急ピッチで原作に合流しようとしてますけど←


あ、えっと捕捉と言いますか基本的に烏丸は歴代AC主人公の記憶を持っています。ただ、faだけはホワイト・グリントです。私は4主人公が白栗であると思っていますので←
再起動するのはすげーなと思いますけどね

ここで謝罪しますが、アンケートや感想には全て目を通しています。忙しかったりして返信が出来ていなかったり、遅くて申し訳ありません。
いつもありがとうございます。皆様の感想等は私の力になっています。


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第6話 デモンストレーション

なんとか書きあがった。
戦闘描写って難しいね、ホント。

まぁ、日常描写も難しいのだけれど←



ちょっと早いけどクリスマスプレゼントだよ!←え


そして、祝・UA10000越え、お気に入り100突破!
皆様ありがとうございます。ここまで頑張れたのも皆様のおかげです。今後も頑張りますので、今後ともよろしくお願い致します。
あ、記念に番外編とか何かした方がいいですかね?


 燃え盛る炎の中に立つ鋼鉄の巨人。炎が発生させる黒煙で見えづらいが、しかと立っている様は言葉で表すことができない威圧感と恐怖を感じる。

今見せてもらった圧倒的な火力の武器、そしてそれを保持し運用する機体のパワー。どれも戦術機以上のもので、驚愕していた。こんな戦術機の半分にも満たない兵器が出すスペックではない。これを開発したという人物が恐ろしく感じるのは自然なことのはずだ。

 このあとの予定は演習と聞いているが、演習は3戦あり、そのうち1戦は防御力テストもあり実弾も使うというのだから驚きだ。しかも、国連軍の1個小隊に帝国軍の1個小隊、そして帝国斯衛軍の1個小隊の順で行われ、1戦でも負ければその実用性を証明することが出来ず廃棄処分となるデモンストレーション。

ここまでの兵器がなぜこうなってしまったのかは、先日の横浜基地襲撃事件に関連しており、この兵器が襲撃したとされているからだ。要するに、こんな危険なものは戦術機に劣るようなら廃棄しようということだ。ただし、実用性が証明された場合には武器等の開発の為の専用ラインを用意するように要求もされていると聞く。

ただの技術屋の私には詳しくは分からないが、今回のデモンストレーションでは既存ではないまったく新しい技術を見ることができるのかもしれない。上司の勧めでこのデモンストレーションを見に来ることが出来てよかった。今までの我々にはなかった発想の天才か、既存の兵器か……。その結果はまもなく始まる演習で明らかになる。

 

 

 

 

 

 正直、昨日のメンテナンス中に香月博士が急に来て、戦術機の武器が持てるかどうかを聞いてきたときは何かと思った。だが、確かにACの武器ではとてもじゃないが演習にはならないな。武器の火力のデモンストレーションは、駆動系が完全にイカレてもう廃棄するしかない戦術機数機相手に行った。あとは防御力と機動力でいいらしい。その為、最初の国連軍1個小隊相手の演習では相手は実弾を使うそうだ。アイリスもその程度ではACは傷つかないと断言していた。そしてアイリスのおかげでACでも難なく戦術機の武器の使用ができるようになった。頭が上がらないとはこのことか。なんかアイリスにいろいろまかせっきりな気がするな。と物思いにふけっていると演習が始まったようで弾丸が装甲を叩き、弾かれている音がコックピットにも聞こえる。

 

「さてと、久々のお仕事の時間だ。今回も負けは許されないらしい」

≪負ければACは廃棄という話ですが、あの程度でレイヴンの乗るACは負けたくても負けられませんよ≫

「その信頼に応えるとしますか!」

 

 防御力のデモンストレーションの為、敵の銃弾を避けることをせずまっすぐに進み距離を縮める。両手に持つ突撃砲が火を噴き、ペイント弾が国連軍の陽炎へと向かう。それに当たるほど間抜けではなく、散開して避けるのを確認してハイブーストですぐ横の障害物の陰に隠れる。相手にしてみればまっすぐ進んでいた敵機が減速なく急に直角に曲がって隠れたように見えることだろう。シミュレーターでも思ったことだが、戦術機ではあまりしない行動のはずだ。そのままブーストドライブで障害物を蹴り、上へと上る。これは資料からだが、戦術機での戦闘ではあまり対空の攻撃というのがない。それはBETAが地を這うものであるのと、光線級による制空権の支配に起因するものであるのだが、今回はそれを利用させてもらい上から国連軍の陽炎を奇襲する。突然の上からの攻撃に為す術もない2機の陽炎をペイントまみれにする。

 リコンを射出し、残りの2機の位置をスキャンしてそちらへと向かう。上は流石に警戒されるのでそのまま正面から突っ込み、ハイブーストで右に瞬時に移動してからすぐに左へともう一度ハイブーストをして突撃砲を放つ。右への急な移動にもしっかりと対応し右へと移動したこちらに銃口を合わせた陽炎だが、さらに左への移動には対応しきれないようで1機がペイントまみれになる。不利を悟った残りの陽炎がブーストを噴かして後退するのを追いかける。左手で持つ突撃砲で敵機を狙い、右手の突撃砲で逃げ道を塞ぐようにペイント弾を放つ。次第に避けきれなくなった陽炎が動力部に被弾して演習1戦目は終了した。

 

 ペイント弾の補給をして演習2戦目。今更だがこのACは背中にグラインドブレードを背負ったままで、両手には戦術機の突撃砲を持っている。その為、弾が切れた時のために演習用の長刀が演習場のいくつかのポイントに置いてある。グラインドブレードを換装していると時間がかなりかかるための緊急的措置である。そして演習場は市街地戦を想定されたものだ。いくつかの建物が障害物として存在する。現在高い建物の上に陣取っている。今回の対戦相手は帝国軍の1個小隊だ。先程の国連軍との演習を見ているはずで、普段ならば前後左右に注意を払うだけであったが、今は上も注意が必要であることで行動が遅いように感じる。まだ距離があるので向こうはこちらを捕捉しているかわからないが、こっちはリコンを投げ飛ばしているのでどこにいるのかがまるわかりである。

 まもなく敵小隊が目視できるところに辿り着くので、突撃砲で狙撃できるようにしっかりと構える。ゆっくりと警戒しながら進む帝国軍の不知火が見えたところでフルオートでペイント弾を発射する。ACにしてみれば戦術機の突撃砲のリコイルなどないに等しいのでほぼぶれずにペイント弾は狙った所へと着弾する。もとよりこれで全滅するなど考えていなかったが、2機つぶせたのは僥倖だ。すぐさま建物から飛び降り移動する。その際リコンを設置するのを忘れない。

 2機の不知火はすぐに散開し、正確に狙撃地点付近に急行しているあたり優秀なパイロットであることが伺える。こちらはさらに距離をとるようなことはせず、こちらに向かう1機の不知火にターゲットを絞り接近する。もう1機がこちらの裏を取るような行動に出たのでレーダーの範囲を予想しつつ、1機の不知火と対峙する。国連カラーの青い不知火とは違うグレーの不知火は突撃砲を発射しながらこちらを誘導するような射線を張る。先程の演習の国連軍とは違い、こちらは実弾ではなくペイント弾を使っている。被弾するとペイントが付くだけだが、ペイント弾は被弾し続けると勝手に小破や中破など撃墜判定を出される可能性が否定できないのでなるべく回避しつつ突撃砲で応戦する。その際、戦術機が行わないような3次元機動で翻弄しつつ接近する。ハイブーストで左右に揺さぶり、三角跳びの要領で壁を蹴りさらにハイブースト、ブーストドライブと圧倒的なブースターにものを言わせて翻弄し、突撃砲でしっかりと管制ユニットを撃ちぬく。

 後ろから接近する不知火に向け振り向き様に突撃砲を放ち、同じように翻弄する。不知火は無理に迎撃せず、建物の陰へと引いていく。それを建物の上を通過して、驚く不知火に対して突撃砲を放って仕留める。

 

 もう1度ペイント弾を補給して演習最終戦。今度の相手はエリート軍という帝国斯衛軍だ。機体は武御雷というハイスペック機。戦術機の最高峰であるだろう機体との演習となる。強敵との試合に心躍るものを感じつつ、機体を前進させる。

 

≪楽しそうですね、レイヴン≫

「そう見えるか?」

≪はい≫

「多分久々の戦闘に気分が高揚しているのと、強い相手との戦闘で俺はさらに強くなれるという確信に近い思いがあるからだろうな」

≪なるほど、そういうものですか≫

「そういうものだ。今回は小細工はしない。正面から堂々とだ」

 

 敵機を視認する。赤い機体に白い機体が3機の編成。こちらが視認するということはあちらも視認するということであり、流石はエリートというべきか視認してすぐに正確にペイント弾がこちらへと飛来する。それをハイブーストとブーストドライブの三次元機動で回避し、前へとハイブーストし急接近する。今までハイブーストを左右にしか使っていなかったからか、左右だけだと思い込んでいたのであろう白い機体のわずかな硬直を逃さずに管制ユニットをペイントで染め上げる。そこで硬直を晒すなどという愚行をせずすぐさまハイブーストで離れ、牽制の為にペイント弾をばらまき建物の陰へと後退する。

 

「残り3機」

 

 建物へと姿を消したこちらを追う機体と、反対側から挟むように来る機体があるので追ってくる方へとブーストドライブで若干上にあがった状態でハイブーストする。角を曲がった白い機体の上を通過し、その背中にペイントを浴びせる。しかし、そこを赤い機体に突撃砲で狙われ左腕が小破判定をくらった。まだ使えないわけではないが、反応や出力ダウンというペナルティが発生したことに舌打ちしつつ赤い機体の射線と挟み込みに来た白い機体の射線から逃れるように後退する。

 残弾が少なめであることもあり長刀があるポイントまで急行する。追ってくる赤と白の機体に向け左手に持つ突撃砲を投げつけ、回避させている間に長刀を回収しそれをそのままこちらから見て左側にいる赤い機体に向けて回転させながら投げつける。

 

「いけるか!?」

≪計算は完璧です≫

 

 その長刀に向け突撃砲を放つ。長刀はすぐさま持ち替えた赤い機体の長刀に弾かれて地面に叩きつかれた。

 

≪神代機、動力部被弾。致命的損傷、機能停止≫

≪そんな!≫

 

撃墜判定を出された白い機体のパイロットが演習のオペレーターの声に戸惑いを隠せないようだった。先程投げた長刀の刃の部分を使いペイント弾を跳弾させて動力部を狙った。アイリスというAIを計算に使ってしまったのは少しずるかったとは思っているが、本来のこちらの武装や装甲の防御力を使わせてもらっていないのでこれくらいは許してほしい。

 

≪神代、見苦しいぞ≫

≪……は。失礼しました≫

 

 赤い機体は長刀を叩きつけた格好のまま、こちらは突撃砲を構えたまましばし時間が経過した。正直に言うと突撃砲はすでに弾切れであり、ここのポイントの長刀は赤い機体の足元にある。逃げるに越したことはないのだが、赤い機体がまだ弾があると思っていてくれるのならばまだ使いようはある。

 突然赤い機体が足元の長刀を掴み、こちらに投げてきた。

 

「どういうつもりだ?」

≪その突撃砲はほぼ弾切れであろう?≫

「なぜそう思う」

≪簡単なことだ。弾があるならば、貴官はこのような間など作らず、すぐさま撃っているだろうからだ≫

「ではなぜ長刀をこちらに寄越した」

≪単純に貴官と切り結びたいと思ったのだ。このままの決着を私は望まない≫

「……いいだろう」

 

 こちらに投げ飛ばされた長刀を拾い構える。

 

≪貴官の名を聞いてもよろしいか?≫

「烏丸 恭史郎だ。そちらは?」

≪月詠 真那だ。では烏丸殿、ゆくぞ!≫

 

 一気に加速した赤い機体がこちらに肉迫する。こちらにはサイズが小さいというアドバンテージがあるが、関係ないかのように長刀が振るわれる。それを長刀でいなし、返す刀で切りつけるのをバックステップで回避した赤い機体に畳み掛けるようにこちらから切りかかる。切りつけてはいなされ、切りかかられればいなすを繰り返す。こちらにアドバンテージがある状態でここまでやる月詠というパイロットは優秀だ。この機体が長刀を振り回すというのに適していないというのもあるかもしれないが。

 何回も正面からぶつかり合い、なかなか決着がつかない。ホントはこのまま何度でもぶつかりたいが、こちらも仕事だ。これ以上やって負けることもできない。その為、正面からぶつかると信じていてくれる月詠には申し訳ないが、切り結ぶ瞬間に右にハイブーストして避ける。そのままもう一度ハイブーストし管制ユニットに長刀を添えて、この演習は幕を閉じた。

 




読みづらかったりしたら教えてください。
感想とかも待ってます←


正直、たけみーとACの機動力だとたけみーのが勝つんじゃないかと不安があったりしてる私。
あ、そういえばACって推進剤とかあるんかな?Vの段階でよくわからない発掘品使ってるし、推進剤はなくエネルギーだけのブースターなんかな?

