ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険 (シズりん)
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1話

幼い頃、俺は一度だけルビス様に会ったことがある。

 

 

当時、アリアハンの周りのモンスターも然程凶暴ではなく、街から遠く離れなければ、それ程心配のない時代だった。

幼馴染みのシズクと、森で隠れん坊して遊んでた時だった、突然視界が暗くなり、気付いたら何時も遊んでいる森だと言うのに全く見た事のない広場に一人立っていたんだ。

太陽の光は、高くそびえ立つ木々の隙間からの木漏れ日程度。辺りには、人はおろか動物さえ見えない。

いくら叫んでも帰ってこない幼馴染みの返事。

次第に俺の心を不安が侵食していく。今にも泣き出しそうになったとき、ふと耳に水の打ち付ける音が聞こえてきた。流れると言うには激しい水飛沫の音、アリアハンの森には無いはずの滝の音がするのだ。

 

水の音を頼りに、森の奥深く歩いていくと、やがて視界が開けた場所に出た。

見た事も無いような巨大な滝が、凄まじい轟音と共に水を打ち付けている。

水飛沫に太陽の光がキラキラと反射し、壮大な虹の架け橋が鮮明に見える。そんな光映える辺りの木々や草花は、まるで幸せを謳歌するかの如く、生き生きと風に揺られている。

実際に見た事なんかないけど、教会で神父様に教えて貰った天国とは、きっとこの様な所だろうと思った。

暫くその天国を満喫していると、どこからとも無く声が聞こえてきた。それは、小鳥の囀りのような澄んだ美しい声は、耳からではなく、直接あたまの中に語りかけてくるような、何とも表現し辛いような不思議な声だった。

 

「私はルビス。世界を導きし女神。貴方の運命が周り出すことを告げにきました。先ずは貴方の名前を教えてください。」

「僕の名前はアリアハンのオルテガの息子、マコトです。」

「アリアハンのオルテガの息子、マコトくんですね?変わったお名前ですね〜。」

「なわけないだろ!!マコトだよマ・コ・ト!!」

「冗談ですよ〜嫌ですね〜」

 

カラカラと笑うルビス様は、本当に女神っすか?

思わず突っ込んじゃいましたよ俺。

その後も矢継ぎ早に繰り出される質問に全て答えた時、視界が真っ暗に反転いった。

意識が急速に引っ張られる感覚だ。

凄まじい速度で遠ざかっていく女神の気配が最後に残した言葉は

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーー

 

 

 

チュンチュン・・・

朝日がカーテン越しに射し込んでくる。

ジリリリリリ――――

 

「ん・・・もう朝か・・・」

俺は重い体を引き摺るように食卓につくと、母さんが朝ごはんを用意してくれた。

 

「ちょっと、マコト!あんた今日で16歳なんだから、シャキッとしなさいよ。今日は王様に会うんだから。」

「へいへい・・・」

 

 

俺の名前は"マコト"。城下町の片隅にある家に母さんと二人でくらしている、自分で言うのもなんだけど、一見何処にでもいるような男だ。

俺の親父はこの国で一番強い兵士だった。親父は数年前に突如現れた魔王を倒すために旅に出た。

 

あらゆる国を渡り、ついに魔王と対峙するが、戦闘の最中に崖から転落し、死んでしまった。

その最強の親父の血を引く俺は、いつしか次の勇者として国中の期待を集めていた。

 

全く迷惑なことだ。

 

「じゃあ母さん。行ってくるから。」

「マコト。あんた幼馴染みのシズクちゃんには、ちゃんと旅に出ること言ってあるの?」

「いやまだだ。でも、王様との謁見が終わって旅に出る直前に会いに行くよ。」

「そう?じゃあマコト・・・頑張ってね。」

「ああ、行ってきます。」

 

 

路地裏を抜け、街の人々が集まる市場を越えると丘が見える。丘の上には大きなお城がある。アリアハン城だ。

まだ幼かった頃、よくこの路地裏から見えるお城を、幼馴染みのシズクと眺めていたものだ。

 

「まさか、こんな形で夢が叶うなんてな・・・」

「本当よね。私もビックリよ。」

 

は?俺は突如声が聞こえてきた左側を見ると

 

サラサラと音がしそうな背まで伸びた輝くような黒髪。ほんのりピンク色に染めた頬が際立つような白い肌。何処かの貴族の娘と言っても信じそうな柔らかい物腰。そして何よりも、教会にある聖書に出てくる女神ルビス様と瓜二つな容姿をしている。強いて違うと言えば、ルビス様は金髪なのに対してシズクは黒髪だという事だろうか。

 

「って、シズク!!!何処から現れた!?」

「何処からって・・・お家からですよ?」

 

顔をちょこんと傾ける彼女。

か・可愛い・・・

 

「じゃなくて!なんでお前がここにいるんだって聞いてんのぉ!」

「そ、それは・・・だってぇ・・・」

 

よく見ればシズクは僧侶の衣に身を包んでいる。こいつついてくる気満々だな。

「なぁシズク・・・この旅は旅行じゃないんだぜ?魔王の討伐だ。戦いは男の役目なんだ。女の子がするものじゃない!!」

 

 

マコト Lv 1

シズク Lv15

 

 

「「・・・」」

 

「あの・・・マコトさん気を落とさないで?」

 

幼馴染みの優しい一言にダメージを喰らいました。

 

 

 

 

 

「もう・・・機嫌直してくださいよぉ。」

 

良いんです。どうせ俺は名ばかりの勇者ですから。そんなやり取りをしながら王室に通された俺達を王様とお姫様が迎えてくれる。

 

「おお!!そなたが勇者マコトかぁ!お父上に似て真の強そうな瞳じゃあ。」

王様は両手を握り、歓迎の意を表して抱き締めてくる。

 

「おい!ちょっと待て。どう見たって僧侶の衣着てるだろうが!」

シズクに抱き付く王様を引き剥がす。

 

「チッ」

この王様、舌打ちしやがったな。

俺が王様を白い目で見ていると

「勇者様。どうかお気をつけて下さいね?貴方に何かありましたらわたくし・・・」

お姫様が俺の両手を握りしめ、上目使いに労ってくれる。

そう!それだよ。勇者はこうやって敬われるように旅立たないとだよな?

 

 

 

ズガアアァァァァァン!!!

 

凄まじい衝撃が後頭部を襲った。しまった・・・シズクはそういう女だった。

薄れゆく意識の中で最後に見た光景は、幼馴染みが悪魔のような冷たい瞳で、俺を見下ろしている姿だった。

 

 

――――――――――――――――――――

――――――――――――――

――――――――

ハッ!ここは?

気が付くと白い天井が視界に入る。

 

「大丈夫ぅ?」

シズクが俺の顔を心配そうに覗き込んでくる。

彼女の髪が垂れ下がり、俺の頬に触れると、甘い香りが漂ってくる。

ここは天国なのか?

 

「ツッ!」

起き上がると鈍い痛みが頭の辺りに広がる。

「ここは?」

「教会だよ?あぁ、勇者マコトよ。死んでしまうとは何事です。って、なんか声が聞こえてきたよ?」

「え?俺死んだの?全然記憶にないけど・・・」

 

何故かシズクは目を反らし、ソワソワしながら

「ショックを受けると、前後の記憶が混濁するものねぇ~ハ、ハハハ」

乾いた笑いを見せる彼女だった。

 

まぁ気を取り直して先に進みましょう?彼女の言葉に釈然としないものを感じつつ、俺達は先を行く事にした。

 

 

「先ずは武器屋に行こうぜ!やっぱり武器が必要だろ。」

俺達は城下町の武器屋を目指し歩く。

 

「いらっしゃいませぇ。」

若い女の子の店員が一斉に声をあげる。長い旅を続けていけば、避けられないのは魔物との戦闘だ。人の生活圏を離れる程に、まだ見たこともない敵に遭遇することもあるはずだ。俺は親父のように強く、世界中の人類の希望にならなければならないんだ。やはり装備は必要だろう。

俺は店の中で一番強い武器、はがねの剣を取りレジへ向かう。

 

「ありがとうございます。2000Gです。」

店員の眩しい笑顔がたまらない。俺がポケットの中の財布からお金を・・・

「あれ?なんで40Gしかないんだ?」

「だって、さっきマコトさん死んだじゃないですか。だから死んだときに半分神様に取られて、さらに生き返らせるのに10Gで、残りがそれよ?」

隣で艶やかな皮のドレスを身に纏ったシズクが言った。

「おい雫・・・」

「な、何ですか?」

 

 

もう良いです・・・

結局俺はこん棒1本買いお金が尽きたところで店を出る。

それにしても王様・・・旅立つ勇者に100Gとかイケずにもほどがあるだろう・・・

 

 

次に俺達はルイーダの酒場を目指す事にした。

シズクは二人で良いじゃないってごねるが、勇者と僧侶だけではこの先必ず厳しくなる。やはり魔法使いと戦士が必要だ。

俺はシズクをなだめながら酒場へと辿り着く。

 

 

 

ルイーダの酒場

 

城下町の中では最も大きな酒場だった。

だだっ広い部屋の中には無数にテーブルが置かれ、そこには多くのパーティがお酒を酌み交わしながら情報を交換しあっている。

 

「マコトさんはどのような仲間を探しているのですか?」

「先ずは王道だが、前衛を任せられる戦士と、多くの魔物との戦闘を見越して魔法使いがいいな。」

あらゆる場面に対処しなければならない俺達の旅には、これが一番だと思う。

 

俺は先ずカウンターの女主人ルイーダに声をかける。

「魔王討伐に向かう勇者です。旅は長いものになりますが、それを希望する戦士と魔法使いはいますか?」

「あらあら。初めてのご登録ですか?それでしたら先ずは此方にご記入をお願いします。」

 

 

――出会い系酒場ルイーダ 貴方の素敵なパートナーが必ず見つかる――

 

「ここに名前と年令、職業と年収。あと好みのタイプを記入すればいいんですね?」

「はい。」

笑顔が素敵なルイーダさん。俺は筆を取り紙に記入を始めようとすると

 

ドン!!

紙にナイフが突き刺さり、隣に瞳の中の虹彩が消え失せた、表情は笑っているが、目が笑っていないシズクがいた。

「・・・二人で良いわよね?」

「はい・・・」

 

こうして俺達は二人キリで、魔王討伐への旅に向かうこととなった。

酒場を出る頃には既に日もかたむき、夜空の星が輝いていた。

 

「あら?マコトまだいたの?もう遅いから旅立ちは明日にして、今日は帰ってきなさい。シズクちゃんも一緒にね。」

「はい。おば様」

笑顔で母さんの腕に組み付き、共に家路に向かう母さんとシズク。

 

 

夜空の星になった親父に俺は決意する。

 

 

必ず魔王バラモスを倒す!!俺頑張るよ

 

明日から・・・

 

 

 

――つづく――

 

 

マコト Lv1 装備 布の服 こん棒

シズク Lv15 装備 皮のドレス 果物ナイフ

 

 

 

 

 

 

 



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2話

――――――――――――――

――――――――――――

 

険しい森を今二人で走っている。

 

魔物が現れてからと言うもの、森の木々も嫌な気を放つように感じられるが、泉の傍にある木は今も爽やかな香りを届けてくれる。

 

こうやって二人でよく手を繋いで走り回ったよなぁ。どこまでも続くような大地、まだ幼かった二人に不安と木の優しい温もりを教えてくれた、深い森や野山。

全てが懐かしいぜ・・・

 

俺は長い髪を揺らし、隣を走る美少女を見る。

 

 

「ちょっとマコトさん!!何をたそがれているのか知りませんが、早く走ってもらえませんか?」

「あはは。シズク!お前が汗を額に浮かべ走るなんて久し振りなんじゃないか?手を貸そうか?」

そう言って彼女に手を差し出す。

 

「何を悠長なことを言ってるんですかー!!そんな暇があったら、この後ろから追いかけて来る沢山の一角ウサギをなんとかしてくださいよ!!」

そう言って彼女は、俺の襟首をつかんでウサギの団体の方へ投げた。

 

 

 

ハアハア・・・

漸くレーベの村に辿り着くと二人は肩で息をする。それにしても一角ウサギにかじられたお尻がヒリヒリする。

彼女は肩で息を切らせながら

 

「全く。調子に乗ってスライムをイジメ過ぎるから、仲間を呼ばれるんですよぉ。」

そう言って俺を睨む。

「仕方ねーだろ!!お前があの後も指輪やら、替えのドレスだのを欲しがるから、お金がねーんだよ!!」

 

 

魔物は意外とお金が好きみたいで結構貯め込んでいるものである。え?倒して奪ったら強盗だって?俺は勇者だ!!だから大丈夫だ。

たぶん・・・

 

 

 

先ずは村人に情報を聞こう。

俺達は二人でアリアハンを抜けて、ロマリアへ行く道を聞いてまわった。

 

色々聞いてまわると、何でも村を出てはるか東に洞窟があり、そこには旅の泉があるそうだ。

旅の泉は放れた所へ瞬時に移動できる魔力の泉だ。

しかし、近年の魔物の激しい進行から守るために、祠の入り口を大きな石で塞いでしまっているらしい。

 

「もし?お主等はあの壁を壊したいのかい?わしならアレを壊せる魔法の玉を持っているぞい?」

 

変なジジイが話しかけてきた。

見覚えのあるジジイは俺の親父であるオルテガの父つまり祖父であるのだが、俺のことにまるで気付いていないようなのでスルーすることにした。

 

「マコトさん。もう夕方ですし、宿屋にいきましょう?」

シズクはジジイなどまるで見えないかのように、宿屋へ向かって歩く。俺もシズクについて宿屋へ向かおうとすると、ジジイは俺のマントを掴み、ワシを無視しないでくれーと泣きついてきた。

 

 

 

 

 

「良いですかマコトさん?ここから此方に入ってきたら、防空識別圏の侵害とみなし・・・どうなるか分かっていますよねぇマコトさん・・・」

部屋の真ん中に白線をひき、どんな魔物よりも恐ろしい瞳で俺を見詰めるシズク。

甘いな。俺はお前のお馴染みだぜ?寝静まった頃に、同じベッドに――――

 

ドン!!

生暖かいものが頬を伝う。俺はそれを手で抑えると・・・って、

「血じゃねーか!!シズク、お前ナイフを投げつけやがったなぁ!!」

数ミリ単位の顔の横には雫の果物ナイフが突き刺さっている。そんな俺の突っ込みを華麗にスルーしてベッドに入る彼女。

俺は自分に許された陣地(なにもなし)で、毛布にくるまって眠りに就いた。

 

 

「・・・ですよ?マコトさん!」

次の日目を冷ますと、シズクが俺を揺さぶって起こしてくれた。目を開けると最初に入ってくるのがシズクの顔か――――何か良いなこれ。

「おはようシズク。朝からお前は綺麗だな」

そう言うと彼女は顔を真っ赤にしていた。

 

――――――――――――――

―――――――――――

――――――

 

 

「これがナジミの塔かぁ。あのじいさんの言ってた秘宝を取ってくれば魔法の玉をくれると言ってたなぁ。」

俺は眼前にそびえ立つ塔を見上げた。

塔の隙間から太陽の日射しを受けると、これから始まる戦闘にも身が入ると言うものだ。

俺は少しだけ武者震いをし、塔へと入っていった。

 

塔は薄暗かった。それを察したのかシズクは何処からともなく松明を持ってきた。

「お前よく松明をみつけたなぁ?」

「それ?マコトさんのこん棒を削って作った棒に、マコトさんの布の服の布を巻いて火をつけただけですよ?」

笑顔で言う彼女。

 

ん?ちょっと待て今何て言った?

そう言えばやけに腰の辺りが軽いような・・・

「って、俺の武器(棍棒)じゃねーか!」

彼女はそんな俺にテヘッと言って舌をみせた。

可愛いよ。お前は確かに可愛いですよ!

でも、どーすんのこの先。

 

俺の武器が松明を作った時のあまりでできた、ひのきの棒になりました。

 

 

苦労して登りつめた塔の頂上には宝箱が置いてあった。誰がこんな所にわざわざ宝箱に入れて仕舞うんだ?俺はふと頭を過る疑問を持ちながらも宝箱に近づくと

 

「ふむ。我が秘宝を盗みに来るとはねぇ。身の程知らずな男だこと。」

真っ黒な装束に身を包んだ、見た目百点満点の魔法使いの女の子と、やたらといかつい武道家がいた。相手もどうやら人間。

魔物から世界を取り戻したい気持ちは一緒なはずだ。

 

しかし、話しを聞いてもらえずに結局は人間同士の悲しい戦闘になってしまった。

「シズク!サポートを頼む!」

彼女は頷き、俺の後ろに下がる。必勝の陣形だ。

俺は腰のひのきの棒を構え、相手との間合いを計る。

 

 

「メラ!」

しまった!相手の魔法使いの女の子に先手を切られた。俺は襲い来る炎に目を瞑って耐える・・・が一向に炎はやって来なかった。

薄目を開けてみると

「あれ、MPが足りない!」

と言っている女の子。

 

「おい。メラもMPがたりないのか!!それじゃ魔法使えねーじゃねーか!!」

思わず相手の女の子に突っ込みを入れてしまうと

 

ふぇぇぇん

女の子が泣き出した。

「ツカサあいつ、私を苛めるぅ」

「サキ!大丈夫だ。俺が・・・伝説の武道家の俺がお前を泣かした男を倒す!」

と言って、俺の眼前に立った。

 

「最低・・・」

俺の後ろから声のトーンが3段階下がった声で呟くシズク。

「ん?どうしたしずブゴッ!!」

華麗なおみ足から繰り出されたハイキックが俺の顔面を捕らえ、キリキリと擬音をたてるかのように吹き飛ぶ俺。

 

「女の子を苛めるなんて最低です!!恥を知りなさい恥を!!」

シズクがひっくり返っている俺を指差し、叫んでいる。

俺かよって疑問はさておき、悪魔のように俺を見下すシズクをみて、自称伝説の武道家が震えているのが見えた。

 

 

「お爺ちゃん!」

 

レーベの村に帰ると魔法使いの女の子は、ジジイに抱き付いた。あんたの孫かよ!!ってか、俺の昔ジジイへの養子に出た妹か……。

確かにサキはジジイにとっては宝物だろうけどよ・・・

 

ジジイは感動の再会を邪魔するなとばかりに、魔法の玉をちら見で持っていけと合図する。本人は忘れているとはいえ、同じ孫なのにずいぶんと雑な扱いだった。

 

「なぁ。あんた俺を弟子にしてくれねぇか?あんたの蹴りに惚れ込んじゃってよ!」

先ほどのいかつい武道家のツカサがシズクにしがみついて頼み込んでいる。

何かニヤニヤしながらしがみついているのが、ムカつくなぁ。あいつまさかシズクに抱き付きたいだけじゃねーだろうなぁ。何て考えていると

 

「メラ!」

魔法使いの女の子サキがメラと叫び、近くにあったこん棒でツカサの脳天をぶっ叩いた。

それ・・・メラじゃなくて撲殺ですよね。

 

 

こうして俺達は気絶した武道家を無視し、世話になった?人達と別れ、レーベの村を後にした。

 

――――――――――――――

――――――――

 

 

 

 

村を出て暫く歩くとそれはあった。

村で聞いた情報の通り、祠の入り口には大きな壁があった。これを魔法の玉で・・・どうすんだ?

 

「なぁシズク。これの使い方をジジイに聞いたか?」

「え?私は聞いてないですよ?」

 

魔法の玉をよく見ると紐のようなものが付いている以外は、ただの重い玉にしか見えない。

俺は掲げてみたり、撫でてみたり、座ってみたり

色々試してみたが、どれも魔法の玉は起動しなかった。

 

カチッカチッ!!

後ろから乾いた音が聞こえ、音がする方を見るとシズクは見たこともない長方形の火を灯す箱(ライター)で、紐に火をつけた。

 

「なぁ、その火を起こすのなん・・・だ?」

 

振り向くとはるか遠くまで全速力で走っていく彼女の後ろ姿が見えた。

 

「え?」

 

俺がシズクに声をかけようとしたとき、昼間の太陽の日射しより更に明るい灯りが辺り一面を照らす。

俺が手に持っている魔法の玉が輝いていた。

 

 

ドガァァァァァァァァァン

 

 

こうして旅を初めて3日目にして、俺は早くも2回目の教会にお世話になる。

 

 

 

――つづく――

 

 

マコト Lv5 装備 ひのきの棒 一部切り取られた布の服

シズク Lv25 装備 皮のドレス(数着) 研ぎ澄まされた果物ナイフ らいたー 祈りの指輪

 

死亡回数 2回

 

 

 

 



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3話

――――――――――――――

――――――――――

――――

 

私の名前はシズク。

幼馴染みのマコトさんが、魔王バラモスを倒すとか夢物語なことを言いだし旅にでた。

彼はしっかりしているようでけっこう抜けているところがある。

私が付いていないときっと何もできない。

私はマコトさんと共に旅立ち、あわよくばマコトさんとの仲を・・・

こほん!

そんなこんなでロマリアに辿り着いた。

 

しかし、そんな私達の旅は思わぬ結末を迎えることになりそうだ。目の前には紫色に変質し、ピクリとも動かない彼。

彼は私をずっと護ってくれると言ったのに・・・

私を残して逝ってしまうだなんて――――

 

 

 

 

――それは少しさかのぼる――

 

「さすがロマリアだよな?人が多くて栄えてて、アリアハンとは大違いだよなぁ。」

 

俺達はロマリアへ辿り着いた。ロマリアはスゴロク場やスライムレース等の賭博場があるせいか、世界中から人が多く集まる。人が集まっているところには商人が集まり、お金が動く。

お金が動くところには、総じていろんな人種が集まるものだ。

 

「そこのお兄さん。パフパフしていかない?」

地下街へと進む入口に街の女が、誘うような仕草で俺を誘惑している。

これでも勇者、なめないでもらいたい。

第一に、俺にはすぐ後ろに可愛い幼馴染みもいるんだ。誘惑など・・・

 

「ちょっとマコトさん・・・ど~こに向かって歩いているのですかぁ?」

声のトーンを下げ、虹彩が消え失せた瞳のシズクが、俺の襟首を凄まじい力で掴んでいた。

こ、怖っ!!

 

「お嬢ちゃんはお部屋で待っててくださるぅ?」

派手な女がシズクを挑発する。

「お、おじょ・・・あ、貴女こそ、無理なさらない方が良いんじゃありませんか?牛のような胸が垂れているんじゃありませんか?」

 

二人の間の空気が熱を帯び、渦をまく。

 

「まぁ、お嬢ちゃんの無い胸では彼を喜ばすこともできないんではなくて?」

「な!!無い・・・何ですか?もう一度言ってもらえますぅ」

 

シズクの瞳が捕食者の瞳になったかと思うと、二階建ての建物の屋根を優に越えるほどの竜巻が発生した。

バ、バギクロスだとー!!

真空の刃を伴った凄まじい竜巻が周囲の木々を薙ぎ倒し俺と、お店の女を襲う。

 

 

「その魔法、ちょっと待ってくれねーか!?」

何処から現れたのか、商人ふうの若い男が俺達の前に立った。

颯爽と現れた青年は、次の瞬間大空の星になった。

 

 

 

「あ~死ぬかと思った。」

そう言う青年の名前は、ロレンスと名乗った。聞けば彼は商人の中でも、旅をしながら商品を買い、別な地方で欲しがる人に売る。要は流通のお仕事がメインの商人だそうだ。商人の間ではロレンスと名前で呼ばれているらしい。

 

 

「あなた頭は大丈夫ですか?あの中に自分から飛び込むなんて。ロレンスだか、何だか知りませんが、あなたなんてキチガイさんでじゅうぶんですよ!!」

 

ひ、酷い

こうして彼の名前はキチガイとなってしまう。

 

「ところでシズクさぁ。いくら怒っていたとはいえ、一般の人にバギクロスはねーだろ?」

俺達は人類の世界を守るために、魔王を倒すんだ。やはり勇者としては、街中でバギクロスをぶっ放つ幼馴染みを放置できない。

「え?バギクロス?街中でバギクロスなんか使うはずがないじゃないですか。あれはバギですよ?」

 

とんでもない台詞を彼女は首をちょこんと傾けて言った。

あれがバギですか・・・お前のステータスどうなってんの?

 

 

ロマリアを離れて丸一日歩いたところにカザーブという寂れた村があった。

「ではお二人さん。契約は成立だ。しっかりと例のものを探しだしてくれよ?」

そう言ってロレンスさんは、もときたロマリアの方へと帰って行く。

 

「それにしてもロマリアの王様も適当だよな。スゴロクに夢中になって王冠を忘れて無くすとかありえねーよなぁ。まぁ、王冠を取り戻すための装備として鉄の槍をくれるなんて、太っ腹だけどなぁ。」

「マコトさんは良いですよ。私なんて、あの王様の舐め回すような視線。あぁ、思い出しただけでもおぞましい!!」

 

ロマリアの王様はシズクを見るなり抱きつき、王冠を探して取り戻してくれと、依頼している最中もずっと彼女を見ていた。

まぁ気持ちも解らないではないが。

しかし、シズクも散々王様をシバキ倒した挙げ句に、水の羽衣を強奪・・・おっと!頂戴したのだから、視線ぐらいは許してあげれば良いのに。

かくして俺たちは旅の路銀集めの為にロレンスさん経由でのロマリア王の依頼を受けることにしたのだ。

 

 

 

カザーブの村

 

村と言うに相応しい何もない村だった。

二人はいつものように宿を取ると、珍しく彼女は夜まで自由行動を提案してきた。

さっき村を歩いている時に、道具屋のカウンターの中にあった豪華な宝箱を彼女は見ていた。

何か嫌な予感がするが、今は気にしないでおこう。

 

いつものように酒場に入り情報を集めると、俺はこの辺りで有名な盗賊が、西のシャンパー二の塔に住み着いている情報を得た。

最近羽振りが良く、村の酒場にも出入りしているらしい。

他に真新しい情報も無かったので、俺は軽くお酒を楽しみ、可愛い幼馴染みの待つ宿屋へと帰った。

 

 

「あら?貴方たちは・・・偶然ね。」

見た目百点満点の魔法使いの可愛い女の子

と、やたらいかつい筋肉だるま。

忘れもしない。ナジミの塔で出会った二人だ。

サキと・・・まぁ男はいいや。

「偶然だね。君たちも二人で旅を?」

「一緒にしないでちょうだい。この男はただ着いてきただけよ。」

そう言って、筋肉だるまを睨み付ける女の子。

見た目はやたらいかつい、自称伝説の武道家は、器用なほどに、体を小さくしていた。

 

「マコトさんおかえりなさい。」

2階から下りてきたシズクは、先程の水の羽衣にすでに着替えていた。

母さん、天女が村にいました。

そんな姿をしていると益々ルビス様に瓜二つだよなお前。

 

「・・・って、マコトさん聞いてますか?」

シズクの瞳が俺を上目使いに見つめる。ヤバい心臓が止まりそうですよ。

「お部屋が二部屋しかないらしくて、困っているんですよぉ。」

「え?何が困るの?」

俺が言いきるより先に、見上げていた潤んだ瞳は虹彩が消えてゆく。

 

 

しかし、無いものは仕方ないので、いつものように白線を引くしかないとばかりに、諦めて部屋に入る。

 

宿屋のおかみさん、ナイスですよ。

宿屋のお部屋は驚く程に狭かった。ベッドは二つがちょこんと並べられ、白線を引いてもこれは近かった。

深夜に寝惚けたふりして・・・

 

ガシャーン!!!!

ごめんなさい!!っと、大きな音に反応し、つい謝ってしまう俺。

「マコトさん?何を謝っているのです?どうやら、お隣の筋肉だるまさんが、サキさんに窓から突き落とされたみたいですね。」

彼女は笑って言う。明日は我が身か・・・

しかし、予想に反して彼女は早く寝ましょう?と笑顔でベッドに入った。

シズク・・・ようやく俺の気持ちを受け入れてくれるんだな。

ベッドに入ると彼女は笑顔で今日のお買い物の成果を見せてくれた。

可愛いブレスレット。可愛いらしいティアラ。どれも値がはりそうだっけど、既に俺の頭の中は夜のことでいっぱいだった。

「ん?なにこれ?」

彼女は筒状の笛のようなものを俺に差し出した。

「横にボタンがあるでしょ?ちょっと押してみてください?」

新しい武器か?俺は言われるままにボタンを押すと

 

プシュ

 

ど、毒バリっすか・・・

ある意味一番持たせてはいけない武器を・・・

 

意識が遠退いていく俺の目にうつったのは、お休みなさいと言って、毛布にくるまる美少女だった

 

――――――――――――――――――

――――――――――

――――――

 

 

「って、いい加減死ぬは――――!!!」

「あ、生きてた。」

彼女は笑顔で俺の頬に優しくキスをする。

 

はいベホマきました。

 

「いやぁ~私達の旅は終わったのかと思いましたよぉ。マコトさん、私を置いて逝ってしまっては嫌よ?」

彼女の棒読みのような台詞が胸に響く。

これを優しく思える俺って・・・

 

「いやぁ散々だったよなぁ。」

「あんたもよく生きてるよな?」

朝になると、首をポキポキならしながら、武道家のツカサがお部屋に入ってきた。

聞けば、二人も目的は同じ、ロマリア王の王冠を取り戻したいという。

 

ここで俺達は頼もしい?仲間を手に入れた。

 

 

シャンパーニの塔

 

 

鬱蒼と繁った森の中に、その塔はそびえ立っていた。上空を見渡すと、ドラキーやキメラなどの、翼鳥類のモンスターが飛び交っていた。

こんな所を根城にするくらいだから、きっと盗賊も並の強さではないのだろう。

俺は鉄の槍を持つ手に力がはいる。

 

「デロデロデロ~」

「・・・あのツカサさん?さっきから何を言ってるのですか?」

「おう!雰囲気が欲しくてよお?塔の音楽を演出してやってんだよ。」

「いらねーよそんな演出は!」

はぁ・・・まったく何言ってんのこの人。

 

「で?シズクはなにその武器。」

彼女は大きな十字架を持っていた。

「え?毒バリじゃちょっと心細いかなと思って、教会から借りてきたの。」

「借りれるものなの?それ。」

「え?ダメなの?でもガザーブの神父様は、『おお、ルビス様の使いが舞い降りた』とか言って貸してくれましたよ?」

それ・・・武器じゃないですよねぇ?教会の屋根に付いてるアレですよねぇ?

仮にも僧侶。教会で暮していた仮にももシスターな彼女が教会の十字架を・・・まぁ、言うまい。

 

 

 

.

 

.

カンダタ

塔の最上階にそいつはいた。

ここまで数々の魔物と戦ってきた俺にはわかる。間違いなく強敵だ。

 

人の胴廻りほどもある腕の筋肉。

体も優に人のそれを越えている。そして、その強靭な体を支える脚。

そのどれをとっても、やつが強いことを証明している。

ツカサが先制とばかりに、正拳を繰り出すが、大したダメージを与えているようには見えなかった。

俺も鉄の槍を向けたその時だった。

 

一人に見えたカンダタが複数人に見えた。しまった!!部下がいたのか。やつらの魔法で辺り一面が霧に包まれた。

マヌーサだ。

俺とツカサはお互いに背をあわせ、相手の出方を伺っていると。

 

「ははは。貴様ごときの実力で勇者だと?笑わせるな。お前なんか部下にも劣るわ。」

そう言って笑うやつらの声が響き渡る。

「どうトドメをさしてやろうか・・・」

絶体絶命の危機を肌で感じとるその時!!

 

 

「ねぇ。サキさんはアレどう思います?」

「ん~無いわよね。って言うかぁ、裸にパンツ一丁。オマケにあの覆面でしょ~?ちょー有り得ないんですけどー!!」

「ちょっとサキさん。それは言いすぎですよ。あれでもきっと格好いいと本人は思っているんですから・・・ププッ」

 

女の子二人の声を殺した悪意のある笑い声が響く。

「「もうだめ。我慢できない!!」」

 

マヌーサの幻覚で沢山に増えて見えるシズクとサキの笑い声が響き渡る。

 

「ぐはぁ!!」

カンダタが血を吐いて倒れた。うん。あれは精神的に来ますよね。間違いなくザラキ級の心のダメージを喰らったカンダタは、王冠を投げ捨てて、泣きながら逃げていった。

 

 

真は王冠を手に入れた。

 

 

 

「それにしても、王冠が手に入って良かったよなぁ。これで報償金がたんまり出れば、俺の武器も段ボールじゃなくて、本当の鉄の爪が買えるぜ。」

さらっと、爆弾発言を言うツカサ。

 

「なぁ、その王冠。二人で返しに行ってくれないか?俺達は勇者だ。お金目的の旅ではない。」

 

そう、俺達を待っている人達は後を絶たない。今はロマリアへ戻る時間さえ惜しい。

ツカサとサキは顔を見合せる。色々二人にも事情があるのだろう。

「また会おうぜ?目的が一緒なら出逢うだろ?」

俺がいうと、ツカサは俺を思い切り抱き締めた。熱いし、痛いし、気持ちわりー!!

 

「でも、俺達ロマリアまでの道のりを知らないぜ?キメラの翼も切らしてるし。」

ツカサがそう言うと、

「大丈夫ですよ。私が送ってあげますから。」

といって、十字架を構えるシズク。

 

 

バキャッ!!!

凄まじい音を鳴らして十字架でぶっ叩かれた二人はロマリアの方面の大空へ飛んでいった。

「ちょっとシズクちゃん。なんで私までええぇぇぇぇ・・・」

 

二人をバシルーラした十字架は音を立てて崩れ去る。

再び毒バリと言う名の最強の武器を装備したシズクは

笑顔で、さぁ行きましょうと微笑んだ。

 

「マコトさんを抱き締めて良いのは私だけなのに・・・あのだるまめっ」

 

後ろで呟く彼女の恨み節は聞こえないふりをした。

 

 

――つづく――

 

マコト Lv15 装備 鉄の槍 布の服

シズク Lv35 装備 毒バリ 水の羽衣 金の腕輪 金のティアラ

 

死亡回数 3回



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4話

暖かな風が顔を撫でる。

木々の隙間からくる暖かな木漏れ日のなか、白いテーブルを囲んで紅茶を楽しむ俺と雫。

そんな二人を楽しそうに眺めているエルフの女王ヒメア様。

 

エルフの隠れ里

 

 

俺達は今そこにいる。

「ではあなた達はアリアハンからいらっしゃったのですね。随分と遠いところからいらっしゃったのですね。」

女王ヒメアは、物腰のやわらかい微笑みをくれる。

ルイーダさんの時もそうだったけど、最近俺は歳上好きなのだろうか。

隣から絶対零度な空気がチクチク俺を刺しているが、きっと気のせいだろう。

 

 

「話を戻しますが、本当にノアニールに人がいたのですね?」

「はい。老人と孫のロザリーさんが二人で暮らしていました。」

なぁシズクとばかりに彼女に目線をうつすと、彼女は頷く。

「そうですか・・・詳しいお話しを聞かせて頂けますか?」

 

―――――――――――――――――

――――――――――――

――――――

 

 

「あら?貴女は・・・」

 

犬や猫といった動物はもちろんのこと、草木さえもまるで時間から切り放されたように眠る村ノアニール。

 

その昔、村の男とエルフの娘が恋におちた。種族の違いからエルフの女王は猛反対する。

周囲に反対されながらも二人は愛を貫き・・・

終には手を取り合い駆け落ちをした。

 

娘を失ったエルフの女王ヒメアは激怒し、男がいた村ノアニールに呪いをかけ、全てが眠りについたという

 

 

 

そんな村で俺達は一人の少女と出会った。

腰まで伸びたキラキラと輝く赤い髪は、白い肌をいっそう際立たせる。深緑の瞳は強い意思を伺わせ・・・

シズクとはまた違った魅力のある赤い少女だった。

 

「あ、貴女は……。」

 

その少女は俺達を・・・正確にはシズクを見るなり、あたかも知り合いのような台詞を口にする。

 

 

そんな二人の少女は暫く無言で見つめあっている。

まるで何かを探りあうかのようだ・・・

いつまで続くのかと思った矢先、少女は何かを納得したかのように強い意思を秘めた瞳の色を緩ませ

 

「はじめまして」

と、ポンと手を叩く。

 

 

「はじめましてかよ!!」

散々引っ張っておいてこれかい。思わず初対面の女の子に突っ込みを入れてしまう。

 

 

 

 

「改めまして、私はアンと申します。」

少女は自分の家へと俺達を案内すると、改めて色々話してくれた。

現在ノアニールに住んでいるのはアンと祖父で村長のプサロだけだという。

二人は呪いをかけられた当時ロマリアへ行っていたらしく、運よく呪いからのがれたのだそうだ。

 

俺はその話を聞いたとき、何とも言えない違和感を感じたのだが、

「それにしても、エルフの女王様もイケずよね。種族の違いが何だって言うのよ!愛し合う二人を引き離すなんて許せないですよ!!」

普段怒っていても天使のような笑顔だけは絶やさないシズクが、珍しく興奮気味に怒りを顕にしているのを見て、しだいにそれは記憶の彼方に消え去った。

 

.

 

.

「え?勇者様、それ本当ですか?」

「あぁ。俺は勇者だ。困っている女の子のお願いを断るわけがない!」

 

アンの話しによれば、西の洞窟の奥深くに地底湖があるらしい。そこにある『夢見るルビー』をエルフの女王ヒメアに返せば、村人の呪いがとけるんだとか・・・

 

ってか、なんでこの二人はそんな事まで知っているんだ?俺は少女と話しているうちに疑問に思ったが、笑顔が可愛いアンを見ていたらどうでもよくなった。

 

「必ず村人達を救ってみせ・・・」

 

俺が言い切るより先に、アンは俺に抱き付いてきた。そうこれだよ。勇者と言えばこの恋愛フラグを色んなところでたてるもんだ。

 

――俺は勇者。魔王バラモスを倒す宿命。だけど、魔王倒したら・・・必ず――

 

 

などと妄想にふけっていると、シズクが俺の肩を凄まじい力で掴んだ。

「マコトさん。あなたも学習しませんねぇ・・・あなたが建てたフラグは、恋愛なんかじゃありませんよ。それは死亡フラグですから・・・」

め、めちゃくちゃ怖っ。

 

しかし甘いな。俺にはお前に対する対策がある。

いつまでも負けっぱなしの俺じゃねーぜ。

 

【スカラ!!】

最近覚えた最高の対シズクの防御呪文だ。

 

「!!」

シズクは少しだけ驚いた表情をみせた。

へへっ。それだよ。その表情が見たかったんだよ。幼馴染みの困った表情が・・・

俺は将来亭主関白を狙っているんだ。そろそろ主導権は譲ってもらうぜ?

 

彼女は深いため息をつくと、ルビス様の像の如き微笑みを浮かべ両手を広げ手の平を俺の方にむけた。

 

なんだ?もしかして、抱き締めてほしいのか?案外可愛いところもあるんだな。

 

俺は同じように両手を広げ、シズクを抱きしめようと近寄る―――――が、いつまでたっても、その愛しい彼女を抱き締める事ができない。

 

彼女から空気の圧力がおしよせる。

 

ズバババババァァァァァァ!!

 

突如襲いくる凄まじい圧力が俺のスカラを剥ぎ取った。

 

 

 

 

い、いてつく波動だとぉ!!!

 

 

 

 

シズクは防御呪文の無くなった俺の胸ぐらをつかみ、痛恨の一撃クラスの往復ビンタを放つのだった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

――――――――――――

――――――

 

「え?すると勇者様。あなたは人間なのですか?わたくしはてっきりスライムベスが、人の真似をしているのだと思いましたよ。」

 

エルフの女王ヒメア様は、ひんやりした指先を真っ赤に腫れ上がったスライムベスのような俺の頬にそえる。

そう言うことですか・・・

どうりで人間嫌いで有名なエルフが、ことも無げに隠れ里に入れたわけだ。

 

 

こほん!!

シズクが咳払いをすると、ヒメア様はパッと手を放し、ホホホと上品に笑う。

 

「とにかくその二人は怪しいですね。」

「そうですね。あの二人が夢見るルビーを持ち出し、駆け落ちした二人なら・・・十分にあり得ますね。」

ヒメア様とシズクは二人で納得しあっている。

 

「ちょっと良いか?何が怪しいんだ?」

俺が当然の疑問をなげかけると、ギロリとヒメア様が睨み付ける。え?さっきまでの優しいヒメア様はどこに?

「人間よ!少しは頭を使うがよい。主はアホか?」

人間だと知った途端に態度が急変したヒメアがいうには、娘のロザリーが恋をしたのは、そもそも人間ではなくて、妖魔だという。

かつて愛したエルフの青年コハクとの間に生まれた大切な娘が、人間ならまだ目を瞑れたが、魔物との愛となると話は別。ヒメアは娘を妖魔と引き離そうとしたらしい。

 

しかし頑固な娘は、あろうことかエルフの里中を荒らした挙げ句に、エルフの秘宝『夢見るルビー』で婚約指輪を作ると言い出し、盗みだしたらしい。

 

ヒメアが言うには夢見るルビーの力が溢れたために、ノアニールは眠りについたのではないかという。呪いなどかけてはいないのだとか。

 

「ん?要するにどういう事だ?」

俺が頭を捻るとヒメアはシズクと目を合わせ、二人揃ってため息をつく。

「これだから人間は嫌いなのだ。良いか?お主にノアニールの昔話しを教えたのは誰ですか?アンと申す娘と、祖父のプサロですよね?そんな昔話しの時に祖父が若かったとして、どうして孫娘までそんな昔話を見てきたかのようにはなせるのだ?」

 

?全く話が見えず首を傾げると、ヒメアに変わってシズクが応える。

 

「要は単純にその昔に二人はいたということですよマコトさん。」

「おいおい、冗談はやめてくれよ。何十年も昔に二人がいたって?アンはどう見ても可愛い少女じゃねーか。」

「可愛いは余計なのはさておいてもマコトさん、アンさんがエルフだとしたらどうですか?あの二人だけルビーの魔力から逃れられたのも理由になりませんか?」

 

シズクがそこまで言うと、ヒメアはシズクにこれだから人間はと同意を求めて息をはく。

ヒメアよ、そこにいるシズクもルビス様にそっくりな外見だが人間だからな・・・たぶん。

 

 

 

 

 

「げっママ!!」

ノアニールに女王様と三人で赴くと、アンは開口一番で小さな悲鳴をあげた。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「本当に娘がお騒がせをいたしました。」

 

女王が娘のロザリーの頭を無理矢理下げさせる。

なんと・・・アンと名乗る少女はヒメアの娘ロザリーだった。

 

「これからどうするんだ?こいつら。」

俺がヒメアに二人の事を聞くが返事はない。

 

「反省もしているようですし、何よりピサロと名乗る妖魔の彼も悪意のない魔族のようです。暫く様子を見ると言うのはいかがですか?」

「そうですね。聞けば秘宝を持ち出したり、駆け落ちを最後まで反対し、母であるわたくしに説得を続けようと言ったピサロさんには私も好感がもてます。暫くは二人をエルフの村の中で様子を見ようと思います。」

 

俺を完全にスルーしたヒメアはシズクの意見に賛同する。

ちくしょー!そろそろ俺も泣くぞ。

しかし、ピサロも正体はまさか若いとは。

プサロは正体がバレるのを恐れ、変化の杖を使って祖父のフリをして、名前も変えていたらしいが、プサロとピサロって……本気で変装する気あるのか?お前。

 

 

 

 

 

エルフの村を出るとき、ヒメアから夢見るルビーから創った剣、まどろみの剣と、魔法の鎧をくれた。

シズクはどうやらエルフのドレスと、変化の杖を貰ったようだった。

里を出るさいにロザリーは

「勇者様も大変な恋をしてらっしゃいますね。いろいろ大変でしょうけど、頑張って下さいね」

と、優しい言葉と素敵な笑顔をくれた。

 

そんな二人のやり取りをみていたのか、シズクは俺の腕に自分の腕を絡ませ

「ロザリーさんとピサロさん。素敵な恋をしていましたね。今日はもう少しだけこうさせていてください。」

と言って寄り添っていた。

 

 

俺の幼馴染みがこんなに可愛いわけがない。

どこかで聞いたようなセリフが頭に浮かびながら俺達はバハラタへむかって旅立つのだった。

 

 

ーー続くーー

 

マコト Lv20 装備 まどろみの剣 魔法の鎧

シズク Lv50 装備 変化の杖 エルフのドレス




次回は週明けの予定です。 雫


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5話

.

 

.

暑い・・・

照りつける太陽が、容赦なく俺を襲う。何処までも続くような砂丘の先には、陽炎で揺らめく巨大なドラゴン

 

 

って、ドラゴンだとーーー!!!

 

俺が慌ててまどろみの剣を構えると

ゴオォォォ!!と、激しい炎を吹くドラゴン。

 

あれ?暑くない?

俺が薄目を開けて見ると、シズクがお腹を抑えて笑っていた。

 

「頼むから変化の杖で遊ぶのはやめてくれシズク。」

「だぁって暑いんだもん。」

 

唇をちょこんと尖らせる仕草のシズク・・・か、可愛い。シズクがエルフの隠れ里での一件いこう、あの二人の恋のお話しに夢中になっていたのをみると、やっぱり女の子なんだと実感する。

最近少しだけシズクも俺のことを意識してくれてるよな?俺はそっと彼女の手に自分の手を重ねた。

 

「ちょっ、ちょっと!マ、マコトさん何てことを。わ、私を妊娠させるつもりですかぁ!!?」

彼女が真っ赤になっている。あれ?ヤバかったか?俺は慌てて手を放すと、

「何で放すんですかあ!!」

と、今度は怒りのこもった赤い顔で怒るシズク。どっちなんだよ!全くもって面倒くさい幼馴染みだ。

 

 

「マコトさんのせいで喉がカラカラですよ。」

へいへい。どうせ俺のせいですよ。砂漠で騒ぐ幼馴染みを適当にいなしていると、目的地のイシスが見えてきた。

 

イシス

 

砂漠の真ん中に建つお城を首都とした国。人口の殆どが水が豊かなオアシスの回りに住み、暮らしているという。

 

城に入ると俺は目を疑う光景が飛び込んできた。

城内の至る所にキラキラと小川が流れている。そこにかけられた、これまた小さな架け橋を渡りながら奥へと進む。外のうだるような暑さは城内にはなく、イシスの国民も涼を求めて自由に出入りできるようになっている。

 

俺はイシスを統治するという女王陛下が、どんな人かを想像しながら女王様のいると教えられた地下庭園に降りた。

 

 

イシス女王

それは一瞬で目を奪う程の絶世の美女だった。

艶やかな黒髪。白く透き通るようなモチモチした肌。近くにいるだけでクラクラするような甘い香り。そのどれもが男を惹き付ける。そんな美女だった。

 

 

 

*******************************

*******************

********

 

.

「近くで見ると、こんなにおおきかったんですねぇ。」

ピラミッドの麓につくと、シズクは素直な感想を述べた。

「なぁシズク、なんで俺の武器の装備はムチになっているんだ?あとこのツバの部分が広い帽子……とても防御力が高そうには見えないんだけど。」

「え?知りませんか?ピラミッド探索のエキスパートが装備していた伝説の装備ですよ?トロッコに乗ったりと凄い方なんですよ?」

 

シズクは然も凄い伝説を語ってくれたのだが、なんの事か今一分からない俺はブーブー言うシズクをよそに、装備を戻してピラミッドへと入って行った。

 

 

 

ーー昨夜ーー

 

シズクが寝静まったあと、俺はいけないと思いながらも女王の寝室へ行った。驚くことに女王の部屋には護衛もいなく、入室すると女王は俺が来ることを知っていたかのように待っていた。

『ああ、勇者様なんて悪いお方・・・』

そう言って差し出された手を俺はそっと握り返す。

 

 

 

『魔王バラモスは本当に強いですわ。そんな勇者様に私が出来る事はあまりありません。ですが、無事を祈る事と、ピラミッドに眠る財宝の数々を差し上げましょう。上階にある財宝とは別に地下にも財宝があります。伝説級の武器"黄金の爪"です。きっと勇者様のお力になることでしょう。』

『女王様・・・ありがとうございます。そんなにまでしていただいて。』

『良いのです。勇者様は私の乾いた心に潤いを与えてくれました。それ以上に望むなんて、私には・・・ただ、無事にお帰りになってくださいましね。魔王バラモスを倒した暁には・・・』

 

 

 

 

そうして夜があけ、俺達は武器を求めてピラミッドにむかったのだった。

 

 

 

ピラミッドの中は入りくんだ迷宮だった。現れる敵も今まで見たこともないような強敵揃いだった。俺とシズクは数々の罠を潜り抜け、最上階まで達したその時だった。

 

頑丈そうな扉の前で鍵開けに汗を光らす盗賊がいた。

カキンカキンと金属音を軽快に鳴らし、扉の錠前を一つ一つ外していくが、どうやら最後の一つに苦戦しているようだった。

 

「おい。あんた墓荒しか?」

俺が声をかけると、ビクッと体を強張らせ俺達をみる盗賊。

 

「ああ、びっくりした!俺はてっきりイシスの兵士かと思ったぜ~。」

盗賊は額に浮かぶ汗を乱暴に腕で拭いながら俺達の方へと振り向いた。

「俺の名はキョウイチ。見てのとおり大盗賊だ。と言っても盗みではなく、トレジャーハントが主な仕事だがな。」そう言って彼はカラカラと笑い、握手を求めてきた。

 

「俺は入れない所は無いことを証明したいだけで、中のお宝には要はない。好きにすればいいよ。ただ、後ろのそいつらもお宝にようがあるみたいだがな。」

振り向くと、可愛らしい魔法使いサキと、筋肉ダルマのツカサがそこにいた。

「やっぱりまた会えたな!!」

そう言うと、目一杯暑苦しいのに抱き付くツカサ。

 

彼等を紹介すると満足そうに笑い、キョウイチは鍵開けに戻る。

「ちくしょう・・・どうしてもこれが開かねーなぁ。魔法でも掛かってるのかぁ?」

キョウイチが手を休めぼやいていると

 

ズガン!!!

 

鍵の掛かってる扉を『アバカム』と言いながらシズクが蹴破った。

「ここは暑いですから、のんびりしてないでさっさと行きましょう?」

「それのどこがアバカムなんだよ!」

思わず突っ込みを入れる俺に対し、笑顔でこそいるが、どこか機嫌の悪そうな彼女。そんな彼女を見て、キョウイチを始め、ツカサにサキもガタガタと震えていた。

 

 

「何だこりゃ?変な玉っころと、鏡か?外れだなこりゃ。黄金の爪なんて噂でしかないのかねぇ。」

ため息混じりに、中のお宝を投げ捨てるツカサ。雫はその鏡を拾い何やら見つめているし、玉っころはサキが拾ったようだ。

「黄金の爪?それなら地下にあると言ってたぜ?女王様が。」

「ふーん。地下にあるんだぁ。マコトさんはそれをいつ聞いたのかしらねぇ・・・」

しまった!!

ずっと隠していた女王様との夜の密会、ついにバレたぁ!!俺は襲いくるであろう衝撃に耐えるが、いつまでたっても来ない。

「マコトさん何をしてるの?早く地下に行きましょう?行くんでしょ?地下に」

 

 

 

 

「確かにこの辺りが怪しいわね。」

地上階をくまなく探していると、サキが魔法で風の流れを読み、何もないはずの床から確かに風の流れを感じるという。

「よし!そんな時こそ大盗賊の出番だろ!」

そう言ってキョウイチは、何処からともなく大きな魔法の玉を持ち出した。

何か見たことあるぞあれ。

 

キョウイチを抜いた四人は壁の向こうまで衝撃に備える。

 

 

ドガアアアァァァァン!!!

 

案の定大爆発した魔法の玉。口から煙りを吐いて倒れたキョウイチを放っておいて、俺達四人は地下への階段を降りた。

 

!!

地下に入った瞬間。俺とサキは奇妙な感覚に捕らわれた。何だ?魔力が混乱している?グルグルとしたような感覚に集中力を失われ、俺達はどうやら魔法の力を封じられたようだった。

 

 

魔法を封じられたサキはツカサを盾にして進み、襲いくる魔物を、もともと魔法を使わない俺と、ツカサで薙ぎ倒す。

 

そうしてどうにか辿り着いた奥の間に、黄金に輝く棺があった。その棺の周りは紫色の煙りがズモモモモモと、音でも聞こえそうなほどの妖気を漂わせていた。

 

 

トントントントン

 

「あのシズクさん?何をしていらっしゃるので?」

「え?明かに何かが中にいそうですから、出られないように棺の蓋を釘で・・・」

そう言って棺の蓋をトンカチで釘うちしているシズク。

 

「こらーーー!!!折角の演出を台無しにするなぁ!!」

「ちっ」

中から怒号のようで、悲痛な叫びとともに現れた魔物は―――――――――上で倒れている筈のキョウイチの顔をしていた。

巨大な身体。高ぶる魔力に、人間の大人大の大きさを誇る斧を携えている。猛り狂う炎のような赤い瞳で俺を見据えるキョウイチの正体は、未だ見た事のない魔物だが、今の俺達ではとても敵う相手ではないと言うことだけは直感で判る。。

どうやって、この場を逃げるか考えている俺をよそに、

 

「女!貴様今舌打ちしやがったなぁ!!絶対にゆるさ・・・ってお、お前は」

キョウイチが何かを言いかけたその時、シズクは持っていたトンカチでキョウイチの顔面を強打し、顔にめり込んだ。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

シクシクシク・・・

棺の中から、キョウイチの泣き声が聞こえる。

 

「これが夢にまで見た黄金の爪かぁ。」

惚れ惚れするような瞳で武器を眺めるツカサとサキ。

「これを売れば私たち大金持ちなのね?ツカサ。」サキも嬉しそうに、ツカサの持つ黄金の爪を眺めていた。

二人はきっと静かに幸せな家庭を築くために、大金になると言われる黄金の爪を求めていたのかもしれない。

おめでとう二人とも。

俺は声を出さず二人をそっと祝福した。

 

 

 

「ところでツカサ。」

「なんだマコト。俺とお前の仲じゃねーか。遠慮なんか要らねーぜ。何でも聞いてくれ。」

「気のせいかも知れないが、その武器・・・呪われてないか?」

「そうか?」

 

俺達四人を囲むミイラの群れ。明かに100体近くいる。

「捨てろそんなもん!!」

「嫌だ!やっと手に入れたんだい!」

 

だいって。子供のように駄々をこねるツカサ。

「ねぇシズクちゃん。何かいい方法ないかなぁ。」

サキがシズクに小声で話す。が、魔法の力を封じられたこの空間で、二人が出来る事なんてない。

結局俺達が何とかするしかない。

俺はまどろみの剣を振り、懸命にミイラやマミーの群れにきりかかる。

 

15体近くを倒した時、まどろみの剣は根本から折れてしまった。ツカサの方も、いよいよ体力の限界のようだ。

全滅濃厚なその時

 

ゴオォォォ!!

突如竜巻が発声した。屋根までなんてものじゃない。天にまでとどく、見たこともないような巨大な竜巻だった。

その竜巻は周囲の敵や、壁・・・いや、ピラミッドそのものを全て巻き込み遥か上空へと押し上げていった。

 

 

ようやく竜巻がおさまった頃、辺りには何も無かった。木々も、ピラミッドの残骸さえも。手の上に黄金の爪を乗せたシズク以外。

「あの・・・ツカサは?」

「一緒に飛んでいっちゃったみたいですねぇ。私達のために黄金の爪だけを残して行くだなんて…とても優しい方々ですね。私達、これで大金持ちですね。」

嘘だ!!

絶対お前狙って奪ったよなぁ?

 

「じゃあ、何でお前魔法を封じられてたのにバギクロス使えんの?」

「あ、あれは私の魔力より、の、呪いが弱いからじゃないかしら。は、ハハハ・・・私のバギクロスは、他者が尊敬の意を評してカミカゼと呼ばれているのよ」

なんて言って乾いた笑いで誤魔化す彼女。

バギクロスで辺りの建物ごと吹き飛ばすなんて聞いたことねーよ。

 

憐れなツカサとサキ。生きていたらまた会おうな・・・

 

 

 

.

 

.

「おぉ!愛しの勇者マコトよ。よくぞ無事に私の元へ帰ってきてくれました。私は嬉しい」

 

そう言うと、大臣達を押し抜け俺に飛び付くイシス女王。

イシス女王は俺を強く抱き締めると、周囲の目も憚らないでその唇を重ねてきた。

甘い香りが俺の脳を刺激する。

 

「・・・とさん。マコトさん!!」

「ん?痛えっ!!!」

 

シズクが俺に向かって鬼の形相で鏡を投げつけ、見事に顔面にヒットする。

 

「それはラ―の鏡と言って、真実を映し出す鏡です。それでよく、女王様を見てください!!」

 

何だよシズクのやつ・・・ヤキモチ妬くなら、もう少しぐらい優しくしてくれってんだよなぁ。

俺は鏡をぶつけられた顔を擦りながら、床に落ちた鏡を拾い、言われるままに鏡に女王陛下を映すと

 

 

 

 

 

「え?」

「どうしたの?私の愛しの勇者様。」

「あ、あんたまさか・・・お、男?」

「あらやだ。愛があれば性別なんて関係ないわ?」

そう言って、今度は男の力で俺を抱き締める女王・・・のかっこうしてる王様のイシス。

 

す、すると昨夜のあれも・・・

 

 

ギャアアアアアァァァァ・・・

 

 

俺の張り裂けんばかりの雄叫びが城内をこだました。後に、その叫び声は山を越えバハラタにまで聞こえたそうだが、それはまた別の話で。

 

 

 

「あぁ、酷いめにあった。」

「全く・・・浮気なんかするからそうなるです!!」

「でもよぉ、俺だってたまにはイチャイチャしてーよ。勇者と言ったって男なんだから。」

「じ、じゃあ口直ししますか?」

 

そう言うと彼女は頬を染め、瞳を閉じそっと唇を俺に向ける。

ヤバいドキドキする。

 

ま、まてよ?

俺の幼馴染みがこんなに可愛いわけがない。

実はシズクも男――――なんてことは無いよなぁ。

俺は道具の袋からラーの鏡で彼女をそっと映すと、鏡を突き破り顔面に食い込む光速のパンチが見えた。

 

ソシテマコトハフタタビキョウカイニオセワニナッタ

 

 

――続く――

 

マコト Lv25 装備 まどろみの剣だったもの。兜がへこんだ魔法の鎧

シズク Lv75 装備 変化の杖 黄金の爪 エルフのドレス。イシス女王のティアラ

 

死亡回数4回

 

 

 

 

 




思ったよりも早く書けました。かなーり!オリジナルな話しを混ぜたパロディものですが、よろしかったら応援してくださいね。


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6話

シンと張り詰めた緊張感が部屋一面を支配している。

部屋の内には数人の大人達がいるのだが、だれも喋ろうとはせず、時計の秒針の音だけがコチコチと響く。

 

「くっ、もう耐えられない!僕はタニアを救いに行く!」

 

暫くすると1人の若い男が、誰に言うでもなく言葉を吐き棄てるように沈黙を破る。

 

「グプタさん、落ち着いてください。いま下手な行動をとると、犯人グループを刺激してしまいかねません。そうなると拐われたタニアさんに危害が加わらないとは限らない。今はまだ動くべきではありません。犯人の出方を待つべきだ。」

 

今にも飛び出していきそうなグプタを、静かにそれでいて強く静止した男は、その道の人物なら誰もが知っている商人の服装を装備している。

 

その商人ロレンスは頭をフル回転させて、現状打開策を模索している。

先ずは原点にたち返ろう……

 

 

 

 

時を少し巻き戻す

 

.

 

 

 

ガタガタガタ・・・

荷馬車の車輪が軋みをたてて、レンガ造りの道を走る。

東の空が、うっすらと紫色に染まっている。

夜明が近いのだろう。

 

俺の名前はロレンス。

各国にある商館を渡り歩き商品を届ける、言わば流通を主とした商人だ。

 

 

今日も朝からロマリアからバハラタへと朝もやの中を荷馬車を走らせていると、フードを深く被った一人の修道女が道を歩いていた。

何故こんな明け方に女の子が一人で?魔物か何かであろうか?しかし無視して通れる程には冷たい人間になり切れない俺は、懐に隠し持ったナイフを片手に携えたまま、修道女に話しかけた。

 

「お嬢さん。私はロレンスと言う商人ですが、バハラタ方面でよろしければ、乗っていきませんか?」

少女は深く被ったフードから、視線を俺にむける。フード越しでも彼女が絶世の美女であることが分かった。

艶やかな黒髪、透き通るような白い肌。少しだけ不思議な色を讃えた瞳。俺は以前にロマリアで出会った勇者一行を思い出す。

そう言えばシズクと言ったっけ、あの娘もなかなかの美女だったな。

あの二人は今も魔王を倒すための旅を続けているのだろうか・・・

 

「・・・さん!!ちょっと聞いていますか?キチガイさん!!」

「あ、あぁ、ちょっと考え事を・・・って、キチガイさん?き、君はもしかして・・・」

そう言うと彼女は修道女のフードを捲って、素敵な笑顔を見せてくれた。

 

 

「なんだ、やっぱりシズクちゃんだったのか。マコトくんはどうしたんだい?」

「じ、実は・・・」

 

彼女の話では、船を求めて旅をしていた二人はポルトガに辿り着いたらしい。

ポルトガの国王は船をあげる代わりに黒胡椒を所望してきたらしい。

確かに、西の方に位置するポルトガの厳しい冬には胡椒は必需品。国王自ら所望するとなると・・・中々に商売の臭いがする。

 

「で?その勇者くんはどうしたんだい?」

「ま、マコトさんは・・・ゴニョゴニョ」

歯切れの悪い彼女の口からは、それ以上の情報を得ることはできなかった。

 

 

 

 

 

ロマリアからバハラタへの山間部入口

そこには関所があり、二人の屈強な兵士が門番を勤めている。近年では魔物が現れたおかげと言うのも何だけど、人間同士の戦いは減ったが、まだまだ小さな火種を残す国境には、大概関所があるものだ。

 

「シズクちゃん。少しフードを深く被っていてくれるか?国境だ。」

そう言うと彼女は黙って頷き、フードを深く被る。こう言う所は、旅なれた彼女で助かった。

 

 

「門番お疲れ様です。ロレンスです。」

と言って、いつもの様に商館ギルドの身分証と、お約束の100Gをそっと手渡した。

「あれってお金ですよね・・・」

「あぁ、旅の商人は色々大変でね、こう言うことも必要なんだ。」

俺達が小声で話していると、

「お?修道女か?ロレンスも男だもんなぁ。ロマリアで女でも買ったのか?」

と言って大笑いをする兵士二人。しかし、俺の横からは明らかに不機嫌なオーラ全開の彼女がいる。

以前俺はロマリアで彼女のバギクロス(バギ)で死にかけたことを思い出し、慌てて二人の兵士に

「ま、待ってください。彼女は大切な商談相手ですから・・・そういうのはその・・・」

「何だよつまんねー。おいロレンス。今は少し金額が変わってな、二人で1000Gを払ってもらうぞ。」

「な!せ、1000Gだって?あまりに法外な・・・」

 

嫌なら通らなくても良いんだぜとばかりに、二人の兵士はより一層大声で笑う。

この関所以外だと、船のルートしかない。しかし、その船を貰うために関所を通らねばならないというのに・・・どうしたものか。

 

 

プシュ!

 

プシュ!

 

 

「ふう。またつまらぬ者を刺しました・・・」

 

彼女が済ました笑いを見せると、二人の兵士は口から泡を吹いて、全身紫色になって倒れた。

 

 

ど、どくばりーーー!?

 

 

「な、何も殺さなくても・・・」

「大丈夫ですよ?峰打ちですから。」

 

 

 

どくばりに、峰打ちってあるんですか?

女神ルビスに瓜二つな笑顔の彼女は、荷馬車に乗り込むと、まるで何も無かったかのように旅の続きを催促する。

 

 

ようやくバハラタに着いた頃にはすっかり日もおち、夜になってしまっていた。

「シズクちゃん。黒胡椒をどこのお店で買うか決めてあるのかい?」

「いいえ。まだ決めてません。」

「黒胡椒となると…そうだ!俺の商売ルートに香辛料を取り扱う店があるからそこへ行こう!」

 

彼女は俺の出した案に特に異論を唱えなかったので、自身の知る店へと向かった。あわよくば自分にも商売のきっかけになるかもと、その時は安易に考えていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

 

 

 

そして自身の知る店に着いたら、店の主人の娘が野盗に拐われたらしく、慌ただしいじょうたいだった。

はいそうですかとも言えない俺たち2人は、この誘拐事件に巻き込まれたわけだ。

 

「ロレンスさん。こんな事をしている間にもタニアがどうなっているのか…」

うな垂れるようにグプタが言う。

 

「店主、もう一度伺いますが、彼等の要求は金なんですよね?」

「そうだ。1万Gと娘のタニアを交換だと言ってきた。」

「そうですか。では、お金の引き渡しには私たちがいきましょう。」

「え?ロレンスさんがなぜ。」

「私の馬車の荷物を金に見立てて、金を多く見せましょう。山積みの中の方は石ころの入った箱でも混ぜて。奴等が金を運んでいる隙を突いて娘さんを奪還、そして私たちはダーマ方面へと逃亡って計画です。」

「え?野盗と戦うんじゃないんですか?」

 

俺の作戦に口を挟んだのは、先ほどからヤケに大人しくしていたシズクちゃんだった。

「ごめんなシズクちゃん。俺は商人だから……戦闘はからっきしなんだよ。」

「そうですか?」

 

彼女は未だ納得いかないと言った顔で俺を見ている。君は俺の何を知っているのやら。

暫くすると彼女は興味が失せたのか、結局俺の作戦を実行することになった。

 

 

東の小高い丘を幾つか越えたそこに、野盗の住処らしき洞窟があった。

 

「シズクちゃんは俺の背後に隠れていてくれ。そしていざと言う時は、俺の事を気にせず逃げるんだ。」

「いざとは、どういう時ですか?」

「なるべくなら奴等に見つからずに助け出したい。実際は千Gしかないとはいっても、やはり大金だからな。奴等にくれてやるには惜しい。」

「でも、もう見つかってますよ?ほら」

 

彼女の指差した方を見ると、屈強な男がマスクを被り、巨大な斧を携えた野盗が数十人。既に戦闘態勢に入っていた。

 

だと言うのに、隣のシズクちゃんは一歩も怯まずすかさず戦闘態勢を整えた。

 

さすがは勇者と旅を共にする女の子だ。目の前で起きている誘拐に、逃げるなんて自分自身を許せないのだろう。

しかし、問題は俺が戦闘ができないことだ。

いくら彼女がバギクロスを使えると言っても、彼女も女の子だ。万が一彼女まで拐われでもしたら・・・

 

しかし、そんな心配は無用の産物であったことを知る。

 

「あなたたちも懲りませんね。まだそんな悪事を働いているのですか?どうやらお仕置きが足りなかったようですね・・・」

「お、お前は・・・カ、カンダダの親分。ヤバいですぜ、悪魔がいまし・・・」

 

スガァァァァァァン!!!

「誰が悪魔ですかぁ!!」

彼女の繰り出した痛恨の一撃が、カンダダ子分に炸裂し、一人を一撃で沈める。こ、怖っ。

 

「く、女一人に舐められてたまるか!お前等やっちまえ!この女は俺の慰みものにしてや・・・」

カンダダが卑猥なセリフを最後まで言い終わる前に、辺りの様子が変わった。

 

夜の闇を引き裂くような稲光。光の蛇のような稲妻が辺り一面を襲い掛かる。

あらゆる空間から、ところ狭しと電撃が漏れ出ている。

 

ライデイン

 

 

彼女がボソッと小さな声で唱えると、より一層大きな・・・そう、見たこともないような稲妻が、屈強な男達を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

「本当にありがとうございました。娘もこの通り無事で。」

 

何度も何度も頭を下げるその人は、胡椒を初めとした香辛料を売る大商人だった。

流通を主とした商人の俺としては、このカシは幾ら払っても得られない願ってもない繋がりだ。

「なぁシズクちゃん。船・・・俺も乗せてくれないか?今回の冒険で俺も世界に出てみたくなったんだ。きっとまだ大きな商売のきっかけが世界には沢山あるはずだ!」

「ふふ。キチガイさん大丈夫なんですか?」

笑顔を見せてはくれるけど、俺はキチガイさんのままなのね・・・

「良いですよ?ですが、先程見た魔法の事は内緒にしてくださいね?特にマコトさんには。もし誰かに話したら・・・」

声のトーンを下けだ彼女の瞳は、俺が旅の中で見てきた、どんな魔物をも超えていた。

 

 

 

 

 

「よくぞ胡椒を手に入れてくれた。」

ポルトガに着くと、国王様は俺達を歓迎してくれた。俺としては一国の王様にまでパイプができ、もう言うことはない。そんな俺の満足そうな顔をシズクちゃんは横で微笑みながら見ていた。

 

「なぁシズクちゃん。俺と一緒に旅の商人をやらないか?どんな辛く大変な旅も、二人なら・・・」

そう言って俺は彼女に手を差し出すと、彼女は笑顔で首をふる。

「私がいないとマコトさん・・・何もできませんから。でも、私も楽しかったですよ?ロレンスさんとの

旅も」

 

シズクちゃん・・・俺の名前知っていたんだな。

勇者マコトのいるであろうところに向かって、振り向きもしないで走り去っていく彼女。

残念。

どうやら俺はフラれたらしい。

 

 

まぁいいさ。

俺も其々に戴いた船に荷物を積んで海に出よう。

まだ見ぬ海の向こうには何が待っているのだろう。

 

 

俺はまだ旅の途中だ。

 

 

ただ一人で旅に出て、さ迷っていた時に俺はシズクちゃんと出会った。

どんな辛いものも楽しくみえた。

ただ、君がいるだけで。

 

また会おうなシズクちゃん。君達が夢見る平和が訪れるように俺も強力するよ。

 

俺は晴れやかな気持ちで・・・

あれ?荷馬車がない?

 

そこには荷馬車がなく、紙切れが1枚残されていた。

 

「なんだこりゃ。なになに…」

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

美少女との旅の対価戴きますね。

ロレンスさんなら大丈夫です。あなた程の商人様ならきっと。

 

あ!船は船着き場にあるそうですよ。

 

また会いましょうね

 

シズク

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

やれやれ。彼女には最後までやられたな。俺は紙切れをズボンのポケットに入れ、船着き場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもシズクは何をしていたんだ?」

 

シズクが、黄金の爪を売ったお金で沢山の装備を買った。しかし、シズクの持ってきた商品はどれも高額で、お釣りどころかまさかの借金を背負った俺たち。

仕方なしにポルトガでアルバイトを二人で始めた。

俺は直ぐに接客になれ、お客さまの女の子達と仲良くなり売り上げも上がったのだが、その営業スマイルに嫉妬したシズクは俺に痛恨の一撃クラスのハイキックをぶちかまし、出ていったきりだった。

 

やっと帰ったかと思ったら、荷馬車に財宝。そして船まで手に入れていたシズク。

何をしていたんだか気になるけど、何となく聞くのが怖い。

 

 

「キャプテンシズク!!何処に向かえばいいんだ?」

船底から、舵を持ったキョウイチが声をかけてきた。こいつちゃっかり仲間としてパーティに入ってやがる。お前魔物なのに良いのかよ・・・

 

「目指すは黄金の国ジパングよ!!」

 

シズクは海を指差し、俺の腕に組み付く。すると何やら柔らかいものが腕に・・・

 

 

おーい!!

おーい!!その船待ってくれー

 

海から何か聞き覚えのある声がする。海をロレンスさんがアヒルの形をしたスワンボートを足で一生懸命漕いでいた。

な、なにやってるんだあの人は・・・

まさか、あれで海を渡る気か?

 

正気とは思えないが、助けをださなきゃと船を近づけると

 

すさまじい電撃がスワンボートを襲った。

 

 

ギ、ギガデインだとーー!?

 

 

目が眩むようなすさまじい電撃がスワンボートを直撃し、哀れ彼は海の藻屑となった。

ロレンスさん、あんたシズクに何をしたんだ?僧侶がギガデインを使うなんて・・・

ロレンスさん・・・生きていたらまた会おうな。

 

 

 

俺達はまだ見ぬ世界を目指し大海原へ旅立った。

 

 

 

――続く――

 

真 Lv28 装備 素手 布の服

雫 Lv101 装備 りりょくの杖 豪華なドレス

舟こぎ士 キョウイチ

ヒデアキ Lv20 装備 素手 無一文




ネタが……尽きそうです


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7話

.

 

.

 

.

パー

ピー・・・

パッパー!!

「あぶねーだろうが!!」

 

鉄製の塊に乗った人が物凄い速さで、目の前を走り抜ける。

俺は改めて新天地のジパングを見渡す。

見たこともない程の高さの建物が、所狭しと建ち並び、そのどれもが今まで俺が見てきたどのお城をも遥かに越える高さをほこり、すべてが箱のような不自然な形状だった。

辿り着いたのは確かに夜であったはずだと言うのに・・・何だ、この昼間のような明るさは。

 

「不思議な街ですね?本当にここがジパングなのでしょうか?」

さすがのシズクも少し不安な様子を隠しきれていないようだ。

「なぁ、キョウイチ?ここは本当にジパングなのか?」

いつの間にかパーティに入り込んでいる魔物のキョウイチに俺が聞くと、ギロリと睨み付ける。

「おい人間。貴様誰に物を言っている。俺はかつて大魔王の側近だった者ぞ?あまり礼儀がないようなら、その頭をひねり潰す・・・イタタタタ!」

見ると、キョウイチの頭をひねり潰さんばかりに掴んでいるシズクがいた。

 

 

「ここは確かにジパングなはずだ。しかし以前俺が商売に来たときは普通の農村が集まっただけの小さな国だったはずだが・・・一体何があったというのか。」

「・・・ロレンスさん。あんた何処から現れた?」

 

シズクの雷撃により海の藻屑となったはずの商人ロレンスさんが、何事もなかったような爽やかな笑顔を見せながら会話に混ざる。

 

「マコトくん。君達の旅はお金が掛かるだろう?俺は君たちの旅のスポンサーになろうと思ってね。な?シズクちゃん?」

「ちっ・・・」

 

シズクが、ロレンスさんから奪った財産を俺が彼に返してからと言うもの、あからさまに不機嫌なシズク。

そんな彼女に苦笑いをしながらも、ロレンスさんは先ずは情報を集めようと提案してくる。

さすがは旅の商人。旅での不足の事態にも手馴れた様子だった。

二人で手探りをしながらの旅をしていた俺たちにとって、ロレンスさんとの出会いはラッキーだったのかもしれない。

 

 

.

 

.

「あの・・・ここはジパングですか?」

俺が通りすがりの女の子に声をかける。先ずは情報を集めるのが先決だ。

「はぁ?ジパングぅ?なに言ってんの?こいつやばくなーい?」

「えー?まじ?でもぉ~顔はちょっとイケメーン」

女の子達は訳の分からない言葉で話す。

「ここは笹塚ってとこだよ?ねぇお兄さん。暇ならウチ等とカラオケしない~?なんなら~そのさ・き・も」

 

キャーキャー騒ぐ女の子達。う、うるさい・・・

しかし、貴重な情報源だ。カラオケとやらも気になるし・・・俺はその女の子達に近づこうとすると、背後から冷ややかな・・・いや、絶対零度に近い冷気が辺りの空気を凍らす。

「ちぇっ!コブ付きかよ。ってかこの子、ルビス様にちょー似てない?」

「本当だ〜。ちょールビス様だ!天に召します我らが女神だっけ?」

神様が天に召されてどうするんだよ!ってのは一先ず置いておいて、

「君たち、この子は確かにルビス様によく似ているけど、この子の名はシズクだ。ルビス様じゃないんだ。」

「え〜?そうなの?まぁいいけど。」

「そんな事より、この国の王様は何処にいるんだ?」

「王様〜?あぁ、もしかしてヒミコ様の事かな?」

「ヒミコ様?」

「うん。この国で一番偉いお方なんだよ?知らないの?ちょーウケる」

 

本当に何を言っているのか分からない。

 

「とにかくそのヒミコ様は何処にいるんだ?」

「う〜ん…国会議事堂?じゃないかなぁ…そんな事より、お兄さんカラオケ行こうよ〜。」

 

2人の女の子は、それぞれ腕を絡ませてくる。

鼻からとても良い香りが…。

 

ガンッ!!

 

物凄い音とともに、背後のシズクから再び冷気が辺り一面を凍てつかせる。

そんなシズクをみた女の子達は、そそくさと足早に逃げていった。

俺は恐る恐る雫の方を振り向くと、彼女は女神のように微笑んでいた。

瞳の虹彩は消え失せていたけど。

 

 

 

 

 

マグロナルト?

俺達はロレンスさんが見付けてきた酒場のようだが、お酒の出ない。宿屋のようだが、泊まれない建物に集まり、収集した情報を整理することにした。

 

「いらっしゃいませー!!」

元気の良い掛け声の青年が俺達を迎えてくれた

って・・・

「ピサロさん!!あんた、ノアニールにいたピサロさんだよなぁ!魔族の。」

「あ~お客様?中二的な発言はお辞め戴けますか?」

そう言う彼は、どこか罰の悪そうな顔をしている。しかし、俺達にとっては見知らぬ国で懐かしい顔に会えたのは何よりも嬉しかった。

 

「ピサロ~来たわよ~。」

俺達がカウンターで困り顔のピサロに話し込んでいるとお店の入口から

腰まで伸びたキラキラ輝く赤い髪。深緑の力強い瞳。凛とした美女

 

「ロザリーさん!!」

 

俺が口にするより早くシズクはその名前を口に出し、彼女に抱き付いて喜びを現した。

 

 

 

.

 

.

「へぇ~あなた達もジパングに立ち寄ったのね?」

ロザリーさんが言う。

俺達は今、ピサロさんの家、通称デスパレスにいる。

城といっても、四畳半の部屋にロザリーさんと二人で暮らしているらしい。

よくエルフの女王ヒメア様が許したものだ。

 

 

「しかしピサロには驚いたよなぁ。まさか異世界の魔王だったなんてなぁ。しかもロザリーさんはエルフのお姫様・・・。よくそんな二人が恋におちたよなぁ。」

 

本当に全くもって驚きだった。ピサロが、まだ一介の魔族だった時に出会ったエルフの少女がロザリーさんで、後に進化の秘法で魔王になってしまったピサロを倒し、正気にもどしたのが、天空の剣を携えたエルフのロザリーさんだとは・・・

てっきり夢見るルビーを盗むような、バカップルだと思ってましたよ俺。

 

 

こほん

シズクが小さな咳払いをすると、ピサロとロザリーさん、キョウイチはそれまで騒がしく話していたのをピタリと止める。

「お話しがそれてしまっていますよマコトさん。今はジパングが何故このようになってしまったのかを聞かなくてはならないのではないですか?」

「そうだった。部屋に入りきれなくて、庭の犬小屋でくつろいでいるロレンスさんの話では、ジパングは小さな集落の集合体のような国だったと聞いたけど。一体何があったと言うんですか?」

 

 

俺が話を切り出すと、ロザリーさんは深いため息を吐き、静かに語り始めた。

 

.

 

.

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

この国を治めているのは

内閣総理大臣ヒミコと言うらしい。ヒミコは妖術のようなものを使い、未来を見ては新しい方、価値の高い方へと国民を導き、人心を掌握すると、たった数年でジパングを経済大国に押し上げたそうだ。

 

しかし、ヒミコには疑惑もあると言う。いつまでも若い容姿の彼女は、その若さを保つために年に数人の若く美しい少女を生け贄に求めてくるという。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「はい!ロザリーさん。説明ありがとうございます。」

パンと手を叩き、気持ち良く語る彼女を遮るシズク。

 

「まぁ、要するにその総理大臣ヒミコが怪しいと言うわけですね?」

いくらなんでも省略しすぎだろー!

 

「しかし問題がある。ヒミコは一国の総理大臣だ。どうやって近付く?」

「正面突破!!」

ズガン!!

正面突破を提案したキョウイチは、言い切るより早くシズクの光速のパンチを顔面に喰らい、2階の窓を突き破りロレンスさんのいる犬小屋へと落ちていった。

「バカですか?敵に正面から行くなんて!!」

正体は一応強力な魔族であるキョウイチを一撃でぶっ倒すとは・・・

 

「ここに一人美少女がいるじゃありませんか!私が生け贄になって潜り込めば・・・」

「駄目だ!!」

つい大声を出してしまった。

「マコトさん?」

「生け贄になるなんて駄目だ!絶対に駄目。シズク・・・お前に何かあったら俺は・・・」

 

俺は彼女を見つめると、目を潤ませたシズクは俺に飛び付き自分の腕を俺の腕に絡ませて、頭を持たれかけてくる。

か、可愛い・・・

 

しかしどうしたものか。

ロザリーさんを見ると、ピサロがさすがは異世界の魔王とばかりの睨みを向けるから無理として・・・

 

「そうだ!少女がいないなら、少女をつくりましょう!」

シズクが言う。

何か嫌な予感しかしないんですけど・・・

 

 

 

秋葉原

 

そこには不思議な空間があった。

色んな人種?がいて、首からは変なかめらとか言うものをぶら下げている。

何故か背に荷物を背負い込んでいて、中からは紙の筒のような物を出している。

なんだここ・・・

あっきはばらー!

何処からか女の子の声が聞こえた。

 

「ここは秋葉原だ。ここでは色んな物が揃う。ここで衣装を手に入れよう。」

ピサロが先頭にたち、俺達を色んな店につれ歩く。先ずはここだと入ったお店。

「お帰りなさいませ旦那様。」

ヒラヒラしたドレスを着た女の子が出迎えてくれた。

グサッ!!

「ここは違うわよね!ピサロ?」

何処から出したのか、天空の剣をピサロの顔のすぐ横に突き立てるロザリーさん。

どこも似たような感じなんだな。

 

 

 

改めて入ったお店は防具のお店だけど、どれも防御力は度外視の見た目だけの布の服だった。

シズクとロザリーさんはお店に入るなり、女の子二人スーパーハイテンション状態になり店の奥に消えていく。

 

「なぁピサロは、もう魔王になるつもりはないのか?」

「あぁ、俺は強さや魔王の立場より大切な人を見付けちまったからな。それに・・・お前はしっておけマコト。どの世界の魔王もな、所詮はカミとか呼ばれるやつの手の上なんだよ・・」

「カミ?」

俺は世界の真実に触れようとしたとき、

「見てみて~可愛いドレスを見付けたよぉ。」

ドレスを数着持ったシズクが俺達の所に駆け寄ってきた。

「で、ピサロその・・・」

「ま、待て。その話はまたいずれな?」

「何のお話しですかぁ?」

シズクが笑顔で聞いてくる。ピサロは少しだけ青い顔をしているが、魔族の表情なんか分からない。俺はあまり気にしないでいた。

 

そんな俺は、シズクがピサロを睨み付けていたことに気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

.

 

.

「きゃ~たすけて~」

 

 

おえっ。

女装した魔族のキョウイチの、声を裏返した悲鳴が辺りを不快な気分にさせる。

これならまだイシスの王様を呼んだ方がはるかに良いレベルだ。

 

「可愛い私を食べる気ね~?」

 

酷すぎる・・・

ある意味パルプンテ級の威力を発揮するキョウイチの女装。

 

「・・・誰じゃ!わらわを愚弄するやからは。」

明らかに不機嫌な総理大臣ヒミコが現れた。ヒミコはあまりの怒りに我を忘れているのか、正体のヤマタノオロチの姿になりかけている。

キョウイチ・・・お前の女装・・・魔物の変身が解けてしまう程の威力なんだな。

 

その時、

「あら?ねぇあのドレスって買ってきた物と違くない?あれって確かシズクちゃんの・・・」

 

 

 

分厚い雲が辺り一面を覆った。昼間だと言うのに・・・先程まで太陽の日差しがまるで見えなくなった。

遥か上空には、幾つもの巨大な稲光が光の竜のように飛び交い、地上には巨大な竜巻が至るところで唸りをあげている。

ヤマタノオロチとなったヒミコは

「女!貴様何ものだ・・・え?ちょっそんなまさか・・・」

 

「ギ」

 

「ギ?」

ヒミコが台詞を途中でやめ、シズクの言葉を反復する。

 

 

「ギガデイン!!!」

 

 

 

もう言葉にはならなかった。

俺達は完全に視界が白い闇で覆い尽くされる。

 

何も見えない

 

何も感じない・・・これが死なのか?

 

 

 

 

 

「・・・さん!マコトさん!大丈夫ですか?」

女神のようなシズクが俺を呼んでいるのが聞こえる。何となくそのまま目を閉じたままでいると

 

チュ

 

唇にやわらかな感触が触れた。

俺は驚いて目を開けると彼女は頬を染め

 

「ベホマです。」

と言って微笑んだ。

 

 

辺りを見回すと船の上にいた。

ロザリーさんやピサロを始め、何故か犬小屋にいたはずのロレンスさんも包帯をぐるぐる巻きにしていた。まるでミイラの集団だ。

 

船底には人に変身することもできない程に力を失ったキョウイチが、たった一人で船を漕がされていた。

俺は自分の間違いを悟った。以前、ポルトガでロレンスさんの船を沈めたのはギガデインでも何でもなかったんですね?本物は、そんな生易しいものではなかった。

 

 

 

あの日ジパングが島ごと吹き飛び、世界地図から消えてしまったことを、僕たちはまだ知らない。

 

 

 

 

ーー続くーー

 

 

マコト Lv30 装備草薙の剣 布の服

シズク Lv180 装備 りょくの杖(改) 光のドレス

ロザリー Lv30 装備 天空の剣

ピサロ Lv30 クラス元魔王

ロレンス Lv25 装備 ぐるぐる巻き包帯

キョウイチ Lvしに 返事がない。ただの屍のようだ。




ネタ、考えなきゃやわぁ

応援してくださいね〜♪


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8話

.

 

 

.

 

.

