風紀委員長一誠くんと幼馴染み朱乃ちゃん (超人類DX)
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たった一人の風紀委員長
風紀委員長・兵藤一誠


再構成しました。
色々とごめんなさいです。


 駒王学園・風紀委員会。

 

 

 数年前までは委員数100人を越えた一大組織だったが、約二年前から生徒会が完全に学園を取り仕切る組織へと成り上がってしまい、現在では『風紀委員? なにそれ、この学校にあったっけ?』と一般生徒に言われるくらいに衰退してしまった。

 そのせいで、去年から共学へとシフトした駒王学園の風紀は乱れに乱れており、とある男子生徒は平然とこの学舎に如何わしい映像ディスクを持ち込むは、女子更衣室を覗こうとするわで、時代はまさに風紀世紀末となっていた。

 

 

 だが、そんな衰退しきった風紀委員会に一人の男が舞い降りた。

 風紀を取り締まるというよりは、取り締まられる側じゃねーかとブーイングを生徒達(特に女子達から)に受けながら堂々と就任した男……。

 その名も……。

 

 

「はいストップなさい。風紀委員会主催のボディチェックでーす。

男子はそのまま行って結構だが、女の子達は此処に一列で並んでくださーい」

 

 

 おっぱい馬鹿と言われるアホ……兵藤一誠だった。

 とにかく胸。女性特有のあの母性さえあれば何でも良いと豪語しちゃう、最低極まりないこの男は今日も先代が卒業して一人になってしまった風紀委員を盛り上げる為にボディチェックと評したセクハラを行おうと鼻息荒く正門を陣取っていた。

 

 

「時間が押してケツカッチンなので、皆さんのご協力お願いしまーす」

 

「何がボディチェックよ! それに託つけてセクハラするだけじゃない!! 絶対嫌っ!!」

 

『そーよそーよ!!』

 

「セクハラじゃありまへん。ちゃんとした検査です。

もしかしたら事故でパイタッチしちゃうかもしれないだけでーす。

拒否権なんてありませんので早く一人目……そこのショートカットの子からどうぞ~」

 

 

 正門の門を人一人分しか通れないように閉め、僅かに開いている所を一誠が通せんぼしているせいで、多数の生徒達が通れないでおり、その元凶である風紀委員長に出るわ出るわのブーイング。

 しかし一誠は至って平静のまま、自分から見て一番手前から罵倒の言葉をぶつけていたショートカットの女子生徒にニヤニヤしながら手招きをする。

 

 

「ふざけるな! 死ね!!」

 

「いてっ!?」

 

 

 が、当然風紀委員の癖にドスケベなこの男に触らせる身体なんぞ無いとショートカットの女子生徒は持っていた鞄を顔面に投げ付け、それをゴングに次々と他の女子生徒達が鞄だの石だのをバランスを崩して尻餅を付いた一誠に投げ付ける。

 

 

「いてっ!? ちょ……まっ!? 石はやめろ!」

 

「今よ皆!!」

 

 

 油断しきってたせいで、何時もならひょいひょいと避けられる筈の飛び道具を全身で堪能する羽目になった一誠。

 当然ボディチェックと称した下心を満たせる事は無くなり、ボコボコにされたまま地面に転がされて放置されたまま、生徒達は門を開けて中へと入っていく。

 

 

「く、くそぅ……誰だよ石投げたの……」

 

 

 目論見が失敗し、最初に鞄を投げ付けられて痛む鼻を擦りつつ、土の付いた制服を手で払いながらブツクサと文句を言う一誠を誰も気遣おうとはしない。

 それは勿論、ド変態が故の友達の少なさが原因なのは謂うまでも無いのだが、こうまで欲望に素直だと一部の男子から羨望の眼差しで見られる事もあるようで無い。

 男子は男子で、このドストレートに女子に対する欲望を見せる姿に感心こそすれど、彼の立ち位置が実に気にくわない訳で、セクハラをしてボコボコに返り討ちにされた一誠を見ても、正直『ざまぁ!』と思う割合の方が大きかったりする。

 

 

「ちっきしょーめ。

ちょっと触るくらいさせてくれても良いのに……ケチな奴等が……!」

 

 

 ブツブツと自分の行いを棚に上げた発言をしながら、今日も収穫も無しと肩をがっくり落とした一誠は、これ以上此処にいても仕方ないと気落ちした気持ちで教室に戻ろうと歩きだそうとした所で……本日二回目の顰蹙を買う出来事が巻き起こった。

 

 

「おはようございます一誠くん。

今日も朝からお馬鹿な事をしてるみたいで」

 

「あぁ、あんだよ……!?」

 

 

 あのショートカットの女め、今度松田と元浜と組んで凄い仕返しをしてやる……! 等と反省の色無しに復讐しようと考えながら正門を潜った時だった。

 そんなアホな事を考えてるせいですっかり周りに気付いて無かった一誠の後ろから呼び止める声に、ボロボロにされてちょっと不機嫌だったのか、ついつい態度の悪い感じの顔と声で自分を名を呼ぶ誰かに向かった振り向き、そして一瞬で後悔した。

 なんせ其処に居たのは――

 

 

「あらあら、随分とご機嫌ナナメのようですねぇ……『一誠くん?』」

 

「げげっ!?」

 

 

 ニコニコと常人なら一撃で惚れてしまいそうな『良い笑顔』で若干背の高い一誠を見上げるように見つめていた一人の少女に、一誠の下心満載な思考は一気に吹き飛び、まるで化け物と相対してしまいましたと言わんばかりに顔色を青白くさせながらズササーッと後ずさりをする。

 

 

「人から声を掛けられたらそんなお返事を、しかも私にするだなんて……ふふふ、何か嫌な事でもあったのかしら?」

 

「い、いや……あの、その……」

 

 

 死人みたいな顔色をしながら目を泳がせまくる一誠とは真逆に、少女は周囲がため息を漏らしてしまう程の綺麗な笑顔のまま後退する一誠と距離を詰めて行く。

 

 

「ち、違う……あ、アンタの事じゃない……! ちょ、ちょっとしたゴタゴタがあって、い、イライラしてただけで決してアンタにそんな返しをするつもりは無かったつーか……」

 

「へぇ、ゴタゴタ? 私、今来たばかりで一誠くんが何をしたのか見てなかったので、出来たら教えて欲しいですわねぇ? そうすれば納得するかもしれませんし?」

 

「え"?」

 

 

 必死になって言い訳をしようとする一誠に少女が更なる追い討ちを相変わらずの笑顔でする。

 

 

(や、やばい……!

アンタと顔合わせしない為に、早めに来て女子達のボディチェックしようとしてましたなんて言ったら…………)

 

 

 長い黒髪をリボンで一つに縛り、ザ・大和撫子と言われる程の美しい容姿を持つ少女に、女子に対して強気にセクハラを決行しようとする一誠らしからぬ焦り具合を見せながら、笑顔のまま距離を詰めてくるこの少女が納得する言い訳を必死こいて考える。

 が、悲しいかなこの少女の思わぬ出現が、異常で異質な人間ととある人外のお墨付きを貰ってる筈の一誠の思考を混乱させてしまい……。

 

 

「ご、ごめんなさい……風紀委員と託つけて女の子のボディチェックをしようとしたら返り討ちにされました……」

 

 

 嘘を言って後でバレたら拷問される。

 その恐怖と天秤に掛けた結果……一誠は昔から一々煩くて怒ると怖い『幼馴染み』に本当の事を言わざるおえなかった……まる。

 そして当然……。

 

 

「へぇ、毎朝逃げるように一緒に行かなくなった理由がそれですか? へぇ……へ~~~~~~ぇ?」

 

 

 幼馴染みで一誠より一つ年上の少女……姫島朱乃は一切目が笑ってない笑みで、一目散に逃げようとした一誠の手首をガッチリ掴んだ。

 そりゃもう……ミシミシと骨の軋むような音が聞こえちゃうくらいに。

 

 

「ちょっ、ちょっと姫島センパイ? ぼ、僕ちゃんの手首ちゃんが泣いてるんですけどね? ね? 痛いよ!」

 

「姫島センパイだなんでよそよそしい……今までみたいに『朱乃ねーちゃん』と呼んでくださいな?」

 

 

 ほほほ……とお上品な声で笑ってるその下では、今にも一誠の手首を砕かんとする朱乃の手があり、一誠からすれば百パーセント怒ってるのが分かる態度が恐怖心をつつかれて止まない。

 

 

「あっ! また姫島先輩と一緒にいるぞアイツ!」

 

「いやぁぁっ! 手とか繋ぐなんてありえないわ!!」

 

「羨ましいぞ、死ね!!」

 

 

 当然、このやり取りを見ていた他の生徒達は、朝っぱらから学園ナンバーワンド変態の一誠と学園二大お姉様の朱乃がイチャコラしてると思い込み、朱乃では無く一誠に口撃を繰り出す。

 

 

「ば、バッキャロー! この恐怖で青白くなってる俺のクールフェイスを見てわかんねーのかコラ!

どう見ても『今からこの人に処刑される』ってツラしてんだ――いぎゃぁ!?」

 

「あらあら、人様にそんな汚い言葉は『めっ!』ですよ? うふふ……」

 

「あががが!」

 

 

 何も知らない生徒達の想像を真っ向否定しようと吠える一誠だが、まるで犬を調教するかの如く手首を掴んでいた手に力を込めて笑顔で黙らせた朱乃。

 これが一誠が入学した時から定期的に行われるイベントの一つなのは謂うまでも無く、一誠は五体満足で果たして生還出来るのかと不安で不安で仕方がなかった。

 

 

「朱乃。いきなり走るから何事かと思えば……」

 

「あら部長。申し訳ございませんでした」

 

 

 しかし運はまだ一誠を見捨てちゃ居なかった。

 

 

「グ、グレモリー先輩!?」

 

 

 朱乃と同じく、学園二大お姉様の片割れで紅髪と美しい容姿で大人気の少女……リアス・グレモリーと以下その他の出現が、救いの女神ならぬ悪魔の登場で歓喜の表情を浮かべる一誠と見ていた多数の生徒達を大騒ぎさせる。

 

 

「すいません、昔から変わらず手の掛かる子が騒ぎを起こしたみたいで」

 

「みたいね……。おはよう兵藤くん」

 

「っす! いでっ!? は、はよざーっす!」

 

 

 一切手を緩めないまま話をして居る朱乃で察したのか、ちょっと苦笑い気味に一誠に声を掛けるリアスは、内心『前にも怒られてるのに、ある意味大物になりそうねこの子……』と手首をへし折られる勢いで掴まれてバタバタと暴れる一誠に変な評価を下している。

 

 

「い、一誠……その、おはよう……!」

 

 

 そんなリアスの後ろには数人の人影があり、当然の如くリアスや朱乃の同じ『人気者』の称号が似合う容姿を携えている男女。

 その中に一誠と同じ色をした髪を持ち、物凄い特徴的なアホ毛を持つ女の子が、妙に遠慮しがちに目を泳がせ、意を決して挨拶をしていた

 

 

「いててて、くそぅ……」

 

 

 一誠の双子の姉で、リアスが取り仕切る『オカルト研究部』なる部活の部員である兵藤凛が、とても姉弟とは思えないおっかなびっくり態度で挨拶をした。

 しかし、悲しいことに一誠手首が痛くて聞こえてなかったのか、そもそも初めから姉弟仲が良くなかったのか、凛の挨拶を丸無視して手の痕が残る己の手首を気にしていた。

 

 

「う……」

 

 

 兵藤姉弟の仲は絶望的に悪い。

 それも一誠が家出をして独り暮らしをするレベルにでた。

 凛は弟に対して嫌うという事もなく、寧ろ端から見たら『ちょっとだけ危険に感じる』レベルでのブラコンだ。

 しかし一誠は違う。とある事情か一度たりとも凛という存在を――双子の姉というものを信用しかことがないし肉親感情も皆無だった。

 それは、一誠だけが認識し、記憶するトラウマレベルでの昔話があるからなのだが、今その話はしないでおこう。

 

 

「わ、わかってたけど、一誠に無視されるのって辛い……グスッ」

 

「凛先輩……」

 

「元気出しなよ……もしかしたら彼は痛くて聞こえなかったのかもしれないし……」

 

 

 既に泣きそうになってる凛を、白髪の後輩と金髪の同級生が心配そうに駆け寄る。

 搭城小猫と木場祐斗……凛を慕う仲間であり、どちらもリアスや朱乃に退けをとらぬ学園の人気者である。

 ……まあ、祐斗の場合はその整った容姿と性別が男だということで女子達から王子だとか呼ばれ、男子達からはメチャクチャ敵視されていたりするが……それでも人気者は人気者だった。

 

 

「ふふ、あれだけ言ったのに、色々な女の子に発情してたみたいね?」

 

「い、良いだろ別に……! そこまで縛られる云われなんて……あひゅ!?」

 

「「……」」

 

 

 そんな凛達の気持ちは見向きすらしてない一誠はといえば、一々何かやるだけ――主に学園の女子達にちょっかいをかけようとするだけで怒る朱乃に辟易しながら、ちょっとした言い合いをしていた。

 そのやり取りは端から見れば、単なる痴話喧嘩のそれに聞こえなくもなく、聞き耳を立てていた一般生徒達のほぼ全てが、このド変態風紀委員長である一誠を、鈍器で殴らんばかりの眼光で睨んでいた。

 だが、そんな事に気を使う性格でも無く、更に言えば異様なまでににこやか――つまり怒ってる朱乃に何とか一言言い返してやろうと、一誠はよせば良いのに余計な事ばかり言い続ける。

 それこそ悪手であるというのにだ……。

 

 

「ふーん、そんな事を言うのですね?」

 

「え……あ……」

 

 

 気付いた頃には後の祭り。

 朱乃が黒いオーラが幻視する位の殺気を放ち始めてから、今更になって『言いすぎた』と気付いた所で全てが遅い。

 

 

「部長。始業まで10分程ありますので、ちょっとおいとまを……」

 

「あ、うん……行ってらっしゃい」

 

 

 ゾッとすらする低い声と、一誠にとってすればの死刑宣告に、本人は隙を見て逃走を図ろうとする。

 けれどそんな事が今更許される筈も無しに、スタートダッシュをしようと地を蹴りだすその刹那に、朱乃は背を向けていた一誠の制服の襟を無造作に掴む。

 

 

「おごっ!?」

 

 

 掴まれたことにより、思いきり首が締まり、一瞬だけ意識が遠退く一誠は、咳き込みながら恐る恐る背後を窺う。

 

 

「じゃあ、行きましょう……一誠くん?」

 

 

 そこにいるのは……怖い怖い幼馴染み。

 

 

「いやー殺される!! おっぱいハーレム築いて無いのにこ~ろ~さ~れ~る~!!!」

 

 

 だから一誠は余計な事を言いながら叫んだ。離せと。

 その言葉が更に現状を悪化させてるのに気付かずにだ。

 勿論、それを言われて朱乃が離す訳もなく、一誠は死刑執行前の囚人の気分になりながら、人気の少ない旧校舎の空き教室へと連行されるのであった。

 

 

 

 

「いてて……。

本当に手首がイッちまう所だったぜ……」

 

「ふん、スケベな事をやるからだわ」

 

 

 校舎内にまで響き渡る一誠の断末魔だが、旧校舎の空き教室へと連れてこられてからは嘘の様に静かになり、危うく砕かれそうになっま手首に残る痣を見ながらブツクサと言っていると、それまで胡散臭い笑顔だった朱乃の表情は、誰が見ても不機嫌なソレであり、口調も幼い少女の様に拗ねたソレだった。

 

 

「どうせ本気で折ってもすぐ自然治癒するんだし、あんなに騒がなくても良いじゃない」

 

「俺は都合の良いサンドバッグじゃないやい」

 

「ふん……それで?」

 

 

 痣の箇所を擦りながら文句を言ってる一誠をスルーしながら朱乃が拗ねた様子で、何でまたセクハラをしようとしたのかと言及する。

 すると一誠は……まあ、何というか止せば良いのにアホな事を口にする。

 

 

「そんなもん、俺だっていい加減色を知りたいからだよ」

 

 

 『いってー……ヒビとか入ってねーだろうな?』と、不機嫌そうに此方を見ている朱乃の方を見ず答える一誠に、当然彼女はますます面白く無くなる。

 

 

「ふーん? 一誠くんのお好みの条件を全部揃えたのが今目の前に居るのに、そういう事を言っちゃうのね?」

 

「はぁ、お好み?」

 

 

 不機嫌そうに口にしたその言葉に、一誠は此処で初めて片方の眉を吊り上げながら朱乃へと視線を向け……そして鼻で笑う。

 

 

「はん、俺の好みはおっぱいが大きくて優しいグレモリー先輩みたいな人であって、オメーみてーなマウンテンゴリラの皮を被った乱暴女じゃ――」

 

「………………………………………」

 

「あ、はいすいません……チョーシ乗りました。朱乃ねーちゃんは最高です」

 

 

 昔から変に煩くて引っ付いてくる幼馴染みに辛辣な言葉を投げ掛けようとしたが、ビリビリと手から電撃を放出している姿を見て一瞬で意見を変える。

 好き好んでスズメバチの巣をつつく趣味は一誠に無いのだ。

 

 

「ハァ……俺のせいで『そう』なったことに対しては申し訳ないと思うけど、だからって縛られる謂れは無いんだけどな」

 

「縛ってなんか無いわ。『浮気は許さない』という健全な気持ちの上にちゃんと動いているつもりなの。

そもそも、私からは何度も言ってるのに『逃げようと』するアナタが悪い」

 

「…………」

 

 

 まるで当然だとばかりに言い切る朱乃に一誠はしょっぱい表情で閉口してしまう。

 あの、何処から途もなく沸いてきた姉と名乗る凛……そして沸いて出た筈なのに、兄弟なんて存在しなかった筈なのに『自分の子供だと』言い切る両親にある種の恐怖を感じ、幼い頃に逃げ出し、帰る家も無くした時に手を差し伸べてくれた存在……それが朱乃……いや姫島一家だった。

 

 凛という得体の知れない存在を知らなく、兵藤一誠として接してくれた姫島一家が居なければ、今頃自分はどうなってかわかりゃしない。

 だからこそ朱乃の言うことは極力聞いてきた。 

 なのに、いつの日か……『あの日』を境に自分に変化が訪れ、朱乃に対して無責任な事を言ってしまったばかりに、今では自由にセクハラ――もとい恋愛が出来ず、朱乃という幼馴染みに邪魔をされてしまう始末。

 

 いや、正直成長した朱乃は引くほど……母親の姫島朱璃に似た美人にはなったと素直に認めることは出来るし、いっそ彼女の言う通り、素直に喜べる様な関係にでもなれれば一誠も今頃はセクハラド変態野郎と言われなかっただろうが、現実は何処で間違えたのか、若干歪んだ愛情を示してくる怖い幼馴染みなのだ。

 

 現に一誠の質問にアブノーマルな答えを返してから薄く微笑んだ朱乃が恥ずかしげも無く一誠に抱きつき、その豊満な胸を顔面に押し付けながら低い声で言うのだ。

 

 

「……。あの人外さんに取られたくはありませんから」

 

 

 一誠が密かに手にしたこの世に二つと無いある異能力を開花させた人物。

 一誠いわく、実年齢がやばい女で昔朱乃も見たことがある、美少女と言っても差し支えない人外。

 幼い頃一誠に救われた朱乃からすれば、一番に警戒すべき相手。

 それに負けないためにも……朱乃は裏工作混じりで頑張るのだ。

 

 

「ちょっ……苦しい……!」

 

「ふふ、この前また胸が大きくなったのよ? どう?」

 

「す、素直に喜べないんだけど……! てかなんだよ急に……!?」

 

「それは当然、なりふり構わず発情する困った幼馴染みを、私が犠牲になって解消してあげるだけよ?」

 

 

 ド変態と言われるまで自分を追い込んで鍛え抜き、常に限界を越えた成長をする彼をモノにする為に……。

 

 

 

 兵藤一誠

 所属:駒王学園・風紀委員会委員長。

 種族:人間。

 備考:強さ(アブノーマル)弱さ(マイナス)を兼ね備えたハイブリッター

 

 

 姫島朱乃

 所属:駒王学園・オカルト研究部副部長

  裏:グレモリー眷属女王(クイーン)

 備考:雷の巫女。

 

 

 二人の共通点:幼馴染み

 




補足
具体的に変えたいのは、もうちょい幼馴染み同士っぽさをだね……


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幼馴染みの朱乃ちゃん

朱乃さんでは無く朱乃ちゃん……と言われる理由は


 

 

 ド変態と言われてる兵藤一誠は、双子の姉の様に悪魔に転生したという秘密も無ければ、神器を持ってるという事もない。

 しかしながら、リアス・グレモリーは一誠を悪魔に転生させる事が不可能だった。

 単純に駒の数が足りないというのもあるのだが、何よりも兵藤一誠という少年は、種族として純粋な人間であるにも拘わらずその中身にある異常性が人間の枠を外れていた。

 その正体が何なのかは、見ていてもリアスには分からないし、一誠に一番近い場所に居る兵藤凛も一誠に露骨な嫌われ方をしているので分かっておらず、何故か代わりに知ってるといった様子なのが幼馴染みらしい姫島朱乃だった。

 

 

「嫌だね! 部員でもねーのに『雑用』なんざやってられっかよ!」

 

 

 が、リアスの視点から観察してる限りじゃ、朱乃も朱乃で凛とは別の意味で嫌われてるというか、母親に反抗したいお年頃の少年的な意味で逃げられてるというか……。

 

 

「とにかく嫌だ! アンタと一緒に居ると変な誤解されるし、女の子からも更に嫌われるから絶対に嫌だ!!!」

 

「誤解? 何の事だか分からないけど、元々女の子からは嫌われてるから問題なんてないでしょう?」

 

 

 ……。こうして改めて見ると、ちょっと朱乃は一誠に対して異様に執着してる気がする。

 バタバタと暴れて抗議している一誠を捕まえて連れていこうとする光景を見てると、そう思えて仕方なかった。

 いや、別に人の交遊関係にケチはつけないが、だからと言ってほっとく事はリアスには出来なかった。

 

 

「一誠……」

 

 

 というのも、今もこうして『俺は部員じゃなくて、風紀委員長様なんだぞー!!』と、何処かの小物が言うような台詞を喧しく喚きながら旧校舎に設備したリアス率いるオカルト研究部の部室から逃げようと暴れる一誠と、逃がしはせんと後ろから思いきり羽交い締めにする朱乃の子供みたいなやり取りを自分と一緒に少し離れた場所から、本気で羨ましそうに眺めている一人の少女が原因だった。

 

 

「あ、あの一誠……?

その、お菓子を作ってみたんだけど――」

 

「じゃぁかしぃ!! 今忙しいんじゃボケェ!!」

 

 

 一誠の双子の姉……そしてリアスが悪魔として抱える眷属にて兵士の駒を持つ兵藤凛が後ろから思いきり一誠の身体を羽交い締めにしてる朱乃を見ながら物凄く複雑そうに見ているので、リアスとしても放置して眺めるという訳にはいかないのだ。

 何せこの兵藤姉弟の仲は複雑な意味で仲が良くない。

 いや、寧ろ見てるだけだと一方的に一誠が凛と関わろうとしないのだ。

 今も凛が朝早くに頑張って作ったのだろうお菓子を、一誠は全く見ようとせず、罵倒の言葉を浴びせるだけだ。

 

 

「ひぅ!? ご、ごめんなさいぃ……グスッ」

 

 

 ちょっと引くレベルでのブラコンでもある凛にとって何よりも一誠からのこの罵声は辛いものであり、今も彼女の目尻には涙が浮かんでいた。

 しかしそれでも一誠は全く気にしてない。

 泣きたければ勝手にしてろ、俺は関係ないとばかりに朱乃とじゃれついている。

 

 

「何が気に入らないのかしらね……。凛も『自分が悪いから』としか言わないし……」

 

 

 姉弟仲までは深く事情を知らないリアスとしては、何故彼があそこまで拒絶しているのかわからない。

 決して凛も悪い子じゃないはずなのにだ……。

 

 

「だ、大丈夫かい兵藤さん?」

 

「う、うん……」

 

「何であんな煩いだけの人に副部長は構うのですかね……」

 

「………」

 

 

 同じ眷属仲間である祐斗と小猫が、凛を慰めるのを横目に、扉の前では何とか逃げようと歯を食い縛る一誠と朱乃のやり合いが何時まで続くのかと、リアスは小さくため息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 昔、といっても小さい頃の朱乃――ねーちゃんは今よりも大人びてた気がしたのに、ある時から異様にベタベタしてきたというか……。

 まあ、原因は朱乃ねーちゃんの父親であるバラキエルのオッサンが元凶のあの事件のせいだと思う。

 それが原因にだとしても、ねーちゃんの構い方は異常というか……最近ちょっとウザくなってるというか。本人に言ったらシバかれそうだな。

 

 

「そもそも、あの時俺が安易に約束しちゃったからなんだよなぁ……」

 

 

 外灯だけが照らす夜の公園。

 昼間は子連れのヤングな人妻とか、ムチムチしてそうな子連れの熟女のトーク場となっているこの公園も、夜となれば虫の鳴き声だけが聞こえる淋しい空間と化す。

 そんな場所に何故俺が居るのか……? 答えは単純で、さっき言った餓鬼の頃に約束した事を守る為に、そして壁を乗り越えてもの凄く気持ち良くなりたいが為に、こうして身体を鍛えているのさ。

 が、今日はどうにも集中できないっつーか、昔の事を何でか今になって思い出してしまうっつーか。

 

 

「朱乃ねーちゃんはまだバラキエルのオッサンを許しちゃいねーんだよな……」

 

 

 あの自称姉がどうしても受け入れられず、餓鬼の浅知恵で家出した時に偶然厄介になったのが、朱乃ねーちゃんの家だったんだけど、その朱乃ねーちゃんの父親が今言ったバラキエル……人ならざる者・堕天使だ。

 姫島朱璃さんっていうビックリするくらい美人な人間の女性と一緒になり、その間に生まれたのがあの朱乃ねーちゃんな訳だが、どうにもあのバラキエルのおっさんは堕天使の中でもかなり上の存在で、当時おっさんを恨んだりしてる連中も同時にわんさか居た。

 

 俺からしてみれば妻と子供が大好きなってだけの気の良いオッサンにしか見えなかったが、人も堕天使もその他も大なり小なり後ろめたいと思う過去はあるらしく、朱乃ねーちゃんやバラキエルのおっさんや朱漓さんとかなり親しくなった頃に……おっさんが持ってたツケが回ってきた。

 

 

「…………」

 

 

 思い出しただけでおぞましい。

 あの自称姉の影響を受けてない人達との繋がりをやっと得られたってのに、それをぶち壊すかの如く現れた空気を読まれねぇバカ共が、不在だったバラキエルのおっさんの隙を突いて……小いさかった朱乃ねーちゃんと……朱漓さんを――

 

 

「っ……寒いな」

 

 

 何にも知らなかった只の餓鬼……。

 あって無いような力擬きしか無かった俺が、何時ものように遊びに行って見てしまった当時の光景は今でも脳に焼き付いている。

 血の海に沈む朱漓さんと………朱乃ねーちゃんが……。

 

 

「チッ……頭がいてぇ」

 

 

 人が死んでる姿を見たのはアレが初めてだったな。

 何かに背中を貫かれて血塗れで倒れていた朱漓さんとねーちゃん。

 そうだ、ねーちゃんはあの時1度死んでいたんだ……。

 バラキエルのおっさんの不在を狙うしか出来ねぇゴミ共のせいで。

 鮮明すぎて自分の記憶力を今でも呪いたくなる。

 何かの冗談かと思って二人に触れたときの手に伝わる冷たさの全部覚えてる。

 そして、その瞬間抱いた強烈な気持ちも――

 

 

『嫌だ……嫌だ! こんなの認めない……! こんなの……こんな現実……俺は否定してやる……!』

 

 

 怨念にも似た。呪詛にも似た強烈な(マイナス)感情が小さかった俺を支配した。

 

 力が無いから。

 無能だから。

 弱いから。

 

 なにも出来ないから二人は死んだ……そんな現実(イヤナコト)を否定し、俺はこの時初めて自分の幻想(リソウ)とした未来へと書き換え、そして逃げ出した。

 それこそが、後に師匠となるあの人から聞かされ、教えられる事になる能力の片割れで過負荷(マイナス)と呼ばれる力……。

 

 

幻実逃否(リアリティーエスケープ)

 

 

 誰も得をしない、決して幸せになれない。

 それが過負荷(マイナス)と呼ばれる能力(スキル)のカテゴリーらしいが、俺はこれを持ってから1度たりとも自分を不幸だとは思ってない。

 どんな過程であれ、結果的に朱乃ねーちゃんと朱漓さんが死んだ現実を否定し、生きていたって幻想へと行き着けたんだから。

 そして二人が……ねーちゃんが生きてるからこそ、マイナスだからと諦めず過負荷(マイナス)という壁をぶっ壊し、守れる程に強いやつになろうと思えた。

 

 

『決めた。俺、朱乃ねーちゃんをどんな奴からでも守れる男になるぜ!』

 

『本当……? 私とお母さんを守ってくれるの……?』

 

『おう! バラキエルのおっさん以上に強くなって、二人を助けられる奴になるよ!!』

 

 

 

 不安そうに怯える朱乃ねーちゃんを安心させるつもりで、そして無力な自分を変えたくてした約束をしてから、俺は俺の持つ力に詳しい師匠の弟子となり、それこそ死に物狂いで『負ける人生』をねじ曲げる為に小さなことから自分を高めた。

 その結果――

 

 

『あーらこれは予想外。

僕の知ってる限りじゃあ、キミは過負荷か異常のどちらか一つしか得られなかったのに、その両方を獲たんだな……。

いやいや、また一つ可能性の道が開けて僕は満足だ』

 

 

 鍛えて鍛えて鍛え続け、やがてそれすらを快感に感じる様になってきた頃、俺は負ける運命をねじ曲げる力を引きずり出した。

 己の限界値を壊し、無限に進化する俺だけの異常(アブノーマル)……。

 

 

無神臓(インフィニットヒーロー)――なーんて御大層なネームで名付け親には悪いが、自分をヒーローとは思ったことは無いけどね」

 

 

 マイナスとプラス。

 この二つを獲た俺はこの時から師匠がよく言われる人外へと成り果てる。

 人でありながら人でなしと呼ばれたあの領域の入口に、俺は今立っている。

 常に鍛え、壁を乗り越えた時に感じる快楽の為……そして何よりも彼女との約束を果たすため。

 化け物と言われても構わないし、寧ろ上等だ。

 自ら挑んで突き進んだ道に後悔なんてありはしない。

 

 

「やっぱり此処に居たわね一誠くん」

 

「げ……またかよ。此処まで来るとストーカーを疑うぜ?」

 

 

 それが俺の存在意義なんだもの。後悔なんてするわけねぇってんだ。

 ……。ただ、彼女が欲しくて最近頑張ってるのに、どういう訳か邪魔してくるねーちゃん思うところはあったりするし、なーんかあの約束をしてから妙にベタベタしてくるのはちょっと勘弁して欲しいっつーか……美人になったのにやっぱ勿体無いよなぁ。

 

 

 

 姫島朱乃は1度この世を去っている。

 その原因は堕天使の父を恨む暴漢達によるとばっちりであり、母の命が目の前で消えた事が彼女にとっては今でも忘れられないトラウマだった。

 だが、それを救ったのが当時自分より年下の家出少年の一誠だった。

 死んだ筈の自分と母を『死んだ現実を否定して』この世に呼び戻したと聞いた時は、何かと冗談だと思いたかったが、現に自分の目の前で死んだ筈の母親が今も元気でやっているのを見てれば信じるし、何よりもあの時は頼りにもならない少年が、心に傷を負っていた自分を励まし、守ると約束した時に感じた気持ちがそれまで友達としての感情しか無かった朱乃を変えた。

 

 

『はっはっはっ、過負荷(マイナス)であるキミが人を守るか……。

色々と知ってる僕としては、キミの言ってることは実に滑稽だね』

 

『う……そ、それでも約束したんだ!

見てろよ師匠、俺は絶対この気質を塗り替えてやるんだ!!』

 

 

 母と自分の命を救った際に現れた一人の人外に弟子入りし、過負荷(マイナス)という全てに負ける運命を変える為に、それこそ血へどを吐く勢いで自分守ると約束したを少年が、己を追い込む姿に朱乃は惹かれてしまった。

 

 

『へぶ!? い、ててて……』

 

『だ、大丈夫? 血がでてる……』

 

『ぬ……へ、へへん、こんなもんヘーキヘーキ! 心配するなよねーちゃん!』

 

 

 自分は愚か、堕天使である父すら豆粒扱いする人外に何度も叩き潰されては立ち上がり、決してめげずに『自分を絶対守れる男になる』という目標の為にがむしゃらに鍛えてる姿を見て段々と牽かれるなんて、傍から見れば子供故の安易な考えだと失笑するかもしれない。

 何処まで行っても他人でしか無い彼にすがる時点で話にもならないと嘲笑われるだろう。

 

 

『へへ……バラキエルのおっさんには全然敵わなかったぜ……。

あ、あはは……』

 

『なんで……そんな事しなくても、私は一誠くんが居たらそれで良いのに……!』

 

『はは、それだけじゃあまた『あの時』みたいになっちゃうだろう? 俺はそんなの嫌だ。

俺にとって朱璃さんもねーちゃんも初めて出来た大切な人なんだ。

だからあの時みたいに、何も出来なかったなんて事が無いように俺は強くなるんだ……。

へへ……っ!? い、ててて……あ、ちなみにバラキエルおっさんはねーちゃんと朱璃さんの次に大事かもね……おっさんだけどな、にっひひひ!』

 

 

 けれど朱乃はそれでも構わなかった。

 友達もロクに作りもせず、同年代の子供の様な遊びもせず、アホだ馬鹿だとからかわれてても曲がらず、自分を守るという約束の為に高め続ける姿を見て来た以上、朱乃にとっては一誠以外に異性として意識する存在は永遠に無いのだから。

 だからこそ互いに思春期が来る頃まで成長した頃には、自分以外の異性に鼻の下を伸ばし始めるのを見るのがとてつもなく悲しくて苦痛だった。

 

 

「母が今晩の夕飯をうちで取らないかと言ってて……」

 

「なぬ、朱漓さんが!?

なーんだよ、それを早く言ってくれよぉ~! 行く行く、行かない訳が無い! っしゃあ、今行きますよ朱漓すわぁ~ん!!!」

 

「……」

 

 

 一誠はどうやら自分を大事な友達としか思ってない様で、何故か母である朱漓を贔屓するような発言ばかりなのが朱乃は嫌だった。

 

 

「母は一応結婚してるんだけど?」

 

「だから何さ?

俺が餓鬼の頃から全く変わらない処か年々美しさに磨きが掛かってるんだぜ?

それに人妻だなんて背徳的な響きも素晴らしいじゃんか……くふふふ」

 

 

 だから一誠好みの女になろうと努力もしたし、ド変態と呼ばれる行動を起こし始めて女子達から疎んじられ始めた頃はしめしめとも思った。

 鬱陶しいと思われるくらいに常に近くに居るように心掛け、兵藤一誠には姫島朱乃という女が居ると周囲に見せ付けた。

 でも肝心の一誠はこんな態度ばかりで、自分を女として意識している様子が全く見られない。

 

 露骨に抱き着こうが。彼の大好きな胸を押し付けようが。事故を装って風呂場に突撃しようが――――いや、あの時は流石にテンパってたか……と思い返してもそれだけしか異性として意識された描写が無く、自分の母親に興奮している一誠に朱乃は小さく――

 

 

「ばか……」

 

 

 女として見てくれないバカ野郎に対してのせめてもの非難の言葉を背中に向かって送ってから、仕返しだとばかりにその背中に飛び付く。

 

 

「っ……と? いきなり何だよ?」

 

 

 突然背中に掛かる負荷に驚きはしたものの潰されずに踏ん張った一誠が、背中に張り付いて表情が見えない朱乃に抗議の声を挙げる。

 しかし朱乃は答えることはせず、かわりに腕を首に回して離れようとしない。

 

 

「…………」

 

「なんだなんだ? よくわかんねぇけど……まぁ良いや」

 

 

 ぎゅーっと首元に腕を回し、離れようとしないまま黙っている朱乃に首を傾げた一誠は、たまに起こす謎の行動なんて何時もこんなもんかと一人で自己解決し、そのまま彼女の両足を支えておんぶの様に乗せ、歩き出す。

 

 

「学園二大お姉様がおんぶされてるって、何も知らん連中に見られたら石でも投げ付けられそうだぜ……俺が」

 

「………」

 

「まあ、騒いでる連中が知らん様な事を沢山知ってるってのはちょっとだけ優越感はあるが……ふふん」

 

「……………」

 

 

 朱乃を背負って歩く間、ご機嫌取りのつもりで話を振るも何も返さない。

 それはつまり朱乃が怒っているんだと、昔から変わってない一誠だけに向ける意思の表現であり、何を言っても答えてくれない朱乃に一誠はとうとう観念して謝罪する。

 

 

「オーケーオーケー分かった俺が悪かったよ、機嫌直してくれよ朱乃ねーちゃん」

 

 

 これで学園二大お姉様だなんて見てくれで言ってる連中は見る目が無さすぎるぜ……等と内心愚痴りながら謝る一誠に、肩辺りに顔を埋めていた朱乃が小さく呟く。

 

 

「ちゅーしてくれたら許す……」

 

「おいおい、そんな軽い感じでやりたくねーよ」

 

 

 何を言ってるんだこの幼馴染みは……。内心呆れながら嫌だと断る一誠。

 周りには大人の女性に見られてるかもしれないが、一誠はそうは思わない。

 どれだけ大人ぶろうとも、根が繊細で傷付きやすい女の子で自分にとっては初めての大事な人。

 だから表立っては悪態付きまくるが、イザとなれば本気で……それこそ己の命すら投げて守り通す。

 それが彼の朱乃に対する想いだった。

 

 

「……って考えてるからねーちゃんがこうなったんだよな。正直すまん……」

 

「謝る理由が分からないもん」

 

「……ぅ。(やばい、口調が戻ってる……)」

 

 

 しかし、その一誠の想いこそが、朱乃が一誠を縛り付けるように一誠も朱乃自身を縛り付けている。

 大事だから……大切だから守ると無責任な事を言い、自分に執着させてしまったのは紛れもなく一誠のせいだ。

 そのせいで朱乃は母親である朱璃と一誠の二人だけには妙に甘えた……いや幼い頃に性格に退行しましまうのだ。

 

 

「一誠くんのお嫁さんになりたいのに、一誠くんは他の女の子ばっかり……」

 

「あ、いや……あ、ははは……ねーちゃんも俺じゃない誰かと健全な恋愛をすれ――」

 

「イヤ! 一誠くんのお嫁さんになるの!!!」

 

「わ、わかったわかった!!(く、この時のねーちゃんに絶対逆らえないのが悔しい……)」

 

 

 おんぶをしてもらっている一誠の背中に強く抱き着き、普段の彼女が消えてしまったような口調で駄々をこねる朱乃に、一誠は複雑な気持ちにしかならない。

 というか何だお嫁さんって……バラキエルのおっさんにぶっ殺されちゃうやんけ。

 

 背中に抱き着いたまま、落ち着かせる方便で頷いた一誠の言葉が余程嬉しいのか、何時もの『二大お姉様』が嘘のような、ただただ子供のよう純粋な笑顔をニコニコと浮かべてる朱乃に、疎遠ではあるものの娘大好きな彼女の父親に殴り飛ばされる未来が浮かんでしまう。

 

 勿論、何れはバラキエルを越えて見せるつもりではいるが、今の『致命的過ぎる弱点』を克服してない状態では、戦いを挑んでも刹那でデコピンを喰らってやられてしまう。

 だからこそ朱乃との約束の為と平行して普段からトレーニングを積む一誠なのだが、その致命的な弱点はずっと克服てまきないままなのが現状だった。

 

 

「一誠くんのお嫁さん……うふふ♪」

 

「は、ははは……。(お、俺のおっぱいハーレムが時間と共に遠ざかっていくぜ……ちくしょう)」

 

 

 けれど克服しなければならない。

 約束の為に……何より自分が掲げたしょうもない願望の為に。

 悪魔だろうが天使だろうが神だろうと堕天使だろうと、誰もが文句を言えない程に強くなって、2度と朱乃と朱璃が目の前で死んだあの時を再現させない為に。

 改めて決心を固めた一誠は、朱璃が待っているだろう姫島家を目指し、嬉しそうにおんぶをされている朱乃を背負いながら複雑な気分で向かうのだった。




補足

母親が一誠のスキルで生存してる影響により、感情が高ぶると言動が子供みたいになるというのは、再構成前と変わりはございません。

強いて違う所と言うなら、朱乃さんが再構成前より更にグイグイと来る所くらいか……。


その2
何故一誠なこれ程までに逃げようとするのか……。
それは、小さいときに余計な事を言ったせいで彼女を依存させてしまったからが大部分なのと。

約束を果たせるレベルまでまだまだと思っているのが少しと――



「やはりおっぱいハーレムは男の夢っしょ!」


と、思春期に入ってからかなりスケベと化してしまったからですかね


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風紀委員長と双子の姉

双子のおねーちゃん。




 スケベェな一誠には同志が居たりする。

 決して親友では無いし、一緒に帰って買い食いしながら遊ぶ仲にもなってないが、とある一点に於いてのみ立場やその他という壁を取り払って手を取り合う同志が一誠には今のところ二人居た。

 

 

「どうよイッセー隊員。今回は自信あるぜ?」

 

「イッセー隊員のお好みを考慮した選りすぐりのブツ点だぜ」

 

「ほほぅ? 何時に無く強気じゃないか元浜・松田隊員よ……どれどれ」

 

 

 駒王学園二学年の教室のど真ん中。

 座学オンリーで眠気との戦いを乗り越え、憩いの時間であるお昼休みに突入したこの時間に、昼飯も食わずに一誠含めた計三人の男子が机をくっつけて囲み、何やらニヤニヤと下劣な笑みを互いに浮かべている。

 

 職権乱用万歳風紀委員長・兵藤一誠と同等レベルの変態さを周囲の視線なぞ物ともせずにオープン化させ、同じくらいに女子から顰蹙を買いまくるこの二人とこんな下劣きわまりない顔で笑っているともなれば、何をしているのかなど想像しやすい。

 

 

「どうだイッセー! このおっぱい祭り5連発は!」

 

「エ~~クセレント!!」

 

 

 そう……只今一誠君は、この同志と謳う二人と自身の持つコレクションの見せっこをしていた。

 

 

「すんばらしい! 文句の付けようがない! 流石は我が隊最高の斬り込み隊長よ!」

 

 

 元浜・松田双方が堂々と机に広げる様々な作品に目を輝かせ、素晴らしいと大声で絶賛している姿はしょうもない程にだらしがない。

 いっそひっぱいてやりたくなる表情と変な声でニヤつく三人へ、当然の様に昼休みの教室のど真ん中で何しくさっとんじゃいとばかりに、嫌悪感丸出しな表情をした女子達が一斉に三人に向かって怒りの言葉を叩き付ける。

 

 

「最低! そんなものを学校に持ってくるな!」

 

「そうよそうよ! そもそも兵藤は風紀委員なのに!」

 

 

 とまあ、当然のごとく総スカンの嵐な訳だが、一誠も松田も元浜も涼しい表情だった。

 

 

「ふっ、らしいぜ一誠隊員?」

 

「ふん、愚問な事を言うおんにゃのこ達だ。

何で持ってくるかだなど決まってるだろ……?」

 

「ズバリ、そこにエロスがあるからだ!」

 

 

 いっそ清々しい返しだ。

 寧ろキミ達のその露骨な反応が楽しいと云わんばかりのニヤケ顔だった。

 

 わざと声が聞こえる大きさで会話してたのも、全部テンプレ宜しくな反応をする女子達を見て楽しむ為であるのだから、この三人が言われて止める事は皆無だった。

 寧ろそういう否定的な声をBGMにコレクション自慢大会を行う方が余計に盛り上がってよろしいと、何ともレベル高いようで低い次元に立つ三人は、引き続きブツの選定を続ける。

 

 

「見ろよこのビキニからこぼれんばかりのおっぱいを……。

実に素晴らしいとは思わないかね一誠隊員?」

 

「まったくだね、どこも否定のしようが無い。

おろ、こっちはパツキン洋モノか……!?」

 

「Exactly(そのとおりでございます)。

ちなみに他には、コスプレ枠ということで巨乳巫女物もあるぜ?」

 

 

 いい加減通報されても文句が言えないやり取りを続けていた三人に自重の二文字は無く、金髪の外国人ものに興奮していた一誠へ、松田がこれもおすすめだと差し出した一枚の作品。

 が、それまでピンク色の上がり方をしていたテンションがピタリと止まる。

 

 

 

「神社の巫女さんものだと?」

 

「おう、しかもよく見てみろ……。

この女優さん、誰かに似てねーか?」

 

 

 巫女ものという単語にもの凄く微妙な顔になっている一誠に気付いてない様子でパッケージを渡してきた松田。

 

 

「あぁ?」

 

 

 ヤケに自信満々に言ってくる松田に促される形で、パッケージを手に取って表紙をしげしげと眺める一誠。

 誰かに似てると言うのだから、恐らく自分が見たことのある人物が該当する訳だが、一誠は一瞬でその『誰か』が誰なのかを見破った。

 

 

「………………。あー……」

 

「な、すげーだろ?」

 

「この前二人で漁りに行ったら偶然見つけたんだぜ?」

 

 

 こりゃあ、永久保存決定だぜ! とニヤける松田と元浜を見ず、榊の枝を持ちながら微笑んでいる写真の女優に目を落とす一誠は、それまで上がっていた自分のロマン心が急速に冷めていくのを自覚した。

 

 長い黒髪をリボンで一つに束ね、縛ってる箇所から後ろに伸びる二本のアホ毛が物凄い特徴的な『誰かに』似ているその女優は、巫女服に身を包んで温和そうに微笑んでいる。

 それは確かに二人が言うように似てるのかもしれないし、一誠もほんの一瞬だけそう思ってしまった。

 思ってしまったからこそ、目の前で自分の良いリアクションを期待してる元浜と松田の期待を裏切る形で、そのDVDのパッケージをパタンと机に置きながら一言――

 

 

「これは無いな」

 

「「はぁ!?」」

 

 

 心の底から好みじゃねぇとハッキリした口調で言い切るのだった。

 当然、予想を完全に裏切られた反応をされた元浜と松田は信じられない様な顔で一誠に迫る。

 

 

「馬鹿な、よく見ろイッセー! この人は姫島先輩にクリソツなんだぞ!?」

 

「本人な訳無いにしろ、激レアものなんだぞ!?」

 

「いやー……そうかもしれんけど、巫女服は無いわぁ」

 

 

 考え直せと説得する二人に、一誠は引き続き冷めた態度だ。

 

 

「んなアホな、お前巫女服嫌いだったか!?」

 

「嫌いじゃねーけど、どうにもこの女優から感じる雰囲気があざとそうというか……」

 

「いやいやいや、チェックしたけど別にそんな事ねーからな!?

第一そうであっても姫島先輩に似てるんだぞ!?」

 

「いや、お前等こそよく見てみろ、これ全然似てねーよ。アイツはもうちょい――」

 

 

 一瞬だけ騙されたが、よく見てみれば全然似てないと判断した一誠の言葉に、否定されたショックで大騒ぎしている二人へ微妙に落ち込んだ気分で説明しようとしたその瞬間――

 

 

 

「あらあら、楽しそうにしてますわねぇ……」

 

「いっ!?」

 

「わっ!?」

 

「げげっ!?」

 

 

 ご本人が降臨した。

 

 

 

 

 

 学校の時はあんまり接触してこなかった朱乃ねーちゃん。

 故に周りの連中はねーちゃんとどんな関係なのかとか、何で定期的に変なやり取りをしているのかという理由を知らない。

 だからこそ俺はなるべくねーちゃんと学校では距離をとってたし、出来ることなら他人のフリもしたかった。

 だってお前……学園二大お姉様とか言われて全生徒の大半から崇められてるのに、最早ド変態の烙印が拭えなくなっちゃった俺とそれなりの関係ですだなんてバレてみろ…………高校生になって健全なお付き合いが出来る彼女を作る俺の夢がぶち壊されてしまう。

 だから今までは誰かに『どんな関係だ?』とか聞かれても『顔見知り程度で何の関係もない』って誤魔化して来たのに……。

 

 

「キャーッ!! 姫島先輩よ!!」

 

「お姉様が教室に来たわ!!」

 

「おおおっ!? やはり素晴らしき美貌……!」

 

「うふふ、こんにちわ皆さん」

 

 

 ぐぅ、人気者がこんなこんな場所に現れればこうもなるし、笑ってる様で実は全然笑ってないぜちくしょうめ!

 

 

「は、早くあのブツを隠せ……!」

 

「お、おう!」

 

「本人にこれを見られたら流石にヤバイ……!」

 

 

 ちきしょう何をする気だねーちゃんよ……!?

 お姉様だ美人だと騒ぎ散らす連中をBGMに、下手な真似が出来ず固まる俺がジーっと様子を伺ってると、見てくれはさっきのDVDのパッケージに写ってた女優みたいに温和そうに微笑んだねーちゃんが、俺…………と、机に広げられた沢山のお宝を見て、更に笑みを深めている。

 ……。あ、ヤバイ……怒ってる?

 

 

「お年頃だから多少仕方ないかもしれませが、ダメですよ? 学校にこういうモノを持ち込んでは?」

 

「「は、ははは、はいっ!!」」

 

 

 噂をすれば何とやらを地で行くタイミング良い出現と、二人にとっては間近の生姫島朱乃というのが合わさり、何時もの調子が一切見えず、ただただニコニコしとるねーちゃんにもげるのでは無いのかと心配になる勢いで首を縦に振っている。

 

 クソッタレ、何テンパってんだよ情けねぇな……! 下手な事を喋れねぇ俺の代わりに撒いてくれると信じてたのに、これじゃあどうしようも……。

 

 

「しかし、風紀委員長さんである一誠くんも一緒になってやっていたとは……ふふ、そんなに外人の女の人が好きなんですか?」

 

「え"!? あ、アンタどっから……!」

 

 

 笑顔の裏を敏感に感じてしまうからこそ、ねーちゃんが只今ヤバイってのが分かってしまう自分が可哀想に思えて仕方ないし、予想もしない所から聞かれてしまった事に動揺してつい声が出てしまう。

 するとそれに満足でもしたのか、それとも他に思うところでもあるのか……今まで何とか地雷を回避していた俺の苦労と努力が一気に水泡と化す言葉を、朱乃ねーちゃんは人の良さそうな笑顔を『ズイッ』という擬音が聞こえそうな勢いで座ってる俺の眼前まで近付かせてから言ってくれちゃったのだ。

 

 

「この前も言ったけど、その『アンタ』って呼び方やめてくれないかしら?

学校が無くて二人の時は『朱乃ねーちゃん』と呼んでたのに、どうして今はそんな呼び方なのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、一誠くん……。

アナタと私は小さい頃からの幼馴染みでしょう? そんな他人行儀な呼び方されると寂しいわ……」

 

 

 彼女作りと、この学園でこれ以上変な敵を作らない為にひた隠しにしてきた事を平然と……してやったりと言わんばかりに、シーンとしている周りにわざと聞こえる様な声量で宣いおった……しかも素になって。

 

 

「は、はは……なんてこったい! 俺の彼女作りの夢がまた遠退いちまったじゃねぇか!!」

 

 

 さっきまで罵倒してきた女子達も、それを見ていただけの少ない男子も、元浜も松田も……とにかくこの場に居た全員が絶句顔で固まってしまっている。

 あまりにも衝撃的だったせいで、わーわーと喚く気配すら無い程に連中にとってはショックだったんだろうよ……よりにもよって俺と昔馴染みだったんだから。

 

 

「彼女?ふーん、まだ言ってるのね。

ふふ……あの時死ぬまで守るって約束は嘘だったんだ……」

 

「いや待て待て待て待て待て待て待て!? 死ぬまでなんて言ってねーぞ俺は!?」

 

 

 バレた……。

 いや、前から少しだけ疑われてたので、遅かれ早かれと無理矢理考えれば、仕方がないと割り切れるといえばそれまでなんだが、それに加えて今日の朱乃ねーちゃんは学校で見せてるキャラじゃ無くなってる気が言動から感じられ、こうなると別の意味でマズイと俺の中の勘が警告音を絶えず鳴らす。

 

 

「そもそも何で此処に来たんだよ!」

 

 

 小中学生時代の記憶が次々と呼び起こされる様な、感情の欠落した光の無い目をしながら近付いたまま離れないねーちゃんを落ち着かせようとするも、此処まで来ると落ち着かせるのにもかなり骨が折れる事は昔から知っている。

 

 

「放課後ウチの部長がアナタに用があるらしく、それを伝えに来たのよ……。

アナタは随分とスケベな持ち物で興奮していたみたいだけど」

 

「だ、だってしょうがねぇだろ……! 俺だって何時までも餓鬼のままじゃ無いんだぞ」

 

 

 グレモリー先輩が俺に用があるって伝言を伝えに来たのがそもそもの理由なのは分かった。

 何時もの俺ならこの時点で『グレモリー先輩が!? 行く行くぅ!』とハシャイでたのかもしれんが、今のねーちゃんを目の前にしてると、とてもハシャげる気分じゃないし、どうもさっきからエロDVDに目移りしてた事を気にしてるっぽくてそれに対する言い分を話すと、ねーちゃんは光が無い目を俺だけに見せながらピクリと瞼を動かす。

 

 

「そう……わかったわ」

 

 

 一見すれば物分かりの言いように聞こえるが、表情からしてそれは120%無いのは分かっている。

 変な所で変に俺に対して我が儘なこのおねーちゃんが、思春期だから一々干渉すなと言って理解と納得をする様な都合の良い女じゃねぇのだなんて百も承知で――――

 

 

「そう……グスッ……一誠くんは私が嫌いになったのね……っ……う……うぅ……」

 

「Oh……」

 

 

 本気で己が傷付くとマジ泣きし始めるのは本当に昔から変わってないやぁ……。

 そして更にそれが進行すると。

 

 

「嫌……嫌……!

守ってくれるって言ったのに、私を捨ててどっか行っちゃうのなんて嫌ぁ……ヒック……エグッ!」

 

「そ、そこまで言って無い――あぁ、もう!!」

 

 

 昔の頃のねーちゃんの精神に退行してしまうのだ。

 ほら、こんな事があるかもしれないし、ねーちゃんのイメージを守る為にわざわざ遠ざけてたのに。

 これじゃあ完全に俺が極悪人じゃねーかよ――そうかもしんねぇけど。

 ええぃ、この姿を見せる訳にはいかんし……取り敢えずねーちゃん抱えてこの場から消えるしかあんめぇ!!

 ポロポロと泣きながらくっついて来たねーちゃんを横抱きに抱え、衝撃的事実で意識がショートしているクラスメート達の間を縫って教室を出た俺は、なるべく人とすれ違わないルートを使って旧校舎に移動するのであった。

 

 

 

 

 

 朱乃ねーちゃんに男の影がまるで見えない。

 それ即ち、そのせいで朱乃ねーちゃんが俺に構う訳であり、好青年気味の男でも捕まえてくれれば俺も彼女作りに没頭可能……なんだが、今までの行いと今回の騒動でこの学園じゃあ彼女が作れなくなってしまった。

 あぁ……。

 

 

「これより裏切り者の断罪を執り行う」

 

  おおっー!!!!

 

「………」

 

「嘘よ、あんな奴が姫島お姉様と幼馴染みなんて……!」

 

「……………」

 

 

 ほーらこうなった。

 メソメソ泣いてるねーちゃんをあの手この手で元に戻して教室まで送って戻って来てみりゃあ、クラスメート……いや学年の殆ど連中が椅子に縛り付けた状態の俺を殺気だった目で睨んでいるじゃあ無いか。

 しかも同志と信じてた元浜と松田も……ぐぅ。

 

 

「イッセー……いや兵藤一誠。

貴公が姫島朱乃と幼馴染みだったというのは事実か?」

 

「……。否定したってお前等どうせ信じねーんだろ?

ケッ、だったらyesと答えるしかねーじゃねーか」

 

 

 ほら、恐れていた事が現実化しおった。

 ねーちゃんと幼馴染みってだけでまるで死刑囚扱いだぜ。

 結構昔からの付き合いですだなんて言ったらコイツら一斉に椅子で殴りに来そうだわ。

 

 

「どの程度の仲なのか、そして何故それを隠していた?」

 

「隠すて……。

じゃ何か? 一々誰と幼馴染みですと言う必要があるのか? 私は姫島朱乃と幼馴染みなんでそこのとこよろしくお願いしますってか? バカみてーじゃねーか」

 

 

 尋問官気取りで椅子に縛られている俺に質問をしてくる元浜と松田に俺は、もう良いや的な気分で正直に答えていると、よく突っ掛かって来るクラスメートの女子の一人がボソッと呟いているのが聞こえる。

 

 

「そういえば偶に姫島先輩に手を掴まれて何処か連れていかれてるのを見るけど、まさか……!」

 

『!?』

 

「ひょ、兵藤一誠貴様っ!! まさか姫島先輩と人気の無いところで……!」

 

「はぁ?」

 

 

 物凄い穢らわしいものを見るような目を向けながら呟くクラスメートの女子の一言に、元浜と松田以下男子共が中々の形相で俺を睨んで事実確認をしてくるので思わず呆れてしまう。

 いや、コイツ等の中には幼馴染みだって居るんだろうし、そんな相手とわざわざ学校で変な事を訳がねーっつーのという意味合いで。

 

 

「それこそ無い無い。あるわけねーだろ馬鹿馬鹿しい」

 

 

 そもそも俺に最も親しい存在の一人なんだぞ。それこそ親兄弟以上にな。

 そんな相手に……アレな言い方だが欲情とかそんな感情は無いよ。

 ほら、よくあるだろ? 親し過ぎで逆に……みたいな。

 ったく、漫画の見すぎか知らんけど幼馴染みに幻想持ちすぎなんだよコイツ等は――――なーんて一から説明したってコイツ等は信用しないんだろうけどよ。チッ、メンドクセーな。

 

 

 

 

 

 二学年が……兵藤一誠の隠していた秘密が明るみ出たその頃。

 同じ兵藤の苗字を持つ一誠の双子の姉……凛は椅子に縛り付けられて尋問されている最中、質問攻めを受けていた。

 

 

「凛ちゃんって姫島先輩と幼馴染みだったの?」

 

「え……っと、それは……」

 

 

 双子の弟でド変態な一誠とは真逆に、凛は男女問わず一定の人気を持っていた。

 同じ部活仲間であるリアスや朱乃や小猫に隠れがちだが、穏和そうな見た目と雰囲気と何より顔立ちも悪くない。

 胸はちょっと残念だが、それが逆に良いという男子生徒からは結構な人気がある凛は、隣のクラスで弟が縛り上げられているのを知って『助けに行きたい……けど無視されたらどうしよう……』と迷っていると最中、クラスメートの友達から質問をされ、そして困った。

 

 

「え、ええっと、私は別に朱乃先輩と幼馴染みじゃないんだよね……あはは」

 

「え、そうなの?」

 

「うん……いつの間にか一誠と知り合ってたみたいで、私は知らなかったっていうか……」

 

 

 困った様な笑顔を浮かべながら話す凛に、クラスメートの女子は察した。

 そういえば兵藤一誠は凛を露骨に避けている言動が多々あり、恐らくそれが幼少期から続いていたことに。

 

 

「そっか……酷いわね。こんなお姉さんを蔑ろにするなんて」

 

 

 どうして露骨に避けているのかは知らないが、少なくとも凛の友人目線から見れば、凛に落ち度があるとはとても思えず、自然と学園一ド変態な一誠を内心攻める。

 が、凛はそれは違うと首を横に振りながらあくまでも一誠を庇う。

 

 

「違う一誠は悪くないよ。私が悪いの……」

 

「何言ってるのよ。

私が見る限りアンタの好意をアレが突っぱねてる様にしか見えないわよ?」

 

 

 凛の友人が見た限りじゃ、折角一誠の為に作ったお弁当を渡そうとした時なんか――

 

 

『要らない。見回りで食ってる暇がねぇ。ていうか、別にわざわざ作らなくても結構だから。(ねーちゃんから貰ってるし)』

 

『ぁ……ご、ごめんね? 余計な事だったよね……』

 

『謝るとかやめてくれません? そうまでして俺を悪役にしたいのか? まあしたいならしたいで良いけど』

 

『な……ち、違っ――』

 

『おおっと? ヘイそこのロングヘアーの彼女ぉ!

スカートの丈チェックをさせて頂こうか!!』

 

 

 この様に、見回りなんてしない癖に凛の好意を真っ向から突っぱねる。

 ハッキリ言って事情は知らないとはいえ、凛の友人としては一誠を快く思わないのは必然であった。

 が、そんな凛を慰める時、何時もこう言うのだ。

 

 

「良いの……私が一誠の可能性を潰してしまったんだもの……」

 

 

 暗く、罪悪感に苛まれた表情で俯きながら呟く凛の言葉の意味は友人には分からない。 

 だが、友人としては凛のこの暗い表情を見るのは辛い。

 けれど一誠の可能性を潰したという意味を聞こうにも、この表情を見せられては無理に聞くのも気が引ける。

 

 

「そう……何時か仲直りできると良いわね」

 

「……………。うん」

 

 

 こんな言葉しか掛けてあげられない。

 力なく頷く凛に友人の気分も沈んでしまうのであった。

 

 

 

 

 一誠の双子の姉。

 なのに私はその役割が一切出来ていない。

 原因は分かってる……私自身の問題だ。

 私が考えもしないで、兵藤一誠というキャラクターの姉になりたいと『神様』に言ってしまったから。

 ただ姉になりたかっただけなのに、スケベだけど真っ直ぐな兵藤一誠が好きだったってだけなのに……。

 

 

(ハァ……)

 

『また落ち込んでるな凛よ?』

 

 

 本来一誠の力である筈の神滅具・赤龍帝の籠手(ブースデッドギア)は、私の力になっていた。

 そんな事は一切頼んで無かったのに、何故か私の中に赤い龍……ドライグが居た。

 

 

(大丈夫……ありがとうドライグ)

 

『また例の小僧のことか?』

 

(……。うん、まぁ……)

 

 

 ドライグは結構優しく、私の心が落ち込んでいると決まって話し掛けてくれる。

 そして、ドライグだけが私の秘密を知っている。

 

 

『お前が全く違う世界から転生とやらを果たして俺を宿そうがそうで無かろうが、もう俺はお前にしか力を貸さんぞ。

誰が何と言おうが、お前が転生者だという事を端的に一誠という小僧が察していようが、お前は兵藤凛なんだ。

何時までもそんな小さな事で悩むんじゃない』

 

(あはは……ありがと)

 

『ふん、これまでの宿主とは比べ物にならん才能を持っているお前がそんなんじゃあ、白いのに負けてしまうからな。

尤も、今回はそんなに白いのと戦う意欲は無いが』

 

 

 ぶっきらぼうだけど、私はドライグが優しいのを知っている。

 だからどんな言い方をされても腹を立てる事は無いけど、本当ならこのドライグの言葉も一誠が掛けて貰うべきだったんだと考えれば……ハァ。

 

 

『それに、あの女王(クイーン)の小娘と一誠という小僧が上手くやっている様だし、放って置くべきだ』

 

(そうだけど……そうなんだけど……)

 

 

 昔家出をした一誠がまさか朱乃先輩と知り合ってたなんて……悪魔に転生した時に知った時は驚きと……少しだけ先輩に嫉妬した。

 私が知らない一誠を愛しそうに語るあの表情を見れば、先輩が一誠をどう思ってるかなんて分かっちゃうし……。

 一誠も一誠で先輩と楽しそうにしてるし……。

 

 

(………ハァ)

 

 

 姉じゃなくて幼馴染みだったら少しは変わってたのかな……。

 

 

『しゃらくせぇぇ!! 俺様は風紀委員長なんだよぉぉっ!!』

 

『あ、異端者が逃げたぞ! 追えぇぇぇっ!!』

 

 

 ……。恐らくだけど変わってたかもしれない――いやでもこの体型だと今以上に見向きもされないかもしれない。

 あぁ……どうして前と全然変わらない体型なんだろうか。

 案の定リアス部長にはあんなにデレデレしてるし……あ、でも小猫ちゃんには割りと興味なさそうなのは所謂『原作』の一誠とは違うんだよね。

 ……。多分だけどその……小さいからだと思うのと、小猫ちゃん自身が私と結構仲が良いからというのもあるんだと思う。

 前に一度だけ、小猫ちゃんがちょっと怒りながら一誠に話し掛けた時なんか、一誠ってば物凄い小馬鹿にした顔で……。

 

 

『グレモリー先輩の所の後輩さんだっけキミ?

あぁ、申し訳ないけどもっとボインな人じゃないと基本俺はチェンジなんで』

 

『……………』

 

 

 私というイレギュラーのせいなのか、一誠の好みのタイプは単なる女の子全般では無くなってるとわかった良いけど、だからってそんな言い方を小猫ちゃんにしなくたって良いのに……と思ってしまう程にヘラヘラした態度だったっけ。

 言われた小猫ちゃんも、その場で怒りはしなかったけど、多分かなり傷付いたと思う。もしこれが私だったら……立ち直れる気がしない。

 

「朱乃先輩が羨ましい……」

 

 

 だからこそ、ある意味で一誠の理想系である朱乃先輩が羨ましい。

 あれだけくっついてても心の底からの拒絶はされないし、この前なんておんぶもされてたし……。

 良いな良いな……私も一誠におんぶとかされないな……。

 こんな風に――

 

 

『足を挫くたぁ間抜けだな』

 

『あ……あはは、ごめん』

 

『チッ、しょうのねー姉貴だ。ほら乗れよ……』

 

 

 なんてぶっきらぼうに言われながらもおんぶとかされてみたいな……。

 そして家までおんぶされて帰ったらまず――

 

 

『冷たくない?』

 

『怪我人が気にする話じゃねーだろ、さっさと冷やされてろ』

 

 

 と、こんな風に氷嚢とかで冷やして貰ったり――

 

 

『ったく、かなり派手に挫いたみたいだなこれ……』

 

『痛っ……! あ、あはは……ドジだね私って』

 

 

 包帯巻いて貰ったり――

 

 

『あ? 風呂なら母ちゃんが入れろよ――は? 今忙しいからお前がって……チッ』

 

『い、良いよ! そこまでして貰わなくても……』

 

『風呂場で転んで頭打たれるよりか面倒じゃねーよ、仕方ねー……おら行くぞ』

 

 

 一人じゃ無理だからって理由で一緒にお風呂とか入れてくれたりして――

 

 

『ひゃ!? く、くすぐったいよ一誠……っ!』

 

『なにもしてねーよ』

 

 

 それから……それから――

 

 

「え、えへ……。

い、一誠ってば駄目だよぉ……♪

姉弟だからってそこまで洗って貰わなくても……えへ、えへへへ……❤」

 

 

 色々な所に触れてくれて、その後一緒に寝て、それからそれから……あは、あはははは♪

 

 

 

「大変、凛の持病が始まったわ」

 

「本当にブラコンね……あの弟の何処が良いのかさっぱりだけど」

 

 

 重度のブラコンなのは周知されてる残姉ちゃんなのだった。




補足

この方は己が転生者という自覚がハッキリあります。

そして一誠だけがこの方が何処徒もなく現れて急に家族面し、それまで兄弟なんていなかった筈なのに周りの全てが初めから居たって認識をしている……という本人にとっては不気味極まりない怪現象を体験させられたせいで、一切警戒を解いてないという感じです。


備考データ
兵藤 凛

スリーサイズ……皆様のご想像に

容姿……一誠くんの双子だが、やはり性別の違いが如実に顕れており、女の子らしい愛嬌のある瞳と二重瞼。
 唇は思わず奪い取りたくなる程に健康的で血色良しの理想系。
染み一つ無しの健康的な肌を持ち、全体的に一誠より一回りは小さく、ブラウンのボブカットで、アホ毛が一つ頭頂部にある。

※ぶっちゃけ某帰宅部の夏希さんそのまんまかもしれない。
無論体型も……


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風紀委員長と生徒会

こっから、色々とガラリと変化します。

そうですね、具体的には生徒会。
ええ、その生徒会の中の誰かが色々と捏造をだね……。


※加筆しました。
もうちょい、幼馴染みらしくね!


 突然だが、風紀委員会は委員長である俺以外に委員が存在しない。

 卒業した先代の年代から下が俺一人だけだったってのもあるが、それ以外に委員が居ないのは、この学園の現生徒会が風紀委員会の存在を脅かしてくれたのだ。

 ムカつく話、現生徒会は妙にツラの良い女子ばかりの面子で中々の人気があり、しかも勝手に風紀委員の仕事まで兼任してくれてるお陰で風紀委員の立つ瀬が一気に無くなり、現在は俺一人という完全形骸化となってしまった訳だ。

 

 

「それでは、全委員会が揃った様ですので始めたいと思います」

 

 

 駒王学園会議室。

 この学園は、定期的に生徒会をトップとした各委員による報告会みたいな事をやる慣わしが存在し、形骸化したとはいえ委員自体は存在しているので、一応俺もただ一人の風紀委員としたこの席に座っている。

 

 

「図書委員です。前回行ったアンケートの結果、新たなタイトルの書籍を導入することにしました」

 

「美化委員です。最近生徒達の清掃がいい加減になっておりますので、一週間の期間を儲けて校内清掃の徹底を呼び掛ける事にしました」

 

「放送委員です。前回の――」

 

 

 こんな感じに、わざわざ会議室を使って最近あった事やこれから執り行う事を生徒会に報告するってのが主旨な訳なのだが、さぁて毎度の事ながら困りましたねぇ。

 

 

「ありがとうございました。では次……風紀委員会からは何かありますか?」

 

 

 堅物そうな眼鏡の生徒会長が遂に我が……いや俺一人の風紀委員会を指名してきたので席を立ち、ちょっとした脱力感を感じながら視界に映る各委員長のツラを見る。

 

 

『……………………』

 

 

 いえーぃ、アウェイ空気バンバンだぜヒャホ~イ

 ほら俺ってこんなんじゃん?

 そのせいで風紀委員失格だ的な声が四方八方から言われている訳で、この生徒会長が風紀委員な名を口にしたとたん、各委員長共が歓迎してませんな目で俺を見るわ見るわ……。

 

 

「ありませんか?」

 

「はいはい。

えーっと、生徒会や他の皆様は既にご存知なので報告すべきか迷いましたが、やはりしときましょう」

 

 

 眼鏡の生徒会長に急かされる形で各委員長の様に最近委員内での出来事を報告しようと、先日あったとある事件についての報告を開始した。

 

 

「最近学園周辺に『不審者』が相次いで見られるという報告を受け、早朝・放課後を使ったパトロールをした結果、どうやら女子高を狙った制服泥棒だったらしく、昨日学園をうろついていたおっさんを取っ捕まえて持ち物チェックしたら、見事ビンゴ。

そのまま教師と共に警察に突き出しておきました」

 

 

 まあ、仕事はちゃんとやるから風紀委員会は潰されないんだけどね。

 ありゃ、俺が仕事してますアピールすると胡散臭いものを見るような目を向けてらぁ……。

 仕方ないっちゃあ仕方ないんだが、残念ながらこの話はデマでも何でもないだよなぁ。

 

 

「あの時はご協力感謝します兵藤君」

 

「いえいえ、本来なら風紀委員の俺が一人でやるべき仕事ですからね」

 

 

 何せその不審者捕まえにこの地味っ娘眼鏡さんが協力してくれたんだもんね。ふふ……風紀委員会は暫くこれで不滅よ。

 これに託つけてボディチェックも捗りそうだぜ……ぐふふ。

 

 

 

 

 

「兵藤くん、少しお時間宜しいですか?」

 

「はい?」

 

 

 そんなこんなで委員長定例会議は無事終了し、今日はこのまま帰ってしまうかと考えながら席を立つと、例の眼鏡生徒会長から呼び止められてしまった。

 

 

「……。なにか?」

 

 

 早く帰りたいとかそんな気持ちは今無いが、それでもこの会長に呼び止められると身構えてしまう。

 いやさ、この生徒会長ってあんま得意じゃないというか……あー……うん……言葉悪いけど。

 

 

「今ではたった一人となった風紀委員の委員長として、アナタはその責務を果たしているのは私も知っているつもりです」

 

 

 好きな人種じゃあないんだよね。

 なんていうか、面白くなさそうというべきなのか……。

 今もこうして反応に困る様な口調を聞かせてこられるしな。

 

 

「ですが、最近もまた多数の女子生徒からの苦情が増えてきてます。

主に、アナタからのセクハラ紛いな行動が嫌だと」

 

「ぬ……」

 

 

 ……。まあ、これが最もこの会長さんを苦手とする理由なんだがな。

 確かに、彼女の駒王学園生徒会長として置かれてる立場上仕方ないのかもしれんし、今更セクハラ野郎だとか言われても腹なんて立たない。

 今だって彼女が見せる瞳からは『お前、いい加減にセクハラするなや』と言ってる様にしか見えないし、見たままにクソ真面目そうな顔して、ただただ業務的な口調で注意を受ける俺は、やはりこの会長は見た目からして色々と苦手だと思いつつ、ヘコヘコとその場凌ぎの謝罪で何とか誤魔化す。

 

 

「へぇ……すいやせん」

 

 

 止めろと言われて止めるつもりなんて、性分なんで無いけど、それ言うと話が長くなるのが確定してしまう為、ド三流な演技をかましながら何度も何度もうだつの上がらないノンキャリアリーマンみたいに頭を下げまくる。

 退室しようとしていた他の名ばかりだらけの委員長共が『ざまぁ見ろ』と清々した顔を俺に向けながら次々と帰っていくのが、ちょっと腹立つがな。

 

「………」

 

 

 そんな俺の邪な思考回路を前提としたその場凌ぎの謝罪を、会長さんはただただ『呆れた』様子で見ているだけ。

 考えてみれば、毎度この手で逃げてきては同じ事の繰り返しをしてきたんだもんな……いい加減これがその場凌ぎの嘘だと見破っても不思議じゃあない。

 けれどまあ、ふん……お前ごときに言われて止める風紀委員長様じゃあねーんだよってな。

 

 後ろで控えてるお仲間と一緒になって白い目で見られようとも、男の性なんだからよ。

 

 

 

「絶対に止める気は無いみたいですね、彼は」

 

 

 どう見ても嘘で、これまで何回もその嘘な謝罪を聞かされてきた駒王学園生徒会長・支取蒼那……いやソーナ・シトリーは、そそくさそ退室していった現状たった一人の風紀委員である兵藤一誠に対して、困ったようにため息を吐いて椅子に腰を下ろしていた。

 

 

「セクハラ。委員の私物化……。

それさえなければ、彼は人としてはそこそこ優秀なのにね」

 

 

 

 駒王学園唯一の風紀委員会にて委員長を勤める彼のこれまで起こした数々のしょうもない問題に対してそろそろ委員を解体してしまおうかとすら考えてしまう。

 けれどそれが出来れば今頃自分は此処でため息を吐いてなんかいない。

 一人しか居ない委員会は解体しても然して問題は無いし、多数の生徒からは現に解体してくれとの声が沢山ある。

 しかしそれが出来ない。

 その理由は他でもないあの兵藤一誠という少年が、何だかんだで風紀委員としての責任は一定に果たしてはいるからなのと、もう1つの理由があるからだ。

 

 

「いっそ彼が風紀委員などに加入してなければ良かったのですがね……」

 

 

 そうなれば、単なるお騒がせキャラとして放置できたのもを……何故先代の風紀委員長は彼を加入させたのか。

 人間の学校の生徒会長とはいえ、責任感のある彼女は一誠という目の上――いや下のたんこぶとなる彼に辟易した気分にもなる。

 

 

「会長、お疲れです」

 

 

 そんなソーナの気持ちを近くで見て察したのか、それまで定例会議の時でも黙って参加していた生徒会役員の一人である少年が話し掛ける。

 

「やっぱり、兵藤の奴は言って聞くようなタマでは無かったですね」

 

「……。今回も上部だけの謝罪で逃げましたからね……。

近隣住民からの声さえ無ければ解体するべきなのは分かってますが……」

 

 

 一誠と同学年であり、今代唯一の男子役員である少年――匙元士郎は、会長であり、そしてリアスと同じ純血悪魔の主でもあり、想い人でもあるソーナを、単なる仕事が出来るだけの問題児である一誠が手を煩わせている事に対して密かに怒りながらソーナを心配そうに眺める。

 元士郎自身、役員としても眷属としても下っぱクラスであり、本来ならソーナの近くに居るのは女王であり副会長である少女の役割なのだが、ソーナ自身が元士郎に『経験は大事よ』と、側に置いて貰っている。

 故に、ソーナの悩みの種になっている一誠は寧ろ嫌いだった。

 

 

「でも所詮は部外者の人間達から支持されてるだけで、学園内での支持は皆無でしょう?

だったらいっそ、『迷惑になりすぎた』と言って委員から下ろした方が良いかもしれませんよ?」

 

「……。それが良いかもね」

 

 

 何よりもソーナがそんな迷惑人間一人に一々構ってる必要なんてない訳で、元士郎のこの提案に彼女も少しは考え始める。

 ソーナの負担を軽減させるつもりで提案した元士郎も一誠の女子に対するセクハラ行動には常々怒りを感じていたのだ。

 

 

「副会長はどう思います?」

 

 

 それは生徒会役員全員の気持ちでもあり、中でも副会長である真羅椿姫の様なタイプからすれば兵藤一誠の人間性は一番に嫌うタイプだ。

 現に今だって、話さず静かにソーナの傍らに居る椿姫が同じく怒りの表情を浮かべていると、元士郎は同意を求める様に座るソーナの1歩後ろへ控える椿姫に視線を向けるが……。

 

 

「……………」

 

 

 反応が無い。

 長い黒髪と水色縁の眼鏡を掛けた知的美人という言葉がよく似合う少女、真羅椿姫は、元士郎の言葉に反応せず無表情のままその場に立っていた。

 

 

「……。副会長?」

 

「椿姫、どうかしたの?」

 

 

 当然、一誠のような不真面目生徒を嫌うタイプである椿姫のこの無反応さに元士郎とソーナは怪訝に思って椿姫の顔を覗き込む。

 するとそこに来て漸く『ハッ』とした表情を見せた椿姫は、慌ててソーナと元士郎に謝る。

 

 

「ぁ……す、すみません。

ちょっとボーッとしてました……」

 

「珍しいっすね、副会長が……」

 

「疲れてるのかしら?」

 

「い、いえそんなことは……」

 

 

 真面目で優等生な副会長であると全生徒から信頼されている椿姫にしては無防備だった姿に元士郎もソーナも首を傾げる。

 まあ、椿姫だって機械じゃないのだし、ボーッとすることもあるだろうと二人はすぐに納得して目を泳がせている彼女に深くは追求しなかった。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 二人が視線を切ったその瞬間椿姫が見せた、『後ろめたい事がある表情』に気付けず……。

 

 

 

 

 

 いっそ気のせいだと思いたかった。

 いっそ違ければ良かったとすら思った。

 けれどこれが現実、これが真実なのだ。

 

 

「さて、私達も戻りましょう」

 

「はい会長!」

 

「………」

 

「? 椿姫?」

 

「……っ!? は、はい!」

 

 

 そうだ、彼はどうしようもない問題児だ。

 風紀委員という責任のある立場にありながら、好き勝手に振る舞う。

 私が最も嫌うタイプの人間であり、我等生徒会のメンバー達もその身勝手な態度の彼を嫌っている。

 私だってそうだ、女子生徒に鼻を伸ばして追いかけ回すようなハレンチな男など、下劣極まりない………。

 

 そう、ない筈なのだ。

 

 

『へーキミ迷子なんだ。

家はどこに……って、ごめん。実は俺も迷子だったり……』

 

『よーし、ここは俺も一緒に探してやるぜ! 可愛い子ちゃんには無償の親切が最近のモットーなんでね、へへん』

 

 

 昔の記憶にありハッキリと覚えている、あの男の子との思い出さえなければ私は絶対に嫌っていた。確実に嫌っていた。ハレンチだと罵っていた。

 

 

『え、真羅……椿姫……? んー……?』

 

 

 この反応さえ、最初の定例会議時の自己紹介の際、私の名前に僅ながら反応を見せ、マジマジと見て首を傾げさえしなければ私は――

 

 

『え、お礼してくれるの?

じゃあさ、覚えてたらで良いから、何時か大きくなったら俺とデート一回してよ。

そうすれば俺は嬉しい! それじゃあね!!』

 

 

 この思い出も……思い出のままで大切に出来たのに。

 

 

「兵藤一誠……」

 

 

 どうして貴方が貴方なのか。

 どうして今になって再会してしまったのだ。

 どうして……どうして――

 

 

「や、やめてくれぇ~!

こんな人の多いところで処刑なんて勘弁して――」

 

「それを言って私が止めた事が? ふふふ、浮気は許さないと言った筈よ一誠くん」

 

「いぎぃ!? 俺の腕はそんな逆に曲がらないぃぃ~!?!?」

 

 

 

「またやってますよ、兵藤のやつ。

聞けば姫島朱乃は幼馴染みらしいですよ」

 

「言った側から、困った人ですね彼も」

 

「………」

 

 

 そんなに親しい女性(ヒト)がいるの?

 私は聞いていない……いや、この学園にアナタが入学して、風紀委員長になってから始まったあの定例会議の時に再会してから一言も会話すらしていない。

 学園中の女子生徒にちょっかいをかけながら、何故私にはそれをしないの?

 私がアナタの好みじゃないからなの?

 

 

「デートしてくれるんじゃなかったの……? ウソツキ…」

 

 

 どうしても胸が痛い……。

 昔の小さな記憶での小さな話だけだというのに、私の胸の中は何かに引き裂かれたように痛い。

 

 

「え、副会長?」

 

「最近の椿姫はやはりどこか変ね……。

確か、彼が風紀委員長になってからが特に」

 

 

 …………。

 

 

 

 浮気て……。

 オイラねーちゃんの亭主じゃねーちゅーねん。

 それなのに、ちょっとおんにゃのこにお触りしようとするだけで、手首をへし折ろうとしおってからに。

 幼馴染みながら朱璃さんに似た美人ちゃんになってるのは全面的に認めるけどよぉ、割りに合わなすぎるぜ。

 ここ最近はひた隠しにしてきた俺の努力を粉砕する勢いで、他の人達の前で接触してくるし……。

 お陰でその度に男女問わずの敵意の視線がバリバリだし……もう。

 

 

「部活が終わるまでって、夜になっても此処に居なきゃなんねーのかよ……あぁ」

 

 

 浮気じゃないと散々言ってるのに聞きやしない処か、『一人にさせると不安だからだから、今日は一緒に帰りましょう。だから部活が終わるまで帰らないで』――なんて釘まで刺した朱乃ねーちゃんに当然逆らえる訳もない。

 おかげで俺の予定が大幅に狂い、さっさと帰っておっぱいバカンスDVDでも視聴して、心に癒しを与えようとした計画も、何もかもおしまいだぁ……状態で、完全下校時刻すら過ぎて暗くなり始めた校内を無駄に徘徊していた。

 部活をやってた他の生徒達ですら既に帰り、校舎の電気は職員室と生徒会長……そして旧校舎の一室以外は全て消えている。

 

 

「終わるまで帰らず、ただ待ってろなんて言われて怒る気になれないのは、やはり甘ちゃんだからかなのかな……。

独り言も多くなってるくらい暇なのにな」

 

 

 こんな事まで言われても尚、俺は不思議と朱乃ねーちゃんを嫌うとか怒るとないう気になれない……いやならない。

 例え電気が消え、非常口を示す看板の緑色の光だけが小さく照らし、かえって不気味に思えてならない廊下内をボソボソと独り言を呟いてフラフラ歩かされる羽目になろうとも、そうさせてきた朱乃ねーちゃんに対しての怒りや不信感は全く沸いてこない。

 理由は簡単だ……シンプルにねーちゃんが大事だからだ。

 

 他に理由なんて無い。

 どうでも良い他人じゃないから、今だそのレベルにも達せてないのに無責任な約束をしてしまった相手だから……まあ、色々とあるのよ。

 複雑な気持ちとやらがね。

 

 

「しょうがない。

ここは一度はやってみたかった、『廊下の真ん中で腹筋・腕立て・背筋』を……」

 

 

 好きか嫌いかを問われれば、間違いなく好きと答えるよ。

 だけどそれは、朱乃ねーちゃんが駄々をこねながら常に俺に対して言う好きとは違う。

 大切だから、2度とあの時の様に失いたく無いから、おかしくなった周りから逃げ出した俺を、兵藤一誠として認めてくれたから。

 だから2度と失わないために、何よりあの時ねーちゃんの中に残ってしまったトラウマを少しでも無くす為に、俺は『負け犬』や『神の加護が一切無い』という運命すらぶち壊して守ると決めた。

 

 その為には、ねーちゃんが生き延びる為に俺の命が消えるなら喜んで代わりに死んでやるくらいの覚悟がある。

 つまり、なんだ……愛だ恋だの感情じゃない。

 ただただ、自分の自己満足でねーちゃんを縛り付けてしまった最低野郎なんだよ俺は。

 

 

「201、202、203、204……!」

 

 

 この筋トレだってそうだ。

 ただ2度と失わなわず、守り通すという俺の自己満足の為にやってるだけ。

 本来ならねーちゃんだって、俺なんかが余計な事を言わなければ普通――――とまではいかないかもしれないけど、グレモリー先輩の女王としての力を遺憾なく発揮し、俺が嫌いになりそうなイケメンか何かと普通に恋して……って人生を歩む筈だったんだ。

 それを俺が、自分の満足感を満たすために余計な事を言ったせいで、俺なんかに執着させてしまった。

 だから俺にねーちゃんを貰うなんて資格なんてない……いや、そもそもあのバラキエルのおっさんが烈火の如く反対するだろうしね。

 

 

「499……500っと」

 

 

 いっそのこと『2度とその顔を見せないで』とでも言ってくれたら朱乃ねーちゃん自身の為になるんだけどなぁ。

 けど1度たりとも言ってこないんだよなぁ。

 つーか、好かれる要素も無いと思うんだけどね……こんな、真っ暗な廊下のど真ん中で発作的に筋トレしてるバカなのによ。

 多分クラスメートのおんにゃのこだったら『気色悪い!!』と罵倒してくれる筈なのによー……。

 

 

「まだまだ約束果たせるだけの強さは俺には無いみたいだぜ……ねーちゃん」

 

 

 何やかんやで、腹筋・腕立て・背筋500回のセットを廊下のど真ん中でやりきるという、ある意味勇者的行為を終えた俺は、柄にも無くモヤモヤした気分で携帯の画面を確認する。

 

 

「終わったよ……か。オーケー朱乃ねーちゃん、今すぐ行くぜ」

 

 

 ただシンプルなメールの文面を寄越してきた相手に、ちょっとセンチな気持ちで『yes』とだけ返信した俺は、汗ばむといけないからと予め脱いでほっぽってた制服の上着から携帯用のボディシートを取って身体拭く。

 

 あ、言ってなかったけど、突発的な衝動で始めたこの筋トレの最中の俺は上半身裸だったよ?

 だって汗かいてYシャツとかがベトベトしたら嫌じゃん? どうせ完全下校時刻も過ぎて夜の20時過ぎで、だーれも居ないし、見られる訳でもないしな。

 

 

「っと、スッキリ爽快したところで行きますか……!」

 

 

 清拭も終え、リフレッシュした俺は待ってるだろうねーちゃんが居る旧校舎を目指し、モヤモヤした気持ちが何時か無くなれば良いなと思いながら……いや、無理矢理忘れて歩くのであった……。

 

 

 

 

 姫島朱乃。

 リアス・グレモリーの右腕にて女王(クイーン)の駒を持つこの少女は、一般生徒達から憧れの的であった。

 主にそのおっとりした雰囲気とぐうの音すら出せない美貌から、(キング)であるリアスと並んで学園二大お姉さまと呼ばれ居る。

 

 しかしそれは表向きの顔であり、彼等は知らない。

 姫島朱乃の本来の顔を……いや、それも朱乃が心から自分をさらけ出す者達を前にしか見せないその姿を。

 

 

「~♪」

 

「連中に見られでもしたら確実に投石されるなこれ……」

 

 

 悪魔としての業務をカモフラージュする為の部活動が、本日は特に人間からの契約願いも無かったので早め終わった朱乃は機嫌が良かった。

 理由は簡単、電灯に照らされながら彼女の隣を歩く人間の少年の存在がそうさせていた。

 

 

「ただ帰るってだけなのに、ヤケに機嫌が良いな?」

 

「一誠くんと帰れるだもん♪」

 

 

 母親と同じく、最も親しく、最も大好きな少年・一誠が側に居るから……それが朱乃の機嫌を現在進行で急上昇させる理由であった。

 普段の彼女しか知らない者からすれば仰天ものの子供口調と笑顔を浮かべ、何とも言えない複雑な笑みを浮かべる一誠の腕に自分の腕と手を絡ませて密着しながら帰路に着く――いや、理由なんて何でも良い……ただ一誠に甘えられれば朱乃にとっては理由等何でもよかった。

 

 

「一誠くん……一誠くん……うふふ♪」

 

「……。この状態のねーちゃんを見ても、他の連中は偽物と思うだろうな……」

 

 

 おっとりしたキャラも、お姉様と言われる雰囲気も全く無しの、ただただ無垢な少女のように明るい笑顔と口調ですりすりと一誠肩に顔を寄せる朱乃。

 確かに一誠の言う通り、こっちが素だと言っても誰も信じないだろう反転っぷりだ。

 

 

「大丈夫だよ、本当の姿は一誠くんとお母さんにしか見せないから」

 

「……。てことはグレモリー先輩達も知らんのか……」

 

 

 姫島朱乃。

 かつて父である堕天使・バラキエルが不在だった際に襲われ、母親共々一度は死んでしまった身。

 しかしその運命は、彼女の隣で好きにさせている一誠の持つ『全ての現実を否定して書き換えるマイナス』によって螺子曲げ(ネジマゲ)げられて生きている。

 故に朱乃は、後に一誠がボロボロになりながらも笑って口にした『絶対に強くなって守る』という言葉と合間って彼に惹かれた。

 それは間違いなく少女とっての明確な恋心であり、絶対に離したくないと思える程の強烈な依存でもあった。

 

 

「一誠くん」

 

「んー?」

 

「好き」

 

 

 日はとっくに沈み、三日月と星が照らす夜道を端から見れば恋人のように並んで歩く最中でも、朱乃は忘れずに想いを何度もぶつける。

 けれど一誠は表情を曇らせながら真っ直ぐ見つめるその目から顔を逸らす。

 

 

「んー……う、うーん……」

 

「む……そんな反応しちゃイヤ」

 

 

 端から見ればそれは間違いなのかもしれない。

 現に一誠は朱乃を『異性としての恋愛対象』とは違う気持ちであるし、朱乃自身も何度も聞かされてきた。

 

 しかしそれで諦めるには、余りにも彼女自身が一誠に対して依存しすぎている。

 故に『じゃあこれからもお友達として……』だなんて考えは無い。

 そう思えないのなら思って貰うまで。

 本当の意味で好きになってもらうまで。

 例え、今一誠が見せてる『返事に困ってる顔』をされようとも関係ない。

 

 

「一誠くんは私を幼馴染みとして大切だと思ってるのは、わかってるつもりよ?

でもね、それなら一誠くんが本当に好きになって貰うまで私は諦めない。

こうやって恋人みたいに並んで歩くし、キスだってする……いえ、それ以上の事だってする」

 

「……ぬ」

 

 

 どんなにスケベになろうとも。

 どんなに他の女性に鼻を伸ばそうとも。

 その程度で嫌うなんて事は、お仕置きはすれど決して無い。

 

 

「だから、大好きよ一誠くん……」

 

 

 それが幼い頃から抱き続ける、少女想いなのだから……。

 

 

「あはは、これも聞かれたら石どころかナイフでも飛んで来そうだな」

 

「むむ……またはぐらかした」

 

「いやほら、まだまだ俺も修行不足だからさ……」

 

 

 何時ものように逃げようとする一誠に、朱乃は頬を膨らませ抗議の視線を向け、一誠は気まずそうに明後日の方向を向く。

 資格が無いと逃げようとする少年と、そんなものは関係ないと追い掛ける少女の長い追い掛けっこは、まだまだ続きそうだ。

 

 

 そう……

 

 

 

 

 

「………………………………………。一誠」

 

 

「………………………………………。ウソツキ」

 

 

 色々とその追い掛けっこに障害が増えてしまうことになるとも知らずに。




補足

 石を投げつけてこい!
 崖から紐なしバンジーもしてやる!

それでも大まかな変化は彼女なんだよ!!


理由は簡単だ……お姉ちゃんをギリ含めてこれで固定の予定だからな! 多分ね!


……。ちなみに、彼自身は親しい人が姫島一家と師匠だけのままスクスクと育ったので、割りと覚えて――――るかは不明。
ただ、『何と無く』な理由でセクハラはしてません。


そして加筆した結果……。

う、うん 、約束をすっぽかすのはよくないよね! 最低だぜ一誠!


ちなみに凛さんは、朱乃さんが幸せそうに一誠をお持ち帰りする姿を涙目の指くわえで見ており、金髪イケメン君が他の女性には見せない目一杯の優しさで慰めてました。


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『師匠は完璧さ……胸以外はな』byイッセー

風紀委員長一誠が風紀委員長一誠として覚醒したもう一つの理由。

それは、割りと親身に全てを叩き込んでくれた――――


 物凄い唐突なんだけど、俺は一人暮らしだ。

 両親と悲しき別れがありましたからとかじゃなく、喧嘩別れして勘当同然で家を飛び出したから、俺は一人暮らしだ。

 あぁそうだ、俺は兵藤って苗字を名乗ってるが勘当されてるよ、両親という存在が信じられなくなってからな。

 

 

「ふぁ……」

 

 

 今にも崩れそうな我が住みか。

 入り口のネームプレートも風化しちまって、アパートの名前なんて分かりゃしない。

 壁や天井は水漏れの跡のシミだらけ、階段も一段一段体重を掛けて上る度にギシギシと嫌な音が聞こえるし、他に住民が居ない部屋の扉を横切り、一つ、二つ、三つ目の突き当たりに位置する部屋が俺の今の住みかだ。

 

 

「ぬ……? また立て付けが悪くなってら……」

 

 

 レトロなんて生易しもんじゃない。

 近隣住民からは廃墟扱いさえされている程に老朽化してるせいで、部屋の主を潜らせる扉すら満足に開かない。

 無理矢理こじ開けるようにしなければ入らせて貰えないなんて、最初はちょっとした文句も言ってたけど慣れればどうってことない。

 

 

「っと、ただいま……って誰も居ないけど」

 

 

 家主すら潜らせないぽんこつセキュリティのドアをクリアーし、中に入った俺は靴を適当に脱いで畳の上へと踏み込み、プラプラと吊るされた紐を引っ張って電気を点灯させる。

 スイッチなんて便利なものはない。電灯も一昔前の白熱電灯で、夏なんか蛾がヒラヒラとよってきやがる無機質な白光。

 在庫処分セールで買った小さな布団を真ん中に、部屋の隅には洋服箪笥と、近所の人が新型に買い換えるとかで捨てる予定だった所を頂いた古いテレビとそれを支えるラックとDVDプレイヤー

 8畳ワンルーム。奇跡的にトイレと風呂付きな部屋だけど、余計な物は一切置いてないので割りと広く感じるこの部屋こそが、俺様の城って事だ。

 

 どうよ、とてもじゃないけど合コンしたおんにゃのこをお持ち帰りは出来ねー部屋だぜ。

 

 

「……はぁ」

 

 

 持ってた鞄を適当に放り投げてから、明日にでも干す予定の布団の上に横になった俺は、チラチラと小さな蛾が電灯の光に寄っているのも追い出す気にもなれずボーッとしていた。

 何時もならDVDでも観るのだが、ねーちゃんを家まで送って来たせいか、観る気にもなれない。

 このアパートは当然TVの電波を受信する環境が無く、貰ったTVの使いどころは100%DVDの視聴だったりする。

 

 

「はぁ……ときめきメモ○アルなときめきがしてぇ……」

 

 

 そんな環境でも、個人で住むには悪くないと思う俺は、今日も結局ホイホイとねーちゃんの好きにさせ、最近ますますモテモテおっぱいハーレムから遠ざかっている現実に軽く凹んでいた。

 

 いや、別にねーちゃんが悪いんじゃないんだけどさ……こう、もう少しエロゲー……じゃなくてラブ○ラスでもない普通にときめきメモリアルな高校生活を送りたいというか……。

 最近はねーちゃん自身が俺との関係を隠さなくなってきてるせいで、野郎からもおんにゃのこからも敵意バシバシな視線を向けられてしまってるのが……なぁ。

 これじゃあおっぱいハーレムなんて夢のまた夢――

 

 

「などと、相変わらず欲望に素直なキミの姿はお笑いだったぜ?」

 

 

 …………………………寝よう。

 うん、寝よう。

 せめて夢の中ぐらい誰の干渉も受けず、右見ても左見ても、上も下も前も後ろも巨乳なおんにゃのこに色々と挟まれる素晴らしき夢を見よう。

 真横から聞こえる声は知らんし、俺は何も聞かねぇし、お眠お眠――

 

 

「おいおい。キミの愛する師匠が来てやったのに寝るのか? そうか……なら起きた時に南極でしたというささやかな悪戯を――」

 

「ういっす師匠! 遠路はるばる御苦労様ーーーっす!!」

 

 

 は、やめた。

 何か急に目が覚めた。

 今から誰かにセクハラでもしてやりてーくらいにね。

 決して寝て起きたら南極でしたなんて悪夢を味わいたくないからとかじゃない、真横でニタニタしながら此方を見てた――つまり我が師匠が来てくれたのにおもてなしをしないなんて正義じゃないのさ。だろ?

 

 

「やっほー一誠。

毎晩夢の中で熱い夜を共に過ごしてたけど、こうして現実に向かう合うのは、キミが高校進学をした時以来だね」

 

「そっすね」

 

 

 返答間違えて南極に飛ばされて堪るかと、おっかなビックリな内心を隠せずに、口調に出す俺は餓鬼の頃に出会ってから『全く容姿の変わってない』師匠を見て、何となく正座する。

 誰もが目を引くだろう『かわいすぎる魅力的な顔立ち』。

 誰もが目を引く長い黒髪と何と無く特徴とすら思えてしまうヘッドバンド。

 そして、どっかのアニメキャラみたいな魅力的な声。

 

 内面さえ抜かせば誰もが羨み、誰もが欲しがる人として完璧な姿である師匠は、黒いハイソックスにセーラ服というごく普通の女子学生的制服を着て正座する俺に、相変わらずな笑顔を見せていた。

 

 

「師匠が此処に来るなんて珍しいね。

何かやるつもりとか?」

 

「コラコラ、毎度言わせる気か?

僕のことは親しみと愛情をもって『なじみ』と呼びなさいとさ?」

 

「……あ、うん」

 

 

 朱乃ねーちゃんと同じ様に、何もかも無かった俺に道を示し、ありとあらゆる事を教えてくれた師匠。

 師匠であるはずなのに、師匠と呼ばれる事を嫌う変な人外。

 

 

「ハァ……で、なじみちゅわ~んはどうして此処に来たの?

新しい修行でもつけに来てくれたとか?」

 

 

 安心院なじみ。

 おっぱい少ないけど、引くほど可愛く。

 おっぱい少ないけど、引くほど魅力的。

 おっぱい少ないけど、引くほどの人外。

 彼女と出会う以前にスキルを発現させたことにより、彼女の目に留まってあらゆる事を叩き込んでくれた、恩人でもある人外さんは、久しぶりに現実(コッチ)に現れた事に不思議に思う俺に微笑みながら、よっこらせと余り綺麗とは言えない畳の上に腰を下ろすと『ちょっとそこのコンビニでジュース買ってくるぜ』的な軽い言い方で、言ってきた。

 

 

「最近することが無くてさ。

僕や一誠みたいにスキルを発現させる人間も他にはいねーし、だからと言ってチョロチョロとアッチコッチ行く気にはなれない。

だから暫くはキミの側でのんびり過ごさせて貰おうかなってさ」

 

 

 要約するとこうだ。

『僕 暇 だから一誠と遊ぶ』らしい。

 女の癖に一人称が僕という、誰を狙ってんのか分からん属性すら持つ『なじみ』は人外故にお暇らしい。

 

 

「なるほどね、まぁ良いけど」

 

「そう言ってくれると思ってたぜ一誠。よし、それなら今からこの部屋に僕も住まわせて貰うぜ!」

 

「え……なんで?」

 

 

 暇潰しに俺を使いたいのなら別に構わん。

 何せ彼女にはその程度では足りねー程の借りがあるしな。

 ただ、いきなしこんな8畳で家具も布団も一人分しか無いこの部屋に住むぜなんて言われても困るというか……。

 

 

「折角だし、なるべくキミに合わたライフスタイルを送りたくてね。

僕は自宅という物が無いし他の知り合いも朱乃ちゃんや朱璃ちゃんかバラキエル君……………と、あと一人くらいしか居ない。となれば、一人弟子であり最も僕に気を使わないキミの世話になるのが一番だねと」

 

「は、はぁ……」

 

 

 それって理由になってないんじゃないのか? とペラペラとアニメ声で語るなじみに内心突っ込む。

 いや確かに師匠曰く、俺以外にコンタクトを取ってるのが姫島一家だというのは分かってるけど……うーん。

 

 

「どう? キミがエロDVD見てようが僕は文句なんて言わないし、何なら溜まってる分とか僕を使って吐き出させてやっても良いぜ? ちなみに僕は未経験だったりする」

 

「いや、豊胸で誤魔化せるとはいえ、デフォルトのアンタはあんまおっぱい無いし、それは要らねーや」

 

 

 何を考えてるのか知らんけど、住み家を半分貸せというのであれば、あんま人の生活……いや性活に口出しして来ないなじみなら別に良いか……と悪戯っこみたいな笑みでヒラヒラとスカートを捲くり、何か凄いことを宣う彼女から目を逸らして断る。

 俺は積極的な女に流されるより、恥じらいたっぷりなおんにゃのことイチャイチャするシチュの方が好きなのさ。

 

 

「なーんだ、ざんねーん。

ま、我慢出来なくなったら何時でも言えよ? 安心院なじみに此処まで言わせる男は、過去現在未来を見てもお前しかいねーんだからよ」

 

 

 目を逸らしてまで断ったのが効果を発揮したのか、全然残念そうに聞こえないし見えもしない態度で、ヒラヒラさせていたスカートを元に戻し、昔からのヤケに俺を特別扱いするような台詞を聞かせてくる。

 いや、冗談なのかもしれんが、それでも彼女からすればカス以下な俺に色々と仕込んでくれた事を考えれば少しは本当なのかもしれない……一応未だにこの世界全体でも、俺だけがオリジナルの能力保持者(スキルホルダー)らしいしな。

 

 

「という訳で、久々に一緒に寝る?」

 

「もうそんな歳じゃねーよ。

俺はそこのがら空き押し入れで寝るから、なじみはこの布団使えよ」

 

「ありゃ、言ってる事とは裏腹に相変わらず固い男だ」

 

 

 住まわせる……というか寝床を提供する事になった俺は、早速また誤解される様な事をおっしゃるなじみの言葉を丁寧に断りながら、のそのそと何も入ってない押し入れの中に入る。

 一緒に寝るなんてしてみろ……朱乃ねーちゃんにバレたら絞め殺されるわ。

 アンタはそれを見越してか知らんけど、昔から俺を使ってねーちゃんを怒らせて遊んでたけどよ……。

 

 

 安心院 なじみ。

 

 種族・人外

 所属・無所属

 

 

備考――

 

 

 

 

 師である安心院なじみからの頼みで、部屋に住まわせた一誠は、そのまま何も無く押し入れで一晩を明かし、今日もセクハラ目的での風紀委員を執行しようと元気よく女子達の白い目も気にせず登校した。

 けれど、朝のSHRで軽く絶望した。

 

 

 

 

 

 

「僕の名前は安心院なじみ。

ご覧の通り、只の転校生さ☆」

 

 

 『転校生』として担任の横に立ち、あのポーズをしてる師匠の出現に。

 

 

「…………」

 

 

 SHRの始まりと共に、突如担任が口にした転校生にクラスメート達はざわめき、そして男子達は一誠を含めてしきりに『女の子ですか? おんにゃのこなんですか!?』と鼻息荒くして喚き、担任は『yes』と答えた。

 その時点ではまだ、一誠も他の男子達に混ざって『女の子の転校生』にテンションを鰻登りさせていた。

 そう――

 

 

「か、かわいい……!」

 

「や、やった……このクラスで良かったぞオレ!」

 

「まったくだ! しかもボクっ娘属性とかやべーよ!!」

 

「ちょっと男子! そんなに騒いだら可哀想でしょうが!!」

 

「そうよ、アンタ等の穢らわしい視線を向けるな! 目を潰しなさい!」

 

 

 

「…………………………………」

 

 

 案の定な反応が男女問わず巻き起こる中を、ただ一人額を思いきり机にぶつけながら頭を抱えている一誠は、朝までケロッとした顔で送り出しておきながら、ケロッとした顔で学園の生徒として入ってきた師匠に対して、何とも言えない嫌な予感を感じていた。

 

 主に三年生の朱乃とか朱乃とか朱乃とかの反応という意味合いで。

 

 

「絶対やばい……!

もしねーちゃんに『寝床を貸してる』とバレたら大泣きされるか、リアル処刑される……!」

 

 

 周りの全員が師であるなじみの外面良さに引っ掛かり、何処の席にするかで大騒ぎしてる中を、ただただ頭を抱えながら絶望する一誠。

 基本的になじみにも朱乃にも頭が上がらない男の、逃げようにも逃げられない状況にぶちこまれた姿は、何とも同情を誘うものは……あんまり無かった。

 つまり、それだけ二人……いや少なくとも現状4人の美少女に囲まれているのだ。

 まごうことなきリア充なかもしれない。

 だからこそ、一誠は受け入れるべきなのだ。

 

 

「僕って今親戚の事情で一誠と一緒に安くて身体が密着しちゃうくらい狭いアパードに住んでてね、出来たら彼の隣が良いと思ってるんだ」

 

「やっぱり余計な捏造すると思ったわ!

8畳ワンルームだけど家具とか無いから、密着なんてしてーねーし!!!」

 

『なん……だ……とぉぉぉぉっ!?!?』

 

 

 再び開かれる異端者裁判で『死刑宣告』されることを……。

 

 

「て、テメェェェッ!! 最近は姫島先輩と幼馴染みというクソ羨ましいポジションにいただけでは飽きたらず、安心院さんと同棲してるだとぉぉっ!!!

しかも何だよ密着って、どういうことじゃゴラァァっ!!」

 

「コロス……兵藤コロス!!」

 

「ありえないわ、この性欲バカと一緒なんて……酷いわ親戚の人!」

 

 

 

「ふーん、大人気じゃん?」

 

「ほぼお前のせいだ……絶対に朱乃ねーちゃんにバレたし……。

あ、あぁ……こ、殺されるぅぅ……!」

 

 

 何処から用意したのか、頭から足の先まで真っ黒なローブをクラスの男子は愚か女子まで身に付け、あっという間にのほほんとしているなじみと、ガタガタとちょっと先の未来の朱乃を思い浮かべて震える一誠は、もう早退してしまおうかとすら考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一誠くん、なんで安心院さんと一緒なの?♪」

 

 

 もう、それすら後手なのだが……。

 

 

 備考――転校生




補足

『平等なだけの人外じゃなかったかって?
あぁ、それはもう彼と出会ってからは飽きたし止めてるよ。
今はスケベな弟子を弄くって遊ぶ方が楽しいしね』

『え、ちなみに今話の台詞はどこまでが本気だって? そうだな~』







『あの子の子供を産んでやっても良いかな程度くらいかなと、思わんでもないぜ』


 その2

良かったね一誠くん。
たった一人加入で無敵の戦力だぜ! 世界征服も夢じゃねーぜ!!


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幼馴染みとの約束。師匠との約束。一度だけ出会った女の子との約束。そして姉。

テコ入れテコ入れ……。


※消すどころか加筆とは、私も中々救えないぜ……


 やばい、胃がキリキリする。

 やばい、暴飲暴食をしてない筈なのに胸焼けがする。

 やばい、変なストレスで吐きそう。

 やばい、やばい……やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。

 

 

 

 

 

 天然の能力保持者(スキルホルダー)である兵藤一誠。

 突き付けられた現実から逃げたいという強い思いから生まれた過負荷(マイナス)と、二度と失わないために、何も出来ず見ているだけしか出来なかったあの時から這い上がる為に生まれた異常性(アブノーマル)の二つを持つこの少年は、只その日を生きるだけの常人からかけ離れた人間だった。

 彼にそれを教え、使い方を叩き込んだ師匠曰く、一誠もまた人外であるとの事だが、本人にその自覚は無く、まだまだ弱いと自分を卑下しながら毎日毎日己の身体を鍛え、備えていた。

 

 かつて幼馴染みと約束した言葉を守る為に……。

 そして時を同じくして師と約束を守る為に……。

 

 

「酷い目にあったぜ……」

 

 

 嫉妬と暴力渦巻くクラスの処刑にも屈せず、今日も頑張るのだ。

 

 

「生で見てて思うが、お前って周りから全然信用されてないよなー?」

 

「……アンタが余計な事を言ったせいだ。俺は悪くない」

 

 

 安心院なじみという美少女が転校してきた……という話は学年……いや学園全体に広まり、それと平行してド変態の一誠と同棲してますという話も広まった。

 そのおかげで、一誠はこれまで以上に周囲から敵意の視線を向けられる羽目になった。

 女子からは変わらずの『穢らわしいものを見る目』で。

 男子からは『単なる嫉妬』で。

 

 

「お前ってリア充だったんだな」

「失望したよ……もう俺達の同盟もこれまでだな」

 

 

 エロDVD見せ合い隊と表して奇妙な関係だった元浜と松田も同じく、単なるスケベな風紀委員長から実は美少女に囲まれてる羨まし野郎という認識に切り替わった瞬間、冷たく言い放ちながら同盟を切ってしまった。

 ……。まあ、それを言われた一誠はあんまりダメージを受けては無かったが。

 

 

「あーぁ、これでエロDVDを貸し借りする相手が居なくなっちまった……ハァ」

 

 

 あくまで一誠としては、見たことが無いエロDVDをタダで借りる事が出来なくなった事に嘆いており、友人に近いともいえる関係が切れてしまった事に対してはどうでも良かった。

 理由は単純に『むさ苦しいだけの野郎とダチだなんて気持ち悪い。そんな事に時間を使うならおんにゃのこを口説き回ってたほうが余程有意義だぜ』――という、普通に最低な理由であった。

 割りと彼は学園で虐げられてもへっちゃらな気質なのだ。

 

 

「もう帰れよ。俺は今から委員の仕事だし」

 

 

 そんな友達の居ない男……一誠は、只今風紀委員が活動の為に使う部屋に居た。

 豪華な机、豪華なソファ、豪華な本棚、豪華な花瓶に挿された一輪の花。

 元は数年前まで来賓用の応接室として使われたらしいこの部屋は、三代程前に学園に在籍したとある風紀委員長が学園長を脅して用意させたという逸話があったらしい。

 

 今代の風紀委員長である一誠は見たことは無く、先代から聞いただけなのだが、『風紀違反者には、仕込みトンファーで滅多打ちにし、その凶悪な強さと恐怖で風紀を取り締まっていた女風紀委員長』という話を聞いた時は地味に憧れていた。

 もっとも、その女風紀委員長が今の風紀委員長である一誠を見たら間違いなく仕込みトンファーで滅多打ちにするだろうが……。

 

 

「先に帰ってもすることが無いからなぁ。

どうせキミ一人なら他の人に迷惑にもならんし、帰るまで此処に居させて貰うよ」

 

「………」

 

 

 各委員会……それこそ生徒会よりも豪華な部屋を使用してるたった一人の風紀委員会である一誠は、帰れと言っても帰らずに風紀委員室まで着いてきた師匠・安心院なじみのやんわりとした断りの台詞に渋い表情を浮かべる。

 

 彼女のせいで、只でさえ皆無だった支持率的なものが更に消え失せ、彼女の出現のせいで幼馴染みの行動一つ一つに神経を尖らせなければならず、彼女の出現のせいで『リア充野郎』と誤解された。

 

 実年齢が3兆強。

 ババァという概念すら無い人外。

 外面は抜群でも内面はその人外が故に全てをカスと見下す。

 そんな彼女の事実を知れば、誰も彼もが自分をリア充だなんて言えやしないのに……と、一誠は昨晩から自由にやり過ぎて被害を受け続ける原因であるなじみを、若干の恨みが籠った目で睨んでいた。

 

 

「そんな目で見るなよ、照れるじゃねーか」

 

「………」

 

 

 が、通用しない。

 窓際に位置する委員長席に座って、責めるような顔をする一誠に対し、真ん中に設置したソファに座っていたなじみは、言った通りにポッと頬を染めながら照れた表情を見せてくる。

 端から見れば本当に照れているとしか見えない可愛らしい表情を魅せるなじみに、一誠の表情は胡散臭いものを見る顔であった。

 

 

「本当アンタって、演技から何から神がかり的だぜ。

神なんてもんは信じちゃいねーがな」

 

 

 伊達に10年以上の扱きに耐えちゃいない。

 どんなに良い顔をしようが、それが全て嘘だというくらいは分かってるつもりだ。

 

 

「酷い事言ってくれるね。

一応僕だって弟子にはなるべく正直にしてるつもりなんだぜ?」

 

「どうだか」

 

 

 苦い表情と共にたっぷりの皮肉を言われても怒る様子も無く、笑みを浮かべるなじみに、一誠はちょっと拗ねた様子で日が傾き始めた窓の外へと視線を向ける。

 これ以上口で言った所で勝てる相手じゃないのは嫌というほど分かってる。

 ならば黙ってさっさと委員の仕事をした方が余計な体力を使わずに済む。

 そう判断した一誠は、駒王学園の女子制服姿のなじみを放置してファイリングした書類を捌く作業に着手し始めようとするが……無理矢理忘れようとしてた心配事のせいで手に付かない。

 

 

「…………。あの騒ぎでなじみが学生として転校したって話は、朱乃ねーちゃんにも伝わってる筈。

なのに、今日は一度もねーちゃんは俺の前に姿を現さなかった」

 

 

 広げた書類を放置し、血色の悪い顔色でブツブツとなじみの転校から放課後の今まで全く姿を見せなかった朱乃について考えると、いつの間にかお茶を飲んでいたなじみが他人事の様に口を開く。

 

 

「朱乃ちゃんね。

そういえば彼女は僕の事が嫌いだったし、だから出て来なかったじゃないの? 今も『部活』に精を出してるみたいだし?」

 

「………」

 

 

 知ってて尚この態度。

 またもや可愛らしく微笑むなじみに一誠は苦い顔だった。

 

 昔から朱乃となじみの仲は良いとは言えなかった。

 いや、なじみは別にといった様子だが、朱乃は違うのだ……主に一誠のことで。

 

 

『え、師匠が嫌いなの?』

 

『うん』

 

『なんで? 嫌なことでもされた?』

 

『された……私の前で一誠くんにベタベタしてる』

 

『ベタベタ? んー? 俺はしてないと思うけど……』

 

『してるの! 一誠くんのバカ!!』

 

 

 と、この様にだ。

 朱乃からすれば、確かに安心院なじみは一誠を強くした師匠なのかもしれないが、同時に単なる師弟とは思えない異様なスキンシップの多さに危機感を抱いていた。

 

 まあ、確かになじみは幼い頃の一誠に――

 

 

『良いかい、今日の修行はかくれんぼだ。

僕が適当に隠れるから、一誠は僕を探すんだよ?』

 

『おう!』

 

『それで、見つけた時は僕が逃げないようにしっかり抱き付いてから、『なじみおねーちゃんみーつけた!』と言うんだ。

言わなければもう一度最初からになるから忘れるなよ?』

 

『おう、絶対に忘れねーぜ!!』

 

 

 

『…………』

 

 

 なんて事をわざわざ見学していた朱乃の前で言ったり……。

 

 

『ねぇ、一誠くん。

あの人の言うことを全部聞くのって、間違ってない?』

 

『えー? そんなこと無いと思うけど。

ほら、俺結構強くなってるし』

 

『…………』

 

 

 当時、色を全く知らなかった無垢なしょただった一誠に味方までされ……。

 

 

『い、一誠くんを誘惑しないでください……!』

 

『誘惑? 何の事かな朱乃ちゃん』

 

『だ、だからその……必要以上にベタベタしないでください!!』

 

『あぁ、そう言うことか。

何を言うかと思ったら、一誠が年上好きだからって妬いてるのか?

はっはっはっ……彼が誰を好きになろうが彼の自由だろろうに。

キミみたいなちっぽけな小娘じゃなきゃ駄目なんて法律は存在しないだろう?』

 

 

 なじみもなじみで煽る煽る。

 それ故に朱乃は昔から師匠というポジションに居ることを良いことに一誠の周りをウロチョロするなじみが嫌いだったという訳だ。

 

 

「どうも昔からねーちゃんはアンタを気に食わない様だったが……」

 

「さぁてね、キミが僕に取られるとでも思ってるんだろうよ。

本当に面白いよね、既に恋人気取りなんだぜ? あの小娘は」

 

「……。そうさせたのは俺のせいなんだけどな」

 

「違うな。堕天使に殺されたトラウマをキミの与えた情で誤魔化してすがってるだけさ」

 

 

 朱乃をそうさせたのは自分の安易な言葉のせいだと目を伏せる一誠に、なじみは珍しく詰まらなそうに鼻を鳴らしながら指摘する。

 

 

「それを彼女は恋心と信じてるらしいが、すがり付く相手が消える事を恐れてるってだけの餓鬼の我儘にしか僕には見えねーな」

 

「おい」

 

 

 指摘をすることはあれど、批判をすることはあんまりないなじみの割りと辛辣な言い方に一誠が少し顔を曇らせながら制止させようと声を出す。

 

 

「んー? あーはいはい、相変わらず甘ちゃんだな一誠は。

間違ってると気づいてるくせに、彼女の心配を優先して黙ってる……聞こえは良いが、彼女の為にはならないぜ?」

 

「分かってるよ……。

分かってるけど……さ」

 

 

 師匠だけあって、朱乃に対する複雑な気持ちもお見通しであるなじみの指摘に、一誠は言い返す事が出来ず軽く俯く。

 そうだ……守りたいという自分の自己満足の為に朱乃の心を縛り付けてしまった。

 自分なんかより余程素晴らしいクソッタレな異性だっている筈なのに、縛り付けてしまったせいで見向きもしない。

 

 

「でも、約束したからこそアンタの扱きに耐えきれたのも事実なんだよ。

……。案外俺もねーちゃんに拘ってるのかもね」

 

「ふーん? それなら僕はこれ以上言わないけど、覚えとくと良いよ一誠」

 

 

 朱乃がそうである様に、自分ももしかしたら程度は違えど同じなのかもしれないという告白に、なじみは一瞬だけ目を細め、スッと立ち上がる。

 そして一京分の一である腑罪証明(アリバイブロック)というスキルで椅子に座って俯く一誠の膝の上に一瞬で移動し、対面するように乗ると、ギョッとする顔をする暇もなかった彼に対してゾッとしつつも見惚れる様な笑みを薄く浮かべて言った。

 

 

「誰とヤろうがキミの自由だ。

そこら辺の女と色恋沙汰になろうが文句は言わないよ。

けどな、朱乃ちゃんとの約束と同じくして僕と交わした約束は何があっても守って貰わないと困るんだよ……」

 

「ぬ……」

 

 

 互いの身体が密着し、互いの顔が近付き、互いの鼻の先がくっつくその刹那に聞かされた言葉に、一誠は相変わらずビックリするくらいに良い匂いがする女だな……とか余計な事まで考えつつも黙って頷く。

 

 

「忘れてないさ……一応な」

 

「よろしい。

ふふ、あの時は生意気なチビだったが、随分と図体だけはデカクなってくれたものだ……」

 

 

 お互いの額が重なる程に近い状況で、お気に入りの玩具を楽しそうに眺める表情を見せながら下手に動けない一誠の背中と肩に腕を回すなじみ。

 端から見れば、学校内でするな的絵面だがこの場に二人しか居ないために誰も咎めるものはいない。

 互いの顔と身体が超至近距離まで迫り、目を何と無くで逸らす一誠と、見透かすような瞳で見つめるなじみ。

 

 この世に初めて生まれた能力保持者(スキルホルダー)と人外は、只の師弟というには違和感すら感じる奇妙な繋がりが形成されているのだ。

 

 そしてその奇妙な繋がりこそが、朱乃の危惧する所であり――

 

 

「な、何をしてるのですか……お二人とも……?」

 

「っ!? あ、朱乃ねーちゃん……と、あれ?」

 

「ん、おやおや?」

 

 

 最も嫉妬する所なのだ。

 姫島朱乃にとって……そして――

 

 

「……。昼間の騒ぎの事についての話がしたくて訪問させて頂いのですが……」

 

 

 困惑と、妙に泣きそうな顔をして朱乃の後ろから顔を見せた生徒会副会長の密かな思いは。

 

 

「お久し振りですね、安心院さん。

暫く姿を見せないと思ってましたが……ほほ、ほほほ……取り敢えずその訳の分からない体勢を止めて離れてくださるかしら?」

 

「………」

 

 

 それまで姿を現さなかった朱乃の突然の訪問に、一誠は今さっきまでも落ち着いた気分をひっくり返し、ただただ今のこの『誤解されかねません』な体勢について言い訳する台詞をアレコレ考えようと頭をフル回転させる。

 けれど朱乃はそんな一誠を気にせず、ただただ対面座位の様に一誠の膝の上に乗っていたなじみに、笑顔でありながら、100%果汁ジュース宜しくな殺意を向けて退けと言い放つ。

 

 

「やぁ朱乃ちゃん、こうして顔を合わせるという意味では久し振りじゃないか。

うん、退けと言われりゃあ退くのも吝かではないよ、特に何をするって訳でもないしねー」

 

「なら早く……!」

 

「おっと待ちなよ、その前にキミの隣に居る子を無視しちゃ可哀想だろう?」

 

 

 常人なら裸足で逃げ出すだろう強い殺気を物ともせずといった様子で朱乃の隣に静かに佇んでいた眼鏡を掛けた少女に、全員の視線が移る。

 

 

「し、真羅さん? 何故貴女が……」

 

「おいおい、気付いてなかったのよ?」

 

「いや、確かに何でこの人が此処に?」

 

 

 怒りに囚われ過ぎたせいなのか、後ろから着いてきていた椿姫の存在に気付かなかった朱乃は大きく狼狽え、同じく一誠も全然絡みの無かった人物の出現に困惑の表情を見せる。

 

 

「……。会長に頼まれ、昼間の騒ぎの当事者であるお二人から事情聴取を行おうと来ただけです。

……お取り込みの様でしたが」

 

「いや……」

 

「フッ……」

 

 

 自分の置かれる状況に言い返せず目を逸らす一誠――ではなく、小さく笑うなじみに眼鏡越しから伝わる鋭い視線

を寄越す椿姫は、低い声で言った。

 

 

「少し、おふざけが過ぎるようですね……安心院なじみさん。此処は学舎ですよ?」

 

「ふーん?」

 

 

 どういう訳か『朱乃と類似した殺気』を放ち、鋭い眼光で睨む椿姫に、隣でそれを感じた朱乃は嫌な予感を瞬時に察し、なじみは完全に察した様な意味深な笑みを浮かべている。

 ……一誠は『早く帰りたい……』と泣きそうになってて気付きもしないが。

 

 

「なるほど、実にキミらしい言い方だね。

自分の気持ちよりも置かれた立場を取るのは、中々居ないのにさ」

 

「っ……! それならさっさとそのハレンチな――」

 

「そ、そうですわ! 早く彼から――」

 

 

 見透かすような言い方に一瞬だけ顔を歪める椿姫と、そろそろ本気で爆発しそうな朱乃は取り敢えずさっさと一誠から離れろと声を荒げようとした。

 しかしその刹那、なじみは『キミ達二人が最初からこのタイミングで来ると分かってたんだよ』的なニヤニヤ顔で『退け』と向けてくる殺気を受け流すと――

 

 

「わかったけど、その前に此処まで自力で成長した弟子にささやかご褒美をあげることくらいは許してくれよ? 例えば――」

 

 

 朱乃と椿姫の見ている前で、動揺しまくって頭が既にパンクし始めていた一誠と思いきり唇を重ねた。

 

「んむっ!?」

 

「なぁっ!?」

 

「!?」

 

 

 当然こんな不意打ちを食らった一誠は、塞がれた状態のまま変にもがき、朱乃も椿姫も顔を真っ赤にしながらショックでその場から動けない。

 

 

「ん……久々だからちょーっとマジになっちゃったぜ……」

 

 

 30秒程の時間を使ったキスに満足したのか、わざとらしく頬を染め、しおらしい表情を見せつける。

 

 

「う、うへ、うへへ……」

 

「な、な、な……!」

 

 

 された本人は意識がショートしたのか、間抜けな声を出しながら目を回し、見せつけられた朱乃はショックと怒りで上手く声が出せない。

 その中を、なじみはケロッとしながら一言――

 

 

「言っとくけど、僕なりにマジでやったから他の女とやってもこの子は満足できなくなってるぜ……とだけ言っとくぜ朱乃ちゃんと真羅椿姫ちゃんや?」

 

 

 己の所有物に手を出すのは構わないが、出したところで無駄だと、気絶した一誠の頭を胸元に抱き寄せ撫でながら見下した表情でバリバリと身体から電撃を無意識に放出してる朱乃に言い放つのであった。

 

 

 

 

 

 ハイスクールD×D……だよね、この世界?

 なのに何であの人が……。

 

 

「ふへ、ふへへ?」

 

「あーらら、ちょいと舌入れてやっただけでパンクしちゃって」

 

「な、な……ななっ!」

 

 

 私が持つべきじゃなかった赤龍帝の力の代わりに得たと聞かされた時から、変だとは思ってた。

 だってその力は、少年ジ○ンプの戦うヒロンインが主人公の漫画の登場人物が持つ異常で過負荷な異能力なのだから。

 それを一誠が持ったということは、もしかしたら背後に誰かが……原作には居ない誰かが付いていると思ってたけど、まさかそれが彼女だったなんて。

 全然知らなかった……。

 

 

『り、凛……あの女は"何だ?" 人間……なのか?』

 

 

 赤い龍(ウェルシュドラゴン)ことドライグも、よりにもよって一誠にベタベタしてる彼女を私の中から見てたのか、動揺した声で問い掛けてくる。

 

 

「わ、私にもよくわからないけど、唯一理解してるのは『何でもアリ』という事だけ……。

わかる様に言えば、神器(セイクリッドギア)を複数持ってる様な人としか……」

 

 

 アニメのヒロインみたいな声。

 実物で見ても感じてしまう魅力的な容姿。

 何もかもが女の子として理想的な姿をして、持ってる力も途方なき数。

 ……………。いや、それはもう良いよ。

 何でめだかボックスの登場人物が、この世界に居るのかとかそんなのは実際にこの目で見てしまってる以上認める他ない。

 私にとって重要なのは……そうだよ。

 

 

「一誠が彼女に気に入られてるなんて……どうすれば良いの……?」

 

 

 一誠がめだかボックスの登場人物みたいな能力(スキル)を持っている理由はこれで理解したけど、よりにもよってそれを促したのが、神様ですら手に終えないだろう安心院なじみ(じんがい)だったという点だ。

 しかも、見るからに一誠を気に入ってるというオマケ付き。

 朱乃先輩……そして、まさかの真羅先輩が安心院さんに食って掛かるのを一切怯まず、目を回してる一誠を抱き寄せて意味深に笑ってる姿を見せられてる私は、胸が引き裂かれる思いしかない。

 

 

『凛……俺はこれ以上お前の弟含めて奴と関わるべきじゃないと思う。

あの女、俺達を封印してくれた神以上に……』

 

「…………」

 

『おい凛! 聞いているのか!』

 

 

 うぅ……只でさえ一誠に嫌われてるのに……これじゃあ。

 

 

 

「離れて……一誠くんから離れて!!」

 

「どうしてキミにそんな事を言われなければならないのかな? 一誠はそんな必要はないと言ってるけど?」

 

「うへ……うひぇひぇひぇ」

 

「ほら」

 

「だ、黙りなさい! そんなこと言ってない!」

 

 

 分かったことがある。

 ……。多くの者達はその性格故に疎ましく思っているが、極一部はそれを気にしないで彼の……何とも言えない包容力とでも云うべきか、ある意味正直なその姿に惹かれる者がいるということに。

 隣で鬼のような形相で威嚇している姫島さん然り、この部屋の出入り口の扉から覗き見てる兵藤凛さん然り、この訳の分からない転校生然り……私然り。

 

 

「此処で暴れるのはよくないですよ姫島さん。

まだ一般人も多く居ますので」

 

「ぐっ……」

 

 

 まあ、私の場合は女々しく昔の約束に本気になっているだけだが……。

 

 

「貴女もですよ安心院なじみさん。

今後、校舎内ではそのようなハレンチ行為は慎んでください」

 

「へぇ、キミは騒がないんだな?

