愉悦神父の息子のSAO (神納豆)
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《ソードアート・オンライン》
始めての投稿です!
よろしくお願いします。
では、どうぞ‼︎
ガキィン ギャァァン ギィン
薄暗い洞窟の中、何処からか金属のような硬いものがぶつかり合う音がする。
その音は神父の様な服装の青年の剣と、トカゲの様な怪物ーーリザードマンロードーーの剣がぶつかり合う音のようだ。
彼らは何度か剣を打ち合わせた後、お互いに離れ青年は両手に三本ずつ挟んでいた剣ーー黒鍵ーーを収めると何かの武術の構えをとった。
リザードマンロードは剣を収めた青年に向かって剣を輝かせて何かの技ーーソードスキルーーを発動させ、突進していった。
青年はものすごい速さで迫ってきた剣をスレスレで避け、懐に飛び込み腹に強烈な拳撃を叩き込んだ。
攻撃を受けて吹き飛んだリザードマンロードは壁にぶつかり、無数のポリゴン片になって爆散した。
リザードマンロードを倒した青年——コトミネ——はゆっくり息を吐き構えをといた。
「ふぅ、そろそろ帰るかな」
彼がいる場所はアインクラッド第七十四層迷宮区。アインクラッド攻略において最前線と言われている場所だ。
現在午後4時そろそろ戻らないと夜になってしまう。
出口に向かって歩き出した時、彼はふと二年前、このデスゲームが始まった日の事を思い出していた。
◇
二年前
2022年11月6日
side コトミネ
『ソードアート・オンライン』
天才的な頭脳を持ったプログラマー茅場晶彦によって制作されたVRMMORPG。
自らの体、アバターと武器で百層ある浮遊城《アインクラッド》を攻略していくというゲームだ。
初回ロットがたったの一万本しかなく、発売された瞬間に即完売となっていた。
俺——言峰紫苑——は最初このゲームには全く興味もなかった。ならなぜ俺がSAOにログインしているのかというと——
「まさか、あの父さんがゲームを送ってくるなんてな」
そう、俺の父親——言峰綺礼——がSAOとナーヴギアを送ってきたからだ。
今まで、神父に必要なのか分からない戦闘術しか教えてこなかったあの父親がだ。
荷物と一緒に届いた手紙には、
『修行ご苦労だった。それは私からの労いだ、楽しんでくれ。
PS,私の友人もそのゲームをすると言っていた。もし会ったらよろしく言っておいてくれ』
と書いてあった。
この手紙を見た瞬間本当にあの父さんが書いたのか自分の目を疑ったよ。
「そう言えば父さんが言ってた友人って誰だろう?………まぁいっか、そのうち会えるだろ」
そう言って俺は周りを見ながら歩き始めた。
「しっかし、本当に良くできてるな。本当と見分けがつかん」
第一層の始まりの街の街並みのクオリティはとても高いものだ。
「おーい。そこのお前ちょっと待ってくれよ」
近くでそんな声が響いた。自分が呼ばれたと思い、周囲を見渡してみる。
すると赤い髪の男が黒い髪の男に話しかけているのが見えた。
「もしかしてお前ってさ、ベータテスターか?」
「あ、ああ。そうだけど、何の用だ?」
「俺、今来たばっかでよ、ちょいとレクチャーしてくれよ!」
と、そんな会話が聞こえてきた。
(ベータテスターか。確か、ベータテストってのに参加してた奴らのことだよな。なら他の人よりかはこのゲームについての情報を持っているってことか。俺も教えてもらった方が良いかもな)
「なら、今から武器屋行くか」
「おうっ」
「なぁ、ちょっといいか」
「ん?」「あ?」
「呼び止めてしまってすまない。あんたら今から武器屋に行くんだろ?」
「ああ、そうだが」
「俺も一緒に行っていいか?」
「俺は別に構わないけど」
「俺もいいぜ」
「ありがとう。俺はコトミネって言うんだ」
「そういや自己紹介がまだだったな。クラインだ、よろしくな!」
「俺はキリトだ、よろしく」
そうして俺は赤い髪の男ーークラインーーと黒い髪の男ーーキリトーーと一緒に武器屋へと歩き出した。
◇
場所は変わって、今は《始まりの街》周辺の草原にいる。
武器を買った俺たちはキリトから先頭の手ほどきを受けるためにこの草原にきた。
