Fate/セイバー大戦 (zaregoto)
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act.0 てめーらァァァ!!それでも銀魂ついてんのかァァァ!とはまだ言ってない

 みなさんこれからよろしくお願いします。

 他に書いてるのが、わりかし真面目なのでお祭り的なやつ書きたいなーって。

 それでは!暖かい目で見てくれると助かります。


 第5次聖杯戦争が終結して、およそ1ヶ月。

 

 俺たちはセイバーたちのいない日常に、慣れなければ、と思いながら生きていた。

 

 俺たちは確かに聖杯を壊した。俺はその場にいなくて、セイバーとも別れの言葉を交わすことができなかったが、すぐあと遠坂から、笑顔で行ったと聞いた。

 

 あれで終わった。はずだ。しかし、どうにも俺にはそうでない気がしてならない。なんというか、虫の知らせというか。

 

 まぁ、もしかしたらセイバーが恋しいだけで、無理矢理そう思っているのかもしれない。

 

 今は、いつものように蔵で鍛練だ。さっきもいったように、このあと、何があるかわからない。自分で踏み込んだ世界だ。自分で責任を取らないといけない。

 

 アーチャーのようにはならない。アイツと戦い、そして勝った。しかし、アイツが俺の1つの未来の形であることは確かだ。歪んでいても、アイツは正義の味方を目指していたんだ。

 

投影開始(トレースオン)・・・」

 

 アーチャーの短剣を投影する。思い出が、甦る。あの頃。おそらく、人生で一番充実していたといえる、毎日。懐かしいと、ほのぼの思い出せる内容ではない。凄く怖かったし、痛かった。

 

 だが、あんなことをもう二度と繰り返さないためにも聖杯を破壊したのだ。そんなことも言っていられないのは、確実だった。

 

 しかし、それでも彼女がいない世界、そう感傷に浸ることもある。彼女はもう、奇跡でもないと戻ってこない。そう。奇跡でもないと。

 

 思えば、あれは奇跡の連続だった。戦いの最中、数々の奇跡を垣間見た。俺の目指す、正義の味方も、そうでなかった者も、見た。俺にとって、あれはよかったことなんだ。そう。よかったこと。

 

 ふと、外を見る。大きな月が、扉の間からこっそり、こっちを見ていた。気がつけばもうそんな時間だ。もうあのときのように、賑やかではないが、それでも、遠坂がいて、藤ねえがいて、イリヤも桜もいてくれる。

 

 俺は、きっと幸せなんだ。そう、思えている。

 

 その瞬間だった。左手の甲に妙な違和感を覚えた。そして、自分の真下では、光が。既視感。感じたことのあるその現象たちは、尚も続いていく。

 

「これは、、、まさか!!」

 

 咄嗟に左手の甲を見る。そこには、あのときと変わらない、令呪が刻まれていた。

 

「どうして!聖杯は破壊したはずなのに、、、」

 

 そう言えば、前々回のじいさんが参加した聖杯戦争でも、聖杯は破壊されたって言ってた。それでも、次の聖杯が現れ出でるまで10年かかったという。今回は、前回が終わってからまだ1年もたっていない。

 

 ありえない。その感覚だけが、俺を支配していた。

 

「くっ!砂煙が晴れる!」

 

 英霊が、姿を現す。半ば、また彼女に会えるのではないかという、淡い期待も孕ませながら。

 

 しかし。

 

「ノックしてもしもぉ~っゲッフ!ウゴッふぉ!うっわ、なんか喉に入った!ゲッフ!カァ~っ、カァ~っ!っぺ」

 

 現れたのは、腰に洞爺湖と彫られた木刀を差し、銀髪、さらに死んだ魚のような目をした男だった。

 

「え~っと?なんだっけ。こんときセイバー何て言うんだっけ?あーそうそう。問おう、貴方が私のご主人様(マスター)か?」 

 

「俺の期待をかえせぇぇぇぇぇ!!!!」



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act.1 幽霊と踊る少年

序章はまああんな感じで。

というかgoなんなんですか!まったく出ない!鯖!

ネロ様ガチャ死ぬ気で引かないと!!!

というわけで1話よろしく!



 何かが起こった。いや、起こっている。

 

 遠坂凛はそう感じていた。なにか、嫌な気配がする。

 

 そう思えるのも、あのときと同じ状況に陥っているからであった。違うのは、故意に行っているかそうではないか。もちろん、今回は後者である。

 

 地下の異音を感じ、恐る恐るその場所へ急ぐ。

 

 そこには。

 

「ケホッ、、ケホッ、、なんなんよ、ここは。ずいぶん煙たいとこなだなぁ」

 

 ずいぶんとのんびりした声が、私の耳に届いた。

 

「あ、あんた」

 

「ん?おぉ!あんたがオイラのマスターか?」

 

「ちょ、ちょっとまって!マスターって」

「えっと、ちゃんとやらないとアンナに怒られるからな。、、、サーヴァント、セイバー、召喚に応じて参上した。問おう、あんたがオイラのマスターなんか?、、、あれ?これさっき言ったな」

 

「まってってば!サーヴァントってことは、まさか、また聖杯戦争が行われてるってこと?!」

 

「さぁなー、オイラは地獄で修業してた時に、勉強になるからってアンナに薦められただけなんよなー」

 

「地獄で修業って、、、あんた、どこの英霊よ」

 

「うぇっへっへ。オイラはシャーマン。あの世とこの世を繋ぐもの。麻倉葉だ」

 

「セイバーじゃないの?」

 

「いやー?セイバーなはずだ?」

 

「そう。、、、じゃなくて!!そんなことはどうでもいいの!聖杯は破壊したはずよ!なのになんでまた、英霊が召喚されるのよ!」

 

「知らねぇよ。そんなことオイラに聞かないでくれ。この姉ちゃん、さっきからうるせぇなぁ。なぁ阿弥陀丸」

 

『いやいや!元気があっていいでごさるよ。おなごはそうでないと』

 

「きゃぁぁぁぁ!!オバケェ!!落武者のオバケェ!」

 

『だ!誰が落武者でござるか!!』

 

「そうだぜ姉ちゃん。コイツはオイラの持ち霊の阿弥陀丸だ。侍の霊だ」

 

「持ち霊?阿弥陀丸?」

 

『今は剣の精霊でござるよ、葉殿』

 

「おおそうだったな、わりぃ阿弥陀丸」

 

「なんなのよ、あんたたち」

「というか、姉ちゃん、阿弥陀丸が見えるんだな。まじゅつしってやつなら、シャーマンの才能あるんじゃねぇか?」

 

「た、多分だけど、そこのサムライ、貴方の持っている魔力で私にも見えるようになってるんじゃないかしら。もしくは、パスが繋がっているから、とか」

 

「魔力?、、、あぁ!巫力のことか」

 

「巫力?なによそれ」

 

「オイラたちが持っている、力のことなんよ。阿弥陀丸!!」

 

『応!』

 

「イン春雨!インフツノミタマノツルギ!オーバーソウル!スピリットオブソード!!」

 

「う、うわ!で、でっかい刀が!」

 

「すまん、壁壊した」

 

「ちょっとなにしてんのぉぉぉぉ!!!!」

 

「だってここ狭いんだよ、なー阿弥陀丸」

 

『そうでござるよ、このようなところに召喚される身にもなってほしいでござる』

 

「お前は霊体だけどな」

 

「はぁ、、、また士郎んちに居候しようかなぁ。このままじゃ、身が持ちそうにない」

 

「そうだ、姉ちゃん。あんたの名前はなんなんよ。聞いてなかった」

 

「え?、、、私は凛。遠坂凛よ」

 

「そっか!よろしくなー、凛」

 

『よろしくでござる!凛殿』

 

「、、、私んとこがこうなら、他はどうなってるのかしら。もしかしなくても、もしかしてるわよね。とりあえず、士郎んとこに行きましょう。というわけで、行くわよ!あんたたち」

 

「行くって、、、どこにだ?」

 

「今後の事を相談できる人、というか、擦り付けあえる人のところよ」

 

