弱虫兄貴のリスタート (バタピー)
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プロローグ

「それじゃ河野、気ぃつけて帰れよ。」

 

「えー河野さーん、もう一軒行きましょ~よぉ!」

 

「すまんなぁ、金山!

明日は横須賀でひゅうがの一般公開があるから、先にドロンするぜ。」

 

「出た出た海自好き。

ほんとよく行くわ。」

 

「また写真見して下さいよ?」

 

「わかったわかった、ほんじゃお先に失礼します。」

 

 

金曜日の夜、ほろ酔いの男は笑顔で手を振る。

河野 豊 29歳 独身。

 

 

世間ではアラウンドサーティ、通称アラサーと呼ばれる世代。

就職先は大手ではないものの、保険事業者として働いている。

後輩にも恵まれ、上司にも恵まれ、順調に会社の中堅となる人材へと成長していた。

プライベートでも交際歴2年の彼女もいる。

そして彼の趣味と言えは海上自衛隊の艦艇を撮ること。

この週末は本来何倍にもなる体験航海の参加権が当たり、当選日から今日までとても楽しみにしていた。

ほろ酔い気分もあり、鼻歌交じりで歩く。

順風満帆…まさにそのとおりの人生だ。

 

時間は夜の11時40分、大通りからアパートへ続く坂道をスマホ片手に登る。

メモ帳の[用意したリスト]に目を通す。

 

 

「カメラ積んだし、帽子も用意したし…お金はおろした!

あとは服とガソリン…ガソリン高ぇからなー

もっと…こう、タケコプターとか瞬間移動とか出来たらなー…?」

 

 

ふと足元にコツんと何か当たる。

それは次々と上から下へ…

 

 

「りんご…?」

 

「あぁ…すみません…。」

 

 

坂の上にはおじいさん。

先ほどまでいなかったような…。

スマホいじってて気づかなかったのか…?

しかもベタな事に紙袋からりんごをこぼし、坂道をゴロゴロと落ちていく。

 

 

「う わ ほっと!」

 

 

怪しくふらつく足を動かし、何個か拾ったり足で止めたり…。

全ては無理だったが目に見えるりんごは何個か拾えただろう。

 

 

「あぁ…ありがとう…。」

 

「いえいえ、あんまり取れませんで…あっ!」

 

 

再び1つ転げ落ちる。

なんとか取ろうと追いかける。

怪しい歩調は遂に崩れ、転がりそのまま大通りへ。

 

 

「痛った!

なんてこっ」

 

 

言い切る前に絶命した。

彼はトラックに轢かれ、そのままこの世を去った。

死因は脳挫傷。

トラックに轢かれたのも酷かったが、その後に電柱に頭から激突した方が酷かった。

 

 

「お、おい!

お兄さん…お兄さん!

きき 救急車!」

 

 

トラックの運転手は、手と口を震わせながら119番を押す。

救急車と消防車が到着し、応急処置を施していく。

だがこの怪我だ…もう助かるはずは無いが最善を尽くし、近くの病院へと搬送していった。

 

 

「いかん…大変な事をしてしまった…。」

 

 

固まっていた老人はどんどん顔が蒼くなる。

そしてうっすらと消えていった。

 

 



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夢か幻か現実か…?

「うぅ…痛い…痛…くない?

あれ?」

 

 

痛みで目を覚ましたのに目を開けたら痛みは消えた。

目の前は全て真っ白…上も下も左右も…影も無い。

体も見回す。

無傷。

スーツも綺麗なままである。

何一つ、ほつれもない。

 

 

「なんだ…飲み過ぎ…そうだよ、飲み過ぎだよ!

ははは、そうだよな。

きっとあれだ、多分夢…だよな……?」

 

 

定番である頬をつねる。

…痛い。

 

自分をひっぱたいてみる。

…そこそこ痛い。

 

 

「なんだこれ!

痛いじゃねーか!

夢なのか!?

夢じゃないのかコレ!?

覚めろよ、ひゅうがが見れねぇじゃねぇか!」

 

『しーずーまーれー。』

 

 

どこからか、腹のそこまで響く声が聞こえる。

心に直接語りかけてるのか…?

河野は気が動転しかけている。

 

 

「え え え?」

 

『落ち着くのだ…私はここにいる。』

 

 

真っ白から薄く輪郭が現れる。

姿が見え始める。

黄土の衣…木の杖…立派な口髭…頭上の天使の輪。

これは見た事がある!

 

 

「神…神様…?」

 

「左様、私が神だ。」

 

(怪しい…神が自分の事自慢げに神なんて言うか?

ってか笑神様は○○にって言うあれじゃねぇか。)

 

「誰が笑神様じゃ。

神だっつってんだろ。

心も読めんだぞ?」

 

 

これには酷く驚いた。

こんなにあっさり心が読まれるのなら…本物かもしれないと思ったからだ。

 

 

「そうだ、本物だ。」

 

「神様って…意外とそのまんまなんですね。」

 

「見える者の1番想像しやすいものになっているだけだ。

某番組にそっくりなのもその影響じゃろうに。」

 

 

あごひげを撫でながら答える。

 

 

(まさか…死んだら神様自身がお迎えに来てくれるとは思ってなかった…。

案外幸せな死に方したかもな…職場の人と仲良く飲んだ後で死ぬなんて…。)

 

「あ いや…その事なんだけど…。」

 

 

急に神様の顔色が変わった。

 

 

「それなんだけど…ちょっと…ごめんね?

実はモ○タリングって奴のもしもシリーズを真似してたら…」

 

 

口調が変わり、事情も変わった。

 

 

「真似してりんご落としたら俺が死んだということですか?」

 

「ご名答!」

 

「ご名答じゃねぇ!!」

 

 

頭を抱えて突っ伏す河野。

 

 

(あぁ…せっかく仕事も恋愛も順調だったのに!

しかもよりによって、ひゅうがを見る前に死ぬなんて…

このクソジジイふざけんな!)

 

「クソジジイとはなんて奴!

神じゃぞ!」

 

「ところどころ思考を読むのやめろおぉほほほ…

うぅ…うぅ…俺の人生が…うぅ…」

 

 

あまりのショックにボロボロになって泣き始める。

 

 

「まぁ…その…なんだ…?

お前の頑張り次第では生き返らせてもいいんじゃぞ?」

 

「え 生き返らせてくれるんですか?(ってか原因が神様なんだから無条件で生き返らせてくれてもいいじゃん。)」

 

「…」

 

 

心は読んだがあえて聞いてないことにした。

 

 

「んー…じゃがなぁ…死んだ人間は生き返らせてはいけないのがこの世界の掟なんじゃ。

…まぁたまに棺桶で生き返ったり、埋葬後に生き返るのはほぼわしのミスじゃが。」

 

「神様…なかなかやらかしてるんすね。」

 

「暇を持て余した神々の遊び!

…じゃからな。

はーっはっはっは!」

 

(この神様ホントに神様かよ。

何年前の死んだ芸人のネタ使っとんねん。)

 

 

神の目にも涙なり。

本来ならこのような不届き者には天罰が下るが原因が自分にある以上天罰を下せない…

 

 

「…と言うわけで、お主が生き返るに相応しいか図りにかける。

そいっと。」

 

 

目の前に漫画が並べられる。

漫画には[河野豊]と書かれているものも混じっている。

 

 

「これは…俺の漫画!」

 

「いかにも、おヌシのじゃぞ。」

 

 

横に並べられる漫画。

背表紙は全てが繋がるように出来ている。

アニメや映画やまさかの実写化(…)もされたあの有名作だ。

 

ドラゴンボール

 

全42冊 全519話

 

 

その全てがそこにある。

…と言うか河野自身の部屋からまるまる持ってきたと言える。

 

 

「まさか…。」

 

「察するのが早いのぅ。」

 

「冥土の土産って言うなら…護衛艦はつゆきの除籍記念メダ「期待したワシがアホだった。

単刀直入に言おう、この世の最後を見届けて見せろ!

そうすれば生き返らせてやる!」

 

 

しばしの沈黙…と言うか河野は飲み込めていない。

 

 

「神様…いくら何でも漫画に入れとは…」

 

「ワシは神だ。

全知全能じゃぞ?

試しにほれ〜」

 

 

あっという間に河野はパンツ一丁になる。

 

 

「なっー!」

 

 

小さく平べったくなった一式は36巻に吸い込まれていく。

 

 

「どうじゃ?

これはお前のじゃろう?」

 

「た…確かに…(これは…これは本物だ…)」

 

 

ページの隅に落書きみたいだが自らの鎧…スーツが描かれている。

 

 

「というわけで、今からおヌシを生き返らす準備をする。

その間この世界を駆け抜けろ!

なんといおう…」

 

 

話が長いので割愛するが、生き返らす条件は以下である。

 

 

・ドラゴンボールの世界に入れば何をしても良い

 

・死んだら終わり(だがドラゴンボールで生き返る事は可)

 

・河野が投入されるのはジャンプコミックスの17巻

 

・オリジナルキャラクターではなく…

 

 

「…というわけじゃ。」

 

「ふざけんな!

なんでラディッツなんだよ!」

 

 

物語中盤…Z戦士達に倒されたラディッツに憑依し、生まれ変わるというものだった。

 

 

「なんじゃ?

ラディッツのどこが悪「大体100ページくらいしか出てこない雑魚ロン毛じゃないか!

ってかこいつのせいで戦闘力の計算がとかややこしい設定になってるじゃんかよ!

俺はすぐに死ぬのはごめんだ!」

 

「…やはり人気がないのぅ。

だがラディッツでなければならん!

他のキャラクターだと色々設て…弊害が及ぶ!

わかってくれたまえ!」

 

 

途中のことは聞き取ってなかったのが幸いだった。

渋々ながらも河野OKを出した。

 

 

「よ よし、ならば…」

 

 

神は17巻を手に取る。

 

 

「生きて帰ればそなたを生き返らす!

これだけは必ず約束しよう!

それと最後に、神からのアドバイスだ!」

 

 

掌がバチバチと電流を放ち始める。

いよいよだ。

 

 

「ゲームも漫画も読んでたおヌシならわかるだろう。

この世界で手を抜くことは即死につながる。

心して覚えておけっ!」

 

「は はい!」

 

「そんじゃ、逝ってらっしゃい。」

 

「神様、それ漢字が違」

 

 

少々白煙を上げて17巻へと飛んでいく。

ドラゴンボールの世界へと入ったのだ。

 

 

「暇つぶしにはなるか…わしのミスではあるが…頑張りたまえ。」

 

 

神はゆっくりと17巻をめくる…



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-番外 主人公紹介-

・氏名

河野 豊 (かわの ゆたか)

 

・生年月日

1986年 2月20日

 

・年齢

29歳

 

・河野自身の性格

職業柄、性格は明るい。

そこそこ真面目ぶっているが、仕事以外は適当な面が目立つ。

予定外な事があると慌てる節がある。

基本的に保守的である。

なお、とっさの時やキレると口が悪い時があるのは本人のちょっとした悩み。

 

・ラディッツになってからの性格

基本的に前の性格を引き継いでいる。

サイヤ人の体に移った影響からか、戦闘に関しては消極的なくせに楽しみになっている傾向あり。

 

・職業

某保険事務所 営業係

 

・学歴

某工業高校 卒業

 

・交際ステータス

彼女が出来て2年

 

・趣味

海上自衛隊 全般

 

・好きな食べ物

カレーライス

 

・嫌いな食べ物

ゴーヤ

 

・知っているドラゴンボール作品

漫画 ドラゴンボール

テレビアニメ ドラゴンボールZ 魔人ブウ編

ゲーム ドラゴンボール FINAL BOUT

 

・憑依したキャラクター

サイヤ人 ラディッツ

 

・覚えた技

界王拳

スコードロン界王拳(部分的界王拳)

太陽拳

主砲斉射(エネルギー波)

イージス (気のバリアー)

リヒート(自らを超加速させる能力。

気で回復することは出来ない。

技名を口に出さなければいけない。)

 

・通算死亡回数

0回(最新話まで)

 

・身体的特徴 詳細

身長 186cm

体重 71kg

髪の長さ 160cmくらい

服装 おなじみの戦闘服

道着(亀仙流ではないため、黒の道着に山吹色のインナーと黒系の運動靴)

 

 

...今回の主人公、河野さんに質問コーナー...

 

Q1.ドラゴンボールは知っていますか?

A.漫画は全巻集めましたね〜。

ですけどもう十何年も前に倉庫にしまったままですかね。

 

 

Q2.漫画があったなら、ドラゴンボールのアニメはみていましたか?

A.リアルタイムで見てたのは魔人ブウが初めてですかね。

そこでドラゴンボールが面白くなって漫画を買ってゲームも買った感じです。

 

 

Q3.ドラゴンボールのゲームは何をプレイしてましたか?

A.ドラゴンボール FINAL BOUTって奴しかやってないです。

 

 

Q4.ドラゴンボールをどれくらい好きですか?

A.正直そこまでですよ。

漫画は何回か読みましたけど、記憶が曖昧なとこばかりです。

なんかテ〇ビチャンピオンでドラゴンボールのクイズをたまたま見たんですけど、1問もわかんなかったからですからね。

オタクやマニア知識は無いんで...昔見てたって感じですかね。

 

 

Q5.ドラゴンボールの小説なのに、趣味が海上自衛隊っておかしくないですか?

A.人の趣味に文句言わないでくださいよ〜。

...まぁほかの人にも言われることありますけど、美しいフォルムに惹かれますって!

一番好きなのはDDG-173 こんごう何ですけど、アメリカ海軍以外の初めてのイージス艦なんですよ!

ちなみに最初の破壊措置命令で.........(長いため割愛)。

 

 

Q6.例のおじいさんに一言

A.早く元の世界に戻してください。

 

 

 

 

 

※このページは河野自身のものであり、作者の情報は書かれてはおりません。

 

※新たな情報、補足が必要ならば追加される場合があります。



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-サイヤ人襲来編!-
悪夢! 蘇る兄貴


誤字脱字 修正済み R2 1/8


「一年…貴様らせいぜい楽しんでおくん…だな…」

 

「…」

 

 

魔貫光殺砲を受けたラディッツは、ゆっくりと死に向かっていた。

戦闘力400そこらの雑魚にやられるのは心底気に食わなかったが…仲間のサイヤ人達が駆けつけドラゴンボールで蘇らせてくれるはずと期待していた。

にやつく敵を見下すピッコロ。

そしてそれを見守る半透明の河野…。

 

 

(うわぁ…本当にドラゴンボールの世界かよ…

出来れば嘘が良かったな。)

 

 

目の前の光景から、すぐに全てを察する。

そういえば、肝心のどうやって憑依するのかを聞いていなかったことに気づく。

 

 

「は…はは…

せいぜい…余生を…楽しん「ずあっ!」

 

 

ラディッツは、最後まで台詞を言う前に絶命した。

最後の衝撃波で地面にヒビが入っている。

 

 

「ちっ…ふざけた事を抜かしやがって。」

 

 

ピッコロはラディッツに背を向け悟空の元へと歩き出す。

 

 

(おい神様…どうやってラディッツになるんです?)

 

「体に触れるだけでいいんじゃぞ。」

 

 

後ろを向けば神。

 

 

「うわっ 一緒にいるなら言ってくださいよ!」

 

「いいから、ほれ!」

 

 

河野を押して、無理やりラディッツに触れさす。

その瞬間、河野はラディッツに吸い込まれるように入っていった。

 

 

「よし、ほれ!」

 

 

次に神は半透明の状態から実体化していく。

その異変にピッコロもすぐに気がついた。

 

 

「なっ!

何者だ!?」

 

「ほっほっほ、まだ知らんで良い。

さてと、この死者の体はどうするかはワシの勝手…生かすも殺すもワシ次第…」

 

 

掌を風穴へかざす。

穴が…傷が全て治癒していくではないか。

ピッコロは確信する。

こいつはサイヤ人を復活させるつもりなのだと。

 

 

「貴様!」

 

 

咄嗟に爆裂魔光砲を放つ。

ラディッツと謎の老人を中心に爆発を起こす。

土煙が晴れる。

そこには本当に無傷の2人がいた。

 

 

「な…なんだと!?」

 

「まぁまぁそう怒りなさんな。

ワシは敵ではない。

そして、こやつも今この瞬間、敵ではなくなった。」

 

 

地面に突っ伏していたラディッツが、ゆっくりと立ち上がる。

ピッコロは更に警戒を強める。

 

 

(なんてこった!

孫悟空と協力してやっと倒したってのに…フルパワーで復活しやがって!)

 

 

ラディッツは体を見回し視線を前へ向ける…そして言葉を放つ。

 

 

「本当にラディッツになっちまった!

うおっ、ピッコロだ!

すげぇぞ神様!」

 

「…」

 

 

先程までの邪悪さがまるで無くなった。

目つきは相変わらずだが…仕草が…気の種類も…容姿以外全て温厚な印象を受ける。

 

 

「クソジジイ!

こいつに何をした!?」

 

「どいつもこいつもクソジジイと言いやがって…

オホン、今を持ってこのラディッツの魂を浄化した。

これから先こやつは君達の仲間だ!

なぁラディッツ?」

 

「は はい。

えー河野と痛っ…ラディッツと申します。

以後、よろしくお願いいたします!」

 

 

河野の苗字はここでは捨てろ、と言わんばかりに杖で殴る神様。

だがこんな事でピッコロの警戒心は解けない。

 

 

「信用出来んな。」

 

「今は信用しなくていい。

一年後に信用しなさい。

では!」

 

 

突如として老人とラディッツは消えた。

ピッコロは大きく舌打ちをして再び悟空の元へと歩き出す。

 

 

---最初の白い空間(神室)---

 

 

「あれ?

帰ってきた。」

 

「言うのを忘れておったな

ここは神室…神の居場所じゃ。」

 

 

最初の白い空間へと戻る2人。

最初と違うのは、河野がラディッツに変わったということだけだ。

 

「これでおヌシは、ラディッツとして生きていく訳じゃ。

じゃが1人だけでは寂しかろう…

本来神の声は聞こえないんじゃが特別に呼ばれた時は交信してしんぜよう。」

 

「あのあれですか?

よく洗脳とかに使う「神の声が聞こえる!」ってやつですか?」

 

「本当に聞こえる奴は他人にゃ喋らんじゃろ?

少しだけ罪滅ぼしと思ってくれ。

全ての事は、閻魔大王や界王にも話してあるから大丈夫じゃ。」

 

「ってことは…もうすでに一回死んでるってことですか?」

 

 

ここで死んでたらもう死ぬことは許されない。

ナメック星のドラゴンボールならともかく、地球のドラゴンボールは1度死んだ者は蘇らせれないからだ。

 

 

「そこは大丈夫じゃ。

魂の入れ替えじゃからな。

カウントには入っとらんよ。

それでは、これで本当に、ドラゴンボールの世界へ行ってもらうぞ?」

 

 

神の右手に再び電流が流れる。

生き返る為にこの世界に入らなければならないなら…やるしかない。

 

 

「わかりました…帰ってきたら、必ず生き返らせて下さいよ!」

 

「うむ、神に誓おう。」

 

「あなたが神じゃな「それでは逝ってらっしゃい」また漢」

 

 

再び、河野ことラディッツはドラゴンボールの世界へ飛ばされる…



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千里の道も舞空術!?

「えー、という訳で、修行をさせたく生身のまま連れてきたわけですが…

どうか閻魔大王様、こやつが界王様の元へと伺うのをお許しください。」

 

「ほぅ…そいつが孫悟空か。」

 

「…」

 

 

衝撃の最後を迎えた孫悟空は、最後の審判を受けるべく閻魔大王の御前に来た。

というのは違うが、また別の修行をさせるべく地球の神が孫悟空を連れて閻魔大王の許可を得ようとしていた

 

「ふーむ…確かに素晴らしい功績じゃ。

だが天国へ行ける者を危険を犯して蛇の道を通り、界王様の元へ行かすというのか?」

 

「はい。」

 

「なぁ、みんな死んだらここに来るんか?

宇宙人とかも全部?」

 

「そうだ。

この世界で死んだ者は全て平等に、閻魔大王様に裁かれるのだ。」

 

「ふーん…なぁ閻魔のおっちゃん!

オラの兄貴で、ラディッツっつう奴来なかったか?」

 

「ラディッツ…おぉおぉ!

そいつがおったわ!

ほれっ後ろ見てみ」

 

 

閻魔大王に促されるまま後ろを振り向く。

すると薄らと…いや、ラディッツが現れた。

 

 

「そ 孫悟空だ!」

 

「おめぇ…また悪いことしようとしてんじゃねぇだろうなぁ?」

 

 

悟空が構える。

ラディッツは…キョトンとしていた。

 

 

「あー…孫悟空よ?

あいつは確かに地獄行きだがな…魂を浄化して頂いたから今は善人じゃ。」

 

「孫悟空よ、気を探ってみろ。

邪悪さが消えておるじゃろう?」

 

「え…確かに…悪そうな顔だけど悪ぃ気はしねぇな。」

 

「えっと…浄化されて生まれ変わりました。

河…ラディッツです。

えと…よろしくお願いします。」

 

 

…なんかぎこちない。

先程までは、「一族の恥だ、死んでしまえ!」と言っていた顔も知らない兄貴だったが、今や悪者の面影がまるでない。

 

 

「あの方のご意向だからな。

ラディッツよ、孫悟空と一緒に蛇の道へ行け。

今の体なら、そやつと同じ修行をしても平気じゃろう?」

 

「は はい。

わかりました。(あの方って…某探偵アニメのボスかよ…)」

 

「ほぅ?

本当に死んじゃったら地獄行きにしちゃおうかな~?」

 

 

ラディッツの顔がみるみる蒼くなる。

 

 

「すいませんでした!

どうか地獄行きは勘弁して下さい!」

 

「ふっふ、まぁ良かろう。

おいアカオニ、入り口まで送ってやれ。」

 

「はい、すぐ準備します。」

 

「「ありがとうございます!」」

 

 

悟空とラディッツは深々と頭を下げる。

 

 

「孫悟空、この一年が本当の勝負じゃ。

がんばるのじゃぞ?」

 

「うん、わかった!

とにかく行ってくる。

ミスターポポにもよろしくな!」

 

 

先に悟空が出口へ駆ける。

ラディッツも行こうとしたが止められた。

 

 

「河野…いやラディッツよ、悟空の事を頼むぞ?」

 

「名前知ってるんですか!?」

 

「例のあの人が仰られていた。」

 

「今度はハリー〇ッターか…

とにかく、蛇の道から落ちないように急いで修行してきます。

地球の事をよろしくお願いします!」

 

 

ラディッツも悟空の後に続いていく。

界王星へと旅立つ2人。

心配そうに見つめる地球の神。

 

 

(それにしても…地球はとんでもない奴らに目をつけられてしまったようだ。

流石に今度ばかりは孫悟空とでも危ういであろう…

神龍にサイヤ人の抹殺を願ったとしてもあの恐るべき力の前には無理じゃろ。

孫悟空とラディッツの奴が界王様の元で修行をさせていただいたとしても勝てる程の実力を得てくるのか…?

まずこれ以上の伸びしろがあるのだろうか…?

ただひとつの救いは孫悟空の息子、孫悟飯。

ピッコロの奴があの小僧をどこまで育て上げるだろうか?

してもあの河野…いやラディッツか…

あの方がこの世界に連れてきたあの男…身体はサイヤ人じゃが中身は地球人…しかも好戦的ではなくむしろ保守的人間。

詳しくはわからんが、そんな印象を受「さっさと帰らんかぁっ!

業務の邪魔じゃぁっ!」

 

「は はいぃ!」

 

 

地球の神は大急ぎで地球へと帰っていった。

 

 

………

 

 

「お待たせしました。

これより、蛇の道へとご案内します。

蛇の道は辛いですが…お身体の方は大丈夫でございますか?」

 

「うーん…死んでっから大丈夫じゃねぇんじゃねぇか?」

 

 

タケオ〇自動車工芸のミリ〇ーのような、可愛らしい車でトコトコと蛇の道入口へと向かう。

 

 

「なぁ、界王さまってどうゆう人なんだ?」

 

「界王様は全宇宙の頂点に立たれているお方です。」

 

 

………

 

 

 

「…さぁ、着きました。

こちらが蛇の道の入り口でございます。」

 

 

目の前に大きな蛇の顔が現れる。

これこそ[蛇の道]の入り口である。

 

 

「これがあの蛇の道か…

やっぱりデカイな。」

 

「長そうだな…一体ぇどれくらいあんだ?」

 

「この道をひたすら真っ直ぐ進めば界王様のところへ通じております。

言い伝えですと…たしか100万kmだとか。」

 

「「100万km!?」」

 

 

これはリアクションが被る。

いや、被らざるを得ない程遠い…

 

 

「ここ一億年では、閻魔大王様しか辿り着いた者はいません。

それと…雲の下は地獄なので絶対に落ちないように気をつけてください。

二度と戻れませんからね?」

 

「確かにそうだったな…」

 

「そうだ、頼みてぇ事があるんだけどさ。

占いババにさ、『オラの事1年間は生き返らせないでくれって亀仙人のじっちゃんに伝えてくれ』って言っといてくれ。」

 

「かしこまりました。」

 

 

アカオニは手帳と鉛筆を取り戻してメモを取る。

元営業マンのラディッツも「流石や…」と感心する。

 

 

「よし…じゃそろそろ行っか!

おめぇも来るんだろ?」

 

「あ あぁ、同行しますぜ。」

 

「くれぐれもお気を付けて。」

 

「舞空術ーっ「あ待てぇ! ずりぃぞーーっ!」」

 

 

飛んでいく悟空を爆走して追いかけるラディッツ。

 

 

「えぇ…飛べるの…?」

 

 

アカオニはなで肩になって見届ける。

 

 

………

 

 

「しまった…舞空術で体力使っちまった。」

 

「自業自得だろ!

後で教えろよな!」

 

 

結局蛇の道を走る2人であった…



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サバイバル生活 6ヶ月目

-次のお話の前に簡単に説明しよう-

 

原作通りにピッコロは悟飯を拉致し、根性を叩き直す為平原に放置プレイ。

それを知った母親のチチは、仰天して気絶し御爺の牛魔王も不安を隠せなかった。

一方クリリン達はヤジロベーより「地球の神様(ワシ)の元で修行しないか?」と伝言を受け快く承諾し現在修行中である。

 

-以上、作者による簡単な説明でした-

 

 

とある平原を走る影。

一つは追いかけ一つは逃げ…

この光景は、もう何度見たことだろうか…?

 

 

「グオオオォォォォ!」

 

「こっちだよー」

 

 

恐竜に追いかけられる悟飯。

以前とは別人となった…いや、別人と見間違う程にタフになっていた。

ピッコロの狙い通りだ。

 

 

「ほっ!」

 

 

悟飯が大きく跳ねる。

恐竜の目の前に岩山が飛び込んでくるも急に止まれない。

 

 

「いっただっきまーす」

 

 

 

剣で残り短い尻尾をまた1切れサクッと切り取る。

近くにある木の枝にエネルギー波で火を起こす。

 

 

「ホントに懲りないね君、尻尾無くなっちゃうよ?」

 

「…グルル(…ぐぬぬ)」

 

 

そんな恐竜をよそに、肉を焼き始める悟飯。

その光景を、満足気に見下ろすピッコロ。

 

 

「少しはマシになったか。

ここから地獄へ落としてやるか…」

 

 

肉を食べ始めた悟飯の目の前に降り立つ。

 

 

「ふぁっ!?

ふぁふぉぼふひぃほっ!(あっ!? あの時の!)」

 

「よく生き延びたな。

そいつを食い終わったらすぐに修行を始めるぞ!」

 

 

大きな肉の塊を一口で飲み込む。

やはり、半年前よりとてもたくましくなっている。

 

 

「修行って何をするの?」

 

「貴様には圧倒的に時間が足りない。

残りの半年は全て実戦だ。

戦いの中で能力を引き出すのだ。

特に目で相手を追うのではなく、気を読み取る事だ。

早速やるぞ!」

 

 

いきなりピッコロが悟飯へと殴りかかる。

もちろん本気でないため、悟飯はギリギリで避ける。

 

 

「目で追うな!

感じるんだ!」

 

「やぁー!」

 

 

ここからは全て戦闘形式の実戦修行だった。

ピッコロのレベルは高く、悟飯はどんどん吸収していく…

だがやはり速さも力もまだまだ劣る。

 

 

「はっ!

あれ?」

 

「後ろだ。」

 

 

背中を蹴たぐられる。

前方へつんのめりながら倒れ込む。

 

 

「そんなの速すぎるよ!

感じろって言うけど難しいよ」

 

 

そんな悟飯に、愛の鉄拳ならぬ愛の光線眼。

全身に電撃が走り少し黒煙が上がる。

 

 

「ブツブツ言う暇があるなら自分で考えろ!

忘れたか、あと6ヶ月しか(・・)ないんだ。

食事と睡眠以外は俺との戦いだからな、覚悟しろ!」

 

「そんな…死んじゃうよ…」

 

「だったら強くなれ。

この俺よりも…サイヤ人よりもな。

さぁ、さっさと始めるぞ!

どうした、そんなものが防御か?

オレは貴様を殺したくてウズウズしているぞ!」

 

 

ピッコロのしごきは、夜遅くまで続く。

 

 

………

 

 

「痛ちち…」

 

「ふん、この半年で泣き虫だけは治ったな。」

 

「へへへ…」

 

 

適度な石柱の上で食事と休憩をとる。

前までは、高いところから降りられないと泣き喚いていた悟飯は、ボコボコになっても笑顔を見せるほどになっていた。

 

 

「ねぇ、ピッコロさんは昔お父さんと戦ったんでしょ?」

 

「まだ戦いは終わっていない。

サイヤ人の次は、貴様の父の番だ。」

 

「でもお父さん言ってたよ?

生まれ変わったピッコロさんは、前みたいに悪い人じゃないみたいだって。」

 

「ちっ…」

 

「僕もそう思うよ、お母さんやおじいちゃんは怖がって「くだらんことを言ってないでさっさと寝ろ!

明日はこんな優しいしごきではないぞ!」

 

「は はい!」

 

 

しばらくすると悟飯は眠ってしまった。

この少年は…ピッコロに対して心を開いているのか?

…これまでは、敵意か悪意を持って対峙した人間を何人も見てきた。

こんな感情は彼にとって初めてだ。

こういう人間がいるなら…

ほんの少し、世界征服の信念が揺らぐ。

 

 

「……クソッタレが…!」

 

 

様々な葛藤があるが、明日の修行の為浅い眠りにつく。

 

 

---あの世 蛇の道---

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「はぁ…ひぃ…全くどこまで道続いてんねん……」

 

 

この兄弟も、半年ぶっ続けで走っていた。

ただし話のネタには困らなかった。

孫悟空と言う人間を知っているラディッツ。

過去の話から自分の話まで…敵同士だったが、今では極々普通に話す仲までなってしまった。

 

 

「あ…?

あーっ!」

 

 

悟空がダッシュする。

遂に…遂に蛇の道の終点に着いたのだ!

 

 

「やった!

やっとついた!」

 

「…けどよ、どこに界王様がいるんだ?」

 

「上、上。」

 

 

ラディッツがニヤケながら上を指指す。

半年間この為に…上空の界王星を見上げる。

 

 

「よっしゃー!」

 

 

悟空が思い切り飛び上がり界王星へと向かう。

ラディッツも続く。

異変は瞬間的に訪れる。

 

 

「「ん?

わわわぁー!」」

 

 

二人共界王星へ吸い込まれる。

ここは経験の差が出たか…悟空はなんとか体勢を立て直しかけて、仰向け大の字で落ちる。

ラディッツは…体勢など何も取れず、ジタバタしただけで頭から地面へ突き刺さった。

 

 

「痛ってー!

おいラディッツ、なんでお前ぇ刺さってんだよ?

!?

す すげぇ…体が鉛みてぇに重い…!」

 

「…」

 

 

 

直立不動のまま刺さるラディッツは最早芸術か?

ラディッツを引き抜こうと、ドスリドスリと足を動かす悟空。

その後ろから、誰かが現れた。

 

 

「ウホッ?」

 

「え、ゴリラ?

(いや、まて…ああ見えても界王様か?

きっとすげぇヤツだ)

オッス、オラ悟空!

界王様に修行よろしくお願いします!」

 

 

界王様(ゴリラ)は両手を上げる。

 

 

「ウホホホホ♪

ウホホホホ♪」

 

 

リズミカルに、陽気に歩き出す界王様(ゴリラ)

もしや…

 

 

「…まさか、それを真似するのが修行だってのか?

よ、よし…ウ ホホホホ…ウホホホホ!

これキツイなぁー界王様!

ここの地面どーなってんだ?」

 

 

直立不動だったラディッツが、ようやく地面から頭を抜いた。

 

 

「ぶぁーっ!

受身とか取れるか!

なぉ悟……ぇ……」

 

 

悟空がゴリラの真似をして歩き回る。

(何やってんだ…?)と思ったが、シュールで面白いのでしばらく泳がせておくことにした。

 

 

「ウホホホホ♪

ウホホホホ♪」

 

「ウホホホホ!

ウホホホホ!

お、ラディッツ生きてたか!

これ凄ぇキツイぞ!」

 

「ご 悟空さん?

それ…「お前…バブルス君について何しておる?」

 

 

青色のナマズのような方…間違いない。

 

 

「い いや、バブルス君を界王様と間違えたみたいで…ハハハ」

 

「ぇ、こっちが界王様か!?」

 

「そうじゃ、わしがな?

うーん痒いよう…かいいよお…かいおう…界王じゃ!」

 

 

界王星に冷気が発生した…気がする。

反応に困る。

 

 

「なんじゃ、緊張して笑えなかったかーもう一個サービスじゃ

もしもーし…あれ、電話に誰もでんわ(・・・)

 

「(ここは…営業として笑わなければ)わ ワーッハッハッハ!

界王様面白い面白い!」

 

「え…なに?」

 

 

界王様の表情が変わる。

 

 

「貴様、修行がどうたら言っておったな…」

 

「あ、そうなんだ!

オラ界王「帰れ!

あんなに面白いシャレを聞いて笑えん奴は、性格が悪い!

そんな奴に修行はつけーん!」

 

 

咄嗟にラディッツは悟空の肩に腕をかける。

 

 

「すいません界王様、コイツ鈍感でして!

電話に誰もでんわ(・・・)!

電話とでんわ(・・・)が掛かってるんだよ!

面白いだろ!?

笑っていいんだぞ!」

 

 

説明しながら見えないところで背中をつねる。

悟空もようやく、何をしなければいけないのかがわかった。

 

 

「痛!

は はーっはっはっは!

面白ぇやさっすが界王様だ!

オラ、こんなにオカシイの初めてだ!」

 

「…ふふ、だろ?

気づくの遅いんだからー。

修行か…してやってもいいじゃろう

ただしテストがある…」

 

「このギャグの天才である界王をダジャレで笑わせたらばだ!」



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猿は人間に勝ると思っていた

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「「えぇっ!?」」

 

 

ダジャレで界王様を笑わす…ラディッツは記憶を辿った。

戦いとかならつい最近までゲームなどであったからまだいいが、原作知識だと10年前くらいまで遡らなければいけないからだ。

 

 

「ワシはありがちなシャレでは笑わんからな?

難しいか?

無理なら、さぁ帰れ」

 

「ちょっとタイムお願いします。

おい、耳かせ

あのな、…………」

 

 

どうやら思い出したようだ。

耳打ちが終わると二人共覚悟を決める。

 

 

「い 行くぞ!

布団が()飛ん(・・)だーっ!」

 

「そんなバナナ(・・・)ーっ!」

 

 

こんなネタを、忘年会やら飲み会やらでぶっ込んだらブーイングの嵐か失笑のブリザードだろう…

現実世界でやってはならんヤツだ。

 

 

「…布団が()飛ん(・・)だ…

そんなバナナ(・・・)

…ぶふぅーっ!」

 

 

こちらの世界の、この星だけは例外のようだ。

界王様が顔真っ赤になって吹き出した。

 

 

「うしっ」

 

「笑ったぞ!」

 

「くそ~お主らただ者では無いな、芸人か?

じゃがまぁ約束じゃからな、修行をつけてやろう。

…にしてもお主ら体が重そうだな。

どこから来たんじゃ?」

 

 

サングラスの奥の目は捉えていた。

…と言っても冒頭で体が鉛のようにと言ってたから当然か。

 

 

「地球から来ました。」

 

「なら重いじゃろうな。

この星は小さいが地球よりかは10倍の重力がある。

ちょっと思いっきりジャンプしてみろ。」

 

「あ あぁ」

 

 

2人は思いっきりジャンプしてみる。

悟空は5,6m ラディッツは7,8mと言ったところか?

 

 

「うほぁ、こんなに飛べるのか!?」

 

「くっそーラディッツに負けた!」

 

(ほほぅ10倍の重力であそこまで飛ぶか…

こいつは楽しみな奴らが来たもんだ。)

 

 

俺の方が飛べるもんね! とかすぐに抜かしちゃうもんね! とか醜い争いをする兄弟を眺め、界王様はニヤつく。

コイツらはもしかしたらそこそこ腕を上げるのではないか、と…

 

 

「んでは、早速修行をつけてやろう。

あ そうだ、どれぐらいの予定でするつもりだ?」

 

「オラ達、蛇の道を何日ぐらいか走って来たけどなー…」

 

「とりあえず、今地球を狙ってサイヤ人が二人向かってるんです。

そいつらが来る前に強くなって戻りたいんです。」

 

「ほぅ~…そりゃまた厄介な連中に目をつけられたもんじゃ。

どれ、サイヤ人達がどれくらいで着くのか見てやろう。」

 

 

界王様のおでこの触覚がダウジングのように動く。

不思議な力だが、それは確実にサイヤ人を捉えた。

 

 

「アーリア星か…ここから地球に向かうな180日前後じゃろう。」

 

「ひゃー、界王様そんなことまでわかるんか!?」

 

(アーリア星…?

んなもんあったっけ…まぁいっか。

最後にドラゴンボール読んだの10年前だし、色々忘れてるんだろ。)

 

 

ほんの少しあれ?と思ったラディッツもやはり記憶がやや曖昧である。

よほどのマニアとかオタクでも無かった彼だ、そりゃそこまでわかるはずがない。

よく歴史改変小説だったら歴史オタクが、アニメ改変小説だったらそのアニメオタクが、世界大戦とな戦争改変小説なら武器オタクだったり歴史オタク(2回目)が絡んでくるのだが…そうそう都合よくいかないようだ。

 

 

「じゃが180日もあればなんとかなる。

まずはこの修行からだ!

おーいバブルス君。」

 

「ウホホホホ♪

ウホホホホ?」

 

 

先程のゴリラ(バブルス君)が歩いてくる。

ちなみに界王様のペットであり、名前の由来はマイケルジャクソンのペットのチンパンジーからである。

※Wikiより参考

 

 

「まずはここの重力に慣れることからじゃ。

バブルス君を捕まえてみぃ?」

 

「ウホホホホ。」

 

「「わかった(わかりました)!」」

 

 

軽やかにバブルス君は歩き出す。

その後を足を引きずるように追う人間共。

 

 

「重ー過ぎるー…」

 

「ちきしょう!

よ よーし…」

 

 

悟空は足を止め突如服を脱ぎ始める。

その服も10倍の重力が掛かる為、すべての動作に負荷がかかる。

 

 

「へぇ…へぇ…これで、マシになったぞー」

 

「ほぅ 既に身体中に重りをつけておったか。」

 

 

先程より速く駆ける悟空。

あっという間にラディッツに抜いてバブルス君の背後へ。

 

 

「頂きぃー「ウホッ」ぃい!?」

 

 

軽やかなステップからとんでもない速さで離れるバブルス君。

見た目以上のすばしっこさだ。

 

 

「マジかよ…」

 

「嘘だろ…

あんなのオラ達に捕まえられっかなー?」

 

「出来なければとっとと帰れ。」

 

 

スパッと切り捨てようとする界王様に食ってかかる悟空。

いや…

 

 

「悪ぃけど…飯食わせてもらっていいかな?

オラ半年間何も食ってねぇから腹減って腹減って…」

 

 

食いてぇと抜かす悟空。

こんなにハングリーな死人も珍しいもんだ。

 

 

「まぁ…よかろう

ランチタイムじゃ」

 

 

………

 

 

「|んふぇーふぇほぉふぃふぃふぉんふぃほほーふぁんふぇぇふぁー!《ウメェーけどチチの飯の方が美味ぇなぁ!》」

 

「何言ってるかわからん!」

 

「お前達ちったァ遠慮せんかい!」

 

 

次々と料理を運ぶ界王様も流石に物申す。

だって悟空さん食うだけですもの…

ラディッツはお代わり自分でやるけど悟空さん食うだけですもの…

 

 

「ふぃー…味はともかく、腹は一杯ぇだ!」

 

「お前…箸とか茶碗とか重くなかったのかよ…?」

 

 

この星は日常生活もままならない。

HUNTER〇HUNTERのゾルディック家使用人の部屋並の生活用品の重さ。

動くのも動かなくとも10倍の重力。

絶え間なく…平等に掛かる万有の力。

 

 

「飯は飯だ!」

 

「訳分からん!」

 

「お前達、ワシを尊敬しとらんじゃろ!」

 

 

そんなシリアスに方に持ってこうとしても動じない三人。

飯も終わったので再びストレッチを始める2人。

界王様も2人を急かす。

 

 

「さぁ、早く捕まえないと武術は教えてやらんぞ?

そうじゃ、さっきつけてた重い服は着て走れ。」

 

「え!?

あれつけてっと走るのキツイんだよ。」

 

「いい事教えてやる。

サイヤ人の故郷はここと同じ重力じゃ。

ここの重力に慣れてやっとスタート地点に立つことが出来る。」

 

「それだけではないぞ?

サイヤ人は生まれ持って闘いのセンスを持って「大丈夫、オラもサイヤ人だからよ」「ちなみに僕もです」…何!?」

 

 

界王様もこれには少し驚いた。

それからというものの毎日猿を人間が追いかけるという1年に1度ニュースで見る光景を見る事となる。

 

 

30日後には「捕まえたーっ!」とラディッツがヘッドスライディングしながら。

35日後には「とうとうやったー!」と悟空も捕獲する。

バブルス君、攻略!



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この木何の木? 気になる木

待ちきれなくて投稿しちゃいました
いよいよ改悪の道へと進みます

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……カチッ『あーたーらしーいあーさが来たっ、きーぼーぉのーあー』

 

 

起床時刻を知らせるアラームを止めるベジータ。

僅かに灯るボタンを押し、室内灯をつける。

 

 

『…ナッパ…起きろナッパ。』

 

『…ふぁ…どうしたんですかい?

まだ…地球まで遠いですぜ?』

 

 

ナッパの言う通り、まだ太陽系も見えていない状況で何故起こすのか?

 

「覚えているか? 惑星アーリア。」

 

「アーリア…あぁ、あの星か!

…なるほど、あの高額星をついでにかっさらっていく訳か。」

 

「その通り、準備しておけよ?」

 

 

2つの宇宙ポッドは途中の星へ着陸する。

 

 

………

 

 

「な なんだこれは?」

 

 

ポッドから降りた2人は唖然とした。

美しく豊かな星は今や影も無い。

乾燥と痩せこけた地面…彼方に1本巨木が居座るだけだ。

前に来た時には無かった大木が。

 

 

「ちっ、土に栄養分がまるでない

水分がなくなって土が乾燥してやがる」

 

 

ナッパが地面を少し掘り、土の感触を確かめる。

ベジータもナッパの土いじりの感想に苦い顔をする。

とにかくスカウターをいじる。

距離6000mの所に複数の小さなエネルギー反応と少数のエネルギー反応と2つ程ましなエネルギー反応があった。

 

 

「とにかくだ。

エネルギー反応のある所へ言ってみようじゃないか?」

 

「そうだな。

楽しめるといいがな。」

 

 

………

 

 

「イエディ…イエディを出せ!」

 

 

この星の王、モアイは酷く狼狽えていた。

妻のレムリアの目の前でだ。

影で悪性王と呼ばれる彼の顔はハエのような宇宙人である。

大して女性であるレムリアは蝶のような出で立ちだ。

闘技場の中心にいる醜い生贄は想像を超えた力を持っていた。

我が国最強であった剣闘士を一瞬で蒸発させたのだから…

 

 

せり上がる地面。

出てきたのは生贄の20倍はある怪物。

そんな怪物を前にしてもニヤニヤする生贄。

 

 

「な なんだあの人は…?

なんでもいい…助けてくれ!」

 

 

先程まで牢獄に一緒にいた男。

彼をアトラと言う。

『我妻レムリアが…モアイ王にさらわれた…助けだせればいいのに…』と目の前の生贄となる宇宙人にポツリと呟くと牢獄を壊して地上へとたどり着いた。

彼からしてみれば生贄ではない、この腐れきった星を蘇らす(ヒーロー)なのかもしれないのだ。

 

 

「やれイエディ!

あの宇宙人をくらい尽くせ!」

 

「グォォオオ…!」

 

「デカブツめ。」

 

 

自らに向かってくる右手の人差し指指を掴む。

勢いも使って背後へ投げる。

イエディは受身も取れずに背面を打ちつけた。

 

 

「もう終わりか?」

 

「グォっ!」

 

 

挑発と同時に人差し指をちぎる。

体の割に簡単にもげてしまう。

あまりにもこの男の方がパワーがありあまるからだ。

 

 

「なんだ…ウドの大木か?」

 

「や やれイエディ!」

 

「ォォオオン!」

 

 

半狂乱のモアイ王。

イエディも予想以上のパワーにやや慌てていた。

 

 

「おせぇよ。」

 

 

顔面を蹴り飛ばされる巨体イエディ。

闘技場を破壊しながら倒れ込む。

 

 

「あばよデカブツ。」

 

 

額に手を当て気功弾が炸裂する。

煙が晴れると、イエディの首から上が無くなっていた。

 

 

「イ…イエディが…」

 

 

モアイ王は声がかすれていく。

そんな彼に近づく生贄の男。

モアイ王が強奪したレムリアも遥か遠くへ逃げてしまった。

もう刃向かえる者はいない。

 

 

「ひ…ひぃ!」

 

「あんたがこの星の王様かい?

どれだけ強いのかねぇ?」

 

 

モアイ王の首を掴みあげる。

痛みと苦しみにもがくモアイ。

だが何をしてもどうしても解けない力…

首はどんどん締まる。

 

 

「案外ひ弱なんだねぇ?

…死ね。」

 

「」

 

 

 

一瞬で首が握り潰された。

首が地面を1度跳ねるが、2度と動く事は無かった。

 

 

「よう、そこで何してやがる?」

 

「?」

 

 

上空を見ると、2人の同じ種族がいた。

どちらも顔がわかる。

 

 

「王子様と執事がなんのようだい?」

 

「てめぇ…このナッパ様に対していい度胸だな。」

 

「やめろナッパ。

…ずいぶんと挨拶じゃないか。」

 

 

スカウターの情報は間違ってなかった。

戦闘力は自分質を除いてこの星一番である。

 

 

「まぁそう言うなよ、少ない仲間だ。

良かったら俺も仲間に入れてくれねぇか?」

 

「てめぇ、ベジータになんて口聞「構わん、これから地球に攻めいるんだが…どうだ?

仕事にはならんが殺戮が楽しめるぞ?」

 

「そいつはいいや。

ありがたく行かせてもらうぜ?」

 

 

男とベジータが握手を交わす。

その時だ。

 

 

「あぁ、ありがとうございます!

あなた達のおかげで、あのモアイ王を倒すことが出来ました!

これでこの星もまたなんとかなります。」

 

 

レムリアはアトラの元に駆け寄る。

3人の勇敢な戦士は何も言わずに去っていった。

2人はこの星の復興を固く誓う。

ベジータはそんな星に一つの光の玉を残していった。

 

 

宇宙ポッドが3つ飛び出していく。

ベジータが力を入れると、その星は大爆発を起こし塵となってしまった。

 

 

「はっはっは!

綺麗な花火じゃねぇか。

次は地球の番だ、待ってろよ!」

 

 

星の最後をディスプレイで見届けたサイヤ人は再び地球を目指して宇宙を進む。

新たなる仲間を連れて…



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モッコ…グレゴリー退治用武器!

「これで終わりかと思ったら甘いぞ?

おーい、グレゴリー。」

 

 

舞台は戻って界王星。

グレゴリー君を呼びしばらくすると、空の彼方から一つの影が…

 

 

「ハーイ、ハローエブリバディ!

私がグレゴリーでーす!」

 

 

これまで影すら見せなかったバッタのような生き物、グレゴリー君が出てきた。

このキャラクターは原作では出てきてないが、案の定ラディッツは気が付かない。

 

 

「 へぇー、これがグレゴリー君か。」

 

「やっと慣れてきたお主らには地球と同じぐらい動けるようにならんといかん。

このハンマーでグレゴリー君を叩くのが修行だ。」

 

「ただし、私のスピードについてこれたらですが。」

 

 

界王様は懐からハンマーを2つ取り出す。

[100t]と描かれたハンマーと[天誅]と描かれたハンマーだ。

これには堪らずラディッツは確認する。

 

 

「界王様…もしかして僕と同世代です?

何故こんなシティーハ〇ターのモッコリ退治用武器が出てくるんです?」

 

「そんな事言ってる場合があるか!

時間は限られておるのだぞ?」

 

 

若干の汗が垂れていたが…本題を思い出せらされてグレゴリー君に向かう。

天誅ハンマーが重過ぎる。

ハンマーを振ろうにも振り回されるようだ。

 

 

「いいですか?

行きますよー!」

 

「うっし、おらぁー!」

 

 

100tハンマーを担ぐように持ち、悟空はグレゴリー君を

追いかける。

彼は見た目通りすばしっこいようだ。

ハ〇ーポッターの金のスニ〇チのように軽快に飛び回っている。

…というかほぼ点で捉えれない。

速すぎて一閃だ。

 

 

「どうしました?」

 

「はっや!

でも絶対ぇ叩いてやっからな!」

 

「…とにかくこの天誅ハンマーになれる所からだな。

ってか香ってこんなに重いの投げたりしてたのかよ…」

 

 

………

 

 

そしてそこから更に日にちは経つ。

20日後にはほぼ同時にグレゴリー君をたたき落とすことに成功するのだった。

おかげでグレゴリー君には大きなたんこぶが2つ同時に出来るという不名誉な事態になった。

だがそれと同時に、2人の修行は新たなステージに対応したことを証明していた。

 

 

「なんで同じとこ叩くんですか!」

 

「しょうがないでしょうが、的の割にこのハンマーがデカイんだから!」

 

(いいぞいいぞ、これ程早くにこの重力に対応するとは嬉しい誤算じゃ。

奴らなら極められるかもしれん…

ワシが成し遂げられなかったあの技を!)

 

 

いよいよ界王様自身も指導に力が入る。

界王様は高らかに言い放つ。

 

 

「よくぞここまで来た!

いよいよワシが修行をつける!

これまで以上だがついて来れるか!?」

 

「「はい(おう)」」

 

 

応える2人も凛々しい顔つきだ。

やっと蛇の道からスタート地点に辿りついたのだ。

生半可な気持ちな返事ではない。

 

 

「よし!

その前にティータイムじゃ」

 

「「「「 」」」」

 

 

2人と1頭と1匹はズシーンと倒れ込んだ。

 

 

---

 

 

一方の天界の神の神殿でも休みなく修行が続けられていた。

酸素は地上の何分の一だろうか…そこら辺にある普通の飛行機では辿り着けない高さでの超高地トレーニングである。

最初こそは低酸素から来る頭痛や息切れに苦しんでいたが、今では何ら問題無く体を思うがままに動かせる。

そんな修行も半年で終わった。

 

 

「あとは各々自らの長所を生かす修行をせよ。

神殿を離れても構わん。

もうこのワシを超えておるのだからな。」

 

 

半年で神を超えるのは孫悟空でもなし得なかったのに、彼らはやってのけたのだ。

 

 

「神殿から離れても構わんって言われてもなぁ…」

 

「恐らく、ここが一番だろう。

空気も薄いしな。」

 

「僕 残る。」

 

「というわけで、もう半年間お世話になってもいいですか?」

 

 

ここより恵まれた環境はあまりなかったので全員残りの半年も残る事となった。

 

 

---

 

「はぁ!」

 

「まだぬるい!」

 

 

平原で激しい修行に耐える悟飯を

そんな少年も滅多な事で褒めない師がようやく納得出来るほどに成長を遂げている。

 

 

「っ!」

 

「そうだ!

気を捉えるんだ、今のを忘れるな!」

 

 

---

 

 

「界王様、お願いがあるんですけど…」

 

「なんじゃ?

どうした?」

 

「俺にも重いやつくれませんか?

あとメモ用紙も…」

 

「ほぅそいつは感心じゃ。

ほれ、メモと胴着だ。

胴着は孫悟空とお揃いにしてやったぞ〜。」

 

 

ラディッツの戦闘服が山吹色と青色の胴着へと変わる。

修行の為気を溜めている悟空をチラと見る。

胸元の亀マークも服もリストバンドも靴も総重量も…全く同じだ。

 

 

「界王様…せめて服の色だけでも変えてください

これじゃペアルックだし…亀仙流も習ってないのに亀マークもなんだか申しわけないって言うか…」

 

「ふーむ確かにだいの男同士がペアルックもおかしいな。

よかろう、ワシと同じ配色にしてやる。」

 

 

黒い胴着に赤いインナーシャツに変わる。

左手首だけにグレーのリストバンドがつき、靴も黒くなっていた。

胸と背中のトレードマークは界王マークに変わっていた。

 

 

「どうじゃ?

配色はワシと同じじゃがスーツみたいじゃろ?

背中と胸のマークがおしゃれポイントじゃぞ。」

 

「だから左手首だけグレーのリストバンドか。

なんだか仕事着たいでなんか嫌だけど…むしろこれがいい!

ありがとう界王様!」

 

 

改めて修行に戻るラディッツ。

彼らも厳しい修行に明け暮れていた。

 

そして3人のサイヤ人は遂に太陽系に入ってきたのだ…



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次第に傾くこの世界

「よし、OK界王様。」

 

 

悟空の右手が眩く光る。

 

 

「よし、この大レンガを猛スピードで飛ばす。

捉えてみろ。

それぇ!」

 

 

今日はいよいよ最終試験。

悟空やラディッツの真価が問われる。

 

 

「最高速!」 フッ…ーーーー

 

 

今までなんとか見えていたレンガは全く見えなくなった。

空を切る音だけが界王星に響く。

 

 

「やぁ!」

 

 

光る右手を振りかざすとレンガは爆散した。

 

 

「こんな…簡単に…

見事じゃ!

ここまで元気玉を使いこなせるとは思わんかったぞ。

さて、次はラディッツ!」

 

「はい。」

 

 

悟空の前にラディッツ、立つ。

 

 

「では、やって見せろ。」

 

「はい…OKです。」

 

 

 

ラディッツに特に変化は無い。

変化が無いことが修行だった。

 

 

「完璧じゃ…ここまでとは…

もはや何も言うことは無い。」

 

「二人に教えたのは界王拳と元気玉じゃ。

よいか?

何度もくどく言うが界王拳とは…

 

あまりに長くなる為別にて解説…

 

界王拳とは気の超開放である。

通常は自らの最大パワーから、何倍ものパワーアップを実現できる技で、炎のように赤く燃え上がるオーラを発する

全身の気をコントロールして増幅する…言わば開放状態にある気の流れを加速させることだ。

 

元気玉とは、人間・動物・草・木など周囲のあらゆる生物から元気と呼ばれるエネルギーや、太陽・大気・物のエネルギーにいたるまで、あらゆるエネルギーを集めて放つエネルギー弾である。

威力は絶大だが元気を集めるのに時間がかかり、その間は全くの無防備になる。

分けてもらうエネルギーの量が増えるに従い、大きさと威力も上昇する。

その為、少しでも間違った使い方をすると惑星ごと滅ぶ危険がある。

(一部webサイト参照)

 

 

…出来ることなら使うな。

どうしようもなくなった時のみ…1発のみ使う事を許す」

 

「わかった。

界王拳だけでなんとかなるさ!」

 

「僕は…全然大丈夫ですね。」

 

 

元気玉に関してはラディッツは何も修行をしていなかった。

何発も使う事は出来ないと聞いていたし、使う人は悟空のみで大丈夫と思っていたからだ。

すなわち、悟空は元気玉と界王拳を。

ラディッツは界王拳に特化して修行をしていた。

 

 

「さてと、決戦の日が近づいてきた。

サイヤ人は3日後に地球にやってくる。

…散々ラディッツがやかましかったからな。

メモまで貼りまくりおって…ワシを信用しとらんじゃろ!?」

 

「そりゃあ、期日は絶対!

遅刻なんてすりゃ減給ですからな!

信用はしてますけど、もしってのがあるじゃないですか〜はっはっは!」

 

 

界王様が忘れる事を知ってました、なんてこのタイミングでは絶対言えなかったラディッツ。

 

 

「まぁ良い。

さぁ、わしの背中に片腕をつけて心の中で相手をおもって伝えろ。

それで通じる。」

 

「ほんと!?

こ こうかな…」

 

 

ラディッツも界王様の背中に手をつける。

悟空は心の中で語り始めた。

 

 

『じっちゃん…亀仙人のじっちゃん

悟空だ、オラの声が聞こえるか?』

 

 

 

………

 

 

「トイレ入るぞー?」

 

「おいじーさん、早くしろよ?

俺も後で入るから。」

 

 

ウーロンは新聞片手にトイレへ入ろうとする亀仙人に釘を刺しておく。

恐らく無駄だろうが…

 

 

『…じっちゃん…悟空だ。

オラの声が聞こえるか?』

 

「悟空?

悟空か!?」

 

 

一人トイレで話す亀仙人。

とうとう認知症か…はたまたボケ始めたか…いずれにせよ武天老師でも老いには勝てないとウーロンやブルマ達は悟っていた。

 

 

『ドラゴンボールは揃ってるか?』

 

『あ あぁ、クリリン達が既に揃えておる。』

 

『そっか。

サイヤ人達は3日後に来るからさ、それまでに生き返らせてくれ。』

 

『わかった。

しかしもう1年経つのか…頼むぞ悟空!』

 

『うん、じゃよろしくな。』

 

 

亀仙人はケツを吹くのも忘れてトイレから飛び出す。

 

 

「みんな、今すぐ悟空を生き返らせるぞ!

…なんじゃ?

その年寄りを哀れむ目は?」

 

 

………

 

 

「あとはじっちゃん達が生き返らすだけだな。」

 

「んじゃぁ、そろそろ行きますか。

界王様、長い間色々とありがとうございました。」

 

「うむ、よくここまで成長した。

正直ここまでとは思わんかったぞ。

これなら、三人のサイヤ人(・・・・・・・)にも勝てるじゃろう。」

 

「…3人!?」

 

 

にわかドラゴンボールファンのラディッツでもこれには反応せざるを得ない。

ベジータとナッパって言うのは有名な二人だ。

だが今界王様は三人のサイヤ人(・・・・・・・)と言った…

 

 

「界王様!

本当に3人なんですか!?

名前は!?

どんなやつ!?」

 

「落ち着け!

ワシだって何でもわかる訳じゃないわい!

…ただひとつ、地球に向かっている宇宙ポッドは三つじゃ。」

 

(どーいうことだ…サイヤ人は3人来るのか?

誰だ…こんな時に敵が増えるなんておかしすぎる!)

 

「けどよラディッツ、クリリン達やピッコロだっているんだ

なんとかなるさ。」

 

 

悟空の言葉はもっともだ。

原作では悟空は遅れてくるはずなのにラディッツが口うるさく言ったおかげで間に合うようになった。

しかもラディッツ自体も地球側の戦力となっている。

歴史はもう変わっているのだ。

 

 

「…まぁ確かに。

とりあえず地球に戻ろう…って天使の輪っか無くなってるな。」

 

 

いつの間にか悟空の頭上の天使の輪は消えていた。

生き返ったのだ。

 

 

「帰る前に服くらい直していけ。

それ!」

 

 

悟空のボロボロの胴着が新品同様になる。

重りも全てなくなった。

 

 

「ワシからのプレゼントじゃ。

服も多少の攻撃なら跳ね返してしまうほど丈夫なやつにしといたぞ?

背中のマークが一番おしゃれポイントじゃぞ。」

 

「ありがとう界王様!」

 

「それじゃ…長い間お世話になりました。」

 

 

頭上にあるのは蛇の道の尻尾。

今度はあそこがスタート地点だ。

 

 

「うむ、頑張るのじゃぞ?」

 

「もし死んじゃったら、また来るよ!」

 

「それでは、失礼しました!」

 

 

悟空とラディッツは一際高く飛ぶ。

界王星の重力圏から抜ける。

 

 

「うっひゃー!

軽ぃ軽ぃ!」

 

「よし、競争しようぜ?

位置についてドン!」

 

「あぁ、ずりぃ!」

 

 

行きとは比べ物にならない速度で蛇の頭まで向かう二人。

この分なら早く着きそうだ…



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最後の晩餐...!?

「へっへーん、オラの勝ち〜!」

 

「あーチクショー…」

 

 

決戦前夜の蛇の道ダービーは悟空の勝利で幕を閉じた。

そんな彼らの前に地球の神は現れた。

 

 

「あれ、地球の神様。」

 

「待っておったぞ?

地球まで送ってやる前に閻魔様に挨拶してきなさい。」

 

 

2人は閻魔様に挨拶をし、地球の神と共に地球へ戻る。

閻魔様は「本当に界王様のとこに行ってきたのか

界王様はお元気か?」と色々聞いてきたが特に問題無いので割愛。

 

 

「ありがとう神様!」

 

「うむ、では後は頼んだぞ。」

 

「「はい!」」

 

 

2人は声を揃えて返事をする。

そして神殿から飛び降りて行った。

 

 

(孫悟空、ラディッツ、ピッコロ、そして地球の戦士達よ…ワシを超えたお主達だけが頼りじゃ…)

 

 

地球の神は踵を返し、神殿の中へと歩く。

 

 

「おーい悟空よ?」

 

「あぁ、カリン様!」

 

 

神殿の直下にはカリン様とヤジロベーが住んでいる。

もちろん修行ではない、ただのヒモ男である。

 

 

「仙豆が出来たから持っていくがいいぞ。」

 

「サンキューカリン様!」

 

 

仙豆を二粒悟空に渡しながら、視線をラディッツへ向ける。

 

 

「君がラディッツかの?」

 

「はい…まさかカリン様も色々ご存知ですか?」

 

「うむ、全て聞いておるぞ?」

 

 

 

どうやら神様や仙人様等には話が伝わっているようだ。

 

 

「色々飲み込めんことがあるが、今は地球の危機を守ってくれ。」

 

「どこまでやれるかわかんないですけど、出来るだけ頑張りますよ。」

 

 

二人はカリン塔を後にし、多くの気が集まるカメハウスへ降り立つ。

 

 

「ここが…あのカメハウス。」

 

 

のどかな海のど真ん中に位置する島に立つ一戸建て。

壁には丁寧に[KAMEHOUSE]と書いてあるではないか。

 

 

「オッス、戻ってきたぞ!」

 

 

ノックもせずにズカズカと入っていく悟空さん。

 

 

(ノックとかしろよな…

けど…いい匂いするなぁ~)

 

 

自己主張する腹をさすってラディッツも続いていく。

 

 

「悟空、お前いつの間に戻って来たんだよ!」

 

「よかった、生き返ったんだな!」

 

 

悟空に自然と集まっていく戦士達。

1年ぶりに再会する旧友達。

その悟空の背後から…

 

 

「お邪魔します~…」

 

『サ サイヤ人だぁーっ!!』

 

 

ブルマ、ウーロン、プーアルは逃げ出す。

とても歓迎されているとは思えない。

 

 

「え え 待って待って。」

 

「た タンマタンマ!

ちょっとみんな待ってくれ!」

 

 

悟空が間に入って説明をする。

善人になった経緯と界王星で共に修行した事…そして地球を守る為に共闘すると約束した事…

 

 

「…スンスン…」

 

 

そういえばいい匂いが奥からしてくる。

説明中にも関わらずラディッツはキッチンへと足を運ぶ。

 

 

「ヤムチャさん…ここからどうすればいい?」

 

「おい、まず包丁置け。

危ないだろ。」

 

「天さん 吹きこぼれる!」

 

「餃子、弱火にしろ。」

 

「いい匂い…何作ってるのさ?」

 

 

「「「「「ラディッツ!?」」」」」

 

 

匂いにつられて奥へ奥へやってきたサイヤ人(ラディッツ)

みんな狭いキッチンで構える。

 

 

「ストップストップ!

俺は敵じゃない!」

 

「信じられるか!」

 

 

その瞬間、鍋が吹きこぼれた。

ラディッツは急いで火を弱める。

 

 

「ってか、何でZ戦士達がキッチンにいるんだよ?」

 

「ヤムチャさんが悪いんですよ?

ブルマさん怒らすから…」

 

「ク クリリンこそ人の事言えないだろ!?」

 

 

…なんとなく事情が読み込めた。

 

 

「なるほど…

ブルマを修行中ほったらかしてたら拗ねて、クリリンが余計な事言ったら「晩飯ぐらい作りなさいよ!」的な事言われた的な?」

 

「「「「「…」」」」」

 

 

図星である。

 

 

「んで、何作ったん?」

 

 

生姜焼きやら野菜炒めなど、簡単な料理が少し並んでいた。

 

 

「…ヤムチャ、エプロンはまだあるか?」

 

「え…何を?」

 

「手伝うよ。

ひとり暮らししてたんだ、ある程度なら俺も作れるからさ

その代わり、味方だって信用してくれよな!」

 

「…サイヤ人ってひとり暮らししてるのか。」

 

 

 

包丁をクリリンから受け取り、戦場(キッチン)戦闘(料理)が始まった。

ひとり暮らしが長いからか、手際が割といい。

天津飯やヤムチャに指示を出したり、餃子の超能力まで使ってもらっている。

 

 

「本当に改心したようじゃな。」

 

「だろ?」

 

「…みたいね。

悪そうな顔してるのに…」

 

「まさか毒とか入れてねぇよな?」

 

「…けど、調理が割と上手だ。」

 

 

残りの者が覗き見している。

相変わらずの悪人顔が料理をしているギャップが好印象なのかもしれない。

あっという間に数々の品が作られていく。

 

 

「味噌汁よそって…ほい、出来上がり!」

 

『おぉ~!』

 

 

テーブルに並ぶ幾多のおかず。

もちろん味見もしてあるのでゲロマズな物はまず無いだろう。

 

 

「サイヤ人って案外悪い奴じゃないかもね。」

 

「ま まだ食べてねぇからわかんねぇぞ!?」

 

「そりゃサイヤ人にもいい奴悪い奴いますからね。

おっといけねぇ、マヨネーズを忘れんじゃねぇぜ?」

 

 

お好み焼きにマヨネーズを掛け、あとは食すのみ。

 

 

ホリャウンヘーナァ!(こりゃ美味ぇなぁ!)

 

「悟空、いただきます言ってから食えぇ!」

 

 

………

 

 

皆が寝静まる中、食後の片付けをひたすらに行うラディッツ。

その顔は明るくなかった。

 

 

(…)

 

 

後片付けを押しつけられた訳ではない。

むしろ自分から買って出た。

じっくり考える為だった。

一人になりたかった。

 

 

(ドラゴンボールか…もう読まなくなって十…何年だ?

それこそ漫画じゃないけどFINAL BOUTが最後だったな。

超サイヤ人4悟空のコマンド必死に打ち込ん…じゃなくて!)

 

(明日…来るんだよな……

ベジータとナッパ…そして三人目の敵。

マジで誰だろ…まぁ…大体絞られてくるだろうけど。

それに界王様んとこで戦い方も界王拳も習ったし…普通にやれば誰も死なずに勝てる。

…ヤムチャの酷い扱いもなくなるしな。)

 

 

口元がうっかり緩む。

皿洗いはどんどん進む。

 

 

(とにかく…明日はみんなと話して作戦を立てなきゃ。

ってもクリリンと悟飯以外みんな殺られちゃうほどだからなぁ。

しかもあっちは1人わからない奴が増えてるし。

俺ホントに生き返られるのかな?

なんかもうスゲェ自信ないや…)

 

「ん?」

 

 

皿が終わった。

 

 

「ま いいや、とりあえず寝るか。

これ以上考えてもどうしようもないし…

悟空もいるから何とかなるか!」

 

 

キッチンの灯りを消してクッションを頭に敷いて天井を見る。

何回夢なら覚めろと思ったか…何回起きども現実には戻れなかった。

 

 

(…帰りてぇなぁ………)

 

 

少し熱くなる目を閉じ、そのまま堕ちていった…




誤字修正済


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王子様+サイバイ農家+ニューフェイス

誤字脱字 修正済み R2 1/8


翌日 昼過ぎ

 

 

「さてと…それじゃぁ作戦でも立てますかねぇ。」

 

「作戦?」

 

 

ピッコロ達と合流する為、飛行している戦士達。

本来ならとっくの昔に来襲してきてもいい頃なのだが界王様の情報だと、あと一時間程という事だ。

 

 

「そうだ。

心は清くなったが記憶は残ってるからな。

大体の戦力から見て作戦くらいは立てれるさ。」

 

 

悟空の後ろを追ってラディッツが説明を始める。

 

 

「まずは今回やってくる敵は知ってのとおりサイヤ人。

サイヤ人はそれぞれが凄まじい力を持っている。

…だけど、戦い方によっては勝てない相手じゃない。」

 

「数は三人。

まずはナッパって言うサイヤ人。

スキンヘッドの大男だ。

かなりタフな奴だけど短気なんだ。

挑発しながら戦えば案外楽に戦えるかもしれないけど、一発の攻撃がかなり強力だ。」

 

「二人目はベジータって言うサイヤ人。

M字の生え際の男だ。

こいつは戦闘民族サイヤ人の王子だ。

まぁ…戦闘のエキスパート、エリート戦士ってとこだ。

とんでもない強さのナッパよりも遥かに強い。

更に経験もあるし頭も悪くない。

一番強敵だろう。」

 

「そして三人目。

こいつに関しては全くわからん。

原作…俺が抜けてからあいつらの味方になったらしい。

サイヤ人なのかサイヤ人じゃないのか…男か女かモンスターなのかもわからん。」

 

「大体の解説はこんなとこ。

もう1回死んでるクリリン、餃子は十分気をつけてくれ。

悟空もだぞ?

というわけで、ナッパにはクリリン、餃子、天津飯、ヤムチャ、そしていないけどピッコロと悟飯も入れる。

ほとんどナッパ中心だからあっという間に片付くだろうから、すぐに手伝いに来てくれ。

ベジータには悟空。

一人でやる方がいいんだろ?

んでよくわかんねぇ奴は俺がやる。

…って感じで考えたんだけど質問あるかい?」

 

「ラディッツ、お前結構無茶苦茶な作戦立てるんだな。」

 

 

ヤムチャが少し眉間にシワを寄せ、天津飯が案を出す。

 

 

「三手に別れればいいんじゃないか?」

 

「オラ一人でやってみてぇぞ。」

 

「実は俺も…ちょっと一人でやってみたいのよ。

だけど、あんまり痛いのは嫌だからすぐに助けに来てくれ。

それと、ナッパは2,3人で攻撃しても全く怯む奴じゃない。

むしろこれくらいでも足りないくらいだ。」

 

「…なんだと…」

 

「マジかよ。」

 

「…俺…また死にそうだな。」

 

 

 

---地球 東の都---

 

 

 

陽も傾いてきた午後の4時頃。

東の都に三つの隕石が降り注ぐ。

高層ビルを突き抜け、衝撃波で周りの建物のガラスを割る

轟音とと巨大なクレーターを作り上げ、隕石…宇宙ポッドは着陸した。

 

 

「隕石だ!」

 

「ち 違うぞ!

宇宙船だ!」

 

「みんな逃げろ!」

 

 

悲鳴と怒号の中、静かにハッチは開く。

 

 

「ここが地球か…なかなかいい星じゃねぇか。」

 

「ふぅ…よく眠れたぜ。」

 

「…にしても、周りのひよこ共がうるせぇな。」

 

 

宇宙船から宇宙人が出てきたと聞きつけ野次馬が殺到する。

侵略に来たと思い逃げ出す人もいる。

現場は騒然となっていた。

新人に至っては地球人と握手してるザマだ。

 

 

「ナッパ、地球の奴らに挨拶してやれ。」

 

「へっへ…了解…!」

 

 

右手を正面に上げ指を『クンッ』と動かす。

その瞬間、辺りが、街が、都全体が蒸発した。

 

 

「ひっ…!!」

 

「ハッハッハ、少しやり過ぎたな!」

 

「ナッパ、この辺りにドラゴンボールがあったらどうするつもりだ?」

 

「…す すまねぇ。」

 

「…まぁいい。

とにかく、一番大きい戦闘力を探す。

その前にそいつを始末しとけよ。」

 

「ってな訳だ、お別れだ。」

 

「ま 待ってくれ!

何でもするから殺さなごふゅ…」

 

 

首をもぎ取られ肉片と化し、捨てられた。

 

 

「ここから移動しているのが一番高い戦闘力だ。

…周りにも1000.前後の奴がいるぜ。

もう二つの戦闘力に合流しようとしてるみたいだな。」

 

「妙だな…

この星にそんな奴らがいるのか。」

 

「いいじゃねぇか。

…遊んてやろうぜ!」

 

 

三人は凄まじい速さで飛び出した。

彼らにとってこの星は生まれ故郷の10分の1の重力だ。

身体中が信じられないように軽い。

 

 

「コイツはいいや。

羽のように身体が軽いぜ!」

 

 

---地球 とある平原---

 

 

「これは…サイヤ人ですか!?」

 

「だろうな。

だがおかしい、気が三つもありやがる。

あのクソ野郎(ラディッツ)、嘘の情報を喋ったな。」

 

 

ピッコロの修行により見違える程のたくましさを見せる孫悟飯。

一年前の彼なら既に泣きわめいていただろう。

 

 

「自信を持て。

今の俺達は一年前よりも遥かにレベルアップしている。

何も恐れるものはない!」

 

「はい!」

 

 

だがそんな彼らの背後から多くの気が接近する。

 

 

「!?

こっちにもたくさんの気が!」

 

「何だと!?

…いや、大丈夫だ。」

 

 

ピッコロがほくそ笑む。

だんだんとはっきりみえてきた。

味方だ。

 

 

「おーい悟飯、ピッコロ!」

 

「お父さんだ!」

 

 

死んでいた奴とその他大勢がやってきた。

悟空が降り立つと悟飯は駆け寄る。

悟空もこの時は完全に父親の顔だ。

 

 

「悟飯、お前ぇだいぶたくましくなったな。

父ちゃん嬉しいぞ!」

 

「へへへ…」

 

 

仲間もしばらく二人きりにする気配りを見せる。

 

 

「久しぶり、ピッコロ。」

 

「ふん、奴らは三人だ。

貴様嘘をついたな。」

 

「違うよ、多分途中で新しくスカウトした感じじゃないか?

本来なら敵は二人だったんだ。

おそらくだけど、三人目もサイヤ人だと俺は読む。」

 

「大したことのない予想だな。」

 

「そう言うなよ。

向こうが増えた分、悟空も間に合ったし俺もいるし…

何とかなるさ。」

 

 

しばらくの雑談といきたかったが、彼らは待ってくれなかった。

 

 

「これか?」

 

「…みたいだな。」

 

 

傾きつつある太陽を背に、三つの影が見えてくる。

いよいよ来たのだ…

奴らが…サイヤ人が。

 

 

「ハッハッハ、奴らたくさんいるぜ。」

 

「なんだ、ここがわかってたのか。」

 

「どうやら、俺達の事はご存知のようだな。」

 

 

太陽を背に、逆光で影しか見えない。

だがゆっくりと降りてくると表情まで読み取れてきた。

 

 

「真ん中がベジータだ。

右の大男がナッパ。

そして左『ご 悟空!?』が...ターレス..!?.」

 

 

銀河中を暴れ回っていたとされていたクラッシャー軍団のターレスがいた。

 

 

「おいターレス、双子だったのかよ?」

 

「下級戦士の顔のバリエーションは少ないって事忘れたのかナッパ。」

 

「オ…オラが二人…」

 

「おい、どういう事だ!?」

 

「説明してくれ!」

 

「サイヤ人の下級戦士はソックリさんが多いんだ。

だからあいつが悟空ソックリ。

…でも中身は極悪人だ。」

 

 

三人は地へ降り立つ。

 

 

「ラディッツ...お前は死んだと思っていたが...そいつらを引き連れてどうするつもりだ?

また仲間に入れて欲しいのか?」

 

「ベジータ...俺はもう心を入れ替えたんだ。

他の星を暴れまわるなんてもうやめよう。」

 

 

三人は目を合わせ大笑いする。

 

 

「おい、何がおかしいんだ?

ラディッツは悪ぃことやめろって言ってんだぞ?」

 

「クク...カカロットまで…!

バーダックの息子共はめでたい奴らばかりだな。」

 

「俺達は戦闘民族サイヤ人だ。

戦闘民族が戦いをやめるなんて腑抜けにも程があるぜ!」

 

 

ターレスが一歩前へ。

 

 

「なぁラディッツ、カカロット。

俺達サイヤ人はもうこれだけしかいないんだ。

仲良くやろうぜ。」

 

 

握手のつもりで手を差しのべる。

握手=ベジータ達と仲間になるという事なのだが…

 

 

「心を入れ替えたと俺は言ったんだ。

昔は暴れ回っていたが、俺はやめた。

また暴れまわるくらいなら…ここで戦うぞ!」

 

「そうだ、オメェ達と仲間になるつもりはねぇ!」

 

 

断られたターレスは二歩下がる。

交渉決裂。

 

 

「という訳だ王子様、どうする?」

 

「俺が全部片付けてやるぜ。」

 

「ククク、これはゲームだ。

ナッパ、サイバイマンが8粒あっただろう?」

 

「…なるほど、ベジータも優しくなったなぁ。」

 

 

腰巾着から瓶を取り出す。

その中には緑の豆が確かに8粒。

それを全て取り出し、土を少し握り取り土質を確かめる。

 

 

「…いい土だ、サイバイマンを植えるには最適な土だぜ。」

 

 

穴を8つと開け豆を放り込む。

 

 

「地球に何しにきたんだ?」

 

「まさか…豆を植えるだけなんじゃ…?」

 

 

土をかぶせて数秒後、地面が爆発したかのように盛り上がる。

そして中からは緑色のモンスターが8体現れた。

 

 

「言い忘れてた…これがサイバイマンだ。

俺が初めて地球に来た時よりも強かったはず…」

 

「なんだって!?」

 

「さぁて、ゲームを始めようじゃないか。

これから互いに一人づつ出てきてこのサイバイマンと戦う。

断る事は…出来るかな?」

 

「いいよ、けど勝ち上がり式にして欲しい。」

 

「大丈夫なのか!?」

 

 

天津飯にグッドサインを送る。

…なんとかなるようだ。

 

 

 

「ちなみに、貴様らが頼りにしているそこの弱虫より強いはずだ。

せいぜい頑張るんだな!」

 



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精一杯の喧嘩上等

「ギャギャギャ…」

 

 

一番手前のサイバイマンが二歩前に出てきた。

気のせいなのだろうか…ベジータ達サイヤ人はおろか、サイバイマンまでラディッツをゴミのように見ている気がする。

 

 

(なんかどいつもこいつも、スゲー馬鹿にした目つきしてるよな…

あ、そういえばコイツは雑魚扱いされてたんだったよな…)

 

 

なんだか悔しくなってきたラディッツ。

体が変わるまではラディッツなんてクソ以上にクソと思っていた。

だが一年程この体になって愛着が湧いてきた。

 

 

(前までラディッツなんてザコいモブキャラとしか思ってなかった。

けど…コイツだってサイヤ人…

強くなる素質がある訳だ…それを馬鹿にされるのが腹が立つ!)

 

「いつまでも俺を舐めていると後悔するぞ!」

 

「泣き虫ラディッツが何を威張ってるんだ?

やれ。」

 

 

サイバイマンも軽く捻り殺すつもりで掛かった。

だがラディッツに触る前に首と胴が切断され、ボトボトと落ちる。

 

 

「「「!?」」」

 

 

三人のサイヤ人もこれには驚く。

善戦するかと思われたがいつの間にかやられていたのだ。

 

 

「へぇ、話で聞いてた割には…やるみたいじゃねぇか。」

 

「ちったァマシになった…ってとこですかい?」

 

「そのようだな。

サイバイマン、次は本気でやれ」

 

「ギャ…」

 

 

また一体前へ。

先ほどと違うのは表情か。

 

 

「なるべく体力使いたくないからな。

一気に片す。」

 

 

サイバイマンの頭が縦に割れ、溶解液が放出される。

それを難なく躱し、そのサイバイマンを殴り飛ばす。

その流れで他人事のように観戦していた残りのサイバイマンを片っ端から斬殺し、最後の3体はそれぞれのサイヤ人達に投げつけた。

 

ベジータ、ターレスはエネルギー弾で消し、ナッパは蚊を殺すようにたたきつぶした。

運が悪いことに、溶解液が飛び出してナッパに掛かる。

 

 

「チッ、やっちまった」

 

 

戦闘ジャケットが白煙を上げて溶けるのを見て脱ぎ捨てる。

肌に掛かった溶解液を拭う。

…ダメージは無かった。

 

 

「マジかよ…」

 

 

背後の地面は溶解液で溶けているのに、ナッパの肌は無傷なのだ。

どれほど強靱な肉体なのか。

 

 

「まさか俺達に反抗するとはな。」

 

「弱虫ラディッツってのは撤回してやる。

ケンカ売ってんだからな。」

 

 

ナッパがニヤリと笑い一歩前へ踏み出る。

それに動じずラディッツは言葉で仕掛ける。

 

 

「ゲームは終わりなんでしょ?

なら今度はこっちの提案を聞いてくれ。

ナッパと地球のみんな、俺とターレス、ベジータと悟空…ってかカカロットで戦おうじゃないか。

ナッパ、お前は俺と戦うほど強くないからな!」

 

 

この挑発にナッパは乗っかった。

 

 

「言うじゃねぇか、本当に俺様より強いか試してやらァ!!」

 

「やめろナッパ!!」

 

 

ラディッツに襲いかかる寸前で動きが止まる。

振り上げた腕を、ベジータが言葉で強く制する。

 

 

「全員が楽しめるならいいだろう?」

 

「冗談じゃねぇ!

弱虫ラディッツに舐められたんじゃ腹の虫が収まらねぇ!!」

 

「俺の指示が聞けんのかっ!!」

 

 

途端に萎むように、ナッパは落ち着きを取り戻す。

 

 

 

「す すまねぇベジータ」

 

 

(あのナッパって野郎を一喝で制するとは…奴はとんでもない強さを持っているということか)。

 

 

 

ラディッツの説明はあながち間違ってないとここで考えるピッコロ。

ベジータの元までナッパは下がる。

この間、全く動じないラディッツ。

単純にナッパの激怒した顔に腰が抜けかけていたのは内緒である。

 

 

「どんな作戦かわからんが、その戦略に乗ってやろうじゃねぇか。

ナッパ、そのゴミ共を始末しろ。

ターレス、貴様は奴の相手をしてやれ。

俺はカカロットと遊んでやる。

戦う前にはスカウターを外しておけ、奴らは戦闘力を自由に操れるからな。

これでいいのかラディッツよ?」

 

 

ベジータとナッパはスカウターを足元に捨てる。

 

 

「さ 流石ベジータ、恩にきる。

じゃぁ手筈通りに頑張ってくれ。

ピッコロ、悟飯、お前達もナッパと戦ってくれ。」

 

「貴様の作戦協力するのは気に食わんが…何か考えがあるなら今回だけ乗ってやろう。」

 

 

意外とすんなり乗ってくれたピッコロ。

これで問題無くいけるはず…

 

 

「そうだ!

悟空、仙豆をクリリン達に。

何かあるかもしれないからな。」

 

「え、俺達より二人が一粒ずつの方がいいんじゃないか?」

 

「一人だと食えるタイミングは多分無いよ。

むしろピンチになったら持ってきてくれ。

それと悟飯…ちょっと来てくれ。」

 

「え…」

 

 

 

かつて誘拐した男だ。

そう簡単に関わりもしてくれないと思われたが、ゆっくり近づいていく。

 

 

「悟飯…俺はお前の父ちゃんの兄ちゃんだ。

前の時は…色々怖がらせてすまなかったな。

この戦い、お前が頑張ったところをピッコロと父ちゃんに見せつけてやれ!

厳しい修行してきたんだろ?

全部出し切ってこい!」

 

「…は はい。」

 

 

何を言われるか不安だった悟飯だったが、謝られたり励まされたりで曖昧な返事になってしまった。

ラディッツは最後に頭をぐしゃぐしゃっと撫でるとターレスと共に別の戦闘域に飛んでいく。

 

 

「悟飯、父ちゃんも頑張るからオメェも頑張んだぞ!」

 

「お父さん…はいっ!」

 

 

父 孫悟空もベジータと共に別の戦闘域へ。

残された地球の戦士達とナッパ…

 

 

「俺、ラディッツの事を信用する。」

 

「どうした天津飯?

あんなに疑ってたくせによ。」

 

「子供好きに悪人 いない。

でしょ天さん?」

 

「なるほど、そういう事か。」

 

「おいピッコロ、作戦なんだが「言わなくても奴の性格からして察しはついた。

俺達だけでどこまでやれるかだな。」

 

 

 

ズドォンという音が響く。

戦士達は一斉に音の発生地に注視する。

ナッパが地面を強く踏みしめたのだ。

足が深く地面に刺さっていた。

 

 

「ここまでコケにされたのは初めてだぜ…

腹が立ってしょうがねぇ…てめぇら全員皆殺しにしてやる。」

 

 

突風のように襲いかかる気の嵐。

みんな吹き飛ばされそうになるがなんとか踏みとどまる。

先制攻撃で餃子が超能力で静止させようとする。

 

 

「て 天さん!

超能力が効かない!」

 

 

あまりの実力差の前に超能力は全く効果が無かった。

一度突風が吹くとともに、ナッパの身体は白いオーラに包まれる。

 

 

「さぁて…どいつから片付けてやろうか!」

 

「く 来るぞーっ!!」

 

 

地球人全勢力対ナッパの戦いがいよいよ始まる…




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汚名…挽回…返上? ---ナッパ対地球の戦士達---

誤字脱字 修正済み R2 1/8


ナッパが動く!

標的は…天津飯。

 

 

「はあぁ!」

 

「!」

 

 

初撃を辛うじて受け流す。

更に続く攻撃もギリギリで凌ぐ天津飯。

だが十撃目あたり…受け流すタイミングが僅かに遅れた。

 

 

「ぐああぁぁ!!」

 

 

悲鳴と共に跳ね飛んでいく腕。

あまりの破壊力に天津飯の肘の途中から先がもげてしまった。

 

 

「脆い身体してんなぁ!」

 

 

空中でうずくまる身体を蹴り落とす。

受身も取れずに地面へ激突する。

 

 

「まずは一匹!」

 

「ぐっ…!」

 

トドメで頭を踏みつぶす。

だがすんでのところで躱され、足首まで地面に突き刺さる。

 

 

「チッ 仕留め損ねたか…」

 

「な なんてパワーだ!?」

 

「天津飯さん!」

 

「奴はもうダメだ!

無駄死にする気か!」

 

 

クリリンが助太刀に飛び出す。

ピッコロの静止も振り切るがそんな事許してくれるほど甘くない。

 

 

「邪魔をするなぁ!!」

 

 

振り向きざま薙ぎ払うように気功波を放つ。

クリリンに直撃はしなかったものの、地面にはパックリと深い穴が開く。

 

 

「ひっ…」

 

「はっは!

そこでおとなしく震え!?」

 

 

ナッパの背中に何かが張り付く感覚が。

取ろうにも背中のド真ん中にある為手が届かない。

 

 

「餃子!?」

 

 

背中の違和感は地球の戦士の1人だった。

いくら頑張ろうどもやはりあと少し届かない。

 

 

『天さん…天さん』

 

「ち 餃子!?」

 

 

テレパシーで天津飯の心にだけ聞こえる餃子の声。

 

 

『さよなら天さん…どうか死なないで』

 

「何言ってるんだ餃子!

っ!?」

 

 

餃子の気が高まっていく。

通常の高まり方ではない…

自爆するつもりだ。

 

 

「やめろ…やめろ餃子!

やめろーっ!!」

 

 

一度だけ笑うと、ナッパと共に爆散する。

 

 

「餃子…」

 

 

これで天津飯の腕をもぎ取ったサイヤ人は塵となった。

 

 

「…ふぅ、チンケな爆発で助かったぜ」

 

 

…はずだった。

黒煙の中から不敵な笑みを浮かべるナッパ。

餃子は死んだ…

 

 

「あわわ…」

 

「そんな!

餃子が…」

 

「あいつ、命までかけたのに!」

 

「喚いてる暇はないぞ。

奴は攻撃する際に標的しか見えてない。

その隙を狙うぞ!」

 

「まずは一匹…お前も死ね!」

 

 

突撃するナッパ。

天津飯も気功砲で応戦するつもりだ。

ピッコロの言う隙が…できた!

 

 

「今だ!!」

 

 

ナッパの視界外から殴りかかるピッコロ。

意表だった、ナッパが吹っ飛ぶ。

その先にはヤムチャ。

そのまま蹴り飛ばしクリリンが両手で殴り落とす。

 

 

「今だ悟飯、やれ!」

 

「あ…ぁ」

 

 

初の実践と恐怖からか、体がこわばる。

やはり無理だ…と思った時、同時に二つの言葉が脳裏をよぎった。

 

………

 

『厳しい修行してきたんだろ?

全部出し切ってこい!』

 

『悟飯、父ちゃんも頑張るからオメェも頑張んだぞ!』

 

………

 

「お父さん…わあああ〜〜!」

 

 

悟飯から放たれるエネルギー弾は吸い込まれるようにして爆発する。

戦士達は一度集った。

 

 

「やるじゃねぇか悟飯!」

 

「心配させやがって…」

 

「えへへ…」

 

 

だがこれで終わったわけではない。

黒煙から再びナッパが現れる。

 

 

「やってくれるじゃねぇか…殺す順番を変えてや「狼牙風風拳!」

 

 

背後からの打撃ラッシュ攻撃。

気を読めず、スカウターを外してしまったナッパにとっては完全に意表を突かれた。

一般人からは見えない超高速の連撃が面白いように決まっていく。

 

 

「はいっはいっはいっ!」

 

「調子に乗るなぁ!」

 

 

振り向きざまに殴りかかるが姿勢を落として避け足払い。

そしてがら空きの横っ腹をかかと落としの要領で叩き落とした。

ここまでヤムチャが善戦するのには訳があった。

いつかの天下一武道会のシェン戦の再現だ。

格下と思っていたおっさんに隙だらけで臨んで敗北…

まさにあいてのサイヤ人は自分のような態度だったからだ。

そして現在の精神状態。

悟空がいる、更に味方となったサイヤ人ラディッツと大魔王ピッコロ。

この3人が安心感と言う影響を及ぼしていた。

そして一番大きいのが経験だ。

Z戦士の中では古株になる彼ら。

修行も含め実践豊かな彼らは戦闘力以上の実力を出していた。

---閑話休題---

 

 

「今だ、畳みかけろ!」

 

 

ピッコロの号令と共に悟飯、クリリンがナッパに襲いかかる。

その間にヤムチャは天津飯を介抱する。

 

 

「大丈夫か天津飯?」

 

「あぁ…だが餃子は…」

 

「それは後だ。

今は生きて奴らを倒すことを考えるんだ!

とにかく、食え!」

 

 

言われるがまま仙豆を口に含む。

切り落とされた腕は元に戻らなかったが、体力や傷は完治した。

この男、サイバイマンにやられなければかなりの好プレーを魅せ続ける。

 

 

ヤムチャしてない…だと…

 

 

………

 

 

「ちょこまかとうるさいハエ共め!」

 

 

こちらはギリギリの戦いをしていた。

恐ろしく素早く、強力な攻撃をなんとか避けながら攻撃をしていく。

ワンショットずつ確実にダメージを与える。

ナッパは格下相手にここまで手こずるとは思っていなかった。

自分の攻撃スタイルに持ち込めないフラストレーションが溜まりに溜まっていた…

 

 

「チィっ!」

 

(よし、胴が空いた!)

 

 

「!?」

 

 

ナッパの腰に巻かれていた尻尾を掴む。

サイヤ人はここが弱点なのはラディッツ戦でも確信を得ている。

 

 

「やれ!

クリリン、悟…」

 

「なに!?」

 

「な…だ…と……」

 

一瞬動きが止まったナッパだが、強烈な肘打ちがピッコロに決まる。

意識が朦朧とし、倒れ込むところを掴み上げられる。

 

 

「残念だったな。

俺達が弱点をそのままにしているとでも思ったのか?

さて、このナメック星人にはドラゴンボールの事があるからまだ生きててもらうぜ?」

 

「ピッコロさんを…離せー!」

 

 

悟飯が果敢にもナッパへかかっていくが腹をけたぐられ岩壁に叩きつけられる。

地面へと倒れ込むが、血反吐を吐きながら立ち上がる。

 

 

「その意気だぜ?

やられた分今からたっぷり遊んでやるぜー!」

 

 

悟飯へ向かうナッパ。

 

 

「やめろー!」

 

飛び込みながらラリアットするのはヤムチャだ。

体勢が崩れたところへ天津飯も殴り飛ばす。

後方へ大きく受身をとり、反撃を掛けようとするナッパ。

だが追撃の一手はもう取られていた。

 

 

「気円斬!」

 

 

円盤状に展開する気。

投げ出されるとまっしぐらにナッパの元へ向かう。

 

 

「こんなもの…はじき飛ばしてやる!」

 

 

右腕を大きく振りかぶり…

吹き飛ばした。

 

 

「ぐああぁぁ!!」

 

 

吹き飛んだのはナッパの右腕だ。

鈍い音を立てて腕は落ち、気円斬は弧を描いて飛んでいった。

 

 

「やったぜクリリン!」

 

「天津飯、腕は大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、これがあるからな。

四妖拳!」

 

 

天津飯から更に二本腕が生える。

全て合わせて四本…失った腕の勘定をすると3本の腕を持つ天津飯。




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目覚める最強の戦士? ---ナッパ対地球の戦士達---

誤字修正済み R2.9/17


油断があった事は嫌でも認めざるを得なかった。

避けようと思えばいくらでも避けれた、技も見極めずに…

本来それを指摘してくれる王子がいたのだが彼がいない。今、右腕を失った大男がいるだけだった。

そんな大男は…このあってはならない戦況に激怒していた。

 

 

「クソーっ!

てめぇら…ぶち殺してやる!」

 

 

怒るナッパ。

だが逆上する割には冷静を保っていた。

 

 

「消えてなくなれ!」

 

「うわ…ああ!」

 

 

2つのエネルギー弾がクリリンとヤムチャを狙って放たれる。

即座にかわすものの、ヤムチャは爆風を受けて地面を転がり岩山に埋まるほど叩きつけられる。

クリリンは爆風に煽られて上空へ飛ばされる。

そこを狙われた。

 

 

「トドメだ!」

 

 

今度は避ける暇はない。

待っているのは…爆散だ。

 

 

「!」

 

 

ギリギリのところで両足を掴み助け出す天津飯。

だが再び炸裂した衝撃を受けきれずに地面に叩きつけられる。

そしてがら空きだったナッパの背中には気弾が打ち込まれ、蹴り飛ばされていた。

攻撃したのは…悟飯である。

 

 

「ピッコロさん、大丈夫?」

 

「へっ…この俺があんな攻撃でくたばるものか。」

 

 

隙をみて攻撃してやろうと思っていたが、悟飯の思わぬ成長ぶりに口が少しだけ緩む。

飛ばされたナッパは瓦礫に埋もれていた。

 

 

「クッソガキ…これまでだ!」

 

 

瓦礫を吹き飛ばし、残された左腕を振りかぶる。

インパクトボム…避けようにも体が動かない二人。

ヤムチャもクリリンも天津飯も、助けようにも距離が遠すぎる。

 

 

「ぁあ…ぁ…」

 

「死ねエエェェ!」

 

 

一瞬の眩き、衝撃が周りの者達を突き抜ける!

ナッパから放たれたインパクトボムは地面をえぐるほどのパワーだった。

だが二人は…立っていた。

 

 

「!?」

 

「にげ…………飯……」

 

 

悟飯の前に立ち、全てを受けたピッコロは力なく倒れた。

 

 

「ちっ、殺す順番が変わったか。」

 

「ピッコロさん!?

なんで…お願い、死なないでよピッコロさん!!」

 

「貴様ら…お 親子のせ…いで甘さが…移っちまった…。

だが…お前だけだった…まともに俺と話…してくれたのは…」

 

「貴様…といた数ヶ月…悪くなかったぜ。

頼…から死ぬ…な悟……飯……」

 

 

気が消えた。

そしてドラゴンボールも、純粋な悪魔王のピッコロ大魔王も共に消え去った。

とても厳しく…そして見えにくかったが優しさを持っていた師。

泣き虫でわがままな自分を、育つまで信じて鍛え上げた人

そんな人が自分の為に命を捨て、涙を流しながら礼を言った。

もう二度と…生き返ることは無い…

 

 

「う…うぅぅ…」

 

「なんてことしやがる!

ピッコロを殺したらドラゴンボールも消えてしまうんだぞ!」

 

「何!?

…ふっ…ベジータが言っていたがな、ナメック星にも似たような願い球があるからな。

殺したところでどうってこともねぇよ!」

 

「くそったれ…死んじまったら仙豆も使えないじゃないか…」

 

 

 

 

時を同じくして地球の神はミスターポポに看取られてこの世から消えていった。

そしてドラゴンボールは石へと…

 

 

「さーてと、次はどいつを殺ろうか「ぅぅううう…!」なんだぁ?」

 

 

どぅっ と一陣の風が吹く。

一度ではなく…何度も何度も。

 

 

「な…なんだ!?」

 

 

先程までピッコロの死に涙していたガキが立ち上がっていた。

それどころか…黄金のオーラを纏っている。

 

 

「何が…「うぉぉおおお!」がはっ!」

 

 

腹部を殴られ派手に吹っ飛ぶナッパ。

意表を突かれたわけでもないのにどうしたというのだ?

 

 

「急に!?

なんてパワーだ!?」

 

「はあああ!」

 

 

ラッシュを受けきれない!

悟飯のパワーが格段に上がったのもあるが、片腕ではどうしても手数が足りない!

 

 

(まさか!?

…ベジータから聞いてはいたが…千年に一度現れると言う真のサイヤ人戦士!?

馬鹿な…ありえない…なれるとしたら俺かベジータだけだ!

あんな下級戦士がなれるはずがねぇ!)

 

 

これまでで一番重い攻撃を受けながら冷静に判断する。

確かに悟飯は超サイヤ人ではない。

オーラこそ金色で髪も逆立ってはいる。

だが髪は黒髪、目は白目を剥き、理性もぶっ飛んでいるようだ。

 

 

「野蛮な下級戦士がまさかな!」

 

 

爆発波で間合いをとる。

両手でガードするが、少し追いやられる。

反撃する前に、両手をそのまま額へ翳すが

 

 

「はぁーーっ!!」

 

 

両手からエネルギー波…魔閃光だ。

指をクンッと持ち上げ、衝撃で打ち消す。

土煙が上がるが、お構いなしに悟飯は飛び込みナッパをぶん殴った。

素晴らしい動きと蓄積するダメージにナッパは後手にまわらざるを得ない。

 

 

「悟飯の奴…あんなパワーがあったなんて…」

 

「ピッコロの元でどれだけの修行をしたんだ?

まさか…ピッコロの奴、魔族にしたのか!?」

 

「わからない…

だがこのままなら…もしかしたら勝てるかもしれないな。」

 

 

戦士達は豹変ぶりに戸惑いを隠せない。

 

 

「こしゃくな!」

 

 

何発も身体中に攻撃を受けるが、向かってくる腕を掴み、勢いそのまま地面に叩きつける。

動きが止まったところで鳩尾に重い一発を落とした。

悟飯は気絶する。

金色のオーラも白目も戻る。

パワーは悟飯の方が上だったが、戦闘経験でナッパが勝っていた。

 

 

「てこずらせやがって…楽にしてやる」。

 

「まずい、行くぞ!」

 

 

クリリンを先頭に地球の戦士達が向かっていく。

 

 

「次から次へと!」

 

 

エネルギー弾を放つ瞬間、標的だったクリリンが気弾を使って上空へ。

 

 

「それで意表を突いたつもりか?」

 

 

上空のクリリンをニヤリと笑う。

だが顔面に衝撃を受ける。

光球が上空を翔ける。

 

 

「繰気弾!

はいっはいっ!」

 

 

何度も襲いかかる繰気弾!!

…脅威ではないがいささかダメージが来るのがウザったい。

 

 

「ええいウザったい!」

 

 

悟飯を差し置いてヤムチャに向け突撃する。

 

 

「気功砲!」

 

 

ナッパに気の障壁が襲いかかる。

これもやはりそこまで脅威ではないが動きが抑えられる。

なぜここまでに地球戦士達にやられているのか…やはり悟飯のダメージが…

 

 

「今だヤムチャ!」

 

「おう!

太陽拳」

 

「うわぁぁ、クソォっ!!」

 

 

繰り出される太陽拳。

視野を奪われるナッパ。

さらにも動きを封じ込むように展開される気功砲。

全くもって自由にいかない。

フラストレーションが溜まりに溜まる。

 

 

「クッソがぁー!」

 

 

眼前の二人しか見えていないナッパの背後に…クリリン!

 

 

「これで終わりだー!」

 

 

気円斬は放たれた。

気を読み取る事が出来ないナッパにはなすすべが無い…

 

 

「グッ…」

 

 

どさどさと倒れ落ちるナッパだった身体。

二度と動く事は無かった…

 

 

「やったのか…?」

 

「あぁ、たぶんな。」

 

「やった、サイヤ人を倒したぞ!」

 

 

喜ぶ戦士達は悟飯に仙豆を食べさせる。

いつの間にか戦いが終わっていたようだ。

 

 

「悟飯、大丈夫か?」

 

「はい…けどピッコロさんが…」

 

 

二度と戻ることのない命。

天津飯や悟飯の大事な人を失った事をクリリン達は痛感していた。

 

 

「悟飯、とにかく今は奴らを倒す事が肝心だ

辛いだろうが…ピッコロから習った事を奴らに見せてやれ!」

 

 

自身も辛いはずの天津飯が悟飯を励ます。

下を向いていた悟飯も顔を上げる。

目は…まだ死んではいない!

 

 

「天津飯さん…やります!」

 

「そうさ、あいつらを倒せばピッコロだって喜ぶさ!」

 

「よし、そうと決まればラディッツ達を助けに行こう!」

 

 

二手に別れて行動する事になった。

クリリン、悟飯は悟空の元へ…

天津飯、ヤムチャはラディッツの元へ…



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悪人顔の良い奴と良い奴ソックリの悪人 ---ラディッツ対ターレス---

誤字脱字修正済み R2 1/8


「お前が弱虫ラディッツだな?」

 

「そうだ、俺がラディッツだ。」

 

 

ナッパに超能力が効かない事がわかった頃…

別の戦域に対峙する2人のサイヤ人。

片方は元保険屋営業係のラディッツ。

片方は元宇宙盗賊のターレスだ。

 

 

(光栄だなぁ、あのターレスと戦えるなんて…)

 

 

見た目も声も孫悟空ソックリ、だが性格はサイヤ人とあって悪人同様。

今でこそ悟空そのもので酷い性格ながらネタにされてはいるが実力者の1人だ。

目を輝かせて眺めるラディッツだがふとあることに気づく。

 

 

「そうだ、ターレスお前クラッシュ軍団やってなかったっけ?」

 

「クラッシュ軍団?

なんの話をしてるんだ?」

 

「ほら、あの…カカオだとかアーモンドとか…なんか…色々いたじゃないか?

 

「…知らねぇな。」

 

 

嘘を言っているようには思えない。

どうやらそのチームを組む前にベジータに勧誘されていたようだ。

ちなみに正式名はクラッシャー軍団である。

 

 

「もう一度聞くが、俺達の仲間には本当にならないんだな?」

 

「それだけどさターレス、お前がこっちの仲間になればいいじゃないか」

 

 

悟空みたいな奴がいれば面白くなる…そんな考えで聞いてみたラディッツだが、ターレスの返事は…

 

 

「冗談か?

宇宙を気ままにさすらって、好きな星をぶっこわし、旨いモノを食い、旨い酒に酔う…

こんな楽しい生活はない。

まさにこれこそがサイヤ人にふさわしい生き方だと思っている。

そうでなければ…お前にも生えているその立派なシッポはただの飾りだ!」

 

 

ラディッツから伸びるサイヤ人特有の尻尾。

鍛えてあるので握られて力が入らないというのはないし、ピッコロが月を破壊したと聞いたのでそのままにした。

手足のように動かせるので便利であり、攻撃パターンも増える。

だが本来の用途は月を見て大猿化する為の尻尾だ。

ターレスの言う通り…彼にとっては最早飾り程度なのかもしれない…

 

 

「それぞれ生き方はたくさんあるから否定はしないけど…サイヤ人だろうがなんだろうが秩序を守らなければただの野蛮な猿だ。

俺はその一線を超えたくない。」

 

「そうか…ならば、死ね!」

 

 

顔面を殴られるラディッツ。

いきなりの出来事に目は追いついたものの、体が動かずに盛大に吹っ飛んだ。

 

 

「痛…なにしぼふっ!」

 

 

躊躇いもなく腹を踏み付ける。

動きが止められ、顔面に手を当てられるラディッツ。

 

 

「は 離せ!」

 

 

一度ニヤリと笑うとゼロ距離でエネルギー弾を連続で放つ

地面に出来る大きな穴。

ラディッツはまだ耐えていた。

その後も続く必要以上の圧倒的な攻撃…

ボロボロのラディッツは最終的には首を掴み上げられてしまう。

 

 

「ひ…が…」

 

「…所詮、弱虫か…

お前には戦う意思がまるで感じられない。

まさか話し合いでどうとなるとでも思っていたのか?

いくら身体を鍛えようとも、いくら戦術を練ろうとも、口先だけの貴様に何が出来る?」

 

(腑抜け…口先だけ…

なんで…なんで暴力を振るうんだ?)

 

 

口ではサイヤ人を倒す! 俺だってやってやる! と言っていたラディッツだが、敵を目の前にして何も出来ない。

まず彼はこの世界をまるでわかっていない…

界王様の元で真面目に修行をしたのは世界観を楽しむ為…

主人公である孫悟空やクリリン、ヤムチャに会えて有頂天にもなっていた。

その反面、ナッパから攻撃を受けそうになったり、激怒するのを見て腰を抜かす。

ターレスの攻撃なんか何一つ避けちゃいない。

ラディッツと言うキャラクターがそうさせたのではない…

河野自身がこの世界に本当に臨んでいない。

 

自覚がない。

自覚していない。

ただの現実逃避だ。

 

 

「秩序だと?

お前はただ逃げているだけだろう、戦う事から…戦闘民族サイヤ人の血から!

だからてめぇは弱虫なんだよ!!」

 

 

空いた右手で腹を殴る。

顔も…

胸も…

何度も…

何度も

 

 

(俺は…俺は…帰りたい。

元の…地球に…

生きて帰りたい…)

 

 

目の前のターレスが悟空にも見える。

ターレス?悟空?

どちらが攻撃してくるのかわからない…

 

 

(やめてくれ…怖い…やめて…)

 

(来るんじゃなかった…助けて…)

 

 

悟空が殴る。

悟空が…悟空が殴る。

まるで自分を殺しにかかるかのように…

 

 

(………

…調子にのってたんだ…ドラゴンボールって世界に来て舞い上がってたんだ…

…この世界に来る資格なんて…元々無かったんだ…)

 

(誰にでもいい顔をして八方美人…でも口先だけで結局何も出来ない奴…

ははっ…クズみたいなクソ野郎だな…だけどそれが河野豊だ……)

 

(だけど…帰らなきゃ…こんなクズでも待っている人が…一緒にいてくれる人や友達がいるんだ…!

勝たなきゃ…いや、

絶対に勝つ!!

どんな手を使っても、なんとしてでも!

絶対に帰るんだ!!)

 

 

 

再び向かってくる拳を蹴りあげ、残る左脚でターレスを蹴ったくる。

掴まれていた手から離れ、自由になる。

 

 

「そうだよ、俺は弱虫だよ!

口先だけで何も出来ない、ただのクズだ!

だけど…こんなとこで死にたくない。

絶対に、絶対に生きて帰る!

やってやる!」

 

「ほざけ!」

 

 

またしてもターレスは向かってくる。

彼にもやっと戦う意識が芽生えた。

今度はラディッツも界王拳を使って応戦する。

本来界王拳は赤いオーラが出るのだが、技に慣れ気のコントロールに長ければ表面に現れることは無い。

今のラディッツはそんな状態だ。

ただし二倍…三倍と増えると共に気の流れも加速し、コントロールが難しくなる。

赤いオーラも体から漏れてしまう。

リスクは付き物である。

 

 

「そんなもんか?」

 

「ぐぅっ!」

 

 

界王拳ですらターレスの体にかすりもしない。

カウンターをもらうばかりで疲弊していく。

戦況は以前としてターレスが圧倒的に有利である。

 

 

「ならば、二倍に引き上げる!」

 

 

ラディッツの体がほんのり紅くなる。

スカウターを外してしまったターレスには体がちょっと赤くなった程度しかわからない。

その時ラディッツは感じ取った…

誰かの気が消えた…

 

 

「誰か死んだのか?

餃子か!」

 

 

遅れて爆発音が聞こえる。

餃子が自爆した音だ…

 

 

「よそ見してていいのか?」

 

 

耳元で囁かれる。

咄嗟に腹部をガードすると、防いだ腕に衝撃が走った!

痛む腕を使い、そのまま足を掴んで地面へと投げ飛ばした。

砂塵と岩を砕くような音が響きわたる。

 

 

(くそ…餃子が死んだなら…

次は天津飯か!?)

 

 

砂塵が晴れると余裕の表情を見せるターレスがたっていた。

 

 

(やっぱり…簡単には…)

 

「さてと、準備運動はこれぐらいでいいだろ?」

 

「嘘だろ…界王拳 三倍!」

 

 

危険を感じて界王拳を引き上げる。

次の瞬間左側頭部に蹴りが入っていた。

これも左腕でガードする。

 

 

「ほぅ?

偶然にしては助かったな。」

 

「勘で悪かったな!」

 

 

お返しにとこちらも左側頭部を蹴るも掴まれる。

そのまま背面に投げ飛ばす。

だがラディッツは反動を利用してラリアット。

再び両者は距離を置く。

 

 

「ちっ、しぶとい…一つ食うか。」

 

 

腰の巾着から、茶色いモヤっとボ〇ルを1つ取り出し、シャリっと一かじり。

ノーリスクノーリターンの魔法の実…

ターレスを語る上で欠かせないアイテム…神精樹の実だ!

 

 

ターレスの傷はすべてとは言えないが治癒する。

気もそこそこの上昇をする。

そのくせ何かを犠牲にしたり不利になる事など無い…

言わばチートみたいなもんだ。

 

 

(チッ…あのクズ星のやつか!

星の中心まで腐ってやがったか、味もパワーも良くねぇ。)

 

 

アーリア星の力は神精樹の実に反映されていた。

星が豊かであればある程旨みがあり、パワーも格段に上昇する…

だが味も良くなくパワーも上がらないと言うことは痩せた土からなる星だったと言う事だ。

 

 

(だがこれでも余裕がある…

万が一の為にまだとっておいてあるからな)。

 

 

巾着の中にはチャオ星と惑星コーシーの養分を吸った神精樹の実が入っている。

もちろんアーリア星の養分とは比にならない程良質な星の為更なる戦闘力の上昇が約束されている。

だがそれはターレスだけが知るものではない…

 

 

(あれが神精樹の実か!

あれを奪えれば…絶対に勝てる!

巾着の中には間違いなく1つは入ってる…

なんとしてでも奪ってやる!)

 

 

今度はラディッツから仕掛ける。

ターレスは少しだけ上空に下がるがラディッツの攻撃を受ける。

思い切り殴る。

…だがこれはガードされる。

今度はこっちの番と言わんばかりのラッシュ。

神精樹の実のパワーアップを果たし、スピードも威力も遥かに上がっている。

三倍界王拳ではついていけない…それを承知での三倍だ。

 

 

「こんなもんかよ?

そこら辺の下級戦士ってのはよ?」

 

 

まるで人間サンドバッグ、殴られ屋並にボコボコにされている。

 

 

「死にやがれ!」

 

「5倍!」

 

 

瞬間的に界王拳を自らの限界値の五倍に引き上げる!

反撃の為ではない…全てはこのがら空きの胴に手を伸ばすスピードに掛ける。

またしてもゼロ距離でエネルギー弾を受け、黒煙を吹き出しながら地面へ吹っ飛ぶ。

 

 

「…っ。」

 

「しぶといな…!?」

 

 

ラディッツが嫌味な笑みを浮かべる。

その手には神精樹の実が入った巾着が…

 

 

「形勢逆転ってな!」

 

 

最後の1つを丸かじりする。

りんごの食感…味はカフェオレのように、甘く香ばしい味だ。

これまで受けてきた傷があっという間に完治するを

 

 

「すげぇ!?

力が出てくる!」

 

 

傷も癒え、スタミナも元通り以上。

やはり神の果物と言われるだけある。

 

 

「これなら…勝て「そいつはどうかな?」

 

 

感激して身体中を見回していたラディッツはターレスを見る。

そこには神精樹の実を、かじるターレスがいた。

ラディッツの勘違いにより、巾着から一つこぼれ落ちたのを見逃した…それを回収したのである。

 

 

「もう一個あったのか!」

 

「残念だったな。

貴様もその実を食ったのなら…もう容赦はしないぜ?」

 

 



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とっておきは取っておくもの ---ラディッツ対ターレス---

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「「はあああぁぁぁぁ!!」」

 

 

両者手を組み合い、力比べとなる。

空中で押し合う二つのパワー、二人とも体力全快、限界以上の戦闘力を手に入れている。

地力と神精樹の実を二つ食べているターレスが有利なはずだが、界王拳で地力以上の力を出しているラディッツも負けてはいない。

不意にターレスが力を抜き、股間に蹴りを入れる。

それを防ぐように膝を折りガードするラディッツ。

そのまま前のめりに一回転しながら投げ飛ばす。

 

 

「おらぁ!」

 

 

目を離した隙に殴るも寸前でかわし、逆関節で肘を折る。

半ば飛ぶように回避し、そのまま地面に振り落とす。

 

 

「なんだてめぇ…どこにそんなパワーを隠していやがった!」

 

「最初から全力で行ったらやられるわ!」

 

受身をとってダメージを最小限に抑える。

追撃するラディッツは三倍界王拳を維持している。

ぎりぎりオーラは出ていない…まだ余裕は残っている!

 

 

「ふんぬ!」

 

「ぬおっ!」

 

 

初めてまともな攻撃を食らわせる。

 

 

(今しか!)

 

 

地面を蹴りあげ、大胆に懐に飛び込む。

接近戦へ持ち込んだ。

こうなればエネルギー波系統は使えない上に、ラッシュを仕掛ければ、なかなか反撃するのは厳しくなる。

 

 

「おらああぁ!!」

 

「チィッ!」

 

 

全力で拳と蹴りを繰り出すも、相手もそれなりに戦闘経験を積んだ猛者である。

防御が堅い。

 

 

(くそ!)

 

 

ここで無意識に界王拳を四倍まで引き上げた。

身体中にとどまっていた紅蓮のオーラが吹き出す。

 

 

「な!? (なんだ、このオーラは!?

それに急に攻撃が鋭くなった!)」

 

 

持ち堪えていた防御が崩れかけた。

最早本気にならざるを得ない。

必死に耐え反撃を機会を待つターレスの目の前…ラディッツの後ろに一瞬光るものを見た。

 

 

「はぁっ!」

 

 

判断をする前に爆発波で強制的に間合いを作り出す。

一度押されたラディッツだったが、爆発波の反動で作られたターレスの大きな隙を見逃すわけが無い。

今度こそ当てるつもりで…

 

 

ゥーン…

 

 

「うわっ!」

 

 

背後から襲いかかるエネルギー。

咄嗟に避けるが右の二の腕をかする。

気円斬が…クリリンの放った気円斬を間一髪かわした。

 

 

「死ね!」

 

 

眼前を向くと同時に顔面を蹴り飛ばされる。

苦し紛れに連続で気弾を放つも全く当たらない。

二発…三発と受け地面にうつ伏せに叩きつけられた

 

 

「痛ってぶふ!」

 

「終わりだラディッツ。」

 

 

ほぼゼロ距離にして連続でエネルギー弾が放たれた。

大きな爆発が連続して起こり、辺りが黒煙と砂塵で見えなくなる。

容赦などまるでない…罪悪感の欠片もない戦い方だ。

 

 

「…死んだな。」

 

 

パラパラと小石が降る。

漂う砂塵。

大きなクレーターが見え始めた。

 

 

「……ク クリリンの野郎…後でぶん殴ってやる…」

 

「なんてしぶとさだ…!」

 

 

自慢の技メテオバーストを受けてなおもなんとか地面に立つ男に些か焦る。

 

 

「(…覚悟は出来てんだ…四倍界王拳で、互角のパワー五倍に引き上げて早く終わらせてやる!)五倍界王拳!」

 

 

ボロボロの体から吹き出すオーラの量が倍増する。

その分スタミナの消費量もパワーもスピードも増す…

ハイリスクハイリターンだ。

 

 

「こぉんのぉー!」

 

 

地面をえぐり気味に飛び上がり、瞬く間に間合いは無くなる。

だが反撃するしか頭になかったか、隙が見えている。

目の前まで来たラディッツの顔面にエネルギー弾をぶち込んだ。

 

 

「な!

また消え「後ろ だ!」

 

 

衝撃と痛みは同時に襲いかかる。

ラディッツは追撃に入る。

ターレスは体勢を立て直し、次はカウンターを仕掛ける。

 

 

「がはっ!」

 

 

だがまたしても背後からの攻撃。

何が起こっているのか見当がつかない。

気が読めずにスカウターに頼っていたからだ。

それでは残像拳は初見で見破れない。

界王拳を五倍まで引き上げての攻撃だ、ターレスは吐血する。

だが経験の差か…始めこそ全ての攻撃を受けていたが、数回に一度程度までに抑えてきた。

界王拳も五倍だが、出力的には四倍と少し程度…

反動とダメージと疲労による、出力低下を抑えきれない。

 

 

 

(くそ…もう身体が…

…けどなんとか避けきってるし、攻撃も当たってる!)

 

 

それでもターレスにとってはラディッツの攻撃が速く重い。

じわじわと体力と気力を削られていく…

 

 

(ちっ…こいつは使いたく無かったがな…

大猿になるより、こっちをとるぜ。)

 

 

不意のサマーソルトキックに続けて連続エネルギー弾。

ギリギリのところで体を仰け反り、全てを避け切る。

次に見た光景はターレスの勝ち誇ったかのような顔だ。

 

 

「褒めてやるよ。

貴様ごときがここまで戦ったことをな!」

 

 

手には神精樹の実。

巾着とは別に緊急用として1つだけとっといてあったのだ。

とっておきとはよく言ったもんだ。

 

 

「そんなのどこに隠してやがった!?

卑怯だぞ!」

 

「勝負に卑怯も糞もあるかよ!

最後にとっておいて良かったぜ。」

 

「このクソドーピング野郎…!」

 

 

苦しまぎれに憎まれ口を叩くが、優勢のターレスには負け犬の遠吠えにしか聞こえない。

そんな最高なBGMを聞きながら最後の実を丸々頬張る。

 

 

ドウンと風が吹く…

体力、気力共に溢れかえる。

 

 

「くくく…いい気分だ!」

 

(…追い詰められた……)

 

 

詳しい戦闘力なんてこれっぽっちも覚えていない彼だが、間違いなく、今の自分を超えている。

迂闊に手を出せば…簡単に仕留められる。

 

 

「来ないのか?

なら…」

 

ターレスが動く

 

 

「こっちから行くぜ?」

 

「!?」

 

声は耳元から。

姿を確認する前に地面に叩きつけられていた。

起き上がり解けてしまっていた界王拳を再び限界五倍まで引き上げる。

 

 

「うおぉー!」

 

 

懸命に攻撃をするも涼しい顔で全て見切られている。

かすりもしない。

 

 

「形成逆転だな?」

 

「がはっ!」

 

 

腹を蹴たぐられ激しく尻餅をつく。

 

 

「く…そぉ」

 

 

さっきまでの優勢はどこへ行ったか…

いよいよ死が現実味を帯びてきた。

 

 

(実を食ってから体力は全快。

俺はもう相当なダメージを受けてる。

ぶんだくる実もおそらくあれで最後。

応援は…ってかピッコロまで死んでる始末。

…敗色濃厚だ…ターレスのせいで、ドラゴンボールが終わっちまう。)

 

「お前が大好きなこの地球に墓を立ててやる。

同じサイヤ人に生まれた俺からのせめてもの贈り物だ。」

 

 

目の前から見下す。

不意打ちも…

 

 

「は!」

 

「おっと、まだ元気があるのか?」

 

 

気弾は簡単に弾かれる。

 

 

(クソ…やるしかないのか…悟空のように、限界以上を引き出せるのか…?

このあとのベジータ戦は…?

ちょっと…無理かもしんないけど…やらなきゃ、殺られる!)

 

 

目の前まで迫るターレス。

咄嗟に地面に気弾を打ち、砂塵に紛れて消える。

 

 

「まだ抵抗するのか?」

 

「うるせぇ!

ドーピング野郎に負けてたまるか!」

 

 

最早ターレスは見えなくとも慌てない。

視野が回復すると意外にも目の前にいた。

息も上がり、身体もボロボロ…

事実、ダメージだけでなく界王拳の反動がラディッツを襲っていた。

身体が軋むように痛む。

 

 

「身体は持たないだろうけど…これが最後!

五倍界王拳!」

 

 

再び燃え上がる身体、いや、赤いオーラ。

限界以上と身体は訴えるが気力で抑え込む。

 

 

「まだそんなに動「オラぁぁぁ!」

 

 

時間が無い。

なりふり構わず殴りかかった。

五倍での界王拳継続時間は、もうとっくの昔に過ぎている。

まさに、限界以上の力を今引き出している。

 

 

「いい加減にくたばれ!」

 

 

エネルギー弾も交えて反撃する。

それに追従するよう、ラディッツも気弾を交える。

二人を中心に、火花が散るように気弾が弾ける。

 

 

「ふんぬ!」

 

(こいつ、攻撃を!?)

 

 

ラディッツは攻撃を避けていない。

文字通り全てを攻撃に割いている。

攻撃は最大の防御、手数でターレスを圧倒する。

徐々に後手にまわされる。

むしろ、押している!

 

 

「けっ!」

 

 

爆発波で間合いを強制的に取ろうとするも…

 

 

「うぼぉろぉお!」

 

「何!?」

 

 

全身で受けながら突進してくる。

なりふり構わずどころの騒ぎではない。

この光景には恐怖を感じる程だ…!

 

 

(グッ…ここまで手こずるとは…神精樹の実が、はずれだったのか!?)

 

 

神精樹の実を疑えど、あれはキチンと効果があった。

最後にとっておいて正解なほど効いている。

 

 

「ラディッツ!」

 

「あいつ…あんなにボロボロに…」

 

 

ナッパを倒し、応援に駆けつけてきた二人。

だが、応援といえども、ナッパの何倍にも強くなっているターレスにはあまり期待出来ない。

 

 

(まさかナッパ…クソ、なんてこった!

あんな雑魚共にやられるなんて!)

 

 

敵が増えたが、勝算は消えちゃいない。

スカウターの数値では、そこまでの驚異ではなかった。

その上こちらは、神精樹の実で大幅なパワーアップをしている。

目の前のラディッツさえ倒せば問題ない。

そのラディッツには力比べに持っていけば手数も関係ない上に、スタミナはターレスに軍配が上がっている。

そこに促すための秘策は考えついた。

 

 

「くたばれぇ!」

 

 

大きめのエネルギー弾を2つ放つ。

牽制か?

なんなくラディッツはかわすが背後で爆発音がする。

 

 

「「うわぁっ!!」」

 

「天津飯!

ヤムチャ!

止めろ!」

 

「丁重にお断りする。」

 

 

ヤムチャ達が狙われていたのだ。

そして更に、大きいエネルギー弾が2つ放たれてしまった。

 

 

「クソ!」

 

 

ヤムチャ達に迫る気弾を追尾して手刀で叩き落とす。

 

 

「大丈夫!?」

 

「大丈夫だ。」

 

「へへ、悪いな」

 

「良かった…てめえ汚ぇぞ!」

 

 

後ろを振り向けどターレスはいない。

気を感じた、上だ!

 

 

「な…」

 

「あんなところに…」

 

「もうおしまいだ。

そこのゴミ共と…地獄に落ちな!」

 

 

これはターレスにとって、ちょっとした賭けでもあった。

両手で輪を作る。

キルドライバー…元は競走馬の名前だったがそれは今は、巨大な赤いエネルギーリングとなっている。

 

 

「避けてもいいぜ?

地球はただじゃすまねぇと思うがな。」

 

「クソ野郎ぉ…」

 

 

ラディッツも対抗せざるを得ない。

もっと早い段階で気づけば阻止もできたが…もうフルパワー寸前なのがわかる。

 

 

「だったらやってやろうじゃん…

曲がりなりにも、界王様んとこで修行したんだ!」

 

 

右手をこめかみまで引き上げ、中腰になる。

すべての気を右手に集め、白く輝く。

 

 

「主砲斉射…オラぁぁぁ!」

 

「勝った…もらったぜ!」

 

 

放たれるのを待っていたと言わんばかりに、ターレスも放つ。

膨大なエネルギーが向かっていく…

それは二人の中心でぶつかり合い、互いのエネルギーを食らいつくさんとしている。

エネルギーの勢いはそれぞれの自力を表すように、ジリジリと…ラディッツが押し込まれていく。

 

 

(賭けに乗ってきたな…

まさか、本当にあのゴミ共をかばうとはな。)

 

「クソッタレエエエエ!」

 

 

どんどん間近に迫ってくるエネルギーの塊。

受ければ死、避ければ地球がただでは済まないだろう。

 

 

「ヤムチャ!」

 

「お おう!」

 

 

ヤムチャ達もエネルギー波で応戦するが、弾かれたり飲み込まれたりでまるで役に立てていない。

 

 

「やっと終わりか、てめぇがまぬけで良かったぜ!」

 

「ぐ…ぐ…」

 

 

残り5m…

 

 

(生きて帰るんじゃねぇのか!?

ポンコツッ!)

 

 

身体が一段と軋む…

思考回路とは裏腹に身体が…

 

 

(身体がどうしたぁ!?

ここでやらなきゃ!)

 

「六倍ガイオウゲン!」

 

 

エネルギー波が津波のようにおしよせる!

キルドライバーが…留まり…押される…!

 

 

「何!?」

 

 

これでターレスは何度驚いただろう?

これでおしまいと思えば、それをことごとく裏切られる。

ラディッツより…ターレスの方がパワーは上なのに…

殺して壊して食いたいものを食って…サイヤ人のお手本のような生き様は、ラディッツの生き残りたい気持ちでは圧倒的に負けていたのだ。

勝負は決まった。

 

 

「ぐだばりやがれぇぇえ!」

 

 

キルドライバーが耐えきれずに弾け消える。

それを突き抜け、ターレスは光に包まれる…

 

 

「そんな!…俺が…!…クズ共…に……ーー」

 

 

主砲斉射は大空の彼方へ飛んでいく。

何一つ残さず…

無論、ターレスの気も消える。

 

 

「終わった…」

 

 

ラディッツは倒れ込む。

背中と後頭部にゴツンと痛みが走るが、先程までの猛攻に比べればマシだった。

そして…

 

 

「痛ててててて!」

 

 

界王拳を限界以上に引き上げ、酷使し続けた身体に代償が襲いかかる。

骨まで軋むような痛み、何をしてもしなくても、とめどなく身体中に響く。

ラディッツが覚えていたのはそこまでだった。

意識が消えた…



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超弩級サイズの大乱闘! ---ベジータと地球の戦士達---

誤字脱字修正済み R2 1/8


「…ん?」

 

 

身体中の痛みが和らぐ。

…ラディッツは目を開けた。

目の前には、気を注いでいる天津飯とヤムチャがいた。

 

 

「やっと起きたな。」

 

「よし、ならもうこれくらいでいいだろう。」

 

 

手をかざすのをやめ、気を送るのを止めた。

気…すなわち生命エネルギー…ラディッツの身体は先程より幾分か回復した。

 

 

「すまなかったな…

俺達、何も出来なかったよ。」

 

「それどころか、助けてもらってしまったな。」

 

「勝ったから別にいいよ。

むしろ、ここまで来てくれて感謝してるよ。

本当に!」

 

 

本来なら…死んでいるはずの二人が、自分を助けるためにここまで来ているのだ。

嬉しくないわけがない。

奇跡…なのか?

 

 

「さてと、ヤムチャと天津飯がいるってことはナッパもターレスも倒したってことか。

それじゃぁ…ベジータを倒しに行きますかね!」

 

「「おう!」」

 

 

---

 

 

「四倍ぇだぁーーっ!」

 

「な!?

ク…クソッタレェーーっ!!」

 

 

ベジータが空の彼方へ飛んでいく。

悟空も界王拳の反動で倒れ込んだ。

 

 

「悟空!?」

 

「お父さん!?」

 

 

二人が駆け寄る。

悟空に触れると、痛みが走るようで顔を歪ませていた。

 

 

「クリリン、悟飯…サンキュー…

けど多分あいつまだ生きてるぞ。」

 

「えぇ!?」

 

「ば 化物かよ…」

 

「確かに、まだベジータは生きている。」

 

「ラディッツ、ヤムチャさん、天津飯さん!」

 

 

意外と早めにこちらに間に合った三人。

だが談笑する前に小さい点、ベジータが降りてきた。

ベジータは上空で留まる。

 

 

「数が増えている…まさかナッパとターレスがやられたのか!?

…使えん奴らめ!」

 

 

 

ナッパは何人かは倒したようだ。

…それでも数では圧倒的にベジータは劣勢。

だが今からなら問題ない。

 

 

「カカロット、月を消してしてやったりとでも思ったか?

残念だったな!」

 

 

(大猿か…

ここまで、なんとか原作通りに繋げたんだ。

なんとかしてやる!)

 

 

ベジータがほとんどの体力を使い、光の玉を作り上げる。

本人とラディッツ以外はこれがどうなるか知らない。

 

 

「弾けて混ざれ!」

 

 

パワーボール…その光の玉は上空に打ち上げられ、炸裂し照明弾のように蒼白く…眩い輝きを放つ。

その光に応えるかのようにベジータの体が豹変していく…

体毛が濃くなり、体の線が太くなり、鼻と口がせり出していき、巨大化していく…

 

 

「な…なんだ!?

なんだってんだ!?」

 

「ば 化け物だ!」

 

「おい、アイツは何したんだ!?」

 

「悟飯、あの光を見るなよ!

あの光は、満月と同じ光を出してるんだ。

尻尾の生えたサイヤ人は、満月を見ると大猿化するんだ!

戦闘力は元の10倍。

あの体から攻撃を受けたら、ひとたまりもないぞ!」

 

「グハハハハ!

説明ご苦労だなラディッツ!

だがこれで、貴様もカカロットもおしまいだ!」

 

 

変身を終えたベジータ。

戦闘力は10倍…存在感は100倍はある!

 

 

「大猿…悟空の時と同じだ…尻尾さえ切ってしまえば…」

 

「そうだ、尻尾さえ切れば大猿化は解除されるんだ!

みんな、倒す事より尻尾を狙え!」

 

「!?」

 

 

ヤムチャの大きな独り言は、悟空の長年の疑問を解決させてしまった。

満月を見てはいけないこと…育ての親 孫悟飯 の謎の死…満月を見たあとの記憶喪失と周りの目…地球の神が尻尾を取り除いた理由…

 

 

(そうか…オラも月を見た時は、あんなんになってたのか。

…ごめんよじいちゃん、もし死んじゃったら謝りに行くからな!)

 

 

悟空も構える。

異変は既に起こっていた。

 

 

「ぐぬぬ…ぬぅぅううう…!」

 

「ラディッツ…?」

 

 

唯一味方で尻尾のあるサイヤ人。

彼の様子がおかしい…

 

 

「ラディッツ…まさか「大丈ブ…ベジータみたイニ理…セイヲハアル…!」

 

「お、おい!」

 

 

説明する時に見た光。

クリリンの呼びかけも虚しく、ラディッツは大猿化していく…

理性は…すっ飛んでいた…

 

 

「ガアアアアアアアアア!」

 

「フフフ、何が理性だ!

エリートだから出来るものを、貴様のような下級戦士が出来るわけなかろう!」

 

 

地鳴りを響かせ大猿ラディッツを殴り飛ばす。

倍の大きさもある岩石が降り注ぎ、悟空達はその場を離れざるを得ない。

 

 

「逃がさんぞ!」

 

 

逃げる先にエネルギー弾を放たれ、全員風圧で吹っ飛ばされる。

戦闘力10倍と言うことは、パワーもスピードも威力も、全てが10倍なのだ。

悟空が界王拳でも使わない限り手におえる奴ではない。

 

 

「くたば「ガアア!」グハッ!」

 

 

ラディッツからひと山分の大きさの岩石が、ベジータに直撃する。

 

 

「ラディッツさん、理性があるんだ!」

 

「そうか、やっぱり大丈夫なんだな!

勝てるぞラディッツ!」

 

 

そんな声に応えるようにドラミングするラディッツ。

そして…

 

 

「に 逃げろ!」

 

 

またしても投石するラディッツ。

それは味方である悟空達に向けて…

 

 

「うわっ!?

やはりあいつは正気ではない!」

 

「クソ!

厄介なのが二人もいるのか!」

 

「とにかく、隙を突いて尻尾を切っぞ!」

 

「させるか!」

 

 

ベジータの巨大な拳。

食らったのは、ヤムチャ…

 

 

「ヤムチばふぉ!」

 

 

地面にめり込む一発。

二発目にはクリリンが餌食になった。

地面を跳ねるようにすっ飛んでいき、岩山をカチ割り止まる

 

 

 

「次は貴様だ!」

 

 

殴りかかるラディッツに対して、口からエネルギー弾を放つ。

それを両手ではじき飛ばし、ラディッツからも口からエネルギー弾が放たれた。

 

 

「ウオーー!」

 

 

ベジータも負けじと両手で受け、弾く。

流れ弾が戦士達に向かう。

 

 

「避けろ!」

 

「!?」

 

 

悟飯が逃げ遅れる。

天津飯がギリギリのところで間に割り込み、直撃する。

ダメージをおった彼は力なく墜落していった。

 

 

 

「こしゃくな!」

 

 

巨体とは思えない速さで飛び込む。

両手で殴りつけ、地面に叩きつける。

起き上がる前に顔面を踏みにじり、何度も潰す…

 

 

(今だ!)

 

 

がら空きの背中から接近し、ベジータの尻尾を切り落とす悟空!