ダダダダダ・・・

 

「あ!マコトさん帰ってきた。」

 

砂ぼこりを巻き上げながら、俺はまっすぐシズクの待つ方へ向かって走ってくる。

 

彼女は両手を広げ、俺が彼女の胸の内に抱き締めてくれるのを待つ・・・のだがちょっと勢いがありすぎる。このままではシズクに怪我をさせてしまう。何て事を考えてていると

 

ヒラリ

軽快な音でも聞こえそうなステップで、シズクは俺を避けるように道をあけると、俺は神殿の柱にそのまま突っ込んだ。

 

 

「マコトさん。凄いじゃないですかぁ!新記録ですよ。なんと15分も一人で行けましたよ。」

「なぁシズク・・・お前、怒ってるだろ?」

「・・・」

彼女は何とか不機嫌な表情を出さないように、笑顔で接しているようだが、長年共にいる俺にはシズクが苛ついていることは直ぐにわかる。

 

 

俺達は今、ランシールにいる。

ランシールは南の海上に浮かぶ独立国家。

と言えば聞こえは良いのだが、要は何もない田舎。辿り着くには海を越えなければならない。しかし、それに見合うような物は何ひとつない。どの国も所有権を主張しないため、独立国家となっている。

 

「本当にこんな辺境にオーブがあるんですか?」

そう言ったシズクはキョウイチを見ると、何故かキョウイチはガタガタと震えている。

 

「ほ、本当ですよ姫。昔、大魔王さまの命令で俺がこのガイアのへそに隠したのだから、間違いありませんよ。」

「ちっ!余計な事は良いんですよ。あるのか無いのかだけ聞いてるんです!」

「す、すみません」

 

シズクは、今度は不機嫌を隠さない表情でキョウイチを軽く睨むと、彼は泣きながら、見たことも無いような早さで走って、俺達の船へと逃げ帰っていった。

 

「それにしても、ガイアのへそといったか?魔法が使えないってのは厄介だよなぁ。しかも、何のしきたりか知らないけど、一人で行かなければならないとか・・・あの神父も大変な苦行を強いるよな。」

「いや、あれはきっと意地になっているだけだと思うぜマコト。あれは姫が一人で行かなければダメって話を聞いたときに、キエサリソウとか言って神父に記憶が消えそうな程のパンチを顔面に喰らわせたからなぁ・・・」

 

そう言って、最近シズクを姫と呼ぶロレンスさんは、俺と共にシズクの方に目線を配らせる。

 

「どうやら二人にもキエサリソウが必要なようですねぇ・・」

「いやいや、俺たちは大丈夫だから。キエサリソウはいらないから」

 

必死で俺たちが拒否すると、

「仕方ありません。私が行きますよ。」

シズクはことも無げにそう言った。

「バカな!俺の話を姫は聞いていなかったのか?魔法が使えないんだぞ?僧侶の君が行っても!」

ロレンスが言うと、

「そうだ!シズクに無茶はさせられない。お前に何かあったら、俺は・・・」

俺が言うとシズクは真っ赤な顔になった。

 

何だか久しぶりに良い雰囲気だ。ポルトガ以降知らない内にパーティに混ざり込む輩が増えた。本当はもう少しシズクと2人きりでの旅をしたかったのに・・・これでロレンスがいなければなぁ・・・

そう考えると、シズクは装備していた、りりょくの杖を握りしめ、

 

ラリホー!!

 

そう言って、ロレンスの頭をぶっ叩いた。

 

 

 

 

「あのマコトさん・・・ロレンスさんも寝ていますし、今は二人きりですよ?」

シズクは潤んだ瞳でが俺を見上げるように見詰めている。俺はそっと彼女を抱き寄せ、顔を近付ける。

 

 

 

そんな甘いひと時に

 

「そうだ言い忘れてたんだけどよ。ガイアのへそには強力な武具もあるから、忘れるな・・・よ・・・」

 

キョウイチが、船から戻ってきた。このタイミングってのがキョウイチらしすぎる。

 

「ふ、ふふふ・・・初めてですよ。私をここまで怒らせたおバカさんは。」

キョウイチは真っ青な顔で逃げようとしている。でも、2人の久しぶりの甘い一時を邪魔したからには、只では済ませませんと言った明確な怒りを露わにしたシズクは、逃げ出したキョウイチさんを回り込んだ。

 

 

イオナズ・・・

 

「待ってくれシズク!」

俺は慌ててシズクを後ろから抱き締めて止めに入った。彼女を抱きしめたときの彼女の温かさが心地好い。

自分のすぐ近くから、好きな人の香りが俺を包み込んでいる。

俺は今、幸せだ。

 

しかし

「遅かったか。」

「え?」

俺は我に返りキョウイチをみると、真っ黒焦げになって、口から煙りを出していた。

 

 

 

.

 

.

「はい、オーブです。」

「は、早すぎだろ!!お前が入って5分しか経ってないぞ!?」

 

 

彼女は傷一つなく帰ってきた。

本当、こいつだけは昔から良く分からない。どんなに大変な事も、事も無げにこなすくせに、オバケが嫌いだとか。

モンスターや悪魔は平気な癖に、ゾンビを見たら迷わずにニフラムをかます。

 

本当に人間なのか?

俺がシズクを見ると、瞳の虹彩の無い彼女が俺を見ていた。

 

「今、何か失礼なこと考えていませんでしたか?」

「お前はエスパーか!?それよりどうすんだよ。これから次のオーブを探しに行くのに、船をこぐ担当のキョウイチが死んじまったじゃねーか!!」

 

まぁ途中で止めたお陰で、消し飛ばずに何とか普通に死んでいるキョウイチは運が良いのかも知れない。

それに、ベホマがあれならザオリクはいったい・・・

何度もザオリクを使っているのだろうけど、その都度俺が死んでいるので、お目にかかったことが無い。

 

「ちっ・・・キョウイチさんを生き返らせれば良いのですよね?」

この女舌打ちしやがった。

シズクは何故か懐からナイフを取り出した。

いったい何をするのかと黙って彼女を見ていると、彼女はキョウイチの顔の傍に自らの顔を近付けた。

 

まさか!!俺以外にキスとかをするのか?

俺だって何年もの付き合いなのに、滅多にしてもらえないのに。

彼女はキョウイチの顔をそっと手繰り寄せ、そっと囁く。

 

「・・・キョウイチさん・・・早く起きないと、本当に殺しますよ?滅殺です!」

「ひい!!」

ナイフを頬に当てながら、声のトーンを下げたシズクが小さな声で囁くと、死んでいたキョウイチは飛び上がるように生き返った。

 

「ほら生き返りました。」

そう言ってシズクはルビス様の如き女神のような笑顔で微笑んでいた。

 

 

 

「ところでキョウイチ。オーブは全部で何個あるんだ?」

俺達はランシールを後にし、再び大海原に出ている。

潮風が少しベタつくけれど、近くを飛ぶカモメの鳴き声が、俺達の冒険に花を添える。

「ん~何個だったかなぁ。確かに魔王の命令で隠したのは俺だけど覚えてねぇな。確かランシールと、ジパングと・・・」

は?今ジパングって言ったか?

 

「ち、ちょっと待て!今ジパングって言ったか?」

「ああ言ったぜ。」

キョウイチは詰まらなそうにお尻をかきながら答えた。

 

「ジパングでオーブ獲ったか?」

「あ!」

 

俺達は甲板の上にパラソルを開き、お昼寝をしている彼女を見た。

確か・・・ジパングって、シズクのギガデインで島ごと消し飛んだよなぁ?

 

「なぁキョウイチ・・・お前全員を乗せて飛べたりしないか?」

「むりむりむり!!」

両手をブンブン振って慌てて否定するキョウイチ。

 

 

はぁ・・・俺達の冒険はここまでなのか?

 

 

 

 

 

 

そして伝説へ

 

 

 

勇者マコトは、愛するシズクと静かに幸せな家庭を築きました。

 

 

 

 

めでたしめでたし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なわけあるかー!!」

勝手なナレーションを入れているシズクに俺は全力で突っ込んだ。

「いつから起きていたんだよシズク。」

「ところで~の辺りからですよ?」

 

って、それはつまり最初からですよねぇ・・・。

 

「まぁ、無いものは仕方ありませんね。」

完全に他人事なシズクを差し置いて、マトモな提案は意外にも、不死身の商人ロレンスだった。

 

「ランシールの街の商人に聞いたんだが、何でもダーマでずっと不在だった賢者が最近誕生したらしい。賢者と言うくらいだから、きっと何か良い策を授けてくれるかも知れないな。」

「なるほど~賢者か。確かに賢者ならオーブが無くても何とかする手段を知っているかも知れない。言ってみよう!!ダーマ神殿へ。」

 

そうして俺達はダーマ神殿へ向けて船を進めた。

 

 

 

 

.

 

.

「いらっしゃいませ~。」

ダーマの神殿の中は、やたらと長い椅子が並んでいた。

「転職をご希望でしたら、二階へどうぞ~。お泊まりの方は地下一階です。」

「あのぉ~俺達は魔王討伐のため、賢者を探しているのですが・・・」

「あぁ!アトラクション関係のお仕事ですね?ではお二階へどうぞ~。」

受付嬢の素敵な笑顔に流されるように二階へ昇ると、そこには異様な空気の漂う空間だった。

 

そこにいる男達は一様に下を俯いている。首から変な紐(ネクタイ)をぶら下げ、自分の番が来るのをひたすら待っているようだった。

 

「次の方どうぞ?」

待つこと3時間、ようやく俺達の順番が回ってきた。

「不死鳥ラーミアを復活させるために、旅の助言を求めて俺達は賢者を探しているのですが・・・。」

 

俺達は案内係に促されるままに席につくと、一冊の分厚い本を渡された。

タイトルは"悟りの書"と記されていた。

中は全く読めなかったけど・・・

 

「これは・・・中々面白い内容ですね。」

なんとシズクは"悟りの書"を読んでいた。

 

すらすらと読んで見せるシズク。

賢者のブースを担当していた人は、身を乗り出しシズクをマジマジと眺める。

「それは悟りの書と言って、賢者になる資質のある者にしか読めない書物なんですよ!いやぁ~まさか本当に読める人に出会えるだなんて!!」

 

男は興奮ぎみにシズクに握手を求めていた。

「いやぁ~凄いですよ。今月で二人も賢者を排出できるなんて!」

「え?私、賢者になりませんよ?」

「そうでしょそうでしょ~・・・は?」

「だから私は賢者にはならないと。」

「なんでですか!!レア中のレアな職業ですよ?100年に一人と言われている憧れての職業じゃないですか!理由を聞かせて下さいよ!」

「可愛いくないからです。」

「・・・は?」

 

そうだ。シズクは昔、僧侶は癒し系で可愛いから僧侶になる!なんて言っていたっけなぁ。

こいつにとっては賢者さえも、可愛いくないって理由で断るんだな。

 

「そうだ!もう一人賢者が出たんですよね?俺達はその賢者を探しているんですよ。何処に行けば会えるか知りませんか?」

「ははぁ~貴方もあの笑顔にやられたんですね?彼女は可愛いですからね」

 

そう言って賢者担当の男は笑っていた。背後から身の毛もよだつような、寒気がするのはきっと気のせいだろう。

何にしても、俺達はその100年ぶりに出た賢者に会わなければならない。

 

 

 

 

「あれ?その後ろ姿は真か?」

俺達がブースの男と話していると、聞きなれた声が俺を呼び止める。

振り向くと、全身が筋肉の鎧で覆われた・・・筋肉ダルマのツカサがいた。

 

「お!ツカサお前生きてたんだな。」

「おおよ!しかもレベルもかなり上がったんだぜ?みろよこの棒を!これは如意棒と言ってな?戦闘中に使うと自由自在に伸びるようになるんだぜ?まだ、レベルが足りないらしくて、伸ばせないんだが。10万Gもしたけど、最強の俺には相応しい武器だと思わねーか?」

 

自慢気に笑うツカサ。

相変わらずアホだろこいつ。伸びないのはただの棒(ヒノキの棒)だからだよ。

騙された事に気が付いていないんだろうなぁ。

 

「なぁツカサ・・・お前ここに居たなら賢者様をしらねーか?」

「賢者?知ってるぜ。なんだマコト達は賢者を探していたのか。ほら、すぐ後ろにいるぜ?」

 

そう言って指差した先をみると、

見た目100点満点の魔法使い改め、賢者の見た目になったサキがいた。

 

「いや!見た目の話しじゃなくて、本物の賢者を探してるんだよ。」

「ちょっと・・・失礼ねぇ。ちゃんと悟りの書読みましたー!」

ジト目でサキが俺をみている。

 

「はぁ・・・せっかくの手掛かりを求めて賢者を探していたのに・・・サキじゃあなぁ。

唯一の希望の光が、メラもMPが足りない賢者とは。

いよいよもって先が見えなくなり気が遠くなってきた。

これからどうしよう。

親父の敵や世界を救うのなんか止めて、何処かで静かにシズクと二人で暮らすかなぁ・・・」

 

 

「・・・あのぉシズクさん?俺の声色を真似して、あたかも俺のセリフみたく言うの止めてくれません?」

「え?あはは・・」

 

あはははは

そんな俺達をみてサキは、二人とも変わらないねぇと笑っていた。でも、サキの笑顔は以前と違い、少し大人の女性を感じさせるもので、何とも言い難い魅力があった。

 

「俺達な、あのあと結婚したんだよ。」

左手を見せながらのツカサの言葉で、二人が大人に見えた錯覚を俺は確信に変わった。

 

 

.

 

 

.

 

「良いなぁ結婚。やっぱり結婚するのと、する前って、同じ一緒にいるのでも違うのでしょうね?」

「フフフ。私も結婚する前はそう思っていたけど、やっぱりちゃんと受け止めて貰えるって良いものよぉ。シズクちゃん達も早く結婚しちゃえば良いのに。」

「私達ですかぁ?う~ん・・・マコトさんは世界を救う勇者ですからねぇ、私なんかとてもとても・・・。」

「あら!大丈夫よぉ。結婚なんかしちゃえばこっちのもんよ?切っ掛けなんか適当に仕組んじゃえば良いのよ。何なら私の賢者の知識を授けましょうかぁ?」

「えー?本当ですかぁ?きゃー!!」

 

 

 

 

 

 

「あいつらうるせーな。」

ツカサが海図を手に、甲板の上できゃーきゃーやってるシズクとサキを見てぼやく。

「まぁ・・・聞こえないフリをしてやってくれ。」

「なんだ?マコトはシズクちゃんと将来とか考えてないのか?」

「俺にだって考えはあるよ。でもなぁ・・・振り向かずにあいつらを探ってみろ。きゃーきゃー言ってたのが嘘のように静かだろ?俺達の会話を盗み聞きしてるんだよ。」

「お、おお!?」

「お前迂闊な事を言ったら後で言質にとられるぞ?」

「女の子って・・・怖ぇ~。」

 

 

「「チッ」」

そんな俺達の小声の会話さえ聞いていたのか、女の子二人は口を揃えて舌打ちした。

 

 

 

「まぁ。サキの言う通り、改めて俺も武道家になり、サキも賢者になったんだから、先ずはレイアムランドのラーミアを見に行こうぜ?オーブが足りないのは、そのあとに考えよう!」

「はぁ!?お前、今何て言った?」

「ん?いやだから、先ずはラーミアの状態を直接見てから対策を考えようって・・・」

「そこじゃねーよ!!お前改めて職業に就いたみたいな事言わなかったか?」

「あぁ。そうだぜ?ダーマでちゃんと武道家になったんだよ。やっぱ定職に就かないと結婚できねーしなぁ。ガハハハハ」

 

なんだ・・・と・・・

するとこいつらって

 

「お前等今まで普通の村人だったんかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

見渡す限りの大海原に、俺の叫び声が響きわたり、近くの漁村では魔王の雄叫びと伝説になったことを知ったのは、ずっと後のことだった。

 

 

 

「なぁロレンス?何か船の上が騒がしいなぁ。」

「あぁ、ほらキョウイチ。ちゃんと船を漕がないと姫に怒られるぞ?」

 

船底では頭に大きなタンコブをこさえたロレンスと、首にナイフの傷痕が残ったキョウイチが、一心不乱に船を漕ぐ。

 

レイアムランドとは、全く逆な方向へと

 

 

 

 

―――続く―――

 

マコト Lv40 職業 勇者

シズク Lv1900 職業 僧侶

ロレンス Lv38 職業 行商人

キョウイチ Lv 50 職業 船漕ぎ

ツカサ Lv 5 職業 武道家(新米)

サキ Lv 10 職業 賢者




ダーマって職安ですよね?たぶん…


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9話

.

 

.

 

.

トントン!!

「静粛に。」

 

木槌が木の机を叩く音が、広い部屋に鳴り響く。

 

俺は後ろ手に縄を縛られ、証人台に立たされている。何故だ!何故こんなことになったんだ?

 

街の検察官が一通り俺の罪状とやらを並べたてる。有ること無いことを、彼等は俺を威嚇するかのように声を荒げて。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

少し遡る。

 

 

ピュー!

「冷てー!」

 

水鉄砲から綺麗な放物線を描き、俺のお尻に水をかける子供。

「こら!ポポタ!ダメじゃない。見知らぬお兄さんに水鉄砲をかけたら・・・って、ポカパマズさん!!」

「は?」

水をかけた男の子を咎める女の子。歳はまだ少女だろうか。あどけなさの残る笑顔が印象的だった。

しかし、ポカパマズって誰だ?

少女は男の子の手を引き、また後でと笑顔を残して走り去って行った。

 

「マコトさん。今の女の子はお知り合いなんですか?」

シズクは首をチョコンと傾け聞いてくる。

しかし、俺はこの旅に出るまでアリアハンを出たことがない。第一ポカパマズなんて名前に覚えがなかった。

そんな思考にふけっていると

 

「か、可愛い子だったな・・・」

走り去って行った女の子を愛しそうに眺めていたロレンスが呟く。

「ロレンス・・・あんた何歳だ?あの女の子は良いとこ14~5歳にしか見えなかったんだが。」

「俺か?俺は34歳だ。まぁ、今の女の子はそんなとこだろうな。」

 

ヨダレをたらしそうな顔で女の子をロレンスは見つめていた。

あ、この人自覚なしのロリコンだ。

俺が頭の中で呟くと、シズクは明らかに嫌悪感をもった表情でロレンスを睨み、両手で自分を抱き締めるようにしながら、後退りしている。

 

「へ、変態・・・」

彼女の呟きは、俺以外には聞こえなかったようだった。

 

 

 

「ポカパマズさん帰ってきたんだね?」

「いようポカパマズ!長い間どこにいってたんだ?え?違う?似てるんだけどなぁ・・・」

 

行く人行く人が俺をポカパマズという人と間違える。なんなんだこの村は。

 

ここは最果ての村。

名もな無き村。村長の話しによれば、ここは村長が作った村らしい。

何とか人は増え始めたけど商売がたち行かず、流通の経路が確保できなくて、ジリジリと衰退の道を歩んでいるのだとか。

 

 

 

 

 

「口に合うと良いんですけど。」

先程会った可愛い女の子が、俺達に焼きたてのパンを俺達に振る舞ってくれる。

 

彼女の名前は"ミーティア"

先程の水鉄砲の男の子ポポタのお姉さんで、村長エイトの娘だそうだ。

 

「本当にこの大変な時によく帰ってきてくれたな!ポカパマズ!」

村長は俺の肩をポンポンと叩き、やはり俺をポカパマズと呼ぶ。

 

「ところで村長。」

「ん?エイトと呼んでくれ。」

「じゃあエイトさん。ポカパマズって誰なんだ?」

「なに言ってんのよ~。あれだけ私や夫のエイトと酒を手に語りあって夜を過ごしたと言うのに・・・」

 

そう言って村長の奥様・・・ゼシカは懐かしいそうに空を見あげてかたる。

 

「・・・面白いことを言いますね。貴女」

 

声のトーンを何段階も下げたシズクの声とともに、身も凍るような冷気が、背後から俺を包み込む。

ギギギ・・・

首から金属音のような音でも聞こえるのではと言うような仕草で振り向くと

 

ズガァァァァァァァァァァン!!

 

凄まじい音ともに、彼女のハイキックが見事に俺の顔面を捉え、俺の意識を刈り取った。そもそもポカパマズは俺じゃないのに……

 

 

 

 

ー――――――――――――――――――――

――――――――――――――

―――――――――

 

 

「本当にポカパマズさんじゃないの?凄くよく似てるのに?」

ゼシカさんは、意識を取り戻した俺の顔をまじまじと見つめていた。

「はい。俺の名前はマコト。勇者です。」

「そっかぁ・・・そうよね。ポカパマズさんはもう少し年をとってたものね。」

彼女は心底残念そうな表情でため息をつく。

 

「ところで、エイトさんにゼシカさん。先程言ってた流通の件ですが、もし良かったら俺にやらせてもらえませんか?」

俺とゼシカの会話に割り込んできたのは、目を輝かせたロレンスだった。

大方、できたばかりの村に流通経路をひく。そこにお金儲けの臭いを嗅ぎ付けたのかもしれない。

これだから商人ってやつは・・・

 

「こうみえても、俺は旅の行商人。流通経路の確保は得意中の得意ですから。」

「ロレンスさんと言いましたよね?本当によろしいのですか?お礼できるようなものなんて、この村には何もないのよ?」

「いえいえ、とんでもありません。貴女のような綺麗な女性の頼みなら何なりと。」

ロレンスは自らの胸をドンとたたく。

 

「でも、それではあまりにも・・・そうだ。成功のあかつきには以前ポカパマズさんが置いていった剣と、家宝のこの宝玉を差し上げますわ?」

 

そう言って見せた宝玉は、なんとイエローオーブだった。

 

 

 

それから三日たったある夜

 

キャアアアアアアァァァ!!

 

村の闇夜の静寂を引き裂くような女の悲鳴が響きわたる。

 

 

――――――――――――――――――――

――――――――――――――

―――――――

 

 

 

「では、被告人ロレンス。前へ」

裁判長が、冷酷な瞳でロレンスを見ている。まるで心の内を覗き見ているかのように。

 

裁判長に向かって右側には、告訴したミーティアちゃんと、その後ろに弟のポポタと、村長のエイトさんに奥様のゼシカさんがいて、更には村人が彼女達の弁護についている。

 

向かって左側。つまり俺達の方には両手を後ろに縛られたロレンスと、彼の無罪を証明するために、俺とキョウイチが弁護についた。

 

 

トントンと木槌を突いた裁判長・・・シズクは

「では、先ずは起訴状を読み上げて下さい。」

 

すると、村の検察官もとい、警護にあたっている戦士達数人は、似合いもしないスーツに身を包み、罪状をよみあげる。

 

 

※※※※※※※

被告人ロレンスは、村長親子の良心に付け込み、

当時、喉から欲していた流通経路を創る代わりに、家宝及び家族を自分に差し出すよう要求した。

 

「意義あり!!」

俺は思わず叫ぶ。

「弁護人マコトの発言を認めます。」

 

「流通経路をひくって約束の最中、俺も現場にいました。しかし、そのような条件を付けてはいなかった。でっち上げだ!」

 

すると、ゼシカさんがシクシクと涙をみせる。

「わ、私達が嘘を言ってると言うのですか?確かに、私達の家からオーブは盗まれましたし、その時私達をロープで縛り・・・あんな・・・」

「ゼシカ、もう言わなくて良い。あんな恥ずかしい話を皆の前でするなんてキツいからな。裁判長!!証拠品の提出を要求します。」

村長のエイトが言って右手を上げる。

 

「認めます。証拠品をこちらへ。」

 

シズクが言うと、村人がオーブが置かれていた台座を持ってきた。それは、ガラスケースが割られ、中にあったはずのオーブが無くなっていた。

 

「この男は、妻の弱味につけこんだ卑劣なやり方で、オーブを奪っただけじゃなく、妻を・・・ゼシカを・・・」

 

「意義あり!!シズク!お前も見てきた筈だ。ロレンスは俺達の仲間のなかでは、比較的に良識のある人物だ。絶対にロレンスが盗みを働く訳がない!!」

 

それを勇者のお前が言うか?キョウイチがボソリと呟く。

 

「・・・弁護人。私のことは裁判長と呼ぶように。」

既にノリノリになっているシズクは、木槌でトントンしながら言う。

「しかし、弁護人の言うことも確かです。検察側はそれに対し何か言い分はありますか?」

 

「フフフ。ではこれを見てください。」

そう言ってシズクに何枚かの紙を手渡す検察官もとい、村長のエイト。

「それは、流通経路を創るために働かせた労働者の出勤記録です。見ての通り、彼等は死ぬ程に休憩もなく働かされている。しかも本人は死んでもオートザオリクがあるから大丈夫とか言って、働かせたと言います。」

 

「な!だって、オートザオリクは皆が持っているスキルな筈だ!」

「被告人黙りなさい!」

それまで黙っていたロレンスは堪らず叫ぶ。

しかし、オートザオリクが標準装備な訳がない。ロレンスは、シズクに顔面を木槌で叩かれ、さらに窮地へとたたされた。

 

俺達は確実に追い詰められていく。

 

 

「ロレンスさんが労働基準法を逸脱したのは判りました。しかし、それではミーティアちゃんと、ゼシカさんにセクハラをしたとまでは言えません。」

 

「待った!裁判長、ここで第一発見者を法廷に召還させてください。」

エイトはそう言うと、俺達をニヤリと不適な笑いをみせた。

 

 

エイトが連れてきたのは、艶やかな笑顔をたたえ、きらびやかなマントを翻し、筋肉ダルマに手を引かれた・・・

「さ、サキ!?何故きみが、そちら側に?」

証言台にたったのは他でもない。俺達の仲間、賢者のサキと武道家のツカサだった。

この村に来てから見ないとは思っていたけど、まさかこんな形で会うとは思いもしなかった。

 

「さぁ。あなた達が見たことをここで証言してください。」

検察官エイトが言うと、ツカサ達は少しだけバツの悪そうな顔をした。

 

 

「その日俺は夜の稽古を一人でしていた。すると夜の静寂を引き裂くような悲鳴がきこえ・・・」

「待った!!」

俺はツカサの話が最初からおかしい事に気が付き、思わず止める。

「お前が一人で修行なんてありえない!ここはスーの近く。ツカサが一人で戦闘できるわけがない!」

 

ぐぐっと、顔をしかめたツカサは横目にサキを見ると、サキは仕方ないとばかりに証言台にたつ。

「裁判長。ツカサの発言を訂正します。あの日私達は夜デートしていました。」

「訂正を認めます。で・・・サキさんはどのようなデートをしたのですか?」

 

ん?話の方向がずれてないか?俺はシズクの方を見ると彼女は目を輝かせて乗り出すようにサキの話を聞いている。

 

「ダメだこりゃ。話がずれている」

 

キョウイチのぼやきは俺以外の耳にはとどかなかった。

 

 

 

「とにかくだ!!イエローオーブが無くなり、彼女達にセクハラを働いたロレンスを牢屋にいれるべきだ!!」

何故か必死な村長エイト。

 

 

絶対的に不利になっていくロレンス

しかし、何故か彼は不適な笑いをたたえた。

 

「ふっ・・・村長エイトよ!お前に一つだけ決定的な事を教えてやる。奥様のゼシカさんは確かに美人だ。しかしなぁ・・・俺はロリコンだ!!」

 

同意を求めるように此方を見るロレンス。

なんでお前はドヤ顔なんだよ。

 

「よく言ったロレンスそれでこそ我が親友。俺もロリコンだ!!お前の気持ちは痛い程にわかるぜ?」

 

ニヤリと笑うキョウイチと、それを見て頷くロレンス。何だこの分かり合っている感は。

 

「マコトもそうだろ?やっぱ幼女は最高だよな?」

「・・・いや、俺はどちらかと言うとゼシカさんのような大人な女性が好み・・・」

 

 

「ふぅん・・・マコトさんは・・・そうなんですねぇ?

 

判決を言い渡します。被告人ロレンスさん並びに、弁護人のマコトさん。ついでにキョウイチさん・・・みんなまとめて死刑です!!」

 

 

シズクが判決を言うと、裁判所全体を冷気が覆う。

しまった!シズクのマヒャドか?

 

ならばとばかりに俺はマホカンタを唱え、薄い光の幕が俺達を包み込んだ。

これなら魔法がどんなに凄くてもきかない。

シズクはそんな俺達を冷酷なまでに恐ろしい捕食者の瞳でとらえると、大きく息を吸い、静かに吹きかけた。

 

 

キラキラキラ・・・

空気の水分が凍り、光を放つ。まるで北国で聞いたダイヤモンドダストだ。空気中のあらゆるものが凍りつく。冷たい空気は痛みとして俺達を襲う。

 

 

 

シズク・・・ふ、吹雪ですか

 

 

 

相も変わらず無茶苦茶なシズクの攻撃は、被告人のロレンスだけではなく、何故か弁護人の俺達まで巻き込み、裁判所を凍てつかせた。

 

 

.

 

 

 

.

 

ザザー・・・

波の音で俺は目を覚ました。

ここは?俺が朦朧とする意識を取り戻そうと辺りを見回すと、シズクと目があう。

彼女は精霊ルビス様の如く優しく微笑んでくれた。

 

「俺は一体・・・」

「大丈夫ですか?ちゃんと手加減はしたつもりなのですが・・・でもお陰でオーブが手に入りましたよ。」

 

そう言って彼女は手のひらの上で輝くイエローオーブを眺める。

ようするにこいつはドサクサに紛れてオーブをゲットしたわけだな?

そもそも、イエローオーブを盗んだのもシズクなんじゃ・・・

 

俺は彼女を見ると、彼女は機嫌良さげに海の風を肌に感じ楽しんでいるようだった。

言えない・・・これ以上はとても。

 

「それよりもマコトさん。腰の剣をよく見て下さいよ。その剣に見覚えはありませんか?」

この紋章は・・・

 

見間違える筈がない。小さい頃から背中を追い続けたんだ。

 

「父さん・・・」

「彼女達は1人の勇者と会っていたそうですよ。彼女とエイトさんは勇者オルテガと共に旅をした者だそうです。娘のミーティアちゃんとポポタ君が出来てからは戦線を放れたそうですが・・・」

「そっか・・・そうだったんだな。」

 

 

腰の剣を空に掲げると、オルテガの剣は光を受け輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁキョウイチ。姫とマコトのヤツ綺麗な話で終わらせようとしてやがるぞ?」

「ロレンス何も言うな。姫に聞かれたらまた屍にされるぞ?そんな事より、また航路を間違えたら、次は海に放り出されるぞ?しっかり船を漕ごうぜ?」

 

船底では二人のミイラが船を漕いでいる。

 

 

 

――続く――

 

マコト Lv40 装備オルテガの剣

シズク Lv18000 装備 裁判長の大金槌

 

屍2体と、喋る青い炎

 

ドサクサに船を漕いでいるツカサとか言ったキン肉マン

シズクの友達 賢者サキLv20(最大MP3)

 

 

 

 

 




ネタ切れ中〜


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10話

.

 

.

「霧が出てきたな・・・」

誰に言うでもなく呟く。

俺達が名も無き村を出てから三日たっていた。村を出て直ぐの頃には、クラーケンの襲撃などにあいもしたが、エイトとゼシカに預けてあった親父の剣の凄まじい切れ味等もあり、さほど苦労もなく船を進めていた。

 

改めてアリアハンを出たばかりのあの頃を考えると、一応は俺も勇者として成長したものだ。

 

「マコトさん。甲板に出てどうしたのですか?海の夜風にあたっていると、体にさわりますよ?さぁ中に入りましょう?」

声をきき振り返ると、静かな微笑みをたたえたシズクがいた。

俺は彼女の元に近寄り、彼女の肩に手をかける。

シズクは肩にかけられた俺の手を見つめると、俺の顔を見上げ、まるでルビス様のような天使の笑顔を見せてくれる。

 

 

俺は彼女の体を引き、抱き寄せる。

彼女の瞳が潤みをおびている。波の音が、海の夜風が、月のあかりが俺達二人を祝福してくれている。

俺は彼女に唇を重ねる。

名残惜しむように唇を離すと

彼女はホンノリ頬を染め、上目使いに俺を見ながら、モジモジとしている。

この永遠のような一秒が俺はずっと続けば良い。

彼女の幸せの為に俺はバラモスを倒す!

改めて決意が心を満たしていく。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・きろ!いい加減におきろってばマコト!!」

俺は引っ張りあげられるような感覚に、薄く目を開けた。

朝日の眩しい光が俺の目を刺激する。

眩しさに目を細め、目の前の人物に目をやると、唇を袖で拭っているツカサがいた。

・・・どうしてお前は頬を染めてるんだ?

 

「あ!マコトさんやっと起きましたか?朝日を浴びて浸っているようですが、あれは西陽ですよ?もう夕方ですから。」

「え?夕方?俺はそんなに寝てたのか・・・」

 

俺の頭が漸く回転し始めた頃、キョウイチがドタドタと足音をたてて甲板に駆け上がってきた。

 

「姫!マコト!東をみろ!海賊船だ!いつの間にか近くまで寄せられているぞ!」

キョウイチが言うと、マストの上で双眼鏡を覗くロレンスが海賊船を見ている。

彼は暫く双眼鏡で海賊船を探ると、おもむろに不機嫌な顔になり、双眼鏡を投げ捨てマストを降り、そのままため息を吐いたキョウイチと共に船底へと消えた。

 

俺は甲板に投げ捨てられた双眼鏡を拾い上げ、海賊船を見ると、海賊船の甲板中央に一人の女船長が立っていた。

健康的な日焼けが眩しい。肩口まで伸びた髪はシズクのようにキラキラはしていなかったけど、海風になびく様はとても女性らしさを出していた。

海賊の船長は、とても健康的な・・・シズクとはまた違った美しさを持っていた。

 

「ふっ。なるほど彼女はどう見ても20代後半。ロレンスやキョウイチには興味なしか。」

どんな美女も、幼女でなければ興味なしってとこか。緊急事態ではあったが、二人の行動につい笑ってしまう。

しかし、あの海賊の女船長・・・なかなかに美しい女性だ。

だがそれ以上に彼女の不運を嘆く。

まさか海賊達も勇者一行の船だとは思ってもいないのだろう。

軽くあしらって、適当な所で改心させ逃がしてやるか。

俺はオルテガの剣の柄を握り締めた。

 

 

 

ドガァァァァァァン!!

 

次の瞬間、凄まじい轟音を轟かせ、炎に包まれた海賊船は海の藻屑となった。

おそるおそる後ろを振り返ると、賢者の杖をかざしメラゾーマを放ったサキと、その何十倍もの威力をもつメラを放ったシズクの姿があった。

 

「だって海賊と言えば悪じゃん?ねぇシズクちゃん?」

「はい!悪は可及的速やかに処分しなきゃですからね」

女の子二人は、たいして悪びれる様子もなく談笑していた。

 

.

 

 

 

 

 

俺とツカサは目を点にしながら女の子二人を見ていると、海から俺達の船に這い上がってくる女がいた。女海賊だ。

 

「まだ私達は何もしていないと言うのに酷いじゃないか・・・」

「あんた海賊だろう?俺達が勇者一行と分かっていて襲いに来たのか?」

「襲いに来たわけじゃないよ?ふふ。このレッドオーブを勇者様に献上する代わりに、君にお近づきになりたくてね。」

大人な女性の雰囲気を存分に発揮した彼女は手のひらの上に乗せたレッドオーブを見せる。

 

彼女の手からレッドオーブを受けとると、彼女は男勝りな笑顔を見せてくれた。

シズクのような一見清楚な女の子も良いけど、男勝りな強気な彼女もまた別な魅力を感じる。

 

「あたしの名前は・・・」

 

 

 

 

ドボォォォォォン

 

 

 

 

次の瞬間、彼女は海に落ちていた。

彼女のいた場所にはハイキックを繰出した後の体制になっているシズクがいた。

 

「もう女の子の知り合いはいりませんよね?」

瞳の虹彩が消え失せた彼女が言う。ハッキリ言ってめちゃくちゃ怖い。しかし今回ばかりはやりすぎだ。せっかくオーブを届けてくれたのに、名前さえ名乗らせないとは。

 

「シズク・・・お前には良心ってものがないのか!?」

「え?両親ならちゃんといますよ?」

「・・・」

ダメだこりゃ。まるでわかっていない。

俺がため息を吐き、溺れはしないだろうが助けない訳にはいかない女海賊をみると・・・

 

「溺れてるな・・・」

「はい。溺れていますね・・・ドラゴンが。」

 

海には、先ほどまで女海賊がかぶっていた帽子を頭に乗せたドラゴンが溺れていた。

俺とツカサは無言でお互いを見て頷く。

 

「よし!見なかった事にしよう。」

ツカサの意見に賛同した俺達は船を進めた。

 

 

そう言えばシズクの両親って・・・頭の中に霧のようなモヤがかかる。

 

 

 

.

 

 

.

暫く船を進めると陸地が見えた。

川の深さは十分にあるようで、そのまま川を上っていくと、再びマストの上で監視をしていたロレンスが村を見付けた。

 

「あれは地図通りならテドンの村だ!」

旅の行商人ロレンスが、即座に現在の俺達の居場所を的確に教えてくれる。

 

「流石ロレンスさん。旅なれていて頼もしいですねぇ。」

シズクが笑顔でロレンスを褒め称えている。

珍しいなと、少し放れた場所で見ていると

 

「要するに、ロレンスさんにキョウイチさん、そしてツカサさんは・・・またもやレイアムランドへの道を間違えたと言うわけですね?」

三人はシズクのゴゴゴゴ・・・と擬音でも聞こえてきそうな笑顔に震えている。

 

「待ってシズクちゃん。」

そんなシズクを止めたのは賢者の少女サキだった。どうして結婚したのか分からないけど、一応はツカサはサキの旦那だ。ミスミス傷付くところを見たくないのかも知れないな。

 

「私ね?イオナズンを覚えたの!シズクちゃん私にやらせて。」

シズクが頷くと、サキは嬉しそうな笑顔で賢者の杖を天空にかざした。

 

イオナズン!!

 

サキが魔法を唱えると、三人の目の前に光の粒子が収束していく。空気を圧縮するように光の粒子を中心に集めると、弾けたように周囲のあらゆる原子を巻き込み大爆発を起こした。

 

 

キョウイチにはきかなかった。

ロレンスにはきかなかった。

ツカサは死んだ。

 

憐れ、まさかの旦那のみにイオナズンは炸裂し、ツカサは口から煙を出し、真っ黒になって倒れた。

サキは跳び跳ね魔法の成功を喜び、シズクもサキの両手を握り供に喜んだ。

良いのか?それで・・・

 

 

.

 

 

 

テドンの村は沢山の人で賑わっていた。

俺達が旅の途中に寄った町や村は、ある程度の違いはあれど、多少は魔物の影響なのか、暗い顔をしていた。

しかしテドンの村は、バラモスがいるとされるネクロゴンドの最も近くだと言うのに、どこよりも活気に溢れていた。

 

「勇者様一行ですか?え?アリアハンから?また随分と遠くから来たものだね。」

村の青年が気さくに話しかけてきた。

「この村はバラモスの影響はないのか?」

俺が不思議に思い彼に聞くと

「バラモス?さすがの魔王も、こんな小さな村までは襲わないよ。」

と言って笑った。

 

 

「なぁ何かこの村おかしくないか?」

「ツカサ・・・お前もやっぱそう思うか?俺も何かおかしいと思うんだ。特にあのシックスて名乗った青年。どこか人の生気を感じない。まるで人形のようだ。」

「あぁ、同感だな。こんな時正体は魔物のキョウイチがいれば、何か分かったかも知れないのにな。」

しかし彼は今は幼女もいないからと、船の見張り番をしている。

 

ツカサと同意見ってのが今一納得いかないが、とにかく俺の中の何かが危険信号を出している。

「シズク!気を付けろよ・・・って、あれ?あいつどこに行ったんだ?」

 

 

ふと周囲に、いつもいるはずのシズクがいないことに気が付いた。

 

俺とツカサはあまり気にしないで、シックスに言われるままに村の中心まで足を運ぶ。

そこには・・・今まで見たことも聞いた事もないような、不思議な空間だった。

先ほどまでは、こう言っては何だが只の寂れた村だったのに・・・

住居の中には、下のフロアーが全く見えない程深く真っ暗な闇の底へと続くような階段だけがあった。

 

.

 

 

「ようこそいらっしゃいましたぁ」

沢山のバニーガール達が、俺達を迎えてくれた。

 

少し前を歩いていたシックスは俺達の方へ振り向き、ニヤリと笑う。

「ここは世界最大の賭博場、通称“マボロシノダイチ”だ。二人とも、世界の事は一旦忘れて、日頃の疲れを癒してくれ!」

シックスは両手を拡げ、さぁ見ろとばかりに賭博場の入り口を開けた。

 

 

「すげーなぁ。お!見ろよマコト。最新のスゴロクまであるぜ?」

ツカサは大喜びで、スゴロク場へと駆けていく。

「なぁツカサ。本当に大丈夫か?俺達はこんな事をしてる場合じゃねーんだぜ?」

「少しくらい大丈夫だって。ほらオヤジ。スゴロク1回150Gだ。」

そう言ってツカサはお金を払い、スタートにつく。

係りの者に大きなサイコロを渡されると、ツカサはそれを天井に届きそうな勢いで投げた。

 

6

 

「お!いきなり6とは幸先が良いぜ」

ツカサは胸を張って歩く。

ツカサが6歩目のマスに止まった時だった。突如ツカサは俺の眼前から消えた。

「ツ、ツカサぁぁ!!」

 

「あ!残念でしたね。彼はいきなり落とし穴に落ちて、失格になったみたいです。」

シックスが笑いながら言う。

ツカサ・・・お前はどこまで残念なんだよ。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※…

 

 

何だ?どうなってるんだ?

俺もツカサも、さっきら少し進んでは落とし穴に落ちて先に進めない。このままでは路銀も尽きてしまうのは明白だ。

「イカサマじゃないのか?」

「全く・・・勇者様ともあろうお方が何て事を言うのですか。ほら、あのスロットマシンを見てください。可愛いらしい女の子が大当たりを出しているじゃありませんか。」

 

言われるままにスロットマシンの方をみると、大当たりを出してキャーキャー騒いでいる女の子が二人。

 

「サキさんとシズクちゃんじゃねーか。あの二人・・・半端無い数のメダルをもっているぞ?」

ツカサが言う通り、彼女等は持ちきれなくなったメダルを大樽に入れて、キョウイチとロレンスに持たせている。

 

「あいつ等すげーなぁ。」

ツカサの言うことも分かる。だけど俺はどうして俺達より先にカジノを見つけていたのかが気になる。

 

大当たり~♪

 

ファンファーレがカジノに鳴り響く。

どうやらまたサキが何か当てたらしい。見ればシズクと手を取り合って喜んでいる。

 

なんと1等賞でサキが光のドレスを当てたらしい。

 

その直ぐ直後にはシズクも大当たりの特賞をひく。

「お?シズクも何か当てたみたいだな。何だ?その光る石は。」

シズクは手にした石をじーっと見ている。

 

「凄いじゃないですか!それは一番高価なオリハルコンの原石ですよ。」

シックスが笑顔で駆け寄ってくる。

「おいシズク!やったな!オリハルコンだってよ。」

俺がシズクの大当たりを一緒に喜ぼうとすると、彼女はオリハルコンを俺の顔面に投げつけた。

 

「痛てー!!何をするんだ!オリハルコンは貴重な石じゃねぇか。」

「何でただの石が一番の宝物なんですかぁ!!こんなの私の家の庭にたくさん落ちてますよ!」

「落ちてるかー!!オリハルコンは神の石と言われててなぁ。とても貴重な金属なんだぞ?第一お前は俺と同じアリアハン出身だろうが!アリアハンにオリハルコンなんか落ちてねー!」

「・・・」

 

急に黙り込む彼女。

いったいどうしたと言うんだ?

 

「勇者様。僕とポーカーで勝負しませんか?僕はこれを掛けます。」

と言って、シックスはグリーンオーブを出した。

「ぐ、グリーンオーブか。じゃあ俺は・・・」

「勇者様は、彼女をかけて下さい。」

そう言って、先程から急に静かになったシズクを指差した。

 

「ば、バカな!そんなの無理に決まってるじゃねぇか。」

「でもグリーンオーブ必要でしょ?良いんですか?あのツカサって人、さっきからずっと落とし穴に落ちてますよ?お金・・・もう無いんじゃないですか?」

 

俺はスゴロクの方を振り向くと、バカの一つ覚えの如く、まさに落とし穴に落ちる瞬間のツカサの姿が目に入った。

 

結局俺はシズクの了承を得て、シックスとの差しでの勝負を受ける事になった。

 

 

 

.

 

 

.

ザワザワザワ・・・

 

ザワザワザワ・・・

 

回りの観客が色めきあっている。

俺は手元のカードをみると、エースのワンペア

しか揃っていない。

シックスを見ると、ヤツと目が合う。

ヤツはニヤリと笑うと、手持ちのコインを台座に追加する。

 

俺は勝負に出なければならない。あの様子ではヤツには勝てそうにない。

しかし、負けるわけには行かないんだ。

カードを持つ手に汗が浮かび上がる。

俺はコインを追加し、エース以外の3枚のカードを交換した。

 

くっ・・・結局俺はエースのワンペアだった。

 

「コール!!」

 

勝利を確信したかのような顔のシックスが勝負をかけてくる。

すまないシズク・・・俺はお前を守れなかった。

走馬灯のように彼女との思い出が頭をよぎる。

 

マコト 1.1.6.2.12

シックス 1.3.4.6.7

 

「え?ブタ?」

「ワハハハハ!!合計が21だ!俺の勝ちだな!ワハハハハ・・・」

椅子の上に立ち上がり、勝ち誇るシックス。

 

 

「それはブラックジャックだぁぁぁぁ!!」

 

 

 

「え?何で?合計が21が強いんじゃないの?」

狼狽え始めるシックス。

すると彼に呼応したかのように、カジノ全体が揺らいでいる。

いや、これはカジノじゃない。空間全体が揺れているんだ。文字通り幻の大地のごとく。

 

俺達は急いで入ってきた階段をかけ上がる。

後ろからは、沢山の悲鳴が頭の中で響き渡る。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

階段を登りきりテドンの村に戻ると、スッカリ朝になっていた。

しかし、そこには昨夜見たような賑やかな村ではなく、建物は全壊し、荒れ地には毒を放つ沼地。草はぼうぼうで、辺りには人であったのだろう骸骨が散乱していた。

 

俺は来た道を振り向くと、見覚えのある布切れを纏った骸骨が倒れていた。

ま、まさか・・・

 

「なぁシズク・・・まさかあいつ等全員?」

 

もしかしたら、彼等は生き返りたくて、シズクのザオリクを期待して彼女をかけたのかもしれないな。

 

しかし、そのシズクはいくら待ってみても彼女からの返事が来なかった。

 

「あ!シズクちゃん。立ったまま気絶してるぅ!」

 

 

サキの可愛らしい声が、廃墟になったテドンの村に木霊した。

 

 

 

ーー続くーー

 

 

マコト Lv42 装備オルテガの剣

シズク Lv?????? 気絶中

ツカサ Lv7 武道家見習い。スキル:落とし穴に落ちる。

サキ Lv28 賢者 スキル:ラッキーガール

 

その他2名 職業船漕ぎ スキル:荷物持ち




あまりズルズル書いていても、原作を知らない私だと限界がありますので、あえてオリジナル展開です。原作ファンの皆様、申し訳ありませんが、クスッと笑っていただければ幸せです。



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11話

.

 

 

 

 

.

「あなた・・・どお?あの子はお部屋から出てきましたか?」

「いや、ご飯の時だけは扉をあけるんだが・・・他は全く私達の話を聞こうともしない。」

 

妻はそれを私の口から聞くと、膝から崩れ落ちすすり泣く。

まぁ無理もないことだ。

私達は晩婚だった。私達には幼馴染がもう1人いたのだが、いつも勝手をして、しまいには過去の世界で護り手になるとかいって私達にの前からいなくなった。

幼い頃は男勝りな性格だった妻は、それにより男性不信になってしまった。彼女の将来を悲観した彼女の両親は、過去から未来へと冒険をしていた私を捕まえて、私の両親の仕事を餌に、無理やり結婚させられた。

まぁ私としてもやぶさかではないので、結果としては悪い話でもなかったのだが。

 

 

せめて一人娘は幸せに。その私達の想いは、娘を甘やかしてしまい、今では部屋に閉じ籠り、ゲームやら何やらにご執心だ。

 

「ふひひひ・・・小学生は最高だぜぇ。」

 

はぁ・・・また意味不明な事を言って、私達夫婦を悩ませる。

「あなた。このままでは私達の家に伝わる家業も勤められるのかどうか・・・」

「大丈夫さ。あの子も立派な娘だ。その時が来れば立派にお勤めを果たすさ。」

 

私は隣で泣く妻の肩をそっと抱き寄せた。

 

 

 

ピーンポーン・・・

 

ちっ!これから妻とってタイミングで誰かが訪ねて来たらしい。

確か玄関のカギは・・・ヨシ。

窓も全て閉まっているし、カーテンもしてある。

レイアムランドは極寒の地。煙突から煙が出ていても、留守かどうかは端からは分からない。

妻の濡れた瞳が私を見詰める。

少しだけヒンヤリした妻の体からは、甘い香りが立ち込めている。妻も私を求めているのだ。

すまぬ、どこぞの誰だかは知らぬが、今は客人をオモテナシしている場合ではない。

 

「あなた・・・でないの?」

「あぁ、今はマリベルお前を感じていたい。居留守を・・・」

 

 

ドゴォォォォォォン!!

 

 

 

「ほらキョウイチさん!貴方がチンタラやっているから、私がアバカムで開けてあげましたよ!」

「って、姫!それは蹴りであって、断じてアバカムではないから!」

「・・・何ですか?その反抗的な目は・・・って、あら?中にいらっしゃったのですね?」

 

蹴りの体制を慌てて正し、テヘっと笑う少女。

 

呆気にとられた私と妻を確認すると、彼等はぞろぞろと家の中に入ってきた。

 

 

 

 

「改めてうちの身内の無作法をお詫びします。俺の名前はマコト、勇者です。そして後ろに控えているのか仲間です。」

「はぁ・・・それはご丁寧にどうも。」

「こちらはラーミアさんのお宅ですよね?是非、魔王バラモスを倒すのにご協力を頂けませんか?」

 

勇者と名乗った青年は、さすがに勇者なだけあって礼儀正しかった。

しかし・・・

「後ろに魔王バラモスがいるじゃないですか。」

私が一人のこそ泥風の男を指差すと、勇者は私の指を追うかのように振り向く。

「あぁ、キョウイチは正体は魔物ですが、魔王とは別人です。気にしないで下さい。」

「し、しかし・・・以前、居酒屋で終電を逃した時に乗せてくれとタクシー代わりに呼んだ魔王バラモスにソックリだぞ?」

「ですが別人何です。」

勇者と本人はキッパリと否定する。余程彼を信頼しているのだろう。

 

私は改めて彼等を見渡すと異質な存在が目に入る。

 

サラサラと音が聞こえてきそうな黒髪を背まで伸ばし、その白い肌はほのかに染める頬を引き立てる。その瞳は、キラキラと輝きを放つ、人とは思えないような美少女が目に入る。

 

あぁ、あれはまだ私が子供の頃に出会った女神。精霊ルビス様に良く似た少女だ。

 

「ーーーーって訳なんですが・・・ラーミアさん聞いてますか?」

「あ、ああスマンね。要するに魔王バラモス城まで行きたいのですね?では決まりですので、私達ラーミア一族の大好物のオーブを差し出して下さい。」

 

テーブルの上に置かれたオーブ・・・

「あれ?足りませんね。」

「すみません。ブルーオーブは海底の奥ふかくに・・・」

「はぁ…ではシルバーオーブは?」

「は?シルバーオーブ?まだあるんですか?しかしキョウイチはこれで全部だと。」

 

「あ~マコトすまん、シルバー忘れてたわ。ネクロゴンドにも一つあるんだけど・・・面倒くさくてな」

「・・・やく、・・・なさい。」

「え?姫何か言ったか?」

「早く取りに行けー!!」

彼女の見た目とは裏腹に、魔王も震え上がるような睨みを見せた。

 

 

.

 

 

.

「で姫、ここからが問題なんですよ~。火山の大穴にガイアの剣を入れて・・・」

「ようするに!!その山が邪魔なんですね?分かりました。」

 

キョウイチくんの話をきくと

彼女は商人風の男に山のある方角を聞いていた。

 

「確か・・・右手にヒャドと左手にメラだったわね。」

彼女はブツブツ言いながら、両手に別々の系統樹の魔法を出すと、真ん中で光を収束させた。

やがて彼女が弓を射るような体勢をとると、光の矢が出現した。

 

 

メドローア!!

 

 

 

彼女が魔法の名前を唱えると、直径にして50mは有ろうかと言う光の矢が、私達の家の壁を壊し、海を切り裂き・・・大地を引き裂いた。直線上にあった全てのものは、文字通り消滅していく・・・塵一つ残さずに。

 

「何だ・・・何処かの世界で究極なんて言うから難しいかと思ったら、意外と簡単なんですね。しかも、別にたいした事なかったし・・・」

 

私達の家から一直線上に全てが消滅した地平線を眺めて彼女は言った。

 

ガダカタと震えているキョウイチくんは、半ば無理矢理ロレンスくんを連れて地平線へと向かって飛び立つ。

ふらふらと飛んでいるキョウイチくんの背中にロレンスくんを乗せ飛んでいく。

 

「…ツカサさんは何をしているんですか?」

「え?」

「早く貴方も取りに行くんですよ!」

「でも、あいつ等もう行っちまったし・・・それに俺にはサキさんがいる。」

 

流石に妻帯者は言うことが違う。私も妻を置いてバラモス城に行けと言われたら少し悩む。

私は勇者パーティを横目でみると、綺麗な少女は手に光を集めていた。

 

「れっぷうけん!!」

 

彼女がそう言って腕をふると、三日月のような形をした光がツカサと名乗る武道家を先に飛んでいくキョウイチくんのもとへ吹き飛ばし、そのままフラフラと飛んでいた彼等を巻き込み、地平線の彼方へと消えていった。

 

私はこれでいいのかと勇者を見ると、彼はいつもの事とばかりに私達夫婦が出したお茶を飲んでいた。

 

 

.

 

 

 

 

.

先ほどから部屋の外がうるさい。

アタイの名前はアイラ。ラーミア家の後取り娘だ。

ウチには大昔より女神、精霊ルビス様より賜ったお仕事がある。

 

《魔王が地上を荒らすとき、何処からともなく光の勇者が現れる。ラーミア一族は勇者がその勇気と力を示したとき、勇者の力になって下さい》

と・・・

 

近年、魔王を名乗るバラモスが現れ、世界中を火の海に飲み込んでいると、インターネットで知った。

アタイの好きな掲示板には、毎日たくさんの書き込みがあり、リアルタイムで世界の状況が手に取るように分かる。

 

"魔王バラモス乙"

"ついに来たか…"

"はい俺死んだー!"

 

だの3chの仲間は次々と書き込んでいる。そんな中で今アタイが注目している書き込みがあった。

勇者の出現の情報だ。

 

"勇者来たーー( ・Д・)ーー!!"

"勇者のバギでウチの屋根が飛んだー!!"

"俺の故郷が島ごと海の藻屑!"

"勇者は俺の嫁"

 

だの、意味不明な乱文がところ狭しとひしめき合っていた。残念ながら勇者はアタイ好みのイケメンではなく、どうやら女の子のようだ。

それにしても一体勇者とはどのような人物なのだろうか・・・

 

アタイがそんな考えに部屋で浸っていると、何やら先ほどから部屋の外が騒がしくなった。

どうせまた父さんが母さんとイチャイチャしてるのだろうと無視していたが、どうやらお客さんが来ているようだった。

派手な爆発音がさっきから数回聞こえる。

 

アタイはなんと無しに興味を持ち、壁に耳を当てて話を盗み聞きすると

 

『ねぇマコトさん。マコトさんはタレと塩だとどちらがお好みですか?』

 

透き通るような綺麗な声が聞こえた。

間違いない。これは美少女の声だ。

アタイの美少女センサーが働く。

 

『焼き方は?よく焼いた方が良いですかねぇ。何せ鳥は火が通りにくいですからねぇ・・・』

 

え?なんの話をしてるんだ?

アタイはさらに注意深く壁越しに彼女の話に集中する。

 

『飛ばないラーミアは只の鳥ですからね。焼き鳥にして食べてしまいましょう』

声のトーンを数段階下げた彼女の声が、俺の心臓をわしづかみした。

 

バターーン!!

 

勢いつけて扉を開く(殻を破る)。

焼き鳥になんかされてたまるか!

アタイは部屋を慌てて飛び出した。

 

「ほら出てきましたよ。」

彼女は雲が晴れ渡るような笑顔を見せてくれた。

予想通り・・・いや、それ以上の女神がそこいた。

 

「しかし本当にこんな手で出てくるなんてなぁ。」

「部屋に引き込もっている人ほど、人の声が気になるものですよ。」

 

 

 

 

.

 

「なぁシズク。本当にキョウイチ達を待たなくて良いのか?あの三人だってそれなりに戦力になるんだぜ?」

「大丈夫ですよ。マコトさんとサキさんと私の三人で充分ですよバラモスぐらい。」

「そうだよねぇ、シズクちゃんと私の魔法でバラモスなんかイチコロだよねぇ。」

 

三人を背にアタイは遥か上空を旋回する。

あの後もオーブが無いとといい続けていたお父さんとお母さんは、ルビス様によく似た少女の『やきとり』の一言に、あっさりと娘をさしだしたのだ。

 

『アイラ、しっかりとお役目に務めるんだよ?私と母さんはいつも見守っているからな?別の世界で。』

 

そう言ってお父さん(セブン)とお母さん(マリベル)は、そそくさと石板を片手に娘のアタイを見送った(追い出した)。

 

 

 

どこまでもネガティブなヘタレ勇者と、女神のような美少女二人。

せめてヘタレとのロマンスくらい…と思わなくもない。

 

しかし、久し振りに飛ぶ大空も悪くないものだ。

レイアムランドの冷たい風が頬を撫でて気持ちが良い。

部屋に引き込もってインターネットばかりをしていた頃には感じられない気持ち良さだ。

 

インターネットの掲示板・・・

あれはあれで楽しいものだが、考えが偏っていたことをアタイは彼等を通して知った。

勇者は女の子の方ではなかったのだ。

 

少し残念な気もするが、勇者なら魔王を倒した後も忙しいだろう。そうなれば移動にアタイが必要なはずだ。長く共にいればアタイにもワンチャンくらい……。逆に、この出会いを女神ルビス様に感謝の祈りを捧げたいくらいだ。

 

東の空が赤みをさしてきた。夜明けは近い。

うっすらと射し込む朝日が、かつて山であったネクロゴンドを映し出す・・・

 

あれ?山がない?

ってか何だ?さっきから一直線上に何もかもが無い空間があるのは。

海さえも引き裂き、未だに海水は引き裂かれたままだ。親父に母さん。世の中は不思議な事が沢山あるものだな。やはり世界を自分の目で見るのは大切なのかも知れない。

改めてアタイはこの出会いを感謝した。

 

さぁ、魔王バラモスはもうすぐそこだ!!

近くに確か祠があるからそこで下ろせば良いだろう。運が良ければ、勇者はバラモスを倒したあと、そのまま二人でハネムーンなど良いかもしれない。

 

あぁ、これからレイアムランドに創る愛の巣の事で頭がいっぱいだ。

家はやはり卵の形がいいな。

などと1人未来予想図を妄想していると

 

 

 

 

 

ブチブチ・・・ブチッ

 

 

 

何だ?さっきから翼の辺りがチクチクするなぁ。

アタイは背中の三人の方を振り向くと、キラキラと赤く光る羽根が無数に舞っていた。

その羽根は朝日を受けキラキラと輝き、まるで幻想的な雰囲気を創っていた。

 

て言うか

アタイの羽根をもがないでー!!!

 

 

なんと、ルビス様の如く美しい少女はアタイの翼から羽根をむしりとっていた。

その瞳は虹彩の消え失せた、女神どころか魔王のような冷徹な瞳だった。

 

「今貴方から穢らわしい波動を感じました。」

彼女の一睨みにアタイは息を飲み込まれる。

 

 

あぁ、親父に母さん・・・外の世界は怖かったよ・・・

 

 

 

そうして気を失ったラーミアと三人は、魔王バラモスの部屋に向かって真っ逆さまに墜ちて行った。

 

 

 

 

ーー続くーー

 

 

勇者マコト Lv50 ヘタレLv99

僧侶シズク Lvスカウターが破裂

賢者サキ Lv30 美少女

ラーミア・アイラ Lv45(ネットの世界では)

 

その他三名 ネクロゴンドの何処かで屍の翔と仲間入り。

 




なんと次回は早くも魔王バラモス戦。作者はいう。細かく書くとゲーム知らないのがバレるから、サクサク進めなきゃと。


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12話

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まだ幼い子供の頃。

俺は親父の後ろ姿が好きだった。

 

 

城の兵士長だった親父は、アリアハンでは右に出る者無しと言われた勇者だった。

魔王軍による世界の蹂躙される以前は、アリアハンを中心とした世界だったと言うが、俺の物心が

ついた頃には世界中の国同士が小競り合いを繰り返す世の中になっていた。

 

親父は戦争の度にお酒を飲みながら、声を殺して泣いていたのを覚えている。

 

俺が14才の頃、突如魔物は凶暴化した。

 

軍事国家のネクロゴンドが僅か3日で陥落し、魔王を名乗るバラモスは、その力と恐怖心を人の心に植え付けた。

 

親父もアリアハンの守りの為に戦っていた。

しかし、いくら親父が強くても多勢に無勢。仲間の兵士達は次々とその命を散らしていった。

 

このままでは消耗戦。いずれは魔王軍に負けると判断したアリアハンの国王は、親父にある密命を出した。

 

"魔王バラモスの討伐"

 

親父は愛剣だけを携え旅に出る。

 

 

『マコト・・・父さんは魔王バラモスを倒しに旅に出る。お前は父さんの息子。母さんを守れるのはお前しかいない。母さんを頼んだぞ?』

 

そう言った親父は、まだ小さかった俺の頭に大きな手を乗せ、そして笑った。

厳格な親父の最初で最後の笑顔・・・

きっと親父は嬉しかったのだろう。国の為に人と戦うのではなく、全ての人の為に魔王バラモスと戦えることに。

 

 

 

俺は今でもその笑顔を忘れてはいない。

 

 

 

 

そして2年後。

 

俺の16の誕生日も間近というころ。俺達母子に届いた訃報。

親父は魔王との戦闘中に、足を踏み外しギアガの大穴と言われる底無しの大穴に落ちて死んだのだ。

 

魔王バラモスは人類に恐怖と絶望を与えた敵。だけど、俺にとっては親父の仇でもある。勇者としては問題ある発言かもしれないが、俺にとっては絶対に倒さなきゃならない敵・・・

 

それがバラモスだった。

 

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.

俺達は今、バラモスがいるであろう扉の前にいる。かつて王座の間に続く煌びやかな装飾された扉の隙間からは、物凄い熱気と覇気が溢れている。今までのヤツ等とは桁違いだ。

魔王はすぐそこにいる。

俺が扉の取っ手に手を触れたその時・・・

 

「マコトさん・・・」

 

それまで静かだったシズクが心配そうな顔で俺の腕に手を乗せた。

「この扉の向こうには魔王バラモスがいる。最悪の場合もあり得る。」

彼女はフルフルと顔を振る。

「もし・・・もし俺が倒れる事があったら、お前はサキさんを連れて逃げてくれ。だけどもし・・・もし生きて帰れたその時は・・・」

「その時は?」

 

彼女の瞳が潤みを帯びている。

キラキラと輝くその瞳は、より一層に美しさを引き立たせる。

俺は決意をもって彼女に、自分の気持ちを伝えよう・・・

これが最後になるかも知れないから・・・

 

「シズク・・・俺は・・・」

「は、はい!!」

 

 

 

「さっさと入ってこんかー!!何時まで待たせるのだ!!」

 

 

 

バーンと勢いよく魔王の部屋の重圧な扉が、まさかの内側から開いた。

 

「貴様等が近くまで来ているのを部下からの報告で聞いていたから、せっかくワシ自らマグマを敷き詰めて待っていたと言うのに、火事になったらどうするんだ!!来たならさっさと入らんか!」

 

 

意外とマメな魔王バラモスが現れた。

 

 

「・・・で・・・んですか!」

「なんだ?小娘!ハッキリ言わんか!あまりの恐怖に声も出ぬか?ガハハハ」

 

バラモスは、俺達を見下し笑っている。

「あ・・・魔王に死亡フラグたった」

ボソッと呟く賢者のサキ。

 

「ええい!煩いわ人間共め!くらえ、イオナズン(Lv99)!!」

 

無意味に自分の呪文が強力な事をアピールするバラモスの腕から、光の粒子が俺達の目の前で凝縮されていく。

狭い空間に集まった粒子は一気に弾け、回りのあらゆる原子を巻き込んで大爆発を起こした。

 

自慢はどうかと思うが、流石は魔王バラモスのイオナズン。今までのイオナズンよりは遥かに凄まじい威力だった。

 

さらにバラモスは大きく息を吸い込むと、灼熱の炎(Lv99)を重ねてくる。

 

 

 

俺は盾を前に爆風と熱から身を守るが、みるみる盾が熱で融解していく。

バラモス更にイオナズンを重ねようと、魔力を凝縮させている。

 

このままではヤバい。

せめて後ろの二人だけでも守らなければ・・・

俺が死を覚悟したその時だった。

 

盾の前に両手を広げ立つ姿が見えた。

 

 

長い髪が爆風に揺られている。イオナズンのはっする光の逆光で表情はよく見えなかったけど、いつも見ていた唇は、優しい彼女の微笑んでいるときの形をしていた。

 

『マコトさん、貴方は勇者なんだからこんな所で倒れちゃダメです・・・魔王を倒して、そして必ず幸せになって下さいね・・・』

 

聞こえる筈のない彼女の声が頭の中に流れてきた。

 

 

ドガァァァァァァン!!

 

止まっていたような時を経て、バラモスの放ったイオナズンは轟音と共に爆発した。

 

 

 

.

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

――――――――――――

―――――――

 

「シズク・・・しっかりしろ!早くベホマを!」

俺が爆発で壁まで吹き飛んだ彼女を抱き抱え、彼女に話しかける。

「マ、マコトさん。良かった・・・無事ですね?」

「バカ!何で俺何かの為に・・・」

 

俺の頬を一筋の暖かいものが伝う。

その涙を彼女は薄目を開け、震える手を俺の頬に添えて涙を拭う。

 

「マコトさん。まだ終わってないよ?まだ泣いちゃダメ。マコトさんにはまだ世界中の人の希望を背負っているのだから・・・」

「世界なんかどうでも良いんだよ!俺はお前がいなきゃダメなんだよ。」

「マコトさん・・・また泣いた。案外マコトさんって泣き虫ですよね・・・」

「シズク・・・」

「私・・・最後にさっき言おうとしてた言葉が聞きたいな・・・」

 

彼女は既に瞳を閉じたままに話す。彼女の元々白かった肌が、生気の色を失っていく。

嘘だと思いたかった。

いつも隣で微笑んでいた。

たまに怖いが、優しかった。

あぁ・・・俺はこんなにも彼女のことを・・・

 

 

「シズク・・・俺はお前を・・・」

彼女の力の抜けた腕をとり、彼女の胸に顔を埋めて泣いた。

シズク・・・

 

 

「ガハハハ!僧侶が死んだか?ワシのLv99のイオナズンで・・・」

「うるさい!!」

俺は今、初めて魔物に本気の怒りを感じた。

 

見ていろシズク、俺は必ずお前の仇を取るからな!そして・・・

 

 

 

 

 

 

――続く――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――次回予告―――

 

 

彼女は光となって消えて逝いった。

最後まで微笑みを浮かべたままに・・・

マコトの慟哭が鳴り響く。

勇者マコトの怒りと悲しみが天を貫く時、一柱の光が彼をうつ。

光に包まれた勇者マコトは、光の大勇者となり彼の力が覚醒する。

 

光の勇者の一閃は魔王バラモスを撃破する。

 

 

「シズク・・・二人で光となって共に暮らそう。俺達はいつも一緒だよ。結婚しよう・・・」

そうしてマコトはシズクの唇に、そっと唇を添えた・・・

 

 

次回、天空の結婚式

 

この次も見なきゃお仕置きよ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・おいシズク。お前よく喋るな・・・」

「え?・・・あ!バラモスにやられてお腹が痛い。」

「嘘吐けー!!第一爆発は背後だっただろ?なんでお腹なんだよ!だいたいなんだよ次回予告って・・・」

 

彼女は慌てて背中を擦り出す。

 

「「・・・」」

 

 

「ちょっと見せてみろ!」

「な!ちょ、ちょっとそこは!!お、女の子の服を捲ろうとするなんて・・・」

「うるさい!良いから見せてみろ!」

「あん・・・え、エッチ!痴漢!通報しますよ!!」

 

ジタバタと暴れるシズク。

 

「「・・・」」

 

 

「綺麗だな。」

「え?マコトさん・・・本当?」

 

照れる彼女の頬がホンノリ赤く染まる。

本当に彼女の背中は綺麗だった。真っ白で滑らかなきめ細かい肌。

そして、あれだけの爆発を直撃したのにも関わらず、傷一つない・・・とても綺麗な背中だった。

 

 

「バカな!!Lv99のバラモスであるワシの攻撃を直撃して無傷だと?」

俺達の会話を聞いていた魔王の顔から笑みは消え、ピンピンしているシズクを見て狼狽えている。

 

「Lv99?ゴミですね。」

 

死んだフリを諦めたシズクは、今まで見てきたどんな瞳より冷たい瞳をしていた。

こ、怖っ

 

「参考までに教えますが、私のLvは53万です。」

 

い、今なんていった?

流石の魔王も絶句している。

 

 

 

「「ご、53万!?」」

 

 

 

 

綺麗にかつ、華麗にバラモスと俺の突っ込みがハモる。

 

 

あまりにも規格外の回答が辺りを凍らす。

一歩、また一歩と後ずさる魔王バラモス

 

「ルーラ!!」

魔王が呪文を唱え全身が光につつまれると、次の瞬間遥か上空に飛び上がる。

そして魔王は東の空へ凄まじいスピードで飛び去った――――――筈だった。

 

ガンッ!!

上空で物凄い勢いで見えない壁にぶち当たったバラモスは、そのまま真っ逆さまに墜ちてきた。

 

「知らなかったんですか?僧侶(ワタシ)からは逃げられませんよ?」

そんなの聞いたことも無いよ。

シズクは、墜ちてきたバラモスの頭をグリグリと踏みつけている。

 

心なしか魔王が興奮しているように見えるのは気のせいだろうか・・・

 

 

「バラモス、今こそ親父の仇を討たせてもらうぜ・・・」

「ちょっと待て!!聞き捨てならねーな!」

 

いつの間にか背後に来ていたキョウイチが振り上げた俺の剣を止めた。

 

.

 

 

 

.

「お前等いつの間に?」

「今来たとこだよ。それよりも・・・あれはどんな状況なんだい?マコト」

俺の質問に共に合流したロレンスがこたえる。

 

そんな俺達の会話をよそに、珍しく真面目な表情のキョウイチは

「諦めろバラモス。」

バラモスに言う。するとバラモスはウットリとした表情を一変させ

「あ、アニキ!!お前どこに行ってたんだよ!いくら双子だからって、俺に全部押し付けやがって。このロリコンが!」

「う、うるせー!お前が魔王をやりたがったんだろうが!!この中二野郎が!」

 

なんと・・・キョウイチはバラモスと双子の兄弟だった。

どおりで・・・

ロリコンに中二病・・・

魔物って種族はマトモなヤツはいないのだろうか。

 

 

 

ギャーギャーと口喧嘩を始めだした変態兄弟。

とても低レベルだ。

 

「だいたい相手をよく見ろ!お前が姫に勝てるわけがないだろうが!!」

「あ?姫だ?何を言って・・・・・・!?お、お前はまさか!!」

 

 

ズガァァァァァァァァン!!

 

 

 

魔王バラモスは、何かを言おうとした瞬間シズクの痛恨の一撃クラスのハイキックを顔面に喰らい、キリキリと擬音をたて、回転しながら吹き飛んだ。

 

「マ、マコトさん!今です。今こそ勇者の力で、この変態バラモスを・・・いえ、魔王を倒すんです!!」

ご丁寧に言い直すシズク。

でも、その肝心な魔王バラモスは・・・

 

「それ、もう倒してますよね?」

俺が言うと

「死んでるな。」

「あぁ、駄目だなこりゃ。」

「バラモス・・・安らかに眠れ・・・」

「だから死亡フラグって言ったのに。賢者は何でも知ってるんだから。」

 

 

ツカサにヒデアキ。

キョウイチにサキが思い思いに呟く。

 

 

「ちょ、ちょっと何勝手に死んでるんですか!魔王は勇者が倒して平和にする。そして重圧から解放された勇者は私にプロポーズってシナリオがハッピーエンドに決まってるでしょ!!やり直しです。やり直しを要求します!!」

 

シズクは恐らく最初から計画していたであろう企みを漏らしながら

無茶苦茶な事を言って、完全に白眼をむいているバラモスの襟首を掴み、ぐわんぐわんと揺さぶる。

 

 

 

まぁ・・・色々あったけど、とにかく俺達はついに魔王バラモスを倒したんだ。

世界中を恐怖のどん底に落としたバラモスはもういない。

 

 

「さ、帰ろうぜ?」

俺はシズクの肩を抱き寄せると、彼女ははいと微笑んでくれた。

 

 

俺の幼馴染みがこんなに可愛いわけがない。

 

 

ふと浮かんだ言葉を胸に、俺達はそれぞれの遥かなる故郷を目指すのだった。

 

 

 

 

――続く――

 

 

 

魔王バラモスを倒した。

 

 

 

マコトは経験値1を手に入れた。

シズクは婚期のタイミングを失った。

ツカサはお笑い担当のスキルを手に入れた。

サキは呟きスキルが上がった。

キョウイチは船漕ぎの職を失った。

ロレンスは・・・全財産をシズクに奪われた。

ラーミアのアイラは焼き鳥にされずにすんだ。

シックスはちゃっかりテドン以降憑いてきたが、あっさりシズクにニフラムで強制的に成仏させられた。

 




長々とありがとうございました。次回はアリアハン編のエンディングです。皆様暖かいコメントありがとうございました。とても励みになります。


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13話

.

 

 

 

 

 

 

暗い闇の中で光と金属音が静寂を引き裂く。

 

 

「何故そなたがこの世界にいるのだ。そなたに与えた世界はこの世界ではないはずだが?」

「今の俺はもうお前の人形じゃない!!」

「笑わせる!!」

 

闇の奥深くにいる者の唱えたマヒャドがピサロと呼ばれる男に直撃し、爆風とともに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 

 

ピサロは凍りかけた腕をベホマで回復しながら、仲間の女と二人、姿の未だ見えぬ者と距離を保つ。

「どお?ピサロ。」

「やっぱりダメだな、まるで刃が通らない。やはり俺ではヤツにダメージを与えることができないみたいだ。ロザリーの方はどうだ?」

「私の方もダメね。さっきから天空の剣が沈黙しちゃってるもの。」

「そうか・・・やはり天空の剣でもヤツには届かないのか。」

「前から思っていたけど、ピサロあんたアレを知っているの?」

 

ピサロは固唾を飲み、意を決したように話す。目線と折れてしまった剣を相手に向けたままに。

 

 

 

 

「ヤツの名前は大魔王ゾーマだ。」

 

 

 

 

ロザリーはその名前に覚えは無かったが、名前を聞いた瞬間に鳥肌が全身をおおった。彼女自身初めての経験だったけど、それがゾーマと呼ばれる者の凄まじさだと言うことは経験から理解した。

 

「ゾーマは大魔王とも言われる、言わば魔界の神だ。俺達魔王と呼ばれる者は、全てゾーマから借り受けた力を持つ者達なんだ。」

「ピサロ・・・かつてデスピサロと言われたあなたもそうなの?」

「そうだ。俺は進化の秘法で最強を求めていたときにヤツとは出会った。ヤツは俺に魔王のごとき力を与えてくれた。同時に破壊衝動も与えられて理性を失ったんだが・・・そんな時に出会ったエルフの少女が俺の正気を取り戻してくれたんだ。」

 

「ピサロ・・・」

ロザリーは自分とピサロとの出会いに胸が締め付けられた。

「ロザリー・・・俺はお前に会えて良かった。悔しいが俺ではやはり神であるゾーマには敵わない。少しでもマコト達の為にヤツに手傷を与えておきたかったんだが・・・。ロザリーお前はマコト達の処にむかい、ゾーマに関わるなと伝えてくれ。俺は何とかお前が逃げる時間を稼いでみる。」

「ピサロ・・・嫌よ!私は最後まであなたと戦うわ・・・」

「ロザリー・・・」

 

 

「別れの挨拶は済んだのか?祈る時間くらいならくれてやるぞ?」

「ふん!大魔王ゾーマ様ともあろうお方が、ずいぶんと優しいじゃねーか?」

「余にも死に逝く者への手向けを与えるくらいの気まぐれはある。死、それが汝の運命だ。デスピサロよ、せめて我が手で闇に帰るがいい!!」

 

それだけ言うと大魔王は手の前に見たこともないような、大きな光の球体を出現させる。

 

 

 

 

すまないマコト・・・

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

 

 

.

 

 

 

 

「くっ!なかなか手強いな。」

俺達は今、確実に窮地へと追い詰められている。

柔らかそうでいて固い。あの不特定な形状のモンスターは、俺とシズクを取り囲む。

 

「シズク、俺の後ろに下がっていろ。」

言うが早いか、行動が早いか、彼女は俺の背後に身を隠す。

「それにしてもこの窮地・・・どうしたものか。」

「全く・・・マコトさんが油断するから追い詰められるんですよぉ。」

「だってよ、メタルスライムなんてどうせすぐ逃げちまうじゃねーか。」

「だからと言って剣も抜かないなんて、バラモスを倒したからって調子に乗りすぎなんじゃありませんか?」

「ムカッ!だいたいバラモスを倒したのはお前だろうが!俺は調子になんか乗ってませんー。」

「何かムカつきますね。」

 

彼女の瞳から虹彩が消え失せる。

これ以上は危険だ。このままではバラモスを倒したのに家に帰る前に死んでしまう。

俺が渾身の力をオルテガの剣にこめて、メタルスライムに斬りかかる。

ヒラリ

軽快なリズムで難なくかわすメタルスライムは、10匹纏めてメラを唱える。

 

「あちーっ!!」

メラにより引火したローブから、魔法のものとは違うダメージを与えられる。

「俺の一張羅が・・・」

「・・・フフフ・・・あはははは」

突如シズクが肩を震わせて笑いだした。

 

「何だかこういうケンカ久しぶりですね。」

目に涙をためるほど笑っているシズク。だが確かに久しぶりかもしれない。

アリアハンを出たばかりの頃はいつもこんなだったよな。

野宿の時に、寝ている俺の毛布を剥ぎ取られ風邪ひいたり、夜中に寒いからと言って焚き火を消さずに寝たら、森が焼けてしまったり。

 

宿屋でもそうだ。

シズクがベッドで俺は床。でも明け方になるといつの間にか俺もベッドで一緒に寝ていた。少し寒そうなシズクを後ろから抱き締めてやると、とんでもない威力の裏拳が飛んできたり・・・

 

夕食を買いに行く係りはシズクだったな。

お前は商人のおっさんに笑顔で語りかけては、店が潰れちゃうんじゃないの?って程の値切りをさせていたのを、俺は知っていた。

 

雨の日はお前は俺のローブの中に入り込んできたよな?

 

アリアハンの田舎町から旅してきた俺達は、いつも二人で支え合ってここまできたんだよな。

 

 

.

 

 

 

 

そして、旅が進むにつれて、いつの間にか仲間が増えたんだよな。ツカサやサキ、キョウイチなんて最初は敵だったしな。

俺達の魔王討伐の旅の中で、俺はかけがえのない大切なものを手に入れていったんだ。

 

最初は親父の敵討ちくらいの気持ちだったこの旅。シズク・・・お前のお陰で俺は本当の意味で勇者になれたのかも知れないな。

 

シズク・・・アリアハンに帰ったら俺はお前にプロポーズをしよう。最初は勇者として事後処理も色々あるだろうけど、これからは二人で幸せに暮らしていこう。

 

彼女の方を見ると、まるで俺の心の内の決心を聞いていたかのように

 

「さぁ!こんな敵は早く片付けてアリアハンに帰りましょう?」

そう言った彼女は、朝日のような輝く女神のごとき微笑みを見せてくれた。

 

――――――――――――――――

―――――――――――

―――――――

 

 

「剣・・・折れてしまいましたね。お父様の形見の品だったのに。」

「あぁ。でも仕方ないさ。お前を守って折れたのなら親父も満足だろうよ。」

「はい。」

彼女は俺の肩に自分の頭を持たれかけた。髪からは甘い香りがした。

 

 

「あの丘を越えればアリアハンだ。早く帰ろうぜ!」

彼女と二人、手を繋ぎ丘の向こうへ歩く。

 

 

 

ここで仲間に付いて語ろうと思う。俺にとっては何よりも大切な存在だ。

 

 

 

先ずはツカサとサキだ。

 

思えば彼等が一番付き合いが長い。まだアリアハンの大陸を出る前、隣の村からだったよな。

 

最初はやたらとイカツイその容姿に正直少しビビっていたんだよなぁ。

色々あって、実は武道家の格好をしているけど、ただの村人だったのには驚いた。

サキもそうだ。最初はよく泣く女の子だったが、今では努力?の甲斐あって、名実共に世界にただ一人の賢者だ。

 

しかしこの二人で驚かされたのは結婚についてだ。サキと仲良くなったシズクの情報では、ツカサが飴をあげるからここにハンコウを押してねぇと半ば詐欺のようなエピソードだったそうだ。

 

ただ、シズクによればサキも満更ではないらしく、今では子供の計画まであるとか無いとか。

 

彼等はレーベの村で幸せになることだろう。

 

 

 

 

 

次に仲間になったのは商人のロレンスだったな。

 

最初は俺達の旅の路銀を稼ぐ為の仕事をまわしてくれる、まさに雇い主と雇われみたいな関係だったな。

ロレンスはシズクに容赦なく何度もぶっ飛ばされたのに、次の瞬間にはケロッとしてたよな。

案外人間じゃなかったりしてな。

彼はロマリアからポルトガをメインに商館を渡り歩いていたが、今回の旅で全く何もない村に流通経路を創るのが気に入ったと言って、ロレンスはエイト村長とゼシカさんにポポタ君。そしてミーティアちゃんの村へ行った。

 

あの人ロリコンだから、また捕まらなければいいけど・・・

 

 

.

 

 

次に仲間になったのはピサロとロザリーさんだったな。彼等とはノアニールで出会った。全てが眠りについた村で出会った。

最初はお爺さんと孫のようにみせていたけど、色々あってロザリーさんの母親であるエルフの女王ヒメア様が認めてからは、二人は完全に自分達の世界を築いていたっけ?

 

そして何よりも驚いたのはピサロは別世界の魔王で、ロザリーさんに出会って魔王を辞めたってことだった。本来別々の種族同士の筈の二人が恋をする。

 

俺以外にも勇者はいるし、別世界なんてのも存在する。そして、別々の種族同士でもいつかはわかり会えるのかも知れないな。

 

あの二人・・・ジパング以来見てないが、きっと二人は今も変わらずにイチャついているのだろうなぁ。

 

 

 

次はキョウイチか・・・

ヤツの正体は魔物。魔王バラモスと双子の兄弟というからには、おちゃらけているが、実は凄い魔物なのかもしれない。

ヤツとはピラミッドで出会った。妙にロレンスと仲が良くて、いつの間にかちゃっかり仲間になっていた。キョウイチもよくシズクにぶっ飛ばされていた。

彼のお陰で俺は、シズクの行き過ぎた折檻をたいぶ免れた。

ある意味ではもっとも助けられた仲間だった。

魔族のキョウイチとここまで仲間になれるのだから、いつかは魔族と人間は理解し会える日がくるかもしれない。

シズクが、キョウイチはずっと未来にモンスターじいさんとなって、モンスターを仲間にする大切な役割があるとかフザケテ言っていたが、あながち間違いでもないのかも知れない。

 

 

 

他にも沢山の出会いと仲間がいた。テドンのシックスのお陰で、サキは最強の装備を手に入れたし、俺はオーブを手に入れた。オーブが足りないのに、無理矢理引っ張り出して空からの侵入を手伝ってくれたラーミアのアイラに、大事な一人娘を説得してくれたセブンにマリベル。

 

仲間ではないけど、ある意味貴重な体験をさせてくれたイシスの王。

 

だれが欠けていても俺達は魔王を倒せなかった。そう思うと視界が涙で歪む。

 

――さん!マコトさんってば!!

 

「あの煙りが出てるのってアリアハンじゃありませんか?」

シズクの言葉を聞き、改めてアリアハンの方を見ると、城を始め、町全体が炎に包まれ黒煙をあげていた。

 

 

 

 

町に入ると、至るところから悲鳴のこえが聞こえた。道端に倒れこんだ人もいる。倒れた親の傍で泣いている子供。

シズクはそっと子供を優しく抱き抱えると、子供は安心したかのように眠りにつく。

 

母さんは!?

俺は勇者としては最低だが、母親の安否が直ぐにでも知りたく家に向かって走った。

 

家は焼け落ちていた・・・

俺の部屋もない。母さんがよく作ってくれたカレーライス。親父と二人で火をふきそうになりながら食べた。母さん辛党だったからなぁ。

母さん・・・俺は膝から力が抜けたように崩れると、後ろからシズクがそれを抱き締めて支えてくれた。

「マコトさん!しっかりしてください!!まだ死んだと決まった訳ではないんですから。」

「・・・そうだよな。すまないシズク。こんなときこそ俺がしっかりしなきゃだよな?勇者だしな。」

シズクだって自分の養父が気になるだろうに、こんな時でも彼女は俺を支えてくれる。

 

 

アリアハンのお城も焼け崩れていた。

一番奥の玉座に力無く座っていた王様に俺は話しかけた。

「王様・・・いったい何が?魔王バラモスは倒した筈なのに!」

「おお勇者マコトよ、帰ったか。無事で何よりじゃ。わしの所にも魔王バラモスが破れたという吉報はきたのじゃ。じゃが――――」

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「王様!今早馬より勇者マコトがみごと魔王バラモス討伐との吉報が!」

「なに?そうかやってくれたか!!」

 

わし等は勇者の帰還を盛大なパーティでもてなそうと準備しておった。

わしは一人娘の姫の婿を勇者マコトにしてもいいとさえ思っていたんじゃ。

 

しかし姫は

「勇者様にはきっと想い人がおられますわ?私の入るスキマ等ないくらいに。」

「おお何と心優しい姫よ!」

「ああお父様!?」

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「・・・そこは良いから話を進めてもらえますか?」

隣で聞いていたシズクは身も凍るような笑顔で言う

「ここからが良いとこなのに・・・」

 

 

まぁ、ともかく勇者に想い人がいるのなら仕方がない。わし達は祝賀パーティとともに、二人の結婚式もアリアハンのお城で行おうと準備をしておった。

その時じゃった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

ーー人間達よ。余の名はゾーマ。

――汝人間達に絶望と恐怖を与える、偉大なる闇の神である。

 

「ゾーマじゃと!お前がどのような存在だとしても、わし等には勇者マコトがいる。お前の好きにはさせんぞ!!」

 

――フ、フハハハハ!!人間の勇者が余を?笑わせてくれるな人間の王よ。

――人はどこまでいっても人よ。汝等の希望である勇者の命を刈り取った時・・・貴様等はどのような絶望を余に捧げてくれるのだろうな。

 

「勇者マコトはあの魔王バラモスをも倒したのだぞ?闇の神だって必ず倒してみせる!」

 

――魔王バラモス?あぁ、ヤツは破れたか。まぁ所詮は新聞の折り込みチラシの求人で来たバイト君だ。そんなもんだろう。

 

「なんと!バラモスはバイト?し、しかしわし等は何としても勇者の幸せな結婚式を作ってやりたい。邪魔をさせるわけにはいかんのじゃ!!」

 

 

――・・・なんだと?それを余は聞いてはおらん・・・余を通さずに其のような暴虐、断じて許す訳にはいかん!!