そしてやはりセンスのないサブタイトルである←
完全に余談だけど、今回歴代最大文字数だったよ・・・


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第7話 月光

大変お待たせしました。
本当に待たせた皆様には申し訳ない!

執筆途中にあることを思いつき、それまで執筆していたものを消して書き直していたらこんなことに。申し訳ありませんでした。
思いついたことというのはアンケートにしましたのでよかったら活動報告の方でアンケートにご協力いただけたら幸いです。ちなみに片方のみの解答でも構いませんので、どうかよろしくお願いします。
前回募集したアンケートの方もまだまだ募集していますのでよかったらお願いします!


 辺りは瓦礫に包まれ、地面にはいくつものACがころがっている。国は崩壊し、もう機能はしないだろう。それほどまでに破壊しつくされたと言っていい。たった……たった数機の企業の新型ACによっておこされたこの出来事に多くのレイヴンが散っていった。彼我の戦力差は圧倒的。されど雇い主である国からは撤退を許されるわけもなく、次々と仲間たちは殺されていった。光る粒子を纏い、空を自由に飛び回るその機体が綺麗だと他人事のように感じていたが、その機体は自機の前にゆっくりと降りてきた。

 漆黒とも濃紺ともとれる機体カラーのその機体は、頭部の独特な複眼をこちらに向ける。流れるような曲線と所々尖ったパーツで構成されたシャープな機体デザインは美しさもさることながら、圧倒的な機動力を誇る。周囲の仲間たちはその機動力の前に、為す術なく戦場のオブジェクトと成り果てた。

 新型の武装は右腕にブレード、左腕にマシンガンのような火器、そして背中にキャノン系と思われる武装を積んでいる。そして、なにより厄介なのが新型の纏うバリアの様なものだ。そのバリアにこちらの攻撃は阻まれ、一方的に狩りつくされるだけだ。実際そのバリアと機体の機動力、そしてブレードだけでこの戦場を制圧した。

 この場から逃げることは許されず、されど火器の類は新型のバリアによって効果が見込めない。勝機がもし見えるとすれば、左腕に装備しているブレードのみとなる。相手の機動についていくことはできないだろうが、少しでも機動力を上げるためにブレード以外の装備をパージする。

 武装をパージしたこちらを確認したのか、新型はその頭部の複眼を器用に細めながら着地した。しばし静寂が続いたが、新型がブレードを起動したのを合図にお互いに動き出す。

 

 もちろん機動力では敵わないのは承知の上だ。だからこそ相手が機動力を生かせないようなところへと移動する。崩壊した建物が多くある場所へと。

崩壊した建物が邪魔で高速戦闘は難しいと踏んだのだが、新型にはあまり関係ないらしい。新型というより、中のレイヴンの腕がいいだけかもしれないが。

 この狭い空間であろうとも瞬時にロック外へと消えるほどの機動力から放たれるブレードを、瞬発力と直感だけでなんとか防ぐ。新型は他のACを屠った時と同じくブレードしか使っていない。なんとか反撃の糸口を探してはいるのだが、こうまで性能が違うとブレードだけとはいえ防ぐだけで精一杯だ。もちろん防ぎきれない攻撃もあり、すでに右腕部は切り落とされている。

 

≪ここまでだな≫

 

 新型のブレードが左腕部を肩の付け根から切り落とした瞬間、そんな一言が聞こえた。そしてそのまま新型はブレードを横に一閃。モニターに映る新型がだんだんと遠ざかり見上げるような形になっていくことと、衝撃とともに映ったものを見て機体が上半身と下半身に分かれたことを知った。

 地面にぶつかった際のものと思われる衝撃で計器などに身体をぶつけながら再びモニターに目を向けると、新型がマシンガンのような火器の銃口をこちらに向けていた。

 

 

 

 

 

 デモンストレーションを終え、機体をハンガーに固定して一息つくとふと浮かんだ記憶。機体の性能差があったとはいえ苦い敗北の記憶。

正直あの時は死んだと思った。重症を負ったとはいえ生き残ったことは信じられなかった。その後、救ってくれた彼女に恩を返す為に俺は新型ACネクストに乗り戦った。そこであの時対峙し敗れたネクストに再び挑む機会が訪れる。お互いブレードで切りあい結果は紙一重で俺の勝利だった。

 

≪誇ってくれ。それが手向けだ≫

 

 それが彼女の最後の言葉だった。それと共に腕に装備していたブレードをパージし、こちらに投げた。以後、その武器は俺のネクストの武器となった。

 

 このデモンストレーションで勝つことができた際に香月博士が提示した生産ラインの確保の話を思い出し、生産する武器のリストに追加するのも検討しようと考えながらコックピットから降りる。

 慣れているとはいえずっと同じ姿勢だったため、背筋を反らし身体を伸ばすとポキポキと身体から音が鳴った。

 

≪お疲れ様ですレイヴン≫

「最終戦助かったよ」

≪あれくらいお安い御用です≫

 

 アイリスとそんな軽口を交わしながら歩いていると、整備のおやっさんが近寄ってきた。このおやっさんは、流石に俺一人では人手が足りないACの整備の為に香月博士に頼んで手配してもらった整備士だ。本名は石橋 一喜(いしばしかずき)さん、56歳。1人しか配備してもらえなかったが、長年整備士をされていただけあってすごく手際がいい。ACの整備についても1つ教えると10を知るみたいな感じに吸収していって、今や簡単なメンテナンスなら俺がいなくても任せることができるくらいの知識がある。自らをおいちゃんやおじさんと呼ぶこともあって、周りからはおやっさんと呼ばれて親しまれている。それに便乗して俺もおやっさんと呼ばせてもらっている。というか昨日出会ったばかりだがすごく親しみやすい人だ。

 

「おい烏丸やったな!」

 

 そう言うやいなやガシッと肩を組んできて、頭をガシガシと強く撫でられた。

 

「これでおめぇさんの開発した機体も廃棄されずにすんだな!」

「そうだけど、おやっさん痛いよ」

「細けぇこたぁ気にするな!」

「いや、痛いからやめてほしんだよ」

 

 しょうがねぇなといいながらおやっさんは撫でるのをやめて離れてくれた。

 その後、軽くおやっさんに今回のデモンストレーションのデータを見せてもらい、ハンガーを後にする。

 更衣室で耐Gスーツから国連軍の制服に着替えて、武器生産についてと今回の報告を兼ねて香月博士のもとに向かう。

 

「失礼します」

 

 ドアを開けて博士の部屋に入ると、部屋の中は真っ暗だった。どうやらここにはいないみたいだ。お腹もすいたのでPXで食事をしてからもう一度で直そうと思い、来た道を引き返す。途中何か視線を感じたような気がするが気のせいだろう。

 PXでおばちゃんにいつもの合成豚角煮丼を出してもらい、食器返却口近くの端の席を陣取る。

 

「隣、よろしいか?」

 

 やっぱりおばちゃんの合成豚角煮丼はうめぇなと思いながら食事していると後ろから声をかけられた。特に断る理由もないので承諾すると、失礼すると一言言って隣の席に腰を下ろした。エメラルドのような色をした長い髪で、赤い軍服を着ている綺麗な女性だ。制服の形が国連とは違うので、今回のデモンストレーションでここ横浜基地まで来た方なのだなと思いながら食事を再開する。

 特に会話をすることもなく食事を終えた俺は食器を返却し、おばちゃんにごちそうさまと言ってPXを後にする。

 




質問、感想等お待ちしております。
お気軽にどうぞ!

まさかこんなに時間をかけてしまうなんて思ってなかったよ・・・


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第8話 ヴォールク

ちょっとまた忙しくなりそうなので急いで執筆。
おかしいところとかあったら修正するかも……。

まだまだアンケートは募集中ですのでよかったらどうぞ!


【追記】
警備部隊隊員Bさん、誤字報告ありがとうございます!修正しました。
ついでに文章加筆修正しました。 2016/03/28 11:40


 デモンストレーションを終えてから数日が経過した。まず、香月博士を通してACの武器の弾薬の生産とアイリスから引き出したACの武装の設計図の一部を生産するように要求したところ、向こう側は了承をした。

 この世界でACの実用性は証明され、研究の第一歩を歩み出したことになる。アイリス曰く、研究が進んだところでこの世界でACを生産するには随分と先になるらしい。まぁ、当たり前かもしれないが。

 香月博士に呼ばれて博士の部屋に足を運ぶと、今日はシミュレーションを使った訓練を行うとのことですぐさまシミュレータールームに行かされた。強化装備に着替えるとシミュレーターに押し込まれ、しばらく待機を命じられた。ピアティフさんに。

 

「……いったいどゆこと?」

≪わかりませんが何か考えがあってのことなのでしょう≫

「まぁ、そうなんだろうけど……」

 

 頭にハテナマークを浮かべながら言われた通り待機する。待機していると嫌でもこのコックピットモジュール内部が目につく。モジュール内にはモニターなどがないのだ。強化装備と同じく身体に装着するヘッドセットから網膜に直接投影するシステムを採用しており、こちらの世界とは違う方向で技術が進歩しているのだなと感じる。

 

「そういえばさっきピアティフさんが言っていたコールサインってなんだ?」

≪敵に特定されぬように呼び合うコードネームの様なものです。レイヴンはクロウ1ですのでクロウ隊の1番機という意味になります≫

「なるほどな。傭兵時代ではそんなもの使ったことなかったからな」

≪必要なかったので仕方ないかと思います≫

 

 そんな話をしているとシミュレーターの外が若干騒がしくなってきた。他の団体でもきたのかなと思っていると、視界の隅にウィンドウが開き、淡いピンクのような髪の色で両サイドにリボンをつけた女性が映った。

 

≪初めまして、私は今回のCP(コマンドポスト)を務めます涼宮 遙中尉です。本日は合同シミュレーションよろしくお願いします≫

「ああ、よろしく」

 

 涼宮中尉の説明を受けながらシミュレーターが起動する。説明によるとヴァルキリーズとの合同訓練で、ヴォールクデータを使ったハイヴ突入シミュレーションをするそうだ。

 

「俺チーム戦事体数えるくらいしかやってないからチームワークなんてものないぞ……」

≪だからシミュレーションで訓練するのでは?≫

「それもそうか」

≪それに、レイヴンはドミナントなのですからこの程度造作もないと思います≫

「言ってくれるじゃないか……」

 

 ドミナント。それを利用してある兵器をなんとかしようと目論んだ策士がいた。その名前に踊らされた戦士がいた。強さを、生きる意味を求めてその境地に至った女性がいた。

 自分もドミナントとして認められた。そして最後に残った2人となった俺は同じドミナントである彼女と戦い、勝利した。そして彼女が俺に残した最後の言葉――

 

――レイヴン。その称号は、お前にこそふさわしい。

 

 彼女たちはまさしく強敵であった。その彼女たちに認められたのだ。やれないなどと弱音を吐くことは許されない。やれないではない、やるのだ。

 

≪大丈夫ですレイヴン。私もサポートします≫

 

 それに今の俺にはこんなにも頼もしい味方がいるではないか。何を不安に思うことがあったというのだ。知らないならばここで全て吸収してやる。まずはよく周りに気を配ろう。

すでに状況は開始され、ハイヴ内へと機体を進める。そしてBETAと呼ばれる人類の敵と対峙した。

 

「なんだありゃあ……ずいぶんと既視感を感じるな」

 

 どこぞの企業が開発した生物兵器にどこか似ているような気もする。裏にキサラギでもいるのかと疑いたくなる。

 それは置いておいてすでに戦闘の火蓋は切って落とされおり、周りのヴァルキリーズ機からは絶え間なく弾が吐き出されBETAを喰らい尽さんとする。だがそれ以上に脇にある道から奥から次々と湧き出てくる。正直きりがない。