今はクラインが武器屋で買った
「せいっ……おりゃっ……どわあああっ!」
剣を振り回しているがフレンジーボアにあたらず、逆に強烈な突進を受け草原を転がっていった。
「ははは……違うよ。大事なのは初動のモーションだ、クライン」
「って〜。くそぅ」
「大丈夫か、クライン」
「おう、大丈夫だ。けどようキリト……あいつ動きやがるしよぉ」
「当たり前だ。案山子じゃないんだから。でも、ちゃんとモーションを起こせばシステムが技を命中させてくれる」
「モーション……モーション……」
そうぶつぶつ言いながらクラインは手に握っている海賊刀を振っていた。
「さて、そろそろ俺も戦うか」
そう言って俺は近くにいたもう一体のフレンジーボアに向かって走り出した。
気付かれないように近づき、その横っ腹に蹴りを叩き込む。
吹っ飛ばされたフレンジーボアは俺が近づく前に起き上がり、こちらに向かって突進してきた。
その突進を右に避け、剣を肩にかつぐように構えて、突進を終えて動きの止まったフレンジーボアにソードスキル《スラント》を命中させた。
フレンジーボアの断末魔を聞きながら俺は戦闘中に感じた違和感に首を傾げていた。
「うーむ……」
「どうしたんだ?コトミネ」
「何ていうか、リアルで武術をやっていたせいなのかな。なんか武器とかソードスキルが俺と相性が悪いみたいだ」
「大丈夫なのか?」
「戦う分には問題ないが、何か気持ち悪くてな。体術スキルとかないのかな」
「さあな。まぁこの先お前に合う武器が出てくるかもな。体術スキルもあったりしてな」
「もしあったら教えてくれよ、キリト」
「ああ、もちろんだ」
そうやってキリトと話していると——
「うおっしゃあああ!」
というクラインの雄叫びが耳に入ってきた。
どうやらクラインもフレンジーボアを倒したようだ。
満面の笑みを顔に浮かべながらハイタッチしてきたので、それに応える。
「おめでとう、でもそいつ雑魚中の雑魚だけどな」
「マジで!?おりゃてっきり中ボスかなんかだと」
「周りを見てみろよ、クライン。中ボスがうじゃうじゃいるぞ」
クラインは周りを見て肩を落としていたけれど、顔を上げて同じソードスキルを繰り返し始めた。
「もう少し狩り続けるか?」
「いや、一度落ちてメシ食うわ。ピザが五時半に届くんだよ」
「そっか。コトミネは?」
「俺も一度戻るわ」
「あ、そーだ。キリト、コトミネ、フレンド登録しねぇか?メッセージとか飛ばせて便利だしよ」
「へーそんな機能あんのか。俺はいいぜ」
「あ、ああ、俺もいいぞ」
そうして俺たちは互いをフレンド登録し、これからの楽しいゲームが続くとばかり思っていた。
しかし、
「あれっ、ログアウトボタンがねぇ」
もうすでにこのゲームは遊びではなくなっていた。
批評、感想よろしくお願いします。
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デスゲームの始まり
「あれっ、ログアウトボタンがねぇ」
「何?」
「そんなわけないだろ、よく見てみろよ」
そう言われたクラインは目を見開いてもう一度探し始めた。
俺の方はどうなっているのかと思い、ウインドウを開いて自分も探す。
だけど、ログアウトボタンは影も形もなかった。
「やっぱどこにもねぇよ。コトミネはどうだ?」
「いや、俺の方もなくなっていた。キリトはどうなんだ?」
「まさか、そんなはず……」
そう言ってキリトも探し始めた。だが、しばらくして顔を上げて首を横に振った。
「ないな」
「だろぉ。
ま、こんなバグも出るだろ。今頃運営は半泣きだな、GMコールが殺到してるだろうから なぁ」
「クライン、お前そんな余裕ぶっこいてていいのか。ピザ頼んだとか言ってたよな」
「そうだった!!」
俺はGMコールした後、やべぇよオレ様のデラックスピッツァとコーラがぁーと叫んでいるクラインに近づいた。
「お前もGMコールしてみたらどうだ?システム側がログアウトさせてくれると思うぞ」
「反応ねぇんだよ、キリト。ああっ、もう五時二十五分じゃねぇか!お前ら他にログアウトする方法知らねぇか?」