とにかく人類は皆殺しだ。

余の名はゾーマ。人に苦しみと絶望、そして死を与える神―――

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「そうか、そのゾーマと名乗る闇の神が・・・」

「ゾ、ゾーマ・・・」

 

何故かいつも微笑みを絶やさないシズクは、真っ青な顔をしていた。

流石のシズクも女の子。闇の神と聞いて恐ろしくなったに違いない。

俺は大丈夫だとばかりに笑顔でシズクの肩を抱き寄せると、彼女もそっと微笑みを返してくれた。

 

「とにかくそのゾーマがアリアハンを火の海にしたんですね?」

「ん?違うぞ?これはゾーマの地底深くから聞こえてきた、世にも恐ろしい言葉に驚いたお城のシェフ達が、火を消さずに逃げ出したからじゃ。」

 

 

 

するとこれは

只の火事ですかー!!!

 

 

 

 

俺の叫びがアリアハンにコダマした。

 

「とにかく勇者よ。この城の宝物庫にわが城の宝剣キセキの剣があるから、それを以て大魔王ゾーマを倒すのじゃ!!」

 

「き、キセキの剣・・・王様・・・」

「なんじゃ?太っ腹すぎてワシに感動でもしておるのか?」

 

そんなものがあるなら最初からよこせーーー!!

 

 

 

 

 

.

 

 

「母さんじゃあ行ってくる。」

 

俺達はただの火事と知ると、町の人達は教会に避難していたことを聞いた。

 

そこで俺は母さんや、嘗ての友人達と感動の再会をはたす。シズクはと言うと、アリアハンのお城を出てからは見掛けていないので、きっと自分の養父にでも会いにいったのだろう。

 

 

「マコト・・・あんたは勇者オルテガの息子。きっと止めてもゾーマの所へ行くのでしょうね?でもね、必ず母さんの元へ帰ってくるのよ?」

「ああ!必ずシズクと共に俺は帰ってくるから。」

 

そう言って母さんを背にし、俺は振り向かずに教会の扉を開ける。

 

俺には確信がある。

きっと扉の外には旅支度を済ませた彼女が笑顔で待っていると。

 

 

俺の幼馴染みが俺の傍を離れるわけがない。

 

 

 

 

俺は新たなる世界への扉を開く

 

 

 

 

 

ーーアリアハン編オシマイ――

 

 

 

NEXT

 

「俺はラダトームの勇者だ。」

 

 

新しい世界で出会うもう一人の勇者。

彼の正体は!?

 

何故か新しい世界で笑顔が曇るシズク。

 

 

 

急展開のストーリーが待ち受ける

 

 

次回

聖地アレフガルド

 

この次もみないとギガデインですよ?



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14話

.

 

 

 

ガキーン!!

 

剣の切っ先が魔物の鎧のような皮膚に当り弾かれる。

思わず反動で仰け反ってしまうと、魔物はその一瞬の隙を見逃さず、大きな口を開け、全てを溶かしてしまうかのような火炎のブレスを吹く。

 

その凄まじい業火が、前衛にいた俺とツカサを飲み込もうとしたその時、光のヴェールが俺達を優しく包み込む。

 

 

シズクのフバーハだ。

 

 

最強のドラゴンのブレスもシズクの魔法力の前には生温いそよ風にさえならない。

 

俺達は一旦距離をとり体勢を整える。

 

 

「まさかギアガの大穴にこんなドラゴンがいるなんてな。」

ツカサは肩で息をしながら言った。

 

俺達は今、ギアガの大穴を越え聖地アレフガルドを目指している。

 

薄暗く熔岩がたぎるような長い洞窟の奥深くに、まるで聖地への入口を守るかのように巨大なドラゴンが立ち塞がっていたのだ。

 

 

「なぁマコト、このままじゃちょっとキツいぞ?作戦を"ガンガンいこうぜ"にしねーか?」

「それはだけはダメだなんだツカサ。想像してみろ、今ここにはサキとシズクがいるんだぞ?そんな作戦にしたらサキはMPが尽きるまでイオナズンを連発するだろうし、万一シズクがギガデインでも唱えてみろ。ドラゴンどころか、ギアガの洞窟はもちろん、聖地アレフガルドをも消滅させかねない。俺たちはその作戦だけは使えないんだ。」

 

それを聞いたツカサは何を想像したのか、大きな体を器用に縮こませて身震いしている。

 

 

 

「ねぇ・・・あの二人あんな事を言ってるよ?シズクちゃん。失礼しちゃうよね、私達だって手加減くらいできるっつーの。」

 

サキがシズクに言うと彼女は微笑みを浮かべたまま、前衛で体勢を整えている二人に近づく。

 

 

 

 

.

 

 

 

「闇に惑いし憐れな影よ。私を傷つけ貶めて罪に溺れし業の魂……マコトさん、ツカサさん・・・

 

 

 

 

いっぺん・・・死んでみるぅ?」

 

 

 

 

顔は微笑みを浮かべたまま、虹彩の消え失せた瞳のシズクが近づいてきた。

 

 

 

 

 

 

ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険

~アレフガルド編~

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

「いやぁ死ぬかと思ったぜ。」

体半分を凍らせたツカサがいう。

 

俺もシズクの魔法力が凄いのを知ってはいたが、まさかヒャド一発で巨大なドラゴンを辺りの熔岩ごと凍らせてしまうとは思わなかった。

 

「なぁ、シズクちゃんって幼馴染みなんだろ?昔からあんな感じだったのか?」

 

「あいつの昔?信じられないかも知れないけど、シズクは常に何かに怯えてるような臆病な女の子だったんだ。ツカサ覚えてないか?10年前のアリアハンの大雪」

「そういやぁあったなぁそんなこと。温暖なアリアハンに雪が降ったって、回り中大騒ぎだったよな。」

「あぁ、俺とシズクはあの大雪の中で出逢ったんだ。」

 

 

 

 

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ーーーーーー

 

 

 

 

 

ーー10年前ーー

 

俺はまだ6才になる前の事だった。

比較的南に位置するアリアハンに雪が降った。

 

親父が言うには、アリアハンに雪が降るのは悪い事が起きる余兆だと言っていた事を何となく覚えている。

 

でもまだ幼かった俺は、始めてみる雪が珍しくて外を駆けずりまわったんだ。

 

夜遅くまで・・・

 

 

 

.

 

 

 

「寒い・・・もう真っ暗になっちゃったよ」

 

アリアハンのすぐそばにある森のなか。僕は薄暗い木々を越えて奥を目指していた。

ちょっとした冒険心だった。当時アリアハン近辺にはスライムしかでなかった。しかもスライムは友好的なのが多く、出会ったとしてもそうそう戦闘になることはない。

 

そんな平和な日々のなか、昨晩闇夜を切り裂くような流れ星が隕石となってアリアハン近くの森に墜ちた。

そして凶事を示す雪。アリアハンの大人はもちろんの事、お城の兵士も恐怖で隕石の調査には乗り出せないでいた。

 

僕は勇者オルテガの息子。勇気だけは負けないとばかりに、一人森に入った。

 

森の木々は鬱蒼としていて、その高さから月明かりさえ届かない・・・そんな中に子供が一人入る。それがとても危険な事はお父さんとお母さんに聞いてはいたけど、どうしても好奇心には勝てなかった。

 

やがて道に迷い、降り積もる雪が振り返った足跡を消していくのを見たとき、急に心細くなり僕は泣き出す。

 

 

「ん?こんな森の奥深くに子供?どこから来たんだい?」

両肩に剣を携えた黒服のお兄さんが、泣きじゃくる僕を見つけ、話しかけてきた。

 

 

.

 

 

 

見た目は18才ぐらいだろうか。お父さん達とくらべるとまだ若いってことくらいは僕にもわかる。

 

「お兄さんはだれ?」

「お兄さんの名前はキリト。ここではないアレフガルドの勇者だよ。」

 

お兄さんはそう言って笑った。

お兄さんが笑うと僕のさっきまでの不安が嘘のように消えていく。

 

「お兄さんは何をしてるの?」

「ん?お兄さんはね、お兄さんの婚約者を探しているんだよ。確かにこの近くにいるはずなんだけど、中々見つけられなくてね。」

「こんにゃく?」

「婚約者。君にはまだ早いかな。」

 

そう言うとお兄さんはまた笑い出す。

 

 

それから僕等は一緒に冒険した。

草の根をかき分け、川を越えた。小高い丘をこえれば、幼かった僕には十分すぎるほどの冒険だったと思う。

 

まだ幼いから危ないしダメだ。と、お父さんが教えてくれない剣の使い方。相手の攻撃の避けかたをキリトさんは教えてくれ、それができると大きな手を頭に乗せ誉めてくれた。

 

「お兄さんの婚約者さんはどんな女の人なの?」

「ん?お兄さんの婚約者かい?まぁ、お兄さんの師匠が言ってるだけなんだけどね、彼女はいつも優しく微笑んでくれるんだ。小さく笑う姿や、俺の冒険談を嬉しそうに聞いてくれてね・・・そりゃ優しい女の子なんだ。」

 

 

婚約者のことが余程好きなんだろう。キリトさんはどんどん語り続けた。

彼女さんは銀色の長い髪。透き通るような白い肌に、ほんのり赤みのかかったら深い色の瞳。

そんな全てが好きとキリトさんは照れながら話してくれる。

 

「でも、そんな婚約者さんはどうしていなくなっちゃったのかなぁ?」

「それが不思議なんだよな。彼女はいつも俺の話を楽しそうに聞いてくれていたのに・・・師匠とその奥様が言うには、彼女はペットのシドーを散歩に連れていったきり帰ってないんだそうだ。」

 

 

「早く見つかると良いねぇ」

「ああ!」

 

そう返事したキリトさんの笑顔を見たとき、アリアハンの勇者と言われるお父さんとは違うけど、やっぱり勇者なんだと思った。

僕も将来はキリトさんみたいな勇者になろう。そう心に思った。

 

 

 

.

 

 

「きっとここだ。」

 

彼は隕石の落下点であろう大穴の底を見詰めて言った。その穴は大空洞となり、底は全く見えない。彼が側にあった石を穴に落としてみるが、底に落ちた音がない。

子供の僕でもそれがとてつもない深さだってわかる。

僕が思わず唾を飲み込むと、それを見ていたキリトさんは笑いながら言った。

 

「マコト君、きみとの冒険はここまでだ。ここから先は俺が一人で行く。いや、行かなければならないんだ。俺の婚約者だからね。」

「え!でも僕も・・・」

「良いかいマコト君。君にも大切な人ができて、その女の子を守らなければならなくなった時、自分の力を目一杯出さなければならないよ?俺にとってのそれは今なんだ!!ここから北へ向かえばアリアハンにつく。マコト君、キミとの冒険は楽しかったぜ?また会おう。」

 

相変わらず熱い台詞を並べ立て、彼は両肩の剣を抜くと、うぉぉぉ!と大声を上げて穴の中に飛び込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく雪道の中でアリアハンに辿り着いたとき、街の入口辺りに人だかりができていた。

 

 

「母さんどうしたの?」

「あらマコト、遅かったわね。大雪の中で倒れていた女の子がいてね。」

 

母さんの後ろから除き見るようにその女の子をみると、背中まで伸びた長い黒髪が印象的な女の子だった。歳は同じくらいだろうか。

その子は怯えた様子で大人達の質問を聞いていたが、どれにも答えない。

 

「困ったわねぇ。そうだ、マコトあなた同じ年くらいなんだから話しかけてみなさいよ。」

 

母さんの無茶ブリだ。しかし僕も黒髪をなびかせた、透き通るような女の子に少し興味がある。

しかもこんな雪の日にヒラヒラのドレスじゃ寒そうだ。

 

「僕はマコト。君は?そんな格好じゃ寒いだろ?ほら貸してあげる。」

そう言って彼女にコートを羽織らせると、彼女は僕を怯えた瞳で見詰め、蚊のなくようなとてもとても小さな声でありがとうと言った。

 

「今日はもう遅い。今夜は私の家に泊まり詳しくは明日話し合おう。」

お城のお務めから帰ったお父さんが言うと、街の人達も一人また一人と家に帰って行く。

 

「さぁ、わし等も帰ろう?えっと・・・」

「しず・・・く・・・」

お父さんが彼女に話し掛けると、彼女は僕の後ろで僕の布の服を掴みながら小さく応えた。

 

その様子を見たお父さんとお母さんは笑う。

ずいぶんと気に入られたみたいだなと。

 

 

 

 

 

「今日は色々あったなぁ。キリトのお兄さんは婚約者さんと会えたかなぁ。あの人・・・思い込みが激しいからなぁ。」

 

夜、ベッドに入った僕は今日1日の出来事を振り返った。アリアハンから出たことのない僕にとって今日は大冒険だった。

 

「あの・・・」

 

ベッドに入って5分位した頃だろうか、隣の部屋で寝ているシズクと名乗った女の子が枕を持って部屋の入口に立っていた。

 

「どうしたの?眠れないの?」

「うん・・・」

 

シズクは枕をぎゅっと抱き締めうつむいている。見知らぬ土地で一人きり・・・きっと心細いのだろう。僕は自分のベッドを開け一緒に寝る?と聞くと、彼女は嬉しそうに微笑み、ベッドに入ってくる。

 

「暖かい・・・」

彼女は僕にくっつくようにベッドに入ると、穏やかな寝息をたてて眠りについた。

 

彼女の寝顔を見たとき、心臓がドクンと音を鳴らした気がした。

 

「僕はシズクを護る。一生・・・」

静かな決意を心の中ですると、僕のパジャマをつかんで寝ているはずの彼女が優しく微笑んだ気がした。

 

 

 

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ーーーーーーー

 

 

「それから数日間は俺の家で暮らしていたんだけどな、教会の若夫婦が子供がいなくてシズクを引き取りたいと言ってきたんだ。今考えると、数多の聖書や経典に出てくる精霊ルビス様に瓜二つなシズクを運命の出会いと考えたのかもしれないな。それからシズクは今の家族と幸せになったんだ。」

「へぇ。じゃあシズクちゃんは孤児なのかぁ。」

「あぁ、でもあの日以降はどこに行くにも俺の後をついてくるような大人しい女の子だったよ。」

「それがどうなったらあんな感じに?」

「それはな・・・俺は当時女の子の友達が数人いてな・・・」

 

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「ねぇマコちゃん。将来私をお嫁さんにして?」

「あーズルい私もぉ。」

「大丈夫!皆僕のお嫁さんにしてあげるよ!」

「えぇ~シズクちゃんも?」

「ああ!シズクも。」

「でもあの子可愛いからマコちゃんじゃなくても良いんじゃないの?きっと一人でも幸せになれるよ。」

「そうかなぁ?そうだよね。君達が一番だよ。」

 

「・・・マコトさん。シズクをお嫁さんにしてくれるって言ってくれたのに。」

「シ、シズク!も、もちろんシズクが一番だよ。」

 

いつの間にか背後に立っていた彼女は、足元に冷気のようなものを漂わせていた。表情はいつものように女神ルビス様のような微笑みを浮かべているが、瞳が笑っていない。

 

「え?え?ちょっとシズク?」

 

「マコトさん・・・浮気は許しませんよ?しねぇ!!」

 

目にも止まらぬスピードで繰り出されたシズクのハイキックが僕の顔面を捉え、キリキリキリと回転を伴って吹き飛んだ。

 

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「いやぁ始めてシズクの虹彩の消え失せた瞳を見た時、シズクを怒らせる事の危険と共に臨死体験をしたよ。」

「なんだよ。お前のせいじゃねーか。」

 

「何か面白そうな話を二人でしていますね。」

 

いつの間にか俺とツカサの背後に立つシズク。その瞳にはやはり虹彩がない。

命の危険を感じた時、彼女は深い息を吐き、ふと力を抜く。瞳にも虹彩が戻り女神のような微笑みを浮かべて俺の腕をとり、いつの間にか洞窟を抜けていた夜の空を指差す。

 

「マコトさん見えてきましたよ。あのシルエットがラダトームです。」

 

彼女の指差す先をみると、夜のモノクロな景色が飛び込んでくる。

黒い針葉樹を越えた先にお城のシルエットが見えてきた。

 

俺達はついに聖地アレフガルドに辿り着いた。

ここで俺達を待ち受けている運命は・・・俺はこれから始まるであろう大魔王との激戦を考えると身震いする。

シズクが組んだ腕の力を少し強めた。

 

不安が伝わったのか?大丈夫だ。これは武者震いだよ。必ず大魔王を倒して、シズクお前と静かに暮らそうな。

 

気持ちを新たに俺達四人はラダトームへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

続く

 

 




今回は後編に入る前のオマケ話です。


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15話

.

 

 

 

 

 

ラダトームの夜は寒い。

昼間も太陽が上がらないせいか気温が上がらない。

太陽の恵みがなければ農作物も育たないのだから、聖地アレフガルドの食料事情は乏しい。

 

そんな心まで凍てつくような世界だから、人々の表情もどこか暗い。

アレフガルドは大魔王ゾーマが直接現れた世界。魔王バラモスが攻めてきたアリアハンとは比べ物にならないほどの絶望感が溢れた世界だった。

 

「見ろよマコト。また雪がちらついているぜ?」

 

隣に座っているツカサが窓の外を顎でさすように顔を向ける。

俺もツカサに言われるままに窓の外を見ると、白い雪が降り始めていた。

 

 

シンシンと降る雪を見るとシズクやキリトさんとの出会いを思い出す。

 

「ほら二人とも。間も無く始まるわよ。」

サキが外を眺めている俺とツカサに小声で教えてくれる。

 

 

 

『・・・王様ありがとうございました。続きまして我がラダトームが誇る勇者キリトさまによる祝辞をお願いします。』

 

女兵士に呼ばれて壇上に上がったのは、幼い頃に憧れた勇者。俺に剣の扱いや戦闘のノウハウを教えてくれた勇者キリトさんだ。

 

俺達はラダトームの国民とともに壇上で誇らしげに輝く勇者の一言一句を胸に刻み込む為に話しに集中するのだった。

 

 

 

 

 

.

 

.

 

 

 

 

話は少しだけ遡る。

 

 

 

 

 

『ここはラダトーム。ここにはただ絶望があるだけですわ。』

 

町の入り口にいた女性はうつ向きながらそう答えた。

辺りを見ると、人はいるものの人の声が聞こえない。まるで人形のように下をうつ向き歩いている。

 

 

 

陰気な町だなと言ったツカサの言葉にも頷ける。

 

 

 

 

 

 

俺達が聖地アレフガルドに入り数分がたった頃、頭のなかで何処からともなく不思議な声が聞こえてきた。

ツカサ達を見ても特に気にしている様子がないところを見ると、声の主は俺だけに直接話しかけているようだった。

 

 

 

―――マコトよ。勇者マコトよ、聞こえていますか〜?

―――私の名はルビス。

 

 

頭の中に直接話しかけてきた相手はルビスを名乗った。

ルビスと言えば子供でも知っている創造の女神だ。あらゆる教会にその姿絵を飾られていて、誰もが感謝を捧げる美の女神だ。

 

 

―――とうとう貴方はアレフガルドまで来てしまったのですね?私はアリアハンの世界だけでもと思い、生まれてくる貴方に勇者という運命を与えてしまいました。

 

俺は別に勇者という運命を呪ってなんかいない。俺達が旅に出たからこそツカサやサキ、果ては異世界のもの達と分かり合い仲間になれた。

 

―――ありがとうございます。その言葉はとても嬉しいです。ですがマコトよ、ここで引き返しなさい。大魔王ゾーマは私をも幽閉する力を持っています。

貴方のお仲間であるロザリーと異世界の魔王ピサロもゾーマの前にあえなく倒れました。

 

 

ロザリーさんとピサロが?なんでこんなところに彼らが?彼らはジパング以来見ていないから、てっきりケンカと称してイチャイチャ暮らしているものだと思っていた。

彼等は無事なんですか?

 

―――はい。何とか命はとりとめましたが、ロザリーを庇ってゾーマの攻撃を受けたピサロは特に重症で、今はリムルダールと言う町の教会で治療をうけています。あの二人の力は今のマコト、貴方を遥かに超えた力を有していますが、それでもゾーマには傷を与えることさえ出来ませんでした。

勇者マコトよ、もう十分です。引き返しなさい。

 

 

ルビス様。俺は確かにまだ弱いですが、ここで退いたりはしませんよ?俺が・・・俺達が諦めたら誰がこのアレフガルドを救うのですか?俺達は前に進みます。例え相手が強大であっても。

 

―――・・・貴方の決意はよく分かりました。私も貴方にかけてみましょう。ゾーマを倒すなら私の所へ来てください。貴方にゾーマと闘う力を与えましょう。ですがその道は険しく・・・ザー・・・なるザー

 

 

ん?ルビス様聞き取りにくいですよ?

 

 

 

―――コホン!すみません。では勇者マコトよ引き返して僧侶の女の子と仲良く暮らすのですよ?くれぐれも大魔王ゾーマに挑むことのないようにね?

 

 

あれ?ルビス様?

声は同じで頭に直接話しかけてはきているのに、話の前後がおかしい。

 

俺は後ろを振り向くと、シズクが紙を丸めて俺の耳元に話しかけていた。

 

 

「おい・・・何してんだシズク。」

「え?あの・・・は、ははは」

 

 

彼女はまさにルビス様のごとく可愛らしい笑顔で誤魔化していた。

 

その後頭の中でいくら呼んでもルビス様が話しかけてくることは無かった。

 

 

それにしてもシズクはいったいどうしたんだ?アリアハンでゾーマの声を聞いて以来というもの、やたらとおとなしい。

明らかに大魔王ゾーマとの戦いを嫌がっているようにみえる。お前がその気になればゾーマだって倒せるんじゃねーのか?

あのバラモスを一撃で倒すお前が、どうしたってんだよ。

 

だけどシズクは、俺の疑問に答える気はないとばかりに口を閉ざした。

 

「ねぇマコト。これからどうすんの?」

シズクが静かなせいかサキまでが今日は静かだ。

 

「先ずはラダトームの王様に会いに行こう。何をするにしてもアレフガルド唯一の王様だ。協力が必要だろう。」

「ん。あんたにしてはマトモじゃん。」

 

・・・なんか一言多いが、仲間にはまだロザリーさんとピサロのことは言わないでおこう。今は士気が下がるようなことは言いたくない。

 

俺達一同はラダトーム城をめざすのだった。

 

 

.

 

 

 

 

どのお城もそうだが、ラダトームの城門にもイカツイ兵士が立っていた。

 

「アリアハンから来ました、勇者マコトです。王様にお目通りをお願いしたいたのですが。」

 

兵士達は俺達四人を品定めするかのように見ると、胸元から四角い板のようなものを取り出し、顔にあててブツブツと言っている。

 

暫くすると兵士は俺にその四角い板を渡し、耳にあてるように指示してきた。

 

「もしもし?聞こえておるか?ラダトームの国王のパパスじゃ。」

 

!!

誰もいないはずなのに、四角い板から声が聞こえてきた。俺はおそるおそる板に向かって話しかけてみる。

 

「あの・・・私はアリアハンから来た勇者マコトです。」

「勇者?」

「はい。」

「間に合ってます」

 

ガチャ! プープープー

 

 

・・・

えええぇぇぇ――――!!!

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

会話を一方的に切られた俺は、再び四角い板のボタンらしきものを押す。

 

 

ピポパ・・・プルルルル

 

ガチャ。

 

「なんじゃまたお主か。しつこい奴じゃのう。勇者なら間に合っとると言ったであろう?ワシはマーサを愛でるのに忙しいんじゃ。」

 

 

また一方的にきる王様。

だいたいなんだよマーサって。

だけど俺も引き下がるわけには行かない。ルビス様にも宣言した通り、俺達の旅の終わりは、即、人類の滅亡に繋がってしまう。諦めるわけには行かないんだ。

 

ピポパ・・・プルルルル

 

ガチャ!

 

「お客様のお掛けになった電話番号は現在使われておりません・・・」

 

 

 

 

「・・・ムキィィィィィ!!!」

思わず四角い板状の通話手段をなげつけ、踏みつける俺と

 

「マコトさんが壊れた。」

容赦のないシズクの一言が耳についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラガラ・・・ガシャン!!

 

 

「・・・よし!計画通りラダトーム城に潜入したな。」

「「「・・・」」」

 

一同の冷たい視線が突き刺さる。ヤメテ!そんな目で俺を見ないで。俺のHPはもうオレンジ色ですよ。

 

「・・・で?このあとどうする予定なんですか?」

 

虹彩の消え去った冷たい瞳のシズクが、声のトーンを下げて話しかけてくる。

怖っ!!久しぶりに怖いよお前。

 

「どうやって牢屋から出るかきいてるんですよ。マコトさん!!」

「俺が悪かったよぉ。だって王様がマーサマーサってよぉ。」

 

完全に白い目で俺を見詰めるシズク。

まぁともかくここから出なければ何も進まない。

俺は先ずは鉄格子を調べるが、まぁ壊せるような素材ではない。

牢屋自体が城の地下にあるのか、窓ひとつないから出るは・・・無理だ。

 

 

 

 

ズガアアアアァァァァン!!!

 

 

 

牢屋内を煙が立ち込める。見るとサキが鉄格子に向かってイオナズンを放っていた。

しかし、魔法処理もされているらしく、傷一つついてなかった。

 

完全に八方塞がりだ。

 

 

「はぁ。仕方ありませんね。」

 

そう言ったシズクは、珍しく永柄のついた杖を取り出した。

普段武器や、魔法の補助になる杖など使った所を見たことがないというのに。

杖の先端には丸い金色の飾り付けがしてある。

 

シズクは杖を静かにふる。

杖の先端が空を過ぎると、僅かに青い光が杖の先端を追うように流れる。

まるで天使が舞っているかのような、そんな幻想的な姿だった。

 

「出でよ召喚獣!」

 

はい?召喚獣?

シズクが杖を上空に掲げると、俺達の頭上に真っ黒な分厚い煙りが立ち込める。

稲光に似たような細い光が無数に煙りに吸い込まれると、次第に煙りが大きな輪を造り出した。

 

ズズズズ・・・

重苦しい音とともに何かが煙りの輪から、こちらに現れようとしている。

 

 

.

 

 

 

煙りの輪の中から現れた異形の魔物は・・・

テーブルに座ってナイフとフォークを持ち、口によく入ったなと言うほど肉を頬張った

 

 

キ、キョウイチ!?

 

 

突然の事に喉を詰まらせてむせ込んでいるキョウイチと、その奥から現れたのは、どうした?等とさして心配しているようすの無い軽い口調の商人ロレンスが現れた。

 

 

 

「ちぇ、チェンジです!!」

 

 

 

 

 

「え~姫!!そりゃないだろう!」

 

チッ。

舌打ちするシズクと、口に肉を頬張ったままロレンスと共にもう抗議をするキョウイチ。

しかし、あまりしつこく言うと・・・

 

 

ズガアアアアァァァァン!!

 

予想通りシズクの痛恨の一撃の餌食になって牢屋の壁にめり込んでいた。

 

 

 

 

「何だ?やけに地下牢が騒がしいな。」

「ハッ!キリト様!それがアリアハンの勇者を名乗る者達が牢内で暴れていまして・・・」

「アリアハンから?前月も一人来たばかりじゃないか。」

「ハッ!しかし・・・」

 

 

 

そんなジメっとした地下牢だったんだ。

俺が幼い頃に憧れた勇者。

キリトさんとの再会は――――――

 

 

 

両肩に剣を携え、黒づくめの服を着ている。

黒の剣士、ラダトームの勇者キリトさんだ。

 

見間違える訳かない。

俺はあの日から、朝から晩まで・・・雨の日も風の日も剣を振り続けてきたんだ。

あの日出会った勇者に近付くために。

 

 

「ん?君は・・・マコトくんか?マコトくんだよな?大きくなったなぁ。」

「はい。キリトさんもお変わりなく。」

 

 

ってか本当に変わらない。あの時18位に見えた年齢。何で今も同じくらいなんだよ。

色々つっこみたかったが、今はおいておこう。

俺達は牢屋越しに手を固く握りあう。

 

「で、何でマコトくんが檻のなかに?」

 

 

そう言って檻の中を見渡す彼は、ある一点で顔の向きを動かすのをやめる。

その目にはだんだんと溜まっていく涙と、震える口から言葉も出ない様子だった。

 

 

「ゲッ」

その目線の先にいたシズクは、今まで彼女の口から聞いたことの無い小さな悲鳴と、何だか悪さが見つかった子供のような――――そんなばつの悪そうな顔をしていた。

 

 

「あ・・・」

「「「あ?」」」

 

キリトさんの一言に俺とツカサ、サキが口を揃えて反復する。

 

「アスナ!!」

「誰がアスナですかぁ!!」

「ブゴッ!!」

 

魔法も効かない強硬固な檻を両手でグニャリと広げたシズクは、牢屋から出るなり問答無用にヒロシゲさんの顔面にハイキックを見舞う。

彼はキリキリと回転しながらぶっ飛んでいった。

 

「ちょっとな、何で」

「煩い変態!!」

 

蹴られた頬を擦りながらシズクに抗議をするように見るキリトさんと、まったく話を取り合う様子の無いシズクは、そのあともずっとキリトさんの顔面を踏み続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。ではマコトは大魔王ゾーマを倒すためにラダトームへ?」

「はい。アリアハンだけではなく、人類を救うためには悪の元を叩かねばなりませんから。」

 

 

満足そうに頷くキリトさん。

俺達はキリトさんの計らいで牢屋から出され、広いホールへと案内された。

 

 

何でもラダトームは大魔王ゾーマを倒すための魔法研究から、その姿を学校形式になっているのだそうだ。

 

 

 

「では皆、この魔力を測定する機械、パンチングマシーンに魔力を込めてパンチをしてくれ。これによりクラスが決まるんだ。一般生徒の平均値は300だ。」

「パンチングマシーンなら先ずは俺だな。武道家の俺にやらせてくれ。」

 

肩を揉みながら、首をコキコキならすツカサがパンチングマシーンの前に出た。

ツカサはセイケンヅキのポーズをとり腰を落として、右手に力を込める。

 

 

「はああああああ――」

 

ズバアアアアァン!!!

 

「測定値でました。数値たったの5です!」

 

「フハハハハ!どうだマコト!たまには俺も本気を出すと凄いんだぜ?聞いたか数値を?たったの5だぞ?驚いたかぁ・・・・・・って、5!?」

 

「だから魔力を測定するって言っただろう?ただ闇雲にパンチしても駄目なんだ。」

キリトさんは溜め息混じりに言うと、手本とばかりに、手に魔力をためて機械を軽く叩く。

 

 

 

測定結果 180000

 

 

 

さすがにキリトさんは凄かった。

 

 

マコト 18000

サキ 52000

キョウイチ 150000

 

やはり勇者とは言え魔力を使わせれば、正体が魔物であるキョウイチや、賢者のサキには敵わない。

しかし、一番驚いたのはロレンスだった。

彼は一介の商人であるはず。本人も魔法は使えないと言っていたのだが、結果は

 

 

100000

 

そんな数値を叩き出したのだ。

 

 

 

 

 

次はシズクの番だ。

 

俺は部屋の端まで下がると盾を出し、盾に身を隠す。後ろを見ると、キョウイチとロレンス、そしてキリトさんまでもが俺の盾と、俺自信を盾にして身を隠していた。

サキはマホカンタを唱え、ツカサもその後ろに非難している。

 

 

「何ですか・・・その失礼な態度は。」

 

不満を顕にするシズク。

 

「私は僧侶ですよ?魔力なんてあるわけないじゃないですかぁ!」

「嘘吐けー!!あれだけ魔法使っておいて僧侶なわけあるかー!」

 

「は?僧侶?彼女が?だって彼女は・・・」

俺とシズクが言い争いを始めたとき、俺の後ろに非難していたキリトさんが何かを言いかける。

 

 

次の瞬間だった。ホールの中央にいたはずのシズクが突然消えたかと思ったら、直ぐ背後から甘い香りがした。振り向くのより早く彼女の拳がキリトさんの顔面を捉え、俺の横を飛んでいきパンチングマシーンに彼はつっこんだ。

 

10万100万1000万1億・・・

 

 

ドガァァァァァン!!

 

 

何とパンチングマシーンは壊れてしまった。

 

 

「私、1億って数値までは見たよ?」

 

サキが呟いた。

 

 

 

――――――――――――――――――

――――――――――――

――――――

 

 

 

.

 

 

 

壇上に上がった勇者キリトさんは。息を飲む。

その雰囲気、表情が大切なことを発言しようとしている。

 

 

俺達はラダトームに入学(国)した。

ラダトームのパパス王の長い長~いマーサへの想いを語った最後にあった入学(国)おめでとうの一言。

 

そのあとということもあり、大勇者のキリトさん。

その口から発せられる言葉を、ラダトーム中の国民が期待を込めて待っている。

 

 

 

 

「ラダトームの国民よ!!我々はこれまで大魔王ゾーマの支配に苦汁を飲まされてきた。時にはラダトームが生んだ天才魔法使いでも歯が立たなかった。

 

最近ではパパス王が雇った異世界のエルフと魔王のコンビ。彼等の魔力は勇者である俺をも上回る力をもっていた。

 

だが!その彼等でさえもゾーマの前に敢えなく倒れた。

俺も今までのようにソロ攻略は諦め、改めて仲間を作ろうと思っている。

 

だが国民よ。我々は敗北したわけではない。我々は精霊ルビス様の恵みの光の庇護を受けているのだ。」

 

 

 

 

 

 

壇上のキリトさんは片手の拳を握りしめ、演説を聞いている国民に力一杯語りかけている。

やはりキリトさんは少し違う。

相変わらず熱い人だ。

 

彼の話を聞いていると力が湧いてくる。

勇者の資質というやつかもしれない。

 

 

 

 

 

「精霊ルビス様は我々に女神のごとき最強の魔法使いを遣わせてくれた。彼女の力は俺を含めた、アレフガルド全員の魔力を足しても尚、それを上回る力を有している。

 

我々のダメ王・・・いや、賢王パパス王は、彼女に王位を譲る判断を下された!!

 

我々全員で新たな女王陛下を支え、アレフガルドに平和をもたらそうではないか!

 

さぁシズク女王陛下の治世の始まりだ。

 

国民よ彼女とその国を称えよ!!平和を我らがものに。」

 

 

 

ジークシズク!!

 

 

 

キリトさんが大声で拳を振り上げ叫ぶと、ラダトームの国民全員が続く。

 

 

 

ジークシズク!

ジークシズク!

 

 

 

やれやれだ。結局シズクは何処に行っても色んな意味で目立つ。

だけど幼馴染みの俺にはあいつの答えは分かっている。

 

 

シズクは拍手喝采の中壇上に上がると、目を閉じて国民達の喝采を一身に浴びている。

 

ラダトームの国民達がシズクの言葉を聞くために静まり返る。

何の音も聞こえない静かな空間で彼女は一言。

 

 

 

 

 

 

「私、やりませんよ?」

 

 

 

ええええぇぇぇ!!!

 

 

 

 

 

 

その夜、ラダトーム全国民の絶叫は遠く離れたメルキドにまで聞こえたそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

――――――――――――――――――――――

 

勇者 マコト 際下級クラス (ツカサの巻き沿い)

武道家 ツカサ 際下級クラス(補習)

賢者 サキ 特Aクラス 生徒会書記

僧侶? シズク 特Sクラス 生徒会役員

キョウイチ Sクラス

商人 ロレンス Sクラス

大勇者 キリト 特Sクラス 生徒会長

 




ハリポタかイメージです。断じて某高校の劣等生がネタでは……


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16話

 

.

 

 

 

 

 

夕日が辺り一面を赤く染めている。

そこには無機質な固い素材のようなもので出来たお城を越える高さの四角い建物。

俺は見たことがある。確かジパングにあったビルとかいう建物だ。ただ、ジパングとは明らかに違う点がいくつかある。

窓はガラスが割れてなくなっている。建物の頂上付近が壊れて、中の柱がむき出しになっていて、ほとんど倒壊している。

そしてそれは見渡す限り全ての建物がだ。

辺りには人どころか生物がいない。

 

 

 

まるで世界そのものが死に絶えたようだった。

 

 

 

ふと甘い香りを乗せた風が鼻に届く。

風上の方を見ると、一際高いビルの屋上に女の人が佇んでいた。先ほどは誰もいなかったはずなのだが、まるで不可視なものが目に見えるように現れたようにみえた。

俺は彼女に声をかけようとするが、どんなに叫ぼうとも声が出ない。

 

 

それにしても彼女は美しかった。

夕日が彼女の白銀の長い髪に反射し、キラキラと輝いている。

綺麗な白いドレスを纏った彼女は、刀身が半透明な剣を持っていて、その姿はまるで教会に飾られた女神ルビス様のようだった。

 

表情は・・・え?シズク?

いやそんなはずはない。彼女は黒髪だし、よく見ればシズクよりもう少し歳上にみえる。

そのシズクによく似た彼女は涙を流してはいないけど、悲痛な面持ちで終わってしまった世界を、まるで忘れないように心に焼き付けているかのように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・こと!おいマコト!呼ばれてるぞ?」

 

呼ばれる声に意識がハッキリしてくる。どうやら夢を見ていたようだ。俺は重い瞼をうっすらと開けると、視界に入ってきたのは白い物体だった。

 

 

痛っ!!

 

それは俺の額に命中し、綺麗な放物線を描いて床に転がった。

 

 

「ほう・・・俺の講義は眠くなるほどつまらないのか?勇者様よ。」

黒板を背にした講師が鬼の形相で睨んでいる。

まさか今時チョークを投げる講師がいるとは思わなかった。

 

 

 

 

「大丈夫?額にアザができてるよ?」

俺の顔を見上げるように上目使いで見詰める彼女の名はビアンカさん。

 

俺とツカサが配属されたクラスの同級生の女の子だ。席が隣ということもあり俺達は仲良くなった。

 

ビアンカさんは大人しい感じの少女だ。サラサラとした金色の髪はとても良い香りがする。

シズクのように見た目だけの美少女と違って正真正銘の優しく可愛らしい女の子だ。

 

 

彼女の笑顔はどことなく懐かしい気持ちにさせてくれ心を暖かくする。

 

 

 

「まったく授業中に寝るとは・・・集中力が足りん証拠じゃ。」

後ろの席にノートいっぱいに"マーサlove"と書いているパパス王がいる。

 

「・・・何で王様がここにいるんだよ?」

「ワシは王位は棄て・・・譲ったから、ワシも生徒じゃ。」

 

あんた今、棄てたって言おうとしましたよねぇ?

マーサ以外のことにまったく興味ないパパス王は、せめて大魔王を倒すのに協力したいと生徒になったそうだ。

 

「・・・じゃあ何でこのクラスなんだよ。」

言っては悪いが、このクラスは魔力低い補習クラス。言ってみればオチコボレだ。

そんなクラスに1国を治めてる王様がいる・・・どう考えても有り得ないだろう。

 

「だってワシの魔力数値は3だもん。」

「さ、3!?」

 

数値を聞いたツカサがパパス王とガッチリ握手をしている。

ダメだこりゃ。

 

 

「まぁ、なにはともあれクラスメートじゃ。仲良くしてくれ。改めてワシの名はパパスじゃ。気軽にパパスと呼んでくれ。」

 

 

 

 

 

・・・無理だろそれ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お!遠くに何やら人だかりがあるぜ?」

 

俺達はパパス王の友達?になったらしく、今は王様とラダトームの勇者キリトさん。あとは数人の学者をしている先生だけが入れる、作戦司令塔とやらに向かっている。

 

大魔王ゾーマを始め、女神ルビス様やアレフガルドの創世記の情報や歴史などが集められており、それらを基に大魔王討伐に日々研究が進められているそうだ。

 

少し仲良くなっただけで入れてもらえるのならきっと大した事はないのだろう。

 

司令塔に行くには城の中庭を通る必要があり、パパス王をはじめ、俺とツカサ、そしてビアンカさんとで歩いていると、だいたい距離にして100メートルだろうか、前方に人だかりが見えてきた。

 

 

前方の人々は老若男女関係なく右腕を斜め前方に揚げて、何やら声をあげている。

 

「どうやら女王陛下がいるようじゃな。みなジークシズク!と敬礼しておるのじゃ。」

 

パパス王に言われよくみると、距離が離れているが、長い黒髪とあの佇まいはまずシズクで間違いないだろう。

その彼女はロイヤルガードと名前を変えた生徒会役員に囲まれ、そのうちの一人と何か言い争っているようにみえる。

 

相手は黒服なのでキリトさんであろう。

何やら真剣にシズクに向かって話しているようにみえる。

きっと中々女王になると言わないシズクを一生懸命説得でもしているのかもしれない。

やはりキリトさんは勇者なだけに熱い人だからな。

 

暫く離れた場所から四人でその様子を見ていると、シズクの足元から白い冷気の様なものがみえ、次の瞬間キリトさんは氷付けにされた。

 

 

「わははは。いくら大勇者キリトでもシズクちゃんには敵わないみたいだな。」

「そうじゃな。しかもヒャド系の魔法が得意だなんて、まるでゾーマのようじゃ。」

 

大きな体を揺らして笑うパパス王とツカサ。

でも俺が気になったのは、最近キリトさんとシズクはわりと一緒にいることが多い。

まぁ、シズクは女王陛下でキリトさんにキョウイチ、ロレンスはロイヤルガードなのだから、女王の予定のシズクの警護にあたるのは当たり前なのかもしれないが・・・

 

「心配?」

そんな俺の様子に声をかけたのは、上目使いで俺の顔を覗き込むビアンカさんだった。

 

「ねぇマコトくん。二人は付き合ってたり・・・するの?」

いつまでも笑い転げている二人の横で、小さな声で彼女は尋ねる。

俺とシズクの関係?

確かに俺がヘタレ過ぎてシズクに気持ちを伝えてないってのもあるけど、今はゾーマを倒す使命がある。きっと彼女も俺の使命を理解してくれているはずだ。

言葉にはしないけど二人の気持ちはお互い伝わっているはず。

 

「いや、付き合ってないよ?」

 

「本当!?良かった」

 

最後の方がよく聞こえなかったが、腕を組んでくる彼女はいい香りがした。

 

 

 

ゾクリ

背筋を寒いものが走った。

シズクの方を見ると、彼女はまだ相変わらず遠くにいる。聞こえるわけがない。

 

それにしても直ぐ隣で笑い続ける二人の大男が煩い。その時俺は一瞬だけシズクの方から目をそらしてしまったんだ。

 

「実はシズクちゃんがゾーマだったりしてなぁわはは・・・は!?」

 

「へぇツカサさん、なかなか面白い事を言いますねぇ・・・」

 

突然シズクの声が俺の直ぐ背後からした。瞬間移動!?俺は驚き背後を振り返ると、瞳の虹彩が消え失せた、目の笑っていない笑顔のシズクがいた。

 

い、いつのまに!?

 

ツカサとパパス王はシズクの一睨みで魂がぬけ、そのまま保険委員の人達のタンカにのり、蘇生の手伝いのためのビアンカさんと共に、教会へ運ばれて行った。

 

 

「先程から随分楽しそうに腕を組んでいましたねぇ・・・鼻の下を伸ばして。」

 

 

全身を自身の青白く光る冷気で包まれたシズクが近付いてくる―――――――

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

「ここが司令塔か。」

 

司令塔に入れると、そこには見たこともないような四角い板のようなのが無数にあった。

長方形なもの、正方形なもの。小さいものに大きいもの。

それらの四角い板は、其々色々なものを映していた。

 

「お?マコトくんも来たのか。」

顔面が傷だらけのキリトさんがいた。まぁ、傷だらけなのはお互い様のようだけど。

 

 

「ここはラダトームの司令塔だ。ここには大魔王ゾーマとルビス様の関係だとか、色んなものを調べた資料がある。」

 

「関係?」

 

「そうだよ。世界を創造した神、破壊の神。そして最近の研究でもう一柱の神の存在が判った。」

 

 

「もう一柱の神・・・」

 

「そう。その神が何をもたらすのかまでは判らない。だが俺はこの創造と破壊こそがゾーマとルビス様ではないかと考えている。」

 

「キリトさん・・・あんた色々考えてたんだな。」

 

相手を知らないと勝てないからなと、幼い頃に見せてくれたあの笑顔は今も変わらない。

婚約者を探し、遥か遠くのアリアハンまで・・・

 

そうだ!!

 

「キリトさん。婚約者は見付かったんですか?」

 

俺は大切なことを忘れていた。久しぶりに逢えた事で一杯になり、キリトさんの事を聞き忘れていた。

自分のことばかり、本当に俺は勇者失格だ。

 

彼は・・・何故か意味深な、そして若干自虐的な笑顔を見せるだけだった。

 

「少し夜風にでもあたりに行かないか?」

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

俺達二人は城の掘りを歩いている。

アレフガルドに昼間はないのだから、日中の日の温かみがない。

雪がちらつくような寒い夜だ。

 

しかしキリトさんは大して気にするわけでもなく俺の前を歩く。

やがて立ち止まり振り向く。

 

「婚約者は見付かったよ・・・」

「見付かったんだ!良かったですね。」

 

彼は

やはり少しだけ寂しそうに笑う。

太陽のように明るく、熱い心を持つ勇者の彼にそんな笑顔は似合わない。

俺はどうしたら良いか悩んでいると彼はポツリと呟いた。

 

「マコトくん。やはり君は勇者になったんだね。」

「はい。あの日ヒロシゲさんに出会って勇者に憧れたんです。」

「いや俺は・・・真の勇者はマコトくん君だよ。君はデイン系の魔法を使えるだろう?」

「はい。まだライデインまでですが。」

「俺には使えない。この意味がわかるか?俺は勇者にはなれなかったんだ。」

 

 

 

一呼吸をおき、彼は決意したかのように話す。

 

 

「マコトくん。デイン系はね、ルビス様が定めた運命の勇者にしか使えない魔法なんだ。ラダトームの司令塔の文献にもある。」

「そんなまさか?でもデイン系をあいつも・・・」

 

俺が言おうとした話を彼は俺の顔の前に手のひらをみせることで遮る。

 

「デイン系はね使えないんだよ。ルビス様が定めた勇者しか。もし他に使える者がいるとすればルビス様本人・・・・・・ん?」

 

 

ガチャリ!

 

突如重苦しい鎖の音をさせた手枷をキリトさんは後ろ手に嵌められた。

 

「んな!て、手錠だとぉ!!」

驚きの声をあげるキリトさんは、次の瞬間大きな水しぶきをあげて掘りの中に飛び込んだ。

いや、正確にはシズクに蹴り落とされた。

 

「マコトさん、今日は素敵な月夜ですね。少し二人キリで歩きませんか?」

 

シズクは、キリトさんなんて最初から居なかったかのように、ルビス様の肖像画のような女神のごとき微笑みを浮かべていた。

 

相変わらず可愛いなお前は・・・だけどな、手枷をしたまま掘りに落とすのはどうかと思うぞ?

 

「こら!女王陛下!!俺でなければ手錠して水の中に蹴り落としたら死ぬぞ!」

「煩いだまれ!勇者に魂を引かれた俗物が!」

「シズク!何故勇者が人類を導く光となることの素晴らしさが解らんのだ!!」

 

 

手枷をしたまま器用に泳ぐキリトさんを、空気中に発生させた無数の氷の刃が襲う。

 

トドメはヒャダインですか・・・

 

 

 

 

 

 

その翌日、氷付けになったキリトさんが教会に運ばれ、ツカサにパパス王。それとキリトさんの蘇生の為の寄付金で潤い、ラダトームの城より高い教会が建ったのは、もつまとずっと後のお話だ 。

 

 

 

 

 

続く

――――――――――――――――――――――

 

 

勇者 マコト 実はライデインが使えた。

 

武道家 ツカサ 教会へ連れていかれるも、生き返るのに800Gもかかり、放置される。

 

賢者 サキ 行方不明中

 

エルフの少女 ロザリー リムルダールにいるらしい

異世界の魔王 ピサロ 同じくリムルダールでイチャイチャ中

 

魔物 キョウイチ ロイヤルガードに昇進するも出番なし

商人 ロレンス キョウイチに同じくロイヤルガードに昇進。現在行方不明

 

ラダトームの勇者 キリト 死亡初体験

 

王様?パパス 未だ結婚できないでいるマーサに気に入られる努力し続けるが、未だ振り向いてもらえずへこむ。

 




今回は、分からないので勇者と戦士の違いについてのお話(捏造)です。


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17話

.

 

 

 

 

 

ワー!!キャー!!

こっち向いて―!! 素敵ー!!

 

耳をつんざくような大歓声の中、ドーム全体が寒いアレフガルドだと言うのに熱気で溢れている。

 

絶望にひしがれていたラダトームとはまるで違い、ここにはアリアハンの世界をも上回るような熱気と歓喜に溢れている。

そしてその熱気はステージの上にいるグループに全て注がれているのだ。

 

ガライー!!私と結婚してー!

ガライー

 

 

そう、ガライと呼ばれるグループに・・・

 

 

 

 

隣の声さえ聞こえないような大歓声は、彼等のマイクを持つ姿を見るなり嘘のように静まり、その口から発せられる言葉を待つ。

 

 

テメー等!!準備は良いかぁ!?

 

オー!!

 

今夜は朝までモリアガローゼ!!

 

ワー!!

 

彼等の叫び声に観客が大歓声という形で応える。

 

 

俺達ガライの魂の叫びをきけ!!

 

 

 

大歓声の中で音楽が流れ始めた。

周りの観客は既に最高潮。魔物との戦いに明け暮れている俺も、今日は体の奥が熱くなるのを感じる。

俺も興奮しているのがわかる。

 

そして彼等は大歓声さえも音楽にして歌い出す。

 

 

 

貴方~変わりはないですかぁ~?日ごと寒さがつのりますぅ。着てはもらえぬセーターを寒さ堪えて編んでますぅ・・・

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

――――――――――――

―――――――

 

 

 

 

 

 

「ガライのライヴ素敵でしたね。」

ライヴハウス"ガライの祠"からの帰り道。隣を歩くシズクは、機嫌良さげに楽器をベンベン鳴らしながら笑顔で言った。

 

そ、そうか?

シズクと付き合いはながいが、こいつの好みは今一つよく分からない。

 

「ところで何それ。」

「これですか?ガライの竪琴だそうです。お近づきにって戴きました。こんな時は女王陛下になるのも悪くないですね。」ベベベン

 

知らなかったよ。吟遊詩人って三味線持って演歌を歌うんだな。

 

しかし・・・何だか二人で出掛けるのも随分と久しぶりな気がする。

平和な世界だったら、この左側を歩くシズクとの時間だけを幸せと思い生きていたかもしれない。

 

興奮覚めやまぬ彼女は、鼻歌混じりに腕を組んでくる。

髪から甘い香りがする。

いつまでもこんな幸せな一時が続けばいい。勇者としては持ってはいけない夢なのかも知れない。でもせめて今だけは・・・

 

ふと隣のシズクを見ると、彼女はまるで俺の心の覗いているかのように見つめていた。

そして彼女は頬を染め潤んだ瞳で、注意して聞いていないと聞き逃してしまうほど、小さな小さな声で言った。

 

 

「今夜、私のお部屋にいらしてください・・・」

 

 

と。

 

 

.

 

 

 

 

 

 

何だここは・・・

 

 

軽く俺の部屋の5倍はあろうかと言う広さ。

部屋の壁には沢山のきらびやかな装飾の数々。

 

部屋の中央にはキングサイズのふかふかそうなベッドがあり、これまた見たことの無いほどの装飾が施されている。

 

部屋の中はそこはかとなくシズクの甘い香りが立ち込めている。

俺やツカサの部屋とは大違いだ。

 

今夜はここでシズクと・・・

 

 

 

確かに俺もそんな事を考えちゃいましたよ。そりゃ男ですから。

 

それが・・・

 

 

 

「なんだこりゃー!!」

「え?それは手錠と言うものですよ?」

 

重苦しい鎖の付いた手枷をはめられている。

 

「お前が、女神のようなあま~い声で"今夜は二人で朝まで一緒にいましょう"何て言うもんだから期待しちまったじゃねーか!!俺の男心を返せチクショー!!」

 

「なな、わ、私がいつそんな事をいったんですか!!この変態!」

 

「ぶごっ!」

 

照れた顔をしながらも俺の顔面を踏みつけるあたりは、実にこいつらしい。

でも、勇者とはいえ男なんだから少しは仕方ないだろーが!

 

「・・・何ですか?その反抗的な目は。って言うか誰が私のマコトさんにエッチなことを吹き込んだんですか?あの勇者バカのキリトさんですか?それとも、TPOをわきまえないでイチャつく、何処かの魔王ピサロさんですか?」

 

こ、怖い怖いよおまえ。

普段人前ではキラキラ輝くその瞳。今はそれに虹彩が消え失せている。

ヤバイ。このままではツカサやパパス王のように俺まで何度もお世話になった教会行きだ。ここは話題を変えなければ。

 

「そう言えばさ、お前キリトさんと知り合いなのか?」

「ふぇ?何ですか?急に。」

 

どうやら俺の質問は彼女の意表を突くものだったらしく、少しだけ慌てるシズク。

「キリトさん?ラダトームの勇者で生徒会長・・・あ!今はロイヤルガードの親衛隊長でしたね。」

「今のことなんか聞いてねー!!」

 

思わず突っ込んじまったが

これは別に今思い付きで言った訳でも何でもない。二人一が緒にいる姿があまりにも馴染んで見えたんだ。

それに俺がキリトさんと知り合ったあの大雪の日にシズクとも初めて出逢った。これは本当にただの偶然なのだろうか?

 

キリトさんは婚約者を探してアリアハンにやって来た。その婚約者ってシズクのことだったり・・・

いやまさかな。

 

10年前に16歳くらいに見えたヒロシゲさん。何故か今も見た目は変わらないが、シズクは確かに6歳くらいだった。

いくらなんでも気のせいか・・・

 

 

 

「そうですよ。気のせいです。」

 

 

!?

 

「だから何でお前は俺の心の中での会話に返事ができるんだ!エスパーかお前は!!」

「だってぇ・・・さっきから一人でブツブツ言ってるんだもん。」

 

頬を膨らませ拗ねるシズク。か、可愛い・・・だが、彼女はそれ以上話すことはない。ハッキリとは言わないが、雰囲気でそう語る。

まぁ、そのうちに話してくれるだろう。

やれやれ仕方ない。今は話題を変えてやるか。

 

 

「ところでお前は何でこんな夜中に俺を部屋に呼んだんだよ?」

「そうでした。・・・マコトさんのクラスのビアンカさんって女の子と最近随分と仲が良いそうですねぇ。どう言ったことか説明していただけますかぁ?」

 

声のトーンを下げ器用にも自分の声にエコーをかけている。そして瞳の虹彩が消え失せたシズクがユラユラと近付いてくる。

 

 

結局これかー!チクショー!!

 

 

.

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?全身ケガだらけじゃない。」

 

次の日、教室で俺の顔を見上げるビアンカさんは、心配そうに声をかけてくれる。

何でもないよと答えるしかない俺を彼女は気遣ってくれ、少しだけ暖かい手のひらをそっと俺の顔に添える。

彼女の触れている箇所がポオっと微かな暖かみを含んだ光を放つと、スーッと痛みが引いていく。

ベホイミだ。

 

「ビアンカさんありがとう。」

「ちょっとマコちゃん。何も泣かなくても・・・」

 

え?俺泣いてますか?

シズクの言うベホマも良いけど、やっぱり僧侶はビアンカさんのような癒し系であってほしい。

思わず感動して涙がでちゃったよ。

 

「本当に大丈夫?模擬戦が近いんだよ?」

「模擬戦?」

「あー!やっぱりサンチョ先生の話し聞いてなかったんだぁ!しっかりしてよね?うちのクラスはマコちゃん次第なんだから。」

 

あの先生の話しは眠くなるんだよなぁ。ラリホーでも唱えているんじゃないかと本当に疑いたくなる。

 

隣でプリプリしているビアンカさんがなんか可愛い。

まぁ端的に言うと、クラスの代表がパーティを組んで模擬戦を行うらしい。

下位クラスが上位クラスに勝った場合はクラスが入れ替わるのだとか。

 

まぁ、最初から落ちこぼれクラスの俺達はこれ以上・・・

 

「ちなみに、落ちこぼれクラスが1回戦で負けると退学だからね?」

「は?退学?」

「うん。ラダトームの町の入り口とかに俯いた人達がいたでしょう?絶望だけが支配する世界みたいなこと言ってた人。あの人達も昔は大魔王討伐に頑張っていたのに能力がたりなくて退学になってしまった人達なの。」

 

いた!確かにいた。

何ですか。あれって大魔王ゾーマに与えられた恐怖に絶望した人達ではなくて、退学になってしまって絶望していたんだ・・・

 

 

 

「ねぇマコちゃん。私もパーティに入れてくれない?」

 

 

 

「お!マコト。ベホイミか?羨ましいな。姫俺にもベホマをグボッ!!」

 

恐ろしくタイミングよく大勇者キリトさんにキョウイチ、ロレンスの、通称ロイヤルガードを連れシズクが俺達の教室に入ってきた。

 

彼女はひきつった微笑みを称えながら、ベホマを要求してきたキョウイチの口の中に、入りきらない程の薬草を、パンチと共に押し込んでいた。

 

 

 

明らかに不機嫌なシズクの顔を見る限り、絶対に模擬戦の事やビアンカさんのパーティへの参加の話をきいていたのにちがいないだろう。

ビアンカさんの方も突然のシズクの来訪に萎縮しちまっている。

仕方ない。俺が助け船を

 

 

「女王陛下こんにちは。私はビアンカと申します。」

「ええビアンカさん。覚えていますよ?」

 

ん?

 

「今回の模擬戦はクラス対抗ですから、マコちゃ・・・勇者マコトの回復係りは私があたらせて頂きますね?」

「は?クラス対抗?」

 

意外にも臆することもなくシズクに話しかけるビアンカさん。シズクの方はというと、模擬戦がクラス対抗とは知らなかったようで、睨み付けるようにキリトさんをみる。

キリトさんは両手を肩の高さに上げ、俺には無理!!を態度で示している。

 

「どうやら恒例行事みたいだな。なになに?優勝者には・・・マイラの温泉旅行?俺、温泉嫌いなんだよな。」

構内行事の案内を読み上げるロレンス。

 

「・・・では私がマコトさんのクラスに」

「シズク、お前は今やこのラダトームの女王だ。お前を落ちこぼれクラスに入れられる訳がないだろう?今まで退学になった者達に申し訳がたたなブゴッ!!」

 

最もな説明でシズクの説得を試みたキリトさんは、最後まで聞かせることが出来ずに、彼女のハイキックの餌食となり、キリキリと音をたて回転しながら吹き飛んでいった。

 

 

「お?続きがあるぞ?なになに、尚、特Sランクのクラスは参加出来ない?姫!俺達は模擬戦に参加もできないみた・・・ちょっと待って!!俺は悪くな・・・ギャー!!」

 

 

ロレンスは全身紫色になって倒れた。いつだかの毒バリをもったシズクは・・・

 

おぼえてなさいよぉ!!

と、おおよそ女王らしからぬ捨て台詞を残して走り去って行った。

 

 

シズク・・・

 

どうするんだよ。この気絶した特Sクラスのロイヤルガードの面々は。

 

 

「相変わらず女王陛下は凄い娘だね。」

 

ビアンカさんが目を点にしてボソリと呟いた。

 

 

 

.

 

 

 

 

あれから数日。

シズクはただの一度も俺の前に姿を見せなかった。ほんの少しだけ罪悪感を覚えるが、ルールなら仕方ない。

 

「あ!また勝ちましたよ?ツカサさん。」

「まぁ、当然だし?」

 

 

俺達落ちこぼれクラスは怒涛の快進撃で勝ち上がっていた。

サキのザオリクによって、800Gを払わなくても甦れたツカサは、相変わらず魔法学園だと言うのに、魔法をいっさい使わずに勝ち上がる。

ツカサが疲れるとビアンカさんのホイミで回復し、その回復の間に俺が勝ち上がる。

その作戦が項をそうし、何と初の落ちこぼれクラスが決勝戦まで進んだのだ。

 

 

「俺達四人なら優勝できるぜ!!」

ツカサは意気揚々と、始まるまえから勝利宣言だ。

だが、俺達が勝てたのは当然だった。

何故ならば夫婦特権とやらで、本来なら特Aクラスのサキがいるし、俺だって本当は・・・

 

まぁ、あと残すとこは1勝だ。

 

 

 

 

「さぁ決勝戦です!ここまで来たら、何としても落ちこぼれクラスに優勝してもらいたいものです。」

 

進行役員うるさいよ。

今や俺達は落ちこぼれではない。次の決勝戦の相手も中々出てきやしない。きっと俺達にびびっているのだろう。

 

「決勝戦!落ちこぼれvs謎の美少女戦士しずりん!!」

 

 

っておい!!

対戦相手が闘技場に姿を見せると、何と・・・スライムのお面を被った4人が現れた。

 

 

 

 

「おいシズク・・・何やってんだお前。」

「え?なぜ・・・じゃなかった。私は謎の美少女戦士しずりんですわ。」

 

 

アホかー!!

 

 

「わ、私がシズクだと言う証拠でもあるのですか?」

「俺がお前を見間違える訳がないだろう?」

「マコトさん・・・」

 

しずりんと名乗る少女はお面越しにも照れてもじもじしている。

丸分かりだ。

 

そして俺は後ろにいる包帯ぐるぐる巻きのミイラ3人を指差し、こう告げるのだ。

 

「一番右はキリトさんだ!そんな全身黒づくめな装備を使うような人は他にいないし、何よりも勇者の印がある!!」

 

指差された包帯はビクッとする。

 

「次に真ん中はロレンスだ!普通に商人の装備だ。」

 

指差された真ん中の包帯は怖れおののいた。

 

「そして何よりも決定的なのが、一番左のキョウイチ!!服にキョウイチって名前が書いてある!」

 

 

「こ、この俗物どもがぁ・・・」

 

 

 

ゴゴゴと、凄まじいまでの冷気を放つ自称美少女戦士しずりんは、足下の地面の土さえも凍らし始める。

 

 

「ま、待てマコト!お前に剣を教えたのは俺だ。あれから10年。どれ程俺に近付けたのか試してみたくはないか?」

 

キリトさんは、大魔法を発動させる寸前のシズクを羽交い締めにして抑えながら、俺に語りかけてきた。

確かにそれは知ってみたい。

今の俺は師匠だと思っているこの人にどこまで通じるのだろうか?

結局俺は、自身の今の力を試すべく剣と盾を構えると、試合の判定をする教官達は回りの仲間達を離れさせて、試合の合図をするのだった。

 

.

 

 

 

 

距離にして10メートル。

 

全身黒つくめの彼は、右手に大きな大剣を斜めにかまえ、もう片方の何も持っていない方の手を牽制するかのように俺の方にむけ、腰を落として構える。

 

見れば見る程その構えに隙はなく、子供の頃には全く分からなかったが今の俺になら分かる。

 

 

この人は本当に強い。

 

 

ビシビシと感じるプレッシャーに剣を握る手に汗が溜まる。

額の汗が顔をつたり顎からポタリと滴った瞬間、キリトさんは目にも止まらぬ速度で一瞬にして間合いを詰めてくる。

 

 

ガキーン!!

 

剣と剣がぶつかり火花を散らす。

 

 

「よく防いだなマコト。」

 

 

嬉しそうに笑いながら剣を振る大勇者の剣はとても重かった。

目の前に迫る剣先を辛うじて防いでる俺は、だんだんと速度を上げていくキリトさんに着いていくのがやっとだった。

 

次第に捌ききれなくなるにつれて、闘技場の隅に追い込まれていく。

 

本当に咄嗟の判断だった。

俺は左手に持つ盾を捨て剣を両手で振ると、驚く程に早く剣を降り下ろせた。

俺の剣先を、刃の光の方が追いかけるかのようになると、次第にキリトさんの方が若干後退し始める。

 

退路に俺はベギラマを放つが、キリトさんはその魔法を放った直後の、一瞬の隙を見逃さなかった。

 

キリトさんは何も持っていない左手に魔力をためると、光輝く剣が現れた。

 

マズイ!!

 

この今まで以上のプレッシャーは、間違いなく必殺技がくる。

俺は両手で剣を構え、迫り来るキリトさんに応対すべく腰をおとす。

 

両手に剣を持つキリトさんの攻撃はまるで生きているかのように、左右、上下とあらゆる角度から次々と繰り出され、そしてそれはどんどん早くなっていく。

 

 

 

スターバースト・ストリーム!!

 

 

 

 

次々と繰り出される剣は名前の通り嵐の如く繰り出され、その剣の刃に反射する月明かりが、まるで夜空に散りばめられた星のように輝く。

 

マズイ、これはキリトさん本気だ。

 

 

俺は闘技場の隅まで後退し

 

 

 

 

 

 

「教官、この人達は特Sクラスです。」

 

「え?」

 

 

 

「試合終了!大勇者キリト並びにしずりんチーム、反則負け!」

 

「え?」

「は?」

ふっ、危なかったぜ。

こうして俺達は、初の落ちこぼれクラスに優勝をもたらした。

 

 

 

 

「ま、マコちゃん・・・」

「おいおいマコト、さすがにそれは・・・」

「書記として後世に残さなきゃ。勇者マコト、安定のヘタレ」

 

 

後ろの方でチームメートが優勝のお祝いの言葉をかけてくれている。

何となく悪口に聞こえるのはきっと気のせいだ。

 

 

 

闘技場には呆然と立ち尽くすキリトさん。

 

後方の仲間、前方の敵もあまりの俺の作戦に声が出ないようだった。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

勇者 マコト ヘタレ 装備 刃こぼれした奇跡の剣

 

武道家 ツカサ ちょっと強くなった。

 

賢者 サキ 然り気無く優勝チームに参加のため、温泉旅行ゲット。

 

僧侶 ビアンカ 点になった目が治るまで3日を要した。

 

 

 

 

美少女戦士しずりん ?? 優勝を逃した腹いせに、チームの仲間を折檻。

 

大勇者キリトらしきもの。 教会へ

商人 ロレンスらしきもの。 教会へ

魔物 キョウイチらしきもの。 教会へ

 

 

王様パパス。 生き返らすお金を誰も出さず、前回からずっと死んでいて、死体から腐った死体へ進化。

 

 

 

 




〜オマケ〜

シャッ!シャッ!

夜な夜な男子寮に響く不振な音。音の出所はなんと勇者マコトの部屋だった。
眠い目をこじ開け、音のする方をみると、シズクがエヘヘと笑いながら剣を研いでいた。

怖い!!しかし恐怖で声が出ない。
朝、勇者が見たものは剣先に自分の顔が映る程に輝いた、切れ味の増した奇跡の剣だったもの。


勇者は叫ぶ。研ぎすぎだ!!刃渡りが30センチしかねーじゃねぇか!
これでは奇跡のナイフだ!!


ナイフ携えた勇者マコトの運命は?

ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険
待望の最新刊発売!(ウソ)




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18話

ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険⑱VS竜王の音楽推奨♪


ほら三人ともキリキリと自転車をこぐ!女王の命令で一心不乱に自転車をこぐロイヤルガードの面々。
隣を農作業を終えたお爺さんが歩いて抜いていく。

『遅すぎます!おしおきだべー!!』
ロイヤルガード三人を襲う巨大な稲妻。その稲妻の正体とは?物語終盤で物語は加速する。

皆さん道具屋で20マンGです。早く買いに行かないとお仕置きしちゃいますよ?


.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝・・・と言っても昼間の無いラダトームでは朝と言うのも変だがとにかく朝だ。

俺は最近の日課である女王の執務室へと足を向ける。すると今朝はいつもと違って執務室の前で、大きな体を器用に丸めて中を覗く男が見えた。

 

「何やってんだ?ロレンス。」

俺に声を掛けられロレンスは俺の方を振り向くと自分の口の前に人差し指を起き、中を見ろとジェスチャーをしている。

 

言われるままに中を覗くと、白いドレスを纏った白銀の長い髪をなびかせた大人びた魅力をもつ女性と、全身黒を基調とした装備の男が何やら言い争っているのが見えた。

 

 

魔力による空間の結界でも展開しているのか、本性が魔物である俺の耳にも二人の会話は聞き取れない。と言うより聞きたくない。

今までを考えると巻き込まれて痛い目に遭うのがオチだ。

しかし・・・あの姿久しぶりにみる。

なるほど、きっとこの物語も終わりが近付いているのだろう。

 

 

バキッ!!

俺が物思いに耽っていると中から聞き覚えのある音が聞こえてきた。やれやれだ。

 

「キョウイチさんにロレンスさん、そこにいますね?いつまでも隠れていないで早く入って来てください。」

俺とロレンスは顔を合わせると、やれやれのポーズを取り、女王陛下の待つ執務室の扉を開けて入るのだった。

 

「2人とも物思いに耽っていないで早く来る!!」

いつの間にか黒髪の少女・・・シズク女王が苛立ちを隠さない声で俺達を再度呼びつけている。

 

「「あらほらさっさー!!」」

 

 

思わず俺とロレンスは息ピッタリの掛け声と共に、走って女王陛下の元へ走るのだった。

 

 

 

 

 

それにしても今日の姫は機嫌がすこぶる悪い。

だいたい察しはつくが、これはダメなパターンだ。

隣のロレンスも冷や汗をかきながら若干怯えている様子を見る限り同じ意見だろう。

しかしそこは親友ロレンス。全く空気を読まない発言を平然と言ってのける。

 

「姫・・・いえ、女王陛下。そんなに温泉旅行行きたかったのか?風呂ならまだしも温泉は大変だぞ?」

 

む、蒸し返しやがった!さすがの我等ロイヤルガードのリーダーキリトも、先程蹴り飛ばされめり込んだ壁の中で青ざめている。

 

「良いか?温泉は大変なんだ。毎日の水質検査や、浴槽を維持する木組みだって腐るからこまめなチェックが必要だ。宿屋と兼用なら銀の器は直ぐに酸化してしまい黒ずんでしまうし、木製の器では安っぽいイメージが拭えない。それに・・・」

 

商人としての話をするロレンスは自分の商売の話がツボに入ったのか、ニコニコと冷たい微笑みを浮かべた女王が近付いている事に全く気付かない。

「終わったなあいつ。」

キリトもめり込んだ壁から呟く。

 

「・・・ってなわけでな、温泉は・・ブゲッ!!」

 

 

どや顔で温泉について語るロレンスは、案の定女王の殺人パンチを受け、仲良くキリトの隣の壁にめり込んだ。

 

そして女王は俺を見ると、大至急マイラの宿屋を予約するように命じる。

俺は一瞬校則違反では?と頭を過るが、そんな俺を嘲笑うかのような、魔物も逃げ出す冷たい微笑みで女王は言う。

 

「校則違反なら、校則そのものを変えちゃえばいいんです。」

 

と。

悪魔より悪魔的なことを言う女王。しかし俺は学んだんだ。

 

 

 

 

正に触らぬ何とかに祟りなしだ。

 

 

「だがシズク、マイラと言えばルビスの塔が近いんだぞ?そんな所をお前がうろうろしていて大丈夫なのか?ルビス様は幽閉されていることになっているんだろ?」

 

 

キリトのいつになく真剣な顔で投げ掛けた一言に、表情を曇らす女王が印象的だった。

 

 

 

 

 

 

「だがどうするんだ?姫。マコト達は昨日にはマイラに向けて出立してるんだぜ?追い付くにはちょっとキツくないか?」

 

「は?マコトさん達はもうマイラに向けて出立したって・・・何で直ぐに教えてくれなかったんですか!?」

 

さすがの女王も、まさかマコト達が昨晩のうちに出掛けるとは思っていなかったらしく、あきらかに狼狽えるように、そして俺を今にも絞め殺さんばかりに責め立てる。

こ、怖え・・・

しかしマコトとの約束は、たとえ女王といえど反故にはしたくない。そう、魔物である俺を友と呼んだあいつとの約束。

 

 

それは

 

 

 

 

 

 

『キョウイチ。』

昨晩俺はロイヤルガードの仕事を終えての部屋への帰り道。不意に背後から声を掛けられた。

 

アレフガルドの冬は寒い。厚手のコート等を羽織ったビアンカさんと、サキ。どこでも布の服しか纏わないマッチョなツカサ。最近少しだけ勇者らしくなってきたマコト。

どう見ても旅支度を終えた勇者達のパーティだった。

 

『何処かに行くのか?サンチョ先生の課題か何かか?』

『いや。俺達はこれからマイラを目指す。』

『マイラ?温泉旅行にもう行くのか?まだ女王の機嫌も治っていないのに、黙って行くのは不味くないか?』

 

そう、ロイヤルガード及びラダトームの女王である姫はおいそれと城を空けるわけにはいかない。

マコトはそんな考え事をする俺を少しだけ寂しそうに笑う。

 

『お前、正体は魔物のくせに何気に優しいよな。』

 

そう言って笑うマコト。だが不思議と嫌な気分では無かった。こいつ等とはイシスからの付き合いだが、今では種族を越えて友とさえ思える。自分でも笑ってしまう。とても口に出しては言えないな。

 

『キョウイチ、お前を友だと思って頼みがあるんだ。シズクを――あいつをお願いできないか?俺達はそのまま大魔王ゾーマの討伐にうって出る。』

『ゾ、ゾーマ様の討伐に!?』

『やっぱりキョウイチはゾーマの手先だったんだな。』

 

つい声に出してしまったのちに慌てて口を抑えるが既に出遅れだ。マコトは笑いながら

 

『良いんだ。産まれの違いで立場が違うのは仕方ない。だがそれを承知でキョウイチに頼みたいんだ。俺達が生きて帰れるとは限らない・・・むしろ、勝って生を拾うなんてたぶん無理だろう。でもそんな戦いにシズクを連れていきたくないんだ。あいつの周りにはお前やキリトさん。ロレンスもいる。あいつはもう一人じゃない。幼い頃に両親と離れてただ一人、誰も知らない見知らぬ土地アリアハンにやってきたあの頃とは違う。それにたぶんあいつの正体は・・・』

 

そこまで言ってマコトは黙った。マコトはヘタレで鈍感だと思っていたが、こいつはこいつなりに色々成長しレベルが上がっていたんだと今更ながらに気付かされた。

だが俺の口から女王の正体を語るわけにはいかない。たとえそれが友であったとしても。

だがマコトはそんな俺を見て、肩に手をおく。

 

『いいよキョウイチ。お前にも色々あるんだろう?』

『・・・すまねぇマコト。今俺が教えてやれることは、ルビス様を幽閉したルビスの塔はマイラの北西にあるってことだけだ。ゾーマ様と戦うなら、その前に必ずルビス様の所へいけ。例えそこで何があったとしても・・・』

『・・・ああ、分かった。』

 

俺とマコトは硬く握手をした。それは人間の挨拶だがなぜか俺も無性にそうしたくなった。

二人の握手の上に、ツカサとサキ、ビアンカさんが手をおく。

 

種族を越えて解り合えた一瞬だったとおもう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・です。・・・聞いてますか?キョウイチさん。」

 

ダメです。半分くらいしか聞こえてません。女王(あなた)が首を両手で締めてグワングワン体を揺らすものだから、今軽くフラッシュバックを見ていました。

 

 

 

「まったく・・・三人とも大至急旅支度を整えて下さい。マコトさん達をおいかけますよ!」

 

女王はラダトーム城の執務室から遥か東のマイラの村の方角を見据える。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※

※※※※

 

 

 

 

「こちら機関室長サンチョ。エネルギー充填120%!チェーンロック整備完了。いつでも行けますぜ?女王陛下。」

 

出立を宣言してからの姫は、いろんなところへ指示を出していた。パパス前王を始め、あらゆる大臣達が慌ただしく動き回っている。

女王である姫は、どこから出したのか錨のマークが付いた帽子を被ると、女王の席に座る。

 

辺りからはブゥンブゥンと重低音を響かせている。

「な、なんだ?何が起こっているんだ?」

慌ててはいるものの、これから起きる事に期待してか、目を輝かせるキリト。

 

「最終安全装置解除!女王陛下いつでも行けます!!」

女性教諭が言うと、姫はそれを聞き頷く。

 

 

 

 

「目標マイラの村。ラダトーム号全速にて発進!!」

 

 

 

女王はマイラの方角を指差し、指示をだす。

「と、飛ぶのか?ラダトーム城は空を飛べるのか!?」

「まさかラダトームにこんな秘密があったとは・・・」

興奮しまくっているキリトとパパス前王。

何でラダトームの前王であるお前も知らないんだよ?

俺と隣のロレンスは期待が一気に冷めていくのと同時に嫌な予感が広がっていく。

 

「シズク!早くラダトーム城を飛ばせて見せてくれ!」

 

「は?ラダトーム城が飛ぶわけないじゃないですか。キリトさんはアホですか?」

「へ?」

 

「飛ぶのはキリトさんとキョウイチさんですよ?」

「なんだ・・・と・・・」

「キリトさん、あなたが以前勇者だか英雄をしていたALOのアルヴヘイムとか言う世界で飛行能力を手に入れた事は分かっています。貴方は私を乗せてマイラへ飛ぶんですよ!」

「ぐっ・・・じゃあさっきのまでは一体?」

「あれは飛べないロレンスさんのために用意した自転車、ラダトーム1号です。」

 

姫がキリトにそう説明すると、チリンチリンと軽快な音を鳴らしながらサンチョ先生が自転車に乗ってやって来た。

 

はぁ・・・

「しかし、ロレンスだけ自転車じゃ追い付けないんじゃねーか?」

俺は至極当然の質問を姫になげかけると、姫はきょとんと首を軽く傾げて、

「え?いざとなったら私がルーラでロレンスさんをマイラに運びますよ?」

 

と可愛らしく言った

 

 

 

 

「「「最初からルーラを使ってくれー!!!」」」

 

 

俺達三人の魂の叫びがラダトーム城中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吐く息が白い。

真っ暗な深い森を俺達は歩いている。ラダトームを出てもう3日。この辺りになると魔物たちも強力なもの達になる。

いつも隣を歩いていたシズクと別れて3日。あいつは元気にしているだろうか?

 

「マコちゃん?大丈夫?ぼうっとしてると危ないよ?」

 

少し後ろを歩くビアンカさんは、振り向いた俺を笑顔で迎えてくれた。

 

「・・・やっぱ女王陛下が心配?」

上目使いに聞いてくるビアンカさんはどんな意味で問いかけてきたのだろう。

そう、俺はシズクをラダトームに置いて旅に出た。このまま大魔王ゾーマを倒すための片道切符の旅路。

あいつの強さがあれば或いは旅も楽だったかもしれない。シズクの事だからもしもなんてあり得ないのかもしれない。だけど、それでも俺はあいつを残していく選択を選んだんだ。

あいつのこれまでは幸せと言えたのだろうか?

 

あいつは雪の降るアリアハンで出逢った。見知らぬ人の中でいつも何かに脅えてるかのように。だけど今のシズクは楽しそうだ。周りにはいろんな人達がいて、誰もが彼女を大切にしてくれている。今までの分まであいつの人生の未来は幸せなものであってほしい。

 

たとえシズクがそれを望んでなかったとしても。

 

俺はラダトームでのキリトさんとの会話を思い出す。

 

『デイン系の魔法はね、ルビス様の定めた勇者しか使えないんだ。もし他に使える者がいるとしたら―――』

 

キリトさんは俺に確かにそう言った。ずっと耳に残っていた俺は、その後もずっとラダトームの図書館に足蹴に通ったんだ。

実は俺にもシズクについて思うことがある。

 

あいつは、全ての教会に残るルビス様の文献にある姿似にあまりにも似すぎている。お世辞抜きにしても、女神であるルビス様と姉妹と言っても信じそうな程だ。あいつをもう少し歳上にして金髪にしたら、もう完全に見分けがつかないと思う。そこに来てキリトさんのデイン系の魔法についての話だ。

 

俺は何度も何度も否定したい気持ちを持ちながらも辿り着いた答え。それは・・・

 

 

 

 

 

 

シズクの正体はルビス様というものだった。

 

 

 

 

 

俺もまさかとは思う。しかし彼女がルビス様と考えると、あのデタラメな強さも頷ける。

それに勇者なのだから多少は神の祝福を受けているかもしれない。しかし自分で言うのも何だけど、俺達の旅はあまりにも順調だった。いや、順調すぎた。

バラモスのときもそうだった。本来俺達のレベルでどうにかできる相手ではなかったのだが、シズクのおかげ?で勝利し、アリアハンに平和をもたらすことができた。

もっとそれ以前、彼女がいなければイシスで出会った魔物であるキョウイチに全滅させられていたことだろう。

 

「・・・ちゃん?危ないよ?」

 

キョウイチも別れ際にルビスの塔を目指せと言った。あいつの事だから、疑問やモヤモヤした気持ちを全て振り払ってからゾーマに挑めってとこなのだろう。

俺は・・・

 

「ちょっとマコちゃん聞いてる?前危ないよ?」

 

ガツン!!

 

凄まじい衝撃が顔面を襲う。キラキラと目の前を飛び回る星を見ながらぶつかった物をみると、どうやら木の枝に顔面をぶつけたようだった。

 

俺が頭を振り意識を取り戻すなか、ツカサは宝箱を見つけ、はしゃいでいる。

サキがインパスをかけ、トラップの類いがないかを確かめるが、それを待たずに宝箱を開けるツカサ。

 

ガブリ!

 

良い音を立ててかぶりつかれたツカサ

「ぎゃー!!人食い箱だぁ!助けてー!」

宝箱の口から出ている下半身をジタバタさせて助けを求めている。

 

全く・・・ツカサは変わらないな。

助けようと近付く俺ごとサキはイオナズンで吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

「あ!この温泉って傷の治癒にも良いみたいだよ?」

 

温泉の効能が書かれた立て札を見て、テンションがあがっているビアンカさんとサキ。

 

俺達は人食い箱との激戦に勝利し、とうとう目的地であるマイラに辿り着いた。

村一番の大きな宿屋を予約したと言うパパス王に言われた通り宿屋に行くと、ラダトームの城とまではいかなくても、立派な宿屋が現れた。嫌でも期待が高まる。

 

宿屋の女将に通された部屋は意外にも普通だった。見た目が凄かっただけに少し拍子抜けしたけど、変に肩の力が入らない分ゆっくり休まる事ができそうだ。

女将が言うには、突然のV.I.P.の貸し切りが入ったらしく、パパス王の予約はランク下げされたらしい。あの人仮にも王様なのに扱いが軽いな。威厳がないと言うかなんと言うか。

 

「皆さんは勇者様一行ですから心配無いと思いますが、この辺りには身の丈が10メートルを越す巨大な魔物が出没するので、十分に気を付けて下さいね。」

 

女将は部屋を出る際にサラッと物騒な事を言って去っていった。

それにしても山奥の深い森の温泉に巨大な魔物か・・・

まるでどこかの神話のような話だな。

 

 

 

 

「さて、この地図を見てくれ!」

 

部屋に着き一段落すると俺はテーブル一杯に地図を開いて見せる。三人はテーブルを囲むように地図を覗きこむ。俺達はもう一時も無駄にはできない。

きっとシズクの事だから、俺達が旅に出た事を知れば必ず追いかけてくるだろう。キョウイチにお願いはしたが、足留めの時間はほんの僅かだろう。だから俺達はシズクよりも早く動かなければならないんだ。

 

「聞いてくれ皆!俺はこの温泉旅行の後、そのまま大魔王ゾーマの討伐にむかう。」

 

一堂は息を飲んだ。

それもそうだろう。何せ相手は大魔王ゾーマ。闇の神だ。生きて帰れる保証は全くない。それどころか勝てる見込みの方が遥かに小さいのだから・・・

 

「マコト・・・お、俺も着いていくぜ?」

さすがのツカサも発する言葉にキレがない。

 

「皆、無理をしなくてもいい。相手はあのゾーマだ。俺は一人でも・・・」

 

そこまで言う俺をビアンカさんは言葉を遮る。私も着いていくと・・・

すると重苦しい雰囲気を振り払うかのように、ツカサやサキも俺の手をとりゾーマを倒そうと言ってくれた。俺は胸が一杯になり涙が込み上げてきそうになる。

 

「あらあら青春ねぇ~」

 

どこから現れたのか、見知らぬ女性がいつの間にか俺達の会話に交ざっていた。その女性はローブを纏い、フードを深くかぶっているから顔はよく分からない。

そんな不思議な女性だが判る事は数点ある。

 

先ず彼女はきっと美女だ。

フードの隙間から覗く口元や顎のライン。どことなくシズクと似た甘い声。

間違いなく長身の美女だ。

そしてもう一つ判ったこと・・・

 

彼女は酔っぱらいだ。

 

部屋一面にお酒の香りが充満し始める。お酒はあまり飲まないと言うビアンカさんは匂いだけで酔っぱらってしまいそうだ。

 

酔っぱらいはフラフラと近寄ってくると、フード越しに俺の顔を下から覗きこむよう暫く見つめると、彼女は両手をパン!と叩き、

 

「あ~勇者ら~。勇者がいたお~。ヒック!」

 

彼女はペシペシ俺の頭を叩きながら、何が可笑しいのか笑っている。

覗き込まれた時にちらっと見えた顔は、俺の想像通り絶世の美女だった。ちらっと見えた輝かんばかりの金髪が、きっと彼女をより一層美しく飾るんだろうな。

 

「ん〜?キミ魂に不思議な香りが纏わりついているねぇ~・・・ウプッ!」

何かを言いかけた彼女は、赤い上機嫌な顔から真っ青な顔になる。なんかヤバい、これはヤバい気がする。後ろの仲間三人はいつの間にか部屋の隅まで逃げていた。

 

え?ちょっ、ちょっと待って・・・

 

 

 

 

うぎゃあああああ!!!

 

 

 

 

静かな山奥のマイラの村に俺の叫び声が響き渡った。

 

.

 

 

 

 

「あぁひどい目にあった。」

「マコちゃんは災難だったよねぇ。」

「まぁ、ここが温泉で良かったよな。」

 

俺達はあのあと、軽く温泉に入りルビスの塔を目指している。本当は直ぐにでも旅立ちたかったのだが、謎の美女のゲ・・・いや、思い出すのはやめよう。

ともかく今は少しでも早くルビス様のもとへ行きたかった。もっと温泉に入りたがっていたビアンカさんとサキには悪いが、のんびりしていてはシズクに追い付かれてしまう。

 

「しかしさっきの女性は余程のお嬢様のようだな。しかも奥方様とか呼ばれていたから人妻だぜ?」

やたらとテンションが高いツカサが興奮ぎみに言う。あのあと、俺達の部屋に血相を変えた侍女だと名乗る少女数人が奥方様と呼ばれていた酔っぱらいの美女を部屋へ連れて帰って行った。欲を言えばもう少し早く来てほしかった。

 

「でも、奥方様と呼ばれるには若かったんだけどなぁ。せいぜい二十歳ぐらいにしか見えなかったぜ?」

「良いよな人妻。」

 

男二人が旅すがら語っている話題を、少し後ろを歩く二人の女は白い目で見ていたらしいが、それを知ったのはずっと後の事だった。

 

 

 

 

 

 

深い森を抜けた先にそれはあった。

塔と言うよりは大きな大木のように見える。塔の入口に立ち、遥か上空に幽閉されているだろうルビス様。

しかし、塔を見上げたときに俺の頭に浮かんだのは、寂しそうに笑うシズクだった。

 

この塔を登頂すればルビス様の正体がわかる。シズク・・・たとえお前がルビス様だったとしても俺は・・・

 

 

「マコト・・・行こうぜ?例え何が待っていたとしても。」

ツカサが俺の肩を叩く。ツカサもツカサで何かを感じ取っているのかもしれないな。

シズク・・・俺はいくぜ?