ま、一回のキス程度で大騒ぎするような歳でも無いといえばそれまでだけど」

 

 

 今にも魔力を辺りに撒き散らしそうな姫島さんを諌め、未だ彼にベタベタとくっついている安心院さんも、大胆すぎるその行動を止めろと注意し、一応は落ち着いた空気に戻る。

 が、私は姫島さんの気持ちの方がわかる。

 ハッキリ言えば私だって腸が煮えくり返ってるのだから。

 

 

「今更何しに……!」

 

「決まってるだろ? 何れは僕の背中を任せる男なんだぜ? そろそろまた彼の持つスキルをステップアップさせてやろうとな」

 

「それは単なる建前でしょう!?」

 

「……」

 

 

 それにしても、あの姫島さんが年相応な口調なのは意外だ。

 どうやらこの安心院なじみという人とは昔からの顔馴染みというのが会話を横から聞いてて分かるのだが……。

 

 

「私から一誠くんを取らないで!」

 

「取らないで? は、おいおい、何を言い出すのかと思えば……。

相変わらず一誠を縛り付けて成長を阻害させるだけしかできねー小娘だなぁ?」

 

「……………」

 

 

 殆ど部外者である私には情報が足りない。

 故に余計な口は挟まず、ソファに寝かされて魘されてる彼を横に言い合いを……いや、どちかと言えば姫島さんが安心院さんに一方的な敵意を向けた発言をしている内容を聞いて情報を得る事に徹する。

 

 

「僕は別に一誠が誰とヤろうが、色恋沙汰になろうが自由だと思ってるし実際好きにさせてるよ。

けれどキミはなぁ……? 浮気は許さないって…あっはっはっはっ、まるでメンヘラだぜ?」

 

「うぐ……!」

 

 

 

 

「うーん……」

 

「………。(綺麗な肌……頬も柔らかい)」

 

 

 魘されてる彼が気になり、横になる彼の隣に座りながら話を聞いてみたところ、どうも姫島さんを小娘呼ばわりしている辺り、この安心院なじみという人物は実年齢がもしかしたら高いのかもしれず、我等の様な存在なのかもしれないという疑惑が生まれた。

 しかしだとするなら一体どんな存在なのか、悪魔では無いことは分かるが、だといって堕天使とは思えないし天使でも無さそう。

 妖怪……というの線があるが、それでも何か違う気がしてならない。

 

 

「ぅ……」

 

「ぁ……兵藤くん?」

 

「うーん……ね、螺子はやめろぉ……」

 

 

 様々な推論を展開させるも、結局はどれも彼女が魅せる雰囲気のせいで当てはまらず、『正体不明の得体の知れない存在』ということしか分からないまま、言い合いをする様を眺める。

 これは会長に報告すべきなのか……すべきなのだろう。

 けれど何故か私の中で『それはすべきでは無い』という警告がアラーム様に繰り返される。

 彼女がその気になれば『私達なんて紙屑の様に消し飛ぶ』という予感が……。

 

 

大嘘憑き(オールフィクション)はやめれぇ……」

 

「さっきから何の夢を見てるのかしら……?」

 

 

 それにさっきから変なうわ言を苦しそうに呟く兵藤くんは、彼女を師匠と呼んでいた。

 それはつまり、あの時の彼が得意気に口にしていた『師匠』が彼女という事であり――

 

 

『師匠?』

 

『そうそう俺の師匠! 今その師匠と『鬼ごっこ』をしててな? 師匠を追いかけて捕まえるのが修行なんだ!』

 

 

 かつて見知らぬ町に訪れ、迷子になり、偶然彼に出会って助けてくれた時の記憶に残る会話。

 その中には彼の『師匠』について話もあった。

 

 

『変な修行……』

 

『うーん、仕方無いんだよねぇ。

師匠が言うには『まだ小僧のお前にはこれが一番効率が良い』らしいし』

 

 

 あの時の話を思い出せば、彼女がその見た目とは裏腹に、実年齢が相当に高いことが予想できる。

 恐らく当時も今の姿と変わってないのだろう……私も似たような状況になってるし今更驚く事でもない。

 

 

『お礼? いや要らないよ。俺も早く師匠を捕まえないといけないしな』

 

『で、でも……』

 

『じゃあ、お互いに大きくなって、何処かでまた会ったときに覚えてたらデートしようぜ! なーんてね、にしし!』

 

『で、でーと……?』

 

『そ、デート! 本当は『ねーちゃん』に怒られるかもしれないけど、俺も男だし、可愛い子とデートくらいしてみたいんだよね』

 

『か、かわいい……わたしが……?』

 

『? うん、椿姫ちゃんは可愛いよ?』

 

 

 まだ覚えている。

 家柄と性格が理由で余り友人というものが居なかった私の前に現れた元気な男の子。

 どちらかと言えば余り好きではない騒ぎ、私にちょっかいをかけてくる同年代の男の子と変わらないただの男の子。

 けれど、迷子になって寂しくなった私に手を差し伸べ、自分だって土地勘が無いのに最後まで一緒に探してくれた、今にして思えば変な男の子。

 気取ってるとか、良い子ぶってるという理由でからかう周りの男の子とは違い、可愛いと言ってくれたおかしな男の子。

 だからなのか鮮明にあの時の事も約束の事も覚えている。

 

 

「覚えないなんて……酷いわよバカ」

 

「うーん、うーん……!」

 

 

 名前を耳にして首を傾げていただけ。

 それから一度もまともに会話なんてしない。

 忘れているのか、それとも自分の置かれたこの状況を知られたくないからわざと避けていたのか、それは聞いてみないとわからない。

 

 

「でも私はちゃんと覚えてるわよ……一誠くん?」

 

「んー……んー……」

 

「ふふ、早く目を覚まさないと、鼻だけじゃなくて口を塞ぐわよ?」

 

 

 それももう良い。

 覚えているにしても忘れてるにしても、どっちでも良い。

 姫島さんだとか、この得たい知れない安心院さんがとかもどうでも……。

 忘れてるのであれば、思い出させるだけなのだ。

 シンプルで簡単で、一番手っ取り早い……。

 

 

「私は約束を破るのも、破られることも嫌いなの……」

 

 

 例えスケベな男になろうとも、ね。

 

 

「……。真羅さん、もう彼の事は良いので早くお帰りになられたらどうですか?」

 

「そうしたいのは山々ですが、アナタ達を放置して暴れられても困りますからね。

まずはその言い合いを止めて頂けるかしら?」

 

「確かにキミの言う通りだね。

この僕もムキになりすぎてるし、ちょいとは反省しないとな」

 

 

 全く私も中々趣味の悪い女だ。

 まあ、不思議と後悔はしてないけど。

 

 

「そういう訳です、彼も魘され―――――」

 

 

 とにかくこれで決心は固まった。

 あとはこの幼馴染みだとか師匠だとかをどう出し抜くか……と妙にスッキリした気分で考えていた私だが。

 

 

「うー………ん……」

 

 

 彼が苦しそうに唸りながら手を動かしたその瞬間、一気に思考が停止した。

 

 

「はぅ……!」

 

「ま、ましゅまろはやめれ~……ぐぅ」

 

 

 何かに追いかけられてる夢でも見てたのか、魘されながら身体をもぞもぞと動かしていた彼の手が、ちょうど一番近くに居た私の……その……胸を思いきり鷲掴みにしたのだ。

 

 

「な、なにを!?

や、やめ……あっ……!」

 

 

 ビックリなんてもんじゃないし、変な声も出てしまった。

 特に姫島さんや、扉の外から見てる兵藤さんから殺気めいた何かを感じるが、それどころじゃない。

 こんな人前で……こんな……!

 

 

「あーらら、僕しーらね」

 

「し、知らないって……止めさせ……て…ぁん……!」

 

「揉まれて感じながら『止めろ』と言われてもねー? 僕は別に誰とシッポリしてようが構わないと思ってるし。ねぇ朱乃ちゃん?」

 

「……………………」

 

 

 な、なん何ですかその余裕は……!?

 姫島さんは違うようですが……ひん!?

 

 

「もにゅもにゅ…………………………………ふぇ?」

 

 

 誰にも触らせたことないのに……。

 今更起きたって遅いのよバカ……!




補足

実のところ、このやり取りを凛ちゃんは影から見てます。

そして『安心院なじみ』の存在にビックリしてます。
何せ、チートオブチートだと知ってますからね……。


副会長と彼が小さいときに会った理由は。
『其々の理由で互いに土地勘の無い街に訪れ、偶然出会った』だけです。


そして一誠が親切をした理由も『何と無くあの時から少し経った後のねーちゃんみたいな雰囲気で放って置けなかった』という感じですかね。
当時の彼はマセてるようで、そうでないショタ状態でしたし。


……。っとこれで恐らくヒロインは固定され、後は増えることも無いですかね。

あっても、一誠がナンパして即玉砕するだけみたいな。
基本、そのドスケベな性格で損してる事に気付いてませんからね、彼は。


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風紀委員長の日常
仕事が無い風紀委員長のお仕事


ちょっと修正と加筆
でもやっぱり長いだけ



 まいったな。

 やっぱり怒ってない訳がなかったんだ。

 ある意味朱乃ねーちゃんって、あの事件以降のバラキエルのおっさんと同等かそれ以上に師匠――じゃなくて、なじみに敵意を持ってるし、それを考えればなぁ?

 

 

「夢の中では華奢な学ラン野郎にデカイ螺子をぶん投げられるし、起きたら起きたで良いのか悪いのか良く解らん展開になってるし……。

いくら日頃の行いが悪いからってこれはねーぜ……くそぅ」

 

 

 なじみが転校してきてから数日経った訳だが。

 弱ったことにあの時以降からねーちゃんが全く口を聞いてくれなくなった。

 学園内で顔を合わせても無言。

 こっちから話し掛けても拗ねた様にソッポを向かれる。

 ちょっと納得できないけど、何とか謝ろうとしても無視。

 

 

「な、なぁねーちゃん?」

 

「つーん」

 

「た、頼むよ。そんな態度されると調子が狂うというかさ……」

 

「ぷい」

 

 

 まさに取り付く島無し。

 普段は服装チェックの邪魔ばかりするし、最近はところ構わず変に世話を焼こうとするのが鬱陶しくすら感じてたのに、イザこうしてガン無視されると変に調子が狂って日課のセクハラもまるで手が付かねぇ。

 

 

「あぁ……なーんか物足りねぇ」

 

「朱乃ちゃんに怒られないのが物足りないのかい?

とんだマゾだなオメーは」

 

「そうじゃねーし。

俺はどっちかと言うと染められる側より染める側だっちゅーの」

 

「やっぱり幼馴染みなんですね、お二人は」

 

 何も知らん努力もせんで勝手に文句ばっかり抜かすバカどもが『ザマァ見ろ』と言わんばかりな顔をしてくるので、思わずその場でぶちのめしてやりたくなった。

 しかしながら、奴等の気持ちも解らんでもなかったので、それはグッと堪え、ただただ『クラスの友人兼遠い親戚の転校生』という設定で定着しちゃったなじみと、どういう訳かあの時以降からちょくちょく会話をするようになった生徒会の副会長さんが、何時もの通り俺を『兵藤一誠』として接してくれた。

 

 

「やっぱりあの時の女の子はアンタだったんだな。

てか年上だったのか……」

 

「あの時は眼鏡とかも掛けてなかったから、アナタが気付かなかったのも仕方無いと思っていたけど、少しくらいはと怒りを覚えたわ。

ま、結局忘れてなかったから許すけど」

 

「………」

 

 

 昼休みにもう一度朱乃ねーちゃんの教室に行って見事に玉砕し、物凄い惨めな気分で帰ろうとした所にひょいと現れ、驚く暇も無しに意外と誰も来ない屋上に来いと、なじみ共々引っ張ってきた黒髪ロングの眼鏡な生徒会副会長・真羅椿姫さんは、意外を通り越して雨でも降るのではなかろうかと思う気安さで、菓子パンをかじる俺に対して変に年上ぶった喋り方をしてきながら、ちまちまと自前の弁当を口に運んでる。

 

 

「縁というものは不思議なものだと思わないか?

一誠は僕が課した修行の為に、真羅さんは実家の者達からの嫌がらせで置いてけぼりにされた見知らぬ場所でたった一度だけ出会い、僅かな時間を過ごしただけの間柄なのに、今はこうして同じ学校で、同じ場所で再び過ごしているんだもの」

 

「ええ、そういう意味ではアナタに感謝してますよ安心院さん」

 

 

 俺に奢らせたジュースをちびちび飲みながらペラペラと語るなじみに、副会長さんはフッと頬を緩ませている。

 

 

「やっぱりあの時感じた俺の予感は当たってたのか……。内容的に当たって欲しくは無かったが……」

 

 

 しかし俺の気分は微妙だ。

 なじみの話と、それを否定せず口を閉ざす副会長を見るに、この人も結局は朱乃ねーちゃんと同じような目に遭ったのだと思ってしまうからだ。

 

 

「大衆の殆どは『自分が持ち得ない特別な何かを持つ人間を排除したがる』という習性があり、だからこそこの地球上では人間が多く生き残ってる……か。

胸クソ悪いが事実なんだよな」

 

 

 詳しく聞くのは野暮と思って聞かないが、大体の予想は出来る。

 迫害された理由は、特別な何かを持ってるから……もしくはねーちゃんの様に交わる血を持つ存在だからとか。

 ……チッ。

 

 

「三代前の風紀委員長が言ってたと先代から聞いた話の中に、『弱い癖に、群れを作るバカ共を見ると噛み殺したくなる』と言ってたらしいが、今なら何と無く分かるな」

 

 

 俺は会ったことは無いが、先代曰く『男女みたいでおっかない先輩だった』らしい人。

 何でも、女性でありながら学ランを羽織って二本の仕込みトンファーを武器に学園の――いや街の風紀を守ってたらしいけど、三代前の風紀委員長の言ってた事が今なら何と無く理解できる。

 人より少し違うからだとか、人間と交わった血だからとギャーギャー喚き、汚いやり方で排除しようとする連中は人間だろうと何だろうと俺は平等に嫌だ。 

 ……………。まあ、その被害を受けてるのが俺の知り合いだからというのが殆どだけど。

 

 

「もう過去の話よ。今もこうして生きてそれなりに楽しくやってるしね」

 

 

 なじみが言った通り、奇妙な縁が土台となり、こうしてあの時の以降のまともな会話は、初っぱなから妙に暗い話となったけど、彼女は想像以上に強くなってる様だ。

 決して簡単に流せるものじゃ無いはずの辛い過去を、過去として割りきってるのだからな。

 

 

「へぇ? あの時の迷子になって泣きそうになってた頃と比べると随分したたかになりましたな……椿姫ちゃん?」

 

 

 だからこそ悪魔の女王をやってられるんだろうな。

 おちょくるつもりで、あの時一度だけ口にした呼び方でニヤリと笑って見せると、副会長さんも笑って見せる。

 

 

「そうよ一誠くん。これでも私は副会長よ?」

 

 

 それはねーちゃんには無い……俺のせいでもっと早くに獲られる筈だった強さを感じた。

 ふむ、その強さを持ってるなら、安心して寝ぼけて胸を鷲掴みにした事は忘れ――

 

 

「そうそう、あの時の約束はちゃんと守って貰う――いえ、私の胸をあんなに強く鷲掴みにしたのだし、一回じゃあ足りないわね」

 

「……………。はい」

 

 

 ては無く、しっかり覚えてた。

 それはもう良い笑顔をしてらっしゃいましたぜ……。

 

 

「良かったな一誠、女の子一人GETだぜ!」

 

「……………」

 

 

 なじみ、耳元でうるさい。

 元を辿るとお前が余計な真似をしなければだな……ねーちゃんの事は全然解決してねーのに……。

 

 

 

 

 気に入らない。

 姫島朱乃はここ数日の全てが不機嫌モードであった。

 理由は簡単だ……兵藤一誠の浮気癖(朱乃的には)であった。

 

 

「まだ怒ってるの? 何があったかは知らないけど……」

 

「…………」

 

 

 そんな朱乃の不機嫌さを近くで数日ずっと見てきた紅髪の悪魔であるリアスは、呆れた表情をしながら無言で弁当を食べる朱乃に声を掛ける。

 

 兵藤凛の弟である一誠のクラスに女子生徒が転校してきてからずっとこの調子なのだ。

 リアスが呆れるのも致し方無い部分があるというものだ。

 

 

「彼のクラスに転校してきた子は確かに私から見ても美少女だとは思うし、妙に彼と仲が良いのも見たから分かるけど、それだけで口も聞かなくなるなんてアナタらしくないじゃない?」

 

「…………」

 

 

 変な時期に転校生。

 それも悪魔が管理するこの駒王学園に。

 妙な引っ掛かりを感じて一応調べてみたが、あの転校生……安心院なじみはれっきとした『一般人』でほぼ間違いなかった。

 両親と死に別れ、親戚に引き取られ、その親戚が個人的に兵藤一誠と親しく信用していたので、資金援助を対価に彼女を学園近くにある自宅に一緒に住むという所に違和感はあったが、それでも彼女からは何も感じない、極普通の人間という判断をリアスは下し、特に触れることもしなかった。

 

 しかしどうやら朱乃は違ったらしく、妙に一誠と親しい彼女と、セクハラもしないで普通に接する一誠の態度が気に入らないらしい。

 

 

「寧ろ彼女が転校してきてからは彼のセクハラは激減したみたいだし、アナタにとってもメリットはあるじゃないの?」

 

「…………」

 

 

 一誠を観察する限りだと、彼女に鼻の下を伸ばす様子も無さそうだし、何がそんなに気に入らないのか……無言で食べて飲んでをする朱乃を見るリアスだが、彼女は知らないのだ。

 

 

「………。(屋上で楽しくやってる。真羅さんも楽しくやってる。楽しく、よろしく)」

 

 

 安心院なじみが『そんな存在じゃない』ということを。

 リアス達悪魔を、冥界に存在する悪魔を、魔王を――いや神ですら『平等にカス』と見下す超存在であり、今持つ一誠の強さのほぼ全てが彼女によるものだということや、一誠を『自分の背を任せる』男にしようとしている事の何もかもを知らないのだ。

 

 

「……。(取られる。一誠くんが取られちゃう……嫌……イヤ……そんなの嫌よ……!)」

 

 

 だからこそ朱乃は半狂乱になりかけてる精神を何とか押さえ付けながら考えるのだ。

 どうすれば取られないのか、どうすればあの人外を出し抜けるのか。

 まさか自分の知らないところで幼い頃に真羅椿姫と出会い、ふざけた約束までしていたという死にたくなる現実もそうだが、一番に危惧するは安心院なじみなのだ。

 

 彼女自身は『一誠が誰と色恋沙汰になろうが僕は何も言わないよ』としたり顔で宣ってる間はまだ良い。

 問題は何時彼女が『気が変わっちゃったぜ』とか言い出すかだ。

 そうなったら最後、恐らく安心院なじみは一誠を永遠に自分達の手の届かない場所に連れ去るだろう。

 途方もない数の能力(スキル)を持つ彼女なら可能だ。

 

 

「……。(そんなことをされたらわたしは……)」

 

 

 想像するだけで身震いが止まらない。

 一誠を失って残るものなんて、この世にはないのだから。

 だからどうしても一誠の気を少しでも引くには、暫く口を聞かずに彼が自分にすがってくるのを待つしかない。

 

 

「……。そうですわね、私も少しは『大人』にならないと……」

 

「……? そうよ朱乃、もっと自信を持ちなさいな」

 

 

 しかしそれでは駄目だ。

 効果は確かにあるが、それだけじゃあ決定打にならない。

 大人……そう、何物にも動じない大人にならなければ意味なんてない。

 それが一誠の理想とする女性像なのだから……。

 

 無表情だった顔を、漸く何時もの二大お姉様と言われる笑顔に変わった朱乃を見て、一瞬の違和感を感じたものの機嫌だけは直ってくれたと思い込んだリアスはホッした――

 

 

 

 ――その瞳の奥の黒さに気付かず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朱乃ねーちゃんのお世話焼きが無くて、妙に狂ったままの調子だが、風紀委員のお仕事は忘れない。

 生徒会の勢力が拡大し、あれだけ全盛を極めた風紀委員会は今ではお払い箱で仕事も学園内には殆ど無い。

 が、しかし我が校の風紀委員会は三代前から作られた伝統がある。

 それは――

 

 

「それじゃあイッセーの坊主はこの区域を頼むよ!」

 

「いやぁ、ジジィだらけの町会員にフレッシュな若者が入ると気合いが入りますなぁ!」

 

「まったくだな、それも女の子まで連れてくるとは、坊主も男になってきたってことかぁ? ガハハハハ!」

 

「そうでもあるぜ、へっへっへっ!」

 

 

 駒王学園の制服に身を包み、右腕には風紀委員会の腕章……謂わば俺にとっての戦闘服に身を包んだ俺が今いる場所は、自治会が管理してる民家みたいな建物だ。

 右を見ても、左を見ても、前を見ても、後ろを見ても、ヤケにアグレッシブなじーさんばっかりで、熟女や人妻の姿は皆無であり、毎度のことながら自分等よりずっと若い俺がパトロール隊に入ったのがそんなに嬉しいのか、このじーさん共は大きな孫でも相手にするかの如く楽しそうに俺に絡んでくる。

 ぶっちゃけこんなじーさんに可愛がられても……と最初は思ったもんだが、今じゃ嫌味無く迎え入れてくれてるこのじーさん共とは楽しくやらせてもらってる。

 

 

「っし、区域確認完了! では行ってきますぜ!」

 

「終わったらタコ焼き奢ってあげるから頑張れよ!」

 

 

 本日のパトロール区域を指定され、町内会パトロール隊ただ一人の10代(ティーン)である俺は、じーさん共に見送られながら見回りを開始する為にその一歩を踏み出した。

 主な仕事はじーさんに与えられた区域内を見回り、不審な人物が居ないかの調査や家に帰る小中学生の護衛等々……まあ、そんな所を風紀委員会は自治会と連携してボランティアで行っており、たった一人になってしまった今でもそれは変わらない。

 まあ、今日はじーさん共が言った通り一人じゃねーがな。 

 

 

「前に聞いてはいましたが、まさか本当にボランティアをやってたのね?」

 

 

 本日のゲスト……副会長さんが何か付いて来たからな。

 

 

「まぁね。

アンタ等生徒会が風紀委員の仕事の殆んどを取ってくれたお陰で、日陰者の俺はこれしか風紀委員らしい仕事がねーのよ」

 

 

 なじみを先に帰らせ、ねーちゃんは既に部活で会えずに謝ることも出来ないままという状況のまま、予定されていたパトロールをする為に学園を後にした訳だが、何を思ったのか、副会長さんが集合場所に向かう俺の後を付いてきたのだ。

 曰く――

 

 

『ほぼ壊滅状態の風紀委員が、何故潰れないのかを会長から聞いて知ってましたが、それが本当なのか確かめる為に今日はアナタの行動をチェックさせて貰います』

 

 

 と、眼鏡をクイッとしながら涼しい顔をして戸惑う俺にそう言ってわざわざ歩幅まで合わせ隣を歩いた。

 そういや真羅椿姫としてじゃなく、生徒会としては俺の行動に懐疑的だったな……なんて今更思い出した俺は、別にやましいことはしてないので了承・そして今に至るという訳だ。

 

 

「一人しか居ない風紀委員に先代までの仕事をこなすとは、アナタの性格を見ても疑わしかったからよ。

恨むなら普段のハレンチな行動をしていた自分の浅はかさを恨むのね」

 

「……。副会長さんモードのアンタって言い方がキツいな」

 

「優しく言ってもアナタは聞かないでしょう? もしもあの時の事が無くて初対面だったら、話し合いの余地すらなく、アナタをハレンチな問題児として見てたでしょうし」

 

「だろうな。

だからこそ、アンタの滲み出るその雰囲気のせいでセクハラしようとは思わなかったしな」

 

 

 昼間の打ち解けた感じがまるでしない、ただただツンツンした態度で淡々と話す副会長さんにちょっと圧されてしまう。

 そう考えればある意味公平的だよこの人は。

 

 

「結局はしたじゃない。

寝惚けたフリして私の胸を……」

 

「い、いやフリじゃないっすよ。

アレは本当に――」

 

「ふふ、冗談よ」

 

 

 この前の事故について本当に意図しなかった事故と、ちょっとテンパる俺に副会長さんは小さく微笑む。

 ホント……アレは本気で事故だったんだ。

 

 

「でも掴まれたのは事実よ。

今でも忘れないわ……初めて異性の男の子にあんなに強く掴まれて……」

 

「すいません、すいません」

 

「誰にも触らせたこと無かったのに……」

 

「勘弁してください、勘弁してください……!」

 

 

 意外と根に持つタイプな副会長さんに俺はただただ平謝りというコマンドしか選択できない。

 だって理由はどうであれ事実なのだから。

 

 

「そう思うのならちゃんと誠意を見せなさい。

言っておくけど、私は意外としつこいわよ?」

 

「はい……はいでございまする……!」

 

 

 ヤバイ、何か心がへし折れそうだ。

 意外と大きいとか、言ってる割には最後まで俺をぶん殴らなかったとか言い返せる雰囲気のないまま、これ以上心にダメージを与えないために、彼女言う誠意を見せる為に、俺なりの風紀委員を執行するだけだ。

 

 

「取り敢えず、何時もの様にやるからそれを見て判断してください……っと、着いた」

 

「……公園?」

 

 

 

 何せ、俺が担当する区域は子供達の多くが利用する公園が存在しているので、公園内にも目を見張らなければいけないのだからな。

 第一の目的地に到着した俺は、後ろで目を丸くさせながら付いてくる副会長さんを連れて、わーわーと元気の良い声が聞こえる園内に足を踏み入れ、走り回ってる小学校低学年から園児くらいまでの子供に声を掛ける。

 

 

「おーう、今日も無駄に元気だな小僧共」

 

「あ、変態にーちゃんだ!」

 

「ホントだ! 遊んでよ!!」

 

 

 俺が来た事に気付いた小僧共が一人、また一人と俺の下へと走ってくる。

 仕事柄、実は俺って町内のガキ共と人妻や未亡人さんたちからはちょっとした有名人で通っており、学生服と右腕の腕章を身に付けた俺が公園にやってくると、こんな風に見付けたガキ共がわーきゃー言いながら集まってくるだよね。

 ……。何故か変態という渾名で。

 

 

「へ、変態って……」

 

「いや、何故かそれで定着しちゃったんですよ」

 

 

 わーこらと集まる小僧共の殆んどが俺を『へんたいにーちゃん』と連呼してるのを後ろから眺めていた副会長さんが引いていたので、何もそう呼べとは一言も言ってないとあらぬ誤解をされる前に釘を刺しておくと、小僧の集まりの中の一人が副会長さんを見て、ビックリした顔をする。

 

 

「おおっ!? へんたいにーちゃんが女の人連れてる! もしかして彼女!?」

 

「ホントだ! すげー!!」

 

 

 何でだろ、どうも此処等の餓鬼共はマセてやがる。

 いや確かに普段一人の俺が異性の人を後ろにやって来れば驚くのかもしれんが……はぁ。

 

 

「残念なことに彼女じゃないんだなこれが。

それより、人と会ったら何を言うかお前等忘れてないか?」

 

「あ、そうだった! せーの……」

 

 

 こんにちはー!!!

 

 

「あ……こ、こんにちは……」

 

 

 大事な事を忘れてる小僧共に促し、挨拶をさせた途端、副会長さんの顔が面白いことになってた。

 ははは、写メでも撮っときたい気分だが止めとこ。

 

 

「よーし、それだけ元気良く言えたら充分だ」

 

「じゃあ遊ぼう!」

 

「あー……すまんな小僧共。

俺は今パトロール中でね、遊んではやれんぞ」

 

「えー?」

 

「また今度な」

 

 

 餓鬼ってのは見所がある。

 なんというか、マジで圧倒されるガッツがあるからな。

 誰とでも仲良く出来るポテンシャルがあり、俺みたいなアホにも隔てなく接してくれる。

 嫌いじゃないタイプだ。

 

 

「子供から慕われてるのね」

 

「慕われてるというか、遊び相手にして貰ってるだけだと思いますがね」

 

「………」

 

 

 ド変態なセクハラ野郎の側しか学園では見せておらず、そしてこんな活動を内緒でしていた事を詳しく知らなかった副会長さんは、鳩が豆鉄砲を喰らった顔をしていた。

 まあ、生徒会副会長として見た風紀委員長は救い様の無い馬鹿にしかみえないからな……っと?

 

 

「あ、あの……お兄ちゃん……」

 

 

 わんぱく小僧共が園内を駆け回るのを、二人して眺めていた時だった。

 様々な小僧やお年寄りが様々理由でやって来るこの公園は、当然走り回りたくない奴は来ちゃいけないという決まりなんて無い。

 中には運動が苦手な子だって居るし、そういう子が来る場合は大抵ベンチか何かに座って本を読んだりのんびりしたりしている。

 で、この時も、何時も来ては隅のベンチで小難しそうな本を何時も読んでるだけで、他のガキ共と一緒に走り回らないタイプの子が遠慮しがちに近付いて来たので、俺は表情を緩めながら目線を合わせるためにしゃがむ。

 

 

「お、今日は本を持って来てないのか?」

 

「う、うん……。

おじいちゃんから『お兄ちゃんが此処に来るかも』って言ってたから……」

 

「おじいちゃん? あぁ、源さんか」

 

 

 恥ずかしそうに、もじもじと両手の人差し指を絡ませながら話す女の子の言葉に、俺と同じパトロール隊なんて名前負けも良い町内会員のじーさんを思い出す。

 

 

「わざわざ会いに来てくれたのか?」

 

「う、うん……」

 

「へ、そっかそっか」

 

 

 源さんていって、あのパワフルだらけのメンバーの中でも一、二を争うレベルの元気さを誇るじーさんで、そのお孫さんがこの子って訳だが、何だろうな、あのじーさんがこんな随分と大人しい子を孫に持ってるのが未だに信じられん。

 

 

「それで、その……今度のお休み、お兄ちゃんさえ良ければ一緒に図書館に連れていって欲しいなって……」

 

「え、俺に――ぅ!?」

 

「…………………」

 

 

 そんな女の子に俺は誘われているという変な状況に突入した。

 そしてその瞬間、学園でやらかしてる俺を知る副会長さんのジロッとした視線が背中越しに伝わるので、内心『ロリコンじゃねーよ』と思わず呟くのと同時に、人妻レベルの熟女にはこんなお誘いが無い現実に軽く凹んでしまう

 

 いや、悪い子じゃないのは分かるんだけどね? それにしたって小学生に誘われるとか、こんなん事情を知らんウチの学校の生徒に見られたらロリコン呼ばわりされても言い訳が効かなそうだぜ。

 つか、そうでなくても此処には元気の良い少年・少女だらけな訳で……

 

 

「あー! 変態にーちゃんをゆーわくしてる!」

 

「でーとってやつかー!?」

 

「ち、違うよぉ……!」

 

 

 ほら、言葉を知ってても意味はあんま分かってなさそうなガキ共がこぞって騒ぎ出しちゃったじゃんか。

 ったく……。

 

 

「はいはい、オメー等もこの子をからかうのはその辺にしときな。やりすぎは苛めに繋がるんだぞ?」

 

「「はーい、ごめんなさーい……」」

 

 

 俯く女の子を見かねて、騒ぐ小僧共を咎めると、根が素直な小僧共がシュンとなって女の子に謝るのを見て、ちょっと満足した気分になった俺は女の子と小僧共の頭をガシガシと撫でる。

 

 

「謝れるなら上等だ。

よし、そんなお前等に褒美として今度の休みこの子と一緒に図書館に行った後、何かご馳走してやるよ」

 

「マジかよ変態にーちゃん!」

 

「おう、その代わりちゃんと父ちゃん母ちゃんに今の事を話して『許可』を貰ってからだがな」

 

「言う言う! 母ちゃんだったら『にーちゃんなら安心だ』って言ってたし絶対大丈夫だもんね!」

 

 

 手放しで喜ぶ小僧共に、『俺も昔はこんくらい単純だったんかねぇ……』と昔を思い出していると、大人しめの女の子がさっきと同じく遠慮しがちに此方を見上げている。

 

 

「……。私も、良いの?」

 

 

 歳は小僧共と同じなのに、やっぱりしっかりしとる女の子のおずおずとした口調に、俺はヘラヘラ笑いながら首を縦に振る。

 

 

「源さんにゃあ結構世話になってるしな。

それにそんな歳から遠慮してたら損しかしねーぞ?」

 

「う、うん……!」

 

 

 俺のヘラヘラした笑顔で安心したのか、それまでの不安そうな顔が漸く引っ込み、実に子供らしい無垢な笑顔を浮かべる女の子。

 うんうん、こういう場面に出くわすと風紀委員やってて良かったと思えるわ。

 ……。学園内じゃド変態だけど。

 

 

「…………」

 

 

 

 そんな訳でこの仕事だけは、一人だけになっても絶対に生徒会に渡す気は無く、公園を出てから一切無言となった副会長さんを連れて無事不審者無しでパトロールを終える事ができた。

 自治会のじーさんばーさんに感謝とお裾分けを貰い、ホクホク気分にもなれたし、ねーちゃんの事はあれど今日はまだ良い日だなと思いながら暗くなってきた道を歩いていた時だった。

 

 

「何故会長が風紀委員を解体できないのか、その理由がよくわかりました」

 

「え?」

 

 

 下手っぴな鼻歌なんてしながら、貰った野菜やら煮物やらにウキウキしながら歩いていると、半歩後ろを付いて来ていた副会長さんが唐突に声を出し、俺の足は自然と止まって彼女の方へと振り向く。

 

 

「良いでしょう。

『私個人』としてならアナタが風紀委員長として在籍することを認めてあげます」

 

「は、はぁ……そりゃどうも」

 

 

 何だ急に? そりゃ副会長さんの目的が学園外でやってる俺の行動を監視する事なのは最初に聞いたから知ってたが……。

 

 

「それに、これで確信が持てましたし」

 

「は――え?」

 

 

 取り敢えずはこの人に風紀委員の活動を認めて貰えたという点では内心ホッとする俺は、紙袋に詰めた本日の戦利品を持つ手を入れ換えて逆で持とうとした瞬間、ちょっとだけ固まってしまった。

 というのも、さっきまでツンツンドラドラ満貫6000オールです的な態度だった筈の副会長さんが、その表情をフッと揺るめたどころか、昔を思い出させる笑顔を見せたのだ。

 そして、俺にこう言った。

 

 

「良かった……。

あの時のアナタもちゃんと残ってて」

 

「は?」

 

 

 あの時? 初めて会った時の事か?

 なんだよ、昔も今も変わってねーとなじみに言われてるせいで全然分かんないんだけど……。

 急に機嫌が良くなってる副会長さんに頭の中が?だらけとなる横で、彼女は微笑みながら急に俺の手を取ると……。

 

 

「一回とは言わないわ。

忘れてた分、私が満足するまでデートしてね?」

 

「うへ……!?」

 

 

 両手で俺の手を包み、モロに不意打ちな笑顔とギョッとするほどに『女の子らしい声色』でそう言われた。

 真面目に唐突に……それこそメチャクチャ気難しいギャルゲーキャラがデレたみたいなシチュに、不覚にも心の臓が大きく鳴ったのは絶対に誰にも言わない。

 

 

「姫島さんには悪いけど、ふふ……もう決めちゃったわ♪」

 

「あ、いや……はい……」

 

 

 急に副会長モードを止めてからのこの威力は、マジでヤバく、まだ俺の手を離さず笑う彼女が直視出来ずに、あっちこちに視線を動かし、平静を取り戻そうとするが……あんまり効果がない。

 あーちきしょう……女の子って卑怯だわ。

 

 

 

 真羅椿姫という個人としても、生徒会副会長としても、兵藤一誠が風紀委員として在籍することに関しては首を捻る側だった。

 確かに昔私は、小さな事だが彼に救われたし、その時の思い出で彼に好意を持っている。

 けれどそれでは不公平だ。

 あくまでも今回の話は、彼が風紀委員長として勤まっているのか、そして何故一人しか居ない委員会が潰されずにいるのか、その理由を探らなければならない。

 

 その為には彼の学外に措ける『活動』というものを見学し、近隣住民からの絶大な支持を獲ている理由を探ることが私の目的だ。

 何せ今の風紀委員はおかしなことに、近隣住民から『潰さないでくれ』という声が大多数あるお陰で存命しているようなものであり、常日頃から我等生徒会は何故近隣住民からという疑問があった。

 だから、あの時の男の子だった彼と個人的に上手いこと親しくなれたこれをチャンスと思い、あの時の頃と今の彼がどう違うのか調べるためにも、放課後人知れず学外に出た彼の後を付いていった。

 

 意外なことに、付いて行くと言っても彼は何も言わず『面白くないと思いますよ?』とだけ言って、同行を許可してくれた。

 そして知った……何故近隣住民の方々が風紀委員会を解体するなと言ったのか……。

 

 何というか、彼は良くも悪くも『普通』にしていれば好かれるタイプなのだ。

 人懐っこく、子供相手には同じに目線に立てる。

 

 そうだ……これは私がかつて出会った彼そのものだ。

 相手が人見知りでも、その心に不快感無く簡単に入り込み、そしていつの間にか仲良くなる。

 なるほど……意外と彼は人タラシという奴なのかもしれない。

 そして私もその人タラシな性格に……。

 

 

「急にデレるのは卑怯なんすけど……」

 

「今日の生徒会としての仕事は終わったのよ、ふふん」

 

「あ、そ、そっすか……。あ、あの副会長さん? そろそろその白くてキレーなお手てを離し――うっ!?」

 

 

 幼馴染みの姫島さん。

 師匠の安心院さん。

 うん、うん……二人とも彼に最も近い女性なのは百も承知だし、私は単に昔出会っただけの、部外者にも近い女でしかない。

 けどもう決めた。恐ろしく彼に……一誠くんに執着している姫島さんには、さっき言った通り悪いけど決まってしまったものは仕方ない。

 私だって、あの時出会いと約束をずっと夢見て来たのだ……それに彼自身はフリーを自称しているみたいだし?

 

 

「もう学校は終わってるわ、だから……あの時みたいに椿姫って呼んで?」

 

「うぉぉっ!!? や、柔かいおもちが腕いっぱいに……!?」

 

 

 大好きらしい胸もそれなりにあるし、現にこうして腕を絡ませて然り気無く押し付けたら喜んでる。

 うん……別に私が彼と何度もデートしようが責められる謂れは無い……そうでしょう?

 

 




補足

安心院さんは誰とイチャコラしてようが別に構わないタイプ。

朱乃さんは許したくないタイプ。

椿姫さんは不倫してでも諦めず、デレる時は凄まじくデレるタイプ。

……。取り敢えずまともにお話がしたいお姉ちゃん。




 その2
次回から原作イベントを交えます。


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モテ期イッセーとお姉ちゃんとシスターちゃん

一誠君にモテ期。

そのモテ期は転生者のお姉ちゃんも含まれちゃう。



 うーん参りましたねぇ。

 いやー困ったねぇ……マジで。

 いやいや、コイツはモノホンにガチでお困りになっちまったぜぇ?

 

 

「ク、クケケケケ!」

 

 

 人生には3度は訪れるとある周期がある。

 それが聞いて驚けの『モテ期』。

 その名前の通り、一定の期間モテモテになる嬉し飛び跳ねなどきどきするイベントであるのだが、あひゃひゃひゃ、いやいやいやいやいや参った参った。

 まさかそのモテ期が俺様にも訪れるたぁ……。

 

 

「ド変態と罵られてもモテ期は来る!

今度の論文はこれで決まりだ!! あっひゃひゃひゃ!!」

 

 

 笑いが止まらんね。

 モテ期万歳だぜ!!

 

 

 

 

 

 思わぬ告白をされた一誠。

 しかもその相手は、何と無く一生相容れそうに無さそうな、絵に描いてそのまま飛び出て来たような真面目少女なのだから、一誠も何時ものセクハラ的言動や行動も出来なかった。

 

 

「おもちが……じゃなくて『はい』じゃねーよ。正気かアンタ!?」

 

「何が?」

 

 

 ツンからデレという流れに危うく流されかけた一誠だったが、変なところで変に真面目に――いやヘタレとなる気があるせいか、ハッとしながらどうしようもない鈍感でも無ければ分かってしまう程のストレートな告白をしてきた椿姫にわたわたと詰め寄る。

 

 

「取り敢えず女の子の尻ばっか追い掛けてばっかりで、見てるだけで石をぶん投げたくなるくらいにムカつくとか言われてる俺に対して何を言ってるんだ!

いや、確かに餓鬼の頃から変に色気付いたせいで変な事を言ったかもしれんが……」

 

 

 『俺がこんな黒髪ロングの眼鏡っ娘美少女に好かれるわけがない』的な、どっかのラノベみたいなタイトル文句が頭の中で行ったり来たり状態のテンパり全開で、『考え直せ、今ならまだ間に合う、早くしろー! 間に合わなくなっても知らんどーー!!』と、椿姫の両肩を掴んで揺さぶる一誠。

 

 基本的に彼は避けられる事やバカをやって嫌われる事の方に慣れすぎて『好意』に対しては免疫が実はそんなに無い。

 故に、ツンツン副会長さんモードからあの時出会った女の子モードにいきなり切り替え、『一度じゃなくてずっデートする』などと宣う椿姫に考え直せと何故か良心の呵責的な気持ちで説得するのだ。

 しかし椿姫は決めてしまった己の道を今更変えるつもりは毛頭無いらしく、ツンツン副会長さんモード……じゃなくて一個人・椿姫ちゃんモードにのみ存在する可愛い笑顔で両肩を掴む一誠の手をソッと包みながら言った。

 

 

「大丈夫よ一誠くん。

私はどちらかと言えば姫島さんタイプじゃなくて安心院さんタイプだから、セクハラ言動や行動……あと無意味に他の女性を口説きさえしなければ、姫島さんと安心院さんだけなら何をしてようと文句は無いわ……」

 

「いやいやいや、間違えてるからそれ!

そんな悟り開いた目をしないでくれませんかね!?」

 

 

 転生した悪魔なのに妙に聖母の様な暖かい微笑みを浮かべて、色々と道徳観念ぶち壊しな事を宣言する椿姫。

 どうやら余程幼い頃の一誠と根底が変わってなかった事が嬉しかったようだ。

 一誠とてそこまで鈍くない。

 椿姫の言うことがどういう事かくらいは解っている。

 

 これこそまさに常日頃からだらしない顔で宣う『ハーレム』という奴なのだが、こうして直面すると素直に喜べない。

 

 自分のせいで人生観を狂わせてしまった朱乃。

 人外で何を考えてるのかあんまり分からない師匠のなじみ。

 そして小さい頃に出会い、最近になって本当の意味で再会した椿姫。

 

 

 誰もが認める美少女から好かれてる……それは正直誰かにドヤ顔で自慢したい話であるのだが……。

 

 

「いや、俺が言うのも何だけど、アンタも男の趣味が悪すぎだぜ……」

 

「自覚はあるわ。でも……ふふ、たまたま好きな男の子がアナタという、趣味の悪い男ってだけよ?」

 

「………ぬぐ」

 

 

 何処か朱乃を思い出させる笑顔で考え直すなんてしませんと宣言する椿姫に、一誠はこれでもかというくらいに渋い顔をして黙ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

「~♪」

 

 

 というイベントがあったのが約3日前。

 結局、あの先輩とは最後まで自分の言ったことを撤回しないままあそこでは別れたんだけど、そこからは彼女自身も吹っ切れたのか、個人的に俺とひょっこり会った時は高確率で『デレモード』で接してくるんだわ。

 あの、取り敢えずお固いイメージしかない生徒会の――しかも副会長の人が普通に女の子で接してくるんだぞ? そらお前、自分でモテ期来たわと思うし、今日のパトロールだってテンションあげあげにもなるわい。

 

 

「ちょっとちょっとイッセーちゃん!」

 

「あ、三丁目の角の奥さん?」

 

 

 問題があるとすれば、朱乃ねーちゃんとまだ正式に仲直りしてないという所なんだが……何か良い案は無いものか……なんて鼻歌混じりで歩いていると、向こうから小学生と中学生の息子を持つ人妻さんが慌てた様子で俺の名前を呼びながら走って来て、返事をする暇も無く俺の手を引っ張りながらちょっと来いと言っている。

 

 

「お、なんすか? まさか旦那に内緒で俺と不倫――」

 

「アタシは旦那一筋よ!

そうじゃ無くてとにかく来ておくれ!」

 

「おわーっ!」

 

 

 小・中学生の子供を持つとは思えん若々しい姿+おばちゃんみたいな服装なのに、その下は実にムチムチしてそうなボディを持つ奥さんに即フラれつつ、半ば無理矢理引っ張られながら連れていかれた訳だが……何だろ?

 こんな慌ててる奥さんを見るのは実に新鮮な気分にさせるんだが、それ以上に何か大変な事があったのかと察した俺は、口説くのは後にして黙って付いて行く事にした。

 

 

 

「ハァ……」

 

 

 一誠にモテ期が到来し、学外でのパトロールの最中に近所の奥さんに連れていかれているその頃。

 茶髪のボブカット……そしてアンテナを思わせるアホ毛が特徴的な女の子、兵藤凛は思っていた以上に厳しい弟との関係修復について何度もため息を吐きながらトボトボと町中を一人で散歩していた。

 

 

「何で『めだかボックス』の……しかもその中でもバグキャラみたいな人がこの世界に居るんだろ……。

しかも一誠とキスしてたし……うぅ……」

 

 

 そう一人で嘆きながら歩く凛。

 チャームポイントのアホ毛も凛の精神状態とリンクするかの如く垂れたがっている。

 

 

「うぅ……でも安心院さんのキスの意味って、確か能力(スキル)を貸し出す為で深い意味は無いんだっけ?

いやそれでも……やっぱりアレを見せられると胸がズキズキする……」

 

 

 転生者たる凛には、転生前の知識がある程度備わっており、その中には一誠の師匠と名乗る安心院なじみについてもある程度ある訳だが、知っているからこそ、彼女が手に負えない存在なのもしっかり理解しており、正直彼女をどうこうすることは不可能に近かった。

 

 それでも、まだそれだけなら良い。

 凛からすれば別に安心院なじみはイレギュラーだけど、敵意があるわけでは無いのだから。

 しかしながら、彼女が妙に一誠を気に入っているというのなら話は別だった。

 ここ数日、同じく一誠に想いを寄せる朱乃の様子がおかしいということもあるし、恐らく随分前から安心院なじみを顔見知りになっている事も想像できる。

 

 つまり……安心院なじみは明確に一誠をお気に入りなのだ。

 

 

「自業自得で一誠に嫌われてるのに、あんな人まで現れたらますます私なんて……くすん……」

 

 

 凛にとって転生前の兵藤一誠という存在は所謂創作された存在だった。

 そんな存在を凛は所謂『いきすぎたファン』レベルで好意を持っており、転生する事になった時は真っ先に彼の近くに居れるポジションを志願した。

 

 特別な力なんて要らない。

 ただ、彼の近くで彼と一緒に居たい。

 

 そんな小さな願いを込めて生前と変わらない容姿のまま転生した凛だったが、転生後の人生はそんな彼女の願いを嘲笑うかの様に真逆の道を歩まされた。

 

 特別な力なんて要らないと願った筈なのに、本来一誠が持つ力だったそれが宿っていたり。

 転生後時系列が適当にされたお陰で、一誠以外は『自分が兵藤家の長女として生まれた』と認識されてる癖に、当の一誠には『5歳の誕生日に急に湧いて現れて姉と名乗ってるヤバイ奴』とハッキリ認識されていて、周りはそれを知らないので一誠が頭のおかしな奴扱いをし、とうとう家出までしてしまったり。

 一番仲良くなりたかった一誠からは、上記の事があって嫌われてると来た。しかも、家出してからは一度も帰らず、いつの間にか朱乃と幼馴染みになったり、安心院なじみと出会ってあり、最近じゃ本来一誠とフラグなんて立たない筈の真羅椿姫からも好意を寄せられていた…………。

 

 

「みんな胸が大きいんだよね……。

安心院さんも決して小さくないし……それに比べて私は……」

 

 

 しかも皆が皆一誠のお好みど真ん中な女の子ときた。

 歩きながら自分の全く成長の兆しが無いソレと、一誠に好意を寄せる女性達のソレを思い浮かべて比べ、より惨めな気分になる凛。

 いや、決して無いわけじゃない。

 こう……あるにはある……ふにょんとはする。

 けれど、一誠が求めるのはドタプンとした大きさであって凛の持つレベルはお呼びじゃないのだ。

 そうでなくても凛自身に一誠は無関心なのだ……関係を少しでも良好にしたいという以前の問題だった。

 

 

「一誠……」

 

 

 胸も少ないし、本人から避けられてる。

 周りはあの弟の何が良いのかとよく言われるが、それでも凛は一誠が好きだった。

 もうどうしようも無く好きだった。

 というか、近親者として転生したことを後悔してるレベルでだ。

 

 此処だけの秘密で、あんまりにも一誠が恋しすぎて自室のベッドの中で夢想しながら………………………なんて事も1度や2度ではない。

 というか、むしろ犯してくれるならやってくださいとすら思ってる。

 

 

「……。ごめんさい一誠……私もド変態なんだ……」

 

 

 しかし無い。

 現実は非情だ。

 近親者という時点でそんな未来はあり得ない。

 いくら夢想しながら自分を慰めても、一誠はその事を知ろうともしない。

 というか、多分高確率でドン引きする。

 そしてますます近付こうとはしなくなる……。

 

 

「寂しいよ……いっせー……」

 

 

 兵藤凛……困ったお姉ちゃんだった。

 ブラコンという言葉なぞ生温い感情を一誠に向ける……残念なお姉ちゃんだった。

 

 だが、一誠の事に関してだけは不運しか無い彼女には不思議な程に人を惹き付ける独特な魅力があった。

 例えば、凛の後輩である搭城小猫なんかは、凛を姉の様に慕っていて懐いており、同級生の木場祐斗に至っては、一誠以外だと意外と母性的な面が多い凛に惹かれていたり実はする。

 

 つまりだ、何が言いたいのかというと……。

 

 

「うわっ!?」

 

「わっ!?」

 

 

 望まずにして主人公(イッセー)の代わりにされた主人公(リン)は、本来の出会いも代わりに勤めてしまうのだ。

 望む、望まずに拘わらず……

 

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「い、いえ大丈夫です……こちらこそ――え?」

 

 

 一誠、イッセー、いっせー

 さっきからずっとそれしか頭に入らなかった凛は、当然として注意力が大幅に欠けていた。

 そのせいで人とぶつかってしまった凛だったが、謝ろうとしてぶつかってしまった相手に目を向けたその瞬間……見覚えがあるその姿に身体が硬直してしまった。

 

 というのもだ、凛にはこのぶつかってしまった相手に思いきり見覚えがあったのだ。

 厳密にはアニメかラノベの中でしかまだ見てなかったという話なんだが、とにかく知っていた。

 

 

「あ、あのお怪我は……?」

 

「あ、う、うん……大丈夫、です……あはは」

 

 

 コテコテの神様を信仰してますと主張するシスターの制服を着こなす少女。

 こちらを心配そうに覗くそのグリーンの瞳にケープから除く金の髪……。

 そう……彼女に凛は見覚えがあった。

 これもまた、本来なら一誠が出会うべき相手の一人……。

 

 

「えっと……此処で何かしてたの?」

 

「あ、は、はい……。私、アーシア・アルジェントともうしまして、ちょっと道に迷ってて……って、あれ? 言葉がわかる……?」

 

「え、あ……う、うん……外国通訳のお勉強してるからある程度は……」

 

 

 アーシア・アルジェント……その人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、奥さんってば強引なんだから……!

で、本当にどうしたんすか?」

 

 

 このまま愛の逃避行も悪くねぇな……とかとか夢想しながら連れていかれること5分。

 そろそろ辺りも暗くなり、子供達も居なくなってる公園に一体何があるのか……ハッ!? ま、まさか旦那が構ってくれないからって俺を使って――

 

 

「さっき夕飯の買い出しの帰りに女の子と会ったんだけど、どうもその子日本語が分からないみたいなのよ」

 

「………あ、え?」

 

 

 え、なんだ……違うのか。

 モテ期突入したからてっきり人妻からもモテモテだと思ってたのに……ちぇー

 あ、でも今女の子って言ってたな……。

 

 

「なるほど……でも俺も外国の言葉とか全然無理なんすけど……」

 

「え!? イッセーちゃんも駄目なの!?」

 

「あ、いや会ってみないと分かりませんけど。

ほら、案外ジェスチャーとかで何とかなるかもしれないし……」

 

 

 最悪、色々と逃げる能力(スキル)で調整すれば普通に話せるしな。

 これが外国人の男とからだったら、そのままさよならバイバイしてたけど、女の子と聞かされたら行くっきゃねーっしょ。

 という訳で、ちょっと不安そうにしながらも案内を続ける奥さんに引っ張られることそれから約2分後に、その問題の外国人の女の子を待たせているらしい場所へと来たのだが………………。

 

 

 

 

 

「へぇ、その人が誰か連れてくるから待っててって言ってたんだ?」

 

「ええ、日本語でイマイチなにをおっしゃっているのか分かりませんでしたけど、身ぶり手振りで何となく……あ、来ましたあの人ですよ! ……あ、誰か連れてます!」

 

「あ、本当……………………だ……?」

 

 

 確かに外国人の女の子は居た。

 何か、萌えを感じさせる格好をした女の子が、多分必死こいて『誰か連れてくるから待っててくれ』とジェスチャーしたんだろう奥さんの戻ってきた姿を見て明るい表情を浮かべてるのが、視力の良い俺にはよく見えた。

 うん……ついでに隣でギョッとしか顔をしてる人もな。

 

 

「あら、女の子と一緒に居るけど、あの子の制服ってイッセーちゃんの通ってる高校のじゃないの?」

 

「…………。そっすね……えぇ」

 

「?」

 

 

 俺は親とは喧嘩別れしたと、近所の人達に言っており、兵藤という珍しくも無い苗字のお陰でこの兵藤凛と兄弟という事は伏せて来た。

 故にこの奥さんが自称姉と俺が嘘っぱちの兄弟関係だということも知らないし、シスターちゃんはもっと知らない。

 

 

「何だかよく分からないけど、キミってこの子の言ってることがわかるの?」

 

「え、あ……はい……いちおう……」

 

「あらそうなの? なーんだ、イッセーちゃんを引っ張ってくる必要が無かったわね! ごめんごめん!」

 

「いえ、別に」

 

「? ?」

 

 

 ……。あーぁ、モテ期とチョーシこいたらすぐこれだ。

 




補足

着々とヒロイン度を稼ぐ椿姫さん。
学園内だと副会長モードだけど、プライベートだとエラくデレる。

 何せライバルが強敵すぎるからね(笑)


残念な思考だけど、どっかの帰宅部の夏希さんとほぼ同じの容姿の彼女に無関心な一誠。

しかし、夜な夜なベッドの中でも夢想しながら………………という話がある感じ、寧ろ本能で逃げてるのかもしれない。
※夢想しながら………………の………………は――――まあ、ね? ナニと考えといてくだせぇ。

その2

一誠がらみだと残姉ちゃんですが、それ以外だと割りと良い娘さんではあります。
小猫さんからはかなり慕われ……いや懐かれてますし、木場きゅんからもかなり好かれてますね。

というのも、凛さんって一誠がらみが無ければ相当に母性度が高いというか……一誠さえ絡まなければね。



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フラグより幼馴染みと仲直りしたい

さて、再構成前との大きな違い。
キーワードは残姉ちゃんが居たら……。

とりあえず、細かく修正しました。


 

 

 なるへそ、そう来たか。

 カミサマってのはとことこん俺が嫌いなようだ……もう死んでるらしいけど。

 片や日本語が壊滅的な金髪の女の子……これはまあ可愛いから良いとしても、もう片方に関してはどうすりゃ良いか分かりゃしねぇ。

 

 てか、転生悪魔になったお陰で言語能力が最強化してるこの人が居れば俺は帰っても良いよな?

 シスター服な女の子と仲良しになれないのは残念極まりないけど、それはもう仕方無いと割りきってさっさと帰って――――

 

 

「ええっと、これはどうやって食べれば……」

 

「これは――えと、隣の男の子みたいにして食べれば良いよ」

 

「……………………………」

 

 

 …………。オイ、何でバーガーショップで俺は飯なんて食ってんだ? しかもこの金髪の女の子を隣に、チラチラ此方の様子を伺う所属不明な奴と一緒にという訳の分からないポジションで。

 おかしい……この自称姉貴が居るから平気だろうと三丁目の奥さん連れて帰ろうとしてた筈なのに、何でこんな所でこんなジャンクフード食ってんだ? 謎過ぎて僕には訳がわからないよ。

 

 

「包みを開いて食べる――あ、美味しい……」

 

「でしょ?」

 

「はい、初めての味です!」

 

「……………………………………………」

 

 

 俺の居る意味が既に無いとしか思えない。

 そりゃあ困ってる美少女がこの街に流れ着いたからとはいえ、こんなチャラチャラした高校生や勘違いしてるバカなカップルだとかが往来しまくるジャンクフード屋なんて入りたくも無かった。

 見ろよ。この二人は勝手に楽しんでるが、バカな連中がその中に混じって黙々と食ってる姿に勝手な勘違いをしてくれてるせいで俺だけ損しかしてない。

 

 具体的にいうと同年代くらいの男共から向けられる訳のわからん殺意の視線がな。

 

 

「あ、あの……」

 

「……。なに?」

 

「う、うぅん、何でも無いよ! あ、あははは」

 

 

 極めつけは、事あるごとに無言でいる俺が気にでもなるのか、チラチラと自称姉がこっちを血圧でも高そうな赤い顔をして見てきやがることだ。

 もう俺も良い年してるし、今更この何処から沸いて来たのか分からん変な奴に気味悪さは残ってるものの嫌悪感情はある程度失せてはいるが、だからといってこんな所で飯を食うほど親しくなんてないし楽しいなんて思わねぇ。

 そもそもこういうジャンクフード屋を朱乃ねーちゃんはあんま好まず、自動的に俺も入らなかったので居心地が悪いんだよ。

 引き続き向けられる周りの男共から向けられる視線もあってな。

 

 

「あの……お二人はどの様なご関係なんですか?」

 

「へ? あ、ええっとね……」

 

 

 そんな俺達のどうだって良い関係をまだよく知らない金髪と緑目の女の子である……えっと、そうだアーシア・アルジェントさんが物凄い無愛想になってる俺と自称姉を隣から交互に見交わしつつ当然とも言える質問をしてきた。

 既に俺の過負荷(マイナス)側のスキルで彼女との『言葉の壁による弊害から逃げた』ので、普通にこの子が何を言ってるのか分かる。

 最初は何語を喋ってるのかすら分からなかったから何も思わなかったが、こうして聞いてみると実に可愛らしい容姿に合った声で聞き心地は悪くない。

 ぶっちゃけ、目の前であの引きちぎりたくなるアホ毛を犬の尻尾みたいに揺らしながら言葉に詰まって俺に視線を向けてくる自称姉さえ居なければ、最近モテ期でウハウハな俺としては是非とも仲良くなってゲヘヘとなりたいが、生憎そんな気が一切起きやしない。

 

 というか、真羅副会長さんと朱乃ねーちゃんの事すらまだ曖昧になってる今、そんな無責任にナンパだとかセクハラなんて出来ない。

 一応こんな俺でも、そこら辺のケジメはあるつもりだ。こんな俺でもな。

 

 

「………。双子だよ、この人は俺の姉さん」

 

 

 取り敢えず無言で居る訳にもいかないし、そもそもこの子には何の罪も無いので食い終わったバーガーの包みを折り畳みながら、簡潔にやっぱり引きちぎりたくなるアホ毛を揺らす身元不明人物との『そうなっている事になっている』関係を話すと、アルジェントさんは『へー?』と目を丸くしていた。

 

 

「そうだったんですね。ちょっと羨ましいです……」

 

 

 眩しいものを見るような目をするアルジェントさんに、自称姉が何やら神妙な顔をしている。

 聞けばこのアルジェントさんというのは、胡散臭さMAXとしか個人的に思えない宗教団体所属のマジシスターらしく、急に偉い人から『日本の駒王町に行って祈りでも捧げてこい』的な事を言われ、日本語すらまともに出来ないまま放り出されたとか何とか。

 所謂『神の加護が一切無い唯一の人間』かつ『神の存在なんて居ても居なくても役に立ちはしない』という考えを持つ俺としては、神の癖にくたばって天界の偽善者共が作ったシステムとやらで誤魔化されてると知らないで、マジになって『神様最高です』と宣う人種が憐れに思えて仕方ない。

 

 

「お二人と引き合わせて頂いた主に感謝いたします」

 

「ぅ……わ、私もアーシアちゃんと会えて嬉しいよ……あはは」

 

「…………」

 

 

 アルジェントさんはその典型的な『騙されタイプ』だ。

 いやまぁ、俺もなじみとバラキエルのおっさんに聞かされでもしなければ知りもしなかった事実だが、やはり何も知らずに天界リーダーの……誰だっけ? ミカエルって人が作って誤魔化してるシステムに成り下がったハリボテに祈りを捧げてる姿は……何とも言えない気分だ。

 自称姉貴は転生悪魔のせいか、アルジェントさんが首にぶら下げてた十字架(ロザリオ)を見て顔をしかめてるし……ああ、いっそ全部をこの子にぶちまけてしまいたい気分だわ。

 まあ、しないけど。

 

 

「えっとそれで、アーシアちゃんは教会に行きたいんだよね? 私、その場所なら知ってるんだけど……」

 

「本当ですか!?」

 

「うん……いや知ってるのだけど……ええっと……」

 

「あ?」

 

 

 結局この引き合わせもアルジェントさんの迷子が起因であり、解決するには彼女を目的の場所まで案内するだけの簡単な仕事。

 シスター所属という訳で当然アルジェントさんの目的地は教会であり、確かにこの街の外れに寂れた教会があるのは俺も知ってるし、この自称姉も言動を察するに知ってるだろう。

 だが、何で知ってて案内も出来る筈の自称姉がわざわざ此方を遠慮しがちに見てるのかがわからん。

 案内できるんだったらさっさとすれば良いのに、何をそんなに俺を気にしてるんだ? 言っておくが道案内が出来るアンタだけで十分すぎる仕事にわざわざ首を突っ込む気なんて無いぞ俺は。

 

 

「何かご用事でもあったとか……?」

 

「ち、違うの! そ、そういう訳じゃないんだけど……」

 

「そういう訳じゃ無いなら案内してあげれば良いじゃん」

 

「え!? あ、そう……だね……う、うん……。(は、話してくれた! じゃなくて……ど、どうしよう、この流れって本来は一誠の立場なのに肝心の一誠があんまりアーシアちゃんに関心が無さそうなんて……)」

 

 

 毎度思うが、この自称姉の俺を前にするとこんなビクビク顔色を窺ってくる様な態度なんだ? 正直イラッとするからやめてほしいし、藁にもすがる思いな顔のアルジェントさんの事を考えてやれよ。

 

 

「えっと、私は大丈夫だから……。

それじゃあ案内するからお店出ようか?」

 

「はい、ありがとうございますリンさん!」

 

「……………」

 

 

 やがて観念したのか、そろそろ本気で引きちぎりたくなるアホ毛を気落ちした内心とリンクするようにシュンと垂れ下げながら無理に笑ってる自称姉に、アルジェントさん感激した表情で何度もお礼の言葉を言ってるという姿を、俺は無言で眺めながら『まあ、あの自称姉なら何とかするだろうし、俺は帰るかぁ』などとボンヤリ考え、氷が溶けて味が薄くなっていたコーラを一気飲みして席を立つと、もう仲良さげに見えるお二人さんに別れの挨拶を済ませさっさとサヨナラしちまおうとアルジェントさんに向かって言う。

 

 

「じゃあ俺はこの辺で……。

まあ、その人に付いて行けば目的地に行けるだろうし、後は頑張ってね」

 

「え……」

 

「あ、は、はい……ありがとうございます……」

 

 

 案内役が二人いたところで何の意味なんて無く、当然とも言える俺の行動と言葉に何故か二人とも変な反応だ。

 まるで『付いて来てくれないの?』という顔だ……………はん。

 

 

「何その顔?」

 

「あ、いえ……出来ればお二人ともう少しお話しながら行きたいな……なんて」

 

「えと……私も……」

 

 

 ふーん? こっちの自称姉は別にしてこっちのカワイコちゃんの今の言葉は、一誠的にポイント高かったな。

 小動物みたいな目とか表情とか、汚れ無きシスターって属性もあるし……何時もの俺なら『イィィィィヤッフゥゥゥゥ!!!』とこの場で空中二回後方宙返りをして歓喜したのかもしれない。

 だけどなぁ……。

 

 

「ごめん、幼馴染みの子にこれから会う予定があるから一緒には無理なんだ」

 

 

 ごめん、無理はものは無理なの。

 今まで避けてきた相手と並んで歩くなんて事は、いくら嫌悪感情が薄れた今でも無理。

 アルジェントさんは知らんだろうけど、俺はこれを本心じゃ姉なんぞと思えないのさ。

 

 

「あ、そうでしたか。それなら仕方無いですね……残念です」

 

「また朱乃先輩……」

 

 

 あぁ、俺も実に残念だよアルジェントさん。

 けど大丈夫さ……そこの『魅力的で誰からも好かれる完璧な姉』がキミと仲良くなってくれる筈だし、俺なんて刹那で忘れるさ。

 だからバイバイ……『またいつかとか。』

 

 

 

 一誠にはトラウマがあった。

 当たり前の様に信じていた肉親、そして初恋の女の子を兵藤凛という少女の出現で全て消えたという思い出が。

 

 だからこそ一誠は、既に凛と仲良くなったアーシアに必要以上に近付こうとはしなかった。

 かつてのように、それまでの宝物が凛という存在によって失われたように、アーシア・アルジェントも恐らくは凛に傾倒するだろうという考えがあるから。

 

 

「はぁ~あ、何時までも女々しいぜ俺は……」

 

 

 それまでの全てが彼女に成り代わり、自分は使い捨てカメラのように見向きもされなくなったあの記憶。

 両親も、それまでの友達も、初恋の女の子の全てが何の前触れも無しに突然現れた凛を『まるで最初から居たように受け入れ、そしてちやほやする』

 まるで催眠術に掛けられたかの様に一誠は見向きもされず、疎外感だけが残され何もかも信じられなくなるまで追い込まれる。

 だから一誠はそれら全ての虚構という重圧から逃げるために、変わってしまった両親を幼心に見限り、のたれ死にしても構わないと本気で思いながら家を飛び出した。

 決して誉められる行動じゃない事は分かっていたが、それでもツラい思いをするくらないならそこから逃げた方が一誠にとっては楽だったのだ。

 そのお陰で、後の自分のアイデンティティとなる少女とその家族――そして師匠に出会えることになれたのだから。

 

 出会ったその人達は、凛という存在をまだ知らず、一誠と凛を比べる事もしない。

 ただひとりの兵藤一誠として接してくれたそれらの人物達は、死にかけていた一誠の心を元のやんちゃな少年に戻すに十分すぎる程優しかった。

 ちょっと年上の女の子、美人なお母さん、めちゃくちゃイカツイおっちゃん……そして美少女な師匠。

 後にもう一人年上の女の子と同い年の女の子と出会う事にもなり、一誠は無くし掛けた心を取り戻して再起した。

 

 

「アレが何者なのか……結局俺にはよく分からなかった。

けれどもう彼女も彼女なりの人生を送ってるし、俺にそれを否定する権利もない……。

だからもう恨むなんて事はしねぇけど、フッ、好き好んで近くに居たくもない」

 

 

 身元もわからない、考えてることもわからない、目的もわからない。

 何もかも不明瞭な双子の姉を一誠はもはや恨む事はしていない。

 それは彼には彼なりの大事な人達が出来たから、そしてその人達の恩に報いるためにひたすら上を目指すからであり、その為に一々凛の動向を気にする余裕なんて無いのだ。

 彼女は彼女の人生を、一誠は一誠の人生を。

 世間的に姉弟なのかもしれないが、歩む人生はその人個人のだけのモノなのだから。

 

 

「さぁてと、ごめんなさいしないとな!」

 

 

 一誠にとって大事なのは肉親でも無ければ姉でもない。

 初恋の女の子への気持ちはとうに風化してる。

 

 それよりも大切な人が今は居るのだから……。

 

 

「土下座する前に何とかねーちゃんに話を聞いてもらう体勢を作らないといけねぇな……ふぅ、モテる男の辛いところだぜ」

 

 

 日が傾き始める住宅街を歩きながら、一誠はまっすぐ空を見上げてニヤニヤ笑い、そして走り出す。

 全ては自分を救ってくれた少女の為に……一誠は全力で走った。

 

 

 

 私は……どうしても一誠くんが大好きだ。

 どうしても他の女の子にデレデレする姿を見てるのが我慢できない。

 それが遠からず一誠くんに愛想を尽かされてしまうかもしれないというのにも拘わらずだ。

 

 

「…………」

 

 

 一誠くんは自分で『無責任な事を言ってしまったばかりに、ねーちゃんを縛り付けてしまった』と言ってるが、それは違う。

 確かに弱々しくも意志のある瞳で、どうしようもなく落ち込んでいた私に言ってくれた言葉によって好きだと自覚はしたかもしれない。

 けれどそれだけじゃない……決してその言葉だけで惹かれた訳じゃないのに、一誠くんは分かってくれない。

 

 私の態度がそう思わせてしまってるから……と言われたらそれまでだけど。

 

 

「……………」

 

 

 部活でやることがなく、凛ちゃんに続いて一足早く帰る事にした私は、周囲の生徒達の憧れの視線を受けても何の感慨も沸かずに正門を出て一人歩く。

 隣には誰も居ないし、視線も自然と斜め下だ。

 ふふ……怒りで我を忘れていたとはいえ何で一誠くんを無視する様な真似をしたのか、あの時の自分にビンタでもしてあげたいわ。

 

 

「あら、駒王の制服着たカワイコちゃんが一人だなんて物騒だぜ?」

 

「オレ等が家までお供してあげよーか?」

 

「………………」

 

 

 一人で帰ると何時もうるさいのに声を掛けられる。

 全然知らない男の人で、頭と素行の悪そうな背格好……。

 オープンにスケベな一誠くんとはまるで違う、何の魅力も沸かない人達。

 

 

「おいおい、無視はひどいなぁ?」

 

「そうだよぉカワイコちゃーん」

 

「……………。離してくださる?」

 

 

 こういう手合いは無視するに限るのだが、今回の人はどうも気安いのか素通りしようとする私を顔面ピアスだらけの男が通せんぼし、見た目だけならガタイの良いもう一人が私の腕を無許可で乱暴に掴む。

 虫の居所が悪い私は、不愉快だという顔をして二人の名も知らない男共に警告をするが……。

 

 

「あらら、怒っちゃった? 良いね、そんなお顔も可愛いぜ?」

 

「いじめたくなるなぁ~」

 

「…………」

 

 

 私の姿だけでか弱いと判断してるのか、ニヤニヤとゲスな笑い声を出すだけで離してくれず、通せんぼをしてきた男の手が私の身体に触れようと手が伸びてきた……。

 …………。警告は一回きりだ、見た目だけで判断したらどうなるかわからせてやる。

 

 相当にイライラしていた私はそのまま二人を伸そうと殺気を放ち、気絶して貰おうと軽く力を解放しようとした――

 

 

「あ、居た居た!」

 

 

 その時だった。

 後ろから聞こえるのは、私にとって毎日でも聞きたい人の声。

 喧嘩して、一方的に無視してしまっていた大好きな男の子の快活な声……。

 私は当たり前の様に心臓がドキリとし、チンピラみたいな反応しながら振り向く男共と一緒になって振り返ると、そこにはやっぱりカバンを片手に何時ものヘラヘラした笑顔をしながらゆっくり近付いてくる一誠くんの姿があった。

 

 

「ぁ……一誠く――」

 

「あーん? 何だ小僧?」

 

「今お兄さん達忙しいから後にしてくれませんかねー?」

 

 

 うるさい、私の声をかき消すな。

 というか何時まで私の腕を――ぁ……。

 

 

「「ひでぶっ!?」」

 

「何勝手に触れてんだコラ。

殺戮してやるから迅速に死亡しろやボケ……!」 

 

「「べ!? ばわっ!?」」

 

 

 あっという間というか、速いというか私の腕を今は一誠によってボコボコにされてる男達が掴んでると視認した途端、風紀委員とは思えないやり方で殴り付けていた。

 まるでヤクザの喧嘩みたいに……。

 

 

「い、一誠くん、もう良いって……!」

 

 

 このままじゃあ本当に殺しかねない一誠くんを慌てて私は止める。

 ……。こうやって誰が相手でも私が危ないと判断したら突っ込むのは昔からそうなんだけど……こう言うことを当たり前の様にしてくれるから私は嫌いになれないのよ。

 

 

「ペッ、このドブサイク共が!

テメー等が朱乃ねーちゃんをナンパするなんざ千年はえーんだよ。

精々木場のくそイケメンクラスに輪廻転生してから出直せや!」

 

「「あ、べし……」」

 

「もう良いから!」

 

 

 これじゃあ風紀委員長も何も無いわよ。

 人気の少ない場所で助かったわ……。

 

 

 

 うーむ、ねーちゃんがブサイクな野郎共に囲まれてるのを見てつい反射的にやっちまったぜ。

 

 

「まったく、あの程度なら私一人で何とでもなるのに……」

 

「あぁ、いや……ついな? あははは」

 

 

 しかしアレのお陰で最近ずっとだった変な空気は薄れた様で、公園にやって来た俺達は割りと普通に話ができた。

 そう考えるとあのブサイク共には感謝してやらんこともないかもしれない。

 

 

「はぁ……何だか怒ってたのが馬鹿馬鹿しく思ってきたわ」

 

「あー……その事なんだけど」

 

「えぇ、えぇ……もう良いわ別に。私も少し過敏になりすぎてたし」

 

 

 おぉ……よくわからんけど許されてる方向? やったぜ俺!

 

 

「はぁ~ぁ……まさか真羅さんと昔会ってたとはね……」

 

「アレは相当な偶然だったというか、まさか向こうが覚えてるとは思わなかったというか……」

 

「どうせまた変な事でも言ったんでしょう?」

 

「た、多分」

 

 

 公園まで超絶ど丁寧エスコートをし、VIPの如く扱い、ちょっとお高い飲みものやら何やらをして何とか機嫌を回復させるように努める。

 正直、自業自得が祟ってねーちゃんに無視されるのはかなり辛いのだ俺も。

 

 

「まぁ良いわ。一誠くんのお嫁さんになるのは私だから、安心院さんじゃないけどある程度は許してあげる。

そろそろ私も大人な心を持たないとね」

 

「ア,ハイ」

 

 

 お嫁さんて……なんて言ったらまたヤバイのでイエスマンの如く頷いておくと、ねーちゃん的には満足したのか久々に笑顔をみせてくれた。

 

 

「ふふ、ごめんなさい一誠くん……大好きよ」

 

「ア,ハイ……」

 

「お詫びに今日は私の家でご飯作ってあげる。だから行こ♪」

 

「ア,ハイ………………ってマジ?

おお、今日の晩飯は豪華確定じゃねーか……。

よし、だったらなじみにも――」

 

「むー……彼女は後で私から言うから早く!」

 

「お、おおぅっ!」

 

 

 一応寝床を提供してるなじみにも話をしておこうと携帯を取り出すも、その前にねーちゃんに取り上げられてしまった。

 まだねーちゃんになじみの話はタブーなのか、学校や表では見せない素の姿で頬を膨らませながら俺の背中に飛び付き『おんぶ』をせがむので、そのまま背負いながら朱乃ねーちゃんのお家目指して歩くのであった。

 

 

「ねぇ、また他の女の子の匂いがするんだけど?」

 

「え゛? あ、そ、それはアレだ。

姉貴と姉貴が引き連れた迷子の子とちょっと対面する羽目になってだな……」

 

「ふーん?」

 

「いやマジだぞ? 何なら明日姉貴に聞いてくれても構わないし」

 

「そ、なら良いや! ほら早く一誠くん!」

 

 

 ……。こんな風にちょっとあったけど、概ねねーちゃんとは仲直り出来たと思う。

 しかし、何で分かるんだろか……二人の女の子の匂いがするんだけどとか超ピンポイントに。

 

 

終わり。

 

 

 

 オマケ

 ~一誠くんの携帯の待ち受け画面とお宝~

 

 

 結局元の鞘に収まる形となった朱乃は、一誠におんぶされながら自宅を目指す最中、一誠から取り上げていた携帯を何と無くの気持ちで見ようとホーム画面を立ち上げたのだが……壁紙設定していたソレを見てちょっとだけムッとなり何も知らずに歩く一誠に聞いてみようと片腕を首に回しながら話し掛けた。

 

 

「ねぇ、この待ち受け画面ってどういうこと?」

 

「待ち受け? あぁ、それは『魔王少女☆レヴィアたん』の主人公、レヴィアたんの限定待ち受けだよ」

 

 

 てっきり『いや違う! こ、これはだな……!』とテンパるのかと思いきや、何て事なく返す一誠に朱乃は目を細めて取り敢えず耳を傾けてみる。

 

 

「偶々エロ画――コホン、健全なネットサーフィンしてる時に発見した、そのサイトのみで配信されているメチャコアな特撮ドラマなんだよ。

で、小バカにしながら見てたら意外とハマってしまい、最近は洒落のつもりでファンレターとか送ったらその待ち受け画像と一緒に返事が返ってきて……って、まさかねーちゃん的に許されないのか?」

 

 

 決してイヤらしくない目で、単純に楽しかったからハマっただけだと訴える一誠。

 ちょっと際どい変身シーンを見て完全にハマったという事実は一誠だけの真なる秘密だ。

 

 

「そうなの……ふーん? まあ、それなら良いけど」

 

 

 聞いてる限りでは嘘では無いと察した朱乃はソレ以上は追求せず、ホーム画面いっぱいに映って様々なあざといポーズをしてる『魔王少女☆レヴィアたん』なる姿をジーっと観察し……顔をひきつらせた。

 長い黒髪をツインテール縛り、子供向けで誤魔化されない肌の露出したピンク択の服と武装らしき棒。

 

 

「……。(これって完全にあの人よね……)」

 

 

 人間でありあんまり興味が無いという理由で大まかな三大勢力について知らない一誠は、この魔王少女なる人物の正体をどうやら知らない様だが、転生悪魔である朱乃には見覚えがあった――というかインパクトがデカ過ぎて無理矢理頭に叩き込まれたといった方が正しいか……。

 

 

「何なら今度一緒に見る? 今配信されているのは第2シーズンなんだけど、この前レヴィアたん役の人から第1シーズンのBlu-rayBOXをタダで送ってくれたんだよ。

何でも『人間の男の子で熱心なファンはキミだけだよ☆』――なんてキャラを守った手紙付きで」

 

「ふ、ふーん……こ、今度機会があったらね」

 

 

 人間の男の子っていう表現もキャラも全部素なの一誠くん……と、実は知ってるとは言えない朱乃は相当にハマってるのか勧めてくる一誠には見えないように苦い表情を浮かべ、この話はすべきでは無いと話題を変えるべく一誠の携帯を動かし……。

 

 

「何これ?」

 

 

 ショートカットのアイコンをタップした先に表示されたありとあらゆるデーターに、朱乃は思わず携帯を握り潰しそうになった。

 しかしそれは我慢し、朱乃の様子に気付かず悠長にレヴィアたんがどうのこうのと語る一誠の首に両腕を回し――

 

 

「で、不思議な力を得たレヴィさんは愛と何とかを守る秘密の魔王――うげぇぇ!?!? 首がくる――じぃ!?!?」

 

 

 全力でチョークを開始した。

 そして倒れそうになる一誠に、甦る怒りをぶつける。

 

 

「こ、これは何なの?

縛り付けた人妻との6日間とか、お隣の奥さんとのイケナイ関係だの……その他65GB分のエッチなデータは?」

 

「うげっ!? な、なんでキー付きの隠しファイルにいれたのにバレ――ぐぇぇぇっ!?!?」

 

 

 身に覚えがありすぎる単語を朱乃の口から聞かされた一誠は、苦しみなが認めてしまう発言をしてしまった。

 どうやら隠しキーの設定をし忘れたのを忘れたまま、朱乃に取り上げられた様だ。

 

 

「流石にこれは無い。アナタはいくつなの?」

 

「じゅ、じゅうななしゃい……」

 

「そうね……なのに、どう見ても成人向けのコレについてのコメントはあるかしら?」

 

「ぐっ……ぐっ……あ、朱璃さんに筆下ろしして貰えたら全部消去してもいべべべべ!?!?!?」

 

 

 一誠の背中にしがみつき、体内に宿る雷の巫女と言われるだけの魔力を解放して電気処刑のごとく一誠にぶつける。

 しかも自分より母親にどうこうされたいと言われたので尚更だ。

 正直今すぐにでも椿姫辺りを連れて、『一誠はこういう人でアナタの思ってる以上にスケベだからやめた方が良い』と『親切』で言ってやりたくなるくらいだ。

 

 

「お母さんが良いんだ? へー?」

 

「しびびび! ち、ちが……ま……!」

 

「ごめん、何を言ってるのか分からないわ一誠くん。

え、もっとやって欲しい? うん、わかったわ……それ!」

 

「びゃびゃびゃ!?!?」

 

 

 やっぱり浮気は許せないby朱乃おねーちゃん。




補足

凛さんは望まずして他人を物凄く惹き付ける変な才能があります。
故に、先にアーシアさんと出会った事により一誠のアーシアさんに対する興味は――

『あぁ、完璧な自称姉様なら彼女も何とかなんだろう』

 てな感じで再構成前に比べるとかなりドライです。
 ……。まあネタバレじゃないけどこの後呪いのごとく凛とセットで絡みますがね。

 ちなみに一誠くんから見た例のアホ毛は作中何度も思ってたように

『引きちぎりたくなる衝動に駆られる』




その2

特定のブログを周ってたどり着く幻のブログにのみ置いてある特撮ドラマ『魔王少女・レヴィアたん☆』

閲覧者は人間界ではたった一人らしく、そもそも都市伝説となっていた。

レヴィアたん。何者なのかは一誠も全然知らない……。
一体何者なのだ(棒)


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閑話・仲直りお家デート

ちと久々……でもないか?

取り敢えずキャラ忘れがちなんでリハビリでやりました。


 

 ねーちゃんと仲直り出来てから数日後。

 ダミーファイルとパスの二重防壁を張ってた筈のお宝ファイルは全部破壊された。

 そしてやんなくても良いと泣きながらお願いしたのに、俺の携帯はフィルターを掛けられ、健全なサイトしか閲覧が出来なくなってしまった。

 これによってサイト限定配信の魔王少女☆レヴィアタンの更新がチェックできなくなっちまった――のだけは何とか回避出来たんだが、それでも人生に潤いが無くなってカッサカサになっちまった事には変わりなく、ほんのちょっぴり気分の重い毎日だった。

 いっそ、フィルターが掛けられてないPC経由でやったろうかと思うが、家にはなじみが居るし……中々自分好みのライフワークを確立できねーし、更に朱乃ねーちゃんは……。

 

 

「お母さんも出掛けてるし、今日はとことんゆっくりできるね?」

 

「あー……だな」

 

 

 よく分からんが、取り敢えずデートしろとエロコンテンツ祭りを全消去してからニコやかに命じてきた。

 当然そんな朱乃ねーちゃんに逆らえるわけもなく、更に言えばガキの頃からデートと言う名前の単なるお出掛けに付き合ってきたし、抵抗感というものはなかった。

 が、それでも俺はちょっとだけ疲れていた。

 

 

「彼女は何て言ってた?」

 

「え、あぁ……なじみなら俺のベッドを占拠して雑誌なんて読みながら『あ、そう。精々振り回させない事を祈っておくぜ』と無関心に言ってただけ」

 

「ふーん……?」

 

 

 それは、俺の師匠である安心院なじみが表に出始め、そして俺の家に住み始めてから、あからさまに朱乃ねーちゃんが対抗意識を燃やしてるというか、前よりくっついてくる頻度が多くなったっていうか……。

 取り敢えずねーちゃん自身が素に戻るのが多くなった。

 

 

「あ、ここ間違えてるわよ一誠くん」

 

「ん? おっと、スペルをミスってたわ。サンキュー」

 

 

 だからこそのデートなんだろうが、根が出不精のめんどくさがりやの、引きこもり体質だってのも朱乃ねーちゃんはちゃんと把握してくれてる事が唯一の救いか……。

 本日のデートは所謂『お家デート』という奴であった。

 

 

「……。と、こんなもんか?」

 

「どれどれ…………うん、これで正解だよ」

 

「よっしゃ終わったぁ!

ったく、連休だか知らんが、先公どもは余計な課題ばっか出しやがって」

 

 

 無駄金は使わない、しかし二人きりで長い時間過ごせるからってのがねーちゃんの弁であり、付き合いの長さで俺が学校から出された課題をやんないこともちゃんと見抜いている朱乃ねーちゃんに命じられるがままにこうして朝っぱらから中々に多かった課題をやり終えた俺は、大きく身体を伸ばしながら畳の上に大の字で倒れる。

 

 姫島家・朱乃ねーちゃんの部屋。

 神社だったりするねーちゃん家は、純和風ってのが似合うくらいに和であり、そこに何だかんだで10年以上も入り浸って世話になってた俺としては、新鮮味なんてものは感じないものの、実家に居るような安心感があった。

 故にねーちゃんの部屋も見慣れてるし、相変わらず女っ気がそんなに無い部屋だなというのが正直な感想だ。

 

 まあ、言ったら何されるかわかんねーし言わんが。

 

 

「何か飲む?」

 

「んー……飲む」

 

 

 課題も終わり、凝り固まった身体を伸ばしつつだらしなく寝っころがる俺の顔を覗きながら聞いてくるねーちゃんに飲むと頷く。

 何だかんだで数時間使って朝からねーちゃんの監視付きで宿題やってたからな……ちと腹が減ってたりする訳で、ねーちゃんもそれを察してたのか頷く俺に微笑むと、お茶を用意するために部屋を出て行った後をボーッとしながら待機する。

 

 部屋主がいないからなんて理由で物色は当然のことながら絶対にしない。

 まず失礼に当たるし、それをやってもし変なもんでも発見しちゃったら、これからお茶とお茶菓子持って戻ってくるだろうねーちゃんにどんな顔すれば良いか分かんないしな。

 

 だから俺はねーちゃんの部屋は絶対に物色しない。

 決して昔出来心と悪戯心でこの部屋の隅に今も鎮座してる机の二番目の引き出しを開けたら、大量の写真――それも俺だけしか写ってない写真がありましたからとか、押し入れの中に俺を模した大量の……多分朱乃ねーちゃんお手製の人形がありましたからとかそんなんじゃない。

 

 親しき仲にも礼儀あり――つまり至極正論な理由で俺は何もしないまま待ってるのさ。

 そもそも、何の下着がお気に入りで見せてくるようなねーちゃんの箪笥なんて漁っても虚しいだけだからな……。

 

 

「お待たせ一誠くん」

 

「おーぅ、サンキュー……って、何でそんな格好してんだよ」

 

「えへ、一誠くんが来てくれてるし、折角だからと思って……似合ってない?」

 

 

 そうこうしてる内に、何故か巫女服に着替えてたねーちゃんがニコニコしながら戻り、飲み慣れすぎて他のを飲むと味気なくすら感じるようなった好みの緑茶と、俺の胃袋に合わせて持ってきた多数のお茶菓子を楽しみつつ、俺の突っ込みに対して不安そうな眼差しを送るねーちゃんを眺める。

 

 清潔感を感じる紅白装束……所謂巫女さん的それをねーちゃんはこの家柄の関係で政が何かがあれば袖を通しており、今日は俺が来たからとかよく分からん理由でわざわざ着替えて来たらしいのだが……。

 

 

「ガキの頃から見慣れてるからな……今更似合う似合わないとか無いだろ」

 

「むー……もう少し気の効いたコメントが欲しかったのに……」

 

 

 似合う似合わないとだけ言われりゃあ、そりゃあ似合うと思ってる。だってガキの頃から見てたし。

 が、今更『うおぉぉっ! 巫女服サイコー!』なんて大騒ぎ出来るかと言われたら微妙だ。

 そのせいで巫女服もののエロDVDを勧められても微妙にしか感じられなくなっちまったしな……。

 

 しかし朱乃ねーちゃんからすればそういう反応をすると不満そうだ。

 

 

「……。まあ、朱璃さんに似て板にはついたんじゃねーの?」

 

 

 だから俺は取り敢えず当たり障りないコメントだけしておく。

 似合ってないとは思ってないし、だからといって誉めちぎるのも気恥ずかしいしな。

 するとねーちゃんは満足でもしてくれたのか、腹拵えを終えたそのタイミングでススス……と絹が擦れる音と共に俺の傍らに座ると、『あ』っと言う暇も無く腕を組ませてベタベタと引っ付き始める。

 

 

「お母さんに似てきた……か。

それじゃあ、あと少しで一誠くんの好みになれる?」

 

 

 妙に甘えた声……そして口調。

 課題をしてた時からその兆候はあったが、どうやら完全に『素』の性格になってるようなのが分かった。

 ニコニコとただひたすらに笑顔を見せ、スリスリとすり寄る。

 これでグレモリー先輩と並ぶ学園二大お姉様なんだから、学園の連中は全く人を見る目が無い。

 

 

「好みか……。いや、うーん……」

 

「むー……またそうやって曖昧に物を言おうとする!」

 

「い、いやだって……毎度毎度の事だけど、ねーちゃんのソレってやっぱ間違えてるとしか思えねぇし」

 

 

 本来は寂しがりやで、人に……厳密に俺がそうさせたてしまった『依存心』があり、デリケートな性格だってのを誰も見抜けやしねぇ。

 それが隠し通せてるねーちゃんが凄いのか、それとも単に騒いでる連中が上辺しか見てねーのか……。

 どちらにせよ、今のところねーちゃんには浮いた話しは無く、間違えた解釈のままその全てを俺に向けてくる。

 

 

「間違ってないもん……。私は一誠くんのお嫁さんになりたいもん……」

 

「おおぅ……複雑ぅ」

 

 

 俺を俺としてちゃんと見てくれた初めての人がねーちゃんとその家族であり、年が一番近いねーちゃんとはずっと一緒だった。

 そりゃあよ、ねーちゃんが俺の為だけに『好みの女の子』になろうと色々努力してたのも知ってるし、こんなこと言ってもしょうがないが、嬉しいというのもちゃんとある。

 

 けれど、こんな半端もんな俺なんかよりねーちゃんはもっと良い人が居る筈なんだ。

 自分(テメー)の自己満足で守るとほざき、ねーちゃんを縛り付けちまった俺なんかよりもさ。

 

 

 

 だから朱乃ねーちゃんや、頼むからその――

 

 

「胸だってちゃんと大きくしたよ? ほら……」

 

「ちょ……!?」

 

 

 複雑な気分の隙を突いて、俺の手を自分の胸に押し付けんといてーな。

 それと何でそんな切なそうな顔なのよ……。

 

 

「まだ……駄目?」

 

「だ、駄目どころか、割りとそこら辺はパーフェクトだったりすると俺は思うが……お、おい!?」

 

 

 位置が位置な為、瞳を潤ませ頬を朱色に染めてるねーちゃんの顔が至近距離で色々と困る俺を他所に、ねーちゃんが掴んでいた俺の手は巫女服越しから移動して、服の中に入っていた。

 そして今になって気付く……。

 

 

「お、おいねーちゃん……なんでノーブラなんだよ……?」

 

「こういう衣装に下着は着けないのよ? だから下も……」

 

「セイセイセイ! それは言わんで良いよ……くぅ……!」

 

 

 何処の時代の人間なんだよ……と突っ込む暇も無く、ねーちゃんに占領された手は思い切り服の間を縫い、直接大成長を遂げて俺もびっくりな双山にあった。

 しかもさっきの通りマジなノーブラであり、証拠だと言わんばかりにさっきからポッチに触れてる。

 

 

「んっ……。

い、一誠くんの手……冷たくて気持ちいいな……」

 

 

 その上、変に抵抗しようともがくと、変な声だして変に悶えるねーちゃんに軽くパニックになる。

 こんな光景……朱璃さんならともかくバラキエルのおっさんに見られたらぶっ殺されちまうのだ。

 

 

「ぁ……は……♪ どんなに逃げようとしても、どんなに浮気されてもやっぱり私は一誠くんが好き……大好き……!」

 

 

 が、そんな事なぞお構いなしなねーちゃんは、惚けた表情で何度聞いたか分からんが言葉を聞かせながらスッと顔を近付かせて……。

 

 

「あ……ぅ!?」

 

 

 こう……なじみとはまた違うと感じるキスをされた――――って、あ、あれ? これってねーちゃんと初めて……。

 

 

「え、う、嘘だろ……?

これだけはずっとねーちゃんの為に阻止してきたのに、こんな……」

 

「彼女の次ってのが気に食わないけど……えへ、これでやっと一誠くんとちゅーできたね?」

 

「そ、そんな子供みたいな笑顔で言うなよ……! 自分が何をしたか分かってのかよ……どうして俺なんかと……」

 

「? もちろん、大好きだから。

一誠くん以外の男の人なんてみんな……ふふ、案山子さんにしか見えないの♪」

 

 

 色々とショック……ってのはねーちゃんに失礼だけど呆然と固まる俺を寝かせ、その上に覆い被さる様に乗っかかるねーちゃんは、ただ嬉しそうに微笑みながら昔と変わらない台詞を聞かせてくる。

 少女の頃から――過負荷(マイナス)を初めて使った頃から変わらない表情で……。

 

 

「私、他の事なら何でも……全てがあの人に劣ってても良い。

でも、これだけは……一誠くんと永遠に一緒になりたい事だけは負けたくない」

 

 

 そう言いながらねーちゃんは白衣をはだけさせ、肩を露出させる。

 

 

「何でもする……一誠くんが気持ち良くなってくれる為に何でもする。

だから……私を受け取ってよ一誠くん……」

 

「ぅ……ね、ねーちゃん、それだけは駄目だよ。後戻りが出来ないし、もしそのつもりなら俺は全力で逃げないと――」

 

 

 白い肩が見え、大きく成長した胸元も見える状態で『そのつもり』な台詞を口にするねーちゃんに俺は首を横に振ってダメだと言う。

 こんな状況で――何やっても中途半端な今の俺にねーちゃんみたいな人とだなんて贅沢過ぎるし、何より間違えてる。

 俺には、ねーちゃんを受け入れられるほど出来すぎた人間にはまだなれてないんだ……だから――

 

 

「ねーちゃんがそこまで俺なんかを想ってくれるのは分かったし、それを間違えてるだなんて否定もしない。

けど……それなら尚更駄目だ……俺もねーちゃんもまだ餓鬼なんだからさ」

 

「ぁ……」

 

 

 これだけは駄目だ。

 はだけたねーちゃんの服を元に戻すように着させ、俺の言葉に寂しそうな表情を見せるねーちゃんの肩を抑えながらゴロンと転がって体勢を変えて起き上がる。

 

 

「ねーちゃんらしくねーよ。

俺がナンパしてるのを後ろから雷撃を喰らわせる……そっちの方がねーちゃんらしいさ、こんなアダルティな空気放つよりさ」

 

「………」

 

「……。そんな顔すんなよ。キスは下手じゃなかったぜ?」

 

「………。一誠くんの写真で練習したから……」

 

「あ……あ、そうなんだ……」

 

 

 仰向けになりながら俺を切なそうに見つめるねーちゃんに複雑きわまりない気持ちで声を掛け、膝枕をしてあげながらポンポンとその頭を撫でる。

 今の俺がねーちゃんに出来るのはこれが限界だった。

 

 

「……。いくじなし」

 

「俺等の年でやらかすよりずっとマシだろ……」

 

「……。ふんだ、罰としてこのままだからね?」

 

「へーいへい、仰せのままにお嬢様?」

 

 

 そんな俺の中途半端さに、ねーちゃんは不満だという言葉とは裏腹に、ちょっとだけ微笑んでくれた。

 ……。ハァ、おっぱいハーレムとか言ってる場合じゃ無くなってきたな……。

 

 

終わり




補足

一誠も一誠で朱乃ねーちゃんに、中々の依存心があると浮きぼらせた回……と何やかんやでイチャコラ回ですかね。

朱乃さんに罪悪感があればさっさと遠ざけるか遠ざかるかすれば良いのにそれもしない。

 好意を寄せられてる……頼りにされてる……そして何よりも兵藤一誠個人として接してくれる。
 それが一誠にとって何よりも心地よく、何だかんだで離れたくないと思ってるのを、『自分が余計な事を言ってねーちゃんを縛り付けてる』と誤魔化してるって訳ですね。

この認識を改めれば、風紀委員一誠くんも新・生徒会一誠の様に覚醒できる……かもね。



補足2

クソどうでも良いし関係ないですが、もしこの風紀委員一誠が新・生徒会長一誠の……特に兄貴を見たら……。


『な、なんて羨ましい……!? 笑うだけでおんにゃのことにゃんにゃんとかクソズルいぞその能力! 俺にも寄越せ! そうすれば俺もグレモリー先輩とうひょひょ………………………







……と、言うとでも思ったかこの野郎……! よく見ればそっちの朱乃ねーちゃんはめちゃくちゃ蔑ろじゃねーかゴラ』


とまあ、平行世界の幼馴染みや知り合いが洗脳されてるのに思っくそ嫌悪感抱きます。

んで、平行世界の朱乃さんに

『だれ? 私に幼馴染みなんて居ない』と言われて凹むでしょうね。



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悩むお姉ちゃんと寂しくて思いきった副会長

安心院さんから自分の初めてを。

朱乃ねーちゃんからは彼女自身の初めてを……

そして椿姫副会長は……


 最近よく見慣れない連中をよく見る気がする。

 自称姉が連れてた金髪のシスターしかり、神父っぽい格好をした者達然り。

 どう見ても『日本人じゃごしゃりませぬ』な姿をした連中が多く見られる……とガキ共やら近所の人妻様から聞くのだが、その連中が特に変なことをしてるって訳でもないので気にする事も無い。

 

 そう思う筈なのにこの妙な胸騒ぎが止まらないのは何でだろうか? なじみに相談するべきなのか? ……いや、こんなしょうもない事でアイツを頼るのはどうかと思うし、俺もそろそろ師匠離れしないといかん。

 

 思ったこと、感じた違和感くらいテメーで処理できなくて何が男か……ってね。

 

 

「一誠~ なじみちゃんと遊んでくれよぉ~」

 

「遊ぶってなんだ? キャッチボールでもしろってか? それともお人形遊びか? どちらにせよ俺は今暇じゃねぇぜ」

 

「えぇ? 休み時間だってのにグラビア雑誌読んでニヤ付いてるのにかい?」

 

 

 恐らくなじみ自身は俺のこんな気分の何もかもをお見通しであるのは間違いない。

 だが、それについて突っ込んでこないということは『僕が出張る必要はないな』って意味で間違いない。

 だからこそすっかり転校生として定着した安心院なじみとして、嫌だって言ったのに隣の席に座り、休み時間のオアシスタイムを邪魔しておちょくってくるだけだと俺なりに考えつつ……。

 

 

「というより一誠は、昨日も一緒に僕と一緒のお風呂に入って、全身くまなく洗いっこしたのに、まだ満足できないのかよ~」

 

「よくもまぁそんな嘘がペラペラと出るなお前……。

なじみらしくねーっつーか…」

 

「「「「「イッセェェェェヤァ!!!」」」」」

 

「………。ほーらこうなった……」

 

 

 転校初日の挨拶で余計なことをぶちまけたせいで、余計周りから敵意を向けられ、今もまた捏造ぶちまけ・聞き耳立ててた野郎共の面倒極まりねぇ対応に追われるのであった。

 

 

「安心院さんとお風呂でだと!? テメェ、絶対それだけじゃねーだれろぉぉ!?」

 

「おいおい、呂律がおかしくなるまでキレんなよ……コイツの嘘だし今の」

 

「それでも一緒に住んでる時点で有罪じゃぁぁっ!!」

 

「……。チッ、キレる前にテメー等もヘタレてねーで女の子に話しかけりゃあ良いのに、それも出来ねぇくせに僻むなよバカ共が」

 

 

 あー……早く諸々のモヤモヤを解消して俺のおっぱいハーレムについての将来を考えんとなぁ……。

 なんてボンヤリ考えながら、殴りかかってきたクラスメートA君の拳を掴み、そのまま振り回してぶん投げてやるのであった。

 

 

 

 どうしよ……。

 私が先に出会ってしまったせいで、一誠がアーシアちゃんを全く気に止めてない……。

 

 

「うぅ、どうしよう……どうしよう……」

 

 

 私は一誠に嫌われてる。

 どうしようもなく嫌われてる。

 多分改善する事なく嫌われてる。

 でもそれは仕方無いんだ……私が一誠の持つべき全てを奪ってしまったから。

 

 だからせめて、一誠とこれから仲良くなり想いを寄せられる女の子との仲を上手く取り持ち、一誠の夢のハーレム王のお手伝いをする。

 心が引き裂かれるくらい辛いけど、せめてもの私が出来る償い……そう思ってたのに、現実は全て悪い方向に進んでしまってる。

 

 本来一誠と最初に出会う筈だったアーシアちゃんに一誠は『私と親しい』って理由で完全に警戒してて仲良くなる素振りが見えない。

 うぅん、それどころか一誠は朱乃先輩としか親しくしてないし、リアス部長には鼻を伸ばすもののそれ以上の進展は無い。

 しかもその最たるものは……。

 

 

「へぇ、朱乃ちゃんとキスねぇ?」

 

「む……姫島さんと一誠くんが……なんか悔しい」

 

「ふふん、一誠くんとならキスの一つや二つしておかないといけませんしね……ふふふ」

 

「………。頼むからその話を食堂のど真ん中でしないでくれ……。

野郎どころかお姉さまとねーちゃんを信仰してる女の子達からもさっきからエライ殺気をだね……」

 

 

 木場くんに惚れる筈の真羅先輩……そしてジャ◯プ漫画の登場キャラな筈の安心院さんがあぁして一誠と親しそうに……楽しそうにご飯を食べてるのが見える。

 ……。朱乃先輩が朝から妙に機嫌が良かった理由を知らされる形で私は離れた箇所で只見てるだけ。

 

 

「凜先輩、あの人がまた気になるんですか?」

 

「真羅先輩と、転校生の安心院さん……。

兵藤君って意外と隠れた知り合いが多いんだね」

 

「………。そ、そう……だね……うん……」

 

 

 そんな私と仲良くしてくれる後輩の小猫ちゃんと木場くんは、私の表情を察して慰める様に優しくしてくれる。

 この二人だって、本当は私なんかより一誠と仲良くなった方が良いのに……二人は私に優しくしてくれる。

 

 

「ご、ごめんね小猫ちゃんと木場くん。

せっかく私なんかを誘ってくれたのに」

 

「いやいや、弟の彼が気になるのは何時もの兵藤さんだしね、気にしなくても良いよ」

 

「ええ、凛先輩には悪いですけど私個人はあの人が好きませんし……」

 

 

 それどころか、私が一誠に余計なことして裏目に出たせいて一誠が悪役にされてしまっており、小猫ちゃんと木場くんは一誠に余り良い印象を抱いてない。

 

 

「こ、小猫ちゃん……」

 

 

 真ん中の席で男子達から嫉妬されてる一誠を『歓迎できない』表情で見ている小猫ちゃんは、そのまま小さく口を開く。

 

 

「分かってます、凛先輩はあの人が大切なのも、あの人に何を言われても凛先輩は私達に言えない『何か』から来る罪悪感があって何も言い返さないのも……」

 

 

 そう私に如何に私を親ってくれてるか良く分かってしまう言い方をする小猫ちゃんは、そこで一呼吸置き、多分情けない顔をしてるだろう私をジーッと見つめる。

 

 

「だからこそ私はあの人が嫌いなんです……。

お二人に何があったか何も知らない『部外者』かもしれませんが、私は凜先輩が好きです。

だから、どっちが悪いなんて関係無しに凜先輩の肩を持ちますので」

 

「僕もかな。前だって兵藤さんは彼に話し掛けたら無視されるか口汚く罵られてるしね。

聞いてて僕も気分は良くない」

 

「こ、小猫ちゃん……木場くん……」

 

 

 何があっても私の味方とハッキリ言い切る二人に、私は嬉しく思ってしまう反面、やっぱり罪悪感がふつふつと沸いて出てくる。

 私が一誠の持つべき力と、その主人公としての全てを奪って成り代わってしまった…それを正直に話せば二人も一誠を少しはわかってくれると思う事に……。

 それが言えないで、成り代わってしまった力で仲間入りして……。

 

 

「ありがとう。でも一誠はちゃんとお話すれば良いところが沢山あるってわかると思うよ……?」

 

「……。正直、それもまた気に入りませんね。

あれだけ好き勝手凛先輩に言ってるのに、その凛先輩にそこまで庇ってもらってる事が」

 

「同意だな。何故かモヤモヤするよ」

 

「あ、あはは……」

 

 

 私は卑怯だ……。

 二人にそんな事を言って貰える資格なんて本当は無いのに……。

 

 

 

 

 椿姫はちょっぴりだけ焦っていた。

 というのも、彼の師匠(?)のみならず幼馴染みの朱乃までもが一誠とキスを済ませていましたと聞かされたからだ。

 一誠の幼い頃から一緒である朱乃やなじみとは違って、自分はたった一度出会っただけ。

 故に二人と比べても圧倒的に強みがなく、更に言えば一誠的に自分は『セクハラしようとすると妙に尻込みしちゃう人』という認識をされてしまってるせいか、あの『寝ぼけ胸鷲掴まれ事件』以降、特に彼とはそういった事が無かった。

 

 いや、それこそ不謹慎な事なのだがと椿姫は思うが、二人と『そういう事をしました』と聞かされてしまった以上……やはりモヤモヤしてしまう。

 

 

「最近アナタの様子がおかしいなと思ってましたが、その……まさか椿姫は兵藤一誠の事を?」

 

「……。ええ、会長や聞いてる皆さんのご想像通りです」

 

 

 そんな椿姫は、昼休み朱乃から聞かされてからずっと抱えっぱなしのモヤモヤのまま放課後の生徒会活動に突入し、会長でかり主でもあるソーナから物凄い遠慮がちに一誠についてを問われていた。

 が、一誠の根底が昔の一誠のままと再確認してからは心の奥に隠していた気持ちを出すようになっていた椿姫は涼しい表情のまま淡々とソーナな生徒会メンバーが、固唾を飲む前でハッキリと言いきった。

 

 

「ま、まま、マジですか!? ふ、副会長があの兵藤って……」

 

「椿姫副会長の前でこんな事を言うのはアレですけど、な、何で兵藤君……?」

 

「この前から彼と楽しそうにお喋りしてたから、まさかなんて思ってたけど……」

 

「本当にそのまさかだったなんて……」

 

 

 ソーナの問いに即答した椿姫に対し、大袈裟に驚く匙と同意するように頷きながらざわめく他のメンバー

 彼等からすれば『女子生徒にセクハラしまくる超問題児』たる一誠なんてむしろ椿姫が嫌う一番のタイプなはずなのにも関わらず、蓋を開けてみればまさかの……だったのだ。

 

 正直に一誠に対して、普段の行いのせいであまり良い感情が無い生徒会としてはこんな事実にかなり複雑な心境だった。

 

 

「えっと、誰に想いを寄せるのは椿姫の自由だけど……良いの? その……彼って姫島さんや最近じゃあの安心院って女子生徒からも……」

 

「そ、そうっすよ! その時点で色々とアレっすよ!」

 

 

 同じ生徒会として、眷属として純粋にソーナ達は椿姫が心配だった。

 だからこそ余りお薦めできないな言い方で話し、ちょっとは冷静に考え直した方が良いのでは? と口々に先程がちょっと元気の無い椿姫に進言する。

 

 

「……。あのお二人は彼が幼い頃からの付き合いですからね。

私も幼い頃――まだ眷属になるもっと前に一度だけ会い、小さな事ですが助けて貰った事がありました」

 

「え……?」

 

「そ、そんな事が……」

 

「ええ、当時から彼――いえ、一誠くんはちょっとマセてましてね。

助けてくれたお礼をしたいと言った私に――『互いに大きくなっならデートしようぜ』なんて言いまして」

 

 

 そんな仲間達の意図をちゃんと察しながらも、それでも椿姫は『わかりました、忘れます』とは言わず、どうして一誠に拘るのかという理由を話し、その過去の出来事についてソーナ達は少々驚く。

 

 

「まあ、ですから……? 子供っぽいと思われますが、当時『色々と』諦めてた私にとっては安っぽくても嬉しかった――だからですかね?」

 

『…………』

 

 

 ただそれだけ。

 然れど当時の椿姫にとって、持っていた『力』によって疎んじられて心を閉ざしていた時に送られた『ませガキ』の安っぽい言葉は純粋に嬉しく、そして何よりも今までの人生の糧にしてきた、不思議な力を持つ少年の言葉。

 

 そんな少年が成長し、この駒王学園に入学し、壊滅状態の名ばかりの風紀委員長になった時は、驚いたしちょっと落胆もしてしまった。

 けれどひょんな事から彼と真正面に対話し、彼が一人でこの街に対してやってきた事を目の当たりにしてからは再びその気持ちに火が着いてしまった。

 

 

「馬鹿な女と思ってくれても構いませんし、軽蔑してくれても構いません。

私にとって彼は――兵藤一誠は紛れもなく初恋相手で、いくら周りに魅力的な女性に囲まれてようと、諦めたくない……ってだけですから。

大丈夫です……きちんと生徒会や悪魔としてメリハリは付けます」

 

『……………』

 

 

 だからこそ止めたくない。

 幼馴染みが居るからだとか、師匠とやらがいるからだとかの理由で諦めたくない。

 椿姫は緩やかに微笑みながらそれだけを言うと、何も言えずに居るソーナ達に頭を下げながら『各委員会に配布するこの書類を届けに行きますね』と締めてから背筋を伸ばし、妙に堂々と踵を返して生徒会室を出ていくよであった。

 

 

「ほ、ほんと意外ね。あの椿姫があそこまで言い切るなんて……」

 

「男って、ちょっとアウトローの方がモテるのか……? なら俺も――」

 

「そんな事したら生徒会をクビにするわよ匙?」

 

「そうだよ、匙くんはそのままが良いよ」

 

『うん、うん!』

 

「あ……うっす」

 

 

 

 

 

 

 あーぁ……言っちゃった。

 隠すつもりも無かったから別に良いんだけど、皆の前であんな事言うと、やっぱり恥ずかしいわね……。

 けれど言ってしまったものは仕方無いし、訂正するつもりだって無い。

 うん……私はやっぱりあの時の事をよっぽど大事に思ってしまってるみたいね。

 

 

「では3日後にお願いしますね?」

 

「了解しました副会長!」

 

 

 先程会長に言った通り、各委員会の委員長に提出して貰う書類を残り一つを除いて全て配布し終えた私は、無意識に最後にしていた委員会である風紀委員の活動拠点である旧応接室に向かうため、昼間のキスのお話について思い出しながら、ちょっとだけ悶々として歩く。

 

 

「キス……か」

 

 

 ソッと自分の唇を指でなぞり、ちょっとだけ胸の鼓動を早めながら旧応接室目指して足早に歩く。

 安心院なじみさんの時は目の前で見せられたからアレだったけど、姫島さんもした。

 

 幼い頃から互いを知り尽くしてる同士だし、姫島さんに至っては寧ろ今までしてなかった事に驚きだけど……それも今では意味の無い事だ。

 だってしたらしいし……。

 

 

「ハァ……私は単なる知り合いだからなぁ」

 

 

 正直、凄いモヤモヤする。

 安心院さんも姫島さんも魅力的な人で私は単に小うるさいだけの小娘。

 この前は一誠くんと一度のみならず何度でもデートしてもらうなんて言ったけど……それだけじゃあの二人に追い付けないわ。

 

 何のアドバンテージも持たない私には悔しいとしか思えず、ただひたすらに考えながら歩いていた私は遂に旧応接室前に来ており、扉の向こうから感じる人の気配にちょっとだけ緊張する。

 

 

「……ふぅ、失礼します」

 

 

 しかし入らないわけにはいかないし、こんな事で尻込みしてたらどんどんと置いていかれてしまうので、一つ深呼吸をして扉のノックして開ける。

 

 

「Zzz……」

 

「一誠、くん……?」

 

 

 中に入った私の目に映ったのは、ソファをベッド代わりにだらしない寝相で寝ていた一誠くんだった。

 そういえば今日は街のパトロールのシフトに入ってなくて暇だ……と昼休みの時にボソリと言ってたっけ。

 

 

「ハァ……何もないからってだらしない」

 

 

 しかしいくら此処が風紀委員の部屋だからといって、私物化して寝所に使うのはどうかと思う訳で、私は贔屓無しにスヤスヤ寝てる一誠くんを起こそうと持っていた書類をテーブルに置き、その横に腰を下ろす。

 

 

「ほら、起きてください。暇ならこの書類に記入して欲しいこと………が……」

 

 

 そのまま声でも掛けながら揺さぶろうと手を伸ばしたのだが、私の声と手はピタリと止まってしまった。

 

 

「……………寝てる?」

 

「Zzz……ぐふ、ぐふふ……」

 

「も……もしもーし……?」

 

「うひぇひぇ……」

 

 

 寝てる。

 声を掛けるだけなら、変にだらしなくスケベそうに顔を崩してるだけで無反応だ。

 そう……無反応なのだ今の一誠くんは。

 

 

「ね、寝てるのね?」

 

 

 その瞬間、私の中に人の事なぞ言えない『邪な感情』が産声をあげ、悪魔のように囁いた気がした。

 

 お前のスケベな想い人は寝ている。しかも声だけじゃ起きない。

 なら……。

 

 

「……。(ゴクリ)」

 

 

 チャンスだと。

 あれだけスケベな一誠くんに幻滅してたのに、その寝ている姿を見て私は邪な思考に走った。

 しかも、それにまんまと従っている……。

 ふ、ふふふ……私もやっぱり人の子だったようね。

 

 

「……固い」

 

「ん……んぅ……」

 

「昔からずっと強くなるために鍛えてたんだもんね……逞しい……」

 

 

 ほぼ本能のように、無防備に寝ている一誠くんの肩に触れ、よく鍛え・絞り込まれてる腕へと移動させた私はそのまま思ったことを独り言の様に呟きながら、首へ胸へ……お腹へとあの時の以降どれだけ自分を鍛えてきたのか想像できる程に完成されてる身体に触れ続ける。

 

 時折一誠くんは擽ったそうに身体を捩るが、起きることは無かった……一応簡易的ながら催眠魔法を掛けてるので余計に。

 だからこそ私は『このくらいならまだ大丈夫』と誤魔化すように自分に言い聞かせ、ペタペタとはしたなく一誠くんの身体に触れ続けていく内に段々頭がボーッとなっていく。

 

 

「変、ね……。

一誠くんに触れてると頭がボーッとするし、心なしか自分の下腹部が脈打ってるような……」

 

「んー……ん……」

 

 

 恥ずかしいような、でも心地良いような……とにかく前に寝惚けてた一誠くんに胸を思いきり掴まれた時と似たような感覚が身体の中を支配していくのを自覚しながら、私は熱くなった顔を冷ます事なく視線を眠っている一誠くんの顔……それも無防備になっている唇に向けられていた。

 

 

「…………。ちょっとだけ……なら」

 

 

 それは魔が差したと言うべきなのか。

 それとも元からそうしたいと既に思っていたのか……。

 恐らくどちらとも言えるだろう、その考えがボーッとした頭の中に指令され、私は掛けていた眼鏡を外し、スヤスヤと眠り続ける一誠くんの顔に自分の顔を近づかせていく。

 

 

「ちょっとだけ……ちょっとだけ……」

 

 

 普段なら絶対にこんな事は考えなかった。

 けど私は私なりに焦っていた……だから寝ていた一誠くんを見てチャンスだと思った。

 

 私も……一回だけでも良いからキスをと……。

 

 

「んー……」

 

「…………」

 

 

 一誠くんの顔が近付くにつれ、自分の胸の中が煩く騒ぐ。

 寝ている間だけど……でもやってみたい。

 そんな、はしたなく本能的で短絡的な思考に従って私は――

 

 

「…………んぁ?」

 

「…………!?」

 

 

 後数センチの所で、その思惑は台風にでも吹き飛ばされたかの様に消えてしまった。

 そう……パチンと目を開けた一誠くんと至近距離で目が合ってしまった事で。

 

 

「…………。え、なに?」

 

「あ……そ、その……!」

 

 

 まだ寝ぼけているのか、私を目の前にしてもボーッとした表情である一誠くんに私は一気にパニックとなってしまい、離れれば良いということも思考から消び、体勢そのままで言い訳をしようとする。

 けれど、こんな事をしておきながらこのタイミングで起きてしまった一誠くんに対して言い訳なんて思い付かず……そしてこれまた私は何を思ったのか……。

 

 

「え……こ、こういうこと!」

 

「はぇ? なに………んーっ!??!?」

 

 

 また気絶でもして貰おうと至近距離だった唇をそのまま……多分笑えるくらい下手くそに重ねた。

 

 

「な、に!? ちょ……ふみゅ!?」

 

「へ、下手くそでごめんなさい! 下手くそでごめんなさい! でも頑張りますから……んっ!!」

 

「な、なにが!? なんでっ!? 意味がわか……れっ!?」

 

「んっ、はっ……! お、お願いだから何も言わないで……! あ、後5分……!」

 

「ごっ!? ちょ、ちょっと副会長さん!? アンタ急に……れれ!? し、舌が……ほらへてひゃへれれれ!?」

 

「ん、ちゅ……は……ぁ……っん……!(た、確か漫画だとこうして舌をこうして……あ……い、一誠くんの舌……え、えへ……)」

 

 

 兵藤一誠……初めて寝込みを思いきり襲われた。

 しかもそれなりに知り合いの女の子に……しかも5分どころか20分も。

 

 

終わり




補足

凛さん介入によって、原作とは真逆にアーシアさんを『可愛い金髪シスターひゃほーい!』と思うことはあれど……『あぁ、お姉様と知り合いなら何とかすんだろ? 完璧お姉様が~』と、これから起こるだろう事件を知っても微妙にドライな態度だと思います。


その2
副会長……焦りの余りある意味安心院クラスのそれをやらかした。

寝込み襲い+密かに読んでたレディコミの知識鵜呑みでガチverですからね。
よかったな、ハーレムじゃないか一誠よ。


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可愛いは正義さ……だから許すby一誠

事後……冷静になった椿姫さんは、色々と困惑する一誠と対談する。

まあ、前回の続きです。
※加筆と目につく箇所の修正をしました。
……ちょっとシリアスになったかも。



 一体何をされたのか、最初は分からなかった。

 風紀委員の仕事が今日はなくて、だからと言ってなじみと帰るとねーちゃんが不機嫌になっちまうかもだから、ねーちゃんの部活が終わるまで風紀室でスヤスヤとおっぱいハーレムでうひょひょの夢を見てたのに……。

 

 覚えてる限りじゃ色々な美少女や美女と芸者遊びで『よいではないか~ げへへ』と召し物の帯を引っ張ろうと追いかけ回して、さぁ捕まえた! ……って所で意識が現実に戻ったんだが……。

 

 

「………………」

 

「ぅ……ご、ごめんなさい」

 

「………。いや」

 

 

 待っていたのは、昔一度会ったっきりな女の子の顔のアップからの……へっ、まさかの凄いアレなアレだった。

 アレってのはアレなんだけど……まさかこの副会長さんにそんな事をされるとは思ってなかったってか……一体何処であんなの覚えてたんだっつーか。

 

 

「副会長さんは、一体何処であんなやり方を覚えてたんすか? あれじゃエロ本の――」

 

「い、言わないでください! よくよく考えたら私が前に呼んだ本は色々と段階が越えてた気がしましたし、完全に間違えてたって今になって気付いたんですから!」

 

「あ……はい」

 

 

 30分近くマウント取られたのと、思考がバーストしてたせいでロクな抵抗もせず、まるで犯されるがごとくされていた俺の物凄い気になる質問に副会長さんは恐らく真っ赤な顔で、それを隠すために俺から背を向けながら恥ずかしそうに小さくなっていた。

 

 

「しょ、少女漫画だと今まで思ってて、それを実証しようとしただけなんです。

た、確かに内容がアッチ向きで変だなと思いましたけど……」

 

「少女漫画っぽい……? あぁ、それ多分レディコミじゃないすか?

確かにアレって一見すれば単なる少女漫画っぽいけど、エロい描写が多いというか、それしかありませんからねアレ」

 

 

 つまり、副会長さんは普通の少女漫画だと思って購読したレディコミの内容を鵜呑みにしてしまったと……簡単に言えばそういう事らしく、うー、うー……と唸りながらソファに体育座りしてる副会長さんに……俺は同情すべきなのか、茶化して空気を濁してあげるべきか非常に迷ってしまう。

 というかここ数日で立て続けに二人の女の子とやらかした自分は果たしてマジなモテ期なのか? とすらちょっと想像と色々と違うモテ期に悩みそうである。

 

 

「取り敢えずこれ書いたんで……」

 

「は、はい……お手数掛けました」

 

 

 人間……いやこの人は元・人間か? まあ、どっちにしろ人間ってのは思い切ると中々に後先考えない事があるとはよく聞くもんだが、まさかこんな……えっと真面目さんがあぁもアレっつーかなぁ?

 ……。じゃなくて、取り敢えず副会長さんが来ただろう理由の――んーと、各委員会の人数と名前を書く欄に委員長である俺のみの名前と、生徒会に対しての要望と意見を書き、まだ顔まで隠して体育座りしてる副会長さんに伝えるも、やっぱり自分の行いに今更ながら恥ずかしくなったのか、その場から全く動こうとしてくれない。

 

 

「……。戻んないとヤバいんじゃないですか? これって生徒会の仕事として回ってたんでしょ?

たかが各委員会に書類渡すのに、もうかれこれ一時間は使ってそうというか、確実に使ってるというか……」

 

「…………」

 

 

 夕日の日差しがソファ座る俺と副会長さんの背中を射し……何とも言えない気分をより引き立たせる中、俺は早く戻った方がと促してみるも副会長さんは動かない。

 別に今更あの連中に何を思われようともどうとも思わんからそれでも良いんだが、俺のせいで副会長さん――椿姫ちゃんが不真面目のレッテルを貼られてしまうのは嫌だ。

 

 なので、取り敢えずさっきについては後でゆっくり話し合うとして、今は小さく体育座りしてる彼女を無理にでも連れていこうと、乱れたワイシャツや制服を着直し、俯くその腕を掴んで立たせようとする。

 

 

「ほら、せめて生徒会室まで適当な理由つけて送りますから……」

 

「は、はい……っ……あ、あれ?」

 

 

 椿姫ちゃんも流石にこのままじゃいけないと思ってたらしく、俺の言葉に弱々しく頷きながら立とうとするも、自分でも分かってない顔をしながらブルブルと身体を震わせて立てないでいる。

 

 

「あ、あれ……お、おかしいな……? た、立てません……」

 

「足でも痺れんすか?」

 

「い、いえそんなことは……うっ……力が入らないです……」

 

「………っと」

 

 

 自分の身体の変調に気付いてない様子で、何と無か立ち上がろうとしても駄目で、フラフラと力なく倒れそうになるのを見て、こりゃ危ないと判断した俺は力が抜けてる椿姫ちゃんの身体を支えると、そのままおんぶの要領で彼女を背負う事にしたのと同時に、ひょっとして身体に力が入らんのってさっきのアレのせいじゃないのかと予想してしまう。

 

 いやだって……何度か不自然にビクンビクンしてたしこの人。

 

 

「え、ぁ……」

 

「大人しくしててくださいね。

『副会長さんが貧血でぶっ倒れそうになってたからこうして連れてきました』なんて、別に行きたくも無いし好き好んで顔を合わせたくも無い、真面目でクソつまんねー連中に言い訳するんだから」

 

「ぅ……ご迷惑掛けます」

 

 

 俺の言いたいことが分かったのか、いきなりおんぶされてアタフタしていた椿姫ちゃんは大人しく、消え入りそうな声で謝る。

 まあ、確かに今回のこれって正直俺が被害者と言って訴えても勝てそうだが、俺は別に被害者とは思わない。

 なぜか? そんなもん決まってる。

 

 

「可愛い女の子に迷惑掛けられても、男ってのは迷惑とは全く思わんアホな性質持ちなんすよ。

だから別に謝る必要はねーっすぜ」

 

「っ……はい……」

 

「ん……それで結構。んじゃ行きまっせ椿姫ちゃんよ、一誠タクシーの料金制は『可愛い女の子は一律0円』でございまーす!」

 

 

 俺は結局、何処までカッコつけても現金な馬鹿ってことさ。

 

 

「にしても椿姫ちゃんておっぱい結構大きいよね。

背中に朱乃ねーちゃんくらいの主張が――」

 

「お、降ります!」

 

「あーウソウソ! ちょっと思っただけだから!」

 

「うー……ばか……」

 

 

 

 やらかしてしまった。

 人生で一番というべき大失敗だ。

 よくよく考えてみれば、あの漫画はおかしかったのにそれを鵜呑みにしてしまい、あまつさえ実践してしまった。

 寝惚けてる一誠くんの隙を突き、組伏せて何度も何度も私は――

 

 

「あ、あの……怒ってないんですか?」

 

「何が?」

 

「その、さっき寝ている一誠くんに私がしたことに……」

 

「いや別に? まあ、ビックリはしたけど……いろんな意味で」

 

 

 それなのに一誠くんはあっけらかんとしながらアッサリ私のやった事を許してくれる。

 普通なら疎遠確実な事を了承もしないでやったのに、一誠くんは只ヘラヘラ笑いながら『いいよ』と許してくれる。

 

 

「寧ろ可愛い女の子にあんなヤベェのされたんだぜ? 怒る理由が無さすぎるぜ?」

 

「う、で、でも……」

 

「何だよ、自分でしたことに自信が無いのかい? それじゃあして貰った俺は実に残念なんだけど」

 

「そ、そんなことは……!」

 

「だろ? だったら気にすんなよ。……。まあ、確かに朱乃ねーちゃんにバレたら怖いけど」

 

 

 気にするな。

 ただそれだけを私に笑いながらいってくれる。

 背負って貰ってる為、互いの表情は見えないが……私は不謹慎にもそれが嬉しかった。

 だからなのか、何時もなら絶対に言わないだろう台詞をその背中に身体を預け、首に周りに回していた腕にほんの少しだけ力を込めながら言った。

 

 

「ありがとう……。正直、あんな形だけどやって良かったと思う。

安心院さんと姫島さんに追い付けた気がするし……」

 

「ハッ……ねーちゃんの時も似たような事言ってたな。

うーん、なじみに関しては単にアイツのおふざけだと思うが、こうしてハーレムっぽくなってみると色々と大変だな……」

 

「ん……そうね。でも多分、私は諦めないと思うわ。

例えアナタがどちらかと添い遂げても……絶対に」

 

「お、おぅ……」

 

 

 やっぱりどう考えても私にとってはあの時の思い出が強すぎた。

 それだけに、彼が例え姫島さんか安心院さんのどちらか一人と……となっても多分諦めないと思う。

 

 

「デートより前に……しちゃったね?」

 

「あー……確かに、段階という名の階段を5段抜かししたかもね」

 

 

 ホント……軽い女よね私って。

 でもそれで良いの……少しでも良いから一緒にずっと居れればそれで。

 

 

「……。失礼しまーす、おたくの所の副会長さん急患でーす」

 

「む、兵藤君……に椿姫?」

 

「な、おい! 何で副会長がお前におんぶなんてされてんだよ!」

 

「だから言ったろ、聞こえなかったのか? 副会長さんが具合悪そうにしてたからわざわざ運んでやったんだよ。

だからテメー等は『ありがとうございます風紀委員長様!』と俺を崇めろ馬鹿野郎」

 

 

 でも、ちょっとだけ私の仲間と仲良くして欲しいかも。

 来るや否やニヤニヤと半笑いの煽り口調で悪役じみた事を言う一誠くんに背負われながら、私はポツンと思う。

 

 

「具合が悪い? 椿姫がですか?」

 

「そーっすわ、立つことも出来なそうでしたんで連れてきたんですわ」

 

「そ、そんなこと言ってお前、副会長をおんぶして……背中に感じる…………………くっ!」

 

「あぁん? 副会長さんをおんぶすることによって背中におっぱいの感触がするのを楽しんでるかとでも聞きてぇのか? んなもん勿論yesだが? それがどうした? 文句あんのかい色男? ひっひっひっ!」

 

「テ、テメェ……!」

 

 

 ……。言われた通り具合の悪そうなフリと寝ているフリで顔を伏せてる状態で聞き耳を立ててると、匙くん達と言い合いしてるのが聞こえてしまい、本当は私のせいなのにと罪悪感が沸いてしまう。

 

 

「だ、だったら早く下ろしてやれよ! 副会長が可哀想じゃねーか! いくらオメーみてーなのを副会長が――」

 

「匙! ……。副会長がご迷惑を掛けましたね兵藤君……。

椿姫は此処に寝かせてあげてください」

 

「か、会長ぉ……」

 

「ういーっす」

 

 

 でも一誠くんが『そうした方があと腐れなく終われる。どうせ俺はアンタ以外の生徒会は真面目こいたつまんねー集団としか見てねーし、連中も俺の行動に顔をしかめてるんだろ? だったら『俺らしい』やり口で誤魔化した方が早い』と言ってたので、私はただ従うままに寝ているフリをしている私を簡易的ソファに寝かせる。

 

 

「確かに顔が若干赤いし、それに熱っぽいですね」

 

 

 寝てるフリをしている私を仲間が心配そうに見ていると思うと、やっぱり悪い気がしてしまうし、会長の手が私の……熱じゃない理由で色々と熱くなってる顔に触れてくる。

 

 

「んじゃ俺はこの辺で。後はアンタ等に任せますわ」

 

「はい……わざわざありがとうございます」

 

「……。ちっ、早く帰れ」

 

 

 やっぱり会長達は私が彼に好意を寄せている事に良い思いはしていないのか。

 同性の匙くんは特に一誠くんに敵意があるように見えるし、他の皆も良い顔はしていない。

 

 一誠くんは『俺の行動が原因ですからねぇ。まあ、俺も俺でセクハラの甲斐が無さそうな真面目軍団なんか眼中にありませんが……ケケッ』なんて言ってたしお互い様といえばそれまでだが。

 

 

「はーいはい、今をトキメク生徒会様には逆らいませんっての。

副会長さんにお大事にと伝えといてください、んじゃ『また今度とか。』」

 

 

 こういう会話を聞くと、ちょっぴり複雑だなと私は思う。

 それに――――

 

 

「去りましたか……。

で、どういう事かしら椿姫? 具合なんて悪くないんでしょう?」

 

「う……」

 

 

 仮病なんて使っても……会長達にはお見通しだった。

 一誠くんが去った後、寝ているフリをしてる私に低い声と鋭い視線を向けた会長の声に私は咄嗟に起き上がり、そして皆に謝る。

 

 

「す、すいません……! それが、その……」

 

 

 主や仲間の目は誤魔化せない。

 それを今更ながら再認識させられた私は、呆れた表情になる会長や、複雑そうにしてる他の皆にただ謝る。

 

 

「まったく、一時間も帰ってこないからもしやとは思ってたけど……」

 

「も、申し訳ありません……あれだけ偉そうに言っておきながら私は――」

 

「いいえ良いわ。私にはまだ分からないけど、想い人の方を目の前にした気持ちくらい少しはわかるつもりだし、多少はと大目に見てあげる」

 

 

 少しだけ表情を和らげながら言ってくれた会長に私はホッとする。

 

 

「庇って貰うなんてやるじゃないの椿姫? 姫島さんやら安心院さんとライバルは多いけど、脈が無いわけじゃないわね?」

 

「え……えぇ……ま、まぁ……」

 

 

 そしてそこからは意外な事に、会長も女の子なのか妙に茶化すような口調でからかってくる。

 よく見れば他の皆もだ……いや、匙くんは複雑そうだが。

 

 

「何をしてたのか、主として是非聞きたいわね? 他の皆もそうは思わないかしら?」

 

『聞きたいです!』

 

「い、いや……別に大した事は……」

 

 

 大した処か凄いことをしてました――とは流石に言えないので、二人きりでお話してました……とだけ言って誤魔化そうとする。

 けど……。

 

 

「副会長。ちょっと聞きたいんですけど」

 

「は、はい、何ですか匙くん?」

 

 

 取り敢えず今日の事は後でゆっくり話し合うことにして今は秘密に――という一誠くんとの共有した二人だけの秘密は……。

 

 

「ひょっとして兵藤と何かしました?