 

 

 

「かかったなカカロット!」

 

「何!?」

 

接近していた悟空は、その尻尾で叩き落とされる。

地面にめり込む。

 

 

踏み潰し殺そうとするが、悟空は体を拗らせギリギリで回避する

だが…

 

 

「うわぁぁああーーっ!」

 

「おっとすまんな、うっかり踏んじまったぜ」

 

 

悟空の左足が使い物にならなくなった。

骨が砕けたのだ…

 

 

「今度は…うっかり心臓を潰してやる!」

 

「やめろー!」

 

 

悟飯がベジータの背後から蹴り飛ばす。

大猿でなければ充分な攻撃…

 

 

「残念だったな!」

 

 

頭突きを受け吹っ飛ばされる悟飯。

ガードが間に合った。

酷いダメージは受けていない。

 

 

「!?」

 

 

ふと悟飯の動きが止まる。

悟飯とベジータの間にはパワーボールが…だが悟飯には尻尾は無かったはず…!

 

 

「悟飯に…尻尾が…」

 

 

この戦闘中に再生する尻尾。

見事に最悪なタイミングだ。

 

 

「うぅ…ゥゥウウ…!」

 

「なんだと!?

これ以上。邪魔者を増やしてたまるか!」

 

「ウガアァア!」

 

 

またしてもラディッツの攻撃に倒されるベジータ。

マウントポジションから執拗に殴られる。

 

 

「クッソがあ!」

 

 

口からエネルギー波を放ち引き剥がす。

次の瞬間には顔面に拳を食らっていた。

 

 

「ガルルルルル!」

 

「チクショウめ!!」

 

 

悟飯の大猿化が終わり、ベジータとラディッツを殴り飛ばす。

ラディッツが反撃に入り、悟飯とラディッツがとっ組み合う。

 

 

………

 

 

「……最悪だ…」

 

「あぁ…」

 

遠くの岩山から呆然と眺めるクリリン、ヤムチャ、天津飯。

自分達より強くて大きな猿の怪物が、大地を割りながら暴れ回っているのだ

頼りの悟空は足を潰されてほぼ戦闘不能。

未だに荒野に倒れている。

ヤムチャも天津飯も辛うじて動けるくらい。

味方であったラディッツと悟飯は理性が吹っ飛んだ状態で戦っている為、味方としてカウント出来ない。

クリリン自身も満身創痍だ。

 

 

「…恨むぞ神様…って神様に稽古つけてもらったんだよな…ははは…」

 

「そうだな…

……やるしかないか…」

 

「一人尻尾一本だ…死ぬ覚悟で行くぞ!」

 

 

………

 

 

「「ガアアアァァォォオオオ!!」」

 

 

とっ組み合いながら口からエネルギー弾を撃ち合い、煙が発生している。

少し離れたところで気を溜めるベジータ。

自身最強の技…

 

 

「食らいやがれ!!

スーパーギャリック砲!」

 

 

戦闘力10倍 威力も10倍だ!

直撃を受ける二頭の大猿に大ダメージを与える。

 

 

「手応えあった…ぜ!」

 

 

不意に尻尾を動かす。

迫り来る地球人の1人が叩き落とされた。

クリリンが…

 

 

「死ねぇ!」

 

「気功砲!」

 

 

振り下ろされる足裏に気功砲が放たれる。

ベジータは数歩下がる。

隙ができた!

 

 

「今だ!!」

 

「終わりだ!」

 

 

口から放たれる特大エネルギー弾。

尻尾を切ろうとしていた天津飯がエネルギー弾に消える。

 

 

「今度は貴様か!」

 

 

再び尻尾に近づく影。

振り抜く拳がヤムチャに当たる。

 

 

「ふははは!

残りは2匹だ!」

 

「なんだと…天津飯!?」

 

 

エネルギー弾を避けたかに見えた天津飯は、地面に横たわっていた。

ベジータ戦まで死力を尽くした男は、二度と動く事は無かった。

 

 

「……天津飯…クソッ!」

 

「ハァーッハッハ!

いよいよ貴様らも……!?」

 

 

その時、ベジータは異変を感じた。

尻尾が…

 

 

「へへ…もう…鼻をほじる力もねぇや…」

 

 

グチャグチャになった左足を引きずってきた孫悟空が倒れ込んだ。

彼の放った最後の気弾は、ベジータの尻尾を撃ち落とす。

 

 

「馬鹿な!?

くそ…カカロッ…ト…め!」

 

 

ベジータの身体が縮んでいく…

元の大きさに…

 

 

「ハァ…ハァ…クソッタレ!」

 

「今だ!」

 

 

クリリンが仕掛ける。

大猿化で体力を失った為に、遥かにパワーダウンしている。

それでもまだ戦える!

 

 

「貴様達を殺す力は、まだ残っているぞ!」

 

 

パンチをかわし、首元を締めあげる。

 

 

「俺も忘れるなよ!」

 

 

背後からヤムチャも加わる。

クリリンをヤムチャに投げ、何とかやり過ごす。

…が、忘れていたのは彼等だけでなかった

 

 

ガラガラ…

 

 

先程まで静かだったところから砂塵が舞う。

倒した大猿が残っていた。

まっすぐこちらにエネルギー弾が飛んでくる!

 

 

 

「クッ!」

 

 

エネルギー弾をいくつか避ける。

だがその後に大猿が突っ込んできた。

だが悟飯の動きが突如止まる…

ラディッツが尻尾を引きちぎっていた。

 

 

「グ…ガ…」

 

 

大猿悟飯はみるみる小さくなり、元の大きさに戻った。

気を失っているようだ。

 

 

「助かったのか…」

 

 

大猿ラディッツは、右手をこめかみに持っていき中腰になる。

もしや…

 

 

 

「クリリン!」

 

 

ヤムチャが悟空と悟飯を背負って叫ぶ!

その場に放たれた、10倍での主砲斉射。

地面をえぐりとりながら迫る。

横から来た衝撃に地面を転がる。

 

 

「痛っ………」

 

 

エネルギー波が通った後は、大きな溝が出来ていた。

中心には、山吹色の布切れと骨が露になった二の腕から指に掛けての肉片が一つ…

 

 

「ヤムチャ…」

 

「そんな…ヤムチャさん…」

 

 

ヤムチャしやがって…などと散々な言われようの男は、旧友2人とその息子を守るために肉片と化した。

醜い死に様を残すことなく蒸発した…

 

 

「俺が一度死んでるからって…ヤムチャさん…チクショウ!」

 

「安心しろ、貴様らもすぐに送ってやる。」

 

 

悟空の顔面を踏みつけてベジータが立つ…



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ラストサムライ ---ベジータ対地球の戦士達---

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「お前…生きていたのか!」

 

「当然だ。

あんなものすら避けれない、『ヤムチャ』とか言う雑魚が悪い。」

 

 

すぐ隣に倒れている悟飯の首を掴み上げる。

気を失っている為、抵抗すら出来ずにだらりと体がぶら下がる。

だが脅威はベジータだけではない。

背後からラディッツが雄叫びを上げて迫り来る。

間違いなく…間違いなくクリリンやベジータ達を狙っている。

 

 

「こいつらをあいつの前に差し出さば…間違いなく殺されるだろうな。

俺に殺されるか、暴走した仲間に殺されるか。

自由な方を選ぶんだな。」

 

「そんなもん!」

 

 

単身でベジータにかかるも、ひと蹴りされ地面に返される。

 

 

「時間切れだ。」

 

 

無造作に悟飯は投げ捨てられ、ベジータが消える。

その背後からラディッツの巨大な腕が伸びてきた。

 

 

まだ意識のある、クリリンと悟空を掴み上げる。

何の抵抗もできない…そこまでの力も無い。

かつての仲間であった勇敢なサイヤ人は、再びクリリンと悟空に牙を向いていた。

凶悪な大猿は、握力の限り締め付ける。

特に悟空は、力をほぼ完全に使い果たし、全身に力は入らない。

抵抗ができない。

 

 

「うわぁぁああ!」

 

「やめろラディッツ!

やめてくれーっ!」

 

 

かつての仲間は叫ぶが、彼には届いていない。

一向に力は弱まらない。

それどころか、ますます締めあげられている。

ミシミシと…骨が、体が、限界を迎えている。

 

 

「「ぅあぁああーーっ!!」」

 

「ラディッツーっ!………」

 

 

願い届かず…クリリンと悟空の視界は暗くなっていく。

反応が無くなりつつあるも、全く力を弱めようとはしない。

クリリンと悟空に集中がいく中、それを待っていた者がいた。

 

 

「もらったぁ!」

 

 

ベジータ、渾身のエネルギー弾が尻尾に向かう!

大猿ラディッツの尻尾が!

 

 

パシン!

 

 

「なん…だと…!?」

 

 

不発。

こんなにも呆気なくエネルギー弾が弾かれたことがあっただろうか?

反応が無くなった2人を地面へ投げつけ、矛先はベジータに向けられる。

まるで遊んでいたおもちゃが壊れたから、次のおもちゃに飛びつく子供のようだ。

もっとも、無邪気な子供と言うには無理があり過ぎるが。

 

 

(カカロット達はとどめを刺すだけだ!

なのに…なのにあいつの尻)「ごはぁ!」

 

 

もうラディッツの暴走が止まらない!

自らの体力もあまり残っていないベジータにとって、今の大猿ラディッツは荷が重い。

これでは…

 

 

「クソッタレ…この糞猿が!」

 

 

彼にとっても想定外である。

ベジータ自身が再び大猿になれば簡単に倒せるが、パワーボールを作る体力も無く、尻尾もない今再び拳を食らってしまう。

 

 

「でやぁぁ!」

 

 

顔面にエネルギー弾を飛ばして、素手で尻尾を切断しにかかるが尻尾に弾かれる。

ベジータも、簡単に沈むほどスタミナがない訳では無い。

だが…抗い勝つほどの力も残されていない。

いよいよ、ベジータも追い込まれつつあった。

 

 

「!?」

 

 

ボトッ

 

 

不意にラディッツの尻尾が落ちる。

巨大な体が…散々自分を苦しめていた憎たらしい大猿が、縮んでいく!

 

 

「…はっ!?

な…なん…うぅ…!?」

 

 

ラディッツが元に戻った。

理性が戻り、自らの感覚が戻っていく。

…と体の痛みに襲われた。

大猿悟飯と大猿ベジータとの乱戦…

更には、ベジータ渾身のスーパーギャリック砲を受けた体…無事で済むわけが無い。

 

 

「ククク…どうやら、そこのデブに感謝しねぇとな。」

 

「…うぅぅ…デブに感謝…?」

 

 

気を探ると、ヤジロベーが岩の影に隠れている。

…と言うか、刀の先がちょっと出てプルプル震えてる。

気づかれてしまった事に動揺したのか、小刻みに震えていた剣先がビクッっと動く。

その近くには、クリリンと悟空が倒れている。

 

 

「悟空、クリリン!?

どうした!?」

 

「クハハハハ!

皮肉な話だな!

味方になったサイヤ人に、全員がやられるとはな!」

 

(味方になったサイヤ人に?

…まさか!?

 

 

なんとなく察してしまった。

足元に倒れる悟空とクリリン。

そして、遠くで全裸になって倒れる悟飯。

気が消えて、遠くで倒れている天津飯と、姿すら見えないヤムチャ。

 

 

「教えてくれ、ベジータ。

俺が…俺がみんなやったのか?」

 

「そうだな…冥土の土産に教えてやるか。

パワーボールを見た、そのガキとお前が暴れ回ってな。

ちなみに、トドメを指したのは貴様だ。」

 

「……。」

 

 

眩暈。

頭を抑える。

 

 

(…みんなを助けるつもりで、パワーボールを見たのは間違いだった。

理性を制御出来ると思っていた自分が甘かった!

俺が、天津飯とヤムチャを殺したんだ。)

 

 

「さてと、残るは貴様だけだ。

その後で、じっくりと仲間を同じところへ送ってやる。」

 

 

一歩、ベジータが迫る。

大猿では無いとはいえ、充分な脅威だ。

一歩が…とても大きく迫るような気に駆られる。

思わず一歩、後ずさりするラディッツ。

 

 

(悟空が元気玉を作れるまで、時間を稼ぐのか?

いや、悟空もクリリンもダメだ!

また体を振り絞って俺が追い返すしか「ラディ…ツ…」

 

「ぉ…元に…戻っ…たんだな…」

 

「悟空、クリリン!

動けるのか!?」

 

 

この2人は意識を取り戻している!

充分に戦えないとはいえ、ラディッツにとっては大きな支えとなった。

何も特別な言葉は発してはいない。

動いてもいない。

だが歴戦の戦士がいるという事が、どれだけ心強いのかを改めて感じたラディッツ。

 

 

「悟空、元気玉は作れるか?」

 

「作れる…けど、脚が…」

 

「作れるなら作れ!

クリリンが撃てる」

 

「元気玉?

おい、なんだそ「説明は後だ!

時間稼ぐからやってくれ!」

 

「そうか!

わかった…頼むぞ。」

 

 

方針も腹も決まった。

ラディッツは再びベジータに意識を向ける。

逃げの戦い、防戦だ。

だが確実な目的がある事で、活力が産まれる。

ラディッツの瞳に…心に再び闘気が燃える。

 

 

「?

まだ生きていたようだな。

だが、もう戦えないようだな。」

 

「そうだ、俺が戦うしかないみたいだ。

クリリンは戦えるほどの気力も無いし、悟空に至っては脚がグチャグチャだからな。」

 

 

………

 

 

「冗談じゃねぇ!

俺はさっさと逃げるぜ!」

 

 

ベジータにバレていた。

自らの唯一の武器が、自己主張し過ぎていたのに気が付かなかった。

頭のてっぺんから血の気が引く感覚。

ラディッツが殺られたら…次は…。

 

 

「やべぇ…クソ…死ぬ前に美味ぇもん食っとくんだった!」

 

 

………

 

 

界王拳を2倍に引き上げる。

限界の4倍には引き上げられないが、持久力も考えると半分程が妥当か。

 

 

「ふん!」

 

「甘いぜ!」

 

真横に回り込み、ボディーを狙った右フック。

簡単にガードされる。

だが…ダメージ目的ではない。

 

 

「ふははは!

だいぶつかれているようだな!

それとも、まだ何か無駄な事でも考えているのか!?」

 

「うるせぇ!」

 

 

ベジータの右手のパンチを受け止める。

ほぼ同時に出したラディッツの右カウンターが、腕を掴まれて受け止められる。

そのまま力比べとなる。

 

 

「でやぁぁああーっ!」

 

「ぬぉおおお!」

「ヤジロベー!

腹決めて来いやぁ!」

 

「う!?

うわぁぁああ!」

 

「何!?」

 

 

岩影からワンテンポ遅れて飛び出す大きな影。

その出っ張った腹からは想像出来ないほどの身軽さでベジータに接近する。

 

 

「どうにでもなれぇーーっ!!」

 

 

ヤジロベー自慢の愛刀は、ベジータの戦闘ジャケットを諸共せずに背中に一太刀浴びせる。

 

 

「うぅ!」

 

「どりゃぁ!」

 

 

うずくまるところを蹴り飛ばす。

これまで、修行という修行をしてこなかった侍。

神様の超超高地トレーニングと、ベジータの弱体化により目の前の戦果となった。

まるで大将でも討ち取ったかのように、顔が晴れている。

 

 

「見てちょうよ!

これならあいつもおしまいやらぁ!?」

 

「ふぅ…ありがとうヤジロベー。

助かるよ。」

 

 

ヤジロベーのでかい胸が更に張っている。

ラディッツのこの一言までは。

 

 

「…だけど、まだ生きてるぞ?」

 

「え!?

ち ちょっとお腹痛くなってきたから後はよろしくね!」

 

「待て!」

 

 

ヤジロベーは愛刀を放り出して逃げ帰って行く。

下手したら、開き直りの攻撃よりも速いのではないかと思ってしまうほどだ。

それと同時に、ベジータが起き上がる。

 

 

「や 野郎ぉ~!

こいつらを片付けたら始末してやる…!」

 

 

………

 

 

「大地よ 海よ そして生きているすべてのみんな…

このオラに…ほんのちょっとずつだけ元気をわけてくれ…」

 

 

仰向けのまま、右手を天に掲げる悟空。

その右手には、徐々に光の粒が集まる。

徐々に一つの塊へ…バレーボール程の大きさに集まる。

 

 

「クリリン…こいつを受け取ってくれ。

お前ぇくらい気をうまく制御出来る奴なら、元気玉は撃てるはずだ!」

 

「それが元気…ってお 俺か!?

…よ よし。

や やってやる!」

 

「はぁ、はぁ!

悟空!?」

 

 

ヤジロベーが悟空とクリリンの元へ来た。

逃げ足だけなら誰よりも速いようで、あっという間にここまで来てしまった。

 

 

「あれ、刀がねぇ!?

…あそこか!」

 

「クソ…気が散るなぁ…」

 

「頼むぞ、クリリン。

外したら…もう二度と元気玉は作れねぇ!」

 

 

………

 

 

(元気玉が完成したか!?

クリリンが持ってるな?

よーし…)

 

「どうしたベジータ?

ご自慢の体がまさか太った侍に傷つけられるなんてねぇ?

それでも王子様かい?」

 

「なんだとぉ!?」

 

 

ラディッツの挑発。

襲来当時の精神状態なら掛かるはずもない。

だが幾度となく癪に障る攻撃が募り、今は簡単に乗ってしまう。

 

 

「撃ってみろよ、ギャリック砲。

今のお前なら、簡単に弾き返してやれるぜ?」

 

「面白い…そのまま肉片残らず消し飛ばしてやる!」

 

 

「「はああぁあああ!!」」

 

 

両者、最大パワーで撃つために気を溜める。

地面の塵から岩まで、2人を中心に全て吹き飛んでいく。

このエネルギー同士がぶつかり合えば、確実に地球にクレーターが出来るだろう。

そんなベジータは、戦闘力を集中させる為に動きがとまる。

今がチャンスだ!

 

 

(当てなきゃ…!

クソ…元気玉の制御がやたらに難しい!)

 

 

クリリンはとても集中していた。

だがどうしても、制御していると言えるギリギリのところが限界だった。

悟空が半年も掛けて界王星で会得した必殺技だ。

気の取り扱いに長けているクリリンですら、手間取るのは仕方のない事だろう。

外的要因として、絶対に外せないプレッシャーがある。

少しでも手元が狂えばベジータに避けられるだろう。

もしくは、ラディッツに当たるか。

だが早く撃たねば…ここはギリギリベジータの視界の外。

 

 

「何やってんだ!

早く撃っちまえよ!」

 

「!?」

 

 

そんな事は何も知らず。

耐えきれずにヤジロベーが叫ぶ。

ベジータが気づき、こちらに顔を向ける。

 

 

「クソ!

やぶれかぶれだぁ!!」

 

「あの馬鹿野郎!!」

 

 

放たれる元気玉。

威力は申し分ないし速さも充分ある。

だがベジータに気づかれてしまった!

 

 

(クソっ!)

 

 

ここまでは原作でも出ていた。

ヤジロベーが叫んで、ベジータが気づき、クリリンが元気玉を放つ。

原作通りだったのだ。

なのに…なのに悟飯がいない。

悟飯は未だ気絶して横たわっている。

今気がついたところで絶対間に合わない。

これでは…

 

 

「な なんだ!?

グッ!」

 

 

ベジータの不意を突けば確実に当たった元気玉。

気づかれてしまった今、ギリギリの所で回避する!

 

 

(((外れた!)))

 

 

やってしまった。

必殺技も当たらなければ、ただのエネルギーの塊。

地球の戦士達の運命が掛かった技は、呆気なく終わった。

 

 

「うおぉぉぉお!!」

 

 

即座に駆けるラディッツ。

界王拳も再び5倍に引き上げられ、力の限り脚を動かす。

 

 

『元気玉は悪の気を持たぬものなら跳ね返せる!

じゃがお主の体は悪人じゃったから無理じゃ!

ラディッツ!

お主が死んでしまうぞ!!』

 

 

界王より心に話しかけられる。

だが全てを聞き取る前には元気玉を両手に受けていた。

 

 

「うわぁぁああ!」

 

 

これまでとは比にならない程の激痛。

手が…手が焼けていく。

バチバチと、音を立てて指が焼けていく。

指…掌…腕もが部分的に焼け消えて行く…。

 

 

「ぁぁあああああ!!」

 

 

それでも元気玉が跳ね返された!

それは上空に避難したベジータに向けて。

 

 

「う…何!?!

ぐわあああああっっ!!」

 

 

ベジータに直撃!

ラディッツの時とは比にならないが、バチバチと音を立てて上空へと消えていく。

 

 

「……グッ……うぅ…」

 

 

両腕に走る激痛。

肘より先は存在はしているものの、痛覚のみが残るだけで機能は無くなっていた。

完全な正義の心があれば、元気玉の威力を削ること無く、ダメージも受けること無く弾くことが出来た。

そのせいなのか、そのおかげか。

落下してきたベジータには息がある。

血反吐をぶちまけ、痙攣する体。

 

 

 

「あいつ…まだ生きてるぞ…」

 

「な なんて恐ろしい生命力だ…」

 

 

震える体を押さえつけ、ベジータが無理矢理体を動かす。

戦闘ジャケットの内ポケットから、リモコンを取り出す。

数あるボタンの中から一つのボタンを押す。

そして、リモコンを投げ捨て倒れ込んだ。

 

 

「…終わった…やっと…

クリリーン!」

 

 

腕が動かせないのでクリリンを呼ぶ。

それに気づいたクリリンは、よろよろとラディッツの元へ。

 

 

「大丈夫か…?

立てるか?」

 

「歩けるよ…だけど手伝ってくれ

腕持つな…動かないし痛いから…」

 

 

フラフラと、ラディッツも介助してもらいながら立ち上がる。

2人はもう、一歩一歩なんとか歩いてる状態だ。

 

 

「な なぁ…勝ったのか?」

 

「勝負においてなら負けだよ。

だけど、防衛戦なら俺達の勝ちさ。

あいつは今、リモコンで宇宙ポッドを呼んだよ。、」

 

 

悟空の近くに丸い宇宙ポッドが着陸する。

ベジータが立ち上がり、よろよろとポッドへ向かう。

 

 

「あの野郎…逃がすか…!」

 

 

気弾はもう撃てない。

だが幸いな事に、何故か刀が落ちている。

ヤジロベーが必死に逃げた最中に落とした刀だ。

這いながら宇宙ポッドに向かうベジータを、刀を杖にしてよろよろと追うクリリン。

 

 

(あと少し…クソ…タレ…!)

 

 

やっとの事で、ベジータが宇宙ポッドの一歩手前までたどり着いた。

だが、ふと右足を掴まれる感覚。

クリリンがベジータに追いついたのだ!

 

 

「クソォ!」

 

「くたばれ!」

 

 

刀が光り、ベジータにつけて大きく振りかぶられる。

いよいよベジータの喉元に、死神の鎌が掛かる。

 

 

「やめてくれクリリン!」

 

 

今突き刺そうとした両手が、引っかかる様に止まる。

声が、ラディッツの声が両手を止めるのだ。

 

 

「止めるな!

コイツはここで殺さなきゃ「オラからも…頼むよクリリン」悟空、お前まで!!」

 

 

死闘を繰り広げた2人が殺すなと言う。

無視しろと言い聞かせるが、どうしても腕が動かない!

今殺さなければ、奴は必ず再び来襲するだろう。

 

 

「クリリン、悟空はこの戦いの一番の功労者だ。

言う事を聞いてやってくれ。」

 

 

「いくら悟空やラディッツが止めたってダメだ!

コイツは殺さなきゃ!

わかるだろ!?

あんなに修行したのに勝てなかったんだ!

今度来たら…本当に俺達、皆殺しにされるぞ!?」

 

 

 

「すまねぇ、クリリン…もったいねぇんだよ。

オラ、修行して一番になったかと思ったのに…あいつは更に強ぇ。」

 

 

ベジータが最後の気力を振り絞り、座席へ腰掛ける。

装置を弄り電源を入れる。

 

 

「また来ても、オラうんと強くなってやる。

だから頼む!」

 

「悟空!

……クッ…わかったよ

言う通りに…する。」

 

 

クリリンは刀を捨てた。

ベジータは生かされた。

刀を捨てた以上、ベジータは焦る必要は無かった。

 

 

「つくづく…甘い奴らだぜ。

その甘さを嘆く事だな。、」

 

「おいベジータ、最後に言っとくぞ?」

 

 

ラディッツが、クリリンの裏から顔をのぞかせる。

このタイミングで、ベジータに話す事とは何であろう?

 

 

「俺達の"上司"は、お前が思ってるよりも遥かに強いぞ?

次は一緒に頑張ろう。」

 

「…何のことだ?

次に会うときは貴様らの最期だ!

せいぜい…余生を満喫しとくんだな。」

 

 

ハッチが閉まり、ベジータを乗せた宇宙ポッドはあっという間に空へと消えていった。

 

 

 



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-宇宙の帝王・覇王編!-
宇宙の果ての小さな希望


誤字脱字修正済み R2 1/8


「やっと終わったー!」

 

 

ラディッツが、上がらない腕の代わりに思いきり叫ぶ。

ベジータ戦がこれで終わった。

原作通りかに見えたが、ターレスの参戦が1番のズレ(・・)だろう。

ターレスの存在はまずは有り得ない。

彼の存在は数ある中のパラレルワールドの一つなのだから。

 

 

(ベジータ戦でこんなんじゃフリーザなんて…

しかも最後は魔人ブウ戦…

先が思いやられるな。

でもこれで腹は決まったぞ。

もうこの先手を抜くもんか。)

 

 

夕焼けに染まる空を見て決意を固める。

だが、急に視界が真っ暗になったわ。

 

 

「ぬわ!?」

 

 

腕が動かないから視界を防ぐ物も取り除けない。

よくよく見ると、山吹色の道着のようだ。

 

 

「とりあえず…それ履けよ。」

 

「は?

こんなサイズ履けるか。

ってか要ら…ありがとう…。」

 

 

察した。

気づいてないわけではなかったが、大猿化の時に道着は粉々になり衣服が…

 

 

 

「とりあえず…」

 

 

脚を使ってなんとか履こうと試みる。

うまくいかない。

そうこうしているうちに、上空に飛行機らしきものが見えてきた。

亀仙人や、ブルマ達だろう。

 

 

「ヤバヤバヤバッ!?」

 

 

こんなシーン、想定外。

ブルマやチチに見られたら…

 

 

---

 

『気をつけてください、履いてませんよ!』

 

『なんてもん見せるだッ!』

 

『このド変態!』

 

「ままま待っ」

 

ドゴォッ バキィッ グシャッ メキィッ ブチッ

 

---

 

 

(マズイ…マズ過ぎる!)

 

 

人間、非常事態になると案外体が動くものらしい。

限界で動かない体が、あっさりとキビキビと動き、あっという間に脚だけで道着の下を履いてしまう。

 

 

「悟飯ちゃ〜〜〜〜ん!!」

 

いの一番に飛び出して来たのはチチだ。

なんと、飛行機が着陸する前に飛び降りてしまう。

子を思う母の強さはどの世界でも変わらない。

重症の悟空をあっさりと飛び越えて、悟飯の元へ向かう。

 

 

「大丈夫だか!?

怪我してねえか!?

怖かったろ〜?」

 

 

クリリンの上の道着を羽織る悟飯を抱き抱える。

親ならわが子の事を1番に考えるのはわかるが、夫の悟空を素通りどころか、完全無視なのはいかがだろうか?

 

 

「なんとか倒したみたいね

…あれ、ヤムチャは?」

 

「「「……」」」

 

 

悟空も、クリリンも、ラディッツも黙り込む。

ラディッツに至っては、下を向いたまま顔すら上がらない。

 

「…申しわけない…ブルマさん…ヤムチャは…」

 

「何よ、死んじゃったの?

けど、ドラゴンボールがあるからいいじゃない!」

 

 

その一言に皆俯く。

ただ、ブルマだけは明るかった。

 

 

「何よみんな、ドラゴンボールの事忘れちゃったの!?

確かに死んじゃったのは悲しいけど、みんな生き返るのよ!?」

 

 

そう、ドラゴンボールの存在があるからだ。

これまで数多くの人物が、この不思議な球で生命を取り戻している。

そして今度も、この球で蘇らせてもらうつもりだ。

 

 

「ブルマさん…ドラゴンボールは1度生き返った者は生き返らせれないんだ。

だから餃子は生き返らない。

 

だけど…ピッコロが死んじまった。

ピッコロはドラゴンボールを作った神様と同じ体なんだ。

 

ピッコロは死ねば、神様も死ぬ。

ドラゴンボールも、消えてなくなるんだ。」

 

「ヤムチャはベジータに殺された訳じゃない。

殺したのは…俺だ。

…俺が殺しちまったんだ。」

 

 

ブルマの顔から笑顔が消える。

また会えると思っていた彼が…

喧嘩ばかりだったけど、何だかんだで辛い時にいてくれたヤムチャが…

いい思い出も、辛い思い出も頭を駆け巡る。

 

 

「嫌だ…嫌よそんなの!

なんとかして生き返らせられないの!?

ってか、なんであんたが殺してんのよ!!

あんたが…あんたが殺したってどうゆうことよ!!」

 

 

ブルマは泣きながらラディッツの顔面を殴る。

ラディッツにとってその1発は痛くは無いが、心に重く響く。

仲間から受ける強烈な敵意。

そして滞りなく産まれる罪悪感。

すべてに耐えきれずに、膝から崩れ落ちる。

 

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…。」

 

「ブルマさん、ラディッツはベジータを倒そうとしてたんだ!

落ち着いて下さいよ!」

 

「ふざけんじゃないわよ!

離してよクリリン、コイツは許さないわよ!!」

 

 

その時、ずっと意識が無かった悟飯がやっと目を覚ます。

 

 

「…お母…さん?」

 

「悟飯ちゃ…悟飯ちゃん!」

 

 

わが子を更に強く抱きしめる母。

タイミングを見計らい、重くなっていた空気を一変させようと亀仙人が話題を切り出す。

 

 

 

「とりあえず、詳しい話は中で聞こう。

残っている体も回収はせねば。

皆、悟空を運ぶのを手伝ってくれんかの?」

 

 

………

 

 

「…そんな事があったのか。

…にしても、皆よく無事で戻ってきた。」

 

「そうですな。

天津飯、餃子(チャオズ)、ヤムチャ、ピッコロは残念であったが…」

 

 

一行はカメハウスへと向かう。

爆散してしまった餃子と、消し飛ばされたヤムチャは回収困難の為、天津飯のみボディバックに入れられ回収となった。

そして病院への移動の最中、戦いの全容を事細かくクリリンとラディッツは説明した。

 

3人のサイヤ人…ターレス、ナッパの撃破…悟飯、ラディッツ、ベジータの大猿化…地球の戦士達の最期…元気玉とベジータの敗走

 

最後まで話し終えた時には、日はすっかり落ちていた。

 

 

「…操縦変わるわ。

大丈夫、話を聞いてたら落ち着いたわよ。」

 

 

操縦を亀仙人からブルマに引き継ぐ。

最初こそ泣きじゃくり、ヤムチャを殺され憎く思っていた。

だがクリリンと悟空の説得や、これまでの話を聞いて落ち着きを取り戻した。

今となってこれが最善の手段とは言い切れないが、こうなってしまったからにはどうすることも出来ないのもまた事実…。

 

 

「えぇ!?

悟空さの兄さ!?」

 

「あぁ、最初は仲悪かったけど…自慢の兄ちゃんさ。」

 

「えぇ…ラディッツと申します。

腕が動かなくて失礼ですが…よろしくお願いします。」

 

「妻のチチです。

挨拶が遅れて申しないだ。

それと…このような場所での挨拶で重ね重ね申しわけないべ。」

 

 

いつの間にやら話が変わっていた。

流石、熱血教育ママと言わんばかりに丁寧にお辞儀をするチチ。

対するラディッツも腕が動かないが礼をする。

 

 

「あの…これから話す事を信じてください。

ドラゴンボールは、地球以外にもあります。」

 

「え?

どういう事じゃ?」

 

 

皆の意識がラディッツへと集まる。

彼自身も、この話は界王様にまかせようとしていたが…罪悪感から自分から話を切り出す。

 

 

「地球にいた神様は、ナメック星と言う星の人だったんです。

神様はナメック星にあったドラゴンボールを地球で創り出しました。

なので、地球と同じドラゴンボールがナメック星にもあるんです。」

 

「それは本当!?」

 

「…嘘じゃないと思いますよ?

ナッパって奴と戦ってた時に言ってました。

『…ふっ…ベジータが言っていたがな、ナメック星にも似たような願い球があるからな。

殺したところでどうってこともねぇよ!』と。

ラディッツの言う通りなら、ナメック星って星に行けばドラゴンボールがあるかもしれない。」

 

 

だが障害はまだ残っている。

・ナメック星まで行く乗り物の確保

・現地での生命の確保

・人員の選抜ともしもの時の自衛処置…

 

切り上げたらキリがない。

そもそもナメック星はどこにあるのかと言う話だ。

 

 

「それなら…あてがあるぞ。

界王様、聞いてんだろ?」

 

 

悟空が界王様を呼ぶ。

わからない人の頭上には?マークが浮かび上がるが、すぐに反応があった。

 

 

『うむ、全て聞いておったぞ?

まず言わせてくれ、皆よく頑張った!

無理かと思われたが…素晴らしかったぞ?』

 

 

みんなの心に直接語りかける界王様。

ここからは原作通り。

ナメック星の位置を聞いて、サイヤ人の乗ってきた宇宙ポッドの改造化と言う方針に決まる。

そして一同はカメハウスで天津飯を下ろした後、都の病院へと向かった……

 

 

---数日後---

 

 

とある病室…一つのベッドがギシギシとリズミカルに音を漏らしていた。

ベッドの周りはカーテンで隠されている…

滴り落ちる汗…漏れる吐息…熱くなり揺れ動くカラダ…

中で…何かが行われている…!

 

 

 

「3258 3259 3260 3261 3262…ハァ…」

 

 

世の中の期待したいた諸君。

残念ながら、ラディッツが腹筋をしていただけである。

 

彼がここに運ばれてから数日が経とうとしていた。

入院生活ではテレビはお金を消費するだけ…。

財布どころか、根本的にこの世界の通貨[ゼニー]を持っていないため、テレビなんて贅沢品だった。

病室は1人きり、飯は少ない、動かせてくれない、本を読み更ける性格でも無い。

そうなると、自ずとやれることは絞られてくる。

体がなまらないように、適度に動かす。

 

 

(クッソ~…なんで仙豆終わってんだよ。)

 

 

続きのお話の前に、またしても簡単に説明しよう-

 

 

現在ブルマを始め、多くの科学者・技術者がサイヤ人の宇宙ポッドを解析している。

それがわかるまで待機。

仙豆も生産まで少し時間がかかるようである。

 

-以上、作者による簡単な説明でした-

 

 

「3312…あっ。

これで、神様の宇宙船を改造するんだったっけ?

忘れてた忘れてた。」

 

 

ラディッツは、机に置いてあるパソコンに口先で入力してメモをする

フォルダの中にはたっぷりメモが残されていた。

1つ1つに各キャラクター達の性格や生い立ち…どのくらいの強さだったのか、台詞など…

とにかく、忘れているドラゴンボールの知識を残していた。

力がこの世界の生命線であれば、知識は未来の道標となる。

未来なんて一寸先は闇。

だがこのメモが…自分が持つ知識こそが、先を照らしてくれる希望の光である。

 

 

「ほぅ、今日は(・・・)大人しくしているようだね?」

 

「あ、先生。

もももちろん安静にしてますよ?」

 

 

口ひげとメガネがトレードマークの担当の医師。

最初こそは筋トレが見つかって怒られたが、そこから少し仲良くなり、身体のことや健康の面について色々と教えてくれている模範的な医師であった。

 

 

「無茶をしちゃあいけないよ?

今は、しっかりと体を治すことが先だからね?」

 

「はい、頼りにしてますよ先生?」

 

「君からも、B棟の悟空さんに言っておいてくれないか?

注射をいい加減に克服してくれないかって。」

 

 

これには思わず苦笑する。

おそらく、ラディッツから言ったとしても無駄かもしれない。

それほど、悟空の注射嫌いは筋金入りなのだ。

 

 

「はは、僕の絶対安静が解けたら釘をさしときますよ。

それより、飯を増やしてくれると嬉しいです。」

 

「私にはそこまでの権限はないけど、お願いしとくよ。

それじゃ、また回診に来るからね。」

 

 

先生が退室したと同時に、別の男が入ってくる。

3日だけ入院し、今ではだいぶ動けるようになったクリリンだ。

 

 

「よう!

元気か?」

 

 

病状はある程度知っている為、やや皮肉った感じだ。

その証拠に、口元が嫌でもわかるようにニヤけている。

 

 

「あぁ、今すぐ逆立ちして歩けるぞ!?

…嘘。

本当に退屈だよー、変わってくれよー!」

 

 

ラディッツは愚痴りながらベッドから飛び降りる。

回診の時間は決まっている為、抜け出すのは容易い。

未だに痛む両腕を庇いながら、病室を後にする。

 

 

「悟空の部屋に行こうぜ。

今日は、武天老師様やチチさんも来るらしいぞ?」

 

「嬉しいねぇ、どーせあいつも筋トレしてるんだろうな。」

 

「まぁ、動くなって言っても無駄だろうな。」

 

 

孫悟空と書いてある個室に辿り着く。

病棟が違うにも訳がある。

ラディッツもそこそこ重症だったが、脚がぐちゃぐちゃになった悟空の方が酷かった為だ。

 

 

「2632 2633 2634…クリリンにラディッツじゃねぇか!」

 

「「やっぱりな。」」

 

 

脚を使わずに逆立ち腕立て伏せをしていた重症患者。

予想通り過ぎて2人は笑う。

 

 

「悟空さ!

治りが遅くなるでねぇか!」

 

「ラディッツよ、もう体はいいのか?」

 

 

面会を許された数々の仲間達が、すぐ後から入ってきた。

その中には、先日退院した悟飯もいた。

 

 

「だってよ、体がなまっちまうよ!」

 

「修行なら体が治ってでも出来るでねぇか!

義兄さを見習うだ!」

 

「チチさん、俺も体動かしてるから少しくらい良いんじゃないの?」

 

「義兄さまで!?

二人共安静にしなきゃダメだ!」

 

「みんな、サイヤ人の宇宙船のリモコンが解析終わったわよ!」

 

 

ブルマもやって来た。

ナメック星へ行く、唯一の船の解析が終わり意気揚々としていた。

この病室が、あっという間に人で埋まる。

テレビカードを差し込むと、ニュースでは墜落してきたサイヤ人の宇宙ポッドの特集を、丁度やっていたところであった。

 

 

(確か…ここで宇宙ポッド爆発するんだよな?)

 

「それじゃぁ、動かすわよ!?」

 

 

ブルマがリモコンのボタンを押す瞬間…。

 

 

「…ぶえっくしょい!」

 

 

バキィ!

 

 

「…あ。」

 

「あんたは何してんのよぉ!?」

 

「アッー!」

 

 

傷口に鋭い一撃が入り、病棟中に悲鳴が響いたのは言うまでもない。

 

 

………

 

 

「おい 誰かついてこい。

宇宙船 ある。」

 

「うわっ!?」

 

「あっ、ミスター・ポポ!」

 

 

窓枠の外に現れたのはミスター・ポポだ。

彼の仕事は、主に神様の付き人。

2つ先代の地球の神様に代わり、神殿の管理や地球全体に関する全てに関わる。

…言わば、実質的な神殿の管理者である。

その者が一体下界に何の用があって降りてきたのであろうか?

それは非常に簡単なこと。

ピッコロが死んだことにより、神様もこの世から姿を消してしまった。

ナメック星のドラゴンボールで、蘇らそうと計画している地球の戦士達に協力しようとしているのだ。

 

 

「あ、あのさぁ…その宇宙船ってどんなの?」

 

「それを見てほしい。

神様が 乗ってきた宇宙船。

だけどミスター・ポポ 機械 よくわからない。

だから分かる人 来てほしい。

ミスター・ポポ 案内する。」

 

「宇宙船って言ったら…ブルマさんしか…」

 

「えぇ!?

わたし!?」

 

 

だがよくまわりを見てほしい。

脳まで筋肉で出来てそうなサイヤ人2人。

頭はいいが子供。

割とまともだが平凡なハゲ。

エロ仙人。

熱血教育ママ。

元フライパン山魔王。

猫みたいな仙人。

デブ侍。

…誰一人として機械に詳しそうな者がいないのだ。

必然的に、ブルマが行くしかない。

 

 

「し しょうがないわね…行くわよ!

もうちょっと絨毯こっちに寄せなさいよ。

この高さからレディが落ちたらどうす」

 

 

ブルマが絨毯に乗ったと同時に、ミスター・ポポ達は消えた。

ミスター・ポポの絨毯には、瞬間移動機能が付いてることはおわかりだろう。

 

 

「宇宙船ね…そんなもん本当にあるのかよ?」

 

 

ヤジロベーが口をとがらせる。

そう、普通ならそんな都合よく宇宙船が落ちているわけがない。

しかも今回は、ブルマの父であり地球上でもっとも偉大な発明家のブリーフ博士の発明した宇宙船を凌駕するほどのスペックが必要だ。

 

 

「オンザヘッド高地…だったかな?

そこにあるらしいぞ?」

 

「オンザヘッド高地?

…もしかしてユンザビット高地の事かの?

もしそうなら、地球の果てにある辺境の地じゃが…まさかそんなところにあるのか!?」

 

 

カリン様の細い眼が、さらに細くなる。

猫仙であるカリン様でさえ詳しく知らない未開の地。

そこに宇宙船があるというのか?

 

 

………

 

 

「あったわよ宇宙船!

これなら少し手を加えるだけで、ナメック星までひとっ飛びだわ!!」

 

 

数分後には、目を輝かせながら概要を説明するブルマがいた。

どうやら宇宙船の機能は十分生きており、言語の再設定や、劣化した部品の交換、再開発を行えばすぐに出発出来るようだ。

事細かく説明しながら目が輝く所は、さすが発明王の血を引いているといえよう。

 

 

「後は…ナメック星に行く人なんだけど、2人か3人程乗れるわね。」

 

 

ブルマはミスター・ポポを見るも、神殿の管理で断られる。

それもそうだ、神がいない今神殿を留守にして何ヶ月も地球を離れるわけにはいかない。

不測の事態が起きた時は、神ではなくミスター・ポポが対処しなければならない。

そうなると消去法だと、まだまともなクリリンが第一候補。

次点で誰にしようかとした時に悟飯が名乗り出る。

自らの師、ピッコロを生き返らせる為に並々ならぬ決意を持っている。

 

 

「何言ってるだ!

オラ絶対許さねぇぞ!?」

 

 

それをチチが猛反論。

同学年と1年も勉強が遅れてる焦りもあり、絶対に譲らない。

チチの剣幕に皆黙り込んでしまう。

育て方はその家庭それぞれであり、チチの教育方針にまで口を出すことが出来ない。

…と言うか、口出ししたら猛反論されるに違いない事を皆知っている為に何も言わなかった。

 

 

「うるさーい!!」

 

 

悟飯は生まれて初めて母親に抵抗した。

思わずチチは絶句し我が子は不良になってしまったかと憂う。

悟空は息子の思わぬ成長に、ニッコリとした。

戦闘面からではなく、父 孫悟空として息子の成長を見てのことだ。

魂が抜けかかっているチチを全員で説得して、なんとかナメック星行きのメンバーに選ばれた。

 

 

これで原作通りにメンバーが決まったのだが、ゴソゴソと動き出す者がいた…。



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秘密だらけのご令嬢

誤字脱字修正済み R2 1/8


「まぁ、この仙豆はもう要らんだろ。」

 

 

話がまとまりかけた時、ふとヤジロベーが言葉を漏らす。

その手にあるのは緑の豆、仙豆だ。

 

 

「何!?」

 

 

気づいた頃には指で弾かれ、宙を舞う仙豆。

万有引力の法則に基づいて落下を始め、大口を開けたヤジロベーの口に吸い込まれる。

 

 

「ちょっ待!」

 

 

大きなヤジロベーの体にタックル。

力の加減無く押した為、ヤジロベーはミスター・ポポの横をかすめて窓から飛び出した。

幸いにも、仙豆は食べられなかった為、床に落ちる。

ヤジロベーは窓の縁にしがみつき、地面に落ちずに済む。

 

 

「おみゃあは殺す気か!?」

 

「仙豆を食うんじゃねぇ!

なんで最初に言わなかったんだ!」

 

 

1粒の仙豆は、10日間飲まず食わずでも平気な程のエネルギーを持っている。

ひどい怪我をしている者に食べさせれば、外傷なら全て治してしまう程のエネルギー量だ。

メタボリックな腹の足しにさせるなんて、もったいないにも程がある。

年間7粒の生産が限界な為に、無駄遣いは許されない。

その1粒をカリン様は拾い上げる。

クリリンはヤジロベーを引き上げる。

 

 

「…やはりヤジロベーに持たせてはいかんの。」

 

「いえいえ、カリン様。

とにかくこれが無事なら、何よりですよ。」

 

「良かったの。

これで、悟空かラディッツが復活出来る。」

 

 

問題は、どちらが復活するかだ。

カリン様言わく、もう少しでまた仙豆が出来るそうだ。

早く食べれるか、遅く食べるかだけらしいが。

 

 

「悟空、俺に食わせてくれ!」

 

 

ラディッツが頭を下げる。

だが、早く復活したいのは悟空も同じ…

答える悟空も言葉を濁す。

 

 

「俺は…ヤムチャと天津飯を殺した。

例え理性を失って仕方が無いって言っても、殺したのは俺だ。

責任を取らないといけないし…。いち早く生き返らせたいんだ

頼む悟空、お願いします!」

 

「オラも早く行きてぇけど……

わかった、食ってくれ。」

 

 

カリン様は、ラディッツに仙豆を放り込んだ。

包帯やギブスだらけで、未だに痛みが取れなかった腕がやんわりと暖かくなり、気づく頃には元の感覚に戻っていた。

その他にも、至る所に出来ていた擦り傷、切り傷も全て完治。

10日間も腹が持つ程のエネルギーが、全て肉体へと注ぎこまれた。

やはり仙豆の力は偉大である。

 

 

「おぉ、治ったぞ!

ありがとう悟空、カリン様。」

 

「悟飯やクリリンの事、頼むぞ?」

 

「ちぇっ、壷の近くに落ちていたのを見つけたのは俺なのによ。」

 

 

ヤジロベーはまたしても口を尖らせる。

そんなこんなでナメック星行きのメンバーには、原作メンバー+ラディッツが混じる事となった。

余談ではあるが、お世話になった例の医師から精密検査がたくさん用意され、『こんな事ありえないんだが…不思議だ。』と驚愕していたが、翌日の午前中には退院できたそうだ。

 

 

---西の都---

 

 

「これがドラゴンボールの世界か…」

 

 

ラディッツは開いた口がふさがらない。

街中には、動物の顔をした人間が入り混じって歩いている。

上を見ればチューブの中を列車や車が走る。

スカイカーと呼ばれる車は自由に空を飛び、建物も元の地球にあるようなものから奇想天外なビルや建物まで…

どこか元の日本の都会のようでありながら、近未来な世界でもある。

 

 

「カプセルコーポレーション…見つかるのかな?」

 

 

話はラディッツがカプセルコーポレーションへ向かう前に遡る。

入院費の支払いの話の時に、一文無しのラディッツに手を差し伸べたのが他ならぬブルマだったからだ。

 

 

『私の恋人を殺した挙句に入院費まで出してあげるんだから、宇宙船の改造を手伝いなさいよ!

それと必ずヤムチャを生き返らせなさい!

もし約束を破ったら…』

 

 

これで逃げたら本当に殺されかねないと思い、ラディッツは退院後から直接カプセルコーポレーションへと向かっている。

 

 

(…そういえばどこにあるのかも、どうゆう建物か聞くのを忘れたな。

まぁ有名な会社だし、そこら辺の人に聞くしか「てめぇどこ見て歩いてんだ!」

 

「あぁ!?

当たって来たのはそっちだろーが!」

 

 

うしろを見ると、金髪の女性と帽子を被った金髪の女性が女性とは思えない口調で喧嘩し始めた。

 

 

(ヤンキーか…

面倒だしさっさと。)

 

 

チラ見して関わらないように、足早に歩き始める。

 

 

「んだとテメェ!

ぶっ殺されたくねぇなら地面にツラ擦りつけやがれ、貧乳クソババア!」

 

ドドド!!

 

「っ!?」

 

 

 

平穏な都会に響く銃声。

先程の女性が空に向かってGlock 18cを乱射する。

思わずラディッツは振り返る。

よくよく思い返せば聞いたことある声…ラディッツは大急ぎで道を引き返す。

 

 

「誰がクソババアか言ってみやがれこのアバズレェ!」

 

 

帽子の女性が動くと共に、銃を持つ女性が乱射。

帽子が蜂の巣になるが、銃を蹴り上げる。

空いた腕を掴んで道路に投げ飛ばす女性。

その目の前にはトラックが。

 

 

「痛ってぇな!

おい、てめぇ…」

 

 

トラックのフロント部分はぐしゃぐしゃになってしまった。

女性を守るように覆いかぶさったラディッツ。

 

 

「街中で発砲はダメですよランチさん!」

 

 

金髪の女性は、天津飯を追っかけて消えてしまったランチだった。

二重人格ゆえに、今は凶暴で情に熱い性格である。

 

 

「お おい!?

お兄さん…お兄さん!

き 救急車!」

 

「大丈夫ですよ!

トラックは二回目なんで。」

 

「…は?

兄ちゃんやっぱり病院行ったほうがいいぞ」

 

 

その時、パトカーのサイレンの音が聞こえる。

途端にランチの血相が変わった。

彼女はこれまで殺人、強盗、恐喝、窃盗、詐欺、暴行、密輸、誘拐、放火などなど多数の犯罪を行ってきた為、指名手配中なのだ。

警察にはかなり敏感になっている

空のマガジンを投げ捨て、ドラムマガジンを取り出す。

 

 

 

「誰か車かバイクうおぉっ!」

 

 

ラディッツがランチを抱えて飛び上がる。

帽子の女性も、周りの人も指をさして驚いていたが、あっという間にビルの陰で見えなくなった。

 

 

………

 

 

「…悪かったな…助けてくれて。

ホントに…体大丈夫かよ。」

 

「え?

いいよいいよ、僕は死にませんから。」

 

 

人通りのない裏路地へと降り立ち、再び歩き出す2人。

予備のマガジンを入れ、再び懐にしまい込んだ。

凶暴化したランチさんに下手な言動や行動は慎まなければならない。

ラディッツは本当に軽く冗談交じりで答えるが、下手したら体に弾薬の雨を受ける可能性だってある。

 

 

「…せっかくだからなんか奢ってやるよ。

何か食いたいものあるか?」

 

「いやいや、食事よりカプセルコーポレーションへ行きたいんだ。

ブルマさんとこの。

ランチさん知ってる!?」

 

「カプセルコーポレーション?

んなもんすぐ近くにあるぜ。

…ってかなんで俺の名前知ってんだ?」

 

「ブルマさんに聞いたんだよ。

結構可愛いって聞いたよ?」

 

「ば ばかやろう!!

だ 黙ってついて来い!」

 

 

偶然か…運の強さか…?

顔をほのかに紅潮させるランチに、カプセルコーポレーションまで案内をしてもらえることになった

数分で会社前のゲート付近まで着いたのだが、すでにサイヤ人の宇宙船の最新情報を求める報道陣で一杯だ。

だがお構いなしに、マイクロUZIを乱射してゲートまで道が開く。

 

 

「ブルマ!

俺だ、ゲート開けてくれ。」

 

 

インターホンを切るとすぐに、リムジン型スカイカーが到着し中へと入る事が出来た。

まさに、ランチ様様である。

 

 

(この人ある意味、地球最強じゃないか…?)

 

 

赤ワインのボトルを2本空にする女性と、病み上がりの男性はカプセルコーポレーション本社にたどり着いた。

ここで判明したのは、先程までラディッツがうろついていた所と本社の位置がほぼ一緒だった事である。

正確には、外周を歩いていたことになる。

 

 

「あっ、ブルマさんだ。」

 

 

玄関にはブルマが仁王立ちしている。

彼女は、特別怒って出てきたわけではない。

近隣で発砲事件が起きた為、身を案じて出てきたのである。

 

 

「久しぶりね、ランチさん

そこのバカをここまでありがとう。」

 

「…それは酷くないですか!?」

 

「そ そうだ!

そんなに…言う事じゃねぇ。」

 

 

またしても顔を紅潮させるランチ。

最近のアニメや漫画の男どもは全くもって超鈍感な奴しかいないが…ラディッツは感づいていた。

 

 

(まさか…ランチさん俺「あぁ!!

さっきのアバズレ!」

 

「んだと貧乳クソババア!」

 

 

本社の玄関からものすごい勢いでダッシュしてくる女性…さっきの帽子を被った金髪の女性ではないか!

これにランチも応戦するかのように走り出し、マイクロUZIとG18Cの機関拳銃2丁を両手に持つ。

戦争が…始まってしまう。

 

「ランチさん、ストップ!」

 

 

ラディッツはランチを捕まえる。

ジタバタするも、意外とすんなりおとなしくなる。

ブルマも、もう一人の女性の制止に入る。

 

 

「ちょっとやめてよ!

姉さんもいい歳でしょ!」

 

「「姉さん!?」」

 

 

………

 

 

「私の姉さん、タイツよ。」

 

(ちょっと待て!

ブルマに姉さんなんていないだろ!!)

 

 

テラスで仲直りティータイムとしゃれ込む彼女達とラディッツ。

ランチもタイツもブルマに促され、『さっきは悪かったわね(な)。』とやや不満げに謝る。

そんな中、あまり好きでない紅茶を一気飲みして自らのメモ帳と思考回路をフル稼働する男が一人。

 

 

(タイツタイツタイツタイツタイツ…そんなキャラなんかおらんぞ?

え?

下着シリーズでブルマのお姉さんで?

なんだそれ、わかんねぇ。

忘れてただけ?

ブリーフ博士でしょ、パンチーでしょ、ブルマでしょ、黒いネコちゃんでしょ…

えぇ…新キャラ?

俺が来たせいで、原作+劇場版どころか新キャラまで出て来てしまったのか…!?

とと 取り合えず知らなければ…)

 

「タイツさんって…何やってるんです?

ブルマさんみたいなメカとかいじる方ですか?」

 

「あたしは今SF小説書いてんのよ。

ま、ネタ切れで困ってたから実家に戻って来たんだけど…まさかブルマの知り合いだとはねー。」

 

 

手掛かりを掴もうとしたが、謎は深まるばかり。

あまりに考えすぎて頭が痛くなって来た。

この謎のタイツと言う女性、この先どう関わってくるのか。

敵ではないと思うが…わからないのは不安である。

 

 

「さてと、さぁ、あんたには奴隷のように働いてもらうわよ!」

 

 

その前に、自分の自らの心配をした方がいいかもしれないが…

その日からは、住み込みで働くことになったラディッツ。

何故かランチも顔を紅くして、『お 俺もほとぼりが冷めるまでかくまってくれよ!』と住み込むことになった。

宇宙船の製作にあたっては、河田自身が工業高校出身の為、切削から溶接までの要所は何とかこなせた。

更には持ち前の肉体を活かして重労働を難なくこなす。

10人がかり、もしくは機械を使わなければ運搬できない物も、彼に頼めば片手でスキップしながら運搬してくれている。

そのような作業もあるが、一番はブルマとブリーフ博士の補佐が主となっている。

天才発明家のブリーフ博士とその血を濃く受け継いでいるブルマの2トップの補佐だ。

 

 

「ほぅほぅ、凄い技術じゃ。

…ほぉ~こうするとこうなるのか~。」

 

「感心して見てないで、手動かしてよ!」

 

 

…2トップと言うか、実際にはブルマが全部仕切っている様なものだ。

物事を転換したり、結合したり、置き換えてみたり、代用してみたり…

その飽くなき探求心と好奇心が無ければ、才ある物など作れなかったであろう。

今回の、地球の神とサイヤ人の宇宙船は、地球の科学の発展に繋がるものとなるだろう。

ブリーフ博士の好奇心も一層くすぐられる代物だ。

さらにラディッツは、それを逆手にとってこんなものの提案をしてみることに。

 

 

「博士博士、いいアイデアが浮かんだんですけど。」

 

「アイデア?

なんじゃ?」

 

「重力が変化する部屋って作れませんか?

星って色々あるじゃないですか、軽い星だったり重い星だったり…

それがあれば、生体が超重力でどうなるかとか考えたんですけど。

それと船内でも地球と同じように過ごせますし…

それと長期睡眠装置。

それがあれば、寝てる間にあっという間に着けますよ。」

 

「重力コントロール装置と長期睡眠装置か、面白いのぅ!

早速作ってみるか!」

 

 

自分が面白そうと思った事は、昼夜を問わずにすぐさま取りかかってしまう。

そのおかげでブルマの仕事量は倍以上になり、その負荷がラディッツにも重くのしかかる事となるのは簡単に想像が出来るだろう…

こうして、二つの宇宙船の技術が詰まった船が新造された。

スペースシャトルを思わせる形で、居住スペースがかなり確保されている。

胴体後部には重力コントロール室も用意され、ブリーフ博士渾身のステレオセット内臓のオプションも付けられた。

早くも博士は2号目の製作に着手していた。

最終テストとカメハウスへの運搬の空いた時間を使い、ラディッツとブルマは宇宙飛行士の訓練を受けていた。

宇宙は雄大な空間であるが、そのほとんどがダークマタ―で、謎に包まれた空間である。

何が起きても自分達で対処しなければならない為、知識から技能を徹底的に叩きこまなければならない。

 

 

「クリリンもやっとけ!

宇宙で無知は危険すぎるぞ!(クソ、お勉強会にこいつも道連れにしてやる!)」

 

「えぇ!?

勉強、ダメだからパス!(俺を巻き込むなー!)」

 

「こうなったら仕方が無い…!」

 

 

講義の途中で、トイレから外へ抜け出し、強引にクリリンを連行したのはどうやら正解だったようだ。

日に日に悪化していくブルマの機嫌は、やや上方修正された。

 

 

---出発の日 カメハウス---

 

 

「これがスペースシャッターと言うやつか。

なかなか大きいのぅ。」

 

「亀じいさん、スペースシャトルよ。

壊さないでね!

壊したら100億ゼニ―だから。」

 

 

具体的な値段を言い放つ。

亀仙人は手をひっこめ、落書き用のマジックペンをポケットにしまいこんだ。

すでにシャトルには必要な物資と食糧、それと各自で用意したものが積み込まれている。

残るは…悟飯が来るのを待つだけだ。

数分後には、海面スレスレを走行して来るオープンカータイプのスカイカーが見えてきた。

後ろから牛魔王が降り、運転席からはチチが降り、助手席からは悟飯が降りる。

ここまで問題はなかったが、悟飯の服装に問題があった。

宇宙飛行士と言うものは、発射や着陸の際にもの凄い重力が体に襲いかかる。

それを少しでも軽減させる為に、対Gスーツを着る必要がある。

ブルマを筆頭に、クリリンやラディッツもそれを着ている。

だが悟飯はかしこまった服装をしている。

どうやらチチが、[宇宙人に会っても恥ずかしくない格好]をさせたようだ。

悟飯にとっちゃあ今が恥ずかしいのも知らずに…

 

 

「…とりあえず、行きますか。

搭乗口(ゲート)オープン。」

 

 

言語プログラムにより搭乗口が開き、ラッタルが出現する。

シャトルは立てられているため、一人一人がラッタルを上がり、シャトル中腹辺りから搭乗する。

座席へ着くと、ハーネスを固定し、補助動力装置にて機体の電源を立ち上げる。

コックピットに埋め込まれた、多機能ディスプレイに表示された各種項目を確認していく。

 

「第一、第二、第三SSME(エンジン)、出力とエンジン温度全て正常値。」

 

「ターボポンプ正常稼働。

液体酸素、液体窒素、供給開始。

カプセルコーポレーション打ち明け施設へ秒読み引継。

オートシークエンス、スタート。」

 

「アイマム。

オートシークエンス、スタート。」

 

 

打ち上げカウントをカプセルコーポレーション本社にある打ち上げ施設へと引き継ぎ、最終チェックを受ける。

地上点検を行う最後の作業だ。

ここで機体や計器などに異常があれば打ち上げ中止となる。

幸い問題はなく、打ち上げカウントに入る。

 

『アウル01、シーター160でアプローチ中のスペースシャトルに注意。

オールグリーン…打ち上げを許可する。

カウントスタンバイ。

 

10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…0。』

 

 

カウントの終了と同時に三つのエンジンが咆哮と炎を上げる。

1.5G…2G…3.5G…凄まじい加速度にブルマは耐える。

他のみんなは…余裕の表情だ。

悟飯は耐Gスーツすら着ていないのに、平然としている。

発射から間もなく、6分が経とうとしていた。

 

 

 

「ふぅ…もうベルト外していいわよ。」

 

「へぇ…宇宙って案外静かなんですね。」

 

「言われてみればそうだな。

後は定期的に航路をチェックして行くだけだし、部屋着に着替えますか。」

 

船内はとても静かでありながら、地上とほぼ同じ行動が出来る。

宇宙空間は重力が存在しないのだが、重量コントロール装置のお陰で地上と同じくらいの重力を保っている。

 

 

「さて、後はナメック星までやること無いし…

ここんとこ、ほぼ徹夜だったから寝るわ。」

 

「イエス、マム!

おやすみなさい。」

 

 

ブルマは宇宙服のまま用意された個室に入る。

ちなみに、男3人には個室は用意されていない。

男女格差と叫んでも、宇宙空間に追い出されたくなかった為、男共は何も言わなかった。

理由はそれだけではない。

 

 

「それじゃぁ…俺達もやるぞ。」

 

 

もう一つ用意された部屋に入る3人。

いよいよ彼らは、舞台は更なるステージへと移っていく…



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上司、外回り営業開始!

挨拶がだいぶ遅れましたが、明けましておめでとうございます。

今年も少〜しずつ、更新をしていくつもりです。
これからもよろしくお願い致します!

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「…ダメか、俺は降りるぜ。」

 

「じゃぁ出しな、ストレートだ!」

 

「…スリーカードです。」

 

「フルハウス!

さ、飲み物買って来い!」

 

「マジすか!」

 

 

ここは惑星フリーザNo.79。

惑星フリーザではないが、宇宙ポッド発着場のハブ化が進んでおり、数ある前線基地の中枢を担う。

 

フリーザ兵の管制官は持ち場に存在はしている。

しかし、発着する宇宙ポッドはない為、船を出す者達は持ち前の手札を出し合っていた。

賭けに負けたフリーザ兵が、管制室を出る為に立ち上がる。

その瞬間、航空制御盤から宇宙ポッド接近知らせ音が響く。

 

 

「ん?

妙だな、こんな時間のアプローチなんて聞いてないぞ?」

 

 

識別番号は…ベジータを表示している。

だがベジータ以外にも、着陸申請をしてこないお偉い様もいる為、特別フリーザ兵には慌てもしない。

 

 

「惑星フリーザNo.79上空、オールクリア。

ILS照射開始。

座標送れ。

オートランディング。」

 

 

宇宙ポッドは、管制塔からの操作により着陸する事が出来た。

それを確認し、下層のフリーザ兵は出迎えの為にポッドの近くで整列をする。

宇宙ポッドのハッチが開き、ベジータは愛想を振ることなく基地へと入って行く。

…いつもならそうなるはずなのだが、一向にハッチが開かない。

不思議に思ったフリーザ兵の1人が、キャノピー越しからコックピットを覗く。

中には、傷だらけで意識もなく、生命維持装置を装着したベジータが座席にもたれ掛かっていた。

 

 

「大変だ、ベジータ様が生命維持装置をつけてらっしゃるぞ!

すぐにメディカルルームに運ぶんだ!」

 

 

外からハッチが開けられ、すぐさまメディカルルームへ搬送される。

水槽のような容器の中には緑色の治癒液。

それに頭まで浸かるように入れられる。

 

地球の治療法とフリーザ軍の治療法とは大きな差がある。地球での外傷の治療は、ザックリ言うと人間の本来持つ治癒力に任せる方法だ。

損傷した箇所に手を入れ、後は免疫力と治癒力に任せ様子を見る…いわゆる手術をして入院だ。

対してベジータが受けている治癒液に浸かる方法は、違ったアプローチからの治療法である。

緑色の治癒液には、その生物が元々持っている免疫力・治癒力を限界以上まで高める成分が入っている。

更に言えば、その液体そのものが抗体や血しょうにもなる…言わば万能培養液というところだ。

体中の毛穴や細胞の隙間から治癒液を取り込み、体の内外から治療をする。

何週間とかかる治療も、このメディカルマシンなら数時間で完治する。

 

 

(…うぅ…なんだ…?)

 

 

開きづらい瞼を強引に開ける。

水中にいるような浮遊感、そしてぼやけるような視界。

その先には、自分の目の前で様々な作業をする兵士達。

 

 

(そうか…地球から帰って来たのか…

あのクソッタレ共め…!)

 

 

意識を取り戻して十数秒、アラームと同時に溶液は水槽から抜かれ、兵士たちが吸盤型コードと呼吸器を手早く外す。

 

 

「お待たせ致しました。

ベジータ様、申し訳ありません。

お身体の方は完治致しましたが、尻尾の再生までは出来ませんでした。」

 

「構わん、そのうち生えてくる。」

 

 

衛生兵長が心底申し訳なさそうに服と戦闘ジャケットとスカウターを差し出す。

慣れた手つきでスーツを身につける。

スカウターを付けるのを忘れて、すぐさま部屋を出ていく。

どこかへ急いでいるのか…?

 

 

「ベジータ様、スカウターをお忘れですよ!

あ、それとキュイ様がベジータ様をお探しでした。

伝言で『俺のところへ来い』と…」

 

「キュイの野郎か、放っておけ。

それと、スカウターはもう要らん。

お前にくれてやる。」

 

 

ポカーンとした表情の衛生兵長を、メディカルルームに置きざりにして部屋を後にした。

周りに悟られないように、なるべく早足でこの惑星の自室へ急ぐ。

死の淵から蘇るサイヤ人は、大幅に戦闘力を増幅させる。

その上げ幅は人によって異なるが、サイヤ人の皇子であるベジータの上昇率はトップレベルだった。

なかなか瀕死の状態になるほど厄介な敵がいなかった為に、このようなパワーアップはしなかったが…

今の強さならあの憎い兄弟と、その周辺の雑魚共を簡単に駆逐できる。

そう意気込んでいた矢先、目の前の通路の壁にもたれかかる男が目に入った。

 

 

「ようベジータ、待ってたぜ。」

 

「失せろキュイ、貴様と話すことはない。」

 

 

フリーザ軍 キュイ。

ベジータと馴れ馴れしく話している為、仲良さそうな感じに見えるだろうが、中身は全く逆。

優しく例えて言うなら、犬猿の仲である。

嫌いな者同士なら、普通は喋ることはない。

どんなに悪くても、相手の地位を落としてやるとかそういうレベルかもしれない。

だがこの二人は、『隙さえあれば…上の許可さえ出ればぶっ殺してやる!』と公言している仲である。

統制や規則などの縛りがあるからこそ、ここは戦場となっていないのだ。

 

 

「サイヤ人の皇子たるあなた様が、辺境の小さな星の奴に死に損なったらしいじゃねぇか。」

 

 

ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべるキュイを、今すぐにでも血祭りにあげたい衝動に駆られるが、まずは地球の奴らが先。

ベジータは無視して素通りしようとする。

 

 

「おいおい、そう怒るなよ。

フリーザ様は大層お怒りだったぜ?

フリーザ様の許可も無しに、ナッパと地球に出向いちまったもんな。

だが無線を聞いてご機嫌が良くなられたぞ?

何でも不老不死の願いを叶えられるそうだ。」

 

「な!

なんだとっ!!

今フリーザ様はどこにおられる!?」

 

「ナメック星に向けてもう旅立たれた。

…そろそろ着く頃だっておい!

まてベジータ!」

 

 

キュイの呼ぶ声も無視し、ベジータは宇宙ポッドに飛び込んだ。

行先はもちろん、あの星だ。

 

 

(クソが!

フリーザの野郎に無線を聞かれたのか!

ナメック星まで…間に合うのか!?

あの野郎め…不老不死の願いを叶えるのはこの俺様だー!!」

 

 

ベジータの怒号は、宇宙の闇に消えていく…

 

 

---別地点 地球の戦士達---

 

 

「これが、超重力トレーニングルームさ。」

 

「「おぉー…」」

 

 

一方のこちらは、艦内の設備案内の最中である。

…と言っても、ブルマの部屋は絶対案内できない為、もうトレーニングルームしか案内する事が無い為、紹介する所は以上である。

 

 

「さてと、ナメック星に行く前に説明する事が山ほどあるけど…時間が無いから簡潔に説明する。」

 

「…時間が無い?」

 

 

現地へ着くまでまだ数日ある。

そしたら、ナメック星のドラゴンボールをドラゴンレーダーを使ってかき集めておしまい。

それだけなのに、何故この男は焦っているのか?

 

 

「ラディッツさん、ドラゴンボールを集めるのにそんなに時間が掛かるんですか?」

 

「いや、単純に集めるなら地球と同じさ。」

 

 

ここでふと、ラディッツは思い出した。

河野自身の事を喋ろうとすると、口が動かなくなることを。

以前にも何度か話そうとしてみたが、急に口が硬くなってしまうのだ。

 

 

「…フリーザ…よし、動く。

スーパーふぁ…クソ。」

 

 

どうやらあまり遠い未来は話せないようだ。

 

 

「単刀直入に言おう、俺達は今から戦争をやる。」

 

「「えぇっ!?」」

 

 

これに驚かない人はいないだろう。

ドラゴンボール集めの延長線上に、まさか戦争が待っているなんて言われたら…

 

悟飯の持ち物は、文房具から最新の睡眠学習装置まである勉強道具と、修行する為に隠れ隠れ作ってきたピッコロに似せた胴着だ。

クリリンに至っては同じく修行の為の胴着や、カメラやおやつ…もう完全に宇宙旅行を見据えて来ていたからだ。

誰もドラゴンボールを巡っての激しい戦いなんて想定していない。

それを断言するラディッツ。

いったい彼は何を根拠にそう言いだしたのだろうか?

 

 

「待てよラディッツ、一体どうゆうことだよ?

現地の人の気性が荒いのか?

それとも他の星に閉鎖的な人たちなのか?

そういう事なら大丈夫さ、きっとわかってくれるよ!」

 

「とりあえず聞いてくれ。

ナメック星のドラゴンボールは地球と同じ、基本的には何でも願いを叶える事が出来る。

俺達の願いは、『先の戦いでサイヤ人に殺された人を生き返らせる事』って事だろ?

だがよく考えてくれ、ベジータみたいに『己を不老不死にしろ』と言う奴がいるとしたら?

それを企む別の者が、ナメック星にドラゴンボールがあると知ったら…?」

 

 

クリリンと悟飯から笑顔が消えた。

信じられないような話だが、現にラディッツ戦の時に同じ事が起こった。

だからベジータ、ナッパ、ターレスは地球にやってきた。

そして今、同じ事がこの宇宙で起ころうとしている…そう言いたいのだ。

 

 

「嘘だろ…?

確かにお前は物知りだよ。

何故かわからないけど、お前はサイヤ人の時もほとんど当ててた。

知ってる事は多いし、未来予知みたいなところもある。

だけど今度という今度は有り得ない。

ベジータだって倒したんだから、しばらく動ける訳がない。」

 

「そうだな、ベジータは動き出すのに少し時間がいるな。

だが俺がベジータ達と地上げ屋をやってた時、俺達には上司がいた。

みんなからは理想の上司と呼ばれ、部下にはさん付け、そしてとんでもなく冷酷非道な上司だ。

その上司がスカウターで会話を盗み聞きして、ドラゴンボールの存在を知ったとならば、ナメック星にはもう大軍勢でいるだろう。」

 

「だから…重力装置。」

 

 

悟飯が再び装置を眺める。

確かに、単にドラゴンボールを集めるだけならこんな部屋を急ピッチでは作らない。

気を使ってのイメージトレーニング位で対応できる。

だがここまでやるという事は、確かな確証があってだろう。

 

 

「この重力装置は100倍重力まで作り出すことができる。

体重50㎏なら5000㎏…5tだ。

嫌ならやらなくても構わない。

だがもしやってくれるなら、それなりに強靭な体は手に入れられる。

これはクリリンが言ったように、先読みとか感とか…未来予知みたいなもんかもしれん。

一旦リビングに戻って考えてみてくれ。」

 

 

ラディッツは二人を外へ促す。

戦う意思があるなら、再び入ってくるだろう。

入って来なければ…いや、彼らは必ず入ってくる。

その時…何者かを検知して自動扉が開いた。

 

 

「おぉ、やっぱり来「何か暇潰せるやつある~?」うわっ、ブルマ!!」

 

 

ブルマが上下下着姿…ではないが、やや露出度が高いスポーツウェアに近い格好で入ってくる。

その裏からブルマを止めようとしていたのか、クリリンと悟飯もぞろぞろと続く。

 

 

「何よ、そんなに私が入ってきて都合が悪いわけ?」

 

「いや、そんな訳ないけど…女性なんだからもう少し露出度下げてくれ。」

 

「あら、私の身体そんなに魅力的かしら?」

 

 

目の前でグラビアっぽい格好をしだすブルマ。

一般女性がやるなら、ラディッツも漢の部分が出てしまうが、ドラゴンボールの1キャラクターがやると…男のイチモツ(・・・・)全く反応しない。

 

 

「そう言うのはまぁ別にいいけど、なんならカバンの中に本が「あんたの本なんて妙な本しか入ってないじゃないの!」

 

(ちょっと待て、妙な本って言うなや。)

 

「…長期睡眠装置つけたけど、使わないのか?」

 

 

ドラゴンボール世界の軍艦紹介雑誌を、尽く妙な本で片付けられてしまった。

少し凹むラディッツだが、長期睡眠装置は彼の案である

それがブルマのベッドに取り付けられていた。

ボタンを押すと、カバーが閉じてカプセル状になり、少しの時間で多くの時間、睡眠ができるという代物だ。

簡単にいえば、ちょっとした浦島太郎である。

 

 

「あぁ、あんたが言ってたやつはそれね。

使ってみるわ、もし二度と起きられなかったら呪い殺すからね。」

 

 

ブルマは踵を返すと、部屋から出てった。

あっという間だった。

 

 

「ラディッツさん、僕…強くなりたいです!

最初は闘いなんて嫌だし、修業は辛かったけど…ピッコロさんのおかげで僕は強くなれたんです。

今度は、もっと強くなってピッコロさんを助けたいんです!

僕やります!」

 

「悟飯…俺もだ。

なんか良くわかんないけど、悪い奴にドラゴンボールを渡すわけにはいかないだろ?

付き合ってやるよ。」

 

 

文字からすれば仕方なくっぽく聞こえるクリリンの台詞は、古くからの仲間にしか見せない表情から出るものだった。

つまり、悟飯もクリリンもさらなる高みへと昇る意思があるということだ。

 

 

「よし、じゃあさっそくやろう!!」

 

 

ラディッツは早速、重力装置を操作する。

 

 

速く動いたり、相手に攻撃したり…とにもかくにも、筋力が必要である。

筋肉をつけるメカニズムは、

[筋肉に負担をかけて筋繊維を傷つける(筋トレ)

傷ついた筋繊維の回復(休養)

筋繊維が傷つかないように補強される(筋肉がつく)]

 

…という感じである。

故に、重力トレーニングも原作の悟空やベジータのようなサイヤ人はともかく、ぶっ続けで行うと体が破綻してしまう。

その為、クリリンと悟飯には休息も取り入れてある。

いつかの亀仙人の「『よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む、これが亀仙流の修行」

と言う言葉も理にかなっているというわけだ。

むしろラディッツは教えをもらってはいないが、コンセプトはもらった形になる。

 

とにもかくにも、重力10倍の状態から修行は始まる。

そしてクリリンには、その状況下で界王拳を教えていく。

悟飯はまだ子供という事と、最終的には超サイヤ人のステージも待っている為、基礎体力の向上を施す。

だが一番重要なのは敵の情報だ。

戦うのはフリーザ軍だ、フリーザだけではない。

そこら辺のフリーザ軍兵士達なら問題無いだろう。

フリーザの側近のザーボン、ドドリア。

そして選りすぐりのエリート戦隊、ギニュー特戦隊もいる。

…更には、先の戦闘のターレスのような不特定人物や軍勢。

 

 

(考えられるパターンが多すぎて、作戦という作戦が立てられんな。

ここは界王様に聞いてみるか。

界王様ー!)

 

『なんじゃ、わしゃ忙しいから手早く頼むぞー!』

 

 

割と早かった返事なのに…本当に忙しいのだろうか?

少し違和感があるが、ともかく情報を手に入れる為に界王様に質問をする。

 

 

「界王様、今から向かうナメック星にはフリーザ軍はいる?」

 

「ラディッツよ、お前まさかフリーザに手を出すつもりか?

それだけはならん!

絶対に戦ってはならんぞ!」

 

「界王様、俺はわざわざ死にに行くような真似はしないよ。

なるべく戦わないように隠密に行きたいから、情報を教えてください。

フリーザと側近のザーボン、ドドリア…それとギニュー特戦隊。

それらはめちゃくちゃ強いから避けるとして、他に危険視した方がいい勢力とか、人がとかいます?」

 

それならまかせておけと、界王様は自慢の触覚で探し出す。

 

 

(元が地球人で良かった。

孫悟空のようなサイヤ人であったら、「俺も戦いてぇ!」と言い始めるからの。)

 

 

界王様は冷や汗を拭いながら搜索を始める。

ラディッツの言うような者達と、他の要注意人物を洗い出す。

 

 

『待たせたな。

ラディッツの言うような、危険視する程の奴はおらんみたいじゃぞ?

ギニュー特戦隊はそもそも別の星におる。

それと追加情報じゃが、現在ナメック星ではフリーザ達がドラゴンボールを手に入れる為に虐殺を始めておる。

…手を出すなよ?

奴だけはダメじゃ!』

 

『願いを叶えたかったけど…なんとかしてドラゴンボールを1つ持ち帰れば、フリーザの願いも叶わないでしょう?

上手くやるさ。』

 

 

それを最後に、界王様との通信を切った。

ナメック星には原作通り、フリーザとザーボン、ドドリアしかいない。

それなら、ある程度原作を知ってるラディッツは上手く立ち回る事が出来る。

 

 

(撹乱しながらドラゴンボールをかっさらってやる。

情報を持ってる奴が一番強いって事を、思い知らせてやるぜ…)

 

 

………

 

 

「スカウターがあればなぁ…具体的に目指すところがわかるんだがなぁ…」

 

「…お前が来る時に付けてた変な機械か?」

 

「そうそう、ちなみに銃持ったおっさんは戦闘力5。

フリーザは53万だ。

最終的には1億くらいだ。」

 

「ハハハ、そのおっさんを1万人以上連れてこないとな!

(…うぅ…俺…死ぬかも。)」

 

 

重力10倍で体重は450kgとなり、同時に界王拳の取得までしている。

なのに敵の強さがデタラメを超えたところにある。

クリリンは冗談を抜かしながら、内心では号泣していた…。



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界王拳の説明が難しい

※このお話に先立ちまして...※

今回は界王拳のお話です。
界王拳の考え方なんですが、自分はこんな感じで解釈しました。
まともに考えたことが無かったので、なんか変だなと思うかもしれません。
その点お見苦しいかも知れませんので、飛ばしたい方は
-----
の下までスクロールして下さい。

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「おそらくクリリンなら、そこまで難しい事じゃないと思うぞ?」

 

 

体を動かす事に一生懸命な悟飯はさておき、クリリンには概要を伝える事にする。

界王拳は高度な気の扱いの応用だ。

だが、気の扱いなら元気玉で証明されているクリリンなら問題無いだろう。

 

 

「んーっと…界王拳はザックリ言うと気の開放の応用だ。

界王様の説明を噛み砕いて、俺のイメージで説明するよ。

 

体の中心から、そのまま表面へ気を出すのが気の開放だ。

界王拳はその開放状態を加速させる感じかな?

 

例えば…ホースを気の通り道と身体。

流れる水を気として話をしよう。

ホースから水を出す時に、ホースが太いと流れる水は多くなるけど、水は勢いよく出ないだろ?

ホースを細くすると、水は勢いよく出てくる。

まぁ水圧を増やしても勢いよく出るけど、その気を通すルートを細くする事を体の至るところで行う。

水圧を強くさせ過ぎるとホースに穴があいたり、蛇口から外れるだろ?

体がボロボロになるって事だ。

気の放出を体の至るところで行い、なおかつ気の放出を量と気の加速をコントロール。

もちろん、体を鍛えれば鍛えるほどホースは丈夫になる。

気の放出がしやすくなる事や、気の全体量も増える。

もちろん、限界値も上げることが出来る。

 

解釈によっちゃぁ『体の中の気の循環スピードを上げる』だとか、『持っている気を限界まで放出する』だとか色々あるけど、俺はそう言うイメージでやったらできた。」

 

「なんだか、わかったような…わからないような…

とにかくやってみるよ。」

 

 

-------------------

 

早速クリリンは実践してみる。

要するに、気の開放の応用だ。

 

 

「ふんっ!

どうだ?」

 

「うーん…普通の気の開放だなぁ。

ベジータ戦でも見たと思うけど、界王拳だとオーラは赤くなるんだ。

今のクリリンは、いつも通りの白いオーラだよ。」

 

 

悟空とラディッツでも、界王拳を体得するのに時間を要した。

まずは基礎体力を身につけ、そこから界王拳を体得する為に修行をしたのだ。

どんなに少なく見積もっても、少なくとも数カ月単位は必要に思える。

だがその時と今回は、3つに分けて修行状況が異なる。

1つ目は重力。

界王星は10倍の重力だったが、この重力トレーニング室は100倍まで出力を上げる事が出来る。

故に、基礎体力は界王星の時よりつけやすい状況と言える。

2つ目は教導員。

今回界王拳を教えるのは、界王様ではなくラディッツだ。

机上の空論状態で教えるのではなく、体現者が教える為により具体的な教えが出来る。

教える側の指導力により影響が出るが、元営業マンの彼は丁寧でわかりやすい説明に不自由はなかった。

界王様なりの考えを自分なりに解釈し、説明していく。

相手が悟空ならそれでも手間取ったかもしれないが、クリリンには十分だった。

3つ目は…

 

 

「こんな感じだ!

界王拳!」

 

 

ラディッツの体から赤いオーラが噴き出す。

これが3つ目である。

口で説明するのも必要。

だが、見て、聞いて、感じた方が遥かに伝わる時もある。

きめ細かい気の性質、流れ、それらを自分も盗んでモノにするのだ。

 

 

「よし…はぁっ!」

 

「んーまだ違う。」

 

「こうか?」

 

「まだまだ。」

 

 

いまいち、気をコントロールしきれてない。

ただ単に開放するとは違うだけでこうも苦戦するとは思っていなかっただろう。

 

 

(まぁ、今日1日で取得するのは難しいだろうな。

俺や悟空だって数カ月「はっ!」

 

 

そう思っていたラディッツの予想を裏切り、修行開始から僅か1時間程で界王拳状態に持って来たクリリン。

 

 

「こ これか!?

すげぇ!!」

 

 

集中が切れると同時に、界王拳は切れてしまい、体にどっと疲労が溜まる。

だが、未だ重力に完全に慣れきってないのに片鱗を見せるのは異常とも言える。

だがよく考えてみてほしい。

クリリンはこれまで、天津飯、ピッコロ大魔王(マジュニア)、ナッパ、ベジータ等の数多くの格上の相手と戦ってきた。

戦い慣れてきたからという事もあるが、相手の攻撃に合わせて気の集中する箇所を変えていく、体内での気のコントロール技術の応用でもあった。

 

 

(.…嘘でしょ。)

 

 

界王星での厳しい修行を、数か月も重ねて手に入れた難しい技を簡単に取得され、嬉しさとショックと羨ましさがこみ上げる。

 

 

「よ よし、あとは基礎体力付けて反復練習すれば、界王拳の持続時間や限界値が伸びていく。

後は自分でやってくれ、俺も修行しないと先を越されそうだ。」

 

 

ラディッツも大慌てで指立て伏せを始める。

このままでは…ラディッツすら超えてしまうインフレが起こるかもしれない。

大急ぎで自分の修行に戻る。

 

 

サイヤ人の特質として、生まれ持った身体能力の高さがある。

身体の回復力が高く、地球人より遥かに短い時間で負傷した身体や病を治してしまう力だ。

修行などによる戦闘力上昇のほか、大ダメージからの回復で戦闘力が大幅に上昇する。

バーダックがいい例である。

彼は下級戦士なのだが、最前線での激しい戦いや修行…そして回復を繰り返すうちに、戦闘力が10,000近くになったという桁外れな事がある。

下級戦士が、エリート戦士の戦闘力を超えてしまっているのだ。

悟空のように、仙豆を過剰摂取しての重症からの超回復というチート修行は出来ないにしろ、超重力での修行は確実にラディッツの身体を強化する。

 

だが、最近になって自らの体に気づくことがあった。

 

 

(鍛えなきゃ…もしかしたらこの体、とんでもない代物かもしれん)

 

 

スカウターが無いために具体的な数値は出ないが、修行による成長率がやや高いかもしれないという事だ。

最初に感じたのは蛇の道。

まだラディッツの体になってあまり時が経ってはいなかったが、日を追うごとに体が強靭化していくのがわかった。

そして界王星…ターレス、ベジータ戦での死闘。

実戦と修行を体験した彼はようやく体に慣れた気がした。

 

 

(ラディッツはベジータ達のパシリだったから、そこまで戦闘力が無い奴だったのは想像つく。

だけど、ピッコロに殺されて一度死にかけて覚醒でもしたか?

元々、孫悟空が弟なんだから才能の一つや二つくらいあってもおかしくない。

この体、大器晩成型。

悟空やベジータ程の戦闘センスは無いけど、張り合えるほどの能力があるのかもしれん!)

 

 

界王拳も悟空以上に、ベジータと互角以上に戦える程の力を見せた。

ラディッツ登場時の戦闘力が1,500。

ベジータの戦闘力は18,000。

ダメージやスタミナ、差し引きはあるものの、本来の戦闘力からすれば10倍の相手によく戦えたものである。

話が少しずれたかもしれないが、ラディッツの考察からすると「戦闘センスが劣る大器晩成型の体」という事だ。

絶対的な二三番手…逆を言えば、ストイックならば最強を狙える体か。

兎にも角にも、やる事は一つ。

 

 

(ま...ゴチャゴチャ言う前に、練習しよ。)

 

 

指立て伏せも限界になり、間髪入れずにシャドーボクシング。

最初こそ無心で鍛えていたが、やはり相手が欲しくなってきた。

 

 

「クリリン、界王拳の修行しながら組手してくれ!」

 

「無茶言うなよ…って、無茶しなきゃお前達サイヤ人についていけないか。

悟飯、お前も組手やろうぜ。」

 

「はい、お願いしますクリリンさん!

ラディッツさん!」

 

 

………

 

 

重力トレーニング室での修行は厳しいものだった。

...後付け感は否めないが、休憩を取るリビング兼コックピットは酸素が濃くなっている。

コックピットがまるまる、酸素カプセルになったと言ったら簡単だろう。

高気圧の酸素を供給する事により、回復力が高まるとラディッツは前の地球で知っていた。

ブルマには、「そんなもん付ける工期なんてどこから持ってくるのよ!」 と殴られそうになったが、体格を正常な状態に戻すレオロジー効果と美肌とダイエットと言う効果を説明したら翌日には稼働していた。

そんなこともあり、悟飯もクリリンも不自由なく修行兼宇宙旅行を満喫していった。

その間にも、ラディッツは超重力での修行を行う。

 

 

現在の重力は60倍。

界王拳を使えば何とか耐えられる程の重力で、指立て伏せやスクワットを行う。

不眠不休で突っ走って来たラディッツも、そろそろ休息に入る時だ。

なお、現在地球を旅立って10日目。

この宇宙船は、サイヤ人の宇宙船ポッドのエンジンを参考にして作られた為、スペックで言えば地球の神の宇宙船よりか速い。

だが最新鋭の重力装置を短期間の工期で作成した為、シャトルの巨大化、重量増加に伴い速度は神の宇宙船と同じくらいの速さで向かっている。

そのため、ナメック星到着まであと20日残っていた。

原作の悟空が、7日間で仙豆の超回復という無茶をしながらで行ってきた修業は到底出来ない。

ラディッツ達は、約3倍の時間を掛けて重力トレーニングを行う。

手間も期間も掛かるが、今現在これが強くなる為の最短ルートなのだ。

クリリンも、悟空達が3週間程掛かった界王星での修行を上回る、20倍の重力に慣れてきている。

悟飯も同じだ。

「やっぱサイヤ人の血かー。」とクリリンも嘆いてはいたが、子供に負ける訳にはいかないと修行に励む。

悟飯も必死に修行をする2人について行こうと、修行に熱が入る。

精神的にも、肉体的にも厳しい環境だが、彼らのモチベーションは高い。

ラディッツが重力を元に戻した時、何者かが入ってきた。

 

 

「ん、どうした悟飯?」

 

「僕にも…修業をつけてください!」

 

 

あの悟飯が自分から修業をつけてくれとやって来たのだ。

最初こそは自分を誘拐しようとしていた悪人だった。

相変わらず顔は悪いが、今では優しさにあふれている。

そんな伯父、ラディッツを実は慕っていたりする。

 

 

「修業か、よし!

じゃ重力20…いや、30倍で組み手だ!」

 

 

ズシリと、体に負荷が掛かる。

 

 

「悟飯、俺はピッコロ程厳しく無いが、お前の父ちゃんよりかは厳しくやるからな!

来い!」

 

「はい!!」

 

重力30倍での組手が始まる。

ラディッツの指導方針は、簡単に言えば精神論。

中身の無い理論や理論的な指導はあまりない。

 

 

「もっと足が動くだろう!

悟飯、お前はそんなもんか!?」

 

「ぐっ!

でやぁ!」

 

 

それにはきちんとした理由がある。

悟飯の師は、今のところピッコロだ。

ピッコロの技を色々と聞いた悟飯を、ラディッツ流に矯正するのでは整理がつかなくなる。

戦い方はピッコロ流を生かす代わりに、未だ未熟な部分のある精神面を鍛えようと思っての指導方針なのだ。

 

 

「…っ。」

 

「悟飯、それで終わりか?

ここで諦めたら、またピッコロに守られるかもしれないぞ?

またピッコロが、悟空がお前を守って死んでしまうんだぞ!?」

 

「…まだ、やれます!」

 

「その意気だ!」

 

 

ラディッツの声にも熱が入る。

苦い経験を糧にし、悟飯は毎日進化していく。

 

 

………

 

 

ナメック星到着まで、あと3日。

彼らも総仕上げの最終段階に来ていた。

トレーニング室の中は、もうボロボロだ。

設計上では、ラディッツが思い切り蹴っても大丈夫なように炭化チタンを中心とした頑丈な室内なのだが、超重力での修行で設計上を超えた力を手に入れてしまったようだ。

トレーニングは、何も単純な戦闘力の強化だけではない。

クリリンなら界王拳を始め、気円斬の殺傷力向上と連射能力。

 

これはラディッツのアイデアが多く反映されている。

気円斬は打ちっぱなしの為に、かわされたら反撃の機会を与えてしまう。

一番の理想は、ヤムチャの得意技の繰気弾を参考にした[操気円斬]、今後フリーザが使う[デスソーサー]なのだが、修行期間と練度により今回は見送りとの事になった。

だが比較的簡単で扱いやすい技、連続で気円斬を放つ[気円烈斬]という方針に変えて来た。

更には、対大人数戦を踏まえて[拡散エネルギー弾]も考えてきた。

 

悟飯なら戦闘技能の強化と新必殺技。

 

悟飯の場合はサイヤ人のハーフで、成長率が期待される。

だがそれでもまだ子供だ。

とにかくこの30日間では、基礎体力の向上に努めてきた。

基礎体力だけが向上するかと思いきや、自らラディッツに修行を申し出るなど、メンタル面の成長がオマケでついてきた。

更には、「こんな必殺技はどうですか?」…と、[爆砕魔弾]が完成してしまう嬉しい誤算付きである。

魔閃光は素早く撃てる分、威力は落ちてしまう。

だが爆砕魔弾はありったけの気を使って放つ大技であり、反動も大きいので切り札として使うつもりである。

 

 

ラディッツは界王拳の限界延長と戦闘技能の強化を行ってきた。

戦闘経験からすれば、この中ではクリリンが抜き出ていた為に、イメージトレーニングと組手で教わる。

技の多さ、タイミング、引き出し...戦闘の駆け引きや間合いの取り方など、経験の多さではやはりラディッツでも敵わないものがある。

それと、界王拳の限界の引き上げには重力トレーニングは効果があったようだ。

悟空は20倍界王拳が限界だったが、ラディッツは20倍でもオーラを出さずに発動出来るようになっていた。

 

 

この30日に渡る修行期間で、皆原作以上の強さを手に入れたことだろう。

 

 

 

「はっ!

でやぁっ!」

 

「ふんっ!

はぁっ!」

 

「うぉっ!

ぐぅっ!」

 

 

トレーニング室では、2対1で組手が行われている。

クリリンと悟飯は息を合わせながら、ラディッツへと拳や脚の殴打の嵐だ。

ラディッツは引くことはなく、その場に踏みとどまりながら避ける。

2人の攻撃の一瞬の間を縫って、右ストレートのフェイントと、左脚胴回し蹴り。

壁際に転がっていくクリリン。

その攻撃する隙を見て、悟飯は連続で気弾を放った。

ラディッツの顔面に狙って放たれる気弾。

躱すことも弾くこともなく、腕でガードする。

実戦に近い組手だが、気弾は避けたり弾くと宇宙船を破壊しかねないのでガードしていく。

放つ方も、確実に相手に狙わないといけない。

 

 

「ほっ!」

 

「うわ!」

 

 

気弾を一つ一つ潰しながら急速接近し、悟飯を蹴り落とす。

床を転がり、壁にたたきつけられる。

 

 

「ふぅ…よし、ここまで出来ればある程度の奴が来ても大丈夫だ。

技のキレや躊躇が無くなって洗練されてるな。

よくここまでついてきたな悟飯!

これならピッコロも文句は言わねぇだろ。」

 

「えへへ、ラディッツさんのおかげです!

本当にありがとうございました!」

 

 

頭をぐしゃぐしゃっと撫でると、子供の顔を見せる小さな戦士。

 

 

「さてと、悟飯はゆっくり休みなさい。

俺達はもうちょい重力上げるから。」

 

「はい、わかりました。」

 

 

重力は30倍。

悟飯は重力トレーニング室を出る。

 

 

「よし、重力50倍!」

 

「界王拳!」

 

 

重力増加と共に、紅いオーラを放つクリリン。

原作ではありえないスピードで高重力に対応した地球の戦士。

特質のせいでサイヤ人には敵わない地球戦士だが、やはりクリリンには何かしらの才能があるとしか思えない。

 

 

「それ!」

 

 

真正面から懐近く飛び込むクリリン。

顔面狙って右ストレートを放つが、簡単に見切られる。

カウンターのラディッツの左フックをガードすると共に、本意である左足ローキックが決まる。

だが、ラディッツは諸共せずに膝蹴りで腹を蹴りあげ、再び左フックで吹き飛ばす。

 

 

「あのローで反応無しなんて、反則だろ!」

 

「体は鍛えたんでね。

ってかやっぱクリリン、戦い慣れてるな。」

 

 

今度はラディッツが向かっていく。

右脚で腹を狙う。

クリリンもそれに合わせて右手でガードし、カウンターを狙う。

 

 

「ごはっ!?」

 

 

だが、蹴りは真上に軌道を変えて、顎にクリーンヒットする。

咄嗟に身体を掴み、そのまま地面へ叩きつけるように押さえつけ、顔面狙って拳を放つ。

もちろん、当たる寸前で拳は止まる。

 

 

「…ふぅ。

参ったよ、ますます実力広がった気がするぜ。」

 

「嫌味じゃないけど、クリリンも凄いよ。

これに気円斬とか組み合わさったら怖いね。」

 

 

ラディッツは手を差しのべ、クリリンはそれに掴まって起き上がる。

実戦さながらではあるが、本気にはまるで程遠い。

 

 

「さて、もう一丁!」

 

「おう!」

 

 

タイマン戦が、その後何戦も行われる。

全てラディッツの圧勝であったが、地形が広かったり相手を倒すとか言う戦いでなければどうなっていたのかはわからないだろう。

クリリンの界王拳が解け、膝をつく。

重力も元に戻る。

 

 

「よし、クリリンも休んでくれ。

元の重力にも慣れなきゃいかんからな。」

 

「ラディッツ、お前はどうするんだよ?」

 

「俺はもう少しやっていく。」

 

「水臭いなぁ…と、言いたいとこだが、これ以上はついていけないからな。

気分転換に悟飯とイメージトレーニングやってるよ。」

 

 

ラディッツは、内心2人に申し訳ない気持ちがあった。

だが、この先は悟飯もクリリンも踏み込めない高重力の修行だ。

この修行はまだラディッツ以外はついてこれなかった領域だ。

…もっとも、時間を掛ければ来れる領域だが。

 

 

「じゃ、待ってるぞ。」

 

「へいへい。」

 

 

トレーニング室の扉が閉まり、一人ぼっちになった。

 

 

「さて...100倍だ。」

 

 

トレーニング室の限界設定、100倍まで高められる。

彼の体重は7t程になり、設備保護の為、白色灯のライトから赤色灯のライトへ切り替わる。

 

 

「…。」

 

 

お馴染みの指立て伏せ、腕立て伏せ、腹筋、背筋、ジャンピングスクワットを100かける10セットずつ。

最初こそ、これでほぼ1日掛かっていたが、今では3時間で出来るほどの怪物になってしまった。

 

 

(無事に帰ったら、感謝の一万回正拳突きでも始めるか?

それと「心」Tシャツ。)

 

 

邪念、私利私欲だらけだが、肉体はどんどん強化される。

そんな感じでローテーションは終わり、ただただ実戦を想定してシャドー組手を行う。

残り時間を、全力で修行に費やす...




今回は界王拳の独自の解説込みのお話でした。
これを読んで、

「これ違うね、こういう解釈の方が自然じゃね?」

「コイツ、まともにドラゴンボール知らない癖に小説とかやってんだな...失笑」

という意見でも構いません!
解釈が違ってたら訂正をも考えておりますので、遠慮なくコメントしてくださいな。


悟飯の新技...魔閃光のままになってたので訂正させていただきました。


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知将はできるだけ敵の食糧を食う

誤字修正済み R2.9/17


「着陸開始。」

 

「アイマム。

アプローチスタート。」

 

 

シャトルは、ゆっくりとナメック星へと着陸する。

眼科に広がる地表は、刻刻と目いっぱい広がっていく。

 

 

「…よし、着いたわよ。

とにかく大気の成分を調べるからもう少し待って?」

 

 

原作では、クリリンや悟飯がいきなり飛び出しても問題なかった。

大気の成分は問題無しと思えるが、その通りだった。

 

 

「凄いわね、これなら普通に降りても問題ないわ!」

 

 

成分が同じという訳では無いが、人間が普通に呼吸するのに差し支え無い環境だった

目に見える違いは、大気が緑黄色なだけだ。

大気は濃くなれば濃くなるほど、光は弱くなるほど赤くなっていく。

地球では青色が大気を覆うが、成分の違いと大気濃度がナメック星の方が濃いため緑色に見える。

 

 

「んじゃ、降りていいんだな?」

 

「いいわよ、地球と同じように呼吸出来るはずだから問題無いわ。

重力も地球と同じ。」

 

 

シャトルの扉が開く。

もちろん、皆酸素不足で動かなくなることは無かった。

むしろ、自然豊かな為に空気がキレイな印象を受ける。

 

 

「久しぶりの外ね、寝てたらあっという間に着いちゃったわ〜!」

 

「ブルマさん…ホントに1度も起きてないんだからな。」

 

 

旅行気分の3人はともかく、ラディッツは気を探る。

とびきりデカイ気を中心に、大小様々な気を感じ取った。

その直後だった。

 

 

「…?」

 

「…あれ?」

 

「気づいたか?」

 

「まぁな。

だけど何でこんなに悪い気が…?」

 

「気?

あぁ、あんた達がいつも言ってる不思議な力ね。

ナメック星人じゃないの?

ほら、ドラゴンレーダーだって反応してるわよ!」

 

 

ドラゴンレーダーには、もちろん7つのドラゴンボールの反応がある。

ただし全てバラバラではなく、2つがまとまっており、残りはバラバラに点在していた。

 

 

(フリーザはまだ2個か…)

 

 

「ほらココ!

もう2つも同じ所にあるんだから「ゴオォー!」楽勝…。」

 

 

4人の頭上を、一つの飛来物が飛んでいく。

あれを見たことないとは言えない。

ベジータが乗っていた型と同じ、丸型の宇宙ポッドだ。

 

 

「!?

な…なんてこった!

ラディッツの未来予知が本当に...」

 

「なんでよ!

サイヤ人はやっつけたんじゃないの!?」

 

「ラディッツさん、クリリンさん!

あそこ!」

 

 

再び頭上を見上げると、また一つ同じ宇宙ポッドが上空を通過していく。

ブルマは言葉が出ずに、口をパクパクさせている。

 

 

「どうなってんだ!?

サイヤ人がまだいたのか!?」

 

「いや、確かに片方はベジータだ。

恐らく、本拠地の星で治療してここまで来たんだ。

もう一方は…サイヤ人ではないけど、俺達の敵でもある。

とにかく気を消すんだ。」

 

 

ブルマは無理だが、3人は気を消す。

スカウターによる位置の特定を妨げる目的だ。

 

 

「なんだ、お前ら?」

 

「見たところ…異星人(余所者)か?」

 

 

ベジータ達に見つかる前に、別の者達に見つかってしまったようだ。

サイヤ人が来ていた戦闘ジャケットと、スカウターを装着した宇宙人が2人現れた。

ラディッツはすぐに気づく、この2人はフリーザ軍兵士という事に。

 

 

「…悟飯、気を抑えながら貯めておくんだ。」

 

「…はい。」

 

 

すぐにクリリンは状況を判断して、悟飯に戦闘準備をさせておく。

見たところ大した強さではなさそうだが、所持しているサイコガンのような武器(エネルギーガン)を警戒しておく。

 

 

「すみません、艦が故障してしまって…

怪しい者ではないんです。」

 

「そうか、そいつは運が悪かったな。」

 

 

兵士がもう1人の仲間に目配せすると、エネルギーガンでシャトルに大穴を開ける。

 

 

「「「!?」」」

 

「ハッハッハ、本当に運が悪いな。

さてと、どう遊んでやろうか…?」

 

 

兵士達は薄ら笑いを浮かべながらジワジワと近づいてくる。

ブルマは腰が抜けて、泣きながらへたりこんでいるが、3人は違った。

 

 

「クリリン、悟飯。

お仕置きしてやろうぜ。」

 

「そうだな、てんで大したことなさそうだし。

悟飯、気を開放しろ!」

 

「はい!」

 

 

ラディッツの背後から飛び出す2人。

兵士は驚いている間に意識がなくなった。

それぞれ鳩尾に、1発拳を入れただけなのに。

 

 

「本当に大したことありませんでしたね。」

 

「…そうだな、もうちょっと手応えあるかと思ったらこれだぜ?」

 

「それだけみんな、強くなったってことさ。

さてとっと。」

 

 

ラディッツは2人のスカウターと、エネルギーガンを剥ぎ取る。

船から適当に養生テープを持って来て、手足をグルグル巻にする。

その作業が終わりそうな時に、スカウターからなにか音声が聞こえた。

 

 

『おい…おい、どうした?

応答しろ。』

 

「ラディッツさん、無線が!」

 

「え!?

...ちょっと貸してくれ。」

 

 

悟飯からスカウターを受け取り、顔面に装着する。

 

 

『おいどうした!?

応答しろ!!』

 

「え…あー、あー。

旅行者は始末した、送れ。」

 

『?

なんだよ、いるならすぐに応答しろ!

とにかく戻ってこい、ザーボン様には俺から報告しておく。

以上。』

 

 

 

適当にそれらしい事を言って事なきを得た。

だが、いよいよ新しい存在が露になってきた。

 

 

(さっきの宇宙ポッドにこの兵士達…ザーボン…もう間違いない。

あの宇宙最強と言われていた、帝王のお膝元に来ちまった。)

 

 

遥か遠くにある複数の気。

際立って高いのは、間違いなくフリーザだろう。

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

「…そうか、分かった。

フリーザ様、先程偵察に出した兵から連絡がありました。

始末したようです。

それと謀反のベジータですが、先程このナメック星に到着。

それを追って、キュイもこの星へと到着しました。

このままキュイに任せても宜しいですか?」

 

「そうですか。

兵士達にはご苦労様でしたと伝えておいてください。

ベジータの件は、やはりキュイさんにまかせた方が良いでしょう。

あの2人はとても仲がいいですからねぇ...。

さてと、この村長さんだった人が言ってた通り、他の村にもドラゴンボールがあるはず。

準備が整い次第、次の村へ行きますよ!」

 

 

数々のナメック星人の死体を、ゴミのように扱うフリーザ軍。

その頂点に立つフリーザ。

2つのドラゴンボールを携えるフリーザ軍は、別の地点へと躍進しようとしていた。

 

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

「ちっ、またスカウターの世話になるとはな。」

 

 

1度手放したはずのスカウターを、もう一度つけ直す。

悟空との戦闘により、戦闘力の操作と相手の戦闘力を感じ取る能力を自らも真似て取得した。

それだけならスカウターは必要無いのだが、フリーザ軍の動きを知らなければならない為に頼らざるを得なかった。

 

 

『ベジータの件は、やはりキュイさんにまかせた方が良いでしょう。』

 

「ちっ、やはりバレていたか。

まぁいい、上手く単独になったところを1人ずつ消してやる。」

 

 

一応スカウターをフリーザにセットする。

その瞬間、別地点の無線に通信が入る。

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

 

『ベジータの件は、やはりキュイさんにまかせた方が良いでしょう。』

 

「へっへっへ。

これでベジータの野郎を堂々とぶち殺せるぜ。」

 

 

ナメック星に降り立ったキュイはスカウターを操作する。

同時にベジータの位置を特定しにかかる。

 

 

「もうライバルなんて言わせねぇ。

今日というこの日が、あの野蛮な猿野郎の最後だ!」

 

 

特定し終えた。

更にスカウターをいじり、通信を始める。

 

 

「ようベジータ、久しぶりだな。」

 

『この汚ぇ声はキュイか。

貴様が何の用だ?』

 

 

相変わらず癪に障る態度。

だが、このイライラもすぐに収まるだろう。

 

 

「フリーザ様の無線を聞いただろ?

今日はてめぇの命日だ。

今から行くが、逃げてもいいぜ?」

 

『上等だ、俺もてめぇの事が大嫌いだったからな。

ここで待ってやるからさっさと来やがれ。』

 

 

ここで無線は切られた。

キュイのこめかみには血管が浮き出る。

怒りもそうだが、ベジータを殺せると思えば気分も悪くない。

 

 

(クソザルめ、今すぐぶち殺してやるぜ!)

 

 

キュイ、動く。

 

 

---ナメック星 ラディッツ達---

 

 

「ちょっと!

どうすんのよ、シャトルが壊れちゃったじゃない!」

 

「重量トレーニング室は!?」

 

「そっちは問題ないけど。」

 

「なら良かっ「良いわけ無いでしょ!

こんなの簡単に治せるわけないでしょ!

...と言うか、壊れたところは...予備の整備道具じゃ厳しそうね。

材料もないし...

とにかく、父さんに言って何とかしてもらわなきゃ!」

 

 

ブルマは大慌てでマイクロウェーブ無線で地球と連絡を取り始める。

その肝心のブリーフ博士は、娘の危機を全く感じてはいないようでして…

 

 

「今悟空君の艦を作っているからな。

まぁ無事についたのなら、しばらくナメック星を楽しんでおいで。」

 

「そんな呑気なこと言ってられないのよ!

ちょっと…父さん!?

父さん!?」

 

 

悟空がいつくるかも分からずに無線を切られた。

もう怒るどころか、不安に怯えていたのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 

 

「はぁ...もういいわ。

とにかく、隠れる場所を見つけなさいよ!」

 

「イエス、マム。」

 

 

シャトルをホイポイカプセルに収めると、隠れる場所を探して移動する。

ラディッツが先導し、クリリンの背中にブルマが腰掛ける。

もちろん、相手はスカウターを持っている為に気を押さえ込んだままの為、そう速くは飛べない。

それでも岩山と言うのは案外そこらじゅうに存在するので、隠れ家は簡単に見つかった。

…と言うか作った。

 

 

「…これくらいか?」

 

「やっぱりあんたら化け物だわ。」

 

 

シャトルを出したかったので、ちょっとした洞窟をスコップと素手で破壊し、ドーム状に作り替えてしまった3人。

ホイポイカプセルからシャトルを取り出しても問題ない大きさなので、不便ということはなかった。

 

 

「とりあえずブルマ、これ持っといてよ。

護身用サイコガン。」

 

 

エネルギーガンをブルマに差し出す。

無論、フリーザ軍の下級レベルの兵士しか倒せないが、丸腰よりマシだろう。

 

 

「こんなんじゃ頼りにならないわよ!

あんた達が守りなさいよ。」

 

「万が一の護身用だって。

心配なら改造しちまえばいいのさ。

あ、それとスカウターにGPSでも入ってたら取って欲しい。

これなら連絡も取れるし、誰か来たらすぐに分かるだろう。」

 

 

GPSがまず入っているか不明だが、位置が特定されてしまうのはいただけない。

せっかく気を消して隠密行動しているのに、意味が無くなってしまうからだ。

ブルマはラディッツの持っていたスカウターを改造した経験から、弄るのは問題ない。

エネルギーガンの件については、ラディッツは知らないが、5歳の頃に光線銃を極悪カスタムしてとんでもない威力に仕上げた経歴を持つ。

 

 

「れ、連絡用なら仕方ないわね。

急いで見てあげるわよ。

エネルギーガンの改造なんて、言われなくてもやるわよ!」

 

 

すぐさまブルマはシャトルの中で作業を始める。

ラディッツはその間に全員に説明をしなければならなかった。

 

 

「さて、さっきの兵士達と宇宙ポッドについてだ。

宇宙ポッドの方は間違いなく、片方はベジータだ。

もう一方の方は...名前を忘れたんだが、紫色のブサイクな奴でベジータを殺す為にここに来た。」

 

「やっぱりベジータだったのか。

その紫色の奴はベジータより強いのか?

俺達の敵か?」

 

「残念だが、ベジータは俺達との戦いで気の扱い方を覚えるはずだ。

さっきの気は全く大きくなかったが、気を開放すればあっさり返り討ちにするだろうよ。」

 

「あ、ラディッツさんの未来予知ですね?」

 

「ん〜、まぁそんな所だよ。」

 

 

ラディッツ的にも、もうこれは未来予知って形で済ませるようにしていた。

その方が言いやすいし誤魔化しやすいからだ。

 

 

「それともう一つ、さっきの兵士達の話。

あいつらがいつか話してた、フリーザ軍だ。」

 

「あれがフリーザ軍?

何よそれ、そんなのがナメック星にいるわけ?」

 

 

何も知らないブルマは、はんだごてでGPS回路を外していく。

 

「フリーザ軍ってのは、簡単に言えばベジータのいる会社だ。

フリーザ軍は宇宙にある星の極悪地上げ屋をやっていて、俺もそこにいた。

そんでもって、フリーザってのが極悪社長だ。」

 

「極悪社長?

ならあんた達でやっつけなさいよ。」

 

「フリーザには勝てない。

ちなみに戦闘力で言えば、フリーザが確か1億以上。

俺と悟空とベジータとクリリンと悟飯の総出で戦っても勝てない。」

 

 

これはブルマでもわからないはずが無い。

内情を知っているラディッツが、敗北宣言をしている。

思わずはんだごてを落としてしまった。

 

 

「冗談よね!

いくらなんで「ちなみにフリーザは、今ナメック星のドラゴンボールを2個集め終えている。

お願いごとは、[不老不死]だ。

フリーザ軍は悟空レベルの部下を少なくとも五人以上携えている。

さて、どうしましょう。」

 

「...マジ?」

 

「マジ。」

 

 

数秒後、フリーズしていたブルマが泣きわめき出すが、やかましくて長い為割愛。

クリリンや悟飯も、厳しい顔つきだ。

悟空や、ラディッツなら何とかしてくれると思っていた節もあったが、自分達も戦っても勝てないときた。

 

 

「本当に...どうしようもないのか?

だとしたら、修行の意味が無いじゃないか。」

 

「戦力を削るなら俺だって出来る。

修行は無駄じゃない。

この星で、スカウター無しで相手の位置を探れるのは俺達とベジータくらいだ。

そのベジータも、フリーザのドラゴンボール回収を阻止しようとしている。

あいつは撹乱してドラゴンボールをかっさらうつもりだと思うからな。

撹乱してる中を上手く立ち回って、ベジータも利用すれば良いのさ。」

 

 

ラディッツ自身、フリーザ編が一番印象に残っている為に自信があった。

不確定要素があったとしても、充分に対処する強さはある。

超サイヤ人は諦めるつもりだ。

ピッコロを生き返らせて地球に帰り、フリーザ軍がナメック星から立ち去った後に、犠牲者を生き返らせるつもりだった。

例え悟空が超サイヤ人になれなかったとしても、ドラゴンボールできっかけ程度なら作れるだろうと言う考えだった。

そのドラゴンボール集めの間に、万が一敵に見つかっても生き残れるように修行をして来たと言っても過言ではない。

...まぁ、ラディッツが本気を出せば第一、第二形態までの戦闘力ならなんとかなるかもしれないが、この仲間達を守りながら戦うなら余裕はない。

 

 

「クリリン、悟飯。

俺達は戦争に巻き込まれるが、情報と立ち回り次第で出し抜けない訳じゃない。

むしろ、ベジータが盛大に目立ってくれれば戦力で劣っても、勝利を手に出来る。」

 

 

黙って見ていれば、自分達は助かるだろう。

だがフリーザやベジータが永遠の命を手に入れるくらいならと思えば、話は別だ。

途方もない作戦だが、宇宙船が壊された以上やるしかない。

 

 

「わかった。

こうなったらラディッツ、お前の未来予知と情報が頼りだ。

頼むぞ!」

 

「ラディッツさん、お願いします!」

 

「なんだかよくわかんないけど、絶対私を生きて返しなさいよ!」

 

「おう、まかされよ!(色々背負い込んじまったな、早く悟空来てくれ...。)」

 

 

散々鼓舞して自信もあるくせに、プレッシャーに押され気味のラディッツだった。

 

 

「とりあえず、1個ずつドラゴンボールをかっさらってやろう。

ブルマ、スカウターは治った?」

 

「ちょうど出来たわよ。

はいこれ。

GPSは外して、通信機能と戦闘力計測機能は生かしといたわよ。

それと、表示も読めるようにしといたわ。」

 

「ありがとう!」

 

 

ブルマからスカウターを1つ受け取り、耳に掛ける。

何故かスカウターをつけても違和感が無い。

むしろ心地よいくらいだ。

 

 

「それと、ドラゴンレーダーもくれ。

今から1つ手に入れる。」

 

「ちょっと待って!

レディをこんな所に1人置いていく気!?

誰か私を守りなさいよ!」

 

 

ブルマが駄々をこね始めるが、「もしかしたらフリーザと戦って死ぬかもしれないけど?」と言ったら大人しくなった。

正確に言えば、文句をブツブツ言いながらドラゴンレーダーを渡し、エネルギーガンの改造を急ぎ始めた。

 

 

「2人とも、絶対に気を漏らすなよ?

それと悟飯、限界まで気を探りながら向かってみ?

もちろん気を消しながらだ、出来るな?」

 

「はい!」

 

「よし、状況開始。」

 

 

ラディッツ達は気を消しながら、一番近いドラゴンボールの元へ走り出す。

気を使わない状態とはいえ、そのスピードは修行前とは比べ物にならない。

ドラゴンレーダーを確認すると、もうすぐの所だった。

 

 

「(まだフリーザ達は移動していないようだな...)悟飯、この辺りに悪い気を感じるか?」

 

「大丈夫だと思います!」

 

「ラディッツ、あれだ!」

 

 

クリリンが指差す。

その方向には、ナメック星人の集落らしきものが見えてきた。

それと同時に、複数の気も感じる。

悪い気では無い。

集落の上空で止まり、その中心部へ着地する。

農作業や植林活動をしていたナメック星人が、全てこちらに目を向ける。

この集落に、宇宙人が来たのだから注目するなと言うのが無理だろう。

 

 

「あ、あの、こんにちは。」

 

「は、初めまして。」

 

「俺達、地球って星から来た者ですけど...」

 

 

何故かナメック星人の目は、怪しい者を見る目に変わる。

更には臨戦態勢をとる者も。

 

 

「皆落ち着け。

機械こそは似たものを付けているが、彼らは悪しき者達ではない。」

 

「ムーリ長老!」

 

(このナメック星人が、あのムーリって人か。)

 

 

ムーリ長老と呼ばれるこのナメック星人。

この集落を治める長である。

その長が、悪しき者達ではないと言った時、周囲の視線が全く柔らかいものになった。

 

 

「あ、ありがとうございました。」

 

「いやいや、こちらの非礼を詫びよう。

ところで、この村に何用で来られたんじゃ?」

 

「お 俺達、死んだ仲間達を蘇らせに来たんです。

それで、ドラゴンボールがどうしても必要なんです。」

 

 

ドラゴンボール...ムーリ長老の眉が微かに反応する。

ナメック星人以外で、ドラゴンボールの存在を知る者がいるとは思わなかったからだ。

ドラゴンボールを知っているならば、当然その性質も知りえていることになる。

 

 

 

「...もしそれを断るとしたら?」

 

「待ちます。

分かって頂くまで説得します!

...と言いたいとこなんですが、長老さんはフリーザと言う奴を知っていますか?」

 

「フリーザ?

...知らぬな。」

 

「フリーザが今ドラゴンボールを狙って、この星でナメック星人を片っ端から殺し始めているんです。

俺達は、もし願いが叶わないのなら一つだけ隠し持って奴らの願いを阻止しようかと思います。」

 

 

その時、悟飯が叫んだ。

 

 

「ラ ラディッツさん!

あっちから、もの凄い気が近づいてきます!!」

 

「え!?」

 

 

 

ラディッツもすぐに気を探る。

...いた、この惑星一番の気で悪の気が近づいてくる。

ラディッツが察知して数秒後にスカウターも警告音がなる。

 

 

「急いでここを離れよう!」

 

「ダメだ、気を消しながら逃げても遠くまで行けない!

...そこの段差に隠れろ!」

 

 

3人はお急ぎで小さな段差に身を隠す。

長老はそれを見届けると、空を見上げる。

その視線の先には、数十人の客人を見据えていた。

 

 

---ナメック星 上空---

 

 

ナメック星の上空に、ある艦が到着する。

地表に着陸しないところを見ると、あまり悟られたくないような印象を受ける。

 

 

「到着致しました。

我々は早速向かいます!」

 

「そうだな。

あいつがここに来て、俺達もすぐに追いついた。

こんな短時間で全て集め終えている訳では無いだろう。

あいつらの手下は、お前達より格下のはずだ。

かと言って、油断するな。」

 

「「「はっ、わかりました!」」」

 

 

その艦の乗員は、分散して降りていく。

命令を出した謎の者は、しばらく高みの見物を決め込むようだ。

こんな少人数でナメック星に来て、一体何をするつもりか?

またしても、不確定要素が混沌とし始めたナメック星に乱入しようとする...。



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スカウター依存症から抜け出そう!

---ドラゴンボール情報---

フリーザ軍 ... 2個
ナメック星人 ... 5個
地球人達 ... 0個
ベジータ ... 0個

誤字脱字修正済み R2 1/13




「出てこい!」

 

「死にたくねぇなら早くしろ!」

 

 

あっという間に包囲されてしまうナメック星人達。

フリーザ軍兵士は片っ端からナメック星人を家から出し、フリーザの前へと差し出す。

乱暴な輩とは対照に、ナメック星人...彼らは7人程しかいない。

ナメック星人は争いを好まない種族だが、自らの命や同胞達の命の危機とあって、あからさまに敵視している。

その軍勢の代表者と思わしい人物が口を開いた。

 

 

「こんにちは、ナメック星人さん。

私は、フリーザと申します。

実は私、ドラゴンボールを集めていましてねぇ...差し出していただければ命を取ることはいたしません。

早く出して頂けますか?」

 

(こいつらが...!?)

 

 

フリーザがポッドから降り立ち、深くお辞儀をする。

その両横には、蒼肌で緑髪の男と桃肌で角だらけの頭の男がそれぞれドラゴンボールを1つずつ携え立つ。

 

 

 

(先程の3人は仲間か...それともこいつらがその輩か...

フリーザ...彼らの言う通りなら...)

 

 

ムーリ長老は思考を張り巡らせるが、如何せん眼前の敵が多い。

フリーザ軍は、フリーザを筆頭に数十人はいる。

対するナメック星人は、子供老人合わせて7人あまり。

もし戦闘となれば、人数の不利は否めない。

そこら辺の下っ端なら何とかなりそうだが、目の前の者...それと両サイドの奴には敵いそうもない

 

 

「早く出さないと、こうなりますよ?」

 

 

ザーボンが1人のナメック星人に近づき、顔面にハイキックを決める。

例え普通のナメック星人であっても、そこら辺の奴らに負ける程、か弱くはない。

だがそんなナメック星人が1発で首の骨を折られた。

この悪人達...先程の3人と同じく、ドラゴンボールを欲しいと言う。

だがその彼らとは違う欲が顔を覗かせている。

しかもいとも容易く殺すなどと...実際に1人殺されている。

ムーリ長老はとにかく時間を稼ごうとする。

 

 

「...×××××...×××××××××...」

 

「残念ですが、あなた達が私達の言葉を話せるのは知っています。

そんなに死にたいのですか?」

 

 

あからさまに殺気を出して指を向ける。

ほのかに指は赤紫色の光を帯びる。

言葉の壁というもので時間を稼ぐのは無理なようだ。

それならもう、話すことしかない。

 

 

「...私はこの村のムーリという者だ。

渡す前に...聞きたいことが2つある。

そのドラゴンボールはどこで手に入れたのだ?

それと、ドラゴンボールを使って何をする気だ?」

 

「...そうですねぇ、それくらいは言わなくてはなりませんか。

ドラゴンボールは他の村の方から手に入れました。

どうやら、このボールはナメック星人にとっては勇気の証みたいなものなんですねぇ。

先程殺したナメック星人の村長さんに聞きました。

そしてその勇気の証は、ナメック星人の選ばれし者にしか授けられない事も...。」

 

「それと、2つ目の質問ですね?

願い事は私の不老不死ですよ。

この私が不老不死になれば、宇宙を征服するのに便利ですからね。

さぁ、これくらいでいいでしょう?」

 

「...わかった...そこの家の一番奥に。」

 

「ありがとうございます、あなたは話がわかる方じゃないですか。」

 

フリーザ兵が出向く。

苦虫を潰したかのような顔。

ムーリ長老は自分の不甲斐なさと、奴の強さに悔しがる。

対照的に、フリーザ達は満足気にニッコリとしていた。

順調に三つ目のドラゴンボールが手に入るのだ。

この調子ならそんなに遠くないうちに不老不死の願いが...その時だ。

緑髪のザーボンのスカウターが、いきなり爆散してしまった。

 

 

「どうしましたか?」

 

「馬鹿な...フリーザ様、ベジータにセットしていたスカウターが、20,000を超えたあたりで爆発しました。」

 

「へへ、お前のスカウターは旧式だからな。

ついに壊れたんだろ。

俺が測ってやる。」

 

 

桃肌のドドリアがスカウターで計測する。

確かに、ザーボンが付けていたのは旧式と言われるスカウターだ。

大抵の敵ならその古いスカウターでも計測可能なのだが、戦闘力が大体2万辺りで壊れてしまうようなのだ。

ドドリアの付けているスカウターは、次世代機である。

特徴や大きさはさほど変わってはいないが、より大きな戦闘力にも対応している。

...と言っても、携帯型なのでそれでも限界があるのだが。

更なる次世代機も開発中という事なのだが、今はこれが携帯型の中では最新なのである。

スカウターは順調に計測し、24,000あたりで落ち着いた。

 

 

「何...24,000だと?」

 

「馬鹿な!?

奴は最近までキュイと同等だったはず!」

 

「...恐らく地球で、何か戦闘力を上げるコツでも掴んだのでしょう。

ですが、慌てる必要無いではありませんか。

あなた達2人がまとめて相手すればすぐに終わりますよ。」

 

 

落ち着きのある口調で促すフリーザ。

確かに冷静に考えれば、1人なら苦戦はするが、2人掛りなら何ら問題ない数値だ。

だいぶ前に計測した数値なのだが、ザーボンの戦闘力は23,000。

ドドリアなら22,000なのだ。

戦闘力に1000程開きがあっても、そう慌てる数値ではない。

 

 

「ベジータはドラゴンボールを集めて、私と同じく永遠の命を手に入れる算段なのでしょう。

そうでなければ私に勝てるはずありませんからね。」

 

「フリーザ様、ありました!」

 

 

家宅捜索していたフリーザ兵が声を上げ、ドラゴンボールを見つけ出す。

フリーザにとっては良い報告だ。

 

 

「...」

 

 

その光景をただただ見守るナメック星人達。

皆敵意を剥き出しにして睨みつける中、ムーリ長老は静かに彼らを見抜いていた。

 

 

(このフリーザという者、先程の3人やナメック星人には持っていない底知れぬ悪を感じる。)

 

 

柔らかい口調からヒシヒシと滲み出る冷酷さ。

そして隠しきれぬ冷酷な瞳。

完全に見抜いている訳では無いにしろ、ここにいるナメック星人全てが感じていた事であった。

ナメック星人達は、知力や判断力が優れている。

地球人で言う五感と言うものが優れた種族だ。

そのナメック星人達全てが彼らを敵視していた。

だが、その邪悪さは身を隠すラディッツ達も感じていた。

 

 

 

「な...なんて凶悪な気だ...」

 

「いいか、絶対動くなよ!

わかったな!」

 

「は はい。

あ。」

 

 

......コト...

 

 

やはりラディッツの言う通り、目の前の強さはそう桁外れではないものの、潜在的な強さは半端なものではなかった。

そのひしひしと伝わるものが、彼ら地球人達に些細なミスを誘発させる

例えば、段差にある石を落とし音を出してしまうミスを起こすとか。

 

 

(...バカヤロー!)

 

 

よっぽど気づかれない小さな音。

それに気づいたのは、比較的近くにいたドドリアだ。

 

 

「?」

 

「どうしたドドリア。」

 

 

ドドリアが段差の方へ向き直し、ゆっくりと歩き出す。

...近づいてくる。

ラディッツ達は体を寄せ合うように小さくなる。

 

 

(クソ...多分ドドリアやザーボンなら何とかなるけど、今このままフリーザと戦うのはマズ過ぎる!

何とか...!)

 

「ゲコッ。」

 

 

ナメック星のカエルが、ドドリアの目の前を跳んでいく。

ドドリアはそれを摘むと、緑髪の男に放り投げる。

 

 

「悪い、カエルだった。

ほらよザーボン。」

 

「遊んでる場合か。」

 

 

ザーボンはサラッとかわす。

カエルは地面を転がると、大急ぎで逃げていった。

ドドリアはラディッツ達に背を向けて、元の位置に戻る。

ラディッツ達も、ヘロヘロと力が抜けた。

何とかバレずに済んだようだ。

 

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

「待ちくたびれたぜ、キュイさんよ?」

 

「悪いなベジータ、お祈りは済んだか?」

 

 

相見える2人のフリーザ軍兵士。

いや、正確に言えば1人は反乱兵だ。

 

 

「ようやく、このライバル関係に終止符が打てるってもんだ。

そこまで腕が落ちちゃぁ、てめぇもおしまいだ。」

 

反乱兵討伐の為にやって来たキュイと、その反乱兵であるベジータだ。

キュイの自信に満ち溢れた発言には、確かな裏づけがある。

現在キュイのスカウターに表示される、ベジータの戦闘力は14,000。

キュイの最大戦闘力は18,000。

元々ほぼ同じくらいの戦闘力を持っていたのに、地球に行って弱体化してしまっていたのだ。

奴の戦闘スタイルは大体把握している為、技の練度での戦闘力の差はそこまで考えなくてもいい。

ベジータに負けるはずが無いのだ。

 

 

「ライバル関係だと?

じゃあ良いものを見せてやろう。

俺は地球に行ってボロボロになった引換に、二つの力を手に入れた。」

 

「命乞いの仕方と逃げ足の速さか?」

 

 

見え透いた挑発を尻目に、ベジータが力を込める。

スカウターの数値が、やんわりと上がり始める。

キュイはまだピンと来ていない。

 

 

「戦闘力のコントロールだ!」

 

 

ベジータが気を更に込める。

キュイのスカウターの数値は、突如としてめまぐるしく動き、20,000を超えたあたりで爆散した。

キュイも旧式スカウターを支給されていたので、正確な数値を拝む前に故障したのだが、数値の上昇率から予想をすると、25,000辺りと予測を立てる。

 

「それと、このパワーだ。」

 

「ば、馬鹿な!」

 

 

キュイは一歩後ずさりする。

先程までチンケな猿野郎と侮っていた奴が、大きな脅威となり得てしまった。

戦闘力の上昇...即ち自分よりもパワーが勝るということ。、

 

 

「何故だ、元々貴様は俺と互角の戦闘力だったはずだ!」

 

「クックック...フリーザの元でぬくぬくとしてた貴様と違う。

俺は絶えず最前線で戦っていたからだ。」

 

 

それを聞いて全てを理解した。

このサイヤ人(種族)...猿野郎と罵っていたが、いよいよ殺されかねない。

キュイの作戦は、殺しにいく作戦から生き延びる作戦へとシフトしていく。

 

 

「ま、待てベジータ!

お 俺もフリーザ様...いや!

フ フリーザが嫌いだったんだよ。

俺も仲間にしてくれよ。」

 

「ふざけた事を抜かしやがって。

それでも命乞いのつもりか?」

 

「ほ 本気で言ってるに決まってるだろ...」

 

 

近づいてくるベジータ。

後ずさりしながら、左手に意識を集める。

生き延びる作戦...それは意表をついた攻撃で離脱する方法だ。

だが目の前のベジータは間違いなくこちらに意識を集中させている...

相手の予想外を引き出す...その為には...

 

 

「あっ!

フリーザ様!!」

 

 

相手が恐れている者の名前を叫び、背後を指差す。

これだけ...? と思っている人も多いだろう。

だがよく考えて欲しい。

自らが学生だった時、友達が「あっ、先生!」と言うだけでかなりの抑止力が働いたであろう。

更に相手が見えない背後を指差せば、振り向く人もいる。

それが悪い事をしている時は尚更だし、何もしていない時でも気を取られる事があっただろう。

まさにそれと同じことが起こった。

 

 

「な なんだと!?」

 

「掛かったな!」

 

 

背後を振り向いた瞬間に、連続フルパワーエネルギー弾を叩き込む。

初弾はベジータを巻き込んで炸裂し、二発目、三発目以降、煙で見えなくなる。

それでもキュイは手を緩めない。

 

 

「キェー!」

 

 

最後に特別大きなエネルギー弾を放ち、大爆発を起こす。

煙が晴れる。

地表の凹凸は消え去り、周りが更地になっていた。

 

 

「へ...へっへっへ。

例え戦闘力が上回ったとしても、不意にこれを食らっちゃぁおしまいだな。

肉片すら残っちゃいねぇぜ!」

 

 

ベジータの影すら見当たらない地表。

もしキュイにスカウターがあったら、どんな表情をしていただろうか...?

背後から声が掛かる。

 

 

「マヌケだな、まさか貴様がそんな情けない戦法を取るとは思わなかったぜ。」

 

「な!?

いつの間に!?」

 

「戦闘力が上がったということは、パワーやスピードも上がったという事だ!」

 

「...!!」

 

 

キュイの顔は蒼白になる。

打つ手なし...残る手段は本能によるものだ。

 

 

「う わああああ!」

 

 

そしてベジータに背を向け飛び出した。

敵前逃亡...フリーザが見れば殺されたであろうが、ベジータがそれを許すはずがない。

あっという間に、キュイの眼前に先回りしてしまう。

 

 

「はぁっ!」

 

「グボォ!!」

 

 

ベジータの右フックは、あっさりと戦闘ジャケットを貫く。

キュイの悲鳴が上がり、それと同時に腹に小さな気弾を送り込む。

吹っ飛ばしながら、腕を振り抜いて腹から引き抜く。

力無く宙を舞っていく体。、

 

 

「死ね!」

 

 

右手を操作すると、気弾は爆発。

内部からの攻撃を受けた身体はなす術なく爆散し、地上に肉片の雨を降らす。

 

 

「へっ、汚ぇ花火だ。」

 

 

彼を語る上で外せない名言を、さらりと吐き捨てる。

ベジータは戦闘力を即座に抑え、そのままスカウターを操作する。

表示されたのは、多くのエネルギー反応。

フリーザ達ではない。

 

 

(無線を聞いていたが、フリーザの野郎...ナメック星人からドラゴンボールを奪っていたのか。

フッフ...やってやるぜ!)

 

 

ベジータはニヤリとしながら、スカウターの示す位置へ飛び出していった。

 

 

---ナメック星 フリーザ軍---

 

 

「キュイのエネルギー反応が消えました。」

 

「ほぅ、少しは強くなったようですねぇ。

ま、私の足元にもお呼びませんが...」

 

 

ザーボンの報告にも涼しい顔だ。

まるで元々捨て駒のような扱いである。

中堅兵士の喪失の知らせにも全くの動揺も見せずに、ムーリ長老の方へ顔を向ける。

 

 

「さてと、ドラゴンボールを渡して頂き感謝します。

では次は、他の仲間の所を教えていただけますか?

そうすればあなた達は助けてあげますよ?」

 

 

至急、テレパシーで他の村にも知らせる。

ナメック星が蘇ったが、大きな驚異が現れたということを。

それと同時に、ムーリは話し始める。

 

 

「仲間の位置は...教えることは出来ん。

ドラゴンボールを手に入れたのだ、約束通りに帰っていただこう。」

 

 

フリーザ達はドラゴンボールを手に入れた。

目的を果たして、めでたしという訳だ。

約束を果たした引き換えは当然である。

それを守るのは至極当然...それが無ければ、ただの悪党だ。

 

 

「教えていただけませんか...ならば死んでいただきましょう。」

 

 

フリーザ軍兵士達が、こぞって前へ出る。

どうやら本当に悪そのものの様だ。

 

 

「くそ!