「それは、どうなんよ」

 

***

 

「電話、入れておいた方がよかったかしら」

 

「その士郎ってのはイイヤツなんだろ?大丈夫だろ」

 

「あんたみたいにユルいのと、足がないサムライ見てもそれを言えるかしら」

 

「ん?」

 

「セイバー、どうしたの?」

 

「いや。というか、その前にそのセイバーってのやめねぇか?オイラのこと呼ばれてる気がしないんよな」

 

「だって、セイバーなんでしょ?」

 

「いや、セイバーだけどさー。、、、オイラのことは、葉でも麻倉でもいいから、セイバーはやめてくれ。なんか変な感じがするんよ」

 

「、、、そう。じゃあ葉、いったいどうしたの?」

 

「あっちから変な霊力を感じるんよ」

 

「あっち?って、、、あそこ、このまちじゃあ有名な心霊スポットじゃない!」

 

「そうなんか?」

 

「そうよ。肝試しに行った人の殆どが怪奇現象にあって、ありすぎて!封鎖までされちゃったところよ!」

 

「へぇー、じゃあ、ちょっと寄ってもいいか?」

 

「え!?なんで!」

 

「オイラ、元々こういうことやる人だし。戦いとか、基本好きじゃないんよな」

 

「わ、私もいくの?」

 

「嫌なら着いてこなくてもいいぞ。阿弥陀丸と一緒にここにいてくれ」

 

「いやよ!よけい怖いわよ!」

 

『拙者だってこまるでごさる!葉殿を御守りしなければ、アンナ殿に殺されてしまうでごさるよ』

 

「あんた、もう死んでるじゃない」

 

「んじゃあ行くぞ~」

 

「あ!ちょっと待ちなさいよ!」

 

 

心霊スポット内部

 

 

「確かに、嫌な感じは強いな」

 

「ちょっ、まじでヤバイわよ。こんなの!聖杯戦争やってたほうがまだいいわよ!!」

 

『しかし、ここにいる御仁は皆、危害は加えないとおもうでござるが。そうなのでござろう?』

 

「へぇー、そうなのか?、、うん。上の階?分かった」

 

「ちょっと、、、さっきから、誰と話してるのよ」

 

「ん?あぁ、この人だけど」

 

「んきゃぁぁぁぉぁ!!見えた!見えた!さっきまで、全然見えなかったのにぃ!!ていうか、ここいっぱいいすぎじゃない!!!」

 

「なんか、前に起こったすごい人たちの戦いのせいで、ここに追いやられたらしいぞ?なんなんよ、そのすごい戦いって」

 

「はぁはぁはぁ、、、も、もしかして、前の聖杯戦争のこと言ってるのかしら」

 

『ほう!すごいということは、余程の強者がこのせいはいせんそうとやらに参加しているのでごさるな!拙者、腕がなるでござる』

 

「気合い入れすぎんなよー。ま、とにかく、ありがとなお前ら。また今度会いに来るけど、早めに成仏しろよ?自縛霊にでもなっちまったら、大変だからな」

 

「、、、なんか、驚いてるのがバカになるくらい平然としているわね。怖くないの?」

 

「怖かったらシャーマンなんてやってられんよ。それに、コイツらも同じ人間だ。イタズラはするだろうけど、それでも人を取り殺したりすることはねぇよ。大概、そういうことになるのは面白おかしく、こういうところに来るやつらが悪いんよ」

 

「妙に大人びてるわね、葉は」

 

「伊達に何回も死んでないからな」

 

「、、、さっき言ってたけど、地獄で修業ってどういうこと?」

 

「文字通り、地獄でだ。久し振りに超鬼のやつらにも会いたかったし」

 

「もういいわ。聞かないから、早く用事を済ませて士郎の家に行きましょう」

 

 

階段のぼって三階

 

 

「ここだな」

 

「、、、なんか、やな魔力を感じるわ」

 

「霊力と魔力って似てるのかもな。オイラも感じるよ。ほら、あそこだ」

 

『強い、、、怨みの力』

 

「ああ」

 

「なに?あの黒いの」

 

「この場所に縛られちまったんか。自分を忘れちまってる」

 

『サクラァ、、、、ヂャン、、、サクラ!!』

 

「くっ!ガンド!」

 

「お前!何をやって」

 

「何って!早く倒さないと!私たちも危ないし、下にいた霊たちも危ないわよ!」

 

「分かってねぇなぁ。まったく。いいから、凛は手ぇ出すなよ」

 

「ちょ!サーヴァントがマスターに命令する気!」

 

「迂闊に手ぇ出すと危ないんよ。、、、ほら、怒っちまった」

 

『サクラァァァァァ!!!!』

 

「んきゃっ!」

 

「阿弥陀丸。凛を頼む」

 

『了解でござる』

 

「いつつ、、、いいの!?あんなのを一人で!」

 

『このくらいなら大丈夫でござるよ。葉殿は、この程度の修羅場何回も乗り越えてきたでござる』

 

「どうしたんよ。何があったんだ?オイラに教えてくれないか?」

 

『サクラ、、、ァァ。サ、、、サク、、ァァ』

 

「あの霊、さっきから、桜、桜って。いったいなんのことを」

 

「大丈夫。オイラは敵じゃねぇよ。味方だ」

 

『テキ、、、テキ?テキテキテキテキテキテキ!!!トォォォキィィィオォォォミィィィ!!!』

 

「!!」

 

「はっ!葉!ヤツの攻撃をまともに、、、だ、大丈夫なの?」

 

『拙者も少し、心配になってきたでござるよ』

 

「ッツ、てて。オイラは大丈夫。そうかお前、トキオミってやつに仕返ししたいんだな。でも復讐はやめた方がいいぞ。やったら、やり返される」

 

「えっ?トキオミ?それに、さっきは桜って、、、」

 

『凛殿、知ってるでござるか?』

 

「え、ええ。偶然かもしれないけど、私の父は時臣で、、、妹は桜って名前なの」

 

『ガァァァァァァァーー!!!』

 

「くっ!結構キツいな。悪い!阿弥陀丸!憑依合体だ!」

 

『御意!凛殿離れているでござる!』

 

「え、ええ」

 

「阿弥陀丸!人魂モード!」

 

「サムライが、小さく?」

 

「憑依、合体!」

 

「そのちっちゃいのを体に、、、ええ?!」

 

「久し振りだな、憑依合体すんのも」

 

『そうでござるな』

 

「さぁ来いよ。お前を受け止めてやるから」

 

『ウガァァァ!!!』

 

「よっと」

 

「凄く速い。まるで、本物のサムライ」

 

「はっ!うりゃっと!」

 

『グアッ!!、、、ハァハァハァ、、、トキオミィ、、、』

 

「だから、オイラはトキオミじゃねぇって」

 

『そう言えば、先ほど凛殿がいっていたでござる。トキオミとは自分の父親だと』

 

「そうなんか?、、、凛ー!!」

 

「何よ!」

 

「お前の父ちゃんって、もうこの世にいないのかぁー?」

 

「何をいきなり、、、。そ、そうよ。10年前に死んだわ」

 

「そうか。アンナなら、簡単に呼び出せるんだろうけどなぁ。オイラ、降霊術は苦手というか、やらないんよなぁ、、、?ん?」

 

『リン、、、リンチャン?』

 

「私の名前を呼んで、、、私を、知っているの?それに、この声、どこかで聞いたことが」

 

『リンチャン、、、サクラチャン、、、アオイサン、、マモレナカッタ、、、、、』

 

「いいぞ、凛の声に反応してる。そのまま呼び掛けてやれ!」

 

「私も桜も、母さんも知っているの?貴方はいったい誰なの!」

 

『オ、オレハ、、、オレハァァァ。カ、、リヤ』

 

「かりや?、、、もしかして、雁矢おじさん!?」

 

『、、、そうだ、、、俺は。俺は間桐雁矢』

 

「なんだ。案外早く自分を見つけられたな」

 

『こ、これはいったい。それに君は凛ちゃんかい?大きくなって』

 