 現在、まだ脱落者はおらず自機を含めて13機存在する。確か部隊での行動する際の最小単位は2機のエレメントだったと記憶を呼び起こす。ならば、今自分は余っていることになる。結局はチームワーク云々ではないかもしれないがちょうどいい。前に出て道を切り開こうではないか。それくらいやれないでレイヴンなんて名乗れない。

 

「悪いな。結局チームワークじゃねぇことするわ」

≪1人ではありません。私とレイヴンでエレメントです≫

「フッ、違いないな!」

 

 グッとフットペダルを深く踏み込み、ぐんっと機体が前へと出る。不知火の両手に持つ突撃砲で要撃級を屠りながら進む。地面を埋め尽くすほどの赤い戦車級は足場の確保のためだけの最低限だけ処理する。

 

≪ヴァルキリー・マムよりクロウ1。突出し過ぎです! 部隊に合流してください!≫

「反応炉まで行くんだろ? こんなとこで足止めてる暇なんてねぇよ。ましてやここはあいつらの巣なんだ増援が途切れることなんて期待できない。道作ってやるからついてこい!」

 

 次々と迫ってくる要撃級を屠りながら通信に返事を返す。正直いっぱいいっぱいだ。1体1体は大したことはないが、圧倒的な物量に舌を巻く。なるべく相手にしないように進んでいるが厳しいものがある。だが道を作ってやると言った豪語したのだ簡単にやられてやるわけにはいかない。こちらにも意地があるのだから――

 

 

 

 

 

 香月副指令より今日の訓練が合同のものになると言われて、どんなものになるかと思えばヴォールクデータを使用したハイヴ突入訓練だ。我々ヴァルキリーズに合流するのはたった1人の衛士。その衛士についての詳細は一切明かされていない。ウィンドウにもSOUNDONLYと表示されるだけで顔すら分からない。唯一声で男と分かるくらいだ。

 正直、戦力として当てにしていなかった。だが、急に前に出たと思えばたった1人で突き進んでいく。挙句の果てには道を作ると豪語して、それを実行している。現在は弾が切れたのか背部担架に装備していた長刀で切り進んでいる。

 

「速瀬、あいつに獲物を全てとられてしまうぞ」

≪分かってますよ大尉。あいつに頼りっきりなんて伊隅ヴァルキリーズの名がすたるってもんですよ!≫

 

 B小隊がクロウ1に続き、そのあとを支援しながら追いかける。今までの約半分の速さで中階層までくることができたことはひとえにクロウ1のおかげだろう。間違いなく、その実力はエースだ。

 だが、エースの快進撃はここまでだった。中階層に入ったあたりから敵の増援が一気に増え、部隊も少しずつのその数を減らしていく。クロウ1も長刀の切れ味がなくなり中ほどから折れている。左腕は肩から失われており、その進行速度は目に見えて落ちている。そして我々の道を作るために推進剤を使い過ぎたのか、はたまた機体トラブルかは分からないが急に飛ばなくなった彼を待っていたのは無慈悲な要撃級の一撃だった。その一撃で動かなくなった機体はすぐさま群がった戦車級の餌食となった。

 彼が前で活躍していた姿は皆を勇気づけていた。あまりにも無謀なことだと思うことをやってのけるその姿に、その技量に皆は魅せられ、これなら反応炉までいけると希望を抱いた。その彼の機体がやられてしまってからの部隊の崩壊は著しく、次第に部隊は足を止め、その数を減らし、そのままBETAに殲滅させられた。

 

 訓練が終わってクロウ1と挨拶がしたかったが、シミュレータールームに彼の姿はもうなかった。

 




感想やアドバイスなどもお気軽にください!
ちょっと慌ただしいけど今回はこれで。


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第9話 始動

遅くなって申し訳ありません。
ちょっとリアルが忙しかったのと、いろいろ考えていたらこんなにかかってしましました。

とにもかくにも第9話をどぞ。


――2001年3月某日

 乱雑に散らばった本がある部屋の中で、顔に傷がある精悍な顔つきの男性が立っていた。白衣を着た女性は、椅子に座りながら目の前にいる男性の話を聞いて楽しそうに眼を細めながら言葉を発した。

 

「へえ、おもしろそうね。いいわ、こちらの条件が呑めるというのなら――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――2001年5月2日

 正直、気まずい。急に香月博士からアラスカへ行けなんて言われたのは驚きだが、まぁそれはいい。問題は同伴者がいることだ。そんなこと一言も言っていなかったぞ。挨拶もそこそこに無言。何度か会話を試みるも続かない。こんなに会話って難しかったっけと疑いたくなるレベルだ。

 そもそもなぜ俺はアラスカに行くことになったのかというと、先日のデモンストレーションで見せた新概念実証機開発の腕を見込まれ日本からの要請があり、【XFJ計画】の補佐をすることになったこと。ついでにアラスカで新概念実証機のテストを行うこと。そして、先日要求したAC武器の稼働テストを行うことだ。ACは重いので、後日武器とともにアラスカへ輸送されることになっている。

 急な異動でおばちゃんに挨拶もできなかったし、おばちゃんの合成豚角煮丼を食べおさめることもできなかったのが悔やまれる。おやっさんは俺の異動に伴い、ACの整備担当ということでついてくる。なお、ACと共に後から来るらしいので今はいない。

 と、現実逃避したところでこの無言の空間は変わらない。同行者は帝国斯衛軍から国連に転属した女性であり、今回の計画の開発主任を任されている人物だ。背中まである艶やかな黒髪が日本人ならではの美しさを醸し出している。名を篁 唯依という。凛とした雰囲気の真面目そうな娘だ。もしかしたら俺が上官だからなのかもしれないと思いつつ、この空気に耐えれず寝ることにした。

 

 激しい揺れで目が覚める。どうやらちょうど着陸したみたいだ。固まった身体をほぐしながら輸送機から降りる。迎えの兵士に連れられて各々の部屋へと案内され、そこで篁中尉と別れた。

 

「はぁ、どうしたものかね」

≪どうしたもの、とは?≫

「いや、篁中尉のことだよ。初日からあれでは俺に補佐なんか務まるんかねぇ……」

≪いきなり弱音とは、ずいぶんと弱気ですねレイヴン≫

「対人関係はあんまり得意な方じゃない。いきなり気まずければ弱気にもなる」

≪そういうものですか?≫

「そういうもんだ」

 

 そうですか、とアイリスは呟き会話は終了した。

 とりあえず自室のデスクの上に纏められている今回の資料に目を通す。事前に目を通したものであるが、こちらの基地の方がわざわざまとめてくれたものだ。ざっと目を通す。そして、事前に目を通したものではない資料を見つけて首をかしげる。こんなものは知らない。

 

「不知火改修計画?」

 

 表題にはそう書かれていてはじめはXFJ計画の事だと思っていたが、目を通してみるとどうやら俺が不知火を改修する計画らしい。今回はXFJ計画の補佐に、ACのテストでアラスカに来たのではなかろうか。こんな計画は聞いていない。

 

「アイリスはこの計画を知っているか?」

≪不知火改修計画ですか? それは香月博士立案の計画ですね≫

「……なんでまた?」

≪以前、香月博士からAC世界における技術で不知火の改修は可能かと聞かれましたので、可能か不可能かであるならば可能であると答えました。たぶんそれかと≫

「いつの間にそんなことしていたんだ?」

≪時々、博士のPCをハッキングしてメールのやり取りをしていますので≫

「……ハッキングしたら怒られるだろうに」

≪最初は怒られましたが、今では何度プロテクトを強固にしても侵入する私に諦められたそうです。まぁ、AC世界に比べてこちらの世界のプロテクトなど私にかかれば赤子の手をひねるより簡単です≫

 

 アイリスにしては流暢にしゃべるその声はどこか誇らしげで、きっと実態があれば今頃は胸をはっているに違いないのだろう。しかし今から開発では間に合わないだろうという俺の疑問にアイリスは、事前に私から改修案を提出していますと返事をした。そしておもむろに自身が搭載された小型端末の液晶にある設計図を表示した。

 

「この設計図は……」

 

 全体的に丸みを帯びたボディ。戦術機としては歪な形をした特徴的な脚部。その脚部は普通の脚部とは逆に曲がっているように見える。所謂、逆関節というものだった。

 

≪優れたジャンプ力に旋回能力、またエネルギー効率の観点から逆関節の2脚を選択しました。弱点である積載量と耐久力を補うため、重量よりの中量を新設計しました。またこの機体にはTE装甲のデータを基にした対レーザーコーティングを施しています。空気抵抗や航空力学の観点から機体は丸みを帯びるデザインを採用し、なるべくシャープになるよう心掛けて設計しました≫

 

 アイリス曰く、この機体は俺たちよりも前に到着しており、すでに組み立てられているとのこと。AC到着まではそれのテストをするらしい。ACは完成された兵器であり、テストするのはほぼ武器だけだ。俺がアラスカに来たのはACよりもむしろこの逆関節の不知火のテストがメインなんじゃなかろうか……?

 どこかで帝国に貸しが1つ出来て、そしてなにより面白そうじゃない。と笑う香月博士の姿を頭に浮かべながら資料とにらめっこすることになった。

 

 

 

――2001年5月3日

 昨日は資料とにらめっこしていたせいで寝不足だ。それが原因で昨日何か起きたらしいがそれを知る気力はなかった。大きなあくびをしながら作戦司令室に入る。本日はXFJ計画のテストパイロットがアメリカから着任し、XFJ計画を担当するアルゴス試験小隊と合流した。それに伴い、歓迎と称してケース47という演習をすることになった。戦域想定は光線級が存在するBETA支配地域から170km離れた市街地で、エレメント対エレメントの対人演習だ。

 光線級の単純射程距離は200~300km。重光線級に至っては単純射程距離1000km以上にも及ぶ。従ってこの演習では高度の制限がされている。要するにレーザーが当たる高度にはあがんなよってことだ。機体はアメリカが開発した第二世代の傑作機のF-15Eが3機、アルゴス試験小隊が以前テストしていてそのまま続投となった改修機のF-15ACTVが1機。

 すでに状況は開始していて、アクティヴが執拗に1機のイーグルを追い回す。背部担架を犠牲にして、そのスペースに追加ブースターを取り付けただけあってその機動力は流石だ。それを扱う衛士の技量も流石とほめるべきか。だが、煙幕で見えなくなったからと突撃して運よくイーグルとぶつかってマウントを取ることができたのだが、そこを狙撃されてしまい敗北してしまったようだ。2対2の模擬戦なので仕方ないことだ。この一連の出来事にアクティヴの衛士は納得できずご立腹のようだ。通信越しに喚く声がこちらにまで聞こえてくる。

 状況終了後、俺は逆関節不知火の様子を見るため作戦司令部にいるXFJ計画メンバーと別れて専用格納庫へと向かった。俺は補佐で、しかも本命の計画がある為誰に何を言われるまでもなく抜け出せた。まぁ、本日のXFJ計画側のスケジュールはこのあと特にないらしいからかもしれない。俺の顔合わせは明日やることになったので、今日は気兼ねなく逆関節不知火に専念できる。

 

 しばらく歩いて逆関節不知火が格納されている格納庫へと到着した。そこにはこの格納庫の主たる堂々とした姿で、およそ戦術機とは思えない形をした脚でしかと立つ不知火がいた。ベースが不知火と分かっているから不知火と言っているだけで、その姿はもはや全くの別物だ。面影はもはや残っていない。見てくれはサイズが大きくなったACという感想が多分一番しっくりくる。

 

≪いかがですか? カタログスペックだけならば不知火を凌駕していると自負しています≫

「こいつはもはや不知火じゃないだろう。となると、新しい名前が必要かな。……カグツチなんてのはどうだ?」

≪なるほど、不知火と同じく火に関する名前ですか。改修機として上位の名前になることはいいと思います。火の神様まで昇華するとは思いませんでしたが≫

 

 頭部はACパーツのHE-119に酷似した形状をしており、腕は武器腕のヴェンデッタをTE装甲に変えたような丸みを帯びた形をしている。もはや不知火を改修するという名目で疑似ACを作ったと思われるほどに不知火の原型がない。むしろこれをちゃんと不知火をベースにして作ったのか疑いたいほどだ。デモンストレーションからおよそ2ヶ月でこれだけ形にしたものを作ったことに驚きを禁じ得ない。

 

「もう動かせるのか?」

≪現在、最終チェック中です。明日には実機でテストがおこなえるかと≫

「そうか」

 

 こちらに専念できると思っていたが、肩透かしをくらった感じだ。

 

≪今後の改修予定案がこちらです。目を通していただけますか?≫

「ああ、わかった」

 

 アイリスのディスプレイに映し出された改修予定案に目を通す。ブースターの増設、背部担架の設置、小型V.O.B.の使用、脚部関節改良案などなど。……小型V.O.B.!?