そう言われて俺は他にログアウトの方法を考えるが、俺はこのSAOのことをほとんど知らない。
だからログアウトボタンを押す以外の方法を知らないのだ。
「俺は分かんねぇな、キリトは何か知ってるか?」
「いや…ないな。メニュー操作以外の方法はない」
「ちくしょう……戻れ!ログアウト!脱出!!」
大声で叫び始めるクライン、だが何も起こらない。
「クライン、無駄だよ。緊急切断方法はマニュアルにもなかったんだ」
「…じゃあ、このバグが直るか、誰かが頭からギアを外すのを待つしかねぇのかよ」
その会話を聞きながら俺はこれからどうなるかを考えていた。
誰かが頭からギアを外すのを待つといっても、自分は現在一人暮らしの真っ最中。
誰かが外してくれる可能性は万に一つもない。
そのため自分がこの世界から出るには、運営側がこのバグを直すのを待つしかないのだ。
「でもよぉ…俺一人暮らしだぜ。お前らは?」
「俺も一人暮らしだ」
「俺は…母さんと妹の三人だ。だから外してくれる可能性はある」
「マジで!?お前妹さんいるのか。いくつだ?」
突然クラインがキリトの妹発言に食いつき、詰め寄った。
キリトは何とかあしらおうとしているが、いかんせんクラインがしつこいようなので助け船を出すことにした。
「クライン。今はそれどころじゃないだろ」
そう言って俺はクラインの服の襟を掴んで引っ張る。
クラインはぐぇと蛙が潰れたような声を出した。
「でもようコトミネ」
「でもも何もあるか。聞くならこの状況から抜け出してからにしろ」
そう言うとクラインはようやくキリトから離れた。
「ありがとな、コトミネ」
「どういたしまして」
その後もしばらく話し合っていると突然俺たちの体が青い光に包まれた。
「うぉっ」 「なっ」 「何!?」
何が起こっているのか分からずに、されるがままになっていると風景がもとに戻った。
草原ではない煉瓦作りの建物、このゲームに初めてログインした時に見た《はじまりの街》の中央広場の景色だ。
今起こったのはおそらく運営側による強制的な移動。
近くには先ほどまで一緒にいたキリトとクラインの姿があった。
周囲を見渡してみると自分達と同じように強制移動されてきたであろうプレイヤー、その数およそ一万。
今現在ソードアート・オンラインにログインしているプレイヤー全てがこの広場に集められていた。
やがてざわめきの声が起こり、だんだんその音を大きくしていった。
そのとき、突然上に文字が現れた。
「…Warking…System Announcement?」
「運営からのアナウンスがあるんだよ」
「やっと出られるのか?」
そうしていると文字の中心がいきなり液体のように流れ出し、巨大な赤いローブのアバターを作り出した。
「何だあのローブだけのアバター?」
「あれは…ベータテストの時にGMが着てたローブだな。中に何もないけど」
その中身のないアバターが何か言い様のない不安を抱かせる。
そしてローブのアバターが白い手袋を左右に広げた。
『ようこそプレイヤー諸君、私の世界へ』
あいつは何を言っているんだ?
《私の世界》と言っていたが、どういう意味だろうか。
周りを見ても皆唖然とした顔をしていた。キリトやクラインも似たような顔だ。
さらにローブのアバターは続ける。
『私は茅場晶彦。この世界をコントロールできる、いわば神の様な存在だ』
「何…だと……」
俺はローブのアバターが発した言葉に耳を疑った。
茅場晶彦。
このソードアート・オンラインの製作者にして、ナーヴギアの設計者。
ゲームに全く興味のなかった俺ですら知っているほどの人物だ。
俺たちプレイヤーが驚いている中、ローブのアバター——茅場晶彦——は続ける。
『君たちはすでにログアウトボタンが消えていることに気付いているだろう。だがこれは《ソードアート・オンライン》の本来の仕様である』
「仕様とはどういうことだ?」
『君たちはこれからこの城の頂に到達するまで、ゲームから出ることはできない』
城?城とは何のことだろうか。
しかし、次の茅場の言葉にそんな疑問はかき消された。
『……また、外部の人間がナーヴギアを停止させることは有り得ない。
もしそれが試みられた場合——』
辺りを静寂が支配する。