ルビスの塔の扉に手をかける。

 

 

 

 

「マコト、悪いがそこを通す訳には行かない。引き返してくれないか?」

 

不意に話しかけられて振り向くと、そこにはロレンスがいた。

え?何故ロレンスがここに?ってことはシズクももう追い付いているのか?

辺りを見回す俺をロレンスは姫はいないぜと小さく答える。

 

「ロレンス、どうやってここに?俺達は昨日には出ていた。追い付けるわけがない。」

「姫のルーラだよ。」

「ルーラ?それは変だよ。ルーラは1度訪れた場所にしか行けないはず。何でシズクちゃんがマイラに?」

 

サキがロレンスに向かって言い放つが、ロレンスは不敵に笑っている。

ロレンスは俺を一瞥すると

「マコト、お前はお前の答えを見つけたんだろう?俺は俺で姫の願いを聞き入れてここに来た。もう1度言うぞ?マコト、ここを去れ。塔に入れるわけにはいかない。」

 

 

ロレンスとの距離はまだ数十メートルはある。ロレンスはいつも飄々としていて、お金になることにしか興味を示さない根っからの商人だ。

しかし、今ここにいるロレンスからは商人のものとは思えない程のプレッシャーを感じる。

 

「・・・ロレンスお前はいったい何者なんだ!」

 

俺の問いに対する答えは意外なものだった。

 

「俺の名はロレンス。商品の流通を目的とした旅の行商人。今は姫を警護するロイヤルガードで、俺の本当の姿は・・・」

 

 

 

より一層濃くなるプレッシャーに巨大な魔力が混じっていく。

 

 

ロレンスは正体をあらわした。

 

 

 

 

 

ワオオォーーーーン!!!

 

 

ロレンスは・・・いや、ロレンスだったものは、身の丈が10メートルを越すような4つの首をもたげたドラゴンだった。

青く光る体毛。背中には稲光のようなものを纏っている。まるで捕食者のような真っ赤な獣の瞳からは、既にロレンスであったころの優しい色は欠片も残っていない。

 

「あれは!キングヒドラ!!」

緊張した面持ちでビアンカさんが、ロレンスの正体を短く悲鳴をあげるかのように教えてくれた。

 

ロレンスは巨大なキングヒドラだったのだ。

 

 

 

 

ロレンスは巨大な体からは想像もつかないスピードで俺達を襲う。距離を取ったと思うと体を空中で回転させ、長く太い尻尾を俺達に叩きつけるように攻撃してくる。

近付けば近付くで、背中に纏った電撃や灼熱の炎を放つ。

電撃は魔法ではないようで、サキのマホカンタでも防ぐことができない。

 

しかし何よりも一番の問題は、俺達は本気でロレンスを攻撃できないことにあった。

既にロレンスは友だ。例え人ではなくてもその気持ちに違いはない。

 

ビアンカさんのバギマとサキのメラゾーマがキングヒドラに向かって放たれるが、体が大きすぎる為か、さほどのダメージを与えているようには見えない。

お前、そんなにまで俺をルビス様に会わせたくないのかよ?

 

 

『マコトどうした?反撃をしてこい。俺を倒さなければルビスの塔には入れないんだぜ?本気を出せマコト。世界を救うのではないのか?』

 

キングヒドラの大きな口から言葉が発せられる。その声は確かにロレンスのものだ。

そうだ。ロレンスの言う通りだ。俺は・・・俺達は世界を救うためにゾーマを討たなければならない。ここまできて逃げ出す訳にはいかないんだ!

俺は腰に納めれた奇跡の剣を抜いた。

月明かりに反射した剣は鈍い光を放つ。

 

「いくぜロレンス!!」

 

 

俺達4人は陣形を立て直し、巨大なキングヒドラに向かっていく。

 

 

―――――――――――――――――――

―――――――――――――

―――――

 

 

 

 

 

どのくらい戦っていたのだろう。何時間も戦っているような気がするが、数十分な気もする。俺達4人は既に肩で息をするほどに力を出し尽くしている。だがキングヒドラの動きも明らかに鈍くなっている。アイツも限界は近いはずだ。

 

 

「俺がいく。サキは俺にバイキルトを、ビアンカさんはスクルトを頼む。」

「はい。」

「分かったわ。」

ツカサにはビアンカさんとサキの守りをお願いし、最後の攻撃に打ってでる。

「マコちゃん。死なないでね?私・・・マコちゃんが死んでしまったら・・・」

決死の覚悟を決めた俺に涙ぐんだ瞳でベホマをかけてくれるビアンカさん。

そんなビアンカさんの肩に手をおき、笑顔で頷くことしか俺にはできなかった。

 

 

 

いくぞロレンス!!

俺の決死の特攻にロレンスも覚悟を決めたように答える。

俺の剣の先とキングヒドラの爪が交差する。

 

 

その時だった。

 

 

 

「そこまでじゃ!!」

 

突然辺りに女の声が響き渡った。

 

キングヒドラの爪は空振り俺の体の横をすり抜けていた。俺の剣先はキングヒドラの鼻先で止まっている。

 

 

「ロレンスよ。もうよいじゃろう?主は十分戦った。」

そう言って森の中から現れたのは、三十才ぐらいに見える妖艶な女性だった。

 

「り、龍王・・・」

ロレンスはボソリと力なく呟いた。すでに辺りを覆い尽くすようなプレッシャーはない。ロレンスにはもう戦闘の意思はないようにみえる。

っていうか・・・

 

 

 

「龍王?」

 

 

 

俺達4人は驚きの声を上げ、30歳ぐらいの妖艶な女に目線が集まる。

 

 

 

 

 

 

「主様はマコトと言うたかや?わらわの名は今代龍王のアンルシアじゃ。してそこにいるのが夫のロレンスじゃ。」

既に人の姿に戻ったロレンスの首もとを掴んだ女は自己紹介を始めた。

 

「夫!?ロレンス、あんた妻帯者だったのかよ。」

 

俺の当然すぎる質問に若干照れた顔で頷くロレンス。

 

「愚亭主が主様に大変な粗相を致し、大変申し訳無いことを致した。」

「ちょっと待てアンルシア!これは姫の直々の願いであって・・・」

「黙れロレンス!」

「キャイン!」

 

何かを言いかけたロレンスの頭に今代の龍王アンルシアがゲンコツを落とすと、まるで犬のような悲鳴をあげるロレンス。

どうやら夫婦というのに間違いはないようだ。

 

 

 

 

「マコト、色々すまなかったな。俺にも色々あって・・・」

「気にするなロレンス。俺達は友だろう?」

「マコト・・・。ありがとう。」

 

後ろで口元から火をチラつかせた龍王アンルシアをよそに、俺はロレンスと握手を交わす。

 

「なぁ、何故お前はそんなにまで俺達をルビスの塔に入れたくなかったんだ?やはりシズクの正体が?」

「マコト、俺はお前に負けたのだからもう止めはしない。お前の出した答えはお前自身の目で確かめるといい。ただ姫はな、必ず物語に終わりがあることは解っていても、まだ・・・って気持ちがあるのだろう。行けマコト!そして必ずゾーマ様を討ち、世界を平和に導いてくれ!」

「何言ってんだよ。ロレンスお前も一緒に来てくれよ?」

 

俺がロレンスを仲間にさそうと、彼は静かに首をふった。

「俺はもう自分の世界に戻らなければならない。それにこう見えてアンルシアは身重でな。」

「そうだ!ロレンスお主はしっかりと龍の国を導いてもらわなければならないのじゃからな。」

 

先ほどまでギャーギャー騒いでいたアンルシアはロレンスの横に並びに立っていた。そして二人が手を繋ぐと、ロレンス達の体が光に包まれ体が透けていく。

 

「まてロレンス!どこにいくんだよ!?」

「マコト・・・俺達はどこにいても友達だろう?しっかり頑張れよ?ただ最後に・・・何があったとしても姫を許してあげてほしい・・・」

「なんだよ許すって!」

 

俺の質問に答えが帰ってくることは無かった。ロレンスと龍王アンルシアは笑いながら光の粒子となり消え去っていった。

 

 

 

 

 

 

続く

 

――――――――――――――――――――――

 

マコトはキングヒドラを倒した。

 

マコトはロレンスのそろばんを手にいれたが、必要ないので捨てた。

 

ツカサはロレンスのステテコパンツを手に入れたが、履いたら離婚するとサキに言われ捨てようとするが、『それを捨てるなんてとんでもない』と何処からかロレンスの声が聞こえてきて捨てられなかった。

 

サキはロレンスの財布を手に入れた。商人の癖に財布は空で、かわりに借用書の山があった。サキは借金を手に入れた。

 

ビアンカはロレンスの心を手に入れた。しかし要らないので捨てた。



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19話

ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険⑲





【ロレンスの借金の真相】

ロレンスとシズクは二人で買い出しに来ていた。ふと気付くとシズクは道具屋の前で立ち止まり、何かをじっと見つめている。
「姫?どうした?何か欲しいものでもあったか?」
「ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険の最新DVDがあるなと思って・・・」
わりとハッキリものを言う姫にしては珍しく言いよどんでいる。欲しいなら欲しいとねだれば良いのに。仕方ない。言いにくいなら俺の方から言ってやるか。

「もしお前が本気でそのDVDを欲すると言うのなら、俺は商人の誇りにかけて必ず手に入れてみせる!」
ロレンスはドヤ顔でシズクを見ると、彼女は意外にも驚きの顔をしていた。

「いやぁ~ちょっと高いから無理かと諦めていたのですが・・・私は嬉しい。」

そう言ってシズクは、ほのかに頬を染め俺の腕に自分の腕を絡め、寄り添ってきた。何やら腕のあたりに柔らかい感触が・・・DVDでこれなら安い・・・いや、ハッキリ言ってラッキーだ。

瞳を輝かせた姫は、腕を絡めたまま俺を引っ張るように道具屋の前に立つと、お目当ての商品の前に立つ。
ふとDVDの値段を見ると、ご・50万ゴールド!?
た、高い。高すぎる。しかし姫の瞳は既キラキラと輝かせていて、今更やっぱり無理とか言えそうにない。
ま、たまには良いか。それで姫の笑顔が見れるなら。そうロレンスは心の中で納得をすることにした。

「道具屋さん。ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険のDVDを下さい。1000枚。」
「お?女王様がロイヤルガードと二人でお買い物デートかい?羨ましいねぇ。」
「デートだなんてそんな・・・」

道具屋の店主との会話で照れている姫は、とても可愛い。可愛いんだが・・・いま、1000枚とか言わなかったか!?
店主は俺の方を向いて

「量が多くて持てないだろうから、荷馬車の袋に入れておいたよ。ではお会計をお願いします。DVD1000枚でしめて・・・5億ゴールドです。」
「ご、5億!?」
なん・・・だと・・・予想を遥かに越えた未知の金額。しかし今更ダメだと言ったらどうなるか分かったものではない。

「て、店主・・・リボ払いでお願いします。」



こうしてロレンスは財布の中身が空になり、借用書の山を手に入れた。
そしてその借金は後にツカサとサキの夫婦に引き継がれた。


.

 

 

 

 

 

 

私達はずっと三人だけ。孤独だった。

 

 

ある時私達神々は大地を創り、生命を育む水を満たす。強すぎる光を遮る雲が大地に恵の雨を降らすと、癒しを与えてくれる青々とした植物が産まれてきた。そして私達は、自分達に似せた生物を創った。

特に自覚はなかったけど、きっと私達は孤独に寂しさを感じていたのかもしれない。

 

初めて創造した生物は人。

初めてで不馴れと言うこともあってか、ステータスを全て出来うる限り最高にして創造した。

 

その子に私達は名前を付け、それはもう大切に大切に育てた。それぞれが得意とするものを惜しみ無くその子に与えると、その子は乾いた砂が水を吸うように吸収していった。

 

そうして一人めの人間は限りなく自分達に近いものとなった。

 

また数え切れない年月を経た頃、私達四人は再び新たな生物を誕生させた。

今度は一人ではなくて沢山の生命を創る。

 

今度はあえてステータスは低くして創ると、彼等には寿命と言うものが出来た。初めての死だった。死は悲しいものだったが代わりに生物は成長と出産の能力を持っていた。、その子達は成長という私達神々にはないスキルを持っていたのだ。

 

それに気を良くした私達は、動物・植物・人間・魔物など沢山の生物を創造していった。

そして其々の種族は生命を増やしていく。だいぶ色んな種族が増えた頃、私達神々は創造をやめた。

 

 

もう孤独ではない。心が満たされたから。

 

 

「なぁルビスよ。我々の神界レンダーシアもだいぶ手狭になる程に新たな生命が増えた。新たな大地を創り彼等をそこに住まわせてみないか?」

「新たな大地ですか?」

 

そんなある日、一柱の神が私に相談を持ち掛けてきた。

 

私は彼の意見に賛同し新たな大地を創り彼等をそこに住まわせた。

すると彼等はそれぞれの文明を築いていった。やがて文明も成熟した頃にそれは起きた。

 

ふと神界から大地を覗くと、人と人とが争っていたのだ。他者から財宝、幸せ、生命を奪う。

そんな世界が沢山の大地で起きていたのだ。

 

「こんな筈ではなかったのに・・・」

私の悲痛の思いに他の三人は答えなかった。

それも彼等、生きるもの達の物語だと。

 

しかし弱き者達が奪われるだけであってはならない。私達神々は全ての大地に特に力を持つ魔王を創った。それは人間であったり魔物であったり、魔王となる者は特に強い力を持たせた。

そして同時に弱き者達の中のある一族に力を与える。魔王が勝てばその大地は我々神が滅ぼし無へと還す。弱き者達の代表――一勇者が勝てば、その大地は我々神の庇護を離れ、人の世界となり独立して大地を護っていく。

いつしかそんな世界の理ができていった。

 

そうすることで、せめて同種による争いをなくすために。

 

それが世界を産み出した我々神々にできるせめてものことだった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

――――――――――――

――――――

 

 

.

 

 

 

 

「こんなところにいたのか。ここじゃ寒いだろう?」

 

アレフガルドで一番高い塔の頂でボンヤリ考え事をしていると、掛け声とともに肩に上着を羽織らせてくる。

キリトさんだ 。

肩にかけられた上着を通して彼の温もりが私の冷えた身体を包み込む。

彼はそのまま無言で私の横に並び立つと、そのまま塔の頂からの景色をみている。

 

眼前に広がる分厚く黒い雲の海。髪を凪ぐ風は身をすくめる寒さ。きっとアレフガルドの大地は今日も雪景色だろう。

マコトさん達は大丈夫だろうか?風邪なんかひいていなければ良いけど。私はここにはいない勇者の安否が頭をよぎる。

 

「マコト達はロレンスを倒しルビスの塔へ踏み入ったようだ。」

「・・・はい。ロレンスさんは立派にその役割を果たしてくれました。」

 

私はロレンスさんとのお買い物をした日々を思い出すとクスリと笑ってしまう。ロレンスさんは商人。お金になるかならないかで判断することが多かった。この世界での出会いもお金柄み。しかしお金にセコイわりには意外と財布の紐はゆるく、とくにおねだりには弱かった。

目を閉じれば彼の声が今も耳元で聞こえてくるような気がする。

まぁ彼は死んでしまったわけではないのだから、彼の世界に渡ればいつでも会える。

私は気を取り直しキリトさんの方を向き、あえてハッキリした口調で話しかける。

 

「次はキョウイチさんですね?」

「あぁ、やつはもうマコト達のもとへ向かったよ。俺もドムドーラの遥か南、メルキドに集めた軍隊に進軍の指示をだした。・・・なぁシズク、本当にこれで良いんだな?」

「・・・はい。」

「ところでシズク。一つ聞いて欲しい話があるんだが。」

「なんですか?急に改まって。」

「あぁ別に大した話ではないのだが、シズク、俺と結婚してくれ。」

「・・・は?」

 

彼は突然脈絡の無い話をふってくる。さすがに私も頭の回転が追い付かない。この人は昔からこう言う人だ。しかも大した話ではないと来た。全くもってデリカシーがない。

 

「・・・キリトさん。貴方はムードと言うものを知っていますか?」

「ムドーなら知ってるぜ?ムドーはお前が昔苛めていたペットだよな?」

 

「ムドーじゃなくてムードです!!第一苛めてませんよ!可愛がっていたじゃないですか!!」

 

全く・・・このすっとぼけた婚約者はいつもこれだ。

 

 

「し、シズク?何で近付いてくるんだ?」

「それは貴方の温もりを感じるためですよ?」

「何で、腕を俺にむけているんだ?」

「それは貴方の腕の中に収まるためですよ?」

「じゃあ何故お前の瞳の虹彩が消えてるんだ?」

 

 

「それは貴方をぶち殺すためですよ!!」

 

 

 

 

悲鳴を上げながら逃げていくキリトさんのお尻を思い切り蹴りあげ、アレフガルドで一番高い塔の頂から突き落とした。

 

 

「な、なんでだぁぁぁぁぁ・・・」

 

もの凄い勢いで落ちていく彼に私はとどめの大樽爆弾をともに落とした。

 

 

 

 

ドオオォォォン!

 

 

凄まじい轟音は聞こえてくるが、分厚い雲の下で爆発したために彼の様子は見えない。

 

「何が大した話ではないよ。ばか・・・」

 

私は落ちていった彼に小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

 

 

「今何か聞こえなかったか?」

 

私の少し前を歩く勇者がふと塔の外を眺めて言った。

 

「そう?特に私は聞こえなかったけど。そんなことよりマコちゃん、ツカサ君が一撃でトロールキングを倒したよ!凄いよねぇ。」

「本当だ。あいつ強くなったよな・・・って、何してんだあいつ。」

 

見ると彼とサキさんは倒したばかりのトロールキングの上によじ登り何やらゴソゴソやっている。

 

 

「あった!って、なんだたったの20Gかよ。しけてんなぁ。」

「本当だよね。トロールキングなんて名前のくせに貧乏だなんて。今日からこいつらの名前はトロールビンボーね。」

 

種族の名前にまでケチをつけるサキさん。

しかし、二人して倒した魔物からゴソゴソと漁っている姿が何だか笑ける。本来ならトロールキングを一撃で倒したことが凄いと言うのに、そんな凄さがまるで大したことないかのように、二人はお互い何の合図もなしに倒した魔物の懐を漁っているのだ。

夫婦と言われても今ひとつピンとこない二人だったけど、こうして協力しあって借金を返そうとする姿は夫婦そのものにみえる。

 

「困難は人と人をむすびつける。シズクちゃんの言ったとおりね。」

「シズクがそんなことを?」

「あれ?マコちゃん居なかったっけ?」

 

私のつい口に出してまった一人言に答えるマコちゃん。いつの話しだったかを思い出すと、今この場に彼女がいなかったことが幸運だったと思った。

 

 

「さ、早く行こうぜ?ルビス様はきっともうすぐだ!」

 

彼は意気揚々と前に向かって進む。が突然振り向くと

チュッ

何とマコちゃんは私にキスをしてきた。

 

「ごごごごめん!!」

あわてふためく彼は私にひたすら謝る。そんなに謝らなくても良いのになぁ。

私は彼の足下にある回転床のトラップを見て、成る程と理解と、なんだそう言うことかとガッカリする気持ちになった。

そうだよね。マコちゃんが私にキスをするなんてことは無いよね・・・今はまだ。

 

「あー!マコトがビアンカさんにキスしてる!!シズクちゃんに言ってやろうっと!」

サキさんがマコちゃんを囃し立て、マコちゃんはひたすら言い訳をしている。

そんなやり取りを全く見ていなかったのか、ツカサさんは回転床を踏み、横にあった落とし穴に落ちていった。

 

「何やってんだあいつは。」

さすがのマコちゃんも落ちていったツカサさんを心配するより先にため息を吐いていた。

「助けに行かないの?」

「大丈夫よビアンカさん。あいつは体が頑丈なのと逃げ足が早いのだけが取り柄だから。」

そう言ってサキさんは笑っている。

彼・・・信用されてるんだなぁ。こんな夫婦も羨ましい。

 

そうこうしていると凄い音をたててこちらに走ってくる足音が聞こえてきた。

「ほらな?俺の頼れる親友は大丈夫だ。」

マコちゃんは自慢気に私をみた。良いなぁ男の友情って。でもねマコちゃん・・・足音、変じゃない?

「ちょっとマコト?あの足音多くない?」

サキさんも気付いたらしい。

 

私達が息を飲んで足音がする方を見ていると

「助けてー!!」

数えきれない程のサタンパピーとラゴンヌと言った強敵を引き連れて走って逃げてきた。

 

「あのバカ!何やってんだよ!」

マコちゃんとサキさんは、走ってくるツカサ君に背を向けると、一目散に逃げ出した。

 

「マコトぉ親友だろ?助けてくれよー!」

「うるせー!こっちに来んな!」

涙目で逃げてくるツカサ君に、とても勇者とは思えない捨て台詞をはいて逃げ出すマコちゃん。

 

私達もつられるように走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァ・・・何とか逃げ切ったな。」

マコちゃんが肩で息をしながら言う。

私達パーティはずっと走り続け、広いホールのような場所に辿り着いた。

 

他の階と違いここは暗い。松明も点いていない。でも回りの壁が見えない所をみるとこの部屋が広い事だけは分かった。

他にも不自然な点はいくつもあるけれど、何よりも一番不自然なのは、この部屋が異常に熱いということ。足下に熱気を伴った風が吹いている。

 

「遅かったなマコト・・・」

 

暗闇の部屋の中から低く威圧的な声が聞こえると、部屋の壁に円筒状に掛けられた松明に青白い炎が灯っていく。

 

「キョウイチ・・・」

マコちゃんの指摘通り、部屋の中央にはロイヤルガードのキョウイチ君がいた。

バラモスブロスという魔物の本来の姿で。

元々大柄な男性ではあったが、正体を現した彼は更に大きかった。

右手には成人男性より更に大きな斧を携えている。普段の彼からは想像もつかない赤く燃え上がるような真っ赤な目が、キョウイチ君の本気度を伝える。

マコちゃんは一歩前に出ると、腰にある剣を抜いた。彼の剣はアレフガルドに来てからの連戦に次ぐ連戦により、きせきの剣は既に刃こぼれしてボロボロだ。剣については素人な私から見てもマコちゃんが不利なのは解る。でも、彼は私達の一歩前に出て剣を構える。

この背中・・・私達を守ろうとする背中が好き。

そう言えばアノヒトもこんな背中だったな。

 

「キョウイチ・・・退けないのか?」

「悪いなマコト。これも姫との約束でな。」

「シズクとの?なぁキョウイチ。シズクは・・・いや、ルビス様は何を考えているんだ?」

「・・・それは俺の口からは言えない。本人に聞け。ただ・・・できれば恨まないでやってほしい。」

 

ん?シズクちゃんがルビス様?どうやらマコちゃんは何か壮大な勘違いをしているようだ。

私はキョウイチ君の方を見ると、彼は誰にも見つからないように含みを持たせた笑いで方目を閉じてみせる。こんな命を懸けた時までイタズラ心か。本当に男子の友情って面白いな。

キョウイチ君は斧を振り上げる。

 

 

 

 

そして、お互いがお互いを友と呼び合うもの同士の悲しい戦いが始まった。

 

 

 

 

ウォォォーーー!!!

足がすくむような大きな魔物の雄叫びをバラモスブロスはあげた。

 

部屋の壁がビリビリといっている。凄まじい音の攻撃に私は戦闘中にも関わらず目を瞑ってしまった。―――――――が、次の攻撃が中々来ない。

私は恐る恐る目を開けてみると、キョウイチ君の頭に見たこともない大きさのタンコブがあり、口から泡を吹いて目を(@_@)のようになって崩れ落ちた。

 

 

 

 

「もぉ~なぁに?人の家の前で煩いわねぇ。二日酔いで頭がズキズキするんだから大声を出さないでよぉ〜。」

 

倒れたキョウイチ君の背後に現れた長い金色の髪が印象的な

 

「「「シズク!」ちゃん!」」

「ルビス様!!」

 

 

 

「ん~?」

 

ルビス様が100トンと書かれた大きなカナヅチを持って立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

「よく助けに来てくれたわねぇ~。おばさん嬉しいわぁ。」

「・・・本当に助けが必要だったんですか?」

「何言ってるの〜、私は魔王に囚われの美女じゃない~。」

「・・・でもマイラの温泉にいましたよね?さっきまで。」

「え~ルビス知らな~い。」

「あんたさっき俺にゲ○をぶっかけたでしょーが!!」

 

塔の中の一室とはとても思えない広い空間。辺りには生命溢れる新緑の木々、数多くの小鳥の囀ずりが心地好い。足下にはキラキラと輝くような水が小川となって流れ、小魚達が気持ち良さそうに泳いでいる。

部屋の中央は池州になっていて、そこには沢山の花が気持ち良さそうに風に揺れている。

 

そう、そこはまるで厳しい寒さのアレフガルドとは別世界、まさに神様がいるのに相応しい部屋だった。

 

 

私達は池州にある花畑の中心にある丸テーブルを囲むように座ると、ルビス様の御世話を担当する侍女達が温かい紅茶を振る舞ってくれた。

 

「あの・・・ところで本当にルビス様ですか?」

「そうよぉ~?数多の教会や文献の絵のモデルになったのに知らないなんて、おばさん悲しいわぁ~。」

「いえ違うんです。ルビス様が俺の幼馴染みにあまりにも似ていたもので。」

「あら?そんなにおばさんに似てるのぉ?」

 

ルビス様は女神の微笑みを絶えず浮かべている。相変わらず女神様の周りにいるだけで幸せな気持ちでいっぱいになるところ・・・やっぱり創世の女神様は違うなぁと私は思う。

しかし気になるのは先ほどからやたらとご自分の事をおばさんと連呼していること。

以前はこんな事なかったのに・・・

この面子を考えるとハッキリ言って嫌な予感しかしない。

 

「さっきからルビス様は自分の事をおばさんって言ってるけど、どう見ても20歳前後にしか見えないぜ?おばさブゲッ!!」

 

ルビス様の人の目には捉えきれない光速のパンチがツカサ君の顔面を捉え、彼は端にある壁の中にめり込んだ。

 

 

「ツカサ、あんたバカねぇ。自分の事をおばさんって言ってる女性の大半は自分をおばさんだと思ってないのに・・・女心の解らないヤツ。」

 

サキさんが壁のアートと化したツカサ君にため息交じりに呟く。

そんな最中、私の隣に座るマコちゃんはルビス様に怪しむような、疑いの眼差しをむけている。まぁ彼が何を考えているかだいたい予想はつくのだけど。

未だにルビス様がシズクちゃんだと怪しんでいるのだろう。確かに髪の色と若干歳上の風貌以外はそっくりだ。まぁ、似てて当然といえば当然なのだが。

ルビス様は、その後も続いたマコちゃんの失礼な質問に、女神の微笑みを浮かべたままのらりくらりと返答している。変わらないなぁ。

 

 

私がまだ幼ない少女だった頃一度だけルビス様に会ったことがある

 

 

 

――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――

―――――――――

 

 

 

 

「あら〜?お嬢ちゃんはもしかしてプサン君の娘さん?可愛いわねぇ~。」

「ほらビアンカ、ちゃんとご挨拶なさい?こちらは創造の女神ルビス様だよ。」

「はいお父さん。私はビアンカです。」

「あらお利口さんですね〜。ビアンカちゃん私の娘にならない~?」

「ちょっとルビス様。それはちょっと・・・」

「冗談よぉ~プサン君。そんなプリプリしないで~。ハゲになるわよ〜?」

 

 

私はお父さんに教えてもらった精一杯の礼儀で

挨拶をすると、ルビス様は優しく微笑んでくれ、私の頭をそっと撫でてくれた。

私が撫でられた頭から暖かみと幸せを感じていると、ふとルビス様の足下にしがみつき顔をちょこんと出してこちらを見ている少女に気が付いた。

背まで伸びた長い銀色の髪。透き通るような白い肌をもつ少女は、怯えるような瞳でルビス様に隠れるように立っていた。

 

 

 

 

 

数日もすると私と彼女は仲良くなった。

その頃になると、彼女から怯えた雰囲気は消える。彼女はよく微笑んでいた。もし私が男の子だったらきっと好きになっていたかもしれない。そんな女の子だった。

私達は毎日遊んだ。お城の庭園で花を摘んだり、広い城内でかくれんぼ。ルビス様が寝ているスキにセクシーな下着を盗んで二人して着けて大人ぶったりもした。

でも何よりも彼女が好んだのは人の紡ぐ恋愛物語だった。

 

 

「恋って素敵ですよねぇ。」

私達二人は食い入るように色んな恋愛物語を読み漁っていた。

天空人である私はまだしも、彼女が人に恋するって・・・全くイメージが湧かない。彼女には悪いけど。

 

 

私達は沢山の物語を読んで出した答え。

「「やっぱり幼馴染みよね!」」

だった。

幼馴染みは常に傍にいる。すぐ傍で好きな人を支え、時には間違った道を正す。一番の笑顔をいつも自分だけのものにできる。

 

 

 

 

だけどそれは間違いだと私は後に悟る事になる。

 

 

 

 

そして数日間滞在した彼女は、ルビス様の帰宅と共に帰っていった。

 

「これあげる。私の事忘れないでね?」

私がとくに彼女がお気に入りの物語の本をあげるとありがとうと満面の笑顔をみせ、代わりに彼女はキラキラと綺麗で、触ると少し温かい。そんなオーブをくれた。

「これは光の玉です。私が以前作った衣の能力を撃ち破る物なんですが、キラキラしてて綺麗でしょ?だから持っていたのですが・・・よく考えたら私が持っていても仕方ないものですからビアンカさんにあげます。私、絶対に忘れませんから、また会いましょうね。」

 

それからと言うもの、彼女から貰った光の玉は私の宝物になり、いつしか私の一族の宝物になった。

 

私はそんな少女時代を過ごした。

 

 

 

 

私が成人した頃、父がルビス様よりマスタードラゴンのお役目を賜った世界で一つの役割を与えられた。

一つの国の王子と子をなし、その子供を勇者とし魔王を討つと言ったないようだった。

私はチャンスだと思った。

人と恋をし、家族をなす事ができる。そう思ったから。

 

私は年齢を下げ、同世代の子供としてまだ見ぬ彼と出会うために地上に降り立った。予定通り孤児として宿屋の夫婦に拾われ、何一つ不自由なく育つ。

そしていよいよ運命の彼と出会った。

 

 

そして、より感動な演出するためにわざと一度離れ、そして大人になった二人は再会し、恋が燃え上がるハズだった。

 

しかし彼には何とお嫁さん候補が他に2人もいて、あろうことか彼はデボラさんを選んだ。

少年期に長い奴隷生活を送ってきた彼は、何とドMだったのだ。

 

 

このままでは世界は魔王に滅ぼされ、創造の神々によって無へと還されてしまう。私は時の砂で時間を結婚前夜に巻き戻し、寝ている彼の枕元に立ち、

『結婚相手はビアンカ。結婚相手はビアンカ。』

と、千回言い続けた結果、彼と無事結婚し勇者をもうけ、そして世界は救われた。

 

 

でも私が学んだこと・・・それは

 

 

幼馴染みはダメだと言うことだ。

 

 

そして、気が遠くなるような歳月を経て再会した彼女は、幼馴染みとして勇者の左に寄り添っていた。

 

 

『女王陛下こんにちは。私はビアンカと申します。』

『ええビアンカさん。覚えていますよ?』

 

 

彼女も私のことを覚えていてくれたのが嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

 

 

丸テーブルの反対側に座るルビス様は美味しそうに侍女に出された紅茶を飲んでいる。

本当にこの人は大魔王ゾーマに囚われているのだろうか。

 

囚われているわりにはマイラの温泉に浸かっていたり、お酒に飲まれていたり・・・とにかくこの人は自由人だ。

でも何よりも一番気になるのは・・・本当にシズクじゃないのか?どこから見てもシズクにしか見えないルビス様。

髪の色と若干の年令以外は本当にそっくりだ。

そんな俺の考え事に気付いたのか、ルビス様はふと目が合うと、まさに女神の微笑みをくれる。

 

「勇者くん〜。そんな熱い視線を向けられるとおばさん照れちゃうわぁ~。でもダメよぉ?おばさん人妻だからねぇ~?」

「す、すみません。あまりにも幼馴染みに似ていたもので・・・。」

「そう言えばさっきもそんなこと言ってたわねぇ~。」

 

ルビス様はそう言うと少しだけ考え込むような顔をし、改めて俺達を見渡す。するとルビス様は何かに気が付いたような顔をした。

 

「あら?貴女ビアンカちゃん?プサン君の所のビアンカちゃんよねぇ~?懐かしいわぁ~こんなに大きくなってぇ~。」

ビアンカさんを見てルビス様が言った。俺はビアンカさんの方を見ると、彼女はイタズラがバレた子供のような可愛い顔を見せた。

「・・・お久しぶりですルビス様。」

「そっかぁ~そう言うことかぁ~。勇者くんが助けに来るの、私の予想より遥かに早いから驚いていたのだけど・・・そうね、マスタードラゴン族のビアンカちゃんがいたのなら納得ねぇ~。」

 

ルビス様の話しを聞いて皆がいっせいにビアンカさんを見る。ツカサはもちろんのこと、賢者のサキでさえもビアンカさんが実は人間でないことに驚いていたようで絶句している。

「隠していてごめんね?みんな・・・って、あれ?マコちゃんはあまり驚かないのね?」

「何となくそんな気がしてたからね。」

「いつから?」

「わりと最初からだよ?確信したのはアイツと初めて会ったときかな。アイツはあの時に"覚えている"と言ってたんだよな。アイツがビアンカさんの存在を認識してるのは前夜に知っていた。だからいつものアイツなら"存じ上げてます"とか答えそうなものを、アイツは覚えていると。アイツがルビス様だと思っていた俺はビアンカさんも・・・って考えていたんだ。」

「なっ!!マコトが頭を使う・・・だと?」

 

サキが隣で何やら失礼な事を言っている。そんな彼女達を少しだけ寂しそうな笑顔で見るビアンカさんは

「そっかぁ。もうずっと前からバレていたんだね。」

そう言った。

「改めて、私はビアンカです。マスタードラゴンの家系の生まれです。」

「マスタードラゴン?でもビアンカちゃんも落ちこぼれクラスにいたよなぁ?」

ツカサが言う。

「ふふふ。まだお父さんが現役だからね、継いでないから扱える魔力は少ないし、ある程度のセーブは可能なのよ。」

「そうなんだ?でもこれで大魔王ゾーマも余裕だな!何と言っても創世の神様のルビス様に加えてマスタードラゴンのビアンカちゃんもいるんだからな!」

「私はやらないわよぉ~?」

「は?何で?神様であるルビス様が戦えば大魔王ゾーマなんて軽く倒せるだろ?」

「私はダ〜メ。第一ゾーマも創世の神だし~それに痛いのは嫌だし、傷になったら大変じゃな~い。だから私は見てるだけよ~?それにビアンカちゃんもダメ。だってビアンカちゃん妊娠中だもの~。」

 

は?ビアンカさんが妊娠中?

周りを見るとルビス様を含めた皆が俺を見てる。え?なんで俺を見るの?しかもビアンカさんまで。

 

!!まさか疑われてるのか?おれ。

「え?ちょっ、ちょっと待て!お、俺じゃねーよ!?」

「うわっマコトサイテー。」

「マコト・・・お前そりゃねーよ。」

 

サキとツカサが白い目で俺を見ている。

 

 

「俺じゃねー!!」

俺は走ってその場を後にした。

 

「マコトのヤツ逃げやがった。」

「相変わらずのヘタレね。」

「あ!マコちゃん・・・」

「あらあら。勇者くんはダメな子だねぇ~。」

 

それぞれの勝手な言葉による痛恨の一撃を一身に受けながら俺はルビス様の部屋を出た。

これは逃げたわけじゃない。一時的な戦略的撤退ってヤツだからな。

俺は誰に聞かせるでもない捨て台詞を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ。勇者くんみーつけた~。」

 

ルビスの塔のバルコニーで一人不貞腐れていた俺を見つけたのはルビス様だった。

 

「勇者くんと二人で少しだけで少し真面目な話がしたくてあんな事言っちゃってごめんねぇ~。」

「え?どう言う事ですか?ビアンカさんが妊娠中ってのは嘘・・・だとか?」

「それは本当よぉ~?でもね、彼女はさっきも言ったけどマスタードラゴンの一族なの。ドラゴンの寿命は遥かに長いの。たぶん普通に生まれてくる生物としては最長ねぇ~。そんな寿命が長い種族は出生率も低いの。人間も動物や昆虫に比べたら出生率も一度に生まれる人数も少ないでしょう~?ドラゴンは最も希少種な生物。出産まで数百年を有するのよぉ~。」

「えっと・・・どういう事ですか?」

「フフフ。分からない?出会って間もない勇者くんが相手ではないと言う事よ~。相手はリュカ君って言って・・今は彼の世界でビアンカちゃんを探し回っているようよ〜?ケンカでもしたのかしらね〜。」

「ようするに、アンタはただ俺をからかっただけだと?」

「そうよ~。ごめんねぇ~?」

 

ルビス様は微笑みをたたえたまま。この人は絶対に悪いことしたと思ってない。鈍感と言われる俺にもそれだけはハッキリわかる。

 

「で?ルビス様、俺に話とは?」

「うん。とても言いづらいんだけどね~このままでは勇者くん、キミは死ぬわよ~?」

「俺ではゾーマには勝てないと?」

「今のままではねぇ~。だって貴方、まだギガデイン使えないでしょ~?」

「・・・」

 

さすがはルビス様。俺がまだライデインまでしか使えない事を見抜いていた。神様に隠しても仕方がないので正直に話すと、ルビス様はライデインを唱えるように促す。

 

凄まじい轟音と眩い光を放つ雷撃が辺り一面を包む程の攻撃だが、やはりルビス様の表情は変わらなかった。

「さっきも言ったけどね~、ゾーマもまた創世の神なのよ。この程度の攻撃では傷一つつけられないわねぇ~。」

「ゾーマも創世の神?いくら勇者と言ったって相手が神じゃ勝てる訳がないじゃないですか。第一、何で創世の神が直接世界に関わってるんですか?」

「世界に関わってる理由はヒミツ♪家庭の事情ってやつよ~。あと戦いに関しては大丈夫よ~。我々神々は人の世界では一億分の一も力を使えないから~。私が言っているのはねぇ~、ゾーマを倒した後の事よぉ?君は大魔王を倒した先を考えたことある~?」

 

 

それからルビス様が語った未来は、俺にとって残酷で絶望的なものだった。

あらゆる国の軍隊が総攻撃しても倒せない魔王を勇者とは言え一人で倒す。

最初こそ勇者を称えるが、いつしか何処かの国に属されたら他の国が恐れる。国に属さなくても新たな国を興されたら、結局は驚異になる勇者を放っておくわけがないと言う。

 

「君はゾーマから世界を解放したのちは何か予定はあるの~?」

「俺は・・・ただ愛する人と幸せに暮らしたい。」

「ビアンカちゃん?」

「いえ・・・」

「残念ね~。ビアンカちゃんだったら私たち神の世界、レンダーシアで暮らせたのにね~。」

 

 

ルビス様は言葉を詰まらせる俺を、少しだけ哀れみの瞳で見ている。

「結論から言うわね?勇者くんがゾーマを討つにはギガデインの更に上をいく"ギガスラッシュ"しかないわぁ~。」

「ギガスラッシュ?」

「そう。ギガデインを剣に乗せて攻撃する技ね簡単に言うと。勇者くんの全魔力と、全生命力を使う、生涯ただ一度限りしか使えない最強の技。これでゾーマの心臓を貫けば貴方達人間の勝ちよ?ただ・・・生命力を使い果たした君は死ぬわ。生命力を全て使うから残りがない。生命力の欠片に作用するザオリクも効かないと言うことね。」

 

思わず俺は息を飲む。情けないが魔王を倒した先のことなんか想像もしてなかった。が、死ぬとも思っていなかった。突然突き付けられた事実。俺は勝っても負けても皆との未来はないのだ。

ルビス様もきっと皆がいる前で言うのをはばかって二人きりにしてくれたのかもしれない。

「親父は・・・俺の前の勇者はそれを知っていたから俺達家族に黙って出ていったのか・・・」

「ん~?お父さん?」

「勇者オルテガです。父はバラモスとの戦闘中に死んだんです。」

「オルテガ~?ああ!彼、生きてるわよ?」

「は?親父は生きてるんですか?」

「えぇ~。今はリムルダールにいるはずよ~?」

 

さっきまでの絶望的なゾーマとの戦いに希望が見えてきた。俺と親父、二人の勇者が協力して戦えばゾーマを討てるかもしれない。

 

「親父もギガスラッシュを身に付けたんですか?」

「オルテガさんは使えないわよぉ?勇者の家系はお母様の方ですもの。」

「そうか・・・ざんね・・・へ?」

 

まさか母さんの方が勇者の家系だったとは。確かに夫婦喧嘩はいつも母さんが勝っていたけど・・・

俺が考え事にふけっていると、ルビス様は何かに気が付いたような顔をする。

 

「そう言えば勇者くんの懐にあるのって~、もしかしてオリハルコンじゃない?」

「あ、そう言えば。」

 

以前テドンのカジノでシズクが当てた景品だ。オーブを探しに行った先で俺達はシックスを始めとしたギャンブラー達との熱い戦いを思い出す。俺はルビス様に言われるがままに懐のオリハルコンを渡すと、ルビス様は石に光を放つ。

すると眩い光を伴いながら一振りの剣が現れた。

 

「勇者くんはついているわねぇ~、これは王者の剣よ~。この剣は勇者にしか使えないんだけど~、君の力を限界まで引き上げてくれるのよ~。今なら王者の剣の支援を借りればギガデインも使えるはずよぉ?後はそうねぇ~勇者くん可愛いからこれもプレゼントしちゃおうかしら~。」

 

そう言うとルビス様は怪しげな光を指先から放ち、その光は俺の鎧を包む。すると体の奥から熱を帯びた力を感じた。

 

「ル、ルビス様・・・」

「なぁに~?勇者くん。お礼なら良いのよぉ?ゾーマを倒して世界を解放してくれるだけで十分よ~?」

「いえ、サイズ間違えてます・・・」

 

 

胴回りが太ももの辺りまでくるサイズ・・・これ魔属用だろ絶対。

 

「そぉ~?まぁ、確かに少しカッコ悪いわねぇ~。」

 

少しじゃないし、見た目以前に戦えませんよ!!思わず心の中で神様に突っ込んでしまいましたよ俺。

ルビス様は何処から出したのか、針と糸と、そして巨大なハサミで、おもむろに俺の鎧をチョキチョキと軽快な音を立てて切り始めた。

 

そして数分後、ポン!と俺の胸を叩き、これでよし!と満面の笑顔を見せた。

 

「王者の剣と同じ神の世界の鉱物で出来た"光の鎧"と、その余りで創った"マコトくんの盾"よ~。」

「えーと・・・色々突っ込みたいところなんですが・・・ハサミでチョキンとか音がする鎧って大丈夫なんですか?」

「大丈夫よぉ~?ハサミも鎧と同じオリハルコン製だから~。」

「オリハルコンって結構あるんすね?」

「ええ。うちの裏庭に沢山おちてるわよ~。」

「はぁ・・・何か以前どっかで聞いた台詞っすね。じゃあ・・・盾のネーミングは?そんな適当で良いんすか?」

「"マコトくんの盾"?良い名前じゃない~。」

「よかないわー!!考えてくださいよ?もしゾーマを倒せたとして、100年後1000年後に王者の剣、光の鎧、マコトくんの盾って並んで飾られてるかも知れないんですよ?せれを見てる所を想像してください。」

「・・・ププッ。い、良いじゃな・・・プププ」

 

肩を震わせて笑いを堪えているルビス様。チクショーだから嫌なんだってば。

 

「じゃあどんな名前が良いのよぉ~?」

「そりゃあカッコ良くら雷神の盾だとか後は・・・」

「もう面倒臭いなぁ~。もう勇者の盾で決まり!」

 

面倒臭いと来ましたか。って言うかさっきから何だこの懐かしい感覚とやりとり・・・

「って言うか、いい加減正体をあらわせー!!」

 

俺はルビス様に飛びかかると、彼女はキャ〜勇者に襲われる~と悲鳴を上げる。どうせお前はシズクなんだろう??

いい加減にそろそろ正体を現せ。

ルビス様の悲鳴を聞き付けて侍女達や、ツカサ達が入り乱れてかけつけてくる

「勇者がご乱心!!」

「マコト!デンチューでござる!」

そこからは大騒ぎとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませんでした。」

俺は再び池州にある丸テーブルの前にいる。しかし今度は椅子には座っていなく、正座をさせられている。

「マコちゃん・・・ルビス様を襲うなんてダメだよ?」

「はい。すみません。」

「マコト、お前女性を襲うなんて勇者以前に人としてまずいだろ?しかも相手は神様だぜ?」

「はい。全くもって申し訳けございません。」

「シズクちゃんに言い付けるわよ?」

「それだけは勘弁してください。殺されちゃいます。」

 

「え?シズク?もしかして私に似てるって言う子はシズクと言うの?」

今までニコニコと微笑みながら俺達を見ていたルビス様はシズクと言う名前に反応を示した。

俺達を見詰める瞳は、今までのような慈愛の込められた瞳と言うよりは、真剣に俺達から話を聞こうとする瞳に見えた。口調さえも今までのような間延びした話し方ではない。明らかに空気が変わった瞬間だった。

 

「はい、私達のパーティにはシズクと言う僧侶がいたんですよ。」

サキは得意気にはなす。確かにお前等妙に仲良かったけど、なんでサキが得意気なんだよ?

「僧侶はビアンカちゃんじゃないの?」

「はい。ビアンカさんが俺達のパーティに入ったのはラダトームからです。それまでは俺の幼馴染みのシズクが僧侶をしていました。」

「そうだぜ?シズクちゃんはすげーんだぜルビス様!!あのバラモスを一撃で倒すし、ギガデインまで使えるんだぜ。なぁマコト?」

「あぁ。」

 

「え?その子ギガデインを使ったの?」

シズクがギガデインを使った話をツカサがすると、ルビス様が聞き直し、そして突如としてルビス様の回りに控えている侍女達がざわめきだす。

 

 

 

一呼吸の間を置いて今度はルビス様の方から聞いてくる。

「その子って白銀の髪の色~?」

「いえ黒髪です。」

「その子は刀身が半透明な大きな剣を扱う~?」

「いえ。あいつは僧侶ですから、剣は扱いません。主に殺人的な蹴りやパンチです。」

「ん~?その子は本当にギガデインを使ったの~?」

「はい、間違いありません。ジパングを島ごと消し飛ばしましたから。」

「島ごと?」

 

「お、奥方さま・・・」

「ええ。どうやら間違いないようね。」

 

ルビス様の周りから冷ややかな冷気が立ち込め、とても小さな小さな声で

 

「ふざけてるわね。」

 

確かにそう言った。

 

その言葉を聞き逃さなかった俺の全身をさぶいぼが覆う。ルビス様は笑顔のままだけど、なんだろうこの恐怖。

ふと隣をみるとツカサも聞こえたのかサキにしがみついて震えていた。

 

「・・・で?その子は今何処にいるのぉ~?」

間を置いたルビス様は、直ぐに立て直したかのように女神の微笑みと口調を戻した。

「今は訳あって一緒にはいません。あいつには生きて幸せになってほしくて・・・」

「そう・・・ちっ!逃げたわね。全く・・・どこまでバカにしてるのかしら・・・どこまで。」

「え?」

「!! フフフ。何でもないわぁ~。」

 

ルビス様は聞き取れない程の小さな声で呟いた。俺が聞き直しても相変わらずの微笑みを浮かべるだけで答えてはくれない。

 

 

俺達がルビス様が何を考えているのか悩んでいると、急に室温が上がった。

熱い、熱すぎる。今にも花々が発火しそうだ。部屋に流れる小川の水も蒸発を始める。

先ほどまで俺達の心を癒してくれていた小鳥達もいつの間にか飛び去ってしまっていた。

 

さっきより怒りを宿した真っ赤な目をしたバラモスブロスのキョウイチが燃えたぎる炎を纏ってルビス様の部屋に入ってきたのだ。

 

「マコト、俺と戦え。さっきは汚い不意打ちを食らって遅れをとったが、このままでは先に戦ったロレンスと姫に会わせる顔がない!」

「熱くなってるところごめんねぇ~。今お取り込み中だから後にしてもらえる~?」

「邪魔をするなクソバ・・・ば、ばばばルビス様!!」

「あら!キョウイチくん?クソなんだってぇ?おばさん耳が遠くてよく聞こえなかったの~。もう一度言ってもらえるぅ?」

 

キョウイチの真っ赤な目はみるみるうちに涙目になっていき、ルビス様に向かって土下座して謝っている。ルビス様はそんなキョウイチの頭を踏みつけて、虹彩の消え失せた瞳で見下ろす。

 

「まぁ、今回はずっと探していたゾーマとの・・・尻尾を掴むことができたし、機嫌が良いから特別に許してあげるわぁ~。」

キョウイチはルビス様の足にすがり付き、何度も何度も頭を下げてお礼を言っている。

そんなキョウイチの頭を片手で掴みあげ、自分の目線の高さまで持ち上げると、目を合わせ

「なんて言うとでも思う~?」

 

天国から地獄までいっきに叩き落とされたような絶望の表情を浮かべるキョウイチの顔の前にルビス様はスッと人差し指を差し出すと、指の先に小さな炎の球体が現れる。

 

「メラ。」

 

小さくルビス様が唱えると指の先にあった小さな炎の球体は、凄まじい光を放ち輝きはじめる。辺りが光と言う名前の白い闇に包まれて何も見えなくなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタガタガタ・・・

車輪がレンガ造りの道を走る音が聞こえてくると、背中からゴツゴツとした振動が伝わってくる。

「あ!マコちゃん気が付いた?」

 

ビアンカさんが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

「ここは?」

「馬車の中だよ?大丈夫?ルビス様がメラでルビスの塔を、塔のある半島ごと吹き飛ばしちゃって・・・マコちゃんは光の鎧のおかげで何とか・・・」

「そうか・・・ビアンカさんは大丈夫なのか?」

「うん。私は・・・ルビス様の魔法とは言ってもメラぐらいなら何とか・・・。」

「そっか。じゃあツカサやサキ、そしてキョウイチは?」

「呼んだ?」

隣にいたサキは元気に返事をした。どうやら彼女はとっさにラダトームへルーラで避難したらしい。

ツカサはと言うと、今一生懸命サキがザオラルで生き返らそうとしているようだが、中々生き返らないそうだ。

アイツ・・・運が悪いからなぁ。

 

「あ!勇者くん目が覚めたようね~。」

 

前の座席で馬車の馬を操っていたルビス様が微笑みながら声をかけてきた。

笑顔にもホイミがあるのだろうか、少しだけ傷が癒えたような気がした。

 

「キョウイチくんならここよぉ?」

馬車を引いていたのは馬ではなくて、全身包帯だらけのバラモスブロスのキョウイチだった。ルビス様にムチを打たれ泣きながら馬車を引いている姿がみえる。

 

 

 

こうして俺達のパーティは、全滅寸前の満身創痍の中、次の地"リムルダール″を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー続くー

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

勇者 マコト 装備 王者の剣 光の鎧 マコトくんの盾(勇者の盾)を手に入れた。

 

賢者 サキ 武道家も真っ青な程の素早さと、危険回避能力が上がった。

 

武道家 ツカサ ザオラルの度重なる失敗により死体が灰になり、ルビス様のくしゃみでアレフガルドの大地に舞い散った。

 

僧侶 ビアンカ 妊娠中と言うこともあり、ルビス様にリムルダールに着いたら強制的に帰らされることが決まった。

 

女神 ルビス 遊び人の衣装を纏った彼女は、何事もなかったように上機嫌に口笛を吹いている。

 

バラモスブロス キョウイチ 船漕ぎの職業から馬車馬に転職した。

 

 

ラダトームの勇者 キリト 生死不明

 

僧侶 シズク あのあと更に大樽爆弾を10個程追加でキリトにとどめに投下し、勇者に1度も会えていないストレスを発散した。

 

 

 

 

 

 

次回、死への招待状

 

 




最終回まで残り3話くらいの予定です。
ここまで付き合ってくれた皆様、本当にありがとうございますm(_ _)m

あと少し、あと少しだけお付き合い下さいね♪


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20話

序章

 

 

 

 

 

アレフガルドの夜の闇の中を引き裂くような二つの光の筋が絡み合い交差する。それはまるで踊るかの様に激しい光を放ちながら上空へと登って行く。

 

金属同士がぶつかり合う度に激しい火花を散らし、独特な高い金属音が響き渡るその様は、雲の下のリムルダールの大地に住む人々は空を見上げ、荒れ狂う光の龍のようだったと後に語られている。

 

勇者は盾を背にし両手で王者の剣の柄を握り締めると、頭の後ろに大きく振りかぶり、剣の重量を乗せて一息に振り下ろす。

より大きな金属音と痺れるような手応えが伝わる。合わさる剣の刃と刃の隙間から見えたキリトは笑っている。

 

「強くなったなマコト。」

 

かつての師の満足そうな顔。俺は少しはあんたに近づくことができただろうか?

だけどその余裕の笑みを消す迄にはまだ至らないのか俺は。ルビス様の力により勇者の力の覚醒をはたし、神の力を手にした今もまだキリトさんには届かない。

俺は距離をとり何度目かのライデインをキリトさんに向かって放つが、やはりキリトさんの前に黒いモヤのようなものが現れ、ライデインの電撃を渦を巻いて吸い込んでいく。魔法だけではない、先程からの剣による攻撃もまるで雲を切るかのようにどこかフワフワとする。

 

 

 

地上から二人の勇者の顛末を見届けているルビスは

「キリちゃん、あの子闇の衣まで持ち出して・・・一体何を考えているのかしら。そのくせ本気は出していないし。」

「闇の衣?」

ルビスの言葉に隣りで、同じく遥か上空での激突を見詰めているビアンカが反応する。

「ええ。闇の衣はね〜私達、創造神の世界レンダーシアの秘宝の一つでね?魔法や物理的な攻撃を全て受け流す衣なのよ〜。」

「魔法も物理的な攻撃もって・・・それって完全な防具じゃないですか。」

「そうね〜衣が出来た経緯はアレとしても、割と完全に近いわね〜。」

「完全に近いというより完全じゃないですか。」

「いいえ〜。決して完全なわけではないのよ?ちゃんと闇の衣を撃ち破る方法はあるもの〜。」

 

そう言ったルビスは意味深に、ビアンカがかつて友達にもらったマスタードラゴンの一族の秘宝、光の玉を見詰めている。

 

「本当、あの子はどこまでが・・・」

 

そこまで言ってルビスは口を閉じ、再び上空へと視線を移す。

 

勇者と勇者の熾烈に見える戦い。ビアンカも別世界で勇者を導いた事もあるので多くの戦闘を見てきたつもりだが、この戦いはそのどれもが色褪せるような戦いにみえた。

 

「マコちゃん・・・そこまで頑張れるんだ。」

 

ビアンカの独り言、ルビスも聞こえてはいたがあえて拾う事はなかった。

戦っている二人には心地良い膠着状態を破ったのはキリトの方だった。剣を持たない方の手を自分の背に移すと、手元に青白い光の粒子が現れ、やがて長柄の形に変わっていく。キリトの手に剣が現れる。

二刀を持ったキリトに対してマコトは距離を置く。ラダトームで見たあの技がくる。二刀による1秒間に16連撃、スターバーストストリームが。

あの時は茶化すことで躱したが、今回はそうもいかない。

「マコト、ちゃんと躱してみせろよ?」

かつての師は笑顔で言う。

 

 

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偽りの英雄

.

 

 

 

 

 

 

「ただいま。帰ったよ。」

「おかえりなさい。」

 

帰宅の挨拶もそこそこに、

部屋の扉を開けると小鳥の囀りのように澄んだ声で返事が返ってきた。

 

四方広い部屋の壁には武骨に武器がかけられている。戦士としてのたしなみだ。部屋の中央にはテーブルと一組の椅子。ふいに風の流れを感じ窓を見ると、彼女が無理矢理替えた白いレースのカーテンが風を含んで揺らめいている。個人的には好みの色である黒一色で揃えていたいのだが、お務めで外出する度に彼女は部屋を自分好みに変えていく。最初は抗議の声もあげたものだが今では完全に諦めている。

窓の外には白い雪がちらついていた。

 

脱いだコートを壁に掛け、声のした部屋へ向かうと彼女は長いソファーにちょこんと座り、片手でポンポンと微笑みを浮かべながら右隣を叩いている。

隣に座れの合図。

白銀の長い髪を今日は後ろで結っている。透き通るような白い肌は、まるで細胞全体が水を得て喜んでいるかのように輝いている。薄く赤みを帯びた瞳は、いつも微笑みを浮かべていて、見ている自分まで心が暖かくなるのを感じる。

 

そんな彼女は冒険談を特に好んで聞きたがる。

彼女はこのグランゼドーラ城を出ることはあまりない。

ゆえに外の世界の知識はあっても、実際に目にした事は少なく、自分が創世の神からのお務めで世界を渡り、時には勇者となり世界の解放、またあるときは魔王として勇者の前に立ち塞がる壁としての役割を賜ったさいの冒険の話を聞いては、彼女自身も物語を楽しんでいるのだろう。

勇者や魔王といえど相手は自分より遥かに弱き存在。本気を出せない自分にとってストレス以外の何物でもないお務めも、彼女が瞳を輝かせて物語りを聞いてくれるのなら、それは輝きを放ち物語として意味をもちはじめる。

 

死と言うものの概念事態が無い自身の生において彼女の存在は何にも変えがたい。

ただ微笑んでくれるだけで何もかもが輝いて見える悠久の時――

それはずっと続くものだと俺は信じていたんだ。

 

 

そう、彼女が突然姿を消したあの日まで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リムルダール。

 

この都市の歴史は意外と古く、至る所に古びた城壁のような壁が都市全体を覆っている。

都市自体が湖の中心にあることから、古くから城塞として使われた歴史があることを、ラダトームの歴史文献から読みとくことができた。

 

そんな強固な城塞都市は、10年前突如現れた大魔王ゾーマの腹心である3体の魔物によって一夜と経たずに陥落した。

ラダトームの王パパスは、直ちに精鋭による軍隊を召集しこれにあたる。

万を超える精鋭による軍隊は三度に渡ってリムルダール奪還に進軍するが、パパス王の前に戻ったのは息も絶え絶えた兵士一人だけだったと言う。その兵士にしてもパパス王に大魔王ゾーマの名前と、たったの3体の魔物に万の軍隊が壊滅した事を伝え息絶えた。

そして押し寄せた魔物の軍勢にメルキドの人々は恐怖と絶望の底へと追い落とされた。

 

しかしそんな暗い時代は驚く程に早く終わりを告げた。数千の魔物を支配していた3体の魔物のうち、全身を黒い甲冑で身を包んだ魔神がある日を境に姿を消した。すると残り2体の巨大な荒ぶるドラゴン、最強の種族バラモスの将もいつしか姿を消したのだ。

そして時を同じくして現れた一人の黒づくめの剣士の少年の出現によりリムルダールに巣食う支配者の失った数千の魔物は一夜にして一掃されたのだ。

 

少年の髪は黒く、瞳も夜空のように漆黒の色だったが、瞳の奥には優しさが滲み出ているようだと人々は語る。

肩に掛けた二振りの剣を扱い、防具らしきものはとくに装備をしていない。片手剣の唯一利点とされる盾さえも持たないその少年は、片手剣を抜くと、並み居る魔物に一人向かって行ったと言う。

 

 

 

勇者キリトの伝説

 

 

 

その伝説がもっとも残る歴史ある都市、それがリムルダールだ。

 

 

 

 

 

 

しんしんと雪が降り続く雪の夜。

一組の男女がザクリザクリと、まるで白いキャンバスに塗り込むかのように足跡を付けて歩いている。

膝したまで積もる雪の中を歩いているわりに二人はまるで苦もなく進み、息一つ切らしている様子もみえない。街の中央に位置する広場まで来ると男は無言で立ち止まり、辺りを見回した。思えば随分と遠くまで来たものだと男は思う。立ち止まり振り返ることのない日々。

風に含む香りは、凍てつく寒さとは裏腹に澄みきっていて、不思議と体と心の疲れを癒し軽くする。

男がそんな空気を堪能していると、直ぐ後ろを歩いていた女は、乱れた髪を片手で軽く整えながら静かに話しかけてきた。

 

「・・・名残惜しくなりましたか?」

「・・・まぁ全くその気持ちが無いと言えば嘘にはなるが・・・支障はないよ。」

 

女は男に言われて同じく辺りを見回すと、二人が歩いてきた足跡を降り続く白い雪が覆い隠していくのが見えた。歩いてきた足跡が消えていくのを見ていると無性に物悲しくなる。まるで自分がここにいた事さえ消えていく。大切な人達と歩いてきた旅路の思い出も時間も、そして彼等の中から自分が消えていく。それが堪らなく自分を不安にする。しかし、それでも女は途中で止めるわけには行かなかった。

軽く頭を振り気持ちを入れ換える。いつの間にか頭に積もっていた雪が落ちたのを確認すると、力を取り戻した宝石のような曇り一つ無い瞳で男を見つめ、言い放つ。

 

「さぁ始めましょう。」

 

 

 

 

 

 

――深夜――

 

ラダトームの王室へ向かう一人の男がいた。彼は普段、日付も変わろうかと言う時間に王室を訪ねる程不躾ではない。しかし男は王室の前まで辿り着くと、躊躇なく扉を叩く。

 

「パパス王、サンチョでございます。夜分に失礼ではありますが、急を要する事態でして。」

 

しかし暫く待てど扉が開く事はなかった。しかしサンチョもまた少しも動じることはなかった。彼は今はラダトームの大臣という立場だが、それ以前は先代のロイヤルガードの隊長。さらに言えばパパスがまだ王位に着く以前からの幼友達だ。その古くからの友人がこの程度で扉を開けることがないことぐらい知っている。1度目は立場を重んじた社交辞令というものだ。今度は扉を叩く手に力を込め、腹のそこから目一杯の声を張り上げる。

 

「パパス!!お前の初動が遅れてリムルダールで起きたあの惨劇を忘れたのか!!ドムドーラの民の悲鳴がお前には聞こえんのか!!」

 

騒ぎを聞きつけ駆け付けたかつての部下に羽交い締めになりながらも、サンチョは右手にベギラマの魔力を溜めていく。確かにドムドーラの民への気持ちもあるが、ふだんマーサ(王妃予定)のグラビアを観て気持ち悪い笑いを浮かべている幼友達は、こんな不足の事態には本気になって対処にあたるヤツだと信じている。しかし未だ開かぬ扉に対してサンチョは苛立ちを覚え、まさに今この瞬間にも扉をベギラマで吹き飛ばさんとする魔力がひらかれた右手に集まり、それを扉に向けてゆっくりと力を解放していく。

 

ガチャリ

 

そんな時に軽快な金属音をたてて、真剣な眼差しのパパス王が現れた。

 

「「あ!」」

 

 

 

 

 

 

 

「このお茶うまいな。」

「そうか?それは良かった。」

 

サンチョは王室に招かれると、差し出された椅子に座る。即座に現状の報告および今後の対策について話を始めようとしたが、さすがは1国を束ねる王様。パパスは急ぎ話そうとするサンチョを片手で遮り、軽く手をパンパン!と2度叩き侍女を呼ぶと、二人分のお茶とお茶うけを用意するように指示を出す。

サンチョも一息入れることで失っていた冷静さを取り戻していく。

 

ロイヤルガードの地位を退き現在の立場に就いたのも理由がある。ラダトームはリムルダールの一件以来多くの兵士を失ってしまった。勇者キリトの台頭により魔族に占領されたリムルダールは解放されたものの、町を出ればあいもかわらず魔物は徘徊しており、またいつ攻め込まれても対処できるように、ラダトームは学園という形態をとり、魔法に長けた人材の発掘および教育に力を入れてきたのだ。

駆け足の10余年。思えばパパスの部屋に入るのも随分と久しぶりだ。差し出されたお茶を飲みながらサンチョは久しぶりに訪れた友人の部屋を見渡した。

だいぶ以前とは様子が様変わりした友人の部屋。以前はただ白いだけの壁に今はパパスの大好きなマーサ(アイドル)の写真が至る所に飾られている。そしてパパス自体もまた以前と変化が見てとれた。毎日見ていた友人の頭には、気付かぬうちに白い髪が随分と増えていた。意志の力が込められた瞳の脇にはうっすらとシワが見える。

 

「お互いに歳をとったものじゃな。」

 

まるで同じ事ん考えていたかのように話し出すパパス王。サンチョは少し笑ってしまう。

 

「ふっ、そうだな。お互いに歳をとった。パパス、お前は昔はそんなアフロヘアーではなかったし、そんな真っ黒に煤汚れていなかったしな。」

「これはお主のベギラマによるものじゃがな。」

「「ハハハハハ・・・」」

「ぬわーーッ!!」

突然パパスはサンチョに襲いかかり、サンチョはこれに応戦する。

王室の外に控えていた兵士に二人は取り押さえられ、小一時間の説教をくらう。

パパス王は小さく咳払いをし空気をいったんかえると、真剣な眼差しになサンチョに向き直り改めて問う。

「で?ドムドーラの街がどうしたと言うのじゃ?」

「ドムドーラの街が一夜にして壊滅した。」

「なんじゃと!!またあの3体の魔神が現れたと言うのか?」

「いや、今回は数千いや、万にもおよぶ大規模の軍勢が突如遥か南の地メルキドの海上に現れたそうだ。先頭に立つは龍のガイコツ・・・恐らくはバラモスゾンビと呼ばれる魔物を中心に北上を始めた。通り道は全て焼け野はらとなり、道の延長上にあったドムドーラが壊滅させられたらしい。その軍勢は尚も北上を続け、ここラダトームに向かって進軍しているようだ。」

「・・・」

 

さすがのパパスも言葉を失っている。それもそうだろう。歴史的にみても統率のとれた魔物の軍勢など例がない。

南の地で・・・いや、魔物のなかで何かが起こっているのかもしれない。パパスとサンチョに空気が重くのし掛かる。

 

 

.

 

 

 

「しかし我々にはあの女王陛下がいる。陛下なら数千の敵であろうと軽く打ち倒すのではないか?」

「女王陛下がいればな。パパス、最近お前は女王陛下を見たか?」

 

言われて始めてパパスは女王の不在に気付く。そもそも跡継ぎどころか結婚さえしていないパパスには、次の王たる王子がいない。学園形式をとるラダトームとは言え、王政をひいているアレフガルドに於いて跡継ぎがいないと言うのは大きな問題だった。パパスの中では民衆の支持と人気の高い勇者キリトこそが次の王に相応しいと考えていたが、勇者が王になってしまうと大魔王の討伐に出られない。パーティを組むことを酷く嫌うキリトをまさか一人でゾーマの元へは向かわせられない。そうして悩み続けた十余年。アリアハンから来たと言う勇者は、ルビス様と驚くほどそっくりな少女を連れてやって来たのだ。

その少女は控えめに振る舞っているようだが、そのルビス様に酷似した容姿と、他を寄せ付けない圧倒的な魔力を擁しており、あっという間にラダトーム中の国民の支持を獲たのだ。

パパス王自身よりも。

 

そんな彼女を女王として即位させるには、世間体やら、勇者の嫁として女王の立場は相応しい等と、パパスとサンチョの若干騙しに近い形で何とか彼女を説得し女王の座につけたのだ。

 

「なら勇者キリトは・・・」

「勇者キリトを始めとした特Sクラスのロイヤルガードも全員行方不明だ。」

「アリアハンの勇者のマコトは?」

「勇者マコトはマイラに温泉旅行だ。それについ先ほどマイラの村長より、勇者マコトは見事ルビス様を救出し、勇者一行はそのまま大魔王ゾーマ討伐の旅に向かったそうだ。」

「くぅ・・・女王陛下さえおれば!」

 

歯噛みするパパスをサンチョは横目で視ていたが、やがて意を決したように静かな口調で話し出した。

「なぁパパス、お前女王陛下をどう思う?」

「え?まさかワシの嫁にしようとか?」

「そんな話はしてない。女王にまた殺されるぞ?言い方を変えよう。女王陛下だけではない。キリト、キョウイチ、ロレンス・・・この四人をどう思う?あまりにも不自然だと思わないか?あれほどパーティを組むことを嫌がっていたキリトが、彼女等が来たとたんにまるで旧知の仲のようにお互いに引かれあっている。今では一人でいるところを見たことがない。」

「むっ。確かに言われてみれば・・・」

 

「俺の勘違いであればそれに越したことはないのだがな、俺は女王陛下こそが大魔王ゾーマの正体ではないかと考えている。」

 

「じ、女王がゾーマじゃと?サンチョよ、冗談にしてもさすがにそれはすぎるぞ?第一 大魔王ゾーマは男じゃろう?」

「それを誰が確認したのだ?最初大魔王が現れた時は声しか聞いていない。あんなものは代役を立てれば何の問題もない。次にリムルダールの襲撃だ。あれも腹心である3体の魔神によるもので、結局誰も大魔王ゾーマを直接見たものはいない。俺はな・・・大雪を伴いやって来た女王シズクを疑っている。キリトを含めたロイヤルガードの面々を含めてな。水面に映る月のようなものではないのか?生命を育む光の女神ルビス様と、瓜二つの破壊と死をもたらす大魔王ゾーマ。二人は創世の神、光あれば影があるように、その姿が同じだったとして何ら不思議はないのではないか?」

「しかしのぉそれだけで・・・」

「それだけではないぞ?キリトの伝説も今にして思えば色々おかしいのだ。いくら3体の魔神がいなかったとはいえ、数千に及ぶ魔物を一夜にして殲滅など人間に可能なのか?いくら勇者といえども・・・。」

「じゃがルビス様に運命を与えられた勇者なら・・・」

「それも考えた。それだと勇者キリトがルビス様が囚われた塔の位置を知っていながら放置していた理由がわからない。それ以上に不思議なのがキリトは何処から来たのかだ。」

 

パパスはサンチョの推理を黙って聞くことにした。色々聞きたい事はあるが、今は黙ってサンチョの話を聞くべきだとおもうから。

パパスにもパパスなりの思うところがあったから。

 

「あれほどの英雄。名前の1つもラダトームに聞こえてきそうなもの。それがリムルダールの一件までのキリトを誰も知らないのだぞ?全ての村や街をくまなく探し、英雄を輩出した村を称えようとしたことがあったろ?結局見付からず、本人は笑って誤魔化して終に教えてもらえないままだったではないか。だが何よりも一番不思議なのは、今の今までそれを少しも不思議と思わなかったことだ・・・」

 

 

サンチョの話を聞き暫く考え込むパパス。頭の中では女王やキリトを始めとしたロイヤルガードの面々とのやり取りを思い浮かべる。

やがて一つの考えを導きだしたようにパパスは、友人のサンチョに指示を出す。

「・・・サンチョよ。ラダトーム城に第1種戦闘体勢じゃ。ラダトームの町の一般人は城内へ避難。Aクラスの力あるもの及び、衛兵は城門を固めよ。落ちこぼれクラスは城内の警備じゃ。」

「・・・逆ではないのか?」

「どのみち城門を落とされれば同じ事。一人でも死者は少ない方が良い。」

 

サンチョはそれを聞き嬉しく思った。やはりパパスは普段はあんなだが、いざというときは的確に王としての責務を果たす。

戦いに赴く兵士や生徒さえ、国民一人たりとも無駄に死なせないという配慮が何とも誇らしい。

 

「もう1度勇者キリトの伝説を調べ直す必要がある。1から徹底的にじゃ。そこでサンチョよ、お主には特命を頼みたい。」

「ふっ任せておけパパス。俺はキリトの伝説を調べればいいのだな?」

「いや、それはワシがやるからお主はワシの命より大切なマーサのグッズ全てを護ってくれ。」

 

「・・・パパス、俺のさっきまでの感動をかえせー!!!」

 

 

 

 

 

.再会

 

 

 

「あれ?リムルダールに行くんじゃないんですか?」

 

マイラの村の東に位置するリムルダールへの道すがら、明らかに方角が違うため、俺は東の方を指差してルビス様に尋ねた。

 

「そうよ〜?でもリムルダールまでは結構距離があるから魔導機関車(天の箱舟)に乗っていきましょ〜?ほらちょうど来たみたいよ〜。」

 

そう言ってルビス様が指差した方角の上空から、ポーッと凄まじ汽笛を鳴らして大きな箱が入ってきた。

そして無駄に無から創る創造神の力を使って出したであろう、黒いコートと帽子を被ったルビス様は、俺に手を差し伸べる。

 

「行くわよ〜鉄郎。」

「誰が鉄郎だよ!!」

 

思わず突っ込んじゃったじゃないですか。

 

 

 

天の箱舟の中は沢山の座席が其々向かい合うように配置されており、俺たち3人が徐に席に着くと車両内アナウンスが、汽車の行き先を告げる。

いろんなプラットホームと言う所を経由しつつ、リムルダールへと向かうらしい。

 

 

「本日は天の箱舟(魔導機関車)をご利用ありがとうござい……あれ?ルビス様?ルビス様ですよね?ヤバい、ちょー感激なんですケド。」

 

座席に着くと、羽が生えた妖精のような真っ白な女の子の車両スタッフが冷たいおしぼりを手にやってきて挨拶をすると、ルビス様の存在に気付いたようだった。

 

「あら〜?サンディちゃん?久しぶりね〜。」

 

ルビス様にサンディと呼ばれた白い妖精のような女の子、独特な……いや、俺の妹サキと良く似た話し方をする。

ルビス様の話によればサンディは、グランゼニスと言う人型の神の始祖の娘らしい。

 

「サンディちゃんはアルバイト?グランゼニス君は元気してる〜?」

「はいルビス様。私は夢のネイルアーティストになる為にアルバイトしてんだよー。お父さんはたぶん元気じゃないかなぁ?仕事ほっぽりだして遊びに行っちゃったみたいだし?セレシアお姉ちゃんが代わりに神様の仕事をしてるんだけどー、ガン黒の女神とかちょーウケるよねー。しかも忙しすぎて中々日サロに行けないみたいでぇ、最近ではお姉ちゃんだいぶ白くなっちゃったんだよ?ね?ウケるっしょ?だからお姉ちゃんの代わりに私が日サロ行こうかなぁって……。」

 

まくし立てるように話し続けるサンディと、微笑んでいるけどたぶん話しを聞いてないルビス様、全くやれやれだ。

 

延々と続くサンディの話しはいつまで続くかと思ったその時、再び艦内放送が鳴り響く。

 

「業務連絡です。サンディ!!どこで油売ってやがる!!さっさと帰ってこい!!」

 

艦内放送の男性の怒声を聞いたサンディは飛び上がる。

 

「ヤバ。テンチョーがちょー怒ってる。私戻らないと。ルビス様、あとそこのショボいのまたね〜。」

 

去り際にしっかりとダメージを与えてサンディは走り去って行った。

そうしている内に艦内放送が目的地であるリムルダールに辿り着いたことを知らせる。

 

 

「勇者くん。もうすぐリムルダールに着くわよぉ~。」

 

 

列車の窓を上げ前方を見ると、月夜に照らされた高い壁のようなものが見えた。

話に聞いたリムルダールの城壁だろう。ラダトームの図書室で歴史についての本を読み漁っていた俺は、事前にリムルダールの街の歴史や勇者キリトさんの伝説についてもその知識を手に入れていた。

まだ幼かった自分に冒険のノウハウや戦いの仕方を教えてくれたキリトさんが勇者と呼ばれるようになった伝説だ。

師と仰いだ勇者キリトさんの活躍の地に来たのだ。興奮しないわなけがない。

逸る気持ちを抑えきれずに列車から顔をだすと、吸い込んだ息が胸を刺すような凍てついた空気が辺り一面を覆っていた。冷気を特に好んで使うとされる大魔王ゾーマ。やはり魔王に近付けば近付くほどに寒さが一段と厳しくなるような気がした。

 

「マコト、焦る気持ちは分るが、焦っても良いことはないぞ?」

ツカサ・・・らしき者が俺の肩に手を置きニヤリと笑う。

 

「・・・誰だよお前?」

「おいおいマコト。親友の顔を忘れたのか?」

「忘れてねーから聞いてんだよ!!誰だお前!!」

 

やたらと濃い顔に影が無駄に入っている。顔のバランスを無視した太い眉毛は目の大きさほどもある。

「俺だよツカサだよ!」

涙目になって俺の鎧にすがる大男。

「なかなか強そうになったでしょ~?」

ルビス様がカラカラと笑いながら話に混ざり込む。

ルビスの塔の大爆発に巻き込まれて死んだツカサは、サキの度重なるザオラルの失敗により灰になってしまったのだが、さすがは創造の女神ルビス様。灰になって飛び散ったツカサをいとも簡単に甦らせてくれた。

 

のだが・・・

 

「明らかに別人じゃねーか!!」

 

筋肉ダルマのようなフォルムは変わらない。確かに武道家としては申し分のない体だ。元のツカサとも相違がない。

しかしだ!彼の着ていた武道家の装備は何故か上半身裸で下はピッチリとしたタイツ?

 

「お前は江頭2:○0か!!」

「何言ってるんだよマコト?これが伝説の武道家の装備だってルビス様がくれたんだよ。これで俺もマコトと同じ最高レベルだぜ!ですよねルビス様?」

「え?そ、そうよ~。」

 

「「・・・」」

 

美しい宝石のような青い瞳が宙をおよぐルビス様の顔をみると、さすがのツカサも不安になったような顔をしている。

 

「俺のレベル上がってないんですか?」

「それは大丈夫よ~。貴方はLv99にしてあるわよぉ~。」

それを聞いてツカサは跳び跳ねて喜んでいるけどそれで良いのか?ルビス様は『それは』とか言ってるんだぜ?

「装備は?装備も伝説の武道家の装備なんですよね?」

「ええ、その装備の武道家は違う世界では救世主よ~?とーっても強いんだから。」

「この胸の7つの傷にも意味があるんすか?」

「もちろんよ~。その傷を相手に見せて、『俺の名前を言ってみろ』とか言うのよ~。」

「うぉぉ!カッケー!!カッケーっすよルビス様!!」

 

大喜びのツカサを、どう見ても笑いを堪えながら見ているルビス様。

 

しかし、結局はサキのクレームにより姿は元に戻されることになる。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

リムルダールは湖の中央に位置し、湖岸から木で組まれた長い一本の橋がメルキドの唯一の出入口へと真っ直ぐ延びている。

幅は10メートル、長さは優に数百メートルはありそうにみえる。手すり部分には古い物から真新しい物まで沢山の傷があり、古来より度々戦火にまみれた歴史が見てとれた。

夜空の月と、雲はなくともちらつく雪が映る、鏡のような水面に延びる橋脚は所々で色が変わっている。きっと水で腐食し何度も取り換えた跡なのだろうと推察できた。

 

門番による長い検査を終えて辿り着いたリムルダールの市街地は、入ったとたんに広がる広大な広場を中心に扇状に建物が軒を連ねている。月の輝く夜ではあるが、時間帯は昼間らしく至るところの道具屋などが人で賑わっている。広場の中央には噴水があり、その中央にある台座の上には剣を天空に掲げたキリトさんの像が立てられていた。

 

「あら~?もしかしてこの子キリちゃん~?」

ルビス様がボソッと呟く。

「ルビス様は勇者キリトさんを知ってるんですか?」

「キリちゃん?知ってるもなにも・・・ん~どう説明したら良いのかしら~。息子?」

首を傾げて俺の質問に疑問符をつけて返すルビス様。なんで自分の息子に疑問符が・・・

「って、息子!?キリトさんは創造神だったんですか!?」

「ん~正確にはちょっと違うんだけど~、そこにいる別世界の神の娘たるビアンカちゃんよりは私達に近いわねぇ~。限り無く私達に近い存在、それがキリちゃんねぇ~。」

キリトさんは確かに俺の中で凄い存在だが、まさか創造神に最も近い存在だとは思わなかった。どんな不安も笑顔だけで取り除いてくれたキリトさん。最近はシズクに散々どつかれてボロボロになっている姿ばかり見ていたけど、まさか・・・

 

そんな自分の思慮に落ち込んでいる勇者を微笑みながら見ていたルビス様は、少しだけ真顔になると

「そうね~、良い機会だから1度世界の成り立ちについて話しておこうかしらね~。教会までの道すがら。」

「え?」

「ふふふ。行くんでしょ~?お友達がいる教会に。」

 

そう言って再び微笑んだ。

 

 

.

 

 

 

 

教会へ向かう道。昨日まで降っていた雪の中をサクサクと音をたててあるく。この辺りは居住区らしく、道の両脇には等間隔に街路樹が植わっている。昼間のないアレフガルドだが、もし太陽の陽が登っていたらきっと気持ちのよい木洩れ日の中を歩くことができただろう。

 

 

「先ずはあれね~」

まるで鼻歌を歌うかのように話を始めるルビス様。

「私達創造神と呼ばれる3人はねぇ~ずっと一緒だったの。ルビス〈わたし〉とゾーマ、そして神龍の3人ねぇ~。ある時ゾーマが新しい者を創らないかと提案してきたの。私達は初めてのこともあり戸惑っていたけどゾーマは諦めなかったわぁ~。やがて私達も加わり3人の最大限の力を合わせることで初めての人が誕生したわぁ~。」

 

「創世の神話ですね?」

「そうよ~。さすがはプサン君の娘ビアンカちゃ~ん。お利口さんねぇ。」

ビアンカさんがルビス様の話に相槌を入れると、ルビス様は笑顔でそっと彼女の頭を撫でる。

照れているビアンカさんがとても可愛い。

 

「私達創造神の全力を以て誕生したその子は私達に限り無く近かったの。違うところがあるとしたら、無から何かを創り出す創造の力がないぐらいかしらね~。私達はその子に持てる全てを惜しみ無く与えたの。その子は本当に優秀で全てを身につけていったわぁ~。特にゾーマの教えた剣技を好んでいたわね~懐かしいわぁ。」

「まさかその子が・・・」

「そう、キリちゃんよ~。そうして私達は3人から4人になった。君たちにはピンと来ないでしょうけど、この誕生は私達にとって物凄い衝撃をあたえたのよ~。更に永い時を経て今度は4人で新たな者を創り始めたの。そこにいるビアンカちゃんや、馬車を引いてるキョウイチくんの祖先である君たちの言葉を借りれば異形種の生物の始祖ねぇ。同じく人間もこの頃に創ったのよ~。」

 

「ちょっと待って下さい。ビアンカさんはマスタードラゴンの一族で神様なんですよね?その神様とキョウイチたち魔属は同じ生物なんですか?」

 

「そうよ~?ついでに言うと人もあまり違いはないわよぉ~?そうね・・・勇者くんは勘違いしているみたいだから教えておくけど、生物は生きるために糧となるものが必要でしょ~?人は食料たる動植物。またその動植物にも糧は各々あるわね。異形種が生きるために糧としているものは心なのよ~。信仰心などがそれにあたるわね~。」

「心?」

「そう。動植物や、人種によって違うように異形種もまた種族によって糧とする心は違うの。その世界においてどちらの種族に偏っているかの違いでしかないのよ~?あなた達の言う正義と悪は。そうした多種族が、各々命あるかぎり生を楽しむ世界ができていったの。でもね?天敵のいない種族はいずれ必ず同種族同士で争うの。きっと生きるための本能がそうさせるのねぇ~。」

「何故あなた達創造神私達を生物としたのですか?なぜ死を創ったのですか?」

 

当然の疑問だと思った。そもそも死が無ければ、糧を必要としない。そうなれば糧の奪い合いも起きないのだから。そうすれば争い自体がなくなるはず・・・

しかしルビス様は微笑んだままだった。

 

「死が与えるのは決して不幸だけではないわ?死があるから産まれるのよ?死がなければ今いるような街は産まれてこないわよぉ~?寒さを凌ぐ家も産まれないしね~。生物がね~より快適に生きるために道具は作られていったのよ~?生物は死ぬけどね、道具や技術は親から子へ子から孫へと継がれて行き、それは進化していく・・・私達はね~これを良しとしたの。勇者くんには想像できる~?景色の無い真っ白な世界を。」

 

思わず息を飲み込んでしまう。外敵はいなく争いもない、しかし何も誰もいない・・・そんな世界で死ぬことも出来ない・・・それはきっと地獄だ。ルビス様達はそんな世界にずっといたのかと思うと胸が締め付けられる。

そんな俺をジッと見つめていたルビス様は、少しだけ驚いた顔をしたあと、顔を綻ばせた。今まで見てきた慈愛に満ちた女神の微笑みではなく、彼女自身の笑顔を見た気がした。

 

「勇者くん、キミ面白いわねぇ~。私にそんな哀れみの目を向けた子はキミが初めてよ~?成る程ね~あの子がキミを気に入った理由が少し分かった気がするわぁ~。私もお気に入り登録しちゃおうかしら。ビアンカちゃんには悪いけど。」

 

そう言ってルビス様がビアンカさんを見ると、ビアンカさんは真っ赤な顔をして俯いた。

 

「私達神々の世界レンダーシアはね~お気に入りの人を連れてきて住まわせてるのよ~。ビアンカちゃんは勇者くんが魔王を倒し世界を解放した後のことを知ってるものね~?おおかた自分の世界に連れていき神となった勇者くんと添い遂げようとか考えてるんでしょ~?」

 

ビアンカさんは真っ赤になって走って逃げていった。嬉しいよ、物凄く。でもルビス様、それを言ってしまったら見も蓋もないですよね?