「雁矢おじさんこそ、そんな姿に、なって」

 

「一件落着だな」

 

『俺は、いったい何を』

 

「自分を見失って、この地で自縛霊になっちまってたんよ。自分を捨てなかったからこそ、戻れたんだけどな」

 

『霊?そうか。俺は死んだのか。あれから、何年たったんだ』

 

「あれから?」

 

『4次の聖杯戦争が始まってからだよ』

 

「10年よ。おじさん、聖杯戦争に参加してたのね」

 

『あぁ、桜ちゃんを守るためにね、、、。そうだ。そうだ!桜ちゃん!桜ちゃんはどうなって!』

 

「桜は、、、元気よ。ちゃんと学校に通って、恋をして。立派な女の子になったわ」

 

『そうか。よかった。それだけがずっと気がかりだったんだ。葵さんのこともそうだけど、桜ちゃんを守れなかったからね』

 

「よかったな、雁矢」

 

『君もありがとう。声は届いていたよ。君は俺を恐れなかったんだね』

 

「まあな。受け止めてやんねぇと、お前らみたいなのは」

 

『ははっ!君に出会えていたら、もっと違う人生があったのかもしれないね。ありがとう、僕は、もういくよ』

 

「桜に会っていかないの?」

 

『、、、あの子には、無様な姿を見せ続けたからね。今さら、、、』

 

「でも、、、」

 

「なぁ、凛」

 

「何?」

 

「ケータイっての持ってるか?」

 

***

 

プルルルルプルルルル、

 

「桜ぁ!お前に電話だぞ!、、、おい!桜!聞こえてんのか!」

 

「聞こえてますよ兄さん、今行きますから」

 

「ったく、僕が出てやったんだから、感謝しろよな!」

 

「ええ、ありがとう兄さん。、、、お電話代わりました桜ですが、どなたですか?」

 

『声、変わらないね桜ちゃん』

 

「え?えっと、あの、、、」

 

『元気かい?』

 

「元気、ですけど。本当に、どなたなんですか?」

 

『うーん。やっぱり忘れちゃったかな?まぁ、この声だからかな。、、、俺だよ桜ちゃん。雁矢だ』

 

「え、、、。雁矢、、、おじさん?!」

 

『うん。忘れてなかったんだね。よかった』

 

「でも、声がまるで別人、、、」

 

『そう。わけあってね。どうだい?元気にしているかい?』

 

「、、、おじさん、こそ。今どこで何をして。お爺様が、もう帰ってこないって」

 

『そうか、あの爺、まだ生きてやがるのか。ああ、心残りがひとつ増えたなぁ。、、、俺はね、今遠いところにいるんだ。とてもとても、ね』

 

「もう、会えないんですか?」

 

『そうだね。もう、会えない』

 

「、、、私、この家に来て、あのときはおじさんだけが心の支えでした。蟲蔵へ行っても、おじさんが助けてくれるって、、、」

 

『ごめんね。俺は、ダメな男だった』

 

「正直、おじさんが帰ってこないって言われたときは絶望しました。そして、うらんでもいました。でも、、、」

 

『でも?』

 

「わたし、大丈夫です。ちゃんと、好きな人もできて、それで、それで、、、」

 

『そうか。それを君の口から聞けてよかった。安心したよ。本当に』

 

「また、姉さんとも会えるようになったんです。ここの兄さんは少し横暴だけど、あれはあれでいい人なんですよね」

 

『慎二のやつ、、、。よかったよ、本当に。また君に会えた。もう、心残りはない』

 

「会いたいです。会って、色々なことを話したいです」

 

『俺もだよ。だけどダメなんだ。もう行かないと』

 

「おじさん、、、!待って!まだ!」

 

プツッ、プープープープー

 

「もういいのか?」

 

『ああ。ありがとう葉くん』

 

「分かった。憑依合体解除」

 

『本当にありがとう。俺は幸福者だ。あんな辛い思いをしたのも、このためだったのかな?』

 

「、、、聖杯戦争ってのは、そんなに苦しいものだったんか」

 

『そうだね。でも、こうして君とで会えた。その結果だけでも俺としては良かったんだよ。、、、もういくよ』

 

「おじさん、、、」

 

『凛ちゃん、、、桜ちゃんをよろしくね。俺は、ちゃんと彼のお兄さんをやってあげられなかった。君が、守ってあげてくれ』

 

「えぇ、、、!ええ!!」

 

『、、、本当に気分がいい。ランスロットにも悪いことをしたな。狂化の魔術を施さず、二人で戦っていれば、勝てたかもしれない』

 

「じゃあな、雁矢。あの世でまた会おう」

 

「ばいばい」

 

『ああ。本当に、、、ありがとう、、、』

 

「、、、行ったな」

 

「あなたって凄いのね」

 

「ん?なにがだ?」

 

「いいえ。なんでもないわ。さぁ士郎の家に行きましょう」

 

***

 

「やっぱり、、、」

 

「と、遠坂。いいところに来てくれた。この人、サーヴァントなんだよ!しかも変なんだよ!」

 

「そうです、私が変なおじさんです、とでもやると思ったかバカが。おじさん疲れてんの!暇潰しに玉弾いてたら、いきなり光に包まれて、マイクロウェーブ!来る!みたいな。ったく、サテラビューみてぇな技術は、人類には早すぎたんだよ」

 

「お前も呼び出されたんか?」

 

「おおって、ええ!!アンタ!なんでいるの!シャーマンキングの葉じゃねえか!どうなってんだよ!なに?もしかしてここ、あの世?あの世なの?あのとき死んで、地獄で修業してる葉に出会っちゃったてきな?それこそ笑えねえんだよ!」

 

「いや、オイラお前のこと知らねえけど」

 

「あんたのサーヴァント、、、。気の毒ね」

 

「、、、はぁ」

 

「いやー、どーもどーも先輩。あれすか?改がなくなっちゃったから、ちょっと休憩、みたいな?いや、先輩はほんと尊敬してるっすわー。完結しなかったから、無理矢理終わらせないで、未完ってかたちにして、数年後にちゃんと完結させるって。いやでもね?完全版は1冊が高いと思うんですよね。それに完結したのは、完結するまでの物語をやってからって。いやぁ、長かったなぁ。ほんとに長かった。いや、いやいやいや。おらぁ文句を垂れてるわけではないんです。決して!」

 

「オイラ、お前がなにいってるのか、まったくわかんねぇんだけど」

 

「、、、」

 

「葉。あっちとこっちの温度差よ。もう少し話にのってあげなさいよ」

 

「あ?、、、おお。とりあえず自己紹介だな。オイラは麻倉葉。シャーマンだ」

 

「これ以上このssでこういう、メタ発言はやめておこう。なんていうか、こうこの人に言っても、銀魂の流れに持っていけない気がする。そもそも、ギャグ漫画と、バトル漫画は相性悪いんだよ。空気ぶち壊しなんだよ。おい!なに考えてんだよ作者!なんで俺を召喚させた!あぁ?セイバーに相当する剣士で、作者が知ってるのが少なかった?知るかよ!男なんてのはなぁ、どんなやつでもこう、下半身に折れねぇ絶対的な刀が、、、」

 

「てめぇはなんの話をしてんだよ!」

 

「ごばぁ!」

 

「お、おい遠坂、、、いくらなんでもそれは」

 

「いつつ、いきなりなにしやがんだ、セカンドチルドレン」

 

「なによそれ!!わっけわかんない!」

 

「お前そこは、アンタバカァ?だろぉが!そこ、気転まわんねえかなぁ。だからお前は一生ウッカリ女なんだよ」

 

「くっ!!!ガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンド!!!」

 

「痛い痛い痛い痛い!死ぬ!」

 

「ウエッヘッヘ。ところで、あんたの名前は何て言うんだ?」

 

「葉も!あんた、ほんとにユルいわね!」

 

「あー、いてて。、、、俺は」

 

「うん」

 