『——ナーヴギアから発せられる高出力マイクロウェーブが、君たちの脳を破壊する。』
おれは開いた口が塞がらなかった。
脳を破壊するということは、殺すということだからだ。
「何言ってんだアイツ。そんなことできるわけねぇ、そうだよなキリト!」
確かに、そんなことできるとは思えない。
どうなのか俺もキリトの方を見る。
「いや……できる。ギアの重量の約三割はバッテリセルだ。俺たちの脳を焼き切ることは可能だ」
「でも…停電とかあったらどうすんだよ」
その時の声が聞こえてたように茅場がまた続ける。
『具体的には、十分間の外部電源切断、二時間以上のネットワーク切断、ナーヴギア本体のロック解除、分解、はかいのいずれかの条件によって、脳が破壊される。
今現在、残念ながらすでに二百十三人のプレイヤーが永久退場している』
もうすでに二百人以上の人間が死んでいる。
これが現実であると、事実であると認めたくないが、それを冷静に受け止めている自分がいる。
「なんだよこんなことできるわけねぇ。とっとと出せよ。これも全部オープニングなんだろ。そうだよなぁ!」
そう喚くクラインを嘲笑うように茅場は続ける。
『諸君がゲームから解放される条件は、アインクラッド第百層にいる最終ボスを倒してゲームをクリアすること。
そうすれば生き残っている全てのプレイヤーが安全にログアウトされる』
再び辺りを静寂が包み込む。
城とはすなわちこのゲームの舞台である巨大浮遊城、アインクラッドなのだ。
「第百層だと⁉︎できるわけねぇ!ベータじゃろくに上がれなかったって聞いたぞ‼︎」
百層などという途方もない目標。
遠い道のりを死という重すぎるペナルティを背に進まなければならない。
絶望に座り込みそうになるが、気力で立ち続ける。
『最後に、この世界が現実である証拠を見せよう。ストレージに私からのプレゼントがある』
俺はすぐさまメニューウインドウを出す。
周囲のプレイヤーもウインドウを開き、広場に鈴の音が響く。
プレゼントのアイテム名は《手鏡》。
取り出した手鏡を手にしてみるが、なにも起こらない。
周りを見渡してみると、突然プレイヤー達が白い光に包まれ、自分自身も同じ光に呑み込まれる。
ほんの数秒で元に戻ったが、プレイヤーの顔が全て変わっていた。
自分の手鏡を見てみると、現実の自分の顔が映っていた。
なぜ自分の顔が?と考えていると、
「お前がクラインか⁉︎」「おめぇがキリトか⁉︎」
という驚いた声が聞こえた。
キリトたちの方を見てみると、キリトは中性的な顔へ、クラインは野武士のような顔へ変化していた。
「どういうことなんだ?キリト、クライン」
「ああ、コトミネか、俺もよく分からないけど、茅場が何か言ってくるだろ」
そう言ってキリトは真上を見た。
『君たちはなぜ私がこんなことをしたのかと思っているだろう。
私の目的はもうすでに達成した。この世界を創り出すことが私の悲願だったのだから』
『以上で《ソードアート・オンライン》チュートリアルを終了する。
プレイヤー諸君、健闘を祈る』
そう言ってローブのアバターは空中に消えた。
そして——一万人のプレイヤーの感情が爆発した。
さまざまな悲鳴、怒号、絶叫。
広場に無数の叫びが響き渡る。
「クライン、コトミネ、こっちに来い」
キリトにクラインと一緒に連れ出される。
集団の外に出て一本の街路に入る。
「…クライン、コトミネ、よく聞いてくれ。俺は街を出て次の村に向かう。お前らも来い」
俺とクラインは驚きに目を見開く。
だってそうだ、たった今死ぬかもしれないと言われたのに自らその危険に飛び込むというのだ。
「俺はベータテスターだ、次の村までの道も危険なポイントも全て頭に入ってる。レベルが低い今でも安全に移動できる」
キリトならば他のプレイヤーよりも多くの情報を持ってる。
何も知らない俺はここに残るよりもキリトと一緒に街を出たほうがいいだろう。
そう考えているとクラインが口を開いた。
「俺、一緒にゲームを買ったダチがまだ広場にいるはずなんだよ。置いてけねぇ」
「…そうか、コトミネは?」
「俺はお前と一緒に行こうと思う。キリトといた方が良いと判断した」