やはり創造神は他と少し考えがずれているのだろうか。

 

「そうそうキリちゃんのお気に入りの子も凄いのよ~。あれ?気に入られてるんだっけかしら?お陰でレンダーシアもドタバタと賑やかになったわぁ~。たま~にいるのよねぇ~創った者では辿り着けない天才が。そうそう話がそれたわねぇ~、要するに~私達は生物を創ったけど~生物は自分達の生き方、人生の物語を自分達で作るってところね~。」

「・・・簡単に言うとこうっすか?善悪どちらも大した違いはないから、選ぶの面倒だし代表をだしあって勝手に自分達で決めろと?」

「ピンポ~ン!大正解~。」

「アホかー!!俺達の世界で遊ぶなー!!」

「キャー!勇者くんに犯される~。」

 

そこからは逃げていったビアンカさんやらツカサやらに取り押さえられるまで大騒ぎとなり、閑静なリムルダールの街が騒然となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ・・・聞きたい事が二つあります。」

「はぁはぁ・・・何かしら?」

 

肩で息をしながら会話する勇者と女神。

「魔王は創造神ゾーマなんですよね?本来この世界で魔王になるはずだった者は何処かにいるんですか?」

「いるんじゃな~い?そうそう、私達創った本人は当たり前として、魔王は勇者の対だから実は魔王もギガデインを使えるのよ~?まぁ大体は勇者に対抗してジゴデインだのアルテマだの、エビル何とかだの呼んでいるから気付きにくいけれど、基本的に同じものなのよ~。まぁ、誰かしらの助けでも無ければ今回は覚醒しないでそのまま人生を終えるんじゃないかしら~。」

「はぁ、ではもう1つ。ゾーマが創造神って勝てるわけないじゃないですどうすりゃいいんですか?」

「それは大丈夫よ~?この世界ではだいぶ力に制限が入るから1億分の1くらいまで。あと私達がこの世界に来た理由は私達の・・・あら?ほら勇者くん。目的地の教会が見えてきたわよ~。」

 

 

 

そう言ってルビス様が指差した先を見ると、荘厳な建物の教会が見えてきた。パパス王の話によればあそこにエルフのロザリーと別世界の魔王ピサロが治療にあたっているはずだ。

 

 

 

 

 

 

ギイ・・・

木の擦れる音を立てて教会の扉を開けると、広いホールになっていた。

長椅子が等間隔に揃えてあり、それは全てルビス様の像の方へと向いている。窓ガラスには青や赤、沢山の色をふんだんに使いステンドグラスとなっている。奥の壁には天井まで届かんばかりのパイプを有したオルガンが置かれている。

どの教会もそうだが、礼拝堂は派手に作られている。

昔、シズクを引き取ったアリアハンの夫婦はよくシズクにオルガンを教えていた。シズクもまたパイプオルガンを気に入ったらしく、いつも遅くまで練習に付き合わされたのが懐かしい。

 

「私、パイプオルガンの大きな音嫌いなのよね~。」

本当に罰当たりなことを言う女神さえ居なければもう少し思い出に浸っていたいところだ。

 

 

「あら?お客様?」

不意に話し掛けられて振り向いたそこには、近くの井戸まで水を汲みに行った、赤髪の少女ーーエルフのロザリーさんが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー後編に続くーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




クライマックスなので前後編にしてみました。


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21話

「待ってよキリトさん。相変わらず歩くの速いよ・・・」

少し後ろを歩いていた彼女が立ち止まり呟いた。

振り向くと自分の直ぐ後ろを歩いていた筈の彼女は、少し離れた所で下を俯いて立ち止まっている。

「あの時の私にこんな素直な気持ちを言えていたら今とは違う未来があったのかなぁ?」

キリトは彼女が泣いたところなど見たことがない。しかし今の彼女は今にも泣き崩れそうな顔をしている。

「私があの時もっと・・・あなたは浮気をしなかったのかなぁ。」

「だからあれは誤解だって言ったろ?シズク。」

 

二人を沈黙が支配する。

キリトにとってみれば誤解以外の何物でもないのだが、今彼女にそれを言ったところで彼女がそれを受け入れる訳がないことは誰よりも知っている。何年かかろうが、彼女が誤解を解くまで待つしかないのだ。きがため息を吐くと、シズクもまた一息吐き、両手を頭上にあげる。

するとあげられた両の手の周りが淡い光に包まれ、一瞬強い光を放ったあと光は消え、代わりに両手の上に半透明な黒いヴェールのような物が現れた。

「キリトさん、あなたにこれを差し上げます。」

そう言って彼女は黒衣を手渡す。キリトは手渡された黒衣を見て心臓がドクンと1つ音を立てた気がした。と言うのも彼はそれに見覚えがあったからだ。

それは秘法の中の秘法にして、戦う者にとっては何よりも欲するもの『闇の衣』だった。

 

キリトは思わず感動のあまりシズクの手を握ってしまうと、彼女は白い肌を薄く染めた。

でもキリトは彼女が闇の衣を渡した理由に気付いていた。彼女は来たるべき闘いの前に衣の能力を見せておくつもりなのだろう・・・勇者に。

 

「なぁシズク、お前にとってマコトは何だ?」

 

彼女は驚いた顔をした。自分としてはそれほど変な質問をしたつもりはなかった。でも・・・今自分の目の前にいる彼女は明らかに驚きを見せた。

「キリトさん。あなたもそんな表情をするんですね。」

「顔?俺の顔がどうかしたのか?」

「いえ。自覚が無いのなら良いのですが・・・まぁ、それは良いです。質問にこたえましょう。マコトさんは希望の光です。今はまだ微かに光る程度ですが。」

「あれか?お前が昔から言っていた、この不本意に出来上がってしまった世界の理を越える者。それがマコトだと言うのか?」

 

シズクは黙ったままだった。それもそうなのだろうとキリトは理解している。ルビス様さえ予測不能に育って言った世界の理は、いつしか創造神の思惑を大きく外れていったのだ。生きる為に糧を必要とし、その為に戦う。そこまでは理解できるし好感ももてる。しかし、成熟した世界は生きる為ではなく、他人のものを得る為に戦う。それは財産であったり技術であったり、愛情であったり信じる者のため。

聞こえは悪く無いが、必ずしも必要のない血が大地に流れるのをキリトも気持ち良くは思わなかった。

そしてそれはキリトの解放した世界の中にもあり、お互いがお互いの『神のため』と称して殺戮を繰り返す人間もいた。当のその世界の神は戦いなんか望むはずもなく、自分が原因で争うくらいなら信仰心なんかいらないと言っていた。

お互いが大切に想う、しかし視点が違うだけで争いを始める生物の本性を見たとき創造の神々は生物の本能に恐れ慄いたものだ。

幾つもの終わらせた世界を見てきた彼女は、いつしか世界の理を崩す者の出現を待望するようになったのも必然なのかもしれない。

キリトはそれが自分でないことを歯痒くおもう。

世界の理を越えるには自分はあまりにも創造神に近すぎるのだ。

 

 

「シズク、お前がマコトに何を期待しているのか分からないが俺は俺に与えられた役目を果たす。しかしだ!今回の俺の役目はハッキリ言って不本意だ。何かご褒美をくれないか?」

「は?ご褒美ですか?嫌な予感しかしませんが伺いましょう。」

「俺にとって今回のお役目はハッキリ言えば面白くないってのはお前のことだから分かっているんだろ?そんなお役目だがシズク、お前がこんな衣装を着て応援してくれたら頑張れる気がするんだ。」

 

そう言ってキリトは懐から布切れを出しシズクにみせる。

「これは・・・どこかの世界で見た制服って言う物ですか?ちょっとだけ安心しました。どんなことをやらされるのかと思いましたよ。まぁ着ませんけどね。」

「え?着てくれないの?」

「着ませんよ!何で恋人でもない貴方にこんな恥ずかしい姿を見せなければならないんですか!」

「ちょっ!俺は婚約者じゃねーか!」

「貴方が浮気した時点で解消に決まっているじゃありませんか!!」

「だからあれは誤解だって。って言うか恋人ならこんな服を着てくれるのか?」

「まぁ、恋人なら考えなくはないですね。」

「危ない水着でもか?」

「あ!!危ない水着でもです!!」

「シズク・・・お前、エッチなヤツだな。ブゴッ!!」

 

言い切るより早くシズクのハイキックがキリトの顔面を捉え、キリキリと擬音でも聞こえるかのように回転しながら吹き飛んでいった。

 

 

「バカ。」

 

シズクはひっくり返って気絶しているキリトを見下ろして呟いた。

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

「マコト、とうとうここまで辿り着いたんだな。」

 

教会の奥に通され入った部屋には全身が傷だらけのピサロがいた。ダメージの深さからなのか、既にに魔物になりかけた姿になっていた。全身を巻いている包帯も所々赤く滲んでいるのをみると、ゾーマとの戦闘がいかに激しいものであったかがうかがえた。

そんなピサロを見る俺の表情から察してか、ピサロは苦笑いを浮かべた。

 

「それにしても毎回おまえには本当に驚かされるな。最初ノアニールで会った時はまさかと目を疑ったよ。次にジパングで再会した時お前は・・・いや、彼女はゾーマの腹心中の腹心である巨龍キングヒドラと魔将バラモスブロスを連れてやってきた。そして今度は彼女の代わりにルビス様を連れてやってきた。」

「やはりロレンスとキョウイチは・・・」

「そうだ。あの二人は大魔王ゾーマの腹心だ。本当はもう薄々気付いているのだろう?その彼等を引き連れていた彼女は・・・いや、これは俺の口から言うべきではないな。マコト、お前が自分の目で確かめるべきだ。」

 

ピサロの言葉が胸の奥に仕舞い込んでいる部分に深く突き刺さる。本当はそんな予感がしていた。いや、気付いていたけどその事実から目を逸らし、違うと自分に言い聞かせていたのかもしれない。

災厄の訪れと言われたアリアハンの大雪の日に迷い込んだシズク。子供の姿ではあったがいくら記憶喪失と言えど、あの晩にしかも大雪の中1人でいるなど普通考えられない。

ロマリアでまだ見知らぬロレンスを躊躇なくバギで吹き飛ばすなど普通あり得ない。だけどあれでロレンスが死なないことをシズクが知っていたとしたら?

ノアニールで始めて会った筈のエルフのロザリーとの不自然な間。あの無言の会話の中にお互いだけが分かるやり取りがあったとしたら?

人間嫌いのエルフの女王ヒメアがシズクをあっさり招き入れた理由は?

ピラミッドで始めて会った時のキョウイチのあの『お前は!?』のセリフの意味は?

イシスでラーの鏡を叩き割った理由は?

ジパングでヤマタノオロチがシズクを見て驚愕していた理由は?

レイアムランドでオーブが揃っていないのにラーミアの一族が力を貸した理由は?

バラモスがシズクを認識した途端にルーラで逃げ出した理由は?

行ったことが無いはずのマイラへのルーラが使えたそのわけは?

数え上げればいくらでも出てくる。

俺は居心地いいシズクが隣にいる風景になれてしまい、あいつの真実を見ていなかった。いや、見ようとしなかったのかもしれない。

 

そんな悩める勇者を見てピサロが言葉をなげかけようとしたそのとき、木製の扉を叩く乾いた音とともに、気を遣って二人で話している間、外で待ってくれていたロザリーさんを始めとした仲間達が部屋に入ってきた。

 

 

 

 

部屋に入るなりツカサやサキはピサロの傷だらけの姿に息を飲む。ロザリーさんは直ぐにピサロの傍に立ち、テキパキと看病を始める。こうやって二人は支えあって生きてきたのかと思うと少し羨ましく思う。

 

そんな二人の幸せな空気など微塵も読む気のないルビス様が口笛を吹きながらビアンカさんを連れて入室してくると、さすがのピサロもロザリーさんも緊張した面持ちになる。

でも良いのか?世界の全てを創造した女神と言えど、この世界で遊び人のスキルを好んで使っているようなヒトなんだぞ?

だがその遊び人は俺の心配などどこ吹く風の如くズカズカとピサロの傍までよると、笑顔だけは女神の微笑みで

「久しぶりね〜デルピエロくんにエルフの女王ヒメアちゃんの娘さんのロザリーちゃん。元気そうで安心したわぁ〜。」

「「ご無沙汰してますルビス様。」」

 

満身創痍のピサロを抱き起こし、肩を貸しながら二人は膝をつき頭を垂れ、ルビス様に挨拶をする。

「あの、ルビス様?」

「なぁに〜勇者くん。」

「ピサロは大魔王ゾーマとの戦いで大怪我をおっているので、礼儀とは言え挨拶はキツイのでは?あと彼の種族はデルピエロではなくてデスピサロです。」

「い、良いんだマコト!!」

 

ピサロの辛そうな姿を見て女神に進言したつもりだが、ピサロとロザリーさんは何故か必死に俺を止めている。

「まぁそれもそうね〜。でもソレ、ゾーマにヤられた怪我じゃないわよね?」

「は?何を言ってるんですか?ピサロとロザリーさんは立派に大魔王ゾーマへ挑んだと言うのに。ルビス様、ちょっとそれは冷たすぎませんか?」

「ま、マコトこれは違うの。これはね、ゾーマにヤられて入院中このヒトが・・・看護師のモンバーバラ姉妹のマーニャとミネアとイチャイチャしていたものでつい・・・って、あれ?皆んなどこに行くの?」

 

 

 

ピサロの痛々しいまでの姿がロザリーさんとの痴話喧嘩によるものと聞いた俺たちは一気に脱力感による疲労がたまり、二人を残してリムルダールの宿屋へと帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

夜、宿屋のフカフカのベッドに1人入ると、明日はいよいよ大魔王ゾーマとの決戦だと言うのに思い浮かべるのは嫌でもピサロとの会話だった。

ベッドに横たわる俺は飾り気のない天井に手を伸ばし呟く。

「なぁシズク…お前今どこにいるんだよ。」

伸ばした手で掴める物など何もない。そんな俺が勇者だと言うのだから笑っちまうよな。

以前の俺ならきっと逃げ出していたタイミングだよな。

あいつを『姫』と呼び行動を常に共にしていたキョウイチとロレンスは魔物だった。しかもその姿とピサロの話から察するに、ラダトームの文献にあった此処、リムルダールを強襲した三体のゾーマの腹心で間違いないだろう。もし残り一体の黒い鎧の魔神がキリトさんだったら・・・これが何を意味しているのか考えたくもない。

ピサロにゾーマの事を聞いても自分の目で確かめろの一点張り。どちらにせよ明日になれば全てがわかるのだろうか。

 

勇者がベッドの中で答えの無い考えごとに一息つくと、辺りに甘い香りが立ち込めている事に気が付いた。さっきまでドタバタやっていたツカサとサキも既に寝付いたのか静かだった。と、言うよりも人の気配が全くない。まるで考えごとをしている間に何処か知らない異空間に飛ばされたような、そんな気分だった。周囲の異変を察知しベッドから起き上がろうとしたその時、

トントントン

扉を叩く乾いた音と共に扉は内側に開き、一人の少女が姿を見せた。

 

「シズク!!」

「久しぶりですねマコトさん。」

 

現れたのはアリアハンからの幼馴染み、真相の渦中にいるシズクその人だった。

彼女は変わらず女神のような微笑みを浮かべているが、どこか寂し気な表情をしている。まるで初めてアリアハンにやって来たあの時のように。

 

「シズク、お前どこに行ってたんだよ?」

「・・・マコトさん。少し外を歩きませんか?」

「え?」

「デートしましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シズクとともに部屋を出ると、不思議な事にそこはアリアハンだった。見間違えるわけがない。16歳までをずっと過ごした思い出の詰まった故郷だ。

眼前に見える酒場はルイーダさんの酒場だ。隣りの道具屋の親父さんは今日も昼間から酒場で酔っ払っていて、奥さんに怒られているのだろうか?

 

隣りをみると、ご近所のおばさんが犬を散歩させていた。振り向けば自分の生まれ育った生家だ。親父も俺も旅立ってしまい、今はたった一人になってしまった母さんは元気にしているだろうか?

扉を開けたら母さんは今も笑顔で迎えてくれるだろうか?

しかし扉を開けてしまうとシズクとのこの時間は終わってしまうような気がした俺は家の扉を開けることなく先を歩くシズクを追いかけた。

 

街ゆく懐かしい人々に挨拶を交わしながら二人辿り着いた場所は、二人がよく遊んだり将来を語りあった思い出の場所、教会の裏手にある小高い丘の上にある大きな木の下だった。

二人は腰を下ろす。彼女の座る場所に布をひいてやると、彼女はそっと微笑んだ。

 

 

「マコトさん、なんか雰囲気変わりましたね?勇者っぽくなりました。」

「そうか?自分ではあまり実感がないんだけどな。」

「懐かしいなぁ。よく二人で陽が沈むまで沢山遊びましたよね。」

「あぁ。あの頃は本当に何をしていても楽しかったな。」

 

彼女は満面の笑みを浮かべた。それから俺たちはとにかく話をした。楽しかった話や悲しかった話。まるで二人の共通の時間を取り戻すかのように、二人は『勇者』だとか『魔王』だとかまたは『神と呼ばれる存在』だとか関係無しに、只の幼馴染みに戻り止め処もなく話をした。

その後、彼女に手を引かれるままに゛旅の扉゛を越えたその先には見た事もないような煌びやかな装飾や音楽を伴って動くアトラクションとか言うのにも沢山乗った。やがて陽が傾き始めた頃、彼女は手を差し出した。

「マコトさん、踊りませんか?」

彼女がそう言うと、何処らかともなく懐かしい音色が聞こえてくる。シズクの手をとり二人で音楽に合わせ踊り始めると、不思議なことに二人の周りの全てが輝きはじめ、二人はゆっくりと大空に舞っていく。それはとても暖かく、ユッタリとした時の流れの中で幸福感に包まれていた。

 

 

しかし楽しい時間というものは、どんなに望んでも永遠には続かない。やはり俺は勇者で、世界の人々は今この瞬間も魔王の討伐を俺に一欠片の希望として託しているんだ。

 

「シズク、もう良いよ。もう十分に楽しめたよ。・・・大事な話があるんだろ?」

「・・・マコトさん。」

 

彼女は瞳を閉じて深い深呼吸をすると、再び俺の方を見た。その瞳は今迄見てきたどの瞳よりも決意と言うか、何か真剣に伝えようとする意思のようなものが強く感じられる瞳だった。

「マコトさん。もう薄々勘付いていると思いますが、次はキリトさんがマコトさんの前に現れます。今のマコトさんからは真の勇者の力を感じます。もう人を超えた神の力を得たと言う事は、あのオバサン(ルビス)にもう出会ったと言う事ですよね?」

 

もしかしなくても創造神のルビス様をオバサン呼ばわりするシズクは、一つ一つ言葉を選ぶように、それでいて俺に大事な事を伝えるかのように話を始める。

 

「ハッキリ言ってしまいますが、マコトさんが神の力を得た今でもキリトさんには遠く及びません。彼は剣技だけでいえば既にゾーマにも匹敵します。」

「しかしシズク、ルビス様は創造神はこの世界では一億分の一の力しか出せないと言っていたんだぜ?あれは嘘だというのか?」

「いえ、それは本当です。ですがあのオバサン(ルビス)は例え力の制限をうけたところでメラ一つで世界を火の海に変える力を持っているのですよ?それに匹敵するキリトさんです。」

「そんな相手に俺が勝てる訳がないじゃねーか!一体どうしたら・・・」

「大丈夫です。あのヒトは戦闘マニアです。あからさまに勝てる戦いをツマラナイと感じています。きっと油断しているはずです。そこでマコトさんにこれを預けます。」

そう言ってシズクは懐から小さなオーブをだした。

「それは?」

「これは光の玉と同じ効果を持ちながら相手にメッセージを伝えるものです。名前はまだありませんが…そうですねぇ思い出の鈴と名付けておきましょうか。」

「思い出の鈴?」

「いいですか?キリトさんは剣技もそうですが、特筆する点は闇の衣です。闇の衣は光を屈折させる事で相手に幻覚を見せ、あたかもダメージを受けていないかのように見せるものです。マヌーサと違う所は、誤魔化す幻覚と違い本人は確かにそこに居る事です。相手に違う姿を見せたり、その本人の周りの空間をねじ曲げる不可視の布、それが闇の衣の正体です。これを撃ち破るには強烈な光を発する光の玉しかありません。この光の玉と同じ効果をもつ球体をキリトさんの至近距離で使えば必ず彼は大きなスキが出来るはず。そこを一息に攻めてください。」

「シズク、お前はいったい…」

「私は…。いいですか?絶対に忘れないでくださいね?必ずキリトさんを倒して…

 

 

段々とシズクの声が離れて行く。違う、俺の意識が引上げられているんだ。

俺を起こそうとする声が聞こえてくる。

凄い勢いで遠ざかっていくシズクをみると、彼女は優しく微笑んでいた。声はもう届かないが最後に言った言葉を唇の動きら読み取るとそれは

 

 

 

 

 

 

 

次はゾーマ城で会いましょう

 

 

 

 

 

だった。

 

 

 

激突する二人の勇者

 

 

 

 

 

 

目を開けると視界に映るのは、心配そうな顔で俺の顔を見下ろしているピサロと、身体を揺さぶるツカサの姿だった。

「大丈夫かマコト。だいぶうなされていたようだが。」

「本当焦ったぜ。お前を起こしに来たら苦しそうにしていたからよ〜。」

「夢か。」

俺は気付かないうちにリムルダールのベッドで眠りにおちていたようだった。ふと顔に生暖かいものを感じ拭って見ると透明な液体が拭き取れる。そのとき始めて俺は自分が泣いていることに気が付いた。

シズクとのあの時間は夢だったのだろうか?まだ覚醒仕切らない頭で考えるが答えなどでない。

ツカサとピサロの顔に安堵の色が戻ると、俺はベッドから身体を起こし宿屋の外で待つ女子達の所へ行こうと起き上がる。ふとベッドの中で手に触れた物があった。見ると小さなオーブ。シズクがキリトさんとの戦いで使うように言っていた思い出の鈴とか言っていたものだった。

いったいどこまでが夢でどこからが現実なのだろうか。

 

 

マコトは大事なもの゛思い出の鈴゛をてにいれた。

 

 

その時だった。街全体をいや、アレフガルドを丸ごと包み込むほど巨大な魔力を覆った。魔力にたいし敏感に反応した自分には凄まじい不快感と、全ての視界が赤く染まる様な感覚に捉われる。

「こ、この力は!!」

元魔王のピサロも同様する桁違いの魔力だった。

周囲の異変を感じとり外で待つ仲間のもとへ急ぐと、いつも口笛吹いてプラプラしている遊び人ルビス様も、この時ばかりは流石に笑っていなかった。

「この力はキリちゃんよ〜。勇者くんは大魔王ゾーマを倒さなければならないし…、仕方ないわね〜息子(キリト)の不始末は私が…。」

「いえルビス様。きっとキリトさんは俺との戦闘を待っているはずです。そしてこれは避けては通れない道なんです。」

「勇者くん…。貴方、本当に勇者みたいよ?素敵な男子になったわねぇ〜。」

 

なんか色々と滅茶苦茶なルビス様の発言にツッコミを入れたい所だが、今はそれどころでは無い。俺達は魔力の中心、リムルダールの広場へと急行する。

 

 

 

 

 

街の広場

噴水の中に立つキリトさんの像、その前に彼は1人で待っていた。いつも俺に勇気を与えてくれた彼の笑顔、今は勇気だけではなくほんの少しの恐怖も感じる。

 

「キリちゃん〜。一応聞くけど貴方、ここで何をしているの〜?」

「ル、ルビス様…」

「嫌ね〜ルビス様だなんて他人行儀な呼び方。いつも言っているでしょう?私の事はママと呼びなさいと。」

「…お、お母様。」

「ん〜まぁ今日の所はそれで妥協してあげるわ?で?貴方は、いえあなた達はこの世界で何をしているのかママに聞かせてちょうだい。」

「すみませんが例えお母様と言えど今それを言うことはできません。あいつとの約束ですから。そして仮にも真に剣を教えた身。出来るなら一対一での戦いを希望したい。」

そう言ってピサロとロザリーさんの方を見るキリトさんは、明らかに彼等を威嚇している。そんなキリトさんを見ていたルビス様は

「キリちゃんなら私を除いた全員を纏めて相手にしたって余裕でしょう?あなた何を企んでいるの〜?」

「お母様が戦いに参戦出来ないのは知っていますから…それに俺はマコトと戦いたい。」

ルビス様が戦えない?戦わないではなくて戦えないとキリトさんは言う。その意味を俺が考えていると、意外にもそれに応えたのはルビス様本人だった。

 

「昔…まだ世界がこんなに無かった時代ね、一度だけ私達創造神が争った事があったの。本当に些細なケンカで幾つもの世界を滅ぼしてしまったの。世界を変える力を持つ、各世界の神魔に勇者。それに対して私達は嫌でも多くの世界を巻き込んで滅ぼしてしまうの。キリちゃんは正確には創造神では無いけど、戦闘に関しては同等の力を持っているの。だから私は例え世界が闇に閉ざされていても戦うわけにはいかないのよ。」

少しだけ寂しそうな笑顔でルビス様は内心を打ち明けてくれる。だからルビス様はゾーマとの戦いを避けていたんだと改めて思い知る。

「キリトさん。そこまで俺を弟子として見ていてくれたのは嬉しいよ。だけど俺にはキリトさんと戦う理由がない。」

 

 

「理由ならある。マコト・・・俺の許婚の名はシズクだ。」

 

 

やはり。

考えたことが無いわけではなかった。同じ日に出逢った二人が全く関係ないとは思わない。

 

俺は意を決して剣を抜き一歩前に出た。

 

「みんな今までありがとう。でもここは1人でやらせてほしい。」

「マコト、ルビス様の話を聞いて無かったのか?この男には、ここにいる全員でかかっても勝てない相手だぞ?1人で勝てる訳がない。ここは全員で戦い僅かな希望にかけるべきだ!」

ピサロがもっともな意見で1人で行く俺を引き止めようとするが、それを止めたのは何とロザリーさんだった。

彼女は俺の代わりにピサロに愛する者の名前を出された以上引くことが出来ない俺の心情を話し、無理矢理ではあるが彼を納得させてくれた。

ルビス様も

「まぁキリちゃんにも考えがあるんじゃない〜?」

と空気より軽い励ましの言葉をかけてくれる。

 

 

こうして嘗て憧れた勇者との戦いが始まった。

 

 

 

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ーーーーー

.

 

 

 

 

 

 

 

二振りの剣をキリトさんが構えると、先程の戦闘以上にプレッシャーが俺を包み込む。

くる。

キリトさんの二振りの剣による必殺のあの技が。

 

頬を伝う汗が顎を伝いポタリと足元に落ちたその瞬間、キリトさんの体は淡い光の帯を残すような高速で間合いを一気に詰めてくる。右手の剣が俺の左から襲いかかり、それと同時に右方向からも斜めに斬りかかってくる。偶然だった。

俺の持つ王者の剣が右方向からの攻撃を受け流し、左からの攻撃は勇者の盾が軌道をそらす。初撃を反応できていたわけではなかったが、何とかやり過ごせた。

初撃を躱されたキリトさんは若干体制を崩しながらも、そのまま残り14撃を繰り出す。

流石にこれには全く反応が出来なかったのだが、体制を崩していたのと、王者の剣と同じ神々の素材によりできている光の鎧が、何とか致命傷になることを防いでくれたのだ。

とはいえ、今の攻撃を完全に防げたわけではない俺は早くも全身から生暖かい血が流れ出している。

 

「よく躱したなマコト。」

 

どこか嬉しそうに笑うキリトさんは、やはりまだ本来の力なんか出してはいないのだろう。

 

 

 

地上から二人の戦いを見守っているビアンカは笑顔で初撃を防いだマコトを見て喜びの声をあげる。

「確かに偶然が重なったとは言えあのキリト様の必殺技を防ぎましたよ彼。」

「ビアンカちゃん?可哀想だけどアレは本当のキリちゃんの必殺技じゃないわよぉ〜?本当のキリちゃんのあの技は、両手とは別に魔力で剣を操り、同時に16本の剣から繰り出される相手の360度全ての方向から繰り出される256連撃よ〜?恥ずかしいからあまり言いたく無いけれど発動してしまったら私でもアレは防げないわ。アレが破られた事は永い刻の中でただの一度だけよ?」

「に、256連撃⁉︎じ、じゃあやっぱり…。」

「えぇ。本来はいくら勇者の力を覚醒させても勝てる相手ではないわね〜。でもキリちゃんは勇者くんを気に入ってるみたいだし、何より私には戦いと言うよりは勇者くんを特訓してるように見えるのよね〜。」

ルビスの言葉を聞き、再び上空でもはや次元の違う戦いを繰り広げる二人をみて

「キリト様がマコちゃんを特訓?……アレが?」

どんどん体力を削られていくマコトの姿を見てビアンカは首を傾げるのだった。

 

 

 

 

このまま戦い続けていれば負けるのは明白だった。キリトさんは何故かトドメを刺すことはせず、こうやって定期的に距離を保ち、まるで俺の剣技を鍛えるかのように感想的言葉や助言までつけている。

この距離は俺に休憩どころか、ベホマによる体力の回復の時間まで与えているのだ。それをキリトさんが気付いていないわけがない。

やはり俺は遊ばれているのか?

しかし俺はここで負けるわけにはいかない。

俺はあいつと約束をしたんだ。

 

俺は全身の体力回復のベホマに使う魔力を止めた。

そして地上で俺の戦いを見届けてくれている仲間達を一瞥する。

「みんな…ごめんな?」

心の中で呟くと、先程まで体力回復や攻撃力倍増のバイキルト、防御力を高めるスカラも全て解き、盾を背にすると両手で王者の剣を握り、それを天に向かって伸ばす。

 

雪を降らしているアレフガルドの黒く分厚い雲の隙間から稲光りが漏れる。大きな地響きを伴い複数の竜巻きが縦に延びた蛇のように踊り狂っている。

天に向かって突き出された王者の剣の刀身が眩い光を放ちはじめると、上空に帯電していた稲妻の力が王者の剣に集まってくる。

 

 

地上で余裕のある顔で二人の戦いを見ていたルビスの顔から笑みが消えた。

「ちょ、ちょっと勇者くん。その技はゾーマまで使ってはダメとあれほど!!」

「スゲーなマコトのヤツ。アレは何て技なんすか?ルビス様。」

ルビスの表情の変化に気付かないツカサは、刀身に稲妻を集めていく勇者の姿を見ながらルビスに問う。

「アレはギガスラッシュよ。私達、創造神を唯一神界レンダーシアに還す力を持った現状最強の技よ。但しアレは術者の全魔力と全生命力を必要とする最後の切り札なの。」

「ぜ、全生命力って!?」

「そう。あの技が繰り出されたら勇者くんは間違い無く死ぬわね。しかも全生命力も使い果たすから生命力の残りに作用するザオリクも効かない。勇者くん一体何を考えているのかしら……。」

ルビスの話しを聞き、地上で見守る者達は息を飲み勇者の戦いへと視線をむけた。

 

 

 

 

「マコト、ギガスラッシュは生命を使った最後の切り札ってことは知っているだろう?俺に今使って良いのか?」

「キリトさん。あんたに出し惜しみして勝てるとは思えない。全力でぶつからなければ師に対して申し訳ないからな。」

「そうか。じゃあお前の全力、俺に見せてくれ。」

 

どこか嬉しそうな笑顔でそう言うと、キリトさんの身体全体を青白い炎のようなものが覆い、これまで遥かに超えるプレッシャーが俺を襲う。アレフガルドどころではない。全宇宙と言っても良いほどの濃い魔力が全てを覆っていく。彼の背後の何もない空間が歪みだし、水辺の波紋のようなものが14箇所現れ、その其々の波紋の中心からは剣の柄の部分が現れた。

そしてキリトさんが更に魔力を上昇させると、両手に持ったものと併せ16振りの剣をキリトさんはもつ。そのどれもが王者の剣に匹敵する神剣なのは一目見ただけで判る。

 

俺は既に複数のギガデインの電撃を纏わらせた王者の剣に更に魔力を込める。キリトさんもまた奥義を超えた神技でくる。ならば俺も最強の技で迎え撃つべきだ。例え生命が尽きようとも。

 

 

静かだった。

不思議だった。目の前には凄まじいばかりの魔力を尚も高めていくキリトさんの姿は、すでに異形の魔神と化している。きっとアレがキリトさんの正体なのだろう。そんな絶望的なまでの魔神を見ているというのに、何故か俺の頭の中は静寂そのものだ。

シズク、お前だけは生きて欲しくて残して来たけど、やはり最後だと思うともう一度お前と会いたかったな。結局俺はお前に何も伝えられないヘタレだったよ。

そう言えば夢の中でお前は何て言っていたっけな。

そうだ。確か闇の衣がどうとか、光を屈折させて目の前の見える全てを歪めて見せるだとか。あとは確か思い出の鈴で……!!

 

そうだ!!このギガスラッシュでキリトさんに一矢報いる方法をシズクは授けてくれていたんだ!

 

僅かな希望が胸の奥で輝いた。そう思うと身体の奥底から力を感じる。

そんな俺の心境を読み取ったようにキリトさんは更に魔力を上げた。一体どこまであがるのか…。普段無造作に降ろされた髪は、上昇する魔力に押し上げられるように逆立っている。夜空のような漆黒な瞳は魔力を帯び深緑の色を彩っている。そんな姿になったキリトさんの全身が光り輝くと、キリトさんは今までと比べ物にならない速度で斬りかかってきた。

 

スターバーストストリーム!!

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

目の前の弟子が王者の剣を天に掲げ力を溜めている。あれは間違いなくギガスラッシュだ。何度も見てきたルビス様が勇者に与える必殺の奥義。

いつの世もどの世界においても魔王を倒した後の勇者は、その人を超えた力から同じ人間に疎まれ畏れられ、そして殺されていく。社会的にだったり生命そのものを奪われたり。

そこで創造の神であるルビス様とゾーマ様は考えた。勇者の役割を魔王討伐までとし、その後はその世界を導く神とすることを。同じ人間に殺されるくらいなら魔王との戦いで相討ちとなるのが一番だとルビス様は悲しそうに言っていた。

ギガスラッシュは本来、まだ世界を創り始めたばかりの頃に創造神が魔王の役割を演じていた時の、人間の勇者に負ける為に編み出された技。俺も何度か魔王を演じた時に何度も喰らってきた。

正直わざと負ける戦いは得る物が何もない。いつしか俺自身も同等以上の存在がないことに絶望し無感情になっていった。

 

そこで俺はもう一人の創造神である神龍に相談をもちかけると、意外な答えが返ってきたのだ。

神龍にもし勝てたなら、どんな願いも一つだけ叶えてやると。

 

それからの俺は来る日も来る日も神龍に挑み、やがて小さな小さな勝利を収めた。

そんな俺に神龍は一つの世界の解放に向かう様に指示してきた。殺伐とした世界、アインクラッド。

そして、そんな世界で勇者の役割をしていた時に彼女とは出会った。彼女は大人しい性格だが、その戦闘能力は桁違いの強さだった。たった二人のパーティだっが彼女との戦いに於ける相性は驚く程に合っていた。ゾーマ様やルビス様に鍛えられた俺の剣技に全く引けを取らない彼女とのパーティ、驚く程に早く魔王を倒し世界を解放に至った。

 

魔王との戦いには全く満足できなかったが彼女と供に戦かった日々の記憶だけが神界レンダーシアに帰ったあとも微熱のように俺の中に残った。

それからと言うもの、俺は解放したその世界に何度も足を運び彼女に会いに行った。最初はその大人しい性格から何度も足蹴に通う俺を警戒している節のあった彼女も数年も経てば信頼関係が生まれる。

 

魔族の脅威の去ったその世界は闘技場が進化していった。相手を殺すことは許されないが、闘技場は賭博の娯楽として楽しまれていた。

正体は隠していたが勝って当たり前の闘技場に参加することは無かったのだが、根っから戦いを好まない彼女が無感情な俺を心配したらしく、何と彼女が闘技場に参加した。彼女との戦いなら……少し興味を持った俺も参加した。

 

予想通りと言うか当たり前と言うべきか決勝戦は彼女との戦いだった。

俺は正直少し怖かった。俺と背を合わせて戦える彼女だが、直接戦い勝ってしまえば彼女への興味を全て失ってしまう気がした。

 

「キリトさん。手加減したら怒るからね?」

「分かっているよ。最初から飛ばすからお前も手は抜くなよ?」

 

しかし開始早々に俺は考えを改めた。剣と剣が重なる度に大きな轟音と凄まじい衝撃波が会場の至るところで起こる。

「まさか俺の剣が押されるなんてな。」

「無敵の勇者様もその程度ですか?」

「へっ!抜かせ。簡単に負ける気はないぜ?」

 

俺は考えを改め、16振りの剣を異空間より召喚する。魔力を十分に上げ彼女を見据える。ここまで俺を楽しませてくれた彼女。最悪死なせてしまったら魂を俺はレンダーシアに連れて帰るつもりだった。

 

「いくぜ?スターバーストストリー……?」

「エ……」

「エ?」

 

俺が光速で彼女との間合いを詰めようとすると彼女は既に彼女の半透明の刀身は凄まじい魔力が帯びており、それを天空に突き出すように構えていた。

 

 

「エクスカリバー!!!」

 

 

 

「な、何だとぉぉぉぉ!?」俺の悲鳴と俺自身を向けられた切っ先から襲い来る魔力の渦に飲み込まれ俺は意識を失った。

 

 

「キリちゃん簡単に負けちゃったわね〜。」

次に気付いた時、ルビス様が俺の顔を覗き込みながら微笑んでいた。

そのルビス様の背後に苦笑いをしている彼女がいた。彼女が何故レンダーシアに?俺が驚きのあまり声を失っていると彼女は恥ずかしそうに洋服を脱ぐかのように闇の衣を脱いだ。

闇の衣には光の屈折により別なものを映す幻覚のような力があるとは聞いていたが、まさか彼女の正体はーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「マコト。この本来のスターバーストストリームを防げるか?たったの一度しか破られた事のない神技だ」

 

光速で真との距離を縮めるなかで真を見ると、彼は覚悟を決めた強い眼差しで真っ直ぐにギガスラッシュを俺に向かい振り切ってきた。

 

巨大な魔力と魔力の衝突。この世界では大きな制限を受けるにしても本来なら相手になる筈がない。例えマコトが勇者の覚醒を果たして神となった今も。そもそも神と創造神との間には埋められない壁がある。そんなことはシズクだって分かっているはずだ。にも関わらず彼女に、マコトにギガスラッシュを使わせる事をお願いされた。使えば生命を失うというのに。

 

マコト、あの幼かった少年が立派になったものだ。

その時俺は思ってしまったんだ。このままマコトを死なせてしまうには惜しいと。もしかしたらこの土壇場で俺を過ぎったこの感情さえシズクの手の内だったのかもしれないな。

俺は攻撃する事をやめ、稲妻を刀身に纏わらせたマコトのギガスラッシュを12本の剣で受け止める。

マコトの王者の剣を含めた全ての剣と、俺とマコトの魔力がぶつかり合ったその瞬間、マコトの頭の冠に着いた青いオーブが眩い光を放つ。それは昼間のないアレフガルド全てを包むのではないかと言うほどの強烈な光を放ち、その光はシズクから授かった俺の闇の衣を打ち消していく。

 

「「うおぉぉぉぉ!!!」」

 

男と男の、師と弟子の、同じ女を愛した者同士の意地と意地が重なりあったその瞬間だった。

 

『キリトさん……』

その時シズクの声が頭の中で聞こえたかと思うと、マコトの額のオーブからシズクが現れた。青い光を纏ったシズク。その姿を見たとき、それが思い出の鈴による幻影だと直ぐに分かった。

『キリトさん…貴方がこれを見ているという事は、きっと私はその場にはもういないのでしょう。キリトさん私ね?貴方が無気力で無感情になっていく様を見ているのが辛かった。あなたはいつも私達の前では笑顔でいてくれたよね?私ね貴方が私達のように心で泣いていることに本当は気付いてた。でもあなたはいつも私に平気だと、自分も辛いくせに励ましてくれたよね?私本当に嬉しかった。ありがとう。そんなキリトさんに私どうしても伝えておきたい事があるんです。』

 

全ての剣と魔力を持ってギガスラッシュの魔力を打ち消している俺に幻覚のシズクはーー正確には録画された彼女は瞳を曇らせて俯きながらに話しかけている。目の前のマコトはギガスラッシュに生命を吸われはじめているのか、全身から血を滲ませている。間も無くマコトも限界のようだ。

 

『キリトさん……マコトさんを死なせたらブチ殺しますよ!!!』

「へ?」

録画のシズクが俯いていた顔を上げると、虹彩の消え失せた瞳をしていた。マコトと戦い負けて死ぬか、マコトに勝ってシズクに殺されるか正にどちらを選んでも死しかない。この思い出の鈴はまさしく死への招待状に思えた。

 

 

「ぐはぁっ」

 

 

 

俺は血を吐いて力が抜けた瞬間、俺の魔力で稲妻の魔力を霧散させた気の抜けたギガスラッシュが俺の心臓を貫き、マコトと共に地上へと真っ逆さまに落ちていった。

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

「ここは?」

 

ビアンカさんの腕に頭を抱えられながら意識を取り戻した俺は辺りを見回している。

まだ自分が何故生きているのか理解出来ていないようすだった。

 

「マコト、お前の勝ちだ。」

胸から流れ出る血を抑えながらキリトさんが意識を取り戻した俺の側に歩いてくる。明らかに致命傷だというのに彼は笑っていた。

キリトさんの横に立つルビスも俺に微笑み

「ギガスラッシュをまさかここで使うとは思わなかったわぁ〜。でも、凄いじゃない。例え出来レースだとしても、大いなる厄災と言われるキリちゃんに勝つなんてね〜。」

「大いなる厄災?」

「そうよ〜。キリちゃんは……私達の息子は、大いなる厄災、神命をエスタークと言うの。」

 

俺がエスタークに勝った?違う。最後あの瞬間にキリトさんの行動は明らかに不自然だった。何故か攻撃を途中でやめ、ギガスラッシュの魔力の霧散に力を使ったこと。シズクから渡されたオーブが輝いたとき、キリトさんの真っ青な顔と、直後の剣が刺さる前に血を吐いて気絶していたこと。

そもそもキリトさんは最初から俺に勝つ気があったのだろうか?

 

そのキリトさんの体は薄く青白い光に包まれている。息子と言うだけあって普段遊び人のようなルビス様もこの時ばかりはキリトさんの側から離れようとしない。

と思いきや、痛い?ねぇ痛い〜?とか言いながらキリトさんの胸の傷をチクチクやっている。

 

「ル、ルビス様。ちょっともう時間がないのでマコトと話をさせて下さい。」

「ママでしょ!」

意地でも母と呼ばせようとするルビス様はキリトさんにひっついて放さない。どんだけ息子が好きなんだよアンタ。

お母さんと呼び何とか女神を宥めたキリトさんの体は益々光が濃くなっていく。

「マコト、お前にゾーマ様との戦いの前に伝えておかなければならない事がある。今、万を超える魔物の軍勢がラダトームを目指して進行中だ。ラダトームは優秀な魔法使いを育成する学園都市となってはいるが、やはり人間。いずれラダトーム城は陥落してしまうだろう。それを聞いてお前がどのような判断をしたとしても俺はお前を悪くは思わない。しかしもしお前が1人でゾーマ様に挑むようなことがあったのならこれだけは覚えておけ。ゾーマ様と戦うなら見えるものが全てと思うな。案外賢いお前のことだから、ある程度の覚悟はしているのだろ?良いか?自分の直感を信じろ。」

「キリトさん。一緒に来てはくれないんですか?創造神同士が戦えないのは知っていますが、一緒に居てくれるだけでも……」

 

俺の悲痛な願いにキリトさんは笑顔を見せることで応えた。それは幼い頃に見た勇気を与えてくれるあの笑顔だった。

 

「俺がお前に教えるものはもうなにもないさ……」

 

 

キリトさんの体を覆う光が強く輝くと、まるでガラスが砕け散るかのように、無数の光に粒子となってアレフガルドの夜空に舞い散った。

 

ルビス様は螢の光のような粒子が夜空に舞い上がる様子を眺めながら

「キリちゃんは私にとっては息子同然なんだからちゃんとケリをつけなさいよ〜?」と小さな声で呟いていた。

 

 

「大丈夫よ〜?勇者くん。キリちゃんは私達とほぼ同じだから、死はないの。昨日も話したけど、どうしても今すぐにキリちゃんが必要なら、彼への愛を力の限り叫べば彼は召喚って形で再びこの世界に舞い戻れるわよ〜?何ならキリちゃんへの愛を叫んでみる〜?」

 

膝をつきガックリと肩を落とした俺を優しく声掛けたのは意外にも遊び人…じゃなかった。ルビス様だった。キリトさんへの愛を力の限り叫べば復活?

 

「どうする〜?」

「いえいいです。俺そんな趣味ありませんから。」

 

何となくサキの方から舌打ちが聞こえた気がするが、キリトさんは自分達の世界に帰っただけで消滅した訳ではないのなら良い。そのうちにまた逢えるさ。何故か俺はそんな気がした。

 

「で、どうするの?ラダトームのことは?」

さすがは異世界とはいえエルフのロザリーさんだ。頭の回転が早い。キリトさんの魔物の軍勢の話を聞いてしまった以上無視できないようだ。

そのロザリーさんは相方のピサロが魔王とはいえ今は療養中だ。万を超える軍勢の相手は今は部が悪い。

ルビス様は万物の神である以上、どちらかに味方するなんて出来ないだろう。

人間の姿に化ける力がまだ溜まらないキョウイチは無理だろうし……

 

それならいっそ……

「ゾーマ城には俺が一人でいく。ピサロにロザリーさん。ツカサにサキはラダトームを守ってくれないか?」

「ダメだ。俺はおまえと行くぞ。先程のあの自分の生命を粗末にする戦い方をするお前を一人では行かせられない。」

「ピサロがもう一度ゾーマのとこに行くなら私も行くわよ?」

ピサロとロザリーさんは俺と行くことを希望する。

「別に俺とサキだけでも良いぜ?」

「そうよ?私達夫婦だけでちゃんとラダトームを守ってみせるわ。だからアンタ達はゾーマをお願い。私達も確かに強くなったけど、今の戦いを見て思ったの。もう私達にどうこう出来る相手じゃないって。」

シズクと共に滅茶苦茶やってきたサキと、いつもポジティブだったツカサが自ら後方支援に回るという。

「ツカサ、サキ。二人とも絶対に死ぬなよ?」

「あぁ。お前もな!」

 

俺とツカサはガッチリと握手をかわす。

 

そして最後まで俺たちに付いて行くと言ってきかないビアンカさんをルビス様がゾーマ城の入り口までよ〜?と妥協案で納得させると、ついに俺たちは最後の地、ゾーマ城へ向けて最後の旅路に向かうのだった。

 

 

 

 

次回

最終回『勇者の挑戦』

 

 

 

終幕

 

 

 

 

真っ暗な道無き道を歩いている。自分達のレンダーシアへの帰り道だ。

いつもなら特に何も思う事ないこの道も、今日ばかりは少しばかり寂しく思えた。

自分の初めての弟子は大丈夫だろうか?ラダトームは?いや、アレフガルドは救われるのだろうか?もう自分には何も出来ないと思うと胸が詰まる。

 

そんな考え事をしながら歩いていると、背後に眩い光の渦が現れる。

 

「見送りに来てくれたのか?シズク……。これで良かったんだろ?」

「はい。本当にごめんなさいキリトさん。」

 

最近よく着ている僧侶の姿ではなく、今日は白銀の長い髪を優雅に揺らしながら、白いドレスを纏っている。キリトにとって見慣れた本来の姿。

 

「ここはごめんなさいではなくて、ありがとうだろう?」

「はい。ありがとうございます。」

 

彼女は満面の笑顔を見せてくれた。キリトはその笑顔を見ると、この勝つことの許されないこの茶番劇も妙にやって良かったと思えた。

 

 

 

 

目の前を一人歩く後ろ姿。

私はもうずっと永いこと彼のこの背中が好きだった。この広い背中で護られてきた想い出の数々。私はつい飛び付きたくなる衝動を何とかとどめる。

 

いつからだったろう。胸の奥で揺れている小さな光。風が吹けば消えてしまいそうな淡い光は、今ではとても暖かい。かつてこの光は目の前を歩く彼に与えられたものだったが今は……。

 

「見送りに来てくれたのかシズク」

そう言ってはにかむ彼の笑顔を見ると胸が締め付けられる。私はかつて愛したこのヒトに酷い事をしている自覚はあったのだから。

 

そう。私は彼を愛していた。

 

寝ている彼の顔を突くと、少しだけ小さな唸りを上げる彼。そんな時だけ見せる少し幼い表情。

彼のベッドに潜り込み、彼の背中に抱き着いて眠ると、言葉に出来ない程の安心感に包まれ眠ることができた。

 

そんな彼と、私は永遠に一緒に愛し合っていけると何の疑いを持たずに共に歩いて来た。

 

そんなある日のこと、いつものように彼のベッドで一緒に寝ていたとき、彼は後ろから私を抱き締めてきた。彼に聞こえてしまうのではないかという程大きな心臓の鼓動。何度抱かれても飽き足らないこの幸福感。私は向きを変え彼の唇を求めようとすると、彼は静かな寝息を立てて眠っていた。

「なんだ…ただの寝相だったのか。少し残念。」

私はいつものように彼の顔を突くと、彼はくすぐったそうに笑い、

 

「やめろよ〜…アスナぁ〜……ウヘヘ…」

彼はニヤニヤと笑いながら私の身体を抱き締めた。

 

 

 

ズガァァァァァァアン!!

 

私は寝ている彼の顔に思い切りパンチを喰らわした。

突然の衝撃に目を覚ましたあとも困惑している彼は、何が起きたのか全く分かっていない。

 

「…アスナさんって誰ですか?」

「へ?」

「アスナさんって女の名前を呼びながら私を抱き締めるな!この浮気男ー!!!」

「ち、違っ!アスナは……」

「煩い黙れ!この変態!!」

 

その後彼を顔の形が変わるまで殴り続けて以来、私とキリトさんは今も微妙な距離間のままだ。

 

 

 

 

 

マコトさんに戦い方を教えてほしい。

私の願いを、本当は嫌なくせにやり遂げてくれたキリトさん。私もずっと胸の奥に引っかかるモノを出して一度ちゃんと話しをしてみよう。

 

「帰る前に教えてくれませんか?私とアスナさん、どちらがキリトさんにとって大事な女(ヒト)なんですか?」

「だからそれは誤解なんだってば。アスナは俺が解放した世界でやっていたアニメのヒロインなんだよ。」

「は?アニメ?」

「そうだよ。魔王を倒す道すがら何と無く見たアニメにハマっちゃってな?そのアニメにお前ソックリなヒロインが出てくるんだよ。それがアスナだ。」

「ってことは?」

「そうだよ。アスナは現実にいるわけじゃない。二次元ってやつだ。」

「なっ!何で早くそれを言わないんですか!!」

「お前が俺の話を聞かなかったんだ!」

 

 

全く……どれだけこのヒトは残念なんだろう。じゃあ私は今までいもしない相手にずっと怒っていたと言うんですか?

私は深く息を吐くと、胸の奥のつかえがスーっと消えていくのを感じた。

 

「じゃあ大事なのは……」

「シズク、お前に決まっているだろ!」

「キリトさん……。」

 

頬が熱い。きっと私顔が赤いんだろうな。彼は両腕を広げている。今すぐあの胸に飛び込みたい。でもそれは恥ずかしすぎる。二つの間逆な気持ちが私の中でグルグルしている。でもそんな私の心に気付いてるかのようにキリトさんはニコニコと微笑みながら相変わらず腕を広げている。

もう……キリトさんは……

 

「あの……。」

「どうした?シズク。」

「いえあの…。あ!アスナ!!」

「え?どこどこ?って、あ……」

 

彼は恐る恐る私の方を振り返る彼は青ざめている。

 

私は右足に力をこめて彼の顔面にハイキックをくらわした。

彼はキリキリと擬音をともなって回転しながら吹き飛び、ひっくり返っている。

はぁ……本当に残念なヒトだ。

 

私は天を仰ぎ

「ケリ、ちゃんとつけたよ。」

と呟いた。

「いやシズク。それはケリをつけたんじゃなくて蹴りを入れただから……。」

 

彼は一人ボソボソと呟きながら気を失うが私は何も聞こえなかったことにした。

 

 

 

 

ーーーー続くーーーー




次回は土曜日の予定です


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勇者の挑戦

クライマックスなので初めてサブタイトルを付けてみました。長い…長くなってしまいました。
ですが、一応盛り上がるように書いてみたつもりです。よろしければお楽しみ下さい


 

 

 

 

 

間もなく彼は私のいるこの場所へやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

いつしか出来上がってしまった魔王を倒し世界を人の手に解放する為の通過儀礼。

世界は1人の英雄に全てを押し付けて成り立っている。人の進化はめまぐるしく、ほんの少し目を離しただけで数世代もたっており、後世に残す手段を身に付けた彼等は技術を驚く速度で進化させて行った。

技術の継承は、前者が進めた進化の先から引き継がれ、後者はそれをさらなる高みへとひきあげる。

 

しかし、それを扱う人そのものは違う。

 

生まれてくる者は、神、魔、人問わず何も持たずに生まれてくる。

生物だけは1から始まるのだ。環境や国、家柄等その先を生きて行く道は違えど人は何も持っていない状態から始まる。

やがて技術の革新とそれを扱う者達の精神の進化との差が様々な軋轢を生んでいく。

そして他人の技術やらの財産と呼ばれるモノを奪うために争いあう。

オバサン(ルビス)はいつもそんな世界の進化に心を痛めていたことを私は知っていた。

 

どれだけの世界を見ても、どの世代を見ても繰り返される同種族同士での争い。オバサン(ルビス)達が創った勇者と魔王のシステムも同種族同士争わせない為には必要だったのかも知れない。しかしその勇者も最期は……。

 

そんな悲しみの連鎖に満ちた世界で見付けたたったひとつの微かな希望。

彼は勇者なのに特別な力を持っていなかった。良く言えば村人以上戦士未満の戦闘力。でも彼には他の勇者に無いものを持っていた。彼は他の者を楽しい気持ちにさせる。まだ幼い少年でしかないのに彼は他者を微笑ます力を持っていた。

 

次第に私は力を持たないその勇者の卵に興味をもっていった。いつしか彼の世界を眺めるのが楽しみになっていた。見ているだけでも彼は私を楽しませてくれるのだ。

私が彼を見付けたのも、私が彼と直接話してみたいと思うようになったのもきっと偶然ではない。

私がここに来た意味。彼と出会った意味。いつの日にかこの運命の意味、あなたは気付くのでしょうか?

 

間も無くあなたは此処へやってくる。

 

 

ずっとこの日が来ることを望みながら、今は迫り来る運命の日が私は怖い・・・

そう私は恐れている。

彼は私を見てどう思うのだろう。裏切り?憎しみ?少しは悲しいと思ってもらえるのだろうか?私は神界レンダーシアへと還った後も彼の記憶の中で生きていくことができるだろうか?

私は目を閉じ大好きな彼との思い出を辿る。

記憶の中の彼はいつも笑っている。私のどうしようもない我儘にも、いつも彼はヤレヤレと言った顔で付き合ってくれる。そんな彼の呆れ顔が好き。顔を真っ赤にしてツッコミを入れる顔が好き。すましている顔が好き。時々私を放置するとこは少し嫌い。でも優しい笑顔は何よりも好き。

 

そう、私は彼が大好き。

 

その大好きな彼は、間もなくゾーマの待つこの玄室へとやってくる・・・勇者の務めを果たす為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の闇がより一層に深い。

リムルダールの西部にある岬ーーーーその岬に勇者一行はいた。

荒れ狂う海を渡った先の孤島にゾーマ城はある。岸壁に打ち寄せる波の音が闇夜に響き、飛び散る水飛沫は凍てつくアレフガルドの風に晒されて瞬時に氷の結晶となる。中空に舞う氷の結晶は、月明かりを反射させ、まるで夜空に輝く星が目の前で輝いているかのような幻想的な景色を作り出していて、ビアンカさんをはじめエルフのロザリーさんまでもがこの幻想的な風景に目を奪われている。

この星降る海峡を越えればそこは大魔王ゾーマの居城。

 

このナンピトたりとも寄せ付けぬ波の音。耳を引き裂くような男の叫び声。見るものの心を癒すかのような幻想的な風景。そのどれもが、これから始まる最後の戦いに赴く俺達に力を与えてくれるような気がし……ん?男の叫び声?

 

 

叫び声が聞こえた海の方を目を凝らしてよくみると、男が怒号の叫び声を上げながら泳いでいた。

 

波のうねりに負けないほどの力で荒々しく水を掻く肩まで隆起した筋肉。水を蹴る足も丸太のように太い、傷だらけの鎧を身に付けている彼は、きっと名だたる戦士なのだろうと容易に想像がつく。

 

 

「あ!沈んだ……。」

ビアンカさんの心配そうな言葉。

「見て!また泳ぎだしたわよ?」

沈んだと思った男が再び怒号をあげて泳ぎ始めると、それを見ていたロザリーさんが今度は反応する。

 

何度も何度も荒波に飲まれては泳ぎ、泳いでは沈むを繰り返す戦士。しかし遂に力尽きたのか、彼は海峡の底に沈んでいく。

 

「勇者くん?助けなくても良いの〜?あれ、君のお父さんでしょう〜?」

言うが全く助けに行こうとしない神様(遊び人)のルビス様に言われてよくみると、

 

「親父じゃねーか!!」

 

 

 

なんと戦士は父、オルテガだった。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「どなたか存じませぬが旅のお方よ。助けてくださり感謝いたします。私の名はオルテガと申す。」

 

肩で息をする親父は未だに意識がハッキリしないのか、見た目以上に深刻な状態なのか、息子である俺に気付いていないようだった。

一年前に魔王バラモスを倒す為に旅立った親父、バラモス戦にて負傷を負い、溶岩たぎるギアガの大穴に落ちて死んだと聞かされた親父がそこにいた。

自分の視界が涙で歪んでいくのがわかる。この凍てつく大地においても涙の生暖かさを知った。

 

「旅のお方よ。せっかく助けていただいたのだがどうやら私はここまでのようだ。旅の途中、風の噂で私の息子が魔王討伐に旅立ったと聞きました。もしどこかで息子に会ったら伝えてはもらえませんか?オルテガはマコト、お前の為に大魔王に挑むも卑怯な罠にかかり死んだと。父の仇など考えずに故郷で母さんと幸せに暮らせと。」

 

 

親父……。こんな時まで俺や母さんのことを。

「親父…。」

「!!まさか、マコト?マコトなのか?」

「ああ、俺だよ親父。」

俺の涙を堪えた振り絞るような声に親父は反応した。

「おお…聖霊の女神ルビス様。最期の瞬間に息子に逢えた奇跡に感謝いたします。」

 

そんな親父の言葉など耳に入らないかの様に、その当人であるルビス様は、先程からビアンカさんとヒソヒソと話している。

 

「マコトよすまん。父の力が足りないばかりにお前まで戦いに身を置くようにしてしまって。見ての通り父は大魔王ゾーマの力に一歩及ばず…。奴の罠にハマり既に虫の息だ。」

「なぁ親父。」

「なんだ息子よ。」

「鎧を着たまま泳いだら溺れるにきまってんだろーが!!」

 

何がゾーマの罠だ。ただの自爆じゃねーか!!

 

「母さんも寂しがってるんだからアリアハンに一度帰ってやれよ。ゾーマは俺達で何とかしてみせるから。」

「アリアハンか……何もかもがみな懐かしい。」

「アホな事言ってないでさっさと帰れよ!全く。」

「まぁそう言うな息子よ。ところで……さっきから気になっていたんだが、その後ろにいる強そうな青年と美人3人はお前の仲間か?」

 

急に俺の仲間に話をふる親父。とりあえず一つ分かったことは、このクソ親父は確実に目が見えてるじゃねーかと言うことだった。

 

「お初にお目にかかる。俺の名はピサロ。デスピサロだ。」

「よろしく。」

先ず名乗ったのはピサロだったが、親父は特に気にする様子は無かった。

「私はロザリーよ。エルフ族の女王ヒメアの娘です。」

「おお!エルフの?ロザリーさんか、素敵な名前だ。」

明らかに少しテンションの上がった親父。とても嫌な予感しかしない。

「私はルビスよ〜。人妻です。」

「ほぉほぉ〜ルビスさんですな?名前の通り、本当に女神の如く美しい。」

 

おいルビス様。あんたもっと自己紹介するべきところあるだろ?それに親父……それ本物のルビス様だぞ?あんた絶対に気付いていないだろう?

俺が親父にルビス様の事をそっと耳打ちしようとしたその時だった。テンションが上がり始めていたとはいえ、突然親父の目がハートになった。

 

「あの……お義父さま。私はビアンカともうします。身重なためこの様なはしたない姿でのご挨拶で申し訳ございません。」

いつの間にか僧侶の衣から水の羽衣に着替えていたビアンカさんは、まるで天女のような姿でスカートの両端を摘んで挨拶をした。

何となく親父を呼んだ時の発音に引っかかるがきっと気のせいだろう。

「おお!まさか息子の?ってことは私も…いや、ワシもジィジになるということですな?いやメデタいメデタい!!」

 

何か壮大な勘違いをしている親父はビアンカさんに握手をもとめ、顔が崩壊してんじゃないかと疑う程に目尻を下げて喜んでいる。

「なぁオヤジ「何てオメデタイのかしら〜。こんなメデタいことは久しぶりだわぁ〜。ねぇビアンカちゃん。私達でお義父さまをアリアハンまで送ってあげましょうよ〜。」

 

「おお、それはありがたい。」

上機嫌な親父は喜んでいる。

 

「でもマコちゃんの戦いが……。」

「それは大丈夫よ〜たぶん。」

 

たぶんかよ!!

ルビス様の提案に渋々従う様な顔のビアンカさんは、俺の手の上に光るオーブを乗せて握らせる。

「マコちゃん。これは私達マスタードラゴンの一族に伝わる『光の玉』よ。これは大昔に私の友達がくれた大切な宝物なの。魔と闇を祓うと言われる力を宿したこの宝玉をマコちゃんにあげる。だから…必ず生きて帰ってきてね?」

そう言ってビアンカさんは俺の頬にキスをした。

 

「「ヒューヒュー」」

 

すっかりジジ臭いオヤジとババ臭いババア(ルビス様)に茶化されると、ビアンカさんは顔を真っ赤に染めて走り去ってしまった。

 

 

 

 

 

「ところで親父は何でこんな荒波を泳いでいたんだ?」

「この海峡を越えるには女神ルビスの力が必要らしい。だが私にはルビス様を見つける事ができず、止む無く泳いで渡ることにしたんだ。」

「そうなのか?」

 

ルビス様に問いかけると、ルビス様は微笑みながら

 

「そうよ〜。な〜に?もうゾーマ城に行くの〜?それなら送るから飛びたい方向を向いて少し屈んでちょうだい〜。」

そう言った。

ルビス様に言われた通り少し屈んだところで嫌な予感がして振り向くと、彼女は以前シズクが持っていた金属バットとかいうものを縦にかまえ、一本足で立っていたかと思うと、キリトさんの剣より疾いスイングで俺のお尻を思いっきりぶっ叩いた。

 

 

 

カキーン!!!

 

 

 

「うん、芯で捉えたわ。160メートル弾間違いなしね。場外ホームラン級よ〜。」

 

女神の言葉を最後に、俺は凄まじい速度で海峡の上空をゾーマ城に向かって飛んでいくのだった。

後にリムルダールでは、ぶっ叩かれた際に流した俺の涙に月明かりが反射し、虹のカケ橋が掛かったように見えたと言う。そしてバットで叩かれた俺のお尻にはルビスの印くっきりとついた。

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

その頃ラダトーム城では、城下町の至る所から黒い黒煙と、昼間を思わせるほどの紅蓮の炎が上がっていた。

「サンチョ様!!ラダトームの西門の防衛にあたっているAクラスの生徒が負傷者多数で総崩れしています!」

伝令を担当する生徒の報告を受けたすサンチョは、ラダトームの司令室にいた。

続々と集まる戦況報告、しかしそのどれも芳しくない。サンチョは分かっていた結果とはいえ、やはり敗戦濃厚状態にため息を吐く。

いくらラダトームが魔法学園にして教育を施したところで、人間である以上魔力(MP)に限りはある。特Sクラスのロイヤルガードが不在のいま、幾らAクラスの生徒を集めようが万を超す魔物の大群に到底敵わない。

唯一望みがあるとすれば勇者一行が大魔王ゾーマを倒すこと。

ゾーマを倒せれば魔物の統制は崩れる。そこに活路を見出すしかない。

 

「サンチョよ。やはり戦況は芳しくないか?」

立て続けにラダトームの名だたる兵士や、優秀な生徒達の訃報に落胆しかけたところに声をかけられた。声の主は長年の友人パパス前王だということは声ですぐにわかった。

 

「お前に隠しても仕方ないよな?パパス」

「そうじゃ。ワシ等の仲に隠し事は無しじゃ。」

 

声の主パパス前王は、最近お気に入りのアフロヘアーをワシャワシャ音を立てながらやってきた。

「パパスそっちはどうだ?何か分かったか?」

「大魔王ゾーマの事は依然として不明じゃ。あらゆる国の文献を読み漁ってみたが、ゾーマの姿や倒しただとか撃退したなどと言う話しは過去に渡って無かった。」

「そうか…せめてゾーマの容姿や、その対処した記録などがあれば作戦も立て易いのだが。」

 

パパス前王の王命により戦力を指揮するサンチョは、本来自分でやりたかった大魔王ゾーマの事を調べる役割をパパス前王に託した。

他にも学者や大臣もいるが、放っておけば戦場に出かねない王をサンチョは城内に留めておかなければならない。

 

「大魔王ゾーマはまだ調査中だが、勇者について少し気になることが分かったのじゃ。」

「気になること?」

「そうじゃ。どの世界もどの勇者も魔王を倒した先の事を記した書がないのじゃ。」

「一体それが何を意味するものなのか…。」

 

二人が全く活路を見出せないでいるところに、重厚な作戦司令室の扉を開けて傷だらけの兵士が入り込んできて、パパス達の前に膝をつきこうべを垂れる。

 

「何事じゃ?」

「報告します。ラダトーム南門に敵将のバラモスゾンビが現れたました…」

「何?敵の大部隊は西門ではないか。敵将が別な門に現れるだと?」

 

作戦を司令するサンチョは困惑した。

敵将は大部隊と共に攻め込んでくるものとばかり思っていた。魔族がそのような陽動作戦を執るなどと考えもしなかったのだ。

 

「大丈夫なのか?サンチョよ。」

「マズイな…。今のラダトームに戦力を割くゆとりはない。パパス・・お前は王だ。最悪脱出の準備だけはしておいてくれ。」

 

「サンチョ様、それが・・・激化する戦闘の最中にルーラの光が敵軍勢の中央に現れまして。」

「何?この上何が?」

「賢者のサキと落ちこぼれクラスのツカサが現れました。」

「なんだと!?パパス、大至急脱出だ!!」

「分かった。」

 

現れたのが勇者やロイヤルガードでは無かったことを知り、サンチョとパパスは脱出の準備にかかろうとしていた。

 

「いえ、それがサンチョ様。サキとツカサは大部隊の中央をアッサリと切り崩し、散り散りになった部隊をサキの広範囲魔法で殲滅しております。ツカサはバラモスゾンビが現れた南門に向かったもようです。しかし如何にサキと言えど魔力には限界があるため、Bクラスの生徒が崩した中央に雪崩れ込んでいる状況です!」

 

「なんと!?まさかあの二人がよもやそこまで強かったとは。同じ落ちこぼれクラスの同級生とさして鼻が高いぞ。」

 

パパスは何とも情けない安心感を持っているようにサンチョには見えた。

だが確かに好機には違い無かった。

「司令を伝えよ。城内に残る全ての兵と生徒に魔法の聖水を持ってサキの援軍につくように。」

「南門はいかがいたしましょう?」

「バラモスゾンビはツカサじゃ無理だ。諦めよう。大部隊さえ何とか出来れば敵将一体なら逃げ通せる。これは絶対のチャンスであると!」

「ハッ?」

 

こうして欠片のような小さな希望を見出したラダトームは、希望を勝ち取るために更に戦闘が激化していった。

 

 

 

. ◆

 

 

 

これまで長い道程だったと思う。

ゾーマの城内は広く天井も高く作られていた。

超大型の魔物もいるという事だ。

赤褐色の色をしたレンガ造りの壁には等間隔に石柱があり、その上部には炎の灯った松明が掛けられていて、その明かりが床を照らす。

 

それにしても先程から全く敵に出会さない。

敵の本拠地真っ只中だと言うのに、入口入ってすぐにいた魔物の娘にしか会っていないのだ。

もちろんゾーマとの戦闘を控える今、不要な戦闘を避けたいのは確かではあるのだけど、全く会わないとなるとかえって不気味さが増す。

その魔物の娘にしたって戦ったわけでは無い。

 

「ようこそいらっしゃいました勇者様。ご入城の際はこちらにご記入下さいませ。」

カウンターに座っている女性に記入を促され名簿に名前を記帳する。

「最近は何かと物騒ですからね。はい、勇者マコト様でございますね?本日はゾーマ城へどの様なご用件でございますか?」

「えっと…ゾーマを倒しに来ました。」

「ゾーマ様への挑戦でございますね?アポイントメントはありますか?」

「いいえ。」

「左様でございますか。少々お待ちくださいませ。」

 

そう言うとカウンターの女性はどこかへ連絡を取っているよだった。暫くすると女性は受話器を置き、

「こちらの勇者様専用通路をどうぞ。」

と言われて今に至る。

 

 

 

 

 

長い長い通路を渡り、階段を登ったり降りたりを繰り返し辿り着いたこのホールの対面には巨大な扉があった。

扉には金銀宝石で飾り付けされたものだった。

 

 

 

 

重厚な扉を開けると、そこは真っ暗な暗闇の纏う部屋だった。自分の足下さえよく見えない、一切の光を拒絶する闇ーー思い浮かぶ表現はこれだけだった。

 

 

 

「ようこそ我が生贄の祭壇へ。」

 

 

闇の奥深くから声がしたかと思うと、部屋の両脇に設置されていた燭台に青白い炎が、奥から手間に向かって灯ってくる。やがて炎の灯火によって闇が振り払われて部屋全体を見通せるようになると、部屋の中央に無数の赤い光が集まり渦を巻いているのが見えた。そして一瞬強く輝きを放つと、そこに1人の少女が現れた。

 

「シズク!!」

「…我が名はゾーマ。魔王の中の魔王。神の中の神。万物全てに破壊と破滅、そして死を与えし闇の神。」

 

目の前に現れたシズクは大魔王ゾーマと名乗った。何時もの僧侶の服ではない彼女は禍々しい力を帯びたローブを纏い、その凄まじいまでの桁違いな魔力が全身を覆い青白く光を放っている。

両側の腰に携えた剣を彼女が抜くと、一気に場の空間が凍てついていく。そしてゆっくりと両手の剣を動かし構えをとると、その剣が通った軌道上が、まるでシーツにシワができるかのような空間に歪みが発生する。

構えを見ただけで彼女の強さが伝わってくる。かつてキリトさんはゾーマに剣を教わったと言っていたが、二振りの剣を携える彼女は成る程確かによく似ているように見えた。違うとすればキリトさんは正に神速の如き速さで動き、目で追うのが困難な、しかし正当な剣技だった。それに対してシズクは…ゾーマはゆらりゆらりと、右へ左へと彼女の残像のようなものが見え、二重、三重に見える彼女はまるで舞を踏んでいかのように見えた。そしてやはり彼女の動いたあとには、シーツのシワのようなものがついてまわるように空間が歪んでいる。

 

まるで大魔王という異質な存在を空間さえもが避けているかのようだ。

 

 

「やっぱりお前が…。何でだよ!オレ達二人、ずっと一緒にやってきたじゃねーか!何かの冗談なんだよな?」

「ふ、ふふふ…ふははは!良いぞ、とても良いぞ勇者よ。その絶望に満ち満ちた悲痛な叫びを聞くためだけに長い年月をかけたのだ。その魂の叫びこそ我への慰み。その苦悶に満ちた心こそが我が糧となる。さぁ勇者よ、その絶望に満ちた魂を私に捧げよ。」

 

 

そう言ったゾーマは、長年ともに過ごしてきた彼女からはとても想像つかない様な歪んだ表情を見せて笑っている。

あれは本当にシズクなのか?

シズクは二振りの剣を持ったまま凄まじい速度で走り寄ると、空気との摩擦で激しい火花を散らしながら剣を振り下ろしてくる。

何とか一方は盾で、もう一方は王者の剣で防いだ。

彼女の細腕からは到底想像も付かないような剣撃の重さだった。

次から次へと上下左右あらゆる角度から剣で襲い来る彼女の瞳からは何の感情も読み取れない。

キリトさんとの戦いのおかげで二刀の戦い方を少しは学んだおかげで、攻撃をなんとか捌いてはいるが、彼女の剣は速度ではキリトさんに劣るものの、彼女の剣にはキリトさんには無かった何かしらの魔力のようなものがふくまれているようで、躱したハズなのに傷ができ血が噴き出す。さらに微かな切傷さえもホイミが効かない。

 

そして何よりも彼女に対して攻撃出来ない俺は、次第に追い込まれていった。

でもシズクにヤられるなら仕方ない。そんな絶望的な状況とは裏腹に、俺の頭は驚く程に冷静になっていた。

 

確かにアイツの強さは半端ではない。一番近くでずっと見てきた俺だからわかる。しかしアレは本当にシズクなのだろうか?アイツなら剣が扱えてもさほど不思議ではない。本人は僧侶だと言い張っているが、きっとアイツは剣も魔法も扱える。

それもきっと最強と言われる魔法だ。もしかしたらこの世界には無い、更に強力な魔法も扱うことだろう。

だと言うのに目の前のシズクは剣しか使っていない。

 

大魔王を名乗る者が俺なんかに本気等出さないのかも知れない。

それでも……。

 

 

 

俺は尚も続くシズクの剣をいなしながら、一旦彼女と距離を取った。

俺は彼女を見詰めると、彼女はまるでゴミでも見るかの様に、まさに魔王の如き冷たい瞳で俺を見返した。

 

やはり違和感を感じる。

本当にアレはシズクなのだろうか?

 

 

 

そう言えばキリトさんは最後に何と言っただろう。

 

『ゾーマ様と戦うなら目に見えているものが全てと思うな。』

だ。

そして俺の直感を信じろだった。

 

そうだ。目の前の彼女は俺の想うシズクじゃない!

どんなに見た目が同じでも、俺には分かる。

アレは絶対にシズクなんかじゃない!

そう強く思った時だった、ビアンカさんから託された光の玉が輝き始めた。

「ッ!!その光は!!」

ゾーマさえも呻きを上げるほどに、輝きを増していく光の玉は、まるでそこに太陽があるかの如く強く輝き、部屋の中を凄まじい光力の白い闇が覆い包んでいった。

俺の視界も何もかもを奪いながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺り一面を覆っていた光の玉の輝きがようやく落ち着きをみせはじめ、強烈な光により見えなくなっていた視界もどうにか回復してくると、辺りに靄のようなものがかかっていた。

 

俺は盾を構え注意深くシズクの様子を探るが、彼女の姿は見えない。静かだ…兜の隙間から自分の呼吸だけが聞こえてくると妙に緊張感が増す。

先程までのシズクの猛攻はかなりの脅威だったけどこの静寂が逆に妙に怖い。俺の中の何かも危険のサインを出しまくっている。

 

ここにいては危険だ。

 

明確にそう判断したその時だった。

先程までのシズクの声とは違う、禍々しい力を含み、言葉に呪いが込められているかのような、それでいて声を聞いただけで足がすくんでしまうような力を有した声が聞こえてきた。

 

 

「よもや我が闇の衣を撃ち破る手段を手にしていようとはな。」

「お前が?」

「そうだ。余が大魔王ゾーマである。」

 

3メートルはあろうか巨躯は先程までのシズクと同じローブを纏っている。

頭には冠があり、その両サイドからはツノのようなものが見える。

黒く長い髪を靡かせ悠然と立つその姿にはまさしく大魔王の威厳がある。今まで魔王を名乗る者や元魔王など色々見てきたが明らかにそれらと別物なのが分かる。

こうして対峙してるだけでまるで心臓を鷲掴みされているかのようなプレッシャーで呼吸も乱れる。

意外にも若々しい成年ぐらいの風貌。何処と無く目元が雫に似ているような気がするが、ゴミを見るかのような無関心な冷たい眼光で俺を射抜くところはやはり違う。

 

「勇者よ、汝が何を見ていたかなど知らぬし興味もないがせめて愛する者の手にかかり永久(とこしえ)の眠りにつく栄誉を与えたのは、ここまで辿り着いた汝への余のせめてもの情け。なにゆえソナタはもがき苦しみながらも生きようとする?滅びこそ我が喜び。死にゆくものこそ美しい。勇者マコトよ、我が腕の中で息絶えるがいい!!」

 

 

大魔王ゾーマが現れた。

 

 

これが最後の戦いだ。確かに目の前のゾーマはかつて無い程の脅威に違いはない。だけど…シズクの姿をされているよりは何倍もましだ。

俺は左手からメラゾーマを放ち爆煙に乗じてゾーマに斬りかかる。が、ゾーマは右手で掴むかのように手で煙りを振り払うと、返す手でバギクロスを放つ。見たことも無いような巨大な竜巻が双方から襲ってくる。いや撤回しよう、俺はかつてこれ以上のバギクロスを見たことがある。ピラミッドであいつが放ったバギクロスの方が余程凄かったぜ。

こんな絶望的な戦いの最中にもあいつを思い出して笑ってしまう。

勇者は双方から襲ってくる竜巻の合間を走り抜けゾーマの右足を攻撃にかかるが、ゾーマは既に左手に溜めていた火球メラミを自分の足元に放つ。頑強な鉱石で出来た床が融解しそうなほどの真っ赤な火炎と共に襲い来る爆風。盾をかざして身を守るが吹き飛ばされ壁に背中を打ち付けられると、凄まじい痛みが全身を襲う。

 

そして全身襲う痛みで未だ動けない俺にゾーマはヒャドによる氷の槍を容赦なく放ってくる。

何とか盾で防ぎつつ横に跳ぶことで直撃は免れたものの早くも満身創痍の自分に対してゾーマには笑みを見せる程の余裕がある。

 

「あのエスタークが認めていた勇者だから楽しみにしていたのだがな…拍子抜けも良いところだ。力を見誤るとは奴もまだまだだな。」

 

既に肩で息をする俺はゾーマの独り言を聞く。ヤツの言うエスタークとはきっとキリトさんのことだろう。キリトさんとの戦い・・・分かっていたさ。あの人が本気出していなかった事ぐらい。でもキリトさんはそんな俺にかけてくれたんだ。ルビス様は想像神は1億分の1しか力を出せないと言っていたが、それでも力の差は歴然としてそこに立ち塞がる。

 

ゾーマは軽くため息を吐くと、右手を上げる。すると握られた右手を中心に黒い光が集まり、やがて剣の形を創っていく。

巨大な剣だった。刀身が真っ黒で淵の部分は赤く彩っている。見るからに禍々しいその剣をまだ体制が整っていない俺に振り下ろしてくる。勇者の盾を斜めに構え直撃を避け受け流すように剣撃を反らす。

床に撃ちつけられた剣撃は床を崩すと同時に、無数の破片が跳ね上がり俺を襲う。ゾーマの攻撃を受け流すのに使ってしまった盾を構え直すにはとても間に合わず、次々と飛来する破片をもろにうけてしまった俺の全身は中空に押し上げていく。上空に浮かされた体の横っ腹にゾーマの裏拳が突き刺さると、再び壁に強く撃ちつけられ、凄まじい衝撃に意識が朦朧とする。

そこへゾーマが剣を再び振り下ろしてきた。

ダメだやられる!!体がまだ動かない俺は思わず目を閉じて衝撃を待つが、一向に痛みが体に伝わる事は無かった。

恐る恐る目を開けると、ゾーマの剣撃を両手剣を横にして防いでいる男の後姿が視界に飛び込んでくる。

 

「ピサロ!!」

「マコト、戦いの最中に目を閉じるな。常に前を見ているのがお前の良いところだろ?」

「貴様…デスピサロか!せっかく見逃してやったものを、再び自ら死ににくるとはな。次は見逃してはやらぬぞ?」

「次が無いのはあなたの方よゾーマ!!」

 

掛け声と共にゾーマの背後から瞬く間に5連撃の突きを入れたロザリーが勢いをそのままにピサロの横に並び立つ。

 

「エルフ族の小娘か。今更二人ぐらい増えたところで何も変わらぬぞ?」

「二人だけではないぜ?」

 

何も無い空間から声がしたかと思うと、ゾーマを凄まじい電撃が襲う。見たことがある。あの魔法とは違う電撃あれは…

 

「ロレンスか!?」

「マコト、助けにきたぜ。」

 

「なんだと?キングヒドラ!貴様は余の腹心。その貴様が余を裏切るというのか?」

ゾーマが空間のひび割れに手を突っ込み、投げ捨てるかのように引き抜くと、巨大な四つ首のドラゴン、キングヒドラが投げられ出てきた。ルビスの塔で自らの世界へ帰った筈の巨龍キングヒドラのロレンスだった。

 

ゾーマの表情に少しだけ怒りの色が混じり出した所に、凄まじい勢いの業火が迫る。

業火が現れた方の先には巨大な体に燃えるような真っ赤な目。人間程もある巨大な斧を携えた魔物。

 

「俺もいるぜ。」

「キョウイチ!!」

魔将バラモスブロスのキョウイチが現れた。

 

「バラモスブロス貴様もか!!貴様も余を裏切るというのか?それが何を示すかよもや忘れてはいまいな?」

「ゾーマ様。俺等は別に裏切っちゃいないぜ?最初から全てはシナリオ通りなんだよ!なぁロレンス。」

「そうだ。俺等は最初から一つの目的の為に動いていた。ある一つの合言葉を胸にな?」

「合言葉だと?」

 

ロレンスとキョウイチは不敵に笑うとそれぞれが背筋を伸ばし右手を斜め前方に突き出す。

 

「「ジークシズク!!」」

 

 

 

ははっ。絶望的なこの状況下においても彼らは変わらない。安心を通り越して涙がでそうだよ。

 

「さ、マコちゃん。今のうちにベホマを。」

いつの間にか隣にいたビアンカさんは、右手を俺にかざすと、柔らかな白い光が俺を覆い、傷口を中心に熱を帯びたと思うと、スーッと痛みが和らいでいく。

 

「ビ、ビアンカさん。どうして?」

 

ルビス様と共に親父を送り届け、そのままアリアハンに居るはずのビアンカさんがそこにいた。

「オルテガさんとアンルシアさんがね、なんか孫の誕生とオルテガさんが無事に帰った祝いとかいって宴会始めちゃって…。」

「親父と母さんが?」

「うん。それにルビス様も混ざって大騒ぎしてるから逃げてきちゃった。勘違いなのにね。」

彼女は笑顔で言うと、ペロっと舌を出してイタズラっぽく微笑んだ。

 

 

 

そんな俺達を余所に一人顔色を変えるものがいた。

大魔王ゾーマだ。

「シズクだと?バラモスブロスにキングヒドラよ、貴様等今シズクと言ったか?まさかあの者が!?。いや、…なるほど確かにありえるか。あのフルタイムでメダパニ状態の女神(ルビス)にこのような回りくどいシナリオを用意できるはずがないものな。だがあの者が関わっていると言うなら得心がいく。だがそれならば遊びは終わりだ。みんな纏めて死の路を行くがいい!!」

 

 

 

 

 

ゾーマが戦闘態勢に入る。

空間を覆っていた魔力は、すでに魔瘴となる。

普通の人間ならこの場にいるだけで死んでしまうだろう。

光の鎧が淡い光を放っている。魔瘴から俺を護ってくれているのだろう。

 

 

ピサロが素早くゾーマの右側へ走る。するとピサロのスピードが突如神速へとあがる。ピサロの走り出すタイミングに合わせて唱えたロザリーのピオリムによるものだ。

突如変化した速度にゾーマは対応が一瞬遅れると、赤い鮮血を伴ってピサロの大剣がゾーマの右足を切り裂く。

その瞬間に間髪を入れずに左上からその鋭い爪でロレンスがゾーマに襲いかかる。しかしこれにはゾーマも反応しロレンスの爪を右手で掴むと、そのキングヒドラというの巨体を軽々と壁に投げ付け叩き付ける。

その投げ終え体が開いた状態に、既に上空高くに跳んでいたキョウイチが、人間大もある斧に自重を乗せてゾーマの頭部に叩き込む。

 

が、頭部に一撃が加わる直前にゾーマは凄まじい魔力を解放し、キョウイチもろとも全員を風圧で壁に叩き付けると、そのまま大きく息を吸い込み猛吹雪を吐きだす。凄まじい轟音とともに迫り来る白い雪の波が押し寄せてきたとき、仲間全員を虹色のヴェールが優しく包み込んだ。

ビアンカのフバーハによるものだったのだが、ゾーマの猛吹雪はパーティに大したダメージを与えることが出来なかった事をゾーマが認識することはなかった。

猛吹雪を吐いた瞬間に俺の放ったギガデインがカウンター気味にゾーマの頭部に直撃した為だ。

 

 

 

 

ギガデインの直撃を受け頭部から白煙を上げるゾーマは、顔面を抑えながら肩を震わせて笑っていた。

 

「フハハハハ。まさか余がこうも容易く一撃をもらうとはな。実に愉快だ。」

 

ゾーマは不敵にそう言い放つと、覆っていた手を顔から放した。

その目は先程までの見下した目ではなく、明らかに殺意の込められた絶対的な強者のソレだった。

 

ゾーマは両手をゆっくりとこちらにむけると、その直前のモーションからは想像も付かない程の見えない空気の圧力のようなものが襲いかかってくる。

これは以前見たことがある。

シズクが使って見せた技だ。

 

「みんな防御しないで避けるんだ!!これは凍てつく波動だ!!防御はできない!」

「なに?貴様我が秘術を何故……いや、貴様にはあの小娘がついているのだったな?だが余の本物の凍てつく波動はそんな生易しいものではない!!」

 

ゾーマの放った凍てつく波動により、ロザリーのピオリムとビアンカさんのフバーハがかき消されていく。

 

しかしゾーマの技はそれだけではなかった。

凍てつく波動の圧力で動きが封じられているのだ。

 

「ロレンス!!」

キョウイチの叫び声が後方から聞こえた。正面のゾーマに注意を向けたまま後方を振り返ると、巨大な氷の槍がロレンスの巨体を貫いていた。

 

傷口からはキングヒドラの体に纏っている電撃が辺りに放電している。巨大な氷はその雷を避雷針の如くあつめている。かなりの高熱になっているはずだが、その槍は水一滴分さえも融解していない。

いつの間にかにゾーマはマヒャドを放ち、キングヒドラを貫いていたのだ。

急いでビアンカさんとロザリーはロレンスに駆け寄りベホマをかける。しかし生命を吸い取るかの如く突き刺さる氷の槍が消えないため、ベホマが効果を発揮していない。

 

「マコト…。必ず勝てよ?ごめんな…。」

 

四つ頭それぞれの口から吐血しながらもキングヒドラは声を振り絞り勇者に未来を託す。

俺が頷くのをみると、安心したように笑いロレンスの瞳から光が消え、グッタリと力が抜け倒れた。そして亡骸となったロレンスの体が淡い光を放ち、ガラスが割れるかのようにパリーンと乾いた音を立てて、光の粒となって消えていった。

 

 

「いかに腹心と言えど余を裏切る者は許さん。死んだキングヒドラや、そこにいるバラモスブロスにデスピサロと言った魔王も所詮は我が力の借り物。勇者や魔王でも一度に一回の魔法しか使えぬのにたいし、余は複数の魔法を同時に扱うことができる。」

「バ、バカな!同時に呪文の詠唱ができるばずが・・・まさか!?」

「気付いたようだな。さすがはデスピサロか。そうだ。そもそも魔法自体、メラゾーマからも解るように我らが創造した産物だ。ソナタ等のように詠唱でメラ系なら火の精霊、ヒャド系なら水の精霊と言った森羅万象に働きかける必要が余にはないのだ。さらに言えば、それら力の源たる精霊の先は何処に繋がっていると思っているのだ?」

「!!」

 

ピサロの顔色が悪い。先ほど諦めるなと言った時の目の輝きがない。

「ピサロ…大丈夫か?」

「最悪だ。俺たちは思ってた以上に考えが甘かったのかもしれない。ゾーマの頭部を見ろマコト。この世界で勇者のみが使える最強のギガデインを喰らったと言うのに、傷一つない。」

 

そう言われて改めて見ると、ヤツの若々しい精悍な顔には傷一つなかった。

「ロレンスにザオリクが効かなかった時にもしやとは頭の片隅にはあったんだ。ヤツは…ゾーマには魔法が効かないのではないか?そして特定の空間内の精霊を沈黙させる事で魔法の効果を無効にするのが凍てつく波動の正体ではないのか?もしこの仮説が正しいとしたらヤツには魔法が効かないことになる。」

 

ゾーマと一定の距離を保った俺たちは、ピサロの恐るべき仮説に息を飲んだ。

「魔法が効かないなら物理的に倒せばいいんだよ!!」

 

ロレンスがヤられて頭に血が上っているらしいキョウイチは、怒りで燃えるような赤い目で、巨大な斧を振り上げゾーマに襲いかかる。

「まてキョウイチ!!」

 

だがそんなキョウイチの一撃をゾーマは片手で受け止めると、空いている左手から巨大な火の玉をキョウイチの目の前に作り出し、大爆発を発生させた。

ゾーマの放ったイオだ。

たかがイオなのだがゾーマが放てば普通のイオナズンを遥かに超える。爆炎の中からボロボロになり意識を失ったキョウイチが吹き飛んできた。

 

ビアンカさんは急ぎキョウイチにベホマをかけて手当にあたるが、暫くは戦えそうにない。

 

「デスピサロの推察には称賛に値するが一つ勘違いをしている。余にも魔法は通じるぞ?ただし余を超える魔力があればの話だがな。」

 

 

高笑いするゾーマに俺たちは次第に不安と絶望感が広がっていく。そんな俺たちを満足そうに眺めているゾーマは

 

 

「それだ!その悲壮感に満ちた絶望こそが余には最高の捧げものとなる。さぁ勇者とその仲間達よ、甘き死を受け入れるが良い!!」

 

 

 

こうしてロレンスの死を皮切りに絶望的な戦いは始まった。

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

その頃ラダトーム南門ではツカサとバラモスゾンビによる激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

「なかなかやるではないか。まさかウヌがここまでやるとはな。」

 

バラモスゾンビと呼ばれる魔族の将軍は、目の前で片膝をつきながらも中々倒れない人間に舌を巻く。魔族の万を超える軍勢にさらなる追い討ちをかける為の陽動作戦。人間相手にここまでする必要など無かった。

しかしバラモスゾンビはそれだけでは飽き足らない。本来彼はゾーマに三将としての役割を与えられていた。

魔族の最強の将軍であるバラモスブロスは仕方ない。彼はバラモス族の最古の伝説級の魔族だ。

巨龍のキングヒドラも納得はいく。まだ魔族としては若いが奴の強さは尋常ではない。

しかし英雄エスタークは納得いかない!