 

「おい、この小型V.O.B.って」

≪はい、カグツチ用に設計しなおしたV.O.B.です。BETAの上でパージすればそれだけで質量による攻撃が出来ますし、推進剤の消費を抑えることも可能です≫

「光線級はどうするんだ?」

≪光線級の対策は目下検討中です。新型の対レーザーコーティングの成果によっても変わりますので≫

「とりあえず保留ということか」

 

 V.O.B.なんてものまで考えているとは思っていなかったが、そこまで問題がありそうなものは他にはなかった。とりあえずはこのままの計画で問題はないだろう。

 

≪シミュレーターにデータの入力は終わっておりますので、そちらで慣熟訓練を行いましょうか≫

「お、なんだ乗れるのか。ならやるかな」

≪強化装備を忘れずにお願いします≫

「……わかった」

 

 あまり着たくない強化装備のことを頭の隅に浮かべながらシミュレータールームへと向かう。

 




デモンストレーションは3月ということが今勝手に決まった←
その間烏丸が何をしていたかというと、霞の相手と香月博士のむちゃぶりの対処、姿を隠してのヴァルキリーズとの演習などをしていたということで←


カグツチですが、腕は本文にある通りです。しかし、頭部も腕も全て完全にACパーツというわけではありませんということを明記しておきます。あくまでも近い形をしたパーツ程度に思っていて下さるといいかと。

なおカグツチは正式に漢字にすると迦具土になります。
神様の名前なら火之迦具土神という名になります。


更新遅いですが見捨てず読んでくださっている皆様、ありがとうございます。
どうかこれからも見捨てず読んでくださると幸いです。


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第10話 経験という力

大変お待たせして申し訳ありません。
待っていてくださる方がいるというのはホントにうれしいものです。今後とも拙作をよろしくお願い致します。

前回、書いていたときは気付かなかったのですがカグツチという名前はすでに無限力機関を積んだイケメン合体機体としてあったのですが、FDですし戦略合神機であり戦術機でないので問題ないということで改名はやめておくことにしました。



嬉しいことにUAがもうすぐ25000、お気に入りは200突破となりました。
こんなにも皆さんに読まれていることを嬉しく思います。皆さんありがとうございます!


 今まで使ってきていた機体と違う挙動に苦戦しながら相手の狙撃を避ける。過去にも逆関節は使ったことがあるはずだが、いかんせんこのカグツチとは感覚が違う。ステラの的確でエグイ狙撃を避けた先にはVGの弾幕が待っており、それを持ち前の脚力でなんとか避ける。しかし、今相手にしているのはその2人だけではなく、もう1人いるのだ。

待ってましたと言わんばかりにタリサのアクティブがナイフを片手に突っ込んでくる。手に持つ突撃砲で迎撃したいが流石に距離が近すぎて間に合わない。咄嗟に突撃砲でナイフを受け止め使えなくなった突撃砲を破棄しながらアクティブに蹴りを入れて離れる。そこを狙撃されたが、来るだろうとは思っていたのでブースターで避けて建物の陰に隠れる。

 

「流石にやっかいだな」

≪遠距離、中距離、近距離とバランスが良いですね≫

 

 なんで3対1という理不尽な戦闘をしているかというのは少しばかり前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

 本日は俺の顔合わせをするということで、ブリーフィングルームに集まったアルゴスメンバー。みんなの自己紹介を受けて、今度は自分の番としてとりあえず自己紹介するために皆の前に立つ。

 

「紹介された通り、今回このXFJ計画の補佐をすることとなった烏丸 恭史郎だ。階級は少佐と皆よりも高いが、同じ開発メンバーとしてよろしく頼む」

 

 ま、無難な挨拶だがこんなもんかと思っているとそばに控えていた褐色の男性、イブラヒム・ドーゥル中尉が頼んでもいない捕捉をしゃべりだした。

 

「少佐は我々XFJ計画とは別の計画も担当されている。その計画とは、新概念の機体の開発とその技術を使用した我々の計画とは異なるアプローチのTYPE-94改修計画だ」

 

 その発言に部屋の中はざわつきはじめる。そりゃそうだ。自分たちの計画の補佐が別の計画を担当している、しかも2つ。さらには自分達と同じ機体を改修しようというのだからあてつけと感じられてもおかしくなんかない。

 

「皆がざわつくのも理解している。まずはこの映像を見てほしい」

 

 そう言ったイブラヒムがスクリーンにある映像を映す。それはACが現存の戦術機を圧倒している映像だった。どうやらデモンストレーションでの映像が使われているようだ。それを見た皆は再び静まり返る。今まで見たことがない戦術機が現行の戦術機を1対多で圧倒しているのだから当たり前かもしれない。

 

「この機体はある程度完成に近づいており、その技術を使用した改修計画が立案されたそうだ。ではなぜここで行うのかというと一部技術の共有とお互いの切磋琢磨と聞き及んでいる。そうですね、少佐」

「……ああ。機体自体は組みあがっているから同時進行でも問題はないはずだ」

 

 あんなところでそんな風に言われたら同意しかできん。つかそんな話があったのか。とか考えていると、俺にしか聞こえない音量で「私が手配しました」とアイリスが呟いたのを聞いてまたお前かと思った。

 

「少佐と親交を深めることは可能ですか!」

 

 耳ざとく機体が組みあがっていることを聞いたのか褐色の少女タリサ・マナンダル少尉が挑戦的な目でこちらを見ていた。そんな目をされて挑まれたら断るはずがない。

 

「実機ではまだ無理だがシミュレーションならやってやるぞ」

 

 その言葉に笑みを浮かべたタリサはそばにいた長髪の伊達男、VGことヴァレリオ・ジアコーザとタリサとは比べられないほどの女性的なシルエットをした美しい女性ステラ・ブレーメルに声をかけた。メインテストパイロットのユウヤは何か思うところがあるのか、はたまた昨日配属されたばかりだからなのか今回は見学することとなった。

 正直ユウヤが見学は助かった。1対1だと思っていたからまさか仲間を呼ばれるとは思っていなかったんだ。ACならそれでも問題ないのだが、今回はACではなくカグツチだ。まだまだ開発段階であり不安要素があるのだからいきなり多数とはツライ。昨日の演習を見ていても皆腕のいいパイロットだったしな。

 

 

 

 

 

 そんなこんなでこんなシミュレーション演習が始まったのだが、背部担架がないこの機体はすでに両手に持つ突撃砲の片方を失っている。そして相手の絶妙なコンビネーションに舌を巻いている。

 

「ピンチなんだが、俄然燃えてくるな」

≪レイヴンはこういう状況が好きですね≫

「好きってわけじゃないが、この追い詰められている感じがあの頃思い出すんだ」

 

 そう、生と死を懸けた強敵との戦いをしていた頃を。そうだ1対多なんて今までだってあったじゃないか。格上の相手4人を相手にしたことだってあったはずだ。彼女には無理だ、逃げてと言われたがそれでも戦った相手が。NO.1を含む4人と戦ったことが!

 

「それに比べたら3人なんてやってやれない相手じゃない!」

 

 レーダーに映る2機のマーカーを確認しながらそちらに向かって突貫する。即座に弾幕を張るVGとナイフを片手に迫るタリサを確認してから側の建物を蹴って急な方向転換をする。タリサは急な方向転換にも対応してこちらに突っ込んでくる。それを確認したら今一度側の建物を蹴り、今度はVGから離れるように移動する。

 

≪そんなんであたしから逃げようだなんて甘いんだよ!≫

 

 こちらの意図など気づかずイノシシのように突っ込んでくるタリサ。アクティブはその背中のブースターによる加速で、カグツチは不知火をベースにしているだけあって機動力はアクティブに劣らない。しかしこの高速戦闘、VGやステラが乗っているイーグルでは追いつくことはできない。その証拠にどんどんVGと離れていることをタリサは分かっているのだろうか?

 

≪こんのぉ、建物蹴ってちょこまかと!≫

 

 業を煮やしたタリサは自身の得意な機動で急接近してきた。とどめを刺すつもりなのだろう。確かに速くて捉えにくいが、ネクスト戦はもっと速い戦闘ばかりだった為見えている。左脚部にある盾のような脚を覆うパーツでブーストチャージをアクティブにカウンターで食らわせる。まさか見切られているとは思っていなかったのか、はたまた反撃に蹴りだとは思っていなかったのか見事に決まったブーストチャージで近くの建物に吹き飛ばされたアクティブに突撃砲の弾丸を浴びせてやる。

 ちゃんと撃破したのを確認してから高速戦闘している間にだいぶ距離を離したVG機へと意識を向ける。ステラの狙撃のカバー内から出てこようとはしないのかこちらとの距離の詰め方が慎重だ。もはや右手に持つ突撃砲のみとなった手持ちの武器の残弾を確認する。

 

「向こうが慎重に来るなら荒らすしかないよな」

 

 連携されるのは1機減ったとして辛いものがある。

VG機に接近するとすぐさま弾幕が張られる。120mmをVG機の斜め後ろの建物の根元に向けて放ち、VG機の方に崩れるのと合わせてブースターを全開にして近づく。もちろん計算はアイリス様々だ。

 一瞬建物に注意を反らすことに成功した俺は最高速のままVG機にブーストチャージを食らわせる。咄嗟に回避挙動をしていたのは流石と言った所か。ただ完全に回避できなくて脚部と跳躍ユニットに相当のダメージを与えることには成功した。まともに動けないVG機に突撃砲を浴びせようとしたところを右手ごと撃ちぬかれた。

 

「ステラか!」

 

 すぐさま襲い掛かる次弾を回避する。そこにVG機から弾幕が張られ後退を余儀なくされる。一旦距離を開けて建物の陰に隠れると同時にあるシステムを起動する。

両腕部が180°回転し背中の方に回ると同時に、肩部から短くはあるが羽のように背中に伸びていた装甲が展開。サブアームが展開された肩部から大きな二振りの剣を保持し、前面に展開した。武器腕ヴェンデッタ。復讐の名を冠するのに相応しく、失った腕の代わりに剣を保持する。

 

「実機でこれ使えるのか?」

≪一応システム的には問題はないはずです。あとは実際に動かしてみないと分かりません≫

 

 それもそうかと納得したところでこの演習を終わらせるために行動を再開する。

 

 

 

 

 

 機体の損傷は下半身が真っ赤なところから察せる通り酷いものだ。吹き飛ばされてぶつかった建物にもたれかかる形から動くことができない。背部担架の武装も建物にぶつかった衝撃で使い物にはならない。かろうじて動かすことが出来るのは腕部と頭部のみか。ただ腕部も関節部の負荷が大きくいつ壊れてしまうか分からないくらいだろうというのが分かるくらいぎこちない動きだ。

 

「悪いステラ、しくじっちまった」

≪仕方ないわ。でもさっきので少佐の武器はなくなったわ。警戒するのはあの蹴り……≫

 

 そう蹴りなのだ。蹴りでここまで威力が出せるというのは驚きだ。対BETAではまず使わないであろう手段であり、対人戦が想定されているのが伺える。

 そして第3世代機の改修機だけあって速い。2.5世代とはいえストライクイーグルで追える速度ではない。そのせいで先行したタリサの援護が出来ずやられてしまった。まぁ、あれはタリサも悪いんだが。

 

≪来たわ!≫

 

 ステラの声と同時に少佐の機体が姿を現す。しかし腕を失った先ほどの姿とは違い、先ほどの腕より少しばかり細い腕にはしかと2本の剣が保持されている。

 ステラの狙撃は予測されていたのか軽々と避けながらその速さを持って接近してくる。

 

「おいおい、その機体は一体どうなってんだ!」

 

 ぎこちない動きで突撃砲をばら撒き、できるだけステラの狙撃が当たりやすいように誘導しようとする。が、俺を一瞥するとすぐにステラの方に向き直り俺の死角となるような位置へと移動してしまった。こうなると俺にはもうどうしようもない。

 

「ステラ! そっちに行ったぞ!」

 

 できることと言えばそうやってステラに注意を促すことしかできない。

 

 

 

 

 

 VGの機体が動かないのならばこちらに来るだろうというのは予想出来ていた。その為に少佐が隠れた位置をギリギリ狙撃できる位置まで距離をあけたのだから。こちらに向かってくるならもう移動はできない。移動している間にさらに距離を詰められてしまうからだ。故に勝負はここにたどり着くまでに狙撃できるかどうかだ。

 先ほどから狙撃してはいるが当たらない。だんだんと距離が詰まるほど心臓はその鼓動を刻むスピードが増し、気持ちは焦り始める。だが距離が近づく分、的は大きくなり命中する確率は大きくなる。そして狙撃ポイントの最寄りの建物から少佐の機体が飛び出した時を狙って放った弾丸は今までとは異なり当たる確信があった。避けきれるタイミングではないと思っていた。

 

「そんな!?」

 

 結果として避けはしなかった。でもそんなことできるっていうの!? 保持する剣で弾丸を切断するなんて芸当が!