「…なら今すぐに行こう。クラインとはここで別れよう。何かあったらメッセージ飛ばしてくれ」
そして街を出ようと歩き出すと、クラインの声が聞こえてきた。
「キリト!コトミネ!少しの間だったけど一緒に冒険できて楽しかったぜ!」
「俺も楽しかったよ、クライン」
「俺もだ、生きていたらまた会おう。急ごうぜ、キリト」
「ああ」
そうして俺たちは街を出て、次の村へ走り出した。
主人公の容姿はFate/Zeroの言峰綺礼と思ってください。
批評、感想お待ちしてます。
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鼠と攻略会議
テストやら何やらで執筆できなかったので。
3話目です。
今回主人公あんまり喋んないです。
一ヶ月で二千人が死んだ。
このデスゲームが開始されて一ヶ月。
今だに最下層である第一層すら突破できていない現状。
そんな時俺は迷宮区に一番近い町《トールバーナ》に一人でいた。
デスゲームが始まったその日にはじまりの街を出た俺とキリトは、共にクエストやレべリングを行った。
そして俺がある程度のレベルに達したときにキリトと別れ、ソロとして今まで生きてきた。
迷宮区やその周辺でレべリングをしているうちに攻略会議がトールバーナで開かれるという情報を耳にして、こうしてやってきたのだ。
「さてと、攻略会議まで少し時間があるな」
攻略会議は午後4時から、現在は午後3時、あと一時間ある。
どうやって時間を潰そうか考えていると後ろから——
「それならミネっち。面白い情報があるヨ」
と言う特徴的な声がした。
振り向くと、地味なレザーの装備に金褐色の巻き毛のかなり小柄な女性プレイヤーがいた。
顔にはメーキャップアイテムで両頬にヒゲのような三本線が描いてある。
アインクラッド初の情報屋、《鼠のアルゴ》がニヤニヤ笑いながら立っていた。
「何だアルゴ、面白い情報とは」
そう俺が訊ねると、アルゴは指を二本立てて言った。
「二百コルだゾ。ミネっち」
「ああ、二百コルだな。と言うかアルゴ、あだ名を付けるのはいいがミネっちはないんじゃないのか?」
「それ以外思いつかなかったんだヨ」
そんな会話をしながら二百コル払う。
「それで、面白い情報ってなんだ?」
「ああ、キー坊がね、女の子と一緒に迷宮区から戻ってきたんだヨ。それもかなり可愛い子とナ」
「ふーんあのコミュ障のキリトがねぇ」
「そうなんだよナ。ま、ミネっちも何か情報あったら売ってくれよナ」
アルゴはプレイヤー達に情報を売るほかに、マップデータやクエストの情報を買い取ることもある。
俺もアルゴにマップデータを提供したこともあるし、今みたいに情報を買うこともある。
攻略会議が開かれるという情報もアルゴから買ったものだ。
「それはそうとアルゴ。そろそろ《
そう言うとアルゴは顔を曇らせた。
「あー、うーん。ゴメンなミネっち。流石にこの情報は売れないヤ」
「そうか。まぁ、いいさ。売る気になったら言ってくれ」
アルゴは俺が欲しがっていた《体術》スキルの情報を持っているらしいのだが、何故か売ろうとしない。
何か理由があるのだろうと思い、気長に待つことにしている。
そうして雑談しているとちょうどいい時間になったので、アルゴと別れ会議が開かれる広場に向かう。
広場にはすでに人が集まっており、自分は端の方に座って始まるのを待つ。
広場に集まったのは自分も含めて45人。
予想よりもいくぶんかは多いが、レイドパーティーを組むには少し足りないが贅沢は言ってられない。
するとよく通る叫び声がしたのでそちらを向く。
「はーい!それじゃ少し遅れたけど始めようか。
オレはディアベル、気持ち的には《
こうして集まってもらったのは他でもない、今日オレ達のパーティーが遂にボス部屋の扉を発見した!」
プレイヤー達がざわめく。
俺も迷宮区がそこまで攻略されていることに驚きを隠せない。
「ここに来るまでに一ヶ月かかった。
だけどオレたちはボスを倒して第二層に行かなきゃならない!
はじまりの街に残っている人達に、このゲームがクリアできることを示さなきゃならない!
これはオレたちの責務であり義務だ!