アレはそもそも神だ。ゾーマ様に最も近き者。相手になるわけが無い。

結局このような軍勢を率いる役割になった。

相手は勇者と言う強者ではなく人間。バラモスゾンビにとってはツマラナイ役目となるはずった。目の前の男に会うまでは。

 

「俺は何度でも立ち上がる。愛あるかぎり!」

「ではウヌの全てをかけて向かってくるがいい!」

 

 

人間ーーツカサは空高く飛び上がると、バラモスゾンビに向けて無数の拳を放つ。

バラモスゾンビはその拳を、両腕で防御するように受け数十メートルも後方まで押し戻され膝をつく。

 

「な、何がウヌの拳をそこまでにした?」

「愛!」

「愛だと?くだらん。」

「だがバラモスゾンビお前の頭上をみろ!」

 

ツカサが指を指した空を見上げるバラモスゾンビは、体中から汗が噴き出した。

見えるはずの無い星が頭上に輝いていたのだ。

 

「ば、バカな!あの星は!」

「見えるはずだ。天に輝く死兆星が!」

「グッ。しかし俺にも一日の長としての誇りがある。退かぬ媚びぬ省みぬ!!だけどちょっとだけ待て!」

 

 

格好つけたセリフを口にしたバラモスゾンビはタイムを要求し、ちゃっかり薬草で傷を癒そうとしていた。

しかしツカサは余裕の笑みを見せた。

 

「バラモスゾンビ…この戦いは既に貴様の死をもって決している。今こそ伝説のセリフを言ってやろう。お前はもう死んでいる。貴様の命はあと5秒だ。」

「なんだと?いつの間に…フ、フフフ。では数えてやろう。5・4・3・2ぃ…いぃち」

 

 

ガツン!!

 

 

1を数えようとしたバラモスゾンビの目から星が出た。しゃべっている最中に頭に強烈な衝撃を受けたバラモスゾンビは自らの舌を噛み、口の隙間から火を噴く。するとバラモスゾンビは瞬時に火だるまとなり崩れ落ちた。

 

「わ、我が生涯に一片の悔いな…ブゲッ」

 

最後のセリフまで頑張っていたバラモスゾンビは先端にバラモスゾンビの血がついた杖を持つサキに踏まれて息絶えた。

 

「バラモスゾンビよ…お前は俺の強敵(とも)だった。」

「ツカサ。雑魚と遊んでないでさっさと手伝いに来なさいよ!こっちは万の軍勢なんだから。」

「でもサキさん、武道家の中で相手をウヌと呼ぶやつは強いと相場が決まってて…」

「は?バカじゃん?そんなん嘘に決まってんじゃん。サンチョ大臣とかに戦わせてんだから早く戻るわよ?」

「え?あの先生戦えたの?」

「魔力(MP)回復の時間稼ぎぐらいにはなるっしょ?ほらボサっとしてないで行くよ?」

 

 

どんどん某僧侶化していく愛妻に一抹の不安を感じながらも、ツカサにはどうする事も出来るはずもなく

ため息混じりにサキのルーラで万の軍勢が待つ西門へと向かうのだった。

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

 

ゾーマの強さは異次元の強さだった。

次々と仲間達は倒されていき、今俺の腕の中で1人の少女も淡い光に包まれている。

 

 

「マコちゃんごめんね。私…あまり役に立てなかったね…。」

 

「そんなことはない。俺はビアンカさんに沢山助けてもらったのに何も返せてない…。」

「ううん。マコちゃんには沢山貰ったよ?マコちゃん必ず世界を救ってね。」

「ああ、必ず。」

「フフ。ありがとう。リュカ…私も今還るからね。」

 

 

 

俺の腕の中でみるみる魔力が萎んでいくビアンカさんは、涙ながらに恐らくは旦那であろう名前をうわ言のように吐く。元々軽いビアンカさんが文字通り消えていく。

ビアンカは俺が力一杯手を握り締めると、嬉しそうに微笑みながら光の粒子となって消えていった。

 

 

 

「マスタードラゴンの娘も逝ったか?いかに我等が創造神に所縁深い種族の娘であっても余に逆らう者はナンピトたりとも許さん。これで勇者よ、ソナタの仲間は全て死んだ。いよいよソナタの番だ。」

「ゾーマ…あんただって曲がりなりにも神だろうが!!人間だって、神だって、魔物だってあんたにとっては等しく子供のようなもんじゃねーか!何故こんな事をするんだ!!」

「勇者よ、ならば逆に問うがソナタは何故そこまでするのだ?頼りの仲間を全て失い、自身を支える者は全て目の前で消えた。にも関わらずソナタは未だ剣を置かぬ。勝てない相手と知りながら何故ソナタはまだ戦うのだ?」

 

ゾーマは戦闘態勢を解き、膝をついたままの俺の傍へとゆっくりと歩み寄ってきてそう聞いてくる。

 

 

「ソナタが勇者だからか?世界を、人類を護る為とソナタも他の勇者共が吐いたセリフを言うのか?ならば見るが良い。余が見てきたものの一部を。」

 

 

そう言ったゾーマは握り締めた右手を突き出す。その握られた拳の隙間から光の雫が床に零れ落ちポチャーンとこの広い玄室に音を響かせると、雫が落ちた床を中心に夜空に輝く星のような宇宙空間が瞬時に拡がり、俺とゾーマを包み込む。

室内だったはずの空間が、上も下も分からないようになった時、ゆっくりと動いていた輝く無数の星々は、徐々にその速度を上げていき、やがてそれらは光の斜線のようになる。超光速で移動しているかのように。

 

尾を引いた彗星が前を横切り、美しい星を越える。輪の付いた星、巨大な星をも越えると輝く太陽が見えてきた。

そして俺は輝く太陽の手前にある小さな星へと吸い込まれて行った。

 

 

 

そこは真っ赤な世界だった。

 

 

 

気がつくと、至る所から黒煙を上げるその世界の遥か上空に俺はいた。

無機質な鉄の鳥が何羽も轟音を轟かせて飛んでいる。そのどれもが地上に次々と黒い塊を落としていて、それらが地上に落ちると真っ赤な業火を上げて大爆発を起こしている。

サキのイオナズンに匹敵する程の大爆発のなか聞こえるのは人の悲鳴だった。

 

あまりの凄惨な光景に目を伏せた俺は、恐る恐る目を開けると今度は広い花畑にいた。

 

小さな子供を庇うように覆い被さる母親を、長い筒のようなものを持った兵士が蹴り飛ばす。

思わず俺は止めに入るが、その兵士は俺をすり抜けて、持っていた長い筒を母親に向けて放った。

そして今度は残された子供を……。

 

その兵士は笑っていた。

 

 

次は再び大空にいた。

今度は空中ではなく、球体のような空に浮かぶ建造物の中にいる。

そこには大勢の兵士がいて何やら騒いでいる。

 

やがて大佐とか呼ばれる眼鏡の男性が石板に触れると、巨大な空を飛ぶ建造物から地上に向けて火球のような物を放つ。

暫くたつと凄まじい大爆発を起こす。

あれはルビスの塔でルビス様が放ったメラに匹敵するものだった。

 

だけどそれ以上に俺が愕然としたのは、それを放った大佐(ハゲ)は笑っていたのだ。

「見ろ。人がまるでゴミのようではないか。」

 

歪んだ笑いを見せる大佐(ハゲ)に俺は怒りを覚える。

その時再びゾーマの声が頭の中で響いた。

 

 

「これがソナタの護りたい人間の本性だ。人は天敵のいない世界においては外ではなく内側に敵を求める。信じる神のため。愛する者を護る為に怒る。大切な者を傷付けられたくないから戦うと・・・。いろんな理由をつけてはいるが本質はただの暴力だ。理性が戦う理由をつけることで正当性を求めるが、戦う相手にもそれぞれ戦う理由があることを考えようとしない。そんなのはただの暴力だ。何故人は争うのだ?互いに平和を望みながら兵器が進化し続けるのは何故だ?答えは簡単だ。理由はどうあれ好戦的。それが人の本性だからだ。悪意は人間の外からではなく内側からくるのだ。勇者よ、それでもソナタは人、世界を護ると言うのか?そして見よ!これが世界の結末だ。」

 

 

 

最後に見た世界は静かだった。

 

 

全て倒壊してしまった建造物。

人はおろか動物達も見当たらない。

 

まるで終わってしまった世界そのものにみえる。

 

 

そんな世界の空に3人の姿が見えた。普通に空中に浮いているところを見る限り彼等が人ではない事は直ぐに理解した。

 

1人はキラキラと輝く黄金の髪の女性。

ルビス様だ。あの無敵の女神の表情は暗い。今にも泣き出しそうな顔だった。

向かいにいるのは黒髪の青年…ゾーマだ。

ゾーマもまた表情は暗かった。

 

そして2人の視線の先には

 

アレフガルドに来てからというもの、毎晩のように夢に現れる銀色の聖女だった。

歳はシズクとルビス様の間くらいだろうか?人間で言えば18くらいだろう。

長い白銀の髪を揺らす彼女はシズクの顔をしていた。

 

その銀色の聖女は、身の丈ほどもある刀身部分が半透明の大剣を振り上げると、辺り一面が白い闇に包まれていく。

まるで人々の悲しみも苦しみも、怒りも喜びも全て覆い尽くすように、そして何もかもを消し去っているように見えた。

 

彼女が泣いているのか笑っているのか俺には分からない。でも何故か胸が締め付けられるような気持ちになった。

 

 

 

「こうして世界は何度も消え、そして再生する。さぁ勇者よ。ソナタも安らかな眠りに就くがよい。」

 

 

 

そう言うと突如目の前に現れたゾーマは右手にもつ大剣を振り下ろしてきた。とっさにその攻撃を王者の剣で防いだとき、パキーン!!と乾いた音とともに破片を撒き散らせ、王者の剣は砕けた。

 

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

 

「サキさん俺の後ろに下がっていて?」

 

 

そう言って魔力(MP)の尽きた彼女を背後にしたツカサは、未だ数千の魔物の軍隊の前に立つ。彼自身も体力の限界などとうに超えているし、全身傷だらけだ。

 

 

ラダトームでの魔物と人間の戦いも佳境を迎えていた。

 

 

ラダトームの生徒や兵士の先頭に立つツカサの大きな背中。サキにはいつも以上に大きく見えた。

レーベの村で出会った彼は、まるで頼りない男だった。名ばかりの伝説の武道家だった彼を一番近くで見てきたサキだからこそ、彼の成長もずっと見てきた。

「サキさん。サンチョ大臣の顔見たか?」

「うん。アレね、作戦司令室でアンタを見捨てる指示を出した時に、女子生徒にサイテー!って引っ叩かれたらしいよ?」

「あはは。」

 

こんな戦況の中だというのに、彼は前を向いたままサキを和ませる。

 

「大臣たちは無事かなぁ?」

「大丈夫っしょ?サンチョ大臣を医務室に運んだ救護班に賢者の石を渡したから。だから死ぬことはないと思う。」

「そっか、それより見てよサキさん。数万の軍隊もあともう少しだよ?」

「うん。そうだね。アタシ等結構頑張ったよね。あと少し。ツカサ、アンタまだ行ける?」

「当然!」

 

目の前のツカサが強がっていることは知っていた。絶望的な状況で、兵士や生徒の心まで折らない為の強がりだ。

 

「ツカサ、アンタ死んだらブチ殺すかんね。」

「おぉ、まるでシズクちゃんみたいだなぁ。サキさんだんだん似てきたよね?」

「そりゃそうよ。アタシ等は親友だもん。」

「そっか。親友になったんだな。」

 

 

程よく力の抜けた所で冷静に相手を見渡すが、体力の尽きたツカサに、魔力の尽きた自分。満身創痍の生徒に兵士ではさすがに厳しい。

 

 

そう思った瞬間だった。

 

 

ラダトーム上空の雪を降らす分厚い雲の切れ間から光の柱が現れた。

その光の柱は凄まじい光力と威力をもって、地上のありとあらゆるものを破壊していった。

ラダトームの街の家屋や教会などを溶かしていく様は、まるで世界を掃討している神様の怒りの光にも見えた。

しかし不思議と恐怖は無かった。

むしろ光に暖かみさえ感じる。目の前のツカサや、後ろの生徒や兵士達も、一同に目の前で起きている現象に目を奪われているが、みんな安心しきった目でその奇跡を見ていた。

 

その光の柱は直径にして100メートルぐらいか。光力は上の世界で毎日見ていた太陽よりも眩いかも知れない。光の柱の直線上にある家屋は音も無く消え去っていく程の威力を秘めたその光からは、アタシの親友……ラダトームの女王陛下の力を感じとることが出来た。

 

次第に光の柱は魔物の軍隊を照射していき、魔物達は跡形もなく全て消え去っていった。

 

 

 

「ジークシズク!!」

 

誰から始まったか分からないその勝どきは、傷だらけのアタシ等に勝利を掴んだ喜びを与えてくれるようだった。

 

 

アタシ等人間は、魔物の軍隊を退けたんだ。

 

 

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

 

 

 

「王者の剣が折れたにも関わらずソナタはまだ余にそのような目を向けるのか?」

 

勝利を疑わぬ目で語るゾーマの言う通りだった。

再びゾーマの玄室に戻ったところでもう武器はない。

でも諦めるわけにはいかなかった。

俺の心が折れたら終わりだから・・・。

でも、ゾーマの言う通り戦う武器は無い。最後はメガンテかと頭を掠めたとき、何処からともなく声が聞こえてきた。

 

 

 

『真さん聞こえますか?』

 

 

目の前のゾーマの様子に変化はない。不思議な声は俺だけにきこえているようだ。

 

それは今一番聞きたい声の主、シズクの声だった。

 

 

『シズク。お前いったい何処で何してんだよ?』

『マコトさん。今はそれどころではありません。いいですかマコトさん。目の前のジジイ(ゾーマ)を倒すにはもうギガスラッシュしかありません。』

『ギガスラッシュ…。しかしシズク。王者の剣は折れてしまったんだ。』

『大丈夫です。王者の剣は…神々の剣はただ切れたり頑丈なだけではありません。正確にはオリハルコンは学習する金属です。キリトさんとの戦闘を経たその剣は、使えば必ず死んでしまうギガスラッシュを唯一学習した剣と言えます。王者の剣は勇者がその役目を果たした後は剣も無に還ります。ですから剣はマコトさんを死なせない様に魔力を集める筈です。』

『なぁシズク。何でお前はそんなに詳しいんだよ。』

『・・・今はそれどころではありません。』

『・・・』

『とにかく王者の剣を信じてください。』

『王者の剣を信じる?』

『そうです。きっとその剣は不足分の力を外に求める筈です。この世界に生きる全てに。世界もまた生きるために目の前の大魔王ジジイを倒すために協力することでしょう。』

『協力…してくれるだろうか?俺はヘタレだし……。』

『大丈夫です。マコトさんは案外モテるんですよ?例えばビアンカさんとかみたく……。そう言えば彼女と共に旅をしているんですよね?恋人の私を差し置いて……。』

『ま、まてシズク。今はそれどころではないんだろ?』

『……チッ』

 

この女、舌打ちしやがった。

だがシズクと話していると不思議とさっきまでの絶望感は何処かに消え去っていた。

『やれるだけやってみるよ。』

『はい。』

 

 

俺は目を閉じ王者の剣を握り締める。

体の下腹辺りから熱を帯びた力が腕を通して王者の剣に集まって行くのを感じる。キリトさんとの戦いの時と同じだ。

しかし今回はそれだけではなかった。何と振り上げた王者の剣に向かって、淡い光の帯が無数に集まり始めたのだ。

青い海の魔力。緑の植物の魔力。茶色の動物の魔力。色んな色を混ぜ合わせたような虹色の人間の魔力。赤い魔物の魔力。白い見た事はないが恐らくはいるであろう、この世界の神の魔力が、光の帯となって王者の剣に集まっているのだ。

 

王者の剣を通して世界中の人々、草や木々、あらゆる動物達の生命の源たる魔力と全ての想いが集まってくる。

やがてその魔力は折れてしまった王者の剣の刀身の形を模っていく。

 

 

 

「その技はミナデイン!!ギガデインの更に上位のミナデインでギガスラッシュを放つというのか勇者よ。だが、まだこの世界でその技は早い!ギガスラッシュなら目を瞑るつもりだったが、ミナデインなら話は別だ!大魔王ではなく、創造神として阻止させてもらう!!」

 

 

そう言うとゾーマは右手を頭上にあげる。すると青白い稲光を纏った輝く剣が現れた。

 

伝説の神剣

そう呼ぶに相応しい剣だった。

黄金色に輝く剣は、まるで空気中の全ての粒子が歓び輝くがの如き光を放っている。

今まで見てきた武器、その全てを遥かに凌駕するであろうことが見ただけでわかる。

まず間違いなくゾーマ本来の武器なのだろう。

 

そしてゾーマは剣に魔力をこめると、さらに凄まじい稲光を纏った。ギガスラッシュだった。

その稲光は勇者の全てと世界中の魔力を借り受けても尚届かない、そんな巨大な魔力だった。

 

しかし勇者にはもう他にどうする術も無い。

勇者は覚悟を決め思い切りギガスラッシュを放ったその瞬間だった。

 

「マコちゃん、私の残りの魔力も全てあげる。」

 

とても小さな小さな声が聞こえた気がした。ゾーマに殺され、光となって消えた筈のビアンカさんの声。

そしてその声はビアンカさんだけではなかった。ピサロにロザリー、キョウイチにロレンス。みんなゾーマによって殺され消えていった仲間の声が聞こえたのだ。

 

勇者のギガスラッシュの輝きは凄まじい勢いで巨大なものになり、ゾーマの放ったギガスラッシュの光と光がせめぎあっている。

さっきまでの勇者や魔王クラスの戦いにも耐え抜いていた壁や床も、激しくぶつかり合う光から放電される稲光に、その形を崩していく。

 

 

「貴様ら!死してなお勇者に力を貸すのか!!」

 

 

ゾーマが今まで見せたこともないほどの怒りを顔に現したかと思うと、更に巨大な魔力がギガスラッシュの光に上乗せされていく。度重なる腹心の裏切りにとうとう本気を出し始めたのだ。

 

神や魔王クラスの力を乗せた勇者の光も、やがてゾーマの光に侵食されていく。ほんの少しでも気を抜けば一瞬で勇者は消し飛んでしまうだろうと思う。

踏ん張っている右足の直ぐ後ろの床が崩れ始める。

 

 

 

「マコト。お前自身と皆んなの力を信じろ。重なり合う仲間の絆の力をゾーマ様に見せてやれ。俺の力も貸してやる。」

 

 

 

それはリムルダールで光となって消えたキリトの声だった。

創造神に限りなく近い力を持つ勇者キリトの力が、王者の剣の光の剣先から吹き出した。これにはゾーマも不敵な笑みが消えた。

直立で立ち、片手で放っていたギガスラッシュを、腰を落とし体制を整えて両手で放ち始めた。

 

 

「バ、バカな!エスタークまでもが余に敵対するのか?余は貴様を息子だと思っていたのに…ググッ」

 

 

宇宙さえも破壊し兼ねない巨大な魔力の衝突は、凄まじい振動を放ち、世界中に巨大な地震、津波などを発生させた。まるで星自体が爆発寸前で悲鳴を上げているかのようだ。

拮抗する力と力。魔力と魔力は全てを巻き込んで巨大な渦となる。流石のゾーマも苦しそうだ。

しかしマコトは自身では到底持て余してしまう巨大な力に視界が白くなっていくのを感じる。このまま意識を失えば確実に負ける。キリトの宇宙さえも凌駕する程の神の力を借りたところで勇者自身が長くは保たないのだ。

 

意識が遠のいていく。周りの景色が真っ白になる。音も聞こえなくなりとても静かだ。先程まで悲鳴を上げたくなる程の痛みが今はまるでない。立っているのか寝ているのかさえ分からない感覚に陥ったその時だった。

 

「・・・・ですか?」

 

「誰だ?俺に話し掛けてくるのは。」

 

「・・・・ですか?」

 

「誰の声だっただろう?とても懐かしい声だ。」

 

 

 

「問おう。貴方は私のマスター(勇者)ですか?」

 

「そうだ!!俺がお前のマスター(勇者)だシズク!!!」

 

 

 

景色が急速に戻っていく。それと同時に意識が覚醒してゆく。とてもではないが支え続けるなんて不可能な、魔力と言うよりは宇宙そのもののような凄まじい光がギガスラッシュの光を覆っていく。

この凄まじい光を支える必要はない。

上段に構えた剣の切っ先をゾーマに向け、唯打ち抜くだけだ。

何故かは分からないけどシズクならそうする気がした。

 

 

「「アルテマソード!!!」」

 

 

 

「な!?この力はシズクの!?バ、バカな。余が敗れると言うのか…。」

「ゾーマ、アンタの言うことはたぶん正しいよ。でも一つだけ勘違いしている。人の未来だとか世界はオマケなんだよ。俺が守りたいのはシズクが想い描いた未来。ただそれだけだ。」

「シズクの思い描いた未来だと?」

 

 

その刹那、シズクと一つに重なり合った感じがした。

巨大な魔力の渦はゾーマの魔力を飲み込み、やがてゾーマ自身をも飲み込んだ。凄まじい電撃の嵐が大魔王を引き裂くなか、勇者の渾身の一撃がゾーマの心臓を貫いた。

 

 

 

 

ついに大魔王ゾーマを打ち破った。

 

 

 

特大のギガスラッシュを心臓に受けたゾーマは、おおよそ断末魔と言う表現がふさわしい、耳を割くような叫び声とともに傷口はもちろん、叫び声を上げる口からも大量に吐血する。ゾーマは両手で心臓に突き刺さった王者の剣を引き抜こうとするが、身体から赤黒く強大な魔力が次々と噴出し、渦を巻きながら大空へと散っていく。ゾーマの力がみるみる弱っていく。

 

勝った。俺達人間はあのゾーマを撃ち倒したのだ。

 

俺は大魔王ゾーマを倒した安心感からか、足元から力がぬけて座り込んでしまう。視界が下の方から徐々に暗くなっていくのが見える。

「そう言えばルビス様はギガスラッシュは全生命力を使うって言っていたっけ。俺…死ぬんだな。」

言葉にすると、自分自身にも死の実感が湧いてくる。

悔いはない。俺は…ゾーマを倒したのだ。これからはパパス王を始めとした各国の王が世界を平和に導いてくれるだろう。勇者である自分の役目は終わったのだ。

一つだけ心残りがあるとしたらシズクに最後にもう一度会いたかったな。

あいつは今何処にいるのだろう。雪の降るアレフガルドの何処かに今もいるのだろうか。あいつの事だからきっと元気だろう。結局幸せにするって約束は果たせそうにないけど、せめて彼女が幸せに暮らせる世界を創れたのだけが良かった。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

気がつくと暗い道無き道を歩いていた。周囲の風景はおろか、視界も数メートル先さえ見渡せない。何故だかは分からないが、この道の先が死に繋がっているということが本能的に理解できた。

 

そう、俺は今確実に死に向かって歩いている。

 

死後の世界ってあるのかな?先に逝ってしまったビアンカさんやピサロやロザリー、ロレンスにキョウイチとあの世で再び会えるだろうか?ツカサとサキは無事だろうか等と考えながら歩いていると、甘い香りを乗せた一陣の風が頬を撫でる。

懐かしい香りのする後方を振り返ると、闇の中で一際輝く光がみえた。

暖かみを感じるその光は次第に大きくなっていき、やがて人の形を模っていき…シズクとなる。

 

俺は思わず駆け寄り彼女を力一杯抱き締めた。彼女の柔らかさが、香りが、温かな体温が、彼女が与えてくれた安らぎが彼女を抱く腕や体全体で感じる。

「シズク…俺やったよ。大魔王ゾーマを倒したんだ。」

「はい。ちゃんと見ていましたよ?マコトさんの素晴らしい戦いぶりを。」

そう言ってシズクも俺の背に手を回し2人抱きしめ合う。

 

どれぐらいの時を抱きしめ合っていただろう。どちらかと言わず抱きしめた腕を解いて正面に見合うように立つ。

彼女はいつものようにキラキラと輝く長い黒髪。

透き通るかのようなきめ細やかな白い肌。そしてほんのりピンク色に染めた頬。どれも子供の頃から見てきた彼女を彩る総て。だけど何故だろう。今の彼女からは明らかに神々しい何かを感じる。

 

「シズク…ずっとお前に会いたかった。お前の名前を呼びたかった。お前に謝りたかった…俺のハッキリしない態度を。お前を愛してる…それをずっと伝えたかった。」

「マコトさん。やっと…やっと言ってくれましたね。」

 

シズクの頬に一筋の涙がこぼれ落ちた。彼女とは長い付き合いだが、実は彼女が泣いたのを見るのは初めてだった。

「ごめんなシズク。俺…もう死ぬみたいだ。お前をこの手で幸せにしたかったんだけどな。」

「マコトさん、貴方は死にませんよ。貴方だけではありません。ピサロさんにロザリーさん、ビアンカさんもキョウイチさんもロレンスさんも、みんな私が死なせません。」

 

涙を見せながらも強い意志を秘めた瞳で俺を見つめながら答えたシズクは、右手を上げる。

すると瞬く間に雫の右手を中心に渦を巻くように凄まじい勢いで真っ暗だった闇に景色が拡がっていき色付いていく。

 

次第に視界がハッキリしてくると、ここが先ほどまでゾーマとの激しい闘いを繰り広げた玄室であることがわかった。

ただ一つ違うところーーそれは戦いで崩れた壁から太陽の陽光が差し込んでいることだ。昼間のないアレフガルドに朝陽が昇ろうとしているのだ。

「き、貴様。いかにしてこの世に戻ったのだ?」

息も絶え絶えな様子のゾーマは、身体を横たえたまま顔だけこちらに向けて語りかけてきた。ゾーマの瞳には既に生気と言う光は失われており、間も無く生き絶えるであろう事が伝わる。

「そうか…勇者マコト、お前にはあの者が着いているのだったな。それをさしおいてもよくぞ余を倒した。いかにルビスの力を得たとは言え余が人に敗れようとは思わなかったぞ。しかし光ある所に闇はある。余には見えるぞ。数百年の時を経た後に現れる魔王の姿が。その時きさまは…ブゲッ!!」

 

大魔王ゾーマが必死に俺に何かを語っている所を、遅れて姿を現したシズクがゾーマの顔を踏みつけた。

 

「今良いところなんですからジジイ(ゾーマ)は少し黙っていてください。」

虹彩の消え失せた瞳でゾーマを睨みつけ、踏みつけた足をグリグリするシズク。

「よ、良いではないか。死にゆく者への手向けってものがお前にはないのか」

「ないですね、そんなものは。」

シズクは踏み付けているゾーマの顔をさらにグリグリやっている。

 

「ま、まだ終わらんよ?」

「煩い!さっさと死ね!」

 

シズクがガンガンガンガンと力を入れてゾーマの顔を何度も何度も踏みつけると、

ゾーマはシクシクと泣きながら息絶えた。

 

 

 

大魔王ゾーマを倒した。

 

 

 

ゾーマにトドメをさしたシズクは大穴の開いた壁まで歩くと朝陽の登るアレフガルドの大地を眺めている。

そして朝陽を背にするように俺の方にふりむくと微笑んだ。

いつもの女神の如きその笑顔。女王に就いてからはあまり見なくなった僧侶のローブを着ている。外から室内に向かって入ってくる少しだけ肌寒い風が彼女の長い髪を揺らしている。

「なぁシズク…なんでお前の身体、透けているんだよ。早くいつものお前に戻ってくれよ。」

 

シズクは悲しげに微笑んでいる。彼女の身体が消えかかっているのだ。

 

「マコトさん…光の鎧だいぶ壊れてしまいましたね。そんな格好じゃ寒いでしょ?ですが見てください。」

シズクはこちらを向いたまま右腕を後方に伸ばし壊れた壁の外をさす。

「マコトさんが取り戻した光です。他でもない貴方が闇の世界を光に変えたんです。まだアレフガルドは冷たい風が吹いています。きっと明日も寒いでしょう。でも陽の光を受けた雪景色はきっと美しいのでしょうね。…私はマコトさんをずっと騙してきました。もうお気付きでしょうが私は人ではありません。」

「何言ってんだよシズク。そんなの関係ない!!お前はお前だろ!?」

彼女はゆっくりと首を振る。

「私は、創造神の世界レンダーシアで神と呼ばれる存在です。ビアンカさん達よりはそこに転がっているゴミ(ゾーマ)と、マコトさんの会ったオバサン(ルビス)に近しい存在です。私はずっとレンダーシアから人の世界を眺めてきました。ババア達の作った世界の解放のシステム。どの世界にも魔王がいて勇者がいます。そしてどの世界も最期は勇者の生命と引き換えに世界は解放されます。誰よりも多く背負い、誰よりも辛い目にあっているはずの勇者が報われないなんて私には受け入れられなかった。誰よりも功労者たる勇者の犠牲の上に創り上げた世界が、どうしても私には平和に見えなかった。」

 

シズクは静かに話しているが、心の中を打ち明けるかのような悲痛な叫びのように聞こえた。

 

「ですが私には平和を創造する力はありません。そこのクズやババアのように何かを創れない。私は壊すことしかできないんです。そんな私はいつしかレンダーシアで魔王と呼ばれ、疎まれ恐れられていきました。私はただ力が大きいと言うだけで神々からも避けられていたんです。人の世界で魔王を倒した後の勇者の苦悩に満ちた残りの人生、私には他人事にはみえなかった。どうすれば勇者が幸せに人生を過ごせるのか、ずっと答えを出せないまま、ただ人の世界を眺めることしか私にはできなかった。そんな時にマコトさん、貴方に出逢った。貴方は戦う力ではなく、周囲を暖かな気持ちにする力を持っていた。」

「なぁシズク。お前さっきから何を言ってるんだよ?なんで全て過去形で話すんだよ?」

「神の世界でも魔王と呼ばれる私をも、マコトさんはこんなに光輝く世界に連れて来てくれた。私のような存在には貴方は眩しすぎます。」

 

アレフガルドに昇った太陽が輝きを増すたびに薄くなっていくシズクのからだ。今では彼女の体の向こう側にある太陽の光まで透けて見える。

「なぁ待てよシズク。嘘だと言ってくれよ。お前が、お前がいなければゾーマに勝ったって意味がないだろ!!」

「…。そこのクズ(ゾーマ)の言う通りなんです。光あるところに闇がある。闇無くして光は輝かない。クズ(ゾーマ)が去ればバーサーカー(ルビス)も去るでしょう。そうなるとこの世界に不要な存在は全て元いた世界に戻されます。それはキョウイチさん達も含まれます。今頃は本来彼等が居るべき場所に帰ったころでしょう。」

「行くなシズク!!行かないでくれ。世界が平和になったってお前がいなければ意味がない。…シズク、俺と結婚してくれ。ずっと隣で微笑んでいてくれ。何処にも行かないでくれ。俺にはお前が必要なんだ。お前を愛してるんだ。」

「嬉しい…でも、マコトさんはもう私がいなくても大丈夫です。私が消え去っても、言葉も想いもマコトさんの中で残ります。貴方の中で私は生きていけるんです。貴方が生きていることが私の望みの全てなんです。もう声をかけることさえ出来なくなりますが私は神界レンダーシアからずっとマコトさんを見守ってます。……もう時間なようです。最後に強く抱き締めてくれませんか?」

 

俺は彼女を強く抱き締めた。お互いの体温を確かめ合うように強く強く。

俺は彼女に唇を重ねた。相変わらず柔らかな彼女の肌、甘い香りは変わらない。重ねた顔越しに彼女の涙が伝う。

だと言うのに、彼女の体温が急速に下がっていった。

 

身体をはなした彼女は頬を染め、幸せそうに微笑んだ。

 

 

「私は幸せでした。幸せと安らぎを与えてくれたマコトさんを心から愛しています。ありがとう・・・サヨウナラ。」

 

 

そう言うとシズクの体は一際強く輝き、まるでガラスが砕けたかのようにパリーンと乾いた音を立てて、アレフガルドの朝陽が昇る空へと舞い散った。その光一粒一粒に彼女の甘い香りが余韻として残る。彼女が今迄ここに居た確かな証し。

 

 

 

 

 

あいつは最後の最後まで微笑んでいた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「シズク…。」

暫く放心状態の俺は、その喪失感から力を無くし呆然としていると、背後に巨大な魔力を感じた。もう何もする気が起きず、力なく振り向くと空間に歪みがあり、そこから誰かが此方に来ようとしているようだった。

長い黄金の髪。アレフガルドの朝陽を受けてキラキラと輝いている。白く美しい肌に、慈愛に満ちた笑顔のルビス様だった。そのシズクとよく似た顔が今は少し辛い。

 

「勇者くん…いえ、勇者マコトよ。よくぞ世界を解放に至らせましたね。貴方の働きによりこの世界は末長く平和を享受することでしょう。そして生きて残った勇者マコト。貴方はこれからも数々の試練が待ち受けていることでしょう。ですが貴方なら全て乗り越えて行けると私は信じています。それにしてもまさかあの子がこんな大それた事を計画していたとはね〜。そこで死んだフリしてるアナタもグルだったのね〜?」

 

ルビス様が大魔王ゾーマの遺体に話しかけると、少しビクリと遺体が動いた。

「へ、返事がない。余は唯の屍のようだ。」

「あらあら〜アナタとても楽しそうじゃな〜い。じゃあ仕方ないから私が直々にベホマをかけてあげるわね〜。」

 

「うぎゃああああーーー!!!」

 

ルビス様のすっと延ばした指先から小さな光の粒が現れ、その光がゾーマに触れると、先程の断末魔を遥かに超える悲鳴をあげるゾーマを凄まじい光が襲っている。光は確かに癒しを与えるが、度を超えた光は毒にしかならないと言うところだろうか。ルビス様のベホマを受けたゾーマは、ギガスラッシュを受けた時以上にボロボロになりながら立ち上がった。

 

「ア・ナ・タ?これはどういうことか説明してもらえるかしら〜?」

笑顔のままゾーマの首を絞めるルビス様と、真っ青な顔で全力で目を反らすゾーマ。

「だ、だってオマエ。シズクが協力しないと一生口聞いてくれないって言うんだもん。」

「何がだもんですか!!娘1人に情けない!!って言うかアナタ最初から知ってたのね!?」

「余も最初からは知らなかったんだ。それよりオマエ、先ずは落ち着こう。ほら勇者も見てるから。」

「嘘…それは嘘。ウソうそ嘘!!アナタ私が嘘を嫌いな事を知っていながら今ウソを吐きましたね!!」

「ヒッ!ご、ごめんなさ…ギャー!!助けてくれ!ソナタは勇者であろう?困っている余を助けて…」

 

 

俺に助けを請うゾーマの襟首をふん捕まえて引き寄せたルビス様は、ギャーギャーと喧嘩しだす。と言っても一方的にルビス様にゾーマが怒られているように見える。

 

「あ、あの〜ルビス様?ちょっと良いですか?さっきからちょいちょい気になる所があるんですけど…。」

「勇者くん〜。今はちょーっと待ってくれるぅ〜?これは夫婦間の問題だから。」

「ふ、夫婦!?ルビス様とゾーマが夫婦だとーー!!」

「そうよ〜?ずっと人妻だって言ったじゃない〜ダメな子ねぇ。」

 

カラカラと笑うルビス様はとんでもない事をサラッと言ってのけた。

 

「本当は別の魔王をこの世界には用意してたんだけどね〜、私達の1人娘がペット(シドー)の散歩中に家出しちゃってねぇ〜。止む無く探すついでに私達が直接魔王と神をすることになったって訳〜。」

「ま、まさか…その1人娘って?」

「そう、シズクよ〜。」

「なんですとーーーー!!!」

 

 

 

何とシズクはルビス様とゾーマの娘だった。

 

 

 

 

言われて見れば二人に容姿が何処と無く似ている。特に同じ女性のルビス様はそっくりだ。

シズクがルビス様のギガデインを使えた事も、ゾーマの凍てつく波動を使えた事も、二人の娘と考えれば納得がいく。

「で、ではシズクは?」

「もちろん生きてるわよぉ〜?完全に死んだ者を生き返らすのって実は物凄く大変な魔力を使うのよ〜?勇者くんのお友達全員となると流石にあの子でもね〜・・・って言うのは建前ね。あの子私の波動を感じて逃げたみたいねぇ〜。」

「あぁ逃げたな。」

ゾーマも頷く。

「まったく逃げ足だけはメタルスライム級なんだから。帰ったらお仕置きが必要なようね〜。」

 

 

あのシズクがお仕置きされる方か…。目の前の涙目のゾーマを見る限りシズクもきっとルビス様からは逃げるしかないのかも知れないな。

 

「で、でも別に探すだけなら何も魔王をしなくてもいいじゃないですか?ハードルが上がるだけですよ。」

 

そう言った俺の質問に対し、ルビス様とゾーマはお互い数秒目を合わせたあと、二人そろって此方をむくと。

 

 

 

「「これが本当の、暇を持て余した神々の遊び。」」

 

 

 

ドヤ顔で言った。

 

「もうお前等帰れーー!!!」

 

 

 

こうしてドタバタしながらも激しい人間と魔物の戦いは幕を閉じた。

 

 

 

 




ウィキペで見るとオルテガさんはゾーマ城でなくなるそうです。なんのアイテムも無しにどうやって海を越えたのでしょうか…
やっぱり泳いだのかなぁ〜。

次回はいよいよ最終回です。
週明けにはなんとか。

言い訳的なものを活動報告に後ほど書きますので、よろしければ率直な感想をいただけると、次回作の参考になりますのでよろしくお願いいたします。


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そして伝説へ

「おお…アレフガルドに朝が再び来るとは。」

城内の王室から外に出たパパス王が10年ぶりに訪れた朝陽を眩しそうに眺める。少し遅れて出てきたサンチョも、前のパパス王に倣って額に手をかざし空を見上げると、名も知らぬ二羽の鳥が気持ち良さげに美しい調べを奏でながら飛んでいるのが見えた。お互い重なり合うように青空を舞っている鳥を見ると、平和の訪れを実感せずには居られなかった。サンチョもいつまでもその平和を感じていたいが、今はやるべきことがある。目の前で同じく空を眺めている王に、城門に待たせている人たちがいることをパパスに進言し、再び二人でそろって歩き出す。

 

ラダトームと城下町の間にある広大な敷地、そこには多くの人が集まっていた。料理を運ぶもの。ラッパ等の楽器を調律するもの。多くの人々が笑顔で賑わっている。

街の方は先の魔物との大戦により未だ瓦礫とかしている。ラダトームの国民を護り続けた物言わぬ城門は、今もその傷跡が鮮明に残っている。

 

広場に現れたパパス王が祭壇に上がると、国民達は一同に話を辞め、パパス王の方を向き彼の言葉を待つ。

「皆のもの、よくぞこの辛い戦いを耐え抜いてくれた。ワシは再びこうしてみんなで集まれたことが何よりも嬉しいし、生き抜いた諸君を誇りに思う。」

パパス王がアレフガルドの国民に労いの言葉をかけると、割れんばかりの大歓声が沸き起こる。その歓声を暫く満足気に見回すと、両手をあげ歓声を止める。

「この大戦で我々は多くの掛け替えの無い人々を亡くした。どれだけ多くのものを亡くしたかも解らないほど亡くした。その中にはあの女王陛下を始めとしたラダトームの勇者キリトや、キョウイチ、ロレンスのロイヤルガードの面々の悲報もふくむ。ラダトームでトップの成績を残したロザリーにピサロももういない。・・・じゃが、魔物ももういない!我々は勝ったのじゃ!!」

 

パパスが勝利を宣言すると、先程の歓声を更にこえた大歓声が響きわたる。

「ワシは此処にアレフガルド全国民に宣言する。ワシは王位を完全に退き、彼に正式に王位を継承すると!!」

パパスはそう言って前方を指差す。指された指先の方をアレフガルドの国民が振り向く。誰からともなく祭壇への道を観衆が開け、その一本道をパパスの方へ歩みを進めるのは、美しいブルーを基調とした鎧を纏い、腰に収められた剣で平和と朝陽を取り戻した勇者マコト。マコトはパパスの方へ一歩一歩歩み寄る。

 

「勇者マコトよ。よくぞ大魔王ゾーマを打ち倒し、この闇に包まれたアレフガルドに光りを取り戻してくれた。ソナタこそ勇者の中の勇者じゃ。ワシはマコト、お主にアレフガルドに伝わるロトの称号を与える。これからはワシに変わり勇者ではなく王としてラダトームを…いや、アレフガルドを導いてくれるな?」

 

国民の誰もが固唾を飲んで見守るなかマコトは答えた。

「いいえ。」

「ワハハハ。お主も人が悪いのう。さ、冗談はさておき、王としてアレフガルドを導いてくれるな?」

「いいえ。」

「そんな酷い。アレフガルドを導いてくれるな?」

「いいえ。」

「そんな酷い。アレフガルドを導いてくれるな?」

「いいえ。」

 

勇者と王のやり取りは小一時間ほど続いた。

「ハァハァ…。アレフガルドを導いてくれるな?」

「ハァハァ…いいえ。」

 

「ねぇツカサ。あれキリがないからあんたが王様になってあげたら?」

「え?俺が?サキさんいくらなんでもそれは…。」

 

2人のやり取りを聞き取ったパパス王は、目にも留まらぬ速度でツカサの前に立つと、ツカサの両手を掴む。

「おお!引き受けてくれるか!!ソナタが勇者ロトの称号を以って王位を継承するものとする!!」

「まぁ、彼等もラダトームを救った英雄だからな、この際問題なかろう。」

祭壇の大臣席に座っているサンチョはため息混じりにパパス王のツカサへの王位継承を認めた。

パパスはサンチョの承認を聞き取ると一度頷き、ツカサの右手を上げさせて声高々に国民に向かって宣言する。

 

「勇者ロトの…新しい伝説の始まりである。音楽隊ラッパを吹き新しい王を讃えよ。」

 

パパス王の宣言の直後指示を受けた音楽隊はラッパ等を用いて新しい王の誕生を祝う序曲を奏でた。

 

序曲を始まりの合図のようにラダトームの国民達は一同に祝いの宴を始める。

ある者はお酒を持ちグラスに注いでくれる。ある者は目を輝かせて冒険談を聞きにくる。

美味しい料理に美味しいお酒。全ての人が満面の笑顔を浮かべて平和を享受している。

 

その宴は深夜まで続いた。

 

勇者はアレフガルドに平和の象徴として役目を終えた王者の剣、光の鎧、まことくんの盾(勇者の盾)を寄贈した。

それらの神具は、ロトの剣、ロトの鎧、ロトの盾(まことくんの盾)と名称を改め、永きに渡り世界の平和を守る象徴となった。

 

余談ではあるが、折れた王者の剣は自己修復機能があり、再び刀身が輝いていた。光の鎧についても同様で、未来に渡って輝きつづけた。

 

しかし、創った創造神が去ったことや、勇者ロトとなったツカサはルビスによる選定された勇者では無かったことがなどが原因で、ギガデインを始めとしたディン系は失われ、全く使われていないでいた王者の剣も永い年月を経て劣化してしまい、数百年後には人間の造った剣にさえも劣る普通の剣となってしまう。

 

光の鎧もまた同様で、数百年後にはただ頑丈なだけの鎧となる。

まことくんの盾(勇者の盾)は、勇者マコトの恥ずかしいからという強い要望があり、二つの武具とは別に保管されたため、数100年後の龍王の厄災の際には人々の記憶から忘れ去られ使われなかったと言う。

 

 

 

 

 

深夜。

誰もが寝静まった夜中。勇者は1人起きる。隣には王様の冠を冠ったツカサが涎をたらして眠っている。その隣には王妃となったサキがどんな夢を見ているのか、妹は可愛いとか言いながらフヒヒと変わった笑いを浮かべていた。俺は寝ているサキの頭をそっと撫でながら、二人を起こさないようにそっと囁く。

 

 

「仲良く暮らせよ?二人ともありがとうな。」

 

 

暫く歩くと、マーサと書かれた肖像画を大切そうに抱えたアフロヘアーのパパス王と、ステテコパンツ一枚で寝ているサンチョ大臣がいた。

 

 

 

街の出口付近のテーブルでは、こんな夜更けだと言うのに料理を美味しそうに食べているルビス様とゾーマの姿があった。

 

「あら?勇者くん。もぐもぐ何処かいくの〜?」

マナーの悪い女神が料理を頬張ったままに話すと、ゾーマも口に料理を入れたまま睨みつける。

「もぐもぐ…勇者よ。もぐもぐするなら余をもぐもぐ。分かったか!!」

ゾーマは指差して胸を張る。が、何を言ってるかわからねーよ!

「もう…。アナタは本当にシズクに甘いんだから〜。だからあんなお転婆に育つのよ〜。」

あれで何言ったか分かった所はさすが夫婦。でもシズクは間違い無く貴女に似たんですとは言わないでおこう。

「勇者くん?もしね…もし君があの子を探しに旅行くのなら止めておいた方が君のためよ〜?あの子と勇者くんとでは違いすぎるわぁ〜。神と人の恋は悲しい結末になるだけよぉ?」

微笑んではいるが何処か憐れみの瞳で話すルビス様を右手で遮ってゾーマが一歩前に出ると、表情が真剣なものに変わる。

「勇者よ。汝がもしシズクを求めるなら勇者の祠を調べるが良い。」

「ちょっ、ちょっとアナタ?」

「まぁ良いではないか。彼は世界を解放したのだ。このぐらいの褒美はあっても良かろう?だがな勇者よ。汝が次元を超えられるかどうかは運次第だ。失敗し魂が霧散する可能性の方が遥かに高い。それでも行くのか?勇者マコトよ。」

勇者を見るルビスとゾーマの瞳は慈愛に満ちていた。やはりこのヒトも創造神なのだと思う。

「ありがとうございます。でも俺は行きます。シズクが待つ神の世界レンダーシアへ。」

 

勇者の硬い決意を聞いた二柱の神は満足そうに微笑むと、待っているわよ?と言う言葉を残し消えていった。

 

 

それぞれが自分達の幸せを探し始めた。

 

街の出口に着くと、1人の若い女性が声を掛けてくる。

「本当に何も言わないで行くのかい?」

「あぁ。ここからは俺個人の旅路だからな。お前まで付き合わせて悪いな。」

「構わないわよ。勇者を乗せて大空を飛ぶのはアタイ達ラーミア族の誉れだからな。」

「ありがとう…アイラ」

 

 

朝陽が昇るラダトームを背に大空に舞う勇者マコト

その後勇者の姿を見たものはいない。

 

 

 

 

 

 

 

そして伝説がはじまった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「お?アリアハンだ。」

大空を旋回するラーミアのアイラと俺は世界を見て回る。緑豊かなアリアハンは今日も平和な1日だろう。

 

 

オルテガ

勇者マコトの父親。アリアハンに戻ったオルテガは再びアリアハンの兵士長に就いた。

しかし魔王バラモス討伐の旅路での、次々と発覚する浮気と隠し子の存在に、ブチ切れた母さんにぶっ飛ばされる事になる。

 

アンルシア

母さんは父さんをぶっ飛ばす際に勇者の力に目覚めたのかギガデインを使っていたそうだ。

 

 

 

父、オルテガ(CV立木文○ウソ)

母、アンルシア(CV渡辺明○ウソ)

 

 

 

アリアハンの城下町を離れるとなじみの塔が見えてくる。

 

なじみの塔でツカサとサキとは出会った。最初敵として出会った二人が最後まで共にする仲間になるとは思わなかったな。特にサキとシズク妙に仲が良かったなぁ。何処か別の世界で違う会い方をしていたら二人はお互いを親友と呼び合う仲になっていたのかも知れないな。何故だか分からないが、2人のケンカの仲裁に入った俺が公園でシズクに蹴り飛ばされるシーンが頭をよぎり背筋が寒くなった。

 

 

ツカサ(CV神○明ウソ)

 

ツカサはその後ラダトームの王として反映をもたらす。彼はツカサ神拳なる一子相伝の拳法を編み出すが、後に誕生した子供が『ダサイから嫌。』の一言で継ぐものがいなく、たったの1代で途切れた。彼は武道家から王さまとなり末長くサキと幸せに暮らした。

 

サキ(CV竹達○奈ウソ)

 

ラダトームの王妃に就いたサキは、ロレンスから貰ってしまった借用書の束をなんとラダトームの借金とすることでちゃっかり返していった。

彼女は賢者の悟りの書を借金の肩代わりとして既に売ってしまっていため、彼女の後に賢者は排出されず最後の賢者としても後世に名を残す。

趣味はエロゲー

賢者になるほどの魔力を秘めていた理由、それは実はマコトの実の妹で、レーベのジジイは親父の親父、つまり俺の爺ちゃんだ。女好きなジジイは妹に老後の世話をさせるため、幼い頃ジジイの家に預けられたらしい。親父といい、ジジイといいろくなもんじゃない。

 

 

 

アリアハンの島をでて暫く飛ぶとロマリアが見えてきた。ロマリアの王様は確かギャンブルで王冠を取られちゃうような人だったよな。

ふと街並みを見ると崩れた家屋が見える。あれはシズクのバギで吹き飛ばした家屋だ。

家屋を吹き飛ばす竜巻が、バギクロスではなくてバギだったことには驚いたっけ。

そして忘れてはならないのが、ここで初めて出会ったロレンスだ。

 

最初会ったとき、シズクは最初ロレンスをキチガイさんとか呼んでいた。今にして思えば適当なロレンスへの嫌がらせだったのかもな。

 

ロレンス(CV福○潤ウソ)

 

ロレンスは元の世界に戻ると、俺たちとの冒険で火がついたのか、商人から旅の行商人になることを夢みているようだ。

しかし旅立つ資金は0

電撃を放つ特技を活かして現在は病院で主にAEDのアルバイトをするが、加減が下手な為時給は30円。

 

 

 

 

 

ロマリアを北に上がるとノアニールの村が見えた。村の全てが眠りについていたノアニールでピサロとロザリーさんに出会った。最初は村長と孫娘みたいにしていた二人。それでロザリーのお母さんであるエルフの女王ヒメアから隠れていたんだよな。眠りのルビーで結婚指輪を造ろうとして魔法がかかり眠りについた村、それがノアニール。

まさかあの時はピサロが進化の秘法で魔王とかした者で、その魔王を正気に戻したのがエルフの娘ロザリーさんだとは思わなかったな。二人は敵同士よアピールを頑張っていたけど誰もそうは見てなくて、シズクはよくロザリーさんから恋話を引き出していたな。

 

 

デスピサロ(CV逢坂良○ウソ)

 

別の世界ではデスピサロと恐れられる魔王。

ゾーマ戦後、何処かの世界の笹塚に辿り着く。そこで六畳一間のアパートをデスパレスとよび、ロザリーさんと共に暮らす。

 

 

エルフの娘 ロザリー(CV日笠陽○ウソ)

 

彼女はゾーマ戦後、エルフの里に行きピサロとの結婚の許可を母である女王ヒメアに求めるが渋る母親に怒り、再度ピサロと共に駆け落ちをする。その際エルフの里を腹癒せに半壊させたという。今はピサロと一緒に笹塚のアパートで仲良く暮らしている。

 

 

 

ノアニールを離れ南に下ると三角錐の建造物のあったイシスの城がある。ここのピラミッドでキョウイチと出会った。キョウイチは最初から魔物の姿だったのにも関わらず、何故かわりと早く打ち解けたよな。よくシズクにぶっ飛ばされていた姿が目に浮かぶよ。

 

 

 

バラモスブロスキョウイチ(CV間○淳司ウソ)

 

 

実は彼は魔族の将軍であり、創造神の娘の爺だった。彼はよく頭の上に彼女を乗せて散歩に出た。彼女もキョウイチの頭の上がお気に入りだったようだ。しかし彼女を怒らす度に毛をむしられた為、彼の本性である魔物の姿は頭にチョロっとしか毛がない。

その後彼はあっさり魔族の将軍の地位を捨て、趣味であるトレジャーハンティングの道を進む。なお探し求める宝は幼女だと周囲の者は語る。

特筆点はロリコン。

 

 

 

ここにはまだ何か黒歴史があった気がするが、スルーして北上するとそこにはかつて想像を絶する栄華を極めたジパングがあった場所だ。

大事なところなので繰り返す。ジパングがあった場所だ。

 

ここではピサロとロザリーに再会し、共に買い物したりとそれなりに思い出はあるが、何よりもキョウイチの女装がシズクの逆鱗に触れ、ギガデインでジパングの島ごと吹き飛ばされた地だ。

何もかもが元に戻る中、ジパングだけは今も跡形もない。

クワバラクワバラ。

 

 

 

南へ下るとランシールの街が見えてきた。ここではオーブを獲りに行ったっけ。魔法が使えないわ1人で挑戦しなきゃいけないわで、とにかく苦労した地だ。

まぁ、結局あいつはアッサリと獲ってきたけど…。今にして思えばシズクにとっては魔法が使えようが使えまいが関係なかったのかもしれない。僧侶なのに。

ランジールを出る時壁の巨人が、もうこないでねと泣いていた。

 

 

 

晴れ渡る青空をアイラに大きく旋回してもらい再び北上したそこにはダーマの神殿が見えてくる。

 

 

ここはサラリーマンとか言う最強の戦士の癒しどころだと言う。

ここはツカサとサキに再会した思い出の場所だ。ツカサが実は無職だったことには驚いたが、サキが賢者になったことはそれ以上に驚いた。

 

職業安定所(ダーマ)は、その後シツギョーホケンを目当てにした職につかない者が急増した為廃止となり、未来には職業という概念が無くなったらしい。

 

 

 

遥か西、海を越え山を越えると海辺に大きな街がある。

何もなかった村から発展した街だ。ロレンスがそのコネを使い、物の流通量を増やす事で進化を遂げた街。

 

ここにはエイトさんとゼシカさんがいる。娘のミーティアちゃんにポポタくん。

 

そうそう、ここでは裁判があった。ロレンスが村の発展を優先しすぎ労働者への配慮が足らずに労働基準法違反で訴えられたんだよな。

結局裁判長のシズクが何もかもぶち壊して終わったっけ。

なんか随分前の事のようだ。

 

 

 

さらに西へ向かうと険しい山岳地帯が見える。一見すると見落としそうな山あいに朽ち果てた廃墟が目に付いた。

「テドン…。」

思わず呟いてしまった。あの村で俺たちはギャンブルにハマりかけた。俺とツカサは懸命にスゴロクの景品を求め奮闘している最中、シズクとサキはアッサリと特等を当てたよな。今思えばあの時の景品で王者の剣はできたんだよな。

シズクはオリハルコンなんか庭に落ちてるとか言っていたけど、あいつの正体を知った今となっては本当の事だったのかもしれないな。

 

ここで忘れてはいけないのがシックスだ。

アイツとの熱い戦いは今でも胸を熱くする。結局のところシックスは何者だったのだろうか。

 

 

シックス(CV萩原聖○ウソ)

 

ざわざわの人。賭博場マボロシノダイチの人。

 

 

 

「ねぇマコト、最後になるからもう1度故郷を見に行ってもいいかしら?」

ラーミアのアイラは少しだけ寂しそうな顔で言った。

「もちろんだ。なんならご両親に会って行くか?」

「いや、2人はきっともう他の世界に行っちゃったから…。」

強がっているけど会いたくないわけがない。申し訳ない気持ちでいると白い大地が視界に飛び込んでくる。レイアムランドだ。

レイアムランドからネクロゴンドまでの一直線上の海が引き裂かれている。シズクの合成魔法で引き裂いた海は未だそのままになっており、今では観光スポットになっているそうだ。

 

 

ラーミア アイラ(CV花澤○菜ウソ)

 

 

ラーミア族の少女。趣味はインターネットサーフィン。親のカードを使いネットショピングでどうでも良いものを買っては怒られている。

父セブンと母マリベルを親にもつ。

彼女らラーミアの一族は不思議な石版とやらで異世界を移動できるらしく、彼女は後に神鳥レティスと呼ばれるようになる。

好物はオーブと鳥の唐揚げ。

 

 

 

そしてオレ達は魔王バラモスと戦ったんだ。バラモスはLv99を言うだけあって強大な魔力を振りかざしていた。しかしそんな魔王バラモスもシズクの計画を邪魔したせいで蹴り一つで倒された。

あの時シズクが打ち明けた「私のLvは53万です」は、今だに忘れられない。

 

 

魔王バラモス(CV中尾隆○ウソ)

 

 

笑い方はホッホッホ。シズクの蹴り一撃で敗れた彼は魔王を辞職した。彼いわく、大魔王から退職金は払われなかったそうだ。

 

 

 

そしてギアガの大穴を越えた先に広がるのは、聖地アレフガルド。

 

 

アレフガルドに入ると、すぐのところにアレフガルド唯一の王都、ラダトームが見える。先日宴を開いていたラダトームは、既に毎日の生活へと戻りつつあるようだ。ここでの思い出は短い間の滞在ではあったけど、かなり深い。何と言ってもシズクの女王即位だ。最初嫌がっていたわりには、案外ノリノリだったように思える。今でも「ジークシズク」は、ラダトームの挨拶となっている。

 

 

パパス王(CV近藤孝○ウソ)

 

 

王の地位を完全に退いたパパスは、生涯をアレフガルド再建に費やした。幼馴染みのサンチョと共にアレフガルド中の街と言う街を周り、その復興に尽力を尽くした。トレードマークであるアフロヘアーはアレフガルドで大流行することになる。なお彼は1人の女性マーサを生涯愛し続け、後にやっとの想いで結ばれる。

口癖はぬわーーっ!!

 

サンチョ(CV櫻○孝宏ウソ)

 

 

彼もまたパパスの退位ととも大臣を辞職する。

そして共にアレフガルド中を周り再建に尽力を尽くした。

色々思慮深い分析をするが、わりとよく間違える。

 

 

 

そしてビアンカさんと出会った場所でもある。彼女もゾーマ城で光になってしまったが、シズクの言葉を信じるなら、きっと彼女も元いた世界で幸せにしていることだろう。いつかまた逢えたなら、ありがとうと伝えたい女の子だ。

 

 

 

ビアンカ(CV能登麻美○ウソ)

 

 

異世界の神マスタードラゴンの娘。

彼女の幼い頃の愛読書の一つにタッ○があり、幼馴染みと言う多大な影響をうける。

彼女は自らの世界に帰ったあと、無事に紫のターバン(リュカ)と再会を果たし、幸せに暮らしたそうな。そんな彼女の悩みは父(マスタードラゴン)のトロッコ遊び。

 

 

 

西へ向かうと見えてくるのは、温泉で有名なマイラの村。

ここで忘れられない出来事、やはりそれはロレンスとの一騎討ちだろう。

それまでインチキ臭い商人だと思っていたロレンスの正体が電撃を纏う巨龍、キングヒドラだったのだ。お互い死力を尽くし戦った思い出は今も記憶に新しい。

 

そしてマイラの東にある強大なクレーター。それは狂った女神ルビス様のいた塔のあった場所だ。あのゾーマさえフルタイムメダパニ状態の女神と言っていた程に危険な女神だった。

 

 

 

ルビス(CV大原さや○ウソ)

 

 

女神はあの戦役の後、自らの世界レンダーシアへ還った。女神のその後など人間には分からないが、きっと…いや、彼女を語るのはやめておこう。

まさかのゾーマの妻であり、あのシズクの母親と言う、言われてみれば納得せざるを得ない最恐の女神。

好きなもの、お酒とメロドラマ

趣味、旦那イビリ

最近の悩み、旦那が妻である自分より娘にばかり夢中になっていること。

 

 

 

そして更に西へ向かうと大きな城壁を持ち、歴史的な建造物が建ち並ぶ古の都リムルダール。

ここはかつての師、キリトさんと戦った地だ。

俺が勇者の力の覚醒を果たし、あれ程の激しい闘いだったにも関わらず死者0、壊れた建造物0だった事を考えると、あの闘い自体が本当の出来事なのか分からなくなる。

彼の正体は創造神エスターク。大いなる厄災と呼ばれる戦神だけあり、その強さは計り知れなかった。

そして何一つ残さずに去ったその姿は正に創造神そのものにみえた。今にしてみれば彼は終始師を演じていたように見える。

1番驚いたのはキリトさんがシズクの婚約者だった事だ。俺がシズクを探し続ける以上、いつか本気で闘う時がくるのかもしれない。だけど今はまだ師匠と胸に留めておこう。

 

 

エスターク キリト(CV松○禎丞ウソ)

 

 

彼についてもルビス様同様にその後については語られていない。しかし分かっている事も幾つかあり、シズクのハイキックの餌食第1号と知られている。また永い悠久の時の中で彼女の攻撃を受け続けた結果、創造神をも超える体力(HP)と防御力を誇るらしい。

 

 

 

そしてゾーマ城。

 

 

ゾーマ(CV池田秀○ウソ)

 

 

神々の父たる創造神。しかし実態は娘に激甘な親バカ。弱点は妻のルビスと、娘のみとされる。しかし実際は気に入った者にはわりと甘い。

嫌いなもの、暴力。

苦手なもの、妻のDV

最近の悩み、娘の反抗期

 

 

 

ゾーマが去ったいま、城もそこには無くなった。まるで最初から何も無かったかのように。

パパスは平和の祈念としてこの場所に城を再建するらしいが、予算がなくて一階建てになるそうだ。平屋の城か…。

ここでアイツが・・・シズクが光りの粒子となって消えた地。

今もアイツの声も言葉も、瞳の輝きも何もかもが俺の胸の中にある。

確かに人は平和を手に入れた。だと言うのに、一緒に祝いたい人だけがいない。そんなのは絶対に嫌だ!

だから俺は次元を越えて、レンダーシアへ辿り着いてみせる。そして必ずシズクを探し出してみせる。

 

 

ラーミアは上空を3回ほど旋回すると、勇者の祠目掛けて一直線に急降下する。限りなく光の速さに近付きラーミアの虹色の軌跡を残す様子はアレフガルドの国民に幻想的な風景を魅せた。

 

 

 

 

. ◆

 

 

 

その頃ラダトーム最上階の王室の窓際でサキが、数枚の紙切れを手に空を眺めていた。

「マコトの奴どこ行っちまったんだ?」

「たぶんマコトはもう帰らないわ。」

そう言ってサキに手渡された手紙をツカサは読むと、ボロボロと涙が溢れ出した。

「これって!」

「うん。シズクちゃんがマコトに宛てた手紙ね。女王の執務室で封が切られた状態で見つけたの。おそらく読んだのはマコトね。」

「じゃあマコトは…。」

「たぶんシズクちゃんを追ったんだとおもう。バカだよアニキ…。」

ツカサが今にも泣き出しそうなサキの肩を抱き寄せると、ツカサの胸に顔を埋め声を殺して泣き出した。

 

「国王に王妃よ何かあったのか?」

そこへ前王のアフロとサンチョが王室に入ってきた。ツカサはサキを抱き締めたまま、シズクからの手紙を手渡すと、二人も手紙に目を通した。

 

 

 

ーーーー親愛なるマコトさんへーーーー

 

 

あなたがこれを読んでいる頃、きっと私はもうこの世界にはいないでしょう。

何から話したら良いんだろう。いつか来る別れの時、この日が必ずやってくる事が分かっていたのに、いざとなると言葉が出てきません。私はずっとマコトさんを騙し続けてきました。きっとマコトさんの事だからもう気付いているのでしょうが、私はゾーマとルビスの実の娘です。

 

 

「な、なんだと!?」

読んでいた手紙を落としそうになるサンチョをパパスは支え、黙って首をふる。

「ワシはそんな気がしていたよ。サンチョの見解とは少し違かったが、あれだけ瓜二つのルビス様と女王が他人な訳がない。ワシは何かしらの血縁を疑っておった。」

「パパス…。」

「さ、先を読もう。」

 

 

手紙には数々の思い出と、その度に襲い来る胸を締め付けるような後悔の念と、それ以上の愛情が一生懸命綴ってあった。

 

「マコトさん・・・。もう私の事で心を傷つけないで下さい。私はいつでも貴方を見守っています。心まで凍てつく闇の奥深くにいた私に、貴方が光を掲げてくれたんです。貴方と供に過ごした世界は、眩しくて暖かくて陽だまりのような、そんな安らぎに満ちた暖かい気持ちを私にくれました。マコトさんが私を光輝く世界に連れてきてくれたんです。私は永遠にこの安らぎを忘れないでしょう。ですからマコトさんもどうか生きて幸せを掴んで下さい。ありがとう、さようなら。シズク。」

 

サンチョは持っている手紙が湿っていくのに気付いてはいたが、止めどもなく溢れる涙を抑えられない。隣のパパスも同様だった。

「これは女王の偽りない気持ちなのだろう。彼女の愛してしまったが故の苦悩が詰まっている。何度も今のままでは勇者を傷付けてしまうから離れようと、でも自身の心がソレを拒否する。女王はそんな心の葛藤を背負っていたのだな。」

 

辺りをシンとした静寂が支配したその時、窓辺に立つサキが北の空を指差した。

「みて!虹色の軌跡を引いた鳥が旋回してるわ。」

「あれはラーミアの軌跡だな。マコト…行くんだな?」

「なる程、あの場所は北の祠、別名勇者の祠。あの祠からゾーマは現れたとされているからな。そこから異界へ渡るか勇者マコトよ。」

「まぁ、あの者ならきっと何とかするだろうて。それよりサンチョよ、まだ何か書いてあるみたいだぞ?」

 

パパスに言われて再び手紙を読みだすサンチョ

「「ん?本当だ。何々?尚、この手紙は読み終えたら…自動的に消滅しますぅ!?」」

 

 

ドガアアアアアアアン!!!

 

 

 

 

 

凄まじい轟音を上げてラダトームの王室は爆破した。

 

 

 

 

 

 

「何だ?あの爆発は。」

「さあ?気にするなアイラ。それより準備はいいか?」

「えぇ行くわよマコト!」

「ああ頼む!!」

 

速度を上げるための旋回を終えたラーミアは

勇者の祠へ向けて一直線に急降下していく。周りの景色も祠を中心に伸びる放物線のようになっていく。

そして二人は光の速さに近付いていく。

今行くからなシズク

勇者は心の中で1人決意する。

 

 

ピリリリリリ・・・

アイラの翼から乾いた電子音が聞こえてきた。

ピッ

「もしもしマリベル母さん?」

「あ、アイラ?あんた何処をほっつき歩いてるの?今日はあなたの好きな唐揚げよ?早く帰って来なさい。」

「ほんと!?直ぐに帰るよ!!」

 

 

キーーー!!!

とかいう擬音でも聞こえてきそうな急ブレーキをかけるラーミア。

 

そんな急に止まったその勢いに対応できるはずもない勇者は

「ちょっ!!マジかアイラァァ・・」

「あ、やばっ。」

 

 

遠ざかる叫び声を上げながら勇者の祠へと落ちていった。

 

 

 

その後勇者の姿を見たものはいない。

 

 

 

勇者 マコト(CV中村悠○ウソ)

 

シズク(CV○見沙織ウソ)

 

 

 

 

 

 

 

 

エンディングソング

melodys of life

白鳥恵美子(ウソ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

staff

 

 

 

イラスト提供(五十音順)

 

アルアルファ

ナーコ

ニック・シェーファ

kitiguyder

meg

 

 

メインイラストレーター

 

さかき☆よーま

 

 

 

ネタ提供者

 

アゼルバイジャン大佐

ニック・シェーファー

kitiguyder

ばいどるげん

hirahira

meg

 

 

 

出演者

 

アンルシア

ツカサ

サキ

シックス

エイト

ゼシカ

ミーティア

キョウイチ

パパス

サンチョ

ルビス

ゾーマ

ピサロ

ロザリー

ビアンカ

ヒメア

コハク

シドー

 

ロレンス

エスターク

シズク

マコト

 

 

 

シナリオ

 

 

堀井雄二(ウソ)

 

 

 

音楽

 

すぎやまこういち(ウソ)

 

戦闘曲

勇者の挑戦

 

挿入歌

memory heart message

 

 

 

 

presented by

 

スクエア・エニックス(ウソ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

thank you for all お気に入り登録者様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝焼けが雲を赤く染めている。

夜明けまであと少し。

髪を揺らす風は相変わらず寒いけど、冷たい風の中に柔らかな暖かさを感じた。春はすぐ側まで来ているのかもしれない。

 

ふと空を眺めると、名前も知らない小鳥が2羽、重なり合うように羽ばたいていた。

小鳥の小高い囀る声を目で追いかけたその先には丘が見える。

目の前に拡がる長い長い一本道はあの丘の向こうへと延びている。

 

この道はきっと未来へ繋がっている。あの丘のもう一つ向こう側では大好きな彼らが今も笑っていて、約束の場所に辿り着いた私にきっと手を差し伸べてくれる。

 

私は小鳥の調べと翼の軽やかな音を追いかけ未来へ向かって歩き出す。大好きな彼らの待つあの場所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険

 

 

 

おしまい

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




みなさま、最後までお付き合いくださってありがとうございました。



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オマケ話

.

 

 

 

深い闇の中―――

光も届かぬ闇の底。その闇の中を歩く一人の少女がいた。見た目は6歳くらいだろうか。白と黒を基調としたヒラヒラしたドレスを纏う少女は、全てを拒むかのように何一つ見えない闇の底を表情一つ変えずに、迷う事なく目的地へと歩をすすめる。

やがて少女は歩を止め大きく息を吸い込むと、闇の向こう側に向かって大きな声を発する。

 

「魔王様!!魔王様お目覚め下さい。間もなく時が来ようとしております。」

 

しかし彼女の声は闇に打ち消されたかのようにまるで反応がない。だが少女は怯まない。彼女は知っていたのだ。声をかけた主がきこの程度で目覚めない事を。

 

「魔王様。寝坊された事を母上様にご報告致しますよ?」

 

今度は普通の大きさで発した少女の言葉が、再び闇に吸い込まれていく――

 

すると巨大な魔力が渦を巻き、闇の底を中心にし爆発的な勢いで辺り一面を覆っていく。全宇宙をまるごと覆うかのようなその濃い魔力は、次第に一点に集約されていく。

 

「おはようミルちゃん。」

「おはようございます。魔王様。」

 

魔王と呼ばれた人物は深い闇の中からもそもそと現れた。

歳は人で言えば18くらい。

キラキラと輝くような手入れの行き届いた白銀の長い髪。暗い闇の中で一際輝かんばかりの白い肌。

細身で長身。知らぬ者がみたら、それこそ女神を彷彿とさせる・・・それが彼女、魔王と呼ばれた者の姿だった。

 

「ミルちゃん。人間界に勇者は現れたの?」

「まだです魔王様。」

「・・・ねぇミルちゃん?私のことは何と呼ぶように言ってあったかなぁ?」

「魔王さ・・・」

 

ガツン!!

部屋のは端など見えない程の広い空間であっても響く程の音をたてて少女は魔王に頭を小突かれた。

 

「私、そう呼ばれるのは嫌い。」

「・・・シズクお嬢様・・・」

「ん~・・・本当はシズ姉だけど、取り合えず今はそれで妥協してあげます。」

涙目で頭を擦る少女を魔王は抱き締め、一緒に頭を擦る。

 

 

「それで、まだ人の世界は成熟してないのよね?まだ私が出るには早いのではないの?」

「魔王・・・シズクお嬢様。人の進化は早いもので、文明は既に安定しております。それどころか近年では互いの利益を奪い合う人同士の争いが頻発しており・・・」

「ミルちゃん、ちょっと待って待って!!」

 

魔王は両手をブンブン振って少女の報告を遮る。

「堅い!堅すぎよ。」

魔王は少女の物言いがあまりに堅苦しいことにクレームをつける。

いくら少女が魔王の付き人をしていると言っても、優に数万年を共にしているのだ。魔王にとってみれば妹同然の少女。

堅苦しく、よそよそしい物言いを魔王は嫌がる。

 

 

 

「ようするに人同士が争っているから、人以外の敵が必要とジジイ(お父さん)が判断したのね?そして私に魔王役をやれと?」

「物凄く納得は行きませんが、端的に言うとそうです。魔王役はシズクお嬢様が適任ですから。ところで魔王様・・・その格好は?」

 

話している最中にいそいそと着替える魔王をみて少女は問う。どう見ても人の世界の服装にしか見えない。ハッキリ言って嫌な予感しかしない。

 

「え?私人間に見えない?」

「見えないこともありませんが・・・なんでそんな格好を?」

「ミルちゃん。私ね、これからは愛が人間を救うと思うの。人間と神族や魔族。種族を越えて結ばれる愛が。」

とても魔王が発したと思えないような言葉を少女はため息混じりに聞きながら、大切な事を思い出した。魔王シズクは、とにかく恋に恋するような少女だったことを・・・

そして正体がバレてはフラれ、腹いせに人や神の世界を滅ぼし、いつしか神界レンダーシアで魔王と呼ばれるようになった事を。

 

 

「シズクお嬢様。お父上様と母上様、そしてエスターク様にはどう説明なさるおつもりですか?私は嘘をつけないし、母上様に至っては心を読みますよ?」

「大丈夫よぉ?だってミルちゃんは、今までの会話を全て忘れちゃうもの。」

 

そう言って魔王シズクは女神のごとき微笑みを称えながら、何処から出したのか巨大なハンマーを振り上げている。

少女は青ざめ後ずさる。

そうだ。魔王はこういう女だった。女神のような笑顔と甘い声。同じ女性が見てもため息が出るほどの美しさを持つ彼女は、人間の言葉で言うところのヤンデレだった――

 

 

 

ミルこと、ミルドラースは悲鳴をあげて逃げ出したが、ズガァァァァァンと言う衝撃とともに彼女の意識は霧散した。

 

 

そして魔王もまた、可愛がっていたペットを引き連れ人の世界に消えたのだった。

 

 

 

それから10年の月日が経った――

 

 

 

アリアハン。

 

この辺境の村の小高い丘には一本の針葉樹が建っている。もう夕暮れ時だと言うのにもか変わらず、少女は長い髪をゆらし、今にもスキップでも踏みそうな勢いで走って針葉樹にむかう。

 

彼女は、背まで伸びた輝く黒髪。透き通るような白い肌。まるで辺境の村に舞い降りた天使。誰もが振り向くような美しい彼女の名前はシズク。

10年前に魔界を逃亡し、人間に紛れ込んだ魔王その人である。

 

 

「マコトさんったら。大事な話があるだなんて・・・やっぱプロポーズかしら?わざわざ子供に化けてまで幼馴染みという関係から育てた愛だもの。間違いないわぁ。マコトさんどんなプロポーズしてくれるのかしら。」

 

魔王は気を抜くとニヤケてしまいそうな顔を何とか整え、ゆっくりと時間をかけて愛を育んだ彼の待つ針葉樹へと走る。

 

彼は既に待っていた。

大きな針葉樹に寄り掛かって夕日を眺めている姿はあまりにも素敵で、魔王は軽く目眩を覚える。

 

「シズク悪いな。突然呼び出したりして・・・」

頬を照れ隠しのように顔を背けるマコト。

「ううん。どうしたの突然呼び出したりして?」

プロポーズ・プロポーズと心の中で期待たっぷりに連呼する魔王は、顔に出ないように気を付けながらあえて惚ける。やはり女としては、プロポーズはハッキリと言葉で伝えてもらいたい。魔王は今か今かとマコトの次の言葉を待つ。

 

「シズク、俺・・・」

「はい!」

「俺・・・勇者だったらしい。」

「は?」

「俺の母さんの先祖が勇者だったんだ。今日城から騎士達が司祭様を連れて家にやって来たんだ。」

 

え?なにを?勇者?あれ?

 

「シズク、俺・・・勇者になる。シズク、俺と共に魔王を倒す旅に出よう?俺にはお前の僧侶の力が必要なんだ。」

両手をガッシリと握って熱い眼差しを向けるマコト。

あと少し近ければ、その唇に触れられる、そんな距離にいるのに・・・

「シズク!!頼む!魔王を倒すのを手伝ってくれ!」

 

キスやプロポーズさえもない。あろうことか、私の恋人様は共に魔王を倒そうと言っている。

 

魔王の私に・・・

 

 

 

そして私は大好きな彼の願いを無下にできず、彼と共に魔王を倒す旅に出ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

余談ではあるがその後、娘(シズク)泣き付かれたゾーマは、魔王の代役を出来なくなった娘の代わりに魔王をあてがおうとするが中々見つからず、新聞の折込チラシを見てやってきたバラモスで対処することになる。

 

 

 

 

 

ーーヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険①へと続くーー




実はこんな裏話がありましたm(_ _)m


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オマケ②

暗闇の底から見た世界はとても輝いて見えた。

 

かつては我も愛されていた。

何処へ行くにも必ず我を供にしてくれた姫君。まだ幼子であった我は、さながら姫君を守るナイトのような気分であった。

彼女はいつも我を膝の上に乗せ、優しい手で頭を撫でてくれた日々。とても暖かく幸せだった。しかし幸せと言うものは決して永遠ではない。

そんな姫君はある晩のこと、父上君と母上君から身を隠すようにコソコソと我を連れ出して異世界へと渡った。

途中彼女は自身の姿を幼子に変えると

 

「ん〜ちょっと貴方がいると計画に支障が出ますね…。後で迎えに行くから此処でジッとしててね?」

 

そう言ったかとおもうと、異世界を渡る船(天の箱舟)から我を蹴り落としたのだ。

 

突然の事で何が起きたのか理解できなかった。それでも我は迎えに行くの一言を信じてずっと待っていた。

最初の100年は、寂しさと孤独と不安に震えながら光を通さない穴倉の奥深くで過ごした。

次の100年は、姫君との安らぎに満ちた幸せな日々の夢を糧に光を通さない穴倉の奥深くで眠りに就いた。

次の100年は、神々に祈り続けた。

 

しかし祈りは届かない。

姫君はとうとう現れることは無かった。

 

 

我は棄てられたのだ。

400年の歳月を経て大人になりそう理解した時、絶望と共に我を支配したのは憎しみであった。

 

再びあの輝かしい世界に戻る為に数百年に渡ってこの闇の底で蠢いてきたのだ。

地の底を這いずり回り、身体を傷だらけにしながら。

 

あの滅茶苦茶な創造神達が世界を去り数百年。中には龍王を名乗る龍の小僧が魔王を語り世界を席捲しようとしたこともあった。しかしその目論見も勇者の子孫が撃退したらしい。

流石はあのトンデモない姫君が愛した勇者の子孫と言うわけか。しかし何十世代も経た今なら…

それにあのゾーマ様が去った事で、メラゾーマをはじめ多くの強力な魔法が消失し、上の世界は切り離された。現在、上の世界には龍皇の一族であるマスタードラゴンが新たに世界を管理しているらしいから無理として、あの最凶の女神ルビス様が去ったアレフガルドは、今や我が野望である世界の破壊を阻める者は居ないに等しい。

我を捨てた姫君が愛した世界を破壊する。それが我を捨てた者に対しての復讐である。

 

ふと世界に目をやると、野望の実行部隊を任せていた我が右腕であるハーゴンが敗れたようだ。我は重い腰を上げ光輝く世界に這いずり出していく。

 

 

 

「ワレハスベテヲハカイセシモノ…ン?」

 

眩い世界に出て我が野望の唯一障害となるであろう勇者の一族。

その容姿は遠い昔に聞いていたのとだいぶ違っていた。勇者と言うより……いかつい武道家?に、やたらと容姿だけにステータスを振り分けたような魔法使いのような女の子。いかにもチャラそうな若い男。3人供あからさまに戦闘向きには見えない。

 

 

しかし勇者は勇者だ。

我は魔界の業火を吐き彼等を見下ろしたその時だった。

 

 

「あ!いたいた。こんな所にいたのね?あれ程ジッと待てと言ってあったのに……ダメな子ですね。」

 

背後からとても懐かしい声が聞こえた。

 

声のした方を振り返るより早く我に首輪を掛けた声の主は、背まで伸びたキラキラと輝く長い髪を揺らしていた。

 

「あら?もしかして貴方達はツカサさんとサキさんの子孫?キャー可愛い。」

 

言葉の最後にハートマークでも付きそうな黄色い歓声を上げた彼女は、勇者一行に近ずくと、マジマジと顔を眺めて喜んでいる。

 

「ひ、姫!」

 

我が絞り出すように彼女を呼ぶと、彼女は昔と変わらない女神の如き微笑みを浮かべ

我を見る。

我を捨てた女神。我の憎しみの権化。

そんな我に彼女の言った一言。

 

 

「帰ろ?シドー。」

「うん。」

 

 

 

こうして我は呪われたアレフガルドを去り、光輝く神々の世界レンダーシアへと帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

一方、残された勇者一向は

 

 

「なんだったのかしらアレ。」

「さ、さぁ……もしかしてアレがルビス様じゃない?」

「え?ルビス様って金髪っしょ?白銀の髪だったよ?」

 

首を捻る勇者一向。

 

「まぁ何にしても世界が救われたのなら良いんじゃん?さ、ウチ等も帰ろ?ムーンブルクで彼氏ゲットしなきゃだし。」

 

 

 

こうしてアレフガルドは平和になり、この先その平和は永遠に覆されることは無かった。




新しく書くネタがなくてオマケの小出し中です。

次は何を書こう……。
レンダーシアもいいし、今度はゼルダやファイナルファンタジーとかもありでしょうか。

悩み中〜


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26話

完結したヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険を最後まで読んでいないと伝わらない話なので、読んでない方は1話へバシルーラしてください。


 

 

 

 

春の訪れを知らせるような穏やかな風が頬に触れた気がし。

どれほどの間眠っていたのだろう。

ついさっき寝付いたようにも感じるし、ずっと眠っていたような気もする。

次第に意識が覚醒していくにつれて、自分が甘く懐かしい香りに包まれている事に気付いた。

目を開けて上半身だけ身体を起こすと、あたり一面が花畑だと言う事に気が付いた。白や黄色、青と言った優しい色彩の花々が見渡す限り広がっている。

暫く立ち上がらず、座ったまま花々の優しい香りに包まれていると、少しだけ強い風が吹いた。

風に舞った花びらに目を奪われたその刹那、一人の女性が目の前に立っていた。

 

背まで伸びたキラキラと輝く白銀の髪と透き通るような白い肌。ほんのりと赤みを帯びた瞳……。そう、アレフガルドで幾度となく夢に現れた銀色の聖女だ。

 

年齢は人間にすれば18前後ぐらいだろうか、シズクによく似た顔をした彼女が目の前にいる。

姿が半透明なので、夢か幻または魔法の類いなのかもしれないが、彼女は表情を変えることなく、ただジッと俺の顔を見つめている。

 

シズク…俺、来たよ。お前のいる神界レンダーシアへと。

 

そう心のなかで呟き、目の前の彼女に微笑みかけると、彼女は少しだけ寂し気な、それでいて女神の如き微笑みを返してくた。そしてそれは一陣の強い風に舞い上がる花びらと共に、甘い香りだけを残して消えた。

 

 

甘い余韻を振り切り、

改めて立ち上がり辺りを見回すと、この大地が遥か上空に浮かぶ島のようなところであることが分かった。

白い雲が大地の遥か下の方に見える。

 

島の中央には巨大な城があり、それを囲うように街がある。神界レンダーシアと言ってもこういうところは人間の世界とそう変わらないようだ。

自分のいる花畑は島の端にあり、小高い山になっているので島全体を見渡すことができる。

 

空には幾つもの大陸があり、上空の大陸から下の大陸に滝となった水が流れているような幻想的なものまで見える。

神が住まうに相応しい、とても美しい世界だ。

 

 

先ずは街で情報を集めよう。レンダーシアに住む神様達ならシズクの情報を持っているかも知れない。

俺は大地を踏みしめ、一歩また一歩と神の大地を歩き、街を目指した。

 

 

 

 

 

「君はどの世界の勇者なんだい?」

 

 

城下町を目指し歩いていると小さな村に辿り着いた。俺は久しぶりの新入りらしく、村中の神々が集まり出す。

 

「良く来たね。僕も勇者上がりの神なんだ。よろしくね?」

「私も同じよ。」

 

などと、村中のみんなが笑顔で優しく見知らぬ俺を迎え入れてくれる。そこはやはり神様だ。

神様の礼儀作法など知らないけど、俺はなるべく丁寧に挨拶と自己紹介を交わすと、更に村中の老人から子供まで集まり出し、村中話の花が咲く。

 

「そうか〜君はアレフガルドと言う世界の勇者だったんだね?君を導いた神は誰なんだい?」

「詳しくは分かりませんが…魔王討伐に導いてくれたのは女神ルビス様ですかね?」

「え?ルビスって創造神のあのルビス様?き、君凄いじゃないか!創造神直々だなんて…君は勇者の中でもエリート中のエリートじゃないか!!」

 

 

ルビス様の名前を聞いただけで、今度は驚きと若干の興奮を抑えきれない様子で俺を取り囲んで盛り上がる神々。

 

「そうだ。俺、このレンダーシアにあるヒトを捜してやって来たんですけど…。」

「へぇ。誰だい?我々の中にそのヒトを知る者がいるかも知れないし、遠慮なく言ってごらん?」

 

村中のみんなが笑顔で言う。何て幸先の良い旅路なんだろう。いつしか笑顔になっていた俺は遠慮なくこの優しい神々に問うのだった。

 

「ありがとうございます。俺はレンダーシアにいると言うシズクと言う少女を捜しに来たんです。」

「え?シズク?……シズクってまさかあのルビス様達の……?」

「はい!どなたか彼女が何処にいるか知りません…………か?」

 

 

 

なんと笑顔で集まっていた神々は次の瞬間、まるで蜘蛛の子を散らすかのように悲鳴を挙げて逃げ去った。

 

 

 

「あ、あれ?」

 

 

ヒューと吹いた風に舞った枯れ葉が顔にくっ付きました。

 

 

バタン!!