長老を守れ!」

 

 

少ないナメック星人が出る。

その時、スカウターが鳴り響く。

新たに敵が近づいてくる警告音だ。

少し遠くに出ていたこの村の若い衆が戻って来たのだ。

 

 

「長老、ご無事でしたか!?」

 

「私は大丈夫だ、だが犠牲者が...」

 

「クソ、奴らか!」

 

「ホッホッホ...楽しみが増えたようですね。」

 

 

フリーザ軍兵士達が一斉に襲いかかる。

たった3人程しか増えない敵に、数の力であっという間に制圧してしまう。

...はずだった。

 

 

「はぁっ!」

 

「チィッ!」

 

「でやぁ!」

 

 

初撃が簡単に挫かれる。

それどころか、反撃にあったフリーザ兵が逆に倒されてしまった。

若いナメック星人が強かった訳ではない。

他の老ナメック星人も、次々とフリーザ兵を薙ぎ倒していく。

数で勝ると思われたが、ここの力に圧倒されている。

ただここでフリーザ軍にとって不幸中の幸いだったのは、今ここにいるナメック星人全てが、龍族と呼ばれるナメック星人だという事だ。

同じナメック星人と言えど、大きく2つの種族に分かれる。

片方は、ナメック星の環境を整えたり、特殊な能力で物を作り出したりする龍族。

一般的なナメック星人はほとんどこちらに該当する。

もう一つは、龍族やナメック星を守るの為に戦闘に長けた種族、戦闘タイプの種族だ。

フリーザ達はまだ知らないが、ピッコロがこの種族に当てはまる。

...ま、この星にはまだ戦闘タイプは残っているがまた機会があったら紹介する事になるだろう。

 

 

(奴ら...見たところ相手の気配を感じられないようじゃな。

先の若い衆が来た時もそう、あの機械に頼っているように見える。

あれさえ壊せば...)

 

 

ムーリ長老は、瞬時にフリーザ軍を見回す。

ドラゴンボールを持つ片方の兵士、そこに倒れている兵士、後方にいて飛び出す機会を伺う兵士、そして白いあの男。

計4つ...

 

 

「はっ!」

 

 

まずは油断しているように見える、フリーザのスカウターを破壊する。

 

 

「ホホホ、こんな攻撃、痛くも痒くも「はっ!」

 

 

即座にドドリアのスカウターも破壊する。

そして、横たわる兵と戦闘中の兵のスカウターも破壊する。

 

 

「!?

スカウターが狙いか!」

 

「何!?

クソ、皆殺しだぁー!」

 

 

ここに来て、ようやく長老の意図が読めたザーボン。

ドドリアがドラゴンボールを放り出し、怒りに吠え突撃する。

その拳がムーリ長老に届く直前だ。

 

 

「お待ちなさい!!」

 

 

フリーザがドドリアを止める。

ギリギリの所で留まったドドリア。

この攻撃を避けられなかった長老は、1度救われた形になった。

 

 

「何故ですフリーザ様!?」

 

「ドラゴンボールの情報は手に入れなければなりません!

その長老さんは生かしておきなさい。

殺すなら他のナメック星人になさい!」

 

 

そう言われドドリアは地に降り立つ。

フリーザの言う通り、ここで殺してしまえばスカウター無しで他のナメック星人を探さなければならない。

ドラゴンボールを1つ、中に浮かせて指示を出すフリーザ。

その冷静な対応は、ドドリアの頭を冷やす。

 

 

「...良かったな、てめぇだけ命拾いしたな。」

 

 

長老を護るように、他のナメック星人が周りを固めている。

...フリーザ軍手下は残っておらず、後はドドリア、ザーボン、フリーザの3人しかいなかった。

6対3...それでも尚、3人の余裕の表情は変わらない。

 

 

「殺されたナメック星人の仇!」

 

「行くぞ!」

 

『うおおおお!』

 

6人は一斉にドドリアに襲い掛かる。

1人目の老ナメック星人の攻撃を避けながら首元へラリアット。

老ナメック星人は一撃で首が折れてしまった。

続いて殴りかかって来たナメック星人は攻撃を受け止め、3人目に思いっきり投げ込み、2人とも失神。

4人目は容赦なく拳で腹を貫き、5人目は手刀で首を跳ねた。

6人目は攻撃を受け止め、死なない程度に連打を浴びさせ、上空へと放り上げる。

のびている2人の頭を粉々に踏み潰した後に、落下してきたナメック星を岩に向けて蹴り飛ばす。

そして腹にヘッドバット。

全ての長老と子供以外の全てのナメック星人が死に絶え、ドドリアは満足そうに頭を撫でる。

 

 

「...村の者達が...こんなに簡単に...」

 

 

ムーリ長老の裏に隠れる子供達。

 

 

「デンデ、カルゴ!!

...2人だけでも逃げるのじゃ!

ナメック星人の誇り、見せてくれる!!」

 

 

2人が同時に駆け出す。

例え自分が死のうとも、未来ある子供達を守る為ならと自らを奮い立たせる。

 

 

「ホホホ...」

 

 

そんなムーリ長老を掠めるように、一筋の光が走る。

背後から悲鳴。

ムーリ長老は咄嗟に振り返ると、無残にも1人が凶弾に倒れていた。

 

 

「カルゴ!!」

 

「グッ...貴様らぁ!」

 

 

普段怒りを見せないムーリも、怒りに任せて突撃する。

怒りの一撃は、ドドリアの顔面を捉える。

だがそれと同時に、ドドリアはニヤリと笑う。

 

 

「!?」

 

 

離れようとするが、顔面を掴まれる。

そしてゆっくりと首を曲げていく。

圧倒的な力に耐えきれず、鈍い音とともにムーリの命は絶えた。

 

 

「あ...ぁ...」

 

 

目の前で繰り広げられた殺戮。

もうここら一帯で生き残っているナメック星人は、幼い子供のデンデだけだ。

ムーリ長老だった体を捨てると、デンデに向けて歩き始める。

 

 

「うわ...あぁ...!」

 

 

手足をばたつかせ、少しでも距離をとろうとする。

最早立ち上がって逃げるという動作も忘れていた。

2人の距離がどんどん近づく。

ここに来てやっと立ち上がる事を思い出したデンデは、背を向けて走り出す。

だが、目の前にはもうドドリアが仁王立ちしていた。

 

 

「へっへっへ、あばよ。」

 

 

------

 

 

「ラディッツさん!

このまま見てていいんですか!?」

 

「う...うーん...」

 

 

ナメック星人があっという間にドドリアに制圧された。

残りはムーリ長老と2人のナメック星人の子供だ。

そんな状況にもかかわらず、全く反抗する気をも起こさないラディッツに対して苛立つ悟飯。

 

 

「悟飯、悔しいのはわかる。

...だけど、俺達が出てったところで無駄死にするだけだ。」

 

 

そう言うクリリンも、怒れる気持ちを拳を握る事で紛らわしている。

このまま放っておくとナメック星人が全滅。

下手に出るとこちらがやられるリスクもある。

選択の場面は、刻刻と迫る。

 

 

「カルゴ!!」

 

 

ナメック星人の子供が1人殺された。

更にムーリ長老まで無残に殺されてしまう。

悟飯の怒りは限界だった。

 

「...ラディッツさんが行かないなら、僕が行きます!」

 

 

「(よし、原作通りデンデが生き残るな。)待て悟飯、1人じゃダメだ。

クリリン、あの子を助けるぞ!」

 

「だけど...フリーザはどうするんだ!?

あの2人ならともかく、フリーザに勝てるのか?」

 

「今は戦うんじゃない。

2人を助け出すだけだ。

運良くフリーザ以外が追ってきたら、返り討ちにするだけだ。

いいか、あの子を助けるだけだ。

界王拳も極力使わずに、離脱する事だけ考えるんだ!」

 

 

その説明の最中、デンデが再び立ち上がり逃げ始めた。

ドドリアが先回りし、拳を振り上げる。

 

 

「行くぞ悟「やめろー!!」

 

 

号令を掛ける前に、単騎で突撃していく悟飯。

その声に反応したドドリア。

振り向くが、まもなく殴り飛ばされる。

悟飯の攻撃の威力は凄まじく、吹っ飛ぶドドリアはナメック星人の家を5・6件ほどぶち壊してやっと止まった。

 

 

「お前なんか、僕がやっつけてやる!!」

 

「な、なんだと糞ガキ〜!」

 

 

ドドリアの赤い顔が更に赤くなる。

そこそこな痛手を被り、反射的に反撃に移るドドリア。

間髪を容れずにクリリンが蹴り飛ばす。

 

 

「何やってんだ悟飯!

さっさと逃げるぞ!」

 

「おや...ザーボンさん!」

 

言われなくてもと言わんばかりの速さで動き出していたザーボン。

フリーザの側近であるが故に、何をすべきか咄嗟に判断する。

この者達は生け捕りにして、フリーザの前に差し出す。

不言実行、ドラゴンボールを持ちながら、2人の襟首を掴んで取り押さえた。

 

 

「どけぇ!」

 

 

そのザーボンの背後に、瞬間的に回り込むラディッツ。

足首を掴み、フリーザの方向へぶん投げる。

運がいいことに、ザーボンは二つともドラゴンボールを手放してしまう。

 

 

「行くぞ!」

 

 

1つは素早くクリリンが強奪し、デンデを連れて飛び出した。

ラディッツも続いて、悟飯を抱えて続く。

残りの1つはフリーザが念力で回収し、手早く吠える。

 

 

「追うんですよ!!

ドドリアさん、捕まえなさい!!」

 

「ぬおぉ!!」

 

 

ザーボンを片手で受け止め、そのまま指示を下す。

瓦礫を吹き飛ばしながら、追いかけるドドリア。

デンデとドラゴンボールを抱えて逃げるラディッツ達。

戦闘力を抑えて飛行しているため、全力とは程遠い速度で飛行する。

 

 

「ラディッツ!

界王拳は!?」

 

「それは切り札だ、ここでは使わない!

それよりクリリン、太陽拳だ!

スカウターの無いドドリアなら確実に時間を稼げる。

もっと誘い込んでから返り討ちにするぞ!」

 

「待ちやがれー!」

 

 

ドドリアはエネルギー弾を撒き散らしながら後を追ってくる。

悟飯とラディッツは弾き飛ばしながら逃げる。

だが気を抑え、更にデンデを抱えて飛ぶクリリンに合わせるとどうしてもドドリアに追いつかれる。

 

 

「...そうか!

悟飯、これ持っててくれ!

みんな、目を瞑ってろよ!」

 

 

ラディッツにデンデを、悟飯にドラゴンボールを渡す。

くるりと裏を向き、額に両手を当てる。

クリリンが叫ぶ直前、一瞬で影が側面を横切った...



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とびっきりのエリート戦隊と暗躍するエリート王子

---ドラゴンボール情報---

フリーザ軍2個
ベジータ0個
地球人1個
ナメック星人4個

誤字脱字修正済み R2 1/13


「悟飯!」

 

 

盛大に水しぶきが上がるナメック星の名も無き湖。

ラディッツとクリリンの間に数秒前まで飛んでいた影は、あっという間に湖面より深く沈められる。

クリリンとラディッツは慌てて地表へ降り立ち、悟飯を救出しようと試みる。

幸いなのは、相当な深手を追うダメージではなかったということだ。

自力で水面まで上がり、大したダメージは無いことを確認する。

着水によるダメージの緩和...その要因が一番大きい。

その代償に、ドラゴンボールが奪われた。

悟飯が持っていたドラゴンボールは別の何者かにより奪われ、その手中に収まった。

 

 

「ふはははは!

一つ目、頂いたぞ!」

 

「何!?

えっ...と、誰だ..!?」

 

 

ここで、奪った相手の名前の一つでも言ってやりたかったが、生憎その男を知らない。

容姿を説明すると、割とイケメン顔な水色肌の男が、ドラゴンボールを携えている。

フリーザ軍の一人なのか、お馴染みの戦闘服にジャケット。

更にはスカウターも装備している。

ただし、戦闘ジャケットの肩パットが大きく違う。

利き腕の右肩だけは、取り回しを優先したせいか取り外されている。

 

 

(何だこいつ?

知らん、こんなキャラ原作にいないぞ?

もしかしてまた新キャラか?)

 

 

「俺は、クウラ機甲戦隊隊長。

サウザーだ!」

 

「(...クーラ機甲戦隊?

クーラ...クウラ!?)

クウラって、あのクウラか!?」

 

「そうだサイヤ人。

貴様もフリーザ様に仕えている身なら知っているだろう?」

 

 

 

クウラ...宇宙最強と言われたフリーザの兄だ。

基本的には、宇宙の惑星の攻撃と占領を生業としており、フリーザとほぼ同じ、宇宙の地上げ屋として君臨している。

異なる部分は、フリーザと同じような軍勢というものは率いておらず、直属の親衛隊であるクウラ機甲戦隊以外の部下は存在しないという事。

それともう1つ...フリーザよりも圧倒的な強さを保持している事だ。

 

そのクウラ機甲戦隊の隊長サウザー。

ブレンチ星出身で、7000もの宇宙語を話せる頭脳の持ち主でもあり、観察力や洞察力もある為、機甲戦隊の中枢的存在であり、リーダーを務めているエリート戦士だ。

ブレンチ星の重力が大きかったために身体は小柄だが、その分他の星では非常に身軽である。

クウラの弟、フリーザに対しても敬意を示している。

 

そのサウザーがここにいる。

という事は...

 

 

「ってことは...この星にクウラがいるのか!?」

 

 

いくらドラゴンボールをあまり知らない人でも、聞いたことはあるだろう。

宇宙の帝王と言われる、フロストー族のフリーザよりも強い存在。

劇場版でパラレル的な存在だが、その強さはフリーザよりも戦闘力が勝り、認知度も高い。

その部下がいるなら、クウラ自身も近くにいることは容易に想像が出来るだろう。

ラディッツは、サウザーこそ知らなかったものの、クウラと言う存在は知っていた。

ただでさえ今のままでも全員無事で帰れるかわからない上に、もう一人の悪の強者...

 

 

「へっへっへ...追いついたぜ!

...サウザー!?

何故テメェがここにいる!?」

 

 

忘れていたかも知れないが、3人を追っていたドドリアが遅れて降り立つ。

ドドリアもサウザーの登場に表情が変わった。

クウラ機甲戦隊がいるとは思わずに驚きを隠せなかった。

 

 

「ドドリアか。

...どうやらこの猿共に出し抜かれたようだが、そのお陰でコイツを手に入れることが出来た。」

 

 

 

.........

 

 

 

「これは...何故クウラ機甲戦隊がここにいやがる!?」

 

 

ドドリアが一人になった所を見計らい、倒しに来たベジータ。

そのままドドリアと対峙するはずであったが、高高度から急降下する巨大な戦闘力を察知し、戦闘力を抑えながら様子を見る事にしたのだ。

おかげで未だに誰にも気づかれずに、岩陰から周りを伺うことが出来る。

 

 

(バカな...奴は何故ここにいる。

あの様子なら、いつもみたいにフリーザの野郎にご挨拶に来た訳では無いだろうな...だが奴らはフリーザの領地には手を出すはずがない。)

 

 

フリーザ軍兵士としての情報をフル稼働し、状況を飲み込もうとする。

サウザーはクウラ機甲戦隊隊長、彼がフリーザ軍側の領地にいるという事は、それ相応な理由があると考える。

それはサウザーの持つものによってあっさりと判明した。

 

 

(...そうか、ドラゴンボールか!

どんな手を使ったのか知らんが、奴らもボールを...

クソ...絶対に渡すものか!

だが今ノコノコ出てったら...あの戦闘力には勝ち目は無い。)

 

 

ドドリアとサウザー...ドドリアなら倒せるがサウザーにはどうしても強さの差がある。

たとえドドリアと共謀しても到底倒せそうにない。

ドドリアとサウザー...その影には3人の姿が見えた。

 

 

(奴らは...地球人?

何故こんな所に...あそこから来れる科学力があったとは。

...クソッタレ、ますます厄介だ...ん?

カカロットがいない。

ハゲとガキと...ラディッツ。

...もしかしたらまとめて潰せるいい機会かもしれんな、恐らくサウザーには俺の反乱話は知られていないはずだ。

サウザーが消えたら...とにかく1匹ずつ、あいつらを消してやる。)

 

 

 

........

 

 

 

(まずい...まずいよ...多分この馬鹿でかい気はクウラ...

どうしよう...どうすれば...)

 

 

いよいよテンパり始めたラディッツ。

サウザーの気の量がこれで全開なら倒すことは可能だ。

だが気のコントロールを扱えるなら苦戦するかもしれない。

オマケに、奴のバックにクウラがいる。

戦闘力こそわからないが、フリーザよりも強い。

自分の戦闘力がわからない。

数字が出なければ、フリーザに対抗出来るかもわからないのに、クウラと戦うのはあまりにも無謀である。

問題はそれだけではない。

気を開放する事で、スカウターに察知されてしまう。

サウザーを倒したとしても、異変はスカウターによってすぐ分かる。

壊すにも倒すにも、スカウターが厄介なのだ。

 

 

「抵抗しても無駄なのは分かるだろうサイヤ人、ドドリア?

貴様らの戦闘力では 到底勝ち目は無い。

いくらサイヤ人トップの戦闘力10,000程では俺には勝てん。

ドドリアも、抵抗するのはやめた方がいいぜ。」

 

「(1万...?)...サウザー、俺の戦闘力は1万なのか?」

 

「...ふっ、スカウターも支給されていないようだからな。

実質の戦闘力はそれ以下だろうがな。」

 

 

現在のラディッツの戦闘力は1万...やっと具体的な数値が出てきた。

この数値は、最大戦闘力17万程のサウザーには到底及ばない。

しかし、ラディッツには良い知らせとなった。

用心深く戦闘力を抑えている彼が、優位に立った瞬間だ。

 

 

(1万...これなら...フリーザにも界王拳で何とかなるんじゃないか!?

クウラはわからんが...これならドラゴンボール争奪戦でも、出し抜く事が出来る!)

 

 

ラディッツの心に希望の光が差し込む。

彼は確かにサウザーにも及ばない。

ただし、この戦闘力が本気であればの話だ。

無論これっぽっちも力を開放していないわけで、なおかつ界王拳をも隠し持つ。

 

 

「...分かった、持っていけ。」

 

「「ラディッツ!(さん!)」」

 

「わかってるだろうな!?

サウザー...フリーザ様に楯突く事になるぞ!?」

 

「フリーザ様には申し訳ないが、あくまでも俺はクウラ様に仕えてるのでな!」

 

 

サウザーは満足気に上空へと上がっていく。

クリリンも悟飯も、ラディッツが止めない為にどうすることも出来ない。

ドドリアも、遥かに戦闘力で負けている為睨みつける事しかできない。

 

 

「ラディッツと言ったな?

お前達サイヤ人にも、割と賢い者はいるんだな。

価値観を改めよう。」

 

 

サウザーは向きを変え、更に上空へと飛んでいく。

 

 

 

「ラディッツさん!

一体どうしたんですか!?」

 

「今はドドリアがいるから話せない。

まずはコイツを倒してからだ!」

 

「ふざけるな!

サウザーが言うには、貴様の戦闘力は1万程度。

猿が俺に叶うわけねぇだろ!

こうなったら...クウラ様の情報と、貴様ら全員フリーザ様の前に差し出してやる!」

 

 

ドラゴンボールは完全に奪われた。

こうなってしまった以上、大人しく帰ったとなると待っているのは死以外には無い。

 

 

(とにかく目に見える戦果...無いにしても、コイツら(地球人達)を生け捕りにしないと...。)

 

「クックック、待っていたぜ!

ドドリアさんよ!」

 

 

一発の気弾がドドリアに向かう。

不意打ちの攻撃に反応できるはずもなく、黒煙にまみれる。

割と大した攻撃ではなかったのか、ドドリアは黒煙を払いながら出てきた。

 

 

「だ 誰だ!?」

 

 

背後を向けど、姿形見えない。

その男はまた後ろをとっていた。

ドドリアの後ろ...正確には、ラディッツ達の目の前に横は入りする形で腕を組む男。

 

 

「久しぶりだな、ドドリアさんよぉ?」

 

「貴様!?

ベジータ!」

 

 

またしても現れるエリート戦士。

階級的にも戦闘力でも上のドドリアに攻撃を仕掛け、少々ご満悦のようだ。

気をコントロールする技術を身につけ始めたせいか...ドドリアよりも気が小さい。

 

 

「ドラゴンボールがサウザーの野郎に奪われたのは想定してなかったがな。

奴もお前も含めて、1人ずつ始末することに代わりはない。」

 

「へっ、フリーザ様に楯突くとは本当に血迷ったようだな。

だがベジータ、そのスカウターを俺達に寄越せば命だけは助けるようにフリーザ様を説得してやる。」

 

 

ドドリアは右手を差し出す。

目当ては、ベジータが装着しているスカウター。

これがあれば、ドラゴンボールを持つナメック星人を簡単に見つけることが出来る。

残り二人になったフリーザ軍にとってしらみつぶしに探すのは容易ではないからだ。

更に言えば、ドラゴンボールを取り逃がしたドドリアの罪滅ぼしにもなりうる。

 

 

「そうか。

通信がないと思っていたが、スカウターが全て壊れてしまったようだな?」

 

「そうだ、だからそれさえ『 バキィッ!』な 何しやがる!!」

 

 

ベジータは憎たらしく笑う。

彼らにとっての頼みのスカウターを破壊した。

これでドドリア達の、ナメック星人を探す手間が何倍にもなった。

それを考えればベジータにとってはさぞかし気持ちのいいものだろう。

 

 

「ベジータ、お前!」

 

「貴様にスカウターは要らんだろう?

今すぐここで死ぬのだからな!」

 

 

あからさまに殺気をみなぎらせ、オーラを放出するベジータ。

ドドリアも応戦するかのようにオーラを放出する。

 

 

「無駄だドドリア!

貴様は俺には絶対勝てん!」

 

 

ドドリアは思い出した。

ベジータの戦闘力は、自分の戦闘力を上回っている。

ベジータもスカウターを失っているとは言え、その優位性に変わりはない。

下等なサルに、1人では勝てない。

...いや、そんなはずはない。

フリーザの側近であるドドリアにとって、それは有り得ない...あってはならないことだ。

 

 

「あ...あんな数値は有り得ない!

スカウターの故障だ!

てめぇなんぞに負けるわけがねぇんだ!!」

 

 

ベジータの言葉に逆上し、フルパワーでエネルギー弾を打ち続ける。

オレンジ色の閃光に彼は包まれていった。

不安を消し飛ばすかのように打ち続けるドドリア。

躍起になっていたが、いきなり片腕ずつ自由を奪われる。

手首を掴まれ、動けない両腕。

 

 

「後ろがガラ空きだったんでな。」

 

「ぐ...くそ!」

 

 

力をいれても、腕を捻ろうも、ビクともしない。

これで確信した。

あの戦闘力は正しかったこと。

...即ち、ドドリア1人ではベジータに勝てない事だ。

応援は期待出来ない。

フリーザは連れて来いと言った張本人、ザーボンはスカウターを失い現在の状況を知る由もない。

目の前の異星人3人はターゲットである為、ドドリアの為に動いてくれるはずもない。

万に一つ、ベジータに攻撃をしてくれようにも、1万以下の奴らに止めることは出来ない。

 

 

「クックック...あのドドリアさんもフリーザの元でだらけていてはこのザマか。

情けないもんだぜ。」

 

 

想像通りの展開に笑みを浮かべるベジータ。

この状況を打開するには、ドドリア自らが何かしらのアクションを起こさなければいけない。

助かるには...助かるには...

 

 

「さて、そろそろ地獄に落ちてもらおうか。」

 

「ま 待て!

お お前に教えてやる!

惑星ベジータの秘密を!」

 

「ふん、そんなデタラメで俺を騙そうってか?」

 

「違う!

惑星ベジータは隕石の衝突で消滅したんじゃねぇ!

...命を助けてくれるなら話してやる、お前も真実を知りたいだろ?」

 

 

ここからは現在通り、ベジータはドドリアを解放し話を聞くことに。

別の任務で、故郷である惑星ベジータの最後は「隕石の衝突による消滅」と聞かされていた。

...だが、真実は隠されていた。

惑星ベジータは隕石の衝突ではなく、フリーザ自身の破壊であること。

下僕として利用していたサイヤ人達が次第に力をつけ始め、反乱因子の恐れがあったために惑星ごと消したのだ。

故郷、仲間、そして肉親...全てはフリーザによる仕業だったのだ。

 

 

「...生き残ったのは王子のてめぇ。

仲間のナッパ、ラディッツ。

辺境の星へ飛ばされたてめぇの弟。

姿を消したターレスとパラガスとその息子。

そして地球に飛ばされた下級サイヤ人。

...そう俺は聞いた。

これが真実だ。」

 

「...」

 

 

ベジータは静かに下を向く。

それもそうだ。

大切なサイヤ人の仲間や肉親は単なる自然災害で失った訳でなく、フリーザによる殲滅によるもの。

これまで聞かされていた話とは根本的に違うのだ。

衝撃で言葉を失うのも無理はない。

 

 

「へへへ、そういう訳だ。

...今のうちにフリーザ様の所へ戻らせてもらうぜ...」

 

 

ドドリアはベジータに気づかれないように距離を取り始めた。

 

 

ビシッ!

 

 

地面に亀裂が走る。

それは一つだけでなく、時間差でいくつも。

ベジータを中心に広がっていく。

 

 

「ククク...星や仲間、ましてや親のことなどどうでもいい!

ただ、これまでそんな事も知らずにてめぇらフリーザ共にいいように使われていた自分にむかっ腹が立っているだけだ!!」

 

 

亀裂が入った地表が爆ぜるように砕け散る。

ショックによる沈黙ではなかった。

ただただ彼自身が、いいように利用されていた事に激怒しているのだ。

いよいよ収拾がつかなくなった。

真実を伝え、生きながらえれるかと思いきや、むしろ今すぐにでも殺されそうだ。

 

 

「ひ...ひぃ!!」

 

 

ドドリアは背を向け逃げ出す。

目の前の驚異から遠くへ。

 

 

「ハァッ!!」

 

 

そんな事お構い無しに、フルパワーエネルギー波を放つベジータ。

逃れる術もなく、断末魔を上げてドドリアは消え去った。

そして、目標(ターゲット)は地球人達へと移る。

 

 

「さてと、次は貴様らだ。

スカウターではチンケな戦闘力だが、俺の目はごまかされんぞ!」

 

「クリリン、あれやれ、あれ!」

 

 

ラディッツにあれ(・・)と言われて、即座に理解する。

だがそれで黙っているベジータではない。

「させんぞ!」と言わんばかりに連続エネルギー弾を放つ。

 

 

「太陽拳!」

 

「イージス!」

 

 

太陽拳による眩い閃光。

ベジータは一瞬にして視界を奪われた。

対するクリリンは、エネルギー弾の影響を全く受けていない。

ラディッツによる気のバリアーによりノーダメージでやり過ごすことが出来たからだ。

だがそれでうかうかしていられない。

ベジータはただ視力を一時的に失っているだけなのだからだ。

 

 

「クリリン、悟飯!

デンデを連れて戻るぞ!」

 

 

弾かれたように悟飯は動き出す。

クリリンも続いてブルマの元へ飛び出した。

視力は失おうとも、気を探れるベジータは両目を抑えてその方向へと動き出す。

 

 

「クソ...あのハゲめ!」

 

「悪いなベジータ、ちょっと吹っ飛んでもらうぞ?」

 

 

ラディッツはベジータを蹴り飛ばす。

遥かに遠くの湖へと飛ばされ、湖底に埋もれる。

 

 

(クソッタレ!

逃がさんぞ!)

 

 

すぐさま湖から飛び上がり、周囲をまんべんなく見渡す。

彼らのエネルギー反応は無い。

 

 

(奴らめ...そんな遠くまで行けるはずがない!

炙り出してやる!)

 

 

エネルギー弾を乱射し、至るところの地面を吹っ飛ばす。

すぐさま慌てて出てくるかと思いきや、姿が見えない。

それどころか、遮蔽物を増やしてしまう。

今度は目を凝らして周りを見渡すも、動きは無い。

 

 

「チッ...」

 

 

その瞬間、ほんの僅かに生体エネルギーを感じ取った。

どうやら彼らの中に、うまく戦闘力を隠せてない者がいたようだ。

 

 

「クックック...そこにいやがったか。」

 

 

湖の中心にある小さな島。

ちょうどベジータからは影になっていたところだった。

じわりじわりと近づく。

島影に回り込もうとした時だ。

 

 

「ギョー!」

 

 

湖面より巨大な魚が跳ねる。

そして湖に消えていった。

 

 

「チッ...まぁいい。

楽しみはあとにとっておく。

まずはドラゴンボールが先だ!」

 

 

新たな情報も得て、ベジータは別方向へと飛び去っていった。

それを確認した地球人とナメック星人の子供は胸をなで下ろす。

 

 

「な、あいつは気を読めるけど完璧じゃないだろ?」

 

「え、えぇ。

みたいですね。」

 

 

岩陰から全員姿を現した。

...と言っても、ベジータが睨んだ島影の岩場ではなく、見当違いの陸地の岩陰だったのだが...

 

 

「とりあえず、ブルマさんとこ戻りましょ。」

 

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

 

「そなた...何者だ?」

 

「死にたくなかったら、ドラゴンボールを出しやがれ。」

 

 

ベジータは、先の所から直接別のナメック星人の集落へと来ていた。

スカウターを使っていた時は頼り切りだったが、気を感じ取る能力を得れば容易く位置を感じることが出来る。

約20人程のナメック星人がベジータを取り囲むが、彼にとってはまるで意味をなさない。

 

 

「悪いが、そなたには渡せぬ。

これはそんな簡単「なら死ね!!」

 

 

ベジータから放たれるエネルギー弾。

威力は大したものではないものの、1人のナメック星人を葬るのに充分な威力である。

その集落の長、ツーノ長老は息絶えた。

それを機に、次々と報復するナメック星人達だが、全て返り討ちにあい全滅する。

フリーザとは違い、老人や子供も簡単に殺すベジータ。

命乞いや、全くの情すらない彼は非情とも言える。

だがドラゴンボールを手にするにあたり、ナメック星人からほかの村の所存を聞く手段が不必要な為、彼にとっては邪魔者を消す程度としか考えていないようだ。

 

 

「ふっふっふ...」

 

 

始末し終えた後、ついに見つける。

赤い星が4つある願い玉を。

丁寧に祀られていたようだが、さっと取り上げ湖に投げ捨てた。

 

 

「コイツでフリーザの野郎は願いを叶えることは出来なくなった。

後はうまく奴らから強奪。

サウザーも出し抜きさえすれば、晴れて俺様は不老不死の体を手に入れる事が出来る!」

 

 

ベジータは残るナメック星人を探すために、また空へと飛び立っていく。

 

 

いよいよナメック星人の数は少なくなってきた。

スカウターを失い、部下の大半を失ったフリーザ軍。

次第に存在感を表していく少数精鋭のクウラ、クウラ機甲戦隊。

暗躍し、自らの野望を叶えんとするベジータ。

彼らの野望を全てを阻止し、仲間を生き返らせる為に尽力する地球人達。

 

原作以上に混沌とし始めたナメック星。

残るドラゴンボールはそう多くはない...



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敵を裏切るなら、まずは味方になってから?

---ドラゴンボール情報---
フリーザ軍2個
クウラ軍1個
ベジータ1個 (湖)
最長老1個
ナメック星人2個
地球人0個

誤字脱字修正済み R2 1/13


「遅い...」

 

 

ザーボンはポツリとつぶやく。

いくら待っても、ドドリアが帰ってこない。

フリーザの側近であるが故に、そう易々とやられる彼ではない事はわかっている。

だから、あの3人を簡単に捕まえてくるだろうと思っていたが、予想が外れてフリーザの額には徐々に苛立ちが見え隠れし始めた。

ほんの少しだけいい話といえば、全滅したかに見えたフリーザ軍にアプールと言う兵士がまだ生きていたことか。

ただそれは、フリーザを満足させる程の知らせではない。

 

 

 

「仕方ありませんね。

ザーボンさん、アプールさん、残りのドラゴンボールを探してください。

えぇ、スカウターがない以上しらみつぶしに探す他ないでしょう?

私は艦に戻り、ギニュー特戦隊と予備のスカウターを持ってきてもらいます。」

 

「ギニュー特戦隊!?」

 

「そんな、ギニュー特戦隊がいなくとも「あなたはそのギニューさんたちが来る前までに、ドラゴンボールを集めれば問題ないでしょう?

それと、私なら何か言う前に行動を起こしますがねぇ...?」

 

 

アプールとザーボンは血相を変えて飛び立っていく。

残されたフリーザは、ドラゴンボールを浮かせて母艦へと戻っていく。

 

 

(妙ですね...ザーボンさんの言う通り、何故ギニュー特戦隊を呼ぼうと思ったのでしょう?

この私が、何かに怯えているのでしょうか?

ベジータ?

...いや違う、あの3人?

それも違う...胸騒ぎがしますね...やはり万全を期してギニュー特戦隊を呼ぶのが得策でしょう。

よくわかりませんが、フリーザ軍の総力を上げてドラゴンボールを集めなければいけない気がする...

...ふむ、実に不愉快ですね。)

 

 

滅多にこんな思いにふけることは無いフリーザにとって、それはストレス以外の何ものでもない。

不安要素は全て排除する。

だからこそ、フリーザ軍最高部隊のギニュー特戦隊の召喚なのだ。

だが、ヤードラット星に進撃予定の彼らを呼び出したところで到着までにいくらか日数が掛かる。

そうこうしているうちに、母艦へとたどり着くフリーザ。

 

 

「...私は待つのが嫌いなんですよね。」

 

 

ドラゴンボールを眺めながら、それでも待つことにする。

 

 

 

---ナメック星 洞窟内---

 

 

「ほんっとにあんた達は使えないわね!

こんなレディを放置してドラゴンボールを一つも手に入れてないってどうゆうことよ!!」

 

 

洞窟内の壁から、塵が舞い落ちる程の怒鳴り声を上げるブルマ。

あまりの迫力に、デンデを含めて男どもは耳を抑えて目を閉じる。

 

 

「そんな事言ったって、クウラ機甲戦「クーラだかコーラだか知らないけど、大の大人が二人もいて何してんのよ!」

 

「ブルマさん、ナメック星の子供を助けれただけでもいいじゃ「ドラゴンボールを集めるために来たんでしょ!?

子供は助けるのは当たり前だし考えが甘いのよ!」

 

 

言い訳するラディッツ、フォローに入ったクリリン。

どちらも言葉によりコテンパンにされる。

この会話に悟飯が口を挟まなかったのは正解だ。

デンデに至っては、部屋の隅まで避難している。

 

 

「デンデ、このお姉さんは怒ると怖いだけだから大丈夫だよ。」

 

「ちょっと!

怒っても怖くないわよ!」

 

「な...何故僕の名前を...?

どうしてドラゴンボールのことを知っているのですか?

あなた達が、このナメック星に来た理由は?」

 

 

子供...とは言え、彼は後に地球の神を務める逸材。

知性に優れたナメック星人でもあり、この星の生き残った被害者である。

彼には、全てを知る権利がある。

 

 

「...よし、一つずつ話そう。

まずは、君の名前からかな?

...」

 

 

ラディッツが話し始めた。

ただ、馬鹿正直に『元から知ってた』とは言えない。

ムーリ長老が、叫んでいたと言うことにした。

事実、デンデとカルゴを逃がす時に叫んでいたので辻褄は合った。

次にドラゴンボール。

昔の異常気象の時に生き残ったナメック星人が、漂流先の地球で同じものを作ったと告げると、理解したようだった。

それと、ナメック星へ来た理由。

先ほど姿を現したベジータにより、仲間が殺された。

その仲間を生き返らせる為に、説得しに来たところにちょうどフリーザ軍が...

最後に、そのフリーザ達の不老不死と言う野望を伝える。

 

 

「...だから俺達は、ドラゴンボールを奴らに渡さない為に集める。

その為に、力を貸してくれないか?

デンデも手伝ってくれれば、絶対に奴らにドラゴンボールを渡すのを阻止してみせる。」

 

「...そういうことでしたか。

でしたら、僕からもお願いします!

ナメック星を救ってください!

最長老様も、この事を話せば力になってくれるはずです!」

 

「「「最長老様?」」」

 

 

ラディッツ以外は首を傾げる。

最長老とは、その異常気象の時の最後の生き残ったナメック星人。

デンデを始め、このナメック星に存在するナメック星人の生みの親である。

ちなみに、デンデは最長老様の108番目の子である。

そして最長老の所には、ドラゴンボールが1つある。

 

 

「その最長老様の所は!?」

 

「ここからかなり遠いです。」

 

「よし、ならクリリン。

デンデを連れて最長老様のところへ行ってきてくれないか?

俺は他のナメック星人からドラゴンボールを預かってくる。」

 

「わかった、気をつけてな。」

 

「それと悟飯は、ここに残ってくれ。

ブルマを護らなきゃいけないしな。

その代わりに、トレーニングルームで修行しててくれ。

だがもし何かあれば考えて動いてもいいぞ?

機会があれば積極的に行動するのも充分ありだ、状況を見て動いてくれ。」

 

「はい!」

 

 

それぞれが自らの出来ることの為に動き出す。

クリリンと悟飯はほぼ原作通り。

ラディッツは広範囲に気を探り、その1箇所に動き出す。

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

 

「ツンナ長老!

チンナ長老!」

 

「うむ...」

 

「やはり来たか。」

 

 

別の集落でも、やはり悪党が出没していた。

比較的若い双子の長老、ツンナ長老とチンナ長老の目前には、2人の異星人が近づいていた。

この集落は元々一つではない。

二つの村が危機を感じて集まり、一つになっていた。

皆猛者ばかりであると信じている。

その上、数は30人近く。

ある程度の者なら跳ね返せると確信していた。

だからこそ、目の前に来るまであえて何もしなかった。

 

 

「...ヌシらは何者じゃ?」

 

「俺はドーレ!」

 

「俺はネイズ!」

 

「「クウラ機甲戦隊!」」

 

 

二人でのポージングだが、ナメック星人達は静まり返る。

彼らを見るに、悪意を秘めたとても個性的(・・・)な自己紹介をする者達にしか見えない。

 

 

「オレ達は、ドラゴンボールを取りに来た。」

 

「クウラ様の為だ、ありがたく渡せ。」

 

「...断る。

ワシらは、ヌシらのような悪に満ちた者達にドラゴンボールは渡さん!」

 

「皆掛かれ!」

 

ツンナ長老が言い放つと同時に、村の者達が一斉に飛び掛る。

ムーリ長老にツーノ長老もやられた。

戦闘は好まない彼らも、味方が次々と殺され、戦わざるを得なかった。

やられる前にナメック星人達は襲い掛かる。

 

 

「シャッ!

じゃぁやるしかねぇな!」

 

「全員あの世に送ってやる!」

 

 

ネイズは両腕を伸ばし、手当り次第にナメック星人を掴み投げる。

ドーレは1人ずつ、格闘技で命を刈り取っていった。

猛者たちがいた集落は、あっという間に全滅。

ツンナ長老やチンナ長老も必死に立ち向かったが、ネイズの電撃によって黒焦げとなり、ドーレのツームストンパイルドライバーにより、脳天をぶちまける最期となった。

 

 

「ナメック星人ってのは、こんなにも弱っちいのか?」

 

「ボヤくなドーレ、ドラゴンボールを探すぞ。」

 

 

ドーム状の家を一つずつ破壊していき、ドラゴンボールを探す二人。

そんな2人のスカウターが、戦闘力を察知して警告音を鳴らす。

ドラゴンボールを探すのを一度止め、その方向を注視する。

敵か? 味方か?

そんな彼らの前に降り立つ男。

 

 

「お二人は...クウラ機甲戦隊の方たちですか?」

 

 

ナメック星人ではない。

スカウターはつけているが、フリーザ軍やクウラ機甲戦隊のような戦闘ジャケットはつけていない。

 

 

「お前は誰だ?」

 

「フリーザ軍のサイヤ人で、ラディッツっていいます。

ちょっと色々ありまして...クウラ機甲戦隊の方達のドラゴンボール探しを手伝おうと思って来ました。」

 

 

 

クウラ機甲戦隊でも聞いたことがある。

フリーザ軍のサイヤ人部隊。

王子 ベジータを筆頭に3人で構成された隊であると。

恐らくその中の1人だろうと、ネイズは考えた。

 

 

「そうか、クウラ様も喜ばれるだろ!

手伝ってく「待てドーレ。

コイツはフリーザ様の所のサイヤ人だぞ?

お前、まさかドラゴンボールを奪うつもりじゃないだろうな?」

 

 

ネイズはラディッツに細い目をして疑う。

情報によれば、フリーザ軍から謀反を起こしたのはベジータと聞いている。

目の前の猿が、ベジータ側についている可能性は高い。

そうなれば、味方のふりをして強奪しようとして接触してきたとしか思えないからだ。

 

 

「ははは、強奪しようもんならもう少し上手くやりますよ。

しかも戦闘力ではあなた達には敵いませんし。

何ならスカウターで見てくださいよ。」

 

 

ラディッツが言うのも一理ある。

強奪するならもっと手段はあったはず。

先ほどのナメック星人と戦っている隙にとか、油断している時とかあったはずだ。

なのに彼は、普通に声を掛けてきた。

戦闘力が余程あるのかと思いきや、せいぜい10,000程度。

サイヤ人の中ならかなりの強さだが、この戦闘力ではクウラ機甲戦隊...それどころか、フリーザ軍所属のおちゃらけ軍団にも遠く及ばない。

 

 

「...なるほどな。

わかった、何故協力する気になったのかわからんが手伝え。」

 

「はい、喜んで!」

 

 

疑いは晴れ、ラディッツも民家を物色し始めた。

案外手こずるかと思ったが、三つ目の家を物色したところでドラゴンボール2つとも出てきた。

 

 

「ありました!」

 

「でかしたぞラディッツ!」

 

 

ラディッツはすんなり、ネイズとドーレにドラゴンボールを渡す。

やはりネイズの心配は、考えすぎによるものだったみたいだ。

ドラゴンボールが手に入り、ドーレとネイズは意気揚々だ。

そんな時に、ラディッツが声をかける。

 

 

「あ、あの、失礼かと思いますが...ドラゴンボール探しを手伝ったお礼が欲しいんです。」

 

「お礼?

...言うだけ言ってみな。

全て叶えれるわけじゃないがな。」

 

 

だがネイズはこの男を始末するつもりだった。

所詮はサイヤ人...下等生物にドラゴンボール探しを手伝ってもらった等とクウラに報告でもすればどうなることか...

この猿は使えた。

それだけだった。

そしてその猿が、一度ニカッと笑った。

 

 

「お願いが二つありまして...スカウターとドラゴンボールを下さい!」

 

 

同時に、2人の顔に風圧が走り、ネイズの手には浮遊感を感じた。

瞬間的にスカウターとドラゴンボールは、ラディッツの手中に収まる。

 

 

「な!

いつの間に!」

 

「おい、冗談はやめてさっさと返しな。」

 

「わかりましたよ。」

 

 

 

ラディッツは、スカウターを二人の足元へ思いきり投げつける。

当然スカウターは、火花を散らして壊れてしまう。

それと同時に、ラディッツはクウラ機甲戦隊を敵に回した。

 

 

「ほぅ?

猿野郎が俺達クウラ機甲戦隊に喧嘩を売るとはいい度胸だ。」

 

 

ラディッツは静かにドラゴンボールを足元に置く。

 

 

「喧嘩ですか?

いえいえ、戦闘力10,000程度じゃ勝ち目がないんで...太陽拳!!」

 

 

 

途端に辺りは閃光に包まれる。

光源をまともに直視してしまった2人は、まぶたを抑えてうずくまる。

失明こそしてはいないものの、目に刺さるような痛みが走り、視覚が麻痺してしまう。

スカウターを失った為に、2人は完全に目の前の敵を見失ってしまった。

 

 

「うわぁっ...クソ!」

 

「どこだ、どこ行った!?」

 

「喰らえぇ!」

 

 

ラディッツは、のたうち回る二人にめがけて気弾を浴びせる。

だが10,000程に抑えた状態での攻撃の為、地面の塵を巻き上げた程度しかなかった。

逆に、ラディッツに対しての怒りを助長する。

 

 

「そ...そこにいろよ?

目が見えるようになったらぶち殺してやる!」

 

「攻撃が効かない!?

クソ、フリーザ様!」

 

 

ラディッツはドラゴンボールを回収し、文字通り全力で逃げる。

ネイズとドーレの視力が回復した時には、ナメック星人の死体と瓦礫と、壊れたスカウターしか残っていなかった。

フラストレーションを発散するかのように、瓦礫を片っ端に破壊するドーレ。

 

 

「あの猿野郎っ!

一瞬でも油断した俺が馬鹿だったぜ!」

 

「ドラゴンボールを取られた上に、スカウターまで失った。

クウラ様になんて言ったら...そうか、フリーザ様の事を報告すれば...」

 

 

ラディッツが去り際に発した言葉。

あれは間違いなく、彼がまだフリーザ軍に所属していなければ漏らすことはないだろう。

ベジータは謀反を起こしたが、ラディッツはフリーザ軍へ残りドラゴンボール集めを行っている。

そして何よりも、戦闘服こそ違うもののフリーザ軍のスカウターを装着していた事が何よりの証拠だ。

 

 

「ドーレ、今すぐこの事をクウラ様に報告しよう!」

 

「おう!」

 

 

2人は、元来た方向へと飛び立つ。

だがこれは、ラディッツの計算通りだった。

 

 

(これであとはサウザーのスカウターさえ壊せばいいな。

それと、俺がまだ10,000程度の戦闘力だと思わせれるし、「フリーザ様!」とでも言っとけば兄弟で潰し合ってくれるかもしれん...

悟空の超サイヤ人化は今じゃなくていいし、地球に帰ってトレーニングさえすればいくらでも戦闘力は上げられるしな。

悟空が宇宙船で来た瞬間、それで帰ればいいんだから問題ない。)

 

 

しかし、ここで重要なことに気づく。

悟空が宇宙船で蜻蛉返りするなら、彼らの命は保証されるかもしれない。

だがピッコロを始め、ベジータに殺された者達は生き返らせることは出来ない。

最長老も殺されれば、もうこの世にドラゴンボールは無い。

 

 

(あ〜!!

どうもうまくいかねぇ!

...やっぱりフリーザとの直接対決に悟空をうまくセッティングするしかないのか?

今の俺ならフリーザはなんとかなりそうだけど、クウラはどうにもならん。

あぁ...兄弟喧嘩でも起きてくんないかなぁ。

そうか、フリーザとクウラを上手いことぶつけさせて、その間に願いを叶えてずらかるって作戦でいくか!)

 

 

そんなラディッツの前に、いくつかの気を確認する。

その複数の気は5つ。

2つはクリリンとブルマ、その近くに2つ。

ベジータとザーボン、どうやらこの2人は戦っているらしい。

ザーボンの気が減少していくのが感じられる。

最後の1つは急速に離れていく。

悟飯の気だ。

 

 

(...って事は、ベジータはここでザーボンを倒し、悟飯がその隙にドラゴンボールを湖から持ってくるってところだったな。)

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

 

「俺も...フリーザは...嫌いなんだ...

俺とおま...が組めば奴など「失せろ。」

 

 

ラディッツの言う通り、ベジータとザーボンは戦っていた。

だが、その戦いも原作通りにベジータの圧勝で幕を閉じる。

フラグである連続フルパワーエネルギー弾は、圧倒的な強さによりベジータの味方となったのだ。

 

 

「さてと、次は貴様か?」

 

 

今のベジータは誰にも止められない。

...と思っているのは本人のみで、クリリンはもはや原作以上の強さにより眼前のサイヤ人を蹴散らす戦闘力を秘めている。

自惚れとザーボンを倒した自信で、クリリンが気を抑えていることに気がつくはずもなかった。

 

 

「ククク...大人しくそいつを渡せ。

今すぐ死にたいのか?」

 

「こ、これは渡せるもんか!」

 

 

「そうか。」と言わんばかりにベジータは攻撃を仕掛ける。

身を低くして接近し、そのままアッパー気味に拳を振り上げる。

その強烈な一撃を、クリリンは顎を掠めるように避ける。

偶然などでは無い、見切って避けたのだ。

 

 

「ほぅ、地球の時より運が強くなったようだな?」

 

 

それもその通り。

原作では有り得なかった超重力修行と、最長老による潜在能力引き出しにより、今まさに地球人最強となったのだ。

 

 

「運だけじゃない、俺自身だって強くなったんだ。

悟空やラディッツだけに、これ以上負担をかけさせるもんか!」

 

 

クリリンが仕掛ける直前、彼の気を感じた。

ベジータも同様に、背後を振り向く。

 

 

「チッ、来やがったか。」

 

「酷ぇ言い方だな、もう少し優しい言い方あるでしょうよ。」

 

 

ラディッツが着地する。

ベジータにとってはまさに圧倒的不利。

しかも彼の手には...

 

 

「ドラゴンボールだと!?」

 

「やるじゃないかラディッツ!

どこにあったんだよ!?」

 

「クウラ機甲戦隊に襲われた村に2つあった。

ナメック星人は助けられなかったけどね...。

...というわけでベジータ、俺達と組まないか?」

 

 

突如として提案された共闘案。

クリリンとブルマは露骨に嫌な顔をする。

無論ベジータも似たような表情だ。

むしろ顔に絶対反対と書いてある。

 

 

「俺達の敵はフリーザとクウラ。

そしてこの星にいるみんなはドラゴンボールを集めるために動いている。

フリーザにはギニュー特戦隊、クウラにはクウラ機甲戦隊。

あいつらを敵にするのは難しいが、互いを戦わせて戦力を削ったところに殴り込めばいけるだろ?

しかもそこで騒ぎを大きくすれば、あいつらのドラゴンボールをかっさらうチャンスもある。

しかもこっちには、ドラゴンレーダーがある。

ドラゴンボールを探知する機械だ。

どうだ?

と言うか、むしろベジータの助けがないと難しいから組んでくれないか?

お願いします!」

 

 

利害の一致...今のベジータと地球人達には、フリーザとクウラは共通の敵。

いくらベジータが超サイヤ人に近づこうとも、敵が2人もいては敵わない。

残るドラゴンボールはあと一つ。

...それにドラゴンレーダーと呼ばれる機械まで持っている。

この話が本当ならば、なかなか好条件である。

 

 

(最後のドラゴンボールを集めるチャンスか...コイツらならフリーザやクウラより奪いやすい。

コイツを利用しない手はない!)

 

 

「そこまで言うなら協力してやろう。

ただし、妙な動きをした瞬間皆殺しにしてやるからな。」

 

「交渉成立。」

 

 

ラディッツが手を差し出す。

だがベジータは「馴れ合うつもりは無い。」と拒む。

肩を落とすラディッツに、クリリンとブルマが詰め寄った。

 

 

「正気かお前!?

ベジータと手を組んだらドラゴンボールを奪われるぞ!」

 

「あんた、まさかサイヤ人に寝返るつもりじゃないでしょうね!!」

 

「とんでもない!

ベジータは...あぁ見えて根はイイヤツなんだ。

ブルマ、お前ならそのうちわかるさ。

それとクリリン、お前本気出せばあいつ倒せるじゃないか。

いざとなったらボコボコにすればいいのさ。」

 

 

クリリンはすぐに納得したが、やはりブルマは納得しないようで吠えまくる。

そうこうしているうちに、姿が見えなかった悟飯が帰ってきた。

 

 

「この気はやっぱりベジータ!」

 

「悟飯、大丈夫だ。

カクカクシカジカで味方になった。」

 

「説明になってないじゃないか。

実はな...」

 

 

クリリンから説明を受けて、悟飯も少し納得したようだ。

だけどやはり地球での戦いもあって、すぐには関わろうともしないだろう。

 

 

「?

おいガキ、手に持っているそれはなんだ?」

 

「!?

こ これは時計だ。」

 

「ククク、俺に嘘は通じん。

それがドラゴンレーダーというものだろう?」

 

 

悟飯は「どうしてそれを!?」という顔をするが、ラディッツがレーダーの件も話すと疑問は解決した。

...だが少しベジータが拗ねたように舌打ちをしてそっぽを向く。

だが、例の湖から持ってきた事を話すと猛烈な勢いで詰め寄った。

 

 

「貴様、謀ったな!!」

 

「て 手間が省けたからいいだろ?

お前だってずぶ濡れになりたくないだろうし...

は...ははは!」

 

 

小一時間ベジータをなだめ、彼らはフリーザから奪ったドラゴンボールも1箇所に集める。

ここに集まるドラゴンボールは、遂に6つ。

残るはクウラの元にあるドラゴンボールだけとなった。

地球人達の願い、ベジータの野望が叶うまであと少しとなったのだ。

 

 

「さてと、ブルマ。

悟空はこっちに向かってるのか?」

 

「よくわかったわね...あと5日もすれば着くそうよ?

しかも、あんた達みたいに物凄い修行をしながらですって!」

 

 

この話に、クリリンも悟飯も一瞬で明るくなった。

ラディッツだけでもかなり心強い上に、悟空が来るのだ。

対するベジータは、あの忌々しいカカロットが来るということで少しイラついているようだ。

 

 

「まぁそんなイラつくなよ。

ベジータ、超サイヤ人に近づくために最長老様のところへ行こう。」

 

「超サイヤ人!?

貴様、何か知っているのか!?」

 

 

超サイヤ人という単語に、これでもかと言うほど食いついてきた。

そんな彼に色々と教えてあげることにした。

超サイヤ人は1000年に1度現れるという伝説のサイヤ人。

逆立つ髪は金色に輝き、瞳は緑色に変わり、好戦的な性格になる。

そんな超サイヤ人になる条件は、ある程度の強さと強い怒りだと言う事も。

 

 

「なるほど、この俺様も怒りさえすれば超サイヤ人になれるのか。」

 

「残念だが、お前はまだある程度の強さすらないぞ?」

 

 

 

間違いなく、ベジータが超サイヤ人となるには強さが足りない。

そんな事実を、ベジータは鼻であしらう。

 

 

「下級戦士如きが何を言っている。

なれるとすれば俺様しかいない!」

 

「じゃぁベジータ、俺の潜在能力を読み取ってみな?」

 

 

スカウターでは1万程の戦闘力...だが内なる力はベジータをも震撼させる程のものだった。

あまりにかけ離れた力に、ベジータは2.3歩下がる。

 

 

「き...貴様...超サイヤ人なのか!?」

 

「とんでもない。

力は充分なんだけど怒りがね…。

だから超サイヤ人になれてないんだよ。」

 

「そうか...そうか、フハハハ!

やはり貴様ではなれんのだ、超サイヤ人に!」

 

 

超サイヤ人になれさえすればベジータにも充分な勝機を得られる。

それを確かめ少し安心したようだ。

だが今のままではラディッツにも勝てない事を悟る。

 

 

(クソッタレ...必ずなってやるぞ...超サイヤ人に!!)

 

「なぁラディッツ、お前と悟飯も最長老様に潜在能力を開放してもらったらどうだ?

悟空が来るまでに少しでも強くなっていたほうがいいだろ?」

 

 

悟空が来るまで少なくとも5日...その間に何か来てもある程度戦えるようにしなければならない。

身を守るための精進なら惜しまない。

 

 

「確かに...んじゃみんなで行くか?

ブルマさん、留守番よろしく。」

 

「ふざけないでよ!

なんで私1人だ「ベジータ、お前も来いよ?

さらに強くなれるぜ?」

 

「...貴様らと行動は共にしたくないが、強くなるなら仕方なく行ってやる。」

 

 

相変わらずのツンデレっぷりを早速披露する王子。

わめくブルマを放置し、一同は最長老様の元へ向かい始めた。

 

 

「ラディッツ、ブルマさんに後で殺されても知らねぇぞ?」

 

「...なんとかなるでしょ?

最悪、土下座でも...ってそれでも許してくれなさそうだな...」

 

 

不安要素は増えるばかりである...

 

 

---ナメック星 上空---

 

 

「ほぅ、下等な猿が?」

 

「...はっ、申し訳ございません。」

 

 

クウラ機甲戦隊一同は膝をついていた。

最早死ねと言われてもおかしくない。

だが、手元にはドラゴンボールが一つ。

 

 

「...頭を上げろ。

ドラゴンボールがここにある以上、おびき寄せるいい機会だろう。

来るものはドラゴンボールを持つ者。

気長に待てばいいのだ。

それと、ある無線を傍受した。」

 

 

クウラはおもむろに機械を操作する。

そして部屋の中に馴染みの声の音声が再生された。

 

 

『お呼びでしょうか、フリーザ様?』

 

『えぇギニューさん、ヤードラット星に行く準備中のところですがすぐにナメック星へと来ていただきたいのです。

それと、私のスカウターが壊されてしまいましてね、予備のスカウターも持ってきてください。』

 

『はっ、少々お待ちください!

...おいみんな、ナメック星に予定変更だ!

すぐに用...バータ、俺の分のケーキも残しておけよ!

...わかりました、すぐに向かいます!!』

 

『......頼みますよ?』

 

 

フリーザの困惑気味な声色を最後に途絶える。

どうやら、フリーザ軍の一番部隊であるギニュー特戦隊がこの星に来るということである。

特戦隊が来るということは、フリーザ自身が隠していた戦力をも使わなければならないほど追い詰められている事態なのだ。

 

 

「フリーザの奴は本気でドラゴンボールを集めようとしている。

お前達は奴らを蹴散らしてドラゴンボールの情報を手に入れろ。

そして必ず全てを揃えるのだ。

...ならば今度の事、帳消しにする。」

 

「「「ありがとうございます!」」」

 

 

(フリーザの尻拭いは心底面倒だが、あの猿が発端なら始末せねばならない。

奴らは根絶やしだ。)

 

 

こうしてナメック星に、少しばかり平穏な日々が訪れる。

いや、嵐の前の静けさと言うのが適切だろう。

その嘘のような静けさの中で5日が経った...



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主役は遅れてやってくる!

---ドラゴンボール情報---

クウラ 1個
フリーザ軍 0個
ベジータ・地球人チーム 6個

誤字修正済み R2.9/17


「ここが最長老様のところですか?」

 

 

皆はようやく目的地へとたどり着く。

もちろん、クリリン以外の者達の潜在能力開放が目的だ。

そしてベジータにとっては、伝説の超サイヤ人になる為のステップとしてだ。

地面に降りたつ前に、最長老宅から2人出てきた。

ネイルとデンデである。

 

 

「デンデ、お前は下がっていろ。」

 

「ほぅ、まだ生き残りがいるとはな?」

 

 

ネイルは悪の気を放つベジータと、悪人顔のラディッツを敵視した。

ベジータもやる気満々である。

もしここで騒動を起こせば潜在能力開放はおろか、クウラやフリーザもやってくる。

大慌てでラディッツが制止に入る。

 

 

「バ バカ、超サイヤ人になれなくなるだろうが!

すいません、俺達悪者じゃないんです。」

 

「ネイルさん、ラディッツさんは悪い人っぽいですけどほんとにいい方ですよ!」

 

「デンデ...お前まで...」

 

 

デンデの説得や、ベジータがネイルより戦闘力が低い事もあり、事態は落ち着く。

ベジータは相変わらずであり、ラディッツはメンタル面を少しやられた。

ネイルは全員を最長老の元へ案内する。

最長老は未だ健在であった。

 

 

「皆さん、よく来られました。

歓迎せぬ者もおりますが、状況が状況だけに仕方ないでしょう...

私の寿命もあります...さぁ、近くに。」

 

 

ベジータ、悟飯がまず開放される。

にわかに信じ難かったが、効果はすぐにわかることとなる。

 

 

「うわ!?」

 

「なんだこれは!?

力が...溢れてきやがるぜ!!」

 

 

悟飯もベジータも、体を動かして自らの体の反応をみる。

 

 

「あなたがたの体に眠っていた力を、少し刺激しただけに過ぎません。

くれぐれも、正しき事に...

さぁ、次はあなた。」

 

 

ラディッツが最後に受ける。

最長老が頭に手を置くと、身体に変化が起きた。

ベジータ戦で切断された尻尾が生えてきたのである。

 

 

「うぉっ!?

尻尾が!」

 

(な、なんということだ!?)

 

 

仰天するラディッツの陰で、最長老も驚いていた。

だが突如として尻尾が出てきた事に驚いた訳では無い。

この男、ただの男ではないことが掌から伝わってくる...

これまでの戦歴、ここにいる理由、この世界に来た経緯...

 

 

(...ただ尻尾以外の変化は無いな。

潜在能力の開放...効果が表れない...)

 

「すまない、あなたの体は特別なようです。

潜在能力のキッカケは作りましたが、皆さんとは違い少し時間差が生じるようなのです。

この能力は、個人差がある為にこういう事もあります。」

 

 

ハイ出ました。

主人公の特殊例と言わんばかりの事情...とはいえ、ラディッツだけが戦闘力が上がらないという不利な事象である。

だが個人差と言われてしまえば何も言えなかった。

ともかく尻尾が戻ったので、戦闘のバリエーションが増えたと言う風にプラスに考える他なかった。

 

 

「いえいえ、尻尾が戻っただけで充分ですよ。

それに、みんな開放に成功したならばこの星にいる悪人達も退治できるかもしれません。」

 

「誠に申し訳ない。

だがいずれ必ず...」

 

 

その時、五つの飛翔体がナメック星に降り注いできた。

ベジータの表情がみるみる険しくなる。

あの忌々しい奴らだ。

 

 

「遂に呼び寄せやがったかフリーザの野郎。

ギニュー特戦隊を。」

 

 

 

---ナメック星 フリーザ母艦---

 

 

「リクーム!」

 

「バータ!」

 

「ジース!」

 

「グルド!」

 

「ギニュー!」

 

「「「「「ギニュー特戦隊!!」」」」」

 

 

 

ギニュー特戦隊登場。

フリーザの目の前で、渾身のファイティングポーズを決める5人。

彼の視線がほんの少しだけ冷ややかなのは、特戦隊一同には伝わらない。

同様に彼らの美学もフリーザには伝わらないようだ。

 

スカウターをフリーザに渡し、今回の任務を聞く。

ドラゴンボールの回収と、ベジータの生け捕り、若しくは殺害。

その邪魔をしたら、そいつも問答無用で排除して構わないという事だ。

 

 

 

「ギニュー特戦隊、行くぞ!!」

 

「「「「「ファイトッ、オー!!」」」」」

 

 

そしてスカウターが反応する方へ、ポージングを行った後に飛び出していく。

もちろん、全て大真面目に行っているのである。

フリーザは絶対の信頼を、特戦隊に寄せている。

 

 

(特戦隊の皆さん、あなた達なら問題無いと思っていますよ?

...ただあの、妙なご挨拶(ファイティングポーズ)だけはどうも私の趣味ではありませんがねぇ...

まぁ...私をイラつかせるほどではありませんからよろしいんですが。)

 

 

フリーザにとって、まだまだしばらくつきまといそうな問題であった。

 

 

(さてと、今しばらく待ちますか。

私の通話を盗み聞きする趣味の悪い兄さんを...

これが最期になるかもしれませんからねぇ。)

 

 

 

---ナメック星 上空---

 

 

「クウラ様、来ました。」

 

 

スカウターに表示される五つのエネルギー反応。

間違いなく、フリーザ軍の特戦隊の連中なのがわかる。

何故なら、その反応は大気圏外から接近しつつあり、エネルギー数値も彼らと同じ値を示しているからだ。

 

 

「間違いありません、あのおちゃらけ...ギニュー特戦隊の反応です。

いかがしま...更に反応が?

地上から反応がいくつか出てます!」

 

 

またしても反応するスカウター。

だが特戦隊以外に反応があるとすれば...?

恐らく、ベジータとラディッツか。

クウラとサウザーは、ほぼ同時に答えに辿り着く。

 

 

「もしや...?」

 

「だろうな。

サウザー、ネイズ、ドーレ。

下にいる下等生物を駆逐してからでも遅くはなかろう。

猿共を根絶やしにしてから迎撃しろ。

場合によっては、フリーザ自慢の特戦隊を消しても構わん。」

 

「「「はっ!」」」

 

 

(さてと...恐らく俺の存在は無線を盗聴した時にバレただろう。

久しぶりに弟の面でも見に行くか。

...これが最期になるかもしれんしな。)

 

 

機甲戦隊は即座に地上へと急降下していく。

最後のスカウターを頼りに、特戦隊をも上回る速さで迫る。

その驚異は、地上にいる狙われた者からも察知できた。

 

 

 

---ナメック星 最長老宅---

 

 

「な!?

なんだこの戦闘力は!?」

 

「3つ...クウラ機甲戦隊だな。」

 

「前にドラゴンボールを奪った奴らか。」

 

 

最長老の御前で戦いが始まろうとしている。

だがここで騒ぎを起こせば、最長老の身に何かあってもおかしくない。

それに、ドラゴンボールも奪われる可能性も出てくる。

 

 

「ラディッツさん、ドラゴンボールはどうしましょう?」

 

「6個あるからな...1人だと持ち運ぶとかになれば大変だしな...」

 

「だったら、誰かが残って奴らの気を引きつけ置けばよかろう。

貴様ならそれくらいの事できるだろう?」

 

 

ベジータの提案は、ラディッツを囮として使う作戦。

作戦が成功すればドラゴンボールを使うチャンスが減ることは無い。

だが失敗すればラディッツは消え、多少のリスクは増えるがベジータがドラゴンボールを使うチャンスが増える。

 

 

 

「んー...多分できる。

いや、いいんだクリリン。

場合によっては単独行動の方がいい時もあるからさ。

あと、ベジータが変な動きをしたら頼むぞ。」

 

 

 

何か言いたげなクリリンは察した。

ベジータが万が一暴走した時は自分達が抑えなければいけないことを。

 

 

「お待ちなさい。

デンデ、ネイル、彼らの力になりなさい。

私の命より、この星の命運を掛けて彼らを手助けするのです。」

 

「最長老様...。」

 

「...わかりました。

彼らと共に戦います。」

 

 

ナメック星人達を虐殺した張本人と手を組ませる...最長老にとっても辛い決断だったが、この後に及んでそうは言えなかった。

同じ心境だったネイルとデンデもそのことを察し、一礼をするとクリリンの元へ近づく。

それを合図にベジータは号令を掛ける。

 

 

「行くぞ。」

 

「ラディッツさん、気をつけて!」

 

「わかった。

みんな、頼むぞー。」

 

 

 

ベジータを筆頭に、あっという間に消えていく。

気を抑えているために、そこまでスピードは出ていないが、ここから離脱するには充分だ。

ラディッツはすかさず最長老宅に戻る。

 

 

「よろしかったのですか?」

 

「今から来る奴らなら、僕1人で充分ですよ。

僕は今からここから離れて戦います。

色々と、ありがとうございました!」

 

 

早口でそう告げると、ラディッツはあっという間に立ち去った。

残された1人のナメック星人に何も言う間も与えられずに。

 

 

「ネイル、デンデ。

彼を忘れるでないぞ?

彼は...異世界の選ばれし者だ。

...彼は、本来来るべきでは無き世界に飛ばされた男なのだ。

悲運であるが...彼の存在がこの世界を左右すると言ってもおかしくないだろう。

私の力...くれぐれも良き運命へ導くよう祈ろう。」

 

 

深々と座して、地平線よりも彼方を見つめる最長老。

 

 

.........

 

 

「さてと、作戦開始と行きますか。

まずはクウラ機甲戦隊を...ギニュー特戦隊にぶち当てるか。

ほっ!」

 

 

ラディッツが気を一定に上げる。

およそ10,000程の戦闘力。

彼の視線の遥かな先には...クウラ機甲戦隊がいる。

遥か上空...その影はみるみる近づき、目の前で止まった。

大方の予想通り、クウラ機甲戦隊の面々である。

もちろん、クウラ機甲戦隊特有のファイティングポーズを決めてから対峙する。

 

 

「やはり貴様か。

だが10,000程の戦闘力でドーレとネイズを出し抜いたそうじゃないか。

...それだけは褒めてやる。

だが、今度はこのサウザーもいるし、この2人も油断の欠片もない。

何か言い残すことはあるか?」

 

 

サウザーが話す間に、ネイズとドーレがラディッツへと近づいていく。

どう頑張っても、先程の返り討ちを企む彼らの射程距離から逃れられそうもない。

だがラディッツは涼しい顔だ。

 

 

「最期に言いたいことか。

俺の戦闘力は10,000なんてもんじゃないよ!!」

 

 

ネイズ、ドーレの足首に痛みが走り、景色が横転する。

気づくと二人は地面に倒れていた。

何が起きた?

 

 

「なんだ?」

 

「何が起きた...?」

 

 

ラディッツがニヤリと笑う。

よく見れば、ラディッツの立つ位置が少し近くなっている。

 

 

「俺の戦闘力はもう少し高いですよ?

今の足払いを受けてわかったでしょ?」

 

「そんな事はねぇ!

油断していただけだ!!」

 

「待てドーレ!」

 

 

サウザーの静止も間に合わず、ドーレは突進する。

先ほどのナメック星人の時とは違い、全力を出している。

こうなってしまっては、もうラディッツの命はないと確信したネイズ。

だがまたしても彼が消える。

 

 

「「「!?」」」

 

 

今度こそは、油断や見落としなどではない。

本当に消えたのだ。

 

 

「クソ、どこだ!?」

 

 

2人は周りを見渡す。

スカウターさえあればなんとかなったかもしれないが、やはり無いと索敵するのに手間がかかる。

 

 

「ドーレ!

前だ!」

 

 

ラディッツが現れた。

それもドーレの目の前に。

本人は別の方向を探していた為気づいてないのか、ネイズが声を掛けるまでまるで無防備だ。

だが声を掛けたところで間に合わない。

 

 

「ほっ!」

 

「ぐわぁ!!」

 

 

左胴へのミドルキック。

吹っ飛びはしなかったものの、10m程押しやられる。

ダメージは...呼吸をする度に左脇腹に激痛。

意表を突いたとは言え、ドーレの肋骨を折る威力...10,000と言う戦闘力の差からは考えられない。

 

 

(やはりか...コイツ、スカウターで検知出来ないスピードで戦闘力を操ることが出来る。

しかも、あのドーレに一撃であれほどのダメージを与えるとは...どう考えても10,000程度の戦闘力な訳が無い。)

 

「調子に乗るなぁ!」

 

 

次の瞬間、ネイズは左脚飛び膝蹴りをしていた。

ラディッツはそれを左腕で弾いてかわす。

着地前に右脚ハイキック...だがそれも左腕で弾く。

 

機甲戦隊の内で最も変則的な戦いを得意とするネイズの戦闘力は約16万。

そのネイズの攻撃を耐えていると言うことは、最低でも同等近くの戦闘力があるという事だ。

...この数値は、下級サイヤ人の戦闘力を大きく凌ぐ。

 

(だが何故だ!?

スカウターに察知されないように戦闘力を操る技術。

サイヤ人では到底辿り着けない高戦闘力。

そして、戦闘民族とは思えないほどの残虐性の無さ...奴は本当に何者だ!?

...とにかく、ここは連携して押し切るしかない。)

 

「ドーレ!

まだ動けるか!?」

 

「問題ねぇよ。」

 

「コイツはただの猿じゃない。

連携して始末す「待たせたな!!」...誰だ!?」

 

 

声のする方を睨みつけるサウザー。

ネイズも1度跳躍してドーレの横に戻る。

ラディッツも、聞き覚えのある声に反応する。

その声の主は、数々の戦場を掻い潜り、フェアな精神を持ち合わせ、遠くの者に信頼される戦士...。

 

 

「ギニュー特戦隊、推参!!」

 

 

5人でのファイティングポーズが見事に決まる。

もちろん、機甲戦隊にとっては非常に厄介な集団であることに間違いない。

ラディッツにとっては...

 

 

(あれが...あのギニュー特戦隊。

あれが...ファイティングポーズ。

だせぇけど...見れてよかったぁ!)

 

 

若干目がキラキラしてる様子から、悪い印象は無い模様。

 

 

「これはこれは、あのイケてないポージングの機甲戦隊の方々ではないか。」

 

「貴様らがこの星に何の用だ?」

 

「我々はフリーザ様の命によりドラゴンボールを探している。

貴様らには関係無いだろう。」

 

「それは見当違いだ。

俺達機甲戦隊も、クウラ様の命令でドラゴンボールを探している。

貴様らおちゃらけ軍団は引っ込んでいろ。」

 

 

 

ここでラディッツ以外は悟った。

クウラ機甲戦隊、ギニュー特戦隊はドラゴンボールを集めていて、既にいくつか手中に収めていると。

更には、相手は因縁付きである。

相手を倒してこそ、真の優秀なチームを照明でき、絶対な信頼を得ることが出来る。

そして、ラディッツの作戦が面白いようにはまった瞬間でもある。

 

 

「言ってくれるじゃないか...リクーム、グルド、ドーレを狙え!

ジース、バータ、お前達はネイズだ!

俺は隊長としてサウザーとやる!

勝ったら...惑星キャッツの喫茶アイ、アンビリーバブルをみんなで食うぞ!!」

 

「「「「うおおぉぉぉおおお!!」」」」

 

 

特選隊の士気が目に見えて爆増する。

まさに特選隊の専売特許の鼓舞である。

故にサウザーはその点を嫌う。

 

 

「ふざけた奴らだ。

落ち着いて戦えば負けるはずない奴らだ。

あいつらと遊んでやれ。

ネイズ、あの猿野郎も同時に逃がすなよ!

ドーレは手負いだからな、カバーリングしながら応戦するぞ。」

 

「おう!」

 

「シャァ!」

 

 

それぞれが、それぞれの敵へ目掛けて飛び出していく。

まず最初の一撃は。

 

 

「死ね!」

 

 

ドーレの右ストレートがグルドに迫る。

あまりの速さに絶叫する事も出来ず、あっさりと絶命した。

...かに見えた。

右腕は信じられないような手応えのなさと同時に、空を切る音がした。

 

 

「な!?」

 

「はぁ、はぁ、あぶねぇ。

空振りだデカブツめ。」

 

 

遠くの平地に仁王立ちするグルド。

小憎らしいドヤ顔の割には、額に汗が滲む。

ドーレはふと思い出す。

ギニュー特選隊には時間を止める奴がいると。

 

 

「こんなノロマなら俺1人でも片づけられるぜ!」

 

「クソ、あの野郎がその時間を止めるって奴か。

あいつは殺してや「相手はグルドちゃんだけじゃないんだぜ?」

 

 

後頭部に衝撃を受け、よろめくドーレ。

そう、ドーレの相手は1人ではない。

 

 

「ハーイ、ドーレちゃん。

このギニュー特戦隊 リクームが遊んであげるわ!!」

 

 

ファイティングポーズ混じりで降り立ったリクーム。

華やかな登場が決まり、ご満悦なようだ。

 

 

「ずるいぞリクーム!

俺だってファイティングポーズ決めたかったのに!」

 

「グルドは息が臭いからな、割愛させ「上等だテメェら...このドーレ様がぶっ殺してやる!」

 

 

ドーレは地面を踏み抜いて地表がボロボロになる。

よほどコケにされたのが頭にきたのか、額に血管は浮き出て殺気もみなぎらせている。

 

 

「グルドちゃん、あの野郎を倒すまでタッグを組もうじゃない?」

 

「しょうがねぇ、やってやるさ。」

 

 

即興デコボココンビがドーレとぶつかる。

 

 

------

 

 

 

「赤いマグマ、ジース!」

 

「青いハリケーン、バータ!」

 

 

一方、こちらは連携抜群の赤青コンビ。

2人の合体技もある故にチームワークは問題無いようだ。

迎え撃つは変則戦闘タイプのネイズ。

 

「ケッケッケ、隊長の劣化版と気色悪い青玉野郎か。

俺とやるには役不足にも程があるぜ!」

 

隊長の劣化版...それは双子星出身というなのを言っているだろう。

これに腹を立てたジースは殴り掛かろうとするが、バータが静止する。

 

 

「落ち着けジース、あいつのペースに飲まれるな。

戦闘力では負けているんだ、連携してやるぞ!」

 

「...わかった、行くぞバータ!」

 

 

赤い閃光と青い閃光が螺旋状に自らのところに向かって来るが、全く動じないネイズ。

 

 

「ケッケッケ...こんなの余裕だな。」

 

 

左右から同時に攻撃を受けるも、どちらも完璧に防ぐ。

1度驚いた2人だが、そのままラッシュ攻撃を仕掛ける。

攻撃の手数はネイズの二倍。

それでも涼しげにネイズは流しているように見える。

 

 

「何!?」

 

「ケッケッケ、そんなもんじゃフリーザ様の足手纏いにしかなっていないようだな!」

 

 

攻撃の僅かな間に逆さになり、2人同時に回し蹴り。

カポエイラを思わせる動きであるが、全くそのようなものでない。

2人は正反対に吹っ飛んでいくが、すぐに立て直して襲い掛かる。

 

 

「マッハアタック!」

 

「シャッ!」

 

 

宇宙一を誇るスピードで突撃するバータ。

だがその速さは完全に見切られ、カウンターをもらう結果となる。

 

 

「バータ!?」

 

「なんだと...宇宙一のスピードを誇る俺様が...」

 

 

バータの自信が揺らぐ。

ギニュー隊長からも、仲間からもそのスピードを認められた実力が通じないのだ。

 

 

「バータ、あれをやるぞ!」

 

 

ジースが飛び出していく。

どうやら彼には落ち込む時間は無さそうだ。

あれ(・・)と言われてすぐに気がつき、バータも続いて飛び出していく。

 

 

 

「ケッ、単細胞め。

俺様に勝てっこねぇ事を体に叩き込むしかねぇな!」

 

 

殴り掛かってくるジースを蹴り飛ばす。

間髪入れずに今度はバータを殴り飛ばす。

すると今度はジースが。

吹っ飛ばすがまたしてもバータが。

ジースが...バータが...攻撃の頻度が全く衰えない。

その小さな出来事に気づくのには時間が掛かった。

 

 

(さっきからちょこまかちょこまかと...うざったいな。

こんな攻撃で吹っ飛ぶ様じゃ俺様に...ん?

まさか...最初よりも攻撃の頻度が上がっている。

俺様の攻撃を反動にして、速さを得ている!?)

 

 

そうネイズが気づく頃には、2人の影は青と赤の閃光となっていた。

スカウターさえ有れば難なく捉えられる影も、文明の利器が無くなったその眼では輪郭すら拝む事も出来なかった。

次第に防戦になっていく戦況。

 

 

「これこそ俺達の必殺技、パープルコメットハリケーン!」

 

「必殺技って言うのは、必ず殺す技であってただ単に凄いものじゃないんだからな?」

 

「わざわざ説明しなくてもいい!」

 

 

高速で動き回りながら攻撃を仕掛けてくる2人に、ジリジリとダメージを受けるネイズ。

周りの景色が紫状になる中で、何かを見つけた。

とっさに足元の物を掴んで、フルパワーで投げる。

そんな隙を2人は逃さない。

 

 

「クラッシャーボール!」

 

「ブルーインパルス!」

 

 

全力投球後のノーガードのネイズに、赤い光玉と青い光線が吸い込まれるように命中する。

技の衝撃で砂煙は上がり、姿が確認出来なくなる。

 

 

「手応えはあったな。」

 

「...だがあの野郎の戦闘力は俺達より上だ。

どうなっているか...」

 

 

煙はゆっくりと晴れていく。

そこには、未だ健在のネイズがいた。

体の至る所で煙が燻っているところを見ると、やはりある程度のダメージは与えられたようだ。

そんな彼が叫んだ。

 

 

「ドーレ!

ちゃんと借りは返せよ!」

 

 

 

------

 

 

クウラ機甲戦隊の中で一番戦闘力が高いドーレ。

彼の戦闘力は18万5,000。

そんな男がやや苦戦を強いられていた。

一番の原因は、先程やられた肋骨の骨折によるもの。

それだけでも戦闘力の低下は免れないが、対戦相手より戦闘力が劣っている訳では無い。

そこで二つ目の原因である。

 

 

「へっへっへ、そんなに横っ腹が痛いのか〜?」

 

「クソ野郎が...!」

 

 

その対戦相手が厄介だった。

時間停止...特殊能力を持つグルドの存在が想像以上に手強い。

グルドに攻撃しようにも、いつの間にか目の前から消え、いつの間にか脇腹に攻撃を受けている。

更には、

 

 

「リクームパーンチ!

...あら、また避けられたわね。」

 

「くそぅ...」

 

 

リクームも紛れて攻撃してくる。

脇腹のダメージに気づいて執拗に脇腹を狙ってくる。

リクームに攻撃しようものなら、予想外のところから岩石が飛んできたり、時間停止による攻撃を受ける。

その繰り返しである。

苦戦...いや、もはや劣勢となるこの戦い。

 

 

「グルドちゃん、あんた嫌な性格してるね。

相手の傷口しか攻撃してないじゃない。」

 

「お前だって...はぁ...笑いながら同じとこしか...狙ってないじゃないか。

そろそろ終わらそうぜ?」

 

「だって、楽しいじゃない?

相手を弄べるってのは...そうだよなドーレちゃん?」

 

「...いい気になるな!!

オカマ野郎!!」

 

「そうこなくっちゃ!

リクームキック!」

 

 

痛む脇腹を堪えて攻撃するドーレ。

対抗するようにリクームも笑顔で突っ込む。

 

 

「...がは!?」

 

 

突然、ドーレの体が思うように動かなくなった。

そこへリクームの重い飛び蹴り。

ダメージをまた受けてしまったが、体が固まったように動かなくなったために何も出来ない。

 

 

「...グルドちゃん、もう限界?

情けないぞ。」

 

「ぜぇ...ぜぇ...あいつの戦闘力をお前くらいにまで落としてやったんだから文句を言うな!」

 

 

時間停止の超能力には種がある。

能力発動中は息が出来ない。

裏を返せば、息を止めている最中しか能力を扱えないのだ。

息を止めている間は、このクラスの戦士達には多大なアドバンテージとなるが、エネルギーの消費が大きすぎる。

今回のように十何回も発動させながら攻撃をすれば、スタミナはもちろん、酸欠になる。

自分達が優位なのを維持出来るように戦いを終わらせる為に、奥の手を使ったのだ。

 

 

「俺様のとっておき...金縛り。

さて、どう殺してやろうか?」

 

 

金縛りは相手に念力を伝えて動きを封じる技だ。

相手に対して念を送るだけで動きを止めることができるので、スタミナが消費することは無い。

しかも片手で念を送っている最中はもう片手が自由なので攻撃することも出来る。

 

 

「...く...そ!」

 

「へっへっへ、天下のクウラ機甲戦隊のドーレ様が1ミリも動けないとはな。」

 

 

ドーレの鼻をつまんだり、頬をグリグリして挑発する。

何も出来ないドーレの顔面に血管が浮き出る。

 

 

「まぁそれをやればもう終わりだな。

最後くらいはカッコよく決めさせてやるわ。」

 

「...という訳だ。

それじゃ、自慢の体を串刺しにしてやるぜ。」

 

 

念力で近くの木を巨大な串状に仕上げる。

必死に逃れようとドーレは力を込めるが、浮き出る血管が増えるのみである。

万事休す。

 

 

「所詮、ギニュー特戦隊には適わないってことだ。

あば...!」

 

 

ビシュッと言う音とともに、ドーレの金縛りが解ける。

串状になった木も落下した。

 

 

 

 

「ドーレ!

ちゃんと借りは返せよ!」

 

 

少し黒焦げになっていたネイズが叫んでいた。

グルドを見ると、頭を何かに撃ち抜かれたように頭が弾けていた。

その近くに血まみれの石。

 

 

「グルドちゃん...なんてこった...これじゃスペシャルファイティングポーズが決まらなくなったぞ!!

隊長にまた考えてもらわなくちゃ...」

 

少し違った意味で狼狽えるリクーム。

これで戦況は五分と五分になった。

 

 

「悪いなネイズ!

...さてと、あの野郎がいなくなればやりやすいぜ。

テメェも地獄に送ってやる!」

 

「グルドちゃんがいなくなったのは痛いが...やってやろうじゃない?」

 

 

------

 

 

(どうしようか...また色々変わるだろうけどギニュー特戦隊助けちゃおうかな?)

 

 

少なくとも好感を持つギニュー特戦隊達を助けるのは簡単だ。

少し力を出せば簡単に倒せる相手だらけだ。

だがそれでまたしても色々原作が変わったらと思うとなかなか気楽に参戦することが出来ない。

そんな時だ。

...来たのだ、一ヶ月ぶりに感じるあの気が。

 

 

(...お!?)

 

 

降り立ったカプセルコーポレーションの宇宙船。

そして開かれた扉、待ちに待った男が現れる。

 

 

「ラディッツ、やっぱりおめぇだったか。」

 

「悟空、待ってたぞ。

首を長くしてな。」

 

 

戦渦の中に突如として現れる絶対的主役、孫悟空。

戦っている面々も気づいてはいたが、5000程度に抑えられていた戦闘力には目もくれない。

 

 

「それにしても、オラめちゃんこ修行したのにラディッツの方が気がスゲェな!

地球に帰ぇったらオラとちょっと勝負しねぇか?」

 

「無事に帰れたらいくらでも相手してやるよ。

その前にお願いがあるんだ。

今から最後のドラゴンボールを持ってくるから、それまでここの奴らを頼めるか?

コイツら全員不老不死を狙ってる!」

 

 

『なにっ!?』

 

 

その言葉に反応したのは悟空ではなかった。

ここにいる特選隊と機甲戦隊の面々全てだ。

彼らは気づいてしまった。

最後のドラゴンボール...この発言をした男は、6つのボールを既に集めていることを。

 

 

「頼んだぞ悟空!!」

 

「俺のスピードからは逃げられんぞ!」

 

 

宇宙一の速さのバータが追いかける。

その目の前に立ちはだかる孫悟空。

 

 

「わかった、オラが残るから頼んだぞ!」

 

「すまん!」

 

「シャッ、逃がすかよ!」

 

 

ネイズのエネルギー弾...ラディッツに向け放たれるも虚しく跳ね返されてしまう。

全員が追いかけ始めようとするが、やはり悟空が立ちはだかる。

 

 

「おめぇ達から悪い気を感じるな。

痛い目に遭う前に帰ぇった方がいいぞ?」

 

「ハッハッハ、戦闘力5000のウジ虫くんが何を言ってるんだ?」

 

「5000?

おいお前、クウラ機甲戦隊を知らねぇ辺境の星の奴か?」

 

 

寄ってたかって悟空を笑いものにする奴ら。

そんな彼らに混ざって悟空もニンマリと笑う。

 

 

「顔の変な機械に頼ってっからダメなんだよな〜。」

 

「なら試してみるか?」

 

 

 

バータが一瞬のうちに悟空の背面へ回り込み、首根っこを掴み上げる。

だが、その予定の右手は何も掴まなかった。

 

 

「あれ?」

 

「機械に頼ったり、目で追ってっからわかんねぇんだ。」

 

「!?

てめぇ!!」

 

 

気づけばドーレの隣にいる。

すかさず攻撃するもまたしても消えてしまう。

 

 

「なんだ!?

どうなってんだ?」

 

「戦闘力5000なんだろ!?

スカウターの故障か!?」

 

「これスカウターって言うんか。」

 

 

リクームのスカウターが取り上げられる。

背後に悟空。

まるで全員をからかうかのような仕草。

これには全員の殺意が向けられる。

 

 

「クラッシャーボール!」

 

「のわぁ!?」

 

 

放たれたクラッシャーボールは簡単に弾かれ、リクームに炸裂する。

そのおかげで顔面は焦げ付き、歯が何本か消えてしまう。

矢継ぎ早にネイズが襲い掛かる。

悟空は攻撃を受けようと何もしなかったが、返ってそれが裏目に出てしまった。

全身に駆け巡る電撃...ネイズ渾身の技だ。

 

 

「ネイズバインドウェーブ!

この技を食らったら最期、丸焦げ確定だ。

さぁ、お前は何秒もつかな?」

 

 

これまでこの電撃を受けて生きていた者はいない。

言わば必殺技だ。

どんなに肉体を鍛えようとも、体の内側から攻撃されれば容易く仕留めれる。

事実、悟空悲鳴を上げていた。

 

 

「うわああぁぁぁああ!!」

 

「ケッケッケ、ここまでもつのはお前が初めてだぜ。

フルパワーで楽にしてやる!」

 

 

出力を最大に上げてフィニッシュ。

...するはずだった。

悟空は高速でネイズへ接近し、腕を掴む。

 

 

「なんちゃって!!」

 

「やめぇぇえあああぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 

 

全身が仰け反るような痛み、瞬間的な呼吸停止、そして心臓停止。

苦痛はまさにほんの一瞬であった。

息絶えたネイズは黒焦げとなり、黒煙を上げながら崩れ落ちる。

皮肉な事に、自分の必殺技の最期の犠牲者は自分になったのだ。

 

 

「うひゃー、これが感電っちゅうやつか。

まだ全身がビリビリするぞ。」

 

「よくもネイズを!

ぶっ殺してやる!」

 

 

ドーレは地面を大きく蹴り出して間を詰める。

スラスターキック...文字の如くロケットブースターに点火したような加速から繰り出されるスーパーヘビー級の蹴り技。

もちろん、戦闘力5000程度の奴なら簡単に地獄送りにする技だ。

そんな強烈な右足蹴りを、簡単に掴んでしまう。

 

 

「もらいっと。」

 

 

手刀を首裏に落とし、ドーレは口をパクパクして倒れる。

それを見た特選隊は意思を固める。

この男は5000程度の実力ではない、本気を出さなければ機甲戦隊の二の舞になると。

 

 

「リクームウルトラファイティングボンバー!」

 

 

原作ではお蔵入りとなってしまった、リクーム渾身の大技。

広範囲に渡ってエネルギーを爆発させる技である。

バータとジースはそれを察知して即座に距離を取る。

近くにいた悟空は完全に回避不可能だ。

 

 

「はっ!!」

 

 

右手を繰り出し、猛烈な爆風をあっさりと打ち消す。

彼は気は全く使っていない。

純粋な腕を振り抜く力だけで相殺してしまったのだ。

 

 

「そんな...俺の大技がハッ...」

 

「悪ぃ悪ぃ、隙だらけだったからつい。」

 

 

肘打ちを貰ったリクームも倒れ、沈黙する。

いよいよこの場にはバータとジースを残すのみとなる。

そんな2人も、ただ呆然と待っていた訳ではなかった。

 

 

「「パープルコメットゼットクラッシュ!!」」

 

 

紫状のエネルギーの塊...その塊から乱発される紫色のエネルギー弾。

何十発のエネルギー弾は全て悟空に襲いかかる。

それを避けるわけでもなく、弾いたりかわしつつ接近していく。

 

 

「「なに!?」」

 

 

接近を阻止しようと更にエネルギー弾を集中させるも、ほとんど効果が無い。

間合い近くまで来た悟空は二人同時に蹴り飛ばす。

まずはバータを、追撃と言わんばかりに加減して蹴り落とす。

落下の衝撃でクレーターが出来上がり、中心でバータはのびていた。

 

 

 

「くっそ!!」

 

 

一部始終をみたジースは思わず悪態をつく。

スカウターも使いながら奴を探すが、一向に見つからない。

 

 

「悪ぃな。」

 

「...!」

 

 

 

目の前に現れた奴は、鳩尾にめり込むように殴る。

途端にジースの意識は消える。

 

 

「ふぅ、やっぱり修行したから体が軽い軽い。

あとは、ちょっと離れたところにいるあいつらだな!」

 

 

 

宇宙船はそのままに、別地点へ向けて飛び立つ...



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宇宙最強の兄と宇宙の帝王の弟

更新が滞りまして申し訳ないです。
ただ、その間にトレーナーレベルが20になってピカチュウも手に入れれたのでこれから頑張ります汗

誤字脱字修正済み R2 1/12


---ナメック星 フリーザ軍母艦---

 

 

「待っていたよ兄さん。」

 

「ほぅ、それは待たせて悪かったなフリーザよ。」

 

 

 

上空で相見える兄弟。

一方は圧倒的な力と多くの戦力で宇宙を支配する帝王。

一方は圧倒的な力と少数精鋭で宇宙を支配する帝王。

互いの成すことに違いはないが、この2人には力の差とカリスマ性の差がある。

 

 

「ところで兄さん、水臭いじゃないですか。

普通に連絡をくれれば私が出向いたのに。」

 

「いいのだ、たまにはサプライズと言うのも悪くは無いだろう?

それとも、俺がここに来て都合が悪い事でもあったか?」

 

 

そんな事があるはずないと、フリーザは高らかに笑う。

...だが目が笑っていない。

 

 

「(...ここは少し探ってみるか。)

フリーザ、お前は知っているか?

ドラゴンボールと言うものを。」

 

「(...やはり探りを入れてきましたか。)

ドラゴンボール...一体それはなんですか?」

 

「...知らぬか。

なら何でもない、気にするな。」

 

 

クウラは背を向け、ゆっくりと離れ始める。

フリーザがドラゴンボールを知らないと言うことは、その存在を知られたくないという事。

これ以上問い詰めても、逆に怪しまれるだけで成果が得られるとは思えない。

それならば、早めに切り上げる他無かった。

 

対してフリーザは少し目を細める。

ドラゴンボールを切り出したという事は、カマをかけるつもりだったのだろう。

少しでも情報を流せば、いくら実の兄と言えど何の躊躇も無く横取りされてしまうだろう。

フリーザは出来るだけ悟られぬように振る舞うしか無かった。

 

 

 

「...さてと、この星はお前の支配圏だったな。

俺はここら辺で失礼しよう。」

 

「そうですか...では、また正月にパパの所でお会いしましょう。

それまで...お元気で。」

 

「そうだな。

また正月にでも会おう。」

 

 

離れていくクウラの背中。

その背中で感じるフリーザの冷たい視線。

 

 

(次までお元気で...か。

それよりももっと前に会う機会があるのかもしれんな。

何にせよ、ドラゴンボールは俺が頂く!)

 

(正月にでも...ですか。

もしかしたらもっと早く会うかも知れませんが。

アイツにドラゴンボールは渡さん!)

 

((もし邪魔するようなら...殺す。))

 

 

互いに殺気を抑えて、その場は収まる。

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

「もうおしまいか?」

 

「...グ...まだだぁ!!」

 

 

一方的な戦いになっている。

最初のうちはいい勝負だったのだ。

だが、「所詮、貴様はその程度なのだ。」と言う一言からまさにワンサイドゲームとなっていた。

ギニュー特選隊 ギニュー対クウラ機甲戦隊 サウザー。

隊長同士の戦いは、明らかにギニューが押されている。

 

 

「ギャラクシーダイナマイト!」

 

「くだらん。」

 

 

ギニュー渾身の大技も、サウザーブレードで全て切り裂かれて当たらない。

それどころか、拡散フィンガービームで脚や腕、腹を貫かれてしまう。

ギニューと言えど、限界が近づき倒れ込む。

 

 

「ふん、これでわかっただろう。

ギニュー、貴様は隊長には向いていない。

そして、貴様らおちゃらけ軍団如きが、このクウラ機甲戦隊の足元にも及ばない。」

 

「なんだと!?」

 

 

部下を貶されて怒りを露にして顔を上げる。

痛みと限界のスタミナに、もう立ち上がれる状態では無い。

 

 

「ギニュー特選隊は、フリーザ様が認めるエリート部隊!

どんな強敵が来ようとも決して諦めず、全員で任務を遂行する。

この俺を馬鹿にしようとも、部下を貶すことは許さん!」

 

「だからこそおちゃらけ軍団なのだ。

どんな敵にも必ず勝つ強さ、任務を必ず遂行するのは至極当然。

全てにおいてレベルの低い貴様らが俺達に叶うものか!

真の隊長に相応しいのは貴様ではない、俺なんだ!」

 

 

ギニューの頭を足の裏で踏み付ける。

最早彼に残されたのはボディチェンジしかない。

だが、その技をサウザーに対して行うのはプライドが許さなかった。

そんな時、ギニューのスカウターが警告音を鳴らす。

 

 

「どっちでもいいんじゃねーか?」

 

 

空から降りかかる声。

惑星ポポルのカエルの糞の色の服を着た男が降り立つ。

戦闘力5000...そんなレベルの奴が何故こんなところに?

 

 

「なんだ?」

 

「オラ孫悟空ってんだけど、さっきの奴らの仲間だったらさ、ちょっと連れて帰って欲しいんだ。

みんな倒しちまったから連れて帰る奴を探してたんだ。」

 

 

ギニュー、サウザーはスカウターで仲間の位置を探る。

死んで反応が無い者もいれば、相当なダメージを負った数値の者もいる。

 

 

「...貴様だな?

おちゃらけ軍団はまだしも、機甲戦隊を倒す戦闘力ではないな?

抑えている力を出してもらおうか?」

 

「あれ、わかっちゃったか。

それじゃ、ほんのちょびっとだけ本気を出すぞ。」

 

 

抑えていた気を開放する。

スカウターの数値は見る見る上昇し、9万あたりで落ち着く。

これが彼の限界。

もっとも、素の状態での話であるのは言わずもがなである

 

 

(コイツ、戦闘力のコントロールが出来るのか。)

 

「ドーレやネイズを倒す程ならまだ上がるはずだ。

俺を見くびらない方がいいぞ。」

 

「そっか...なら、界王拳!」

 

 

赤いオーラは出ないものの、取り巻く空気は一変する。

スカウターは唸り、更に数値を上げる。

その数字は...

 

 

「18...万だと。」

 

「やはりか。」

 

 

 

ギニューの戦闘力は最大で12万あたり。

サウザーは約17万。

その2人を上回る18万の戦闘力。

純粋な戦闘力ならドーレには劣るが、戦い方によっては多少の戦闘力をカバー出来るのはサウザーも承知。

 

 

(だが理解出来ない...ドーレが負けるほどの相手なのか?

これは流石に俺でも油断は出来んな。)

 

 

サウザーは静かに構える。

対する悟空は、自然体のままである。

 

 

「やっぱり言う事聞いてくんねぇか。」

 

「クウラ機甲戦隊に手を出したのだからな。

生かして置くわけにはいかん。」

 

 

両者は瞬間的にぶつかる。

だがそれでも悟空が体格的に優位であり、サウザーが押し負ける形となる。

そんな光景を、歓迎している者がいる。

 

 

(いいぞ...戦闘力18万の身体!

素晴らしい...俺はもらうぞ!!)

 

 

 

---ナメック星 上空---

 

 

 

(...たしかここら辺だったよな?)

 

 

空を彷徨うラディッツ。

彼が探すのはクウラの宇宙船。

ドラゴンレーダーさえあれば何のことはないが、広大なナメック星で宇宙船一つを探すのはやはりなかなか難しい。

...とはいえ、作者と物語の都合上によりすぐに見つかる。

 

 

「あれだな?」

 

 

早速入口を探すが、全く見当たらない。

致し方なく壁面を破壊するが、当たり所が良かったのか悪かったのか。

ズルズルと高度を下げていく船。

 

 

「壊しちまったかも...ごめんなさい!」

 

 

その場にいない誰かに謝り、穴から侵入する。

広い艦内を探す。

4つ目の扉を開けると、そこは一番広い部屋...その中央には、

 

 

「あった!」

 

 

最後のドラゴンボール、一星球が鎮座していた。

ラディッツは躊躇なく拾い上げ、宇宙船を後にする。

 

 

(さてと...ドラゴンボールは回収したし、悟空の所へ...

あれ、まだ勝負ついてないのか?)

 

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

 

「な...なんて奴だ。」

 

「なぁ、もうわかったろ?」

 

 

度重なる攻撃を耐え、反撃の機会をひたすら待ち続けた。

しかしそれは全て無駄だったかもしれない。

目の前の男は強い...スタミナがもう1/4を下回っている。

勝てる見込みが...少ない。

...いや、

 

 

「オラだって無駄に戦いたくねぇんだ。

頼むから仲間を連れて帰ってくれよ。」

 

 

そろそろ勝負を決めようとする悟空。

そいつを相手に、この後に及んでまだチャンスを伺う者がいた。

 

 

(あと少し...あと少しだ。

...今だ!)

 

「チェーンジ!!」

 

「!?」

 

 

悟空は、全身の力が抜けたような感覚に駆られる。

そして後方に引っ張られ...

 

 

「あれ!?

オラがもう一人い...痛ぇぇ!」

 

 

全身に違和感...そして激痛に襲われる。

悟空の前には悟空が立っている。

だが中身...精神が体から離れているようだ。

幽体離脱...?

そんな生易しいものではない...むしろ、そっくりそのまま中身が外へ出たような感じ。

ふと身体を見る。

出血する体、まるで違う感覚、そして紫の肌に頭の角。

 

 

「ハーッハッハ!

戦闘力18万の身体!

これで...これで貴様を倒せる!」

 

 

地面に這いつくばる悟空からスカウターを取り、装着する。

ここで全てがわかった。

さっきまでやられていた奴に身体を丸ごと交換させられたのだ!

 

 

「オラの身体を返せ!」

 

「すまんな、奴を倒すために貴様は利用させてもらった。

そして光栄に思うがいい、このギニューが貴様の身体をもらったのだからな!」

 

「何の冗談だ?」

 

 

サウザーの表情は明るい。

自分を上回る戦闘力を得たギニューを目の前にして。

 

 

「今にわからせてやるぞ!」

 

 

ギニュー懇親の右脚のハイキック。

だが、ガードされるどころか足を掴まれる。

 

 

「何!」

 

「その18万の身体をすぐに扱えるとでも思ったのか?

貴様の足りない頭で考えるんだな。

もっとも...わかるまでに命があるかな?」

 

 

足を振り落としながら顔面を殴る。

身体を変えたがまだ慣れていないギニュー。

その戦闘力は3万にも届いていなかった。

悟空の身体だが、今のギニューにはほとんど力を扱えていなかった。

いくらダメージを負ったサウザーでも、その程度の敵ならばひねり潰せる。

先程のギニュー自身で戦ったよりもボロボロになっていく。

 

 

「もうおしまいか?」

 

「クソ...!」

 

 

 

最後の大技、ボディーチェンジを使えど、もう限界である。

ギニュー特戦隊の隊長でありながら、因縁の相手に負けるなど、ギニューのプライドが許さなかった。

 

 

「貴様には負けん...絶対に...絶対に!」

 

 

エネルギーを集中させるギニュー。

それを見て次に来る技を予測する。

 

 

(相当追い詰められたようだな。

奴のことだ、俺の身体を乗っ取っても勝とうとするだろう...)

 

 

周りを見ると、ナメック星に生息するカエルが足元に来ていた。

サウザーの考えはまとまった。

 

 

(ククク...奴の最後にふさわしいな。

さぁ...撃ってこい!)

 

「悟空ー!」

 

 

 

そんな時だ、ラディッツがドラゴンボールを携えて飛んできた。

まだギニューは気づいていないが、サウザーは察した。

母艦から最後のボールを奪われたと。

 

 

(あれ、悟空スカウターつけてたっけ?)

 

「ラディッツ!

オラはこっちだ!

オラの身体が!!」

 

「チェーンジ!!」

 

 

それで全てを解した。

界王拳を使い、猛ダッシュで地表に降り立つ。

ギニューの身体の悟空の腕を掴んで放り投げる。

身体は光線にぶち当たり、ギニューの身体はそのままサウザーの足元まで転がった。

 

 

「悟空!」

 

「うぅ...も...戻った!

痛ててて...」

 

もう少し解釈が遅れていたら...到着が遅れていたら間に合わなかっただろう。

身体はボロボロだが、自らの体に戻った主人公。

 

 

「おのれー!」

 

「残念だったなギニュー。」

 

 

最強の身体を手放したが、まだチャンスは残っている。

残るエネルギーを全て使い、サウザーに向けて光線を撃つ。

 

 

「チェーンジ!」

 

 

言い放った直後、サウザーの勝ち誇った顔が視界に入る。

更に突き出された右手には、カエルが握られていた。

光線は放たれ、カエルに飛び込むように当たる。

 

 

 

「...ゲコゲコ。」

 

 

死んだ魚のような目になったギニュー。

カエルのように足をばたつかせながら、大慌てでこの場を去っていった。

そしてサウザーの手には、カエルが残る。

 

 

「これは傑作だ!

あのギニュー特戦隊隊長はカエルになったと。

俺からすれば、とてもお似合いだと思うぞ?」

 

 

なんとかして逃げ出そうともがくカエルのギニュー。

しかし、しっかりと握られた手から脱走する事は不可能だ。

 

 

「これでおちゃらけ軍団も終わり。

ドラゴンボールも奪い返せば、全てクウラ様の思い通りの結果になる。

所詮貴様らが「うるさい。」...ぉぉ...。」

 

 

サウザーの腹部にめり込む拳。

意識が途絶え、崩れる体。

力の抜けた掌から逃げ出すギニュー。

 

 

「なんだ、結局ギニューはカエルになったのか...

せっかくなら身体を元に戻してやりたいけど...ま、仕方ない。

...ドラァ!」

 

 

横たわるサウザーをサッカーボールのように蹴り飛ばし、事態は収まったかに見えた。

 

 

「ちっ、生きていやがったか。

それにカカロットまで。」

 

「「ベジータ!」」

 

 

残りのドラゴンボールの元へ行ったはずのベジータが戻ってきた。

どうやらサウザー達が生きていた時は弱ったところを...と言う算段だったようだ。

最長老に潜在能力を開放してもらい、サウザー如き...とでも考えたのだろう。

だがラディッツはピンピンしており、ボロボロになったとはいえ悟空まで合流し、ドラゴンボール総取り計画が頓挫しそうでご不満な様子だ。

 

 

「これでドラゴンボールは全部揃うな。

あとはデンデに悟空を治してもらうか。

(これならフリーザと戦わなくても、ピッコロさえ復活させればサクッと帰れるな。

あとは地球のドラゴンボールで他のみんなを生き返らせればいいし。)」

 

 

 

そんな事を考えていると、背後で爆発音がする。

2人が振り返ると、ベジータがエネルギー弾を放っている。

狙う先は...地面に倒れる特選隊と機甲戦隊。

悟空が「そこまでやらなくてもいいじゃねぇか!」と止める。

だがそれでもベジータは止めず、ラディッツも原作通りと思い止めなかった。

その時、3人に戦慄が走る。

 

 

「なんだ、この気は?」

 

「フリーザの野郎...スカウターを手に入れてやがったな!」

 

 

宇宙の帝王の気...戦闘力53万の驚異が高速で迫る。

ベジータや悟空は戦う気満々だが、悟空は論外、ベジータは逆に殺されてしまう強さしか持ち合わせていない。

ラディッツが戦おうにも、クウラがまだこの星にいる以上、なるべく戦闘は避けたかった。

故に結論は1つ...

 

 

「ベジータ、悟空を連れてドラゴンボールのとこへ行け!」

 

「なんだと!?

この俺様に向かって指図するな!

フリーザの野郎は俺が片付ける!」

 

「ドラゴンボールの事もあるだろうが!

不老不死になりたくないのか?

フリーザの気を逸らすから、その間に神龍呼んで願いを叶えてくれ!」

 

「それと悟空、万が一俺が戦うことになったら俺をこの星に残せ。

いいな?

さ、早く行って!」

 

 

不老不死の危機をチラつかせると、あからさまに眉間にシワを寄せて従うベジータ。

悟空も何のことかわからないまま頷く。

 

 

(あ...神龍じゃなくてポルンガだったっけ?

まぁいいや...さて、また大根役者にでもならなきゃな。

フリーザの前で感激なんてしてられないぞ。)

 

 

ココ一番での演技は、あのフリーザにも通用するのだろうか?

緊張で口の中が渇く。

 

 

 

---ナメック星 上空---

 

 

 

「これは一体、どうゆう事だ。」

 

 

自らの母艦があったところに戻るも、その空域に姿が見えない。

遥か遠くの地表にそれはあった。

見たところ、襲撃に遭ったらしく艦の一部分に穴が開いている。

航行に問題は無さそうだが、最も恐れているのはそれではない。

 

 

(ドラゴンボール...)

 

 

ドラゴンボールの強奪...元あった所から消えている願い球。

衝撃でどこかに行ったとはとても考えられない。

 

 

(弟よ...やはり貴様は殺すしかあるまいな。)

 

 

母艦を後にし、再びフリーザの元へ向かう。

先程は兄弟としてだったが、今回は野望の邪魔者を排除しに行くだけだ。

その道中に、感じたことのある戦闘力を感じる。

 

 

「サウザー。」

 

「ク...クウラ様。

やられました...あのフリーザ様の所のサイヤ人...です。

戦闘力を隠していました...ドラゴンボールも奴に...誠に申し訳...ございません。」

 

 

クウラが唯一部下として雇った3人で隊長を務めていたサウザーが満身創痍。

そう易々とやられる部下ではなかったと自負していたが、ここまで痛めつけるほどの力を持つものは限られる。

クウラの腹は決まった。

 

 

「サウザー、貴様は最寄りの惑星フリーザNo.79で治療しろ。

この件は我が一族の話、貴様には関係ないことだ。

俺が始末する。」

 

 

クウラの母艦から、非常用一人ポッドを1つ取り出し座標入力。

サウザーを入れるとハッチを閉め、ほぼ強制的に送り出した。

 

 

(フリーザに尻拭いをさせるつもりだったが、俺の部下に手を出した。

この事は一族がケリをつけなければならん...猿野郎は根絶やし、フリーザも始末。

そして、不老不死になり、俺が一族を永遠に担ってやる。)

 

 

一族最強が、遂に動き出した。

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

「おやおや、あなたは先日ドラゴンボールを奪って行ったラディッツさんではありませんか。」

 

「...」

 

 

帝王フリーザ...第一形態でありながらその存在感は果てしない大きさである。

表情を見る限り、とても穏やかな印象であるが目が笑っていない。

 

 

(絶対キレてるな...ドラゴンボール持ってったの見られてるしな...)

 

「そんなあなたが何故こんなところにいるのでしょう?

お仲間は?

ドラゴンボールは?」

 

「先日はど、どうも。

実はドラゴンボールを集め始めたはいいんですけど、クウラが何個か集めているみたいでなかなか集められなくて...

前回の事は謝ります、ドラゴンボールを返すので命だけは...

今すぐ持ってきますんで!」

 

「そうですか、なら今すぐにそのドラゴンボールの元へ案内してください?

持ってくるのでは逃げる恐れがありますからね。」

 

 

フリーザが釘を刺す。

ラディッツの作戦ではこのままトンズラする予定だったのだが、アッサリと見破られる。

こうなってしまっては、本当にドラゴンボールの元へ案内するか、ここで気を解放して戦うか...

どちらにしても戦闘は避けられないし、クウラも合流する可能性が高い。

 

 

『ラディッツさん...その者を私の元へ。

神龍の呼び方などを言えば、少しは気を反らせるでしょう。』

 

 

そんな時に、心に直接声が響く。

ナメック星最長老の声だ。

確かにそれを言えば、この場はうまく切り抜けられる可能性が高い。

が、最長老の命の保証は無い。

 

 

『しかし...あなたの命が...

それにもっと考えれば他の手段があるはずです!』

 

『私の寿命など残り僅か。

あなた達がその間にポルンガに願いを叶えてくだされば...

事態は一刻を争います!』

 

「どうしましたかラディッツさん?

まさかデマカセを言って辻褄を合わせようと画策しているのです?」

 

 

 

「...いや...実はフリーザ、ドラゴンボールはどうやらナメック語でないと願いを叶えられないんだ。

それをナメック星人に聞こうと思ったところだったんだよ。

それを聞いてからでも遅くはないだろう?

それに、まだナメック星の最長老が生きているんだ。」

 

 

背筋に汗が流れる。

しばし互いに視線を合わせる。

 

 

「...いいでしょう。

今すぐにでもあなたを抹殺しようと思ってましたが...まだ利用価値は残っていそうですね。

今すぐ私を案内しなさい。」

 

「...わかった。」

 

 

最長老の元へ向かい始める2人。

ラディッツはなるべく遅く飛ぶ。

そしてこのことについて陳謝していた。

 

 

『最長老様...本当にすみません!』

 

『良いのです、悪しき者に使われるくらいなら、この方が遥かにいいでしょう。

デンデやネイルには私から伝えておきましょう。

...彼らに他になにか伝えることはありますかな?』

 

『...』

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

「この気は...?」

 

「お父さんですよ!

お父さーん!」

 

 

岩陰に潜んでいたクリリン達は、ベジータと悟空の気を感じ取り表で出迎える。

ボロボロの悟空はデンデによって回復する。

傷口はすぐに治り、更にはサイヤ人特性の戦闘力の超回復のおまけ付きだ。

 

 

「ふぃー、デンデっつったっけか?

助かったぞ!」

 

「悟空、お前仙豆は持って来なかったのか?」

 

「すまねぇな、修行中に全部食っちまった!

けど、そのおかげでオラうんと強くなったぞ。」

 

『デンデ、ネイル。

聞こえますか?』

 

 

この場にいる全ての人に声が響く。

声の主はナメック星最長老、悟空以外はすぐに勘づいた。

やや早口なせいか、焦っているような印象を受ける。

 

 

『簡潔に話します。

今すぐポルンガを呼び出し、願いを叶えなさい。

そして地球人の皆さんと避難なさい。』

 

「ですが、最長老様は!?」

 

『私は寿命がもう無い。

とにかくポルンガを呼び出すのです。

それと地球人の方々、ラディッツさんから[ピッコロを生き返らせるように]と伝言を預かりました。

このナメック星をよろしくお願いします。』

 

 

 

それを最後にテレパシーは途切れた。

最長老様の意思...無駄にするわけにはいかなかった。

だが、ネイルが意を決したように声を出す。

 

 

「私は最長老様の元へ行く。

最長老様の最後に誰も看取らない訳にはいかない。

「それなら!」いやデンデ、お前はポルンガを呼ぶんだ。」

 

 

自分も行くと言う顔をしていたデンデを制する。

クリリンと悟飯にデンデを託すと、最長老の元へ飛び立った。

 

 

 

---ナメック星 最長老宅---

 

 

 

「ここが最長老さんのところですか。」

 

 

フリーザとラディッツは最長老の元へ着いてしまった。

なるべくゆっくりを心掛けてはいたが、距離が近いのも災いしてしまった。

フリーザはゆっくりと降り立ち、中へ入る。

 

 

「こんにちは最長老さん、私はフリーザという者です。

恐らく全ての事情はご存知でしょう?

ドラゴンボールの願いの叶え方を教えて頂けますか?」

 

「ドラゴンボールで何を願うつも「早く教えなさい、私はもう待つのはたくさんなのです!」

 

 

苛立ちを抑えきれず、最長老の住居が爆ぜる。

破片が飛び散り、最長老の頭から少量の出血。

ラディッツは気が気ではなかった。

 

 

「フリーザ、ドラゴンボールを作ったのは最長老だ!

最長老が死んでしまったらドラゴンボールは無くなるんだぞ!?

願いを叶えることも出来なくなるんだぞ!?」

 

「何ですって?

...それは良いことを聞きました...さぁ、死ぬ前に教えなさい。」

 

 

 

どうやらフリーザは最長老がドラゴンボールの創成者とは思ってもなかったのだろう。

殺さないように相手の口を割る...とても難しい事は目に見えている。

 

 

「残念ですが、あなたが殺さなくてもじきに寿命が来ます。

私の口を割ることは出来ないでしょう。」

 

「ならば...死なない程度に痛めつけるまでです。」

 

 

フリーザが手を挙げたと同時に、ラディッツがその手を掴みあげる。

一瞬の沈黙の後、フリーザはラディッツを睨む。

 

 

「あなた、何のつもりですか?」

 

「最長老はもう長くない。

その上痛めつけるのはどうかと思ってね。」

 

 

睨みつけるフリーザ。

ラディッツは力を緩め、解放する。

 

 

「最長老様!!」

 

 

ここにもう一人駆けつける者がいた。

ナメック星人のネイルである。

フリーザは素早くネイルの首元を掴みあげる。

 

 

「最長老さん?

あなたの大事なナメック星人さんが死ぬことになりますが、それでも教えて頂けないのです?

おっとラディッツさん、あなたも動いたらいけませんよ?」

 

 

人質...交渉をするにあたっては卑劣でありながら主導権を握る有利な方法だ。

それが重要な物や、かけがえのないものであればあるほどに有利な方へ導く。

抵抗するネイルだが、フリーザの念力のせいか、金縛りのように動けない。

 

 

「最長老様...ダメ...です。」

 

「おや?

ナメック星人にしては少々骨があるようですね?

少し黙らせましょうか?」

 

 

動けないネイルを少々痛ぶる。

少々とは言うが、それはフリーザ視点からであり、ネイルにしてみれば一撃一撃がひどく重い攻撃である。

 

 

(クソ...コイツにみんなやられたんだ!

なのに...指一本も動けないとは...!!)

 

「わかりました、お教えしましょう。」

 

「ホホホ、わかっていただけたようですね?

ではどのような方法で?」

 

 

その時だ、空が暗くなったのは。

ナメック星は太陽がいくつもあり、夜が訪れる事の無い...つまりずっと昼のような明るさをした星である。

その事はフリーザも良く知っているために、空が暗くなる事にすぐに違和感を覚える。

 

 

「なんだ?

何が起こっている?

最長老さん、あなた何かご存知です?」

 

「えぇ、これはドラゴンボールからポルンガを呼び出す時に起こる現象...これで私の役目も終わりです。」

 

 

フリーザの顔面がみるみる怒りを露にする。

ここに来てやっとわかった。

自分はここで、時間稼ぎさせられたのだと。

 

 

「貴様らー!」

 

 

ネイルを投げ捨て、最長老やラディッツを無視してポルンガの元へ向かう。

それを見届ける最長老は思わず安堵のため息を漏らした。

ネイルも相当ダメージを受けたが、まだ緊急を要する程ではない。

だが放置すれば確実に命を落とすであろう。

ラディッツはネイルの肩を持ち、最長老の近くへと降ろす。

 

 

「す...すまない、私がもう少し強ければ...」

 

「相手はフリーザだもん、しょうがないさ。

今はここでゆっくり休んでくれ。」

 

 

 

自らを責めるネイルを慰める。

ナメック星人の中では最強クラスのネイルですら敵わないフリーザ。

その戦闘力を知っているだけあって他に手段は無い。

 

 

「ラディッツさん、私からあなたに最後のお願いがあります。

あの輩に願い球を使われる前に、私を殺してください。」

 

「「な!?」」

 

 

ここで1度空が光る。

願いが1つ叶ったようだ。

 

 

「最長老様、それはなりません!!」

 

「最長老の私は、自害する事が出来ません。

寿命はまだ少しあります故、あのフリーザがドラゴンボールに手を掛ける前に消滅させなければなりません。

ネイルには出来ないでしょう、ならばあなたにお願いしたいのです。」

 

 

野望阻止の為に命を狩る。

ラディッツに時間は多く残されていない。

フリーザの野望阻止か?

だがラディッツには最長老を殺す事が出来ない。

空は2度目の閃光。

あと1つならフリーザは間に合わないか?

 

 

「ラディッツさん、私を殺してください!」

 

「ラディッツ、最長老様を殺すなど許さんぞ!!」

 

「最長老様...自分にあなたは「ならば介錯してやろう、ナメック星人。」

 

 

胸を貫く一閃。

それは字の如く死の光線(デスビーム)だった。

座していた最長老は、緩やかに地に倒れる。

 

 

「「最長老様!!」」

 

 

動けないネイルの代わりに、ラディッツが駆け寄る。

出血は酷いが、ナメック星の地がその血液を速やかに吸収して行く。

そして、残り少ない余命も...

 

 

「ふっ、血も涙もない下等な猿でも多少の情を持ち合わせていたか。」

 

「てめぇっ!」

 

 

声を聞いて薄々は感づいていた。

戦闘に特化し、無駄のない白と紫を基調とした肉体。

氷のように冷たい視線。

宇宙の帝王の陰に隠れた絶対的な存在。

フリーザ一族 クウラ。

最凶が遂に表舞台へと姿を現す。

 

 

「わかってるのか!?

最長老様を殺せばドラゴンボールは消えるんだぞ!」

 

「なに...?

クッ...だが愚かな弟の野望は防げた訳か...。」

 

 

自らの行いを他人のせいにすることは出来ない。

逆上は無いものの、あからさまな動揺は隠しきれない。

これでやる事は絞られた。

 

 

「ならば...サイヤ人。

貴様らを消す。

弟の不始末だが、これはフリーザ一族の責任でもある。

下等な猿は根絶やしだ。」

 

「そんなにサイヤ人が嫌いか?

どうしてそこまでこだわるんだ?」

 

 

 

ラディッツにはこれが理解出来なかった。

いくらフリーザがサイヤ人を恐れているとはいえ、何故クウラがここまで肩入れしてくるのだろうか?

 

サイヤ人単体なら大したことはないが、集団になるとやっかいだからか?

死の危機を超えると、戦闘力が上昇する特性を危惧したからか?

べジータの様な、戦闘においての天才児が出始めたからか?

伝説と思われる、超サイヤ人に対しての恐れか?

 

 

「言ったところでわかるはずもないから教えてやろう。

貴様らサイヤ人の中に生まれ持って戦闘力1万をもつ子供が生まれた。

俺達フリーザ一族は、ベジータ王に消すように命令したが何故か生き残った。

今では驚異的な戦闘力を持ち俺達の支配が及ばない南方の銀河を荒し回っている。

そのような輩が現れかねないサイヤ人は根絶やしにすると決めたのだ。」

 

 

要約すれば、銀河の南方で暴れてるサイヤ人みたいなのがまた出てくると嫌だからサイヤ人は根絶やしということらしい。

これに納得する程ラディッツは頭は悪くなかった。

 

 

「それって、サイヤ人が邪魔だから根絶やしにするって言うこと?

仲良くみんなで暮せばいいじゃないか。

フリーザ一族もサイヤ人達も、仲良くすればふぁ!」

 

 

クウラは怒りに任せてラディッツを殴り飛ばす。

彼にとっては、サイヤ人は下等生物。

そんな猿共と手を取り合うなどプライドが許さなかった。

そしてその気に食わない論説など聞く気にもならない。

 

 

「貴様ら猿野郎と仲良くだと?

つけあがるなよサイヤ人。

このフリーザ一族と対等に接するなど反吐が出る。

下等生物は下等生物らしく地を這ってればいい。」

 

 

地面に倒れるラディッツ。

彼は確信した。

 

 

「わかった...フリーザだけじゃなくて、お前も倒さなきゃダメみたいだな。

(くそ...本来悟空が倒すはずだが...

今んとこ、この中では俺が一番強いからな。

やるしかねぇ!)」

 

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

 

「...二つ目の願いは叶えた。」

 

 

時間はほんの少しだけ遡る。

デンデのナメック語により、

[地球にいたピッコロを生き返らせる]

[そのピッコロをナメック星に呼び寄せる]

の二つの願いを叶えた。

そして今まさに三つ目の願いを叶える直前になのだが、内輪揉めが発生している。

 

 

「え!?

ピッコロさんはここに来るんじゃないの?」

 

「ここに呼ぶつもりだったんですか!?」

 

「あんな死にぞこない等どうでもいい!

俺様を早く不老不死にしろ!」

 

「待てよベジータ、不老不死の前に他になんかあるんじゃねぇんか?」

 

 

 

2つまではとても迅速に願いを叶えたが、ここに来て揉め始めた彼らをひたすら待つポルンガ。

目の前の争い事を目の前にしても何一つ表情を変えることは無い。

 

 

「ええぃやかましい!

おい貴様!

俺様を不老不死にしろ!」

 

「ナメック語じゃないと願いは叶えられないんです。」

 

「ベジータ、やっぱり不老不「なんだと貴様ら!?

ぶち殺されたいのか!?」

 

 

異変に気づいたのはデンデだ。

ポルンガの身体がみるみるうちに消えていく。

そしてドラゴンボールが...光を失い石となってしまった。

 

 

「なんだ?

ナメック星の神龍が消えちまったぞ?」

 

「さ...最長老様が...お亡くなりになられた...を

ドラゴンボールを作られた最長老様が息絶えれば、ポルンガは消滅し、ドラゴンボールは石になります...。」

 

「なんだと!?

貴っ様ぁーっ!!

俺の不老不死はどうするつもりだ!?」

 

「落ち着けよベジー.....タ...。」

 

 

クリリンは見てしまった。

紫・白・濃いピンクをモチーフとした肉体。

黒く鋭く強靭な角、ゆったりと動く尻尾。

余裕と残虐の面影がある顔面。

 

絶対的宇宙の帝王 フリーザを。

 

 

「...よくぞやってくれましたね皆さん。

よく私の不老不死の願いを、見事に打ち砕いてくれました。

 

ギニュー特選隊の反応が無いと思いましたが、どうやって倒したのでしょうか...?

これには驚かされましたよ。

それと、あと一歩のところでドラゴンボールが石になってしまうとは。

ベジータさんにとっては悔しいでしょうが、私にはもっとでしょうか...?」

 

 

非常にゆっくりと浮上し、岩場からこちらへ降りてきた。

口調は穏やかながらも、目は座っている。

小さな体から放たれる威圧感は、戦士達の身体を硬直させる。

もう...逃げられない。

 

 

 

「初めてですよ?

ここまで私をコケにしたお馬鹿さん達は… ...」

 

 

顔面に張り付いた笑顔が小さく揺らぐ。

 

 

 

「ゆ…許さん…!」

 

 

穏やかで、余裕のある顔が徐々に変わっていく。

 

 

「絶対に許さんぞ虫ケラ共!

じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!

一人たりとも、逃がさんぞおぉーっ!!」

 

 

あまりの覇気に地面の砂が弾け飛ぶ。

数日前の、ドラゴンボールを手に入れた時の笑みは何一つ面影がない。

豹変ぶりに驚くクリリン、悟飯、デンデ。

3人とは対象に、ベジータと悟空は何一つ慄くことは無かった。

 

 

 

「ついに本性表しやがったな。

かかって来やがれ!

今の俺は、貴様を上回る強さを持っているぞ!」

 

 

ベジータの予想は辛くも外れることになる。

彼の変身のパワーアップの認識は、ザーボンの変身でしかない。

フリーザの変身とは、その認識を超越するものであるのだ。

 

 

「いいでしょう、そこまで言うなら変身しましょうか。」

 

 

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

 

とある平原に、ふと姿を表す男がいた。

緑の肌に、紫の道着と白いマント、ターバン。

ピッコロである。

 

 

「ここが…ナメック星か。

なんだか懐かしい気もするな…

おっと、感傷に浸ってる場合ではない。」

 

 

1度も訪れたことのない場所だが、ナメック星人としての本能が覚えているようだ。

目の前の光景、肌で感じる気候、匂い…全てが懐かしく思える。

感傷に浸りそうになっていた思考は、遠くにある大きな気に遮られる。

 

 

「誰だ?

とんでもなくデカイ気...2つもありやがる。

片方が、例のフリーザって野郎か。

その付近にも大きな気が4つ...悟飯達か。

もう一つは...この気はラディッツなのか!?」

 

 

ラディッツが相手をしている方が、圧倒的に気の量が大きい。

すなわち、より手強い敵と戦っているということだ。

更に言えば、ラディッツの気がみるみる減っているのだ。

必然的にラディッツと、その巨大な気の元へと向かう。

これまで色々な人物の気を感じて来たピッコロだが、今回感じる気はまさしく最強である。

今の自分で、悟飯やラディッツ達を護りきるのはなかなか難しい。

 

 

(悟飯達は…まだ大丈夫のようだな。

全員戦えない状況で、撤退戦を奴を相手にやろうってんなら厳しかったがな。

孫悟空達の動きからして、まだ本格的な戦いに突入していないな。

まぁ、奴らなら大丈夫だろう。)

 

(だがそっちよりも、こっちの奴の方がヤバイな。

なんて気の量だ、単身で戦うあいつはそんなこともわからない上でやられているというのか?

…ん?

微かな気。)

 

 

前方に微弱な気を感じとった。

敵なら無視していこうと思っていたが、悪の気を感じない。

ラディッツも重要だが、気になったので降りてみることに。

 

 

 

「ナメック星人か。」

 

 

緑の肌に、民族衣装...そして頭部の2本の触覚と思わしき部分。

自らと同じ特徴からして、同じナメック星人と推測する。

そしてその近くには、大きな体のナメック星人が倒れていた。

こちらはもう生きていなかった。

 

 

「な…に者?」

 

「同じナメック星人のよしみで答えてやろう。

ピッコロだ。」

 

「ピッコロ…あの地球…人の仲間か。

…よかった。」

 

 

この星で地球人とは、悟飯達しかいないだろう。

情報を得るため、立て膝を着く。

 

 

「色々と何か知っているようだな。」

 

「ふふ…驚いた、信じられないパワーだ。

だが、もう片方のナメック星人と同化していれば…フリーザ一族なんぞ敵ではなかったのに。」

 

「なんだと!?

神と同化していれば、フリーザを!?

…だが残念だな。

今更どうしようもないし、あんな奴と二度と合体するつもりはない。」

 

「ならば…俺と同化しろ!」

 

「なんだと!?」

 

 

思わぬ提案に、ピッコロは思わず立ち上がる。

同化…すなわち、どちらの者がどちらかに取り込まれるという事。

ピッコロもそれを瞬間的に察知する。

同化すればある程度の強さが手に入るが、それだけではない。

相手の思想や記憶までもセットで付いてくるのだ。

 

 

「嬉しい申し出だが…断る。

オレはオレだ、人格まで同化はしたくない。」

 

「時間が無い、このままでは私は死ぬだけだ。

人格はお前がベースだ。

記憶や俺の思考が引き継がれるだけで、数倍のちからを手にするんだ。

悪いことじゃないだろう。」

 

 

仰向けで倒れるネイルは、もう少し放置しておけば失血死してしまうだろう。

自己が失われる...それは良く思わなかったが、自分がベースで力を手に入れる事が出来る。

 

 

「...嘘ではないな?」

 

「だと思うなら...そのまま行っ...てフリーザに殺されるがいい。」

 

 

ピッコロはしばし悩むが、選択の余地はなかった。

一度戦い、相手の能力を知った者が「今のままではお前は死ぬだけ」と言うのだ。

もう一度膝をつき、右手をネイルに差し出す。

 

 

「いいだろう...騙されてやる。

少しでも気に入らんかったら、すぐに追い出すからな。」

 

「ふふ...ふ、言ってくれる...ぜ。

奴らを絶対...に倒せ...」

 

「っ!?」

 

 

一度、眩くネイルの身体が光ると、身体を衝撃が貫いた。

短く目を瞑っていたピッコロだったが、次に目の前を見るときにはネイルは消えていた。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

動悸が未だに収まらない。

変化は感じる…自分は自分だが、全てが全くもって違う。

体のそこから溢れんばかりのエネルギー...これまでのネイルやピッコロの持つ力を超越する。

 

 

「まさか…こんな事が…

な 何と言う力だ!

信じられない!…これが同化か!?

だがこの力を持ってしても、奴に勝てるか...

...最長老様...」

 

 

地面を蹴るように飛び出し、再びラディッツの元へと向かう。

その顔には出ていないが、この星を救う覚悟が更に強くなる。

その思いに比例するように、飛行スピードが上がっていく...



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2人で、2億4千万くらいの戦闘力

さて、いよいよストックしながら書いてきた小説ですが...元々書いていた所まで追いつきました。

ここからは自分自身でまた考えながらやって行きますので、これからもよろしくお願いします。

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荒野に響く肉と肉がぶつかり合う鈍い音。

遮蔽物の無いこの地にはよく通る。

今の時点では、彼らは手の内を探り合うような戦い方をしている。

 

 

(すぐに変身するかと思ったら、第四形態のままだな。

ここからさらにもう一つ変身があるのか。)

 

(この猿...俺を牽制でもするかのような動き。

まさか、まだ強さを隠しているのか。

...だが、超サイヤ人ほどではないようだ。)

 

 

いつも容赦の無いクウラも、万が一を恐れていた。

仮に超サイヤ人であったならば、すぐさま変身せざるを得ないからだ。

だがそこまでの相手でなければ、この第四形態での力で潰すだけのこと。

クウラにとって、近年稀に見る慎重さであった。

互いに距離を置いて着地する。

 

 

「やはり所詮超サイヤ人など有り得ないか...。

しばし警戒していたが、杞憂だったようだ。」

 

(もう少し手加減してくれりゃいいのに...。

いや、下手に変身される前に潰すしかないな。

あの調子なら変身する気なんて無いだろう。)

 

 

ふと、クウラが消える。

次の瞬間には、頬に膝蹴りが入り、体が吹き飛んでいた。

跳ねるように転がる体に、真上から半ば踏み付けるように

押さえ込む。

人間とは違い、指先が大きく広がる3本の指圧と、片足のみの力だけでラディッツは大きく行動を制限される。

 

 

「ほんの僅かでも勝てるとでも思ったか?

生憎俺は弟とは違って、相手をなぶり殺すような甘さは持ち合わせていない。

貴様が超サイヤ人でないことがわかった以上、もう余命は無い。」

 

(クソ...あからさまな手加減してくれれば作戦とか、何か手段があったかも知んないけど...。

こんなん洒落にならんわ。)

 

 

見下すクウラの表情が一瞬曇る。

視線はラディッツを見据えたまま、右腕を背後に差し出し気弾を連射する。

そのうちの1発がヒットしたのか、空中で爆発が起こりボロボロに千切れたマントが舞い落ちる。

その爆発と同時に、真左から攻撃を受けてクウラの体が吹き飛ぶ。

 

 

「全く、なんてザマだ!」

 

「ピッコロ!

サン、キュッと!」

 

 

背を向けたまま無表情のピッコロに、非常に軽い礼を言うラディッツ。

対する吹き飛ばされたクウラだが、彼にダメージは全く無かった。

マントに当たる気弾から逃れた姿から、左胴に迫る蹴り技まで見切り、右手のみでガードしていた。

 

 

「貴様、ナメック星人か。

まだ生き残りがいたとはな。」

 

「コイツは何者だ?

ナメック星人を殺めたのはもっと小さい方だっただろう?」

 

「ネイルと同化したんだな。

それはあいつの弟のフリーザってやつの仕業だ。

んで、あいつはクウラ。

今のフリーザよりも1万倍くらい強いヤツ。」

 

 

この時点で、ピッコロがクウラに対しての勝機はまるで無かった。

仲間を救う気持ちと、仲間の仇討ちだけが今の彼を動かしている。

フリーザならば勝ち目はあったのだが、運が悪い方に救いに来てしまった。

 

 

「...悪いな。

どう考えても勝てる見込みはない。

貴様は?」

 

「あの形態なら界王拳でなんとかなる。

第五形態になられたらどうにもならん。」

 

「何を話し合っている。」

 

 

クウラの膝蹴りがラディッツに。

それを辛うじて両腕をクロスさせて防ぎきる。

少しでも遅かったら、今頃鼻が砕けていただろう。

 

 

(速すぎて...何も見えなかった!)

 

「ほぅ、運が良かったな。」

 

「ピッコロ、悟空んとこへ!

次死んだらドラゴンボールどうすんだ!」

 

 

ピッコロの生還は、地球の神の生還である。

そして、地球のドラゴンボールの復活を意味する。

再び死ぬようなことがあれば、ヤムチャや天津飯が生き返る事が出来なくなる。

ラディッツの顔色からして、本当にヤバイ敵なのだろう。

ピッコロは背を向けた。

 

「(...チッ、俺では足手まといか!)

ふん、借りは必ず返す。」

 

 

ピッコロが飛び立つ。

界王の元で修行をし、ネイルと同化し、最強の力を得たと思っていた。

だがそれでも上がいた、ラディッツ、クウラ...。

 

 

(......俺様もまだまだか。)

 

 

------

 

 

「ありがとう、ピッコロを逃がしてくれて。」

 

「逃した?