そうだよな、みんな‼︎」
広場に拍手が巻き起こる。
ここまで見事な演説はあまり見ることはない。攻略組プレイヤーの心を一つにできるものだ。
このまま攻略会議も無事に終わると思っていたところに——
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
——唐突に低い声がした。
拍手が止み、サボテンのような形をした茶色い髪をした男が前に出てきた。
「わいは《キバオウ》ってもんや。
こん中に、何人かワビ入れなあかん奴らがおるやろ」
「詫び?」
「そうや。今まで死んだ二千人にや。
奴らが全部、何もかんも独り占めしよったから、一ヶ月で二千人も死んだんや!」
ざわめいていたプレイヤー達が一気に沈黙した。
全員キバオウの言う《奴ら》が何なのか理解していた。
「——キバオウさん。《奴ら》とはつまり……
「決まっとるやろ。
ベータテスターどもは、このゲームが始まったとたんにはじまりの街から出て行きよった。
何も分からんビギナーを見捨てて、ウマイ狩場やクエストを独り占めしてジブンらだけ強うなって、その後もずーっと知らんぷりや。
ベータ上がりどもに土下座さして、貯め込んだ金やらアイテムやらを出してもらわな、パーティーメンバーとして命預けられん!」
キバオウのその言葉に誰も声を出そうとしない。
今声を出せば自分がベータテスターだと思われるかも知れないからだ。
さっきまで拍手や歓声で満ちていた広場が静まり返ってしまっていた。
「発言、いいか」
そんな時に、低いバリトンボイスが響いた。
前に出てきた人を見てまず思ったのは、大きい。
百九十はあるだろう身長に、スキンヘッド、茶色い肌と日本人離れしている。
「オレはエギル。キバオウさん、あんたは元ベータテスターがビギナーを放っておいたから、多くの人間が死んだ。
だから責任を取って謝罪しろ、そういうことだよな?」
「そ……そうや。
あいつらが見捨てへんかったら、こないたくさんの人が死ぬことはなかったんや。
アホテスターどもが、金やら情報やらアイテムやらを分け合うとったら今ごろもっと上の階層に行けたはずなんや!」
キバオウは未だ出てこないベータテスターに対して糾弾の声を強める。
だがエギルはその声に臆することなく続ける。
「だがなキバオウさん。情報はあったと思うぞ」
そう言ってエギルは腰のポーチから羊皮紙をとじた簡易な本を取り出す。
表紙には丸い耳に左右三本ずつのヒゲを表した《鼠のマーク》がプリントされていた。
「このガイドブック、周辺の地形に出現するモンスター、そのモンスターからドロップするアイテム、クエストの詳しい解説まで書いてある。あんたも貰っただろ。
各地の村や町の道具屋で無料で配布してたからな」
「…何?」
そのエギルの言葉に俺は反応する。
あの攻略本は一冊五百コルだったはずなのだ。
キリトも俺と同じ値段で買っており、攻略本のいくつかはアルゴから直接買っていた。
後でアルゴを問い質すとして、目の前の会話に集中する。
「貰たけど何や」
「これはオレが新しい村や町に着くと道具屋に必ず置いてあった。
だが情報が早すぎる。
こいつに載ってる情報を情報屋に提供して、ガイドブックを発行させたのは元ベータテスター以外に考えられない」
広場のプレイヤーが一斉にざわめく。
キバオウは言葉に詰まり、ディアベルは納得したようにうなずいていた。
「オレが言いたいことはそれだけだ」
そう言ってエギルは自分がもといた場所に戻っていった。
今度はディアベルが前に出た。
「キバオウさん、君の意見を全て否定はしない。
俺だって何度も死にかけた。
だからって全ての責任をベータテスター達に押し付けてはだめだ。
ボスを倒すためには、それこそベータテスター達の力が必要なんだ。
それでも元テスターと一緒に戦えないって人は抜けて構わない」
ディアベルはプレイヤー達を見渡して、最後にキバオウを見詰めた。
「ふん…ここはナイトはんに従うといたるわ」
キバオウもまた自分のいた場所に戻っていった。
ディアベルはもう一度周りを見渡して口を開いた。
「それじゃあ、会議を再開しようか。
まずはレイドを組むためにパーティーを組んでくれ!」
そう言われて周りを見てみると早速7人ずつでパーティーを組んでいるようだった。
この場にいるのは45人、6人パーティーが7つで三人余るはずだ。
余りのもう二人を探していると見覚えのある顔があったのでそちらにいく。
「おい、キリト」
「コトミネか、一週間ぶり」
「ああ。ところでお前パーティーはどうした?」
「俺とそこのフードの人の二人だけだな」
「なら、俺も入れてくれ。俺たちが余りの三人みたいだからな」