 とても信じられないものを見た私はその後の行動が遅れてしまった。気づいた時にはもう目の前で剣を振りかぶっていた。

 




前回、完全にACパーツというわけではありませんと言ったなあれは嘘だ。


すみません、ホントはそのつもりだったんですけど私が個人的に好きなのもあってヴェンデッタの機能をそのまま使用しました。一応武器腕という設定は流用しましたが他は似ているパーツという方向でお願いします。ご迷惑をかけます。



  
最後に
VDの武器腕が好きです。ホントに。お前らのその可変っぷり大好き。


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第11話 合流

随分と遅くなってしまって申し訳ない。
……毎回言っているね、ホントに申し訳ない。

エタるつもりは毛頭ないからホントにゆっくり更新かもしれないけど、見捨てずに読んでくれると嬉しいです。
感想とかも返信遅くてごめんね。でもちゃんと読んでるからね。すごく元気もらってます。

【追記】
猿島さん、誤字報告ありがとうございます!
修正しました。 2016/11/30 12:44


 

 くそっくそっくそっ―――

 心を蝕むこのイラつきはどうにも止まりそうにはない。上官は忌々しい日本人。さらには途中から現れてはいきなり補佐になるというまたしても忌々しい日本人。そいつはさらにほかの計画も掛け持ちしていて、しかもこちらと同じくタイプ94の改修計画の別案を担当しているとか。年齢は俺と大差なさそうに見えるが佐官というだけあり、悔しいがその実力はすさまじいの一言に尽きる。日本人でなければ俺も素直に尊敬しているレベルだ。

 俺が苦戦していたチョビをいなし、ステラの狙撃を掻い潜り、挙句の果てには近距離からの狙撃の弾丸を手に持つ剣で切断するという人間離れした業までしてのけた。最後に剣を収納し片腕だけになった機体でステラの銃を拾い、いくら動けないとはいえ遠く離れたVG機を片腕で狙撃して見せた。この光景には俺だけでなく観戦していた全員が言葉を失っていた。

 それだけでここまで心をイラつかせているほど俺は子供ではない。一番の原因は先程のXFJ計画のブリーフィングのことだ。大雑把な開発スケジュールや開発ベースとなるタイプ94のスペック、帝国側の要求仕様を口頭で説明され、他も配布資料にあるようなことの確認のみで終わった。質疑応答の時間もなく一方的にだ。

――俺はここに『お客様』として呼ばれたってわけか?

 

「不服そうだな、ブリッジス少尉」

 

 

 

 

 

 今目の前で行われている行為を見つめながら、この後のスケジュールを頭に思い浮かべる。このあと本日到着予定のおやっさんとACを迎えに行って、小隊ブリーフィングに顔出して、そのまま合同訓練にカグツチで参加。掛け持ちしてるとはいえ随分と過密なスケジュールだこと……。ソ連ご所望のアルゴスに引っ付く形で俺たちも参加させることを向こうに納得させるとはつくづく優秀な相棒を持って俺は嬉しいよ。身体は悲鳴をあげるかもしれないがね……。

 目の前ではつまらない意地の張り合いしてるし……あ、殴られた。しかし、ユウヤは何か彼女に因縁でもあるのかね? いや、昨日の歓迎会でも俺にきつい視線を向けていたっけ。他の奴らとはぶつかり合ったからかすんなりと仲良くなれたんだがな。

嫌われている俺と彼女の共通点っていうと上司ってことと日本人ってことくらいか? んー、わからんな。

 なんてことを考えていると目の前に篁中尉が来ていた。

 

「お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありませんでした」

「いや、気にしなくていい。俺はちょっとここから別行動になるが小隊ブリーフィングまでには戻るから」

 

 なんて律儀な娘なんだろうな。と思いながら篁中尉と別れてブリーフィングルームから退出する。そのままAC用に用意された格納庫へと向かうとすでにACは搬入されていた。

 

「おお、烏丸! 久しぶりだなぁ!」

 

 格納庫へ入るなり目敏く俺を見つけたおやっさんが片手に資料を持って近づいてきた。その後ろを見たことない女の子がついてくる。おやっさんが大きいのか、その子が小さいのかわからないが随分と身長差があって親子のように見える。……たぶん女の子が小さいんだろうな。きっと気にしていそうだから言わないけど。

 

「ああ、久しぶり。おやっさん、その子は?」

「ん? ああ、こいつは富嶽重工から出向してきたんだ」

「久野文香です。 今回のテスト武装のチェックの為、富嶽重工より出向致しました。……というのは建前で、我々はあのデモンストレーションで圧倒的な戦果を挙げて見せたこの兵器を開発したあなたから少しでも吸収し、日本の為に次世代機の開発に力を入れたいのです。我々の最高傑作を上回る機体を開発されたあなたから我々はどんなことをしても学びたい。このことをあなたにお伝えするのは私なりのあなたへの尊敬です。上司に言われて見学させてもらったデモンストレーションで私は大きな衝撃とともに新しい可能性を見させてもらいました」

 

 綺麗な敬礼を決めながら真面目な顔でこちらを見つめる久野さん。随分と大層な任務を背負っているようだが、俺はたぶん力になれないと思う。というのも、武装の設計図などもろもろはアイリスがやってくれているからだ。ホントに優秀すぎる相棒だ。

 

「なるほど、よろしくな久野さん。おやっさんか俺がいる時ならACに触ってもらって構わないからメンテ手伝ってくれると嬉しいかな。悲しいかな、ACチームは俺とおやっさんの二人しかいなくてね。富嶽重工からの出向ならある程度機械はいじれるだろう?」

「……私は構いませんが、会って間もない部外者に触らせていいのですか?」

「いいよ。別にデータを取られても困らないし、こちらから吸収しようとしている君はACを壊そうなんて考えないだろう? まぁ、壊されてしまった場合は君の感じた新しい可能性とやらがその程度だったということで、俺の人を見る目が悪かったってことだな」

 

 そういいながらおやっさんから資料を受け取る。今回は武装すべてが発注したテスト武器のようだ。背中のグラインドブレードも外してある。

 両手にオートキャノン「PASTEQUE AC106」、左ハンガーにライフル「AU11 Kinfolk」、右ハンガーにはある武器のテストとして発注したプラズマガン「UPG-16 GARDENA」。アイリス曰く、プラズマガンが出来ればレーザーライフルは簡単ですとのこと。

 資料を見ながらチラッと久野さんを見ると、先ほどの問答で壊す云々を俺が言ったことについて私は壊すつもりはないと反論したげにしているが、資料を読んでいる邪魔もしたくないようで面白いくらい右往左往している。しっかりしているようでどこか可愛らしい久野さんが小ささも相まって誰かに似ていると感じて、不意に胸が締め付けられるように感じた。多くの記憶を取り戻したにも関わらず、それが誰に似ているのか分からない。とても大事だと感じてはいるのだ。

 

「おい烏丸、どうした?」

「え? いや、なんでもない。おやっさん、今日はACチームの活動はないから久野さんにいろいろ説明とかしてあげて。俺は別件でやらなきゃならないことがあるから」

 

 どうやらボーっとしていたようだ。怪訝な顔のおやっさんに早口に指示を出し、格納庫を後にする。久野さんが何か話したそうだったが、別件があるとおやっさんに言ったのを聞いてか声には出さずに見送ってくれた。その心遣いに感謝しつつ、このもやもやした気持ちを切り替えてカグツチの格納庫へと向かう。

 




 もうちょっと書くつもりだったけど次の話に持ち越し←
 次もなるべく早く仕上げたいね……

 というかなんと投稿から1年経ちました。相変わらず文章力は上達せず、更新は遅いけども皆さんのおかげで1年も続けられています。ホント、読んでくれる方がいるのは嬉しい限りです。
 1年経ったの作者本人が気づいていなかったけども。今年の投稿少ないから今年中に最低でもあと1話は投稿したいと思います。

 


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第12話 合同演習

投稿始めたばかりのころの投稿ペースってすごいね。
仕事の休みを使って同じくらいのペースで投稿できたけど、あの頃はすごかったんだな……(遠い目)

まぁ、TEぶっこんで大幅にプロットが変わったのもありそうだけどそれは作者の都合。読者の方には関係ないからね。頑張って今後もなるべく早めに仕上げるよう努力するから!



とりあえず、前回の公約が守れてほっとしてます←


 

 

――あいつがいない?

 所定のポイントで待機しているとブリーフィングでは参加するとのことだった()()()がいないことに気が付いた。他のメンバーは未だ『紅の姉妹(スカーレットツイン)』の話をしている。

 

「あの少佐殿はどこだ?」

 

 複合センサーが捉えるレーダー範囲にはあいつらしき友軍の光点はない。それはこの演習に参加していないということに他ならない。ただでさえ練習機に乗せられて酷く下がっているテンションを切り替えていたというのに忌々しい日本人のせいでさらに下がることになった。

 

≪あー、確かに少佐の機体ねぇな≫

≪少佐は長距離移動用の兵器のテストも兼ねるので作戦区域外から参加されます。ですので当演習場には遅れて到着されます≫

≪少佐も大変ね≫

 

 俺の零した言葉に反応したVGにオペレーターが回答すると、会話は『紅の姉妹(スカーレットツイン)』から少佐のことへと変わっていった。その会話に参加せず今度こそ気分を切り替えるために計器のチェックを再開する。

 

 

 

 

 

 クレーンでゆっくりと持ち上げられていくV.O.B.を眺めていると隣から興奮した様子で話しかけてきた優秀なメカニック。その名をヴィンセントという。彼にはV.O.B.の接続の手伝いをしてもらっている。どうやらAC技術に相当感動しているようで目をキラキラさせてまるで少年のようだ。ユウヤと一緒にアメリカから来たメカニックで、腕前は会って間もないアルゴスメンバーからもお墨付きをもらえるほど。

 

「話の途中ですまないが、少し聞かせてほしい」

「少佐ほどの方から俺にとはなんでしょう?」

「ブリッジス少尉は俺と篁中尉を嫌っているようなんだが……」

「あー、それはあいつ日本が嫌いなんです」

「日本が?」

 

 詳しい理由はわからないが、ユウヤは日本を毛嫌いしている。日系人というだけでいろいろあったのかもしれない。ヴィンセントはこのことについて多くは語らなかった。最後に『あいつは悪い奴じゃないんで、根気よく付き合ってやってほしい』とお願いされた。

 ヴィンセントが話を区切ったタイミングで、V.O.B.の接続へと作業が移ったので別れを告げてコックピットへと潜り込む。

 

 新たに追加された背部担架を肩程まで上げ、機体背面にある接続専用のハッチを開放する。既にジャンプユニットはV.O.B.用装備が施されており、ゆっくりと背面ハッチとジャンプユニットにV.O.B.が接続された。固定用のアームが肩部と腰部に引っかかるようにかけられ、ロックされるのを確認しシステムをチェックする。