何を言っている、貴様を殺した後に奴も消す。

ほんの僅か生きながらえるだけだ。

油断ではない、強者たる故の余裕だ。」

 

 

両手を広げ、脚をややクロスさせるクウラ。

それはまさに、宇宙の帝王を彷彿させる。

悪のカリスマの血は、彼にも流れているのは間違いないようだ。

 

 

「その余裕を俺にも見せてくださいよ!」

 

 

己の筋力だけで腹に蹴りを入れる。

意表を突かれる蹴りであったが、ギリギリ反応するクウラ。

ラディッツの攻撃はこれまでで一番速い一撃であり、同時にクウラ自身受けた攻撃の中で最速・最強であった。

...無論、ダメージとは言うほどではない。

だが少なからず衝撃を受けた。

あのサイヤ人(・・・・・・)にこれ程の攻撃をする奴がいるのだ。

 

 

「(コイツ...やはり戦闘力を隠していたか。

ここまでとは思いもしなかったが、慌てるほどではないな。)

...遊びは終わりだ。」

 

 

クウラが戦闘力を引き上げる。

第四形態での最大限の力...しかしフリーザのように外見が変わり、筋骨隆々とした肉体ではなく、あくまでも戦闘力の開放と言えよう。

 

 

「フルパワークウラって所か...

(ま、まだ変身残してるけど。

...にしても、尻尾生えた途端体のバランスが良くなったな。

サイヤ人ってのはやっぱり尻尾があると調子がいいのか?

それとも、最長老様の気の開放のおかげか?)」

 

 

大猿の状態こそがサイヤ人の本領を発揮する時である...本人ではない本人が言った事であるが、その大猿になる為の条件として[満月]と[尻尾]が必要不可欠である。

その尻尾が戻ったならば、本来の肉体の動きが出来るのは当然だった。

 

 

(ここからは...冗談抜きで真剣にやらにゃ。

相手は相当な格上、どんな手を使っても倒さにゃならん!)

 

 

ラディッツも気を高める。

どんなに尻尾が生えてコンディションが良くなったとはいえ、まだまだクウラの最大戦闘力にはほど遠い。

それでも、ラディッツは仕掛ける。

自身の力で最速の足払い...それを難なく尻尾の先で受け止めるクウラ。

 

 

(コイツ...やはり戦闘力を操る事が出来るのか。

それでも俺には到底及ばないがな。)

 

 

言葉に出さずとも、蹴りで表すかのように吹き飛ばす。

蹴られたラディッツは二転三転し、四足全てを使って留まった。

少しの猶予を与えずに、クウラが襲いかかる。

 

 

「ぬらぁ!」

 

 

即座に地面を蹴りあげる。

大量の砂がクウラに被さるが、顔面を保護しながら難なく突破。

一瞬視野を奪うつもりだったが、それはまるで効果が無かった。

そしてそのまま右脚蹴りがラディッツの顔面を捉えるが、突如として足が顔面を通り抜ける。

 

 

「ぬわっ!」

 

 

至近距離から砂を嫌と言うほど浴びるクウラ。

彼の目は開くことが出来なくなり、激痛を伴って目元を抑える。

視界を土で遮った直後に残像拳を使った彼は運に恵まれていた。

クウラはこれまで、戦闘力を感じて戦わずとも星はいくらでも制圧できた。

故に今回の対サイヤ人戦でも、目視による戦闘をしていた。

 

 

「っ!」

 

「ぐっ!」

 

 

その為、戦闘力を感じて戦えば対応できたものの、全て後手に回る事となった。

鋭い蹴りを横っ腹にくらい、激痛は腹だけでなく全身へと行き渡る。

 

 

「ウオオアアアーッッ!!」

 

 

界王拳を15倍程度に引き上げ、ところ構わず殴り続ける。

命中精度はどこかに吹き飛んでいるが、その代わりに連射速度と威力は申し分無かった。

 

 

「図に乗るなぁ!」

 

 

エネルギーを爆発させ、ラディッツを弾き飛ばして間合いをとる。

今度は視覚ではなく、戦闘力を捉えて拳を打つ。

しかしそれは虚しくも、掠りもしない。

視覚が奪われるという事は、物の距離感や立体感を正確に認知できないということ。

いくらクウラが戦闘力を感じることが出来たとしても、よほどの鍛錬を積まない限り自在に感じることは出来ないのである。

それを証明するかの如く、クウラの連撃は精度を欠いた。

 

 

(目潰しって卑怯かもしれないけど、こんなに有効なら助かるな!)

 

 

迫る右腕を掴み、一本背負いの要領でクウラを地へ叩きつける。

地面が多少えぐれるが、更に踵落としで完全にクレーターが形成されてしまった。

更に追撃しようと拳を振り下ろすが、ダークネスアイビームにより防がれる。

 

 

「サルめ...この俺にここまで抗った事を褒めてやろう。

...だがここまでだ。」

 

 

大粒の涙と、ダークネスアイビームで視野が戻った。

最早クウラは、これ以上の手加減をするつもりは無いようだ。

 

 

「光栄に思うがいい。

下等生物はおろか、弟のフリーザにも見せていない最終形態を見せてやる。」

 

(クソ...大したダメージを与える間もなく変身かよ。)

 

 

「待ってくれ、最終形態ってあれか?

あのマスクつけるやつか?」

 

「マスク?

何故それを貴様が知っているのか?

だが、もうそんな事はどうでもいい。」

 

 

クウラは身体中に力を入れる。

全身至るところが、ボコボコと音を立てて躍動する。

 

 

------

 

 

「ちっ...クウラめ...この俺を上回る戦闘力を隠していたとは。」

 

 

 

変身が終わり、肩膝を着いた姿勢から出た最初の一言だった。

フリーザ 第二形態...ザーボンの事前情報からの見立ては、音を立てて崩れ去った。

巨大化したフリーザは、戦闘力も跳ね上がり100万近くまで上昇した。

もちろん、久方ぶりの変身の為戦闘力はまだまだセーブしている。

 

 

「この体なら戦闘力100万は確実か。

ドラゴンボールが無くなった以上、クウラと争う必要も無くなった。

後は貴様ら雑魚どもをじっくりなぶり殺してやる。」

 

「チクショウめ...」

 

 

しかし、ベジータは最悪の事態とは思わなかった。

ここにはサイヤ人の血を引く者が、自分を含めて3人。

カカロットは界王拳と言う不思議な技がある。

その息子の悟飯は、この星に来てみるみるうちに地力を上げている。

そしてベジータ自身はエリートサイヤ人、最長老の力を借りる点では納得いかなかったが、これまで以上の力を手に入れたので文句は無かった。

更にはラディッツからは、どこから手に入れたかわからないが、超サイヤ人の情報を手に入れた。

後は己さえ超サイヤ人になれば、カカロットやラディッツ、フリーザを蹂躙できる。

 

 

「気をつけろよ...こうなってしまっては前ほど優しくないぞ!?」

 

 

その身体の大きさからは想像出来ない素早さで詰め寄る。

矛先はベジータ...その攻撃は目にはなんとか追えたが、体が追いつかない。

 

 

「!?」

 

 

フリーザの拳はベジータを捉えられずに、逆に握られて防がれてしまう。

第二形態で攻撃を防がれたのは初めて...いや、一族以外では初めてだった。

そもそも、第二形態に変身するのはクウラとの兄弟喧嘩以来であった為に、少し驚いた面もあった。

 

 

「カカロット!?」

 

「お前ぇ...悪いけどこの星から出てってくんねぇか?」

 

「下等な猿が。

1度俺の攻撃を防いだだけで図に乗るな!」

 

 

首を締めに手を伸ばすも、それも手首を掴まれて防がれてしまう。

二度目の攻撃失敗...それもあの下等なサイヤ人に防がれてしまう異常事態である。

 

 

「これでわかっただろう?

みんなを連れて帰ってくれ。」

 

「くっくっく...お楽しみはこれからだ!

ばっ!!」

 

 

尻尾で攻撃をし、その隙に両手が自由になる。

体勢を整えながら、手を鋭く突き上げる。

悟空を中心に地面が炸裂し、全員の視界が奪われたところを狙い、頭から突進する。

自身の持つ鋭利な角を用いての殺傷攻撃...それは確実に誰かを串刺しにするかに思えた。

 

 

「ごふぁ!?」

 

 

腹部に受ける衝撃に耐えられず、空中へ飛ばされるフリーザ。

またしても...またしても悟空に防がれる攻撃。

 

 

「...クッ...またしても...!

...いいだろう、見せてやる!

この変身まで見せるのは、貴様らが初めてだ!」

 

 

第二形態のフリーザが力を入れ始める。

事の終始を全て悟空が片付けてしまっている為、クリリンや悟飯は明るい顔をしているが...。

ベジータとしては、予想以上に応戦出来るカカロットがいてしてやったりという反面、それがエリート戦士としてのプライドに障り苛立ち反面であった。

いや...苛立ちが徐々に押し返し、自分に対しての憤りをいよいよ隠しきれずにいた。

 

 

(この調子なら、フリーザの野郎を倒せるかもしれん。

だが俺様がカカロット以下なのは...下級戦士以下なのはあってはならんのだ!

どうやったらこれ以上強くなれる...どうすれば超サイヤ人になれるんだ!!)

 

 

ここに来て、ベジータは更なるステージへの道を画策し始める。

サイヤ人の特性を最大限生かしたやり方だ。

そうでなければ、この戦闘中に超サイヤ人はおろか、命を落とすことになる。

 

 

(頭を動かしやがれ!

サイヤ人は戦えば戦うほど強くなる...だがもう今更遅い。

今フリーザに立ち向かったとしても、あっさり返り討ちに合うだけだ。

もうひとつは、瀕死を乗り越えての超回復。

あの妙な豆...カカロットが食い尽くしたみたいだからな...

あの野郎の艦にあったメディカルマシンも時間が...待てよ!?

カカロットはあのナメック星人のガキに怪我を治してもらっていたな!?)

 

 

チラッと背後に目をやる。

遠くの岩陰からひっそりと顔を覗かせるデンデ。

そしてその事は、フリーザにはまだ勘づかれていない。

 

 

(ククク...これなら、俺様が超サイヤ人になれないはずがない。

そしてコイツらは反吐が出るほど甘いからな...まだ利用価値はある。)

 

 

ほくそ笑むベジータの目の前で、フリーザは更なる変身がまもなく終わる。

変身時間の全てを考察に費やした...

あとは、これ以上強くなるフリーザに命懸けで立ち向かっていくだけ。

 

 

 

「ごあぁぁあ!」

 

 

そのフリーザ...大きな背中の肩甲骨辺りから角が飛び出す。

次に肩は、頭部を延長した鎧のように変形しする。

その頭部も、後頭部も大きく変形し、後ろへと迫り出すように伸び始めた。

顔面も変わる…鼻は消えて、その代わりに口元が大きく前へ飛び出る。

第二形態でも巨体と思っていたが、次の変身では更に巨大に重厚化する。

もはやその形は、これまでの変身からは想像出来ない異様な体格をしていた。

簡略的に言えば、異形なモンスターである。

 

 

「な な…なんてパワーだ...」

 

 

またしてもフリーザとの差が開いてしまうが、ベジータに諦めるという考えは毛頭ない。

 

 

「お待たせしましたね。

さて、第二ラウンドと行きましょうか?」

 

「カカロット!

俺にやらせろ!」

 

「お おい待て、ベジータ!」

 

 

悟空が静止する前にフリーザの目の前に立つ。

フリーザは気を感じる事が出来ないが、戦闘力の差から常識的に考えてベジータが勝てる見込みはまるで無い。

 

 

 

「随分と自信がおありなんですねぇ。

ベジータさん...勇気と無謀は違うんですよ?」

 

「黙れ。

俺様がてめえを殺してやる!」

 

 

 

ベジータは連続エネルギー弾で攻撃を仕掛ける。

それを囮にしてフリーザの右後ろから猛スピードで蹴り。

だが残念な事に、鋭い蹴りは虚しく空を切る。

 

 

「なっ!?」

 

 

直感して反撃を警戒し、直ちに上空へ逃れ気を探る。

以前の自分ではフリーザのように、目で相手を追っていた為に索敵が遅れていた。

だが今は戦闘力感知して戦うことが出来る。

戦闘力の差はとても離れてはいるが、その点ではフリーザよりも早く反応して次の

 

 

「お久しぶりですね。」

 

 

反射的に振り向きながら距離を置く。

戦闘力を感知する事が出来ないほど、フリーザの動きが速すぎる。

唯一のアドバンテージをも、太刀打ちできない。

 

 

「先程は攻撃だったのでしょうか?

攻撃とはこうやるんですよ!」

 

 

衝撃を受ける右脛。

一瞬風を感じたと思ったら、遅れて来る激痛。

脚を見ると、風穴が空いている。

 

 

「ぐおぉ!?」

 

「おやおや、このくらいの攻撃で穴が開いてしまうとは。

ひゃ! ひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 

 

 

クレイジーフィンガービーム...本来ピッコロに向けて放たれた技であるが、未だ間に合わない為に使いどころが異なってしまった。

ベジータも、その時のピッコロ程の強さではない為に技に耐えきれなかった。

故に、ダメージを受けきれずに貫通してしまっていた。

右脛から開いた穴は、あっという間に左肩、右腕、腹、頬、耳をえぐりとっていった。

そして最後には...

 

 

「おっとすみませんね、誤って胸に当ててしまいました。」

 

「こ...ほ...ぉ...」

 

 

左胸を突き抜け、倒れ込むベジータ。

心臓を撃ち抜いた訳でないため即死は免れたが、肺をやられた為、呼吸をする度に血の泡が風穴から垂れ落ちる。

ベジータが考えていた瀕死からの超回復だったが、よもやここまでダメージを負うとは思ってもみなかった事態だ。

 

 

「逆わらなければ死なずにすんだのに、おバカさんですね...。」

 

 

右足で胴を踏み付ける。

だがその足は、ただ地面を叩くだけに終わった。

踏み付けられるはずのベジータは、悟空に抱えられて悟飯の隣まで移動していた。

 

 

「やめろフリーザ!

もうベジータは戦えねぇ!

もう充分だろ?」

 

 

すかさずクリリンがベジータを受け取る。

こんな時に、仙豆を全て食べるんじゃなかったと悟空は後悔していた。

かつて敵ではあったが、ベジータは死なせたくなかった。

 

 

「ベジータ、しっかりしろ!」

 

 

悟空は気をベジータへ分け与え、虫の息からほんの少しだけ回復する。

間一髪、危うく死んでしまう所だったベジータ。

嬉しい誤算だった。

 

 

「おい...あのナメック星人のガキを...」

 

「どこまで甘い連中何でしょう。

見ていて反吐が出ますね!」

 

「ゴハッ!」

 

 

フリーザは更に指を差し向け、デスビームを放つ。

攻撃を受けて倒れ込むのはベジータではなく...クリリンだった。

幸い胸でなく、腹の真ん中だった為即死には至らなかった。

心臓だったら終わっていたが...残虐な性格が九死に一生に繋がる。

 

 

「クリリン!

...フリーザ!」

 

 

薄ら笑いを浮かべていたフリーザの顔面に、悟空の拳が炸裂する。

無論、未だ界王拳を使ってはいないが、第三形態のフリーザを相手するには充分な戦闘力だ。

悟空とフリーザが戦っている最中、悟飯はベジータとクリリンを抱えて岩陰に飛び込む。

 

 

「デンデ、二人を治して!」

 

 

返事をする間も無く、クリリンの治癒に取り掛かる。

自分の能力を...治癒能力を最長老に解放してもらった。

その力が悟空、クリリンを瞬く間に発揮されている。

 

 

「...あぁ...ありがとう、デンデ。」

 

「良かった、クリリンさん!」

 

 

クリリンを治癒し、次はベジータの番だった。

今はフリーザと戦う戦士だが、仲間のナメック星人を大勢殺した虐殺人でもある。

デンデはだいぶ渋ったが、クリリンや悟飯の説得もあって治癒する。

 

 

「...ちっ、ふざけやがって!

...だが、これで俺様も超サイヤ人になったに違いない!

先程とは桁外れなパワーアップをしているぞ!!」

 

 

せっかく治癒してくれたデンデを足蹴りし、クリリンや悟飯を置いて飛び出す。

もちろん、行く先はフリーザの元だ。

そのフリーザは悟空と戦っていたが、些か不快な思いをしていた。

孫悟空から滲み出る余裕...本人は相手の実力を探る様な戦いなのだが、その戦い方が気に入らなかった。

攻撃を止め、その場に立ちすくむ...フリーザはもう躊躇わなかった。

念には念を...いや、純粋に痛ぶるのを楽しむ為か...

 

 

「...?

どうした?

もう辞めるんか?」

 

「いえ、あなた達を殺す前に、死よりもおそろしい究極のパワーというものをごらんにいれましょう。

正直ここまでの変身をするとは思っていませんでしたよ?」

 

 

再びフリーザは変身のために力を集中し始める。

その力に釣られるように、周りの砂塵や石が舞い上がる。

第三形態...異様な頭部からエクレアフリーザとも揶揄されていたが、次のステージはとても馬鹿にならない強さである。

その体にヒビが入り始め、割れ目からは紫の光が溢れ、直視するのが難しくなっていく。

 

 

 

「孫!

なんだあれは!」

 

「おっ?

ピッコロか!」

 

 

ドラゴンボールで生き返ったピッコロが、ようやくこの場にやって来る。

待ちわびた...と言いたいところだったが、フリーザはこの時既にピッコロを上回る力になっていた。

 

 

「くそったれ、どいつもこいつもデタラメなパワーになってやがって!

ラディッツ、孫、そして次はあのフリーザか!」

 

「チッ、少しはマシなパワーかと思ったらとんだ足でまといを生き返らせやがって!」

 

 

ここでベジータも復活して合流、続けてクリリン、悟飯、デンデも近くへやって来た。

これで、ラディッツを除く対フリーザの面々が揃った。

 

 

「そう言えばラディッツは?」

 

「アイツはあのフリーザよりもヤバイ奴を相手にしている。

奴の兄貴...クウラとかいう奴だ。」

 

「ふっ、それでおめおめとここまで逃げてきた訳か。」

 

「悪いなベジータ、今のあいつはお前を指一本で倒せるレベルだ。

それでも勝てる気がしないと奴は言っていた。」

 

 

死にかける思いをして強くなったベジータを、指一本でぶちのめす事が出来るラディッツ。

それでも勝てる気がしないと言わしめたフリーザの兄 クウラ。

もうここまで来ると、悪夢としか思えない。

 

 

「...俺達、生きて帰れるかな?」

 

「もちろん帰れる。

奇跡でも起こればな。」

 

 

冷静なピッコロの言葉に露骨に顔を青くするクリリン。

そして大きな爆発が起こる。

それは、フリーザが力を集中させていた方から。

...変身が完了したのだ。

晴れる煙、露になるボディ。

その最後の変身は、第三形態からしてみればとてもシンプルな身体になっていた。

身体中に存在していた無数の角は、全て無くなった。

エクレアのような頭部も収まり、人型に大きく近づいた。

体は少しばかり小さくなり、まるで第三形態の時より迫力は消えた。

 

 

「...なんでしょう、とてもスッキリしましたね。」

 

「良かった、もっと恐ろしい変身をするかと思ったよ。」

 

「馬鹿か貴様らは、外見で判断するなと言ういい見本だ!

今までの方がずっと可愛かったぜ...」

 

 

ベジータは力なく言葉を吐き捨てた

フリーザの外見はスッキリとした形。

無数の角や殻は防御面からすれば頑丈な装甲となっていが、機動面では要らぬものである。

無駄な器官は全て捨て去り、極限にまで戦闘に特化した体とも言えよう。

フリーザはゆっくりと歩み寄ってくる。

それに応えるかのように、悟空が前へ出る。

両者の距離は、1mを切るか切らないかくらいで止まった。

 

 

「おめぇ、ずいぶんと小さくなったな?」

 

「まだそんな事が言える余裕があるみたいだね。

これから君達は、この僕に殺されるのがわかっていないのかな?」

 

 

ゆっくりと掌を悟空に向ける。

 

 

「さぁ、恐怖のショーを始めようか。」




太陽の月光蝶さん、誤字脱字報告ありがとうございますorz


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淵に立たされる者達

一年掛かってまだフリーザ編とは...更新率低過ぎて自分自身で驚いた...笑

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「さぁ...始めようか!」

 

 

カシャンと音を立てて、口元のマスクのようなプロテクターが形成される。

このシーンで打ち震えた少年達はたくさんいただろう。

だがそれを望んでいない者も実はいた。

 

 

(ふざけんな...これ以上強くなられてどうしろってんだ!)

 

 

泣き出しそうな瞳を強く瞑って抑え、構え直すラディッツ。

身長186cm...地球では体格がいい部類に入るが、対するクウラは250〜300cm近くはある。

まるで壁のような威圧感に加えて、凄まじい程デカイ気。

構えも自然と、護身術のようになっていた。

足は肩幅に開いて中腰、両掌を前に出すスタイル...この構えならどんな攻撃が来ても理論上対応出来る。

それを自然と構えにしてしまうほど、クウラは恐ろしい相手となってしまった。

 

 

(どうする...界王拳を使ったとしてもあいつの半分の力も無いかも...。

超サイヤ人...怒りがきっかけでなれるなら、マジでならないと勝てる見込み「来ないのか?

ならこちらから行くぞ!」

 

 

弾丸のように飛び出したクウラの身体。

迫るのは見えはしたものの、対応しきれずに攻撃を食らう。

腹部に決まる飛び膝蹴り...そこから両手で殴り落とされ、地面にめり込み、更に腹部を殴られ、蹴り飛ばされた。

あっという間に4comboカウントされる。

 

 

「猿、今どうやって勝てるか考えていたか?

分かっていないようだな...この先は貴様が死ぬまで俺の攻撃が続くだけだ。

それ以上でも、それ以下でも無い。」

 

 

ラディッツはイラついていた。

自分の思い描いていた穏便に済ます計画が頓挫、原作通りどころか、自分の命の危機。

更に相手は余裕ぶっこいていながら、冷たく諭す様な口ぶり。

 

 

(落ち着け...怒りは判断力を鈍らす。

向こうは煽ってるだけだ...深呼吸だ。

落ち着け。)

 

 

痛む腹を抑え、腹が立つのも抑え、感情も表に出さぬよう抑える。

深呼吸するのは、保険業をやっていた時からの落ち着かせる術だった。

慣れたものだった。

 

 

(順当にって言ってる場合じゃない。

ある程度の限界は残して、界王拳を上げよう。

大丈夫、俺は主人公じゃないけど、主人公補正とかあるはずだ!

諦めるな、その方がかっこいい!)

 

 

心の中で断言したが、そう思い込んで挫けそうな心を立て直しにかかる。

むしろ、挫けそうで訳の分からない妄言や戯言や冗談がこみ上げてくる程だ。

 

 

「動かないならば、さっさと終わらせてもらおうか。」

 

 

接近しながら、大きく弧を描くように外回し蹴り。

両手をクロスさせてそれを防ぐラディッツ。

痺れる腕で足首を掴むと、背負い投げるように地面へと投げ落とす。

地面は割るが、即座に足を引いては押し出すようにクウラが蹴り込む。

踵が顎へヒットするが、その反動を受身を取って最小限のダメージに抑える。

 

 

「早ぇ...」

 

「なんだ貴様、まだそんな力を隠していたか。

いい加減諦「うるせぇ!」

 

 

これだから下等生物は...。

見下す思考が表情へ出ている。

そんなクウラに1発でもいいからパンチを食らわせてやりたい一心のラディッツ。

その拳はクウラの腕で簡単にガードされ、あっさりと懐に潜り込まれており、鋭い拳を腹部に十発以上殴られて吹き飛ばされる。

おそろしく速く重い拳に、口から胃液と唾液と血反吐を吐き出してしまう。

 

 

「消えろ。」

 

 

スローモーションのように倒れ込む身体を狙い、デスビームが放たれる。

殺すつもり...今の力なら、ほんの僅かな力で始末できるだろうと考えていた。

 

 

バシンッ!

 

 

小気味良い動きと共に地へ落ちたデスビーム。

それを理解するのに時間は掛からなかった...弾き落とされたのだ、奴の手で。

 

 

「流石に痛い...。」

 

 

倒れ込む時に受身を取れずに頭を打つ。

後頭部と、何故か左手をさするラディッツ。

何が起きたのか?

クウラは一瞬混乱仕掛けたが、まだ力を隠していたと言う結論に至り落ち着く。

それは間違いでは無かった。

自力以上の力...界王拳。

手抜きのデスビームなら弾き返せるだろう。

だが、界王拳の使用は体の負担と言うリスクがある。

ほんの少しだけ話は遡る...。

 

 

 

.........ナメック星到着二日前 宇宙船内........

 

 

「(...98...99...100!)っし、7セット目終わり!!

しんどい、クソしんどい!」

 

 

残り3セット...300回を前にインターバルを入れる。

いくら100倍重力に慣れてきたとは言え、筋トレの辛さが和らぐことは無かった。

むしろ和らげればこの先辛くなることが分かっているから、やらなければ行けなかった。

 

 

(少しは楽に...いや、楽にやればフリーザなんか倒せん。

超サイヤ人にならない事こそ楽なんだ、楽に立ち回るには今やっとかなきゃ。

...けどしんどい...なんか、腕だけでも強くなれば多少は違うんだけどな〜...あぁ、そっか!)

 

(腕だけ界王拳!

スゲェ難しいだろうな...やってみるか!

...おぉ、これは意外と行けるかもしれん!!)

 

 

.........現在 ナメック星.........

 

 

(腕だけ...ってのは無理だったが、上半身だけ〜とか下半身だけ〜とか、上手く行けば胴だけ出来る。

切り替えは早くできないがな...。

身体に負担は掛かりにくいし、切り替えももっとスムーズにやればもっと楽になる。

界王拳の細い区画(スコードロン)化...今の感じ、覚えておかねば。)

 

 

左腕...もとい上半身だけ瞬時に界王拳を使ってデスビームを回避する。

界王拳のみ教わったラディッツが、独自に創りかけている技...身体を細かく区画し、その箇所のみ界王拳を使用し攻守に使い分ける技。

更に極めるならば、そこから発動の瞬間的な切り替えや作動箇所の細分化...。

界王拳だけでも相当な気のコントロールが必要なのだが、更なる応用は相応の気の使用に長けていなければならない。

 

 

「何をした...?

やはり猿は滅ぼさねば!」

 

 

超スピードでラディッツに詰め寄る。

高速で手刀を振るうクウラだが、ギリギリでラディッツはそれを躱す。

 

 

「界王拳!」

 

 

界王拳を用いて背後に回り込み、大振り気味ながら殴りつける。

深手には至らなかったが、それなりに肉体的なダメージは与えられたようだ。

だが...サイヤ人に最終形態まで披露しダメージと言うダメージを与えられた。

フリーザ一族のプライドに傷がついてしまった。

 

 

「この俺が...油断していたとはいえ...絶対に生かしては返さん!!」

 

「(いかん、あれ本気で来そうだ。

どうする...まともにやれば殺される...。

ならば、フェイント込みで少しでもダメージ稼いでやる!)界王拳10倍!」

 

 

身体中を巡る気が熱く...速くなる...が、それは表面上には表れていない。

視覚に頼っていればわからない事も、戦闘力を感じ取れるクウラは察知する。

 

 

(やつめ...戦闘力が倍になったかと思いきや10倍ぐらいになった。

サイヤ人は気の操作が出来ないと思っていたが、もう確信した。

自由自在に操れるようだな...しかも自らの限界をも超える力まで引き出す事が出来るようだな。

俺を超える事は無いようだが...なんだ、あの自信ありげな顔つきは。)

 

 

ラディッツのその姿勢は瞳へ...そして覇気を宿す。

その目を見るクウラは気分を害した。

 

 

「猿め、まだやるつもりか。

カイオーケン?

...いいだろう、完膚なきまでに叩き潰してやる。」

 

 

ラディッツの考え方の方向性は、あながち間違えでは無かった。

格上の相手に対して挑むときは、大体が「戦術が通用しない世界」での戦いとなる。

相手が強いという事は、自分からミスをして崩れていく事は基本無いし、どこへ攻撃をしようとも見切られる...そして、小細工も通用しない。

 

そこで、やるべきことは、徹底したトリッキーな戦い。

そこから生まれる虚をついた戦術である。

相手も格下にみている間...つまりは油断している間にどれだけダメージを与えたり、相手のペースを自分のものに出来るか。

この戦いは運も味方にしなければ成立しない。

実力だけで勝てる相手ではない。

 

 

「ほぁ!」

 

 

両手から大量の気弾を放つ。

全てがクウラに向けて放たれている訳では無い...見切ったクウラは自身に影響のある気弾のみを気弾で撃ち落としていく。

相殺された気弾は爆発を起こし、爆煙で視界が悪くなる。

そして迎撃しなかった気弾が地面で炸裂し、クウラ付近の視界は空よりも悪くなった。

 

 

(ちっ、また視野を奪ったつもりか。

同じ手が通用すると思うなよ!)

 

 

即座に戦闘力を読む、だが全く読めない。

エネルギー反応が見当たらない...と思った矢先、感じた...奴の戦闘力が急接近してくる。

 

 

(串刺しにして終わりだ。

...?

なんだ?)

 

 

指先を立てて予備動作を行う。

ほんの僅かな余所見...太陽が見えたのだ。

ナメック星には複数の太陽があり、常に昼の明るさだと言うのは説明済である。

だが、僅か数分のうちに一つだった太陽が二つになっているのは明らかにおかしい。

そう思った矢先、クウラの目の前に飛び込む影。

それが大きめなエネルギー弾と気づくのは少し遅かった。

接近戦を仕掛けてくると読んでいたクウラは対処が当然遅れ、身体に浴びる結果となる。

その間にも、四方八方から飛び込んでくるエネルギー弾。

それらは何とか躱すが、エネルギー弾同士で爆発を起こして更なる視界悪化に繋がる。

 

 

「ぐっ、猿め!」

 

 

吠えるクウラにまだ手段はある...気弾を上空に跳ね返して視界が開けるのを待つのだ。

視界が戻るのはおおよそ1分...その1分経たないうちにわざと地面に気弾を撃ち込んでいるのは視界が晴れるのを防ぐ為。

全てのエネルギー弾を弾くのは出来ないことではない。

そう思った矢先に、低めのエネルギー反応。

 

 

(これか。)

 

「20倍界王拳!!」

 

 

低空から弾け飛ぶようにアッパーカットが決まる。

20倍界王拳で顎への打撃...気弾と思っていた攻撃が外れ、脳を揺さぶられ、半ば混乱しかけていた。

考える間もなく、宙を舞っていたクウラの足首を掴まれ、空へ投げ飛ばす。

 

 

「はぁ!」

 

 

そのままタメ無しで主砲斉射を放つ。

白い光は迷うこと無くクウラに向かい、光の尾を追うように再びクウラに立ち向かっていく。

一方、空へ飛ばされたクウラは方向感覚が少し鈍る感覚を久方ぶりに味わっていた。

だがそれを楽しむ気は毛頭無く、両手両足を広げ即座に留まる。

目前に迫る白いエネルギーの塊...即座に両手で受け止める。

 

 

「グッ、こんなもの!」

 

 

瞬間的な焦りはあったものの、そう大したエネルギー波では無かった。

受け止めて気づいたが、片手でもまぁなんとかなった程度のものであった。

受け止めたエネルギーの塊をサマーソルトキックの要領で空高く蹴り飛ばす。

 

 

「もう一度、20倍!!」

 

 

弾丸のように飛び込んでくる黒い塊。

2倍近くもある身体に左肘打ちを叩き込む。

勢いはそれで収まらず、高度を上げ、取り続ける。

 

 

(殺らなきゃ...殺られる...殺らなきゃ!)

 

 

上半身だけ界王拳を使い、右手をクウラの瞳へ突き刺した。

クウラの悲鳴と共に、右手は生温くとろみのある生肉がまとわりつくような感覚に囚われる。

 

 

「ぬあぁぁあああっ!!

貴っっ様ぁあーっ!!」

 

 

辺り一面を吹き飛ばす程の爆発波。

間違いなく、彼は本気の爆発波でラディッツを吹き飛ばす。

即座にラディッツはイージスを張るが、勢いは凄まじく吹き飛ばされてしまう。

これまでラディッツの存在を隠してきた砂煙も、一瞬のうちに消え去ってしまった。

 

 

「...チッ。」

 

「許さん...絶対に許さんぞ!

このクウラに傷を与えた事、地獄の底で後悔しろーっ!!」

 

 

瞳の刺傷。

本能的に避けるという動きが無ければ、脳まで達していただろう一撃。

先程のプライドを傷つけた軽めの1発とは比べ物にならないダメージを負ってしまった。

瞳からは赤紫の血潮、痛みが心臓が動くごとに顔中に響いていた。

視野が半分奪われた事や、受けた傷の痛みよりも、そこまでのダメージを与えられた事態になったのが許せなかった。

もうクウラにどんなに許しを乞うても無駄、死を持ってなお許されざる事だ。

 

 

(うわ、コイツ!

まだこんな力...なんだこれは!?)

 

 

クウラの気が爆発的に跳ね上がった。

ラディッツの何倍...いや何十倍であるか?

虐殺...殺戮...どう見積もっても、今のラディッツを殺すのには充分過ぎるにも程がある気のデカさだ。

 

 

「これが俺の本気だ。

この左目に傷を負わせた借りは、貴様を圧倒的な力でなぶり殺して返してやる...!」

 

 

無傷で残った鋭い目が、更に鋭さを増し、若干赤く光る。

鳥肌が立つラディッツの肌、本能が戦うことを拒絶しているようだ。

絶望の淵...諦めの底へと体が吸い込まれそうになるが、次の瞬間、痛みより早く体が吹き飛んでいた。

 

 

 

---ナメック星 別地点---

 

 

想像以上にジリ貧の戦いを強いられている悟空。

20倍界王拳も...更にその状態でのかめはめ波も通用しない。

ここまでカードを切っても、未だ余裕のフリーザに対してあの技しかないと悟った悟空は両手を上げてしまう。

 

 

「...どうしたんだい?

降参のサインかな?」

 

 

フリーザの問いかけには笑って誤魔化し、当て身代わりのデスビームの攻撃を受けてもやめる様子もない。

何かを企んでいると判断し、更に攻撃を加えようとするフリーザ。

 

 

「おい!

孫を援護するからお前らの気を寄越せ!」

 

 

瞬時に察したクリリンと悟飯は、ありったけの気をピッコロへ託す。

ただしベジータは別だ。

 

 

「貴様が行ったところで無駄だ!

カカロットでも敵「貴様、身をもって味わっただろう?

...元気玉だ、気を分けないのならてめぇも手を貸しやがれ!」

 

 

ピッコロはフリーザへ向け突撃していく。

元気玉...ベジータは身をもってあの技の威力を知っていた。

あれならば...。

 

 

「クソッ!

死に損ないが俺に指図するな!!」

 

 

ベジータもフリーザへ向け飛び込んでいく。

引き続いて攻撃を加えようとしていたフリーザに向け放たれるエネルギー弾。

避けるまでもなく炸裂する。

 

 

「おや?

まだ生きてましたかベジータさん?」

 

 

ドスの効いた声に反応する前に、ピッコロがベジータをも巻き込む気弾を飛ばすも、そのベジータを掴んでガードする。

 

 

「案外君たちも、結構酷い事をするね。

味方がいるのに攻撃するなんて。」

 

「「ソイツは味方ではない!」」

 

 

言葉遣いも攻撃のタイミングまでハモる。

それを尻尾であしらうようにガードするフリーザ。

凄まじい手数ではあるが、涼しい顔で全て弾かれている。

 

 

(なんて事だ!

俺だって同化して凄まじい力を手に入れたというのに...!)

 

(クソ!

超サイヤ人に、俺はなったんだ!

フリーザなんぞ!)

 

「おふたりさん、考え事しながらやってますと危ないですよ?」

 

 

それぞれカウンターが綺麗に決まり、交互に打撃を与えていく。

抵抗する前に攻撃をくらい、ガードや回避の余裕など無く、最終的には地を抉りながら背後の岩盤に叩きつけられる。

フリーザは悟空よりも、この2人を先に排除することに決めた。

ゆっくりと浮上し、両手にエネルギーを集め二人に向ける。

 

 

「これでうるさいハエどもも静か...に...!?」

 

 

一瞬の痛みと共に、自らの尻尾が落ちていく。

気円斬...いくら気の扱いに長けていたクリリンでも、気をほとんどピッコロに渡していた為に精度が落ちてしまっていた。

それでもなお、尻尾とは言えフリーザに当てた上に注意を引きピッコロとベジータの命を繫ぐ。

 

 

「...まだハエどもが逃げずにいましたか...。

ちょこまかとうざったいゴミ共がー!!」

 

 

 

悟飯、クリリンに迫る。

最早逃げる為のエネルギーを使い果たしたクリリンは膝をつき動けなかった。

悟飯も残る気を用いて邀撃する。

 

 

「僕だって!」

 

 

その小さな体から溢れる勇気は届く訳でもなく、片手であしらわれて地面へ弾かれる。

そのままクリリンを蹴り上げ、かかと落としで地面へめり込ませた。

攻撃はそれで止まず、両拳...ノヴァストライクを受け、出来たクレーターが格段に巨大なものになる。

 

 

「ボホォ!!」

 

「大人しくしておけばもっとマシな死に方ができたのにね。

君には苦しんで死んでもらうよ?」

 

 

死なない程度に1発1発丁寧に腹部に拳を打ちつける。

殴られる反動で血反吐と唾液が入り混じった物が、幾度となく飛び散った。

 

 

「おっと、君たちも忘れてはいませんよ?」

 

 

背後から迫るピッコロには裏拳、真上から蹴り落としてきたベジータを掴み、近くの岩山に投げ飛ばす。

その間にもクリリンへの攻撃は止まず、徐々に弱々しくなる気...あと何発耐えきれるだろうか?

 

 

「クリリンさんから...離れろー!!」

 

 

目に止まったのは、懐で拳を突き出さんとするサイヤ人の子供。

次の瞬間には痛みとともに殴り飛ばされていた。

悟飯は幼いとは言え、目は確実に戦士の目...その目が気に入らないフリーザ。

 

 

「グッ...このガキがぁ!」

 

 

体勢を立て直しながらエネルギー弾を放ち爆散する。

反撃は決まったかに見えたが、視認する前に脳天を蹴り落とされる。

 

 

「お前なんか死んじゃえー!」

 

 

新技 爆砕魔弾。

師であるピッコロから教わった魔閃光の派生型。

ラディッツは新技とか言って喜んでいたが、実際の漫画の方では第三形態の時には出していた技であった。

 

 

「フルパワーだあぁーっ!」

 

 

精一杯だったエネルギー波が、更に強大になる。

抑えて跳ね返してやろうと一考していたが、押されて堪らず受け流す。

痺れる掌...反動で動きが鈍る悟飯に目もくれずに睨みつけていた。

あのサイヤ人に...しかもガキに、この手が痛みと衝撃で痺れを感じていたのだ。

 

 

「...もういい。

お遊びはここまでだ!」

 

 

再び浮上し、指先の更に先へエネルギーを集中させる。

要らなくなった星や不要な星を、最期に爆破させて鑑賞する為のエネルギーボール...フリーザ軍の兵士では別の名で、知れ渡っていたようなので、その名を借りてデスボールと言っていた。

 

 

「これで終わりにしましょう!

大丈夫...一瞬の内に蒸発しますから痛みは.....?」

 

 

突如として違和感を感じる。

何故か...空中のフリーザの影がやけにハッキリと地面へと映る。

太陽とは違う...また別の光源...。

振り向けば...自らのデスボールとは比較にならない程巨大なエネルギーの球体がそこに存在していた。

その下には...忘れていた、サイヤ人孫悟空。

そして周りを見回せば誰もいない。

まんまと時間稼ぎに嵌められたというわけだ。

雄叫びとともに迫り来る光り輝く光球...デスボールはあっという間に飲み込まれ、残るのは己自身。

こんな所で...あのサイヤ人なんぞにやられるはずがないと、光球に真正面から立ち向かう。

むしろ、押し返して絶望へと変えてやろうという算段だった。

...だが、想像を遥かに超えるエネルギーらしく、押し返すどころか勢いがまるで衰えない。

 

 

「こん...こんんんなものぉぉおおおーー!!」

 

 

恐ろしい程の質量をもつ巨大なエネルギーの塊を、必死に押し返そうと抗う。

質量抜きにして、純粋な大きさを比較しても以前の30倍はあろうかという元気玉。

ナメック星の全ての元気では足りず、その周辺の惑星やら衛星全ての自然エネルギーを寄せ集めての元気玉だった。

これが、フリーザに対する必殺技であり、切り札であり、最後の手段であった。

これが決まらなければ、ズタボロの体で宇宙の帝王と対峙しなければならない。

既に悟空とピッコロは、衝撃に備えるために地に突っ伏しており、エネルギー質量と重力にまかせている状況だ。

 

 

(...こんなところで...この僕が...サイヤ人如きにぃ!!)

 

 

フルパワーなら押し返せるものも、今の身体ではどうしても全開になれない。

今になって、楽しみたいがための形態変化を恨んだ。

思うように力が出せず、遂に地面へと追い詰められる。

...まさしく、押しつぶされるように。

 

 

「ぐわああああーー!!」

 

 

断末魔の叫び...元気玉に呑まれ落ちていくフリーザ。

閃光と衝撃に地形は瞬く間に変わり、爆心地に向け周りの湖から水が流れる。

遠くへ避難していたクリリン・悟飯は、元気玉の凄まじさを痛感した後に悟空達を救出する為に爆心地へと向かう。

幸いにも、ピッコロが襟首を掴んで陸地へと引き上げていた!

安堵する戦士達...だが彼らのやる事はまだ残っていた。

 

 

「大丈夫?

お父さん?」

 

「へへへ...もうほとんど力が出ねぇけどな。」

 

「まだ倒さなきゃいけないやつがいるなんて...」

 

「この後に及んで、奴だけ見捨てるわけにはいかんだろう。

...デンデ。」

 

「は はい!」

 

 

戦士達は一斉にある方向へ視線を向ける。

徐々に減少していく生命エネルギー...ラディッツだ。

フリーザよりも強敵でありながら、たった1人で戦う男を見捨てる彼らではない。

 

 

「コイツら...本当にフリーザの野郎を...」

 

 

空中に避難していたベジータは、目の前の出来事が信じ難かった。

敵わないと思っていたフリーザに立ち向かう下級戦士...その強さは間違いなく超サイヤ人の領域だった。

それでもフリーザに防戦一方だったが、ピッコロとベジータの時間稼ぎにより、フリーザの気が消えた。

...正確には、元気玉の衝撃の余波で戦闘力を掴めないだけだったのだが、自身もあの技を受け、更に今回は数十倍の威力。

あのとんでもない戦闘力が読み取れないなら、確実に葬ったとしか思えない。

 

 

(...下級戦士のくせに...!

だが、エリートの俺様なら確実にあれよりも強くなれるはずだ!

まだ奴の兄とかいうのが残っているならば...回復し、その戦いで超サイヤ人になってやるぞ!!)

 

 

ベジータも何も言わずに彼らの近くの空中まで近づく。

目的は違えど、倒す敵が同じならば自ずと次の行動は早かった。

避難していたデンデも、一目散に悟空の元へ駆けつける。

これで回復さえすれば...あのフリーザの兄と言う奴にも勝てるかもしれない。

 

 

「お待たせしました、今すぐ治します!」

 

 

突如として、ベジータが地面にめり込む。

...しかも、意識が無い。

首の骨が折れ、白目を剥いて倒れている。

 

 

「ベジータ!」

 

 

間を挟まず、今度はデンデが倒れ込んだ。

いきなりの出来事に、全員何が起きたのかわからなかった。

ただ一つわかることは、二人共何者かにやられたという事は理解出来た。

この状況で、誰かにやられたという事は...

 

 

「はぁ...はぉ...い 今のは死ぬかと思った。

許さんぞ...絶対に!!」

 

『フリーザ!!』

 

 

周りは荒れ狂う湖、その最後の岩の島の上。

奴は帰ってきた。

身体中に傷や痣、更には傷口は出血し、その表情は激怒の極みに達していた。

帝王、再臨。

彼らに絶望が襲いかかる。

ベジータは首を折られ、デンデはデスビームに倒れ、抗う戦士達は既に限界...もう気力で立つのもやっとの程度。

 

 

「不思議と何度も回復していたのは、そのナメック星人のガキが原因か。

これでお前達はもう回復出来ませんね?

ついでに、超サイヤ人とか何度もほざくベジータさんには、少し黙っていただきました。」

 

 

突如として湖に凄まじい水柱を形成された。

その水柱が落ち着く前に、再び水柱が上がる。

収まった時には、尻尾で締め上げられたラディッツとクウラがいた。

 

 

「...かは...。」

 

「ん?

フリーザか。

貴様にはいつも説教垂れていたが...どうやら俺もまだ甘かったようだ。」

 

「...!?

その目は、まさか!?」

 

 

肯定するかのように、尻尾の血管が浮き出てラディッツの悲鳴が上がる。

フリーザの知らない最終形態を超えた変身にも驚いたが、そのクウラに傷が付いていた事の方が問題だった。

少なくとも、クウラとサシで傷を付けられるなら、自分と父のみかと思われたが...それをサイヤ人にやられるとは考えてもみなかったからだ。

 

 

「ラディッツ!?」

 

「なんだ、アイツは!?」

 

「奴だ!

あのフリーザの兄と言う奴...クウラだ!」

 

「なんだって!?

フリーザをも上回る気...こんな奴が...。」

 

 

クリリンは膝から崩れ落ちる。

絶望...そんな言葉が安く思える。

兄 クウラの信じ難いダメージに、フリーザは意を決して浮上する。

 

 

「クウラがここまでやられるとは...僕も油断していると万が一って事があるからね。

すぐに終わらせるよ。」

 

「悟空避けろ!!」

 

 

ラディッツが叫ぶ。

その声にいち早く反応したのはピッコロだ。

悟空を突き飛ばし、その胸に風穴が開く。

黙れと言う代わりに、クウラはラディッツをピッコロに投げ捨てる。

 

 

「ぐ...ぅ...ピッコロ!?」

 

 

完全に死んではいない...ベジータもだ。

首の骨が折れても、胸に風穴が開こうとも、彼らの気は消え去ってはいない。

それでなお、クウラは更なる一手を加える。

 

 

「クリリン!」

 

「イージス!」

 

 

界王拳での強化された気のバリアを張るが、クウラの最終形態の力には及ばず貫通する。

体に埋め込まれた極少のエネルギーボールは、もがくクリリンを宙に浮かして自由を奪う。

 

 

「どうだサイヤ人?

仲間が苦しんで死ぬ姿を見られるぞ?」

 

「ホッホッホ、蜂の巣にして差し上げましょう!」

 

 

連続デスビーム。

ベジータ以上に、クリリンにも無数の風穴が一瞬で開く。

 

 

「ご...く.....。」

 

「やめろーっ!!

フリーザ!」

 

 

クリリンの最期は、原作よりも酷いものとなった。

身体中に無数の穴...そして最期に眉間に。

そして爆散。

フリーザ、クウラにより、必要以上を超えた攻撃を受け続け、最期には肉片すら残らずに散った。

 

 

「クックック...いい眺めだ。」

 

「次は...貴様の息子。

そしてラディッツ。

最期にお前をなぶり殺して同じ所へ送ってやる。」

 

「.....くも...よくも.......」

 

 

 



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恨み骨髄に徹し...

明けましておめでとうございます!
この小説...丸々2年経ちまして...


(俺は...人としてどうかしてるかもしれん...。)

 

 

クリリンを守ろうとイージスを張った訳だが、直前に雑念が過ぎった。

ここでそのままクリリンを殺させれば、悟空は超サイヤ人になって勝機が生まれるかも...と。

一時はそんな思考を振り切って守ろうとしたが、結果的にはクリリンは死に...悟空は超サイヤ人へと変貌を遂げていた。

しかも、それを正当化しようとしている自分もいる。

 

 

(結果的に、悟空は超サイヤ人になった。

これでフリーザ達とやりやすくなった...だけど、クリリンを見殺しどころか、共謀して殺した様なもんだ。

だけどそうしなければどうやって悟空が超サイヤ人になれただろうか?)

 

 

悟飯は、ピッコロとベジータを抱えてどこかへ行った。

悟空が乗ってきた宇宙船へと運んで行ったのだが...それがどうでもいいように思えた。

 

 

(俺...ホントにこれで良かったのか?

やってる事が正しいのか?

けどそうしなければみんな野垂れ死ぬ事になってたかもしれなかった...)

 

 

フリーザは超サイヤ人になった悟空に酷く驚いて、フルパワーと言う封印を解くことに。

クウラはあくまでフリーザに尻拭いをさせる気だったようで、フリーザ単体で悟空と戦う。

 

 

(...クソ、そうやって自分のやってることを正当化してるだけだ。

あの時あんな事を思わなければ、クリリンだって守れたはずなん「どうした猿、無い頭を懸命に使って?」

 

 

次の瞬間には地面を飛び跳ねるように転がっていた。

ピントが合わない目を向けると、二重にボヤけるクウラが歩み寄ってきている。

頭を掴みあげ、クウラと目線が合う。

 

 

「...クウラ、フリーザ1人で良いのか?

アイツは超サイヤ人だぞ?」

 

 

返事より早く、拳が腹にめり込む。

 

 

「あのサイヤ人を殺し損ねたのはアイツの責任だからな。

フリーザが本気を出せば、例え貴様らが大好きな超サイヤ人になったと言えど負けることは有り得ない。」

 

「...ゲホッ...そうかよ。

...!」

 

 

不意を突いた蹴りも尻尾で阻まれ、再び腹に拳がめり込む。

もう、ラディッツに残されていたのは限界まで引き上げる界王拳...こんな事になるなら、元気玉覚えとけばと本気で思っていた。

 

 

「ふふ...無様だな。

貴様にやられたこの目の痛み...何十倍にして返してからあの世に送ってやる。

まずは、俺と同じように目を潰してやろう。」

 

 

指を突き立てるのを、両足で蹴り飛ばしてクウラの拘束から逃げ出す。

もちろん、界王拳を使ってだ。

 

 

(逃げれた...いや、逃げさせてもらったみたいだな。)

 

 

普段、戦闘においては非常に用心深く徹底的だった。

どんな敵であろうと、死体を見るまでは自分の勝利を確信しないのが彼の信条だった。

だが下等生物サイヤ人を殺すどころか、瞳をやられてプライドがズタズタになった今、ラディッツをなぶり殺しにする事に固執していた。

 

 

「その程度で逃げれたと思ったら大間違いだ。」

 

 

再び、気づいた時には地面に叩きつけられていた。

戦闘力差があり過ぎる。

界王拳を使わなければ全く歯が立たず、使ったとしてもほとんど歯向かうほどのものではなかった。

 

 

「クソ...勝てない...」

 

「当然だ、貴様らサイヤ人如きがフリーザ一族に適うとでも?」

 

 

勝てない...そう口にはしたものの、まだ全てを諦めているわけでは無かった。

クウラと言う想定以上の敵が来てしまった訳だが、原作通りにピッコロも悟飯も生き残り、悟空は超サイヤ人へとなった。

ベジータは死んでしまうはずだが、原作より強化されてしぶとく生き残っている。

クウラさえ倒せば勝機は充分にある...が、気のデカさが尋常でない。

潜在能力開放、尻尾の復活による身体完全復活、界王拳...10倍...20倍...それでも絶望的な力の差は埋まらない。

今は手加減されているからまだ立てているが、本気でやられたらジャブですら致命傷になりかねない。

 

 

(まだ手加減されてるうちに...ダメージを。

本気でやるしかねぇ...。

30倍の界王拳!)

 

 

大火のようなオーラ。

自身の継続して出力する事の出来る限界が30倍の界王拳。

ここが勝負の分かれ目である。

 

 

(なんだ!?

また戦闘力が...これまでで一番か!?)

 

 

「はああああ!」

 

 

真正面から空中でステップを踏むようにランダムに方向をずらしながら接近する。

ある程度の所で気弾を連射し、クウラの斜め上空に高速移動。

気弾を防げば拳が、拳を防げば気弾が、どちらにも気を取られればダメージは倍増だ。

 

 

「...ぐふっ.....ぅぅ。」

 

 

気弾に飲み込まれるクウラ。

彼の腕はラディッツに届く。

大火のオーラは消え去り、髪から尻尾の先まで全身の力を失う。

クウラのダメージは...。

 

 

「それが貴様の全力のようだな。

下等生物にしてはまぁまぁだったな。」

 

 

気弾のダメージと言うダメージはまるで見当たらず。

そして自らの拳は届かず。

食い込んだ拳を、一段と強く押し込んで吹っ飛ばす。

バウンドしながらいくつもの岩山を突き抜け、ボロボロになって止まった。

 

 

「...まじ.....かぁ.....。」

 

 

痛みしかない体を無理矢理立ち上がらせる。

クウラは...先程までの間のない攻撃は無くなった為に近くにはいない。

ただ、容赦の無い攻撃は威力に変わり絶望を与える。

その証拠に、バカでかい気を放つクウラはゆっくりと歩いて近づいてくる。

まるでブラッド・スポーツ(狐狩)...これまで相手をなぶり殺す事の無かったクウラが、ここまでなぶり殺しに徹すると...。

 

 

(どうすりゃいい...。)

 

 

抗う手段はもうほぼ無い。

後は...超サイヤ人。

何かの怒りがキッカケで覚醒でもすれば、希望は見えてくる。

だが、ドラゴンボールは主人公すら死んでしまったり生き返ったりする世界。

そんな物語を知っている彼に、誰かが死んで怒りに目覚めると言う感覚がよく分からなかった。

 

 

(怒りか...どうやって怒ればいいんだ。

クリリンが死んでもあまり何も思わなかった人間だ。

どうすれば超サイヤ人に...?)

 

 

そろそろクウラも、数十mの所まで歩み寄った来た。

考える時間はない。

地面を蹴り込んで接近する。

直前で更にスピードを上げ、赤いオーラをチラつかせてて消える。

ふと、ラディッツが立ち止まる。

二人目のラディッツも立ち止まる。

三人...四人と増え、十人のラディッツがクウラを取り囲む。

 

 

『おらぁー!』

 

 

十人のラディッツは同時に殴りかかる。

拳が当たる前にクウラは消える...。

 

 

「ゴハァッ!」

 

 

上空に突きつけられた拳は見事にラディッツの腹部を捉えた。

と同時に、十人のラディッツも姿を消す。

 

 

「残像か?

そんな子供騙しに掛かるとでも思ったか!?」

 

 

 

尻尾で叩きつけられ、岩山の半分をぶっ飛ばして止まる。

速さでも圧倒され、力でも圧倒され、技でも圧倒され...。

 

 

(...やるしかない。

限界を超える界王拳...これでダメなら死ぬしかねぇ。)

 

 

手を腰に...気を溜めるあの姿勢。

はああぁぁーと唸り気を高める。

 

 

「界王拳...35倍!」

 

 

一瞬しか出したことのない高出力の界王拳を維持するラディッツ。

それでもなお涼しい顔のクウラに向け突撃していく。

ここまで限界まで界王拳を引き上げると、もう戦略とか戦術とか考える余裕は無い。

真正面から力と手数で立ち向かう。

 

 

「はああああ!」

 

「まだ上がるのか。

だがその程度なら無駄な足掻きだ。」

 

 

小さな衝撃波が発生するラッシュ攻撃を軽くあしらっていくクウラ。

限界を超えてまでも、まだクウラの方が上なのだ。

 

 

「はああああ斉射ぁああ!」

 

 

そのラッシュ状態から放つ主砲斉射。

至近距離からのエネルギー波だが、これにも対応するクウラ。

しかも...片手だ。

 

 

「ぬらあああぁぁぁ!!」

 

「醜いな。

所詮猿はどう足掻こうが野蛮な猿だ。」

 

 

信じられない光景に焦るラディッツ。

界王拳も持続するのも限界だ。

最後に...最後に...。

 

 

「あ...あ...ぁ...40ば!!」

 

プツン

 

 

ブレーカーが落ちるような感覚...エネルギー波は突如として消え、体の感覚が全て消えた。

痛覚も、風を切って落ちていく感覚も、心臓が動く感触すらわからなくなった。

意識すら、ちょうど境目のような所に留まっている。

...地面に墜落した。

意識と反して、全身がビクビクピクと激しく痙攣し始めた。

止めようにも体は言うことを聞かない。

痙攣してると分かったのも視覚から得た情報であって、まるで状況が読めなかった。

 

 

「終わったな。

カイオーケンが何か知らんが、貴様の身体が保たなかったみたいだな。」

 

 

所々しか聞こえなかったが、身体が保たなかった事は聞き取れた。

そう、界王拳での増強とはいえ身体に負担が掛かるのはご存知だろう。

それが身体の限界を超えただけだ。

赤紫色の肌が、身体の至る所に広がる...内出血だ。

そして、極度に肥大して胸を突き破ろうとしている心臓。

 

 

(なんだこれ...心臓が...!?

界王拳をコントロール出来なかった代償か。)

 

 

意識は朦朧としていたが、力の抜けた身体と心臓肥大を見て確信した。

そしてもう一つ確信する。

死がすぐそこまで迫っている事を。

ラディッツの身体がゆっくりと宙に浮かぶ。

首が、クウラの手中に収まる。

 

 

「貴様がもし...下等なサイヤ人で無かったら、俺の配下にでも加えようと思ったんだがな。

恨むなら、貴様の運命を恨むんだな。」

 

 

踠くにも力は無く、気管は閉ざされた。

やがて首の骨が軋む感覚になり、意識は徐々に薄れていく。

 

 

「ラディッツさんを、放せー!!」

 

 

何かがクウラに飛び込んで来たのだが、左腕1本で軽く薙ぎ払われる。

ベジータとピッコロを送り届けた悟飯が戻って来たのだ。

クウラはラディッツの首を離し、悟飯を注視する。

 

 

「悟飯、来ちゃダメだ...。

俺より悟空を。」

 

「お父さんならきっとフリーザに勝てます。

ラディッツさん...死んじゃいやです!」

 

「悟空...あのサイヤ人...危うく猿の血を見逃すところだったぞ!」

 

 

目に捉えられない程素早い攻撃。

悟飯の腹部に深く刺さる。

子供だからと言って手加減をする程クウラは甘くない。

 

 

「やめろー!

殺るなら俺を殺れー!

悟飯は、悟飯はダメだ!!」

 

「そうか...ククク。

いい事を思いついたぞサイヤ人。」

 

 

 

手首を握りあっさりとへし折る。

あまりの痛みに悟飯は悲鳴をあげ、涙を流す。

クウラの良い考え...それは、動けないラディッツの目の前で子供...そして仲間の孫悟空の息子を惨殺する事だった。

抗う者であり、サイヤ人の血を受け継いでいるのだ。

一石二鳥、三鳥にも四鳥にもなる。

 

「どうした猿?

早くしないとこのガキが死んでしまうぞ?」

 

「てめえぇー!」

 

 

人差し指が動いた。

徐々に身体が動ける程度まで回復している。

それを見て、クウラは肘を折る。

1箇所ずつ、命に関わらない所から順に使えなくしていく。

クウラが更に悟飯を痛ぶろうとした時、地面から突き上げる衝撃と聞いたことのない程の大きく長い地鳴り。

 

 

「...まさか...フリーザのヤツ、この星ごと消すつもりだったのか。」

 

 

地鳴りは止んだが、再び地が揺れる。

星の崩壊が始まった事は誰しもが予感出来る。

 

 

「こうなってしまった以上、早々に片付ける必要があるな。」

 

「ぁ...ぅぅ.....。」

 

 

三股の関節が、あらぬ方向に不自然に曲がる。

左足は力加減を間違え、ちぎってしまった。

その左足は近場に捨てられていた。

 

 

「クウラてめえ!

そんな事して許されると思ってんのか!?」

 

「許される?

違うな、これは俺が貴様らに対する制裁だ。

貴様らサイヤ人如きが身分制度紛いの愚かな民族でありながら、周囲の星を侵略していたから我が一族が止めさせ、友好的な同盟を組んだのだ。

それなのに...徐々に力を蓄え始め我々に反逆しようと謀ったのだ。

わかるか?

無能で横暴な猿ごときが図に乗りすぎたのだ。

だから俺達が責任を持って、お前達サイヤ人を全滅させる。」

 

 

悟飯の腰を踏み付ける。

骨が砕ける嫌な音と、悟飯の叫びを味わう事になるラディッツ。

精神的にも限界だった。

短い期間だが、悟飯の叔父...そして師として来た彼には耐えられない光景。

そんな時、再び異常現象が現る。

空が途端に暗くなった。

これも星の崩壊に関連するものかと思われたが、遥か彼方の龍を見て事態を飲み込んだ。

 

 

(ドラゴンボール...いかん!)

『界王様!

デンデに伝えてほしい、悟空とフリーザだけじゃなくて俺とクウラも残してくれって!』

 

『な 何を言っておる!?

お前達二人は残ってはならんのじゃ!』

 

「後のことはなんとでもなる!

とにかく俺とクウラも残して、後は地球に飛ばしてくれ!」

 

 

困惑気味の相槌を最後に、テレパシーは途絶える。

何とかなるようだが、最後の言葉を聞いたクウラは引っかかっていた。

 

 

(俺とあの野郎を残して飛ばす?

なんの事だ...この暗さと言い何が起きている?

まさか...ドラゴンボールの願いが俺とあの野郎以外を別の所へと言うなら、辻褄は合う。

ならば...)

 

 

クウラは悟飯の顔を握る。

全身骨折だらけの小さな体は、不自然な姿勢のままダラリと吊し上げられる。

 

 

「貴様ドラゴンボールで何を企んでいる?」

 

「お前には関係ない!

そんな事より悟飯を離せ!」

 

「コイツを殺されると余程都合でも悪いのか?

...それとも、偽善心からか?」

 

「偽善心だと!?」

 

「そう、偽善だ。

貴様の性根はサイヤ人特有の非道性だ。

本当は善行など行う気が無いくせに善人だと思われようとしている貴様が滑稽だ。」

 

「...例え偽善だから「やらない偽善よりやる偽善とでも言いたいのか?

それは貴様の思い上がりだ。

実際どうだ?

貴様の行いにより幾人の星の人間が手にかけられ、仲間すら危険に晒している。

お前のその言分は、偽善者の言い訳であると同時に自己欺瞞そのものだ。」

 

 

これまでの自分を全て否定されているが、状況が状況だけに言い返すことも、拳を振るうことも出来ない。

ドラゴンボールの願いさえ叶えば、悟飯は何とか地球に行けるはずと思っていた。

 

 

「だから、その偽善心が向けられてるこのガキを殺せばどうなるか...?」

 

「な...やめろおおぉぉっ!

 

「うわ...ぁ...お...とう...ラディ...さん。

...たす...け.....」

 

 

骨が砕ける音と、拳を握り潰す時は同じ。

首から上が無くなった体は、重力に従って地に落ちる。

そして少し経ってから、ナメック星の空は明るくなった。

 

 

「どうだ猿、貴様の偽善心は?」

 

「...。」

 

 

ラディッツの耳には何も入らない。

耳鳴り...眼前暗黒感...そして堰を切ったように全身を目まぐるしく流れる血液。

 

 

「...ぐっ...ぅぅ...。」

 

「悲しむ必要は無い、お前も今すぐ送ってやる。」

 

 

1歩、近づいた。

立ち上がるサイヤ人。

そう、立ち上がったのだ、今の今まで虫の息で横たわっていた男が。

 

 

...うぅ...ぐ...ぅぅ。

 

 

髪はボリュームが増し、髪の色素が白く変わったかと思えば...光り輝き始めた。

いや...光ると言うよりかは黄金色に...。

その姿は、先程の孫悟空と呼ばれたサイヤ人と同じ。

 

 

(まさか...超サイヤ人がもう1人?

...だが、先程のサイヤ人程度の戦闘力と同じ上昇率ならまだ対処できる。)

 

 

クウラは至って冷静。

対するラディッツは...復讐心に満ち溢れていた。

 

超サイヤ人に覚醒するには一定の戦闘力の他に、

・穏やかな心

・種の絶滅の危機

・感情の起伏(強い怒り、悲しみなど)

 

...が必要とされている。

 

だが穏やかではないが深い悲しみ、想像の怒り、気がついたら覚醒する...等と、環境や個々の違いにより異なってくる。

今回のラディッツは前者と後者を兼ねていた。

サイヤ人と言えど、なんの抵抗も出来ない子供を惨殺された怒り...その子を助けられなかった強い自己嫌悪...そして何よりも、全ての元凶となったクウラへの憎悪、復讐心...。

穏やかとは程遠いが...深い悲しみと怒り、そして相手を殺す程の復讐心が超サイヤ人へ引き上げたと言えよう。

 

 

「...お前に教えてやるよ。」

 

 

次の瞬間にはクウラは地面に投げ倒されていた。

 

 

(何!?

何が起こった!?

いや、瀕死の猿が何故!?)

 

「...俺達の受けた痛みがどれくらいだったか...テメェに嫌という程!」

 

「調子に乗るなぁ!!」

 

 

仰向け状態で踏みつけられそうになるが、ギリギリ左手で受け止める。

その左手に水気を感じた。

ラディッツは涙を流していたのだ。

 

 

「...くっ...ハッーハッハッハ!

なんだ貴様、泣いているのか!

クックックッ!」

 

「笑うなクソが!」

 

 

足に全体重を掛けてバランスを崩し、倒れ込みながら鳩尾に肘打ちを決める。

対するクウラは、倒れ込む直前にエネルギー弾を顔面に三発叩き込む。

ほぼ相打ちとなり、後方へと跳躍して間合いをとる。

 

 

「この傷を与えた貴様の過ち...償ってから死んでもらうぞ!」

 

 

今まで表面化していなかったが、どす黒い紫のオーラが吹き出す。

まるで先程の本気と言った事が嘘みたいに。

 

 

「これが俺の本気も本気だ。

貴様がいくら伝説の超サイヤ人だろうがぶっ!」

 

 

ラディッツの攻撃は止まらない。

まるでクウラの話を聞いていない...いや、聞きたくもないように攻撃し続ける。

最初は全く手出し出来なかったが、徐々に押し返し始める。

第五形態で3割の力配分だったが、今では全開にまで引き上げて戦っているのだ。

この異常な程の戦闘力の上昇率...まだ圧倒してはいるが、クウラの心境は平穏では無かった。

 

 

(これが伝説の超サイヤ人...。

俺がここにいなければ、フリーザに勝ち目は到底無かった。

ここで消さねば...一族のプライドに関わる。

コイツは...ここで殺す!)

 

 

衝撃波でラディッツを弾き飛ばす。

すぐさま反撃しようとする体に、深く拳がめり込む。

血反吐を吐き出すも、髪を掴まれ前のめり気味になった顔面を蹴り飛ばされる。

吹き飛ぶ先に回り込み、十何発も殴り込んだ末に蹴り落とす。

もう一度先回りし、再び殴り掛かる算段だったが、頭突きされて体勢が崩れる。

 

 

「クソが!」

 

 

がら空きになった腹部に叩き込まれる数発の巨大な気弾。

硝煙立ち込める腹部を捕まえタックル。

そのまま地面へ激突し、衝撃で地表が大きくめくれ上がる。

 

 

「まだ生きてやがるのか。

どーせテメェは地獄行きなんだ、さっさと消え失せろ!」

 

「猿が、多少強くなっただけで意気がるなよ?

戦闘力なら俺の方が上なんだからな!」

 

「貴様ぁぁあああー!!」

 

 

クウラの顔面を殴るもう1人の金色の戦士。

だがその攻撃はクウラにダメージを与える程ではなかった。

それを察した男は更に攻撃を加える。

 

 

「よくも...よくも悟飯をぉおお!!」

 

 

親友のクリリンを殺されて覚醒した孫悟空。

息子をも失い、感情に任せて拳を奮っていた。

ピッコロ大魔王以来か...自我をも失う程の怒りと殺意で戦う孫悟空を見るのは。

 

 

「うわああああああ!!」

 

「どいつもこいつも...超サイヤ人は叫びながら攻撃するのが好きなようだな!」

 

 

悟空の攻撃を初撃以外全て防ぎきる。

サイヤ人と言う戦闘民族の血、センスに加えて、数々の死線をくぐってきた悟空の技、パワー、スピード。

超サイヤ人となりそれが桁違いのレベルになったのにも関わらず、クウラにはまるで通用しない。

カウンターの1発で、ぶっ飛ばされてしまった。

そんな悟空を助けるよりも、ラディッツはクウラへ殴り掛かっていた。

 

 

「テメェは俺が殺す!」

 

「ぬかせっ!」

 

 

取っ組み合う2人。

バチバチと空間に稲妻が走り地面もえぐれていく。

互いに額に血管が浮き出る。

 

 

「うっ!?」

 

 

不意にクウラは力を抜き、前のめりになったラディッツを蹴り上げる。

追撃しようとしたが、再び悟空が妨害してきた。

 

 

「クウラーっっ!!」

 

「サイヤ人は一匹残らず殺す!」

 

 

上空から連続エネルギー弾。

悟空を巻き込んで爆炎に包まれる。

煙を利用して悟空は仕掛けるが、再び蹴り飛ばされてしまう。

追撃するクウラだが、目の前にラディッツが現れ反撃されてしまう。

 

 

「邪魔だ悟空!

失せろ!」

 

 

それでも止まらない悟空を殴り飛ばす。

彼は完全に白目を向いて行動していた。

思考回路が完全にぶっ飛んでいるようだ。

 

 

「うるせぇ、どけ!!」

 

「テメェは足でまといだ!

フリーザはどうし「キエェイ!」

 

 

連続デスビームが2人に降り注ぐ。

攻撃が止むと、クウラはフリーザの隣へ。

対するラディッツは、イージスを張ってデスビームを防ぎきった。

暴れる悟空の首を地面へ押し付け、攻撃が止むと同時に顔面を殴る。

 

 

「あいつは...悟飯を殺したんだ!

オレはクウラもフリーザも許せねぇ!」

 

 

再び静止を振り切ろうとする悟空を、変色した拳でもう2発殴る。

 

 

「いい加減にしろ。

お前がクウラに立ち向かったところで勝てるかよ!

あのクソは俺が必ずぶち殺す、だからお前はフリーザを全力で殺せ。

情けなんてかけるんじゃねぇぞ?」

 

 

しばらく反応しなかったが、あぁ。と一言だけ答え、ゆっくり立ち上がる。

その眼には緑の瞳が戻る...が、怒りと憎しみが映っていた。

フリーザはそれがとても気に入らないようだ。

 

 

「俺を殺すだと?

逆になぶり殺してやる。

どちらがいい?

地球人のようにか、貴様の息子のようにか?」

 

「クリリンの事か?

それとも悟飯の事か?

.......答えろ!!」

 

 

再び悟空とフリーザの激闘が始まる。

戦いが始まっても動かなかった2人だが、クウラが手を広げる。

 

 

「五分...この星の寿命だ。

そして貴様の寿命は...1分そこそこだ。」

 

「上等だクソ野郎。

テメェは簡単には殺さん...タダで死ねると思うなよ?

なんならこの星とテメェと心中でもしてやる。」

 

 

クウラが戦闘力を集中させる。

いよいよ全開で殺るつもりのようだ。

対するラディッツも

 

(俺の体...もう一度もってくれ!

あの野郎を殺す為に!!)



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復讐は何を生むのか?

「界王拳!」

 

 

超サイヤ人の金色のオーラに界王拳の赤いオーラが交わる。

朱色がかったオーラが激しく吹き出す。

それはただ一度使われた技...しかも体に負担が掛かっている超サイヤ人状態での、体に負担をかける技。

体と命を代償に力を得る禁じ手...遂にそれに手を出した。

界王拳を10倍程なら出せたが、やはり5分もたせるならこれが限界である。

それでも...

 

 

「テメェを殺すには充分だ。」

 

「サイヤ人離れした戦闘力だが...この俺には敵うまい!」

 

 

次はクウラから仕掛けてくる。

とても速く間合いに入り込まれるが、不思議と対応出来ない速さと思わなかった。

超サイヤ人+界王拳で強化された体が、やっとクウラの力に追いついたのだ。

片手で受け止められた右の拳...クウラの想定を少し超える。

 

 

(何!?

ならば...。)

 

 

足払いからバランスを崩し、尻尾で地面へ叩きつける。

だがその反動を利用して逆にラディッツがクウラを叩きつける。

そして腹部への一撃。

偶然ではない...狙って放った攻撃だ。

思わず唾を吐き出してしまう。

 

 

「ぐはっ!

チッ...猿が!」

 

(躍起になった所をねじ伏せてやる。

ここからは界王拳と超サイヤ人...本物の力が必要なんだ!)

 

 

まさしく真正面から攻撃を仕掛けてくる。

同じくラディッツも真正面から仕掛ける。

両者の拳同士がぶつかり合い、大きな破裂音のような音が響く。

続けてラディッツが殴って顔をヒットするも、すぐさま反撃を受けダメージを負う。

それを幾度となく繰り返す。

 

 

(こんなクズ相手になんで苦戦してんだ!)

 

(いくら超サイヤ人とはいえ、所詮下等な猿だ!)

 

 

両者のフラストレーションは募り、互いの攻撃は冷静さを欠いた大振りの重い攻撃ばかりになる。

それにより全く攻撃が当たらなくなった。

それが更なるフラストレーションを生む。

 

 

「く...っそ!!」

 

 

ラディッツの大振りな攻撃の隙に、クウラの左フックがモロに入る。

ヘビーな攻撃で数十m転がる。

 

 

「立て猿...まだ俺の傷の代償程ではないからな。」

 

「こ...こんのぉ〜!

クソ野郎が!」

 

 

腕や額に血管が浮き出る。

1発でも多くぶん殴りたいと思っていた彼がふと閃く。

 

 

 

「(.....そうか、チマチマ攻撃を当てれば隙が出てダメージを。

なぶり殺すのは...その後だ!)

...その程度か。

はっ!

大したことねぇな、テメェこそ掛かってこいよクズ野郎!」

 

 

1発食らって、攻撃の方向性を変えた。

趣旨は違えど、冷静になったラディッツ。

 

 

「そうか、ならばお望み通り...殺してやるぞ!!」

 

 

再び真正面からの攻撃に対し、拳や蹴りの応酬が始まる。

一つ変わった事は、大振りの重い攻撃のクウラに対してラディッツの攻撃が勝り始めた。

正確に言えば、嫌味のようなジャブが狙ったように顔面にヒットし始めたのだ。

 

 

「どうしたクズ野郎、殺すなんて口先だけか?」

 

「その減らず口、今すぐ叩けなくしてやる!」

 

 

それでも攻撃はなかなか当たらなくなった。

それどころか、ラディッツの攻撃がクウラに蓄積してきたのだ。

フルパワー第五形態...この力を持ってしてでも大苦戦している。

こんな事はあってはならない...そう思ってはいるがなに分ラディッツが、超サイヤ人にまで変身する凄まじい成長力を見せているのが想定外なのだ。

 

 

(何故だ!

この猿を撃ち落とせないのは!?)

 

 

焦り...怒り...プライド...全てを持ってして真正面から叩きのめそうと言うのに、どんなにダメージを与えても潰れない。

それどころか徐々に手強くなっていく...これまで感じなかった感覚を認めざるを得なくなってきた。

 

自らが殺されるかもしれないという恐怖だ。

 

 

 

「あってたまるかぁー!!」

 

「死ねぇー!!」

 

 

再三にわたる肉弾戦。

クウラがやや押し返す形となる。

それは死の恐怖や恐れからくる必死の抵抗で更なる力を引き出していた。

それでもなお応戦するラディッツ。

彼もまた、恨みや憎しみや怒りからくるパワーアップ。

この殺し合いは互角の戦いとなっているように見えるが、やはりラディッツが押し返しつつあった。

 

 

「でやぁ!」

 

 

チマチマと打ち続けていた攻撃に、ふと重い攻撃を盛り込む。

対応出来ずに顔面に受けたクウラは仰け反りながら数十mずり下がる。

追撃される前にデスネスアイビームで牽制を入れる。

それを軽く跳ね返し、連続で気弾を放つ。

今度は連続でデスビームを撃ち、気弾を次々迎撃する。

 

 

「斉射ぁ!」

 

 

主砲斉射が黒煙の中から飛び出してくる。

咄嗟に手をクロスさせて防御したが、あまりにも手応えがないので囮だと気づくのに時間はそう掛からなかった。

それでも気づいた時には、ど出っ腹にめり込むように拳を受けていた。

 

 

「...っはぁ!」

 

 

その腕を掴んで引き寄せど出っ腹に拳を突き返すと同時に、衝撃と視界のブレに襲われた。

顔面を殴られたのは即座にわかった...それともう一つ。

 

 

「...き...さまぁ!!」

 

 

口元のプロテクターの様な殻が破壊されてボロボロになっていた。

辛うじて残った欠片を引き剥がし、ラディッツに向けてぶん投げる。

それを薙ぎ払うとクウラが消えている。

瞬時に気を探ると上空におり、その気が急速に膨れ上がっていくのを感じ取った。

 

 

「フリーザの奴は星の爆発に巻き込まれるのを躊躇ったようだが...俺はそこまで甘くないぞ?

貴様のコケ脅しのようなエネルギー波では、このスーパーノヴァを止められるはずがない!」

 

 

フリーザのデスボールに酷似している

掌にエネルギーボールが浮かび上がる。

その小さなエネルギーの球体は急速に膨れ上がり、あっという間に数十mの巨大なものとなる。

あれが今の滅亡しかけている星の地表に降り注ぐとすれば...数分後の終末が即座にやって来るだろう。

 

 

「...カスが。」

 

「このパワーの前に悪態をつく事しか出来ないようだな猿め!

星と共に消え失せろっ!!」

 

 

さながら真っ赤な元気玉...放たれたスーパーノヴァに何かするわけでもなく、ただただ眺めるラディッツ。

いよいよ地表まで20mと言った所でようやく受け止めに入る。

そのエネルギーの前に顔がゆがむ。

 

 

「こ...こんなものぉー!」

 

 

両足を支える地面がぐしゃりと凹む。

あまりにも強大なエネルギーに星が耐えきれない。

徐々に地面へ落ち行く光景に、自らの勝利を確信仕掛けていたクウラ。

 

 

「こんな...こんなものぉ!!」

 

「更なる絶望を与えてやろう。」

 

 

左手でもう一つスーパーノヴァを作り出す。

タダでさえ一つでも星を消せるエネルギーがあると言うのに、もう一つ作り出される危機的状況。

これまでやや優勢であったが、ここに来て界王拳の反動でも来たのか?

と、ここでエネルギーの球体の落下速度が突如として緩やかに...いや、完全に止まった。

 

 

「こんなもの!

余裕だよなぁ?」

 

「何ぃ!?

チッ!!」

 

 

すかさずもう1発放つ。

大きな衝撃音と共にラディッツの足元が深く埋まったが、またしても留まる。

ラディッツが狂喜に満ち足りた笑みを浮かべる。

 

 

「へっへっへ、ひっひっひ!

お前こんなもんで勝ったとでも思ったか?」

 

 

深く突き刺さった片足を地表まで引きずり出す。

1歩、そしてまた1歩、クウラの元へ押し返していく。

慌てて全力で押し潰そうと集中させるが全く動じない。

完全に力負けしている。

 

 

「終わりだクウラ...消えろ!」

 

 

掌から主砲斉射をもって急速に離れていく球体。

凄まじい速さでクウラに迫る。

無理に押し返そうと試みれば、自らの技で自滅しかねない。

咄嗟に回避行動を取る。

 

 

「死ねぃ!」

 

 

瞬間的に現れたラディッツにかかと落としをもろに受ける。

地面へ蹴り落とされた体はクレーターを作る程の威力で叩きつけられる。

あまりの衝撃に、大の字のまましばらく動かないでいた。

 

 

バキィッ!

 

 

右肘に落ちてくる膝。

関節が粉々になったのは、痛みと音と感覚でわかってしまった。

あまりの痛みに叫び声をあげるが、間髪入れずに左肘を無理やり折られる。

左目、両腕をやられた上に、マウントポジション。

誤算だ...大誤算だ。

 

 

「クソ...ザルめぇぇえ!!」

 

「がっ!」

 

 

なんとか状況を打開せねば。

そう思い膝蹴りを何発も食らわす。

しかし同じ攻撃は何度も通じず、5.6発目当たりで大腿部を捕まれ逆関節に折られる。

胴体を片足で抑えられ、尻尾は根元から千切られる。

残る左脚も、太股の肉を抉るように千切られて動けなくなった。

 

 

「クソぉおおおぉぉおおお!!」

 

「お前が悟飯にした事とほとんど同じだ。

テメェにその痛みがわかんのかぁ!!」

 

 

腹部を全力でぶん殴る。

血反吐が飛び散るが、もうラディッツにはどうでもよかった。

とにかくこいつは痛めつけて殺さなければ気が済まなかった。

 

 

「猿が...貴様らが...悪の根源なのだ!」

 

「悟飯は死にたくないと言ってた。

生きたい奴の命を奪った奴が言えた事かぁ!?」

 

 

逆に折れ曲がった右膝を踏みつける。

痛みに叫ぶクウラ。

その状況が怖いと思っていたが、今はその悲鳴を少しでも引き出してやりたかった。

少しでも痛ぶって、痛ぶって痛ぶって痛ぶって。

 

 

「テメェみたいなカスにはその姿がお似合いだ!」

 

「ほざけぇー!!」

 

 

ダークネスアイビーム、最後の抵抗と言わんばかりの攻撃も、バチンと音が響くだけでラディッツにはダメージを与えられなかった。

 

 

「ほー、まだそんな力があったようだな!!」

 

 

右目を思い切り踏みつける。

失明程では無かったが、もうビーム1発すら撃てそうにない。

もう勝敗は着いた、残る事は。

 

 

「ク...ソザルめ...ぇ」

 

「黙れゴミクズが!」

 

 

再びマウントポジションになってクウラを殴り続ける。

右手、左手、顔面に血反吐を浴びようと殴り続ける。

 

 

「汚ねぇんだよ!!」

「そんなもんか!?」

「さっきまでの威勢はどこに行った!?」

「何がフリーザ一族だ!?」

「さっさとくたばれ!」

「悟飯の痛みがわかったか!?」

「糞野郎が!」

「まだ息があるようだな?」

「いい加減死にやがれぇ!」

「死にやがれ!」

「死ねぇ!」

「死ねぇ!」

「死ねぇ!」

「死ねぇ!」

「死ねぇ!」

 

 

.......

 

.....

 

...

 

 

もう1人の金色の戦士は、終焉を迎えようとする星を懸命に飛び回っていた。

あれだけ憎かったフリーザに対し、自らのエネルギーを分け与え、裏切られた。

故に殺さずを得なかった。

虚しさ、哀れみすらも感じたが、今は別の事で頭がいっぱいだ。

この星を脱出する為の船...先程フリーザの艦を見つけ脱出を試みたが、飛び立つ前に地割れに喰われた。

最後の希望は自ら地球から乗ってきたあの船。

地形が変わって明確な位置こそわからないが、方向は間違いないはずだ。

 

 

(間に合え...!

間に合ってくれ!

あっ!)

 

 

全神経を注いで宇宙船を探す。

見つけた...だが船ではない、人だ。

大急ぎで彼の元に降り立ったのだが...そこで見たのは信じられない光景を目にする。

 

 

「死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」

 

 

マウントポジションのままひたすらに殴り続けるラディッツだった。

憎悪に満ちた表情のまま機械的に殴り続ける彼は...狂気の沙汰ではない。

何より、完全に気が消えたクウラの顔面は判別出来ないほどグチャグチャになっていたからだ。

 

 

「ラディッツ...もういいだろ。」

 

「死ね! 死ね! 死ね!」

 

「ラディッツ。」

 

 

悟空が肩を持った瞬間に向けられる憎悪。

コイツだけは敵に回したらヤバイと背筋に冷たいものが走る。

身を守ろうとした時には、彼の目は元に戻った。

 

 

「う!?

あぁ悟空か...超サイヤ人って事は、フリーザを倒したんだな。」

 

「あ あぁ。」

 

 

まるで超サイヤ人を元から知っていて、それが至極当然のような口調だったがそんなことに気を回してる猶予はない。

それをラディッツに伝える。

 

 

「そうだな。

あばよゴミクズ野郎!!」

 

 

スコードロン界王拳。

下半身に集中させてクウラの身体を蹴り飛ばす。

なんの抵抗も無く吹き飛んでいくクウラの身体は、空の彼方へと消えていった。

余韻に浸る間もなく、2人は飛び立つ。

 

 

(この後悟空は...瞬間移動の星へ行くんだよな。

どこにあるその船は!!)

 

「あった!」

 

 

悟空が指差す方に転がる球。

ベジータやクウラ機甲戦隊達が乗っていたのと同じ型の宇宙ポッドだ。

船体に描かれていたのは、ギニュー特戦隊のマークである。

しかしそんな事に気がつくほどの余裕は無いし、そのマークを知っている程のオタクでは無いラディッツ。

 

 

「ど どれに「どれでもいい!

クソっ開け!...開け!」

 

 

一番近いところにあるポッドに近づき叩きまくる。

何発か叩いているとガコッと音を出しながら扉が開く。

ボタンを適当に押しまくっていると、スイッチが入ったようで計器に光が灯る。

そして自動でハッチが閉まり始めた。

 

 

「お おい!

どうすりゃいいんだ!?」

 

「わからん!

悟空、後はなんとかし!」

 

 

ハッチが閉まりきる。

機械類はまるでダメな悟空は必死で色んなボタンを押す。

腹の底まで響くような音と共に、数倍の重力が体に掛かる。

なんとか飛び立てたようだ。

残るはラディッツ自身...残りの4つの宇宙ポッドだが、同じように叩いてもうんともすんとも言わない。

 

 

「クッソ!

どうなってんだ!」

 

 

その時見つけた、外部にある開閉スイッチの様なもの。

躊躇わず押すとハッチが開く。

なんとか適当にボタンを押すと、パネルや計器が起動してハッチが閉まる。

そして急速に飛び上がっていく機体。

遂に...遂にあのナメック星から脱出出来たのだ!

 

 

「...やった...なんとかなったぞ!!」

 

 

狭いポッド内でガッツポーズをし、両手を船内にぶつける。

多少痛かったが、生き長らえた嬉しさに比べれば屁でもない。

屁でもないと言えば...

 

 

(なんだこの船...凄い臭い...。)

 

 

冷静さを取り戻すと、まるで肉や魚の腐敗臭...その他諸々が入り混じった様な臭いがしている事がわかってきた。

これは由々しき事態である。

臭いの出どころはわからず、いくら探してもタブレットやガムしか見当たらない。

 

 

(なんだこれ...得体の知れない食いもんはちょっとなぁ...。

とにかく操作方法調べるか。)

 

 

どこに行くかわからないポッドの行先、言葉、ポッドのことを調べ始める。

まもなくナメック星は大爆発を起こし、彼の超サイヤ人化が既に解けているのに気づくのはその後すぐだった。




大変お待たせしました、これでフリーザ編完遂!
次は人造人間編で瞬間移動が出てきてセルで...アニメじゃ時飛ばしとか出てきて...この先が思いやられる...笑

一層の事河野さん、悟空やブウやヒットみたいに何かしらの能力者に魔改造してやろうかな笑


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-異形化の人造人間編-
ヨーグルトで便秘が治るらしい


宇宙漂流1日目

 

ようやくボタンやパネルの使用方法がわかってきた。

漂流し続けるかと思うかと思ったら、目的地には向かっているようだ。

しかし、言語がまるでわからない上に言語変更に日本語が無いのでどこに向かっているのかわからない。

俺は一体どうなるのだろうか...今までみんな、ありがとう。

 

 

(何やってんだ俺は...。)

 

 

暇すぎて脳内で漂流記をつけ始める始末。

ポッドは狭く、やることが無い。

翻訳作業も飽きてきて、時間を持て余していたところだ。

相も変わらず、ポッドの唯一の窓にはきらびやかな星が散りばめられた宇宙空間が広がっている。

 

 

「あー...喋れなくなりそうだ!

誰か〜俺を助けて〜。」

 

『聞こえますか?』

 

「うわ気持ち悪!!」

 

 

何者かが心に直接語りかけてくる。

あまりの不快さに叫んでしまった。

凄く恥ずかしくなるが、ポッドは1人だけしかいない事を思い出して少しホッとする。

 

 

『ワシじゃよ。

自分で言うのもあれだけど神じゃよ。』

 

 

こうなってしまった元凶、あのクソジジイの声である。

...と言っても、数年聞いていなかったから思い出すまでに数秒使った。

 

 

「あぁー!!

あのじいさん!」

 

「じいさんちゃうわい!

せっかくワシと交信出来るよって言ってたのに何も連絡してくれないんだから!」

 

 

可愛い女の子ならともかく、じいさんのツンデレキャラを演じられても鬱陶しいだけで全く嬉しくなかった。

音声だけでも反吐が出そうである。

それがわかっていないのか、お前はツンデレはタイプでは無いかとぼやき始めていた。

 

 

「...そんな交信できます設定ありましたっけ?

まぁいいですけど。

そんなことより、悟空は瞬間移動の星に行けました?」

 

『あぁ、あと4日もあれば着くであろう。』

 

「それならよかった。

...で、俺もヤーランド(・・・・・)星で瞬間移動を教わればいいんです?」

 

『お前の行先はヤードラット(・・・・・・)では無いぞ?』

 

 

その言葉を聞いて、ポッドの臭いが消し飛ぶ程驚いた。

少し思い出してみたのだが...確か悟空の乗ったポッドは、ヤードラット星に行って瞬間移動を覚えてくるはず。

それも、ポッドの次の行先がそこになっていると言うことは、恐らくこのポッドも同じ所に行けるはずと読んでいた。

そこで自らも瞬間移動を学んで、今後戦うであろうセル・魔神ブウ戦を有利に進めようと考えていたのだが...予定が狂った。

 

 

「え...なら行先はどこへ?」

 

『まぁ言っても知らんじゃろう。

惑星ソフィアだ。』

 

 

惑星ソフィア...確かに原作でも出てきた覚えもないし、ナメック星のように何かをもじった理由でもないし、惑星ベジータ・フリーザのように明確なメッセージでも無い。

ただ、どこかで聞いたことあるような名前なのだが...わからなかった。

 

 

「ソフィア...わからん。」

 

『だからわからんだろって言ったではないか。

それにしても...ベジータとフリーザ編をよく乗り切ったな。

もっと早い段階で頓挫すると思ってたわい。

やる気が無くなったり、面倒になったり、誰かに見られて社会的に死ぬと読んどったのになぁ?』

 

<1ヶ月ごとの超スローペースですけど、皆さんが意外にも期待して下さるので頑張って来れました!

まぁバレないように、飽きないようにボチボチとやりますよ笑

野沢さんよりも早くこっちを終わらせるように!>

 

 

「おい!

なんだ今の聞いたことない声は!?

野沢さんってあの野沢雅子さんか!?「...し 知らんなぁ?」嘘つけ!!」

 

 

ラディッツ自身も聞いたことない声。

今ほど音声だけという状況を恨んだ事は無かった。

平静を取り繕うかのように神は咳払いをする。

どうやら余程都合の悪い事と思い、これ以上の追求はしなかった。

 

 

「さて、河野よ。

フリーザ編が終わったと言うことは、次はわかっているな?

フリーザとコルドの襲撃と未来トランクス、...そして、人造人間編だ。

フリーザ達が来るのは1年後だ。

正直ここまでは序章だが...やれるか?」

 

「大丈夫ですよ、なんとかなります。

交信出来るってんなら、地球に間に合うくらいにまた連絡してきてもらっていいですか?」

 

「構わぬよ、こんな事態になってしまったワシにも責任がある。

この先多少はお前の力になってやる。

何かあったら、またワシを呼べよ?」

 

 

特に今までとそこまで変わりないと口に出しかけたが、あえて言わなかった。

だが心が読める神は苦笑いすらしなかった。

これを最後に、交信は途絶える。

 

 

--- 神室 ---

 

 

「まさか...ワシにも読めんようになるとはな。

世界とは面白いものだ。

なぁ?」

 

「ふん、あんなもやし野郎知った事か。」

 

 

神室で交信が行われた事を全て見ていた者は思いもしない事を平気で吐く。

この者もまた、ツンデレキャラが確立しかけている。

 

 

「ほっほっ、本当は嬉しいクセに何をカッコつけているのだ!」

 

 

「...。

(...だが、まさかあのクウラを倒すとはな。

俺だって諦めずにやれば強くなれたってのを証明してくれる唯一の男だ。

奴の今後に興味はないが、俺の身体は...戦闘民族サイヤ人はどこまで強くなるのか...高みの見物するのは悪くはない。)」

 

 

神室に無造作にあるドラゴンボール全巻...そしてその横に積まれ始めた単行本ドラゴンボール超。

 

 

(全てを知った...そしてまた新しく描かれ始めた俺達の世界。

この先どうなるかわかんねーけどよ...頼むぞもやし野郎!

俺だってやれる事を見せてくれ!)

 

 

 

カッカッカッと笑い顔しているじいさんのツラを横目で見ながら、空中に浮かぶ景色を眺める。

弱虫と言われた自分が、どこまで活躍出来るか期待しながら。

 

 

 

--- 宇宙空間 ポッド内 ---

 

 

交信が途絶えたラディッツは考えていた。

ヤードラット星では無いとしたら、このポッドはどこへ向かうか?

原作を必死に思い出してみるが、ナメック星とヤードラット星以外だと思い当たる他惑星が見当たらない。

とすれば、最悪のシナリオ...言語が全く伝わらない惑星に到着して本当に宇宙漂流者となる可能性が現実を帯びてきた。

ここは地球から遠すぎる宇宙...むしろ最良のシナリオが浮かばない。

 

 

(どうしよう...独りぼっちで訳もわからない星に飛ばされるのか。

これなら左遷とかで地方に飛ばされるとかの方がやさしく思える...日本語とか飯に困らないしな。

大丈夫かな...いや、ダメかもしれない...。)

 

 

捕縛...人体実験...様々な妄想が止まらない彼を乗せて一つの星へと着陸を始める。

恐る恐る地表を覗くと、青と白い色が見える。

青は水なのだろうか...ならば白は氷か...?

そうこうしているうちに地上に着陸してしまった。

白い砂地に降り立ち、ハッチが開く。

自然と呼吸をしてしまったが、特に息苦しさや異常は無い。

...ただ、やはりここも臭いがする。

 

 

「...臭い。」

 

 

辺りを見回していると、複数の気が近づいてくる。

100...いやそれ以上?

四方八方から囲まれるように迫る気。

その正体は、あのギニュー特戦隊のグルド達だ。

正確に言えば、グルドそっくりの奴らが歩き寄ってきていた。

 

 

「(い いかん、囲まれた。)

ハ ハロー...アイアム...えーっとノーヒューマン...。」

 

 

明らかに怪訝な表情のグルド達...。

私は危害を加えるつもりは無いと言いたいのだが、世界共通語である英語でも宇宙人には通じない。

と言うか、英語でも支離滅裂な言葉なのでアメリカ人でも伝わらないだろう。

身振り手振りを加えて3度ほど繰り返すも、全く伝わらない。

 

 

「...ドバルデン。」

 

「...ドバルデン?」

 

 

何語かわからない。

それでもオウム返しの要領で返事みたく喋る。

グルド達の顔色が一斉に変わった。

 

 

「ヨウルト語を話すことが出来るのですか?」

 

 

彼の口から、ヨウルト語と呼ばれる非常に日本語に酷似した近い言葉が出てきた。

周りの人達も「異星人なのに?」「あいつ何者だ?」等と口々に日本語が飛び出てくる。

 

 

「ヨウルト語...ですか?

日本語じゃないんですか?」

 

「日本語?

いえ、私達はヨウルト族。

惑星ソフィアに住まうヨウルト語を話す民族です。

そして私は、惑星ソフィアの旗頭 ブルリアです。」

 

 

これはラディッツに取っても好都合。

とにかく言葉の壁を超えた、と言うか元々壁がなかった。

気を探っても悪の気は感じず、友好的に接すれば全く問題なさそうである。

落ち着いた所で、ラディッツはここがグルドの故郷という事に気がついた。

 

 

「自分はラディッツです。

ブルリアさん、もしかして...この星からギニュー特戦隊に入ったグルドという者はいませんか?」

 

「グルド!?

アイツをご存知ですか!?」

 

 

話を聞くと、昔は悪童と言われる程素行が悪かったグルドだが、ギニューにスカウトされて人が変わったと言う。

周りにボロクソに言われようが、この星の為に特戦隊に入り、働き、戦っていた。

その稼ぎで母星の為に色々な事をしていたようだ。

 

 

「(グルドって...性格含めて散々なキャラだったのに...実はいい奴キャラだったのか。)

...実は、このポッドもグルドのものなんです。

ナメック星の爆発を察知して僕を助けてくれたんです。

自分を犠牲にして...。」

 

 

よくもまぁこんな嘘をベラベラと話せるな。

だがその言葉を聞いてヨウルト族達は涙を流して彼を讃えていた。

嘘も方便とはこの事と思いたい...。

 

 

「...あなたはグルドの最後の善行を伝える為にこの地へ来たに違いありません。

彼の為にも、しばらくはこの地でゆっくりしていってください。」

 

 

ひょんなことから、グルドの故郷惑星ソフィアに滞在する事となった。

もちろん、ただ滞在するだけに終わるはずがない。

ラディッツにはちょっとした考えがあった。

グルドの超能力...もしこれがヨウルト族の元から備わっている能力なら、悟空のように何か教わる事が出来るかもしれない。

滞在してから5日目くらいに話を切り出す。

 

 

「超能力?」

 

「はい、来て早々こう言うのも何ですが...金縛りとか時間停止とか、何か特殊な力が欲しいんです。

今の力ではこれから先に現れる敵に太刀打ち出来るか分からないんです。」

 

「...いいでしょう。

ですが、これは私達だけでなく他惑星の方にとってもとても辛く、かなりの時を有します。

そして必ず忘れないでいただきたい、時間操作は銀河法に触れる事になります。

あなたなら大丈夫かと思いますが、悪しき事には使われないように。」

 

 

ラディッツに今説明しているのは、惑星ソフィアの外宇宙大臣補佐ビヒダスと言う男だ。

この惑星の事を主に彼から色々教わっていた。

世間話からちょっとした裏話、マナー、世相などなど...。

と言っても、本当に日本の北海道の広大な土地と似たような環境であるので本当に苦労しなかった。

話が少し脱線したが、ビヒダスと言う男の説明では、時間を止めたり戻したりと言う事は本来銀河法で厳しく規制されているが、特に認められている民族でも知らない事があるという。

 

 

「近々銀河パトロール隊員の方がこちらの星に来るので、聞いてみるのもいいかもしれませんね。」

 

「銀河パトロール隊員か、是非会ってみたいですね。」

 

 

 

--- 5日後 ---

 

 

「この方が銀河パトロール隊員のジャコさんです。」

 

「おぉ、あなたが銀河パトロール隊の方ですか?」

 

「少し違うな。

超エリート(・・・・・)銀河パトロール隊員 ジャコ ティリメンテンピボッシだ。

ジャコでいい、お前が私に会いたいと言っていたやつか?」

 

 

自らをエリートと名乗る奴にまともな奴はいない。

根拠の無い自論を持っていたラディッツ。

表情には出さなくとも、個性の強い者と一瞬で判断する。

 

 

「(ウルト〇マンみたいな...お面みたいな顔だな。

キャラ濃すぎる、この人が銀河パトロール隊員?)

はい、地球から来ました。」

 

「地球!?

では、お前はオーモリやタイツは知っているのか!?」

 

 

オーモリ...恐らく何処ぞの大森さんの事を言っているのだろうが、かつての保険業のお客様に何人かいたような。

確実にジャコの言うオーモリでは無いだろう。

もう1人のタイツ...この名前は確実に聞き覚えがある。

ブルマの姉と言われていた謎の女性だ。

 

 

「(まさか...タイツとこのジャコってのは俺の知らないドラゴンボールの裏設定とか?)

タイツは、地球のカプセルコーポレーションのブルマって言う人の姉ですが...ご存知なのですか?」

 

「ブルマ!?

あの天才娘か。

それなら知っている、この光線銃はブルマに改良してもらったからな。

威力を調整すれば、数十m級の装甲怪獣すら木端微塵だ。」

 

 

何してんだあの野郎と言わんばかりの苦笑いで聞き流していたラディッツ。

これが彼女が子供の時の話と知れば、いよいよ口に出てしまうだろう。

 

 

「話がズレてしまった。

要はこの星で時間操作の何かしらの術を学びたいという所だろう?」

 

「はい、今後地球に現れるであろう敵と戦「タイムトラブルを起こすのは銀河法で重罪になり星流しの刑だ。

タイムトラブル未遂罪としてこの場にてお前を処刑する。」

 

 

光線銃の威力を最大にしてラディッツを撃ち殺す。

建物はジャコより先は粉々に無くなり、ビヒダスの口は顎が地面に刺さるほどあんぐりと落ちていた。

 

 

「ジャコさん、何するんですか!?

彼はサイヤ人とは言え、私達の恩人ですよ!?」

 

「何、サイヤ人!?

何故それを早く言わない!!」

 

 

戦闘民族サイヤ人...あの凶悪な戦闘民族の生き残りに向けて引き金を引いてしまったジャコ。

彼の顔がみるみる青くなっていく。

サイヤ人の子供ならなんとでもなるが...。

 

 

「すまない、とても大事な用事を思い「何するんですか!?

びっくりしましたよ!!」

 

 

砂埃を嫌という程被ったラディッツが歩み寄ってきた。

しかも無傷である。

逃げの体勢のまま、体が強ばって動かなくなった。

冷や汗ダラダラのまま、何とか言葉をひねり出す。

 

 

「す...すまない、私の銃が暴発してしまった...ようなのだ。

超エリートの私に免じてゆ ゆ 許してくれないか?」

 

「(...お、これは交渉出来るか?)やられたらやり返す...。」

 

 

ゆっくりとボクシングのような体勢を取る。

ジャコにはそれが、今から戦うと言う意思表示と捉える。

小さく ヒッ と声が出てしまう。

どう考えても、サイヤ人相手に勝てるわけが無い。

 

 

「わ 悪かった、本当に済まなかった。」

 

「...でしたら、時間能力を学んでもいいです?

その能力なら、今みたいに(・・・・・)自衛の為に使うだけですから。

サイヤ人とは言え、中身は地球人みたいなもんですから。」

 

「...わかった!

ここでの事は、見なかったことにしよう!」

 

「ありがとうジャコさん!」

 

 

交渉成立。

(自称)超エリート銀河パトロール隊員ジャコの公言を受けて堂々と能力を得る事になった。

ここで話は終わらず、早速色々聞いてみることにした。

 

彼は銀河パトロール隊員の1人。

銀河王の指示により凶悪な宇宙人を討伐したり、その星の災害から住民を救助したりと様々な任務を行っている。

ちなみに今回はたまたま長期的な休暇が取れたので、家族

の元へ戻る所に呼ばれたそうな。

そして、昔に任務で地球に行ったことがあり、その時にオーモリ博士、タイツ、ブルマ達と知り合ったそうだ。

 

 

 

(そんな裏設定あったのか...。

どうりで知らないキャラクターがちょくちょく出てくる訳だ。

きっと原作にもアニメにも出ていない、マニアのみぞ知る!...的な設定なんだろう。

もっとドラゴンボール好きだったら良かったな。)

 

 

宇宙怪獣と戦った事を意気揚々と語っているジャコに適当に相槌を打ちながら色々考えていた。

そのうちにビヒダスとソフィア人1人が何かを運び、ラディッツの目の前に置く。

おフランスな料理でもよく使われる、クロッシュの為中が見えないが...なにかの高級な料理に違いなさそうに思える。

 

 

「これは食事か?」

 

「いえ、これはラディッツ様の修行になります。

ご説明致しますと、この惑星ソフィアの限られた物を一緒に摂取し続けると特殊な力を手に入れられるのです。」

 

 

食べるだけで能力を得られる。

まさに深夜の通販番組でお馴染みの、飲むだけ・食べるだけシリーズに近いものを感じる。

この手のものは当たりハズレがある。

 

 

 

「え、食べるだけでいいんですか!?」

 

「はい、ですが...あまりの臭いに断念される方がほとんどです。

グルドは幼少期から食べれましたのであのような力がありますが、今からではさほど能力は得られませんが、耐えられるのでしたら...。」

 

 

付き人のソフィア人とビヒダスと何故かジャコもマスクをつける。

マスクと言っても、ガスマスクである。

ただの食べ物にそこまでやるという事は、相当危険を伴う臭いと確信したラディッツは急いで鼻をつまむ。

 

 

 

「こちらが特定臭気食材 プロセスとカルグルトになります!」

 

 

 

クロッシュを開けると同時に、目を細めるソフィア人。

白い皿の上には...薄黄色の固形物が4個、カップに白い液体の様なものがあった。

チーズとヨーグルトだ。

てっきりシュ〇ルストレミング的なものを想像していたのだが...少し気が抜けてしまった。

 

 

「...これです?」

 

「はい、こちらが特定臭気食材のプロセスです。

こちらは食べ合わせのカルグルトになります。

気をつけてください、プロセスは食べると数日間口の中に劇臭が残ります!」

 

 

つまんでた鼻を開放すると、少しだけ強いチーズの香りがする。

白い液体の方は、やはりヨーグルトの匂い。

こんなのが危険な食べ物かと思ってしまった。

ジャコを見ると、マスクを脱ぎ似たようなリアクションをしている。

 

 

「...だ、大丈夫なんですか?」

 

「はい、地球にも似たような食べ物ありますから。

酒のつまみやデザートには良いですよ?」

 

「私の星の主食と似ているものだ、ほぼ同じ物をオーモリに貰った事がある。」

 

 

ビヒダスは驚愕し、ソフィア人はそれすら通り越して引いていた。

目の前で危険食材を普通に食す2人...付き人のソフィア人はおもむろにガスマスクを外すが、臭気に泡を吹いて倒れた。

 

 

「馬鹿者!

マスクを取ったらどうなるか知っているだろう!」

 

 

ビヒダスは付き人を引きずって席を外す。

 

 

(...この星の人達は、人生を半分近く損してるな。)

 

 

.......

 

.....

 

...

 

 

(超サイヤ人...どうやってなったっけかなぁ?)

 

 

個室トイレの中でアレが来るのを待ちながら考えていた。

その姿はまるで、ロダンの考える人である。

この星に来て1週間、超サイヤ人の感覚を思い出そうとしているがどうにも感覚が掴めない。

怒りを想像してもイマイチ、恨み嫉みでもイマイチ。

戦えばともと思ったが、戦う相手がいない。

色々悩んではいるが解決しない。

 

 

(最近ヨーグルトをひたすら食べてるからな、腹の調子が良くなってきた。)

 

 

...しかし、いくら踏ん張ろうとも出ない。

かれこれ20分以上トイレに篭っているが、ヤツはまだ体に立て篭もっている。

 

 

「...く...っそぉ...ぉお!」

 

 

今朝の最後の力を振り絞り、ヤツを追い出さんとする。

力を込めてエネルギーを出すイメージ...。

ウォシュレットさえあればと思うが、洋式便座暖め機能まである故にこれ以上の贅沢は言えない。

更に少しだけ強く踏ん張る...体中の毛が鳥肌となり、髪の毛がザワつく...それでもまだヤツは現れない。

髪の色がにわかに金色を帯びる、それにも気づかずパワーを上げる。

外は雷鳴が轟き、空が若干暗くなっていた。

建物も小刻みに揺れる。

 

 

「ふんぬわぁあー!!」

 

 

一瞬の開放感と共に、金色のオーラが吹き上がる。

天井も吹き飛び、身体中を震わす衝撃波が発生した。

今度は意図してなれたのだ...伝説の超サイヤ人に。

気づいた時には、流水が終わった時だった。

 

 

「...え、超サイヤ人になれた!?

よっしゃぁぁ!!」

 

(え、俺の覚醒って...トイレ?

カッコ悪いってか汚ねーな。

超サイヤ人どころか、超ウ〇コマンやんけ...。

...死にたい。)

 

 

押しつぶされそうな恥辱を耐えながらトイレを後にする。

だが、天井を壊した理由をビヒダスに説明した時に、完全に押し潰れてしまった。

一部のソフィア人ではしばらくの間[サイヤ人はう〇この衝撃が半端ない]と、語り継がれることとなった。

 

 

.......

 

.....

 

...

 

 

あのチー...プロセスとカルグルトを摂取し始めて3ヶ月。

ラディッツの体に変化が起き始めた。

体は更に締まって筋肉質になり、肌が綺麗になり、便通がとても良くなってきた。

...のと別に、ギリギリ認識出来る程度までにタイムラグを起こせるようになってきた。

 

 

(時間としてどうだ...0.1?

いや、それ以下か。)

 

 

石を投げ、時間を止めるように念じる。

そうすると、ミリ秒単位で空中に留まるのだ。

1日の内に何回か出来るのだが、仕組みがよくわからない。

 

 

「まさかと思いましたが...出来るようになってきたのですね?」

 

「あ、ビヒダスさん。

正直よく分かんないんですけどね。

そろそろ教えてくださいよ。」

 

「いいでしょう、そこまで来たのならお教えしましょう。

時間を操ると言っても色々な種類があります。

 

・過去や未来へ自由自在に行けるような力。

・自己以外の時間を操作出来る力。

・自分の時間を操作出来る力。

別の時間軸(パラレルワールド)を作り出せる力。

 

...大まかに分けるとこれくらいです。

どうやらあなたには自分の時間を操る力が宿ったようですね、オーラでわかります。」

 

 

オーラでわかる...彼がいつも扱う白や金色の気のオーラとは違う何かが見えているようだ。

グルドと似たような色ではあるが、全く同じではない。

 

 

「時間停止って奴ではないんですか?」

 

「あなたから見れば周りの景色はきっと止まっているように見えるでしょう。

ですがそれは自分の時間を速めているだけなのです。

自己の加速能力...我々はそれをリヒートと名付けています。」

 

 

リヒート...

自らを加速させる能力。

リヒートの最中は景色がゆっくり動くか、ほぼ止まっているように見える。

周りからは、加速された人物は目にも留まらぬ速度となり、まるで瞬間移動したかのように見える時もある。

気とはまた違う力なので、分けたり貰ったりすることは出来ないが、時間によって回復する。

使い過ぎると能力が使えなくなる上に、全身が自力以上の早さで動く為にとてつもなく発熱する。

鍛練を積めば、発揮時間は増えていく。

発動させるには、技名を口に出さなければいけない。、

 

 

「つまり...自分を加速させる能力で、MPみたいな感じで使うって事ですね。」

 

「MP?

なんですそれは?」

 

自分なりに何とか解釈しようとするが、技名を言わなければならない程度しかわからない。

分からない事が分からない。

あとは使って解釈していくしかないと諦めることにした。

 

 

それからというもの、ラディッツは新しいおもちゃを手に入れた子供のようにひたすらその能力と、超サイヤ人化トレーニングを繰り返した。

超サイヤ人は届くことの無かった憧れ。

自身加速能力 リヒートは好奇心。

全く飽きる事なく修行を行うと、1年近く経とうとしていた。

今となっては超サイヤ人化にはスムーズに変身出来るようになり、リヒートも...

 

 

「リヒート!...どうジャコ?」

 

「私からは何もわからん。」

 

 

いくらジャコが動体視力が良かろうとも、リヒートの速さは看破できなかったようだ。

そんなジャコは、なんだかんだで1年付き合わされることとなった。

正確に言えば、サイヤ人に殺される事が無くなったと思えば易いものだと思っているので、そこまで気にしていなかったみたいだ。

むしろ少し仲良くなっていた。

 

 

「ラディッツ、お前の能力はほぼ瞬間移動しているようにしか見えない。

だから何度も私に頼むな。」

 

「もしかしたら見えるかもしれんでしょ。

だけど...見えないならやっぱりこの力凄いな!」

 

「ラディッツさん、もう少しで出発準備が整いますよ。

そろそろお支度願います。」

 

「あ、ありがとうございまーす!」

 

 

いよいよ出発の日。

二週間程前にあの神様からようやく連絡が入った。

フリーザ、コルドが動き出したと。

それでも間に合うようなのだ。

彼らが文字の読めないラディッツの代わりに、地球までの航路設定や燃料、数日間の食料を準備してくれたのだ。

同じくジャコの船にも燃料を入れ、二人揃ってこの星を出る事となる。

迎えられた時と同じように、相当な数のソフィア人が見送りに集まっていた。

 

 

(今思うと...物凄い光景だな。)

 

 

老若男女問わず、皆グルドのような顔なのだ。

多種多様な地球人とは違い、まるで見た目から判断出来ないが、彼らは彼らなりの見分け方があるようなのだ。

彼らの違いはジャコもわからなかったらしい。

 

 

「ラディッツさん、本当にありがとうございました。

我々はあなたの事を忘れませんよ。」

 

「僕こそ、この星で色々教わり世話までして頂いて...。

本体にありがとうございました。」

 

 

 

今まで臭いとかグルドみたいなヤツらで気味が悪いと思っていたラディッツだが、世話になった彼らとの別れが寂しく感じていた。

旗頭ブルリアを初めとして、ビヒダスや世話人のソフィア人達と次々と握手をしていく。

 

 

「地球育ちの正義のサイヤ人に幸あれ!

ドヴィジュダネブラゴダリャード!!」

 

『ドヴィジュダネブラゴダリャード!!』

 

 

止まない歓声の中、二基の宇宙船は宇宙へと飛び立った。




どうも、バタピーです。
今回はグルドに余分な設定を付け加えてしまいました。
惑星ソフィア?、そんなもの原作にありません笑

悟空と同じくヤードラット星に行って瞬間移動・またはその他の特殊能力を得るよりも、他惑星に行ったほうが面白くなるかなーと思ってやってしまいました…。


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恐怖の大王が空から来るだろう

4/6 重大な部分をしっかり忘れていたので追記してあります。

誤字脱字修正済み R2 1/12


---宇宙空間 とある宇宙船---

 

 

「.....ザ.....フリー.....よ。」

 

 

脳に届く聞いたことのある声。

 

 

「フリーザよ。

...目が覚めたか?」

 

 

視界が一気に広がった。

目の前には床にびっしりと張り巡らされたケーブルやホースやパイプ。

それらは全てメディカルマシンに繋がっており、その中で治療されているのだとすぐにわかった。

間もなく治癒液が抜かれ、呼吸器も外される。

空気が美味しいとは全く思わないが、呼吸器無しで吸う酸素の方がより自然と吸えることに多少驚く。

 

 

 

「ご無事で何よりです、フリーザ様!」

 

(ご無事...だと!?)

 

 

目の前の窓にチラリと映る全身。

欠損した左腕と下半身、右半分の頭部は完全に機械で補われている。

更には顎部分、及び右胸部分から脇に掛けては機械類とプロテクターに覆われており、とても無事とは思えない。

むしろ生きているのが奇跡的と言える。

 

 

「あなた、今なんとおっしゃいました!?」

 

「フリーザよ。」

 

 

フリーザ兵の頭を掴みあげる。

ミシミシと言う音と、兵士の悲鳴の部屋に入ってくる者を見ると力が緩んだ。

 

 

「ここはもう戦場ではないぞ。」

 

「...悪かったね、パパ。」

 

 

コルド大王... 宇宙最強と謳うフリーザの父

容姿はフリーザの第2形態に似る。

一族の中から突如現れた、異常な戦闘力と残忍性を持った突然変異体。

そのコルド大王の突然変異体としての性質を強く受け継いで生まれたのが、フリーザとクウラである。

 

そのコルド大王がフリーザを助け、治療していたおかげでフリーザはこの世に留まることが出来た。

息子の命が助かった事でホッとしたコルドだが、彼の次の行動は決まっていた。

 

 

「お前をここまで痛めつけたのは...どこのどいつだ。」

 

「地球から来たやつだよパパ。

信じられないかも知れないけど...あのサイヤ人。

しかも、伝説と思われた超サイヤ人にやられたんだ!!!」

 

「なんだと!?

フリーザ、何を言っているのだ!

超サイヤ人など存在する訳がなかろう!!」

 

 

伝説の超サイヤ人...架空であるサイヤ人の形態と確信していたが、息子の惚けぶりに一喝する。

しかし、ごく普通のサイヤ人であればフリーザの足元にも及ばないはずなのに何故体が欠損する程の傷を負ったのか?

 

 

「パパ、僕が嘘を言っていると思っているのかい?

しかも、超サイヤ人は2人。

そしてもう1人の超サイヤ人はクウラと戦っていた。

...どうなったのかはさっぱりわかんないけどね。」

 

(...確かに、フリーザの身体の傷は何者かと戦って出来る傷だと衛生兵は言っていた。

クウラとのホットラインも繋がらない上に、超大型スカウターで宇宙を探すも見つからない。)

 

 

あの伝説と言われていた超サイヤ人...息子フリーザはそれを見、戦い、そして敗れた。

全宇宙最強一族を謳うフリーザ一族にとって、これは由々しき事態である。

超サイヤ人だろうが何であろうが、一族のプライドにかけても潰さなければならない。

 

 

「お前のその身体の一部は機械だ。

慣れるまで少し時間が掛かるがお前なら問題なかろう。

...行くぞ、地球へ。

そして地球人ごとサイヤ人を滅ぼす!!」

 

 

マントを翻し、メディカルルームを後にする。

向かった先はもちろん、艦橋である。

自らの船で地球へと向ける為でもあるが、フリーザの進めていた侵略計画を代理の者に任せる必要もある。

 

 

「ソルベ、私の声が聞こえるか?」

 

「...は はい!!

き 聞こえておりますコルド様!」

 

 

目の前のスクリーンに映し出されるフリーザ軍参謀 ソルベ。

余程緊張しているのか、声が若干震えて顔が真っ青だ。

 

 

「...なら良い。

ソルベよ、お前の活躍は各方面から聞いている。

それを見込んで命ずる。

フリーザはしばらく私の元で預かる故、その間はフリーザの代わりに指揮を取れ。」

 

「はっ!!

コルド様の期待に応えられるように尽力致します!」

 

「だが宇宙最強のフリーザ軍とは言え、残りの兵では難しい星もあるであろう。

我が親衛隊から、タゴマとシサミを与えよう。

これはこの先、お前の頑張りの報酬だ。

先払いとして使ってやれ。」

 

「誠にありがとうございます!!」

 

 

 

それを最後に通信は途絶える。

進路は決まった。

巨大な宇宙船は何万光年先の地球へ向け舵を取る。

 

 

 

 

---宇宙空間 別の宇宙船---

 

 

『それでは、ここら辺で失礼するぞ。

ブルマ達によろしく言っておいてくれ。』

 

「気をつけてなジャコ、了解だ。」

 

 

宇宙船はみるみる距離が離れ、遂に独りぼっちになってしまった。

このポッドの行先はもちろん地球、そして乗員はラディッツ1人だ。

 

 

「おーい神様ー?」

 

『なんだー?』

 

「このペースなら間に合いますよね?

フリーザが来る前に。」

 

 

ラディッツが危惧していたのは、悟空みたくフリーザ来襲に間に合わない事。

サイヤ人来襲時、ナメック星時のように、また予想外の敵が来かねないからだ。

 

 

『もちろんだ、二週間前には着けるはずだ。

更に言えば、向かっているのは原作と同じくフリーザとコルドだ。』

 

 

特にイレギュラーなことは無い...胸をなで下ろす。

ソフィア人曰く、このポッドで地球まで後6日程度。

もしそれまで時間を持て余すのなら...

 

 

(このボタンを押せば超睡眠出来るって?

それなら先に押しとくべきだったな。)

 

 

標準装備されていた長期睡眠装置を押す。

 

 

(後は...次は人造人間か...。

イレギュラーな事が起きるとしたら...絶望の未来編的な感じか。

まぁ心臓病になる悟空の代わりに俺とベジータで戦えば何とかなるだろう。

...最悪神龍に「善人の17,18号にしてくれ」とでも言えば良いし、セルはその2人どちらかを守りきれば倒せるに違いない。

あと新キャラとかでなけ.....れば...。)

 

 

急に瞼が重くなり、意識も記憶も無くなった。

 

 

ドンッ!!

 

 

次の瞬間、衝撃音がして目が覚める。

あまりの音に驚いて立ち上がるが、首が折れるかと思うくらい頭をぶつけて頭を抑え悶えた。

狭い船内だというのを忘れていた。

 

 

「うぅ...ぅ...ぅ...。」

 

 

痛みに何も言えずにいたラディッツを尻目に、ハッチは自動で開く。

目の前に広がる赤錆の平地。

あっという間に地球へ着いたのだ。

 

 

「痛ぇ...クソ。

着いたか...ベジータや悟飯の気を感じる。」

 

 

それらは段々と近づいてくる。

ラディッツへ向けて集まってくる彼らの気...一つは案の定悪の気だが、これがベジータ特有と言うのならそうなのだろう。

その気はやがて、姿が見えるほどに近くなる。

 

 

『ラディッツ(さん)!!』

 

「みんな、お出迎えしてくれるとは。」

 

 

感動の再開だ。

約1年、死んでいたかもしれない人間が帰ってきたのだ。

...だが、近づく彼らは足を突然止める。

 

 

「...え?

どうしたの?」

 

「お前...凄い臭くないか?」

 

 

皆一斉に風上に移動する。

あのベジータでさえ、スムーズに風上に動いて眉をヒクつかせる。

 

 

「ちゃんと風呂も入ってたし体も洗ってたぞ!!

...そんなに...臭うの?」

 

「あぁ。」「うむ。」「おぅ。」「うん。」「はい。」「えぇ。」

 

 

(グルド...あの野郎ぶっ殺してやる!!)

 

 

感動の再開も、全て臭いで台無しである。

宇宙船からやあの惑星の食べ物から...全てから臭いが移ってしまったようだ。

目の前のZ戦士達のリアクションがそれを物語っている。

 

 

「...いやそんな事はどうでも良くないけどどうでもいい。

まずは悟飯、助けてやれなくてすまなかった。」

 

 

目の前で殺される悟飯を助けられなかった自責心から深々と頭を下げる。

くだらんと言わんばかりにベジータはそっぽを向くが、クリリンやヤムチャはしょうがないと擁護する。

 

 

「そんな、謝らないで下さいよラディッツさん!

僕...今までずっと守られてきたけど、それだけじゃダメって事がわかったんです。

もしお父さんやピッコロさん、ラディッツさんがいない時は僕も頑張らなきゃって。

だからピッコロさん、ラディッツさん、勉強もしなきゃいけないけど空いた時間に修行をつけて下さい!」

 

「へっ!

口だけは一丁前になりやがって!」

 

 

ピッコロは嬉しさを隠しきれないように悟飯の頭を乱暴に撫でた。

親戚の少し怖そうなおじさんのような仕草である。

 

 

「それと...デンデだけは残ったって感じかな?」

 

「新しい最長老の後押しもあって地球の神の見習いとして地球に留まる事になった。

本人も良いと言っている。」

 

「はい、至らない所ばかりですけどこれからよろしくお願いします!」

 

 

新最長老曰く、ナメック星人の中でも才能があるようで、お世話になった地球の方々の力になれるのならと喜んで送り出してくれたそうだ。

デンデ本人も、仲良くなった悟飯やクリリンと一緒なので寂しくないようだ。

ラディッツにとっては、後後ピッコロが神と同化する為に新しい神となる人物なのでありがたい事だった。

 

 

「地球へようこそデンデ。

これからもよろしくね。

あ あと二週間でフリーザとコルドが地球に来るぞ。」

 

『フリーザだって!?』

 

 

あのナメック星で散々Z戦士達を死の淵へ追い込んだフリーザが、今度は地球にやって来る。

現実ここにいる者、ベジータ・ピッコロ・クリリン・ヤムチャ・天津飯・餃子・悟飯・デンデ。

彼らにとって、孫悟空がいない今来られるのは都合が悪い。

 

 

「おいラディッツ!

貴様そんな大事な事何故早く言わない!

フリーザの野郎はさておき、コルド大王ってのは何者だ。」

 

「フリーザ軍にいてわからなかったのか?

フリーザの父親のコルド大王。」

 

「フリーザの親父だと!?」

 

 

ベジータは初耳だった。

実はコルド大王の存在はほとんど知られていない。

コルドを知っているのは息子のフリーザとクウラ、そしてコルド大王の側近の兵達のみなのだ。

フリーザでさえ強敵なのにコルドまで来るとは...。

 

 

「...例え貴様がフリーザをも上回る力を持っていようが、今度ばかりは分が悪いな。」

 

「まだ二週間ある、その間に悟空が帰ってくるかもしれない。」

 

「お父さんが!?」

 

 

悟飯の目が輝く。

孫悟空がいれば何とかなると言う話ではなく、父親がいれば...お父さんがいれば百人力だという口調だった。

 

 

「それと、もう1人強力な助っ人が来るぞ。

...あ いや、そんな予感がする。」

 

「なんだ?

お前お得意の未来予知ってやつか?」

 

「...そんなところだ。

とにかく、しばらくは大丈夫だけど次は強くなってないとな。

うるせぇ、ヤムチャ・餃子!

臭い消しとくわっ!!」

 

 

後方で臭いもなと餃子に耳打ちしていたヤムチャに石を投げておく。

この世界のラディッツは徐々にいじられキャラとしての地位を確立させ始めていた。

 

 

---

 

--

 

-

 

 

フリーザ・コルド到着まで二週間...超サイヤ人となっていた下級戦士カカロット・ラディッツに追いつき、追い越さんと躍起になるベジータは独り、黙々と修行する。

クリリンを筆頭とする地球戦士達は、グループになって修行を行っていた。

悟飯とラディッツは...。

 

 

「まさか義兄さが勉強を手伝ってくれるとは思わなかったべ!

サイヤ人はみーんな馬鹿筋肉(・・・・)かと思ってただ。」

 

「ハ...ハハ。

サイヤ人にも色々いますから...。

(筋肉馬鹿じゃなくて馬鹿筋肉(・・・・)って...。)」

 

 

悟空宅で悟飯の家庭教師的なものをやっていた。

悟飯ももう少しで小学校受験が控えているごく普通の子供なのだ。

...だが。

 

 

「じゃ次行こう。

えーっと...裁判官は自らの良心に従い、拘束されるのは法律と政令にだけであると定められている...。

(これ高校受験レベルじゃない?

家庭教師務められないんだけど。)」

 

 

 

6,7歳の子供が高校受験の問題をやってる時点でチチの教育は進み過ぎている。

だがそれでも立派な学者に向けて勉学に励む悟飯を理解できないラディッツ。

 

 

「...よし、大丈夫そうだな。

続きをやるぞ。」

 

「はい。」

 

 

教科書を片手に悟飯の背後に立つ。

しばらくは普通に勉強する背を見ていたが、不意に後頭部に拳を振るう。

それを最小限首を動かして避ける。

勉強する間はずっとこれを続けている。

 

 

(ラディッツさん...全然本気じゃないのに...なんて速い攻撃だ!)

 

(たった2時間で、もうこのスピードを避けれるのか。

流石孫悟飯。

成長率が凄まじいな、やはりサイヤ人とのハーフは最強とやらの設定は生きているか。)

 

 

不意に攻撃を仕掛け、気配だけで攻撃を見切って最小限の動きで避ける。

それを勉強しながら行い、チチの気が近づくと教科書に集中してやり過ごす。

そうこうしているうちに、あっという間に1時間経った。

 

 

「ホントに義兄さは何でも出来るだなぁ、悟飯ちゃんのいい見本だべ!」

 

 

孫家に居候して既に一週間、家事洗濯畑仕事が最早当たり前になっていた。

ここまで働くのには、「例え義兄さと言えど働かざるもの食うべからずだ!」とチチに居候になると言った最初の一言がこれだったからだ。

大食らいのラディッツと小食らい悟飯と1人前分のチチの飯を作り終え、調理器具の皿洗いも同時に終える。

 

「義兄さ、何でもできるなら何でも屋さんでもしたらどうだ?

畑仕事でも構わんが...義兄さは器用だべうまく出来るだよ!」

 

「はは...いいですね、候補の一つにしておきますよ。」

 

 

半ば強制的や!と突っ込みたかったが、絶対に口には出せない。

例えウッカリでも、滑ったらどうなるかわからないからだ。

 

 

昼食を終えて2時間くらい体育(修行)の時間を貰えた。

それは、

 

「悟飯も悟空までとは言わないが、最低限の防衛術を習った方がいいと思う。

偉い学者になれば、それを妬む輩も。

成功してお金持ちになれば狙われやすくなるから。」

 

「...悟空さが言うと絶対修行させるつもりに思えるが、人格者の義兄さなら信用できるだな。

『よく動き よく学び よく遊び よく食べて よく休む』オラはそう教わったべ。

食後の軽い運動だと思えば上等だべ。

だが必要以上の武術は教えるじゃねぇだよ!」

 

 

という、居候3日目の会話があったからこそ実現した、"チチ公認" の少ない修行時間だった。

 

 

(俺が人格者か、悟空と一緒に居すぎて感覚が麻痺してんのかな...ハハハ。)

 

 

「ようやく来たか。」

 

「ピッコロさん!」

 

 

今回からピッコロにこの修行に参加してもらえた。

1人でやるよりかは2人居れば組手、3人ならば乱戦すら想定できる。

...と言ってもピッコロは分身出来るので問題はさほど無いが、やはり悟飯と修行出来る上に、実力が格上のラディッツと組手が出来るとあって断る理由など無かったのだ。

 

 

「お勉強で体がなまってないだろうな?

こいつとは違って俺は容赦しないぞ?」

 

「失礼な!

これでも夜は抜け駆けして修行してんだぞ?」

 

 

もちろん、夜の修行はチチ公認ではない。

見つかったら恐らく、悟飯は家に缶詰となりラディッツは下手したら出禁を言い渡されるであろう。

 

 

「ふん、そんなもの2発程度受ければすぐ分かる。

来い悟飯!」

 

「はい!!」

 

 

しばらくはピッコロと悟飯と組手が始まる。

そしてラディッツが加わり、昼過ぎになると悟飯は勉強に戻りラディッツとピッコロの組手になる。

それがまた数日続き...遂にコルド大王が現れる日となる。

 

 

「感じるな。

嫌な気だぜ。」

 

「はい。

やはり...フリーザは生きていたんですね。」

 

 

この日は、チチに頼んで1日フリーにして貰えた。

この日の為に二週間真面目っぽく勉強に励み、昼休みと夜な夜な隠れて修行していたのだ。

ピッコロも修行に明け暮れた。

と言っても、悟飯の戦闘力ではフリーザ第二形態なら善戦できるが、第三形態ならやや劣勢。

最終形態から上は戦えはしないだろう。

 

 

「しかも、フリーザのパパ コルドを連れてきてな。

悟空が少し後から来るし、助っ人が来るかもしれないが油断するな。」

 

 

唯一フリーザ達に立ち向かえるとすれば、超サイヤ人になれるラディッツだろう。

しかし彼はいつも通り、隙を作らないよう周囲や自分に言い聞かせていた。

 

 

「スカウターに感知されるかもしれん。

近くまでは飛ばして、ある程度からは徒歩で行こう。」

 

 

ラディッツ達はいよいよ、荒野へ向けて飛び立った。

 

 

---宇宙空間 フリーザの艦---

 

 

「あれが地球だよ、パパ。」

 

「ほぅ...高く売れそうな綺麗な星ではないか。

あのサイヤ人は何処を彷徨いておる?」

 

「はっ、我が艦の遥か後方を、同一方向に向かっております。

地球到達時間は、我らよりも三時間後になります。」

 

 

敢えて悟空の乗るポッドを撃墜せず、追い越して地球に向かっていた。

その理由は簡単だ。

サイボーグ化し、更に強くなった自らの手で復讐する為であった。

 

 

「三時間ですか...それだけあれば地球人を皆殺しに出来ますね。

地球人の死体を山積みにして、奴を悔しがらせてやろう。

そしてその死体の山の一番上に...アイツを積んでやる!!」

 

 

大気圏に突入し、摩擦熱で赤くなる艦体。

彼らが地表に到着するのは残り数分だ。

 

 

---地球 荒野---

 

 

「チッ、この馬鹿の未来予知とやらの言う通りになりやがって!

一言だけ言ってやる...これで地球はおしまいだ。

フリーザだけでも手に負えないのに、またバカでかい戦闘力を持ったバケモン連れてきやがったからな。」

 

「馬鹿って酷い。

とにかく、奴らをここで食い止める。

もう少しすれば悟空も来る。

何とかするしかない。

その為にみんなこの二週間やって来たんだろ?」

 

 

ベジータ・クリリン・ピッコロ・悟飯・ヤムチャ・天津飯・餃子...そして後からブルマが飛行機で合流する。

皆の表情は決して明るくはない。

あの恐怖が...宇宙の帝王フリーザとまた対峙しなければならないからだ。

 

 

(チッ、どのタイミングでトランクスは来るのかわからん。

早く来ればやりやすくなるのに!)

 

 

悟空の気はまだ感じるほど近くは無い。

おそらく猛スピードで地球に向かっているだろうが、やはり原作通りとなってしまった。

だがまだ原作通りならば、トランクスがやって来る。

 

 

「来たぞ!」

 

 

フリーザの艦と同型艦が轟音を発生させながら目の前へ降り立つ。

起動音が静かになると、上部ハッチからコルド親衛隊がざっと50人程出てきた。

そして遅れて、二つの巨大な気を放つ者が現れる。

 

 

「おやおや、皆さん既にお揃いで?

この私を出迎えてくれるとは..うっ!?」

 

 

フリーザの視線の先には、行方が知れなかったもう1人のサイヤ人を見つける。

ラディッツ...あの超サイヤ人の片割れだ。

 

 

「どうしたフリーザよ。」

 

「...パパ...あいつだよ。

あの長髪のサイヤ人ラディッツ...あいつがもう1人の超サイヤ人さ。」

 

 

ジロりとコルドはラディッツを見下ろす。

服装は他の者と同様に道着を着ているが...見た目だけなら、普通の下級サイヤ人と何ら変わりない。

艦体の巨大なスカウターでも、警戒音を発していない。

ということは..

 

 

「戦闘力を抑えているか。」

 

「みたいだね。

もしくは...超サイヤ人にはもうなれないか。

ラディッツさん、あなたはクウラと戦っていたようですが...どうやって逃げれたのですか?

...それとも、あの兄が逃がしたとか?」

 

「クウラは俺が殺した。

あいつは殺されるのに相応しい奴だった。」

 

 

いつになく冷淡に言葉を吐き捨てた。

その言葉を拾った二人は、やる事が決まった。

コイツだけはフリーザ一族に掛けて殺すと。

いや、殺さねばならぬと。

 

 

「よくも私の息子に手を掛けた。

貴様は...何をもって我らに償うのだ?」

 

「償う?

お前達はここで追い払う。

もしくは自衛の為に...殺す。」

 

「ホーッホッホッホ!

僕達の前で言ってくれるね。

孫悟空が来るまで三時間。

...それまで持つのかな?」

 

 

コルドは腕を翻す。

まずは小手調べ...コルド親衛隊はそれを機に四方八方から襲いかかる。

ベジータとラディッツ以外のZ戦士達が立ち向かう。

対複数人戦だが、兵士の強さでは誰1人とて敵わなかった。

次々と白目を向いて地に伏せる自分の兵士達に、コルドは冷静に腕組みし、超サイヤ人と言われるラディッツを見定めていた。

 

 

(宇宙最強を謳うフリーザ一族、クウラを倒したか。

法螺話ではないようだ、だがその伝説と言えるほどの雰囲気は感じられない。

どうゆう事だ?

...それにしても、タゴマとシサミをフリーザの手下にやったのは不味かったかな?)