「分かった」
キリトにパーティー参加申請を出して、受諾された瞬間に自分の視界の左側に、HPゲージが2つ現れた。
【Kirito】に【Asuna】の名前。あのフードの人はアスナというらしい。
名前からして女性なのだろうと思い、あいさつをする。
「よろしく頼む」
「……よろしく」
最低限の言葉をかわす。
ディアベルはパーティーを人数を入れ替えて役割を与えると、俺たち三人パーティーのところにきた。
「君たちはボスの取り巻きを潰すために、E隊のサポートを頼むよ」
「ああ、了解した。任せてくれ」
ディアベルは広場の中央に戻って行った。
その後の攻略会議は各部隊長の短いあいさつと、ドロップ品や
キリト、アスナ、俺の三人パーティーは再度集まり、この後どうするか話していた。
「コトミネ、俺はこの後はこの人にいろいろと説明することになるけど、お前はどうする?」
俺は少し考えて。
「いや、確認したいことができた。また明日ここで会おう」
「そうか、気を付けてな」
それで俺たちは別れて、各々の目的のために動き出した。
感想、評価お願いします。
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第一層ボス戦 vs《イルファング・ザ・コボルドロード》
今回はボス戦を二回に分けて投稿します。
それではどうぞ‼︎
昨日攻略会議を行った広場に再びプレイヤー達が集まっていた。
広場の中央には青髪の
「みんな、ありがとう!全パーティー総員四十五人が集まった‼︎
実は今日、誰か一人でも来なかったら中止しようと思ってたけど、杞憂だったみたいだ」
広場が昨日と同じように歓声に包まれる。
「みんな、俺が言うことは一つ。……勝とうぜ‼︎」
ディアベルの掛け声と同時に巨大な叫び声がトールバーナの町を揺らした。
だが俺は、この時……一ヶ月前——はじまりの街の中央広場での不安と同じものを感じていた。
◇◆◇◆◇
トールバーナを出発して少し経った時、キリトが思い出したように声をかけてきた。
「そういえばコトミネ、お前武器は何を使ってるんだ?」
「ん?ああ、話してなかったか。俺が今使ってるのは短剣だな」
「短剣?なんでまたそんなものを」
「ああ、片手剣はなんかしっくりこなくてな。自分に合うものを探してたらこれになった」
そう言って俺は自分の右腰にあるホルスターから、刃の中心に赤い線が通っている以外に特徴のない短剣を取り出した。
その短剣を手の中で遊んでいると、今まで黙っていたアスナか、口を開いた。
「でも……なんで反対側に
俺の左腰には、今アスナが指摘したとおり、同じものを装備している。
「ソードスキルが合わなくてな。片手装備だとモーションを作るとソードスキルが発動するからな。
両手装備ならどれだけモーションを起こしてもソードスキルは発動しないから、都合がいいんだよ」
「どんなふうに戦うのか想像がつかないな」
「ま、このボス戦で確かめればいいさ」
その後はキリトがアスナに戦闘の基本などを教えたりしていた。
◇◆◇◆◇
二時間ほどかけて、レイドパーティーは迷宮区最上階最奥にあるボス部屋の前に到着した。
ディアベルは黙ってパーティーごとに並ばせていった。モンスターが声に反応するかもしれないからだ。
パーティーを並べ終えるとディアベルはプレイヤー全員を見渡して剣を上に掲げた。
「……行くぞ!!」
ディアベルはボス部屋の大扉を開け放った。
広い。
横幅がおよそ二十メートル、縦幅はゆうに百メートルになるほどだ。
部屋の一番奥に巨大な玉座があり、何かがそこにいる。
ディアベルが剣を前に降り下ろし、攻略組レイドパーティーがボス部屋に走り込んだ。
レイドパーティーの先頭が玉座に近付いた時、そこに座っていた何かが飛び上がった。
地響きとともに着地した、赤い巨体。
獣人、コボルドの王、《イルファング・ザ・コボルドロード》。
「グルルラアアァァァァッ!!」
二メートル超えの巨躯に、右手には骨斧、左手にはバックラーを携えて、後ろ腰には差し渡し一メートル半もある
コボルドロードの咆哮を合図にして壁の穴から取り巻きである《ルインコボルド・センチネル》が飛び出してくる。
三体のうち一体はキバオウのE隊、もう一体はその支援のG隊がタゲを取ったので、こぼれた一体に狙いを定めて走り出す。
今、アインクラッド初めてのフロアボス戦の火蓋が切って落とされた。
《ルインコボルド・センチネル》は全身を鎧に包まれている。高火力の武器なら鎧ごと攻撃してもダメージは通るが、短剣ではそんなことはできない。
なら——
(鎧に包まれていないところを斬る!)