 V.O.B.のコントロール、増加分の推進剤の確認、接続による機体側のエラー、その他各部の異常などすべてに問題がないことを確認してCP(コマンドポスト)に報告をする。作業員が機体から離れ、いつでも機体を動かせるようにしたところでCPより通信が入る。

 

≪CPより小隊各機、統合仮想情報演習システム(JIVES)、起動。全機即応体勢(コンディション・レッド)

「クロウ1、了解」

 

 接続されたV.O.B.が火を噴き、機体が加速していく。直線距離で演習場まで行くわけではないので、申請して許可されたコースに沿って演習場を目指す。一応光線級を想定してなるべく低空飛行で進む。

 

≪CPよりクロウ1、ポイントA2通過。タイムはマイナス0.3≫

 

 ネクストの時より速度が落ちた分、小回りが利くようになった小型V.O.B.のデータはアルゴスメンバーのオペレーターにお願いしている。というのも、ほぼ俺しかいないのにデータを取るのはあまりにも不自然だ。アイリスがいれば俺は問題ないが、アイリスの存在を公表するのは避けたい。というのもアイリス本人の要望でもある。なんでも、自分はサポート用ですのでとのこと。なのでオペレーターをアルゴスメンバーにお願いしている。なぜちゃんとした目的でアラスカに来たのにオペレーターがいないのかは全てアイリスにお願いしていて忘れていたのだ。一緒に来たメカニックはカグツチに回しているのでACチームは人員不足だ。

 

「テオドラキス伍長、オペレーターを頼んでしまって申し訳ないな」

≪い、いえ! 私は少佐のオペレーターをさせて頂いて光栄です! しかし、今は操縦に集中なさってください。ふとした油断が大きな事故に繋がってしまいます≫

「了解」

 

 通常の戦術機の巡航速度を大きく上回る速度でコースを進んでいるのだからオペレーターである彼女の言うことは至極真っ当なことである。パイロットが本物のV.O.B.体験者でなければではあるが。

 アイリスはオペレーターにテオドラキス伍長がいるため黙ってサポートしてくれている。ただ、ウィンドウの端に文字を表示させて、言いたい放題なのは何とかならないのか。自身が裏方発言をしたのに出番をよこせと言っているようだ。

 

 アイリスの文字攻撃を受けながら当該演習区域へと到着する。すると、端でうるさかった文字攻撃は一切なくなった。もしかしたらアイリスは道中の俺が暇なのを見越していたのかもしれない。俺をしっかりとサポートしてくれるこの相棒に心の中でありったけの感謝をしつつ、頭では頭が上がらないなと考えていた。

 レーダーに映るアルゴスメンバーやソ連のメンバーを通過し、BETAの大群の上でV.O.B.をパージする。固定アームのロックボルトが破裂しパージされたV.O.B.はバラバラと分解され、下にいるBETAへと降り注ぎ小型種を潰していく。パージしてすぐさまジャンプユニットを起動して少しの間滞空する。その間に両手と背部担架を合わせて4門の突撃砲で足場の確保をする。

 確保して着地。暫し周囲の敵を掃討しながらアルゴスメンバーの様子を確認する。タリサのアクティヴは小破健在。VGとステラのイーグルも小破健在。ユウヤの吹雪は……一応小破健在。ただ、危なっかしい挙動をしている。嫌われている俺が助けると余計に反発というか恨みを買いそうな気がしたので、遠目に観察しつつ流れ弾という体でユウヤ付近のBETAの数を少し減らすことにした。それが今の俺にできる限界だろう。

 

 

 

 

 

「本日の結果……少しは恥じているのか、少尉」

「は。最悪ですよ、中尉」

 

 合同訓練は無事終了した。しかし、アルゴス試験小隊は恥を晒した結果となってしまった。東側の戦果は上々で、特にソ連部隊は担当区域のBETAの一掃という大戦果だ。対して西側は若干の恥を晒してしまった。それはアルゴス試験小隊である。最後まで担当区域の防衛ラインを押し上げることができなかったのだ。被撃墜機は出なかったが、それは各々の技量と()()()による支援の結果だ。ブリッジス少尉が撃墜されなかったのも個人の技量があるのは認めるが、小隊みんなのフォローがあったからだ。それとあの人のさりげない援護のおかげであることを少尉は理解しているのだろうか。

あの人単体の戦果は今回の演習で個人戦果ならば間違いなく最上のものだ。我々が潰しかけた西側の面子はあの人が保ったのだ。遅れて演習区域に来て敵集団に1機で突撃し、掃討したその実力は東側も認めたことだろう。

 

「貴様は当初、吹雪の挙動に戸惑っていた。乗り慣れない機体である以上、それはやむを得ない」

 

 いろいろ思うところはあるが、言葉は慎重に選ばなければならない。相手は主席開発衛士だ。これからもXFJ計画を担ってもらわねばならないのだから。

 




もしかしたら後から文章追加するかもしれない。
この先を書いてみたくもあるが、この先を書いてしまうと原作のコピーになりそうで怖くてここで切った。


今更ではあるのだが、原作知らないとわからないところが多々あるな。
わからないことありましたら言ってくれれば修正を考え、投稿しますので言ってください。

アドバイスや感想もなんでもいいので気軽にどぞ。
みんなと交流できるのも楽しいのです。返信遅くて申し訳ないけど。


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【特別番外編】 記念日

皆さまメリークリスマス! 

クリスマスって……と思って急遽書き上げた話になります。
かなり突貫作業で仕上げたので短めですし誤字脱字が怖いですけど、クリスマスにどうしてもあげたかったので。

慣れないことにいろいろ挑戦もした文章になってますが、楽しんでいただければ幸いです。



【追記】2016.12.25.2:23
不適切なコメントを削除しました。後書きにて謝罪をさせて頂いております。
申し訳ありませんでした。


そして冷静になって読み返すと文章力のなさをひしひしと実感してる。
こういう文章は向いてないな私。
いや、いつもの書き方が向いてるとか言われるとそうでもないんだけど……

【追記】2017.1.11.20:48
活動報告にも記載しましたが今月いっぱいまで活動を自粛し、来月である2月より活動を再開したいと思います。
再三になりますが、今一度謝罪したいと思います。
申し訳ありませんでした。


 日が落ち辺りが暗闇に満ちるころ、街は人の手によって作られた光によって華やかに彩られた。空を舞う冬の妖精は光に照らされ、どこか神聖さを感じさせるように淡く輝きながら地面へと降り積もる。音を吸収するせいか行き交う人々はいるのにどこか静寂を感じさせ、それがより一層神聖なように感じられた。そして、それと同時に孤独を感じた。

 吐く息は白く、手袋をしていてもかじかむ手をコートのポケットに押しやり自分以外座っていないベンチの背もたれに身体を預ける。触れた部分から奪われる体温が今の自分にはとてもよく似合っているようで乾いた笑いがこぼれた。

 

 冬休みに入る前、クリスマス直前の最後の授業が終わって彼女を呼び出した。素直に呼び出しに応えてくれた彼女に感動しながら思いのたけをぶつけた。告白をしたのだ。ここまではよかったのだが、急に怖くなった。こんな俺にも優しくしてくれた彼女との関係が壊れてしまうことが恐ろしくなった。そして俺はクリスマスの午後6時、駅前にある時計台前のベンチで待つと言ってあろうことか逃げ出してしまった。

 現在の時刻は午後6時31分。約束の時間を30分以上経っているが一向に現れない。それも仕方ない。告白して逃げ出すようなこんなヘタレのところに来るはずがない。今日はクリスマスだ。彼女のような人気者は元から予定がある可能性の方が高いのだ。それはわかっているわかってはいるんだ。でももしかしたらなんて淡い希望を抱いてずっとベンチにいる。

 だがそれもこの寒空の下では限界がくる。いい加減に踏ん切りをつけて立ち上がろう。そう心に決めたとき、頬に突然熱いモノが触れた。

 

「遅くなってごめんね」

 

 若干息を切らせて両手に缶コーヒーを持った彼女がそこにいた。

 彼女は手に持った缶コーヒーをこちらに手渡し、肩が触れるほどの近さで隣に座った。

 

「謝って済む問題じゃないよね……。でも、まだいてくれてよかった。今日は友達とクリスマスパーティーをやる予定で、お昼から集まっていたんだ。急用ができたから途中で抜けるって伝えてはあったんだけど、なかなか帰らせてくれなくて遅れちゃった」

 

 そういって彼女はこちらの肩に頭を乗せ、缶コーヒーを受け取ったまま固まっている俺の手に自身の手を重ねてきた。缶コーヒーの熱さよりも彼女の手から伝わるぬくもりの方が熱く感じられ、この冷え切った体の芯まで温めてくれるようなやさしさを感じた。

 

「ごめんね、寒かったよね……。でも返事を待たずに言い逃げする君も悪いんだよ。僕がどんな気持ちで君を見送ったと思っているんだい?」

 

 正直、彼女がいることに驚きすぎてパニックになっている。頭は真っ白で、すぐ近くに彼女のぬくもりが感じられて、これが夢のようで……。「ちゃんと聞いてるのかい?」と問われているのに返事ができないでいる。言葉がうまく口から出ない。まるでまだ言葉を知らないかのようになんて言えばいいのかわかっていないのだ。

 

「今日は記念日なんだよ!」

「記念日……?」

 

 バッとベンチから立ち上がり、こちらに振り向いて両手を広げて笑いながら言う彼女にやっと言葉がこぼれた。

 

「そう! 僕たちが交際を正式に始めた記念日だ。それがクリスマスだなんて、とてもロマンチックじゃないか!」

「……ボーイッシュなお前から似合わない言葉が聞こえたな」

「ちょっ、僕はどこからどう見ても恋する乙女ですー! というか、やっとまともにしゃべったと思ったら、いきなりそれとは酷すぎるんじゃないの?」

 

 今までと変わらないやり取りで、彼女との距離が近くなっている変化に彼女と交際できるという実感がゆっくりとやってきた。幸せすぎてどうにかなってしまいそうだ。

 

「こんなに幸せすぎていいのかな、俺……」

「いいんだよ。だって今日はクリスマスなんだから……」

 

 思わずこぼれた呟きはいつもの距離なら聞こえないほどのもの。でも今、彼女との距離はいつもよりも近くなっていて、その呟きに優しく返した彼女の唇はその距離を零にした。

 

 

 

 

 

 そうだよな。クリスマスなんだから幸せにならないとな。

 サブ電源のみしかついていない暗いコックピットの中で見た久々の懐かしい夢に勇気付けられた気がした。本日は12月25日クリスマスだ。我々人類はBETAに対して大規模な反攻作戦へと踏み切った。もちろん俺達も参加する。

 

≪HQよりエコー揚陸艦隊。全艦艦載機発進準備! 繰り返す全艦艦載機発進準備!≫

「聞こえたなカラス共。仕事の時間だ」

 

 隊員の頼もしい声が返ってくる。いつの間にか俺用の部隊ができたときは驚いたものだが、今では割と気に入っている。コールサインがクロウで統一される部隊の隊長となって真っ先に浮かんだものは部隊名だった。カラスが集まる組織なんて浮かぶものは1つしかない。

 

「……優姫(ゆうき)、俺たちの記念日が人類全ての記念日になるだなんてそれこそロマンチックだよな」

 

 揚陸艦の甲板には真っ赤なカラスが翼を広げるエンブレムを付けた機体が並んだ。その部隊の名は――

 




ちょっと先の話もおまけで付けた番外編いかがでした?
このころには烏丸はいろいろわかったことがある予定ですので、一部だけですが情報解禁してます。

この作品見てる人はマブラヴかAC好きのハズ。マブラヴ好きの方にはわからないかもしれないが、AC好きの方なら部隊名はわかるはず。……よね?(不安)



まだ先の本編の話が出ているので、今後の流れ等で変わる場合は逐一更新していきます。




【謝罪とお詫び】
ここのコメントが不適切であると指摘いただき削除いたしました。
本人は正直ネタのつもりでしたが、ここに載せるのは不適切であると認識を改め、不快に感じられた全ての方にお詫びを申し上げます。
今回のことを深く反省し、以後、このようなことがないよう執筆活動をしていきたいと思います。


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第13話 軋轢

遅くなって申し訳ありません。
いろいろ書き直しては推敲して書き直しては推敲してを繰り返していたらこんなにかかって今いました。

細かいことは後書きで書きますが、必要に駆られて書いた。不安はあれど仕方なかったんです!