その……副会長の口の右横? に痣みたいな……」

 

「っ!?」

 

「む、確かにそうね……」

 

「まるで……物凄い激しいキスでもした痕みたいな……って、まさかねー!」

 

「そうですよ! それはいくらなんでも早すぎますもん!」

 

 

 その何気ない一言が私の心臓をこれでもかと鷲掴みにしてくる。

 

 

「…………ぅ」

 

『え、その反応ってまさか……』

 

「うー……」

 

『………』

 

 

 態度に出すな――そう思っても表情に出て言葉に詰まってしまった時点で遅いこんなに早くバレるなんて……もしかしたら一誠くんも危ないかもしれない。

 私の反応に色々と信じれないものを見るような、唖然とした顔をする仲間達にどう言い訳するべきか……私は脳細胞を焼き切る勢いで考えるも……そんなもの簡単に浮かばない非情な現実を嫌でも思い知ってしまう。

 

 

 

 そして……。

 

 

「ねぇ一誠くん、私怒らないから正直に言ってくれない? その口周りからして誰かと激しくよろしくやってたわよね? …………………だれと?」

 

「さ、さぁ? 今日はねーちゃんの部活が終わるまで風紀室で爆睡してハーレム王になってる夢を見てたからなぁ?

もしかして、持参してた『魔王少女☆レヴィタたん』の特製原寸大抱き枕に寝惚けてチュッチュしてたのかもね。

いやいや、だとしたらお恥ずかし――いいんっ!? 電気ビリビリー!?!?!?」

 

 

 朱乃が気付かない訳がなく、キッチリと付いていた口周りの痣についての尋問をされていた。

 

 

「誰とやったの……? ま、まさか真羅さんとっ!?」

 

「ちゃ、ちゃうわい!

魔王少女☆レヴィタたんと悪役ぶっ倒し、その後のご褒美の魔法でエロチックに誘惑してくるグレモリー先輩とか朱璃さんに優しく筆下ろしされる夢を見てただけだっつー――のほぉぉぉん!?!?」

 

「何で私がその中に入ってないのよ!」

 

「し、知るか! 文句言うなら夢の中の魔王少女に……あひぃぃぃ!?!?」

 

 

 一誠は朱乃と顔を合わせたその瞬間、刹那でバレた。

 一誠の近くに誰かが居たとまず匂いで判別し、更には口周りに若干の痣がある。

 本来なら幻実逃否(リアリティーエスケープ)というスキルでさっさと消してたのだが、鏡を見てなかったせいで間抜けにも一誠の周りに女性が居ると敏感に察知できる朱乃は大激怒だ。

 

 

「この前あんなにカッコつけてたのにもう浮気なんて信じられないわ! このっ、このぉっ!!」

 

 

 この前やっとキスをしたのに、一誠に膝枕して貰って寝て起きた後も安心院なじみに負けたくないからと、口処か嫌がる一誠の筋肉を麻痺させて動けなくなった所を全身くまなく痣だらけにしたのに……と、朱乃はドン引きしながら近くで見ていたリアス達の視線を物ともせず一誠に雷の巫女たる所以の力を存分にぶつけていた。

 

 

「ひぎぃぃっ!?」

 

 

 本当なら逃げるなり避けるなり反撃するなりしようと思えば出来る一誠だが、彼は決して逃げようとはせず、ただただ朱乃のごもっともな怒りを物理的に受け止めている。

 どちらにせよ一誠自身にやましいことは無い……とは言い難い事をしでかしたのは事実なのと、それが誰ととは本人の名誉と自分から提示した秘密にしようという約束の為に口は割れない。

 故に一誠は最早無駄だと分かってても最後まで全力で誤魔化しの言葉をやめない。

 

 

「だ、だから俺は……グレモリー先輩と……朱璃さんがダボダボ裸Yシャツ姿でご奉仕してくれる素敵な夢に寝惚けただけ……げふ」

 

「くっ……ま、まだそんな……」

 

「だ、だって事実だもの……く、くひぇひぇ……! 最高だったぜ? 何てったってグレモリーと朱璃さんのおっぱいを好きにし放題なんだぜ? 男のロマンスだらけの最高の夢――メェェェェン!?」

 

 

 庇う義理なんて無いが、他ならぬ数少ない友人……と一誠は思ってる椿姫との約束だ。

 言っても地獄、黙ってても地獄なら黙ってるほうが被害が自分だけで済む。

 フラフラになりながらもヘラヘラ笑ってわざと朱乃が怒りそうな見てもない夢を捏造しては、ちょっと半べそ――つまり『素』になりかけて朱乃から電撃を受け続ける一誠は……無駄に強情だった。

 

 

「あ、朱乃?

もうそろそろ止めてあげたら? その……いくら『頑丈』な兵藤君でも死んじゃうわよ……?」

 

「くっ……!」

 

 

 そんな二人の一方的な喧嘩を暫く眺めていたリアスは、そろそろ本気で一誠が危ないと泣きそうな顔の朱乃に物凄い遠慮がちに声を掛ける。

 痴話喧嘩の最中、然り気無く魔王少女だレヴィタアンだと言ってた事も地味に気になるし、何より見てて痛々しいことこの上ない。

 主であるリアスの制止声と、地面に転がってプスプスと煙を出してる一誠とを見てぐっと下唇を噛む朱乃は、渋々……そして抑えられない嫉妬の気持ちに嫌になりながら矛を納めて一応騒動の収束となった筈だった。

 

 

「う、うへへーい……。

グレモリー先輩あざっす――と言いたいんですけど、この状態になってる俺の目には先輩のすんばらしいおパンツが見え――おごぉ!?」

 

「こ、この期に及んで……な、何で……どうして私じゃなくリアスなのよ!!」

 

「だ、だってねーちゃんのなんて見たってしょうが――ぬふぇ!?」

 

「………」

 

 

 仰向けにひっくり返った一誠が近付いてたリアスのスカートの中を見て余計なコメントをしたせいで、また話が元に戻ってしまう。

 正直、元気があってよろしいと一誠に対して一定の評価をしていたリアスも庇い立てる気が一気に失せてしまったのは仕方無いとさえあった。

 

 

「兵藤君の夢の中の私って物凄い事してるのね……というか、朱乃が怒るのも無理無いわよこれじゃあ。

何でわざわざ本人の前で言うのかしら? マゾ?」

 

「……。副部長もそうですが、何で凛先輩もこの人が好きなんでしょうか……? 私にはわかりません……スケベだし」

 

「ちょっとスケベな方が兵藤さんは良いのかな……?

だったら僕も――あれ? そういえば兵藤さんは何処に……?」

 

 

 泣きながら一誠にビンタする朱乃を見ながら、彼女の怒りに同意してしまうリアス。

 何であんなチャランポランを朱乃や凛は好きなのかと理解できない小猫。

 

 そして自分もああなれば凛ともう少し仲良くなれるのでは無いのかと、キャラ転換を密かに悩む祐斗。

 

 同時刻、その凛がこの前知り合った金髪シスターであるアーシアという少女と再会し、密かに親睦を深めていた事なぞ一誠は知ろうともせず……ただただ幼馴染みと痴話喧嘩を続けるのであった。

 

 

「う……ぐ……う、うぇ……! い、いっせーくんのうわきものぉ……!」

 

「や、やば、やりすぎた……!」

 

「……。兵藤くん? アナタが朱乃と私以上に親しいのは理解してるけど、それを抜かしても女の子を泣かせるのはよくないわよ?」

 

「う……い、いや……すんません」

 

 

 それが朱乃を泣かせるのには十二分であるのは明白であり、とうとう完全に素に戻って泣き出してしまった朱乃を見て、今になって本気で焦る一誠にリアスが冷たい視線と共に非難する。

 まあ、端から見てれば朱乃という幼馴染みに好意を寄せられてるのに一誠は常に『おっぱいハーレムじゃーい!』と誰彼構わずセクハラ行動をしてるのだ……しかも今回に限ってはどうやら他の女とキス疑惑まで持たれてる。

 これじゃあ只の最低男と言われても何にも言い返せないし、一誠もうっと言葉に詰まらせていた。

 だが、リアスに続いてボソッと声に出した小猫に対しては――

 

 

「最低……」

 

「あ?」

 

「副部長も泣かせるし、凛先輩も悩ませるし……私から見たアナタは最低ですね」

 

「……………。……………………………。チッ、寸胴のクソガキが」

 

「は?」

 

 

 趣味じゃない相手には例え美少女でも割りと辛辣に返す。

 凛という姉を敬遠してるせいで、小猫はどうにも一誠が好かない。

 そして一誠はそれ含めて趣味じゃないので、言われるとイラッとしてつい返してしまう。

 

 

「ねーちゃんについては俺の落ち度だし認めるが、一々今この場に居もしねぇ姉貴を出すなよってか、そんなにあれが好きなら勝手にすりゃ良いだろ? 俺がアレと仲良しこよししないと気でも済まねぇのかお前は?」

 

 

 そしてこの時だけ見せる一誠の表情は何処までも冷徹で無関心と主張する感情を感じない目だった。

 

 

「………………。凛先輩は――」

 

「それがうぜぇってんだよクソガキ……と、ついでにそこの金髪色男。

テメーらがアレをどう思ってようが興味も関心も無いし、俺を巻き込むなよクソボケが」

 

「……っ!」

 

 

 普段はおちゃらけてふざけてるとしか思えない態度の一誠は、凛という姉の話となるとそれが一気にナリを潜め……ただただ冷徹で姉弟の感情すら皆無と主張する無表情となる。

 小猫と祐斗からすれば、何故そこまで凛を拒絶するのか理由を知ろうにも凛自身が濁していて分からないので、悔しそうに唇を噛み締めながら、抑えきれない怒りの目付きで一誠を睨むしかできない。

 

 

「……。はいはい、そこまでにしておきなさい。

祐斗も小猫も凛が大事なのはわかるけど、今は凛の話じゃないでしょう?」

 

「「っ……」」

 

「それに兵藤くんもよ。凛の事は別にして、朱乃をそうやって泣かせた事を小猫に指摘されて逆ギレしないの……わかる?」

 

「ぬ……はーい、グレモリー先輩に言われたら従うっきゃありませんね、すんません」

 

 

 姉弟間の仲違いっぷりは凛を見てて痛々しくすら思うほど分かってるリアスは、双方に注意して話をそこで中断させようと手を叩くと、小猫と祐斗はぐっと堪えるように俯き、一誠は再びヘラヘラ笑って平謝りをする。

 

 

「くすん……いっせーくんのうわきもの……すけべ、女好き……」

 

「……。ほら、責任持って朱乃を送りなさい。この二人には私から言っておくから」

 

「へい……わかりやした」

 

 

 凛と一誠……。リアス達にその理由は分からないが、凛を毛嫌い処か肉親感情すら持ってないような態度を示し、凛はそんな一誠とどうしても仲良くなりたいと健気に……そして見てて辛くなる程に色々と頑張ってる。

 

 一体何故こうまで二人は噛み合ってないのか……今はこの場に居ない凛を想いながら、朱乃を背負って帰っていく一誠の背中を眺めつつ小さくため息を吐くリアスなのであった。




補足

結局バレましたの巻。
一誠はそれでも誤魔化そうと必死こいてますが、もはやそれも意味がない領域ですね。

その2

凛さんは原作一誠みたいに補正が掛かってアーシアさんと親睦がどんどん深まってます。

ゆえにあの場に居ませんでした。


その3

魔王少女☆レヴィタたん原寸大抱き枕。

限定1点限りの超非売品……とは一誠は知らず、『ファンレターも沢山くれるし、人間で此処まで肯定してくれるのはキミだけだから特別にあげる☆』というファンレター返しと共に送られた抱き枕なのだが、一誠曰く


『割りと恥ずかしいけど、使ってみると物凄いしっくり来るんだよねこれ……』


と、愛用しちゃっており、安心院さんはそれを見てケタケタ笑ってます。


その4

一誠は過去の出来事はもうどうでも良いと思ってます。
ですが、周りに自然と味方を増やし、そしてその味方から凛さんについて非難されると割りとイラッとしてしまいます。

それが今一番なのが、小猫さんと祐斗きゅんであり二人を見てると『何もかも見限って出ていく前の両親や、それまで友達と思ってた、当時男の子みたいな格好してた元幼馴染み』を思い出して余計イライラする。

だから二人には辛辣な対応をしてしまう……って訳ですね。


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特別話:朱乃ねーちゃんのとある日記

クリスマスだからと無理矢理ネタをぶちこむ。

あぁ、短いっす。本編となんら関係ないっす。最新話更新と共に消す予定。


 優しい世界……。

 読んで字のごとく、何の柵も無い……皆にとって優しい時間軸。

 あの子にとっても、その子にとっても、あっちの子にとっても優しい優しい世界へ……。

 

 

 

 

「ケッ、ぬわぁにがクリスマスだ! こちとら日本人じゃクソボケ!!」

 

 

 12月25日。

 その前日の24日もそうだが、俺にとってはクソとしか思えない日だ。

 何故かって? そんなもん決まってる……クリスマスなんぞメディアに踊らされたバカ共がこぞって要らんイベントをやったり、その日に限って男女が集まってイチャコラしたり……。

 とにかく俺にとっては悪夢の日でしかねーのだ。

 

 

「死ね! そして死ね! 一々集まってイチャコラしやがって! お前ら皆不幸になっちまえバッキャローが!!」

 

「寒いから窓閉めてよ」

 

「…………はい」

 

 

 俺には聖夜の夜とやらを過ごす女の子なんていやしねぇ……欲しいと頑張ってるけどずっとゲットできねぇ。

 だからこそ、世の中の不平等さに対する不満をぶちまけるが如く、俺はクソ寒いのに部屋の窓を開け、そこから全世界のバカップル共に向かって恨みの言葉を叫んだ…………幼馴染みのおねーちゃんの部屋の窓からな。

 

 

「ちくしょう、クリスマスなんぞ滅んでしまえ」

 

「中学の最初の方からよく言うようになったよね、そのフレーズ」

 

「あぁ、クリスマスに託つけて男女が集まって愛を深めるという名の性の乱れを知った今、節だらな行為を助長するイベントなんぞ全部滅べば良いと僕は思います。」

 

 

 することも無い、誘ってイチャコラする女の子も居ない……とにかく無い無い無い無い尽くしの俺にとってのクリスマスは、滅ぶべき一年間のイベントランキング堂々第一位だと真面目に思っている。

 

 しかし、メディアとキリストに毒された日本の武士共はすっかり骨抜きにされ、街を出て右見ても左見ても男女の組み合わせだらけ。

 ナヨナヨした態度でイチャコラしてるのを見てると唾を吐き掛けたくなる俺としては見るに耐えない地獄絵図……。

 だからこそ、家が神社で転生悪魔という、キリストと関わらない唯一の知り合いである朱乃ねーちゃんの所に飯をタカりに来た次第なのだ。

 

 

「ほら、蜜柑が剥けたよ一誠くん」

 

「む……サンキューねーちゃん」

 

 

 和室、炬燵、蜜柑……日本丸出しなスタイルを聖夜なんぞという馬鹿げた雰囲気が全国を覆ってる日でも崩さない姫島家こそ俺の最後の砦であり、炬燵に入ってるねーちゃんは実に日本人らしくて素晴らしいと思う。

 見ろ、飲んでるものだってシャンパンじゃなくて緑茶だぜ!

 

 

「手が億劫だから食わせてくれよねーちゃん、あー」

 

「言うと思った。しょうがない子ねぇ……はい」

 

 

 聖夜の夜に性夜に勤しむ日本の慎ましさを忘れたバカ共に向かっての呪詛の叫びでちょっと寒くなった俺は、ねーちゃんと一緒に炬燵に入り、手を中に入れた状態で蜜柑を食わせろと口を開けて待機する。

 

 こんな寒い日に外に出て彼氏やら彼女に会いに行く奴等の気が知れんよね。

 こういう時は炬燵で丸くなる……それが日本人よ! 違うか!?

 

 

「もにゅもにゅ……ん、当たりだ……甘いぜ」

 

「ん、ホントだ」

 

 

 ねーちゃんに食べさせられた蜜柑の身が思いの外甘く、炬燵の暖かさと合間って頬がちょっと緩む。

 これぞ日本人……これぞ日本の心。

 クリスマス? それは滅んでしまえバカ野郎だ。

 

 

 

 

 

 

 

 家柄とこの身の状況により、クリスマスというイベントに関しては私には縁の無い話だ。

 けれど、まあ……クリスマス云々抜かして、そんな日に大好きな男の子が来てくれるのは嬉しくない訳がない――どんな理由にせよね。

 お母さんはそんな私に気を使って近所の人と日帰り旅行に行ったので、今この家に居るのは私と一誠くんの二人きり……。

 

 

「チッ、TVもクリスマス一色でつまらん」

 

「ねぇ一誠くん。私思うんだけど、一誠くんがそうやってクリスマスに恨み言を言うのは何度も聞いてるけどさ、それって矛盾してない?」

 

「は? どこが?」

 

 

 二人きりというシチュエーションは何百何千と経験があるので今更緊張はしないし、多分この鈍感一誠くんは全然自覚もしてないと、この反応を見ればわかる。

 

 

「女の子と二人きりじゃないの? 今のこの状況的に」

 

「は? ……………。ふっ、はっはっはっ、そーだねー? 朱乃ねーちゃんと二人っきりだーわーい(棒)」

 

 

 一誠くんは全然私を異性として意識していない……私の指摘を鼻で笑う辺りがムカツク……。

 

 

「なっはっはっはー(棒)」

 

「む……」

 

 

 私を見て半笑いな一誠くんにムカムカして仕方無い。

 こっちは一誠くんが女性に興味を持ち始めた頃から、その好みに当てはまる女になる為に今も頑張っているのに、当の本人の一誠くんはこの態度だ。キスまでちゃんとしたのにも拘わらずだ。

 これじゃあ私としても悲しくなってしまう……。

 

 

「なーんてな」

 

「……え?」

 

 

 そんな事を考えつつ、この小生意気な態度に軽くお仕置きしてあげようかと思った時だった。

 それまでニタニタと他人の琴線に障る態度だった表情だった一誠くんが、別な意味での意地悪そうな……でもちょっとドキッとする薄い笑みを見せるや否や――

 

 

「よっと」

 

「きゃ……!?」

 

 

 私の手首と肩を掴み、ちょっと乱暴だけど衝撃は然程感じない力加減で私を押し倒した……はぇ?

 

 

「え……ぁ……い、いっせー……くん?」

 

「…………」

 

 

 吸い込まれそうになる真っ直ぐな瞳、さっきまでふざけて居たのが嘘のような表情と体勢に私は頭の中が真っ白になってしまう。

 

 

「な、なにするの?」

 

「何って……うーん……さぁ?」

 

 

 ドキドキする胸。徐々に熱くなるカラダ……。

 何時もの子供っぽい笑顔じゃない、妖しさを感じる笑みを押し倒された状態の間近で見せられ、ますます頭の中がゴチャゴチャしてしまう私は抵抗しなかった。

 いや、抵抗をする気が無かった……。

 

 

「ここ朱乃ねーちゃんにもんだーい。

命すら掛けられる程大切な幼馴染みに好きだ好きだと言われ続けても逃げ続けてきたクソバカ野郎が、今こうしてまーす! さぁ、その意味は?」

 

「わ、わかんな――んんっ!?」

 

 

 一誠くんがヘラヘラと逃げるからという理由で私からこうする事は数多かったけど、一誠くんからこうされたのは初めてだった……だから一誠くんの逃げ口上みたいにわざと惚けたけど、最後まで言わせてくれなかった。

 …………。私からじゃない……一誠くんからのキスのせいで。

 

 

「ん……は……ぁ……い、いっせーくん……」

 

「……。正解はこの為……嫌だった?」

 

 

 唇が重なります、互いに額がくっつく距離で一端離した一誠くんがちょっと悪びれた顔で私に問う。

 その質問に対して私は、答えの代わりにもう一度――今度は私からのキスで応える。

 

 

「嫌な訳ないじゃない……。

嬉しいわ……一誠くん……」

 

 

 幸福。

 その言葉が私の全身を包んでいた。

 私を縛り付けたのは自分のせいだと、ずっとヘラヘラと逃げていた一誠くんがやっと向き合ってくれた。

 それだけで充分幸せで、それ以上の事なんて望まなかった。

 けど、やっと逃げずに向き合ってくれた一誠くんは、私の上に覆い被さったままキスをした後、ちょっと乱暴だけど私の上着のボタンに手を掛けながら首筋に舌を這わせてきた。

 

 

「……。ムシが良いのはわかってるんだけど……あはは……ちょっと我慢が……」

 

 

 つまりそれは、一誠くんが『私を求めてる』という事実に他ならない訳で……。

 私自身もずっと夢見てきた事が今こうして現実になっている訳で……。

 再び罰が悪そうに笑う一誠くんが求めてくれている事実に、更なる幸福を噛み締めた私は黙って身体の力を抜き、繋いでいた方の手の指を絡ませながら一誠くんに言った。

 

 

「良いよ一誠くん……。

私のカラダ……好きにしても」

 

 

 ずっと夢見てきた事なんだ……断る理由なんてない。

 寧ろやっと一誠くんが逃げずに私を見てくれたんだ……断るわけが無い。

 

 

「……。遅くなったけど言うよ……こんな俺にずっと優しくしてくれた朱乃ねーちゃんが好きだ」

 

「私もよ……一誠……」

 

 

 私を救ってくれた男の子。

 私だけの男の子……。

 他の誰にも渡さない……実の姉だろうと誰だろうと渡さない……。

 好きだと言ってくれた大好きな男の子に自分も変わらずに大好きだと返した私は静かに目を閉じ、薄暗くなった部屋で再びその影を一つにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやねーちゃん……。

それはねーよ、いくらねーちゃんの妄想日記でもそれは無いわ」

 

「っ! な、何でよ……。私、一誠くんがそうしたいなら何時でも――」

 

「何でよって……。餓鬼の内からそんな真似したらバラキエルのおっさんにぶっ殺されるだろ……間違いなく俺が」

 

「あんな人知らないし関係ないもん……」

 

 

 ……。あれだよな、いくら机の上に置いてあったからって、人の日記帳は見るもんじゃないよね。

 今日ほどそう思った日はなかったよ……マジで。

 

 

「どうせだったら、そこから朱璃さんが登場して瞬時に朱乃ねーちゃんを気絶させ、寝てるねーちゃんの横で朱璃さんによる持て余してた人妻筆下ろしがスタートするってんなら喜んで――――あ、嘘……冗談だからビリビリはヤメテ」

 

「お母さんと似てるって言われるもん……」

 

「いや似てるけど、朱璃さんは人妻特有のムラムラさせる色気が……ぐへへへへへ――びべ!?」

 

「お母さんばっかり贔屓するなんてひどい!」

 

「ひ、贔屓じゃなくて事実――だもももももも!?!?」

 

 以上……幼馴染み朱乃ちゃんの願望日記の一部。




補足

本当は特別編というのでもっと先を書くつもりでしたが、そのままR-18になるんで妄想日記で片付けました(笑)


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ストレス

去年ぶり……もはや需要は無いだろうが……うん。


 癪に触る相手ってのはどうしても存在する。

 嫌な奴だと思われるかも知れないが、俺はそんな奴の近くに好き好んで居ようと思わないし、ソイツを肯定する奴とも友達になりたいとは思わない。

 

 なので姉とやらが、この前偶然出会ったシスターと仲良くやってて、変な事件に巻き込まれたとしても知らんし興味も無い。

 

 その事件の背後に堕天使の存在があったとしても、バラキエルのおっさんとは十中八九無関係なんだから余計にね。

 

 

「よくもまぁ、風紀委員の管轄内で余計な真似をしてくれたね」

 

 

 だというのに、俺は今……その無関係な筈の事件のど真ん中に突撃していた。

 

 

「い、一誠……」

 

「な、何故キミが……来ないって言ってたじゃないか」

 

「………。今更……」

 

 

 同じ様な格好をしたキモいカルト集団。

 それを統率する黒い翼を持つ堕天使数匹。

 そして祭り上げられているの様に教会ホールな祭壇に横たわる例のシスターさん。

 そして、ソイツ等と主の許可無く相対してる例の鬱陶しい自称姉とその取り巻き共。

 

 な、単なる人間の俺には無関係極まりないだろ? だと云うのに俺は此処に居る。

 何故かって? ふん、仕方ねーだろ? だって俺は……

 

 

「風紀委員長の権限により、アンタ等を今から殺戮する。だから黙ってさっさと迅速に殺戮されてくれや」

 

 

 衰退した風紀委員を先代から受け継いだ……現風紀委員長なんだからよ!

 

 

「カラワーナ、ミッテルト、ドーナシーク! あの人間を拘束しなさい!」

 

 

 そんな俺の啖呵に対し、只のバカな人間だとまだ思ってるご様子の堕天使集団の……恐らくリーダー格のスゲー格好の女が、部下っぽい三匹に俺を拘束しろと若干焦りながら指示を飛ばす。

 多分だが、乗り込んできたあの三人が思ってた以上に強く、そこにやって来た俺を人質に使って形勢逆転でも狙おうって魂胆なんだろうが……甘い。

 

 

「俺、そこそこ修羅場潜ってるつもりなんだなこれが」

 

「「「ぐばっ!?」」」

 

「なっ……!?」

 

 

 飛びかかってきた三匹に対し、偶々拾った丁度良いサイズの木の棒を腰辺で持ちながら地を蹴り、見えてない様子の三匹の間を通り過ぎ様にそのがら空きだった胴に叩き込む。

 

 抜刀の真似事……とでも云うべきか、三匹の下級堕天使は血を吐きながらその場に崩れ落ちるのを見たリーダー格の堕天使は大層驚いた顔だった。

 

 

「ば、バカな! た、単なる人間風情が三人を……」

 

「ふん、典型的な見下しタイプか。

残念がら……下級堕天使ごときじゃアチラの三名は当然として、俺は殺れないな」

 

「がっ!?」

 

 

 勝手に驚いて隙だらけのリーダー格に肉薄し、そのまま顔面を躊躇せずにその顎をかち上げるアッパーをぶちかましてやる。

 見切れないのか、まるで格闘ゲームの練習モードの棒立ちしてるキャラみたいに簡単に当たり、リーダー格は派手に真上へと吹っ飛び、天井に頭が突き刺さって首から下がブラブラという間抜けな絵を見せてくれた。

 

 

「……。意識飛ばしたか。笑える動画に投稿したくなる画だぜ」

 

 

 その間約二十秒。

 そこで血をぶちまけながら気絶してる三匹といい、天井に頭突っ込んだまま気絶してるリーダー格といい、まさか人間にここまでしてやられるとは思いもしなかっただろうが……昔朱璃さんと朱乃ねーちゃんを襲ってきたクソ共と比べたら、俺にしてみれば全然弱い。

 あのスーツ着たおっさん以外は皆女だが……基本的に俺はバラキエルのおっさん以外の堕天使はどうでも良いし、今回の事は完全に奴等が悪いんだ。

 遠慮も躊躇もしないでぶちのめすってもんさ。

 

 

「い、一誠……その……」

 

 

 さてと……後は騒ぎを聞き付けたグレモリー先輩と朱乃ねーちゃんが来て始末をする筈だし、俺は風紀委員として街の風紀を守れた事で満足して帰ろうと踵を返したその時だった。

 

 確かはぐれエクソシスト……だったか? このカルト集団みたいな格好をしてる連中をぶちのめし終えていた自称姉が帰ろうとする俺に話し掛けてきた。

 

 

「………。なに?」

 

 

 ぶっちゃけ無視でも良かったが、その横に引っ付いてる二名が返事しないと文句を言いそうなツラしてたので、仕方なく返事だけはしておく。

 ちなにみ……あのシスターは何をされたのか知らないが、昏睡状態ではあるものの息はしてたので放置する。

 

 

「その、あ、ありがとう……来てくれて」

 

「「………」」

 

 

 で、何を言いたくてわざわざ忙しい俺を呼び止めたのかと思ったら、言われても全く嬉しくもない一言をオドオドしながら言っており、その横の取り巻きは無言で『変な事を言ったら怒る』ってツラだった。

 

 ……………。

 

 

「風紀委員の仕事で来たつもりなんでね、アンタに礼を言って貰える必要はありませんな」

 

「ぁ……う、うん」

 

「「……」」

 

 

 当たり障りの無い対応で取り敢えず返したつもりなんだが、この自称姉はそれがお気に召さないのか、引きちぎりたくなるアホ毛をしゅんと垂れさせながらテンションを下げ、案の定それを見た取り巻きの金髪野郎と白髪のガキが責める様な目を向けてきたが、全部無視してやったよ。

 

 相手にするだけ無駄だからな。

 

 

 

 一誠が助けに来てくれた……私はそう思いたいから、あっという間に堕天使達を無力化して帰ろうとした一誠にお礼を言ったんだけど……やっぱり上手く行かないよね。

 

 

「……。やっぱり嫌いですあの人」

 

「そ、そんな事言わないで小猫ちゃん。私の事は良いんだから……」

 

「……。何でそこまで……やっぱり弟だから?」

 

「うん、弟と思える資格は私に無いけど……」

 

 

 本当ならもっと仲良くなる筈の小猫ちゃんと木場君は一誠を嫌ってしまっている。

 私が存在しなければこんな事にはならないのに……二人は知らないで。

 

 

「う……うー……ん……こ、ここは?」

 

「っ!? あ、アーシアちゃん!」

 

「ふぇ……り、リンさん?」

 

 

 そしてアーシアちゃんとの関係も……殆ど関わる事無く終わってしまった。

 

 

「た、助けてくれてありがとうございますリンさん。

あ、あの……それでそちらのお二人は? も、もしかしてそちらも悪魔さん……?」

 

 

 これからどうすれば良いのか……。

 私には解らなかった。

 

 

 

 

 例の下級堕天使の件から数日。

 朱乃ねーちゃんの話に依れば、あのシスターさんはすっかり自称姉に懐いた様で、何と悪魔に転生したらしい。

 何でも身寄りが無く、このまま帰っても何をされるか分かったものじゃないからとか何とからしいが、俺には興味の無い話だ。

 

 自称姉と仲良くしたければすれば良いんだ……俺は無関係の所でな。

 だというのによ……。

 

 

「あ、あの……どうしてリンさんを避けるんですか? 姉弟なのに……」

 

「………………………」

 

 

 どいつもこいつも……うざってぇな。

 

 

「血の繋がった家族なのに……」

 

「………………」

 

 

 グレモリー先輩の計らいか何か知らねーが、自称姉と同じクラスに転校してきて数日経ったある日、急にシスターさんに呼び出されたと思ったら、案の定同じ様な事を言われた俺は、どうでも良いくらいに目の前の金髪女に興味が失せてしまった。

 

 

「それにお一人で暮らすのだって、それじゃあ寂し――」

 

「そんなつまんない理由でわざわざ呼び出したのかキミは?」

 

「え?」

 

 

 くだらねぇ、あーくっだらねぇ。

 どいつもこいつも自称姉が可哀想だなんだと鬱陶しい。

 いい加減キレたくもなってくるぜこれじゃあよ。

 

 

「つ、つまらないって……」

 

「そのままの意味だよ。

アレと仲良くすることが正しいと思ってるのかどうか知らないし、ハッキリ言うけど、一々うぜーんだよクソボケ」

 

「う……!?」

 

 

 やれ仲良くしろ。

 やれ避けてるお前が悪い。

 姉が可哀想だ……。

 もう聞き飽きてんだよ此方は。

 

 

「アレと仲良くなりたいならどうぞキミ達だけでやってろ。俺の関係ないところで一生な」

 

「そ、そんな……」

 

 

 あまりにも頭に血が昇っちまったせいで、あの金髪女がどんなツラをしてたかなんて覚えちゃいないが、少なくとも今後関わりたいとは思わない人種として俺の中で区分けしてやる。

 それでもしつこい様なら、俺の名前を聞いただけでその場でゲロぶちまける程の恐怖を植え付けてやる……。

 

 そう思いながら、俺はさっさと金髪女に背を向け、何処でも良いから去った。

 カッとなった思考を冷ますには、視界に入れるだけで逆効果だからな……クソが。

 つーかなじみの奴が野暮用とやらで学校に来てなくて良かったぜ……ホント。

 

 

「あー……ムカムカする」

 

「ムカムカしたら私を呼び出すんですか?」

 

 

 いっそ校舎の壁でも粉砕してやりたくなるストレスに苛まれた俺がやって来たのは、自分のベストスポットである風紀委員室。

 先々代の委員長が学園長を脅して確保した風紀委員室は、元々応接室だったのを改造したものなので、高いソファーやらクーラーは当然の如く完備されており、ただ一人残った風紀委員である俺の引きこもりスポットして実に重宝している。

 

 しかし、今日は引きこもるだけでは全くムカムカが収まら無かったので、知り合い相手に愚痴でもぶちまけようと朱乃ねーちゃん――――は、部活で忙しそうなので呼ぶのを止め、代わりにといったら失礼だけど、最近結構仲良くなった生徒会副会長の椿姫ちゃんを適当な理由をでっち上げて、生徒会から拐い、こうして風紀委員室に招いてみた。

 

 結果、これがまた結構なストレス緩和になり、ムカムカはまだ収まらないものの禿げそうなストレスが自分の中で消えていったのだ。

 

 

「姫島さんにバレたら怒られるわよ?」

 

「いやー……まあ、覚悟はしてるさ。

それにそのリスクと天秤に掛けてもこうする事に傾いちゃってね」

 

「何があったのよ……?」

 

「…………。ま、簡単に言えば鬱陶しい蝿に苛まれてた……といいますか」

 

「はい?」

 

 

 ひょんな事で出会い、何の縁か最近になって再会した椿姫ちゃんなんだが流石朱乃ねーちゃんと同い年ってのもあるのか、かなり気安く話せて心が癒える。

 勿論、タダで愚痴を聞いて貰うのは悪いので、お茶だの何だのを出しておもてなしも忘れないぜ。

 

 

「ふぅ、だいぶムカムカも取れてきたぜ。

やっぱ信用できる相手と話すだけでも違うもんだな」

 

「それは何よりだけど……。

ただの愚痴に付き合わせたなんて言ったら会長に怒られるわよ?」

 

 

 例の寝起きちゅー事件からは敬語口調が殆ど取れてる椿姫ちゃんにあのつまんない生徒会長に怒られると忠告される。

 

 確かに単なる愚痴に付き合わせるだけで、仕事してた椿姫ちゃんを拐って行ったのはマズかったかもしれないが……まあ、連中に怒られても俺は何も気にしないので問題はない――と言ったら呆れられてしまった。

 

 

「会長相手にアナタらしいというか……。

でも何と無く分かるわ。

血の繋がりがあるからって無条件に仲が良いという訳じゃないもの」

 

 

 そう言ってお茶をゆっくり飲む椿姫ちゃんの目は何処か遠くを見ている様だった。

 

 

「部外者と云えど、アルジェントさんの言い分は間違いでは無いのかもしれない。

けれど、それでも無理な相手と血の繋がりを理由に仲良くしろ……というのは私個人頷けないわね」

 

「………。大人だなぁ椿姫ちゃんは」

 

「あなたよりお姉さん! ですからね……ふふん」

 

 

 この子も聞けば自分の持ってしまった常人とは異なる力のせいで身内から疎んじられた。

 けど俺とは違って椿姫ちゃんはある程度その思い出に区切りを付けている。

 

 ちょっとドヤ顔で年上アピールしてる辺り、アレだけど……俺はそれでも椿姫ちゃんの在り方は凄いと素直に思えてなら無い。

 

 

「お姉さんらしく、膝枕してあげても良いわよ一誠くん?」

 

「朱乃ねーちゃんにバレたらレベルの違うヤバさがあるから……くぅ! 気になるけど遠慮するぜ!」

 

 

 だからこそ俺は椿姫ちゃんを信用している。

 決して寝起きの所をキスされてドギマギしてる訳じゃない。




補足

そういえば椿姫ちゃんがヒロインという珍しきパターンなんですよね。
しかも寝起きとはいえちゅーしてるという……。


元士郎君のヒロインがカテレアさん並みのレアだぜ……多分。


その2
アーシアさんはやはりヒロインにもなりませんでした……ていうか、フラグも立つ前に折れて修復不能。


その3

鳥猫さんの皆の関係を考えると、風紀委員長は真逆の関係を結んでますね。


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ドキドキ朱乃ねーちゃん

朱乃ねーちゃん回。

……ちょっと危険。


 結果だけ言えば、例の金髪元シスターは二度と俺に話し掛ける事が無くなった。

 まあ、あれだけ俺に言われたんだ……寧ろそれでもとほざくなら多分停学覚悟で暴れちまってたかもしれない。

 

 

「1205! 1206! 1207!」

 

 

 世の中には修復不可能なものがある。

 いや、元々修復もクソも無いものを修復する事なんて出来ない。

 俺にとってはそれがあの身元不明の女であり、これから先永遠に向き合う事も無い。

 

 俺にとって大切なのは、血の繋がりってだけの両親でも……ましてやその両親共が大層可愛がってる自称姉でもない。

 俺にとって大切なのは、俺を俺と信じてくれる友達とかつて交わしたそれぞれの約束の為にこの身を例え化け物だと蔑まされようとも進化させる事。

 

 

「2014 2015 2016……っと」

 

 

 その目標こそが、何も無い俺に残された俺という個を示す手段。

 だから俺はもっと強くなる。

 誰よりも強くなり、誰よりも先に昇り……そして守る。

 

 二度と目の前で失わない為に。

 

 

 

 

 姫島朱乃にとって重要なのは、人と堕天使の混ざり合った血を持つ自分に対して守ると、小さい頃手を差し伸べてくれた少年との時間だ。

 

 その少年が殆ど疎遠となった仲間の姉と、ここ最近ますます溝が大きくなっていくのは知ってるものの、正直言ってしまえば朱乃にとってそんなものはどうだって良かった――と言いたいが、兵士である彼女を慕う騎士や戦車と最近加入した僧侶が理由も知らずに少年――一誠を嫌っているのは少しばかり思うところがある。

 

 だが一誠本人は既に自分の血の繋がりの存在を見限っているし、姉に関しては極端な話顔すら見たい無いとすら思っている。

 父親と確執がある朱乃としても、一誠の言い分は分からなくも無いし、何よりそれによって出会う事が出来たのだ。

 

 一誠曰く自称姉である凜には悪いが、朱乃は今の状況が一番自分にとって心地よかった。

 

 

「結局、アーシアちゃんも一誠くんが苦手になっちゃったみたいよ?」

 

「寧ろ死ぬまで苦手になっててくれ、そっちの方がツラを見なくちゃいけない回数が減る」

 

 

 木場祐斗、塔城小猫、アーシア・アルジェント。

 既に自分の仲間であるこの三人が、日課の朝練を終えてシャワーを浴びて戻ってきた一誠を……正直な所嫌っているという構図に朱乃が一応報告してみるが、本人は驚くほどに冷めた顔でアッサリと吐き捨てた。

 

 

「部長は『凜も凜で自分が悪いからとしか言わずに具体的に何が悪いのかも言わずにいるせいで、端から見れば彼だけが悪いように見えてしまってるから、私は彼だけを悪者には思わないわ』……と言ってたけど」

 

「あ、そ……あの人もやっぱ大人だな」

 

 

 姫島神社内にある姫島家の縁側に並んで腰を落としながら、朱乃が綺麗に剥いた林檎を小さい頃から変わらずに仲良く食べながら、話は続いていく。

 

 

「嫌いたければどうぞ嫌ってくれて結構だね。

どうでも良い奴にどう思われようが、俺には関係がない」

 

「……」

 

 

 凜の話になると、普段のヘラヘラとした態度が一気に消え失せ、どこまでも冷たい表情と淡々とした声で自ら切り捨てるような台詞を吐く一誠の姿は、朱乃からしてみれば昔からだったので見慣れては居る。

 相容れない……永遠に解り合えない――いや解り合おうとすら思わない。

 

 昔から見せる一誠の意思は現在でもまるで揺れる事無く、まるで鋼の様な意思の固さだ。

 まるで自分が父親であるバラキエルをきらっている――いやそれ以上なる完全な見限り。

 

 

「チッ、あー……思い出したらまたムカムカしてきた。街で悪さしてるはぐれ悪魔でもいねーかな」

 

 

 いや、最早隠しきれない憎悪すら感じ取れる。

 チャランポランな一誠が唯一見せる黒い面は、何年経とうが霧散する様子がない……朱乃にはそう思えて仕方なかった。

 

 だから朱乃はそれ以上深く踏み込まない。

 踏み込まないことが正しいのか間違っているのかは自分でも解らないけど、朱乃にとって全てなのは最近浮気に走る様に一誠に釘を刺し、これからもずっと一緒に生きる事なのだから。

 

 

「ところで話は変わるけど、最近真羅さんと随分仲が良いみたいだけど?」

 

「え……あ、いや……」

「キスまでしたのは本当にショックだったなー……?」

 

「う……」

 

 

 

 

 凜ちゃんとの絶望的な不仲に多少思うところは私にもあるけど、それよりも私にしてみれば一誠くんの浮気癖の悪さが問題だわ。

 

 今だって、真羅さんの事を切り出した途端露骨に声を詰まらせたし……。

 

 

「あれはその………ぐっ、言い訳が出来ない」

 

 

 そう、キスまでした。

 安心院さんに続き、どうも修行時代の幼い頃に偶然出会った真羅さんともしてしまった。

 目を泳がせながら然り気無く私から距離を置こうと横にズレる一誠くんだが、当然私は逃がさない。

 

 

「逃がさないよ?」

 

「に、逃げるつもりなんて……」

 

「嘘、今私から距離を置こうとした」

 

「うぐ……」

 

 

 怒っていると聞かれたら怒っている。

 けど、何時までも済んでしまった事をネチネチ言うのも本当は嫌だし、真羅さんがそういうつもりならそれで構わない。

 

 

「ん……」

 

「な、なに?」

 

 

 それなら私はずっと一緒だったという強みを使うまでだ。

 それでも安心院さんという弊害はあるけど、少なくとも真羅さんなら真似出来ない距離感はあると自負してる。

 

 

「そこで横になって」

 

「え、何――」

 

「良いから!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 逃げようとする一誠くんに直ぐ様横になれと若干強引に言うと、後ろめたい気持ちもあってか一誠くんはちょっとビクビクしながら私の言う通りにその場で横になる。

 

 

「えと……なったけど」

 

「………」

 

 

 その際、仰向けに寝る一誠くんが、叱られた子犬みたいな表情をするものだから、ついそのままいじめてしまいたくなる気持ちになるけど我慢する。

 理由もなく電撃を浴びせる様な事は一度たりとも私は無いのよ? 浴びせるのは大体一誠くんが他の女の子にデレデレして浮気するからで…………っと、今はその話じゃないわね……。

 

 

「あ、朱乃ねーちゃん? 頼むからビリビリは……」

 

「別にしないわよ……」

 

 

 むむ、一誠くんまでそんな事を言うなんて。

 そう言われると逆に浴びせたくなるじゃない――いや、しないけど。

 さて……取り敢えずハーフパンツにTシャツ一枚という薄着状態の一誠くんをこうして横にさせた理由はただ一つ。

 

 

「よいしょっと」

 

「お、おい!?」

 

 

 その上に私が乗って抱き着く為。

 直立のまま横になっていた一誠くんの上に覆い被さる様にして横になった私にびっくりした顔をする一誠くん。

 ……本当に電撃を浴びせられると思ってたのかしら。

 

 

「なーに?」

 

「いや何じゃないだろ。な、何のつもりで……」

 

 

 でもこうすれば何もしないと解ってくれたと思うし、私は気にせずに一誠くんに密着しながら、毎日毎日鍛えて逞しくなってるTシャツ越しの胸板に頬擦りし、脚を絡ませながら一誠くんに私がして貰いたい事を告白する。

 

 

「一誠くんとの赤ちゃんが欲しい」

 

「ゴホッ!? は、はいぃっ!?」

 

 

 お仕置きするよりも、私は一誠くんと仲良くし続けたい。

 更に言えば……お嫁さんになりたい。

 その為に今日は家の中なのに服装にも気合いを入れたんだ。

 

 

「だから、一誠くんと赤ちゃん作りたい」

 

「そ、そこじゃないわい! な、何でそんな唐突に……!」

 

「一誠くんがこのままだとあの二人のどちらかに傾いちゃうから」

 

 

 お母さんも出掛けてるし、誰も来ない様にも配慮した。

 今この空間に居るのは、私と一誠くんだけ……。

 

 

「傾いちゃうからって……」

 

「ずっと昔から一誠くんが大好き。

でも、そんな私と悔しいけど同じ気持ちの子は確かに居る。

私は……そんな子の所に一誠くんが行ってしまうと思うと頭がおかしくなる。

だから……一誠くんとずっと一緒という証がどうしても欲しいの」

 

「俺は何処に行かねーよ!」

 

 

 本気で暴れたら私は力では敵わないので、すぐにでも引き剥がされてしまうだろう。

 でもそんな事をすれば私を怪我させてしまうと一誠くんは恐れてるので、思うように引き剥がすことが出来ずに焦った顔で私に離れてくれと懇願する。

 

 それは多分私が嫌いだから……という意味じゃないのだろう。

 しかしそれでも私は離れろと言われると寂しくなってしまい、一誠くん為になった好みの胸を……身体を密着させながら、私自身変な気持ちになっているのが自覚できる媚びた声を聞かせる。

 

 

「ん……あは♪ 身体が熱くなってきちゃった……」

 

「っ!?」

 

「それに……うふふ、一誠くんの身体は正直よ?」

 

「いっ!? イヤチガウコレハ……!」

 

 

 考えてみたら、ここまでするのって何時振りだったっけ? いや……考えても意味なんて無いか。

 身体をぴったりと密着させる事で感じる一誠くんの熱は言葉とは裏腹に私をちゃんと女として認識してくれている。

 その事実をお腹の辺りに感じられるからこそ、私はオロオロと迷子になった子供みたいに目を泳がせる一誠くんをより愛しく想う。

 

 

「ん……ん……」

 

 

 私だけの筈の一誠くんの唇から他の(ヒト)の幻影が見える。

 だから私はその幻影を消そうと、私だけに塗り替える為に熱っぽい顔になる一誠くんと何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も! 飽きる事無く重ねる。

 

 

「だ、だめだって、ねーちゃん……くっ、リ、幻実逃――」

 

「だめ……!」

 

「うぐっ!?」

 

 

 逃げるスキルを使おうと伸ばしたその手を掴み、自分の指を絡ませながら繋いで床に縫い付け再びその言葉を紡がせない為に、逃げることを考えさせない為に、一誠くんと毎日だってしたいキスを何度も離しては重ねてと繰り返す。

 

 

「は……ぁ……♪ ごめんね? 何時も我が儘で、すぐ怒って、暴力ばっかりで……めんどくさくてごめんね?」

 

 

 お腹に感じる熱に自分自身のお腹が熱くなるのを感じながら、色んな気持ちがそのまま言葉として出てしまう。

 気持ちが押さえられない……!

 

 

「っ……お、俺はそんな事思ったことない……だからもうやめよう? まだ俺たちは子供なんだぜ……?」

 

 

 わかっている。

 無理にやっている私にそれでも、ヘラヘラとした顔で笑いながら説得してくる一誠くんの言いたい事はわかってる。

 でも――それでも私は不安だった。居なくなっちゃうと考えてしまうだけで怖くて……生きる意味を失ってしまうと身体が凍えてしまう。

 

 

「ごめん……」

 

「い、良いって……あ、あははは」

 

 

 だけど、このまま自分の気持ちだけを押し付けたら……私はもしかしたら捨てられてしまうのかもしれない。

 兵藤凜ちゃんみたいに見限られてしまうのかもしれない。

 だから私は……自分の身体の疼きを押さえ込み、一誠くんから離れた。

 

 

「い、いやーでも俺って意外と罪な男だよなー? あっはははは……」

 

「ごめん……」

 

「べ、べべ別に良いよ。

俺としてはラッキーイベントだったし?」

 

「一誠くんが居なくなると思って、思い付いたのがこれだったから……」

 

「そっか……でも俺はどこにも行かないよ」

 

 

 決して私がヘタレた訳じゃない。

 そのまま実行すれば既成事実は成立した。

 でも……どうであれやっぱりこのやり方は間違ってたと此処まで自分からしておいて怖くなってしまった。

 

 

「本当にごめんなさい一誠くん。

そ、その……一誠くんのそれをお詫びに何とかしても良い?」

 

「…………。い、いや……スキルで何とでもなるし、そんな事されたら色々とアウトというか……え、知ってるの?」

 

「………………。前に偶々公園で見ちゃった本で……」

 

「お、おっふ……」

 

 

 でも……何時かはその先まで一緒に行きたい。

 その気持ちは躊躇した今でも変わらなかった。

 

 

「ぁ……ぅ……。

ちょ、ちょっとお風呂に入ってくるね……?」

 

「あ、はい……ごゆっくりー……」

 

 

 途中で止めたせいで、私を責めるように身体の中を駆け巡るのは……私への罰。

 

 

「あ、あと5秒遅かったらヤバかったな……。

ふわふわしてて良い匂いで―――ぬがぁ! もう余計な事は考えるな俺!!」

 

 

 でも、意識は更にしてくれただけでも良かったのかも……。




補足

全力で迫られたら多分一誠くんは拒絶出来ないでしょう。

でなければ本気で引き剥がして逃走しますしね。
出来ないのは、やはり心の奥で燻ってるんですよ……なにかが。


2
なので、そんなねーちゃんにあんな事をされて平然な訳もなく、ホントに一歩遅かったら理性が吹っ飛んでバラキエルさんに殴られ覚悟のご挨拶に窺わなければならなかったのかもしれないぜ。


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安心院さんとの昔と今

シリーズ中多分ここでは彼女が一番一誠と距離が近いですね。




 弟じゃねぇ。

 俺は何度もそう訴えた。

 しかし訴えた所で、世界の理はアレを兵藤一誠の姉として刻み込んでいるので、寧ろ俺が頭のおかしなバカだと思われている。

 

 姉を無視する酷い弟。

 両親と喧嘩別れした親不孝者。

 良い一家に生まれ落ちた唯一の汚点。

 

 世間の奴等の俺に対する評価は概ねこんな感じであり、俺は落ちこぼれで吠えるだけのクズだと言われている。

 

 それならそれで構わない。

 だったら俺が……汚点が居なくなれば良いのだから。

 兵藤という名字を返還し、俺を俺と認めてくれる大事な人の為に生きるから。

 俺はそう何度も言った、餓鬼の癖に法的保護者も居ないのに、結局助けられて生きてる癖にと言われたけど、俺は奴等と関わるくらいなら他人に寄生してでも独りで生きたかった。

 

 それなのに、それだってのに……。

 

 

『何で凛先輩を避けるんですか?』

 

『キミのお姉さんだろ?』

 

『家族なのに……』

 

 

 どいつもこいつも……同じ能書きしか垂れねぇ奴等はうんざりだぜ。

 

 

「随分とストレスが溜まってるみたいだね一誠」

 

「…………。朱乃ねーちゃんや椿姫ちゃんと呑気にのほほんしたら消えると思ったんだけど、そうでも無かったみたい。

頭の中で千回は聞かされた能書きが聞こえて、爆発しそうだぜ」

 

 

 安心院なじみは師匠だ。

 何時でも何処でも俺の近くに居て、何時でも何処でも教えてくれる。

 彼女が居なかったら今の俺は無かった――それほどまでの人だ。

 

 何の気紛れか、只今学生中で爆弾投下をしまくってるけど、それでも俺は師匠が好きだ。

 あ、恋愛とかいう意味じゃなくね?

 

 

「なるほどね、さしずめあの子達は彼女を慕うボディーガードって所かな?」

 

 

 何時でも余裕で、何時でも不敵。

 これこそ安心院なじみであり、俺はその弟子である事に幸運すら覚える。

 故に、だ。

 

 

「どっちでも良いぜ、相容れる事なんて死んでも無いし」

 

 

 例え朱乃ねーちゃんのお仲間だとしても、俺は奴等と仲良しこよしは絶対にしないのさ。

 どう思われようが、どうほざいて来ようが、それ等全てを鼻で嗤いながら『で、だから?』と返せる強さを持つ為に、今日も夢の中でも現実でも師匠に食い付くんだ。

 

 

 

 

 安心院なじみが一誠を見付けたのは、ほんの偶然だった。

 目的も理由も無く、ただ己の膨大な力故に永久を生きる彼女からすれば、全てをある日取り上げられ絶望して死ぬ子供なんてどうでも良かった。

 

 

「よくもまあ、めだかちゃんと日之影君の戦い方を再現したもんだ。

口頭説明でここまで……しかもめだかちゃんと日之影君の先の域に到達し、今尚無限に進化させるのは中々居ないぜ?」

 

「よしてくれよ。

なじみの話に聞いたその二人って偉い凄い人だったんだろ? 俺なんて単なる猿真似だ猿真似」

 

 

 しかし結果的に安心院なじみは、死に逝こうとした一誠少年を拾った。

 自分でも気紛れ過ぎるだろと思ったが、死の間際この世界では決して開花出来ない己と同じ領域の片鱗を見せられてしまえば、安心院なじみの気紛れ好奇心は、試しに完全な自分好みに仕上げてみるか……という結論を抱かせるに充分だった。

 

 

「謙遜するのは良いが、謙遜し過ぎても嫌味になる。

それにだ、僕の言うことを否定された気になって地味に傷付く」

 

「別にそんなつもりは……」

 

 

 堕天使が住みかにしていた教会だった場所。

 一誠がレイナーレ、カラワーナ、ミッテルト、ドーナシークを無傷で殲滅させた後のこの場所は誰も近寄る事は無く、今では一誠の修行場所になっていた。

 

 そんな修行の場にて、暫くほのぼのとした生活をエンジョイすると告げて一誠の傍らに居付く様になった安心院なじみは、吹けば飛びそうな程脆い子供だった一誠の成長を何時もの薄い笑みを浮かべながら、教会内部から持ってきた木椅子に座って見つめている。

 

 この世界で唯一自力で覚醒させた能力保持者。

 イレギュラーにより失った力を埋めるが如く発現させたイレギュラー故のイレギュラー

 それが、あの安心院なじみが、能力(ショートカット)を一切使用せず、0から全てを丁寧に叩き込んだ唯一の弟子である一誠だった。

 

 

「それに、まだやる気状態のアンタに触れることすら出来ねぇんだぞ? 謙遜じゃなく力不足の実感だよ」

 

 

 成長し、青年らしい身体付きになった一誠は、上半身裸の姿でぶっきらぼうに言いつつ片腕倒立の状態で腕立てをしている。

 実に原始的だが、かつて黒神めだかと時計塔で会話をした頃を思い出す気がするので、なじみ自身は割りと楽しんでいる様子だった。

 

 

「一誠とめだかちゃんは本当に真逆だ。

友達の頼みとはいえ、自分が間違ってると判断したら迷い無く突っぱねるのがめだかちゃんだけど、お前は友達の願いを何だろうが全力で叶えようと突っ走る。

世界中の人間が大好きだと当たり前の様に公言するのがめだかちゃんなら、友達以外は滅んでくれても構わないと平然と宣うのが一誠……」

 

「へ、だから言ってるだろ? 俺は黒神めだかじゃなく、単純でバカで底が浅いんだけの男だっつーの」

 

「そうだな、お前は決してめだかちゃんの様にはなれない。

戦闘技術は真似られても、中身決して相容れない」

 

 

 黙々淡々となじみの会話に付き合いながら筋トレを続けるその内容は、なじみが会った主人公(めだか)についてのお伽噺。

 

 どこまでも主人公で、どこまでも人を好きで、一周回って馬鹿な、なじみが勝てないと思った主人公の話は、何時聞いても一誠を飽きさせなかった。

 

 

「そもそも彼女は女なんだろ? 性別からして違うんだから違うもんは違うだろ? つーか、本人に会ってみてーわぁ、おっぱいボインなんだろ?」

 

「そればっかりだなお前は。

ったく、年を重ねるごとにスケベ小僧になっちゃってさ」

 

「思春期に目覚めた切っ掛け朱璃さんだからねー……そらこうもなるだろ?」

 

 

 ケタケタと笑った一誠は器用に倒立していた腕を代えて再び腕立てをする。

 なじみ相手にヘラヘラと軽口を叩けるのも一誠ならではだった。

 

 

「くぅ~ 朱璃さんにちょー甘えてーぜ!」

 

「バラキエル君が聞いたら追いかけ回されるだろうね、その言葉」

 

「まあ、そうだろうけど……。

ちぇ、バラキエルのおっさんは幸せもんだぜ……。

これで朱乃ねーちゃんと上手く仲直りしてくれればもっと良いんだけどよ」

 

「朱乃ちゃんか……。僕が今一誠とイチャコラしてるのは知ってるのかな?」

 

「イチャコラ?

いや、その冗談はともかく朱乃ねーちゃんは知らないよ。

てか知ってたら此処で筋トレなんざ呑気にできねーだろうってか、何か冥界からお客がどうとか言ってて今ガッコーの部室じゃねーか?」

 

「ふーん?」

 

 

 倒立腕立てから今度はブレイクダンスの様に踊り出しつつ、朱乃の今日の予定についてなじみに説明する。

 まあ、言わずともなじみなら直ぐに知れるだろうけど……と内心思う一誠だが、こうやって聞いてくる時は自分の口から聞きたいという意味が込められているのは十年程のまだまだ短い付き合いの中で知っているので、一誠は説明した。

 

 

「そういえば、危うく喰われそうになったんだろ? 僕がちょっとお散歩してる間に朱乃ちゃんなお家で」

 

「う……。そ、そこはキッチリお見通しかい。

いやまぁ――当然何もしなかったようん……」

 

 

 ちょっと悪戯っぽく聞いてくるなじみに、ブレイクダンスの基本技の一つであるウィンドミドルを思わず途中で止めてしまった。

 

 

「あらら、さぞ朱乃ちゃんは残念だっただろうねー?」

 

 

 中途半端に止めた体制のまま、ニコニコと駒王学園の女子制服に身を包んでいたなじみは、微妙に丈を短くしてるスカートで木の椅子に座ったまま脚を組んでからかうような口調であり、一誠は思わず表情を渋くした。

 

 

「の、割りには楽しそうだな。

そーだよ、俺はどーせヘタレですから? 朱乃ねーちゃんには何にもできませんよーだ」

 

 

 組んだ脚から覗く太ももから目を逸らして、拗ねた子供の様に喋った一誠になじみは『いやいや……』と首を横に振る。

 

 

「ヘタレとは思わないさ。

一誠は大事に思う相手を大事にし過ぎて自分を下に置く性格だからね。

大方、自分なんぞが――とでも思ったんだろ?」

 

「……。まぁ……」

 

 

 ほぼその時の心情を当てられた一誠はますます気まずそうな顔でちょこんと座る。

 一誠は一度人間不審になる程の精神ダメージを受けており、それ故に手を差し伸べてくれた……居場所となってくれた者には、口では色々言っているものの大切に思っている。

 

 故になのか、与えられてばかりだと思っている一誠は大切な者達に対して少しだけ神聖視に似た感情がある。

 故に迫られても『自分程度が……』と理由を付けて逃げようとする事が多く、危うく理性が吹っ飛びそうになった朱乃とのあのやり取りもまた、自分の余計な一言で朱乃ねーちゃんを螺子曲げてしまったから……と受け身ななってしまうのだ。

 

 

「朱乃ちゃんの味方をしたら朱乃ちゃんに嫌がられるだろうけど、僕は良いと思うけどね。

というか、逆に勇気を出した女の子に対して失礼だぜ?」

 

「……。そりゃそうだけど」

 

 

 可愛らしい容姿は何処ででも持て囃されるなじみの笑みだが、それすら一誠は決して虜にはならず、師としての慕うだけだった。

 

 なじみとしても、気付けば逆光源氏計画の様に育て上げ、今まさに自分の容姿だけで虜にならない変な精神力を身に付けた一誠は寧ろ大好きとも云うべき気持ちがある。

 あるからこそ、さっきからわざと短めのスカートを履いた状態で脚を組み替えてやってるのに見ようとしない一誠はちょっと負けた気分だった。

 

 

「わっかりやすい色仕掛けをしてやってるのに、引っ掛かってくれないとは、僕も育て方を間違えちゃったかな~?」

 

「いや……パンツ見えそうだし、あんまり見るのもどうかと思うだろ。

ましてやアンタだぞ?」

 

「そこだ。

そこで何でクソ真面目な回答するのか。

無垢な頃のお前は何の疑問も持たず、僕の言うことを聞いてくれたのに、悲しいったらありゃしないよ」

 

 

 わざとらしく悲しそうな表情を浮かべるなじみに一誠は渋そうな顔をする。

 

 『どんな女と遊ぼうが構わない、最後の最後で僕のもとに戻ってきてさえくれれば良いからさ』

 

 と笑って言われたのは今でも忘れない。

 殆ど面白半分でものを言うなじみが、わざわざ密着しながら言ったのだ。

 何か入れ込みすぎて別れたがらないダメ女みたいな物言いにも聞こえるが、逆を返せば『お前はずっと僕と一緒』と言われてるのと同義であり、簡単に解釈すれば安心院なじみから逃げられないと釘を刺された様なものだった。

 

 

「恋愛感情ってのを鼻で笑ってやってた僕だが、一誠相手にのみは笑えなくなっちゃったのは割りと本当なんだぜ?」

 

「……」

 

 

 故に、薄い笑みを浮かべて椅子から立ち上がったなじみが地べたに座ってる所に近寄り、しゃがんでその頬に触れても一誠は振り払わない。

 

 

「この僕を師匠と言いながら、大切で大好きな人と笑いながら昔言ってくれたからね。

恐れも、魅力に取り込まれないままのお前に言われちゃえばこうもなるさ」

 

「単に馬鹿で考え無しの餓鬼の戯れ言なんだけど……」

 

「そこが良いんだよ。何て言うか、あの時僕に言ってきた台詞『なじみ的にポイント高い!』みたいな?」

 

「いや、急に声質変えるとこかそこ――もぷ!?」

 

 

 彼女もまた、一誠にとっては血の繋がりだけの関係よりも遥かに優先させる――大事な人の一人なのだから。

 

 

「うんうん、こうすると大きくなった事が直接感じられるぜ」

 

「ぷは! っ……アンタってホント変わらねーな。

餓鬼の頃とまんま同じ匂いだ」

 

「巨乳好きの一誠には僕では物足りないかな……? んっ……」

 

「いや……別にそうは思わないけど――って、どした?」

 

「ちょっと息が当たってくすぐったかっただけさ。

これは困った、なるほど……発情しちゃったよ僕」

 

「はっ!?」

 

 

 安心院なじみの反転じゃない、安心院なじみが本当の意味で助けに参上し、安心院なじみが当然の様に頼る存在になる男。

 それこそが兵藤一誠がかつて彼女と交わした約束であり、幼い頃からされ続けてきたハグもまた約束の内の一つだった。

 流石に最近は恥ずかしくも感じるのであんまりやりたくは無い……と言うとなじみは目に見えて不機嫌になるので一誠は何も言わないが。

 

 

「よし、ここが熱くなっちゃったし、子供でも作ってみるか!」

 

「は!? お、おいおい……そんな可愛らしい顔で何を言ってんだよ!」

 

「いやほら、他の女と遊んでも構わないけど、先に済ませてからでも良いんじゃね、みたいな?」

 

「えぇ……?」

 

「どうする、今すぐここでしてみる?

まあ、外でが好きなら僕は従うよ?」

 

「いやパスに決まってんだろ。この絵面ですら朱乃ねーちゃんにバレたら殺されるわ」




補足

『俺は、俺の好きな人達以外は勝手に死のう滅ぼうが知ったこっちゃない』

これが一番強く前面に出てますね。


その2
ヒロインにとって最も高い壁でありラスボス――それが安心院さん


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参加資格の無い戦闘校舎
激怒


巡回という訳で更新。

今回は色々と始まります。


 職権濫用してセクハラしようとすれば失敗するという、概ね普通な日常を送る兵藤一誠は、相変わらず姉である凛との関係を改善するつもりは無いままだった。

 

 それに対して凛の味方側から目の敵にされる事も多々あるけど、一誠はそんな連中に対して無視を決め込む事でスルーし、しつこいようなら言葉遣いを悪くあしらったりしていた。

 故にソイツ等がどうなろうと関係ないと割りきっていたし、正直な所……若干ショックだけどリアスに婚約者が居たとしても行き着く先は『残念だな』で終わらせるつもりだった。

 

 

「グレモリー先輩に婚約者が居たってのにはビックリだし、その婚約に不服で、破棄する為に何かをしようとしている事にもファンとしては安心しました……」

 

 

 しかるに、只今一誠君は来ることの無いオカルト研究部の部室に赴き、半分が凛関連で歓迎しませんな目をしているのも無視で、笑顔を浮かべながら、ファンであると公言する紅髪の美少女に向かって……普通ならありえない言葉をダンプカー衝突事故の如くぶつけていた。

 

 

「悪魔のゲームに負けたら大人しく結婚なのは別にどうでも良いのですよ。

が、何でその中に朱乃ねーちゃんまで巻き込まれてるんですかね……その相手の男のお相手的な意味でよ」

 

「そ、それは向こうが提示した条件で――」

 

「テメー嘗めてんのか? あ?

有り体に云えば、相手の悪魔男の性処理係に何で朱乃ねーちゃんが含まれてんだだボケ。しかも勝てるかわかりません? そのゲームの前にテメーを殺してやろうか? あーゴラ!?」

 

 

 何時もなら鼻伸ばして『でへへ、グレモリー先輩!』とバカ丸出し態度を示す筈の一誠が、縮こまるリアス・グレモリーに対して、笑顔から一変させた、割りと本気の殺意と輩丸出しの形相口調を向けている件は、恐らく一誠に何があったからこんな事になってるんだと大半は思うだろう。

 

 

「い、一誠君駄目よ、そんな言葉遣いは――」

 

「ねーちゃんは黙っててくれ。寧ろキレそうな線を何とか繋げられてるだけまだ俺は冷静だからよ」

 

 

 そう、朱乃の貞操が危ないという話を聞いたからこそこんな事になっていると知らなければ……だ。

 

 

「勝ったら婚約破棄で、負けたらアンタ含めた下僕の女全員が相手の情婦宜しくだと? それを出されて勝てる見込みも無い癖に飲んだ? 流石に俺暴れたくなるんですけど? つーか一発殺して良いんですか? あ、良いんですね?」

 

「ちょ、ちょ……そ、それはやめて」

 

「やめてじゃねーんだよクソボケが! テメーの一族は慈愛のグレモリーって自称してたから下僕になっても問題ねーとバラキエルのおっさんと話し合って反対しなかったんだぞ!? それが、勝てる見込みも皆無なのを知ってて、部下を巻き込んで婚約破棄の為のゲームをやるだぁ? ぶち殺すぞゴラ! つーか、バラキエルのおっさんが知ったらサーゼクス・ルシファーに直談判する事ぐらい察しろや!」

 

 

 リアス・グレモリーの抱える家同士の勝手な婚約騒動について、相手方のライザーという悪魔が来て散々揉めに揉めた挙げ句決まったのが『婚約破棄か結婚かを決めるレーティングゲーム』だった。

 一誠にしてみればそこまではまだ許容範囲内であり、精々頑張ってくれと他人事の様にまだ流せた話だった。

 

 しかし蓋を開けてみれば相手のライザーなる男は下僕を全部女で固める程の筋金入り且つ、もしリアスが負けたらリアスだけでは無く、男である木場祐斗以外の下僕達までその男のモノになるという条件を知った上で受けたことが何よりも我慢できなかった。

 

 何せそれは、もし負けたら朱乃が何処の馬の骨とも知らん男に色々されてしまうからに他ならないのだから。

 

 

「やべぇよ、頭やら何やら沸騰しそうで、今すぐこの邪魔な旧校舎を更地にでもしてやりてぇよ……!」

 

「あ、う……」

 

「あ、あの一誠? 私達は負けるつもりなんて……」

 

「は? はぁ? 百パーセント勝てるのか? 確実にその何たらってのをぶちのめせるのかよ?」

 

「だ、だからその為に明日からしゅぎょーを……」

 

「リミット10日でか? は、何かい、1日で1年分の修行が出来る謎部屋にでも籠るのか? なら納得してやるぜ?」

 

「い、いや……そんなお部屋無いけど……」

 

「ほほぅ、じゃあ10日で確実に勝てるんだな? 言ったなテメー?」

 

「う……」

 

 

 リアスも凛もかなり予想外というか、徹底的に朱乃に降りかかる良からぬ事に対して敏感過ぎて既に鬼みたいな形相の一誠の言葉に言葉を詰まらせてしまう。

 

 

「そ、それは……わからないけど――」

 

「わかりません。自信はございません。………………何でそんな状況の癖しやがってそんな条件を飲んでくれたの?」

 

「そ、それはどうしてもライザーとは結婚したくなくて……つい」

 

「つい……ほう、ついって言葉は便利だなぁ? ついそうしてしまったとほざけば流せるんだもんなぁ?」

 

 

 オロオロしつつも心なしか嬉しそうだったりする朱乃を隣にソファにふてぶてしく腰かけてテーブルに両足を乗せての一誠の言葉に、凛とリアスは言葉を返せずに居た。

 

 特にリアスに至っては、あのちゃらんぽらんの一誠がまさか此処まで激怒するとは思わなかった事もあって、そこまで大事にされてる朱乃がほんの少し自分の求めるものと重なって羨ましくも思ってしまい、凛に至っては最早涙目だった。

 

 

「都合の良いときだけ朱乃先輩が大事ですと言われましてもね……」

 

「そうだね、普段は他の女性にセクハラしておきながら虫の良い……」

 

「リンさんの事は無視なのに……」

 

「あ?」

 

 

 しかし、そんな一誠の態度が物凄く気に食わない、もしくは納得できないと思う凛側の三人が、我慢できずにといった様子でボソリと呟いた瞬間、リアスと凛はギョッとし、一誠は血走ったその目を部室の端に居た三人へと向けられる。

 

 

「あ? 今何て言った?」

 

 

 正直此処で凛関連の戯れ言を言われたら、その時点で誰だろうと病院送りにしてしまう程に線がキレかかってた一誠は、敢えて聞こえなかったフリをして三人を睨み付ける。

 するとアーシア、祐斗、小猫の三人も負けじと行儀悪く座る一誠を睨むと、口々に言い返した。

 

 

「聞こえなかったならもう一度言います。これは私達の問題であって、部外者のアナタには何の関係もありません」

 

「勿論僕達は負けるつもりも無いよ」

 

「……。戦えない私と違って、兵藤さんの思っている以上に皆さんはお強いんです」

 

 

 気に食わないからこその三人のハッキリした意見に、凛とリアスがあわあわとし、朱乃も朱乃で『あ、まずい』といった表情で隣の一誠を見つめる。

 すると案の定……いや――

 

 

「はっはっはっはっはっはっ……! じゃあ部外者ごときの俺が今からテメー等を半殺しにしようとしても余裕で返り討ちにしてくれるんだな?」

 

 

 線が完全にぶちギレ、その精神のあり方を示すかの様に髪を真っ赤に染め上げながら、一誠は指をボキボキと鳴らしながら立ち上がった。

 

 

「やめて一誠君!」

 

「わ、私が浅はかだったのは謝るから!」

 

「む、無責任な事を言ったのも謝る!」

 

 

 それに対して本気で殺りかねないと朱乃とリアスと凛が、慌てて一誠を取り押さえようと躍起になる。

 

 

「やってみれるものならやってみてください。どれほどアナタが強いか知りませんけど、私達は負けませんから」

 

「一度君とは戦ってみたかったしね……ちょうど良い」

 

「どんなに暴力をふるわれても、私だって負けませんから……!」

 

 

 売り言葉に買い言葉。

 一誠の言葉に対してムッとした三人も啖呵をきってしまいつつ、目が完全にヤバイ一誠に身構える。

 

 

「やめなさい三人とも!」

 

「そ、そうだよ! 一誠と戦っても何にもならないよ!」

 

「一誠君も言い過ぎよ!」

 

 

 怒りを糧に全身のリミッターを完全に外す技術、乱神モードとなる一誠の圧力が洒落になってないとリアスも凛も朱乃も全力で双方に訴えかけまくる。

 特に凛は内心、自分という異物のせいで本来は信頼し合える仲間となる三人と一誠がここまで仲違いしてしまった事に罪悪感で泣きたくなってしまっていた。

 

 

「怒ってくれたのは嬉しいけど、私だって負けるつもりは無いのよ? それでも信じられない?」

 

「そ、そうじゃなくて、勝てる見込みも無いのに勢い任せでやると言ったのが……」

 

「私がリアスの立場だったら同じ事を言ってたわ。だから落ち着いて……ね?」

 

「ぅ……お、おう……」

 

 

 そして極めつけは、朱乃の説得だけは聞き入れるというこの状況。

 リアスと自分に離れるように促した朱乃が、怒り狂う一誠を後ろから抱き締めながら優しく言葉を紡げば、それまで感情に呼応するかの様に染め上がっていた真っ赤な髪が元の茶髪へと戻り、バツの悪そうな顔をする一誠を見せられただけで凛は死にたくもなってしまう訳で……。

 

 

「………………。勝手な事言ってすいません……出て行きます」

 

「え、あ、い、いえいえ……」

 

「「「………」」」

 

 

 気まずそうにリアスへと頭を下げてからトボトボとお腹を空かせた野良犬の様な哀愁漂う背を見せながら部室を出て行くのをただただ見送るだけしか出来なかった凛は、はぁ……とため息を吐いた朱乃に対し、モヤモヤとした気持ちを抱くのだった。

 

 

「部長、一足早く帰っても宜しいでしょうか?」

 

「え、えぇ……是非とも彼に付いてあげて」

 

 

 部室を出ていった一誠の後を追うつもりか、リアスに許可を貰った朱乃が一足早く部室を後にし、やっと一触即発の空気が緩和した事にリアスは大袈裟にも思えるため息を吐きながら疲れたようにソファに座り直す。

 

 

「あそこまで激怒する彼を見るのは初めてだったわ……」

 

「部長……」

 

「そうよね。いくら結婚したくないからってアナタ達を巻き込んだ条件を飲むなんてどうかしてたわ……」

 

 

 今になって浅はかだったと反省するリアスに凛が何とも言えない表情をしながら、微妙に納得できない顔の三人へと視線を向ける。

 

 

「駄目だよ三人とも……。一誠と戦おうなんて……」

 

「……。分かってますけど、自分の言った事に間違いがあるなんて思ってません」

 

「塔城さんの言った通り、普段の彼は他の女性に対して不誠実な事ばかりするし、それが都合悪くなると一方的に部長を責め立てるなんて、道理が通ってないと僕も思う」

 

「リンさんに暴言も仰ってましたし……」

 

 

 注意をする凛に対して、三人は納得出来ない表情のまま自分は間違ってないと言い張ると、凛はこれ以上責められずに押し黙ってしまう。

 

 

「私が一誠も認めるくらいに強いところを見せてればこんな事にはならなかったんだよね……」

 

「ち、違います! 凛先輩は悪くないです!」

 

「そうさ! 僕達だって強いって認められてないし、そもそも知ろうともしない彼にだって問題が……!」

 

「……」

 

 

 塞ぎ込む凛に小猫が胸元に顔を埋めて抱きつきながら首を横に振り、それを若干恨めしそうに見つめながら小猫に続く祐斗と、そもそも戦闘員でない事に劣等感を抱くアーシアは凛のせいじゃないと頑なに否定する。

 どこまでも三人は凛が大好き……だからこそ、凛を蔑ろにする者が許せないのだ。

 

 

「絶対に勝ちます。凛先輩をライザー・フェニックスなんかに渡したくない」

 

「当たり前さ。何をしてでも絶対に勝つよ……部長の為にも」

 

「………。私も戦えるようになります……!」

 

「……………。あ、うん」

 

 

 抱き付いてきた小猫の頭を撫で撫でとしながら複雑そうにする凛は、確かに嘘偽りやズルも無しに三人から好意を向けられていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 お門違いなのはわかってるし、あのウザい三人組に言われた通りに虫の良い話だってのも自覚してる。

 しかしそれでも、朱乃ねーちゃんがゲームの景品扱いされてるのがどうしても許せないと思ったんだ。

 

 

「………。部活は良いのかよ?」

 

「先に上がらせて貰ったから平気よ」

 

 

 旧校舎を出て、風紀委員室に戻った俺は、机の上に置いてあった『先に帰ってるから精々頑張りたまえ』というなじみからのメモに目を通してからボーッと椅子に座って天井を眺めていた。

 

 それは、一足早く帰る事になった朱乃ねーちゃんが風紀委員室に来てからも変わらずにだ。

 

 

「普段は鼻の下を伸ばしてるリアスにまであそこまで食って掛かったのには驚いたわ」

 

「……。自分でもそれについて今更に驚いてる所さ。

普段は女子のスカートの丈のチェックに下心を感じてるようなバカなのに、都合の悪い時になって吠える……奴等に指摘されたのは癪だが、まんまその通りで笑えねぇぜ」

 

 

 だからこそ一瞬でもマジでぶっ飛ばしてやろうと思ってしまった姉貴様のシンパ共の言葉が頭から離れず、自分のさっきまでやってた事に矛盾を感じてイライラする。

 

 

「でも約束したんだ。ねーちゃんに降りかかる全ての理不尽を吹き飛ばすってよ……それが例え矛盾してようが、これだけは忘れたことないんだよ俺は……」

 

「…………」

 

 

 ねーちゃんが今どんな顔をしてるのかは、天井の模様を一点見してる俺には窺い知れない――いや、顔を合わせられないけど、約束だけは一度も忘れたことは無い事だけはねーちゃんに解って欲しいと俺は独り言の様に呟いてしまうのは、多分卑怯なんだろう。

 

 

「ん、天井なんか見てないで、こっちに来なさいな」

 

「…………」

 

 

 来もしないのに設置してる、学園長室や生徒会室以上に良いソファに腰かけたねーちゃんの呼び声を期待してたのはやはり卑怯なんだろう。

 

 

「ん、ほらおいで?」

 

「………」

 

 

 ノロノロとその言葉を待ってたとばかりにねーちゃんの隣に座るのは卑怯で間違いないんだろう。

 ポンポンと膝を叩くねーちゃんの笑顔を期待してたのは絶対に卑怯であるだろう。

 

 

「あらあら、今日の一誠君は素直ね?」

 

「別に……して貰わなくて誰かに頼めば――」

 

「嘘嘘、うふふ……私がやりたくて一誠君に頼んだだけだからね?」

 

「………」

 

 

 膝枕して貰い、不貞腐れた態度にも拘わらず頭を撫でて貰う事を期待したのは只の卑怯者でしかない。

 

 

「私が違う男の人のモノになるかもしれないという話に怒ってくれてありがとう……。嬉しかったわ……」

 

「ん……」

 

「浮気者なのに……だから嫌いになれずに、ずっと大好きで居られる。

ズルいけど……それでも一誠君の事が好き……」

 

 

 根は変わらない、本来の子供っぽい笑顔を見せて貰ってる事自体が虫の良い話なんだろし、やはり卑怯なのかもしれない。

 

 

「ん……また、口でのちゅーしちゃったね? えへへ……♪」

 

「……。おっさんにぶち殺されるのは俺だな……」

 

 

 けど、いくら卑怯だ虫の良い野郎だと言われても、この約束だけは絶対に破らない。

 破りたくないんだ……。

 




補足

虫の良い野郎だという自覚はしてるけど、それでも人身御供みたいな話を受けた事だけはどうしても納得した無かったが故にこうなりました。

まあ、マジな話……もしそうなったら殺戮上等の文字を背に刺繍された長ラン装備の一誠&バラキエルさんがマジでマジしちゃうからなー……仕方ないね。


その2
朱乃ねーちゃんはかわゆい……だろ?


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約束への執着

一誠の強みであると同時に弱味でもある。

安心院さん曰く、進化の阻害の原因


 結婚を賭けたゲームに勝つ為、翌日から学校を休んで修行へと旅立つ朱乃を見送る事しか出来ない一誠は、その日からセクハラ行動が一切止まった。

 

 

「……」

 

「ど、どうしたんだアイツ? 今日一回もゲス行為をしてないぞ?」

 

「風邪か? 何かずっとボーッとしてるが……」

 

 

 制服チェックをしてもセクハラしようとせず、黙々淡々と機械の様に行う姿は、彼を知る学園の生徒達からしたら不気味でしか無く、また調子を狂わせるものである訳で……。

 

 

「……………」

 

「シャーペン持ったまま固まってるぞアイツ……」

 

「マジでどうしたんだし。安心院さんは今日休みだから聞けないし……」

 

 

 女子も男子も、まるで未確認の生命体を見てるかの如く、ボーッとした顔をする一誠を遠巻きに眺めるのであった。

 

 

 

 さて、そんな心此処に在らず状態の少年こと兵藤一誠だが、その理由は当然朱乃絡みだ。

 

 

「大丈夫かな……朱乃ねーちゃんは」

 

 

 結局ボーッしたままで放課後を迎えた一誠は、風紀委員室に一人籠ってひたすらに朱乃を心配しまくっていた。

 朱乃に説得されたから矛を収めたものの、そして朱乃自身が決して弱いとなんて思ってないものの、それでもやっぱり心配なのに変わりは無く、彼女の母親である朱璃は『私は心配してないわ。一誠君が傍に居てくれるんですもの』と十全に一誠を信頼してるので割りとのほほんとしているので、実質心配してるのは一誠だけだった。

 

 とはいえ、もし負けたら相手の悪魔男にリアスの他に朱乃や女性陣がという話に関してだけは朱璃も良い顔はしてなかった訳で、もし父親のバラキエルが知ったら悪魔と堕天使の不可侵的関係に亀裂が入ることまず間違いない。

 

 

「……」

 

 

 悪魔と堕天使が仲違いして殺し合いになろうが、一誠にしてみればどうでも良い。

 バラキエルや朱乃……悪魔としては転生した椿姫が無事でさえいれば他がどうなろうと、たとえ美少女悪魔だ堕天使だろうと勝手に死んでれば良い。

 

 だから、今回のこのふざけた話でもしリアス達が負け、ふざけた話に朱乃が巻き込まれでもすれば――

 

 

「………………。冥界ってどうやって行くんだっけ」

 

 

 確実に一誠は激情に駆られた殺戮マシーンにでも変貌するだろう。

 鬱陶しいだとか、別に朱乃は異性としては意識なんざしちゃいないだとか大言壮語を吐いてる一誠だが、その実、自分を自分と認めてくれた大切な人の一人である朱乃はそれこそ自分がゲスになろうが、ゴミクズ人間と罵られようが守ると誓い、その為だけに血反吐を吐く鍛練を積み重ねてきたのだ。

 

 

「散々デカい口叩いといて負けましたなんてほざいてみろ……ヘラヘラと避けてきてやったが、今度ばかりはそのままぶっ殺してやる」

 

 

 故に一誠は久方振りにマジと書いて本気になっていた。

 それこそ、なじみの言うとおり『進化の阻害』となっている原因である事を自覚した上で、朱乃の為にその異常性を剥き出しにするからこそ、一誠の強みであり……最悪な弱味でもあったとしてもだ。

 

 

「もっと、もっと……力を……!」

 

 

 だったら普段からチャラポランしてるなという突っ込みは、恐らく誰も出来ないだろう。

 

 

 

 

 一誠が有事に備え、その異常性を増幅させているその頃、ライザー・フェニックスとのレーティングゲームに勝利する為の修行を行う事にしたリアス達一行は、グレモリー家が所有する自然の山々に囲まれた別荘に訪れ、その力を磨かんと精を出していた。

 

 

「ま、前より強くなったわね朱乃……」

 

「……。これでも一番私が弱いのですけどね……」

 

 

 さて、守るだ守るだの何やかんやで一誠から過保護にされていてる朱乃だが、実の所その実力はある程度高い。

 具体的に云えば、リアスとやりあって勝ったり、赤龍帝の凛と素手でやり合ったり出来たり、戦車の小猫と真正面から力比べして勝ったり、騎士の祐斗にスピードに勝ったり等々……全ての駒の特性を兼ね備える女王としての実力は文句無くあるのだ。

 

 というか、比較対象があの人外なのがそもそも間違いなのかもしれないが……。

 

 

「あ、朱乃ってボクシングみたいな戦い方も出来るのね……。

し、知らなかったわ」

 

「これでも小さい頃は一誠君と一緒に鍛えてましたから」

 

 

 朱乃は決して弱くは無いのだ。

 少なくとも現状の仲間達を全員相手取っても優位に戦える程には。

 だが、フルメンバー状態のライザー含めた下僕達を全員相手取って勝てると思うほど、朱乃は自信家じゃないだけなのだ。

 

 

「リアス、こうなってしまったからには私も全力を出します。

私とて負けて慰みものにはなりたくありませんし、そうなったと決まった瞬間、一誠君が起こすだろう行動を止められる自信もありませんから」

 

「それは勿論よ。けど、もし負けたら彼は何をするつもりなの?」

 

「……………。まず私をそういう状況にさせた本人……つまりライザー・フェニックスを一族ごと根絶やしにした後、アナタを躊躇無く八つ裂きにしてしまうかと……」

 

「え"?」

 

 

 修行も区切りが付き、休憩するリアスに朱乃が真面目な顔で話すそれにリアスは固まってしまう。

 昔から散々朱乃から一誠という存在についてチラホラ教えられてきて、ある程度は知っている。

 しかしそれは流石に言い過ぎなのでは無いのかと思う程度に一誠の事を知らないので、突拍子の無い朱乃の言葉にちょっと疑ってしまう。

 

 

「それは流石に言い過ぎじゃない朱乃? そりゃあ朱乃にしてみれば大好きな彼かもしれないけど、ライザー達を殺すってのは――」

 

「…………」

 

「……………。いえ、やっぱり何でもないわ。

ええ、負けたら殺される覚悟で力を付けないとライザーには勝てないわ……ほんと」

 

 

 しかし朱乃の無言の瞳に、本気さを伺えたリアスは直ぐに思考を切り替えながらやや神妙に頷く。

 普段はヘラヘラ笑ってた一誠の見せた昨日の殺意は、只の人間が放つにはあまりにも強大だった事を考えれば、もしかしたらもしかするかもしれないとリアスは感じたのだ。

 

 

「……。必死とはいえ、朱乃達をを巻き込んだのは本当に間違いだったわね……」

 

 

 故に負けたら死ぬという心意気を搭載したリアスは、休憩は終わりとばかりに立ち上がると、これまで以上に修行に没頭する。

 …………。朱乃の後ろになんやかんやで居続ける凛の弟から失った信頼を回復させるためにも……。

 

 

「ところで凛達は……」

 

「あの子達なら大丈夫ですわ。

…………祐斗君と小猫ちゃんとアーシアちゃんは一誠君を見返すために集中している様ですし、凛ちゃんも一誠君の信用をなんとかしたいた必死です」

 

「そう……。でも、その……ホントあの三人は凛の事が好きよね。

最近は妙な疎外感すら感じる気がするくらいに」

 

「…………。それは、気のせいだと私も思いたいです」

 

 リアスは最近感じる妙な疎外感を押し込め、巻き込んでしまった贖罪の為にも朱乃と切磋琢磨しようと気合いを入れ直すのだった。

 

 

「更にところでなんだけど……その着ている学校のジャージに、何で兵藤くんの名前の刺繍がされてるのかしら?」

 

「一誠くんが予備にと私にくれたので……」

 

「だ、だからやけに機嫌がよかったの……納得」

 

 

 その一誠が物凄い近くにいる事に気付かず……。

 

 

 

 

 

 

 心配って態度が表に出過ぎたせいなのか、様子を見に来たらしい椿姫ちゃんに俺は無理矢理外へと連れ出され、そのまま流されるかの如く椿姫ちゃんに見送られながら転移用の魔方陣にぶちこまれた。

 そして来たのは……。

 

 

「え、一誠くん……?」

 

 

 修行中の朱乃ねーちゃんとグレモリー先輩達の居る山っぽい場所だった。

 

 

「何でここに? というかどうやって……」

 

 

 既に夕方でそろそろ日が暮れる寸前なのだが、ずっと修行をしてたと思われる朱乃ねーちゃんが驚いた様な顔して近寄って来たのだが、そのすぐ近くに居たグレモリー先輩の姿を見て昨日の事を思い出した俺は、そのまま回れ右して帰ろうかと思った。

 

 しかしその前に朱乃ねーちゃんに腕を掴まれてしまい、逃走は叶わぬ願いとなってしまう。

 

 

「いや、気になるならウジウジしてないで見に行けって……」

 

「誰に? まさか安心院さん……」

 

「いや、椿姫ちゃん」

 

「え、ソーナの女王が?」

 

「ま、はい……転移の魔法にぶちこまれて」

 

 

 椿姫ちゃんの名前が出た瞬間、ねーちゃんもグレモリー先輩も驚いた顔をするが、まさか風紀委員室に入るや否や『早く行ってきなさい』と言うとは思わなかったんだよ俺も。

 

 

「邪魔になるし今すぐ帰るよ。例の奴等に見つかるとダルいし」

 

「別に邪魔とは思わないわよ。リアスだって……」

 

「え、えぇ……それはもう。

ただ、小猫と祐斗とアーシアと凛に出くわしたら穏便に済まないのは同意するけど」

 

 

 よくわからんが、別行動で修行してるらしく……今俺が居る場所にはねーちゃんとグレモリー先輩の二人だけだった。

 俺としては顔なんて見たいとも思わない奴等だし、合流した時に顔を合わせるくらいならこのまま帰る方がグレモリー先輩とねーちゃんに迷惑掛けずに済むと思う。

 

 

「昨日はどうもすいませんでした。部外者なのにしゃしゃり出てしまいまして……」

 

「い、いえいえこちらこそ朱乃を巻き込んじゃって……ホントに」

 

 

 取り敢えず、先の事云々抜かして昨日の事をグレモリー先輩に謝る。

 負けたら……まあ、多分アレになるかもしれないけど、まだそうと決まっても無い段階でギャーギャー喚いた時点で悪いのは俺だしね。

 グレモリー先輩は慌てた顔しながら何度も首を横に振ってからしてかなり気にしてた感じっぽいし、この事だけは謝らないと駄目だしね。

 

 

「じゃあ、俺帰りますから……頑張って下さいね」

 

「あ、う、うん……」

 

 

 只、負けたとしたら、俺自身がどうなるか分からなくなるのだけは変え無いけどな。

 だって勝てると踏んだからグレモリー先輩はそんな賭けに出たんだろ? もし負けましたで朱乃ねーちゃんが巻き込まれたなら……。

 

 

「これ、俺の独り言ですから気にしなくても良いですけど、もし負けてねーちゃんがその悪魔男とアレになりましたなんてなったら…………多分、アンタでも許さない」

 

 

 俺はもう……テメーの人生代償にしてでも朱乃ねーちゃんだけを、ソイツ等ぶっ殺して連れ出してやる。

 

 

「う……」

 

「一誠君、今それを言っちゃ駄目よ」

 

 

 俺の独り言にグレモリー先輩の目が泳ぎ、朱乃ねーちゃんが咎めようと俺に注意の言葉を口にするが、これだけはいくらねーちゃんでも聞けない。

 

 

「分かってるよ朱乃ねーちゃん。

別に俺はねーちゃんの親でも無ければ、恋人でも無いし、ましてや悪魔の下僕でも無いからこんな事ほざける権利も資格も無いのも分かってるよ」

 

 

 そう、所詮これは俺のエゴでしか無い。

 そんなの、あの時過負荷(マイナス)に目覚めてから解ってた事さ。

 けど……けどな。

 

 

「でも朱乃ねーちゃんは大切なんだ。

ねーちゃんと朱璃さんの事情もあり、そして俺がどうしようも無く弱かったから、悪魔という後ろ楯が必要で、それがグレモリー一族っていう悪魔の中じゃまともなタイプと知って俺は何も思わないことにしたんだ。

けど、ゲームの景品とばかりにねーちゃんの尊厳が弄ばれるって知った今、黙ってる事なんて出来るわけが無い」

 

 

 弱いから、俺が弱いせいで、後ろ楯になれないからこんな事になったとするなら、それは結局俺のせい……。

 

 

「だからもし、ねーちゃんが後ろ楯の悪魔によって危ないことに巻き込まれるとするなら……」

 

 

 ならどうするか? 簡単だ。

 

 

「俺は、化け物になってしまおうが進化を止めない。

悪魔だろうが、堕天使だろうが、天使だろうが、妖怪だろうが、閻魔だろうが神だろうが何だろうが! ソイツ等まとめて黙らせられる程に強くなって、ねーちゃんとの約束を必ず守る」

 

 

 後ろ楯すら必要なくなる力を得て、ねーちゃんの弾除けになってやるまでだ。

 

 

「ですから、頼むから勝ってくださいよ先輩。

アンタは良い悪魔さんだってのは、ねーちゃんを見てれば分かるんですから」

 

「…………」

 

「一誠くん……」

 

 

 それが間違ってるとしても、師匠の理念から外れてしまっていようとも……。

 

 

「………。とまぁ、此処まで全部只の冗談として、マジで頑張んないと、その婚約破棄したいって悪魔野郎より先に先輩のおっぱいをもにゅもにゅしちゃいまっせ? ふへへへへ!」

 

「え、う、うん……?」

 

「ここに来て浮気発言するんだ? へー?」

 

「いやこれも軽いジョークなんだけどね?

あ、やめて……! ビリビリの刑は勘弁してくれ!」

 

 

 俺はねーちゃんとのこの約束だけは破りたくは無いんだ。

 

 

 

「それより『姉貴様。』とその取り巻きのやる気はあるんですか? 何か居ないみたいですけど」

 

「あ、うん……あると思うけど、その……凛はともかくとして祐斗と小猫とアーシアは多分凛の為に頑張るんじゃないかしら……」

 

「でしょうね。アレ等はどうもグレモリー先輩の為ってよりは『姉貴様。』の為に動いてる様にしか見えませんしね。

まったく、誰にでも好かれる『素晴らしい』姉様で何よりですわ」

 

「その事でリアスは、最近疎外感を感じるみたいなのよ」

 

「は? おいおい、あの三人は何か勘違いしてねーか? 何時から姉様は王様になったんだ?」

 

 

終わり




補足

マイルドとはいえ、ベリーハードモードのリアスさん的ポジに押し込まれつつあったりするリアスさん。

ただ、朱乃さんが居るのでまだあんな悲惨な事にはなりませんです。


その2
自覚してる上で行動してる一誠。

すべては弱かったらという卑下精神が刺激されてるが故にですね。

ましてや、狂った環境の中、自分の事を一誠として接してくれた人達の内でも長く一緒に居た朱乃ねーちゃんですから、その心境はある意味歪みまくりです。


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副会長とのお時間

三人目のヒロインを忘れてはならない(戒め)

※誤字が多めだったので、目につく限りの修正と細かい加筆をしました。


 様子を見に行った所で不安な要素は所詮不安のまんまだったというか、寧ろ自分で余計に不安を助長させた気がしてならない。

 

 だってよ、これからチームで戦うって時にリーダーが疎外感を感じてるって……。

 解散前のアイドルグループじゃあるまいし、やめて欲しいぜというか、マジで負けたらあの自信満々なツラでほざいた最低四人は取り敢えず女だろうが殴れるぞ絶対。

 

 

「ドラァ!!」

 

 

 なので、もう俺は有事の際を見越してトレーニングの量を増やしてやる事に専念し、その間は風紀委員の仕事以外は一切余計な真似はしない。

 勿論セクハラとかも、全部解決するまでは一切やらない。例え周りに頭がおかしくなったのかと言われてもだ。

 

 その為には……。

 

 

「椿姫ちゃんや、マジな意味でトレーニングに付き合って欲しいんだけど」

 

 

 ねーちゃんが居ない、そしてなじみが放浪癖を発動して居ない今、友達といえる存在が近くに椿姫ちゃんしか居ないという現実を今更嘆くつもりは無い。

 

 

「今回ばかりはおぶざけ無しの真面目に言ってるつもりだ」

 

 

 しかし一人でやれる事に限界はあるので、まともな修行になりそうだという考えの下、俺は椿姫ちゃんに頭を下げて修行に付き合ってくれと懇願してみる事にした。

 

 

「えっと、私は別に良いけど……」

 

 

 生徒会室にやって来てヘコヘコと頭を下げる俺に対し、周囲からの胡散臭いものを見るような視線を受けつつも、目を丸くしていた椿姫ちゃんはオーケーしてくれた。

 あ、そういえば椿姫ちゃんってねーちゃんと同じ女王だけど、どんくらい強いのかあんまり知らないな。

 

 

「おい待て。トレーニングってどういう意味だ?」

 

 

 まあ、女王だし弱い訳ねーわなと勝手に思いつつ、早速オーケーしてくれた椿姫ちゃんの手を取って生徒会室から出て行こうとした時だ。

 そうはさせんと扉の前を陣取る生徒会野郎の――ほら、えっと、誰だっけこいつ? まあ、取り敢えず唯一の男子の生徒会男が、通せんぼしながら歓迎してませんな顔で聞いてきた。

 

 

「勝手に私の女王を連れ出すのは勘弁して欲しいのですけど」

 

 

 それに続いて生徒会長やら残りの部下共までもがこの生徒会男に同意する様に頷いた。

 なるほど……椿姫ちゃんを連れ出したら駄目なのか。

 

 

「アナタがリアスの部室に乗り込んで散々暴言を吐いた話は既に承知の上で言いますが……些か勝手が過ぎると思いますよ」

 

「あ?」

 

 

 加えてこの前の事を知ってたみたいで、生徒会長は俺にそんな事を実に――言ってしまえば『アナタが騒いでもどうしようも無いよ』と暗に示す顔で言ってきた。

 

 

「そうだぜ。そもそもお前は部外者だろ? それに人間だし、トレーニングだか何だかしたって無駄じゃねーか」

 

 

 続くかの様に、生徒会男……いやめんどくさいから腰巾着が完全に俺を見下した様に無駄だと言って来たわけだが、別にそれに対して怒るつもりは無い。

 どちらかと言えば、人間ごときが崇高なる悪魔様のおやりになる事に一々しゃしゃり出るなって言われてる様な気がする事にちょっとムカッとした。

 

 

「眷属でも無いのによ」

 

「前から思ってたが、キミはやけに噛みつくね」

 

 

 それでもキレる事はしないが、それにしたってこの腰巾着野郎はやけに噛みついてきやがる。

 俺の普段の素行が気にくわないからと思えば普通に納得だが、この腰巾着の場合、それだけとは思えないんだよね。

 目とか表情を見てるとなんと無く。

 

 

「噛みつかれると思う程度の自覚があるなら、そういう意味だよ。散々俺達の周りを荒らしやがって」

 

「荒らしやがって……ね。

へーへー……わかりました。すいませんでした」

 

 

 良いよわかったよ。別にテメー等のやる事なんか興味なんか無かったし、目的は朱乃ねーちゃんをふざけた話から無理にでも連れ出すだけだからな。

 一人でだってやれるぜ……。

 

 

「あ、一誠くん……」

 

「ごめん椿姫ちゃん。やっぱり一人でやるから大丈夫だぜ」

 

 

 そうですねー。

 確かに腰巾着君の言う通り、結構しゃしゃり出てしまいましたさ、この人間ごときの(ワタクシ)めが、誰が決めたんだか解らねぇが、偉くて偉大で最高な悪魔様に嘗めた口聞きましたよ。

 あーすいませんね。俺はクソ野郎ですよ。

 

 

「どーもお騒がせしてすんませんでしたー」

 

 

 こうまで言われちゃ一人でやるしかない。

 椿姫ちゃんだってこの生徒会長の部下って立場もあるからな、これ以上困らせる訳にはいかねーやと思った俺は、掴んでた椿姫ちゃんの手を離し、ヘコヘコと生徒会長とその部下に頭を下げて出口へと向かう。

 

 

退()いてくれない?」

 

「……っ」

 

 

 扉を陣取る腰巾着にそれだけ言って退かし、そのまま歓迎しませんな目をする彼を横切って生徒会室を後にした俺は、少し離れてから溜め息を吐いてしまう。

 

 

「なじみの奴め、一体何処に行きやがったんだよ」

 

 

 椿姫ちゃんは生徒会がダメって言うから連れ出せず、加えて師匠はお留守。

 結局は一人で修行しなければならない状況に、改めて自分の友達の無さ加減に呆れつつ、修行場所に移動しようと学園を出るのだった。

 

 

 

 

 

「……。言い過ぎたかしら」

 

「何時もなら悪態つくのに、今日は不気味な程素直に退きましたね」

 

「何だか逆に気味悪いわ……」

 

「後でなにかされたりしないかしら……」

 

「…………」

 

 

 一誠くんが素直に退いた事に対し、本人が居なくなってから会長を含めて口々に話しているのを聞きながら、私は正直あのまま無理にでも連れ出してくれたらと思ってしまった。

 

 

「真面目っぽく装ってましたけど、どうせ何か良からぬ事を考えてるんでしょうよ。

まったく、何処までも迷惑な奴」

 

 

 最初から毛嫌いしていた匙君が、一誠くんに対して毒づくのを聞いた私は、一瞬だけ頭に血が昇りそうになる。

 姫島さんの為にそれまでのヘラヘラした態度を全部封じてまで動いてるのに……やっぱり普段の行いというものは大事だと思うわ一誠くん。

 

 

「……。申し訳ありません会長、早退して宜しいでしょうか?」

 

 

 でもそのお陰でさっきは立場もあって強く出れなかったけど、匙君の一誠くんに対する言葉で何となく吹っ切れた。

 

「ふ、副会長? ま、まさか追い掛けるつもりじゃありませんよね?」

 

 

 普段の行いの悪さを含め、彼の味方になってあげられる人が姫島さんや安心院さんの他に一人増えたって罰は当たらない筈よ。

 異形の存在とかつて蔑まれていた私を否定せずに居てくれた一誠くんの様に……。

 

 

「今回は姫島さんの為だけに彼は動いてますから……そのお手伝いが私程度に勤められるなら、私はそうしたい」

 

「それって確か、負けたらライザー・フェニックスとグレモリー先輩が結婚して、眷属になってる女子も……って奴ですか?」

 

 

 私が早退願いを口にした瞬間、会長以外の仲間達が行くべきでは無いといった表情を向けてくる中、匙君がリアス・グレモリー様の近々行う非公式のレーティングゲームに置ける敗北した後の処遇について口にしたので、私は頷きながら会長に向かって言う。

 

 

「もしもリアス・グレモリー様が敗北された場合、彼は姫島さんだけは助けようと考えて、その為にヘラヘラした態度すら封じて修行しようとしています。

会長は、それはいけない事だとお思いでしょうか?」

 

「……」

 

 

 私の言葉に会長席に腰掛けているソーナ会長が目を閉じた。

 この仕草は何かをお考えになる時に見せる会長の癖の様なものであり、他の眷属達もそれを知っている。

 だからこそ、匙君が会長の様子を見ながら口を挟み始めた。

 

 

「い、いや……。

でもアイツがどうあがいても人間ですし、無理というか……殺されてしまうかもしれませんよ?」

 

 

 余程普段の一誠君が気にくわなかったのか、それとも別に何かあるのか、頑なに反対と主張する言葉の中に一誠君が人間で弱いからという意見があったのだけど、匙君達は知らなかったわね。

 

 

「……。仕方無いわね、行ってあげなさい椿姫」

 

「会長!?」

 

 

 贔屓無しでも一誠君の力は未知で……そして強い事を。

 

 

「只の一般人だなんて思ってませんし、まあ、監視してあげるって事にしておくわ」

 

 

 会長は察してるみたいで、根負けしたかの様な……でも穏やかに微笑みながら私に許可を与えてくださった。

 

 

「正気ですか!? あんなバカに付き合う義理なんて……!」

 

「じゃあ椿姫に駄目だからと押さえ付けるのかしら? アナタは何時からそんなに偉くなったの?」

 

「い、いえ、そんなつもりは……」

 

 

 スッと目を細めて見据える会長に、匙君の声が小さくなっていくのを横目に私は、自分でも分かりやすい顔になってるだろうと思いつつも、押さえられない喜びのまま深々と頭を下げてただ感謝した。

 

 

「ありがとうございます!」

 

「ふっ、リアスから話を聞いた時、あの子らしからぬしおらしい声で、『兵藤くんに激怒されてやっと、私個人の事に眷属を巻き込みすぎたって気付かされたわ……』と

、あの意地っ張りなリアスが言ってましたからね。

そういう意味では彼は中々見所があるわ……スケベだけど」

 

 

 微笑みながら『早く行ってあげなさい』とクイッと顎で扉を指した会長にもう一度頭を下げた私は、勢いよく生徒会室を飛び出し、一誠くんを追い掛けた。

 ふふ、そういえば一誠くんには……教えてなかったものがあるのよ……ふふふ。

 

 

 

 真羅椿姫は神器の力を持つがゆえに迫害された過去がある。

 だが、しかし……実は一誠との邂逅により一度救われた後、二重に渡って椿姫は迫害されていた。

 

 追憶の鏡(ミラー・アリス)という反射に近い神器と、一誠から貰った椿姫にとっては宝物の様な励ましの言葉により、その精神に作用して発生した神器とはカテゴリーが違う力……。

 その力は神器以上にわからず、神器以上に制御が難しく……そして理不尽な力だった。

 

 だから、制御が効かずに発覚してしまった時はそれまで以上に退魔師の家系の者達から迫害された椿姫だったが、既に椿姫にとってはへっちゃらであり、寧ろ誰の手も借りずに独学でその力を完全に制御する事で、片足を突っ込む事になったのだ。

 

 

「待って!」

 

「ん? あれ椿姫ちゃん?」

 

「会長に許可を貰ったわ。だから……やりましょう!」

 

「お、おお、妙に元気だね……?」

 

 

 多分、きっと、恐らく……一誠や安心院なじみと同質のそれを……。

 

 

「へー刀を使うんだ」

 

「これでも心得はあるわ。さぁ、始めましょう」

 

「……っし! よろしく頼むぜ!」

 

 

 椿姫は既に、そして密かに覚醒させていたのだ。

 

 

「追憶の鏡が壊された時、その蓄積されたダメージは相手へと倍となって返る」

 

「うぉっ!?」

 

「そしてこの力とは別に私は、誰にも言わずに居たもう一つの力がある。名称はよく解らないけど……」

 

「ぬ!?」

 

「"過程をキャンセルして結果だけを残す"という力! これはアナタと会えた後に生まれた私の力よ!」

 

 

 一誠が当時無意識に放っていた無神臓の他者に与える進化の効力によって……能力保持者(スキルホルダー)に。

 

 

「切るという過程をキャンセルし、切ったという結果だけを残す!」

 

「ぎっ!? か、肩が切られっ――」

 

「使うのは、アナタが初めてよ一誠!」

 

「ぐぉぉっ!? ま、マジかよ……くそ、黒神ファントム!!」

 

 

 

 

 …………。安心院さんに言われた時から私は自分のコレが安心院さんや一誠くんと同じだと理解し、そして同時に嬉しかった。

 

 私も一誠くんと同じになれていたんだと。

 

 

「り、理不尽だぜ椿姫ちゃん。因果無視の攻撃とか……」

 

「でも、これで私が修行の相手になれると認めてくれるでしょう?」

 

「………。へ、寧ろなじみ相手にボコられる密度の修行が挑めそうだぜ!!」

 

 

 肩を切りつけたその傷が、一瞬にして消える。

 これが一誠くんの持つ力なのだろうか……いやでも、今一誠くんから放たれる雰囲気はそれとは別のものを感じる。

 

 

「過程をキャンセルして結果を残すか……くく、じゃあ俺も教えてくれた礼に教えないとな!」

 

「!?」

 

 

 その予感は当たっていたみたいで、一誠くんから強大な圧力が放たれる。

 

 

「適応し、吸収し、無限に成長する。

ふふ、その力に適応させて貰うぜ……!」

 

 

 頭髪が茶髪から真っ黒に変色し、瞳は獲物を狙う猛禽類の様に鋭い。

 普段はスケベでヘラヘラしてるだけだけど、今の一誠くんは姫島さんが惚れた理由として充分に説得力があると思う……だって今私……猛獣を思わせる瞳で睨まれてドキドキしてるから。

 

 

「オラァ!!」

 

「っ!?」

 

 

 四足歩行の獣の様に姿勢を低く構えた一誠くんの姿が地面が抉られたと同時に消えた。

 人目を避けて町外れの廃病院の中庭で修行をしている訳だけど、その判断は正解だったわ。

 

 

「追憶の――うぐ!?」

 

「出す前に叩け!」

 

 ジェット機を思わせる衝撃波により廃病院の窓が全て割れ、その力をそのまま倍にして返してやろうと鏡を出そうとした私は、かつてない衝撃と鋭い痛みを全身に受けながら思いきり吹き飛ばされ、囲いの壁を盛大に破壊したのだから……警察に通報されてもおかしくない騒動よね。

 

 

「ぐ……ぅ……」

 

「椿姫ちゃんのスキルの弱点は、自分で認識したものしかキャンセルできない。

つまり、椿姫ちゃんの認識力を越えた一撃を与えれば――」

 

 

 砂煙と共に埃っぽい廃病院の中へと吹き飛ばされた私は、全身に伝わる鈍い痛みと上から押さえ付けられてるかの様な重さに立ち上がれず、目の前に居るかの様に聞こえる一誠くんの声と――

 

 

「何とか出来る」

 

「あぅ」

 

 

 額に受けたデコピンの衝撃に私は意識を手放してしまった。

 

 

「へへ、俺の勝ちだな椿姫ちゃん」

 

 

 意識を失う直前に見せられた一誠くんの子供みたいな笑顔にキュンとしながら……。

 

 

 

 その後どうなったのかは解らないけど、目を覚ました私は、お世辞にも良いとは言えない古びたアパートらしき家にて布団に寝かされていた。

 

 

「あ、起きた。大丈夫か?」

 

「い、一誠くん? ここは……?」

 

「俺の家。

椿姫ちゃんの家とか知らないし、俺が気絶させちゃったから取り敢えずね」

 

 

 どうやら気絶した私を一誠くんが介抱してくれたらしく、この場所も一誠くんの家の様だ。

 

 

「それにしても、スキルホルダーだったんだな椿姫ちゃんって」

 

 

 先程の修行で受けたダメージが嘘の様に消えている事に身体を起こした際気付いて疑問に感じてる私だが、一誠くんの口にした言葉がそれ以上に引っ掛かった。

 

 

「スキルホルダー……?」

 

 

 聞いた事もない言葉に復唱してしまった私に一誠くんはちょっと嬉しそうに頷く。

 

 

「そ、鏡っぽい神器じゃなくて、椿姫ちゃんが見せた過程をキャンセルする力の事さ。

それな、なじみと俺と同質の奴なんだよね」

 

「あ、やっぱり」

 

「その反応だとある程度察してたんだな? あの制御からして随分と使いこなしてたみたいだし、まあ納得だな」

 

「……。あるってわかったのは、アナタと出会った後すぐだから」

 

「え、マジか。ねーちゃんが知ったら機嫌悪くなりそうだぜ」

 

 

 驚きつつも何処か納得した顔をしながら、葡萄のジュースを私に飲ませてくれる一誠くん。

 どうやら姫島さんはこういうタイプの力を持ってないらしい。

 

 

「その力、あんまり見せびらかすのはお勧め出来ないぜ。

化物扱いされるか、どっかのバカが利用しようとするかもしれないし」

 

「ええ、それは……何となく解ってるわ」

 

 

 化け物扱いという言葉を口にした時、ほんの一瞬だけ表情を暗くした一誠くんに私は昔散々された事を思い出しながら頷いた。

 寧ろ一番よく解ってる事だから……。

 

 

「さーてと、椿姫ちゃんのダメージは逃がしたから大丈夫だとして、家は何処なんだ? そろそろ良い時間だし送るぜ?」

 

「え、あ……それは――」

 

 

 そんなこんなで夜という事もあって今日は解散する事になり、家まで送ってくれるという一誠くんに甘える形になろうと思って自宅の場所を大まかに説明しようと口を開きかけた私だったが、ふとそこで窓の外に吊るされてる洗濯物に視線が移り……思い出した。

 

 

「あの吊るされてるのって安心院さんの下着かしら?」

 

「へ?」

 

 

 そういえば安心院さんとこんな狭い部屋に一緒なんだって事に。

 

 

「そうだけど、それが?」

「ふーん……当たり前みたいに肯定するのね」

 

「? そりゃ俺が着ける訳が無いし、椿姫ちゃんは既になじみとの関連性を知ってるしな」

 

 

 その瞬間私の胸の中はモヤモヤモヤモヤとした気持ちが発生し、徐々に大きくなっていくのを感じた。

 姫島さんも知ってる通りだけど、安心院さんと一緒に住んでる……なるほど、直面してみると物凄い嫌ね。

 

 

「それより早く帰った方が良いぜ。そら、立てるだろ?」

 

「……む、無理。

怪我は確かに無いけど、何だか立てないくらいに体調が……」

 

「はい?」

 

 

 嫌だし、今は見えないけど安心院さんが帰って来た後の事を思うとムカムカするので、そのまま再び横になりながら仮病を使ってやることにした。

 

 

「体調が悪って……。

いやそれは無いと思うんだけどな……否定したし」

 

「精神的に辛いのよ。

それに私って独り暮らしだから、そ、その……心細い……」

 

 

 私は所詮その時会っただけに過ぎないし、姫島さんや安心院さんと違って勝てる要素が何にも無い。

 だから……だから、卑怯と言われてもこれくらいはさせて貰っても罰は当たらない筈。

 

 

「えっとつまり帰るのがかったるいと? ならここに泊まる?

俺の普段の性格的な意味合いであんまりおすすめしないけど」

 

「そう言ってる時点で信用できるわよ。

というか……うん、別に良いのよ?」

 

「えっと、何が?」

 

「何って……そ、その……ナニよ。

アナタに胸も揉まれた事だから……うん」

 

 

 私だって……。

 

 

「俺、明日死ぬのか?

椿姫ちゃんみたいな美少女がお泊まりするとか……」

 

「ちょ、ちょっと良いかしら?」

 

「ん、はいはいどうしたの?」

 

「こ、心細いからぎゅってして欲しい……」

 

「……………。俺やっぱり死ぬな。間違いねーよ」

 

 

 私も彼が好きだから……。

 

 

「あ、でもねーちゃんに怒られたくないから、手だけ握るのは――」

 

「じゃあ私からしたって事にすれば良いわ! 姫島さんは今だけ忘れて!」

 

「ほみゅ!? お、おぉ……? ね、ねーちゃんクラスの柔っこさ!?」

 

 

 それにしても一つ気付いたわ。

 

 

「ねぇ、一誠君のあのヘラヘラしたスケベな態度はブラフなの?」

 

「な、なんでそう思うんだよ?」

 

「だって何時もみたいなだらしない顔もしないし、寧ろ動揺している様に見えるから……」

 

「ち、ちげーよ! わかってないのは椿姫ちゃんだっつーの! いくら俺でも椿姫ちゃんみたいな美少女から急に抱き着かれた挙げ句パフパフ状態されたらテンパるわい!