「キリト!初撃はもらうぞ!」
右手に短剣を持ち、最高速度でセンチネルに突っ込む。
降り下ろされる
体勢を崩したセンチネルの弱点である喉元に短剣を突き刺し、そのまま背負い投げの要領で投げ、地面に叩きつける。
地面は
そのうえ弱点の喉に短剣を突き刺したまま投げたのだ、ダメージはかなり大きいだろう。
だが雑魚とはいえボスの取り巻き、HPを完全に削りきれなかった。
倒れた状態でも
左手にも短剣を握り、振るわれた
「スイッチ!」
追い付いてきたキリト、アスナと入れ替わる。
◇
sideアスナ
あのコトミネっていう人は何者なの?
私はあの人を見てそう思わずにはいられなかった。
ボス部屋までの道中でも短剣を二本装備していることから疑問に思っていたけど、彼の戦闘の様子を見て何度も驚かされた。
まず速い。
自分はステータスを敏捷寄りにしているが、そんな自分よりも数段速い。レベルがかなり高いのだろう、それだけでも彼の強さが窺える。
さらに攻撃、的確に鎧と鎧の隙間を狙える正確さ、敵の攻撃に臆することなく懐に飛び込む思い切りの良さ。
しまいには鎧を着込んでいてかなりの重量になっているであろうセンチネルをいとも容易く投げ飛ばしたのだ。
彼と知り合いであるはずの隣の剣士に質問する。
「ねぇ、あなたってあのコトミネって人と一緒にいたのよね?
いつもあんな戦い方をしてたの?」
「いや、俺はコトミネとは一ヶ月前のチュートリアルが終わってから一週間、あいつに戦い方とかを教えていたんだけど、あんなモンスターを投げるようなことはしてなかったな。
武術をやっているって言ってたから、俺と別れたあとにあの方法を見出だしたんだろう」
「……そう」
「さて、俺らも行こう。あいつだけにまかせてられない」
「ええ!」
同じパーティーの彼ら、私よりはるかに強い彼らを見ていれば、私に足りないものが分かるかもしれない。
そう思い隣の剣士とともに走り出した。
◇
スイッチして、コボルドロードと戦っているレイド本隊の方を見る。
ディアベルの的確な指示によって順調に進んでいた。HPが
次にコボルドロードを見る。四段あるHPバーの最初の一段の残りも四分の一ほど、残りを削りきれば新たにセンチネルが三体出現する仕組みになっている。
コボルドロードが背中をこちらに向けたとき、
「ん?」
何が違和感を感じる。
違和感の正体を探ろうとしたとき、キリトとアスナの方からガラスが割れるような音がした。
そちらを向くとキリトとアスナか歩いてきた。
「本隊の方はどうだ、コトミネ」
「順調そうだ。このままいけば死者も出さずにすむだろう」
その時コボルドロードのHPバーの最初の一段が消え、壁から新たなセンチネルが飛び出してきた。
「さてと、雑魚狩り再開だな」
新たに出現したセンチネルに向かって走り出した。
◇
その後もボス戦は順調すぎるほどに進んでいた。
イルファングもHPバーが二本消え、三段目ももうじき削りきれる。
三段目が消えれば
また現れたセンチネルを倒して次の出現を待っていると、キリトとキバオウが話していた。
なんだか険悪な雰囲気だ。俺が近付いたときに話は終わったのかキバオウが離れていく。
「グルルオオオオラアアアアアア——————‼︎」
イルファングが今までで一番の咆哮を上げる。
骨斧とバックラーを捨てたとき、最後のセンチネルが飛び出す。
「大丈夫か、キリト」
「ああ、大丈夫だ。センチネルを倒そう」
キリトの様子を不思議に思ったが、本人が大丈夫と言っているので追求しない。
向かってくるセンチネルを足をかけて転ばし、うなじの部分を突き刺す。
その場をすばやく退き、キリトとアスナに任せる。
ちょうどそのときイルファングが腰から
再び違和感を覚える。
あの武器、何度かタルワールを見たが少し細く長い。
そのとき、俺の記憶が刺激された。
あの形、あの長さ、イルファング用に巨大化したそれは現実でも何度が見たことがある。
あれは————刀、太刀だ。
「おい待て、止ま——」
「だめだ、下がれ‼︎全力で後ろに跳べ————‼︎」
キリトの絶叫が俺の声をかき消した。
読んでくださりありがとうございます。
感想・批評よろしくお願いします。
次回もお楽しみに‼︎
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