「坂田銀時。侍だ」



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act.2 さくらグレイル

前回までのあらすじ・・・。

聖杯戦争を終結させたはずの衛宮士郎。彼の右腕には見慣れた印が刻まれていた。

焦りと緊張と、少しの期待の中、あのときと同じ夜に現れたのは、金髪碧眼の少女ではなく、銀髪で死んだ魚の目をした木刀を持つ侍だった。

時を同じくして、赤い悪魔こと遠坂凛も、同じような状況に陥っていた。

地下室の掃除をしていたところ、士郎と同じように令呪が表れていた。彼女の元に現れたのは、便所サンダルをはいた少年。

この状況を打破、いやさ擦り付けるためにも士郎の元へ急ぐ最中、凛は少年の力を目の当たりにする。

魔術師のそれに似た力を持った彼のことを、凛はこう感じた。

霊と踊る少年、と。


「とりあえず、状況を確認しようか」

 

 士郎はこのカオスな状況を打ち砕くべく、言葉を発したが、空を斬ってしまった。

 

 呼び出された自分のサーヴァントは、煎餅をかじりながらテレビを見ているし、遠坂は頭を抱えていて、遠坂のサーヴァントらしき少年は縁側で座ったまま動こうとしない。

 

「お、お前ら・・・」

 

 士郎は握りこぶしを作り、力を込めた。お手本のようなイラつき方である。

 

「俺達がなんでここに呼ばれたのか、っていうのを探さねぇといけねぇんだろ?」

 

 侍、坂田銀時はこちらを振り向かず言った。

 

「俺も、そこのシャーマン先輩も、同じような状況で呼ばれたわけじゃねえ。むしろ無作為に呼ばれたみてぇだな。俺なんか、確変入ったのに・・・。それに誰が新八や神楽を養っていくんだよ!」

 

「銀さんは、養うというか、養われる方だと思うんだけど」

 

「はぁ?!養ってるからね?俺はめっちゃくちゃ養ってると思うよ?足が武器になるお父さんよりも養ってるよ!」

 

 足が武器って・・・。

 

「なるほどな、ありがとう。お前はいいのか?オイラなら伝えられると思うけど・・・。そうか、分かった」

 

 葉が何やらやっている。一人ごと、か?

 

「シャーマン先輩って、人間嫌いだからな」

 

「銀さんは葉のことをよく知ってるみたいだけど、同じ時代から来たのか?それにしては、格好に違和感があるんだけど」

 

 恐る恐る聞いてみることにする。

 

「同じ時代というか、同じ世界(雑誌)から来たみたいなものだからな。とは言え、これ以上やるとグダクダしてくるだろうから、もうやめよう」

 

「??」

 

 士郎の頭にははてなが浮かび続けていた。銀さんのメタ発言に、追い付けていなかった。むしろ、追い付けたらすごい。

 

「とりあえず、葉。何か分かったのか?」

 

 このまま話を続けていても、進まないと思ったのか、士郎は葉に話しかけた。

 

「ん?ああ。この辺の浮遊霊と話したんだが」

 

「ふ、浮遊霊と?!」

 

「おいおい士郎。今からそんなんじゃついていけねぇぜ?YO」

 

 銀さんがあからさまにバカにしたように士郎を煽った。

 

「何が分かったんだ?」

 

 無視した。そして、銀さんのキャラが安定していない。今度マンガを読になおそう。・・・え?

 

 葉は縁側から、離れ居間へと入ってきた。

 

「アイツの情報によると・・・おい、凛」

 

「にゃっ?!」

 

 葉に声をかけられた凛はわざとでないと説明できないような驚き方をして見せた。年を考えて欲しい。

 

「お前大丈夫か?さっきから一言も発してないけど」

 

「大丈夫よ・・・少し疲れただけたから。それで?何が分かったの?」

 

「ん?おお。じゃあ話すぞ?アイツが言うには、オイラたちみたいに呼ばれたやつらは、オイラたちを含めて7人。もうここにいるらしい。中にはバカみたいな力を持ってるヤツがいるみたいだ」

 

「そう。どこにいるかは、わからないの?」

 

「分かるらしいぞ?行くか?」

 

「ええ。というより、もうどこにいるかは、分かってるつもりだけどね」

 

 葉は不思議そうな顔をした。

 

「ん?そりゃあどういうことだ?お前も見えるんか?いや、そうか。パスってやつが繋がってるから、お前にも霊が見えるんだったな。でも、どこにいるかまでは聞いてなかったはずだけど」

 

「私と士郎、この二人がマスターに選ばれた。それに、私は召喚しようとなんて、していない。あなたは、無理矢理召喚されたのよ。ということは」

 

「そうか、前回の聖杯戦争の、マスターか」

 

 凛はそう発した士郎の方を向き、微笑む。しかし士郎は不思議そうな顔をしていた。

 

「だけど、もう、葛木のヤツもいないし、ランサーのマスターだった言峰もいない。今残っているのは、桜とイリヤだけなんじゃ」 

 

「そうね。だけど、前回のキャスターみたいに、英霊がサーヴァントを呼び出している可能性もあるわ。だけど、とりあえず桜とイリヤのところに行きましょう。ここでこうしていても、埒があかないわ」

 

 士郎はそれを聞いて、少し納得したかのような顔になった。

 

「どうだ?話は済んだか?」

 

「ええ、とりあえず、桜のところに向かいましょう」

 

 こんな時間だが、早い方がいい。これが一大事だったとしたら、明日どうなっているか分からない。

 

 そして、銀時を除く三人は腰を上げた。

 

「ちょっと天然パーマ、今の聞いてたでしょ?貴方も行くのよ」

 

「えぇ?」  

 

 銀時はあからさまに嫌そうな顔をして言った。

 

「ちょっと何よ、えぇ?って」

 

「おじさん疲れてんの。週刊の方じゃシリアス続きでストレスがマックスなの。俺にはこの家をまもるという役目がある。だから自宅待機で」

 

 この発言に対し、遠坂が宝石を使って強行に出たことを言っても、誰も疑問を持たないだろう。

 

--------

 

「ここは、どこだ?確か、僕たちは過去に向かっていたはずだ。だが、ここは僕の知っている町とは違う。忍、お前、失敗したな!」

 

「何を言うかお前様よ!儂の時間移動は失敗しておらぬ・・・多分」

 

「何が多分だよ!」

 

 ある邸宅の庭先でアホ毛が目立つ少年と、金髪の幼女が問答を続けていた。少年のアホ毛は、まるで生きているかのように動いている。

 

「時間移動の最中に、横槍が入ってしまったのは、儂のせいではない。時間移動が、次元移動になってしまったようじゃの。かかっ」

 

「かかっ、じゃねえよ!な、なんだよ次元移動って」

 

「何って、言葉通りの意味じゃ。本来儂らは、Aという時間からA-1の時間に到着する予定じゃった。じゃが、その、横槍のせいで、恐らく、Aという世界からBという儂らにはまったく関係のない世界に呼び出されてしまったようじゃのう」

 

「つまり、ドラえもんのもしもボックスを使用したような状況、というわけか。世界そのものが変質した。しかし、なぜそんなことに・・・」

 

「だから言っておろうが、我が主様よ。何者かの横槍(・・・・・・)が入った、と。霊的な、むしろ魔術的な何かじゃろうが」

 

 それを聞いた少年は、頭を抱えてうずくまる。 

 

 幼女は、難しそうな顔をして、腕を組んだ。

 

「そもそもじゃ!溜まりに溜まった夏休みの宿題をどうにかするために、過去へタイムスリップするようなのび太くん的発想自体が、おかしい話なのじゃ!宿題というのは、計画的にやることこそが夏休みの宿題の本質じゃろう!あの委員長や、ツンデレ娘がおったというのに、まったく、我が主様ながら残念じゃ!」

 

「てめぇそれを今更言うのか!?それに、羽川や戦場ヶ原は、貰った教科書はその日の内に読破してしまうタイプだ。恐らく、すでに終わっていたのだろう。というか、まぁ、あの時点で終わっていなかった僕が一方的に悪いのだけれども。・・・あ」

 

 少年は何かに気付いたような素振りを見せた。

 