 ていうかさっきから良い匂いしてアレだっつーの!」

 

「私だって恥ずかしいわよ……」

 

終わり




補足

真羅椿姫ちゃんの密かなる覚醒。

過程をキャンセルし、結果だけを残すスキル


文字通りの意味というかもろキンクリ

弱点として彼女自信の意思と認識力に依存するので、気絶したり意識外からの攻撃には弱い。

しかるに、成長すればその限りでは無い。

スキル名は……どうしよ。

その2
朱乃ねーちゃんはスキルがありません。
そして成長速度も遅いです。
それがある意味ねーちゃんのコンプレックスだったりであり、椿姫ちゃんの事を知れば余計にぐぬぬ化してしまわれるかも……。

その3
反対に椿姫ちゃんは姫島さんと安心院さんの持つ一誠くんとの密度にコンプレックスがあり、今回はもう色々とテンパりつつもむにゅむにゅさせてあげましたとさ。


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風紀装備イッセーの特攻

飛びます。
まあ、こんな感じ


 穢らわしい存在だと罵られ、無意味に命を奪われた時の絶望は今でも忘れてはならない。

 そして、その時初めて抱き、そして今でも糧とする強烈な劣等感を消してはならない。

 

 弱いから喪い、弱いから守れず、弱いから奪われる。

 冷たくなった母娘の血の感触が未だにこの手に残る感触は消えない。

 

 だから俺は決めたんだ。

 誰にも文句を言わせない程の力を手にしてやると。

 それが例え間違っていようとも、俺はそれでも強くなるんだ。

 

 

「負けました、ね」

 

 

 鬼と言われようが、クズと罵られようがな。

 

 

 

 

 

「本当に期待通りにしてくれたもんだな。

まったく、呆れるより笑ってしまうぜ」

 

 

 神器は想いを糧にする力と呼ばれる様に、スキルもまた精神の在り方により形作る。

 寧ろ、より密接に精神に関わる辺り、スキルの方が精神性でいえば神器より上なのかもしれない。

 

 その現実を認めたくないという想い故に。

 大切な人達を何者からも守るという想いが故に。

 

 

「というか、どのツラ引っ提げて俺の前に来たんだよ……このカス共が」

 

 

 守るべき人達以外は全てゴミと断ずる一誠の精神性は、レーティングゲームに見事負けましたと自分の下へとやって来たリアスと朱乃以外の面子を前に、今を以てして最高潮に達したのは云うまでも無い。

 

 

「しかもテメー等は早々にやられて退場したって話らしいじゃないか。

なぁ、お前等は何の為に修行してた訳? ふざけてんのかよ?」

 

「「「………」」」

 

 

 レーティングゲームの日から二日後。

 未だに朱乃達が帰ってこない事になんと無く察してしまった一誠は、もう我慢なら無いと自ら椿姫かなじみの手を借りて冥界に乗り込もうと風紀委員室にて12日目になる真面目な学生生活を送りながら考えていた時だった。

 

 

「「「………」」」

 

 

 絶対に普段なら来ない筈の、それもリアス眷属の四人がバツの悪そうな顔でこの場所に訪れた時点で一誠は敗北を察し、暫くは凛、祐斗、アーシア、小猫の言い訳じみた話を黙って聞いてやったが、一誠にしてみれば何を言われようが、アレだけ啖呵切っておいて負けた時点で言い訳にしか聞こえず、更に言えば凛はまだまぁまぁの戦果だったらしいにしても、この残りの凛の取り巻き三人は目も当てられない無様さを相手だけでは無く、観戦していた悪魔達にも見られてしまったという時点で一誠は呆れて物も言えない気分だった。

 

 

「で、そこで萎びてる兵藤凛は頑張ったけど駄目だったから許せってか? カッカッカッカッ……………本当にグレモリー先輩の部下って肩書き無かったら今すぐぶっ殺してたぜテメー等」

 

「っ!?」

 

 

 極めつけはこの期に及んで『凛は悪くない』と馴れ合ってる事に対し、最早皮肉じみた姉貴様呼ばわりすら止め、他人ですと言わんばかりのフルネーム呼びとなる一誠に凛の身体がビクリと震えた。

 

 

「秘薬とやらを使われてしまおうが、どれだけ頑張りましたと嘯いていようが負けは負けなんだよ。

それをやれ誰々は頑張りましたからだのと往生際の悪いことをほざきやがって。

そもそも聞けば朱乃ねーちゃんが一人で必死こいてグレモリー先輩を守りながら戦ってたのを呆然と見てましただぁ? ……………………ぶっ殺すぞゴラァ!!」

 

「「「っ!?」」」

 

 

 最早我慢できませんと委員長席として使っていた机を蹴り上げ、天井に勢いよく激突させてバラバラに粉砕させた一誠は、それでも尚微妙に自分に向けて責める様な視線を向けてくる三人と、既にその時点で色々とへし折れてしまってる凛に向けて輩丸出しの怒声を浴びせた。

 

 

「さぞ相手の悪魔男は拍子抜けだったろうよ! 馴れ合いだけの口先だらけのゴミ共相手に余計な体力まで使ったんだからなぁ!!」

 

 

 バラバラに砕けて落ちた机の残骸を更に蹴り飛ばし、これまでに無い程の憤怒の形相は、とても言葉や文字で伝えられるレベルでは無く、かつて化物だと自覚した上で激怒した黒神めだかの様に頭髪を血の様に染め上げながらの怒声は、如何に激怒しているかを如実に表していた。

 

 

「チッ、それで今二人は何処なんだよ役立たず共」

 

「冥界で結婚の準備を……」

 

 

 しかし怒った所で現実は否定出来ない。

 どうであれそのライザー・フェニックスとやらに負けてめでたくご結婚となった今、目の前で塞ぎ込んでるフリしてるだけにしか見えない木場を除いた女共……そして何より朱乃がその会ったこともない男の手に掛かってしまうのだ。

 別にこの三人とリアスは良い……どうであれ負けたのは本人達なのだから。

 しかし朱乃だけは絶対に許さないし、この事をバラキエルが知ればまず間違いなく冥界に進行して暴れるに違いないのだ。

 

 ある意味父親的な意味合いでバラキエルを慕う一誠にしてみれば、バラキエルの堕天使としての立場を崩す真似だけはしたくない。

 

 となればだ……。

 

 

「場所を知ってどうするんですか?」

 

「まさか人間のキミが乗り込むつもりなのかい……?」

 

「あ、危ないですよ……?」

 

「………」

 

「黙って教えろ。クソの役にも立たねぇカス共」

 

 

 自分が……立場も何も無い自分が朱乃を例え悪魔達を敵に回しても連れ出すしかない。

 

 バラバラになった机を退かし、風紀委員室の隅っこにある一人用のロッカーを開けながら、訝しげな表情をする三人と、何故かさっきから全く喋ろうとしない凛を背に、明らかに学園指定の制服とはデザインの異なる……もっと言えば改造長ランを取り出してその身に羽織る。

 

 

「男装していたらしい先々代から流れて来たって前の先輩に言われて取っておいたが、こんな前時代的なもんをまさか着る事になるとはな」

 

 

 先代……つまり一誠を後継者に指名してきた前風紀委員長から引き継ぎの時に渡された先々代風紀委員長が着ていたらしい、一誠の体格に合う様に先代達が改装した男子用改造黒長ランのボタンを閉め、等身大鏡で確認しながら自嘲じみた笑みを浮かべる一誠は、この長ランの意味を知らずに変な顔になってる四人にもう一度朱乃とリアスの詳しい居場所は何処だと口にしながら、開けっぱなしにしていたロッカーから『風紀』と行書体で書かれた腕章を取り出し、それまで自分でつけていた腕章と取り替えて腕に着ける。

 

 

「『殺す気で風紀を執行する時にだけ着けろ』って言われた通り、今から着けさせて貰うぜ……冥ちゃん先輩」

 

 

 現世代で唯一自分だけが風紀委員に入り、その長を引き継ぐ時に自分をスカウトしてきた『小学生にしか見えない小さな先代風紀委員長』から貰った腕章を、懐かしそうに微笑みながら撫でながら、当時自分が口にしていた先代の愛称を小さく紡いだ一誠。

 その表情は何処までも穏やかで、どこまでも慈愛的で、どこまでも敬愛的であり、小猫とアーシアと祐斗は幽霊を見るかの様なギョッとした顔をし、凛はぽけーっと決して自分には見せること無い一誠のその表情に見惚れた。

 

 

「……」

 

 

 だがそれは一瞬の事であり、数秒後には冷たい無表情へと変えた一誠は、立ち尽くす四人に三度目となる言葉を……。

 

 

「とっとと教えろよ」

 

 

 どこまでも冷たく言い放った。

 

 先々代から受け継いだ長ラン。

 先代から受け継いだ腕章。

 その両方を今その身に纏った兵藤一誠は、個人的でありながら執行する決意を完全なものにしたのだ。

 

 

「早く言わねーと迅速に噛み殺すぞ?」

 

 

 その背に書かれた『風紀』という二文字の下に……。

 

 

 

 冥界・ルシファー領都市=ルシファード。

 

 現魔王が一人、サーゼクス・ルシファーが納める冥界大都市の一つであるこの場所は騒然としていた。

 

 

「リアス様とライザー様の結婚式が中継されるらしい」

 

 

 冥界大貴族を背に持つ者同士の結婚。

 そのニュースは冥界全土に伝わり、そして今ルシファー城にてその結婚式の様子が中継されるという程だった。

 

 だが、しかしその結婚式は――

 

 

「居た、朱乃ねーちゃんの気配」

 

 

 たった一人の人間の少年の出現により、滅茶苦茶にされるのだった。

 

 

「あの無駄にデカい建物の中か……」

 

 

 

 人間文字で風紀と書かれた腕章と、背に同じ文字が書かれた長ランを羽織った……悪魔以上にやることがエグい進化の塊の様な少年に。

 

 

 

 リアスは絶望した。

 そして何処までも自分が選んだ選択肢が愚かな事だったと後悔した。

 

 

「………」

 

「リ~アス~ 似合ってるぜ」

 

「……………」

 

 

 どんな理由にせよ自分達は負け、取り決め通りに目の前でヘラヘラしながら結婚衣装へと着替えさせられた自分の身体に触れてくるライザーと結婚しなければならない。

 それだけでも絶望なのに……。

 

 

「リアスの女王やそのあの騎士以外の下僕達もちゃんと可愛がってやるから心配すんなよ」

 

 

 朱乃達もまたそれに巻き込んでしまった事に、何よりも口では何やかんやと言うが、その実朱乃を誰よりも大切にしていた少年の期待までも裏切った。

 その事がリアスの精神を今にでもへし折ろうとしており、そして最期まで自分を守り、負けてからずっと傍に居てくれた朱乃にまで今まさにベタベタ触れてるライザーを見るだけで悔しさで涙が溢れそうだった。

 

 

「朱乃に触れないで頂戴……!」

 

「何だよ、早速焼きもち妬いてくれんのか? 嬉しねぇ?」

 

 

 無言でライザーに髪だ何だと触れられても我慢してる朱乃を少しでも守ろうと威嚇するリアスだが、言われた本人の金髪でチャラそうな風貌のライザーは、それをリアスの嫉妬と受け取り、睨むリアスの頬を撫でる。

 

 

「心配しなくても絶対に愛するさ……くくっ」

 

「………っ!」

 

 

 元々リアスはライザーが好きか嫌いかで言えば嫌いだった。

 オカルト研究部の部室に現れた時も、これ見よがしに眷属達に邪な真似をしていたのを見せられれば好きにられる訳も無い。

 だからこそ、眷属達を巻き込む形になろうとも頭に血が昇って否定していたリアスはレーティングゲームに臨んだのに、結果はこのザマ。

 

 非戦闘員のアーシア、戦車の小猫、騎士の祐斗は最序盤で脱落し、兵士の凛は赤龍帝として終盤まで踏ん張ったけど脱落し、残った女王の朱乃とリアスで王のライザーを一人残して殲滅までこぎ着けた。

 しかし結局は不死のフェニックスの力には勝てず、体力負けをする形で敗北してしまった。

 

 

「騎士はともかくとして、兵士と戦車と僧侶は何処行ったんだ?」

 

「……」

 

「ん、まさか逃げたのか? 無駄なのに」

 

「知らないわよ。気付いたら姿を消してたし」

 

 

 挙げ句のはてにはその小猫とアーシアと祐斗と凛が挙って朝から姿を見せない。

 この状況を考えると逃亡したと考えても納得出来るし、最近は一種の疎外感すら感じていた。

 だから巻き込んでしまった事を思えば、逃げたとしてもリアスは憤慨するつもりは微塵も思わず、寧ろ朱乃も逃げてしまえばよかったとすら思っていた。

 

 しかし朱乃は頑なに……。

 

 

『私は何処までもアナタの女王で、友達のつもりです。

だから最期までアナタの傍らに居る……きっと来てくれるから』

 

 

 包み込む様にリアスの手を取り、微笑みながら離れないと言ってくれた。

 それはリアスにしてみればどれ程に嬉しかったか……言葉に表すにはあまりにも足りない事だった。

 

 しかし、朱乃の言う『来てくれるから』というその彼はまだ姿を見せない。

 いや、よく考えたら彼は自分達の状況を知らないから無理も無いし、知らせる手段も無いのだ。

 

 人間界に一旦でも戻る事を許さなかったライザーのせいで……。

 

 

「ライザー様、そろそろお時間ですので控え室の方へ」

 

「おっと、わかりましたグレイフィア様。

じゃあリアス……また後でな」

 

 

 考えてみれば彼は冥界にどうやって来れるというのか……。

 それでも信じきった表情で微笑む朱乃には申し訳ないが、リアスには到底かれが助けに――ましてや来たところでこのそうそうたる悪魔達から逃げ仰せるとは思えない。

 

 ライザーからされそうになった額へのキスを全力で逃げながら、リアスはただただ刻一刻へと迫る絶望の時間に気持ちを沈ませていくのだった。

 

 

 

 

 結局来ること無く始まった結婚式。

 魔王や悪魔の有権者、そして両親が見ている中を、式用に豪華に作り替えた会場のロードを歩くリアスは、いよいよ以て覚悟しなければならない絶望の時間へと入っていく。

 

 

「それではこれより、ライザー・フェニックス様とリアス・グレモリー様の―――」

 

「………」

 

 

 来訪席に座る朱乃と目が合い、そのまま逸らしてしまうリアスの耳には取り仕切りを任されてる悪魔の声は聞こえない。

 あるのは力が無い故に招いてしまった絶望の未来。

 慰みものにされる親友というヴィジョン。

 

 結局姿を現さなかった凛、小猫、アーシア、祐斗に心の中で『逃げられるところまで目一杯逃げなさい』と想うリアスは遂にライザーとの誓いのキスを――――

 

 

 

 

「っ!?」

 

「……! ふふっ……♪」

 

 

 させられそうになった正にその刹那、会場から音が消えた。

 

 

「て、敵襲か!?」

 

 

 ガラガラと瓦礫が落ちる音が未だ止まない中、突然の状況に泡を喰ったかの様に来賓の悪魔達が、砂煙により塞がれた視界もあってか盛大に騒ぎ立てる。

 

 

「チッ、魔王様の御前だというのに、誰だこんなふざけ……た……」

 

 

 それは本日の主役であるライザーも同じであり、折角モノにした女との結婚式を邪魔されてご立腹ですとばかりに、こんな真似をした犯人を燃やしてやろうと意気込んだのだが……。

 

 

「な……なんだよ……これ……」

 

 

 砂煙が晴れ、視界が確保されると同時に飛び込んできた地獄絵図の様な光景に開いた口が塞がらず、イケイケの根性すら削がれたまま目の前の会場だった……いや、もっと言えば冥界の象徴の一つであるルシファー城『だった』筈のこの場所の現状に呆然となってしまった。

 

 

「僕の力も含め、何重にも張った障壁ごとだなんて……一体何処の誰がこんな事を」

 

 

 現・ルシファーであり、リアスの兄でもあるサーゼクスすら目を見開き、自分達の居るこの場所以外が『更地』となって消えたルシファー城に、並みの存在の仕業ではないと確信し、傍らに控えていた妻と共に警戒心をマックスに上げる。

 

 だが、どよめく悪魔達が目にしたのは最も信じられないモノだった。

 

 

「無駄にデカいからいっそぶっ壊しちまえって判断は正解だったな」

 

 

 砂煙が晴れ、悪魔達の目に飛び込んで来たのは、警備の悪魔の一人の足首を掴んで引きずりながら此方へとやって来た一人の少年だった。

 

 

「だ、誰だ貴様!」

 

 

 ズルズルと、歯が全てへし折られ、見るも無惨な顔面へと成り果てた警備の悪魔を引きずりながら近付いてくる変わった格好の少年に悪魔の一人が吠える。

 

 

「……」

 

 

 だが少年は返事をせず、持っていた警備の悪魔を適当に放り捨てると、そのまま真っ直ぐ進み、唖然と固まるライザーと目を見開くリアスの前までやって来て――

 

 

「あんまりにも遅いから迎えに来たぜねーちゃん」

 

 

 そのまま直角に曲がり、同じく動けない悪魔達の居た来賓席だった場所へと行き、その中に一人微笑んでいたリアスの女王・姫島朱乃の前に立つと、これだけの騒ぎを起こしておきながら平然と迎えに来たと宣うのだった。

 

 

「は?」

 

「あ、あれはリアス嬢の女王……」

 

 

 雷の巫女という二つ名でありリアスの女王という事もあってある程度顔が割れてる朱乃に話し掛ける少年に悪魔の一人が声を溢す。

 しかし誰も不思議な事に動けない。

 あまりにも大胆で、あまりにも不届きで、あまりにも凶悪な所業を真正面から貰ったが故に、観察するかの様に目を細める魔王やそれに準じる者達以外の全員が動けない。

 

 

「やっぱり来てくれた」

 

「当たり前だろ。ったく、負けちゃったらしいじゃねーか?」

 

「うん……ごめんなさい」

 

「いや、別に責めてる訳じゃないさ」

 

 

 親しそうに話してるのを見ても動けない。

 

 

 

「で、負けてから暫く経ったけど、何にもされてねーよな?」

 

「…………。えっと、あの人に髪を触られたとか、お尻を触られたって事以外はまだ……」

 

「…………………あ゛?」

 

 

 妙に朱乃の口調が甘えたものになってて、更にいえば頬をほんのりと紅く染めながら目の前の少年に抱き着く姿を見ても。

 抱き着いた体勢で、スッとライザーを指差して自分が負けてからの数日にされた事を話し、それに対してそれまで笑みを浮かべてた少年の顔が一転して鬼の様な形相に変質したのを見せられても動けないし声も出ない。

 

 

「へー……ねーちゃんの……ほー?」

 

「でも、負けたらそうなるって決まりだったから……」

 

「あぁ、そうだったね。なら仕方ない――」

 

 

 リアスと並んで少年に対して動揺しているライザーにスタスタと近付くのを誰も止めようと出来ない。

 そして――

 

 

「わきゃねぇぇぇだろぉぉぉがぁぁぁぁっ!!!!!」

 

「ぐげぇ!!?」

 

 

 どう見てもクリーンヒットな拳を顔面に貰い、何かが砕ける様な鈍い音を奏でながら床へと叩き付けたライザーを助ける者も皆無。

 

 

「が、がぼ!? き、ぎざま――くべぇ!!?」

 

「殺す、殺す! ぶっ殺す!」

 

 

「き、貴様、何をしてる!」

 

「取り押さえろ!!」

 

 

 何のカラクリなのか、頭髪がグレモリーの悪魔の如く真っ赤に変色させながらライザー・フェニックスを馬乗りで殴り続ける姿を目にしてやっと、その場に居た朱乃とリアスとその身内と魔王以外の悪魔は反応し、一斉に飛び掛かったのだが……。

 

 

「退け雑魚共がぁぁぁっ!!」

 

 

 リアスに激怒した時よりも更なる憤怒を搭載した乱神モードとなった……リミッターの外れた進化の化身へと一気に成長した一誠を止めるには、あまりにも無謀だった。

 

 

「ふ、はは、ヤベェよ……そのまま連れ帰るつもりで済ませるつもりが、完全に線がイッちまったぜ……。

ははは…は…――全員皆殺しダァァァァッ!!」

 

 

 朱乃という理由を素材に爆発した一誠の進化は、たった数秒で別次元とも呼べる進化を促したのだ。

 

 

「待って一誠くん! めっ!」

 

「ぬ……」

 

 

 ただ、朱乃が素早く顔面がグチャグチャにされたライザーの首を掴んで吊し上げていた一誠の背に抱き着きながら止めたお陰で止まりはしたが……。

 

 

「チッ」

 

「あ、あの兵藤君……ど、どうやってここに?」

 

「あの役立たず共から聞いたんすよ。

ったく、アンタも大概同情するぜ、あの温い馴れ合いしてる奴等に散々足引っ張られてよ」

 

「え、四人と会ったの? 私のバカさ加減に愛想を尽かしたと思ったのに……」

 

「アンタがそう思う必要もないし、寧ろ見放すという意味で逆だと思いますが。

取り敢えず奴等からこの場所と行き方を聞き出してからは知りませんよ。興味もねぇ」

 

「あ、そ、そう……。ところで兵藤君、その、言い辛いのたけど……」

 

「え、あぁ……あそこに居る強そうなのがこのまま帰してくれないって顔してる事ですか? 流石にわかりますよ俺でも」

 

「………」

 

「派手にやり過ぎよ……」

 

 

 そのまま朱乃を連れてすんなり帰れる状況では無かった。




補足

今回で同情の余地があるリアスさん以外の悪魔は基本信用しないスタンスへと切り替わります。
それが例え美少女悪魔だろうが何だろうが……。

その2
勝利後のハイで朱乃ちゃんのお尻を触ったライザーさんは、それを知ったマジギレ一誠にミンチより酷い事になりました。


さてここで問題が一つ。

どいう訳か一誠にズタボロにされたライザーさんは『何時もの再生が全く出来ないまはまズタボロのまま』という現象が発生しましたとさ。


凄い関係ないけど、ライザーさんより前にイッセーくんは逆押し倒しで朱乃ちゃんの事をお触り済み。




そしてこれも関係ないけど、イッセーくんが先々代と先代から受け継いだ風紀アイテムの改造長ランと腕章。

改造長ランは男装してたらしい『噛み殺す』が口癖の不良風紀委員。

腕章は『小学生みたいな見た目だけど年齢はイッセーより年上の冥が名前に入る』風紀委員長。


まあ、分かる方にはわかるかな。


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色んな意味でド優遇

こんなシリーズ始めて数種類。

ある時は変態。
ある時はストーカー
ある時は畜生。

と、ありましたが……遂に今期にて確変開始。


 来ると思っていたから悲観はしなかったし、一誠くん以外の男にベタベタ触られても我慢できた。

 

 

「こんな派手な真似をしてくれたばかりか、リアスと親しそうにしている様だけど、一体キミは誰なんだい?」

 

 

 一昔前の不良が着てた様な、背に風紀と大きくと書かれた丈の長い学ランと腕章を携えてやって来たのには驚いたというか、確かあの二つって私やリアスにとっても先輩に当たる方々が現役の頃にそれぞれ身に付けていた奴だったのを思い出したわ。

 まさか一誠くんが引き継いでたなんて……。

 

 

「駒王学園・風紀委員長」

 

 

 いえ、それよりも今は魔王様や悪魔の上層部の前で冥界の象徴の一つである魔王の城を更地にした事について、魔王・サーゼクス様が穏やかに見えて鋭い殺気を放っているこの状況をどう切り抜けるかだ。

 ライザー・フェニックスをボコボコに殴り付け、それを止めようとした一部の来賓悪魔達も巻き込む形で張り倒してしまった以上、ただ私を迎えに来ただけと主張しても『はいそうですか』とすんなり帰して貰える訳も無く、現に更地となっても残った椅子からゆっくりと立ち上がったサーゼクス様は、位置的に見下ろす様にして何者かと問い掛けてきている。

 

 

「只の人間として、姫島朱乃を迎えに来た」

 

「リアスの女王をかい? それにしては随分派手にやってくれた様だけど、その理由は?」

 

 

 サーゼクス様の殺気を真正面から受けても涼しい顔ながら、それでも私を迎えに来ただけだと言い切る一誠くん。

 

 

「『迎えに来ました』『姫島朱乃をつれていきます』『さようなら』と言った所で、アンタ等がすんなりとお見送りしてくれるとは到底思えないからな。

ましてや、人間を見下してるっぽい悪魔共(オマエラ)だしな」

 

 

 不法入国、悪魔への攻撃、魔王への不敬。

 今の時点での一誠くんは間違いなく悪魔にしてみれば罪人だと見なされているだろうし、サーゼクス様も冷静ながら見たこともない程に鋭く重苦しい殺気を放っているからしてそう思われているのだろう。

 

 

「なるほど、キミが冥界(ココ)へどうやって来たのかもそうだが、間違いなく他種族の不法入国者だ。

加えて多数の悪魔への攻撃に器物破損……」

 

 

 だからこそ、避けることは既に不可能。

 

 

「以上の事から、魔王として侵入者であるキミを排除する」

 

 

 ふわりとその場に浮かんだサーゼクス様は厳格な声で一誠くんにそう宣言する事で始まってしまった……戦いに。

 

 

「お兄様!」

 

 

 ルシファー城の破壊の余波で砂埃に汚されたウェディングドレスを着たリアスが、止めようと叫ぶ。

 

 

「退いてなさいリアス。

お前の知り合いらしいけど、冥界をこうも荒らされてしまったとなれば、黙っている訳にもいかない」

 

 

 しかしそんなリアスをサーゼクス様は一言で斬り捨てると、傍らに控えていたグレイフィア様に命じ、リアスの身柄は抑えられた。

 

 

「下がってなねーちゃん。どうやらあのボス犬みてーなのを黙らせれば堂々と帰還出来そうだぜ」

 

「……。ここまで騒ぎを大きくしなければダメだったの?」

 

「別にねーちゃんだけなら普通に拐う形で持っていけたけど、どうも俺はこの悪魔ってのにムカついて仕方ねぇんでね。

あのボス犬を一撃ぶん殴ってスッキリしてやりてぇのさ」

 

 

 そして一誠くんも私から離れろと言って構えた。

 ……今回の事で悪魔の大半を、父以外の堕天使と同じく嫌ってしまった様で。

 

 

「まあ見てな、何だかさっきから頭も目も冴えまくってて、力もみなぎりまっくて何でも出来そうなんだ。

無事にねーちゃんを家に帰すよ……絶対にね」

 

 

 私達とは違い、たった10日で急激に強くなった覇気を纏いながら一誠くんはサーゼクス様に向かって地を蹴り、飛翔する。

 

 

「人間ごときと堕天使もほざいてたが、敢えて俺は言ってやるよ。

テメー等ごときが、人間様を嘗めてんじゃねぇってなぁ!!!」

 

 

 回す必要もなかった悪魔をも敵に回して……。

 

 

 

 一誠の強みは、破壊力でもなければ速さでもない……適応能力であった。

 

 

「っ!?」

 

「はははは!! 全部が遅せぇ!!!」

 

 

 どんな環境であろうが瞬く間に適応し、そして進化する。

 姫島朱乃の身が何処の馬の骨とも知らない悪魔に好き勝手させられるという現実をただ否定したいが為にその精神は爆発し、緩やかであった進化の速度が急激に上昇する。

 

 

「セリァ!!」

 

「がっ!?」

 

 

 最早今の一誠はルシファー城を更地へと変え、ライザーを殴りまくっていた時とは別次元でありその速力も、腕力も何もかもが異質な程に進化をし続けており、空中から見下ろしていたサーゼクスがまるで反応できずに殴られるというレベルにまで達していた。

 

 

「さ、サーゼクス様!!」

 

「ば、バカな!? サーゼクス様が殴られただと……!?」

 

 

 運良く一誠に飛び掛からずに無事だった悪魔達は、自分達を統括する王の一人が殴られ、地面へと叩き付けられる姿を見て大きく取り乱す。

 冥界最強の一角にて超越者とも呼ばれるサーゼクスがたかが人間に殴り付けられたのだ。

 動揺しない方がおかしいのだが……。

 

 

「ぬ!?」

 

 

 サーゼクスとて魔王だ。

 殴られただけでやられる程柔では無く、地面に叩きつけられたその瞬間に放った滅びの魔力で着地した一誠の左腕を消し飛ばした。

 

 

「おおっ!?」

 

「人間の腕を消し飛ばしたぞ!」

 

「やはり流石サーゼクス様だ!」

 

 

 左肩から先が消し飛んだ人間の姿を見た悪魔達が、砂煙を背に姿を見せたサーゼクスを絶賛する。

 

 

「驚いた。油断したつもりは無かったのに、呆気なく殴られるなんて。

だけどこれが最終通告だ、今降伏すればそれなりに話は聞いてあげよう」

 

 

 全身から魔王たらしめる滅び魔力を放ちながら、砂埃で汚れながらも自分の左肩を見て顔をしかめる一誠に警告しつつ、身体の一部を失っておきながらこの冷静ぶり。人間の子でありやがら何て強靭な精神力……と内心舌を巻いていたサーゼクスは、恐らくこの程度で降伏するつもりは無いだろうと今度は完全に油断無く身構えていたのだが……。

 

 

「腕消したくらいで勝った気になれるなんて、魔王ってのは気楽だな」

 

「なっ……!?」

 

 

 消し飛ばした筈の一誠の左腕は、着ていた長ランを含めて何事も無かったかの様に、一誠の腕としてそこにあった。

 これにはサーゼクスも、そして見ていた悪魔達も訳が解らずに動揺している。

 

 

「今、何をした? 確かに私の攻撃でキミの腕は……」

 

 

 グルグルと健在だぜとばかりに左腕を回して見せる一誠にサーゼクスは幻覚の類いを疑いながら一誠に問い掛ける。

 

 

「正直に種明かしをするバカなんざいねーだろ、漫画じゃあるめーしよ!」

 

「ぐっ!?」

 

 

 だが一誠はそんなサーゼクスの質問に取り合う事無く斬り捨てると、初激の時よりも更に上昇した速力で反応が出来ずに固まるサーゼクスな懐に潜り込み、右手を翳していてがら空きだった腹部に左拳でリバーブローをめり込ませる。

 

 

「ごほっ!?」

 

 

 鈍い骨を砕く音がサーゼクスから放たれ、肝臓が悲鳴をあげる。

 

 

「チィ!」

 

 

 しかしサーゼクスも負けじと自分の懐へと入ってきた一誠に向かって自爆覚悟の滅びの魔力を打ち込もうと一誠の頭を掴まんと手を伸ばそうとしたが。

 

 

「あがっ!?」

 

 

 成就を待たずして、上体を屈めていた一誠の拳がサーゼクスの顎をカチ上げた。

 

 

「ぐ、ぉ……!?」

 

 

 所謂ガゼルパンチと呼ばれるボクシングの技の一つだが、力も速力も今のサーゼクスを越えている一誠の一撃だ。

 そのダメージは計り知れないものがある。

 

 

「つ、強……。お兄様を圧倒してるなんて……」

 

 

 レイナーレの時に見せられた力で既に一誠が只の人間では無いと認識していたリアスですら、目の前の現実が信じられ無いといった表情だ。

 勿論、他の悪魔達も、そして約10日振りに見た朱乃もだ。

 

 

「こ、の……!」

 

 

 そんな悪魔達の期待を背負っていた魔王は、脳が揺られ平衡感覚が麻痺した意識の中歯噛みしながら、目の前の――身体を丸めるような構えをしながら∞を描く様に身体を大きく振る隙きだからけの動作を前にして自分の身体が言うことを聞かない事も含め……。

 

 

「オラオラオラオラァ!!!!」

 

 

 かつて無い力で思いきり左右から顔面を叩き付けられたサーゼクスは……。

 

 

「ぐ、ぐふ……」

 

 

 50発目を待たずして両膝を地面に付き、そのまま前のめりに倒れ伏すという決定的な敗北を久々に味わったのだった。

 

 

「……ふ、ふふ」

 

 

 何故か笑いながら……。

 

 

 

 

 

 う、嘘でしょ……? お、お兄様が負けた、の?

 

 

「サーゼクス様!」

 

 

 しこたま殴られ、そのまま倒れたお兄様を見たグレイフィアが慌てて拘束していた私から離れて飛び出すのも気に出来ずに私は、お兄様を怪訝そうな顔して見下ろす兵藤君を見るしか出来ない。

 

 

「サーゼクスさま、サーゼクス様!!」

 

「…………」

 

 

 グレイフィアがお兄様に駆け寄るのをそのまま見つめてるだけの兵藤君に、誰かが信じられないといった声を放つ。

 

 

「ば、ばかな……た、たかが人間が……!」

 

 

 お兄様が倒れた事が信じられないのか、生き残った悪魔の一人が呟く。

 それは、私の父と母も同じ様だった。

 

 

「んー……?」

 

 

 だというのに兵藤君は『え、そんな訳なくね?』的な、寧ろお兄様が狸寝入りしてるのを疑っている様な顔をしているけど、お兄様は本気を出せなかったにせよ間違いなく負けたのだ。

 

 

「……。で、残りは誰が来るんだ? 誰でも良いぜ? 何か消化不良だしどうせなら宣言通り皆殺しにでも――」

 

「う、うわぁぁぁぁっ!! サーゼクス・ルシファーがやられたぁぁぁっ!!!!」

 

「あれ?」

 

 

 その事実が受け止められず、されど目の前の人間でありながら人間を超越している兵藤君に一人がそう恐怖にひきつった形相で悲鳴をあげると、次々とその場から逃げ出した。

 

 

「…………あれー?」

 

 

 残ったのは既に兵藤くんに殴り飛ばされて気絶した悪魔の屍と、私と朱乃と、父と母……そして気絶したお兄様とグレイフィアだけ。

 

 

「え、一応魔王倒した体なのに逃げやがったんだけど……」

 

 

 これには逆の意味で驚いたのか、兵藤君は困惑した顔だ。

 

 

「え、何なん?

人間ごときに魔王がやられた体なら寧ろぶち殺してやる的な気位持つだろ。何で逃げるの?」

 

 

 そして徐々に呆れ始めたのだけど、『ま、それならそれで確認しやすいし……』と小さく呟いた兵藤君は、グレイフィアに抱き寄せられていたお兄様に……。

 

 

「おい、どうせ寝たフリだろ魔王よ?」

 

 

 ゲシゲシと脚を軽く蹴りながらお兄様を起こし始めた。

 

 

「き、キミ、息子に何を……!」

 

 

 その行動にお父様が声を荒げた。

 しかし――

 

 

「…………。いやいや、予想以上に強くて本当に気絶してたんだけどな僕……」

 

 

 お兄様は腫れた顔で兵藤君の声に呼応して起き上がった。

 

 

「え、え……?」

 

 

 もう意味が分からない。

 顔は腫れてるけど平然とグレイフィアの介抱無しで立ち上がるお兄様に、朱乃も驚いている様だけど……。

 

 

「いつつ……10日程前に聞いてたのと違いすぎるよ」

 

「は?」

 

「でもまあ、色々と滅茶苦茶になってくれたし、僕達にとっては都合が良いや」

 

 

 そう兵藤君に対してにこやかに手を差し出したお兄様は――

 

 

 

「改めて『僕が』サーゼクス・ルシファーだ。

待ってたよ『彼女の弟子』の兵藤一誠君」

 

 

 腫れていた顔が『一瞬にして元に戻り』、そして周りの瓦礫の一部が砂となって砕けるという現象を背にお兄様は何をどうしてなのか、兵藤君に方膝を付きながら頭を下げたのだ。

 

 

「……。チッ、あのアマ。今日まで姿を見せないと思ったらそういうカラクリか。

つくづくアイツの掌の上ってか?」

 

 

 そういえば昔からお兄様は滅びの魔力の他に、私達でもわからない不思議な力がある事を久々に目の前で見せられた事で思い出した。

 それをどうやら兵藤君……そして朱乃は身に覚えがあるみたいで。

 

 

「サ、サーゼクス様は『そう』だったのですか?」

 

「えっとごめんね? キミや兵藤君を騙すつもりは無かったんだけど一応そうだ。

 あ、ついでに言うとこのグレイフィアと僕達の子供も……」

 

「あのアマァ!!

これじゃあ俺が只のピエロじゃねぇか!!」

 

 

 急に空気がゆる~くなり、そこにグレイフィアも交えた四人のトークに私や父や母はただただ困惑するだけしか出来なかった。

 

 

 冥界の王が一人……サーゼクス・ルシファー

 種族・純血悪魔

 

 備考・分身――否、 この世界における反転院相当の人外。

 

 『全てを反転させるスキル』

 

 

 

「いやぁ、グレイフィアのナイスアシスト演技が光ったね」

 

「……。やめてくださいサーゼクス様。微妙に恥ずかしいのですから」

 

「……。うほ! 冷静になって見ると、このメイドさん美人――ビリビリィ!?!?」

 

「……。一誠くんのばか」

 

 

 制御できない不運さをサーゼクスに救われし悪魔

 

 グレイフィア・ルキフグス

 種族・純血悪魔。

 

 備考・まごとう事無きサーゼクスの妻にて分身。

 

 『相手の持つ幸運に対して、己の不運を相応に押し付けるスキル』

 

 

 




補足

リバーブロー→ガゼルパンチ→そして……と、元ネタが分かればお分かりかと……




やったねサーゼクスさん! 一部除いて他世界のサーゼクスさんがぐぬぬだぜ。

しかも背中合わせポジだし、スキル持ちだぜ。

……割りとチートな。

『全てを反転させるスキル』

その名の通りに反転させるスキル。
ボコボコになぐられても、新品の壁とでも逆転させたら綺麗さっぱりにて、破壊能力および無限やら夢幻やらに対抗まで可能なスキル。

名前?……うん、決めてない。


その2
グレイフィアさんとは普通に夫婦です。
というか腹立つレベルでイチャつく事多し。

そしてスキル持ち。


『相手の持つ幸運に対して相応の不運を押し付けるスキル』

名の通りです。
まんまその通りです。

例えは、グレイフィアさんにダメージを与えた事を幸運とするなら、その分の不運が相手に降り掛かる的な。


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消化不良気味に終結

です。

うん……今回はそんな理由でイライラしてる一誠くんがチンピラっぽくなっちまっただ……


 彼女から聞いてはいたけど、直接会った事は無かった。

 なので、今回の妹の結婚式の場に彼が現れると聞いた時は楽しみだったさ。

 

 

『とある女の子との約束に拘りすぎて進化のスピードを鈍足にしている。

なので此処は一つ、その女の子との約束を逆に利用してみる事にしようと思うんだ』

 

 

 彼女が直接手塩に掛けて育てたらしい、人間の弟子。

 正と負のスキルを両方発現させ、強さに拘るそのお弟子君の事を10日前ウチに来て唐突に語りだした安心院さん。

 妹であるリアスと同世代にて、リアスの女王である姫島朱乃さんと長馴染みであり、もっと云えば赤龍帝兵士の弟……という事になっている彼女の弟子は、どうやら今回負けてライザー・フェニックスと結婚する事になってしまい、更に云えば僕にしてみれば自殺願望丸出しにしか思えない条件に巻き込まれてしまった姫島さんを連れ帰る為にこの冥界へと乗り込んでくるだろうという話を聞かされた。

 

 

『そこでだサーゼクス君、キミの妹の結婚式を利用させて欲しいんだ』

 

 

 安心院さんからの頼み事に僕は断る理由無しと頷く。

 要するに姫島さんを連れ出す為に、例え悪魔を全部敵に回す事になろうとも構わず突撃してくるだろうお弟子君を優しく迎え、適当に演技を噛まして進化を促す手伝いをすれば良いらしいのだ。

 

 魔王としてのサーゼクス・ルシファーにそのまま負ければそれで終わり、僕や安心院さんの予測を越えた進化を示せばコングラッチュレーション。

 悪魔に完全な不信感を持ってる心を刺激して、リアスの結婚式をグチャグチャにすればパーフェクト。

 

 僕としてもお弟子君を一目見たいのと、妹の結婚式がおじゃんにでもなれば良いこと尽くしなので、寧ろグレイフィア共々喜んで引き受けさせて貰ったよ。

 

 そして結果は――

 

 

「オラオラオラオラァッ!!」

「ぐはっ!? (あれれー?

安心院さんから聞いていた強さじゃないねコレ。本気で防がないと下手したら死ぬかも……)」

 

 

 魔王としての『周囲の被害を考えたら全力は出せずとも本気』のサーゼクス・ルシファーである僕を倒し、そればかりか妹の結婚相手を半殺しにし、その恐怖を小うるさい見物人共に見せ付けて散らしたという、僕達としては百点満点な行動を彼は見事に果たした。

 まあ、父と母とリアスには軽く隠し事を見せてしまったけど、話せば分かってくれるだろう。

 

 

「言っとくが、師匠の手の者だと云っても俺は悪魔を信じねーかんな

ねーちゃんにセクハラしたクソボケはこのまま直ぐにでも殺してやりたいくらいだ」

 

「それは本当に申し訳なかった。妹共々返す言葉も無い」

 

「……ごめんなさい」

 

 

 後はバラキエル以外の堕天使を完全に嫌ってる様に、悪魔を既に嫌ってる彼に、他はともかくとして僕やグレイフィアやミリキャスは違うんだという事を分かって貰う事に全力を注がないと。

 願わくばリアスの事もね。

 

 

「待て――いや、本気で待ちなさい」

 

「先程から親である私達にもアナタの言ってる事が全く不明なのですが……」

 

 

 父と母は……まあ、後回しだな。悪いけど。

 

 

「彼は何者ですか?

リアスの女王と随分深い仲の様ですが……」

 

「それにお前の事を、どうであれ倒した力の事も……」

 

 

 更地になったルシファー城を片付け、取り敢えずフェニックス家の面々と腰を据えて話し合う必要があるという事でまとめて結婚を中止の方向に持っていった僕達は、さっさと姫島さんを連れて帰ろうとした兵藤君をあの手この手で引き留め、ただ今ルシファードでも一、二を争うリゾートホテルのロイヤルスイートルームを貸し切り、そこに僕、グレイフィア、父、母、着替えたリアス、姫島さん……そして兵藤君が居る。

 

 

「ふん」

 

「一誠くん、別にあの方達が悪い訳じゃないからそんな態度をしてはダメよ?」

 

 

 一部屋290㎡というスペースにリビング、ダイニング、キッチン、書斎、ベッドルームなどが揃い、欧米の個人邸宅を思わせる雰囲気を醸し出している。

 最高級の深緑の大理石で作られたバスルームも広々としたジャグジーやら、サウナやレインシャワーなども完備してるというのだから、無駄に凝って作りすぎだなと僕は思う。

 

 まあつまり、この人数が集まっても余裕で生活可能で盗み聞きされる心配も要らない空間にこうしている訳だけど、真ん中のテーブルを囲うようにソファに座る僕達とは別に、兵藤君は部屋の隅っこで此方を不機嫌そうに睨み、姫島さんもそんな兵藤君の傍を離れようとしないので物理な意味でも心の意味でも距離感か半端無い。

 というか、今完全に嫌ってます台詞貰っちゃった辺り、余程姫島さんがライザーに好き勝手されそうになっていた事を根に持ってるのが察してしまう。

 

 

「彼が何者であるかは、彼の許可も無く僕からは話せませんよ。

知りたいのであれば今この場に居ることですし、彼から聞いてください」

 

「む、むぅ」

 

「聞けと言われても彼はあんな調子じゃない……」

 

 

 父と母にはそれとなく誤魔化して流しつつ、ハッキリ言って振り回されてばかりのリアスに視線を寄越しながら僕は今回の事についての先について暫定的だけど説明しておく。

 

 

「お前は運良く彼によって本日の結婚式を壊された訳だけど、ライザーとの婚約が破談となった訳じゃない事だけは覚えておきなさい」

 

「は、はい……」

 

 

 僕の言葉に俯きながらも頷くリアス。

 分かってた事だけど、相当ライザーと結婚したくないのが目に見えて解る。

 

 

「しかし、襲撃者である彼にその式を滅茶苦茶に破壊された事に対して何の対応も無く沈んだライザーにも責任が全く無い訳じゃない。

体はどうであれ、花嫁のリアスを守り通せなかったからね」

 

 

 だから、そんな鬱ぎ込みなリアスに僕は道をそれとなく作っておく為に言葉を紡ぐ。

 その道を利用して掴むか、そのまま停滞するかをこの子に一任させるという形でね。

 

 

「父上と母上としても、頼りない花婿と結婚させるのは不安でしょう?」

 

「む……それはまぁ」

 

「親としては確かに……」

 

 

 父と母もこの話に曖昧ながらも肯定的だ。

 ちなみに三人の視線は部屋の隅っこで何故か上半身裸で腕立てを始めてる兵藤くんとその背中に乗りながら楽しそうにしてる姫島さんへと向いてる。

 

 

「さっきまであった全身のみなぎりがピッタリ止まっちまったし、何時でもあの感覚を引き出せる様に鍛えとかないとな」

 

「あの時の一誠くん、別人みたいだったわ」

 

「「「………」」」

 

 

 あの様子からして本当に姫島さんを連れ出すだけのつもりでリアス云々は二の次であることがよーく解る。

 リアスはそんな姫島さんの様子を羨ましそうに眺めてるけど、そういえばこの子は兵藤くんみたいな情熱的な男が好みだったっけ。

 

 

「後日フェニックス家の方には僕が謝罪しに行くのと同時に、ライザーには姫島さんをさっさと諦めて貰う様に話すつもりだ。

僕とて悪戯に純血を減らす真似はしたくないなからね」

 

「それは……」

 

「ええ、そうですね」

 

「………」

 

 

 まあ、兵藤くんはリアスを同情心から嫌ってる訳じゃないけどそんな対象としては今のところ見てはないみたいだけどね。

 

 

 

 

 

 急速的な進化の感覚を確かに掴んだ一誠。

 しかるにその理由に師匠の影がありましたという事実にちょっと納得できないでいた。

 

 悪魔を絶滅させるつもりだっのが、発覚した事実でうやむやになるし、戦った相手は手の内をほぼ出さなかったし、挙げ句の果てには悪魔の長を体であれど倒した自分を恐れて逃げ出した悪魔共。

 

 ハッキリ言って一誠は相当に萎えていた。

 

 

「その、初めましてだね。私はリアスとサーゼクスの父親のジオティクス・グレモリーだ」

 

「ヴェネラナ・グレモリーですわ。この度は……」

 

「もう二度と会うことも無いんで、別に畏まらなくても結構ですよ。こんな人間ごときに」

 

 

 結婚騒動がどうなっかは一誠にとってどうでも良い。

 サーゼクス曰く、悪魔を皆殺しにするのを止めてくれたお礼に朱乃個人の身柄を魔王として誰にも手出し出来ないようにするという条件さえ押させた時点で、想定していた道筋から外れたとはいえ、果たした事にはなっているのだ。

 その他のごちゃごちゃしたものはどうでも良かったし、どこまでも不憫に思えてしょうがないリアス以外の純度そのまま製の悪魔と馴れ合うつもりも無かった。

 

 

「申し訳ありませんでしたね、大切な娘さんの晴れ姿をぶち壊して」

 

 

 嫌がる娘を結局ルールに乗っ取った上であるとはいえ、そうする状況に追い込んで結婚させる気でいたリアスの親は寧ろ好ましく思ってなく、痛烈な皮肉をぶつけてやるくらいだった。

 

 

「い、いや」

 

「………」

 

 

 最後まで朱乃を庇って一度死んだ朱璃と、今は朱乃と仲が拗れてるが、今でも命より大切にしているバラキエル。

 この二名と比べれば比べてしまうほど、体裁を気にする教育母のソレに見えてしょうがない一誠は、言葉を詰まらせる二人に鼻を鳴らし、それ以降一切見ることもしなかった。

 ちなみに自分の実の親に関しては最早考えるという考えすら微塵も一誠の中には無い。

 

 

「取り敢えずフェニックス家との話が纏まるまでリアスは人間界に戻りなさい。

彼方での学業があるだろう?」

 

「よ、宜しいのでしょうか?」

 

「姫島さんとしてもそっちの方が良いだろう?」

 

「それは勿論」

 

 

 しかしながらどうであれ、冥界中を震撼させる事件の一度目はこうして一旦の幕を閉じた。

 たった一人の人間にぶち壊されたという、殆どの悪魔にしてみれば一生隠したい汚点となった事間違いなしなのだが、やった本人からすれば全滅させる気だったので寧ろ妙な敗北感しか無い。

 

 そして更に云えば、人間界に戻ってからがある意味本人達にとっては本番だった。

 

 

「た、倒した……って、この人がサーゼクス様を?」

 

「う、嘘でしょう? 流石にそれは話が盛りすぎじゃありません?」

 

「………」

 

 

 グレイフィアの転移により駒王学園へと戻ったリアス、朱乃、そして一誠は、夜だというのに学園に居た凛、小猫、アーシア、祐斗の驚く形相を帰還の第一歩目に拝み、更に云えば一緒になって留まっていたソーナやその仲間達も無傷で、しかもリアスと朱乃を連れて本当に帰ってきた一誠に椿姫を除いて驚いた。

 

 そしてリアスと朱乃の話を聞き、何故か空気と流れで風紀委員室へと終結した面々は、学園長室から強奪して新調した机に不機嫌そうな顔してふんぞり返ってる一誠が魔王・ルシファーを『どうであれ』倒したという事実に、空いた口が塞がらなくなっていた。

 

 

「嘘を言っても仕方ないでしょう? 大体、そうで無ければ私も朱乃も此処に戻ってないし」

 

「それは……そうっすけど」

 

「……………」

 

 

 『どうであれ』の部分は簡略化した二人の証言に、元々一誠を気に入らなかった匙は、口先だけの奴だと思っていただけに、若干嫉妬めいた視線を長ランと腕章からノーマルの制服と腕章に着替えて机に脚を乗っけて不機嫌そうに天井を見上げてる一誠にへと向けながら、納得したくないといった声を出す。

 

 

「サーゼクス様を……なるほど、椿姫があまり彼を心配してない理由がこれでわかりましたよ」

 

 

 逆にソーナは自分の右腕にて一誠と一番近い距離に在る椿姫が、冥界へと単騎で本当に乗り込みに行ってしまった一誠を心配せずただ静かに待っていたのを知っていたので、驚きつつも理解を示している。

 

 

「も、申し訳ありませんリアス部長……」

 

「勝手に人間界(コッチ)に来たり、役にたたなかったり……」

 

「……」

 

「ごめんなさい……」

 

 

 そして凛を含めた四人は、物凄く罰の悪そうな顔でひたすらにリアスと朱乃に謝罪しており、リアスと朱乃はそんな四人を許すつもりで笑みを見せる。

 

 しかし凛を除いて誰もが一誠に対して何の声も掛けなかった事に最初から気付いていたリアスと朱乃は三人に注意する。

 

 

「三人は兵藤くんに言うことがあるんじゃないの?」

 

「どうであれ、私達の面子を守ってくれたのよ?」

 

「「「………」」」

 

 

 と、二人が口に出した瞬間、三人の表情がこれでもかと強張った。

 

 

「あ、あの一誠……?」

 

「………………………」

 

 

 そう、今も不機嫌そうに天井を睨んだまま凛をガン無視している一誠に結果的にだが面子を保たれた事実は覆りようがない現実だ。

 役立たずと自分達を罵倒し、最も気にくわない男に尻拭いまでして貰った形なのだ。

 

 だからこそリアスは不甲斐なき王と自覚しながらも、この事だけはキチンとしなければならないと既に何とも言えない顔になってる三人に告げた。

 

 しかし――

 

 

「んな嫌々な顔されてまで言われたくもねーし、言わんで結構」

 

「「「……!」」」

 

 

 そんな三人+横でガタガタと喧しい凛に対して、一誠は天井へと向けていた視線を三人へと寄越し、鼻を鳴らしながら要らないと突っぱねた。

 

 

「元々そこの役立たず共の為でもねーし、もっと言えばグレモリー先輩の為でも無い。結果的にこうはなったがな」

 

「それは……そう、ね」

 

「一誠くん……」

 

 

 リアスですら別に助ける気も無かったとハッキリ言い切る一誠に、リアスの表情が凛の様に暗くなり、分かりやすいほどに気を落としたそれとなる。

 ほんの二週間前まではある意味朱乃より崇められてたっていうのに、一度のミスで此処まで態度を変えられるともなれば、リアスとてまだ大人になる前の少女だし、盛大に凹むのも無理は無い。

 

 

「チッ、やっぱ気に食わねぇ。

結局強かったのを隠して俺達を見下してただけじゃねーか」

 

 

 その態度を祐斗、小猫、アーシアと同等に不満と思っていた匙が、独り言の様にボソリと呟いてしまうからさぁ大変だ。

 

 

「匙!」

 

 

 まずそれを即座にソーナが注意しようと声を荒げ、流石に聞き逃せないと朱乃と椿姫が冷たい殺気を放ちながら静かに匙を見据えるのだが、それ以上に一誠がその煽りに乗ってしまったのだ。

 

 

「見下してた? 逆に見上げる程テメーに何があるのか是非聞きたいなぁ? 俺どころか他の生徒達からも、そこの生徒会長の腰巾着としか認識されてねぇ癖によ?」

 

「んだとテメェ!!」

 

 

 盛大に、まるで師の如く思いきり見下した台詞とせせら笑うかの表情に匙が激怒して座っていた一誠に飛びかかるかのごとく胸ぐらを掴んだ。

 

 

「やめなさい!!」

 

 

 腰巾着と言われて激怒する匙をソーナが慌てて押さえつけようとする。

 しかし……。

 

 

「ぐぶ!?」

 

「ひっ!?」

 

 

 胸ぐらを掴んだ匙の後頭部の髪を掴む一誠が、そのまま新調したばかりの机目掛けて匙の顔面を思いきり叩きつけた鈍い音と、そして続けざまに二度三度と叩き付ける事で飛び散る歯と血にアーシアが恐怖の悲鳴をあげる。

 

 

「何時も言われて黙ってやってるだけだと思ってんじゃねーぞ、このハンチクコゾーが?」

 

「が、ひっ……!」

 

「ストップ一誠くん!」

 

「彼の事は仲間として私が謝りますから!」

 

 

 鼻はひしゃげ、前歯はごっそりへし折れ、流れる血で顔面が血まみれの匙の後頭部を掴み上げながら凶悪コゾー宜しくに嗤う一誠に、朱乃と椿姫は匙に対する怒りをすっかり消して止めに入る。

 流石にこのままだと不機嫌な一誠が殺さないという保証が無かったから余計にだ。

 

 

「匙を急いで治療しなさい。

兵藤君、私の眷属が大変失礼致しました」

 

「……。いや、俺もちょっとイライラしてたんで……すんません」

 

 

 朱乃と椿姫のお陰で直ぐに匙は解放されたものの、仲間に支えられて風紀委員室を退室しなければならなくなったのは云うまでもなく、残ったソーナは椿姫と共に深々と頭を下げて謝罪を重ねる。

 

 それを受けた一誠も、若干罰の悪そうに目を逸らしながら小さく謝る。

 

 

「と、と、とにかく。兵藤君に助けられた事を肝に命じなさい。わ、わかった?」

 

「「「………」」」

 

「一誠……」

 

 

 ライザーの時といい、一度でもスイッチが入るとやり方が一々エグい一誠にちょっとビビりながらも、三人に告げるリアスは、ある意味朱乃を尊敬した。

 

 

「帰るわ。積んでたエロDVD見ないといけないし」

 

「? そんなものこの前お泊まりした時には無かった筈だけど」

 

「は? は? は?? 真羅さん? 貴女今お泊まりと言いました?」

 

「ばっ!? それねーちゃんの前で言うなしっ!」

 

「…………………。泊めたのね一誠くん。私が居ない間に真羅さんをあの狭いお家にぃ……!」

 

「ち、違っ……!

あ、あれは椿姫ちゃん相手に新技の特訓をした後に、動けないって言うから悪いと思って……。

それに何もしてないからな!? 寝る時だって俺は押し入れで――」

 

「『朱乃ねーちゃん並みの良い匂いと柔っこさ』って誉めてくれたあの台詞は忘れないわ……ふふ♪」

 

「おい!?」

 

「一誠くんのバカーッ!!」

 

「ぎょぇぇぇぇっ!?!?」

 

 

 

「よ、よく出来るわね……ホント」

 

 

 そんな一誠に平然と自分を物理な意味でぶつけられる事に。




補足

尻拭いまでさせられたけど、でも気に食わない。
余程普段の態度がダメ故に溝は全く埋まらなかったとさ。



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気に入る者・気に入らない者・憎悪する者
味方よりも多く作ってしまう敵


新章。

ダラダラやってたら一万文字オーバー


内容は、味方は増えるもそれ以上に敵も増えました的な


 漸くイライラする元の一つが消えて少しはスッキリした。

 あのサーゼクスって野郎はどうやら約束は守ってくれたらしく、朱乃ねーちゃんに対して悪魔共が何かをしてくる事は無い。

 

 グレモリー先輩の婚約までは知らんが、朱乃ねーちゃんさえ無事であるならそれで良い。

 

 

「へーいストーップ。

スカートの丈が短いなぁ? これはメジャーで測らせて頂かんと……ぐぅぇひぇへへへ!」

 

「寄らないでこの変態!」

 

「野蛮人! ドスケベ! 最近ちょっと見直したのに幻滅よ!」

 

「おいおい、見直したなんて嬉しいじゃないの? そんなキミにはハグハグして――あご!?」

 

「死ね! 死んでしまいなさい!」

 

「今よ! 皆でこの変態を退治するのよ!」

 

「いでで!? か、鞄の角はやめろ! 洒落になってねーよ!」

 

 

 これでやっとセクハラに専念出来るってもんやで。

 ……。現在進行で石やら鞄を女子軍団に投げ付けられてるけどな。

 

 

 

 

 

 

 つまる所、精神的な再起不能(リタイア)

 単身冥界に不法侵入した恐れ知らずのバカな人間――と、当初思っていた其奴に殺されかけた多くの悪魔達は、目の前で魔王・サーゼクスをも打ち倒したという現実を信じたくもなければ受け入れたくも無かった。

 

 

「うん、間違いなくあの時は僕の完璧な負けだ。

彼の温情で命までは取られずに済んだけど、いやー参っちゃうよねー……。まさか人間界の学校に通う妹の後輩且つ、妹の女王の幼馴染みだなんてさ」

 

『………』

 

 

 冥界都市ルシファード・新ルシファー城。

 たった一人の人間により更地となって一度は消えた城は、急ピッチでサーゼクス自らかが先導して建て直した事により、在りし日の姿へと戻った。

 そんな新しくなったルシファー城の大会議室には、先日中止となったグレモリー家とフェニックス家の結婚をどうするかという話題で、両家の現当主と主役だった男のライザーが、椅子に座って参った参ったと呟くサーゼクスに無言のまま声を出せずに居た。

 

 

「リアスは連れていかれちゃったし、僕としては夫になる予定のライザーに行って貰いたいんだよね――リアスの連れ戻しと兵藤一誠の退治を」

 

「っ!?」

 

 

 理由はそう……完全な無茶振りをライザーがされていたからだ。

 

 

「わ、私がですか?」

 

 

 サーゼクスとグレイフィアの尽力により、ボロボロのズタズタだったライザーは既に元の姿へと戻っている。

 しかし、サーゼクスからのこの無茶振りのせいで、折角回復した自分の身がズタボロに戻されるかもしれないという現実に、威勢の良さは既に無い。

 

 

「当たり前だろうライザー?

結婚相手は夫候補のキミ自身の手で取り戻してこそ純血の男だ」

 

「…………」

 

 

 『もし取り戻したら僕の称号をキミに譲渡すらする』等とにこやかに話すサーゼクスだが、ライザーは内心冗談じゃないと毒づいた。

 あの日式の場に居たサーゼクス含め大半の悪魔達を短い時間で半殺しにした挙げ句、危うく自分も殺されかけたのだ。

 それを平然と人間の分際でやりやがったという気持ちはまだあるものの、それ以上に未曾有の化物相手に命を賭ける勇気は無かった。

 

 

「無理です。サーゼクス様すら敗北した相手を始末できる力を私は持ち合わせておりません」

 

「おいおいライザー? キミらしく無いだろ。

僕だって負けっぱなしのつもりは無いし、鍛え直したらリベンジするつもりなんだぜ?」

 

「それでも無理です! あんな化物と戦うくらいなら、リアスなんて……!」

 

 

 ライザーはへし折れたのだ。

 半殺しにされ、目を覚ませばその人間はサーゼクスまで倒して堂々と帰ったとされる人間の理解したくもない力に。

 再生を司る自分の血を平然と踏み潰した理不尽さに……。

 

 

「失礼します……!」

 

「お、おいライザー!」

 

「お待ちなさい!」

 

 

 完全に折れ、持ち直す事無く潰れてしまったライザーは、最早話は無いとばかりに乱暴に席を立つと、慌てて追い掛ける両親を無視して出て行ってしまった。

 

 

「あーらら。完全にへし折られちゃったみたいだね」

 

「ええ、其れほどに彼の進化は恐ろしいという事でしょう」

 

 

 正式では無いにしろ、実質破談となった結婚騒動の終結を予感したサーゼクスは、座っていた椅子に深々と腰掛けながら、今しがたフェニックス家の面々が城から去ったという報告を受けつつ、グレイフィアの差し出したお茶を静かに飲む。

 

 

「という訳で見ての通りです父上に母上。

リアスの結婚はこれで潰れてしまいました」

 

「う、うむ……。

まあ、向こうが断ってしまったのであれば仕方ない」

 

「無理強いさせるには余りにも酷ですものね」

 

 

 サーゼクスに言われ、目の前で見ていたジオティクスとヴェネラナも黙って頷くしかない。

 ライザーは運が悪かったんだと無理にでも自分を納得させるしか二人には出来無いといった方が正しいのか。

 

 

「さてと、勘を取り戻すとしようかな。グレイフィア、手伝ってくれ」

 

「はい、サーゼクス様」

 

 

 

 

 

 

 ライザーとの結婚話が消滅したその頃、リアスは今回の事で痛感させられた己の弱さを克服しようと考えつつ、部室のある旧校舎が使えないという事で訪れた兵藤家――つまり凛の家にお邪魔していた。

 

 

「これが5歳の時の凛」

 

「わぁ、小さい凛です」

 

「……。祐斗先輩、盗んだら犯罪ですからね?」

 

「し、しないよそんなこと!」

 

 

 凛の家にお邪魔し、凛の母親からアルバムを見せて貰ってはアーシア、小猫、祐斗が喜んでるのだが、リアスはただだだ疑問に思うことがあった。

 

 

「弟さん――いえ、一誠くんのお写真は一枚も無いようですが」

 

「……」

 

 

 そう、凛の写真はあれど一応元はこの家の者である筈の一誠の写真が一枚たりとも存在しない事にリアスは疑問だった。

 朱乃を女王にしたのが約10年程前で、その時には既に一誠は居た朱乃の家に居候していたらしいが、それにしても生まれた時の写真すら一枚も無いのは流石におかしいと思うわけで……。

 

 

「……………………。このアルバムには凛のだけしか貼ってなくて、あの子のは別にあるわ」

 

「あ、はい」

 

 

 一誠の名前を出した途端、あからさまに嫌悪の表情を浮かべた凛の母を見てリアスは察した。

 一誠の存在を彼女達は無かった事にしているという事を……。

 

 

「お買いものに行かなくちゃ」

 

「お母さん……!」

 

 

 そそくさと部屋から退室した兵藤母を見ながら、何故一誠が帰ろうとしないかを何と無く察したのと同時に、何故そこまで壊滅的な仲になってしまったのかと疑問に思う。

 

 

「一誠くんのアルバムなら私の実家に保管してますわ。

まぁ、家に来てからのですけど」

 

「え……!? あ、あるんですか?」

 

「ええ、私の母が思い出にとね」

 

「み、見たい……」

 

 

 一番それを知っていそうなのが朱乃だと思うのだが、今この場で聞くわけにもいかない。

 微妙に自慢気に語る朱乃に後で聞いてみようと密かに思いつつ、リアスはちょっと冷めていたお茶に口を付けるのであった。

 

 

 

 見下され、挙げ句に敬愛するソーナの目の前で恥までかかされたと益々一誠を嫌い、寧ろ憎悪にも近い感情を抱いていた匙は、その日から決定的な一誠の弱味を握ろうと一人躍起になっていた。

 

 

「これ以上恥の上塗りはしないで頂戴」

 

 

 と、一誠に対して微妙に味方している様な事をソーナに口にさせた嫉妬も手伝ってるせいか、制止を無視してる事に自分で気づいても居ない。

 

 

「気に入らねぇ……気に入らねぇ……!」

 

 

 ヘラヘラしてるだけの馬鹿が。

 力を持っているのをひた隠しにして散々自分達を見下していた事。

 ちゃらんぽらんな性格を嫌ってた筈のソーナを認めさせている発言をさせた事。

 その全てが気に入らない匙は、この前受けた傷の治療を済ませたというのに、ズキズキと幻肢痛の様に痛む鼻を押さえながら憎悪をたぎらせる匙は、凛派とはまたベクトルの違う一誠への嫌悪を膨らませていくのだった。

 

 

 

 さて、そんな一誠はと云えば、朱乃絡みの厄介事を片付けたという事ですっかり元の変態野郎に戻り、制服チェックで女子にしばかれ、男子達から10日坊主と呆れられつつもホッとされるという経緯を経て、只今とある小さな小川のほとりで釣りをしていた。

 

 

「と、いう訳で心配は無くなったぜ」

 

 

 針に餌を付け、川に投げ込み浮きの動きを眺めながらその場に腰かける一誠の『真面目な趣味』の一つであるのが実は釣りだったりするのだが、そんな一誠の意外な趣味に付き合うは、只今一誠の隣で釣糸を垂らしている一人の男。

 

 

「うむ、それは彼女から聞いた。

済まんな、本当は俺がサーゼクスに話を付ける筈だったのだが……」

 

 

 ゴツい見た目に反しない何処かの三國無双に出てきそうな男らしい声を穏やか気味にして一誠と話すこの男。

 

 実はこの男こそ、バラキエルという名の一誠が唯一心の底から慕う堕天使であり、朱乃の父であり、朱璃の夫であった。

 

 

「まさかあのサーゼクスが彼女と繋がっていたとは驚きだったぞ」

 

「だね。ったく、つくづく斜め上の事ばかりだぜ」

 

 

 此度の騒動により、冥界に乗り込もうとした所を止められたは良いが、それでもやっぱり娘が――そして血の繋がりこそ無いけど、息子同然に接してきた一誠が心配だったバラキエルは様子を確認しようと人間界へとやって来た。

 

 

「で、おっさんは二人に会ったんだよな?」

 

「いや、朱璃には会ったが朱乃とは……」

 

 

  しかしながらバラキエルは今言った通り妻の朱璃には顔を見せたが、娘である朱乃とは顔を合わせないままこうして一誠と釣りをしていた。

 理由は父娘関係が現状ガタガタだからだ。

 

 

「何で会わないんだよ……」

 

「そ、それはその、家に居なかったから……」

 

「それだけじゃないでしょうが。

ったく、父ちゃんはヘタレで娘は意地っ張りなんだから」

 

 

 浮きが沈んだのを見計らって振り上げた一誠の竿により、見事に釣り上げられた小魚がピチピチともがくのを見ながら呆れる一誠。

 一誠にとっても『分岐点』とも呼べるトラウマに近い事件からバラキエルと朱乃の仲は相当にギクシャクしたものになっている。

 

 

「そもそも仲直りして本格的に受け継いだおっさんの力を使えば、負ける事も無かったのにさ」

 

「………」

 

 

 自分の半分の血を嫌悪し、その力を使わずに居る程度には嫌い、バラキエルもそれを知っているこそ思春期に入ってますます会い難くなっている訳だが、この件に関してのみ一誠と朱璃はフォローや忠告せど、無理強いさせるつもりは無かった。

 

 

「まあ、役立たず共が足を引っ張った時点でアレだけどよ」

 

 

 本人同士が歩み寄らなければ意味が無い。

 そう思っている且つ、自分もバラキエルと朱乃の事が言えないレベルで本来の親達と終わってるので、言えないのだ。

 だから皮肉っぽくは言うものの、強くは言わないのだ。

 

 

「だ、だがもう一度『大嫌い』とか言われたら、今度こそ立ち直れる気がしない……」

 

「それ怖がってウジウジしてるせいで、どんどんハードル上がってるの自覚しようぜ?

つーかよ『俺こそが、真の三國無双だ!』とか言えそうなゴツい見た目なのに、ハートが弱すぎだぜ」

 

「むぅ……」

 

 

 糸目、ゴツい、ゴツい、糸目、ゴツい。

 豪快な見た目とは裏腹に娘に対してはヘタレMAXな実の親達よりも親と思うバラキエルに早いとこ仲直りして欲しいが、バラキエルの煮え切らない態度を見てると先は長そうだなとは内心思いつつ、釣り上げたダボハゼをリリースした一誠はひとつバラキエルのヘタレを緩和してみようと考え、竿を横に置いて立ち上がった。

 

 

「? どうしたんだ?」

 

 

 急に立ち上がる自分にとっては妻と娘を助けてくれた恩人であり息子同然の大きくなった一誠にキョトンとしたバラキエル。

 すると一誠はコキコキと首の関節を鳴らしながら言うのだ。

 

 

「折角こうして会ったんだ。

久々に俺が強くなれたかおっさんに確かめて貰うぜ」

 

 

 最後にやり合った時から自分がどれだけ強くなったかを見て欲しい。

 悪魔種族としてとはいえ、爆発的な進化にてサーゼクスを打ち倒したという話は既に彼女――安心院なじみから密かに聞かされていたバラキエルは久々に顔を合わせた時点でその強さを察していた。

 

 

「勝ったら朱璃さん――とついでに朱乃ねーちゃんとでも風呂に入らせて貰うぜ……ケケケケ!」

 

「安い挑発だが乗ってやろうじゃないか、この小わっぱめ」

 

 

 だからバラキエルは、 自分と違って娘との約束を決して破らない様に努力する一誠の偽悪的な挑発に敢えて乗ってやる為に釣りを切り上げ、場所を移動する。

 

 

「サーゼクスに勝ったとは聞いているが、それで俺に勝てるつもりで居るその自信を凹ませてやろう」

 

 

 人が一切立ち寄る事の無い山中の開けた場所まで移動した二人は、既に改神モードよりも先の状態となって構える一誠に、先程までのヘタレなおっさんという雰囲気を一切消し飛ばした覇気を放ちながら、その身に雷電を迸らせ、スッと糸目を開けて見据える。

 

 

「上等、行くぜおっさん!!」

 

「来い!」

 

 

 それがゴング代わりとなり、地面を抉る程の速力で突撃する一誠にバチバチと拳に紫電を纏わせたバラキエルが迎え撃つ。

 

 堕天使組織の幹部を努めるバラキエル。

 その強さは一誠と同じく、一度大切な存在を失った事より、そして二度と失ってはならないという想いにより錆びる事無く、寧ろ上昇の一途を辿っている。

 

 

「ぬりゃあ!」

 

「むっ!? 確かに以前の一誠とは別次元の力強さ!」

 

「当たり前だぜ! なじみと同じく、アンタは俺の目標なんだからなぁっ!!!!」

 

 

 宿す雷の力は只放つだけではなく、繊細なコントロールを可能にさせ。

 

 

「だが甘い!」

 

「っ!? か、身体が……!」

 

 

 自身の放つ雷撃は他人の細胞が放つ微弱な電解質にも干渉させる事も出来。

 

 

「覇ァ!!」

 

「がはっ!」

 

 

 実質的に他人の動きを『支配』する事も可能となった。

 数年前に安心院なじみからの言葉により、独自に研究し、そしてモノにした――十三組の十三人(サーティンパーティ)の内の一人が使えた人心支配(アブノーマル)とほぼ同じである事は恐らく偶然では無い。

 

 

「俺ならまずサーゼクスやお前が持つスキルを『無力化』する。

どうだ? 相手の心臓(ハート)に電力を放ち、制限時間はあるが強制的に能力(スキル)を封じてみたぞ?」

 

「お、くっ……! た、確かに使えない……。くそ、また制御が上手くなりやがったなおっさん? ねーちゃんが使える日が来ると思うと恐ろしくて震えちゃうぜ!」

 

 

 それは創帝(クリエイト)と呼ばれた男と同じなのだから。

 

 

「スキルを封じられた程度で負けたなんて思わねぇよ!」

 

「勿論そうだろう。そういう子だお前は!」

 

 

 進化(アブノーマル)逃避(マイナス)を封じられた一誠に諦めの色は無く、果敢に向かっていくその拳を片手でいなしながらバラキエルは笑う。

 

 

「それでこそ一誠(オマエ)だ!!」

 

 

 何時だって娘の傍らに居てくれる頼もしくなった血の繋がりが無い息子の放つ拳の重さに嬉しくなったバラキエルは、本当の父子の様に存分に撃ち合うのだった。

 

 

 

 

 バラキエルのおっさんめ。

 少しは差が埋まったかと思いきや、おっさんもまた強くなってるせいで全然埋まりゃしねぇ。

 

 

「イチチチ……ちくしょう、また負けた」

 

「だが強くなった。俺もヒヤリとした所が多々あったしな」

 

「それでも最後に立ってたのはおっさんじゃんか。

ちぇ、悔しいぜ」

 

 

 つーか、放ったビリビリで相手の肉体やスキルに干渉するとか反則だろ。

 現に何度か身体が硬直させられて動けなくさせられたし、本気だったらその時点でやられてたと思うと……やっぱ悔しいわ。

 

 

「一応俺も彼女――いや、安心院さんに教えを貰っては居るからな。おいそれと負けてはやれんぞ」

 

「ちぇ~ 朱璃さんとのドキドキお風呂はお預けかよ~」

 

「当たり前だエロガキめ。

朱璃に手を出したらシバくぞコノヤロー」

 

 

 朱璃さんの話を持ち出したらマジになるおっさんとの差はまだまだ縮まらないものの、それ以上に目標に向かって進めるというワクワクした気持ちが大きく、その場に座り込む俺の頭を軽く小突くおっさんの拳に偉大さを覚える。

 

 

「封じたと言ったが、お前なら直ぐにでも復活させられる。あれは一時的なものだからな」

 

「ん、わかったぜおっさん」

 

「じゃあ俺はそろそろ帰るが……」

 

「え、ねーちゃんには結局会わねぇのかよ?」

 

「……。今はまだな」

 

 

 辺りは暗くなり、おっさんは朱乃ねーちゃんとは会わずに帰る様だが、俺は敢えてそれ以上言うつもりは無く、家まで送ると言ってきたのを断り、そのままお見送りする。

 

 

「何時かケジメがつくまで、朱乃の事を頼むぞ一誠」

 

「けっ、勝手なおっさんだぜ」

 

「済まんな……俺がどこまでも父親失格のせいで」

 

「違う。

俺や朱璃さんは少なくともおっさんの事を父親失格だなんて思っちゃいねーさ。アンタがちゃんとねーちゃんと向き合う勇気が出るまで、任されたぜ」

 

「…………ありがとう」

 

 

 ガキの俺にペコペコ頭なんて下げながら転移して行ったおっさんを無事に見送った俺は、痛む身体と自分の中で封じられてると感じるスキルを胸に山を降りようと山道を下る。

 

 おっさんはヘタレ、ねーちゃんは意地っ張り。

 揃って面倒な性格してるせいで仲直りできるものも出来ない二人に世話が掛かるとは思うが、それが苦に思うことは決してない。

 

 おっさんに認められる強さ、ねーちゃんとの約束を守り通す為に強くなる事自体が目標でもあるんだから――

 

 

「がっ!?」

 

 

 俺ももっと強くならないとな。

 そう一人やや冷たい山風を木々の隙間から浴びつつ山を降りていた最中だった。

 

 

「ぎぃ……! だ、誰だテメ……ごばっ!?」

 

 

 突如襲う後頭部への衝撃と鈍い痛みに意識が一気に遠退く気分に陥る。

 おっさんとの力比べでスキルが封じられてたせいか、それとも考え事をしていたせいなのかは知らないが、不意討ちなんてのを無様に受けてしまった俺は、直ぐ様背後に感じる誰かの気配に向かって裏拳をかましてやろうと腕を振り回すが、その拳は見事に空を切り、代わりに顔面な鉄の様な固い物で殴られてしまった。

 

 

「ぐぁっ……!」

 

 

 おっさんとの力比べでマジになった後なのと、スキルが使えない事で疲弊していたせいで上手く力が出せないまま下り坂になっていた山から転げ落ちていく。

 

 

「う……く……!」

 

 

 ゴロゴロとアホみたいに転げ落ちたが、大木に身体が引っ掛かってくれたお陰で止まった。

 しかし身体に全く力が入らずに起き上がる事も叶わない俺は、ザクザクと草木を踏みながら近付く足音の主が誰なのかも確認出来ないまま。

 

 

「やっぱり魔王様を倒したなんて嘘じゃねーか。ほら、何とか言ってみろ!」

 

「…………」

 

 

 遠くなる声に蹴られ続け、そのまま意識を吹っ飛ばすのだった。

 

 

 

 凛の家での時間も過ぎ、朱乃は何故か自分だけに話があると言ったリアスと共に取り敢えず自宅に向かおうと歩いていた。

 

 

「聞きたい事って何でしょうか?」

 

「うん、兵藤くんの事なんだけど、折角だし朱乃のお家にあるらしいアルバムを見ながら一つ聞きたい事が……」

 

「……。凛ちゃんや凛ちゃんのご両親との壊滅的な仲である理由でしょうか?」

 

「………。有り体に云えばそうよ。

だから着いてきたがっていた凛には来ないように言ったの」

 

「なるほど……」

 

 

 リアスから話を聞いて凛や小猫、祐斗、アーシアを連れてこなかった理由を理解した朱乃は納得したかの様に小さく呟く。

 だが朱乃は話すべきなのかと迷っていた。

 そもそも一誠から話して良いかも聞いてないし、本当の事を話しても信じてもらえるのか……。

 

 そして仮に信じた場合、仲間内に亀裂が完全に入るのではないか。

 ――等々、総合的に考えると話すべきでは無いのかもしれないと朱乃は考えるが、話さないと話さないで仲間内で疎外感を感じ始めてるリアスが可哀想に思えてしまう訳で……。

 

 

「話すのは良いですが、一誠くんに許可を取るために家に来て貰う必要が……」

 

 

 何にせよ一誠を介さないと話にならないだろうと思った朱乃は、リアスにそう告げながらふと日が沈んで電灯の光だけが明かりとなってる道路の数十メートル先にてフラフラと千鳥足で此方に向かって歩いてくる人影に気づく。

 

 

「え、誰?」

 

 

 リアスもそれに気付いた様だが、上手いこと電灯が無い場所だったのでよく見えず目を細めており、思わず立ち止まってどんどん近づいてくるその人影を共に観察する。

 

 するとそのフラフラな人影は徐々にシルエットをハッキリとさせ、どうやら怪我をしているという情報を二人に与え――

 

 

「い、一誠……くん!?」

 

「うっ……ひ、酷い怪我よ!」

 

 

 それが、今話題にしていた男の子だった事に気付いた二人は、今にもぶっ倒れそうな足取りでフラフラ歩いていた一誠に急いで駆け寄る。

 

 

「どうしたのよその怪我――うっ!?」

 

「な、ど、どうしたの朱……乃……!?」

 

 

 駆け寄り、一誠の肩に触れて顔を覗き込んだ朱乃が言葉を失うのを目にしたリアスがつられて猫背気味だった一誠の現状を見て絶句した。

 

 

「? そ、その声は朱乃ねーちゃんとグレモリー先輩……?」

 

 

 全身から血が止めどなく流れてるだけならまだ許容範囲内だった。

 しかし二人が絶句したのはその顔だった。

 

 

「え、っと……わり、よく見えないんだわ今……」

 

「め、目が……」

 

「な、無くなってる……」

 

 

 頬は切り裂かれ、鼻は折れ曲がり、そして何よりだらしなく緩んだり、激情に駆られたりとコロコロ変化する目が……眼球ごと消えていたのだ。

 そう、それはまるでくり貫かれたかの様に……。

 

 

「いや、イヤァァァッ!! ど、どうして! 何で! す、スキルは!?」

 

 

 その余りにも無惨な姿に朱乃は悲鳴をあげながら、この程度の傷なら直ぐに否定して元通りに出来る筈だと叫ぶが、一誠は無惨な顔でも変わらずのヘラヘラした声で首を横に振った。

 

 

「いやさ、バラキエルのおっさんと会って修行相手になって貰った時に新技くらって半日くらいスキルを疑似封印されてな? んで、その帰りに後ろから思いきり殴られてこの様って訳」

 

「ち、父と会った!? 何で……!」

 

「落ち着きなさい朱乃! 問題はその後の不意打ちをやった相手についてよ!」

 

「おー……グレモリー先輩が冷静役で助かった。

そうそう、朱乃ねーちゃんと会いたいけどヘタレて会えないおっさんと別れた後に不意打ちを食らった奴なんだが――――あ、やべ、血ィ流しすぎてクラクラしてきた……」

 

 

 バラキエルと会ってたという一誠に更に取り乱そうとしていた朱乃を落ち着かせるリアスに感謝しながら不意打ちの犯人の特徴を口にしようとしたが、それ以上に体力の消耗が激しいようで、ヨロヨロと住宅の石壁にもたれ掛かかってしまう。

 

 

「一晩寝たら勝手に直るから大丈夫大丈夫」

 

「大丈夫な訳無いでしょう!? 言って、誰がこんな事をしたの!?」

 

「アナタには大きな借りがあるし、私達で突き止めて見せるわ。だから特徴を――」

 

「いや、もう目星は付いてるんで」

 

「じゃあその目星とやらを……」

 

「嫌だよ。こんなアホみたいな事にねーちゃんやグレモリー先輩が出る事なんて無いし、ケリは俺個人で付けたいし……」

 

 

 問い詰める朱乃とリアスを眼球の無い目から血の涙を流しながらヘラヘラ笑って誤魔化す一誠は、そのまま自宅に帰る気なのか、二人の間を縫ってフラフラと歩き出そうとする。

 

 だがそんなのを許す二人な訳が無く、朱乃とリアスで出来るだけの治療魔法を一誠に施す。

 

 

「お、身体が全快した!」

 

「無くなった目はどうすることも出来ないけど……」

 

「十分っすわ、それじゃあ俺はこの辺で……」

 

 

 二人の腕は確かな様で、楽な体勢で座らせた一誠に数十分に渡る念入りな治療を施した朱乃とリアスは、目の見えないままボディビルダーの様なポーズをして、あからさまな回復アピールをしつつそのまま帰ろうとするのをガッチリとホールドして止める。

 

 

「帰らせる訳無いでしょう? 今日は家に来て」

 

「んだよオーバーだな。

前に全身を吹っ飛ばされても何とかしたのを見たことあんだろうに」

 

「いや、それとこれとは別だわ」

「グレモリー先輩まで言いますか。

へーへー……わかりましたけど、誰がやったとか言いませんからね俺は」

 

 

 観念した様に無くした目のまま降参のポーズをした一誠は、自宅から朱乃の家へと二人に引っ張られる形で進路変更を余儀なくされるのだった。

 

 

「ほら、肩を貸してあげるから」

 

「目が見えないと不便でしょう? 私も貸すわ」

 

「そりゃどうも……」

 

 

 身体の痛みは消えたものの、バラキエルの技によってスキルが一時的に失った状態の一誠は未だに両目を失ってる状態だった。

 なので横から朱乃とリアスが肩を貸して一誠の目の代わりとなってあげようとした……のだが。

 

 

「ひゃん!?」

 

 

 右に朱乃、左にリアスがそれぞれ肩を貸してたのだが、そのリアスが突如驚いた様に身を小さく跳ねながらちょっと艶かしい声を出す。

 一体何だ? と朱乃は不審に思って肩を貸したままリアスを見てみると……。

 

 

「目が見えない、あー目が見えないなー……これはなんだろーなー? 大っきなマシュマロかなぁ? げへへへ」

 

「あっ……ん……! や、やめ、て……は、恥ずかしいから……! ま、マシュマロじゃなくて私の胸だから……!」

 

「ポヨンポヨンだなー……うぇへへへ!」

 

 

 どう見てもわざとにしか見えないドスケベ笑いでリアスの胸をもにゅもにゅと一誠がしてたのだ。

 

 

「………………」

 

「うぅ……な、何故か兵藤くんに触られると変な気持ち……にぃ……!」

 

 

 しかも敢えて黙って見てると、嫌嫌と言ってる癖にリアスは全く抵抗らしい抵抗をしちゃいない処か、顔を紅潮させながらもじもじしてると来た。

 

 自分には全く何にもしないのに……何にもしないのにと徐々に嫉妬やら何やらの感情が膨れ上がった朱乃は。

 

 

「…………。後でたっぷりお話がお二人にありますので」

 

 

 物凄い低い声で有罪判決の言葉を口にするのだった。

 

 

「いやほら、目が見えないから偶然……」

 

「は?」

 

「す、すんませんした」

 

「な、なんで私も……?」

 

「嫌嫌言って置きながら無抵抗の癖に被害者顔してるんじゃありませんよリアス?」

 

「あ、は、はい……」

 

 

 夜は長くなりそうだ。

 

 

「真羅さんといい、何処まで浮気すれば良いの? ねーねー教えてよ一誠くーん?」

 

「うっ、素の口調……だと? ま、待て、この人見てるのにそのモードは――んみゅ!?」

 

「ちゅー♪」

 

「ば、や……! やめろ! この前しちゃってから急に頻繁になりすぎ…にゅえ!? し、舌はやめひぇ……!」

 

「あ、あわわわ、あ、あんな凄いキスを……!」

 

 

 素モードになった朱乃が一誠に飛び付き、びっくりレベルの激しいキスを見せられて顔真っ赤なリアスや、形振り構わず飛び付いてキスした朱乃や、された一誠の三人が揃って身体が火照ってしまった的な意味で。

 

 

終わり




補足

バラキエルさんとはちょくちょく会ってはキャッチボールやら今回の釣りやらをしてから、一戦交えてます。


その2
最早兵藤家の両親は一誠の存在を抹消しています。

ちなみに、凛の写真は転生した時の辻褄合わせの為に転生神が捏造して産まれた時からのが存在してます。

その3
襲撃者はぼかします……とはいえ、多分察してしまわれるかと……。

その4
バラキエルさんは安心院さんの助言一つで某王様とスキルと同質化してます。

つまり、朱乃さんがちゃんと受け継いだ血を訓練したら女帝と化……すか?


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報復

怒りが無限の進化の起爆となれば、冷たき報復心は逃避となる。

かな。


 腕が千切れた……だから何だ。

 足がもがれた……それがどうした。

 

 勝つ身であるなら確かに殺しておくべきなのだ。

 それを怠った時点で最早それまで……。

 

 そう、逆襲のチャンスを与えた時点でソイツは負けたのだ。

 

 

「風紀なんて関係ねぇ。これは俺個人の戦争だ」

 

 

 根に持つタイプの俺にな。

 

 

 

 

 

 その日、兵藤一誠は学園を欠席した。

 理由は解らないが、恐らくは病気の類いではない……という話がチラホラクラスで囁かれたが、セクハラ野郎が休めば平和そのものだと女子としては歓迎できる話なので、時が経つに連れて誰も一誠を気にする者は居なくなった。

 

 だが……。

 

 

「何て事をしてくれたのよ匙……! アナタはっ、自分がしたことを解ってるの!?」

 

 

 ソーナ・シトリーは今、かつて無い程の激怒の化身と化し、平手では無くマジもんのグーパンチで兵士の少年の横っ面を殴り飛ばした。

 

 

「ぐぁ! な、何でですか! 俺はあの野郎が嘘こいてたのを証明する為に……」

 

 

 ソーナに殴られ、盛大に机に背中を打ち付けながらひっくり返った匙元士郎は、殴られた頬に伝わる鈍い痛みと、殴られたショックに顔を歪めながら怒りの形相のソーナを見上げ、自分のやった事に間違いなんて無いだろうと主張しようと口を開きかけるが……。

 

 

「黙れ!」

 

 

 その言葉を待たずにソーナの一渇が生徒会室内の空気を張り詰めさせた。

 

 

「彼と戦って勝ったばかりか取り返しの付かない大怪我まで何故負わせたのですか!」

 

「だ、だってアイツは嘘言って会長の周りをチョロチョロして邪魔ばかり――」

 

「嘘で無いことは既に直接サーゼクス様から聞いているし、チョロチョロとされた覚えも無い! それによく椿姫の前でそんな台詞が吐けますね!」

 

「………」

 

 

 恐らくは初めてに近いだろう全力の激怒を見せるソーナに、眷属達は硬直して動けない。

 しかしその激怒の理由となっている匙は、それでも納得できないといった表情でソーナに言い返そうとするが、最早今のソーナにそんな言い訳を聞く耳など無く、これから起こるだろう最悪な展開に身震いが止まらなかった。

 

 

「椿姫……彼は何と?」

 

「さぁ、昨日も今日も連絡は取っていませんから何とも。

ただ……」

 

「ただ?」

 

「確実に来るでしょうね……私達の前に。

加えるなら姫島さんとの繋がりでリアス・グレモリー様が黙っているとも思えません」

 

 

 何時も以上に冷たい表情と声で淡々と答える椿姫に、ソーナも眷属達もぶるりと身を震わせる。

 今朝から妙に匙の機嫌が良く、放課後の活動時も変わらずに良かった彼から聞かされた、最悪の不義理行動。

 

 それは、兵藤一誠が嘘を言って自分達の周りを単にうろついて邪魔してるのを証明する為に起こした匙の独断行動。

 その行動こそ、親友の恩人である彼への完璧な裏切り行為に他ならず、また同情の意味で一定の信用をしているリアスは兎も角として、例の騒動以降からほぼ悪魔を信用してない彼の朱乃と椿姫を除いた悪魔(ジブンタチ)の信用を完璧に地にぶち落とす事に他ならず、更に言えば一誠と唯一深い仲の一人である椿姫の信用までも失った。

 

 

「私は敢えて何もしません。ですが一言言わせて貰うとするなら、最低ですねアナタのやったことは」

 

 

 どこまでも冷たい表情でそう吐き捨てた椿姫の態度が何よりの証拠であり、言われた本人はうっと言葉に詰まらせた。

 

 

「今すぐにでも彼に謝罪……」

 

「無理ですね。謝罪した程度で済む事では最早無い」

 

「ぐっ……ですよね」

 

 

 黙り込む匙を横目に、ソーナが震えながらどうしようかと右腕の椿姫に相談するが、椿姫は何処までも淡々とした口調だ。

 

 

「私も殺されるかもしれませんね……」

 

「な、何故……」

 

「だって私は、アナタの女王ですから」

 

 

 それは最早覚悟をしている様であり、されどソーナを裏切るつもりは無いと言い切った椿姫にソーナは嬉しいような泣きたくなる様な気持ちで一杯だった。

 

 

「リ、リアスや姫島さんはこの事を知ってると思う?」

 

「恐らくは既に。

そしてその上で何も言ってこないという事は、一誠くんに手出しをするなと言われてるから……でしょうね」

 

「それはやっぱり……」

 

「ええ、個人的に報復する為」

 

 

 悪魔の多くを半殺しにし、魔王の城を単騎で更地に変えたばかりかサーゼクスすらをも倒した。

 荒唐無稽な話だとしても事実に変わりは無く、またその事実が自分達を容易に殺せるという絶望だった。

 

 故にソーナは再三に渡って普段のいい加減でチャランポランな性格を嫌悪している眷属達――特にリアスの一件が終わってから益々嫌悪していた匙には『余計な事だけは彼にするな』と念を押したつもりだった。

 

 それがどうだ、命じた筈の言葉すらちゃんと守れずに『アイツやっぱ嘘言ってましたよ!』と一誠を倒したと嘯き、更には取り返しのつかない大怪我までさせたという一切笑えないオチ。

 

 そうで無くても、力の強い悪魔がどうであれ普通の人間を襲ったというだけでも御法度なのに、今ですら納得できない顔してる兵士の少年はその自覚すら持ってない。

 

 

「だ、大丈夫っすよ。アイツ俺より弱いって解ったし、何か言われても黙らせれば――がっ!?」

 

「黙れ。それ以上喋らないでください」

 

 

 まさにソーナは詰んでいた。

 

 

「今すぐにでも彼の下へと行って、無駄かもしれませんが謝罪をしましょう。…………匙の腕の二本で許してくれるか。足りなければ私の眼を……!」

 

 

 出来ることと云えばこれくらいしかない。

 最早五体満足で事が収まるとは思ってないソーナは、両目の光すら失った一誠に自分の眼すらを犠牲にして自分と匙以外の仲間を許して貰おうと考えていた……その時だった。

 

 

「よう、元気にしてるかよゴミ共?」

 

『っ!?』

 

 

 ガチャリと逆に恐怖を覚えてしまう程に静かに生徒会室の扉が開けられ、今最も聞きたいけど聞きたく無い少年の、明らかに自分達を殺しに来たとわかる言葉と共に、両目を包帯で覆った彼が入ってきた。

 

 

「ひょ、兵藤……くん……」

 

 

 その出で立ちは、外傷こそ無いものの……包帯に覆われた両目を見れば匙が本当にやらかしたのだと否が応にも理解させられてしまう。

 

 

「一誠……くん」

 

 

 特に椿姫はそんな一誠の姿に悲痛な面持ちであり、恐らく修行で体力の殆どを無くしていた時にこの匙に襲撃されたのだと察し、声を掛けるにも言葉が見つからなかった。

 

 

「ん、この匂いは椿姫ちゃんか。

いやーちょっと目がおしゃかになっちまって、可愛い椿姫ちゃんのお顔が見れずに実に残念だぜ」

 

 

 だが一誠はそんな椿姫にだけは、口許を緩ませながら何時もの調子で応える。

 その時点で椿姫だけは信じてるという意味でもあるのだが、それがある意味他の面子に絶望を叩き付ける。

 

 

「て、テメェ……堕天使とこそこそしやがって! 何しに来やがった!」

 

 

 重症を負わせた本人である匙が、ヘラヘラと椿姫に対して話し掛けるのを見て吠える。

 どうやら昨日の事で自信を付けた様であり、更に言えば自分達と敵対している堕天使とこそこそ親しそうに密会していたのを……ちょうど『別れ際の時』の光景を目にしていた様で、その事を盾に立ち回ろうとしているつもりらしい。

 

 

「あ? あぁ、その声は腰巾着か。

昨日はどうも世話になったな……ったく、調度疲弊してたタイミングで出てきやがってよ。お陰様で久々に大怪我だぜクソッタレ」

 

 

 だが一誠はそんな匙に対して皮肉気味な台詞を返すと、目を覆っていた包帯を外し始める。

 

 

「お陰で目ん玉無しだよ、ばか野郎」

 

「うっ!?」

 

 

 そして顕になった一誠の閉じられた目がパカリと開けられ、眼球が丸ごと無くなってリ有り様にソーナ達は口を押さえながら吐き気を堪える。

 それは追い討ちを掛けた際、『偶然』に目に神器のラインが当たって抉り取ってしまった匙もであり、眼球の無い目を開けてヘラヘラ笑ってる一誠に今更ながら恐怖を抱き出す。

 

 

「こ、こんな……酷い」

 

「も、申し訳ありません! こ、この度は私の眷属がアナタに……!」

 

 

 直ぐ様謝罪しようとするソーナ。

 しかし。

 

 

「いや、そんなの要りませんわ」

 

 

 一誠はソーナにピシャリと謝罪なんて糞食らえとばかりに断ると、右手で自らの顔全体を隠すかの様に覆いながら言った。

 

 

「俺を邪魔に思って再起不能にでもさせようと思ってアンタがそこの腰巾着に命令したのか、それともこの腰巾着の独断かなんて聞いた所で意味なんて無い。

重要なのは、俺はどうであれテメー等にぶちのめされたって事だ。

おっさんとの修行で能力(スキル)を疑似封印されてボコボコにされて弱ってたから負けましましたなんて言い訳はしない。負けは負けだからな」

 

『………』

 

「っ……スキル?」

 

「だ、だから匙くんに良いようにされたの? おっさんって、誰なの?」

 

 

 聞きなれない言葉に内心首を傾げつつ顔色悪くするソーナに、匙に遅れを取った理由を今やっと理解しつつも一誠が口にした『おっさん』なる人物が何者なのか疑問に思う椿姫。

 

 だが一誠はそれに答える事は無く、くつくつと手で顔を覆ったまま口を歪めて嗤いながら言葉を続ける。

 

 

「だが誤算だったな悪魔共。重症を負わせたのならそのままトドメを刺すべきだぜ? どうであれ昨日の時点なら俺を完璧にぶっ殺せたチャンスだったんだから。

くく、だけどもう遅い……疑似封印された俺の個性は復活し、そこの腰巾着が得意にでもなってそうな目についても――」

 

 

 肩を震わせながら言葉を紡いでいた一誠が、顔を覆っていた手をスッと下にスライドさせ、再び閉じていた目をゆっくりと開けた。

 

 

「なっ!?」

 

「め、目が……!」

 

「これは……」

 

 

 眷属達は、ソーナは、匙は……そして椿姫すらも驚愕した。

 確かに今しがた失っていた一誠の目。ぽっかりと眼球の失っていたその目が。

 

 

「逃げる機会を与えた時点で、テメー等は間抜けなんだよクソボケ共が」

 

 

 獲物を食い殺さんと上空から狙う鷹の様に瞳孔が開ききった瞳をこれでもかと見せつけながら一誠は嗤っていた。

 

 

「な、何でだ!? て、テメーもまさか神器(セイクリッドギア)を……!?」

 

 

 まるで魔法みたいな現象に匙か動揺しながら吠える。

 

 

「あ? そんなもん俺にはねーよ。くく、本来は持ってたらしいがな」

 

「……?」

 

 

 嘲笑うような顔で匙をチラリと見ながら神器の有無を否定する一誠の意味深な言葉にソーナと椿姫が何の事だと目を細める。

 

 

「じゃあ、何で今テメーは目を……!」

 

「アホかテメーは? 素直に教えるわけねーだろ」

 

 

 神器でなければ何なんだと、恐怖を圧し殺すかの様に吠える匙だが、一誠はまともに取り合おうとせず適当にいなすと、スッと復活したその目でソーナを見据える。

 

 

「椿姫ちゃんの上司だからと、グレモリー先輩共々黙ってやってたが……今回ばかりは黙ってられねぇな?」

 

「……。今更言い訳はしませんよ。私の統率力の無さが招いた結果ですから」

 

「ま、待って一誠くん! 会長は何も……!」

 

 

 明らかに殺意が一誠から膨れ上がるのを肌で感じながらソーナは、観念したかの様に言い訳もせず俯くと、それを庇うように椿姫がソーナの前に立ち、一誠に訴えかける。

 

 

「ん、まあ流石に俺も解ってるよ。そこの腰巾着が勝手に何か勘違いして暴走したんだろ? そーいやこの腰巾着、そこの会長さんに思ってる事があるっぽいしな」

 

 

 椿姫の懇願に一誠は『信用してる者』にだけしか見せない笑みを浮かべながら頷き、分かってるからと言いつつ匙へと視線を移す。

 

 

「っ!? だ、だから何だよ。

言っとくが、テメーが魔王様を倒したなんて話は嘘だってわかってんだぞ此方は」

 

 

 その視線に対して匙は、得体の知れない力を見せられたせいか妙な恐怖を覚えつつも、それを必死に抑えながら虚勢を張るかの様に威嚇するも、一誠はそれを思いきり見下した様に嘲笑う。

 

 

「またその下らねー話か。

ったく、信じる信じないなんて勝手にしてろ。俺はあんなしょうもない事実を自慢したくもねぇ」

 

「っ……そ、それと堕天使とこそこそしてたのも……!」

 

「実の親以上に親として慕ってる『人間』が居て、テメー等悪魔に何の関係があるんだ? おいおい、何時から悪魔様は人間の交遊関係に口出し出来るほどお偉くなりましたのやら」

 

 

 匙から言われた言葉の全てを嘲笑いながら言い返した一誠に、ソーナはハッとする。

 

 

「まさか、その堕天使はバラキエルという名では……?」

 

「ん? 流石におっさんは有名だな。その通り、俺が昨日釣りして修行相手になって貰ったのは紛れもなくバラキエルのおっさんだが」

 

 

 確認するかの様に問い掛けたソーナにシレッと答えた一誠。

 するとソーナは……そして椿姫はやっと納得したかの様な表情を浮かべる。

 

 

「そうでしたか。重々、本当に申し訳ありませんでした」

 

「今解った。

何で一誠くんが疲弊していたのかを……そういう事だったのね?」

 

『……え? え?』

 

「な、何ですか会長も副会長も! コイツは俺達の天敵と繋がってるかもしれなくて、会ってたのだって俺達の情報をその堕天使に流していたのかもしれないんですよ!?」

 

 

 親友から前に聞いた。

 一誠の師から聞いた。

 故に理解したソーナと椿姫の態度に眷属や匙は困惑する。

 

 

「情報を流すなんてありえません。そういう事よ匙。アナタは何処まで私に恥をかかせるつもり? いえ、もう愛想が尽きたわ」

 

「なっ!?」

 

「か、会長……そんな」

 

「匙くんだって良かれと思ってやったのに」

 

 

 ほとほと愛想が尽きたと言い切るソーナにショックで固まってしまう匙を見た、彼寄りの眷属仲間達――というか、椿姫とソーナ以外のメンバーが庇う様な言動をする。

 

 

「……。なるほど、リアスがぼやいてた疎外感とはこういう事だったのね。最近はどうも兵藤くんをフォローしようとすると感じてたけど」

 

「匙君が大切なのは解るけど、今回の事ばかりは弁護のしようが無い事を解りなさい」

 

「そ、そんなの! それでも仲間じゃないですか!」

 

「そうですよ! 匙君だってこんな……こんな訳の解らない人に……!」

 

 

 気づけばソーナと椿姫、匙とそれを庇う眷属達で割れてしまった。

 それはまさに分裂なのだが、それを遠巻きに引き起こした一誠は、アホらしいとばかりに眺めており……。

 

 

「そろそろ良い?」

 

 

 そろそろ此処に来た理由を果たそうと、何処から取り出したのか不明な程の巨大な釘と杭を手に目の前の集団に向かって小さく呟いた。

 

 

「う……てめ、そんなもん何処から……!?」

 

 

 刺さったら人たまりもなさそうな程の巨大な釘と杭を見た匙が身構える。

 

 

「何処からでもねーよ」

 

 

 そんな匙の問いを一言で切り捨てた一誠はというと……。

 

 

「がっ!?」

 

 

 椿姫以外の面々が目で追えない程の速度で匙に向かって投げつけ、胸と腹部に釘と杭を突き刺した。

 

 

「さ、匙くん!」

 

 

 その速さに戦慄を覚えた一人の眷属が慌てて目を見開いたまま膝を付いた匙に駆け寄る。

 すると刺した本人である一誠は、石像の様な表情で匙を見下ろしながら言う。

 

 

「見た目はグロいが痛みも傷も出来ねぇから安心しろよ」

 

「な、何を――あ、あれ?」

 

「さ、匙君の身体に刺さってた釘も杭も……な、ない?」

 

 

 一誠の言葉なんて信じられるかと睨む眷属達だが、その中の一人がその匙の身体に刺さってた筈の釘と杭が綺麗サッパリ消えてる事に気付き、困惑する。

 

 

「……。何をしたの?」

 

 

 匙自身も確かに身を貫いた二本の釘と杭が消えてる事に困惑しながら刺さった箇所を確かめるかの様に触るのを見下ろす一誠に椿姫とソーナが小声で問う。

 

 

「俺なりの仕返し。殺すだけじゃ芸が無いからな……」

 

 

 そんな二人に悪童宜しくに嗤うと、一誠は困惑する眷属達と……そして匙に向かって言った。

 

 

「俺の目が何で元通りなのか知りたがってたな? くく、まあ折角だし教えてやるよ」

 

「!?」

 

 

 ニタァと嗤って話す一誠に嫌悪感を覚えつつも聞くしか無い匙達は黙って耳を傾ける。

 

 

「仕掛けは簡単な事だ。

ただ単に『起こった現実を否定して自分の描いていた夢へと書き換えてやった』だけ。

つまり、テメーが俺の眼を潰したって現実を否定して無事な幻想へと書き換えれば俺の目は潰されてなかった事になるのだが……」

 

『……』

 

 

 だが聞いてみた一誠の話は余りにも馬鹿馬鹿しくて、余りにも荒唐無稽な話だった。

 しかし……。

 

 

「折角だからテメーにも体験して貰おうと思ってよ? そうすれば多少は信じるだろ?」

 

「っ!? お、俺に何をしたんだよ……!」

 

 

 一誠の放つ無慈悲で嘲笑う様な言葉が……。

 

 

「簡単だぜ。二日後辺りに『テメーが転生悪魔且つ神器使いという現実が否定され、只の口だけのボンクラ人間野郎という幻想へと強制的に逃避される』というささやかな出来事が起こるだけだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとう、キミは何を勘違いしてたのか知らんが、散々見下した人間様に無事戻って人間らしい生活が送れる様になれるぜ?」

 

「……!?」

 

 

 殺されるより更に深い絶望へとぶち落とされた。

 

 

「う、嘘言ってんじゃねーよ……どうせ虚勢だろ? て、テメーの!」

 

「さぁ? 信じる信じないはテメーの勝手だぜ。

まあでも良かったじゃん? 遅かれ早かれオメーの大好きな主は許すつもりなかったようだし? 人間に戻れば処刑されずに済むじゃん?

うんうん……いやー……『良いことしたなぁ。』」

 

 

 悪魔を越えた、人間の持つ過負荷(マイナス)により……。




補足

会長とデキ婚したがってた事を考えると、ぶちのめされるより、強制的に人間に戻される方がヤバイかもしれない。

しかもさりげにウリドラパワーすら消されるという……。


まあ、こんな真似すれば匙LOVEな面子から更に恨まれますけどね。


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情念故の崩壊

タイトル通りというか……。
最早一誠が疫病神になってるぜ……


 最初は只の風紀委員の新入りだと思っていた。

 

 

『ケケ、コイツは俺達風紀委員の後継者よ』

 

 

 親友の眷属よりもさらに小柄……というかどう見ても小学生にしか見えなかった先輩が直接指名した一年生。

 それが後の最後にて最大の迷惑風紀委員の長となる……当時はその程度の認識しか無かった。

 

 それがどうだ、月日は過ぎて、後継者となった彼以外の風紀委員は皆卒業して行った後に発覚した様々な事実。

 

 親友の女王である姫島朱乃と長馴染み。

 同じく兵士である赤龍帝の双子の弟。

 

 そして……。

 

 

「許してやるよ、今日の俺は非常に心が広い気分だからねぇ……ククク」

 

 

 我等を半笑いで捻り潰せる程の強さを持っている。

 それを知ったのはつい最近であり……二日前。

 

 

「二日後辺りに『テメーが転生悪魔且つ神器使いという現実が否定され、只の口だけのボンクラ人間野郎という幻想へと強制的に逃避される』というささやかな出来事が起こる」

 

 

 私の眷属がとんでも無い真似をやらかし、その報復へと現れた彼から聞かされた馬鹿馬鹿しいとすら思ってしまう荒唐無稽な力。

 それは、私達が今生きる現実と呼べるもの全てを否定し、思い描く夢想へと強制的に書き換えるというあり得ない力。

 

 その力は、私の兵士である男に執行され、そして向けられた言葉は余りにも無慈悲で、私達を虫けら扱いするかの様だった。

 けれど、今回の事ばかりは完全に我々に非がある訳で……。

 

 

「そう、二日前に彼が言っていった事は本当だったのね」

 

「は、はい。でも駒はあるからまた――」

 

「……………。いえ、良い機会です。

匙、アナタはこのまま人として生きなさい。私にはアナタは荷が重すぎる」

 

「なぁ!?」

 

 

 私は私なりにその責任を果たす。

 匙を二度とこちら側に関わらせない為にね。

 

 

 

 

 幻実逃否(リアリティーエスケープ)

 現実を否定し、己が描く都合の良い幻想に書き換えて逃げるという、俺の最初のスキルにて拭いきれない俺の弱さ(マイナス)

 久々にマジになって使ってみたんだが……コイツもまた平行して退化してやがるというか……。

 

 

「よ、なじみちゃんのご帰還だぜ」

 

「随分遅いご帰還というか、散々踊らせてくれたな」

 

 

 師匠のお帰りに俺は色々と聞きたいことだらけだっつーか。

 転生悪魔と神器使いという現実を否定したやった腰巾着の後の人生なんてどうでも良いよな。所詮はその程度だし。

 

 

「サーゼクス・ルシファーとグレイフィアってのその間のガキか何かがアンタの手の者なんざ知らなかったぜ」

 

「うん、まあ言わなかったしな」

 

 

 そんな事よりも重要なのが、ご帰還してきた師匠に一言で二言文句を垂れてやる事であり、何食わぬ顔して家に帰って来た師匠に、俺は例の魔王について聞いてみる。

 

 

「あの二人は実際お前より付き合いが永くてね。

ポジションでいえば僕の写し鏡というか、有事の際は僕となる位置程の人外だな」

 

「ふーん」

 

 

 なじみ曰く、写し鏡であり。本当の意味で三人合わせて悪平等らしい。

 つまりあの時の魔王は予想通り完全にやられたフリだったらしい。

 

 

「元の種族としてのスペックも悪魔の中でも取り分け人外に加えて能力保持者。

だからこそ朱乃ちゃんで燻ってるお前の修行相手になって貰った訳だけど……随分気に食わないみたいだね?」

 

「別に」

 

 

 何と無くスーパーで買い物中に目に止まってつい買ったミカンの皮を剥きながら話を聞くが、此方の心境を見透かしてくる言葉につい素っ気なく返してしまう。

 

 一応俺も分かってるつもりだ。

 あの時の妙な力のみなぎりは、師匠のお膳立てがあるから掴めたものである事も。

 だけど、朱乃ねーちゃんが人柱にされたのと何ら変わらない訳で……。

 だから俺はいくら師であろうとも、あの時の事は気に食わないのだ………結局勝った気にもなれなかったし。

 

 

「仕方ないだろ? 朱乃ちゃんが成長の阻害になってるのであれば、その朱乃ちゃんを利用すれば良いんだから。

あ、ひとふさちょーだい?」

 

「………」

 

 

 だけど、そんな真似しなくても強くなってやるよ……とは言えないのもまた事実であり。

 どこまでも弱い自分を情けなく思いながら、あーんと口を開けてるなじみに剥いたみかんをひとふさ放り込むのであった。

 ……あ、すっぺ。

 

 

 

 明くる日の昼休み。

 匙元士郎は殺意に溢れた形相で隣のクラスに赴き、びびる男子生徒の一人に言った。

 

 

「兵藤は何処だ……!」

 

「え、あ、アイツなら安心院さんと昼飯に――」

 

「何処で……!」

 

「た、多分屋上……?」

 

 

 元々生徒会役員である匙なので、問われた生徒も顔は知っていた。

 しかるに一誠の行方を聞いてきた今の彼からは明確な殺意が滲み出ており、思わずといった様子で一誠の行き先を予想混じりに教えた男子達は、その様子を見ていた女子達と共に殺意剥き出しのまま去っていったその背に、一体あの十日坊主だった一誠が何をやらかしたのか……割りとちょっとだけ心配になるのであったとか。

 

 

「え、えぐい殺気立ってたけど、アイツは何をしたんだ?」

 

「ちょっとした悪戯には見えないけど……」

 

 

 まあ、実際は心配するのが逆になる訳だが……。

 

 

「兵藤ォッ!!」

 

 

 そんな匙はというと、恐らくは不意打ちの時よりも更に爆発させた憎悪を剥き出しに、一誠のクラスメートから獲た情報を基に屋上に行き、遂にその姿を捉えた。

 

 

「んぁ?」

 

「おや」

 

「匙君、でしたわね」

 

「………」

 

 

 憎悪剥き出しの声で名字を叫ぶ匙に対し、一誠はと云えば呑気にお昼ご飯を……なじみ、朱乃、椿姫と共に食べている最中であり、目を血走らせる匙に対してどうでも良さそうな反応だった。

 

 

「誰かと思えば腰巾着か……何の用だよ?」

 

「何の、用……だぁ?」

 

 

 惚けた様な態度の一誠に益々憎悪を増加させた匙が、大股で近付きながら手摺に背を預けて座ってた一誠の胸ぐらを掴んで無理矢理たたせようと、なじみ、朱乃、椿姫の弁当をひっくり返してしまいつつ躍起になる。

 

 

「くっ、てめ、立てよコラ!」

 

「おいおい、人様のご飯をメチャクチャにして起きながら随分な態度だな?」

 

 

 しかし立たせる事が出来ない。

 昨日……いや数時間前までなら悪魔として転生した基礎の腕力で締め上げられる事も可能なのに、今の匙にはそれが出来ない。

 

 

「うるせぇ! よくも……よくもやりやがったな!!?」

 

 

 何故か? それは、匙の中にあった悪魔とした転生した現実も、神器使いとしての何もかもが否定され、只の人間としての現実に無理矢理書き換えられてしまったからであり、その現実が匙をブラフでは無い真実として絶望に叩き落とし、更には……。

 

 

「あぁ、人間に戻れたんだ。おめでとさん」

 

「ふざけんな! 今すぐ俺を元に戻せ!!」

 

「おいおい、俺に頼らずとも例の生徒会長にまた転生させてとでも頼めば良いじゃないか? 少し考えればわかるじゃないか」

 

「ぐっ、う、うるせぇ!! こんな事で会長の――」

 

「いえ、会長はもう、彼を二度と眷属にはしないと朝直接言ってましたよ。

だから一誠くんの下へ来たわけです」

 

「う……ぐ、副会長ォ……!」

 

 

 ソーナ自身から実質クビと言い渡された。

 故に匙は元凶となった一誠にこのふざけた力を解除しろと詰め寄りに来たのだが……。

 

 

「戻せ? あ、ごめん。戻し方なんて忘れちゃったわ」

 

 

 胸ぐらを掴まれたままの一誠はヘラヘラ嗤いながらアッサリと匙の言葉を切り捨てた。

 

 

「ぐ……ざけんな! そんな言い訳――」

 

「別に悪魔じゃなくても生徒会のままなら、これからも腰巾着でいれんじゃん。少なくとも約半年くらいは。

まあ、その後の事は知らねーがな」

 

「だ、黙れぇぇっ!!」

 

 

 皮肉っぽく嗤って煽る一誠に戻すつもりが無いと言われた匙は一気にカッとなり、空いていた右手に拳を作り、そのまま振り下ろさんと思いきり振りかぶった。

 

 

「いい加減にしてください匙元士郎。

我が主であるソーナ・シトリーとの縁は本日を以て完全にキレたと言われた筈です。

それでも尚、喚くつもりであるなら、此方にも考えがあります」

 

 

 しかし、振り上げた手首を椿姫か抑揚の無い表情で掴むと同時に淡々とした他人行儀な口調で、制止したお陰でその拳が振り下ろされる事は無かった。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 手首を掴まれた匙が、思いきり顔を歪めて背後に横に立つ椿姫を睨む。

 

 

「な、何ですか……。アンタはコイツの事が好きだからって贔屓してるんですか!?」

 

 

 それは単純に八つ当たりだった。

 一誠の味方になる椿姫に対しての、ソーナの眷属である事を剥奪されたが故に八つ当たりの様に、椿姫に対しても憎悪の形相を向ける匙。

 

 

「贔屓も何も、アナタの自業自得でしょう?

会長の命令を無視して彼に大ケガを負わせたのも、その報復に悪魔である現実を否定されたのも、そのまま眷属をクビになったのも、アナタが勝手に先走った結果が招いた事でしょう?」

 

 

 鋭い目付きで見据えながら、自業自得だとキッパリ言い切った椿姫に、胸ぐらを掴まれたままの一誠はヘッと小さく嘲笑う。

 

 

「殺されなかっただけありがたいと思って、残りの人生が楽しめよバーカ」

 

「テメェェェッ!!」

 

 

 ケケケケと、悪魔よりも悪魔らしく嘲笑う一誠に匙は顔を真っ赤にしてキレた。

 しかし普通の人間に戻されてる今の匙に、椿姫に掴まれた腕を振りほどく力は無く……。

 

 

「戻せよぉ! 俺を元に戻せよぉ!!」

 

 

 心がへし折れたかの如く膝を付き、そのまま泣き崩れてしまった。

 

 

「人の目を抉り取ったから、それなりの仕返しをしてやった。

だから俺は全然悪くない。悪くないったら悪くねぇ」

 

 

 だがそんな無力な少年へと戻された匙に対し、一誠はどこまでも嘲笑うだけ。

 

 

「まあ、代わりにその場で自分の両目を抉り取ったら考えてやらんことも無いが? くく、その場合は会長さんは永遠に見えなくなるけどね」

 

「う、うぐ……ぅぅ……!」

 

 

 匙元士郎はまさに再起不能(リタイア)だった。

 

 

 

 そんな再起不能状態へとなった匙だが……。

 

 

「もう一度転生させてチャンスを与えるべき? アナタ達はそれを本気で言ってるの?」

 

『……』

 

 

 元・兵士の主であるソーナは、やっと消えたと思った頭痛の種が残した新たな頭痛の種に苛まれていた。

 

 

「匙君だって反省した筈です」

 

「それに元々は会長を守ろうと頑張ろうとしての行動ですから!」

 

「………………」

 

 

 本当に予言通りに匙から神器の力も己の転生させた力も何もかもが消え、また転生させろと言ってきた匙に実質的なクビ宣言を告げたソーナ。

 だが、ソーナの方針に反対だと口を揃えるのは、由良翼紗、巡巴柄等々……兵藤一誠が心底気に食わないと口を揃える且つ、匙に対して様々な想いを向ける者達だった。

 

 

「……。いや、考えてみなさいよ。匙が一体何をしたのか」

 

「それはわかってます。ですが……!」

 

「ですが――じゃないんですよ。

危害を加えても無い……寧ろリアスの恩人でもある人間に対して大ケガを負わせて、本来なら一生治る事の無い両目まで奪った……。

人間でいえば立派な犯罪であり、また『無闇に人へ危害を加えてはならない』という魔王様の方針に背いた時点で、寧ろ匙は今ごろ捕らえられてもおかしくは無い。それを彼本人が匙を人間に戻すだけで大事にしないと言ってくれただけ、我々は既に借りまで作ってしまった。

なら私が出来るのは、匙を二度と此方に関わらせない事……それだけの事なのに、それでも匙を庇い立てしますか?」

 

 

 思えば、自分の眷属はルー・ガルーを除いて妙に匙に拘る者が多かった。

 その時は仲が良いに越したことは無いと思っていた訳だが、今の状況を見てソーナは確信した。

 

 

「で、でも……匙君は仲間です!」

 

 

 ……。これは只の仲間内の馴れ合いでしか無いんだと。

 悪いことは悪いと注意して道を示す事もしなければ、やる事は甘やかすだけ。

 今更ながらにそれに気付いたソーナは、それでも仲間だからと訴えてくる眷属達に対して頭を押さえながら言った。

 

 

「…………。何を言われようとも、私は匙を兵士として再び迎えるつもりは無いわ。

だけど、匙はただ人間に戻っただけだから、これからも友人個人として付き合える筈でしょう? その事について私はとやかく言うつもりは無い」

 

 

 本来なら皆殺しにされても文句も言えない事態をこの程度で済ませて貰った。

 しかしそれでもケジメはつけなければならない訳で……。

 

 

「……私は所詮この程度の器。

だから、私に従いたくなければ遠慮せず去りなさい。

悪ささえしなければ、はぐれ悪魔の認定はしないから」

 

 

 ソーナは一度最初から自分を見つめ直す事に決めた。

 眷属を御せない、巨大な力の前にオロオロするしか出来ない情けない自分を叩き直す為に……。

 

 

『………』

 

 

 その結果……。

 

 

 

 

「は? アンタの部下が全員腰巾着を庇う為に生徒会を辞めた?」

 

「…………。大学部に居るルー・ガルーという者と、この椿姫以外はアッサリと去っていったわ。

あ、あはははは……………とことん自分が情けありませんし、是非笑ってくださいよ」

 

 

 本気と書いてマジで二人を残して全員が匙の下へと去っていった。

 その事を昼休みを邪魔されたんだけどと文句を言いに来た一誠に対して、投げ遣りに笑って告げたソーナはどこまでも小さく見えたという。

 

 

「えっと……これ、俺のせいなの?」

 

 

 ある意味でリアスより短期間で悲惨な事になってるソーナを前に、自分のせいを疑い始めた一誠が、流石に罰の悪そうな顔をするが、そんな一誠にソーナは自嘲しながら首を横に振る。

 

 

「そうは思いませんよ。単純に自分の器の無さが招いただけですから……」

 

「あ、あぁそう……。うわ、まだ張りぼてとはいえ割れては無いグレモリー先輩より悲惨というか……。

おいなじみ、これ……最近なんなんだよ?」

 

「僕に聞かれても、こればかりは本当にわからんよ。

情念ってのはそういうものだろ……としかね」

 

 

 疲れた中年リーマンみたいに両手で顔を覆いながら椅子に座るソーナと、そんな彼女を心配して肩を抱く椿姫を見ながらひょっこりと付いてきてたなじみとヒソヒソと話す一誠は、ひょっとして自分は疫病神か何かなのでは無いかと本気で思い始めてしまう。

 

 

「あのすいません……取り敢えずねーちゃんとグレモリー先輩呼んで、喫茶店にでも行きます? 奢る程度しかできませんけど……」

 

「え? ぁ……ええ……そう、ね。リアスにこの事を言っておかないと……」

 

 

 流石にこうまでなると、自分のせいでは無いとは言い切れない。

 変な所で罪悪感を持つ一誠は、物凄いソーナな不憫に思えて仕方なかったのだという。

 

 

 

 

 

 

「ソ、ソーナの眷属が?」

 

「はい……私と大学部に居る戦車を除いて……」

 

「それは……また……」

 

「あは、笑ってよリアス。私は所詮この程度よ」

 

 

 そんなこんなで、精神ダメージが半端じゃないソーナを抱え、喫茶店――では無くて、なじみの提案で一誠宅へとリアスと朱乃も加えて帰宅し、現状の崩壊しきった両眷属について割りと本気で話し合う事になった。

 

 

「最近私も兵藤くんから受けた恩について、小猫とアーシアと祐斗に注意すると、そんな反応を露骨にされるようになったけど……」

 

「まさか本気で人間にもどった匙君へ行くとは……」

 

「いえ、あの子達が匙を大事にしてたのは何と無くわかってました。

けど、今回匙がやった事は本来なら許されない事……だからケジメとして人間として生きるべきだと言ったのに――こ、こんな事に」

 

「ソーナ……」

 

 

 あはあはと力無く笑って自嘲するソーナは実に痛々しい――と、リアスは思わず目を逸らしてしまいそうになる。

 すると、そんな様子を苺に練乳を掛けて黙々とリアスやソーナから見ても美少女であるなじみと食べてた一誠が、彼らしからぬ遠慮がちな声を出す。

 

 

「あの……やっぱり聞いてると俺絡みで崩壊してるんですけど……」

 

 

 ビックリするほど下手な態度の一誠の言葉に、リアスとソーナは首を横に振る。

 

 

「さっきも言いましたけど、アナタは関係ないです。

寧ろこの程度で済ませて貰ってるだけ、感謝すらしてます。

本来ならあの時全員アナタに殺されても仕方ない話でしたし」

「私はアナタにとっては結果的にだけど、私にとっては恩人だから……」

 

「は、はぁ……」

 

 

 パクパクとイチゴを食べつつ二人の言葉を受けた一誠だが、どう考えても自分の存在でこんな事になってる感が否めない。

 

 

「珍しいね、お前が他人にそこまで罪悪感を抱くなんてさ?」

 

「いやだってよ、流石に此処まで出来すぎた話になると俺のせいだと思うじゃん。実際はそうだし。見ろよあの生徒会長を? 二ヶ月くらい前までは俺のやり方にめっちゃ文句言いまくってた程の堂々とした出で立ちが見る影もねぇ……」

 

「うーん、僕が思うに『何処ぞの誰かが』お前を諸悪の元凶にしてるように仕組んでる気がするんだどな」

 

 

 まるで、どう動いても一誠のせいで……という逆補正が働いてるかの様に。

 

 

終わり。

 

 

オマケ

一誠くんなりの慰め。

 

 

「あの……折角だし四人とも泊まります? 女の子同士で励まし合う的な意味で。あ、当然俺は外で野宿しますけど」

 

「………? あれ、アナタ本当に兵藤くん?」

 

「は? なんすかそれ?」

 

「いえ、普段の女好きなアナタなら『当然俺と寝てもらうがな!』とでも言いそうなのに…と思いまして」

 

「いや、流石にこの状況じゃ言わね――」

 

「あぁ、一誠は根はヘタレだからしょうがないんだよソーナちゃん」

 

「ヘタレ?」

 

「そ、朱乃ちゃんや椿姫ちゃんは知っての通りだが、コイツ、逆に迫られると結局何にもしないタイプ――」

「ちげーし! 別にそんなんじゃねーし! そんな気分じゃねーだけだし! その気になれば即ル○ンダイブ噛ませるしー! てーか別にそんな気分になる相手じゃねーし!」

 

「…………………。あ、なるほど」

 

「そういえば、あの時もセクハラはしたけど、それ以降はしてこなかったわ」

 

「スケベな本が一杯と言いながら一冊もありませんし……」

 

「押し倒しても逃げるし……」

 

「だからちげーし! そもそもそこの貧乳にそんな気分になったことねーよ!」

 

「ひ、貧乳!? ちょっとアナタ、今のは――」

 

「貧乳に貧乳と言って何が悪い! やーい貧乳ー!!」

 

 

 と、いう言い争いに発展した結果、そのまま一誠宅に泊まったリアス、ソーナ、椿姫、朱乃……と、ついでに元から押し掛けてるなじみはその夜ガールズトークで盛り上がったとの事。

 

そして……

 

 

「…………。家主の俺がなんでこんな追い込まれてるんだよ」

 

 

 一誠はこの日、押し入れどころか天井裏で寝ながらブツブツと文句を言うのだった。

 別に誰も天井裏で寝ろとは言っておらず、勝手に『いや、今日はストイックな気分だし』と自分でやった事だったりするのは、暗黙の了解である。

 

 




補足

完全に逆補正というか、まるで仕組まれたの如く一誠が行動しちゃうとなにかが崩壊して、その元凶となる。

単純にマイナス補正では片付けられない程に。

その2
クビにしたらスト起こされた挙げ句、クビにした社員の下へと去られてしまったソーナさん。
彼女もまた物凄い不憫というか、流石に一誠もこれには同情以上に『俺のせいだよな?』と気にしてしまう。

ただ、不意打ちされて目玉も抉られたその報復故なので、一概には言えませんね。


その3
然り気無くなじみちゃんが加わってるガールズトーク。
ちなみに、一誠愛用の掛け布団を朱乃ちゃんと椿姫ちゃんが取り合ってる横で一誠愛用の抱き枕をなじみさんが使い、更に知らずに一誠のスエットを着て寝るリアスさんとソーナさん――


の、上の天井裏でねず公相手にブツブツ愚痴りながら寝てる一誠。


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チンピラ風紀委員長カウンセラー・一誠くん

何故か巻き込まれている内に、不憫な者達の……


 考えてみれば、悪魔共に不幸が降り掛かろうが俺には関係無い筈だ。

 だってそもそもその悪魔の下僕が最初に仕掛けてきたんだからよ。

 

 それに対して俺はただ報復しただけであって、それによって悪魔の親玉が部下に逃げられちまおうが、考えなくても俺は関係ないったら無いんだ。

 

 

「なるほど、腰巾着を元に戻すまでストライキね。

アホらし過ぎて笑えば良いのかもわかりゃしねぇ」

 

 

 学園の応接室よりも応接室っぽい風紀委員室。

 先々代の雲から始まり、先代の冥ちゃん先輩……じゃなくて雲。

 二人の雲から引き継いだこの場所は、全盛期を過ぎて衰退しまくってる今でも死守しており、委員一人だけの現在では、俺のサボり場所となっている。

 

 

「いっそ戻せば? 俺ももうあんな腰巾着なんてクソどうでも良いし」

 

 

 そんな風紀委員室に珍しく人が集まってる訳だが、生憎ポジティブな理由では無かった。

 

 

「……………。正直、戻した所で私が皆を信じられなくなってるというか」

 

 

 風紀委員と生徒会。

 ほんの少し前までは寧ろ互いに煙たがってた間柄だというのに、ただ今委員長である俺と生徒会長である支取蒼奈――じゃなくてソーナ・シトリーは割りと真面目に話をしていた。

 理由はそう……本日から生徒会の活動をピタリと止めた連中についてだ。

 

 

「まあ確かにっすね。

寧ろ信じるなんて言ってたら引いてましたわ」

 

「………」

 

 

 俺が腰巾着野郎に報復のつもりで転生悪魔と神器使いである現実を否定して只の人間にしてやったのが事の始まり? いや、奴が俺に不意打ち噛まして目玉を抉ってくれた時が始まりか。

 とにかく俺の報復のせいか何か知らんが、その事について甘んじて受け入れたソーナ・シトリー……めんどくせ、シトリー先輩がとばっちりをもろに被った。

 

 内容としては……腰巾着を元に戻して元の生徒会に戻る事。

 シトリー先輩が腰巾着を許す事。

 取り敢えず俺に味方する言動を取って自分達を不安にさせないこと……。

 

 

「結局、俺に喧嘩売ってきた話を無かったことにして元に戻せと言いたいらしいね奴等は」

 

「それがあの子達の要求みたいです」

 

「……………。俺が本気で只の人間で今も失明したままでも同じ台詞を吐くつもりか聞いてみたいもんだね」

 

 

 自覚してた上でやってたとはいえ、とことん俺は嫌われてる様で、常人だったら大事件ものというかマジな話警察沙汰な真似をしてくれやがった奴を無条件で許して、俺は泣き寝入りして終われと奴等は言いたいという話にやはり呆れてしまう訳で。

 

 シトリー先輩と、その傍らに付いてる椿姫ちゃんですらそれは道理が通らないと思ってるだけまだ世界は正常に機能してると分かるものの、それにしたってこれはおかしい。

 

 

「腰巾着とそれを追ってった連中は今日学校に来てないみたいだけど……」

 

「此方が折れるまで来ないつもりらしいです……」

 

 

 てか異常だろ。

 何かにつけて俺が関わると、どうにも俺が元凶にされてる感じになるって意味も含めて今の状況が。

 

 

「近々教会からの使いがリアスの所に来て話し合いをするので、あの子達が使いの悪魔祓いに何かされてしまう前に何とかしたいのが本音といいますか……」

 

「それを俺に言われましてもね……勝手にしてろとしか言えねぇですよ」

 

 

 そして巻き込まれてる事も……。

 何処までもメンドクセーぜ。

 

 

 

 

 ソーナの眷属達がストライキを起こした。

 その話は当然リアスの眷属達にも伝わったのだが……。

 

 

「またあの人が絡んでるんですか?」

 

「今度は何をしたんでしょうか?」

 

 

 いくら説明しても、いくらフォローしても、いくらそうじゃないからと言っても……ソーナの眷属達がストライキを起こしたのが一誠のせいだと認識する小猫、祐斗、アーシアの三人にリアスと朱乃は昨晩、安心院なじみがそれとなく話してた事とピッタリ一致していると理解し、兵藤凛も何かにつけて一誠が悪くなる流れにされている異常さに気付き始める。

 

 

「待ちなさい。私の話を聞いていたの? 兵藤君はまだ眷属だった匙君に重症を負わされ、その事について報復しただけと言ったわよね?」

 

「流石に一誠が悪いって言うのは無理があるよ?」

 

「それでも一誠くんが悪いと?」

 

「「「………」」」

 

 

 だからこそ、リアスや朱乃は必死になってフォローしようとするのだが……。

 

 

「副部長はともかくとして、部長もあの人の味方になる様になりましたね」

 

「やっぱり僕たちが役立たずで、彼に助けられたお陰ですか?」

 

「……。リンさんまで……」

 

 

 何を言っても、何故か一誠が悪いじゃないか的な流れに……そして態度をする三人やソーナの眷属達の態度に異常さがより肌で感じる。

 

 

「ま、待ってよ! リアス部長はそんな意味で言ってないのに、どうしてそんな言い方を――」

 

「む……凛先輩がそう言うのであるなら……」

 

「確かに今のは僕達が失礼だったね」

 

「弟さんですものね……」

 

「え、い、いや……そんな意味じゃなくて――」

 

 

 

「……私、やっぱり嫌われてるのかしら」

 

「一誠くんを悪人の対象にして置かないと気が済まないみたいですわね」

 

「それが異常なのよ。

おかしいじゃない、彼は私達の恩人なのに……」

 

 

 まるで見えない何かが、些細な事でも一誠を悪人に仕立てたがるかの如く。

 今だって一誠をフォローした自分よりも、アッサリと凛の言葉に意見をねじ曲げた三人を眺めながら、リアスはますます疎外感を感じてしまっても、多分仕方のない事なのかもしれない。

 

 

 故に自然とリアスは――

 

 

「いや、来られても困るんですけど。シトリー先輩といいよ」

 

 

 生徒会室よりも、そしてオカルト研究部の部室よりも豪華な風紀委員室へとやって来てしまうのだ。

 

 

「あらリアス。

その顔からしてまさかとは思いますが……」

 

「フォローしてもしても兵藤くんが悪いって空気になるし、私の言葉を信じないで凛の言葉はすぐ信じる。

居心地がどうにも悪くてね……」

 

「真羅さんも大変ですわね」

 

「それこそお互い様ですよ」

 

 

 色々と居心地悪くて朱乃と一緒に風紀委員室へと訪れてみると、既にソーナと椿姫がそこに居り、顔を見るや否や嫌そうな顔をしつつも追い出すことはしない一誠に挨拶をしたリアスは、ほんの一週間前の時とは見る影もなく疲れた表情をしてるソーナが心配だった。

 

 

「チッ、何時から風紀委員室は体の良い避難場所になったんだ。

大体、朱乃ねーちゃんと椿姫ちゃんはともかく、アンタら二人は基本信用してねーんだけど?」

 

 

 先々代が学園長を脅して買わせた高いソファーを四人がすっかり占拠するのを、隠すことなく嫌そうな顔を風紀委員長の机に座りながら向ける一誠だが、律儀なのが何なのか、一応きっちりとお茶だけは淹れて出す。

 

 

「この光景を見たら腰巾着共と役立たず共が勝手に勘違いしそうだぜ……ったく」

 

 

 変に気を利かせるというか、口調とは裏腹に律儀にも二人の現状は自分のせいじゃないのかと気にしてるからこそ、奇跡的にソーナとリアスは異常な状況でも冷静になれている訳だが、本人達にそんな自覚はまるで無く、適当に淹れて出したお茶を受け取った四人は其々ペコリと頭を下げてから口をつける。

 

 

「あ、美味しい」

 

「意外な一面を垣間見た気がしました……」

 

 

 そんな一誠作のお茶だが、意外な事に温度調節から漉しまでほぼ完璧であり、リアスとソーナは初めて口にした一誠作のお茶を素直に誉めた。

 

 

「先代……いや、全員知ってると思うけど、冥ちゃん先輩のお茶汲みをやらされてましたからね。不味かったらカップ投げ付けられるからそら必死で覚えましたわ」

 

 

 そんな二人の誉め言葉に対して、一誠は特に嬉しがる事もなく委員長席に座りながらソッポを向きながら先代風紀委員長の愛称を口にする。

 

 

「先代……あぁ、雲仙先輩の事ですね?」

 

「小猫より小さいけど、おっかない人だったわね……」

 

「風紀の取り締まりに関してはやり過ぎな気がしましたが……」

 

「毎日の様に一誠くんを連れ回してましたわね、そういえば」

 

 

 一誠にとっては二つ上。リアス、朱乃、ソーナ、椿姫にとっては一つ上であった先代風紀委員長について懐かしむかの様に顔を綻ばせる四人にとってもその先代はおっかなかったらしい事が伺える。

 

 

「やりすぎなけりゃあ正義じゃねぇ……を素でやってたからなあの人は。

今じゃ一緒に卒業していった先輩風紀委員達と先々代が興した風紀財団だか何だかに対抗する組織を作ったらしいが……」

 

 

 しかしそれも今じゃ良い思い出。

 スーパーボールみたいな武器で風紀を乱した輩を血祭りにあげていた先代から受け継いだ風紀委員は今も一人だけながらちゃんと在る。

 在るからこそ、現状のこのがんじがらめな厄介事をさっさと片付けなければならないのだ。

 

 

「いっそ俺はクソ野郎と罵られても構わねぇから、アンタはその薄情な部下共ときっちりケジメをつけちまえ。

悩んだって所詮は奴等の決めた事なんだからよ。つーかそこまで俺を嫌うなら、いっそ俺からやらかしてやるよ」

 

 

 疎外感を覚える程度にまだ収まるリアスは兎も角、短期間で此処まで色々と崩壊したソーナに関しては本人も最早去っていった連中を心の底からは信じられないと告白してる。

 

 ともなれば、一誠の考えは一つだった。

 

 

「……。叩き潰すと……?」

 

 

 どうしても自分を悪人と思いたければ思えば良い。

 自分のせいで失ったと思いたければ自由にすれば良い。

 

 

「違うな、腰巾着と同じく人間としてこれからは健全に生きて貰えば良いのさ。

そうすれば綺麗さっぱり解決でしょう?」

 

 

 それなら此方は便乗してなってやるまで……連中が思う悪とやらに。

 一度スイッチが入ると女子供だろうが容赦する気配しか無い一誠が、不安そうな声を出すソーナに首を横に振りつつ、いつの間にか手に持っていた匙を突き刺した巨大な釘と杭を机に突き刺して嗤うと……。

 

 

「ほら、俺って奴等からしたらゲス野郎だし?」

 

 

 てっとり早く終わらせると宣言した。

 

 

「え、何処からそんな釘と杭を……!?」

 

「なるほど、匙の時と同じ事を……」

 

 

 一誠の異常性を見た事はあれど、こんな禍々しそうなものを何処から途もなく取り出すのは初めて見るリアスはびっくりした顔をするが、既に見たソーナは一誠がしようとしている事を察して納得しつつも、割り切れてない分複雑な表情だ。

 

 

「……。転生しなければ死んでしまうために転生した事情を持つ子が居ますが、そこら辺は……」

 

「言ったろ、只の人間にするって。

だからその背景も……否定してやるよ」

 

「そうですか……それなら――」

 

 

 

 

 

「せめて主として最後にあの子達がはぐれ悪魔にならないように……お願いします」

 

 

 だけどソーナは決心する。

 椿姫と大学部の戦車以外は居なくなってしまうけど、進んで自分の下を去ってしまったのであれば強制はしない。

 

 人に戻り、残りのまだまだ長い人としての人生を全うして欲しい……ソーナはそう願い、目の前の風紀委員長へと頭を下げた。

 

 

 

終わり

 

 

オマケ

 

 

 結局そんな流れになった訳だけど、よくよく一誠は思った。

 あれ、割りに合わないと。

 

 

「ぶっちゃけ、俺的には連中がはぐれ狩りされても知らんしって感じだし、タダでやるのもなぁ……」

 

「……。う、な、ならそれ相応のお礼を……」

 

 

 だから一誠は言った。

 

 

「よし、全部うまく行ったらアレだかんな、おっぱいサンドイッチの一つや二つでも頼むぜ」

 

 

 おっぱいを寄越せと。

 

 

「えーっと、ねーちゃんはある、椿姫ちゃんはある、グレモリー先輩もあるから頼めるとして……ええっと、シトリー先輩は――ごめん、無理ですね」

 

「なっ、ま、また私を貧乳とバカにしますか! で、できますよそれくらいなら!」

 

「いやすんません、固い胸板押し付けられても虚しいだけなんで虚勢は要りませんから」

 

「で、出来る! 出来るったら出来ます!」

 

「いやだから要らねぇっての、この貧乳めが」

 

「ひ、貧乳言うな! そこの三人が無駄にあるだけで、私は体型とバランスが――」

 

「フハッ! おい今の聞いたかよ? バランスなんてほざいたぞこの貧乳は!