勢い良く扉の閉まる音のした家のドアの前に立つと、中から震える様な声で

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私は何も知りません。私は違います。知りません。今日私達は誰とも会っていません。これは幻聴です。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……。」

 

 

呪文のように繰り返す女神の声と、ひきりなしに泣き喚く子供の声が聞こえる。

 

「あ、あの…。」

「ひ!!私は何も知りません。もし知りたければグランゼドーラ城下へ行って下さい。でもくれぐれも私が言ったとは……。」

 

そこから先は震える声で、何を言っているのか聞き取れなかった。

 

 

その後、どの家に行っても神々が姿を見せることは無かった。

期待していた様な成果を得られなかった俺は、腑に落ちない一抹の不安を胸に覚えながらも、結局当初の目的地である城下町へと再び歩きだすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

休息の為の睡眠を必要としない神々にとって夜は必要ないのか、そもそも1日の周期が違うのかは分からないが、体感的には3日ぐらいは歩いた気がする。

道すがらに出会った神々は皆んな優しかった。中には見た目が魔物にしか見えない者もいたが、話してみれば気さくな若者だったりもした。

 

アレフガルドでルビス様は神、魔、人にたいした違いはない。コインの裏表みたいなもので、見る方向が違えどコインに変わりはない。そこに善悪等は最初から存在しないのだと教えてくれた。

 

 

ゾーマも、争い合う相手にも其々に戦う理由がある。相手を知ろうとしない争いは本質において暴力でしかないと。

きっと彼は、守る為に相手を傷付け、自身も傷付く事よりも、相手を知り自分を知ってもらう事で許し合うことの大切さを教えてくれたのではないだろうか?

 

そんな大切な事を教えてくれた創造神は、きっとあの巨大な城にいるだろう。もしかしたらシズクも……。

 

 

やがて暫く歩いた所で一軒の小屋を見つけた。

小屋の側にはキラキラと輝く水を湛えた小川が流れ、水車がカタンカタンと木の擦れる音を立てて回っている。サイズこそ違うものの、アリアハンでさえ中々お目にかかれないようなその小屋は、誰の目から見ても農村にあるような小さな小さな小屋だった。

神の世界にも貧富の差なんてあるのだろうか?丘の上から見た城下町の街並みとは明らかに一線を書く…ハッキリ言ってしまえば見すぼらしい小屋だった。

 

 

直ぐに城下町に行っても神々の王たる創造神にすぐにお目通り叶うとも限らない。誰かが住んでいるとも思えないが、俺は城下町の情報収集のため、この見すぼらしい小屋の扉を叩くのだった。

 

 

 

 

小屋のすぐ脇には犬小屋?

犬小屋にしてはかなり大きな小屋があり、かすれた文字を何とか読んでみると〝シドー〝と書いてあり、小屋の脇にあるクイから伸びた鎖が小屋の中に向かって伸びている。

グフフフと奇妙な笑い声が犬小屋の奥から聞こえてくる。何となく気にはなるけど、今は犬?に構っている暇はない。

俺は目の前の小屋の住人に会うためその扉を叩いた。

 

 

トントン…木の扉を打ちつける音を立てると、は〜いどなた〜?と、間延びした声が内側から聞こえてきた。

 

なんだろ…どこかで聞いたことのある声だ。

パタパタと歩く音が扉の前で止まる。俺は扉が開かれるを待つ。

 

のだが、待てど待てど開かれる様子がない。確かに内側から声もしたし扉の前まで歩く音もした。しかしその後は全く音も気配もしない。

 

「あれ?変だな。」

 

内の並々ならぬ様子に不安になった俺は、扉の中央部に造られた小窓から内の様子を伺おうと、顔を近づけると

 

バン!!

 

と勢いよく扉が開き、俺の顔面を強打した。

 

 

「グェッ!!」

「だぁれ〜?あら〜?家の前にカエルがひっくり返ってるわぁ〜。」

「誰がカエルだ!アンタが狙って扉を開けるから顔面を強打したんじゃねーか!」

「ん〜?あら?もしかして君はアレフガルドの勇者の……。」

「ル、ルビス様?何故貴女がこんなとこに?」

 

顔面を強く打ち付けた涙目の俺を華麗にスルーする女神は、以前と変わらない女神の微笑みを浮かべて俺をハグしてみせる。

 

「懐かしいわぁ〜トンヌラ君。」

「マコトですよ!!誰だよトンヌラって。」

「いやぁね〜冗談よ〜。」

 

 

カラカラと彼女の悪戯を心底楽しんでいるような女神の笑顔、全く変わってない。

家の中に通されて、丸テーブルを囲んで椅子に座ると、ルビス様は香り高い紅茶を振舞ってくれる。

そういえば初めて会ったルビスの塔でもこんな感じだったなと、一人思い出に耽ってしまう。

 

 

 

「あなた〜?あなた〜?勇者君が来たわよ〜?」

「は?勇者君?」

 

 

ルビス様に呼ばれ、

怠そうな声を発し奥の部屋から現れたゾーマは、上下スウェット姿で現れた。

 

「おお久しぶりだなマコトくん。」

 

あくびしながら席につき、挨拶を交わすゾーマは、かつて大魔王と恐れられた名残りは今や何処にもない。

 

「ず、随分とラフですね。」

「ん?まぁ家の中ぐらいはな。」

「家!?これが家なんですか?アリアハンの俺の家とおまり変わらないじゃないですか。お二人はこの世界を創った創造神ですよね?普通あの城にいるんじゃないんですか??」

「勇者く〜ん?良い?いくら全てを創ったり、何者よりも強い力を持つ創造神と言っても、別に偉いわけでも何でもないのよ〜?神は神の上に神を創らずよ?」

「はぁ…」

 

何処かで聞いたようなセリフを、人差し指を立ててドヤ顔で話すルビス様。

ハッキリ言って意味が全く分かりません。

 

しかしまさかこんなにも早く再会できるとは思っていなかったけど、シズクの両親である二人に会えたのだ。これ以上ない成果だ。アイツもここにいるかも知れない。

 

「それにしても、本当に来るとはねぇ〜驚いたわぁ〜。」

「だから言ったであろう?マコトくんは必ず来ると。」

 

そう言って胸をはるゾーマは何故か自慢気だ。あんた一応敵だったんすよね。ルビス様より大魔王に信頼される勇者ってどうなんだろう。

 

「それにしても本当にお二人に再会できて良かったですよ。ここまでの道すがら、シズクについて尋ねようとすると何故か神々はみんな悲鳴をあげて逃げ出しちゃって…」

「ああ…あの子、このレンダーシアでは魔王と恐れられているからねぇ〜。」

「へ?シズクが魔王?」

「そうよ〜。あの子ちょっとお転婆でしょう?」

「「ちょっと?」」

 

ついゾーマと声をハモらせてしまう。横を見るとゾーマと目が合い彼は照れ笑いを浮かべはにかんでいた。

何その価値観を共有した奇妙な友情フラグが立ったみたいな顔は。

 

「あらあら仲良しねぇ〜妬けちゃうわぁ。」

 

そんなフラグはいりません。第一ゾーマさん、あんた何で照れてるんだよ。怖いよ。

 

「コホン!ここからは私が君に教えよう。」

 

咳払い一つで間を空けたゾーマは、妙に優しい声で語り出す。

 

「君もこの神界レンダーシアの住人になる以上、先ずは神についてを知っていてほしい。神と言っても万能ではない。各々が役割を持っている。」

「役割?」

「そう。地水火風と言った元素の神を始め、あらゆる事象に各々を司る神がいるのだ。そしてそれを以って人々を導くのが主な役割だ。そして全体の方向性はマコト君が見た城に住む神々の王が決める。」

「それは創造神のお二人ではないのですか?」

「さっきも言ったけど私達じゃないわよ〜?だって面倒臭いじゃない。今はグランゼニスちゃんと言う人型の神の始祖がやってるのよ〜」

 

面倒臭いときましたか。あまりにも変わらないルビス様にある意味安心感を覚えるよ。

 

 

「話を戻すぞ?例えば君の仲間にいたビアンカちゃんも愛の女神と言った具合に役割が神にはあるのだ。そしてそれはシズクにも役割はある。」

「シズクにも?」

「シズクだけではないぞ?基本的に万物を創造した我ら夫婦にも得意分野があるのだ。例えば私が生物、非生物問わず全てのものに慈愛の光を与える神であるように。」

「は?大魔王ゾーマが慈愛の光の神?破壊神とか死の神とかじゃないんすか?光の神はルビス様だとばかり…。」

「私じゃないわよ〜。私はこのヒトが創ったものに生命を吹き込んだり〜その子達がより良い(面白い)方向に育つように導くのが私の得意分野ね〜。まぁ出来ないことはないんだけど役割りって意味ね〜。」

「要するに全ての事象に対し神がいて、それらは全て創世の神である私に妻のルビス、そしてもう一人の創造神の神龍と君もよく知るエスタークのキリトに繋がっている。」

「…ではシズクは?シズクは何の神なんですか?」

「あの子は安らぎの神よ〜。因みにキリちゃんは戦神よ。絶対の勝利を司る神よ〜。」

 

安らぎに戦神……まぁ2人っぽいと言えば2人っぽい。

あまりに容易にイメージ出来過ぎて思わず笑顔が溢れる。

でも待てよ?

何で安らぎの女神であるシズクが魔王なんだ?

そんな悩める俺の問いに答えたのは、心を覗いていたであろうルビス様だった。

 

「良い〜?神は年月による死はないわぁ〜。勇者くんに分かりやすく言えばHPが尽きない限り死なない…いえ死ねないの。神も魔族も自殺は出来ないから……永い年月を生きていると、段々する事が無くなっちゃうのよ〜。そんな神々にとっての安らぎって何だと思う〜?」

 

要するにシズクが安らぎと程のいい言葉にしているけど、破壊神に近いと?

あまりにシックリくるアイツが怖いよ。総てを焼き尽くした荒野で高笑いしているアイツのイメージが脳裏をよぎり寒気がしました。

 

「フフフ、勇者くん相変わらず面白いわね〜。なにも死ばかりじゃないのよ?厳密には"無への回帰"が、あの子の役割ね〜。想いも恨みも、草花に動植物達、時間に星の記憶、夢も希望も……その総てを無に帰して安らぎを与えるの。文字通り何もかもが消えてなくなるのよ〜。言い換えればリセットね。あの子の望む望まないは別として、あの子の力は死を与えてしまうの。きっとあの子が魔王とレンダーシアで呼ばれるゆえんかしらね〜。」

「まぁそれだけではないがな。マコト君の世界から帰ったシズクは、それはもう不機嫌でなぁ、腹癒せにレンダーシアを含め、死後に人や魔物が住まうアストルティアを半壊させたのだぞ?神々の8割もの勇者が魔王の討伐に向かい……ここからは言わなくても分かるだろう?」

「そうそう〜。結局見兼ねた私達が行った時には散々たる状況だったものね〜。見渡す限り一面焼け野原だわ、あの子はメタルスライムばりに逃げちゃうわで。全員を生き返らすのに苦労したわぁ〜。」

 

妙に楽しそうに笑いながら話すルビス様の横で、うんうんと神妙な顔つきのゾーマ。

確かにこの違いを見る限り本来ゾーマが慈愛の光と言うのも頷けるような気がする。

 

「それで…シズクは今どこに?」

「へぇ〜これだけ聞いても勇者くんはあの子を探すの〜?」

「それがアイツとの約束ですから。」

「……約束か、なるほど。だがマコト君、申し訳ないが私達は本当に娘が何処にいるのか分からないのだ。」

 

娘の所在が分からないと言うゾーマの言葉に落胆を覚える。本人を見つけ出すか、2人を見つければシズクとの再会が叶うとどこかで信じていた。にも関わらず2人は暫く会っていないというのだ。

ガックリと肩を落としかけたその時、深く息を吐いたゾーマは話しを続けた。

 

「だがマコト君、全く探すアテがないわけでもないぞ。奇跡の泉を訪れるが良い。」

「ちょっとアナタ?それは……。」

 

ゾーマは口を挟むルビス様を片手でやんわりと制しながら話しを続ける。

 

「四つの創世の神の証を集めし者が泉を訪れるとき、創造神最後の一人神龍が現れる。そこで神龍に勇気を示すことができた者は、神龍が何でも一つだけ願いを叶えるという。神龍ならシズクとの再会も叶えてくれよう。」

「神龍?」

「勇者くん?ちゃんと考えた方が良いわよ〜?未だ神龍に願いを叶えてもらったのってキリちゃんしかいないのよ〜?勇気を示すとは、一撃を入れるって意味だから。要するに神龍と戦うって意味よ〜。」

「キリトさんだけ?でも……キリトさんだって一応は創世の神でしたよね?あのヒトが何かを望むことなんかあるんですか?」

「キリちゃんは神々と違って創造神。そして彼は戦神。彼が欲したのはね〜同等の力を持つ存在だったのよ〜?あの子戦闘狂だから。」

 

 

キリトさんが戦闘マニアなのは知っている。しかし彼と同等の力を持つ存在……。

何故だろう。その時ふとシズクが脳裏をかすめた。

 

 

「ところで四つの証って?お二人なら神龍に会えるんじゃないですか?証なんてなくても。」

「もちろん会えるわよ〜?2人の力を合わせれば強制的に引っ張り出すこともできるわ〜。でも、勇者君は何の努力もしないで神龍に挑戦して願いを叶えてもらうの〜?」

 

 

 

そんな訳ない。俺がシズクを諦めるなんて選択肢があるはずがないんだ。

 

 

 

その時おれは思ったんだ。

神龍を探して願いを叶えてもらう。

 

これが本当のドラゴンクエストだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あのルビス様?いかにも俺が言ったみたいなナレーション止めてもらえません?」

「あら〜フフフ。」

 

ルビス様、アンタ本当にシズクソックリっすね。いつだったか同じことをアイツもやってましたよ。

 

「ところで2人とも何で衣装を変えたんですか?」

 

ドレスを纏っていたルビス様は、眩い光に包まれると、なんと僧侶の衣を纏っていた。

 

「なんでそんな格好を?」

「あら?だってパーティに僧侶は必要でしょ〜?」

「パーティ?誰が誰と?」

「勇者くんと私よ?だって貴方、どこに証があるか知ってるの〜?それに奇跡の泉の場所とか。」

 

確かに……。

でも何故だろう。シズクの僧侶以上に危険な気がするのは。ヤンデレ僧侶より危険な最恐僧侶だ。

 

「待たせたなマコトくん。さぁ行こうか?」

「何すかその格好は。」

「私は羊飼いだ!」

 

羊飼い。俺のいた世界には存在しなかった職業だけど、何故だろう…全く役に立ちそうな気がしない。

 

「本当は行きたくないんだが、マコトくんの頼みなら仕方ない。特別に付き合ってあげるから感謝しなさい。」

 

しかもなんだよ、その気持ち悪い言い方。しかも何か照れてるし。

 

まぁそんな感じに、俺のシズクを探す為に神龍の元へ行く旅は、いきなり凄い仲間を引き連れて始まった。

 

 

 

. .◆

 

 

「なぁ姫は何故動かないと思う?マコトが来た事を知らないわけがないだろうに。」

 

 

 

神界の中にも光の届かない場所がある。

本来光に満ち溢れた大地であるにも関わらず、その場所には光が届かない。そんな異空間を神々は魔界と呼んだ。

そんな魔界で身の丈数十メートルはあろう巨龍が、その大きな四つ頭を揺らしながら全身黒づくめの男に問うたのだ。

しかしその問いに答えたのは別な者だった。

肩に掛かる長い金髪をかきあげながら、巨龍に臆することなく答える。

 

「ロレンス何度言えば分かるのですか?魔王様を姫などと呼ぶのはおよしなさい!魔王様の威厳に関わるわ。だから貴方達だけにアレフガルドでの事を任せるのは嫌だったのよ。何で魔王様は私に留守を命じたのか……。」

 

いつものミレーユの小言が始まった。巨龍ロレンスはその巨体を器用に竦め鼻を鳴らす。

キングヒドラのロレンスにミレーユ、そして今は趣味の旅に出て不在のバラモスブロスのキョウイチに、そんな三人を纏める創造神の一翼たるエスタークのキリト。

この四人が姫…もとい、魔王シズクの最強の従者だ。

以前は四神などと言っていたが、アレフガルドでの一件以来、今ではすっかりロイヤルガードを名乗るようになった。

魔王シズクも特に異をしめさず、キリトは寧ろノリノリだったため、反対一名のミレーユも渋々受け入れたのだ。

 

「キリト様、魔王様はなんと?」

 

ミレーユは苛立ちを声に乗せながら問うが、キリトもいつもの様子でノンビリかわす。

 

「シズクは何も。普段なら何もかもを蹴散らしてでも飛んで行きそうなものだが…きっと本当の自分を見せることを恐れているのかも知れないな。何せ魔王だしな。」

「確かに。」

 

キリトの発言を聞いていると、いかにも姫が言いそうで笑える。

「ハハハ。さすがは最も姫の側にいるキリトだ。良く似ている。」

「ロレンス!貴方またっ!!」

「まぁ良いじゃないかミレーユ。本人も魔王と呼ばれるのは不服なようだし。」

「しかしキリト様……。」

「大丈夫だよ、アイツがどんなに否定しようが、シズクは魔王なんだよ。それに思い出してみろ、アイツが今まで可愛がっていたペットの末路を。シドーやムドー。それに妹のように可愛がっていたミルドラース。その全てが人間の世界で魔王や魔神になった。きっとこの前拾ったラプソーンとか言う子供もそのうち……。アイツは何を言っても魔王や魔神を育ててしまうんだよ。」

「……。」

「……。」

 

キリトの発言にミレーユもロレンスも言葉が出ない。ロレンスは特にあの世界で活き活きとした魔王の姿を見ている。本来彼女が望んでいる立ち位置なのだろう。

 

そんな重苦しくなった空気が部屋を支配仕掛けたとき、キリトは空気を払うかのようにあえておちゃらけてみせる。

 

「それより……そんなにシズクの真似は上手かったか?キリトさんぶち殺しますよ!!とか?」

「ハハハ!!ソックリソックリ。」

「ちょっ!止めて下さいよキリト様。プププ」

 

その後もキリトのシズクのモノマネで3人の暗くなりかけた話しはここで閉じ、代わりに3人の笑い声が闇の中にこだまする。

 

 

 

 

 

 

とても懐かしい風が吹いた気がした。

 

私の胸の奥で今も残るあの甘い日々。

彼が勇者の道を歩くことを決めたあの日、魔王である私はやがて訪れる別れが決まった。

 

彼は長い旅路の末に、勇者として成長し見事ジジイ(お父さん)を退け大勇者となった。

そして彼は余生を幸せに過ごす……筈だった。

 

だと言うのに彼は、子供の頃に交わした約束を今も守ろうとしている。

 

「バカですよマコトさん…。」

 

久しぶりに呼んだその名前。

するとあの日、凍てついてしまった私の時間が動きだす。

名前を声に発するだけで胸が熱くなる。今すぐに会いに行きたい。でも会いたくない。きっと彼はもう私の事を知ってしまっただろうから。

 

会いたい…でも会いたくない。

 

間逆な心で私の胸を張り裂けそうになる。

 

キリトさん助けてよ……。

 

私は魔王シズク。

愛に飢えた魔王。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何て事を考えてるんじゃないか?」

 

「ギャハハ!!キリトお前も悪いヤツだなぁ。姫のことそんな風に見てたのかよ。」

「乙女チックな魔王様とか…ヤバいツボに入ったわプププ…………ッ!!キ、キリト様?私急用を思い出しまして、これで失礼いたしますわ。」

 

ミレーユは慌てるというより、真っ青になって旅の扉を開き去って行った。

ロレンスの方を見ると、本性はキングヒドラと呼ばれる巨龍で肌はもともと青い毛に覆われている。しかし今のロレンスの顔は、それを遥かに超えた青色で、空いた口が塞がらないと言った顔をしている。

 

何か凄まじい魔力を感じて恐る恐る振り返ったキリトが見たものは、扉の隙間から覗く紅い瞳だった。

 

「ひっ!!!」

 

短い悲鳴をあげたキリトは魔王を見た。そう思った。

扉の隙間からヒョッコリ顔をだした彼女は女神の如き微笑みを浮かべていた。キラキラと輝く白銀の髪も艶やかに揺れている。

そんな彼女は微笑みを浮かべながら右手でコイコイとジェスチャーをしている。

キリトは身の毛もよだつ悪い予感が全身を支配した。

何故ならば魔王の瞳は、輝く虹彩が消え失せていたから……。

 

 

 

 

光も通さない闇の奥ふかく、エスタークの悲鳴だけが響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別サイトでのハッピーエンド用の素敵なイラストです。

最終回を迎えたので、こちらも挿絵のみ。

是非先生の素敵なイラストをご堪能ください

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 




レンダーシア編と言うか、神龍編と言うか……

一応本編の続編的なものを1話だけ書いてみました。
需要があるとも思えないので、この続きを書くかは未定です。

夜にでも活動報告を上げる予定なので何かネタがありましたら、是非是非ご協力をお願い致します。

その他、要望などもあったら何でも言ってくださいねm(_ _)m



シズク



別サイトで完結の際に描いて戴いた素敵なイラストを、こちらの方にも載せささて戴きました。
別サイトの方はドラクエ色が薄く、オリジナル色が強いため、ドラクエ小説としては、こちらのサイトの方が比較的正式な小説となっていますが、せっかくなので挿絵のみ紹介させて戴きました。

活動報告ともども、宜しければご覧になってください


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27話

 

 

 

 

 

 

 

「お二人揃ってお出掛けですか?」

「えぇ〜、お城までちょっとね〜。」

「お二人が再び神々を導いて頂けるのですか?」

「いやいや。今はもうセレシアに任せているからな。」

「そうですか。それは残念です。」

 

 

旅の道すがら、すれ違う度に神々がゾーマとルビス様に話しかけてくる。その全ての神々が笑顔で語りかけ、それに応える2人もまた笑顔で相対する。

こんな姿を見ていると2人が神界レンダーシアにおいて人気が高いことを知らされる。

 

俺たちは今、神界の女神セレシアに会うべく城へと向かっている。

奇跡の泉で神龍に会うための証の一つ、ルビスの証は女神セレシアに預けてあると言うので、それを貰い受けに行ってるわけだ。

ゾーマの話しでは、ルビスの証は城に、エスタークの証はキリトさんの家に。そして神龍の証は恐らく人間界にあるのではと言う。

三つの証が集まった時にゾーマの証が現れて、神龍へと至る道が開けるのだとか。

 

以前は証を探す為のド◯ゴンレーダーなる物があったらしいのだが、昔寝ボケたシズクが目覚まし時計と間違えて叩き壊してしまったらしい。

さらに最近では、神龍のあまりの強さに挑戦する者も久しくいない事もあって、特に直さなかったそうだ。

 

そうこうしている内に俺たち3人は大きな建物の前に着いた。

 

「あれ?城下町に行くんじゃないんですか?」

「そうよ〜?でも城下町まで歩くと距離があるから天の箱舟に乗っていきましょ〜?ほらちょうど来たみたいよ〜。」

 

そう言ってルビス様が指差した方角の上空から、ポーッと凄まじ汽笛を鳴らして大きな箱が入ってきた。

そして無駄に無から創る創造神の力を使って出したであろう、黒いコートと帽子を被ったルビス様は、俺に手を差し伸べる。

 

「行くわよ〜鉄郎。」

「だから誰が鉄郎だよ!!」

 

思わず突っ込んじゃったじゃないか。

 

そんなやり取りをしていると、ゾーマはやたらと大きな服を纏い、深く帽子を被った状態で現れた。

絶対に突っ込まない。

俺が特に取り合わずに箱の中に入っていく。ふと後ろを振り返ると、ゾーマが鼻を鳴らしてイジケテいた。

泣かないでくださいよ。全く…

 

 

 

 

 

箱の中は沢山の座席が其々向かい合うように配置されており、俺たち3人が徐に席に着くと車両内アナウンスが、汽車の行き先を告げる。

いろんなプラットホームと言う所を経由しつつ、城下町へと向かうらしい。

 

 

「本日は天の箱舟をご利用ありがとうござい……あれ?ルビス様とゾーマ様ですよね?ヤバい、ちょー感激なんですケド。」

 

座席に着くと、羽が生えた妖精のような真っ黒な女の子の車両スタッフが冷たいおしぼりを手にやってきて挨拶をすると、ルビス様やゾーマの存在に気付いたようで駆け寄って来た。

 

「あら〜?サンディちゃん?久しぶりね〜。アレフガルドいらい?」

「はい、ご無沙汰しています。そこのショボいのも久しぶりだね。」

「ショボいのとか言うな!!」

 

相変わらず俺に言葉の痛恨の一撃をくらわす

黒い妖精のような女の子の名はサンディ。アレフガルドで出会った独特な……いや、俺の妹と良く似た話し方をする女の子だ。

ルビス様の話によればサンディは、グランゼニスと言う人型の神の始祖の娘らしい。

 

「サンディちゃんはアルバイトかね?グランゼニスは元気しているかい?」

「はいゾーマ様。私は夢のネイルアーティストになる為にアルバイトしてんだよー。お父さんはたぶん元気じゃないかなぁ?仕事ほっぽりだして遊びに行っちゃったみたいだし?セレシアお姉ちゃんが代わりに神様の仕事をしてるんだけどー、ガン黒の女神とかちょーウケるんですケドー。しかも忙しすぎて日サロに中々行けないみたいでぇー最近ではお姉ちゃん、だいぶ白くなっちゃったんだよ?ね?ウケるっしょ?だからお姉ちゃんの代わりに私が日サロ行き始めたんだぁ……。」

 

アレフガルドでは真っ白だったのに、だから黒くなっていたのか。

まくし立てるように話し続けるサンディと微笑んでいるけどたぶん話しを聞いてないルビス様と、彼女の話す言葉についていけずに頭から煙りを出しているゾーマ。全くやれやれだ。

 

延々と続くサンディの話しはいつまで続くかと思ったその時、再び艦内放送が鳴り響く。

 

「業務連絡です。サンディ!!どこで油売ってやがる!!さっさと帰ってこい!!」

 

艦内放送の男性の怒声を聞いたサンディは飛び上がる

「ヤバ。またテンチョーがちょー怒ってる。私戻らないと。ルビス様、ゾーマ様あとそこのショボいのまたね〜。」

 

去り際にしっかりとダメージを与えてサンディは走り去って行った。

そうしている内に機関車は終点である城下町に辿り着いた。

 

 

 

 

空を走る機関車が地上へ向かって降下している時に、逆に空へと向かって走る機関車がすれ違う。

プラットホームと言う所を基点に機関車はたくさんあるようだった。

その時、バンって音と共に少しだけ振動が伝わる。

 

 

「あら〜?」

 

ルビス様はすれ違って走り去って行った機関車を暫く見ていると、ま、いっか!とばかりに再び向きを戻す。

ゾーマはと言うと……なんか顔が青い。まさかとは思いますが、乗り物酔いだなんて事はないですよね?

 

 

 

 

 

 

プラットホームを出て城下町に降り立つと周りの景色に圧倒された。

 

でかい。

 

とにかく何もかもが大きい。

その中でも群を抜いて目立つのは城下町を囲うようにある壁だった。町の中心部に城があるのだから城壁も兼ねているのだろう。

しかしここは神界。

何から町を守る為の壁なのだろうか。

そんな俺の疑問に答えたのは、エチケット袋を手にしたゾーマだった。

 

「神界には魔王軍からの攻撃に備える為の防壁が至る所にあるのだよマコト君。」

「魔王軍って……シズクの?」

「あの子自体そんな気は無いのだろうが、周りには魔族や神族の若者があの子の強さに心酔して担ぎ上げているからなぁ。シズクはその若者が暴走しないように魔王として君臨しているのだよ。たぶん……」

 

ため息混じりにゾーマが話しているとき、はるか上空から俺たちの前に巨大なドラゴンが降り立った。

 

 

黄金色に輝く鱗、巨大な躰を支える強靭な脚。口から溢れる炎より更に赤い瞳。

アレフガルドで見てきたどの魔物よりも遥かに強いであろう事は直ぐに見てとれた。

俺は2人の前に立ち、この巨大なドラゴンに立ち塞がる。後ろの2人は創造神。俺なんかより遥かに強いが、勇者たるもの常に一番前で敵に相対するものだ。

 

俺は腰の剣に手を……あれ?

 

 

「あーーっ!!アレフガルドに装備一式置いてきたんだったぁ!!!」

 

 

 

俺は慌ててゾーマの後ろに身を移すと

 

「ヘタレだなぁ。」

「ヘタレね〜。」

 

まさかの痛恨の一撃2連発がきました。

俺のHPは既にオレンジ色ですよ。

 

 

ゾーマがドラゴンの方に右手を上げると、ドラゴンはゴロゴロと喉を鳴らして、ゾーマの手に鼻をなすりつけている。ルビス様もそんなドラゴンの頭を愛おしそうに撫でている。

 

「勇者くん〜?この子はおとなしい子だから大丈夫よ〜。ほら勇者くんも撫でてあげて?」

 

大人しい?これが?

先程までゴロゴロ言っていたドラゴンは、今はグルルル…とか言って明らかに威嚇しているように見えるんですけど。

俺はそーっと手を出すと

 

ゴォーー!!

 

っとドラゴンは炎を吐いた。

やっぱり…嫌な予感してたんすよ。

ギリギリでかわした俺

 

「あら?避けたわ〜。」

「おお!やるなマコト君。」

 

などと言っている創造神の2人。要するに最初からこうなると分かっていたようだが、フッ俺の唯一の誇りをきけ!

 

「俺は確かに何度も死にまくった。だけどなぁ…よく聞けよ!俺はなぁ、俺は、自慢じゃねーがシズク以外に殺された事はねーんだよ!!」

 

 

創造神2人に指差して言い放ってやった。

俺の魂の叫びを聞いた創造神2人は目を点にして驚いていた。

 

「……本当に自慢にならないわね〜。寧ろ情けない。」

ルビス様は憐れみの目を向け、

「マコト君…シズクの親としては、その…なんかゴメンねとしか言えん。」

ゾーマは俺の肩をポンポンと叩く。

 

「何だよその俺が可哀想な子扱いは!!ちくしょー!!」

 

 

「あははは……。君、面白い子だね。」

俺が創造神2人と話していると、創造神の背後のドラゴンは急に笑い出した。

 

するとドラゴンは眩い光に包まれてやがて小さなヒトの形になっていく。一際強い光を放つと、そこにはドラゴンではなく、14、5歳ぐらいの白いドレスを纏った女の子が現れた。

 

「お久ぶりです。ゾーマ様にルビス様。」

「セレシアちゃんも元気そうで何よりだわ〜。」

「セレシア、元気にしていたかい?」

 

2人に頭を撫でられて嬉しそうにしている少女はセレシアと言うらしい。

あれ?セレシアって……

 

 

「えーーー!!この小さな女の子が神々の女王なのぉ!?」

 

俺の驚く姿を3人は笑って見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……まぁだいたい状況は把握しました。つまりこの人間は、シズクお嬢様に会いに神界レンダーシアまで来たと。で、来てみたは良いが肝心のシズクお嬢様の居所が分からない。そこで奇跡の泉に行き、神龍に挑み願い事を以って再会を果たしたい…と?そういう事ですね?」

「さすがセレシアちゃん〜。理解が早くて楽だわ〜。」

 

ニコニコと微笑むルビス様と、その横で何やら諦めたような顔をしたゾーマを、セレシアはジトっとした目で見ている。

 

 

俺たちは現在、城の上階に位置する謁見の間にいる。

その道すがら、セレシアにこれまでの経緯を教えたのだ。

 

 

 

「おっしゃる通りルビス様の証はこの城にございます。お二人の部屋はそのままですから、そちらにあると思いますよ?」

「あら?あの部屋はセレシアちゃん達が使ってるんじゃないの〜?」

「そんな恐れ多いこと私にはできません。そんな訳ですからお二人の部屋にまだあると思いますのでどうぞお持ちください。ですが……お嬢様は先程まで城で妹とお茶していましたよ?城下町での買い物ついでに寄られたようです。」

「え?あの子が来てたの〜?私なんて300年近く会ってないわよぉ?」

「そうなんですか?私は割とよく会ってますよ?私とだったり妹のサンディとだったりしますがーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー

ーーーーーー

 

 

 

 

 

〜数時間前〜

 

 

 

「ねぇちょっとアレ…英雄キリト様じゃない?キャー」

 

城下町を歩けば道ゆく者 誰もが色めき立つ。全身黒を基調とした装備と、肩に背負う二振りの神剣。闘いを志す者達全てが崇め、英雄に憧れる者達全てが熱い視線を送る。そんなキリトは、神界レンダーシアを始めとしたあらゆる世界と、多種に渡る現在の生物達の始祖の誕生に関わった創世の神として知られている。

 

「……そんな俺が何で荷物持ちなんか…ん?この刀はなかなか業物だな。」

 

露店に飾られた刀を持つと、軽く一振りしてみせた。

武器は只の道具ではない。それがキリトの持論である。達人が持てば竹槍も伝説の武器に匹敵するし、逆にどのような伝説級の武器も、レベルが低い者が持てば鈍らとなる。しかし往々にして達人ほど武具に目利きが効くので、結果的に経験値豊かな戦士が強い武具を持っているのだと。

実際キリトが軽く振った剣の軌道が未だにキラキラと輝きを放っている。

 

「もぉ…ブツブツ言ってないで荷物ぐらい黙って持ってくださいよ。」

 

キリトと同じく適当に手にした刀を眺めながら少女が言う。顔を隠すようにフードを深く被った少女は魔王シズクその人である。バレたら騒ぎになる為、配慮した結果の姿だ。

 

「買い物ならミレーユと行けば良いじゃないか。」

「ミレーユさんは食事の支度ですし、それにミレーユさんとだとセンスは良いのですが、すぐ節約節約いうんだもん。それとやっぱりキリトさんとじゃないと……。」

「俺じゃないと?」

 

彼女は身体をすぼめてモジモジしている。まぁこうしている分には可愛いのだが

 

「荷物を持つ人がいないじゃないですか。」

 

わざわざ声のトーンを下げてエコーまでかける辺りは実にシズクらしい。

 

「なんだよ。せっかくお前が甘い声で、濡れた瞳で一緒にお出かけしたいんですって言うもんだから期待しちまったじゃねーか。」

「ふ、普通に言っただけじゃないですか!気持ち悪い。」

「嘘だねー!お前は確かに甘えるように言いましたー。詐欺だ詐欺!!」

「さ、詐欺?……言いたい事はそれだけですか?」

「ゲッ!ちょちょっと待てシズク……」

 

 

 

キリトはそこまで言って自分の失敗に気が付いた。シズクはまだ刀を持ったままなのだ。身の危険を感じたその時、なんと彼女は刀を鞘に収めた。

そして女神のような微笑みをみせると

 

 

「天翔龍閃(天翔る龍のひら○き)!!」

「ぐはぁ!」

 

シズクの文字通り魔王の如き抜刀術がキリトに決まる。

 

「最近、手加減ないっすね……」

 

薄れ行く意識の中耳に入って来たのは、シズクが暴れた事で魔王だとバレて大騒ぎになった城下町の阿鼻叫喚の悲鳴だった。

 

 

 

 

 

どれだけ気を失っていたのかは分からないが、意識を取り戻した俺の耳に2人の談笑が届く。

身体を起こして周囲の様子を見ると、ここが城内だと気付いた。嘗てゾーマ様やルビス様。そしてシズクと暮らしたこの城を。

 

「気付いたみたいですね。」

「大丈夫ですか?キリト様。」

 

部屋の中央でテーブルを囲んでお茶を楽しんでいるシズクとサンディが続けて聞いてくる。

俺は右手を上げることで無事を伝え、俺も席に着いた。

 

「でさぁシズクちゃん。もう一度聞くけど、何で直ぐにショボいのに会いに行かないの?ショボいのが神界に来たこと気付いてないわけじゃないっしょ?」

「……それは、彼は勇者で私が魔王だからです。」

 

やっぱりシズクは自分の存在が疎ましいようだ。

 

「じゃあ、他の人に取られても良いの?例えば私とか。」

「ダメです。」

 

即答ですか。シズクの数少ない友人のサンディも苦笑いしてるよ。会いたいのに、自分を気にして会えない。答えなんかいつまで経っても出ない思考の袋小路だ。

可哀想だが、現状ではどうにもなりそうにない。

 

「あ!そうだシズクちゃん。この後ゾーマ様とルビス様が城に来るみたいだよ?私、2人を天の箱舟で迎えに行く約束になってんもん。なんでもルビス様の証を取りにくるんだとか。」

「え?ここにババア(お母さん)達が来るんですか?ちょっとヤバいじゃないですか。キリトさん帰りますよ?」

 

慌てて席を立つと、サンディにまたねと簡単な挨拶だけ交わし俺の手を引くシズク。

あの一件以来、ルビス様が一瞬目を離した隙に逃げ出したシズクは今もなお絶賛家出中だ。ルビス様のお仕置きを恐れての事なのだろうが。

 

ニコニコと笑顔で手を振るサンディを背にシズクは俺を引っ張るように天の箱舟のプラットホームへと走るのだった。

 

 

急ぐ割には買い物とか言う寄り道をしながら……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

シズクがさっきまでここに?

 

 

「あったわよ〜。」

 

部屋にルビスの証を探しに行っていたルビス様は笑顔で戻って来た。

手には何の物質で出来ているのかは分からないけど、黄金に輝く三角形のプレートがある。どうやらアレがルビスの証なようだ。

 

「はい勇者くん。さぁ、それを両手で頭上に掲げて?」

 

俺は言われるままにルビスの証を頭上に掲げると、ルビス様は満足そうに微笑んだ。

 

 

しかし暫く経っても特に何も起きる様子がない。

 

「あの…ルビス様?このポーズに何か意味はあるんすか?」

「ないわよ?」

「は?はぁぁぁぁあ!??い、意味ないんですか?このポーズ」

「うん。だって重要アイテムを手に入れたら、これ見よがしに頭上に掲げて私たち(神様)にアピールするじゃな〜い人間って。だから、知恵のトライフォー◯(ルビスの証)ゲットよ〜」

 

なんてアッサリとポーズが無関係な事を認める女神なんだろう。もしかして俺は遊ばれているのではないだろうか。

 

「ちなみにキリちゃんのは〜勇気のトライフ◯ースで〜、神龍のは力のトラ◯フォースってとこかしら〜。」

「そうだ。そして3つが重なり合って発現する私のゾーマの証こそ……。」

「ただの鍵よ〜。」

「ちょっとルビス?流石にそれはあんまりじゃ……」

「ただの鍵よね〜?」

「はい……。」

 

ルビス様に言い負かされているゾーマは何だか他人事に見えないのは何故だろう。

 

 

こうして一つ目のルビスの証を手に入れた俺は次の証を探しに行くのだった。

 

 

 

 

ーー続くーー

 

 

 

【キリトの災難】

 

 

 

「なぁシズク、サンディの話を聞いたか?」

「なんですか急に。」

 

買い物帰りの天の箱舟のなか、席に着いて一息吐くとおもむろにキリトは話しかけた。

 

「さっきサンディは、ルビス様達は城まで証を取りにくると言ってたが…アレってもしかして。」

「……!!まさか、あのババア(お母さん)達はマコトさんを神龍に挑ませるつもりじゃ…。」

 

 

流石のシズクもあまりの事に絶句する。

 

 

「それしか考えられないだろう。神龍の強制力の力なら、例えゾーマ様と言えど抗えない。もし万が一マコトが神龍に勇気を示したなら…シズク、お前はマコトの前に立たなければならなくなる。」

「……キリトさんは意地悪ですね。神龍の戦歴を貴方が知らない何て事はないでしょう?」

「……悠久の時の中で俺の一度だけだ。神龍が願いを叶えたのは。そして俺は神龍の言われる通り、マルディアスでお前と出逢った。」

「まぁそれはどうでも良いのですが、問題はそこなんです。いくら神の力を得たマコトさんと言えど、所詮は神なんです。創造神である神龍には到底及びません。それが解らないババア(お母さん)ではありません。それを踏まえた上で考えられるのは……。」

 

どうでも良いって……

流石にキリトも苦笑いを浮かべる。

 

 

「あぁ……これは遠回しの人質だろうな。マコトを生きて返してほしくば家に戻れと言うところか。」

 

 

2人はそこまで言って、高笑いするルビスを思い浮かべて身震いする。

 

 

「まぁ何にしても、俺のキリトの証をマコトが手にしない限り神龍には辿り着けない。だから大丈夫だ。」

「……その証は今どこに?」

「俺の家だ。」

「……鍵は?」

「もちろんかけてない。」

「「……」」

 

「さっさと取りに行けーーーー!!!」

 

魔王の怒りの鉄拳がキリトの顔面にめり込むと、ガシャーン!!と、乾いた音を立てて、遥か上空を走る天の箱舟の窓ガラスを割って叩き堕とされた。

 

そして更に運の悪い彼は、ちょうど向かい車線を走ってきた城下町行きの天の箱舟に跳ねられた。

 

その列車にマコトの一行が乗っていた事を魔王はまだ知らない。

 

 

 

 

 

そのころ魔王城では、台所で阿修羅の如き動きで次々と料理を作るミレーユがいた。

長い金髪を後ろで束ね、誰もが息を呑む手際の良さである。

 

「だいたいこんな所かしら。」

 

ミレーユはそう独りごちて、鍋のスープを小皿に入れて味見する。

 

改心の出来だ。きっとこれなら魔王様も感激するに違いない。ミレーユは魔王からの褒美の言葉を想像し、独りほくそ笑む。

 

時計を見れば2人が帰ると言った時間はとうに過ぎている。しかしミレーユも、2人が遅れるなど毎度のことなので大して気にはならない。

 

しかし美味しい内に食べてもらいたいミレーユは、窓の外を見て独り呟く

 

 

 

「魔王様……おそいな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く。



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28話

 

 

 

幼い頃、僕は一度だけ女神に出逢ったことがある。

 

 

 

血と燃え盛る炎の煙でむせ返るような戦場跡。誰一人として動く者はいない。

降りしきる雨が、戦いの跡を文字通り洗い流しているような……そんな真っ黒な世界の中、顔を打つ雨で眼を覚ました。

 

キシキシと痛む身体を引きずるように戦場跡と化した街を歩くと、至る所に息絶えた神々や魔物たちが横たわっていた。中には見知った顔もおおくいた。完全に生命力が尽きているのでザオリクも最早効果を望めない。

殆ど全ての家屋、街の中心部にある教会など全てが瓦礫と化し、湖の水は枯れ果て、草花もすべて焼け落ちた。

一面真っ赤に染まる空は絶望の色を映す。

僕は幼いながらに自分の死を悟った。

 

そんな絶望渦巻く神界の中の地獄。まるで終わりゆく世界の正にその時だった。

どこまでも続く雨を降らせる分厚い雲の隙間から、神界でも中々お目にかかれないような光量の光の柱が、一筋街の中心部へと走った。

 

光の柱の、目がくらむような光量を手で遮るように見たその中には、長い髪を優雅に揺らしながら光と共に雲の隙間から降りて来る一人の女性が見えた。

 

それを見た僕は、痛みも忘れて街の中心部へと走った。

理由なんて分からない。気付いたらそうしていたんだ。

 

 

街の中心部へと着いた僕は、崩れた壁の隙間から彼女を見た。

 

 

年齢で言えば18歳前後の少女と女性の間ぐらいに見えるが、神界において見た目と年齢は意味をなさない。

腰まで伸びるキラキラと輝く白銀の髪。真っ赤な戦場で一際輝くような白い肌。少し赤みを帯びた瞳。

 

 

 

白銀の女神だ。僕は瞬時にそう思った。

 

僕ら神々の中にも噂話の伝説がある。歳月による死のない僕ら神々は、死というものはあまりにも遠い事象だ。そんな神々の死の間際に現れると言う白銀の女神の伝説。

 

何もかもを洗い流すような豪雨は、彼女を避けていた。彼女の上空が晴れているのではない。文字通り雨が彼女を避けているのだ。まるで空間そのものが彼女と言う異質な存在を拒否しているかのように。

 

そんな神界に現れた異質な女神は、神魔問わず既に命の去ったモノに、優しく触れている。

彼女がそっと触れたモノは、赤や緑、青といった、おそらくはそのモノが司っていた事象を表す魔力の色の粒子となり、空へと消えていく。

 

〝ごめんなさい〝と繰り返し繰り返し謝りながら、自らが血糊で汚れることも厭わず、1人また1人と無へ還してゆくその姿は……不謹慎だけど子供ながらに僕は彼女が美しいと思ったんだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーオーーーーーース

 

ーーーーエルーー

 

 

「おいエルギオス?大丈夫か?」

「き、キョウイチ様?すみません、少し昔の事を考えていました。」

「エルギオス……お前のソレは走馬灯と言って、人間の間では死の直前に見る、言わば死亡フラグだ。縁起でもないから止めてくれ。」

 

バラモスブロスのキョウイチはため息まじりに部下の走馬灯を止めさせる。

部下を落ち着けた事で一息ついたキョウイチは、改めて自分たちの置かれた状況を確認する。

 

2人は狭い部屋の中央にいる。両腕は後手にキツく縛られている。椅子に座ってこそいるが、両足も括られているため、立ち上がることもできそうにない。

魔法も封じる効果があるのか、イオナズンも効き目がなかった。

完全に拘束されているという事だ。

 

しかしキョウイチは万を超える魔王軍の将軍。ここで慌てふためく姿を部下に見せるわけにはいかない。そこでキョウイチは先ず何故こうなったのか、その経緯を振り返る。

 

 

確か………

 

 

アレフガルドでずっと殺伐としていた気分を晴らすかのように、魔界グランゼドーラに還った彼は趣味であるロードバイクの旅に出ることにした。

 

魔王は、自分でたてた計画通りだったにも関わらず、マコトを残してあの世界を去った事をずっと悩んでいたらしく、心ここに在らずと言った状態だった。グランエスタークのキリトを始め、キングヒドラのヒデアキに俺は暫くそっとしておく事にした。まぁ、毎度の事だったから。

しかし同じロイヤルガードのミレーユだけは、魔王を終始庇っていた。それが結果的にはまずかった。

 

魔王は、最初こそ大人しくしていた。マコトとの思い出を思い出しては泣いている、そんな100年だった。

次の100年は、ミレーユによる慰めだった。「男は勝手」だの何だのと、男から言わせれば勝手な言い分だが、それで魔王の悲しみが癒えるのならと、目を瞑ったものだ。

 

どんな悲しみもやがては薄れていく。魔王は誰よりも死を多く見てきたのだから、誰よりも強く、誰より美しく立ち直ってみせるだろう。

 

 

 

 

などと思ったのがそもそもの間違いだった。

 

 

 

さすがは魔王と言うべきか、彼女はいつも我々の予想の斜め上を行く。

ミレーユによる慰めにより魔王は、なんと失敗を他人のせいにしだしたのだ。完全に八つ当たりである。

繰り返す、八つ当たりである。

そしてそれは特に我々ロイヤルガードの面々に向った。

 

こうなっては堪ったものではない。

ヒデアキの奴は、得意の買い物でプレゼント攻撃により難を回避。ミレーユは、毎日の食事に世話焼き、そして魔王を持ち上げる事で難を回避。

俺はと言えば、英雄キリトに魔王の八つ当たりが向いてる隙に逃亡し難を回避した。

しかしキリトだけは、婚約者(仮)と言う立場もあり逃げも隠れもできない。まさに進退窮まっていた。

いくらキリトが、創世の神の中でも最も防御力が高いとはいえ、魔王のエゲツない攻撃に耐えられるはずも無く、魔王の放った『マダンテ』によりボロボロになった事を、逃亡の旅の道すがらヒデアキから聞いた。

 

その時の微かに漏れた力が、魔界と神界の境界のある村にこぼれ落ち、運悪く小競り合いをしていた神魔数千が犠牲になったと言う。

 

横にいる我が部下の経験した〝大いなる厄災〝の真相なんてものは、実はそんなもんだ。

もちろんその後魔王は、ルビス様に電話でこっ酷く怒られて、完全に死んでしまった神族や魔族を生き返らせる為に、ルビス様とゾーマ様の元にバシルーラしていたそうだ。それも罰としてたった一人で。

 

 

 

 

 

 

 

そしてそんな優雅な趣味の旅行中、ミレーユから一本の電話が入った。逃げた事を怒っているのかと、恐る恐る出てみると、意外にも簡単な頼まれごとだった。

 

「キョウイチ?あなた何処をほっつき歩いてるのですか?」

「趣味の旅行だよ。」

「旅行?それより魔王様からあなたに指令があるのよ。」

「あ?指令だ?」

「ちょっとお待ちなさな。今魔王様に変わるから。」

「久しぶりですねキョウイチさん。」

 

電話の向こうの魔王の声は明るい。軽やかな小鳥のさえずりのような声を聞くと、不思議と彼女の笑顔が思い浮かぶと、自分の顔も緩むのを感じる。

 

「指令があるんだろ?」

照れてる自分を悟られまいと、少しだけ突き放すように言ってやった。

「指令?いえ、あの……お願いがあるんです。」

「お願い?」

「はい。キリトさんの家に行って、キリトの証を持ってきてほしいんです。」

「キリトの証を?」

「はい。」

 

正直拍子抜けした。どんな指令が来るのかと思えば、証を取ってくるだけどは。

「それは構わないんだが、キリトは?」

「キリトさんは天の箱舟に轢かれまして……今は私の隣でベッドに臥せっています。ほら」

 

ほらと言われても……と思ったのだが、電話の向こうでキリトの悲鳴が聞こえる。大方、魔王が傷口をツンツンと突いているのだろう。

 

「とにかく、キリトの証を取ってくれば良いんだな?」

「はい。あ、そうだ!あまり遅くなるようでしたら、逃げ出した分も含めてお仕置きしますからね?」

「ひっ!!す、直ぐに取ってまいります!」

 

しっかりと念を押す魔王の声は、何トーンか下げた、しかも自分で声にエコーをかける、『私、怒ってます』の、分かりやすい脅し。俺は大急ぎでキリトの家に向かうのだった。

 

 

そこで俺は思い掛け無い再会を果たしたのだ。

 

「キョウイチ?キョウイチだよな?」

 

不意に声をかけられて振り向いたソコには懐かしい顔があった。

 

「マコトじゃないか!久しぶりだなぁ。やっぱりお前神界レンダーシアへと渡ってきたたんだな。」

「ああ、俺もお前に会えて嬉しいよ。」

 

2人はハグして再会を喜びあった。

アレフガルドでのことから実に300年。本当に懐かしい友人は、俺の予想を遥かに超えたパーティで現れたのだ。

 

「それにしてもマコト、お前凄いパーティだな。ゾーマ様に

、神界の女神セレシア、その妹のサンディさんと……何だ?マコトに引っ付いてるそのちっこいのは。」

「ちっこいの言うな!僕の名前はプサンだ!パパのように強い勇者になって、マスタードラゴンに将来なるんだぞ!」

「パパ?」

 

マコトと手を繋いでいる男の子は、鼻息荒くそうのたまわっう。それに付け足すようにセレシアは

「そうですよ。プサンは将来、1つの世界を管理することになる子供なんですからね?バカにするのは許しませんよキョウイチさま。」

 

神界の女神セレシアとは、魔王を通じてわりと付き合いは長い。相変わらず丁寧な口調とは裏腹に物騒なことを言うのは、語るまでもなく魔王の悪い影響なのだろうと推測できる。

当のマコトはと言えば、ただただ苦笑いをしているが、子供にパパと呼ばれ懐かれている姿、これは間違いなく今後ゴタゴタの火種になる事だろう。

マコトも今や神の一員。もしかして争いの元凶でも司っているのではないだろうか?

 

まぁ、何はともあれこの再会は俺にとっても嬉しいものだ。改めてマコトにアレフガルドで覚えた握手をすべく近付いた瞬間だった。

 

「あら?良いもの拾ったじゃな〜い」

 

とても美しく透き通った、それでいて一番聞きたくない声が聞こえたかと思った瞬間に、頭部への鈍い痛みとともに俺の意識は刈り取られるのだった。

 

 

 

 

 

 

「キョウイチ様、我々はどうなってしまうのでしょうか。」

「エルギオス、大丈夫だからあまり心配するな。俺は4人のロイヤルガードのうちの一人だぞ?魔王が必ず救出してくれるさ。」

「それにしてもキョウイチ様、彼等は何者なんですか?」

 

創造神や、神界の女神セレシアは普段あまり下々に顔を見せない。我が部下が彼等を知らないのも無理はない。

 

「特にあの黄金の女神は……あの伝説の白銀の女神によく似ているのですが……」

 

そりゃそうだ。実の母娘なのだからソックリに決まっている。しかし、とうの魔王もあまり下々の魔王軍に顔を見せないから、やはり知らないのだ。

 

「エルギオス、悪い事は言わないから、あの黄金の悪魔(ルビス様)には関わらない方が良いぞ。」

「それってもしかして私のこと〜?」

「ひっ!!」

 

いつの間にかすぐ隣にいたルビス様が、ニコニコと俺を覗きこんでいた。

「ま、まさかそんなことあるわけ……ウヘヘ」

 

手を擦りながら女神のご機嫌をとると、彼女はジトっとした目で見た後に、深い息を吐いてまぁ良いわ〜と流した。

 

「それで…俺はどうなっちゃうんでしょ?」

「ん〜?大丈夫よ〜。大人しくしていれば痛くしないわよ〜。あまり。」

 

最後に付いた言葉が気にはなるが、とりあえず直ぐには殺されなさそうだ。

 

それにしても、ルビス様はニコニコしているが、マコトやセレシアをはじめ、他の面々は妙に苦虫を潰したような顔をしているのが気にかかる。

触らぬ創造神に祟り無し。

俺は暫く様子を見ていると、ルビス様は僧侶の衣から携帯を取り出し、慣れた手付きで何処かに電話をかけていた。

 

プルルルル…ガチャ!

『はいシズクです。只今留守にしています。御用の方は……』

 

「あらあら。携帯で居留守を使うなんてね〜。ダメな娘ね〜。」

 

見た目な笑顔ほど笑っていない瞳のルビス様。そんなルビス様の肩にポンと手を乗せて笑うゾーマ様は

 

「ハハハ。お前はシズクに恐れられているからな、きっと帰らない事を怒られると思って出ないのだろう。どれ、今度は私がかけてみよう。」

 

そう言ったゾーマ様は何故か近くにいる羊のモコモコした毛皮の中から携帯を取り出し、魔王に電話をかけた。

 

『おかけになった電話番号は、現在、お客様のご都合により、お繋ぎできません…』

 

「……ちゃ……着拒否だとー!!!」

 

 

 

「なんでパパは着拒否なんだシズクゥ。」

と、マコトにしがみついてオイオイと泣くゾーマ様と、そんなゾーマ様の頭を優しくポンポンする勇者マコト。アンタ達仮にもかつては勇者と大魔王だろうが。いつの間にそんなに仲良くなったんだよ。そしてルビス様、貴女は少し笑いすぎです。

 

「あ〜面白かった。でも困ったわ〜繋がらないわね〜。そうなるとコレ(人質)は只のゴミだから、さっさと焼却しちゃいましょうか。」

「わーーー!!!ちょちょちょっと待ってくださいよ!キリトは?キリトに電話すれば繋がりますよきっと。」

 

サラッと爆弾発言する悪魔(ルビス)に俺は必死にしがみ付き、提案するが

 

「ダメよ〜キリちゃんはシズクの前ではやたらと情けないもの。きっと携帯もチェックされてるわ〜。」

 

確かに。

俺は素直にそう思った。でもリアルに命がかかっている以上こっちも引けない。

 

「じゃ、じゃあミレーユはどうすか?ロイヤルガードで一番生真面目なミレーユなら出るんじゃ?」

「ミレーユ〜?あ〜あの子かぁ。私、あの子の番号知らないもの。」

「おおお俺は知ってます!!なんなら俺が電話しますから!お願いだから殺さないで。」

「も〜面倒臭いなぁ〜。じゃあ一回だけよ?」

「は、はははい!」

 

面倒臭いときましたか。

しかし俺は女神に貰った一回限りのチャンスを掴みとるため、仲魔であるミレーユに電話するのだった。

 

 

 

 

『もしもし?』

「俺だ、キョウイチだ。」

 

電話の向こうのミレーユは、妙に張り詰めた雰囲気だった。

 

『なに?私、今とても忙しいのよ。それよりキョウイチ、貴方ちゃんと魔王様の遣いは果たしたのでしょうね?だいたい貴方は……』

「いや、それがちょっとあって……それで姫に代わってもらいたいんだけど。」

『キョウイチ!貴方は何度言ったら分かるのですか?魔王様をそんなヤワな呼び方……』

「分かった分かった、魔王様に変わってくれ。」

 

ミレーユはまだ不満そうにブツブツ言ってるが、どうやら魔王に代わってくれたようだ。

 

『代わりました。どうしたんですかキョウイチさん。』

「それが……姫、」

『はい。』

「俺の身柄は預かった。無事に返してほしくば……」

 

ブツン!ツーツーツー……

 

まだ何も言ってないのに切りやがった。

恐る恐る後ろを振り向けば、指先にメラの炎をちらつかせる悪魔大僧侶(ルビス様)

 

慌てて再度ミレーユの携帯にかけなおすと、明らかに嫌そうな声で魔王は出た。

俺は必死に今の状況を伝えると、魔王は深いため息を吐いた。良いんです、呆れられようが命がかかってるんだから。

 

『……だいたい状況は把握しました。キリトさんの家に行ったら、ジジイ(ゾーマ)とババア(ルビス)に遭遇してしまい、拉致されたと。そして無事に返してほしくば、私とキリトさんに武装解除して投降しろとおっしゃるのですね?』

「そうです!姫、助けてくださいよー!」

『何で本人が電話してくるのですか?余裕あるじゃないですか。』

「違いますよ。姫がルビス様とかの電話に出ないから……」

 

そこまで話したところで、ルビス様が後ろからヒョイと俺から携帯をうばいとる。

 

「もしもし〜シズク?元気にしてるの?」

『ッ!!お、お母さん……』

「あ!切っちゃダメよぉ〜?もし切ったらそっち(魔王城)に押し掛けちゃうからね〜。」

 

ルビス様は笑っているが、間違いなく姫との間に凄まじいまでのプレッシャーのやり取りをしている。

 

「300年ぶりねシズク。ちゃんと食べてるの?」

『うん……。』

「ちゃんと力を抑えてる?無茶なことしてない?」

『うん……。』

「あまりパパ(ゾーマ)を苛めちゃダメよぉ〜?パパ泣いてるわよ〜?」

『前向きに考えてみます。』

「それとキリちゃんにあまり八つ当たりしちゃダメよ?」

『……。』

「そこは答えないのね〜。まぁ良いわ。」

『それでお母さん、要件は?』

「そうそう忘れてたわぁ〜。お宅の(魔王軍)キョウイチくんは預かった。無事に返して……『良いですよ。』」

「ん〜?それはどっちの意味かしら?」

『殺っちゃっても良いという意味です。』

「ちょっと待てーーー!!」

即答と言うのよりも早い、要件を最後まで聞く前に姫は答えた。こんな死に方はあんまりだ。我慢なんかとてもできやしない。

 

しかし、そんな俺以上に我慢出来なくなっている男がいた。

 

「シズク!!シズクなのか?俺だマコトだ!シズクーーー!!!」

『ッ!!』

 

電話を持つルビス様の近くで堪らず叫ぶマコト。ルビス様は、少しだけ寂しそうに微笑みながら、電話が切れた事をマコトに伝えるのだった。

それを聞いたマコトは、肩をガックリと落とし、サンディとプサンに支えられるように、証を探すためにキリトの部屋へと消えて行くのだった。

 

 

 

「さて、この不要になったモノの処分はどうする〜?若い魔族くんは助けてあげても良いかなって私的には思うんだけど〜。」

「いやいやいや、俺も助けてくださいよー。」

「え〜?でも邪魔だしなぁ。」

「俺けっこう役に立ちますよ。」

 

本気で処分を考えていそうな悪魔大僧侶(ルビス)に俺は必死にくらいつく。部下の目の前とか言ってる場合じゃない、この人は殺るときめたら必ず殺る。俺は姫の側で嫌というほど見てきたのだ。

 

「じゃあ聞くけど、キョウイチくんは何ができるの〜?」

「俺はバラモスブロスです。戦闘は得意です。魔王軍も蹴散らせます。」

「却下。」

 

即答っすか。本当にこの母娘は…

 

「俺の趣味はトレジャーハンターですから、キリトや神龍の証を探すのに役立ちますよ!?」

「却下。」

「クッ!それなら、最近俺は魚料理に凝っています。美味しいマグロ料理ご馳走できます!」

「………」

 

 

お?思った以上に反応が?

 

「更に馬車引きや、舟漕ぎも得意ですし、今なら肩叩き等のマッサージ付きです!!」

「採用!」

「いよっしゃーーー!!」

 

こうしてめでたく俺は、勇者マコトの新パーティの馬車引きとして仲間に加わることで命を繋ぎとめるのだった。

 

「あの…キョウイチ様、僕はどうしたら?」

「おおエルギオス。お前は解雇(クビ)な。」

「は?」

「じゃあ元気でな。」

 

 

 

訳も分からず1人残された青年魔族。

キョウイチのまさかの敵側への加入により魔王軍を解雇された部下ことエルギオスは、魔界に帰るも居場所がなく、途方にくれてしまう。更にトドメとばかりに幼い頃助けてくれた『白銀の女神』が実は魔王で、災厄を起こした張本人であったこと、さらに唯一救われたエルギオスの事を彼女は全く覚えていないどころか、しつこく聞いたエルギオスを蹴り飛ばし、人間の世界に叩き落されたことで彼はグレてしまい、後に堕天使エルギオスと名乗り人間の世界を恐怖におとすのだがそれはまた別の物語。

 

 

 

 

 

 

 

「これがキリトさんの部屋か……少しイメージと違うな。」

「部屋の模様替えをシズクちゃんが勝手にしちゃうから諦めたって、ずいぶん昔にキリト様がボヤいてたからね。」

 

俺の何気ないつぶやきを拾ったのは、共にキリトさんの証を探すサンディ。口は悪いが何だかんだ色々と付き合ってくれる。そんな彼女に言われて改めて部屋を見渡せば、なるぼど確かにアリアハンにあったシズクの部屋に何処と無く似通っている。

 

「それにしても未だに信じられないんだよな。あのシズクが魔王だなんて……。」

「……。」

 

確かに行き過ぎるとこも多々あるけど、基本的にシズクは優しい。そんなアイツが魔王だなんて……。

そんな悩める俺の肩に手をかけ、サンディとプサンくんが無言と言う優しさで包み込んでくれる。

 

 

「証は見つかりましたか?」

そんな俺たちのもとへ神界の女神セレシアがやってきて声掛ける。

「…何処にあるのかさっぱり…。」

そんな俺をセレシアは右手を少し上げる仕草で止める。見た目が14、5歳くらいの少女なのだが、この威厳はさすが神界の女神だと思う。

 

「マコトさま、何もお嬢様は好き好んで魔王に君臨しているわけではありませんよ?より大きな力を持っているお嬢様の、言って見れば運命と言うものです。」

「力を持つシズクの運命?」

「そうです。貴方に想像できますか?全宇宙を無に還す程の力を持つお嬢様の辛さを。」

「……。」

「強大な力は、力に比例した決断が時に必要とされます。例えば…そうですね、大洋を渡る豪華客船があったとします。豪華客船の中には、老若男女50名が

乗船しています。もちろん昨日まで何の繋がりも無い人々です。そんな豪華客船の中で致死率が凄まじく高い呪いが発動してしまったとします。その呪いは強力なもので、ヒトからヒトへと空気感染していき、次々と乗船していたヒト達は死んでいきます。まだ感染していない者達は、お互い助け合いながら何とか対岸の都市に辿り着き、避難しようと生きるのに必死です。……ですがここで考えてみてください。このまま致死率の高く、解除不能な呪いが蔓延した豪華客船を岸に辿り着かせてしまったら、たちまち呪いが都市に蔓延し、死者は凄まじい勢いで増えるでしょう。対岸の都市で豪華客船を待つ貴方様は、どうしますか?」

「俺は…助けられる命があるのなら、その可能性を信じたい。1人でも多く助けたい。」

「そうですか、とても勇者らしい答えですね。ですが、貴方様の決断はとても残酷でございますね。」

「え?残酷?」

「さようです。豪華客船が対岸の都市に着けば、呪いが蔓延するのですよ?その被害は?数千?数万人にも及ぶかもしれない。陸路を行く旅人に感染したら?それこそ世界が滅亡してしまうかも知れません。貴方様の決断には、そんな結果の可能性も秘めているのです。死ななくても良い人まで巻き込む結果。」

「じゃあ、女神セレシアは50名を見捨てるのが正しいと言うのですか?」

「そうは言いません。ですが、誰かが決断をしなければならないと言うのです。数千、数万、果ては世界の未来の為の決断を。豪華客船に乗っている人も決して悪ではない、それでも……。それが力を持つ者の運命。お嬢様の背負う魔王という名の責務ですございます。救われた命と、救われなかった命の違いは何でしょうか。その葛藤が優しいお嬢様の心を次第に傷つけていったのです。」

 

 

頭をハンマーで殴られた気がした。

今まで自分の魔王と勇者の認識が甘いものだと思い知らされたような気がした。

魔王は人間の世界を脅かし、勇者は人類の矢面に立ち、正義の行使者だと安易に考えていた。それが…魔王にも責務があるのだと。

 

じゃあアイツは?

シズクはどうなんだろう。魔王の責務でもこんなに重いのに……アイツは神界の魔王。言わば魔王の中の魔王、神魔王だ。そんなアイツはどれだけ大きなものを背負っているのだろう。俺には想像も付かない。

それなのにシズクはいつも俺の隣で微笑んでいたのかと思うと胸が締め付けられた。

 

 

そんな俺に今度は優しい声でセレシアは

 

「本当に君は面白いですね。」

「は?」

「冗談ですよ。良く考えてみてください。あのお嬢様の力で解けない呪いなんてありませんよ。それこそお母上様(ルビス)か、お父上様(ゾーマ)の呪いでもない限り。きっと呪いさえも無に還すでしょう。まぁもっともお嬢様の事ですから、客船ごと無に帰しちゃいそうですが。」

 

そう言ってセレシアは笑う。

 

「それより見て下さい。その本棚の本にある本に栞のように挟まっている輝く黄金のプレート。それがキリト様の証ですよ。」

 

そう言って指先した先に一際輝く一冊の本があった。本のタイトルは『ソードアートオンライン』とあった。なんだか何処かで聞いたようなタイトルだ。

 

 

マコトは大事な物『ソードアートオンライン』と、ついでにキリトの証を手に入れた。

 

 

「それにしても証って大事な物じゃないんですか?こんな栞のように扱われているなんて。」

「勇者さま、証は言い換えれば創造神の心なんですよ。各々の想い出深い所に現れるのですよ。」

「想い出深い?」

「さようです。ルビス様の想い出深い場所は、ご家族で森羅万象全てを造られた神界の城の部屋とか、おそらくその本はキリト様とお嬢様にとって想い出深い物なのではないでしょうか。」

 

 

シズクとキリトさんの?

俺は一応本を袋に入れておくことにした。そんな俺達のもとに、キョウイチを引き連れたルビス様とゾーマが部屋に入ってきた。

 

「どうやら見付けたようね〜。さっ、例のポーズをやって〜。」

ニコニコと微笑みながら、意味の無いポーズを要求してくる女神。意味がないと本人も言っていたのにやらせるんですか?

しかし、やらないで機嫌を損ねてしまうと後が怖いので、要求されるままに俺はキリトの証を頭上に掲げた。

 

 

「デレレレーン!!」

 

「何だそれ?」

 

キョウイチの、意味不明な何らかの音程を含んだ発言に問う。

「気にするな、これは効果音だ。」

「意味わかんねーよ!」

「ウフフ。良い感じよ〜キョウイチくん。」

 

嬉しそうに自身の頭を手で抑えながらペコペコするキョウイチ。何だか良く分からないが、どうやらキョウイチは何らかの取り引きをして、俺等のパーティに入ったようだ。

 

「さ、後一つね〜。」

 

 

こうして俺達は最後の一つ、神龍の証を目指すのだった。

 

 

 

 

 

つづく?

 

 

 

 

 

【魔王城の日常】

 

 

 

 

キョウイチが悪魔大僧侶に拉致されるより少しまえ、光も通さぬ闇の奥深く、魔王が座する城、魔王城では只ならぬ緊張が支配していた。

 

「ほら、キリトの番だぜ。」

 

ロレンスの一言に合わせるように差し出されたシズクの手にある三枚のカードを、キリトは暫く眺めた後、一枚とり自分の手持ちのカードと一緒に台座に置く。

 

「あがりだ。俺は一応戦いの神だぜ?勝負と名が付けば有利に決まっているだろ?」

 

得意になって勝利を宣言するキリト。しかし、隣に座る魔王の顔が横目に映り黙る。彼女はいつも通り女神の如き笑顔で微笑んでいるが、あれはダメだ。

他でもない、誰よりも共に過ごしてきたキリトだから分かる魔王の不機嫌な顔。

みんな気付いていないようだが、部屋の温度は5度ぐらい下がった。

 

そんなキリトの不安を知ってか知らずか、彼女は言う。

 

「次はロレンスさんでしょ?早くしてください!」

 

何気に語尾は強い。

これはシズクを勝たせなきゃマズい。キリトは二人にアイコンタクトを送る。言葉にして彼等に送れば、心を読むシズクに悟られてしまう。

そうなればこの不機嫌な捌け口が、自身に向けられてしまう。キリトはそれだけは避けなければならない。

 

そんなキリトのアイコンタクトに、黙って頷いたロレンスは、ミレーユが差し出したカードを抜くと、ニヤリと笑い手持ちのカードと共に台座に置いた。

サスガはロレンスだ。何にも伝わっていないどころか、空気さえ読んではくれない。

横目に映るシズクは、明らかに引きつった笑顔になっている。

 

益々危険だ。

魔王城の部屋の温度も、先程より明らかに10度以上は下がっている。

 

 

もう自分達の運命はミレーユに任せるしかない。

 

ミレーユも先程とは打って変わり、今はもう笑っていない。彼女も自分の置かれた状況にどうやら気付いたようだ。

 

 

シズクは手元にある二枚のカードをミレーユの眼前に差し出す。片方のカードだけを突き出す形で。

そして女神の…いや、魔王の如き笑顔を浮かべている。

 

 

 

魔王様……わたくしを試していらっしゃるのですか?わたくしの魔王様へ対しての忠誠心を。

いや、わたくしも魔王様の三大軍隊の将が1人。どの様な状況に於いても勝利を魔王様に捧げる。そんな強いわたくしの決断を示すのを待ってらっしゃるのか?

 

他人の心を読む力など持ち合わせてはいないが、中々シズクのカードを引かないミレーユの心情はきっとこんなところであろう。

 

 

 

そんなプレッシャーが交錯する中、突然シズクの携帯が軽快な音楽を奏でた。

シズクは携帯を台座に置いていたので、ディスプレーに表示される『ババア』の文字が見えたので、電話の相手がルビス様である事をキリトも悟る事が出来た。

 

「出ないのか?シズク。」

「良いんですよ。今はミレーユさんがどちらを引くのを待つ方が大切ですから。ハイどうぞ、ミレーユさん。」

 

言葉の最後の方の部分だけ何故かトーンを下げて話すシズクは、ミレーユの眼前に再度片方だけ突き出したカードを出す。やはり彼女にプレッシャーをかけているようだ。

 

青ざめたミレーユの顔を見ていると、不憫でならない。

 

 

 

暫く無言の圧力がミレーユに向けられていると、今度はミレーユの携帯が鳴り、ミレーユはビクリと身体を揺らす。しかしこの硬直状態を抜け出す絶好の機会に、ミレーユは安堵の息を吐き、シズクに失礼しますの挨拶と共に電話に出る。

 

 

「なに?私、今とても忙しいのよ。それよりキョウイチ、貴方ちゃんと魔王様の遣いは果たしたのでしょうね?だいたい貴方は……」

『いや、それがちょっとあって……それで姫に代わってもらいたいんだけど。』

「キョウイチ!貴方は何度言ったら分かるのですか?魔王様をそんなヤワな……」

『分かった分かった、魔王様に変わってくれ。』

「魔王様、キョウイチが魔王様に話しがあるようですが…いかがいたしまょうか。」

「恭一さんが私に?」

 

そう言って、携帯の声を拾うマイク部分を押さえながらシズクに携帯を渡すミレーユ。

なるぼど、そういう事か。さすがミレーユだ。

キリトは瞬時にミレーユの狙いに気付いた。

 

今の勝負は、そもそもキリトの証を取りに行ったキョウイチの様子を誰が見に行くかを決める為のもの。勝っても負けても危険な状況に陥っているミレーユは、たまたま電話してきたキョウイチにシズクの怒りを向かわせることでうやむやにし、この勝負自体に幕引きするつもりのようだ。

 

 

『代わりました。どうしたんですかキョウイチさん。』

 

しかし、シズクは出て数秒で電話を切った。側から見ていても話しが終わったようには見えない。明らかに不自然な切り方だ。

 

「どうしたんだシズク。キョウイチはなんて?」

「イタズラ電話です。身柄は預かったって。」

「それって誘拐か?あのキョウイチが?」

「でもそれを自分で言ってるんですよ?犯人じゃなく、自分で。」

「は?なんだそりゃ。」

 

そんなやりとりをしていると、シズクの手にまだ持っていたミレーユの携帯に再びキョウイチの名が表示された。

 

「魔王様、一応キョウイチは我らが軍の三大将軍の一柱です。そんなキョウイチを拉致できるものなど……。」

 

言っておいてミレーユも、それが出来る2名の存在に気付いて黙り込む。

 

「姫、今魔王軍の予算はあまり良くないぜ?」

 

もう1人の将軍であるキングヒドラのロレンスは、さすがに先ずは財政の事をシズクに進言する。

 

「ですが、キョウイチは私ミレーユとキングヒドラのロレンスとで三大将軍です。その将軍が敗れたとあれば軍に支障も……。魔王様、逆探知を行いますので、なるべく話しを引き延ばしてください。」

 

ミレーユの進言にシズクは頷き、携帯に出た。

電話から漏れるキョウイチの声が早口なとこを考えるあたり、ヤツもだいぶ必死な状況なようだ。

シズクも適当に流しながら話している。そんなシズクの様子が一転した。

急に正座して電話し始めたのだ。まず間違いなくルビス様に代わったのだろう。急にしおらしくなったシズクは、小さな少女のようで何だか笑えた。

 

しかし、それも長くは続かなかった。

急にシズクは持っていたミレーユの携帯を床に落としたのだ。焦点は定まらず、呼吸も荒い。

何者にも動じないシズクがここまで動揺する姿を始めてみた気がする。

 

ミレーユの携帯は床に落とした衝撃で壊れた。既にガラクタとなった携帯を、今もシズクは黙って見つめている。

 

キリトには心当たりがあった。

きっとキリトの最初で最後の弟子であり、これから永遠のライバルになるであろう、マコトが電話に出たのだと。

 

シズクは暫く放心状態ではあったが、さすがは魔王と言うべきか、今やるべきことだけは分かっていたようだ。

今度は無言でかつ、変なプレッシャーもなしにミレーユに二枚のカードを差し出す。

もちろん片方だけ飛び出した状態で。

こんな時でもそれはやるんだな。

 

 

ミレーユももう勝負とか考えていない。シズクが取れとばかりに突き出したカードを……取らないで、奥のを引こうとするが、それをシズクは凄まじい握力で引かせまいとしている。

ミレーユが両手で全体重を乗せて何とかシズクから奪ったカードと共に、自身のカードを台座に置いたとき、既に城内は氷点下と化していた。

勝負に勝利し、飛び跳ねて喜ぶミレーユも一瞬にして固まる。

 

 

「ま、まままま魔王様、キョウイチはもう助からないのですから、これはもうただの余興ですよね?ね?ね?」

 

ねを3回言ったミレーユは、真っ青な顔で後退りしながら正論でシズクを止めようと試みるが、俺からすればソレは無駄な行為だ。

確かにこの余興は、キョウイチの様子を誰が見に行くかを決める為のものだった。

目的の為の手段がたまたまカードゲームだっただけだ。

しかしだ!シズクは往々にして、目的の為の手段のはずが、手段の勝敗に意識がいってしまい、いつしかカードゲームで勝つことが目的となってしまい、本来の目的を忘れることが多々あるのだ。

きっと既に、本来の目的のキョウイチの様子を見に行くことなんて、頭の片隅にもなくなっていることだろう。

 

「闇に惑いし憐れな影よ。私を傷つけ貶めて罪に溺れし業の魂……ミレーユさん、あなたもいっぺん……死んでみる?」

 

シズクは両手に魔力を溜め、後ろに仰け反るようにその手を上げた。

 

「カイザーウェイ○!!」

 

どっかの世界で覚えたであろう何らかの技の名前を発すると同時に両手を前面に突き出すと、両手に溜め込んでいた魔力が、大きな渦となってミレーユを巻き込み、先に走って逃げていたキングヒドラごと、魔王城の天井を突き破り、魔界の星になって消えた。

俺はといえば、来るのが分かっていたおかげで難を逃れることができた。

 

「ああスッキリした。あら?キリトさんは上手く避けましたね。まぁ良いです、それならキリトさんも一緒に行きましょう。」

「行くって……何処へ?」

「察しが悪いですね。キョウイチさんと一緒にババア(ルビス)がいたと言うことは、アナタの証は既に回収されたことでしょう。そうなれば後一つ、神龍の証を先回りして回収するしかないじゃないですか。」

「いや、それは分かっているんだが……お前が取りに行くのか?」

「はい。」

「直接?」

「そうですが…それが何か?」

「アホか!マコト達はお前と再会する為に神龍を目指して証を集めているのに、お前が行って鉢合わせしたら意味がないじゃねーか!!」

「だ、大丈夫ですよ。私、変装とか得意ですから。ほら、美少女戦士……」

「美少女戦士シズリンならラダトームで一度瞬殺でマコトにバレてるからな?」

「グッ……」

「だいたい、お前が直接行くとか有り得ないだろうが!」

「そんなに強く言わなくても……。」

「いいや、言うねッ!!お前が直接行くってのは、アリアハンを出て直ぐに遭遇したスライムにギガデインを使うくらい有り得ないっつーの!!」

「そ、そこまで言いますか。」

「だいたい放っておけば良いんじゃねーか?マコトが神龍に一撃なんて無理に決まってるじゃないか。俺を除けば、只の一度たりとも神龍に一撃をくわえた者はいないんだぞ?ルビス様やゾーマ様が手伝うならまだしも、神龍は神々ならまだしも、仲間のうちに創造神がいたら現れない事になってるんだろ?だったら放っておけば良いんだよ。」

「むぅ……分かりましたよぉ……。」

 

 

ガックリと肩を落としたシズクは項垂れている。少しだけ可哀想だが、こればかりは仕方がない。

何とかシズクに理解させることが出来たが、ショゲている彼女を見るのは忍びない。俺は踵を返して魔王城の中にある自室へと帰ろうと振り向いたその時だった。

 

「と、見せかけてー。」

 

 

シズクは横っ跳びで俺の右足を掴むと、自身の身体を捻る。そして捻った身体が戻ろうとする反動を使って俺を投げた。

 

「ド、ドラゴンスクリューだとーー!!」

 

 

キリキリと横回転を伴ったまま俺は、先ほどミレーユとキングヒドラがぶっ飛ばされた天井の穴から、同じく魔界の星になるのだった。

 

 

 

「まったく……私をアホとか言うからそうなるんですよ。」

 

凄まじい勢いで遠のいていくシズクの一言に、

 

「そこかよ!」

 

 

必死に突っ込んだ俺の一言は、たぶん彼女の耳には届かなかった。

 

 



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29話

 

 

 

 

 

正直意外だった。

 

16の誕生日まで暮らした故郷アリアハン。

南側が海に面した故郷は、風向きによっては潮の香りがする。一方北側には小高い丘が連なっていて、バラモスが現れるより以前は、まだ魔物も凶暴化することもなく、夕暮れまで野山を駆け巡って遊んだものだ。

 

ホイミとルーラを覚えたら客は来ない、を持論に昼間から隣のルイーダさんの酒場に入り浸る道具屋の主人。裏山で適当に拾ってきたようなタケヤリでお金を取る武器屋の主人。城への道を歩けば途中に現れる、荘厳な雰囲気漂う教会。

大雪舞うアリアハンに迷い込んだシズクを引き取った養父の神父様は、彼女をシスターにしようと頑張っていたのを覚えている。

シズクの部屋は教会の裏の小屋にあり、まだ幼い頃は良く遊びに言ったものだ。

2人がいい歳になった頃、ある事をきっかけにノックもしないで入ることは無くなったのだが……。

 

目を閉じれば昨日のことのように、暖かい気持ちとともに甦る。

あぁ、今分かった。俺は懐かしいのだ。住んでいた時には何も想う事の無かった故郷は、変わらずに帰りを待っていてくれる、心の帰る場所。

 

俺は大きく息を吸い、懐かしい空気を堪能したあとに言う。

 

 

 

「って、アリアハンがねーーーーー!!!」

 

 

 

 

「まぁ、あれから300年経ってるからね〜。」

 

少し遅れて旅の扉の渦から出てきたルビス様が、何でもないような事のように言う。

俺たちは『神龍の証』を求めて人間の世界へとやってきたのだ。

 

「みんなちょくちょく言ってましたけど、本当に300年も経っているんですか?」

「そうよ〜。普通ヒトは、死ぬと記憶がデリートされた状態になって、新たな身体に入り新しい人生を始めるのだけど、レアな魂ほど再生に時間がかかるのよ〜。勇者くんは文字通り勇者だからね〜、神への転生に300年かかってしまったのね〜。」

 

普通に話してますけど、それって結構重要な話しですよね?