 

 

あっという間に全ての兵士は戦闘不能になり、残るはこの二人となった。

 

 

「我が兵はまだ貧弱だな。」

 

「しょうがないよ、そうでなくちゃ、殺しがいが無くなるからね。

ただ孫悟空が来る前に地球人類を僕達で殺らなきゃならなくなったのは...ちょっと誤算だったね。」

 

 

二人は艦から地上へと降りる。

サイボーグ化と最終形態のフリーザ、第二形態のようなコルド。

 

(クソッタレ...この俺様が...この俺様がかつての部下である弱虫ラディッツに戦闘力で劣るどころか、超サイヤ人に先を越されるなんぞあってなるものか!!

だが今の俺では...フリーザにすら及ばない。)

 

 

歯ぎしりに至りそうなほど口を噛み締めるベジータを他所に、2人は地上へと。

地球の地へ降り立った瞬間、上空に閃光が起きる。

それは見たこともない乗り物のようだが、微かに見覚えのある者が1人居た。

 

 

(...タイムマシン?

ついに来たか!)

 

 

ラディッツはガッツポーズをする。

原作から少し遅れたが、その男は間に合ったのだ。

ホッと胸をなでおろす...はずが無かった。

何故なら、彼が指定した時間はフリーザ一族来襲前。

それがどういう理由か間にあわ無かった。

それだけではない。

 

 

(だ...誰なんだ!?

あの長髪の男は!?

俺は...同じ世界の過去に来れなかったのか!?)

 

 

気から敵ではない事がわかり、何処と無く悟空に似ているような感じがする。

きっとこの男とベジータを筆頭にフリーザ軍に立ち向かっているのだろう。

そこらじゅうにあるフリーザ軍の戦士達を見れば、戦いは始まっている事がわかる。

早急にタイムマシンをカプセルにしまい込み、ラディッツの隣へ降り立つ。

 

 

「俺も加勢しますよ。」

 

「やっと来たか。

助かるよ、トランクス。」

 

「!?

どうして俺の名を!?」

 

「話はフリーザ達を倒してからだ、その剣で頼む!」

 

 

謎の男は何故俺の存在を知っているんだ!?

そう、背中にもわかるような動揺をしながらも、目的を達成する為に前へ出る。

いきなり現れた青年に、フリーザは一瞥する。

 

 

「なんだい君は?

いきなり来て早々僕の犠牲者になるのかい?」

 

「違うな。

犠牲者になるのはお前だ! フリーザ!

よくもそんな姿になってこの地球に来たものだ。

...わざわざ殺されるためだけにな!」

 

 

ただの小僧に、まるで未来はそう決まっているかのような殺害予告をされるフリーザ。

虚声...どうせ奴も所詮は地球人、やつには何も出来まいと怒りを抑える。

 

 

「僕達が犠牲者?

地球人の君は僕の強さがわかるとは思えないけど...僕は強いんだよ?

超サイヤ人が1人だろうと、パパとなら余裕さ。」

 

「ならば誤算だったな。

まさか超サイヤ人の二人目がここにいるのは知らないだろう?」

 

 

塵が...小石が...コロコロと転がったかといえば宙に浮く。

そう...彼もその1人なのだ。

フリーザの恐れている超サイヤ人の1人。

金色のオーラが吹き出し、紫の髪が金色に輝く。

伝説と言われる超サイヤ人...その姿を一度見たフリーザは一瞬体が強ばるが、すぐに落ち着きを取り戻す。

そうだ...あの時は戦闘力こそすぐにピークが来てしまい落ちてしまったが、今回は違う。

サイボーグ化で更に強くなった自らのこの体なら絶対になぶり殺しに出来る自信がある。

 

 

「な...何ぃっ!?

ふん、超サイヤ人になった所でいい気になるなよ!」

 

「お前達...もう手加減しない方がいいぞ。

俺は悟空さんのようには甘くないからな!」

 

 

まるで印を結ぶかのように高速で両手を動かし、エネルギー弾が放たれる。

バーニングアタック。

これは父親の技を母親から聞き、名を借りた物。

それが向かって行くが、フリーザは余裕で上空に避ける。

だが...それが仇となる。

 

 

「でぇやぁああぁぁ!」

 

「っっ!?」

 

フリーザの焦点が俄にズレ...それは確実に広がりトランクスが完全に二人となる。

読んで時の如く、一刀両断。

眉間を見事に切り裂いた剣は止まることなく体を切り払っていく。

そして最終的にはエネルギー波で完全に消されてしまった。

あっという間の消滅...誰が予測できたか?

それはこの場にいるトランクス自身と、現在を知りうるラディッツ以外いるはずもない。

 

 

「まずはフリーザ。」

 

 

トランクスが見据えるのはコルド大王。

息子がいとも簡単に消されるのを見て決して表情は明るくない...かに見えたが。

 

 

「...素晴らしい。

素晴らしいなサイヤ人。

宇宙最強種族であるフリーザ一族のフリーザをいとも簡単に切り伏せるとは。

見事なり超サイヤ人。」

 

 

拍手をし、ほんのり笑顔を浮かべて歩み寄って来る。

一体どうしたというのだろうか?

息子が殺されて気でも動転したのだろうか?

あっという間に目の前まで歩み、拍手もようやく止む。

 

 

「さて、我が息子を殺した男だ。

どうだ?

我が息子にならぬか?

お前ならば宇宙最強の名に相応しい、好きな星を好きなように出来るの「興味が無いな。」

 

「ふむ、ならばその剣を見せてはくれぬか?

我が息子を仕留めた剣を是非見たいのだ。」

 

 

しばしの沈黙。

その剣で攻撃されるかもしれないから渡さなくても良いのだが、トランクスは投げ渡す。

剣を隅々まで見廻すコルド。

 

 

「ふむ、よく磨き込んであるようだな。

これならば我が息子を殺すのは訳ないな。

...だが、これがあれば倒せたもののこれが無ければ何も出来まい!」

 

「リヒート!」

 

「...な!?」

 

 

超スピードでトランクスの前に立ち塞がり、リヒートで白羽取り、攻撃を完璧に抑え込む。

トランクスにとっては、いきなり目の前に現れるラディッツに驚きを隠せない。

コルドの攻撃を避けきれなかった事などどこかへ飛んでいってしまった。

 

 

「な、なんですかあなたは!?」

 

「説明は後!

とにかく倒すぞ!」

 

「倒すだと?

私は冗談が好きではないのだよサイヤ人。」

 

 

戦闘力がジワリと上がる。

確かにフリーザとクウラはフリーザ一族の中で天才的な才能を受け継いでいた。

それに共通するものは、コルド大王一人から変異体の要素を強く持ったまま生み出されたという点でつまり、オリジナルはコルドなのだ。

つまりは、フリーザよりもクウラよりもコルド大王の方が遥かに優れた能力を携えているという事。

フリーザやクウラが出来ることはもちろん出来るし、無いものも持つ。

戦闘力を抑えるのはクウラの能力だが、コルドのオリジンだ。

 

 

「超サイヤ人など...この形態でのフルパワーで充分だ。

息子どもは容易かったかもしれぬが、このコルド大王はそう易易とやられはせぬぞ。」

 

(えっ、コルドも変身出来るのか!?

もしそうなら早々に殺らねば。

20倍...いや、なるしかない。)

 

 

白羽取りで抑えていた剣が僅かに押され始める。

コルドの気がさらに膨れていく。

その気の膨れ具合から界王拳だけで対処しようかと思っていたがプランを変える事にした。

 

・原作のような流れならプランA

・悟空もトランクスも間に合うならプランB

・どちらも間に合わないならプランC

・片方が間に合い、フリーザ・コルドが想像以上のパワーのプランD

・どちらも間に合わず、フリーザ・コルドが想像以上のパワーの最悪プランE

 

今回はプランAからプランD...即ち、なるべく界王拳、それでも危ういならば超サイヤ人化で倒す作戦だ。

ただでさえラディッツという男がドラゴンボールの本来の歴史ではいてはならない存在であるにも関わらず、超サイヤ人にもなれるなどトランクスに知られたくなかったからだ。

余計な心配を掛けたくないと言うラディッツの計らいによるものだが、もうつべこべ言っていられない状況に変わりつつある。

 

 

「すまんなコルド大王。

これ以上強くなられるのは困るんでね、ちょっとだけ本気出しますから。」

 

 

 

その言葉と同時に体から吹き出す金色のオーラ。

腰まで届く髪は隅の隅まで金色に変わる。

伝説と言われる超サイヤ人...初めてそれを見るコルドもその変貌ぶりにすぐに察する。

 

 

(なっ!?

この人も...超サイヤ人に!?)

 

「それがあのクウラを殺した姿か。」

 

「そうだ、俺も予定外の事は嫌ですからね。

早々に終わらせますわ!」

 

 

剣を介して耐えていた力をスッと受け流す。

バランスを崩すコルドの横腹を蹴り飛ばす。

剣を手放し吹き飛ぶコルド、受け身と共に両手で空へと跳ね上がるも、先回りされ両手で殴り落とされる。

 

 

(サイヤ人が...我らフリーザ一族と同等の力を得るはずがない。

久しぶりの戦闘で体が訛っていたか?

それとも本当に超サイヤ人の力が...?)

 

 

久々に全身が痺れる程の痛みを押さえつけ、上空を睨む。

斜め上より、体に飲み込まれていく右腕。

右腕が腹部を貫いたと気づくのは、鋭い痛みが走ってからだった。

それでもなお攻撃しようとしてきたが、蹴り飛ばして腕を抜き取りながら岩へ叩きつける。

 

 

「ガハッ!

ま...まて!」

 

 

待ったをかけるコルド。

ラディッツとトランクスは超化を解かずに仁王立ちする。

 

 

「お前達...流石超サイヤ人と言えよう。

...どうだ?

勇敢なるサイヤ人なら更に手応えのある奴と戦いたくないか?」

 

「悪いが「待ってくれ、話だけ聞きたい。

強い相手とは誰だ?」

 

 

制止させるラディッツ。

強い相手が誰かと言う好奇心からその言葉が出た。

ただそれは、サイヤ人の特性と言うよりかは原作とは違った形になりそうな元凶だけを知っておこうという考えからだ。

孫悟空やベジータと同じ純粋なサイヤ人だが、心まではそこまで強者との戦いは望んではいない。

 

 

「それは...この私だ。」

 

「コルドが?」

 

「そうだ、先ほど話しただろう。

貴様らは第二形態で充分かと思ったが、私の過小評価だった。

宇宙最強をフリーザに譲り、私は隠居しようと思い戦いをやめた。

戦闘の感覚が掴みかけた今、更なる形態へと変身を遂げれば貴様達のお望み通りの強者になれる。」

 

「...ちなみにコルド、クウラみたいに第五形態までいけるのか?」

 

「第五形態?

私は更にその先の究極形態までの変身を可能としている。

フリーザとクウラは私の形態一部しか遂げられないがな。」

 

 

宇宙最強のフリーザ一族...そしてその頂点に立つ恐怖の大王。

その強さは、フリーザやクウラを遥か後方に置いていくほど。

今のラディッツとトランクス...ベジータや地球の戦士達の全てを束にしても勝てるはずが無い。

それを敢えて言わずに強者との戦いと濁して伝えていたのだ。

純粋なサイヤ人ならこの誘いに乗ってこないはずがないからだ。

 

 

「...それはいい事を聞いた。

ありがとうコルド大王...トランクス!」

 

「はい!」

 

「待っーーーー.......。」

 

 

コルドの体を斜めに一刀両断する。

それでも念には念をと、ラディッツがエネルギー弾で残った肉片を跡形もなく消し飛ばした。

トランクスは剣の血振りをし、懐から布を取り出し、血を念入りに拭いてから鞘に納める。

 

 

「ありがとうトランクス、お陰で助かったよ。」

 

「いえ...そんな事よりあなたは一体何者なんですか?

孫悟空さん以外に、超サイヤ人になれる人がいるなんて俺は見当がつきません。

それに何故俺の名を知っているんですか?

聞きたいことが山ほどあります!」

 

「俺は...ラディッツだ、孫悟空の兄さ。

詳しくは悟空が来てからにしようか。

あ...あと名前は伏せておくよ。」

 

 

駆け寄ってくるベジータ達を見て親しげな会話はここまでとする。

トランクスにとってはこの時代の人と緊密に接すると、どうなるかわからないからだ。

色々な疑問が頭をめぐる中、この時代のZ戦士達と合流する。



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あなたはどこの誰ですか? 1978

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「凄かったな、二人共。」

 

「あぁ、あのフリーザ達をあっという間にやっつけるんだもんな」

 

「しかもなかなかのイケメンじゃない!」

 

「しかもあれだろ?

超サイヤ人って奴になれるんだろ?」

 

「超サイヤ人 初めて見た。」

 

「凄い剣さばきですね、見えませんでしたよ!」

 

 

あっという間にZ戦士達がトランクスへ群がる。

気からして悪者ではないし、あのフリーザをことごとく倒した強さだ。

注目しないわけが無い。

 

 

「とりあえず皆さん、孫悟空さんが来るまで3時間あまり。

飲み物を飲みませんか?

お口に合うかわかりませんが。」

 

 

内ポケットからホイポイカプセルを取り出し、冷蔵庫が出てくる。

コンパクト冷蔵庫の中にはジュースがキンキンに冷えているが、注目すべき点は他にあった。

ブルマが気づいたのだが、その冷蔵庫はまだこの世に出回っていないものだった。

「オレも買っただけですから、イマイチよく分からないんです。」とはぐらかされた。

 

 

「おい貴様、何者だ!」

 

「そんな邪険になるなよベジータ。

地球を救ってくれたんだぞ?」

 

 

クリリンは四ツ谷サイダーを片手に謎の少年のフォローに回る。

どんなヤツであろうと、彼は地球を救った者なのだ。

敵であるはずがない。

だがベジータの思考は、そことは別の所にある。

何故悟空が3時間にここに来ることを知っているのか。

どうやってあんな力を身につけたのか。

 

 

「サイヤ人は俺様とカカロットと、ハーフである悟飯ってガキ以外残っていない。

だがお前は実際に超サイヤ人になった。

だが純粋なサイヤ人なら髪の色は黒色のみのはず、なのに貴様は違う。

そして尻尾もない。

一体どう説明するんだ?

それと...名前ぐらいいい加減に教えたらどうだ。」

 

「...すみません、名前は言えません。

説明も...すみません。」

 

 

全てに対して答えを伏せる謎の少年。

そこまでして身分を隠す必要があるのだろうか?

たったひとつ言える事は、孫悟空という名前を知っているならば悟空ならこの謎の少年の正体を知っている可能性があるということ。

 

 

「...孫悟空さんは知ってるだけで、実はお会いしたことはないんです。」

 

 

ヤムチャが悟空の名を出して宥めたが、本当に謎である。

...いきなり現れてフリーザ達を倒してくれたはいいが、

Z戦士達は疑いを隠せない。

孫悟空を知らずに来た名前の知れない超サイヤ人。

だがその時だ、あの気を感じてきたのは。

 

 

「...この気は!」

 

「帰ってきたんだ!」

 

 

孫悟空の帰還。

フリーザ達から遅れること三時間...Z戦士達は喜びに満ち、着陸地点へ向かう。

ポッドから降り立つ悟空に、ベジータ以外は続々と集まり久々の再開に会話が弾んでいた。

無論、謎の男トランクスも距離を取っていた。

 

 

「そうだ悟空、アイツがフリーザ達を倒してくれたんだ。

知ってるか?」

 

「...いや、オラ知らねぇけど?」

 

「え、お前知らないのか?」

 

「孫悟空さん。

ちょっと俺と話をしてもらっていいですか?

ラディッツさんも。」

 

 

悟空は「なんでオラが?」と言わんばかりの顔で付いて行く。

ラディッツは呼ばれて当然と思っていたようで、一切の遅延も無く続く。

 

 

---

 

--

 

-

 

 

「帰ってきて早々ですが、お願いがあります。

超サイヤ人...見せて頂けますか?

ラディッツさん、あなたもです。」

 

 

謎の少年の頼み...フリーザ達を倒してくれた礼もあるし、この少年も超サイヤ人化する事が出来る。

二人は頼みに応えて超サイヤ人化すると、少年も超サイヤ人化する。

実力が見たい...悟空は人差し指を構え少年は剣を抜き、まずは悟空に切りかかった。

指一本でそれをあしらう悟空。

複数回それが続くと、意表を突いたようにラディッツへ刀身が胸へ迫る。

上体を逸らし避けるが、今度は二段突き。

これも左右に躱しきったところで、トランクスの攻撃は終わった。

 

 

「悟空さん、やはりあなたはお話通り凄い強さです。

ラディッツさんも、流石悟空さんのお兄さんと言うだけあって凄まじい強さだ。

...これなら話しても大丈夫だ。」

 

「話って...一体なんだ?」

 

 

話の通りの孫悟空の強さ、そしてその兄のラディッツの強さを体感して二人を信用した少年。

他の人には内緒ということで、今回この場に存在する理由を語る。

まずは悟空にトランクスと名乗り、彼は口を開く。

謎の少年トランクス...彼は今から二十年後の未来から、タイムマシンに乗ってやって来たベジータの息子だと言う。

彼の世界は、今から3年後に現れるレッドリボン軍の生き残りの科学者 Dr.ゲロが究極の殺人マシーン 人造人間19号20号を作り上げる。

しかし、究極の殺人マシーンとして作られた人造人間達は、生みの親であるDr.ゲロすらも殺してしまい、歯止めが掛からなくなった人造人間達により、未来は壊滅状態になったのだという。

 

 

(この世界でも、やはり人造人間編は外せないようだな。

と言うことは、セルもいずれは出てくるだろう。

人造人間はゲロも含めて5人だけど、出来れば16、17、18号は生かしたいな。)

 

 

トランクスの説明はまだ続く。

人造人間達は強く、ベジータを始めZ戦士達はまるで歯が立たずに皆殺しにされてしまう。

悟飯とトランクスは皆に未来を託されて、この戦いから命からがら生き残るが、ピッコロも殺された未来ではドラゴンボールも失われてしまう。

ナメック星のポルンガに生き返らせてもらうにしても、ブルマ達が行ったナメック星は、すでにフリーザに破壊され、ナメック星人達は新ナメック星に移住していた。

故に、新ナメック星の位置を知る術が無かった。

探しに行こうも、シャトルを打ち上げる際に人造人間に破壊されてしまうのも目に見える為に期待は出来なかった。

そして死者を蘇らせる期限である1年が過ぎ、望みは絶たれる。

二人は人造人間を倒すべく、修行に明け暮れ立ち向かおうとするも、師匠である孫悟飯も遂に殺されてしまう。

そして最後の希望であるトランクスだけが生き残った。

話には出ていない悟空は、人造人間と戦う前にウイルス性の心臓病で戦わずして病死するのだという。

孤立無援...絶望の未来。

 

 

「いぃ!?

オラ死んじまうのか!?

チクショー...そんなに強い人造人間ならちょっとでも戦ってみたかったな!」

 

「えぇ、この時代では不治の病と言われているものです。

母さんが言うには、心筋炎と心膜炎を併発した未知の新型の心臓病と言われていますが...。

ですが大丈夫です、俺の時代では特効薬があります。

これは悟空さんが持ってて下さい。」

 

「母ちゃん?

お前の母ちゃんは誰なんだ?」

 

「えぇ、母親はそこに...。」

 

「ブルマかぁ!?」

 

 

 

少々オーバーリアクション気味に驚く。

それもそうだ、ヤムチャといつもくっついているブルマがベジータと...。

まさかこの地球で...しかもあのじゃじゃ馬女が伴侶を得るとは、本人達すら思ってもいないであろう。

 

 

「俺は、もう父さんを失いたくありません。

そして世界が崩れていく様を変えられるならと思って過去に来たんです。

悟空さん、ラディッツさん。

人造人間が現れるのは、これから3年後の5月12日の午前10時頃。

場所は南の都の南西9km地点の島に人造人間19号・20号が現れます。

あの...この事は...特に父さんと母さんの事は内緒にしててください。

俺自身が無くなってしまいますから!」

 

「おう!

大丈夫、オラ口硬い方だ!」

 

 

トランクスと悟空は固い握手を交わす。

それは未来からの不屈の闘志が受け継がれた瞬間でもあった。

この戦いに負けることがあれば、それは悲惨な未来が待ち受けているということ。

そしてこれまで苦楽を共にしてきた仲間やライバル...そして最愛の息子ですら失う事となる。

未来は必ず、勝ち取らなければならない。

 

 

「悟空さん、ありがとうございます!

...すみませんが、ラディッツさんとも少しお話してもいいですか?」

 

「悟空、瞬間移動、みんなに見せてきてやれよ。」

 

「オラ何も言ってねぇのになんでわかったんだ?」

 

 

これも未来予知とはぐらかして、悟空を皆の所へ戻す。

トランクスはそれを見送ると、これまで以上に鋭い視線をラディッツへ向ける。

 

 

「やっと話せますね。

あなたは本当に何者なんですか?

あなたは未来から来た俺の名前を正確に言い当て、まるで瞬間移動のように現れ...悟空さんの瞬間移動すらも言い当てた。

そして超サイヤ人にもなれる。

本当に未来予知なんです?」

 

(凄い怪しまれてるな。

おーい神様、全部喋っていいか?)

 

『トランクスなら問題無かろう。

よし、ロック解除したから喋れるぞ。』

 

 

「俺は河野...よし、喋れるな。

トランクス、信じてくれるかわからんが、俺の全てをお前に話す.......。」

 

 

 

全てを話すのに時間は掛かった。

河野豊時代に神様によってこの世界に飛ばされ、敵であった悟空の実兄のラディッツに憑依した事。

ベジータとの死闘、ナメック星での戦い、特殊能力の新技リヒート。

そして、この物語の過去から未来のほぼ全てを何となく知っていると言うこと。

 

 

「...別の世界って言うのかな?

だからこの先の事も、トランクスのいる未来も、全て物語として知っているんだ。

俺だってこの世界を絶望の未来にしたくはないから戦うつもりだ。

敵の情報は気持ち悪いほど知っているからな。」

 

「...俺にはとても理解出来ない話ですが、信じないと説明できない事だらけだ。

協力して貰えますか!?

ラディッ...河野さん!」

 

「ラディッツでも河野でも好きに呼んでいいよ。

どっちでも間違いないんだからな!」

 

 

まさか自分自身よりも詳しい未来を知り得ている人間がいるとは...。

これ程に心強い味方がいるだろうか?

ラディッツは更に話を続ける。

圧倒的な力を持つ心優しき人造人間16号

気まぐれな性格な人造人間17号

高飛車でクールな人造人間18号

真っ白な肥満体の人造人間19号。

そして自らを人造人間化したDr.ゲロ...人造人間20号。

三年後に現れるのは19、20号であり、更にはセルという未来にはいないはずの人造人間が現れる。

 

 

 

「なんて事だ...俺が来たせいで新たな人造人間が次々と現れるなんて。」

 

「大丈夫。

それでも全員倒すってわけじゃないけど、ハッピーエンドになる話だ。

三年間、向こうで生きてりゃ何とかなる。」

 

「はい。

悟空さんやラディッツさんのお陰で希望が持てました。

三年...もし俺が生きていたら必ず応援に来ます!」

 

 

片手を上げ、飛び去っていくトランクス。

変わりかけている未来だが、希望が湧いてきている。

ブルマに報告する事が山ほどあるが、何の苦とも思ってはいなかった。

そんなトランクスを見届けて、ラディッツはみんなの元へ戻る。

ちょうど悟空が瞬間移動で、亀仙人のサングラスをかっぱらってきた所だった。

 

 

「悟空、ラディッツ返ってきたぞ!」

 

「早く話してくれ。」

 

「あ...いや、大したことねぇんだけどよ...ラディッツ頼む!」

 

「お前聞いてたじゃねぇか!

...わかった、簡単に話すぞ?」

 

どう話すか悩む悟空に代わって、ラディッツはトランクスの出自以外の全てをみんなに話す。

全てを話し終えた時、皆の顔はショックを隠しきれていなかった。

 

 

「...そんな感じだ。

とりあえず三年間頑張ってまた修行しないと、悲惨な未来が待っている事になる。」

 

「それも大切なことだが、貴様の出自も話すんだな。

俺たちにとって重大な話だ。

何故今まで黙っていた?

別の世界の人間という事を。」

 

 

ナメック星人の聴力は地球人やサイヤ人よりも優れている。

そして頭脳もだ。

悟空、そしてラディッツの一連の話の流れを全て聞いていたピッコロが口を開く。

彼には散々、未来予知などでこれまで全てはぐらかされてきたが、ようやく全てが繋がった。

 

 

「どうゆう事だよ?

ラディッツが別の世界の人間って、そんな訳ないだろ!」

 

「こいつは何もかも知っていたんだ。

サイヤ人達の襲来、ナメック星でのフリーザとの戦い。

そして今から始まる人造人間達との戦いとその先の敵も。

そんな大事なことを何故黙っていた?

お前の知っているおとぎ話通りにするなら、俺達の命はそんな容易く見逃されていたのか?」

 

 

この場の全ての人が固まる。

これまでラディッツが言っていたのは未来予知何かではなく、全て別の世界で存在する物語通りに進めるためのもの。

Z戦士達の命を握っているのはこの男なのだ。

 

 

「別の世界の人間がラディッツの体に入ったのは、俺がお前を殺したタイミングだろう?

貴様は何者だ、答えろ!」

 

「神様、完全にバレたぞ。

責任取れ。」

 

『ちょっと迂闊じゃったな。

致し方あるまい、ワシも顔を出す。』

 

 

ラディッツの隣にいきなり現れる神。

見る人により違って見える為、ナメック星人のように見えたり、顔がいくつもあったり、口髭を携えて見えたり...。

 

 

「あー、久しぶりだなピッコロよ。

お前の超聴力をすっかり忘れていたわい。」

 

「やはりあの時のクソジジイが後ろにいたか。

貴様も何者か正直に話すんだな。」

 

 

今度何かしたらぶち殺す...と言わんばかりに指先に気を集める。

それでも涼しい顔の神。

 

 

「わかったわかった、正直に話そう。

まずはわしの事を...わしは無神と言った方がいいかな?

この世界には様々な神がいる。

そのなかでも、わしは時間も空間も何もない、永遠と虚無だけに満ちた世界...無の界の神。

そして、ラディッツを生き返らせた経緯を皆にお教えしよう。」

 

 

両手を広げ、一度だけ握って開く。

まるで彼らの過去を、その場で第三者の視点から見たような記憶が飛び込んできた。

事故...神室...憑依...単行本...変わっていく歴史。

 

 

「な なんだこれ!?」

 

「ラディッツ...いや、河野の記憶か?」

 

「そう、正直に言うとラディッツになりたくてここにいる訳じゃない。

そして、俺の知らない敵だったり知らない展開。

...と言うかこの話をあまり知らないんだ。

話したくても知らなかったり、知っててもこの神さまに何故か口止めされて、話すに口が動かなかったからな。

...だが今から人造人間の知っている情報は全て教える。

罪滅ぼしと思ってくれ。」

 

 

紙とメモ帳を、ブルマの乗ってきたスカイカーから拝借して再び説明を始める。

今度は人造人間という存在を知らない人間相手なので、具体的な風貌と似顔絵を添えて話す。

更にはその先に現れるセルまで...。

 

「とまぁこんな感じ。

わからんと言ったところは本当に覚えていない。

これが俺の未来予知...ってか記憶だ。」

 

「なるほど、ちなみにラディッ...河野今度は誰が命の危機に陥る?」

 

「どっちで呼んでもいいよ天津飯。

今回は、さっき現れた少年と悟空が心配だ。

先程の絶望の未来編なら...全員だ。」

 

 

全滅の危機...しかも今度の相手はあのフリーザよりも格上の敵。

この場に未来から来た少年とラディッツがいなければ死ぬ運命だったかもしれない。

だが信じる証拠は何一つない上に、タイムマシンなんて考えられない。

そんな嘘くさい話し...信じていいのだろうか?

 

 

「俺は更なる修行をする。

野垂れ死にたくないからな、あのガキとこいつの作り話となれば、いい笑い話になるがな。」

 

「オラも強ぇやつと闘いてぇからな!」

 

 

未だ半信半疑のメンツがいるが、タイムマシンと共に消える少年を見て覚悟を決めた。

謎の少年の警告日...今から三年後の5月12日午前10時頃、南の都の南西9キロ地点にある島。

そこにあらわれるという人造人間を迎え討つために、1時間前に集合する事と、それまでに修業し、自信のあるものだけ来る事をピッコロは条件として上げる。

 

 

(クソッタレ...下級戦士のカカロット、手下のラディッツ、訳もわからんガキ!

どいつもこいつも超サイヤ人になりやがって!!

超えてやるぞ...コイツらを超えて、更に超サイヤ人をも超えてやるっ!!)

 

 

誰にも知られぬ屈辱を味わい、かつて無い程の修行を誓うベジータ。

未来を勝ち取るのは、この3人を超えれば必然とついてくる。

...いや、例え人造人間を倒せたとしてもカカロットやラディッツに追いつけないくらいなら未来が無くなってしまった方がマシだとさえ思っていた。

それ程の屈辱なのだ。

 

 

 

---大体1年後 深夜 カプセルコーポレーション---

 

 

(...やってるやってる。)

 

 

カプセルコーポレーションの敷地内に忍び込んでいた男。

あの後、3年後の再開を約束した直後に、宇宙へ修行の旅へ行ってしまった王子様が帰ってきた為、どれぐらいの強さになったのか確認しに来たのだ。

 

 

(...超サイヤ人には...なれなかったのか?

そろそろなってくれないと...戦力にならんからな。

ちょっと怖いけど...まぁ最悪本気になれば死ぬこたねぇか。)

 

 

茂みから出て、スタスタと大きな球体へ近づいて行く。

ボタンを押すと、入り口はすんなり開いた。

非常灯の為か...それとも重力のせいか、球体の中は異常な程までに赤かった。

 

 

「こんばんは、久しぶりだなベジぃっ!?

なんじゃこのデタラメな重力は!

殺す気か!

...まぁいいや、宇宙は楽しかったか?」

 

 

「ちっ、誰かと思えば...。

何しに来やがったラディッツ。」

 

 

突然の訪問者はラディッツ。

400倍の重力にも全く動じずにスタスタと歩み寄ってくる。

今手に持つ携帯が、約50kgの鉄の塊なる世界なのだ。

そんなバカげた重力空間で難無く修行する奴と普通に歩いてくる奴。

 

「なれたか?

超サイヤ人。」

 

「邪魔だ、修行の邪魔をしに来たのなら失せやがれ。」

 

 

この物言いからして、宇宙での修行は収穫無しとみたラディッツ。

その推測は当たっていた。

もし超サイヤ人になれていたのなら、「クックック...ならば見せてやろう。」とでも言うと踏んでいたのだが、図星と言わんばかりの塩対応。

だがそれも、もちろん彼の想定通りだ。

その為にここに来たようなものだったからだ。

 

 

「なんだ、超サイヤ人にはまだなれないのか。

ベジータ、意外と大したことないんだな。」

 

「貴様、この俺様に喧嘩ふっかけに来やがったのか!?」

 

「そんなつもりは無いさ。

俺が本気出したら喧嘩になんてなる訳ないじゃないか。

だって俺は超サイヤ人になれるんだぜ?」

 

 

反論する前に拳が出てしまったベジータ。

全力で殴ったつもりだったが、指2本で止められてしまう。

超サイヤ人ではなく、上半身のみのスコードロン界王拳だ。

ますます怒りが募るベジータ。

 

 

「いい気になるなよラディッツ!

いくらお前が別の人間だろうが、下級戦士、俺の手下という点に変わりはない!」

 

「この程度なら超サイヤ人にならなくても、界王拳だけで充分だな。

知ってるかベジータ、絶望の未来世界だといの一番に死ぬのはお前なんだぞ?

相手の実力をわかっていながら立ち向かうのは男として素晴らしいが、勝てなきゃ意味がない。

負ければただの犬死だ。

わかるか?

未来世界ではお前は勝手に死んでいったマヌケなんだ。」

 

「貴様ぁあああ!!」

 

 

400倍重力の中で、ベジータは本気の戦いを仕掛ける。

無謀...でもそんなの関係なかった。

ラディッツは界王拳を解き、超サイヤ人になる。

その衝撃により、仕掛けていたベジータは後方へ追いやられた。

 

 

「これでもうお前は、俺に触れることも出来ないぞ。」

 

「抜かせぇっ!」

 

 

エメラルドグリーンの瞳目掛けて殴り掛かるが、拳は空を切り前のめりにバランスを崩しかける。

突如後ろから軽く押され、地面へ倒れ込んでしまった。

もちろん正体はラディッツ。

コケにされる気持ちを奮い立たせ、1発でも拳を当てようと躍起になる。

しかし結果は何も変わらず...数打てどカスリもしない。

 

 

「クソッタレがぁ!!」

 

 

特大のエネルギー弾を放つ。

この重力トレーニング室なら狭すぎて逃げきれないと踏んでのエネルギー弾だ。

避ける隙間もなく、ラディッツを中心に爆発を起こす。

お陰でトレーニング室はほぼ全壊し、地面が少しえぐれていた。

 

 

「なに!?」

 

「イージス...気のバリアーだ。

微塵も当たってないぞ?

ここまでだベジータ、これ以上やればいろんな人に迷惑になる。

お前の実力はその程度ということだ。」

 

 

ものは壊れど、全力を出せど、ダメージを与えるどころかまだ体に触れることも出来ていない。

それに一方的に終わらされる様な発言...気に入らない。

まだベジータは納得出来ていないのだ。

 

 

「ふざけるな!

下級戦士のくせにいい気になるなよ!!

俺は超エリートであるサイヤ人の王子ベジータ様だ!

貴様ら如きが少し強くなったからと言って、俺様はすぐに超え「超えてねぇから言ってんだ!」

 

 

腹部を殴られ、顔面を両方向から殴られる。

あまりの速さに、全てが同時に行われたかと思うほどだ。

一瞬混乱している間に、両肩を掴まれて地面に叩きつけられる。

 

 

「リヒートリヒートリヒートリヒートリヒートリヒートリヒートリヒートリヒートリヒートォ!!!!」

 

 

次の瞬間には、頭だけ地面から顔を出した状態で埋まっていた。

訳が分からなかった。

場面が、いきなり切り替わったかのように埋められていたからだ。

 

 

「な なにをした!?」

 

「言わなかったか?

悟空と同様に、俺も特殊能力を習ったんだ。

時間を少し止めることが出来るようになった...グルドの下位互換みたいな...な。

少しずつ時間を止めて埋めただけだ。

とにかくお前はそこで頭冷やせ。」

 

全身から白い湯気を出し、汗が滝のように出ても全く息が上がっていない。

凄まじく固められた土では、手も足も動かせない。

為す術がない。

 

 

「超サイヤ人+特殊能力。

これでも人造人間に勝てるかどうかわからない。

超サイヤ人にもなれないお前がしゃしゃり出ようが、目障りなだけだ。

お前は2年後には来なくてもいいかもな、お荷物だからな。」

 

「ちくしょうめっ!!」

 

「負け犬は吠えてろ。

超サイヤ人は怒りによって覚醒する。

お前ならもうなれてもおかしくないが...やはり素質が無いのかな?

あばよ負け犬王子。」

 

 

顎をしこたま蹴られ、意識が遠のいでいった。

何時間眠っているのか...夢とも現実ともわからない境目。

暗闇?

ベジータは1人暗闇の中にいた。

暗闇とはいえ、自分の体ははっきりと見える...なんとも訳の分からない場所だ...なにやら声が聞こえる。

ラディッツの声だ。

 

 

(なんだ、その程度の攻撃で気を失っちまうのかぁ。

まぁいいや)

 

「な、ふ ふざけるな!

勝負はこれからだ!」

 

(お前は今のままじゃダメなんだ。

ムリだよ...なれない...超サイヤ人になれないんだよ。

覚えてるか?

お前は超サイヤ人にもなれていないのに、「この俺こそが超サイヤ人だ」と勝ち誇った顔?

プライド高い王子様と思ってたら、とんだ勘違い王子だった訳だ。

だが俺が少しだけ手伝ってやる。

いいか、ゆっくりとイメージしろ。

お前だ、いつも通りのお前だ。

今、ゆっくりと気を上げる。

20%...ほんのり自らの回りの空気が変わるんだ。

40%...60%...内側のエネルギーが外へと出始める。

力はみなぎっている、何も邪魔するものは無い。

80%...100%...お前は大きな壁にぶつかり、これ以上はパワーを上げられない、

もっとだ、サイヤ人の血がもっと強くなろうとしている。

怒りだ...純粋な心と怒りでその壁は乗り越えられる。

あとはお前しだいだ。)

 

 

声はそこで途絶えた。

ベジータは怒りが募っていた。

アドバイスを受けて怒っている訳では無い。

下級戦士からアドバイスを貰っている自分の不甲斐なさ...身の程をわきまえずに助言してくるラディッツが気に入らない。

そして...先程その嫌な奴にコテンパンに叩きのめされた事に異常な程にアタマにきていた。

超サイヤ人ラディッツ...連動するかのように超サイヤ人の謎の少年が思い浮かんで更に怒りが増す。

そしてカカロット...そうだ、奴にも戦いに敗れ、フリーザとの戦いではまるっきりカカロットにおんぶに抱っこだった。

ラディッツ...謎の少年...そしてカカロット。

彼等を追い越すどころか、超サイヤ人の壁にぶつかり跳ね返されている。

このままでは...永遠に追いつけるはずもない。

 

 

 

「ここが...俺の限界だと言うのか?

俺様は...誇り高き戦闘民族サイヤ人の王子。

俺様こそがナンバーワンなのだ。

...誰にも俺には適わんのだ!

なのに俺は...俺はぁぁああああ!!」

 

 

自らまとわりついていた土が、爆発する金色のオーラにより粉々に弾け飛ぶ。

深夜にも関わらず、周囲が真っ白になるほどの閃光の後に降臨することになる。

 

 

「...くっそ、覚醒速すぎ...。」

 

 

ベジータが気絶した直後から、敢えて耳元で嫌味のようにプライドを刺激するように言い続けていたら覚醒。

まさかこんな早くに覚醒するとは思いもしなかった。

もっと時間を掛けて追い込んでいこうと思ったいたようだ。

 

 

「ハァ...ハァ、やったぞ...ハーッハッハッハ!!

そうだ!

ラディッツやカカロットのような下級戦士になれて、スーパーエリートであるこの俺様がなれないわけが無いのだぁ!!

これで超えたんだ!

これでもう奴らに遅れをとることはありえない!!

人造人間だろうがなんだろうが、俺様が全員ぶち殺してやるぜ!!」

 

 

あまりの喜びように、声をかけようとしたラディッツだが大人しく帰ることにした。

翌朝には近所の人達がカプセルコーポレーションに押しかけて、ベジータに対しての怒りを堪えて謝るブルマがいたのは言うまでもない。

 

 

---約束の日 5月12日 午前6時---

 

 

「...はぁ。

ゲホッ...喉痛てぇ。」

 

 

空気の乾燥からか、喉の痛みと咳が多少出るが、普段通りの爽やかな朝を迎える。

5月...春と夏の間の季節の変わり目だが、今日は朝からとても過ごしやすい気候だ。

朝のニュースでは、[ゴールデンウィーク明け最初の休日の楽しみ方]と言う特集を紹介しているが、今日今から何が起こるのかわかっている人間達は何をどう思っているか?

起床してから、相部屋となっているランチさんを起こさない程度にひたすらに小さなため息をつきまくり、うがい、歯磨き、朝食を済ませ、食後のカフェオレも二杯目に突入する。

 

 

(なんでこんな絶好のお出かけ日和に地球の運命を決める戦いをやらなきゃいかんのだ...。

はぁ...さて、人造人間...セル...。

ターレス、クウラ機甲戦隊とクウラ...これまで必ずプラスアルファの敵が付いてきてるからな。

今回もまたなんか出てくるかもしれん。

新キャラはわからんし、劇場版の敵もわからんし、まずドラゴンボールの記憶が段々薄れてきたし...。

とにかくベジータは超サイヤ人になった、悟空の倒れるタイミングは知ってる。

...さぁ、とりあえずそろそろ出るか。)

 

 

黒の道着に袖を通し、メモ帳を折り畳んで持ち、神社経由で通い慣れた孫家へ飛び立つ。

勝負の時は神頼み...そして年間の半分は一緒に修行した悟空と悟飯とピッコロと合流するためだ。

長い戦いがまた始まる。

5月12日...その日は看護の日、ナイチンゲールの日、国際看護師の日、海上保安の日である。

そして、人造人間が表舞台に現れる日でもある。

 

 

「ええか悟空さ!

今回で最後だでな?

この未来を守るとか訳の分からねぇのが終わったら、本当に武道はなしだべ!?」

 

「わ わかってるよ...もう充分わかったって。」

 

(超サイヤ人にも弱点があったようだな...。)

 

 

孫家では早朝にもかかわらず元気な声が響いていた。

数年後にあるお受験前の最後の武道を確約させる為に、嫌という程悟空の脳内に言葉を叩き込む。

のらりくらりと「武道を辞めさせる」との明言を避け続け、やっとラディッツが到着する。

 

 

「義兄さ!

義兄さからも悟飯ちゃんの為に武道はこれっきりにすると悟空さに言い聞かせてやってほしいだ!!」

 

「(ゲッ、既にスイッチ入ってるじゃねぇか!)

とりあえず時間無いので行ってきます!

お おい行こう!」

 

 

皆急ぐ振りをして逃げるように飛び出す。

やっとの事でチチの支配下圏から抜け出した孫親子は、同時に安堵のため息をつく。

この二人は家の中ではそこそこ大変な思いをしている事がよく分かる。

孫悟空、悟飯、ピッコロ、ラディッツはまずは南の都を目指して進む。

道中、天津飯と餃子とヤムチャに追いつく。

 

 

「ここら辺か?」

 

「どうやらそうらしいな。」

 

「この島 意外と大きい。」

 

「確かにな、なんっちゅう島かわかんねぇけどよ。」

 

「あめんぼ島って言うらしいな。

南の都程じゃないけどデカイ街もある...巻き込んだら大変だ。」

 

「奴らの注意を俺達に向けさせ続けなければならないとするなら、北側の高山地帯を使うか他の島へ誘導するしか無いな。」

 

 

一通り地形を確認したところで、山の中腹にある平地へ集まった。

既にスカイカーが1台止まっており、顔馴染みの戦士達と知ると車から降りてきた。

紫色の赤ん坊を抱くブルマの姿だ。

 

 

「あらみんな久しぶり、時間通りじゃない。」

 

 

時刻は8時56分...一時間前集合できたのはこのメンツだ。

あと足りていないのは...。

 

 

「あれ、ベジータはいないのか?」

 

「修行って言ってまたどっか行っちゃったわよ。

ま、時間は伝えてあるから後で来ると思うわ。」

 

「ふーん。

トランクス、お前の父ちゃんは後で来るってさ。

よかったな!」

 

「ちょっと、なんで孫君が知ってるのよ!?」

 

「あ、お 俺が教えたんだよ!」

 

 

咄嗟に悟空が口を滑らすので肝を冷やす。

口が堅いとか言っておいて、心臓に悪い男...いや、心臓が悪くなる男だ。

心拍数が急に上がったラディッツは溜息をつく。

ある意味、敵は味方にもいる訳だ。

まだ一時間あるので各自ウォーミングアップや談笑して過ごす。

30分前になるとスカイカーでヤジロベーが到着し、カリン様から仙豆をお届けに来たようだ。

クリリンへと引き渡し、「人造人間を一目見たら帰るかんな!」としばらく居座ることになる。

これで役者は、人造人間のみとなる。

 

 

「さぁ、とりあえずほとんど揃った訳だし...人造人間の大まかな説明をしよう。

まずはDr.ゲロから...。」

 

 

各人造人間の大まかな説明と、似顔絵を皆に見せ始める。

まずは最初に現れるDr.ゲロ(人造人間20号)・19号。

そして後に放たれる予定の16・17・18号。

セルはまだ時間がある為、まだ話はしなかった。

今回の計画はDr.ゲロと人造人間19号の破壊。

そして残りの人造人間の保護だ。

16・17・18号は破壊した方が良いとの意見もあったが、今後の更なる強敵の為に味方にする算段である。

もちろん、ベジータを例に上げて納得させた訳だが。

その説明の最中も刻一刻と、約束の時が迫る。

 

 

「...まぁそんな所だ。

とりあえず最初の刈り上げ白豚人造人間をだな...う〜、ちょっと寒いな。」

 

「寒い?

...あぁ、そこそこ山間部だし標高も高いからな。

確かに俺もシャツを着てないから涼しいかもな?」

 

 

道着のしたは何も着てないクリリンも多少後悔しているようだ。

ラディッツは過去の反省から、ピチッとしたインナーとスパッツ...どちらも長袖を着用しているがそれでも冷える。

体が温まるはずだったのだが、どうも冷えが止まらない。

準備体操をもう一通りやり始めようとした矢先だった。

 

 

ドッ.....ォーーン

 

 

激しい爆発と破裂音が遅れて聞こえてきた。

何十tもある大きな商用型ビルが、根元から盛大に吹き飛ぶ。

通常の引火性の爆発の規模ではない。

ビルの形を残したまま吹き飛んでいるからだ。

 

 

「なんだ?

事故か?」

 

「人造人間だ。

...そうだ、人造人間だから気は感じないんだった!」

 

「馬鹿!

そういう事はちゃんと思い出しておけ!

行くぞ!!」

 

 

運命の戦いは、この大爆発から始まった。

ブルマとヤジロベーをその場に残して、Z戦士達は街へ繰り出す。

人造人間と思わしき人物が現れたら気を高める...それを念頭に皆バラバラに索敵する。

...ただ一人、別の戦士についていく者がいた。

 

 

「なんだラディッツ、まさか俺が最初の被害者か?」

 

「まぁね、死にはしないけどヤムチャは助けたいからね。」

 

 

ラディッツは冗談っぽく言ってるが、本当に俺が最初の犠牲者になるようだと察しがついてしまった。

少しだけ悲しくなったが、まずは人造人間を探す事に集中する。

 

 

--- 街 別地点 ---

 

 

「高いエネルギー反応二つ。

孫悟空とベジータか?」

 

「いや、適合率98%。

ヤムチャとラディッツだ。」

 

 

とあるビルの屋上から最近の高エネルギー反応に目をつける人造人間19・20号。

リゾート地でもあるこの島では、滅多に事故や事件が起きない。

原因不明のビルの爆発倒壊で街中が大騒ぎになっている中で、外部にエネルギーを出さないように造られたこの2人なら誰にも気付かれずにエネルギーを回収していける。

そしてエネルギー吸収を重ねて自らのエネルギーを得る...。

 

 

(いよいよだ...この私の計画も残り僅か。

忌々しい孫悟空に復讐を果たし、RR(レッドリボン)軍の再建...そして世界征服の為に!)

 

 

人造人間19号のエネルギーがまだフル充電では無いが、今のままでも孫悟空を倒すには問題無い。

万が一の為に、混乱する島人達に乗じて多くの生体エネルギーを吸収していくつもりだった。

更に言えば、孫悟空の仲間達が上手い具合にバラけてくれたおかげで1人ずつエネルギーを吸収しやすくなった。

ビルの屋上から高速で移動し、ラディッツとヤムチャの目の前へ降り立つ。

 

「出やがったな、人造人間!」

 

「Dr.ゲロ!?」

 

「おや、私の名を知っているとは。『私はヤムチャを...19号はラディッツをやれ。』」

 

『わかった。』

 

 

人造人間達は素早く動く。

...と同時にイージスで防御壁を作り攻撃を防ぐ。

ヤムチャは何が起こったのかわからない様子だ。

 

 

「気のバリア、データに無い技だ。」

 

「基本戦闘力は変わらないだろう、ぶち破ってしまえば問題ない。」

 

「ヤムチャ、気を上げろ。

残念だけど、取っておきを出すまでもなさそうだな。

10倍界王拳!」

 

 

取っておきというのは、彼らの知らない超サイヤ人だ。

今のラディッツなら10倍でバリアーを張れば破られることは無いと読む。

だがここで想定外の事が起こった。

力がどんどん抜けていく感触が急に襲ってきたのだ。

 

 

(あれ!?

エネルギー吸収!?...じゃないな。

なら引き上げる!)

 

 

界王拳を15...20...30倍に引き上げるが、脱力感の方が早かった。

あっという間に界王拳が解けてしまった。

そしてその瞬間が、原因が判明した瞬間でもあった。

 

 

「ぉ...お お...ぐお!」

 

「ラディッツ!?

おいしっかりしろ!!」

 

激しい胸の痛み。

堪らずに胸を抑えてうずくまる。

同時にイージスが消えてしまった。

ラディッツはそのまま後頭部を押さえつけられ、ヤムチャは顔面を掴み挙げられ、エネルギーの吸収が始まった。

 

「お お...ぉ.....。」

 

「クソ、力が...離しやがっ!

ぐあああ!!」

 

 

エネルギーを吸収されながらも抵抗するヤムチャは、胸を貫かれ動けなくなった。

胸を抑える力も無くなり、ラディッツの意識は途切れた。

 

 

.......

 

.....

 

...

 

 

「...ん?」

 

 

一度は沈んだ意識が、ようやく上がってきた。

知らない天井だ。

白い天井、白いベッド、白い壁、窓もない。

それでもとにかく自分は生きていた。

 

 

「...何とかなったか。

ちょっと気を抜いてたな、調子悪くして人造人間にやられるなんて。

全く俺は何してんだ...はっはっは。」

 

 

一人でなんちゃって反省会を一通り終えると、丁度部屋をノックする音が聞こえドアが開く。

入ってきたのは未来のトランクスだった。

 

 

「ラディッツさん、目が覚めたんですね。」

 

「おぉ!?

トランクス、もう来てたのか!

スマンな、不甲斐なくて...でももう大丈夫だ。

とりあえずどこまで話は進んだんだ...どうしたんだトランクス?

ボロボロじゃないか。」

 

 

戦闘の後なのだろうか、服がボロボロになったトランクスは必死に涙を堪えていた。

流石に空気は読まざるを得ない...何か思わぬ事態が発生したに違いない。

 

「...すみません.....。」

 

「...どうした、17号と18号が強いってことか?

それとも16号か?

話してくれなきゃ分からんぞ?」

 

 

何も話さないトランクス。

やれやれと思い他の戦士達に聞こうとした時だ。

気の数がやたらと少ないことに気づく。

クリリンの気は普通なので問題ない。

悟空は心臓病の発症で、気が非常に弱いのは解釈出来た。

悟飯の気もかなり弱くなっているのも、戦闘により想定外のダメージを負ったという事ならば何とか理解出来た。

 

 

 

 

 

 

 

.........それ以外の戦士達の気が存在しないのだ。

 

 

 

 

 

 

気を消していると考えるも、クリリンやトランクスが普通にしている点を考えるとおかしい。

もう一つ考えられる事は...そこまで想像する前にラディッツはトランクスに声を掛ける。

 

 

「...なんで皆気が消えてるんだ?

.....おい、何でだトランクス?

.....おい...おいトランクス、答えてくれ!

答えろトランクス!!

俺がいない間に何があった!?

言え!!

説明しろ!!」

 

 

トランクスはようやく重い口を開く。



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悪夢の再現

やっとこの小説の前身...あっとノベルスで保存していて消え去ってしまった分を蘇らせることができました。
1ヶ月に1回程度しか投稿してない割には早かったような...。

あ...お待たせしました、下部が本編になります。

誤字脱字修正済み R2 1/12


--- あめんぼ島 街---

 

 

「ヤムチャさん!

ラディッツ!」

 

 

近場にいたクリリンが最初にやってきた。

ラディッツは超化が解けて地面に倒れ込んだまま人造人間に押さえつけられ、ヤムチャは胸を貫かれたまま意識を失っているようだ。

人造人間達は意識をクリリンに向ける。

じろりと目が合った瞬間、ほんの少し後ずさりをしてしまう。

ヤムチャは別として、超サイヤ人に覚醒したラディッツがいとも簡単に瀕死になっているのだ。

直感的に、勝てない相手と対峙してしまったと思ってしまう。

 

 

「ふむ...生体エネルギーを吸い取る前に死に逝くか。

まるで役に立たんかったわい。

そして、貴様がクリリンだな。

こいつの代わりに、お前のエネルギーを頂くとしよう。」

 

「...エネルギー反応が複数。」

 

 

ラディッツとヤムチャをその場に捨て、人造人間達はクリリンに向けて歩み寄る。

その時クリリンの背後から、街中に散らばっていたZ戦士が集結した。

彼らも、ヤムチャやラディッツが簡単にやられた場面を見て強敵と察知する。

だが人数が集まった分、自分のやるべき事を最優先して出来る。

 

 

「ヤムチャさん、ラディッツ、仙豆だ!

口を開けて!」

 

 

意識の無い二人の口の中に無理矢理にでも仙豆を突っ込む。

その甲斐もあってヤムチャは全快するも、ラディッツは再び胸を抑えてうずくまる。

 

 

「仙豆 効かない!」

 

「まさか...孫の心臓病が河野に!?」

 

「役立たずめ。

何故孫も河野も発症したんだ!

薬を貰ったんじゃなかったのか!?」

 

「心臓病は...発症しなかったんです。

ラディッツさんは「もしかしたら心臓病にならないかもしれないし、発症してから飲めばいい。」と言ってたので、薬を飲まなかったんです。」

 

「あのバカが。

ヤムチャ、さっきの所に連れて行ってブルマに孫の家まで運ばせろ!」

 

「わかった、みんな気をつけろ。

ラディッツの言う通りだ。

奴らは俺達の力を吸収する!」

 

 

ヤムチャはラディッツを抱えて山間部へ飛び去っていく。

人造人間はそれを静かに見送る。

優しさなどではない、復活して戻って来たならば再び自らのエネルギーにするだけなのだ。

わざわざ逃がしてやったに過ぎない。

人がいない場所に移動しようと言う悟空に、人造人間は目からビームを出して辺りを焼き払い、ここを更地にしようとするが身勝手さに怒る悟空。

別の場所に行くことに同意した人造人間達は、悟空について行く。

その後は原作とほぼ全く同じ様に展開していく。

悟空の心臓病発症によりクリリンの戦線離脱...超サイヤ人ベジータの登場による形勢逆転...トランクス、ヤムチャの到着...Dr.ゲロの逃走と追跡...研究所の発見...人造人間17号・18号の起動...緊急停止装置の破壊...。

人造人間達の緊急停止装置が壊された事により、17号・18号はほぼ自由の身になった。

これでDr.ゲロが彼らを止める術は無くなってしまった。

自由の人造人間は、前回起動時には無かったカプセルを見つける。

 

 

「なぁ、この人造人間は完全機械型か?」

 

「そいつを起動させるのはやめろ!

そんなに世界を破滅させたいのか!」

 

 

自分達を勝手に改造したDr.ゲロの慌てぶりが面白く、カプセルの蓋を蹴りあげる。

カプセルの番号は16。

そう、完全機械型人造人間16号が起動したのだ。

人造人間16号は特別だった...それはDr.ゲロの息子の生まれ変わりのような存在だった。

息子はレッドリボン軍の上級兵士だったが、敵の銃弾に倒れており、その息子をモデルとして作成している。

その特別な思いからゲロは永久動力炉やパワーレーダーなどの強力なパワーを与えたが、同時に戦闘で破壊したくないという思いも働き、穏やかな性格にしてしまった。

人造人間としては失敗作となってしまったが、ひとたび何らかの意思を持ち始めれば...その力は間違いなく世界を文字通り滅ぼしかねない力なのだ。

言わばパンドラの箱、それを17号は開けてしまったのだ。

 

 

「16...16号か。

よう、俺は人造人間17号。

こっちは18号。

そして、お前の生みの親のDr.ゲロだ。」

 

「.....。」

 

「話し掛けても無駄だ、そいつは孫悟空を殺す為だけに存在しているのだ。

その為にお前達をも凌ぐ力を持っている!」

 

「孫悟空ってのはそんなに強いのかい?

強いんなら会ってみたいねぇ。」

 

 

17号はその言葉を聞き、幾重にも重ねられ頑丈に作られた研究所の扉を破壊してしまう。

もちろん外にいるのは全員揃った所のZ戦士達だ。

Z戦士達は愕然としていた。

ラディッツの話を聞いていた16,17,18号が既に動き出していたのだ。

特にトランクスはこれ以上人造人間を増やさない為に駆けつけたのに、無駄になってしまったのだ。

 

 

「来るか16号?

Dr.ゲロの野望に加担するのは嫌だが、俺達に目的が出来た。」

 

「...もちろんだ。」

 

「待ちやがれポンコツ共!」

 

「クソ、奴らを止めなければ!」

 

 

3人の人造人間は飛び立つ。

ベジータとトランクスはその人造人間を追いかけていく。

他の戦士達も続こうとしたが、ピッコロの一喝により留まる

Dr.ゲロだ、彼は飛び出して行った人造人間を追うわけでもなく研究所の奥へ駆け出した。

これまで開発してきた人造人間は失敗作として解体してきてしまったが、まだ解体していない人造人間もいるのだ。

これは大きな賭けでもある。

地球が消えてなくなるか、その力を上手いこと利用できるか。

 

 

「(こんな事になるとは...こんな事になるとはっ!?

こうなったら...私の最後の手段を取らざるを得ない!)

頼む、プログラムの書き換えが上手くいっててくれ!

13号・14号・15号!」

 

 

三つのボタンを次々と押していく。

しばらく起動していないのか、カプセルの蓋の埃や砂で姿が見えなくなる。

見えたのは二つの影、そして一つの影から放たれたエネルギー弾はZ戦士達へ飛んでくる。

戦士達は全員避けられたが、流れ弾によりDr.ゲロの首から下が爆ぜて消えてしまった。

 

 

「ーーっ!

クソ、これも失敗作か!

だが私だけ死にはしない...この地球ごと道連れにしてやる。」

 

 

言いきったと同時にDr.ゲロの頭部も踏まれて粉々になってしまった。

いよいよ全体像がはっきりしてくる。

1人はかなりの巨体で肌は白く、辮髪を結っている。

もう1人は外見はかなり小柄で大きな帽子とサングラスを身に着けて隠している。

 

この研究所には二つのスーパーコンピューター並の処理能力を持つコンピュータがあり、その一つは究極完全機械型の人造人間を研究し続け、もう一つは現代における生命体を選りすぐり、遺伝子操作と掛け合わせを行い創られる、バイオテクノロジー(遺伝子工学)型の人造人間の研究。

そしてこの人造人間達は前者...即ち、今考えられる完全機械型の最高傑作、人造人間14,15号なのだ。

 

 

「ソン・ゴクウ。」

 

「ソン・ゴクウ。」

 

 

これまでの人造人間とはまるで違う。

あまりに無機質な声に恐れすら覚える。

フリーザと対峙するのとはまた違った恐怖だ。

Z戦士達は声をかけあう事もなく同時に攻撃を仕掛ける。

それを全て受けるつもりなのか、白い巨人の14号が前に出る。

ピッコロ、クリリンの2人がかりでの攻撃も、顔色を何一つ変えることなく受け流す。

いや、まるで表情というものが無いようだ。

殺人マシーンと言う名が相応しい。

 

 

「チィッ、なんだこのポンコツは!」

 

「皆どけ!、気功砲!」

 

 

気功砲は確実に14号を捉えるが、ど真ん中をぶち破って天津飯を殴り飛ばし、追撃をしてこようとする奴に向けて手刀の先から鋭いエネルギー波を発する。

餌食となったのは餃子...避ける間もなく上半身と下半身が別々に地上へ落ちていく。

 

 

「餃子さん!!」

 

「悟飯っ!!」

 

 

鋭いエネルギー波は再び何かを切断する。

飛び散る鮮血。

幸い血液の量からして即死レベルではないが...悟飯の二の腕辺りから先が消えていた。

ピッコロが押し出すのが遅れていたら、左腕ではなく首が跳ね飛んでいただろう。

あまりの激痛に、苦悶を通り越し気絶する。

 

 

「クリリン、悟飯を天界へ運べ!

腕も忘れるな!」

 

 

ピッコロは即座に指をかざすと、悟飯の損傷箇所に応急処置が施される。

クリリンも悟飯に仙豆を食べさせ、一命だけは取り留める。

だが腕が治った訳では無い...デンデでも治せるのかわからなかった。

クリリンも状況が状況だけに、何も言わずに悟飯を背負う。

そして腕を取ろうとした時、エネルギー弾により消えてしまった。

今まで大人しくしていた15号だ。

 

 

「.....くそぉっ!!」

 

「ヤムチャ!

お前はこの事をベジータとトランクスに知らせてくれ。

俺がここで食い止める。

早く行け、俺も何の覚悟もなく来たわけじゃないんだ。」

 

「そんな、天津飯「早くしろ!

奴らは待ってはくれない、行け!」

 

「(悔しいが、今はオレが一番役に立ちそうにない...。)

わかった、必ず生きて帰って来いよ!

行くぞクリリン!!」

 

「天津飯さん、ピッコロ...死ぬなよ!」

 

 

クリリン、ヤムチャはそれぞれの役割の為に、戦闘区域から離脱していく。

人造人間達は追おうともしない。

残された天津飯とピッコロ。

 

 

「俺が食い止めるか...随分大きく出たな。

何か術があるのか?」

 

「奴らほどの格上に通じるかわからんが、間違いなく俺の最強の必殺技を二つ編み出した。

今からのは命を引換にするがな...お前はどうなんだ?」

 

「俺も開発した。

俺達で何とか時間稼ぎぐらいは出来そうだな。」

 

「そうか、まさかあのピッコロ大魔王と共闘する日が来るとはな...死ぬなよ!」

 

 

天津飯は気を貯めながら上昇する。

対するピッコロは気弾を乱発する。

余裕で交わし続ける14号...周りに漂い続ける気弾、これは先程から研究所のメインコンピューターに接続をしていた15号のデータにも無かった。

 

 

「壊れやがれ人造人間!」

 

 

魔空包囲弾、新必殺技が見事に炸裂する。

しかし表面が焦げ付いただけで大したダメージが与えられていないようだ、ニヤリとピッコロへ向けて走り出す。

だがまだ終わってはいない、上空には死を覚悟した天津飯が待ち構えていた。

 

 

「新気功砲っ!!」

 

 

先程の気功砲とは比べ物にならない威力の気功砲が放たれる。

人造人間達を中心に真四角のクレーターが出来上がる。

それでも1歩ずつピッコロや天津飯へ向けて歩を進める。

だがそれで充分だった、ピッコロ渾身の溜め有りの魔貫光殺砲はいつでも発射出来る体制まで整える事が出来た。

 

 

「確実に一体はスクラップにしてやるぜ。

魔貫光殺砲!」

 

 

貫通力に特化したエネルギー波。

当たれば、その重厚な額をも貫くだろう...当たる直前、15号が前へ立ち塞がりバリアを張る。

アンドロイドバリア、それでも貫通して14号の額に直撃し、倒れ込む。

 

 

「.....。」

 

 

不敵な笑みを浮かべて再度立ち上がる人造人間。

ダメージはまるで無い訳では無いが、額に小さな黒い焦げ後を作るだけで穴すら空いていない。

既に天津飯は新気功砲の連射によりほぼ戦闘不能。

全力の魔貫光殺砲も通じず、逃げる余力も立ち向かう力も残されちゃいなかった。

それでも人造人間達はピッコロを掴みあげ殴り飛ばす。

無表情で殴り続ける14号。

ラッシュ攻撃の仕上げに、14号のパンチが腹部を貫く。

そのまま宙吊りとなったが、振り払われるように飛ばされ天津飯を巻き添えにして岩肌へ叩きつけられた。

それでも、血だまりを踏みしめるようにピッコロは立ち上がりる。

 

 

「スマン...ピッコロ...。」

 

「...ふん。

期待はしていなかったが、想像以上の修行をしていたようだな。

まだやれるか?」

 

「当たり前だ!」

 

 

フラフラと天津飯も立ち上がる。

人造人間達は全く表情を変えない。

傷口を治す程の力が残っていないピッコロと立っているのがやっとの天津飯。

 

 

「そう簡単にくたばるほど俺達はヤワじゃないが...いよいよあの世がまた見えてきたな。

心中するか?」

 

「心中だと?

お前とそんな関係ではないが...コイツらを巻き込むなら一緒にあの世までついて行ってやる!」

 

「「はああぁぁぁああああ!」」

 

 

命を引換に最後のエネルギーというエネルギーを身体中から掻き集める。

足先から徐々に灰化していくが、気に止めることなく全てを指先へ集中させる。

エネルギーの動きを察知し、14、15号もエネルギーを手に送る。

だがそれよりもピッコロ達の方が早かった。

 

 

(俺が死んだら神は消え、ドラゴンボールも消滅する。

...スマンな河野、俺達だけでは未来を変えられなかったのかもしれん。)

 

 

「魔貫光殺砲!」

 

「新どどん波!」

 

 

二本の指先から放たれた光線はまっしぐらに人造人間達へと向かって行く。

放たれたと同時に、足先の灰化が急速に進み腰辺りまで灰となる。

その決死の技は...遅れて放たれたマーダーボールにより掻き消されてしまった。

届かなかった最後の技の最後を見届けて、身体中は灰となり、その巨大なエネルギーの塊によって欠片一つ残さずに消えていった。

 

 

そして地球の神も時を同じくして灰となって消えてしまい、ドラゴンボールもその輝きを失って石となった。

 

 

 

---あめんぼ島 荒れ地---

 

 

「スーパーサイヤ人って言ってたが...こんなものかい。」

 

 

完膚なきまでに叩きのめされていたベジータとトランクス。

ヤムチャがようやく来た頃にはカタがついていた。

ピッコロと天津飯の気が消えた今、この2人がいなければ立ち向かう事も出来ない。

肝心の仙豆も、「俺が持っていても。」とクリリンや天津飯やピッコロに譲った為に手元に無かった。

これ程あの時の発言を悔やんだことは無い。

 

 

「ベジータ、トランクス!

しっかりしろ!」

 

「おや?

また1人来たけど...どうやら戦うつもりは無いみたいだね。」

 

「まぁいいさ、来ないのなら戦うつもりは無いしな。

おい、そいつらに伝えといてくれ。

「復活したらまた相手になってやる。」とな。

行くぞ18号、16号。」

 

 

車探しを再び始める人造人間一行。

ひとまずの危機を脱したようなので、腕が折れたベジータと、気を失って倒れているトランクスに自らの気を3分の1ずつ2人に分ける。

 

 

「...すみません、ありがとうございます。」

 

「...。(トランクスだと?

未来から来たと行っていたな...まさか.....。)

チッ、あのポンコツ共め!」

 

 

超サイヤ人化になり、怒りに任せて地面を踏み抜く。

人造人間とはいえ、10・20代の子供...しかも女の子に完膚なきまでに叩きのめされたのだ。

そんなものはベジータのプライドに関わる。

 

 

「そんなこと言ってる場合じゃないぞベジータ。

大変な事になっちまった、人造人間がまた2体増えたんだ!」

 

「何ですって!!

...そんな...あの3体だけでなく...更にもう2体.....。」

 

 

自らの世界では、あの二人の人造人間とサシで戦えばかろうじて戦えるレベルだった。

それが今はどうだ。

ラディッツ、悟空を初めにベジータや自らもまるで歯が立たない強さになっている。

そして未だ実力を出そうとしない人造人間16号。

ここまで歴史が変わった上に、更に新手の人造人間...。

むやみやたらにこの世界に来た反動ならばと考えると、言葉に出来ないほどの心苦しさに駆られる。

 

 

「とにかく、ラディッツはブルマに頼んで悟空の家に今運んでもらっている。

クリリンは片腕を失った悟飯を天界に運び、デンデに治療してもらってる。

天津飯とピッコロは...おそらく...。

ドラゴンボールがなくなった今、もう誰も失う訳にはいかない。

オレ達も一度天界に戻って体制を立て直そう。」

 

「...どうやら、そんな時間は残されちゃいないようだな。」

 

 

 

彼方より現れる小さな黒い点、それはどんどん大きくなり、徐々に姿が顕になる。

ヤムチャは知っている...人造人間14,15号だ。

 

 

「奴らだ!

新しい人造人間だ!」

 

「何だこいつらは...俺も全く知らない!」

 

「構うものか、全員まとめてスクラップにしてやる!」

 

 

潔くベジータが単身突撃していく。

だが相手はピッコロと天津飯と餃子を、ほぼ無傷で倒した程の人造人間である。

全快の状態でも勝つ事が難しい相手に対して、1/3程度の力では及ぶはずもなかった。

いとも容易く攻撃は跳ね返され、元居た地面に叩きのめされるように戻って来た。

 

「父さん!」

 

「ベジータ、大丈夫か!?」

 

 

今まで隠していた呼び名をつい口走ったが、そんな事に気が付かないほど自体は切迫していた。

超サイヤ人化で挑んだのにも関わらず、ただの一撃で簡単に格差を思い知らされた。

自らよりも遥かに上のレベルにいる父が立ち向かえない以上、今ここにこの状況を覆すことの出来る者はいない。

そして回復の出来る仙豆も無い。

ドラゴンボールも...。

 

 

 

 

打つ手が無い。

 

 

 

「...トランクス。

お前の世界には父親がいないそうだな。」

 

「はい?

...え えぇ。」

 

「そうか。

ならこの時代のお前の父親から言葉だ。

お前のその体には、誇り高き戦闘民族サイヤ人の血潮...サイヤ人の王子である俺の血が流れている。

例え父親が死のうが、時代が、世界が違えどそれは絶対に変わらない事だ。

忘れるな、お前の中に俺の魂が流れているんだ。

もっと...もっと強くなれ。

サイヤ人に不可能は無いんだ!

訳の分からん機械人形に負けるんじゃないぞ!」

 

 

ベジータはトランクスの首筋に手刀を撃つ。

グラりと意識がとろけ、トランクスはもたれかかるように倒れ込んだ。

 

 

「(未来の俺が命を懸けて守り通した。

時代が違えど、俺は俺だ。

俺に出来て俺に出来ないはずはない!)

おい、コイツを天界へ持っていけ。」

 

 

全てのやり取りを見届けたヤムチャ。

その思いをしかと受け止める。

 

 

「ベジータ、お前は嫌いだったがな...考えが少しだけ変わったぜ。

お前は絶対に生き残らなきゃな!

すぐに戻る!」

 

「ふん、そのまま逃げ帰った方が身の為だ。

さっさと行け!」

 

 

ヤムチャは全速力で天界へと向かう。

残るベジータは人造人間達を睨みつける。

地球に来て...こんな気持ちは初めてなのかもしれない。

いや、その気持ちも確信と決めつける程の根拠もない。

今彼は自分の為に戦うのもそうなのだが、別の誰かの為に戦うという思いもある。

完全に他の誰かの為という訳では無いのだが、チグハグとしたその気持ちは、精神的に気持ちが悪くなかった。

 

 

「掛かってこい鉄クズども!

てめえらまとめてガラクタ市送りにしてやる!」

 

 

仄かに笑う人造人間。

その余裕面してる顔面をぶん殴ってやると言わんばかりに、果敢に地面を蹴り、持てる力を持って破壊しようと飛び掛かり空中戦を仕掛ける。

それに対処するのは14号。

相変わらず15号は極力戦闘は行わずにデータをひたすら収集し、研究所のコンピュータへと転送していた。

しかし、著しく戦況は苦しい。

拳は受け止められ、蹴りは避けられ、気弾やエネルギー弾は片手であらぬ方向へ弾かれる。

お返しにと言わんばかりに放たれた回し蹴りがベジータの折れた腕を砕く。

これでもう片腕は気弾の一発すら作り出せないであろう。

 

 

「...ぐぬ...俺様が片腕が使えなくなった所で、貴様らの運命は変わらん!」

 

 

 

--- 天界近くの空 ---

 

 

「ヤムチャさん!」

 

 

近づいてくるヤムチャの気を感じ、天界から飛び出してきた。

ヤムチャに背負われる未来からの戦士は負傷こそしていないものの、何があったのか...気を失っていた。

初めは心配したが、重症ではない為に安堵のため息をついた。

 

 

「クリリン、トランクスを天界に連れていってくれ。

仙豆は無いか?

俺はすぐに戻る。」

 

「仙豆は...悟飯にやったのが最後のやつだ。

残りは天津飯さんとピッコロが持ってたんだが...。」

 

 

どうやら事態は深刻を極めているようだ。

もしエネルギー弾などで消滅していなければ仙豆は取り戻せそうなのだが、下界では人造人間が合計5体も彷徨いている。

対する、今動けるZ戦士は3人...しかも全員人造人間誰1人に立ち向かうことすらできない。

唯一の戦闘力を誇るベジータも、急速にその灯火が弱々しくなっている。

 

 

「クリリン、トランクスを天界へ連れていけ。

俺は戦わなきゃいけないんだ、コイツ(トランクス)父親(ベジータ)の為に。

いつも戦って無駄死にしてるんだ、その役をベジータにやらせる訳にはいかない!

嚙ませ犬キャラは俺だけで充分だ。」

 

 

いつになくシリアスなヤムチャに、クリリンは止めることができなかった。

トランクスを預かるとクリリンは天界へ、ヤムチャは全力でベジータの元へ戻る。

 

 

(頼むヤムチャさん...頼む...。)

 

 

それがヤムチャの帰還なのか...ベジータの救出なのか...。

誰にもわからない。

 

 

--- 荒れ地 ---

 

 

「ビッグバンアターック!」

 

 

人造人間14号との戦いは未だ続いていた。

一方的なものと思われていたが、やはり戦いの天才たる所以である。

そしてデータがナメック星での戦い以前までしかないのも大きな要因であった。

腕は折れ、スタミナが切れかかった今条件はどんどん厳しくなる。

今の必殺技も、おびただしい量の気弾で体勢を崩したところに放たれた、久しぶりに訪れた反撃の一撃だ。

 

 

「はぁ...はぁ...チッ。

しぶとい野郎だぜ。」

 

「ソン・ゴクウ...ベジータ。」

 

 

よくよく聞いていると、宿敵の名前の後に自らの名を呼んでいる。

なかなかスクラップに出来ない苛立ちの他に、それも気に入らない要因の一つだ。

この人造人間達は、嫌という程孫悟空の名を呼んでいるところをみると、カカロットの野郎を殺す為に作られたようだ。

 

 

「カカロットを殺すのはこの俺様だ!

てめぇら機械の出る幕じゃない!

ぅ...グハッ!」

 

 

口数と同じ分の拳を浴びせるも、全てを見切られかわされていく。

ようやく感触が来たかと思えば、拳を止められ気づけば地面に埋まっていた。

再び視線を14号に向けると、巨大なエネルギーボールが出来ていた。

マーダーボール...天津飯とピッコロの命を奪った技の十数倍の威力で放とうとしていた。

 

 

「...。」

 

「くっ!

はあっ!

...でやぁーーだだだだだだだあっ!」

 

 

即座に気弾を撃つも、虚しくマーダーボールに吸い込まれていった。

徐々に近づくエネルギーの塊にベジータはがむしゃらに気弾を打ち続ける。

Z戦士随一の気弾を制御出来る彼の、限界まで上げた気弾連射もお構い無しに近づいてくる。

 

 

「バカ!

さっさと逃げろーっ!」

 

 

 

全身が吹き飛ぶ衝撃と共に、爆発する地面。

瞬間的に、死んだと錯覚したベジータだが、二度三度地面を跳ねて転がる感触にそうではないことに気がつく。

 

 

「...ったく、あんなに避ける暇があったのによ。

さっさと避けろよ。」

 

「なんだと?

俺様に指図するな!」

 

 

振り向くとそこには、逃げたと思われたヤムチャが帰ってきていたのだ。

...と、目の前に足が落ちてきた。

山吹色の布を纏った足だ...地球人の戦士に何人かこれを来ていた奴がいるのを覚えていた。

 

 

「...へ...へ。

せっかく...助げで...やっだ...の...によ。」

 

 

息絶えたヤムチャ。

ヤムチャでは爆風に耐えるほどの身体は強くなかった。

ベジータを助けた代わりに天津飯やピッコロの後を追うように逝く戦士。

 

 

「けっ...その程度で助けに来ただと?

笑わせるぜ。」

 

 

立ち上がるベジータ。

満身創痍、それでも立ち上がる事に意義がある。

自分の為に犠牲になった男の為に。

身体こそ、強さこそ自分以下であったが、意思の強さは他の戦士と全く引けを取らない男。

口では絶対に言わないが...その意志はハッキリと目に現れる。

 

 

「クソッタレ...はあぁ...!」

 

 

...が、体力の低下は現実的である。

超化も解け、スタミナ切れの彼から放たれるビッグバンアタックは、小さな気弾と見間違える程の攻撃だった。

そんなチンケな攻撃を軽く去なし、最後の一撃がベジータを貫く。

それはなんの運命なのか、ゲロがヤムチャを貫いた画と同じだった。

 

 

「か...はぁ...へ...へへ。

機械は...所詮...人間やサイヤ人...には勝てねぇ。

せいぜい...楽しむこったな...一瞬の優位に...立てた時を。

てめぇら...カラクリ人形に...そういう感情は...ねぇ...だろう...がな.....ぁ.......。」

 

 

ピクリとも動かなくなった体をなぎ払い。

人造人間達は再び歩みを始めた。

彼らの目的...孫悟空抹殺の為に、彼の家へゆっくりと進む。




この場を借りて失礼します。
この駄作小説が総合評価1,000pt、感想が100件を超えました。
感想の中には...感想を書いてくださる方や、誤字脱字を指摘してくださる方や、先読みを予想してくださる方や、実際に先読みを本当に当てる方や、能無しの主人公を叱ってくださる方や、そんな能無し主人公を応援してくださる方や駄作者を応援してくださる方...。

この場を借りて全て方にお礼を申し上げます!
これからも更新頻度は.....頑張って行きますし、完成までは社会的にも死なないように書いていきたいと思います。
未だにドラゴンボール...超になって考えていた設定が使えなくなったり、先出しされたり完結していないですが、引き続き細々と頑張ろうと思います。
これからもよろしくお願い致します!


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白昼世界の地獄

デンスケさん、不死蓬莱さん誤字報告ありがとうございますorz

誤字脱字修正済み R2 1/12


「ふざけるな!

そんな簡単にみんな死ぬわけないだろ!」

 

 

ラディッツは激昴していた。

マンガの中では最強だった、Z戦士達がこうも簡単にやられるはずが無い。

だが生存者の気をどれだけ探そうも全く反応がない人ばかりである。

葛藤...そしてこれからの戦略について何も出てこない苛立ち...新たな人造人間に対しての懸念。

原作からの大きな逸脱による不安や動揺も入り交じる。

そして何よりも、大切な仲間達が殺された怒り。

 

 

「...俺も気絶させられたので...信じられません。

ですけど、現に父さんを始め「何で気絶してたんだ!

...くそォ...すまん...トランクス。」

 

 

どんなに悔やんでも、それをトランクスに当てることは出来ない。

彼自身も、このタイミングで心臓病が出てこなければ対処できた事。

体調が急変したのも大体原因はわかっていた。

だからこそ腑に落ちない点がまだあった。

 

 

(何でだ!?

何故あのタイミングで俺に心臓病が出た?

心臓病は悟空だけだったはずだ。

そんでもって人造人間14・15号?

また俺の知らねぇ奴らだ!)

 

 

よく良く考えれば、河野がラディッツになって原作を超えるハードモードの物語になっている。

サイヤ人来襲時はターレス。

ナメック星ではクウラ機甲戦隊とクウラ。

人造人間編ではコルドこそ倒したものの、新たな人造人間14・15号。

 

(...まさか...まさか時代が、歴史が元に戻ろうとしたが為の強敵か?

俺は本当はいちゃいけない人間だから?

...俺が消えてしまえば...こんな無茶苦茶な事は無くなるのか?)

 

「目が覚めたか?」

 

 

武天老師がノックもせずに入ってくる。

恐らく意識が戻ったのを気で感じ取ったのだろう。

いつもはコミカルなのだが、事態が事態だけにサングラスの奥に険しい表情を浮かべている。

 

 

「全滅だけは避けられたか。

人造人間とやら...恐ろしい奴らじゃ。」

 

「とにかくラディッツさん、悟空さんと悟飯さんの様子を見に行きましょう。

ラディッツさんが目を覚ましたのなら、悟空さんも意識が戻るかもしれません。」

 

 

迫り来る人造人間達から逃れるために、孫一家は天界に避難していた。

最初は自宅で療養していたが、人造人間の狙いは全員孫悟空抹殺という事なので天界の一室に療養させていた。

その一家がいるとされてる部屋に入る。

 

 

「義兄さ、もう身体はいいんだか?」

 

「はい、薬のおかげで何とか...。」

 

 

チチの目は完全に赤く腫れ上がっていた。

平静を装っているようだが、最愛の夫は病に倒れ意識不明。

息子は無事ではあるが、片腕を失った状態での帰還。

夫と息子がこのような状態にも関わらずいつもと同じ様に振る舞うチチの姿は、ほんのりと、そして静かに母親の強さを表していた。

 

 

「義兄さ...オラの悟飯ちゃんをこんな目に遭わせた奴はどこのなんて奴だべか?」

 

「人造人間14,15号だそうです。

俺も詳しいことがわか「許さねぇだ...オラの悟飯ちゃんを...よくも!」

 

 

鬼の形相で駆け出し、天界から飛び降りていく。

大慌てでラディッツも飛び出し、空中でキャッチして天界へ連れ戻す。

がっちりと掴まれる腕を何とかして解こうとするも、びくともしないのでポカポカと腕を叩き始めた。

 

 

「何するだ!

オラが悟飯ちゃんや悟空さの敵をとるだべ!

離すだ、悟空さや悟飯ちゃんがやられて悔しくないんだか!?」

 

「悔しいですよ!

今すぐにでもぶっ壊しに行きたいぐらい...ですが、今の人造人間は悟空より強い。

そいつが6人もいるんです。

ベジータ、ピッコロ、ヤムチャ、天津飯、餃子...みんな死んでしまった様なんです。

生き返らそうにも、ドラゴンボールも無くなってしまった。

今いる人達がクソ強くならなきゃどうにもならないから、今すぐにやっつけれないんです。」

 

「ドラゴンボールだったら、この前行ったナメック星にでも行けばいいでねぇか!」

 

 

ハッとした。

そう、まさに今気づいた。

ナメック星のドラゴンボールなら、死因が寿命以外なら何度でも生き返られるのだ!

チチを抱えて全力で天界に戻り、急いでブルマに呼び掛ける。

 

 

「どうしたのラディッツ、あんた顔が真っ青よ。」

 

「ブルマ、今すぐ宇宙船を作ってくれ!

ナメック星のドラゴンボールを使ってみんなを生き返らせる!」

 

『待て待て待て!

今お前さん達が行っても、そこにはもう何も無いぞ。』

 

「界王様!?」

 

 

突如心に響く界王様の声。

その界王様曰く、ナメック星は爆発により跡形もなく消え去ったが、母星と似たような環境の星へ移住し、そこを新ナメック星と名付けて復興を始めた。

だから前のデータを元に向かっても見当はずれだと言うのだ。

 

 

「なら界王様、協力してもらえますか?

他のみんなを生き返らせるために、ナメック星の人たちとコンタクトを取りたいんです。」

 

『わかった、そのままナメック星の最長老と繋ぐ。

少し待っとくれ。

よし、いいぞ?』

 

 

今度は新ナメック星の最長老と話し始める。

...と言っても、前のムーリ長老だから面識が無い訳では無い。

 

 

『久しぶりですな。

まずは以前世話になった礼を言わせてください。

私達がこの新たな地へ来る時、あなたはいませんでしたからな。

...何かよろしく無い事が?』

 

「はい。

新たな敵に仲間が何人も殺されました。

もう一度ナメック星のドラゴンボールを今すぐ使わせてはいただけませんか?」

 

『それが...出来ないのです。』

 

 

予想外の答えが返ってきて、ラディッツはしばらく固まる。

正直言うと、ナメック星人達を救った自分達の頼みなら少しは聞いてくれるかと思っていた。

こんなアッサリ突っぱねられるとは...いや、拒絶では無く出来ないと言った。

 

 

「出来ないんですか?

出来ることなら何でもしますからお願いします、どうしても!」

 

『私達がこの新ナメック星にたどり着いた時に、ドラゴンボールはまた飛び散ってしまったのです。

まだ探してはいませんが、探すとなると時間が掛かります。

前のナメック星よりも広大な星なので...どれほど掛かるかも...。』

 

 

頼みの綱が解けて消えていく。

やる事はもう決まった。

ドラゴンボールが使えない今何をすべきかはわかっていた。

最後に最長老と界王様に礼を言い、ブルマには宇宙船は無かったことにしてくれと力なく言い落とす。

ラディッツは天界のある人物の元へ向かう。

この地球の神...正確に言えば将来地球の神となる人物 デンデ。

そして付き人のミスターポポだ。

 

 

「どうしました?」

 

「ポポ 呼ばれた意味 よく分からない。」

 

「二人に今すぐやって欲しい事がある。

精神と時の部屋、あれを今すぐパワーアップしてくれ。

四人いっぺんに入れるように。」

 

「すぐ 出来ない。

神様が作った部屋 簡単に変え「頼むから今すぐやってくれ!

俺達にはもう手段がないんだ!」

 

 

切羽詰まった様子に、デンデとミスターポポはすぐさま行動に移す。

次に彼が向かったのは、悟空と悟飯の部屋だ。

ノックもせずに部屋へ入り、意識不明の悟空を強引に引っぱたいて起こそうとする。

当然の如く、チチの怒号が飛ぶがお構い無しに起こし続ける。

 

 

「ぅ...ーん...やめてくれよ。

ラディッツ...ラディッツか?」

 

「起きたか悟空、悟飯も起きろ。」

 

 

悟飯は声をかけると、割と早めに目を覚ます。

それを見届けると今度はクリリンとトランクスを呼び出す。

何事かとブルマやチチ、武天老師達まで付いてくる。

全員が揃ったところで、ようやくラディッツは口を開いた。

 

 

「今から状況をみんなに説明する。

大事な話だ、よく聞いてくれ。

今ここにいる5人が人造人間との戦いで生き残った奴だ。

他は...死んだ、当然ドラゴンボールも使えない。

ナメック星のドラゴンボールは使えるかと思ったが、まだ揃っていない。

ドラゴンレーダーを使いたいが、ナメック星まで行ってるうちに地球の人間が絶滅させられる懸念があるし、新たな敵が現れる可能性が高い。

...簡単に言う、今からクリリンを除く4人が精神と時の部屋に入り、一年修行する。」

 

 

絶句。

誰も何も言う事はなかった。

彼らが思っていた以上に自体は深刻だった。

しかも、クリリンは戦力外と告げられたようなものである。

 

 

「はは...やっぱり俺は、お前達にはついていけないよな。」

 

「それは違う。

クリリンだけにしか出来ない事がある。

人造人間17,18号を守って欲しい。

特に女の子の18号の方だ。

彼女の生存は今後鍵となる、俺はコイツらを鍛え上げないといけないし、悟飯はまだ未熟。

トランクスは未来で色々あったし、悟空だと全員束になられて殺されかねない。

これはクリリンにしか頼めん。

人造人間だろうが女の子...例えクリリンがそいつより弱くたって、女を守るのが男の使命だろう?」

 

 

未来の妻である18号との接触が無かったことは露知れず、クリリンへ人造人間の護衛を言い渡す。

...おそらく、その頼みは叶えられないと思いながらも。

男の使命と言われ、渋々ながらも引き受ける。

 

 

「たまに俺が精神と時の部屋から出てくるから、何かあったらその時に言ってくれ。

次は俺達だ。

俺達は人造人間達を遥かに凌駕する力を手に入れなければならない。

人造人間に対抗じゃない、圧倒的に優位に立てるほどの強さだ。」

 

 

もちろん、これは今後現れるだろうセルの為の布石である。

敢えて今は言わないで何故なら得体の知れない人造人間が出てきているからだ。

まずはその二人をぶっ壊す程の強さを得なければ話にならない。

 

 

「悟空、トランクス、俺は超サイヤ人になれる。

だから今回はその先...超サイヤ人を超えた超サイヤ人...超サイヤ人2の領域を目指す。

詳しくは中で話す。

悟飯、お前は片腕がなくてもまともに戦えるようになる事と超サイヤ人になる事を同時にこなしてもらう。

キツイがお前はそれをやらなきゃならん。」

 

「ちょっと待つだ!

今の話を聞いてれば、悟飯ちゃんもまた訳の分からん戦いに巻き込むつもりだべか!?

冗談じゃねぇだ!

これ以上悟飯ちゃんの身に何かあったらどうするだ!!」

 

 

ことごとく進む話に待ったがかかる。

教育ママのチチがラディッツに詰め寄る。

「まぁまぁいいじゃねぇか。」と悟空も懸命にフォローするが、今度はその悟空に矛先が向けられる始末。

二人揃って説教が始まるかと思ったが、彼の言葉で事態は収まる。

 

 

「お母さん、今のまま僕が逃げたらダメだと思う。

人造人間がいれば、トランクスさんの世界のように悲惨な未来になってしまうかもしれない。

そうなれば夢どころじゃないんだ。

勉強は頑張ってやればいつでも学者さんになれる。

だけど、人造人間は今倒さなきゃずっと怯えて生きていかなきゃいけない。」

 

「俺も悟飯さんの意見に同感です。

俺の世界では、人造人間と戦い続けたことによりずっと戦い漬けの日々でした。

未来では救えなかった...同じ様にはさせたくないんです。

俺からもお願いします!」

 

「だが!........そんなに言うなら仕方ねぇべ。

悟飯ちゃん、悟空さ、義兄さ、トランクス!

強くなるからには、人造人間なんか目じゃねえ程強くなるだぞ!?

それが終わったら、きちんと勉強するだ!

わかっただか!?」

 

「「「「は はい!」」」」

 

 

あまりの怒気に反論する言葉を飲み込む一同。

ミスターポポとデンデによれば、精神と時の部屋の改修は30分程で済むらしい。

デンデ曰く、「立て直すとなれば相当掛かったでしょうが、人数制限の拡大程度なら。」というとの事。

その時間を使って腹ごしらえをする事になった。

最後の晩餐...そう誰しもが頭をよぎる中、この男だけは違った。

 

 

ホリャウンヘーナァ!(こりゃ美味ぇなぁ!)

 

「悟空、いただきます言ってから食え。」

 

 

全くもって能天気な主人公。

飯と戦いは別物とでも言い表すかのような食いっぷり。

その食いっぷりに一番呆気に取られていたのはトランクスだった。

 

 

「ラディッツさん...悟空さんっていつもあんな感じなんですか?」

 

「基本的にあんな感じ以外な時はないよ。

トランクスも食っておけよ、腹が減っては戦は出来ん。」

 

 

そう言い目の前の小籠包を三個まとめて口に入れ飯を掻っ込む。

悟飯も何も言わずに黙々と飯を食いまくっている。

あれだけ意気消沈しようも、食欲だけはまるで落ちていないようだ。

 

 

「あんたも一生懸命食べなさい!

食べないと力出ないわよ!」

 

「は はぁ。」

 

「もっとしっかり食べなきゃベジータが泣くわよ!

...いや、泣くんじゃなくて『俺の息子なら、孫君に食欲であろうとも負けるな!』ってキレるわね。

とにかく、あんたもサイヤ人の血を継いでるんだから強くなって帰ってきなさい。

もちろん強くなるなら、飛びっっっきり強くなるのよ!」

 

 

何食わぬ顔して料理を持ってくる過去の世界の母 ブルマ。

どんな状況になろうとも、やはり母はあっけらかんとしていた。

そのあっけらかんとした性格が、ピンチの時にはとても心強い心の柱となる。

今トランクスの心の支柱がまた増えた。

 

 

「母さん、俺...絶対強くなって帰ってきます!」

 

 

.......

 

.....

 

...

 

 

「ここが...精神と時の部屋...。」

 

「そうだ。」

 

「久しぶりだなー、オラ前は一ヶ月も経たねぇでギブアップしたんだけどな。」

 

「お父さんすら一ヶ月も...。」

 

 

 

ミスターポポとデンデのおかげで、すぐに精神と時の部屋に入ることが出来た。

見渡す限り何も無い、ただただ白い地上が広がる空間。

精神と時の部屋...まさに異空間と言えよう。

こんなにも不思議な空間は、悟空と漫画で少し見覚えのあるラディッツにしかわからなかった。

広大すぎて広所恐怖症にでもなりそうな感覚を少しばかり味わう。

 

 

「ここ 精神と時の部屋。

48時間 しっかり守れ。

でないとみんな 出られなくなる。」

 

「出られなくなる...ですか。」

 

「この入口が無くなるって事だ。」

 

 

ミスターポポは二、三度頷く。

そんな彼は扉の外で眺めていた。

元はと言えば、神の選抜兼修行場として創られた空間を用定員4名のルール、それを破ればどうなるか分からない。

皆の成長を祈ると伝え、彼は部屋を後にした。

扉を閉めた途端、この場の時空は歪んで進む...。

 

 

簡易的な寝床とシャワートイレ、そして凄まじい量の業務用小麦粉袋っぽいやつ。

デンデ曰く、水と練って食べるそうだ。

その簡易的生活施設から一歩外へ踏み出すと、環境が激変する。

まず酸素濃度が異様に薄い。

通常の人間では数時間で酸欠死してしまうかと思われるぐらいの薄さ...何もしていなくても息切れを起こす。

次に超重力。

常に10Gの重力がかかっている。

惑星べジータや界王星と同じ重力のため、生粋のサイヤ人や彼らのように凄まじい修行をしている人物には問題ないが、一般人なら到底動くこともままならない。

更に気温。

まるでサウナかと思うような高温多湿な空気。

一説によれば、最大50℃~最低マイナス40℃...大体の生命体が順応出来そうな環境では無い。

 

飯も環境も景観も無い中で一年修行に明け暮れる...1人なら確かに気がおかしくなるだろう。

 

 

「無理だと思えばすぐに出ていけ。

ただしトランクス、未来の景色とここ...どちらの方がましだ?」

 

「...ここも相当な所ですが、瓦礫となった街に笑顔が無くなった人々や悲鳴や泣き声の止まない未来よりよっぽどいい。

俺は絶対に出ません!」

 

「僕も...強くなる為なら何でもやります!」

 

「前のオラなら逃げ出してたが、今なら一年...やれる気がすっぞ!」

 

「わかった、じゃぁみんなこれに着替えてくれ。

これなら成長しても服が伸びるし、ある程度頑丈に作られてるからな。」

 

 

ホイポイカプセルから、ベジータ愛用の戦闘服が一式。

ブルマが「1年もいたら服がボロボロになるでしょ?」と気を利かせて準備してくれていたものだった。

皆それに着替え、苛酷な地上へと足を踏み入れる。

 

 

「さて...さっきも言ったように、俺と悟空とトランクスは超サイヤ人の常態化。

悟飯はまずは超サイヤ人になる事を目指して修行をしてもらう。

その前に俺からちょっと言いたい事があるから聞いて欲しい。」

 

 

何を言うのだろうか?

皆少しきょとんとするが、ラディッツは一呼吸置いて口を開いた。

 

 

「お前ら...なんで他のみんな死んでるのかわかってんのか!?

悟飯、トランクス!

お前達が何もしねぇからこうなったんじゃねえのか?」

 

「トランクス...お前悲惨な未来を知っておいて『人造人間が予想より強かった。』だとか思ってんじゃねぇだろうな!

強いなら強いなりにやりようがあっただろ!

お前がもっと強ければベジータは死ななくても済んだんだ!

一体何しに過去に来たんだ!?

馬鹿かお前は!? 甘過ぎる、考えが安易だからこうなったんじゃねえのか!?」

 

「悟飯、お前も甘いんだよ!

その腕はなんだ?

いくら子供とは言えクリリンや天津飯より強いお前がなんで庇ってもらってんだ!?

ピッコロはどうした!

守られてばかりじゃダメだからつよくなるんじゃねぇのか!?

あれは嘘か、お前が甘ちゃんだから腕が無くなったんじゃないのか!?

甘ちゃんだからまたピッコロが死んだんじゃねぇか!」

 

「お前の教育が甘いからこうなったとも言えるぞ!

大体心臓病とは言え19号にコテンパンされたから、他のみんなの負担が増えたんじゃないのか?

なんでこの場にも心臓病の薬を持ってこなかった?

認識が甘い!

だからこうなったとも言えるんだぞ!」

 

 

ひとしきり鬱憤を晴らすかのように怒鳴り散らして静かになる。

各々、今回の事態に責任を重く感じているようだ。

誰ひとりとて言い訳どころか、言葉すら発しない。

最初に口を動かしたのはラディッツだった。

 

 

「...すまん。

俺だって人の事を言える立場じゃないんだ。

ブルマの言う通りに先に研究所を破壊していれば...。

心臓病になる前に薬を飲み続けておけば...。

もっと強くなっていれば...。

読みが違ったから...全部言い訳だ。

悔やんでも悔やみきれん、俺は...クソ野郎だ...本当に申し訳ない。」

 

 

 

ラディッツが三人に向けて土下座をする。

土下座をした所で現状が変わるわけでもなく、謝って済む話でもない。

それでも謝らないと気が済まない罪悪感からの土下座。

続く言葉も出ない残された戦士達。

 

 

「...いえ、ラディッツさん。

自分自身をあまり攻めすぎないでください。

俺の責任もあるはずです。

俺がもっと強くさえいれば、過去に来て人造人間達を倒す事が出来たんだ。

...だけど、もう今は何を言ってもどうにもならない。

ならば、全員の十字架を背負って修行するしかありません。

俺達は、平和な未来を勝ち取る為に戦うんです。

あいつら人造人間の自己中心的な思考回路と根本的に戦う...意義が違う...生き残るのは、真意を遂げようとする俺達です!」

 

 

人間に失敗は付き物と言わんばかりに手を差し伸べるトランクス。

この何も無い空間...絶望的な状況で活路を見出すのはとても厳しい。

それでもトランクスが希望を持って手を差し伸べるのは、まだ彼らがいたからだ。

時代が違えど、自らの師である孫悟飯。

そしていかなる敵にも臆することなく勝ち続けていく孫悟空と言う2人の戦士がまだ生き残っているからだ。

 

彼らがまだ心の支えになっているならば、ラディッツ...河野は自責の念になる前に駆られている場合では無い。

再び自らを鍛え、立ち向かわなければならない。

 

 

 

「分かった、いつまでも凹んでる場合じゃないな。

とち狂ってでも人造人間を倒す!

一年...死ぬ気でやるぞ。」

 

 

.......

 

.....

 

...

 

 

この精神と時の部屋での修行は、文字通り死ぬ気で行う修行となった。

筋力トレーニングはもちろん、実際の戦いを想定したトレーニングまで限界まで追い込む。

気弾が打てなくなったら打撃、打撃も出来なくなったら立ち上がれなくなるまで...それをタイマン形式でひたすらに繰り返す。

地球人にそのトレーニングをやらせると、ただただ筋繊維を破壊していくだけで回復出来ないのだが...彼らは全員サイヤ人の血が流れている。

限界まで追い込めば追い込む程強くなる体質に、このトレーニングは間違いではなかった。

そしてトレーニング後は必ず過剰なほどのストレッチをさせていた。

柔らかい筋肉を作り出す為だ。

 

柔らかい筋肉は、力が発揮できて持久力もあり、そして疲れにくい。

繊維化(ファイブローシス)という言葉...筋線維はトレーニング等で傷つくが、運動後にそのまま放置していたり、ストレッチをしっかり行わないと、コラーゲンが傷口に入り込んで筋線維を修復する。

これを繊維化(ファイブローシス)と呼ぶ。

コラーゲンが入り込むことで筋線維の回復が阻害されるので、筋線維が収縮しにくくなる...そうなると力を入れても、力を入れなくても常に固い筋肉になる。

筋肉が固ければ、燃費も悪く力も発揮出来ず、疲れやすい肉体になってしまう。

 

簡単に言えば...身体を限界まで痛めつけ、効率良くパワーを発揮しやすい肉体を作り上げ、サイヤ人特有の超回復に戦闘力を上げる。

 

 

「今回は...俺の勝ちだ。

一体全体...お前らの成長ぶりは異常だろ!

界王拳も使わないと、あっという間に叩き込まれちまう。」

 

「...へ...へへ。」

 

 

指先まで動けなくなった悟空はほのかに笑う。

肩で息をするラディッツは、練られた粉の塊をひとつかみ千切り、悟空の口の中に入れる。

もちろん味は全くないが、多少なりとも回復には繋がるだろう。

隣へ目をやると、隻腕の悟飯とトランクスが戦いを続けていた。

もちろん2人とも超サイヤ人だ。

 

悟空に怒りをきっかけに覚醒する事をアドバイスされ、

仲間を殺された事をイメージした途端に、すぐ戻ったが一瞬だけ覚醒した。

更にラディッツが過去の自分自身の不甲斐なさや無力さを攻め続けながら戦うと、自分への怒りで完璧に覚醒したのだ。

さらに言えば、戦闘スタイルも大分変わった。

これまでの戦い方は、ピッコロのように様子を見極めてから仕掛けていくタイプ...いわゆる受け身を主体とした戦い方だった。

それが今は、最初から積極的に攻め続ける戦い方となっていた。

戦闘スタイルが変わったきっかけ、それは腕を失った影響が大きい。

これまでの自分を払拭するような戦闘スタイルにより、攻撃は最大の防御と言わんばかりのラッシュ攻撃を主として修行していた。

確かに防御はいつかは破られる、隻腕ならガード領域も常人の半分だ。

 

 

 

「魔閃「でやぁ!」

 

 

しかし課題もまだ少なくない。

攻撃は最大の防御とは、勝てる見込みが確信に変わった時にこそ発揮される事である。

何も考えずに闇雲に攻撃するのは無駄の極み。

スタミナが切れて自滅するか、カウンターを貰って大きな隙を生み出すしか無いのだ。

故に悟飯は、半年が経とうとしていても超サイヤ人への覚醒以外には何も掴みきれない感覚を引きずっていた。

 

 

「...クソ...。」

 

「俺の知ってる悟飯さんは遥かに強かったです。

もっと来てください悟飯さん!」

 

 

再び戦いを再開する二人。

この部屋ではそろそろ1ヶ月が経とうとしている。

凄まじい速さで成長する彼らだが、そろそろキリのいいところだ。

 

 

(1ヶ月か。

外はどれ位時間が経ってるのだろうか?

そろそろ様子を見てみるか。)

 

 

.......地球 孫家.......

 

 

「本当にここであってんのか?

孫悟空の家ってのは?」

 

「綺麗な洋服も無いし、誰もいないんじゃ意味無いんじゃないかい?」

 

「.....。」

 

 

人造人間達は当初の目的地である孫悟空宅へ到着した。

しかし、孫悟空(ターゲット)がいない以上来た意味は無い。

慌てて逃げ出した様子ではないし、しばらく待とうが帰ってくる気配もない。

街を破壊したりして騒ぎを起こせば向こうから来るかもしれないが、その一線だけは超えなかった。

自分を勝手に改造したDr.ゲロを恨んでおり、本来の孫悟空の抹殺というゲロの意思に従いたくなかったのだ。

更に純粋な人間の時からあった、情も一つの要因と言えよう。

露払いはするが、自ら進んで悪事を働きたくなかったのだ。

痺れを切らして当ても無くふらつこうとした時、彼らは現れた。

 

 

「...?

なんだいあんた達?」

 

 

現れた2人組。

1人は大きな肩パッドを左肩にはめた白肌の巨人。

1人は黄緑色の大きな帽子を被った黒肌の小人。

共通点は、それぞれベルトのバックルと蝶ネクタイにRR(レッドリボン軍)のロゴが入っているという事だ。

 

 

「なんだ、お前達も俺達と同じか。」

 

「...ソン・ゴクウ。」

 

「孫悟空はいないよ。

探しても無駄さ。」

 

 

15号はエネルギー弾を躊躇すること無く孫家へ放った。

木っ端微塵に吹き飛ぶ瓦礫の中に、孫悟空の肉片が無いのを確認すると表情は曇る。

 

 

「...ソン・ゴクウ。」

 

「なんだいコイツら?

気味悪いよ。」

 

「...コイツらは俺と同様、孫悟空を殺す為だけに作られた完全機械型のようだな。

大きい方は14号、小さい方は15号だ。」

 

 

((コイツ、長く喋った。))

 

 

無口な16号が、自分の存在理由と解説をし始めた為に二人共驚いた。

まだ彼からは、「もちろんだ。」としか聞いていなかったからだ。

 

 

「Dr.ゲロは他にも人造人間を作ってやがったのか。

何でこいつらがこんな所にいるんだ?」

 

「開閉はゲロ本人しか出来ないから、俺達が出てった後に起動させたんだろう。

とにかく、あの2人から目を離すな。」

 

 

15号はしばらく静止してデータ整理した後、最優先事項を決定付ける。

孫悟空を倒したか隠したか、または孫悟空の殺害の障害となるかもしれない対象物の排除。

即ち、目の前の人造人間の破壊。

 

 

 

「ソン...ゴクウ.....ソンゴクウ!」

 

 

先程まで大人しかった14,15号が、17,18号へ襲いかかる。

不意を突かれたのもあってか、瓦礫と化した孫家を巻き込んで吹き飛ばされる。

 

 

「...ケホッ...いきなりなんだいお前ら!」

 

「どうやら、同じ人造人間だが分かり合えない口のようだな。

相手をしてやるよ。

お前達もやるなら全力で来いよ?」

 

「...ソンゴクウ。」

 

 

15号が17号、14号が18号へ再び攻撃を仕掛けていく。

最初の一撃は油断してたせいでダメージを受けたと思っていたが、実力が完全機械型の方が勝っていると受け止めざるを得ない事態になっていた。

相手の攻撃の方が重く、そして素早い。

 

 

「気円斬!」

 

 

ラッシュ攻撃の最中に襲いかかる気の刃は、狙い通り間合いを切り開く。

押されていた攻撃が止み、17,18号は態勢をリセットすることが出来た。

空を見上げると、太陽を背にしてある男が降り立つ。



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プロトタイプの性能は?

どうやら君達は精神と時の部屋にいたようだな。
こちら(作者)側からすれば1日しかサボっていなかったが君達にとってはほぼ1年というところか...。

すいません、大変お待たせ致しました汗
途中でロストしかけた自分への応援コメント...誠にありがとうございます!

誤字脱字修正済み R2 1/12


話はほんの少しだけ遡る...

 

 

---地球 神の神殿---

 

 

「みんな 修行 始めた。」

 

「そうですか。

今からちょうど24時間後ですね。

ラディッツさんの話なら、たまに出てくるとの事ですが...。」

 

「あぁ。

とりあえず人造人間の監視だな...と言っても、気が読めないからどこにいるのかわかんねぇけど。」

 

 

取り残されたクリリンはドサッと地べたに座り込む。

気を持たない人造人間の監視...引き受けたはいいが、どうやって監視するかなんて考えていなかった。

闇雲に地上を探すと言う手段もあるが、アテもない上にZ戦士達を葬った人造人間も二体いるのだ。

相手より先に見つけ、なおかつ見つかる事なく監視を続けて女の子タイプの人造人間を守らなければならない。

非常に厄介な頼みだった。

 

 

「...姿が見えれば気を消して追うことも出来るんけどなぁ。」

 

「姿ですか...先代の神様程ではありませんが、この地球で言う千里眼が多少使えるので、目標を絞れば見つけられるかも知れません。」

 

「本当かデンデ!?

...たしか人造人間の目的は、悟空の抹殺だったな。

なら、悟空の家をずっと見張っていれば奴らは来るかもしれない!」

 

 

目を瞑り、パオズ山の孫悟空の家へ意識を集中させる。山々を超え、人里離れたパオズ山。

孫悟空宅は未だ無事であった。

30分に1度ずつ顔を出すラディッツだったが、数回来たところで事態は変わらなかった。

 

 

.......

 

.....

 

...

 

 

「クリリンさん、人造人間と思われる三人が来ました!」

 

 

クリリンから聞いた特徴に酷似した人間...特徴からして間違い無く人造人間だろう。

ラディッツ達が精神と時の部屋に入り始めてからから約1時間少々。

待望の報告に待ちわびた心と、遂に見つけてしまったのかと言う残念に思う心が入り乱れる。

 

 

「...よっし、行ってくる。

ラディッツが出てきたらすぐに来るように言っといてくれ!」

 

 

みんな死んだ...次は自分が後を追うかも知れない。

神殿を潔く飛び出したクリリンの脳裏にこの言葉が離れなかった。

わらわらと現れた人造人間達。

その全てが格上ならば、生き残る可能性は低い。

 

 

(今度という今度はダメかもしれないけど...それでもやらなきゃな。)

 

 

とうとう着いてしまった。

悟空の住むパオズ山に。

ここから先は人造人間達に見つからないように、山中に降りて物陰を利用して接近する。

物静かで豊かな山々も、今では不気味な静けさに思える。

だがその静けさも、大きな爆発音で一気に騒がしくなった。

 

 

(なんだ!?)

 

 

悟空の家の方角からだ。

何かが起きたに違いない。

あくまで隠れながら、メリハリをつけて一気に距離を詰める。

次第に視界に入る土煙。

おそらく悟空の家を破壊したのだろうと想像が出来る。

木片やらガラスやら...この辺りで人工物の用いたものと言ったら悟空宅しか有り得ないからだ。

大きな岩まで接近し、岩陰から顔を覗かせる。

 

 

「...ケホッ...いきなりなんだいお前ら!」

 

 

悟空の家があった所には瓦礫が散乱し、何者かが言い争ってるように見える。

金髪の可愛い女の子、長髪の優男風の青年、大柄でモヒカンの男、白肌で三つ編みの男、小柄でピエロ風の男。

どうやら人造人間で間違いなさそうだ。

白肌と小柄の人造人間が攻撃を行い始めた。

 

 

「な なんだ?

あいつら仲間同士じゃなかったのか?

いいぞ...敵の頭数が減るかもしれない。

(...だけど、ラディッツは女の子の人造人間を守れって言ってたな...。

今後の重要な人物って言ってたな...。)」

 

 

人造人間は自分達の敵である。

ベジータを始め、人造人間を倒す為に立ち上がった仲間達を容易く殺していった仇だ。

 

 

「ちっ。(...俺も後を追う事になるのかな?

死んだら恨むぞラディッツ!)

気円斬!」

 

 

隠れ蓑にしていた岩を台にして大きく跳躍する。

素早く作られた気の刃は女の子を避けまっすぐ白肌の人造人間へ。

不意をつかれた形にはなったが、肩パッドの先端が失う程度に被害を抑えれた。

ここで話が元の時間軸に戻る。

 

 

「人造人間17,18号ってのはお前達か?」

 

「いきなりなんだハゲのオッサン?

まぁその二人の人造人間は俺達なんだけどな。」

 

「アンタ、逃げた方がいいよ?

あの二体の人造人間、あたし達並に強いからアンタじゃ死ぬだけだ。」

 

 

そう話しているうちに、体勢を戻した二体の人造人間からエネルギー弾の雨が降り注ぐ。

あまりの数に17号でやっと対処出来るのに対し、18号ではキャパオーバーである。

だが対処出来ないエネルギー弾を優先的に気弾で迎撃して行くのがクリリンだった。

 

 

「無理しなくていいよ、むしろアンタ邪魔だよ。」

 

「ラディッツに言われたんだ。

人造人間だろうが女の子...例え弱くたって女を守るのが男の使命だってさ!」

 

 

クリリンの答えは正確に18号に伝わらなかった。

気弾の迎撃による爆発音により、冒頭の箇所が全く持って聞こえていなかったのだ。

よって18号にとっては、いきなりキザな台詞を告げられてしまったかに聞こえたのだ。

 

 

「.....っ。

お お前、何言ってんだい!

チビでハゲのくせに、ぶっ殺すよ!?」

 

「なんだ18号、満更でもない顔をしているな?」

 

「17号あんたもぶっ飛ばすよ!?」

 

「...18号、体温が急上昇しているぞ?

どこか故障か?」

 

「あんたもスクラップにしてやろうか16号!」

 

 

16号のサーモセンサーで見る18号の顔面は真っ赤であった。

また普通のカメラでも顔が真っ赤になっているのがわかる。

ここで18号は気づいた、この感覚は人造人間として生まれる前...ラズリとして荒んだ時期にも無かった高揚感である。

悠々とその気分を味わいたいところだが、14,15号の攻撃が止むことは無い。

 

 

「ちっ...しぶといな。」

 

「...二人共下がってくれ。

俺がまとめて片付ける。」

 

 

降り注ぐエネルギー弾を、自らの衝撃波で全て吹き飛ばす。

あれだけ手を焼いていたエネルギー弾の嵐を、唯の一撃でまっさらにする力を持っているとは...17,18号も知る由もなかった。

爆ぜたエネルギー弾の靄が晴れ、17号は煙を振り払う仕草をしていた。

 

 

「驚いたな、ただの臆病者かと思ったらとんでもない力を持ってたのか。

なんで今まで黙ってたんだ?」

 

「お前達が聞かなかったからな。

それに.....俺は自然が好きだ。

お前達はコイツらとは違って、無闇に自然を破壊しないからな。」

 

 

16号が視線を後ろへ向ける。

そこにはエネルギー弾でメチャクチャになった森や川...動物達はとっくの昔に逃げ去ってしまっていた。

視線を戻すと、既におびただしい量のエネルギー弾が向かってきていた。

クリリンや17,18号が応戦しても間に合わない量だ。

 

 

「これは一度防いだ。」

 

 

再び衝撃波でエネルギー弾を吹き飛ばす。

靄が晴れる前に間合いを詰めていた二体の拳が、両頬にこれでもかと言うほどめり込んだ。

だが残念な事に、その攻撃は逆に二体の人造人間の拳にヒビが入ってしまった。

簡単な事だ。

14,15号作成にあたる技術が、まだ新しい16号の技術に叶わなかったと言うだけのこと。

そして、本来二体が単体だけで戦うことを想定して作られていないために攻撃面も防御面も16号に完全に劣っていたのだ。

 

 

「「...!?」」

 

「残念だったな。」

 

 

手刀と蹴りで、各人造人間の首を刈り取る。

バチハチと電気が走る切断部。

それでも予備電源が頭部にあるのか...音声こそ発していないものの、「ソンゴクウ」としっかり動いている。

 

 

「うへぇ、まだ動いてるのか。」

 

「大丈夫だ。

俺以前の人造人間に搭載されている頭部のバッテリーは、あくまで電源ユニットに接続していない時に再起動する程度の電力しか蓄積出来ない。

もうすぐ二度と動けなくなる。」

 

 

その言葉通り、二体の口元はピタリと動きを止めた。

型落ちの16号に助けられた17,18号。

二人は口々に礼を述べる。

 

 

「例には及ばない、自然に戻しただけだ。

俺達も時間が経てば朽ち果てる。

それがバイオテクノロジー(遺伝子工学)型の方が早いだけだ。」

 

「そうだなぁ...では究極の人造人間になろうではないか兄弟。」

 

 

その言葉を最後まで聞けたのは17号以外の者。

聞けなかった男は既に漏斗状に広げられた尻尾の根本付近を通過した所であった。

気を探知する事が出来なかった。

パワーレーダーでも感知する事が出来なかった。

それは歴戦の戦士達が行っていた"気を消す"という何ら変哲もない行為と、ピッコロの頭脳による冷静な判断力に沿った行動。

そして何より、偶然にも14,15号の強襲という大きな餌を使った接近...全てが歯車のように上手く回った結果であった。

 

 

「17号!

よくも17号を!!」

 

「ふふふ...落ち着け18号よ。

お前も私の一部となり、究極の人造人間となろうではないか。」

 

 

深緑の斑点模様が目立つ生命体は、みるみるうちに変形していく。

何者だろうか...18号の名前を知っているということは。

 

 

「...Dr.ゲロのか?」

 

「その通りだ16号。

私は...人造人間セル。

究極の人造人間になるべくして、Dr.ゲロにより生み出され、遥々未来からやって来た人造人間...言わばお前達の兄弟だ。」

 

 

第二形態、強靭な体格を持ち合わせた身体。

セルは自らの身体を見渡す。

最初の形態では遠すぎる道程も、コンピュータが導き出していた人造人間の吸収に伴いワープしたかのような上げ幅を体感した。

これに...18号の身体も頂ければ...。

 

 

「さぁ18号よ。

私に吸収されろ。」

 

「断ると言ったらどうする気だい?」

 

「力ずくで吸収するだけだ。」

 

 

瞬間的に消えるセル。

次に現れたのは18号の懐...第一形態の時よりも2回り程太くなった拳が腹部に入り十数m後退する。

そう対したダメージではなかったのは、クリリンが緩衝材の役割をしていたからだ。

長年の経験からして、消えるという事は攻撃を仕掛ける時。

そしてがら空きだった懐を見たら、自ずと動いていた。

 

 

「あんた!

何してんだい!?」

 

「ゴハッ...18号...逃げろ...。」

 

 

掴むだけの所作はクリリンにかなりのダメージを与える。

いきなり掴むのは無理だと判断したセルは次は本格的に攻撃に移る。

瞬時に両手でガードするも、その防御ごと顔面を蹴り飛ばされる。

この人造人間セルというやつ...まるで化け物のような強さだ。

単身で立ち向かうには力の差があり過ぎる。

せめて17号がいればコンビネーション攻撃という策もあったが、化け物(セル)に吸収されてしまった以上それは叶わない。

クリリン(ちびのおっさん)は一発の攻撃でダウン。

...残る希望は16号だ。

 

 

「...やれるかい16号?」

 

「残念だが、奴は俺よりも強い。

勝つつもりなら可能性は10%を下回る。

だが逃げるつもりなら...もう少し可能性はある。

俺が注意を引く、その間に(クリリン)を連れて逃げろ。」

 

「な!?

お前も一緒に行くんだよ!

弱音なんか聞きたく「それ程余裕がない相手だ。

早く!」

 

「何を話しているのだ。」

 

 

セルが迫る。

その巨体を全身で受け止める16号。

だがセルの方がパワーは上、いとも簡単にズルズルと押されている。

だがその劣勢に立たされた時間もすぐに終わる。

バク宙の要領で16号の背後へ回り込み、羽交い締めで拘束する。

身動きが取れなくなった16号は必死に腕を解こうとするが全くびくともしない。

それどころか、真正面から顔面にエネルギー弾が炸裂する。

セルが放ったものでは無い...それは誰であるか?

 

 

「...二人まとめてのつもりだったんだがな。」

 

「貴様...13号かぁ。」

 

 

黄色いキャップにラフなアーミースタイルの出で立ち。

その体は痩身であるが、引き締まった肉体をしている。

先程の14,15号に比べかなり人間に近い容姿であり、純粋な戦闘力であれば16号をも凌ぐ。

その証拠に、エネルギー弾の直撃を受けた16号の額から頭部にかけて、深刻なダメージを受けていた。

 

 

「13...号...!」

 

「孫悟空を殺すのは俺の任務だ。

14号のデータを見ると、殺ったのは17,18号らしいが...細胞片を確認するまでは信じない...。」

 

 

14号と15号の額に手を当て、データを取り込む。

彼らのデータを取り込めたということは、データチップは無事。

そして首を切断と言うことは、動力回路がやられただけであり動力源はまだ生きているということ。

その二つを確認して、保険は掛けられると読んだ。

 

 

「...だがお前達の存在は任務完遂の為に障害となりうる。

この場にいる全員に...消えてもらおう。」

 

 

アンドロイドバリアの要領で、自身を中心に大爆発を起こす。

咄嗟に防御姿勢をとるが、クリリンや損傷した16号は簡単に吹き飛ばされてしまう。

唯一残ったのは18号とセル...その時が来てしまった。

 

 

「太陽拳!」

 

 

凄まじい閃光に、その場の者は皆視界を奪われる。

セルの独擅場...ならばやる事はただ一つ。

尻尾は確実にブツを飲み込み、吸収を終える。

太陽拳で奪われた視界が戻る時、今度はセル自身が輝き再び視界が奪われる。

二度の閃光が終わる頃には、究極の人造人間が鎮座していた。

 

 

「.....。」

 

 

完全体セル。

本来の物語なら数日間も掛かる道のりであったが、幸運に継ぐ幸運と、良い意味で期待を裏切る敵が現れ、僅か数分という短時間で完全体の身体を手に入れることとなった。

 

 

「18号…くそおおぉ!」

 

 

セルや13号のダメージが残る体が自然と動いたクリリン

激昴しセルを殴る。

一発で終わらず、何発も、何十発も殴り続ける。

そんな猛攻にも関わらずセルはゆっくりと拳をあげ、ただ一度素振りを行う。

それは凄まじいパワーで、クリリンは紙っぺらのように吹き飛ばされてしまう。

 

 

「貴様...まさか合体型の人造人間とはな。

だがバイオテクノロジー(遺伝子工学)型タイプではあるだろう。

抹殺対象に変わりはない。」

 

「.....。」

 

 

13号がいくら話すも、まるで耳に入っていないようだ。

彼の興味は今や新たな敵ではなく、自らの身体にある。

今までの自力が嘘のような感覚。

それを噛み締めるかのように身体を見、触り、手足を動かす。

 

 

「同じ人造人間とは言え見逃しはしない。

じゃあな。」

 

 

エネルギー波で消し去ろうとする。

簡単に消し去ってしまったかに見えたが、まるで効いてない…。

それどころか、感覚として本人の意識内に届いていないようだ。

 

 

「済まない…何か私にしたかね?」

 

「ほぅ…ならば直接叩き込んでやる。」

 

 

 

瞬時に間合いを詰め、顔面に瞬く間に十数発の拳が叩き込まれる。

それでもなお涼しい顔で佇む。

…よく見れば、瞬きすら何も無いように行われる。

普通、強い光や何かが目の前に接近してきた場合は眼球を守る為に眼瞼閉鎖反射(がんけんへいさはんしゃ)という反射が行われる。

だが今のセル…全くその反射が行われていない。

全く危機感というものを感じ取っていないのだ。

 

 

「大した余裕だな、命取りになるぞ?」

 

「命取り?

そうではない、最強たる所以の懐の深さと言うのだ13号。

さぁ、続きをやろう。

パワーアップした私のウォーミングアップに付き合ってくれ。」

 

 

再び13号の拳の乱れ突きが炸裂する。

先程と同じ構図ではあるが、本気度がまるで違う...不意をつくように蹴りも交じる。

今度はその一つ一つの攻撃を丁寧にかわしていく。

最初こそ確実に避けていたが、自らの実力に合わせてギリギリで見切ってかわしていく。

 

 

(洞察力...ピッコロか?)

 

 

様々な戦闘データから、戦い方をメインコンピュータからインポートしていく。

だがメインコンピュータが送ってきたデータは一つのデータでは無かった。

 

 

(ベジータの戦闘データ?)

 

 

データに基づいて気弾も織り交ぜて攻撃すると、今度は孫悟空のデータが入ってくる。

1人の人造人間から複数の戦闘データが送られてくるのはまず有り得ない。

試しに人造人間セルと言うデータを探すもヒットしない。

...情報が欲しい。

 

 

「...どうした13号よ、もう終わりか?」

 

「セルと言ったな...貴様、何者だ?

様々な人間の戦い方をするその戦闘スタイル...そして他の人造人間を吸収・合体し戦闘力を上げていく。

ただの人造人間では無いな?」

 

「いかにも、私は究極の人造人間セル。

同じ人造人間のよしみで教えよう...。」

 

 

そこでやっと全てを理解する。

ゲロのメインコンピュータが作り出した人造人間。

生態エキスでの戦闘力向上。

歴戦の戦士の細胞を取り込んでいる。

そして13号を元にバイオテクノロジー(遺伝子工学)型での吸収・合体能力の向上。

 

 

「つまり、お前は私のプロトタイプという訳だ。

13号...お前のおかげで私が生まれたのだ、感謝はしているが次世代型には勝てまい。

忠告はしたぞ?」

 

 

全ての話を聞いた時、セルの戦闘データの解析と情報整理が終わる。

ゲロのスパイロボが採取した孫悟空、ベジータ、ピッコロ、フリーザなどの戦闘力の高い者、そしてその仲間であるZ戦士や数種の生物など様々な細胞を取り込んでいる。

そしてその遺伝子情報から技の情報だけでなく、種族特有の体質などを兼ね備えた究極の人造人間だそうだ。

 

そして今の13号の戦闘能力で奴に勝つことが出来るかと言えば...勝てる見込みは数%。

ならばやる事は一つだった。

 

 

「プロトタイプか...プロトタイプってのは原型って意味だ。

ゲロのコンピュータが、考えうる最高の技術を全て使い俺は作られた。

細胞の寄せ集め野郎とは勝手が違うってのを思い知らせてやろう。」

 

 

遠くに転がっていた二つの動力炉、そしてデータチップが吸い寄せられるかのように13号へ飛んでいく。

動力炉は胸へ、データチップはこめかみへ沈むように取り込まれる。

 

 

「ウオオオオオォォォオオオ!!!」

 

 

合体人造人間13号。

相手の一部の力を使ってパワーアップするならセルと変わらないが、体格が3倍に匹敵する程の巨大化までしている点は違う。

 

 

「動力炉とデータチップがそれぞれ3つ。

バージョンアップに伴う追加装甲の搭載。

...セルよ、お前に勝ち目があるか?」

 

「おや?

まともに喋れないかと思ったが、会話のプログラムは残っていたのか。」

 

「安心しろ、言語を堪能する前に墓場へ送ってやる。」

 

 

セルへ向け走り出す。

体格が大きくなったが、動力炉とデータチップの搭載により全ての動きが格段に上がった。

目の前から攻撃を仕掛けると見せかけ、高速で真横から右浴びせ蹴り。

その回転を生かして左かかと落としのコンビネーション技。

大きく後退したセルを追い、肘打ちからの左アッパー。

 

 

(...チィ、全て見切られてるだと?)

 

 

合体前とは比べ物にならない早さで繰り出した攻撃だが、その全てを防がれていた。

第二形態(いままで)の力では敗北を味わっていたであろうパワーである。

つくづく自分はツイていると思っていた。

 

 

(ここまでのパワーとは...データ不足故に動きも読めない。

いよいよこちらも損傷覚悟でやるしかないな。)

 

 

全動力炉圧力引き上げ、非常弁閉鎖、安全装置解除。

13号の青い肌からオーラが発せられる。

事実上の最大パワーをもってセルへ挑むようだ。

 

 

「出力最大か...ならば少しは本気になってやるか。

ようやく体も温まってきたからな。」

 

「セルよ、これでお前を殺す。

ガアアアアアア!!」

 

 

即座に作り出された赤いエネルギーボールがセルへ向かっていく。

なかなかの速さと13号の動きを見ながら、冷静にジャンプしてかわそうとする。

...だが、この技はただのエネルギーボールでは無かった。

 

 

「...なるほど、追尾能力か。」

 

「そいつは地獄の果まで貴様を追い続けるぞ!」

 

 

SUPER.SPECIAL.(S.S.)デッドリーボンバー。

孫悟空抹殺の為の技であったが、道理を並べてる有余は無かった。

追尾機能があるとは言え、念を入れて自らも打撃を与える為に動く。

 

 

(ふ、面白い。

追尾能力があるとはいえこれだけのパワーを制御するのは難しいはずだ。)

 

 

逃げるセルは攻撃を仕掛けてくる13号と肉弾戦になる。

デッドリーボンバーが迫ろうとてまるでお構い無しだ。

ならばと、デッドリーボンバーにぶち込む気で繰り出した攻撃がかわされる。

ほんの少し溜めた攻撃が隙を生んだ。

いくら追尾するとはいえ、そう簡単に進行方向は変わらない。

 

 

「...残念だな。」

 

 

完璧に避けきった。

赤いエネルギーボールは山肌に当たって爆発...しない。

S.S.デッドリーボンバーは地面に沿うように素早く軌道修正し、まだ追ってきている。

 

 

(なるほど、地獄の果までと言うのは満更でもないようだな。

ならば...教えてやろう、私の強さを。)

 

 

 

---地球 神の神殿---

 

 

「...なんだよ...この気は。」

 

 

孫悟空、ピッコロ、天津飯、ベジータ、フリーザ、コルド大王...それどころか更に多くの歴代の戦士達の気が一箇所に集められている。

集結とは言えない...最早異様な気配を感じる。

クリリンは半分程度だが、人造人間の気を感じられない以上どうなってるか訳が分からない状況だ。

 

 

「(沢山の気が集中して妙な感じ...って事は、これはセルか!

なんでこんなバカ強くなってる?

吸収したのか?)

デンデ、クリリンと人造人間はどうなってる?」

 

「見えてますが...クリリンさんは人造人間を守りきれなかったようです。

緑の化物みたいなやつに取り込まれてしまいました。」

 

 

デンデの簡潔でわかりやすい説明が続く。

人造人間の仲間割れ...セルの登場...人造人間13号...合体人造人間...

 

「...そいつは14,15号のパーツを吸収し、とんでもない強さになりました。

セルはその人造人間と戦っています!」

 

 

想定外の速さでのセルの登場とまた新たな人造人間。

しかも合体したと言う...。

 

 

「合体て...特撮かよ...。

とにかく俺も行く!」

 

 

もう少し後になるかと思っていたが、まさか最初に様子を見る時に動きがあるとは思っていなかった。

更にセルが人造人間を吸収したということは、恐らく今の気は完全体のもの...そしてパワー温存と究極体を考えれば恐ろしい力である。

 

 

(クソ、どいつもこいつも好き勝手な時に来やがって!!

こっちじゃ30分なのにこの事態の変わりようはおかしいだろ!

なんで予想通りにならないんだよドラゴンボール!)

 

 

パオズ山に近づくにつれ、セルの気が何度か戦うかのような動きをしていた。

近くまで来てみると、デンデの言う通り人造人間と戦っていた。

合体人造人間13号...青と白い肌にオレンジ色の頭髪。

 

 

「...気味が悪いな。

なんて配色センスだ。」

 

 

出力を引き上げたようで、青と白の肌からは真っ赤なオーラが吹き出している。

 

 

「出力最大か...ならば少しは本気になってやるか。

ようやく体も温まってきたからな。」

 

「セルよ、これでお前を殺す。

ガアアアアアア!!」

 

 

真っ赤なエネルギーボールが作り出され、セルへ向け飛んでいく。

一度はかわされたものの、追尾能力があるようで執拗にセルへ向け飛翔し続けていた。

 

 

「あんなデカイエネルギーボールに追尾能力なんて...人造人間はやはり厄介だな。

だがいくら何でも、アレが落ちたら地球にダメージが...。」

 

 

エネルギーボールがセルを追って山へ直撃するかと思ったが、直角軌道を描いてまだ追っていく。

空中に向かっていたが、避けきれないと判断したのか。

セルは反転、そしてそれを受け止めにかかる。

 

 

「ようやく観念したようだが、S.Sデッドリーボンバーを跳ね返そうなど無意味な話だ。」

 

「何ぃ...くそおぉー!!」

 

 

大爆発を起こす。

威力にして、地球に直撃したら半分は吹き飛ばすのではないかと思われる爆発にセルは耐えられなかったようだ。

右半身がほとんど吹き飛び、首から下は左腕から左太股までしかなかった。

 

 

「なんだと...この俺があああ!?」

 

「いくら後継機であろうが、優れた者には勝てないのが証明されたな。

だが安心しろ、お前の代わりに俺が孫悟空を殺す。

そしてDr.ゲロの野望を...俺が継ぎ世界中を破壊し尽くしてやるぞ!

ふはは「...なんちゃって。」はは!」

 

 

セルの切断面がもぞもぞと動き始める。

絶望的なこの状況から何をしようとしているのか?

13号はその発言からなにか不穏なものを感じた。

 

 

「訂正する必要がある箇所が2つあるな。

まず一つ、私は孫悟空を殺害する目的で作られた訳では無い。

究極の人造人間として生まれたと言ったであろう。

そして二つ、優れた者には勝てないと言ったが...それはお前ではなく私だ。」

 

 

切断面から胴体と手足が生え揃う。

これには13号も唖然とした。

生物というのは、基本的に心臓か脳を潰せば死を迎える。

だがセルという生命体は心臓があると思われる箇所を吹き飛ばしたはずなのだが...全く動じる気配すらない。

 

 

「私はその程度の力で体を吹き飛ばされた所で死にはせん。」

 

「ば...馬鹿な!?

ならばもう一度吹き飛ばすのみだ!」

 

 

S.Sデッドリーボンバーを一発、いや二発撃ち込む。

セルはゆっくりと手を差し出し、一つ目を完全に消し去る。

二発目も同様に消滅させた。

 

 

「何!

俺の...俺のS.Sデッドリーボンバーがあっさりと消されただと...。」

 

「それも違うな、貴様のデッドリーなんちゃらはここにある。」

 

 

手のひらにある米粒程度の赤い光...あの数十mはあろうかというエネルギーの球体がここまで圧縮されている。

それでもなお涼しい顔で歩み寄ってくるセルに恐怖すら記憶させられた。

 

 

「さて...もらったものはきちんと返さねばな。

それぞれの腕に返してやる。」

 

 

次の瞬間、両腕を握られた。

全く反応出来ないスピードになす術なく両腕が吹き飛ぶ。

自ら放ったエネルギーに腕の装甲がやられた訳では無い、デッドリーボンバーのエネルギーにセルが上乗せしたのだ。

 

 

「もちろん利子をつけてな。

これで貴様も何も出来まい。

お次は。」

 

 

突き刺さる腕。

引き抜かれると同時に埋め込んだ動力炉も取り除かれてしまった。

そして頭部のデータチップもぶち抜かれ、人造人間13号の動きは格段に悪化した。

動力炉とデータチップ...それぞれ3つあって動く身体だ。

もう戦闘が出来る身体ではない。

動力炉とデータチップはその場で棄てられ、13号の敗北が決まった。

 

 

「くそおおおおお!!」

 

「チェックメイトだ。

だが13号よ、貴様のお陰で実力を知ることが出来た。

もっとバージョンアップして来るなら...再び戦ってやる。

楽しみにしているぞ?」

 

 

それを最後に、ガラクタ寸前の13号を地平線の彼方へ投げ飛ばした。

その戦いがひと段落着くと、次は16号だと言わんばかりに身体を向ける。

 

 

「16号...の前に、どうやら新しいお客が来たようだ。

隠れてないで出てこいラディッツよ。」

 

 

バレていた。

戦闘中にも関わらず遠くから聞こえるボヤキを逃さず聞き取っていた。

存在が知れてしまっているのならと、ラディッツは大人しく姿を見せる。

 

 

「影で見ていたということは多少は私の実力を見ていたのだろう。

勝てる見込みがあれば...来るがいい。」

 

 

...正直に言うと、ラディッツに勝てる見込みなんてあるはずが無かった。

合体した13号にすら勝てるか勝てないかの微妙な所だったのにも関わらず、それを上回る完全体セル。

覗き見ていた時から作戦は決まっていた。

 

 

「...今のままならどう考えてもセルには勝てない。

だが一週間...いや、10日だけ待ってくれ。

そうすれば悟空...特にその息子の悟飯がものすごく強くなる。

セルを上回るぐらいにね。

だから...お願いだ、10日待ってくれ。」

 

 

ラディッツは頭を下げる。

正直飲み込んでくれるかくれないかは微妙だ。

セルの性格は様々な...特にサイヤ人やフリーザー族の細胞のせいで好戦的で気分屋な所があると思っていた。

それ故に今ここで殺される可能性もあるし、原作通り強者の訪れという言葉に乗ってくれるかもしれないのだ。

 

 

「孫悟空...孫悟飯...孫悟飯か...何故か知らないが、どうも孫悟飯の存在がとても楽しみに感じるな。

俗に言う、「オラワクワクすっぞ」という所か?