「ん?どうしたんじゃお前様よ」

 

「世界そのものが変わってしまったんなら、忍、もしかしたら、この世界にはミスタードーナツがないかもしれない」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 忍と呼ばれた金髪の幼女は、少年の目を一点に見つめ、動きを停止した。

 

「お、おい。どうしたんだよ、忍」

 

 停止したまま動かない幼女に、少年は手を差しのべた。そのまま、顔や頭をペタペタと触っているが、幼女は動かない。

 

「かっ、かかっ!!そ、それがどうすたのじゃ我が主様よ。ドーナツ店が無かったからといって、ドーナツそのものが無くなるわけではあるまいて!」

 

「お前、あからさまに動揺するなよ。誤字が変なおじさんみたいに、なってるぞ。しかし、そうか。もし本当に別の世界なら、ドーナツがない世界だって存在するわけだろ?その可能性も、なきにしもあらずなんじゃあ・・・」

 

 それ以上言おうとして、少年は幼女が涙目になっていることに気付いた。

 

「お、おい。別に泣くような事じゃ・・・」

 

「わ、儂は泣いてなどおらぬ!もし仮に、万が一にも泣いているような状況が作り出されたのならば、それはドーナツのためじゃ!馬鹿な我が主様の、身勝手な願いで、ドーナツの存在しないディストピアにやってきてしまったことに対して、涙しているわけではない!」

 

 完全にそれ、じゃねえかよ。そう思った少年だったが、それ以上を言うのを躊躇った。これ以上、この問答を続けていても埒があかないからである。

 

「と、とにかくここがどこで、どうやったら元の世界に帰ることが出来るのかを探すことにしないか?」

 

「そうじゃな、一刻も早くミスタードーナツを探すことにしよう」

 

「いや、違うだろ」

 

 恐らく、この問答は絶対に完結しないと感じた少年だった。

 

 その時。

 

「あ、あの、だ、誰ですか?もしかして、泥棒?」

 

 この邸宅の門が、ゆっくりと開いた。柔らかい物腰をした少女の手によって。

 

----------

 

「いや、本当にすまなかった。君の家の前で、五月蝿くしてしまって」

 

「いえ、それはいいんですけど、あの・・・」

 

 この邸宅の持ち主である少女に、頭を下げる。あの状況から見れば、警察に通報されたとしても文句は言えないだろう。

 

 しかし、それにしても、だ。金髪の幼女を連れた男が自宅の庭先で一悶着起こしていることがすでに、動揺を誘う要因のはずなのだが。

 

「がうっ!ふがっふ!!がぶぁ!」

 

 それ以上の最たる要因が、僕の目の前で今まさに、行われていた。

 

「すまない。あとで弁償する」

 

「いえ、それはいいんですけど、その、箱ごと食べているような。それ以前に、人間のそれとは似つかないような食べっぷりなんですけど」

  

 そこには、ミスタードーナツの箱の中のドーナツを箱ごと食している、元鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼の姿があった。

 

 というか、僕の連れだった。

 

「こらぁっ!!忍!てめぇこの状況よくそんな獣のようにがっつくことが出来るな!時と場所を考えろ、このがっかり吸血鬼!」

 

「ふがっ・・・。ふ、ふふふ。かかっ。かかかっ!どうじゃお前様。この世界には、どうやらミスタードーナツが存在しているようじゃぞ?謝れ、謝れ!存在を否定されたミスタードーナツと、メンタルを傷つけられた儂に謝れ!」

 

「いや、存在を否定したわけじゃあないのだけれども。それに忍、お前、自分でメンタルを傷つけられたとか言ってて、悲しくならないのか」

 

「儂の前にミスタードーナツ、もといドーナツがある。それこそが心理であり真実じゃ。それ以外は偽りじゃ」

 

「その理屈は、お前自身を否定しているのと同義なんじゃあないのか?」

 

「あ、あの・・・」

 

 がっかり吸血鬼と言い合っていることに集中しすぎて、この状況をすっかり忘れていた。というか、それでいいわけないだろう。

 

「す、すまない。えっと、君は・・・」

 

「桜、間桐桜です。その、あなた方は」

 

 動揺しまくりの、彼女が勇気を出して訪ねてくれた。それに対し、僕らも誠心誠意をもって答えるとしよう。

 

「僕は阿良々木暦。こっちの獣みたいな幼女は、忍野忍」

 

「阿良々木さんに、忍ちゃん、ですね。どうしてうちの庭にいたんですか?」

 

「いや、それは・・・」

 

 過去へタイムスリップして、夏休みの宿題を片付けようとしたはずが、何故か時間移動ではなく、次元移動をしてしまったため、過去ではなく、別の世界に来てしまった、とは、口が裂けても言えないだろう。というか、言ったところでどうにかなるとは思えない。桜ちゃんを混乱させるだけだ。

 

「過去へタイムスリップして、夏休みの宿題を片付けようとしたはずが、何故か時間移動ではなく、次元移動をしてしまったため、過去ではなく、別の世界に来てしまったのじゃよ」

 

 言った!この吸血鬼言った!一言一句間違えずに述べやがった!

 

「えっと・・・・・・??」

 

 ほらみろ!案の定クエスチョンマークが浮かべられているだろうが!

 

「ごめん桜ちゃん!こら忍!何でオブラートにも包まずに言いやがるんだ!お前、そこまで正直者だったか!?」

 

「何を言うか我が主様よ。ここまで込み入った状況になっておるのに、作り話をして逃れようとしても無駄じゃろう。であれば、正直に言った方がよかろうて。それにこの娘に嘘はつけん。何せ、儂を救ってくれた女神様じゃからの」

 

「えっと・・・ありがとう?」

 

 何に感謝されているのか分かっていない顔だ。

 

「言うなれば、砂漠を放浪中に現れたオアシス。しかし、出会うべくして出会ったのであれば、これは運命!さしずめ織姫と彦星!まぁこの場合、儂が天の川をバタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、自由形で泳ぐわけなのじゃが・・・」

 

「個人メドレーかよ・・・」

 

「ふふっ。ふふふ」

 

 桜ちゃんが、笑った。先程まで、困惑の色を見せていたが。

 

「あ、ご、ごめんなさい!その、お二人のやり取りが面白くて、つい」

 

「あはは・・・」

 

 僕も笑うしかなかった。

 

 こうやって桜ちゃんの家にあげてもらっても、僕たちの状況は、変わることはないからだ。

 

 そう思っていると、桜ちゃんが何故か手の甲を見せてきた。

 

「これは・・・」

 

 僕は手の甲を凝視した。そこには、奇妙な刺青が施されていたのである。

 

「何かの、契約印じゃな?」

 

 忍は、いつの間にかその手の甲が見える位置まで移動していた。

 

「契約?ただの刺青じゃないのか?いや、でも桜ちゃんみたいな子が、刺青を彫るようには見えないし」

 

「これは令呪と言うんですけど、えっと、あなた方はサーヴァントなんじゃあないですか?」

 

「サーヴァント?」

 

「はい。ここに戻る少し前に表れたんです。もしかしたらと思って急いで帰ってきたら、あなた方がいて。さっきここにいた理由を聞いたのも、そうじゃないかと思って、なんですけど、タイムスリップ?」

 

 ちょっと待て、令呪?サーヴァント?いったいそれはなんだ?