 

「300年も経つと風化して何もなくなっちゃうんすね。」

「風化が原因じゃないわよ?滅ぼされたのよピサロくんに。」

「なんだ、ピサロが……え?ピサロが滅ぼしたの??何で?」

「ピサロ様と言うよりは、ピサロ様がまだデスピサロと呼ばれる1魔族だった時ですね。」

 

さらにルビス様の後から旅の扉を渡ってきた神界の女神セレシアが、冒険の書と書かれた分厚い本をペラペラ捲りながら教えてくれた。

 

「人間界の歴史書(冒険の書)によると、ゾーマ様を勇者様が討った後に、アレフガルドとアリアハンの二つの世界は切り離されたようです。アレフガルドの方は、もうご存知だと思いますが、実の妹君であるサキ様の子孫が勇者となったようですね。一応勇者の血筋ですから。」

 

セレシアからとても懐かし名前が出てきたことで、俺の心を暖かい気持ちで埋め尽くす。サキはツカサと幸せに生きたのだろうか。仲間への想いが溢れてくる。

 

「……で、アリアハンの方は切り離された後は衰退していったようですね。あら?現在のこの世界の神は…。」

「はい!僕です。」

 

最後にサンディと手を繋いだまま旅の扉を抜けてきたプサンが、飛び跳ねるように元気に右手を上げている。

 

「プサンくんが?」

「そうですね。マスタードラゴンであるプサンが治めるこの世界では、アリアハンのあったこの村は勇者の村と呼ばれていたようです。」

「勇者の村?」

「はい。冒険の書によれば、勇者様と妹さまを失ったお母様とお父様は、後にもう一子お生みになったようですね。その子孫と後に天空人との間に子供が生まれ、やがて勇者となっていったとあります。」

「でも……それだとおかしいですよね?世界は俺とゾーマの闘いの後にわかれて、そして後にピサロが滅ぼしたんですよね?でも、アレフガルドでのピサロは既に闘いを放棄していましたよ?」

「ピサロくんと一緒にいたエルフの女王ヒメアの娘さん覚えてる〜?」

 

セレシアとの会話に入ってきたルビス様は、エルフの少女ロザリーの名を上げた。

 

「エルフはね〜、時を越える力を持った種族なのよ。だからロザリーちゃんのゲートを渡って過去に愛の逃避行をしてたみたいね〜。」

「ようするにあの二人は未来から来てたってことですか?」

「あら!勇者くんは意外と頭良いのね〜。」

 

意外とは余計です。

 

「じゃあ本来この世界の二人は?」

「もちろんちゃんといるわよ〜ね?セレシアちゃん。」

「はい。ルビス様の言う通りでございます。」

 

ルビス様に頭をなでられて照れているセレシアに聞いた。

 

「じゃあ、俺の仲間達は皆もういないのですか?」

「調べてみますか?」

 

そう言ったセレシアは、何やらブツブツと呪文のようなものを唱えると、淡い光に包まれた冒険の書がペラペラと開きだす。

 

「先ずは妹のサキ様ですね。彼女は賢者であると同時にラダトームの王妃として生涯を過ごしておりますね。え〜現在は……あら?彼女はどうやら神界に神としているようですよ?あら?サンディと仲良しみたいですね。」

「なに?ショボいのサキちゃんのお兄ちゃんだったんだ。あまり似てないね」

「ほっとけ!」

 

意外にも近いとこにサキがいる。きっといつか再会できるだろう。

 

「ツカサ様は…やはりラダトームの王として生涯を終えたようです。彼もまた神界に神としているようですね。お笑いの神となったようですね。現在もサキ様といるようです。よほど愛していらっしゃるのでしょう。」

 

ツカサ……お笑いの神って…似合いすぎる。

 

「次はパパス様ですが…彼は魔族になったようですね。相棒にサンチョ様を引き連れて、魔界に新たな勢力を築いているようです。」

 

パパス王にサンチョさんも相変わらずなようだ。

 

 

「ピサロ様にロザリー様は…あれ?まだ過去のアレフガルドにいらっしゃるようですよ?現在はお子様が3人いらっしゃるようです。まぁ私が語るまでもなくラブラブなようですね。」

 

そうか…あの二人はまだあの世界にいるんだな。ピサロに…ロザリーさん…子沢山で幸せにしてるのなら良い。

 

「キングヒドラのロレンス様にキリト様、お嬢様は魔界におられますね。」

「………とにかく今は神龍の証を探そう。思い出に浸るのは、神龍に願いを叶えてもらって、シズクと再会してからにしよう。」

 

 

俺の決意をルビス様とゾーマは満足そうに聞いていたのだが、その時の俺はまだ気付いていなかった。

 

 

 

 

「で、この滅びたアリアハンに神龍の証があるんですか?」

「どうかなぁ〜。人間の世界にあるのは確かなんだけど、何処にあるかまでは分からないのよね〜。」

「じゃあどう探したら…。」

 

人間の世界に来たは良いけど、いきなり行き詰まる俺たちを、無言と言う静寂が辺りを支配する。

 

 

 

 

 

 

「手掛かりがないのなら、過去の世界に戻り一から見直してみるか?」

 

静寂を打ち破ったのは、羊を撫でているゾーマだった。ゾーマが言うには、迷ったのなら初めから探し直せば良いと言うのだ。

特に宛てのない俺たちはゾーマの意見に賛同すると、ルビス様は右手を突き出し、握られた手から光の雫をポタリと落とす。

すると、パカパカパーンとか言うキョウイチの音楽を含んだ掛け声にあわせて、光の雫から木で出来た机が現れた。

 

「さ、行くわよ〜。」

「行くってどこへ?」

 

当然の質問だと思う。机に乗って移動するのか何なのかは分からないが、突然これだけ出されても俺には分からない。

だけどルビス様はニコニコと笑顔を湛えたまま机の引き出しを開けて、ハイと机の開かれた引き出しを指差す。

 

「机がどうかしたんですか?」

「何言ってるのよ〜。過去に行くんでしょ〜?タイムマシンと言えばコレでしょ?ほら、早く行くわよ〜のび太くん。」

「だから誰れがのび太だ!!」

 

まぁまぁと背中を押される様に俺を机の引き出しに押し込むルビス様は、ゾーマとルビス様と俺の3人が引き出しの中に入ると、引き出しを閉めた。

 

「行ってらっしゃいませ、のび太様。」

 

セレシアが呟いた一言が胸に刺さりながら、俺はルビス様とゾーマの3人で過去の世界へと渡るのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

 

 

「オエッ。」

変な絨毯に乗って移動してきた机の中で乗り物酔いしました。

ハリセンを持ったルビス様がホイミをかけてあげましょうか〜などと言うが、持っているものが怪しすぎるのでやんわり断った俺は、吐き気が治ったところで辺りを見回した。

 

 

そこは今度こそ懐かしい世界だった。

母さんが庭の花に水をあげている。空気の匂いや風の柔らかさ。全てが懐かしい故郷アリアハンだった。

 

「ただいま母さん。」

 

俺は懐かしさのあまり、アリアハンを旅立って以来の母に声をかけた。

 

しかし返事は返ってこなかった。

ゾーマは少しだけ悲しい表情で、俺の肩に手をかけて言った。

 

「これは過去に私達が来たのではなくて、過去の世界を見ているにすぎないんだ。言わば映像だから彼女たちに私達は見えていないし、声も聞こえもしない。証拠にアレを見なさい。」

 

ゾーマが指差した先を見ると、そこには俺がいた。

過去の世界の俺が部屋から眠そうな目を擦りながら階段を降りてきたのだ。

忘れもしない旅立ちの日の朝の光景だ。

 

「私達はこれから、君のしてきた旅路を辿ることで、神龍の証の手掛かりを探ろうと思う。」

「ならば一つお願いがあるんです。俺ではなくて、シズクの……お二人の娘の足跡を辿りたいんです!」

「え?でも〜……。」

 

俺の提案に言葉を失うルビス様は、ゾーマと顔を見合わせる。しかし、暫くしたのちに快諾とまではいかないが了承を得て、シズクがいるであろう教会へと向かった。

 

「まぁ…いずれ判る事だしね〜。いいわ、行きましょう〜。」

 

なんとなくルビス様の残した一言が気になりながらも。

 

 

 

教会にたどり着くと、中ではシズクの養父である神父さまが、祭壇に掲げられたルビス様の像に朝の礼拝を行っていた。改めて像を見ると、よくもこんなに似せたなと言う程本人に似ている。

強いて違う所をあげるとしたら、本人と違って本心から慈愛に満ちた微笑みを浮かべていることだろうか。

 

「あら?私達は優しいわよ〜?勇者くん。」

「心を読むのはやめて下さいってのはさておき、どの辺りが優しいんすか?特にルビス様。」

「あら?知らないの〜?私達の有名な話しがあるじゃない。ある人間が、世界にたった100人しか善人がいなかったらって質問にたいして、私達はその100人の為に世界を滅ぼさないって話。」

「昔どっかで聞いたことありますよ。最終的に例え善人がたった1人だとしても、その1人の為に世界を救うと言う話ですよね?アレって二人の話だったんですね。」

「そうよ〜。私達は優しいんだからね〜。」

 

そう言って片目を閉じウインクしてみせる。

危うく感動してルビス様を見直しちゃうとこでしたよ。コッソリとゾーマから聞いた裏話、たった一人がルビス様をおばさん呼ばわりして滅ぼされた世界の話を聞かなければ……。

 

「それにしても肝心のシズクがいないなぁ。アイツ何処にいるんだ?」

「あのね勇者くん…凄く言い辛いんだけど……。」

「分かった!!裏庭だ!」

「あ……」

 

 

思い出した。

シズクは毎朝教会の裏庭にある花壇に水をあげていた。きっとアイツはそこにいる。俺は何かを言いかけていたルビス様を振り切り、教会を出て裏庭へと走る。

 

 

花壇には、教会を飾るかのように白い花が植わっている。太陽の光を受けて、キラキラと輝く水に虹の橋が架かっている。

ビクビクとしながらジョウロで水を撒く少女はそこにいた。流れるような長い黒髪。透き通るような白い肌に掛かる髪が何とも美しい。

今日はシスターの服装ではなく、旅の中見慣れた僧侶の衣に身を包んだシズクはそこにいた。

ようするに旅立ちの日にシズクは朝からついてくる気満々だった訳だ。

 

 

「ん〜?」

 

ルビス様は、ビクビクしながら水を撒くシズクの顔を、息がかかるほど間近な距離から覗き込んでいる。

しかし等の本人は、まるでこちらに気付いていないかのように水を撒き続けている。

つい今しがた自分達が、これは過去の映像のようなものなので、今の俺たちが見えないと説明していたばかりでしょうが。

 

「ま、いっか。」

 

時間にして数秒、シズクの顔を覗いていたルビス様が離れるやいなや、今度はゾーマがシズクゥ!!と、叫びながら抱き付こうと飛ぶ。

が、タイミングよく水を撒き終えたシズクは、ヒョイと交わすかのようにその身を移動したことにより、ゾーマは教会に顔から突っ込んだ。

 

「それにしても、相変わらずジョウロが苦手なんだなシズクのヤツ。」

腰が引けるように、おっかなびっくりジョウロで水を撒くシズクの姿が懐かしい。どういう理由かは知らないが、彼女は水撒きなのか、ジョウロ自体なのか分からないけど、以前から苦手としている。

 

そんな長年の謎に答えたのは鼻血を垂らしたゾーマだった。

 

「あれはトラウマだな。以前妻(ルビス)が城のガーデニングに拘ってたとき、その草木、花々に水を撒くのがシズクの役目だったのだ。あの子は像のジョウロが特にお気に入りでな、自らも楽しそうに水を撒いていたものだよ。そんなある日、いつものように水を撒いていたとき、ふいにジョウロの先の部分が取れてな、水がドバッと花々にかかってしまったのだ。まぁ、普通ならそこまでの話なんだが、あの子は沢山出た水を無に帰そうとしたんだ。きっと失敗をまるごと無かった事にしたかったのだろう。だがそんな事をしたものだから……たまたま付近を巡っていた星はとばっちりを受けて大洪水により水浸し、人類史上最悪の豪雨がその星で暮らす人間を襲ったのだ。私達は半ばその星を諦めていたのだが、変り者のある男が陸にも関わらず船の形をした家を偶然建てていてなぁ……なんとか全滅は避けられたのだ。その後妻(ルビス)にこっ酷く叱られて以来と言うもの、シズクはジョウロを苦手としているのだよ。」

「ああ、あったわね〜そんな事。あの子は少しドジっ子だからね〜。後始末も怪しいからキリちゃんにお願いしたのよねぇたしか。」

 

いやいや、ドジっ子で済む問題じゃないですよね?

分かってますよ。ほんの些細なミスが世界に多大な影響を与えてしまうシズクは、神界の魔王と呼ばれているのも今なら理解してますよ。

 

そんな昔話を聞いてるまに、過去の俺とシズクは合流し旅立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

ナジミの塔に登った過去の世界の俺とシズクは、見た目百パーセント魔法使いの女の子と、いかにも強そうな武道家と対峙していた。

 

忘れもしない、妹のサキと親友のツカサとの出会いだ。

今だから言うけどツカサの見た目の厳つさは、実は最初ビビっていたりした。後から知ったのだけど、二人はこの時点では只の村人だったんだよな。

 

「勇者くんってさぁ〜、サキちゃんが妹さんって直ぐに気付いていたのに何で言わなかったの〜?」

「……恥ずかしいから本人には言わないでくださいよ?」

 

二人と再会し、爺さんから魔法の玉を貰った二人を…過去の世界のシズクを見ながら、俺は絞り出すように理由を話した。

 

「は?もう少し二人きりで旅したかった〜?勇者くんも可愛いところあるじゃな〜い」

 

頬に熱が帯びる。きっと自分の顔は赤面していることだろう。しかし心を読み取るルビス様に隠し事したところで意味がない。

ふと目線を感じ過去の世界のシズクの方を見ると、彼女は向こうを見ていた。どうやら気のせいだったようだ。まぁ、本来この世界にいないオレ達が見える筈もない。俺はほのかに頬を染めた彼女の横顔を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

その後も俺達三人は、過去の世界の自分達の足跡を追っていると、山沿いの祠の先にある洞窟に辿り着いた。この先に封印された旅の扉があって、俺達はアリアハンを出てロマリアに行ったんだよな確か。

 

相変わらず俺のマントをヒノキの棒に包んで火を灯した松明を持って歩く過去の自分を、現在の自分が追うと言った不思議な状況が暫く続くと、二人は封印された場所に辿り着いた。確かこの後は……

 

「そう言えば今更ですけど、本当にシズクはルビス様に似てますよね?」

「何を言うかマコトくん。私にだって娘は似ているんだぞ?目元だとかなぁ…」

 

俺の一言に反論するゾーマはお面をとって素顔を指差して言う。どんだけ悔しいんですかってか、お面だったんすねその顔。素顔は本人の言う通り優しい…まさに神様のような青年の顔をしていた。

 

「俺が言ってるのは見た目じゃなくてですね、無茶な事ばかりするところですよ。」

「あら?私は無茶な事なんかしないわよ〜?」

「「嘘だ!!」」

 

ゾーマと綺麗にハモった。

何度も言うけど嬉しそうに俺をドヤ顔で見ないでくださいよ。しかも何で今回は親指までたててるんすか。

 

「今考えるとよくシズクも不思議なもの出をして暴れましたよ。確かこの後だって……。ルビス様もよく不思議なモノを使いますよね?さっきのタイムマシンとか。」

「え〜普通よ?」

「どこが普通だっつーの!あんなん見たことねーよ。」

 

俺のついに我慢しきれなくなった突っ込みに、ニコニコと嬉しそうに笑うルビス様。この人は絶対に輪の外にはずれると怒り出すタイプだ。本当にそっくりだ。

 

「でも勇者くんはそう言うのが好きなんでしょ〜?」

「ぜんぜん?」

 

ハッキリと本音で答えてやるぜ。

 

「だってシズクもわりとこんな感じじゃない〜。」

「やっぱり自覚してんですねってのはさておき、俺だって好きで毎回突っ込んでるわけじゃないですよ。」

「違うの〜?じゃあ……もしかして蹴られるのが好きだとか?」

「んなわけあるかー!!!」

「もう〜面倒臭いなぁ〜。じゃあ…わかった!見た目であの子を好きになったとか?」

「いいえ?」

「またまた〜。本当は見た目で好きになったんでしょ〜?」

「違いますって。」

「本当に〜?ぜんぜん違うの〜?」

「かすりもしません。第一俺の好みはサキのような派手めな……ってあれ?」

 

気がつくと辺りが寒くなったのを感じた。俺は過去の俺とシズクの方をみると、シズクが虹彩の消え失せた瞳で何やら長方形のものをカチカチと音を立てて『魔法の玉』に火をつけていた。

 

「そうそう、お二人はシズクが持っているあの火を灯す長方形の物体が何なのか解ります……かって、アレ?」

 

俺がルビス様とゾーマの方に視線を戻すと、二人は遥か向こうの部屋へ走り去っていた。

 

「え?」

 

辺りが目も眩むほどの光に包まれていく。自分の足元から伸びる影さえも光にかき消された。

 

 

 

ドガアアァァァン!!!

 

 

 

凄まじい轟音と衝撃波を伴い、過去の俺と現在の俺は纏めて吹き飛ばされて、教会のお世話になることになった。

 

 

 

 

 

ーーつづくーー

 

 

【魔王城の日常】

 

 

 

光も通さぬ闇の奥深く、魔王城はある。

絶対零度に近い気温は、魔族でさえも中々近づくことが出来ない、まさに空間の孤独。

 

ここまで気温が低いと雪さえも降らず、水も木々といった全ての生物は、氷という名の牢獄に永遠に閉じ込められる。

 

そんな魔王城は先日二人の魔将と、創世の神を吹き飛ばした際に屋根が壊れ修理中のため、魔王を含めた四人は移動を余儀なくされた。

 

 

 

 

フカフカに用意された宿屋のベッドを、ポンポンと叩いた魔王は、瞳を輝かせたかと思うと、思い切りベッドへとダイブする。

 

「おいおいシズク。お前は一応女の子なんだからもう少し……」

「一応とはどう言う意味ですか?」

 

首を横に向けギロリと睨むシズクに口を紡ぐキリト。

 

「まぁなんじゃ、キリトも女王陛下も自分の家と思って気楽にしてくれ。」

 

そう言った男の名はパパスと言う。かつてのラダトームの王は、現在は魔族となり宿屋の主人となっている。

 

「それにしても、パパスは何故こんな所で宿屋なんかやってるんだ?」

 

キリトは素朴な疑問をパパスに投げる。何故宿屋なのか。また何故それが人間の世界にあるのかがキリトには不思議だったのだ。

 

そんなキリトの疑問にニヤリと笑みを浮かべたパパスの相棒サンチョは答えた。

 

「愚問だなキリト。私とパパスは魔族に転生したのちに、このsecretbase(秘密基地)を拠点に、そこにいる二人の魔将にキョウイチを含めたロイヤルガードによる正規の魔王軍とは別の…言わば第二の勢力を築き上げたのだ。」

「ああ、それは知っているよ。」

「さすがは英雄キリト、情報が早い。そしてなんとその勢力に、我らが女王陛下が入られたのだ!」

「なに!?」

 

俺はシズクの方に顔を向けると、彼女は少しだけ照れたように笑っていた。

 

「だって……面白いんだもん。」

 

そう言ってシズクはモジモジと照れている。

ようするに何かで釣られたって訳か。

 

「私とパパスはここに宣言する!女王陛下を有した我らの第二の勢力は、現時刻をもって廃止、及び新たな正規軍をたちあげるものである!!魔界の国民よ女王陛下を讃えよ!!我らの魔界グランゼドーラに光りあれ!!ジークシズク!!」

 

サンチョが高らかに宣言すると、何処に隠れていたのか、無数の魔族があらわれ、ジークシズクを連呼している。その様はさながら勝利の勝どきのように見えた。シズクに別命を与えられ、この場にいないミレーユが見たら怒り狂って滅ぼしてしまいそうな光景だ。

だが二人はシズクの本当の願いをまだ知らない。

別にシズクはマコトを嫌って避けている訳ではないのだ。むしろその逆で……。

 

「まぁ俺はどちらが正規でも構わんが、そんなことより話を戻すがシズク、お前は女の子なんだからもう少しお淑やかになれないのか?男が可愛いと思うような。」

「え?私、可愛くありませんか?」

「見た目の話しじゃねー!いいか?お前には男を惹きつける為のスキルが不足しているんだ。」

 

この一言には、さすがのシズクもショックを受けたような顔をしている。

 

「わ、私の何が不足していると言うんですか?」

「お前にはなぁ」

「私には?」

「男の心がまるで分かっていない!!」

 

指差して言うと、彼女の瞳から虹彩が消え失せた。

 

「そ、それだそれ!!お前は直ぐに感情に流されすぎなんだよ。まあ性格は中々直らないものだけどな。」

「……じゃあどうしろって言うんですかぁ?」

 

少し拗ねたような表情で俺を見上げるシズクは、なんとも可愛い……が、今はそんな時ではない。

しかし俺もこう言ってくることは予測していた。俺は予めメモしていた紙をシズクに渡す。

渡された紙に目を通すシズクは、プルプルと震え始た。

 

「ま、まさか私にこれをやらす気じゃありませんよね?キリトさん。」

「フッ、そのまさかだ。」

 

 

今度は誰でも分かるほどにシズクは怒っている。足下から目視出来るほどに白い渦のように噴き出した魔力は、彼女の長い髪を揺らしている。そしてシズクは右手を引いたかと思うと、神速の凄まじい右ストレートを繰り出した。

 

「ちょ、ちょっと待て!これはマコトの為だっつーの!!」

 

俺は必死にシズクに言うと、彼女の拳はまさに目と鼻の先に止まり、直後にバギクロスをも超える強風が俺の顔を襲う。

こいつ、本気で殺す気か?

 

「どう言う事ですか?」

 

繰り出した拳を俺の顔面の目の前で留めたままシズクは聞いてきた。若干不満ではあるが、彼女を止めるには現在コレが一番有効なようだ。

 

「いいか?ソレは子供はもちろん、大きなお友達まで男子の間で流行っているものだ。もちろんそこにはマコトも含まれているはずだ。そんな所にお前がソレをやってみろ。マコトはおろか世の中の男がお前に夢中になる事間違いなしだ。」

「……。」

「……。」

「……分かりました。やります。」

「そうだシズク!そうこなくっちゃ!」

 

マコトの名前を出しただけでひょいひょいと付いて来るなんて…ちょろ過ぎるぜシズク。あまりにちょろ過ぎて心配になるくらいだ。

そうとは知ってか知らずか、シズクは緊張のあまり先程から深呼吸を繰り返している。

 

「い、行きますよ?」

「おう、こいシズク!」

「に……に…」

「ちょっと待てシズク!まだ恥ずかしさが見えるぞ。お前の本気はそんなものか!?」

「す、すみませんキリトさん。」

 

今度こそと懇願するシズクの瞳にはもう迷いは無かった。

 

 

「にっこにこにー♪あなたのハートににこにこー♪笑顔届けるシズクにこにこー♪にこにーって覚えてラブにこー♪」

 

 

 

 

本当にやりやがった…。

こいつは想像以上の破壊力だ。創造神のなかでも最も防御力の高い俺を持ってしても笑いを堪えることが出来ない。

頭の上に両手を置く独特なポーズのまま真っ赤な顔しているシズクと、俺の後ろで抱腹絶倒で笑っているパパスとサンチョ。やばいつられてしまいそうだ…。

次第にプルプルしだしたシズクが魔力を高め始める。

 

「ま、待つん女王陛下。」

「1秒たりとも待つものですか!」

 

 

 

ズガァァァァアアン!!

ズガァァァァアアン!!

 

 

と、痛恨の一撃が2人を襲う。

 

パパスは死んだ。

 

サンチョは死んだ。

 

こうして結成して間も無く、魔界の新勢力は壊滅するのだった。

そして2人をぶっ飛ばしてスッキリしたような表情のシズクは、俺の方を振り返ると

 

「さ、行きますよキリトさん。」

 

と言った。

当然それだけでは何のことか分からない俺がどこに?と聞き返すと、察しが悪いですねとシズクは言う。

 

「なんの為に人間の世界に戻ったと思うんですか?神龍の証を先に回収すると言ったじゃないですか。」

「え?お前ある場所知ってるのか?」

「知りませんよ。」

 

どうやって探すんだよまったく。

まぁそうはいっても宿屋にいても仕方ないのは確かだ。俺はシズクの手を取り、2人で神龍の証を探すための旅に出よう。

久しぶりに感じる冒険への高揚感に心を躍らせながら、希望に満ちた扉を開いた。

 

 

 

 

扉の向こうに悪魔がいた。

 

繰り返す、黄金の悪魔がいました。

 

 

 

 

「「出たーーーーーーー!!!」」

 

 

 

 

「こらシズク!!親に向かって出たとは何ですか出たとは!失礼ね〜。キリちゃん貴方もよ〜?私は化け物かって言うの。」

「ごめんなさい。」

「すみません。」

 

化け物だったならどんなに良かったかと言うのはさておき、俺とシズクは再び宿屋の部屋の片隅に戻り、正座させられている。頭に其々タンコブをこさえて。

 

輝く黄金の髪を揺らすルビス様は、腕を組んだ姿勢でまさに仁王立ちしている。

 

「まったく…貴女は何がしたいの?勇者くんが可哀想じゃない。」

「ババアにぶたれた私も可哀想です…。」

「ん〜?なんか言った?」

「なんでもありません。」

 

小さな反抗を試みるも、ルビス様の一睨みでまるで少女のように小さくなるシズクは、キョロキョロと辺りを見回している。

 

「勇者くんならいないわよ。」

「……お父さん(ゾーマ)は?」

「貴女が無茶するからパパ(ゾーマ)は今、勇者くんを治療中よ〜。それより貴女本当にこれは意味のある行動なのよね?」

「……はい。マコトさんとの約束ですから。」

「その割には自信なさそうじゃない。」

「……。」

 

暫く2人の無言の会話をしているような時間が続くと、やがて一息吐いたルビス様はまぁ良いわと言って場の緊張を説いた。

ようやくルビス様の緊張感漂う結界のようなものから解放されたオレ達もまた安堵の息を吐くと今度は一転して、母娘の軽話しになっていく。

 

「でもシズク?貴女は本当に勇者くんを分かってないわよね?」

「どこがですか?私達は側にいなくても分かり合えていますよ。」

「だめだめ!貴女はまるで男を理解していないもの〜、ね?キリちゃん。」

 

そこで俺に振らないでくださいよ。ほら凄い瞳でシズクが俺を見ているじゃないですか。

 

「ほらね?キリちゃんの微妙な表情が貴女には男を知らな過ぎると語っているでしょ〜?」

 

シズクが一歩俺の方に歩を進めると、俺は二歩下がった。そんな2人の様子を笑うルビス様は

 

「ほらね、貴女はすぐに怒りすぎよ。いい?男の子はね〜総じて可愛い女の子が好きなものなのよ〜。それに心の繋がりを好む女の子に対して、男の子は目に見える繋がりを好む傾向にあるの。側にいなくても心が繋がっている何ていうのは女の妄想よ〜?男はね、実際に手の届くところにいる女を好むの。離れている距離に比例して心が離れていくものよ〜。」

 

ルビス様がソレを言うのはどうかと思うが、その意見には激しく同意する。

頷く俺を見てさすがのシズクも少し落ち込んでいるようだ。

 

「可愛い娘の為にママが良いものを教えてあげるわ〜。ちゃんと見てなさいよ?」

そう言うとルビス様は大きく息を吸い込み

 

 

 

「にっこにこにー♪あなたのハートににこにこー♪笑顔届けるルビスにこにこー♪にこにーって覚えてラブにこー♪」

 

 

ま、まさか……ルビス様がやる…だと。

俺は思わず声を失ってしまう。

 

「……うわー寒っ。アホですか?歳を考えてくださいよ。お母さんがやったってキツいだけですよ。」

「バ、バカシズク。そこまで言ったら可哀想だろうが。」

「だって見て下さいよキリトさん。さりげなくウインクとかまでしてますよ?私なら恥ずかしくて死んでしまいますよ。」

「いやいや、さっきお前もやってただろうが。ルビス様だってお前の為に恥ずかしいのを推して無理してやってくれ……」

 

言って……しまった。

 

 

 

「ふ〜ん。私そんなに恥ずかしいことしてるんだぁ〜。」

 

 

 

ルビス様は変わらず女神の微笑みを讃えていた。見ているオレ達に幸せを与えるかのように。

しかし、すらりと伸ばされた指先にイオナズンの光の粒子が驚くほど早く凝縮されていく。

 

シズクは即座に俺の背後に身を隠した。

 

「何やってんだシズク?」

「キリトバリアーです。」

「ちょ、ずりーぞ自分だけ隠れて助かろうとするとか。」

「そんなイケズな事言わなくても良いじゃないですか。キリトさんは創造神だし、その中でも最も防御力が高いじゃないですか!アナタの背後が一番安全なんですよ。」

「い、嫌だよ。痛いものは痛いんだから。お前こそ前に出ろよ。」

「キリトさんには可愛い婚約者を守ろうとかいう考えないんですか?」

「こんな時だけ婚約者に戻すなんてズルいぞシズク!」

「煩い煩い!何も聞こえません。」

 

耳を両手で塞ぎあーあーと声を出すシズクは、どうあっても俺の背後から離れる気はないようだ。

 

「うふふ。二人が仲良くしているのを見るとママ、嬉しくなるわぁ〜。でも許さないけどね〜。」

 

「「いやー!!!」」

 

そう言うと、指先から離れたイオナズンの光がより一層光を強める。

シズクとキリトの悲鳴も包み込んだその光は、宿屋はおろか大陸ごと吹き飛ばした。

 

後にルビスは見てくれの悪くなった大陸を切り取って石版に封印し隠すのだが、その所業をシズクが拾った芋虫(オルゴデミーラ)が見ており、数百年後に真似して世界を石版に封じる凶行に走るのだが、それはまた別の話である。

 

 

 



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30話

少女はいつも私を見ていた。

 

古びた絵本(孤独な悪魔の物語)を大切そうに抱えたその少女は瞳を輝かせ、まるでその物語の主人公を見るかのように私を見ていたのを覚えている。

 

 

「ねぇおねーちゃんはまおーさまを知ってる?まおーさまはとても強くて、私たちを悪いヒトからまもってくれるんだよねー。」

 

キラキラと輝く瞳を真っ直ぐ私に向ける少女の頭を、私はそっと撫でる。少女は私の手を愛しそうに握りしめ、本当に本当に嬉しそうに微笑んだ。

そんな少女の微笑みは、私の心の中にも暖かいものを与えてくれる。

 

 

メルサンディ村

 

神界レンダーシアと、ここ魔界グランゼドーラの境界近くにあるこの村は、神々と魔族との紛争に度々晒されてきた。

 

私は自国の住人を護るため、魔王が魔王城(グランゼドーラ城)を出ることを引き止める意外と細かいバラモスゾンビに隠れて、境界にある村をよく訪れていたものだ。あの子は面倒臭いから、新しいロイヤルガードの候補ができたら即座に代えてやろうと思う。

村は、正体を隠して触れ合えば、私のような存在にも、皆が普通に接してくれる。魔界の住人の活き活きとした笑顔溢れる生活に触れることができるのだ。

 

「おねーちゃん、私ね、大人なったらまおーさまを護る騎士になるんだー。まおーさまの右側にはグランゼドーラの英雄キリトさまがいるから、私は左側にたつの!」

 

少女は満面の笑みで未来を夢見て語る。

 

「でも、魔王様にはロイヤルガードがいるわよ?」

私は少しだけ意地悪な質問を投げかけて見ると、少女は首を傾げて本気でどうしようか悩んでいる様子だった。

 

「大丈夫よ。あなたならきっと素敵な騎士様になれるわ。」

「ほんとー?じゃあさ、おねーちゃんも一緒にまおーさまを護る騎士になろ?」

「え?私も?そうね、じゃあ一緒に頑張ろっか。」

「うん」

 

少女ははち切れんばかりの笑顔で私に抱きついてくる。ふと少女のどうぐ袋に人形のようなものが目につく。

 

「あ!これ?これはまおーさまだよ。」

それは白銀の髪をした人形だった。とても似ているとは言い難い不細工な人形。でも、くたびれた様子から、少女が長年とてもとても大切にしているのが伝わる。

 

「まおーさまの髪はキラキラと輝く白い髪なんだよ。おねーちゃんも綺麗な髪だけど、おねーちゃんは黒髪だから、まおーさまにはちょっと負けちゃうね。」

「そうね。私なんかじゃ魔王様には敵わないわ。」

 

そう言って再び頭を撫でてあげると、少女は幸せそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

数十年の歳月が経ったある日のこと

 

 

「魔王様!大変でございます。」

ロイヤルガードであるバラモスブロスのキョウイチさんが真っ青な顔で部屋に飛び込んできた。

「・・・」

「あの・・・どうしたんすか?魔王様?」

「いえ、大概そう言って部屋に入って来た方はぐふっとか言って死ぬから、ソレを待ってるんですけど。」

「あの、魔王様・・・今はそれどころでは。」

「ちぇっ、分かりましたよ。で?何があったのですか?」

「あぁ、神族の軍勢が境界を越えてグランゼドーラ領(魔界)に進入してきました。」

 

最近では力の拮抗状態から、小競り合いはあれど進入まではなかったのだが、どうやら今回はちょっと様子が違うようだ。

 

「神族の軍勢は、辺境の小さな村を壊滅し、なおも中央に向かって進軍しています。」

私のお茶目な冗談を軽くスルーしたキョウイチさんは、私に事細かな詳細を身振り手振りで説明し、ことの重大さを伝えようとしている。

しかしキョウイチさんも魔界の唯一の法は知っているはずだ。

魔界では、力無き者が敗れるのは仕方がないのだ。特に何かに縛られることなく、いろんな意味で自由を満喫する彼らは、自身の防衛にも責任を負わなければならない。それが自由の代償。

キリトさんが決めた、たった一つの法律なのだ。

 

魔族は争いが絶えないイメージを持たれているが、実際は命のやり取りまでは至らない。互いに次の再戦を楽しみにするために。

戦闘狂のキリトさんらしいルールだと思う。

 

だけど、神族は違う。

彼らは、良い言い方をすれば真っ白なのだ。

黒や赤、青や黄色など、多色な性格の魔族にたいし、彼らは唯一光輝く純白のみしか受け容れられない。

彼等にとっては、白以外は全て排除すべき悪なのだ。

 

それはお母さん(ルビス)やお父さん(ゾーマ)が決めたルールではなく、ましてやレンダーシア(神界)の女神であるセレシアちゃんが決めたルールでもない。

欠片ほどの悪をも受け容れられない神族の性格によるものだ。

 

報告をするキョウイチさんに至っても、別にグランゼドーラの姫(魔王)である私に、滅ぼされた村やこれから危ない村を助けろなんて話はしていない。敗れた彼等に力が無かっただけと、キョウイチさんの中では既にカタがついているのだ。

 

「神族の軍勢の討伐に魔王軍があたったのですが、どうやら敵の中には闘神クラスがいるようでして・・。」

「なるほど、で、私達もそれクラスが必要だと?」

「はい。俺を始めとしたロイヤルガードが出てしまっては、流石に神族側も引くに引けなくなってしまうので出れないし、どうしたら良いかと魔王様にご指示を伺いたく。」

「そうですか・・・。滅ぼされた村は何という村ですか?せめて、無に還してあげないとですから。」

「魔王様は小さな村過ぎてご存知ないかと思いますが、メルサンディ村と申します。」

 

キョウイチさんの報告を受けて私は軽く目眩を覚えた。

いま、メルサンディと言わなかっただろうか。

堅苦しいグランゼドーラ城から、私が息抜きにお忍びで楽しんでいた村だ。

この事は、キリトさんしか知らない。

 

 

静止するキョウイチさんやキングヒドラのヒデアキさんを振り切り私は辺境のメルサンディ村へルーラで飛んだ。

 

 

 

 

辺りは瓦礫の山だった。

のどかで美しかった面影はもうどこにもない。

倒壊した家屋からは未だ黒い煙が上がっている。

色んなものが焼けた蒸せ返るような匂いを、風が私の鼻へと届ける。

辺りに動く者は誰一人いない。

そこらにあるモノは、かつて神族や魔族であった者達の残骸だけ。

私は神族魔族問わず、近くに倒れたモノ言わない亡骸の生命力の欠片は残っていないか調べて廻るが、どれも既に事切れている。ザオリクは効果を期待できない。

 

焼け野原を暫く見て廻る私の目に、炭化した小さな亡骸が目に入った。自分の身体を丸めるように胸に大切に抱えた人形を守るかのような亡骸だった。

私はその人形を知っている。

 

白銀の髪を象った人形

それは少女が私(魔王)を模した人形。

私がソレを拾い上げると、炭化した亡骸は音も無く崩れ去った。

 

この胸を締め付ける感情はなんと言っただろう。

 

誰も彼も皆が私を遺してキエテイク。

 

 

「シズク・・・。」

私が1人、少女の人形を抱き抱えていると、後ろから声がかかる。振り向かずとも分かる声の主はキリトさんだ。

私は黙ったまま彼の次の言葉を待つが、言葉はかからないままだった。案外優しい彼のことだから、きっと言葉を選んでいたのだろうが、今はその沈黙が逆に嬉しい。

 

「辛いだろうが死者を送ってやれシズク。」

「・・・別に辛くなんかありません。いつもの事じゃないですか。」

 

私は右手に魔力を込め、光輝く刀身が半透明の剣を取り出すと、ソレをゆっくりと、そして大きくふる。

死者を無へと還す〝異界送り″の儀。

 

 

様々な色の魂がグランゼドーラの空へと溶けていく・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら〜?なんで勇者くん泣いてるの?ウチのバカ亭主(ゾーマ)に苛められたの〜?」

 

え?泣いてる?誰が?

ルビス様に指摘された俺は、自身が涙していることに気付いた。

 

「わ、私はただザオリクを使っただけで・・・」

 

やたら慌てるゾーマ。

 

「なんか夢を見ていた気がします。」

「「夢?」」

「はい。メルサンディとかいう村なんですが。」

 

夢で見た村の名前を出した途端に2人の顔から笑顔が一瞬だけ消えた。

 

「どうしたんですか2人とも。」

「マコトくんが見た夢にメルサンディという村が出てきたのかい?」

「はい。」

ゾーマの一言一言、俺を探るかのような質問に素直に答える俺。

「他にもキリトさんが見えました。」

「そうか・・・いまキミはシズクと同調しているからね、

きっとシズクの記憶に触れてしまったのだろう。」

「では、アレはシズクの記憶なんですか?」

「私達は見ていないから何とも言えないが、メルサンディはかつて魔界と呼ばれるグランゼドーラ領にあったとされる辺境の小さな村の名前だ。」

「驚いたわ〜、あの子まだ引きずっていたのね〜。幾百もの仲間や数億の神魔の死をみつづけて来たあの子が、あの日は凄く肩を落としていたのよね〜。まるで普通の女の子のように。あまりに珍しいからよく覚えているわ〜。」

 

そう言ったゾーマとルビス様の2人は何かを思い出すように目を閉じ頷いている。

 

ふと目線を感じ、過去の俺とシズクの方に目線を戻すと、シズクがバギでロレンスさんをぶっ飛ばしていた。

どうやら気のせいらしい。

これはロマリアでの出来事だ。今となっては懐かしい。

 

「あれ?アイツ怪我なんてしていたっけな。」

バギを放つシズクをよく見ると、見落としてしまいそうなほど小さな傷が無数にあった。

「気のせいじゃない〜?それより先、進むわよ〜。」

何故か先を急かすルビス様に背中を押されりように俺たち3人は再び過去の自分たちの旅路を追う。

 

 

シズクに焦点を当てたあの旅路は、すぐ隣にいたにも関わらず、シズクが俺の知らないところで色々してたことに気付かされた。宿屋で寝ている俺にベホマをかけていたり、知らぬ間に呪われていた俺を解除したりと・・。

 

 

 

 

 

 

順調に進んだと思われた2人の旅は、予想以上にシズクが支えてくれていたのだ。

 

なかでも幾つか印象的な点がある。

 

 

先ずはノアニールだ。

ノアニールはピサロとロザリーさんに初めて出会った地だ。

 

「あら・・・あなたは。」

 

そう言った2人は長い無言の間の後に『はじめまして』と言い、過去の俺が突っ込んでいたのだが、ルビス様とゾーマは2人の無言の間をクスクスと笑っていたのだ。

不思議そうに見ていた俺の額にルビス様の人差し指がチョコンと触れると、2人の話し声が聞こえてきた。

 

「ちょっと・・・なんでこんなところにグランゼドーラ(魔界)の姫がいるのよ!」

「あ、あなたこそ何がミーナですか。明らかにエルフの姫、ロザリーさんじゃないですか。あ!さてはあなたですね?エルフの女王ヒメアさんから夢見るルビーを盗んだのは!」

「そ、それはその・・・あ、あなたこそ何人間のフリしてんのよ!神魔王のクセに!!」

「うぐっ・・・」

「「・・・・」」

「お互い都合が悪そうね。ここはお互い見なかったことにしない?」

「そ、そうですね。」

 

 

「はじめまして。」

「はじめましてかよー!!」

 

過去の俺がロザリーさんに突っ込みをいれている。

あの間にこんなやり取りがあったとは思わなかった。

 

 

 

俺がバハラタでアルバイトをしている間にロレンスと船を手にする旅をしていたのも知らなかった。

あまりにお金にがめついロレンスに苛ついたシズクは、魔物(あなた)の物は魔王(わたし)の物、魔王(わたし)の物は魔王(わたし)の物!

なんて言う、どこかで聞いたようなセリフを残してロレンスの財産を没収していた。

 

キョウイチにしてもそうだ。

ピラミッドで俺の見ていないところでの2人の会話だ。

 

「キョウイチさんが出るには早すぎます!!ちゃんとジジイ(ゾーマ)の城で待つように言ってあったじゃないですか!」

「でもよ姫、それだと俺、暇じゃん?俺だって何かしてーよ!」

 

では、空でも飛んでなさいとばかりにシズクはキョウイチをバギクロスでぶっ飛ばしていたのだ。

 

 

 

その他にもたくさんあった。

 

ジパングでは正体がヤマタノオロチと言う魔族のヒミコは、シズクの正体に気付いた時に驚愕していた。

ルビス様にまた無言の会話をみせてもらうと、

「ヒミコさん、私の正体をバラしたら殺しますよ?」

と、笑顔で無言の圧力を掛けていた。

まぁ、結局はキョウイチの気持ち悪い女装のせいでシズクの怒りを買うことになったのだが・・・。

 

 

さりげなく宿屋でツカサやサキの食事に力のたねや、ふしぎな木の実をたくさん入れている姿もみた。

 

 

ランシールでは、壁の巨人を蹴り飛ばし、震える彼等にオーブを取りに行かせ献上させていた。

俺たちがランシールを去る時、壁の巨人は泣きながらもう来ないでねと言っていたのはこう言うことだったのかと理由を知った。

 

テドンではシックスの正体がオリハルコンの精霊であることに気付いたシズクは、コッソリとシックスに勇者である俺が大当たりを引き当てるように指示していたが、シズク自身のまさに魔王の如き悪運で自分が当ててしまっていた。

約束が違うとばかりにシックスを蹴り飛ばしていたが、これは完全にヤツアタリだ。

 

 

バラモスにしてもそうだ。

ウッカリシズクの正体を口にしようとしたバラモスは、彼女の蹴り一撃で倒されていた。

ルビス様は、私のレベルは53万ですの一言に、

「年齢じゃあるまいし、何サバ読んでるのよ〜。」と言って笑っていた。

・・・本当はいったいどんなレベルなんだろうか。

 

俺は本当にアイツを見ているようで、本当は何も解っていなかったんだ。

 

 

 

 

「あれ?確かここはキリトさんと再会したハズなんだけどなぁ。」

過去の自分達の旅を追う俺は、ラダトームでふと違和感を覚えた。

牢屋に入っている俺は確かにここでキリトさんと再会したハズなんだが、彼はいなかった。

 

「あぁ・・・さっきも言いかけたんだけどね、私達創造神は未来過去現在に至るまで単体なのよ〜。世界の全てを創造した私達が、未来や過去の自分達と会えないでしょ〜?だってそれも全て私達が創ったのだから。」

 

ルビス様は言いにくそうに俺の呟きに答えた。

「妻の言う通りだマコトくん。見よ!エスタークと話しているように見える君は、独り言を言っているように見えるだろう?リムルダールでのエスタークとの戦闘を思い出してみなさい。あれだけ派手にやりあっていたのにも関わらず、死者0、倒壊した家屋も0だったはずだ。」

「確かに後からそう聞いた気がします。」

「さらに言うと、勇者くんがこのバカ亭主(ゾーマ)と戦い勝利した後に私達が去ったあとゾーマ城も消え去っていたハズよ〜?私達創造神はね〜全てを創造できるけど、何も残せないのよ。いえ・・・残せなかったと言うべきかしらね〜。」

 

ゾーマも頷いている。

 

創造神は全てを創造できるけど何も残せない。何となくだけど彼等が神界(レンダーシア)で神々の王をやらない理由の一部が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後もシズクは、ビアンカさんに俺のサポート役をやってほしいと頼み込んでいた。ビアンカさんも最初は「私でいいの?」とか言っていたが、いずれ訪れる別れの時が来る、自身が消え去る時が来ることを知っていたシズクは、俺の心が壊れないかを心配しての事だった。

パパス王やサンチョさんがシズクが女王になるように頼み込んだ際、彼女が渋々受け入れたのは、結局シズク自身がパーティを外れる為だったのだ。

きっと少しずつ俺から自分の存在を離して行こうとしていたのだろう。

 

俺たちパーティがマイラの村、そして本人は今の俺といるのだから誰もいないルビスの塔を経由してリムルダールへ行く。

 

その最中シズクは、女王の執務室で例の手紙を書いていた。俺に宛てた手紙だ。彼女は涙を何度も何度も拭いながら一生懸命書いているのが印象的だった。

手紙を書き終えた彼女は、突如姿を消した。

手紙と古びた絵本(孤独な悪魔の物語)を残して。

 

ルーラを使ったのだと言う。

ゾーマが言うにはこの世界と神々の世界とを繋ぐ道へ向かったそうだ。恐らくは神界(レンダーシア)へ帰るキリトさんを迎えに行ったのではないかと言っていた。

 

あれ?執務室の手紙は記憶にあるけど、この絵本はあっただろうか・・・でも何か見覚えがある。

俺はペラペラと絵本を開いてよんだ。

 

 

 

「これってまさか・・・」

「ええ、勇者くんはシズクの記憶に同調したから見たことあるでしょう?それはメルサンディ村の少女が持っていた絵本よ。それはね、昔とても巨大な力を持った少女が友達を求めて魔界(グランゼドーラ)に現れたお話ね。でも当時まだ神界だったグランゼドーラの神々は、少女の桁違いな力を恐れてしまい、誰もが少女を忌み嫌って友達になれなかったって物語でしょ?それを英雄のような女の子が少女の心を救うのよね?私もシズクのを読んだから知っているわ〜。さ、絵本よりも先に行くわよ?」

 

ルビス様は何故か絵本の話しを掘り下げようとはしなかった。

 

 

そして過去の世界の俺は、やはりそこにはいないが、ゾーマに勝ったであろう場面に辿り着いた。

 

「マコトさん・・・光の鎧だいぶ壊れてしまいましたね。そんな格好じゃ寒いでしょう?ですが見てください。マコトさんが取り戻した光です。」

ゾーマ城の半壊した部屋で、アイツが消えたシーンだ。

 

「勇者くん、ここだけはあの子の本当の気持ちの方を聞いた方が良いわよ〜。」

そう言ってルビス様は再び人差し指をチョコンと俺の額に触れた。

 

 

 

とても寒く、草木も生えないような世界を永久(とこしえ)に生きてきた私の世界は、一筋の光さえ通さない世界でした。

誰も彼もが私を残して死んでいく。

メルサンディの村の少女もそう。私を神魔王(わたし)だと知らないまま少女は私を慕ってくれた。グランゼドーラでは自由との代償に生きる為の力を自身に求められる。そこは私も理解しているけど、やはり私は少女を救いたかった。

私には平和を創る力はない。救いたいヒトたちを救う力がない。

 

そんな私の心象風景は草木も生えない、暖かな光が一切入らない無人の荒野だ。

 

 

でも・・・そんな闇の一番奥深くにいた私を、あなたは光輝く世界へと連れて来た。

 

ゾーマ城の崩れた城壁から、今まさに昇ろうとしている太陽の光は、私の心象風景にさえも光を灯した。

 

アレフガルドの草花に、ラダトームの城壁に、メルキドに、大雪積もるリムルダールに、アレフガルドで一番高いルビスの塔に、未来に希望を持てない子供たちの心に、全ての絶望に満ちた人びとの心に、

 

凍てついた私の心を、マコトさんは光に変えていく。

こんなに輝く光満ちた世界に、あなたはは私を連れていく。

 

貴方は人類の絶望の涙を、歓喜という宝石のような輝く涙に変えていく。

 

 

 

 

 

そして過去のシズクは、過去の俺を通り越し今の俺を見据えると、涙を溜めているが、しっかりとした輝く瞳を向け、

 

「勇者(マコトさん)よ、真の魔王である私の心に光を灯した貴方を心から愛しています。」

 

 

 

確かに彼女はそう言い残し、彼女は光の粒子となってアレフガルドの空へと舞い散る・・・微笑みを浮かべたまま。

 

 

 

 

 

世界がぐにゃりと歪んだ。

ボロボロと大小の岩石を崩しながら天井が崩れていく。床にも光輝くひび割れが出来ていく。

 

「どうやらこの過去の世界の構成が終わるようだな。」

ゾーマは崩れゆく世界を見て言う。

「セレシアの冒険の書による過去の世界は、しょせんは誰かの冒険の記憶を映し出したものにすぎない。我らはシズクの世界を旅しているのだから、あの子が去った後の世界をあの子は知らない。したがってここが終着駅だよマコトくん。」

 

 

 

ゾーマが過去の世界について語ったその時だった。

 

 

 

体の奥深くに響くような音とともに大きな地響きが起きた。

床に立っているのがやっとな程の揺れの中、崩れたゾーマ城の壁から、太陽の光とは違う眩い光が射した。

這うように壁までいき、俺の目に飛び込んできた光景それは

 

アレフガルドのはるか上空が光輝いていた。

昇る朝日より遥かに眩い光を放っているそれは、アレフガルドの空を上へ上へと登っていく、輝く光の龍だった。

 

「勇者くん、あれが神龍よ。」

「あれが神龍・・・」

 

空一面を覆い尽くすような巨龍。まさに神の龍だった。

 

「さ、私達も行くわよ〜。勇者くん、神龍の証の場所はメドが立ってる〜?」

「ル、ルビス様ですか?」

「そうよ〜」

 

ルビス様は巨大な鳥に姿を変えていた。あの姿はどこか神鳥ラーミアに似ている。

「ラーミア一族に似てる〜?まぁ、あの不死鳥ラーミアとか神鳥レティスとか呼ばれているあの一族は、元々私のこの姿を似せて創った一族だからね〜。」

俺の心を読んだであろうルビス様は応えた。

 

「それがルビス様の正体なんですか?」

「ん〜半分正解ね〜。」

「マコトくん、君には理解し辛いかもしれないが、どちらも我らの姿なのだ。我々創造神の大きすぎる力を適度に放出させるための姿なのだ。ルビスは神鳥、私は光輝く白虎、キリトは巨大な亀だっりな。さ、そんな事より我々も行くぞ?妻(ルビス)の背に乗るがいい。そしてマコトくんの導き出した神龍の証の在りかへ跳躍するぞ!!」

 

 

ゾーマの掛け声に応えたルビス様は二人を乗せてアレフガルドの上空へ上空へと、七色の虹の軌跡を引いて飛び立つ。

 

2人は俺の出した答えに従うと言う。

俺が導き出した神龍の証の在ありか・・・

それはーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー続くーー

 

 

 

 

光も通さない闇の奥深く

グランゼドーラ城(魔王城)は緊張感が漂っていた。

 

と言うのも、魔王が勇者に先じて神龍の証の奪取に向かうも、黄金の悪魔(ルビス)による妨害(災厄)に見舞われ失敗した神魔王は、臣下の者誰が見ても不機嫌なのだ。

いつ自分に魔王の災厄が降りかかるか知れない臣下達は、恐れ慄いているのだ。

 

そんな魔王の玄室の扉が勢いよく開き大慌てで入室してきた者がいた。

いつもは自慢の長い縦巻きのブロンドも、今は乱れ放題だ。

その者は大慌てで魔王の前まで進むと、片膝をついてかしずく。

 

「魔王様!!一大事でございます・・・・グフッ」

 

 

魔王にこうべを垂れかしずいていた女は床に突っ伏した。魔王が目にも留まらぬ拳を腹部に、いわゆる腹パンを入れたからだ。

そして魔王もといシズクは俺の方を見て

 

「見ましたかキリトさん。慌てて王室に入った者の末路はコレがデフォルトです。」

そう言って微笑んだ。

 

「ちょっ、ちょっと魔王様、何をなさるのですブァ」

「ミレーユさん?私の事はいつも何と呼べと?」

 

ミレーユの頭をグリグリ踏んでいるシズクは、本人が否定している魔王と言う名が最も似合うような冷たい目でミレーユを見降ろしている。

 

「まぁミレーユも立場あるものだ。許してやれシズク。」

「え〜。まぁ貴方がそう言うなら仕方ありませんね。昔はお姉ちゃんお姉ちゃんと慕ってくれたのになぁ。」

残念そうに口を尖らせたシズクは、目をぐるぐるさせたミレーユを見て溜息をついた。

まぁシズクの言うことも分からないでもない。

あの、シズクの後を追う小さかった少女は、今は成長し、身長はゆうに180センチを超える。浅黒く隆々とした筋肉の鎧に覆われたその姿は、少女が夢見た騎士に適していると言えば適しているのだが、とにかく厳つい。

魔王本人と知らないまま少女はシズクを慕い、シズクの方もまた、何かと小煩いバラモスゾンビをロイヤルガードから外したいと言う打算が相まって、シズクは少女を徹底的に鍛えた。

そう、意図せずに魔王を育ててしまうシズクが徹底的にだ。

 

その結果少女は強くなって念願のロイヤルガード入りを果たした。過去人間の世界に幾度と無く送り込んだ魔王を遥かに超えるロイヤルガードに。

その結果がこの姿である。

 

幼かったあの少女は縦巻きのブロンド以外は見る影もない。

完全に死んだ者を生き返らせることが出来るのは創造神でもルビス様だけだ。

あの人(ルビス様)もあれで、何かと娘には甘い。

 

 

「シズク、ミレーユは何を俺たちに伝えたかったのかは分からないが、俺はもう行くぞ?キョウイチにロレンスがマコトの側に付いた。彼らが神龍への挑戦の為に奇跡の泉に着くのはもはや時間の問題だろう。」

「キリトさん・・・。」

シズクは目を回すミレーユを抱えながら不安そうな目を俺に向けた。

言葉にしなかったが何を言いたいかは分からないでもない。

「悪いなシズク。今回ばかりは誰が相手でも俺は手加減するつもりはない。」

 

シズクは何も答えなかった。彼女も今回ばかりはマコトを鍛えるだけで死なせないでとは言わないだろう。何せアイツは・・・

 

これは終わりなのだろうか、それとも俺とマコトの長い戦いの始まりなのだろうか。

 

俺は愛剣を携え奇跡の泉へと向かう。

 

 

 

 

 

 

続く




次回はほんとのエンディングです。


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おおぞらに戦う

子供の頃の夢を見た。

 

 

「なんで泣いてるの?」

「スラりんが死んじゃったんだ。」

 

幼い頃、アリアハンがまだ平和だった頃、大切な友達のスライムであるスラりんが死んだ。

幼い俺にとって初めて知る死。もうスラりんは笑わず、呼んでも返事はしない。俺の足元をピョンピョン跳ねることも、もうない。

ある日、ある瞬間を境に2度と帰っては来なくなる死。

俺はたまらなく悲しく、泣き続けた。

 

「マコトさん、泣かないで?」

「だってスラりんが死んじゃったんだよ?悲しいに決まってるじゃんか!」

「スラりんって、マコトさんに懐いてたあのスライムですか?それが死んだのってそんなに悲しいの?」

 

子供の頃のアイツは、まるで本当に死を理解していないのか、または悲しみを理解していないのか、キョトンとした顔で俺を不思議そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「マコちゃんおかえりなさい」

 

過去の世界から戻った俺に優しい微笑みと言葉をくれたのはビアンカさん。

俺達の帰りを神界の女神セレシアに聞いたのか、迎えに来てくれたようだ。公私にわたって色々助けてくれたビアンカさんとの再会は、心を温めてくれる。しかしそんなビアンカさんの横をすり抜けるように俺に力一杯抱き着く者がいる。

 

「会いたかったぜマコト!!元気にしてたか?」

「暑いし痛え!」

「懐かしいなソレ。シャンパーニだっけか?」

 

忘れもしない無二の親友ツカサがそこにいた。かつてアリアハンからずっと俺たちの旅を支えてくれた頼もしかった仲間の武道家だ。

大切なところなので繰り返す。

か・つ・て、頼もしかった仲間だ。

 

「・・・お前修行怠けたろ?」

「な、何のことかな?」

「何のことじゃねー!!何だよその丸々したフォルムは!?」

 

あの筋肉の鎧を纏った仲間は、今は見る影もない程に丸々と太っている。しかしそんなツカサにさらなる追い討ちをかける言葉が続いた。

 

「もっと言ってやってよ。コイツさぁ、いくらアタシが言ってもこれだけは聞かなくてさぁ。」

「サキ!!」

「久しぶりだねアニキ。」

俺はサキを抱き締めると、サキもまた腕を回す。

ルビス様の言う通りなら実に数百年ぶりの兄妹の再会だ。

シスコンと呟きながらも頬を染めた妹は、薄っすらと涙していたように見えた。

 

「私たちもいるわよ。」

背後から声がかかり振り向くと、そこには水面の波紋のようなものが空間に現れ、そこから俺に少し遅れて異空間から還ってきたルビス様とゾーマが現れた。

2人の手には、ピサロと、エルフのロザリーさんが、まるで首根っこを捕まれた猫のようになっている。

 

「いつまでも過去の世界にいられても困るからね〜。」

と、ルビス様の軽〜い御言葉と共にピサロとロザリーさんと再会を果たす。

 

一通り皆んなと再会を楽しんだ後改めて周りを見渡すと、そうそうたるメンツが集まったものだと思う。

 

世界を創造した創造神たるルビス様にゾーマ。

神界レンダーシアの女神セレシアと、天空人の血を引くビアンカさんに、その天空人を従えるマスタードラゴンのプサンくん。

今はお笑いの神となったツカサに、妹のサキ。

何故か大ケガしていた魔族に転生したパパス王に、同じくミイラ男になってるサンチョ。

異世界の元魔王ピサロに、エルフの女王ヒメアの娘のロザリーさん。

そんな異世界の魔王たちを遥かに超える力を持つ、神魔王たるシズクを護るロイヤルガードの1人、バラモスブロスのキョウイチに、同じくロイヤルガードの1人で、いつの間にか仲間に加わった相変わらず神出鬼没なキングヒドラのロレンスだ。

 

本当に普通集まることの無い面子が一堂に集まっているのだ。ツカサは全員集合だなと喜んでいるのだが、2人が足りない。最も大切なアイツがいないのだ。

 

 

 

俺が改めて1人、神龍への挑戦を前に決意を新たにしていると、それを察したかのようにゾーマは言う。

 

「さぁ、集めた三つの証を空に掲げなさい。」

 

俺は言われるままに三つの証を空に掲げると、一際輝く黄金の光が証から放たれる。

そして三つの光が合わさると、神々しい輝きを放つ三角形のプレートがキョウイチのデレレレーンとか言う声に合わせて現れた。

 

「これが?」

「そうだよマコトくん。それが私の証であるゾーマの証だ。」

「これで神龍に挑戦して勝ち、願い事を叶えて貰えばシズクに会える・・・。」

「そうよ〜勇者くん。でもね、勝つ必要はないわ〜。綺麗に一撃を与えるだけで良いのよ〜。」

「え?一撃だけでいいんすか?」

「ええ、でも神龍も創造神。そう簡単にはいかないわよ〜?なんたって過去にキリちゃん以外出来たものはいないもの。それに勇者くんはその武器で挑むの〜?いくらオリハルコン製とは言え棍棒じゃあね〜。神龍を本気で怒らせちゃうだけかもよ〜?」

「でも俺はこれ以外持ってないし・・・。」

「フフフ。そう言うと思って過去の世界から持って来たわよ〜。」

 

そう言って俺に手渡したのは、かつてゾーマとの戦いを共にした、王者の剣だ。

剣の柄を握りしめると、剣の波動を感じる。

 

「うんうん、やっぱりその子(王者の剣)は勇者くんが持って初めて本来の力を発揮するようね〜。さぁ勇者の、剣もゾーマの証も揃ったわ。改めて固い決意を私たちに見せてちょうだい〜。」

 

ルビス様の言うように王者の剣から力が湧き立つのを感じる。俺は王者の剣を空に掲げると、剣先が神界レンダーシアの太陽の光を浴びて輝いている。

 

不思議だ。今ならなんでも出来そうな気がする。右手には掲げた王者の剣。

左手には三つの創造神の証を集め現れたゾーマの証。

振り向けば、俺の背を押してくれる仲間がいる。

 

 

 

待っていろよシズク。神龍を倒して必ずお前を迎えに行く。必ずだ!!

 

 

 

 

 

 

俺の戦いはこれからだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンディングソング

「とんちんかんちん一休さん」

相○恵(ウソ)

 

 

 

 

 

 

 

 

スタッフ

 

 

ルビス(c.v大原さや◯ウソ)

ゾーマ (c.v池田秀◯ウソ)

 

ツカサ (c.v神○明ウソ)

サキ (c.v竹達彩・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待てやコラー!!」

 

 

 

「な〜に?今良い所なんだから邪魔しないでくれる〜?あら?ツカサくん、中々良いセンスしてるじゃな〜い。」

「本当っすか?ルビス様。」

「コホン!あの、ルビス様。勇者様の言われる通りでございますよ。私の冒険の書を勝手に書き加えられてしまっては、人間の世界の運命が変わってしまいます。」

「え〜?だってこの方が面白いじゃない。セレシアちゃんだって楽しい世界の方が良いでしょう〜?」

「そんなことされたら人間の世界が破滅してしまいますよ。とにかくダメでございます。」

 

何やらお互い目から雷を衝突させて盛り上がる2人。

とにかくルビス様による冒険の書の改ざんは何とか免れそうだ。

俺が一息吐いた瞬間だった。

 

辺りが真っ赤に染まった。厳密には実際赤く染まった訳ではないのだが、どれ程凄まじいかも判断できない程の魔力が辺りを覆ったのだ。まるで心臓を鷲掴みされた様な気分だ。

 

立っているのも辛いその魔力は、後ろにいた仲間にも襲いかかる。異世界の魔王やその妻であるピサロやロザリーさんも片膝をついて苦しそうにしている。

ツカサやサキ、パパス王にサンチョさんは立ち上がることさえ出来ないようだ。

 

ロイヤルガードであるキョウイチとロレンス、神界レンダーシアの女神セレシアとビアンカさんにプサンくんは、何とか両足で立ってはいるものの、その表情はやはり苦しそうにみえる。

 

「やっぱり来たのね〜キリちゃん。そろそろ来る頃だと思ったわ。」

ルビス様とゾーマが見上げた視線の先には、かつての師でり、俺の憧れの英雄キリトさんがいた。

 

「マコト、久しぶりだな。よくもまぁソレほどの仲間を集めたものだと関心するよ。」

「キリトさん!」

「正直、お前がここまで来れるとは思わなかったよ。」

 

遥か上空から俺たちを見下ろすキリトさんの瞳には、ほんの少しの情けさえ感じられない。

いくら鈍い俺でも分かる。今回はキリトさんは本気で俺を倒しにきたのだと。

 

「キリちゃん?貴方そんなに本気だして恥ずかしくないの〜?」

「恥ずかしさなどどうでも良い。ルビス様そこを退いてもらいたい。」

「ママと呼びなさい!」

「・・・今回は俺も譲れない。いや、譲る気はない。例えルビス様、貴女と戦うことになったとしても。」

 

少しも戸惑うことなく言い切ったキリトさんに迷いはない。それどころか彼は更に魔力を上げていき、やがて異形の魔神の姿になっていった。方や腕、至るところから刃を伴ったツノを持ち、その両手には其々が俺の持つ王者の剣を遥かに超えるであろう神剣を携えている。

彼の瞳は真っ赤に輝き、その姿からは嘗てのキリトさんの優しさを微塵も感じさせない。

 

それに比べて言われた方である最強の女神ルビス様は、冷や汗が頬を伝っていた。

あの無敵の女神が明らかに動揺しているのだ。

 

「あらぁ、アレはグランエスタークの姿ね〜どうやらキリちゃん本気のようね、困ったわね〜。ああなると、貴方達全員でかかっても勝ち目は0ねぇ。」

 

ルビス様が言うにはキリトさんは創造神のなかでも特に戦闘に特化した神だそうで、彼が本気になると例えルビス様と言えど、負けはしないまでも勝てもしないんだそうだ。

しかも全てを創造した神同士の戦いは、あらゆる世界を巻き込んでしまい、全てを消し去ってしまうのだという。

俺は本気になったキリトさんに勝てるのだろうか。

同じ創造神の神龍は一撃で良いのだけど、キリトさんはそうはいかない。

でも、俺だってここまで来て引き下がるわけには行かない。

 

手に持つ王者の剣を強く握りしめたその時、その俺の手にそっと自分の手を合わせる者がいた。

 

「マコトくん。ここは私たちに任せなさい。君はゾーマの証で奇跡の泉への道を開き、先に進むのだ。」

「ゾーマ・・・」

「師匠・・・あなたもマコトに着くと言うのですか?」

「そうだ!エスターク、お前には一度敗北を与えた方が良いようだ。」

 

 

そう言うとゾーマは俺の前に立つ。そして俺に早く行けと再び催促する。

 

「師匠、創造神同士で戦う事で全てを消し去るおつもりか?俺はそれでも構わないが。」

 

そう言うとキリトさんは更に魔力を上げた。

すると彼の背後の空間に無数の水面の波紋のような物が現れ、その全てから剣の柄の部分が現れた。

 

あれは知っている。リムルダールで一度見たキリトさんの必殺技だ。発動してしまったらルビス様でさえ防ぎきれないと言っていたスターバーストストリームだ。

 

「エスターク。確かに我々創造神同士の争いは神界レンダーシアを含めて幾度と無く世界を消滅の危機に晒してきた。しかしな、何事にも抜け道はある。我々創造神同士が争っても世界を消滅させない方法がな。それはな・・・これだ!」

 

ゾーマが言い終わるが先か行動が先か、ルビス様がゾーマの隣に並び立った。

 

「2体1で勝負だ!!」

「え?」

 

さすがのキリトさんも目を点にしている。

 

「えーーーーー!!」

 

「そ、そんなズルい!」

「キリちゃん〜?戦いはね〜勝てば良いのよ、勝てば。」

「お前には日頃から甘く育て過ぎたと我等も思っていたのだ。エスタークよ!両親の愛ある躾をその身に刻め!!」

「ちょっ、ウソ、やめてごめんなさいごめんなさい。」

 

ゾーマとルビス様は悪魔も逃げ出すような笑顔で並び立つと、涙目になって悲鳴をあげるキリトさんの首根っこを掴んで、引き摺るように何処とも知らない空間へと消え去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇマコトさん泣かないで?」

「シズク、お前は悲しくないのか?スラりんが死んじゃったんだよ?」

「悲しい?悲しいと涙がでるの?」

 

幼い頃のアイツは本当にいろんなものが抜けているようだった。シズクの養父であるアリアハンの神父様は、大雪の中何日も暗い森を彷徨った時の後遺症を疑っていたけど、幼いながらも俺には彼女が心のなかで悲鳴をあげているように見えていた。

 

幼い頃のシズクは、引っ込み思案で大人しい少女だったけれど、今思えば既にアイツの力の片鱗は見え隠れしていたように思う。

そんな一見無敵なような彼女も、俺には常に何かに怯えている少女に見えていたんだ。

 

「ねぇマコトさん・・・。もし、もしね?私が死んじゃったらマコトさんは泣いてくれる?」

「シズク、お前は死なないよ。勇者オルテガの息子の俺が死なせない!」

「そっか。じゃあ、もし私が消えちゃったら・・・マコトさんの前から居なくなっちゃったらどうする?」

「え?居なくなっちゃうの?」

「もしですってば。」

「探すよ?お前が何処に居ようが、何処に隠れようが、世界中探し回す!!」

「もし私がそれを望まなかったら?」

「それでも探す!お前がどう思おうが、俺は探すんだよ。いつだって何だって何処に居ようが絶対に探し出すんだよ!!」

「・・・おませさんですね。まだ6歳のくせに。」

「お前だって同じぐらいじゃねーかシズク。」

 

シズクは優しく微笑みながら俺の手を握りしめた。

手を繋いで見上げると、アリアハンの教会の礼拝堂に掲げられたルビス様の像は、優しく微笑んでいるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが奇跡の泉・・・。」

 

泉なんて言うくらいだから湖畔的な場所を想像していのだが、辺りは一面氷の世界だった。

神界レンダーシアでも夜なのか、それともそもそも太陽の光が届かない場所なのか、あたり一面は薄暗い。息は吐いた瞬間に凍りつき、吸った空気は肺を一瞬で凍らすかの如き、絶対的な零度の世界だ。

神となった俺が今生きていられるのも、奇跡の泉へ渡る際にビアンカさんとサキのフバーハによるものが大きい。

 

辺りに生物の気配はなく、氷同士をぶつけたかのような音だけが、遠くの方でやまびこのように鳴り響いている。

 

何もかもを拒絶した静寂の絶対零度の世界。

 

それが奇跡の泉だった。

 

 

ジャリ、ジャリと氷を踏みしめる音を立てながら目の前の丘を登っていくと、大きな地震をともなった振動音に気が付いた。それは低い周波数で、まるで自分が胎内の中で心音を聞いているかのような規則性をもった振動音だった。

 

俺が丘を登るに合わせるかのようにボリュームが大きくなるその音は、丘の頂上に辿りついたところで止まった。

 

一面見渡す限り続く氷の世界。空を埋め尽くすような様々な彩りを揺らめかすオーロラのカーテン。

しかしそんな幻想的な景色を眺める余裕など微塵もなかった。

 

数十メートル先の空中に輝く白銀の球体が現れたのだ。

時を同じくして大地震により大地が揺れる。空のオーロラを巻き込むかのように、白銀の球体は凄まじい轟音と、球体付近に稲光りをともなって、まるで景色を吸い込んでいるかのように弧を描くように全てを吸い寄せている。

 

巻き込まれる風で辺りの水晶の原石が次々と大地から突き出してくる。美しかった景色は、水晶でできた針の山のような姿に変わっていく。

 

俺は腰を少し落とし、大地に根を張るかのように飛ばされないように体制を整えるさなか、白銀の球体に目を奪われていた。

 

 

 

 

俺の背筋は一瞬で硬直した。

絶対零度の世界にも関わらず、頬を汗が伝うのを感じた。

思わず全身に震えが走る。

球体から何かが出てきたからだ。

 

それは光輝く長い胴体をもち、ゆっくりと揺らめかすかのように動いている。空を埋め尽くすかの如き巨体は、逆U字型のカーブ状の姿勢になり、その動きをとめた。

何もかもを見通したかのような深い瞳は、ルビーのように紅く、白銀の全身にはそれすらも覆う程の眩い光が包み込んでいる。

この心臓を鷲掴みされた様な感覚に俺は経験がある。

 

初めて大魔王ゾーマと相対したあの時、さきほど本気になって現れたキリトさんと相対したときだ。

名は名乗っていないが全身が、魂が俺に告げる。

 

「し、神龍!!」

 

光の龍は俺に気付いたのか、男性とも女性ともとれない何重にも合わさったような声で、脳に直接語りかけてきた。

 

 

 

 

「創造神の証を集めワタシに挑む勇者よ。ワタシは神龍(シンリュウ)、最後の創造神である。ワタシはそなたの存在も知っているし、そなたの求めるものも識る。しかしあえて言葉にして聞きましょう。勇者よ、そなたは何を求めて我が眼前にやって来たのだ。」

「俺はマコト。神界レンダーシアにシズクを探しに来た!」

「・・・魔王を?彼女がそれを望んだのですか?」

「シズクがではなく、俺がアイツとの再会を望んでるんだ。ゾーマとルビス様から聞いたんだ。神龍、あんたならシズクに会わせてくれると。」

「ゾーマにルビス、それとキリトか?この様な戯れた事を考えたのは。確かにワタシの強制力なら魔王と言えど抗えない。しかし、ワタシに願いを叶えてほしくば・・・。」

「分かっているさ。神龍、アンタに一撃を入れなければならないんだよな。」

「それが分かっていてそなたは奇跡の泉へ来たと言うのですか。丸腰で。」

 

神龍の言う通りだった。

俺は過去の世界から持ってきてもらった王者の剣をツカサにわたしていたのだ。

 

「武器は必要ないんだ神龍。」

「…ワタシを相手に素手で戦うと?ワタシをそこまで舐めてかかった相手はそなたが初めてですよ。」

 

神龍の紅い瞳に怒りの炎が灯る。

神龍の全身を覆う光の光度が強さを増す。

 

神龍は大きく息を吸うと、キラキラと輝く息を吐いた。

空気中の水分が凍結する程の凄まじい嵐のような輝く息は、俺を目掛けて襲いかかってくる。

俺は近くの水晶の柱に飛び移り距離をとってかわす。

 

「聞いてくれ神龍!!俺はお前と戦う為に来たんじゃないんだ!」

「憐れな者よ、引き裂いてくれる。」

 

神龍は上空に向かって咆哮をあげると、オーロラのカーテンが敷き詰められた夜空から数百にわたる巨大な円柱が降り注ぎ、氷の大地に突き刺さる。

俺はその円柱を避けるように柱から柱へ、水晶の結晶から結晶へと飛ぶ。

だが神龍の技はそれで終わりではなかった。

神龍からギガデインを遥かに超える稲光りを大地に向かって放つと、先ほど空から降ってきた円柱は砕けて夜空に舞い上がった。

そしてソレは、数千を超える尖った破片となり、空気中の氷の結晶を纏い雨のように俺に降りつける

 

「マヒャデドス!!」

 

そう呼ばれたその技は、みるみる俺を傷付けていく。致命傷こそなんとか防いでこそいるが、確実に俺を追い詰めていく。

 

「勇者よ。何故そなたは勝てないと知りながらここまでやってきたのだ?」

 

なおも続く雨の如き刃を降らせながら神龍が語りかけてきた。

 

「ワタシはゾーマやルビスとは違う。そなたの生命を奪うのに躊躇はない。」

「そういうわりには俺はまだ生きてるぜ?」

「死に損ないが、よく咆えるものですね。」

 

しかし、いくら俺が必死に交わしているとはいえ、何故か神龍はトドメをさそうとはしなかった。

神龍もあのルビス様達と同じ創造神だ。その気になれば俺なんか一瞬で消し飛ばせるはずだというのにだ。

 

「・・・勇者よ、一つ応えなさい。そなたは何故戦うのですか?人は・・・争いなしに生きていけない生物なことは先の戦いでゾーマに諭されたのではないのですか?人は何故他者から奪うのか。」

 

それはゾーマも問うた質問だった。

 

「それは人が弱いからだ。力がとかではない。心が脆弱な生物なんだ人間は。」

「心が?」

「そうだ!人は弱いから戦う理由をつけたがるんだ!戦えば憎しみが憎しみを生むなんてことは分かっているんだ。戦う相手にも愛する者がいる事も今なら分かる。ゾーマはそれを俺に教えてくれた。その上で俺が出した応えは、相手を信じることができない人間の心の弱さが争いを生むんだ!」

「相手を信じること?」

「そうだ。武器を持った敵を前にお互い武器を捨てられない弱さだ。人間に・・・生物に必要なのは相手を赦す心だと言うのに争い続ける人間はまだ脆弱な生物なんだ!」

「興味深い答えにたどり着いたのですね勇者よ。そんなソナタに一つ昔話を聞かせてやろう。」

 

攻撃は続けながらも神龍は次々と質問を投げてくる。そんな神龍が話した内容・・・それは

 

「昔・・・まだ魔界グランゼドーラもまだ神界の一部であった頃。まだ世界は他になく、全ての生物はレンダーシアで生を謳歌していた。そんな世界に何処からともなく1人の少女がグランゼドーラに現れた。少女は美しく聡明な女性であったのだが、グランゼドーラの神々は少女を受け入れなかった。少女の異質な程の巨大な力を恐れた為だ。」

 

 

それは・・・アレフガルドで女王の執務室に手紙と共にシズクが忘れていった絵本『孤独な悪魔の物語』の内容だった。

 

「何で私を受け入れてくれないの?私はただ友達になりたいだけなのに。少女は懸命に自分の力は神々を傷つけるものではない。神々を襲うものではないと、それこそ毎日毎日必死に神々に訴え続けた。そんな訴えが千の夜を越えても少女は受け入れられる事はなかった。少女は次第に絶望していった。やがて自分を受け入れない神々を恨み、原因である自身の力を呪った。少女は外にも内にも拠り所を失っていったのだ。分かるか勇者よ。神々でさえも巨大過ぎる力は忌み嫌われるのです。」

「・・・」

「全てを否定し拒否された少女は何を以って生きれば良かったのだ?少女は何が悪かったのだ?お前に答えられるか?結局少女は全てに絶望し、かつて神界であったグランゼドーラを滅ぼしてしまった。そうする事で少女自身の心も滅ぼせると信じて。少女の心は痛みの集合体なのだ。」

「ソイツはバカだ!」

「なんだと?バカと言ったのですか?」

「そうだバカだ。どんなに悲しくても辛くても滅ぼしてはいけなかったんだ。結局少女は自身が忌み嫌うその力を使っているのだから。持ってしまった力を無くすことは出来ない。それは仕方ないんだ。でも、自分を受け入れてもらおうとするばかりで、自分自身は結局その神々を受け入れなかったからその結果に至ってしまったんだ。少女は・・・シズクはその力を嫌なものを見えなくする為に使うべきではなかったんだ!」

「誰からも受け入れられない魔王の気持ちがそなたに分かるというのか?魔王が好きで一番最初の悪魔という自身が最も嫌う忌み名を受け入れたと思うのか?」

「そうじゃねーよ!シズクは、本当に受け入れて欲しかったのならば、どんなに疎まれようが嫌われようが神々と距離を置くべきじゃなかったんだ!アイツは弱いんだよ心が。」

「・・・あの魔王が弱いだと?」

「そうだ!シズクは弱い。弱いからこれ以上嫌われるのを恐れて神々と距離を置いたんだ。心が弱いから婚約を解消とか言いながらもキリトさんを今も傍に置いているんだ。弱い心が、自身の正体を知ってしまった俺がシズクを拒否することを恐れたからアイツは神界レンダーシアに逃げたんだ!アイツは・・・シズクは誰よりも弱いから、全てを壊してしまうんだ!!」

「・・・」

「いいか神龍、よく聞けよ。俺はなぁ、俺はシズクが大好きだー!!!愛していると言っても良いね!!アイツがどんな力を持っていようが、アイツの正体が何であるかなんて関係ないんだ!!アイツが笑うと俺は嬉しくなる。アイツが寂しそうにしていると、傍にいてやりたくなる。シズクがそこにいるとおもうだけで幸せな気持ちになる。ただそこにいるだけで俺は幸せだったんだ!!」

 

 

 

 

 

「よく分かりました・・・それが勇者よ、そなたの出した答えなのですね。では更に勇者に問いましょう・・・。」

「なぁ神龍・・・いや、シズク。もうじゅうぶんだろ?」

 

 

 

ーーイタイーー

 

 

 

「・・・勇者よ、何故そなたは私を魔王の名で呼ぶのですか?」

「最初に変だと思ったのは、人間の過去の世界に行った時だ。」

 

 

ーーイタイですーー

 

 

 

「人間の、過去の世界?」

「そうだ。ルビス様にゾーマ、キリトさんの創造神は、現在過去未来において単体であると言っていた。」

 

 

 

ーー心が、張り裂けてしまいそうでイタイですーー

 

 

 

「・・・。」

「俺が行ってきたあの過去の世界での違和感が全ての始まりだ。」

 

 

 

ーーイタイ、もっとこの世界にイタイ、

イタイ、もっと貴方の声を・・もっと聞いて・・・イタイ。

 

 

 

「過去の世界にキリトさんや、ルビス様にゾーマはいなかったんだ。その部分だけは過去の俺は1人で話しているんだ。」

「そこに魔王もいなかったと言うのか?勇者よ。私は神龍、創造神の1人。私にカマかけは通用せぬぞ?」

「いや、過去の世界にシズクはいた・・・」

 

 

 

 

ーーイタイ、もっと傍で寄り添ってイタイ。もっと傍で温もりを、感じてイタイ。

 

 

 

「なら・・・」

「でも過去の世界のシズクは、本来なら存在しない現在の俺たちに気付いていた節があった。過去の俺だけではなく、現在の俺をもアイツは見ているようだったんだ。」

 

 

 

ーーイタイ。イタイです。もっと傍にイタイ。もっと寄り添ってイタイ。もっと話してイタイ。もっと想ってイタイ。もっと愛してイタイ。もっと・・もっと!!

 

こんなにイタイと、私、泣いてしまいそうです。

 

私は泣いても良いですか?

 

 

 

「・・・。」

「そう。あの過去の世界にいたシズクが・・・本人による成り済ましならば辻褄が合う。それに、神界の女神セレシアは言ってたんだ。証は、それぞれの思い出深い所に現れると。総てを創り、家族で幸せに暮らした神界の城にルビス様の証はあった。シズクとの思い出の詰まったあの部屋にキリトさんの証はあった。家族四人でいる事を何よりも愛したゾーマの証は、3人の証が集まることで現れる。では神龍、お前がシズクでないと言うなら、何故お前の証はアリアハンにあったんだ。」

 

 

泣きそうです。それが今の私の感情の総て。

死という名の安らぎを与える私。そんな私に誰が安らぎを与えてくれるのだろう。こんな深く傷付いて、ボロボロになった心は、沢山のイタイで出来ている。

 

 

「・・・。」

「でも何より1番確証に至った理由はなぁ、この奇跡の泉でお前と会った瞬間だ!!」

「・・・会った瞬間?」

「そうだ。シズク、確かにお前が俺の前で泣いたのは、ゾーマ城でのあの一度きりだ。でもなぁ、理由は分からないけど、俺の目には何時もお前は泣いている女の子に見えていたんだ。大雪が降り積もるアリアハンで出逢ったあの時からずっと。そして神龍、お前も俺には泣いている女の子に見えるんだ!!」

 

 

 

ああ、何故このヒトの言葉はこれ程にも、空っぽな私の心に響くのだろう。

特別な力は何も持たない彼は、攻撃力も特別ない。そんな彼の笑顔は、私に暖かい心を与えてくれる。

なんで気付かなかったんだろう。マコトさんはいつも私の傍にいてくれたというのに。

彼の少し後ろを歩くーーーー

大きな背中を見ているだけで嬉しかった。

一緒に歩くだけで幸せだった。

ただキミが笑ってくれているだけで私はーーーー

 

 

イタイ痛いいたいイタイイタイイタイ痛い痛いイタイ。心の中でマコトさんが溢れる。笑っているマコトさん。照れているマコトさん。時に怒るマコトさん。でも、直ぐに微笑みながら頭を撫でてくれた。

 

 

「・・・私は・・泣いても・・・良いのですか?」

「当たり前だばか!泣きたい時は泣けよ。辛い時は辛いと言えよ。痛みはな、耐えるものじゃなくて訴えるものだろうが!!辛くて押し潰されそうなら、俺が一緒に背負ってやる。だから・・・帰って来いシズク!!!」

 

 

やられた

 

私はそう思った。

それはまさに会心の一撃だった。

 

 

今までどんな勇者も戦士も、神も魔物も私に傷一つつける事は出来かった。神龍に一撃を与える勇気を示した者には、何でも願い事を叶える。創世の神を除けば、私に一撃を与えるなどあり得ない事。

もとから私は願い事を叶える気はないし、そんな力もない。ただ、神々や魔物に挑戦と言う娯楽を与えたに過ぎない。いずれ神々もまた自らの種族同士で争うかも知れない。そうならないように適度に刺激を与える敵を作る為、私はあえて魔王の汚名を甘んじて受けることにしたのだ。

 

それなりに楽しくしてはいたが、私だって顔を晒せば逃げ出されるのは、本当は辛くて悲しい。

 

そんな私に、目の前の勇者が武器も持たずに、言葉と言う愛情溢れる会心の一撃をもって与えた一撃は、とても暖かく、とても優しく、空っぽな私の胸の奥に、甘い余韻を轟かせる。

 

 

 

「・・・マコトさん。」

「シズク、一緒に生きよう?お前が俺を見限って去ったとしても、俺は必ずお前を見つけだす。いつだって何だって俺はお前を探すんだよ!」

 

 

ああ、なんて暖かい。

なんて嬉しい。

なんて幸せなコトバのイチゲキ。

 

 

「それが幼い頃に交わした、お前との約束だろシズク。」

 

 

 

 

 

 

 

そのとき光輝く強大な龍は、より一層眩く輝いた。それは光の闇とも言うべき光度。白以外何も見えない。

そんな虹色に輝く光は、やがて無数の光の粒子となって大空へと溶けていく。ただ一人、少女を残して。

 

流れるような白銀の長い髪は、キラキラと輝いている。透き通るような白く美しい肌に、ほんのり赤みを帯びた瞳。大空に溶けていく光の粒子が、まるで6枚の翼のように見えた。いつか何処だかで聞いた天使のようだ。

 

アレフガルドから何度も夢に現れた白銀の女神。今なら分かる。アレが、アレこそがシズクの本来の姿なのだと。

 

勇者は両手を広げると、彼女は胸に飛び込んできて、ひたすら声を上げて泣いていた。そんな彼女をそっと抱き締めて、いつまでもいつまでも二人抱き合っていた。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、あの子も勇者くんの前だと随分とお子様ね〜。」

いつの間にか俺たちのすぐ後ろにルビス様とゾーマ、巨大なたんこぶをこさえたキリトさんがいた。

「勇者マコトよ。よくぞ真の神魔王を打ち負かしたな。そなたの勇気は神界レンダーシアに永きに渡って語り継がれる事だろう。魔王城はグランゼドーラ城となり、その一階のエントランスにそなたの巨像を築こう。神々や魔族が争いを始めた時、勇気という力をもって世界を清めた神界の勇者として。」

「マコト、ゾーマ様の言う通りだ。お前こそが真の勇者だ。俺は・・・壊れゆく彼女を一番そばで見ていながら、ソレを止めることが遂に出来なかった。俺はシズクに近過ぎたのかも知れない。」

「あら〜大丈夫なの〜?そんなこと言ってるとシズクを勇者くんに本当にとられちゃうわよ〜?」

「大丈夫ですよルビスさぶぁ!?」

グーでキリトさんはルビス様に殴られた。

「マ・マ!!」

「お、お母様、大丈夫ですよ。俺は戦神です。誰にも負けないし、ライバルなんかにもなりはしませんよ。」

 

顔面ボロボロのキリトさんは、胸を張ってこたえるが、そんなキリトさんに言葉による痛恨の一撃を喰らわせたのは、俺の胸に顔を埋めているシズクだった。

 

「大昔、キリトさんが私に一太刀加え時願ったじゃないですか。本気で競えるライバルがほしいと。願い、確かに叶えました。」

「え?あれは戦いのことであって、お前とのことじゃ・・・。」

「往生際が悪いわね〜。まだお仕置きが足りないようね〜。」

そう言うと、ルビス様はキリトさんの首根っこを掴んで、空いた手で空間転移のゲートを開く。

 

「勇者くん。暫くはシズクと2人きりにさせてあげるわね〜。その代わり、今度会った時は貴方も私をママと呼ぶのよ〜。」

そう言って片目を瞑って見せるルビス様は、正しく女神の如き微笑みをくれ、泣きながら謝っているキリトさんを引き摺りながらゲートの中へ消えて行く。

 

「マコトくん、よく頑張ってくれたな。至らない娘だが宜しく頼むよ。そうそう、言い忘れていたが・・・娘はやらんからな?」

「さっさと消えろクソジジイ!」

 

後ろを向いたまま器用にゾーマをぶん殴ったシズク。

ゾーマは一度言ってみたかったんだよ〜と、シクシク泣きながらゲートの中に消えて行く。

 

「さぁ行こうシズク。あの丘の向こうに・・・奇跡の泉の外には皆んながお前の帰りを待っている。もうお前は1人じゃない。お前の帰りを待つ仲間・・・友達がたくさんいるんだ。もう姿を偽る必要もない。ありのままのお前でいい。お前はもうたくさんの友達に囲まれている。」

「マコトさん。」

 

シズクは俺の腕に自分の腕を絡め、頭を凭れかかるように歩くと、肩越しに彼女の甘い香りがする。

幼い頃からずっと俺の傍で、ヘタレな俺を支え続けてくれたシズク。

俺の幼馴染みが俺から離れるわけがない。

 

俺とシズクの物語はこれで一先ず終わりだ。

 

 

きっと何があっても、どんな困難が待ち構えていようとも、

俺たちはお互い支えあうように丘の向こうを目指すだろう。

 

まだ見ぬ明日(未来)を探して。

 

 

 

 

 

 

 

エンディングテーマ

 

 

sevens heaven

歌 カラフィ○(ウソ)

 

 

 

神龍戦のテーマ

 

おおぞらに戦う

 

 

 

 

staff

 

 

 

イラスト提供(五十音順)

 

アルアルファ

ナーコ

ニック・シェーファー

猫魔王

kitiguyder

meg

 

 

メインイラストレーター

 

さかき☆よーま

 

 

 

ネタ提供者

 

ニック・シェーファー

kitiguyder

hirahira

meg

アゼルバイジャン大佐様

ばいどるげん様

 

 

 

出演者

 

 

アルアルファ

如月ゆき

きょういち

クリシュ

ケイ

紅梅綾

さかき☆よーま

白雪

すりぃぷも〜ど

ナーコ

ニック・シェーファー

猫魔王

kitiguyder

hirahira

meg

 

 

 

シナリオ

 

 

堀井雄二(ウソ)

 

 

 

音楽

 

すぎやまこういち(ウソ)

 

 

 

お気に入りしていただけた読者様

 

蜂華さま

如月二八さま

天照大神さま

Dレイさま

masterさま

Quentinさま

HATOさま

そうざいやさま

アーセルさま

魂暁さま

クー○○さま

三又槍さま

霧歌さま

赤月カケルさま

うみさま

ぺきんさま

ゼルガーさま

昆布さま

三年寝太郎さま

syuntakuさま

やえさま

@翡翠さま

popopoさま

komugi15さま

あまつかぜさま

ぼさぼささま

白金屋さま

TENNA2さま

オレンジトマトさま

soa7070さま

Flak18さま

ショーちゃんさま

こんな事もあろうかとさま

きょういちさま

風鳴 蒼さま

wayさま

チープトリックさま

cellさま

Anssさま

コカアアさま

そーれいさま

香田さま

団十郎さま

エイコサペンタエンさま

あるぷすぼんばー6さま

yautuさま

零崎愛織さま

ごま0325さま

退!屈!さま

サイゴンさま

銀時事さま

96代目さま

夢幻×無限さま

川瀬悠花さま

zxcxvb1さま

白湯1013さま

モハビさま

じぐぅさま

REREさま

クロス・フレアさま

厚揚げさま

アゼルバイジャン大佐さま

ヒュペリオンさま

ネコマグロさま

宣彰さま

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ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険

 

 

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俺の嫁は大魔王様に続く(ウソ)




最後までお付き合い下さった皆さま、色々と突っ込みどころはおありでしょうが、メンタルの弱い女なのでお許しください。そして本当にありがとうございました。


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