新アンケートが活動報告にありますのでご協力お願いします。

【追記】2017/3/10
活動報告にも記載しましたが、私の唯一無二の相棒であるPCが全てのデータを抱えたままお亡くなりになりました。
今後しばらくはスマホからの投稿となります。また、プロットや作成中文章なども一緒に消えた為、作業ペースに遅れが生じています。申し訳ありませんが、ご理解頂きますようお願い致します。
なるべく早く投稿出来るように最善を尽くします。


――2001年6月7日

 モニターにはユウヤが操る不知火が行っている訓練が映し出されている。統合仮想情報演習システムにて行われている訓練はハイヴ内の高速侵攻を想定したもの。先日練習機である吹雪から不知火へと乗り換えたユウヤは機体に振り回されていた。主機の出力の違いや未だに掴めていない機体特性が原因で、それが解決すればすぐに手足のように操ることができるだろうと思っている。実際操縦スキルは高い。今もハイヴの内壁に接触して崩したバランスを瞬時に立て直すというリカバリー能力を見せている。しかし機体に振り回されているためにタイムは思うように伸びない。アメリカから来たテストパイロットとしての意地か必死に理想値に近づこうと、遅れを取り戻そうとしているようだ。

 俺はそんなユウヤを見ながら、約1ヶ月前に出会って以来会っていない不思議な少女のことを思い出していた。

 

 

 

 合同演習が終了し、データを受け取るためにテオドラキス伍長の元へと向かう。すると伍長やその他のスタッフからも盛大に歓迎されて戸惑った。興奮さめやらぬ皆と別れてデータを片手に基地の外を歩き夜風にあたりながら自室へと向かっていた。

 

「さすがにパージはやりすぎだったか?」

≪いえ、ちゃんとパージできるかは確認しなければならない項目ですので問題はありません。実戦でパージできなければデッドウェイト以外の何物でもありませんから≫

「まぁ、それもそうか」

 

 アイリスと会話しながら歩いていると、髪の長い少女を見かけた。月明かりに照らされて輝く綺麗な銀髪が特徴的で、タリサよりも小さい背の少女はこちらに気づいてこちらへと顔を向ける。

 

「こんなところでどうした?」

 

 優しく語りかけながら近づくと、彼女の服装が国連軍衛士のような格好だと気付いた。幼さが感じられる顔をじっとこちらに向けて一言も発しない少女の前まで来て目線を合わせるようにしゃがむ。背の高い男が見下ろすだなんて子供には恐怖にしかならないだろうという配慮だった。

 

「大丈夫か? もしかして寒いか?」

「……あなたはへいき?」

「俺か? 俺は平気だ、ありがとうな」

 

 夜風は何かと冷える。そのことを心配して声をかけると逆に聞かれたので笑顔で答えてやる。

 

「夜は冷えるから、これ以上遅くなる前に帰りな」

「……うん。またね、きょうしろう」

 

 そう言って小走りで去っていく少女を見送りながら立ち上がる。

 

≪……レイヴン、名乗っていませんでしたよね?≫

「ああ。それになんだか社に似ているような気がするんだ。……不思議な子だな」

 

 もう姿が見えなくなっているが、彼女が去った方角をしばらく見ていた。

 

 

 

「チェックポイント3――プラス4.52」

≪――ふざけるなっ!!≫

 

 事実としてタイムの遅れを告げるステラの声と悪態をつくユウヤの声に思考の海から現実に帰還する。

 ユウヤはままならいことにイラついて悪態をつき、そして搭乗員保護設定を最低レベルに下げた。そこまでして理想値にこだわるのかとも思うが、それが彼のプライドなのだろう。だが搭乗員保護設定とはその名の通り、搭乗員を保護するための設定だ。それが最低レベルということは、十分な保護を受けることができなくなり危険だ。まあ、それ以前にユウヤの乗り方は日本に合っていない。俺も当初は似たような乗り方をしていて、アイリスに初めて教えてもらった時は驚いたものだ。ユウヤがそこを理解できるようにならない限りは進展しないだろうなと思っている。

 この1ヶ月間によくユウヤと衝突していた篁中尉の方をちらっと見ると難しい顔をしていた。やはり思うところは同じだということだろう。

テストが終わると無言のまま出ていく篁中尉の後を追う。なんとなく嫌な気がしたのと、無理をしたユウヤが心配なのもある。

 

 

 

 整備パレットの落下防止用フェンスに力なくもたれて、ヴィンセントから貰ったミネラルウォーターを呷ってむせた。負荷をかけ過ぎた内臓が起こした拒否反応だ。口内へと戻ってきた水をなんとか飲み下すと、鳩尾を掴みあげられたかのような痛みを感じて顔をしかめる。

 

「ブリッジス少尉」

 

 忌々しい声を聞いて反射的に舌打ちをする。視線を向けるといつものごとく篁中尉が来ていた。今日は珍しく烏丸少佐も一緒だ。デブリーフィングまで待てないのかという思いを胸に抱きつつ、億劫そうに立ち上がって日本人共にラフな敬礼をした。

 

「何か言いたいことはあるか?」

「……ありませんよ、中尉」

「わかっていると思うが、少尉――」

「重々わかってますって」

 

 こちらの冷たい態度などどこ吹く風と言葉を紡ぐ中尉にイラつく気持ちを抑え、あんたにだけは言われたくないと言葉をかぶせる。そしてテストパイロットとして、任務に誠実であろうと事実を報告する。

 

「オレはまだこの機体を完全には制御できていない。タイプ97(吹雪)で基本特性は摑んだつもりだったが、やはり実戦機動になると一筋縄にはいかない。主機出力増加分の見積もりが甘かった」

「……そのようだな」

 

 中尉はそう軽く答え、傍らに聳える機体を見上げる。それにつられてオレも見上げると頸筋がミシリと鳴った。

 不知火・弐型。それがこの機体の開発呼称だ。機体の各部に新設計の米国製パーツを組み込んだ『新造試作機』といっても過言ではない機体だ。日本の高性能でありながら、操縦制御に難があるという不知火・壱型丙をベースに米国が手を貸してやりいっぱしの機体に仕上げるというものだ。

 

「スケジュールを繰り上げての実戦機動試験……貴様の提案だったな。慣熟シーケンスに戻してもいいが?」

「まだ実乗18時間、シミュレータを入れても32時間だ。やって見せますよ。基本設計はタイプ97と同じ、所詮は直系機だ」

「…………」

 

 タイプ97の慣熟訓練は不知火・弐型への換装作業が完了するまでの間に行われたものだ。日本機の機動特性を我がものとするために必死に挑んだ甲斐もあり、実乗22時間超える辺りから他の機体と変わらないくらいに扱えるようになった。今回も同じく扱って見せてやる。そしてこの『サムライ』気取りの女に、現実ってやつを思い知らせるのだ。ただただ後ろに控える少佐にも認めてもらわなければならない。悔しいが少佐の腕は本物だ。忌々しい日本人ということに目をつむることさえできれば素直に尊敬できる。

 

「確かにその通りだが……。不知火とはいえ、弐型は……いや、そのベースとなった壱型丙は、かなり特殊な機体だ。その操縦には繊細さと大胆さの両方が要求される。それも高度なレベルでだ。だがそれ以上に重要なのは、機体を信頼することだ。人馬一体という言葉があるが、帝国軍の衛士は誰もが自然にそれを実践している。貴様もそうあって欲しいものだが……」

 

 機体を見上げる中尉の横顔にふと穏やかな色が灯る。その表情、そしてここにはいない別の誰かに語り掛けるような口調が父を語る母に重なった。それがオレを苛立たせた。

 

 礼節をわきまえ、思いやりの心を忘れない、謙虚で禁欲的な武人。それが子守歌代わりに母が語り聞かせてくれた父の姿だ。物心ついた時から父の姿はなく、母から聞くことが父のすべてだった。毎晩のように祖父が泣きながら母に怒鳴り、父を罵倒する。外ではいじめを受ける。なぜ自分だけがと思わずにはいられなかった。

そんな時、いつものように怒鳴る祖父の口から偶然父不在の真相を聞いた。それは母になにも告げずに、ある日突然日本に帰国してしまったというものだった。それまで信じていたものは、多くの人々を救うために遠い国へ働きに行っているという母から聞かされたもので、真相を問いただしても母は否定も肯定もしなかった。立派な人物のはずの父がなぜ自分たちを守ってくれないのか。長年鬱積した日々の不満から母の語る父の人物像に疑問を感じていたオレは理解した。祖父の言っていることは正しいのだと。

 そこからオレは父と自分に流れる日本人の血を憎んだ。オレに日本人の血さえ流れていなければ母もオレもこれほど苦しめられることなどなかったに違いない。

 祖父と祖母が亡くなってからはオレが母を守ると決意した。しかし、祖父のようになるまいとすればするほど母の頑なさに苛立ち、気が付くと父を、そして母の過去を罵っていた。口論極まって思わず流した涙に、泣きながら怒鳴る祖父の姿が我が身と重なり、この元凶である父をさらに激しく憎悪した。

やがて母が床に臥せるようになった。祖父祖母に資金的援助を求めづらく、女手一つでオレを育ててくれた弊害だった。このままでは母も自分も保たないと思い、軍へと志願した。自らが尊敬される米国国民になることで、母の誇りとなることで、父と日本人の血という呪縛から母と自分を解き放つつもりだった。母は反対せずに黙って見送ってくれた。それから死にもの狂いの努力の末、エリートの称号であるテストパイロットの座を勝ち取ったが、母は父への思いを抱いたままこの世を去った。

 結局、母を救うことはできなかった。その事実が重くのしかかり、その罪悪感から逃げるように戦術機操縦技能を執拗に磨き上げた。そしてそれは自らを支えるアイデンティティとなったのである。

 

 

「……で? なんだっていうんですか?」

「やはり貴様には荷が重いのではないか?」

 

 こちらに向き直った中尉の表情はいつものように日本人形のようだった。そして発せられた言葉に瞬間的に怒りがこみ上げる。しかしそれをなんとか抑え込む。

 

「数値的な結果が理想値を下回っていることは認める。だがそれは、さっきあんたが言ったように、このジャジャ馬の機体特性、特に未調整な部分が大きく影響している。その部分に関しちゃ、最初に不知火・弐型に乗った時から繰り返し改善を要求しているものがほとんどだが、未だにどこも直っちゃいない。それもひっくるめて、オレは帳尻を合わせているはずだ。戦術機開発という荷が重いのはそっちの方じゃないんですかね、中尉」

 

 直す気なんて全くないだろうというのはこれまででしっかりとわかったことだが言わずにはいられない。未だに中尉の後ろに控える少佐は無言のままだ。ことの成り行きを見守っているようようだ。補佐という立場から口は挟まないつもりなのかもしれない。しかし、少佐ならばオレの意見は理解できるのではないかとも思うのだがどうなのだろう。

 

「確か前に言ってたな。テストパイロットなんて『職業』、最前線にはないって」

「その通りだ」

 

 合同演習が終了して中尉がオレの元に来たときに言われた言葉を思い出す。歓迎という名の『CASE:47』の演習のことを馴れ合いと言った時のことだ。

「自身と相手の能力を全て知り、なおかつ相手の行動まで事前に知り得ている状況……。逆に問うが、これのどこが馴れ合いでないというのか! BETAには人間の予測など全く通用しないんだ! そして死などものともしない強靭な生命体が無限とも思える物量で押し寄せてくるんだぞッ? 人間同士で戦うための訓練が何の役に立つ!? 最前線にはテストパイロット等という『職業』はないんだ! 機体のせいだと? 我々の先達はもっと性能の劣る機体で、必死にBETAの侵攻を食い止めて来たんだぞ!? だからこそ我々は今こうして、暢気に演習ごっこに興じていられるんだ!」

 演習をごっこ呼ばわりし、テストパイロットの話を聞かない奴の手で開発された機体なんてのは、衛士の命を無駄に消費するただの金のかかる棺桶になる。

 

「じゃあ中尉、ひとつ質問がある」

「許可する」

「テストパイロットの意見を聞かない以上、あんたは覚悟できているんだろうな?」

「覚悟……?」

 

 一瞬、わからないほど微妙に目を細めた中尉に、貴様にだけはその言葉を使われたくないと言われた気がした。奥にいる少佐は何を考えているのかわからない顔をしているが、特に止める気もなさそうに思う。だから思うことそのすべてを今ぶちまける。