 

 今度は僕が困惑していると、忍が口を開いた。

 

「なるほど、主様のとは違う霊的な繋がりがあるとは思っておったが、その手の甲のものはそういう意味合いがあったわけか」

 

「ちょっ、お前、忍。何一人で解決しているんだよ。僕にも分かるように説明しろ」

 

「えっと、聖杯戦争については、ご存じないのですか?」

 

 今度は桜ちゃんが口を開いた。

 

「聖杯戦争?はじめて聞いたが、それは、いったい」

 

「とっても、イレギュラーみたいですね。まぁまた聖杯戦争が起きようとしていること自体がイレギュラーなのか」

 

「どうやら、大変なことに巻き込まれてしまったみたいじゃの」

 

 忍は神妙な面持ちでそう言ったが、口の回りはドーナツのカスでいっぱいだった。

 

 台無しだった。

 

 本当に、怪異の王とか、名乗るのをやめたほうがいいのではないだろうか。

 

----------

 

 聖杯戦争。聖杯から選ばれた7人の英霊が、それぞれマスターとともに、己の願いのために雌雄を決する、戦争だ。

 

 その戦場に選ばれたのがここ、冬木市、らしい。

 

 冬木市。聞いたことのない名前だ。どうやら本当に別の世界に来たようだ。いや、僕が知らないだけなのかもしらないけれど。

 

「つまり、僕たちは君に呼ばれた、ということなのか?」

 

「いえ、今回私は召喚を行っていません」

 

「行っていない?忍が言っていた何者かってのは、マスターらしい君だと思ったんだけど。今の話を聞いた限りでは」

 

「さっきも言った通り、聖杯戦争は終結しているんです。サーヴァントの一人が聖杯を破壊したことによって」

 

 僕は桜ちゃんが注いでくれた紅茶を啜った。仄かな甘味が口の中一杯に広がる。

 

「僕たちを呼んだのは、別の人間?」

 

「はい、恐らくですが」

 

 となると、だ。一度終結した聖杯戦争とやらを、もう一度始めようとしている輩がいる。その人物こそが僕たちをこの世界に呼んだ張本人、というわけか。

 

「忍、僕たちが元の世界に帰るには、あのときと同じ状況を作り出さなきゃいけないんだろ?」

 

「そうじゃな。もしタイムスリップが成功していたとしたら、儂はあの北白蛇神社に溜まった霊力を使って、未来へと帰るつもりじゃった。しかし、あの神社のような霊力の溜まった場所が、そうそうあるとは思えん」

 

 残ったドーナツを幸せそうに頬張りながら続けた。

 

「儂の霊力を溜めるにせよ、何年かかるか。ま、手詰まりじゃな」

 

「そんな、簡単に諦められても困るんだが。・・・桜ちゃん、聖杯戦争で勝ち残ったら、願いが叶うんだろ?」

 

 桜ちゃんは手に持っていたティーカップを置いて、頷いた。そして口を開く。

 

「でも、本当に聖杯戦争が始まったのかは、わかりません。さっきも言ったように、聖杯戦争は一度終結しているんです。こう何度も同じことが続けられては、管理している側も大変でしょうから」

 

 それもそうだ。桜ちゃんが言うには、聖杯戦争の被害は甚大だったらしい。それな何度も行われるとなると、その戦争を管理している側からしたらたまったもんじゃない。だからこその管理者、なのだろうが。

 

 しかし、もしこの戦争が誰かによって引き起こされた現象だったとしたらどうだろう。管理者の手の届かないところ、見えないところで図られていたら?

 

「しかし、この令呪は、あのときのものです。私は兄さんにマスター権を委託しましたが、召喚の際に表れたものと同一のものでしょう」

 

 そう言って、桜ちゃんは何かに気付いたような顔をした。

 

「私に令呪が表れているのだとしたら、もしかして、姉さんや、先輩にも?」

 

「どうしたんだ?」

 

「いえ。とりあえず話し合える人の所に行きましょう。こんな時間ですが、善は急げ、です」

 

 桜ちゃんは笑顔で僕にそう言った。

 

 時計を見れば、もう10時を回っていた。

 

「そう言えば忍、僕たちは異世界に来たんだよな?」

 

「何度も言っておるじゃろう。その通りじゃ。それがどうした?」  

 

「異世界って聞いて想像するのは、ドラゴンがいたり、魔法使いがいたり、こう、RPGの世界を思い浮かべるんだが。ここはまるっきり、僕のいた世界にそっくりだ」

 

 モンスターハンターとか、ドラクエとか、そういう世界観のある所に来ていたとしたら、ここは異世界だと納得できたんだが。

 

「ドーナツもあるしの」

 

「それは置いておけ」

 

「何を言っておるのじゃ、我が主様よ!よいか!?ミスタードーナツ、いや、ドーナツがあるということは、この世界の人間も捨てたものではないと、そう言えるのじゃぞ?」

 

「言えねぇよ。どんなにディストピアでも、ドーナツがあったら、そこはユートピアだと言っているようなものだぞ?」

 

「フリーザがドーナツの発案者だったとしたら、儂はフリーザの味方をするね。悟空に、クリリンはドーナツのために犠牲になったんだ、と言い放つね」

 

「まぁ確かにお前は、悪役だよな」

 

 どんだけ世俗にまみれてるんだよ。怪異の王がフリーザとか言ってんじゃねえよ。

 

 がちゃり。

 

 僕の後ろにある扉が開いた。確か、兄がいるとかいっていたが、そいつか?

 

 予想通り、その開けた扉から顔を出したのは、パーマがかった髪の毛をしている少年だった。ワカメみたいな髪形と言えば分かりやすいだろうか?

 

「うわぁっ!?な、なんだよコイツら!お、おい桜ぁ!誰が家に人を上げて良いと言ったんだよ!?」

 

「ごめんなさい、兄さん」

 

 桜ちゃんの兄らしき少年は、桜ちゃんに一方的に文句を述べた。

 

「お前ら、ここに何しに来た!」

 

「いや、道に迷っていたところを助けてもらったんだ。悪いのは僕らだ。桜ちゃんを怒らないであげてくれないか?」

 

「お前らが悪いのは当たり前だろ?!勝手に僕の家に人を上げた桜も悪いんだよ!部外者は口を挟むな!」

 

 この男は、いちいち癇に障るな。

 

 怒りが込み上げてきたが、桜ちゃんのためにここは押さえた。

 

「まったくこの役立たずが。それより、僕が買ってこいといったドーナツはどこだよ」

 

「え、それは、あそこに・・・」

 

 桜ちゃんは恐る恐る忍のほうに目線を向けた。少年も、それにつられるように目線を向ける。

 

「お前、このガキ!僕のドーナツを食べたな?!くそっ!どいつもこいつも!出ていけ!今すぐ!」

 

 少年は忍がドーナツを食べていることに気が付いたようだった。怒号を撒き散らすが、忍は黙々とドーナツを食べ続けている。というか、どれだけドーナツがあったんだ?さっきからずっと食べてるぞ?

 

「おい聞いてるのかよ、このガキ!てめぇ、ガキだからって容赦しないからな!?この・・・」

 

 少年は忍に近寄ろうとした。

 

 僕は口よりも先に、体が動いていた。

 

「うぐっ!?か、かはっ!?」

 

 僕は少年の首を掴み、壁に叩きつけた。我ながら凄いことをしたと思う。初対面の相手にこれほどのことを為すとは。そのくらい、この男は癇に障っていた。

 

「お前、次に忍に近付こうとしてみろ。殺すぞ」

 

 恐らく、僕が会ってきた中で一番ムカつくやつだ。賭けてもいい。

 

「桜ちゃんのアニキだかなんだか知らないが、アニキは妹を守るものだろ?命を懸けて。その妹に役立たずだと?ドーナツは忍が食べちまったかもしれないが、頼んだのはお前なんだろ?まず、口から出さなきゃいけない言葉は、感謝の言葉だろうが」

 

 掴んでいる手に力を込める。

 

「かっ、かはっ・・・」

 

「止めてください!阿良々木さん!」

 

 桜ちゃんの言葉に我に帰り、掴んでいた手を話した。少年は苦しそうに首を押さえながら、嗚咽していた。

 

「やれやれ・・・」

 

 忍は困った顔を僕の方に向けた。

 

「な、何なんだよ、お前たち!け、警察呼ぶぞ、この!」

 

 僕は、そう言う少年を睨む。

 

「っひい!?」

 

 少年は一目散に自分が元居たであろう場所に帰っていった。逃げ帰った。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 辺りが沈黙する。押さえつけていたのに、失敗した。桜ちゃんに、迷惑をかけてしまった。

 

「お前様よ、あの男とこの娘を、自分と巨大な妹御と極小の妹御とを重ねておったな?」

 