無いのをそんな言い訳で誤魔化すとか笑えるぜオイ!」

 

「きゅ、急に生き生きと私をバカにして……!」

 

 

 ケタケタケタケタと両手で胸を抑えながら上目使い気味に睨んでくるソーナを、これでもかもな嘲笑面でバカにしまくる一誠。

 

 

 そんな一誠を見た三人は……。

 

 

「少し前ならあり得ないやり取りですね、あのお二人……」

 

「風紀委員と生徒会は昔から代が変わっても仲が悪かったですからね……」

 

「というか、ああいった感じでソーナが半泣きになるなんて思わなかったわ……」

 

 

 しょうも無さすぎるやり取りに呆れたのはいうまでも無かった。

 

 

「貧乳は俺に対しての発言権なぞ無し! つーか、あの腰巾着はこの貧乳の何が良かったのかねー?」

 

「あるったら! あ、あるもん……!」

 

 




補足

どうフォローしても一誠が元凶扱いされる。

強ちでも無いにしろ、最早呪われてるとしか思えない何かが働いてる。


その2
他勢力に狙われる、しかし仲直りするには信頼がぶち壊れてしまった。
故にソーナさんは最後の手向けとして……。


その3
何故かカウンセラー化してる一誠くん。
ソーナさんへのカウンセリングは……貧乳連呼でブルーな気持ちをぶっ飛ばせ。


ひんぬーじゃないのがミソ。
貧乳言われて泣きべそかくから可愛いで済ませられる。


決して、どこぞの拗らせひんぬーにならせてはならない(戒め


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楽じゃないお仕事

都合主義展開かなー。

※ふと、今の時系列に存在しない筈の存在を入れてることに気づいたのでそこを削除しました。


 考えれば考える程に、何故俺がこんな事をしなければならないのかと思う訳で。

 そもそも部下に逃げられたのにしたって、本来ならどーでも良い筈なんだ。

 

 なのに何を俺は……あーくそ、イライラしやがる。

 

 

 

 その日、一般生徒達はギョッとなった。

 

 

「会長さーん、これ何処に運ぶんすか?」

 

「それは二階の物置に……」

 

「へーい」

 

 

 

 

「兵藤が生徒会の手伝いをしてる……だと……?」

 

 

 あの兵藤一誠が。もっといえば伝統的に仲の悪い風紀委員と生徒会が一つの仕事を協力して行っているという、駒王学園の生徒からすればまさに奇跡的な光景に、偶々見てしまった生徒達は夢なのかと疑ってしまった。

 

 

「お、おい兵藤? どうしたお前? 生徒会の仕事を手伝ってる様に見えるけど?」

 

「あん? あぁ、見ての通りだよ。まったく、あの会長と椿――じゃなくて副会長以外が全員近々転校する事になっちまったからさ?

役員が補充されるか代が変わるまで土下座して手伝いを請われりゃあ流石にね」

 

「だ、だとしてもお前、全校集会の時とか毎回野次を飛ばすくらい嫌ってじゃねーか。美少女だってのにさ」

 

「え、あぁ……まあ、別に好みじゃねーからセクハラだけはしねーよ。

ったく、世話の掛かる今代だぜ」

 

 

 重そうな物が入れられた大量の段ボールを其々片手で軽々と10段積みずつ程度に重ねて持ち上げる一誠に、偶々見てたクラスの男子が熱でもあるのかと疑う顔で聞いてくるのに対して、一誠はめんどくさそうに答える。

 

 

「というか待て! 転校するって何だよ!?」

 

「あの憎き匙もか!?」

 

 

 しかしシレッと口に出した転校の文字に、見てただけの生徒達がこぞって終結して一誠に問い詰めんと近寄ってくる。

 隠れがちなものの、オカルト研究部並みに美少女揃いの生徒会の殆どが転校するという話は大なり小なりの衝撃的事実なのだ。

 

 

「理由なんか俺が知るか。どーでも良い」

 

「お、おぉう……」

 

 

 だが一誠はそんな生徒達に邪魔だと云わんばかりの顔で一言に切り捨てると、そのまま軽々と持っていた荷物を両手にこれまた軽々と階段を上がっていく。

 

 

「ま、マジかよ。転校もそうだけど、兵藤が生徒会と仲良くやるとか……」

 

「卒業して行った雲仙先輩が知ったら何て言うか……」

 

 

 そんな背中を見つめつつ、生徒達は去年の小っさい風紀委員長だった者を思い出し、冷や汗が何故か止まらなかったのだという。

 ……。まあ、事の状況はそんな単純じゃあ無いのだが。

 

 

 

「ったく、流れとはいえ、まさか俺が生徒会の仕事を手伝うなんて事になるとはね」

 

「お疲れ様です一誠くん」

 

 

 真実は知る者達の中でのみ。

 ボイッコット状態で機能してない生徒会の手伝いを粗方終えた一誠は、風紀委員室無いのに生徒会室の椅子にふんぞり返って座ると、一般生徒達からの質問責めを思いだして辟易とした様子だった。

 

 そんな一誠に椿姫が苦笑いしながらお茶を出す訳だが、お察しの通りただ今の生徒会室は副会長の椿姫と会長のソーナ以外は居ないというとても寂しい状況だ。

 

 

「ありがとうございます兵藤君。お陰で今日中に終わらせなければならない仕事が無事に終わらすことが出来ました」

 

「どーも」

 

 

 生徒会長のソーナと風紀委員長の一誠が協力したという……駒王学園にしてみれば過去の事情を知る教師達にとっても驚くべき話であり、書類をとある教師に持っていけば驚愕されるわ何やら続きで、正直に一誠は内心二度とやりたくは無いと思っていた。

 

 

「あの子達はどうやら匙と一緒みたいです」

 

「余程大事だったみたいですね、彼が」

 

「まあ、仲間内ではそうでしたね……」

 

 

 しかしその全ては、最早なぁなぁでは片付けられない程までに拗れてしまった一個人悪魔の眷属内での騒動を終わらせる為。

 嫌悪が憎悪を生み、憎悪が報復を呼び寄せ、そして崩壊を促した。

 

 たった一つの理由が全ての崩壊へと繋がってしまったが故、そしてその崩壊に外部で本来なら仲間でも何でもない一誠が関わっていたが故に。

 

 

「放課後……いや、日が暮れてからが良いでしょう。

アンタが呼び出すにしても夜の方がやりやすいでしょうし」

 

「……。ええ、最後まで申し訳ありません」

 

「良いっすよ別に。俺も此処まで事が大きくなるとは思いませんでしたし、これでハッキリ解りましたよ。やるなら徹底的にやるべきだって」

 

「………」

 

 

 風紀委員長の一誠、生徒会長のソーナは手を組み、こうして微妙そうな顔をし合うのだ。

 

 

「さてと、今度は何を言われるのかね。くく、あの腰巾着はどうもアンタが好きだか何だかっぽかったし、『会長を誑かしやがったなテメェ!』とでも言ってくるのかねぇ?」

 

「私からは何とも言えません。ですが私はアナタの事嫌いですけどね。貧乳ってバカにするし」

 

 

 

 

 

 その日の夜ソーナの眷属達は、マイナスに取り込まれて喪った匙と共に、電灯も少ない夜の公園へとやって来た。

 

 

「会長が指示したのはこの公園の筈だけど……」

 

「暗いわね」

 

「良かったね匙くん。もう少しで皆元通りだよ」

 

「お、おう……」

 

 

 

 理由はソーナからの呼び出しであり、ストライキを起こした事で、そのソーナが根負けして許してくれると思い込んでの来場なのだが……。

 

 

「よぉ、ゴミ共。

今日は生憎の曇り空で何よりだな」

 

『っ!?』

 

 

 待ち受けていたのは、匙から全て奪い取った仇である憎き兵藤一誠だった。

 

 

「な、何でアナタが此所に居るのよ!」

 

 

 予想だにしなかった相手の出待ちに、ボーイッシュタイプの少女・由良翼紗が警戒心を剥き出しに一誠へと問う。

 勿論他の者達もその姿を見た瞬間に殺意を増幅させた匙を庇う様にして前に出て一誠を睨むが、本人はヘラヘラと……しかし何処か何時もと違う様子だ。

 

 

「何で? 決まってるだろ? テメー等は俺をぶち殺したい。そして俺はテメー等がいい加減目障り。意味する事は一つしかねーだろう? あ?」

 

『っ……!』

 

 

 まず一つ、目が違う。

 何時ものふざけた目、女を性的に見てるゲスな目とは違う……獲物を射程圏内に捉えた鷹の様な目。

 

 

「つまり、俺かテメー等、どっちが生き残るかシンプルに殺し合おうぜって事だぜ!」

 

「な、なんだと!?」

 

 

 そして二つ目、明らかに自分達を比喩無く殺そうとしてるのが肌で感じる程の濃厚な殺意。

 公園を照らす僅かな電灯の光により見える兵藤一誠は、どこまでも獰猛に嗤い、どこまでも重苦しい殺意を放ち、どこまでも得体の知れない人格を剥き出しにしている。

 

 

「見事に笑えるぜテメー等は。

大人しく黙って下僕でも何でもしてれば、憎まれ口を叩き合う程度で済んだものを」

 

 

 それが今ソーナの眷属達に見せている兵藤一誠。

 

 何しても己が悪いという評価を世界が下すのであれば、俺はその悪くてゲスなゴミ野郎となってやる。

 

 

「テメー等の持つ駒を回収する。

理由? テメー等のツラが気に食わねぇだけだボケ」

 

「だ、誰がアンタなんかに!」

 

「この人数相手にアナタが何を出きるっていうの!?」

 

「私達を嘗めるな!」

 

「匙くん待ってて、今すぐ仇をとってあげるから!」

 

 

 だからこそ一誠は。

 

 

「ヒュウ♪ 愛されますなぁ腰巾着ゥ? 差し詰俺は俺はそこら辺の小悪党か? くくっ、上等だぜカス共が――

 

 

 

 

 

 

 

「小悪党なりのやり方を知りやがれ!」

 

 

 開き直って我が道を進む決心を更に固めた。

 

 

「最後に教えてやるよ……現実逃避だけが専売特許じゃねぇ事をなぁ!!」

 

 

 その決意、その覚悟、その精神が更なる進化を促す事になる。

 

 

 

 

 

 

「み、皆構え――がっ!?」

 

 

 お、俺は……俺は一体何を見てるんだ。

 俺は一体何の現実を見せられてるんだ……こんな、こんな……!

 

 

「おいおいおいおい!!! この期に及んでまだ俺を嘗めてんか? あぁっ!?」

 

「ぎぃぃ!?」

 

 

 俺から意味の分からん理由で奪った野郎が、数も強さもスゴい筈の仲間達を次々と容赦なく潰してる。

 

 

「くっ!? このっ……!」

 

「ポン刀か? ケッ、ナマクラが」

 

「う、嘘……!? 腕を切ったのに折れ――」

 

「オラァ!!」

 

「がばっ!?」

 

 

 女子だろうが、嗤いながら顔を殴り付ける。

 武器を振るっても寧ろ防いだだけで破壊し、その上で殴る。

 

 

「何時まで嘗めてんだよ? 何時まで見くびってんだよ……! 何時まで自惚れてんだボケがァァァッ!!!」

 

「ひっ!?」

 

 

 兵藤は嘗められてると思っているらしいが、それは違う。

 皆其々本気で、慢心なんてしてない。

 

 

「あ……あぁ……あ……!」

 

「おい、テメーのカキタレだが何だか知らねぇこの一山いくらにも満たねぇカス共に言えよ、本気をさっさと出せってよ…………おー腰巾着が!!」

 

「ひ、ひぃ!?」

 

 

 兵藤がおかしいレベルでおかしいだけ。

 それに気付いたのは……皮肉にもたった今であり、あの時の兵藤はただ言葉通りに疲弊していたからなんだ。

 

 

「ふざけんなよ、ふざけんなよゴラァ!! 転生したら強いんじゃねーのかよ! テメー等もあの役立たず共と同じだったのか!? 俺を此処まで駆り立てておいてそんなオチが納得出来るかクソがァァッ!!」

 

「い、いやぁっ!!」

 

「嫌ぁ! じゃねーんだよクソカスが! こちとらさっきから力から何からが溢れてしょうがねぇんだよ!!」

 

「ひ、ひぃ! こ、来ないで化け物!」

 

 

 今理解した。

 兵藤が言っていたのは決して誇張なんて無かったんだって。

 全てその言葉通りで、会長が言った通りだったんだって。

 

 

「や、やめろ兵藤! お、俺が悪かった! だ、だからこれ以上は……!」

 

「許せってか? 散々カス扱いしていて、イザ殺されそうになれば命乞いだと? 嘗めんのも大概にしとけや……!」

 

「うっ……」

 

 

 兵藤は悪魔を越えた化け物なんだって。

 

 

 

 

「何なんだよテメー等は本気(マジ)でよォ?

あの生徒会長の言うこと聞かせる為だか何だか知らねーが偉そうな事しといて、この程度だァ?」

 

「う、あ……ぅ……」

 

「あ、足が……ごほっ!」

 

「い、痛いよぉ……!」

 

「目が……見えない……」

 

 

 殺意を剥き出しにしたまま佇む一誠の近くには、匙を除いた全ての者達が重症を負わされ、地面に転がっている。

 それは勿論、返り血も浴びてない無傷の一誠が引き起こしたモノであるのだが、その張本人足る一誠の表情は怒りに染まりきっていた。

 

 

「なぁ……なぁ!!」

 

「ひぃぃっ!?」

 

 

 あまりにも弱い。あまりにも手応えが無い。あまりにも、あまりにも……。

 

 

「ガッカリさせないくれよ。

頼むぜ……さっきから頭が冴えまくるし、力がみなぎってどうしようもないんだよ! 頼むぜ、なぁお願いだから俺を殺そうと立ってくれよぉ!」

 

「ひ、ひ……!」

 

「な、何な、のよ……アイツ……」

 

「あ、頭がおかしい……」

 

 

 ギラギラと血走った目をした一誠が近くに転がっていた騎士の巡巴柄の首を掴んで持ち上げながら、ハイになりすぎておかしくなりそうな自分の現状を訴えている。

 

 その様子はまさにおかしいレベルを通り越して、危ない奴であり、巡巴柄を含めた全員がただ震えていた。

 

 

「ほら、お前らの受けたダメージを否定して逃がしたからよ……! なっ? 今度は慢心もみくびりも互いに無い状況で殺り合おうぜ? な!?」

 

 

 極めつけは、己で与えたダメージを全て消すという訳の分からない力とその行動。

 ハッキリとそれは異常であり、その全てにおぞましさと吐き気を催すに十分だ。

 

 

「うっ……うえぇっ!」

 

 

 故に全員がその場で吐いた。

 目の前の化け物の放つ異常さに恐怖し、匙も誰も全員が羞恥心も二の次にその場に胃液を吐き出してしまう。

 

 

「ゆ、許してください……!」

 

 

 最早こんな化け物となんて一秒たりとも近くに居たくはないというのが全員共通の本音だった。

 だから一人が涙目になって歯を剥き出しにして怒りまくる一誠にすがるように懇願し、それに続くかの様に残りの全員がその場に土下座するかの如く地面に頭を擦り付ける。

 

 

「も、もうアナタを見くびらないし、見下さない。

だ、だからもう……ゆ、許して……!」

 

「お、俺も悪かった。お前にあんな事して……だから……!」

 

 

 ソーナが未だに来ない事についての疑問も何もかもが考えられず、目の前の化け物からただ助かりたいという防衛本能だけで動く匙や眷属達の行動。

 そんな連中の行為に対して一誠は……。

 

 

「分かった途端に掌を返すか。

く、ははははは……! 挙げ句に媚だと? 目を抉った時の威勢は? 俺の普段の行動に対しての威勢の良い態度はよ!?」

 

 

 余計に怒りという名の炎にガソリンをぶちまけた様な形相となり、今にも皆殺しにしてやらんという殺意を全員に向かって向けている。

 

 

『う、うぅ……』

 

「……。そうかい、わかったよ」

 

 

 それに対して開き直れる度胸を持ち合わせる面子は最早この中には居らず、ただただ土下座の体勢を止める事が出来ずに固まる面々に、とうとう怒りのボルテージを振り切った一誠は――

 

 

 

 

「じゃあ全員人に戻って幸せに暮らすんだな」

 

 

 今さっきまで浮かべていた烈火の感情と形相が全て嘘でしたとばかりな、石像を思わせる冷たき無表情と雰囲気へと切り替わり……。

 

 

幻実逃否(リアリティーエスケープ)

 

『え?』

 

 

 思わず顔を上げた面々に向かって、巨大な釘と杭のどちらかをその額に向かって投擲し、そして突き刺した。

 

 

「え、な……え?」

 

 

 な、何で? さっきまで本気で怒ってた顔だったのに? と、全員が思わず呆然としながらダルそうに脱力しきった顔でポリポリと頭を掻いてる一誠を見つめ――そして唐突にそれは終わった。

 

 

「転生に使うだか何だか知らん、駒だっけ? 確かに全員分回収させて貰ったぞ」

 

 

 全員を転生悪魔である現実を否定させるという幕切れによって……。

 

 

「今在る現実を否定し、己の描いた夢へと逃げるマイナス……それが幻実逃否(リアリティーエスケープ)

 

「ち、力が……!?」

 

「な、無くなってる……わ、私達の悪魔の力が……!」

 

 

 己が動けば世界が悪と下すを

 その異常性に対して半ば開き直った一誠に躊躇も、ましてや罪悪感もない。

 そして怒り狂うという小賢しい演技をする事も……。

 

 

「ほら、アンタの駒を全部回収したぜ」

 

「!?」

 

 

 始まりはほんの小さな亀裂。

 亀裂は嫌悪となり、やがて嫌悪が憎悪へと変わっていく。

 やる事為す事が気に入らず、主がフォローの言葉を口にするのが許せず、その力の有無を疑い、そして最初は堕天使と別れたところを襲撃して倒して見せた。

 

 ところがどうだ、主からは怒られ、大怪我で再起不能にしてやったと思っていた気に入らない男は次の日にシレッと現れ、そして自分の持つ力を奪った。

 

 

「……。ありがとうございます」

 

「か、会長……!?」

 

 

 それが気に入らないから嫌いだった。

 しかしそれ以上に、リアスの件以降一誠に対してソーナが見る目を変えたのが憎らしかった。

 

 ヘラヘラしてて、伝統的に生徒会と敵対関係である風紀委員で、更には普段からふざけてるのにも拘わらず、リアスの一件から認めるような発言が多くなった事が……。

 

 

「ど、どうして会長が……兵藤と……!」

 

 

 何よりも、ソーナの隣に今こうしてどうでも良さそうに明後日の方を向きながら欠伸までしているのが怨めしい……。

 そう、全ては先走った嫉妬心から始まったに過ぎなかった。

 

 

「どうして……お互いにケジメを付ける為よ」

 

「ケ、ケジメって……」

 

 

 匙だけでは無く、この場に居た全員から悪魔である事を否定され、元の種族へと戻ったそのタイミングで現れたソーナの言葉に全員が唖然としながらただ主だった人物を見つめる。

 

 

「そうケジメ。私は眷属を抱えられる程強くなかった。

だから、アナタ達を自由にする」

 

「……」

 

「ふわぁ……」

 

 

 無表情でソーナの半歩後ろに立つ椿姫とを交互に困惑した眼差しを送る匙と、最早その匙と同じく転生悪魔では無くなった眷属達。

 それはまるで、自分が何を言われてるのか分からない子供の様だった。

 

 

「そ、そんな……! どうして! ま、まさかソイツに唆されて……!」

 

 

 ソーナの言葉を認めたくないと匙がその隣で『っあーたこ焼き食いてー』とさっきまでも態度が全部ブラフでしたとばかりな台詞を吐いてる一誠を睨む。

 すると、それを聞いた一誠がビクッと身体を縮こませた匙に視線を寄越しながら『へっ!』と嘲笑しながら言った。

 

 

「ほーなら、思った通り……俺はアンタを唆したらしいぜ?」

 

「っ! ち、違うのかよ! 俺達が気に入らないからって……」

 

「はぁ? じゃあ聞くが、アスファルトを迂回してる蟻を見つけたら、わざわざ踏み殺して歩くのか?」

 

「な……!」

 

 

 テメーがあの時不意打ち噛まして来なければ、こんな事態にしなくて済んだだけだ。

 そう一言に言い切った一誠は、その手に持っていた悪魔の駒の全てをソーナに手渡した。

 

 

「巴柄。アナタの呪いは彼が悪魔である事のついでに『否定』してくれました。

だから、人に戻っても呪いが戻る心配は無いわ」

 

「あ……」

 

 

 悪魔の駒を受け取るソーナが巴柄に向かって安心させるようにそう言う。

 勿論、他の者達にもそれぞれ一言ずつ最後の言葉を送り――

 

 

「今までありがとう。これからは人として幸せに生きなさい」

 

 

 完全に関係を絶ち切る言葉で締め括った。

 

 

『……』

 

 

 それに対し、誰も言い返せる訳も無く、ただただ俯くしか出来ないのは無理もない話だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……。後味悪っ」

 

 

 なぁなぁで終わらせるではなく、キッチリと清算という形で終わらせる事になった今回の騒動に対し、ただただ力無く去っていく者達を見ながら、一誠は小さくそう呟いた。

 

 

「仕方無いわ。会長はもっと辛いのだから」

 

「そりゃそうだがよ……結局俺のせいかよ」

 

 

 どうであれ、元を辿れば自分になる事に頭では『関係ない』と割り切ろうとするものの、心の奥底では結局は自分が引き起こしたという考えがあるせいか、椿姫の言葉に対して目を逸らしながら小さく毒づいてしまう。

 

 

「良いんです……これで。許されざる事を許したらダメだから……」

 

 

 そんな一誠にソーナは儚そうな表情で言うが、それがまた変な罪悪感を生み出し、ますます一誠は舌打ちしながら目を逸らしてしまう。

 

 

「ありがとうございました。そして、ごめんなさい」

 

「何がっすか? 言っときますけど、アンタに礼も謝罪もされたくありませんね」

 

 

 だからソーナの謝罪と感謝にも突き放す様な態度をしてしまう訳で……。

 

 

「自己満足ですから……。では、私はこの辺で……」

 

「会長に付いてあげたいから私も……」

 

 

 どうみても精神ダメージ半端無いソーナが、力無くトボトボと心配そうに付いてあげる椿姫と共に去ろうとしているその背を見た一誠は……。

 

 

「だぁぁぁもう!!」

 

「「!?」」

 

 

 何から何まで面倒になり、それを払拭したいかの如くヤケクソ気味に叫ぶと、びっくりしたかの様に振り向く二人――というかソーナに大股で近く。

 

 

「え、えっ?」

 

 

 フンスと鼻息荒めに近付いてくる一誠に、ギョッとなるソーナと椿姫は何事かと思って足を止める。

 

 

「ど、どうしたのよ急に?」

 

 

 誰に対してなのか、急に怒りながら寄ってきた一誠に困惑する椿姫とソーナ。

 椿姫にとって悔しいが、こういう時に朱乃かなじみでも居れば直ぐにでも今の一誠が示す意図を探れるのだが、今は居ないのでそれも分からない。

 

 

「寄越せ」

 

「「え?」」

 

 

 だから一誠がソーナに手を差し出しながら寄越せと言っても、何の事だか分からない。

 

 

「な、何を寄越せと云うんですか? ま、まさかこの前言ってた胸の話――」

 

「アンタじゃ無理だし違う!」

 

「じゃあ一体何を……」

 

「駒だよ駒! さっき回収した駒を寄越せ。全部だ! ……………全部だっ!」

 

 

 フンスフンスと興奮した面持ちで、何故か全部だを二回続けて声を大きめに言う一誠。

 何で今更駒? とソーナと椿姫は思うものの、こうして手元にあるのは一誠のお陰なので嫌とは言えず、取り敢えず回収した戦車・騎士・僧侶・兵士の駒全てを一誠に手渡す。

 

 

「チッ」

 

「あ、あの……?」

 

 

 一体何がしたいのか全く分からないソーナが、渡した駒を手に、舌打ちしながらジーッと眺めている一誠に問い、椿姫も首を傾げてその様子を観察する。

 

 突拍子が無いのは分かってるが、それにしてもソーナの悪魔の駒に一体何の用があるのか……と二人しておっかなビックリに一誠を眺めていた……その時だった。

 

 

「ふん!」

 

「え!?」

 

「は!?」

 

 

 何を思ってそうしたのか、ソーナも椿姫も解らずに思わず声が出てしまった。

 

 それは仕方の無い事なのかもしれない。

 何せまさか、匙達を人間に戻した時に使った巨大な釘と杭……今一誠が使ったのは釘だが、その杭を自分の右胸――つまり心臓目掛けて突き刺したのだから。

 

 

「な、何してるんですか!?」

 

 

 正直、見ていて気持ちの良いものじゃない訳で、ソーナも椿姫も顔を歪めて声を張り上げるが、それ以上に起きたその現象に身体が固まってしまった。

 

 

「え、こ、駒が……!」

 

 

 自らの心臓に突き刺した釘がボロボロと土くれの様に崩れていくのと同時に起きたその現象。

 それは、一誠に渡した戦車・騎士・僧侶・兵士……つまり匙達人数分の駒全てがソーナの力も無しに――いや、厳密に言えばソーナの力がソーナ自身の意思とは無関係に駒に送り込まれ、そのままその全てが一誠の中へと入ったのだ。

 

 

「な……え……?」

 

「何をしてるのよ……」

 

 

 流石に程度は違えど、この儀式染みた現象は寧ろソーナと椿姫の方が詳しい。

 そして、その意味もよーく解っている。

 一瞬の閃光が晴れ、あった筈の駒は全て一誠の手から消え、その中へと入った。

 

 それはつまり――

 

 

「………………。なるほど、これが悪魔ね」

 

 

 今この瞬間、一誠は転生したのだ。自分が胡散臭いと思っていた悪魔に。

 

 

「な、何で……どうして!」

 

 

 類を見ない数の……というか滅茶苦茶過ぎる転生を自分でした一誠にソーナは訳が解らずといった顔で声を張り上げる。

 それは声には出さなかったものの椿姫も同じであり、自分の掌を確かめる様に眺めてる一誠を見つめる。

 

 すると一誠は言った。

 

 

「いや、アンタの背中が虐められた野良犬みたいなソレに見えてしまったから……的な」

 

「は、はい?」

 

「いやだから。これから引き摺る気満々に見えたからだよ! 曲芸でも見せてやろうとしたら成功しちゃったの!!」

 

「………」

 

 

 的を得ない言い方で誤魔化してる感満載だが、結局の所一誠はこう言いたいのだ。

 

『流石に見てられませんでしたし、元凶はどうせ俺なんで暫くは代行になってあげますよ』

 

 と。

 

 

「俺が高校を卒業するまでに、俺以外の仲間とやらを集め直してしまえ。

その都度、俺の中にあるアンタの駒を抜き取るからよ。それまでは……まあ、アレだよ……ほら、な?」

 

「? 何がほら何ですか……意味が――」

 

「つまり、今回の事について罪悪感が凄いので、会長が仲間を集め直し終えるまで一誠くんが会長を助けてくれるって事ですよ。ね、一誠くん?」

 

「え?」

 

「あ……ま、まぁ……今回のゴタゴタについてだけは俺のせいってのもあるし……うん」

 

 

 ただ、それが悪魔相手なのと、生徒会長なので言えずに遠回しに誤魔化そうとしてしまう。

 まあ、椿姫が何処か嬉しそうに微笑みながらソーナに教えたので伝わる事は出来た訳だが。

 

 

「……ふ、ふふ」

 

「あ? んだよ」

 

 

 チッ! と何度も舌打ちして態度悪く見せてる一誠の内心を知ったソーナは、最初こそ唖然としていたが、やがてそのチンピラ崩れみたいな態度が途端に可笑しく思えて来たのか、クスクスと笑いながら言った。

 

 

「意外と可愛いところがあるんですね。椿姫が言ってた通りというか」

 

「うるせぇぞド貧乳! 眼鏡叩き割るぞゴラ!!」

 

「はいはい、ふふ」

 

「チッ、サーゼクス・ルシファーといい、純粋な悪魔はやっぱムカツクぜ」

 

 

 と、このようなオチとなった今回の騒動。

 ソーナが再び仲間を結集させるその日までは手伝うという形で無理矢理己を転生させた一誠に明日は何処に行く。

 

 

 

 

 

「あ、言っとくけどな。俺の力を利用したいと思う所に釘刺す様で悪いっすけど、さっき無理矢理転生の時に、アンタの器にはみ出ない程度に力を押さえ込んでしまったから、相当今の俺は弱体化してますから」

 

「え……そ、そこまでして転生したのですか? な、何で」

 

「何でも良いでしょう? てことで椿姫ちゃんよ、暫くこの状態から強くなるから協力してちょ」

 

「勿論。でも姫島さんと安心院さんは何て言うのかしら……」

 

「う……なじみは兎も角、朱乃ねーちゃんが怖いな……やべ、お、おい王様。明日一緒に謝りに行ってくれません?」

 

「は、はぁ……それは良いですけど」

 

「っし! イザとなったらこの人盾にできるぜ!」

 

「…………」

 

 

それ相応の代償までわざわざ払って。




補足

見てて侘しくなった上で、ノリがそうさせた結果、取り敢えず新しい仲間が出来るまでは付き合う事になった。

理由……基本チンピラだけど、変な所で繊細な面があるから。

その2
その理由により、IFの無理矢理転生みたいな感じに弱体化しました。
とはいえ、駒の数が自殺行為レベルの数なのであのレベルの弱体化ではありません。

その3

こうなると、リアスさんの所とレーティングゲームが可能になる。
つまり……?


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風紀委員長兼悪魔なイッセー

後日談です。

解決したけど、解決してない的な… 


 そう、これは気分の問題なだけだ。

 ただ単純にその時はそう思ったから、ああいう行動を何故かしちゃった訳だけど、結局の所は只の気紛れだってだけだ。

 

 ……。まあ、捨てられて腹空かせた野良犬みたいな背中でトボトボと椿姫ちゃんと帰ろうとしたのを見たら、何かもう色々とアレに思えてしまったというかさ……。

 

 

幻実逃否(リアリティーエスケープ)が乱用不可能。

つまりスキルを自覚して師匠に修行を付けて貰い始めた頃辺りまで落ちてるっぽいぜ」

 

「それはつまり、私と最初に出会った時くらい?」

 

「よりちょい下かも。

否定したら結構な時間のインターバルが必要だから……うん、こりゃ相当に弱体化したわ。まあ、鍛え直せば良いのだけど」

 

 

 俺って何時から他人に気を向ける性格になったんだろうね……。

 

 

 

 

 兵士・騎士・戦車・僧侶。

 本来なら一人一役。特殊ケースでも一役に対して複数個で転生する事で悪魔となる悪魔の駒。

 しかしこの兵藤一誠は悪魔の常識を真っ向から捻り潰すが如く、上記の駒全てを使用して転生した。

 

 

「呼び出す人間の前に現れて対価を貰って願いを叶えるのが仕事ね……。しょっぱい事してんのな」

 

 

 リアスの婚約騒動の一件から、『居ても居なくてもぶっちゃけどっちでも良い』から『立場が圧倒的に低い転生悪魔の言い分は全く聞きやしないだけに加えて、長がやられたら真っ先に命ほしさで逃げる腰抜け共』というマイナスイメージを持ち、言ってしまえば好ましくは無いという感情を持っていた兵藤一誠が、ソーナ・シトリーとの一件を終わらせた際に回収した駒を全て使用し、更には自らに枷を付けて弱体化した状態で悪魔に転生した。

 

 別に一誠がそんな真似をする必要なぞ微塵も本来なら無い筈なのだが、短気で一々言動が小物でチンピラな表面側とは裏腹に、奥底にある『お人好し』が今の状況を作り出した。

 

 

「こんな事を言いたくはありませんが、その……形式上は転生悪魔なので、前に冥界へと乗り込んだ時みたいなイケイケな態度をほんの少しだけ控えて貰えると良いかなー……なんて」

 

「え? あぁ、はいはい。わかってますよ王様。

今の俺は人間様では無くなってますからね、郷に入りては郷に従えでやりまさあ」

 

 

 その結果、かなりの弱体化に繋がってしまい、今の一誠はかつて安心院なじみから修行を付けて貰い始めたての頃の実力まで落ちてしまってる。

 比較すれば、冥界に乗り込んだ時に戦った『悪魔としての』サーゼクスにすら負けるだろう所までは落ちてる。

 

 

「魔王様と実家にはこれまでの経緯を説明した上で、アナタの転生悪魔としての登録を嘆願しましたので」

 

「二度と行くつもりも無いんですけどね俺は」

 

「と、思うのは解るけど、残念ながらそうも行かないのよ一誠くん。会長の立場上特にね」

 

「………」

 

 

 悲観してないといえば嘘にはなるが、一誠は生憎強くなる事に対しては純粋であったので、落とされたなら落ちたこの身でまた舞い戻れば良いと思っている。

 

 弱体化の影響で幻実逃否(リアリティーエスケープ)が一度使う度に数ヵ月のインターバルを必要とするレベルに戻ってしまおうが、一誠には無限の進化と新たに獲た悪魔としての力を両立させてみるという未知の領域への切符を手にしたのだから……。

 

 

「オーケー、理由不明だけど何となく偉い悪魔様には頭に珈琲ぶっかけられても頭を垂れておけば良いんだろ? 任せろ任せろ、椿姫ちゃんにゃあ恥はかかせねぇ」

 

「あと会長にもよ?」

 

「あ、はいはい……王様にもな」

 

「むぅ……」

 

 

 その未知なる進化への道は既に開かれている。

 

 

「で、案の定グレモリー先輩と朱乃ねーちゃんに朝会ったら一発で見抜かれちゃった挙げ句、御呼びだしされちゃった訳だけど……マジでフォロー頼みまっせ王様。

じゃないと俺……妙にニコニコしてたねーちゃんに電気処刑されちまう……」

 

 

 さて、そんなこんなで元眷属達への報復を全てを終わらせ、ソーナ自身が新たな眷属を獲るまで代行する事になった一誠なのだが、それではい終わりという事は当然無く、あの無理矢理転生から一夜開けた今日……早速初見で見抜かれたリアスと朱乃に経緯を説明しなければならないという最後の仕事――そして近々始まる球技大会についてのお話をしなければならないという、一誠にしてみれば最大の難問が待ち構えていた。

 

 

「俺ァ、朱乃ねーちゃんに癇癪起こされたら勝てる気がしねぇぜ……」

 

「どれだけ姫島さんに弱いのよ」

 

「出来るだけのフォローはしますから……」

 

 

 壁。究極の最難関。朱乃を納得させるという、一誠にしてみれば安心院なじみとタイマン張るレベルに難しい難問に対し、既に何時ものソーナ曰く『イケイケモード』とは正反対のビクビクさに、椿姫は呆れ、ソーナはフォロー出来るか内心不安だった。

 

 現在放課後。

 つまり部活や委員活動開始の時刻であり、風紀委員室に終結していた三人は、いよいよ始まる最後にて最大の難問を片付ける為に、ソーナを先頭に旧校舎へと足を運ぶ。

 

 

「ニコニコと無言で笑顔の時はヤバイんだ。何がヤバイって、素で泣かれる可能性があるんだよ」

 

「素? ……あぁ」

 

「そうなったら罪悪感が一気に俺のハートを潰しに掛かって……うぐぐ、想像するだけでヤバイぜ」

 

「冥界に単身で殴り込みに行った話を聞いた時から思ってましたけど、余程姫島さんが大切なんですね……」

 

「え? あ……まぁアンタや椿姫ちゃんに嘘言ってもしょうがねぇから言うけど、一応約束してるからな……ハァ」

 

 

 その道中、何度もため息を吐く一誠に二人は何処と無く微妙な表情だったが、それに気付く者は居なかった。

 

 

「コホン、失礼しますよリアス」

 

「………」

 

 

 さて、そんなこんなで補強工事の下地のつもりか、全体に足場となる骨組みに囲まれている旧校舎内のオカルト研究部の部室へとやって来たソーナ達。

 部室に近付くに連れて足取りが重かったのか、一切喋らなくなってしまった一誠を一番後ろに扉をノックし中に入ると、リアス、朱乃……そして。

 

 

「「「……」」」

 

「…………」

 

 

 一番後ろでコソコソとしている一誠をジーッと見てる凛、アーシア、小猫、祐斗に出迎えられる。

 

 

「いらっしゃい。取り敢えず話をする前に軽くお茶にでもしましょう? 朱乃」

 

「はい……ふふふ」

 

「っ!?」

 

 

 自分達の来訪を出迎え、微妙に良さげなソファーに案内したリアスの言葉に朱乃が頷きながらお茶の準備の為に奥へと一旦引っ込む。

 その際、意味深な微笑みを向けられた一誠は、何時もの小物なチンピラ態度の欠片も無くビクビクだった。

 

 

「さてと。話は既に聞いてるけど……まさか兵藤君が除名された彼等の代行を全て引き受けるなんて意外だったわ」

 

「ええ、私も正直まだ実感がありません」

 

「……………………」

 

 

 案内されるがままにソーナを真ん中にしてソファーに座る一誠と椿姫の三人にニコニコ現金主義宜しくにニコニコしてる朱乃がお茶を出す事で、本格的に話が始まる。

 

 

「ソーナが新しく眷属を持つまで兵藤くんが代行をするのは分かったし、実の所朱乃も分かっててくれてるわ」

 

「え?」

 

 

 出されたお茶を静かに……一誠以外が口を付ける中、リアスの切り出したその言葉に思わずと言った反応をする一誠。

 

 

「え、じゃあ何で笑ってんの?」

 

「? 笑ってて何が悪いのよ?」

 

 

 てっきりこっから素泣きに入られて罪悪感に苛まれると思ってただけに、リアスの言葉に同意するようにニコニコ笑顔のまま頷いた朱乃に、一誠は逆に不審と思ってしまう。

 

 

「まあ、唐突だったからビックリはしたけど、転生したからって一々文句なんて言わないわよ?」

 

「あ、お、おぉ……?」

 

「良かったですね一誠くん。姫島さんに怒られずに済みそうですよ?」

 

「お、おう……」

 

 

 しかし朱乃の言葉に嘘がまるで無いというのを感じ取れる一誠は、彼女が本心で言ってると理解し、変な気分のまま間抜けな顔のまま目が泳ぐ。

 しかし、どうであれ素泣きされないで済むのであればそれに越した事は無いので、取り敢えず余計な事は言わないで置こうと手を付けなかったお茶を一口飲むのだった。

 

 

「兵藤くんに安心して貰った所で話を進めさせて貰うけど、取り敢えず代行となって貰ったソーナでも流石に三人では本来の仕事に支障が出ると思うのよ」

 

「ええ、そうね……それは言えるわ。

兵藤くんには悪魔としての仕事を一通り教えたけど、性格的に合わないと思うのよ……」

 

「そうね、そっちの欲望を持つ人間の願いを聞いたら……うん」

 

「は? 何すか?」

 

 

 リアスとソーナの何か言いたげな視線に、お茶をチビチビと飲んでた一誠が眉を潜める。

 悪魔の仕事が一誠的に合わない……それはつまり、対価を元に願いを叶えるという基本的な仕事の事であり……。

 

 

「例えばよ? 例えばだから怒らないでね? 兵藤くんを呼び出した人間がもしも無茶なお願いをしてきたらどうなの?」

 

「憎い奴を代わりにぶっ殺せとかっすか?」

 

「それもありますが、例えば……呼び出した相手が三十路過ぎの喪女みたいな方で、その方が一誠くんとゴニョゴニョ……みたいな」

 

「? 別に良いっすけど? 俺、人間で言えば下は同世代、上は75まで行けますし」

 

「…………。じゃあ、もしもそれが男で、願いの対象が朱乃だった場合は?」

 

「二度と喋れねぇ程度に半殺しにしますよ? 当たり前じゃん」

 

 

 そう、基本的に一誠は全く悪魔社会に適応できるタイプじゃない。

 寧ろ少し前にその悪魔社会を本気でぶち壊そうとしてた程だ。

 つまり、悪魔らしい気質はあれど、悪魔になりきれと言われても才能が無いのだ。

 

 というか、今の例え話が既に地雷というか……。

 

 

「あ? ひょっとしてアンタ等、そんな経験がある訳? しかもそれを朱乃ねーちゃんと椿姫ちゃんにさせたのか?」

 

「な、無い無い無い無い!!! 人間に配るチラシにもそういった関連の願いは完全NGってちゃんと明記してるし!」

 

「それを無視して突っ掛かってきた人はブラックリスト入りさせ、二度と儀式をしても呼び出しに応じない事にしてますので」

 

「ほーう…………そうなの二人とも?」

 

「はい、お二人の言った事は全て本当よ」

 

「うん……まあ、一度だけもみ合いになりかけて胸を掴まれた事はあったけど」

 

 

「おい、そのクソボケの(ヤサ)を教えろよねーちゃん。

俺が今すぐにでも、二度とステーキが食えねぇような人体に改造してやるからよ」

 

 

 結果、一誠に基本的な仕事はほぼ向いてないという……悪魔としては役立たず極まりないのであった。

 

 

「お、落ち着きましょう? 今のは朱乃の冗談よ? ね、朱乃?」

 

「うん、今のは嘘だよ一誠くん」

 

「………。何故素の口調? まあ、良いや」

 

 

 しかしそれでも有り余る凶悪な戦闘力は、ボディガードという意味ではかなり有能。

 つまり一誠が出来る仕事はそういうのではなく、はぐれとなってしまった悪魔を懲らしめるのが適任。

 

 それを言いたいリアスは、取り敢えず素の口調となる朱乃や椿姫やソーナと共に宥めつつ話すのだが……。

 

 

「シトリー先輩や真羅先輩と協力することに何の異議もありませんが、果たして兵藤先輩と協力できるんでしょうか?」

 

 

 問題はそれだけじゃないのだ。

 

 

「彼は僕達を嫌いでしょうしね」

 

「その蟠りもまだ解決してませんし……」

 

「私は一誠と協力できたら良いな……寧ろしたい」

 

 

 凛はともかくとし、特に一誠と仲が終わってるレベルで悪い小猫、アーシア、祐斗はそもそも転生した事にすら納得できてないといった表情で、一誠を横目にリアスとソーナに言う。

 

 

「失礼ながら、シトリー先輩が何故今までの眷属の皆さんを解雇したのかは部長により聞いてますから、仕方ないと思ってます。

ですけど、変と思うんですよ」

 

「……。何がですか?」

 

「いえね、まるで兵藤君が邪魔と思った今までの眷属の皆さんを消して入り込んだ様に思うんです」

 

「あ?」

 

 

 話が出来すぎてる。そもそも転生悪魔の駒を抜き取って元の種族に戻すという力すら不気味な上に仲まで悪い一誠とは上手く行く気がしない。

 

 等々、一誠がソーナの下僕になりたいから邪魔に思った今までの眷属を消したとまで言い出す、またはそう言いたげな顔の三人に、本来の理由を一番知ってるソーナの顔つきが一気に冷たいものへと変化する。

 

 

「つまりアナタ方は、彼が私の眷属になりたいと思い、その為に彼が元眷属達を追い出したと?」

 

 

 いくら何でも失礼だろう……そう言外に主張する目をしながら三人を見据えるソーナは、今ほんの少しだけ怒りを孕んでいた。

 

 

「はは、ほーらやっぱりな。こんな事を言われたり思われたりすると踏んでたが、見事にそのまんまんだぜ」

 

 

 しかしそんなソーナよりも先に、ケタケタと嗤い始めた一誠が三人に向かって言った。

 

 

「勝手にどう思ってくれようが結構。悪魔に転生して力を獲たいから、先んじて転生してた邪魔共消して転生したと思うも良し。

黒髪の女の子が好みで、いっそお近づきになりたいから転生したと思ってもよし……どうぞ勝手に思うが良いぜ」

 

「「「………」」」

 

 

 まるで自分が悪いですけど? と開き直った言い方で煽る一誠にリアス、ソーナ、朱乃、椿姫の表情がピシリと固まる。

 

 

「滅茶苦茶疲れて帰ってる所を後ろから思いきり頭カチ割られて目玉も抉られたから報復し、そのせいでこの王様の仲間関係がボロクズになっちまったのは事実だから否定も出来ねーしな」

 

 

 くつくつと嗤いながら話す一誠に誰も口を挟めない。

 

 

「だから好きに思え。

くく、テメー等ごときにどう思われようが、俺はどうとも思わないしな」

 

「ま、待って。私はそんな事――」

 

「おおっと、赤龍帝の兵藤凛さん。

こんな新入りのご心配をしてくだすって有り難くて屋上から飛び降り自殺でもしたくなるぜ」

 

 

 それでも凛が自分だってそんな事思ってないと言おうとするが、最早姉貴様とすら呼ばなくなった一誠の痛烈な皮肉が凛のハートをザックリと切り裂く。

 

 

「うぅ…」

 

「……。キミは兵藤さんに何の恨みがあるんだ。弟なんだろう?」

 

「いくら何でも今のは酷すぎますよ貴方……」

 

「どうして何時も……!」

 

 

 その言葉、そして受けた凛の傷つきまくりな顔を見た三人が一気に抑えていた敵意を剥き出しに一誠を睨み付ける。

 そうなればさぁ大変だ。

 

 

「三人とも! 最初に余計な事を言って吹っ掛けておきながら止めなさい!」

 

「部長も遂に隠すこと無く彼の味方になるんですね。

この人に何かされてました?」

 

「例えば催眠術とか」

 

 

 水と油どころか、ロケット燃料にバーナーレベルの爆発。

 とうとう一誠が洗脳をしたとまで言い始める三人だが、言われた本人はヘラヘラしている。

 

 

「クハハ! 洗脳だってよオイ! 俺ってドンドンゲス野郎になってくなぁ? 次は何だ? 無理矢理犯したゴミ野郎とでも呼ぶかい?」

 

「ありえない話でも無いでしょう? 普段からそんな態度ですしね貴方は」

 

 

 溝はやはり、溝のまま……。

 埋ることの無い溝は、悪魔に転生しようが変わることは無かった。

 

 

 

 しかし忘れてはならない。

 

 

「家を勝手に出て、朱乃先輩に取り入ったのに味を占めたんですか?」

 

「やめなさい! いい加減にしないと――」

 

「今の言葉だけは許さないわよ。一誠くんは――」

 

 

 

 

 

 

「……………………………………。取り入った、ね」

 

 

 いくら逆上せても、地雷だけは決して踏んではならないという事を。

 

 

「クククッ」

 

 

 弱体化しても、緩やかになろうとも進化は進化である事を。

 

 

 それが近い将来……全力の後悔となる。

 

 

 

 何で何時もこうなるのよ。

 言い合いならまだ良い。

 けれど、何の根拠も無いのにどうして朱乃や私が彼に洗脳されたなんて言葉がでるのよ。

 

 

「四人には帰って貰ったけど、この指示も洗脳されたからなんて思われたとしたらと思うと……」

 

「別に良いっすよどーでも。元々善人ぶるつもりなんて無いし」

 

 

 言われた本人は気にしてませんな顔だけど、小猫に言われた時に一瞬見せた殺意は、気にしてないなんて嘘だとわかる。

 だからこそ、私としても謝らないといけないと思って残ったのよ。

 

 

「いっそ、皆に今此処でダボダボの裸Yシャツ姿にでもなって、俺に傅いてる写真でも撮ります? そしたら俺はまごうことなきゲス野郎となれるし! あははは!」

 

「「「「……」」」」

 

 

 寧ろ色々と投げ槍な感じが痛々しいというか……。

 

 

「写真は別にして、その裸Yシャツという状態にはなっても良いですよ?」

 

「は?」

 

「いやほら、この前の約束がまだでしたし」

 

 

 皆もそれをわかってるのか、ソーナにしてもその裸Yシャツ状態になるとまで言って元気付けようとしてる。

 そうね……ライザーの件のお礼も儘ならないままだったし、朱乃と真羅さんは多分普通にやる気あるでしょうし、一つ本当に着てみましょうか……裸にYシャツを。

 

 

「え……いや、物の例えにマジになられても困るんで結構っすよ」

 

「でも私もソーナも兵藤くんには借りがある訳だし……。まあ、この程度で返せるものじゃないけど」

 

「ええ、そうですね……恥ずかしいけど」

 

「いや別に恥いの押してまでやって貰わなくても結構ですっての」

 

 

 でも何故か兵藤くんは頑なに要らないと言って憚らない。

 ? スケベな性格だから少しは喜んでくれるのかと思ったけど、やっぱり純粋に悪魔な私とソーナは受けが無いのかしら……。

 それとも……。

 

 

「ひょっとしてだけど、ヘタレ?」

 

「あぁん!?」

 

 

 今否定する理由があるとするなら……と思って何となく呟いてみた結果、面白いくらいに露骨な反応をした兵藤くんに私は何となく察した。

 

 

「テメ今なんつったゴラ? 百戦錬磨の俺様がヘタレだと?」

 

 

 血走った目で睨んできたけど、何ででしょう……あんまり怖くない。

 

 

「いえだって……ねぇ?」

 

「安心院さんが言った通りというか……」

 

「昔からそうだから、今更思う事でも無いわ」

 

「言うだけ番長」

 

 

 ソーナや真羅さん、そして朱乃に同意を求めるつもりで視線を寄越してみると、やはり同じ意見だったのか、ちょっと笑いつつ頷いている。

 

 

「ヘタレじゃねーよ! ふざけんな、もう帰る!!」

 

 

 それに怒った兵藤くんが顔を真っ赤にして帰ろうとする訳だけど……。

 

 

「中身を知ってみると、結構可愛いわね」

 

「私は昨日知りましたけど、ほぼアナタに同意見よ」

 

「む……やめてくださいよお二人とも。一誠くんはダメですからね?」

 

「姫島さんの言いたいことはわかりますが……どうでしょうね」

 

 

 うーん、凛についてどんどん険悪になるのに連れて兵藤くんが微妙に怖くなくなってる……。

 何というか……皮肉よね。

 

 

「Yシャツなら胸も関係ない……実は胸もそんなに拘って無いんでしょう?」

 

「んな訳あるかこの喪女予備軍が! まな板に人権なんざねーよ貧乳めが!」

 

「ま、周りの子が大きすぎるだけで私は普通よ……!」

 

「ヒャハハ! それこそ負け犬の遠吠えだな。ド貧乳はどう足掻いてもド貧乳だぜ!」

 

 




補足

マイナススキルにインターバルの制約が弱体化に伴いな復活。

そして進化の速度も緩やかになる。

現状・前に戦った悪魔としてのサーゼクスさんに勝てないレベルまで落ちました。


その2
裸エプロンは見飽きたという先代により微妙にお勉強したイッセーの趣味は袖ブカブカなダボダボ裸Yシャツ……らしい。


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デビル・インフィニットヒーロー
始まり


新章ですかね。

かなりごちゃついてます


 弱体化したせいで守れませんでした、なんて間抜け通り越したバカ野郎に他ならならない。

 だから、王様が新しい仲間とやらを作るまでは代行として悪魔にはなるものの、当然の事ながら力はキチンと元の状態に戻す。

 寧ろその先の領域に勿論行くつもりだけどな?

 

 今の所としては、数ヵ月で元の強さを手に入れるって所か……。

 

 

「僕は手伝わないよ。お前が自分で選んで弱体化したんだし、そこは自分で取り戻してナンボだろ?」

 

「最初から頼るつもり無かったよ。大丈夫、寧ろこの弱体化こそ、良い修行ってやつにしてみせるぜ」

 

 

 その為には、弱体化と一緒に弱体化したスキルを鍛え直す所からだな。

 なじみの手伝いなぞ必要ない。自分で必ず取り戻してやるぜ。

 

 

 

 

 結局悪魔に転生しても溝は溝のまま、日は過ぎていく。

 球技大会があった時に、部活・委員会対抗の野球ゲームがあったのだが……。

 

 

「シャアッ!!」

 

「ひいっ!?」

 

 

 人数の理由で風紀委員会と生徒会が合同……それでも足りないのだがチームとなり、オカルト研究部と試合になった際、ピッチャーだった一誠は打者に立つ数人に対してのみ顔面すれすれ計測不能の球を投げつけて、本人達どころか見てた周囲の生徒達からも顰蹙を買い。

 

 

「こ、の!!」

 

「キャオラッ!」

 

「げぶ!?」

 

 

 ドッジボールでは、力自慢の白髪で小柄な少女の投げた球を半笑いで取っては顔面に目掛けてマジ投げしてぶっ飛ばし等々、売られた喧嘩を買いますよなスタンスのまま、ますます溝を深めまくったというオチで終了した。

 

 

「あの人の事、やっぱり大嫌いです」

 

「明らかにわざとやりましたよ……あの人」

 

「兵藤さんにも思いきり当ててたし、酷すぎる」

 

「いや、私は別に……」

 

 

 地雷を踏んだ代償は、じわりじわりと迫っている……という現実に気付くべきなのかもしれないが、三人ともそれに気付こうとはせず、ただただゲスだ何だと一誠をますます嫌うのであった。

 

 

 

 弱体化した……と、軽い調子で兵藤くんは言っていたけど、その軽い口調とは裏腹に見せられた彼の鍛練は、とても真剣なものだった。

 

 

「常時身体が重く感じるというか、見えない重石を常に抱えてる感じだから、取り敢えず王様よ……俺の相手して貰えます?」

 

 

 椿姫と何時も模擬戦をしてる姿を見ていた私は、只今昼も夜も人間が立ち寄る事が皆無な、計画途絶のビル工事跡地にて、コキコキと首を鳴らす兵藤くんと向かい合っていた。

 

 理由はそう……悪魔に転生した弊害で弱体化してしまった力を鍛え直して取り戻す為であり、椿姫ばかりにその役目を負わせるのは酷だからと私が自分で手伝える事は無いのかと聞いたからなのだけど……。

 

 

「うーん……」

 

「こ、このっ! この!」

 

 

 当たらない。

 決して手加減してるわけじゃない……いや寧ろ途中から躍起になって当てようとしたのだけど、放った魔力も、体術による肉弾戦も、まるで踊る様な動きで悉く避けられてしまう。

 

 

「やっぱり身体がまだ重いか。うーん……」

 

「ぜぇ、はぁはぁ……そ、その状態の、アナタに……一撃も、当て、られない……はぁひぃ……私って、一体……」

 

 

 転生した事により持つことになった多少の魔力には一切頼らず、転生前と同じ身体一つで相手をなぎ倒すスタイルを変えるつもりは無いと言っては居ましたが……。

 弱体化したと嘆いている状態なのにも拘わらず、一撃も当てられない私はそれ以下の以下に弱いと言われてる様なもので、自信を軽く失いそうになる。

 

 

「そ、そもそも私、考えてみたら兵藤くんの力について何にも知りません。

本来一度で転生すれば決して戻る事が無いというのに、匙達を元の種族に戻した力とか……」

 

「そりゃあ、聞かれても無いし言ってもいませんからね」

 

 

 そして兵藤くんを全然知らない。

 常識を嘲笑うかの様に否定する力も、人の身である時から持つ強い力についても……何もかもを私は知らない。

 本人は言ってないからと軽く流したけど、私は今此処に来て知りたいと思ってしまう。

 

 おちゃらけ風紀委員長としてでは無い、私の知らない兵藤一誠の事を……。

 

 

「教えて下さい……と言えば教えてくれますか?」

 

 

 知りたい。疲れて動けずに座り込む私は、ビル建築の骨組みの隙間から流れる冷たい風をこの身に受けながら言ってみた。

 

 

「……。はぁ」

 

 

 そんな私の言葉にガシガシと頭を掻いた兵藤くんは、一つ深いため息を吐き……。

 

 

「まあ、暫くはまるっきり他人同士って訳じゃあ無いから良いか……」

 

 

 教えてくれる……そう言外に言ってくれた。

 

 

「他言したらドラゴンスープレックスしますんで」

 

「え、えぇ……」

 

 

 そして釘を刺された後に話された事全ては、飲み物を買いに行った椿姫が戻ってくる間ずっと、私の中にあった人の常識に対する認識を無理矢理すげ変えられた……とだけ言っておきます。

 

 

 

 

 一誠がソーナの眷属に形的にとはいえなってから数日。

 球技大会の事もあってますます自身の眷属達との溝が広がりまくる事に頭を悩ましていたリアスだが……。

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! 本気なの祐斗!?」

 

「本気ですよ……。兵藤さんの家に行った時に見た写真の中にあった時は過去の事だと割りきれましたけど、今日来た教会の遣いの人達が持ってたそれを見て自分を理解しました。『やっぱり割りきるのは無理』と」

 

 

 その悩みの種の一人の抱える怨念が、今日来たとある存在の持つとある剣により再燃してしまい、大雨降り頻る外へと走り去ってしまった。

 

 

「木場君!」

 

 

 当然、止めようとした。

 事情を知らない凛も同じように様子が変わった木場祐斗を止めようと叫んだ。

 しかしそれでも祐斗は止まらず、ずぶ濡れになりながらも走り去った。

 

 

「き、木場君は一体……? 聖剣を見てから急に様子が……」

 

「……。凛とアーシアは知らなかったわねそういえば、祐斗の過去を」

 

「え、えぇ……」

 

「はい……。あんな怖いお顔の木場さんは見たことが……」

 

 

 祐斗が去ってしまった後、部室に残ったリアス、朱乃、凛、アーシア、小猫はただ下がりの重たい空気を充満させながら、祐斗の過去についての話が始まる。

 

 それは、木場祐斗が過去に人が聖剣を操る為の実験に強制参加させられ、まるで実験動物が如くあらゆる非道な実験をその身に受けさせられたというもの。

 そしてその実験に目処が立った瞬間、用済みとばかりに同じ実験に参加させられた者達は殺され祐斗だけが奇跡的に生き延び、リアスによって悪魔として転生して命を拾った事。

 

 そして、今回来た教会の遣いからの話と共に持っていた聖剣の一つを見てその復讐念が再発してしまった事。

 

 

「だから祐斗は聖剣を憎んでる。

ただ、私は凛――貴女と出会ってからその念から少しずつ解放されたと思ってたわ」

 

「わ、私が……ですか……?」

 

「ええ、というか気付いてないの?」

 

「えっと……?」

 

「……………。いえ、何でもないわ。早く祐斗を探しに行かないと……」

 

 

 困惑する凛の様子を見て『鈍いのか……』と思いつつ話終えたリアスは脱力して力の出ない身体に鞭を打って立ち上がろうとする。

 教会側の遣い二人との話し合いにて取り決めた、口頭とはいえ約束事を早速破る訳にはいかない。

 だからこそ、恨まれても構わないから力付くでも大人しくさせなければいけないのだ。

 

 

「わ、私が行ってきます!」

 

 

 だがそれに待ったを掛けた凛だった。

 どうやら自分が追いかけて連れ戻すと言いたいらしく……。

 

 

「凛先輩が行くなら私も行きます。祐斗先輩が心配ですから」

 

「私も行きます」

 

「……」

 

 

 リアスが内心『まさか』と思っていた通り、小猫とアーシアも行くと言い出した。

 連れ戻す……という言葉に嘘は無い。

 しかしそれでも何となくリアスは嫌な予感がしていた。

 

 

「凛はあの……確か紫藤イリナと言ってた子と知り合いみたいだったけど……」

 

「む、昔の友達です。行ってきます!」

 

「え、ちょっと! まだ行って良いなんて――」

 

 

 具体的には上手く説明できない『嫌な予感』が。

 飛び出す凛、そしてそれに続く小猫とアーシアを呼び止める暇もなく去られてしまったリアスは、傍らに控えてくれている朱乃と共に『はぁぁ』と深いため息を吐きながら、どうしようかと相談し合う。

 

 

「事情を知って、祐斗の復讐に荷担するとか言い出さなければ良いけど……」

 

「微妙な所ですわね」

 

「教会側から釘を刺されてるというのに……どうしようかしら」

 

 

 ライザーとの小競り合いから感じるようになった妙な距離感は、一誠が朱乃を助け出すついでに自分を救ってくれた出来事以降から更に感じる様になった。

 

 

「極力兵藤くんの話は普段しないように心掛けててもダメだったし……」

 

 

 だからリアスなりにその距離感を少しでも離さないようにと、あからさまに一誠を毛嫌いしている三人の前では、理由が無い限りはその名前を口に出す事は控えていた。

 しかし、一誠とは関係の無い新たな火種の出現に、更なる溝が深まる予感がしたリアスはただただ嫌な予感だけしか残らず、祐斗や凛達を追いかけて無理矢理連れ戻すべきなのか迷ってしまう。

 

 そして迷ってしまうと最近は何時も――

 

 

「兵藤くんならふて寝してますけど」

 

「……。一応聞くけど、何で生徒会のアナタ達が風紀委員室に?」

 

 

 朱乃の幼馴染みであり、最近異例の方法で悪魔に転生したスケベ風紀委員長である一誠に話をしてみる為に風紀委員室へと赴く事だった。

 よく解らないけど、口が悪い一誠の喋りは精神的重みを緩和するとリアスは最近思ってる様で、最近は朱乃と一緒に訪ねる事が多くなった。

 

 が、今日はたった一人で風紀委員会を存続させている一誠の聖域に、自分と同じく最近はよくソーナと椿姫が訪ねてるという事が多くなり、その都度朱乃が若干不機嫌になることが多く、リアスも拘る事が多々あるようになる。

 

 

「一応、兵藤くんは眷属ですから」

 

「大丈夫ですよ姫島さん。別にいやらしい事はしてませんから」

 

「していたら笑って許す事はなかったですわ」

 

 

 ノックしたリアスと朱乃を当たり前な顔して出迎えたソーナと椿姫の言い分に納得出来ない顔をするものの、取り敢えず相変わらず学園長室や応接室より豪華なインテリアや間取りである風紀委員室に入った二人は、ソーナが言っていた通り、本皮製のソファの上でふて寝してる一誠を見付ける。

 

 

「どうしたのよ一誠くん?」

 

「別に」

 

「別にじゃないでしょう、その反応は? 何かあったの?」

 

 

 険しい顔してふて寝してる所に近付き、事情を聞こうとする朱乃にまで不貞腐れた態度を崩さない一誠に、これは何かあったな? と感じ取ったリアスはソーナと椿姫に耳打ち気味にどういう事なのかと聞く。

 

 

「何かあったの?」

 

「リアスの所に来た教会の遣い二人組が居たでしょう?」

 

「あの二人の内の片割れが、どうやら一誠くんを知ってるみたいだった様なんですよ」

 

「兵藤くんを……あぁ、もしかして凛の」

 

 

 教会の遣いの二人組の内の一人というソーナと椿姫の説明に、あぁと声を出すリアスはちょっと納得した。

 どうやら凛絡みで何かがあったらしく、それをふて寝してる一誠の横で聞いていた朱乃も納得しつつ当たりかどうかを聞いてみる。

 

 

「そうなの? 私はあの教会の遣いの……紫藤さんだったかしら? を知らなかったのだけど」

 

「俺だって別に知らねーし」

 

「ならどうして怒ってるのよ?」

 

「言い方にムカついただけだ。へ、なぁにが『凛ちゃんの弟さんなのに昔から相変わらず意味もなく毛嫌いしてるのね』だ」

 

 

 良いから黙って寝かしてくれよと言外に態度で訴えながら、ソファーの背もたれの方へとゴロンと寝返りを打った一誠に朱乃はちょっとホッとした。

 凛の昔馴染みという事は、もしかしたら自分と知り合う以前の一誠にとっても知り合いだったかもしれないと心配だったからだ。

 あの紫藤イリナという少女は、どうも見た目だけなら一誠のストライクゾーンに入ってたという意味で。

 

 

「…………。と、いう訳です」

 

「お陰で話し合いをした生徒会室から即刻こっちに戻って引きこもりを……」

 

「難儀ね……」

 

 

 既に凛の事を完全な他人とばかりにフルネーム呼びしてるまで終わってる関係に突っ掛かれる事が一番一誠にとってイラつく事を既に承知してる四人だからこそ直ぐに納得できてしまう訳で。

 特に朱乃にしてみれば『事情と理由』を深くまでとは言わずとも知っているので、一誠の不貞腐れに対してもほぼ一番に理解を示している。

 

 

「はぁ、しょうがないわね。

ほら、そのままだと寝づらいでしょうから枕代わりになってあげるわ」

 

「いーよ。ガキ扱いすんなし」

 

 

 居場所を無くし、人間不振にまでされたからこそ凛という存在を心の底から否定している一誠を、かつて出会った時に見た瞳を知る朱乃だからこそのメンタルケアというべきか。

 背中を向けたまま断る、不貞腐れた状態の一誠を宥める方法も一番知ってる。

 安心院なじみがその上を行ってるが、最近はちょいちょい留守が多くなってるし、そもそもあんな人に負けてるつもりは無いと思ってるので朱乃の中では即座に除外されている。

 

 

「じゃあ私の勝手にするわ。はい頭上げて」

 

「…………」

 

 

 そもそも言えば言うことを聞く頻度にしてみれば、ある意味で朱乃が最強なのだから。

 

 

「あーぁ、眉間に皺なんか寄せちゃって」

 

「見るなよ」

 

 

 結局、不貞腐れた一誠に膝枕する事が出来た朱乃。

 その手腕というか、不貞腐れた一誠をこうも簡単に言うことを聞かせる事が出来る朱乃を間近で見たリアス、ソーナはただただ感心してしまい、椿姫は微妙に悔しそうな顔をしていた。

 

 

「……。で、何しに来たわけ?」

 

「え、あ、うん……兵藤くん達も会った教会の遣いとの話し合いの時に起きちゃった事についてね……」

 

 

 取り敢えず、不貞腐れた態度を緩和した一誠は、ソファの上で朱乃に膝枕されながらという、大分情けない姿のまま、対面側に座るソーナ、椿姫、リアスの内、リアスに何しに来たのかと問いかけ、返ってきた言葉にめんどくさそうに鼻を鳴らす。

 

 

「聖剣への復讐心が再燃して勝手に飛び出して、それを役立たず共が追い掛けたまま戻ってくる気配が無い? 知るかよそんなの、勝手にさせれば良いだろ。最悪消されても自業自得だぜ」

 

「それはそうなのだけど……ほら、教会側との口約束を早速破りました……はねぇ?」

 

「じゃあ追い掛けて、叩きのめしてでも連れ戻すんだな――――と、言いたいけど、それで聞くような聞き分けの良い役立たず共じゃねーわな」

 

「………」

 

 

 元々一誠は凛は論外として、それに何時も引っ付いてる食玩のオマケ菓子以下と思ってる取り巻き達が嫌いだった。

 何かに付けて凛だのと喧しいだけで、常時役にも立たないだけの連中……本来なら相手にもしたくないと一誠は思ってるが、それでもリアスと朱乃の仲間である体である以上、嫌でも関わらなくてはならない。

 

 

「大体、その復讐とやらを出来る強さなのかよあの役立たず野郎は?」

 

「………。一応、ライザーとの小競り合い以降、凛達と鍛えて実力を伸ばしたけど」

 

「だとしても大丈夫とは思えませんね。今回の騒動の発端は聖剣を奪ってこの町に潜伏したと言われてる堕天使・コカビエルの存在がある以上は」

 

「ええ、だから余計に危ないのよ。

コカビエルは聖書にも乗ってる大物堕天使たし」

 

「堕天使……ね」

 

「? どうしました一誠くん?」

 

 

 堕天使という言葉に一瞬だけ一誠の放つ空気の温度が一気に下がるのに椿姫が気付いて声を掛ける。

 

 

「別に。バラキエルのおっさん以外の堕天使は基本ろくでもないな」

 

「…………。父がマシだと思うの?」

 

「マシどころか、下手な人間よりいい人だろあの人は。まあ、朱乃ねーちゃん的にまだアレだけどさ」

 

「………」

 

 

 そういえばあの教会側の遣い二人組との話し合いの時にもコカビエル――いや、堕天使という言葉に顔が険しくなった……とバラキエルをおっさん呼ばわりで語る一誠に椿姫は思い出すが、その理由は何なのだろうか……? さっきから話し合ってるリアスとソーナを目を細めながら朱乃に膝枕されたまま聞いてるのを観察して知ろうと努めるが、何時にもなくシリアスな様子故に、返ってわかりづらい。

 

 

「暫くは朱璃さんの周囲を警戒しておくか。

あのクズ共のやった事を思えば当然だぜ」

 

 

 分かった事と云えば、悪魔に対して不信感を持ってるのが可愛いレベルに、堕天使に対して強烈な敵愾心を持っているという事くらいか……。

 

 

「大体思ったけど、その教会の二人組でその堕天使を殺れるのか? 正直無理だろ」

 

「彼女達の言い分だと、コカビエルの手に渡った聖剣をどうにか出来れば良いらしいのよ。それこそ玉砕覚悟で」

 

「信仰している神の為には自分の命なんて軽く投げますからね彼等は」

 

「神ねぇ?」

 

 

 意味深に神と呟く一誠。

 膝枕されてるとはいえ、おふざけ無しの状態の一誠は妙に新鮮だったりする椿姫は、暫くジーッと一誠を眺めていた訳だが、そこで一つ気がついた。

 

 

(? 一誠くんの視線がソーナ会長とリアス様のに向いてる割りには随分低い様な――)

 

 

 さっきから一誠の視線が話し合ってるソーナとリアスに向けられてるのだが、その視線が妙に低く、具体的にいうと座ってる二人の足元……いや――

 

 

「ほほぅ、ベージュと黒レースか」

 

 

 スカートの中であり、ハッと半笑いで色をと種類を言い出した一誠に、視線の先に気付いた椿姫以外の三人が声を揃えてキョトンとした顔をしながらニタニタし始めた一誠を見る。

 

 

「グレモリー先輩はオーケーだとして、王様は随分と顔の通りに地味っすね。ベージュて……くくっ!」

 

「はっ!?」

 

「なっ!?」

 

 

 そして漸く一誠の言ってる意味を理解したリアスとソーナはハッとしながらスカートを押さえる。

 しかし遅い……バッチリ一誠は網膜に焼き付けてしまった時点で勝敗は決していた。

 

 

「み、見えてたのね……。

兵藤くんに見られると恥ずかしいわ……」

 

「わ、私に対する言い方に悪意があるのは気のせいですか?」

 

 

 リアスは恥ずかしそうに笑うが、ソーナは顔を真っ赤にしつつジト目で一誠を睨む。

 膝枕してる朱乃の顔つきが一気に変化してる事に気付いてない一誠は、ケタケタ笑ってそんなソーナを煽りだす。

 

 

「地味で貧乳でキャラもつまんねーし、アンタらしいと寧ろ誉めてるんですがね? まあ、色気なんて全く感じないけどね………ぷっくくく、オバハンかってんだ」

 

「バカにしてますよね!? 今絶対しましたよね!? というか貧乳は止めてと言いましたよね!?」

 

「してないっての。まあ心配しなくても、世の中にゃあアンタみたいな地味で、貧乳で、ベージュで、マグロっぽくても良いって理解しがたい性癖を持つやつが居るんだから悲観すんなよ?」

 

「ま、まぐ!? し、知りもしない癖に!」

 

 

 ひっひっひっ! と笑って煽る一誠に思いきり引っ掛かってしまってるソーナ。

 一応主従関係なのに、その様子が微塵も無い。

 

 やがて朱乃の膝枕から起き上がった一誠は、ゲラゲラと大笑いし、「うーうー」としか言えなくなったソーナは何かが切れでもしたのか。

 

 

「は、はっはーん、分かったわよ兵藤くん?」

 

「え?」

 

 

 急に真っ赤な顔しながら無駄にドヤ顔で何かを理解したぞと宣い出し、それまでヘラヘラしていた一誠がポカンする。

 一体何が分かったのか? 一誠本人もそうだが、リアスも椿姫も、一誠の後ろでバチバチとしていた朱乃も分からずにドヤ顔してるソーナを見てると……。

 

 

「そ、そうやってからかうのは私の事が好きだからでしょう?」

 

 

 完全に斜め上の事を言われてしまった。

 

 

「…………は?」

 

 

 これには一誠も困惑。

 

 

「か、会長……?」

 

「何を言ってるのよこの子……」

 

「……………」

 

 

 そして椿姫とリアスも一誠と同じく困惑したが、朱乃だけは目付きが一気に変化して困惑した一誠の横顔を見据える。

 

 

「グレモリー先輩じゃないけど、アンタ何言ってるの? 頭大丈夫っすか?」

 

「ふ、ふんだ。

理由を知った今、私は怒らないわ。

まったく、好きなら好きとハッキリ言えば良いのに、ヘタレだから言えないなんて可愛いじゃないの。

てっきり椿姫や姫島さんやリアスみたいなのがタイプかと思ってたけど、貧乳と言ってたのも照れ隠しね?」

 

「おい、医者呼べ医者。この王様イカれちゃった」

 

「ソーナ? 落ち着きましょう? いくら何でもそれは無理があるわよ?」

 

「これぞまさに現実逃避ですか」

 

「……。気が抜けましたわ」

 

「何よ三人して? あらまさか嫉妬かしら? しょうがないですもね、アナタ達は無駄にその脂肪の塊があるし? 私だけがストライクゾーンだからって嫉妬しちゃうのも仕方ないわよね? おほほほほ!」

 

 

 流石に本気で頭の心配をする一誠達だが、ソーナは勝手に吹っ切れたが如く一人勝ち誇っている。

 その余りにもアレな姿に流石の朱乃も怒りが吹き飛んでしまう。

 

 

「あ、そうだ。折角こうして好きだと言われた事ですし、断るのも悪いので今日は今後の関係について話し合う為にアナタのお家に行きましょう。

私もアナタの求愛を受けるにしても、もっとお互いの事を知らないといけないと思ってますしね?」

 

「いや、俺が何時アンタを好きなんて言ったんだよ? つーか別に好きじゃねーよ。何だこの人? ポンコツだったのか?」

 

「さ、さぁ? こんな会長を見るのは初めてで……」

 

「というかいくらシトリー様でも一誠くんのお家に行かせる訳がありませんわよ」

 

「兵藤くんが煽り続けるせいでもあると思うけど……」

 

 

 どんどんと壊れていくソーナに流石に罪悪感が再燃してしまう。

 それ故に勝手にテンパってるソーナにただただ平謝りでもしようとヘコヘコ頭を下げるのだが……。

 

 

「マジすか。あー……何かごめんなさい王様。もう無意味に煽りませんから何卒元に……」

 

「え、添い寝? も、もうそんな段階が欲しいの? だ、駄目よ一誠……そういうのはデートを重ねてから――」

 

 

 然り気無くソーナの中ではランクアップでもしたのか、名字呼びから名前に切り替わり、更には全く話を聞かずに一人で暴走が進んでしまう。

 

 

「マジでごめんなさい。割りと本気ですいません。

憎まれ口でも叩けば、俺のせいで無くした仲間に対する複雑さを若干緩和できると思ってたから……すいません、すいませんすいません!」

 

 

 それを見てしまった一誠は、かなり本気になって謝った。

 自分のせいで巻き込まれて眷属を失うことになったソーナに、せめてそれを引きずらないようにと、自分なりに色々と憎まれ口を叩いていたつもりが、予想を斜め上に行く展開だった。

 

 ほんのりと頬を染めながらどんどんと話が変な方向に飛ばしていくソーナにひたすら謝りまくる一誠は、基本的に損な性格なのだ。

 

 

「一誠くん……取り敢えず浮気は許さないからね?」

 

「まさかとは思いますが、会長が好みとは言いませんよね?」

 

「それこそまさかだよ。大体俺がそんな素振り見せ――」

 

「え、ええっ!? そ、そんな……一緒にお風呂で洗いっこするなんて……。

そ、そこまで求めて来られると……わ、私……」

 

「ソーナ、そんな事兵藤くんは言ってないからね? 冷静になりなさい……!」

 

 

「…………。妄想癖があるとは知らなかったけど」

 

「「……」」

 

 

終わり




補足

イリナさんはどっちかと云えば凛派。
それ故に一誠はめちゃめちゃ嫌ってます。

ゴチャゴチャ言われたのもあって余計に。

その2

風紀委員室がソーナさんとリアスさんにとってのメンタルケア室と化してるのは……まあ、仕方ない。


その3
そんなメンタルケアの方法を失敗したせいで、ソーナさんがエライ事になってしまった。

というか、完全に一誠の失敗でした。

顔真っ赤、目はテンパって渦巻きみたいにグルグル、アワアワしているソーナさんは……まあ、普通に匙が居たら―――うん。

まあ、ベージュだけどね


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男一人に女の子5人チーム

然り気無く、気持ち云々抜かせばハーレムだったり。


しかし本人は正直そんな気分でも無く、またそんな自覚も互いに無い。

だって朱乃ねーちゃんが怖いから……。


 女王以外の駒を使って悪魔となった一誠。

 かなり類を見ない転生ではあるものの、ハッキリ言ってしまえば悪魔からしたらデメリットだらけだ。

 

 何せ人員がそれ以上確保出来ず、それがどういう意味なのかは悪魔の間で行われるとあるゲームに響く事を考察すればすぐに分かる事だ。

 

 だからこそ、兵藤一誠がヤケクソになって転生した駒の持ち主であるソーナ・シトリーは、只今かなりの人員不足に悩まされている――

 

 

 

 

「くたばれ! これがビッグ・ベン・エッジじゃーっ!!!」

 

 

 という訳でも無く、寧ろ個人の能力を考えると前と同じ――いや、ひょっとしたらそれ以上なのかもしれない程の人員を手に入れられたと考えていた。

 

 

「チッ、この程度じゃ自分を計れやしない」

 

「あがが……」

 

「随分と派手なプロレス技ですね……」

 

 

 ソーナ・シトリーが自身の眷属と完全に縁を切ってから、流れとかそんな曖昧な理由で新たに加わった第一号の眷属である一誠。

 

 人であり、人でなしとも言える異常な戦闘能力を保持している彼の強さは、悪魔に転生したせいでかなり弱体化したと言ってたものの、それでもありあまる力への渇望は留まることを知らなかった。

 

 今だって町に侵入して潜伏していたはぐれ悪魔を一人で……何やら派手な技名を叫びながら叩き潰したばかりだった。

 

 

「ぐ……この……ガキがぁ……!」

 

「チッ、殺すつもりでやったのに生きてるか。

やっぱりそう簡単に弱体化した状態から元には戻らねぇ―――か!」

 

「がっ!?」

 

 

 だが一誠の表情は晴れ晴れとはしていない。

 相手の息の根を止める為に放った必殺クラスのフィニッシュホールドなのに、はぐれ悪魔は生きてるばかりか呪詛の言葉まで向けてきた。

 今トドメを刺したものの、バラキエルは勿論……この前天井にめりこませてやった名も知らない堕天使共にも劣る相手に手こずるにまで力が落ちている。

 

 ソーナを見てて妙な罪悪感を感じたから、彼女が今度こそ仲間をちゃんと見つけられるまでは、ちょっとした腐れ縁のよしみで眷属になってはみたが、やはり弱体化しているという現実は多少一誠を焦らせていた。

 

 

「この状態だと、この前の魔王には確実に殺られちまうな。でなくとも、あの――何でしたっけ?」

 

「? コカビエルですか?」

 

「そう、それ……その堕天使ともし殺り合う事になったら結構ヤバイかもしれないっすねこりゃあ」

 

「はぁ……。(さっきのはぐれ悪魔も、全身が軟体動物みたいになるまでグチャグチャに……それも無傷でしたのに、一体全盛期の彼の力はどれ程――)」

 

 

 廃墟に潜むはぐれ悪魔を退治し終え、ソーナによって後始末も済ませた一誠が、月明かりと街灯照らす夜の小道をソーナと並んで歩きながら自分の力の弱体化が思っていた以上に大きいと話す。

 

 

「まあ、例の……ほら、カトリックだか何だかの怪しい連中に何もすんなと言われてると聞かされてるんで、テメーから仕掛けるのは極力抑えますけどよ、そのコカビエルってのがもし朱璃さんとねーちゃんに何かするんだったら……」

 

「わかってます。その為に姫島さんのお母様を警護する為に私と椿姫が交代でガードしてるんです。

少し位は信用して欲しいものですね」

 

「……。椿姫ちゃんはともかく、弱体化した俺より弱いアンタを信用しろって言われてもなぁ……」

 

「ぐ……それを言われると弱いですけど……」

 

 

 生徒会長と風紀委員長。

 駒王学園の二大勢力の現トップであるこの二人が、事情があるとはいえ普通に普通な感じでくっちゃべる。

 代々仲が宜しくなかったというのが駒王学園の間では当たり前とされてきたというのに、これはある意味奇跡の光景とも言えなくもない。

 

 まあ、此処まで来るのにかなりのいざこざがあった訳だが。

 

 

「アンタはもっと強くなった方が良いんじゃねーの? 正直全然頼りにならねーもん」

 

「ですよね……はぁ。

椿姫は実は強かったし、もしかして私達の中で私が一番弱いのかも……」

 

 

 暗い夜道をテクテク姫島家目指して歩くソーナが落ち込んだ様に肩を落とす。

 一誠、朱乃、椿姫、リアス……そして自分。

 色々あって今一番信用できる面子の中で自分が一番実力不足であるというのは、今まで眷属達に囲まれていた事でスルーしてきたツケなのかもしれない。

 

 リアスはその滅びの力もさることながら、実は最上級クラスに届きうる火力を持ってたりするので、真正面から戦ったら勝てる自信はそんなに無いし、弱体化した一誠にすら片手で遊ばれてしまう始末。

 極めつけはその師を自称する安心院なじみという、悪魔ですら豆粒になるだろう完璧な人外。

 

 これ等の面子を考えれば、ソーナは自分に自信を持てなくなるのも正直仕方ないのかもしれない。

 

 

「………」

 

「はぁ……」

 

 

 だからこその落ち込みなのだが、生憎隣に居る男の子はデリカシーは無いわ、スケベだわ、容赦ないわの塊なので気の利いた台詞はほぼ望めない。

 

 

「ちょっと待って、そこの自販機でジュース買うんで」

 

「あ、はい……」

 

 

 今だって落ち込んでる自分を華麗にスルーし、道端にあった自販機でジュースを買ってグビグビ飲んでる始末。

 

 

「なんすか? 言っとくけどあげませんよ?」

 

「要りませんよ別に……ふんだ」

 

 

 貧乳貧乳と馬鹿にする理由が、好きな子を苛める心理だと言うことは、ソーナ自身のほぼ勝手な解釈により苛立つことは無くなったが、もう少しこう……何か言ってほしい。

 

 リアスには手放しでフォローするのを知ってるから余計にだ。

 

 

「……んだよしょうがないな。生徒会長に奢るとか、冥ちゃん先輩が知ったら怒られちゃうのに――えっと、何が良いんすか?」

 

「………………りんごジュース」

 

 

 事情が事情とはいえ、眷属という仲間なのだから……少しくらいは。

 

 ジュースを飲んでる姿を眺めていたのを勘違いでもしたのか、しかたねーなといった顔でジュースを奢られたソーナは、チビチビ飲みながらそう思ったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな状況のソーナ達なのだが、反対にリアス達はといえばソーナが終わらせたともいえる修羅場に巻き込まれていた。

 

 

「……。祐斗を探すついでに聖剣を教会の人間と一緒に捜索する……か。

そういえば教会の人間の一人は凜の幼馴染みだったわね……」

 

「ええ、どうやら祐斗くんに聖剣のひとつを破壊させるみたいですわ」

 

「……。そう……ハァ……殆ど凜の言うことしか皆聞かなくなっちゃったわね……」

 

 

 朱乃を除いた自身の眷属の全員が、凜を中心に独自行動を取るようになっていく。

 それはリアスとしても縛り付けるつもりは無いにしても、有事の際にまで自分の言うことを聞かなくなっているというに他ならない状況がまさに今な訳で……。

 

 凜が祐斗を探すと出ていくことで当然の様に凜側へと走っていったアーシアや小猫に、天界側との関係悪化を防ぐために自分なりに受け身になっていたリアスは、若干気疲れした様な表情だった。

 

 

『部長だって兵藤先輩と最近仲が良いじゃないですか』

 

『確かに兵藤さんとは 仲良くしたいです……けど、リンさんに酷い事ばかり言うのは許せません。

ちゃんと謝ってからじゃないと……』

 

 

 

「――なんて皆言ってたけど、そもそも彼が朱乃個人の為で私達は物次いでだったとはいえ、お兄様に直接直談判しなければ、今頃ライザーの実家で何をされてたのか……という事をすっかり忘れちゃってるみたいだわ」

 

「仕方ありませんよ。元から折り合いが絶望的に悪かったのですから。

それに一誠くんは『あんな役立たず共に土下座されても感謝されたくない。吐き気がする』と言ってましたからねぇ」

 

「それは私も聞いたけど……ハァ……」

 

 

 がらんどうとした部室で何度目になるか数えるのもバカらしい程にため息を溢すリアスに朱乃は静かにお茶を差し出す。

 凜を慕うのは良いが、凜を嫌う一誠を証拠もないのにソーナの眷属を追い払って自分が成り代わった欲深い男と思い込むのはやめて欲しいとリアスは思う。

 

 確かに口は悪いわ、粗暴だわ、スケベだわ、スイッチ入るとヤクザみたいな口調になるわ、朱乃を取り戻す為に一人で冥界に乗り込んで城は吹っ飛ばすわでメチャクチャな所はある。

 

 あるが、その行動理念に触れさせたのは自分であり、自信満々に勝つと言い切った挙げ句無様に負けた自分達なのだから、もう少し一誠に感謝してやっても良いのでは無いかとリアスは朱乃に入れて貰ってから最近凝ってる日本茶を静かに飲みながら考える。

 

 でなければ、今頃自分達女子はライザーという見てくれだけでも簡単に女好きとわかる男の玩具にされていたのかもしれないのだから……。

 

 

「そういえば、今朱乃の実家にソーナと椿姫が泊まり込んでるんでしょ?」

 

「ええ、母のボディーガードを兼ねてご一緒させて貰ってるわ」

 

「良いなぁ、私も加わろうかしら……」

 

「歓迎するわよ、お母さんも喜ぶし。

まあ、一誠くんがだらしなくなりそうだからアレだけど」

 

「? 彼もなの?」

 

「ええ、ウチは一誠くんにとっての実家でもありますから………………安心院さんもセットなのが気に入らないけど」

 

 

 リアスの苦悩は続く。

 

 

 

 さて、風紀委員長に加えて最近は生徒会の仕事を手伝う一誠はと云えば……。

 

 

「あのさぁ、そんな頻繁に風紀委員室(コッチ)来られると、生徒連中にめっちゃ怪しまれるんですけど」

 

「……。居心地が良くて……」

 

 

 先々代が学園長を脅して用意させた応接室クラスの設備が整えられてる風紀委員室にて、またやって来た生徒会長のソーナにちょっとげんなりしていた。

 

 

「仕方ないじゃないか。お前が幻実逃否でソーナちゃんのお仲間を否定して人間にしちゃったんだから。

お陰で今のソーナちゃんは椿姫ちゃんしかお仲間が居なくて寂しいのさ」

 

「う……」

 

 

 しかし、委員長席の机に腰掛けている駒王学園制服スタイルの安心院さんことなじみにそう言われ、言葉を詰まらせてしまい、結局は受け入れてやる事になる。

 

 基本融通の訊かない男だが、師であるなじみの言うことだけはほぼ十全聞いてしまう辺り、朱乃と並んで尻に敷かれてる感が半端無い。

 

 

「いえ、別に一誠のせいじゃなくて……」

 

「おや? いつの間に兵藤くんから一誠呼びに変えたのかい?」

 

「え? あ……ま、まぁ……」

 

「ふーん、どんな心境の変化があったのやら……ねぇ一誠?」

 

「俺に聞くなよ。知るわけねーだろ」

 

 

 なじみににやにやされ、機嫌の悪そうにソッポ向く一誠。

 

 

「あーぁ、一誠がヘソを曲げてしまったみたいだ。

よし椿姫ちゃん、一誠をよしよししてあげなさい。そうすれば大概直る」

 

「え? わかりました、じゃあ一誠くん……」

 

「いや良いって……! 俺はガキかっ!」

 

 

 しかし一枚どころか千枚は上手のなじみは、それを面白がるが如く椿姫に機嫌の治し方を教え、それを受けた椿姫はちょっと嬉しそうに委員長席に座る一誠に近寄り、子供をあやすが如く頭を撫で撫でしてあげる。

 

 当然一誠は良いと突っぱねたかったが、相手が椿姫というのもあってか、その手を払い除ける事を躊躇してしまい、結局はされるがままになっていた。

 

 

「何か納得できねー……」

 

「ふふっ……♪」

 

「昔から単純で騙されやすいからね一誠は。

僕から受けた話はほぼ間違いなく疑わずに居たもんだよ。ほら、かくれんぼの時だって、僕が冗談半分に『見付けたらなじみおねーちゃんみーっけ!』と言いながら抱き付くというのも――」

 

「あーあーあーあーあー!!! そんな昔の事なんざ忘れたよ!!」

 

 

 男一誠……微妙に納得できない放課後の一時。

 

 しかしそんな一時も……。

 

 

「凜達が奪った聖剣を振り回すはぐれ神父と交戦した」

 

 

 というリアス達の話により、面倒な事へとまた巻き込まれるのだった。

 

 

 

 

 

 悪者にされるのには慣れてる。

 別にうざい奴から嫌われても痛くも痒くもない。

 

 しかし、そんなうざい奴のせいて割りを食うともなればそろそろ殴り飛ばしてもと思う俺は悪いのか?

 

 

「へぇ、部長さんの言うことを無視して教会とやらの連中とツルんでたら、はぐれ神父と交戦して怪我をしましたと……………バカ丸出しだな」

 

「「「……」」」

 

 

 グレモリー先輩と朱乃ねーちゃんからの話を聞かされ、揃って帰りたくもない兵藤の方の家に行ってみれば、お怪我の治療を受けてる役立たず共がそこには居た。

 クソみたいな空間に居るというのもあってか、俺は結構イライラしていたので、思わず役立たず共に向かって罵倒の台詞を吐いてみたのだが、姉貴様以外の姉貴様をお慕い申してる役立たず共から睨まれてしまった。

 

 

「言いつけ守れずに、自信満々で聖剣とやらを探すなんて言ったらしいが、結局テメーのケツをグレモリー先輩に拭いて貰ってるだけだし、あの金髪の勘違い小僧はまた一人で暴走して何処かに行っちゃいました……ってねぇ? 何お前等? 質の悪いコントでもやってた訳?」

 

「い、いや……その、木場くんがある事情で聖剣を憎んでるから……その、緩和というか……少しでも力になれたらなって――」

 

「へー、力になりたくてアンタが出張ったと? で、腰巾着も着いて来たら、自分以外は思いの外弱すぎて怪我をしちゃったと? だから私は悪くないってか?」

 

「ち、違う! 違うよ!」

 

「でしょうね? 誰にでもお優しい姉貴様はそんなこと思うわけがないって腰巾着が俺にガン飛ばしてる時点で察してやれるさ。

だが俺は敢えて言うね…………テメーは昔から何がしたいんだ? この役立たずが」

 

「っ!? う、あ……」

 

「やめてください!」

 

「それ以上凜先輩に何か言うようなら……!」

 

 

 しかし止めない。

 この際だから、テメー等のせいで色々と余計に拗れてるんだと言ってやる。

 案の定姉貴様は、実に周囲から同情受けされそうな上手い顔をして、それを見た腰巾着共から責められる訳だが、グレモリー先輩や朱乃ねーちゃん……と、次いでになじみと会長さんと椿姫ちゃんが何も言わずにいる時点でテメー等のフォローのしようが無いんだよ。

 

 

「おやおや良かったなぁ姉貴様よ? テメーのミスを庇ってくれる大事な大事なお仲間が居てさぁ?」

 

「う、く……!」

 

 

 いっそ椅子にふん縛ってやった方のが役に立てるくらい、邪魔な事ばかりしかしやしやい。

 所詮は俺個人の……こいつ等が嫌いだという主観があるのかもしれないが、それにしたってこの前の悪魔との結婚の件から全く成長しちゃいない。

 

 カス以下のカスだぜこんなの。

 

 

「こんな事言いたくないし、またあなた達は彼の事を庇うと思うでしょうが、前回も今回も私達は本当に余計なことばかりしかしてないわ」

 

「り、リアス部長まで……」

 

「どうして兵藤さんの肩を……」

 

「だからそうじゃないわ。

今回は私達悪魔に介入する権利も無いのに、祐斗の聖剣に対する復讐心、それを手伝うあなた達のせいで教会側からの信用がゼロどころかマイナスになったのよ? 祐斗の復讐心を知らない訳じゃないし、止める事も出来なかった私の底の浅さが原因でこうなったのであれば、もう私も覚悟をするしか無いかもしれない」

 

 

 ……ほら、グレモリー先輩だってこんな事言ってるぜ。

 マジで姉貴様が好きだか何だか知らねーがよ、付き合いが長いはずのグレモリー先輩よりも優先し続けるなんて正気の沙汰じゃねーよ。

 

 まあ、グレモリー先輩がいくら言った所で、どうせまた……。

 

 

「リアス部長に何をしたんですかアナタは……!」

 

 

 ほーら、な。

 

 

「洗脳したとかほざくつもりか? おいおいおいおい、そんな暇なんざねーよ俺にもよ」

 

「小猫ちゃん、一誠にそんな力は無いからそれは無いよ……」

 

「でもおかしいですよ……! だってこの前まで寧ろ部長さんだって敬遠してたのに、生徒会長さんの件以降急に……」

 

 

 

「げ、私に矛先向けられてませんか?」

 

「会長が一誠くんに洗脳されたから、匙くん達が眷属を追われたと今も考えてるみたいですからね」

 

「……。流石に私も怒りたくなりますわね」

 

「仕方ないさ。あの兵藤凜のやることが全て正しいと彼女達は思ってる。

で、兵藤凜は兵藤凜で気が弱いから碌にフォローも出来ないせいでますます一誠が悪者扱いって訳さ。本人は全然気にしてないけどね」

 

 

 後ろで会長さんとなじみと椿姫ちゃんがヒソヒソやってる。

 どうやらこの兵藤凜の中途半端以下の態度に思うところがあるらしい。

 

 だが、別にどう思われようが俺は構わない。

 

 

「いい加減になさい! そんなに彼を悪者にしたいの!? 私達の事を物次いでだとしても助けてくれた一誠くんにお礼のひとつも言えないで、勝手な推測をしないで!」

 

「「「っ……!」」」

 

 

 だって別に、こんなのに好かれたくねーもん。

 

 

終わり




補足

一誠の洗脳術。

言うことやることが粗暴な癖に、イザやってしまうと、そのせいで割りを食ってしまった人に対して罪悪感を感じてしまう。

なので、かなり不器用なりにフォローをしようと努め始め、その内面倒見の良さも相俟って相手の子は懐く様になる。


……うん、洗脳やね。

ちなみに完璧な被害者一覧。

朱乃おねーちゃん(命の恩人に加えて、幼い頃にして貰った約束を経てドハマリし、浮気性なのに嫌いに全然なれないダメ女になりかけ)

椿姫ちゃん(修行中のショタ時代の一誠に優しくされてからドハマリし、ぶっちゃけ不倫相手枠だろうが構わないとか本気で考えてるダメ女予備軍)

なじみちゃん(ショタ時代の一誠の騙されやすさにドハマリし、ぶっちゃけ誰とも関係持とうが構わないよ、どうせ僕のものだしとか考えてるダメ女)


ソーナちゃん(色々とあって自分のフォローして貰ってるので、最初期と比べて印象変化)

リアスちゃん(ライザーの件でもの次いでに助けて貰った挙げ句、両親を力付くで黙らせたので、その大きな借りを返したいと思ってる)


………うん、洗脳やね(白目)



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怒りと憎悪を引き金に

一誠の強みであり最悪の弱点。

駆け足気味に行きます。



 グレモリー先輩により、その場から一切動くな……なんて命令を奴等にしたみたいだけど、ぶっちゃけた話それを大人しく聞くとは俺には思えない。

 

 グレモリー先輩もそれを予見しているのか、もしまたも命令無視をした場合の覚悟を既に決めてしまっている訳だけど……はぁ、まったく以てうざったいことこの上無いな。

 

 

「コカビエルが学園で聖剣を元通りにする儀式を行う……らしいです」

 

「チッ、結局こうなるのかよ……クソが」

 

 

 余計な火種がどんどん増えて、やがては燃やし尽くす。

 その火消しをしなければならんというのは、まったく以てウザいぜ。

 

 

『魔王の妹二人に、バラキエルの娘。

くく、この三人の居る場所で事を起こせば間違いなく戦争の火種になるだろ?』

 

 

「なんてあの堕天使はほざいてたが、やるんなら悪魔か天使の領域内でやれや。

わざわざ人間様の支配域でやりやがって……」

 

 

 役立たず共を黙らせた後、一秒たりとも居たくなかった元実家を飛び出そうとしていた俺たちの前に現れた堕天使の男。

 見るからに悪人顔のその男は、今回の人間にとってみれば邪魔でただただ迷惑としか思えない騒動を勝手に引き起こして姿を隠していた主犯の堕天使だった訳だが、あろうことかその堕天使は俺達の通う学園で余計な事をしようとわざわざ俺達に教えて来たのだ。

 

 マジで良い迷惑だし、駒王学園でやるとはマジでぶっ飛ばすぞって話だ。

 

 

「なじみ、一応朱璃さんの事が心配だし、頼める?」

 

「ん、任された。まあ朱璃ちゃんに関しては大船に乗ったつもりで任せたまえ」

 

「…………。感謝はしておきますよ安心院さん」

 

 

 だから今すぐ堕天使とその一味をぶちのめし、とっとと学園の風紀を守りに行こうと思う訳で……。

 奴等が人質とかこすい真似をしてくるだろうを考慮し、なじみに朱璃さんのボディーガードを頼んで別れた後、俺達は駒王学園へと走っていった。

 

 

「コカビエルってどんくらいなの? 俺バラキエルのおっさん以外の堕天使とか基本知らんのですが」

 

「聖書に名を載せる程には有名な名前……かしらね、後あの風体と言動からして相当の戦闘狂だと思うわ」

 

「三大勢力間でかつて起こった戦争の時も相当暴れていたとか」

 

 

 その間にそのクソ傍迷惑な堕天使についての情報を仕入れた訳だが……。

 この前の堕天使集団よりも遥かに次元の違う相手らしいという事に、現状の自分の状況を考えて思わず舌打ちをしてしまう。

 

 

「なるほど、偉そうにものだけほざくだけの堕天使とは違うってわけかい……あぁ、クソうぜぇ」

 

 

 悪魔に転生してからの弱体化はかなり著しい。

 こうなりゃ一度きり否定して人間に戻る事も視野に入れなきゃならない………と考えたが、そういやその弱体化のせいでまだ幻実逃否を再使用する為のインターバルが過ぎてない事を思いだし、結構ピンチかもしんない現実に、自爆覚悟で道ずれにする方法の方が建設的なのかもしれない……俺はそう考えるのだった。

 

 

 

 

 駒王学園に異様な力が現れたのを察知した木場祐斗は、一足早く逃げられた聖剣使いがそこに居ると確信し、独り乗り込んでやった。

 長年自分の心を苦しめた聖剣への復讐。

 凜や仲間達はそんな自分を助けてくれたけど、こればかりは自分自身のケジメでもあったので、祐斗は一人で儀式の巨大な魔方陣が展開されている校庭へと乗り込んだのだが……。

 

 

「ミカエルの所から派遣された聖剣使い二匹に続いて、今度は魔剣創造の使い手か……。

こんなガキしか寄越さんとは俺も嘗められたものだ」

 

「ぐっ……ぅ……!!」

 

 

 当然一人で何とか出来る相手では無く、聖剣を持っていたはぐれ悪魔祓いとの交戦に敗れた祐斗は、自分を見下すようにコカビエルを睨みながら倒れてしまう。

 

 

「あれれ、お仲間の連中は来ないけど、もしかして見捨てられちゃった系かなぁ?」

 

「ち、がう……! 兵藤さん達は……」

 

 

 その際、凜達と一足早く交戦していたはぐれ悪魔祓いのフリードから煽られたが、祐斗は言い返すのも満足に出来ずに居た。

 だけど祐斗は確信していた……凜達は必ず来る。

 優しい凜ならきっと……。

 

 

(兵藤さん……!)

 

 

 だが祐斗は知らない。

 その凜達が自分共々主に見限られ始めていた事を。

 

 そして、この場に駆け付けたのは――

 

 

「学園関係者以外の立ち入りおよび、危険物持ち込み。

風紀違反以前の問題として、今からテメー等を迅速に殺戮する」

 

 

 長ランと腕章を身に付けた現風紀委員長にて、最近転生悪魔へとなった嫌いな男……。

 

 

「祐斗……! どうして一人でそんな無茶を……!」

 

「ぶ、部長……?」

 

「動かないで祐斗君、今治療しますから」

 

 

 そしてその男と一緒に来た主と女王、それから男の主と女王の5人だけだった。

 

 

「来たか、リアス・グレモリーとソーナ・シトリー……それからバラキエルの娘よ」

 

「っ……よくも祐斗を……!」

 

 

 間一髪の所で祐斗を救出したリアスが、朱乃と一緒に治療を施しながら上空から見下ろすコカビエルを睨む。

 

 

「余興にもならん小僧だったが、殺さないでおいただけ感謝して欲しいものだな」

 

「っ!」

 

 

 しかしコカビエルはそんなリアスの殺気を涼しい顔で受け流し、逆に煽る事でリアスの怒りを助長させる。

 そう、コカビエルにとってすれば聖剣を一つにするというのも、今回引き起こした騒動にしても全てがある目的の為の土台でしかないのだ。

 

 

「何故こんな事をするのですか! こんな事をすれば戦争になります!」

 

「それが目的なんだよセラフォルー・レヴィアタンの妹よ。

だが、魔王の妹が二人もいるこの街で暴れれば魔王が釣れるだろうと思ったのだが、やはりリアス・グレモリーと貴様を犯して殺したりでもしない限りサーゼクスやセラフォルーの激情は買えんか」

 

 

 ふんとソーナの問い掛けに対して軽く返すコカビエルだが、言ってる事は聞いていた一誠ですら一気に気分の悪くなるものだった。

 

 

「戦争になる? ははは、そんなものは願ったり叶ったりだ!

エクスカリバーを盗めばミカエルが戦争を仕掛けてくると踏んでいたが、寄越してきたのは雑魚の悪魔祓いエクソシストばかり。

そしてようやく援軍をよこしたと思えば聖剣を持たせただけのガキが二匹。全くもってつまらん!」

 

「戦争狂……!」

 

「そうだ!

私は三つ巴の戦争を望んでいる! 前回の戦争が終わってから私は暇で暇でしょうがなかった。

アザゼルもシェムハザもバラキエルのやつでさえもう戦争はしないと言い出す始末。

挙句の果てに神器とかいう玩具の研究にうつつをぬかし始める? ふざけるな! そんな退屈を与えられるのなぞ耐えられん!」

 

 

 コカビエルの叫びにリアス達はただただ相容れないといった顔をする中、一誠だけはコカビエルの持つ戦力の把握に勤しむ。

 

 

(何かやってるジジィ一匹、俺達と歳の白髪のガキ一匹……? いや、まだ何か隠してるのか? メンツが少なすぎる)

 

 

 戦争がどうとか、日本人に加えて平和な世の中を生きてきた一誠にしてみればいまいちパッとしない話だし、本気でそんな目的の為にこんな真似まですること自体が理解したくも無かった。

 だからこそ油断してる間に一気に潰して終わらせるつもりで、自分達の居る校庭内に蔓延るコカビエル側の戦力を把握していたのだが……。

 

 

「バラキエルの娘と人間の嫁を人質に出来れば、バラキエルとてノーとは言えなくなるだろうしな……くくく」

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 地雷を踏まれた瞬間、戦力把握なんてどうでもよくなった。

 

 

「っ……」

 

 

 まずその変化に気付いたのは、一誠の近くにいたリアス達全員だった。

 

 

「ん? 何だ転生悪魔の小僧? その目は俺に何か言いたいのか?」

 

 

 そして戦闘経験豊富のコカビエルも、自分の肌をチクチク刺すような殺意を一誠から感じ、目を細めて問い掛ける。

 

「……ろ……す」

 

 

 だが一誠は答えない。いや、答えないというよりは、言葉を交わす必要も無くなったというべきなのか。

 

 

「粉々にしてやる……このゴミ共がァ……!!」

 

 

 小さな殺意はやがて爆発するかの如く広がり、一誠の見た目すら禍々しく変化させてしまう程になってしまったのだがら。

 

 

「っ……何だ、貴様は……?」

 

 

 その変化はコカビエルも、ニヤニヤしながら見ていたフリードも精神的に退かせる程の何かがあった。

 

 

「い、一誠くん……あ、アナタそれ……」

 

「角……?」

 

「っ!? だ、ダメよ一誠くん! それは安心院さんも禁止させていた状態じゃない!」

 

「どういう事姫島さん? 確かに今の一誠から物凄い殺意が感じられるけど……」

 

 

 人を越えた何かを思わせる白と黒が反転した瞳。

 その怒りを主張しているかの様に、左右の額から伸びる二本の角。

 人間でも転生悪魔としてもあり得ない外見の変化に、何かを知っている様に止めようとする朱乃にソーナが訪ねる。

 

 

「ソーナ様も知っていると思いますが、一誠くんはその心のあり方を具体的に示せる『力』があります」

 

「ええ、椿姫も実は持っていたスキル……でしたか?」

 

「はい、一誠くんはそのスキルを約一京持つと自称している安心院さんの指導と性質でその力を無限に強めていました。

ですが一つだけ、安心院さん自身が教えて後悔したものがあります」

 

「後悔? まさか今の一誠くんの変化が……?」

 

「は、はい……爆発的な怒りと殺意が引き金となる事で出てきてしまう一誠くんの力。それが――」

 

 

 

「げげげ……やぁっと出てこられたなぁ……げげげげげ!!!」

 

 

「獅子目言彦という、一誠くんとは違うもう一つの人格……!」

 

 

 見たくなかった姿を前に顔を歪めた朱乃は、まだ知らぬ一誠の一面を皆に教えた。

 そう、一誠の強みであり最悪の弱点こそが……。

 

 

「今代の依り代はオリジナルの儂以上にしっくり来る………げげげげ――新しィィィィッ!!

 

 

 呼び寄せてしまった破壊の権化の人格であった。

 

 

「ぬぅ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「くっ!?」

 

「な、さ、叫んだだけでこの威圧……!?」

 

 

 歪んだ笑みと共に叫んだ一誠……いや、一誠と入れ替わる形で表へと現れし獅子目言彦なる人格の声が、衝撃波の如く校庭……いや、学園全体を震わせる。

 その余りの衝撃に、上空から見下ろしていたコカビエルが両の腕でガードするまでの威力であり、近くに居た朱乃達は吹き飛ばされてしまう。

 

 

「チッ、何なんですかあのクソ悪魔は!?」

 

「バルパー! 聖剣はまだか!」

 

「今完成した!」

 

 

「げげげげ……素晴らしい肉体だ。

儂の思う通りに動く……げげげ……!」

 

 

 一誠(?)が自分の身体を撫でながら、ニヤニヤしているのを見て、コカビエルが聖剣を一つに纏める儀式をしていたバルパーに向かってまだかと叫ぶと、事の事態が急変したのを察して焦ったバルパーが、一つに纏めた……それも回収した七本全てを纏めた本来のエクスカリバーをコカビエルに向かって投げて寄越す。

 

 しかしコカビエルはその聖剣をそのままフリードに向かって投げて寄越すと、受け取ったフリードに命じた。

 

 

「フリード! その意味のわからん小僧は転生悪魔だ! その再び一つへと戻った聖剣の力で斬り殺せ!!」

 

「!? なるほどぉ? いくら意味のわかんねー変身しても、クソ悪魔はクソ悪魔ですからねぇ? わっかりましたー! 首チョンパにして差し上げましょー!!」

 

 

 ちょっと一誠に対して怖じ気づいたフリードだが、七本全てを一体化させた聖剣を手にした瞬間、最早負けるわけが無いという自信をその胸に、自分の身体を触ってて余所見をしている一誠に向かって間髪入れずに斬りかかる。

 

 

「ばいなら、クソ悪魔ァァァッ!!」

 

「げげげ、げげげげげげげげ!!!」

 

 

 威力、タイミング、速度、全てが聖剣の力により強化したフリードを後押しするかの如く、一誠の肉体を頭から真っ二つにせんと降り下ろされる。

 

 

「っ!? い、一誠!!」

 

「な、なんで余所見を……! くっ、間に合わない……!」

 

「いえ、私のスキルならギリギリ……!」

 

 

 吹き飛ばされたリアス達が焦る中、椿姫がスキルを併用して援護しようと刀を構えた。

 しかしそれを止めたのは朱乃だった。

 

 

「…………大丈夫よ真羅さん」

 

「「「は?」」」

 

 

 何が大丈夫なものか。そう思った椿姫が反論しようとしたが……。

 

 

「は?」

 

 

 間に合わず、降り下ろされた聖剣により一誠が真っ二つにされた……そう思っていたフリードは、その手応えの無さに思わず変な声が出た。

 そして、ふと自分の手元を見てみた……。

 

 

「は? は?? はぁ????」

 

「な、なに……!?」

 

「そ、そんな……馬鹿な!?」

 

 

 降り下ろされた聖剣の刃が一誠の頭を切り裂こうとした……までは良かった。

 だがそこであり得ない事態が起こった。

 

 なんと、降り下ろされた聖剣の刃が、根本から丸ごと……。

 

 

「んん~? 何だかさっきから儂の周りを蚊がやかましいな……」

 

 

 へし折れ、そのまま刃が回転しながら少し離れた箇所に刺さって落ちたのだ。

 これには見ていた全ての人物の思考が停止してしまった。

 

 

「う、嘘だろ? 聖剣様よ? 無敵の聖剣様なのになんで折れてんだよ?? 意味わかんねーよォォ!?」

 

 

 降り下ろした本人であるフリードがいち早く叫ぶが、現実の聖剣は何もせず突っ立っていただけの一誠の強度に負けてへし折られたというのは変わらない。

 

 そして……

 

 

「がぁっ!?」

 

「うむ、力もオリジナル以上。げげげ、もっと試したいが、相手が蚊ではこんなものか」

 

 

 フリードは一誠の放った凸ピンだけで右肩を文字通り千切られるが如く破壊され、そのまま校庭の端までゴムまりの様に何度も地面を跳ねながら吹き飛ばされるのだった。

 

 

「んっん~! 老人一匹に烏一匹だけかぁ? いや、烏というよりはやはり……蚊だなァ?」

 

「っ!? 俺を愚弄するか小僧!!」

 

「正当な判断というものを知らんのか? げげ、イッセーの中から貴様の話は聞いていたが、蚊のやる事はやはりつまらんなァ?」

 

 

 そして遂に一誠……いや、入れ替わった獅子目言彦の目がコカビエルへと向けられ、これでもかという程に口を歪めて嗤う。

 

 

「とんだ掘り出し物を発掘できた様だが、俺を嘗めるなよ化け物が!!」

 

「げげげげげ!! 風体なら今の儂の方がハンサムだが?」

 

 

 処刑じみた何かが始まる事になる……。




補足

うっかり教えてみた安心院さんのミス。

教えられたまま、一誠の中で作り上げられてしまった獅子目言彦本人の人格という、バーサーカーモード。

この状態だと一誠の人格と入れ替わるので、止めるすらかなり手間取る。


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言彦イッセー

最高の依り代と予想外の復活。

しかし、一応『制約』はある。


今回は無駄に長いです





 やっとお目に掛かれた聖剣。

 妨害もあったけど、それでもやっと手にした聖剣。

 邪魔はあったけど、それでも再び七本全てを一体化させた時の輝きは、伝説と呼ばれるに相応しい力を放っていた。

 

 

「あ、あぁ……!」

 

 

 それがどうだ。七本全てを一体化させ、今まさにその力を悪魔のガキ共に見せつけてやれると思っていたというのに……。

 

 

「や、刃まで粉々に……! そんな馬鹿な!?」

 

 

 転生悪魔のガキ一人に……しかも何もせず只突っ立っていただけのガキに破壊された。

 

 

 何を言ってるのか自分でもよくわからないし、何も知らない他人に話せば信じられる話じゃないのかもしれない。

 しかし、現実は突然おぞましい変化を見せたただのガキ一人に聖剣は破壊された。

 

 しかも以前の様に折られたのでは無く……二度と修復すら叶わぬ……完全な破壊という形で。

 

 

「ふむ……この内から無限に沸き上がる力。

なるほどなるほど、げげげ……イッセーはやはり使い方を知らぬ様だ」

 

 

 そしてその化け物は……。

 

 

「どこまで俺を愚弄するつもりだ!! ちゃんと戦え!!」

 

 

 今、主犯の堕天使であるコカビエル相手にニヤニヤしながら対峙している。

 聖剣の事なぞ、欠片も考える事も無く。

 

 

「戦え? 儂は何時でも真面目が取り柄の存在なのに遊んでいるだなどとは失礼な蚊よ。

まぁ、よかろう……」

 

 

 一人称どころか外見まで変化した一誠とコカビエルの一対一の戦い。

 七本全てが一体化した聖剣を何もせず破壊したという光景を見たコカビエルが、危険を感じてほぼ一方的に戦えと叫んでいる様にしか見えないが、そんなコカビエルに一誠はやれやれと首を横に振りながらも漸く応じる姿勢を見せた。

 

 

「やはり先程のガキとは様子が違う……! 何者だ貴様は?」

 

 

 そんな一誠の外見と中身の明らかな違いに、コカビエルは重苦しい殺気を放ちながら問い掛ける。

 急に小僧の殺意が膨れ上がったかと思えば、鬼の様な角は生やすわ、一人称どころかしゃべり方まで変わるわで、色々と意味が分からない事になってる訳で……。

 

 コカビエルとしては単なる転生悪魔のガキが七本を束ねた聖剣を何もせずただへし折ったその力を警戒し、そして早い所殺すのがベストと判断している。

 

 しかし一誠は……いや一誠の肉体の主導権を得た獅子目言彦は、翼を広げて空を飛ぶコカビエルに視線を向けながら、ニヤニヤ嗤ってるだけで答えようともしない。

 

 いやそれどころか……。

 

 

「遊ばずに早く終わらせる。

そして終わらせる為にはやはり武器が必要。そこで――」

 

 

 羽織る長ランの懐のポケットを探り始めた言彦イッセー。

 ゴソゴソと何をしてるんだと、コカビエルもソーナ達も目を凝らすが、朱乃だけはその中で辛そうな眼差しを向けていた。

 

 

「げっげっげっ、イッセーも中々良い武器を携帯している」

 

「………」

 

 

 そんな中をマイペースに言彦イッセーはニヤニヤしたまま懐から一本のペンを取り出した。

 そう、ペン……字を書くのに必要なあのペン。

 正確には芯を入れることで長く愛用できるシャーペンなのだが、今はそんな事を説明しても無意味だろう。

 

 

「シャッキーン、聖剣なんぞ過去の異物より時代は未来だ。

ということで完成、持ってて良かった『シャーペン・ブレード』。

げげげげ、さぁ堕天使よ……どこからでも掛かってくるが良い」

 

 

 言彦イッセーは、そこら辺に売ってるシャーペンの先をコカビエルへ向け、まるで武器として使うと宣ったのだから。

 

 

「な、何をしてるの一誠は?」

 

「あれはシャーペンですね……しかもかなり安物の」

 

「あの朱乃? あれはどういった趣向なの?」

 

「…………」

 

 

 当たり前な話だが、そんな言彦イッセーの狂ってるとしか言い様の無い行動にソーナ、椿姫、リアスは一誠自身の無事も去ることながら、困惑も併用していた。

 しかし、朱乃だけはそんな言彦イッセーを睨むように鋭い視線を向けている。

 

 

「ガキが……!

俺をどこまでバカにするつもりだ……!?」

 

 

 勿論シャーペンの先を向けられて嗤われてるコカビエルにしてみれば、完全におちょくられているとしか思えない訳で……。

 怒りに顔を徐々に歪ませながら、更に殺意を剥き出しにして言彦イッセーに向かってそう言うのも正直仕方ないのかもしれない。

 

 しかし言彦イッセーは……。

 

 

「寧ろ武器を取る時点で油断してるつもりは無いのだがな。

それとも何だ、お前は儂の主人格であるイッセーが慕うバラキエルより強いとでも? 儂にはそうは見えんが?」

 

「っ……貴様ァ!」

 

 

 ふん、と嗤っていたその表情をつまらそうにしながら、バラキエルよりも劣ってるとコカビエルを逆に煽り返した。

 その瞬間、失望していた相手よりも劣ると断ぜられた事にコカビエルは切れた。

 

 

「ガキが、だったらそのまま死ねぃ!!!」

 

 

 最早何者かなんてどうでも良い。

 そこまでバカにするなら目にものみせてやる。

 仲間もろとも、いやこの地もろとも……塵一つ残さずに消してやる。

 

 極悪なまでに自身の中からひねり出した力を、月を背に空高く舞い上がったコカビエルは、解放するかの様に両手を大きく広げた。

 

 

「っ!?」

 

「ま、まずい!?」

 

「な、何て魔力……!」

 

「…………」

 

 

 その瞬間、コカビエルの周囲に数十、いや数百……否、数千にも近づく無数の光の槍が出現し、その切っ先が全て駒王学園全体へと向けられた。

 その光の槍は一つだけでも学園を吹き飛ばすに充分な力が込められている。

 

 そんなものが数千も降り注いだら学園がいや町全体が消滅するのは避けられない。

 

 

「わ、私たちだけで防げるか……!」

 

「やらないよりはマシよ!」

 

 

 直ぐ様ソーナとリアスは直ぐに互いに協力し、被害の余波を防ごうと学園全体に持てる力を全てひねり出した巨大な結界を展開させようと動き、椿姫は一つでもコカビエルの作り出した光の力を切り落とそうと刀を構えた。

 

 

「……。一誠くん……」

 

 

 ただ一人、そんな事は無いとばかりにイッセーを見つめる朱乃以外は……。

 

 

「後悔してから死ね!!」

 

「っ!? 待てコカビエル! ま、まだ私が……!」

 

 

 そしてコカビエルは、怒りに任せて作り上げた千にも届きうる無数の光の槍をイッセー……いや駒王学園全体に向かって撃ち放った。

 バルパーという老人が焦りながらコカビエルに懇願するが、もはやコカビエルは聞く耳すら持ってない。

 

 

「げっげっげっ……!」

 

 

 リアスとソーナが結界を、椿姫がイッセーの元へと飛び出す中、それでもただその場に突っ立っていたイッセーは、浴びるだけで消滅しかねない光を浴びながら、それでも嗤っていた。

 

 

 単に気が狂ってしまったから……? ノン。

 

 諦めたから……? 更々ノン。

 

 

 全て違う。言彦イッセーにとってすれば、数千ただろうが数万だろうが数京だろうが、同じこと……。

 

 

「どーん」

 

「………!?!?」

 

 

 皆同じ……蚊なのだ。

 持っていたシャーペンをただ真横に振るうだけで、その証明となる。

 

 

「!?」

 

 

 降り注いだ大量の光の槍。

 しかしその力は自分達に届く前に一つ残らず消滅してし、上空に居たコカビエルは目を見開きながら声すら出せないまま地へと堕ちる。

 

 

「なっ……!?」

 

 

 イッセーを援護しようと飛び出した椿姫も、障壁を張ったリアスとソーナもただ驚愕するしか出来ない。

 

 

「が、がはぁ!?」

 

「ほほう、思いの外生命力だけはあるみたいだな……今の一撃で死なんとは新しい……」

 

 

 死を覚悟させる強大な力は一つ残らず消え失せ、残ったのは腰を真ん中に上半身と下半身を真っ二つにされた状態でイッセーの足元に落ちてきたコカビエルという……あまりにもあんまりな結果だけなのだから。

 

 

「き、さま……な、にを……ごふっ!?」

 

 

 一瞬だ。たった一瞬。

 瞬きすら許されない程のほんの一瞬の内に、街まるごと消滅させてやらんと撃ち放った力ごと、自分は上半身と下半身を真っ二つにされた。

 痛みも、苦しみも無く……ただ何かが自分を通りすぎたかの様に……。

 

 

「シャーペンとは便利なものよ。何せ芯を通せば何度でも再利用出来るし、削る必要もない。

こんな便利な筆なら斬れぬ物など無い……そうは思わんか?」

 

 

 げっげっげっ、と口から血の塊を吐き出しながら、上半身だけの姿となって地面に横たわるコカビエルに言彦イッセーは嗤って簡単な事よと話した。

 

 シャーペンこそ、聖剣すら越える最強の刀剣だと……大真面目に。

 

 

「……ば、ばけもの……が……」

 

 

 その言葉だけで最早コカビエルの心はへし折れた。

 二十年も生きちゃいない子供一人に伝説とまで吟われた聖剣を……そして自分を、そこら辺に売ってる文房具一つで破壊させられた。

 

 

「その言葉が似合う輩は、儂以上にこの世界には多い気がするのだがな」

 

「…………」

 

 

 最早コカビエルの命も風前の灯火であり、ゲラゲラと嗤いながら自分を見下す、化け物を前に……コカビエルの命は完全に尽きたのだった。

 

 

 

 ふむ、蚊は完全に絶命し、ついでにコソコソとしていた老人も蚊の攻撃の巻き添えで死んだ様だ……直ぐそこで絶望の表情を浮かべて息絶えておるわ。

 

 まあそんな事はどうでも良い。所詮この蚊共は儂が復活した際の余興に過ぎぬからな。

 

 

「さて……折角イッセーから肉体の主導権を奪えたのだ。後はイッセー自身の意識を封じればこの肉体は正真正銘儂のモノへと変わる訳だが……」

 

 

 問題はまず此処からだ。

 折角イッセーの殺意と憎しみが肥大化することで奪えた主導権だ。

 このままにして置くには再びイッセーに主導権を奪い返されては元も子も無い。

 閉じ込めたイッセーの精神を完全に消滅させれば、めでたくこの肉体は儂……獅子目言彦のモノへと変わるのだが、癪な話イッセーの意識を完全に消滅させる訳にはいかぬ。

 

 何故なら儂はイッセーであり、イッセーは儂なのだ。

 どちらかが消滅すれば己も消滅する。つまり一蓮托生。

 半袖の時の失態で一度は完全に消滅した儂がこうして存在出来るのも、イッセーという創造主が居るからに他ならぬのだから。

 

 

「「「「………」」」」

 

「ほう、儂を見て逃げ惑わんのか?」

 

 

 忌々しい話だが、イッセーが死ねば儂もまた消滅する。

 故にイッセーを死なせる訳にはいかん……。

 これまではイッセー自身の現実を否定して逃げるという力により死すら欺けていたが、この……悪魔という蚊の集まりの一人になってしまった今、その力を使うには一定の周期が必要。

 だからこそ、堕天使の蚊に弱体化したまま挑もうと無謀な真似をしたイッセーに代わって儂が出張った訳だが、どうやらイッセーの仲間とやらであるこの小娘共はそれが気にくわないらしい。

 

 

「一誠……では無いんですね?」

 

 

 眼鏡を掛けた……確か悪魔とやらになったイッセーの主という形にはなってる小娘が警戒した面持ちで儂に問い掛ける。

 

 

「流石に見ただけで解るか」

 

「………。姫島さんの説明でね」

 

 

 姫島……? ……なるほどなァ。

 

 

「ほう、姫島……姫島朱乃。イッセーが最も大事にしている小娘。

そういえばお前自身とはその昔、儂という意識が完全に形成された際に言葉を交わした事があったな」

 

「言彦……一誠くんをどうしたの……?」

 

 

 ふん、儂はイッセーとは違って助平では無いが、近くで見ると中々の女にはなったみたいだ。

 師を自称するあの女よりは好みとも云えよう。

 

 

「イッセーなら今儂と意識の主導権を交代し、眠っているが……気になるか? 当然気になるよなァ?」

 

「っ!?」

 

 

 儂の言葉に姫島朱乃の目付きが鋭くなる。

 

 

「一誠くんに身体を返して……!」

 

「返す? おいおい、勘違いするなよ朱乃よ。

儂は確かに獅子目言彦だが、反対に貴様の愛する兵藤一誠なのだぞ? 返すも何も無いだろう?」

 

「違う! アナタは一誠くんじゃない!!!」

 

 

 バチバチと静電気を身体から発しながら激昂する姫島朱乃。

 儂はイッセーとは違う、ね……。

 

 

「なら儂を消滅させてみるか? 良いぞ、今から儂は無抵抗になってやるから存分に殺してみろ。

ただし、もし儂が死んだら儂だけでは無くイッセーの自我も滅ぶ事を警告しておく」

 

「!?」

 

 

 無抵抗を示しながら、イッセーと儂の繋がりの深さを教えると、姫島朱乃の身体から迸る静電気が止まる。

 

 

「くっ……!」

 

「……。どうやら嘘では無いみたいですね」

 

 

 悔しそうに儂を睨む姫島朱乃を横目に、確か真羅椿姫だったかが刀剣の柄に手を添えながら警戒した声を出している。

 

 

「儂にとって忌々しい事だが、以前の時とは違って伝承で生き永らえてきた訳では無く、イッセーが自身の意識の一部を苗床に儂を無意識に創造したのでな。

イッセーの意識が消滅すれば儂も消滅するのさ」

 

「じゃあ都合よくアナタの意識だけを消す事も叶わない、と?」

 

「げげげ、貴様等はよほどイッセーを気に入ってるみたいだが、残念ながらそうなるな。

安心院なじみですら儂の意識だけを消滅させる事は出来なかったのだ。まあ、あの女ごときに儂をどうこうできとは初めから思っても無いが」

 

「あ、安心院さんですら何もできない……って……」

 

 

 儂が口にした安心院の名前に、赤髪の小娘が驚いた様に目を――む、こうして直接見ると中々いい身体を――――――ぬぅ!? イッセーの精神を苗床にしているせいで儂にも妙な影響が……!

 

 

「そういう事だ。現に安心院は今まで儂をほったらかしにしていたのが何よりの証拠よ。

げげげ、皮肉な事にあの女からの教えによりイッセーが儂を無意識に創造したのだから、奴にとっては悔しいことこの上無いだろうなァ?」

 

 

 赤髪の小娘を見て変な主観が入ったが、とにかくこの小娘には儂を消滅させる事なぞ不可能だと教えてやる。

 というか、今頃安心院も儂が出てきた事を感じ取ってさぞ焦ってる事だろうよ。

 

 

「なら一誠くんに意識を返してあげることはしないんですか?」

 

「げっげっげっ、折角こうして主導権を得たのに何故返す?」

 

 

 とはいえ、この小娘共はイッセー自身の意識を求めている様で、儂には引っ込んでいろという事らしい。

 まったく、儂はどこでも嫌われものよ。

 

 

「ショックを与えれば元に戻るかもしれない」

 

「ほう? 儂とやるのか?」

 

「そうしなければ一誠くんに戻らないのであれば、獅子目言彦だか何だか知らないけど、ひっぱたいて一誠くんをたたき起こす……!」

 

 

 鞘から刀剣を引き抜いた小娘が、切っ先を儂に向けながらそう強く宣言すると、他の小娘共も構え――む?

 

 

「僕も手伝うよ」

 

 

 全員が構えたその瞬間、小娘共に加勢するという声と共に、懐かしい顔が音もなく儂の前に現れた。

 

 

「やぁ言彦、一誠の意識をよくも奪ってくれたね。

今回はちょっとこの僕もイラっとしてるぜ?」

 

「あ、安心院さん……!?」

 

「母は……?」

 

「大丈夫。コカビエル君が殺られた今、朱璃ちゃんを狙う奴なんて居ないさ。

それより今は、イッセーから主導権を奪ったこの馬鹿をどうにかしないといけないだろ?」

 

 

 無駄に長い髪は相変わらずの安心院なじみ。

 げっげっげっ……!