 

「あんた達日本人が、人の命をどう思っているか知らないが、こんな機体で衛士を最前線に送るだなんて正気の沙汰じゃない。完成した機体に乗るだけの中尉にはわからないだろうが、設計図通りに組み立てた戦術機なんて、高価で奇抜な棺桶程度の代物なんだ。戦術機を戦術機として完成させるのはオレ達テストパイロットだ。この機体を完成させるのは、設計屋でも軍のお偉い方でも、まして計画主任のあんたでも補佐の少佐でもない。たとえそうなるのがあんた達日本人だったとしても、オレがテストした戦術機のせいで多くの衛士が無駄死にする事だけは、テストパイロットとして我慢ならならないんだよ……!」

 

 少佐、あんたならわかるだろ。と目線を送るとなんとも困ったような表情をしていた。わかってくれると思っていただけにその表情はオレを苛立たせた。そして、いくら尊敬できる腕をしているとはいえ日本人に期待をしていた自分に気づき、その事実にさらに苛立つ。

 そうだ、もっと言ってやれ――オレを援護するタリサの声すら苛立ちを覚えていると無表情のままで中尉が言葉を発した。

 

「言いたいことはそれだけか?」

 

 いつものように熱くなり反論するのではなく、冷静なその一言にオレの苛立ちはさらに加速した。こっちはこんなにも思いの丈をぶつけたというのに、たった一言で済ました中尉を殴りたい衝動を必死に抑える。

 お前の国の機体を作っているんだぞっ! いくら日本人だからと言ってBETAと戦う衛士がオレのテストした機体のせいで無駄死にだなんて到底許せるものではない。問題点はちゃんと挙げているのにも関わらず、修正する素振りすら見せないのは一体どういう了見なのか。

いくつもの思いが浮かび上がる。握りしめる拳に力が入り、わなわなと震えているのが自覚できた。

 

「搭乗員保護レベルを下げてまで、理想値の達成に拘ったようだが……」

「それがどうした」

 

 確かに搭乗員保護レベルの変更は今回のテスト項目になかった。だが、今まで挙げた問題点を修正してこなかった分もひっくるめて帳尻を合わせただけに過ぎない。苛立ちを隠さずにした返事にも何の反応もせずに中尉は相変わらず無表情のまま続ける。

 

「もう無理はしなくていい」

「――!?」

「とにかく、今日はゆっくり休め。明日以降のスケジュールは内容も含め再検討、貴様は別命あるまで待機任務とする。以上だ」

 

 思わず口をついて出そうになった不満や悪態をなんとか飲みこみ、中尉を睨む。しばらくこちらを見ていた中尉は踵を返し、この場を去ろうとする。それを慌てて呼び止める。

 

「待ってくれ中尉。今のはどういう意味だ?」

「どうもこうもない。我が国の衛士の心配をする前にまず、貴様自身の身体の心配をしろ」

 

 数歩歩いたところで呼び止められた中尉は半身振り返り、そう口にした。

 

「そんなことを聞いてるんじゃない。ごまかすな」

「ごまかしてなどいるものか。貴様が言ったように、搭乗しているだけで衛士の生命が脅かされるような機体を作るわけにはいかない、ということだ」

 

 今までこちらが指摘した問題点を改善しなかったくせに、今更どの口が言うのか。そして未だにはっきりと答えない中尉。少佐に目を向けても状況を静観しているようで口を挟まず、あくまで補佐という立場を貫いている。

 

「へえ、やけにあっさりしたもんだな。ここにきてやっと自分たちの間違いに気づいて、開発コンセプトを転換するってわけか?」

 

 あくまでしらを切る中尉に挑発をかける。

 

「XFJ計画機の要求仕様は、我が国が置かれた状況から導き出されたものだ。変更は一切無い」

「いちいち回りくどいな。あんたらしくないぜ中尉、もっとストレートに言ったらどうだ?」

 

 ゆっくりとこちらに向き直った中尉は表情に怒りを滲ませながら言い放った。

 

「でははっきり言おう。『XFJ計画』は、貴様個人のプライドを充足させるためにやっているのではない」

「なに……?」

「これまで我慢してきたが、貴様の思考、言動は、一国の命運が懸かった戦術機開発計画を私物化するに等しい」

「私物化、だと……?」

「今更だが、貴様には失望した」

 

 それだけ言い残して中尉は再びこちらに背を向け歩き始めた。

 

「オイちょっと待て……っ!?」

 

 追いかけようとしてよろけたオレはそばにいたヴィンセントに支えられる。先ほどの呼び止めなぞ無視して中尉は遠ざかっていく。

 

「オレを降ろすなら勝手にしろ! だが、何が私物化だって言うんだ! いい加減にしろ!! あんた達の我が儘放題に合わせて結果を出したオレが計画を私物化しているだと!? ふざけるなッ!」

 

 遠ざかっていく中尉に怒号を浴びせるも気にした様子など見られない。少佐はしばらく困った顔でこちらを見ていたが、一言も言わずに中尉の後を追って去っていった。

 

「ふざけるな……ふざけるなよッ!!」

 

 今までの分の怒りも爆発したオレの怒号は格納庫に空しく響いた。

 




調べたらロックは1発ではなく警告が来るそうです。
これでダメな様なら素直に書き直します。なるべく自分の言葉で書いてはいるんですけどね……。

ただいろいろ説明しておきたかったのと、この衝突は必要不可欠だったので書きました。烏丸は補佐だし、この二人の衝突が必要だったので蚊帳の外状態でしたが仕方なかったんです。

もし一発ロックかかってしまったらごめんなさい……。


今後とも拙作をよろしくお願いします。


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第14話 気付き

お久しぶりです。

まだ途中なんですがキリが良いとこまで書けているので短いですが投稿しようかなと思った次第です。




 おやっさんや久野さんとACのメンテナンスをやり終えた俺は自室へと向かう道中、不知火・弐型の格納庫にふらっと立ち寄った。特に何かあったわけではないが、ふと足が向かってしまったのだ。

 格納庫入口までやってくると話声が聞こえてきたので足を止め、話の邪魔にならないよう入口の影に身を隠す。べ、別にユウヤの声が聞こえたから隠れたってわけじゃない。

 

「なぁヴィンセント、オレに足りないものは……なんだと思う? 教えてくれ。不知火・弐型(こいつ)を……使いこなすために、オレに足りていないものは何だ?」

「機体のせいじゃないし、だからといっておまえの腕が悪いとも思わない。おまえは米軍機を操らせたら、間違いなくトップクラスの腕前だ。そいつはオレが保証してやる。だがそれだけに、身体に染みついた米軍式のやり方はなかなか消えないし、どうしてもそのやり方で不知火・弐型(こいつ)を操ろうとしちまう。限界域での反射的な動作であればある程な」

 

 どうやらヴィンセントがユウヤに日本機の扱い方をレクチャーしてくれるみたいだ。これでユウヤが日本機について理解してくれれば彼女とのトラブルも減って、今後のXFJ計画も順調に進みそうだ。

 

「おまえはやっぱり、機体を強引に制御したがる傾向がある。それは機体を整備していればわかる事なんだ。例えばどの部品が早く消耗するか、どこにダメージが蓄積しているか、とかでな。それっておまえの性格が影響している部分もあるけど、米国製の戦術機を米軍の戦略に則って使う、米軍衛士の部品消費傾向ってやつにピッタリ合致しているんだ」

 

 ブースターで強引に機体を制御する米軍式はACに通ずるものがある。そういう点ではユウヤはACに乗せたら化けるかもしれない。

 

「でもな、不思議な事に、同じF-15(イーグル)を使っていても日本軍の傾向は結構違うんだよ。つまり戦術機って奴は、その国の戦略や戦術に合ったものが作られる訳だから、おまえのやり方で日本機を調整すると、その国では使いづらい機体になる。さっき唯依ちゃんがおまえに言いたかったのはそういう事さ。でしょ? 少佐殿?」

 

 そう言いながらこちらに視線を向けるヴィンセント。それにつられてユウヤもこちらに視線を向ける。気づいていたのか、なかなか鋭いやつだ。観念したとばかりに両手を上げながら2人に近づく。2人は軽く敬礼してこちらを迎える。

 

「話の邪魔をしないようにと思っていたのだが、気づいていたのか」

「偶然見えちまいましてね。そうだ、少佐直々に日本機についてこいつに教えてやってくれませんか?」

「おいヴィンセント!」

「んだよ、あの少佐直々なんてそうそうあるもんじゃないぜ?」

 

 日本機を知るには日本の人物、しかもその人物は新しい概念の機体や現行機の改修を任されるほどの人物だということ。さらにはその人物は自身も認める程の操縦技術を持つ。そんな人物から直々に教えてもらう機会など滅多にあるものではない。しかし、自身の日本に対する憎悪が素直に教えを乞うことを邪魔している。

 

「ブリッジス少尉……いや、腹割って話すときに堅苦しいのはなんだな。ユウヤ、おまえがオレを嫌っているのは分かっているつもりだ。たとえ嫌っているのだとしてもその相手を利用しろ。個人的な感情でチャンスを見逃す方が愚かだろ?」

「いや、俺はアンタを……」

「オレでよければいつでも助けになってやる。だから存分にオレを利用しろ」

「アンタは……いや少佐、教えてくれ」

 

 なにか吹っ切れたかのようなスッキリした顔のユウヤはまっすぐにこちらを見つめる。日本云々を完全に克服は出来ていないのだろうが、オレを頼ることに躊躇いはなくなったのだろう。

 

「いいだろう、じゃあヴィンセントの話の続きだ。日本機には頭部モジュールに大型のセンサーマストがある。これは複合センサーのカバーなんだが、それ以外に空力的に重要な役割を持っている。米軍機では空中機動制御の殆どを腰部の推力偏向機能に頼っているな? 日本機では空中機動中に頭部モジュールの向きを意図的に変えることで、より重くて大きな跳躍(ジャンプ)ユニットを動かすよりもはるかに小さい電力消費で姿勢制御ができるんだ」

「なっ……!?」

 

 ユウヤが驚愕に染まった顔でいる隣でヴィンセントはうんうんとうなずいていた。少しするとユウヤはハッと何かに気づいたようでブツブツと呟きだした。

 

「そうか……あの不可解だった機動制御のずれは……」

「頭部モジュールのセンサーマストだけではなく、前腕部にあるナイフシースも役割的には同じだ。最前線の国の機体はどれも同じような作りが多い。Su-37UB(チェルミナートル)がいい例だな。いや、F-15E(ストライク・イーグル)F-15・ACTV(アクティヴ・イーグル)を比べた方がわかりやすいか」

「今まではおまえが聞く耳を持たなかったが、オレはずっと言っていたんだぜ? ここまで詳しくはなかったけどな。つまり、物事は本人がその気にならなきゃ、いくらまわりが一生懸命教えてもダメだってことさ」

「う……そうだな」

 

ここぞとばかりにヴィンセントがユウヤにたたみかけ、ユウヤが少し怯む。

 

「この話を聞いてすぐにでも不知火・弐型(こいつ)に乗りたいだろうが、今日おまえさんは無茶をして身体にダメージを負ってしまっている」

「う……」

「計画補佐としては明日のテストに響くと困るんでね、早く身体を休めてもらいたいところだな」

「……わかった。少佐、いろいろと悪かった……」

「気にするな」

 

 そう言って格納庫を後にする。2人と別れるとやっとしゃべれるとばかりにアイリスが口を開く。

 

≪レイヴン、おふたりと別れるなり笑みを浮かべてどうしたのですか?≫

「いやなに、操縦に慣れるにはやはり実戦に勝るものはないと思ってな」

 

 自然と笑みを浮かべていたことに指摘されてから気づく。

 さて、明日のテスト内容はどうだったかなと思案しながら自室へと戻るのだっ―――

 

≪なにやらお楽しみ中のようですが、レイヴンの明日の予定はおふたりとは別件でテストとなっております。ですのでおふたりとは別行動となりますよ?≫

「あれ、そうだっけか?」

≪はい。スケジュール管理もお任せください。アイリスです≫

 

 出鼻をくじかれすごすごと自室に撤退する。得意げなアイリスになぜ自己紹介したのかと突っ込む気力はなかった。

 



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