 そんな沈黙を破るように、忍が口を開いた。

 

「阿良々木さんにも、兄弟が居るんですか?」

 

「・・・あぁ、妹が二人。うるさい奴らだよ。だけど、僕はアイツみたいに、悪意を撒き散らしたりはしない。命を懸けて」

 

「でも、ありがとうございました、阿良々木さん。私を庇って下さって」

 

「いや、僕は何も」

 

「いやよくやったぞ?お前様。儂もあの男の言葉に飽き飽きしていたところじゃった。お前様がもう少し遅ければ、儂が殺していたかもしれんの」

 

「ははっ・・・」

 

 他人から殺す、と言われると、自分がどれ程重いことを言ったのか、思い知らされた。

 

「しかしあれじゃの。お前様とあの男の声、そっくりじゃったの?」

 

「そうですね。私も会ってからずっと思ってましたが、二人で話していたのを聞いて、更にそう思いました」

 

「そうか?自分じゃあ分からないのだけれど」

 

 そう言うと、桜ちゃんは笑った。

 

 よかった、笑顔になってくれた。

 

 僕もつられて笑顔になった。

 

「なんじゃ?気持ち悪いのぅ、お前様よ」

 

「うるせぇよがっかり吸血鬼」

 

「な、なにおう!?」

 

「と、とにかく!今はこの状況を話し合うために、私の知り合いのお家に行きましょう」

 

 そう言って、桜ちゃんは電話をしに、部屋をでていった。

 

「・・・さて、どうする忍」

 

「そうじゃな。結論からいえば、どうしようもない。儂らに出来ることは限られている。無いに等しいがな」

 

「今は、桜ちゃんのやることに従っておくか。それに、戦争、か。もしかして、戦うようなことがあるのか?」

 

「さあな。戦争と言われているだけある。戦闘は避けられんじゃろうな。しかし、英霊、か。なるほど、少しばかり、心踊るの」

 

 ワクワクしてるんじゃねぇよ。

 

 阿良々木暦は、見えないように、小さくため息をついた。

 

----------

 

 真っ黒の空間に、椅子が一つ。

 

 そこに座っているのは、スキンヘッドで、色黒の、老人。

 

 彼は奇妙な形の剣を床に突きながら、座って、一点を見つめている。

 

「世界には光と闇が必要だ。光あるところには闇があり、闇があるところにもやはり光はある。ふむ。この戦争も、ワシが求める『戦争』への礎となってくれるのだろうかのう?」

 

 老人は不敵に笑う。

 

「ここに呼び出されたのは行幸じゃった。やつと、体を懸けて争うのにも、些か飽き飽きしていたところじゃった」

 

 支えにしていた剣を、振り上げる。

 

「心を解放する剣よ、ワシは願う。あの戦争の再現を」

 

 



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act.3 狂った王

「なぁ、忍。お前、この状況どんなもんか理解してるか?」

 

「しているといえばしておる」

 

「だったらなんで少年漫画の主人公がこんなところにいるんだ?!」

 

 桜ちゃんの友人であるところの士郎くんたちが桜ちゃんの家へと向かう直前にした桜ちゃんの電話で、士郎くんの家に集合することになった僕たちなのだが、僕こと阿良々木暦は、さすがにそれはないだろう、というような状況に陥っていたのであった。

 

 その疑問を忍に小声で叩きつけた。

 

 目の前で鼻をほじっている銀髪の男は坂田銀時。週刊少年ジャンプにおいて連載されている銀魂という漫画の主人公である。その隣にいるのも、同じくシャーマンキングと言われる漫画の主人公であり、名前を麻倉葉という。

 

 パラレルワールド理論ならば理解できる。しかしこれはそもそもの前提が違う。他人が想像、いやさ創造したものが世界として成り立つのか?それならばパラレルワールドとは無限に存在するものとなる。いや、パラレルワールドっていうのはそういうものか。

 

「え、っとー。アンタ、俺たちのこと知ってるのか?もしかして、同じ穴の狢ってやつ?」

 

「は?」

 

 銀時が口を開いた。

 

「もしかして、新連載の方?」

 

「理解している!?」

 

 この男は、自分が漫画のキャラクターであることを、理解している!まあそもそも、銀魂という漫画はそういうギャグ漫画なのだから、多少の勝手は許されるのだろうが・・・。それにしても。

 

「あ?」

 

「い、いや、僕たちはそういう類いの人間ではないよ。ただ、はたから見たら、バトル漫画のように見えるのだろうけれども」

 

「じゃあ他誌か!?」

 

「現実で異次元話さないで!」

 

 それにしてもこの男は、奔放すぎる。暗黙というか、なんというか。そういうもので成り立てて行けばいいだろ!それがなんでジャンプとかサンデーの話になってるの!?

 

 まぁ、実際の話、彼の物語も某週刊少年誌で連載されているのだけれど。天の声でした。

 

「とにかく、自己紹介をしないか?桜ちゃん。せっかくみんなが顔を合わせられたんだから」

 

「そうですね、私は間桐桜。えーっと、そちらが銀時さんで、そちらが葉ですね。よろしくお願いします」

 

 桜ちゃんは二人に丁寧に挨拶した。しかし、二人ともユルい感じは抜けず、なんというか、抜けた空気を産み出されていた。

 

「おう」

 

「よろしくなー」

 

 ユルい。ユルすぎる。

 

「はぁ。とりあえず、状況確認をしましょう」

 

 桜ちゃんのお姉さんであるところの、凛ちゃんがその場を仕切り直した。

 

「でもよかったわ、桜たちが電話をかけてくれて。私たち貴方の家へ向かうところだったもの」

 

 凛ちゃんは少しだけ嫌そうな顔をした。ま、少しだけ理由は分かるつもりだ。あの兄貴のことなのは、言わずもがなということだろう。

 

「状況から鑑みるに、聖杯戦争が再現されている、ということでしょう」

 

「サーヴァントが召喚されて、令呪まで顕れた。そういうことになるな」

 

 桜ちゃんや凛ちゃんの友達である士郎くんが、凛ちゃんの意見を肯定した。しかし。

 

「オイラはそうじゃないと思うけどなぁ」

 

 葉くんが、その意見を否定したのである。

 

「どういうこと?」

 

「さっきあの廃墟に行ったときに言ったろ?浮遊霊が身を狭くするような思いをしてたってさ。前回までは、聖杯ってのがあったんだろ?でも今回は違うらしいぞ。確かに変な力が漂ってるらしいけど、それほどじゃない。つまり」

 

「聖杯が顕現していない?」

 

 葉くんの意見は、凛ちゃんの眉をひそめさせた。

 

「確かにな」

 

「うおっ!?忍!いきなり現れるなよ!」

 

 忍が僕の影から急に現れた。ここに到着するまで、傍観を続けると言っていたのに。

 

「影から現れるとか、やっぱりバトル漫画じゃねえか」

 

 銀さんが鼻をほじりながら言った。

 

「貴方・・・、どんな魔術よ、それ。使い魔?」

 

「おい小娘、儂を使い魔呼ばわりするとは。よいか!儂は鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼の成れの果て。怪異の王にして最強の怪異!忍野忍にゃ!」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 その場にいる全員があっけにとられた。小鳥のさえずりが聞こえたかもしれない。

 

 噛んだ。こいつ噛んだ。

 

「・・・・っ!!」

 

 忍は目を潤ませている。そして、ゆっくりと僕の影の中に帰ろうとしていた。

 

「き、吸血鬼ね!そう!すごい!さすがね!その小さなからだから溢れ出ている風格が、そういわざるを得ない空気をう、産み出しているわね!」

 

 やめて!忍を無理やり煽てないで!逆にコイツの自尊心を・・・!!

 

「ふ、ふふん!そうじゃろうそうじゃろう!我が力にひれ伏せ人間ども!」

 

「ノリノリだったー!!」

 

 じゃなくて。閑話休題!