 

 

「まだイッセーが幼子の頃以来か安心院なじみぃ? 相変わらず顔も姿も変わらん魔女みたいな女よ」

 

「それはお互い様だろ? 不知火さんとめだかちゃんと人吉くんの尽力でくたばったのに、イッセーの意識の中でまた生まれやがって。

あの時お前の話を一誠にしなけりゃ良かったと、心の底から後悔してるぜ」

 

 

 そう不敵に嗤う安心院なじみだが、内心動揺しているのが儂にはわかる。

 

 

「げげげ、不知火の里での時ですら儂に殺されたのに、今ここでオリジナルをも凌駕する一誠の肉体を依り代にする儂を止められるとでも? げげげげ!!」

 

 

 この女は儂に少なくとも1億回は負けている。

 儂があの時消滅したのも、黒神めだかと半袖の中に宿っていた予想外の感情が原因であってこの女はあくまで切っ掛けのひとつに過ぎん。

 

 

「どうかな、お前はあの時何も無いのに戦える僕を思い出してかなり狼狽えていた様だが?」

 

「……」

 

 

 だが安心院なじみは取って付けた様に儂を挑発してきた。

 

 

「なるほど、だから前の時の様にはいかんと? げげげ―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いだろう……やってみろ」

 

 

 

 よかろう、だったら思い出させてやる。

 あの時敗北したのは認めてやる……だがな。

 

 

「儂がイッセーと同じ進化を遂げて居ないと思ったら大間違いだぞ? げげげげー!!!」

 

 

 それはもう、昔の事だよ。

 

 

 

 

 

「儂がイッセーと同じく進化を遂げて居ないと思ったら大間違いだぞ? げげげげー!!!」

 

 

 獅子目言彦としての人格がメインとなった一誠が、高らかに嗤うと同時にその荒れ狂う暴力的な殺意を剥き出しにする。

 その威圧感はコカビエルの時等とは比べ物にすらならない程の、世紀末のモヒカン共を思わせる傍若無人なものであり、真正面から受けた朱乃、椿姫、リアス、ソーナはその一瞬のみで力の差を悟った。

 

 

「チッ、一誠の特性を学習してたのは予測してたが、確かに前よりやべーな」

 

 

 それは安心院なじみですら、京を越えて一誠により無意識に与えられた可能性による進化を以てしてもヤバイと悟らせるものであった。

 

 

「な、何よ……これ……あ、悪魔だとか堕天使だとかの次元じゃない……!」

 

「こ、こんな力が……うぅ、私ってやっぱり一誠の主なんて器じゃなかったのね……」

 

「弱気にならないでください会長! これからその器に足りれば良いのです!」

 

「こればかりは真羅さんに同意ですわ。

だから、絶対に一誠くんを取り戻すんです!」

 

 

「……なに?」

 

 

 だが誰一人として言彦の威圧に屈する事無く、逆にこれ程の差を悟らせても尚、一誠の人格に戻すと意気込む4人の小娘に言彦の眉が僅かに潜む。

 

 

「どういう事だ? 朱乃や真羅椿姫はともかく、あの純粋悪魔の小娘が一誠にそこまでする義理なぞまだ無かった筈だが……」

 

「それがわからないから、お前はその程度なんだよ。

オリジナルのお前なら分かってた筈なのに、皮肉なもんだ」

 

 

 解せない表情の言彦に、スキルを総動員させた状態で指先を言彦に向けたなじみが、一誠との違いを指摘しながら重火器系統のスキル約1000万程を叩きつける。

 

 

「ふん!」

 

 

 だが流石はなじみに1億回土を付けた英雄。

 常人どころか神ですら致命傷は避けられない膨大な数のスキルの連打を前に、それがどうしたとばかりに蚊を払うかの如く軽く手を振るだけで、全てを無に帰す。

 

 

「同じパターンとは芸が無いな安心院ゥ!」

 

「っ!?」

 

 

 鉱物を連想させる鋭い拳が、破壊したスキルの残骸を縫って肉薄し、なじみの顔面目掛けて容赦無く振るわれる……。

 しかし……。

 

 

「と、思うのかい?」

 

「ぬう!?」

 

 

 その拳はなじみの目と鼻の先でピタリと停止し、言彦が若干驚いた声を発した。

 

 

「これは、いつぞやの電気マッサージ……!?」

 

 

 全身を流れる痺れ。それが言彦イッセーの動きを一瞬のみだが停止させた原因であり、なじみは直ぐ様後ろへと飛び退きながら刀剣系のスキル1500万発程叩きつける。

 

 

「ぬぅ……」

 

「ぜ、全然効いてない……!?」

 

「あ、朱乃の全力の雷撃も、安心院さんのスキルも……!?」

 

 

 しかしそれでも言彦イッセーの身にはカスリ傷すら付いておらず、寧ろ首をゴキゴキ鳴らしながら余裕の表情だ。

 

 

「ふん、そういえば朱乃は電撃が得意だったな。

何時もイッセーの仕置きに使うもんだから、慣れすぎて忘れていた程だ。良いマッサージを感謝するぞ?」

 

「一誠くんじゃないアナタに気安く名前なんて……!」

 

「落ち着けよ朱乃ちゃん。忌々しいかもしれないが、今は一誠の意識を引きずり出すことが先決だ」

 

 

 名前呼びに怒る朱乃の肩に触れて落ち着かせるなじみ。

 それと同時に椿姫が刀を抜き、言彦に向かって斬りかかる。

 

 

「やぁぁっ!!」

 

「ぬ!?」

 

 

 本来なら言彦にすれば避けるまでも無い残撃なのだが、椿姫の持つ『過程をキャンセルして結果だけを残す』というスキルにより斬ったという結果が言彦の肩を僅かに斬った。

 

 

「くっ、全力でもこの程度……!」

 

「少しチクりとしたが、手品の種は既にイッセーの中から見ていた!」

 

「うっ!?」

 

「椿姫が! リアス!」

 

「わかってるわ!!」

 

 

 よろめく事すら無く、逆に嗤いながら椿姫へと手を伸ばそうとする言彦に向かって、すかさずリアスとソーナが滅びと水流の魔力を全力で叩きつける。

 

 皮肉か、火事場のバカ力とでも云うべきか、この時二人から捻り出された魔力は最上級――いや魔王クラスにまで高まっていたりするのだが……。

 

 

「悪魔の力を直接受けるのは初めてだ、げげげ! 新しいィ!」

 

「う、うそ……?」

 

「ぜ、全然効いてない……」

 

 

 相手が相手故に、無意味な結果だった。

 滅びの魔力だろうが、水流の魔力だろうが滅ぼす事も傷付ける事も叶わない言彦の強靭な防御力は、既に進化という概念すら超越していた。

 

 しかし二人の魔力をわざわざ真正面から受けたがる事で椿姫に対しての意識だけは逸らせる事が出来たのはまごう事なき二人のファインプレーだ。

 

 

 

「た、助かりました会長、リアス様」

 

「え、ええ……」

 

「全然役に立ってない気がしますけど……あははは」

 

 

 礼を言う椿姫に対し、二人は自身喪失気味に笑うしか出来ず、あの暴力的な規格外の意識を本当に退けられるのかとすら思い始める。

 自分達にスキルが無いのも自身喪失の一端だったりもするのだが、椿姫も朱乃もなじみも全然諦めてる様子が無い今、自分達だけ折れる訳にはいかない。

 

 

「やるだけやってやるわよ……」

 

「ええ、最悪無理心中よ……!」

 

 

 例え場違いを感じるほどの力を前にしても、恩人であるスケベな少年の為に……悪魔の二人は覚悟を決める。

 

 

「げげげ、ではそろそろ儂からも行かせて貰おうか……!」

 

 

 だがそんな覚悟を前に、無駄な事だと云わんばかりに極悪な圧力をむき出しにする言彦が、遂に自分から攻撃に転ずると宣言すると、足場に偶々落ちていた小枝……それも枯れて中身がスカスカの直ぐにでも朽ちそうな枝を拾い、コカビエルの時を思わせる構えを取り始める。

 

 

「貴様等らしくネームを付けるとするなら、魔剣・小枝ソードとでも名付けるか?」

 

「相変わらずムカつくな言彦。だから僕はお前が嫌いなんだよ」

 

「一誠くんの身体で……!」

 

 

 それはある意味死刑宣告に近いものがあった。

 ありふれた物を武器とする事が出来る獅子目言彦の真骨頂の一つ。

 どんなものでも殺人級の威力を放てる異常さ。

 

 枯れ枝でしかないものですら、5人の少女――いや、一人はアレかもしれかないが、とにかく5人を真っ二つにするには充分すぎる得物。

 

 

「今から僕が盾になるから朱乃ちゃん達は一誠の意識を少しでも起こしてくれ」

 

「ど、どうやってそんな事……!」

 

 

 故になじみは覚悟を決め、囮になる事を4人に伝え、その隙に言彦に主導権を奪われた一誠の意識を一瞬でも良いから叩き起こせと頼む。

 

 だがそんな方法を知るわけも無い4人は当然なじみに聞き返す訳だが、なじみはフッとそんな4人に笑み浮かべてこう言った。

 

 

「悔しい事に僕じゃあ一誠を起こせない。けど君達なら――特に朱乃ちゃんならそれが出来る。

ちょっと悔しいから言いたくは無かったが、一誠にとって一番大事なのは朱乃ちゃんだからな」

 

「! 私が……?」

 

「ったく、それなのにキミはちょっと他の女の子に鼻を伸ばすだけで騒ぐもんだから、ちょっと嫌いなんだぜ実は?」

 

「…………」

 

 

 叩き起こせる可能性は自分より4人……特に朱乃にあると。

 散々自分から一誠を取って楽しくしていたなじみにそう告げられた朱乃は、自分でもわかる位に困惑の表情を浮かべたが、やがては真剣な表情へと変わり……小さく頷く。

 

 

「………。盾になるくらいなら全員で突撃しましょう」

 

「は?」

 

 

 そして、なじみに盾になるのはやめろ……なんて言い出した。

 これにはなじみもきょとんとしてしまう。

 

 

「アナタが盾になったお陰で一誠くんが起きても、それを知ったらアナタにばっかり構いそうなのが嫌なんですよ」

 

「…………」

 

 

 不敵に笑う朱乃が、冗談混じりにそう口にする。

 

 

「げげげ、コソコソするのを見逃すサービスはこれまでだ!!!」

 

 

 それを受けて何かを言おうと口を開き掛けたなじみだが、空気を読まずに襲い掛かってきた言彦のせいで中断させられてしまい、五人は慌てて散らばる様にその場から跳ぶ。

 

 

「まずは安心院、貴様からだ!!」

 

 

 それを目にした言彦は、これでもかと嗤い……なじみへとターゲットを絞り、地を抉る勢いを付けた跳躍で肉薄する。

 

 

「させないっ!!」

 

 

 しかしそうはさせるかとリアスが火事場状態で限界以上に捻り出した滅びの魔力を言彦めがけてぶつける。

 

 

「げげげ! もうそれは慣れ――ぐぅ!?」

 

 

 しかし効かない。全く効いてない。

 だがリアスとてそんなことは百も承知であり、強者が故の意識の散漫さを突いてなじみから意識を逸らせる事が出来ただけでも大いに意味のあるものだった。

 

 

「斬る!」

 

 

 その隙を突き、椿姫が渾身の一撃を言彦の身体に叩き込む。

 斬ったという結果が残るという力は、いくら言彦でも抗えず、肩から血を流すが……。

 

 

「げげげげ!!! こそばゆいぞ!!」

 

「くっ!」

 

 

 黒く濁る瞳をカッと見開きながら、カスリ傷だと云わんばかりに大きく咆哮する。

 

 

「「はぁっ!!!」」

 

「ぐぉっ!?」

 

 

 だがそれで良い。

 規格外に今さらまともなダメージを与えられるだなどと椿姫も思っていない。

 ソーナと朱乃がそれぞれの特性を合体させて効力を底上げさせた雷撃を言彦に直撃させられればそれで良いのだから。

 

 

「ぐぬ、存外粘るな蚊なりに!」

 

 

 水の上に雷撃を直撃させられた言彦もこれには少しばかり身体をよろめかせる。

 しかしそれでも致命傷にはほど遠く、寧ろ粘る小娘達相手に楽しむという余裕すらあった。

 

 

 所で、先程から言彦が何故これほどまでにまともに攻撃を食らっているのか。

 彼という存在を知る者がもしも見ていたら、おかしいと首を傾げるだろう。

 

 避けるまでも無いと言われたら確かにそれまでだが、それにしても格下の小娘相手にいくらなんでも時間が掛かり過ぎに加えて、まだ一人も絶命させてすらいないという事を考察するに、獅子目言彦にしてはやけに時間が掛かっているという違和感は確かにあった。

 

 が、その答えは意外にも簡単な話だった。

 

 

(チッ、イッセーの奴め……もう起きたか……!)

 

 

 そう、その答えは主導権を奪われ精神の奥底に押し込められた一誠の人格が徐々にまた言彦から主導権を奪い返さんと暴れていたのだ。

 

 

「どうした言彦? お前らしくないな、僕達相手にまだ誰も倒せないなん―――っ!?」

 

 

 なじみの爆殺系スキル350をその身に直撃しても尚、ニヤニヤと嗤いながらそれだけで死ぬだろう鋭い蹴りを彼女の脇腹にめり込ませる。

 

 

「今、何か言ったかぁ? げっげっげっ!!」

 

「ぐっ!?」

 

「あ、安心院さん!」

 

 

 乱回転しながら校庭の隅っこまで人形の様に吹っ飛ぶなじみにニヤニヤとわざとらしく煽り返す言彦。

 しかし内心はかなり『焦っていた』。

 

 

(チッ、儂の力がイッセーに塗り替えられ始めてる。

痛いと感じるなぞ何千年振りだ……!)

 

 

 そう、イッセーと己の精神の主導権の取り合いが、一時は完全に自分が優位に奪っていたものが徐々に削り取られ、今の時点で既に半分近く一誠が主権を奪い返していた。

 

 故に言彦は何千年振りかに感じる明確な痛みを先程肩に受けた刀傷やらから強制的に感じさせられており、言彦主体の容姿であったその角や瞳も右から半分は一誠本来の容姿へと戻っている。

 

 

「ごほっごほっ!

ぼ、僕を殺せなかったな言彦? ふふ、既に顔の半分は一誠のものに戻ってるぜ?」

 

「!? た、確かに変な角も怖い目も顔の半分からは無くなって何時もの一誠くんのものになってる……」

 

「………」

 

 

 この時点でもはや言彦は主導権を得て復活した直後の時より1000億分の1にまで弱体化しており、現に殺すつもりで蹴り飛ばしたなじみは脇腹を押さえてフラフラになりながらも死んでは居らず、不敵な笑みまで浮かべていた。

 

 

「一誠を叩き起こす為にこの子達に攻撃させた。

特に女の子をナンパしてはお仕置きで受けた朱乃ちゃんの雷撃は良い目覚まし代わりになったみたいだぜ」

 

「私の……? ちょっと複雑なのですけど……」

 

「……。その通りだ、既に八割方儂はイッセーに主導権を奪われている。押さえ込んだと思ったが、やはり儂という存在を造り上げただけはある」

 

 

 ともなればなじみとて叩き潰せなくも無いし、言彦の中で目覚めたイッセー自身の妨害で上手く身体を動かせ無いのを考えれば、ここは一旦大人しく引くしか言彦には無かった。

 

 

「良いだろう、今日のところはここまでだ」

 

 

 そう5人に冷めた顔をしながら告げた言彦は最後に……。

 

 

「だが、儂はまた機会があれば主導権を奪って出てくる。その時は完全にイッセーの意識を押し込み、儂が唯一の存在となってやろう……げげげげ!!」

 

「………」

 

 

 静かに睨む5人の少女に向かって嘲笑いながら、目を閉じ……そのままイッセーに全ての主導権を明け渡した。

 

 

「……っ、お……」

 

 

 荒れ狂う威圧が一気に霧散し、顔から半分はまだあった角も濁った黒目も元に戻った瞬間、それまで何をしても倒れなかった一誠の身体が、痛みに苦しむくぐもった声と共に前のめりに倒れる。

 

 

「一誠くん!」

 

 

 それを見てすかさず朱乃が飛び出し、ピクピクしてる一誠を抱き起こす。

 

 

「大丈夫? 一誠くんよね?」

 

「……お、おう」

 

 

 所々先の雷撃で黒焦げ。椿姫から受けた刀傷。

 言彦の時はまるで効いてない様にしか見えなかった姿も、元の一誠の状態だと不思議と効いている様に見えるのは多分気のせいでは無い……てか、現にかなり苦しそうな顔なのにヘラヘラと笑って誤魔化そうとしてる。

 

 

「待った。

一応確認するけどお前の好きな女の子のタイプと趣味を言ってごらん?」

 

「へぁ? そ、そんなのボインで色気むちむちのおんにゃのこに決まってんだろ。

趣味は今も昔もおっぱいパフパフよ……ぐぇへへ……いででで……!」

 

「……。一誠くん本人ですよ間違いなく」

 

「ええ、このスケベな笑い方は間違いないわ」

 

 

 ともあれ、性癖の確認で確実に一誠本人だと確信出来た事で漸くイレギュラーな騒動は一応の収束へと向かっていった。

 

 

「あの脳筋野郎、いきなり俺の意識ごと乗っ取りやがって……! おかげで全然カッコ付かねぇよ……ちきしょう」

 

「ま、まぁでもコカビエルとか聖剣とかの騒動も次いでに片付いたし……私はアナタのお陰だと思うから……ね?」

 

「え? じゃあご褒美にグレモリー先輩の持つその素晴らしきおっぱいでパフパフさせて―――あぁん!?」

 

「元気そうでなによりよ……ホントに……!!」

 

「あべべべべ!? じょ、冗談だっつーの!? もうビリビリはいらねーよ!?」

 

「ほら、パフパフさせてあげるわよ? ねぇ一誠くん?」

 

「そ、それは地雷だからご遠慮ねが――ぎゃん!?」

 

 お約束のオチもおまけに……。




補足

一誠が安心院さんのお伽話を元にほぼほぼ百パーセントの言彦を無意識の内に自分の意識の一部として作り上げてしまった。

故にどちらかが消滅すればどらかかも消滅する。
一蓮托生……それが復活しちゃった言彦の制約であり、復活に貢献した一誠にはある種逆らえるけど逆らえないという所がある。

ええっと、例えるなら再初期のツンしかほぼ無い九喇嘛さんとナルトの関係……か?


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薄情共との縁切り

かなり駆け足。

そして薄情。


 追加攻撃で黒焦げになった一誠。

 しかしながら、一言余計だからこその黒焦げなので、正直誰も同情はできないし、彼等にはまだやる事が残っていた。

 いや、寧ろやる事が向こうから自動的にやって来たといった方が正しいのか……。

 

 

「コカビエルを捕らえる為に来てみれば、何だこの有り様は」

 

 

 夜空に似つかわしくない程に輝く純白の鎧をその身に付けた何者かと……。

 

 

「な、何これ……?」

 

 

 家から一歩も出るなとリアスに命じられていた筈の凛、小猫、アーシアの三人が其々のタイミングで現れたのだ。

 

 

「普通に来ましたね……」

 

「え、えぇ……来ちゃってるわね」

 

 

 リアスは凛達の出現にどこか『ガッカリ』した表情を浮かべてしまう事を誰が責めようか。

 また一誠に何か余計な事を言って喧嘩になるくらいなら、家で大人しくして貰った方が精神衛生的にも良いというのに、何故終わった今来たのか。

 

 

「………」

 

 

 幸い一誠は、そんな彼女達には一瞥もくれずに上空から見下ろす暑苦しそうな謎の白鎧Xを見て、『チッ、帰ってエロ本見ようと思ったらまた横槍か』と思いっきり舌打ちをしてるだけで済んでいるが、声を出せば直ぐに喧嘩になるのでそれも何時まで持つのか分からない。

 

 

「凛、それから小猫にアーシア! 家に居ろと言った筈なのに何で来たの!?」

 

「だ、だって木場君が心配だったから……」

 

 

 だからこそ少し厳しい口調で彼女達を帰そうとするリアスなのだが……。

 

 

「祐斗先輩は――っ!?」

 

「木場さん!」

 

「な……!」

 

 

 あろうことか、そんなリアスの怒声を凛以外がガン無視しており、それどころか邪魔だとばかりにリアスの横を通り過ぎた小猫とアーシアが、傷こそある程度癒えてるものの気絶して横たわる木場祐斗を偶々その近くに居ただけのなじみを然り気無く睨みながら、かっさらう様に奪い取る。

 

 

「……。ぜ、全然聞いてない……」

 

「ちょっとこれは無いですよ……」

 

「小猫ちゃんにアーシアちゃん! 祐斗君は無事だからまずは部長に一言言うことがあるんじゃないの?」

 

 

 何時にも増して聞かない様子に朱乃もちょっと声を荒げる。

 だがしかし、朱乃の言葉も無視してるのか、小猫は何を思ったのか祐斗の近くに居たってだけのなじみに鋭い視線を向けながらこう言い出した。

 

 

「祐斗先輩に何を?」

 

「はい?」

 

 

 まさか自分に矛先を向けられるとは思って無かったのか、なじみも少しばかり目を丸くしたものの、それは一瞬の事であり、徐々にめんどくさそうな表情を浮かべる。

 

 

「僕は知らないよ。

その木場君とやらは、僕達が来た時には既に勝手にぶっ倒れてたんだ。

寧ろ治療してやったリアスちゃん達に感謝くらいしたら?」

 

 

 なじみに疑いの目を向ける二人に、なじみは軽くめんどくさそうに返す。

 一誠と常に一緒に行動しているからという理由なのだろうが、それにしたって無茶な因縁である。

 

 もっとも、今の一誠は上空から此方を見下ろす白鎧Xを見上げてるのに忙しいので相手にもしていないが。

 

 

「ぶ、部長……せ、聖剣は……?」

 

 なじみに因縁つけてると感じたリアスが慌てて咎めようと口を開きかけたその時だった。

 

 フリードにやられて気絶していた祐斗が、今頃になって意識を取り戻したのだ。

 そして周囲を見るや否や、リアスに向かって独断専行についての詫びもなく、聖剣はどうなったかについて聞き始めた。

 

 

「聖剣より前に部長に言うことがあるじゃなくて祐斗君?」

 

「そ、それは……! あ、後で謝りますけど、それよりも聖剣がどうなったか――」

 

「…………聖剣ならもうこの世に無いわよ祐斗」

 

「なっ!?」

 

「えっ……!?」

 

 

 朱乃の忠告を無視するそんな祐斗に対し、リアスは何とも言えない表情で聖剣が完全に破壊されて存在すらしていないことを告げる。

 

 

「そんな、嘘だ!」

 

 

 当然祐斗は驚愕に染まった表情を浮かべながら、ガタガタの身体を無理矢理起こしてリアスに詰め寄ろうとする。

 

 

「こ、この世からとはどういう意味ですか!? バルパー・ガリレイは!? コカビエルは!?」

 

「…………そこで死んでるのがそうよ」

 

 

 何故か凛まで驚いてる訳だが、思わずといった具合にリアスの両肩を揺さぶりながら、必死の形相をする祐斗に、リアスはコカビエルと絶望の表情で息絶えてるバルパーの亡骸が転がっている箇所を顎で差す。

 

 

「なっ……!?」

 

「うっ!?」

 

「し、死んでる……二人とも……」

 

「ひぃ!?」

 

 

 絶望に染まったまま、下半身が無いまま……と、色々とショッキングな形相で死体となっている今回の事件の主犯格二人の死に様を前に、4人の表情が大きく歪む。

 

 

「はぐれ神父も向こうの方で死んでると思うけど……」

 

「だ、誰が殺ったんですか!? あのコカビエルを、それに聖剣が完全に破壊ってどういう事ですか!?」

 

「う……うぅん……」

 

「あ、あれ……生きてる……?」

 

 

 当然そんなリアスの微妙に冷めた言い方に納得できない祐斗が大きく取り乱しながら更に問い詰める。

 それと同時に然り気無くコカビエルに一撃でのされて気絶していた教会の使い……ゼノヴィアと紫藤イリナが意識を取り戻すのだが……。

 

 

「な、何だこれは!?」

 

「こ、コカビエル……それにバルパー・ガリレイ……!? う、うそ……死んでる?」

 

 

 目の前に広がるスプラッターに、祐斗と同じくらい取り乱し、聖剣は!? 聖剣はどこにあるんだ!? と大騒ぎだ。

 

 

「ソーナ、私ちょっとめんどくさくなってきた」

 

「ちゃんと説明してあげてください。命令無視して此処に来てしまった以上は仕方ないでしょう」

 

「何だと!? おい悪魔共、お前達がコカビエルを殺したのか?」

 

「そうなの凛ちゃん?」

 

「ち、違う、私達も今来た所で……えっと、リアス部長とソーナ先輩と……一誠達が……」

 

 

 ギャーギャーと今回の解決に一役買った5人を無視して勝手に騒ぎだすその他達。

 白鎧Xもこの状況に上空からどうしたら良いのかわからずにただ黙ってる訳だが、既に言彦という超存在と対峙して慣れてしまったのか、リアス達はその圧力を蚊とも思わずスルーしながら、こうなった経緯を簡単に説明してやるのだった。

 

 

「まず、コカビエルを倒したのは一誠君よ」

 

「なっ!? 兵藤さんの弟が……!?」

 

「本当ですか部長?」

 

「アナタ達は信じたくないみたいだけど、本当よ。

それと、聖剣はその時の戦いの事故で完全にこの世から消えたわ……破壊されてね」

 

「なっ!?」

 

「は、破壊!?」

 

 

 案の定、コカビエルを殺したのは一誠で、その戦闘の際に事故で破壊されたというリアスの説明に事情を知らない全員が絶句する。

 

 ちなみに……。

 

 

「喰らえぇ! 地獄の断頭台ーーっ!!!!!!」

 

「がはぁ!?」

 

 

 朱乃のお仕置きと、言彦が勝手に身体を乗っ取って好き勝手されてボロボロの身体だというのに、コカビエルを殺したという理由で軽く売られた喧嘩を買うかの如く、白鎧Xに向かって悪魔の将軍が得意とする必殺技を何の遠慮も無しに使って半殺しにしていた。

 

 

「アルティメット・スカーバスター!!」

 

「ごはぁ!?」

 

『ヴァ、ヴァーリィィィ!?!?』

 

 

 

 

 

 

「………あの様子を見れば嘘じゃないってアナタ達でもわかるでしょう? というか、何をしてるのよ一誠君は?」

 

「何でもコカビエル君を倒したのが本当にお前なのか? って白龍皇の少年に煽られたから、言彦に乗っ取られた鬱憤晴らしにぶちのめしてるんだって」

 

「はぁ、白龍皇……って、あれは白龍皇なんですか?」

 

「うん多分ね。詳しくはそこでビクビクしてる赤龍帝さんに聞けばわかるんじゃないかな?」

 

 

 言彦のせいかあの白いのが白龍皇だと言われても、割りと平然としているリアス、ソーナ、椿姫、朱乃。

 逆に祐斗達や教会組は驚いている様だが、さっきから派手なプロレス技の餌食になっているせいか、イマイチ信用できない様子だ。

 

 

「どうなんですか凛先輩?」

「う、うん……ドライグが間違いないって……でも……」

 

「その白龍皇が単なる転生悪魔の弟君にやられてるせいで嘘くさく見えるんだけど……」

 

 

 どこまでも一誠の実力を過小評価したがる面々に、リアス達はほとほと呆れてしまう。

 そんなに自信があるなら今すぐ戦ってみれば良い、手負いの状態だろうがまずアナタ達が負けるから……と。

 

 

「が、ぎ……が……」

 

「けっ、偉そうに上から目線でほざいた割りには根性のねぇ小僧だなぁ? おら、まだ俺のターンは終了してねーよ」

 

「が……が……!」

 

「そぉら!輪廻転生落とし(グリム・リーインカーネーション)ーー!!!」

 

『ぐわぁぁっ!?!?』

 

 

 ニヤニヤしながら、白龍皇らしい少年をズタズタにしてるのを見てもまだ分からないのであれば、もう只の馬鹿としか言いようが無いのだから。

 

 

 

 

 ………。やべぇ、俺言彦の馬鹿に乗っ取られる前から明らかに強くなってる。

 

 

「か、勘弁してくれ……あ、あれ……こ、コカビエルの遺体を回収して、赤龍帝に挨拶したら帰るから……」

 

「へ、じゃあとっととやれよ負け犬が」

 

 

 満身創痍な筈なのに、全身がめっちゃ痛い筈なのに……なじみに最近読ませて貰ってるこの世界じゃ売られてないらしい漫画の登場人物が繰り出す複雑な技が再現できる。

 悪魔になって感じていた身体の重さもなる前と同じくらいに戻っている。

 

 進化の異常性が俺を引き上げたと言えばそれまでかもしれないけど、それにしてもこんな短時間で次元の違うレベルアップをした事が無かったので、正直この銀髪をこうも意図も簡単にぶちのめせてる自分に内心かなり戸惑ってる。

 

 

「や、やぁ……キミが赤龍帝さんだな? お、俺は白龍皇のヴァーリ……」

 

「あ、あの……腕が変な方向に捩れてるけど……」

 

「だ、大丈夫さ……わ、わははは……と、ともかく俺達はライバルだ……いずれ殺し合うから精々強くなってくれよ?」

 

「あ、う、うん……あの――」

 

「話は終わりですか? ならさっさと帰ってください。

凛先輩に近いんですよアナタ」

 

「それにリンさんと殺し合わせるなんてさせません」

 

「もし無理強いするなら僕達が黙ってないからな」

 

 

 相変わらず変なものに庇われてるな、あの姉貴様は。

 今回も余計な真似しかしてないし、役にも立ってねぇし、グレモリー先輩の命令まで完全に無視しやがった。

 

 まさかとは思うが、なぁなぁで許されるとか思ってるのか? だとしたらゴミ以下だぜ奴等は。

 

 

「さて、コカビエルの事はあの白龍皇らしい彼に任せるとして、アナタ達に一つ言っておく事が――」

 

「待ってください。僕はまだ聖剣について納得が出来てません」

 

「……。言ってご覧なさい?」

 

 

 傷の舐め合いが好きなのか知らん。

 けどそれを許容するにはあまりにもやり過ぎた事すらまだ自覚できてないのか、聖剣が聖剣がと喧しい役立たず共。

 俺が……というか言彦がぶっ壊した事は一応納得してるみたいだが、例の教会の使いとやら共々俺をどういう訳か責める様な視線を向けてきやがる。

 

 

「あ? 何だ役立たず共。まさか俺が聖剣をぶち壊したのがそんなに気に食わねぇのか?

まあ、そこの教会とやらの使いがそう思うのはわかるが、悪魔のテメー等が納得できないってのは理解できねーな?」

 

「っ、僕はその聖剣に復讐したかったんだ……! それなのにキミが壊したせいで……!」

 

「はぁ? おいおい、何を言ってるのコレは? 勝手にぼろ雑巾になって転がってた癖によ?」

 

「っ!? この……!」

 

「やめなさい!!」

 

 

 聖剣に復讐。物に復讐したい理由なんざ知ったこっちゃ無いが、突っ立ってただけの言彦に自爆してへし折ったあのはぐれ神父とやらを恨めよな。お門違いも甚だしいわ。

 まあ、俺の言葉にイラついて剣を持ち出した所で、グレモリー先輩に一喝されて黙っちゃった訳だけど。

 

 

「本当にいい加減に……いえ、もう良いわ、今まで黙ってあげてたけど、もう今回で決心した。

アナタ達は私の器じゃ御せないって事をね」

 

「「「「!?」」」」」

 

 

 あーぁ……あのハンチクコゾー共と同じ道を辿っちゃって。ホント、姉貴様姉貴様で散々役立たずのままだったことをとっとと自覚してりゃあ良かったものを……。

 

 

「……。アナタ達ももう自分で生き方を選べる歳になった。だからもう……私に従う必要も無いわ」

 

「な、何を言ってるんですか部長!」

 

「ま、まさか私達を……!?」

 

「ええ、眷属から外す……いえ、転生悪魔から解放するわ」

 

 

 ほーらこうなった。俺しーらね。

 

 

「あ、やべ……さっきので足に全然力入らねぇ……」

 

「無茶するからよ。ほら、私で良かったら肩貸すわ」

 

「おう、サンキュー椿姫ちゃん」

 

 

 まあ、ほぼ自業自得だし、最近の話じゃ姉貴様を中心にグレモリー先輩相手に反抗的だったらしいし、義務教育とは違って辞めるのもある意味自由だから役立たず共にしてみればある意味御の字かもな。

 

 姉貴様が勝手に絶望顔してるのが意味解らないけど。

 

 

「あー……足に力が全然入らなーい(棒)」

 

「きゃ!? ちょ、ちょっと……! こ、こんな所で……んっ!」

 

「うぇへへへ、柔らかいのぉ! ぐぅへへへへ!」

 

 

 ま、あんな役立たず共なんかほっといて、俺はご褒美でも堪能しましょう。

 いやー……椿姫ちゃんめっちゃ良い匂いするわぁ……うへへへ。

 

 

「……………………」

 

 

 後ろから凄い殺気を感じるのは気のせい気のせい。

 

 

 

 

 

 

 その日、リアスに居た下僕は朱乃を残して除籍された。

 理由は単純に『リアスの手を離れて好き勝手が多すぎた』という、リアス自身の名が傷つきかねない理由だった。

 けれどリアスはそれでも4人を解雇した。

 

 

「しょうがないな、一誠はまだ無理だから今回は僕が手を貸してあげよう」

 

 

 安心院なじみの力により、転生悪魔から元の種族へと戻されるという形で。

 当然4人はそんなありえない力に絶望したかと思われた……しかし。

 

 

「……。行きましょうリン先輩」

 

「転生悪魔じゃなくても僕達は友達でいられる」

 

「リンさんが皆大好きですから……」

 

「…………」

 

 

 凛を除いて、あまりにも残りの三人が薄情だった。

 命を救われて転生させて貰ったにも拘わらず、安心院なじみの力で駒を取られて元の種族へと戻った三人は、寧ろリアスに捨てぜりふまで吐いた……。

 

 

「そんなに兵藤先輩が良いんだったら私達だってもう良いですよ」

 

「元部長をそこまでたらしこんだんだ、キミが責任を持つべきだね」

 

「……さようなら」

 

「…………」

 

 

 

 

「……」

 

「これは俺も流石にぶっ殺したいわコイツ等。なあ、ダメなの?」

 

「ええもう良いわ。は、ははは……私ってとんだピエロよね……あはははは」

 

 

 恩というのを完全に仇で返された。

 リアスもこれには心を折られそうになり、ヘナヘナと朱乃にもたれ掛かってしまったのは仕方無いのかもしれない。

 

 

「馬鹿だねあの子達。

敢えて悪魔の力は残してあるから、今後他の勢力にはぐれとして狙われるかもしれないのに」

 

 

 だからこそなじみは敢えて保険を打っていた訳だが、遠からず彼等が不幸に見舞われるという暗示なのは云うまでも無い。

 だがともかく、ソーナと同じく女王を除いた全ての眷属を失ったリアスはこの先どうなるのか……。

 

 

「今日も朱乃の家にお邪魔して良いかしら? 誰かと居ないと堪えられないから……」

 

「……ええ、勿論」

 

 

 今のかなり傷ついたリアスにすら、それは解らなかった。

 

 

終わり。

 

 

 

 

 

 

 オマケ・洗脳イッセーくん。

 

 

 朱乃に肩を貸されながら、フラフラと学園を後にしようとするリアスの背中を椿姫とソーナに肩を貸されながら見ていた一誠。

 最初は他人事の様に思っていたのだが、学園を出て全員して朱乃の実家へと歩いてる最中、あんまりにもしょんぼりしてるリアスを見ている内に……。

 

 

「そういや、悪魔の駒ってどんなのでしたっけ? 俺この前の時はヤケクソで転生したからよく見てなかったんだよねー……」

 

「あ、うん、見たいならあるわよ。

僧侶一個と女王以外の騎士と僧侶と戦車と兵士全部あるわ………」

 

 

 何となく一誠はリアスから女王以外の悪魔の駒全てを見せて貰う様に誘導し、リアスも『しょんぼリーアたん状態で持っていた駒を全部渡す。

 

 

「ギャスパー君がこの事を知ったらショックでしょうね……」

 

「ええ、何て説明したら良いのかしら……」

 

 

 僧侶が一個足りないというのが若干気がかりだったのだが、それを受け取った一誠は手の中でその駒達を適当に弄りながら暫く見つめていると、やがて何かを決心したのか、師である安心院なじみに向かってこう切り出した。

 

 

「なじみ、俺のマイナスを一度きり使える様にしてくれ」

 

「え?」

 

 

 幻実逃否の使用インターバルのキャンセルの懇願。

 その言葉にいち早く反応したのは、その中身を知る朱乃だった。

 

 

「一誠くん、アナタまさか――」

 

「何のことかな朱乃ねーちゃん? 俺はただマイナスの再利用を今だけしたくなっただけだぜ? な、何とかならないかなじみ?」

 

「弱体化のせいでインターバルが必要になったそれを短縮できるくらいなら出来ないこともないよ」

 

 

 朱乃の察した様な声に一誠がすかさずすっとぼけた顔をするのだが、誤魔化すにしてはお粗末すぎるせいなのか、なじみはやれやれとため息を吐いている。

 

 

「けど、よくもまぁそんな事を思い付くというか、お前ってホント肝心な所で甘いよねー?」

 

「うっせぇな。俺だってんなめんどうな事なんざゴメンだよ。

けど、あんなしょんぼりされたら、思うところはあるだろ……全くの無関係って訳じゃねーし」

 

 

 ふん、と恥ずかしそうに目を逸らす一誠に、ソーナやリアスは首を傾げるが、椿姫は何と無く察する事が出来たのか、逆に心配そうな顔だった。

 

 

「えっと、今やっと何と無くわかったのだけど、そんな真似して大丈夫なの? かなりどころか歴史上初じゃ……」

 

「何のことよ椿姫?」

 

「朱乃も分かった様な顔をしてるけど……」

 

「えーっと、まあ、見てればお分かりになるかと……」

 

 

 それが本当に罷り通れば、それこそある意味激レアな存在になるのだが、一誠はそんなものに興味は無く、単純に甘さから来る行為に他ならない。

 

 

「次の周期を短縮しただけだから、この次使えるまでの期間が延長されるよ? 良いんだね? それと二度は無いよ?」

 

「良いぜ全然、だったらマイナスに頼らずに俺が無敵になりゃあ良いんだからよ」

 

「あっそ……ホント、そういう所好きだぜ僕は。ほら……もう良いぜ?」

 

 

 椿姫とソーナに支えられたまま、なじみの手が一誠の胸元に触れられ、その瞬間一誠の身体の傷が綺麗さっぱり消え去る。

 

 

「え、傷が……?」

 

「そういえばマイナスがどうとかって―――え?」

 

 

 そして……

 

 

「The reality escape」

 

 

 リアスから受け取った悪魔の駒は、ソーナの時と同じく現実と夢を好きに入れ換えるスキルにより、一誠の中へと全て入り込んだ。

 

 

「は!?」

 

「あーぁ、本当にやりやがった」

 

「ちょ、リアスの駒が一誠の中に……」

 

「ええ、だから私はさっき歴史上初の試みだと言ったんですよ」

 

 

 女王と僧侶ひとつを除いた全ての駒が一誠の左胸の中へと吸い込まれていく。

 それがどういう意味なのかはリアスでもわかる事であり、全てを取り込み終えた一誠は……前よりも更に重くなったと感じる自身の身体を掌を通して確認し、自重気味に笑う。

 

 

「あーあ、折角言彦のバカから奪い返した時に感じた進化の感覚が全部無かった事にどころか、もっとレベルダウンしやがった……」

 

 

 それは暴挙に近い行動だった。

 何せ自分の進化した分を更に犠牲にし、無理矢理悪魔の駒を自分の中に宿したのだ。

 しかも、ソーナのに続いてリアスのという二重状態でであり、これこそ人間の時の方が遥かに強い癖に、自分で枷を付けたのと同じ事だった。

 

 

「ちぇ、これでどちらのパシリもしないとならんのかぁ……。

ま、仕方ねーか」

 

 

 しかし一誠は成立させた。

 夢と現実を作り替えるという卑怯とも言える裏技を使って、夢物語を現実に変換する事で……。

 

 

 兵藤一誠

 

 種族……転生悪魔

 

 備考・ソーナとリアスの駒を取り込んだ両陣営のパシリ化完了。

 

代償・言彦に乗っ取られてた分の成長リセットに更なる弱体化。

 

 

「まぁ、これで言彦のバカまで弱くなれりゃあ御の字だし良いかな」

 

「な、なんで……そんなこと……」

 

「だってしょうがねーじゃん、あんな糞薄情な役立たず共に好き勝手言われてしょんぼりしてるの見せられたら閃いちゃったんだから……。

はぁ……パシリのご褒美にパフパフしてくれるのとか考えといてくださいよ?」

 

 

 肩を貸してくれたソーナと椿姫にお礼を言いながら離れた一誠は、唖然としながら何故と聞いてきたリアスにグルグルと肩を回しながら軽口気味に返す。

 

 基本的に一誠という男は口も悪ければ、態度もデカい。

 オマケに暴力的だし致命的なまでにスケベだ。

 

 故に初見の時点で友達になろうと思う人物はほぼ皆無であり、そんなだから一誠に近しい人物は年上のじーさんばーさんやら、一回り年下のロリショタ……そして姫島一家くらいで同年代からは寧ろ毛嫌いされていた。

 

 だがしかし、関わりが深くなればなるほど……案外情にほだされやすいという一面があるので、既に知らない仲では無くなっていたリアスのあっさり裏切られて本気で傷付いていた姿を見た一誠は、ソーナの時と同じく気休め程度の元気付けをしたつもり……なのだ。

 

 

「あ……」

 

 

 とはいえそんな本音を言うほど一誠も素直では無いので、ヘラヘラとセクハラ発言をして誤魔化す訳だが、リアスからしてみればそんな建前なんてどうでも良かった。

 

 

「あ、ぅ……」

 

「あ、でもこの場合どうなるの? やっぱり貧乳さんとグレモリー先輩両方のパシリ?」

 

「いやパシリになんてしないというか、貧乳言うのやめてもらえます? 無い訳じゃないし……」

 

「え? なじみにも負けてんじゃんアンタ」

 

「う……! で、でもあるもん!」

 

「もんって……ぶふっ!! に、似合わねー口調すんなよ、笑っちまうぜ。なぁグレモリー先――」

 

 

 

 

「う、うぅ……」

 

「ぱ、い……? あ、あれ?」

 

 

 一誠から貰った妙ちくりんな優しさが、まるで優しいおじさんに優しくして貰ったギャンブル中毒者よろしくに、染みて涙がボロボロ流れてしまうのだから。

 

 

「え? え!? な、なに泣いてんすか?」

 

「あぅ……あぅぅ……!」

 

 

 そんなリアスに一誠はといえば、肝心な所を察せないが故にオロオロし始めると、見ていたなじみが茶化し出す。

 

 

「あーあ、リアスちゃん泣かした~ いけないんだ~」

 

「え、俺!? な、なんで!? やっぱりこのパターンじゃ駄目だったの!?」

 

「いや寧ろ逆というか……そこは察せ無いんですねアナタって」

 

「昔からそうですよ一誠くんは……」

 

「肝心な所で締まらないというか……」

 

「はぁ? 訳わかんねーな……」

 

 

 しらーっとした目で睨まれて尚困惑する辺りがバカと言われる由縁で、妙に納得できない気分にさせられた一誠は、取り敢えず泣いてるリアスを何とかしようと身ぶり手振りで動く。

 

 

「あれっすよ嘘だからね? パフパフしないで良いからね?」

 

「くすん……」

 

 

 

 

「ある意味あの連中の言って洗脳って奴かもしれないね。一誠って突拍子無く不意打ちしてくるしさぁ? だろ、経験者のソーナちゃん?」

 

「えっと……ま、まぁ確かに洗脳かも……」

 

「……。何でちょっと恥ずかしそうにしてるのですかソーナ様? 言っておきますけど一誠くんは渡しませんからね?」

 

「べ、別に私は……!」

 

「あぁ、確かに洗脳ですねこれは」

 

 

 

 

「ほ、ほら牛丼音頭とか踊るから泣くなって!?」

「くすん……くすん……」

 

 

以上、一誠くんの洗脳術。




補足

転生姉の事ばかりしか考えずにさっさと消えましたけど、ある意味こっから最悪の不幸に見舞われることは間違いない。
なんせ、庇護が完璧に消えて路頭にぶん投げられたのと同じだもの。

その2
この一誠くんはドラゴソボールより、なじみさんから貸し出されてる別世界の某肉漫画の方が好きらしい。

それこそ、技を完コピする程に。

特に某将軍様の九所封じは死ぬほど特訓中であり、最近は某傲慢火花……じゃなくてアロガント・スパークも特訓中らしい。

  ちなみに喰らえばどっちも死ねる。


その3

しょんぼリーチェ……じゃなくて、しょんぼリーアたんを見てたら物凄く居たたまれなくなったので、ほぼ反則技を使用して、自分が使う分を犠牲にした上で、リアスさんのパシリまで引き受けてしまった一誠くん。

ここら辺の甘さが現在の言彦には理解できる様で出来ないらしく、一誠も一誠で気恥ずかしいのでセクハラ言動で誤魔化そうとする。


まあ、これこそ洗脳じゃね?


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その後の動き

です。

まぁ閑話みたいなものかな。


 妙な情を持ってしまうという弱味が一誠を悪魔としては混沌とも云うべき領域まで突き進めた。

 

 しかしながらそれが決してプラスに作用するのかと言われたら、そうでは無く、寧ろ本人にとってはマイナスだらけであった。

 

 

「うぉぉぉっ!! マッスル・グラヴィティーーっ!!!」

 

「あんぎゃぁぁっ!?!?」

 

 

 弱体化。それが今一誠の身へと二重にのし掛かっている。

 

 

「あだだだ!? こ、この状態で使うと体がバキバキになりやがる!? こ、腰がいでぇよ!」

 

 

 例えばそう、憧れという理由で必死になって練習して習得した物理法則無視の必殺技が、使えば反動で身体に多大な負担が掛かる様になってしまったり……。

 

 

「今日のはぐれ悪魔って妙に強くありません?」

 

「あ、いえ……この前の時とレベルは殆ど変わらない筈ですけど」

 

「なぬ!? ま、マジかよ、感覚的にこの前の10倍くらいは強く感じたんですけどね……。

割りと笑えないレベルに弱くなってら……」

 

 

 ロビン王朝の息子が使う必殺技を完コピしてひびちのめしたはぐれ悪魔と同等レベルのはぐれ悪魔相手に今回三発も攻撃を受けてしまったりと……。

 余裕を以て倒せた事には変わり無いものの、それでも一誠の身に宿る二人の悪魔を主軸とした無数の駒は、彼を相当な弱体に作用していた。

 

 

「こ、腰が痛い……朱璃さんに揉んで貰おう……」

 

「大丈夫ですか? というか、あの程度の相手にあんなド派手な必殺技なんて使うから……」

 

「使わないと錆び付いちゃうでしょ? いててて……」

 

 

 これがコカビエルとの戦いから、二日目の夜の出来事であった。

 

 

 

 

 

 ソーナが言ってたけど、一誠……あ、いやイッセーはどうやら本当に笑えないくらいに弱体化をしてしまったらしく、正直私はかなり悪いことをしてしまった気持ちでいっぱいである。

 

 

「えぇ……? 俺達の代のみ風紀委員と生徒会を統合するって……」

 

「ええ、生徒会も私と椿姫だけですし、風紀委員も新規加入者無しで一誠のままだし、先生方も少し思うところがあるみたいです」

 

「だから一時的に統合すると? 合わせったって三人しか居ないのに意味ねーやん」

 

「本音としては予算を一本化にしたいだけだと思いますね」

 

「チッ、大人って奴は……」

 

 

 嘘だと思いたかったけど、結局本当に部活から何から全て辞めていってしまった凛、小猫、アーシア、祐斗。

 オカルト研究部も最早私と朱乃と……ギャスパーを残して三人のみとなってしまったせいで部活から同好会に格下げされてしまったのは云うまでも無い。

 

 4人とも今日も普通に学校に来ていたのを見たけど、これからどうするつもりなのかしら……? 私の実家の支援はもう無くなるし、家にしても無くなるというのに……。

 

 そんな事を思いながら、私と朱乃はオカルト研究部の部室……じゃなくて風紀委員室でお茶を飲みながら、目の前で生徒会と風紀委員として話し合ってるソーナ、椿姫、イッセーをぼんやりと眺めてる。

 

 

「どうします? 私達は特に異存はありませんけど」

 

「どうするって言われてもなぁ。冥ちゃん先輩と雲雀先輩に知られたら俺ぶっ殺されるぞ……」

 

「あのお二人ですか……そういえば難攻不落のOBが居りましたね……」

 

「おう、只でさえ今の状況も良くない顔してたしね……今年の学園祭の時にこの現状見られたら、仕込みトンファーと甲賀卍谷戦法の餌食にさせられちまうよ」

 

 

 自分の弱体化を知った上で尚、『近くでしょぼくれられてもテンション下がるから、新しいの見つかるまで代わりにパシられてやるよ』と、かなり強引な手段でソーナの駒に続いて私の駒まで取り込んだイッセー

 嬉しくないと言われたら勿論そんな事は無いとハッキリ思えるけど、それにしたって自分の力を犠牲にしてまでともなると、私はどうやって借りを返したら良いのか……。

 

 

「どうよグレモリー先輩? 何か良い手とかありません?」

 

「え? あ……えっと……な、何の話だっけ?」

 

「生徒会と風紀委員の統合についてよリアス……」

 

「あ! そ、そうね……ええっと……学園祭の日までに雲仙先輩と雲雀先輩を説得できる方法を考えることにするとか?」

 

 

 あぁ……あの日からイッセーの顔を直視出来ないわ。

 見ると変な気分になるというか……うー

 

 

「やっぱりそれしか無いか。

おっかねぇ先輩なんだよなぁ、どっちも……」

 

 

 大きくため息を吐くイッセーを見てても、段々ザワザワしてきて目を逸らしてしまう……。

 何なのかしら? これって……。

 

 

「そういえば安心院さんは? 今日は姿が見えないみたいだけど」

 

「んぁ? あぁ、アイツなら今日休むとか言ってたぜ。

何でもグレモリー先輩の兄貴に用があるんだと」

 

「お兄様に? えっと、何で?」

 

「知らね。グレモリー先輩の兄貴はなじみの対だから、何かあるんじゃねーんすか? 俺はあの男嫌いだからどうでも良いけど」

 

「サーゼクス様が嫌いって……まだ根に持ってたの一誠くんは?」

 

「当たり前だぜねーちゃん。

何せあの野郎、あんなボインな銀髪エロメイドを侍らせてるんだぜ? 許せる訳がねぇよ。

今度ツラ見たら三発は殴ってやんぜ……!」

 

「エロメイドって……。グレイフィアはそんな人じゃないわよ?」

 

「でもあの魔王はエロい事したんだろ!? その時点で有罪じゃい!」

 

 

 乱暴でスケベなのに……。

 

 

 と、まぁリアスが一誠に対して戸惑っている中、それまでサーゼクスに対してあれこれと……特に専属メイドことグレイフィアとにゃんにゃん出来る事を勝手に妬んでた一誠が、唐突に思い出しでもしたのか、リアスに対して嫌そうな顔で話し出した。

 

 

「そういや、あの役立たず……いや、役立たずの糞薄情共は今日も平然と学校来てたけど、アンタの支援で学校に通えてたんじゃなかったんすか?」

 

 

 役立たずにプラスされ薄情共と統一して呼ぶ一誠。

 勿論それは木場祐斗、塔城小猫、アーシア・アルジェント、そして兵藤凛の事である。

 

 

「一応学費は三年分前払いしてたというか……ほら、まさかこうなるとは思わなかったから……」

 

「そっか、そういやグレモリー先輩の実家って金持ちっすもんねー……」

 

 

 一誠ですらドン引きする程にあっさりと、命の恩人でもあるらしいリアスの眷属から抜けた連中を最早名前で呼ぶことすら嫌悪している一誠は、あんな真似をしておきながら図々しくも学園に通い、のうのうと固まって『自分達仲良しですよー』なんてしてる連中に殺意すら沸いている。

 

 その分、そうせざるを得ない様に追い込んだというのもあるが、学園から転校という形で消えた匙達の方がまだマシだと思える程、連中の図々しさは腹立たしいものがあった。

 

 

「俺なら絶対に殴り飛ばしてるけどな。だって信じられるか? 言われて開き直ってテメーから離れておいて、同じ学校に通うとか……マジありえねぇわ」

 

「うん……でも良いわ。

学校に通うのは自由だし……」

 

「うっわ、甘いねアンタってお方は。マジで信じらんねぇわ」

 

 

 だが現状はリアスがほぼ諦めた表情で放って置けと言っている以上は、一誠も呆れながらも放置するしか無い。

 まあ、向こうから吹っ掛けて来ればその限りでは無いし、甘さという点ではある意味一誠もリアスとそう変わらないのだ。

 

 

「アンタが言うなら黙ってるが、吹っ掛けてきたら容赦はしませんからね?」

 

「その時は何も言わないわ。もうあの子達とは無縁なのだから……」

 

 

 ただ、ベクトルだけは微妙に違うのだが。

 

 

 

 

 

 その甘さが命取りになるというのに、一誠はそれを承知で更にやっちまった。

 

 人外の少女にそう告げられたサーゼクス・ルシファーは、妻のグレイフィアと共に、一度きりしか会ってない人外の弟子である少年を思い出していた。

 

 

「ソーナさんに加えてリアスのねぇ……。

確かに彼のマイナスならそんな滅茶苦茶も可能だけど、どんな心境の変化なんだろうね? 確かリアスにも風当たりが強かった気がしたけど……」

 

「曰く、『近くでしょぼくれてんの見てるとイライラするから』らしいぜ? 当然嘘だけどね」

 

「なるほど、つまり彼は意外とお優しい所があるという事ですか?」

 

「優しいというか、甘いんだよアイツは。

少しでも関わりが深くなる相手にはかなりね」

 

 

 極秘のお茶会。

 人外とその分身の最高位に位置する魔王とその妻の暢気な会談は当然他の存在には知る余地すらないものであり、お茶会での話の内容はやはり一誠についてだった。

 

 

「相当に弱体化したというのは本当みたいですね。

まさか言彦が出てくるなんて……」

 

「うん、今はまた大人しくしてるけどな。

だけどやはりムカつくけど言彦だったよ。久々に僕も一撃で肋を持ってかれちまったよ」

 

「安心院さんの言った通りという事か。

参ったねこりゃあ……」

 

 

 一誠の甘さ、そして内に宿す言彦について。

 嘗ての時の名称をそのまま使うのであれば、悪平等(ノットイコール)であるサーゼクスとグレイフィアは、その元締めであるなじみですら負けるとされる獅子目言彦について、決して他人事では無いと少々表情を固くする。

 

 

「今回は偶々上手く行ったけど、次も同じことになるなら正直かなり厳しい。

だからキミ達二人にも一応話しておこうと思ってね……まあ、単なる忠告だけど」

 

「心しておきますわ安心院さん」

 

「いっそ逆にイッセーくんが言彦を取り込めば簡単に済むんですけどね」

 

 

 人外を少なくとも1億回は敗北させた堕ちた英雄の影は、さしもの人外領域に踏み込んだサーゼクスとグレイフィアも無視できない程の強大さであり、お茶の入ったカップを取るその手にも自然と力が入ってしまう。

 

 

「近々人間界に行くらしいし、今度改めて会ってみたらどうだい? 多分サーゼクス君は顔見て露骨に嫌な顔すると思うけど」

 

「勿論そのつもりですよ、近い内にコカビエルの件で三勢力で会談をする事になりましましね。

しかし、何でそんなに嫌われてるんだろ僕って……?」

 

「何でも『銀髪エロメイドを侍らせてスカしたツラしてるのがムカつく』らしいよ?」

 

「え、エロメイド? それってもしかしなくても私の事でしょうか?」

 

「スカしたって……別にスカしてるつもりとか無いんだけど。それに侍らせてる訳じゃあ……」

 

 

 だからこそ今一度一誠と顔を合わせる必要がある訳で、近々行われる三大勢力会談の時が絶好のタイミングとしてサーゼクスもグレイフィアもリアス共々その様子を確かめようと決心するのだが、なじみから特にサーゼクスが嫌われてると理由と共に告げられ、ちょっとだけ複雑な気分になってしまう。

 

 特に銀髪エロメイド呼ばわりされてると知ったグレイフィアはかなり複雑だ。

 

 

「グレイフィアはエロメイドじゃない、そこだけはちゃんと訂正させないとダメだ。

大体グレイフィアは――」

 

「あ、うんわかったわかった。わざわざ膝の上にグレイフィアちゃん乗せながら力説しなくてもよーく解ってるよ僕は……」

 

「あ、あのサーゼクス? さっきから安心院さんの前で恥ずかしいのだけど……」

 

「やだ! こうしてないと僕は安らげないんだい!!」

 

 

 ……。言い返せないかもしれないという意味で。

 

 

「すいません安心院さん。その、結婚して子供が生まれてからもこの人ったらまだこんな感じで……」

 

「あー……うん……見ればわかるよ、見ればね」

 

 

 グレイフィアを自分の膝に乗せ、後ろからめっちゃ抱きつきながらギャーギャーといつの間にかグレイフィアを誉めちぎりまくるサーゼクスに、本人となじみも慣れてるとはいえ呆れている。

 

 そう、サーゼクスは表向きは控えてるものの……基本的に二人だの素を知る者の前ではグレイフィアLOVEの……どことなく一誠に似てる男なのだ。

 

 

「グレイフィアは僕のものだい! 誰にも渡さないぞ!」

 

「別に誰も一誠が取るなんて言ってねーよ」

 

「すいません……。

この人、未だに別々に寝ましょうと言ってみると泣き喚くので……」

「グレイフィアちゃんも然り気無く僕に惚気話しなくても良いよ」

 

 

 そう、バカという意味でも似た者同士であり、一誠はそれを端的に感じて一種の同族嫌悪に近いものを抱いているのかもしれないのだ。

 

 

「わーい、今日もグレイフィアは柔っこくて良い匂い~」

 

「ちょ、ほ、ホントにやめなさい! 安心院さんに見られてるのに恥ずかし……ぃ…ん……! み、耳はひゃめてぇ……」

 

「………アホらし」

 

 

 

 

「へーっくしょい!?」

 

「あら大きなくしゃみね、風邪かしら?」

 

「じゅる……いや違う、何かムズムズしただけ。

さてと、今日はねーちゃんの所を手伝うぜ。何すりゃ良いんだ? パフパフなら得意だぜ俺」

 

「えーっと、近々三大勢力の会談をこの学園で行うから、その準備を……」

 

 

 終わり。

 

 

 

おまけ・位置的に妬まれる男

 

 

 とあるモブは思った。

 

 あれ、アイツ何であんなに囲まれてるの? と……。

 

 

「一誠、今日の放課後の事なのだけど……」

 

「へーいへい、わかったからわざわざコッチ来ないでくださいよ。変な噂が立つでしょうが」

 

 

 伝統的に敵対してる筈の生徒会長然り……。

 

 

「お昼を一緒にと思って来たのだけど……どう?」

 

「行く行くー!! 椿姫ちゃんなら喜んでー!!」

 

 

 その副会長然り……。

 

 

「へぇ、真羅さんとだと喜ぶんですね一誠くん?」

 

「げっ!? あ、朱乃ねーちゃん!? い、いやいや……別に俺はねーちゃんに誘われても喜ぶよ……うん……」

 

「あらそう? なら行きましょ?」

 

 

 二大お姉様の片割れ然り。

 

 

「あの……私もオマケに付いて来ちゃうのだけど……だめ?」

 

「え? 別に断る理由ないというか、何で俺に許可を求めるんだ?」

 

「い、いやだって……なんとなく……」

 

 

 もう片方然り……。

 何でそうなったのか……一体どんな化学反応が起きたからなのか。

 何も知らないモブからしたら訳がわからない。

 

 ただ一つ言えるのは……。

 

 

「兵藤ォ!!! 貴様は敵じゃぁぁぁっ!!」

 

「殺せぇ!!」

 

「ぶっ飛ばせぇぇ!!!」

 

 

 モブからしたら、嫉妬と妬みで殺意を抱くに充分であった。

 

 

「あぁん? ……へっ、そういやこの四人のファンって奴だったなテメー等は? はっはっはっ、デキル男はこういう面でも強いんだよこの負け犬共がぁぁっ!! ヒャハッ!」

 

 

 そして一誠も一誠でよせば良いのに、わざわざ四人を器用に傍らに寄せながら煽りまくるものだから、ますますヒートアップするのは云うまでも無かった。

 

 

終わり




補足

サーゼクスさん、全シリーズ内である意味一番変態だった。

取り敢えずグレイフィアさんが傍に居ないと泣きわめくくらいにゾッコンらしく、表向きは何かかっこよく伝えられてるけど、実際彼が結婚までこじつけた理由が、安心院さん経由で出会って、その時は悪魔の派閥的な意味で敵対してた体なんだけど、実のところ完全に一目惚れした彼は、シスコン男だとか何だとかをなぎ倒して彼女に

『グレイフィアー! 好きだー! 結婚してくれー!!』

と叫びまくってたらしい。

それこそとある戦いで血まみれになろうと、花束片手に会いに行ってドン引きさせたり。

グレイフィアのコントロール出来ないスキルの制御のて手伝いを本気になってしたりと……


まあ、色々あった後、彼女を冗談でも口説く輩が居るならぶち殺しに行くくらい変態になりましたとさ。

 だから一誠は何となく同族嫌悪を感じて嫌いらしく、リアスさんもこの事実を知らない。(仲睦まじい夫婦程度の認識)


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風評被害……でもない

この件に関してそろそろ決着をつけるべきか?


答えは……


 凛はこれで一誠との関わりのほぼ全てを失った。

 両親はすでに一誠を初めから存在してない様に扱い、自分に近しい存在もまた同じく一誠を嫌っていた。

 

 そして何より、一誠自身が最早自分と関わろうともせず、簡単言えば下手な真似しても怒る処かそこら辺のゴミを見るような目で一瞥するだけで、何も言わないのだ。

 

 

『えーっと、諸君も知っての通り、我が風紀委員は先代達の卒業により俺だけしか居ないという状況であり、加えて生徒会も役員達が家庭の事情で会長と副会長を除いて転校してしまったという、宝くじを大当たりさせる確率並みの出来事により、二人しか居ない』

 

『ぶっちゃけた話、生徒会の数が減ってしまおうが風紀委員としてはザマァ見さらせといった感想なんだけど、このままだと共倒れしちまうという懸念が生まれてしまって静観という訳にゃあいかんのよ』

 

『――従って本日より、現風紀委員会と生徒会は今代に限り、統合する事になった。

活動については今までと何ら変わらんが、違いは風紀委員と生徒会の仕事を互いにフォローし合うといった所かな』

 

 

 加えて今となっては自分より原作に近い位置にまで入り込んでるという始末。

 いや、ある意味じゃそれ以上なのかもしれない……。

 

 

『会長・支取蒼那です。

只今いっせ……あ、じゃなくて兵藤風紀委員長の説明の通り、本日より生徒会と風紀委員を兼任する事となりましたので、どうかよろしくお願いします』

 

『副会長の真羅椿姫です。

会長同様、本日より兵藤風紀委員長と力を合わせて人数不足にも負けずに頑張りたいと思いますので、皆様これまで通りの応援よろしくおねがいします』

 

 

 何せ本来なら有り得ないシトリー眷属と、グレモリー眷属の両方を兼任しているのだから。

 

 

『改めて、風紀委員長の兵藤一誠だが……はっはっはっ、こうして壇上から見下ろしてみりゃあ、納得してねーってツラばっかだなぁ?

まあ、そりゃそうだよなぁ? 特にこの二人の自称ファン共からは殺意すら感じるぜ? くひゃひゃひゃ、こっちの貧乳はどうでも良いとして、俺って実はこの椿姫ちゃんとは結構仲良しなんですぅ! ざぁぁんねぇんでしたぁぁっ!! ふひゃひゃひゃ!!』

 

『降りてこい!! ぶっ飛ばしてやる!』

 

『あんな変態に支取先輩や真羅先輩と一緒にさせられるかぁ! 反対運動を起こすぞ!!』

 

『ギャハハハハ!! 言ってろ負け犬野郎共! これは教師陣からの指示なんだよーん!! だから何を言おうが無駄なんだよぉぉぉぉっ!!! グヒャヒャヒャ!!』

 

 

 入れ替わる様に……まるで何者かが全てを軌道修正せんと……。

 

 

「下品な人……」

 

「やっぱり何か仕込んでシトリー先輩達の事を……」

 

「…………」

 

 

 一部、取り返しのつかない事を挟みながら……。

 

 

 

 既にご卒業された雲仙先輩と雲雀先輩に殺される。

 そう言いながら最後まで躊躇っていた一誠だけど、結局は首を縦に降って了承してくれた。

 

 

『まあ、人手不足だったのは否定できないからよ』

 

 

 元々先代の加入試験で一誠以外が完全に弾かれてしまったからというのもあるけど、今年になっても風紀委員会に誰も入ろうとしなかったのが決意を固めた理由だったらしく、この日私と椿姫だけしか残ってない生徒会と一誠のみが委員を存続させている風紀委員会は今の代にのに合併する事になりました。

 

 

「あーぁ、やっちまった。

今年の学園祭にあの二人が来なければこんなビクビクする事なんて無いんだけど――というか、今年の一年が誰も入ろうとしなかったのがそもそもの始まりだな……今更ながら」

 

 

 全校集会での一誠の言葉で大顰蹙を買ってでの合同式

も終わり、クラスメートから『だ、大丈夫なの? あの風紀委員会ともそうだけど、兵藤君とだなんて身が危なくない?』なんて何度も言われて色々と大変なまま放課後を向かえ、第一回の活動が今まさに生徒会室――じゃなくて風紀委員室で執り行われようとしている。

 

 同意はしたものの、やはり後々考えてしまっていたのか、風紀委員長の椅子に座ってクルクル回りながら一誠がブツブツと下級生の加入者が居ないことを嘆いている様子なのだけど、正直先代の加入試験をそのまま引き継いでやらせた結果を考えれば入る人間なんてそれこそ悪魔でも無い限り居ない気がしてなら無い。

 

 そうで無くとも、アレだけ現委員長――つまり一誠の独断と偏見という名の、顔とスタイルの良い女子だけを入れようと躍起になっていた姿を思い出すだけでも、一人になるのは仕方ないのかもしれないとすら思う訳で。

 

 

「その時は私もちゃんと頭を下げるから大丈夫よ一誠くん?」

 

「え? うん、椿姫ちゃんの申し出はありがたいけど、冥ちゃん先輩もヒバりん先輩も生徒会ですとか言った瞬間襲ってくるかもだしなー……しばき倒される被害が最小限で事足りるなら俺だけで良いよ」

 

 

 椿姫に対してのひねくれ皆無な優しさをちょっとでもいいから私にも見せてほしいと言うか……。

 どうせ私は姫島さんや椿姫やリアスと違ってインパクトの欠片も無い身体よ……ふんだ。

 

 

「んーで? 結局これからどうすりゃ良いんだ? リーダーはアンタで良いとして、何をすれば良いわけだ?」

 

「え? わ、私がリーダーなんですか?」

 

「当たり前だろ。裏事情を考慮すりゃあアンタの方がリーダーに相応しいだろうし、何より愚民共が納得しねぇっしょ?」

 

「愚民共って……まさかそれって生徒の事?」

 

「おうよ、奴等のほぼ100%が今回の事に納得してねーみたいだしね。

そんな状況でリーダーやりまーすなんて俺が言ったら、デモでも起こされそうなもんだぜ。だからアンタやれよ、ソーナのご主人様」

 

「ご、ご主人様……」

 

 

 然り気無く今名前で初めで呼ばれた気がする。

 貧乳だの、会長さんだのと今まで呼ばれてただけに、然り気無くとはいえちょっと動揺してしまう。

 ……ご主人様って後ろに付けてる辺りに皮肉を感じるものだけど。

 

 

「ちなみに椿姫ちゃんは知ってるけど、風紀委員会の主な活動は学園内の風紀取り締まりは勿論の事、町全体の風紀も取り締まる事になっているんだなこれが。

しかも、先々代……つまりヒバりん先輩のせいで町長公認」

 

「この町に人間の犯罪率が異常に低い理由はそれでしたか。

なるほど、以前の女子学生の制服窃盗はかなり珍しいケースだったのですね?」

 

「ありましたねーそんなの。

一応先代から受け継いだ時の犯罪率だけはずっとキープしてますからねー

愚民共が雑魚共からかつあげされたりしないのだって、実は俺のお陰なんだし、少しは感謝して欲しいもんだぜ。まあ、実際言われても要らんけど」

 

 

 なるほど、こうして聞いてみると一人とはいえ本当に先代まで行っていた風紀委員としてのオーバー気味な仕事を全部一人で請け負っていたという訳ですか。

 確かに未だに風紀委員の支持率は学園の外からは異様に高いせいで潰すに潰せないでいましたが……。

 

 

「最近小僧共に変な女に引っ掛からない為の極意の伝授をしとるんだが、これが中々好評なんだよね。

メンヘラ女の見分け方とか」

 

「小学生になんて事を教えてるのよアナタは……」

 

「それは言いっこ無しだぜ椿姫ちゃん。

拗らせた女に追い回されるなんて誰だって嫌だし、女の子からしたらストーカーに付きまとわれたくもない。

だからこそ、女の子にゃあ軽い護身術も教えてるんだぜ? お陰で最近隣町から来たイキッた小僧共を小学生の幼女がぶちのめしたんだ」

 

「さぞ相手の不良達は惨めな気分でしょうね……」

 

「と、思ったんだけどそのバカ共は幼女にしばかれて目覚めでもしたのか、その日以降からすっかりロリコンになっちまったらしい。

最近わざわざ隣町から週一のボランティアに来ては、その小学生の幼女達に奴隷の如く働かされてるみたいだぜ」

 

 

 話を聞いてみると、斜め上な話は多いけど支持を受ける理由だけは何となく分かった気がする……。

 

 

 

 

 

 

 リアスはあの日以降、気にしない様に心がけるなんて言っていたけど、そんなのはまだ無理な事ぐらい私だって分かってる。

 祐斗君、小猫ちゃん、アーシアちゃん、そして凛ちゃん。

 

 あの日の夜……いえ、それよりももっと前から千切れ掛かっていた糸は、完全に切れてしまい、今はもう4人共リアスの眷属では無くなっている。

 

 

「楽しそうね……あの4人」

 

「リアス……無理して気にしないなんて思わない方が良いわよ? 正直そんな直ぐに割り切れるものじゃないんだから……」

 

「う、うん……」

 

 

 シーンとしてしまっているオカルト研究部の部室に居るのがちょっと耐えられなくなり、聞き手になってくれる一誠くんの所にでも行きましょうと私が誘う事でリアスを連れ出したのだけど、ふと風紀委員室へと続く廊下の窓から見えてしまった4人の楽しそうに正門を出ようとする姿を捉えてしまい、リアスの顔はみるみると元気が無くなってしまった。

 

 

「……。もう自分で判断できる歳なんです……あの子達はリアスよりも凛ちゃんを大事にしたかったというだけの事……なんですよ」

 

「…………」

 

 

 正直、こうもアッサリ薄情な真似をされるとは流石に私も思わなかった。

 祐斗君も小猫ちゃんもアーシアちゃんも、リアスの眷属となることで外敵から守られているという自覚もあると思っていた。

 それなのに……それがどうしたんだとばかりにあの日の夜、リアスに対して一誠くんに洗脳されてるんだからもう付いていけないなんて……。

 

 

「はぁ……」

 

「一誠くんに変な踊りでも踊って貰って気を紛らわしましょう。ね?」

 

「うん……何時までも引き摺ってたら、イッセーに悪いものね」

 

 

 何時一誠くんが洗脳したんだ。私は頭に来るがままにあの日叫びたくなったくらいに頭に来た。

 安心院さんが言っていた事だけど、確かに一誠くんは何故か敵を多く作ってしまうし、凛ちゃんが絡むとまるで世界が全て凛ちゃんの味方になってしまうような状況に追い込まれてしまう事もある。

 

 でもだからと言って一誠くんにそんな力は無い。

 気落ちさせない為にと、表向きは憎まれ口を叩きながら幻実逃否でソーナ様とリアス様の駒を取り込んで、新しい眷属が出来るまでの凌ぎななってくれたのだって、決して狙っていた訳でもなければ、お二人に良からぬ真似をする為でも勿論無い――――スケベな真似したら私が怒るんだから尚の事だ。

 

 それなのに洗脳だなんて……失礼にも程がある。

 

 

「一誠くん」

 

「んぁ? あぁ、朱乃ねーちゃんにグレモリー先輩…………っと、何かテンション低いな」

 

「うん、今此処に来るまでに凛ちゃん達が帰るのを見ちゃってね……」

 

「あー……」

 

 

 それでも一誠くん本人は『そう思いたいのなら存分に思わせておけ』とケタケタ笑ってたけど、その内悪魔の間でもそんな話が勝手に広まったとしたら、私が耐えられない。

 勝手な与太話で一誠くんがそんな人格だと決めつけられるなんて……。

 

 

「学園から転校する話も無いみたいですね、あのご様子だと」

 

「ええ、寧ろ実家からの援助が途切れた瞬間凛の家に厄介になるみたいだわ。

偶々お昼頃に4人で話してるのを聞いちゃって」

 

「そこまであの姉……いや、兵藤凛にくっついて居たいのか? あーあ、俺を作成したご両親共も大変だねー? まあ、俺は頼まれても顔も見せたくねーからもう関係なんかねーけど」

 

「前に凛ちゃんの家に行った時にご両親に一誠くんの話をしたら『居ないもの』扱いしてましたからね……」

 

「あぁ、実の娘が可愛いんだろよ……『実』の娘がなぁ」

 

 

 風紀委員室に行ってみると、朝の集会での話の通り合併した関係でソーナ様と真羅さんも居り、慣れでもしたのか一誠くんも最初の頃に比べると私達が来ても特に嫌そうな顔もしなくなった。

 

 

「茶、飲みますグレモリー先輩? あ、そうそう、この前ボランティアをした時に町内会のマダムから生チョコを貰ったんすよ。良かったら食いましょ? ほれほれ」

 

「あ……う、うん……」

 

 

 寧ろリアスにかなり気を回している。

 本人に指摘したら『はぁ? やってーねーよそんな七面倒なことなんざ』なんて言うと思うけど、あの態度は昔よく私が気落ちとかした時にしょっちゅうしていた態度だから隠したってお見通しだ。

 

 

「ちなみにダイエットとか変な事とか考えてませんよね?」

 

「え? あ……まあ、食べ過ぎたらとかは考えちゃうけど」

 

「あ、そう。じゃあ先に言うけど、その体型からして少し体重増えたって問題なんかねーから、変な事考えるなよ? 寧ろムチムチ具合が増して俺にとっちゃ……げへへへ!」

 

「一誠くん?」

 

「っ!? じょ、冗談だぜねーちゃん。へ、へへへ……」

 

 

 ……。ちょっとリアスに妬けちゃうけど、今回だけは見逃してあげる。

 

 

 

 4人の事を忘れろなんてまだ私には無理だし、学園でその姿を見る度に目の前の景色が滅茶苦茶になる感覚もする。

 その度に朱乃や椿姫やソーナに励まして貰えるのだけど、最近はイッセーが眷属になった事で関わりが更に増えたせいか、段々と彼の事が解っていく気がした。

 

 

「プール掃除ねぇ? 確かに今の会長さんと椿姫ちゃんだけの生徒会じゃ、やれないこともないけど時間は食うだろうな」

 

「ええ、こんな事で悪魔の力を使うのもアレですし、自分達の手でちゃんと清掃したいとは思ってますけど……」

 

「だろうな、デッキブラシでゴシゴシやって、サラピンになった所に塩素で消毒した水を張る……それこそ人間のやり方ですからねー」

 

 

 彼、悪辣的な態度をするせいであんまり友達が居ないみたいだけど、それを無視したりそれでも付き合わざるを得無い状況で深めていくと、結構というかかなり彼なりの優しさが分かってくる。

 

 

「ちなみに清掃が早く済めば、その分先んじて入って遊んでも良いらしいです」

 

「へー? でも三人じゃなぁ? それに泳ぐ程プール好きって訳でも無い面子ですしねー」

 

「まあ、そこまで拘ってない事は確かかも」

 

「でしょー?」

 

 

 例えばだけど、こうして生徒会と風紀委員としての話し合いの最中も、部外者である私と朱乃に対して……。

 

 

「そうだよ、朱乃ねーちゃんとグレモリー先輩にも手伝わせりゃ良いんだよ」

 

 

 ちゃんと加えさせようとしたりする。

 

 

「どうせ暇だろ? 頼むぜねーちゃん」

 

「良いけど、水着着たら誉めてくれるの?」

 

「そりゃあねーちゃんのチョイス次第だな。つーか俺的にはグレモリー先輩と椿姫ちゃんの方が―――あーっとと!? 嘘嘘! ねーちゃんも三番目くらいには気になる……じゃなくて気になって夜も眠れねーぜ!」

 

「あらそう? ふふ、なら私もお手伝いしてあげようかな? リアスはどうなの?」

 

「えーっと……確かに暇だし、皆がそうするなら……」

 

「うーっしゃ! 当日は一眼レフのキャメラ持ち込みだな!」

 

 

 正直三人だけでも余裕で終わる程度の労働なのに、お前等も聞いてるだけなんて許さねぇよ的な言い方で私達も一緒にと言ってくれる。

 朱乃曰く『あれでもあの日の夜以降、かなり考えてましたからね、自分が原因でまた余計な事になってしまった』との事らしいけど、この態度を見れば確かにどの程度までとは解らないが、考えているんだと分かる気がする。

 

 

「水着ですか……。

一応この先の事を考えて新しいのを買っておいた方が良いのかしら?」

 

「あ、別に会長さんは何でも良いっすよ。

パッドでも仕込んでみたら? とは言っておきますけど」

 

「パッ!? そ、そこまで無い訳じゃないわよ!」

 

「どうかなぁ……? 今日も居ないけど、なじみ以下って時点でなぁ……揉みごたえも無さそうだしー?」

 

「くぅ! じゃ、じゃあ当日見せてやるわよ! 腰を抜かしても知らないんだから!」

 

「へーへー……その無駄な努力の結果を楽しみにだけはしときますわ」

 

 

 ソーナも結構立ち直ってるみたいだし、あの日安心院さんもいってたけど、イッセーはその外見の性格だけで敬遠しないで付き合ってみたら、意外な一面を知れて結構良いのかもしれない……なんてね。

 

 

 

 …………。思うに、会長って一番姫島さんを除いたら一誠くんに構われてる気がする。

 

 

「え、会長さんって姉が居んの?」

 

「あれ、この前コカビエルの時に聞いたと思ったのですけど……」

 

「あー……何かこの辺で言ってたような。

そうか……姉で魔王ねー?」

 

「セラフォルー・レヴィアタン様よ。会長の眷属を代行している間に会う可能性は充分にあると思うわ」

 

「だよなー……チッ、めんどくせぇ……」

 

 

 そして……まあ、前の時を考えたら察する事は出来るけど、一誠くんは魔王って単語を聞くとかなり嫌そうな顔をする。

 

 

「随分と気の進まなそうなお顔ね?」

 

「え? あー……うん、まぁ……グレモリー先輩のほら、婚約だっけ? あの件の事が残ってるというか、正直言ってよ、俺って悪魔にしても信じられんのって椿姫ちゃんと朱乃ねーちゃん覗けばアンタ等二人だけなんだよねー」

 

「……え!?」

 

「し、信じられるって……わ、私とソーナの事を?」

 

「うん。会長さんは同じ……まぁ転生とはいえ滅茶苦茶言われた挙げ句ボイコットされたし、グレモリー先輩に至っては勝手に結婚させられそうになった挙げ句、その阻止にしても役立たず共のせいで……なぁ?」

 

「だからお二人は信用できると?」

 

「まぁ……ねーちゃんと椿姫ちゃんが王様って認めてるってのもあるんだけどね……。

それに言彦の件でアンタにも助けて貰ったし」

 

 

 寧ろ逆に何で今まで気付かなかったのかとすら思う、会長とリアス様の反応。

 少し見てればわかるというか、一誠くんってその性格以外も好き嫌いが激しいのもあるせいか、一度『無いな』と感じた相手は男女問わず辛辣になる。

 

 確かに一度はお二人とも姫島さんがフェニックスとのレーティングゲームの景品にされかけた件でかなり嫌悪されたのかもしれないけど、その後の対応でV字回復したのだし、現にこうして風紀委員室に出入りすら出来てるのだから、少しは自覚して欲しいと私は思う。…………微妙に敵が増えた気がするけど。

 

 

「「………」」

 

「……。なんすか二人してその目は? あの言っときますけど、悪魔の中じゃマシだって話だかんな? グレモリー先輩にしたって身体だけだし、会長さんに至っては……あー……別に何もねぇわ」

 

「……ふ、ふふっ」

 

「へー、リアスとは違って何もないのにマシですか……ふふ……」

 

「な、何だよ気持ち悪いな……! 別にアンタ等なんざねーちゃんと椿姫ちゃんと繋がってなけりゃあ別にどうでも――」

 

「はいはい、分かったからその辺にしてあげなさいな」

 

「お二人とも分かってるみたいだし」

 

「いやわかってねーよあの顔! 見ろよ! ちょっと甘いされたらコロッと結婚詐欺にでも騙されそうな顔じゃねーか!」

 

「別に一誠くんは結婚詐欺なんてしないでしょ?」

 

「そうそう」

 

「ぬ……! ……チッ」

 

 

 例えるなら、不良が雨に濡れてる捨て犬を見て何も言わずに優しくしてる所を見せられた……といった心境か。

 結婚詐欺師に騙されやすそうな気も確かにしないでもないけど、少なくとも一誠くんの隠しに隠してる情の深さをこのお二人にも理解して貰えて何よりだと素直に思う。

 

 

「けっ! だから洗脳なんて訳のわからねー因縁つけられんだよ。

大体おかしいと思えよ……つーかチョロすぎなんだよ悪魔の分際で」

 

「そうね、チョロいと言われたら否定できないかも」

 

「眷属達に離れられてた私たちに『シケたツラされるとイライラする』なんて言われて転生されたら、そりゃあ申し訳なさとかでいっぱいになるものね?」

 

「へっ、どうせ代わりが見つかるまでの代行だっつーの。で、その魔王ってのはどんなんなんだ? まさかグレモリー先輩の兄貴みたいなスキル持ちとかじゃねーよな?」

 

 

 それを言われると決まって一誠くんは不機嫌になり、それ以上話しても不利になるだけど悟ったのか、当初話題に出た魔王様についてソーナ会長に聞き始める。

 

 

「んー……どうなんでしょう? サーゼクス様が安心さんや一誠と同じだった事をリアスが見抜けなかった様ですから、もしかしたら私も見抜けなかった……とも考えられるような……」

 

「お兄様どころかグレイフィアもそうだった事は父と母も分からなかったみたいだし、身内だからって見抜ける訳じゃないのよね……一誠達のそれって」

 

「まあ、持ってる者同士だと隠さない限りじゃ一目でわかりますからね。姫島さんもそうでしょう?」

 

「私の場合は、一誠くんと彼女の近くに長年居たというのが大きいですね。………私自身スキルは持ち合わせないので」

 

 

 姫島さんが少し伏し目がちに自分はスキルを持ってないと話す。

 その表情はどこかコンプレックスを感じさせるものがあり、一誠くんも少しばかり目を細めて姫島さんを見つめてた。

 

 

「……。ちなみにその魔王ってのはアンタと同じで貧乳なのか?」

 

 

 そして露骨に話題を元に戻した。

 ……。多分一誠くんなりに気を使っての事だろうけど、私は正直姫島さんを見てるとこう思う。

 

 

「えーっと……はい、私より無いですよ?」

 

「え、ソーナ……あなた――」

 

「ねっリアス!? …………………ワタシヨリナイデスヨネ?」

 

「……………。そうね、正直言うとそんな感じかも……あ、あははは」

 

「あ、そう……何かますます興味失せたぜ」

 

 

 

「………。会長、そんな直ぐにバレるような……」

 

「もし一誠くんがレヴィアタン様に鼻の下を伸ばすようなら、目の前で本気で泣いてやる」

 

「ええ、そうした方が良いわ。私も手伝う」

 

 

 姫島さんの中に堅牢な鍵で押し込んでるソレがあるという事を……。

 

 

 

 

 

 何やかんやで5人がしょっちゅうツルむ様になったこの現状は、やはり何も知らない一般生徒達からすれば妬みの対象になってしまう。

 この日も、何やかんやで風紀委員室に招き、生徒会と風紀委員の初仕事を終えて、最近めっきり拠点となった姫島家へと適当に話でもしながら帰ろうとした5人……というか一誠の前に、大量のファンが立ちはだかった。

 

 

「おい兵藤。先生達はそうさせたのかもしれないが、俺達は納得なんかしてないかんな」

 

「そーだそーだ! 今すぐ4人から離れろ!」

 

「羨ましいんじゃ!」

 

 

 

「しつけー……。ほら、アンタ等のファンの声が生で聞こえるぜ?」

 

「……。正直全然嬉しくない」

 

「ほっといて欲しい」

 

「私は一誠くんのお嫁さんだから邪魔」

 

「帰って宿題をすべきだと思う」

 

 

 獣みたいな目で一誠を睨むファン集団に、4人の少女達はげんなりとした表情を浮かべる。

 その時点で自称ファン達の士気は半分以下にまで落ち込んだりもしたけど、それでもやはり妬みパワーというものが後押しでもしているのか、ちょっと前から異様に色んな美少女と一緒に居る機会が多くなってる変態風紀委員長にブーイングの嵐を見舞う。

 

 ちなみに暴力で来ないのは、風紀委員会に所属しているという時点で一誠の戦闘能力が半端無いと知っているからである。

 

 

「うっせーな、だったら一人一人口説きでもすりゃあ良いだろ? それも出来ねぇヘタレ共の分際で、妬みだけは一丁前か?」

 

「う、うるせー! そんな機会が無いだけだ! オメーが4人付きまとってるせいでな!」

 

「そうだそうだ! 機会さえあれば実行してるんだよ!」

 

 

 へっと半笑いで煽りまくる一誠に、二学年までの自称男子ファン共は一誠が居なけりゃやってたと騒ぎ立てる。

 

 しかしどう見てもそんな気概のある連中は居なさそうだし、何よりやったとしてもこんな場面を本人達に見られてる加えて、引いた反応されてる時点で終わってるとしか思えない。

 なので、一誠も適当に疲れるまで言わせてやるつもりだった……………のだが。

 

「聞いたぞ兵藤! 木場の野郎はともかくとして、小猫ちゃんとアーシアちゃんと凛ちゃんを、姫島先輩とグレモリー先輩欲しさに部から追い出したってよ!」

 

「それに支取先輩と真羅先輩とも仲良くなりたいからって、匙達を転校させたってのもな! 最低だぜテメェ!」

 

「しかも姫島先輩に至っては弱味を握って無理矢理抱きつかせたりさせて――」

 

 

 

 

 

 

 

「…………………あ?」

 

 

 地雷だけは、誰だろうと踏んではならない。

 

 

「っ!?」

 

「ばか……!」

 

「最低な事を言ってくれたわね……!」

 

「誰の入れ知恵よ……」

 

 

 さんざん、オカルト研究部のメンバーを追い出しただの生徒会のメンバーを私欲でどうのと宣っていた連中をスルーしてきた一誠だが自称ファン共の集まりの先頭付近から口走った最後の言葉にのみ、一気にその表情と雰囲気を無へと変えて反応する。

 

 当然聞いてしまった4人もそれぞれ集団達に対して嫌悪した表情を見せる訳だけど、ある意味じゃ一気にこの目の前の邪魔な集団の命を心配しなければならなくなった。

 

 

「ごめん、もう一度言ってみてくんね?」

 

「え?」

 

 

 それまで適当に聞き流す態度をしていた一誠が、信じられない程に重苦しい空気を放ちながら、されど顔はニヤニヤとさせながら視線を向けて口を開く。

 

 

「今、そこのお前だったな? もう一回言えよ、俺が朱乃ねーちゃんになんだって?」

 

「え……あ、いや……」

 

 

 笑ってはいる。けれどあまにりも何時もと真逆の雰囲気に、勢い任せて口走ったとある二学年の男子はゴニョゴニョと口ごもり始めるのだが。

 

 

「ひっ……!」

 

「何だよ、今言ったことを忘れた訳じゃないだろ? ほら、ちゃんと聞いてやるからもう一度聞かせてくれよ? 俺がねーちゃんに何だって?」

 

 

 一誠は最早恐怖すら覚える笑みを浮かべながら、その男子生徒の肩に手を置いたかと思えば、そのまま片手で軽く持ち上げながらもう一度言えよと何度も問う。

 これには普段女子生徒にセクハラしまくるバカな風紀委員長だと思っていた他の連中も一気にお通夜の如くシーンとなり、小さく悲鳴をあげるその男子生徒を助けようともせず、恐怖で硬直してしまう。

 

 

「テメーの脳みそは鳥以下なのか? え? 俺は今さっき言ったことをもう一度言えって言ったんだぜ?」

 

「わ、悪かった……い、言い過ぎ――」

 

「だからそうじゃ無いって。もう一度言ってみなよ? それとも何だ? その頭にショックでも与えてやれば思い出すのか? ん??」

 

「ひぃっ!?」

 

 

 激昂するとはまた違った恐怖が、持ち上げられてる男子の全身を激しく恐怖で震え上がらせていく。

 しかし一誠はそれでも下ろそうとはせず、無垢な子供を思わせる笑顔すら浮かべ始める。

 

 

「そうか……手頃なコンクリの壁にでもぶつけて潰れたトマトにでもするしかないかぁ……」

 

「ひぃぃっ!?!?」

 

「ま、待て! い、言ったのは木場と小猫ちゃんとアーシアちゃんだ!」

 

 

 そろそろ本気で殺しかねない事を言い始めた一誠に、持ち上げられた男子生徒を……いや、己の身を守るという生存本能からなのか、一人の男子生徒が必死の形相でネタの出所について暴露した。

 

 

「な、なんですって!?」

 

 

 そのまさかな答えに、一誠よりも早く……それもかなりショックを受けた表情で驚愕するリアス。

 

 

「ほ、本当に言ったの!? よ、四人が……!?」

 

「は、はい……最近部活に行かなくなった理由を小猫ちゃんやアーシアちゃんにクラスの女子が聞いた所、木場と合わせてそんな回答が……」

 

「そんな……く、あの子達は……!!」

 

 

 だが嘘にしてはあまりにも男子生徒の話がリアルだったので、リアスはヘナヘナと力が抜けてその場にへたり込みそうになるのを朱乃に支えられる。

 その朱乃も、ソーナも椿姫も憤慨した表情なのは云うまでもない。

 

 

「転校した匙達についてもですか?」

 

「は、はい……聞いた時は確かに一斉に転校するなんて変だし、話を聞いてみたら兵藤ならやりかねないかなって……」

 

「丸々信じたと?」

 

「は、はい……」

 

「………」

 

「ひ、ひぃひぃ……!」

 

 

 男子生徒の罰の悪そうな表情での告白に、一誠は掴んでいたその手を離す。

 

 

「どけ」

 

『!?』

 

 

 そしてただ静かに目の前の有象無象に向かって退けと告げ、モーゼの十戒の如く開いた道を無言で抜けていく一誠と、それに続く四人に対し最早誰もが口を開くことも出来ずに居た。

 

 

「最低……」

 

「失望しました」

 

「一生放っておいてください」

 

「二度と騒がないで」

 

 

 何よりも、その四人に心底失望された表情をされた事が自称ファン達の心をバキバキに砕いたのは云うまでもなかった。

 

 

 

 

 さて、そんな空気を残してやっとか正門を出た一誠は、暫く何て声を掛ければ良いのかわからない様子の四人を背にテクテクと歩いて学園から離れていってたのだが……。

 

 

「……………四人とも犬耳コスプレして俺に傅けぇぇ!!!!」

 

「「「「!?」」」」

 

 

 急に振り向いたかと思えば、閑静な住宅街のど真ん中で急に、どこぞのグラサンハンドパワーマジシャンよろしくに念を打ち出すポーズをしながら、びっくりする四人に向かってそんな事を言い出した。

 

 

「………………どう?」

 

「はい?」

 

 

 何が? 四人の気持ちは只今完全に一つだった。

 

 

「念が足りないのか? よし……『犬耳と尻尾つけたコスプレしながら俺に傅けぇぇぃ!!!』―――――ほら、どうだ?」

 

「いやあの……だから何なのよ?」

 

 

 さっきまでの怒気は何だったのかとすら思える、どこか期待するような眼差しをしながら、四人に向かって何かを確認してくる一誠に、朱乃もこれにはキョトンとしてしまう。

 

 すると一誠は、四人に向かってハンドパワーポーズをしたまんま、こんな事を言った。

 

 

「いやほら、洗脳してるって言われたからよ。もしかして本当にそんな力が俺にあんのかなぁ……と思って、もしあったら折角だから有効活用しようかと思ったんだけど……むむむ、どうよ? 犬耳と尻尾のコスプレして俺に傅く気分とかになった?」

 

「「「「…………えぇ?」」」」

 

 

 何とこの馬鹿。朱乃についてはマジで切れてたのだが、洗脳という指摘を本気で真に受けたのか、それを目の前の四人に対して実行しようとしていたのだ。

 しかも中々過激な内容のという……。

 

 これには要らん心配をさせられたという気分で四人もあきれてしまう他無く、あるわけもない洗脳能力を信じて……若干ゲヘゲヘと涎なんて垂らして夢想している一誠にため息しか出ない。

 

 

「いや洗脳なんてあるわけ無いでしょう? 元々私達は別に洗脳なんてされてないんだから……」

 

「まさか本気で信じてたの? しかも悪用しようとしてるし……」

 

「さっきまでの気持ちをちょっと返して欲しいのだけど……」

 

「………」

 

 

 犬耳つけて傅く気分に今なる訳がないと呆れるソーナ、リアス、椿姫の態度に、やっぱり無いと分かった一誠はハンドパワーポーズを止めてあからさまに肩を落とす。

 

 

「チッ、愚民共に言われてちょっとは信じたんだけどなぁ……くそぅ、成功したら俺の天下だったのに……!」

 

 かなり本気で悔しがってる一誠。

 しかし……。

 

 

「わん! わん!!」

 

「なにぃ!?」

 

「「「嘘ぉ!?」」」

 

 

 急に、急にの事だった。

 無いと分かって残念がっていた一誠に向かって、急に朱乃が物凄い笑顔で飛び付いたと思ったら、わんわん言いながら一誠の頬に頬被りし始めたのだ。

 

 

「犬耳も尻尾も無いけど、一誠くんに洗脳されちゃったせいでわんって言っちゃう……わん!」

 

「おおっ!? せ、成功したのかこれ!? 朱乃ねーちゃんだけってのが実に残念――いでででで!!!??」

 

「酷いわん。他の女にばっかり構う一誠くんなんか食べちゃうわん……!」

 

「いでででで!!!?? お、おい!? やっぱ洗脳なんてされてねーだろ!? これわざと……あ、あぁん!? ちょっと待て!? ど、どこに手ェ突っ込んで……いひぃ!?」

 

「えへ、一誠くん……しゅきぃ……♪」

 

「只の素のねーちゃんじゃねーか!! 離れろ! つーかベルトを緩めようと……あっ、そ、そこやめて……!」

 

 

 

 

「………………。見せられてる私はどんな気分になれば良いのかしら?」

 

「わからないわよそんなの……さっきから胸の中がモヤモヤしてるし……」

 

「はぁ……姫島さんに一本取られましたね」

 

 

 兵藤一誠。

 ある意味、朱乃にのみ洗脳が効く説。

 

 

「ま、マジでやめて……ね、ねーちゃんのが当たるしねーちゃんの匂いが……がぅ……」

 

「ならお嫁さんにしてくれる?」

 

「そ、それはちょっと……あふぅ!?」

 

「してくれる?」

 

「いやだから……ひむ!?」

 

「して、くれないと……やらぁ……!」

 

「な、なんで素になんだよ!? やめろよ、罪悪感で死ぬぅぅぅっ!」

 

 

 大いにありえる。

 

 

おわり




補足

うん、本人がそれで幸せなら良いんじゃない? 死ねば良いと思うけど。


ちなみにですが、リアスさんもソーナさんも別に恋愛観情は無いです。



その2
一誠くんの洗脳術。

彼に掛かればコスプレプレイもできるし、犬主従プレイも可能だぜ!

ただし有効な相手は朱乃ねーちゃんだけで、いつの間にか主従関係が逆転してしまうけどな!


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授業参観日のあれこれ ※追加エピソード

です。

今回で前回の見栄がバレてさぁ大変だ。


……………追加エピソード挿入。


 そういえばな話、願いを叶えて対価を得るという仕事を何度かした事がある。

 

 しかしながら、やはりというか何というか……当初会長さんに言われた通り俺には向いてない仕事だった。

 

 

「姫島さんと一日デートを――」

 

「あぁ、今日は急に人間の首を捩り切りてぇなオイ」

 

「……………。て、テスト対策がしたい、です……」

 

「はいよろこんでー」

 

 

 悪魔に願いを頼る時点でどうせ碌でも無いとは思ってたが、どいつもコイツも願いというよりは女悪魔を呼んでゲスな願いを叶えたがる馬鹿しかいやしねぇ。

 俺が来ると知れば露骨に嫌な顔はするし、願いを聞けば俺にじゃなく朱乃ねーちゃんやらグレモリー先輩やらに向けた願い事ばかり。

 

 

「い、一回で良いから姫島さんで脱童貞を……」

 

「あぁ、呼んできたぜ……姫島さんをな」

 

「姫島高和だ。趣味はハッテン場巡り。

座右の銘は『ノンケだろうと構わず食っちまうぜ』だ」

 

「ちょ、違う!? 俺はこんな奴じゃなくて姫島朱――」

 

「だから呼んだだろ姫島さんを?

おら良かったな、これで心置きなく脱童貞できるぜ? じゃ姫島さん、後はよろしく」

 

「任せろ、女なんて要らない事をじっくり教えてやるさ……」

 

「ま、待ておい!? 違う!? 俺は……くそ、近寄る――」

 

 

 な、アーッ!!

 

 

 そういう奴には言われた通りの奴を連れてきて、言われた通りにして適当に終わらすに限る。

 性別が違うのなんて、俺は聞いてなんかないからな……故に俺は悪くない。

 

 

 

 とまぁ、こんな具合にそつなく悪魔とやらの仕事をやってる次第なのだが、事の始まりは授業参観当日の日だった。

 

 親なんて存在してないと既に思ってる俺は、朱璃さんに見に来てもらったその瞬間、全力で口説きたくなったりもした訳なんだけど、それをしたら間違いなくバラキエルのおっさんにぶち殺されるので、必死になって我慢しながら父兄が見てる前で英語なのに何故か紙粘土細工をさせられたりとかした訳なんだけど……。

 

 

「一誠……あの……」

 

 

 もはや名前すら頭の中で浮かべるのすら嫌になってきた存在、兵藤凛があの日以降俺を避けてくれてた筈なのに、今日になって俺の前に現れやがった。

 

 

「ほらお父さん、お母さん……一誠だよ」

 

「「………」」

 

「………」

 

 

 わざわざ話を拗れさせにな。

 

 

「お前か……町で大層な事をしてるとは聞いていたけど、本当にまだ学校に通えてたんだな」

 

「確か姫島さん……だったかしら? 上がり込んでご迷惑を掛けっぱなしらしいじゃない?」

 

「…………」

 

 

 どんな顔かすらも記憶から弾いていた、何年か振りに見た気がする実の親……いや、遺伝子提供者とでもいうべきか? まあ、とにかく遺伝子上では血縁関係のあるこの中年夫婦は、俺を見るなり予想通りの嫌悪丸出しの顔をしていきなりの御挨拶をしてくれた。

 

 

「…………」

 

 

 さて困ったな。

 俺はこの遺伝子提供者に対して何を言えば良いんだ? 確か最後の会話は揃って――

 

 

『お前はウチの子じゃない、だから頼むから消えてくれ』

 

『凛と違ってどうしてお前は薄気味悪い子供なのかしら、あぁ、気持ち悪い』

 

 

 なんて俺に言ってそのまま追い出されたんだよな。

 まあ、その時は既になじみや、朱乃ねーちゃんと出会ってたから、別に困る事も無かった訳だけど、この兵藤凛ってのはマジで余計な真似しかしやしないもんだ。

 

 まさかこの目の前の大人と話し合ってでもして和解しろとほざきたいのか? だとしたら俺は更に貴女に対する評価を変えなきゃならんよ? 糞薄情役立たずにプラスαして無能ってな。

 

 

「聞いてるのか? 返事も出来ないのかお前は……」

 

「凛やアーシアちゃん達から聞いたわ。皆が仲良くやってきた部活の部長さんに何か言ってバラバラにしたんだって」

 

「!? お母さん! それは違うって何回も――」

 

「そうですけど、それが何か?」

 

「っ!? い、一誠……?」

 

 

 やっぱり何もネタが無い……と思ったけどわざわざ向こうからネタの提供をしてくれて割りと助かったよ。

 くく、この分じゃ奴等の中でも俺はどんなクズ野郎なんだか……ま、クズなのは否定せんがね。

 

 

「そうか、昔から薄気味悪い子供だと思っていたが、そこまで陰険になっていたのか」

 

「やっぱりアナタは私達の子供じゃないわ。そうでしょう?」

 

「当たり前ですね兵藤さん。

くく、兵藤なんて苗字は日本探しゃ何処にでも存在するでしょうし、俺達は偶々名字が一緒だっただけ……ですからね?」

 

「そ、そんな……どうしてこうなるの……?」

 

 

 しかしクズだろうが、無能のカスよりはマシだという自負だけはある。

 散々ひっかき回した挙げ句、グレモリー先輩を完璧に裏切る様な馬鹿共にしちまったそこのカスに比べたら、まだ俺のクズっぷりの方がかわいいくらいだぜ。

 

 

「あら、ここに居たのね一誠くん?」

 

「探しちゃったわよ……まったく」

 

「んぁ、朱璃さんに朱乃ねーちゃん?」

 

 

 そんなクズを否定しない、生きる糧になってくれる人達もちゃんと居る。

 だから俺は、罵られようがそれでも生きてやれるのさ。

 

 

「お久しぶりですね姫島さん……」

 

「これはこれは兵藤さん。一誠くんの件以来でしたわねぇ」

 

「ええ……あの時はお世話になりまして」

 

「いえいえ、もうこの子はウチの子ですから……ふふふ」

 

 

 ふ、流石朱璃さんよ。

 遺伝子提供者の嫌悪な目も余裕でスルーのニコニコ顔だぜ。

 

 

「ではこの辺で……」

 

「それじゃあね兵藤さん。ほら行こ一誠くん」

 

「はーい!」

 

「「「…………」」」

 

 

 まったく、風紀委員としてもアレ等は助けたくねーな。

 

 

 

 時は昼休みの時刻。

 普段だけでも生徒によって騒がしくなる学園内だが、今日は父兄も加わり余計に騒がしかった。

 

 

「まさか今日この場で遺伝子提供者に会うとは思わなかったなー……」

 

「どうしてあんな事に?」

 

「あぁ、兵藤凛が急に二人を引っ提げて登場したんだよ俺の前にな。

で、見るなり薄気味悪いって言われちまったぜ」

 

「……………。悪い意味で全然変わらないわね、あの方々は。

一誠くんを引き取る話をした時も、何の遠慮も無く『薄気味悪いから早く引き取れ』って言ってたのを思い出しちゃったわ」

 

 

 お昼ご飯は父兄と共にという決まりというか流れになったので、一誠の実親――じゃなくて朱璃と朱乃の共にご飯を食べる為に人避けの仕掛けを施しておいてやった屋上へと来て、三人でパクパクと食べていたのだが、やはり会話の内容はネガティブ気味になってしまう。

 

 しかし一誠としてはあんな連中の話なんか何時までもしたって仕方ないと考えており、気を取り直すという意味で内容をソフトに逸らそうと、今目の前に居る母と娘に足りないもう一人について話をし始めた。

 

 

「んな事より、授業参観だからてっきりバラキエルのおっさんが来ると思ってたんだけど……」

 

「………」

 

 

 遺伝子提供者よりも朱璃やバラキエルの方が寧ろ親に感じる一誠だからこそ、普段は朱璃に対してアレな事ばっかり言ってるのと同時に、朱乃とバラキエルの未だ拗れてる関係をどうにかしたいとチョロチョロ動いてたりする。

 だがそんな一誠のコソコソした動きとは裏腹に、バラキエルの名前を出した瞬間、昼飯を食べていた朱乃の端の動きがピタリと止まる。

 

 

「今日はお仕事で来られないって残念がってたわ」

 

「あ、そうなんすか?」

 

「言ったんだお母さん……あの人に授業参観の事」

 

 

 朱璃から伝えられては居たらしく、一応は知ってるらしいのだが生憎の仕事で来られないと知った一誠は内心『嘘だなあのヘタレおっさんめ……』と毒づきつつ朱璃に対して理解のあるように頷いておく。

 だがその横で、朱乃が露骨に嫌そうな顔をして朱璃を睨み、授業参観の日を教えた事について責めている。

 

 

「別に良いじゃない、アナタのお父さんなんだから」

 

「あんな人……!」

 

 

 しかしそこは流石の朱璃。

 そんな娘の怒りにも飄々と対応して父親だからと言うものの、朱乃の表情は嫌悪に歪んでいる。

 

 

「そこまで嫌う要素が俺にはわからねぇな。

つーかこの前も会ったしな」

 

「!? また会ったんだ……」

 

「おう、二重の弱体化でちょっと笑われちまったっけ?」

 

「……理由も知らないのに」

 

「いや知ってる知ってる。つーか寧ろ笑えよと言ったのは俺だしね」

 

 

 不穏なオーラを出す朱乃を見て、すかさず一誠がフォローをいれる。

 あの日……馬鹿な堕天使が一度朱璃と幼い朱乃を殺したあの日以降完全に拗れてしまった父と娘の関係。

 

 その前までは実に仲良くやってたのに、たった一度の……くだらない理由でひっかき回した馬鹿共のせいで拗れてしまったこの関係。

 

 全ての現実を逃避させる事で母と娘の命は殺されなかった事にして何とかなったものの、あの時抱いた憎悪と尋常では無い殺意が……

 

 

 げげげ、これで儂としての個が完全に確立された。

 

 無意識に宿った言彦を復活させた。

 

 全てはあの日に起きてしまった事。

 そしてあの日を境にバラキエルは己を責め、自分の流れる半分の血を含めた堕天使血を嫌悪する様になった娘に対して何も言えず避けてしまった。

 

 

「……。私の事は何も言ってないの?」

 

「普通に朱璃さん共々心配してたぜ? スケベ小僧に育っちまった俺に牽制しまくりよ」

 

「………。大きなお世話よ、何もしなかった癖に……」

 

「そういう事を言ってる訳じゃ…………あ、すいません朱璃さん、フォローの方ミスっちまった」

 

「良いのよ、あの人もあの人で度胸が無いから何時までもこうなってるのだしね」

 

 

 朱璃と一誠がフォローし続けたお陰で嫌悪通り越した憎悪とまではいかないものの、朱乃のこの態度とバラキエルのヘタレ具合を見る限りじゃあ、まだまだ先の事になりそうだ。

 

 普段はチャランポランな一誠もこの時ばかりは真面目に大きなため息を吐きながら、雲も何も無い空を見上げるのであった。

 

 

 

 何をしても全て上手くいかない。

 凛は最早八方塞がりに近い状況へと追い込まれていた。

 

 

「…………」

 

「聞きましたよ凛先輩。

ご両親をあの人と会わせたみたいですね?」

 

「う、うん……」

 

「その様子だと失敗したのかい?」

 

「そうなるかな……」

 

「弟さんが何かまた?」

 

「そうじゃないけど……」

 

 

 一誠は既にもう他人に近いものへと昇華している。

 その現実が絶望を凛に与える訳だが、周囲の人達の反応は寧ろその方が望ましいといった反応ばかりだ。

 親然り、小猫達然り……。

 

 

「あ……」

 

「どうしたんだい兵藤さん……むっ」

 

「あれは、リアス元部長と朱乃先輩と……兵藤一誠さんですね」

 

「誰かとお話してるみたいですけど……誰なんでしょうか?」

 

 

 そんな凛達はご飯を一緒に……というかもうあの日以降ずっとくっついて行動している訳で、今日もまた残りの昼休みを4人で行動し、なるべくリアス達と鉢合わせしないようにと凛が動いていた時だった。

 

 

「や、やぁ……その、話は娘から聞いたよ」

 

「抜けた眷属の穴埋めをソーナちゃんの共々アナタがして頂いてるみたいで……」

 

「あ? ………………すいません、どなたですか?」

 

「「!?」」

 

「わ、私の両親よ……! ほ、ほらイッセーが冥界に乗り込んで来た時に………」

 

「あぁ、はいはい……思い出した思い出した。

ハッ、てっきりテメーの娘が眷属失ったのを恥と感じて文句でも言いに来たかと思ったけど、その様子だとちと違うってか?」

 

「……」

 

「………」

 

 

 

「あの人達、リアス元部長の両親ですよ……」

 

「何で兵藤君なんかに低姿勢なんだろね……」

 

「まさかまた何かしたとか……」

 

「………」

 

 

 リアスの両親相手にかなり横柄な態度で話してる一誠に、もう無関係な筈の三人が眉をつり上げてるのを凛は小さくため息を吐きながらも黙って覗き見ていると、リアスの両親の背後から別の二人組が現れた。

 

 

「その辺で勘弁して貰えないかな一誠くん。

父と母も色々あれから考え直してるつもりなんだからさ」

 

「お、お兄様!?」

 

「チッ、出やがったな魔王……とそのメイドめ」

 

「暫く振りですねリアスお嬢様、それにイッセー様」

 

 

 リアスの兄夫婦の出現に、リアスは狼狽え、一誠は物凄く露骨に嫌な顔をする。

 転生悪魔に無理矢理なった今でも、どうやら一誠に頭を垂れるという習性は無いらしい。

 

 

「なるほどね、確かに今のキミの中には二人の悪魔の力が宿った駒が何個も入ってるね。

けど、皮肉にもそのせいで今のキミは大分力を落としてる様だ」

 

「だから何すか? 悪魔の大群でも送って俺を殺すのかい?」

 

「それこそまさかだよ。

いくら弱体化したと言ったって、それでもキミは並の悪魔を蹴散らせる程の力が残ってるし、何よりキミの持つ『アレ』がある以上、キミはまたそこから成長を続けるんだ。

一部の馬鹿でも無い限りそんな真似はしないさ……ふふん」

 

「チッ、余裕こきやがって。銀髪ボインのメイド侍らして嫌味のつもりかい……クソッタレが」

 

「はは、本当に彼女の言った通り、僕って相当キミに嫌われてるみたいだ。

まあ、身に覚えがある以上、僕としては許して欲しいものだけどね」

 

「…………。グレモリー先輩の元婚約者ってのはどうなったんすか?」

 

「ライザー・フェニックス様なら、あの式の日に映像として残したアナタ様の力を見せた瞬間、完全に引っ込んでしまいましたわ」

 

「僕が『花嫁を守れる男じゃないとリアスとの結婚は少し考え直さないといけないかなー……?』って言っておいたからね。

今のキミだろうと彼程度じゃ無理だよ」

 

「だ、そうだ。良かったなグレモリー先輩。元婚約者は逃げ腰でアンタを奪いには来ないらしいぜ? この魔王が言った事が本当ならな」

 

「う、うん……」

 

 

 

「態度が大きいですねあの人……」

 

「一応、本当に元部長の婚約話は壊したんだね」

 

「でもどうやってなんでしょうか?」

 

「………」

 

 

 原作とは違って気性がかなり荒いせいか、一誠はある意味で自立した精神を確立している。

 しかしそれでもその精神が敵を多く作ってしまうのもまた事実なのか、凛から見たリアスの両親が一誠を見るその目は、腫れ物を見るようなソレに思えてしまう。

 そう、一誠の両親と同じ様な……化け物を見るような。

 

 

 

 

 

 

「そんな事より、グレモリー先輩を呆気なく見捨ててテメー等だけで生きてる役立たずの能無し共についてはどうなるんですか?」

 

「え? あぁ……まあ、リアスから聞いてはいるけど、何というかわざわざ安心院さんの手を煩わせた感じみたいなんだけど、リアスがもうそっとしてやりたいと言ってるから僕も父も母も逢えて黙ってるつもりだよ。ね?」

 

「正直文句は言ってやりたい気はするが、もうリアスの眷属では無いのでな……」

 

「それにアナタが代わりに勤めてくれるのであれば私はもう……」

 

「だ、そうだぜ? 良かったじゃん、くだらねぇ説教も無さそうだぜ先輩?」

 

「お父様、お母様……」

 

「うむ、話の内容からしてお前は寧ろを割りを食わされただけだからな……仕方なかろう」

 

「それにしても、何て薄情な者達だったのでしょう。

今もこの学校に通ってるのですよね?」

 

「え、えぇ……ですが、こればかりは私の器があまりにも足りずに居たから招いた結果ですので、彼等はそっとしておいてあげて欲しいのです」

 

 

 凛達に見られてる……てのは既に勘づいていたりする一誠達の話も終わり、びくつくリアスの両親に対して軽く舌打ちをしてから別れた一誠。

 妙に態度が悪い訳だが、その理由は単純にリアスとソーナ以外の悪魔を基本的に信用してないからだ。

 

 サーゼクスとグレイフィアに関しても、なじみと同じ存在であることだけは納得してるが、悪魔としてはまるで信じてないという持論を持ってるので、態度もそれなりに最低なものだった。

 

 

「アンタの両親、俺が無理矢理アンタの眷属になったのが嫌みたいだな」

 

「…………そうみたいね」

 

 

 敢えて朱乃と朱璃を二人きりにさせ、自分の元へとフラフラやって来た一誠が両親的には受けが無かった。

 先程の会話からそれを見抜いたリアスは落胆を隠せずに、一誠の言葉にコクンと頷く。

 

 

「まあ、あくまで俺は代行だしね。

その内ちゃんと見つかりゃあ、俺が眷属であることも無くなるからそれまでは精々我慢して頂くしか無いっすね」

 

「あ……そうね……代行だものね」

 

 

 加えて一誠はあくまでも代理だと主張している。

 故にリアスの気分は微妙に晴れないでいた。

 

 

「今度は薄情じゃない奴を仲間に出来ると良いっすねー?」

 

「ええ……」

 

 

 薄情じゃなくて、裏切らない眷属に相応しいのなら、今自分の目の前に居る気がするのだけど……。

 何気に二人っきり状態で校内を風紀委員の仕事である巡回ついでにフラフラしている一誠の横に付き従いながら思うリアス。

 

 正直、人数不足なのは否めないかもしれないけど、戦力とか裏切りらないとかを考えたら、一誠がこのまま眷属のままで居てくれた方がリアス的には――いや今この場に居ないソーナからしても安心だったりする。

 

 そりゃあ口も悪いし、さっきみたいに両親や兄達に対しての態度も褒められるものじゃないのは分かってる。

 

 だけど裏切らないという点に措いては、朱乃や椿姫を見れば分かる通りに絶対的な信頼を寄せられる。

 

 安心院なじみの『一度でも一誠に情を持たれたら、多分死ぬまでその相手に対して献身的になる』……その言葉通りに……。

 

 

「そろそろ朱乃ねーちゃんと合流します?」

 

「ええ、そうした方が良いかも……あら?」

 

 

 そんなリアスの密かなる考えを知らない一誠はといえば、そろそろ朱乃と朱璃と合流しないかとリアスに提案しており、リアスも反対する理由も無いのでそれに応じて二人の元へと進路を向けて歩き始めたその時だった。

 

 

 わーわー きゃーきゃー

 

 

「何かしら? 向こうで人だかりが……」

 

「んぁ? あれ、本当っすね」

 

 

 ちょうど中庭を通って行こうとした時にリアスが見つけた人だかりに一誠も目を細めてみると、何やらわーわーきゃーきゃーと男子がかなり騒いでいる様に見える。

 

 

「チッ、愚民共が、余計な仕事をくれたみたいだな」

 

 

 昼休みだからというのもあって一瞬見逃そうとした一誠だったが、先々代の『群れた草食動物』という口癖を何となく思い出してしまったので、かなり面倒だと思ったものの、騒ぎ方が普段の数倍五月蝿かったのと、父兄参観の日なのに落ち着きくらい持てよという個人的感情で、風紀委員として仕事をするに決意し、ぴょこぴょこと付いてくるリアスと共に、中庭のど真ん中に群がる男子だらけの集団へと近づいていく。

 

 

「おい」

 

「うぉぉぉっ!!」

 

「おーい」

 

「ひゃはー!!」

 

「……………」

 

 

 そして風紀委員が来たぞーとソフト気味に声を掛けてみるが、全員して人だかりの先にある何かを前に全然気づいちゃいない。

 だから仕方なく……

 

 

「ぐべぇ!?」

 

『!?』

 

 

 手頃な男子生徒の後頭部をがっしりと片手で掴み、そのままグイッと軽々と持ち上げてやる。

 当然いきなりの事と、頭を万力で潰される様な激痛にその男子は悲鳴をあげ、その声を耳にした近くの男子達もまた、つるし上げにされている男子と、それを行うこの学園の男子の大敵である風紀委員長の姿に一気にお祭りムードが消し飛ばされてしまった。

 

 

「が、がが……!?」

 

「ひょ、兵藤……」

 

 

 ジタバタと苦しみにもがく男子生徒が白目を剥き、段々ともがく力を失ってダラーンとし始める姿に戦慄した他の生徒達が、無表情でそれを執行している風紀委員長を見て一気に恐怖に駆られる。

 後ろにリアスが居て、状況からして二人きりで居たと容易に予想できたのだが、既に先日の一誠のヤバさが広まってしまっているせいか、誰もその事に文句をつける輩が居ない。

 

 

「か……かか……」

 

「い、イッセー……離してあげないと死んじゃうから」

 

「あ、そっすね」

 

 

 幸いそのリアスのお陰で、ミシミシと嫌な音を頭から奏でてつるし上げにされていた男子生徒は泡を吹きながらそのまま解放されて崩れ落ちるだけに留まったが、片手で成人に近づいている男性を持ち上げてこんな状況を作り上げた一誠の異常さに恐怖心が襲って声が出ない。

 

 

「何の騒ぎ?」

 

「っ!? ……い、いや……」

 

 

 先代のモンスターロリと呼ばれた風紀委員長の地獄の扱きに完全に耐えきり、見事後継者になった男・兵藤一誠のこういった側面に対して今更になって怖がる様になってしまった男子達は、一誠の静かな問いに言葉を詰まらせてしまう。

 

 

「んー? どうしたのかな皆~☆」

 

 

 が、そんな中を実にキャピキャピした声が響き渡り、男子生徒達は一瞬にしてハッとなる。

 

 

「こ、この声ってまさか……」

 

 

 そしてリアスも今の声に聞き覚えがあったのか、顔をひきつらせ始める。

 

 

「?」

 

 

 だが一誠は声に覚えが無く、女の声? と帰来の女に対するだらしなさも手伝ってか、ちょっとばかしの興味本意で男子共の山を掻き分けてみると、そこに居たのは……。

 

 

「んー? キミは誰かな? サインから順番にするからちゃんと並ぶんだよ?☆」

「……………………」

 

 

 THEが付くほどのコテコテというか、寧ろきわどいというべきか。

 男子共が喚くに納得できる衣装を着た黒髪の女性がそこには居た。

 

 

「…………だれ?」

 

 

 これがコスプレ会場なら多分一誠もヒャッハーしていたかもしれない。

 しかしここは学校であり、ましてや本日は父兄参観日である。

 にも関わらず、まるでどっかのアニメにでも出てきそうなコスプレに身を包んだ女が、きっちりキャラまで守ってちゃんと並べとまで言ってきたのだ。

 

 

「あー! リアスちゃんみーっけ☆」

 

「は?」

 

「お、お久しぶりです……セラフォルー様」

 

 

 リアスがひきつった表情でその畏まり口調で挨拶しなければ、この女が悪魔である事なんて正直見抜きたくもなかった。と、一誠にしては珍しく割りとまともな感性を抱いていたのだという。

 

 

「………おい、愚民共。取敢えず今すぐ散れ。そうしたら見逃してやる」

 

『!』

 

 

 それを聞いた一誠はすかさず一般人である男子生徒達に散れと命じる。

 若干威圧感が増した状態だったので、さしものハングリー精神が無駄に旺盛な男子達も蟻の様に散ったのだが、誰も聞いてたり盗見見てない事を確認するや否や、一誠はリアスの後ろに回って耳打ちをする。

 

 

「誰っすかこの人?」

 

「えっと、四大魔王のお一人、セラフォルー・レヴィアタン様よ」

 

「はぁ!?」

 

 

 誰だ、質問する一誠にリアスがちょっとだけ言いにくそうに魔王の一人と答える。

 すると一誠にとっても意外だったのか、かなりオーバーに驚きの声が出てしまった。

 

 

「ま、魔王? アンタの兄貴と一緒の?」

 

「え、えぇ……嘘じゃないわ」

 

 

 マジかよ。一誠は素直に目の前でめちゃくちゃきわどい格好の女を見て、悪魔という種族がますますわからなくなった。

 何せコスプレにしか思えない女が魔王なのだ……正直これを魔王と認める悪魔の価値観がよくわからんのだ。

 

「む、むむむー? あれれ? リアスちゃんの傍に居るキミってもしかしてイッセーって子?」

 

「!? ……何で知ってる……んですか?」

 

 

 そんな一誠の懐疑的な視線を知ってか知らずか、セラフォルーという女魔王は一誠の姿を目にするや、思い出したかの様に訪ねてきた。

 これには一誠も、例え女だったとしても警戒心を先にセラフォルーなる魔王を睨み返す。

 

 

「冥界じゃあ寧ろ有名だよキミは? 何せサーゼクスちゃんに喧嘩を売って、そのままリアスちゃんを浚うし、何より――」

 

 

 一誠の態度に気を悪くする様子も無く、質問に答えようとするセラフォルーなる魔王。

 だが最後を待たずしてその言葉は別の所からやって来た少女の声に上書きされてしまう。

 

 

「騒ぎを聞いて来てみれば……な、何でアナタが此処に……!?」

 

 

 そう、眼鏡の少女……ソーナによってだ。

 

 

「あ、会長さんに椿姫ちゃ――」

 

 

 別の主の出現に一誠が反応し、声を掛けようとしたその時だった。

 

 

「ソーナちゃんみーっけ!!!」

 

 

 それよりも早く、セラフォルーなる魔王が一誠を押し退ける勢いで飛び出し、ソーナに向かって飛び掛かったのだ。

 

 

「!?」

 

 

 その勢いたるや、リアスの時は雲泥の差であり、さしもの一誠も若干身体を硬直させる程であった。

 

 

「いたい!?」

 

 

 そしてセラフォルーなる魔王がソーナへと飛びかかった訳だが、間一髪の所でソーナがひょいと身をかわしたせいで、セラフォルーなる魔王は思いきり前のめりに地面へと激突してしまう。

 

 

「いったぁい……な、何で避けるのさソーナちゃーん?」

 

「寧ろいきなり飛びかかられて避けない方が変ですわ……」

 

「あ? あ??」

 

 

 擦りむいた鼻を擦りながら涙目になるセラフォルーなる魔王に、ソーナが心底嫌そうに答えるを見て一誠は関係性が不明すぎて困惑してしまう。

 

 

「くすん、お姉ちゃんは悲しいよソーたん」

 

「その呼び方は恥ずかしいのでやめてください……お姉様」

 

 

 だが、二人が互いに口にした言葉でその関係性は直ぐに明らかになり、一誠は正直にただただ驚いた。

 

 

「姉? え、アレが会長さんの前に言ってた姉?」

 

「え、えぇ……セラフォルー・レヴィアタン様。ソーナの実姉よ」

 

「はー……」

 

 

 恥ずかしそうな表情で姉を責め立てるソーナと、それを受けても軽くスルーしてソーナにベタベタしようとするセラフォルーなる魔王を見比べると、確かに姉妹の面影が無きにしもあらずな気はすると一誠は暫く見つめていたのだが……。

 

 

「あ? おいちょっと待て」

 

「「へ?」」

 

 

 一誠は気づき、前にソーナから姉の存在についてを聞いた事を思い出し、セラフォルーとソーナ両方に声を掛けて言い争いに聞こえてそうでない会話に水を刺し始める。

 

 

「一誠?」

 

「どうしたのかな?」

 

 急に呼び止められた姉妹も、目を鋭くさせる一誠に首を傾げる中、一誠は言った。

 

 

「ちょっとそこに並んで」

 

「え? それは何で――」

 

「良いから黙って並べ」

 

「は、はい……」

 

 

 有無も言わさない、魔王ですら従ってしまうほどの迫力で二人を目の前に並ばせる一誠にリアスも何事かとその行動を見ているだけしかできない。

 

 

「………」

 

「あのー……なんなの?」

 

「何かしました……?」

 

 

 ソーナは忘れてしまっているが、一誠はちゃんと覚えていた。

 

『姉は私より胸は無い』

 

 という言葉を。

 

 だが実際どうだ? 変な格好はしてるものの、その胸はきちんと谷間もあるしたわわに実っている姉……。

 

 

「……………」

 

「え、あの……」

 

 

 眼球スカウターで測定をするまでも無い程の差を確定させた一誠は、静かに……そして妙に優しげな顔でソーナの目の前まで近寄る。

 

 ソーナもソーナで何を勘違いしたのか、どぎまぎした顔で動揺するのだが……。

 

 

「はへ?」

 

「おい、無いって言ったよなアンタ? 嘘じゃねーか? あ?」

 

「はひ?」

 

 

 一誠はソーナの両頬を軽く摘まみ、言葉が上手く出せないソーナに向かってこの前の話について出すと。

 

 

「アンタのねーちゃんボインじゃねーかゴラ! なぁにが『私より胸は無い』だ! しっかりちゃんとあるじゃねーか! アンタと違ってなぁ!!」

 

「いひゃい!?!?」

 

「ソ、ソーナちゃん!?」

 

「怒る理由がそこなの!?」

 

 

 思いきり……けれど傷にならない程度の加減で涙目になるソーナの両頬をつねりながら激怒し始めた。

 

 

「ふざけんなよ! 確かにぶっちゃけこんなのは俺のタイプじゃねーけど、おっぱいの有無の嘘だけはつかれたくなかったぜ!」

 

「ひゃめてぇ!」

 

 

 その激昂たるや、相当なものであり、リアスやセラフォルーが本気になって止めるまでソーナの両頬は蹂躙されまくった。

 

 

「チッ、直ぐバレるようなしょうもねー嘘かましやがって」

 

 

 止められる事で漸く解放した一誠だが、正直その言葉はブーメランである。

 だがそれについて突っ込む者は居らず、つねられてる途中で遂には泣いてしまったソーナが泣きながら自分の主張をし始める。

 

 

「ら、らって……私よりあるって言ったら、ますます扱いが雑になると思ったからぁ……!」

 

「知らねーよ! 元々誰に対しても俺は雑だっつーの!」

 

 

 ソーナらしからぬ舌足らずな声に、セラフォルーがハァハァし始めてるのを横に、一誠の態度は厳しい。

 

 

「がっかりだぜアンタにゃあ……ふん、後は勝手にしろ」

 

「!?」

 

 

 これが朱乃であれば五秒もしないで逆に謝り倒すが、ソーナが相手なのか一誠の対応は依然として厳しいままであり、遂にはお前なんか知らんとその場をプンスカしながら去ろうと背を向け始めた。

 

 それを見るや否や、ソーナは今までの性格も何もかもを捨て、必死になって一誠に飛び付いた。

 

 

「ごめんなさいぃ……! 嘘ついてごめんなしゃいぃぃ……! 見捨てちゃやらぁ……!!」

 

「うるせー! しがみ付くんじゃねーっ!」

 

 

 一誠の腰辺りに後ろから思いきりしがみつき、まるで幼子の様にすがり付くソーナの姿たるや、お前は一体一誠に何をされたんだ? と聞いてみたくなる程の取り乱しっぷりだ。

 

 

「チッ……しつこい奴だ。わかったよ、別に見捨てるとかしねーから離れてくださいよ。ほら……!」

 

「ほんとうにみすてない?」

 

「はい、見捨てない見捨てない」

 

「ほんと?」

 

「ホントホント」

「ほんとにほんと?」

 

「だから本当だっつってんだろーが……ほら」

 

 

 しかしそこは一誠。どうであれ女の子に泣かれてしまった事に対して段々と変な罪悪感が沸いてしまい、口は悪いものの、何度も何度も涙目で確認してくるソーナに頷きながら許してやるから離れろと促す。

 

 

「えへへ……ありがとう一誠……」

 

「はいはい……って、スリスリすんなよ、犬かアンタは?」

 

「えへへ……」

 

 

 が、どこかズレてるのもまた一誠という男なので、泣きすぎて精神退行したソーナに涙目のまんま笑顔でスリスリと犬みたいに懐かれても、その表情はめちゃくちゃ面倒そうなソレだったとか。

 

 

「ねぇリアスちゃん。あの子ってソーナちゃんに何したの?」

「い、いえ別に特には……ただ、彼なりにソーナに対して気を使っている事は確かといいますか……」

 

「ふーん? 私の目にはソーナちゃんがあの子に調教とかされてる様に見えるんだけどー? というか、ソーナちゃんに懐かれてるのに、何であんなめんどくさそうなのかなー?」

 

「それは……こ、好みじゃないって言ってたからかと……」

「へー? 好みじゃないんだー? それはそれで気に入らないなー?」

 

 

 そんな一誠をセラフォルーはジェラシーを感じたりしたらしいが、本人からしたら良い迷惑であった。

 

 ちなみに……。

 

 

「そうやって、痴女まがいの格好で男を誘いたかったら学校の外でやってください。

それか、デリヘル嬢にでも転職したら良いと思いますよ?」

「う……」

 

「え、あのイッセー? 女性に対しての態度と違くない?」

 

「へ、悪魔の時点でどうでも良いって前に言ったでしょ? アンタとソーナ以外の悪魔なんて、人間がライオンの顔が同じように見えるのと一緒っすよ」

 

 

 セラフォルーは一誠的に『無い』らしい。

 

 少なくとも『今』は。

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

追加エピソード……『思い出す』

 

 

 

 と、まぁセラフォルーなる魔王に一誠はボロクソ言った訳だが……。

 

 

「………………。セラフォルー・レヴィアタン。

セラフォルー……レヴィアタン……?」

 

 

 一誠はふと最近まで色々と忙しくて記憶の隅に追いやっていた秘密の趣味についてが頭の中を過った。

 

 そう、セラフォルー・レヴィアタンという名前でだ。

 

 

「…………………………」

 

「な、なによ?」

 

「いっしぇー……?」

 

 

 いや、まさかんな訳がない。

 あれは所謂特撮系の奴で、こんな本物の悪魔な訳がない。

 あれはあくまで設定であって、本物な訳が……。

 

 一誠は徐々に……そう徐々に徐々に、最近忙しくてチェックを怠っていた秘密のサイトについての記憶を呼び覚まし、ダラダラと途端に汗が止まらなくなった。

 

 

「あ、あのぅ……」

 

 

 いきなり腰の低い態度でセラフォルーに話し掛け出した一誠は、まさかんな訳はねーだろと、現実を思いきり否定したい気分全開で、まだ犬っぽくなってるソーナや、急に態度が急変して戸惑ってるリアスや椿姫を前に、こんな事を目の前の魔王に対して質問した。

 

 

「魔王☆少女レヴィアたんって言葉に聞き覚えとか実はあるとか……無いよな?」

 

「へ?」

 

 

 それは否定してくれと。

 頼むから何ソレ? と言って欲しいといった願望を全開にしての質問であった。

 だって、そうだったとしたら一誠は先程セラフォルーに対してメタクソに暴言を吐いてしまったのだから……。

 

 

「? 何で知ってるの? それって冥界で放映させてるのとは別の、私が自分のサイトにのみ配信してる奴なのに……」

 

「!?」

 

 

 だが現実は、セラフォルーがその魔王少女でしたと。

 偶々ネットサーフィンして発見したシークレットサイトで配信されている自作ドラマの主演のレヴィアたんだったと。

 

 ファンレター送ったらBlu-rayセットと等身大抱き枕と返事をくれた、あのレヴィアたん本人だったと……。

 

 

「あ、あぁ……あわわわわ……!!」

 

「な、なに……!? どうしたの急に?」

 

 

 やっちまった。やってしまった。死んでしまえ。

 最近イライラする種が多すぎて、忙しいのも相まっすっかりチェックするのを怠り続けて忘れてしまった一つの楽しみの元……魔王☆少女レヴィアたんが目の前のモノホンの魔王でしたというオチに、一誠は尋常じゃない痙攣をしながら……。

 

 

「こ、コイツがレヴィアたん……!?」

 

 

 盛大に狼狽え、そして絶望した。

 

 

「え、あ、あの……?」

 

「よ、よく見たらあれは、撲殺ステッキ……! お、おいアンタ、レヴィアたん通信ってサイトに身に覚えはあるか?」

 

「へ? 何で人間界に居るキミがそれを知ってるの? それって何重にもフェイクバナーを踏んでからじゃないと人間界からはアクセスなんて出来ないのに……」

 

 

 そしてセラフォルーもセラフォルーで『レヴィアたん通信』という言葉を受けて、その言葉が気分で作った自サイトの名前であり、何重にもサイトを経由しなければ、人間界でのアクセスはほぼ不可能なのに何故知っているんだろう? と疑問に思いつつ、ふと最近まではかかさずファンレターやらサイトに応援の言葉を書き込んでくれていたとある唯一の人間界からのファンが居たことを思い出した……。

 そう、確かその名前は……

 

 

「まさか、ギルバ?」

 

「!?」

 

 人間界からのアクセスする唯一の存在だからこそ、記憶に根付くその名前を口に出してみた瞬間、一誠は今度こそ本物だと理解してしまう。

 

 

「や、やっぱそうだ……! 本物、だとぉ!?」

 

 

 ドンピシャ大当たり。

 自分が適当に考えたネット上のネームをピタリと言い当てた時点で最早疑いようも無くなってしまった一誠は――

 

 

 

「……」

 

「あーやっぱりそうなんだー☆ 人間界からアクセスしてくれるのってギルバちゃんだけ……というか、冥界でもマイナーだったから、余計に直ぐわかったよー☆ そっか、キミがギルバちゃんだったのかー☆」

「………」

 

 

 セラフォルーも相手が少し前まで更新の度に熱いコメントやらファンレターをくれる相手だと知り、少しだけ態度を改めて両膝を地面に付けて上の空状態の一誠に近寄って肩でも軽く触れようと手を伸ばしたのだが……。

 

 

「あ……」

 

「………」

 

 

 その手は一誠の肩に届くことは無く、叩かれてしまった。他ならぬ一誠によって。

 

 

「嘘だ……」

 

 

 そしてゆっくりと一誠が立ち上がった後、手を叩かれて少し面食らってるセラフォルーに対し……。

 

 

「う、嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ!! アンタみたいなのが、俺の好きなレヴィアたんな訳がない!! 確かに顔とか体型とか衣装のチョイスは思い返せば同じだけど、お前なんか真っ赤な偽物だ!!!」

 

「なっ……!」

 

 

 泣きながら……かなりマジで泣きながら、唖然としてしまうセラフォルーにお前は偽物だと喚きだした。

 まるで夢を大人に壊されてしまい、それを否定したがる子供の様に……。

 

 

「俺の知ってるレヴィアたんは痴女じゃねーもん! 強くて可愛い魔王少女だもん!! オメーみてーな単なるコスプレ女じゃねーもん!!」

 

「なっ……ななっ!? ほ、本物だよ!!」

 

「うるせー!! ファンレターに返事してくれたのも、Blu-rayセットと等身大抱き枕を送ってくれたものテメーじゃなくて魔王少女のレヴィアたんだ!!!ふざけるな! この似非コスプレイヤーめが!!」

 

「し、失礼ね! ギルバって名前を知ってる時点で嘘じゃないくらいわかる――」

 

「うるせーうるせーうるせぇぇぇ!!!! 俺は認めないかんな! 魔王少女レヴィアたんはもっと可愛いんだよ! このコスプレ勘違いブス!!」

 

「ぶっ!?」

 

 

 泣きじゃくりながら、遂にはブスと罵倒し始めた一誠に、流石のセラフォルーもかなり頭にくる。

 

 

「わ、私だってキミがギルバだって認めないもん! め、冥界でも全然アクセスして貰えないサイトに唯一ギルバちゃんがアクセスしてくれて、毎回応援してくれたり、ファンレターくれたりしたのがキミだなんて絶対に思わない! 何度も励ましてくれたギルバで、最近音沙汰が無くて寂しいと思ってたのに、そんなギルバがキミだなんて絶対にね!!」

 

「へっ! 上等だこの勘違いバカが! どうせギルバってネームも本物をパクる為にテメーが不正アクセスして解析して知ったんだろ? ばーか! ばーーか!!」

 

 

まるでガキの喧嘩。

 大人前の男が泣きながら喚き、良い歳した女がそれにムキになる。

 

 精神年齢が微妙に近いせいなのか……それはまるで子供同士の言い争いにしか聞こえなかった。

 

 

「………。聞いてみるに、セラフォルー様の趣味のファンだったんだイッセーって……」

 

「そういえば前に携帯の待ち受けが見覚えのある女性でしたが……ま、まさかレヴィアタン様だったとは」

 

「やっぱり一誠はお姉様の方がタイプなんだ。私なんて捨てられちゃうんだ……ぐすん」

 

 

 一誠、本物魔王少女に会うが、意地でも認めたくない模様。

 

 

終わり

 




補足

ほーらこれこそ洗脳よ!