良いだろう、私もここで楽しみを減らしたくはないからな。

10日間...たっぷり待ってやる。」

 

「...それまで誰1人とて殺さないと約束してくれるか?」

 

「それは出来んな。

私だって攻撃されれば反撃はする。

自らを守る為には相手の命を奪う事もある。

積極的防衛、貴様もよく知っている言葉だろう?」

 

 

これはラディッツが掲げている言葉だ。

人造人間セル、ラディッツの細胞も取り入れているだけあって思想に反映されているようだ。

だが10日間の猶予の確約は取ることは出来ただけでも成果と呼べよう。

 

 

「...わかった、だけど無闇矢鱈な殺しはやめてくれ。

もし俺の細胞まで入ってるならそれはわかってくれるだろう?

10日後にはたっぷり楽しめるんだ、無駄な殺し「くどいな、わかった。

こちらから殺す事は辞めると約束しよう。

攻撃を受けた時は...その時はその時だ。

さぁ早く修行をして来い、私の強さを引き立てるためにな。」

 

 

わかったとセルに言葉を残し、クリリンと共に16号を抱えてその場を後にした。

完全体となってしまったセルだが、原作には無い人造人間達は何とかセルにより追い返してもらう形となった。

これで良かったのか...完全体にしてしまって悪かったのか...。

とにかく原作通りの展開に近づけただけでもと自分に言い聞かせるラディッツだった。

 

 

 

---あめんぼ島北部 岩場---

 

 

「許さん...この俺をよくもここまで...。

だが...全ての機能が破壊された訳では無い。

甘かったな...まだ俺にもチャンスはある。

後悔させてやるぞ!」

 

 

最後のエネルギーを使いながら、Dr.ゲロの研究所へと歩みを進める敗北者。

機械でありながら、彼のデータに復讐心が記憶されたのは言うまでもない。




数々の死闘(携帯水没・ユーザー情報の喪失・ドラゴンボール超の追加設定&方向転換)を乗り越えた私は超バタピー様なんて傲りは全くございません。
これからまた亀更新出来たらいいなと思っております。

あまりに乏しい表現力文章力ではありますが、生暖かい目で見ていただけたら幸いです。


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混乱の中の小さな平和

誤字脱字修正済み R2 1/12


「...残念だったな。」

 

 

16号が静かに呟く。

恐らく17号の件と完全体セルの事だろう。

 

 

「...いいんだ。

そんなことより、あのセルって何者なんだ?

また妙なやつがあいつらを吸収したと思ったら桁外れに強くなっていった。」

 

「それは...説明しよう。」

 

 

ラディッツはこと細かく知っていることを話した。

ドクター・ゲロが造り出したコンピューターが戦闘の達人たちの細胞を集めて合成させた人造人間。

元々はトランクスが来た未来とは別の世界。

悟空が心臓病で死んだ後の未来世界で生まれ、人造人間17,18号を吸収すれば完全体になるのだが、その世界のトランクスにより倒された為過去に来た者だった。

 

 

「随分ややこしいな。

とにかく、今度はセルを倒せばいいのか。」

 

「その通りだ。

本来なら13号とかは出ずに完全体セルは誕生するはずだったんだ、しかもずっと先の話だし...。

セルはしばらく人間達の生態エキスを吸収しながら強くなる。

人類は神出鬼没のセルに怯え、その後テレビでセルゲームやりますって世界中に宣言するんだ。

だけど...今後そうなるかはわからんな。」

 

 

兎にも角にも、神殿目指して飛び続け、着く頃には日が傾き始めていた。

行きはあっという間だったが、帰りは16号を抱えてだったから遅くなっていた。

神殿に着くと、既に全員が外へ出ていた。

 

 

「...ふむ、無事に戻れたようじゃな。」

 

「はい、ですがセルは完全体になってしまいました。

作戦は失敗です。

あとは精神と時の部屋でどれだけ強くなるか次第です。」

 

「へっ、サイヤ人が4人もまだ残ってんだろ?

多分何とかなるんじゃないのか?」

 

 

ウーロンが重い空気を何とかしようとしていたが、全員静まり返っていた。

人造人間が減ったとはいえ事態が切迫しているのがわかる。

 

 

「ウーロン、今は...」

 

「けっ、なんだよ!

人がせっかく盛り上げようとしてんのによ。

大体よ、なんでこんな時にドラゴンボールが無ぇんだ!

ピッコロもあっさり死んじまいやがって!」

 

「人がって...あんたいつから豚から人になったのよ?」

 

「う うるせぇ!」

 

 

かつて無いほどの不安。

誰しもが表情や態度に出てしまっていた

これまでドラゴンボールに頼ってきたが今回はそういうわけには行かない。

 

 

「落ち着いてくれ。

とにかく、ブルマさんは16号を修理してください。

可能であればパワーアップとかしてくれた方がありがたいです。

俺はまた部屋の中に戻って時々出てきます。

何かあったらまた言ってください。」

 

 

そう言い残して部屋に向かうラディッツ。

残る皆は誰も止めようもしなかった。

かつてないほどの気の大きさ...この力に対抗出来るのはもう4人しかいない。

 

 

(...悪くない...むしろこれでいいんだ。)

 

 

一人部屋に向かうラディッツは自分自身に言い聞かす。

 

 

(人造人間13号...あいつがセルより弱くて助かった、正規の話と狂うからな。

あとはセルを倒すか、悟飯のレベルを底上げさせておいて何かのきっかけを作って超サイヤ人2にすればいい。

16号は確か優しい奴だから、悟空とあまり接触させなければ問題無いだろう。)

 

 

部屋のノブに手を掛ける。

自分がいなくなってからどれだけ差が詰められたか...あるいは広げられたか...色々想像しながら中へ入った。

 

 

--- 精神と時の部屋---

 

 

「お、やっと帰ってきたか!

俺もう待ちくたびれたぞ!」

 

 

口の周りを粉まみれにした悟空がいた。

あいも変わらず...という訳ではなく、超サイヤ人での気の質が少し穏やかになっていた。

自分の戦闘力を当たり前のように上げる超サイヤ人化...いかに当たり前のレベルを上げるか。

ラディッツが言い渡した修行の意味に、気づいたのかもしれない。

 

 

「待たせたな。

色々とあって遅くなった。

悟飯とトランクスは?」

 

 

悟空が答える前に、視界に二人が映る。

やはり隻腕での戦闘はかなりのハンデを要するが、着実にその戦闘スタイルをものにしようとする姿はあった。

そしてトランクスも、剣技も交えた戦い方が板に付いてきたようにも見える。

この1ヶ月...特に大きな出来事は無かったが、確実に3人の実力は底上げされていた。

 

 

「...やっぱり悟飯を引き入れておいたのは良かったかもしれねぇな。」

 

「もちろんだ。

ってか悟空からそんな言葉を聞くとは思わなかった。」

 

「俺もだ、だけどよ...修行してて何となく悟飯にはとてつもねぇ潜在能力があるかも知んねぇって思ったんだ。

俺が強くなるのも一つの手だけど、俺より伸び代がある悟飯に掛けようと思ってんだ。

例え俺がいなくなっても、誰にも負けねぇくらい強くなる気がするかんな!」

 

 

この時ラディッツ...河野は耳を疑っていた。

これまで孫悟空は、純粋に強さを求めるド変態というイメージしかなかった。

原作者からは父親失格とも言われる程の戦闘バカなのだ。

そんな彼が半ば強引に近かろうとも、修行を通して息子の成長を感じていたと言うだけでも、感動に近いものを感じていた。

 

 

「そうだな...父親からの愛情があれば、きっと良い息子になるさ。

...って、これじゃ死亡フラグみたいじゃねーか!

早く俺達も強くなるぞ!」

 

 

.......

 

.....

 

...

 

 

現実時間で残り20時間...部屋では約10ヶ月。

あれから特に代わり映えもせずに修行は行われていた。

代わり映えしないのは修行風景なのだが、当初に比べれば雲泥の差となっていた。

 

 

「ハァッ! ヌアッ! どりゃァ!」

 

「ハッ! でやぁ! ふんぬっ!」

 

 

二人の金色の戦士が限界寸前での戦いをしている。

片方が押しているが、対する方は致命弾を浴びずに防戦していた。

 

 

(なろぅ!...スコードロン界王拳はもうダメか!)

 

 

防戦する戦士は上半身と下半身が時たま黄金色から部分的に赤く染まる。

それでもなお形勢は変わらず不利一方であった。

この1年...互いの癖すら知り尽くしてしまった戦いでは、先を読む駆け引きも交えた戦いにまで発展する高度な修行になっていた。

故に下手な事をすればあっという間に叩き込まれてしまう。

 

 

(顔...からの...!)

 

 

顔面を狙った拳と同タイミングでの右ローキック。

意識は顔面に向けてくる拳に行くので、足元の攻撃は決まる。

...はずだったのだが、拳は去なされ右足は踏みつけられ攻撃は失敗。

それどころか踏みつけた左足を軸にして腹部への膝蹴りにし、更に腹部へフックがめり込む。

強烈な吐き気に襲われるが、後頭部へのとどめとなるダブルスレッジハンマーが決まる。

ラディッツは顔面から地面に突っ伏し、動かなくなった。

 

 

「へへっ、オラの勝ち~!」

 

 

これで何勝何敗か...そんな事を考えながらラディッツを引きずり、食料庫から練られた粉の大きな塊を、口がパンパンになるまで押し込んで水も入れる。

すぐさま塊と水は吐き出されて咳き込むが、意識は戻ったようだ。

 

 

「てめぇ殺す気か!」

 

 

ワリィワリィと半笑いで謝る悟空。

結局この戦いで、248勝104敗8引き分けで孫悟空の勝ち越しで終わった。

この部屋での悟空の成長は目を見張るものがあった。

ナメック星での死闘...そこからの戦闘力で言ったらもう何百倍と言う程に。

対するラディッツは界王拳を使っても、とんとんどころか若干追いつかなかった。

更に悟空には、数々の師から受けてきた指導による地力、戦略、磨かれた格闘センスにより敗北回数が後半になり増していった。

界王拳を上げれば対応も出来るかもしれなかったが、超サイヤ人状態での界王拳...超界王拳(スーパー界王拳)は負担が掛かり、二倍すら引き上げるのが困難である。

スコードロン界王拳でやっと多少保てるかどうか...なかなか勝機は得られなかった。

 

 

(これが主人公補正ってやつか?

ここまであっさりと抜かれるともう投げ出したくなるわ。

...と言っても、もっと凄いのはやはり悟飯だな。)

 

 

少し離れたところでトランクスと戦いを繰り広げる悟飯。

元々の潜在能力を何となく感じていたが、片腕を失うハンデを背負っているのだが...ラディッツもここまでとは思いもよらなかった。

隻腕からの手数不足を感じさせず、なおかつ戦闘力も悟空を僅かに下回るレベルまでに来ているのだ。

トランクスもパワー重視の超サイヤ人という寄り道をさせずにほぼ仕上げれたのだが、その上を行くのが悟飯だった。

 

 

最小限の動きで繰り出される浴びせ蹴。

トランクスはガードしてやり過ごすが、そこから蹴りの連撃に続く。

やや力を込めて防御を蹴り崩そうとするも、一瞬の溜めを見計られて背後に回られる。

刀を抜いて斬撃を数発飛ばすが、これも全て躱される。

だがここまではトランクスの想定の範囲内。

 

 

「バーニングアタック!!」

 

 

回避先に放たれるトランクス渾身の一撃。

どんなに超スピードで逃れようにもダメージは避けられないと思われたが、左腕を引き換えにダメージを抑える。

もっとも、被弾しているはずである左腕はもう失っているのでノーダメージだ。

 

 

「激烈魔閃!」

 

 

即座に集められた気は、真っ直ぐトランクスへと向かう。

躱すまではまさかと思ってはいたが、反撃までしてくるとは正直思わなかったトランクス。

だが対応出来ない訳ではない。

向かってくる激烈魔閃を抜刀し、斬撃で対処する。

2つに割れた気の塊から、鮮血を流しながらも目の前まで接近してきた悟飯がいた。

切りつけるには間に合わない。

刀身で叩きつける。

...が、刀身の回り込むような軌道と蹴りの一直線の軌道では僅かに蹴りが速かった。

派手に吹き飛ぶ最中に縦回転での踵落としを最後に受け、トランクスの意識は完全に吹き飛んだ。

 

 

「見違える程強くなったな、悟飯!」

 

「父さん!」

 

 

ラディッツが二人分の食料を取りに行く間、修行相手から親子へと戻る。

この1年...息子の成長ぶりを見てきた父 孫悟空。

いつしか自分の事をおとうさん(・・・・・)から父さん(・・・)と呼ぶようになり、一人称も僕からたまに俺と呼ぶようになってきた。

1度も経験したことの無い感情だった。

息子が徐々に自分から離れていくような...寂しいような、それが嬉しいような複雑な想いだった。

 

 

.......

 

.....

 

...

 

 

ラディッツ以外の3人は部屋を出た。

部屋を出てからの修行は各自に任せてあった。

悟空と悟飯はチチを連れて修行と休養を取ると言っていた。

トランクスも同じく、修行をしながらこの時代の母から色々な話を聞きたいそうだ。

止めはしなかった。

先の未来を知っている河野にとっては...特に悟空は止められなかった。

 

 

「...って誰も死なせてたまるか。

悟空も死なせず、トランクスも死なせず、全員ナメック星のドラゴンボールで生き返らせてやる。」

 

 

腹ごなしに粉の塊を貪り食いながら。

味はやはり何もしないが、腹が減っては修行も出来ぬ。

 

 

(問題なのは原作通り、悟飯の超サイヤ人2しか頼れないって所だな。

悟空のあの感じだとやはりまだ超サイヤ人2にはなれてないようだし。

先の領域を見たり感じたりすればわかりやすいけど...難し過ぎてもう1年使っちゃいそうだ。

残りの時間は魔人ブウ編や知らない強敵が出てきた時に取っておきたいし、悟飯の怒りの為とは言え悟空を殺してもらうってのはダメだし...確か16号が要だったよな。)

 

 

「...ま、最悪イージス張って俺がアイツと心中自爆だな。

地力上げとかなきゃ。」

 

 

超サイヤ人のまま気を最小限に抑えて、再び白い大地へと足を踏み入れる。

途端に膝から崩れ落ち、滝のように汗が流れ始めた。

悟空達のように超サイヤ人に慣れたとは言え、気を抑えれば必然的に負担は全て純粋に肉体にのしかかる。

敢えて数値化するなら戦闘力200程度。

 

 

「...く...ぐ...い 1ヶ月どころか...数分も持たねぇ。

悟空がもたなかったのなら...俺はやるしかなぃいいっ!」

 

 

.......

 

.....

 

...

 

 

「ようやく出てきおったの。」

 

「と言っても、そんな経ってないですけどね。」

 

「あぁ、みんなが無事で何よりだよ。

地力を引き上げるので精一杯でした...あとはやってみなけりゃわかりません。」

 

 

キッカリ残り一年を残してラディッツは出てきた。

戦闘力だけなら、何とか悟空と同程度の強さまでにはなったが、やはりこれではセルに無傷では勝てない。

むしろ命を棄てないと勝てないという方が正しいだろう。

超サイヤ人2にはなれなかった、やはり実際に見聞き感じなければすぐには無理だった。

 

 

「そうか...情けないけど、頼むぜラディッツ。」

 

「とにかく...頑張るさ!

ところで、セルに動きは?」

 

「南の都より少し離れた所で、何やら作っているようです。

...なにかのステージにも見えますが。」

 

「ステージ...セルゲーム会場か。

ちょっとセルに会ってくる。」

 

 

皆が大慌てで制止しようとするも、あっという間に地上へと降りていってしまった。

9日後に殺されるかもしれない相手に会いに行くなど自殺行為の何物でもない。

だがそんな事よりも気になる事があったのだ。

 

 

 

--- 南の都 郊外 セルゲーム会場(仮) ---

 

 

「ふむ...こんな感じかな?」

 

 

上質な石で作られたシンプルな武闘上。

景色は違えど、かの有名な天下一武道会会場をモチーフにしたのはすぐに分かる。

だがこの舞台以上に、今回のゲームに相応しい場所は存在しないだろう。

 

 

「もう少し装飾でも施そうか...。

どう思う、ラディッツよ?」

 

「そうだな、観客席に出店に活気があればいいんじゃないか?」

 

 

ラディッツはセルの隣に降り立つ。

完全に間合いに入っているにも関わらず、非常に涼し気な両者。

互いに今は戦う気がないのが分かっているからこその穏便な雰囲気なのだろう。

数日後には殺し合いをする相手とは思えない程、殺伐としていなかった。

 

 

「ふっふっふ、いた所で意味は無かろう。

それにしてもやけに早いではないか、超サイヤ人とやらのままでここに来るのは。

飛躍的に向上したのは言葉通りだったが、もう殺りたくなったのか?」

 

「俺はそんな死にたがりじゃないよ。

...ただ色々と疑問点が浮かんで来たから直接聞いてみようかと思ってね。

セルゲームのルールとかさ。」

 

「それについては多少考えがある。」

 

 

セルから色々と話を聞く。

 

・武器や道具(仙豆含む)の使用有り

・他選手への攻撃をしてもよい

・攻撃により、相手選手や他選手を殺しても反則扱いにならない

・武舞台から落ちたら場外負け

・他選手や観客の助けは反則扱いされない

・試合はトーナメントではなくチーム戦

 

「...仙豆をたくさん用意した方がいいぞ?

私だって体力は減る。

疲弊して勝ち目があるかもしれんからな。」

 

「もちろんそうするつもりだよ。

殺すの有りってのはしょうがないが、地球を破壊するような真似はしないでくれよ?」

 

「楽しみな事をいきなり終わらせる真似はしない。

しかし、拍子抜けするような試合ならば...つい(・・)やってまうかもな。」

 

 

悪びれる様子もなくサラリと言うあたり本当にやりかねない。

そして地球なんて2つや3つ程度、あっさりと消し去るなんて造作もないだろう。

この生命体...やはり危険なのだ。

 

 

「セル、お前を倒せそうな奴が全て死んだ場合はどうする?

ベジータやピッコロ達はもう死んでいる。

残る俺達5人が死ねば抗う程の奴はいなくなる。

そうした時は残る人たちをどうするつもりだ?」

 

「...さぁな、そんな事は何も考えてはいない。

単なる退屈しのぎだ。

だが『セルゲームにより参加戦士が全員負けたら地球人を皆殺しにする。』とでも言えば、もしかしたら未だ見ぬ強者に出会えるかもしれんだろう?」

 

 

ただ単に強い奴と戦いたい...そして自分の強さを確認したい。

ラディッツの待ての声を聞き入れ、ゲームを企てるセルの本音だった。

間違いなくサイヤ人達の細胞が純粋な強さを欲しているとでも言えようか。

 

 

「セルゲームの目的は私の強さの確認と、私自身の強さを更に引き出す為の練習だ。

私を作り上げたコンピューターは孫悟空を殺す目的で私を生み出したようだが...本音を言えば、ここまで強くなったのだから今となってはあまり興味はない。

あえて言うならば楽しむことかかな?」

 

 

そしてラディッツに新たな疑問が浮かび上がる。

 

 

(コイツ...本当に悪者か...?)

 

 

サイヤ人一味やフリーザ一族、地球人達の細胞を取込み禍々しい気を持ち合わせる生命体。

悪人の細胞を取り込んではいるが、善人の細胞を取り込んでいるのも事実だ。

原作通りならば地獄に落ちるような悪人なのだが...話している内にどうも分からなくなってきていた。

 

 

「お話はこれくらいにして...私はこれからテレビ局へ行く。

セルゲームの宣伝だ。

...ついてくるか?」

 

「...そうだなぁ、一般人を殺さないように見張るかな。」

 

 

.......

 

.....

 

...

 

 

「...という訳で諸君、9日後を楽しみにしているぞ?」

 

 

破壊されたテレビ局の壁。

スタッフ達は動けずにいた。

ラディッツが警備員達を止めたので、幸いにも死傷者は出なかった。

が、この一部始終は生中継や、BREAKING NEWSとして全世界へと徐々に知れ渡る事となる。

 

...誰かいないのか?

一瞬でテレビ局の壁を破壊し、遥か遠くの山までを丸々吹き飛ばす生命体を倒す戦士は?

 

匿名掲示板やSNS上でのデマを信じ込み、警察署や軍施設に押しかける人や、なるべく人気の無い山間部へと疎開していく人。

そして食料の奪い合いや、空き巣...更にはセルへ降伏しようと呼びかける謎の市民団体が現れ暴徒化し、世界中が大混乱に陥っていた。

 

 

「...酷ぇもんだ。」

 

 

カプセルコーポレーションの一室でテレビを見ながら懸垂していたラディッツは、惨状を見て嘆く。

人間ってのは絶望を感じるとここまで別の生き物になってしまうのかと。

この世界は普通の人間から猫人間や狼人間など、多種多様過ぎる程の様々な種族がいる。

以前の世界では、どんな混乱になっても犯罪や略奪行為が無かった国にいたせいか、目の前の惨状を見てとても近所で起きてる実感が無かった。

下手したらこれまで...これから現れる悪者よりももっと身近で現実的で恐ろしいとも思った。

 

 

「帰ったぞ!

...なんだ、お前も髪染めたのかよ?

それより見てくれラディッツ、これで当分はこれで暮らしていけるぜ!」

 

 

金髪の美人はカプセルから大量の食材を出す。

最も恐ろしいのはこの人なのかもしれない。

唯一の良い点は、彼女の略奪行為は物資を独り占めする輩からという所であり、それを分け与えて来た上でのこの量という点だ。

 

 

「(一体何処からかっぱらってきたんだか...。)

いつもありがとうランチさん。

確認するけど...これはパクってきた訳じゃないよね...?」

 

「ったりめーだよ!

付近で平然と略奪してたクソ野郎共を縛り上げたらくれるって言ったんだ。

その場のみんなと一緒にありがたく(・・・・・)貰ってきたんだ。」

 

 

サバイバルナイフやデリンジャーを懐から下ろし、愛銃であるGlock 18Cをすぐに分解(バラ)して整備を始める。

その手も至る所にマメが出来ていた。

見た目からすればまず扱う事の無い美貌だが、そのマメは様々な武器を扱って来た事実を伝えていた。

 

 

「な 何見てんだよ!」

 

「いや...手がね...色々(・・)合ったんだなって。

せっかく美人に生まれたのに、綺麗な手なのに、包丁以外の物を握ってるなんてな~って。」

 

 

ランチがここで一気に顔が赤くなる。

 

 

(...っておいおいおいおいおいおい!

これって、「貴方には包丁握って俺に料理を作って欲しい。」って事か!?

俺に...俺に主婦になれってか!?

って事は...プロポーズかああぁぁ!?)

 

 

組み立て最中の愛銃を落とし、真っ赤な顔を必死に隠すランチさん。

どこに恥ずかしがる要素があったのかわからないラディッツ。

何か勘違いしてるのであろうと思ってはいたが、常に超男勝りな人が顔を真っ赤にして照れる瞬間ほど見てて面白い時はない。

 

 

「お 俺よぉ...頑張って料理するからな...。

これから毎日頑張るから...。」

 

「え...うん、料理、期待してるよ。

...ってかもう1人のランチさんの方にも上手くなってほしいな。」

 

 

たまに作ってくれる金髪ランチさんの料理は、見た目はアレだが実に美味しい。

逆に青髪のランチさんは見た目は美味そうだが、たまに体調不良に陥る故に手をつけるのが怖い。

本当に毒味役のモルモットでも欲しいくらいに。

だが肝心なのはその事ではない、ラディッツの返答をプロポーズと思っていたランチさん。

 

 

「...あぁ...じゃ じゃぁすぐに何か作るぜ旦那様!」

 

「うん、よろしく頼みますわ.....え?」

 

 

凄まじく冷静になり、今の流れを再確認する。

 

「美人なのに...。」→ ランチ 照れる → 「これから毎日料理するから! 」→ 「期待してるよ。」 → 「旦那様 !」→ 旦那様? →期待してるよ=プロポーズ?

 

 

(いやいやいやいやいやいやいやいや、俺がそんな大それたことを!

どうする...今からすぐ訂正すれば間に合うかな...。

いや...でも一緒にいて楽しいし充実してるし...別の世界の人間だからと言う点でしか断る理由は今の所ないし。)

 

 

そろ~っとランチさんを除くと、鼻歌交じりでとてもご機嫌な彼女がいた。

 

 

(青髪のほうのランチさんは彼女に似とるからとても気まずいけど.........。

絶対に死なせてはいけないキャラがまた一人増えたな。

ありがとうランチさん。)

 

 

その日はいつになく、穏やかでかけがえのない夜になったそうな。

そうでもないような.....?

 

 

.......

 

.....

 

...

 

 

『ハッピバースデートゥーユー、誕生日おめでとう!! 』

 

 

今日は悟飯の誕生日...という訳では無いのだが、精神と時の部屋で1年が経ってしまった為に誕生日が一日ズレてしまったのだ。

説明するのにだいぶ手を焼いたが、たった一日で背が異常に伸びた息子を見れば信用せざるを得なかった。

孫一家だけで祝ってもよかったが、ラディッツ夫妻、クリリン、更にはブルマやトランクス、どこで嗅ぎつけたのか亀仙人やウーロンまで勢揃いした。

 

 

「世間は辛気臭ぇからな、こういう時こそはしゃごうぜ!」

 

「じゃぁさ、何か面白い事してよウーロン!」

 

 

一軒家がここまで人が来て騒がしくなるのは初めてだろう。

皆一時の平和を満喫していた。

チチの手料理もあれば、ブルマやランチの手料理も入っていたり...チチの付きっきりだった為見栄えも味も文句なしの出来だった。

 

 

「そうだ、ラディッツ。

人造人間16号の件だけど...確かにヤバイ代物が出てきたわ。

ドデカニトロヘキサプリズマン...あんた知ってる?」

 

「いや、兵器ならわかるが...プラスチック爆弾とかじゃないのか?」

 

「そんな生優しい物じゃないわ。

これまで架空のモノだと思われていたバケモノみたいな爆薬よ。

こんなものが爆発したら人造人間どころか大きな街10くらいは消えるんじゃない?」

 

 

 

「なんだ、街10個分なら太陽系破壊かめはめ波より優しいじゃん」と一瞬思ったラディッツは、自分の感覚が狂い始めてる事に笑いそうになった。

原作通りに16号の解析・修理をブルマに頼んでおいたのは間違いではなかった。

恐らく自爆してもセルは生き残るだろうし、死んでも瞬間移動覚えて戻ってくるだろうと思っていたからだ。

 

 

「ありがとうブルマさん、引き続き修理を頼むよ。

...それと出来れば16号のデータをバックアップって出来る?」

 

「バグ対策で最低限のバックアップはしてあるけど...今のデータ全部ってなると、セルゲームには間に合わないわね。

...けどなんとかしろって言うんでしょ?

父さんと協力して間に合わせてあげるわ。」

 

「ありがとうブルマさん。」

 

 

16号の戦力化。

セルには及ばないが、人造人間の中で個の強さではトップである戦力をみすみす手放すつもりは無かった。

使えるものなら直してでも、欠けらも無いなら作り直してでも使うつもりだった。

良いニュースが得られた事で気分が良かったが、まさか数分後にバースデーケーキが顔面に吹き飛んでくるとは思っていなかった。




青髪ランチさんに料理を作らせたら、どんな料理も正真正銘 飯テロダークマターになりそうでくぁw背drftgyふじこlp;@:「」


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集いし希望の戦士達

誤字脱字修正済み R2 1/12


「.....はぁ。」

 

 

今日も朝から連日のような晴れ間だ。

湿度は低く太陽は若干汗ばむような陽気なのだが、乾いた風のおかげでとても過ごしやすい。

寝室の奥からは魚が焼ける芳ばしさと魚脂の混じったいい香りがする。

あれからあっという間に時間は進み、遂にセルゲーム当日の爽やかな朝を迎えていた。

その爽やかさとは裏腹に、朝のニュースではひっきりなしにセルゲームに関するニュースや特番を放送するか、スタッフすら逃げ出して放送すらしていない局もあった。

起床してからうがい、歯磨きを済ませ、食卓につくと新妻となったランチさんが席につく。

 

 

「お おはようございます。」

 

「おはよランチさん。

朝飯、上手くできた?」

 

「た...多分。

お口に合えばいいんですけど。」

 

 

ちなみに今は青髪のランチさんだ。

こちらの性格の方も、どういう訳かラディッツを夫として迎えた。

別の世界の人間だとしても関係ないと強く言い放ったからには断る理由は何も無かった。

料理は魚が見たことも無い深海魚チックで、塩の代わりに砂糖が使われていた事態以外には何も問題なく、全て残さず頂き、食後にお茶(口直し)を飲んでいた。

 

 

「いよいよ...ですね。」

 

「あぁ...嫌だなぁ。」

 

 

いくらセルが原作より若干良いキャラの可能性があるとは言え、奴には絶対に勝たなけれならない。

地球消滅を阻止しながら勝つには、セルゲームを上手いこと対人戦からこちらが大人数で戦えるようにし、なおかつ追い詰めない程度に清々しく勝てば自爆も防げるだろう。

だがセルも多くの細胞を取り入れてる為、頭も回るし凄まじく強敵である事は間違いない。

戦闘プランはいくつか練ったが、どれもこれも可能性は低く、結局の所悟飯が超サイヤ人2に覚醒した方が確実と言う他力本願な情けないプランが最有力...。

 

 

(...だと原作通りか。

でもこれまで原作よりハード続きだから、今回も妙な展開になるだろう。

俺の知らない敵とか、セルが超サイヤ人2でも太刀打ちできない程強いとか...最悪道連れの自爆でもいいが、確か核が無くならない限り復活するとかだったからな。

タチが悪いな。)

 

 

飲んでいたお茶(口直し)が終わる。

この9日間は世界情勢とは真逆にとても平和だった。

ランチさんとの婚約、出来なかった悟飯の誕生日会、ピクニックや釣り、孫一家との団欒...とても幸せな日々だった。

 

 

「ラディッツさん...わたし、待ってますから。

あなたが生きて帰ってくるのを。」

 

「...大丈夫、心配しないで。

ってかあんまり引きずると死亡フラグになるから辛気臭いのはやめよやめよ!

なんとかなるから、最悪ミスターサタンが何とかしてくれるさ!

ハッハッハ!」

 

 

テレビに映った男の名を口にする。

世界の命運を背負った最後の希望。

世界格闘チャンピオンのミスターサタンが、あのセルと戦う。

 

 

『 あぁーんなクレイジーなハッタリ野郎は、必ずこのサタンがぶっ潰してやるぜ!』

 

「あんなもじゃもじゃなわけも分からない人なんて信じられません!

ラディッツさんか悟空君じゃなきゃ!」

 

(...ミスターサタンもまだまだ有名人じゃないな、もじゃもじゃな人じゃぁな...。)

 

 

第24回天下一武道会...格闘技世界チャンピオン...数々のグッズを出しそのほとんどがバカ売れとなる程の人気である。

Z戦士の中でも、目をつけていたのはラディッツのみだろう。

特番のおかげで彼の過去がいくつか知ることが出来たが、そこまで重要な情報でも無い為に何となく眺めていた。

調子に乗っている様な表情ばかりであるが、紛れもなく将来この地球を間接的に救う事になる英雄だ。

 

 

「そろそろいい時間だ、行ってくるよ。」

 

「お、ちょうど良かったみたいだな。

おはようございますランチさん。」

 

 

カプセルコーポレーション敷地内に降り立つ地球最後の戦士。

ここからはトランクスとクリリンで行動を共にする。

彼もまた違う時代ではあるが、母親に見送られて来た。

 

 

「あんた達、絶対勝って来なさいよ!」

 

「はい!」

 

「はい!

(俺の出番はないと思うけど...。)」

 

「わかった。」

 

 

本来ならばベジータもいるはずだった。

だがいない。

こういう時無口でそっぽ向いている男の存在がいないだけでも不安になるが、代わりに無口な人造人間がカプセルコーポレーションから出てきた。

 

 

「ラディッツと、クリリン...だったな。

俺を助けて直してくれた礼を言いたい。」

 

「いやいや、礼を言うならブルマさんに言ってよ。

...それかその代わりに悟空と仲良くするか?」

 

「孫悟空は抹殺対象だ、今回は協力するが馴れ合いはしない。」

 

 

若干空気に耐え難くなるトランクス。

とにかくカプセルコーポレーションを後にし、セルゲーム会場へと向かう。

 

 

「昨日はよく眠れた?」

 

「えぇ...もちろんです。」

 

 

嘘、不安でグッスリな睡眠なんて出来なかった。

士気に関わると思うととても本音なんて言えなかった。

無論、ラディッツもクリリンも熟睡は出来ていない。

 

 

「絶対に負けません、何があっても。

セルを倒し、ドラゴンボールでみんなを生き返らせ、平和な未来を勝ち取るんです!」

 

「そうだな、ドラゴンボールで親父を生き返らせ無きゃな。

...あれ?」

 

 

 

不意に違和感を感じる。

 

 

(今はドラゴンボールが無い。

ただ原作では確かセルに殺された人達を生き返らせるって会話あったよな。

ピッコロは神と同化していた...デンデはナメック星から連れてこられた...地球の神様になる為...同化して神様が死んだ時ドラゴンボールが消えない為?

いや違う...ドラゴンボールはここら辺で願いが増えた...復活させた?

デンデはドラゴンボールを作れるのか!)

 

「おい、ラディッツ?」

 

 

今の今まで違和感に気が付かなかった。

精神と時の部屋で修行したベジータや、神と同化したピッコロでは無い為に無謀かもしれない。

だが戦力が1人でも増えるなら躊躇はしなかった。

 

 

「みんな先に行ってくれ、ちょっと天界行ってくる!」

 

 

ラディッツは三人の進路から大きく外れ、天界へ全速力で向かった。

 

 

(ドラゴンボールが復活すれば、あとは集めるだけ。

セルゲームまでには間に合わないけど、ブルマさんとかに頼んでやってもらうしか無いか?

最悪俺達を死んだらすぐ蘇らせてもらうか。)

 

 

気づけば天界が僅かに見え始め、あっという間に到着する。

気を察知してかデンデと、ミスターポポが待っていた。

 

 

「ラディッツ どうした?」

 

「丁度良かった、ドラゴンボールって神様が復活出来るんだよな?

お前が神様になればなんとかなるんじゃないか?」

 

「僕が神様に!?

まだ僕は未熟ですし...それにドラゴンボールを作るには今すぐには無理です。

最低でも100日程掛かります...。」

 

「100日!?」

 

 

100日...万が一今から作り直したとして約3ヶ月もセルが大人しく待っていてくれるとは思えなかった。

下手したら全生命皆殺し、あるいは地球を破壊するかもしれない。

ラディッツの記憶が間違っていたようだ。

 

 

「...ですが、今ある石になったドラゴンボールと何か龍の模型みたいなものがあれば今すぐにも出来るんですが。」

 

「龍の模型 ある。」

 

「ナイス、ミスターポポ!」

 

 

 

ミスターポポが思い出したように宮殿へ歩いて行き、龍の模型を携えて戻ってきた。

どうやら地球の神様に以前、非常時の予備として作成を依頼された物だが、本当に役に立つ時が来たようだ。

すぐさま模型に手を当て龍に魂を宿す。

 

 

「何か要望とかありますか?」

 

「そうだな...叶えられる願いを3つに。

あと一度に大勢生き返らせれるようにしてくれれば大丈夫だ。

...あ、一度に大勢復活させたら願いは2つとかになって構わないよ。

あまりパワーアップさせたらいかんでしょ?」

 

 

わがままを言えば、ナメック星のポルンガのように何度でも生き返るようにしたかったラディッツだが、"ドラゴンボールのマイナスエネルギー"の事が頭をよぎって極端なパワーアップは控えた。

下手したら邪悪龍を相手にする事になるかもしれなかったからだ。

 

 

「わかりました...終わりましたよ。

願いは3つ、大勢復活、大勢の時は願いは2つにしておきました。

...これで良かったんですか?」

 

「大丈夫だ、問題ない。

あとミスターポポにお願いがある。

セルゲームをやってる最中にドラゴンボールを集めておいてほしい。」

 

「わかった 急いで集める。

神様 ポポ しばらく出る。」

 

 

魔法の絨毯が現れ、乗った瞬間消えた。

前の神様を生き返らせたいのは本人が1番思いが強いのかもしれない。

 

「ラディッツさん。

悟空さんや悟飯さんによろしくお願いします。

また皆を救って下さい!」

 

「まかせとけ!

安心してここから見ておいてくれ。

出来れば皆を早く生き返らせてあげて。」

 

 

ニコッと一度笑うと、ラディッツは再び全速力でセルゲーム会場へと向かう。

何とかなる...すがるような気持ちだが、どこからか訳も分からない自信だけはあった。

 

 

(大丈夫だ...単行本は魔人ブウ編まで続いたんだ。

多分何とかなる!)

 

 

自信ではなく、やはり言い聞かせているだけだった。

 

 

---

 

--

 

-

 

 

「遅れてすまんな。」

 

「いや、大丈夫だ。

アイツだってさっさと始める奴じゃねぇさ。」

 

 

セルゲーム会場へと到着した頃には、役者は揃っていた。

役者は六人...しかし事実上地球でセルと互角に渡り合えるのは孫悟空、ラディッツしかいないと思われていた。

この兄弟がやられれば刃向かえる者は皆無だ。

 

 

「...待っていたぞラディッツ。

これで役者は全員揃ったな、早速最初に.....?」

 

 

遠くから聞こえる。

その音は次第に近く、そして増えてきているようだ。

音の種類はひとつではない。

ローター音、エンジン音...タービン音も急速に近づいてきた。

地平線から砂煙を巻き上げながら迫る戦車や高機動車。

空からは対戦車、戦闘、輸送ヘリ。

音速で通過する戦闘機や攻撃機、それらに続いて爆撃機まで...。

 

 

「...おいおい...合同演習ってレベルじゃねーぞ!」

 

 

ラディッツの目が輝く。

富士総火演なら見たことはあるが、その何倍...いや何十倍どころでも計れない程の規模で展開される各軍に興奮を抑えられなかった。

動員数5000万人を軽く超えるだろうか...文字通り世界中の軍が総動員でやってきたと表現出来るだろう。

 

 

「...いいんですか!?

民間人が数人いるんですよ!?」

 

「構わん...世界中があの映像のようになれば、数人の犠牲所ではなくなる。

S,Sドラゴン、モンスターハント。」

 

 

遥か上空...人類の存亡を掛けた戦いの火蓋を切るAC-130に積まれた105mm榴弾砲が火を吹いた。

ただでさえ一発でも凄まじい破壊力を誇る榴弾砲が寸分狂わず狙った目標に向かっていく。

ふと攻撃対象(セル)が指先を頭上へ。

降参か?

それとも何かの攻撃動作か...確認する前に全ては爆炎に消された。

AC-130二機の榴弾砲に狙われたモンスターは文字通り跡形もなく消え去っただろう。

周囲にいた民間人も犠牲にして。

 

 

「状況報告。

...おい、状況報告。」

 

いつになっても何も言わない観測兵に痺れを切らし、その方を見る。

兵士の目は見開いていた...何か見間違えているかの表情も読み取れる。

 

 

「おい、報告しろ!

モンスターはどうなった!?」

 

『自衛権を行使しよう。』

 

 

その言葉と同時に空高くで爆散するもの。

2つの飛行物体はバラバラになって地上に向かって落ちていく。

それと同時に、2枚のカードを全地球軍は失った。

対するモンスターは無傷...しかも石のステージすらもだ。

すなわちそれは榴弾砲本体どころか、爆発の衝撃波すらも届かない位置で迎撃されているという事。

遷音速...いや超音速で迫る105mm榴弾に正確に迎撃する能力。

イージス艦なら大和の砲弾をも迎撃出来るというご意見もあるかと思うが、それを簡単に1生命体が出来るはずなんてありえない。

 

 

 

「スプーキーⅡ、スティンガーⅡ応答しろ!

クソ...全軍攻撃開始、彼らの仇を取れ!」

 

 

全方位からセルゲーム会場目掛けて放出される砲弾や爆弾やミサイル。

人間サイズに対しては、過剰という表現では余る程の火力ではあるが、それでも動きを見せない生命体。

 

 

「...折角の舞台に傷が入るのは、気分が悪い。」

 

 

突如としてセルを中心として展開される薄紫色の障壁。

その正体にいち早く気づいたのはラディッツだ。

イージス...要するに気のバリア。

砲弾やミサイルなんぞ通れるものではない。

セルゲーム会場周りはミサイルや榴弾砲の爆煙に包まれ、バリアの外には潰れた砲弾の山が形成される。

 

 

「外観から見られる損傷認めず。

...無傷です.....。」

 

「馬鹿な!

...悪魔の炎しか無いのか...大統領へ繋げ。」

 

『 諸君、健闘は讃えよう。

だが、ここまでだ。』

 

 

指先から放たれる眩い光。

それはかつてデンデとベジータを葬った技なのだが、Z戦士以外の者にはレーザー攻撃とでしか認識出来ないだろう。

一部の人間は認識出来る前に絶命したが。

 

 

「やめろセル、無闇に殺すな!」

 

「ラディッツ、貴様が1番わかっているだろう?

私を殺すつもりで圧倒的な数で襲いかかってきたのだ、反撃する権限はあるはずだ。」

 

「それはオラ達を倒してからにすればいいだろ。」

 

 

動けなかったラディッツの言葉を行動に移した悟空。

右手を押さえつける手には感情が強く反映されているかのように力が入っている。

怒気が言わずとも強く伝わってきていた。

 

 

「ククク、いいぞ、その目だ。

その感情を忘れずにセルゲームに活かしてくれる事を望むぞ?」

 

 

指先からはもう気を放出してはいなかったが、力も弱めてこれ以上の事はしないと言う意思を表す。

それを分かって悟空も手を離す。

だがそのほんの数秒で上空と地上の戦力の70%は行動不能、もしくは消失した。

統率の取れなくなった軍隊はてんでんばらばらになりながら自国もしくは最寄りの基地まで、完全敗北と言う事実を連れて逃げ帰る事となった。

 

そんな中、一機の輸送ヘリが向かってきていた。

たった一機で戦意もないようなのでセルも横目で見る程度だった。

そのヘリは武道場の真上まで来ると、着陸を待たずに数人程飛び降りてきた。

颯爽と現れた中の1人が親指を出し、首を切るような動作で相手を挑発する。

 

 

「...誰なんですか...アイツらは?」

 

「...さぁ、オラにもわからねぇ。」

 

「...僕も...。」

 

「俺も知らない...。」

 

「...。」

 

「誰も知らないか、あの背の高い男はミスターサタン。

世界格闘チャンピオン...あんな感じでも根はいい奴なんだ。

他の取り巻きは...知らん。」

 

 

彼らはミスターサタン軍団、ミスターサタンと門下生であるピロシキとカロニーだ。

彼らはヘリに同乗していた報道陣を近くまで来るよう促し、全世界に向けて"勝利宣言"をもう一度やり直す。

クリリンはとりあえず死なないように自生を促そうとしたが、ラディッツが止める。

ここから先は長くなるので要約させて頂く。

 

まずは二番弟子であるイケメンカロニーが挑むが遠くに飛ばされ、一番弟子のピロシキが立ち向かうも同じく遠くに飛ばされる。

チャンピオンベルトを外し、瓦割りをして「この瓦が5分後のお前の姿だ。」と言い放ち、数々の攻撃をするもビンタ一発で戦線離脱。

本人曰く"足が滑った"だそうだ。

 

 

「お...終わりなんでしょうか。

地球防衛軍も壊滅し、ミスターサタンまでもが場外負け。

この地球はセルによって蹂躙されてしまうのでしょうか!?」

 

 

絶望的な実況を続けるアナウンサーを他所に、セルは仕切り直す。

 

 

「さて、茶番劇はこれまでだ。

これより、セルゲームを開幕しよう。

まずは誰から相手をしてくれるのかね?」

 

「まずはオラからやらせてもらおう。」

 

「悟空さん!?

いくら何でも...。」

 

 

サタン軍団の件はさておき。

制止の言葉を口にするトランクスだが、歩みを止めずにセルに相見える。

セルもまさかこの男がいきなり出てくるとは思わなかった。

ドラゴンボールの無い今、死ぬ事も許されないであろうから先んじて戦闘力の低い者が死なない程度にスタミナを消費させダメージを蓄積させ、望みの孫悟空に繋ぐのが適当な戦術であろう。

 

 

「いきなり貴様からか。

一番の楽しみは最後に取っておきたかったのだがな...。」

 

 

 

悟空のその構えの無い体から爆発的に吹き上がる黄金のオーラ。

その猛々しく吹き上がる気のオーラは、心の高揚感をそのまま具現化したような勢いだ。

対するセルも絢爛たる黄金色のオーラで応える。

セルの細胞やフリーザ族の細胞も混同している為、黄金色の中に紫の禍々しい色が度々チラつかせる。

 

 

「来い。」

 

 

沈黙の口火を切ったのは悟空。

正々堂々。

武道家の精神か、戦闘バカか、どちらかの潜在意識が働き真正面から仕掛ける。

対するセルもサイヤ人特有の戦闘意識が色濃く反映したか、真正面からその拳を放つ。

互いの拳が互いに触れる間際に二人の姿がステージより消え去る。

あまりの速さに実況を始めていたアナウンサーとカメラマンらは右へ左へ視線をやるが、肉と肉が激しくぶつかり合う鈍い音を拾うだけで何も見えない。

 

 

「流石悟空さんだ。

無駄な動きなんてひとつも無い。」

 

 

他の五人はレーダーや気を追って二人の激闘を捉えていた。

互いの拳を空いた手で受け、もう片方の手は相手の顔面のすぐ手前で受けられる。

そんな拳の応酬が一瞬の内に数十回も行われたのだが、どちらにも全くダメージとしての一撃はまだなかった。

 

 

「そらっ!」

 

「っ!」

 

拳のみであった応酬だが、ここで悟空は変化を使う。

姿勢を崩し、相手の拳をかわしながらのニールキック。

セルは変化技をかわすまでには至らなかったが、次点に放つ拳を太腿に当てて相殺。

崩されていた態勢の中、間髪入れずに土手っ腹に膝蹴りをお見舞いし打ち上げ、先回りし両手でステージへと殴り落とし、追撃の為後を追う。

ステージに手をついて追撃をかわし、反撃とも言える浴びせ蹴り。

反撃を予想しカウンターパンチを仕掛けていたセルだが、リーチの長さにより蹴りを顔面に受けることとなり、地面を二度跳ね着地する。

対する悟空も、浴びせ蹴りから距離を取りながら大きく後方に飛び退いていた。

 

 

「フフフ。」

 

「へへっ。」

 

「...ミスターサタン、もしかして彼らは物凄く強いのでは?」

 

「.....ガーッハッハ!

よ 予想以上に動けるようだが、今の動きが精一杯だろうな!

今の蹴りを見てればすぐに分かる!」

 

 

最後の浴びせ蹴りだけかろうじて見えた一般人達は置いて置かなければならない。

何故ならばこれは二人にとって様子見程度...互いの力量を測るためのジャブにもならないからだ。

 

 

「準備運動はこれくらいでいいだろう。

(孫悟空...流石に戦い慣れている。

他の奴よりも一味も二味も違う...。)」

 

「そうだな、そろそろ本気出してっか。

(こいつは想像以上だ。

ちょっとでも力抜いたらあっという間にやられちまう。)」

 

構えを一度解くセル。

悟空も同じく両手を下ろす。

ただしそのリラックスした状態は5秒も無かった。

ここからの戦いは凄まじいものとなった。

悟空の本気は一撃ごとに空気を震わせるも、決定的な有効打は打てず。

対するセルも有効打を打てずにいた。

唯一の決定的な一撃は完全に虚をついた瞬間移動かめはめ波。

チート技とも揶揄されるこの技...大抵の相手には致命的でほぼ確実に当たる。

その言われようの通り、初見で真正面からいきなり放たれたかめはめ波に反応できる訳もなく、セルの上半身は消え去った。

通常の相手ならこれにてめでたしめでたしなのだが、セルの細胞には再生能力を持つピッコロの細胞も取り込まれていることを覚えているであろう。

下半身は軽く跳ね、上半身は復活し、

 

 

「私の頭には身体中に移動が出来る核がある。

こいつが無くならない限り、どれだけダメージを負っても再生可能なのだよ。」

 

 

というこちらもチートとも揶揄される事実を告げる。

想像以上の実力があり、戦闘狂の血が騒いだセルは"場外負け"というルールで終わらせたくないとステージを完全に破壊する。

再生後体力が削れたセルに猛攻を仕掛け、勝負が着くかもしれなかったが、孫悟空を徐々に追い詰めていく。

 

 

「どうやら、隠していた実力に大きな差があったようだな?

仙豆とやらを食うがいい、サイヤ人の特性で多少は戦力が埋まるかもしれんぞ?」

 

「いや、いい...めぇった!

降参だ!

オラはもうやめとく。」

 

「何っ!?」

 

 

いきなりの降参宣言によりラディッツを除く全ての者が驚嘆する。

唯一の希望である男の降参。

未だに本気を出ていないであろう父の降参。

殺害対象のらしからぬ潔い降参。

トリックでなければ自分では訳の分からない技を繰り出す謎の金髪男。

まだまだやれるであろうと思われた為に衝撃は大きい。

 

「降参宣言です!

謎の金髪男、善戦はしましたがやはり立ち向かえるのはミスターサタンしかいなかったようです!

いよいよ次はミスターサタンのリターンマッチとなります!」

 

 

ステージを破壊された時にカメラは使い物にならなくなったので、マイクのみサタンに向ける。

だがマイクが拾った音源は、「き...急に腹痛がぁぁぁ。」と体調不良を訴える世界チャンピオンの声だった。

 

 

「孫悟空...その言葉の意味、よく分かっているのか?」

 

「もちろんだ。

だけど勘違いすんな、まだ戦う奴はいる。

...悟飯、おめぇだ!」

 

 

この言葉にもラディッツ以外の者は驚愕する。

全く動揺を抑えられないセルを尻目に悟空はステージのあったところから悟飯の元へ。

 

 

「悟空、お疲れ様。」

 

「サンキュー。

さぁ、次はお前の番だ。

思いっきり行ってこい!」

 

「待ってください悟空さん。

俺は...悟空さんの考えがわかりません。

悟空さんがそのまま戦えば、きっと勝てたはずです!」

 

 

その言葉は悟飯の隻腕(ハンディキャップ)の事もあるが、師を二度も失うかもしれないという払拭出来ない不安から来るものが大きかった。

比較的有利な状態であったのにも関わらず、みすみすチャンスを逃すのはいい判断とは言えない。

 

 

「悪いな、オラはもうめいっぱいやってたんだ。

この先はさっき程の勝負は出来ねぇ。

だが悟飯、お前ならやれる。

学者さんになりたいんだろ?」

 

「けど父さん、トランクスさんの言う通りそのままやっていれば勝てていたかもしれない。」

 

「悟飯、お前は父さんの試合を見ていてどう思った?

まだ実力を隠しながら戦ってたと思うか?

限界までパワーを出して戦ってたと思うか?」

 

 

悟飯は前者を選んだ。

冷静に見ていて、セルも父も全力と言いながら小手調べのような戦いを行っていたと思っていたからだ。

それ故に実力を出さないうちに交代するのに驚いていたのだ。

 

「あの戦いはもう限界ペースの戦いだったんだよ。

俺の目にもそう見えた...と言うか俺ですら界王拳使いながらじゃなきゃ追いつけない戦いだった。

悟飯は手を抜いていたと見えたがそれは違う、お前の実力が高いからそう見えたんだ。」

 

「怒れ。

奴はこの星をめちゃくちゃにしようとし、未来を奪おうとしてんだ。

お前が怒って戦えば敵無しだ!

平和な世の中をアイツから取り返してやれ!」

 

「...はい!」

 

 

悟飯出撃。

以前より遥かに頼もしくなった背中を悟空は見届ける。

ラディッツはおもむろに巾着から仙豆を出す。

悟空はそれを受け取り、セルに手渡そうとするもクリリンとラディッツに全力で止められ、自身の喉に強引に押し込められる。

 

 

「悟空、お前何考えてんだ!」

 

「お前息子を追い詰めたいのかバカチン!」

 

ふぇいふぇいおうおうをををっふぇお。(正々堂々と思ってよ。)

っふぇふぁはふぁふぃへふふぇお!(ってか離してくれよ!)

 

 

ただ悟空がどれだけセルのスタミナを減らせたかどうか...

未だに傷一つすら付いていない体を見れば期待はあまり持てない。

割程の力は残っていると思えよう。

 

 

(さてと、とりあえずこれで頭数は足りないが原作通りに持ってきた。

...あとはここからだ。

これまでサイヤ人編、ナメック星編と必ず余計な奴が出てくる。

既に13号が出てきたから問題無いとは思うが...絶対に油断するもんか。)

 

 

悟空を回復させ、残るは悟飯とセルジュニアさえ来ればなんとかなるはずだった。

最初に異変に気づいたのは悟空、その後1秒と経たずにラディッツが気づく。

セルよりも気は小さいが、比べ物にならない禍々しい気を放つ何か(・・)が接近してきた。

トランクスやクリリン・16号、そして悟飯やセルも注視する。

そいつはついに堂々とセルゲーム舞台上へと図々しく降り立つ。

 

「ククク、待たせたな。」

 

 

その者は誰しもが想像してもいなかった。

悟空やラディッツ...セルですら言葉が出なかった。

 

 

「初めまして...いや、久しぶりだな。」



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ドッペルゲンガー

思ったんですが、描写や台詞回しを文字にするって凄く難しいですね。
本でも読もうかしら...(今更感)

誤字脱字修正済み R2 1/12


セルが二人...信じ難い目の前の現実に目を背けたくなる。

だが何度見直そうが、目を擦ろうが、確かにセルが二人いる。

まずラディッツが疑ったのはセルジュニアだった。

だがセルジュニアがこんな流暢に平然と会話が出来るか?

そもそもセルジュニアならもっともっと全体的に小さくてはならないと思うとその考えはすぐに消えた。

次に考えついたのはセル兄弟説。

Dr.ゲロのコンピュータが密かに2体目を作っていた...セル本人にも知らせずに。

そしてタイムマシンでこの時代へ...。

だが未来から来たのであればタイムマシンが2台あるとは思えない。

未来ではタイムマシンを作るのに設備も資源も枯渇していたのだ。

エネルギーでさえ往復分作り出すのに時間が掛かっている。

この考えもイマイチだ。

...だとしたら何か?

 

 

「貴様...一体...Dr.ゲロは何をしたと言うのだ?」

 

「わからないか?

では...これならわかるか、バイオテクノロジー型人造人間。」

 

 

急に新しく来たセルの声色が変わる。

その声を聞いたのは四人...セル・16号・クリリン・ラディッツだった。

声の主は数日前に完全体となったセルに叩きのめされたはずだった。

 

 

「何故貴様の声がする、13号!」

 

「覚えていてもらって光栄だ。

だがもう13号では無い、私はこの時代のセルだ。」

 

 

思考が誰もついていけなかった。

理想のリアクションを得られなかったため、1から丁寧説明し始めた。

完全体セルに敗れた13号は停止寸前になりながらも研究所に帰還し、修理を開始する。

更なる強化を模索していた最中に最新の情報をコンピュータに入れ込む。

その新たなるデータを元に、完全体セルに匹敵...超越する力を得る為にコンピュータが叩き出した答え。

それは13号自らが現在作成中であるセルとの融合を行えば、この世に並ぶ者のない究極の存在になれると言う答え。

あの生命体を超えるためにこの時代のあの生命体に溶け込む...皮肉にもベースは現代のセルを元にしなければならないと。

大いに迷いはしたものの、13号のデータと骨格を取り込ませるようにして完成にこぎつけたようだ。

 

 

「貴様の細胞は、私がダメージをおった時に付着した細胞片を培養液で増幅させた。

セルゲームまでの期間が10日間もあったのも幸いだった。」

 

「なるほど、この時代の私がかなり早期に現れたのはその為か。

...だが貴様は焦ったな、あまりに早すぎて戦闘力は私と比べ物にならない。

いくらこの時代の人間共を吸収したところで私には追いつけまい。」

 

「そうだな...()()()()()()勝てないだろう。

だが、それを解決するアイテムがいくつかある。」

 

 

最初から握られていた左手から、1つのカプセルが出てきた。

この世界での携帯型収納カプセル...ホイポイカプセルだ。

ボタンを押し空中へ放ると、PON! と小気味よい音とともに何かが現れ、地面に落ちる。

その一つ一つを見ればただのゴミにしか見えない。

こんな訳の分からないがらくたが何かの役に立つとは思えないと悟飯は思うが、完全体セルにとっては見覚えのあるものだった。

 

 

「なんだ、何を出したんだ?

誰か見えたか?」

 

「全然見えねえよ。」

 

少し離れたラディッツ達にもその光景は容易く確認出来るが、カプセルから何が出たかまでは分からなかった。

ピッコロがいれば超聴力や高視力で判明するかもしれなかったが...その役割は今回は16号が担う。

 

 

「...エネルギー炉とデーターチップ!」

 

「え?

そんなものが一体?」

 

「なんだそりゃ?」

 

「エネルギー炉とデーターチップ...?」

 

 

この会場で咄嗟に意図に気づいたのはいないだろう。

それが分かるのは13号を取り込んでいたセル本人と、その13号を破壊した完全体セルにしかわからなかった。

 

 

「...そうか、人造人間14,15号のエネルギー炉とデーターチップか。」

 

「ご名答。

流石未来から来たとか言う私だけあるな。」

 

 

データーチップはセルの両こめかみから頭部に、エネルギー炉は両胸からじっくり味わうかのようにゆっくりと飲み込まれる。

この光景を過去のデータから予感した16号は咄嗟に叫ぶ。

 

 

「孫悟飯!

今すぐ離れろ!」

 

「え...えっ!?」

 

 

寡黙だった16号の渾身の叫び声に咄嗟に振り向く悟飯。

その背後でセルと瓜二つだった体がゴキゴキと音をたてて変型していく。

その異様な音をあげると共に肥大・巨大化する身体に比例するかの如く、気の大きさも一段...一段と上昇していく。

あまりの異様な光景に、16号の言う通りに距離をとる。

Z戦士達も少し離れていたが、更に距離をとる。

 

 

「再び待たせたなァ。

これが俺の真の姿だ。」

 

 

合体13号の質が大きく関わったのか。

第三形態のセルの身体は大きく筋肥大し、凄まじいパワーを感じ取れる。

あまりのパワーに顔の輪郭すら変わってしまっていた。

しかしそれは、原作のパワー重視の形態と非常に酷似していた。

この形態なら気の大きさも、パワーも圧倒的にセルを超えている。

...が、その事実を認識しているのは完全体セルのみと、ほんの少しだけ覚えているラディッツくらいだった。

 

 

「...それが貴様の?

...正直に言おう、落胆した。」

 

「落胆したか、このパワーなら貴様をぶちのめすのは容易ィ。」

 

 

セルの落胆ぶりは声色からも伝わってくる。

時代が違うとは言え、自分が目の前の敵のパワーを上回る事にしか頭になく無用な筋肥大化に頼った形態を遂げている。

戦いとは単なる力だけのものでは無い。

力、速さ、頭脳、駆け引き、戦法、運と様々あるが、どれかが突出してるだけで勝てる相手では無いのは明白だ。

相手に勝つために相手に勝る点があればとことん突き詰めてしまえば勝てると思うのは傲りである。

 

 

「私は生物機械融合(トランスヒューマノイド)型セル。

貴様が人造人間17,18号を取り込んでいたように、私も人造人間13,14,15号を取り込む究極の人造人間だ。

まさにこの身体こそ、生命と機械の融合...そして双方の利点を合わせ持った人造人間。

貴様が()()()をなのるなら、私は()()()()()()と豪語しよう。」

 

「言いたいことは終わったか?

私のゲームに割り込み場を乱したのだ。

...それ相応の代償は払ってもらうぞ?」

 

 

突如として完全体セルが消える。

対する究極体セルは一歩として動くことは無かったが、太い腕を振りかぶり右側を大きく振り抜く。

そのパワーは砂塵や塵を簡単に数十メートル彼方へと吹き飛ばす。

そこまでのパワーではあるが、完全体セルを掠めるまでにも至らない。

 

 

「フフフ、究極体の私とやらよ。

そんな大振りでゆっくりした攻撃なら何億年掛かっても私には当たらんぞ?」

 

「ブハァッ!!」

 

 

挑発するかのように完全体セルは目線を合わせるように逆さになって真正面へと現れる。

スピードでは圧倒的どころか、まるで勝負にならないと言わんばかりのその言動を潰すように頭突きで応えようとしたが、またしても虚しく空を切る。

その風圧でセルゲームの支柱の瓦礫が粉々になって地平線まで吹き飛んでいったが、セルの眼中には入ってはいなかった。

 

 

「スピードだけは自信があってね。」

 

「これでも本気ではないのだよ。」

 

「そうだな...あえて何割かと言えば。」

 

「これで6割というところか。」

 

『 究極体セルとやらよ、どうする?』

 

 

多重残像拳...これは孫悟空の技である。

だがあまりの速さに残像に全くブレがない完成度だ。

そんな残像が10体ほど、究極体セルを取り囲むように腕を組んで立っていた。

 

 

「ククク...はーっはっはっは!

落胆したのは私の方だよォ?

その程度のスピードで6割か...ならばこちらも、パワーとスピードを6割程で攻撃してみようかァ。」

 

 

究極体セルの輪郭がゆらりと動き始める。

然も準備運動であり、本来の動きとは言えない始動だ。

完全体セルもそれは察知していた。

 

 

(小手調べといこうか。)

 

 

そう思った矢先だった。

いくつもあった残像のひとつに尻尾で叩く。

究極体セルの尻尾は完全体のように収納されず、第一・二形態のように伸びている。

その代わりに先端は普通の尾のようになっており、何かを吸収・放出が出来ないようだ。

そんな尻尾を用いた攻撃は予想に反して完全体セルの左肘をあっさりとへし折った。

 

 

「おやァ?

少し力加減を誤ってしまったかな?」

 

「...いい気になるのは早すぎないか?

本気を出していないのは貴様だけではないのだよ。」

 

 

不条理に曲がった関節を二の腕から千切り取り、ピッコロのように再生させる。

二人とも息も上がらずに不気味な静けさの中立つ。

千切った腕を投げ捨てる。

ポトリと音をたて落ち、その音こそ再戦の起点となった。

ニヤリと片側の口角を釣り上げて笑う究極体セルが、猛然と完全体セルに殴り掛かるが、巧みにその拳を捌く。

 

 

(む...硬い!

そして反応速度も!)

 

 

互いに拳の応酬となり、徐々にその速度が速くなっていく。

その速度に耐え切れず、1発の拳が数々の戦士達が混在化された隆々たる腹の鳩尾にめり込む。

 

 

「ぐほぉっ!」

 

 

襲いかかる嘔吐感を飲み伏せ、完全体セルは空いている方の掌に気を収束させる。

放たれた数発のエネルギー弾は究極体セルの顔面に炸裂する前に尻尾で防がれてしまった。

カウンターがほんの少しのダメージで終わった直後、

鋭い膝蹴りが完全体セルの顎をかち上げる。

脳が激しく揺れほんの一瞬ではあるが、彼の意識が暗転する。

そして続けざまに究極体セルの右ストレートが頬骨を砕く。

度重なる攻撃に体勢は崩れ、大きくバウンドしながら錐揉み回転で近くの山へと突っ込んだ。

 

 

「おっとイケない...復讐心が若干先行してしまったようだァ。

さぁて...早く戻ってこイ。

()()セルゲームはまだおわってはおらんぞ?」

 

 

 

土煙で見えない山肌だが、地面に落ちていく岩石の大きさが衝撃の大きさを物語っていたが...

 

 

「...ほゥ?

気が上がっていく。

そうだァ...そうでなくてはつまらないからなァ。」

 

 

顔を歪めるようにして笑う究極体セル。

自分の力で、完全体セル(ヤツ)を捩じ伏せ、自らが最強である証明をする。

それがセルの望みと意思すらも吸収した13号達の望みを同時に果たせるのだ。

その思考が一瞬電脳内を駆けたが、思考は別の方へ向けられる。

爆音が届く前に崩れた山肌から超高速で抜け出た完全体セルが雄叫びを上げながら、矢のように突っ込んでくる。

彼から溢れるオーラは一回り肥大し、金色の色も更に色濃くなる。

完全体セルの全力の飛び蹴りが究極体セルの頬へとめり込む。

 

 

「貴様の実力は大したものだと認めよう。

だが、私が本気を出せば簡単に片付けられる。

13号と同じようにスクラップにしてやろう。」

 

そのまま背後に回り込み、首に腕を絡みつけるように腕を滑らすと、満身の力を込めて締め上げる。

 

 

「ぐ、うむぅぅぅ...ふ ふふ...クックックッ...。」

 

 

想像以上の怪力に、思わず口から苦悶の声が漏れるが、

すぐに苦しげな表情は消え失せて薄く笑い始める。

圧倒的な不利な状況での不敵な笑み。

この状況で笑うと言うのは常識では考えられない。

それを見て、逆に不機嫌な表情となるのは完全体セルである。

ギチギチと締め付けるパワーを更に強め、究極体セルの意識を絶とうとする。

 

 

「フ...フハハハハハ!

この程度のパワーで俺を倒せると思っているのかァ?」

 

「強がりを言ーーー!?」

 

 

 

締め付けている右腕の根元。

肩甲骨辺りにザクリと音を立てる衝撃。

思わず究極体セルを手放してしまう。

 

「き...貴様っ!」

 

「あまりにも背後に隙があったのでなァ。

デスソーサー!」

 

 

その瞬間、先程までの熱いような痛みが嘘のように途絶える。

それは自らの肩から腕にかけて切断された事に気づくのに時間は要らなかった。

そして突如として腹部に突き刺さる自身の倍の大きさのある拳。

そして背中には吹き飛ばないように右手まで添えられていた。

それが左右を変えて2回続く。

全ての動きを認識出来たのは全て事後である。

 

 

「~~~~っっっ!!

グヌル.......ボロォォオォオ!」

 

 

嘔吐。

胃の内容物があっという間に吐き出てしまった完全体セル。

内容物と言っても消化中の物のものではなく、自らに取り込んだと思われた18号だった。

たった2発で凄まじいダメージを受けた挙句、18号を吐き出してしまったのだ。

 

 

「ゴホゴホオエェェ...ッ...カハァッ...。

ぬァ、何だとぉ!?」

 

「おやおやァ?

完全体セルと言う割には随分と弱々しい。

そんなものかね、完全体とやらはァ?」

 

「ぬぅ...この私の力を思い知れい!!」

 

 

第二形態になってしまったセルだが、自らの気を最大限に上げて殴り込む。

その時を狙って、クリリンが18号を救出に動く。

意識は無くグッタリしていたものの、脈がある為安堵する。

遅れてやってきた16号ラディッツと共に、離れた所まで連れていく。

だがセルはそんな事にも気づいていなかった。

それどころか、18号を吐き出してしまい、体格も変わり果ててしまった事にも気づいてなかった。

 

 

「ブルルゥアアアアッッ!」

 

 

乱れのない正確な攻撃は寸分狂わず、確実に究極体セルの顔面に命中する。

ただし命中とダメージが比例する事は無い。

自分が絶対強者という自信を挫かれた焦燥感に支配された思考はひとつの結論を導き出してしまう。

 

勝てない

 

相手が圧倒的な強さを得て、攻撃がまるで効いていない。

本来は自身のパワーダウンなのだが、その事実に気づけていない程冷静さを欠いていた。

今の攻撃は相手を倒すという意味での攻撃のつもりだが、どちらかと言えば追い詰められた生物が行う最後の抵抗のような気がして余計に焦る。

そんな悪循環に陥っているも、究極体セルの無防備な身体に攻撃を当て続ける。

 

 

「フッフッ、完全体セルとやらよ。

数日前の自信はどこォへ言ったのだァ?」

 

「~~~~ッッ!!」

 

 

絶対的な自信がへし折られ、徐々に追い込まれていく。

この時点でやっと、自分が完全体から第二形態に退化していた事にも気づいた。

追い詰められた...この感覚は実は初めてではない。

身体が...細胞が...DNAがそれを記憶していた。

宇宙一の絶対的な支配者。

力も影響力も、悪と言われながらもカリスマ性も自負していた自分がじわりじわりと追い詰められていくその記憶が、潜在的な危機意識として現れていた。

様々な細胞を取り入れる事によって完全な生命体となった身体が、その細胞によって徐々に身体が強ばっていく。

そんな中、あるひとつの戦術がふと湧き出た。

相手はよほど自分に集中している、ならば間接的な攻撃ならば有効打になると考え、殴り続けていた腕の動きを止める。

 

 

 

「...究極体セルとやらよ、確かに貴様は私よりも遥かに強い。

認めざるおえないだろう。

だが、そんな貴様は受け止めることが出来るかな?

私の全力のパワーを。」

 

 

ゆっくり浮上し、気を限界まで引き上げていく。

第二形態セルの周りは黄金のオーラが湧き上がる。

第二形態ではあるが、嘘偽りの無い正真正銘の本気をぶつける様子が伺える。

対する究極体セルも強者の余裕と言わんばかりに何もせず仁王立ちするだけだった。

 

 

 

「おいふざけんな!

そんなの撃ったら地球が無くなる!」

 

 

この状況に大慌てなのはZ戦士達だ。

宇宙空間でも生きていられるあの二体なら問題ないが、彼らは酸素が無いと生きていけない。

というかその前に地球の爆発エネルギーで自身らが消し飛んでしまう。

 

 

 

「実力は認めよう...だが勝負となれば話は別だぁっ!!

ギャリック砲!」

 

 

 

不意をつくギャリック砲。

それが究極体セルに向けてなら全く不意なのではなかったのだが、真下に撃てばそれも不意になる。

突然の凶行、それはかつて帝王フリーザがナメック星を葬る際に用いた手段と皮肉にも酷似する事となる。

予想外の事態に、爆発に巻き込まれたら死ぬことも忘れて戦士達は地に伏せる。

この星の消滅に究極体セルを巻き込もうという算段...空中にいる自分は何とかシールドを張って生き残ることが出来るが、地表にいる究極体セルは爆発は免れないだろう。

戦いには敗れたかもしれないが、生死を賭けた勝負という点では完全勝利するという考えだ。

 

 

「クソ...よもやここまで私が追い込まれるとはなぁ...。」

 

 

シールドを張りながら一言呟く。

そして下を見る。

...おかしい。

爆発するはずの地表はまだ何も変化が起きていない。

目を見開いて更に真下を見る。

そこには無傷の地表と無傷の奴がいた。

 

 

「これくらいの事で勝ったとでも思っていたのかァ?

つくづく哀れなァ。」

 

 

言葉が出なかった。

周りの景色の色彩が消えていき、音すらも聞こえなくなっていく。

代わりに、自身の体の感覚が際立って感じるようになる。

頭から血の気が引いて目がクラクラする。

先程までの高揚的だった胸の鼓動も、やけに大きく音を立てる。

汗も滲み出てきた...。

戦っている最中に考えついた、奴を討つ最適の方法だったのだが、こうも簡単にくじかれるものなのか。

 

 

「地球の爆発にィ、私を巻き込もうと言う算段か。

悪くは無い、むしろいい考えだったが...相手を間違えたようだなァ。

その健闘の賞賛はこれでいィかな?」

 

 

究極体セルから放たれる紫状の光線。

先程のギャリック砲がシールドを張った第二形態セルに向かっていく。

即座に球体だったシールドを前部に集中させ、全力を持って抗う。

だが残念な事に、いとも簡単にシールドにひびが入り、次の瞬間には上半身が消し飛ぶ結果に終わった。

力なく地面に墜落していく下半身。

地球の消滅は免れたものの、胸を下ろす結果にならないZ戦士達は固唾を飲んで見守るしかなかった。

 

 

「再生シろ、貴様の猿芝居なんぞくだらん。」

 

「.......ゥゥゥううう.....ちいいいくしょぉぉぉぉおおおお!!」

 

 

上半身がせり上がるように再生した第二形態セル。

いよいよ打つ手が無くなったのか、大声を上げて地団駄を踏む。

地面は裂け、瓦礫が空を舞おうとも激昴は収まらない。

 

 

「ちくしょーーー!!

ちぃぃくしょおおおおっ!!」

 

 

ボコんと身体が大きく膨らむ。

その時は不意に訪れてしまったのだ。



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心が折れた時

あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。
ブロリーの映画を4DXで見て大満足だったんですが…この物語からすれば……汗

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肥大に次ぐ肥大。

時間の経過と比例するように巨大化するセルの身体は、どんどん戦いに不向きな程肥大化する。

自暴自棄になってパワーに任せた変身では無い。

自暴自棄になって究極体セル(あの野郎)と地球と心中するつもりである。

 

 

「グフフフフ。

これをまともに食らって助かると思うか?

これなら...いくら貴様とてタダですむはずがない。

確実に道連れだ…。」

 

 

流石にこの状況を打破するのは難しい...がやれない程ではない。

デスビームで核を撃ち抜けばそれで終わり。

そう考え、指にエネルギーを溜めようとした時だ。

 

 

「おおっと、妙な真似をするなよ?

地獄に行くのが早くなる。

貴様が何かしでかせば、私は私自身のトリガーを引くぞ?」

 

 

相手は自分、考える手は読まれていた。

そうなれば残る手段は最大エネルギーを使ってバリアを張るしかない。

相手の戦闘力と自分の戦闘力を比べ、爆発エネルギーも考えても無事に済むとは思えないが。

 

 

「なんという事だ…。」

 

 

1番窮地に追い込まれたZ戦士達。

彼らが如何に抵抗しようが、爆発は免れない。

地球が無くなる運命=彼らの運命 でもある。

何も出来ない…それ以上の言葉がない。

 

 

「クソ...恨みますよ、自分の力の無さを!

未来も変えられなかったから...過去に来たのに.....。」

 

 

ガクリと座り込むトランクス。

悟飯も16号も言葉を発しない。

クリリンも18号を抱えて為す術もなく地面にへたり込んでいた

唯一思考を辞めなかったのは悟空と、それを察する事しか出来なかったのはラディッツだ。

 

 

「.....やっぱこれしかねぇか。

うん、そうするしかねぇな!

...あとは頼めるか()()()()。」

 

「...とても任せろとは言えんが。

やる気か.......すまん.....。」

 

 

それだけ聞くと、振り返りもせずに悟飯の近くへ行く。

こんな形でまさか悟空との別れになるとは思わなかった。

確かにこの場面なら()()なるのだが、()()なった時に残る敵は最強の人造人間。

心の支えとなる主人公がここでリタイアするのは精神的に辛いものがある。

孫悟空という存在があるだけで希望が持てるのだが、失った時の負担は全て自分達が補わなければならない。

 

 

「悟飯、おめぇに父ちゃんから頼みがある。」

 

「えっ?」

 

「怒れ、自分自身の思いを全て出し切って戦うんだ。

力の限り、思いの限り出し切れば...オラの見立てなら、この地球で一番強ぇんのはおめぇだ。

...父ちゃんのいない間、チチの事頼んだぞ。」

 

「待って、父さん!」

 

 

爽やかな笑顔を残した父親に、触れることは出来なかった。

ゆっくりとではなく、いとも簡単に一瞬で消えてしまった。

消えた存在はすぐ近くに現れる。

だが孫悟飯の近くではない…今にも爆ぜそうなセルの隣である。

 

 

「地球が無くなるとオラ達おっ死んじまうんだ。

すまねぇけど、場所を変えさせてもらうぞ?」

 

「何ぃ⁉︎

ちぃいいくし。」

 

 

次の瞬間には悟空とセルは消えていた。

一部始終を全て見た悟飯は崩れ落ちる。

父親と言う特別な存在が...逝ってしまった。

隻腕になろうとも折れなかった心が折れる感触を残した。

いくら体を鍛えようと、強くなろうと、大切な人が死ぬと言うことは心に深くダメージを与える。

 

 

「孫悟空とやらはァ、私を満足するに値しないだろう。

完全体セル(ヤツ)よりも強くは無いのだからなァ。」

 

「そうだろうな.....。

お前を…倒すだろうな!」

 

 

ふと地面から声が浮いてくる。

正確にいえば、下から声がしたのだ。

一時は収まっていた黄金のオーラは再び燃え上がり、青い瞳に闘気が戻る。

折れた心は首の皮一枚残して復活を遂げる。

 

 

「...父さんは俺よりも強い。

それを証明するにも...この世界の為にも...未来の為にも...俺はお前を倒す!」

 

「大きく出たなァ、孫悟飯。

口でなら何とでも言える。

遠慮は要らん、掛かってこイ。」

 

 

 

父親の自らを犠牲にするという英断を無駄にする訳にはいかない。

地球の消滅が無くなった...あとはこの怪物(究極体セル)を倒せば父の行為は報われるのだ。

ほんの少しだけザワつく黄金色の髪。

超サイヤ人の特徴である青い瞳が、より青く、怒気を帯びた眼差しを放って、少年は立ち上がる。

僅か数秒の停滞の後、衝突する二つの影。

空中で交わり、やがてすれ違って降り立った究極体セルと、地面に突っ伏す悟飯。

 

 

「ふゥム...貴様は先程消された私よりも楽しませてくれそうだなァ。

今の一瞬のやり取り、評価に値するゾ?」

 

 

残っている片腕でも跳ねてやるか と軽く考えていた究極体セルの考えは一瞬で変わった。

すれ違いざまに自分の胴に二発の蹴りを入れ、態勢を崩しながらも手刀を躱しきったのである。

これはいい対戦相手(オモチャ)であると思った究極体セル。

対する悟飯は攻撃が上手くいった事に酔いしれてはいない。

今はたまたま相手が子供で隻腕と言うハンデが明確だったから手を抜いたものの、渾身の蹴りがダメージとして相手に認識されてないどころか、新しい玩具でも見つけたのかのような視線を送ってきているのだ。

戦慄と共に明確な死を悟る。

これ以上の戦闘は得策ではない...が、そう簡単に逃がしてくれるような相手でもないし逃げるつもりも毛頭ない。

 

 

「どうしたら...。」

 

 

攻撃の口火を画策するが、突然湧き立つような恐怖とプレッシャー。

目の前の究極体セルとはまるで見当はずれの所から桁外れの気を察知し、悟飯は思わずその方を振り返る。

先程には無かった土煙が立ち上り、姿が見えない。

 

 

(新手!?

...いや、気を感じなかったし近づいてくる様子も無かった!

ラディッツさん達の気でもない!

何っ!?)

 

 

土煙で見えないが何か光った。

本能的に何かを察知した身体が、脳からの危険信号を受ける前に跳ねるように横方向へ体を拗じる。

その空いた空間を貫く光線は、まっしぐらに究極体セルへ向かい風穴を開ける。

 

 

「おやァ?

生きていたのか?」

 

 

開いた風穴を造作もなく修復し、若干気を良くする。

土煙が晴れるとその意味も良くわかるようになる。

孫悟空の瞬間移動で、自爆を妨害され犬死にしたと思われたセルが戻ってきたのだ。

それもただ戻ってきた訳でない。

何があったのかはわからないが、完全体...いや、パーフェクトセルに進化した状態で戻ってきたのである。

 

 

「この私もこれは誤算だった。

運がいい事に、核が傷つかなかったのだ。

更に幸運だったのは、サイヤ人の細胞とやらでよりパワーアップして帰って来れたところだ。

しかも、孫悟空の瞬間移動まで会得してしまった。

奴は地球を守る為に死んだが、私に色々と冥土の土産を置いて行ってしまったようだ。」

 

「ほウ、それはそれは結構。

だがそれでも私の勝利に揺るぎはないな。

悪いがァ...()()()()()()()()()()()()()()()()のだァ。」

 

 

それを聞いてセルは眉をピクリと動かす。

自分には認識出来ていない弱点...虚勢では無いのは読み取れる。

問題なのは、その弱点が自分で阻止出来るのか否か。

 

 

「ふっ...弱点は誰にでもあるものだ。

もちろん貴様にもあるだろう!」

 

 

その身にから発せられる威圧感は完全体のその時よりも遥かに増している。

しかしそれ以上の禍々しい覇気を放つ究極体セルの姿は、巨人よりも大きく幻視してしまう。

それでもなお挑むセル。

鈍い風切り音を響かせ、セルの一撃が究極体セルの脇腹辺りに直撃。

突風に吹かれた布のように飛んでいき、遥か向こうの岩壁に激突し、大きなクレーターを作り出すと、その身を瓦礫に沈めさせた。

 

 

(素晴らしい...以前の私よりも遥かにパワーアップしている。

スピードもだ。

これは.....感謝せねばならんな孫悟空。)

 

 

自身の何倍もある瓦礫を軽く払いながら立ち上がる究極体セル。

砂塵で汚れはある程度付いたが、ダメージはあまり無いようだ。

 

 

「素晴らしい...先程よりも中々良くなっているでワないかァ。

ククク...ならばこれはァどうかな?。」

 

 

 

余裕の表情は、ニタニタとした粘液質の濃い笑み変わっていく。

ゆっくりと掲げた指はセルに向けて狙いを定める。

刹那、指先から小さな光が瞬いたかと思うとそれは弾丸の如く放たれた。

掌にもみたない微小な赤紫色の光線。

空気を切り裂くように、それは軌跡を描いて真っ直ぐセルに向かっていき、

 

 

「!?

ぬぐぉっ!」

 

 

反射的にセルは身を捩らせた。

無意識での回避だったのだが、その対応は遅かった...いや、光線の速さが異常だったのだ。

存外の速さで接近した光線は必死の回避の甲斐虚しく、セルの右肩をちぎらない程度に重症を与える。

 

 

「そらそらそらソラァ!

避けなければ本当に千切れてしまうぞォ?」

 

 

クレイジーフィンガービーム

今回の物語ではナメック星編でベジータに向けて放たれた技である。

フリーザの細胞を取り込んでいたからこそ出来る技だ。

右肩から受けた傷は、あっという間に左肩、右腕、腹、頬、耳に増えていく。

 

 

「ぐぬぬ...図に...乗るなぁぁあーっ!!」

 

 

耐え切れなくなったセルは渾身の爆発波でクレイジーフィンガービームを遮る。

光線はもちろん、まわりの雲が全て吹き飛んでしまう程の衝撃が広がる。

攻撃を退けた、反撃の時が来た。

 

 

「かかったなァ。」

 

 

セルの身体が止まる。

何が起きたのか…身動きが何一つ出来ない。

 

 

「便利な技だァ、金縛りとやらは。

こんなものまで会得している者がいるとは、感謝するぞスパイロボよ。

さァて、貴様の弱点をここで教えてやろう。」

 

 

動けない事をいい事に、セルは不気味な笑みでセルの目の前に立つ。

 

 

「貴様はDr.ゲロのコンピュータを見た事は無いだろゥ?

当然と言えば当然なのだが。

私は13号を取り込んだ時に自分の設計図を見たのだ。

人造人間13・14・15号、そして生物機械融合(トランスヒューマノイド)型の私自身...そして貴様の身体でもある元々のセルの設計図。

それヲ見た時、私は貴様の身体にある器官が備え付けられているのを見つけた。

それは胃袋にも似たようなもの...吸収した人造人間を超超圧縮してエネルギーを吸収し、自らのパワーに変換する器官だ。

...その器官のみをアる一定のパワーでダメージを与えるとどうなるか...もう既に経験しているなァ?」

 

 

究極体セルは自らの右手を握り、鳩尾にあてがう。

これにはセルは焦る。

先程二発鳩尾に受けた攻撃は、まさにその器官を探る為。

金縛りで動けない身体では、簡単に攻撃を受けてしまう。

 

 

「~~~~っっ!!」

 

「無駄ダ、私の方が遥かにパワーは上なのだ。

お前は確かに完全体かもしれんがァ、最終的な完成度としては数パーセントがいいとこだ。

そこを履き違えた時点デ、お前の敗北は決まってイタのだ。

敗者(13号)勝者(お前)よりも得られた者があったようダな。」

 

 

究極体セルは鳩尾に勝負を決める拳を撃ち込み、金縛りを解いた。

破壊された器官は吸収していた17号を体内に留めきれず、四つん這いで不快な音を立てて吐き出してしまった。

再び第二形態に退化したセルは、もう動く事もしなかった。

 

---

 

--

 

-

 

 

「みんな、聞いてくれ。」

 

 

この光景を見届け、何か手立てを考え続けていたラディッツが口を開く。

もちろん、セル達には聞こえないようにだ。

 

 

「...そんな!」

 

「なら他に何かいい手があるのか?

勘違いするな、これは戦略だ。」

 

「...ごめんなさい父さん...俺の力不足で...。」

 

「...。」

 

「俺だって出来ればそんな事をせずに何とかしたかった。

クリリン、悟飯、お前らはもう1回死んでるんだ。

...じゃあクリリン、頃合いを見て一気に行くぞ。」

 

 

孫悟空というZ戦士達にとっての大きな存在が消えた今、彼抜きでこの強大な敵を倒さなければいけない。

 

 

---

 

--

 

-

 

 

「この俺に敗れた気分はどうだ?」

 

「...。」

 

「言っておくが、自爆しようとしても無駄だ。

これからお前を殺し、残りの地球人共とゲームをするのでな。

星ごと消されたら遊べなくなる。」

 

「...。」

 

 

嫌味のように、人造人間13号の声で話し続ける究極体セル。

もはやセルに残された術は何一つ残っちゃいなかった。

完全体の状態でパワーもスピードも圧倒され、更には第二形態まで退化させられた。

唯一、瞬間移動なら対抗出来るだろうが焼け石に水すらにもならないのは明白だ。

彼に残されたのは、目の前の全く違うもう一人の自分に殺されるのを待つ...それだけだった。

四つん這いの状態からフラフラと力無く立ち上がる。

 

 

「今の貴様なら、簡単だった事が更に楽になっただろう...やればいい。

最早私は、貴様に抗えるものなど何も残ってはいない。」

 

「潔い...いや、呆気ないなァ。

貴様のプライドを粉々にした時点で13号の気も晴れただろウ。

過去の私という(よしみ)デ楽に逝かせてやる。」

 

 

両手を腰に携え、気を溜める。

かめはめ波で最後を飾ってやるつもりなのだろう。

目も虚ろになったセルにとっては、唯一倒した相手だった者の技で殺される皮肉なものだ。

 

 

「貴様には感謝をしている。

貴様がいなければ私はこの場にいなかったし、ここまで強くはなれなかっただろウ。

貴様の代わりニこの地球を破壊し尽くしてやる。

では、さらばだ。」

 

「リヒートリヒートリヒートリヒートリヒート!」

 

「太陽拳!」

 

「なっ!!

ぐぅ...。」

 

突如としてセルの眼前で眩い閃光により視界を奪われる。

彼らの勝てない相手に対する戦術でそれはこの場から逃げる事だった。

無謀とも思えるほどにほんの僅かな希望に掛けるよりも、この場を離れ逆転のチャンスを伺う方を取った。

孫悟空がいれば、どんな絶望的な状況でも覆してしまうだろう。

ベジータがいれば、「サイヤ人は誇り高い戦闘種族だ。逃げるくらいなら死んだ方がマシだ!」と一人でも突撃していくだろう。

そんな二人が死んでしまったからこそ出来る戦術でもあるが、そんな二人になれなかったからこそラディッツはそうするしかなかった。

17号を抱えてその場を離れる16号。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

念には念を入れて究極体セルに向けて主砲斉射を放ち、セルを抱えながら気を消して地を駆ける。

悟飯とトランクスも合流し、Z戦士達は上手く逃げ切った。

 

 

「...ムゥ...奴も瞬間移動のようなものが使えるのか。

少ォしばかり遊びが過ぎてしまったな。

...が、これはこれで面白い事になるな。」

 

 

誰もいなくなったセルゲーム会場跡地。

しかし、いなくなったのはまともにセルと戦える者という意味だ。

まだここにはセルを倒すであろう世界格闘チャンピオンミスターサタンとアナウンサーとカメラマンが残っていた。

いや、()()()()()()

 

 

「ミミミミスターサタン!

もうあなたしかいないです!」

 

「えっ! あっ! そ そうか!

いや! その お腹が...。」

 

「ミスターサタン、世界中の人の希望なんです!

あいつを倒して世界を救って下さい!」

 

 

カメラマンもカメラを叩きながら懇願する。

そう、このカメラは今も尚世界に向けて映像。流し続けている。

世界格闘チャンピオンが、本当にこの世界を救う瞬間を撮る為に。

その前に、金髪の男が参ったと言った事も、セルが完全体セルに倒された事も、その取り巻き達が閃光の間に逃げ消えた事も全て流している。

この場でセルよりも強いセルを倒すのはもう本当にミスターサタンしかいないのだ。

 

 

「.......よ よし.....やるぞ.....やってやるぞ!!

うぉおおおおっ!」

 

 

最早ヤケクソ気味で叫ぶサタン。

これまである一件から強そうな奴とは戦いを避けていたが、状況が状況だけに許されないだろう。

何よりも、世界中の人々がサタンの勝利を願っている。

それに答えなければ漢が廃る。

 

 

「世界中の諸君!

もう心配はいらない。

何故なら、この私...ミスターサタンがいるからだっ!!

私がいる限り、地球を好きにさせないぞセル!!」

 

(ホゥ、あのカメラは全世界中継中なのか。)

 

 

究極体セルはサタンの後ろのカメラを見据える。

サタンも負けじとセルを睨む。

そのセルが1歩踏み出せば、サタンも1歩後ずさりする。

 

 

「どどどどどどうした!

こ 来ないのならば、コッチなら行くぞ!!」

 

 

サタンがセルに向け、全力で駆け出す。

先程のZ戦士とは有り得ない遅さに相手にもせず、避けてカメラマンの前に立つ。

簡単にいなされてしまったサタンは おっとっと と言うフレーズの後に顔面から大コケする。

 

 

「そのカメラは全世界中継なのか?

少ォしばかり宣伝させてもらオうか。」

 

 

カメラマンにナレーターは、小さな悲鳴を漏らして座り込んでしまう。

有無を言わさない気迫は、一般人ですら強烈な恐怖を感じさせる。

更に言えば、尻尾の先端が首を抉る寸前まで刺し込まれ、選択権を間違えば命が無くなりそうだ。

為す術もないカメラマンは小さく わかった と答える。

 

 

---

 

--

 

-

 

 

『全世界の諸君、初めまして。

私はセルだ。

最も、前のセルとは同じ人物では無いがァ...兄弟みたいなものと思ってくれればイイ。

今回世界中の電波を頂いたのは、()()()()をする為だ。

今回のセルゲームで、君達は事実上敗北した事になるが、想像以上に私にとって楽しいものとなった。

本来ならばァ...この地球を破壊しようとも思ったが、その悦ばしい出来事を汲み取り、もう一度チャンスを与えよう。

これからもう一度セルゲームを開催する。

ただし次は全世界の諸君等が強制参加する事になる。

勝敗条件は私が死ぬか、諸君等が全員死ぬかのシンプルな条件だ。

武器の使用も、何人がかりで来ようと自由だ。

しかし、私一人では流石にこの世界は広イ。

その為1時間に1度、コチラの人員を増やす。』

 

 

そこまでスラスラと言い終わると、嘔吐音と共に卵が口から吐き出される。

吐き出されてすぐヒビが入り、中から何かが出てきた。

その姿は間違いなく、セルを青色にし小さくしたような形だった。

 

 

『コイツはセルジュニアだ。

外見から想像出来るように、私より少し弱イだけであとはほぼ同じだ。

こいつを1時間に1度生み出し、この世に放つ。

それともうひとつ。』

 

 

地表に残っていたセルゲーム会場の石を超能力でカットし、6面と100面ダイスを創り出す。

 

 

『公平を期す為に、セルジュニアはダイス目で決めよウ。

6面ダイスでセルジュニアの放出体数、100面ダイスでセルジュニアの強さを決める。

そしてさらに君達にサービスだ。

100面ダイスで5以下が出た場合に限って、そこら辺の子供でも倒せるレベルにしよウ。

俗に言うクリティカルだ。

まずは記念すべき一回目のダイスロールだァ。』

 

 

6面と100面ダイスが同時に宙を舞う。

カメラもその後を追い...ダイスは5と52で止まった。

 

 

『ほウ、いきなり良い数字が出たな。

諸君等の日頃の行いと言うやつか?

私のパワーの52%程度のセルジュニアを5体後で放出する。

このカメラは頂いていく、1時間に1度だ。

諸君等の健闘を祈っているぞ。』

 

 

カメラの電源を切り、それを持って高らかに笑いながらどこかへ飛んでいく究極体セルとセルジュニア。

残された3人の人間は腰が砕けたように地面に座り込んだままだった。



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腐ったミカンの使い道

結構サボりがちだったので、お詫びの半月前倒し投稿です。
許してください笑


誤字脱字修正済み R2.1/10


「あれからどれくらいたった?」

 

「4時間だ。

もうすぐ日が沈む。」

 

 

放熱シートを身体中から剥がし、残った経口補水液を飲み干すと、ラディッツはフラフラと立ち上がる。

リヒート...超加速能力の使い過ぎで体温が42℃を超えてしまい、意識障害を起こして途中で倒れてしまったが、全員掛りで近くの村へ運び込んでいた。

その村もセルの脅威により、全員避難・疎開して誰もいなくなっていた。

 

 

「...俺がいない間に何かあったのか?」

 

「セルが再びセルゲームを始めました、それも全世界対象で。

そして、1時間に1度セルジュニアをサイコロの目の数放出し、強さもサイコロで決めると。

...既に19体。

強さはほとんどが40~60%ですが、2体90%辺りの化け物が出ているようです。

通信網がほとんどやられているようで、テレビはセルの告知以外は繋がりません。

辛うじてラジオだけ通じてますが...。」

 

 

状況が分からない上に、20体近くのセルジュニア。

あの時逃げた代償が、今まさに全世界に広がっている。

そしてその代償はまた一時間ごとに増え、ハイペースで全世界を蝕んでいく。

その事実を唯一知らせていたのはラジオだった。

中の都の様々な街が破壊され、大きな街にあったテレビ局は全て壊滅。

西の都と東の都のラジオ局からの情報によれば、キングキャッスルも壊滅状態で国王も行方不明。

今のところは中の都に被害が集中しているが、そのほかの都が火の海になるのは時間の問題だ。

セルジュニアは都市の破壊と殺戮を繰り返し、この世は恐怖に包まれている。

 

 

【.....国...軍は壊滅.......ですが東の...軍が全軍で立ち向か...討伐して.....模様です。

国...の皆さ.....安心し...さい。

あと少し.......壊滅する...しょう!】

 

「一般人が立ち向かったところで勝てるわけがないのに...何が安心して下さいだよ。

何やってんだよ。」

 

「ラディッツさん、あなたの力でセルジュニアは倒せますか?」

 

「無駄だ...そいつは孫悟空と同程度のパワーしかない。

究極体セル(もう一人の私)は私よりも遥かに強い...孫悟飯が今現時点で最強なんだが、そいつは究極体セル(もう一人の私)以下であり腕一本しかない。」

 

 

項垂れ、下を向いたままのセルが意気消沈で答える。

パーフェクトセルの状態で戻ってきたのにいとも簡単に敗れた事が相当きているのだろう。

表情も口調もまるで覇気が無い...かつて自身に満ち溢れていた最強の人造人間は見る影もないほどに落ちぶれていた。

 

 

「しょげるなよ、セルのレベルで勝てないくらいアホみたいな強さだったんだ。

普通のセルゲームならパーフェクトセル状態で...悟飯に勝てたかもしれん。」

 

「...勝てたかもか。

色々な事情がありそうだが、素直に受け取るとしよう。」

 

 

セルの心理状態からして正直に告げる事はやめて正解だったのだろう。

本当は悟飯に敗れるのだがあえて濁した...が、セルはそれを悟ったのだろう。

第二形態で体格は大きくなったのだが、完全敗北という事実故に、凄まじく弱々しく小さく見えてしまう。

 

 

「...クソ...ドラゴンボールさえあれば。

悟空さんや父さんを生き返らせれば何とかなるかもしれないのに...!」

 

「ピッコロが死んじまったからな、しょうがねぇよ。」

 

「ドラゴンボールなら復活したが...今この状況で全員を復活させるのは少しリスキーだな。」

 

「なんだって!?」

 

 

原作でもセルに敵う者はいなかった。

セルどころかセルジュニアですら劣勢を強いられていたのだ。

たとえ悟空のコンディションが良くても、状況は大して変わらないだろう。

そして極めつけは究極体セルの強さがセル以上という事しか分からず、限界が読み切れていないことだ。

それでも彼らには、ドラゴンボールが復活したと言う出来事は大きい。

使えないと思っていた最後の切り札が復活したのだ。

 

 

「それでも生き返らせれば人数は増える。

セルを倒すチャンスが増えるんだぞ?」

 

「その案に俺も賛成です。

父さん達がいれば、奴を倒せるかもしれない。」

 

「...悟飯はどう思う?」

 

「...俺は.....。」

 

 

悟飯は握っていた拳にさらに力が入る。

 

 

「...俺はセルをこの手で()らなければいけないと思うんです。

今この地球をめちゃめちゃにしているのはあいつのせいなんです。

このセルも似たような事をしてましたけど、奴の方が凶悪です。

倒せる可能性があるなら、一刻も早い方がいいと思います。」

 

「うん...セルはどう「私はもう戦力に数えるな。」

 

 

セルの落ちぶりに嫌気がさしてきたラディッツ。

気にしないようにトランクスと16号に聞くも、二人共その方が合理的との答えだった。

 

 

(悟飯の言い分は被害者を減らすという点では正しいのかもしれん。

分からんでもないが、もうなりふり構ってられないんだよな...。

俺もとにかく生き返らせる方に賛成だな。

悟飯の超サイヤ人2...それまで全員で戦えばいいんだから。)

 

 

一通り意見を聞いてみるが、やはり生き返らせる方が圧倒的に多かった。

劣勢の現在を考えれば当たり前なのかもしれない。

以前のナメック星でのフリーザ戦でも、ピッコロを生き返らせてナメックの地へと呼び寄せた。

その時こそ第三形態フリーザに歯が立たなかったものの、人数がいれば戦力になり、戦術も増えるだろう。

あとは天界へ行き、ミスターポポとデンデにドラゴンボールを使わせてもらうように言うだけだ。

 

 

 

「わかった、ドラゴンボールを使う前に一度悟空に話しておこう。

悟空の事だ、間違いなく界王様を巻き込んで派手に爆死したに違いない。」

 

「界王様...?」

 

 

首を傾げる16号とセルに、各宇宙の銀河を見守る神様である事をサラッと説明し、界王様にコンタクトを試みる。

意味がわからないという表情だが、それでも理解してもらわないと困るだろう。

正確な説明はあとからでも出来る。

 

 

「界王様、生きてますか?

ラディッツです。

今の現状はご存知ですか?」

 

『こちとら死んじまったわーい!

どうしてくれるんじゃ!

わしゃ界王じゃぞ!?

偉いんじゃぞーっ!』

 

『わりぃって言ってんじゃんかよ界王様ぁ。』

 

 

頭痛になるほど脳内に響く界王の声。

当然と言えば当然なのだが、自分が死んでしまって大層御立腹されているようだ。

それに比べて悟空の声は呑気なものだ。

 

 

「界王様に悟空もいるのか、話が早い。

セルを倒す前に悟空達を生き返らそうと思ってるんです。

悟空達はさておき、ベジータは地獄から生き返らせる事は出来『俺様を勝手に地獄に落とすとはいい度胸だな。』

 

 

突如として脳内に響く声。

その声に聞き覚えのない奴以外は驚く事になった。

まさか当の本人 ベジータが界王と共にいるのだ。

てっきり全員地獄に落ちて罰でも受けているのかと思っていたからだ。

と言っても、ベジータ以外にもZ戦士達はここに集結していた。

フリーザ戦でここに来ていた戦士も、あまりよろしくない展開ではあるが、この場に来て修行するのは地球の時よりも都合が良かった。

 

 

『閻魔の野郎に、地球のもしもの時の為として身体は貰えたからな。

界王星とやらは大した重力でも無いところだが、地球よりはマシだった。

それが...カカロットのせいで全て台無しだ!』

 

『わりぃって言ってるじゃんか。』

 

『貴様の謝罪なんぞアテになるか。

で、ラディッツ。

貴様は俺に()()()()?』

 

 

語尾を強くする口調。

ベジータはドラゴンボールで生き返らせる事を知ってながら、敢えて聞いてきた。

その真意は...いや、恐らく聞いていなかったのだろうと思うラディッツ。

 

 

「そっちで様子は知っていると思うが、今回新たに出てきたセルは馬鹿みたいに強すぎる。

流石に俺達だけじゃ『貴様らふざけてるのか?

相手と戦ってもいないのに何故そう言える?』

 

「え?」

 

 

予想だにしない答えに咄嗟に言葉が出なかった。

てっきり、「グダグダ言ってねぇで早く生き返らせやがれ!」と言われると思っていたのだ。

 

 

「いや、見てただろう?

セルは悟飯を、まるでおもちゃ扱いするようなとんでもない奴だ。

ここにいる俺達が束になっても『貴様はそれでも戦闘民族サイヤ人の血が流れているのか?』

 

 

セルの拗ねた様子と、会話の内容が思うようにいかず、イラついていたラディッツ。

「うるせぇとっとと生き返って手伝え!」とでも勢い余って言い放ってしまいそうになったが、一度冷静になり言葉を留める。

 

 

「ベジータ!

...今はサイヤ人の血がどうとか言ってる場合じゃないんだぞ!?

奴はラディッツよりも悟空よりも強いんだ。

もしかしたら俺達全員...トランクスだって死んじまうかもしれないんだぞ!?」

 

 

すかさずクリリンがフォローに入る。

セルゲームと称して、人類を嬲り殺しにする魂胆は見え透いている。

そのような奴が誰かを生かしてくれるほど甘いとは思えない。

 

 

『ふん、貴様らのその甘い考えは、明らかにセルの野郎への恐怖から逃れる為のものだ。

そんな弱気な考えなんぞ俺は受けん!』

 

『ラディッツ、貴様は長い間地球の奴らとの温い馴れ合いの中にいた為にサイヤ人の闘争心を失ってしまったようだな。

いくら弱虫ラディッツとは言え、自身よりも強い奴とも戦ったことがあるだろう

それとトランクス、貴様に俺は言ったはずだ!

お前の体には、誇り高き戦闘民族サイヤ人の血潮と俺の血...魂が流れていると。

貴様は俺の顔に泥を塗るつもりか!!

戦わず、逃げ、助けを乞うなどサイヤ人の血の前に、この俺様が許さんぞ!!

貴様らが勝手に生き返らせようが、そのような甘ったれた様子なら手助けなどするものか!』

 

 

ベジータの叱責に誰もが黙り込む。

自分達がやろうとしていることは敵前逃亡に近いものだからだ。

それでもラディッツには気に入らない部分がある。

 

 

「プライドだけで勝てるような相手だと思っているのか?

現実なんてそんな甘くないんだ。

ここにいるセルが相手ならばそれもありだったが今回はそうはいかん。

お前が無駄なプライドでごねたせいで、全員死んじゃいましたなんてあっちゃいけないから生き返らせようとしてるんだろうが!」

 

『無駄なプライドだと?

貴様は自分にある折れてはいけない芯すらないのか?

手段や行動を選ばないという点なら俺もやってきたことはあるが、プライドが高すぎるという奴に限って優柔不断、八方美人、責任感も無くその場しのぎで事を進める向上心のないクズばかりだ!

貴様も例外ではないぞ。

今まで何度俺やナッパにすがって生きてきた?

スカウターの数字を見て、戦おうとせずに言い訳を並べて逃げるのが当たり前になり、終いには自分の保身のためにカカロットを連れてこようともしたな。

逃げ癖の貴様にとって丁度いいだろう。

サイヤ人の端くれなら...男なら命を張りやがれ!』

 

 

それ以降、界王星との交信は途絶えた。

確実に支援してくれるはずの存在がいなくなってしまった。

 

 

「なんて言いようだ。

わかってはいたけど、アイツとは仲間になれないのか。」

 

「いや、まだ助けないとは言ってないな。

俺達はまだろくに戦っちゃいなかったから...ベジータなりの激励なんだろう。

俺の事は恐らく...本当にキレてたかもしれんが、俺はその記憶なんぞ知らん。

確かに、あまりに俺達は依存しすぎたのかもしれん。

普通なら死んだらその人はもういない、だが今はドラゴンボールもあるし、界王様経由で死者と話す事も出来る。

だからこそ、生き残った奴で危機を乗り越えなければ行けないのだろう。」

 

 

日の沈んだ空は、徐々に青みを失っていく。

自分達の運命のように、暗く、黒く、光が無くなっていく。

それでもやる事は決まっている。

 

 

「ヤツには敵わない、無駄死にするだけだぞ?」

 

「セル、いい加減にしてくれよ。

腐るのは結構だが、いい加減切り替えろ。」

 

「...戦った者しかわからんだろうが、奴の強さは異」

 

 

あまりにもネガティブな発言が続くセルを、遂にラディッツはぶん殴ってしまった。

避ける事も、反撃する事もしなかった彼の身体は、壁を簡単に貫通し、マンションを二つ貫通した所で埋まるように留まった。

 

 

「もうウジウジするのはたくさんだ、いくら究極体セルが強かろうが、超えればいいだろ。

セル、お前もサイヤ人の細胞が入っているならまだ強くなれるはずだ。

18号を吐き出してもパーフェクトセルになったのなら、17号も吐き出してしまった状態でも上を目指せるはずだ。

腐ったミカンかお前は、いい加減立ち直れ!」

 

 

それでもセルは立ち上がろうとしない。

ただ駄々をこねているのでは無い、純粋に闘気を失っているだけだ。

ラディッツはそんないつまで経ってもウジウジした奴は嫌いだった。

 

 

「やる気が無いなら消えちまえ。

...とでも言いたいけど、このご時世パワハラになるからな。

無理矢理にでも連れていくぞ。

(いつまで経ってもグズるようなら、肉壁になってもらおう。)」

 

 

抗ったところで勝てもしない。

究極体セルもそうだが、ラディッツにも勝てもしないので従うしかなかった。

 

「待ちな。

お前、あたし達を飲み込んだ化け物を連れていく気かい?」

 

「馬鹿げた強さのもう1人のセル(こいつ)を倒すのは賛成だが、コイツを連れてくとまた俺達は吸収されかねない。」

 

「何か勝てる策でもあるんですか?」

 

「もう暗いから明日にした方がいいんじゃないか?」

 

 

四方八方から質問攻めに合うラディッツ。

何とか制止させると1つずつ返す。

 

 

「皆落ち着いて聞いてくれ。

状況は良くない。

ピッコロやベジータ、そして悟空も死んじまった。

セルは俺より強いしセルジュニアは昼夜問わずに1時間に何体も増える。

仙豆は残り6粒。

今も一般人は惨殺されている。

だが、ドラゴンボールは残っているが、セルやセルジュニアに勘づかれたらおしまいだ。」

 

「それで今からだ。

ラジオで言っていた東の都を中心に戦う。

そうすれば、セルジュニアの気を引いて全部集める事が出来るだろう。

いやクリリン、危険なのはもうどこにいても変わらないんだよ。

ここでヤツらに勝てなきゃ、人造人間に変わってセルが台頭する絶望の未来に突入だ。」

 

 

「16号、17号、18号。

最近までは敵対気味だったが、水に流して協力して欲しい。

勝手なのは重々承知だ。

お前達は人造人間だが、人の命を救う...いい事をすると良い気分になるだろ?

もしその心がわかるなら協力してくれ。

分からないなら、一緒にその心地いい気分に浸ろうじゃないか。」

 

 

ラディッツはかつて敵対していた者達に手を差し伸べる。

取り繕ったセリフに、内心反吐が出るような思いをしているのを押し殺してだ。

三人は互いに目をやり、17号が口を開く。

 

 

「俺たちは元々はラピス・ラズリって名前でな、この体になる前まではまぁ色々やってきた。

今ではお前の言う通り、血も涙もない人造人間になっちまった。

例え心があったとしても、その似合わない上辺だけのセリフで誘われると思ったか?

 

...だが、つくづく男心をくすぐるような言葉だな。

その言葉にまんまと釣られてやるよ。」

 

 

残る16・18号も仕方が無いねとでも言いたげに相槌を打つ。

どうやら全員共闘の流れに持ってこれたようだ。

 

 

「心地いい気分に浸ろう。

...だってよ。」

 

「気持ち悪いね、酒でも飲んでんのかい?」

 

「...吐息からはアルコールは検出されてないな。」

 

「前言撤回、お前らここでスクラップにしてやるわぁ!!」

 

 

両手を振り上げ牙を剥き出して睨みつけるラディッツを押さえつけるトランクスと悟飯。

苦笑い浮かべるクリリンは18号とさりげなく目が合う。

途端に真っ赤になってそっぽを向くが、「なんだ18号、満更でもない顔をしているな?」「体温が急上昇している、どこか故障か?」と再び弄られ、癇癪を起こしていた。

 

 

---

 

--

 

-

 

 

「...ここもどれだけ持つだろうか。」

 

「わからないわね。

南の方の拠点はやられたそうよ。」

 

「ミスターサタン...サタンはまだ来ないのか?」

 

「噂だが意識不明のまま地下シェルターで治療中だそうだ。

ミスターサタンがいればここまで酷くはならなかったのかもしれないのだがな...。」

 

「...俺達は...ここで死ぬのかな...?」

 

「.......。」

 

 

太陽はどっぷり落ち込み、住民のいなくなった家屋内の防人達の士気も活気も落ち込んでいた。

陽の光もなければ、電気も使えない。

ライフラインは数々の戦闘で使えるところが限られている。

夜になれば涼しい程の気候なのだが...たまたま気温が低いだけなのか、それとも得体の知れない怪物共との会敵に恐れているのか。

寒い...肌をさすれば熱を感じてマシになったと思うが、デジタル迷彩の袖をめくれば屈強な腕に張り付く鳥肌が顔を覗かせる。

軍事衛星で鮮烈に写った、たった一生物による圧倒的な殺戮。

数千にも及ぶ兵器と人員が無様に、理不尽に、呆気ない程に一瞬で消えた事が自分にもこれから起こるのかもしれない...。

自分の命を守る為に今すぐ逃げなければならない...そんな思いは入隊時に棄て、「無制限の責任」を負う事を誓ったのだが、その誓いが揺らぐ。

 

 

「敵襲!!!」

 

 

余所事も吹き飛ぶ程の怒号と爆発音が外から聞こえ、M4A1カービンを乱暴に鷲掴み、兵士達は外へ飛び出す。

暗かった市街地が明るく...赤く...駐車車両が巨大な松明のようにそこらじゅうを照らしている。

この状況で()()襲ってきたのだろうか?

炎上する車に黒くシルエットが浮かんでいる。

この周囲で1番小さいが、彼ら人間にとって1番の脅威。

 

 

『こちらハイウェイゲート前。

大型トラック複数の爆発を確認!

警戒 なんだうわあああ!!』

 

『こ、こちら第2機動隊第1中隊長。

トラックの爆発とセルジュニアの襲撃により重傷者多数、大至急救援を求む!』

 

『こちら東ビル!

セルジュニアだ!

セルジュニア二体を目視で確認!

交戦中!』

 

『撃て!

とにかく当てろぉっ!!』

 

 

飛び交うように携帯無線からは一方的に流れる戦況が発せ続けるが、味方の損失、混乱ばかりで何一つ有益なものは無い。

誤解を招かないように説明するが、彼らは市街地での対ゲリラに特価した精鋭なのだ。

セル討伐に駆り出された部隊とはまた違った戦闘箇所での精鋭部隊...それらが現在進行形で蹂躙されている。

 

 

「そ...そんな、もう来たの!?」

 

「あいつらって...東都機動部隊対ゲリラ部隊だろ!?

昨年の戦闘競技会でずば抜けてた部隊が!?」

 

「俺達も...セルジュニア!

10時の方向!」

 

 

東都第59普通隊の一員は、訓練でしか扱ったことのない銃器を構える。

...が、時間にして僅か5秒も経たずに8人が命を奪われる。

首を掻っ攫われたり、胴が二つに千切れたり、胸部を貫かれたりした隊員もいたが、あまりにも素早い攻撃に何が起きたか分からないうちに絶命した者がほとんどだ。

生き残った2人の片方も、首元を握り上げられている。

セルジュニアは甲高い声で笑っているが、絞められている隊員は声すら出せずにもがく。

足掻く右手が太もも辺りに手が当たり、ようやく拳銃がある事に気がつく。

照準は全く定まらないものの、やつ(セルジュニア)がいる方向へと一心不乱に乱射する。

装弾数は9発、1発でも人の命を簡単に奪うことの出来る凶弾は虚しくもセルジュニアには全く効かない。

してやったり顔で笑い続けるセルジュニアの腕に一瞬力が入ったと思うと、鈍く何かが潰れる音とともに首が地面へ落ちた。

 

 

「あ...あぁ...ぁ...。」

 

 

残された兵士は力なく座り込んだ。

股間辺りが生暖かく湿っていこうが、意識が飛びそうになろうが、顔が様々な種類の水気でぐしゃぐしゃになろうが、彼らは逃がしてはくれないだろう。

目の前にはセルジュニアが4体、その全ての瞳がこちらを見ている。

この玩具はどうしようか?

圧をゆっくりかけて潰そうか?

1本ずつ腕をもいでいこうか?

腹を絞って中身を絞り出してみようか?

まるで子供が虫を殺すかのような好奇心旺盛な視線を向けて近づいているが、殺意も間違いなく含まれている事は感じざるを得なかった。

 

 

「...ヒック...誰がぁ...タスケデェ.....」

 

 

どうやら彼らは、腕や足をもいでいく考えでいるようだ。

抵抗しようと動こうとするが、体に力が入らない。

そんな時だ。

セルジュニアは一斉に飛び除けていく。

次の瞬間には頭上から足が降って地面に突き刺さる。

瓦礫が顔面にぶつかり思わず倒れ込む。

その間にも次々と何かが降り立つような気配がする。

 

 

「もう止めでぐれ!

死にだぐないよぉ!」

 

「おい大丈夫か!

しっかり...うわ、漏らしとるじゃんか...。

おい、大丈夫か?」

 

 

聞いたことない声だが、聞き覚えのある言語でセルジュニアでは無いと気づいて体に力が戻る。

目の前には複数の人物がいたが、声を掛けたのは黒い道着を着た長髪の男だろう。

 

 

「間に合って良かったです。

立てます?」

 

「あなた...誰ですか?」

 

「俺ですか?

ラディッツと言います。」




またドラゴンボール超が新章に行くみたいで嬉しいです。
予約しておかなきゃ!


カプセルコーポレーションは完全に誤入力です汗
訂正させていただきしたのでご了承ください汗
くまはやさん、ご指摘ありがとうございます汗


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死闘って一つの意味だけじゃないと思うの

誤字脱字修正済み R2.1/10


三体のセルジュニアは蜘蛛の子を散らしたように消え去った。

夜の瓦礫まみれの街中...しかも逃走の際に気も消す抜かりのなさだった。

自分達の戦闘力と人数に分が悪いと判断したのだろう、Z戦士達や16号のパワーレーダーでも補足できなかった。

 

 

「どこへ行った!?」

 

「呆気なく逃げられたな。

気も消されたんじゃ俺達でも探せないな。」

 

「なんて素早いんだ、1匹くらいは仕留めたかった。」

 

 

悟飯や16号・18号も索敵するも発見には至らなかった。

ぐしゃぐしゃの兵士を落ち着かせ、16号に耳打ちするラディッツ。

 

「気づいたか?」

 

「...引き際が良すぎる。

...奴らは何かを狙っているだろう。」

 

(三体共攻撃の素振りをせずに消えた。

誰か一人でも何かしてくると思ったが...何してくる?)

 

 

逃げられた...そういうような気持ちよりも、セルジュニア達の呆気ない程の引き際の良さに何か得体の知れない不穏な物を感じた。

彼らの思考をもう少し考察したいのだが、いなくなった者をいつまで考えてもしょうがない。

軽い溜息を1つ落とし、ラディッツ達は兵士達のベースキャンプへと案内をしてもらう事にした。

 

 

「...うぅ...あなた達は命の恩人です。

ですが一つだけ聞きたいことがある。

背中とその胸のロゴ...レッドリボン軍なのがわかるが、君達を信じていいのか?」

 

 

ベースキャンプと言う民家のソファーに腰掛ける兵士。

もちろん着替えは済んでいる。

彼らは命の恩人...しかしレッドリボン軍のロゴがある以上、リラックスして腰掛けることは無かった。

いつでも動けるように、浅く、軽く腰掛ける程度に過ぎなかった。

 

 

「あぁ、コイツか?

俺は人造人間で、俺を作った奴がレッドリボン軍にいたんだ。」

 

「今となりゃ死んじまったし、アタシ達にはもう関係ないね。

まぁあのジジイは嫌いだったからね。」

 

「.....。」

 

「この人も味方ですよ。

...レッドリボン軍てそんな有名なんですね。」

 

 

一通り話終えると、兵士は口を噤んでしまう。

しばらく視線を落としていたが、少し後ろめたさがあるように顔を上げて話し始めた。

 

 

「...仲間もいなくなってしまったし、助けて貰った人達に隠し事は良くないから言おう。

俺はカッパー。

...元々はレッドリボン軍の将軍だった。」

 

 

レッドリボン軍にいたのは今から十何年も前。

当時は自身の名がついたカッパー隊の長を務めていたのだが、突如としてレッドリボン軍は崩壊してしまう。

その後は独立してレッドリボン軍の後釜のような組織を作る者と、既存の軍隊に身分を偽ったりして入隊する者と、完全に足を洗って別の人生を歩み始める者に別れた。

カッパー将軍は最初こそ、レッドリボン軍の後釜として自身の部下を中心に部隊をまとめ始め、カッパー統率軍なる軍隊を率いていた。

しかし、後継者が決まっていなかった元レッドリボン軍指揮下にいた各将軍同士による、レッド総帥の後継者争いに巻き込まれ、カッパー統率軍は外から中から分裂...そして解散。

今となっては将軍を辞め、一兵卒として今に至るそうだ。

 

 

「レッドリボン軍にいたなら、Dr.ゲロは当然知っていますよね?」

 

「あぁ...当時は既に人造人間8号を作り出し、9号の製作をしていた。

だが、自身の研究にしか目がないようでな。

他のことには目もくれずに研究に明け暮れていたせいで、ほとんど表に露出していることは無かった。

あまり評判は良くなかったし、俺も間接的にこき使われてた方だからあまりいい印象はないな。

今となっちゃぁ、Dr.ゲロと人造人間様の為に世界中の研究所を駆け巡ってた時の方がマシに思えるがな。」

 

 

皮肉たっぷりにそう答えるカッパー。

2回目のセルゲームの世界中継の後、この地上は酷い有様だった。

我先にとシェルターや安全な地へ駆けて行く人はまだ良い方だ。

シェルターに来る人間から金品を脅し取り、反抗するものは殺し屋を差し向ける者。

誰もいなくなった街に現れる火事場泥棒。

避難場所を得る為に銃器を用いて殺し始めるクズ共。

それが一般市民ならまだ良かったかもしれない。

他の隊の面子がそれをやっていたとしたら...止める為に同士を殺さなければならなかったとしたら...。

 

 

「人間性なんて極限状態になれば無くなってしまうもんだ。

俺らが見た事が...やってしまった事が全部本当なら...人間なんてセルに滅ぼされた方がマシだ!

こんな!

ここここんな…ううううわあああぁ!」

 

 

カッパーは立ち上がり、両腕を交差して両腕を擦り始める。

室内はそれほど寒いわけではない。

だが彼の額からは次々と脂汗が滴る。

目線は...どこにも焦点があって無く、ただただその空間に向けられているだけのようだ。

身体中がガタガタと震え始め、呼吸も短く浅く、更に酸素を貪るように速くなっていく。

 

 

「ラディッツさん!」

 

「お おい落ち着け!」

 

 

ラディッツが立ち上がったと同時に、カッパーは懐から薬を取り出してかろうじて飲み込んだ。

トランクスと共に防弾ベストやヘルメットを含めた装備品を取り外し、回復体勢にした頃にはだいぶ落ち着いた。

 

 

「...すまない、恥ずかしい限りだ。

色々と思い出して発作が起きてしまったようだ。

申し訳....ない...」

 

「...寝てしまったんですか?」

 

「...みたいだね。」

 

 

悟飯も何が起こっているのか分からず、困惑している。

 

 

「PTSDとかパニック障害なんじゃないかな?

雑誌で見た事あるんだ。

子どもを刃物で突き殺したことがいまでも頭にこびりついている。

部落民を殺したのが脳裏に残っていて、悪夢にうなされる。

子どもを殺したが、自分にも同じような子どもがいた。

夢の中で殺した領民が恨めしそうに見てくる...とかな。

おそらく彼もそんなところかもしれん。

今回は戦争ってな訳じゃないけど.....このような人を少しでも増やさないようにしなければ...。」

 

 

会話が終わると同時に、遠方から近づく気。

それも複数...数にして五体。

 

 

「セルジュニア!」

 

「なんだ、もう殺されに来たのか。」

 

「ふん、アタシらも舐められたもんだね。」

 

「とりあえず一体でも減らさないといけませんね。」

 

「よし、行こう。

クリリン、お前はここに残ってそいつを守っておいてくれ。」

 

 

えぇ、ちょっと待て! と顔に出ていたが、お構い無しに外に出る。

クリリンはさておき、意気消沈のセルは何も言わずに部屋の隅の子椅子に腰掛けた。

 

まだ炎上している複数の車両が未だに松明のように明るく照らす死んだ街に、五体の生命体が囲うようにしてそこにいた。

声も色も、そして形も同じだからわからないが、セルジュニアというのだけはわかっていた。

 

 

「みんな気をつけて。

気のコントロールも出来るようだから、どれくらいの強さかもわからん。」

 

「所詮はあの糞野郎の子分だろう?

一瞬で片付けてやる。」

 

 

17号は手近なセルジュニアの顔面を捉えるつもりだった。

拳の先端が僅かに掠っただけに終わり、あろう事か運動エネルギーをそのまま使われて、向かいの住宅を破壊する程の力で投げ飛ばされてしまった。

17号の単純な戦闘力なら、この面子でこそ下位に位置してしまうが、ここまで簡単にいなされる程やわでは無い。

次は自分達の番だと言わんばかりに、セルジュニアが次々と襲い掛かる。

応戦するは悟飯、トランクス、16号、17号と18号、ラディッツだ。

ただし、セルジュニアの強さが尋常ではない。

全員すぐにそれを察知する。

 

 

「ラディッツさん、コイツら相当手強いです!」

 

「先を見据えて戦おうとするなよ悟飯!

コイツらをここで必ず殺しておかないとどんどん増える!」

 

 

1時間に最低でも一体は増えていくセルジュニア。

ここで2.3体は始末しておきたいのだが、それどころの騒ぎではない。

自分達よりも格下どころか互角...それ以上なのだ。

ただ人造人間達が戦っているセルジュニアは、悟飯たちよりも劣るようで辛うじて有利に戦えている。

連携戦術が上手く機能しているというのもあるのだろうか?

 

 

「キキーッ!」

 

 

一体のセルジュニアが一際大きな声を上げると、またしても散り散りに退散していく。

素早く引いていく奴もいれば、舌を出して嘲笑いながら消えるセルジュニアもいた。

深追いしてでも一体は…と意気込んではいたが、気を消し瓦礫や暗闇を利用すれば余程のヘマをしてくれない限り見つける事は困難だった。

 

 

「ちっ…あいつら一体何を考えてやがる。」

 

「勝てると思って来たらやっぱり強かった的な感じか?

わからんな…とにかく戻ろう。」

 

 

 

一体も倒せず、再び元の家に戻る一行。

特にこの建物には被害は無く、クリリンもカッパーの無事も確認出来る。

 

 

「すまん、成果無しだ。」

 

「そうか。

なぁ、俺ここでずっと気を探ってたんだけどさ…アイツら本気で戦いに来てないんだと思う。」

 

 

釈然としない表情を浮かべて腰掛ける一同。

 

 

「多分だぞ?

全員じゃないけど、さっきのセルジュニアと気が少し違ってたんだ。

多分俺達の戦った奴は休ませて、別のセルジュニアが来たと思うんだ。」

 

「なるほど…って事は、向こうはこっちの体力を削りつつ、体力温存・回復しながら戦って、更にいえば時間が経てば戦力が増えていくという戦法か。」

 

「…撤退の指示をするセルジュニアは変わらんようだな

と言っても、それ以外はサッパリ分からんがな。」

 

「何か考えてる事があるなら話してくれ。」

 

 

不意に呟くセルに対し、近づくラディッツ。

ならば…と自分の考察を簡潔に述べる。

 

 

「ハッキリ言ってやろう。

奴らは今すぐには攻めては来ない。

…が、殺せるなら殺すつもりだろうな。

第一次…二次…三次と、休ませる間もなく襲撃して、被害が出ない内に撤退。

他の地に出向いてるやつが来たり、1時間に数体増えるなら、これからもっと激しく来るだろう。

体力がなくなった時が死ぬ時だ。

勝てる訳が無い。」

 

 

増えて行く敵、削られる体力、未だ本気で戦っていない的、そしてまだ姿も見せずに本気も出していない究極体セル。

そう、普通どころかどう足掻いた所で絶望しか待ち受けていないのだ。

 

 

「セル、俺はお前のように頭が良くないから目の前の事をやる事しかわからん。

けど頭が良いお前でも良く考えればわかるだろう。

ここで諦めたらそれでおしまいだが、戦えばもしかしたら生き残れるかもしれない。

お前には孫悟空の細胞が混ざってる…ならば、どんな強敵だろうと絶対諦めない心も何処かにあるはずだ。」

 

 

心にモヤモヤとしたものを抱えながら、全員の視線に耐えるセル。

彼もわかっている、今ここで腐っても何も無いことに。

 

 

「……。」

 

 

それでも背を向けて奥の部屋へと消えていく。

戦士達は追うことをせず、次の襲撃に備えて体を休めることにした。

 

 

---

 

--

 

-

 

 

セルゲームが始まってから5日が経過しようとしていた。

あれだけあった街の建物も、ほぼ全てが崩れ落ちた。

荒廃した街の瓦礫の中に、ギリギリ建物として形を保っている建物…そしてその周りに散乱するセルジュニアの死体。

あれから彼らは不眠不休で戦い続けていた。

正確に言えば最大3時間程度の睡眠は出来ていたが、幾度となく襲い掛かってくる怪物共に対抗する力に余裕は無くなっていた。

 

 

「……仙豆だ…。」

 

「すみません…ありがとうございます。」

 

 

半分に割られた仙豆を水で飲み込む。

傷や痣だらけになった体が、ある程度治っていく。

しかし、その効果が劇的にわかる程の感覚は無い。

慢性的な睡眠不足による頭痛や目眩…そして集中力の大幅な低下。

外的な傷でない、ホルモンバランスや脳内の疲労まではどうやら治せなかったようだ。

 

 

「クソ…。

奴らは今何体いるんだい。」

 

「さぁな。

ただこの数と頻度はいくら永久式とは言え無理だ。」

 

 

人造人間17・18号も永久式エネルギーとは言え、人間ベースの肉体に限界が来ていた。

このなかで唯一の頼みの綱は16号だった。

 

 

「…北から30〜60%程が22体、東から40〜50%が18体。

そのあと30秒遅れて南から60〜70%が15体と、西から70%が12体来る。」

 

「…あああああああ!!

いくら戦っても終りゃぁしねぇ!」

 

 

慢性的な睡眠不足。

完全に回復していない体を酷使し続け、90時間程断続的に生死をかけた戦いが続いている。

テレビや物語では、同じように数日間寝ずに動いてる人もいるが、ここまで極限状態なのは想像をする事が出来ないだろう。

現に、超サイヤ人化を維持するのも辛くなってきているのだ。

 

 

「一体…どれほどのセルジュニアを相手にすれば…。」

 

「わからないけど、力になれなくて…悪いな。」

 

「俺なんかたまに休ませてもらって…本当に申し訳ないです。」

 

 

トランクスも相当体力的に限界が近づいている。

既に超サイヤ人化が切れかかって戦っているのだ。

全体的に戦力がガタ落ちしている為にクリリンも昨日からぶっ通しで、カッパーを守りながら戦闘に参加している。

悟飯は子供だからという理由で夜は戦闘に参加させないでいた。

というのは建前上で、本当は悟飯がZ戦士達の最後の切り札であるからだ。

悟空…悟飯まで失ったら、今のセルに勝てる見込みがまるで消えてしまうからだ。

人造人間勢も、永久エネルギー炉のおかげでセルジュニアを跳ね除けるも、完全に数に押されている状態だった。

 

いよいよ、彼らに死というものがすぐそこまできていた。

セルジュニア達もそれが分かっているように、数の暴力で押しかけてきている。

だからこそ、この数できているのだ。

 

 

「カッパー、お前にお願いがある。

ミスターサタンをここに呼んでくれ。」

 

「ミスターサタンを…ここにです?」

 

「そうだ、頼む。」

 

 

今更あの男を?

そんな声色と表情だが、ラディッツは本気だった。

意図は読めないが、 ベースキャンプとしてギリギリ保っている家のから偵察用バイクを引っ張り出して、全力で東の都の中心へ向かう。

 

 

(あの糞アフロ野郎…生き残った時アイツだけのうのうと生きてるのは許せねぇからな。

運命を共にしてもらうぞ。)

 

 

人間、極限状態になると突拍子も無い事を考えつくようである。

16号の言った通り、全方位からセルジュニアがやってきた。

サイヤ人は金色のオーラを、その他は白いオーラが派手に吹き上がる。

 

 

「やるぞ!」

 

 

第何次になるかもわからない程に襲撃に来る中で、今回は特に数が多い。

多くて3,40体程度に対し、今回は倍近くきている。

これまでZ戦士達は、強敵に対し全員で戦うという事はあっても、自分1人に対して複数の強敵という状況は無かった。

重たい体が余計に重く、そして強張る。

 

最初こそタイマンで戦っていたセルジュニアも、円状に取り囲んでいた仲間が次々と加わる。

対2…対3…相手が増えるごとに受ける攻撃も跳ね上がっていく。

 

 

(俺は…こんな所で何を…)

 

 

第二形態へと落ちぶれたセルの体に力が入る。

目の前いる生物は、全て彼の敵であった。

それが今や、現代の自分と懸命に戦い、諦めずに拳を振るっている。

その姿はとても格好の良いものではない。

服はボロボロ。

血液体液が固まり汚れた腕や足。

土や泥や埃、そして昼夜問わず活動し、疲れ果て、隈が出来た顔。

どれを見ても酷いという表現が当てはまるだろう。

それなのに…それなのにここまで心が動かされるのは何故か?

 

 

(戦っても無駄なんだ。

大人しくしていれば楽に死ねるのだ。

何故そこまで苦しい顔をしながら闘えるのだ?

諦めるなとでも?

世の中はそんな漫画のような展開にはならない。

これは現実だ、諦めない心でどうにかなる状況ではない。

馬鹿だ、無駄なんだ。)

 

 

そう、世の中どれだけ努力したところで無駄になる事の方が圧倒的に多い。

そして世の中結果が全てであり、途中経過を見てくれる者など義務教育さえ終われば面白いようにいなくなる。

今回も同様、結果が見えきっていて今更諦めずに戦った所で無駄なのだ。

 

 

『貴様は折れてはいけない芯すらないのか?』

 

 

不意にベジータの怒声を思い出す。

絶対に折れてはいけない芯…そもそも自分にそれは存在していたのだろうか?

 

 

(俺は…私は究極の人造人間。

究極の武道家として生み出された。

私の芯…それは究極の武道家…。

今の私は…武道家?

ここで大人しく死を選べば、愚かなまま終わるだろう。

せめて死ぬのなら…。)

 

 

セルの心に再び火が灯る。

まずは追い詰められてるクリリンから助けようとした時だ。

今までベースキャンプとして機能していた家が爆散する。

セルジュニアが放ったダブルサンデーが、17,18号を外して当たってしまったのだ。

 

 

「あ…セルが。」

 

「チッ。

あの糞緑め、肉壁にもならんかったか、クソの役にも立たねぇ。」

 

 

目の前のセルジュニアに夢中でもあり、セルの態度で頭にきていたラディッツは気にもしなかったが、この機に乗じて手近なセルジュニアに尻尾を突き刺していた。

 

 

「今の俺はトランクスにすら及ばない。

ならばここにいるセルジュニア共の生体エキスを頂きまくってやるぞ。」

 

 

複数のセルジュニアがそれに気づき、5体が周りを取り囲み、全方位から同時に仕掛ける。

だが、それを全て避け切って干からびたセルジュニアを投げ捨てる。

戦闘力が上がったのもあるが、セルジュニア同士でテレパシーで連携を取っていたのが仇となっているのだ。

相手はセルなのだから、そのテレパシーの波形も読み取れて当然なのだから。

 

 

「クックック、貴様らの行動はお見通しだ。

そして、最初に生体エキスを頂いたのが相当強い奴なのも良い誤算だ。

攻撃こそ通用はしないが…これならどうだ。」

 

 

1,2日前に倒されたセルジュニアの死体を数体拾い上げ、あっという間に自らの力へと変えていく。

第二形態のまま、ジワジワと戦闘力の差が縮まっていく。

セルの復活…そして想定外の活躍。

Z戦士達も1人単位の敵が減った為、多少の隙が作られた。

その隙をついて全員が固まることが出来た。

 

 

「済まなかった、今まで投げやりになっていた。

おそくなったが…共闘させてくれ。」

 

「条件がある。

これから先この面々に手を挙げないこと。

17,18号を吸収しないこと。

協力してあのセルを倒すこと。

約束できるか。」

 

「分かった。

破った時は、遠慮なく殺して構わん。」

 

 

その間にも、セルジュニアの死体から生体エキスを吸収し続ける。

だがそれでも、ここのセルジュニア達を一掃するほどの戦闘力は身につけられない。

それでも戦力が増えるのは精神的にも少し楽になる。

だが相変わらずセルジュニアのニタついた笑みは消えない。

確かに戦力にはまだ差がある、勝てる見込みがある訳でもない。

 

 

「なんだ?」

 

「何だか嫌な予感がするねぇ。」

 

「…来た。

前方から80〜90%が40体、0.1%が8体。

そして…。」

 

「来やがったか。」

 

 

馬鹿デカい気が迫る。

さながら働き蜂を連れる女王蜂。

その存在感ははるか遠く離れたここまで及ぶ。

 

 

「今までのセルジュニアは…一体なんだったんだ?」

 

「気張れよトランクス。

ベジータの言葉を忘れるなよ、何があっても諦めるな。

どんなに強い相手でもぶち破るんだ。

悟飯、お前は悟空から怒れば最強と言われただろう?

その腕の失った意味も忘れるなよ?」

 

 

トランクスも悟飯も表情がさらに引き締まる。

クリリンには絶対死なないように伝える。

人造人間やセルにも鼓舞する。

後は…。

 

 

(ベジータやナッパは倒した。

クウラとか言うやべぇ奴にも勝てたんだ。

原作だって曲がりなりにもここまで来てる。

魔人ブウ編まで行けば帰れるんだ、こんな所で終われるか!

あの時のように限界を超えるんだ!

ヒーローのように…プルスウルトラするんだ!)