 

「と、とにかくじゃ!クリスマスの妖精が使っていたような杯があるのならば、それ相応の力がこの場に溢れ出ているじゃろう。しかし、そのような感覚はない。そんな力があれば、儂らも元の世界に戻れる」

 

「キリストをクリスマスの妖精と呼ぶな吸血鬼」

 

「じゃあ、貴方たちがここに呼ばれた理由は?」

 

 スルーかよ。

 

「我が従僕には言ったが、何者かの力が作用しておる。そこのシャーマン小僧が言う変な力というのは、その何者かの力じゃろう。相当の使い手じゃろうな」

 

『その何者かが話しかけてもよいかな?』

 

 瞬間、どこかから声が響いた。というよりも、頭に直接話しかけてきたような。

 

「誰?!」

 

『外に出て来てくれないか?今宵は月が綺麗だ』

 

 誰よりもいち早く動いたのは、銀さんだった。木刀を携え、縁側から外に飛び出していった。

 

「ちょっ!?待ちなさい銀時!」

 

 その後に続いたのは葉くんだった。僕らもその後に続く。

 

 外に出ていくと、この大きな屋敷の塀の上に、男が浮いていた。

 

「そんな死臭を漂わせやがって、誰だてめぇこのハゲ親父」

 

 銀さんは木刀を肩に添えながら、鋭い眼光をその男に向けていた。

 

「あなたは、誰?」

 

「フム」

 

 男はゆっくりと地面へと降り立った。

 

「そうだな。私は、ゼアノート。そこの吸血鬼の言う通り、私が君たちをここへと誘った」

 

「お前様よ」

 

「どうした忍」

 

 忍は、ゼアノートと名乗った男を睨み付けながら僕に話しかけてきた。表情から察するに・・・。

 

「用心しておけ。あれは、闇だ」

 

 僕は忍からゼアノートに目を向け直し、ゆっくりと頷いた。

 

「この地に残っていた聖なる杯の残滓を流用し、この戦争の場を作った。見せてもらったよ。彼女の記憶をね。故に、準えた。セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、そしてバーサーカー。その特性を持ちながら、鍵の剣を持ちうる可能性を持つ勇者をね」

 

「待て、彼女だと?」

 

 士郎くんが、ゼアノートに向け言う。

 

「そう。彼女だ」

 

 刹那、ゼアノートの背後から黒い衝撃波が飛んできた。

 

「阿弥陀丸!」

 

『応!』

 

 葉くんは、その衝撃波の目の前に立ちはだかり、小さな剣と刀を取り出した。

 

「阿弥陀丸、イン、フツノミタマノツルギ、イン春雨!オーバーソウル!白鶴!無無明亦無!」

 

 白い鎧?いや、白鳥の羽のようなものが、彼の身を覆った。そして、その衝撃波を打ち消したのである。

 

「やっぱり、魔力も霊力もおんなじみたいだな。この力で打ち消せた」

 

「ほう。やるね、霊媒師」

 

 ゼアノートは不適な笑みを浮かべた。

 

 その衝撃波がやって来たであろう、黒い空間から重々しい音を立てながら、それは現れた。

 

「そ、んな」

 

 士郎くんは驚愕の表情を浮かべた。凛ちゃんも桜ちゃんも同様である。

 

「セイバー!」

 

 士郎くんの叫びにも似た咆哮が辺りに響いた。

 

 

「セイバー!」

 

「こちらの世界の魔法に準えてね、狂化というのを施させてもらった。そちらの声は聞こえない」

 

 黒い空間から現れたのは、黒い騎士。病的に白い肌や、醸し出している雰囲気は、絶望と言わざるを得ないものに他ならなかった。

 

「少し、心を解放してあげたがね」

 

「セイバー!」

 

 士郎くんは、走り出していた。先程話していた、彼の知っているセイバーなのだろう。しかし、そのセイバーは向かってくる対象を撃つ機械と化していた。

 

「だめ!士郎!」

 

 セイバーは黒く染まった剣を構え、士郎くんに突進した。

 

「トレース、オン!」

 

 士郎くんは、どこからか双剣を取り出した。それで迎え撃つつもりなのだろう。

 

「まずいぞ、あの小僧」

 

「え?」

 

 状況に呆気にとられていた僕は、忍の声で現実に引き戻された。

 

「相手の殺気を計れておらん」

 

「そんな!?逃げろ!士郎くん!」

 

 僕はたまらず叫んだが、その声は届かない。その時、隣にいた銀さんがものすごい跳躍で、駆け抜けていった。

 

 そしてそのまま士郎くんを突飛ばし、セイバーの一撃を、自らの木刀で受け止める。

 

 ガキィィィンッッッ!!

 

 風圧。もとい、剣圧が僕らの方まで届いた。

 

「ひでぇ挨拶の仕方だなぁおい。そんな殺気をだだ漏れにして、素人に向ける態度かよ」

 

 銀さんはセイバーに話しかけるが、その声は届かない。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

 セイバーが活をいれ、無理やり銀さんを吹き飛ばした。

 

「ぐあっっ!!」

 

「銀さん!」

 

 銀さんを吹き飛ばしたセイバーは、視線を士郎くんの方へと向ける。そして、そこから跳躍し剣を振りかざした。

 

『まずいでござる!葉殿!』

 

「分かってる!」

 

 葉くんはすぐに向かおうとしたが、その足を止めた。

 

「・・・・・あぁ」

 

 振りかざした剣が、士郎くんの眼前で止まったのだ。

 

「セイ、バー」

 

「し、ろう」

 

「フム」

 

 安堵するのもつかの間、動きの止まったセイバーの背後に、ゼアノートが接近していた。そして、右手に奇妙な剣を出現させた。

 

 奇妙な。まるで、鍵のような形。酷く歪で、禍々しい形だが、それが鍵であるとわかる。それを、セイバーの背後から心臓に向けて突き刺した。

 

「あぁぁあああぁぁあ!!!」

 

 すると、セイバーは急に苦しみだした。

 

「英霊というのは、酷く扱いづらい。キーブレードでも開ききれない強い心。確立された精神。光。ふむ」

 

 苦しみ、もがいたのち、セイバーは倒れた。そして、その後ゼアノートが産み出した黒い空間に引きずりまれていく。

 

「セイバー!」

 

 士郎くんはセイバーの手を掴んだ。しかしセイバーはその空間に飲み込まれていく。

 

「無駄だよ贋作者。君の力では、かの騎士王を救えない。君は、勇者ではない」

 

「お前様!!」

 

 忍が口から取り出したであろう刀の刀身を、僕に渡した。僕は考える間もなく、それをゼアノートへと、投擲した。

 

 ゼアノートは、キーブレードと呼んだ剣でそれを打ち落とそうとしたが、それは叶わなかった。剣は粘土のように切断されたからである。

 

 あの刀は、忍を怪異殺しとする所以でもある刀。妖刀、心渡。怪異の類いにのみ傷をつけることができる刀の、模造品である。

 

 心渡は、キーブレードを消し去り、ゼアノートの腹部を突き刺した。

 

「かっ・・・!!」

 

 ゼアノートはよろめく。効いている。つまり、その類いだ。

 

「数合わせで呼んだイレギュラーが、なかなかに!」

 

 ゼアノートは苦しみながらも、心渡を腹部から抜き、それを忌々しそうに投げ捨てた。

 

「貴様、その刃にあてられ、傷がつくということは、ただの人間ではないな。妖怪?いや、死霊の類いか」

 

「私が死霊だと?笑わせるな吸血鬼。私は、ゼアノートだ」

 

 苦しみの消えない表情のまま、黒い空間を作り出したゼアノート。ゆっくりと後ろを向き、そこへと進んでいく。

 

「せいぜい足掻け、各世界の勇者たちよ。そして再現せよ、戦争を。キーブレードの勇者に選ばれ、そして、我が悲願を達成させよ」

 

 背中を見せたまま、首だけをこちらに向け、ゼアノートはそう言い放った。そのまま、黒い闇の中へと消えていった。

 

 綺麗な月が見える夜空の下で、そこにいる者たちは、ただ、呆然と立ち尽くすのみであった。



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