激怒し、相手を不安にさせてから飴を与えてしまえばもう勝ち確定!

然り気無くソーナさんが擬似的わんわん化したし、やったね一誠!


※全部自覚無し。


その2

見た目はともかく、あんまり信用してない悪魔という時点で最初からソーナさんが嘘言ってなくても、どうでも良い感じだったりする。

それ程までに、フェニックスの件の根は深い。









最後。

一誠君、ふと思い出したは良いけど、意地でも認めたくない模様。

魔王少女は清くて可愛いくて強い。似非コスプレで男に騒がれてるのが本物な訳がない……らしい。

ぶっちゃけ意味不明。


 ちなみにギルバってネームは……まあ、わかる人にはわかるネームですね。


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デビル・風紀委員長
ギャーくん


です。


いや、ギャーきゅんとかな?

かなり駆け足の適当文です。


 授業参観の明くる日、一誠はまだ落ち込んでいた。

 

 

「…………」

 

「何時まで落ち込んでるのよ……」

 

「そんなに私の姉だったのがショックだったのですか?」

 

 

 ズーンと風紀委員長の席で突っ伏してる一誠の姿たるや、まるでサンタを信じていた子供が心なき大人にその存在は架空だと教えられてショックを受けたそれそのものであり、授業参観を終えた今日も朝からずっとこんな調子だった。

 

 ちなみにソーナは普通に戻ってる。

 

 

 

 

 

「余程ファンだったみたいで……携帯の待ち受けにしてましたから」

 

「私も前に目を輝かせながら語られた事がありました」

 

 

 知らずにセラフォルーのファンだった事を当時から言うに言えなかった朱乃と椿姫も、女々しく落ち込む一誠に何とも言えない表情を送りながら、ファン歴の結構な深さを二人に教える。

 

 

「ライザーとの件が無かったら、もしかしたらセラフォルー様だとしても特に何も思わなかったのかもしれないわね」

 

「ええ、間が悪いとしか言えませんね」

 

 

 もし悪魔に失望の感情が無ければ、それはそれで厄介なことこの上無いが、こうまで露骨に落ち込まれると非常に居たたまれない。

 セラフォルーが悪い訳じゃない……単に間が悪かっただけなのだ。

 

 

「よし、偽者が居るって本物のレヴィアたんにメールで送っておいたからもう大丈夫だせ………ふへへへへへ」

 

「「「「………」」」」

 

 

 兵藤一誠……現実を知っても逃避出来ない辛さをまた一つ知る。

 

 閑話休題。

 

 

 

 

 何時までもレヴィアたんで落ち込んではいけない……と、現実逃避しまくった結果ある程度メンタルを回復させた一誠は、まだテンションは低めなものの、何時も通りともいえる状態へと戻っていった。

 

 

「グレモリー先輩に残ってる僧侶?」

 

 

 そんな状況の最中、リアスの口にしたその言葉に一誠はソーナや椿姫や朱乃と一緒になって旧校舎へと踏み込みながら、話を聞いていた。

 

 

「ええ、そう……実は凛や小猫、アーシア、祐斗の他に私には後一人眷属が居るの」

 

「あぁ、そういや無理矢理取り込んだ時、確かに駒が一個足りなかったような……会長さんの時は戦車でしたけど」

 

 

 リアスには残された最後の純眷属が残っていて、それが何と旧校舎の部屋の一つに封印されている。

 その話を聞いた一誠は別段驚く事も無く、そういえばシケたツラしてたリアスを見ててイライラして無理矢理駒を強奪して取り込んでやった際、僧侶の駒が一つ分足りてない事を呑気に思い出していた。

 

 確か名前もその時聞いた気がするが、何て名前だったか……。

 

 

「眷属を失ったというのに、兄が今なら大丈夫だと思うからと解禁を許されたのだけど、正直今の私にそんな自信は無いのよね……」

 

 

 開かずの扉の前にまでやって来た時、リアスは自信無さ気にそう卑下する。

 眷属だった者達の制御すら儘ならない今、封印する形で処置していた残り一人の眷属を解放した所で、その強大な力を上手く導ける自信が無いとリアスは弱音を吐く訳だが……。

 

 

「物理的に強くはなってんだし、別に大丈夫なんじゃないっすか?」

 

 

 特に何も考えてない一誠のこの一言に、リアスは少しだけ重たい気分が晴れた気がした。

 というかそもそも、不完全とはいえ言彦に乗っ取られた一誠相手に生き残れたというだけで、既にその価値は高まってたりするのだ。

 

 

「そうよ、何時までも封印したままという訳にはいかないのだし、思いきってみなさい」

 

「ある意味一誠くんの主をやってるんですから」

 

「特殊ケースですけど」

 

「そ、そうね……よ、よし!」

 

 

 ソーナ、朱乃、椿姫にも後押しされる事で顔つきを変えたリアスは、遂に封じられた扉を開け放ち、封印していた最後の眷属を解放した。

 

 

「イヤァァァッ!!!?!?!?」

 

 

 そして開けた瞬間、中から物凄い悲鳴が衝撃波の如く5人の耳をつんざいた。

 

 

「う、うるせぇ……」

 

 

 これには一誠もお目めがパッチリする程の衝撃だったらしく、両耳を思わず塞いでいると、隣に居たリアスと朱乃が少しばかりため息を吐きながらスタスタと解放された部屋の奥へと入っていく。

 

 

『元気だったかしらギャスパー?』

 

『な、な、何事ですかぁぁぁぁぁぁぁ!!??』

 

 

 薄暗くて中の様子が分からず、先んじて入っていった朱乃とリアスと……何やら悲鳴まじりに叫んでる何者かの声だけが、部屋の前で待機している一誠とソーナと椿姫の耳に入っていく。

 

『あらあら、封印が解けたのですよ? もうお外に出られるんです。さ、一緒に出ましょう?』

 

 

 慣れてるというのか、ギャーギャー喚き散らす声の主に対して朱乃が優しげに外へ出ろと促すが……。

 

 

『嫌ですぅぅ!! お外なんて出たくないぃぃ! 人に会いたくなぃぃぃぃっ!!!!』

 

 

 声の主は物凄く頑なに、外へ出る事を拒んでいた。

 

 

「……。この声がグレモリー先輩が言ってた僧侶?」

 

「ええ、やっぱり変わるなんて事はありませんね」

 

「私も一度くらいしか会ってませんが……確かに変わってません」

 

「ふーん?」

 

 

 何か想像していたのとは違ったコメントを二人から貰った後、少しばかりその封印されていた僧侶とやらが気になり出した一誠は、ちょっとした興味本位で部屋の奥へと侵入してみる。

 するとそこに居たのはリアスと朱乃の前でへたり込みながら嫌嫌と喚いてる……。

 

 

「……。これが封印していた僧侶っすか?」

 

 

 金髪、赤目の美少女……だった。

 

 

「ええ、そうよ。ギャスパー・ヴラディ、唯一残った眷属」

 

 

 やっぱり想像してたのと違う。そう思った一誠は、一応美少女の前なのに妙にシラケた顔になってリアスと朱乃に確認しながら、涙目になって震えもしてるギャスパーなる僧侶をじーっと見下ろす。

 

 

「ふーん?」

 

「だ、だだ、誰ですかこの人はぁ……!?」

 

 

 当然初対面なので、ギャスパーとやらは一誠を指差しながら怯えた様に訪ねて来たので。

 

 

「……。一応、同業者」

 

「へ?」

 

 簡潔に、というかいい加減の適当に自己紹介をする。

 そのいい加減さはギャスパーの目を思わず丸くする程であり、どういう事なんだと無言でリアスと朱乃を交互に見合わせるに十分な程だった。

 

 

「えっと、これから話すと結構長いというか複雑なのだけど、ちゃんと聞いて欲しいの。

その上で彼の事をアナタに紹介したいから……」

 

「この場で構わないから、聞いて貰えるかしら?」

「ぇ……あ、は、はいぃ……」

 

 

 そんなギャスパーに対し、リアスと朱乃は絶対に伝えなければならない事を伝えなくてはと、真剣な面持ちでギャスパーと目を合わせる様にその場に腰を下ろしながら静かに語り掛ける。

 ギャスパーもそんな二人の心を端的に感じたのか、先程までの狼狽えも少し収まり、ちょっとビクビクしながら耳を傾けようとする。

 

 だが、二人から語られた話はあまりにも信じられず。

 あまりにも酷いものだった。

 

 

 自分の知る仲間の祐斗と小猫が、その後に仲間になった兵藤凛とアーシアなる眷属と共につい最近眷属を抜けた。

 

 そして今もこの学園に元の種族として通っていて、その代わりをこの一誠という風紀委員長が勤めてくれている。

 

 更にいえば、普通ならありえない二人の悪魔の王が持つ駒の両方を取り込み、現状はリアスとソーナの二人の下で交互に悪魔として活動している事。

 

 

「ふ、風紀委員会の人だったんですかぁ?」

 

 

 荒唐無稽な話をある程度まとめて話されたギャスパーは、小猫と祐斗が仲間では無くなってしまった事に少し処じゃないレベルに狼狽えつつ、今その代理として存在している風紀委員長に少しびくついてしまう。

 

 一応ギャスパーも学園の旧校舎に引きこもっていたので風紀委員会のあれこれについては知っていたのだ。

 

 

「おう……ま、心配せんでも次の仲間が揃ったら俺はお役御免だ」

「は、はぁ……」

 

 

 だが、思っていた以上に乱暴そうには見えない。

 ギャスパーは代理でやってると自己紹介する一誠を見ながら、ほんのちょっとだけ恐怖の風紀委員に対してのイメージを内心変化させる。

 

「で、でも小猫ちゃん達が眷属を抜けたって……本当なんですか?」

 

「えぇ……私の底が浅かった結果が招いたのよ」

 

「違う、奴等が勝手に裏切っただけだ」

 

「う、裏切った……?」

 

 

 リアスの言葉を否定して訂正する一誠にギャスパーが信じられないと目を見開く。

 

 

「その……塔城と木場、それとアルジェントってのにとって大事なのは、グレモリー先輩より兵藤凛だった様でな。

事の始まりはこのグレモリー先輩に降り掛かった婚約話をレーティングゲームで破棄させるという話からだ。

勝ったら婚約解消だっつーのに、自信満々な台詞までほざいた奴等はものの見事にぶちのめされた挙げ句、あっさりとグレモリー先輩と朱乃ねーちゃんを見捨てて、テメー等だけで人間界に逃げ帰ってきやがったんだよ」

 

「え……」

 

「そのケツを拭いたのは……いや、個人的理由も重なったからだが、その時は俺が冥界に乗り込んで、魔王ぶちのめして無理矢理言うこと聞かせたから、グレモリー先輩の婚約話も無いことにはなったが、そっからだっけか? 奴等が俺に『グレモリー先輩を洗脳してる』なんて言い出したのは?」

 

「それと匙達の件もその時期ですよ」

 

「あぁ、それもあったな……。まぁ、とにかくだ。俺はこのグレモリー先輩とシトリー先輩の事を洗脳して、エロイ事しようとするクソ野郎って言いたいらしく、それを二人が否定した瞬間、今度は主の言うことに露骨に逆らい始め、遂にはテメーで勝手な真似した挙げ句死にかけた所をグレモリー先輩達に助けて貰った分際で、俺とつるんでるから信用できないって、勝手に抜けたって訳だ。どうだ? 笑える話だと思わねぇか?」

 

「そ、それ……本当に小猫ちゃん達が言ったんですか?」

 

「……。凛と一誠はその……戸籍上は姉と弟の関係でね? その、一誠は凛を嫌ってるのよ。で、凛を慕う小猫達にはそれが許せなく、一誠を嫌ってたんだけど、ライザーとの件で私は多大な恩を彼から受けた。

そのお返しも、尻拭いもしてもらったのにも関わらず、お礼も言わない小猫達に注意をしたら、その時から……………うん」

 

「つまり、半分は個人的な理由で余計な真似して引っ掻き回した俺のせいだって事だ」

 

 

 だから俺は、代わりが見つかるまで二人の部下を代理でやってるって訳。

 

 そう話を締めた一誠に、ギャスパーは正直困惑から抜け出せないでいた。

 だがしかし、この場に小猫と祐斗も居ないし、一誠からは異常な数の転生悪魔の駒の力を感じられてしまう。

 

 小猫達から話を聞いてみない事には百パーセント信用は出来ないけど、何よりリアス自身が肯定しているという時点で、少なくとも嘘ではない事を半分は理解してしまうのだ。

 

 

「こ、小猫ちゃんや祐斗先輩は今何を……?」

 

「あー……確か聞いた話だと兵藤凛の家に転がり込んで仲良くやってるみたいだぞ? だよなグレモリー先輩?」

「ええ、今日も4人で仲良さそうに一緒に帰るのを見たわ……は、ははは」

 

「ちなみに、あの子達からアナタの事については一切触れてないわ。

言い方は悪いかもしれかいけど、ギャスパー君の事なんてどうでも良いと思ってると思うわ……」

 

「……。そう、ですか……」

 

 

 その上、引きこもっていたから仕方ないにせよ、小猫達は自分の事に一切触れようともせず今を楽しく生きているらしい。

 その凛とアーシアというのは知らないけど、小猫と祐斗とは知らない仲じゃないつもりだったのに、ギャスパーは余計にショックだった。

 

 

「………。外、出たくないならやめとけよ? その能無し共も学校に引き続き通ってるし、その様子だと多分見たらグレモリー先輩みたいにナーバスになるだけだと思うわ」

 

「ぅ……」

 

「確かに……私だって見るだけで辛いもの……」

 

 

 そしてこれはレヴィアたんの正体にショックを受けた反応なのか知らないが、珍しく初対面相手に……いや、週末のボランティアでしょっちゅう遊ぶ小学生の子供達とギャスパーが重なって見えたせいか、一誠の対応が嫌にマイルドであり、粗暴、乱暴、スケベの側面をまだ見てないギャスパーの中で一誠の評価が勝手に上昇していく。

 

 心なしか、その言葉に落ち着きを取り戻した影響で制御の出来ない神器が暴走する気配も無い。

 

 

「封印っつーか、本人の意思に任せるべきだろ。

あの薄情共が居るのに、見せてショック受けて重度の引きこもりにでもなったら元も子も無いだろうし……」

 

 

 そんなギャスパーに対して、一誠はかなり珍しく『慎重』になってやるべきだと主張する。

 今のギャスパーとかつて同じ目をした子供を知っているから……。

 

 

「ええ……そうね。

それより随分とギャスパーに優しいのね……一誠にしては?」

 

「あ? 別にそうじゃねーよ。ただ、前に近所のガキの中に何時も独りぼっちで、身体中に痣ばかり作ってた子があんな顔してたのを思い出しただけだ」

 

「っ……それってもしかして」

 

「あぁ、クソみてーな親に虐待されてたみたいでな。

当然、そのクソ共には行方不明になって貰い、子供好きの金持ち老夫婦の元で今は元気でやってるよ。

毎週ボランティアに参加もしてくれる様になったよ」

 

 

 ヘッと笑って割りととんでも無い事をしてると然り気無くカミングアウトする一誠だが、誰もそれには突っ込まない。

 どうであれ、その子供の今はとても明るく幸せそうなのだから……。

 

 

「つー訳だ……えーっとギャスパー? 封印の扉は敢えて開いたままにはするが、もう無理矢理外に出ろとは言わねぇ。

ただ、何かアレば直ぐに俺を呼び出しな、可能な限りは行ってやるよ」

 

「ぁ……」

 

 

 へっへっへっ、と椿姫や朱乃にすれば見慣れた『子供を相手する』時の様な目線に合わせた笑みを浮かべて、ギャスパーと話す一誠。

 

 同年代相手じゃまず見せない、一誠の持つ側面であり、学園では無く町全体から支持を受ける理由。

 

 

 ぱんぱん

 

「ひゃん!?」

 

「あ、やっぱお前男だったか。まあ、そんだけ女っぽい顔してりゃあ、そんな格好でも許されるか……」

 

「な、な……!?」

 

 

 それが風紀委員長・兵藤一誠なのである。

 どこかの悟空の幼少期みたいに、ギャスパーをぱんぱんして性別を確かめる変態じみた真似をしようが……。

 

 

「いでぇ!?」

 

「何やってるのよ! ギャスパー君が男の子だったからよかったけど!」

 

「か、軽い冗談だし、初見で大体見抜いてたっつーの! いってぇ……マジで殴んなよ……酷いねーちゃんだと思わねぇギャスパー?」

「あ、い、いや……そのぉ……」

 

「ギャスパー君も何赤くなってるの!」

「ひぇ!? だ、だって急だったから……!」

 

 

 好かれる相手には好かれるのだ。

 

 

終わり




補足

基本、本気で何かをトラウマってる子相手には、風紀委員としてやって来た経験でかなり態度が軟化します。

というか彼って割りと子供にゃ何されても優しかったりしますので。


その2
それがタイミング良く発動したから、洗脳と呼ばれてもしょうがない。

やろ?


3

パンパンすなっ!!


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レヴィアたんとギルバの地味歴史

そろそろ色々と纏めて片付けるフラグの前に……。

初期の頃にあったイッセーがレヴィアたんのファンである事の軌跡……。


連投します


 セラフォルー・レヴィアタンはあの日物凄くあり得ない転生を経て悪魔へとなった男の子にボロクソになじられた事を思い返し、ムカムカしていた。

 

 

「まったく失礼しちゃうよねー!☆」

 

 

 授業参観の日に人間界の学校にて、眷属に大量脱退されても尚、残った女王と共に頑張ってる妹のソーナの姿を見ようと訪れ、自分の姿に喜ぶ人間達の為にちょっとサービスしていい気分にもなれてた。

 

 だというのに……。

 

 

『う、嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ!! アンタみたいなのが、俺の好きなレヴィアたんな訳がない!! 確かに顔とか体型とか衣装のチョイスは思い返せば同じだけど、お前なんか真っ赤な偽物だ!!!』

 

 

 ソーナの新しい眷属でもあるその男の子は、自分の事を最初は分からないで居たが、何かの拍子に気付いたのか、自分の事を人間だったらまず知らない筈の魔王☆少女レヴィアたんなのかと聞いてきたので、驚きつつももしかしてその唯一の人間はキミで、それもギルバという名前を使ってファンレターを何時もくれた子かと聞いた。

 そしたらその男の子は盛大に狼狽え、あろうことか自分を否定し……。

 

 

 

『俺の知ってるレヴィアたんは痴女じゃねーもん! 強くて可愛い魔王少女だもん!! オメーみてーな単なるコスプレ女じゃねーもん!!』

 

『ファンレターに返事してくれたのも、Blu-rayセットと等身大抱き枕を送ってくれたものテメーじゃなくて魔王少女のレヴィアたんだ!!!ふざけるな! この似非コスプレイヤーめが!!』

 

 

 思いきり泣きながら似非コスプレイヤー呼ばわりまでしてきた。

 それだけならまだ許容できたが……。

 

 

『うるせーうるせーうるせぇぇぇ!!!! 俺は認めないかんな! 魔王少女レヴィアたんはもっと可愛いんだよ! このコスプレ勘違いブス!!』

 

 

 この台詞だけはかなり頭に来た。

 ブスなんて女の子に言ってはならない台詞ナンバーワンなのに、あの男の子はハッキリと偽者呼ばわりと共に言ってきた。

 だからセラフォルーもムキになって、最初はひょっとして自分の方向性の励みになってくれた人間唯一のファンだったギルバな訳が無いと言ってやったが、それでもセラフォルーは明くる日もムカムカが止まらないでいた。

 

 

「何が偽者よ。私が本物なのに……!」

 

 

 いっそ一発ビンタでも咬ましてやれば良かったとすら思うほどにムカムカが止まらないで居たセラフォルーは冥界でのお仕事も手付かず状態であり、このままではいけないと、取り敢えず業務の机に装備させてるノートPCを開き、冥界内でも正直殆どゼロに近いアクセス数である自サイトを開き、少し前からピタリと来なくなっていた愛しの……じゃなくて、理解者であり励みになってくれるあの名前のファンメールが来てないかのチェックをする。

 

 

「今日もやっぱり来てないのかな……。

最近サイトにも来てくれてないし、もしかして忙しいのかな……」

 

 

 が、開いてみたもののセラフォルーの表情はすぐれない。

 更新の度に絶対といって良いほどコメントやファンメールを送ってくれる唯一の存在、ギルバはここ最近更新をしてもサイトに来てくれる形跡も無ければ、メールやファンレターすら来ないのだ。

 

 もしかして飽きられちゃった? とネガティブに考えてしまうセラフォルーなのだが、それでもコメントが来てないかのチェックを毎日欠かさない辺り、顔も本名も知らないギルバという存在は中々大きくなっていた様だ。

 

 

「………あっ!!」

 

 

 そんなセラフォルーに遂に朗報舞い降りる。

 今日も来てないだろうな……と半ば諦めムードのまま自分で作ったサイトを眺めていたセラフォルーの目にはメール欄に輝く便箋マークの横の1の文字。

 

 

「あはっ☆」

 

 

 最近まで見なかったその数字と、本日のアクセス数にも堂々と表示される1の数字を何度も確認しまくったセラフォルーの表情が誰も居ない自室にて自然と明るくなる。

 

 

「来た……えへへ、来た!☆」

 

 

 久々の事故か、一気にセラフォルーの全身に活力が浸透していく感覚がし、それはやがて歓喜という気持ちとなりて、メールマークを迷わずクリックする、

 

 

「GILVER……ギルバ……えへへ、間違いないよ、ギルバちゃんからだ!」

 

 

 一体何故そこまで彼女程の魔王を歓喜させるのか。

 

 実の所このサイト、セラフォルーが初めて開設したサイトなのだが、冥界の悪魔達ですら知らないというか……当時も今も見向きすらされてないまま勝手に秘密化したサイトだったという変な歴史がある。

 

 当然冥界の悪魔達は冥界に放映されるTVにてセラフォルーが魔法少女コスプレしてなんやかんややるというのは知ってるが、このサイトの事は殆どどころか、サイトのアクセスカウンター的に誰も知らないのだ。

 

 故にセラフォルーも誰にも教える事も無く、それでも誰かが気付いてくれるかもしれないと、自作した動画を配信していたのだが……あれはそう、つい4年程前だったか。

 

 

 

『はじめまして、知り合いにパソコンを貰ってネットサーフィンをしていたら、偶々このサイトの事を知り、コンテンツを拝見して一気にファンになった者です。

魔王☆少女レヴィアたん……実に面白かったです。レヴィアたんさんはアイドルさんでしょうか? 出来れば有名になって間このサイトで動画の配信を続けて欲しいなぁ……とかなんとか勝手な事を思いつつ、応援の意味を込めてメッセージを送らせて頂きます。

 

それでは次回の更新も楽しみにしています

 

GILVER』

 

 

 どうせ誰も来ないんでしょ? ふんだ、ただの趣味だもーん……てな具合で、誰もアクセスをしてくれない事が最早普通に思えて来た時にやって来た一つのメール。

 

 読んでみればそれはファンレターだったのだが、こんなドマイナーどころか、敢えてURLを晒しても誰もアクセスすらしてくれないサイトに偶然とはいえアクセスしたばかりか、配信した動画やコンテンツを全部見た上でメッセージまで残してくれた事に、セラフォルーはえらく感激を覚え、思わずこのGILVER――ギルバという者に対してメッセージを送り返したのだ。

 すると、ギルバと名乗る者からまた返事が届き、それが嬉しくてその内メールアドレスの交換までしたりして、ギルバなる者に興味を抱いて色々と聞いてみると……。

 

 

ギルバは学生。

 

ギルバは日本人。

 

ギルバは男子。

 

ギルバは人間界からアクセスしている。

 

 

 とまあ、なんやかんやで色々と知った後、更新する度にファンメールが送られ、変な期待を込めて人間界にある別荘の住所を教えてみれば紙媒体のファンレターが届いたり……。

 

 まるで売れないアイドルと古参のファンを越えたやり取りがなんやかんやで続いた。

 

 

「えへへ……しばらくメール出来なくてごめんなさい――そんなの全然良いよぉ……☆」

 

 

 だからセラフォルーはこのギルバというファンを一番に覚えており、更には自作した抱き枕やら映像を纏めたBlu-rayBOX、更には生写真にサインまで送ってあげたりもしたりした……勿論それはギルバにのみの超特別措置だ。

 

 そして今、しばらく音信不通であったファンからの久々のファンメールに、セラフォルーは完璧に舞い上がりながら、実に嬉しそうにはにかみながら届いたメッセージの朗読を始めた。

 

 

『暫く応援のメッセージを送れず、またサイトのチェックも出来ずに申し訳ありません。

最新の更新まで全てチェックし、やはりレヴィアたんは最高だぜ! という気持ちを改めて固めることが出来ました。

 

これからなるべくこの様な事が無いように――って、所詮只のファンだしそれは気持ち悪いかな?(笑)

 

とにかく次回の更新も首を長くして正座待機させて頂きます』……かぁ……えへへ……☆」

 

 

 

 画面上でのやり取りではあるが、4年もの付き合いで がギルバからだと一発で分かるもののせいか、セラフォルーはかなり嬉しそうにカチカチとメッセージ画面を下にスクロールする。

 よかった、やっぱりあの失礼な男の子がギルバちゃんな訳が無い。

 

 アレは只の似非で、何かと勘違いしてるだけだとセラフォルーの心も晴れ始めた…………のだが。

 

 

 

「あれ? まだ続いてる……えっと『ところで、最近になってレヴィアたんを語る似非コスプレイヤーを見掛けました。

別にレヴィアたんのコスプレをするのは構いませんが、そのコスプレ女はあろうことか、自分こそが本物のレヴィアたんだと言い張り、まるで男を誘ってるかの様に囲まれて悦に浸ってました。

自分としては正直それがかなり許せず、思わずその偽者と言い争いをしてしまいました。

 

なので、レヴィアたんも偽者に負けずに頑張ってください』………………って……」

 

 

 最後に続く文章に、マウスを操作するセラフォルーの手が完全に止まってしまった。

 偽者、言い争い……。

 

 

「…………………」

 

 

 いや、勿論自分が本物なのだが、つい先日全く同じ状況で全く同じような展開で男の子に喚かれたという事を、本気で泣きながら自分を罵倒してきたあの憎たらしい男の子の事を思い返しながら、セラフォルーは暫し声を出せずに画面をぼーっと眺めていた。

 

 

「ギルバちゃん……や、やっぱりあの男の子がギルバちゃんなの?」

 

 

 あまりにも偶然にしては同じ過ぎる。

 ギルバという名前についても口に出した瞬間、ギョッとした顔もされたし、第一人間界でレヴィアたんサイトを知る人間なんて一人しか存在しない。

 

 

「や、やっぱりそうなんだ……わ、私本物なのにギルバちゃんに偽者だと思われてるんだ……」

 

 

 セラフォルーの顔から先程までの幸せそうな表情が消え失せた。

 そして、この応援メッセージを送ってくれたギルバ本人が本物で間違いない自分を偽者と否定しているという現実に胸が急に苦しくなった。

 

 

「ど、どうしよ……ギルバちゃんに嫌われてこのサイトに来てもらえなくなったら……」

 

 

 そんな1ファンごときにオーバーなと思うが、セラフォルーにしてみれば全部肯定してくれるギルバはある意味自分の道を堂々と歩ける為の心の支えになっていた。

 だからこそ、ギルバに今後失望されファンも辞められ、挙げ句二度とメッセージも貰えなくなってしまったと思うだけで……。

 

 

「三大勢力の会談……そうだ、アレの時に……!」

 

 

 セラフォルー・レヴィアタンは、カタカタカタカタと高速で文字を打ちながらブツブツ言い、そして送信をクリックして勢い良く椅子から立ち上がる。

 

 

「衣装はこれ。そしてギルバちゃんの目の前で変身すれば……!」

 

 

 そしてクローゼットを開け、動画配信限定の衣装を選定すると、何やら瞳を燃やしながら、近々駒王学園で行われる三大勢力会談に挑む決心を固めるのであった。

 

 

 

 終わり。

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

「スマホってのは便利だな……お陰でパソコンからじゃなくてもお気に入りのサイトがチェックできるぜ……へ、へへへへ!」

 

「またエッチなサイト? 消去するこっちの身にもなって欲しいわよ……」

 

「ちゃうわい!! ほら見ろ! 俺が見てるのはレヴィアたんの特設サイトだっつーの!」

 

「はい? ちょっと待ってください。姉の開いてるサイトがあるとして、それは冥界からしかアクセス――」

 

「違う!!! アンタの姉じゃない! レヴィアたんのサイトなの!!!」

 

「あ、あの……厳しい事言っちゃうようで悪いけど、そのレヴィアたんというのは間違いなくセラフォルー様――」

 

「絶っっっっっっっっっっ対にっ!!!!!! 違う!!!!!! レヴィアたんは強くて可愛いの! アレは単なる勘違いコスプレ馬鹿! 一緒にすんな!!」

 

「あ、は、はい………」

 

 

 

 

「完全に現実逃避してるわね……」

 

「というか、然り気無く姉の事を誉めちぎってるのがムカつきます」

 

「やっぱりもっと前から駄目だと禁止させるべきだったのかしら……」

 

「多分それをしても逆効果だと思うわよ姫島さん……」

 

 

「先輩、それがレヴィアたんですか?」

「そうだぜギャスパー! 魔王☆少女レヴィアたん。にへへ、やっぱり何時見ても可愛いなぁ……」

 

「………。あれ? この方ってまさかセラフォルー・レヴィアタン様―――」

 

「……………………」

 

「あ……いや、気のせいかなぁ……なんて……」

 

「だろ? へへへ、ギャスパーは違いの分かる子で偉いなぁ」

 

「あ、あの……僕そこまで子供じゃないからそんなに頭を撫でられると恥ずかしいですぅ……」

 

 

 現実到来・近し。

 

 

「ん? な、なにぃ!?」

 

「ど、どうしたのよイッセー?」

 

「急に大きな声出さないでくださいよ。びっくりするじゃないですか……」

 

「い、いや……すんません。(駒王町にレヴィアたんが来る、だと!? まさか……いやでもこれはレヴィアたんが俺に直々にメールしてきたからマジかもしれねぇ。

マジか……うへへへ、これであの偽者が偽者だったことが証明できるぜ!)」

 

 

 フラグ回収も……近し。




補足

簡単な話、思いの外互いに画面の上とはいえ地味に近寄ってたんですよね。

だからセラフォルーさんは彼に等身大抱き枕やらBlu-rayBOXやら、限定待ち受けやらとか……全部自作のをプレゼントし、一誠も一誠でそんなレヴィアたんの正体がセラフォルーさんと知っちゃって現実逃避に走ってしまう。


……要するに、色々と本当に間が悪かったって事さ。


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心の中の怒りと憎悪

変身シーン……の前に割りと真面目っぽいお話


 三大勢力のトップが集って会談をこの学園で行う。

 

 

 …………………なんて聞かされて準備の手伝いをリアスとソーナ達と一緒になって行ってた一誠なのだが、ぶっちゃけ正直その三大勢力のトップが何をしようが興味の欠片も無かった。

 

 

「え、堕天使も来るの?」

 

「当然じゃない。三大勢力の会談なんだから」

 

「……そっすか」

 

「……? あまり嬉しく無さそうですね一誠?」

 

「……………。ちなみに来るのって誰なんすか? バラキエルのおっさん?」

 

「いいえ、恐らく来るのは総督のアザゼルだと思うけど……」

 

「ふーん、アザゼル……ね」

 

 

 だが、堕天使のトップも来ると知った瞬間、一誠はチラチラと朱乃の事を気にしながら、リアスの口にしたアザゼルとシェムハザなる堕天使の事を考えてか、顔を一気に曇らせた。

 

 

「………。ひょっとしてだけど、一誠って堕天使の事が嫌いだったりするの……?」

 

「嫌いというか、良い印象なんてバラキエルのおっさん以外持ってないっすよ。

へ、もし人間のままの力の落ちてない状態だったら、二・三発殴り飛ばしてやりてぇとか思ってたかもしれませんけどねー……」

 

 

 ギャスパーも加え、リアス、ソーナ、朱乃、椿姫の計五人で大富豪というトランプゲームを開かずの間だったギャスパーの部屋でやりつつ、堕天使について『ぶっちゃけ嫌い』と言い切った一誠。

 

 その理由はお察しの通り、堕天使の話になった途端チラチラと朱乃を気にし出したソレが理由であり、一誠にしてみれば朱乃と朱璃に襲い掛かった堕天使も、そのアザゼルという堕天使も皆同じ認識なのだ。

 

 

「別に私は気にしてないわよ? アザゼルの事は知らない訳じゃないし」

 

「あー……うん。ねーちゃんってバラキエルのおっさん以外にゃ大人な対応出来て尊敬するよ。

俺の場合、バラキエルのおっさん以外のカラス見てるとどうしても拒否反応が起こるっつーか……」

 

 

 ギャスパーに聞こえてしまう為、マイルドな言葉使いを心がける一誠。

 こうして聞くと、ある意味じゃ朱乃以上に堕天使を嫌ってるとも取れるその態度は、ソーナやリアスや椿姫も何と言って良いのか分からず、言葉を詰まらせてしまう。

 

 

「でもま、今は会長さんとグレモリー先輩の部下やってるし、余計な事は言わないように努めさせて貰いますよ。

一応、現状は悪魔なんですし………おっと、9のトリプルだぜ」

 

 

 あの日の夜の出来事は、現実から逃げるマイナスを覚醒させる材料となった今でも、一誠の中にトラウマとして深く残るものだったのだ。

 

 

 

 それから暫くはトランプしながら時間が経つのを待っていた一誠達にいよいよ呼び出しが掛かる。

 その呼び出した相手とは、既に学園の会議室で会談を前にしている魔王さーゼクスからであり、先日の聖剣破壊事件についての証人として出席しなければならないのだが……。

 

 

「え、ギャスパー連れていかないの? 何で?」

 

「この子はまだ自分の神器が制御できないのよ。だからもし会談中に神器が暴走したら迷惑が掛かかってしまうから……」

 

 

 事件当日は旧校舎で引きこもりをしていたのと、まだ己の力を上手くコントロール出来ないギャスパーは、出席させる事が出来ないとリアスは判断し、待機を命じたのだ。

 

 

「ふーん……?」

 

 

 それを聞いた一誠は、軽い調子で返しつつちょっと落ち込んでるギャスパーに目を向けつつ言う。

 

 

「じゃあ俺も此処に残るぜ…………って訳にはいかないよね?」

 

「えぇ、言彦に乗っ取られていたとはいえ、聖剣を破壊した当事者になってる以上は……」

 

「ですよねー……」

 

 

 会議だか会談だかに出るくらいなら、ここに残ってギャスパーとオセロでもしていた方が万倍マシと一誠は思っているのだが、如何せん聖剣というものを破壊したのは他でもない一誠自身だ。

 

 たとえその時は言彦に乗っ取られ、更に言ってしまえば只突っ立っていただけで向こうが斬りかかって来たら勝手に折れただけにせよ、壊れてしまった要因である事には間違いないので、その時の状況を聖剣管理をする天使側に改めて説明をしなければならないのだ。

 

 なじみは暫くサーゼクスの所にでも居るのか姿を見せないし、行かずにリアス達に説明させるのも色々と相手方に失礼になる。

 

 結局の所、一誠が人間のままならそれでまかり通せたかもしれないが、転生悪魔である以上はある程度合わせてあげなければならないという事だ。

 

 

「仕方ないか。なぁギャスパー、ちょっと居眠りしちまいそうな会談に証人として出席してくるからよ」

 

「は、はい……」

 

 

 仕方ないから出るぜ。

 ヘラヘラと笑う一誠の言葉にギャスパーは少しだけ不安そうな表情を浮かべた。

 

 出会ってまだ数日と経っちゃいないが、随分と一誠に懐いたらしく、最初に聞いた『新しい眷属が見つかるまでの代理』という話も正直な所、一誠のままの方が良いとすら思い始めているギャスパーは、適当にやったらさっさと戻るぜという、信じられないくらいに優しい一誠に肩をポンポンされながら言って貰う事で何とか頷く。

 

 

「あのギャスパーがあんなに人に懐くなんて信じられないわ……」

 

「そりゃ封印してたんだから、それを知る機会が無かったんでしょうよ」

 

「それもあるけど、一誠くんが妙に優しいからというのもあるんじゃないかしら?」

 

「優しい? ……別に普通だろ」

 

「……。正直私の時との差が半端じゃないくらいですよ。自覚してないのですか?」

 

「貧乳に人権があると思ってんすか? へっ、これだから貧乳は……」

 

「うぐ……! や、やっぱり差別してるじゃないの……!」

 

「会長、どうどう……」

 

「私は馬じゃないわよ!」

 

 

 

 

 

 「…………」

 

 

 それが一つの失敗である事に気付くまで、後少し。

 

 

 

 

 

 

 ギャップを感じさせれば良い。

 そうすれば、いくら何でも認めざるを得ないと少なくとも私は思う。

 

 

「…………」

 

「どうしたというんだセラフォルーは? あんな普通の格好をして……」

 

「さぁ、噂によると兵藤様とひと悶着あったとか……」

 

「え、一誠君と? あー……そういえば授業参観の日に何かあったって言ってたっけ。

でもそれとセラフォルーがあんな普通の服装なのと何の関係があるんだろう? 見てよ、アザゼルもミカエル達もある意味ビックリしてるぜ?」

 

「普段が普段ですからね……仕方ないかと」

 

 

 うん、今日の会談に於ける表向きの格好はサーゼクスちゃん達のリアクションを見ればオーケーだね。

 後はリアスちゃんとソーたんが連れてくるだろう、あの子の前で……ふっふっふっ☆

 

 

「失礼します……」

 

 

 今か今かと待ち続ける事数分後、会議室の扉を叩く音が聞こえ、1拍間を置いてから開かれた扉の先には緊張した面持ちのリアスちゃんとソーナちゃん。

 それに追従する椿姫ちゃんと朱乃ちゃん……。

 

「来たね……」

 

「アイツがバラキエルの言ってた……」

 

「聖剣を完全に破壊した少年ですか……」

 

 

 「…………」

 

 

 そして、私の事を散々ボロクソに言いたい放題言ってくれた子……ギルバちゃん疑惑最上位の兵藤一誠君が、更にその後ろから若干眠たそうな眼差しで入室してきた。

 その姿を見た瞬間、天使のミカエルちゃんや堕天使のアザゼルちゃんが品定めする様に彼を見つめてる中、私は授業参観日の事を思い出してちょっぴりムカっとしてしまう。

 

 けれど今日は作戦の為に相当地味な服装にしてるし、何よりもここでこの前の事を蒸し返したら作戦が台無しになっちゃう。

 だからここは、魔王然な態度でサーゼクスちゃんと共にどっしりと構える姿勢を崩さない様に心がけようと思ったのだけど……。

 

 

「………………」

 

 

 不意に私と目が合った彼が、私を見るなり唾でも吐き捨ててやりたいぜって見下し顔で一瞥し、それ以降は一切私を見ることもなく、ただただ黙って最後尾に立っていた。

 

 その時点で、今すぐにでも目の前で変身ポーズしながら衣装チェンジして、その澄ませた顔をビックリ仰天のそれにしてあげたくて仕方ないという衝動に駆られちゃったけど、今のタイミングではまだインパクト性に欠けちゃう。

 

 だからまだここはグッと堪えて……うん、私の方がおねーさんだもんね。

 ソーたんもギョっとした顔をしてるけど、変身のインパクトは大事だから……。

 

 

 

 ……。なるほどなるほど、本当に言った通りの見事な弱体化じゃないか一誠君。

 リアスとソーナさんに何か思うところがあってとの事らしいけど、直接見ると結構深刻なレベルに思えてしまうよ。

 

 

「私の妹とセラフォルーの妹。

それと女王と……二人の眷属だ」

 

 

 情に弱い……聞こえは良いかもしれないが、見方を変えたら流されやすいとも言えるその性格は僕としては決して嫌いじゃないぜ? けどね、そのまま弱体化したまんま成長まで止まってしまうともなれば、正直キミの評価を下げなければならない。

 

  何せ、一度はどうであれ僕を倒したんだ。

 その強さを失ったままなんて僕が許せない。

 

 グレイフィアをエロメイド呼ばわりした借りだって、キミが転生したままの状態で戻った実力状態で返したいしね。

 

 

「噂はそのまんまだったか。

ソーナ・シトリーもリアス・グレモリーも色々あって一部を除いて眷属の殆どを失い、その代理をそこの小僧が引き受けているって話」

 

 

 さて、そんな彼だが実は三大勢力間ではコカビエルの引き起こしたしょうもない事件後から、急激にマークされている。

 悪魔でありながら聖剣を完全に破壊したばかりかコカビエルをも絶命させた少年。

 

 ミカエルはともかくとして、意外な事にアザゼルもあの様子だと初めて見たって顔だ。

 てっきりバラキエルの伝か何かで知ってるかと思ってたのに、どうもバラキエルは一誠くんの事を完全に黙っていたみたいだな…………この場に居ないけど。

 

 

「先日はコカビエルの件で世話になったな。

俺の事はバラキエル辺りから聞いてるだろ?」

 

 

 というか堕天使側だけ連れのひとつも連れてこない辺りがアザゼルらしいというか、早速色々と探りでもしたいのか、最後尾に立って若干斜め下を向いてる一誠君に比較的ラフな口調でアザゼルが話し掛ける。

 

 

「………………」

 

「あれ?」

 

 

 が、一誠君は軽くアザゼルを見るなり頭を……それも様子からして相当に嫌々に下げるだけで何の返事もしようとしない。

 リアスとソーナさん達もそんな一誠に目で訴える様な仕草をするけど、それでも一誠君はアザゼルに声で返事をすることはしなかった。

 

 

「聖剣の件でアナタ方には随分と迷惑を掛けました。この場を借りてお礼と謝罪を致します」

 

 

 そんなアザゼルを他所に今度はミカエルが挨拶をしてみるんだけど……。

 

 

「そんな事を今更こんな所で言うくらいなら、どいつもこいつも最初からテメーが出張ってあの迷惑カラスを駆除しろよ……」

 

「「……」」

 

「い、イッセー……! 聞こえてる聞こえてる……!」

 

「付けた仮面がもうズレてますよ……!」

 

 

 あーあ、なるほどねー……一誠君的にはミカエルもアザゼルも嫌いらしいや。

 今の言葉で完全に分かっちゃったし、今思うと僕なんか全然マシだねこれは。

 

 

「大体、聖剣なんてガラクタの管理も人間に任せた挙げ句、奪われたら一切役にも立たずに持たせたガラクタ奪われる様な役立たず送って、偉そうに『悪魔側の干渉は控えろ』だぁ?

そこの頭の上にアクセサリー乗っけてる天使とやらが直接出たらもっと簡単に纏められたんじゃねーのかよ……」

 

「い、いや、その……言いたいことは分かりますが、私も私で色々と――」

 

「おっと、お忙しい天使様につい余計な事を……すいません、もう黙ります」

 

「……」

 

 

 にっこり笑うその表情に遂にミカエルは完全に何も言えなくなった。

 これは言彦に乗っ取られた事もあって相当根に持ってそうだね……。

 

 良かった、あの夜全部終わった後だけど現場に行っておいて……。

 

 

「はっはっはっ、随分と嫌われたなミカエル!」

 

「……」

 

 

 そんなミカエルを見てアザゼルが煽るかの様に笑い、ミカエルが無言で睨み返してる。

 けどなぁ……僕の予想だとミカエル以上に――

 

 

「バラキエルに聞いてりゃもっと早く会ってみたかったぜ兵藤――」

 

「黙れカス、とっとと死ね。苦しんで死ね。永遠に死ね」

 

「」

 

 

 アザゼル……いや、バラキエル以外の堕天使に対する風当たりは多分この世の生物の中でトップクラスなんじゃないかなーという予想は、我慢できずについといった様子でばっさりと切り捨てる台詞で大当たりだ。

 

 

「チッ、ここ来る前までは小市民気取ってやろうと思ったのに、やっぱり堪え性が無いからこんな事になっちまった。

だから俺なんか居ない方が良かったんだ……」

 

 

 アワアワとするリアスとソーナさんの手前があるせいか、それともそこまで弱体化をしてしまってるのか。

 殴り掛かるということはしなかった一誠君は茫然とする二人をそれ以降一切一瞥くれる事なく、ちょっと罰が悪そうに仲間達に謝る。

 

 

「ねーちゃん、やっぱり無理だ。

俺ってバラキエルのおっさんとまだ修復できる芽があるねーちゃんとは違って、どうしてもおっさん以外の堕天使を見ると殺意が抑えられねぇよ……」

 

「一誠くん……」

 

「「「……」」」

 

 

 安心院さんの言った通り、バラキエルの娘さん……リアスの女王の朱乃さんの件が例え今の堕天使達がそうじゃないにしても許せないといった心情が、罰の悪そうに謝りながらも言葉の節々から痛いほど僕たちにも伝わってくる。

 

 そりゃあ、言彦が完全に一誠くんの中で自我を持って復活する要因でもあるあの事件を考えたら、寧ろ今まで絶滅させようとしなかっただけ、バラキエルが如何に一誠君に慕われているのかはがよく分かる。

 

 いくら現実から逃れるスキルで死を無かった事にしても、記憶はずっと残るのだから。

 

 

「……。申し訳ありませんでした」

 

「いや、悪魔としてなら注意すべき所だが、今日の僕はどちらかといえば素だからね。

特に何も言わないさ……二人は何か彼に言い返す事でもあるかい?」

 

「いえ……特には」

 

「…………。俺も無いが、ひとつだけ聞かせろ。お前……俺達が憎いのか?」

 

 

 ミカエルは少し戸惑いつつも僕の言葉に頷くが、アザゼルは何故ここまで言われたのかという理由を察しているらしく、改めて一誠君に問い掛ける。

 すると一誠君は――――っ!?

 

 

「バラキエルのおっさんが居たから、バラキエルのおっさんの友達らしいから俺は何もしないと誓った。

だが、本当なら全員皆殺しにしても足りないくらい――っ!?――――――――げげげ……!」

 

「一誠くん!?」

 

 

 まずい、トリガーが強大な殺意と憎悪ってのも本当だったのか! アザゼルの問い掛けに淡々と答えようとした一誠君が一瞬苦しみだしたかと思ったら、その瞳の色を変化させながら、あの妙な笑い方を……!

 

 

「!? な、何……? 急に様子が……」

 

 

 セラフォルーもアザゼルもミカエルも流石に気付いて顔色を変える中、最悪ここで言彦に乗っ取られた一誠君と一戦交えなきゃいけないとすら覚悟した僕とグレイフィアだったんだけど……。

 

 

「「「「セイッ!」」」」

 

「ぶへぇ!?」

 

『!?』

 

 凶悪に嗤い始めた一誠君の左右の横っ面にリアス、ソーナさん、朱乃さん、椿姫さんの張り手が渇いた良い音と共に炸裂する。

 それも中々いきなりの事だったので、言彦だのという事情を知らないセラフォルーやアザゼルやミカエル達はギョっとするんだけど、僕とグレイフィアが驚いたのはそこじゃなかった。

 

 

「いっててて……な、中々良い腕してるぜ……」

 

 

 それまで乗り込まれ掛けていた一誠君の意識が、完全に戻っているのだ。

 いつの間にそんな方法を身に付けていた事も含めて結構な驚きだよ。

 

 

「な、何なんだよ……?」

 

「まるでサーゼクスとグレイフィアが時折見せる雰囲気を持つ少年ですね……」

 

「いいなー……私もビンタしてみたい」

 

 

 うん分かるよアザゼルにミカエル。

 意味なんてわかる訳無いもんね、だってキミ達は僕達とは違うんだもの。

 彼本来が持つその異常性も、そして危険な人格を宿している事も。

 

 セラフォルーだけ微妙に違う気がするけど、もしこのままだったら和平の会談もへったくれもない地獄に変わってたんだぜ?

 

 

「ほ、ほらぁ……やっぱし俺居ない方が良かったんだって……! 今完全に意識飛びかけたし……!」

 

「大丈夫よ。そうなったらまたビンタすれば良いし」

 

「そうよ、貧乳とバカにした分キッチリとビシバシしてあげるわ」

 

「……。朱乃ねーちゃん並みに会長さんの顔が嬉しそうなのが嫌すぎるんすけど……」

 

 

 ……。まあ、あの分じゃ大丈夫そうだし。話も完全に脱線してたからそろそろ始めようかな……。

 

 

「ん、そろそろ始めたいし、キミ達はそこに座りなさい」

 

「あ、はい……ほら座るわよイッセー?」

 

「うぅ、頬がジンジンするよぉ……」

 

「ちょ、な、泣かないでくださいよ……。

姫島さんにお仕置きされてる時は全然泣かないのに……さっきからゾクゾクするのが止まらないじゃない」

 

「会長、それは開いちゃダメな扉です」

 

「言彦に乗っ取られかけた所を無理矢理引き戻したせいか、精神的に不安定になってるわね……ほら、一誠くん泣かないの」

 

「な、泣いてねーよ! 痛くて涙が出るんだよ!」

 

 僕もさっさと終わらせてグレイフィアと人間界デートしたいし。

 

 

「泣いてる……ソーナちゃんが然り気無くとんでも無い事を言った気がするけど、私も何だろう? この変な気持ち……」

 

 

 セラフォルーがボソボソ言ってるけど気にしない気にしない。

 

終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 会談事態は始まれば何て事なく進行する予定だった。

 しかし、そうでも無かった。

 

 

「ご機嫌よう、現三大勢力のトップ達」

 

 

 サーゼクスにとっての余計な邪魔その1

 命乞いしたから生かしてやった連中からのクーデター

 

 

「セラフォルー……アナタだけは許さない。私からレヴィアタンの称号を奪ったアナタだけは……!」

 

「悪いけどこの称号は絶対に渡せないよ? だって私は――」

 

 

 だがこれを好機とばかりに、襲撃者に対して派手に啖呵を切った魔王は……。

 

 

「そう、だって私は――」

 

「……!?」

 

 

 ペカー! とセラフォルーの全身がお約束っぽい光に包まれると同時に、無駄にしか思えないポーズと共にその衣装が変化する。

 

 それは正直もろにアレだったが、その中で唯一その意味を知ってる少年はただただギョっとする。

 というか、わざわざセラフォルーが少年の目の前までひょこひょこと移動しながらそれをするもんだから、他は見えなくても少年には色々とバッチリ見えちゃったのだ。

 

 

「魔王☆少女レヴィアたんだから……!!」

 

「……………」

 

 

 そして変身完了と共に、それまでセラフォルーらしからぬ地味な服から一変……魔王☆少女レヴィアたん衣装へとチェンジ。

 名乗りと共に魔法のステッキをクルクル回すその姿に一人を除いてドン引きだ。

 

 

「ふ、ふざけてるのですかお前は!!」

 

 

 キレる襲撃者。

 

 

「う、お……お……おぉっ!」

 

 

 思わず目がキラキラする少年。

 

 

「どうギルバちゃん? 認める? それとも認めない?」

 

「……け、ケッ! ポ、ポーズの完コピくらい俺だって出来るし、偽物は所詮偽物だぜ……」

 

 

 無視して少年のドストライク姿で迫る魔王少女。

 

 

「ふーん?」

 

 

 でも魔王少女は先程ビンタされて泣いてた少年を見たせいか、やけに余裕だった。

 

 

「そっかー……ギルバちゃんってファンじゃないのだとしたら残念だなー。

近々一日抱き枕券を何時も応援してくれるギルバちゃんに送ろうと思ったんだけどなー?」

 

「な、な、ななっ……!」

 

「でも偽者呼ばわりされるとそんな気も起きなくなるなー?」

 

「そ、その話本当なんだろうな……?」

 

「さぁ? それはギルバちゃん次第?」

 

 

 結果……。

 

 

「し、知らねぇ。ち、違うもん……違うったら違うぅ……!」

 

 

 意地張りが災いし、泣きながらそれでもセラフォルーじゃないと言い張り続けた。

 

 

「違うんだぁ……お前なんかレヴィアたんじゃねぇよぉ……!」

 

「ぁ……。(きゅん)」

 

 

 変なフラグが立ってしまっても、一誠はそれでも認めたくなかったのだ。

 

 

「どうしよう、ねぇリアスちゃん達?

この子……つまりギルバちゃんを今すぐ持って帰ってお部屋でめちゃめちゃにしても良い?」

 

『却下』

 

 

 その態度のせいで、変な扉を開けてしまったとしても。それはもう多分運命なのだ。

 

 

 

 

 

「死になさいセラフォルー!」

 

「っ!?」

 

「ぐぁっ!?」

 

「!? な、なんで……」

 

「チッ、邪魔するな下等な転生悪魔が!!」

 

「く、クソ……か、身体が勝手に動く。クソォ!! 偽者庇ったって意味なんかねーのに! クソッタレェェ!!!」

 

 

 襲撃者の攻撃から思わすセラフォルーを庇った一誠。

 偽者だと思ってる、けど身体が勝手に動いてピンチのセラフォルーを庇ってしまう。

 

 そんな矛盾した己に訳が分からず雄叫びをあげた一誠は、それを払拭するかのごとく、襲撃者の女悪魔めがけて突撃し、容赦の無い拳をめり込ませる。

 

 いやそれだけじゃない!

 

 

「消えてなくれィ!!!!!」

 

「がっ!?」

 

 

 女悪魔をまるでボールをヘディングするかの如く何度と無く頭で打ち上げる。

 そして何度かやった後に、飛び上がると……。

 

 

「マッスルリベンジャー!!!」

 

 女性にかけるには少しアレな体勢の技を一誠は血塗れの獣の雄叫びと共に掛けるのだった。

 

 

 

「く、レヴィアたん……くぅ……」

 

「…………………」

 

 

 それもまたフラグになってしまう。

 

 

 

 

似非予告終了。

 

 

 




補足

堕天使と天使はある意味悪魔よりもアレに思ってたりする一誠。

特に堕天使に関しては原作の朱乃さん以上に、間違ってると自覚しつつも憎悪を抱いている。

というか、言彦に乗っ取られるトリガーに最も近い。




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会談

全然話が進まねぇ……けど次回から多分進む


 人間とは感情の動物だ。

 それが例え間違っていようとも、一度抱いてしまった感情がそれを認めさせようとしない。

 

 だからこそ一誠はアザゼルを見た時、途方も無い憎悪と怒りに危うく言彦に乗っ取られ掛けた。

 

 人間とは感情の動物だ。

 いくら悪魔に転生しようともそれは変わらない。

 

 

 

 

 

「さて、話は脱線したけど、気を取り直して会談の方を始めようか」

 

「「……」」

 

 

 一誠の言葉遣いにより、微妙な空気となってしまったままサーゼクスが場を取り持つ形で始まる会談。

 堕天使は元々嫌い。天使は別に嫌いでも無いが、逆に好きでもない。しかし役立たずにしか思えない。

 

 高々ガキの戯言と言えばアザゼルもミカエルも気にする必要なんて無いが、それをおくびも無く言いきった相手は異常な手段で悪魔に転生を果たした人間であり、更に言えば悪魔なのに聖剣を完全に破壊した者だ。

 

 魔王ですらへし折るのが限界だった事を考えたら、この世から完全に消しただけでも異常なのだ。

 

 

「では早速だけど、先日の事件について話して貰いたい。リアス、ソーナ」

 

「「はっ……!」」

 

 

 だからこそ、ミカエルとアザゼルは先程仲間達にビンタされた影響で、両頬に見事な紅葉を付けてちょっと涙目になって椅子に座って斜め下を向いてる少年から色々と探りたかった訳だけど、結果としてはのっけから少年に嫌われてしまっていたというオチに加え、堕天使であるアザゼルに至っては明確な殺意まで向けられるレベルだった。

 

 アザゼルとしては当初、バラキエルの家族の下で生きていた少年で、そのバラキエルと戦友であるという理由でもっと簡単に探りを入れられると思っていたのだが、とんでも無い……実際はバラキエルというストッパーが無ければ本気で殺しに来る程に憎まれている。

 

 

「これが先日起きた事件の、我々が把握している全容でございます」

 

「…………」

 

 

 コカビエルを回収させる為に送り込んだ白龍皇のヴァーリですら戻ってきた時の半死状態さを見れば、敵と判断した相手に対する殺しの躊躇も一切無い。

 

 リアスとソーナの事件全貌の説明を聞き流しつつ、俯き加減に座る一誠に視線を向けるアザゼルは、今更になってかつて戦友の家族を襲った……今はこの世に存在しないバカ共に内心悪態を付くのであった。

 

 

「二人ともご苦労。座りなさい」

 

「ありがとう、ソーナちゃんとリアスちゃん☆」

 

 

 そうこうしてる内に、コカビエルの件について自分達が知る範囲の説明を終えたリアスとソーナがサーゼクスとセラフォルーによって再び席に戻ると、当たり前だが早速話は堕天使であるアザゼルへと向けられる。

 

 

「さてアザゼルこの報告を受けて、堕天使総督の意見を聞きたいな」

 

 

 サーゼクスに問われたアザゼルは一旦一誠へと向けていた視線を戻すと、先程一誠にメタクソに言われたのもあってか、飄々とした態度はそこそこに口を開く。

 

「先日の事件は我が堕天使中枢組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部コカビエルが単独で行ったものだ。

奴の処理は『白龍皇』が行う予定だったんだが、知っての通り処理は……いや、消したのはそこの転生悪魔だ。

その辺りの説明はこの間転送した資料にすべて書いてあったろう? それで全部だ」

 

 

 そう言って再び一誠へと視線を戻すアザゼルに、天使の代表であるミカエルが呆れた表情を見せる。

 

 

「雑な説明ですが、私も二名の悪魔祓いからその様な説明があったと聞いてますから、一応は信じましょう。

アナタも再び戦争を起こすつもりは無いらしいですしね?」

 

「あぁ、今回の事件をコカビエルが起こしたのだって俺達が戦争をするつもりが無いことに不満を爆発させた上での暴走だからな」

 

 

 アザゼルの視線の先に気付き、釣られる様にしてミカエルも一誠を見つめつつ話す。

 どうやら揃って余程一誠という存在の実態を把握したいらしい。

 

 

「アザゼル、ひとつ聞いておきたいのだけど、どうしてここ数十年神器の所有者をかき集めている?

最初は人間たちを集めて戦力増強を図っているのかと思ったし、天界か我々に戦争を仕掛けるのではないかと予想していたのだけど」

 

 

 そんな二名の視線にサーゼクスも気がつくも、敢えて触れずにアザゼルに対してここ数年の行動の真意を訊ねる。

 

 

「そう。いつまで経ってもあなたは戦争を仕掛けてこなかった。『白い龍』を手に入れたと聞いた時には強い警戒心を抱いたものです」

 

 

 それはミカエルも聞きたかった事なのか、一足早く一誠からアザゼルへと視線を移しながら目を細めると、アザゼルは少々のため息を交えながら苦笑いした。

 

 

「神器研究の為だ。

なんなら、一部研究資料もお前たちに送ろうか? そもそも研究していたとしても、それで戦争なんざしかけるつもりなんか無いしな。

俺は今の世界に十分満足してるし、部下に『人間界の政治にまで手を出すな』と強く言い渡してるくらいだぜ? 宗教にも介入するつもりはねえし、悪魔の業界にも影響を及ぼすつもりは無い。

ったく、俺の信用は三すくみの中でも最低かよ」

 

「うん」

 

「無いね」

 

「当たり前だね☆」

 

 

 段々と愚痴混じりにも聞こえる言葉に、残りのトップ達はかなりの即答だ。

 

 

「チッ、先代もそうだがお前等もお前等でめんどくせぇな。大体俺の神器研究を警戒したいのもわかるが、俺からすりゃあ、この前の騒動でコカビエルを殺して聖剣まで完全にこの世から消したそこの転生悪魔を抱えてるお前等の方が警戒に値すると思うぞ?」

 

 

 そんなトップ達に舌打ち混じりでアザゼルはサーゼクスとセラフォルーに対して、そこの転生悪魔……つまり一誠の事について触れ始める。

 

「コカビエルだって決して弱くない……いや寧ろ強さで言ったら俺達と変わらない。

俺の情報によれば、コカビエルを殺した時も奴が一人で殺したって話らしいが?」

 

「それは私も同じく問いたい。転生悪魔でありながら聖剣をこの世から完全に破壊したその理由と共にね」

 

 

 アザゼルとミカエルが再び一誠を鋭く見据える。

 ボロクソになじられたとはいえ、それとこれは話は別だ……といった気概が二人から伺える。

 

 

「んー……聞きたければ本人に聞けば良いんじゃないの? まぁ、本人が言いたくないと言えば諦めて貰うしか無いけどね」

 

 

 そんな二人にサーゼクスは惚けた態度を崩さない。

 然り気無くセラフォルーも気になるって表情だが、こればかりは一誠本人から語らなければ意味も説得力も無いのだ。

 

 

「……………。先程の状況で答えて頂けるとは思えませんが、どうでしょう? 答えられる範囲で良いのでどうか私達にも教えて貰えませんでしょうか?」

 

「神器を持たない男が、白龍皇すら半殺しにしたその理由をよ……バラキエルの嫁と娘の件で俺達を恨んでるのはわかるが……頼む」

 

 

 何かを知ってるような言い方をしつつも語るつもりは無い言い切るサーゼクスに対して諦めたのか、二名のトップは高々転生悪魔のガキ一人にかなり下手に出て教えてくれと頭まで下げる。

 これこそある種異常な光景であり、一誠の傍に居るリアス、ソーナはごくりと固唾を思わず飲むのだが……。

 

 

「………………ぐー」

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 その問われた本人は気持ち良さそうに居眠りこいていた。

 俯いていたのも、先程のやり取りで居心地が悪くなったとかでは無く、ただ単に居眠りしていたからでしかなかったのだ。

 

 

「い、イッセー……!」

 

「お、起きなさい……!」

 

「はぁ、やけに大人しいと思ったら……」

 

「まったく、仕方の無い人ねぇ……ほら一誠くん?」

 

「むにゃむにゃ……うへへへ」

 

 

 これでもかと苦虫を噛み潰した顔で閉口してしまうミカエルとアザゼルを見て流石にマズイと悟ったのか、ソーナとリアスが慌てて起こそうとする中、女王である椿姫と朱乃は寧ろその逆の……呆れつつもどこかのほほんとした表情でゆさゆさと寝言までほざいてる一誠を揺さぶり起こす。

 

 

「……むにゃ?」

 

「起きた?」

 

「ほら、天使と堕天使のトップが一誠くんにお話があるんですって?」

 

「ぇ……? ここどこ? レヴィアたんは?」

 

 

 そして眠たそうな目で起きた一誠なのだが、キョロキョロと辺りを見渡しながら、またしてもレヴィアたんがどうのと言い出す。

 どうやら夢でも見ていたらしく、それを聞いた四人は若干不機嫌になってしまう。

 

 

「な、なに寝惚けてるのよ……! と、というかまた姉の……!?」

 

「会議室で今は会談中よっ……!」

 

「ぇ? まだ終わってなかったんすか? なんだよ……アレ夢だったのかよぉ……。

折角レヴィアたんと悪い魔法使いぶちのめす夢だったのに……」

 

「………。そろそろ本気で怒るわよ?」

 

「セラフォルー様を見てからレヴィアたんばっかりで面白くないわ」

 

 

 最近妙に多すぎるレヴィアたん関連の話に、椿姫までもがムッとしながらユサユサと強めに一誠を揺さぶって意識をたたき起こそうとする。

 

 

「レヴィアタン? セラフォルーの夢でも見てたのかな?」

 

「もしかしてセラフォルー様が普通すぎるお召し物を着ているのと何か関係があるとか?」

 

「そうなの? どうなんだいセラフォルー? 彼と一悶着あったみたいだけど――――」

 

「やっぱりギルバちゃん……………あは☆」

 

「うん、聞いてねー……」

 

「すっごい嬉しそうにしてますね……一体彼と何が?」

 

 

 『も、もう起きたから揺さぶるのやめれ! き、気持ち悪くなる……!』と顔色が青くなる一誠に対して、やけにキラキラと嬉しそうな眼差しを送りつけるセラフォルーを見て、サーゼクスとグレイフィアは、安心院なじみ繋がりでもある一誠が何かやったのか? と変に勘ぐってしまうのだが、実際の話は只のファンとアイドルのちょっと拗れた話というだけの事である。

 

 

「お、おい……お眠りの所悪いが、質問していいのか?」

 

「………あ?」

 

 

 ここまで来るとおちょくられてる様にしか思えないアザゼルとミカエルも、少々カチンと来てしまう訳だが。

 

 

「ですから、聖剣をどうやって破壊したのか。そして神器を持たないアナタの持つその力の源をですね……」

 

「聖剣? あぁ、あのガラクタね。

ありゃあ……誰だっけ? あのはぐれエクソシストだかなんだかが俺をぶった斬った時に勝手にへし折れて剣の方が勝手に粉々になっただけっすけど?」

 

 

 あくまでも自分達に対して不遜きわまりない態度を崩さない一誠の話も我慢して耳を傾ける。

 しかし内容は正直荒唐無稽だ。

 

 

「なにか? 聖剣が勝手に自滅したとでも?」

 

「だからそうだつってんだろうがボケ……! テメーは理解力がゼロなのか? だったら羽もげて硫酸浴びてとっととくたばれ」

 

「」

 

 

 そして寝起きでも堕天使のアザゼルに対する嫌悪感は全然薄れない。

 バラキエルを無理にでも連れてくれば良かったとアザゼルは今になって大後悔だ。

 

 しかしアザゼルは大人なので、それでも頑張って下手に根気強く一誠に対して対話を求める様に努める。

 

 

「あ、あのよ……バラキエルの嫁さんと娘に関しては本当に俺の管理の甘さが招いた結果だと深く反省してる。

いずれちゃんとしたケジメもつけるつもりだ……けどよ

今はその、コカビエルがやっちまった事件の内容を深く知り、その上で堕天使、悪魔、天使の間でこれからどうするかって話し合いをしたい訳なんだ。

だからよ、出来れば協力をだな……」

 

「だから話したつってんだろ? テメェ等糞カラスはどうしてこうイライラさせるんだよ? バラキエルのおっさんがマゾで堕ちでもしなけれりゃ、ホントテメー等はカスの集まりでしかねーよ。

それとケジメだと? おいおい、じゃあ今までテメー等は朱乃ねーちゃんと朱璃さんに何をしたんだよ? あのクソカラス……コカビエルってのはあの時ねーちゃんを人質にしてバラキエルのおっさんを無理矢理言うこと聞かせるとかほざいてたぜ? 管理の甘さも変わって無い時点でケジメもクソもあんのか? 言えばそれでなぁなぁ済むと思ってんのか? ホント今すぐテメー等全員根絶やしにしてやりてぇよ……! そうすりゃバラキエルのおっさんだって家に戻ってくるしなぁっ……!!」

 

 

 が、駄目。

 サーゼクスの予想通り、全生物の中で文句無くトップに君臨する程の激しい嫌悪と憎悪を剥き出しに、一誠はアザゼルに暴言をぶつけまくる。

 

 一誠も頭の中で、『今そんな話をする事じゃないし、このアザゼルに言った所で当事者じゃないのだから、これは単なる八つ当たりでしかない』と解ってはいる。

 けどアザゼルが朱璃と朱乃の話をした瞬間、それまで冷静だった朱乃の顔つきが思い出したくない思い出を掘り起こされて苦しむ表情に一瞬だけなってしまったのを見てしまったが故に、一誠はもう自分を止められなかった。

 

 

「どうやって壊した? 壊したんじゃねーよ、勝手に壊れたんだ。

どうやってあのクソカラスを殺したかって? そんなもん毎日鍛えてるからだよ! この説明でも納得できねーのか? この役立たず共が!!」

 

「いえ、もういいです……」

 

「………」

 

 

 クソ不愉快だと嫌悪にまみれた表情でその顔を歪ませ、吐き捨てるかの様に言う一誠に、これ以上は無理だと悟ったミカエルとアザゼルはそのまま引き下がってしまう。

 

 

「けっ……! やっぱり俺なんかこんな場違いな場所に来るべきじゃなかったんだ。

要らん事ばかり言ってすぐ拗らせちまう……クソっ!」

 

「一誠くん……」

 

 

 腕を組み、天井を見上げる一誠。

 どうやら先程歪めたその表情は自己嫌悪も入っていたらしく、溢れる堕天使への嫌悪を抑えられない己の堪え性の無さに対してにも含まれていた様だ。

 

 

「……そういう事らしいよミカエルにアザゼル。

現場検証をしたけど、聖剣に関しては壊したというより本当に壊れてしまったといった方が正しいよ」

 

「……。ウチの白龍皇が少しばかり様子を見てたらしく、報告を受ける限りじゃ言った通りらしいのは聞いてたから知ってはいた。

はは、ここまで嫌われてるとはな……バラキエルの奴が一切喋らなかった理由がよくわかったぜ」

 

「聖剣自体に拘りはありませんからね……」

 

 

 ミカエルもアザゼルも……特にアザゼルは罰の悪そうな表情で頷く。

 しかしアザゼルは知らない。バラキエルが如何に一誠少年に慕われ、そのストッパーになってくれていた事をバラキエル本来の実力を含めて知らなかった。

 

 

「っ!?」

 

「こ、この感覚……!?」

 

「っ!? ギャスパー……!?」

 

 

 一誠という少年の地雷を踏めばどうなるのか……。

 

 

「襲撃者かな……まったく、最低なタイミングで来てくれたもんだね。しかもよりにもよって……」

 

「ギャスパーの奴の力だろこれ!? つーかこんな強力に発動するなんて……何かあったに違いない……!」

 

「落ち着いて! 発動しているという事はギャスパーは死んではいない……だから落ち着くのよ……!」

 

「くっ……テメーの状況を呪ったのは朱乃ねーちゃんの時以来だ…」

 

 

 それに比べたら暴言吐かれるだけまだマシな部類だったとアザゼルが知るまで、残り数分。

 

 

続く。

 

 

 

 

 

 それはテロ組織の仕業だった。

 

 

「カテレア・レヴィアタン。なるほど、テロ組織と組んでこんな真似をした訳か」

 

「お察しの通りよサーゼクス。我々旧魔王派は無限の龍神がトップを勤める禍の団(カオスブリケード)へ移ります」

 

「何の為に……なんてのは聞かないよ、理由なんか大体わかるし、セラフォルーを睨んでる辺り、レヴィアタンを取られた嫉妬って所かな?」

 

「……。よくご存じで。という訳でセラフォルー……アナタを殺してレヴィアタンを取り戻させて貰うわ」

 

「……。悪いけどカテレアちゃん、その話には応じれないよ? だって私は――」

 

 

 前回の似非予告を参考。

 

 

 

 始まる旧レヴィアタンと現レヴィアタンの戦い。

 

 だがそれとは別に一誠達は……。

 

 

「どけ、ゴミ共がぁぁぁっ!!!!」

 

 

 無理矢理力を引き出されて暴走させられたギャスパーを助ける為、後悔の自念に苛まれながらも目の前のテロメンバーをなぎ倒しながら進む。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 だが弱体化の影響か、上手く身体動かせず徐々に攻撃を受けて傷だらけになっていく。

 

 

「一誠くん!」

 

「ハァッ!!!」

 

 

 勿論椿姫と朱乃達の援護もあり、致命傷だけは避けながらもギャスパーの元へと辿り着いた一誠達が目にしたのは……。

 

 

「こ、交換条件だ。会長……今すぐ兵藤を殺して俺達を元に戻してくださいよぉ……!」

 

「なっ、あ、アナタは……」

 

 

 一誠を恨む者達の堕ちた姿。

 

 

「アナタ達まで……どうして……!!」

 

「……。言われたんですよあの人達に、弟さんを始末すれば、洗脳も何も消えるって」

 

「勿論殺しはしませんよ、兵藤さんが悲しむから。

けど、動けなくさえすれば洗脳を解除させられる事はできる」

 

 

 勝手な思い込みにより暴走する元下僕。

 

 

 そして……。

 

 

「くっくっくっ、役立たずって言ったのは訂正してやる。

テメー等は天才だぜ……俺の邪魔をする事に関してはなぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 ギャスパーを楯にする連中に遂に本気でキレた一誠は、もう容赦せずに目の前の有象無象をぶちのめそうと殺意を剥き出しにする。

 

 

「弱体化したといって、テメー等ごときに劣る俺では無いわぁっ!!!」

 

 

 その怒りが、転生による無数の駒によって押さえつけられていた進化の扉を再び開け放つ。

 

 

 

 

 そして……。

 

 

「こ、これでも足りねぇか……ご、ゴミ処理には最適だったが」

 

「貴様……」

 

「な、なんで……!?」

 

 

 中途半端のまま進化した少年は、偶々見てしまったピンチの魔王に向かって走り、思わずといった調子で楯になる。

 

 

「し、知らねーよ……くそ、勝手に動いちゃったんだから……ぐふっ」

 

 

 腹部にポッカリと空いた孔。

 どうみても致命傷、どう見ても絶命寸前。

 

 しかし一誠はそれでも……偽者と思いたい魔王に向かって息も絶え絶えに言った。

 

 

「レヴィアタンはそこのケバい女より、アンタの方がマシだぜ。

クソ……今度、生きてたら握手してくれよな……レヴィアたんよぉ……!!」

 

「あ―…」

 

 

 けけけけ、と嗤いながら確かにセラフォルーに対してそう言った一誠は……。

 

 

「どてっ腹に風穴あけた程度で……勝ったと思ってんじゃ……ねぇぇぇぇっ!!!!」

 

「っ!? 死に損ないの転生悪魔風情が! そのままセラフォルー共々死になさい!!」

 

 

 誰かの蛇というドーピングでパワーアップした旧レヴィアタンに、ぼろ雑巾にされながらも何度も立ち上がり、そして向かっていく。

 

 

「も、もう良いから! 何で君がそこまで……!」

 

「うるせぇ! ごほっ!? れ、レヴィアたんが負けるなんて見たくねーんだよ! つーか、げほっ! こんなケバいババァとレヴィアたんが戦うまでもねぇ!」

 

「ば、ババァ……? こ、このガキ、死ねっ!!」

 

「ぐばっ!?」

 

 

 深刻な弱体化が枷になり、ボロボロにされていく。

 しかしそれでもレヴィアたんだ何だとムキになって立ち上がる姿はまるでゾンビのごとく。

 

 

「な、なんなんだ貴様は……とっくに死んでる筈なのにどうして立ち上がれるのですか……!」

 

「へ、へへ……そ、そんなもん……幼馴染みとの約束を守るのと、レヴィアたんと握手するまで死にたかねーからだよ……!」

 

 

 恐怖すら覚え始めた頃、遂に一誠は……。

 

 

「うぉぉぉっ!! 消えて無くなれぃ!!!」

 

「がっ!? あがっ!?」

 

 

 

 

 

「これが俺の必殺技だーーっ!!!!!」

 

「な、ななっ!? こ、この私になんて格好を――」

 

「へっ、そのまま地面に叩きつける技に変もなにも無いだろ?」

 

「ま、待ってください! わ、私は無限の龍神であるオーフィスに唆されて……!」

 

「いけないなァ? 龍神様のことを悪く言っては?」

 

 

 

「マッスル・リベンジャー!!!!!」

 

 

 

似非予告……ルートその2 セラフォルーちゃんとギャーきゅんルート半々。

 

 

以上、嘘でした




補足

頭の中では今言ったってしょうがないとは理解してる。

けれど、やはり言ってしまう。


その2
最近セラフォルーさんと会ってしまってから、レヴィアたんと楽しく何かやってる夢を頻繁に見るようになったとか。

曰く『偽者の五万倍レヴィアたんはかわいい』……と、セラフォルーさんから目を逸らしながら供述。


その3

マッスル・リベンジャーが卑猥? んな訳ねーだろ、アレほぼ殺人技だぜ? 三大奥義やで?

ちなみに、『いけないなァ~』と『アナタは天才です、邪魔をする事に関してのねぇぇ!!』をパロってるのは知ってる方は知っている。






最後
……あれ、セラフォルーさんヒロインなのこれ?


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代わりの技術

弱体化して使えなくなったマッスル達の必殺技の代わりに、原点にて最初の技術を復活させよ。


さすればある程度元に戻ろう。


的な


 突然封印を解くと自分の主であるリアスに言われ、外に連れ出されそうになった時、ギャスパーは初めて風紀委員長と出会った。

 

 

「一応、同業者」

 

 

 駒王学園の旧校舎にて引きこもっていたので、風紀委員という名前の意味は知っていた。

 勿論それは恐怖の権化という意味でだ。

 

 だからこそ当初同業者と名乗られた時、ギャスパーは恐怖でますます外に出たくなくなった。

 だがギャスパーの抱く恐怖心に反し、風紀委員長である一誠は割りと処かかなり人当たりが良かった。

 

 主の幼馴染みであるソーナ曰く、『自分の時より遥かに優しい』との事らしく、現に一誠はギャスパーに対して無理に何かさせる事を強要させるとかは決してせず、自立できるようにと時間の掛かる方法でギャスパーに接していた。

 

 そればかりか、時間を停止させてしまう神器の事やハーフの吸血鬼である事を知っても一誠の態度は予想に反していたものだった。

 

 

「吸血鬼ねぇ? ふーん?」

 

 

 同年代相手には決して見せること無い、子供相手に対する優しさがそうさせたのか、それとも今更ハーフの吸血鬼程度じゃ別に驚くことも無いといった慣れの精神がそうさせたのか。

 ギャスパーがハーフの吸血鬼である事を知った時の一誠の態度はこんな感じであり、知った後の態度が変わる事も皆無なまま、ギャスパー相手に近所の子供を相手にするかの如く接し続けた。

 

 ある意味じゃギャスパーにとって初めてのタイプだったかもしれない。

 何せ自分がこの世に生を受けた時は、今の姿が嘘の様に原型を留めない何かだったし、吸血鬼と人間のハーフという理由で物心が付く前から迫害され、挙げ句捨てられた。

 

 人間のみならず、あらゆる生物に対しての対人恐怖症に陥らない方が無理があるとさえ思える人生を送ってきたギャスパーにしてみれば、自分の正体や力を知っても尚、腫れ物処か時間さえあれば何時でも姿を見せては、遊んでくれる人間は初めて過ぎて逆に戸惑ってしまう。

 

 

「知り合いのコンピューターじーさんからPCパーツを流して貰ったからよ、新しく組んでやるよ。

へっへーん、ほら見ろよ、マザーボードとCPUに至っては世に出回ってない超最新式だぜ? 現状世に出てる最新パーツの寄せ集めを組んだマシンの倍はベンチマークだけでもニヤニヤできるスコアがでること確実よ」

 

「女装? いいんじゃねーの? 女装したって違和感無い顔してるしなギャスパーは」

 

「良いかみてろよ? これがマッスルインフェルノじゃー!!!」

 

 

 女装趣味も否定しない、暇な数だけ来ては妙に子供扱いしてくる事は多いものの優しく何でもしてくれる。

 

 後ろで主や女王達が若干納得できないといった表情で一誠を見てるものの、ギャスパーはたった数日の事ながらすっかりと一誠に懐いてしまったのは云うまでもない。

 

 

 

 

「まだ会議は終わらないのかなぁ……」

 

 

 そんなギャスパーは今、一誠を含めた仲間達が三大勢力のトップ達が出る会談に出席する中、力の制御が不安定という理由で一人残され、お留守番の真っ最中だ。

 数日の内に引きこもりはまだ直らないものの、すっかりと一誠に懐いてしまったギャスパーは、その日その場でノーマルの制服に着替えて出ていった一誠がその場に畳んで置いてあった風紀委員長専用の長ランを眺めながら、今か今かと帰りを待っている。

 

 

「……」

 

 

 会談が終わったら今日はトマトジュースを飲みながらゲームをするという約束もしており、あれだけ怖がっていたのが嘘の様に、今のギャスパーは一誠と遊ぶのが楽しみで仕方ない様子。

 

 一誠と知り合う前の引きこもりをやっていた時は、特に退屈もせずPCやってたりゲームしてたりで充実した気分になっていたが、ここ数日は一人でやっても妙な虚無感に支配されてとても一人でやる気にはなれない。

 

 

「はぁ……」

 

 

 故にギャスパーは封印されていたお部屋の中で一人椅子に座ってぼんやりと待っていたのだが、じーっと何気無く一誠の置いて行った長ランを見ている内に、妙な好奇心に駆られ始めていた。

 

 

「これがイッセー先輩の風紀委員の制服かぁ……」

 

 

 勝手に触ったら駄目だという良心はあった。

 が、ぼんやり見てる内に何となくその手に取って見たくなったのか、同じく椅子に畳んで置いてあったその長ランを手に取り、広げて前や後ろを交互に見ながら、背に刺繍された風紀という文字等を観察していく。

 

 所謂一昔前の不良が羽織ってたそれと酷似しまくりな作りであり、ギャスパーにしてみればネット上か漫画の中でしか見たこと無い服であってなのか、生で見た感想としては重そうな制服だなといった感じであった。

 

 

「…………」

 

 

 しかし変な魔力を感じるのは気のせいなのか。

 作りやデザイン、ボタンの数なんかを眺めている内にザワザワと落ち着かない気分にさせられていくのと共に、ギャスパーの鼻がヒクヒクと動く。

 

 

「……。ちょっと、ちょっとだけ試しに……」

 

 

 最近身近に感じる匂いが長ランからクリーニングしたての独特な香りと共にギャスパーの鼻腔を擽り、それが原因では恐らく無いが、ギャスパーは誰も居ないにも拘わらず誰かに言い訳するかの様に小さく声を漏らすと、徐にその長ランを羽織ってみた。

 

 

「わ、やっぱり大きいや……」

 

 

 当然ながら一誠に再度採寸を合わせ直した長ランなので、小柄なギャスパーでは大きすぎる。

 裾は床に付くし、袖に至ってはオバケごっこができるぐらいにダボダボだ。

 

 

「何でだろう、ちょっと嬉しい気分……?」

 

 

 だけどギャスパーはサイズも合わず、不格好極まりない姿になっても妙な安らぎを感じていた。

 レヴィアたん……いや、どう見ても魔王のセラフォルー・レヴィアタンに対して、レヴィアたんだレヴィアたんだと意味不明な拘りを見せたり、初対面の時に至ってはパンパンされたりと変な所はかなり多い。

 

 けどそれ以上に悪い人間には思えない。ギャスパーはよれよれの袖を揺らしながらただひたすらに一誠達の帰りを待ち続けた。

 

 

「お前が停止世界の邪眼を持つハーフ吸血鬼だな?」

 

「え……!?」

 

 

 だが、その寂しくも少し幸せに感じる時間は唐突に終わりを告げてしまった。

 

 

「その力、我々の為に利用させて貰うぞ?」

 

「っ!?」

 

 

 必要も無い存在共により……。

 

 

 

 

 

 既にリアスからギャスパーの力については聞いていた。そしてその力を目の前で体験させて貰ってもいた。

 だからこれがギャスパーの力というのは直ぐにわかった。

 

 

「チッ、だから出たく無かったんだよ……クソッ!」

 

 

 それ故に、力を恐れるギャスパーが力を発動させたのはほぼ何かあったからだと予想できたし、現にギャスパーの力で周囲の空間の時が停まったその瞬間、会議室の窓から見える運動場に無数の転移の魔方陣が出現している。

 

 

「停止世界の邪眼か? おい、確かグレモリーの所にハーフ吸血鬼が居るって話だが、もしかしてそいつが?」

 

「え、ええ……でもこれは恐らく無理矢理……」

 

 

 一度体験し、『慣れた』事によって何とか弱体化した身でもギャスパーの神器発動間でも動ける様にはなれてる一誠は、アザゼルの質問に答えるリアスの声を横に、会議室を出ようと扉へ走ろうとする。

 

 

「待ちなさい一誠くん! リアスの僧侶の所に行くつもりだね?」

 

 

 が、それに待ったを掛けたのはサーゼクスだった。

 

 

「あ? そうだよ、だからどうした!」

 

 

 一々呼び止めんじゃねーよ、と言わんばかりの顔でサーゼクスに返す一誠は、そのまま会議室の扉を開けようと手を伸ばすが。

 

 

「いで!?」

 

 

 その手は扉に届く事は無く、まるで見えない壁か何かに憚れてしまった。

 

 

「っ!? 閉じ込めたつもりか? ふざけやがって……この、ゴミがぁぁぁっ!!!」

 

 

 見えない壁に邪魔され、突き指した一誠はそれでいよいよガチギレし、そのまま見えない壁に向かって本気のパンチで破壊してやろうと拳を突き出すが……。

 

 

「っ!?」

 

 

 グチャという嫌な音が会議室内に響き渡り、そして一誠は己の手を見て驚愕する。

 

 何と、結界を破壊してやろうと繰り出した一誠の拳はその壁の強度に負け、自らの拳を破壊してしまったのだ。

 

 

「一誠!」

 

「こ、こいつ……」

 

 

 拳がグチャグチャになってしまったのを見た朱乃達は直ぐ様一誠に駆け寄る。

 しかしそれよりも一誠自身は痛みを感じる以上に自分が信じられないといった様子で立ち尽くしていた。

 

 

「リアスの駒まで受け持った時点で、相当に弱体化しちゃったみたいだね一誠くん?」

 

「………」

 

 

 その理由は分かってるが考えたくは無かったのだが、サーゼクスにやれやれといって顔で指摘されてしまい、4人から無理矢理治療を受けながら、悔しそうに顔を歪ませる。

 

 

「チッ、クソが……」

 

「おいどういう事だサーゼクス? 弱体化って何の事だよ?」

 

「僕じゃなくて彼本人に聞きなよ。本人の許可無く僕は喋るつもりは無い」

 

「チッ、お前も黙りかよ」

 

 

 一誠の回復力の高さもあって、短時間で治療自体は済んだものの、自分達を閉じ込める様にして展開された結界と、学園を破壊しようとうようよ現れる謎の集団に段々焦りを見せ始める。

 

 

「どうする……どうする……!?」

 

「私がやってみるわ」

 

「うぇ?」

 

 

 そんな一誠を見かねたのか、ここで椿姫が会議室の壁に立て掛けておいた刀を鞘から抜くと、間抜けな声を出してる一誠を尻目に自分達を取り囲んでいた結界に向かって綺麗に一閃する。

 

 

「へぇ?」

 

「椿姫ちゃん……」

 

「これで大丈夫よ……」

 

 

 するとどうだ、弱体化していたとはいっても一誠の一撃で破壊できなかった結界が、椿姫の一閃を軸にガラスの様に砕けて破壊された。

 過程をキャンセルし、結果だけを残す椿姫の異常性だからこそ出来るその芸当に一誠達も、そして初めて直接目にしたサーゼクスも感嘆する。

 

 

「お、おい? シトリーの女王がやったのか今?」

 

「……。サーゼクスとグレイフィアが時折見せる雰囲気を一瞬だけ感じましたが……」

 

 

 だがやはりアザゼルとミカエルだけは妙な疎外感を感じしまうのは云うまでもない。

 

 

「それがキミのって訳か……へぇ、一誠くんと昔出会ったのが切っ掛けと聞いたけど」

 

「はい、私にとっては彼との繋がりを感じられるものです」

 

 

 サーゼクスの興味深そうな問いに椿姫は刀を鞘に納めながら答え、手首を回していた一誠に向かって口を開く。

 

 

「結界は斬ったわ。さぁ、これで外に出られるわ」

 

「……。何かすまねぇな」

 

 

 刀を持ち、ギャスパーの所へ行こうとする一誠に付いていくといった様子で話す椿姫に一誠は少々罰の悪そうな顔で謝りながらも、頷き合いながら共に部屋を出ようとする。

 だが……。

 

 

「それは少し待って貰いましょうか?」

 

 

 会議室の真ん中に現れた魔方陣と声により、再び邪魔をされた一誠達は本気でウザいぞといった顔をしながら、出てこなくても良い招かねざる客を睨み付ける。

 

 

「お初にお目に掛かります、現三大勢力達」

 

 

 そして現れたのは……フードを目深く被った魔法使いと思われる男だった。

 

 

「誰だい? ……って聞いてはみるが、予想はつくよ?」

 

 

 クソ邪魔な……。

 再び自分達を閉じ込める結界に憚れた一誠は舌打ちをしながら、椿姫……それからソーナ、リアス、朱乃を呼び寄せて、アザゼル、ミカエル、セラフォルー、サーゼクス達と何やらゴチャゴチャくっちゃべってる侵入者を置いて耳打ちをする。

 

 

「ギャスパーの所に転移とかできませんか?」

 

「椿姫が結界を斬った直後ならできたけど、こうも速く簡単に張り直されると邪魔されて……」

 

「そっすか……くそ、早くギャスパーの所に行かないとヤバイのに……」

 

 

 ヒソヒソと、上手くギャスパーの所に飛んでいけないかの相談をする5人の若者を横に、サーゼクス達はサーゼクス達で現れた魔導師相手に殺気を向ける。

 

 

「禍の団だなテメー等?」

 

「ご名答、流石は堕天使総督殿。そう、我等は禍の団、あなた方の妨害をしに来ました」

 

「何の為だ?」

 

「私個人はただ命じられたに過ぎませんが、この会談で同盟を組まれたら困るのは多いのですよ。

例えばそう、今回我等の襲撃作戦の指揮を取る方とか、ね……」

 

 

 三大勢力のトップから囲まれているにも拘わらず、飄々とした態度の魔導師の口にした指揮を取っている存在。

 その存在は特に悪魔であるサーゼクス達にしてみれば馴染みがあるといえばある存在の一人であった。

 

 

「カテレア・レヴィアタン。

今回の襲撃作戦のリーダーは彼女となっております」

 

「カテレア?」

 

「おいおい、その名前って先代レヴィアタンの血族者で今は冥界の隅でひっそりしてる連中の一人だろ? まさかテロ組織に加わったとでもいうのかよ?」

 

「その通り。どうやら彼女達旧魔王派は、現政権を敷くアナタ達が思ってる以上にアナタ達という存在を許せないみたいですな」

 

「カテレアちゃんが……」

 

 

 サーゼクスは魔導師の話を聞き内心『何だよ、命乞いしたから見逃してやったのに、結局こういう真似するのか……』と若干めんどくさい気分になりつつも、ベラベラと勝手に得意気になって色々と喋ってくれる魔導師から情報を引き出そうと耳を傾ける。

 

 

「カテレア・レヴィアタンは今どこに?」

 

「彼女なら、停止世界の邪眼の力を無理矢理引き出させる作業をする為に、ハーフ吸血鬼の傍らに居ますよ。

何でも『手引きをしてくれた人間達』がどうのとも……」

「人間だと? おい待て、それはどういう事だ?」

 

 

 旧魔王派が人間の手引きを受けたという話に、アザゼルが眉を潜めながら質問を投げ掛ける。

 すると魔導師はそんなアザゼルに特に勿体振る事もなく、あっさりとその質問に答えた。

 

 

「さぁ、私もその人間を見たのは襲撃前の一度きりでしたからね。

何でも、王が洗脳されたせいで眷属を剥奪された恨みを持つ人間――――がっ!?」

 

 

 しかしその答えはある意味タブーであってらしく、それまでベラベラ勝手に喋っていたその男は一瞬の内に、鬼の形相をした少年によって首を掴まれ、そのままつるし上げにされてしまう。

 

 

「おい、その人間とやらに興味があるから今すぐこの邪魔な壁を何とかしろ? それとも今すぐテメーぶっ殺せば無くなるのか? あ?」

 

「か……かかっ……!?」

 

 

 さっき治療を受けた方の手に巻かれた包帯が、力を込めたせいかビリビリに破け、ズクズク色になったその手で締め上げる姿はちょっと怖い。

 

 

「ストップ一誠くん! 殺すのはやめてほしい。

まだソイツからは色々聞きたいからね、結界なら僕とグレイフィアが何とかする」

 

「……ふん!」

 

 

 だがしかし具体的過ぎて一瞬でその人間とやらの正体の予想がついてしまった一誠……いや、一誠達だからこそ、今すぐ確かめないといけなくなった訳で。

 適応する事で一つ進化を遂げた一誠は窒息寸前の魔導師をサーゼクスの言葉通りに生かしたまま、顔面目掛けて膝を入れて気絶させると、それでも消えない結界をどうにかするというサーゼクスにこう言った。

 

 

「今すぐ此処から出せ。

正直、始末を付けなきゃならねぇボケ共が居る」

 

「………。そうみたいだね、その手引きした人間というのはどうやらキミ達の知り合いみたいだしね。

良いだろう、キミの深刻な弱体化が心配だが、それ以上にキミは異常な成長力と適応能力がある。

見せて貰おうじゃないか……リアスとソーナさんの為に弱体化までした今のキミをさ」

 

「ケッ……」

 

 

 ニヤリと意味深に笑うサーゼクスに小さく悪態を付いた一誠達は、グレイフィアが即時展開させた転送用の陣の中へと入る。

 

 

「ご武運を……後継者よ」

 

 

 そして眩い光と共に一誠達がサーゼクスの言葉を受けて今まさに転移しようとしたのだが……。

 

 

「待った、私も行く」

 

 

 オマケが付いてくるのは予想外であった。

 

 

 

 

 

 自分達を陥れた憎き男。

 その男に対する恨みはあの日以来一日足りとも忘れやしなかった。

 

 

「……」

 

 

 だからこそ復讐する。

 より強大な力を持つ後ろ楯を得て、その男を殺すことで全てを取り戻す。

 そうすれば、彼女も目を覚ます……そう思い込んで。

 

 

「さ、匙……それに皆まで……!」

 

 

 久々に見る恋した悪魔をこの手に……少年とそれに追従する少女達は再び相まみえた。

 

 

「会長ぉ……お久しぶりですね……」

 

「………」

 

 

 ソーナはショックだった。

 いや、ショックは受けたくなかったけど受けてしまった。

 何せあの会議室に現れた魔導師の言った事が本当だったから。

 

 

「何故アナタ達が……!?」

 

 

 縁を切った筈の元眷属達との要らぬ再会。

 本当にテロ組織に手引きの真似をしていたという現実は喩え元眷属であろうとショックな事に変わり無かった。

 

 そしてそんな妹と共にこの場に来た姉もまた、彼等の傍らに立つその存在を前に顔を曇らせる。

 

 

「本当にアナタだったんだ、カテレアちゃん」

 

 

 レヴィアタンの称号を持つ事で妬まれた存在、カテレア・レヴィアタンにセラフォルーは複雑な気持ちを胸にその名前を口にする。

 

 

「久し振りねセラフォルー

私から奪ったレヴィアタンの称号……返して貰うわよ?」

 

 

 旧校舎の一室にて展開される両者の強い殺気。

 そしてその中でも取り分け強い殺意を放つは、虚ろな瞳で何故か自分の長ランを着てその場に崩れ落ちてるギャスパーを前にした、一誠だった。

 

 

「くく、くくくくく……!!」

 

 

 一誠は今嗤っていた。

 楽しいから嗤っているのでは無い、ただ可笑しくなるから嗤っていた。

 

 

「兵藤ォ……!! 会いたかったぜクソ野郎……!」

 

「あ、アナタ達! 自分が何をしてるのかわかってるの!?」

 

「ギャスパー君を離しなさい!」

 

 

 リアスと朱乃が殺気を向けながら威嚇するが、匙達はどういう訳かまるで動じない。

 いや、逆に何処かがおかしい……。

 

 

「交換条件ですよ、今すぐここで兵藤を殺してください。そして駒を俺達に返してください。

そうしたらこのギャスパーは解放しますよ?」

 

「な、なにを……! 今更アナタ達を眷属に戻せと言いたいの!? ふざけないで!」

 

「じゃあギャスパーは返しませんよ。くく、流石に兵藤でも魔王クラスのこの人には勝てないでしょう? だったら傷が広がらない内に兵藤だけに犠牲になって貰ったら良いんですよ」

 

「話にならないわね……」

 

 

 嫌悪に顔を歪めるソーナにニタニタ嗤う匙達に、椿姫も一緒になって否定しつつもやはり何かが変だと匙達の様子の違いに目を細める。

 

 だがしかし、それを一々待ってられる程今の一誠はもう冷静では無かった。

 

 

「ほんと……」

 

「あ?」

 

 

 小さく呟く一誠の言葉に匙達が反応する。

 

 

「本当にテメー等って……くく、訂正してやるよ。

お前等は天才だぜ……本当によ――」

 

 

 

 

 

 

「この俺の癪に障る事に関してはなぁぁぁぁっーーーー!!!!!!」

 

 

 押さえ込んでいた全ての怒りが爆発するかの如く、一誠の怒号が旧校舎全体を揺らす。

 

 

「……。悪いけどカテレアちゃん、アナタにレヴィアタンの称号は渡せないよ」

 

「ほう、ならばアナタを排除して奪い返すのみですね」

 

 

 その怒号を横に、カテレアとセラフォルーの戦意も上がる。

 

 

「私は負けないよ。だって私は――」

 

 

 そしてセラフォルーは地味だったその服を妙な光と共にチェンジしながら言った。

 

 

「魔王☆少女レヴィアたんだもん!」

 

 

 然り気無く、髪の色を真っ赤に染めながらマジギレする一誠の傍らで……である。

 

 

「…………」

 

「ぁ……レヴィアたん……」

 

 

 きらーん☆ みたいな擬音がどっかから聞こえてきそうなポーズで変身を遂げたセラフォルーに、カテレアを含めた全員の時が一瞬止まる中、ギラギラと殺意剥き出しの一誠がポカンとしながら思わずといった様子でセラフォルーの事をレヴィアたんと言ってしまう。

 

 

「っ!? ち、ちげぇ……! あ、ありゃ偽者だ……!」

 

 

 しかし、直ぐ様ハッとなって首を横に振って否定するや否や、何故か自分の横に立って唖然とするカテレアに啖呵を切ってるセラフォルーを軽く突き飛ばした。

 

 

「あっち行け偽者め」

 

「………」

 

 

 あくまでも偽者扱いしてくる一誠の、まるで犬でも追っ払うかの様な態度に若干カチンと来てしまうセラフォルーだが、自分はお姉さんだからと言い聞かせ、取り敢えず余裕ぶった態度で頷いておく。

 

 

「素直じゃないなー?☆ ま、良いけどね……じゃあカテレアちゃん場所……移動しよっか?」

 

「相変わらずフザケタ女ですねアナタは。ですが良いでしょう、捨て駒を大量に侵入させられた時点で既にそのハーフ吸血鬼に用は無い。付いて来なさいセラフォルー」

 

 

 よく分からない茶番を見せられたカテレアが、セラフォルーの言葉に妙な自信を持って着いて来いと促すと、揃って転移魔法で姿を消す。

 そして残ったのは一誠達と、彼等と相対する元眷属達なのだが……。

 

 

「3秒数える内にギャスパーを放せ。そうしたら苦しませてからぶっ殺してやる……」

 

 

 ギラギラと殺意にまみれた……されど言彦に乗っ取られてないといった状態の一誠が、両手の指をパキパキ鳴らしながら手引きという真似をした匙達に忠告する。

 

 

「無理だな、寧ろテメーが会長の洗脳を解け。

じゃないとコイツは解放しない」

 

 

 しかし匙達は元の非力な状態へと戻っているにも拘わらず、何故か妙に強気な態度で例の如しな台詞を宣う。

 

 

「まだそんな事を……!」

 

「誰が誰を洗脳しているというのよ……!」

 

 

 何かアレば一誠を嫌う者は何時だってそう言う。

 まるで自分達がアッサリそれに引っ掛かった馬鹿だと云わんばかりに……。

 ソーナと椿姫も……いや、リアスも朱乃もいい加減うんざりだった。

 

 

「もう良い……アナタ達を捕らえるわ。

今回の騒動の手引きまでしてくれた罪でね……!」

 

 

 だからこそソーナは、元眷属であるという情も何も全てを押し込み、匙達を捕らえると宣言して構えた。

 それは隣で殺す気満々である一誠に対してのある種の牽制の意味も込められていたりするのだが、それとは別にこんな騒動まで引き起こした時点で無罪な訳が無いのだ。

 

 

「やっぱり兵藤を潰さないとダメか……」

 

 

 

 そんなソーナ達に対し、匙達は小さくため息を吐いて首を横に振った。

 愛しのソーナの洗脳を解除するにはやはり兵藤をどうにかしないといけない。

 ……まるで勝てる見込みがあると云わんばかりにだ。

 

 

「やっぱりテメーは許せないな兵藤」

 

「見当違いも甚だしいなゴミ共。

許せない? テメー等に対して何の許しを乞えってんだ? 笑わせるなよカス」

 

 

 そんな匙達に一誠は髪の色を真っ赤に染めさせた状態で、より重圧的な殺意をむき出しにする。

 しかし一誠はそんな匙達にソーナ達と同じく何処か違和感を覚えていた。

 

 妙に以前と違ってまるで動じて居ないし、寧ろ余裕綽々といった態度なのだ。

 

 

「さっきから変よ彼等……」

 

「頭のネジが全部抜けたって感じでも無さそうですし……」

 

 

 それが余計に違和感を感じさせる訳であって……。

 焦点の合わない目でその場にヘタリ込んだまま動かない、長ランを羽織るギャスパーを気にしつつ、四人が警戒をしていると……。

 

 

「この前の時の様にはいかねーぜ兵藤!」

 

「……!」

 

 

 匙……いや、ソーナの元眷属達は一斉にその違和感の正体を力として解放した。

 人の身に戻った……いや、転生悪魔だとしても持ち得ない筈の……(ウロボロス)の力を。

 

 

「こ、これは……!」

 

「匙達から異様な力が……!?」

 

 

 その気配は直ぐに感じた……いや視えた。

 匙達の背後を渦巻く様にして出現するオーラと無数の蛇達が、尋常では無い力と共に一誠に襲い掛かかったのだ。

 

 

「……」

 

「っ! 一誠!」

 

 

 幻なのか現実なのか、どう見ても正気に見えない形相の匙達から出てきた無数の蛇が一誠の全身を食らい付くさんとばかりに噛みつく。

 

 それを一誠は目を凝らしながら受け、ソーナ達は咄嗟にまとわり付いたその蛇を叩き落とすのだが……。

 

 

「くくく、流石に無限の龍神の力の一部である蛇には何にも出来ねぇわな兵藤? ほら、食い殺される前にさっさと会長達の洗脳を解除した方が身のためだぜ?」

 

「無限の龍神……!? あ、アナタ達はまさか……!」

 

「ええそうです会長。

手引きの代わりにさっきの旧魔王派って人から私達はオーフィスの力を一部借りたのです」

 

「馬鹿な……! 何て愚かな……」

 

「それもこれもまた会長と私たちを引き裂いた兵藤一誠を消すためです。わかってください……会長」

 

 

 カテレア経由でオーフィスという無限の龍神なる存在の力の一部を間借りして使役しているという匙達に、ソーナ達は絶句するしか出来なかった。

 

 妙に攻撃的な性格も、その正気とは思えない形相も、全ては力を間借りした影響であったというのだから……。

 

 

「動けないだろ兵藤! 流石にオーフィスの力には勝てないもんなぁ!? そのままくたばれぇ!!!」

 

 

 もう一度言うが、ソーナ達は只でさえ失望していて関わりたくすら無くなっていた匙達に対し、どうして分からないのかと思うしか無かった。

 

 確かにオーフィスの力を間借りすればそれなりに拮抗出来るかもしれない。

 しかしそれは所詮間借り物の力であり、本人の力じゃない。

 

 弱体化してるとは知らないにしても、どうしてそれで勝てると思っているのか。

 

 

「がべっ!?」

 

『………え?』

 

 

 ソーナ達四人はつくづく、どうして一誠はこうも過小評価されやすいのか……言彦の件から生き残ったせいか、勝った気で飛びかかった匙の顔面にカウンターで拳をめり込ませて壁まで吹っ飛ばした真っ赤な髪になってる一誠を見つつ、それが理解出来なかった。

 

 

「え……え?」

 

「さ、匙くん!」

 

 

 喉元を切り裂こうと飛びかかったその刹那、気付いたら壁に思いきり背中を打ち付けながら崩れ落ちてる自分に、鈍い痛み共に理解できないといった表情の匙は、生ゴミを見るような顔で見下ろす一誠に視線を向ける。

 

 

「み、見えない……う、嘘だろ? オーフィスの力を借りてるのに……無限の龍神なのに……?」

 

「…………」

 

 

 寧ろ転生悪魔の時より強くなったつもりだっただけに、呆気なくカウンターで迎撃されたのが信じられないといった匙とそれに駆け寄る仲間達は、そういえば先程から何のカラクリなのか、一誠の髪の色が真っ赤に………………あれ? 今度は黒くなってる?

 

 

「殺す価値すら感じなくなるっても、生まれて初めてかもしれないな」

 

 

 匙達の知るところでは無いが、一誠は二重の転生によって全盛期の遥か地にまで力を落としていた。

 それは、簡単な障壁も素手でぶち壊せなくなってる程に。

 

 しかしそれはあくまで素の状態である事が前提であり、足りない分を技術で補えば十二分に戦えるレベルにまでは、二重転生後のソーナ、リアス、朱乃、椿姫達の協力によって取り戻していた。

 

 

「今度は髪が真っ黒に……」

 

「さっきのが確か乱神モードって奴だから今のイッセーは……」

 

「改神モードですわ。

一誠くんが使う所久々に見ました」

 

「確か、『あんまり好きじゃない』って理由で使わなくなった技術なんですよね、安心院さんから教えられたものの一つとか。二人きりの修行の際に一度見ましたけど」

 

 

 先程までの荒れ狂う殺意が嘘の様に消え、今度は鋭い刃を思わせる殺気へとその髪の色と共に変化した一誠を見て、四人はここ最近付き合わされてる修行での一幕を思い返しながら、困惑する匙達を憐れむ様に見据える。

 

 

「良かったわね。物理法則無視のプロレス技の餌食にはならないわ。それでも痛い目には遇うけど」

 

「今度は記憶も消して一般人に…………という訳にもいかないかもね」

 

 

 スッとその場にクラウチングスタートの体勢に入る一誠を横に、四人は最早助け船も出す事もなく言い放つと……。

 

 

「黒神ファイナル……」

 

 

 音もなく姿を消した一誠を最後に、匙達の記憶と意識は完全に消し飛んだ。

 

 

「赤と黒に変わるのって、偶然だけど私とソーナとお揃いになるのよね……」

 

「何でしょうね、この繋がってる感。覚えさせられた身としては中々どうしてって感じよね」

 

 

 終わり

 

 

 

 

 

オマケ

 匙達は結局全員呆気なくお縄になった。

 あんまり好きじゃない技術の一つの封印を解いた一誠により。

 

 

 そしてギャスパーの事を任せた一誠は、残りの侵入者を始末せんと運動場に来たのだが……。

 

 

「がぁぁぁぁっ!?!? か、身体がいでぇぇぇ!?!?」

 

 

 マッスルリベンジャーなる物理法則無視のプロレス技を、弱体化した肉体で無理矢理使ってぶちのめした反動は、技術で誤魔化しても無理だった。というか、その前に散々カテレアにズタボロにされてたので余計だった。

 

 

「だ、大丈夫……?」

 

 

 オーフィスパワーでドーピングされたのもあってか、セラフォルーも衣装をボロボロにされて傷付いてたのだけど、それ以上にズタボロになってしまってる一誠を見て心配になってしまう。

 

※流れは前回の嘘予告参照

 

 

「ほら、肩貸してあげるよ?」

 

「いで、でで……!?」

 

 

 盾になった上で、無茶をやらかしたのはセラフォルーだって分かってるので、親切心で肩を貸してあげようと声を描けるのだが……。

 

「い、要るか! ひ、一人で歩けるわい!」

 

 

 さっきのデレっぽい台詞は何だったのだろうか。

 セラフォルーに対して再びツンツンした態度に戻った一誠はその手を払いのけて自分で立とうとし始める。

 

 それにムッとするセラフォルーもムキになって肩を貸そうと手を伸ばしたのだが。

 

 

「あぎゃぁっ!?」

 

「うわ!?」

 

 

 触れた瞬間、一誠の全身に猛烈な激痛が走る。

 そしてそのあまりの痛みに涙目になった一誠は暴れてしまい、その拍子に思いきりセラフォルーに向かって倒れ込んでしまった。

 

 

「い、いだい……や、やべぇ……かつて無い激痛……」

 

 

 激痛が強すぎて自分の状況なんて二の次状態の一誠。

 

 

「…」

 

 

 に、押し倒された状態にかなりビックリなセラフォルー

 そして……。

 

 

「大丈夫ですか一誠! 援護に――」

 

「こ、これはまた随分と暴れたみたいで……って」

 

「これは……」

 

「…………」

 

 

 最悪のタイミングで援護に来てくれた四人。

 

 

「い、いでで……か、身体ガタガタだから手ェ貸して欲しい……って、何だよ揃ってその顔は?」

 

「……。ひょっとしてわざとやってるのかしら?」

 

「? 何が……」

 

「下、アナタが今思い切り押し倒してる方よ」

 

「あぁん? あ、そういや地面にしてはやけに柔らかい様な―――――」

 

 

 

「………気付いた?」

 

 

 そして言われて気付くこの状況。

 

 

「いや、違うし。見てわかるだろ? 俺身体ガタガタだし、つーかこれにそれは無いからね? バチバチモードでニコニコしないでくれねーかな朱乃ねーちゃん?」

 

 

 当然即座に違うと弁解しようとするも、普段が普段過ぎてイマイチ説得力に欠ける。いやそれどころか、そう言っておきながら退こうとしない時点で説得力以前の問題だった。

 

 だがしかしそれは身体がガタガタで満足に身動きも儘ならないといった理由が今回ばかりは本当にあるので、一誠の言ってることは割りと本当だったりはする。

 けれど、セラフォルーは押し倒してるわ、際どい衣装状態だからアレだったりだわ、さっきから喧嘩売ってるのかってくらいセラフォルーの胸に顔半分突っ込んでるわ……極めつけは。

 

 

「あの……そ、そこに手は恥ずかしいよ……」

 

「は? ……………!? ち、ちげぇよ馬鹿! ありえるかそんなの!?」

 

「ぁ……! う、動かさないでよぉ! へ、変な気分になっちゃうからぁ……」

 

 

 まるでこれから『始めます』的な……セラフォルーの短いスカートの中というか、アウトな箇所に手が入ってたというか……。

 まあ、何というか……。

 

 

「ま、まだ誰にもさせなかったのに……」

 

「知るかぁ!! いでぇ!? か、身体ががが……!!」

 

『…………』

 

 

 アウトだった。

 

 

前回と前々回含めて全部嘘。




補足

まあ、黒神ファイナルで済んだだけ、ある意味マッスル達の必殺技フルコースよかマシじゃね? まあ、捕らえられて大変な人生になるけど。


その2

ギャーきゅん、若干風紀委員に興味深々――いや、つーか単純に懐いちゃっただけ。


その3

まあ、所詮嘘ですからね。

屍だらけの運動場のど真ん中で、押し倒されたあげく下腹部に手突っ込まれましたー……ってなっても嘘だし仕方ないんだよ。

 ……ここで変にスイッチ入ったらさぁ大変になるけどね。


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マッスル乙女達

問題。物理法則完全無視のプロレス技らしき何かを嗤いながら掛けまくる少年を目の前に、少女達は何を思ったか……。


答えは……。


リハビリなんで色々と酷いです。

あと閑話で誤魔化します


 黒神ファイナル。

 これはなじみから聞いたお伽噺の主人公が使う最終フェイバリットであり、何でも一度は言彦をぶちのめしたとかなんとか。

 まあ、直ぐに慣れたって理由で返り討ちにされちまったらしいけど、それでも俺は何となく修行しまくって使える様にはなっていた。

 

 が、嘗めてた。

 あんまり好ましくないって理由で、乱神だの改神だのといった技術共々椿姫ちゃん相手に修行した時等以外じゃ使わないでいたのだが、ギャスパーを少しでも早く助けなきゃと久々に使ってかなり後悔した……。

 

 

(まずい、全身がめっちゃ痛ぇ……)

 

 

 弱体化した状況で使うべきじゃ無かったと後悔するレベルの反動が、カス共を黙らした後一気に襲い掛かり、今俺の肉体は見た目は無傷ながら中身はズタズタになっていた。

 

 

「強力な暗示が掛けられてますわね」

 

「ええ、直ぐに解除してあげましょう」

 

「椿姫……匙達を縛り付けましょう」

 

「ええ……全身の骨が砕けてますし、縛るだけで身動きも取れないでしょう」

 

 

「………」

 

 

 まずい、ヤバイ、痛い、動けない。

 筋ひとつ動かそうとするだけで身体の中を鋭い丸鋸が無差別に斬り刻むが如く痛いし、さっきからギシギシと骨が悲鳴をあげてるしで、脂汗的なのが全然止まらない。

 

 

「ふぅ、こんな所ね。……それにしても一体誰に唆されたから匙達はこんな真似を……」

 

「今回のテロ組織の誰かという線がありますが、わざわざ元転生悪魔でしか無い匙君達を唆すというのも変ですしね」

 

「一誠はどう思う? …………一誠?」

 

 

 これマジでどうしよ? ギックリ腰の経験は無いけど、多分それの五千倍は痛くて動けないし、貧乳会長に話し掛けられたけど、返事するのも億劫だ。

 

 

「いや……どう、でも……良いわ。こんなカス共」

 

「??」

 

 

 口を動かすというか、肺に空気を取り込む呼吸動作だけでも肋辺りが大変な痛みに教われてヤバイ。

 

 しかし余裕だぜって装っておかないと、あまりにもダサい訳で。

 ねーちゃんとグレモリー先輩が虚ろな瞳のギャスパーの頭に触れながらブツブツやってるのを横目に、貧乳会長からのフリになるべく顔が引き吊らない様に努めながら返す。

 

 

「物凄い辛そうな顔だけど……」

 

「辛い? 馬鹿言っちゃいけねーぜ会長さん。俺は普通だぜ」

 

 

 早速バレそうになったけど、痩せ我慢してニタニタしながら怪訝そうなツラしとる貧乳にブラフを噛ます。

 カス相手にオーバーキル噛ましたら反動でズタズタですなんて、格好が悪いにも程があるのだ。

 

 

「そん、な事より……ギャスパーは平気なん、でしょうね?」

 

「ええ、無理矢理神器の力を引き出されていたみたいだけど、命に別状は無いみたい」

 

 

 それを聞いて安心したぜ。

 でなきゃ助けた甲斐が無いってもんだしな。

 

 にしてもギャスパーは何で俺の長ランなんざ着てるのだろうか? サイズなんて合う訳も無いのに……。

 

 

「すー……すー……」

 

「おーおー、呑気にスヤスヤお眠しちゃって……。ま、良かったがね――っ……!?」

 

 

 だがまぁ、無事であるに越した事は無いし、一々考えることでもない。

 グレモリー先輩の腕の中でスヤスヤ寝てるギャスパーにはその長ランを暫く貸して置くって事にして、取り敢えずそこに転がってる馬鹿共も会長さんと椿姫ちゃんに任せて俺はもう一つ仕事を終わらせなければならんのだ。

 

 そう……今もまだ勝手にこの学園に侵入してるボケ共の始末をな。

 

 

「……。ねぇ一誠くん、ひょっとして今身体がボロボロなんじゃないの?」

 

「……」

 

 

 

 だけどどうやらねーちゃんには見抜かれてしまったみたいで……。

 黒神ファイナルの反動で身体中がズタズタであることを早速突っ込まれてしまった俺は、会長さんと椿姫ちゃんの時みたいに咄嗟の強がりが言えずに思わず口ごもってしまった。

 

 

「やっぱり……さっきから一歩も動こうとせず、表情も辛いのを我慢してるって感じだったから変だとは思ったけど……」

 

「大方、カッコつけようとしてやせ我慢してるのでしょう。昔から一誠くんはそうですし」

 

「べ、別に我慢してねーし。痛くなんて――ぎっ!?」

 

 

 朱乃ねーちゃんの言葉にやっぱりといった呆れ顔をする会長さんと椿姫ちゃんに意固地な気分になって動こうとした瞬間、全身の骨が軋む感覚と共に目の奥がスパークする様な激痛が襲いかかり、思わず顔を歪めてしまう。

 

 

「イッセー、やっぱりそれって悪魔に転生して弱くなっちゃったからなの?」

 

 

 昔なじみに肉弾戦のタイマン挑んで返り討ちに遇った時のソレよりもある意味ヤバイかもしれないこの激痛を見て何を思ったのか、急にスヤスヤしとるギャスパーを抱えていたグレモリー先輩に、物凄い罰の悪そうな表情で言われてしまった。

 

 どうやら転生した結果の弱体化についてまだ罪悪感を感じてるらしい。

 

 

「修行不足なだけっすよ……イテテテ、ちぇ、こちとら無駄に大技ぶっぱなして、反動で身体がズタズタになりましたなんて……ダセェにも程があるぜ……あークソ」

 

「……」

 

「なんすかその顔? 言っときますけど、グレモリー先輩も会長さんも余計な罪悪感なんて俺に感じるなんてやめて欲しいっすね。

こちとら、悪魔の力を学習してその上で強くなる踏み台目的でアンタ等の下僕に無理矢理なったに過ぎない―――痛い痛い痛い!?!?」

 

「大人しくしなさい! まったく、そんなつもりも無かったくせに……」

 

「ちょ、ちょっとねーちゃん! もうちょっとこう……ガラス細工を扱うように優しくだね――」

 

「ちょっとくらい痛い目に遇う方が一誠くんには丁度良いの!」

 

 

 罪悪感? 知るかそんなもん。

 今ねーちゃんに無理矢理全身を指圧されまくって邪魔されたけど、結局の所元を辿ればそこで転がってる馬鹿共然り、グレモリー先輩をあっさり見捨てたクソ共然り、俺の立ち位置がアレだったせいで全部拗れてしまったからに過ぎないんだ。

 

 だから代わりが見つかるまではパシリにくらいならなってやらん事もない。

 

 どうせこれも修行……そう、修行なんだから。

 

 

 

 

 朱乃に応急処置を施された一誠は、当初と比べればゾンビと揶揄されるしぶとさと回復力も相俟ってマシに動ける程度にまでは回復を成功させた。

 

 意識を無理矢理幽閉されていたギャスパーも取り戻し、残すところは運動場で勝手やってる有象無象の処理で全ては完了する。

 だから一誠はそのまま運動場へと向かった訳だが、朱乃、椿姫、ソーナ、リアスに『戦うな』と釘を刺され、只今彼はスヤスヤと風紀委員長の長ランを着たギャスパーをおんぶしながら、運動場で派手に暴れて有象無象を吹っ飛ばしてる四人の少女達を眺めていた。

 

 

「むにゃむにゃ……」

 

「ねーちゃん達がやってるせいで退屈だな……」

 

 

 運動場の端っこからギャスパーをおんぶした体勢でそう呟く一誠の視界に映るは、然り気無く一誠に付き合わされていた影響で無駄に肉弾戦がえげつなくなってる四人の少女達。

 

 

「行くわよソーナ!」

 

「ええ!」

 

 

 例えばリアスとソーナは……。

 

 

「「マッスル・ドッキング!!」」

 

 

 某ドライバーと某バスターを肩車形式で繋ぎ合わせた合体技を繰り出し……。

 

 

「「クロス・ボンバー!!!」」

 

 

 朱乃と椿姫は一人の人物に対して二人がかりでラリアットを両サイドからかけるツープラトン技を繰り出したりと……。

 どういう訳か完全に一誠がやる物理法則完全無視の必殺プロレス技のそれと変わらない技を普通に使いこなしていた。

 

 

「ふっ、やりますね真羅さんも」

 

「姫島さんこそ……ふふふ」

 

 

 クロスボンバーをくらい、名も知らぬ魔術師らしき襲撃者の首がえぐい事になってるのを足元に、パチンとハイタッチをしながら微笑み合う朱乃と椿姫。

 そこには普段一誠に関しての子供じみたやり取りは無く、まさにタッグパートナーとしての風格があった。

 

 

「…………えぇ? マジかよ、つか、いつのまに覚えたんだ?」

 

 

 ただ、それを見せられた一誠はちょっと戸惑っていた。

 マッスル・ドッキングしかりクロスボンバーしかり、師のなじみから借りて愛読する漫画な技である事を一誠は知っているのだが、一誠は教えた事など無かった。

 

 

「ええっと、一誠が前に白龍皇に使ったのは確か……」

 

「や、やめろぉぉぉっ!?!?」

 

「そうそう……思い出したわ! アルティメット・スカー・バスター!!!」

 

 

 なのにあの四人は普通に技を完成型として繰り出しているし、そもそもこの系統の技は女子が使うのはちょっと違うのだ。

 

 今だってソーナが一誠が前に使った技を完コピしてるのだって見たくは無いのだ。

 ……三角絞めしてるせいでパンツ丸見えだし。

 

 

「む、やるわねソーナ……なら私は――」

 

「ひっ!?」

 

「これがビッグベン・エッジよ!!」

 

 

「……何で出きるんだよ。

俺が何年掛けたと思ってんだし」

 

 

 リアスも負けじと完コピ技を使うのだって見たくなかった。

 

 

「ま、こんなものかしら?」

 

「一誠のあの物理法則無視のプロレス技の事が知りたくて安心院さんに聞いた甲斐があったわね」

 

 

 そしてどうやら使える理由があった様で……。

 妙にホクホクした表情でソーナが口にした師の名前を聞いた一誠は、一気に何とも言えない表情を浮かべ、運動場に転がる無数の屍にほんのちょっぴり同情するのだった。

 

 

「なじみの仕業か……チッ、余計な事教えやがって」

 

 

 ハッキリ言って四人が自分の趣味ロマン技を体得する姿はあんまり見たくは無かった。

 普段はあーだこーだ言ってるが、仮にも女の子だし……こう、もう少し華のある戦い方を見たいというか……華奢なのにマッスル技は使うなしというか……。

 

 

「どう一誠? びっくりさせようと思って四人で秘密にしてたのだけど……」

 

「あーうん……嫉妬するくらい上手かったよ色々と」

 

 

 返り血浴びた姿でニコニコしながら近寄られても、一誠は何て返したら良いのか解らないのだ。

 

 

「ギャスパー見たら泣くぞこれ……」

 

 

 背中で眠るギャスパーが今の四人を見て怯えるのが簡単に想像できる。しかしそれ以上に自分の威厳が色々と大変な事になりそうだった。

 

 

終わり。

 

 

 

オマケ

シリアスの前触れ。

 

 

 見事なまでのマッスル技で敵戦力を絶滅させた五人。

 後片付けは三大勢力のトップ達が引き受けるという事で、取り敢えず一息つこうと思った訳だが……。

 

 

「ギャスパーの事、頼みますよ」

 

 

 一誠は眠るギャスパーをリアス達に任せ、そして誰も付いて来るなと釘を刺すと、まだ痛む己の身体のリミッターを無理矢理外して誤魔化しながら、走り去る。

 

 

「ちょっとイッセー!? な、何なのよ……」

 

「校舎に向かってましたけど……」

 

「校舎って……確か屋上でセラフォルーが戦っている筈ですが」

 

「……。認識阻害の結界が張られてるせいで状況がわかりませんね……。

まさかとは思いますが、姉に何か……」

 

 

 急にマジな顔して校舎へ走る一誠に、そういえばと何気に酷い思い出し方でセラフォルーの事を思い出す四人の少女。

 それは一誠の弱体化の深刻さを改めて知る前章……。

 

 

終わり。

 

 

 

 

 

オマケその2

 

五人仲良し。

 

 

 ギャスパーの封印云々前の話。

 最近の一誠は学園の一般生徒から更にヘイトを集めている。

 

 というのは勿論、数が減ってしまった生徒会との一時的な合併による会長・副会長との関わりが増えた。

 そして、同じく退部した者達のせいで二人だけになったオカルト研究部の部長と副部長との……発覚した姫島朱乃との繋がり故の関わり。

 

 全部美少女と最近しょっちゅう一緒だから……といはうのが余計に一誠へのヘイトが溜まりまくっていた。

 

 

「別に昼飯ぐらいわざわざ集まる事無いだろ。

つーか何で一々こっち来るんだよ……」

 

「迎えにいかないと来ないじゃない」

 

「来てってアナタに言うのもちょっと違うしね。それに朱乃が……」

 

「もうバレてるし、今更取り繕っても無駄よ一誠くん?」

 

「一応皆で一誠君の分も作ってきたし……味見もして欲しいから……」

 

『………』

 

「へーへー、わかりましたよ……まったく、お陰で無意味に睨まれまくってるんだぜ俺は……」

 

 

 例えば昼休みなんか、四人の美少女にお迎えに来てもらう。

 この時点で一誠のクラスメートどころか学年全体からヘイトポイントがカンストする。

 

 オマケに本人は結構嫌そうな顔だからぶっ飛ばしてやりたいとすら思われる。

 

 とはいえ、四人の前なのでそんな事を本当にする連中は皆無で睨むしかできないのだが。

 

 

その2・放課後の活動記録。

 

 

「あのさ、何時から風紀委員室はアンタ等の溜まり場になったんだよ……」

 

 

 そんな五人の放課後は最近風紀委員室にてが常になっている。

 現状唯一の風紀委員である一誠だけが許される風紀委員室。

 しかし生徒会との合併、オカルト研究部の同好会降格…………………そしてその両長との繋がりのせいで最近はめっきり風紀委員室が溜まり場になってしまっており、一誠はちょっとげんなり気味だった。

 

 

「椿姫ちゃんは別に良いけどさぁ……………あ、いや朱乃ねーちゃんもね? けどお二人まで来られると余計に自称ファン共から恨まれるんだよねー……」

 

「元から疎まれてたじゃないの……それに独りで生徒会室は……」

 

「私も部室に独りは寂しい……」

 

「う……。あ、いや……わかりましたよ。別に良いっすよ、どうせ広いし……」

 

 

 が、事情を知ってるせいで本気で追い出せない一誠は結局来ても良いことを了承してしまう。

 ソーナとリアスが呆気なく元手下共に裏切られたのを見てしまってるのもあるが、一誠自身のツンツン気味の気遣いがそうさせるのだ。

 

 

「ま、まぁ確かに独りで居たってしょうがないしね……うん、良いよ別に……あ、茶入れるわ」

 

「それなら私が――」

「あー良いって良いって! ねーちゃんも椿姫ちゃんも座ってなよ。

茶入れだけは冥ちゃん先輩時代の時に鍛えられたから結構自信あるんだぜ」

 

 

 だから四人をこうして風紀委員室に居ることを認め、仕事を手伝わせ、暇になったらゲームでもして気を紛らわせる。

 二人の悪魔の下僕の代わりが見つかるその日まで、一誠は自分の意思で二人の力になるのだ。

 

 

「あ、私が王様ね? そうねぇ……三番が一番と5分間抱き合う」

 

「三番は誰でしょうか? 私は二番でしたけど……」

 

「私は四番でしたわ――!? い、一誠くんは!?」

 

「え? あー……一番だけど、えぇ? まさか三番って」

 

「あ、私ですね」

 

「ソーナとイッセーね。残念だったわね朱乃」

 

「くっ……!」

 

 

 

 

「チッ、微妙な抱き心地で萎える」

 

「失礼ね、ほら、貧乳って言ってるけどちゃんとありやでしょ? ほら、ほら!」

 

「あの三人のインパクトがデカいから何も感じねー」

 

 

 多分、一般生徒に見られたら暴動必至だが……。

 

 

「ふふふ、私が王様ですわ。

名前の最初にイが付く方は私を抱き枕にしながらゲーム続行です」

 

「最初から俺って言えば良いじゃん……。まぁ、ねーちゃんなら慣れてるから良いけど、最近変に緊張するからな……」

 

「ぁ……うふふ♪」

 

「くそ……やっぱ昔と違う。

けど……眠くなる匂いは変わってねーや。ごめん、俺ちょっと寝るから後は皆でやっとくれ」

 

 

 

 

 

 

「くーくー……」

 

「本当に朱乃の腰辺りをがっちり抱きながら寝ちゃった……」

 

「流石と言いますか、昔からそうなんですか?」

 

「ええ、最近一誠くんの事を良いと思う女性が増えた気がしますが、ふふふ、これだけは私の強みですわ」

 

「流石幼なじみ……ですか」

 

「ええ……安心院さんには負けられませんよ……」

 

 

終わり




補足

キン肉マンレディーあるし……ねぇ?