 

 

そうもしているうちに、久しぶりの奴が現れる。

 

 

「久しぶりだなァ。

全員揃っているようだが…随分とお疲レの様だなァ。

17号と18号、貴様らは永久エネルギー式のくせに疲労を感じルのか?」

 

「そこら辺のロボットと違ってな、俺達はよく出来てるんでな。」

 

「こっちはぶっ通しで戦わされてんだい。

肌に悪いったらありゃしないね。」

 

 

完全機械型の16号を除いて、全員が見るからに疲労しているのを見てしてやった顔が隠しきれない究極体セル。

波状攻撃が完全にハマったと言えよう。

確実に相手を仕留める為には、この上ないやり方であった。

 

 

「私が来た理由がわかるか?

孫悟飯?」

 

「…そんな事知りたくもない。」

 

「ふっふっふ、相当嫌われているなァ。

まぁ聞け、直接手を下しニ来た訳では無いのだよ。

…貴様らがセルジュニア達になぶり殺サれるのを見物に来てやっタのだ。」

 

 

強弱様々なセルジュニアが、円状に展開する。

これまでとは違い、全員が殺気を漲らせている。

これまで戦ったのは、あくまで殺さない程度だった。

今回こそ、痛ぶり殺せる。

 

 

「お、おい…。

これ一体何体いるんだ?」

 

「数にして94だ。」

 

「1人辺り…最低でも10体は相手にしないといけませんね。」

 

「奴らを全員倒して、そしてその後、ヤツと戦う。」

 

 

適当な岩を裁断して即席の椅子を作り、浮上して腰掛ける究極体セル。

文字通り高みの見物を決め込むつもりだろう。

 

 

「クックック…第二回セルゲームのハイライトだァ!

なぶり殺せ、セルジュニアよ!」

 

 

高らかな号令と共に、セルジュニアはZ戦士達へと襲いかかる。




」…セルの奴ほんとに殺しに来てないコレ?」


画面に映されるセルジュニアの数を見て呟く無神。
その横ではラディッツも険しい顔をしている。
強さにバラつきはあるものの、物量で確実に殺す算段の戦術に対抗出来るものなのだろうか。


「はぁ…やっぱりラディッツの体じゃぁ無理ゲーだったかの。」

「ふざけるな、仮にも俺はサイヤ人なんだぞ!
それに、カカロットの息子もまだ超サイヤ人2になってもいない。
…サイヤ人ならきっと切り抜けるに決まってる。」


と言いつつも、界王拳を使ってやっと孫悟空に届くかという強さの河野にはあまりにも酷な状況。
やはり悟飯の覚醒にしか活路は見いだせない。


(頼むぞ河野、カカロットの息子。
こんな所でくたばったら、俺がぶっ殺すからな!)


積まれた単行本を背にして、ラディッツは祈る。


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抑圧の無い怒り

誤字脱字修正済み R2.1/10


世の中には、多勢に無勢な状況でも工夫を凝らして突破する作品はゴロゴロ存在する。

ブラックホーク・ダウン、ドーン・オブ・ザ・デッド、レッドクリフ、のぼうの城、七人の侍など、有名無名含めて様々だ。

どの作品も圧倒的な物量・人材量に対してあの手この手で切り抜けて、最終的には生存・勝利を手にしている。

しかし、ここで行われている戦闘はそんな生易しい現実ではなかった。

一蹴り入れれば十蹴り返ってくるし、気弾一発で二十発も返ってくる戦いである。

 

対フリーザ一味戦を想定して編み出された拡散気功波。

大量に放たれていくインフィニティバレット。

雨のように降り注ぐ大小様々なエネルギー波の中で、肉弾戦を繰り広げていた。

少なくともクリリンと18号のおかげで、セルジュニアのスピードは抑えられているようだ。

 

 

「はっ!

どりゃぁ!」

 

「はぁーっ!」

 

「ふん!

ずあっ!」

 

「かあっ!

はぁっ!」

 

スピードは抑えられたとしても、瞬間的な素早さだけはどうにもならない。

残る戦士達は被害を最低限に抑える為に固まって戦っていた。

そして数で押し切られそうになれば18号のアンドロイドバリアとラディッツのイージスで間合いを稼ぐ。

そして手に届く範囲のセルジュニアの生体エキスを頂いていく。

すぐにでも破綻しそうな戦況は、ギリギリの所で破綻せずに戦い抜いていた。

 

 

「はぁ…はぁ…きりがない。」

 

「まだ…あまり減ってませんね。」

 

「くっ…ですけど、いくらか数は減ってます!

ラディッツさん、仙豆は残りいくつですか?」

 

「残りは三粒だ。

まだ生体エキスが足りんか!?」

 

「まだだ、だが確実に強くなっているぞ!」

 

 

バリアを解いて再び肉弾戦を再開する一同。

しかし、目の前の敵に気を取られ過ぎていた。

再びバリアを張った瞬間、その時が来た。

 

 

「うわっ!?」

 

 

バリアを二重に張るラディッツと17号の間を切り裂いていく気円斬。

放ったのはもちろんクリリンでは無い。

 

 

「ほぅ、ここまでとはなァ。

これならば強固な物でも容易ク切断出来るなァ。」

 

 

バリアを貼り直す間もなく、切断部分に群がるセルジュニア。

いくら二重とは言え、1秒と持たずに安全圏になだれ込む。

 

 

「クソ、汚ぇぞ!」

 

「使えるものならなんでも使う…そうだろウ?

それに、私は見物スルと言ったが手を出さなイとは一言も言ってないからなァ。」

 

 

上機嫌な声色を聞き流しながら、悟飯は再び応戦する。

この乱戦の中で最も活躍出来ているのは悟飯だった。

精神と時の部屋や数日間のセルジュニアとの戦いは、経験不足からか手数で引けを取る場面がかなり見られた。

だが今はそれが全く無いのだ。

精神的にも肉体的にも限界寸前の今、彼の戦闘力は飛躍的に進化していた。

時に舞うように…時に無慈悲に。

ラウェイ…テコンドー…一番の伸び代はカポエイラだ。

正統派とも言える格闘技の中で、唯一踊るような格闘技。

セルの細胞にもこのような記憶が無かったのか、セルジュニアもこの技に対応出来きれていない。

対大人数戦というのも大きな要因なのだろう。

 

 

(片腕を失っていなければ…俺はここまでやれなかったのかもしれない。

絶対に…絶対にこの戦いに勝つんだ!)

 

 

シャペウジコウロ(頭を狙った蹴り)で一体を地面へ蹴り落とす。

その時に一瞬周りを見回す。

セルジュニアに全身を捕まれて自由を奪われ、攻撃され続けているトランクス。

地面に植えられて頭部を至る所から蹴られ続けているラディッツ。

腹に穴が開き、火花を散らしながらも抗戦する16号。

ボールのように蹴り回される17.18号。

クリリンは頭を捕まれてサンドバックだった。

肝心の仙豆はラディッツが持っているのだが、首から下が地面に埋まってる上に、脳を揺さぶられ続けて意識が朦朧としていた。

 

 

「くそっ…どけっ!

そこをどけぇっ!」

 

 

必死に援護に近づこうと試みるも、大量のセルジュニアに阻まれてなかなか近づくことすら難しい。

人造人間はさておき、Z戦士達の体力はみるみる落ちていた。

 

 

「クックッ…ハーッハッハ!

いよいよ死期が近づいてきたカァ?

現実を受け入レロ、いくら足掻いた所デェ無駄だ。」

 

 

高みの見物を決め込んでいたセルがゆっくり下降してくる。

だが悟飯にはセルに構ってる暇は無かった。

一刻も早く大切な仲間を助けなければならなかった。

その選択は、あるものを窮地に追い込むこととなる。

 

 

「ふむ、君達の無様ナ姿を見て気が変わった…最後くらイ私が楽に逝かセテろう。

サァテ…万が一があるからナァ、まずは貴様カラダ。

1度は助けられたようだが、今度こそ()()()には消えてもらう。」

 

 

セルジュニアに羽交い締めのまま睨めつける第二形態セル。

数日前と似たような状況だが、第二形態のセルの瞳は死んではいない。

 

 

「不良品では無い。

もう二度と屈服なんぞするものか!」

 

「威勢だけは認めてやロう。

威勢だけはな。」

 

 

デスビームで二の腕を貫く。

最後の抵抗として身体中に核を動かしていたが、的確に射貫かれた。

白目を向いたセルは、力なく倒れ込む。

 

 

「くっ…セル…。」

 

「はぁああーー!」

 

 

セルを気にかけずに、超スピードでセルジュニアの囲いを突破し、究極体セルを羽交い締めにする16号。

彼は狙っていたのだ、誰か1人に攻撃を行った時に出来る油断を。

風穴が開こうと、この為に予備エネルギーも全て使ったのだ。

 

 

「イイのか16号?

これ以上動くとショートして本当ニ壊れてしまうぞ?」

 

「必要無い。

ここでお前諸共自爆するからな!

みんなを巻き込んで済まない、許してくれ!」

 

 

16号の締め付ける力が更に強まる。

もし高性能なスカウターがあるのならば、16号の最大戦闘力を大幅に更新するだろう。

だがその最大値を出す時こそ、自分の命を引き換えに相手の命を奪う自爆攻撃が行われる時なのだ。

 

 

「……!?

何…故だ……。」

 

 

不意に見せた動揺。

爆発しない。

自身に内蔵された自爆装置が全くもって反応しない。

究極体セルはそれを見逃さない。

その固まった隙に尻尾を風穴に突き通し、16号を内側から真っ二つに分断する。

 

 

「自爆…装置が…誤作動?

いや…いつ取り外…カプセルコーポレーションか…。」

 

「これはこれは残念ダッタな。

自爆するつもりが自滅にナってしまった。

オット、どうした孫悟飯?

そんなに早死にシタいのかァ?」

 

 

セルジュニアに行く手を阻まれて味方を助けられないのなら、本体を倒す事にした悟飯。

懇親の飛び蹴りも防がれるどころか、足首を捕まれ地面に叩きつけられてしまった。

 

 

「…そうだ!

貴様は怒れば最強らしいではないかァ。

ここにいるヤツら全員殺せば、もっと楽しめるオモチャにでもなるのかァ?」

 

 

しれっとずっと前の悟空の激励を超聴力で盗み聞きしていた会話を思い出すセル。

だがそんな事はさほど重要では無い。

この場の奴らを皆殺しにすると言った方が重要だった。

 

 

「やめろ!

とにかくみんなをセルジュニアから解放しろ!」

 

「ほぅほぅ…イイ顔をするではないか。

そうだ、その顔だァ。

焦り、恐れ…貴様のその表情をもっと見せろ!

そしてタップリ遊んだ後に、同じ地獄へ送ってやる。

そうだなぁ…まずは手近な貴様からにしようカ。」

 

 

間髪入れずに適当に放たれたデスビーム。

それは比較的薄い胸板を貫く。

人造人間17号の心臓…永久エネルギー炉を撃ち抜かれた彼は血反吐を吐いて倒れ、そして動かなくなった。

 

「17号!

17号!」

 

「やめろっ!

もうやめろぉぉっ!!」

 

「いいゾその顔だ!

次は…ひとつ飛ばしてコイツかな?」

 

 

再び適当な方向にギャリック砲を放つ。

その方向にいたセルジュニア達は飲み込まれ、土煙を上げて爆発する。

土煙が上がるも、肉片が残るだけでほぼ何も残らなかった。

背中に携えていた剣だけが、墜落して地面に跳ねて落ちる。

 

 

「…めろ…やめてくれ…!」

 

「孫…悟飯…孫悟飯。」

 

 

地面から声が湧いてくる。

先程胴体を切断された16号が、這ってここまでやってきたのだ。

 

 

「孫悟飯…正しい事をする事は罪ではないんだ。

ただ、相手が話が通じない奴もいる。

その為に怒る事もあるだろう…それが今だ。

肉体も…心も…ありのままに…怒るんだ…。」

 

「おっと、まだ予備電力でも残っていたかァ?」

 

 

セルがゆっくり歩み寄る。

それでも16号は止めない。

 

 

「お前の家まで行ったことがあるが…あそこは良いところだった。

俺は…自然が…大好きなんだ。

もし生き残ったら…俺の分も自然を…動物達を…大切に「余計なオ世話だポンコツめ。」

 

 

優しい語りも無慈悲に踏み潰された。

悟飯はその光景を眺めることしか出来なかった。

仲間を、師匠を、父を守る為に何とかしようとしたが、何も出来なかった。

初めから真剣に鍛え上げ、戦えば良かった。

そして16号が目の前で潰された瞬間、初めて超サイヤ人に覚醒した時の怒りを、更に超える事となる。

 

 

プツンと何かが切れた。

 

 

 

「うぉぁああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーっ!!」

 

 

 

悟飯の周囲は暴風に包まれ、究極体セルと埋まっていたラディッツを残して全ての生物が100m程吹き飛ぶ。

朦朧とする意識の中で、ラディッツは見た。

身体からバチバチと放電する青い雷。

逆立った金髪はきめ細かく、更に逆立つ。

エメラルドグリーンの瞳からは、僅かに涙が浮かぶ。

 

 

「なれたか…悟飯…。」

 

 

そう、なったのだ。

超えたのだ壁を。

超サイヤ人を超えた超サイヤ人(超サイヤ人2)へ。

 

 

「なんだァ?

先程よりもパワーアップしている。」

 

 

見た目から変化を感じ取ったが、気も大幅に膨れ上がった事に気づく。

怒らせて覚醒でもしたか?

これは想像以上に楽しませてくれるかもしれない。

 

 

「クックック…やっと見せたかァ。

セルジュニアよ、軽く痛ぶってやれィ。」

 

 

指示を受けてセルジュニアは四方八方から悟飯へ飛び込む。

多少距離は開いたものの、数秒も経たないうちに全員が攻撃に成功するだろう。

手応えがあったが、同時に自分にも拳が刺さっていた。

それは別のセルジュニアであり、孫悟飯は既に姿を消していた。

 

 

「大丈夫ですか、ラディッツさん。」

 

「…あぁ、何とか。」

 

 

高速移動でラディッツに近付き、身体を掴んで地面から引っこ抜く。

地中からようやく自由の身になった彼は、すぐさま懐からカプセルを取り出し、仙豆を掌に出す。

 

 

「とにかく、仙豆を食え、1粒丸々な。

俺達は半分でいいから、全開で倒してこい!」

 

 

コクリと頷き、仙豆を1粒飲み込む。

額の傷も、身体中に出来た痣や傷が全て癒える。

以前として頭はスッキリせず、虚脱感は消えず、回復した気がしないが、アドレナリンか…高揚感か…今はまるで疲労感を感じない。

これなら…

 

 

「ヤツを…殺せる。」

 

「大きく出たなァ、孫悟飯!

私と相手するのはァまだ早いわァ!

ヤレィ!!」

 

 

セルジュニアが総力を上げて仕掛けてくる。

仲間の損害も考えずに気円斬や魔貫光殺砲を撃ってくる者もいる。

それを悟飯は何もせずに紙一重でかわしていく。

迎撃はしない、エネルギーを消費せず、必要最低限の動きで誘導していく。

ラディッツやクリリン達から逆の方へ。

その事も感じ取れるほど冷静に、視野が広くなっていた。

 

 

「雰囲気から違うな。

小手調べと行こうかァ。」

 

 

一度離れた地へ降り立つ戦士。

それを取り囲む70体あまりのセルジュニア。

以前絶望的状況なのは変わらない…数だけで見れば。

 

 

「キィッ!」

 

 

最初のセルジュニアは持てる力を使って悟飯に襲いかかるが、一発で身体が肉片となり飛散する。

一撃…最初のセルジュニアは63%のヤツだった。

恐らく、全員で掛からなければ、彼ら自身もあのようになるだろう。

半数が同時に、そして数秒置いて残りの半数も突進していく。

数でゴリ押ししようとしたが、それはすぐに無駄となった。

基本的に戦闘スタイルは変わらない、ムエタイやカポエイラの蹴りが主体。

だが既に洗練されており、戦闘力も飛躍的に上昇している。

攻撃、スピード…何をとっても別次元の強さだった。

 

 

20秒…たった20秒程で70体のセルジュニアが肉体…もしくは欠片も残らず死んだ。

 

 

「コレはコレはァ…私の90%のセルジュニアがいたのにも関わらずよくぞ生き残っタ。

ならば…私が直々に遊んでヤロウ。

サァテ…すぐに壊れてクレるなよォ?」

 

 

どう仕掛けようか一瞬考えていた時、鼻に痛みが走る。

鼻に手をやると、鮮血が指についていた。

血を浴びた?

いや、鼻血…自らの?

 

 

「どれほど人を殺せば気が済む?

どれほど痛めつければ気が済む?

セル…貴様の身勝手はもう許さん!」

 

「楽しい事をしてなァにが悪イ?

強さを得てなァにが悪イ?

前とハ違って多少は出来るようだが…さァ、さっきの様に喚いてみせみろォ!」

 

 

先に攻撃を仕掛けるセル。

しかしそれは届かずに自らの額に拳がくい込んでいた。

すかさず右胴回し蹴りに移る前に、ポンテイラ(前蹴り)を受けて弾みながら蹴り飛ばされていた。

 

 

「ナァニィ!?

ブルァッ!」

 

 

セルは即座にエネルギー弾を二発放つ。

手刀で簡単に弾き、その影に迫るセルを首元から踏み潰す。

90%のセルジュニアがやられた以上、全力でやらなければならなかったセル。

それがどうだ、つい数日前まで玩具扱い出来ていた糞餓鬼に弄ばれている。

たった二発…それだけで実力差を嫌という程突きつけられた。

 

 

「ふざけるナァ!

こんなクソ餓鬼に…腕も無い障害者のクソガキにィ!!

この究極体セルが負けるわけがヌァアイ!!」

 

 

咄嗟にある所作を行うセル。

その一連の動作は既に怒りで爆発した悟飯に油を注ぐ形となる。

 

 

「魔貫光殺砲!」

 

「貴様の薄汚れた手で、ピッコロさんの技を使うなぁあっ!!」

 

 

咄嗟に練り上げた気とは思えない程の威力であるセルの魔貫光殺砲を、かめはめ波で対抗する。

魔貫光殺砲は貫通力に優れた技だ。

ただし、かめはめ波のパワーが凄まじいもので、簡単に飲み込まれてしまう。

結果は見えていた。

 

 

「ク…ソ…ガァ…!」

 

 

露わになったセルの骨格。

その金属で作られた骨に絡みつくコード類。

それを覆うように、ピッコロの超回復で無理矢理即座に治す。

 

 

「馬鹿な…究極体の私ガ、押されてるのかァ?

ふざけるナ…貴様ハ…俺に…殺されるべきナンダ…!」

 

 

絶対的な自信が崩れていく。

追い詰められていく心。

この戦いに負ける事、即ち自分が最強の人造人間の証明にならない。

そして待ち受けるのは…明確な死である。

 

 

「有り得ン!!

絶対に認めんぞォ!!」

 

 

このときセルに、何かプツンと切れたものを感じた。

 

 

………

 

……

 

 

 

「チッ。

あの野郎、よくも17号を!」

 

「それにしても、16号やトランクスまで殺されちまうなんて…。」

 

 

人造人間はさておき、クリリンに仙豆を与えて回復させたラディッツ。

離れた所でもよく分かる…いかに悟飯の気が凄まじいものか。

 

 

(これが…超サイヤ人2…。

俺が一番好きな形態なんだけど…見るのと感じるのじゃぁドえらい違いだ。

こんなにも荒々しく気を放出し続けられるものなのか。)

 

 

通常の超サイヤ人で築き上げた、身体バランスを保ったまま、パワー・スピード・耐久性、全てにおいて通常の超サイヤ人を超越する力。

超サイヤ人の2倍の戦闘力になるとも言われている形態である。

 

 

「とにかく、悟飯の近くへ行こう!」

 

「そうだな。」

 

 

生き残った戦士達は、戦いの行方を見る為に向かう。

 

 

………

 

……

 

 

 

「私はセルとの戦いで…あー…内臓にかなりの傷を負ってな。

申し訳ないが戦えないのだ。」

 

「そこをなんとか!

来て欲しいって言ってるんですから!」

 

 

地下の避難シェルターの中で、押し問答が10分以上続いていた。

世界格闘チャンピオンミスターサタン。

ラディッツが直々に連れてきて欲しいと言ったのだ。

あんな化け物(セルジュニア)複数と戦える凄い人達ですらこの人の助けを欲していたのだ。

何としてでも連れていかなければ地球が助からない。

 

 

「ミスターサタン!

あなたの力が今必要なんです!」

 

「だから私は今本来の力を出せんのだ!

まだ時間がかかる、それまで待っててくれ!」

 

「あのセルジュニアと今互角に戦ってる人がいるんです!

早く来てくれないと!」

 

 

嫌だ嫌だどーしても嫌だ! となっていたサタンに、ふと考えが過ぎる。

 

セルジュニアと互角に戦ってるから物凄く強い人

 

 

セルジュニアはセルよりも弱いはずだから、一緒に戦ってセルジュニアを倒す

 

 

セルとはその人に戦ってもらう、けどセル強いからセル勝つ

 

 

疲れたセルなら勝てる

 

 

強い人も自分のファンになり、世界中が自分の強さに酔いしれる

 

 

怪我してる(設定)のにセルを倒す自分はメッチャカッコイイ

 

 

「フフフ…ガーッハッハ!

セルジュニアと戦ってる奴を見捨てる訳にはいかんなぁ!

私はまだドクターストップが掛かっているが地球の存亡の為にここで休むわけにはいかん!

この私ミスターサタンは、どんな状況でも悪い奴を成敗するのだ!

よし、案内しろガハハハハハ!!」

 

 

どこでどうスイッチが入ったのか分からないが、とにかく来てくれると言うことで安堵するカッパー。

乗ってきたバイクにサタンを乗せ、全速力で戦地へと向かう。



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真化・進化・神化 (再掲)

信じられない、投稿してあった最後がエイプリルフールネタで跡形もなく消えてるなんて。

皆様誠に申し訳ございません。


かねてより生物は進化の道を進んできた。

新たな環境に適応する為であったり、天敵から身を守る為であったり、効率よくエネルギーを得る為と多種多様である。

その中には誤解を生んでいる物もあり、進化には目的があるという事だ。

 

 

「はああああああああああああ!

あぁァァ有り得ン!

私ガ負ケルナド!!

有リ得テタマルカァァァァアアアアアァッッ!!」

 

 

進化は偶発的である。

いつどこでどんな事になるかなんて誰にもわかるものではない。

それは普通に生きているカタツムリから、死の淵の危機最中に怒りに目覚めたサイヤ人であろうが無差別だ。

第二形態から最終形態まであるフリーザ・コルド大王、脅威の再生能力と聡明な頭脳をもつナメック星人、気の抑制・解放・爆発と気の操作に長けた地球戦士達、瀕死から生き返れば強くなり、怒りに目覚めれば凄まじい進化を遂げるサイヤ人、そして幾千にもなる多種多様な生物…それらのDNAを掛け合わされ、更に最強の戦士となる為に生み出されたセル。

これほどまでの細胞を掛け合わされた生物にも、その進化の時は訪れる。

その進化が求めていなかった進化か、求めていた進化かそれは誰にもわからない。

進化を遂げて初めて解るものである。

 

 

 

「ダアアアアアアアアッッ!」

 

 

 

強靭な胴体は更なる強さを求め硬化する。

胸部から肩部、そして脚部を守るような攻殻は夥しく突起を生やす。

頭部の角は倍に増え、腹部を守る装甲は紫から赤黒く変色。

尾はシャープな印象から、膨れるような形へと変貌する。

その全てを補うかのように、体格は5,6mはあろうかという程に肥大化した。

禍々しい。

他に合う言葉があるだろうか。

表現出来うるだろうか。

 

 

「な なんだ…貴様は一体…。」

 

 

目の前にして思わず一瞬身が強ばる悟飯。

体がただそのように変貌するならばどうとも思わなかっただろう。

だが目の前のそのモノはその強さまでもが膨れ上がったのだ。

 

 

「…私カ。

私ハオ前ヲ殺スモノダ。

コノ私ニモマダ進化ノ余地ガアッタヨウダナ。

喜ベヨ孫悟飯、貴様ガソノ最初ノ獲物ダ!」

 

 

上半身を丸ごと打ち付ける拳に、岩山まで吹き飛ぶ悟飯。

反応出来なかった訳では無いのだが、一瞬でも強ばった身体が動くスピードよりも拳が速かっただけだ。

ダメージも深刻なものではない、まだ戦える。

 

 

「俺が獲物だと?

お前は俺が倒す!」

 

「私コソガ最強ナノダ。

貴様モ犬死シタ親父ノ元へ送ッテヤル!」

 

 

悟飯が岩肌を蹴り飛ばすようにセルへと向かう。

対するセルもデスビームで風穴を開けようと連射する。

一発一発が凄まじい速度で迫るも、その全てを高速移動でかわしながら接近する。

痺れを切らして超魔口砲を放つが、高速移動で地面との僅かな死角に回り込み、顎の直下から額の横っ面を蹴り倒す。

流れるように爆砕魔弾を撃ち込み、セルを中心に大地は爆発四散する。

 

 

「……グヌゥゥウァア!

ヤハリコノ身体ハァ…コレマデト桁違イダァ…。

コンドハコッチノ番ダァ!」

 

 

小石大岩が弾けると同時に迫り来るセル。

顔面に迫る手刀や拳を蹴りで応戦するも、手数で押し切られるようにして殴り飛ばされる。

再び視線を向けるもその巨体は姿を消し、ふとした瞬間には背中に踵落としが決まり地面が割れる程叩きつけられる。

 

 

「ギャリック砲!」

 

 

間髪入れずに真上から迫るエネルギー波。

避けきることも叶わずに一手二足で押しとどめようとするも、パワーアップしたセルの力に押され、行き場を失ったエネルギーは地表で爆発を起こす。

 

 

「フフフ…猿芝居ナンゾ通用センゾ。

サッサト立テ孫悟飯。」

 

 

砂塵で姿が見えずとも、セルには分かっていた。

この程度で終わる敵では無いと…気を消して不意を突くのだろうとしても対応出来る。

そんな小細工でカウンターをした所でつまらない。

倒すならジワジワと嬲り、中途半端な強さを持った事を後悔させる程にいたぶって殺す気だ。

 

 

「猿芝居なんてしなくても、貴様は俺が真正面から殺す。

むしろ姿が見えない内に手を出しておいた方が良かったんじゃないのか?

そうでもしなけりゃ俺に勝てないだろう?」

 

 

砂塵が晴れて姿が見える。

ダメージは…想定をやや下回ったように見える。

自分はスタミナやエネルギーはまだある。

ヤツに負けるわけが無い。

 

対する悟飯も、気も体力もまだ大丈夫。

奴に負ける訳にはいかない。

殺された皆の為にも、父の為にも。

 

 

「俺は貴様を殺す!」

 

「殺スノハ私ダ、孫悟飯!」

 

 

指をクイッと上げると同時に再び爆発する大地。

咄嗟に回避した悟飯にセルの蹴りが入る。

痛みを堪えその左足を掴むと、片腕でその巨体を地面へ叩きつける。

その勢いでセルの土手っ腹に回し踵落としを浴びせるも、怪光線をまともに受け痛みと痺れに体が支配される。

その一瞬の内に片手にエネルギーを溜め、渾身の一撃を放つ。

 

 

「主砲斉射ァッ!」

 

「!

魔閃光!」

 

 

咄嗟に放つ魔閃光も、一瞬の溜めがあったセルに軍配が上がる。

主砲斉射を受けて吹き飛ぶ身体。

その浮遊感を感じる間もなく、直ぐにセルの手の平が迫る。

強烈な平手打ちを気弾で威力を削ぎ、蹴りで弾いて距離を何とか保つ。

 

 

「…ラディッツさんの技も…貴様…!」

 

「様々ナ細胞ヲ得タ私ノ個性ダ。

最モ、ワタシノ方ガ威力ガ上ダ…マサニ宝ノ持チ腐レダナ。」

 

「そんな事なんて有り得ない!」

 

 

 

再び地面を蹴って懐へ入り込む。

でかい図体だからこそ、間合いを取らずに至近距離の打撃戦に持ち込む狙いだ。

 

 

(イイダロウ、付キ合ッテヤル)

 

 

敢えて牽制をせずに間合いに入り込むまで待つセル。

初手は共に拳と脚が交差するように互いに届かず。

悟飯の首を刈り取るようなアルマーダ(後ろ回し蹴り)

セルの身体を切り裂くような鋭い手刀。

一瞬拮抗しているようにも見えるが、僅かにセルの自重を乗せた一撃の方が重たい。

それを予測していたかのように、その力をも利用し身体を半回転させ、左脚でのアルマーダ。

左手でガードしていなければ顎を撃ち込んでいたであろう。

手の厚み分届かず、そのまま左手を引き上げ力任せに地面へと投げ落とす。

 

 

「ガハッァ!」

 

「イイゾォ孫悟飯!」

 

 

足でも全てをガードがしきれない左胴を蹴りとばし、高速移動で先回りして再び地面へ殴りつける。

四肢ならぬ三肢で墜落を回避し、そのままがら空きの胴へ…鳩尾へ頭突きを見舞う。

しかしながら平然と右足を掴み、ジャイアントスイングで空へ投げ出される。

高速移動で先回りされ、数十発の拳と蹴りを全身に浴び、背面を蹴り上げられ、ダブルスレッジハンマーで再び地面へと殴り落とされる。

 

 

「……ぐっ…そぉ…。」

 

「頭突キガソコマデ効イテイナイノガソンナニ気ニナッタノカ?

新タナ形態にナッタソノ時、ココニ装甲ガ追加サレタヨウデナァ。」

 

 

赤黒く変色した鳩尾。

新たな形態はやはり一筋縄ではいかないようだ。

強靭な身体に驚異的なパワー、そして見た目を大きく裏切るスピード。

退路のない空間に分厚い壁が迫り来るような、ジワジワと追い詰められるような感覚を感じていた。

近接戦闘では活路を見いだせず、遠距離でもそのスピードとパワーで攻めきれない。

 

 

(どうすれば…どうしたらいいんだ…。

遠距離ではやはりどうしてもジリ貧だ。

じゃあ不利を承知でまた奴との接近戦!)

 

 

覚悟を決めて再び飛び込もうとした時だ、セルの後頭部を中心に爆発が起こる。

セルの身体で見えないが、何者かが気弾を放ったようだ。

すぐに煙は晴れるが、ホコリが舞った程度にしか思えない程ダメージが無い。

振り返れば奴がいた。

生き残ったラディッツ達だ。

 

 

「……正直モウ少シ賢イト思ッテイタガナ。

同ジ細胞ヲ持ツ者同士残念ダ。」

 

「何が同じ細胞を持つ者同士だ、悟飯を殺したらどうせ俺達も殺すつもりだろ。

悟飯だけにはやらせん、俺達もやらせてもらう。」

 

 

ラディッツはゆっくり歩いて近づく。

少しでも悟飯の体力を回復させる為に敢えてゆっくりと。

この場に到着してから違和感は感じていた。

それは近づくにつれ、間違っていなかったことに気がつく。

 

 

(おかしい。

こんな変身の仕方なんて記憶に無い。

死んじまったセルの方しか覚えてねぇ。

こんな気持ち悪い感じじゃない。

パーフェクトセルよりも更に上があったなんて…。)

 

「ドウシタ?

時間稼ギノツモリカ?」

 

「へへ、まぁそんなところだ。

ところでなんでお前、そんな禍々しくなったんだ?

隠してたのか?」

 

「サァナ。

コレハ私ニモ想定外ダッタ。

正直ニ言ウト、先程マデハ立場ハ逆転シテイタノダヨ。

コノ身体ヲ得ラレナカッタラ、アノママ無様にヤラレテイタダロウナァ。」

 

 

雄弁と語るセルに嘘は見受けられなかった。

これは火事場のクソ力とでも言わない限り…と思うしか無かった。

ピンチはチャンスと一瞬頭を遮るが、何故こんな時に相手にその恩恵が来るのかと恨んだ。

 

 

「聞キタイ事ハコレクライカ?」

 

「もう一つある。

俺がいた時代には、お前みたいなとんでもない奴は存在しなかった。

俺には今のセルの変身が分からなくて頭がこんがらがっている。

…その進化はお前にとってなんだ?」

 

「……ソンナ事ハ私ニモワカラン。

タダ貴様ノ言イ回シヲ使ウナラバァ、生きる残る為に正当な進化をした ダロウ。

私ハ最強ノ武道家トナル為ニ作ラレ、13号ノ怨念ヲモ引継イダ。

タダ強イ奴ヲ殺ス。

私ノ生キル意味ニチョットシタ破壊衝動ガ加ワッテイルダケダ。

破壊神トデモ言オウカ。

コノ身体ハ、本来私ノポテンシャルヲ完全に引キ出シタモノ…。

即チ進化デアリ、真化デモアリ、神化ナノダ。」

 

 

大層な大口叩き野郎とでも言ってやりたかったが、超サイヤ人2(あの姿)の悟飯と互角以上に渡り合えるのならば過言では無いだろう。

だがまだこの後には魔人ブウ、超サイヤ人3、ベジット、そして最終的には邪悪龍が控えているのだ。

進化や真化ならともかく、破壊神と言う神化の点なら今後現れる邪悪龍の方がよっぽどお似合いだ。

 

 

「…そうかい、ありがとよ。

正直言ってクウラ以外、憎いやつはいないからどうって事ないんだ。

だがお前は未来には存在しない奴なんだ。

悪いがここで、全員で倒させてもらう。」

 

「笑ワセルナ。

私ヲ倒ス奴ナド存在シナイ。

未来ニハ存在シナイダト?

アマリノ恐怖ニ気デモ狂ッタカ?

…サァテ、サービスタイムハオシマイダ。

ソロソロオ別レダ。」

 

 

粘着的な笑みを浮かべてラディッツの額に掌を向ける。

ベジータ新必殺技のビッグバンアタック。

掌に気が集まりだした頃、ひとつの気の刃がセルの胴を切り裂き霧散する。

確かに切り裂いたのだが、それは硬い硬い表面の皮数枚。

あっという間に傷は治癒していき、何事も無かったかのように再生される。

 

 

「一ツアドバイスシテヤロウ。

モウ少シ気ヲ凝縮スレバ、ワタシノ胴体ヲモ真ッ二ツニ出来ルダロウ。

最モ、死ヌカラソンナアドバイスナド生カサレナイガナ。」

 

 

クリリン渾身の気円斬も対して傷をつけれずに終わるが、それを皮切りにラディッツがローキックからの顔面へ殴り付ける。

もちろん超サイヤ人と界王拳併用なのだが、やはり大したダメージにはならない。

構わず貯め切った気を掌から惜しげも無く放出するが、リヒートで辛うじて背後に回り込み溜め無しで主砲斉射をゼロ距離発射する。

爆煙に包まれるセルだが煙を斬り裂いて手を伸ばし、ラディッツの首根っこを難無く捕まえる。

 

 

「度胸ダケナラ褒メテヤル。」

 

 

その時、セルの胴体は二つに割れた。

重力に沿って僅かに上半身は落ちるも、すぐさま浮遊して原因の元を見入る。

その好きにラディッツは掴まれた手を強引に振りほどく。

 

 

「18号…。」

 

「気を凝縮するってのはこう言う事かい?

よく見れば誰でも真似出来るし、もう少し時間があればアンタを小間切れに出来る便利な技じゃないか。」

 

 

クリリンの真横に降り立った18号。

僅かな時間で技の本質を見抜き、それを強化して実行して見せた。

「誰でもって…そりゃないよ。」と半泣きのクリリンだが、彼女はセルの強靭な身体とクリリンのプライドを同時に切り裂いたのだ。

短時間でなかなか出来ることではない。

セルの別れた胴体はあっさりと元に戻る。

 

 

(やはり核を仕留めなきゃ永遠に終わらないかもしれない。

スタミナ削るより一気に終わらせなければ…。)

 

 

一気に畳み掛ける。

完全体セルと17号とトランクスがいても難しい局面をこの人数で殺らなければならない。

その為にはどうしても悟飯の力が必要であり、時間も必要である。

 

 

「急ガナクテモジックリト殺シテヤルンダガナ。

ソンナニ死ヲ御所望ナラバァ望ミ通リニシテヤルゾォ!」

 

 

咄嗟に18号がバリアを張る。

クリリンはそれに合わせてかめはめ波の構えをとる。

セルの気がそちらに向いた一瞬、ラディッツは悟飯の元へリヒートで駆け寄る。

 

 

「悟飯、お前にトドメを任せられるか?」

 

「けど、ラディッツさん達はセルに「命懸けで時間を作る。

やれるか?」

 

 

数年前の対ナッパ戦が脳裏を過ぎる。

あの時は仕留め損なった。

次は確実にやらなければならない。

いや、確実に仕留める。

 

 

「分かりました。

全力でやります!

ラディッツさん、お願いします!」

 

 

片腕に気を込め、練り始める。

始まった。

最後の最後の大勝負が。

途中でセルが気づいて応戦するようならば勝機が出てくる。

劇中通りの相手では無いが、このピンチを打開するのは悟飯のかめはめ波しか考えられない。

 

アンドロイドバリアを解いた瞬間に放たれたかめはめ波。

確かにセルの顔面に炸裂したのだが、まるでそよ風でも浴びたかのような表情だ。

だがそれを想定していた18号が、浴びせ蹴りを顔面に。

それも大した事が無く、手の甲で地面に叩き落とされる。

ここでクリリンも、全体重をかけたドロップキックをセルの顔面に打ち込む。

 

 

「ソノ程度カ?」

 

「いぃっ!?」

 

 

固まるクリリンを消すはずだったのに、いきなり顔面付近から消えてしまう。

どうやらラディッツが助けたようなのだが、まるで姿が見えなかった。

 

 

「今ノハァ何ダ?

見エナカッタガ…マァイイ。」

 

 

再び対峙する戦士と怪物。

悟飯の目の前でラディッツ達がセルの猛攻を耐えているが、長くはもたない。

 

 

 

「リヒート!」

 

「小癪ナ!」

 

 

セルの全力の攻撃は、ラディッツにはいよいよ見て躱すことが出来ない。

18号も同等だが、クリリンにとってはもう見切る事の出来ない程になっていた。

達人レベルまでではないが、全地球人ではトップを誇る武道家としてそこまでいけば充分なのに、今のところの加速する戦闘力のインフレの結果にはギリギリついていけない。

そこをラディッツのリヒート(一時的加速能力)がカバーする形となっていた。

クリリンや18号の攻撃が、如何に埃を巻き上げるだけのものになろうが、気を消し紛れるように攻めれば嫌でもフラストレーションが溜まる。

対クウラ戦を総動員で行っているような新鮮さの無い戦法も、初見の相手には通じていた。

大きなダメージを与えられないのが悔やまれる点でもあるが。

 

 

「ナラバ雑魚共カラ消セバ「リヒート!」エェイ、鬱陶シイ!」

 

 

爆発波で砂塵を吹き飛ばし、同時にイージスも張る。

まさかこの程度の奴らにバリアを張らなければいけないと思うと、頭に血が上るような感覚になるが、向こうの攻撃ももうそんなに長く続かない事にすぐ気がついた。

 

 

「ソノリヒートトヤラハ相当身体ニクルヨウダナァ。

ナァラディッツヨォ?」

 

「はぁ、はぁ…だからなんだ。」

 

 

 

リヒートの過使用は身体を文字通り痛めつける。

加熱が放熱を上回れば、待っているのは熱中症…熱射病だ。

既にラディッツは全身から汗が滝のように出ている。

身体に異常が起きているのは誰が見てもわかるだろう。

 

 

「選バセテヤロウ。

自ラ破滅スルカ、私ニ殺サレルカ。

私ナラバ一瞬デ楽ニシテヤルゾォ?」

 

「い 嫌だね。

俺は老衰でポックリ逝くのが理想なんだよ。」

 

「腑抜ケタ事ヲ。

ソレトモ、孫悟飯ノ一撃必殺ニデモ期待シテイルノカ?」

 

 

作戦は筒抜けだった。

全てを超聴力で聞いた上での芝居。

その気になれば、相手にしていた三人を一瞬で葬れるし、孫悟飯もあっさりとあの世送りに出来た。

 

 

「必死ニナッテ抵抗スルソノ姿。

弱イ奴ラガ足掻ク姿ハ滑稽ダッタゾ。

最後ニ良イモノガ見レタナ、礼ヲ言ウゾ。」

 

 

セルはゆっくりと間合いを広げていく。

ある程度の距離を置くと、ふと地に下りる。

 

 

「サァ、私ノ芝居モフィナーレダ!

最後ノ最後ニ抗ッテミロ。

貴様ラオ得意ノ諦メナイ心トヤラデナァ!

孫悟飯、貴様ハコノトッテオキノ技デ地球ゴト微塵ニシテヤル。」

 

 

この展開にまんまと仕立てあげたのはセルの方だった。

一人一人丁寧になぶり殺すのもいいが、圧倒的な強さを見せつけて絶望に陥れて消すのも面白いと思ったからだ。

とどめを刺す?

むしろ自分にとってこうも面白く希望通りに事が進むと思っておらず、何度吹き出しそうなのを堪えたことか。

ついに抑えきれず口角が上がる。

それと同時に構える。

これまで何度も救われてきたあの技が…今度は自分達を滅ぼす為に放たれようと言うのか?

 

 

「カァ…メェエ…ハァアア…メェェエエエ…!」

 

 

腰に構えられた掌には、青白いエネルギーが凝縮されていく。

そうだ…父の技でもあり自分の技でもある、かめはめ波。

よもや憎い敵からこの技が出てくるのは挑発か?

はたまた自らの方が優れているという優越性か?

どちらでも構わないが、問題なのは一瞬で自らの気を超えられた事だ。

 

 

(なんだこの気は…。

こんな化け物に俺は…僕は勝てるのか?

思えば父さんもラディッツさんも適わなかった相手だ、僕は…。)

 

「悟飯、やるぞ!」

 

 

ラディッツが構える。

まだ完全放熱に至ってないので、全身から湯気が出ている。

目の焦点も怪しい。

その背後からもクリリンと18号が続く。

いくら仙豆で体力は少し回復したとはいえ、皆不眠不休に近い状態である。

そして相手は悟飯をも超える相手であり、相手の手の平で踊らされている状況だ。

それでも立ち向かうのは、そこに僅かながらも勝機があるからだ。

座して死を待つよりは出て活路を見出さん。

思えばこの言葉、ラディッツとの勉強の時に昔の偉い人が今の自分達に残した有名な言葉。

その時は問題集に書き込むだけで何も思わなかったが、実際にこの光景を見て実感する。

 

 

(そうだ…ここで諦めるなんて、本当に父さんの死を無駄にしてしまう。

僕はやるんだ。

ここでやらなきゃ…俺がやらなきゃ誰がやるんだ!)

 

 

悟飯も自分を奮い立たせて構える。

片手でもその所作は何ら変わらない。

気を練り、溜めたエネルギーを右手に全て集中させる。

 

 

「かぁ…。」

 

 

奴は自分より格上。

 

 

「めぇ…。」

 

 

だからと言って自分の技が。

 

 

「はぁ…。」

 

 

父さんの技が。

 

 

「めぇ…。」

 

 

負けるなんて俺が許さない!

 

 

 

腰に据えた右手が蒼白く光る。

その光は孫悟空のかめはめ波と何ら変わらない。

神々しく、眩く光り輝く。

親子の細胞を取り込んでいるセルも、皮肉にも似たような光を携えているが、不思議とこちら側の方がより色濃く鮮やかに見えるのは気のせいか。

ラディッツやクリリンや18号も、それぞれ気を放つ瞬間を待っている。

最初のぶちかまし。

そこに全神経を集中させる。

 

 

 

「フッフッフ、コチラノエネルギーハモウコノ太陽系ヲモ消シ去ル程溜マッタゾ。

サァ足掻ケ!

必死ニ足掻イテ見セロォ、孫悟飯!

 

…波ァァアアアア!!」

 

「「「「波ぁぁあああ!!」」」」

 

 

青白く巨大な一本の光の筋が迫ってくる。

それに真っ向から、三色の光の筋が向かっていく。

あまりに強大でそれぞれ速度は出ていないが、地面を抉るように向かうそれぞれのエネルギーの波。

今、それが互いのエネルギーに打ち当たる。

地球の戦士達のタイミングは絶妙である。

1つの力では簡単に弾かれてしまったであろうが、四本が同時に当たる事で相手の勢いを大きく削ぐことに成功した。

…が、それは一瞬。

拮抗するかに見えたエネルギーの鍔迫り合いは、あっという間に押され始めた。

1m…2mと確実にエネルギーの塊が迫り来る。

 

 

「押し返せぇっ!」

 

 

言葉をひねり出すラディッツに応えるように、エネルギーの塊は少しスピードが遅くなった。

それでも確実にこちら側へ押し込まれて来る。

 

 

 

「ドウシタッ?

ソノ程度ナノカァ?

モットモット抗エェイ!」

 

 

更に勢いを増してきたかめはめ波に再び押される戦士達。

限界ギリギリ、これ以上は力なんて出るわけが無い。

エネルギーの塊は、いつしか10m程先まで迫っていた。

この塊に飲み込まれれば、文字通り細胞の1片も残さず消滅する。

 

 

「だぁぁぁっクソぉったれが!」

 

「でやあああああ!」

 

「ホゥ、ソウダソウダヤレバ出来ルジャナイカ。」

 

 

いよいよラディッツも全開で気を放出し始めた。

だがそれでもセルは至って涼しい顔だ。

ラディッツに呼応するかのように、クリリンも雄叫びを上げて限界を引き上げる。

18号も無尽蔵のエネルギー炉があるとはいえ出力には限界がある。

超えれば身体がもたないが、限界まで引き上げている。

エネルギーの塊は、少しづつセルの方へ押し返していた。

 

 

「悟飯、お前はまだやれる、やれるんだ!

俺はお前の限界はもっと先にあるのを知ってるんだぁ!」

 

「クッ…はい!

はあああー!」

 

「クックック、ヨクゾココマデ、上出来ダ。

デハ遠慮無ク終ワラセヨウ。

ハアアアアアッッ!」

 

 

第二波のエネルギーの塊が押し寄せてくる。

咄嗟にラディッツは、スタミナを捨てて限界を超えて気を放出する。

勢いを殺す事は出来なかったが、こちらが飲み込まれるのは辛うじて防げた。

それでも先程より段違いの勢いで迫り来る塊。

あと6m…5m…いよいよエネルギーの塊が壁のように眼前一杯に迫って来た。

 

 

「ニィ…ギィィ。」

 

「あぁ…かぁ…!」

 

 

悟飯も限界まで引き上げ、ラディッツやクリリンや18号も限界まで気を放出してやっと同等。

セルは持続的に気を放出し続けれるだろうが、戦士達は後先考えず今の全力を出している。

ピークは過ぎた、じわりじわりと再び動き出すエネルギーの塊。

 

 

「モウ終ワリダ!

消エテナクナレェエイ!」

 

「!!

界王拳!」

 

 

爆発的な第三波が押し寄せる。

咄嗟に界王拳で勢いを殺そうとするも、向こうのエネルギーはこちらを遥かに上回っていた。

エネルギーの塊は更に地面を抉り、戦士達の僅か2,3m先まで一気に押しやる。

もう限界だ。

 

 

 

---

 

--

 

-

 

 

「えぇいまだか!

まだ撃てんのか!」

 

「まだです!

あ、とぉっ、もう少しぃっ!」

 

 

揺れる大地をひた走る1台の車。

二回目の爆風で壊れたバイクを捨て、速度は劣るも走破性に優れた軍用車両(HUMMER H2)が甲高いエンジン音を唸らせて行く。

サタンの手には対戦車ミサイル(FGM-148 ジャベリン)

これなら約2km離れた所からセルを攻撃出来る。

こんな物が今更通用するかどうかはわからないが、自分を守ってくれた戦士達の助けになるならと思い、今に至っている。

無論、サタンはこれで倒せると信じている。

 

 

「サタンさん、数字はなんて出てます!?」

 

「2400だ!」

 

「あと400m!

あと少どわぁぁ!!」

 

 

三度目の爆風が車を襲う。

ただでさえ耐久性に優れた車が軍用として更に装甲が増したはずなのだが、砲弾のように飛び込んでくる岩がフロントガラスを突き破り、窓のないリアをぶち抜く。

それでもアクセルを踏み入れ、孤軍は勇ましく前へ突き進む。

その時、丁度数字が2000を下回った。

セルが射程距離に入る。

 

 

「よし、ぶっ飛ばしてやるぜ!」

 

「誤爆だけはしないで下さいよ!!」

 

 

高倍率に引き上げられた画面には、セルゲームで見た事ある弁当売りの少年やその取り巻きの人達。

光の塊は直前まで来ていた。

その反対に画面を動かせば、満面の笑みの見たことのない巨大で不気味な怪物がいた。

 

 

「みつけたぞ、セルだ!」

 

「撃ってくださいサタンさん!!」

 

「よぉし、くたばりやがれーっ!」

 

 

轟音をあげて飛翔していくミサイル。

すかさず筒を捨て、新しいミサイルを同じ手順でもう一発撃つ。

その直後、前方に飛んできた岩に乗り上げて車は二転三転と、所々バラバラになりながらようやく止まる。

 

 

「……だはっ…ぅ…かはっ。」

 

 

最後の力を振り絞って、ジャベリンを抱えドアを蹴り破って車外へ這いずり出たカッパー。

サタンは言葉になってない呻き声を上げて地面に突っ伏している。

 

 

「頼みますよ…ラディッツさん…。」

 

 

最後に一発、良く狙いを定めてミサイルを放つ。

噴射音と同時に飛び出したミサイルを見やると、彼も意識を失った。

 

 

---

 

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-

 

 

騙し騙し戦ってきた彼らにも、いよいよ肉体的な限界を身体が知らせていた。

彼らは既に心臓が握り潰されそうになり、身体中が悲鳴をあげて痙攣し始め、

意識はもう何度も飛び掛けている。

立っているだけでやっとな身体を酷使し続け、もう身体に自由が効かなくなって来ていた。

休息を取る暇もない波状攻撃。

不眠不休で戦い、血反吐や泥まみれになりながらもここまで来たが…。

最後の最後に圧倒的な力の差を見せつけさせられた。

全てはセルの作戦通り。

勝利の女神は、どうやら最後までこちらに背を向けているようにも思える。

絶望的力の差。

覆せると思っていた。

何故ならそんな未来は知らないからだ。

どうにかなると思っていた。

 

 

(…ダメだったのか?

何が間違っていたのか…心臓病から全て俺が…。

教えてくれ…助けてくれぇ…。

誰か…。)

 

(強くなるって言ったのに!

もう負けないと誓ったのに!

…僕は…セルを倒せなかった…。)

 

 

ラディッツの目から涙が出る。

悟飯も膝をつく。

クリリンも18号も、逃れられない死から強く目を瞑る。

その直前、脳内に声が飛び込んできた。

 

 

『ここまで来て諦めるなんて無ぇだろ!

まだお前ぇ達はやれっぞ!』

 

 

空耳か?

あまりにも身体や脳にダメージが及んで幻聴まで聞こえてきたのだろうか?

誰しもが訳の分からないこの現象にいち早く気づいたのはあの男だ。

 

 

「悟空、悟空だぁああ!」

 

 

溢れる涙が止まらないまま叫ぶラディッツ。

助けが来た。

こんなに追い詰められても姿も声も無かったあの救世主が、こんな時に帰ってきた。

 

 

『泣くのは後だ!

もうすぐそこまできてる!

全力で押し返せ!』

 

 

クリリンとラディッツは不思議と力が溢れる。

18号も訳が分からなかったが、そんな2人について行くかのようにパワーを引き出す。

悟飯はまだ状況が理解出来ていない。

 

 

「そんな…なんで父さんの声が!?」

 

『界王様ん所に瞬間移動して死んじまったんだけんどよ、その界王様のおかげで今声を届けてんだ。』

 

『悟空!

貴様本当に反省しておるのか!?

わしゃぁ界王だぞ、スゴーイ偉いんじゃぞ!!』

 

 

爆発に巻き込まれ事故死した界王様が怒り狂っているが、お得意の「まぁまぁ悪かった」で落ち着かせられる。

 

 

『悪かったな、お前ぇ達こんな事になっちまってよ。』

 

「…いいよ、声が聞けただけでも凄く助かった。

もう俺は大丈夫だ!

悟空、悟飯に声を掛けてやれ。

その間は俺が何とかする。

悟飯!

多少気が散ってもいい、父さんと話すんだ。」

 

 

悟飯はでも…と言いかけたが、ラディッツの目を見てわかった。

まだ終わりじゃない、最後の会話をさせるつもりではないようだ。

少しだけ時間を置いて頷く。

 

 

「界王拳…1.5倍(テンゴ)っ!!」

 

「気デモ狂ッテ念仏ヲ唱エ始メタカァ!?」

 

「あぁっ?

あぁ、お前のなぁっ!!」

 

「抜カセ!」

 

 

いよいよ奥の手、超界王拳を使うラディッツ。

全員目を固く瞑って全力を振り絞る。

息を吹き返した戦士達の勢いは盛り返す。

盛り返すと言っても目前まで迫った気の壁を押し留めているだけに過ぎないが、先程までの潰れそうなプレッシャーはどこかへ行ってしまった。

何、そんな付け焼き刃の気などすぐに折れる…。

セルは自信に満ち溢れている。

 

 

『悟飯、お前ぇはオラがいなくてもここまで戦えるなんて凄ぇ奴だな。

もうここまで来れば立派な戦士だ。』

 

「そんな…そんなこと無かった。

俺がしっかりしてないから…トランクスさんも…味方になった人造人間もセルも…もっと言えばベジータさんやヤムチャさん達だって死なせてしまったんだ!

僕は強くなんかなかったんだ。

大事な所で弱虫になる孫悟飯なんだ。」

 

『それは違うぞ悟飯。

皆お前ぇ達に未来を託していったんだ。

お前ぇには未来を、セルを倒せる力があるからだ。

お前ぇは弱くなんかねぇ。

お前ぇは怒って本気を出せば、この世界でどんな奴でも倒せる強さがあるんだ!』

 

 

ラディッツが必死の形相で気を押し留める。

クリリンも、そして18号も。

自分がやらなければ…誰がやるのか。

 

 

『自信を持て!

お前ぇは優しいから、周りの事…この星の被害を知らねぇところで考えてんだ。

今は周りの事を考るんじゃねぇ。

お前ぇ達が負けたら、それこそこの世界は奴の好きにさせられるんだぞ。』

 

 

16号の最後が過ぎる。

この美しい星がセルによって、あの時と同じように、文字通り壊される。

そんなことは許されない。

自分の大好きな生き物や自然が壊されるなんて。

 

 

『オラはずっと見てるぞ。

お前ぇが殺された皆の仇を取って、地球を守りきるその時まで。

だが今はそのまま待つんだ。

ラディッツ達が死に物狂いでチャンスを待ってる。

その時まで抑えろ。』

 

 

悟飯の目に闘志が戻る。

僅か数秒の時間も、凄まじく長く感じる。

焦れるが今ではない。

信じて待つ…。

 

 

「私ハドクターゲロのコンピュータが生ミ出シタ最強ノ存在!

ソシテ13号共ノ恨ミヤ身体ヲモ引キ継イダ最凶ノ生物!

貴様ラノ幸運モココマデダ!

界王拳!」

 

 

第四波のエネルギーの大波。

これまでよりも更に巨大なエネルギーの波が一気に押し寄せる。

1mいや、もう1mの間もない。

既に飲み込まれつつあるがまだ待つ。

 

勝った。

ようやくこの戦いに勝って最強を手に入れられる。

散々手を焼いてきたが、遂に。

ほぼ飲み込まれつつある地球の戦士達を見て若干早々だが勝利の余韻に浸る。

長かった。

細胞の1片からなら途中で存在を消されたであろうが、人造人間13号の存在が予想外のレベルへの達成を早め、更には完全と思えた自分の強さを底上げしたのだ。

その瞬間、セルの後頭部が爆発する。

体の表面すら傷にならない程度のひ弱な爆発だが何処からか?

再び右方に爆発が起こる。

飛んできた方向を見ると、遠くからまた何か噴射された。

 

 

「ミサイルカ、安心シロ。

次ハ貴様ラ人間共ヲジックリナ。

コノ星ガ残ッテイレバナ。」

 

 

ミサイルを放ったあと、その人間は倒れた。

勝手に死んだか、無様だな。

その光景を嘲笑った時だ。

 

 

『今だ悟飯!』

 

「うわああああああああああぁぁぁぁぁああああ!!」

 

 

 

ブツブツ独り言を、気が狂ったかに見えた孫悟飯が雄叫びをあげる。

それと同時に、これまでと全く比べ物にならないエネルギーが放出される。

油断した。

セルも全身全霊を込めて気をぶち込むが勢いが止まらない。

あっという間に気の塊は、中間付近にまで押されていた。

 

 

「界王拳ニバイ!」

 

「だあああああああ2倍(んばああぁぁっ)!!」

 

全力も全力。

同じくセルも界王拳をさらに引き上げて応戦する。

それをラディッツが白目を剥きながらも応戦し勢いを殺す。

 

 

『悟飯、オラがついてる!

出し尽くせ!』

 

「はああああああああ!」

 

 

白目から一瞬戻って状況が目に飛び込む。

悟飯の背中に寄り添う金色の戦士の背中。

その戦士は悟飯の手に添えるかのように、かめはめ波を放っている。

 

 

(あぁ…これが…。)

 

 

親子かめはめ波。

後にそう命名付けられるのだが、実際に悟空が悟飯の元にいたのかは、本人以外には誰もわからない。

その父の助けがあったのか、悟飯本人の潜在的に隠されていた力がようやく発揮されたのか…みるみる気の塊はセルを追い込む。

 

 

「ソンナコトハミトメナイ!

オレコソガサイキョウナンダアアアァアアッ!!」

 

「がああああああああぁぁぁっっ!!」

 

 

ここに来てセルの尻尾が大きく膨らみ、脚が二本飛び出す。

肉体こそ追いついていないのでコードや金属が露になっており、その分身体がまた一回り膨れていく。

その金属の部分に最後のミサイルがダイレクトに辺り脚が爆ぜる。

バランスの取れなくなった身体はガクッと崩れ、それと同時に荒々しいエネルギーの津波に飲み込まれた。

 

 

「オレガ…サイキョウナンダ…コノ…オ…レ……コソ………。」

 

 

バラバラに砕けていく身体。

細胞レベルで消えて行く身体。

最後の一片、核が消えると、凄まじいエネルギーの波は抵抗するものを失って宇宙へ飛んでいく。

遮るものは何も無い。

そしてそのまま宇宙空間でエネルギーの津波は静かに消えていった。




最後のお話が消えていることに気がつくにも時間が掛かり、謝罪の言葉も見当たりません。
これでセル編はきっちり終わらせれたと思います。

今回は申し訳ございませんでした。、


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ー ??? ー
サヨナラとは言わないで


あまりにも目に余るミスを犯したので連投します。

誤字脱字修正済み R2 1/12


「…あ、知らない天井だ。」

 

 

ネタ的要素のあの有名な台詞を、まさか自分が言える日が来るとは思わなかった。

二日ぶりに目覚めたラディッツは、周りをよく見ようとするも身体が動かない事に気がつく。

頭痛も激しく吐き気もするが、環境が整って落ち着いた睡眠をとったことはかなり体力の回復に貢献したようだ。

 

 

「目覚めたようだね?」

 

「あ あれ、先生!」

 

 

口ひげとメガネがトレードマークの担当の医師。

ベジータ戦が終わった時にお世話になった医師が、何故かまたいいタイミングで扉を開けてやって来た。

 

 

「本来はこちらの医師が担当するのだがね、見ての通り人材不足で派遣されたんだ。

まさか、またラディッツさんがいるとは思わなかったけどね。

それにしても…なんでまたこんな大怪我しているんだ。」

 

 

半ば呆れながら笑う。

それもそうだ、身体中の筋断裂に隈がはっきりと作られるほどの酷い顔。

普通の患者では有り得ない怪我、プロレスラーや格闘家でも現れない症状に、医師はもう笑うしか無かった。

 

 

「君は一体、いつもいつも何をしているのだね…。」

 

「え…まぁ言っても信じてくれないから言いません。」

 

「フッフッフ、その体は並大抵の鍛え方をしなければつかない筋肉だ。

そして絶対安静の重症から突如として全回復…。

信じないわけがないだろう。

君は今回セルジュニアと戦ったんではないのかね?」

 

 

まさかほぼ核心に近い所まで当てられるとは思わなかったラディッツ。

「え えぇまぁ。」と誤魔化そうにも、その反応で確信に変わった。

 

 

「巷ではミスターサタンがセルを倒したとみんな信じている。

私も信じている…が、君達も見えない所でかなりの戦いをしているのだろう。

君たちの怪我の具合や、素晴らしい肉体を見ていればよく分かる。

肉体は嘘はつかない。」

 

「まぁ、今回はミスターサタンのおかげですよ。

実質あの人が倒したようなもんですから。」

 

 

 

窓の外を見れば、様々な所でミスターサタンの旗が立っている。

壊れかけたマンションの柵には、「ここをサタンシティに!」などと横断幕までが作られてる始末だ。

この街はセルジュニアがうじゃうじゃいたのだが、サタンが全て駆逐したような話になっている。

一部過剰に盛られた話になっているのだが、セルジュニアはいなくなり、証拠も無く、それでこそあの世界格闘チャンピオンがそう豪語するのだ。

見た人がいない上に、事実セルジュニアは消えているのだから、信憑性はある。

熱狂的ファンの指示も上乗せされ、世界はサタンバンザイという声で埋め尽くされていた。

 

 

「まぁとにかく、今回もしばらくは安静にしてもらうよ。

全身の筋肉どころか、睡眠不足で脳にも影響がきている。

今回こそ、絶対安静だからね!

そのかわりに、完全個室だしテレビは見れるようにしてある。

何かあればナースコールで呼んでくれたまへ。

では、ほかの人の往診もあるから、これで失礼するよ。」

 

 

医師はキチンと釘をさして部屋を出る。

仙豆は手もとに無いし、しばらくはしょうがないと思い、再び眠るラディッツ。

こればかりはどうする事も出来ない。

今だ頭痛のする頭を横に向け、大人しく夢の中に引きこもる。

 

 

「次の患者はどこの病室かね?」

 

「次は…26号室です。

Dr.ブロイラー。」

 

「あぁ、ありがとう。」

 

 

名前を呼ばれた医師は、再び往診のために歩き出す。

彼の顔は、悪くなかった。

 

 

(次は、あの人の身体を完璧に調べないとな。

S細胞、そして身体の特性と構造…全てが興味深い!

今のままではダメだ。

更に研究押し進め…肉体を完成させるのだ!

()()()の為に!)

 

 

 

ブロイラーと呼ばれた医師は回診の為に歩を進める。

足音が遠のいて行くことを扉越しに確認すると、ラディッツは動き始めた。

寝ようかと思ったがやらねばならないことを思い出した。

気を探ると彼がすぐ近くにいるのはすぐに分かる。

ベッドの横に備え付けられていた車いすに武空術で飛び乗ると、ある部屋へ向かい、扉をノックする。

 

 

「なんだ、起きてたのか。」

 

「はい。」

 

 

隻腕の戦士 孫悟飯。

今回の真の英雄。

彼もまた、別の医師に絶対安静を言い渡された口だ。

悟飯は真面目にその忠告を守っているようだが、病室の机の上にはなぜか参考書が高く積まれていた。

 

 

「…お前は大変だな。

地球を救った数日後にはもう勉強しているのか。」

 

「母さんから渡されたんです。

今は安静だけど、暇があれば必ず読んでおきなさいって。」

 

 

セルとの戦いが終わったらキチンと勉強する…。

まさか傷も癒えてない内からやらせるなんて何て親だろう…とゾッとするラディッツ。

自分が親なら先ずは体を休めさせるのだが…それも何も言わずにこなそうとする子も子で問題だと思うのだが。

 

 

「悟飯、気晴らしに屋上行こう。

なぁに、先生や母さんにはバレない様にな、な。」

 

 

少しバツの悪い表情になるが、同じように車いすに飛び乗る。

話したかったのだ。

他の人を除いて、二人きりで。

誰もいない屋上に来てしまえば、何も気にする事無く車いすから立つ。

リンゴジュースとブラックコーヒーを自販機で買い、何も言わずに二人はベンチに腰掛けた。

 

 

「…俺、正直もう駄目だと思った。

セルが、あんな化け物じみた変身なんて知らなかったし、知らない人造人間だって出てきた。

俺の知らない展開ばかりになるし、もうどうしたらいいのかわからなかった。」

 

「いえ、ラディッツさんが皆を率いていなかったら、俺たちはあっと言う間にセルジュニア達にやられてました。

諦めずにいたから、セルを倒すことができたんです。

とても感謝しています。」

 

「…そうか、それならよかった。

でも…それでもすまなかった。」

 

 

悟飯の言葉に嘘は無かった。

紛れも無く、父親 孫悟空がいなくなった瞬間から、彼は心の支えだった。

彼がいなかったら、途中で心が折れていただろうとも思っていた。

それでも、ラディッツの心は晴れない。

何故なら、守ってもらってしまったから。

 

河野(ラディッツ)の存在が現れてから、変わり始めたドラゴンボールの歴史。

自分がそのトリガーとなってしまったのならば、自分で収めなければならないと思っていたからだ。

ターレス、クウラ機構戦隊とクウラ、人造人間13・14・15号、究極体セル。

元々ドラゴンボールを知らないが故に、その存在すらわからない敵もいたが、間違いなく単行本にはいないイレギュラーなキャラクター達。

(歴史)はあり得ない程の障害となって目の前に立ちふさがる。

それでも乗り越えていくZ戦士達。

それについていけなかった河野。

 

 

 

(俺は…弱い。)

 

 

精神と時の部屋で、他人の弱さを責めた。

己も責めた。

結果、悟飯はその自分の弱さを克服し、自分は守られた。

自分は結局、何も変われなかったのだ。

味方が…仲間がやられそうな時、助ける事が出来なかった。

強くなると言う事は、絶対に勝たなきゃならない時に、戦える力を身に着けておく事なのだから。

何とかなるなんてそんな楽観的な都合なんざ、相手は聞く訳が無いのだから。

だからこそ今回は、ラディッツは悟飯の足手まといになり、その全てを悟飯は守って見せたのだ。

 

 

「俺、もっともっと強くなるよ。

今回は、悟飯や悟空に助けてもらったんだ。

この恩は、忘れないよ。

…ってかお前の腕、ドラゴンボールが集まったら治してもらわなきゃね。」

 

「俺、考えてたんです。

失くした腕は、そのままにします。」

 

「それはダメだ。

この先もどんな強敵が来るかわからない。

その時に万全の体でなきゃ、それが命取りにもなる。」

 

「これは、これまでずっと甘えていたからこうなってしまったと思うんです。

そのせいで父さんは死なせてしまったし、ピッコロさんは二回も死なせてしまった。

ここで元に戻してしまえば、いずれ忘れてしまうと思うんです。

僕は弱虫で調子に乗りやすい…だからこそ、この腕を戒めにしなきゃいけないんです。」

 

 

 

その言葉は、とても10歳辺りの子供の重みでは無かった。

それ程に彼の表情や目は語っていた。

もう二度と自惚れない。

4歳の頃からだ。

全てはラディッツに拐われ、怒りにより潜在能力が浮き彫りになった時から、熾烈すぎる闘いに参戦せざるを得なかった悟飯。

闘いが誰よりも嫌いなのに、潜在能力の高さゆえに頼りにされてしまった悟飯。

セルとの戦いを終わらせ、学者さんになることへの希望を繋いだのだが、この経験が彼の進むべき道を決めさせてしまった。

 

 

「僕ははっきり言って戦いは嫌いです。

そして、将来はもちろん学者になりたいんです。

…が、父さんやピッコロさん…僕の知る人に危害を加える人がいるなら、俺は戦います。

だからこそ、()()()()()()になります。」

 

 

平和な未来は訪れた。

その代償は希望ある若者の腕一本だけでは無かったようだ。

出来れば悟飯には、原作通りに学者にさせて、魔人ブウ編に繋がるような戦いはさせたくなかった。

戦いが嫌と言う彼に戦闘を無理強いせず、穏やかに過ごして欲しかった。

彼を思ってそうしたかったのだが、今の彼の目はその様な未来は歩まない覚悟が出来ていた。

 

 

「…わかった。

悟飯、本当はお前に戦っては欲しくなかったんだ。

お前は悟空とは違う、サイヤ人だが戦いたくないなら戦わなければいい…そう思っていた。

が、現実はそう上手くいかないのもわかった。

だからこそ、お前がこれから強くなる為に必要な事を言おう。

感情のコントロールだ。

これまでお前は怒りにより爆発的に潜在能力を発揮してきた。

逆に言えば、怒りが無ければ強さを引き出せない。

怒り無しで潜在能力を発揮し、その凄まじいパワーをコントロールする…秘めた力を必要迫られたときでは無く、自由自在に操れる様にするんだ。」

 

「怒りの…感情のコントロール…。」

 

「そうさ。

怒りのままに力を出せば、そりゃあ単純に力は出るさ。

だけど怒りのパワーは長続きしないし、視野も、思考も狭まり止まりがちになるからな。

肝心なのは、怒った時でも心を制する事が出来ること。

怒りと冷静さを同時に持ち合わせる事が出来れば理想…難しいけどね。

これまでのお前は怒りにまかせて、その時だけ強くなるだけなんだ。

やり方は個人で変わるだろうから、ここからお前はしばらくは悩むだろうけど、頭のいい悟飯なら出来る。」

 

 

怒っていても、客観的に自分を見れるような冷静な心を持ち合わせる。

…それが出来る人間はそうそういない。

子供なら尚更難しくなるだろう。

それでも悟飯の目は迷わない。

ただひたすらに真っ直ぐ、ラディッツの目を見る。

 

 

「やります、やってみせます。

俺は強くなるんです。」

 

「おう、俺もまずは超サイヤ人2を目指す。

いつまでも悟飯に助けられちゃ堪らんからな!」

 

『 ラディッツさん聞こえますか?

たった今、地球のドラゴンボールが揃いました!』

 

 

そんな時だ、頭の中に地球の神様(デンデ)の声が響いたのは。

これでようやく、Z戦士達や死んでしまった人間達を復活させる事が出来る。

 

 

「お待たせしてすみません!」

 

「うおっ!

後ろかよ。」

 

 

ミスターポポの絨毯で既に後ろに回り込んでいたデンデとポポ。

もちろんドラゴンボールも揃っている。

だが、こんな病院の屋上で神龍を呼び出す訳には行かない。

まずデンデは、悟飯とラディッツの治癒を施す。

これにはまたしても例の医者を仰天させる事となるが、経過観測として何回か通院するのが条件として、病院から出してもらえた。

 

 

「はぁ…またあの先生に質問攻めにあったよ。

『またあなたは全快ですか!

この子も一体どういう身体してるんですか!?

今回は特別に大目に見ますが、後日検診に来なかったら実験材料としてモルモットとしますからね!』ってさ。」

 

「ははは、悟飯さん達も辛いものですね〜。」

 

「俺達、デンデ君のお陰で医者いらずだもんね〜。」

 

 

笑いを抑えきれないデンデは必死に平静を装っているものの、その気苦労のおかしさに顔が綻びそうなのを耐える表情が手に取るようにわかった。

ミスターポポの無機質な視線に耐えきれず、そそくさと絨毯に乗り込み急いで天界へと向かう。

天界では、既に生き残った戦士達は全員揃っていた。

 

 

「あれ、クリリンは病院じゃ無かったのか?」

 

「俺は比較的軽傷だったからな。

命に関わらないと分かると直ぐに追い出されたよ。

18号も一緒さ。」

 

「あんなつまらない所にいつまでも閉じ込められたくないからね。

逆にありがたいもんさ。

…で、そこの緑のガキ。

ここに呼び出すって事は、それ相応に何かあるんだろうな?」

 

「この方 地球の新しい神様。

失礼 ダメ。」

 

 

戦士達も集まって居たのだが、ブルマや亀仙人を筆頭に、その他のいつもの面子も集まっている。

ワイワイガヤガヤ…みんな期待に溢れているのだ。

仲間が生き返るのを。

 

 

「じゃぁデンデ、そろそろ始めてくれ。」

 

「はい、わかりました。

出よ神龍!

そして願いを叶えたまえ!」

 

 

空が暗くなり、7つの玉は光り輝く。

その玉からは巨大な龍が昇り、空を覆い尽くすように身体をくねらせ、その目はこちらに向ける。

 

 

「さぁ願いを言え。

どんな願いも3つ叶えてやる。」

 

「3つ?

前までは一つだけだったのに…今回は随分気前がいいんだな。」

 

 

クリリンの言葉で、まだ神龍の事を詳しく話していない事を思い出したラディッツ。

神龍への願いの前に、その説明をまず行う。

 

 

「って事は、願いは3つ叶えられて、尚且つ大勢生きかえるのか!」

 

「ですけど、沢山生きかえらせたら願いは2つになるんですね。」

 

「まぁ神龍次第だと思うからわからんけど。

そうだよな?」

 

「…願いを言わないのな「そうですね、今回はそういう風にしてあります。」

 

「3つもあるなら1つは良いよな、JDのパン「ウーロンあんた!

ぶっ殺すわよ!!」

 

「どうでもいいけどさ、これ以上卑猥な事言うならアタシも手伝うよ?」

 

「すすすすみません!

殺すのだけは許して〜!」

 

 

「…あの〜、そろそろ願いを言わないなら消えますけど?」

 

 

 

---あーでもないこーでもないで3分後---

 

 

「願い事、決まりました!」

 

「あぁ、やっとですか…。」

 

 

くたびれ気味の神龍はそっぽを向けていた顔を元に戻す。

願いは決まった、最低2つでもなんとかなる。

デンデが言うのではなく、ラディッツが代表して口を開く。

 

 

「人造人間が現れた時から死んだ人を、超極悪人を覗いて全員生き返らせてもらって、人造人間達と戦った戦士達だけをここに連れてきて欲しいんですが、ベジータは超極悪人になりますか?」

 

「願いが2つっぽいし長いな…サービスで一つの願いにしてやろう。

ベジータは極悪人では有るが、超極悪人ではない…生き返らせてやれる。」

 

「ならば、それでお願いします!」

 

「…まぁ容易い願いだ。」

 

 

瞳が一際赤く光ると、目の前に絶命したZ戦士達が表れる。

ただし1度生き返った者まではダメみたいで、ベジータ・トランクス・16号・17号がこの世に帰ってきた。

さらにセルまで。

 

 

「!!??」

 

「お前まで!

何故生き返った!?」

 

「落ち着け落ち着け!

超極悪人じゃないんだから!」

 

「そうだよ、セルがダメならベジータだってダメだろう。」

 

「貴様、舐めた口叩けないように俺がぶっ殺してやろうか?」

 

 

宥めるラディッツの後ろで青ざめるクリリン。

その姿を見てフンッとそっぽを向いて腕を組む。

せっかく生き返ったというのに機嫌はすぐに斜めになってしまったようだ。

いや、本来馴れ馴れしくする気が無い彼にとっては通常運転なのだろう。

そのやり取りの影で、セル自身も自分が生き返った事が信じきれずに呆然としていた。

 

 

「…ラディッツさんに感謝するんだな。

貴様は本当は、そのまま地獄にいるべきだったんだから。」

 

 

悟飯はまだ警戒を解かない。

それは17号も、生き返った16.18号も同じであった。

究極体セルとの戦いで共闘したとはいえ、そう簡単に信頼が得られるものでは無い。

それをセル自身も分かっている。

 

 

「…そう構えるな。

厄介者は消えよう。

だが、この借りと約束は忘れないからな。」

 

 

セルは背を向けて、天界から飛び降りる。

行き先はわからないが、地球人達を殺しに行くような気は感じられなかった。

1人にさせてくれ…第2形態の背中が去り際に言い残しているような気がして誰も止めなかった。

 

 

「そう言えば、悟空の奴やっぱり2回死んでるからダメなのか。」

 

「いえ、ナメック星のポルンガなら生き返らせれるはずです。」

 

『よぉみんな、オラだ!

おらは生き返らせなくていいぞ!』

 

『悟空!?』

 

「あの世から界王様通じて喋ってんだけどよ、ちょっと聞いてくれ。

前に誰かが言ってたけどよ、オラが色々悪ぃ奴を引き寄せてるって言われてさ。

確かにそんな気がするし、オラがいねぇ方が地球は平和な気がすんだ。

なんかよくわかんねぇけど、閻魔のおっちゃんがあの世にいれば特別に身体付けてくれて、歳までとらねぇようにしてくれるってさ!

あの世にはほかにも過去の強ぇ奴が沢山いるらしいし、オラはこのままでいい!」

 

以下にも孫悟空らしいと言えばらしい。

前半よりも後半が魅力的だから死んだままがいいと思っているのだろう。

あまりの戦闘民族(バトルジャンキー)っぷりに誰しもが苦笑いをうかべる。

 

 

「だからよ、チチや悟飯には悪ぃが生き返らせなくていいや。

オラがいなくたって悟飯やラディッツがいるし、しっかりしてるからな。

というわけで、いつかみんながおっ死んじまったらまた会おうな、ばいばーい!!」

 

 

小学生の別れ際のような声色で消えていく彼の声。

そのせいか想像以上に悲しいお別れをせずに済んだが、何だか違和感のある今生の別れかたをしてしまった。

 

 

「さぁ願いは叶えた。

次で最後の願いだ、さぁ言え。」

 

「やはり2つしかないか。

じゃぁクリリン。

お前、願い叶えたそうにしてるから言っていいよ。」

 

「えぇっ!?」

 

 

叶えたいと言う気持ちは言い出すつもりはなかった。

正確に言えば、誰もいないのならば勿体ないから言おう程度の物だった。

ラディッツに聞いても願望は無い、悟飯に聞いても同じ答えだった。

それならば…

 

 

「か 改造された人造人間達を、人間に戻すってことは出来ますか?」

 

「「!?」」

 

「それは出来ない、私の力を遥かに超えるからな。」

 

「ですよね…。

ならせめて体内にある爆弾くらい取り除いてくれませんか?」

 

『え!?』

 

 

あまりの願い事に、一同驚きの声を上げる。

確かにあのセルを倒す為に共闘はした。

誰か戦士達を殺した訳では無いが、Dr.ゲロが造り出した人造人間である以上、味方であるとは言い難い。

その上トランクスにとっては自分の敵であり、師を殺した仇である。

 

 

「どうしてです!?

クリリンさん、そいつらは人造人間ですよ!」

 

「わかった、願いを叶えよう。」

 

「貴様!!

自分が何を言っているのか分かっているのか!?」

 

「願いは叶えた、さらばだ。」

 

「わかった、クリリンさんは人造人間が好きになったんだ!」

 

「具体的に言うな!」

 

「違うぞ悟飯、"愛してる"って言うん「いい加減にしてくれ!」

 

「…最後まで無視なのね。

…グスン。」

 

 

ドラゴンボールは7方向に飛び散り、神龍が消えて、空が明るくなる。

その短い間に、続けざまに悟飯とラディッツの頭に真っ赤なたんこぶが作られていた。

そのたんこぶ以上に、クリリンの顔は真っ赤になっていた。

彼の目には、自爆装置と爆弾が取り除かれた感覚に驚いている二人が映る。

どんなに彼女を庇おうも、彼女に尽くそうも、クリリンには絶対的に不利なのだ。

 

 

「いいんだよ…俺には不釣り合いなのさ。

あの子よりも強くもないし、背も小さいし。

高い鼻もないし、ダサい丸坊主だし、弱虫で臆病だからな。

そんな俺より、隣にいる17号ってやつの方がよっぽどお似合いなんだ…。

互いに人造人間になっても、二人が幸せになってくれるならそれでいいんだよ。」

 

 

17号はきっと彼女のフィアンセなのだろう。

でなければずっと2人でいるはずがないし、一緒になって人造人間に改造されている訳が無い。

美形同士、二人が付き合っているのならば…それはそれは、とてもお似合いなカップルだ。

 

 

(俺なんかが叶う訳ないよ…。

けど…せめて体から爆弾さえ無ければいいと思っただけなん「何を勘違いしてるんだオッサン、17号は双子の弟だ。」

そうだよ、双子の弟の方が俺より格好良い…「え!?」

 

「俺はフィアンセでもボーイフレンドでも無い。

良かったな、まだフリーだぞ?」

 

 

クリリンの反応は、なんともまぁ気の抜けた返事である。

てっきりそういう仲だと思い込んで色々と本心をさらけ出してしまった。

彼らの言い分に嬉しさ半分、その本心を言葉にしてしまった恥ずかしさと、嘘であってほしさ半分だ。

 

 

「え…じ じゃぁ「自惚れるなよハゲのオッサン、私は助けて欲しいと言った事も無いし爆弾を取って欲しいとも言ってないからな!

そんな事でアンタに惚れるとでも思った?

行くよ17号。」

 

「あっさりフラれたな。

じゃぁな。」

 

「そ そんなぁ〜…。」

 

 

セルに叩きのめされた時よりもダメージが大きい。

言葉って…こんなに殺傷能力あったっけ?

膝から崩れそうで、涙すら流しそうなのを必死になって辛抱しながら思い起こす。

唯一の味方の戦士も、戦闘以外の事に関してはズブの素人の為に援護のえの字すら出来ずにいた。

ベジータに至っては興味すらなくそっぽを向いて別の思考をしている始末である。

さっさと神殿の端まで行き、17号が姿を消し、18号もいざ降りようとした時だ。

 

 

「…またな。」

 

 

最後にそう言って消えた。

さよならでは無い、またなと言ったのだ。

 

 

「クリリン良かったな、またな だそうだ!」

 

「喜んでいいのかな、最後にけちょんけちょんに言われたけど。」

 

「た 大丈夫ですよ!

嫌いな人ならそんな事言わないですよ!」

 

 

必死のフォローにより、先程まで放っていたドス黒いオーラが消え去った。

少なからずこれで17号が嫌うことが無くなった事は、ラディッツにとって二重の意味でホッとしていた。

神龍は願いを叶えたから消えた。

地上の一般人は生き返った。

他の死者はナメック星のドラゴンボールが集まるまで待つしかない。

今やるべき事は終えただろう。

 

 

「これで…終わったんですね。」

 

 

トランクスがぽつりと呟く。

そう、終わったのだ。

彼の時代では無いが、事の収束に安堵の声を出す。

人造人間19・20号。

そして13・14・15号。

絶望の未来の歴史に近い程の、戦士達の犠牲。

精神と時の部屋。

人造人間セル。

更に究極体のもう1人のセル。

超サイヤ人を超えた、若き師。

だがこれで終わりではない。

終わったのはこの時代の戦いだ。

まだ自分自身の時代には、凶悪な人造人間が二体残っている。

その二体を消し去らない限り、終わったとは言えない。

そしてセルも。

 

 

「タイムマシンで戻って、人造人間達を…セルを倒せば、全てが終わる。」

 

「そうだな。

そうだ、これからの事を話さなければならない。

トランクス、これは君にも聞いてもらわなければいけないかもしれない。

魔人ブウについての話だ。」

 

『魔人ブウ?』

 

 

あまりに身に覚えの話に、全員が眉をひそめる。

このタイミングで振った話だ。

絶対いい話では無いだろう。

ましてや自分達の未来を知る者が話す話…関係ないなど有り得ないだろう。

 

 

「なんだかふざけた名前だな。」

 

「まさか…まだ人造人間が残ってるって訳じゃねぇだろうな?」

 

「大丈夫、人造人間はもう終わりだと思う。

この話は今から数年後…悟飯がハイスクールに通い始める辺りの話だ。

トランクスの時代に出てくるかわからないけど、頭に入れて置いて欲しい。」

 

 

ラディッツは知っている限りの事を話す。

魔導師バビディと暗黒魔界王ダーブラ。

そして人間の何かしらのエネルギーを吸い取って復活する魔人ブウ。

登場から復活まで…もちろん洗脳されたベジータと悟空…超サイヤ人3、アルティメット悟飯までこと細かく話す。

 

 

「ま まだバケモノが残ってんのかよ…。」

 

「魔人ブウ…。

悟飯さんの超サイヤ人2ですら凄まじい強さなのに…それすらをも超えると言うのか!」

 

「超サイヤ人3…まだ更に上がありやがるのか。」

 

「俺にそんなに潜在能力があるのか…。」

 

「各々色々と考えがあるようだが、これまでまともに節目を迎えた試しが無い。

俺ももうこの記憶が10年以上前だからな、本当にこの通りには行かないはずだ。

少なくとも魔人ブウやダーブラがこれよりも強いとか、他に新しい敵が増えている可能性が高い。

下手したら、数年後なのに数カ月後に来るとか言うレベルで変わってくるかもしれん。

これは、俺が知ってる最後の強敵だ。」

 

 

 

ドラゴンボールの話は魔人ブウが最後。

この戦いを無事に終えれば、晴れて河野は元の世界へ帰れる。

ドラゴンボールGTと言われればまだ先があるが、ひとまず漫画を主体にこの世界が飛ばされているのならば…。

 

 

(この面々と一緒に居られるのも…あと数年「おい、あのクソジジイを呼べ。

その情報が確かなのか確かめさせろ。」

 

 

人が少し感傷に浸ってる瞬間をぶち壊すベジータ。

心の中で舌打ちしながら渋々あの神を呼ぶ。

ほんの数秒間が空くが、例のクソジジイは現れた。

 

 

「誰がクソジジイじゃゴルァ!

多少は敬えベジータ!」

 

「おい、コイツの言っていることは本当か。」

 

「無視かテメェ!

チッ…嘘では無い。

ワシも漫画以外で出てくる敵には驚いておるが、そう言うのを抜きにすればこやつは正しい事を言っておる。」

 

「それなら安心したぜ。

ならカカロットはまた生きて戻って来るという事だな。

クックック…この俺様がナンバーワンだとカカロットの野郎に認めさせる事がまだ出来るという事だ!」

 

「そういう事は、まずトランクスやラディッツの強さを上回ってから言えよ。」

 

 

 

無神の言葉など今のベジータには入らない。

孫悟空はもう二度死んでしまったので超えられぬまま。

孫悟飯は自分を超えてしまった。

悟空を超えると言う大きな目標を失い、次の世代の台頭と来れば、ベジータには戦う理由が無くなっていただろう。

だがまだ奴は更なるレベルで生き返ってくる。

また強敵が現れる。

ならば自分はどうするか。

孫悟空を笑顔で出迎える?

強敵は次世代に任せて隠居する?

冗談じゃない。

 

 

(超えてやる…超えてやるぞカカロット!

超サイヤ人2だろうが3だろうが、俺様はそれすらも凌駕する程強くなってみせる!

待ってろよカカロットォ…。)

 

「あー…ダメだ聞いてないや。

とにかく、全員今以上に修行に励め。

特に孫悟飯、お主は本来勉学に明け暮れてほぼ成長せずに足でまといになりかける。

勉学も大切じゃが、確たる信念を見つけたのならば修行は怠らぬように。」

 

「俺が…足でまといに…!?

…わかりました、俺ももっと強くなります!」

 

 

無神は満足したように笑うと消える。

これで変化する未来に対応出来るかもしれない。

無神が消えた事により、話のおおよその区切りが着いた。

これで…本当に人造人間編が終わったのだ。

トランクスの旅立ちに再び顔を合わせる約束をし、神と同化した為に残る事にしたピッコロを除いて、各々帰る場所へと向かっていった。

 

 

---

 

--

 

-

 

 

数日後、カプセルコーポレーションでトランクスのお別れ会が開かれた。

と言っても、人造人間とセルを倒したらまた報告に来るつもりらしい。

 

 

「未来の私に伝えておいて頂戴。

人造人間になんか負けるんじゃないわよ!

…ってね!」

 

「はい!

こっちの母さんも、お体に気をつけて。」

 

 

タイムマシンへ乗り込むと、ハッチが閉まっていく。

ハッチ越しに周りの面々を見渡す。

自分の時代には、母親以外皆死んでいる戦士達ばかりだ。

ラディッツと言う全く知らなかった存在もいた。

だが悟空の兄と言うこともあり、とても頼もしい存在だった。

師である悟飯も未来の時より幼いのにも関わらず、芯の強さは変わらず強さはそれ以上だった。

 

 

「俺は皆から色々な事を学びました。

本当にありがとうございます!」

 

 

ふわりと浮かぶタイムマシン。

周囲を取り囲む仲間達から離れた所に一人の男が立っていた。

いつも通りだった。

ムッとした表情のようにも見える彼だが、今回ばかりは違った。

瞳はトランクスを真っ直ぐに見据え、腕組みから僅かに見える別れのサイン。

 

 

(元気でなトランクス。 人造人間やセルなんかに負けるんじゃないぞ。)

 

(父さん…俺は必ず…人造人間やセルを倒して、平和な未来にして見せますよ!)

 

 

 

トランクスの今の力量なら、間違いなく人造人間とセルを倒すだろう。

その吉報を待ちながら、戦士達は次なる敵へ向けて修行を積む。

次なる敵は今現在最強の悟飯よりも格上。

立ち向かえなければ、セル戦以上に死人が増え、自らも死ぬだろう。

ある者はさらなる危機に備え。

ある者は超えられなかった奴が生き返った時に自らが最強を示すが為。

ある者は甘えの戒め、償い、そして大事な人を必ず守る為。

ある者は絶対に生き残る為に。

 

再び彼らは、より強くなる為に鍛錬に励む。



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修行するぞ

謝って質問を消してしまったので、前書きでお答え致します。

悟飯の一人称が時々変わっている件


メタ的に言えば、僕の時はかなり弱気な時に変えています。
僕=腕を失う前の甘えた孫悟飯 という感じです。
一人称で悟飯自身の精神状態を表してる…という認識であります。

…ちょっと分かりにくい表現だったかも知れません汗


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誤字脱字修正済み R2 1/12


目標…行動を進めるにあたって、実現・達成をめざす水準。

即ち、そこに行き着くための明確な目印である。

目標があれば、そこに行き着くためのビジョンを描きやすい上に、自分の位置も客観的に見やすくなる。

例えて言うならば、横穴を掘るのに「とにかくいいと言うまで掘り続けろ。」と言われるか、「〇〇mまで掘れ。」と言われた時にどちらが作業効率を上げられるか。

答えは簡単だろう、明確な水準があればモチベーションだって失わずに済む上にそこまでの作業効率も考える。

無神やラディッツが、次の敵をざっくりでもとにかく伝えるのはその為だった。

次の強敵の存在は、戦士達を更なる高みに押し上げるための試練にもなっている。

実際、目指すべき強さの敵がいる時と、そうでない時の伸び方の差は明らかである。

現在でも、天下一武道会が終わってからラディッツ襲来までの5年間は、悟空を始めとして他の戦士達もさほど強くなったとは言えなかった。

しかしその後、サイヤ人 ベジータと言う強敵の存在を示唆されるや、僅か1年と言う期間で数倍もの強さになってしまったのだ。

何がどうさせればそうなるのか分からないが、具体的な目標…特にある程度の強さが明確に分かれば、戦士達は必死に自身のレベルの底上げに掛かる。

そしてそれは、教えられた側だけでなく教えた側にも言えることだ。

 

 

「おい神様、魔人ブウ編まで何年ある?」

 

『そうだな…単行本から推測すれば6,7年という所だろう。』

 

(ようやく…ようやく最後の章まで来た。

…だが…。)

 

 

まだ強さが足りない。

今回は悟飯に助けて貰った。

自分は超サイヤ人2にもなれていない。

次はいよいよ作中最強を誇る超サイヤ人3。

そのインフレについていかなければ、無事に元の世界に戻れない。

そして何より超サイヤ人3だけではない。

孫悟飯のアルティメット化。

老界王神による潜在能力を限界以上までに解放した形態は、超サイヤ人3に匹敵…若しくはそれ以上。

実は河野、この悟飯が作中で一二を争うほど好きなのはまた別のお話。

 

 

(順当に6,7年後に来ると思わない方がいいだろう。

時間が足りない…超サイヤ人2を超えなければそもそも生き残りすらできん。

1番楽なのはアルティメット悟飯にそのまま倒してもらえばいいけど…そんな生易しい訳ないだろう。

だから俺も強くならなければ…どこかに無いものか。

潜在能力を上げてくれるようなアイテムは。

…って、そんな都合いいものなんて無いよな。

ナメック星の最長老様の潜在能力解放っても、ほとんど上がってなかったし。

個人差があるとか言ってそれっきりだし。)

 

『それがあるんですよ、ただ飲むだけであっという間に強くなる魔法の水が!』

 

「怪しいわ!

ってかいちいち思考を読まないでって言ってるじゃないですか。」

 

 

『お前は知らんじゃろ。

超聖水と超神水の話を。』

 

 

初耳であった。

後者はともかく、前者はそもそもこのカテゴリーに属しているのか不安しか無かった。

こちらの世界に来る前の若かれし頃、とある先輩と夜の街に繰り出していた時にその単語の意味をその先輩に聞いた時だ。

確かあの時の先輩の言葉は、「あれは選ばれた者にしか身体は受け入れないだろう…。」と言っていた。

その後どういうものかこっそり調べて…

 

 

『貴様…そこまで心が汚れていたのか。』

 

「いや、そういう特殊な…ねぇ。

俺はそれだったら絶対に嫌です。」

 

『安心せい、そんな如何わしいものでは無いわ。

とにかく、カリン塔に行ってみれば早いぞ?

死にものぐるいで生き残るんじゃろ?

その言葉に嘘がないならば、行く事を勧めよう。』

 

 

再び声が途切れる。

飛躍的に強くなるのであれば、試してみてもいいだろう。

なぁに、効果が無さそうならば地道にまた修行に励めばいい。

 

 

………

 

……

 

 

 

「…と言うノリで、ここに来たわけじゃな?」

 

「いや…そんな軽いつもりで…来た訳ではなくてですね。

そのー…超聖水とか超神水とやらの修行をさせていただせますでしょうか?」

 

 

人造人間やセルを倒してからまだ数日と経っていない。

強敵を倒して直ぐに超神水を飲みにここまで来るとはどういうことか?

カリン自身にも気づかない程の凶悪な敵が短期間で現れるという事なのだろうか?

そもそも何故超聖水と超神水の存在を知っているのだろうか?

様々な思考が頭を駆け巡るが、全てはあの方に通じてるという事なのだろう。

 

 

「その調子であるからに、あの方に何かしら唆されて来たか?」

 

「無神様ですか?

…まぁそんなところです。

次の敵は7年後に来る魔人ブウと言う奴です。

今の悟飯よりもさらに強くなってやっと戦いに参加出来る位です。」

 

「悟飯を…あの馬鹿げた強さですら敵わないのか。

じゃがおヌシは少々先を急ぎすぎじゃ。

先へ先へと物事を考え過ぎて地盤が疎かになっておる。」

 

「地盤…?」

 

「おヌシはこれまで武術の経験はないじゃろう?」

 

 

自身の過去を遡っても、武術の経験なんてただの一つもなかった。

幼少期によくある習い事でもある空手・少林寺拳法ですら。

子供同士の喧嘩でさえ無かった。

だが今更にその事に触れる真意が分からなかった。

 

 

「この身体になる前は、確かに経験無いです。」

 

「何を言いたいのかさっぱりって顔じゃな。

簡単に言うと、おヌシの戦いはその身体が覚えてる戦い方の延長のようなものじゃ。

この言葉は受け売りじゃがのう、何を行うにしろ心・技・体バランス良く磨き上げよ。

おヌシはただただ変身だけ突き詰めようと焦っておる。

ご都合主義…その傾向は昔からのようにも見えるがの?」

 

 

カリン様の言葉通りだった。

これまでも、強敵相手にとにかく死なないように強さを求め続けていた。

対サイヤ人達は問題無く、対フリーザ・クウラはギリギリ勝てた。

だがセル編では、いよいよ置いていかれ始めていた。

悟飯にはもちろんの事だが、悟空にもいよいよ地力だけでは敵わない。

 

 

「おヌシはサイヤ人、確かに鍛えればまだまだ強くなる。

もっと更なる高みへ行けると思っておる。

無理強いはせぬが、武術の心得を持つ者に技と精神力を指南してもらえばその速さは比較するまでもないじゃろう。」

 

「…ならカリン様、自分に修「ならん、ワシはおヌシになにも教えることは出来ん。」

 

 

考えを読まれあっさり断られるラディッツ。

だがカリン様の言葉はこれで終わらない。

 

 

「ワシは教えられぬ。

ワシが教えられるのはこの高高度の低酸素状態での超聖水争奪により自然に養われる修行くらいじゃ。

超聖水はただの水じゃし、おヌシのレベルではもう無駄じゃろう。

もう一つの超神水は、心技体のバランスが乱れておるおヌシが今飲んだ所で無駄死にする代物じゃ。

よって、ワシが教える事は出来ぬ。」

 

「そうですか…では帰れません。

せめて、自分を指導出来るかもしれない方をお教えてください!」

 

 

ここで引き下がれば本当に今後が危うい。

そう感じたラディッツは食い下がる。

やはり焦っておるなぁと思いながら、カリン様は再び口を開く。

 

 

「焦るなと言った直後ではないか…。

よく知っておるじゃろう?

ワシよりも教え方が上手く、"武術の神"とも言われる者が。

修行の際に亀の甲羅の重りを付けさせる者が。」

 

「あ 武天老師様!」

 

 

最強の主人公である孫悟空を、幼少期に修行をつけ、立派な武道家としての基礎を作り上げた師である。

強くなると言っていたが、正直なところ忘れていた人物である。

 

 

「かつてここを訪れた時はひよっこだったがの、人間と言うのは鍛錬を積み歳をある程度重ねればそれなりになるものじゃ。

指南と言う点ではワシ以上、過度なプライドは控え、礼節を重んじれば必ず応えてくれるじゃろ。

…スケベなのは除けば。」

 

「カリン様…自分がそのレベルになったらまたお伺いしてもいいですか?」

 

「ここは聖地カリンのカリン塔。

天界と下界を結ぶ塔じゃ。

悪しき者以外なら誰が来ようと構わんよ。」

 

 

そう言い笑いながら唯一の室内へ歩き始めるカリン様。

ちなみにカリン自身も武術の神と言われるが、彼の現在のキャリアからすれば1からやり直した方が早いだろうという判断だ。

時期が来れば自ずとここへ再び来るだろう。

そうさせるかのように()()()も鍛えるだろう。

 

 

(やれやれ…体だけ一丁前になった男か。

これで心技体揃ったらどれだけの器の者になるか…。

久しぶりに楽しみになってきちゃったわい。)

 

 

背後で一礼をし続ける期待の戦士は再びここへ来る。

そう確信しながら仙豆に水をやりに自室へと帰って行った。

 

 

………

 

……

 

 

 

「それで、ワシに修行を付けてくれと言う訳じゃな?」

 

「はい、何卒よろしくお願いします!」

 

 

久しぶりに現れた弟子志願者。

かつて、初めて地球外生命からの悪党だった奴だ。

弟子の孫悟空がピッコロ大魔王と共闘して辛くも倒したはずの男。

よく良く考えれば、「地球人100人の死体をここに積み上げておけ。」と言っていた彼が「修行をつけてください。」と頭を垂れるなど絶対に有り得ないはずなのだ。

 

 

「(こうも面白い事が起こるものかのぅ?

長生きするのも悪くないわい。)

つけてやらんことも無いが、ワシの修行はウルトラハードじゃぞ?

音を上げずにやり遂げられるか?」

 

「はい!」

 

 

実の所、亀仙人の修行なんざ何一つ知らないラディッツ。

唯一知ってると言えば、亀仙流=山吹色の道着 くらいなものである。

サイヤ人の戦闘服を着なくなった後は、それをオマージュした道着を着用するようになったのはそこから来ていた。

 

 

「ふむ…弟子にするならばまずは道着と行きたいところじゃが、もう山吹色の道着と黒いアンダーシャツを着ておるしな。

このアップリケを胸に貼っておけばよかろう。」

 

 

亀仙流の証である亀のマーク。

そのアップリケをラディッツの胸に貼る。

久しぶりに耳にするアップリケと言う単語に心がざわめいたのは内緒。

 

 

「さて、おヌシの言うことに間違いないのならば一刻が惜しいじゃろう?

早速今の本気を見させてもらおうかの?

超サイヤ人になってもらおうか?

あ ちょっと待て………よーし、いいぞー!」

 

 

吹き飛ばされないようにカメハウスの影に隠れ、合図する。

その合図を聞いて一呼吸、全身に気合いを込めるようにするとあっという間に超サイヤ人へ。

超サイヤ人第四段階…この力もだいぶ板についてきたようだ。

 

 

「これが今の自分の超サイヤ人です。

そして界王拳で限界まで引き上げます。

はぁあっ!!

……っはぁ……これが今んところの本気の本気です。」

 

 

瞬時に界王拳を超限界の2倍に引き上げ、直ぐに解く。

それと同時に超化も解いて、普通の形態に戻る。

避難していた亀仙人は問題無かった。

近くで見ていれば間違いなく吹き飛んでいた為に、彼の判断は賢明だった。

 

 

「ふむ、なるほどな。

ではその状態で構わんから、何かしら気功波を撃ってみよ。

その状態で最高の物をな。」

 

「わかりました。」

 

 

海に身体を向け、自身の技の動作に入る。

かめはめ波と行きたいところだが、生憎自分の型にはまっている方が最適だ。

右手をこめかみまで引き上げ、腰を落として中腰。

すべての気を右手に集め、その手は徐々に白く輝く。

 

 

「主砲斉射!」

 

 

勢いよく突き出された右手。

そこから放たれる荒々しい白い光は、海面を抉りながら水平線の彼方へ飛んで行く。

光の通った後はしばらく海面も形を整えていたが、それも質量に耐えきれず轟音と波飛沫を立てて元に戻ろうとする。

しばらく静観する亀仙人。

そのサングラスは、鋭くなった目付きを隠すには丁度良い代物だった。

 

 

「…どうでしょうか?」

 

「ふむ…ふむふむふむ。

なるほどな、カリン様がワシに預けた理由がわかった気がするわい。

こりゃあとんでもないのぅ。」

 

 

亀仙人の独り言に困惑して何を言えばいいのか分からないラディッツ。

それを察して亀仙人は声を掛ける。

 

 

「よし、ならば次は体術じゃ。

ワシと組手をしてもらおうかの?」

 

「組手…このままですか?」

 

「気はワシに合わせんでもいいが、超サイヤ人と界王拳は禁止じゃ。

そして最初は気をわしと同じレベルまで落としてもらえんかの?

いきなり本気になられては、わしがついていけんからな。」

 

 

逆を言えば、超サイヤ人と界王拳が無ければ素の状態でも慣れれば何とかなるという表れである。

曲がりなりにも強敵を倒してきた自尊心が少し刺激される。

武天老師とは言え、気の大きさや体格はこちらの方が上。

善戦は出来ると踏んでいた。

 

「怪我…しないでくださいね?」

 

「ホッホッ、心配してくれるのか。

そうじゃな、年寄りは労わってもらわんとな。

さぁ、来なさい。」

 

 

相も変わらず杖も亀の甲羅も手放さず、まるで棒立ち。

ならばと思い、軽く足払いをするつもりで接近しいとも簡単に間合いに入る。

 

 

「ほっ!

…あ…れぇ?」

 

 

気づく頃には視界が傾き、砂浜を背にして空が見える。

何が起こったのか見当がつかなかったが、腕を掴まれていた所を見ると背負い投げで受け身も取れずにだらしなく仰向けに倒れたらしい。

 

 

「手加減というものは、相手を選ばなければ失礼になるぞ?

軽く足払いで終わらせるつもりじゃったか?」

 

 

手の力を緩めると同時に、大きく跳躍して距離をとる。

完全に舐めてかかっていた。

相手は武術の神 武天老師。

悟空とクリリンを育て上げた男だ。

 

 

「…失礼しました、亀仙人様が凄い人ってのを再確認させられました。

ここからは全力で向かいます!」

 

 

その言葉通り、全力で砂浜を蹴って先程とは比べ物にならない速さで迫る。

そのまま突っ込むと思わせ、途中で残像拳を使って左低めの側面から脇腹目掛けて拳を振るう。

 

 

「いっ!」

 

 

しかしその体を捉える前に、顔に杖がぶつかる。

その隙に上半身が浮かんだ所を放り投げられ、海に頭から落ちて水しぶきをあげる。

 

 

「ふぅむ、これくらいならば本気でやって来ても大丈夫そうじゃ。

遠慮なく来てもえぇぞ〜。」

 

「へ へへへ…ならば遠慮なく!」

 

 

最初は余裕をみせ、自信満々であったラディッツの心に徐々に焦りが見える。

海水を弾き飛ばしながら、再び立ち向かっていく。

蹴り、当身、体当たり、組み付き…その全ての動作に入る前に防がれるか、かわされる。

弄ばれているような組手は、その後も1時間近くまで続き、まさかのラディッツのスタミナ切れで幕を閉じる。

息が切れるラディッツに対し、亀仙人は涼しげに鼻をほじっていた。

 

 

「だぁ…はぁ…はぁ……」

 

「最近の若いもんは気合が足りんぞ?」

 

「はぁ…でぇい!」

 

 

反則気味だが、そっぽを向いた瞬間にタックルを仕掛ける。

その行為虚しく、ヒラリとジャンプし後頭部に着地する。

無論ラディッツはヘッドスライディング気味に顔面から砂浜に突っ伏した。

 

 

 

「まだまだじゃの。

おヌシはてんで体や気の使い方がデタラメじゃ。

詳しく説明してやるから顔を上げい。」

 

「……ぶふぉっ!」

 

 

未だ砂浜に突っ伏していた事を思い出し、慌てて亀仙人は頭から降りる。

口や鼻が砂まみれの顔を必死に海水でゆすいで洗い落とし、とぼとぼと亀仙人の元まで戻ってきた。

まさかここまで敵わないとは…カスリもしないなんて…。

彼の顔は、そんな自信丸つぶれな表情に変わっていた。

 

 

「おヌシの課題はその身体以外のバランスの悪さじゃ。

身体だけならもはやかなりのレベルに達しておるのに、その他がまるで疎かになっておる。

気の量も膨大ながらも質がまだまだじゃ、これも質を良くすればかなりのものになる。

心もじゃ、ワシが避ける事に攻撃がどんどん鈍くなっておる。

技もまだまだと言いたいところじゃが、体が出来ておるから形にすれば伸びてくるじゃろう。」

 

「……?」

 

「要するに、心技体の体以外を鍛えればかなりの武道家の素質を持っておるというわけじゃ。

ワシだってビックリじゃ!

こんなにも勿体ない者がまだおったとは!」

 

 

ラディッツのレベルははっきり言って高くは無かった。

肉体ばかりにステータスを振りすぎて、残念なキャラになっていたのだ。

強敵を目の前に、身体の強度と気の活動量を上げることに躍起になっていたことが原因だった。

ただこれは悪いわけでは無い。

逆を言えば、その他の低いステータスを上げていけば高ステータスのバランスの取れた素晴らしい戦士になれる素質があると言う事だ。

 

 

「修行すれば、俺は強くなれますか?」

 

「慢心せずに、己を見つめ、ただひたすらに高みを目指すのならば、心身共に良き武道家になる。

武道の心得に触れて来なかったのなら、これ以上の無い程いいタイミングと思う。」

 

「それならば、私も混ぜてはくれぬかな?」

 

 

ふと声が降ってくる。

聞き覚えのある声だ…毎週日曜日にたまに現れる…ではなくつい最近まで敵だった者の声だ。

忘れるわけがない。

 

 

「「セ セルぅっ!?」」

 

「脅かせてすまぬな。

超聴力で話は聞かせてもらった。

私も強さを欲している…いくら細胞を取り込んだ所で今の私には限界がある。

今のこの世界に私と気楽に手合わせしてくれる物好きがいるとは思えん。

教える気がないのならば、たまに手合わせの相手になってもらうだけでも構わん。」

 

「お おい、こやつを連れて来るとは聞いとらんぞ。」

 

「俺だって知りませんよ!

勝手についてきたんじゃないんです!?」

 

「……嫌なら別に構わん、私は去る。」

 

 

いくら小声で喋っても、超聴力で全て筒抜けだった。

飛んで行こうとした時、思わずラディッツが声を掛ける。

 

 

「待ってくれ!

セル、お前が強さが欲しいのはなんでだ?

…地球人を殺すつもりか?」

 

「前にも言っただろう、無駄な殺生に興味は無い。

…ただな、私の産まれた理由は究極の武道家になる目的だ。

Dr.ゲロの言いなりでもない。

コンピュータがその目的で生み出したが、今は心の底から真の強さを手に入れたいと思った。

貴様らに適わないと思った時からな。

目指すのは、完膚無きまでの強さを持った究極の武道家だ。

…笑いたければ笑うがいい。」

 

「セルよ、笑うわけがなかろう。

その高みへの挑戦こそ、自身を成長する糧となる。

…おぬしの言葉に嘘はなかろう。

ここで鍛錬に励むが良いぞ?」

 

 

長年の鍛錬により、相手の言動がどれほど信用足るものかもわかる亀仙人。

セルの言葉に一点の曇りの無い事を察すれば、間違いなく本気の思いなのだろう。

基本的に自分から弟子をとる事は滅多にないが、このような純粋な動機と高いモチベーションをもった者ならば、むしろ喜んでその武道家の真髄を指南するつもりだ。

 

 

「さて、鍛錬の前にこれを付けてもらおうかの?

わしが亀仙人と言われる理由はここから来る。

生憎おぬしらに合うような重さは無いが、これで我慢しておくれ。」

 

 

カメハウスからよいしょよいしょ言い、二つの亀の甲羅が運び出される。

重量にして100kg。

一般人にとっては絶望的な重量だが、馬鹿げた戦闘力の二人は軽々しく持ち上げられ、まるでリュックでも扱うかのようだった。

 

 

「へへっ、セル。

お前ガメラのパチモンみたいだわ。」

 

「ガメラ?」

 

「さて、背負ったところでおぬしらにはなんの意味も無いじゃろう。

気を極限まで抑えてもらおうかの?

ズルしたって無駄じゃ、わしも気を読めるからの。」

 

 

気と言うものは、簡単に言えば生命エネルギーでもあり、戦闘エネルギーにも揶揄される。

気を上げたり解放する事で、自分の攻撃力や防御力を上げることも出来る。

それを抑えろと言うのならば…即ちパワーを下げろという事だ。

50kgの甲羅の重りを背負った状態で気を抑えれば、たちまち全身が悲鳴を上げることも容易に想像がつく。

亀仙流の修行は負荷トレーニングだ。

 

 

「負荷か。

どれほど下げればいい?」

 

「わしに合わせれば良い、これくらいなら丁度良いはずじゃ。」

 

 

 

具体的な数値を上げるなら、戦闘力50。

丁度悟空やクリリンが天下一武道会初参加の時よりも若干下回るあたりなのだが、無印時代すら知らぬラディッツにとっては知った所で無駄な知識になるだろう。

戦闘力を徐々に抑えていく。

両肩の紐が比例するように肩にくい込んでいく。

 

 

「7年…それだけ無くともそこそこ仕上がるはずじゃ。

さて、おぬしらにとってはその重りは動けない程度ではなかろう。

そのまま真っ直ぐ泳ぐぞい?」

 

「…背負ったままです?」

 

「当然じゃ、近くの島までじゃ!

ほれほれ、修行はもう始まっておる!」

 

 

カメハウスから次の陸地までの遠泳。

このカメハウスのある孤島から、近くの島まではそこまで時間は掛からない。

ただしそれは飛行機やボートで移動すればの話であり、遠泳のアスリートですら泳いでいくとなるならば15時間はかかるであろう距離である。

それを50kgの重り付きとなれば、自殺行為とも言えるだろう。

 

 

………

 

……

 

 

 

「クソゥ…あのジジイはあてになるのか?」

 

「し 知らん!

だが、亀仙人のおかげで悟空は武道家の礎を築き上げたと言えるだろう。

死ぬかと思ったわ…。」

 

 

だがたったの3時間で泳ぎ切るのはもう人間離れし過ぎているとしか言えない。

普通に泳ぐのではなく、二人とも尻尾をスクリューのようにしていなければもっと掛かっていただろう。

全身クタクタになりながら海岸を歩くと、そこにはカメハウスが立っていた。

あれだけ真っ直ぐ進んでいたと言うのに、潮流の影響で大きく戻ってきてしまったというのか。

これには二人とも苦い表情を堪え切れない。

 

 

「意外と早いもんじゃ。

もう二時間ほど掛かるかと思っておったぞ?」

 

「どういう…?」

 

 

カメハウスの背後に何やら建物が見える。

ここにカメハウスがあるのならば、周りは海。

建物なんて無いはずだ。

 

 

「あの島で修行するとなると、いくらなんでも場所が無さすぎるからの。

カプセルに入れて先回りさせてもろうたわい。

さて、明日からの修行ではその尻尾を使わずに今の距離を往復する修行も組み込んである。

ウミガメとワシの食料を箱で貰わんとな。

久しぶりに牛乳配達とバイトをしてもらおうかの。

今日は準備運動で手一杯じゃ。」

 

 

時間はもう夕暮れ時に差し掛かっている。

泳ぎ始めた時から3時間もかかれば無理もないが、あの距離を往復…どれだけの距離があるかわからない上に、目安となる目標物の無い海を泳いで来いと言う。

ただ出来ない事を言わない武天老師。

二人の力量と精神力を見定めているのだ。

 

 

「ラディッツは家庭もあるじゃろう。

休む時は家に帰って良い、休む時は休まなければならん。

…出来れば人妻ランチさんを連れてきてもええんじゃが……。

セルは行くとこが無いのならしばらくここに住めば良い。

ちとワシの身辺を手伝ってもらいたいしの。」

 

 

さらっと本音が出たのはさておき、ラディッツは帰宅が許されてセルは留まることを許される。

亀仙流の基本方針「よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。

そして人生を面白おかしく張り切って過ごす。」

今回も例外無く、その方針に則った教えである。

武天老師の計らいに感謝し、セルは留まり、ラディッツは舞空術で家路へと着く。

南の大きな島からカプセルコーポレーションまでは、ゆっくり飛んで1時間。

到着時には日もほぼ落ちていた。

 

 

「…って事があったんだ、流石にクタクタだ。」

 

「色々ありましたわね。

これから毎日修行なの?」

 

「そういう事になるのかな?

明日からはバイトも入るとか言ってたから、多分生計は困らないとは思うけど。」

 

 

味的には問題ないが、何をどうしたらこうなるのか分からないほど真っ黒の麻婆豆腐を美味しく完食し、ラディッツは椅子にぐったりともたれ掛かる。

サイヤ人の身体なら屁でもない修行も、一般人(超人レベル)まで気を落とすとここまで辛いものになる。

いかに自分が馬鹿げた身体になってしまったのかが痛感する。

 

 

「もし困るようなら、そこら辺の武道大会に出させてもらって賞金でも頂こうかな?」

 

「大丈夫よ、最近通帳のお金が徐々に増えてるの。

何故かわからないけど。」

 

「え?

あぁ、もう一人のランチさんが最近ダーティヒーロー的なことやり始めてるからだと思うよ。」

 

「えぇ!?

私…なんて恐ろしい事を……。」

 

 

そう、最近カプセルコーポレーションの付近の治安が急に良くなってきていた。

金髪の女戦士…彼女に悪事が見つかれば、たちまち半殺しの状態で広場に吊し上げられ、多額の金品すらも奪われるアンチヒーロー。

SNSで次第に話題となり、今ではその活動が密かに話題になっている。

 

 

 

「悪い事しなけりゃ…まぁいいんじゃない?

とりあえず今日は、申し訳ないけど早めに寝るね。

あれだけ動いて夜更かし出来るほどもう若くないや。」

 

 

 

重たい体を引きずって布団に横になる。

皆の憧れ戦士の師である武天老師。

そのしごきに恐れながらも少しワクワクして興奮して眠れなさそうだ。

…と思った矢先に瞳が重くなる。

 

気づけばもう夢の中。




修行パート…手を出しておかないとこの先の的をラッキーマン的要素以外倒せなくなります汗


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修行するぞ その2

誤字脱字修正済み R2 1/12


明朝午前3:30。

目覚まし時計よりも30分も早く起きてしまった。

歳をとると目覚ましよりも早めに起きてしまうなんて都市伝説だと思っていたが、最近目覚まし時計に頼らなくなってきた事を見ると嫌でも実感せざるを得ない。

残り30分あるが、渋々諦めて朝食に取り掛かる。

起きてしまった朝は大体ラディッツが作る。

と言っても、昨晩のサラダのあまり、卵焼き、ウインナー、味噌汁とそこまで手は凝ってないので尻尾も使えば30分も掛からない。

起きる予定時刻にはテレビを付けて朝食を摂る。

チャンネルを回したところで通販番組が殆どで、唯一退屈しのぎになりそうな情報番組を眺めながらあっという間に完食。

食後のコーヒーを啜りながら道着に着替え始める。

 

 

(さぁ、今日から頑張るぞ。)

 

 

朝日が昇る前に家を出て、引っ越したカメハウスへ向かう。

到着すると、既にセルと亀仙人が外に出ていた。

 

 

「随分早いな。」

 

「早く起きちゃったんだよ。」

 

「歳か。」

 

「やかましい。」

 

 

 

茶々を入れるセル。

だが冗談だと言うのも、機嫌が良いのも声色でわかる。

強くなりたいと思っていたのはやはり嘘ではなかったようだ。

話はそろそろに…と言いたげに亀仙人は小さく咳払いする。

空気を読んで、二人とも口を噤んで亀仙人へ意識を向ける。

 

 

「二人ともおはよう。

早速じゃが修行を始めるとしよう。」

 

 

亀の甲羅、武天老師が亀仙人と揶揄されるもの。

カプセルを取り出し、PON! と軽い音の後に現れる亀の甲羅型のただの重り。

重さは100kgちょうど。

重ねて言うが、これを戦闘力50レベルで背負って半日を修行に費やす。

戦闘力50とは誰くらいの強さであろうか?

あまりのインフレの酷さで、よく覚えていない方(執筆者含む)がいるので簡単に言えば…

第21回天下一武道会 悟空とクリリンが初めて天下一武道会に参戦した大会でのクリリン、彼が戦闘力60。

 

15,6歳あたりのクリリンに少し劣るくらい。

その頃の亀の甲羅の重りは20kgで、最終的には40kg。

これが2.5倍の100kg。

例えて言うならば、原付バイク2台分・20kgの米袋5袋・道行くスリムな女性二人分(?)。

 

 

「お…っもい!」

 

「当然じゃ、かるくては修行にならん。

ほれ、このカゴを持て。」

 

 

よっこいしょと一声の後に、更に追加された重り。

中には小型の重りが沢山…ではなく牛乳瓶がビッシリ並んでいた。

これが何を意味するか。

感の鋭い皆様なら良くおわかりだろう。

 

 

「牛乳…配達?」

 

「左様、これを走って配達をする。

これならばランニングも兼ねて収入も得られる。

いわゆる肉体労働じゃ。

早い分にはいいが遅ければ牛乳は腐って商品にならん。

生計が立てられなくなるぞ?

ラディッツは収入を得られなくなり、セルは飯抜きじゃ。

今回は初めてじゃから、特別に保冷バッグに包んで行くぞい。」

 

 

え、セルも飯を食べるの? と思う前に、収入が得られなくなるショックの方が深刻であった。

何としてでも新鮮な内にお届けしなくては。

収入減は青髪ランチさんならともかく、金髪ランチさんにドヤされる可能性がある。

銃弾の雨ならなんとかなるが、精神的にそれは辛いものがある。

てめぇ誰のお陰で大飯食えると思ってんだ! なんて言われたら、いよいよ家に帰れなくなる。

 

 

「さて、ランニングがてら道案内するぞ?

ハイ、イチニ、イチニ!」

 

 

テンポよく走り出す一行。

その光景はかれこれ20年前、悟空とクリリンが行った修行そのものである。

昔は目をキラキラさせた少年二人を連れていたが、まさかその宿敵であった兄が…三十路のオッサンと得体の知れない化け物を弟子に付けるとは思いもしなかった。

だがその秘めたポテンシャルは、悟空を思わせるような高さを秘めているに間違いないのだ。

 

一行はひた走る。

時に谷底深い渓谷に掛けられた固定されていない巨木の一本橋。

時に空腹に飢えた人喰い恐竜のテリトリー。

時に永遠と続く並木道をジグザグと。

それぞれ過酷な環境に住む人たちへ、牛乳を届ける。

極めつけは、標高2,000m級の山をロッククライミング、そして何千段もある不揃いの石階段。

その山だけは尻尾の使用が許可され、何とか登り切る。

 

 

「おはようございます和尚様、牛乳をお届けに参りました。」

 

「おはようございます。

いやぁ…久々に弟子をとられましたかな?」

 

「えぇ、昔の弟子より年増ですがな。」

 

 

荒い息と滝汗の男が這いずり昇りきる。

ロン毛で人相も悪い事から、何処かの道場から問題児でも引き入れたのかと思った矢先、今度は緑色の訳の分からない生物が這い上がってきた。

あまりにも事情がわからないが、きっと天下の武天老師も少し趣向を変えてきたのだろうと強引に事態を飲み込む。

 

 

「そ…そうですかな?

い いやぁ、武天老師様は分け隔てなく弟子をとるとは…す 素晴らしい。」

 

「ほっほ、気まぐれという所でしょうな。

明日からは保冷バッグ無しで来させます故、いつもよりも温いですし時間通りに来ないかもしれませんが…大目に見て下さいな。」

 

「武天老師様のお弟子様です。

こちらも気長に待ちますので、どうかご安全に。」

 

「では、ご無礼を致します。

さぁ、降りるぞい!」

 

 

セルもラディッツも一礼して断崖絶壁のような岩肌を跳ぶように降りる。

着地点を誤れば、位置エネルギーと100kgの重りで簡単に真っ逆さまに落ちる。

先んじて「舞空術は無しじゃぞ」と釘を打たれてしまったら…どうにも的確に降りるしかない。

 

 

「飛び降りるのでは無く、山肌を駆けるように降りれば容易いぞ。

ほれほれ!」

 

 

空の牛乳瓶は暴れ、重りが邪魔で動きが制限され、何度目かの九死に一生を得てようやく地面に降り立つ。

このランニングで、一般人なら少なくとも十何回は死んでただろう。

ラディッツやセルのビジュアルも、近年のイケメン具合からギャグ漫画のような人相に変り切って荒い息を上げている。

 

 

「「ハァ…ハァ…ゼイ…ゼイ…。」」

 

「ふぅむ、やはり今日は保冷バッグは正解じゃったな。

明日からは保冷バッグは無しで同じ条件じゃ。

さぁ、次の修行をするぞ?」

 

「「…は…ぁい…。」」

 

 

---

 

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-

 

 

「でやあぁぁぁぁ!」

 

「ぬわぁあぁぁぁ!」

 

 

広大な荒地に、数メートルの幅で指を突き刺していく二人。

ある程度の距離で人力のローラーで地面を固め、熱々のアスファルトを撒いて、再びローラーで固めていく。

何をしているのかと言うと、都市と都市の間には道路が通っておらず、人力で国道を作っている。

山があれば素手で掘り、岩があれば素手で砕き、川があれば橋にする。

文字通り一直線に結ぶ壮大な計画を二人で行っている。

 

 

「ファイトじゃ。

この道が出来れば何千何万の人が喜ぶ慈善事業じゃ。

ちゃんと平らにするんじゃぞ。」

 

「「…へ…へ〜い…。」」

 

 

---

 

--

 

-

 

 

穏やかな海。

今日はベタ凪。

絶好の海水浴日和でもあり、航海には穏やかだろう。

そんな中、三隻のボートが大きな航跡波(ウェーキ)を形成する。

いや、正確に言えば一隻と二人。

凄まじい速さで島々を抜けていく。

 

 

『尻尾は使うなー!

沈む暇があれば前へ進めー!』

 

「「がぶぉぶぶぶばぁぁぁぁ!!」」

 

 

食材やら飲み物やらが積まれた亀の甲羅を背負い、必死の思いで泳ぎ続ける二人。

 

 

「多すぎやしないかだって?

安心せい。

水には浮力があるから、多少荷物を乗せても大丈夫じゃ。」

 

 

(ふざけんな!

浮力を重りと荷物がぶっ壊してんだろうが!!)

 

(こんな所で死にはせんが、この程度で力を解放するほど私は落ちぶれてはおらんぞぉ!!)

 

 

死にものぐるいで物資をカメハウスのあった島へ運び、再び元の海岸へ戻る。

全てが終わった時、太陽なんてどっぷり沈み切り、時刻は22時になりかかろうとしていた。

こんな修行が…下手をすれば7年間続く。

サラリーマンの7年はあっという間に感じるだろうが、ここまで内容の濃い7年なら、下手したら地獄の方が鬼と仲良く平穏に過ごせるのではないかと思い違えてしまう程だ。

 

 

「二人ともご苦労じゃった。

明日からはとりあえず、この修行を一通りこなせるまで続けてもらう。」

 

「「…はい。」」

 

「ほっほっほ。

悟空とクリリンも、最初はそんな感じだったわ!

まだお主らは、返事する体力が残っているだけ結構な事なんじゃぞ?

 

ちょっと今は死んどるが、今の悟空があるのも全てここから始まったんじゃ。

あそこまで強くなるとは思わなかったが、悟空本人も修行が終わった時は強くなった自分に驚いていたもんじゃ。

ワクワクせんか?

この辛い修行を終えたら、今まで限界だったと思えたレベルが簡単に届くどころか既に通過しておる。

まだ見えぬ世界が、修行を積むことにより見えるようになる。

そしてその成果を遺憾無く発揮する舞台が、数年後には用意されておるのじゃ。

地球の運命を掛けた戦いと思うと荷が重い様にも思えるが、強さを求める武道家にとってこれ程幸せな舞台は無いと思うぞ?

 

強さを確認出来れば、また新たな課題が見つかり取り組むことができる。

武道家と言うのは、一生前に進むことができる素晴らしいものじゃ。

難しく考える必要は無い、昨日の自分を超える事が確実に出来る人生。

今日出来なかった事が少しずつ変わってくるじゃろう。

 

…いかん、歳を取れば何を言うにも説教じみてしまうな。

今日はゆっくり休むんじゃ。

そうじゃラディッツ、ランチさんにくれぐれもよろしくの。」

 

 

最後の最後に下心をチラ見せさせられ、今日の修行は終えた。

正直言って、武道家なんてドMの極みかと思っていた節があったが…武天老師の話を聞いて考えが少し変わった。

修行=昨日の自分が出来なかった事を出来るように励む事。

そう考えると、悟空は単なるバトルジャンキーなのかと思っていたが、課題を見つけてそれを克服したい欲が強いだけなのかもしれない。

もっとよく考えれば、そんな人一般人の世の中にもいくらでもいる。

アスリートなら修行とか鍛錬の言い回しも似たものがあるが、一般人に置き換えれば改善とか工夫とかの言い回しで現れる。

家計簿を見直して、先月使い過ぎたから今月はうまくセーブしよう。

この前、別の取引先で資料にミスがあったから、今度は見直してちょっと煮詰めてみよう。

今日寝坊して忘れ物したから、明日は早く起きて余裕を持って家を出よう。

そう思うと、日常の全てが修行に繋がるのではないか?

 

 

(自分にできる事をしよう。

この修行は悟空がもう子供の時にやってたんなら、俺にもできないことはないだろう。

この道を辿れば悟空に繋がる。

そう思うとモチベーションが上がるな。)

 

 

重かった身体が少し軽くなる。

まだ初日、ここからが正念場だ。

時を同じくして、セルと亀仙人。

島に運ぶ食料の中からいくつかカメハウスへ運び入れており、その中から軽く料理を仕上げる。

 

 

「お主に料理の心得があるとは思わんかったわい。」

 

「この時代に来て少ししてから、過去にいなかったラディッツの細胞も手に入れたのでな。

これくらい程度なら簡単だ。

生体エネルギーを吸収出来ない以上、食事でしかエネルギーを確保出来ないからな。」

 

 

今セルに必要なのは、高タンパクな物と炭水化物。

破壊された筋繊維と不足するエネルギーを回復させる為にはバランスの取れた食事とプラスアルファで以上の物が必要である。

 

 

「…こういう事は他の物にも教えてやりたいものじゃ。」

 

「サイヤ人はこういう事をしないのか?」

 

「あ奴らはただの大飯食らいじゃ。

なんでも沢山食べるからバランスなんてへったくりもないわい。」

 

「食事トレーニングの一環…ではなさそうだな。」

 

「昔からそうじゃ。

初めての修行の夜も…と、ワシらはフグの毒で死にかけたがの。」

 

「武を持って毒を制すか?

いや、それは流石に無理であろう。」

 

 

意外にも武天老師との食事は楽しいものだった。

この日からセルは亀仙人と食事を摂りながら色々な昔話を聞いた。

悟空、クリリンとの修行の日々、天下一武道会の出来事、亀仙流と鶴仙流…。

少年記から青年期、ピッコロ、サイヤ人達、ナメック星でのフリーザ軍との戦い。

色々と孫悟空に纏わる話をいくつも聞くことが出来た。

それがセルにどれほどの影響を及ぼしたかはわからない。

 

 

---

 

--

 

-

 

 

「…金はいくら掛かる?」

 

「そーですねぇ…大体これくらいになるかと…。」

 

「ふぅむ、これっぽっちでいいのか?

この十倍出す…いや、君の言い値で構わん!

これまで以上では無く、未来にも過去にも最大規模で世界一のゴージャスなものにしたまえ!!」

 

 

ある男が、召使いからタブレット端末を取り上げ声を荒らげている。

それはまるで漫画の中に出てくるとても長い食事テーブルからだ。

さぞかし名高い貴族か、資産家か…どちらにせよかなりのお金持ちでなければ出て来ない台詞だろう。

全ては息子のある願いで、金にものを言わせて実現させる計画。

そして自身の名声を更に世界中に知らしめる為でもある。

準備には時間は掛かるが、そう大した時間は要らないだろう。

金さえあれば、自身に出来ないことは無い。

 

 

---

 

--

 

-

 

 

「馬鹿な…俺…が……。」

 

「「す…すげぇ!」」

 

「そんな!

…クソ、殺るなら…俺達も戦ってやる!」

 

 

1人の大男が地に倒れる。

繰り広げられた戦いは、もう一人の男に軍配が上がる。

気を失った男に近寄るその仲間達。

そして長を庇う仲間も、敵意剥き出しで立ち塞がる。

しかし、一番強い者が戦って敗れたのだ。

目の前に何人立ち塞がった所で、結果は見えている。

それでもこの者を守ろうとするのは、それほど慕われていた証なのだろう。

 

 

「……く、はぁ。」

 

「そこまでにしておけ。

お前達、コイツをここまで強さを引き出したのなら見込みが多少はある。

どうだ?

この俺に協力するのは如何かな?」

 

「協力…だと?」

 

 

思わぬ提案に動揺が広がる敗者達。

 

 

「ふざけんじゃないよ!

どうせまともな条件じゃないはずだ。」

 

「なぁに、俺達の為に少し動いてもらうだけだ。

今度、北の銀河にある地球という星にいる奴に復讐をしようと思っているのだよ。

奴らを誘き寄せて始末している内に、その星の生物を皆殺しにしておいて欲しいのだ。

後にそこを拠点にして宇宙帝国を作るから、星は無傷に近い状態でな。

我々が出向いてもいいが些か面倒でな。

…狸寝入りはもう充分だ、悪い話ではないと思うが如何かな?」

 

 

気を失っていたはずの大男が、身体を起こして座り込む。

不意打ちの機会すら与えられない。

提案を呑まなければ、ココが墓場になるかもしれない。

 

 

「この俺様を駒にしようってか?」

 

「どうかな?

その星を我々のものにした後、君達は好きにしても構わん。

我々を殺しに来ようが自由だ。

最も、次に戦う時はその命をコイツが奪うだろうがな?」

 

「……その時に俺様が強くなっていればその減らず口を叩けなくしてやる。

その間は……いいだろう、地球の奴らを皆殺しにしてやる。」

 

「いいんですか!?

そいつの言いなりになっても!」

 

「今は、だ!

まだコイツらとの勝負に負けた訳では無い。

ふふ、後悔しても知らないからな。」

 

 

悔しさに思わず口をかみ締める。

宇宙最強だったはずなのに、まだ上がいた。

いや、自分達がいない間に自分らを上回る奴が生まれてしまっていた。

戦い初めは明らかに片手で捻り潰せるほど弱かった。

だがどうだ、拳を交える事にどんどん攻撃が鋭くなり、自らの攻撃が躱され効かなくなっていく感覚に陥っていく。

これまで多くの生物と戦ってきた大男だが、こんな奴は初めてであった。

 

 

「ふふ、まぁお互いにこれで休戦。

俺の為に働いてもらうぞ?