やったねイッセーくん、これでタッグ技にも手が出せるよ!

…………女の子同士で成立してるけど。


その2

これ別に関係ないけど、ギャーきゅんまで覚えた場合……なんだろ、チーム名でも考えるべきかな。

超人血盟軍的な。


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三大奥義(仮)

また更新がアレになるかもしれない保険として、今作った。

インフルと喘息が半端無くてやばいんです……。


 マッスル技を使われ、微妙に立つ瀬が無い気分になる一誠は、手足や首が大変な事になってる侵入者共の屍の山となってる運動場の相俟って微妙にブルーな気持ちになっていた。

 

 

「これどうやって片付ければ良いんだろ……。

全員富士の樹海に埋めるにしても時間掛かりそうだぜ」

 

 

 勝手に入ってきて、勝手に暴れて、勝手にぶちのめされ……。

 ハッキリ言って最初から最後まで邪魔だとしか思わない侵入者達の後処理をしないといけないと考えるだけで、一誠は色々と精神的に重くて仕方なかった。

 

 

「いえ、兄達がそこら辺は何とかすると思うわよ? 壊れた校舎の一部もちゃんと修繕すると思うし」

 

「人間同士の小競り合いでこうなった訳じゃありまけんからね。そこは安心して良いですよ一誠」

 

 

 そんな一誠のブルーな気持ちが全面に出たコメントを聞いた魔王の妹が、安心させる様に後処理についてのフォローを入れる……何故か妙にスッキリした顔で。

 

 

「一誠の見よう見真似だったけど、決めるとかなりスッキリするのよね」

 

「これからはこのやり方をメインに鍛えようかしら」

 

 

 その理由は、どうやら一誠がよく好んで使用するロマン技に嵌まってしまったらしい。

 目の前が屍の山だというのに、やった本人達が妙に爽やかに言うもんだから、絵面としたら相当にシュールだ。

 

 

「ねーちゃんもいつの間にあんなの覚えちゃって……」

 

「だって真羅さんもリアスもソーナ様も『真似する』って言うから……」

 

「だからねーちゃんも覚えたってか? だとしたらセンスありすぎて嫉妬すら覚えるぜ。アンタ等四人に」

 

 

 朱乃まで覚えちゃった事もそうだけど、一誠が一番モヤモヤしてる理由が、四人してある意味自分よりセンスがあったという事である。

 何度も練習して体得した技を、短時間でああも完璧にコピーされちゃうなんて、ハッキリ言って複雑でしかない。

 

 

「別にやるのは良いけどさ、四人共スカートなのにあんな大股開いたりするからパンツ丸見えだったんだけど……」

 

「え!? あ、そ、そうだったの……?」

 

「一誠に見られてたなんて、ちょっと恥ずかしいわね……」

 

「今度から中にジャージでも履きましょうか?」

 

「一誠くんの顔が何とも言えない顔ですから、それが正解かも」

 

 

 しかも四人して学園の制服着てたせいでパンツ丸見え……一誠はこれぞ本場の嬉しくないパンモロを体験した気分である。

 幸いまだ四人にそこら辺の羞恥心が少なからずあるみたいなので、軌道修正は可能なのかもしれない。

 

 

 

 

「そこに居たか、赤龍帝の弟よ」

 

 

 ただその前に『ムカつく』事を処理しなければならないのだが……。

 

 

 

 イッセーが好んで使う技を真似てみれば、ちょっとは認めてくれるのでは? というソーナの言葉を受けて秘密に四人で練習してイザ本番に見せてみた私達なのだけど、結果は微妙な顔で笑われてしまった。

 

 何でも……女なのに大股開く技なんて使われてもリアクションに困る――らしい。

 下着がモロに見えると指摘されて初めてハッとした訳だけど、技が決まった時の気持ち良さと天秤に掛けてしまうと、スカートじゃなくてズボンを履いてしまえば関係無いと私――いや私達はこれからもこの物理法則完全無視のプロレス技を磨こうと思う。

 

 ――――何て、意味の無い前置きは此処までしましょうか。

 

 

「この侵入者達を片付けたのは流石だと言っておこうか、赤龍帝の弟君?」

 

「……………」

 

 

 ハァ……今日はどうしてイッセーの地雷を踏む輩が多いのかしら。

 匙君達の時もそうで、やっと落ち着いたと思ったのに、今度はまた別の誰かが空からやって来たかと思ったらイッセーを見下ろして凛の弟と呼んでるし……。

 ? そういえば彼って……。

 

 

「……。誰だったかしら?」

 

「何処かで見たような気はするけど何処でだったかしら?」

 

 

 誰だったかしらね。

 さっきからイッセーに気安い態度だし、銀髪で背に白く輝く翼を広げてる辺り一度見れば忘れようも無さそうな姿な筈なのだけど……うーん、私もソーナも椿姫も朱乃も――

 

 

「え、先輩さん達の知り合いじゃないの? それか椿姫ちゃんか朱乃ねーちゃんの」

 

「いえ知らないわ。何で兵藤さんの話を急にしてくるのかもビックリなくらい」

 

「ちゃんと何処かで見た気はするのだけどね」

 

 

 そしてイッセーも知らないらしく、凛の話をされて怒るとかいう以前に彼が誰かであることが気になって怒っては無いらしい。

 

 

「……………」

 

 

 そんな会話が聞こえてしまっていたのか、上空から私達を見下ろして微妙に気取っていた銀髪の男の表情が固まっていた。

 うん……まあ、恥ずかしいわよね……。

 

 

「……五人揃って記憶力がどうしようも無いというのはわかったよ」

 

「あ? いきなり何だよテメーは? つーか誰だし? 生憎こっちは全員テメーなんざ知らねーんだけど」

 

「………………。白龍皇だよ、この前コカビエルの件の時にキミが不意打ちでボコボコにしてくれたね……!」

 

 

 流石に怒りでもしたのか、やっと正体を明かす銀髪の男はどうやら白龍皇だったらしい。

 その名前は流石に知っているというか、コカビエルの件という言葉でそういえば一段階目の弱体化をしたイッセーにズタズタにされていた白い鎧を纏った存在について私達も今思い出す。

 

 

「白龍皇?」

 

 

 しかしそれでもイッセーにしてみれば……あぁ、そういえばあの日は凛達やコカビエル相手に不機嫌だったのと言彦に乗っ取られていた後だったわね。

 覚えてないのも仕方ないかも……。

 

 

「あー……確か何をしに来たのか解らんだけの役立ず予備軍かぁ。

居たなぁ、そんなの」

 

「っ!?」

 

 

 と、思っていたらそこは覚えていたらしい。

 見下ろされてるのに、思いきり見下した顔でハッキリ言い切るイッセーの態度に白龍皇の彼の表情が変わる。

 

 

「また今度は何しに来たわけ? 白だか青だか知らねーが、俺達はテメーに構ってる時間なんて無いんだよ。

わかったらとっとと消えろよ、邪魔くせぇ」

 

「相変わらず腹の立つ言い方だな赤龍帝の弟君。

俺だってお前達に用なんか無いし、ただこれを言いに来ただけだ」

 

「あ?」

 

 

 けど襲ってくるとかはせず、白龍皇の彼はイッセーの態度に不機嫌な表情を見せると……。

 

 

 

「今日から俺達は、今君達が倒したこの構成員達と同じ禍の団所属になる……というのを伝えに来たのさ」

 

 

 白龍皇がテロリストになります宣言をした。

 

 

「うん」

 

「あ、そう」

 

「禍の団ですか、そうですか」

 

「精々殺されないように頑張ってください」

 

「だからどうした、消えろ」

 

 

 ただ、それを言われても関わりが薄い私達は何てリアクションをすれば良いのかわからない訳で、こんな反応しか出来ない私達は多分悪くないと思うの。

 

 

「……。フッ、予想通りの反応だが、これを聞けば同じ反応が出来るのかな? 特にリアス・グレモリーと姫島朱乃よ?」

 

 

 それは向こうも流石に分かっていたのか、特に気にする事もなく――いえ寧ろこれから口にする事がある意味重要だと云わんばかりに、どういう訳か私と朱乃に関係があるという前置きをすると……。

 

 

「さっき俺は『俺達』と言った訳だが、ふふ……どうやら禍の団にはお前達の仲間だった赤龍帝の兵藤凛達も勧誘されて加わったらしいぞ? くくく……!」

 

 

 確かに聞きたくは無かった衝撃的事実を聞かされてしまった。

 

 

「……。そう、ソーナの元眷属達を見て何と無く嫌な予感はしていたけど……そう、テロ組織に勧誘されたのね」

 

「リアス……」

 

「えぇ……えぇ……わかってるわ。ふふ、本当に何を考えてるのか最後までわからなかったわ……」

 

 

 凛達が勧誘されてテロ組織に入った。

 匙君達の事もあって、ちょっとだけそんな予感をしてしまったけど、何も本当に当たる事なんて無いじゃない。

 というか……何を考えてるのよ。

 

 

「何で入ったのか知らないのアナタは?」

 

「さてな、ただ赤龍帝の弟が原因なんじゃないのか? キミ達が自分の眷属だった彼等を解雇してまでそいつを眷属にしたせいとかな」

 

「……。何も知らない方達からはそう思われてる様ですわね……」

 

「勝手な事を……!」

 

「もうここまで来ると誰かが一誠くんを強制的に悪者にしようとしてる風にしか思えませんね」

 

 

 元とはいえ眷属だったあの子達がテロリストに。

 ふふ、今更自分の名前が傷付くだなんてどうでも良いけど、また風当たりが強くなっちゃうんだろうなぁ……あははは。

 

 

「という訳だ弟君、精々怨みを持たれて殺されないように―――ぐがっ!?」

 

「もう良い、テメーは今すぐ消えろ。いや、死ね」

 

 

 目眩がして朱乃達に支えられた私を見てからなのか、それとも単純にウザいと思ったのか。

 上空に居た白龍皇に向かって大きく跳んだ一誠が、思いきり殴り飛ばしていた。

 まだ身体はボロボロだというのに、前と違って余裕なんて無いのに、白龍皇に向かって何度も何度も殴り付けている。

 

 

「な、嘗めるな!!」

 

『DIVINE!』

 

 

 当然白龍皇もタダでやられるつもりも無く、白龍皇の力を使ってイッセーに反撃するのだけど。

 

 

「黙れ」

 

「なっ!?」

 

 

 白龍皇の力を使っても止まらない勢いのイッセーに驚愕しながら、銀髪の彼はまた殴られた。

 今度はくの字に曲がる程の勢いのある拳が腹部に突き刺さって悶絶している。

 

 

「ご、ごほっ!?」

 

「赤龍帝がテロリスト? 本当にどうでも良いなそんな話。

だってぶちのめして処刑台にでも送れば問題無いんだしなぁ?」

 

 

 傷が開き、全身から血を噴き出しながらも嗤って悶絶する白龍皇の頭を掴んだイッセー。

 ……。実物を見るという意味ではこれが初めてかもしれないし、実際この目で見るまで信じられない話だと思っていたけど、どうやら本当らしい。

 

 

「だからテメーもぶちのめす、良かったな……今の俺は全身がズタズタだから満足に使えねぇ。

だから死にはしねぇよ……死にはな」

 

「な、なにを……だったらバランスブレ―――うわっ!?」

 

 

 戦えば戦うほど、相手が例え強くても瞬く間に適応し、そして進化をし続けるイッセーの異常性。

 

 

「テメーはこの兵藤一誠が直々にぶちのめす! 消えて無くなれぃ!!!」

 

「がっ!? ぐあっ!? がはっ!?」

 

 

 転生した事により得た悪魔の翼を背に広げ、白龍皇を頭突きで何度も打ち上げる。

 

 

「ぎっ!? く、クソ……折角回復したのに、こんなカスにまたボロボロかよ…………だがっ!!」

 

「ぐはっ!?」

 

 

 そして上空高く打ち上げた白龍皇目掛けて自分も跳び、腕と足を固める。

 それは私達も初めて見るイッセーの新しい物理法則完全無視のプロレス技だった。

 

 

「う、動けない……!?」

 

「さっきはあの四人に見せて貰った。だから今度は俺の番だぁぁぁっ!!」

 

 

 それはまるで不死鳥だった。

 いや……ライザーとかいう意味ではなく、本当の不死鳥の姿がイッセーの背中に見えた気がした。

 白龍皇が固められてるあの姿を女の子がされたらかなり恥ずかしいのかもしれないけど、生憎あれは技の一つなので、考えたら失礼に値する。

 

 もしかしてイッセーは凛達の事について私に気を遣ったのかもしれない。

 だからズタズタの身体に鞭打ってまで……。

 

 

「マッスル・リベンジャー!!!!」

 

「うわぁぁぁぁっ!?!!?」

 

 

 魅せてくれたのかもしれない。

 白龍皇を地面に叩きつけたその瞬間まで、私はその姿を只見つめていた……。

 

 

 

 ……。あ、が……!?

 

 

「あ、あがががっ!? か、身体がぁぁぁっ!?」

 

 

 い、痛い……やばい、死ぬ!?

 

 

「は、反動がやばい……! く、クソッタレ……いでででで!?!??」

 

 

 この意味わからんガキは黙らせたけど、やっぱりここまで弱体化してる上にガタガタの身体でやるのは間違ってた。

 泡吹いて気絶してる程度にしかダメージも与えられず、代わりに自分はさっきの百倍の激痛。

 今回ばかりは本当に一歩も動けない。

 

 

「一誠くん!」

 

「ね、ねね、ねーちゃん……今ばかりは強がれない、本気で痛い……」

 

 

 ねーちゃんに泣き付くくらいに本当に痛い辺り、自分でもかなり余裕が無いとわかる。

 というか、さっきの傷が開いて血が半端無い。

 

 

「い、いてぇよぉ……こんな雑魚になんで使ったんだ俺は……」

 

「か、軽く電気を流して痛みを麻痺させるわ……」

 

「ほ、包帯も取り替えましょう」

 

「一応冥界で市販されてるお薬もつかいましょう!」

 

「さっきまでのブルーな気分が一瞬で吹き飛んだわね……。凛達の事は気になるけど」

 

 

 ねーちゃんから電気治療っぽい処置や、先輩さん達から傷薬を与えられ、椿姫ちゃんからは包帯の取り替えをして貰う等々、今日の俺は役立たずも良いとこだ。

 終いには……。

 

 

「せ、先輩!? ど、どうしたんですかぁ!?!? …………あ、あぅ……」

 

「あぁギャスパー!? し、しまった……俺のスプラッターな姿見て意識が……」

 

 

 折角意識を取り戻したギャスパーを気絶させる始末。

 マジで俺、本当に駄目だわ今回は……。

 

 けど、この後俺はこれ以上に身体をズタボロにすることになる。

 

 

 

 

 

 

「う……く……」

 

「弱くなりましたねセラフォルー。私がばら蒔いた駒共は全滅させられた様ですが、私としては貴女を殺せればそれで良い」

 

「ま、まだまだ……!」

 

 

 そう、別に助ける義理なんてない偽者の為にまで……。

 

 

 

終わり




補足

はい、大人しくしてたと思ってたらそんなカラクリがありました。

ちなみにですが、このヴァーリは凛さんに嵌まりつつあるとかないとか……。


その2
で、わざわざそれをリアスさんと朱乃ねーちゃんの前で言ってくれちゃうもんだから、二人の反応を見てカチンと来たイッセーくんは、予告無視のマッスルリベンジャーを解放してぶちのめしましたとさ。


その3
何でここまで弱体化してるのに戦えてるのか。

それは、やはりイッセーの異常性が弱体化前とまではいかずにかなり遅いとはいえ、進化を促しているということです。

とはいえ、瞬間風速的にしか力も発揮出来ずに反動でズタボロですけど。



最後。

イッセーのマッスル技を『ふつくしい……』とか思い始めてる辺り、もしかしたら四人の乙女達は色々と手遅れかもしれない。

セラフォルーさんもサーゼクスさんも泣くかも。


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傲慢なる火花

セラフォルーさんメインになってしまっていた……。


 

 元々無理をするタイプである一誠だけど、今度受けた反動によるダメージは今までの人生の中でも間違いなくトップクラスの激痛であった。

 

 

「全身の筋肉が断裂してる……それに骨も」

 

 

 マッスルリベンジャーなる技で白龍皇を黙らせた直後、激痛の悲鳴をあげながらぶっ倒れた一誠に全力の治療を出来る限りの施すリアス、朱乃、ソーナ、椿姫だが、出血の量もさる事ながら内部の人体ダメージがかなり深刻である事に焦りを覚えてしまう。

 

 首から下の殆どは紫色に内出血し、筋肉も裂傷している……先の黒神ファイナルでヒビの入っていた肋骨が完全に折れ、その一部が内蔵を傷付けている。

 医学の知識は専門外だが、痛みで涙目になってる今の一誠の姿は素人が見ても『無事じゃない』姿だった。

 

 

「痛覚を麻痺させるわ。そうすれば痛みだけは多少マシになる筈だから……」

 

「さ、さんきゅー……。へへ、身体の中で芝刈機が大暴れしてるみてーだぜ……くくく」

 

「ちょっと滲みるけど我慢してね?」

 

「おう――うぐっ!? な、なにこれ、オキシドールか何か?」

 

「冥界で市販されてる傷薬よ。人間界の物と比べたら効力は大分マシだと思うわ」

 

「そ、そうかい……なら良いけど……。くそ、勝手に自爆してこの様とか本当に格好つかねぇや……」

 

 

 しかしそれでも四人の少女達の懸命な応急処置のお陰で、激痛にのたうち回っていた当初と比べて大分落ち着いており、背中に手を当てて微弱な電流を送って痛覚を麻痺させてる朱乃や、冥界からもしもの時の為にと持ち込んでいた傷薬を使って患部を治療するリアスとソーナ、折れてる箇所に添え木を施しながら包帯を巻く椿姫という結構完璧な布陣で治療を受けている一誠は、格好の付かない己に自虐的な笑みを浮かべながら素直にされるがままになっていた。

 

 

「ギャスパーが長ラン着ていてくれて助かった。

もし俺が着てたら、血だらけでボロボロになってたかもしれなかったし……」

 

 

 一瞬意識を取り戻し、スプラッター状態を見てまた気絶したギャスパーに妙に優しげな笑みを見せる一誠……。

 自覚してるものよりも遥かに自分が弱くなっている事を改めて知れたという意味では、ある意味じゃこの騒動を体験しておいて良かったのかもしれない。

 

 

「ふぅ、サンキューねーちゃん達」

 

 

 だが一誠はひとつだけ、絶対に口にしない事だが、やることが残っていた。

 

 

「ちょっと委員室に行ってくる。予備の制服があるから着替えて来るのさ……あぁ、一人で良いよ、着替えるくらい一人で出来る」

 

 

 侵入者は片付けた。

 しかしまだ、侵入者を捌けてきた元凶を片付けていない。

 その元凶はあのレヴィアたんの偽者やってる女魔王が戦っている様だが……。

 

 

「すぐ戻ってくる……」

 

 

 心配では無く、逃がしでもされたら鬱陶しいだけ。

 だからほんの少しだけ様子を見に行って、もし終わってたらそれで良い……。

 

 風紀委員室にある予備の制服に着替えて来る……と付いてこようとした四人の少女に対して上手く誤魔化した一誠は、力の感じる屋上へと走る。

 

 

「死んでたら嗤ってやらぁ」

 

 

 偽者の様子が気になって気になって仕方ないという理由を誤魔化しながら……。

 

 

 

 

 セラフォルーは一度実力という意味でもカテレアに勝利していた。

 だからこそレヴィアタンという魔王の称号のひとつをシトリーという身分でありながら手にし、現四大魔王の一人にまで数えられるまでになっていた。

 だからこそテロ組織にまで堕ちて自分を殺してレヴィアタンを取り戻すと宣言したカテレアと戦う事を決心し、妹のソーナ達を巻き込まない為に学園の屋上で一対一の決闘を開始した。

 

 

「弱くなったわねセラフォルー?

いや、私が強くなりすぎたせいかしら?」

 

「くっ……オーフィスの蛇を取り込んただけでそこまでやるなんてね……」

 

 

 だがその決闘の状況は正直かなりセラフォルーが圧されており、カテレア自身の魔王の血族としての強大な悪魔の力に加え、無限の龍神と唄われる最強の龍神の一人であるオーフィスの力の一部をその身に取り込んだカテレアの力は予想を越えた力を発揮し、セラフォルーの攻撃手段の悉くを無力化していた。

 

 

「オーフィスの力を取り込むなんて……何て危険な事を……」

 

「リスクを承知で取り込んだのよ。貴女を殺し、レヴィアタンを取り戻せさえすれば……寿命なぞ多少減ろうが関係ない……!」

 

 

 ウロボロスの力を加えたカテレアの魔力の塊が無数の数となりセラフォルーに襲い掛かる。

 その目はあくまでもレヴィアタンを奪ったセラフォルーへの殺意で満ちており、セラフォルーは一誠に見せびらかすつもりで『変身』して着替えた衣装の所々が破けながらも、持っていたステッキで叩き落とそうと乱雑に振り回す。

 

 

「っ!?」

 

「甘い……」

 

 

 しかしカテレアの放った魔力のひとつひとつが、まるで生きているかの如く、弾き飛ばされても尚再びセラフォルーにしつこい蛇が如く襲い掛かり、小規模の爆発をその身に受けて屋上へと墜落する。

 

 

「くっ……」

 

「オーフィスの力を取り込んだ私を以前と同じと思わない事ねセラフォルー」

 

 

 手摺は吹き飛び、石畳が所々剥がれている屋上へと降り立つカテレアの見下すような言葉にセラフォルーは内心『まいったな……』と自嘲する。

 自分を恨んでいるのは分かっていた事だが、まさか他者の力を取り込んでまで殺したがっているなんて……。

 

 

「自慢の氷の魔力も、今の私の前では児戯に等しい」

 

「………」

 

 

 自慢の氷の魔力で周囲の空間を分子の運動量ごと凍らせて完全な停止空間を作りだそうにも、危険すぎてソーナ達を巻き込んでしまうと躊躇するセラフォルーに、カテレアは怨敵にやっと報復出来るという喜びがあるのか、これでもかと歪んだ笑みを見せながらその手に禍々しい魔力を溜め込み始める。

 

 

「死ね、セラフォルー・シトリー!!」

 

「!?」

 

 

 そして溜め込んだ魔力を膝を付くセラフォルー目掛け、積年の怨みと共にカテレアは撃ち放つ。

 勝った……カテレアはその瞬間確かに勝利を確信した。

 

 

 だが……。

 

 

「がばっ!?」

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

 

 怨念を込めた凶悪な魔力はセラフォルーに届くことは無かった。

 そう、両者の間に割り込み、その魔力を全身で……まるでセラフォルーの盾になるかの如く受けた何者かの邪魔によって。

 

 

「ま、また……ボロボロに逆戻りかよ……ツイてねぇ……ガフッ!」

 

 

 そう……その邪魔者こそ、セラフォルーを偽者だと言って聞きやしない茶髪の少年だった。

 

 

「……! アナタは確か転生悪魔……!」

 

 

 砂煙と閃光が晴れた先に、セラフォルーを庇う様に仁王立ちする少年を目にしたカテレアが、チッと舌打ちしながら自分達を手引きする際に利用した人間達の前に出てきた魔王の妹達の中に居た転生悪魔の一人である事を思い出す。

 

 この建物ごと吹き飛ばす程の力を込めた筈なのに、どういう訳か少年の邪魔で少年だけにしか致命傷を負わせられなかった事に少々疑問が残るが、所詮は転生悪魔。

 今度はその身ごとセラフォルーを葬れば問題無いとカテレアは再びウロボロスの力と己の力を混ぜ合わせる。

 

 

「ごほ、い、いってぇ……! あのケバ女ぁ……ふざけたもんぶっぱなしやがって……!」

 

「な……ど、どうして……!?」

 

 

 そんなカテレアが再チャージ中の最中、またしても血まみれのボロボロになってしまった一誠の出現と、自分の盾になった事について目を見開くセラフォルー

 

 服は擦り切れ、全身から夥しい量の血を流しながらも尚膝を付こうとせず、寧ろ今からその様で戦おうとすらする少年……一誠にセラフォルーは思わず駆け寄りながら問い掛けた。

 

 

「何でわざわざ私の盾になんか――」

 

「あ゛? 知らねーよ、様子見に来たらケバい女に殺られそうになってたのが見えちまったら勝手に動いちまったんだよ……クソ」

 

 

 ボタボタと失血死すら危ぶまれる程の血を流す一誠は、セラフォルーに対してペッと吐き捨てる様に返す。

 

 

「な、何よそれ……」

 

「だから知らねーよ! 俺だってテメーみてーなレヴィアたんの偽者なんぞ――うおっ!?」

 

 

 意味がわからない。と呟くセラフォルーに一誠が若干イラついた様に怒鳴ろうとする。

 しかしそれを待たずしてカテレアから再びウロボロスパワーを込められた魔力の雨を撃ち込まれ、一誠は反射的にセラフォルーの腕を掴み、覆い被さる様に抱き寄せると、その魔力の全てを背ひとつで受けきる。

 

 

「ぐぁぁぁっ!! いっでぇぇぇ!?!?」

 

「なっ!? な、何ですかあの転生悪魔……私の力を食らって痛いですって?」

 

「ちょ、ちょっと……!?」

 

 

 背中から肉の焦げる嫌な臭いがするのを、思いきり抱かれる様な体制にされてビックリしたセラフォルーが気付き、慌てて一誠を気遣おうとする。

 

 

「せ、背中が……」

 

「よ、余計なお世話だ! つかテメーは何であのケバい女を殺ってねーんだ!」

 

「むっ!? お、思ってたよりカテレアちゃんがパワーアップしてたの!」

 

「だから何だゴラ! テメーそれでも魔王か……ごはっ!」

 

「わっ!?」

 

 

 何処か緊張感を削ぐ会話が、一介の転生悪魔と魔王の間で展開される。

 盾になって貰った恩はあるが、こうも口汚く罵られるとセラフォルーも流石にムッとする訳で……。

 

 

「大体そんなナリで来てもらっても足手まといだよ!」

 

「んだとこの似非女! さっき殺されかけてじゃねーか!」

 

「へっへーん、別に助けて貰わなくても自分で何とか出来ましたぁ☆」

 

「うるせぇ!! 似非の分際でレヴィアたんみたいな喋り方すんじゃねぇ!!!」

 

「ざんねーん☆ 何を言おうが私が本物だもーん!」

 

 

 気付けば両者の間の溝になってる原因を蒸し返し、ガキの喧嘩が開始された。

 

 

「………」

 

 

 これにはカテレアも若干困惑してしまい、このままトドメを刺すべきなのかと一瞬躊躇してしまう。

 

 

「そもそも本物だったら、あんなケバいだけのババァにレヴィアたんが苦戦する訳がねーんだよ!」

 

「……………………」

 

 

 が、一誠がカテレアに指差しながらケバいババァと言った瞬間、その躊躇も一瞬にして消えた。

 いや寧ろぶっ殺してやるという気持ちを改めさせられたくらいだった。

 

 

「汚ならしい転生悪魔ごときが……死ね!!!」

 

「っ!? ど、退いて! カテレアちゃんが怒っちゃった……」

 

「ケバいババァにケバいと言って何が悪い。

へ、真の美女である朱璃と違って、ケバくて香水臭そうだろアレは」

 

 

 しかし一誠は寧ろ煽ってやった。

 来てみればとっくに終わらせてると思ってたのに、実際は普通にやられ掛けていた。

 

 言葉には出さないが、それを最初に見た時は我すら忘れてカテレアの攻撃をまともに受けてしまった。

 偽者と思いたい一誠にしてみれば、こうでも言わないとやってられないのだ。

 

 

「っ!? さっきよりカテレアちゃんの力が強くなって――」

 

「危ないってんだろ!!」

 

「わわっ!?」

 

 

 戦況としては余計不利になったけど、冷静さを欠かせるという意味では大成功ではある。

 セラフォルーを抱えながらカテレアの攻撃を凌ぐ一誠だったが……。

 

 

「ぐぎぃ!?」

 

 

 ボロボロであるその身は正直だった。

 

 

「嘗めた事を言った割にはその程度ですか転生悪魔?」

 

「ぐ……ぅ……」

 

「や、やっぱりその身体は本当に……」

 

 

 ボロボロであるのを無理矢理な応急処置で誤魔化し、今また無理に身体を動かしてきた一誠だったが、それも最早限界だった。

 血を流し過ぎ、全身の筋肉はズタズタに切れ……肋骨の一部が内蔵を損傷させた重症状態で戦える訳が無く、一誠は敵を目の前にバタリと倒れてしまった。

 

 

「ち、ちきしょうが……ねーちゃん達の治療の効果が切れやがった」

 

「ふふ、本当に動けない様ね」

 

「っ!? ま、待ってカテレアちゃん! 彼は関係ない――」

 

「訳無いでしょう? 転生悪魔等というくだらない存在の分際でこの私を侮辱した。

殺す理由としては十二分よ」

 

 

 今度はセラフォルーが庇う様にして一誠の前に立つが、カテレアは勿論そんな話なぞ聞くわけが無い。

 いっそ両方そのまま死ねとすら殺意を纏いながら、その手に魔力を溜め込み……。

 

 

「思わぬ邪魔で興が削がれたけど、これで終わりよセラフォルー!!」

 

 

 最初と同じように、撃ちはなった。

 

 

「だ、だめ!!」

 

「なっ!?」

 

 

 その瞬間、セラフォルーは倒れた一誠に覆い被さった。

 まるで先程一誠が行った時と同じように、今度はセラフォルーが一誠を庇いだしたのだ。

 

 

「ば、バカかアンタ!? お、おい退け!! これじゃあ何の為にアンタに嫌われる真似したのか―――ぁ……」

 

 

 一誠はセラフォルーに離れろと、思わず本音をポロリと溢しまい、しまったとハッとする。

 そう、さっきから妙にセラフォルーやカテレアに喧嘩を売るような真似をしたのは、セラフォルーに向けられる攻撃性を己に向けさせ、その間にカテレアを始末させらようとしたからだったのだ。

 

 まあ、半分は本人の意地張りな性格が素で出ていたのかもしれないが、ボロボロの自分が明らかに圧されてるセラフォルーを援護するにはこれしか手が無かったのだ。

 

 だからこそ一誠は痛む身体で覆い被さるセラフォルーを突き飛ばそうと手を伸ばすが……。

 

 

「それが本音なんだね? ふふ、ギルバちゃんらしいや……☆」

 

「う……」

 

 

 その手をセラフォルーは握り締め、ニコリと微笑んだ。

 

 

「ごめんね、ガッカリさせちゃって……。

でも、本物だっていうのだけは信じて欲しいな? あ、でもこのままじゃ二人まとめて死んじゃうし、意味無いかな?」

 

「…………」

 

 

 セラフォルーの笑顔を見せられた一誠に言葉は無い。

 分かっていた……自分が振ったネタを知ってる時点で目の前の女魔王がレヴィアたんだってのはわかっていた。

 けど、何となく認めたくなかった……何となく変な意地が出てしまった。

 

 

「…………。わかったよ……俺の負けだクソッタレ」

 

「……え?」

 

 

 カテレアの強大な魔力が禍々しい光を放ちながら今まさに二人を消し飛ばそうとする刹那、一誠は伏し目がちに確かにそう呟いた。

 その声にセラフォルーは一瞬だけ目を丸くなり、握ったその手に力が込められるのをハッキリと感じ取る。

 

 

「サインくれよ……後でな」

 

 

 それはセラフォルーを本物と認める言葉だった。

 本物と認め、負けたよと呟いた一誠の瞳に力が戻る。

 

 

「だから、やっぱりあんなケバい女に殺らせねぇよ……!!」

 

「ぁ……」

 

 

 そして握っていた手を逆に握り返され、ボロボロの身体が嘘の様に力強く肩を抱かれたセラフォルーは。

 

 

「まあ、俺がこれで生きられたらの話だけど……」

 

「!?」

 

 

 セラフォルーと無理矢理体勢を変わり、再びその身一つで盾となった。

 

 

「!? しぶとい……!」

 

「ぐ……ぼぉ……!」

 

「な、何でよ!? 今私が盾になってたらそんな事にはならなかったのに!」

 

 

 凄まじい魔力の塊がぶつかり、激しい爆音が屋上に鳴り響く。

 そして砂煙が晴れた先には、先程と同じく身ひとつでセラフォルーを庇いきった転生悪魔の少年……。

 

 ズタズタという言葉すら生易しい程にボロボロとなる一誠に舌打ちするカテレアは間髪入れずにトドメを刺そうと、今度は学園全体ごと吹き飛ばすレベルの力を溜め込む中、セラフォルーはヨロヨロと立ち上がろうとする一誠に悲痛な表情で叫ぶ。

 

 

「確かに私はレヴィアたんなんて自称してたけど、けど……けど、それは所詮設定の――」

 

「し、知るかよ……身体が勝手に動くんだから……ごふっ」

 

 

 直接会って、しかもイザコザだらけの関係なのにどうしてここまですると問うセラフォルーに、一誠は痛々しいまでの身体でヘラヘラ笑いながらただ一言返す。

 

 

「お、俺の知ってるレヴィアたんが負けて堪るかよ。

ほ、本物なら知ってるだろ……俺は……ギルバはレヴィアたんの大ファンなんだよ!!」

 

 

 レヴィアたんのファンだから。

 たったそれだけの為に一々肉の壁にすらなると言い切った一誠にセラフォルーは困惑するものの……。

 

 

「な、何よそれ……変なの……」

 

 

 嬉しかった。

 そして人間界唯一のファンが彼であって良かったと……心の底から喜んだ。

 

 

「次はこの街ごと破壊する。

そうなれば無駄にしぶといアナタでも無事じゃあすまないでしょう?」

 

「くく、さっきから横でうるせぇんだよケバいババァが……。

やれるもんなら……やってみろぉぉぉっ!!!」

 

 

 そしてセラフォルーは見て端的に理解した。

 ファンである少年が何故コカビエルを倒せたのか……そしてサーゼクスに目を掛けられ、同じ気配を感じたのかを。

 

 

「つーか撃たせるかボケぇ!!」

 

「なっ!? 見え――ガッ!?」

 

「ふ、クハハハハ!! 何か知らねぇけど、身体が異様に軽いぜ!!」

 

「こ、このっ! 調子に――ぐぅ!?」

 

 

 見た目は確かにズタズタとなっている一誠。

 しかしどういう訳かセラフォルーの目には、それを感じさせない力強い力をカテレアの身に叩き込んでいる。

 

 

「ば、バカな……この力はオーフィスの―――っ!? ま、まさか貴様、手引きの駒に分けた蛇を……!?」

 

「あぁん? 何言ってんだかわかんねー……よ!!」

 

「ぎゃ!?」

 

 

 そしてセラフォルーは見た、一誠の技を。

 

 体をブリッジさせるように何度も勢い良く反らせながら、その腹筋でカテレアを弾ませるように跳ね上げる。

 

 

「な、何だこれは……っ!?」

 

「何か知らんが、今なら行ける!」

 

 

 跳ね上げた空中で相手の首と片足を固定し、両腕は相手の後ろに交差するように無理矢理組ませ、そのままエビ反りになるようにクラッチ。

 

 

「あ、あれは……」

 

 

 その姿に固定されたカテレアの身から骨が砕ける音が聞こえ、口から夥しい量の血の塊が吐かれるのをセラフォルーは呆然と見つめている。

 

 

「グフゥ!?」

 

「慈悲の心は無いからな……悪く思うなよケバ女ァ……!」

 

 

 その後一誠は、続けざまに相手と背中合わせの姿勢で手足を固め、首を外側に無理矢理固定させると……。

 

 

「喰らえ、俺の現状最強奥義! アロガント・スパァァァァァァクッ!!!」

 

 

 そのまま勢いよく相手の頭と体を地面に叩きつけるように落下した。

 尊大・傲慢な火花と叫びながら……。

 

 

「がばぁぁぁっ!?!!」

 

 

 その技は殺意に満ち溢れた技だった。

 地面に叩きつけた瞬間、カテレアの手足……そして首はあらぬ方向へとねじ曲がってしまい、たった一度の技でカテレアは戦闘不能へと陥った。

 

 

「そ、そんな……ばかな……こんな意味不明な子供に……」

 

「くっ……やっぱ失敗か。決まれば問答無用で殺す技なのによ……。やっぱなじみに見せてもらう漫画の様にはいかねぇや……ぐっ」

 

 

 カテレア・レヴィアタン。

 アロガント・スパーク(仮)により完全敗北。

 

 

 

 

「っ……ぎぇぇぇぇ!?!?!?!?」

 

「!? ど、どうしたの!?」

 

 

 アロガント・スパークなる得意の物理法則無視技でカテレアを潰した一誠だが、それまで分泌されていたアドレナリンが完璧に切れたのか、手足と首が滅茶苦茶に折れ曲がっているカテレアを放置して歩こうとした瞬間、全ての反動が襲い掛かり、激痛にのたうち回るという三度目のオチを迎えてしまった。

 

 これにはポケーッと一誠の技を見つめていたセラフォルーもハッと現実に返され、慌てて痛くて泣いてる一誠に駆け寄る。

 

 

「あががが……! さっきの更に千倍痛い……!」

 

「だ、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫じゃない……てかねーちゃん達にバレたら怒られる……」

 

 

 セラフォルーの前だからなのか、痛い痛いと言うものの子供みたいに泣き叫ぶ事はしない一誠の言葉にセラフォルーは取り敢えず安全な場所に一誠を運ぼうと手を伸ばす。

 

 

「肩貸してあげるから……」

 

「………」

 

 

 妙に美しさを覚える技を見せられた余韻もさる事ながら、ちょっと教えて欲しいとか思ってしまってるセラフォルーの手を一誠は珍しく素直に取る。

 だが……。

 

 

「うぎ!?」

 

 

 手を取った瞬間一誠の全身が悲鳴をあげ、体内をチェーンソーで切り刻まれる様な痛みに襲われる。

 その痛みに思わず手を握ったセラフォルーに向かって全体重を掛けて倒れ込んでしまった。

 

 

「わっ!?」

 

 

 思いきり倒れ込んで来た一誠を受け止めたセラフォルーだが、勢いまでは殺せずそのままひっくり返る。

 

 

「い、痛い……」

 

 

 先に言っておくが今の一誠に下心の類いは一切無い。

 というか、全身がガタガタ過ぎてそんな余裕は無い。

 

 しかし手足と首が滅茶苦茶になってるカテレアを抜かせば、今この場には一誠とセラフォルーしか居らず、しかも今の転倒後の体制はかなりマズイものがあった。

 

 

「あ、あのさ……」

 

「い、いてて……な、なに?」

 

 

 別に今更恥ずかしがる歳でもないとセラフォルーは常日頃思っていた。

 己の趣味のせいで嫁に行けないといった状況だったが、そんなものより趣味の方に人生を傾けた方が有意義と思っていたので気にも止めなかった。

 

 なので別に気にしてないつもりだったりこれからもそんな感じなのだろうと思っていた。

 

 

「わ、わかってるよ? これ事故だもんね? 身体がボロボロだからわざとじゃないんだよね?」

 

「はぁ? 何を………………あ」

 

 

 例え、人間界のファンで最近妙に一番関わりがえるかもしれかい妹の代理下僕になってる男の子に押し倒されて、片手は胸を鷲掴みにされ、片手は下腹部というかスカートの中にその手が入ってしまったとしても……セラフォルーは気にしないつもりだった。

 

 

「いや……あ、いや……これ違う。違うから……」

 

「う、うん……わかってるよギルバちゃん。

で、でもさ……スカートの中は恥ずかしいかな……あ、あははは」

 

 

 実際やられてみるとアレだった。

 セラフォルーは後々『嬉しそうに』語るのだったとか。

 

 そして……。

 

 

「もしかしてと思ったら……!」

 

「楽しそうねイッセー?」

 

「ハァ……セラフォルー様に何をしてるのよ」

 

「…………………」

 

 

「げげっ!? こ、このタイミングで来るなよ!? 違うからね!? 俺別に何もやましいこと思ってないか……」

 

「ぁ……ちょ、ちょっとギルバちゃん……もそもそしないでよ……へ、変な気分になっちゃうよぉ……」

 

「うるせぇバカ!! 何もやってねーよ!? ………あ、ちょっと待とうぜ朱乃ねーちゃん? マジで違うし今ねーちゃんのびりびり食らったら死ねるから――」

 

「ひゃん!? そ、そんな強く掴まないでぇ……」

 

「ちっがぁぁぁぁう!!!」

 

 

 オチは何時もの同じなのだ。

 

 

侵入者片付け……完了

 

 




補足

体勢としては、ベッドイン的な体勢だったらしい……。

流石にセラフォルーさんもビックリだった。


その2
気付けば悪魔さんとフラグばっかり立ってた一誠くん。

これが初期だったら手放しで喜んでたでしょうが、いかんせんライザーさんの件があったせいで……。

いやホント間が悪かったのだ。


その3
………………。あれ、セラフォルーさんはヒロインなのか?


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後日談

レヴィアたんであるせいか、やはり強い(確信)


 禍の団による駒王学園襲撃は、リアス、ソーナ達若き悪魔達によって終息を迎えた。

 

 

「随分と派手にやられたみたいだね。

いや、自爆したってのが正解かな?」

 

「………」

 

 

 アロガント・スパークなる物理法則完全無視のプロレス技で仕留め終え、会議室へと帰還する一誠を出迎えたサーゼクスが楽しそうに笑いながらボロボロの姿を称える。

 

 

「………」

 

「アレ? ひょっとして寝てる?」

 

「え、えぇ……無理が祟って」

 

「かなりの無茶をしましたから……」

 

「「……」」

 

 

 が、どういう訳か一誠は意識を失っており、セラフォルーに背負われた姿であるのと同時に、何故か四人の少女達の表情が気まずいソレであった。

 

 というのも、あの後事故でアレな体勢でセラフォルーを押し倒したせいで四人から一発ずつビンタを貰ってしまったらしく、めでたく意識を吹っ飛ばしてしまっていたのだ。

 

 

「…………」

 

「暫く寝かせてあげた方が良いと思う。それと治療もちゃんとしてあげないと」

 

「キミが彼を背負うなんて、何かあったのかい?」

 

「ちょっとね……」

 

 

 極限状態に追い込まれてからやっと開花した転生悪魔としての進化。

 何も知らないといった様子を見せるサーゼクスだが、彼とその妻であるグレイフィアはハッキリと一誠から感じ取っていた。

 

 

「適応進化か……ふふ、良いものを見せて貰ったよ兵藤君」

 

 

 今頃自分達の我が子と呑気に遊んでるだろう人外が見初めた進化の権化と呼ばれるその力を。

 同じベクトルの人外である夫婦は、傷だらけの少年を見つめながら小さく微笑むのだった。

 

 

 

 ダメージ反動の限界……いや、ねーちゃん達にビンタ食らったのがトドメとなって意識をすっ飛ばした俺が意識を取り戻した頃には、既に学園に侵入してきた例の連中達は片付けられていた。

 

 魔王と堕天使と天使共が後片付けをしたらしいが、俺としては壊された校舎をちゃんと元通りにするかどうかの方が重要なので、そこら辺の事を聞いてみると魔王のサーゼクス・ルシファーは笑いながら『全力で元通りにするよ』と約束してきた。

 

 ……。別に信じてる訳じゃないが、アレも一応なじみの系譜を持つ存在だし、元通りにしなければぶっとばしに行けば良いので取り敢えず黙ってる事にした。

 

 

「ソーナさんの元眷属達と同じく、リアスの元眷属達が禍の団に加わったとアザゼルの下から消えた白龍皇は言ったんだね?」

 

「本人はそう言ってた。が、話したのはその白龍皇とかいう雑魚だし、まだそうと決まった訳じゃ……」

 

「いや、一応彼等が住んでる……キミにとっては元実家である兵藤家の様子を見に行かせてみたよ。

結果は確かに赤龍帝達の姿は無く、もっと言えば彼女の家は『誰かの襲撃に逢った形跡』があった」

 

 

 堕天使と天使に後片付けを押し付け、またしても治療を受けながら俺達は今回の騒動で見聞きした事についての話を魔王を交えて行っている。

 で、当然話の内容は役立たず共がテロ組織とやらに下ったという話についてなのだが、どうやらサーゼクス・ルシファーの調査によれば、俺達の思っていたのと少し違う見解があるらしい。

 

 

「襲撃って、凛達はまさか禍の団に……!?」

 

 

 どうやらテメーから好んでテロ組織とやらに加わったのとは違う可能性がある。

 元実家の状況を調査したサーゼクス・ルシファーの話にグレモリー先輩が目を見開く。

 

 

「その可能性もある。

もしかすれば彼女達は、リアスの元眷属であり一人は赤龍帝であるという理由で禍の団に拉致されたかもしれない」

 

「な、何てこと……」

 

 

 拉致ねぇ……? サーゼクス・ルシファーの見解に対してグレモリー先輩が複雑そうな顔をしてる所悪いが、俺はぶっちゃけあの役立たず共が拉致されちまおうがどうでも良いとしか思えねぇ。

 

 そもそも例の婚約話の時にテメー等だけ逃げ帰ってきたって時点で拉致されたのは因果応報でしかない。

 そりゃグレモリー先輩は例え裏切られても一応は元眷属だから思うところもあるだろうが、俺にしてみれば拉致られて拷問喰らおうが『だから何だ?』としか思わない。

 

 

「多分一般人である両親を楯にでもされたんだろうね、抵抗の跡が殆ど無かった」

 

「ふーん、あの人達も拉致られたのか。ザマァねぇな」

 

「一誠くん……」

 

「まあ、キミならそう言うと思ったよ。そしてキミがそう思いたい気持ちもよく分かる」

 

 

 とっくの昔に情というもの全てをあの連中達に対して捨てた俺としては、いくら奴等が運悪く拉致られて被害者であると言われても、同情する気がまるで起きない。

 というか、そんな奴等にかまける暇があるなら朱乃ねーちゃんとバラキエルのおっさんの仲をどう取り持とうかを考える方が1億倍重要だ。

 

 

「けど彼等は僕達の情報をいくつか握ってる。

本当ならキミの幻実逃否で一般人に強制退避させた瞬間、僕達に関する記憶を消すつもりだったんだけど、拉致されてしまった以上、まずは彼等を禍の団から取り戻す必要がある」

 

 

 だがサーゼクス・ルシファーとしては拉致されたままである事はあまり宜しくないと思っているらしく、ねーちゃんと椿姫ちゃんによる三度目の治療を受け終えた俺に何か言いたげな目を向けてくる。

 

 

「………。まさかくだらねぇテロ組織とやらから役立たず共を連れ戻せと?」

 

「キミにとっては不本意かもしれないけどね」

 

「で、ですがイッセーは……」

 

「分かってる。だからこそ連れ戻した暁には彼女達を『完全な一般人』として家に返すさ。

これ以上振り回されるのもごめんだろ?」

 

 

 ちっ、いっそ拷問でくたばれば良いのにあの役立たず共。

 つーかあの女はマジで何がしたいんだ? 赤龍帝って有名どこの力持っておきながら簡単に拉致られるとか、マジで役に立たねぇゴミだろ。

 

 

「別に良いが、死んでたらどうするんだ?」

 

「その時はその時だ。どうせオーフィスの組織なんて潰すつもりだしね」

 

「へ、分かりやすい考え方な事で」

 

 

 フッとなじみが見せるドSなそれとまんまソックリな笑みを浮かべるサーゼクス・ルシファー

 どうやらこの男は、情報が漏れるから取り戻すというよりは『いい加減邪魔にしかなってないから綺麗さっぱり記憶ごと関係を消す』って考えの方が強いらしい。

 

 だからもし役立たず共が既に死んでいようが、それならそれで手間が省けると思ってる。

 うん、その考えだけは決して嫌いじゃない……コイツ自身はムカつくがな。

 

 

「あのよ……ヴァーリが迷惑掛けた――」

 

「うるせぇ、黙って後片付けをしてろクソ鴉が」

 

「…………………おう」

 

 

 まあ、もし生きてたとしたら全員ぶちのめしても構わんだろ?

 

 

 

 

 と、凛達拉致られ疑惑が浮上したまま終息した襲撃騒動。

 当初の予定であったギャスパーの救出も成功し、匙達の処遇も『悪魔およびそれに準ずる記憶の完全消去』という形で上手いことその日は終わったのだが……。

 

 

「身体が動かねぇ……」

 

 

 アグレッシブに動きまくっていた一誠は、その反動に襲われ三日は動けずに寝込んでいた。

 弱体化した身体に鞭を打ちまくり、マッスル・リベジャーやらアロガント・スパークやら黒神ファイナルを立て続けに使ったのだ。本来なら二度と身体が動けなくなる程の代償を3日行動不能で済ませる辺り、流石進化の男である。

 

 

「良いから姉様は黙っててください! 私が剥くから!」

 

「えー? でもソーナちゃん手先が不器用だし、此処はお姉ちゃんが……」

 

「りんごの皮くらい私だって剥けます!」

 

 

「さ、一誠くんばんざーい?」

「お着替えしましょうねー?」

 

「包帯も替えましょうねー?」

 

 

「………」

 

 

 風紀委員長室。

 本来なら風紀委員に所属する者のみしか入ることを許されない聖域に、ただ今委員所属では無い者達が五人程居座ってソファーベッドに横になる一誠の周りを囲っていた。

 

 

「で、できた……はい一誠、りんごですよ……!」

 

 

 例えば先代までは互いに毛嫌いしていた筈の生徒会所属の少女とか。

 

 

「凄い、昨日まで大火傷までしていた箇所がもう治りかけてる……」

 

 

 その部下である副会長だったり。

 

 

「回復の早さは最早悪魔を越えてるわね」

 

「昔から一誠くんは頑丈だけが取り柄と言ってましたからねぇ」

 

 

 関係ない部活の部長と幼馴染みの副部長だったり……。

 極めつけは……。

 

 

「それにしても、この場所って昨日使った会議室よりも豪勢じゃない? 風紀委員ってそんなに凄い委員会あったっけ?」

 

 

 学園の生徒ですら無い女魔王まで……。

 数ヵ月前までは己一人の空間だった風紀委員室はすっかり都合の良い溜まり場になってしまっている事に、ソファーベッドから無理矢理ソーナから下手くそに剥かれたりんごを口に捩じ込まれながら、一誠はげんなりとしていた。

 

 

「ごふ……お、おい……別に入っても良いとは言ったけど、溜まり場にして良いなんて一言も言ってねーぞ俺は」

 

 

 皮を厚く剥き過ぎてかなり小さくなったりんごの欠片を咀嚼しながら、一誠は勝手にのほほんとやってる少女四人と女魔王一人に呟く。

 いや、包帯替えや移動するのに肩を貸してくれる朱乃と椿姫、傷薬を塗りたくってくれるリアスはまだ良いとしても、さっきからこの目の前の黒髪の姉妹についてはしょうもない事で小競り合いをしてるだけで全然役に立ってる気がしない。

 

 特にソーナに至ってはよくわからない対抗心を姉であるセラフォルーに向けてるのか何なのか知らないが、さっきからその対抗心の矛先にされて溜まったものじゃない。

 

 

「つーかアンタは学園の生徒でも関係者でもねーだろ。何で普通に入ってきてるんだよ?」

 

「ちゃんと事務室で来賓手続きしたよ? ほら、これが来賓カードだよ」

 

 

 首から下の殆どをズタズタにしてしまい、箸は勿論としてスプーンすらまともに握れなくなって食事すら満足に取れなくなってる一誠のジト目混じりの言葉に、セラフォルーは特に悪びれもしない表情と共に、どこかドヤ顔で来賓カードを見せつける。

 

 それは確かに事務室で発行される来賓者専用のカードだった。

 

 

「昨日のお礼がまだだったからね、今日はずっとギルバちゃんのお世話をしようかなーって」

 

 

 一誠に対する借りを返すつもりとセラフォルーは胸を張って言う。

 しかし一誠にしてみれば昨日今日で顔を合わせづらい相手だったので、微妙に気まずい気分でしかない。

 

 というか……。

 

 

「何でアンタが駒王の制服着てんだよ……歳がおかしいだろ」

 

「? そうかな、ちょっと地味だから変に思う?」

 

「いやそうじゃねーけど……」

 

 

 駒王学園の女子生徒が着用する制服姿なのは如何なものなのか……。

 校則違反確定レベルと短い丈になってるスカートをヒラヒラさせながら自分の格好に見て首を傾げるセラフォルーに、妹のソーナ共々微妙な気分で眺める一誠なのだった。

 

 

「まぁ、そんな事よりギルバちゃんにお礼として今から変身シーンを再現してあげようと思うんだけど……見る?」

 

「!? な、なぬ!?」

 

 

 が、そんな微妙な気分もセラフォルーのあの一言により一気に輝くものへと変化する。

 そう……一誠がド嵌まりしている魔王☆少女レヴィアたん絡みの話だ。

 

 

「うん、結局昨日は見せられなかったし、ギルバちゃんになら良いかなって……☆」

 

「ま、マジか!? うわ、めっちゃ見た――」

 

「一誠くん?」

 

「う、ね、ねーちゃん……。い、いやでも待ってくれねーちゃん、それでも俺はかなり見たいんだ。頼む、こればっかりは譲れねぇ!!」

 

「なんでお姉様ばっかり……」

 

「予想した通りの展開というか……かなり悔しいですねこれは」

 

「というかギルバって……」

 

 

 セラフォルーを一応本物のレヴィアたんである事を認めた一誠は朱乃達の責める様な視線に負けそうになりつつも、やはり見たいという欲求に勝てないのか、珍しく食い下がる。

 やましい感情とか無しに、一誠は魔王☆少女レヴィアたんのファンなのだ。

 

 

「それじゃあ行くよ? 嫉妬パワー! チャージアップ!」

 

「お、おお!? ほ、本物だ……」

 

 

 で、結局朱乃達を押し退け、セラフォルーに目の前で変身ポーズを見せて貰った一誠は、それはそれは少年の様に輝かせるのであった。

 その嫉妬パワーが特に朱乃とソーナから向けられてるのをガン無視で。

 

 

「こんなものかな。あとサインの約束もしてたよね?」

 

「うぉぉぉ!? レヴィアたんのサイン!」

 

「抱き枕は……もう持ってるから要らないとして、あ、そうだそうだ……直接抱き枕になってあげるって話もこの際だから叶えてあげる。はい……☆」

 

「うぉぉぉっ!!」

 

「お姉様!!!」

 

「いくらレヴィアタン様でもその行為は許しませんよ!!」

 

 

 どさくさ紛れに目を輝かせる一誠にハグハグした時は流石に物理で引き剥がされたものの、すっかり一誠は当初のげんなりした気分を吹っ飛ばしてセラフォルーがこの場に居ることを認めてしまっていた。現金な男である。

 

 

「一誠もだらしない顔をしないでください! 姉が調子に乗るから!」

 

「別にのってませんけど」

 

「乗ってるの! 大体ズルいのよ、何で私だけこんな冷たくて後から出てきたお姉様にはちょっと優しくて……!」

 

「あ? 別に優しくしてねーんですけど……意味わかんねーな」

 

 

 そんな男だからソーナがヒステリーを起こしても平然としていた。

 

 

「わ、私だってああいう格好くらい……!」

 

「……。何時からソーナはイッセーにあそこまで拘る様になったのかしら」

 

「元からじゃないですか? ほら、匙君達との件で一誠くんが自分の弱体化を承知で会長の眷属になってくれた時とか」

 

「うぅ、一誠くんが取られちゃう……」

 

 

 姉の出現により余計固執を強めるソーナ。

 元々は互いにネチネチと嫌味を言い合う程に敵対していた生徒会と風紀委員という関係だったのが信じられないレベルである。

 

 

「っ……!」

 

「ん、どうしたの?」

 

「いや……トイレに……」

 

「そっか、じゃあ今度は私が肩を貸してあげる☆」

 

 

 そんな少女達の気持ちを他所に、一誠はといえばすっかり生のレヴィアたんに骨抜きにされてしまっており、ガタガタの身体では不便であるトイレに行こうと立とうとするのをセラフォルーに肩を貸して貰って立とうとしたのだが……。

 

 

「どぅわ!?」

 

「わわっ!?」

 

 

 一誠はまだ気付いて無いのだが、どういう訳か彼はセラフォルー相手にある厄介な特性が勝手に発動してしまう。

 それは世で言うところのアレであり、今もまた肩を借りて立ち上がろうとした拍子に足を引っ掛け、バランスを思いきり崩しながらセラフォルーに向かってもたれ掛かる様に倒れてしまう。

 

 その際反射的にセラフォルーを庇うように抱き込み、そのまま床に倒れ込んだ訳だが……。

 

 

「いってぇ――あり?」

 

 

 一誠はセラフォルー相手にとある特性が強く発現してしまう。

 それは本人にとって果たして幸なのか不幸なのか……。

 倒れたにしては妙に柔らかい感触を顔全体に感じ、一誠は甘ったるい匂いを感じながら痛む身体を起こす。

 

 

「あ、あのさ……わかってるよ? 怪我してるし、わざとじゃないんだよね?」

 

「………」

 

 

 すると一誠の目に映るは、昨日と同じように恥ずかしそうに頬を紅潮させながら笑うセラフォルーと……。

 

 

「で、でもさ……流石に二度目は私もちょっとは思うところがあるかなー?☆」

 

 

 セラフォルーの露出多めの魔王☆少女衣装の隙間に手を突っ込んで直接胸をガン掴みし、股間に自身の太股を刷り込ませながらアレな体勢になってる己自身。

 

 そう、俗に言うラッキー何とかという奴だった。

 

 

「いや……本当にわざとじゃ無いから……」

 

「わかってるよ? あはは……でも、ほんの少しでもそう思ってくれたとしたら、正直ギルバちゃんなら良いかもなー……なーんて」

 

「え!?」

 

 

 だが不幸かな一誠は見られていたのだ……。

 

 

「「「「………」」」」

 

 

 四人の少女達に……。

 

 

「で、でも今は良いかな……?

そ、それよりも……そろそろ手を……な、何かお腹がきゅんってして熱くなるからぁ……」

 

「あ、はい……」

 

「「「「………」」」」

 

 

 一誠君、皮肉にも悪魔とはフラグがたつ。




補足
基本的に一誠の普段の性格しか知れないと好かれる要素が無い。

ただ、内面である『実は献身的な性格』を知ってしまうとあら大変。

ホストに金を注ぎ込むダメ女みたいなのが量産されるとさ。


その2
セラフォルーさんのみ、一誠は某トラブるの如くラッキーが発動する。

しかも奇跡的にレヴィアたんフィルター入ってるので本人に全くの下心が無い。だから余計に発動率が高く、実はそんな経験の無いセラフォルーさんはどんどん……。


その3
理想……皆してマッスル技を使って敵をぶちのめす最強肉体派チーム。

…………セラフォルーさんってどれ系だろ?


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頑張れソーナちゃん

次の章までの閑話

ぶっちゃけ冥界には二度と行きたくない一誠くんだけど……。


 3日という時間を掛けて回復に専念したお陰か、見事なまでの復活を遂げた一誠。

 本来なら甘く見積もっても全治に数ヵ月は掛かるだろう重症を3日足らずで全快させる一誠のゾンビじみた回復力もまた異常だが、それ以上に今の一誠は病み上がりでありながら感じる己のパワーに少し驚いていた。

 

 

「凄い……」

 

 

 新調した制服に身を包んだ一誠が、アロガント・スパークでカテレアを葬った屋上にて軽く拳を突き出す。

 その行為自体に意味は無いが、突きだされた拳から強烈な風圧が放たれ、巨大な固まりとなって空を斬る現象が起これば、まるで無意味という訳では無いし、偶々見ていた少女達が思わずといった様子で呟くのを内心一誠も同意する。

 

 

「死にかけるダメージでも負ったせいなのか、お陰でやっと進化できたみたいだぜ」

 

 

 突きや蹴り等を虚に放ち、その度に巨大な風圧を生成しながら一誠はニタニタと笑っている。

 色々あって悪魔に転生してからどうしようも無く弱体化してしまい、それまで恩恵を受けていた無限進化の異常性も拗ねたみたいにソッポを向かれてしまっていたお陰で思う通りに力を上げられなかった。

 

 しかし先日の無茶がやっと自身の異常性と結び付いたのか、転生悪魔の身でありながら漸く別次元の進化の第一歩を踏み越えられた。

 

 

「あれがイッセーの異常性という奴なのね? 何というか……そこら辺の神器より凄いかも」

 

「凄いかもじゃなくて、実際は凄いんですよリアス。

何せどれだけ差のある相手でも戦っていく内にリアルタイムで適応し、進化して越えるのですから」

 

「転生悪魔と親和性が低いせいで恩恵を無くしたと言ってましたが、条件さえ合えばちゃんと進化できる……という訳ですか」

 

「元々これは自分の精神に直結するものですからね、私としては同じ転生悪魔なのに何で一誠君だけああも弱体化したのかが不思議でしたよ」

 

 

 同じスキル持ちとしての椿姫の言葉に、持たないリアス、ソーナ……そして朱乃はちょっと複雑な気分で耳を傾ける。

 

 持つ者だからこそ理解できる領域に椿姫だけが居る。

 そのアドバンテージはやはり大きいのだ。

 

 

 

 

 

 そんなこんなのパワーアップを挟んで暫く平和に時は流れ、人間界の学生は待ちに待った夏休みを迎えることとなる。

 

 それは勿論学生をやっている悪魔のリアスとソーナにも訪れるイベントな訳だが、リアスとソーナの場合只夏休みを満喫する……という訳にはいかなかった。

 

 

「冥界に帰る? あぁ、そういえばそんな季節でしたね」

 

 

 そう、夏休みという長期休暇は冥界の実家に帰らないとならない。

 今年は特に『眷属の大半を失った』という理由と『冥界に単騎で乗り込んで魔王を殴り倒した』人間の小僧を類を見ない特殊な条件で眷属にしたという理由で色々とやらなくてはならない事がある。

 故にその話をその特殊過ぎる条件で眷属となった一誠に、最早溜まり場となった風紀委員室にて何時もの様にお茶しながら打ち明けてみるリアスとソーナなのだが、返ってきた言葉は肩透かしを食らう程に軽いものだった。

 

 

「毎年この季節になると朱乃ねーちゃんが居なくなりますからねぇ」

 

「あ、そっか……だからそんな反応だったのね」

 

 

 毎年夏休みになると朱乃が居なくなる……という一誠の言葉にリアスとソーナは納得するように小さく頷くのと同時に、この反応なら大丈夫かもしれないと、本題に移行する。

 

 

「じゃあ今年はイッセーも冥界に行くことになるということで……」

 

「それは普通に無理っすね」

 

 

 形はどうであれ多数の駒を使って眷属となった一誠も今年は冥界に連れていく。

 その話を出した途端、案の定というべきか即答で一誠は行かないと答えた。

 

 

「その返事は予想通りですが一応聞きます……何故?」

 

「まず冥界に俺が行ったら碌でもない事になるのは間違いない。何せ恐らく向こうの悪魔共からしたら俺は単なる犯罪者ですからね。

それともう一つ……俺は風紀委員になってから毎年夏休みは町内会の人達のイベントの手伝いをしなくちゃならないのと、俺が冥界に行ったら誰が風紀委員の仕事をするんだって話です」

 

 

 冥界に行くより駒王町での風紀委員の仕事の方が大重要である……と、割りとまともな答えにリアスとソーナもちょっと言葉に詰まってしまった。

 

 この男、学園内じゃチャランポランとしてるが、学園外ではかなりまともに風紀委員をやっていて、それを裏付けるだけの巨大な支持率を町内の……特に老人・子供・主婦から集めている。

 だからこそ今一誠が口にした町内会でのイベントの手伝いというのは嘘じゃないのだろう……。

 

 そこら辺の事に関してだけは誠実な一面を知ってしまったリアスとソーナだからこそ、無理に連れていくというの躊躇わせてしまう。

 

 

「それに朱璃さんが一人になるのも不安だ。

また堕天使共が勝手でくだらねぇ理由掲げて襲ってくる可能性もあるしね」

 

「今は多分違うと思うけど……」

 

「甘いなねーちゃんは。この前俺はあのアザゼルってのを見たが、やっぱりどうポジティブに見ようとしても信用できねぇ。

バラキエルのおっさんが自由に動けない以上、ねーちゃんと朱璃さんの肉壁になるのは俺の役目なのさ」

 

「………」

 

 

 朱乃の言葉にも即答で返す一誠が、こうして見ると普通に暇人では無いことを改めて窺える。

 そうで無くても冥界自体に良い印象を持ってない時点で、暇人だろうと行こうとはしないだろう……サーゼクスが演技とはいえ倒された時、あっさり逃げたという印象は一誠に大きなマイナスポイントを与えていたのだ。

 

 

「え、イッセー先輩は行かないんですか?」

 

「おう、俺ってこう見えて結構予定に生きる男だったりすんだぜギャスパー?」

 

「そうですか……」

 

 

 それが例え、あの日以降完璧に懐いたギャスパーの残念そうな表情を前にしても揺らぐ事は無く、ちょっと申し訳無さそうに風紀委員で使用した書類を持つその頭を撫でている。

 

 

「イッセー先輩が行くなら怖くないと思ったのにな……」

 

「俺が居なくてもギャスパーなら大丈夫だって。現に今はこうして学園に復学したし、風紀委員の手伝いまでして貰ってんだだぜ? もう充分立派になったさギャスパーは」

 

 

 一誠に影響というか懐いたせいか、最近になって復学し、更には風紀委員の手伝いまで進んでやり始めているギャスパー。

 勿論、性別・ギャスパーと呼ばれて男女共に人気のあるせいで、只でさえ最近露骨に美少女と共に何かやってる風紀委員の変態男の近くに居ようとするもんだから、その顰蹙を一手に受けてたりする一誠。

 

 だがその変態性を越えた先にある妙な誠実性を知ってしまっているギャスパーにしてみれば変態な面なぞどうでも良く、悪く言ってしまうと半分程一誠に依存じみた懐きっぷりを見せていた。

 

 まあ、懐かれてる本人は近所の子供達と同じ様な扱いをしてるに過ぎないのだが。

 

 

「一度正式な手続きを経て冥界へ自由に出入りする権限を得れば、冥界と人間界を自由に行き来出来る筈よ。

そうすれば半日を人間界で風紀委員として過ごし、半日……いや2~3時間で良いから冥界に滞在すって方法が取れるから――どう?」

 

「えぇ? そこまでして俺を引っ張り出したいんすか?」

 

「父と母が一誠を見たいと言うんですよ。どうやら姉のセラフォルーがかなり色々と喋ってくれちゃったみたいで……」

 

「はぁ? ……チッ、あの女……余計な事を」

 

 

 セラフォルーが色々と触れて回っているという話をソーナから受けた一誠は隠しもせず舌打ちをする。

 魔王☆少女レヴィアたんである事は認めたものの、だからといってセラフォルー本人に対しては正直どうとも思ってなかったりする。

 

 どうやら彼の中では魔王☆少女レヴィアたんは好きだが、所謂中の人であるセラフォルー本人はそこら辺の女魔王といった認識らしい。

 何も知らない一般男子生徒が聞いたら殴り飛ばされても仕方ない話である。

 

 

「その町内会のイベントのお手伝いを私たちも手伝うから、行くだけ行ってみない?」

 

「えぇ~? だってグレモリー先輩やひんぬー会長の実家に行くんでしょう? てことは嫌でもあの魔王とその嫁……あとあの話の通じなさそうなアンタの親と顔を合わせなきゃならないのが確定してるじゃん。

なじみみたいに『腑罪証明(アリバイブロック)』なんて便利なスキルがある訳じゃないし……」

 

 

 然り気無くソーナを貧乳呼ばわりしつつ、行くのがめんどくさいと露骨に顔をしかめる一誠。

 だが……。

 

 

「別に僕を移動手段として使ってくれても構わないぜ?」

 

『!?』

 

「安心院さん……」

 

 

 そんな一誠の呟きに対し応えるかの如く腑罪証明(アリバイブロック)を使って委員長席に座る一誠の背後に現れるは、久々の安心院なじみ。

 神出鬼没という言葉がこれ以上似合わない現れ方に、慣れてないリアス、ソーナ、椿姫はギョッとした表情を浮かべ、朱乃は相変わらず現れては嫌味な如く一誠に一々近いその姿に顔をしかめ、一誠はといえば特に抵抗もせず座ってる後ろから思いきり抱き締められても平然としていた。

 

 

「どうせ冥界――というかサーゼクス君とグレイフィアちゃんの所に行くつもりだったしね、片手間にもならないよ」

 

「えー? だとしてもめんどくせぇよ。

夏休みはパワーありあまってるガキ共に注ぎ込む予定だし、キャンプの約束とかもしてるし……」

 

「キャンプって……風紀委員は何時からボーイスカウトの真似までする様になったのよ?」

 

「俺が冥ちゃん先輩から引き継いでからだから……去年の夏休みが最初っすよ。

これが意外と評判良くてね、今年も期待されてるからやるしかないっしょ?」

 

 

 へっへっへっと、少ないながらも抱き締められてるせいで胸とかモロに当たってる体勢で笑って言う一誠に、少なくともソーナと朱乃はかなりモヤモヤした気分だ。

 

 

「本当に学園外だと人気者ねイッセーは?」

 

「別に猫被ってるつもりとか無いんですけどね。まぁ、町内の人達のノリの良さに助けられてるってだけっすよ」

 

 

 いい加減離れろ……。

 ソーナと朱乃の怨念じみた瞳をニヤニヤしながら受け流すなじみを他所に、一誠は一誠で呑気にリアスとくっ喋ってるというこの態度が余計にヤキモキさせる事を本人は知らずにスルー安定であった。

 

 

 

 姉のファンだったと知った時、私は意味も分からずムカついた。

 姉の正体が悪魔である事を知らなかったとはいえ、それを知ってからも態度がそんなに変わってないのがまたムカムカする訳で……。

 

 一応私は妹なんだぞと言っても彼は何時だって……。

 

 

『あ、そっすか……ハイハイ、会長さんは巨乳巨乳~』

 

 

 と、かなり素っ気ない態度で煙に巻こうとする。それがまたムカムカを助長させる事も知らずに。

 

 そもそも一誠は目がおかしいと思う。

 貧乳だ貧乳だと私を貶しているけど、私は貧乳じゃない。

 リアス達がおかしいだけで私は普通にあるのだ……それを一誠はそれしか語彙が無いのかって言うくらいに私を貧乳と……。

 

 

「朱璃さんから『行ってこい』って言われちまったよ……」

 

「じゃあイッセーも冥界に行くという事で良いわね?」

 

「…………。まあ、行かないと先輩二人としても困るっぽいし、行くだけは行きますよ。

ただし、こっちの行事予定優先ですからね?」

 

「勿論、さっき話した通り私たちも手伝うわ」

 

 

 姫島さんのお家にて、彼のお母様である朱璃さん直々に冥界に行くことを勧められてやっと首を縦に振った一誠に私を含めて全員がホッとする。

 結局記憶までも完全に消した匙達の件もあって一度は眷属としての一誠を紹介しないといけないという当初の目的もこれなら何とか果たせそうだ。

 

 まあ、本人は冥界に行く事にかなり気が進まない様子だけど。

 

 

「あの日以来か。

あー嫌だなぁ。絶対嫌な顔されるわぁ……自業自得だけど……」

 

「イッセー先輩は一度冥界に行ったんですか?」

 

「ちょっと色々あって不法侵入って形でな……あははは」

 

 

 朱璃さんの笑顔一つでそれまで何を言っても渋っていたのをアッサリ撤回させる辺りにまたモヤモヤとした気分を感じる中、リアスとフェニックス家の件の詳細を知らないギャスパー君に曖昧な笑みと共に誤魔化す一誠。

 

 そういえば元を辿ればあの一件が今に繋がるのよね……。

 手引きしたのが椿姫だったと聞いた時はかなり驚いたものだわ……。

 

 

 

「んじゃ俺は帰りますわ」

 

「じゃあ僕も」

 

 

 不思議な縁というか、寧ろ変態な所に苦手を感じていた一誠に精神的に助けられるとは思わなかったというか………む。

 

 

「当然の様に一誠くんの家に一緒に帰ろうとしないで貰えますか安心院さん?」

 

「何でだい? 一応学園では一緒に住んでるって形で通してるんだけどな僕は?」

 

「それが気にくわないなから今こうして文句を言ってるつもりなんですけど? というか、わざと言ってますよね?」

 

「まぁね、最近一誠の甘さにほだされちゃった子が増えちゃったし? 僕もちょっと本気出してやろうかなーって?」

 

 

 安心院なじみ。一誠の師匠らしいこの女性は、言彦の件の時にちょっとは正体を知ることが出来た、人外らしき方みたいですが、一々見せ付けるように一誠にナチュラルに近いのがモヤモヤする。

 今も鬱陶しそうに顔をしかめる一誠と腕なんか組んじゃってるし……うぅ、モヤモヤする。

 

 

「また始まりましたか……」

 

「アナタは冷静なのね?」

 

「まあ私の場合、一番になりたいって訳じゃありません……一緒に居られたらそれで良いので」

 

「あらあら大人ねぇ? 朱乃にも見習って貰いたいわぁ」

 

 

 こんな時椿姫は何時も冷静というか……くっ、ある意味一番一誠を理解してる分の余裕が窺えるのが悔しい。

 私にはスキルという概念が存在しないから余計に……。

 

 

「何時ものおぶさけなんだから朱乃ねーちゃんも目くじら立てなくても良くね? 今更だけどさ」

 

「一誠くんは黙ってて! そうやってホイホイ何でも受け入れるから安心院さんが……!」

 

「おいおい、それはお互い様だろ朱乃ちゃんよ? キミだって一誠の包容力に長年甘えてきたんだから、僕の事なんて言えないだろ?」

 

「っ……!」

 

 

 包容力……言い得て妙ね。

 確かに一見するといい加減でスケベでだらしない男って印象しか無いけど、それを無視しして付き合ってみると、一誠って案外献身的というか……それで私は精神的に救われてるのだからこれは間違いないと思う。

 それに姫島さん母娘を守る為に毎日隠れて鍛練も欠かさないし……。

 

 本人にそれを突っ込むと『笑わせるな、俺は強くなってモテモテになりたいからやってるだけだぜ』と誤魔化そうとするけど、それが嘘だってのは私達は分かってるつもり。

 

 

「一々お前もねーちゃんを煽るなよ……。

ったく、わかったわかった、此処に居ればねーちゃん的にも納得するだろ?」

 

「う、うん……」

 

「あーあ、これじゃあ何のためにあんなボロアパート借りたのやら」

 

「んなもんエロ本を誰にも邪魔されず思う存分読む為に決まってるだろ。

お前が来るせいで最近それもできねーけどよ」

 

 

 変な所で律儀な人……それが一誠という人なのだから。

 

 

「んじゃそういう訳でギャスパー、一緒に風呂入ろうぜ」

 

 

 姫島さんと安心院さんの小競り合いのお陰で、元々は此方が実家とも言える姫島家に泊まる事になった一誠なのだが、持ってた荷物を元々使っていた自室に放り込むや否や、いきなりギャスパー君に一緒にお風呂に入ろうとだなんて誘いを掛け始めた。

 

 

「え? ぼ、僕とですか?」

 

 

 いきなり誘われたギャスパー君も少しビックリしている様子。

 いえ、というかパッと見女子に見紛う容姿の彼と一緒にお風呂って……。

 

 

「? 嫌なのか? ちぇ、バラキエルのおっさん以外で初めて背中の流しっことか出来ると思ったのになぁ……」

 

「背中の流しっこ……」

 

 

 こんな時だけ下心が全く無い様子を見せるのはかなり卑怯だと思う。

 それもこれも同性で同年代の友人が零なのがいけないのと、ギャスパー君に対しては妙に誠実な態度なのが理由なのかもしれない。

 この時も何か言いたげな顔の姫島さんに気づいてない様子でちょっと揺れてるギャスパー君を誘ってるし……。

 

 

「会長、まさかとは思いますが『自分も』だなんて言いませんよね?」

 

「言うわけ無いでしょう!? 椿姫は私を何だと思ってるのよ!」

 

 

 なんと無く二人のやり取りを見ていたら、急に椿姫に言われて私は反射的に返してしまう。

 誰が好き好んで男子と風呂なんて……。

 

 

「どうかしらね、最近のアナタを見てるとあながち間違いでは無いんじゃないの?」

 

「リ、リアスまで……。言っておくけど、別に私は一誠なんかと……」

 

「誰も一誠くんとは言ってませんけど」

 

「っ!? は、話の流れ的にそう思っただけよ!」

 

 

 くっ、揃って変な目で私を……。

 大体私が思ってるのは、私だけには変に意地の悪いあの態度が気に入らないだけで、そんなフワフワした感情なんて……。

 

 

「おーい一誠~ ソーナちゃんが一緒にお風呂に入りたいんだってさ~?」

 

「なっ!? な、何を言いますか安心院さん!!」

 

「はぁ? 会長さんがぁ?」

 

 

 そうとも知らないで安心院さんまで余計な事を……! しかも一誠本人に!

 

 

「何でまた急に? つか無理だろ、この人一応女じゃん」

 

「一応ってどういう意味よ!?」

 

 

 何とも覇気の無い顔……つまり何時ものどうでも良さそうな態度で私を一応呼ばわりするので思わずムカッとしてしまう。

 これが椿姫とかだったら180°態度が違うと知ってるからこそ余計に腹が立つ。

 

 

「あー……一応って言ったのは謝りますよ。

けどねぇ……何ですかね、このガッカリした気分。

仮にも女に言われても全然わくわくしねぇ……」

 

 

 と言って私―――の、胸を見つつヘラヘラと小馬鹿にした笑みを見せる一誠。

 

 

「グレモリー先輩と比べると一目瞭然で無いからなぁアンタって……そら萎えるわ」

 

「そのネタで私を弄るのはやめなさいって言ったのに!!」

 

 

 くぅ、やっぱり差別だ。

 あんな邪魔そうなもの一つで優劣を付けるなんて、視野の狭い男よコイツは!

 

 

「元気出しなよ会長さん。

アンタみたいなのでも好みと言う物好きも世の中にゃあ多分沢山居るんだろうし? そう悲観するもんでも無いぜ? あっはっはっはっはっ!」

 

 

 ポンポンとバカにしかしてない態度で私の頭を軽く叩いてくるのに腹を立て、その手を思いきり叩く。

 

 

「う、うるさい! そんな知りもしない不特定多数に好かれても嬉しくないわ! 大体毎回言ってるけど全く無い訳じゃないし、寧ろ平均的にある!」

 

「見たところなじみ以下じゃん。平均ってのはなじみレベルの事を言うんだぜ? アンタの場合やっぱり貧乳だわ」

 

「然り気無く僕を引き合いに出されてもな……。まあ、昔僕もめだかちゃんにそんな自虐の台詞を言ったけど」

 

 

 そう言ってる割りには私に対して勝ち誇ってる安心院さんだけど、私とて安心院さんくらいはある筈……いや

、ある。

 

 

「よく見なさい! 安心院さんと同じくらいあるわ!」

 

「いやねーし、然り気無く盛るなよ……聞いてて悲しくなるぜ?」

 

「あるったらある! 何なら直接見れば良いじゃない! そうすれば嫌でも解る筈だから!」

 

「何が悲しくてアンタの壁を見なきゃならなんですかね。それこそ罰ゲームじゃないっすか」

 

「壁じゃない! あるったらある!! ………あ、あるもん!!」

 

 

 気付けばリアス達の生温い眼差しを受けつつ、私は一誠に対してムキになって詰め寄っていた。

 胸さえあると分かって貰えれば少しは扱いもマシにしてくれる……後から出てきた姉があんな意味の解らない優遇をされてて、リアスよりも先に眷属となってくれた私が今でもこんな理不尽に弄られる役なんて納得できる訳が無い。

 

 だからギャスパーくんがちょっと引いた顔になってるけど、此処は私の主張を通させてもらう。今後の付き合いの為にも。

 

 

「別に貧乳で良いじゃん。貧乳だからって別にアンタをしばき倒すって訳じゃないんだから……」

 

 

 だから、この態度をされると私は……。

 

 

「それが嫌なの! こ、この前だってお姉様の事を急に優遇し始めるし、このままじゃ私だけ変な扱いのまま―――ひっく……ふぇぇぇん……!」

 

 

 勝手に涙が出てきて止まらなくなる。

 

 

「!? お、おいおい……泣いちゃったよこの人……」

 

「あーぁ、いけないんだ一誠ったら? 泣かしちゃいけないんだー」

 

「え、俺の―――――いや、俺のせいだな100%」

 

「何回泣かせてるんですかアナタは……」

 

「いやだって最初の方はこの程度じゃ泣かなかったし……」

 

「他に理由があるとか考えないの?」

 

「他? 貧乳って事実をそのまま言ってやる以外に何があるって言うんですか? 逆に聞きたいわそんなの」

 

「私、つくづくお母さんの体型を受け継げて良かったと思うわ……。いくらなんでもソーナ様が可哀想よ……」

 

「はぁ? ねーちゃんまで何言ってんだよ……なぁギャスパー?」

 

「いえ、僕でもソーナ先輩の気持ちが分かる気がします……」

 

「お、おう……ギャスパーにまで怒られちまったよ……」

 

 

 逆に楽しんでる安心院さん以外の皆に白い目で見られてやっと言いすぎたのかと感じたのか、ちょっとだけ罰の悪そうな顔で涙が止まらない私にペコペコ頭を下げ始める。

 

 

「……。なんかすいません?」

 

「くすん……くすん……こんなに泣かすなんてアナタだけよ、ばか……」

 

「……………。はぁ」

 

 

 それでも根底の部分を理解してないって顔なのが果てしなくムカつくけど、ちょっとは反省させられただけまだマシだと思う事にする。

 

 

「も、もう一度言うけど、私の胸は安心院さんくらいはあるんだからね?」

 

「えー……? あ、いや……ハイ……そうですね、ハイ」

 

「あと、お姉様ばっかり優遇しないで?」

 

「はぁ? いやだからその優遇って意味が解らないんですけど……」

 

「じゃあもし、今姉がアナタの好きな格好して現れたら?」

 

「そりゃ記念に一枚撮影して部屋にでも飾る――」

 

「それが優遇してるっていうの! ぐすん……仮に妹の私がもし同じ格好しても騒がない癖に!」

 

「い、いやだってそんな格好をアンタ自身がしないじゃん――――――しても多分微妙な気分にしかならんだろうけど――――――あー嘘嘘!! ちょっとは気になるかな会長さんの魔王少女化! あっははははは!!」

 

「そ、そう? じゃあ少しだけ考えといてあげる……えへへ♪」

 

「そ、そりゃどーも……。(こ、こんなめんどくさい女だったっけ? 何か日を追うごとに扱い辛いんだけど……)」

 

 

 それにセラフォルーお姉様みたいな格好すれば少しは……ふふふ、今日は許してあげよう。

 

 

「じゃあ……はい」

 

「何が『はい』なんすか? つーか、両手広げる意味もわかりませんけど……」

 

「姫島さんに泣かれた時何時もやってることと同じ事をしなさいって事。

今アナタに思いきり私は泣かされたんだから」

 

「はぁ!? 何で俺がねーちゃんと同じ事をアンタに――」

 

「してくれないの? ま、また差別するんだぁ……!」

 

「いっ!? わ、わかったよ! おいねーちゃん! これはそんなんじゃねーかんな!?」

 

「…………。ええ、別に怒らないわ……」

 

 

 

 

「俺は保父さんじゃねーのに……」

 

「えへへ……♪」

 

「せめてグレモリー先輩だったら―――」

 

「………ぐすっ」

 

「いや、もう何も言わないから………うん」

 

「♪」

 

 

 

 ソーナちゃん、地味に駄目女になりつつあるの巻。




補足

然り気無く死にかけるという極限状態を体験したお陰か、ほぼ封印されていた無神臓がやっと顔を出し始めてパワーアップ。

まあ、全盛期にはまだまだ程遠いんですけどね



実の所ある意味一番一誠くんに構われてたりするソーナさん。

でもセラフォルーさんと比較して納得できないソーナさん。

弄られて泣かされても最後はなんやかんやで許しちゃう駄目女になりつつあるソーナさん。


頑張れソーナさん、キミがある意味No.1や。


その2
これ、ソーナさんとリアスさんだからこんな態度ですけど、基本的にその他の悪魔相手だと態度がクソ悪くなります。

特にフェニックスの件の際のサーゼクスさんとの戦闘で、さっさと逃げた悪魔達が一番嫌いであり、リアスさんの両親も寧ろ嫌いです。

なので、両親と会った時がソーナさんの色んな意味での勝負となります。


ちなみに冥界における一誠くんの名前はセラフォルーさんが触れ回ったのと、元々の不法侵入が合わさって、正直悪い印象しかありません。

てか、フェニックス家から特に目の敵にされてたり……。

なので何処かの世界線みたいにレイヴェルたんとのフラグなんて多分互いに叩き壊すどころか……。


「不死身ねぇ……へー? 技の実験台に最適だなぁ……!!」


と、レイヴェルたんだろうとマッスル技の実験体と言ってのけるかも……。


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二度目の冥界へ

やっつけ気味。

取り敢えず原作通りに、メンツが粉々だけど帰省。


 やっべー……行きたくねぇ。

 何か説得されちゃったからつい頷いちゃったんだけど、ぶっちゃけ正直物凄く行きたくねーよ……。

 

 だってさ、考えてみたら俺って殆どの悪魔共からめっちゃ嫌われてる筈じゃん? 特に今日行くグレモリー先輩の実家連中とか、殺したい程恨んでそうだもん……。

 イライラしまくっててめっちゃグレモリー先輩の親の事罵倒しまくった気もするし……。

 

 でも行くって言っちゃった以上は、やっぱ行かなくちゃいけないよな……。

 うぬぬ……行きたくねぇ。

 

 

 

 

 条件付きでイッセーを冥界に連れていく事に一応は成功した訳だけど、問題は冥界の同胞達がイッセーをどう見るか。

 

 勿論事前に私とソーナ、お兄様とグレイフィアとセラフォルー様でフォローはしたつもりなんだけど、やっぱりというか、冥界に乗り込んで多数の悪魔をなぎ倒し、挙げ句お兄様を下してフェニックス家とイザコザを起こしたというのがあるせいか、イッセーに対する悪魔達の評価は宜しくない。

 

 というか、誰が勝手に広めたのか、イッセーが私とソーナの二人の眷属になった事に関しても『自分の欲で』他の元眷属を蹴落としてなったというふざけた話になっている。

 

 

「へー……電車で行くんだ。前行った時は椿姫ちゃんにルートを教えて貰ってから次元を無理矢理ぶっ壊して進入したから、ある意味新鮮かもしれない」

 

 

 冥界への里帰り当日。

 私、ソーナ、朱乃、椿姫、ギャスパー……そしてイッセーの五人は、冥界へ入る為の正式ルートである列車内に居た。

 

 悪魔だけが知る秘密の地下鉄であり、入国審査をしなければならないイッセーの為のルートなのだけど、やはりというか、ライザーの件で乗り込んできた時はかなりの無茶をやらかしていた様ね。

 それも椿姫の手引き付きという……いえ、文句も咎める資格も私には無いので何も言わないけど。

 

 

「シゲ◯ックスってたまに食うとはまるよな。

あとかむかむレ◯ンも」

 

「刺激が強くて僕はちょっと苦手です……」

 

「そうか? それならひもQはどうだ? グミだぜ?」

 

「あ、それなら大丈夫です」

 

 

 そんなイッセーだけど、只今冥界を目指して走る列車内にて、ギャスパーとお菓子の交換をしながら呑気にしている。

 朱乃と椿姫は本を読み、ソーナはブツブツと『実家のクローゼットにお姉様と同じ衣装が……』と何かに燃えて、私は手持ち無沙汰な気分で、マシュマロを食べるイッセーを見つめていた。

 

 

「うーん、ド級の甘さだなマシュマロって」

 

「何個も食べられないですよね」

 

「そうそう、で、放置して湿気らせちまうんだよ」

 

 

 ギャスパーを子供と見なしているのか、イッセーの対応はかなり甘く、また朱乃は勿論の事椿姫にも甘い。

 ソーナはどちらかと言えば遊ばれてる様な気もするけど、考えようによってはある意味一番構われてるとも言えなくもない。

 

 では私はどうなのか? 実の所五人の中では割りとどっち付かずの中途半端な位置だったりする。

 

 ……いえ、正直に思うと、一番壁を感じる気がする。

 

 

「? どうしたんすかグレモリー先輩? マシュマロ食います?」

 

「あ、うん……」

 

 

 呼び名もグレモリー先輩。

 ソーナは生徒会長だからなのか、会長さんかひんぬー会長という、ある意味酷い呼ばれようなのかもしれないけど、それでも壁を一切感じさせない距離感。

 

 朱乃は言わずもながら、椿姫もそうだし、この前知り合ったばかりのギャスパーに至っては、あのギャスパーが完全に懐く程にイッセーとの距離感は近い。

 

 

「……甘い」

 

「でしょう? これって何個も食べられない食い物っすよねー?」

 

 

 その他多数と比較すれば、私の扱いなんて天国レベルにマシなのかもしれないけど……。

 何でしょうね、もう少しこう……壁を取り除いたやり取りをやってみたいなぁ……なんて。

 

 

 

 

 何やかんやでギャスパーを相手にして気分転換を済ませたまま前とは違って正式に冥界入りしたイッセーは、車掌の悪魔から受ける複雑な視線に気付かない振りをしたまま電車を降りると、リアス達の出迎えのつもりなのだろう、多数の悪魔がリアスとソーナの帰還を派手に迎え入れていた。

 

 

『リアスお嬢様、ソーナお嬢様! おかえりなさいませ!』

 

 

 ファンファーレというものなのだろうか……兎に角盛大なお迎えにリアスとソーナは特に驚くこと無く平然と手を振っている。

 

 

「ひぃ! ひ、人がいっぱいぃ……!」

 

「成金趣味って奴かね……あんまり理解できないな」

 

 

 逆にギャスパーは怯えた様にイッセーの着ていた先代風紀委員専用の制服である『白虎(スノーホワイト)』の袖を掴んでいる。

 そして……。

 

 

「兵藤一誠様ですね? これから入国審査を行いますので此方へ……」

 

『………』

 

「おーおー、お祭りムードぶち壊しで申し訳ありませんなぁ?」

 

 

 一度冥界へと不法進入をした、今は転生悪魔である一誠を目にした悪魔達の目は、やはり『歓迎します』といった様子は見受けられそうも無かった。

 

 が、それでも一誠は逆にヘラヘラ笑いながら出迎えの者達に皮肉をぶつけながら大人しく入国審査の手続きを済ませると、ジロジロ見る悪魔達の視線を背にグレモリー家の本邸行きの馬車へと乗り込んだ。

 

 

「……。一応何度も言ったんだけど、やっぱりイッセーに対しての態度が露骨だったわ……ごめんなさい」

 

「寧ろアンタ達と同じ対応されたら薄気味悪く思うし、予想も出来た事なんで問題ねーっすよ」

 

「先輩……だ、大丈夫なんですか?」

 

「全然余裕だぜ」

 

 

 怪しむ様な目、敵意を隠す目、嫌悪を向ける目。

 己が以前この地に来てやった事を考えたら寧ろ妥当な対応と思っていたイッセーは、馬車内にてリアスの謝罪に対してヘラヘラ笑いながら気にしないでくださいと返す。

 

 元々イッセーもリアスやソーナといって身近な悪魔以外は信じちゃ居ないのだから。

 

 

「最初は私の実家……つまりグレモリー家に滞在してから次はソーナの実家であるシトリー家にも行くわ。

勿論イッセーは人間界での予定を優先に行動する事を予め伝えてあるから、遠慮しないで動いて良いわ」

 

「そりゃどうも……くくく」

 

 

 リアスの言葉にイッセーがニヤリと笑って頷くのと同時に馬車がグレモリー家の本邸へと到着する。

 降りてみると、多数の悪魔達がわざわざ敷いたレッドカーペットを中心に横並びに整列しており、令嬢のリアス……そして客人たるソーナに会釈し、開かれた巨大な城門を潜り道を進んでいくと……。

 

 

「やぁ、お帰りなさいリアス。

そしてようこそ、ソーナさん、椿姫さん、朱乃さん、ギャスパー君……そして一誠君」

 

「お兄様……! それにお父様もお母様も……」

 

 

 ぶっちゃけそんなに会いたくは無かった男……サーゼクス・ルシファーとその妻グレイフィア。

 そしてもっと会いたくなかったリアスの両親が五人を出迎えた。

 

 

「ご招待に感謝致します魔王様、ジオティクス様、ヴェネラナ様」

 

 

 魔王とリアスの両親を前にソーナと椿姫が膝を付きながら挨拶をするので、一応一誠も膝を付きながら頭だけは下げておく。

 

 

「うむ、固い挨拶はやめよう……その……彼にまで膝を付かれたら色々と申し訳が……」

 

 

 そんなソーナと椿姫にジオティクス・グレモリーが微妙な顔をしてその後ろでやる気無さそうに膝を付いてる一誠を見る。

 

 

「よく、おいでくださいました……本当に感謝致します」

 

 

 ヴェネラナ・グレモリーがすかさず、気を使ったつもりで一誠に冥界入りした事を感謝する言葉を送るのだが。

 

 

「いえ、主たるソーナ・シトリー様とリアス・グレモリー様がご実家に帰省される以上、下僕たる私が人間界に残る訳にはいきませんし、そもそも元は不法進入者の犯罪者である私を正式に入国させて頂けたその『慈悲』に感謝しかございませんよ……」

 

 

 ニコニコと……無垢な少年を思わせる笑顔を浮かべながら、ジオティクスとヴェネラナにしてみればド級の皮肉にしか聞こえない言葉を並べられ、思わず顔がひきつってしまう。

 

 

「おいおい、あんまり僕の両親を虐めないでくれないか一誠くん? それと別に無理してそんな畏まらなくても良いんだぜ?」

 

「……」

 

 

 そんな両親を見て心底可笑しいと含み笑いをしたサーゼクスが一誠に『素』で構わないと促す。

 

 勿論素で良いなら良いに越した事は無いと思っていた一誠だったのでリアスとソーナに『良いか悪いか』の是非を目線で問う。

 

 

(うん)

 

(サーゼクス様がそう言ってるのなら遠慮しなくて良いわよ)

 

 

 すると二人も特に異論は無く、コクンと揃って頷いて素に戻る事を許可すると……。

 

 

「っ……あぁ~」

 

『っ!?』

 

 

 怠そうに、心底かったるそうに片膝付いた体勢から立ち上がると、ゴキゴキと首の関節を鳴らしながら、早速とばかりに口を開いた。

 

 

「ギャスパーが怖がってる、だからとっとと落ち着ける部屋に案内してやって欲しいんだが」

 

「ぁ……先輩」

 

 

 ポンと多数の悪魔を前にビクビクしていたギャスパーの頭を優しく撫でながら、とっとと落ち着ける場所に連れていけとタメ口を聞く一誠に、周囲の悪魔達の目付きが変わる。

 

 無論、良い意味などでは無い。

 

 

「俺みたいに無理矢理二人の駒奪って転生したのとは違って、この子は純粋にグレモリー先輩の眷属なんだぜ?」

 

「む……それは確かに配慮が足りなかったね……すまない」

 

「では早速グレイフィアにお部屋への案内を……」

 

 

 だが一誠は元々好かれようなんて微塵も思ってないし、気に食わない相手には気に食わない対応しかしないと決めている。

 だからこそ無遠慮にとっとと部屋に連れていけと促す一誠の立場は一瞬にしてネガティブとなる。

 

 

「ではお部屋に案内致しましょう」

 

「うーん、アザゼル達と比べたらマシなんだろうけど、やっぱり悪魔は好きじゃない?」

 

「赤の他人の悪魔をわざわざ好きだって公言する方がおかしいだろう? つーかなじみは?」

 

「多分その内ひょっこり来るんじゃないかい? あの人は何時でも自由だからね」

 

「それは違いないな」

 

 

 まあ、それでもリアス、ソーナ、セラフォルー、グレイフィア、サーゼクスのお陰で嫌な奴を見る目に留められている訳だが。

 

 

「はぁ……やっぱり悪魔は嫌いな方なのね……」

 

「わかっては居たけど、ちょっと傷ついたわ……」

 

「いや、アンタ等二人はそうでも無いっすよ。

他人じゃねーし」

 

「ふーん? じゃあセラフォルー様は?」

 

「……。アレは別にどっちでもない」

 

 

 冥界合宿は始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 冥界合宿の始まり。

 しかし一誠は当然冥界にずっと居るつもりなんて無く、夜になればサーゼクスから与えられた特殊な方法で人間界と冥界を行ったり来たりだ。

 

 

「ミリキャス……あぁ、あの二人の……」

 

「はい! イッセーさんの事は安心院さんから聞いてました!」

 

 

 その際出会うは、サーゼクスとグレイフィアの子であるミリキャス・グレモリー

 

 最初はどうでも良さげにしていた一誠なのだったが……。

 

 

「よーしギャスパーにミリキャス! 風呂行こうぜ風呂!」

 

「はい!」

 

「はい……!」

 

 

 数時間で普通に仲良くなっていた。

 勿論理由は子供だったから。

 

 

「冥界文字? 冗談じゃない、俺は代理と言いましたよね? つーかアンタなんかに教えられたくもねぇ」

 

「そ、そこをなんとか……ダメかしら?」

 

「妻もこう言ってるしここはひとつ……」

 

「嫌ですね。だったらひんぬー会長かグレモリー先輩、椿姫ちゃんや朱乃ねーちゃんに教えて貰えば即解決っすわ」

 

 

 逆にリアスの両親に対しての風当たりはかなり強い。

 人妻属性なのに朱璃との差が文字通り次元の違うレベルだ。

 そんな折……。

 

 

「は? フェニックス家が来いだって?」

 

「みたいなんだよねー? 何でも転生悪魔になったキミに言いたい事があるんだってさ。

大体お察しだけど、フェニックス家の方々はキミの事恨んでるみたいだし」

 

 

 一誠を特に恨む悪魔達からのご招待。

 

 

「キン肉族三大奥義の一つ! マッスル・インフェルノ!!(天)」

 

「がばぁ!?」

 

「鯱が白鷺をくわえるその瞬間を……よーく見ろやぁ!!」

 

 

【鯱が白鷺をくわえたーっ!!!】

 

 

 取り敢えず売られた喧嘩を買い、マッスル・インフェルノに自作を加えた自作の完璧版マッスル・インフェルノで捻り潰す。

 

 

「やっほーギルバちゃん! 元気だった?☆」

 

 

 レヴィアたんに絡まれたり……。

 

 

「え、ギルバちゃんとの関係? うん、カテレアちゃんから私を楯になって助けてくれた、リアスちゃんとソーたんの大切な眷属さんにて、私を応援してくれる大切なファンだよ☆」

 

 

 関係バラされたり……。

 

 

「さて、ねーちゃんの尻を勝手に触ったそこのボケ……今すぐに死ね」

 

 

 朱乃ねーちゃんにセクハラした何処かのバカに怒り狂ってしまって……。

 

 

「完璧零式奥義―――千兵殲滅落としィィィッ!!!」

 

 

 ヤバイ方の奥義を繰り出したり……。

 

 

「へー? 兵藤凛と役立たず共はテロ組織で楽しくやってると……くくく、不慮の事故で死んでもしょーがねぇよなぁ~?」

 

 

 取り敢えず夏休みをそれなりに満喫していた。




補足

それでもやはり、目上に対しての口調じゃないので周囲の皆さんの一誠くんを見る目は厳しい。


その2
関係ないけど、ミリキャスきゅんなのかミリキャスたんなのか……それは永久に謎。


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嫌われる道をガンガン掘り進め

基本的に態度が悪い。
自覚してる上で開き直ってるので尚質が悪い。




 こうしてグレモリー家へとやって来た一誠。

 しかし取って付けた様な態度を止めたせいか、グレモリー家に属する悪魔達からの視線は極めて冷ややかである。

 

 理由は勿論、グレモリー家の主であるジオティクスとヴェネラナに対する態度の悪さと、その態度に対して咎められる事が無いからである。

 

 

「別に転生したからといって媚びへつらう必要は無いよ。寧ろ畏まられても僕は困る。グレイフィアもそう思うだろう?」

 

「はっ……それは勿論」

 

「ほらグレイフィアもこう言ってる事だから問題無い。

まぁでも僕のグレイフィアに手を出したら流石に許せないけどな?」

 

「…………」

 

 

 魔王直々に許可すらされてる。

 一般の……それも一度は悪魔に牙を剥いた元人間の転生悪魔が魔王に一目すら措かれているというのが、一般悪魔達にとっては気に食わないのだ。

 

 

「さ、遠慮せず楽しんでくれたまえ」

 

 

 例えばそう……。グレモリー家当主であるジオティクスの好意による会食にしても……。

 

 

「ねーちゃん、ギャスパー! まだ食うな……先に俺が毒味する」

 

「ど、毒味って一誠くん……」

 

「は、はい……」

 

 

 当主や奥方に聞こえる声で毒を盛られてるかもしれないと宣い……。

 

 

「さ、流石にそんな真似はしないのだが……」

 

「…………。よし、毒は無いみたいだ。食っても良いぞ」

 

 

 顔を引き吊らせたジオティクスとヴェネラナの言葉も無視し、ただ淡々と打ち首ものの無礼を働く。

 

 

「いきなりどうしたのよ?」

 

「アンタ等二人は実娘と他所様のお嬢様だから盛るなんて真似はしない…………いや、どうだろう、するかもしれないがそれでも確率は低い。

だが所詮使い捨ての捨て駒で、更に言えば悪魔様にご無礼働いてしまった俺なんかは、こうやって毒殺される可能性だってあるんだぜ? 少なくとも俺は思う」

 

「「……」」

 

「果てしない程の嫌われっぷりだな。アザゼルよりかは遥かにマシだけど」

 

 

 普通だったらその場で殺してやる無礼。

 だがジオティクスもヴェネラナも引き吊らせた表情のまま何の反論もしない。

 

 

「お父様もお母様もそんな真似は絶対にしないわ。私が誓う」

 

「……。そっすか、ちょっと神経質過ぎましたかね。いやいや申し訳ございません」

 

「い、いや……」

 

「誤解が解けたならそれで良いです……」

 

 

 この無礼な男は、いくら魔王様やリアスお嬢様達から言われてるとはいえ好きになれない。

 使用人の悪魔達の気持ちは皮肉な事にも一つになっていたのだった。

 

 

「あの……先程から何故お水だけを?」

 

 

 そんな折、当主の奥方であるヴェネラナ・グレモリーが、さっきからグラスの水しか飲まず、一切食事に手を付けない一誠に向かって遂に自分から切り出した。

 その瞬間、使用人やジオティクスに緊張が走る中、グラスを置いた一誠はヴェネラナと目すら合わせようとしないまま……。

 

 

「食べたくないから……と、言えば納得されましょうか?」

 

 

 食べたくないから食ってない……と、それ以上話し掛けるんじゃねーよ的な空気を出しながら、一誠はバッサリと切り捨てた。

 

 

「あ、あらそうですか……お、おほほ……」

 

「一誠君、失礼よ……」

 

「そ、そうですよ。先輩が悪い人に思われちゃいますぅ……」

 

 

 そんな態度を流石に見かねて隣に座っていた朱乃とギャスパーが一誠に注意をする。

 しかし一誠はそんな二人に対し、ヴェネラナに対してとは180°真逆の柔らかい態度でこう返す。

 

 

「失礼とか悪い人に思われるも何も、既に悪魔にしてみれぱ俺は犯罪者だからな。

グレモリー先輩の婚約者殴り飛ばし、結婚式グチャグチャにして台無しにして、あとそこの魔王とくだらん茶番劇まで繰り広げて………寧ろ今この場で袋叩きにされてないのが奇跡だぜ。

まあ、グレモリー先輩と貧………いや、シトリー先輩の下僕だからってのが理由で見逃されてるんだろうけど」

 

 

 ねぇ、皆さん? と周囲に控える使用人の悪魔達ををヘラヘラと見渡す一誠に使用人達は一気に殺気立つ。

 魔王、そしてリアスから一誠には一切の手出しを禁止するという、納得できない命を下されて不満だったのに、今その本人から挑発とも取れる発言をされた。

 

 いくら命でも言って良い事と悪いことがあるだろう……そういう意味で使用人達は一気に殺気を纏って一誠を睨むのだが、本人はヘラヘラしながら平然と水を飲んでるだけで何にも堪えちゃいない。

 

 

「一誠君」

 

「はいはい分かってる分かってる。

もう黙ってるから勘弁してくれ……ったく、だから来たく無かったんだよ」

 

「挑発したのはキミだけどね? 今回くらい穏便にいくってつもりは無いかな?」

 

「わざとやってるんでね。

まあ確かにピリピリしてるのは否定できませんがね」

 

 

 それがまた気に食わない。

 サーゼクスとは『何故』か普通に応対してる一誠を使用人達は睨み続けた。

 

 

「お水、お注ぎ致しましょうか?」

 

「ぁ? あぁ、どうも……」

 

「ふふん、僕のお嫁さんだ。羨ましい?」

 

「テメー……ホント勝った気になってんじゃねーぞゴラ。羨ましいに決まってんだろボケ……!」

 

 

 

 

 

 そんなこんなでどんより空気で進む晩餐。

 結局水しか飲んでない一誠に、またしても意を決したヴェネラナが話し掛けた。

 

「しばらくはこちらに滞在するのですか?」

 

「帰れってんなら直ぐにでも帰りますが?」

 

「いえ違います! 帰れなんてそんな事言いませんわ!」

 

 

 自由すぎる態度故の質問だったが、即座に嫌味で返されて若干ムキになるヴェネラナ。

 リアスとソーナも何でそんな事を聞くのかと不思議に思い、食事の手を止めてヴェネラナをじーっと眺めてると、二呼吸程間を置いた後、こんな事を切り出した。

 

 

「リアスとソーナちゃんの事情、そして貴方が何故二人の眷属になったのか……その事情は既に聞いてますし、先日の聖剣と禍の団の襲撃時に二人を守って頂いた事も、私達は感謝しております」

 

「あ?」

 

 

 つらつらと言葉を並べるヴェネラナ。

 しかしとある部分を聞き流していたつもりの一誠がピクリと反応して、初めてヴェネラナを『興味の無いガラクタ』を前にした目で見据えた。

 その目はあまりにも見下しきったものであり、ヴェネラナもウッと息を飲んでしまう。

 

 

「……続けてください? それで?」

 

 

 しかし何も言う訳じゃなく、ただ一言ヴェネラナに続きを促す。

 そのどこまでもどうでも良い生物を目にする様な、無感情の瞳にヴェネラナは圧倒されてしまうが、それでも彼女は意を決しながら切り出す。

 

 

「そ、その、グレモリー領は初めてでしょう?

ですので、後で観光を兼ねてご案内を致します。

それと……その……リアスの眷属となった以上は、貴方に紳士的な振る舞いも身につけてもらわないといけません……。

な、なので少しこちらでマナーのお勉強を……」

 

 

 段々声量が無くなっていきながらも何とか最後まで話しヴェネラナは、無漂白極まりない顔で自分を見据える一誠を見つめ返す。

 そう、過程はどうであれリアスとソーナの眷属になった以上は、今みたいな傍若無人な態度を控える……とまでは強制しないが、硬軟おり交ぜて貰わないとこの先トラブルだらけになってしまう。

 故にマナー、冥界常識等を学んで貰いたいとヴェネラナは考えていたのだが……。

 

 

「それ、誰が教えるんですか?」

 

「え……あ、それは勿論私が――」

 

「嫌です」

 

「…………え?」

 

 

 誰が教えるのかと質問してきたので、自分がと名乗った瞬間、一誠はノータイムどころが食い気味で拒否してきた。

 それはもう清々しいまでの拒否りっぷりだった。

 

 

「り、理由をお聞かせ頂いても?」

 

 

 此処まで徹底されると最早怒りすら感じないとヴェネラナはおずおずと質問する。

 

 

「何でアナタ様の手をわざわざ煩わせなくてはなりません? 勉強なら女王のお二人から受けますよ」

 

 

 その質問に取って付けた言い方で返した一誠はヴェネラナから椿姫と朱乃に向く。

 その表情はヴェネラナとは嫌味なレベルで真逆だった。

 

 

「悪い、つー訳で二人共教えてくんね? 何か色々と学ばんといけないらしいっすわ」

 

「いや、ヴェネラナ様が直々にお教えするのだからヴェネラナ様に学びなさいよ」

 

「私達より多くを学べると思うわよ?」

 

「えー? 嫌だわぁ……じゃあグレモリー先輩とシトリー先輩は?」

 

「私もヴェネラナ様の方が良いと思うわ」

 

「私は別に構わないけど……」

 

 

 普段の彼はこんなに普通に柔らかいのか……。

 ソーナ、リアス、朱乃、椿姫、ギャスパーと話し合う一誠のどこまでも普通な応対に、とことん自分達は嫌われてるんだと改めて再確認させられ、微妙に傷付くヴェネラナ達。

 

 

「母上の教えは一応為になると思うよ? キミなら半日で全部適応できるだろうしね」

 

「はぁ? じゃあアンタの嫁さんに――」

 

「嫌だ。グレイフィアは駄目。毎日デートするから時間なんて無い」

 

「……チッ」

 

「あ、あの……私達を置いてけぼりにしないで欲しいのですが……」

 

 

 このままでは『自分達悪魔が全員一誠に敵意を抱いている訳じゃない』と知ってもらう作戦がパァになるとヴェネラナが口を挟む。

 

 

「だから嫌です。唯一頷いてくれたアナタの娘さんから教えて頂くので」

 

「で、ですが……」

 

「あの、お母様? 一誠は私の眷属でもありますし、お母様の手を煩わせる必要は……」

 

「あ、アナタはまだ未熟なのよリアス!

そ、そもそも一度ライザーとの婚約を解消しているのよ? 確かに実態は彼が結婚を……結婚相手を半殺しにしたせいで崩壊したとなっておりますが、直接見ていない数多の貴族には『わがまま娘が我が儘言って婚約を解消した』と言われているのですよ? お父さまとサーゼクスがどれだけ他の上級悪魔の方々へ根回ししたか……いくら魔王の妹とはいえ、限度が――――」

 

「……………」

 

「ありま………す――うっ……!?」

 

 

 しまった! と口を押さえたヴェネラナだったが、もう遅かった。

 焦りからついリアスを言い負かそうとしたのが仇となったのだ。

 

 

「母上……それは流石に言い過ぎでしたね」

 

「さ、サーゼクス……」

 

 

 息子のサーゼクスがヴェネラナに何とも言えない視線を向け、そのままリアスと一誠へと視線を移す。

 

 

「全く否定出来ないわね……一誠を巻き込んじゃったのも」

 

「まあ、アンタが朱乃ねーちゃんを巻き込まなければこんな事にはならんかったでしょうね」

 

「何を言うの一誠君、私は彼女の女王なのよ?」

 

「そりゃそうだし、実際ねーちゃんの忠誠心は尊敬するさ。どこかの役立たず共は逃げて俺に擦り付けやがったしな。

だが――」

 

「っ!?」

 

 

 ゴミを見るような目にレベルアップした一誠が気まずい顔をするヴェネラナを見据えながら口を開く。

 

 

「ハッキリ言って、テメーの可愛い娘の意思無視して婚約させた親もどうかと思うがな。

ま、貴族様には貴族様の事情もあるんだし? 仕方ないのかもしれないがね……」

 

「そ、それは……」

 

「おっと、別に責めてる訳じゃありませんよ? 悪魔の事情も中々厳しいみたいですから? 純血の悪魔の数を増やさんといけないらしいですしねぇ? しかし、だからこそ俺には理解出来ないな。

自分の命すら投げ出して娘を守ろうとした母親の姿を知ってるんで余計に」

 

 

 朱乃……いや、朱乃の母である朱璃を思い浮かべながら一誠は話す。

 

 

「このグレモリー先輩だけを好くって奴ならまだしも、下僕すら女で固めて、朱乃ねーちゃんまでセクハラ噛ますボケを婚約者にするその趣味はどこまでも理解したくないっすね。いやー……ホント娘想いの良い親御さんですねぇ? 感服しますわぁ!!」

 

「………ぅ」

 

「あ、あの……あんまり妻を虐めないで欲しいのだが。

失言だったのは謝る……」

 

「謝る? なんすかそれ? 別に謝れなんて一言も言ってませんけど? おいおいおい、そこで頭なんて下げれば俺はますます悪人だな。

大貴族様に頭を下げさせた無礼者ってな……あぁ、最初から最早無礼者でしたね? あはははは!」

 

「………」

 

 

 痛烈な皮肉で閉口してしまう当主夫婦。

 やはり一誠は悪魔……というよりは、子を一切考えないで尤もらしい詭弁を並べる輩が嫌いらしい。

 

 

「イッセーもうその辺で。未熟なのは本当なのだから……」

 

「別にアンタの為に言ってる訳じゃないんすけど……………と、言いたいが、気が変わりましたわ。

――――――おい、そこで勝手に俯いてる奴、テメーだ茶髪のおばはん」

 

「おばっ!?」

 

 

 最早取り繕うのすら止めた一誠は、リアスの咎めを押し退け、ヴェネラナをおばはん呼ばわりする。

 

 

「アンタからは一切の教えを拒否する。未熟だろうが構わないんで、俺はグレモリー先輩に教えを乞わせて頂く。

その代わり……二日でグレモリー先輩がアンタをぼろ雑巾に出来るレベルまで押し上げる」

 

「は?」

 

 

 そして完璧な啖呵を切った。

 二日でヴェネラナを完全に下せるレベルにして見せると。

 

 

「大きく出たね一誠君。二日で母を越えさせるなんて……。それだけ啖呵を切れるんだから根拠があるんだろ?」

 

 

 面白そうにやり取りを眺めていたサーゼクスが、ニコニコしながら一誠に声を掛ける。

 すると一誠は……そんなサーゼクスにククッと悪い顔で嗤うと、困惑するリアスを見ながら口を開く。

 

 

「最初はまさかとは思ったが、例のくだらねぇテロ組織とやらの件でほぼ確信した。

グレモリー先輩――いや、リアス・グレモリーは俺と『限りなく近いタイプ』だ」

 

「え!?」

 

「そ、それって一誠君……まさか……!」

 

「………………へぇ~? その心は?」

 

 

 同じタイプと言われ驚くリアスと朱乃と、続きを促すサーゼクスに一誠は半分ほど入っていたグラスの水を飲み干しながら口を開く。

 

 

「最初にそう思ったのは、テロ組織とやらの件で俺の技を使ってた時だ。

ハッキリ言って四人の中では一番飛び抜けて完成度が高かかったのだが、聞いてみると『見た』だけで何と無く出来たと答えていた。

しかも、その技を三人に簡潔ながらレクチャーしたのもこの人だったと……」

 

「確かに覚えはリアスが一番早かったし、コツもリアスから教えられたのも事実だったけど……」

 

 

 身に覚えがあるソーナが訝しげに頷く。

 

 

「まだ完全では無いらしいが、それでも芽は既に芽吹いている。

ケッ、流石なじみの反転位置であるアンタとなじみに一番近い位置に居るメイドの身内であるだけはある。

よくわからんが、ここ最近で急激に精神構造が変わって急成長したらしい」

 

 

 にやにやするサーゼクスと、どこか嬉しげなグレイフィアにちょっとやさぐれ気味の視線を送りつつ、唖然とするリアスを真っ直ぐ見据えた一誠は宣言する。

 

 

「完全な模倣……それがこの人の異常性。

見たり体験した全てを己の糧にして支配するスキル……そうだな、自分自身の本当の主張……完成(ジ・エンド)―――否、正真翔銘(オールコンプリート)って所かな」

 

 

 数多のスキル使いの一人となっている事を、そして……一番自分に近いという事を。

 

 

「わ、私が……?」

 

「まだ自覚は無いですがね。ふふ、ようこそリアス――俺達の領域へ」

 

「え……い、今私の名前……」

 

 

 それはリアスを同時に祝福する笑みだった。

 

 

「という訳で、二日もすれば親越えなんか余裕だぜ」

 

「なるほどねー? まあ、僕の妹だから素養は十二分だね。だが良いのかい? キミは僕達悪魔を気に入らないんだろ?」

 

「否定はしないが、俺は少なくともこの人達は信用してる。反省し、糧として確実に進化しようとするからな」

 

「ん、それを聞いてかなり安心したよ。やっぱりキミを二人の『代理』に留めるのは惜しい」

 

「はん! 惜しいも何も、決めるのはこの二人だぜ? この二人が眷属を見つけられたら、俺は黙って駒を抜き出すさ」

 

「ふふ、どうかな? 僕が見てる限りじゃ二人共そんなつもりは無さそうなんだけど?」

 

「けっ!」

 

 

 完全に置いていかれたヴェネラナ達を放置してサーゼクスと会話する一誠。

 結局ヴェネラナの作戦は失敗したのだった。

 

 

 

 

 朱乃が私を嫉妬した目で見てくる……。

 

 

「という訳で、俺にアンタが冥界のマナーだか何かを教える代償として、俺はアンタにスキルを自覚させる」

 

「え、えぇ……それは願ったりかなったりなんだけど……あ、朱乃が」

 

「リアスにまで先を越された……ふふ、私なんて……」

 

 

 イッセーの領域に後から出てきた私が一足早く侵入したという事実が朱乃にとってかなりショックだったみたいで……。

 

 

「い、一誠! 私は!? 椿姫にもあるんだし私は!?」

 

「あー? うん、無い」

 

 

 ソーナも焦ってる。

 全員で一誠が眠る部屋に集まり、トランプをしながら夕食の時の話をしてるのだけど、ハッキリ言って私はあまり自覚していない。

 何せ突然の事だし……。

 

 

「そ、そんな……私も無いなんて」

 

「あるって言われたら私は立ち直れませんわ……」

 

 

 ソーナと朱乃が無く、私と椿姫にはある。

 その理由はよくわからないけど、まさか私なんかが一誠やお兄様達の領域に入れる資格があったなんて……。

 

 

「……。ねーちゃんの場合、バラキエルのおっさんととっとと仲直りすれば芽があるんだけどな」

 

「え、そうなの?」

 

「ええ……ですがほら、ねーちゃんは未だあんな難くなだし……それが自分の可能性を閉めちゃってるっつーのに……勿体無い」

 

「ならソーナは?」

 

「ひんぬー会長はまだなんとも……。

ですが、何と無くあったとしたら一番『化け』そうな気がしないでもない」

 

 

 落ち込む二人には聞こえない様に小さく話すイッセー曰く、完全に無い訳じゃないらしいのだけど……。

 

 

「ギャスパーはどうだろうな……うーん……」

 

「あ、あの……そんなに見詰められると恥ずかしいですぅ……」

 

「うーん……わからん」

 

 

 ギャスパーも不明。

 ……。イッセーと深く関わる事がキーなのかしら? 進化を促すイッセーのそれが私達に作用している、とか?

 

 

「それより本当に私を二日でお母様より強くするの? お母様は強いわよ?」

 

「しますよ。アンタの母上様がどれ程強かろうとね」

 

「……。出来ればお父様とお母様とは仲良くして欲しいのだけど……」

 

「印象がどうも変えられなくてね。良いところを発見しようとは努めてますけど、どうもアンタを無理矢理結婚させるバカな親って印象が……」

 

 

 私の発覚した領域もそうだけど、それよりもそろそろお父様とお母様と和解して欲しいと話す私にイッセーは苦笑いしながらスペードのAを出して上がる。

 大富豪のゲームをしてるのだけど、私がビリの大貧民になってしまった。

 

 

「えっと、最下位はトップに膝枕……ですって」

 

「っしゃあ大当たりぃ!!」

 

 

 ただ大富豪をやるだけではすぐ飽きちゃうという事で、最下位は箱から一枚紙を引き、それを罰ゲームとして実行するルールを設けてみたのだけど、最下位となった私が引いた紙には今言った様な指令が書かれており、1位突破のイッセーが物凄く歓喜していた。

 

 

「じゃあ……どうぞ」

 

「あざーっす!」

 

 

 そういう訳でイッセーを膝枕したのだけど、さっきから朱乃達の視線がかなり厳しい。

 というか、朱乃に至ってはバチバチと電気を迸らせてるくらいだわ。

 

 

「先輩先輩、上体を前に……」

 

「ん? えっと……こう……?」

 

「そうそう! うひょう! 特盛だぜおい!」

 

「……………」

 

「落ち着きなさい姫島さん。こうなったら徒党を組んで絶対に一誠を最下位にしましょう」

 

「はい……真羅さんとギャスパー君も手伝ってくれますわよね?」

 

「は、はい……」

 

「仕方ありませんね、あまりいい気分はしませんし良いですよ」

 

 

 しかも徒党まで組まれちゃったし……。

 

 

「あの……イッセー? 別に良いんだけど、その……露骨に私の胸に顔を埋められちゃうと恥ずかしいというか……朱乃達の顔が怖いというか……」

 

「ええやんかええやんか! げへへへへ!」

 

 

 さっきはちょっとカッコ良く見えたのに……。いえ、別にスケベでも良いんだけどね? 頼りになるのは変わらないから。

 

終わり




補足

実は密かに覚醒手前まで来てたリアスさん。
朱乃さんとソーナさんが焦っちゃうけど、ぶっちゃけ朱乃ねーちゃんはバラキエルさんとの仲が何とかなって、直接指導さえ受けたら即座に覚醒できるんですよね。

で、ソーナさんは間違えたらシリーズ屈指の拗らせドチートに……。

それは何としてでも阻止せねば(本気)


で、何故こんな急激かというと、やはり一誠君の異常性の特性のひとつ……『信じ合えばその者をも進化させる』という、インフレにガソリン加える様なそれがあるせいですかね。


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