なぁに、まずは俺だけで出向いて目当ての奴を誘き出す。

その為にまずはじっくり偵察だ。

計画にはまだ少し時間が掛かる、確実性を持たすためにはな。

それまではこの星で仲良くやろうではないか。」

 

 

確実性を持たすため…その自然現象が起こるまではまだ数ヶ月レベルで待たねばならない。

この星が軌道上にある事は既に科学者によって調べられている。

その自然現象は、グモリー彗星の衝突。

この星よりも数千倍もある超巨大彗星である。

 

 

(待っていろよベジータ…。

全てはこの為に。)

 

 

憎しみを込めて握りしめる。

パラガスの復讐計画は、目前に迫る。

 

 

………

 

……

 

 

 

修行を初めてから三ヶ月、いや半年。

牛乳瓶がたっぷり入った籠を抱え、亀の甲羅を背負いせっせと走る光景は見慣れた物になりつつある。

これが子供や青年なら、「可愛らしい、微笑ましい」とでもなるのだが、壮年・強面・ロン毛のおっさんと得体の知れないガタイの良い緑色のモンスターがそれをやっているのだから…。

やはり冷静に見てもシュールな光景である。

 

 

「…随分と軽々と運ぶようになったではないか。」

 

「セルも随分と余裕って感じだな。」

 

 

雑談をしながらこなせるようになった二人。

元々の身体がだいぶ仕上がっていたとは言え、戦闘力を抑えて恐竜から逃げ、断崖絶壁をテンポよく上がり、踊るように駆け下りる。

二人ともかなり高いレベルの潜在能力があった。

一人は元々のポテンシャルはあったが、それが活かされる前に死んでしまっていた為に活かしきれていなかった。

それがやっと開花されてきたと言えよう。

もう一人は未だに完全体の形態が残っている。

セルゲーム前の数日間、ただ一人でウォーミングアップレベルのみで真の力を発揮したとは到底有り得ない。

歴戦の戦士ですら、様々な修行をこなしているのだ。

サイヤ人・ナメック星人・フリーザ一族の細胞を取り入れ、鍛錬を積めば、どれほど強くなるのか未だわからないだろう。

 

 

「この身体…細胞を取り入れただけ強くなったと言うのは甘かった。

鍛えれば、まだまだこの形態でもパワーアップするとは。

ワクワクするなぁ。」

 

「あぁ、サイヤ人の細胞も入ってるんだ。

そりゃ強くなるだろうよ。

この身体だって、まだ超サイヤ人2(ツー)、そして3(スリー)が残ってる。

そしてその先は…いや。

それまでに地盤を堅めて戦い方を学べばまだまだ強くなれる。

俺も楽しみだ。」

 

 

そこまでいけば最強の4(フォー)と言いかけたが、未だに2にすら及ばない自分にはおこがまし過ぎると思い考えるのをやめた。

まずは目の前に集中しなければ壁を越えることは出来ない。

道路作りも遠泳もさっさとこなす。

当初に比べ何時間も早く終える事となった亀仙人の修行。

この一通りのルーティンが終わると、武天老師直々の気の扱いの修行なる。

通常修行が終わる時間が早くなっていくにつれ、この気の修行の時間が増えて行った。

 

気は生命エネルギー、攻撃や防御にも用いられる上にかなりの応用が効く。

そして応用技の、気を放出する気功波…エネルギー波とも言う。

極めればそれは。一点に集中させて貫くものに特化させたり、形質を変えて気の刃にしたりと…。

攻撃や防御にも使われる故に、戦術や応用によっては格上の敵にも通用するほど優れたものである。

 

 

「…乱れておるぞ。」

 

「す すみません。」

 

 

杖で小突かれて、コン と小気味良い音が響く。

いわゆる座禅、二人はそれを行っている。

ただの座禅ではなく、文字通り邪念を取り払わねば気で勘づかれてしまう。

体内の気を整え、落ち着かせ、滞りなく一定にゆっくり体を巡らす。

一般人には想像もつかない、とてもレベルの高い座禅だ。

 

 

「話を続けよう。

先程も言うた通り、その武道大会にはもちろんお主らも出てもらう。

その筋に精通する者から聞いた話じゃから間違いないじゃろう。

おぬしらは戦闘力を抑え、純粋な力でどれだけの相手に渡り合えるか確かめる良い機会じゃからのう。

優勝は期待せん方がいい。

力を抑えるから悟飯やベジータどころか、クリリンやヤムチャにも勝てるかどうかじゃからのう。」

 

 

テレビCMでもやっていないが、世界規模での武道家大会が開かれるという。

天下一武道会は数年に一度である為に今年ではない…とすればまた別の何かしらの大会なのだろう。

いずれにせよラディッツもセルも知らない大会だ。

 

 

 

「セルよ、乱れておるぞ。

…なんでもギョーサン・マネーとやらがスポンサーになっとる。

高額な賞金に目がくらんで様々な輩や武道家が来るじゃろう。

武を高める者ならともかく、金に目が眩んだ訳の分からん者に負けないように精進する事じゃ。」

 

 

 

配達や肉体労働が徐々にこなせるようになり、モチベーションも下がる前にこのような催しがあるのは、亀仙人にとっても悪くない話だった。

この大会の出来次第では、次の修行に移っても問題ないある種のものさしになるからだ。

気晴らしに自らも出ようかと思っているくらいだからだ。

目の前にいる弟子と、かつての弟子達と久しぶりに組手でもしてみたいと考えていたからだ。

 

 

(…武道家の中に、ピチピチギャルでもおればパフパフしちゃおっかな〜)

 

「「気が乱れてますよ。(いるぞ。)」」

 

 

亀仙人の鼻から鼻血が出ている事なんて見なくても二人は分かっていた。




「なんだと!?」

「聞こえなかったのか?
お前はもうしばらくしたらここから追い出すと言ったんじゃ。」


ところ変わって神領。
何やら元祖ラディッツと無神が揉めている。


「何故だ!
俺には居場所が無いからここに連れてきたんだろう!
今更あの世にでも送るのか!」

「あの世にはまだ送れん。
身体がまだ現世で元気モリモリじゃからな。」

「じゃあどうするつもりだ!」

「己の命はしばらくワシがあずかっておる。
そのしばらくがようやく終わるという事じゃ。
生かすも殺すもワシ次第、そんなに無駄にしたいか?」


命を預かる…ラディッツをどうするかは無神次第。
あまりにしつこく聞くと消されそうだと思ったのか、ラディッツはまだ何か言いたげだったが渋々口を噤む。


「お前はこの物語のキーじゃ。
これまでは鍵穴がなかったようなもんじゃったが…ようやく下地の準備が出来始めた。
わからんか?
お前を元の体に戻すんじゃ。」

「身体を!?
戻れるのか!?」

「元々バラバラの身体が元に戻る、お前の読んだドラゴンボールGTのウーブと似たような感じだと思え。
あやつは、河野は元々地球人。
サイヤ人のように無限に強くなる訳では無い。
今は河野自身が入ってるから、普通のサイヤ人のように強くなってはいかないがな。」

「早く強くなっちゃぁ行けない理由でもあるのか?」

「そんな早く強くなってみろ。
基礎の基礎のありがたみが無くなるわい。
ラディッツ、お前も基礎の基礎すらサボって地球にやってきたから、呆気なく死んで恥さらしになったのを忘れたのか?」


戦闘力…たったの5か…ゴミめ…。
この言葉を辛うじて残し、サイヤ人の中では最弱のポジションを確定させてしまった。
目に余る程の愚行を残してしまった事実にぐうの音も出ない。
ただ単に戦闘力を上げるのではなく、基礎を自然に、当たり前のようにその成果が出るように、身体に覚えさせるまで徹底的に行わない限り、地力が鍛えられる訳が無い。
基礎トレーニングを、反復練習をただひたすらに続ければ、それはいつか形になる。
今までラディッツや河野がしてこなかったものだ。


「周りの人達が自分よりも強くなり始めた。
己を鍛える事の意味と重大さに気付かされ、ようやく武天老師の元で修行を始めた。
今までの出来事はそれに気づくための前フリみたいなものじゃ。
周りに言われたからやる、そんな精神で修行したところで成長なんてたかが知れておる。
自分で気づいて、試行錯誤を重ね、実践でまた反省点が出てくる。
悩んで悩んで悩んで…それでも終わりの無いもの、武道だけじゃなく、スポーツ、勉強、芸術、全て物にそれは通ずる。
最初の内はわかりやすいところが修正点だと気づいたりするが、突き詰めていくとそれはそれは地道で果てしないものになっていく。」

「…要は河野自身がそれに気づくまで俺をここにいさせた訳か。」

「そうだ、まぁ奴の進歩具合で決めるつもりじゃ。
お前も迷惑をかけぬようにな。」


無神は高笑いする。
いよいよ元の体に戻れる。
そうなると河野はどうなるのか?
彼の存在はどうなるのか?
ここまで強くなったのも、彼自身の功績が大きく関わってくる。
奴が消えてしまったら…。


(…ふん、俺もカカロットの甘さでも移ったか?
元は俺の体だ、やつの事なんざ知らねぇ。)


謎の違和感を認めないようにラディッツは忘れようとした。
いつになるか分からない戻る日を楽しみにしながら。


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天下一"大"武道会

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連日のようにCMでは天下一大武道会の事を放送し、それに伴いスポンサーのギョーサン・マネーの顔を見ない日が減ってきた。

修行を始めてから約1年…正確に言えば11ヶ月。

いよいよ金にものを言わせた大会が開かれようとしていた。

ある者はその賞金で豪遊しようかと思い、ある者は知名をあげようと思い、あるものは純粋に強い奴と戦いたいと思い…人それぞれさまざまな思いで臨むこの大武道会。

 

 

 

「ってなわけでさ、俺達もその大会出ることにしたんだよ。

宜しくな!」

 

「だろうと思ってたよ。

こっちは力押さえて出るからお手柔らかにお願いしますわ。」

 

 

カプセルコーポレーションで久々に顔を合わせる戦士達。

何故カプセルコーポレーションなのか…?

それはあと数分でわかる事なのだが、未来に戻ったトランクスがどうやら今日戻ってくるらしい。

もちろん生きていればの話だが。

 

 

「なぁクリリン、トランクスが生き残ってれば…あいつも大会に出るのかな?

出られると…俺、勝てる見込みいよいよ無くなるぜ。」

 

「まだエントリー間に合いますからね、多分話をすれば出るんじゃないですか?

ヤムチャさん頑張っていきましょうよ。」

 

 

近年は若手の台頭もあり、益々活躍の場が減っていく最古参の戦士 ヤムチャ。

彼ももう数年でアラフォー世代となり、彼の中ではこの大会を最後に武道家を引退しようと決めていた。

折角の最後の晴れ舞台を有終の美で飾りたかったのだが…下手したら最後まで噛ませ犬で終わる可能性が高くなった事に落胆を隠せない。

 

 

「天下一武道会みたいに、クジ運良ければヤムチャさんも準優勝も夢じゃないですよ。」

 

「結局運頼みかよ。

…ったく、神様に頼るしかないか。

あ、今はデンデだっけか?」

 

 

地球の神様の元修行をした事がある彼等にとっては、神様は実は近しい者である事はよく分かっている。

と言っても、神様が自分らより年下であるが故こんな事ですがりに行くほど根は腐ってはいない。

それはそうと何故この面々が揃って既にこの場にいるのか?

話は数日前に遡る。

 

 

---

 

--

 

-

 

 

「あ、丁度いい所に。

ランチさん、ちょっとラディッツに手伝って欲しい事があるんだけど。」

 

「あらブルマさん、こんばんは。

ラディッツさんですか?」

 

 

とある昼下がり、丁度買い物から帰ってきたランチさんにばったり出会ったブルマ。

と言っても、敷地内同士の自宅の為会おうと思えばいつでも会えるのだがそんな事は御察しして頂きたい。

作者都ご…ばったり出会っただけである。

 

 

「ラディッツさんは今亀仙人様の所で修行をしてるので…良い返事が聞けるかわかりませんがどんなお手伝いです?」

 

「今度、天下一大武道会あるでしょ?

あのCMとかやってるやつ。

うちも一応スポンサーやってるから行かなくちゃいけないんだけど、参加する人もいるだろうから久しぶりに皆で集まらない?」

 

「いいですね!

ラディッツさんにもお声がけしておきますね。」

 

「それなんだけど、しばらく研究でドタバタしてて準備してなくてね…色々持ってくものあるからそれのお手伝いしてもらいたいの。

お願いランチさん、食事代とか滞在費とかこっちが全部持つから!」

 

 

両手を合わせてウインク付きでお願いするブルマ。

正直そろそろそういうキャラ作りは厳しいんじゃないかと思うが、相手はあの青髪モードのランチさん。

 

 

「そこまでしなくても良いですよ。

…そうだ!

クリリン君とかも一緒に手伝ってくれるかしら?」

 

「そうね!

人手は多ければいいもんね!

アタシからお願いしてみる。

じゃぁ…明後日、都合良さそうなら9時くらいにカプセルコーポレーションに来てね!」

 

 

---

 

--

 

-

 

 

「という訳で、ワシらも来たぞぃ。」

 

「……。」

 

「人手は多ければって言ったけど、エロジジイはさておきなんでセルまでいるのよ!」

 

 

両手を"意味ありげに"動かす亀仙人を足で制しながら怯えるブルマ。

確かに重労働だから手を抜きたい一心で招集した訳だが、まさかあのセルまで来るとはこれっぽっちも考えていなかった。

 

 

「いいじゃないですか。

セルだって大会に参加するつもりなんですから。」

 

「目の前でここまで言われるとは…ここは凹んで拗ねる演技でもすればいいのか?」

 

「あんたまでそっちのキャラでいかれると私がもたないわよ!

…まぁ人手が欲しいって言ったのは私だけど…悪い事したら悟飯君にやっつけてもらうからね!?」

 

((自分でやってくれよ。))

 

 

クリリンもヤムチャも、長年一緒に戦ってきた仲なのだからツッコミも声に出さずに心で言い放つ。

口に出さばもっとややこしくなる事も察している。

クリリンもヤムチャも共に休みで来てしまった以上、やることをやらねば面倒な事になることを知っているので、渋々手を動かし始める。

膨大な量の機器を外に出し、ブルマはカプセルに収納して輸送機に積み込んでいく。

ラディッツとセルは重量物を気を抑えて運び、ブルマにカプセルに収納してもらう。

亀仙人は、そんな二人の気の乱れを注視して見物を決め込む。

 

 

 

((((カプセルに入れて置くだけじゃん!))))

 

 

皆の息があった瞬間である。

午前中いっぱいを搬入作業に費やし、小休止を入れた時だ。

突然空が眩く光り、空中にHOPEと書かれた機体が現れる。

 

 

「良かった、トランクス生き残れたのね!」

 

「…ってことは、未来の人造人間をやっつけたって事か?」

 

「ついでに未来のセルもな。」

 

「流石だなトランクス。」

 

 

休憩を忘れて、皆立ち上がりトランクスを迎える。

機体はゆっくり地面へ降り立ち、未来のトランクスが顔を出す。

 

 

「皆さん、お久しぶりです!」

 

「待ってたわよ、首を長くしてね!」

 

 

ブルマが一目散に近づいていく。

時代は違えど、親子の対面である。

邪魔をする者は誰一人とていなかった。

一通りの挨拶を終えると、今度は周りにいた戦士達にも挨拶をする。

トランクスにとっても1年ぶりになる。

未来の世界も人造人間との戦いが終わり、世界中で復興が始まっていた。

その恩恵は、往復分のエネルギーを溜める早さにも繋がったようだった。

 

 

「…皆さんに会えたのは嬉しいですが、何故セルがここにいるんですか?」

 

「それはなトランクス、かくかくしかじかだ。」

 

「えぇ…かくかくしかじか?」

 

 

誤解をされないようにラディッツが説明する。

最初こそそんな成り行きに困惑するが、敵意のないセルの気や、亀仙人とラディッツのセルへの態度で信じる事にした。

一番大きいのは、あのセルと共に戦った事だろう。

 

 

 

「はぁ…そんな経緯があったんですか。」

 

「そんな訳で、難しいかもしれぬが普通に接しておくれ。」

 

「ふん、やけにうるさいと思ったら…。」

 

「ベジータ、やっと手伝う気になったか!」

 

 

 

朝から重量トレーニング室に引きこもっていたベジータがようやく顔を出す。

どうせ手伝いを頼んでも、「修行の邪魔だ、消えろ。」とでも言いそうだったから、元より声すら掛けてなかったのである。

どういう風の吹き回しか?

 

 

「ブルマ、トレーニングドローンが使い物にならん。

新しいのを用意しろ。」

 

「あんた今月に入って何個目かわかって言ってんの!」

 

「ベジータ、お前も手伝ってくれると助かる…。」

 

「そんな雑用事なんぞ手伝う暇は無い。

超サイヤ人を超える修行の方がよっぽど重要だ。」

 

「働かざる者食うべからず。

じゃぁアンタは、大会前のバーベキュー絶対呼ばないからね!」

 

 

ピクッ

踵を返してトレーニングルームへ戻るベジータの足が止まる。

まさかバーベキューがあるとは思っていなかった。

好機と言わんばかりにブルマは畳み掛ける。

 

 

「みんなには内緒にしてたけど、A5ランクの神坂牛たっぷり用意してあるの。

あとスポンサーになった前金で近騨牛や比内コーチンやブラックポーク、西京Xもあるのにね〜、残念だわ!」

 

「……チッ、俺の分は絶対残しておけ!」

 

 

一度は背中を向けたが、特上肉がお預けとなるのならば話は変わる。

やり取りを微笑ましく見ていたトランクスも混ざり、凄まじい速さで荷が詰められる。

午後の時間も余裕で残して、搬入は終わる事となった。

ベジータとトランクスは修行の為にトレーニングルームへ、ヤムチャもクリリンも解放されたが、ラディッツとセルと亀仙人は会場まで手伝う羽目になる。

 

 

「それにしても、ギョーサン・マネーって凄いな。

どんな奴か知ってる?」

 

「一代で大金持ちになった資産家よ。

その筋の人からすれば結構有名。

カプセルコーポレーションの発明品を世に出す時も、たまにスポンサーになってくれてるけどね。

でも、顔に「いつか抜かしてやるぞ。」って書いてあるジジイだから、あんまし良い気はしないけど。」

 

 

性格は良いとは思わない…ブルマは遠回しにそう言っている。

まぁ金持ちは一癖二癖くらいあるものなんだろう。

特に平々凡々だった彼と、最近造られた人造人間と仙人様には縁のない世界だ。

 

 

「さぁ…見えてきたわよ。

あれが天下一代武道会 会場よ。」

 

 

位置は正確には覚えていないが、島全土に渡って造られた巨大な武道場。

そして観覧席とイベントスペース。

観覧席の抽選が外れた人用に、小高い丘からは辛うじて武道場が見える計らいも垣間見える。

一言で言えば、凄い。

 

 

「これ、島全部会場?」

 

「そ。

島ぜ〜んぶ買い取ったらしいわよ?

さぁ、今度は荷物運ぶわよ!」

 

 

 

………

 

……

 

 

 

「つ 疲れた…。」

 

 

結局、ラディッツが帰宅したのは寒さ残る23時。

帰りの飛行中も座禅の時間に割けられた為に、舞空術が使えず遅くなってしまった。

ランチさんには連絡を入れて、先に寝てもらうようにお願いしていたので、リビング以外は真っ暗である。

 

 

(大会は五日後…俺は一体どこまで強くなっただろうか?

一年でそんな成果が分かるほど強くなってんのかな?)

 

(それはそうと、天下一大武道会か。

これも現在にゃ無かったと思うけど…また変な事でも起こるんかな?

それか、本当にちょっとした大会なのかな?)

 

 

残念ながら前者の方なのだが、ラディッツはまだ知らない。

近づいてくる気配を消した者達も、何かしらの計画を実行しているパラガスと言う男も。

 

 

--- 四日後 ---

 

 

「という訳で、じゃんじゃん食べていいわよ!」

 

『いっただっきまーす!!』

 

 

大会を翌日に控え、大体の面子が揃ってお花見兼バーベキューが行われ始めた。

面々?

悟空とピッコロ以外の面子が揃っている。

あとはお馴染みの戦士達である。

トランクスのエントリーも無事に済んでいる。

あとは大会に万全の状態で臨むだけである。

 

 

「ヤムチャさん、もう呑めませんって〜。」

 

「とか言いながら4杯も飲んでるからいけるって〜。」

 

「呑みも足りんが、女子も足りんのぉ〜。」

 

「おいおいじいさん、俺が化けてやろうか?」

 

「ウーロンはダメだよ、不細工が出てきちゃう!」

 

「…いつもこんな調子なのか?」

 

「いや、俺もここまでダメになってるZ戦士を見るのは初めてだ。

悟飯、あまり良くない手本だから気をつけろよ。」

 

「は はい、でも楽しそうですね!」

 

 

 

お酒という物は、百薬の長にもなり、人の理性を消し去ってしまう劇薬にもなり得る。

健全な大人をダメな大人に、ダメな大人を更にダメにする魔の集まりになる事もあれば、様々なドラマを生み出す事もある。

残念ながら、目の前の歴戦の戦士達はダメな戦士達が多数を占める会になっている。

 

 

「クリリン歌え歌え!

翼をください歌え!」

 

「いやいや、俺はもう翼無しでも飛べますってぇ〜。」

 

「僕達は天使だったでもえぇぞ〜い!」

 

「亀仙人、なんであんたの口からそれが出るんじゃい!」

 

 

 

結局ラディッツまでも、日本酒を口にしてから歯止めが効かなくなった。

結局この飲み会で健全な大人だったのは、セルだけと言うなんともまぁ無様な形になってしまった。

ベジータはその残念な様子を、傍から見るだけである。

ちゃんと全ての肉は制してあるので、歓談から抜けた形だ。

 

 

(超サイヤ人を超える…か。

どうすれば…やはり最初のように何かしらの怒りがきっかけになるのか?

いや、そんな単純では無いだろう。

今の悟飯を見て感じても、以前とそこまで変わりがない。

あの溢れるようなパワーは、身を震わすようなパワーはわかっているんだ…。)

 

 

結果がわかっているのに、そこまでの経過が分からない。

全てのピースが揃うのにまだ何かが足りない感覚。

そしてそのピースが何なのかがわからない。

ただひたすらに過重力で修行してても無駄なのはわかっていた為に、最近ではトレーニングルームで考え込む事が多くなった。

イメージ…ひたすらにイメージを重ね、自分の気をそのイメージに近づけるように…。

それでもただ似せているだけに過ぎず、自分に当てはまることの無いピースである。

 

 

 

「それではこのクリリン、歌わせて頂きます!

舞空術がありますが、翼をください!」

 

「よっ、クリリン期待してるぞ〜!」

 

「………。」

 

 

超サイヤ人を超えて、更にその向こう側にある超サイヤ人3(スリー)にならなければ、魔人ブウに敵わない。

そう断言した未来を知っているラディッツは能天気に手拍子でクリリンをはやし立てている。

能天気にも程がある、7,8年で下手したらもっと早まると言っていた張本人があの調子では話にならない。

 

 

(まずはあの野郎を超えない限り、悟飯にも、カカロットの野郎にも追いつけやしない!

だが、ラディッツにも…あのカカロットの息子にも頭を下げて戦ってもらおうなんざ…反吐が出るぜ!

クソッタレ!)

 

 

苛立ちを抑えるように串焼きの肉をいっぺんに頬張る。

腹は満たされず、心も満たされず…。

時間だけが過ぎていく。

そんな時だ、上空から音がしたのは。

 

 

「いぃま〜〜ワタシのぉ〜〜…願ぁあ〜いごとがぁ〜〜……あ?」

 

 

音に気がついたのはベジータだけでは無い。

すっかりデキ上がった者達も気が付くほどの轟音だ。

その音は何かの爆発音や、悲鳴でもない。

カプセルコーポレーションでもたまに聞くジェットエンジンのような音。

上を見上げれば、満開の桜の合間から高音に熱せられた炎が見える。

それは次第に爆風に変わっていき、ロケットのような巨大な機体が丘に着陸する。

必死で身の回りの荷物が飛ばされないように手を伸ばすが、肉やら酒やらがあまりの強い風に吹き飛んでしまう。

周りの観光客も同じくであるか、非常識な光景に逃げるか…。

 

 

「おいなんだよ!

折角の肉が台無しじゃねぇかよ!」

 

「そうよ!

これだけ苦労したのに良くも飛ばしてくれたわね!」

 

「野郎、出てきたらぶち殺してやる!」

 

「ランチさんが言うとおっかねぇけど、悟飯ちゃんの料理を飛ばすとはゆるさねぇべ!」

 

 

この出来事に怒りを顕にしたのは女性陣だ。

自分達が折角手を込めて育てた肉達がそっくり地に帰ってしまったのだ。

特に金髪モードのランチさんは両手にMac10(短機関銃)を構え始めた。

本当に殺すつもりである。

ただ出てきた相手が少々悪かった。

着陸と同時にハッチが開き、10…いや、100人規模でサブマシンガンを携えた兵士が続々と周りを警戒しながら現れたのである。

流石のランチさんも、舌打ちしながら銃を仕舞わざるを得なかった。

周りの戦士達も手を出さずに静観を決める。

酔っている人間も、現実味の無い光景に口をポカンと開けて眺めるだけだ。

兵士達が全員出揃った所で、親玉らしき男が一人遅れてハッチを降りる。

白いマントをひらつかせる色黒の壮年の男。

 

 

「…探しましたぞ!

ベジータ王!」

 

 

周りの人間には目もくれず、気にもたれていたベジータに向けて歩き出す。

名前を知っている…ならばベジータの知り合いなのだろう。

 

 

「俺の名前を知っているのか?

貴様は誰だ?」

 

「お初にお目見え致します。

私はパラガスと申します。

惑星ベジータが消えた今、あなたを新たなる王としてお迎えに上がりました。」

 

「ベジータ王?

おいベジータ、お前いつから王様になったんだ?」

 

「口を慎んで頂けますかな?

このお方はベジータ王が亡くなられた今、サイヤ人の正式な後継者であらせますぞ。」

 

 

酔ったヤムチャの茶化しにも紳士に対応するパラガスと言う男。

確かにベジータを知っていたかのように一発で見つけ、なおかつ尻尾がある。

サイヤ人には尻尾があるのは確かな印。

それはラディッツにも当てはまるが故、皆信じるしかなかった。

だが何故何年も経った今更なのだろうか?

 

 

「パラガスか。

久しぶりに聞いたぞ。

確か、惑星ベジータが爆発する直前に島流しになった…と、俺は聞いていたが?」

 

「はい。

恥ずかしながら私は、辺境の名前も無い星に島流しになりました。

ですが、惑星ベジータが隕石の衝突で消え、サイヤ人一族はほぼ全滅。

他の星への侵略中の貴方様を助けるのは、同じサイヤ人だと思い、星を脱出。

そしてお出迎えの準備をして参りました。」

 

「ほう?

それにしては随分と時間が掛かったようだが?」

 

「ベジータ王を出迎えるにあたり、新たなる兵士と新たな惑星ベジータ、そしてベジータ王に相応しい宮殿の建設の為でございます。

そして、大変申し上げにくい事にございますが、伝説の超サイヤ人が度々新惑星ベジータを攻め、何度も我々の生命が脅かされて来た為でもございます。

南の銀河を破壊し尽くし、遂に我らの新たな星にまで。」

 

 

終始立膝をつき、頭を下げて一部始終を話すパラガス。

その言動、行動、態度はベジータを新たな君主に迎えるようなものであった。

そしてまた新たなワードが出てきた。

伝説の超サイヤ人…伝説の超サイヤ人とは、あの金色の戦士のことでは無いのだろうか?

 

 

 

「ラディッツさん、あのパラガスって男を知っていますか?」

 

「……Zzz。」

 

「ラディッツさん…ラディッツさん起きて下さい!

……ダメか…。」

 

 

今まで静かだと思ったら、ラディッツは眠気に勝てずに寝てしまっていたのである。

トランクスが必死に揺さぶるも、ジェットエンジンの音や爆風でも起きないという事は、途中で飲んだ日本酒が相当効いたようだ。

 

 

「伝説の超サイヤ人か…夢物語かと思われていたが。

本当にいるんだな!?」

 

「はい。

そやつのせいで遅れ参じたのは事実であります。

この左目も、奴にやられた傷でございます。

奴を倒せる者は…ベジータ王!

あなたしかいません!」

 

 

願ってもないチャンスだった。

強い者と戦えば超サイヤ人2になるきっかけを得ることが出来るかもしれない。

ラディッツでもなく、カカロットの息子 悟飯でも無い。

それが伝説と言い伝えられている超サイヤ人ならば、相手にとって不足は無い。

天下一大武道会なんぞ、最早どうでもいい。

 

 

「良いだろう。

パラガス、案内しろ。」

 

「父さん!

大会はどうするつもりですか!

母さんも何か言って下さい!」

 

「そうよベジータ、今更あんたが王様になってどうするつもりよ!

そんな暇があるなら大会に勝って賞金取ってきなさいよ!」

 

 

呼び止める理由が賞金とは如何なものか。

気の利かない呼び止め方もあるのか無いのか、ベジータは無視して宇宙船へ歩み始める。

もちろん王様になる事が動機な訳では無い。

ラディッツを抑え、悟飯の力を超え、生き返るであろうカカロットを超越する為の足がけとする為である。

その為には大会なんかよりも伝説の超サイヤ人を倒す方が賢明だと思ったからである。

 

 

「あなたも良ければどうぞお手伝い下さい、トランクス王子。」

 

「…オレはお前の協力をしに行くんじゃない。

父さんを手伝いに行く、それだけだ。」

 

「待ちなさいトランクス、だったらラディッツも連れて行きなさい。

どーせベジータの事だからロクなことにならないんだから、せめてベジータよりも強い奴がいた方がいいでしょ!?」

 

 

一理ある。

ベジータはプライドが高い上に頑固なのだから、万が一の時に力ずくでも制止できる人がいると心強い。

 

 

「そうだな、セルだと嫌だろうし、悟飯が行けばセルがもしもって時に困るからな。」

 

「…ちょっと俺たち情けないですけどね。

そんな訳でトランクス、ちょっと今酔い潰れてるけどラディッツも頼むよ。

あと少し水を飲ませてやってくれ、酔いが覚めた時に楽だからさ。」

 

 

ヤムチャとクリリンがラディッツを担いで宇宙船へ乗せてやる。

トランクスも申し訳無いと一言残し、宇宙船は多くの兵士とパラガスを乗せて空の彼方へ飛んでいった。

 

 

「…んもぅ!

ベジータもトランクスもいないんじゃ、賞金と旅行はお預けね。

その代わりにあのキョーサン・マネー(クソジジイ)からたっぷり資材レンタル代搾り取ってやるわ!」

 

 

あからさまに苛立っているブルマは焼き鳥の串を5本まとめて貪る。

今声を掛けてはいけない…一同はアイコンタクトで意見をまとめあげた。



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忘れがちだが、アルコールは程々に

明けましておめでとうございます、本年もこの誤字脱字だらけのダメダメ自己満小説をよろしくお願いします。

誤字脱字修正済み R2 1/12


「…なんだぁここぉ?」

 

 

知らない天井である。

この台詞も何回目であろうか?

確かに自分は外で飲んでいたはずである。

それが今や、部屋の中…振動からして何かの乗り物の中にいる事がわかる。

 

 

「目が覚めましたか?」

 

 

トランクスの声。

頭がまだグワングワンするが、頭痛やら体のだるさはまだない。

体にアルコールがまだ残っているだろう。

 

 

「トランクス、ここはどこだぁ?」

 

「話す前に、まずは水を飲んで下さい。

クリリンさん達から預かってきました。」

 

 

瓶に入っていた透明な飲み物、口をつけて初めてわかった。

 

 

「…これは水じゃない、日本酒だ!」

 

「えぇっ!?

参ったなぁ…ちょっとパラガスさんに聞いてみます。」

 

 

トランクスは部屋を出る。

酔いもあって上手く聞き取れなかったが、何かを取ってくるのだろう。

してこの輸送機はなんだろう。

先日の輸送機の車内では無いので、カプセルコーポレーションの別な輸送機なのだろうか?

色々と思い出さなければ行けないことがある。

…そうだ、時間は?

翌日には大会があるのだから、どこかへ向かっているとしたら会場へ戻っておかないと後々面倒になる。

酔って寝たから、面倒で自宅へと引き戻されているのだろうか?

 

 

(イカン…久しぶりに飲んで少しやってしまったか?

こうなるなら"ヘパリの力"でも飲んでおけばよかったなあ。)

 

 

飲み会における反省は大体飲みすぎが原因である。

そんな当たり前の事なのに、飲み会になると大体忘れてしまうものだ。

ラディッツだってそこそこの年齢だったのだから、現代の時には飲む量は大体知っていた。

今回は久々だったので忘れていたのだ。

 

 

(とにかく、ブルマに戻してもらうように…いやランチさんか?

どっちにしろ引き返さなきゃならん。)

 

 

「ラディッツさん、お待たせしました。

パラガスさんが水を持ってきて下さいました。」

 

「パラガスさん?」

 

「少し飲みすぎかな?

まさか宴会中とは知らずに、済まなかったな。」

 

 

隻眼のマントを羽織った色黒の男が、水を持って部屋に入る。

その男を知っている。

いや、正確に言えばドラゴンボールを知っている者ならば、誰もが知るあのサイヤ人の父親なのだから知っている人の方が多いだろう。

 

 

「パラガス…パラガス!?

えっパラガス!?」

 

「そこまで動揺しなくても良いだろう。

同じ下級戦士のサイヤ人なのだから…と言っても、知らないサイヤ人の方が多いのかもしれんがな。」

 

 

話はそういうことでは無い。

先程の説明通り、誰もが知るあのサイヤ人の父親なのは知っている。

だが問題なのは、その有名なサイヤ人の方だ。

 

 

「そんな事はどうでもいい。

今やお前はベジータ王に仕えているサイヤ人の最後の生き残りなのだからな。」

 

「いやいや、それよりどうしてこうなった!?」

 

「あぁ、そうだったな。

お前は寝ていたから知らないのだろう、伝説の超サイヤ人についてな…。」

 

 

ラディッツはここで寝落ちしていた時の状況を事細かく知る事になる。

南の銀河を破壊し尽くした伝説の超サイヤ人について。

話を聞くにつれ、ラディッツの顔はどんどん青白くなっていく。

 

 

「俺に父さんは止められませんでした。

ラディッツさんからも何か「…逃げるんだ。」…え?」

 

「逃げるんだぁ…勝てる訳が無い!

伝説の超サイヤ人っていったら最強過ぎて知らない奴はいないんだ。

ってかパラガス!

俺達を巻き込むんじゃねぇ!」

 

「一体何を言っている?

お前もサイヤ人の端くれなら多少は腹を括るのだな。

トランクス王子、何かあれば私になんなりと仰ってください。

私は着陸の準備をして参ります。」

 

 

パラガスは踵を返して部屋を出る。

未だ酒が残るラディッツは、立ち上がろうとするも力が上手く入らないのもあって床に突っ伏した。

事態は最悪の方向へまっしぐらに進んでいるようだ。

 

 

「なんてこった…次の相手はブロリーだと?

どうしよう…どうしよう…。」

 

「ラディッツさんどうしたんですか!?

俺にもわかるように説明して下さい!」

 

「…俺はドラゴンボールについて詳しく知っている程の人間じゃないがな、それでも凄まじく強い奴や印象に残る奴は有名になる。

パラガスもそのうちの一人…あいつは伝説の超サイヤ人の父親なんだ。

そして息子の名前はブロリー…。」

 

 

ドラゴンボールを詳しく知らない人間でも、名前だけでも聞いた事があるキャラクターはいくらかいる。

後に孫悟空の好敵手になっていくベジータ、超サイヤ人になるきっかけにもなったフリーザの二人は、アニメやジャンプ・単行本から有名になった悪党である。

そんな王道のアニメや漫画ではなく、ファンしか見ない劇場版のキャラクターで有名になったキャラクターは数を数えてもなかなかいない。

余程の事が無い限りだ。

それを奴は体現させてしまう程の強さと凶悪さを誇っている。

あまりの強さに、劇場版放映から何年も経った今でもある意味で人気を博し、某動画投稿サイトでも彼を主人公としたネタ動画や、二次小説作品…それどころかリメイクもされて再び劇場版の敵キャラクターとして再臨する程である。

 

 

「伝説の超サイヤ人 ブロリー。

悟空も一方的に蹂躙する程強い奴だ。

どうやって倒したか知らないけど、超サイヤ人2いや、その先の形態でも勝てないレベルの強い奴だ。」

 

「そんな奴が!

けどそんな無茶苦茶な奴なら、もう気を感じてもおかしくないはずです。

もう到着の準備をすると言っていたのに、そんな大きな気をまだ感じてませんよ!」

 

「ブロリーは確か、悟空に対して尋常じゃない程の恨みつらみがあるんだ。

悟空がいたせいで凄まじい化物へと覚醒した。

アイツがいないならブロリーも凄まじい気を出さないと思う。

…が、俺が来たせいで色々と相手が強力化するか余計な敵とつるんでる可能性が高い。

こっちはベジータ含めて3人しかいない。

今回も油断は出来ない、いや…敗色濃厚。」

 

 

悲壮感たっぷりに話すラディッツに、トランクスも顔が暗くなっていく。

フリーザの地球来襲、セルジュニアの包囲網、究極体セルの時にも前を向き続けていた男がこれほどまで言うまだ見ぬ敵 ブロリー。

ようやくこの時代と未来を救ったのにも関わらず、どうしてここまで困難が待ち受けるのだろうか。

 

 

「ラディッツさん、他に何か思い出せますか?

何かブロリーの弱点…いや、弱点でなくても何かほんの些細な事でも良いですから。」

 

「うーん…。

ダメだ、今は頭が全然働かないや。

もう少し酔いが冷めないとまともに考えられん。」

 

 

未だクラクラする頭。

正常な時でも思い出すのに一苦労するのに、泥酔直後の麻痺しかけてる脳が働く訳が無い。

500mlのペットボトルに入った水が無くなり、2本目を開けた時だ。

室内の重力がほんの少し変わる。

どうやらどこかしらに着陸する体勢になったようだ。

館内の電灯も、赤色の電灯に切り替わり、扉のむこうは慌ただしく駆ける兵士の足音がし始めた。

 

 

「あとはどうやってベジータ連れてトンズラするかだな。」

 

「父さんは頑固ですから…なるべく時間稼ぎをしてみるしかありませんね。」

 

「そうだな…とにかくなるべく戦わないように、逃げ専門に回るぞ。」

 

 

………

 

……

 

 

 

船はゆっくりと地表に降り立ち、無数の兵士が出迎えに出てくる。

王の帰還。

ベジータを新しくこの星の王に迎え入れ、新たなサイヤ人帝国を作り上げようと集まった者共である。

 

 

「新たな帝国を築き上げる為に掻き集めた、宇宙中のならず者達です。

そしてあそこに見えますのが、私の息子です。

何なりとお使いください。」

 

「…ブロリーです。」

 

「お前もサイヤ人のようだな。」

 

「はい。」

 

(あれが…伝説のサイヤ人ブロリー…。

俺が覚えてる以上にヒョロっとしてんな。)

 

 

ラディッツの記憶の中では、筋肉隆々でまさに怪物と揶揄してもおかしくない存在だった。

それが今は、とても気弱で優しそうな青年だ。

あまりに恐ろしいと思って気を消していたラディッツだが、念には念をでこのままにする事にした。

まずは敵を知らなくてはならない。

一行は車に乗り換え、宮殿へと向かう。

ベジータはパラガスと同乗し、ブロリーはトランクスとラディッツと同乗して行くこととなった。

 

 

「…ブロリーさん。

あなたはサイヤ人と言っていましたが、超サイヤ人にはなれるんですか?」

 

「超サイヤ人…ですか?」

 

「えぇ、髪の色が金色になって、凄まじいパワーアップをするんです。

ご存知ありますか?」

 

「…いえ、俺は何も知りません。

親父からも特には聞かされていません。

ただ、()()()()()()()()と言われる事が…。」

 

「高め過ぎるな…?」

 

「はい。

俺自身もよく分からないんですが、気を高め過ぎると記憶が無くなってしまうんです。

そのせいで親父の目に傷をつけてしまって、気を制御する装置を付けられました。

気の操作を身につけたら取ってやると言われ、今は色々な星に出向いて特訓しているんです。

最終的には星を壊さなければいけませんが…俺はこんな事したくはないんですが、きっと親父にも何か考えがあって…。」

 

 

ブロリーは涙目になってうつむいてしまう。

この話はどうやら嘘ではないらしい。

トランクスも罰が悪い顔になってしまった。

まさかこんな裏事情があったとは思わなかったからだ。

 

 

「それは…俺も色々と失礼でした。」

 

「いいんです。

でも、これだけ少なくなってしまった他のサイヤ人に会えたのは、嬉しいです。」

 

「ブロリー、超サイヤ人を知らないなら、伝説の超サイヤ人について何か知らないか?

金色では無く、緑色の髪の…まるで怪物のようなサイヤ人について何か知らないかい?」

 

「今回襲ってきているサイヤ人ですね?

これに関しても俺は何も知らないんです。

親父の方が詳しく知っていると思います。」

 

「そうか、ありがとう。」

 

 

特に情報を得られず。

唯一はブロリーが暴れているのは自分の意思では無いという事。

そして気を高め過ぎている時の記憶は無いという事。

という事は、怪物のようになっている時は別の人格になってる可能性が高いという事だ。

 

 

(深い悲しみによって生まれる伝説の超サイヤ人ブロリー。

パラガスのスパルタ教育の影響で、もうこの時点で相当悲しみが溜まっているのか。

それで悟空が来て何らかのせいで爆発。

額の制御装置をぶっ壊して覚醒した訳か…。

ならば、パラガスさえいなければ…ってやらかしたらそれこそ覚醒しちゃいそうだし…。

難し過ぎ。)

 

 

想像以上の難題である。

この話、ブロリーとパラガスさえ倒せばすんなりと終わる話である。

だがブロリーの救済を少しでも考えると、途端に一筋縄ではいかなくなる。

自分の制御内でベジータ達に復讐するパラガス。

自らの実力を試したい一新のベジータ。

覚醒したら最後の父親想いのブロリー。

生き残って地球に帰りたいラディッツとトランクス。

 

ベジータ以外は色々な内情を隠しながら、宮殿へと到着する。

そこでは既に食事の用意が出来ており、早速食い始める新ベジータ王。

良くもまぁさっき食ったばかりなのに…と思いつつ、トランクスとラディッツはちまちまと軽く口にしながらも、対策を練ろうとする。

 

 

「パラガス、伝説の超サイヤ人ってのは一体どんな奴なんだい?

俺達は倒しに来たってことだけど、相手を知っておきたいんだが。」

 

「ラディッツよ、先程相当狼狽えておったが貴様如きが敵うと思っているのか?」

 

「あ あれは酔ってておかしくなってただけだ!

まぁ敵を知ってて悪い事は無いだろう?

なるべく詳しく具体的に教えてくれ。」

 

 

ベジータも飯を頬張りながら聞き耳を立てる。

多少なりとも伝説の超サイヤ人の事を知っておきたいようだ。

パラガスもそれを察して話す。

 

 

「そうだな…あまりに強すぎて、奴が気を高めるとこの星全体が震え上がる程だ。

接近しようにも奴のエネルギーボールが凄まじく近づけないほどだ。

情けないが、奴の顔を拝む程近づけもしなかった。」

 

「オーラの色とかは?

体格くらいなら分かるだろう?

性別は、声色は、フリーザよりも強いのか?」

 

「オーラは間違いなく金色だ、まさに言い伝え通りの伝説の超サイヤ人のようにな。

体格は貴様よりも大きいだろう。

間違いなく男だろうな、女サイヤ人なんてもう存在しないのだからな。

私はフリーザの姿も戦闘力を見た事がないのでな。

それについては答えられんな。」

 

 

ラディッツの質問に一通り答えた時だ、一人の兵士が飛び込んできた。

 

 

「申し上げます!

トトカマ星に超サイヤ人が!」

 

「出るぞパラガス!」

 

 

 

意気揚々とベジータはパラガスとブロリーを連れて、今のところ存在すらしない伝説の超サイヤ人討伐に出掛けてしまう。

残されたラディッツとトランクスは、少しでも情報を得る為に新惑星ベジータを散策に出る事にした。

…だがこの星の環境は酷かった。

宮殿を出れば荒れた大地ばかりが続き、新惑星ベジータと名乗るにはほど遠い程荒んでいることがわかる。

 

 

「…こんな砂だらけの星が新惑星ベジータねぇ。

パラガスは一体何を考えているんだか。」

 

「ラディッツさんの言う通りなら、恐らく父さんに復讐をした後この星を捨てるつもりなんでしょう。

それなら地球に直接来れば良いはず…。」

 

「ベジータさえ倒せばいいだけなのか。

もしくはそこそこ強い奴を引き連れここで皆殺しにし、その後地球を征服するとかか?」

 

「どちらも有り得ますね。

いずれにせよ、パラガスは父さんを殺すつもり…何としてでも阻止しないと。」

 

 

ふと、前方に大きなクレーターを見つける。

いや、クレーターでは無く巨大な掘削地とでも言えるだろうか。

そのまわりに機材や様々なケーブルを見た限り、人工的な穴なのだろう。

手がかりを求め二人はその穴へと降りていく。

穴は2、30m程深く、直径も50m程でかなり大きい。

その地底では、何十人もの者達が這いつくばるように働いていた。

 

 

「労働者…ですか?」

 

「わからん、とにかく話を聞いてみよう。」

 

 

状況を知っていそうな、歳を重ねていそうな人物を探す。

そして該当しそうな一人を見つけ、声をかけようとした時だ。

老人が力尽きたかのように前のめりに倒れる。

 

 

「あ!

だ 大丈夫です!?」

 

「やめろ!

俺達サボっちゃいねえんだ!」

 

 

そばにいた子供と思われる子が老人を庇うように立ち塞がる。

その目は敵意に満ちていた。

まずは誤解を解かなくてはならない。

 

 

「待ってくれ、俺達は何も悪い奴じゃないんだ。」

 

「そうなんだ、それより大丈夫ですか?」

 

「うぅ…シャモ、そいつらは警備兵じゃない。

すまない、足がもつれてしまってな。

ワシらに何か用か?」

 

「俺達は他所の星から来たラディッツとトランクスと申します。

少しこの星について色々聞きたいことがありまして。」

 

 

老人は周りを見渡し、話をするなら人気のない所へと案内をする。

少し歩いて大きめの窪みに入り、シャモと呼ばれた子供と老人は腰を下ろす。

 

 

「ワシはシャモ星人のシモ、こっちは孫のシャモ。

で、この星について聞きたいと?」

 

「えぇ、俺達はパラガスって奴に色々あって来る事になってしまったんです。

出来れば仲間を連れて元の星に帰りたいんですが、この星の状況とかパラガスについて何かご存知でしょうか?」

 

「知ってるも何も、アイツらは俺達をこき使う悪い奴らなんだ!」

 

「シャモ、言葉に気をつけなさい。

…分かりました、ワシが知ってる事をお話しましょう。」

 

 

怒るシャモを制し、老人シモがゆっくりと話し始める。

彼らはシャモ星人。

この星から少し離れた所に存在する星から拉致された民族。

元々この新惑星ベジータは、シャモ星の衛星だった。

今から一年前程前、突如そのシャモ星にパラガス一味が現れ、数少ないシャモ星人を全員弾圧、そして惑星へと連れ去り奴隷のように労働を強いられる事となった。

労働の目的はこの星のエネルギーをとにかく得ること。

しかもパラガスはかなり急いでいるようで昼夜を通して働かせられたそうだ。

歯向かうものはパラガスの側近の二人を筆頭に見せしめのように皆殺し。

シャモ星人は泣く泣く従うしかなかった。

 

 

「パラガスはワシらを物としてしか見ておらん。

何人の同胞が飢餓と疲労で野垂れ死んでいったか…。

ラディッツさん、トランクスさん、可能ならば今すぐにでもこの星から出ていくんじゃ。

サイヤ人なんざろくな奴がおらん。」

 

 

(惑星シャモを征服せず、何故こちらの衛星へわざわざ運ぶ必要があったのだろうか?

この星でなければいけない目的があるのか?)

 

(パラガスの側近二人?

ブロリーともう一人は誰だ?

また俺の知らない奴が出てくる可能性が高いな。)

 

((それと、この人達を助けなきゃ。))

 

 

二人の意見は合致した。

この星を逃げる前に、シャモ星人を助けなければならない。

一通り聞いたところで礼を言い、早急に宮殿へと戻る。

先程の大量の食事がまだ残っていたのは幸いだった。

それらを全て宮殿内にあった箱に詰めて、シャモ星人の元へ運ぶ。

彼らは全員とても痩せ細っていた。

それでも労働させられては倒れてもおかしくない。

シモ老人が倒れたのも、飢餓によるものだろう。

とても足がもつれたようには見えなかった倒れ方を見れば合点がいく。

 

 

「これ全部、俺達が食っていいのか!?」

 

「働く理由は知らないけど、まずは飯を食わなきゃな。

ここにあるものは全部食べちゃっていいよ!」

 

 

警備兵の目を盗みながら、シャモ星人は交代交代で食事にありつく。

彼らの食いっぷりを見る限り、本当に食料は僅かしか与えられていなかったのだろう。

 

 

「ワシらのために…すまぬ。」

 

「いいんですよ、誤解も解きたかったんで。」

 

「俺達はパラガスと同じサイヤ人なんです。

出来ることなら、あなた達を救いたい気持ちなんです。

パラガスの悪事は、俺達が何とかしてみせます!

だからそれまで、皆さんも耐えてください。」

 

 

いよいよ後に引けなくなってきた。

シャモ星人を救うならば、どうしてもパラガスとブロリーと、謎のもう一人の側近を倒さねばならない。

殺すのではなく、倒さねばならない。

 

 

………

 

……

 

 

 

「クソ、超サイヤ人なんざ影も形もいなかった!」

 

「申し訳ありません、ただいま懸命に捜索している次第であります!

今しばらくお待ちください。」

 

 

トトカマ星から帰ってきたベジータは、超サイヤ人の痕跡すら見つけられず苛立っていた。

超サイヤ人をぶちのめし、自らの実力を確認する。

その機会は目の前にあるのにお預けになっているのだから。

 

 

「あ、おかえりベジータ。

収穫ゼロか?」

 

「黙れラディッツ!

役に立たないのならば口を閉じていろ!」

 

 

憂さ晴らしにもならないが、ラディッツに八つ当たり。

嘘でも伝説の超サイヤ人が出てこなければ、そのうちファイナルフラッシュでも撃たれそうな勢いだ。

 

 

「ラディッツ、この星の観光はもう終わったのか?」

 

「あぁ、この星が如何に素晴らしい星かよくわかったよ。

なんでこんな荒れた星にしたのか理解に苦しむね。」

 

 

皮肉たっぷりにラディッツが返す。

 

 

「お前も知ってる通り元惑星ベジータも、そこまで良い星ではなかった。

この星がどうもそのイメージと被ってしまってな。

何か問題でも?」

 

「パラガス様、超サイヤ人捜索の範囲を広げようと思っているのですがいかがでしょうか?」

 

 

突如、背後から赤い肌の男が現れる。

何やら三頭身チックで目付きが悪い。

 

 

「パラガスさん、そちらの方は?」

 

「あぁ、トトカマ星にいたので紹介が遅れましたな。

私の側近のアボとカド。

ならず者達の中でも戦闘力がツートップの者でございます。」

 

 

その言葉と同時に、カドの後ろから青肌のアボがスっと現れる。

体型も顔つきも…肌の色以外瓜二つの男だ。

あまりに瓜二つすぎて、アボとカドが重なれば日食のように体が綺麗に隠れてしまう。

 

 

「アボ…カド?」

 

「そうだ、彼らも伝説の超サイヤ人に立ち向かう戦士の二人だ。」

 

「そんなヤツらが居なくても、俺一人で片付けてやる!」

 

 

ベジータは興味が無いと言わんばかりに、用意された自室へと戻る。

その場から固まったままのラディッツ。

 

 

(側近って、ブロリーの事じゃなかったのか!

しかもこの2人…フリーザよりも強くねぇ。

とりあえずコイツらは知らないキャラだが何とかなりそうだ。

やはり問題はブロリー。

覚醒する前に倒して、パラガスも倒すしかない。)

 

「ふむ、とにかくお前達に任せる。

さぁトランクス王子、ラディッツ。

明日もいつ伝説の超サイヤ人が現れるかわからない。

今日はもうゆっくり休んで、明日に備えて下さい。」

 

 

パラガスはそう言い残すと、踵を返して奥に消えていく。

これ以上の詮索は出来ないと判断し、トランクスとラディッツも自室へと戻る事にした。

 

 

---

 

--

 

-

 

 

「あと少し…あと少しで悲願は達成する!

せいぜい短い間の王様気分を味わうんだな!」

 

 

 

画面に映る超巨大な岩石のかたまり。

いよいよ目視でも確認出来るほどに近づくグモリー彗星。

この星の終わりも、復讐の完遂も目前である。

あと数日いや…もう数時間で積年の恨みが晴らせることが出来るのだ。

すぐそばで絶命している部下のモアの始末すら必要無い。

この星ごと捨てるのだから。

 

 

「なるほどね、そういう訳ならもう時間が無いな。」

 

「えぇ、もうこの星は明日で消えて無くなる。

明日で全てを何とかしなければいけませんね。」

 

 

アボやカド、ブロリーは何も言わずに椅子に腰掛け、パラガスの事を見守っている以上、今ここで出来ることは何も無かった。

だが気を探り続け、異変を感じて部屋を盗み見たのは正解だった。

この経緯を知らなければ、明日も周辺探索に出掛けてそのまま成仏する事になっていただろう。

 

 

「アボ、カド。

奴らをしっかり見張ってこの星を出ないようにしろ。

スカウターだけに頼るな、奴らは気を消す事も出来るだろうからな。

手は出すなよ?

感づかれないように、しっかり朝まで寝かせておけ。

なにかあればすぐに呼べ。

ブロリー、お前は宇宙船をすぐに動かせるように予備電源を入れておけ。」

 

「やべっ、部屋に戻ろう!」

 

「分かりました。

ラディッツさん、俺は明日早く起きてシャモやシモさん達にこの事を知らせます。」

 

「わかった、明日に備えてしっかり寝とけよ。

何もしなけりゃ、ぐっすり寝れるからな。」

 

 

手短に打ち合わせを済ませると、大急ぎで自室に戻る。

布団を被って狸寝入りを決め込んでしばらくすると、部屋の扉が僅かに開く音がする。

ほんの少しの間の監視の後、扉は静かに閉められた。

 

 

(バレてないよな?

…クソ、流石に用意がいい。

入念に計画されたんだろうな。

ここまで恨みがあるって…ベジータの野郎何しでかしたんだよ!

癇癪起こして誰かぶっ殺して恨みでも買ったのか?)

 

 

当たらずとも遠からず。

正確に言えばベジータの親父が作り出した恨みなのだが、今のラディッツには露知らず。

 

 

(伝説の超サイヤ人ブロリー。

どうしよう。

対策練ろうにも、悟空は最後はどうやって倒したんだろ?

一方的にやられてるイメージしかなくて、悟空がやり返している姿を想像出来ない…。

…元気玉かかめはめ波か?)

 

 

ラディッツの辛うじて導き出した答えは残念ながら的外れである。

ドラゴンボールが大好きという人ならご存じかと思われるが、最後はZ戦士達が悟空にエネルギーを送り、限界以上の強さを手に入れて一撃で葬ると言う最後なのだが…。

今の状況では味方は3人しかおらず、頼みの主人公も死している。

はっきり言う。

絶望的である。

 

 

(俺が一気に超サイヤ人3になれば…せめて超サイヤ人2。

そもそも悟空は超サイヤ人2でブロリー倒してたんなら…。

考えるのやめよ。

泣きそうになってきた、おやすみ!)

 

 

隕石衝突で消えてなくなるか、ブロリーに八つ裂きにされるかの二択しか無い彼らに勝機はあるのだろうか…。



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頑張れベジータ

誤字修正済み R2.9/17


翌朝8時、朝食の支度が出来たと言われラディッツは食堂へ向かう。

既にベジータがモリモリ料理を平らげており、存在しない伝説の超サイヤ人討伐の為に力を蓄えている。

 

 

(今日こそ…今日こそ出てこい!)

 

 

思いはもう顔に出ている。

パラガスは既に食事を終えたようなので、ラディッツも手元の箸を手に取り最後の朝食になるかもしれないと味わって食べる事にした。

 

 

「ラディッツ、今朝方早くトランクス王子が外出されたが…何か知っているか?」

 

「うーん…わからんなぁ。

あ、昨日なんかあれが気になるこれが気になるとか言ってたから、早速見て回ってるかも。

大丈夫、俺達を置いて帰るような奴じゃないから。」

 

 

そう話をでっち上げながら周囲を見れば、アボだかカドだか…赤い方の姿を想像が見えない。

どうやらトランクスの監視中に撒かれて、慌ててラディッツを起こして確認した…という所か。

 

 

「そんな事よりパラガス!

明日には見つけると言っていた超サイヤ人はどうした!?」

 

「そ それがまだ調査中でして、近くに居るのは間違いないのですが…。」

 

 

ベジータは苛立っていた。

昨日探索に出向いたトトカマ星では、結局伝説の超サイヤ人は影も形もなく無駄足に終わった。

パラガスは自分を筆頭に、一生懸命配下に捜索させているというが…それも今のところ役に立たない。

パラガスはもうあてにならないと考えたベジータは、いよいよ情報を待たずして自ら宇宙を巡り、探す事を決めた。

これに慌てたのは勿論パラガスだ。

グモリー彗星の衝突までベジータをここに足止めしなければ、計画が全て無駄になる。

いよいよベジータも痺れを切らしてきたのだろう。

朝食を途中で切り上げ、スタスタと歩き始めた。

向かう先は宇宙船の方角。

 

 

 

「ベジータ王!?

ベジータ王、お待ちください!」

 

(お、帰る気になったのか!?)

 

 

ブロリーも後を追って外に出る。

ラディッツも期待半分で続く。

 

 

「なんだパラガス、俺の邪魔をするな!」

 

「明日まで!

明日までお待ちください!

必ずや伝説の超サイヤ人を見つけます!

せめてもう一日程猶予を!」

 

 

その時、トランクスが舞空術で飛び込んでくる。

気を抑えていない事を見ると、シャモ星人達に全てを伝えられたのだろう。

 

 

「父さん!

パラガスの言っていることは嘘です!

伝説の超サイヤ人はいません!

奴らは俺たちをここで足止めさせて、彗星の衝突に巻き込ませるつもりなんです!」

 

「彗星?

寝惚けて何を言い出すのですかトランクス王子。」

 

 

思いのほかネタバレが早かったトランクス。

ここまで言ってしまったらもう誤魔化しも効かないだろう。

トランクスの表情はまさに本物。

それを見た後にいくら言い訳を並べても消されるだろう。

 

 

「はぁ、もうおしまい。

パラガス、俺達はもう全部知ってるんだ。

ベジータ、伝説の超サイヤ人は確かにいるぞ?

すぐそこにな。」

 

 

指さされたブロリーは目を白黒する。

パラガスも必死にそんな事はないと否定するが、もうお構い無しだ。

ここにきてようやく、トランクスを見張っていたカドも送れて飛び込んでくる。

余程焦っていたのだろうか、額には汗がいくらか流れている。

そんな遅れてきたパラガスの部下に目もくれず、ラディッツは事の真相を話し続ける。

 

 

「頭の飾りは暴れた時用の制御装置だ。

下調べがあまり進まずにここまで黙ってたのは悪かった。

彗星の衝突が今日と聞いて、調べきれずにネタバレするしか無かった。」

 

 

つい先日出会ったパラガスと言う生き残った同胞と、未来を知る忌々しい元腰巾着と最愛の息子のトランクス。

どちらの情報が信じるに値するかは明白であった。

 

 

「…パラガス貴様、俺を騙しやがったな?」

 

「フフフ…ハハ…ハッハッハ!

バレてしまってはもうこんな茶番はしなくてもいいな?

ベジータ、貴様の姿は凄まじく笑いものだったぜ。」

 

 

この言葉を合図にし、アボとカドはパラガスの前に出る。

もう何も隠す事は無くなった。

彼らの復讐劇は、演技の段階から実力行使の段階へ移った。

 

 

「いくら貴様が王族の血を引いたとて、俺達に敵うはずも無い!

やれ、アボ! カド!」

 

 

嫌味たらしいアボとカドが、拳を振り上げ襲い掛かる。

彼等は形だけ側近に居た訳では無い。

その実力はパラガスの上を行くのだ。

本来であれば、彼等双子の方が上の為従う義理など皆無なのだが、ブロリーの脅威で下につかざるを得なかった。

その鬱憤を晴らすかのように、振り上げた拳が復讐相手の顔面を貫く。

 

 

「「でやぁぁあ!!」」

 

「ふん。」

 

「おりゃぁ!」

 

「「ごぶっっはぁぁああああっ!!」」

 

 

…訳がなかった。

臨戦態勢に入った超サイヤ人ベジータと、超サイヤ人にもならなかったラディッツの一振で、破損したスカウターのみを残して彼等双子は遥か彼方へ悲鳴をあげて吹き飛んで行く。

ドラゴンボールファンの方々でご存知ならば、アボとカドの登場はもっともっと先…現段階の約10年後になる。

その頃にはフリーザの戦闘力を超えた超戦士として地球へやってくるのだが、今の時点ではフリーザの足元にも及ばない。

そんな双子が、気を抑えていた戦闘力を本来の実力と勘違いし、襲い掛かればどうなるか…。

説明せずとも分かるだろう。

 

 

「ええええ!?」

 

「ふん、雑魚共がイキがりやがって。

さて、次は貴様の番だ。

何か言い残すことはあるか?」

 

「ブ ブロリー!

奴らを蹴散らすんだ!」

 

 

即座に頼れる味方はもう我が子のブロリーしかいない。

最強にして最後の駒である。

ブロリー自身もそうなる事を知ってか知らずか、既に戦う覚悟が出来ていた。

相手はあのベジータ王の息子 ベジータ。

ブロリー親子の運命を大きく変えてしまった元凶なのだから。

 

 

「貴様が伝説の超サイヤ人?

呆れて反吐が出るぜ。

貴様のような軟弱な奴が、伝説の超サイヤ人などあるものか!」

 

 

超サイヤ人状態は、軽い興奮状態になる。

ベジータも例外では無く、言葉と同時に手が出ていた。

あの双子と同じく、ブロリーも呆気なく吹き飛んで行く予定だった。

だが予想に反して拳の感触は殴った衝撃を生み出すこと無く、差し出された掌に収まっていた。

 

 

「お前達がいなければ、こんな事にはならなかった!

過酷な環境の星へと飛ばされずに済んだ。

様々な星を破壊せずに済んだ。

ベジータ王いや、…貴様らの馬鹿げた王族至上主義さえなければ、俺達は一人の戦闘民族サイヤ人として暮らしていけたのだ!

ブロリー!」

 

「はぁぁあああああああ!!」

 

「ぐぬぉっ!?」

 

 

受け止めた拳を再度掴んで引き付け、崩れた身体の腹部へ強烈な一撃を見舞う。

受け止められただけでも予想外だった上に、カウンターを貰うと毛頭無かったベジータは腹を抑えてうずくまる。

そんな状態でもブロリーは情をかけることなく、頭を踏みつけ抑え込む。

 

 

「待てパラガス!

父さんが一体何をしたと言うんだ!」

 

「フン、言われんでも教えてやるぞ、バカ息子!

このバカ王子の父ベジータが、俺達親子に何をしたか!」

 

 

 

時は遡ること約30年前。

惑星ベジータがまだ存在していた頃だ。

サイヤ人のエリート戦士だったパラガスに息子が誕生した。

当初は戦闘数値も低く、エリート戦士の息子でありながらも下級戦士と同じ保育器と同スペースに入れられていたブロリー。

だが、ひょんな事で泣き出した際に、戦闘力が桁外れな数値を叩き出した。

あまりにも急だった為に、精密検査を実施する間はエリート戦士専用保育器に移動。

検査の結果、戦闘力 1万という赤子のサイヤ人として過去にも未来にも現れない数値を記録する。

その報告を聞き、パラガスは親子共々サイヤ人王家により尽力するつもりでいたのだが、サイヤ人王家を脅かす危険因子として認識され、ブロリーともども処分されてしまう。

他惑星への島流し… 打ち捨てられたパラガスとブロリーも共に辺境の星で息絶えるはずだったのだが、パラガスは宇宙船を操作し何とか知的生命のある星へと不時着。

そこで出会ったタコのような科学者に宇宙を修理・改造してもらい、周辺の星々を蹂躙しながら再起を図っていた。

もちろん全てはベジータ一族への復讐の為…。

 

 

「…それ以降、俺達は星を破壊して周り、ブロリーを鍛えながら放浪せざるを得なかったのだ。

この過酷さ、悔しさ、苦しみが…貴様らには分かるものか!」

 

「それで俺達に逆恨みか?

つくづく哀れな野郎共だ。」

 

 

爆発波でブロリーを吹き飛ばし、ベジータは悠々と地面に降り立つ。

対するブロリーもノーダメージでパラガスの横へヒラリと着々する。

 

 

「復讐する奴ほどタチの悪い奴が多い。

貴様の様に、いつまでも死んだ奴に向けてのものなら尚更だ。

そんな性根の腐った奴なんざ、この俺が直々にぶっ殺してやる!」

 

「それぐらいのクズっぷりでなければ復讐の意味が無い!

俺達二人の人生を狂わせておいてその態度は…親もクズなら子も相応か。

やれ、ブロリー!」

 

 

血で血を洗うとはまさにこの事か。

報復には報復。

殺意には殺意。

ベジータ王の仕打ちも目に余るが、復讐の為に息子を使うパラガスも然りである。

親の因果によって、二世同士が殺し合いをするのは物語の中だけであって欲しいものだ。

こうも拗れてしまっては、止める算段はもう何も無い。

雄叫びを上げて飛びかかるブロリーを、加重移動で初手を切り抜ける。

 

 

「こんなレベルで伝説の超サイヤ人とは…拍子抜けだ!」

 

 

振り向きざまに首元に肘打ち。

堪らずブロリーは倒れ込むように地面に叩きつけられる。

肘打ちした体勢から消えるように高速移動し、パラガスでさえもブロリーに被せるように背負い投げる。

 

 

「ぐっ!」

 

「残念だったな。

貴様の復讐とやらもここまでだ。

精々あの世で悔しがりやがれ。」

 

 

ベジータの掌にエネルギーが集まっていく。

この星を脱出する時間が無い上に、とんだ無駄足だった事に対しての腹いせか。

もう終わらせるつもりのようだ。

父 ベジータ王の復讐なんてまるで興味が無いとでも言わんばかりに言い放たれた言葉に、パラガスは覚悟を決める。

 

 

「かくなる上は…ブロリー、あれを使え!」

 

 

おもむろにブロリーは立ち上がる。

何をするつもりか?

だがベジータにとっては、もう自分以下の存在のサイヤ人には何の未練もない。

それでも自分を殺そうというのならば、返り討ち…殺すしかないのだ。

 

 

「ちっ、失せやがれ!」

 

 

超特大の気功弾を放ち、ブロリーを中心に爆発する。

爆発が早かったか、ブロリーが飛び出したのかどちらが先か分からない。

だがブロリーが無傷なのは確かである。

黒髪のヘアースタイルが、いつの間にやら若干の金色がかった青髪に変わっている。

装置を取り付けられた際に生じる、パワーを強制的に押さえつけられた超サイヤ人化。

それでもベジータの肉体をぶちのめすには充分足りた。

 

 

「ふぉおお!」

 

 

たった一撃。

その一発のパンチで、ベジータの体は弾け飛ぶ。

その威力は、近くの岩山に岩盤状のクレーターを作り上げる程。

そしてベジータは、その一撃で気を失ってしまったのだ。

抑制装置を取り付けられたおかげでこの程度で済んだとも言えようか。

この抑制された時点で、既にベジータの全力を上回るオーラを放っている。

トランクスでも敵わない。

ラディッツで同等かと思われるレベルである。

 

 

「父さん!」

 

「こんのっ!」

 

 

ラディッツも即座に超サイヤ人になり、ブロリーに応戦する。

ベジータに固執していたブロリーの顔面を殴り飛ばすが、仕留めた手応えでは無い為追撃はしないものの視線は外さない。

トランクスは即座にベジータの安否を確認するが、大事には至っていない模様。

情勢では二対一。

悟空がいないので覚醒の危険は低いものの、過去の戦いでの不測の事態や伝説のスーパーサイヤ人との事もあり優勢とは程遠い。

 

 

「「よ…よくもやってくれたな!」」

 

 

声と同時にイージスを張れば、気弾の雨が降り注ぐ。

1発1発の威力はそう大したことは無いが、明らかに1人が放つ量ではない。

バリア越しに空を見あげれば赤と青の物体…アボとカドの仕業である。

この程度の攻撃なら数時間はバリアは持つだろうが、ブロリーを見やれば姿が消えている。

気弾の雨の最中に突如として現れる拳。

イージスバリアを粉々に吹き飛ばし、気を取られていたラディッツを大きく仰け反らせながら吹き飛ばす。

端から連携を取っていた訳では無いが、タイミングは抜群。

 

 

(考えるんだ!

赤いの青いのは対した脅威では無いなら、集中するのはブロリー。

気弾は頭部と背面のスコードロン化させた界王拳で相殺して奴と全力で対峙すればいい!

あいつらはいつでもやれる…だから今はブロリーだ!)

 

 

気を探り、砂塵だらけの空間をブロリーの元へ最短距離で突っ込む。

気弾の雨はその間にも降り注ぐが、計算通り防御力の上がった背面には通じない。

敵の大まかな位置の分かっていたブロリーも応戦しようとするも、地面スレスレからの体当たりには反応出来ず、先程の仕返しと言わんばかりに盛大に吹き飛んだ。

 

 

(仕返しだこんの野郎がぁっ!)

 

 

追撃の手を緩めず、吹き飛んだブロリーに対し溜め無しで放たれる主砲斉射。

そして放ったと同時に更なる追撃の為に、主砲斉射を壁にして更に接近したのだが、気功波も追撃も突如現れた壁により阻まれる。

緑色のバリア。

エネルギー波もラディッツをも止めるのならばそれ相当な強さのバリアである。

 

 

「はああああぁぁぁ!」

 

「クソ、やっぱりまだまだ気が上がる…。

気円斬!」

 

 

とっさにクリリンの必殺技 気円斬でバリアの打破を試みる。

借りた技の為一発とはいかなかったものの、2,3回同じ所へに撃ち込んでようやく打ち破ることができた。

気を上げきれなかったブロリーは咄嗟に体当たりを仕掛けてくる。

ラディッツも咄嗟にバク宙の要領でギリギリかわし、避けきったところで気弾を放ってダメージを与える。

 

 

(危なっ、なんとか戦えてるって所か?

ブロリーもあのムキムキ状態じゃないからな。

これなら辛うじて何とかなるか?)

 

 

伝説の超サイヤ人 ブロリーは未だあの最強の形態にはなっていない。

正確には、カカロットという存在がいない為になることが無い。

そこに気づく程の頭脳は持ち合わせていなかったが、クリリンの気円斬から始まり、砂浜でコテンパンにやられた時の武天老師の動きを真似して若干の手応えを感じつつあったラディッツ。

 

 

(とにかく、今のうちにアイツの体力を削らなきゃ。

戦況を掌握出来れば何かしら「合体!」…ん?)

 

 

遥か後方で、紫色の竜巻が発生する。

その竜巻は何かしらの被害を出す程でもなく、地表のチリや石を巻き上げる程度ではあったものの、ただならぬ気を放っていた。

その気の量…超サイヤ人状態と同等、あるいはほんの僅かに上である。

 

 

「な!

フュージョンか!?」

 

「フュージョン?

よく分からんがそれとは違うな。

超ワハハの波!」

 

「ワハハの波!?

なんやその名前は!

フゴッ!」

 

 

そのふざけたネーミングセンスとは掛け離れた威力の気功弾が迫る。

飛び退いてやり過ごすが、そのワハハの波は続け様に放たれて来る。

咄嗟に作り出すイージスでは凌げない。

一発一発が中々の威力と速さの為に回避に専念するが、後方より再び体当たりを仕掛けてくるブロリーは避けられなかった。

そのタイミングでワハハの波がラディッツに炸裂。

 

 

「ハーッハッハッハ、いいぞ!

アカ、ブロリー、このまま奴らを消し去ってしまえ!」

 

「言われなくとも、グモリー彗星を待たずに俺様がぶっ殺してやるぜ!」

 

「ラディッツ…俺も親父の為なら…!」

 

 

拮抗していたと思われた戦況が傾く。

自分よりも強い敵が二人。

界王拳を用いてアカと同等、二倍でブロリーと同等。

そして時間を掛ければグモリー彗星の衝突。

対セルとはまた違った絶望的状態である。

 

 

(どうすりゃいい。

向こうが合体するならトランクスかベジータとフュージョンすれば…いや、二人はやり方知らないし、一発本番で出来るほど簡単じゃなさそうだし、なにより隙が無い。

トランクスもベジータも、奴らとやっても勝てる見込みが無え。

意表を突く為に作らなきゃならん時間も、あんだけ彗星が近づいて来りゃ無理だ。

…道連れ…か?

このまま野放しにして、この後生き返る悟空に会わせてヤバい事になる前に、ここで心中すればまだマシかもしれん。)

 

 

「ラディッツさーん!」

 

 

昏倒していたベジータとトランクスが応援に駆けつける。

数的にはこちらが優位に立つが、それでも戦力不足には変わりはない。

そんな戦いのさ中、今まで城に篭っていたタコの科学者がパラガスの元へ駆けつける。

 

 

「パラガス様。

コンピュータの弾き出したデータによりますと、この星を脱出出来る時間は残り30分が限界ですじゃ。」

 

「ふむ…ブロリー、アカ!

15分いや、20分でケリをつけろ、急げ!」

 

 

 

戦いに集中し過ぎて頭上への配慮を疎かにしていたラディッツ以外の戦士達は全員空を見上げる。

今朝方見えなかったはずの星が…いや、彗星が少しずつ近づいている。

肉眼で僅かに見えていた星が、今ではサッカーボール並の大きさに。

もし科学者の言う30分を過ぎれば、脱出する宇宙船も彗星の重力により真っ直ぐ飛び立つ事が出来ずに、あっという間に吸い寄せられて粉々になるだろう。

事情をよく知らない者も、直感的に事態を何となく把握する。

 

 

「20分か。

それぐらいならてめえら3人まとめて俺様が殺してやるぜ。」

 

「ここからは、俺も全力でやる。」

 

 

ブロリーもアカも、もう容赦なく来るだろう。

 

 

「ラディッツさん、何か戦略はありますか?」

 

「戦略?

もう30分しかないなら出し惜しみしてたら死んじまう。

限界以上に戦わなきゃならん。」

 

「クッ…相手は伝説の超サイヤ人…。

それを分かった上で言っているのか!?

もし伝説が本物ならば、俺達三人がかりで戦っても勝てるわけがない。」

 

 

一応構えはしているものの、完全に弱腰ベジータであった。

いつもの闘争心溢れるプライトの塊のエリートサイヤ人の欠片もないおっさんだ。

 

 

「それでもやるしかないだろ。

お前はこんな所で死にたいのか?」

 

「伝説の超サイヤ人を知らない貴様は幸せな野郎だぜ。

千年に一人現れる、破壊と殺戮を好む最強にして最悪の戦士。

奴がそうなら、覚醒したら最後…この宇宙が消え「ごちゃごちゃうるさい!」

 

 

 

狼狽え始めたベジータを言葉で押さえつけるラディッツ。

 

 

「そうか、YouTubeやらニコ動で散々見てきたヘタレベジータってのはこの事か…

動画なら面白かったが、ここまでグズなら豚に食わせた方がマシだな!

よく考えろよ!?

ブロリーとそんなべらぼうな戦力差があると思えるか?

俺が超サイヤ人で普通の界王拳ならばジリ貧だが、1.5…2倍にすりゃこっちの方が上回る。

瞬間的にしか出せない上に、無限になれる訳じゃないが勝てないわけじゃない。

わかるか、あの伝説の超サイヤ人に勝てる可能性が無い訳じゃないんだ。

い い か ベ ジ ー タ ?

確かにブロリーは伝説の超サイヤ人だがまだ覚醒しちゃいない。

ラディッツじゃなく、俺がよく知ってるしこの目で見てきたんだ。

落ち着いて見てみろ、破壊と殺戮を好むんならもうとっくの昔に俺達ゃ死んどるわ、俺だって必死に逃げるわ!

まだごちゃごちゃ言うなら一生軽蔑するぞ!

お前なんかヘタレ豚野郎だ!

アホ! バカ! カス! パツパツスーツの見た目だけの使えないド変態M字クソハゲニート野郎だ!」

 

「…ラディッツさん…それは言い過ぎじゃぁ…。」

 

 

 

トランクスでさえ少々引くほどの悪口のオンパレード。

その言葉を全て受止めざるを得なかったベジータはゆっくりとラディッツの胸元を掴む。

 

 

「…ラディッツ。

もし地球に帰ることが出来たら…ぶち殺してやる。」

 

「やってみろよ、ヘタレベジータ様よぉ?

軟弱者と罵った伝説の超サイヤ人様とやらを前に生きて帰れたらな。

もしお前が野垂れ死んだら、墓でも銅像でも立てやるよ。

そんでその前でお前の醜態ぶりを全員で腹抱えて涙流して笑ってやるぜ。」

 

「ちょ ちょっと!

今は喧嘩してる場合じゃないんですよ!?」

 

 

流石にまずいと瞬間的に判断し、トランクスも間に入る。

ベジータの額には血管が何本も浮き出て、今まで見たことも無いような恐ろしい顔つきになっている。

対するラディッツの表情は険しくないものの、その声色は…平たく言えば軽蔑するような口調なのだが、殺気やら哀れみやら蔑みやら嘲笑やら色々混じっている。

ベジータの性格を知っててやってるとしか思えない… 互いに今ここで殺し合いでも始まらんかのような言葉の暴力の応酬ぶりである。

そしてベジータはトランクスを指でさしながらこうも付け加える。

 

 

「証人はトランクスだ。

今のうちに土下座して謝るなら許してやるぞ弱虫ラディッツ。」

 

「その台詞そのまま返してやるよヘタレハゲ。」

 

「作戦会議は終わったか?

さっさと殺してやるから無駄だがな。

そこのクズ王子、早くしろよ。」

 

 

アカがニヤニヤあからさまな挑発をする。

今のベジータにならどんな安い挑発も宜しくは無い。

 

 

「上等だ。

スグに貴様をぶっ殺してブロリーも俺様が殺してやる!

後に続けトランクス!」

 

「えぇ!?

は はい!」

 

 

切り返しの速さに全くついていけないトランクスも、ロケットエンジンに火をつけたかのような突進をするベジータに辛うじて続く。

残るはラディッツとブロリー。

 

 

「…出来れば戦いたくはなかった、同じサイヤ人だから。」

 

「こっちだって戦いたくないよ。

出来ればパラガスを倒すだけにしてお前を自由にさせてやりたい所さ。」

 

「それは許せない。

俺のたった一人の親父だから。

そしてベジータ王子に味方するならば、俺も戦うしかない。

15分…その間にお前を倒す!」

 

「どれが最善なんだろうかもう分からないが、とにかく俺達は生きて帰らせてもらうぞ!」

 

 

ブロリーとラディッツも、互いに気を高める。

その間にもグモリー彗星は迫っている。

時間は、あまり残されていない。

 



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使えるのか使えないのか? 真打登場!

誤字修正済み R2.9/17


アカの戦闘スタイルは、体格に見合わない素早さと、一撃一撃の破壊力である。

元の小さいサイズのスカウターが使えない分、気を探る事は出来なくはなるが、その素早さで敵の攻撃を躱すなり、巨体でガードなりも可能。

そして破壊力抜群のワハハの波で玉砕。

この姿でスカウターが必要な状況に陥った事がない為に、元よりスカウターに頼らなくてもだいたい楽勝だった。

…最も、あの覚醒したブロリーに殺されかけた時は全く歯が立たなかったのだが。

彼らも本気の殺し合いなんて求めてはいない。

精々相手を痛ぶって、支配下に置いてふんぞり返って良い顔をしたいだけ。

いつかはフリーザをも上回って手下にして…とさえ考えている。

 

 

「ワーッハッハッハ!

逃げ回るだけでは俺様に勝てる訳が無いぞ!」

 

 

全く持ってその通り。

素早い上に凄まじい破壊力のある攻撃に、なかなか手を焼いているベジータとトランクス。

だが実際にはトランクスしかろくに戦えない。

ベジータは人造人間に殺されてから、ろくすっぽ戦闘力を上げる時間が残っていなかったからである。

対するトランクスは精神と時の部屋に入り、文字通り血反吐を吐きながら修行をし、未来に帰ってからも鍛錬を怠ってはいない。

トランクスにも敵わぬベジータが、アカやブロリーに太刀打ちなど出来るわけが無いのだ。

だがその戦力差を埋めるのが、スカウターの有無。

タイマンならどうという敵でもない者でも、それが複数いるだけで大きく変わる事もある。

トランクスの狙うのは、その迷った時や躊躇する隙。

 

 

(流石父さんだ。

途方も無い戦力差を、これまでの経験で攻撃を読んで避けている。

俺には出来ない事を難なくやってのける…。)

 

(ちぃっ!

ラディッツもトランクスも俺のいない間に馬鹿げた強さになりやがって!

これではまるで俺様が足でまとい…そんなもの死んでも認めてたまるか!

この戦いで俺は強くなってみせるぞ!)

 

 

回避に徹するベジータが動く。

二手三手先の攻撃を読み、アカの横っ面を蹴り飛ばす。

 

 

「ククク、その程度かベジータ王子?」

 

「クソ!」

 

 

咄嗟にアカから離れた為カウンターは貰わずに済んだものの、アカはベジータの戦闘力が自分に全く及ばないレベルなのを確信する。

要するに、警戒すべきはトランクスのみでいいということだ。

 

 

「安心しろベジータ王子。

後でな、後でたっぷり相手してやるよ。

あまり時間はねぇけどな。

まずはそっちの気色悪い髪のやつからだ!」

 

(クソッタレ!

俺は…気も読めん雑魚にも歯がたたんのか!)

 

 

トランクスに向けエネルギーボールが放たれる。

巨大なので避けるだろうと予測し、全神経を視線に注ぐが全く違った。

エネルギーボールは2つに割れ、そのど真ん中を突っ切って突っ込んでくる。

意表を突かれ反応が遅れたアカの身体は、トランクスの剣技により左肩から右腰に向けて鮮血を吹き出す事となった。

 

 

「ちっ、剣か!」

 

「そうだ、俺を侮ると次は首が無くなるぞ!」

 

 

虚勢。

万が一の為にと剣を持ってきていたのがここに活きた。

超サイヤ人の完全版…悟空や御飯の行っていた修行を一年掛けて完熟させた修行もようやく日の目を浴びる事になった。

剣と瞬発力に全て気を集中させた為にエネルギーボールは一刀両断、アカの反応を上回る速度でダメージを与える事に成功した。

しかしその分パワーは全く無い分、アカの分厚い皮膚に阻まれ僅か1cmいくかいかないか位の切り傷しか与えられなかった。

それでも、戦闘力を探る能力の無いアカの牽制には成りうる。

 

 

「久しぶりだな、合体した俺様が傷を負うのは。

決めたぜぇ、もう出し惜しみはしねぇ…。」

 

 

 

アカがニヤリと笑って掌を合わせる。

掌の間に緑色のエネルギーボールが生成、徐々に膨らみ、直径30cm…いやそれよりも一回り程のエネルギーボールが作られる。

そこまで大きくはないが、アカのパワーにより凝縮されて無理矢理そのサイズにされてるような凝縮の仕方だ。

 

 

「スーパーワハハの波!」

 

「…!?

魔閃光!」

 

小さなエネルギー弾がショットガンのように、散らばりながらもトランクスに放たれる。

1発は小さい見た目ながら、凝縮されたエネルギーにより威力は半端なものでは無い。

咄嗟にトランクスは魔閃光を用いて眼前に迫るエネルギー弾の迎撃。

それでも撃ち漏らしたエネルギー弾が腰、脚を掠めていく。

 

 

「トランクス、避けろ!」

 

「貰ったぁ!!」

 

「なっ!?」

 

 

自ら放ったスーパーワハハの波を巨体に被弾しながら、全身全霊のパワーを込めた右ストレートが、トランクスの身体と意識を根こそぎ吹き飛ばす。

そのまま受身を取ることもなく、転がるようにして地に突っ伏した。

 

 

「呆気ねぇな、久しぶりに手応えあるかと思ったのによ。

さーて、ベジータ王子、次はてめぇだ。」

 

「き 貴様は絶対に許さん…許さんぞぉ!!」

 

 

王子たるプライドか、はたまた息子を傷つけた為か。

ベジータは今一度気を高めてアカ目掛けて突撃を強行する。

しかしその速さはまるで比べ物にはならない。

逆にアカが向かってきたベジータの頭部を掴み、先程の岩盤に叩きつける。

 

 

「おっと悪いな、つい俺もこうしなければならない気がしてなぁ。

もう少し手加減するつもりだったんだがなあ。」

 

 

頭蓋骨が軋むほど何度も岩盤に押し付ける。

ある程度経ったところで力を抜くと、頭部から激突した事もあってかフラフラと地上へ墜落していく。

 

 

「生かしたままパラガスの元へ届ける…こりゃノルマ達成だな。

合体しちまえば俺様に出来ねぇ事はねぇぜ。」

 

「チク…ショウ…。」

 

 

自らの強さに酔うように、腕を組み大笑いまでする。

その声は意識が朦朧としていたベジータの脳内に響く。

圧倒的な強さを前に、心が折れそうになるが、未だベジータの闘志は消えてはいない。

何か策はないのか?

ありったけの気を消費して気弾連射。

一撃に賭けるファイナルフラッシュ。

捨て身…玉砕を覚悟しての近接戦闘。

どれもこれもアカを倒す手段には到底思えなかった。

そんな時だ、身体を金色のオーラが包み込む。

それは暖かく。

そして自らの力が蘇る…いや、自身の力を大きく超える程の気が高まっていくではないか。

 

 

(な…なんだ?)

 

「父…さん。

これで…アカを…ブロリーを…父さんの…手で…。」

 

 

声がか細く、そして消えていく。

その方を見やれば、力無く倒れ込む息子がいた。

自らが決めに行くのではなく、残っている気のほとんどをベジータに託したのだ。

それはサイヤ人の誇りという点からすれば、絶対に認められないものだ。

 

 

(…トランクス。)

 

 

自らが勝てないと思ったから、他人に任せて倒してもらう。

対フリーザの時は例外として、ベジータなら絶対にそんな事はしない。

そしてそんな奴の気も分かりたくも知りたくもない。

だが、唯一の息子が全てを自分に託した。

トランクス自身よりも強さが劣る、自分に託したのだ。

 

 

「お前は…サイヤ人の誇りをまだ理解していないようだな。

地球に帰ったら、未来に帰るまでに嫌という程叩き込んでやる。」

 

 

ベジータ 立つ。

トランクス(未来の息子)のエネルギーを得て、それを自らの力に変えて。

それに気づいたアカは、再びベジータの前に立ち塞がる。

 

 

「ベジータ王子、あんな戦力差を見せつけられてまだ抵抗するのか?

これ以上やると、ウッカリ殺しちまうぜ?」

 

「…俺は今心底貴様にイラついてる。

よくも俺達サイヤ人をここまでコケにしやがって。

その腐れきった体に、サイヤ人の誇りを…俺様が身体に叩き込んでやる!

はぁあああああ!!」

 

 

いつものように気を高めるが、身体中からオーラが吹き出ては消えていってしまう。

凄まじい量の気を全く持て余している。

このまま高め続ければ、あっという間に譲り受けた気を無駄に消費してしまう。

 

 

(クッ…落ち着け!

全ての毛穴という毛穴を閉じろ、気を身体に封じ込めろ!

こんなに繊細な気のコントロールは初めてだ!)

 

 

完全に封じ込める事は出来ないにしろ、気のコントロールにより先程とは比べ物にならないほどエネルギーの漏出を抑え込む。

膨大な気が出口を探してのたうち回るような感覚を、全身全霊を込めて抑え込む。

 

 

「どうした?

来ないのか?

なら遊ばせてもらうぜ!」

 

 

アカが堪えきれずに突進してくる。

即座に横へ避けるが、自らの想像以上の動きに体勢を大きく崩してしまう。

さらに今の動きでまた少し気が漏出してしまう。

 

 

「俺はサイヤ人の王子ベジータだ!

こんなところで躓いて…たまるかぁ!!」

 

 

気と身体のバランス。

この二つが成立していなければ気は漏れ出す。

それは鍛錬を積んでこそ得る代物であり、普通の人間ならどちらかが疎かになり破綻するだろう。

しかし彼は、戦闘民族サイヤ人の超エリート戦士。

孫悟空に隠れがちではあるものの、彼は天才戦士なのである。

並の人間が時間を掛けて取得するこの気のコントロールを、既に彼は感覚的に察知し身につけ始めていた。

それは何度も言うが、天性の感覚があればこそである。

 

 

「はあああああ!」

 

「ほほう?

さっきよりも随分とマシな動きをするようになったじゃねぇか!」

 

 

エネルギーを放出する戦闘を避けて、相手の懐に飛び込んでいき肉弾戦を仕掛けていく。

体を動かせば動かす程、膨大なエネルギーは身体に馴染んでいく。

荒れ狂っていた気の流れを、徐々に自分のものにしていく。

 

 

「ガーッハッハッハ!

いいぞ、戦いはこうでなくっちゃなぁ!」

 

「余裕ヅラしてられるのも今のうちだバカめ!!」

 

 

身体に馴染んできた事で、自分の戦いに余裕が生まれ始める。

気を身体に抑え込むようにしていたが、腕、腿、手先、足先…少しずつ気を込めて攻撃を行っていく。

身体から溢れないように、トランクスのエネルギーを無駄遣いしないように。

 

 

(馴染んでいく。

これ程高いレベルの気の質を扱うなんて初めてだが、身体が上手く適応していくぜ。)

 

 

トランクスの送り込んだ気の質は、超サイヤ人の完成系のものである。

「俺は超ベジータだ。」と調子に乗っていた第二段階。

ムキンクスとネット上ではネタのひとつにもされる第三段階。

そして超サイヤ化を日常化することで、興奮状態と肉体への負担を抑えた第四段階。

トランクスがベジータの身体に送り込んだエネルギーは、まさに第四段階での高レベルの質の気。

忠実では順を追って身につけていく気のコントロールも、今回はいくつものステップを省略せざるを得なかった。

 

 

(この高い質の気のコントロールを身につけた時、この俺様がカカロットを超える時!

絶対に使いこなしてやる!)

 

 

ベジータの両手に更に気が込められる。

何度も言うが、経験のない高い質の気のコントロールするのはそう容易くは無い。

死線をくぐる最中にも関わらず、戦闘民族サイヤ人の王子は更に強くなっていく。

 

 

「グフフ、楽しい…楽しいぜベジータ王子!

久しぶりに楽しませてくれる戦いが出来て嬉しいぜ!

…だが、時間が無ぇ。

ここまでだ。」

 

 

突如としてアカの巨体が、砂塵を巻き上げて消えてしまう。

先程までのスピードとは比べ物にならない速さで移動され、すぐさま気を読んで次の行動を決めようとした時だ。

 

 

「だぁ!…にぃ…?」

 

 

 

巨大な両手でがっしりと身体が拘束される。

あまりの握力に、腕が…身体が全く自由が効かない。

そしてゆっくり浮上するアカ。

 

 

「さっきまでは本気の本気じゃ無かったって事だ。

だが万が一って事もある。

ここまでは本気を見せずに、決める時に使うだけだ。」

 

「クッ!

ふざけやがって!!」

 

 

アカの口の前にエネルギーが溜まる。

この後何が起こるか察したベジータは、貰い受けた全てのエネルギーを消費して脱出を試みる。

 

 

「遅いぜ王子様よ。

せいぜいパラガスの機嫌でも取って命乞いでもするんだな!

ワハハの波!」

 

「クソッタレがぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

地へと投げ落とされたベジータと、ほぼ同タイミング放たれたワハハの波。

身体が地面に叩きつけられたと同時に、ワハハの波はベジータに炸裂して大爆発を起こす。

クレーターの中心に黒煙が立ち上っていたが、煙が晴れるとそこには戦闘不能に陥った死にかけのサイヤ人の王子が倒れていた。

 

 

「ふん、もう少し強かったら俺も油断は出来なかったぜ。

そらよっと!」

 

 

ベジータを摘み、適当に放り飛ばす。

力なくボトっと落ちた先は、パラガスの元だった。

 

 

---

 

--

 

-

 

 

時間は10分程戻り、こちらはブロリーとラディッツ。

辺りは肉と肉のぶつかり合い。

鈍い音が響く中でたまに骨同士がカチ合う音までする。

 

 

「がぁぁぁぁ!!」

 

 

超大振りのかかと落としで、地表が重力に反発するように弾け飛ぶ。

直撃を数センチ避け、ラディッツは顔面を狙って拳を突くも左腕1本で払い除けそれをブロック。

そこから先は拳の殴打殴打の嵐。

ラディッツは界王拳を使わずに、なんとか互角レベルまでの善戦に引き上げている。

何故そんな芸当が出来るか?

単にそれはブロリーの戦闘経験不足。

彼は圧倒的な強さ故に、実力の拮抗した相手をした経験は無かった。

殴り合い小競り合いも無く、圧倒的なパワーに任せて星を破壊してきた事で、戦闘経験を積むことなくここまで来たが故だ。

対するラディッツも、悟空やベジータや地球の戦士達と比べれば、さほど戦闘経験が豊富とは言えない。

だがこれまでのサイヤ人、フリーザ一味、セル一党の戦いを着実に乗り越えた経験が活きている。

フリーザ編では限界ギリギリの戦いを強いられ、セル編では心身共に限界を超えた状態でさえ拳を振るってきた。

更に最近の武天老師との修行での、戦闘力を抑えた肉体トレーニング・気のコントロールが劇的に体の内側と外側から鍛えている。

自らは実力不足と言い捨てて来た過去の戦いと、武天老師直伝による精神と身体の修行が、伝説の超サイヤ人と言われるブロリーとの…格上との戦いでいよいよ実を結びつつある。

 

以上の大きな2つのポイントが、この戦いの本筋である。

 

 

 

(これだけ凄まじい攻撃なのに、落ち着いて対処出来る気がする。

さっきの時もそうだが…この攻防の最中でも次の攻撃をどうするか、これをやってみようかって余裕を持つことが出来る。

まるで自分の動きを、ちょっと離れた所から見る事が出来るような…すげぇや!)

 

 

嵐のような拳の応酬が終わり、飛び回りながら一撃一撃の戦闘にいつの間にか変わっていた。

 

 

(…段々こっちのペースが読まれ始めてきた。

戦闘中に進化する、順応するってのか?

つっても、まだ始まってまだ時間なんてほとんど経ってないぞ!?)

 

 

ブロリーの力はまさに無尽蔵。

それは大袈裟だという人間がいるのならば、それはブロリーと言う存在を軽視している。

「気が高まる…溢れる!」と言った名言をまさに体現させた人物は、彼以外には存在しない。

身体が温まってきたと言わんばかりに、ブロリーの動きは時間を追うごとに鋭く、パワーが増していく。

そしてラディッツに順応、そして追い越さんとしていた。

 

 

「流石伝説の超サイヤ人って所か。

ブロリー、お前はつくづく敵に回したくねぇ!」

 

「俺はそんな伝説と言われる程大層な存在じゃない!」

 

 

黙らせる代わりに強力な左ストレートが飛び込んでくる。

咄嗟にブロリーを跳躍して背後に回り込み、振り向きざまにガラ空きの背中に拳を叩き込む。

そのはずだったのだが、既にブロリーは攻撃を軽く去なしカウンターを狙ってきた。

辛うじて気弾で弾く。

宙返りして距離を稼ぎ、着地ざまに突進。

同じくしてラディッツも、気弾の爆発を利用して大きく距離を取り、着地ざまに突進。

 

 

「「ぐふぉお!」」

 

 

二人とも見事にクロスカウンターが決まる。

その衝撃で二人とも地面を削るように大きく後退。

だがブロリーの瞬発力は増している。

即座に再度突進し、回し蹴りが見事にラディッツの顔面に叩き込まれる。

すんでのところで膝を掴んで昏倒は免れたが、鼻血がボタボタと地面に紅い花を2つ咲かせる。

そのまま掴んだ膝にゼロ距離で全力の主砲斉射。

きりもみ回転しながら、遠くの岩場に吹っ飛んでいく。

 

 

「い…てぇ。

あぁ痛ぇ!」

 

 

涙を吹き、鼻血を擦る。

口腔内にも血の味がする為唾も吐く。

やはり口の中も切っているようで、赤い液体混じりの唾液が地面に吸われていく。

 

 

「このままじゃぁいかん、界王拳!」

 

 

超界王拳。

ラディッツの大一番の引き出しをひとつ開ける。

時間が無い、なりふりなんて言ってられない。

吹き出す金色のオーラに、紅いオーラが相まってオレンジ色にさえ見える。

そしてここからは、リヒートの併用で一気に終わらす。

 

 

「いやああああああ!!」

 

 

地を這うように突撃してくるブロリーに応戦。

先程までの力はどこへ行った?

界王拳を併用して迎え撃ったのにも関わらず、ガードが弾かれる程のパワー。

 

 

「俺は負けない!

親父の為に!」

 

「るせぇ!

俺だって帰るんだよ!

リヒート!」

 

 

背後に瞬間的に回り込み、かかと落としでブロリーを突っ伏させる。

ブロリーも口からエネルギー波を放って瞬間的に体勢をなんとか立て直し、追撃のダブルスレッジハンマーを後頭部で迎え撃った形になる。

よもやそこから、そのように立て直すとは思わなかったラディッツ。

両手の小指を痛い程打ち付けられ、ブロリーの後頭部が再び鼻へ直撃する。

鮮血が目に入り、視界が奪われる。

 

 

「でやあっ!」

 

 

渾身のアッパーで空中に放り出され、強力なラリアットで地面へ叩きつけられた。

痛む背中にむせながらも、目をこすってなんとか視力を回復させる。

界王拳でもまだ足りない。

ならばやる事は。

 

 

1.5倍(てんご)!」

 

「うらあぁぁぁあ!!」

 

 

オレンジ色のオーラは、ことさら赤く。

そしてオーラは炎のように吹き上がる。

ブロリーも呼応するかのようにパワーを引き上げる。

これまで見えなかった青みがかった黄緑色のオーラが吹き上がる。

 

 

「俺は帰らなきゃならんのだ。

ポンコツ親父から親離れできないような奴に負けてたまるかァ!」

 

「親父を侮辱する気なら…俺だって許さんぞ!」

 

「リヒート!」

 

 

大きく跳躍するブロリーを、瞬間的に真横に張り付いて殴り飛ばす。

未だカラクリが分からないブロリーは為す術なく吹き飛ぶ。

この技は多用しては破滅する。

だからこそダメージを与えられる要所でしか使えない。

ダメージが蓄積されてるのか不安になる程、全くブロリーの動きは鈍くならないが。

 

 

「だァァァ!」

 

 

砂塵が吹き上がる前にラディッツに突き刺さる蹴り。

勢いに任せてそのままいくつもの岩を破壊しながら、未だに勢いは衰えない。

力ずくで脚を掴んで投げ飛ばさんとするラディッツの意を感じ取り、左足でへばりつく背中を蹴り飛ばす。

 

 

「イレイザーキャノン!」

 

 

一瞬の溜めを作って、強大なエネルギーボールがラディッツに迫る。

そのイレイザーキャノンを感知した時、リヒートすらもう間に合わない距離。

辛うじて両手で受け止めたものの、パワーに押されてかなりの速度で後方に押されていく。

なんとか体勢を立て直したかったが、巨大な岩山に挟まれそれも叶わず。

巨大な岩山にぶつかった膨大なエネルギーは、行き場をなくしてその場で大爆発を起こす。

 

 

「…カハッ…ァ。」

 

 

全身が黒焦げとなり、膝から落ちるラディッツ。

山吹色の道着もいくらか焼け落ち、至る所からボロボロの肌が露出している。

未だ超サイヤ人化は解けてはいないが、これ以上の善戦は難しいのは明白。

対するブロリーは、いくらか服装に破損は見られるようだが未だ健在。

 

 

(くそ、何が落ち着いて対処出来る気がするだ!

もうついて行くことすら辛いぞコレ。

何か戦況を打開する…一発逆転出来る何かしらのもんは無いか!?

こう…「なんだこれは!」そう、なんだこれはって言うすげぇ技…ん?)

 

 

どこかで聞いた事のある声がした。

いや、これは聞き覚えどころか嫌という程毎日聞く声だ。

俺自身の声が聞こえたのだ。

 

 

「何故…貴様がここにいやがる!?」

 

「……ラディッツ!?」




誠に勝手ではございますが、新型コロナウイルスの影響により継続的な投稿が出来なくなりました。
自分は詳しくは言えませんが、俗に言う医療従事者です。

自分の地域にも1ヶ月前程から陽性反応が出ている方が別の病院へ搬送され、自分の病院にも受け入れ始めております。

事態が収まりましたら戻るつもりですが、医師・看護師の数は限られているため、見通しが立たない状況です。
それどころか、自分にも症状が出て二度と戻れない状態になる可能性もあります。
放置するのも皆様に失礼かと思うので、一度正式にお知らせします。

外に出られない辛さは察し致しますが…発症しても無自覚の方もいればそう出ない方もいます。
どうか不要不急なら家族を大切にしてください。
当たり前の存在が消えてしまう前に。
この世に願い玉が無い以上、亡くなった方を蘇生させる事は不可能です。

どうか皆様の未来がより良い未来になるよう祈ってます。


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リンクする肉体

そこに居たのは紛れもないラディッツだった。

戦闘服に身を包んだ、あのラディッツだ。

馬鹿な、ありえない。

この世にラディッツはただ一人だけ。

ならば目の前にいるのは…?

 

 

「貴様は…あのもやし野郎か!」

 

「この言い草は弱虫ラディッツ!

なんでお前がここにいるんだ!」

 

「知るか!

あのクソジジイがここから追い出すとか言った後、いつの間にかここにいたんだ!

てめぇこそ、俺の体使って何だこのザマは!」

 

「黙れ!

大体お前がグズでポンコツだからここまで苦労してんじゃねぇか!

俺だってお前に憧れてるわけじゃねーんだぞ!?」

 

「何だともやし野郎!

戦闘民族サイヤ人の身体を乗っ取ってその言い草は何だ!

俺様の身体をもっと敬って大事にしやがれ!」

 

「まぁまぁ馬鹿共、少し黙れ。」

 

「「クソジジイ!」」

 

 

現れたのはあの忌々しい無神だった。

戦闘真っ只中に現れたこの神とラディッツに困惑は深まる。

 

 

「いやー、神領にこのまま居座って貰ってもワシが困るからな。

野蛮な猿は追い出す事にした。」

 

「誰が野蛮な猿じゃコ「黙らっしゃい。

まぁ元からいつかは元の体に戻すつもりではあったからな、ブロリーが出てきたから早めに戻すことにした。」

 

 

幸い気を消していたので、まだブロリーには見つかってはいない。

だが時間の問題もあるので手短にするつもりだろう。

河野ラディッツは話を続けるように促す。

 

 

「河野、もう少しお前の器が整ってからにしたかったがな。

お前が武天老師の元で修行を積んで、心と体がより強固になった所で戻すつもりだった。

二人が力を合わせれば元の力に戻るからな。」

 

「それは…簡単に言えば強くなると?」

 

「その通り。

だが未だ道半ば。

じゃがこのままでは、ブロリーに殺されかねんと思って飛ばしたんじゃ。

覚醒とまではいってないにしろ、奴の力は本物じゃからな。

おいラディッツ、お前河野の身体に入ってみよ?」

 

 

元は自分の体。

本家ラディッツはそうブツブツ言いながらも、身体に飛び込むように入り込む。

瞬間、物凄い力に溢れる感覚がしたがすぐにそれも無くなった。

ラディッツが出てきたのだ。

 

 

「な なんだあの感覚は!

身体がバラバラになっちまう!!」

 

「それはお前が修行をサボって、のうのうと弱者のみを相手にしてた代償じゃ。

お前が本来身につける強さを、代わりに河野が死に物狂いで身につけたものに簡単に対応出来るものか愚か者め。

…と言っても、このままではブロリーになぶり殺しにあうだけだから困るんじゃ。

頑張って。」

 

「ぬわぁにが頑張ってだクソジジイ!

他人事だと思って簡単に言うなクソジジイ!」

 

「いい加減にしろ!

ラディッツ、さっさと俺の身体に入れ!」

 

「俺の身体だもやし野郎!」

 

「そこに居たのか。」

 

 

ブロリーがようやく現れた。

だが困惑する。

先程までのラディッツが二人いる。

 

 

「お前…双子?」

 

「「もとは別々だ!」」

 

 

揃ってツッコミが決まったところで、無神は「頑張れよ〜。」と一言残して消えてしまった。

もうこうなってしまってはどうにもならない。

本家ラディッツを身体に迎え入れてやるしか無いのだ。

 

 

「…しょうがない、とにかく今は俺の身体に入ってくれ。

じゃないと勝てない。」

 

「ふざけんな!

こんなもやし野郎と戦うくらいなら、1人でもやってやる!」

 

 

本家ラディッツが単身で突っ込むも、ブロリーの身体をすり抜けてしまう。

攻撃が当たらないというか、そもそも貫通して触れない。

 

 

「何故だ!」

 

「もしかして、身体は俺が持ってるからか?」

 

「クソ、身体を返せもやし!」

 

「とにかく、お前を倒さなければならない!」

 

 

ブロリーは気持ちを切り替えラディッツを蹴り飛ばす。

吹っ飛んでいく河野ラディッツに、本家ラディッツも綱で引っ張られるかのように同じ速度で吹き飛んでいく。

 

 

「何してやがるもやし野郎!」

 

「くそ、お前本当に使えないな!」

 

「うるせぇ!

てめぇだってボコボコにやられてるじゃねぇか!」

 

「ふん、攻撃も出来ずに吠えるだけ吠えて使えないって言って何が悪い。

弱い犬は良く吠えるってのは本当だな。」

 

「何だとてめぇ!」

 

 

本家ラディッツの蹴りが、河野ラディッツの腹に当たる。

思わぬダメージに腹を抑える河野ラディッツ…と本家ラディッツ。

 

 

「馬鹿!

自分を攻撃してどーすんだ馬鹿!」

 

「クソ!

自分にも跳ね返ってくるなんて〜!」

 

「…お前ら一体何をしてるんだ…。」

 

 

ブロリーですら困惑するレベルのしょーもない喧嘩に発展している。

まるで幼稚な争いに思わずヒクヒクと顔面を引くつかせる。

もはや失笑せざるを得ない。

そんな時、遠くの方でドサリと何かが落ちる音がする。

何事かと三人が振り返れば、ボロボロになったべジータが横たわっていた。

 

 

「「べジータ!!」」

 

「…。」

 

 

思わず駆け寄る河野ラディッツと本家ラディッツ。

本家ラディッツにとっては、久々の再開。

あのバカみたいに強かったべジータが…今や何者かによって戦闘不能寸前。

例の神領でモニター越しに見るのとは全く違う。

信じられない光景である。

 

 

「大丈夫かよべジータ。」

 

「く…クソみたいな面が二重に見えるぜ。」

 

「べジータ俺だ!

あの時の俺だ!」

 

「何を…寝ぼけた事を言ってやがる。」

 

「お前に散々扱き使われてた方のラディッツだ!」

 

「…なんだと?

今になって蘇ったとでも言うのか?

今更貴様が蘇ったとて…何の役にもたたんがな。」

 

「それはなんとも言えねぇが…。

あのクソジジイが連れて来やがったんだ。

それより誰にやられたんだ!?」

 

「おいおい、どうなってやがんだ?」

 

 

遅れてトランクスが落ちてくる。

そしてアカだ。

 

 

「お前、俺と同じ双子だったのか?」

 

「トランクス!

あぁもう!

違うんだけど…話すとややこしくなる。」

 

 

 

トランクスは意識が無い。

この場でまともに戦える人間が河野ラディッツのみとなった。

本家ラディッツはどういう訳か攻撃は当たらないし、当たるところで戦力にならない。

おまけにグモリー彗星が目前まで迫っている。

万事休す。

 

 

「こんな所で…厄介過ぎる。」

 

「アカ、片方の奴はどうやら攻撃が出来ない。

と言うより攻撃がまるで当てることが出来ないみたいだ。

幽霊みたいな…。」

 

「ほぅ…なら攻撃出来るのは片方だけってことか。

こりゃ随分やり易いぜ。」

 

「おいもやし野郎。

俺がお前の中に入れば、べジータの仇を打てるのか?」

 

 

本家ラディッツはポツリと呟くように言う。

確かにあの神は言った。

二人が力を合わせれば元の力に戻ると。

本来のラディッツの力を取り戻せるのかもしれない。

それに、一瞬同化した時のあの力の漲り方。

これまで感じたことの無い凄まじいエネルギーに溢れた感覚。

戦況を打開するにはこれしかないのかもしれない。

 

 

「わからん。

だがあの力の漲り方は、これまで感じたことの無い程だった。

協力してくれるか?」

 

「あのべジータをここまでやる相手だ。

やるしかねぇだろ。

だが、時間が掛かれば俺がバラバラになりそうだ。

なるべく早く倒せ。」

 

 

静かに頷く河野ラディッツ。

本家ラディッツも腹を括る。

いくら弱虫と罵られようが、仲間意識はある。

何だかんだ言われながらも、今まで何度も自分のミスを救ってくれた奴だ。

貸しのひとつを、ようやくここで返せるチャンスだ。

本家ラディッツは河野ラディッツに入り込む。

同化…憑依…そのどちらでもないのかもしれない。

だが、入り込んだ瞬間にエネルギーが満ちていく。

この充実感たるや何か?

今まで失っていたパズルがハマったような感覚。

そして、そのピースが揃って力が湧いてくる。

 

 

「なんだこれは…凄ぇな!」

 

『感傷に浸ってないで早くしろ!

熱い!

身体が痺れる!

バラける!』

 

 

脳内に響く本家ラディッツの叫び。

全身が電気ショックされる感覚が走っている。

そんな事は露知らず、河野ラディッツはアカとブロリーを見据える。

 

 

「待たせたな、第2ラウンドと行こうか。」

 

「…気をつけろ、奴のエネルギーが増えた。」

 

「へっ!

何一つ変わってねぇじゃねーか!

このアカ様がぶっ飛ばしてやるぜ!

ワハハの波!」

 

 

挨拶代わりには重過ぎる程のエネルギー弾。

だがラディッツにとっては、それは挨拶代わりにすらならない。

着弾する5m手前で爆散。

そしてそのど真ん中から、アカに強烈なアッパーをぶち込む。

意識の無くなったアカの巨体は、後頭部からぶっ倒れる。

 

 

「…強い。」

 

「俺も驚いてるよ。

さっきよりも…界王拳使った時より倍近くかな。

ブロリー、さっきの続きをやろうぜ。」

 

 

今度こそ、あのブロリーに勝てる。

確信を持ってブロリーに突進する。

対するブロリーも、真正面から突進していく。

拳は顔面に向けて放つ。

対するブロリーの攻撃は…若干の遅れは見せたものの、ラディッツの拳。

正面からの攻撃を、やや振り遅れる形で攻撃し返す。

パワーとスピード、そしてタイミングもラディッツの方が上。

しかし力も速さもタイミングも悪くても、攻撃を払い除ける形となる。

結果、互いの攻撃は反発し合う。

 

 

(なんとか…見える。)

 

 

二人が合体した。

その直後から実力も能力も上回られた。

ならば次にやる事は分析。

勝つという事は、相手に負けないことでもある。

当たり前と言えば当たり前であるが、相手の能力が上と判断したのならば負けない戦い方を知らなければならない。

自信に満ちた攻撃を跳ね除けられ、ラディッツは再び拳を振るう。

上下、左右…あらゆる方向から放たれる拳は、まるで乱れる風よりも速く、回避は出来ないはず。

 

 

「かああああああ!!」

 

 

それを全力で、まるで払いのけるように拳を当てていく。

簡単に跳ね除けられるような攻撃ではない。

だが全力で体重をも乗せた拳ならばどうか?

計算されて生み出された戦法では無い。

その拳は、感覚で振るわれている。

 

(ぐっ…威力が消されるどころかどんどん打ち込まれてる気がしてきた。

パワーもスピードも追いつかれてきている!?)

 

 

戦闘民族サイヤ人。

戦えば戦う程強くなる種族。

河野ラディッツはこれまで幾度となく修行を重ね、死闘を繰り広げ、その身体を鍛え上げてきた。

彼は戦う事に強くなってきた。

それと同じような事が、ブロリーにも起こり始めていた。

 

 

(気が高まっていく。

力も、速さも湧いてくる!)

 

 

 

これまで、ブロリーにはいなかった。

これまでどんな星に出向こうが、どんな相手と戦おうが、感じる事の無かった感覚だ。

最初の方は、戦っているうちに記憶が無くなり、意識が戻れば星ごと無くなってしまっていた。

パラガスが強引に付けた抑制装置のせいで、気が高まるのはある程度抑えられたものの、その後の相手はつまらないものだった。

拳を振るえば動かなくなり、脚で払えば呆気なく吹き飛び、エネルギー弾を放てば肉体ごと消し去ってしまう。

彼は強い。

いや、強すぎる存在。

それ故に好敵手となりうる者に出会う機会がなかなか無く、戦いという物は相手の命を奪う作業にしかならなかった。

だが眼前の男はこれまでと全く違う。

何度拳を叩き込んでも、どんなに蹴りを喰らわせようも、自身のイレイザーキャノンを撃ち込もうも立ち上がってくる。

気を抜こうものならば、逆にこちらがやられてしまう程だ。

 

 

(あぁ…親父…。

わかるかな?

俺は今…最高に戦いが楽しいよ。

楽しんでいいのか?)

 

 

これまでべジータを殺す為に磨き上げてきた術が、力が、全く違う相手に対して輝きを放っている。

拳の届く所、効果がありそうな場所。

主に上半身なのだが、ありとあらゆる場所に凄まじい力で振るわれる拳。

それを感覚で察知し、払い除けるような動作から、徐々にブロリー側からも攻撃が返り始めていた。

あの気の抜けた自分同士の喧嘩が終わり、1人になった後からの本当の戦い。

始まってどれくらいの時間がたったか分からない。

10分…いや1時間?

 

 

「はぁ!

…かはぁっ!」

 

「…っく!

はぁ…はぁ!」

 

 

呼吸もゆっくりできない攻防の中、いよいよ互いの息が切れ始めた。

小休止もない拳と拳のやり取り。

全力で攻撃し続ければ、嫌でも酸素不足は免れない。

思考が出来なくなり始める。

 

気力は互いに充分にあるものの、スタミナがそろそろ限界を迎えそうだ。

汗が滴る。

アドレナリンのせいか、これまでのダメージの痛みは全く感じない。

 

 

「…凄いな。

それがお前の本当の力か。」

 

「いや、片割れの力を借りているに過ぎん。

俺だけの実力なら、もうとっくの昔に終わっていた。」

 

「…ふふ、そうか。」

 

「あぁ。」

 

「「楽しいもんだな。」」

 

「…へっ!

こんなタイミングでハモるのかよ、気持ち悪ぃ。」

 

「サイヤ人は皆同じ。

そういう事だろう。

さぁラディッツ、続きを「その必要は無い!」

 

 

再び拳を交えようかという所で声が降りかかる。

パラガスが高みの見物を終えてブロリーの横にやってくる。

 

 

「殺戮ショーとまではいかなかったが、なかなか良い物を見させてもらった。

だがな、タイムアップだ。」

 

 

パラガスは指を天高く指す。

その指先には眼前に迫っているグモリー彗星。

戦っている最中は、ブロリーに意識が集中していて気づかなかったが、既にいくつか、彗星の周りの岩石が降り注ぎ始めている。

大小様々であるが、未だに星の生命を終わらせる程のものでは無い。

新惑星べジータの大気圏で燃え尽きてしまうものから、せいぜい地表に大きなクレーターを形成させるものくらいだ。

だがそれも、数分でこの星は跡形もなく消えてしまうだろう。

 

 

 

「ブロリー、避難するぞ。

もうこの星にはなぁんの未練もない。

この手で忌々しいべジータを始末出来なかったのは残念だが、グモリー彗星の衝突で跡形もなく消えてしまえば俺の心は晴れる。」

 

「だけど親父、俺はまだ戦いたい。

もう少しだけ戦いんだ!」

 

「お前のワガママを聞いてやれる程、今は優しくなれん。

大人しくアカを連れて来い!

言うことを聞けないのならば…。」

 

 

同時にパラガスは抑制装置のボタンを押し込む。

その瞬間、ブロリーでも悲鳴をあげるほどの電流が身体中に走る。

とある星の拷問用の電流装置を、ブロリーに用いる為に更に出力を上げた抑制装置である。

電流が収まる頃には、ブロリーの身体中から煙があがる。

 

 

「てめえ!

自分の息子になんて酷い事を!」

 

「他人の教育に首を突っ込むな。

もっとも、戦闘力の低い使えない息子を島流しにするようなクズ王より遥かにマシだろう!

ブロリー!」

 

 

未だ痺れの残る身体を動かし、アカを背負ってパラガスの元へ向かう。

 

 

「クソ、てめえは親でもなんでもねぇ!」

 

 

ラディッツは即座に気を集めてパラガスに放つ。

避ける素振りも見せなかったが、その気弾はブロリーが身を呈して防いだ。

理解出来ない。

あそこまで自らを戦う'モノ'として見ない存在を守るとは。

 

 

「…たった1人の俺の親父だ。

だけどラディッツ、気持ちは受け取っておく。」

 

「だぁクソ!

限界だ!」

 

 

その瞬間、本家ラディッツが身体から飛び出る。

二人になってしまってはもうブロリーには敵わないだろう。

その事も察してか、ブロリーは今度こそ背中を向ける。

パラガスも嘲笑うかのような笑みを浮かべ、その場のZ戦士達を置いていく。

更に上空には既に宇宙船が待機しており、三人を収容するとこの星を脱して行った。

残るは強制的に連れてこられたシャモ星人と、彼らを守る為に戦った数人の戦士達と、荒廃に拍車を掛けられ彗星により僅かに死期が早まった新惑星ベジータのみとなった。

 

 

「…ブロリーは?

パラガスは!?」

 

意識を失っていたトランクスが起きた。

が、誰一人とて答えない。

 

 

「…そうですか。

もっと早い段階から手を打っていればこんな事には…。」

 

 

戦いの様子を見守っていたシャモ星人も集まり出す。

この戦いの最中、ブロリーに破壊される事無く存在していた母星もグモリー彗星に飲み込まれてしまった。

いつかは帰れると思っていた星を失った彼等の顔は、悲壮に満ちていた。

 

 

「パラガスの野郎め…いつか必ずぶっ殺してやる。」

 

「あぁ、今回はベジータと全く同意見だ。」

 

「だかよう、どうやってこの星から出るんだ?」

 

「「「「……。」」」」

 

 

唯一の脱出手段であった宇宙船はもう無い。

その宇宙船を作る技術も時間も無い。

瞬間移動が出来る孫悟空もいない。

 

戦いにも負け、勝負でも負けたのだ。

 

 

「おやおや?

何か、お困りのようだな。」

 

 

シャモ星人達の背後から、声が発せられた。




更新頻度が酷いことに…

無理の無い程度で投稿しますね
とにかく皆さんのご無事を祈ってます。


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武道会のはじまりはじまり

「さぁ天下一大舞踏会!

現在予選の最中ぁっ!

丁度200の戦士達が、8つのステージに別れてバトルロワイヤルだーっ!!」

 

 

大きな城をモチーフにされた第1ステージ。

その踊り場のような武道場で行われる予選。

各ステージで生き残った者が第2ステージへ進み、1VS1で勝ったものが最終ステージへと進む。

最終ステージには、銀河中から集められた強力な戦士が待ち構えている…と言う事らしい。

最後はもちろん、セルを倒した事になっている世界チャンピオンのミスターサタンとの一騎打ちで幕を閉じる事となっている。

 

 

「はぁーーぁ。」

 

 

迫り来るアマ、プロの格闘家や腕自慢達をいとも簡単に弾き飛ばしながらデカいため息をつくクリリン。

優勝賞金1億ゼニーと世界各地の温泉巡りツアー…誰と行こうかワクワクしていた所に、帰ってきたトランクスと、まさか孫家の家計の為に出場する悟飯と、退屈しのぎに参加してきたピッコロと、何故か亀仙人の弟子になっていたセルの参加。

もしかするかもと思っていたが、この面子が揃えば多少の運が味方したところで優勝を掴み取るのはほぼ無理だろう。

…こんなに味方を恨めしく思った事は久々である。

 

 

「天津飯やクリリンならともかく…アイツらは絶対無理だろーなぁ。」

 

 

同じくステージの支柱のてっぺんで五体を投げ出しているヤムチャも同じ心境だった。

武道会参加の飛行機は舞空術で浮いたものの、滞在費や生活苦を打開する為に参加した大会がここまで優勝の文字が霞むとは思ってもみなかった。

地球人相手(天津飯含む)ならまだなんとかなるが、サイヤ人やナメック星人…そして人造人間セルまで。

彼らには歯が立たないだろう。

 

 

「…しょうがない。

このお祭りを全力で楽しむか。

武道家として久々の出番だからな。

これが終わったら…バイトだろうが派遣だろうが真面目にやるしかないからな。」

 

 

そんな時だ、人間としては巨大な体格の男が支柱に迫っていた。

ドスコイと呼ばれるこの力士。

ヤムチャと同じステージに割り当てられた、人間としてはかなりの強者が何人もの戦士を突き飛ばしながら支柱を巻き込む。

傾く支柱。

滑り落ちるヤムチャ。

彼の体は頭からステージ下の海に落ちていく。

 

 

「うぉ、ぐわあーーー!

 

…って、俺は空飛べるっつーの。

このまま海に落ちるわけないぜ!」

 

 

空中でピタリと止まり、誰に向けたか知らぬツッコミを決め、さながら体操選手の着地のようにステージへ降り立つ。

 

 

「ど!?

…どすこい!」

 

 

人が宙に浮くはずがない。

何かの見間違いと自分に言い聞かせ、ドスコイはヤムチャに向け突き進む。

その界隈では電車道とも言われる押し相撲が売りの力士も、この武道会でも炸裂させようとする。

 

 

「おぉ、テレビで見た事あるぜあんた。

相撲で来るなら俺も相撲で行くぜ!」

 

 

ヤムチャもどっしりと腰を割り、その巨体を受け止めにかかる。

ドスコイの体重は正確には分からないが、優に400kgを超える。

そんな肉の塊が陸上選手並の速さでぶちかましをすれば…衝撃は1トン近くに及ぶだろう。

それをヤムチャは爽やかなスマイル付きで受け止める。

 

 

「ドスコ…イィ!?」

 

「お相撲さんよ、ここは土俵じゃなくて武道場だ。

あんたの出る幕はないぜ!」

 

 

まわしを片手で鷲掴み、軽々持ち上げステージ外へ放り投げる。

結末を見届ける間もなく、残りの数人の戦士も吹き飛ばし、いつしかヤムチャのみがステージに立っていた。

 

 

「ヤムチャ選手、スマートに第2ステージ進出ーっ!!」

 

 

………

 

……

 

 

 

今回はヤムチャ中心に話を進めたが、残りの予選会場の結果は…一応お教えしよう。

悟飯・ピッコロ・クリリン・天津飯・ヤムチャ・有名な格闘家らしき者と…

 

 

「残ったのはセルリン選手!

ギリギリの戦いでしたが第2ステージ進出決定!」

 

 

亀仙流の道着と偽名を使ったセルである。

ひたすらに気を抑え込んで戦った為に、他の予選会場よりも時間が掛かったが、余裕綽々という所だ。

気づけば天下一武道会に参加してきた歴戦の戦士であり、ミスターサタンの顔色は虹よりも多く色が変わっていたのはここだけの話。

 

 

「結局、天下一武道会みたいな顔ぶれになったな。」

 

「ま、それだけ俺たちはメチャ強いって事さ。」

 

「天津飯さんも余裕でしたからね〜。

ま、悟飯やピッコロ達は心配すらしてないけどな。」

 

「ははは、クリリンさん達と久しぶりに戦えるのは楽しみです!」

 

「…にしても、セルの奴がまともに試合をしているとはな。

武天老師様のところで何があったんだ。」

 

 

 

天津飯は武道場から降りてくるセルを見やりながら呟く。

少し前には全人類を殺すとまで言い放った者とは思えない、気の質とフェアファイトぶりに改めて戸惑う。

 

 

………

 

……

 

 

第2ステージは天下一武道会に倣って1VS1の戦いとなる。

組み合わせは厳正な抽選により…

 

悟飯VS有名な格闘家

マジュニア(ピッコロ)VS天津飯

ヤムチャVSセルリン(セル)

クリリンVS有名な格闘家

 

となった。

全て書いていくのもしんど…原作を追う形になるので、今回はヤムチャとセルの戦いに出向いた亀仙人について行こう。

 

 

(ふむ、今のところワシの言いつけをよく守っておる。

ヤムチャか…しばらく武道一筋とは言えんようじゃが、そこら辺の者よかうんとレベルが違うからの。

どういう戦いをするか楽しみじゃわい。)

 

 

DカップかTバックのギャルをサングラス越しに探す武天老師。

武道場に並び立つ弟子同士を、下心も有りながらもちゃっかりモニターから見やすい柱に捕まって見ているのは内緒である。

 

 

「よおセル…じゃなかったセルリン!

頼むから死合じゃなくて試合にしてくれよな。」

 

「フッフッフ、これはゲームでもあり私の力試し大会だ。

殺してしまったらつまらんだろう?」

 

 

ジョークなのか分からない返しに、引きつった笑いしか返せないヤムチャ。

確かに悟飯がいる前で殺しは無いだろう。

思考を切り替え、陽気な雰囲気を抑える。

 

 

「なら安心したぜ。

お前を倒せれば、賞金獲得のチャンスが近づく。

全力でやらせてもらうぜ。」

 

「こちらこそ、お前に合わせた全力でやらせてもらおう。」

 

 

審判のドローンからホイッスルがなる。

試合開始と同時に飛び出したのはセル。

肩を掴みながら手刀を首へ放つ。

咄嗟の動きに一瞬動揺したものの、右拳を即座に顔面へ当て手刀を何とか避ける。

向かった方向と逆に顔面が殴り飛ばされる前に、セルは掴んだ肩を全力で地面へ投げ落とす。

受け身から即座にバランスを整え着地。

セルも宙返りで着地。

 

 

 

(めちゃくちゃ早かったけど、全然向こうは本気じゃねーな。)

 

(…やはり奴の気の量に合わせると、これがいい所か。

ならば!)

 

 

跳躍と同時に、両足裏から気弾を放つ。

これは武天老師から聞いた、孫悟空の足でかめはめ波のオマージュ…。

元々の跳躍力と、気弾の爆発を更なる推進力にし、初撃よりも段違いな加速力で土手っ腹をめり込む程殴りつける。

 

 

「がっ…!」

 

 

堪らず血反吐を吐き出して吹き飛ぶヤムチャ。

普通ならば、そのまま空中にあるステージから落っこちて場外負けだっただろう。

武道場で壁にぶち当たったかのようにスレスレで留まり、即座に反転。

痛む腹を気合で押し込め、ヤムチャが仕掛ける。

渾身の一撃に油断は無かったが、想定外の速さにセルは守りに入る。

一撃目の浴びせ蹴りは避けたが、肩の当身は若干ダメージを受け、そこからの顔面に一撃を貰う。

ようやく反撃を試みるも、重心の動きに沿ったコンボはそう容易く崩せない。

一撃を返す内に、三撃を躱す。

徐々に速くなる攻撃の連鎖…この技はセルも知っている。

 

 

「狼牙っ…風風拳!」

 

 

土手っ腹に重い一撃の直後こそ力は乗せられないが、その攻撃の速さは未だ健在。

だがその狼牙風風拳には弱点があるのもセルは知っている。

 

 

(ぐぬっ……ならば足だぁ!!)

 

 

攻撃の連鎖の最中、唯一の弱点である足元を狙ってのローキック。

しかしそれは、悲しくも空振りに終わる。

 

 

「待ってたぜ、お前のその読みを!」

 

「何!?」

 

声は足よりも更に下から。

ローキックに合わせて身体を倒し、そのまま首元へハイキックが決まる。

敢えて旧技の狼牙風風拳を繰り出したのは、全ての遺伝子を受け継いだセルに足元を狙わせる咄嗟の作戦だった。

宙を舞って武道場に墜落するセル。

ドローンのスピーカーからは審判のテンカウントが始まる。

7つ程数えた所で立ち上がる。

 

 

「ふぅ…ヤムチャにしてはなかなかやるでは無いか。」

 

「けっ、どいつもこいつも好き勝手言いやがって…。

(セルの野郎、俺の戦闘力で戦ってやがる。

余計に腹が立つぜ!)」

 

 

降参もせずに立ち上がった為、カウント中止、試合続行。

再び両者は相見える。

 

 

「もうわかっているとは思うが、この大会は相手の技量に合わせたレベルで戦っている。

ヤムチャよ、貴様はいい修行相手だ。」

 

「それは褒めてんのかよ!

…舐められたもんだ、だったらお前の知らない新必殺技でケリをつけてやる!

はああああ!」

 

 

ヤムチャの両手から無数の気弾が宙に浮かぶ。

咄嗟に思い出すのは繰気弾であるが、1つでは無い。

 

 

「次のステージにいくのは俺なんだよ!

繰気烈弾!!」

 

 

無数の気弾はヤムチャの意思により、セルに向かっていく。

カウンターで全てを撃墜するのは無理と判断し、空へ上がる。

幾多の気弾はセルを追って行く。

いくつかは気弾で撃ち落としていくが…様子がおかしい。

 

 

「ちっ。

爆ぜる前に分裂させてるのか。」

 

「へへ、ここまで気を操れるようになったのには苦労したんだぜ!」

 

 

無数の気弾は小さくともエネルギーの塊であり、小さくなればその分凝縮する。

たった一粒でも侮れない威力を持つ。

 

 

(ならば…。)

 

 

舞空術で別のステージ寸前まで飛行し、直撃寸前で躱す。

幾多の気弾は別のステージに当たって爆ぜて消えるだろうと目論んでいたが、これも予想が外れる。

曲線を描くステージに当たったと同時に、ゴム球のように放射状にはね返ってくるではないか。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

四方から迫る気弾に、いよいよ身を固めて防ぐしか手立てが無くなる。

百を超える気弾は全てセルを包み、爆発。

その衝撃は他のステージまで届く事になった。

 

 

「へっへーん!

俺だってこれくらいやらねぇとな!」

 

 

余裕かましてピースまでしてしまう始末。

大体こういう時は…。

 

 

「ふぅ、危ない危ない。

バリアを何重にも張らなければ危うかった。」

 

 

ラディッツお得意のイージス。

ただしヤムチャに合わせた戦闘力なので何重にも張って凌いだ。

咄嗟の判断が無ければ、手痛い事になっていただろう。

 

 

「ちっくしょう…空気読めっての!!」

 

 

再び繰気烈弾でセルを狙い撃つ。

だが既にセルは動いていた。

 

 

(粒が増える前に根源を叩けば良かろう?

ならば一撃で仕留めるまでだ。)

 

 

足でかめはめ波のように、足からエネルギー波を放ちながら…更に両手からもエネルギー波を放って細かくコントロールしながら接近する。

自分から向かって行けば、気弾の乱れ打ちを掻い潜るようなもの。

一つ一つ丁寧に、素早く避け…そして。

 

 

「だあぁぁぁぁ!!」

 

 

位置エネルギーと、運動エネルギーを乗せた拳はヤムチャの顔面を捉え、ステージを突き抜けて海面まで吹っ飛ばした。

盛大な水しぶきを挙げた後、ぷかーっとヤムチャが浮かんできた。

 

 

『場外!

セルリン選手、決勝進出決定ー!!』

 

(クソー!

恥ずかしくて戻れやしねー!)

 

 

新必殺技まで出してカッコつけて勝ちたかったヤムチャにとっては誤算だったのか予定通りだったのか…。

海水をブクブクさせながら中々出てこない。

 

 

「…ふん、貴様はいい戦いをしたのだ。

さっさと上がってこい。」

 

 

ヤムチャの道着を掴みあげ、セルに引きずられるようにステージに戻されていく。

その後ろ姿こそ、なんともまぁ情けない様にも見えるのだが、それを言う観客は誰一人としていなかった。

健闘の拍手喝采である。

そして、その後ろ姿の並んだ亀マークに武天老師は満足し、お目当ての子がいる席に飛びついて盛大にビンタを浴びた。

 

 

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-

 

「すげーな!

天下一武道会よりもパワーアップしてんなぁ!」

 

「悟空、出たそうじゃがお前は既に死人じゃから参加出来んぞ。」

 

 

界王星からもモニター越しに観客がいた。

孫悟空と界王様である。

セルの自爆により、1人で修行するか、飯を食うかしか楽しみが無いこの星にとっては武道会の見物はひとつの娯楽になる。

 

 

「ん〜まぁ参加出来る事も可能なんじゃが…既に始まっておるからどっちみち無理じゃな。」

 

「ちぇー。

じゃぁさ、今度の天下一武道会はオラ出られるんか!?」

 

「んー…まぁまたその時になったら話してやる。

今は大人しくしておれ、少しは観戦させろ!」

 

「悟飯と…それにセルか。

きっとすげぇ戦いになるぞ…。」

 

 

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-

 

 

(どうして…どうしてヤツらがこんなチンケな大会に出てきてるんだ!?

ななな何とかしなければ…。)

 

 

七変化した顔色も既に真っ白にしかならなくなったミスターサタン。

第2ステージは全て終わったところ。

悟飯は言うまでもなく一発完勝。

ピッコロと天津飯は、善戦はしたもののピッコロの勝利。

クリリンは 「クジ運来てるぜ!」 と、余裕勝ち。

だが彼らの中にはセルと戦った異次元の強さの戦士も混ざっており、金髪になったり空を飛んだり光の玉を出したり…

キャスターのフリも辛うじて応えはするも、内心は穏やかではない。

ミスターサタンの最強伝説の危機である。

 

 

「おや?

ミスターサタン、顔色が優れんが…。」

 

「え゛ぇ!?

あ あ あぁぁあハラだ、腹が痛いんだうーイテテテテ!!

スマンが少し医務室へ行く!

すぐ戻ってくる!」

 

 

渾身の仮病を使い、何とかギョーサンを退けて部屋を出る。

廊下には誰もいない、スタッフすらもだ。

 

 

(このままずらかった方が身のためだ。

君子危うきに近寄らず…てな!)

 

 

演技を終えると一目散に走る。

今行かなければいけないのは医務室なんかでは無い、大会と無縁の地である。

数分間誰にも見られずに逃走し、ようやく出口が見えてきた。

その時だ。

 

 

「ミスターサタン!?」

 

「のわぁ!?」

 

 

出会い頭。

突如スタッフが通路から出てきてしまった。

 

 

「ミスターサタン、もうすぐ決勝ですよ?

この先は出口ですからここを曲がれば控え「あーイテテテ!

持病の腹痛が!

主治医に見てもらわないといかんのだ!

外にいるから早く行かないと間に合わんからな!

ダイジョーブダイジョーブ、すぐに戻って来…る…?」

 

 

スタッフをサラッとかわして出口に出たのだが…どういう訳か、陸地が海の向こうへ遠ざかっていく。

いや、この武道会場が離れて行く。

 

 

「あれ?

決勝はバトルアイランドで行うので今移動してるんですよ?」

 

「何ぃいいいい!?

帰してくれ、あっちに行かせてくれーーーーっ!!」

 

 

サタンの涙の訴えは、応援に駆けつけたファンのサタンコールによってかき消されていく。

 

 

………

 

……

 

 

 

決勝進出は悟飯・ピッコロ・クリリン・セルの四名である。

決勝は東西南北にひとつずつくじ引きで選び、地下に作られたバトルゾーンへ向かう。

そこで強敵である銀河戦士と戦い勝ち、最初に戻ってきた者が優勝者となり、ミスターサタンとの戦闘権を得る事が出来る。

…まぁぶっちゃけた話、銀河戦士と言えど大会側が用意した…Z戦士からすればただの一般人である。

そう…ここから先はZ戦士同士が戦わないのである。

 

 

「ってことは、悟飯達と直接戦わなくてもいいし、一番最初にゴールすればいいって事だよな?

俺にも優勝の可能性があるって事じゃないか!!」

 

 

クリリンにとって一番の難所は第2ステージだった。

あとはもう障害物競走と、優勝戦という名の消化試合みたいなものである。

千載一遇の大チャンスなのだ。

 

 

(よーし!

ここまで来れば、優勝賞金と温泉旅行は頂きだぜ!)

 

 

 

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-

 

 

「そいつらは片付けときな。

見つかると厄介だ。」

 

 

派手な装飾をした四人のミスターサタンの弟子と、数々のスタッフの死体。

これから始まる、決勝ステージの銀河戦士だったのだろう。

 

 

「いよいよだな。」

 

「ホホホ、ようやくこの星を丸ごと頂けるな。」

 

「にしても、銀河戦士とやらがこれなら…普通に殺しまくってった方が早かったな。」

 

「そう言うな、ボージャック様の完璧な作戦なのだ。

殺戮ショーはこれからよ。」

 

「ザンギャの言う通りかもしれんな。

まぁ、この大会は全世界生中継らしいからな。

派手に行くぞ。」

 

 

四人の影は各ステージへ赴く。

その事を知る人物は、もう誰もいなかった。



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